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カオリンクエスト

カオリンクエスト2-9

勇者飯田「おはよーー。。はー、よく寝た。2ヶ月ぶりの放置から開放された気分だよ。」
りんね「?」
勇者飯田「じゃ、闇鍋やろうか。
   ひよこちゃんとつじが大きくなれるようにいっぱい作ろう!」
りんね「材料はそろえたよ。いろいろとね(ニヤリ」

??「すいませ〜〜ん」

その時突然、牧場に来客が訪れた。
りんね「珍しいなぁ。マスターさん以外に人が来るなんて…」
りんねは玄関に向かった。

勇者飯田「よーし、それじゃあ今のうちに鍋の準備を…」
勇者飯田が台所から鍋を持ってこようとすると、眠そうに辻が入ってきた。
辻「おはようごらいまーす…」
勇者飯田「ああ、辻おはよ。聞いてよ、今から闇鍋を…」
りんね「はいはい、4名様ごあんな〜〜い!!」
りんねは玄関の方から4人の来客を連れてきた。

勇者飯田「ねぇ、その人たちは?」
りんね「うん。なんでも旅行中らしくて今日の宿を探してたらしいよ」
4人「おはようございまーす」
勇者飯田「おはようございます、私がカオリで、こっちが辻。そちらは?」
??「えっと…私は美和」
??2「うちは貴子や」
??3「私は美帆。よろしくね」
??4「ワタシは本多言うアルよ」

ドカーーーン!!

りんね「…今の音は?」
辻「またてきれすか?」
勇者飯田「違う、今のは…」
勇者飯田は窓から外へ飛び出した。同時に辻も出て行く。

外には煙が立ち込めていた。
??「へっへ〜、今回のルーラ対決はあたしの勝ち〜」
??2「ナッチーが居たから初速で負けたのよ!」
ナッチー「無礼な!これでも花も恥らう乙女だべ!」
そして少しすると、煙が晴れてきた。
矢口「ただいま帰りましたっ!キャハ!」
勇者飯田「みんな、おかえり〜!」
辻「おかえりなのれす、みなさん」
保田「で、私達が出てる間に敵は来た?」
勇者飯田「ううん、敵は来てない。でもお客さんが来てるよ」
ごま「ふーん、ここにもお客さんなんて来るんだ」
勇者飯田「そうだ、まだ闇鍋の準備が…。みんな、早く入ってきて!」
勇者飯田は窓を飛び越して牧城の中に戻った。
よっすぃー「…闇鍋?」
中澤「またおかしなマイブームを見つけたんやろ…」

呪いを時に行っていたメンバーも牧城へ入った。

勇者飯田「あっ、来た来た。こっちだよ〜!」
勇者飯田は4人の来客と会話をしていた。
中澤「ん、あれが来客か?結構歳いっとるなぁ…」
Д<「あんたが言えることやないて」
保田「どれどれ…」
保田は来客の顔を遠くから眺めた。

瞬間、保田の表情が凍りついた。

保田「(…なんで…あの人たちが…)」
よっすぃー「あっ、美和さぁ〜ん!!」
美和「あれ?ひょっとしてひとみちゃん!?」
美帆「…知り合い?」
美和「うん。あっちゃんと二人でムロランシティに行ったときに一緒にお酒を、ね」
貴子「おっ、圭ちゃんもおるやんか!」
保田はギクッとした。しかし必死に動揺を隠して会話を続ける。
保田「あ、貴子さんお久しぶり。また会えるなんて思ってなかったわ」

その時、矢口は小声で独り言を言っていた。
矢口「…美和…。貴子…。なんか聞き覚えあるなぁ…」

勇者飯田「はいそれでは、来客の皆さんも一緒に闇鍋パーティ〜〜〜!」
一同「うおぉぉぉぉぉ!!」
勇者飯田「ルールは至って簡単。掴んだ具は絶対に食べること、一度につきひとつしか掴まない。
      あとは魔法や武器を使わない!さぁ、電気消すよ〜!」
勇者飯田は電気を消した。

矢口「うわ、何だコレ!ねばっこいぞ!」
石川「鍋物なのに、今冷たかったですよ〜!」
中澤「おいコラ!これ絶対食い物ちゃうで!」
勇者飯田「はいはーい、掴んだものは口にしてね〜!」

保田「ふう…。あんな緊張感久しぶりだわ」
保田は電気が消えた直後に部屋を出ていた。
保田「(美和さん、貴子さん以外の二人も含めて、あれは四天王。
     なんでこんなところに…?
     魔王の刺客として来ているとしても、行動が不自然すぎる…)」
保田は四天王が尋ねてきたことについて試行錯誤していた。

??「考えすぎは体に毒やで」
ふいに保田に誰かが声をかけた。
保田「…貴子さん…」

保田「大丈夫よ、もともと一人でいろいろと考えるの好きだから」
貴子「でも、うちらの心理を探るのはちょっと無理があるんやないの?」
保田「!!」
保田は驚いて声が出せなかった。

貴子「なんとなくそう思ってたんやけど、うちらを見た途端に圭ちゃんの顔つきが変わったからなぁ。
    それで悟ったわけや。『圭ちゃんはうちらが四天王だと感づいている』ってな」
保田「…お見通しってわけね」
貴子「まぁ、圭ちゃんは特別や。うちらがここまで来た理由を言うのも悪くない」
保田「そう…。それじゃあ、その理由を聞かせてくれる?」
貴子「わかった。…そうやな、まずはあそこから話そか…。
    うちらが何でここまで乗り込んできたのか…ということは魔王軍の意志とは全く関係ない。
    完全な個人行動でここまでやってきたんや」
保田「…なぜ魔王軍の意志に背いてまで行動するの?」
貴子「そりゃあ強い奴と戦いたいからや。4人とももともとそういう決まりごとをつけて
    魔王軍に入ったわけやし。地味に支配を好む魔王はあんまり好きじゃなかったしなぁ」
保田「もともと貴方たち四天王は、魔王と関係が薄かったわけね…」

貴子「ここいらに勇者一行が居るという情報は聞いていた。あと、パーティーの詳細もな。
    だからこっちから行ってやろうと思って、ここまで来たわけやね。
    そしたらそこには勇者と思われる人物に、共に酒を交わした知人がおった。
    これはもう神様のお恵みとしか言われへんな」
保田「私達も同じようなものね。こっちから出向く前に来てくれたんだから…」
貴子「魔王軍辞めてここまで出向いたんや。今回の戦いはちょっと気を引き締めていくで」
保田「それはお互い様。貴方たちを倒せば魔王軍を倒したも同然なんだしね」
貴子「…ふふっ、明日が楽しみやな。今までにない最高の戦いを期待してるで」
貴子は席を立った。
貴子「あぁ、そういえば明日のことについてやけど…。この紙を読んどいてや」
保田は貴子から一枚の紙を受け取った。
保田「…これは?」
貴子「明日のバトルのルールの紙。そんな感じでええんちゃう?」
保田「へぇ…、面白いこと考えるわね。これなら平等に戦えるわ」
保田はその紙をポケットの中にしまいこんだ。
貴子「あと、そっちの他の子のことやけど…。うちらのこと何も聞いとらんの?
    うちらの名前聞いても誰も反応しなかったで」
保田「ああ、それは一度情報を聞いたんだけどね…。
    その後が結構騒々しかったから、皆忘れちゃったんでしょ」
貴子「そっか…。なんかあんたら面白いなぁ」
保田「どういたしまして。それじゃ、私達も闇鍋に参加しよっか」
貴子「賛成!」
二人は闇鍋パーティーに戻った。

壮絶な戦いの幕開けは、すでにこの時に行なわれていた…。


そして、次の日…。

保田「ホラ、皆起きて!すぐに戦闘準備よ!」
ごま「う〜ん…もう少し寝かせてよ〜…」
よっすぃー「敵ですか?」
保田「ええ、敵よ…。しかも今度はすごい大物が相手なんだからね」
中澤「すごい大物って…一体誰や?」
保田「…ボンバー四天王よ」

そう言ったと同時に、まだ眠っていた者も含めて全員が飛びあがった!
矢口「ボ…ボンバー四天王!?」
よっすぃー「ついに、来ましたか…」
ごま「それにしては圭ちゃん、随分落ち着いてるね」
保田「ええ、この戦いには魔王軍は関係ないから。私達とあの人達の戦いよ」
石川「何言ってるんですか?わけわかんないですー…」
保田「とりあえず…今から私の指示通りに動いてくれる?」
保田はポケットの中から稲葉貴子にもらった紙を取り出した。

保田「よっすぃー、あなたはいつも修行してる広場まで行って」
よっすぃー「…そこに居るんですか?四天王が…」
保田「まだ終わらないわよ。次はごま、あんたはここをずっと東に行った高原に」
ごま「なんかよくわからないけど、行けばいいんだね?りょうか〜い」
保田「次は…石川」
石川「ええっ!私ですかぁ〜!?」
保田「つべこべ言わずに聞く!あんたは前行った祠への道を進んでいって。
    その途中で絶対何かに気付くはずだから」
石川「お師匠さまぁ〜、何かって言うのは…」
保田「(無視して)最後に裕ちゃん!裕ちゃんは街への道を進んでくれればいいよ」
中澤「わかった…。ところで、その紙は何や?」
保田「…今は何も言わないで、その場所へ向かって。そうすればわかるから…」
よっすぃー「わかりました。向かいましょう、それぞれの場所へ」
ごま「はぁーい。それじゃ行ってきまーす」
石川「なんでまた私が…、うぅっ…」
中澤「ついに、四天王か…」
4人はそれぞれ言われた場所へ向かった。


ナッチー「ナッチー達は何をすればいいんだべ?」
矢口「そうだよ。四天王と戦うんだろ?足手まといだとか言うなよ〜」
保田「…それじゃあ残った人達は、今から言うことをよく聞いて」

