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萌えろ!朝焼け


第三話「えっ!試合?」

なつみ:「今日も私たち一番乗りだね!」
さやか:「フフフ。そうだね。」
二人は早朝のロードワークを終え、グラウンドにやってきた。
「さやりんって、ポジションどこなの?」
「サードだよ。なっちは?」
「ピッチャー。でも、試合したこと無いんだ。
中学の時、野球部7人しかいなかったからできなかったんだ。
でもねー、チームの誰もなっちの球打てなかったんだよ。」
「ふーん。じゃあ、一回投げてみてよ。あたしがキャッチャ−やったげる。」

「なんだかハズカシー。」
「いいからいいから。早く!」
「よぉーし、いくよー!」
マウンドのなつみは大きく振りかぶって、ホームに座るさやかに向かって投げた!
『がしゃーんっ』
「あちゃー!やっちった...」
なつみの投げた球はさやかの後ろのバックネットに命中(?)した。
「ウフフ。これじゃあ確かに誰も打てないわね。」
「ち、違うって!久しぶりだから緊張しただけ!もう一回!」
なつみは今度は振りかぶらず、セットポジションでさやかに投げた。
『バシッ!』
「いい球投げるじゃん!」
「そうでしょー!ふふふ、君に打てるかな〜?」
「じゃあ、賭けてみる?」
「よーし!じゃあ、負けた者は帰りにマックおごること!」
「なっちってマック好きだね〜。でも、あたしがおごってもらうよ。」
「なっちだって負けない!」
二人は火花を散らす。

なつみはわくわくしていた。久しぶりのピッチング。
しかも良くは知らないものの、さやかは関東では有数の強打者らしい。
なつみは矢口からさんざんさやかの事を聞かされていた。

さやかは中学の時主将をしていて、関東中学野球で優勝したこととか、
走・攻・守三拍子そろった名選手であるとか、勝負強く長打力もあるだとか、
聞きもしないのに矢口はなつみに言って聞かせていた。

(なっちだって、北海道ではナンバーワン(自称)ピッチャーだもんね!
負けたくない...!)なつみは今までにない興奮を覚えていた。
「早く投げてよー。」
「よーし!いくよー!」
第一球。なつみは振りかぶって投げた!

『がしゃーん!』
なつみの投げた球は、さやかの後方のバックネットに突き刺さった。
しかし今回は、見事ストライクゾーンを通過していた。
(なかなかいい球だね...。でも、これなら打てないことはないな。)
一球目、さやかは様子を見た。
「へへへー。まず、ワンストライーク!」なつみはうれしそうに言った。
「なかなかやるねー。」さやかは話を合わせる。
「ウフフ。あと二球だよっ!」
二球目。なつみは一球目より、若干大きく振りかぶって投げた!

『がしゃーん!!』さやかは再び見送る。
(さっきより球に勢いがあるね...。ピッチングフォームも断然バネがきいてる。
でも、次は見送らないよ...。)
「振らないと当たらないよー。♪投げるー人にー、見ーてる人ー♪同じ人なら...」
なつみは歌を歌い始めた。ゴキゲンである。
「タイム」
さやかはバッターボックスを出、二、三度素振りをして再びボックスに入った。
「よし来い!なっち!次で勝負だ!」
「よーし!いくよー!」
なつみは今までで一番大きく振りかぶって、投げた!

『キーーーン』

なつみは振り返った。ボールは、グラウンドの彼方の茂みに吸い込まれていった。
「フフフ。ゴチになりまーす!ダブルチーズバーガーLLセットいっただき!」
さやかは微笑みながら言った。
「...。も、もう一回勝負!今度は、明日のマック賭ける!」
なつみは悔しくてたまらない。
『キーンコーンカーンコーン』
「あ、もう1時間目始まっちゃうよ。はい。終わり!さあ、急いで片づけて行かないと!」
「うぅぅ、放課後、もっかい勝負だよ!逃げちゃダメだよ!」
「はいはい。わかったから急いで!」
「ちっくしょー!」
(でもなっち、三球目、すごい球だったな。正直、ヤバかった。)
さやかは片づけをしながらなっちを見て微笑んだ。

