しもうまじゃないよ 白馬の王子様
1 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/22(木) 00:18
飼育にやってくるのは久しぶりです。
主に愛ちゃんとガキさんが仲いいところを書くことが多くなりました。

実はブログで作品を書き続けていたのですが、
もっと多くの人に見てもらえたらと思って舞い戻ってきました。
ブログで発表済みの作品の投下と、今後は新作をこちらに上げたいと思います。
そういうわけで完全な未発表作じゃなかったりしますが、ご了承ください。
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/22(木) 00:19
まずは、つい先日書き上げたものから。
ガキさんとさゆちゃんの会話。根底にあるのは愛ガキです。
3 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:20


自分の分の撮影が終わって、楽屋には戻らずに人のあまり来ない自販機の前に来た。
適当に飲み物を選んで、紙コップを手にして目の前のベンチに腰掛ける。

ふーっと、大きく息を吐き出して目を閉じた。

ここのところ、いろいろな仕事や取材が入っていた。
愛ちゃんの卒業に絡むものもあれば、愛ちゃんが卒業した先を見据えたものもある。

嫌というほどその日が近づいているのを痛感させられて、少し、いやかなり、気が重かった。

ぱっと思い浮かべただけでも、新しくリーダーになった後の仕事はいくつもある。
そのたびに、突然リーダーに就任した愛ちゃんがこなしてきた仕事の大きさに、
あたしは改めて驚かされて、そして、一気に心配になってくる。
4 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:21
この4年間を、愛ちゃんと二人三脚でやってきたっていう自負はある。
いつだって隣にいられたから、彼女を助けることは苦でもなんでもなかったし、
愛ちゃんを支えてるんだって想いがあったから、むしろ嬉しかった。

だけど、これから先はそういうわけにもいかない。
一番頼りにしていた愛ちゃんは卒業してしまう。
さゆみんや田中っちを信頼していないってわけじゃないけど、
同期でずっとやってきたのとは、どうしても感覚が違って…


…何よりも、やっぱり「愛ちゃん」がいなくなってしまうことがキツい。
5 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:21
10年一緒の時間を過ごしてきた同期で、
やっぱり、最大の信頼を寄せていた人で。
それ以上に…、大切な想いを交わし合っている相手だから。

言葉はなくても、今は目だけで会話できると思ってる。
視線を交えるだけで、考えていることはほとんど伝わってくる。

あたしがつらい時にはいつだって真っ先に気付いてくれて手をさしのべてくれて、
愛ちゃんがつらい時は、あたしがすぐに駆け寄ってその背中を撫でて。

そういうことができなくなるんだなぁと思うと、苦しかった。
いかに、その手に支えられてやってきたのか思い知らされる。
6 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:22
「ガキさん、こんなところにいたんだ」
「あれ、さゆみん…」

紙コップの中身を一気に飲み干したあとの何度目かのため息は、
思いがけず現れたさゆみんによって吐き出されることはなかった。

「えっ? あたし、出番とか?」

もう、撮影も取材も全部終わったはずだけど。
頭の中でスケジュールを整理し直していると、
さゆみんは慌てたようにして両手を顔の前でぶんぶんと振っていた。

「あーあーあ! じゃなくって、ただちょっとさゆみがガキさん探してただけで」
「…ふぅん?」

その必死な様子がおかしくてつい吹き出しちゃったけど。

「でも、あたしに用事?」
「あー、えっと」

あたしを探してた、ってことが気になって問いかけてみたら、
さゆみんは視線をさまよわせて、どこか落ち着かない感じだった。
7 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:23
それでも彼女の言葉をじっと待ち続けていたら、
ひとつ何かを決心したように小さくうなずいて、
あたしの隣に腰掛けて、こう聞いてきた。


「…最近、愛ちゃんとしゃべってます?」


え?
思わぬことを聞かれて、思わずさゆみんの顔を見てしまった。

だけど、彼女はじっとあたしの目を見ていて、
その言葉が、ただの思いつきでもなんでもなくて、
こんなところまで来てあたしに聞きたかったことなんだとわかる。
8 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:23
そして、言われてみて考える。

あたし、今日、愛ちゃんと会話したかな…?


確かに、朝一番で顔を合わせた。
挨拶もしたし、別にいつもと何も変わりはなかったと思う。
でも、他に何か話したっけ…?

ここのところ、あたしと愛ちゃんは別々の仕事が多かったから、
会えることも少なくて、話をする時間も確かに短いとは思うけど。
お互いにけっこう忙しかったから、あまり深い話とかもできなくて。

…そう、忙しかったから。


「あんまり、しゃべってない、かも」

さゆみんは、やっぱりという顔であたしを見ていた。
9 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:25
「でもね、お互いに別の仕事してたりして、忙しかったからさぁ。
 あんまり相手の負担になっちゃいけないっていうか、
 お互いそんな感じで、たぶん…」

あたしはさゆみんの反応を必死に打ち消すように言葉を並べる。
だけど、なぜか自信がなくて、言葉の最後が小さく掠れた。

必死な自分が、空回りしているのがよくわかった。
10 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:25
「ガキさん」

名前を呼ばれて、びくりと肩が揺れる。
息を飲んで続く言葉を待っていると、さゆみんは手にしたペットボトルをくいっと傾けた。

「話せてない、ですよね。
 さゆみは二人を見て、そう思ってます」

ズバリと言われて、返す言葉もなかった。

だけど、別にケンカしたわけでも、避けるようなことがあったわけでもない。
それだけに、自分でもどうしてなのか理由がつかめなかった。

忙しいのは間違いないけど、でも、少し昔ならよく電話で話したりしていたし、
空いたスケジュールで相手の家に行って、少しの時間でも一緒にいたりしたし。
でも、ここ最近はそういうこともしなくなっていた。


話したいことは、たくさんあるんだけど。
卒業を控えた愛ちゃんに、それを話していいのかどうか。
11 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:26
「…ガキさん、不安ですか?」

あれこれと考えて黙り込んでいたら、突然問いかけられた。

不安かどうか。そんなの、不安に決まってる。
同期として、あんなに素晴らしい実績を残したリーダーを誇りに思うし、
それだけに、あたしが引き継ぐモーニング娘。は、どうすればもっと進化するのか…

グループとしてのこともあるし、舞台や映画、
それにモベキマスとしての活動もきっと待っている。
10期が入ってくるし、でも、9期だってまだ半人前。

考えただけでもため息が出そうなくらい、重かった。


「…不安ですよね、もちろん。それはわかるんですけど」

答えようとするより先に、さゆみんが口を開いた。
横目でちらりと彼女の顔を見やると、
少し困ったように、そして少し悲しそうに笑いながらあたしを見ていた。
12 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:27
「…まだ、さゆみにはガキさんの苦労ってそこまで理解してあげられない気がするけど。
 でも、8年やってるからさゆみにだってわかります。
 リーダーって、どれほどのものなのか、どれだけ大変なものなのかって」

知らず知らずのうちに、手に力が入っていた。
言葉にするべきかどうか。一瞬だけ悩んで、でも、すぐに答えは決まった。

「さゆみん、あたしは…」

手にしていた空の紙コップが、どんどんひしゃげていった。

「…愛ちゃんみたいに愛されるリーダーに、なれるのかなぁ…」

初めて彼女の前で吐き出したかもしれない弱音。
自分でも思っていた以上に声色が情けなくて、なんだか泣けてきた。

潤む視界をぎゅっと閉じて、大きく息を吐いた。
何してるんだろう。あたし、こんなところで弱ってちゃいけないのに…
13 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:27

隣に腰掛けているさゆみんの手に触れようとしたら、
それを避けるようにして彼女は立ち上がった。
行き場をなくしたあたしの手が、ベンチへと逆戻りする。

「ガキさん、答えがわかってて聞きますけど、
 その不安、愛ちゃんにちゃんと打ち明けてますか?」

どくり、と心臓が一つ大きく鳴った。
同時に湧き上がってくるいろんな感情。
怒りにも、焦りにも似たその気持ちを抑えきれないまま、
彼女の顔をぐっと見上げて、噛みつくように叫んでいた。

「…っ、言えるわけないじゃんっ…!!
 あたしが弱ってたら、愛ちゃんが不安になっちゃうし、
 愛ちゃんには何も心配ないように卒業してほしいし、
 だから、あたしが頑張れば…っ…」

卒業してから、大丈夫なのかな、なんて思わせたくない。
愛ちゃんに、すごいって言ってもらえるモーニング娘。にしたい。
これなら任せられるって、スッキリした笑顔で、
愛ちゃんには次の夢を追いかけるように飛び立ってほしい―――
14 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:28

「これは、さゆみの勝手な思い込みかもしれないですけど」

さゆみんは、まだ困ったような笑顔のままであたしの目をじっと覗き込んできた。
その黒い瞳に、あたしの心は何もかも見透かされていることに気付いて、
でも、それは認めたくなくて、次の言葉を聞きたくなくて、

…それよりも、そうしようとする自分を、許してあげられそうな気がしなくて。


「愛ちゃんこそ、ガキさんの本音を、待ってると思うんです」


思わず頭を抱えた。
一番聞きたくなかった、甘い誘惑のような言葉。
15 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:28