保田「今のは四天王の4人がリクエストした対戦相手なの。だから向かわせたわけ」
Д<「何でそんなことするんや?」
保田「…実を言うとね、昨日の来客4人…。あれが四天王なのよ」
一同「ええええっ!!」
保田「そのことはまた戦いの後で話すわ。で、次の条件だけど…」
勇者飯田「うん、何?もうどんなこと言っても驚かないから」
保田「残ったメンバーは、バトルのある4箇所に自由に加勢に行っていい」
矢口「そうこなくっちゃ!!」
辻「それなら、りょうほうともまんぞくれすね」
保田「敵ながら天晴れね、たいしたルールよ」
矢口「やっと思い出したよ…。小湊、稲葉、信田、ルルだ。下の名前だけだと思い出せなかったなー」
保田「ちなみによっすぃーが小湊、ごまが稲葉、石川が信田、裕ちゃんがルルと戦うことになってるわ」
矢口「で、誰が誰の加勢に行く?」
Д<「まぁ、うちは梨華ちゃんやな。いろんな意味で心配や」
矢口「じゃあオイラはゆうこの加勢に行くよ。よっすぃーよりも心配だから」
保田「そうそう、よっすぃーには私一人で加勢に行くから。他のメンバーをそっちで決めて」
勇者飯田「え〜っ、何で?カオリ行きたかったんだけどなぁ〜…」
保田「ごめん、カオリ。だけどよっすぃーのためにはそれが一番だと思うんだ。だから…」
勇者飯田「…うん、わかった。それじゃあよっすぃーのことよろしくね?」
保田「任せておいて」

矢口「それじゃあ皆、それぞれの場所に散れ〜っ!」
保田を除いた5人も、牧城を出た。
保田「(今回の戦いで、よっすぃーは本来の自分を取り戻さないといけない。
     あのままでは魔王と戦う前に精神の制御が効かなくなる可能性が出てくる…。
     美和さんとの戦いで、本当の自分を見つけられるか…。それを見せてもらうよ、よっすぃー)」

保田も牧城をあとにした。


誰もいなくなったはずの牧城から怒声が・・・。

ヨシターケ「ウチは道楽でやってんじゃねえべや!!
4人もお客さんが来たのに、一銭もお金もらってないって、どうゆうことだ!?」
りんね「す、すいませ〜ん。設定すっかり忘れてました〜」
ヨシターケ「お前らの給料から天引きしとくからな。」
りんね&あさみ「そんな〜」

結構呑気なカントリー軍団。


しばらくして、よっすぃーがいつもの修行場に到着した。
しかし、そこには誰もいなかった。

よっすぃー「…本当にここに四天王が…?」
そのとき突然、よっすぃーは背後から声をかけられた。
??「おはよう、ひとみちゃん。よく眠れた?」
よっすぃー「! 美和さん…?」
よっすぃーは驚いていた。ふいに声をかけられたことではなく、背後をとられていたことに。
美和「嬉しいなぁ…。ひとみちゃんの刀と私の扇子がぶつかり合う時が本当に来るなんて…」
よっすぃー「何を…言ってるんですか?」
美和「あれ、結局聞いてなかったの?ボンバー四天王って私達のことだよ」
よっすぃー「!!」
よっすぃーは声を失った。と、同時に、何故か美和の顔から笑顔がこぼれた。
美和「ふっ…あはははっ!ひとみちゃん、さっきから驚いてばっかりだよ!」
しかし、よっすぃーはそれに反応を示すことができない。
目の前に居る相手は『敵』であり、それは強大な力を持つ敵だと認識したからだ。
よっすぃー「…それじゃあ、始めます?」
美和「おっ、やる気だね。嬉しいよ…。それでは小湊流三代目家元小湊美和、参ります!」
よっすぃー「バトルマスターよっすぃー、いざ!」

二人は構えを取り、見合った。


ナッチー「ナッチーはごまの所に行くべさ。
   前からキャラが被ってるとか言われてたっしょ。
   ナッチーの方が上だってことを見せつけにいってくるべ。」
そう言い残すとナッチーは走って行ってしまった。
勇者飯田「行ってらっしゃーい。。
   と。なんか、お互い対抗意識を持つのは良いと思うんだけど、、、
   あれじゃあ、ナッチーはごまと戦いに行くみたいだね。」
つじ「そーれすねえ。」
勇者飯田「うーん、みんな強力な助っ人がついちゃったし、かおりはどうしよう。」
つじ「ろーしましょう?」
勇者飯田「ん?辻はどうするの?」
つじ「つじはれすね。。。」
勇者飯田「うん。」
つじ「いいらさんといっしょにいくのれす。」
勇者飯田「??、どーして?」
つじ「つじは、ゆうしゃになろうかとおもっているのれす。」
勇者飯田「えええ!なんでえ?どうしてえ?」
辻をじーっと見つめる飯田
つじ「それは、、」
飯田を照れながら見返す辻。

つじ「いいらさんが、、」
その時、
??「ひゃーっひゃっひゃ!!まてーい!!」
茂みの中から声がした。姿は見えない。
つじ「!?」
勇者飯田「誰?」
??「ひゃひゃひゃっ!!」
つじ「そのこえは!わかったのれすよ。れも、、しんらはずじゃ、、」
??「そのとおおり!ワシじゃ。世界最高の頭脳にして魔王軍参謀、ワーダ博士!!」
勇者飯田「誰それ?」
ワーダ博士「そういえばあの時は倒れとったな。でも、話に聞いたりしておらんのか!!」
勇者飯田「うん。」
ワーダ博士「うぬぅ。#」
つじ「あのとき、なっちーのあめでうごけなくなって、みんなにぼっこぼこにされたのれす。
   さいごにちゃんと、りたいやとれていたんれすが、、」
ワーダ博士「ひゃーーーっひゃっひゃ!!生命の研究を幾年も続けてきたワシが、
   そう簡単に氏ぬわけなかろう。そもそもワシみたいな人気キャラは、
   氏にたくても氏ねない運命なのじゃ。ひゃーっひゃっひゃ。」
勇者飯田「あちゃー、、なんかさー、もの凄くしぶとい奴って必ずいるんだよねえ。
   で、なんの用なの?こっちは急いでるんだけど!!」

ワーダ博士「用なんぞわかっておろう。まったくボンバー四天王どもめ!
   勝手なことをしよって!」
つじ「かわいそうに、みすてられたんれすよね。」
ワーダ博士「そうなんじゃよ。貴重な戦力が。。。って違うわ!
   結局はワシらの思いどおりにお前等と戦っておるのよ。」
勇者飯田「で、四天王から見えない所で戦力を分散させて、有利に立とうと。
   相変わらずせっこいねー。
   喧嘩売りにきたんなら、早く出てきたら?」
ワーダ博士「うーん、なかなか感がさえとるようじゃな。さすがは勇者よの。」
勇者飯田「だって、前と同じじゃん。」
ワーダ博士「うぅ。。。おっほんおっほん。しかし、ワシが戦うとは一言も言っておらん。
   頭脳はコマを使う側にまわれば良いのじゃからな。もう前回のような失敗はせん。
   お前らと戦うのは更にバージョンアップした合成魔獣よ。ゆけえい!」
ズキューーン!!
つじ「はわわ、、このおとは、、」
茂みの中で、何かがむくむくと大きくなっていく、、、


ナッチー「まったく一人でさっさと行くなんて、ごまはなってないべ」
石川「はあ」

同じ方向に行くごまがルーラでさっさと銀杏の木まで飛んでいってしまったので、石川・シバタ・アイボン・ナッチーという奇妙なパーティで東に向かって歩いていた。
石川もルーラは使えるのだが、祠に行く途中で“何か”あるそうなので使わないでいる。

ナッチー「まったく、一緒に連れていってくれてもいいんでねえのかい。」
Д<「アンタ一人増えるだけで定員オーバーなんとちゃうか?」
ナッチー「定員オーバー?
     こないだは4人一緒に運んでたべ。」
Д<「せやから人数やなくて....リカちゃん、説明したってや。」
石川「ですからあ、ナッチーさんの体重があまりにも重すぎるから・・・」
ナッチー「・・・今、なんて言ったかい?(怒)」
石川「・・・・(汗)」

ナッチーにつめよられて石川がアイボンのほうを向くと、アイボンは嘲笑的な笑みを浮かべていた。

石川「アイボ〜ン(泣)」


シバタ「あっ、あれは....」

急にシバタが声を発したので前方を見ると、石にトロールが腰掛けていた。
ゴブリンを太らせたとでも言うのだろうか、三角帽子に耳長の典型的なトロールだった。

シバタ「サイトーさん、久しぶり〜」
サイトー「おー、シバちゃんじゃない。久し振りだね。」
シバタ「メロン谷のみんな、元気にしてますか?」
サイトー「うん。みんな元気だよ。
     こないだ、久し振りにマサエも戻ってきてたし。」
石川「えっ!この子もシバちゃんの仲間なの?」
シバタ「そう。紹介するね。メロン谷で食堂をやってるサイトーさん。」
石川「..でも、この子は羽がはえてないよ。」
サイトー「羽がはえたフェアリーだけが妖精だと思われちゃ困るなあ。」
Д<「違うんか?」
シバタ「魔力の高い耳長のトロールは、メロン谷の精霊の中でも高位種族なんですよ。」
ナッチー「それより、その籠の中身はなんだべ?」

そう言ってナッチーはサイトーの持っていた竹籠に鼻を近付ける。

サイトー「食材探しに山に向かったつもりなんだけど、なぜだか今日はこっちの道に来ちゃってね。」
ナッチー「なんだ、食い物でねえのか。
     したらばナッチーはごまに追いつくんで先行ってるべ。」
Д<「早く行かんとごまが全部倒しちゃうで〜」


サイトー「それでさ、シバちゃんはこの娘とタッグを組んでるんでしょ?」
シバタ「うーん...別にそういうわけでは...」

一般的に妖精と人間がともに戦う場合、人間の側は騎士や魔導師であることが多い。
治癒などの補助をする妖精と相性がいいからだ。
実際、単独でパーティーの1席をうめる程の実力を持つ妖精はそういない。
多くの場合、仲の良いタッグはパーティーの中でも2人で1人あつかいをされる。
しかし石川とシバタは戦闘面で協力しあっているわけではないので、
いわゆるタッグとはまた別の存在だった。