二人がグラウンドを出た後、ひとりの男がグラウンドに現れた。
監督のつんくである。
「おっそろしい球投げよるの〜。」つんくはそう言いながら、
なつみが最初に投げた暴投の当たったバックネットを触った。
バックネットは見事にひん曲がっていた。
「あいつ、使い方次第ではええモノになるの〜。」
つんくはバックネットを触りながら、ニヤついていた。
「キャー!!あ、あなた誰なんですか!本校に無関係の方は、
立ち入らないで下さい!」
年増の女教師が異様な格好のつんくに悲鳴を上げた。
当然である。またしてもつんくはシャ乱Qファッションで、
ひとりでグラウンドのバックネットを触りながらニヤニヤしているのである。
これでは誰が見ても完全に変態である。
「あ、あなた!もしかして最近のクラブの部室から下着ドロが多発してるけれど
あなたが犯人ね〜!」
「い、いや、ちゃいますって。俺は野球部の監督やっちゅーねん!」
「うそおっしゃい!私はこの学校長いけれどあなたなんか見たこと無いわよ!
だいいち、それがスポーツをする格好ですか!」
「私服は俺の勝手やろがい。うわっ!なにすんねん!イテテ...」
女教師はつんくの耳をつかんで、引っ張ってどこかへ連れていこうとする。
「警察に突きだしてやる!」「ちがうってマジで!痛い痛い痛い!」
...合掌。

放課後。部員達は準備を終え、練習に入ろうとしていた。
程なく監督のつんくが現れ、大声で言った。
「みんな集合!重大な発表をする。」
全員、つんくのまわりに集まった。
「かんとくー、なんで耳がはれてるんですかー?」
飯田が聞く。つんくはあえて答えずに、
「ここ何日間で自分らの力は見せてもらった。
今からレギュラーメンバー、ポジションを発表する。」
ザワザワ...娘達は突然の急!展!開!に驚きを隠せない。
「まずファースト。飯田!」
「キャー!!!!!やったー!!!!!」
必要以上とも思われるハイテンションなリアクションに、全員こけた。
「...ま、まあ落ち着け飯田。後は一気に言うで。
セカンド、矢口。ショート、後藤。サード、市井。」
中澤が悔しそうな顔をした。中澤はサード希望であった。
「レフト、中澤。センター、信田。ライト、稲葉。
安倍、ルルの二人は希望通りピッチャーや。保田、小湊はそれぞれ控えや。」
全員、つんくの突然の発表に落ち着かない様子である。
「みんな、なんか気づけへんか?」つんくが問いかける。
みんなつんくが何を言ってるのかわからない。とその時、ルルが言った。
「あ!キャチャーがいないヨ!ルルが投げてもダレもとってくれナイよ。」
「あ、ほんとだー。全然気づかなかった。」なつみが言う。
つんくがこけた。
「おまえほんまのんきなやっちゃな〜、安倍。まあ、ルルの言うた通り。
このチームには、キャッチャー希望の奴がおらんねや。ということで、
今からキャッチャー希望者をこの中から募集する。希望者は手を挙げること!」

しばらく、全員お互いの顔を見て、誰が手を挙げるのか様子を見ていた。
と、「ハイッ!」誰かが手を挙げた。みんな声のした方を見た。
なんと、それはさやかであった。
「えー!さやかがキャッチャー?イメージが違ーう。中学の時、
『ホットコーナの魔術師』の異名を持ってたさやかは絶対サードだってー!」
矢口が言う。
「さやかちゃん、そんなあだ名あったの?」なつみがさやかに聞く。
「...まあ、いろいろね。まりっぺ、それは言わないでよ、恥ずかしいから。」
さやかが矢口に言った。
「ふん!得意になってたくせに!」飯田が茶々を入れる。
つんくが場を制する。
「まあまあ。落ち着け。市井、ホンマにやるんか?今決めたら下手したら
三年間ずーっとキャッチャーやってもらうことになるぞ。ええんか?」
「はい。わかっています。」さやかは答える。
「よっしゃ!ほな、キャッチャーは市井で決まりや。とするとサードがあくな...。
中澤、お前サードいってくれ。とすると、レフトがあく...。
よし!ルルと安倍、片方がピッチャーの時もう片方はレフトに入ること!」
なつみとルルが顔を見合わせる。お互い、ピッチャーの座は譲らない、
と言いたげである。
「それじゃあ、今から先発を決めるから、安倍、ルル、こっちに来い。あ、市井もな。」
「監督、先発ってどういうことですか?試合でもするんですか?」
さやかが聞く。
「そや。試合や。来週、ここで試合をする。もう、向こうにはオッケーもろとんねや。」
「えっ!試合?」全員が驚きの声をあげる。なんとコーチの和田も知らなかった様子である。
「ちょ、ちょっと監督、急に試合だなんて、無理ですよ!
それにそういうことはコーチの僕にも言っておいてもらわないと。
それにですね...」和田がつんくにまくし立てるが、つんくはそれをさえぎって、
「まあまあ、ええがな。ちんたらちんたら基礎練ばっかりもオモロない。
試合もやっていかんとな。」

