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カオリンクエスト

カオリンクエスト2-7

飯田「この前から、待ってって、まだ行くなって、かおりを引き止めるのはだれ?」

白い空が黒く変わりつつあった。夕食後、突然雪は雨に変わった。
ゴゴゴゴゴゴ、、、ゴロゴロ。
ピッシャーーーーーン!!ババババリバリバリ!!!
矢口「キヤーーーーーーー!!」
耳を塞いで叫ぶ矢口。
ザァァァァァァァアァアア
ナッチー「雨だべさ。ここではこの季節には珍しいべ。異常気象だべ。」
飯田「・・・・・・・」
ボーっと空を眺める飯田。
ごま「空が暗いと、なんか眠くなるね。。。。フワ、、、おやすみ〜、、、。」
"パッ"、言うが早いか、アザラシゴマに変わってしまった。
よっすぃー「あたしもお先に失礼します〜。」
ゴマを抱えてよっすぃーは寝室へとたった。
石川「まってくださーい。よっすぃーさーん」
よっすぃー「よっすぃーでいいよ。」
石川「そんな、よっすぃーさん
石川もよっすぃーに続いた。
保田「あんた達はまだ寝ないの?」
つじ「かみなりこわいれす。ねむれないれす。」
Д<「雷鳴るとわくわくするねん。寝てられんわ。」
ピカッ!ガラガシャーーーーン!!

つじ「ひっ」
矢口「キャーーー!!!イヤーーーー!!」
中澤「矢口はほんーまに怖がりやな〜。」
Д<「ってゆか、はっきりいってうるさいわ。」
矢口「なんだよー、、」
ピカピカピカ
矢口「イヤーー!ウァーーー!!こーわーーーいぃ!!」
つじ「やぐちさん、まだなってないのれす。ほんとにこわがりれす。」
ゴゴゴゴゴーーーーン
矢口「ヒャーーーーー」
テーブルの下に隠れる矢口。
つじ「う、ひーーーん」
ナッチー「辻も人のこといえないべ。みんな臆病だべ。」
Д<「そういうナッチーは平気なんか?」
ナッチー「忘れてもらっちゃ困るっしょ。この作品の設定上、ナッチーは雷使いだべ。」
ゴロゴロゴロ
矢口「こーーわーいー!くぉーわぁあいーー!こぉわぁいぃいいぃ!!」
中澤「矢口、ちょっといいかげんにしいや!ほんまうるさいで!」
矢口「ちょっとナッチー、雷雲追い払ってよ〜!!」
ナッチー「いくらなんでもこの量は無理だべ。ナッチーも大自然にはかなわないべさ。」
Д<「役に立たない雷使いやな〜。」
ナッチー「あいぼんに言われたくないべ!さっきから震えてるくせに!」
Д<「怖くて振るえてんのとちゃうで!
   うちは雷がなるとドキドキするねん。なんでやろ?血が騒ぐねん。」
保田「ガキねぇ。それは、どっかに落ちないか期待してるだけでしょ。
   でも、本当に落ちると大変だけどね。」
中澤「そういえば、避雷針になりそうな人がここに一人いると思わん?」
全員が空を眺めつづける飯田を見た。
矢口「プッ、キャハハッ、、やめてよ〜ゆうこ〜。」
保田「避雷針って、、、ここに落ちたらなんの意味もないって。」

ヨシターケ「よおうし、そんじゃぁ、
   ヨシターケおじさんが、こんな夜にはぴったりの怪談話をしでやるべ。」
矢口「え?いやーだぁー!」
勇者飯田「はっ。。。。聞く!」
矢口「えーーーー!!なんだよかおりー!今まで話聞いてなかったくせに〜。」
勇者飯田「聞いてたよー。」
矢口「やめようよーやめようよー!」
中澤「面白そうやな。うちは聞いてもいいで!矢口は怖いんなら先に寝ていいで!」
矢口「やだよー。先ったって今は雷で眠れないし。ねぇ辻!?」
つじ「つじはききたいのれす。こわいはなしらいすきれす。
   ねむれないからひまれすし。」
矢口「裏切りものー!余計眠れなくなるぞー!!」
Д<「うちも怪談、めっちゃ好きやねん!」
ナッチー「ナッチーもそういう話大好きだべさ。聞くべさ。」
矢口「怖いの嫌だよー。いやだよー、いやだよー、いやだよー」
中澤「うるさいっちゅうねん!」

結局、残っていたメンバーは全員話を聞くことになった。
ヨシターケ「そんじゃ始めるべ。」
一同「ごくっ」

これは本当にあっだ話だ。それもこのすぐ近ぐの話なんだべ。
こっがら東側、ムロランシティどは逆の方向に11、2キロぐらい行ぐんだ。
まっすぐだべ。すっど、突然道が山道になんだ。
山深く深くにすすんでいぐ。だんだん道が細くなっで、
そしてついに、、、道がなぐなんだ。ぷっつりとだ。
何のためにのびた道だ?だれが通る理由があるんだべか?
いいや、ほんどはあっだんだ。うん年前から誰もとおらなぐなっちまった。
その先には、ある村があっだんだ。一夜にしてなぐなっだ村がな。
魔物に襲われ焼げちまっだんだそうだ。

矢口「はっ、、え、、、、」
中澤「なんやねん矢口、もう怖がってるんか?まだ始まったばっかりやん。」
矢口「ち、、、違うよっ。」
勇者飯田「・・・・・・・・・」
ジーっとヨシターケを見つめる飯田。

なぐなった村には、誰も行がなぐなっちまっだ。そして何ヶ月も時が流れだ。
ある時から、その村に真っ赤な炎に包まれた幽霊が出るっつう噂がたっだんだ。
だが、本当に自分が見に行っだと言うもんはいながった。
正体は魔物か?ども思われだ。それを恐れで、調べに行こうってもんはいながった。
しがし、ムロランシティには勇敢な若者達がいでな。

勇者飯田「うんうん、、、、。」
Д<「わかったで!そいつら全員見に行ったきり帰ってけえへんかったんや!」
つじ「わ!あいぼんすごいれすね。」
ナッチー「なーんだ、そんならナッチーの知ってる話の方が断然怖いべさ。」
Д<「そんで、そこに行った奴は誰も帰って来れないんや!」
中澤「落ち先にいうなやー!!で、ほんとにそうなん?」
ヨシターケ「ちっとちがうな。」
Д<「なんやー、違うんかい」
つじ「はずれてしまったのれす。」
勇者飯田「先!、、、先聞かせて!お願い。」
保田「?」
つじ「ゆうしゃさま?」
矢口「・・・・・・・」
ヨシターケ「お、、、おう、じゃ続きいぐべ。」
飯田の真剣な目におされ、またヨシターケは話し出した。

ついに、好奇心旺盛な二人の若者が行っだんだ。
ムロランシティがら歩いで、そんで山道に入っで。いづしか、その山道も終わっで、
もう、けもの道みたいになっぢまっだ道を二人で歩いだ。進んで進んで、
二人は村があるなんてこど自体、嘘だっだんじゃないがっで思っだ。
その時、視界が開けだ。村はあっだ。そごには、、、、

つじ「そ、そこには?」

焼けて崩れ落ちた家が何軒もあっだ。そんで、そこには幽霊はいながっだ。
魔物の気配はながっだ。誰の気配もながっだ。そこはたんなる廃墟だっだ。
全で焼け崩れた後の様に見えだ。大火事でもあっだんだ。そうその若者達は思っだ。
寂しぐ、寒けを感じだ。

Д<「なんやー。まさかお終いやないやろな?!
   怖いとこどころかお約束も無いんかい!」
ヨシターケ「まあまで」
その時、矢口はそわそわしていた。
中澤「なんや、部屋に戻るんかい?そうはいかんでー。」
中澤は矢口を引き寄せた。
中澤「ここまできたら最後までききいや!」
矢口は嫌そうな顔を見せた。それはほんの一瞬で、中澤以外は気づかなかった。
中澤「?(冗談やのに)」

ようこそ!
突然、そう聞こえた気がしだ。はっとしで、二人はあだりを見まわしだ。
そごには、今まで廃墟しかながった村はなぐ、
家は綺麗に立ち並び、人は行き交う普通の村があった。
二人はわけがわがらなくなっだ。お互いにさっきまで廃墟だっだよな、
間違い無いよな、と話あっだ。
二人は村を歩ぎまわっだ。村っちゅうにはずいぶん広い、活気ある村だった。
しがし、当然信じられながっだ。二人は、とりあえず村人に話を聞いてみることにしだ。
通りすぎる女性に声をかけるど、、、
若者1「すいませーん、ここっていったい??魔物に襲われたって、」
女性「あら、よその方ですね。この村にようこそ。良い村でしょう。」
若者2「あ、はいそうですね。えっと、、、」
その女性の笑顔におされ、なんだか若者達は聞きづらくなっだ。
しがし、
女性「でも、今日はとっても暑いですね。」
若者「え?」
冬だっていうのに?
そう言おうとしだ瞬間、視界の色が変わっだ。
あたり一面、真っ赤な火に包まれていだ。