シバタ「梨華ちゃんは騎士様でも魔導師でもないから...」
サイトー「えっ!じゃあ何やってる人なの?
     見たところ怪しげな服来た魔導師にしか見えないんだけど。」
Д<「さりげに毒舌やな。」
石川「チャーミーは勇者市井のパーティーにいた大神官様の弟子なんです」
シバタ「このスーツはこの先で防具屋さんをやっている、
    彩さんという方に作ってもらったんです。」
サイトー「神官?それにしては浄気よりも霊気のほうが強い気がするけど…
     あまり神官向きという感じでは。」
石川「...そうなんです。
   修行時代からお師匠さまに“アンタは神官向きじゃない”って」
シバタ「梨華ちゃん、ネガティブはダメよ。ポジティブにっ!」
サイトー「そうよ、前向きなのが神官のいいところなんだから。」
Д<「(この姉ちゃん毒舌やなくて無頓着なだけやな。)」


サイトー「そ、それよりさ、シバちゃん達はなんでこっちにきたの?」
石川「お師匠様にこっちにいけばなにかに出会うって言われて。」
Д<「考えてみたらえらくいい加減やな。」
サイトー「出会うって、、人?」
石川「わかんない。人、かもしれない。」
サイトー「..ねえ、その人って、もしかしてあの人じゃない?」

サイトーは100メートル程先の木の上にいる人を指差した。
木の上、とはまさに木のてっぺんに立っているのである。
あからさまに目立っているので、忍者ではないのであろう。
しかしそのバランス感覚は常人のものではなかった。
その人はこちらの視線に気がついたのか、すぐに近づいてきた。

Д<「なんて言うか、一見地味なのにえらく目をひくブサイクやなあ。」
???「ファンキーって言ってちょうだい。」

つい50メートル程先にいると思ってアイボンが発した言葉を、
彼女は10メートル程の位置で聞いていた。
忍者などでは無い。異様なまでのスピードだ。

美帆「ボンバー四天王の一角、魔法拳士・信田美帆、いざ参らん。」


一方、高原に向かうごま。

『ドカーーーン!!』

ごま「ふう…別に急ぐほどでもなかったかな」
ごまは全開のルーラで東の高原までやって来た。
しかし、そこには誰一人としていなかった。
ごま「…で、ここで何するんだろ?」

その時、背後から突然何かがごまに襲いかかった!
ごま「そこかっ、メラゾーマ!」
ごまの放った巨大な火球が相手を包み込む!
ごま「ふぃー、危なかった。…あれ?ていうか、これ…」
???「気付いたか?」
ごまは声のした方に顔を向ける。
ごま「…貴子さんでしたっけ?なんでここに…。しかもこれ…」
燃え尽きた『何か』を指差し、ごまは貴子に問い掛けた。
貴子「『それ』は見ての通り召還獣。ここにいる理由は…もうわかるやろ?」
ごまはうつむきながら、答えた。貴子には、かすかに含み笑いをしているようにも見えた。
ごま「…あはっ。あたし馬鹿だけど、わかりましたぁ。貴子さんが四天王で…
    よりによって召還士稲葉貴子なんですよね?」
貴子「ご名答。わかってくれて嬉しいわ、大魔導師さん。あんたになら本気出せそうや」
ごま「あたしも本気出しますよ〜、覚悟してくださいね!」

その言葉と同時に、お互いに魔法と召還の詠唱に入った。


保田に言われた通り、街への道を進む中澤と矢口。

中澤「なんや矢口、お前別に来んくてもよかったのに…」
矢口「ゆうこの刀はでっかいだろ?オイラの近距離攻撃ならサポートは完璧!」
中澤「ふぅ…考えてるんだか考えてないんだか…」
矢口「な、何だよ〜!」
中澤「ははは…、と、おふざけはここまでやな」
矢口「…そうみたいだね」
中澤と矢口は歩みを止めた。
中澤「そこに居るんやろ?早く出てこんかい!」
茂みに向かって、中澤は思い切り怒鳴り声を上げた!
矢口「(ひぇ〜、おっかな…)」
??「なかなか良い勘を持ってるアルね」
二人はその声の聞こえた方に向けて構えを取る。
すると、その茂みの中からいきなり何かが飛び出してきた!
中澤「おおっ!?」
間一髪のところで中澤はそれを振り払う!

矢口「大丈夫!?」
中澤「ああ…それにしても、えげつないもん飛ばしてきよったなぁ」
中澤に向けて飛ばされたのは、小刀だった。
??「それは『クナイ』というものアル」
矢口「…本多さん…」
中澤「…やっぱりあんたらが四天王やったんか。なんか引っかかってたんやけどな…」
ルル「大戦時の勇者一行と戦いたかったけど、コミと貴子に取られちゃったアル。
    だからその次に強そうなあなたを選んだアル」
中澤「うちは余りもんかい…。まぁええわ、満足させたるで」
矢口「オイラを忘れるなよっ!」
二人はルルを挟むようにして構えをとった。
ルル「ま、せめて30分は持って欲しいアルね」


ドカ!!どたたっ。
石川「!!」
石川は腹を蹴られ、飛ばされてあいぼんに激突。そのまま倒れた。
石川「うぅ、、、いたーーいい。」
Д<「おぉ、、、おもーーいい。」
石川「あ、ごめんねあいぼん。大丈夫〜?、いきなり酷いじゃないですか!」
石川は慌てて立ちあがった。
美帆「石川ね。さ、やろうか。」
石川「えええ!美帆さんじゃないですかぁ。チャーミーですよ。昨日の夜、闇鍋で、、」
痛みに耐えながら半笑いで答える石川。
美帆「わかってるってば。だから、私が四天王なの。不意打ちしたのは悪いけど、
   これで本気だってわかるでしょ?だからそっちも本気できなさい!」
石川「そんなー、戦うなんてできませんよ〜。一緒にチョコわさび鍋食べたじゃないですか!」
美帆「あれは、もんの凄くまずかったわね。思い出させんじゃないわよ。うぇ」
石川「ね。やめましょやめましょ。あー良かった。」
美帆「はあ?、、、ったくしょうがないなあ。。。」
石川はほっとして笑顔に戻った。信田は首を左右にひねりコキコキとならした。
美帆「あ〜あ。私も貧乏くじよねえ。こんな子ぐらいしか残ってないなんて。
   でもあんたさ、ココナッツのアヤカよりは強いんでしょ。
   あの子が3分だったから、あんたは5分かな?もう少し粘ってくれると嬉しいけどね。」
石川「??、アヤカさんに何かしたんですか?」
美帆「したわよ。ちょっとお仕置き。
   あんた達、敵同士なのに仲良くしてるみたいだったからさ。
   世間の厳しさってやつを教えてあげたのよ。
   でもまさか3分とはねえ。カップラーメンじゃないんだから。クククッ」
信田は馬鹿にした笑みを浮かべた。
石川「アヤカさんはチャーミーの大切なお友達です!!」
美帆「あ、そう。それじゃ、お葬式でも出してあげれば?」
石川「!!!」


貴子「・・・・・・・、・・・・・・、・・・・」
稲葉は詠唱を続けながら、懐をまさぐり、何かを取り出した。
ごま「(??)、・・・・・・、・・・、・・・・・」
稲葉はそれを放り投げた。ヒラヒラヒラヒラ、、、
ごま「(紙?、、、3枚??)・・・、・・・」
稲葉はニヤリと微笑んだ。
ボン!ボン!ボン!
3枚の紙全てから、半透明のライオンのようなケモノが飛び出した。
「ガァァ!」
ごま「!!」
3匹は同時にごまに襲いかかる。
ごま「(やば!まだフルパワーじゃないけど、)フィンガーフレアボムズ!!」
ごまの指先から火球が3つ飛び出した。
ブシュ!ボシュ!バシュ!
ごま「やった!」
3匹のケモノはそれぞれ火球を浴び、消し飛んだ。
貴子「・・・・・・、・・・・、我が名に置いて命ずる。いでよ!イフリート!!」
ごま「え??」


石川「・・・・・・・」
石川は目を見開き、息を吸い込んだまま止まった。
美帆「あ、そーか。あんたのために氏んじゃったんだ。あの子。かわいそーに。
   それで葬式は出すってのも何か間違ってるよね。」
その調子の良い声を聞きながら、、石川はゆっくりとうつむいた。
Д<「!!」
石川の顔を見て、あいぼんは後ずさりした。
Д<「あんな、、、りかちゃんの表情、、初めてやで!」
石川「許さない。(ボソッ)」
キィイイイイィイイィン
Д<「うわ!うるさ!!な、、、、なんや?いったい。耳が、、、痛、、いたたっ」
あいぼんは耳を塞いだ。
シバタ「りかちゃんの周りに凄い勢いで冷気が集まってるから、、、
   気圧が変化してるのかも、、イタタタッ」
シバタも耳を塞いだ。
Д<「寒いし痛いし。」
石川「許さない。」
美帆「はははっ!のってきたのってきた。いいよぉ。」
ぼわっ!
信田は左手に炎を出した。
あいぼんは岩陰に隠れた。
Д<「まきぞいはいややねん。」


ゴォーーーーー!!!
稲葉の頭上に、巨大な炎が浮かび上がる。
その中にオレンジ色の鬼のような上半身だけの体が現れる。
ごま「これが、、、召還!?」
ごまは目の前に起こっている光景に一瞬だけ目を奪われた。
貴子「命ずる。目の前にいる、敵を討て。」
ごま「あ、、、あ、しまっ、、、フバーハ!!」
イフリートのまとった炎が全て、ごまを襲う。
ぶぉおぉおおおおおぉおお!!
ごま「きゃぁああぁあ」
ごまのは炎と煙に包まれた。
貴子「別に呪文を触媒にせんでも召還はできるからね。護符はその一つ。」
稲葉からは、煙でごまの姿は見えない。
ごま「・・・・・・・」
貴子「ってあんた、いきなりおわりやないやろな!。」
ごま「ゴホッ、、、ゲホッ、、、、」
貴子「生きてるようやな。そりゃ何より。まだまだ小手調べやで。
   詠唱による隙はうちには無い。あんたは隙だらけ。どうする?」
ごま「うーん、どーしよー。(フバーハで防ぎきれなかった。服、ちょっと焼けちゃった。)」


