ぺんぎんの行進
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/18(月) 23:56
-
高橋さんと新垣さんが好きなので二人中心の話になると思います。
高橋さんの方言は適当なのでご勘弁を。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/18(月) 23:58
- 愛ガキ、愛ちゃん視点
- 3 名前:いつものきみ 投稿日:2011/07/18(月) 23:59
-
しゃくしゃくしゃくと、氷を崩す涼しげな音が聞こえる。
毎年恒例の夏のコンサート。その会場のケータリングスペースには、スタッフさんの配慮で、今年はカキ氷機が置かれていた。
空調が効いているとはいえ、ただでさえ暑いこの季節、照明を真正面から浴びながら歌って踊るあたし達にとっては、嬉しいサプライズ。
10代のメンバーはもちろん、二十歳を超えたメンバーも、そのカキ氷機にこぞって飛びついた。
それは最年長のあたしも例外じゃなくて。
うきうきしながらケータリングスペースへ向かうと、カキ氷機の前にできた人だかりと、9期に囲まれた見慣れた後ろ姿を発見した。
見慣れた後ろ姿の手にはしっかりとカキ氷。
カキ氷機の前の人だかりとそれを交互に見やって、手っ取り早くカキ氷を分けてもらおうと、9期にじゃれつかれている見慣れた後ろ姿の方向へ歩を進める。
- 4 名前:いつものきみ 投稿日:2011/07/19(火) 00:00
-
「ガキさーんっ」
近づきながら呼びかけると、くるりと振り向く後ろ姿。
動きに合わせて染め直してきたばかりの彼女の明るい茶色がふわりと揺れて、彼女はあたしを見とめると口元を綻ばせた。
柔らかな笑みにあたしの口元も緩む。
衣装を脱いでリハ用のTシャツを着たガキさんの手にはピンク色に染まったカキ氷。
どうやらイチゴ味のようだ。
「愛ちゃんもカキ氷?」
「そうそう。…なんやけど、人いっぱいだから、ちょっとちょーだい」
にひひっと笑いながら告げると、ガキさんはしょうがないなぁと言うように肩を竦めて、一口だけだからね、と念を押してピンクの山をしゃくりと崩す。
「はい、あーん」
声とともに差し出されたスプーンをぱくりと口に含む。
途端に広がるひんやりとした食感と甘ったるいイチゴの味に、うっとりと目を閉じた。
やっぱり夏はこれに限る。いくつになったって、このひんやりしゃくしゃくの食感はやめられない。
- 5 名前:いつものきみ 投稿日:2011/07/19(火) 00:01
-
「おいひぃ」
「あっは、そりゃあよかった」
おかしそうにそう言ってガキさんはしゃくしゃくとカキ氷を崩して食べ始めた。
その姿を眺めながら、もう一口ほしいなぁ、なんて考えていたら、ガキさんの傍らにいた生田の、高橋さん高橋さん、という弾んだ声が耳に届く。
生田へ視線を向けると、生田は嬉しそうににっこりした。
邪気の無い笑顔につられるように笑い返すと、生田はぐいっと顔を突き出して。
「見てくださいっ。真っ青なんですっ」
言うが早いかぺろりと出した。その舌は言葉通り真っ青。
おおっ、と、目を丸くすると、生田は舌を閉まって、得意げに自分のカキ氷を突き出してきた。
そこにかかっていた鮮やかなブルーに、シロップの色が舌へ移ったのだと合点がいく。
- 6 名前:いつものきみ 投稿日:2011/07/19(火) 00:02
- なるほど、と口を開きかけた所で、生田の隣から鈴木がにゅっと顔を出して、見て下さい!って叫んだかと思うと、こちらもぺろりと舌を出した。
こちらは鮮やかなイエロー。手にしたカキ氷も綺麗な黄色に染まっていた。
目を丸くしてやると、鈴木は顔全体でにっこりとして、今度は他の9期に見えるようにぺろり。
きゃっきゃと3人が笑って、今度は9期4人で顔を寄せ合ってカラフルになった舌の見せ合いっこを始めた。
無邪気な姿に、可愛いなぁ、と思いながら目を細めると肩を小さく押された。
視線を向ければ苦笑するガキさんの姿。
「愛ちゃん、おばあちゃんみたいな目してるよ」
「ええ、なんそれ、お母さんじゃなくて?」
「を通り越して、おばあちゃんだよ」
からかうように笑ったガキさんは、あたしの肩に自分のそれを押し付けるようにして重心を傾けてきた。
最近では滅多にしない我らがサブリーダーの甘えた仕草に、一瞬息が詰まった。
- 7 名前:いつものきみ 投稿日:2011/07/19(火) 00:02
- コンサート終わりすぐで、お互いにまだシャワーもしていないから、汗で額はりついた彼女の前髪はいつものそれのように揺れない。
心なしか上気した頬に、薄いシャツ越しに感じる彼女の体温もいつもよりも高い気がして。
それらが、ベッドの上の彼女と重なって、どきり、と胸が高鳴った。
邪な方向へいきそうになる思考を紛わすように、視線を無邪気にはしゃぐ9期へ移す。
コンサートの今日の公演が全て終わってちょっと気が抜けてるからって、こんなメンバーやスタッフさんがいる場で何を考えてるんだ、あたし。
「……まだ、シャワーしとらんから、汗くさいかも」
「いまさら」
だから離れて、と続けようとしたら、囁くようにさらりと返されて口を噤む。
その声さえもベッドの中の掠れた艶っぽいそれを思い出させて、どきどきが加速する。
とことんダメな方へ向かっている自分の頭をどうにかしようと、ぐるぐると話題を探していると、ガキさんが、そうだ、と呟いた。
- 8 名前:いつものきみ 投稿日:2011/07/19(火) 00:03
-
「ね、生田たち程じゃないんだけどさぁ。
私のも結構ピンクになってんだよ」
見て、と続いた言葉にそろりと視線を戻すと、上目遣いの視線とぶつかった。
ライブ終わりの気張らない、まるで二人きりの時に見せる素の色をした彼女の瞳に、軌道修正しようとしていた思考の箍が外れそうになって、慌てて視線を下げると、ぷっくりした唇がゆるりと弧を描くのが見えて。
艶めく白い歯の奥から、ちろりと控え目に顔を出した、赤い舌。
ぞくり、と腰が疼く感覚。
知らず鳴った喉。
鼓動が一層激しく高鳴って、今にも暴れ出してしまいそう。
幼い顔立ちには似合わない、白と赤のコントラストが、酷く、いやらしい。
それは、わざとやってるんじゃないか、と疑いたくなる程に絶妙な匙加減であたしを煽る。
そんなこと、できる子じゃないと分かってはいたけれど。
けれど。
もう、色々、限界だった。
- 9 名前:いつものきみ 投稿日:2011/07/19(火) 00:04
-
おもむろにガキさんの腕を掴み、彼女が手にしていたカキ氷のカップを取り上げて、手近な机に乱暴に置く。
掌に感じる汗ばんだ彼女の肌の感触に、ぞくぞくと疼く心。
それに急かされるようにあたしは歩き出した。
「ちょっと来い」
「は、ちょ、愛ちゃんっ」
戸惑った彼女の声も不思議そうな9期の視線も全て無視して、ガキさんを引き摺るようにして進んだ。
奥まった場所にあるトイレの一番奥の個室に彼女を押し込んで、後ろ手で鍵を閉めると、壁に押し付けるようにして彼女を抱き締めた。
困惑気味の声に構わず、鼻先を首筋に押し付けて、ゆっくり息を吸い込んだ。
最中のような肌の感触と香りに頭が痺れる。
「愛ちゃんっ私まだシャワーしてない…っ」
「……いまさら」
慌てたように強く肩を押されたけれど、さっきの彼女の言葉を返しながら、それ以上の力で抱き締めた。
華奢な背中が愛しくて、柔らかな体温に安心感を覚えるのに、抱き締めた事で近づいた耳に感じる彼女のなまあたたかな吐息に、あたしは酷く情欲を掻き立てられてしまう。
- 10 名前:いつものきみ 投稿日:2011/07/19(火) 00:04
-
鼻先を少しだけ離して、白い首筋に唇を押し付けた。
彼女の身体が、びくり、と震えたけれど、嫌悪からくるそれじゃないことは分かっていたから、知らんぷりを決め込んでそろりと舐め上げてやった。
舌先を刺激する汗の味に、ぞくぞくと背中を駆け抜ける、何か。
「ちょ、ホント…っ、やめてって…!」
「やだ」
抵抗する体を抱き込んで、ちゅ、ちゅ、と首筋に軽く唇を押し当てていると、次第に抵抗する力が弱まってきて、肩辺りにそっと手を置かれた感触がした。
押し付けていた唇を離してそっと覗い見れば、上気した頬に不機嫌そうに眉根を寄せた横顔。
さっきのそれとは違う意味を持つだろう頬の色に、きゅんと胸の奥が疼いた。
たまらなくなって顎の下らへんに、ちゅう、と吸い付くと、彼女の瞳がふるりと揺れて熱く潤んでいく。
そうして、それは、酷く緩慢な動きであたしをとらえて、不機嫌さを示すようにきつく細められた。
潤んだ瞳に睨みつけられて、こくり、と鳴った、喉の奥。
そんな瞳の動き一つに、あたしが酷く気持ちを煽られてしまうことを彼女は知らない。
- 11 名前:いつものきみ 投稿日:2011/07/19(火) 00:04
-
「里沙ちゃんの、せーやからな」
「意味わかん…っ」
抗議するように開きかけた唇に、言葉を奪うように自分のそれを押し付けた。
彼女の身体がびくりとして、肩に乗っていた両手に力が込められるのを感じたけれど、構わず唇の輪郭を確かめるように舐めてやる。
下唇にゆるく吸い付いてから、そろりと舌先を唇に差し込んでも、抵抗らしい抵抗にはあわなかった。
強請るように歯列に舌を這わせたら彼女のそれが小さく小さく開かれる。
さっきまではあんなに不機嫌そうだったのに、おねだりに素直に返してくれる彼女が少しだけおかしくて、それ以上の愛おしくてたまらなかった。
その気持ちに突き動かされるように舌先を割り込ませる。
縮こまっていた彼女の舌を探り当てて、絡めて優しく撫でると、お返しのように小さく吸われた。控え目な仕草に胸の奥がきゅんとする。
鼻にかかった艶っぽい声が鼓膜を甘く刺激して、ぬるりとした彼女の感触に酔いしれる。
- 12 名前:いつものきみ 投稿日:2011/07/19(火) 00:05
-
夢中になって口付けていたら、いつの間にか首に回されていた腕に強く背中を叩かれた。
はっとして唇を離すと、肩で息をした里沙ちゃんが上目遣いに睨んできた。
だけど、唾液で濡れた唇に上気した頬でそんなことされても、正直、邪な気持ちを煽られるだけで。
もっと、彼女を感じたいと、心が叫ぶ。
「なんっ、なの、急にっ…」
「なあ、今日部屋来てよ」
「はあ?!」
「きて」
もう一度、なんなの、と言いながら、含みきれず零れた唾液を拭うように上げられた彼女の手。
それよりも先に、ちゅ、と唇で拭ってやると、恥ずかしそうに視線を逸らされた。
さっきまでもっと濃厚に接触していたのに、そんな可愛らしい反応をする彼女に、きゅんきゅんと胸の奥が刺激される。
たまらずしがみ付くように腕を回して、彼女の肩に額を押し付けた。
触れた部分から里沙ちゃんの戸惑いを感じたけれど、顔を上げずに擦り寄るようにもっと身体を寄せると、躊躇いながらも彼女の手のひらが背中を撫でる感覚。
- 13 名前:いつものきみ 投稿日:2011/07/19(火) 00:06
-
「…ホントなんなのよ、まったく」
不服そうに呟きながらも、その手はゆっくりと背中を撫で続けていた。
その優しい温度に胸の奥から愛しさが込み上げて、鼻の奥がつんとした。
「……やって、里沙ちゃんやらしいんだもん」
「やらしいって……、別にいつも通りだし」
それが一番やっかいなのだと、彼女はきっと分かっていない。
二人きりじゃない“いつも”の時間に、時折見せる、二人きりの時を思い起こさせるような彼女の仕草や表情、声や匂い。それらと“いつも”とのアンバランスさが酷くいやらしいことを。
加えてここ最近、コンサートのリハや本番続きで、彼女に触れることすらままならなかった。
お互いプロだから求められた事はきっちりこなしはしたけれど。
正直な所、―――欲求不満だった。
- 14 名前:いつものきみ 投稿日:2011/07/19(火) 00:07
-
そんな中で煽られるような態度をとられたら。
「我慢なんか、……できん」
身体の中に篭った熱を吐き出すように声にして、彼女の首に鼻先をすり寄せた。
そうしたら、背中を撫でていた手の動きがぴたりと止まり、きゅ、とシャツを握られて、肩先に頬擦りされたような感触がした。
「……部屋、来るやろ?」
もう一度確かめるように呟くと、ふふ、と小さな笑い声と共に緩く髪の毛を引っ張られる。
「行かなかったら押しかけて来そう」
「はぐらかさんとってっ」
含み笑いに身体を揺らして抗議すると、ほう、と肩口で小さく息が吐き出される音。
少しの間を置いて、背中に回った彼女の腕の力が強まって、耳に柔らかなモノが押し付けられる感触がした。