Д<「今度こそそいつら帰って来なかったんや!」
中澤「ええかげんにせーーー!」
ぐにー!あいぼんのほっぺたをつねって引っ張る中澤
Д<「ひででで、、、いたいガナ、いたいガナ、、、」

気がつくと目の前にはその女性はいなかっだ。
そして、燃えているのは最初に見た廃墟だっだ。
もうこれ以上、燃える物なんて無さそうなのに、高い火で覆われている。
二人は逃げ出しだ。不可解な出来事と、火そのものがら。
二人は息を切らして盲目的に走っだ。

が、一人は突然、隣の相方がいないことに気づいた。
しまっだと思っで後ろを振り向ぐど、相方なんとすぐ1歩後ろで火にまかれていだ。
「ぎゃああああ!助けてくれええ!!」
叫び声をあげ、火にまがれたまま手を差し出してきだ。
しかし差し出された方は、「ひいいい、ち、、近づくな!」
ととっさに言っだんだそうだ。そしで、男は焼かれたそいつを見捨てて逃げようとしだ。
「た、助けてくれよー、置いて行かないでくれよー。」
と叫びながら追い掛けて来る、火達磨の男から必死で逃げだ。
耳を塞ぎながら逃げだ。山道を逃げだ。どう逃げたかもわがんねえ。
が、公道に出だ。男は一人だけ助かっだ。焼かれだ男をその後見た者はいねえ。
助かっだ男は、町の人々にその恐怖を語っだ。
そしで誰も、その村には近づかなぐなっだっでわけだ。

Д<「なんやあ、やっぱりありきたりな話やな。」
中澤「落ちとフリを逆にするとええんちゃうかな?
   とりあえず噂の場所に行ってみたらこんなことがあった。
   んで、後で調べてみたら、そこは昔、魔物に襲われた村だった。とかさ。」
保田「って、いかにしたら怖いかっていう演出を話してるわけじゃないでしょ。」
ナッチー「ナッチーの話しはもっともーっと怖いべ。次はナッチーがやるべさ。」
ヨシターケ「まだ落ちは続いてるべ。
   その生き残った男、それから毎晩、燃えた相方が自分を迎えに来るんだと
   周りに言い出したんだ。
   そんなわけねえだろ馬鹿めと言われで相手にゃされなかったんだが、
   だんだんと、そいづはげっそりやせ細り、いづしか、そいづは狂って死んじまった。」
つじ「そ、、、それはちょっとこわいれす」
保田「なるほど。きっと、見捨てて逃げた罪悪感が心に残り、
   夢にでも見たのね。そういう教訓まがいの含まれた話しだったわけね。」
中澤「そういうこと言われちゃうと冷めるなー。ほんま」
ヨシターケ「まったぐ。最近の娘っ子達は素直じゃないべな。」
保田「それは悪かったわね。でも、いつもならまっ先にこういうこと言いそうな、
   自称大人さんが黙ったままだけど?」

中澤「そういえばそうやな。」
矢口「・・・・・・・」
勇者飯田「・・・・・・」
矢口は目の焦点の定まらない飯田を見ていた。
中澤「わっ!!」
大声を出して矢口をゆする中澤。
矢口「はっ!!あ、、びっくりした!!」
中澤「何してんねん自分?かおりみたいにボーっとして、、。
   (なんや、リアクション薄いな)」
矢口「ああ、、、ああいやぁ、、、怖くってさ。あ、、ははっ。」
中澤「・・・・(こりゃ怪しいな、、、。)」
Д<「んじゃそろそろ、今日はこれでお開きやな。」
ナッチー「待つべさ!ナッチーが話すっしょ。」
Д<「うちもう、今の話し聞いてたら眠くなったわ。おりるで。」
保田「そろそろ私も寝るわ。」
ナッチー「それは残念だベー。」
中澤「まああんたの話しは今度ゆっくり聞くわ。」
ヨシターケ「そうするべそうするべ。」
ナッチー「んー、しょうがないべさ。今度絶対聞くっしょ?」

それぞれ、各々の寝室へと別れた。

飯田は自分の部屋に戻った。
勇者飯田「無くなった村、魔物、火事、目の前で燃える仲間、すぐ近く、、、
    (なんでこんなに気になるんだろ?ドキドキするんだろ?
    ヨシターケさんの話がほんとのこととは限らないし、
    それに、かおりがそこに住んでいたとは限らないんだ。
    きっと気のせいだ。)」
窓から外を見つめる。
勇者飯田(雨やんだぁ。静かだな〜。こんなときは無音でマッタリ、、、。)
ベッドに倒れこみ、、しばしボーっとしたかのように見える飯田。
勇者飯田「できない。マッタリしてられない。。。やっぱり気になる。
   誰かが、ヨシターケさんの話を聞けって言ったんだ。
   そして今度は、そこに行けって、行かなきゃだめだって言ってる。」
飯田は立ち上がった。
勇者飯田「行こう。行けばわかるじゃん。かおりの過去があるのかどうか。
   迷って何もせずに、すっきりしないで後悔するより、
   行って何もなかったらなかったで、すっきりしてから後悔した方がいいよね!!」
飯田は、部屋に置いておいた剣を手にとった。

辻とあいぼんは部屋に戻った。辻はあいぼんにしがみついている。
つじ「いっしょにねるのれす。あいぼん」
Д<「ええよー。実はうちもけっこー怖かってん。」
つじ「こわかったれすねー。あいぼん。こわくてねむれないれす。」
Д<「そやなー、なんつーか、ヨシターケはんの顔が一番怖いんや!」
つじ「そうれす。あのかおとことばでああいうはなしされると、、。」
Д<「そ、、、、そや、、なー、、、。」
つじ「ん、あいぼん?」
Д<「・・・・・・・」
つじ「あいぼーん!?」
Д<「くかーーー・・・・・」
つじ「あ、あいぼん、もうねてるのれす!!
Д<「・・・・・」
つじ「はやすぎるれす。ひどいれす〜。」
辻は怖くなり、ベッドに潜り込んでもじもじ動いた。
本当はいくらも時間がたっていないのだが、眠れない辻には長く感じる。
つじ「うぅ。やっぱりー、こわいのれす。
   そうれす!ゆうしゃさまのところにいくれす。いっしょにねるのれす。」
そう思いたった辻は勢いよくベッドから飛び出し、自分達の部屋を出て飯田の部屋に向かった。

廊下を歩き、次の角を曲がれば飯田の部屋。
角を曲がる前、辻は思わず小走りになった。
バタッ!飯田の部屋のドアが開く音がした。
ビクッ。辻がびっくりすると、飯田が部屋を飛び出してきた。
つじ「あ、、、ゆ、ゆうしゃさま?」
ちょうどよく出てきて、なんだかちょっと嬉しい辻。
が、飯田は辻には気づかず、裏口の方に走り出した。
つじ「ゆうしゃさま〜〜!!」
辻は思わず追いかけた。
つじ「ゆうしゃさま〜、どこにいくのれすか〜?」
飯田は辻には気づかない。さっと靴を履くと、扉を開け、かけ出した。
バシャバシャバシャバシャ、雨はやんでいたが、水溜りやぬかるんだ土を蹴る音がなる。
辻も急いで靴を履き、飯田の後を追いかけた。
つじ「ゆうしゃさま〜!!(ど、どこいくんれしょう?)」
パシャパシャ、、、。
あんまり深く考えず追いかける辻。

?「かお、ちょっと待って」
勇者飯田「ん、なーに?かおりの剣」
かおりの剣「ヨシターケさんからどんな話を聞いたのか知らないけど、
    これから、過去を探しに行くんでしょ?」
勇者飯田「そうだよ。」
かおりの剣「ねえ、いいの?本当にこのまま進んで?」
勇者飯田「どうしてそんなこときくの?かおりは、かおりの過去が知りたい」
かおりの剣「うん。確かにこのまま進めば思い出すかもしれない。
    でも、忘れた過去を思い出すってことは、いいことばかりじゃないよ。
    辛いことかもしれないんだよ。」
勇者飯田「うん。実は、そんな予感はしてる。」
かおりの剣「じゃあ、、なんで、、、」
勇者飯田「でも、目をそらしてばっかじゃいけないと思うから。
    なんとなく、よっすぃーの話を聞いたとき、
    本当になんとなくだけど、、かおりに似てる気がした。
    よっすぃーは過去を受け止めて生きてるよ。今度はかおりの番だとおもう。」