「…嘘だぁ…」

信じたくなかった。
信じてしまえば、あたしは今までのように、愛ちゃんに頼りっぱなしになってしまう。


愛ちゃんを頼りたい。愛ちゃんに甘えたい。
愛ちゃんに、「大丈夫」って言ってほしい。
あたしにとってそれがどれだけ力になって勇気になるのかは、あたし自身よく知っている。
でも、卒業を控えたこの時期に、愛ちゃんに余計な負担は掛けたくないから。

…だから、あたしはすべてを自分の中にしまい込んで、
彼女の背中をただ押してあげればいいって、そう思っていた。
16 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:30
「ガキさん、さゆみたちだって8年一緒なんだからわかりますって。
 ずっと二人を見てきてるんだから。だから、絶対に嘘じゃない。
 愛ちゃんとガキさんが、目を合わせるだけで会話してるの、すごいなって思いますけど、
 本当に伝えたいことは、やっぱり言葉じゃなきゃダメだなぁって思うんですよ」

さゆみんはベンチに腰掛けるあたしの前にしゃがんで、そっとあたしの手を取った。

「さゆみ、思うんですけど、
 今は愛ちゃんもガキさんも、お互いのためにって遠慮しちゃってるから。
 もっと、お互いに甘えてください。
 ちゃんと、言葉を交わし合ってください。
 もやもやしたままじゃ、愛ちゃんだって卒業できませんよ?」
「愛ちゃん…も…?」

あたしの問いかけに、彼女はいたずらっぽく笑った。
17 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:30
「愛ちゃんだって、ガキさんに負担掛けたくないって絶対思ってるから。
 想い合ってるだけに、おんなじこと考えてるんですよ」

急に顔が熱くなって、思わず手の甲を頬に当てた。
さゆみんがあたしたちのそういう関係を知らないってわけじゃないけど、
それでも、こういうことを外から指摘されるのは、妙に恥ずかしかった。


立ち上がったさゆみんは、ポケットからケータイを取り出して、
それからもう一度撫でるようにしてあたしの手を取った。

「さゆみ、そろそろ行きますね」
「あ、えっと…」

壁に掛かった時計を見ると、二人分くらいの撮影の時間が過ぎていた。
思っていたよりも長いこと彼女を引き留めていた罪悪感と、
突然一人に戻ることへの焦燥感で、思わず彼女の手を引いてしまった。
18 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:31

「さゆみ、ハンカチとか持ってないんで、その涙は愛ちゃんに拭いてもらってくださいね」

このタイミングでとんでもないことを言うさゆみんは、
ニヤリと笑ったあと、すぐにまじめな表情になった。

「今、愛ちゃんの撮影が終わったくらいの時間だと思うんです。
 愛ちゃんに、ここに来てもらうように言っておきますから」

予想外の言葉に心の準備が追いつかなくて、目を見開いた。

…思えば。
あたしがこの場所に来て、すぐのタイミングでさゆみんもやって来て。
わざわざ人の来ないような場所を選んだのに、それでもあたしを探してくれて、
メンバーの撮影の順番をちゃんと把握して、空いた時間をこうして使ってくれて、
あたしと、愛ちゃんを、近づけてくれようとして…

そこまで考えてくれている、そんなところまで見てくれているさゆみんに感謝した。
19 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:31

「卒業のその日までは、たくさん話して、たくさん泣き合って、
 二人ともちゃんと背中を軽くしてから迎えなきゃダメですからねっ!
 それができるのって、今はさゆみたち6期や先輩たちの誰でもなくて、
 愛ちゃんとガキさん、お互いにしかできないことだと思いますから」


あたしの耳に届いた言葉がすごく重くて、でもすごく大切なことで、
ずっとずっとわかっているようでわかっていなかったことを気付かされて、
何度も彼女の言葉を心の中で反復したまま、動けないでいた。

それでも、聞こえてきたコツコツという音に顔を上げると、
さゆみんは黒い髪がふわりとなびかせて、楽屋へと戻る廊下を歩き始めていた。


「さゆみん!」

立ち上がって、彼女の背中に向かって頭を下げた。

「…ありがとっ……」

最後は、喉がつかえたように声にならなかったけど、
振り向いたさゆみんはにこりと笑って、あたしにピースサインを向けてくれた。
20 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:32

ぺたりとベンチに身体を預けてほうっと息を吐き出したら、
とたんに気が抜けたように、みるみるうちに視界が歪んでいった。

許されるのかな。
今、愛ちゃんにすべてをさらけ出すのって、本当に正しいことなのかな。

その気持ちは、さゆみんの話を聞いた今でも揺らいでる。
…だけど。


あたしなんか以上に不安なことがいっぱいのはずの愛ちゃんが、
ここ数日、弱気な姿をあたしに見せたことはなかったような気がする。
あたしは、自分を隠すことにいっぱいいっぱいになりすぎていて、
大切な人の心の変化に気づけていなかったことを、ひどく恥ずかしく思った。


でも、今ならまだ、間に合うのなら。

21 名前:[言えないキモチを涙にのせて] 投稿日:2011/09/22(木) 00:32

「…里沙ちゃん?」

久しぶりに聞く、二人きりの時だけの呼び名。
すべてを許された気分になれる、魔法の声。

「愛ちゃ…」

伸ばした手は一瞬で絡め取られて、もう片方の手が目元を撫でて涙をぬぐってくれる。
数え切れないほどに感じてきたこのぬくもりがやさしすぎて、
こらえきれずにしゃくり上げるようにして泣き出したあたしの身体を、
愛ちゃんは、何も言わずに強く抱きしめてくれた。


思い切って、伝えるから。
愛ちゃんも、あたしに伝えてほしい。

離ればなれになっても、愛ちゃんと一緒でありたいから。
いつまでも頼りたいし、頼ってほしいから。


―――愛ちゃん、あたしね、―――

22 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/22(木) 00:34

>>3-21
ガキさんをちゃんと泣かせてあげたくて書き始めたお話でした。

こんな感じで書いて行ければと思います。
以後どうぞよろしくです。
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/22(木) 22:21
ガキさん頑張って欲しいなぁ
愛ガキっていいなぁ
いつの間にかさゆがこういう役をできるようになったんだなぁ

作者さんこれからも楽しみにしてます
24 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2011/09/23(金) 19:58
狼からきますた
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/29(木) 01:31
>>23-24
レスどうもありがとうございます!
今後もがんばりますー!
26 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/29(木) 01:33

福井でのお話。
話がまとまりきってないんですがどうしても書きたくてもう勢い任せです。
歯切れの悪い文章で申し訳ない…
27 名前:[やくそくの夜空] 投稿日:2011/09/29(木) 01:35


愛ちゃんの、モーニング娘。として最後の凱旋ライブが終わった。
着替えも仕度も済んで、移動までの待ち時間。
愛ちゃんに誘われて、会場の外を歩いていた。

秋風が吹き抜けて、反射的に愛ちゃんの腕にしがみつく。
それでも、彼女は特に驚いた様子でもなくて、
身体を寄せ合うように腕を引き寄せてくれた。

触れ合って伝わるぬくもり。
どんなに寒くても、心細くても、苦しくても、
いつだって求めればすぐに手に入って、他のどんなモノよりも安心をくれたけど。


それも、あと少しで叶わなくなるんだなぁと思ったら、淋しかった。
28 名前:[やくそくの夜空] 投稿日:2011/09/29(木) 01:35

「福井、終わっちゃったなー」

あたしのそんな気持ちを知ってか知らずか、
愛ちゃんは思っていた以上にあっけらかんとした声を空に向けた。

ソロで歌った、「ふるさと」。
愛ちゃんの育った街で響いた歌。
涙にも負けないで歌いきった姿は、かっこよかった。

始まる前はすごく緊張してたくせに、いざ始まったら誰よりも輝いてて。

…ラストスパートを掛ける彼女の姿が眩しすぎて、苦しかった。
29 名前:[やくそくの夜空] 投稿日:2011/09/29(木) 01:35

「次、福井に来れるのっていつかなぁ」

ぽろっとこぼれてしまった言葉に、愛ちゃんはかなり大袈裟に振り返った。

「えぇ? いつだって来たらええやんか」
「うん、まぁ、そうなんだけどさぁ…」

意図がわかってるようで、わかってない。
それは愛ちゃんもだけど、むしろ自分も。

せっかく福井に来るんだったら、やっぱり隣には愛ちゃんがいてほしいけど。
でも、これから先、そんなにスケジュールが合うのかどうかわからない。

「愛ちゃんと一緒に来たいじゃん?」
「そんなん、いつか来れるやろぉ」

軽いノリで返事が返ってくる。

その様子に、あたしはちょっとムッとした。
30 名前:[やくそくの夜空] 投稿日:2011/09/29(木) 01:36

「…だって、今までみたいに一緒にいれないじゃん」

言ってしまってから、バカだなぁと思った。
そんなことどうにもなるわけじゃないのに。

たぶん、あたしがこんなに深く考えすぎてるだけのことで、
いざ現実はもしかすると意外と会えたりするのかもしれない。
愛ちゃんにはたぶん、そういう未来の方が見えているだけのことで、
それなら、そんな風に軽い感じなのも納得がいくんだけど。

…あたしの心は、どうやらそういう風には出来てないみたいで困った。

でも、愛ちゃん自身がそうやって明るい方を向こうとしてるんだから、
あたしがこうやってくよくよしてる場合じゃないんだし、
ちゃんと、頭の中を切り替えなきゃってひとつ息を吐き出したとき。