勇者飯田「ななな、、何?あれは??」
巨大な青い体、一つ目、角、避けた口、
つじ「あれ?なんか、しってるきはするんれすけろ、、」
??「ぐお!」
それは腕を振り下ろした。
勇者飯田「危ない!」
ぐいっ、飯田は辻を引っぱって間合いを取った。
ドオン!!
腕は地面を叩いた。衝撃であたり一帯がぐらぐらと縦に揺れる。
勇者飯田「ひえー。」
つじ「ちょっとまってくらさい。えーっと、、めもは、めもは、、」
ミシミシミシ、、、地面に亀裂が入る。
ワーダ博士「ひゃーーっひゃっひゃ!どーじゃ!見たかあ!」
勇者飯田「すっごーい力!」
つじ「あ!あったのれす。」
ワーダ博士「ひゃっひゃっひゃ!こいつはな、サイ」
つじ「さいくろぷすれす!きょじんぞく、きょーぼー。」
ワーダ博士「そ、、その通りじゃ。」
勇者飯田「へー。よく知ってたね。辻!!」
つじ「えへへ。まかせてくらさい。ちゃんとめもしておいたのれす。」
勇者飯田「えらいえらい。(こんなのどこでメモしたのかは知らないけど。)」
ゴシゴシ、辻の頭を笑顔で撫でる飯田。
つじ「えへへ」
ワーダ「ぬぬぬ!しかあーし!只のサイクロプスじゃ無いんじゃぞ!合成魔獣じゃからな!」
サイクロプス「ぐおっ!」
サイクロプスは両腕に青いオーラをまとった。

勇者飯田「これって、氣?」
つじ「めもにはそんなことかいてないのれす。きっともとのにんげんののうりょくれす。」
勇者飯田「そっか、元は人間なんだよね。元に戻してあげないと。」
シャキ
飯田は剣を抜いた。
勇者飯田「辻、勇者になりたいんでしょ?」
つじ「へい!」
勇者飯田「んじゃ、かおりの戦いをよーっく見ておくんだよ!」
つじ「へ、、へい!!」
勇者飯田「とおっ!!」


闇鍋会にて

ナッチー「こんな風に食うなんて、
   食べ物になってくれた生き物をぼーとくしてるべさ。
   尊い命が報われねえべ。ロシ○ンテに謝るっしょ!
   生で食った方がはるかに美味いべさ。」
バリバリバリ、、、
勇者飯田「あ、ナッチー、それはぶたのし、、、」
ナッチー「ん?なんだべ?かおり」
ムシャムシャ
勇者飯田「ううん。なんでもない。(ニッコリ)」


信田の戦闘前口上が終わり、石川の連続詠唱。
石川『マヒャド』
石川『ヒャダルコ』

サイトー「でも、あのままじゃ、神官のお嬢ちゃんが不利よ。」
シバタ「そんな〜、なんとかならないんですか?」

サイトーの言う通り、石川の魔法はなかなかあたらない。
出の早い直線魔法も信田のひとなみはずれた瞬発力を相手にしてはかすりさえしない。
かといって広範囲魔法は大した効果を与えられずに、こちらにスキだけを作ってしまう。
決定的なヒットこそないが、信田の炎が何度も石川をかすめる。

石川「アヤカさんを、、アヤカさんを、、」
美帆「弔いがしたいなら1発でもまともにあててみなさい。」

その時、サイトーは石川の周りの異様なまでの冷気の集中に気がついた。
冷気系の魔法を詠唱しているわけではない。
魔力というより霊力が渦巻いている感触。

サイトー「あっあれはもしかして。」
シバタ「えっ、、、なんです、か?」

能力者を渦巻くような力。それはまさに理想的な召還術の詠唱環境だった。

サイトー「シバちゃん、あの娘、召還術の心得は?」
シバタ「ない、と、思います、けど。」
サイトー「まいったな、こんな状況で覚醒前だなんて。」

何の力を借りるにしろ、召還術には媒体が必要だ。
契約の上での呪文、護符、儀式、道具。
そのどれも今からすぐに用意することはできない。

サイトー「せっかく覚醒の兆しがみえてるのに、、」
Д<「なんとかならへんのか?」
サイトー「シバちゃん、近くにメロン谷の仲間が・・・・
     !!どうしたの!?」
シバタ「カ、、カラダが、、つ、め、た、、い。」

シバタの体の変化を見て、サイトーはあることを思い出した。
本来召還術とは猛獣などでは無く、精霊獣の類いを呼び出す行為だった。
そして、その場合媒体となるのは高位精霊の化身。
つまり我々妖精達だということを。

シバタ「あっ、ああっ!からだの、、おくから、、はぁはぁ、、、」
Д<「大丈夫なんか?ここは危険やから回避してたほうが...」
サイトー「待って!」

石川「ハアッ!」
美帆「甘い甘い」

チャーミーは体の奥底からなにか沸き上がるような力を感じていた。
しかしそれを自分のものにすることができない。

美帆「残念、5分もちそうにないわね。
   この分だとそこの3匹合わせても私が一番早く片付けられそうね。」
Д<「ヒ〜」
石川「!」

今この場には勇者も大魔導師もバトルマスターも、そして大神官もいない。
もし自分が敗れれば、仲間を守ることができなければ、、、、、
これ以上、大切な仲間を失うことはできない。
石川の周りの冷気がさらに強力に渦巻き出した。

サイトー「シ・バ・タ。しっかりして。」
シバタ「はい、、なんですか、」
Д<「梨華ちゃんがブサイクにやられそうなんやっ!」
サイトー「あなた、彼女を助けたいでしょ。」
シバタ「うんっ!」
サイトー「じゃあ彼女に気持ちを集中させて」
シバタ「、、、梨華、、ちゃん、、、、梨華ちゃんっ!」

美帆「わたしは痛ぶったりするの、あまり好きじゃないのよね。
   まっ、せめてお仲間と一緒に楽にしてあげようかな。」
石川「、、、、せない」
美帆「あら、まだ立つ気力が残ってたの?」
石川「みんなには指1本触れさせない。私が守る!」

その時だった。
石川の周囲に円陣があらわれ、シバタが光につつまれたのは。
石川とシバタの感情が完全にシンクロする。
石川の発するすさまじい霊力に思わず信田も驚きをあらわにする。
閃光がはしり、石川の響き易い声が周囲にこだました。
『・・・・・・、・・・・、我が友の真の力をここに。いでよ!シヴァ!!」


ごま「・・スカラ」

強力な魔法は詠唱時間が長い分スキができ易い。
今のごまには簡易魔法をうつだけで精いっぱいだった。
召還獣と稲葉の双方から攻撃をうけ、1対1の戦いなのにこれでは多勢に無勢状態だ。

貴子「赤い魔法書を持つ大魔導師ごまはメラミほどしかうてないの?」
ごま「くっ」

稲葉はまたも胸元から護符をとりだし、なにやらモンスターがあらわれる。
あらわれたキメラにごまがメラミをうちつけている間に、稲葉は詠唱に入る。
またくるっ、とごまが身構えて稲葉を見ると、一瞬彼女の顔つきが驚きにかわる。

貴子「!!」
ごま「!?」

何がおこったのかと思い、彼女を見据えるが、再び彼女は詠唱をはじめた。
慌ててごまも詠唱に入る。

貴子「我がもとにその姿をあらわせ。いでよ、アーケロン」
ごま「先手必勝っ、メラミ!」

ごまが円陣の出現した方向に向かってメラミを放つ。
しかしそこにあらわれた巨大な亀は甲羅に守られてまるで効果がないようだ。
そうこうしている間に稲葉は左肩の防具についている宝
ごま「待ちなさい!逃げるつもり?」
貴子「別に、逃げるんじゃないわよ。
   すぐに戻ってくるからしばらくソイツと遊んでなさい。」

そう言い残すと、グリフォンは飛び立ってしまった。石に手をあてる。
すると稲葉のもとに一匹のグリフォンがあらわれた。
(これじゃ3対1になっちゃう)
ごまがそう思った瞬間、稲葉はグリフォンに飛び乗った。


小湊が間合いに飛び込むと同時に、よっすぃーは剣を抜く!
ギンッ!
よっすぃーは小湊の左手の扇子を払う。
小湊は右手の扇子を振り下ろす。
ブン
よっすぃーは剣に体重をかけながらそれを右によけ、剣を戻し、縦に振る。
ブン
小湊は後ろに飛び、間合いを取る。
よっすぃーはすぐにそれを追う。
小湊「!」
ガツ!
よっすぃーの一撃を、小湊は両手の扇子を十字に構えて受け止めた。
超至近距離で剣と扇子で押し合いながら、二人は見合った。

美和「思ったとおり。やるね。」
よっすぃー「そっちこそ。」
ギチ、、ギチチチッ、、
美和「こないだは、もう一人の自分がどうとか言ってたけど、その後の調子はどうだい?」
よっすぃー「おかげさまで、、、と言いたいところですけど。」
美和「そうかい?んじゃ、私が一役かってあげるよ。
   あんたの事、殺す気で行く。。や、殺すから。」
よっすぃー「それはどうも。ですが、、、こっちもやすやすとやられはしません。」
カッ!!
二人は同時に離れた。
よっすぃーは剣を鞘におさめた。


小湊「(抜刀術か、、、先に抜かせる。)」
よっすぃー「!?」
ひゅん!
小湊は左手の扇子を閉じ、よっすぃーに向かって投げた。
スッ
よっすぃーは体ごとよけた。
そこには小湊が突進して来ていた。
よっすぃー「!!、くっ!」
シュパッ!!
抜刀し、小湊を止めようと剣を抜きつつ横に振る。
しかしそれは残像を切った。小湊は間合いのギリギリ外にいる。
よっすぃー「(フェイント?)」
よっすぃーがまだ勢いあまって振りきっている間に、小湊は1歩前にでる。
小湊「隙あり!」
ズバッ!!
よっすぃー「あっ!!」
小湊の扇子がよっすぃーの胸を下から上に切りつけた。
たたたっ、、
よろめきながらよっすぃーは後ろにさがった。
よっすぃー「くっ、、私と同等のスピードで2重のフェイント。」
小湊「まあね。言っちゃうけど、私にもあんたの抜刀を見てから反応はできそうもないからね。
   そっちも最後、よく反応したよ。浅かった。致命傷じゃないね。」
よっすぃーが胸元に手をやると、硬い材質で出来ているはずの服
(動きやすさのために鎧ではない)が荒く破けている。
よっすぃー「・・・・・(あ、、血。でも、、、まだ出てこないでね。。。)」
小湊「あんたのスピードじゃ、今までは無敵だったでしょ。
   だから、同じスピードには慣れて無いから、単純な動きしか追えない。
   今日は勝負の巧さってものを教えてあげるよ。さあ続きだ。」
小湊は投げた扇子の代りにもう一つ扇子を取り出した。


勇者飯田「サイクロプスって、こんなにすばしっこかったっけ?」
辻「む〜、めもにはかいてないのれす!」

意外にすばやいサイクロプスの攻撃をかわしつづける勇者飯田。

ワーダ博士「ひゃひゃひゃ、いかに勇者の動きが速くとも、スタミナはいつか切れる。
そのとき、サイクロプスの圧倒的パワーに押しつぶされるのじゃ、、、ひゃっひゃっひゃ。」

しばらく攻撃をかわしつづけている勇者飯田だったが、、、
勇者飯田「あ”ーーーーー!!!鬱陶しい!!!!」
剣をすばやく振ると、無数の光球がサイクロプスめがけて襲い掛かる!!
サイクロプス「グォ!?」
光球は一気に収束し、小範囲にエネルギーが集中してはじける!