それが何かを理解する前に、そうっと、あたしにしか聞こえない小さな声で囁かれた言葉。
脳が痺れるような甘い声音とその内容に、高鳴る鼓動のまま、あたしも抱き締める腕の力を強くした。
『……いくよ』
おわり
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/19(火) 00:11
- 今年の愛知の夏ハロ紺でカキ氷機があって、
ハロメンみんなで食べてたそうで、そこからの妄想でした。
こんな感じのぬるーい短い話をのっけていけたらと思います。
それでは。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/19(火) 23:57
- 鉄は熱いうちに打て、萌えも熱いうちに吐き出しておけ、ということで。
愛ガキ←生田 生田視点
片想い生田注意っす。
- 17 名前:かわいいひと 投稿日:2011/07/19(火) 23:57
-
昔から可愛いアイドルが大好きだった。
小さい頃からテレビの前でアイドルの振り付けをマネして踊ったり、一緒になって歌ってみたり。
だから、モーニング娘。に入れて可愛いアイドルを間近で見れてすごくすごく嬉しかった。
みんな可愛くてキレイでかっこいいだもん。
高橋さんも田中さんも道重さんも光井さんも、―――新垣さんも。
えりなは、大好きだった。
***
- 18 名前:かわいいひと 投稿日:2011/07/19(火) 23:58
-
楽屋の隅っこでケータイ片手に香音と写真の撮り合いっこをしてたら、最高におもしろい香音の変顔が撮れた。
二人で額を寄せ合ってひとしきり笑いあった後、これは新垣さんに見せなければ!と思い立って、楽屋の中をぐるりと見渡す。
先輩二人と同期の姿はあったけれど、目当て人の姿は見当たらない。
はて、と首を傾げる。新垣さんの撮影はまだ先だったはずだ。
きょろきょろしてたら隣にいた香音がにやりと笑った。
「新垣さん探してるでしょ」
「え、……そーやけど」
言葉にしたわけでもないのに、言い当てられた事に驚いて目を丸くする。
なん、香音は超能力でも使えると?と首を傾げながら問いかけると、香音はくふくふと笑いながら首を横に振った。
「そんなのなくても分かるよ。えりちゃん新垣さん大好きだから」
「なんそれぇ…」
確かに、えりなの話も呆れながらも最後までちゃんと聞いてくれる新垣さんが大好きだけれど。
でも、それを言うならば、香音だって同じなのに。
妙に含んだ言い方をする香音にちょっとだけむっとして、眉根を寄せて唇を尖らせる。
- 19 名前:かわいいひと 投稿日:2011/07/19(火) 23:59
-
そうしたら香音は大口を開けて豪快に笑った。
ぱっちり二重のくりくりの瞳がへにゃんと細められる様子がすごく可愛らしい。
香音は本当に顔全体で笑うから、つられるようにえりなまで笑ってしまう。
二人してまたくふくふと笑っていたら、香音がふにゃふにゃ笑顔のまま小さく謝罪して、扉を指差した。
「さっき楽屋出てったよ。トイレか自販機じゃないかな」
誰が、とは聞かなくてもすぐに分かった。
自然と浮かんだその人の顔に、ぱっと心の中が明るくなる。
ほとんど毎日顔を合わせているのに、さっきまでだって一緒にいたのに、それだけの事にうきうきと心が弾む。
居ても立ってもいられなくなって、香音にお礼を言ってケータイを握りしめると、一目散に駆け出した。
- 20 名前:かわいいひと 投稿日:2011/07/19(火) 23:59
-
楽屋の扉を開けて外へ飛び出すと、そこには人影。
あっ、と思った時には、その人に真正面からぶつかっていた。
次に来るだろう衝撃に目をぎゅっと瞑ったけれど、予想していたそれは来なくて、そっと瞼を上げると、柔らかく肩に回された白い腕が視界に入った。
バランスを崩して倒れそうなった所を支えらたのだと思い至る。
謝ろうと慌てて顔を上げれば、びっくり顔の道重さんがいた。
「わ、あの、すみませんっ」
ひょっ、と離れてぺこりと頭を下げると、びっくり顔をキレイな笑顔に作り変えた道重さんが、いいよ、と小さく頷いてくれた。
つられるようにえりなも笑うと、おかしげに笑みを深める道重さん。
「そんなに慌ててどうしたの?」
「えっと、新垣さんを探してて…」
「ガキさん?」
道重さんが不思議そうに首を傾げた拍子に、つやつやの黒髪がさらりと肩から落ちた。それがとてもキレイで、一瞬見惚れてしまう。
- 21 名前:かわいいひと 投稿日:2011/07/20(水) 00:00
-
「ガキさんなら、さっき自販機の所にいたけど」
「ホントですか!」
有力な情報に、廊下の先へ視線を投げた。
廊下の突き当たりを右へ曲がれば2台の自販機が仲良く並ぶ小さな休憩スペースになっている。
道重さんにお礼を言って駆け出そうとしたその時、でも、と道重さんが静に口を開いた。
「今は……いかない方がいいかも」
「え?」
「あー、えと、愛ちゃんも一緒だったから」
「高橋さん?」
不思議になって道重さんを見つめると、道重さんは気まずそうに目を泳がせて、言葉を濁した。
どうして高橋さんが一緒だと、いかない方がいいのだろうか。
同期で、グループのリーダーサブリーダーの二人が一緒にいる所は、それこそ数え切れないくらいに見てきた。
二人がいる所に、えりなも他の9期も、もちろん先輩たちだって気軽に声をかけていたはずだ。
- 22 名前:かわいいひと 投稿日:2011/07/20(水) 00:00
-
考えても道重さんの言葉の答えが見つからなくて自然と眉根が寄る。
そうしたら、道重さんは困ったように眉尻を下げた。
「なんていうか、教育上よろしくないことがね、あるかもっていうか…」
「きょーいく…?」
「…ええと」
付け足された言葉にますます意味が分からなくなって、もっと眉根が寄ってしまう。
道重さんは次の言葉を探すように視線をあちこちへさまよわせて、むぐむぐと言葉を濁す。
煮え切らない先輩の様子に段々うずうずしてきた。
すぐそこに新垣さんがいるのだ。だったら、早く。早く。
頭よりも身体よりも、心がせっつかれて。
我慢できなくなって、ありがとうございます、と頭を下げて駆け出した。
だって、早くこの写真を新垣さんに見せたかった。
きっと、すごくすごくおかしそうに笑って、えりなの頭を優しく撫でてくれるだろうから。
暖かくて優しくて大好きなあの手のひらで。
えりなは新垣さんの笑顔が早く見たかった。
- 23 名前:かわいいひと 投稿日:2011/07/20(水) 00:00
-
困惑気味の道重さんの声が背中に届いたけれど、聞こえなかったふりをして廊下の先までぱたぱた走る。
突き当たりを右へ曲がると、数メートル先に見慣れた後ろ姿があった。
その隣には道重さんが言ったようにリーダーの姿。
その姿にぽっと胸の奥が暖かくなって、どきどきと心が弾む。
早く顔が見たくて、褒めてほしくて、どきどき高鳴る鼓動のままに、声をかけようと大きく息を吸い込んだ、との時。
不意に新垣さんが高橋さんの方を向いて、高橋さんの華奢な腰に腕を回した。
今正に零れそうになった言葉が喉の奥に引っ込んだ。
だって、それはまるで、テレビドラマの俳優さんが恋人役の人を抱き寄せるような、そんな、仕草で。
さっきまでうきうきしてたまらなかった心が、ひゅう、と冷たくなっていく。
見てはいけない、と心のどこかが叫んだけれど、足が竦んで、動けない。
- 24 名前:かわいいひと 投稿日:2011/07/20(水) 00:01
-
仏頂面の新垣さんが高橋さんに何事かを告げると、高橋さんは新垣さんへ顔を向けて、悪戯っ子みたいな笑顔で新垣さんに何かを囁いた。
そうして、高橋さんは新垣さんの肩に腕を回して、優しく後頭部へ手を添えて。
こつんと触れ合う、二人の額。
胸の奥が、ずきり、と軋む。
思わず、心臓の上らへんに手を置いてぎゅっと握った。
額を触れ合わせたまま、悪戯っ子の笑顔を安心しきった柔らかなそれに変えた高橋さんが、ゆっくりゆっくり瞳を閉じるのが見えた。
数秒、高橋さんを見つめていた新垣さんは、ゆるりと視線を伏せ、唇の端を優しく優しく持ち上げた。
触れ合った二人の金と黒の髪の毛が混ざりあう。
鼻先がくっつきそうなその距離で、新垣さんに添えられていた高橋さんの手が優しく新垣さんの項を撫ぜた。
幸せそうに小さく震える新垣さんの瞼。
その横顔が、泣きたくなるくらいにキレイで、ずきずきと心が軋むのに、えりなはそこから一歩も動けなかった。
- 25 名前:かわいいひと 投稿日:2011/07/20(水) 00:02
-
「生田」
声と共に肩を掴まれて、金縛りが解けたように、はっとして振り返ると、そこにいたのは、眉尻を下げた道重さん。
驚いた拍子にケータイが手の中から滑り落ちて、派手な音を立てて床に打ち付けられた。
視界の隅で高橋さんと新垣さんがこちらへ振り向いたのが見えたけれど、えりなは二人を―――新垣さんを見たくなくて、ケータイを拾うこともせず視界から二人の姿を追い出すように、道重さんの顔をじっと見つめる。
「あれ、生田じゃん。さゆみんもどーしたの」
後ろから聞こえた声がいつも新垣さんのモノで、少しだけほっとしたけれど、ずきずきは減るどころかますます大きくなって、振り返ることができない。
心配そうにえりなを見ていた道重さんが、床の上に転がったケータイを拾い上げて、そっとえりなに差し出してきた。
ほっそりした白い手に握られたケータイ。視線を上げると心配顔の道重さん。
- 26 名前:かわいいひと 投稿日:2011/07/20(水) 00:02
-
「生田?」
すぐ後ろで聞こえた大好きなはずの新垣さんの声に、弾かれるようにして道重さんに抱きついた。
さっきと同じように優しくえりなの身体を支えてくれた道重さんの腕が、そっと背中に回される。
新垣さんに名前を呼ばれるのが好きだった。
鬱陶しそうにされたって、呆れたように呼ばれたって、怒られている時でさえ、それが新垣さんの声ならば、えりなは、嬉しかった。
それなのに今は。
今は、苦しくて仕方がない。
背後に新垣さんの気配があるというだけで、泣きそうだった。
新垣さんの声を聞きたくなくて、道重さんの胸に額を押し付ける。
そうしたら、後頭部をそっと撫でさすられる感触がした。
「ごめんね。もっとちゃんと止めてればよかったね」
申し訳なさそうに囁かれた言葉に、きつく目を閉じて、しがみ付く腕に力を込めた。
そうでもしないと、本当に泣き出してしまいそうだったから。
- 27 名前:かわいいひと 投稿日:2011/07/20(水) 00:02
-
「さゆみん?」
「……どーしたん?」
「うん、ちょっと、ね」
頭の上で交わされる言葉を聞きながら、もっとぎゅっと額を道重さんの胸に押し付けた。
瞼の裏にさっきの新垣さんの顔が焼きついて離れない。
幸せそうな横顔。キレイな横顔。
えりなの見たことのない、横顔。
息ができないくらいに、ずきずきと軋んで悲鳴をあげる胸の奥。
この感情の正体に、気付いてしまった。
えりなは新垣さんが大好きだった。
呆れたように名前を呼ぶその声も、からかうように細められるその瞳も、優しく撫でてくれるその手のひらも、全部全部、大好きだった。
だから分かる。
さっきの二人の表情の意味も。
新垣さんが高橋さんにとろけそうな程甘く微笑んだ、その理由も。
気付いてしまった自分の気持ちの、行き着く先も。
―――全て分かってしまった。
- 28 名前:かわいいひと 投稿日:2011/07/20(水) 00:02
-
悲しくて、寂しくて、泣きそうになるのをぐっと堪える。
今泣き出したら、後ろに立っている面倒見の良い先輩を心配させることになるだけだから、それはどうしても嫌だった。
だから、落ち着かせるように背中を撫でさする道重さんの優しい温度に少しだけ甘えるように、えりなは縋り付く腕の力を強くした。
おわり
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/20(水) 00:03
-
ごめん生田。
ガキさんに生田の一日を報告する生田とか、
にっこり生田が好きだぞのガキさんとか、
ガキさん←生田がどうにも可愛くて好きです。
それでは。
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/21(木) 12:01
- 愛ガキ、大好きです。なんかえりぽん視点って、新鮮でした。
- 31 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/22(金) 03:04
- 最高です↑↑↑
愛ガキ大好きぃぃぃぃ!!