愛ちゃんはあたしの前に回り込んで、それから、じっと顔を覗き込んできた。
31 名前:[やくそくの夜空] 投稿日:2011/09/29(木) 01:36

「そりゃ、今みたいにいつも一緒とかは無理になっちゃうかもやけど…」

困ったように笑う。
その表情に、あたしは少しだけ思い違いをしていたことを知る。

愛ちゃんだって、淋しくないはずがなかった。
あたしと同じレベルで深刻に考えたこともあったかもしれない。
でも、そういうのを全部押し込めて、あくまで明るく振る舞ってくれていたのに。

「できれば、いつだってそばにいたい。
 それが難しいのはわかっとるけど」

愛ちゃんはあたしの右手を持ち上げると、小指にそっと唇を寄せた。

やっと見つけた、二人で気に入ったデザインのおそろいのリング。
あたしと愛ちゃんを、確かにつないでくれるカタチあるもの。

そこに落とされた、キス。

その行為に、仕草に、心も身体も、その場の空気さえ震えたように感じた。
32 名前:[やくそくの夜空] 投稿日:2011/09/29(木) 01:37

「ガキさんが困っとる時も、あたしがつらいって思う時も、
 たとえ会えなくても、ちゃんとどっかでつながってるんやから…」

体つきは二人してそう違わないのに、
愛ちゃんの腕の中は、いつも特別に大きくてあったかくて、そしてやさしいと思う。

ふわりと包み込まれて、そっと目を閉じた。

「ずっとそばにいるって、いつまでも一緒やって、
 ガキさんが不安になったら、何度でもこうして誓うから。
 …やから、信じてほしい。
 あたしは、ガキさんから離れたりなんかせん」
33 名前:[やくそくの夜空] 投稿日:2011/09/29(木) 01:37

あたしだって、離れたいだなんてこれっぽちだって思わない。
できるならば一秒たりとも離れたくなんかない。

だけど、そう願うことは愛ちゃんにとって足かせになってしまうから。
ひとつの枠を飛び越えて行く愛ちゃんを、あたしだって応援したいって思ってるから。

でも、重い重い足かせにだってなり得るわがままな気持ちだってもちろんある。

真っ正面から向き合ったら、泣いちゃいそうで。
だから、目を見ずに笑って背中を押してあげようって思ってるのに。


なのに。


他でもないあなた自身が、こうしてあたしの正面から入り込んでくる。
何の遠慮もなく、ずかずかと乗り込んでくる。

だけど、そういうのが彼女なりのやり方で、
ものすごく遠回しな、彼女なりのあたしへの思いやりだって知っているから。

大好きな愛ちゃんの体温は、あたしのそんな迷いを一気に溶かし始めた。
34 名前:[やくそくの夜空] 投稿日:2011/09/29(木) 01:38

「…あたし、愛ちゃんのそばに、ずっといていいの…?」

愛ちゃんの肩に自分の額を押しつけて、懸命に言葉を絞り出す。
背中に回された手が、より強くなった。
その力に、愛ちゃんの気持ちがこれでもかって伝わってくる。

「…ったり前や」

掠れた音が耳に届く。
言葉で裏付けられた想いが、確かなものになってあたしの中に落ちてきた。

「ガキさんがいてくれなきゃ、今のあたし、ここにおらん」

愛ちゃんの手があたしの頭を撫でて、それから髪に指を差し込まれる。

「…これからもそばにいてくれるって信じとるから、
 あたしは、一人で飛び立つ勇気出せるんやから」

隙間もないくらいに引き寄せられた腕の中で、
あたしは、ようやく、まっすぐな想いを胸の奥から引き上げることができた。
35 名前:[やくそくの夜空] 投稿日:2011/09/29(木) 01:38

「…ずっとずっとずーっと、一緒にいたいから…、」

あたしは愛ちゃんの左腕をトントンと叩いた。
身体に回した手を緩めて、不思議そうにあたしの顔を覗き込む愛ちゃんの左手に、
自分の右手をそっと重ね合わせて、それから、二人分の小指に口づけた。


「あたしも、絶対に離れないし、離さないって誓う」

おそろいのリングに、想いを込めて。


愛ちゃんは一瞬だけ驚いたように身体を震わせたあと、
嬉しそうに顔をほころばせながら、もう一度あたしを抱きしめてくれた。
36 名前:[やくそくの夜空] 投稿日:2011/09/29(木) 01:39

「なぁ、ガキさん、約束しよーや」

愛ちゃんが空を見上げるから、あたしも真似して天を仰いだ。
夜空いっぱいの星。
あたしの住む街じゃたぶんお目にかかれない、美しい空。

空気がきれい。景色がきれい。人々がやさしい。
いろんな理由はあるけど、なによりも愛ちゃんが育った街だから、あたしも、この街が大好き。

また、この場所を二人で訪れたい。
37 名前:[やくそくの夜空] 投稿日:2011/09/29(木) 01:39

「この先、あたしがどんなカタチで福井に来れるかわからんけどさ、
 ライブが出来るかもしれんし、写真集出せるかもしれんし、
 全然違う仕事かもしれんし、プライベートでかもしれん。
 いつかまた、あたしがこのふるさとに来た時には、ガキさんも一緒に来てさ…」

明るい色のエクステが風になびいて、あたしの顔をくすぐった。
その頬を撫でるようにして、愛ちゃんの両手が伸びてきて。


「もう一度、だけやなくて、こうして何度でも、さ」


とびっきりやさしい約束のキスは、あたしの心と身体をどこまでも満たしてくれた。


38 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/29(木) 01:40

>>27-37

ところで二人のピンキーリングはおそろい認定でいいんですよね?w
39 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/29(木) 13:36
いいと思います!w >おそろい

31のシーンすごく好きです
空気役になれそうなぐらい震えました
40 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/04(火) 19:27

>>39
ありがとうございまする! 空気役でぶるぶるしてくださいw


それでは、韓国旅行のネタで。もちろん愛ガキ。
41 名前:[きみのそばに、いつだって] 投稿日:2011/10/04(火) 19:28

わずかに揺れる機体が、弾丸旅行の身体に眠気を呼び寄せてくる。
韓国から日本へ。空の旅は意外とあっという間に終わるはず。
ほんのちょっとの時間だけでも寝ておくべきかどうか。
目を閉じてみると、瞬時に蘇ってくるこの二日間の記憶。

胸が高鳴って、眠るどころじゃなかった。

ふー、と息をつきながら視界を機内へと戻す。
隣から軽く肩がぶつかってきて、あたしはそちらを見やった。

ガキさんはすっかり夢の入口をふわふわ漂っているようで、
小さく首を上下に、身体を左右に揺らしていた。
その姿に、自分の頬や口元が緩むのがわかる。
42 名前:[きみのそばに、いつだって] 投稿日:2011/10/04(火) 19:29

 ―――ありがとう。

自然と口から感謝の言葉がこぼれた。
確かに、番組の企画として、ロケとしての韓国旅行だった。
だけど、「卒業までにガキさんと韓国旅行したい!」ってあたしの希望に、
いろんな人たちが協力してくれて、それで実現したこの旅。

行程は、彼女が考えてくれた。
あたしの好きなところをピンポイントで押さえてくれていた。
きっとわがままを言うだろうあたしの旅。
でも、突発的なわがままにだって少しは対応できる予定になっていた。
そんなところにも彼女の心遣いを感じる。
43 名前:[きみのそばに、いつだって] 投稿日:2011/10/04(火) 19:30

すごい豪華な部屋も用意してくれていた。
二人でいるにはもったいないくらいの大きな部屋。
その大きな部屋に二つある大きなベッド。
その一つは使わないできれいなままだなんて、贅沢なこともした。

二人で身体を寄せ合って、いろんな話をした。
昔の話も、今のことも、これからのことも。
未来のことなんて見えなくて、不安がありすぎる。
分かれて別々の道を進むなんて想像がつかなくて、怖くて、二人で泣き合った。

一つの布団の中で、泣き疲れて眠っちゃったガキさんは、
あたしの身体に抱きつくように手を回していて、
それがひどく幼く見えて、それ以上にひどく愛おしかった。
44 名前:[きみのそばに、いつだって] 投稿日:2011/10/04(火) 19:30

…だからなのかな。

好きでもないはずのお化け屋敷に入ることなんて選んで、
選んだくせに全然前も見ないで、震えながらあたしにしがみついたままで、
ずっとずっとあたしの名前を呼び続けていたこと。

 『愛ちゃん、愛ちゃん、
  離れないで、怖いから、愛ちゃん』

耳に残る、彼女の声。
甘さと切なさと淋しさをまとった声。

あたしだって、あんな怖いところに放り込まれたら極限状態だった。
普通だったら思いっきり逃げる。
一緒に入った人のことなんてお構いなしに、たぶん、逃げる。
45 名前:[きみのそばに、いつだって] 投稿日:2011/10/04(火) 19:30

でも、いつもはしっかり者の彼女が見せたあの様子。
めちゃくちゃ怖いのはおんなじで、でも彼女の方がきっともっと怖がってて、
そんなの見たら、絶対に守らなあかんって使命みたいなのすら感じた。

『離れないで』って言葉にいろんな意味を感じながら、
あたしは、彼女の手を強く強く握りしめた。

ずーっとずーっと、ガキさんは、
頼りないあたしを支えるようにしてくれてて、
あたしの手を引っ張るようにして導いてくれてて、
たくさんたくさんこっちから泣き言も言ったし、甘えさせてももらった。