辻「やったのれす!!」
勇者飯田「・・・?」

モクモクと立ち上った煙が晴れると、、、
なんと、サイクロプスは両腕からバリアをはり、爆発を防いでいた。

辻「す、すごいのれす、、、」

サイクロプス「グォーーーー!!!」
サイクロプスは両腕のオーラを前方に向けて放出した!
勇者飯田「はっ!!!」
間一発で上空に逃げた勇者飯田だったが、、、。

勇者飯田「あっ、辻!!!早く逃げなさい!!!!」
辻「えっ、もうまにあわないのれす、、」

ゴォ!!!
オーラの嵐が辻を包んだ・・・。

勇者飯田「辻ーーーーーーーー!!!!!」

ワーダ博士「ひゃっひゃっひゃ、小童だが、ようやく一人片付けたわ、、、」
勇者飯田「・・・誰?」
ワーダ博士「へ?」

辻の周りで収束したオーラがいったん停止し、サイクロプスに向けて逆流していく!!
サイクロプス「グォーーーーーー!!!」
カウンター気味に自分のオーラを食らったサイクロプスが倒れる。

辻「あれ?へんれすねえ、、、つじはなにもしてないのれす」

???「勇者さん、詰めが甘いのは相変わらずね。危なかったわよ、そのお嬢ちゃん」
???2「あんたらしくねえな。ま、腕はひどく上がったみてえだが」

辻にはマホカンタがかけられていた。

???「そのオーラは魔法力の塊。だから、はね返せるわけね。」
???2「パワー型のモンスターと魔法力の高い人間の合成か、、
ちょっとは頭を使ってきてるようだが、、、」

勇者飯田「あんたたち・・・ごまの弟と、、」
ユウキ「久しぶりだな。」
ソニン「リターンマッチを挑みに来てみたら、たまたま博士もいたんでね・・・」

ワーダ博士「う、裏切り者め、今更ノコノコと邪魔をしに来おって、、、」


中澤と矢口はルルに突っ込んだ。
ルル「こっちが先ネ。」
矢口「うおおおりゃあーー!!」
矢口の飛び蹴り。
ドッカーーン!!
矢口「あれ?何これ?」
矢口が蹴り飛ばしたのは巨大な招き猫だった。
ルルは中澤側に踏みこんだ。
中澤「っしゃあ!!」
ブオン
中澤の一撃を難なくしゃがんでかわすルル。
ルル「大振りアルネ。食らうヨロシ!」
ルルは立ちあがりながら蹴りを出した。
ルル「ハイ!!」
シャ!!
中澤「くっ」
かろうじて避ける中澤。
シャキ
中澤「!!」
ルルの足から刃が飛び出した。
シュパッ!!
中澤の頬をかすめる。
ルル「ハイ!ハイ!ハイーー!!」
シュパパパ!!
ルルは続けて両足で計3発の回し蹴りを出す。
中澤は避けきれず、刃物の部分を全てもらう。

矢口「させるか!!」
体勢を立て直した矢口。
ルル「!(来るアルネ)」
矢口「あちょーー!」
中澤「いまだ!おらあ!」
矢口の攻撃にあわせて中澤も剣を振る。
ごぁあああぁああぁあん
中澤「!?」
矢口「!!」
矢口の攻撃はすかり、中澤はもの凄く硬い何かを叩いた。
中澤「(ジィイイィイインン)、、何や?、、、中華鍋??」
ルル「あははっ!こっちアルよ」
矢口「上か?超龍、、」
ヒューン、、
矢口「?!」
矢口の方に巨大な招き猫が降ってきた。
矢口「またこれ?」
ボムッ
矢口「うわ!」
矢口が招き猫を叩くと、今度は爆発した。煙にまかれて前が見えない。

すたっ
中澤のしびれている剣の上にルルは着地した。
タタタ
長剣の上を走るルル。
中澤「げっ!!」
ブン
中澤は剣を振り上げ、ルルを落そうとする。
ルル「遅いアルよ。」
ドン!、、、ズザザッ
中澤は3メートルほど蹴り飛ばされた。
矢口「ゲーーーホゲホ。裕ちゃん??だいじょぶ??」
ルル「ヤア!!」
矢口「!?」
ドガッ
矢口も逆方向に蹴り飛ばされた。

再び二人の真中に立つルル。
ルル「やっぱり、二人がかりなのに大したことないネ。」
矢口「くっそー。まだまだ!」
立ちあがる矢口と中澤。
中澤「ちっ、、こんな騙し騙しな戦法、いつまでも通用すると思うんやないで!!」
ルル「騙し騙し?、そう思うか?それじゃ一生勝てないアルよ。」


怒り狂うワーダ。
ワーダ博士「おのれええ!!!サイクロプス!!!裏切り者もまとめてやってしまえ!!!」

ユウキ「やれやれ、、、。こっちを使い捨てたのはどこのどいつだよ。」
ソニン「勇者さん、博士の始末は私達がつける。文句ある?」
勇者飯田「え・・・?」
ユウキ「ま、見てろ。3分で終わらせてやるよ」

ワーダ博士「ひゃっはっはっはっ!!!3分で終わるのはどっちかなぁあ??
ゆけ、サイクロプスよ!!!」
サイクロプス「グォーーーー!!!!」

ユウキ「待ってな。すぐあの世に送ってやるよ。ソニン!!!」
ソニン「オッケー!!!」

ソニンは魔力を集中し始めた。
ソニン「・・・メラミ」

辻「あれ?あのおねいさんはもっとつよいまほうをつかうはずなのれすが、、、」
勇者飯田「!!」

ソニン「・・・ヒャダルコ」
ソニン「・・・ライデイン」
ソニン「・・・バギマ」

ソニンは上空に向かって次々と中威力の魔法を放っていく・・・。

ワーダ博士「ひゃっはっはっ。どこに向かって魔法を撃っておる!
ま、まともに撃ったとしてもサイクロプスのバリアに弾かれるがな、、、」

ソニンは両手を高々と掲げている。

ソニン「さーて、、、いくわよっ、ユウキッ!!」
ユウキ「おうっ!!!」
ソニンの掛け声と共に、ユウキは剣の束に手をかけ、サイクロプスに向けて走り出した。

ワーダ博士「抜刀術か、、しかし、サイクロプスの体は切り裂けまい!」
ソニン「そりゃーーっ!!」
ソニンが高々と掲げていた両手を前に突き下ろすと、上空に停滞していた
中級魔法が集中し、ボールくらいの大きさになって猛スピードでサイクロプスに向かっていく。

サイクロプスがバリアを張って防ごうとすると、勢いよく抜刀したユウキが
ソニンの集中魔法を剣でキャッチして、そのまま突進していった。

ユウキ「ウッシャーーーーッ!!!」

次の瞬間、サイクロプスの両腕は無残にももぎ取られ、
腹には巨大な風穴が開いていた。

ユウキ「全属性の魔法が集中してるから、属性バリアも効かない。」
ソニン「ユウキのスピードを併せれば容易に突き破れる、その程度のバリアならね。」

ワーダ博士「ま、ま、ままままままさか、そんな、、、、」
ユウキ「実験台になった奴には可哀想なことしたかな、、、。ま、
無残に生きるより氏んだほうが幸せだろ。」
ソニン「博士、覚悟を決めた?」
ワーダ「た、たたた、たす、たふけた、、、」
ユウキ「無様、だな」

ユウキが振り上げた剣を下ろした、その時!
勇者飯田「無闇に頃すなんて、許さない!!たとえ悪い人でも!」
辻「さいくろぷすさんだってにんげんにもどれたかもしれないのに、、、ぐすっ、、」
ユウキ「あいかわらず甘い奴らだ・・・。むかつくんだよ」

ワーダ博士は恐怖とショックで気絶していた。
ワーダ「たたたた、、、たあすけったたったた、、、」


ナッチー「..はぁ..はぁ..ふうっ...」

ナッチーが息を切らせて牧城東部の高原をかけていく。
彼女が地に足をつけるたびに地鳴りがおこり、木々が振動する。
照りつけるような日ざしの下で彼女の体力も徐々に削られていく。

ナッチー「あああ〜〜〜、もうっ!
     いっそ雲でも呼び寄せてみるべかな」

そう言って彼女が天を仰いだ瞬間、彼女の現在位置の上空を通り過ぎたものがあった。
鳥、にしては異様な大きさの飛行物体。
ナッチーの周囲が影に包まれる程の大きさだ。
しかしそれはまぎれもなく鳥の翼を持ち合わせていた。
その巨大な鳥は高原を滑降するように降りていく。