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/23(土) 20:18
-
愛ガキでガキさん視点
- 33 名前:きみのおんど 投稿日:2011/07/23(土) 20:19
-
間近に迫ったイベントのリハーサルの帰り、愛ちゃんに、うちにおいで、と誘われた。
特に予定もなかったし、最近はリハやイベントでばたばたしていて二人で過ごす機会がなかったから、久しぶりに愛ちゃんと二人で過ごせると嬉しくなって、二つ返事で了解した。
親に連絡を入れたら少しだけ難色を示されたけれど、愛ちゃんの名前を出した途端にその色が吹き飛んで、逆に、迷惑をかけないように、と釘をさされる始末。
相変わらず愛ちゃんに対する信頼度がすごい両親に、娘の言葉よりも愛ちゃんの名前に、ころりと態度を変えるのはどうなんだと思いはしたけれど黙っておいた。
韓国料理屋さんで少し遅めの晩御飯を食べながらひとしきりお喋りをして、愛ちゃんのマンションへ。
順番にお風呂に入って、愛ちゃんちに置いていた部屋着に着替えて、私は床に座ってソファにもたれかかった。
ソファに座り髪を乾かす愛ちゃんのドライヤーの音を聞きながら、ご飯の後に立ち寄ったコンビニの袋をがさりと探る。
- 34 名前:きみのおんど 投稿日:2011/07/23(土) 20:19
-
取り出したのは普段あまり買わない種類のファッション誌。
コンビニでふと手に取り、ぱらりと見たその雑誌の中に写っていた人物に、思わず購入してしまった。
キレイなモデルさんが微笑む表紙を数秒見つめて、ぱらぱらとページを捲り、半ば辺りで目的のページを見つけて手を止める。
室内の照明が白く反射するそのページには、涼しげな装いで微笑む小春の姿があった。
また、大人っぽくなったなぁ。
メイクも変わって、心持ち髪色も明るくなったような気がする。
記憶の中の、無邪気に笑うかつての後輩の姿と、雑誌の中の大人びた女性を比べてぼんやりと思った。
にーがきさんにーがきさん!と元気すぎる子犬みたいに、この女性は笑ってくれるのだろうか。
心の中であどけなく笑う後輩の姿と、雑誌の中の姿が、中々重ならなくて苦笑する。
あの子が卒業したばかりの頃は、こんな風に雑誌を通して見ても、その大人びた顔が崩れる様が容易に想像できたのに。
- 35 名前:きみのおんど 投稿日:2011/07/23(土) 20:19
-
小春が飛び立ってから早数年。
それができなくなっていても仕方がない年月が経過してしまった。
彼女が卒業してからも、モーニング娘。が変わり続けているように、小春も日々成長している。
けれど、変わり続けていく中でも、やっぱり小春は可愛い後輩で、悲しいことも苦しいことも楽しいことも共に分かち合った仲間であり続けるのは変わらない。
雑誌の中で微笑む小春の輪郭をそっと撫でる。
ご飯はちゃんと食べてるのかな。人の話をきちんと聞けるようになったかな。
目覚ましを設定し間違えて遅刻してないかな。ちゃんと、毎日、笑顔で―――。
―――寂しい思いを、してないかな。
小春が卒業してすぐは、割と連絡を取ってはいたけれど、それも最近はあまりない。
あの特徴的な高い声を最後に聞いたのはいつだったか。
すぐに思い出せない事が少しだけ寂しかった。
「おー、小春や」
背後から聞こえた声に首だけで振り返ると、いつの間にかドライヤーを終えた愛ちゃんが、ソファの上から上体を折り曲げるようにして雑誌を覗き込んでいた。
- 36 名前:きみのおんど 投稿日:2011/07/23(土) 20:20
-
「なによ、いつの間に買ってたん?」
「さっきコンビニで見かけてさ、つい、ね」
「ふぅん」
視線を雑誌に向けたまま愛ちゃんは呟いて、金色の隙間から見える目元を懐かしそうに優しく綻ばせた。
暖かなその仕草に、小さく胸の奥が鳴るのを自覚する。
「なぁんか、また髪が明るくなってない?」
「ね、やっぱなってるよねえ」
「昔は真っ黒やったのになぁ」
くふふ、と優しく笑う彼女の言葉に、視線を手元に戻す。
出会った頃も、そして送り出したその時も、小春の髪の毛はきれいな漆黒だった。
今でもその時の顔が鮮明に思い出せる。
それは小春に限ったことじゃなく、小春のように自分の道を歩き始めた絵里たちや先輩たちのそれも。
小春の事も絵里たちの事も、ついこの間の出来事のようなのに。
あんなにも毎日のように顔を合わせていたのに。
特徴的なかん高い声が響かない楽屋も、顔を合わせればへにゃへにゃと笑う姿がないコンサートも、気が付けば何の違和感もなくなっていて、生活の一部になっていた。
- 37 名前:きみのおんど 投稿日:2011/07/23(土) 20:20
- “いない”ことに慣れていく。
それは不思議で、それ以上に寂しい事実だった。
何度も何度も体験して、そして、これから。
―――これから。
スポットライトを浴びてキラキラ輝く愛ちゃんの華奢な背中が浮かんで消える。
不意に、ぽんと肩を叩かれた。
顔を上げると、さっきまで雑誌から視線を外さなかった愛ちゃんが、私に向かって柔らかく微笑んでいた。
あまりにも優しいその笑顔に何故だか涙腺が刺激されて、きゅ、と唇を結ぶ。
「心配?」
愛ちゃんの言葉が唐突で要領を得ないのは昔からだ。
今のそれだって、会話の流れに全く沿っていない。
けれど、その言葉が何を指しているのか、私には分かってしまう。
悔しいけど、伊達に10年も一緒にいないのはお互い様で、私が唐突なその言葉から彼女の真意を汲み取れるように、小春の事も、その先に愛ちゃんの背中を見てしまった事も、きっとこの人には全てバレているんだ。
普段は超が付くくらい鈍いくせに、こういう時だけは何故か鋭い我らがリーダーは本当にずるい。
- 38 名前:きみのおんど 投稿日:2011/07/23(土) 20:21
-
しかし、それに素直に返事をするかは、また別の問題。
私の心は彼女ほど素直にはできていない。
私は、表情を読まれないようにソファから投げ出された彼女の足に額を押し付けた。
「べつに、」
誤魔化すように投げようとした言葉の途中で、後頭部に優しく手を添えられた。
それは、ゆっくりゆっくり梳くように私の髪を撫で付けて、じわりと広がる優しい温度に、紡ぎかけた言葉が溶けていく。
「どーした?」
降ってきた優しい声。それは私の心まで優しく優しく撫で付ける。
―――愛ちゃんは、本当に、ずるい。
いつもは超が付くくらい鈍いくせに。
とぼけた言葉で周りの失笑を買ったりするくせに。
到底年上には見えないような、無邪気な顔で笑うくせに。
心臓の音が聞こえる。
いつもよりも何倍も早いそれに、堪えるようにぎゅっと目を瞑った。
- 39 名前:きみのおんど 投稿日:2011/07/23(土) 20:21
-
なんで。
なんで、こういう時だけ、誤魔化されてくれないんだろう。
侵食を続ける彼女の温度は、やがて胸の奥にまで到達して。
心が、溶けていく。
「心配、だよ」
「うん」
「……最近小春の声聞いてないし」
「うん」
「…前は…、毎日、一緒だったのにさあ」
「……うん」
髪を撫で付ける愛ちゃんの手の動きも、その優しさも、温度も、変わらない。
私たちの関係が変わっても、追いかけていた背中が旅立っても、いつしか先輩と呼ばれるような立場になっていても、初めて出会ったあの頃からそれらは何も変わらない。
変わらない事に、泣きたくなった。
「なんで…っ」
言葉に詰まる。
だけど、次の言葉を紡ぐかどうか迷ったのは一瞬だった。
「なんで、卒業すんの……っ」
撫でていた彼女の手が止まった。
でも、零れ落ちた言葉は、もう、止められない。
- 40 名前:きみのおんど 投稿日:2011/07/23(土) 20:21
-
「9期が入って、これからで……」
「うん」
「まだ、始まったばっかりで…っ」
「……うん」
「ずっと………、ずっと一緒だったじゃん…!」
大切な同期が飛び立った時だって、先輩がいなくなってしまった時だって、新しい仲間が増えた時だって、いつだって隣には愛ちゃんがいたのに。
どくりどくり、と頭の中に血の流れる音が木霊する。
喉の奥が小さくひきつって、心の奥底から引きずり出される、必死に、必死に隠していた、言葉。
「一人に、しないでよぉ………っ」
出会ってから、10年。
辛くても苦しくても悔しくても、ずっと一緒だった。
あどけなく笑うその顔も、悔し涙を流すその姿も、ステージの上で光り輝くその背中も、私が誰よりも一番知っていると自負できる。
だって、一番近くでその華奢な背中を、綺麗な横顔を見てきたから。
だから、漠然と、終わりもきっと一緒なのだと思っていた。
始まりも終わりも、彼女と共に在るんだと、思っていた。
―――そんなことあるわけないのに。
- 41 名前:きみのおんど 投稿日:2011/07/23(土) 20:22
-
納得していたつもりだった。
何よりも彼女自身が悩んで決めたという事を知っていたから。
弱音は吐かないと決めていた。彼女が安心して飛び立てるために。
けれど、本当は。
残される不安よりも、置いていかれる焦燥感よりも、彼女の一番近くにいられなくなるという事が、私は、ただ、悲しくて。
口にしても困らせるだけだと分かっていたから、絶対に言うまいと決めていたのに。
きつく心の誓ったはずのそれは、彼女の熱の前では何の意味もなさなくて。
「……せんよ」
ぼそり、と声が落とされた次の瞬間、私の身体は柔らかな温度に優しく包まれていた。
鼻先を掠める彼女の匂い。背中に回る華奢なくせに何よりも安心できる腕の強さに、堪えていた涙が零れそうになる。
「一人になんて、絶対にしてやらん」
普段の彼女のそれよりも、低く鋭い声音が私を射抜く。
その言葉の強さに心が震えて、じわじわと熱くなる目頭を誤魔化すように、愛ちゃんの肩に額を押し付けた。
- 42 名前:きみのおんど 投稿日:2011/07/23(土) 20:23
-
「……あたしが卒業してもさ、一緒の舞台に立てなくなってもさ、」
言い聞かせるように響く彼女の声が私の鼓膜を震わせる。
「里沙ちゃんが嫌って言うまで、離す気なんてないから」
続いた言葉と共に強まった腕の力に、寸前の所で堪えていた涙が、ぽろり、と零れ落ちた。
何の迷いもなく言い切るその言葉が嬉しくて仕方が無くて、抱き締めてくれるその腕の強さが何よりも愛おしくて。
自分勝手で我が侭な感情をぶつけてしまったのに。
責めるどころか、愛ちゃんの温度が、柔らかな身体が、言葉が、私を甘やかす。
私は応えるように彼女の華奢な背中へ腕を回し、そっと目の前の彼女の耳へ唇を寄せた。
- 43 名前:きみのおんど 投稿日:2011/07/23(土) 20:23
-
「じゃあ、ずっと一緒だ」
真っ直ぐに気持ちを教えてくれた愛ちゃんへ、偽りの無い本心をそっと声に乗せた。
涙でみっともなく掠れてしまったけれど、直後に強くなった腕の力に、私の言葉がきちんと彼女へ届いた事を教えてくれる。
首元へ柔らかな感触が押し付けられるのを受け止めながら、私も彼女を抱き締める腕にそっと力を込めた。
おわり
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/23(土) 20:24
-
プラチナの9人のガキこはコンビがすごく好きでした。
- 45 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/23(土) 20:24
-
>>30
>>31
レスありがとうございます。私も愛ガキ大好きです!
- 46 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/24(日) 11:41
- いいお話をありがとうございます
愛ガキ最高すぎる
- 47 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/24(日) 21:05
- (愛)ガキ←生田?