かおりの剣「辛い、辛い、とっても辛い、忘れてしまいたかったことでも?」
少しだけ顔を曇らせながる飯田。
勇者飯田「うん。正直いって、怖いよ。何があったのか知ることは。
    でも、大丈夫だよ。今はかおりは一人じゃない。支えてくれるみんながいる。
    よっすぃーにも言ったように、みんなを信じてる。
    そしてみんながいるかおりを、自分自身を信じなきゃいけないと思う。
    それに、かおりが勇者である理由。
    それを知らずにこれから先進むのは間違ってると思う。
    勇者なんだから、勇気をもって見なきゃいけない。」
かおりの剣「そっか。決意は固いんだね。じゃ、行こう。あたしもついてるからね。」
勇者飯田「うん。」
飯田は、笑顔で返事を返した。
かおりの剣「(あれ?誰かついて来てる?気のせいかな?)」
勇者飯田「(それにしても、、考えたら、近いって言ってたけど10キロ以上あるんだ。
     十分遠いなあ、、。しかも足を取られるぬかるんだ道、、大丈夫かな?)」

つじ「はぁはぁ、、、。」
だんだんと前に行く飯田とは差がつき始めた。
つじ「はぁはぁはぁ、、(ゆうしゃさま、あしはやいれす〜。)」
思わず立ち止まる辻、
つじ「あ、、、、おいつけないれす。それにこっちのほうこうってもしかして、、、」
辻はふとさっきの話しのことを思い出した。確かに、裏口から東に来ているはずだった。
つじ「こ、、、こわいれす。もどったほうがいいれしょうか?」
あたりを見まわしてみる。
つじ「・・・・・・・」
そのときになって初めて、
周りが深い暗闇におおわれてることがわかる。
つじ「ひっ」
ザワザワザワザワ、、、。草木の音が聞こえる。
ひゅうぅぅううううう、、、。風の音が聞こえる。
辻の後ろには長く暗い道が続いている。
つじ「ひーーーん。」
パシャパシャパシャ、、、
結局、いまだ少しだけ見える飯田の姿を追いかけることにしてしまった。

矢口「かおり、、、。行っちゃった。」
窓から、矢口は走っていく飯田を見ていた。
中澤「やーぐーちっ!」
中澤は矢口を見張っていた。
矢口「あ、ゆうちゃん。なあに?」
中澤「なあに?やないで!かおり見とったやろ?
   なんやおかしいと思ってたんや。そうしたら見てみい、走って行っちゃったやん。
   さ、説明してもらうで。ええな!」
矢口「あちゃー、ばれたか、、、。」
二人はもう誰もいない食卓の方へ戻った。
二人は辻には気付かなかった。

長い長い道のりだった。しかし、あっという間に来ている気もした。
山道も途切れ、言われたとおり、けもの道のような道が続いた。
勇者飯田(んー、、、このまんまじゃほんとに遭難しちゃうよ、、、。)
草をかき分けて進む。ガサガサガサ、、、
突然、ぱっと視界が開けた。
勇者飯田「!!!
   ここ??、、、ほんとにあった。嘘じゃなかった。これが滅びた村??」
そこには廃墟があった。
勇者飯田「ここにかおりの過去がある?この村に住んでた?ほんとに?」
かおりの剣「?、思い出さないの?」
勇者飯田「・・・・うん。まだなんにも。。。気のせいだったのかな?」
正面の通りの両側に崩れた家が何軒も広がっている。
崩れ書けた看板がみえた。「手稲村」
勇者飯田「あ、看板がある。壊れかけてよく見えない。シュ、、イナ?」
?「テイネ村。だよ。」
勇者飯田「そうだ。そうそう、テイネ村だった。思い出した。
   やっぱり知ってるんだかおりは。この村を。
   にしてもかおりの剣、よく知ってるねー。」
かおりの剣「??、あたし何も言ってないよ。」
勇者飯田「あれ?じゃあ誰が?まあいいか。いつものことだし。」
かおりの剣「(ぉぃぉぃ)」

飯田は正面の道をまっすぐに歩いた。
勇者飯田「不思議な気分。なんだか、お帰りって言われてる気がする。
    暗くて、建物は壊れてて、誰もいないはずなのに、誰かの気配を感じる。」
かおりの剣「・・・・・(怖いこと言うなー)」
勇者飯田「村なんていうけど、ずいぶん広いんだね。あ、公園もある。」
かおりの剣「ほんとだ。(あれ?なんだか見覚えがあるような、、、)」
その時、三つ先の角に何か動く物が見えた。
勇者飯田「??、なんだろ?行ってみよう。」
かおりの剣「う、うん。。。
   (なんか、ずっと前にも来たような、、私の方に記憶が蘇ってくるみたい、、)」
飯田はすぐに追いかけた。
勇者飯田「ここは?」
角を曲がると、そこには1本の川が流れていた。
勇者飯田「川、、、、はっ。。。覚えてる。思い出す。」
飯田は川を覗きこんだ。月の光で自分の顔が映し出された。
勇者飯田「遊んだんだ。昔、ここで。一人で?誰かと??」
勇者飯田は考えこんだ。かおりの剣も考えこんでいた。しばらくして、
ガササッ。再び後ろで音がした。
勇者飯田「誰?やっぱり誰かいる?」
振り向く飯田。
勇者飯田「女の子?」
その「誰か」はすぐに別の角を曲がって行ってしまった。
飯田はまた追いかけ、続いて曲がる。

少々まっすぐ走り、突き当たった場所で立ち止まった。もういなかった。
勇者飯田「はぁ、はぁ、、、もう、、なんなんだろ?あれ?」
見失った少女を探そうと、その場所を見渡した。
勇者飯田「あ、、あれ?」
頭によぎった。
勇者飯田「ここは、、、、ここ、、、、家だ!!かおりの家だ!」
腐れかけた瓦礫の山だった。しかし、飯田は手当たり次第にあたりを探し始めた。
かおりの剣「ほ、、、ほんと!?」
勇者飯田「ほんとだよ。間違いないよ。記憶が戻りそうなの。探さないと!」
ぱっぱっぱっ!適当にその辺の土を払う。
勇者飯田「何かない?何か、何か、何か、、」
ガサガサガサ、バキバキ、梁のようなものをどける。
勇者飯田「うーーーん。よいしょっ。」
ドカッ!!しかしほとんどの物は灰と化し、金属すら溶け、わからない。
勇者飯田「何もない。わかんないのかな?何も。。でも、、、みつけないと!」
あきらめきれない飯田は、探しつづけた。
かおりの剣「かおり、、。」
そしてとうとう、焼け残った物を見つけた。

勇者飯田「ああっ!!」
それは2つのコップだった。
勇者飯田「おんなじだ!おんなじコップだ!
   かおり、誰かと住んでたんだ。家族がいたんだ。」
勇者飯田「家族、、、誰か、、、、二人で、、、、、はっ!!」
突然、息が詰まりそうになった。
目の前にある大きくて黒くて重い壁が、パッと無くなる様な気分だった。
突然、多くの映像が頭によぎった。
勇者飯田「思い出した!この家で!!!」

それは、幼き日の妹と過した幸せな日々。。。
二人で遊んだ記憶。二人で一緒に寝た記憶。
ちょっといたずら好きな妹をしかった記憶。
でも甘えん坊で、許してあげると大喜びしてた妹の記憶。
妹「とも」の記憶、、。

その時、家のむこう側にまたさっきの少女が見えた。
勇者飯田「あなたは、、、」
三度追いかける飯田。
勇者飯田「待って!待って!!」
5分も追いかけるうち、その少女は姿を消した。
勇者飯田(はぁはぁ、、また、、、見失っちゃった。。。ここは???)
最初に見かけた公園だった。
勇者飯田「今まで、川と家に導いてくれた。
   じゃあ今度は、、、ここに連れてきたかったのかな?」
なんとなく、飯田は錆びたブランコに腰かけた。
勇者飯田「ここに座って、あの子と二人乗りした。ふふふっ」
懐かしい思い出がまたよみがえる。
勇者飯田「すっかり壊れちゃって、もうゆれないね。」
ぎぃいいいい!音を立ててブランコがきしむ。
勇者飯田「楽しかったんだなあ。でもなんで、忘れちゃったんだろう?
   まだ、一番大事なことを思い出してないみたい。
   あんなに大切な、ともちゃんはどこいっちゃったんだろ?」
飯田はしばし考えこんだ。突然また音がした。
飯田ははっとして顔を上げた。
今度はなんと正面に、こちらを見て、その少女が立っていた。
飯田はその顔を見た。同時に驚いた。そして立ちあがり叫んだ。
勇者飯田「ともちゃん!ともちゃんだったんだね!!!」
少女は微笑んだ。
とも「おかえり。おねえちゃん。」