ごま「あっ、ナッチー」
ナッチー「ごま。今こそ決着をつける時さ。
     ナッチーと正々堂々勝..」
ごま「今のグリフォン、どっちいった?」
ナッチー「グリフォンってのは、、あの大きな鳥のことかい?」
ごま「そうそう」
ナッチー「そいつなら裾野の大きな木のほうに向かって飛んでったんよ」
ごま「銀杏の木のほうね。わかった。
   ありがとう、ナッチー」
ナッチー「どうもどうも、、、
     って何を話しはぐらかしてる。
     ナッチーと勝負するべ。」

とかなんとかナッチーが言っている間にごまは詠唱を終えていた。

ごま「それじゃナッチー、そこの亀さんをおねがいね。
    『ルーラ』」

そう言い残すとごまは銀杏の木のほうへ飛んでいってしまった。

ナッチー「えっ、ちょっと待てって、、、、
     いっちまっただ。
     大体、亀なんてどこに、、」

そうひとりごちてナッチーが振り向くとそこには苔におおわれた大岩。
もとい、、、稲葉貴子による巨大な召還獣・碧のアーケロン。
思わずナッチーの顔がひきつる。

ナッチー「、、、さすがに、スッポン鍋やるには大きすぎるんでねえのかい?」


石川 VS 信田

シバタの本来の姿、高位精霊シヴァによって冷気の固まりが信田にぶちあたる。

フシュウウウウウウゥゥゥ・・・・・

渦巻く冷気のなかから信田がようやく姿をみせる。
流石の魔法拳士・信田美帆も高位精霊の召還魔法をもろにくらったようだ。
彼女の髪や服はところどころ凍り付き、足は完全に地面に凍結している。

Д<「やったで、梨華ちゃんっ!
   今のうちに一気に攻撃したれや」
サイトー「今なら確実に魔法があたる」
美帆「・・・・・・
   悪いけど、そこまで私も簡単に自由を奪われたりはしないのよね。」

そう言うと信田は不敵な笑みとともに闘気を集中させる。
途端に彼女の足下に青白い炎がともり、凍り付いていた足が自由になる。

美帆「私は魔法拳士。体のどこにでも集中すればこれくらいのことはできるのよ。」
石川「クッ」
Д<「大丈夫や、梨華ちゃんっ。
   今の梨華ちゃんならこんなブサイクオバサン簡単にやっつけられるで。」
サイトー「そうよ。気持ちを集中してっ。
     シバタとのシンクロを途切れさせてはダメよ。」
石川「分かってます。」

そう言うと石川のチャーミースーツが輝きだし、シバタの表情も鋭くなっていく。
シバタは再び本来の姿となり、彼女達の周囲に円陣がしかれる。

石川『氷の女王・シヴァの名のもとに命ずる。いでよ、イエティ!』

石川(彩の祠への道)

石川の声とともに赤いイエティがあらわれた。
信田も身構え、手に光を帯びさせる。
その時だった。

『我がもとにその姿をあらわせ。いでよ、リザードマン・レインボー』

信田とイエティのちょうどど真ん中に煙りがわきたち、黄緑色のトカゲ男が姿をあらわす。
イエティとトカゲ男は対峙し、他は皆声のほうへ振り向く。

美帆「あっちゃん!」
貴子「はあい」
美帆「大魔導師はどうしたの?」
貴子「今頃うちの老いぼれアーケロンと戦っているわよ。
   それよりさ、突然で悪いけどこの勝負私に預けてくれない?」
美帆「・・・・・そういうことか・・
   いいわ。私もどうせなら勇者サヤカのパーティーメンバーと手合わせしたかったしね。」
貴子「交渉成立ね。
   それじゃしばらくそこで待ってて。
   分かってると思うけど、手出しは無用よ。」

稲葉は杖をかかげて、対峙する2体の獣ごしに石川を見据える。

美帆「・・・・・私のほうもそんなに待たないみたいだけど。」

そう言うと信田は手の光をおさめて、更に東、銀杏の木のほうへ走り出した。

稲葉「あんたっ!!それ、召還だろ??
   そんなの使えたの??ははっ、、予想より全然凄いじゃない!!
   まったく、、、、嬉しいよ!!」

石川「これは、、、、」
石川は光の円陣の中で、驚いていた。
??「勝ちたいか?」
石川「!?、、、何??、、誰??」
??「石川梨華よ、勝ちたいか???」
石川「勝ちたいよ、勝ちたい。許せないもの!!」
??「ならば我が名を呼ぶがよい。」
石川「誰?だれなの??」
??「我はお前の目の前にいる。運命を共にするもの。」
その時、真っ白な世界に一つの姿が映った。
石川「あ!!シバちゃん??シバちゃんなの??」
??「妖精シバタはシヴァの血族、私はその血に眠るシヴァ。お前はシバタの主。」
石川「シバちゃんはお友達です!」
シヴァ「そうであったな。今から言う通りに呼ぶがよい!
   お前のあふれる魔力と引き換えに、勝てる力を授けよう!!」
石川「勝てるのね!勝てるなら、、なんでもするわよ!!
   早く、早く教えて!どう言えばいいの?」

シバタ「梨華ちゃんっ!?」
??「助けたいか?」
シバタ「??」
??「石川梨華を助けたいか?」
シバタ「??、誰?、、、この声は、母さん?、、違う、、」
??「我はシヴァ、お前の血に眠る者、、今、石川梨華はお前の力を欲している。
   助けたいか??」
シバタ「ってことは、、私??、私に何か力があるっていうの?
   そんなものが少しでもあるなら、助けたいよ!!梨華ちゃんを助けたいよ!!」
シヴァ「では主に、、いや友に、シヴァの力をくれてやれ!!」
シバタ「!!!、、体の、中に、、、冷たくて、、あったかい??、、何かが、、
   これ、梨華ちゃんの、、、魔力??」
石川「我が友の真の力をここに。いでよ!シヴァ!!」
石川の詠唱にあわせて、シバタの羽は白銀に光り、巨大で蝶の羽の様な形に変った。
羽からこぼれ落ちるのは、花粉ではなく水の結晶、つまり雪。
シバタの体は羽にあわせて巨大化し、白く透明に透き通っているが、太陽光に反射し、
キラキラと光り輝いている。
Д<「き、、、綺麗や。」
サイトー「これがシヴァ。。」
やがて人間なみの大きさとなったシバタは、石川の前に浮遊した。
シヴァ「梨華ちゃん、一緒に戦いましょう。」
少し大人びた顔立ちで目つきも鋭くなっている。
石川「は、、、はい。お願い、、、します。」
石川の魔力が霊力に変化し、周りの空気を更に冷たくする。


保田はよっすぃーと小湊が戦っているのを、
森の中に隠れて見ていた。
保田「(今は、戦いの邪魔をすべき時では無い。。)」
ギインギンギン!!
互いの武器がはじきあう音があたりにこだましている。
よっすぃー「くっ!!」
美和「や!!」
ズバッ!!
保田「(美和さんの攻撃がよっすぃーを捉えることが多くなった。
   よっすぃーは、まだ一太刀も、、、か。
   見てる限り、スピード、パワーは拮抗してるのに。。)」
その時、
ザクッ!!
よっすぃーの肩を扇子の刃が削る。
ドガッ!
続けて、よっすぃーは腹を蹴られ、倒れた。
よっすぃー「はあ、、はあ、、、(やっぱり、私だけじゃ無理なのかな。。)」
よっすぃーは肩をおさえた。血が流れている。
保田「ふぅ。(無理、、、か。)」
保田はため息をつき、木の陰から出る決意をした。
よっすぃー「(一人でどうにかなっちゃえば、と、、、、思ったんだけど、、)」
よっすぃーは肩を押さえた手を見た。べっとりと血がついている。
よっすぃー「はぁ、、はぁ、、、(そろそろ、、、来る。来ちゃう。)」
よっすぃーはふらふらと立ちあがろうとした。しかし、
ドサッ!!
倒れてしまった。
美和「!!」
美和はかけよろうとした。


信田に向かって叫ぶ石川。
石川「待ちなさい!!あなたは私が倒します!!私は!!、、あなたが許せないんだから!!」
美帆「ごめんなー。あんたはあっちゃんに譲るわ。」
貴子「石川ちゃん、こっちで私とやろうよ。同じ召還士同士さ。」
石川「うるさい!!邪魔しないで!!許せないの!!
   待ちなさい!!逃げるなんて許さない!!」
貴子「#、、、、そんなこと言わないでさ。」
石川「許さない!許さない!許さない!」
稲葉の声に石川は耳をかさない。信田を追おうとしている。
貴子「ねえ、ちょっと、、
   (この娘がこんなになってるなんて、美帆はいったいこの娘に何したんやろ?)
   ったく、、、イフリート!!」
ゴオ!!
稲葉は石川へ炎を飛ばした。
その炎は、石川に届く直前で冷気により消失した。
石川「!!?」
貴子「どや?」
石川は稲葉に向き直った。
石川「・・・・・邪魔をするなら、貴方も、許さない!!」
石川は稲葉を睨んだ。
貴子「おお?やっと気づいたか。やるでー!!」
石川「許さない!シヴァよ!!」


保田「待って!!」
美和「!?、圭ちゃん。」
保田「この子が倒れている間は、手を出させない。私が相手をするわ。」
保田は構えをとった。
美和「あ、そのために隠れてたんだ。」
保田「!?、気づいていたの?」
美和「まあね。ま、無理しなくていいよ。」
そう言うと、小湊は扇子を閉じ、近くの岩の上に腰をかけた。
保田「??」
美和「わかってるよ。こないだ聞いたからね。
   この子がもう一人の自分と葛藤してるんだろ?」
保田「・・・・・・」
美和「手を出したりしないよ。私らは、強い奴と戦うのが目的だからね。
   あんたが相手ってのも悪く無いけど、一対一で神官とやってもしょうがないからね。
   それよりあんたは、この子の回復でもしてやりな。それから、側についててやんな。」
保田「あ、、、ありがとう。」
美和「言ったろ、一肌脱ぐって。でも別にこの子のためじゃない。
   私が、本来の力のこの子と戦ってみたいだけさ。」
保田「でも、、ほんとに、、、ありがとう。なんて言ったらいいか、、敵なのに、、」
美和「よしてよ。私も休んで次に備えるから。」
保田は小湊に頭を下げ、よっすぃーの元にかけよった。