(試合かぁ〜。楽しそうだな〜。先発やりたいな。)
なつみは思った。
「よし。今から先発を決めるテストや。市井、そこに座れ。
じゃあルルから投げてみろ。」つんくが言った。
「ハイ。」
ルルはマウンドに立った。そして、ホームに座る市井に向かって投げた。
『バシュッ!』勢いのある音があたりに響く。
「ほ〜う。ええかんじやな。ルル、変化球は投げれるか?」つんくが聞く。
「ハイ。」答えるルル。さらに投球は続く。
「ふーん。結構球種もっとるな。カーブ、スライダー、シュート、フォーク。
やりよるな〜。コントロールも良い。よし。じゃあ次は安倍。投げてみい。」
「は、はい!」なつみは緊張していた。ルルが投げる変化球に驚いていた。
マウンドに立っても、緊張は解けなかった。
「どないしたんや。早よ投げんかいな。」「ハ、ハイ、投げます!」
なつみは振りかぶって、投げた!
『ガッシャーン!』ボールはバックネットに当たった。大暴投である。
「す、すいません!」なつみは目の前が真っ暗になった。
「監督、これじゃあちょっと試合には...」和田がつんくに言う。
つんくは和田には答えず、マウンドのなつみに歩み寄った。

「お前なあ、力入り過ぎや。フォームがなってないで。よっしゃ。
今から俺が見本見せたるから、それをまねして投げてみい。」
つんくはそう言うと、なつみからボールを一つ受け取り、
不思議な舞を踊り始めた。なつみは呆然とそれを見つめる。
「何ぼーっとしとるんや。はよ真似せんかいな。」
「こ、こうですか...?」なつみは思った。(は、恥ずかしいよー!)
マウンドの二人を見て、娘達は呆然としている。それは和田も然り。
「そうそう。まず左ひじを思いっきりあげる。背筋はピーンとして。
ボール持った右手は地面すれすれまで下げる。そしたら左手を一気に下げる。
その反動で右手を振る。おーおー。そうそう。出来た出来た。
その投げ方で、もっかい投げてみろ。」
「は、はい...。(つんくさん、いったい私に何をさせたいのだろう...)」
なつみは半信半疑であったが、ともかくつんくに言われたとおり、
その不思議な舞で投げてみることにした。

『バシーン!!』
その場にいた全員の耳に、耳鳴りのような衝撃音が響いた。
ボールを受けたさやかは、グラブをはずす。
「いててて...」さやかの手は、若干赤く腫れあがっていた。
「す、スゴイ...」ルルが思わずつぶやく。
「た、球が浮き上がったように見えたで...。」中澤も驚きを隠せない。
しかし、何よりも一番驚いていたのはなつみ自身であった。
(な、なんだ今の...。私じゃないみたい。どうしてなんだろう...?)
「どや。お前はホントはそれぐらい当たり前に投げれるはずやったのに、
フォームが悪かった。お前はホンマに足腰が強いから、その投げ方が出来るんや。
今日から、その投げ方で練習せえ。」つんくは微笑みながら言った。
「は、はい。(でも、ちょっと恥ずかしい...。)」

ポジション発表の後、娘達は練習に取り組んだ。
そうしている内にあたりは暗くなってきた。もう19:00。

「よーしみんな。今日の練習はここまで。来週試合だから、
明日からさらに気合い入れて練習するように。試合のオーダーは
明日からの練習を見て、当日に発表する。先発も、当日発表にする。
それじゃあ解散!」
「ありがとうございましたー!」