ガキさん視点
- 48 名前:となりのいくた 投稿日:2011/07/24(日) 21:06
-
移動のバスや新幹線、飛行機での座席順は特に決められていないから、私は愛ちゃんや、カメが居た頃はカメの隣に座ったりすることが多かった。
飛行機に乗り込んで、指定された席を見渡す。
順番に埋まっていく席の中で丁度生田の隣が空いていたから、今回はそこへ落ち着くことにした。
先に機内へ乗り込んでいた愛ちゃんが気遣うように、ちらりとこちらを見たような気がしたけれど、特に気にせずに腰を降ろす。
すると、私の気配に気付いたのか、窓の外を眺めていた生田が、くるりと振り向いて口元を綻ばせた。
「新垣さんの隣だぁ」
「ん?おー。ハワイまでよろしくー」
「はい!」
元気よく返事をして、えへへと可愛らしく笑う後輩の姿につられて私の頬も緩む。
生田の黒髪をぽんぽんと軽く撫でるように叩いたら、シートベルトの着用を促すアナウンスが機内に響いた。
そのアナウンスにベルトへ手を伸ばしお臍のあたりでカチリとやってから、隣の生田へ視線を投げる。
- 49 名前:となりのいくた 投稿日:2011/07/24(日) 21:06
-
「生田ー、ベルトちゃんとした?」
「はぁい」
生田は慣れない手つきでベルトをしめて、こちらへ顔を向けるとにっこりする。
その笑顔が、まるで、褒めてくれ!と言っているように見えて、無意識の内に手が伸びた。
「よーしよし、よくできました!」
言いながら、素直に下ろされている生田の髪をくしゃくしゃとかき混ぜてやる。
生田は逃げるでもなく当然のようにそれを受け入れて、くすぐったそうに、でも嬉しそうにくしゃりと笑った。
- 50 名前:となりのいくた 投稿日:2011/07/24(日) 21:07
-
私が娘。に入ったのも9期と同じような歳の時だった。
その頃の娘。には、今とはまた違った緊張感が確かに漂ってはいたけれど、移動の時や空き時間のメンバーがリラックスする場では、先輩たちはよくこうやって頭を撫でてくれた。
照れくささはあったけれど、私はそれが嬉しくて仕方がなくて、甘やかされるまま身を預けたりしていた。
そして、私が先輩と呼ばれるようになった今、当時の私の歳とあまり変わらない9期を褒めたり構ったりする時に、いつの間にか無意識のうちに手が伸びるようになっていた。
最初こそ驚いたように軽く身を引いた9期も、今では笑顔で受け止めてくれる。
そんな彼女たちを見ている私も自然と笑顔になるのだ。
柔らかくて艶々な黒髪を少し乱暴にかき回す。
くふくふ笑う生田は心なしか私の方へ身体を寄せてきた。
そんな子供っぽい仕草が可愛くてもっともっと撫でてやる。
- 51 名前:となりのいくた 投稿日:2011/07/24(日) 21:07
-
こんな風に、撮影の時も無防備に笑えると、もっともっと魅力的になるよなぁ。
彼女の笑顔を見ながらぼんやりと考えていると、機内に流れる離陸のアナウンス。
アナウンスを聞き終えて、手を引っ込める時に、愛ちゃんの頭を撫でた時に最後はいつもそうするように、無意識の内に生田の柔らかな頬を軽く撫でていた。
生田は、一瞬、大きく目を見開いて、ふっと目をふせたと思ったら、ゆっくりと花が咲くように可愛らしく、少しだけ照れくさそうに微笑んだ。
桜色にほんのり色づいた頬に、ちょっとびっくりさせたかな、とは思ったけれど、嫌がられた様子は感じられない。
ほっと胸を撫で下ろしていると、私達を乗せた機体がゆっくりと動き出す気配。
その気配に可愛らしく瞳をふせていた生田が、ぱっと窓へ張り付いた。
額が窓にくっつきそうな程近づくわくわくの隠せない後ろ姿に、ふふ、と苦笑して
、身体をシートへ深く沈みこませる。
- 52 名前:となりのいくた 投稿日:2011/07/24(日) 21:08
-
「……さよなら、にほん」
ぽそり、と隣から聞こえたか細い声に、ちらりと視線だけ向ければ、何故だか若干涙ぐんでいる生田。
その姿に思わず噴き出しそうになる。
もう?とか、早いよ、とか、思いはしたけれど、感傷に浸っている所へ水を差すのも悪い気がして、私は口を噤んで視線を前へ向けた。
新しい仲間と初めてのハワイ、今回はどんな事が起きるのか。
でも、きっと楽しいに違いない。
うきうきと弾む気持ちを抑えるように、私はゆっくりと瞳を閉じた。
おわり
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/24(日) 21:09
-
ガキさんは爽やかに後輩たちにスキンシップしてそうなイメージ。
ハワイ行きの飛行機の座席でガキ生田が隣同士だったようで。
色々妄想してなんかニヤニヤしてしまいました。
>>46
レスありがとうございます。愛ガキ最高!
- 54 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/25(月) 04:50
- 生田かわいいなぁ〜
- 55 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/25(月) 23:06
- ニヤニヤが止まらない〜(# ̄∇ ̄#)
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/28(木) 22:00
-
愛ガキのようなガキ愛のような話
ガキさん視点
- 57 名前:こどものいたずら 投稿日:2011/07/28(木) 22:00
-
「ご褒美ちょーだい」
少しだけ不満そうな顔をして、愛ちゃんはそう言った。
- 58 名前:こどものいたずら 投稿日:2011/07/28(木) 22:01
-
***
連日続くコンサートのリハーサル。
今日のスケジュールも例の如く、一日中コンサートのリハで埋まってた。
リハーサルのお昼の休憩時間、昼食を済ませたら、リハ室で自主練習をしたり、スタジオのホールでコーヒーを飲んだり、みんな思い思いの時間を過ごしている。
私はさゆみんと愛ちゃんと連れ立って楽屋でのんびりと過ごすのが通例で。
午後のリハの時間が迫ってくると、まだ早いよ、と渋る二人を促すのも決まり事のようになっていた。
渋々立ち上がった二人と、さあリハ室へ、と扉をくぐろうとしたその時。
背後から腕を掴まれて、なにごとかと振り返ると、不満気な顔をした愛ちゃんが上目遣いでそんな事を言い出した。
愛ちゃんの突拍子のない言動には大概慣れてはいるが、さすがに驚くなと言うのは無理な話で、私は目を見開いて愛ちゃんの顔をまじまじと見つめてしまう。
「……何言ってんの?」
なんとなく返ってくる答えは想像できたけど。
一応問いかけてみれば、愛ちゃんは拗ねたように唇を尖らせた。
- 59 名前:こどものいたずら 投稿日:2011/07/28(木) 22:02
-
「今日、てーか、ここ最近、あたし頑張っとるやんかー」
「……うん?」
「やから、ご褒美ちょーだいよ」
「や、意味わかんないから」
想像通りの答えに半ば呆れて返すと、愛ちゃんは、ぷくりと頬を膨らませて不機嫌アピール。
私よりも2歳も上の大人のする仕草じゃない。
正直、可愛なぁと思いはしたけれど、長年顔を付き合わせている身としては、もう大人なんだから、と窘める気持ちの方が強く沸く。
「ちょーだいやぁ!」
「いやいやいや、頑張ってるのはみんな一緒でしょーが。てゆっかそもそも今からリハだし」
「やーだー!」
「いや、やだってアナタ……」
そんな子供みたいに駄々こねられても。
私の腕を掴んだまま、足をバタバタさせる最年長の姿に知らず溜め息が漏れる。
9期にはとても見せられない姿だ。
けれど同時に、そんな風に甘えた仕草を愛ちゃんが見せるのは限られた人の前だけという事を知っているから、嬉しい気持ちが少なからずあるのも否定できなくて。
- 60 名前:こどものいたずら 投稿日:2011/07/28(木) 22:02
-
二人きりのプライベートでの出来事だったならば、その我が侭に付き合うのもやぶさかではないけれど、リハーサルとは言え今は仕事中。
しかも、集合時間が間近に迫っている。
助けを求めるように、先に扉を出たさゆみんへ頭だけで振り向くと、目が合った途端に分かりやすく視線を逸らされた。
「あー、さゆみ先行ってるねー」
「えっ!ちょっ、こら!」
「ちょっとぐらいなら適当に言い訳しとくからー」
てとてとと小走りで遠ざかるさゆみん。
その背中へ、逃げるな!と続ける前に、鼻先で扉がバタンと閉められた。
……くっそう。覚えてろよさゆみん。
扉をじと目で睨んでいたら、ぐい、と腕を強く引かれて、視線は自然と愛ちゃんへ。
「ちょーだいよ」
ぶすりと拗ねた口調の目の前の人に、本日二度目の溜め息が零れた。
- 61 名前:こどものいたずら 投稿日:2011/07/28(木) 22:03
-
なんなんの、一体。さっきまで普通だったくせに。
休憩時間の愛ちゃんの姿を思い出す。
3人で今回のツアーの事やテレビの話、9期の事などいつも通りとりとめもなく喋ってたはずだ。
今になって考えてみれば、彼女は少し口数は少なかったかもしれないけど、特別気になるような事はなかった。
それなのに、こんな集合時間前に急に駄々をこね出して。
「もう、愛ちゃんどーしたのさ」
「どーもせんもん。ご褒美ちょうだいって言うてるだけやし」
「だから、そこがさあ……。そもそもご褒美って何よ」
引く気は全く無い様子の愛ちゃんに半ば投げ遣りに尋ねると、彼女はそっと自分の人差し指を自らの唇に押し当てた。
ぽてっとした魅力的な彼女のそれが柔らかく形を変えて。
その意味が分からない程、私はバカじゃない。
「……っ、なに考えてんの!」
そこから連想される仕事中にあるまじき不謹慎な態度に、頭にカッと血が昇って、掴まれた腕を振り解こうとしたら、その力を利用して逆に強く引き寄せられる。
気付いた時には、もう愛ちゃんの腕の中に閉じ込められていた。
- 62 名前:こどものいたずら 投稿日:2011/07/28(木) 22:03
-
「ちょっと!愛ちゃん、なにす…」
その腕から逃れようと、じたばたもがいたけれど、ここぞとばかりにそれ以上の力で抱き込まれて。
私と同じような、もしかしたらそれ以上に細っこい腕をしてるくせに!
こんな時に、彼女との筋肉の差を見せ付けられたようで、下唇を噛み締めると、何だか今の私以上に悔しげな息遣いが頬を撫でた。
「……構ってぇよ」
耳元で呟かれた寂しげな声に、思わず動きを止める。
搾り出すような彼女のこんな声音は、ここ最近聞いたことがない。
慌てて愛ちゃんを見やるけれど、抱き締められているせいで、金髪から覗く耳しか見えない。
「最近、里沙ちゃん9期ばっかやん」
「え?や、そりゃ、入ったばっかだし……」
「知ってるけど!」
思わぬ所からの話題に戸惑いながらも返すと、強い口調で遮るように言葉尻を奪われて口を噤む。
そうしたら、心なしか背中に回った腕の力が強まった気がして。
- 63 名前:こどものいたずら 投稿日:2011/07/28(木) 22:04
-
「里沙ちゃんは、あたしのやもん……」
続いた酷く子供染みた言葉に私は目を丸くした。
そういえば、と思い出す。
今でこそ落ち着いてはきたけれど、このお姉さんは元々、短気で癇癪持ちで、少しだけ嫉妬深い所があった。
彼女の背中にそっと撫でるように手を這わすと、ぴくり、と小さく肩が揺れたのが触れた部分からダイレクトに伝わってきて小さく苦笑する。
まさかこんな所で、しかも後輩相手にそれが顔を出すとは思わなかったけれど。
背中をできるだけ優しく撫で付けてやると、うう、と耳元からどこか悔しそうな唸り声。
「あたし文句言わんと頑張ってるし、ちょっとくらいご褒美くれてもええやんかあ……」
なるほど、そこへ繋がる訳ね。彼女の言動の流れにやっと合点がいく。
そうしたら、彼女の子供のような行動も言葉も何だか可愛く思えてきてしまって、背中を撫でる手を腰へ回して、私から少しだけすり寄った。
- 64 名前:こどものいたずら 投稿日:2011/07/28(木) 22:04
-
「……って言っても、ここ、仕事場だし」
「……」
「区別はちゃんと付けなきゃダメって愛ちゃんも言ってたじゃん」
「やって……」
「その代わりさ」
愛ちゃんの言葉を奪うように少しだけ語気を強めると、もごり、と彼女が言葉を飲み込む気配がした。
さっきまではあんなに強引だったくせに、急に素直になった態度に笑みが零れて、華奢な肩口にそっと頬擦りしてやった。
「今日、愛ちゃんち、行ってもいい?」
最大限甘やかすように囁いてみれば、途端にバッと身体を離された。
目の前には、目をまん丸にした愛ちゃんの顔。
見慣れた愛ちゃんのびっくり顔におかしさが込み上げてきて、撫でるように頬を叩いてやれば、ハッとしたように彼女のそれが赤く染まる。
「いい?」
答えなんてその反応で分かったも同然だったけれど、もう一度問い直す。
赤いほっぺの愛ちゃんは、言葉を噛み締めるようにゆっくりと微笑んで、大きく頷いた。
- 65 名前:こどものいたずら 投稿日:2011/07/28(木) 22:04
-
こんなお誘い初めてでもないのに、心底嬉しそうな彼女の態度にほっこり暖まる胸の奥。
年上のくせに年下みたいな愛ちゃんに、全身を心地良く蝕むのは愛おしさ。
多分だけど、それはこれからずっと私を蝕み続けていく、心地良さ。
腕時計を見やれば、集合時間まで、あと5分。
なんとか間に合いそうだ。
視線を戻すと、嬉しそうに満足そうに笑む愛ちゃん。
その姿にふつりと沸き上がる悪戯心。
こっちはこれだけ混乱させられたんだから、少しくらいの悪戯は許されると思うんだよね。
頭の中で、さっきまでの自分自身へ言い訳を並べる。
悩んだのは、ほんの一瞬だった。
「愛ちゃん」
私の声に素直に顔を上げたその人の柔らかな唇を、掠め取るように奪ってやった。
視界の端で呆然と目を見開く顔が見えたけれど、構わず扉を開けて外へ飛び出す。
- 66 名前:こどものいたずら 投稿日:2011/07/28(木) 22:05
-
「リハ遅れちゃうから早く行こう」
まるで今の出来事が嘘みたいに、いつも通りの声音で言葉を投げて、すぐに追いついてくるだろう、赤い顔のリーダーに何と意地悪な言葉をかけてやろうか考えながら、私は、一歩を踏み出した。
おわり
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/28(木) 22:06
-
先輩メンの前では子供染みた所を見せる最年長とか可愛いと思います。
ガキさんに対してはそれがより顕著になればいい。
>>54-55
レスありがとうございます。
ガキ生田の絡み好きなので、帰国後のガキさんブログに燃料来ないか日々わくわくしていますw
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/28(木) 22:12
- 作者さんとはツボが合う…!ニヤニヤ
- 69 名前:名無し 投稿日:2011/07/29(金) 11:18
- やっべぇ。
超かわいいっす!