勇者飯田「・・・・・・」
いくつもの考えが頭をよぎった。
ずっとここにいたの?どうしてかおりは忘れてたの?ごめんね。何があったの?
どれも、声にはならなかった。
ただ、抱きしめたかった。だから走った。
どっ、ずしゃっ!
飯田はブランコのさくにつまずいて転んだ。気にならない。
起きあがって近づき、目を閉じ、抱きしめる。
勇者飯田「ともちゃんっ!!」
しかし、飯田の腕は空を切り、何も感触が残らなかった。そこには誰もいなかった。
勇者飯田「ともちゃん?、、ともちゃん?、、、どうして、、?」
飯田は自分の腕を見た。そしてあたりも見まわした。いなかった。
また、滅びた村が目に入るだけだった。
勇者飯田「もしかしてもう??」
もういない妹、滅びた村、、。
勇者飯田「!!!」
飯田は氷ついた。鍵がはずれたように、、、
全てが流れ込んできた。そしてあふれ出てきた。
あの日の記憶。
勇者飯田「ぁぁぁ、、、」
飯田は頭を抱えた。

一方、この直前、かおりの剣も考えていた。
かおりの剣(この公園、、、思い出した!
   ここって、あの時の。じゃあ、かおりは、、、もしかしてあの、、)

両親はいない。その日も、かおりは二人分の朝食をつくっていた。
ジュ〜。フライパンから音が上がる。
とも「お姉ちゃん。おはよ。」
かおり「うんっ。おはよー。ともちゃん。ちょっと待ってね。先、学校行く準備してて。」
とも「テレビ見てる。」
かおり「いいけど、遅れないように準備しなきゃダメだよ。」
とも「はーい。」
チーン、、トースターが終了の音をたてる。
テレビ「・・・・・・」
けっして広い家ではないが、テレビの音はキッチンまではほとんど届かない。
ピーー、ポットからも音がする。
かおり「できたっ。」
二人分のハムエッグ、ホットミルク、トーストを食卓に運ぶ。
かおり「はいっ。めしあがれ。いただきまーす。」
とも「いただきまーす。」

かおり「あれ?テレビ止めちゃったの?」
とも「だって暗いニュースばっかでつまんないっしょや。」
かおり「なんか言ってた?」
とも「国境の町、また魔王軍と戦ってるらしいよ。」
かおり「やだねー。戦争なんて意味ないっしょ。どうしてそんなことしてるのかな?
   平和が一番。ラブアンドピースなんだよ。」
とも「それができたら苦労しないさ。」
かおり「できないことないんじゃん?戦うのやめるくらい。」
とも「何言ってんの?魔王があの町に攻めこんできてるんだよ。
   追い払わないと占領されちゃうんだよ。
   戦わないともっと人が殺されるかもしれないんだよ。
   だから戦争してるんじゃん。」
かおり「うーん。話し合いで解決できないのかなあ?
   お互いの言い分を出しあってさ。
   ほら、魔王軍だってさ、きっといーっぱいしぬんだよ。戦争で。
   それなのに攻めこんでくる理由があるわけじゃん。」
とも「あのね。世の中おねえちゃんみたいに優しい人ばっかりじゃないんだよ。
   魔王は悪い奴なの。話し合いになんかならないよー。」

かおり「あ、降参しちゃえばいいんじゃない?そんなに酷いことしないでしょ。」
とも「だから悪い奴なんだってば!降参なんかしたらどうなっちゃうか。
   攻めて来る理由だって、たぶん世界征服が目的なんだよ。
   そんな悪い奴は戦ってでもこらしめないといけないんだよ。」
かおり「あははっ。ともは厳しいねー。」
とも「これが普通だよっ。それに、あの町、占領されちゃったら、
   もしかしたらこの村にも魔王軍来るかもしれないよ。だから、、、」
かおり「それは嫌だねー。かおりも怖いなー。」
とも「だから、抵抗するしかないんだよ。
   そして、魔王をやっつけるしかないんだよ。
   あたし、勇者になろーと思ってるんだ!魔王をやっつけるっしょ。」
かおり「え、、え〜?勇者?初めて聞いたよぉ!!
   なんでー。剣なんか振りまわして危ないしょや。
   かおりは、ともちゃんにそんな野蛮な人になってほしくないよ。」
とも「あまーーーい!やっぱり甘すぎるぅ。
   今の時代、剣がなかったら生きていけないよー。」
かおり「そう?でも、誰かを傷つけたりしたら、おねえちゃんともを許さないからねー。」
かおりは片手でホットミルクを飲みながら、もう一方の手でともを指差し、
ちょっと目を細めてその指をくるくると回した。
とも「んもー。なんだか話通じないなあ。
   おねえちゃんに言っても無駄だったよっ。
   あたしが自分で修行して。そんでおねえちゃんを、、、」
かおり「ん?かおりを?」
とも「んうーーー。なんでもないっ。行ってきます。」
ともは席をたった。
かおり「あ、こらっ。ごちそうさまは?」
とも「ごちそうさまーーー。」
ともは走って行ってしまった。

かおり「ったくもう。、、さてと、かおりもそろそろ行かないと。」
かちゃかちゃ。かおりは後片付けをした。
かおり(あら?もーーー、忘れ物するなって言ってんのに。)
作文用紙が一枚、テーブルのしたに落ちていた。
かおり(?、私の夢?もしかして、勇者になりたいっていってたあれ?
   いいや、読んじゃえ。どれどれ、、、)
作文「私の夢
   わたしは、ゆうかんにたたかう勇者になろうと思います。
   お姉ちゃんをまもるためです。
   お姉ちゃんわわたしをずっと守ってくれました。
   お母さんとお父さんがしんじゃってから、
   ずっとせわしてくれたやさしいお姉ちゃんです。
   やさしいお姉ちゃんはせんそうがきらいです。人をきずつけるのがきらいです。
   でも、今はまおうぐんとたたかわなければいけません。
   だから、わたしがたたかいます。
   おねえちゃんのかわりにおねえちゃんの分までたたかいます。
   いつもやさしいお姉ちゃんが大好きです。」
かおり「あらら、これだけー?短いね。
   それに口は達者なくせに文章まだまだだし。「わ」は間違えてるし。
   まだ下書きなのかな?
   でも、、、ふふっ。かわいいこと書くじゃん。かおりのためだったんだ!
   まだまだ、かおりがいないと何にもできないくせにねー。」
かおりは作文をともの机の上においた。
かおり「見なかったことにしといてあげるよ。。あっ、しまった。はやくしなきゃ。」
かおりも家を出た。
かおり(やさしいって言うけど、そんなにやさしいお姉ちゃんかな?
   んー、厳しくもしてるはずなのになー。
   ともちゃんにはもっともっと優しい人になって欲しいんだけどなー。
   でも、夢はかなえさせてあげたいな。ともちゃんならね、きっとなれるよ。勇者。)

その日、夕方近くになって、学校に「国境の町が陥落した」というニュースが舞い込んだ。
この村は最前線からはそれなりに離れている。が、念の為この村にも軍が来ることとなった。
学校では一度全員解散し、この村に国の防衛軍が来て、安全が確認されるまで、
生徒は自宅で待機することになった。

かおり達も家に戻った。
かおり「お帰り〜。」
とも「あ、先に着いてたんだ。ただいま〜。
   ??
   どしたの?非常事態かもしれないってのに、ニヤニヤして。」
かおり「なんもだ。」
ニコニコしながらともを見るかおり。
二人は特に危機感もなく、少し早い夕方をマッタリと過した。