「はぁ、今日も終わった!さやかちゃん、帰ろー!」
「あ、なっち、フフフ。ゴチになりまーす!」
「ゲッ!そうだった!ううぅ、また悔しくなってきた...」
「さあ、はーやーくー、なっちー!」

マクドナルド。
なつみ、さやか以外にも、矢口、飯田、保田、後藤が一緒に来ている。

「えー、さやかは今日はなっちのオゴリなの〜?かおりんもおごってー。」
飯田がなつみに話しかける。
「だめだよー。今朝、ちょっとしたゲームをして、そのごほうびなんだからー。」
なつみは答える。
「えー?ゲームって何ー?かおりもやるー。」飯田はくいさがる。
『お連れ様、ご注文をお伺いします。』その時、店員が注文を聞いた。
「ほら、かおりん、注文早く言わないと!」なつみはすかさず言う。
「え?え?え〜っと、かおりは...フィレオフィッシュ!
と...アップルパイ!」飯田は切り替えが早い(?)。

娘達は食べながら、盛んにおしゃべりしている。
「さやか、なんでキャッチャーやる、なんて言い出したのー?
絶対サードの方がいいのに。関東中学野球決勝戦、9回裏1死満塁、
逆転のピンチのときの、あのライン際のファインプレーからのゲッツー。
闘争中が優勝できたのはアレがあったからだよー。」
矢口が遠い目をしながらさやかに話しかける。
「あ〜あ。また始まったよ。」
飯田は矢口のさやか話が始まるととたんに不機嫌になる。
しかし、誰も飯田には触れない。なつみがさやかに話しかける。
「さやかちゃん、キャッチャーやったことあるの?」
「ぜーんぜん。」さやかは答える。
「じゃあどうして?」なつみはさらにさやかに聞く。

「フフフ。だって、これから毎日なっちの投げる球を受けてたら
なっちの弱点がわかるし、何回勝負しても勝てるジャン!
そしたら毎日マックがおごってもらえるしね!」さやかは微笑みながら答えた。
突然飯田が立ち上がった。
「なっち、明日勝負よ。かおりもおごってもらうんだからね。」
飯田の目はマジである。
「ちょ、ちょっと、そんな勝手な...」なつみは狼狽する。
「あたしもおごってもらうー!勝負!なっち。」矢口が言う。
「じゃあ、あたしもー。」なんと後藤までもがなつみに勝負を挑んできた。
「ちょ、ちょっとみんなー、待ってよ、圭ちゃん、みんなに何とか言ってよー。」
なつみは保田に助けを求めた。保田は笑顔で言った。
「なっち、勝負よ。」
「なんだよもー!もうやだー!」なつみはふてくされてしまった。

(なっち、ゴメンね。ホントは、朝なっちの球を見てたら、なんかわくわくしたんだ。
なっちはスゴイピッチャーになる、って思ったんだ。それを一番近くで見たかったんだ。)
さやかはそんなことを思いながら、笑顔でなつみを見つめていた。

試合まで後一週間!はたして相手は?娘達は勝てるのか?乞うご期待!


第四話「対決!」

ここは朝焼け高校のグラウンド。いよいよ試合当日の日曜。
娘達は午後からの試合に向け、午前中から練習にはげんでいた。
「こらー!矢口!カバーが遅れてる!練習の意図をちゃんと理解して
やってもらわんとあかんぞ!」つんくが叫ぶ。どうやらダブルプレーの
練習をしているようである。
一方ベンチ前では、なつみ、ルルの二人が投げ込みを行っている。
『バシーン!』 『バシュッ!』
右腕で速球派のなつみと左腕で技巧派のルル。二人はまるでタイプがちがう。
「今日も調子いいね、なっち。」なつみの球を受けていたさやかが言う。
「よーしいいぞ、ルル。その調子だ。」ルルの球を受けていた和田が言う。
今日の試合、どちらが先発をするかはまだ告げられてはいない。
二人は態度にはでていないものの、お互いを激しく意識していた。
(絶対絶対、私が先発するんだ!)(ワタシが先発する!)