彼女が、本当は甘えたがりの子供だなんて、10年前から知っていた。
いつしかしっかり者キャラになっちゃって、そうでなくても最年長になって、
そういう姿を見せる機会も自然と少なくなってきたけど。
46 名前:[きみのそばに、いつだって] 投稿日:2011/10/04(火) 19:31

だからこそ、あのお化け屋敷の中で見せた最大限の甘え。

 『愛ちゃん、愛ちゃん』

何度も呼ばれた名前。
記憶が声色をなぞるたびに、きゅっと胸の奥が熱くなる。

彼女は、他の誰のこともこんな呼び方をしない。
一つ一つの音に甘さを絡めて紡がれる名前。

その、あたしだけの特別が、いつもたまらなく嬉しい。
47 名前:[きみのそばに、いつだって] 投稿日:2011/10/04(火) 19:31

ひざに掛けていた毛布を隣にまで広げて、
密かに、彼女の手をその下で探り当てる。

手に触れると、眠たそうな目が不思議そうにあたしを捉えた。
無防備なその表情に、唇を寄せたいのをぐっとこらえる。

「おいで」

軽く手を引くと、意図を理解した彼女はふにゃりと微笑んでから、
コテン、と頭をあたしの肩に載せた。
わずかに頬をすり寄せられた感触。まもなく、規則正しい寝息。
48 名前:[きみのそばに、いつだって] 投稿日:2011/10/04(火) 19:32

愛しさが涙に変わって溢れてきて、あたしは慌てて目を閉じた。

「…離してなるもんか、離せんやろ、こんな…」

10年間、いつだって隣にいてくれた彼女。
あと少しで、あたしはここを離れて先へと進むことになるけど。
でも、築いてきたものが崩れるだなんて少しも思ったりしない。

ガキさんのこと、心ごと離さないから。
ガキさんも、あたしをいつまでも捕まえていて。
そしたら、あたしはあなたのことをずっと守るから。

―――離れていたって、いつだって。
49 名前:[きみのそばに、いつだって] 投稿日:2011/10/04(火) 19:32

毛布の下で、指を絡めた。
おそろいのリングが触れ合う。それは、あたしたちの心がつながってる印。

素敵な旅を、ありがとう。
想いを込めて、誰にもバレないように彼女の髪に口付けたら、
こらえていた涙も、その明るい色の髪へと吸い込まれていった。

―――着陸まで、あと一時間。
彼女の頭に自分のそれを預けて、あたしも、目を閉じた。
50 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/04(火) 19:33

>>41-49

韓国では二人っきりでいろんな話をしていてくれたらいいなぁと切に願うばかりです。
51 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/07(金) 22:00

武道館後の愛ガキ。
ガキさんブログを見てイメージしました。
52 名前:[BRAND-NEW MORNING。] 投稿日:2011/10/07(金) 22:00


すべてが終わって、二人だけでごはんを食べに行った。
スタッフさんとかもいたんだけど、あたしたちだけ個室に通してもらって、
そこで、どれだけ話しても尽きない話をたくさんした。

…ような、気がする。

正直、よく覚えてない。
お酒を飲んだ。といっても梅酒を一杯頼んだことまでしか記憶にない。

頭の奥がズキズキと痛む中、思い出せるのは、
あたしが何かを愛ちゃんに言い続けていたことと、
そんなあたしを見ている愛ちゃんのやさしい微笑みと、でも真っ赤な目と、
頬をなぞられた大好きな手のひらの感触と、
肩を抱いてくれた腕の中のあったかさと、

 『―――ずっと、見てるから。がんばってね』

という、愛ちゃんの声。
53 名前:[BRAND-NEW MORNING。] 投稿日:2011/10/07(金) 22:01


目を覚ましたら、どうやって連れてこられたのか、
あたしは愛ちゃんの家のベッドの中にいた。

起き上がろうとすると、ひどく怠い。
目眩をおぼえて身体をベッドに預け直すと、
その音に気付いたのか、近くの机に向かっていた愛ちゃんがこちらを見た。

「目ぇ、覚めたん?」

イスから立ち上がって近づいてくれた愛ちゃんが、
あたしの髪をくしゃりと乱すようにして頭を撫でてくれた。
それがひどく嬉しかったのに、どうしてか胸の奥が締め付けられるように痛くて、
一気に愛ちゃんの姿が涙の向こうに歪んでいった。
54 名前:[BRAND-NEW MORNING。] 投稿日:2011/10/07(金) 22:02

「あーあー、これ以上泣いたら目ぇ腫れてるの引かんよ?」

ぎゅっと閉じたらこぼれたしずくに、愛ちゃんは口付けてくれた。
そのまま、熱くて重くていうことを聞かないまぶたにも。

愛ちゃんは、わかってない。
そうすることであたしの涙は止まるどころか溢れるばかりなのに。
でも。
やめないでほしかった。永遠にそうしていてほしかった。
やっぱり、この人は何もかもわかってるのかもしれないと思った。

やっとのことで見つめ返せた愛ちゃんの目は、
たぶん、人のこと言えないくらいに腫れ上がっていて、
あたしも、熱を持ったその目元にそっと指を滑らせた。

「…涙、止まらんよなぁ、なかなか」

同じ想いなんだと思う。
思い出の一瞬に意識が飛んでいくたび、目頭が熱くなる。
55 名前:[BRAND-NEW MORNING。] 投稿日:2011/10/07(金) 22:02

身体を起こしたくて、手を伸ばした。
しょうがないなぁって顔で、背中を支えてくれる。
また目眩がして世界がぐらりと揺れた。思わず目を閉じる。
そのまま、愛ちゃんの身体に抱きついたら、ぽすぽすと軽く背中を叩かれた。

「あたし、どんだけ飲んでた?」
「んー、せいぜい二杯くらいじゃん?」
「てか、全然記憶ないの」
「そやろなぁ、あっちゅー間にテーブル突っ伏しとったし」

ふふふ。
小さな笑い声に身体が揺れる。
なんだか恥ずかしくて、背中に回した腕を強めた。

「大変やったんやよ? なかなか起きてくれんし、ここ連れてくんの」
「うえぇ、ゴメン…」
「ま、疲れとったんやろ? しょーがないよ。
 まだ夜も明けとらんし、朝方に帰ればだいじょぶやろ」

家に帰るとか帰らないとか、どうもあたしはそういう状態でもなかったらしい。
午後からは仕事が入ってる。その前に、自宅には戻らなきゃいけない。
でも、まだ夜中だというのなら安心した。
56 名前:[BRAND-NEW MORNING。] 投稿日:2011/10/07(金) 22:03

「愛ちゃんは、寝てないの?」
「んー、なんかいろいろ思い出しとったら眠れんでなぁ…」

ちらりと机を見たら、愛ちゃんが広げているパソコンの画面には、
黄色でキレイに染まったアンコールの時の写真。

それを見て、あのライブが夢じゃなかったことを思い知らされて、
もう、愛ちゃんがモーニング娘。じゃないんだなってことも思い知らされる。

「…あいちゃん」
「んー?」

思わず名前を呼んでいた。
不思議そうに問い返す声がやさしい。

「なんでもない」
「なんやそれ」

だって、名前をたくさん呼んでいたい。
この名前を口にする機会が少なくなるなら、出来る限りは声にしたい。

口では呆れたようにしてるけど、愛ちゃんはちょっと笑ったようだった。

「そういやさ」
「うん?」

背中を静かに撫でられてふっと息をつくと、
愛ちゃんは何かを思い出したように声を上げた。
57 名前:[BRAND-NEW MORNING。] 投稿日:2011/10/07(金) 22:03

「里沙ちゃん、ずーっとずーっとあたしの名前呼んでんの。
 『愛ちゃん、愛ちゃん』て。
 居酒屋で半分寝とる時も、さっきまでここで寝とった時も。
 そんだけ里沙ちゃんの心の中にいるんやなぁって思ったら、すげぇ嬉しかった」

顔が一気にカッと熱くなって思わず身体を離そうとしたけど、
痛む頭と、それ以上に強くされた愛ちゃんの腕の力で叶わなかった。

「…あたし、愛されとるなぁって」

あいちゃん。
音にしてみたその名前に、愛おしさがこみ上げる。

「…あったりまえじゃん。
 どれだけ愛ちゃんのこと、想ってるか知ってる?」
「たぶん、あたしの予想以上かもしれんな」

さらりと答えた愛ちゃんは身体を少し離して、
額をあたしのそれにコツンと合わせて、それから、鼻先まで触れ合わせた。

ギリギリの距離で見つめ合う。
伏せられた睫毛が、小さく揺れていた。

「…そんで、たぶん、里沙ちゃんの予想以上に、あたしも里沙ちゃんが好き」
58 名前:[BRAND-NEW MORNING。] 投稿日:2011/10/07(金) 22:03

へへ。

愛ちゃんは笑いながら、静かにあたしの唇をふさいだ。
すごく深くて熱いキスなのに、どこまでもやさしかった。
長い年月を掛けて築いた、ただの友情をとうに超えた愛を感じて、
愛ちゃんのシャツを握りしめながら、そのキスに必死に想いを返した。

「…まださ、あたしら、お互い知らんこといっぱいあるし」

ちゅ、と頬に触れられて、また強く腕の中に抱き込まれて。
吐き出された熱い吐息があたしの耳をくすぐる。

「そういうの、いっぱい知りたい。
 里沙ちゃんがあたしをどんだけ好きなのか、いつだって教えてほしい。
 あたしもどんだけ里沙ちゃんを想ってるのか、いっぱい伝えたい」