夜、状況は一変した。
突然サイレンが鳴ってかおりとともは起きた。二人は外に出た。
ごぉぉおおおおぉおおおお、、、サイレンよりもうるさい音がなっている。
とも「え?」
かおり「これって、、」
あたり一面が火に包まれていた。バチバチと音を立てている。
高い火が、視界を真っ赤に染めている。
二人は最初、呆然として動けなかった。
とも「なに、、、何これ??」
かおり「火事、、、、魔王軍が来たっていういの?それで、、村が燃やされた??」
とも「何なの??、、ど、、、どうしよう?、、、どうしよう?」
ともは震えていた。かおりも膝が震えていたが、手で必死におさえつけた。
かおり「に、、、逃げよう!逃げないと!」
かおりはともの手を引っ張って火の来ていない方へ2、3歩かけだした。
とも「で、、、でもどこに?逃げ場なんて、、、」
かおりは立ち止まった。
かおり「そうだ、、どこに、、、」
振り向くと、火は自分達の家の2軒先から続いて、見える限りの場所までをつつんでいる。
そして、着実にこっちへと迫ってきている。
二人はその炎をじっと見つめた。

このとき、二人は知らなかったのだが、
魔王はドラゴン等を使い、空からこの村を急襲した。
魔王は国境に拠点をしいた後、
空中からいつでも、どこへでも攻めることができることを見せ、この国を脅したのだ。
その矛先が、たまたま、この村だった。
奇襲を受けた村は、一夜にして壊滅。多くの氏者が出ることとなった。

かおりはともを見た。ともは瞬きもせず、炎を見つめている。
かおり(かおりが、冷静じゃないといけない。しっかりしろかおり!
   どうする?どうする?落ち着いて!
   火事の時、非難するのは学校なんだ。
   でも、、火はそっちの方から来てる。。。。)
火が、自分の家にさしかかっていた。
かおり「そうだ!公園に行こう!あそこなら燃えるものないから平気だよ!」
とも「あ、うちが、、、うちが燃えちゃう。」
かおり「あ、、、かおり達の、うちが、、、」
とも「あ、、、あ、、、あっ、、、うちが、、うちが、、、、」
ブンブン、かおりは言い聞かせるように頭を振った。
かおり「何やってるの?、見てる場合じゃない。行くよ。公園に。」
とも「う、、、うん。」
ともは家から目を離さない。かおりは強くともの手を引っ張った。
その時、炎の音に混ざって、どこからか悲鳴が聞こえた。
うわぁあああ、ぎゃぁああああ!!
かおりは思わず耳を塞いだ。
かおり「誰かが、、、、私達は、逃げないと!」
とも「こ、、、怖い、、怖い、、、みんななくなっちゃうよ。みんな氏んじゃうよ、、、」
かおり「こらっ!しっかりしなさい。勇者になるんでしょっ」
とも「う、、、うん。。。でも、、足が動かないよ。あ、、、あっ、、、、」
ともは恐怖で腰が抜けていた。かおりは見かねてともをおぶった。
かおり「とも、しっかりしててよ。行くよっ。」
火はもうそこまで来ている。

公園までは全力で走っても何分かある。火に追いつかれないだろうか?
公園では本当に火はとどいてないんだろうか?
考えたが、迷っている暇は無い。かおりは走った。走りつづけた。
重い。ひと一人の体重は想像以上に重い。でも全力で走った。公園は目の前だ。
かおり「はあっはあっはあっ」
ともは声も無く泣き出した。
とも「・・・・・・(お姉ちゃん、背中、、、あったかい、、。)」
背中のともはぎゅーっとかおりを抱きしめた。その時、
かおり「えほっ、、」
かおりは、微量だが煙も吸い込んでいるにもかかわらず、
全力疾走したせいもあってむせてしまった。
そして、苦しくなってちょっと後ろにのけぞった。
とも「ひっ。ごめんなさいっ!」
慌ててともは手を離した。
のけぞっていたかおりが、前に体重をかけなおそうといした瞬間、
ともの体重は後ろ側にかかった。
かおり「あっ!だめっ!!」
とも「あっ、、」
かおりは前傾姿勢に倒れた。ともは後ろに転がった。
かおりは起きあがり、かけよろうとした、しかし、
かおり「いたっ。。。足が。痛い。」
転んだ衝撃ですねをうちつけてしまっていた。

かおり「とも!!立てる?立てたら走りなさい。公園、すぐそこだから!!」
かおりは叫んだ。その時、とものすぐ後ろまで火は迫っていた。
バチバチバチバチ、、、火の音が聞こえる。
とも「ひ、、、」
ともはその音に、恐る恐る、ゆっくりと振り向こうとした。
かおり「振りかえっちゃだめ!立って走りなさい。」
遅かった。ともは振りかえっていた。また、、、恐怖にみいられていた。
とも「いや、、いやーーー」
ともは震えている。
かおり「あっ」
かおりは足を引きずって立ちあがり、痛みをこらえてともに近づいた。
がつっ、ばんっ
しかし、またすぐにつまづき、倒れてしまった。
かおり「ともちゃん、とも!待ってて。すぐ行くから。」
かおりは動く足と両手を使ってともの方向へ進んだ。
とも「あたし、、、氏ぬ。今度こそ氏ぬ。。。」
ともは火から目を閉じてそらした。そうして、次に目を開いたとき見たのは、
動かない足を引きずり、必死にこっちへ来ようとする姉の姿だった。
とも「あ、、、お姉ちゃん、、どうして、、そっか。そうだ。
   こ、、、、こないでーーーー!」
ともは力いっぱい叫んだ。

かおり「?」
とも「あたしは氏ぬけど。来たらおねえちゃんも氏んじゃう。
   来ちゃだめ。こないでーー!」
かおり「何言ってんの?話すことができるんだったら、
   はやくそこから逃げなさい。はやくっ」
かおりはとものほうへ進みながら言った。
とも「もう無理だよ。ともは動けないよ。おねえちゃんだけ助かってよ。
   ともの分まで生きてよ。」
かおり「とも、、、・・・ふざけるんじゃないわよ。助かるに決まってるでしょ。
   とも、勇者になってかおりを助けてくれるんでしょ。」
とも「あ、、、ごめんね。おねえちゃん。もうだめそう。ほら、火がすぐそこまで。」
かおり「はあ、はあ、はあ。
   あやまんないでよ。助かって二人で生きないと、
   何のためにここまで生きてきたのよ。二人でどんな時も切り抜けてきたじゃない。
   それに、、ともが死んだらお姉ちゃん一人だよ。
   寂しいんだよ。お姉ちゃんをそんな目にあわせていいの?」
とも「・・・・・・・」

かおり「軽々しく氏ぬなんて言わないで!氏ぬ覚悟があったらまずはたすかろうとしなさい!」
かおりはともの3歩手前まで来ていた。
かおり「はあ、はあ、はあ、、ともちゃん、生きよう。ほら。手を伸ばして。」
とも「・・・・うん。ぐすっ、、ぐすっ、、、うん。生きよう。おねえちゃん。」
ともは手を伸ばした。
もう2歩で届く、足は、、痛い。動かない。手で動く。
かおり「はあ、はあ、はあ、」
かおりは手を伸ばした。
かおり「ともっ!」
とも「おねえちゃん!」
もう1歩で届く。足はやはり動かない。手はまだ、、、動く。
かおり「(もう少し、もう少し)とも!!あ、、、、火が!!」
火は目の前だった。
その火を見て、かおりは一瞬たじろいで、止まってしまった。手はまだ届いていないのに。
ともは一生懸命手をのばしていた。
かおり「ともっ!!」
届かなかった。わずかに。
火はともを飲みこんだ。
かおり「・・・・・・っ!!」
とも「あっ。」
ごぉおおぉおおおおお、、、

今まで耳にはいらなかった火の音が、うるさくかおりの頭の中に木霊した。
かおり「・・・・っ!!・・・・っ!!!」
かおりは、声にならない叫び声をあげた。
とも「熱い、、熱い、、、氏にたくない!!氏にたくない!!、、、いや!」
かおりは届かない手をつきだした。ともは熱い熱いと繰り返した。
かおり「ともちゃん!とも!ともちゃん!」
ともは、熱いというのをやめた。少しして、
とも「おねえちゃん。ごめんね。ありがとう。」
火に包まれながら、落ち着いた声でともは応えた。
かおり「とも!!とも!!とも!!!」
とも「・・・・・・
   あのね、ともはおねえちゃんが大好きだよ。
   怒ったって、ほんとは最初っから全部許してくれてるんだよね。
   いつも、やさしいお姉ちゃん。大好きだよ。」
かおり「ああぁっ!!とも!!とも!!かおりも大好きだよ。ともちゃん!!」
かおりの目の前でともは燃えた。
とも「熱い、、熱いよー。怖いよ。お姉ちゃん。」
かおり「あっ、、、ごめんね。ごめんねともちゃん!」
かおりの頬に涙が流れた。
とも「う、、、ううん、やっぱり怖くない。
   ともは大丈夫だよ。お姉ちゃんはあやまらないで。
   お姉ちゃんは悪くないよ。悪いのは魔王だよ。
   それととも。先に氏んじゃってごめんね。
   お姉ちゃんと、、今まで幸せだった。ほんとにありが、、、」
かおり「ともちゃ、、、ん、、、、」