- 70 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/29(金) 17:29
- さゆも愛ガキヲタですね、わかります
- 71 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/29(金) 22:43
- 愛ガキ、かわゆ!!!
- 72 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/30(土) 00:57
- 寝る前に愛ガキ読めて良い夢見られそう(^_^
- 73 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/01(月) 01:28
-
ガキ←生田
生田視点です。
もしかしたらガキさんの方からも矢印出てるかもしれません。
いつも以上に勢いで書いたので誤字脱字乱文ごめんなさい。
- 74 名前:としのさ 投稿日:2011/08/01(月) 01:30
-
新垣さんは22歳。今年で23歳。
えりなはついこの間14歳になったばかり。
その歳の差、9歳。
- 75 名前:としのさ 投稿日:2011/08/01(月) 01:31
- ***
楽屋の丸イスに座って足をぶらぶらさせながら、えりなはそっと新垣さんを窺い見た。
新垣さんは作り付けの机に向かって腰かけてアイフォンを操作中。
さらさらの黒髪から覗く横顔は小さい子どもみたいで、見た目だけだと、えりなと9歳も離れているようにはあんまり見えない。
でも、一緒にお喋りしたり、イベントやコンサートでお客さんに向かって話している時は、やっぱり大人のお姉さんなんだなぁって思う。
えりなが上手く言葉を伝えられない時はフォローしてくれるし、落ち込んでる時はさり気なく声をかけてくれるし。
もちろん怒られる事も注意される事もいっぱいあるけど、そうやって新垣さんに声をかけてもらう度に、すごくどきどきして胸の奥がぎゅうってなる。
新垣さんは9期をまとめてよく子供扱いをする。
確かに、えりなはまだ中学生だけど、それが何なのか分からない程子供じゃないのだ。
- 76 名前:としのさ 投稿日:2011/08/01(月) 01:31
-
新垣さんを見かけると心が逸って、近くに行くとどきどきする。
声をかけられると胸の奥がぎゅうってなって、笑いかけられたら泣きそうなくらい嬉しくなっちゃう。
この気持ちが何なのか、ちゃんと知っている。
えりなは、―――新垣さんが、好きなんだ。
だから、今日みたいに楽屋が一緒になったり、他のメンバーが出払って二人きりになったりしたら、どきどきしてすごく緊張するけれど、その何倍も嬉しくて仕方がなくなるのだ。
こっち向かないかなと、じっと新垣さんの横顔を見ていたけど、新垣さんはアイフォンに夢中で、一向にこっちを向く気配がない。
ちょっと寂しくなって、丸イスから立ち上がり、とてとてと新垣さんに近づいた。
「にーがきさん」
呼びかけると、新垣さんはアイフォンから視線を上げて、えりなを見た。
きょとんとして首を傾げる。肩まである綺麗な黒髪がさらりと揺れた。
- 77 名前:としのさ 投稿日:2011/08/01(月) 01:31
-
「どーしたの、生田」
「あ……、えっとお、えへへ」
話題なんて考えてなくて、誤魔化し笑いを浮かべたら、新垣さんは片方の眉をひょいと上げて苦笑い。
持ってたアイフォンを机の上に置くと、その手をえりなの方へ伸ばしてきた。
それはえりなの左の手首をそっと捕まえて、軽く新垣さんの方へ引っ張った。
新垣さんとの距離がぐっと縮まって、どきどきが大きくなる。
「それより生田。さっき言った立ち位置、ちゃーんと覚えた?」
「あ、はい!」
「ほんとかなぁ」
くすくす笑いながら冗談めかした言葉の途中で、もう一方の手首も捕まえられて、あやす様にゆらゆらされる。
もっと近づく距離。少し上から見下ろす新垣さんは大人っぽいのに子供みたいに笑ってて、胸の奥が痛いくらいに締め付けられる。
どうしよう、えりな、新垣さんが、すごく好き。
- 78 名前:としのさ 投稿日:2011/08/01(月) 01:31
-
「あ、あのっ」
「んー?」
伏せていた瞼がゆっくり持ち上がって、真っ黒な瞳がえりなを映す。
心臓が自分のモノじゃないみたいに、すごい音を立てて動いてる。
頭の中は新垣さんの事でいっぱいで。
「すきですっ!」
声にしてから、その音の意味を理解した。
ハッとして口を噤んだけれどもう遅い。
目の前の新垣さんは、目をまん丸にしてえりなを見てた。言葉が出ないのか口も半開きだ。
何て事を言ってしまったんだろう。こんな所で言うつもりなんてなかったのに。
自分の失態に耳まで熱くなってきた。
今すぐ目を逸らして、いつもの誤魔化し笑顔で逃げてしまいたかったけど、想定外でも何でも、この気持ちを冗談で片付けられるのは、もっと嫌で。
ぐっと下唇を噛んで、視線を逸らすのを堪える。
- 79 名前:としのさ 投稿日:2011/08/01(月) 01:32
-
新垣さんは2、3度瞬きをして、一瞬真剣な表情をしたかと思ったら、困ったように小さく笑った。
「……本気?」
「……は、はい…っ」
反射的に返事をしてた。声が震えたけれど、そんなことには構っていられない。
それを聞いた新垣さんは、口元に笑みを湛えたまま眉根をぐっと寄せて、掴んだ時と同じくらいそっと、えりなの手首を離した。
離れていく熱に急に不安が顔を出す。
困らせてしまっただろうか。気持ち悪いと思われただろうか。
嫌われてしまったかもしれない。新垣さんに。
―――言わなきゃよかった。
鼻の奥がつんとして、望んでもいないのに目頭が熱くなってきた。
涙なんか見せたくなくて一生懸命堪えていたら、新垣さんがぎょっとしてえりなの手を優しく握る。
- 80 名前:としのさ 投稿日:2011/08/01(月) 01:32
-
「こらこら、泣くなって。もー」
声を出したら一緒に涙まで零れてしまいそうだったから、唇を噛んで大きく頷くと、新垣さんはまた眉根を寄せて視線を逸らした。
そのまま何かを思案するように瞼が軽く伏せられる。
普段あんまり見られない難しい表情に、断りの言葉を探してるのかもしれない、と不安になる。
そう思ったら、さっきとは真逆の意味で胸の奥が、ぎゅう、とした。
うるうると揺れる視界。新垣さんの顔が歪んでく。
だめだ。今泣くなと言われたばかりなのに。
涙のせいで歪んで揺れる新垣さんは、えりなの手を静に離して、机に肘を突き額を抑えると、親指で額を撫でた。
- 81 名前:としのさ 投稿日:2011/08/01(月) 01:32
-
「えっとさ、生田の気持ちは嬉しいよ」
一度言葉を切って、続きを選ぶように視線をさ迷わせてから、ちらりと上目遣いでえりなを見た。
その顔はさっきと変わらず険しい。その表情に続く答えを想像して、唇を引き結ぶ。
寂しくて悲しくて、新垣さんの顔を見ていられなくなって瞼を、きゅ、と閉じたら、腕を小さく引かれる感覚。
同時に、お腹辺りに柔らかな感触がぶつかった。
驚いて瞳を開ければ、新垣さんがえりなのお腹へ額を押し付けているのが視界に入って、息を呑む。
「生田は、私をロリコンにする気かあ……」
搾り出したような小さな声だったけれど、えりなの耳にはちゃんと届いた。
なんだかとても悔しげに聞こえるそれに、一瞬目を丸くする。
でも、どうやら気持ち悪がられてるわけではないと分かって、さっきとは別の意味で泣きそうになった。
- 82 名前:としのさ 投稿日:2011/08/01(月) 01:33
-
「き、気持ち悪くないんですか……?」
「はあ?そんなわけないでしょーが」
「え、えりなのこと、嫌いじゃないですか?」
「……じゃないよ」
言葉と共に、えりなの腕を掴んでいた新垣さんの手が、静に腰に回されて、優しくそこを叩かれる。
「じゃあっ、」
大好きなその手の感触に肩を押されるようにして、喉の奥から言葉が飛び出した。
「じゃあ、えりなが大人の女になったらっ、新垣さんの恋人にしてくれますか……っ?」
ぴたり、と新垣さんの手の動きが止まった。
えりなのお腹にくっつく新垣さんの旋毛を見つめる。
新垣さんは何も言わない。沈黙が、楽屋の中に横たわる。
- 83 名前:としのさ 投稿日:2011/08/01(月) 01:33
-
気持ち悪くないって言ってくれた。えりなの事嫌いじゃないって言ってくれた。
みっともない涙声になってしまったけれど、なんとか最後まで伝える事ができた。
だから、えりなは新垣さんの言葉をじっと待った。
言葉にしてから多分数秒、止まっていた新垣さんの手のひらがえりなの腰を大きく一度叩いて、ほとんど同時に、立ち上がった新垣さん。
突然の事に気圧されるように後退ったら、新垣さんに、きゅ、と手を握られて引き止められる。
驚いて視線を上げると、その顔には、くすぐったそうな困ったような不思議な表情が浮かんでいて。
「考えとく」
短くそう言って、新垣さんは悪戯っぽく笑った。
まるで子供みたいなその笑顔に、どきり、と震える胸の奥。
一瞬遅れて新垣さんの言葉の意味を理解して、目を見開いた。
- 84 名前:としのさ 投稿日:2011/08/01(月) 01:33
-
だって。だってだって!
きっと、ごめん、と言われると思ってたのに。
早まる鼓動に急かされるように口を開こうと身を乗り出したら、その直前で新垣さんは、くるり、とえりなに背を向けた。
声をかける間もなく歩き出す。繋がった手に引かれてえりなも慌ててそれに続いて。
「に、にーがきさっ」
「これ以上は聞かないよ」
楽屋の扉の手前で一度止まって、背を向けたまま新垣さんが静かに言った。
ぴしゃりと全てを遮るような声音に口を噤む。
しゃんと伸びた背中が、大きく揺れた。
「もし、もしさ、生田が大人になって、まだ“そう”思ってたら、また言って」
「……はい」
「そん時は、ちゃんと答えるから」
「……!はい!」
背を向けたまま新垣さんは小さく頷いて、楽屋の扉を開けた。
- 85 名前:としのさ 投稿日:2011/08/01(月) 01:34
-
邪険にせず、冗談にもせず、きっと真剣に応えようとしてくれたであろうその背中に、胸の奥が熱くなるのを自覚する。
湧き上がるこの気持ちを新垣さんにも伝えたかった。
嬉しいさにも似た暖かくてくすぐったい感情で胸がいっぱいだった。
やっぱり。
やっぱり、えりなは新垣さんが好きだ。
「よし、とりあえず顔洗いにいくよ生田。目真っ赤ー」
再び歩き出した新垣さんに引っ張られて、えりなも一歩を踏み出した。
溢れ出そうな感情を噛み締めながら、えりなは繋がった手に小さく力をこめた。
おわり
- 86 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/01(月) 01:36
-
急に色々高まりました。生田が可愛すぎるのがいけない。
>>68-72
まとめてレス失礼します。
コメントありがとうございます。愛ガキスキーなのですごく嬉しいです。
さゆは愛ガキヲタですよね。
彼女のブログやコメントは毎度ニヤニヤしながら見てしまいますw
- 87 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/02(火) 21:08
-
愛ガキ卒業話?