 ―――だから、いつまでも一緒や。
59 名前:[BRAND-NEW MORNING。] 投稿日:2011/10/07(金) 22:04

…あぁ、この人は。
今までの居場所を一人で飛び出しても、その傍らをあたしのために空けてくれるんだ。

愛ちゃんが、卒業してしまったってことは事実なんだけど、
頭でわかっているつもりでも、どうしても認めたくなかった。
怖くて淋しくて苦しくて、明日なんて来なければいいって思ってた。

でも。
愛ちゃんが、そう言ってくれるのなら。

「ずーっと、見てるから。
 里沙ちゃんらしく歩き出したらええ」

朧気な記憶と重なる言葉。
曖昧なものがカタチになって、あたしに勇気をくれる。
あたしに、これ以上ない力をくれる。
60 名前:[BRAND-NEW MORNING。] 投稿日:2011/10/07(金) 22:04

「ね、愛ちゃん」

呼び慣れた名前を呼ぶ。
そっと身体を離す。その距離は腕の長さ分くらい。
それから、彼女の目をまっすぐに見つめた。

「モーニング娘。、それからリーダー、おつかれさま」

愛ちゃんは一度、突然のあたしの言葉に驚いたように目を見開いた。
たぶん、あたしが何を言おうとしているのか彼女には伝わっている。
彼女の表情がみるみるうちに歪んでいった。

でも、そんな顔はしないでほしい。
遅いかもしれない。遅いかもしれないけど、今こそあたしは決意できた。
誓う声が震えないように。愛ちゃんに、まっすぐに届くように。

だから、あたしは笑った。
61 名前:[BRAND-NEW MORNING。] 投稿日:2011/10/07(金) 22:05

「今日から、あたしがモーニング娘。のリーダー、引き継ぎます。
 愛ちゃんが愛したこのグループを、精一杯引っ張っていくから…」

手のひらを差し出した。
その意図も、愛ちゃんはすぐに酌み取ってくれた。

ぱしっ。

乾いた音を響かせて叩かれたあたしの手。

「託したよ、娘。」

愛ちゃんのいつもの力強い眼差しがあたしの瞳の中を覗いている。
見えないバトンを確かにこの手に受け取った。
カタチじゃない、でも確かに年月を掛けて築き上げられた重いバトン。

そのバトンごと、愛ちゃんの手を強く握りしめた。

「あたしも、がんばる」

そう言って彼女は同じだけ強い力を返してきた。
涙で濡れていたけど、その笑顔は晴れ晴れとしていた。
62 名前:[BRAND-NEW MORNING。] 投稿日:2011/10/07(金) 22:05

見つめ合ったら愛ちゃんの目があまりにも真っ赤で、つい吹き出した。

「なんで笑うんやぁ」
「だって愛ちゃん、目、真っ赤」
「そんなん里沙ちゃんもやし」
「あーどうしよ、あたし、午後から仕事なんだけどなぁ」
「新リーダー、初仕事やな」

言われて、改めて背筋が伸びる思いだった。
新しい一歩を踏み出す。メンバー全員でじゃないけど、確かに今までと違う一歩。

「見ててね、ずっと」
「おう」
「あたし、がんばるから。愛ちゃんも突き進んでね」
「里沙ちゃんやモーニングに負けんように、突っ走るよ」
63 名前:[BRAND-NEW MORNING。] 投稿日:2011/10/07(金) 22:05

前へ進もう。

愛ちゃんと過ごした時間を力に換えて。

大丈夫。あたしには、たくさんの仲間がいる。
いつだって、この愛しい人がそばにいてくれる。

今までとは違った道も、勇気を出して踏みしめていこう。

その先に、明るい未来が待ってるから。
64 名前:[BRAND-NEW MORNING。] 投稿日:2011/10/07(金) 22:06




―――あたしの新しい“朝”が、今、始まった。


65 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/07(金) 22:08

>>52-64

ブログの画像は二人とも目が腫れてたから、けっこう泣いてたんだろうなぁ。

それではそれでは。
66 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/09(日) 19:18
卒紺は号泣でしたね
愛ちゃんカッケー
ガキさんがんばれ
67 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:05
>>66
二人の号泣、抱擁、ものすごく美しいものでした。



タイトルはまんまネタバレちっくなので締めレスにて。
アンリアルのようなそうでもないような。
68 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:05

「ここから先は我が国の領土なるぞ、名を名乗れ」

目の前に現れた騎士とおぼしき人影に問う。
小柄ではあるが、ところどころを黄色に縁取られた鎧の下からは、
鍛え抜いたであろう筋肉と、並々ならぬ覇気を感じる。

「…ハイブリッジ国騎士団長、アイ。お前は」
「ニューフェンス王国の近衛兵団長、リサだ」
「ほう、団長同士か」
「そのようだな」

女か。

返ってきた声とその名前から確信する。

とはいえ、一国の騎士団長という肩書きとそのオーラ。
油断できる相手ではないことも間違いない。

相手との距離はまだ十数メートルはある。
それなのに射抜くように睨み付けてくる視線の強さ。
余裕を持ってただ立っているように見せて、いつでも剣を抜ける構え。

ヤツは、強い。
戦いの勘が私に警告している。
69 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:06

「して、我が王国に何の用だ」

アイ、と名乗った騎士に問いかける。
表情一つ変えずに彼女は静かに答えた。

「貴様に教えるほどのことでもない」

気に入らない。
この見下した様子が特に気に入らない。
まして侵入しようとしているのは相手だ。
こちらは正当な手続きを経ようとしているまでのこと。

私が導き出した答えは、彼女を「危険因子」とすることだった。

ならば。

「国王のお許しのない者の理由なき入国は認められぬ。
 お引き取り願おう。さもなくば…」

腰に構えた長剣に手を掛けて引き抜いた。

「私を倒してから進め」
70 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:06

剣と鞘の触れ合う金属音が空気に吸い込まれる。
同じく、相手も同じようにして鞘から細身の剣を抜いていた。

鞘を投げ捨てる。
相手もまた同じ。

柄を両手で握りしめ、肩のやや上で構える。
相手は右手で持った剣を前に突き出すように構えた。

動くか。
待つか。

距離だけはじりじりと詰められていく。
わずかに、少しずつ。
気の遠くなるような睨み合い。緊迫感。

一陣の風が二人の間を吹き抜けた。
木の葉のざわめく音。

それが合図だった。
71 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:07

強烈な金属のぶつかり合う音に、木々に止まっていた小鳥たちが逃げ飛んだ。
斬りかかり斬りかかられ、受け止め合った剣の刃どうしがガチガチと鳴る。

一気に間合いはゼロになった。
想像以上の圧力に腕が悲鳴を上げる。
それを歯を食いしばってこらえる。

相手の表情を窺う。
おそらく、彼女もまた同じ状態のようだった。
剣と剣が交わった向こう側で、彼女はこちらを睨み続けている。

根比べ。

均衡は崩れない。

―――間合いが欲しい。

動いてしまったのは、私だった。

彼女の剣を跳ね上げようとしたが、彼女は強引に力で抑え込みにかかってきた。
私は、その圧力に足元を滑らせる。
崩れる体勢。相手の剣の切っ先が私の髪をなぎ払う。

空を舞うひとつかみの髪に目を奪われた。

慌てて視界を正面に据えた時。
72 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:07



剣先が、私の目の前にあった。



73 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:07



「―――きゃぁっ!」
「……っうえええええええ!?」



74 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:08

どさっ。

思わず悲鳴を上げた私の身体は地面にそのまま崩れた。
とっさに顔を覆う。が、覚悟していた痛みはない。

おそるおそる指の間から相手を見やると、
突き出そうとした剣をぴたりと止めて、
なぜか目をまん丸に見開いて私を見下ろしている。

…何をそんなに驚くことがあるだろうか。

「なっ、どうした。斬らないのか。
 完全に私は死に体だ、主導権はお前にあるじゃないか」
「いや、だって」

彼女は、持っていた剣を無造作に地面に突き立てた。

「あんた、女だったん?」
「はぁ?」

…今さら、こいつは何を言い出すのか。

「声と、名前でわからないか…?
 そりゃあ声は少し低めかもしれないけどっ…」
「やって、鎧の胸元がまったいr」
「今なんて言った」
「…いや、なんでもない」

…なんてことを言うのだ。侮辱するのか。
バカにされている。だが今の私には即座には反抗する術がない。
けれど、逆に彼女はスキだらけでもあった。
75 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:08

「…もう一度聞くが、なぜ、私を殺さない?
 お前は剣を手放している。
 今、私はこの体勢だが、剣は手元にあるぞ。逆にやり返すことは出来る」

体勢は明らかに私の方が悪い。
しかしやり方によってはいくらでも逆転できる状態にあるのも間違いない。

利き手ではないとはいえ、左手に剣はある。
その柄をもう一度握り直そうとした時、相手はとんでもないことを言ってきた。

「…やって、あんな悲鳴聞かされたら、剣振るう気なくなるってぇ」
「……はぁ?」

先ほどまでとは打って変わったのんきな声に、いささか拍子抜けする。
落ち着いて聞いてみれば、この人とんでもなく訛ってるじゃないか。

「あたしは、別に攻め込もうとか誰か殺そうとかそんなんで来たわけやないし」

彼女はそう言いながら、倒れている私の手を取った。
思わず身を固くする。
けれど、そのまま手を引かれて、身体を引き起こされただけだった。
76 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:09