ともの声は途切れた。かおりは力が抜け、その場に倒れこんだ。
かおりももう逃げられる状況にはなかった。
かおり「ごめんねともちゃん。。おねえちゃん、ともちゃんを助けられなかったよ。
   どうして、、こんなことになっちゃったんだろうね。
   でも、かおりももうだめみたい。もうすぐ、、、、そっちに行くから。。。。」
かおりは覚悟をして目を閉じた。
かおり「ともちゃん、熱かったのに、、苦しいのに
   最後の最後で強がっちゃって。ありがとうなんて。
   やさしくて。おねえちゃん思いの良い子だね。
   こっちのセリフだよ。ありがとうね。
   ほんと、いい子だったね。
   もっとずっと一緒にいて、もっと何かしてあげたかった。
   かおりは、いいお姉ちゃんだったかな?ともちゃんにとって。」

しかし、いくらもたたずに、かおりは再び目を開いた。
かおり「悔しい。涙がとまんない。悔しいよともちゃん。
   どうして止まっちゃったんだろ?あの時。
   かおりのせいだよ。かおりが、、、
   あと、、、あと、もう少し、、、、、
   もう少し手を伸ばせれば、、、、
   もう一歩踏み出せれば、、、、、
   もうほんの一握りの力があれば、、、
   踏み出す勇気があれば、、、、
   ともちゃんの手を、、つかむことができたのに。
   ごめんね。ほんとにごめん。。。
   かおりに、やさしいって言ってくれたよね。嬉しいよ。ありがとう。
   でも、、やさしいだけじゃ、ともちゃんを助けられなかったよ。
   かおりは、ともちゃんを助けられなかったんだよ。
   いつもしかったりしてたのに、なんて弱いんだろうね。
   ともちゃんはゆるしてくれないかな?やっぱりお姉ちゃん失格かな?
   ああ、あともう一歩、進める勇気があったらよかったのに。。。。
   もう一歩、進める強さがあったらよかったのに。。。。。
   そして、、、、手を差し伸べられたらよかったのに。。。。。」
意識が薄れてきた。同じことを
かおり「手を、、、、、そう、、、、あんなふうに、、、。」
かおりは、薄れ行く意識の中でうっすらと、差し伸べられる手を見ていた。誰かの手を。

?「やっぱり声が聞こえたと思ったんだ。まだ生きてる。」
??「そうみたい。はやく公園へ運びましょう。」

耳もとでささやく声6
かおりの剣に「どうしたの?いったいここで、何があったの?」とたずねられ、
飯田はともを目の前で失ったことの成り行きをあふれるがままに喋った。
飯田は公園の真中でしゃがみこんで泣いていた。
勇者飯田「うっ、、、、うっ、、、、」
かおりの剣「かお、、、、。」
まるで今起こっていることの様に、目の前にともが焼かれる姿が映し出される。
勇者飯田「うっ、、、、こんなに、、、、こんなに辛いなんて、、、、思わなかったよ。。」
かおりの剣「・・・・・・・(なんてこと、、あの時のあの子が、、)」
勇者飯田「うっ、、、ひっく、、、、ごめんね。ともちゃん。ごめんね。。。」
かおりの剣「(なんて声をかけたら、、?わかんないよ。。)」
勇者飯田「かおりがあの時止まらなければ、助かったかもしれないのに。。」
かおりの剣「・・・・・・」
勇者飯田「きっと、怒ってる。ともちゃんは怒ってると思う。かおりをゆるさないよ。」
かおりの剣「かお、、、そんなこと、、、、」
勇者飯田「勇気の無いかおりを許さないよ。。。ごめんね。。」
かおりの剣「そんなことないよ。十分頑張ったじゃない!」
勇者飯田「ううん。あの時の事だけじゃないの、、、
   もっとひどいことをしたってことに、たった今気づいたんだ。」
かおりの剣「??」

事件の後、かおりは他に助かった人達のところへ運ばれた。
そして更に数日後、とある孤児院に預けられることとなった。
といってもその孤児院にはかおりの他に二人しかいなかった。
そこで、矢口と彩と出会った。
矢口と彩は、その院でそれぞれ格闘家、戦士になるために修行をしていた。
かおりは数日間、そこで黙ったまま、
ほとんど食べる事もできず、寝ることもできず、何もできなかった。
涙ももう出てこなかった。生きようとすら思ってはいなかった。
毎日を死ぬまでの時間と考え、椅子に座ってぼーっとして過した。

年上の彩がいう。
彩「あんた、いつまでそうしてるつもりなの?
  せっかく生き延びたんでしょ。妹の分までやらなきゃいけないことがあるんじゃないの?」
年下の矢口がいう。
矢口「そうだよ。妹さんがかわいそうだよ。
   それに自分だけが不幸だと思ったら大間違いだよ!」
かおり「・・・・・・」
彩「返事もしないでぼーっとして。」
矢口「もう、、、いいよ彩っぺ、ほっとこう」
彩「そうだね。意気地なしはぼーっとしてな。聞こえてんのか知らないけど。」

本当はかおりには全て見えていたし聞こえていた。
矢口と彩の言葉は、心に痛く突き刺さった。
ただ、応えることができなかった。応える勇気がなかった。
誰かと一緒にすごして、大切な物ができて、また失って、その時きっと辛くて、悲しくて。

矢口「あ、そろそろだよ彩っぺ、テレビつけよう。」
テレビの音がする。
最近現れ、次々と町を救ったという勇者一行がインタビューを受けている。
彩「あ、始まってるじゃん。」
矢口「こないだは手稲村に行ってたんだよ。
   空中から襲いかかるドラゴンを追い払ったんだって。
   すごいねー。はやく私達もこうなりたいねー。」
かおり「!?」
矢口「あーーっ、やっぱだめだ。聞いてらんない。行く。修行する。」
彩「そうだねっ。時間がもったいない。」
そういうと二人は外へ行ってしまった。テレビをつけっぱなしで。

勇者「私は、今、勇気を持って、一人でも多くの人を助けられたらと思ってます。
  全ての人を救うなんてできないことはわかっているけど、
  それでも目の前の誰かくらいは助けられたらと思います。」
かおりはテレビを見た。
かおり(この人、、あの時の手の人??)
勇者「この前の手稲村でも、私の力不足もあって、何人もの人が亡くなりました。
  こんなことをする魔王を、私は許せないです。
  私は、魔王を倒します!」
わぁあああ、、おおおお!観客の声援が聞こえる。
かおりには、その勇者が、火事の時、意識を失う直前、見た人の面影とだぶって見えた。
かおり(この人が、ともちゃんがなりたかった勇者なんだ。かっこいい、、、)
勇者の話は続いている。
勇者「これを見ている人が一人でも勇気を持ってくれたらなと、、、」
かおりは妹のことを考えた。勇者になろうと言っていた。
かおり(かおりが、勇者だったら、あの時、ともちゃんも助かったのかな?
   ううん、やめよう。この人は選ばれた人だ。かおりには無理だ。
   でも、この人、いったいいくつなんだろう?
   かおりと同じ?ううん、それどころか年下に見える。
   それなのに、どれだけ頑張って、そこまでたどりついたんだろう?
   どれほどの物を抱えてるんだろう?もしかしたら、かおりなんかよりずっと、、、)

その日一日、かおりはずっと、うつむいて同じことを考えていた。

次にかおりが顔を上げた時、時計は夜の8時半をさしていた。
かおり(二人とも、熱心だな。。。かおりは、、、、わたしは、、)
かおりは立ち上がり外へ出た。そして二人を探した。
何日も使っていなかった足は、思うようには動いてくれなかった。
でも必死で探した。そして二人をみつけた。
かおり「はあはあはあはあ。」
彩「!!」
矢口「・・・・あ、あなた!」