「よーし。もう12:00か。取りあえず午前の練習は終わりや。
13:00には向こうが来るから、それまでに軽く昼食を済ませておくように!」
つんくが言った。
「すいませーん!監督。」さやかがつんくに言う。
「なんや、ゆってみ。」つんくが答える。
「あのー、今日の試合の相手はどこなんですか?」
「ふふふ。それは来てのお楽しみや。ナイショ。さあ。休憩や。一時解散!」
娘達はグラウンドから散っていった。和田がつんくに聞く。
「つんくさん、でも本当に今日の相手はどこなんですか?
コーチの僕には教えて下さいよ。」
「しゃーないなー、.....。」つんくが和田に耳打ちする。
「えーっ!!!!!!本当ですか!」和田は超事実発覚!に驚いている。
「フフフ。試合が楽しみやで...。」つんくはニタリと笑った。

日曜日の学食は、さすがに人が少ない。
他のクラブの生徒もちらほら見かけるが、ほとんど娘達の貸し切りである。
試合前なのに焼き肉定食を食べるさやか。イカリングを食べる中澤。
おやつばっかりの後藤。それぞれが思い思いのものを食べながら、
おしゃべりに花を咲かせている。
「今日、ホントに試合あるのかなー。相手はどこですか、って何回聞いても
『それは秘密』って、つんくさん教えてくれないんだもん。」矢口が言う。
「あ、今のつんくさんにそっくりー。もっかいやってー。」飯田が言う。
「『それは秘密や。』」矢口がさらに悪ノリする。しかし誰も笑わない。
「えー今の似てなかった?じゃあもっかいやるよ。『それは秘密や。』」
「まりっぺ、うしろうしろ...。」なつみが小声で言う。
矢口が振り返るとそこにはなんとつんくがいた。
「ゲッ!つ、つんくさん。いつからいらしてたんですか...?」
「ははは。結構似てたで。矢口。もうそろそろその答えもわかる頃や。
さっき連絡が有って、もう到着するらしいで。」
『ブゥゥゥゥン...』学食の前は駐車場である。その駐車場に、一台の大型バスが入ってきた。
「来よったで...。」つんくはつぶやく。
バスが食堂の前を横切る。バスの側面には『TM学園』と書いてある。
「えー!今日の相手って、TM学園なんですかー?」矢口が叫ぶ。
さやかは無言だが、その表情は驚きを隠せない。
予想もしなかった急展開に、娘達を緊張感が包む。ただひとりを除いては。
「え?てぃーえむがくえん?強いの?」なつみである。
「もう!TM学園っていったら、去年の甲子園のベスト8だよ!」矢口がなつみに言う。
「へーぇ、すごいねー。」そう言いながらもまるで緊張感の無いなつみ。
「よし!休憩も終わりや。TM学園をむかいいれなあかん。全員グラウンドに行くで!」
つんくが叫んだ。

グラウンド。娘達は一列に並び、つんくはその前に立っている。
TM学園の生徒達がグラウンドに入ってきた。ひとりの男が先頭に立ち、つんくに挨拶をする。
「どうも。監督代行の久保こーじです。」
「なんや、小室さんは今日来ないんかいな。」つんくが言った。
「いいえ、遅れていらっしゃいます。」久保は答える。
「あ、そうですか。わかりました。じゃあさっそく試合やりましょか。」
「そうですね。今日はよろしく御願いします。お手柔らかに。」

つんくは思った。
(『お手柔らかに』やって?ケッ!いやみ言いやがって。甲子園がなんぼのもんや。
コムロがおらんのも、完璧なめとる。見とけよー!)

「これから、今日のオーダーを発表する。」つんくが言った。
娘達に緊張が走る。
「1番・センター、信田。2番・セカンド・矢口。
 3番・ショート、後藤。4番・キャッチャー、市井。
 5番・ファースト、飯田。6番・サード、中澤。
 7番・レフト、ルル。8番・ピッチャー、安倍。9番・ライト、稲葉。以上!」
娘達はそれぞれ一喜一憂している。中でも、安倍、ルルの二人ははっきりと明暗が分かれてしまった。
「.....。」言葉無くうなだれるルル。その落ち込みようは、娘達もかける言葉がない。
「...、はじめに言っておくが、今日は全員使うで。ルルにも、ピッチャーをやらせる。
それぞれの力を、今日は見せてもらうからな。気合い入れてやれよ!」
つんくが言った。 そのとたん、ルルの表情に生気がよみがえってきた。
(ゼッタイ、負けないヨ。ナッチ。)ルルは思った。
ルルだけではなく、他の娘達もそれぞれ闘志を燃やしている。
飯田・(なんであたしが4番じゃないのー?絶対さやかには負けない!)
中澤・(あたしがクリーンアップから外されるなんて、屈辱だよ...。)
保田・(なんとか今日頑張って、レギュラーになる!)
「よし。行くで。思いっきりやってこい!」つんくが叫ぶ。
いよいよ試合開始!