前の卒業話とはまた別の世界のお話です。
- 88 名前:あまえんぼ 投稿日:2011/08/02(火) 21:08
-
テレビの中のアナウンサーのお姉さんが、原稿を読み上げる綺麗な声が部屋の中に響く。
それに被さるように控え目な水音が耳をくすぐり、ソファに凭れ込みながら、その音の方向へ視線を向けた。
その先で鼻歌交じりに食器を洗う可愛い彼女の姿を捉えて、自然と頬が緩んだ。
明日の仕事が二人揃って午後からだった。
これ幸いにとガキさんをうちへ誘ったのが昨日の夜。
二つ返事で了承されて、今日の仕事終わりに二人でここへ帰ってきた。
あたしが晩御飯を作ったら、ガキさんが食器を洗う。
それは彼女がうちへ来た時の決まりごとみたいになっていた。
最初のうちは、ガキさんのネイルが禿げちゃうし、彼女とは言ってもこちらが招待している身だから、食器洗いもあたしがやると言っていたんだけど、頑としてガキさんはそれを聞き入れてはくれなかった。
彼女の隙を突いて片付けようとすれば、むくれながらキッチンを追い出される始末で。
何度かそんな攻防を繰り返した末に、最終的にはあたしが折れる形になったのだ。
- 89 名前:あまえんぼ 投稿日:2011/08/02(火) 21:09
-
楽しげに揺れる背中を見つめる。
腰辺りできっちりと結ばれたエプロンの結び目。
そのくせ、右の肩紐がずり落ちてるのが何だか少し滑稽で、彼女の性格をそのまま現しているようだった。
それにしても、と彼女の右の肩紐を眺めながら思う。
普段はあまり気にならないけれど、こうやってまじまじと見つめると、嫌でもその変化に気付いてしまう。
―――肩が、また一段と細くなった。
元々、夏場になると体重が落ちると本人も言ってはいたけれど。
今年のそれは、毎日のように近くで見ているあたしでも気付く程だった。
生真面目で仕事熱心な彼女の事だ。倒れるなんて事は絶対にないだろうけど、心配なモノは心配で。
- 90 名前:あまえんぼ 投稿日:2011/08/02(火) 21:09
-
あたしは、すでにニュースからバラエティ番組に変わってしまったテレビの電源を落として、そっとソファから立ち上がった。
足音を忍ばせて近づき、後ろから、そろり、と腰に腕を回して華奢な背中を抱き締めた。
甘えるように鼻先を項に押し付けながら、抱き締めた感覚が以前のそれと違う事を確認する。
ガキさんは驚いたようにびくりと肩を上下させたけれど、特に嫌がる素振りも見せず、なぁによ、と呟いて食器洗いを再開した。
「邪魔?」
「んん?ちょーっとねー」
「まあ、離れんけど」
含み笑いの返答に憎まれ口を返したら、肩を揺らしながらガキさんは楽しそうに笑った。
くっついてる所から直接伝わる彼女の振動が心地良い。
けれど、腕に力を込めたら折れてしまいそうな腰の華奢さが心細かった。
「なあ」
彼女の肩口にそっと顎を乗せて、手元を覗き込む。
ほとんど変わらない身長はこういう時便利だ。首が変に凝らなくてすむ。
- 91 名前:あまえんぼ 投稿日:2011/08/02(火) 21:09
-
「また、痩せたんと違う?」
最後の一枚の泡を洗い流す手元を眺めながら問いかけると、彼女は一瞬間を置いて、言葉を探すように、ああ、と呟いた。
肩口から見える手首も、やっぱり細い。
「夏場はどうしてもね」
「にしても、落ちすぎやない?」
「……そっかな」
笑い混じりの言葉に、きゅ、と腕に力を込めた。
腰に巻きつく腕が余る。やっぱり違う。
以前の彼女の背中はこんなにも頼りなさ気じゃなかったはずだ。
「胸、なくなってまうよ」
「殴るよ」
間髪入れずに返ってきた答えに、苦笑しながら小さく謝る。
彼女の手が最後のお皿を洗い終えたのを確認してから、肩口に額を押し当てた。
「それは置いといて」
「あのねえ……」
「なんかあった?」
聞いておいて、何となく“答え”は予想はできていた。伊達に何年も一緒にいるわけではない。
不安な事、悲しい事、感情の揺れが食欲に反映されてしまう子だというのを、あたしはよく知っている。
- 92 名前:あまえんぼ 投稿日:2011/08/02(火) 21:10
-
だから。
思い当たるふしは一つしかなかった。
「あたしのこと?」
自惚れでも何でもなく、率直にそう思った。
あたし自身も何年も何人も、今の彼女のように送り出して、彼女と一緒に味わってきた感情だったから。
ぴくり、と彼女の身体が小さく跳ねる。
それはあたしの言葉が間違っていない事を示してた。
暫く続く沈黙に、彼女の次の言葉をじっと待つ。
すると、観念したように細く息を吐き出す音が聞こえた。
「……やっぱさ、色々考えちゃうよね」
どこか諦めたような響きを含んだ言葉と同時に、あたしに凭れかかるように彼女の重みが増す。
難なく支えられるその重みに、胸の奥が少しだけ締め付けられた。
「娘。もハローも。愛ちゃんが、……いなくなったら、どうなるんだろうって」
「うん」
「なるようにしかならないし、今考えても仕方ないって分かってるんだけどさ」
「……うん」
- 93 名前:あまえんぼ 投稿日:2011/08/02(火) 21:10
-
彼女の手が、腰に回したあたしの手をそっと撫でた。
水を触っていたそれはひんやりと冷たくて、何故だか泣きそうになった。
静かに視線を上げて、里沙ちゃんの横顔を盗み見ると、自嘲気味に口角が持ち上がるのが視界に入って、また胸の奥が切なく揺れる。
今までずっと。
ここに来てから、ずっと、一緒に経験してきた事なのに。
今だって、あたしも同じ事を思ってる。これからの彼女たちの事を同じくらいに考えてしまう。
彼女の抱えている漠然とした不安も痛い程によく分かるのに、今のあたしでは、もうそれをともに分かち合ってあげられないという事が、少しだけ歯痒い。
だって、同じだと思っていても、思いのたどり着く先はきっと別。
里沙ちゃんは送る側で、あたしは残していく側なのだから。
「卒業はさー、もう止められんけど」
「……ん」
身じろぎをして彼女を抱き締め直す。
この華奢な背中に負うだろう重責が、どうかどうか、少しでも軽くてすむようにと願いながら。
- 94 名前:あまえんぼ 投稿日:2011/08/02(火) 21:10
-
「里沙ちゃんが困ってたら助けにくるから」
あたしの手に触れていた彼女のそれに少しだけ力が入るのが分かった。
「里沙ちゃんが、寂しいって言うたら、飛んでくるから」
彼女のこの小さな手を握って支えてくれる仲間がいる事を、あたしは知っている。
なによりも、この手の持ち主が誰にも負けないくらいこのグループを愛していて、踏ん張って飛び立つ力を秘めているという事を、あたしは知っている。
だけど。
だけど、里沙ちゃんが寂しいと感じた時に側にいるのはあたしじゃなきゃいやだ。
頼りなく落とす肩を撫でて、落ち込んだ心に優しい言葉をかけて、笑顔が見えるまで甘やかすのは、あたしじゃなきゃ、いやだ。
彼女を残していく癖に自分勝手な事だとは分かっているけど、あたしじゃない誰かが彼女を甘やかすなんて、我慢できそうになかった。
結局は自分のためじゃないかと情けなくなったけれど、本当の気持ちだから仕方がない。
誤魔化すように肩口に額をすり寄せると、頭をそっと撫でられて、ふふふ、と笑い声。
- 95 名前:あまえんぼ 投稿日:2011/08/02(火) 21:10
-
「なあんで愛ちゃんが泣きそうなのさー」
「泣いてえんし」
「うそつけ」
「……顔も見えんのにそんなん分からんやん」
「分かるよ」
何年一緒にいると思ってるの。
続いた言葉に口を噤む。
慰めてたつもりがいつの間にか立場が変わってる気がするのは気のせいだろうか。
なんだかちょっとかっこ悪いんだけど。
うう、と唸ったら、またくすくすと笑われて、頭をなでなで。
「ごめんね。愛ちゃんも大変なのにさ」
「そんなんええよ」
「うん、ありがと」
「寂しなったら言うてよ?絶対やよ?」
念を押すように言ってから、子供染みた求め方だったと後悔する。
さっきまでは結構スマートに行ってたと思うんだけどな。
笑みを含んだ彼女の返事に、情けない気持ちに拍車がかかり、気付かれないように溜め息をついて、彼女の肩にぐりぐりと額を擦り付けた。
不意に頭を撫でていた彼女の手が止まった。
するりと静かに離れていく感触に、不思議になって顔を上げようとしたら、凭れかかる彼女の重みが増して。
- 96 名前:あまえんぼ 投稿日:2011/08/02(火) 21:11
-
「……寂しい」
小さく細く掠れた里沙ちゃんの声が、あたしの鼓膜を震わせた。
切なげに響くそれが、あたしの心を甘く撫で上げる。
そっと彼女を窺い見れば、瞼を伏せてあたしに凭れかかる姿が飛び込んできて、普段のあどけなさとは違う艶っぽい表情に心音が加速していくのを自覚した。
きゅ、と抱き締める腕に力を込めると、甘えるように頬擦りされて。
大きく早くなる胸の音。その後ろからむくりと邪な気持ちが首を擡げた。
彼女の唇からなまあたたかな吐息が漏れて、あたしの気持ちと一緒に頬を柔らかく撫でる。
ぞくぞくと腰辺りに溜まっていく熱に小さく喉を鳴らして唇を引き結んだ。
絶対に怒られる、とは思ったけれど、こんな可愛らしい仕草をされて、平気な顔をして対応できるほどあたしは人間ができていない。
ごめんなさい、と心の中で謝りながら、あたしは目の前の美味しそうな首筋に唇を押し付けた。
ほとんど同時に、シャツの裾から右手を滑り込ませて、お臍のラインをそっと撫で上げる。
彼女の身体が、びくり、と目に見えて大きく揺れた。
- 97 名前:あまえんぼ 投稿日:2011/08/02(火) 21:11
-
「ちょっとっ、待って待って」
お腹を弄っていた右手を捕まえて、里沙ちゃんは慌てたように声を上げた。
離れようとする腰を左手でしっかりと抱き締めて、唇を押し付けた部分に軽く歯を立てた。
短く息を吐き出す音が聞こえたけれど、構わずそこにぺろりと舌を這わせ、掴まれた右手の指の背でパンツのラインをそうっとなぞる。
「な、なに?今そんな雰囲気じゃなかったでしょ!」
「やってえ…」
ぼそりと呟いて、強請るように鼻先を首筋に押し付けて、言葉を探しながら、そこに触れるだけのキスをした。
昔からあたしは言葉が足りない。
メンバーにも言われるし目の前の彼女にだって指摘される。おもちろん自覚もある。
だから、この衝動に上手い言い訳なんて、初めから出てくるはずないのだ。
だから、あたしが取るべき行動は一つだけ。
首筋から顔を離し、栗色の髪の間から見え隠れする可愛らしい耳に、そっと唇を寄せて。
- 98 名前:あまえんぼ 投稿日:2011/08/02(火) 21:11
-
「だめ……?」
里沙ちゃんに触れたくてたまらないありったけの気持ちを込めて、囁いた。
彼女の肩が小さく揺れて、あたしの右手を掴んでいた手の力が弱くなる。
目の前の耳とぷくぷくの頬が鮮やかに色づいていくのが見て取れた。
10年、一緒にいて知ったのは仕事のことばかりじゃない。
頼られて甘えられるのが好きな里沙ちゃんは、真面目なお願いに滅法弱いのだ。
桜色の頬に頬擦りすると、最早あたしの手の上に置いていただけになっていた彼女のそれが、すとんと落ちた。
同時に、彼女は離しかけていた背中をあたしの胸に再度押し付け、細く長い息を吐き出して。
「……ベッドいこ」
トーンを落とした平坦な声でそう言うと、あたしの視線から逃れるようにそっぽを向いた。
拗ねているのか照れているのか、多分両方混ざっているであろう彼女のその態度が、いじらしくて可愛くて、あたしは堪らずその頬に唇を押し付けた。
彼女から文句が飛び出す前にその手をするりと取って、酷く緩む頬をそのままに、今度は優しくその唇を奪ってやった。
おわり
- 99 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/02(火) 21:12
-
川*’ー’)<胸なくなってまうよ
を言わせたいがためだけに書き始めたのに、気付いたら卒業がどうのとか高橋さんがハアハアしてたりした。
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/02(火) 21:32
- nice愛ガキ。作者様の文体にどきどきさせられっぱなしです。
前作に出てくる生田もかわゆす。ガキさんにはすでに愛ちゃんがいて、でもメンバーに言ってなくて、そして生田を傷つけない
ために大人な対応したのかなぁと思ってたり。
次もお待ちしております
- 101 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/08/03(水) 01:36
- 作者さん最高すぐる
愛ガキもいいが生ガキが素晴らしい
次も期待
- 102 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/09(火) 22:16
-
愛ガキで夏ハロの一幕。
いきます。