かおり「はあ、、はあ、、、はあ、、、」
彩「あんた動けたの?大丈夫??」
彩はかおりの元にかけよった。彩はささえようとしたが、かおりはその手をゆっくり払った。
かおり「はあ、、、はあ、、、、ありがとう。大丈夫。」
矢口「!!、、喋れたんだ。いったいどうしたの?」
かおり「今まで、、今までごめんなさい。かおりも、修行にまざっていい?」
矢口と彩は顔を見合わせた。
かおり「かおりも、、、勇者になれないかな?」
矢口「ゆ、、勇者??」
かおり「かおりは、、勇者になりたい。」
彩「あ、、、あんた本気で言ってるの??」
かおり「あの子は、ともちゃんは勇者になりたいって言ってたの。
   人を傷つけるなんてよくないって、かおりはあの子に言ったの。
   今もかおりは、誰かを傷つけたいなんて思わない。
   でもあの子は、かおりを守ろうとして勇者になりたかったの。
   もしそれができるなら、かおりも、誰かを助けられる力が欲しい。
   戦争を、終わらせられる力が欲しい。
   いつだって、もう一歩前に進める勇気が欲しい。」
彩「かおり、、、。」
かおり「だから、修行にまぜて!お願い。」
矢口と彩は再び顔を見合わせた。そして笑顔でかおりに振りかえる。
矢口「うん!一緒に頑張ろ!!」
彩「私達の修行は辛いよ。厳しいよ。それでも平気?」
かおりは笑顔で応えた。
かおり「うん!」

かおりは勇者になるための修行を始めた。

数日たって、彩はかおりにたずねた。
彩「かおり、私ね、一つ気になることがあるの。聞いていい?」
かおり「どうしたの?彩っぺ」
彩「なんでかおりは魔王のことをあんまり言わないんだろうって思ってさ。」
かおり「??」
彩「だってそうじゃん?かおりはさ、妹さんを失ったこと、自分のせいみたいに言ってるけど、
  魔王軍のせいなんじゃないの?だから、魔王を許せないんじゃない?
  でもかおりは、仇を討つ、魔王を倒すために勇者になりたいとは言わないよね。」
かおり「ん?確かにかおりは魔王が許せないよ。
   実はね、許せないこともあるってかおり初めて知った。」
笑いながらかおりは言った。
彩「じゃ、なんで?」

かおり「あのね、かおりは、世の中にあることには、全てに理由があるんだと思う。
   それをよく知れば、もしかしたら許せないことなんかないかもしれない。
   だから、魔王の戦う理由、それを聞いたら、
   かおりは魔王を許しちゃうかもしれないって思ってた。。。
   でも、かおりが一番大切なものを奪った、ともちゃんを魔王は奪った。
   許せない。許しちゃいけないんだ。絶対。
   たとえ、どんな理由があったって、
   戦いとか、侵略とかそういうことをしちゃダメなんだ。殺しあっちゃだめだ。
   戦う誰かにだって、大切な誰かが待ってるはずだもん。
   かおりが言いに行こう。魔王に戦いをやめさせようって、そう思ってる。」
彩「うん。(魔王そのものを許せないようにはとても見えない。けど、、、
  憎んでるのは、、罪?)」
かおり「でもね、それよりね、誰もかおり達と同じ目にあわせたくないんだ。
   ともちゃんみたいに生きられないのも、かおりみたいに大切な人を失うのも嫌。
   かおりの大切な人や世界中の誰かを守れるなら、勇者になろうと思うの。
   今のかおりにとっては、それが一番重要なことなの。
   ほんとは大切なもの、失う前に気付けばよかったのにって思う。
   失ってからやっと気付いて、、かおりはほんと、馬鹿だなあ。」
彩「そっか、、、(ほんとに、、、やさしい子、、それから、自分に厳しいんだ。
  でも、、人にはやさしすぎて、自分には厳しすぎるよ。。なんて子なんだろう。。)」
彩は言葉がつまった。
かおり「彩っぺ?」
彩「あ、うん!なんとなくわかった。んじゃ、今日も頑張ろっか!」
彩はかおりが好きになった。

ところで、格闘家や魔法使いは、事実上、自分がそうであると言えばなれる。
(そういう意味で、もう矢口は格闘家であり彩は戦士である)
ただ、その中の一握りは、国から援助を受け本格的な修行することができる。
これには、王に実力を認められなければならない。
具体的には毎月1回、実戦を含めたテストがあるのだが、
通るのは1年に一人いるかどうかである。孤児院にくらす矢口、彩はこれを目指していた。
一方、勇者になるためにはその実力と「精神」を王に認められなければならない。
(つまり、自分がそうであると言うだけではだめ。)

数ヶ月がたち、、かおりは修行を続け、戦うための実力は徐々につき始めた。
しかし、、、、
ある日、修行場にかおりが目にくまを作って出てくる。
彩「遅い!」
矢口「遅いー。」
かおり「ごめん。。また、夢を見たの。」
矢口「それっていつもの、妹が目の前で燃えちゃう夢?」
彩「また?しょーがないわねー。もう。」
かおり「うん。たぶんかおり、怖くてしょうがないんだ。
   また、あんなことが起こるんじゃないかって。」
矢口「ほんと、しょうがないとは思うけど、、、
   このままじゃいつまでたっても勇者にはなれないよ、、。」
彩「精神を鍛えないと。。。いっそ忘れちゃえば?って、そんな簡単にはいかないよね。」
かおり「ほんとに、こんなに辛いこと、、忘れちゃいたい。
   かおりも勇者になりたいんだもん。」

問題はあったが、、、かおりはここで幸せだった。
矢口と彩との修行の日々。励ましあい、お互いの成果を誉めあった。
かおりは二人が大好きだった。

しかし、この生活にも終りが来る。
彩が、新しい旅立ちを迎えたのである。防具屋の主、真矢との結婚である。
孤児院から姿を消す事となった。かおりと矢口は歌を歌い、激励した。
かおり「彩っぺ、頑張ってね。」
彩「うん。」
矢口「戻ってくんなよー。」
彩「何言ってんのよ!あ、こら、かおり泣くな!」
かおり「あ、、、ごめ、、」
彩「もー、永遠に会えないってわけじゃないんだから。」

かおりは友の幸せは何より嬉しかった。が、寂しく無いわけはなかった。
そして、二人だけになった。
矢口「二人だけでもがんばろ!!」
かおり「、、、うん。」

元気が無くなったかおりが、矢口は心配だった。
できれば、時がその寂しさを和らぐのを一緒に待ってやりたかった。
わずかに2週間後、試験の結果が出た。矢口はついに格闘家として認められた。
飯田はまた、勇者としては認められなかった。

矢口「行ってくるね。」
かおり「うん。行ってらっしゃい。頑張れ!矢口!」
修行場からは、いつ帰ってこれるか決まってはいない。
矢口「大丈夫?」
かおり「何が?」
矢口「ひとりで、、、。」
かおり「何言ってんの!矢口は、夢をかなえておいで!かおりのことは心配しないで。
   かおりは勇者のたまごだよ。そんなに弱くないよ。」
矢口「うん、、。」
かおり「かおりもすぐ勇者になって行くから!その時は一緒に旅しよう!
   そんな顔してると、すぐ追い越して、追いてっちゃうぞ!
   もしねをあげて帰ってきたって、もうここには入れてあげないからね!」
矢口「そう、、そうだね。じゃ、行ってきます!」
かおり「行ってらっしゃい!」
矢口も、自分の夢のため、行かないわけにはいかなかった。

かおりは、、見えなくなるまで矢口を見送ると、誰もいない家に入った。
かおり「強くなったよね。かおりは。一人になったって、涙なんか、、もう流さな、、」
ドアを閉めると、、すぐにガクガクと足が震え、ドアによりかかりながらしゃがみこんだ。
かおり「あーーーー!!」
かおりは、震える足をおさえ、頭を振った。
もう、涙を我慢することはできなかった。
ひとしきり泣いた後、考えた。
かおり(また、全部無くなっちゃった。かおり一人が残っちゃった。
   嫌だよ。寂しいよ。我慢できない。やっぱり、一人は嫌なんだ。
   全然、強くなってなんかいない。ともちゃんを失ったあの時とおんなじじゃん。
   また、勇気が無くって、置いていかれちゃった。
   また、一人ぼっちになっちゃった。)
かおりは乾いた笑みを浮かべた。
かおり(それから、、、きっとかおりはまた立ち直んないんだ。いつまでたっても、、、。
   このままじゃ、勇者になんかなれないよ。。。)

そしてかおりは一つの決意をした。そして外に出た。
泣き疲れたまぶたにまぶしい、真っ青な晴天だった。

かおり(忘れちゃおう。こんな記憶全部、忘れちゃおう。
   勇者になるために。勇者になりたいっていう、思いだけを残して。
   生まれ変わろう。。。あの、雲一つない空に、太陽だけを残して。)