「この国に、すっげぇキレイな海があるって聞いてて」

彼女は地面に刺した自分の剣からわざわざ離れて、私の隣へと腰掛けてきた。
それを見て、私もさすがに警戒を解く。
同じように、長剣を地面に突き刺した。
柄に埋め込まれた黄緑色の宝石が、太陽にキラリと輝く。

「あたしの国にも海はある。崖から広がる絶景や。
 でも、この王国ならキレイな海と都会の街並みが一度に見れるって聞いてた。
 …やから、あたしもそれを見てみたくてこうして来てみた。
 もちろんこのご時世、国同士の交流もないし、もしかしたらくらいの気持ちで。
 そしたら、あんたが国境にいた」

横目でその表情を窺っていたら、急に振り向かれて心臓が跳ねた。
なびく金色の短い髪。大きな目。無邪気に笑った口元。

目が、釘付けになった。

全身が一気に熱くなって、慌てて顔を背けた。
77 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:09

「国境の近くまで来るだけで良かったんやよ。ホントは。
 でもそこまで来たらあんたがいた。
 一目で、デキる相手やって思った。手合わせしてみたくなった。
 初めの目的、興奮してどっか飛んでっちゃったけどなぁ。
 楽しかったよ。まさか女やって思わんかったけど」
「それは…っ」
「…あの悲鳴聞かされんかったらホントに目的思い出せんとこやった。
 変な話、感謝してる。無駄な血なんて流したくなかった」

一方的に話されて、私はただ聞かされてるばっかりで、
なにをどう返事したらいいのかわからないままだった。

ただ、彼女と数センチの距離しか離れていない私の身体は、
どんどん熱を持つばかりで、まったく冷めていく様子もなかった。

相手の顔が見れない。
人の話は相手の目を見て聞けと小さい頃から教わってきたこの私が、だ。

生きていて初めて感じるこの感情の名前が、私には見つからない。
78 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:09

「いいところやね、ニューフェンス」

彼女は立ち上がった。
その姿を慌てて目で追いかける。
立ち姿越しに太陽が見えて、思わず目を細めた。

…まるで、それは光を浴びた聖騎士のようで。

「いつか平和な世界になったら、今度こそ観光で来たいな。
 そんで、その時には…」

躊躇なく、差し出された手を握り返した。
思った以上に大きな手。そして、あったかい。

「また、キミに会えたらいいなぁ」
79 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:10

信じられないくらいに穏やかな微笑みを私に向けてから、
彼女は自分の剣を地面から引き抜き、元来た道へ戻ろうとしていた。

「あっ、…ねぇ! ちょっと!」

その背中へ思わず叫んでいた。
不思議そうに振り向いた彼女に、私もまた困惑していた。

なぜ呼び止めたのか、自分にもよくわからなかったから。

言いようのない心のざわめきがうるさい。
その音に、私の思考は冷静でいられなくなる。
黙って私の言葉を待つ彼女。
彼女が何をしているわけでもないのに、追い詰められたような気持ちになった。

胸に手を当てる。
その時鳴った金属音に、ふと思いつく。

「…これ」

私は胸元に下げた首飾りから、二つあったリングの一つを引き抜いた。

「あなたにあげる」

彼女の手の中に、ポトリと落とした。
80 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:10

「…どうして?」

理由を聞かれた。
聞かれたって、私の衝動的な行動なのだからすぐに説明できるはずもない。

わからない。
わからないけど、こうする必要があると本能が命じたからだ。

「…でも、ありがと。
 大切にする。今日キミと会ったこと、一生忘れん」

うつむいて黙ったままの私の頭を、彼女はぐしゃぐしゃと撫でた。
そういえば、彼女は年上なのだろうか。
そうは思えない無邪気なところばかりだけど、
初めに見せたような覇気も、私に微笑みかけるその顔も、
間違いなく私よりも年上だと感じさせるのに十分だった。
81 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:11

「根拠はないんやけどさぁ」

ふわりとあたたかいものに包まれた。
それが彼女の腕の中だとわかるまでには、数秒ほど必要だった。

「キミとはまた、いつか絶対に会える気がしてる」

その言葉は、耳元でやさしくやさしく囁かれた。
肌で感じる彼女の熱とその声に、身体が震えそうになるのを必死でこらえる。
胸の奥が痛い。目の奥が熱い。
目をきつく閉じてやり過ごそうと、耐えていた。

「…その時は」
「ん?」

声が掠れた。
こんなの、生まれて初めてだ。

「…ハイブリッジにも、遊びに行くから」

顔を上げて、声を振り絞ってそう伝えたら、
―――それはおそらく、彼女の国の挨拶のひとつなのだろうけど―――、
彼女は私に口づけて、そして私の濡れた目元を撫でてからもう一度微笑んだ。

「リサちゃん、出会えて良かった」
82 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:11



どれだけ時間が経っただろう。

彼女の背中はもうとっくに見えなくなっていた。
けれど私は彼女の去った方角を見つめたまま、動けないでいた。

どうして涙が流れ続けるのだろう。
どうしてこんなにも胸が痛いのだろう。

私の名前を呼んだ彼女の声が耳から離れない。
触れ合った唇の熱が、ずっと引きそうにない。

高かった太陽が沈んだ頃、私はようやく答えに気がついた。

「…恋、したんだ…」

アイという、女性に。
83 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:12

初めて誰かに恋をした。
どこの誰ともわからなかった人に。
国交もない、他国の騎士団長という立場の人に。
剣を交え、殺されるかもしれなかったような相手に。

なのに。

あの無邪気な笑顔が。
あの大きな瞳が。
あのあったかい腕の中が。

私を呼んだあの声が。

最後の、口づけが。

何もかも、忘れられそうにない。
84 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:12


その後の生涯の中で、彼女と再会することは出来なかった。

戦乱はよりいっそう混迷して、終わりなき戦いが続いていた。
彼女は、その中で命を落としたのだと風の噂で聞いた。

両手を組んで空を仰いで、神様のいたずらを恨んだ。

「…アイ、ちゃん」

その日、初めて彼女の名前を口にした。
じわりと広がるその名前の響きの甘さと切なさ。

窓からハイブリッジの方角を眺めた。でも、ぼやけてよく見えなかった。


彼女の左の小指に私が贈ったリングがあったということまでは、
当時の私には伝わってくるはずもなかった。


その私の右の小指には、首飾りに残していたもう一つのリングがはめられていた。
彼女のことを、いつでも感じることが出来るようにと。

一生、どんな時も、外すことはなかった。


85 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:12



 * * * * *



86 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:13


「ねー! ちょっと愛ちゃん! これ!」
「あー! これええやん! 着けてみよーや!」

ファンクラブツアー、それからアロハロのために来ていたハワイのとあるお店で、
今度こそ同じものを買おうって決めて、ピンキーリングを探していた。

数年前はお互いの趣味が合わなくて、同じところで買うだけって妥協したけど、
愛ちゃんの卒業を控えた今は、もう絶対に妥協できないポイントだった。

でも、二人とも大人になったんだと思う。
選ぶものも、お互いに合うものもよくわかってきた気がする。

あたしが一目惚れしたピンキーリングは、愛ちゃんにも気に入ってもらえたみたいだった。
87 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:13

「早く早くぅ」
「ちょっと、落ち着いてよ」

ホテルの部屋に戻ったら、早速包みを開いてみる。
愛ちゃんはそんなあたしの手元を覗き込んでくる。
わくわくしてキラキラしてる愛ちゃん。
あたしだって冷静でいるようでいて、すごくドキドキしてた。

合わせて買ったんだからサイズが合わないはずもないし、
デザインが今さら気に食わないってことだってあるはずもなかった。

だけど、いざ本当に身につけようとすると、心が震えて仕方ない。

ようやくケースから取り出した愛ちゃん用のリング。
部屋の照明が反射して、キラリと光った。
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:14

「はい、どっちに着けたい?」
「んー、右かなぁ。利き手にあるとなんか落ち着くかも」

右手を差し出した。
愛ちゃんはあたしの手を取って、小指にそっとリングを通してくれる。

「右手のピンキーリングってな、幸せが入ってきますようにって意味あるんやって」
「へぇ〜」
「でな、左は、その幸せを逃さんようにって意味なんやって」

言いながら愛ちゃんは左手をあたしに向ける。
その小指に、あたしも同じようにリングを通す。手が、少し震えた。

「…やから、これで二人手ぇ繋いだら、
 ずっとずーっと幸せでいっぱいやぁ」

“幸せでいっぱいになる”。
なんて素敵なんだろう。
あたしは愛ちゃんの手を握った。
それに笑顔で応えて握り返してくれる。こんな小さなこともすごく幸せ。
89 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:14

ソファーに肩を寄せ合って座って、お互いの小指に通されたピンキーリングを眺める。
もう、どうしようもなくあったかい気持ちでいっぱいになった。

いつまでも一緒だっていうカタチを手に入れたみたいで。
いつでもこの小指を見れば、愛ちゃんを感じることができるみたいで。

「…嬉しい…」

自然と想いがこぼれた。
愛ちゃんがあたしの髪をクシャクシャっと撫でて、それから抱きしめてくれる。

「やっとやなぁ、やっと出会えて嬉しい」
「えっ?」

思わず聞き返した。

「ん? あたしなんか変なこと言ったか?」
「なんか、出会えたとか言うから」
「あぁ、ほらこーやってお気に入りに出会えたなぁって」
90 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:14