先攻はTM学園。娘達は後攻である。
マウンドに立ったなつみは軽い興奮を覚えていた。
(とうとう試合だ〜!わくわくするな〜!)
TM学園の先頭バッターがバッターボックスに入った。
「誰だろ、あれ。見たこと無い顔だな...。」
セカンドの位置から矢口がつぶやく。
「プレイボール!」主審の声が響く。
さやかを見るなつみ。ほほえむさやか。
(いつも通りでいいんだよ、なっち。思いっきり投げ込んでこいっ!)
なつみは大きく振りかぶって、投げた!

「ば、ばかっ!」「あ、あほっ!」さやかとつんくが同時に口走った。
なんと、なつみの投げた第一球目は、ド真ん中の棒玉であった。

『キーーーン』
鋭い音が空を切り裂く。
打球はルルの頭上を越えた。
先頭打者、第一球目、ホームランで幕開けである。
さやかがマウンドにすっ飛んでいく。
「なっち、どうしたの?練習の時と全然違うよ?体調悪いの?」
「えへへ、ゴメン...。ちょっとキンチョーしちゃった。
投げ方を一瞬忘れちゃって...。」
さやかはズッこけた。「な、投げ方を忘れたって...」
「でも、もうだいじょーぶ。なんか、目が覚めた。
次からはバリバリ投げるよー!」
まるで落ち込んでいないなつみに、さやかはあきれながらも安心した。
「全くもう。やるときゃやってよ!なっち」
さやかはそう言うとなつみの背中をミットで『バスン!』と叩いた。
「ゲホッ...、オッケー、まかせといて!」なつみは微笑んだ。

「あいつ大丈夫かいな...?」つんくがベンチでつぶやく。
「ふふふ。今日の試合は大丈夫のようですね。」久保がベンチでつぶやく。
「久保さん!やりましたよ!」先頭バッターがベンチに帰ってきた。
「ああ、良くやった。今日の結果は小室監督にもちゃんと報告するから、しっかりやれよ!」
「はい!私も早くレギュラーになりたいです!でも、あのピッチャーダメですね。」
先頭バッターの娘は笑いながら言った。
「ま、どんなピッチャーでも、自分の力を出し切ること。決して甘く見てはいけない。
そういうピッチャーなら、確実に打つことが大事です。」久保が微笑みながら言った。

二人目のバッターがバッターボックスに立つ。
「又知らない顔だ。今日はレギュラーは来てないのかな?っと、それよりなっち大丈夫かな?」
矢口はそうつぶやいてマウンドを見る。
なつみは両腕をグルングルン回している。
その顔にこわばりは無い。むしろ落ち着いているように見える。
4、5回腕を回して、なつみはホームを見据えた。
(よーし。次からは打たせないよ!)
なつみは振りかぶって、投げた!

『バシーン!』
「ハハハ...!?」ベンチでコーチらと談笑していた久保は、
グラウンドを振り返った。ボールはさやかのミットに吸い込まれていた。
(来た来たー、これこれ。こうじゃ無くっちゃ!)
左手に軽いしびれのような感覚を覚えながら、さやかは思った。
バッターの娘は、予想もしなかった豪速球に思わずのけぞっていた。
片足は完全にバッターボックスから出ている。
(な、なんなの今の?さっきの球と全然違うじゃない!)
「あのー、今の、ストライクですね?(×5)」さやかが主審に問いかける。
「す、ストライーク!」主審も思わず面食らっていたようである。
「何だ?どうしたんだ?」見ていなかった久保が声をあげる。
「けっこういい球投げますよ、あのピッチャー。多分あの子には打てないと思います。」
久保の後ろから声がした。久保は振り返る。
「な、何?トーコ、本当か?」久保が言った。
「はい。さっきとはまるで別人です。」
トーコ、と呼ばれた娘は落ち着いた口調で答えた。
『バシーン!』「ストライーク!」
二人目のバッターへの、なつみの二球目。またもやボールはミットに吸い込まれた。
バッターはスイングすらしていない。
「むむぅ...。」久保はため息をもらす。
『バシーン!』「ストライーク、アウト!」
バッターはスイングした。が、ボールにはかすりもしなかった。
「こんなところにこんなピッチャーがいるとは...。」久保がつぶやいた。
「本当にいい球ですね。なんだか楽しみです。」
トーコはそういうとゆっくり立ち上がった。
「今日だけとは言ってもせっかくの4番だから、何とかしてきますよ。」
トーコはベンチを出て、ネクストバッターズサークルに入った。