シヴァの羽の周りに、次々と氷が生成される。
何十、何百本、何千本もの氷の刃が稲葉めがけて飛んでいく。
Д<「おお!これ、いけるんと違うか??凄いで!!これは避けられんやろ!!」
貴子「イフリート!炎の盾で我を守れ!!」
稲葉の前に大きな炎が現れ、氷を消していく。
石川「そんなものっ!!」
石川は更に氷の刃の生成量を増やした。次々と氷は炎に吸いこまれていく。
それにつれて炎の盾も小さくなる。
石川「勝ちたい!勝ちたい!勝ちたい!!!」
貴子「やるやん。でも、まだまだや!、はぁっ!!」
稲葉が気合を入れると、炎の盾は更に大きくなった。

Д<「??、、なんか、、、」
サイトー「??どうしたの?」
Д<「なんか、違わんか?」

石川「許さない!許さない!」

サイトー「どうして?今はおしてるよ??」
Д<「・・・でもな、この戦いな、いつもの梨華ちゃんと、、、違う気がすんねん。これって、、」
サイトー「??」

石川「まだだ。もっと!もっと!もっと!!」
貴子「この程度なわけがないやろ??もっとこいや!!もっともっと!!!」

サイトー「たしかに、、、押してるように見えて、、なんだか、、」


保田は座りながら、倒れているよっすぃーの上半身を抱えた。
保田「よっすぃー、大丈夫?、、ベホマ!!」
保田はいくつかある傷口に、次々と手をあてていった。傷はふさがっていく。
よっすぃー「う、、、、うん、、、、」
よっすぃーはびくっと体を震わせた。
保田「!?」
保田は、よっすぃーの目の焦点があっていないことに気づいた。
保田「やっぱり、、これから、意識の中での葛藤が始まる。頑張れ!!よっすぃー!!」

よっすぃー「来る、、、来た。」
その声は、うわごとのようによっすぃーの口からもれた。
そしてよっすぃーは保田の手の中で動かなくなった。


石川「私は勝つの!!勝たなきゃいけないの!!」
その時、
ズドドドドドドドドドドドド!!!!
シヴァから今までの何倍もの氷の矢が撃たれた。何万本もの矢が。
もうもうと氷が蒸発し、一時、稲葉とイフリートの姿が見えなくなる。
シュウシュウシュウシュウ、、、
石川「はあ、はあ、、はあ、、、」
Д<「おお!すごいで!!これで押し勝てるんと違うか?」
石川「もっと!!」
ドドドドドドドドドド!!!

石川「はあ、はあ、はあ、、、どう?」
連打が一段落し、水蒸気がはけると、
貴子「・・・・・・・」
先ほどの嬉しそうな表情とはうって変り、冷めた表情の稲葉が立っていた。
石川「!?」
貴子「イフリート。(ボソ)」
ゴオオオオ、、
また音をたててイフリートが現れた。
Д<「って、き、、、きいてへんのか?」

石川「なんで、、、、くっ!!」
石川は下唇を噛みながら、稲葉を睨んだ。
石川「負けない!!シヴァ!!」
シヴァの周りに再び氷の刃が生成され始めた。

サイトー「ハッ!!わかったよ。これ、負ける。」
サイトーはトーンを落としながら言った。


ソニン「博士にとどめを。」
ユウキ「ああ。」
勇者飯田「・・・・・・・」
ユウキ「?、ってかあいつはどこだ??声ばっかりで姿が見えねえぞ!!」
つじ「さいしょっからみえませんれしたよ。
   ぜんかいのしっぱいをくりかえさないためらそうれす。」
ユウキ「何い??ふざけんな!!」
バサッ!バサッ!!バサッ!!
ユウキは力任せに剣でその辺の茂みに切りつけた。
ユウキ「おい!何やってんだ?
   あんたも手伝ってくれよ!あいつをやっつけてえのは同じだろ!」
ユウキは飯田に声をかけた。
飯田は、サイクロプスのもがれた手を集めていた。
ユウキ「ああ?そんなことしてて何になるんだ?それより、
   あいつを今やらねえと、また同じ犠牲者が増えるだけだろうが??手伝えよ!!」
勇者飯田「よいしょっ!」
飯田は腹に穴のあいたままのサイクロプスを背中に抱えた。
ソニンとユウキの方を「きっ」と睨むと、
勇者飯田「どいて!!」
ドン!!
ユウキにぶつかりながら、飯田は走りだした。
つじ「ま、、まってくらさい!いいらさん!!」
つじは急いで追いかけた。


Д<「はー、やっぱりやん。
   、、って納得したらあかんな。いったい、、なんでやねん?」
サイトー「いつもと違うって、きっとそのとおりなんだよ。
   友を頃された怒りは、彼女を覚醒に導いた。
   けど、、、今は、心に燃える怒りと憎しみの炎が、、、氷の聖霊の力を弱くしている。。」
Д<「!!!、なんや!!そりゃ、、、なんちゅうこっちゃ!!」
サイトー「せめて、その炎が消えないと、、、相手にもならない。。」
Д<「ヤヤヤ、、、ヤバイんと違うか?」

ドドドドド!!
また、音をたててシヴァの氷の刃が稲葉とイフリートを襲う。
イフリートはもう、盾を作ることもなくなっていた。
全弾命中するも、全くダメージを受けている様子は無い。
貴子「・・・・・・」
石川「なんで?なんで?なんで??なんで効かないの?なんで勝てないの?
   許せないのに、守りたいのに、、」

サイトー「いけない!!これじゃ、子供が怒って廻りにある物を
   手当たり次第に投げてるのと同じだよ。
   それじゃ、いつか物が無くなって、、、MPだけが先に尽きちゃうよ。」

石川「こんなに、、こんなに勝ちたいと思ったことって、、、初めてなのに。。」


勇者飯田「生命力が人間より強い魔獣のままなら、まだ生きてるかもしれない。
   圭ちゃんなら、、、圭ちゃんならなんとかしてくれるかもしれない。。
   圭ちゃんは、よっすぃーといつもの修行場にいるんだよね。」
つじ「そーれす。」
勇者飯田「急がないと、、」
飯田は足を速めた。つじも追いかけるのに必死になった。
勇者飯田「いい?つじ、勇者っていうのはね、助けなきゃだめなんだよ。
   勇者はね、決して、敵を頃すためなんかじゃない。
   みんなを助けるために、、、勇者はいるんだよ。」
つじ「へ、、へい!!れも、、、あのひとたちがいっていたことも、、、」
勇者飯田「一理あるよね。うん。だから、、、あの戦いの決着は、あの人達にまかせるよ。
   博士がいくら隠れてても、いずれ見つかるでしょう。
   今、かおりは、、、この子を。」
つじ「へい!!」
勇者飯田「でも、、ごめんね。辻。」
つじ「??」
勇者飯田「(彼らは、頃してしまうかもしれない。博士を。
   それを、、今のかおりは止められない。頃しなんかしたくないけど。。
   博士は、前回にも十分過ぎるほど彼は罰を受けた。でも、こうして復讐に現れた。
   ここで頃さなかったら、また、、博士は同じ事を繰り返すというの??
   だからって命を、、、どうすればいいの?いったいどうすれば、、、
   かおりにも、、わかんないよ。だから辻にも、説明してあげられないよ。)」
ブンブン!!
飯田は一度目を閉じ、それを振り払うかのように頭を振った。
勇者飯田「ううん、今は、、急ごう」
つじ「へい!!」


石川「なんで?なんで?なんで?、、ひっく、、ひっく、、、」
石川は、攻撃をさせ続けながら、、、目をつぶって両手で顔を覆い、座り込んでしまった。
シヴァ「梨華ちゃん!!どうしたの!!?、シンクロできてないよ??あっ、、」
シバタは徐々に小さくなっていく。
互角に見えたイエティとトカゲ男も、トカゲ男が押し始めた。

サイトー「やばい!!」
Д<「・・・・・・」
サイトー「梨華ちゃん!!しっかりして!!」
石川「ひっく、、ひっく、、、」
石川が聞いているかどうか、わからない。
Д<「よっしゃ!!うちにまかせや!!」
サイトー「?、なんか良いアイディアが?」
Д<「ちゃうで、うちがやる。うちが梨華ちゃんを助ける。」
サイトー「ええ?あなた、この状況を打開できるの??今まで隠れてたし。」
Д<「あのな、、うちはな、なんの考えもなく、観戦に来たんと違うんやで!
   頼りない梨華ちゃんがな、窮地に陥ったときに大活躍するために来たんや。
   ってわけでうちの出番なんや!!」
サイトー「??、でも、、どうやって?」
Д<「ふっふっふー。りかちゃんにはこれが一番きくんと違うか?」
あいぼんは石川の元に走りながら叫んだ。
Д<「モシャスッ!!」


ナッチー「ははーん。わかったべ。ごまのやつ、こいつに負けて逃げだしたんだべ。
   ざまーないっしょ。
   したっけ、こいつをやっつければ、ナッチーの勝ちってことかい?」
アーケロンがナッチーに気づき、ギロっと睨みつけた。と同時に、
ドオオン!!
アーケロンの足がナッチーを狙った。
ナッチーはそれをよけた。
ナッチー「ふう、、あぶねえあぶねえ。でもナッチーにかかれば、
   3秒でおしまいさ。。海生類が雷に弱いのは常識だべ。」
ナッチーは空に向かい、両手を上げた。
ナッチー「雲よ!!!」

・・・・・シーン・・・・・・・

ナッチー「あれれ?、雲よ!!」

・・・・・・シーン・・・・・・カァ、カァ、カァ(どっかでカラスが鳴く声)

ナッチー「・・・・・・!?」

あたりの水蒸気は、、、石川に全部取られていた。

ギロリ、またアーケロンがナッチーに狙いを定める。
ナッチーは上げた両手をゆっくり下ろし、、
ナッチー「なんだべーー?!!」
走って逃げ出した。


石川「ひっく、、ひっく、、、ひっく、、、ひっ、、」
保田(Д)「ちょっとあんた、落ち着きなさいよ!!」
石川「ひっく、、!!!、、、、し、師匠?」

貴子「!?、ほんまに、、、これだけか??
   ちっ、、、がっかりしたで。
   わざわざ召還の気配がするから来てみれば。まださっきの娘のほうがましやっちゅうねん。
   とどめ、さしちゃおか。グリフ、、」
??「ちょっとまってよっ!!」
その時、ゴオ!!
貴子「!?」
貴子のすぐ横をメラゾーマが通りすぎた!
ごま「あんたの相手はこの私でしょ!!」
ごまはルーラで飛んだまま信田を無視し、通りすぎて来ていた。