そっか。
そうだよね。普通にそういうことだよね。

あたし自身も、別に何の変哲もない会話に感じた何かに戸惑っていた。
愛ちゃんの背中に回した腕を、ぎゅーっと強める。
そんなあたしの様子に、愛ちゃんは笑う。

「…どしたぁ、甘えたさんやん」
「だって、嬉しいんだもん…」

そう言ったら急に胸の奥がきゅんと締め付けられて、
すり寄るようにして愛ちゃんの肩に額を押しつけた。

小さく深呼吸。
でも、吐き出した息がもう震えていた。

「…愛ちゃん」
「うん?」

そんなあたしのことにも気付いていると思う。
あたしを甘やかしてくれるような愛ちゃんのやさしい声。
91 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:15

どうしてだろう。
次々に湧いてくるのはすごく真新しいような純粋な気持ち。
でも、あたしがずっと育てて持ち続けているこの愛しい気持ちも、
変わらないくらいに湧き出て溢れ出そうとしてる。

「あたしね、愛ちゃんに出会えてよかったよ。
 愛ちゃんを好きになって、愛ちゃんに恋して、
 こうして一緒にいられること、ホントに嬉しいの。
 だから…」

あたしの言葉はこらえきれない涙に消えていった。
伝えたいことが声にならなくてもどかしい。
そんなあたしの背中を、愛ちゃんの手はやさしく撫でてくれていた。

「…いつまでも、いっしょ、だよ」

途切れ途切れだったけど。
振り絞った声を愛ちゃんの耳に吹き込んだ。

今まで以上に強められた愛ちゃんの腕の中。
この安らぎは、どこから来るんだろう。
もしかしたら、あたしの知らないくらいに深い記憶の奥底の中にあるんじゃないかってくらい、
あたしはこのぬくもりが大好きで、落ち着けて、他の何にも替えられないもの。

「そや、ずーっと、いっしょや」

愛ちゃんの声も、震えてた。
92 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:15

少し身体を離して今度は額を合わせて、鼻先と鼻先が触れ合う近さで見つめ合う。
重ね合わせた手の、ピンキーリングが触れ合った。

「里沙ちゃん、…好き」
「あたしも好き、愛ちゃん」

キスを交わす。想いを交わす。それは。



───時空を越えた、永遠の誓い。



93 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 23:16

>>68-92
[リボーン 〜Another Story〜]

愛サファイアとガキジャンヌが戦ったらかっこよさそうじゃね?
って思って書いた話がああなってそうなってこうなりました。どうしてこうなった。
94 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/23(日) 20:17
愛サファイアとガキジャンヌいいですね
幸せだけど凄く切ない
95 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/03(木) 10:14
>>94
だからこそ現世ではベタベタラブラブだったりして。


と言いつつ、ブログで先行公開してましたが、
上の作品の別視点版も書いてあったりするのでそちらを投下します。
96 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:15

青い海のそばに広がる都会の風景に憧れてやってきたニューフェンス王国。
その国境に、彼女は立っていた。

小さな身体からは信じられないくらいの気迫に、
剣の腕もかなりあるということは一目でわかって、
あたしは、一国の騎士団長という立場でありながら、
彼女の挑発に乗って剣を交えてみようと思った。


…あたしの悪いクセは、いざ熱中してしまうと何もかも忘れること。

力で押さえ込んで、バランスを崩した相手にとどめを刺そうと思った時に、
彼女から発せられた甲高い悲鳴。


それで、はっと我に返った。

申し訳ないとは思うけど、それでようやく彼女が『彼女』だと気付いた。
性別とかまったく気にもせず、ただ手を合わせてみたかっただけだったのだ。
97 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:15

あたしはこの国へ来たいきさつを話した。
彼女の隣に腰掛け、夢にまで見たこの風景を目に焼き付けながら。

さっきまでの威勢を忘れたかのように押し黙った彼女の顔を見たら、
目が合ったとたんに慌てたような顔をして、あたしから顔を背けてしまった。

憎しみから視線を交えないことはよくある。
でも、彼女のはそうじゃないことは一瞬でわかった。
あたしの剣も、彼女の剣も、自分の手から離れている。
お互いに無防備だった。だから、彼女は逃げようと思えばいくらでも逃げられる。


その精悍な表情の下から覗いた、わずかに赤く染まった頬。

それが何を意味しているのか、あたしにはわかってしまった。
―――おそらく、いつの間にかあたしも同じ気持ちになっていたからだ。
98 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:16

だけど、あたしの想い以上に、彼女からはもっと特別なものを感じた。
出会ったのは今日が初めて。
名前だってさっき初めて聞いた。
なのに、警戒の解けた彼女と目を合わせた瞬間、身体の芯を何かが駆け抜けた。

そんな衝撃。

これが、運命ってヤツなんかな。
あたしがこの街を一目でも見たいと願っていたのは、
もしかしたら、彼女と出会う運命に導かれてだったのかもしれない。

運命なら、いつかまた、きっと会えるって信じてええんかな。


彼女は別れる間際、首飾りにあった二つのリングのうちの一つをあたしにくれた。
とっさにそうしたらしくて、自分自身の行動に戸惑っている様子だったけれど、
でも、彼女とあたしを何かで繋ぎ止めようとしてくれる、その想いがあたしには純粋に嬉しかった。
99 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:16

「根拠はないんやけどさぁ、
 キミとはまた、いつか絶対に会える気がしてる」

あたしとたいして変わらない、小さな身体を思わず抱きしめた。
触れ合った肌から伝わる熱を記憶のすべてに刻みつけるようにして。

最初は強ばっていた身体から力が抜けて、
この腕に委ねるようにわずかにもたれ掛かった彼女を、
あたしは、ただただ愛しいと、そう感じた。

「…その時は」
「ん?」
「…ハイブリッジにも、遊びに行くから」

目に涙を浮かべて、掠れた声であたしに告げる彼女。
別れるのが惜しいって、強く思った。
左手の中にある、彼女から受け取ったリングを強く握りしめた。
100 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:17

彼女はあたしにリングをくれた。
あたしも、彼女に残る何かを贈りたい。

渡せるようなモノは何もないけれど。

せめて、このあたしを、いつまでも覚えていて。

彼女の目が伏せられるのを見届けてから、そっと唇を寄せた。
零れて頬を伝おうとする涙を指で拭いながら。



「リサちゃん、出会えて良かった」



101 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:17

あたしはそれだけ言って、彼女にくるりと背中を向けて歩き出した。
彼女が身動き一つせずにあたしを見ているのは、空気で感じていた。

まっすぐに伝わってくる彼女の気持ちが嬉しい。
だけど、もう振り返ることなんて出来ない。

初めて声にした彼女の名前があまりにも愛しかった。
胸が痛くて、苦しくて、涙が溢れて止まらないけれど、
こんな顔は彼女に見せたくなかった。

忘れてほしくない。
だけど、忘れられないのはきっとあたしの方だった。
102 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:18

夕陽に空の色が染まる頃、来た道を初めて振り返った。
ニューフェンスは、もう遠く彼方になってしまった。
ひとつ大きく息を吐き出したら身体が震えて止まらなかった。

握りしめたままのリングを、左手の小指にそっと通した。
まるであたしのために作られたんじゃないかってくらい、
大きさもデザインも、何もかもがぴったりだった。

「…会える、会えるよな、必ず…」

左手を胸に抱いて、地面に崩れ落ちた。
あたしは、声を上げて泣きじゃくった。こんなの、初めてだ。

彼女の顔が、声が、感じた熱が次々に蘇ってくる。
恋しくて愛しくて、今すぐにでも彼女の前に戻りたいと思う。

けれど、それは叶わぬ願い。

一国の騎士団長として、明日もまた続く戦いにこそ戻らねばならない。


空を見上げて、神に祈った。


「―――どうか、守りたまえ、―――」


彼女の、幸せを。


103 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:18



視界が真っ赤に染まった。
傾いていく身体がそのまま地面へと打ち付けられた。

「ぅあっ…」

トドメとばかりに肩口を斬られ、手にした剣を取り落としそうになる。

「行か…せ、るかっ…」

わずかに残った力で柄を握りしめ、相手の胸へと突き刺す。
確かな手応え。地に伏した相手の最後の敵将。

「…勝った、か、な…」

身体を支えていた力が抜けて、地面に仰向けに倒れ込んだ。
全身がひどく痛む。遠のきそうな意識を、必死にたぐり寄せた。

国王のいる城は守った。
この戦いは、もう、これで終わるだろう。


だけど、あたしももう、限界だった。
104 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:18

戦火に燃え上がった空は黒く染まっていた。
…いや、本当は、あたしの目がもう見えなくなっていた。

代わりに、頭の中をぐるぐると思い出が駆け巡る。
あぁ、これが走馬燈というヤツか。
あたしはもう死ぬんだと、妙に冷静に気付いていた。


それなのに。


映し出されたいろんな記憶が、一つの人影でぴたりと止まった。

「…リ、サ…、ちゃ…」

たった一度だけの出会いだったのに。
あれから数年が経った今でも、あたしの心に刻み込まれた彼女のこと。
105 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:19