その日、あるお金の全てを持ち、そのスジでは有名な祈祷師をたずねた。
祈祷師の「もう2度と記憶は戻らないかもしれませんよ?」の問いに、
かおりは縦に振った。
呪いに限りなく近い魔法で、記憶は封印された。

一月半後、かおりは実力、メンタルともに試験をパスした。
そして、孤児院を後にした。


矢口「・・・ということがあったんだよ・・・」
中澤「・・・そうか・・・言葉にならんな・・・」
話す矢口も、聞く中澤も流れる涙を隠そうとはしなかった。
矢口「一度、孤児院に戻ったときにさ、カオリが記憶を消して
   勇者として旅だったって聞いたんだよ。それからはおいらはカオリ追いかけて旅に
   出たんだよ。」
中澤「それで、見つけてずっと一緒に旅しとってんな」
矢口「すっかり昔のことは忘れてるみたいだったよ。何度、ホントのことを言おうかと思
   ったけど言えなかったよ。でも、さっき走り出したカオリを止めることはできなか
   った・・・ホントにこれでよかったのかな・・・」
矢口はそれだけ言うと、手を握りしめてうつむいてしまった。
中澤「・・・ウチにもわからんわ。でもな、何があってもカオリを守ったったらええねん
   。そやろ、な?そのために追いかけてたんちゃうん?矢口?」
中澤は、うつむいたままでいつもよりさらに小さく見える矢口の肩に両手をおいて語りかけた。
矢口「そだね。今までもそうやってきたんだし、これからもなんとかなるよね。キャハハ。」
顔を上げた矢口の目は未だ潤んでいたが、その表情はいつもの矢口だった。

つじ「・・・ゆうしゃさま?いいらさん?・・・」
そのころ辻は完全に飯田を見失っていた。
つじ「・・・かえりたいのれす。
   いいらさん!かえりたいのれすーー!ひーーん!」
辻は遂には混乱して泣き始めてしまった。
するとその時、辻の正面から生気のない人影が近づいてきた。
つじ「ひっ!!」
辻はその影に背を向け走り出そうとするが、いきなりつまずいてずっこけてしまった。
つじ「いたいれすー、こわいれすー!!」
恐怖に苛まれた辻は倒れたままただ泣き叫ぶだけであった。
???「この子は・・・」
つじ「ひっ??だれれすか?だれれすか?」
聞こえた声に反応した辻が顔を上げると、そこにいたのは・・・・・飯田だった。

つじ「・・あ、あいたかったのれす〜」
飯田の顔を確認した辻はその刹那に立ち上がってその胸に飛び込んでいった。
つじ「あいたかったのれす、あいたかったのれ・・?」
飯田は辻の存在に全く反応せず、いぶかしがった辻が見上げた飯田の目は
全く焦点が合っていなかった。
つじ「どうしたのれすか、なにがあったのれすか?」
???「うーん、困ったなぁ」
つじ「ひっ?ほかにだれかいるのれすか?」
???「ん、あんたには私の声が聞こえるの?」
つじ「・・・・きこえるれす。いいらさんのこえじゃないのれす・・・」
辻はその声に不安は感じても恐怖を感じることはなかった。
???「私はかおりの剣。この腰に刺さっている剣だよ。」
つじ「どうして、けんがしゃべれるのれすか?」
かおりの剣「まあ、それを話すと長いから・・・とりあえず、牧城に帰ろう。」

かおりの剣はそれだけ言うと辻を施した。

つじ「いいらさん・・・いきますよ。」
辻は立ち尽くしたままの飯田の手を取り、歩みを進めようとした。
飯田は辻の導きに従って足を出したが、それはまるで人形の動きだった。
つじ「・・・」
かおりの剣「カオリはね、今ね、心を閉ざしちゃってるんだよ。」
昔の辛い辛いことを思い出して、何もかも忘れたくなっちゃったんだよ。」
つじ「つらいつらいことっていったいどんなことらのれすか?」
かおりの剣「・・・(カオリを救えるのは、この子たち、今の仲間たちしかいないだろうな。)」
かおりの剣は辻に始終を語った。
つじ「ひっ、ひくっ、ひくっ・・ぐすっ」
かおりの剣の言葉に、辻はただ嗚咽を漏らすだけであった。
かおりの剣「カオリ・・・カオリは決して一人じゃないんだよ。守るべき仲間、守ってくれる仲間が大勢いるんだよ。」
しかし、飯田はかおりの剣の言葉に反応しようとしなかった。
つじ「・・つじが、つじがきょうからともちゃんになるから、いいらさん、げんきだしてくらさい。ともちゃんとよんでくらさい。ぐしゅん。」
顔中をくしゃくしゃにしながら辻が話しかけた。
かおりの剣「(・・・何を言い出すんだ、この子は?)」
勇者飯田「・・・ともちゃん??」
虚空を見つめたまま、飯田は今は亡き妹の名を口にした。

つじ「そうれす。ともちゃんなのれす。
   ともちゃんといっしょにまおうをたおしにいくのれす。」
勇者飯田「・・・許せない。絶対に魔王は許せない・・・」
飯田はかおりの剣を引き抜いて何もない空中を目茶苦茶に切りつけた。
勇者飯田「許せない。許せない。」
かおりの剣「カオリ・・・あんた・・・・・・
      ・・・・辻、聞こえるかい?」
辻はコクリとうなずいた。
かおりの剣「・・・・辻はともちゃんになったんだよね?」
つじ「へいっ。」
かおりの剣「・・・なら、どんなことがあってもカオリを守れるね?」
つじ「もちろんれす。」
赤い目をしながらも辻は胸を張って答えた。
かおりの剣「・・・・辻、頑張れ。カオリを助けてあげてね。」
つじ「へいっ。」
辻が答えるや否や、かおりの剣はなにやら呪文を唱えた。
かおりの剣「・・・ライデイン!!」

かおりの剣は眩いばかりに光ると、近くにあった大木に激しい雷が落ちた。
見る見る木は炎上し、崩れ落ちた小枝や葉が踊るように落ちてくる。
そして、2メートルはあろうかという大きな枝が、飯田たちのいる場所に落ちてきた。
つじ「あぶないのれす!」
辻がそれに気がついて飯田を突き飛ばした。しかし次の瞬間にその枝は辻の左足に覆いかぶさっていた。
つじ「ぎゃーーーー」
常にない辻の絶叫が赤々と照らされた闇夜に響いた。
さらに容赦なく赤い雨のように燃えた木の葉は降り注ぐ。
つじ「あつい、あつい、あついのれ・・」
勇者飯田「ともちゃん?、ともちゃんなの?」
その時、尻もちをついていた飯田が初めて事態に気がついたのか、
一目散に辻目がけて駆け寄った。
勇者飯田「ディヤーーーーーーー」
一擲、その大きな枝を払いのけてしまった。
勇者飯田「ともちゃん、今度こそちゃんと逃げるよ。早くおぶさって!!」
意識を失いかけていた辻を担ぐように背負った飯田は、
禍々しく燃え続ける火柱を背に走り始めていた。

危険が去り、辻を背負ったままの飯田は歩き続けていた。
つじ「・・いいらさん・・・どうしていいらさんにおぶってもらってるのれすか?」
飯田の背で意識を取り戻した辻は、どう助けられたかを覚えてないで飯田に問いかけた。
勇者飯田「・・・辻・・・ありがとう。」
辻には背中しか見えなかったが、飯田の目の輝きは今までのものに戻っていた。
勇者飯田「辻はカオリの妹だよ。ずっと、ずっとね。そうだよね?」
つじ「へいっ!!」
痛みを忘れて辻は勢いよく返事をした。
つじ「もうへいきなのれす。じぶんであるくのれす。」
勇者飯田「無理言うんじゃないよ。」
つじ「こどもじゃないのれす。ひとりであるけるのれす!」
勇者飯田「しょうがないなあ〜。」
飯田は強情を張る辻に折れて辻を下ろした。
自分の足で立ったはずの辻は、もう次の瞬間には地面に崩れ落ちていた。
勇者飯田「だから言ったじゃないの、早くおぶさりなさい。」
つじ「てへ。」
照れながらも辻はさっきまでと同じように飯田の背におぶさった。
つじ「いいらさんのせなか、おおきくてあったかいのれす。」
勇者飯田「ん、何か言った?」
つじ「なんでもないのれす。てへ。」

かおりの剣「(辻、ごめんね。でもよく頑張ったよ。
      もうあの子たちは絶対気持ちでは負けないよ。きっとね。)」

二人の一つになった影はは朝日を浴びて、ヨシターケ牧城に伸びていった。