保田は気を失っているよっすぃーに回復呪文をかけ続けていた。
美和はその様子をずっと見ている。

その時、突然よっすぃーの目が大きく見開いた!
保田「!」
保田が気付いたときには、よっすぃーは空高くに飛翔していた。その目は美和を捕らえている。
吉澤「殺すっ!」
美和「ふーん…」
美和はよっすぃーの空からの攻撃を受け流すと、その勢いを利用して投げ飛ばした!
吉澤「くっ!」
吉澤は素早く受身を取り、着地して構え直した。
保田「まずいな…。よっすぃーの意識が負けた」
保田のその言葉に対し吉澤が答える。
吉澤「あいつじゃあ勝てる戦いも勝てない、だから私が出てきた」
美和は吉澤のその言葉を聞くと、ひとつ大きくため息をついてから言い放った。
美和「…悲しい刀の振り方をするね、あんたは」
吉澤「何…?」
美和「見てて可哀相だよ、そんな風にしか刀を振れないなんて」
吉澤「だ…黙れ!殺してやるっ!」
吉澤は再び美和に向かっていった。

吉澤の怒涛の連続攻撃が美和を襲うが、美和は全てを受け流す。

吉澤「くそっ、何で…。何で当たらない…」
美和「笑止!」
美和はそう言うと吉澤の右足を扇子で裂き、もう片方の扇子で吉澤を弾き飛ばす。
吉澤「ううっ…。何で…」
美和「理由は簡単。あんたの太刀筋には殺意や怨念以上に、悲しい。相手と向き合っていない。
    今まではそれで何とかなってきたみたいだけど、それが失敗だったね。
    かたや剣士としてのけじめの無い甘ちゃん。かたや恐怖で相手と向き合えない悲しい娘。
    あんたの存在にはどんな理由があるのかは知らないけど、それじゃあ絶対に勝てない」
美和のその言葉を聞き、保田は唖然としていた。
保田「(凄い、この人…。太刀筋だけで吉澤の恐怖や悲しみを悟ってる。
     やっぱりよっすぃーを救えるのはこの人しかいない)」
保田が一人で考えていると、吉澤が勢いよく吹っ飛んできた!
保田「うわっ」
吉澤を真正面から受け止める形になり、体勢を崩す保田。
美和「はい、これで二人目も意識消失」
保田「…流石ね、美和さん。今まで吉澤を相手に無傷で済んだ人なんて見たことないわ」
美和「ははっ、ありがと。ところで、今から始まるんじゃないの?」
保田「うん、多分…。今からよっすぃーと吉澤の精神がぶつかり合うはず」


よっすぃーの意識の中では、思いのほかゆったりとした空気が流れていた。

よっすぃー「あんたも負けたんだね…」
吉澤「ああ…。強いよ、あいつは」
よっすぃーは吉澤の様子をうかがいながら、聞いた。
よっすぃー「…共闘、できないかな?」
吉澤「…あんたさ…」
よっすぃー「何?」
吉澤「なんで仲間と一緒にいるの?」
よっすぃー「…え?」
吉澤「なんで…他人を簡単に信頼してしまうの?恐くないの?」
よっすぃー「…」
吉澤「それに…失ってしまうかもしれないんだよ?」
よっすぃー「…私は…」
吉澤「まだ、わからない…。何で戦うのか…何で殺しあわなきゃいけないのか…」
よっすぃー「…あんたからそんな言葉が聞けるなんて…」
吉澤「意外だ、と思ってるでしょ?そうだよね、今まで私だけで背負い込んでいたことだから…」
よっすぃー「あんただけ…」
よっすぃーはそれを聞くと、何か胸を締め付けられる感覚を覚えた。
吉澤「失ってしまうかもしれないものをなんで簡単に受け入れるのか…。
    失ってしまう悲しさの方が大きいことになんで気付かないのか…。
    殺すか殺されるか、という場所になんで自分から赴くのか…。
    私はずっと悩んでた。知りたかった。でも、あんたもそれを知らないで続けている。
    だから余計に…わからなくなった」

吉澤「共闘ができない本当の理由…それは、そういうこと。
    私は一人で戦う。あんたもそう思ったでしょ?それで私は皆から殺人鬼扱いされて、煙たがられればいい…」
よっすぃー「違うよ!」
よっすぃーは吉澤の言葉をさえぎって、続けた。
よっすぃー「違う…。今の話を聞いて、痛いほどわかったよ。
       あんたは何も悪くない…。悪いのは、何も考えないで突っ走っていた私だよ」
吉澤「…そうだとしても、私んも考えは変わらない…。私の存在を認めてくれるのはあんただけ。
    あんたの仲間も、あんたの敵も、私のことを必要としていない。そういうことに…もう疲れたよ」
よっすぃー「そんな…!」
吉澤「私が消え去ることが、一番の望みでしょ?共闘なんかより、ずっと望んでる…。
    あんたは自分にすら正直じゃないからね」
よっすぃー「違うっ!私は…!私は!」

同時刻、保田はよっすぃーの精神の中を読み取りつつ、その内容を美和に伝えていた。
保田「ふぅ、二人が気絶してる今でなきゃできない技ね…」
美和「…で、二人の話はおしまい?」
保田「…どうやら終わりみたい。今のままだと吉澤の方が消えて終了、ね」
美和「ねぇ圭ちゃん、その意識の中の二人に話し掛けることはできる?」
保田「あー、なにしろこの状況は始めてだから…。でも可能なはずだよ」
美和「…そう。じゃあ、その二人に人生の先輩からメッセージでも…」
そう言うと美和は大きく息を吸い込んだ。

美和「バトルマスター吉澤ぁっ!」
美和は大声で倒れているよっすぃー(吉澤)に怒鳴った!
美和「あんたが恐がってるのは他の何者でもない、自分だ!それを他人のせいにして落ち込んでるだけだろ!
    疲れただって!?当たり前だ、戦う人間が疲れなくてどうする!自分の責任すらもなすりつける気か!
    自分で落ちた穴から這い上がるのは当たり前だ!他人に頼っても這い上がる奴は正しいよ!
    でもあんたは這い上がろうとしない!しかもそれすら他人になすりつけるのか!?
    自分の言ってることが正論だと本気で思ってるのなら、それは間違いだ!」
保田「…」
美和「あんたを煙たがってる奴ばかりだと言ったよね…。それも間違いだよ。私はあんたを受け入れる。
    あんたは応えないの?今、自分を遥かに超えた相手が自分のことを待ってるんだよ?」
よっすぃー(吉澤)の体が、わずかながら動く。
美和「一度でも本能から戦いたいと思ったことはないの?自分を束縛する必要はないよ」
保田「…よっすぃー…」
保田はよっすぃー(吉澤)の顔を見る。
美和「互いに一人の戦士として…本能だけで戦おうよ」

美和がそれを言い終わったと同時に、よっすぃーが目覚めた!
よっすぃーはうつむいたままゆっくり立ち上がる。そして次の瞬間…

よっすぃー「うおおおぉぉぉああぁぁぁぁっ!!!」
よっすぃーは大粒の涙をこぼしながら、空に向かって大きく叫んだ!

保田「泣いてる…。よっすぃー、いや、吉澤が…」
美和「歓喜の涙、ってところじゃない?」
保田「そうか…。吉澤は今まで迫害されているも同然だった。どこに行っても一人だった。
    だからずっと悲しかった。それに人を殺すことだって恐かった。でも誰一人認めてくれなかった。
    そして今、自分のことを一人の戦士として認めてくれる人と始めて出会った。
    始めて自分の存在を許容してくれる人と会えた…。それが吉澤を動かしたんだ」
美和「さっすが圭ちゃん、仲間のことはすぐにわかるんだね」
保田「ありがと。でも美和さん、今からのよっすぃーは多分さっきまでとはレベルが違うよ?」
美和「多分ね。でもそれはお互いに望んでたことでしょ?」
保田「まあ、ね…」

そして同時刻、よっすぃーの精神の中。
吉澤「ああ…うっ、うう…」
よっすぃー「…行ける?」
吉澤「…こんな私でも、受け入れてくれる人がいた…。退くわけにはいかない」
よっすぃー「そうだよね…」
吉澤「…あ、あのさ…」
よっすぃー「ん?」
吉澤「一緒に、行かない?」
よっすぃー「えっ!?」
吉澤「だから…共闘。お互いの精神をひとつにしてさ」
よっすぃー「…本当に、いいの?」
吉澤「そうしなきゃ太刀打ちできない相手だってわかってるでしょ?」
よっすぃー「…うん!それじゃあ…行こう!」
吉澤「よしっ!」

泣き止んでうつむいていたよっすぃーが、しばらくして顔を上げる。
よっすぃー「…ただいま、戻りました」
保田「…おかえり、『二人とも』」
美和「…おかえりなさい。随分いい目になったね。迷いが少しも見られない」
よっすぃー「私がやったことじゃないですよ。保田さんに美和さん、それにあいつ…」
美和「うん、よかった。これで本当の戦いができるね」
よっすぃー「ええ…。それじゃあ、始めましょうか?」
美和「あー、ちょっと待って。この状況じゃあまだ戦えない」
よっすぃー「え…?まだ足りませんか?」
美和「いや、そうじゃなくて…」
保田「はーい、私は遠くで見物してますよ」
美和「うん、理解が早くてよろしい!」
よっすぃー「…保田さんを遠ざける、ですか…。確かに近くに居られると危ないですね」
美和「そ。今の私達がぶつかったら周囲がどんなことになるかわからないしね」
よっすぃー「それじゃあ、遠慮なく」
美和「始めようか」

保田「(始まる…。地上最強の肉弾戦が…)」
保田はこれから始まる戦いのことを考え、身を震わせた。