- 103 名前:きみのまほう 投稿日:2011/08/09(火) 22:17
-
スピーカーが容赦なく吐き出す大音量が会場全体を大きく揺らす。
照明の落とされた舞台袖では、ハローのメンバーの間を縫って慌しく走り回るスタッフさんの姿。
お腹に直接響くその音を舞台袖で聞きながら、私は、いつもより早い鼓動を落ち着けるために大きく息を吐き出した。
数分後には夏の恒例コンサートの幕開けだ。
加入当初は最年少だった私も、気が付けば上から2番目の年齢になっていた。
この舞台の出演者の誰よりも多くのキャリアを重ねているとはいえ、出番直前の独特なテンションの昂ぶりと緊張感には未だに慣れることはできない。
さすがに、お腹が痛くなるような嫌な緊張の仕方はしなくはなったけれど。
会場を揺さぶる爆音とお客さんの歓声に気圧されないようにぐっと踏ん張った。
- 104 名前:きみのまほう 投稿日:2011/08/09(火) 22:18
-
後輩だったあの頃とは、もう立場が違う。
同期や一つ下の二人の前ならばまだしも、後輩たちの前で動揺している姿を見せてはいけない。
ましてや、今回は自分のグループに新人もいるのだ。
最年長の一角が気圧される姿を晒したところで、揺らぐような柔な後輩たちではない事は承知しているけれど、気持ちの問題だった。
自分に言い聞かせながら、上から2番目らしく後輩たちに影響させないよう、それとは見えないようにまた大きく深呼吸をして、右手を持ち上げて握って開いてを何度か繰り返す。
――― 嫌だな。少し震えてる。
小刻みに震う手の平を見つめて、もう一度握ろうとした時だった。
見覚えのある形の手が音もなくすっと私のそれを取った。
驚いて顔を上げると、隣には、形の良い唇を柔らかく緩めた最年長の姿。
暗い舞台袖の中で彼女の明るい髪だけがくっきりと浮かび上がる。
一瞬、彼女だけがこの中で照明を浴びているかのような錯覚に陥って、その不思議なシルエットに心音が飛び跳ねた。
- 105 名前:きみのまほう 投稿日:2011/08/09(火) 22:18
-
そんな私を気にする事なく、彼女は長い睫に縁取られた大きな瞳を細めると、短い髪をふわりと揺らして、会場の爆音をかき分けるように私の耳元へ顔を近づけた。
「手、震ってる」
繋がった手に少しだけ力が込められて、反射的に応えるように同じくらいの強さで握り返してた。
「そりゃ、やっぱ緊張するし……」
「昔みたいに顔にはあんま出とらんけどな」
「……10年目ですから」
「10年目やもんな」
愛ちゃんは楽しげに私の言葉を繰り返して、柔らかな髪を揺らしながらくつくつと喉で笑った。
いつものそれと変わらない彼女の声音に、同じキャリアを重ねているはずなのに、年上の余裕を感じて、少しだけ悔しくなった。
「愛ちゃんだって緊張してんじゃん」
むっとしながら繋がった手を、ちょい、と引っ張ると、愛ちゃんは少しだけ驚いたように目を見開いた。
彼女は、昔から、こうやって緊張してる人の事をからかいながら、その実、それは自分の心を落ち着かせる為の行動だという事を、私は知ってる。
それを裏付けるように、彼女は小さく身体を揺らしてはにかんで、肩を寄せてきた。
- 106 名前:きみのまほう 投稿日:2011/08/09(火) 22:19
-
「何年やっても、これだけは慣れんわ」
「私も」
お互いの肩先が触れ合い、愛ちゃんが凭れるように少しだけ体重をかけてくる。
甘えるような仕草と、心地良い重みに自然と口元が綻んでいく。
私は、繋がった手を静かに解いて、そのまま彼女の腰をそっと抱えると、彼女の頭に自分のそれをこつんと預けた。
触れた部分からじんわりと広がる愛ちゃんの温度が、私の心音を少しだけ落ち着かせる。
「緊張してぶっこわれそうやからさ」
「……どこが?」
緊張はしているのは確かだとは思うけれど、“ぶっこわれる”ほどではないはずだ。
たぶんだけど、出演者の中では一番落ち着いているであろう彼女の言葉に首を捻ると、至近距離にある真っ黒な瞳が悪戯っ子のそれのようにくるりとした。
「やから、魔法かけて?」
私にしか分からないだろう言葉の意味を飲み込んで、楽しげな色の瞳を見つめ返すと、緩く肩に腕を回される。
「……ここで?」
「ここで」
そろりと問うと間髪入れずに打ち戻ってきた言葉に思わず眉を顰める。
- 107 名前:きみのまほう 投稿日:2011/08/09(火) 22:19
-
“魔法”はいつの頃から愛ちゃんが言い出すようになったモノだった。
曰く、それをすると緊張感が和らぐと、イベントやコンサートの前に、決まってこうやって肩を抱き、私の逃げ道を絶ってから、彼女は強請る。
ここ最近聞かなくなったそれに、口を引き結んで片方の眉をひょいと上げると、悪びれる様子もなく、愛ちゃんは、にひひ、と笑んで肩を抱く腕の力を強くした。
こうなると彼女は何を言っても聞かない事を私は嫌というほど知っている。
強請るなんて可愛いモノじゃない。形は“お願い”を装ってはいても、それはもう立派な命令だった。
だって、彼女は最初から知っているから。私が最後にはそれに逆らえない事を。
溜め息を吐きたくなる衝動を抑えながら、頭だけ動かして周りを確認。
舞台袖ではスタッフさんの、そろそろ出番です、と言う声が飛び交い、メンバーや後輩たちは緊張の色を強めていて、こちらを気にしている様子は見られない。
- 108 名前:きみのまほう 投稿日:2011/08/09(火) 22:19
-
「里沙ちゃん」
急かすように呼ばれた、仕事場では滅多に使わない呼び名。
それにずくりと心が震えた事を誤魔化すように眉を顰め、彼女を見やった。
楽しげに光る瞳を数秒見つめて、腰を抱く腕に力を入れて。
掠め取るように、愛ちゃんの唇に自分のそれを押し付けた。
感触を味わう暇もなく素早く離れると、目の前には、これでもかってくらいにやけ顔の愛ちゃん。
とろけそうなその表情につられるように、口元が綻びそうになるのをぐっと我慢して、不機嫌な体裁を保つ為に華奢な腰を軽くつねってやった。
不機嫌じゃない事が彼女にバレているのは百も承知だ。これもまた気持ちの問題だった。
高い笑い声を上げながら愛ちゃんがパッと身体を離した。
持ち主と同じように愉快そうに跳ねた髪の隙間から、なんだかとても微妙な表情でこっちを見ているさゆみんを見つけて、はて、と声をかけようとした時、ほとんど同時に、スタッフさんから出番の声がかかった。
- 109 名前:きみのまほう 投稿日:2011/08/09(火) 22:20
-
愛ちゃんは、笑いを引っ込めてスタッフさんからマイクを受け取り、くるりとこちらを振り向いた。
「行こか、ガキさん」
柔らかな動作で、軽く掲げられた右手。
彼女の纏う空気が、変わる。
しん、と引き締まったそれが私の肌を撫で上げた。
愛ちゃんの顔に浮かび上がるのは、さっきとは似ても似つかない不敵な笑み。
彼女の後ろで、爆音に揺れるステージがいくつものライトに照らし出されてギラギラと異様な輝きを放っていた。
そのステージさえも呑み込んでしまいそうな彼女の佇まいに、ごくり、と喉が鳴る。
彼女のそんな姿に、否応なしに昂ぶる感情が、緊張感を凌駕して、ぞくぞくと背筋を震わせて。
私は、スタッフさんからマイクを受け取ると、一歩前にいる愛ちゃんの右手に向かって、自分のそれを勢いよく打ちつけた。
ステージの、幕が開く。
***
コンサート後の楽屋で、いちゃつくなら他所でやれ、とぼそりとさゆみんに毒づかれたのは、また別のお話。
おわり
- 110 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/09(火) 22:21
-
从*・ 。.・)<いい加減にしろなの
キュン期には見せないように道重さんが頑張ってくれました。
愛ガキで楽屋が別だったって、こういう事するからじゃね?っていう妄想でした。
その内、年長コンビにうんざりしてるさゆとか書きたい。
- 111 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/09(火) 22:22
-
>>100-101
まとめてレス失礼します。
生ガキが好評なようですごく嬉しいです。
春ツアー写真集でも生ガキいっぱいでにやにやでしたw
- 112 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/09(火) 23:27
- 今回は獣っぽい愛ちゃんwwにしてやられました。それにしてもこういう時に登場するのはさゆみんと相場が決まっているのは彼女も愛ガキをただからでしょうか。
れーなならどんな反応なのか気になりました
- 113 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/11(木) 15:05
-
愛ガキ、デリカシーのない高橋さん。
ついったでの色んな方からのネタの嵐に高まった結果。
勢いでがりがり書いたので誤字脱字乱文ごめんなさい。
- 114 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/11(木) 15:05
-
二人っきりで夜を迎えれば、お互い大人だし、そういう雰囲気にもなるわけで。
私は愛ちゃんをそういう意味で好きだから、優しい口付けと一緒に、頬を撫でながら誘われれば、少しくらい恥ずかしくても理由がなければそのお誘いを断ることはしない。
お誘いの答えの代わりに、こちらから、ちょん、と口付けを返す。
愛ちゃんは少しだけ驚いたように顎を引いて、それから、ゆっくりと蕾が綻ぶように微笑んだ。
嬉しそうなその笑顔に、胸の奥がきゅんと鳴く。
顔中に触れるだけのキスの雨を降らせながら、愛ちゃんがゆっくりと重心をかけてくる。
素直にそれに従って、二人で座るのには少し大きめのソファに倒れこんだ。
「りさちゃんすき…」
いつものそれよりも何倍も甘い声で私の心を震わせながら、愛ちゃんは私の首筋に顔を埋めた。
そこに感じた柔らかい唇の感触は、すぐに、ぺろり、と舌のそれへと変わって、びくりと肩が跳ねて、心音とともに、否応なしに息も上がっていく。
- 115 名前:でりかしー 投稿日:2011/08/11(木) 15:06
-
いつの間にか裾から侵入した彼女の手がお腹を撫ぜた。
優しく優しくゆっくりと、お臍の周りを一周したそれは、脇腹を這いながらブラと肌の境目を引っ掻いた。
思わず腰を引くと、反対の手で少し強引に引き寄せられる。
「はい里沙ちゃん脱ぐやよー」
腰の手をそのままに少しだけ上体を起こした愛ちゃんは、気の抜けた声で私のシャツをぽいっとソファの下へ。
そうして、また、ぐっと距離を縮めながら、いつもそうするように、まじまじと私を見つめた。
愛ちゃんとのこの行為は嫌いじゃない。
むしろ、全身で彼女に愛されている気がして好きなのだけれど、愛ちゃんが私を見つめるこの瞬間は正直ちょっと苦手だった。
理性が吹き飛んで何もかも彼女に委ねてしまっている最中ならまだしも、まだまだ正気な部分が残っている今、いくら何度も見られているからとはいえ、肌を晒すのには抵抗があった。
それに―――。
- 116 名前:でりかしー 投稿日:2011/08/11(木) 15:06
-
「……あんまり見ないでよばか」
「えー?」
無駄だと分かってるけど、胸の前で小さく腕を交差させる。
私の上の愛ちゃんは、途端に眉を顰めて不満気に唇を尖らせた。
「なぁーんで」
私の腕をそっと撫でながら呟いて、撫でた部分に優しく唇を落とされた。
まるでお強請りされているようなそれに鼓動が跳ねる。
「だって……」
「だって?」
顔を上げて見つめ返してくる熱く潤んだ瞳に、お臍の下らへんがきゅんとして、身体に溜まった熱を吐き出すように細く息を吐きながら、ちょっとだけ顔を背ける。
「だって、愛ちゃんみたいにおっきくないもん……」
完全にぺったんこってわけではないけれど、標準的な女性の胸と比べたら、やっぱり小さいから。
普段はそこまで気にしないけど、こういう場面ではどうしても気になってしまう。
それに、私を組み敷くこの人は私と違っておっきいし。
愛ちゃんに大きい方がいいとか言われた事なんてないけれど、やっぱり、大きい方がいいのかな、とか、色々考えてしまう。
- 117 名前:でりかしー 投稿日:2011/08/11(木) 15:06
-
悶々と考えを巡らせていたら、上からくつくつと抑えた笑い声が聞こえた。
思わず視線を戻せば、これでもかってくらいに、にやけた愛ちゃんの顔。
人が真剣に悩んでるのに!って声を上げようとしたら、彼女はそっと私の髪を撫で付けると、それじゃあ、とこれまたにやけた声で呟いて。
「あたしがおっきくしたげようか?」
締まりのないにやけ顔でのその言葉の意味を理解して、私は、反射的に近くにあったクッションを愛ちゃんの顔に投げつけていた。
最低だ!どこのエロおやじだ!
にやけた顔でそんなこと言うなんて!