今、会いたいと、強く願った。


そして、もう会えないのだと、強く思い知らされた。



106 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:19

ほとんど動けない身体だけど、何かに導かれるようにして両手を空に伸ばした。
幻想だとわかっていても、目の前にいる彼女に触れたかった。

指先は空を切る。
だけど、最期に彼女の姿を見れただけでも幸せだった。

最後の、本当に最後の力を振り絞って、左の小指を唇に寄せる。
触れたリングが、じわりとあたたかく感じた。
107 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:19


『アイちゃん』


聞いたことのないはずの、彼女があたしを呼ぶその声。

それは、あまりにも甘く、あたしの頭に響いた。


涙がひとつ、こぼれた。


「―――きっと、また、会おう、な―――」



薄れる意識の中、それだけを強く願って、目を閉じた。


108 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:20



神様は、きっとあたしたちをまた出会わせてくれる。



いつか訪れる未来でも、あのリングが二人を繋ぎ止めてくれるから―――



109 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:20



…and >>85-92

110 名前:[リボーン 〜Another Story side:Ai〜] 投稿日:2011/11/03(木) 10:21
>>96-109

前世からの運命で繋がってる二人だったらいいなぁ、という妄想全開のお話。
何か終盤改行しすぎた。ごめんなさい。
111 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/03(木) 18:54
切ないっすね
現世でのいちゃこらぶりがよかったですw
112 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/12(土) 00:12

>>111
ありがとうございます
前世ちょっとかわいそうなのでその分現世でいちゃいちゃと…w


突然季節が冬に近づいたような寒さでしたね。
ちょっぴりセンチメンタルガキさんのお話をひとつ。
113 名前:[雨模様、焦がれ模様] 投稿日:2011/11/12(土) 00:12

「さむっ…」

こないだまで暑いって思ってたのに、あの天気はどこに行ったんだろう。
予報を見ても寒そうなコメントばっかり聞こえてくるし。
秋らしくなってきたといえば、そういうことなんだけど。

でも、寒いのってちょっぴり淋しくなるから。
好きじゃない。
愛ちゃんが卒業しちゃってからは、余計に。


雨降りの寒空、傘を差しながら歩く帰り道。
マフラーに鼻先まで埋めてからほうっと息をつく。

114 名前:[雨模様、焦がれ模様] 投稿日:2011/11/12(土) 00:13

今までは仕事に行けばほぼ毎日会えてたのにな。

その時とは違うんだなぁってつくづく思わされてる。
あたしも、愛ちゃんも、舞台の稽古に明け暮れる毎日。

メンバーとは別に一人だけで稽古に参加することは、あたしには今までにない経験。。
現場ではいろんな人と仲良くさせてもらってるし、
絶対に成功させたいって気持ちも強いからすごく楽しいんだけど、

―――やっぱり、さみしい。

115 名前:[雨模様、焦がれ模様] 投稿日:2011/11/12(土) 00:13

愛ちゃんってすごいなって思う。
舞台そのものの経験だって多いし、一人で挑戦したものだってあるし。

どういう気持ちで稽古に向かってたんだろう。
どういう想いで一人で動いていたんだろう。
そういう話、聞いてみたい。


…それよりも。


「会いたいなぁ」

116 名前:[雨模様、焦がれ模様] 投稿日:2011/11/12(土) 00:14

きっと愛ちゃんなら、あたしの目をじっと覗き込みながら、
あん時はなぁこん時はなぁっていろんな話をしてくれて、
それがあたしにとっては何よりのアドバイスになって、
あたしのちっちゃな不安には、大丈夫やって言いながらぎゅーっと抱きしめてくれたりして。

…ぎゅーっと。


空いた手で、傘を持つ腕をつかんだ。

117 名前:[雨模様、焦がれ模様] 投稿日:2011/11/12(土) 00:14

会いたくて会いたくてしょうがなくて。
こんなに弱っててどうするのって情けなくなる。
愛ちゃんのことは一生頼りにしたいけど、
だからって何もかもを頼ってるわけになんていかないのもわかってる。


早く家に帰ってごはん食べてお風呂に入ればだいじょうぶ。
そういう気持ちの切り替えは、あたしだってプロなんだから出来る。


―――それなのに、この人はこういう時に。

118 名前:[雨模様、焦がれ模様] 投稿日:2011/11/12(土) 00:15

『な、ごはん食べ行かん?』

どうしてなんだろう。
伝えてもないのに、バレてるの?
こんなにも恋い焦がれて壊れそうなの、お見通しなの?

いつだって、あなたはこんなあたしに気付いてくれる。
だからいつまで経っても、あたしは愛ちゃんから独り立ちできないんだよ。

「…うん、行こ」
『ん? 風邪ひいたん? 声ヘンやない?』


―――愛ちゃんがあたしを離してくれないのが嬉しいからだよ。


なんて、言えるわけもなくて。

119 名前:[雨模様、焦がれ模様] 投稿日:2011/11/12(土) 00:15

「寒いんだもん。声だって震えちゃうの」
『なら、あったかいもんがええなぁ、何がいっか』

鍋かなー、鍋あったまるよなー、なんて電話の向こうで考えてる愛ちゃんは、
どこまであたしの言葉の真意を理解してるのかな、って思うんだけど。


『はよ、おいでや。
 ぎゅーってしたいよ、はやく』

120 名前:[雨模様、焦がれ模様] 投稿日:2011/11/12(土) 00:16

思わず空を見上げたら、大粒の雨があたしの顔を濡らした。
目を閉じたら頬に感じた雫はなぜか熱くて。ドキドキして。胸があったかくて。


やっぱり一生離れられないよって思いながら、元来た道を戻り始めた。

121 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/12(土) 00:17

>>113-120

二人は会ったらべったりくっついてそうなそんなイメージです。てか理想かもしれない。
ではでは。
122 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/13(日) 12:11

愛ちゃんの寝相が悪いと聞いて、それではこんなお話を。
123 名前:[Dear sleeping baby] 投稿日:2011/11/13(日) 12:12

「う゛っ」

ぐっすり寝てたのに、わき腹のあたりを強く押されて目が覚めた。

またか。またこの人は。

「…ちょっと愛ちゃん、寝相わる…」

ぽすん。
頭をはたいてやろうと伸ばした手が空振りする。
叩いたのは頭ではなくて枕。そこに彼女はいなくて。

「…えー?」
124 名前:[Dear sleeping baby] 投稿日:2011/11/13(日) 12:13

愛ちゃんの寝相の悪さはもうよくわかってること。
寝苦しかったり眠りが浅いらしい時にはよく、寝返りを打ったときに振り回される手足の被害に遭う。
時には思いっきり殴られたこともあるし、蹴り飛ばされたこともある。
…でも、当然彼女がそれを覚えてるはずもなく。
翌朝いくら咎めてみても、自覚がないんだからどうすることもできないし。

でも、そんな時は彼女の身体をもう一度包むように抱きしめてあげれば、
安心してくれるのか、穏やかな寝息を聞かせてくれるようになるんだけど。
125 名前:[Dear sleeping baby] 投稿日:2011/11/13(日) 12:13

掛け布団をめくると、あたしのお腹にピタリと頭をつけて寝ている愛ちゃん。

「ちょっと、どれだけ潜ったのよ」

布団の中に顔まで入れたら暑いでしょうに。
いつの間にそんなに動いてたのか。ちょっと呆れてしまう。

「愛ちゃん、ちょっと」

ぽんぽんと頭の後ろを軽く叩いてみても、彼女は起きる様子もなくて。
それどころか、さっきまでよりもおでこをあたしの身体にすり寄せてくる。
幼く握られた手が、甘えるようにあたしの身体を撫でる。
小さく身を屈めたその寝姿が、まるで…

「赤ちゃんみたい」

…お母さんのお腹の中にいるみたいな。
126 名前:[Dear sleeping baby] 投稿日:2011/11/13(日) 12:14

「やだよぉ、こんなにおっきな赤ちゃんは」

人一倍わがままで頑固な、こんな25歳の面倒なんて見たくないけど。

でも、そんな彼女とずっとずっと一緒にいたいって、
少しの迷いもなく言い切ることができるんだから不思議だと思う。

他の誰のものよりも、身体がよく覚えてるこの温度を手放したくない。
今もこうして触れ合ってるところから伝わってくるそれは、あたしにとって最上級の癒し。


お腹になんて頭を寄せて、あたしに甘えてくれてるの?
あたしはそんな愛ちゃんに、たくさんの癒しをあげられてるかな?
127 名前:[Dear sleeping baby] 投稿日:2011/11/13(日) 12:15

愛ちゃんに合わせてずるずると身体の位置をベッドの足下の方へと下げる。
小さく屈めたその身体ごと抱き込むようにして、
腕も足も、愛ちゃんにぴたりとくっつけて。

ほんの少しだけ、意識をこっちに浮かべた彼女も、
同じようにあたしの背中にもっと抱きつくように手を回す。

むにゃむにゃと口元が動いて、

「………りさちゃ……ん…」

ぽそっとつぶやかれたあたしの名前と、続けて聞こえた寝息。


愛おしすぎて、言葉にならない。

大きく息を吸い込むと、鼻をくすぐるのは愛ちゃんの髪から香るシャンプーのいい匂い。
一緒に身体の中へじわじわと広がっていく愛情を感じながら、
その髪に、触れるだけのキスを落として、あたしも目を閉じた。

128 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/13(日) 12:16

>>123-127

ガキさんも公の場ですごいこと暴露してくれるので、愛ガキヲタとしては嬉しい限りですw
それではそれでは。

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