「ストライクアウト!」
なつみは、三番バッターも三球で仕留めた。
なつみは思った。(この学校が甲子園行ってたんだー。でも、なんかイケそう!ふふ。)
4番バッターが左バッターボックスに立つ。トーコである。
「あ、トーコだ。いつもは2番なのに、今日は何で4番なんだろう...。」
またもや、矢口がつぶやく。
(取りあえずあなたの球を6球は見ました。当ててみせます!)トーコは思った。
トーコへの1球目、なつみは振りかぶって、投げた!

『バシーン!』「ストライーク!」
(...。バッターボックスで見ると、段違いにスゴイですね...。
当てられるかしら...。)トーコは思った。
「今日は4番なのね。トーコさん。」さやかがトーコに話しかける。
「ええ。今日はちょっとね。」笑顔で答えるトーコ。
「あなたには打てそう?TM学園のレギュラーだし。」さらに話しかけるさやか。
「どうでしょう。頑張ってみるわ。」トーコは笑顔を崩さない。
(ケッ!なんか、その落ち着いた態度が気に入らない!)さやかは思った。
トーコへの第二球目。
なつみは振りかぶって投げた!
『キンッ、ガシャーン!』
ボールは後ろに低い弾道で飛び、バックネットに当たった。ファウルである。
(だいぶ球がホップするわね。かなりのびる球ね...。)トーコは思った。
「うわっ!」思わずなつみは口走った。
自分の本気の球に、初めてバットが当たったのである。
(あ、当てられた...。よし、次は勝負だ!)なつみは思った。
トーコへの3球目、なつみは振りかぶって、投げた!

『キン』
トーコの打った球は、なつみの頭上を越えた。
が、どんづまりである。やすやすと後藤が落下点に入り、キャッチした。スリーアウト。
「当てたけど、ダメだったね。ふふ。」さやかがトーコに言う。
「うーん、残念。次は頑張るわ。」落ち着いた口調で言うトーコ。
(ケッ!なんか、そのよゆーかました態度が気に入らない!)さやかは思った。

ベンチに帰りながら、トーコは思った。
(ふう、まだ手がしびれてる...。かなりのピッチャーだわ。
今日の試合、調整試合どころじゃないわ。本気でやらないとやられる!)

1回の表終わって<1−0>。いよいよ娘達の攻撃である。
娘達はグラウンドから、全員ベンチに戻った。
「アホッ!いきなりホームランやないか!」
つんくのげんこつがなつみの頭に飛ぶ。もちろん手加減はしてある。
「いてて、でも、後は押さえましたよー!」なつみも反論する。
「なんや!いいわけするんか!刺激の強いのお望みですかー?」
つんくは容赦なくなつみに詰め寄る。
「い、いやその...、ゴメンナサイ。」なつみはしょぼくれる。
「ははは、冗談冗談。よう後を押さえたな、安倍。その調子で行け!」
つんくは笑いながらなつみの頭をなでた。
「もーう!つんくさーん!」なつみはつんくを肘で突いた。
「あいたた...。こ、こら!監督に暴力を振るうな!まあとにかく、お前ら本来の力を出せば、
相手がTM学園でもいい試合が出来る。リラックスして、いつも通りやるだけでええんや。
しかし今んとこ1−0で負けとる。取り戻すぞー!」
「ハイッ!」全員で答える娘達。
「よっしゃ。じゃあ信田、取りあえず思いっきりやれ!
打てへんかっても悔いの無いように、思いっきりやぞ!」つんくが言う。
「監督、それじゃまるで私が打てないみたいじゃないですか。」信田が切り返す。
「ははは、すまんすまん。よし!打ってこい!信田!」つんくは言い直す。
「わかりました。打ってきます。」信田は微笑んで、バッターボックスに向かった。

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