ぐも、とくぐもった声とともに仰け反った愛ちゃんの身体。
その隙間から素早く逃げて、ソファの上で背を向ける。
「さいっあく」
膝を抱えて蹲って、これでもかってくらい低い声をあげれば、背中から、ごめん、と情けない声が返ってきた。
- 118 名前:でりかしー 投稿日:2011/08/11(木) 15:07
-
「デリカシーってもんがないのか愛ちゃんにはっ、もー!」
「うぇ、ごめ」
「えろおやじ」
「……ごめん」
二回目の謝罪にも背中を向けて口を噤んでいると、そろりと遠慮がちにむき出しの肩に手を添えられる。
私の機嫌を取るかのように、何度か撫でるように肩を往復したそれは、二の腕のあたりに落ち着いて。
同時に、そろそろと背中に柔らかな重みがかかり、身体を寄せられたのだと分かる。
「冗談やんかぁ。ごめんて」
「うっさい」
「……りーさちゃん」
「………」
頑なに黙って背を向けていたら、二の腕に置かれた彼女の両手が、そうっと身体の前に回されて、後ろからすっぽりと抱きすくめられてしまった。
柔らかな感触と暖かな温度に、鼓動が早まっていくのを自覚はしたけれど、黙ったまま足元を見つめた。
そうしたら、腕の力が強くなって、耳元で小さく名前を呼ばれて。
- 119 名前:でりかしー 投稿日:2011/08/11(木) 15:07
-
「……りさちゃんごめんなさい」
迷子の子供みたいな声音に、ぞくり、と震える、こころ。
怒っているはずなのに、どうしようもなく反応してしまう自分が悔しい。
ぐっときつく目を閉じて、なんとか胸の高鳴りを落ち着けようと試みたけれど、そんなこと彼女の温度の前では最初から意味なんてなくて、悔し紛れに心の中で毒づいた。
……くっそう。
愛ちゃんのくせに。愛ちゃんのくせに!
デリカシーないこと言うくせに!
でも、そんなこと言われても、やっぱり。
やっぱり私は、愛ちゃんが、好きで。
私は最後の抵抗のように、大きく大きく溜め息を吐きながら、目の前にある彼女の手首に唇を押し付けた。
びくり、と背中の愛ちゃんの振動が伝わってくる。
- 120 名前:でりかしー 投稿日:2011/08/11(木) 15:07
-
「ばか」
「……うん」
「反省した?」
「うん」
力強い頷きに、ほう、と息を吐いて、愛ちゃんに凭れるように力を抜いた。
そっと横目で覗えば、蕩けそうな顔で笑う彼女の姿。
きゅんと鳴く心に、甘いなあ自分、と自嘲気味に思った。
こんなにデリカシーもないし鈍いし言葉が足りないのに、そりゃあステージではかっこいいけど、なんでこんなにも好きなんだろう。
甘えるように擦り寄ってくる彼女の頬に、優しく肌を這う手のひらに、こんなにも心がかき乱されてしまう。
再び始まったキスの雨。
優しくソファに押し付けられるのに素直に従いながら、私は、ゆっくりと瞳を閉じた。
きっと、答えなんてでない。
好きになった理由なんて、今更考えたって何もかもが遅いのだ。
だって、どんな理由を並べ立てたって、こうしてどうしようもなく熱く震える心は、私のモノに間違いないのだから。
おわり
- 121 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/11(木) 15:11
-
ガキさんは胸がコンプレックスだったら可愛いなあ、という妄想でした。
>>112さん
さゆは愛ガキに肯定的?っていうのもありますが、
バカップルを冷めた目で見てくれるので登場させやすいってのがあります。
れいなのイメージがへたれいななのでもし登場させるとしたらそっち方面に行きそうですw
レスありがとうでした。
- 122 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/11(木) 15:27
- 作者さんのついった気になるw
- 123 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/11(木) 22:41
- 作者さんの投稿スピードには本当に頭が下がる…
ほんとうにごちそうさまです。
しかし最近のガキさんは細すぎて心配です
- 124 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/16(火) 22:13
-
愛ガキです。
寄りかかってるようで寄りかかられてる二人。
- 125 名前:だれよりも 投稿日:2011/08/16(火) 22:14
-
――― 嫌な予感はしていたんだ。
本番前の楽屋で何気なく見た彼女の目元が、何だかいつもより潤んでいたり。
普段なら真っ先に反応するはずなのに、スタッフさんの呼び声に一瞬遅れて返事をしたり。
ステージへ登る直前、いつもそっと握る手を、何だかんだと理由をつけて拒否されたり。
いつものそれとは違う彼女の態度に、嫌な予感はしていた。
そして、何となく、その理由の予想もあたしにはついていた。
だからコンサート終了直後、タオルを受け取ってメンバーが各自の楽屋へ戻っていく廊下で、緊張した面持ちで走り回るスタッフさんたちの姿を見つけた時、すぐに彼女に何かあったのだと思った。
近くのスッタフさんに声をかけると、案の定、ステージからあたしとは逆サイドにはけた彼女が、その直後に倒れたのだと聞かされて。
その言葉を最後まで待たず、あたしは駆け出していた。
やっぱり体調が悪かったか。
開演前の態度で何となく予想はしていたけれど。
- 126 名前:だれよりも 投稿日:2011/08/16(火) 22:15
-
本人もそんな事訴えなかったし、他のメンバーの前で辛そうな様子も見せていなかったから、あえて口には出さなかった。
本番中にあまりにも様子がおかしければ声をかけようとは思っていたけれど、終盤までは絶好調とは言わないまでも彼女はステージをきちんとこなしていて、その姿にあたしはどこか安心してしまっていた。
メンバーやスタッフが行き交う長い廊下を駆け抜ける。
驚いたようにあたしを振り返る後輩たちの視線も全部無視して、唇を噛んだ。
ライブの終盤、一度彼女と視線があった。
そういう時、いつもは間髪置かずに返ってくる笑顔が今日はなかった。
気丈なあの子は後輩たちがいるような所で失態を見せたりしない。
いくら辛くても苦しくても楽屋まではどうにか自分を奮い立たせて、いつも通り振舞うような人だ。
その里沙ちゃんが、舞台袖で、後輩たちも見ているだろう所で倒れたという事は、その終盤の時点で相当“キテ”た、という事だ。
- 127 名前:だれよりも 投稿日:2011/08/16(火) 22:15
-
やっぱり、あの時、声をかけて無理やりにでも休むように言うべきだった。
後悔の念が胸の中を駆け巡り、床を踏み込む足に自然と力が入った。
ヒールと床のぶつかる耳障りな音があたしの苛立ちを助長する。
長い廊下の突き当たりを左へ曲がり、開け放たれた扉をくぐると、数人のスタッフとメンバーの姿が視界に飛び込んできた。
すぐに、その中心でスタッフさんに抱えられるようにして立っている里沙ちゃんを見つける。
暗がりではっきりとした表情は覗えないけれど、背中を丸めて肩で息をするその姿に酷くざわつく胸の奥。
あたしの気配に気付いたスタッフとメンバーの何人かがこちらを向き、里沙ちゃんの側にいたさゆが焦ったように声を上げた。
「愛ちゃん!」
応える代わりに右手を上げながら近づくと、スタッフの一人に寄りかかり俯いていた里沙ちゃんが、ゆっくりと顔を上げるのが見えた。
彼女はあたしを見とめると、大きく目を見開いて、きまり悪そうに視線を逸らす。
- 128 名前:だれよりも 投稿日:2011/08/16(火) 22:15
-
「大丈夫?」
「……あー、いやあ」
あたしの問いに、言葉を濁して力なく笑った彼女。
いつもとは違う覇気の無い態度に、また唇を噛んだ。
それだけでもう、彼女の隠していたしんどさが、どれ程のモノか嫌というほど分かってしまって。
それを、あたしにさえ隠し我慢していた彼女に腹が立った。
そしてそれ以上に、気付いていたのに何もできなかった自分自身にどうしようもない怒りが湧き上がる。
「っ!アンタなあ…!」
「あー!愛ちゃん!今、スタッフさんがイス持ってきてくれるって」
思わず感情的に声を荒げたら、その場の空気ごと奪うようにさゆが声を張り上げた。
苛立ちながらさゆを見やると、困ったように眉尻を下げられて、その姿に少しだけ冷静さを取り戻す。
一度、大きく息を吐き出し、さゆに小さく謝って、里沙ちゃんを支えるように彼女の肩に腕を回すスタッフさんに「代わります」と声をかける。
返事を待たずに半ば強引に里沙ちゃんとスタッフさんとの間に割り込んで、彼女の肩を抱え込んだ。
- 129 名前:だれよりも 投稿日:2011/08/16(火) 22:16
-
そのスタッフさんは手伝うと申し出てくれたけれど、丁重に断った。
彼女の肩を抱いた時に感じた汗に濡れた肌の感触も、張り付く衣装も、力が入らず寄りかかってくる彼女の重みも、気にならない。
それよりも、これ以上、弱った彼女を自分以外の誰かに触られるのが嫌だった。
触れた部分から、いつもよりもずっと熱い彼女の体温が直接伝わってくる。
それがライブで激しい運動をした事からくるモノではない事は明白で、ぶつけようのない怒りがじりじりと胸を焼く。
はあ、と熱気の篭った息があたしの首元辺りを撫でて、彼女の重みが少しだけ増した。
「……ごめん、愛ちゃん。やっぱちょっと、しんどい、かも。」
「ん」
「運んで……」
弱々しく掠れた声に、胸の奥がぎゅうっと窄まった感覚がした。
- 130 名前:だれよりも 投稿日:2011/08/16(火) 22:16
-
華奢な肩を抱え直すと、マネージャーさんに名前を呼ばれた。
視線を向けると心配顔のマネージャーさんが、急遽部屋を一つ空けた事を教えてくれて、あたしはもう一度彼女の肩をしっかりと抱え直して、マネージャーさんの誘導に従って歩き出した。
たどり着いた部屋の前で、心配そうなマネージャーさんに自分が里沙ちゃんの面倒を見ると申し出た。
渋るマネージャーさんになんとか納得してもらい、すぐに車を用意するとの言葉に頷いて、あたしと彼女の荷物を持ってきてもらうようにお願いする。
それからあたしは、一緒について来てくれた心配顔のさゆに安心させるように小さく笑いかけて扉を閉めた。
- 131 名前:だれよりも 投稿日:2011/08/16(火) 22:16
-
***
用意された部屋は普段使っている楽屋と変わりない大きさのモノだった。
造り付けの机に鏡、小さな冷蔵庫と洗面台。部屋の真ん中には二人がけのソファが二つ、向き合って置かれていた。
ソファに里沙ちゃんの身体をそっと預けると、彼女はへなへなと崩れるように座った。
俯いて辛そうに呼吸を繰り返す彼女を一瞬見やり、部屋に置かれた小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、彼女の隣へ腰掛ける。
俯いたままの彼女の、汗で額に張り付いた前髪をそっと払ってやると、その頭が緩慢な動きで持ち上がり、潤んだ瞳があたしを捉えた。
「水、飲むやろ」
「んー……」
- 132 名前:だれよりも 投稿日:2011/08/16(火) 22:17
-
キャップを外してペットボトルを彼女に手渡そうとしたら、ボトルまで腕を持ってくるものの手に力が入らないのか、何度も取り落としそうになる。
4度目の挑戦を始めた所でその手を静かに握って、あたしはボトルに口を付けて水を含んだ。
いつもの彼女ならこの時点であたしの行動の意味に気付いたと思うけれど、今はそこまで頭が回らないのか、里沙ちゃんはきょとんと不思議そうにあたしを見つめてた。
その項に右手を添えて。
彼女の唇に、自分のそれを押し付けた。
驚いたように里沙ちゃんが目を見開くのを見つめながら、少しだけ強引に唇を割って含んでいた水を流し込む。
彼女がぎゅっと目を瞑る。
あたしは揺れる睫毛を見つめながら、彼女の喉が鳴るのを確認して唇を離した。
- 133 名前:だれよりも 投稿日:2011/08/16(火) 22:18
-
困惑気味にあたしへ向けられる視線を無視して数度それを繰り返すと、最初は抵抗するような素振りを見せた彼女も、段々と素直に与えられた水に喉を鳴らすようになった。
最後に含み切れず顎へ零れた水滴をぺろりと舐め取ってから顔を上げると、少しだけ顔を赤らめてうるうると揺れる瞳とぶつかった。
項に置いていた手を肩に回しそっと抱き寄せると、こてん、と彼女の頭があたしの首元に落ちてくる。
は、と細く吐き出された熱い息に、こんな状況なのに、少しだけ鼓動が高鳴って、それを誤魔化すように持っていたタオルで彼女の額や首元の汗を拭ってやった。
首元や露になった鎖骨あたりにタオルを押し付けたら、あたしの気持ちを知ってか知らずか、彼女は気持ち良さそうに目を閉じて、猫みたいに鼻先をあたしの首筋にすりすりと寄せてきた。
その仕草に堪えきれなくなった愛しさが、あたしの頬の筋肉を綻ばせる。
「なん、気持ちい?」
「ん……、ちょっと」
- 134 名前:だれよりも 投稿日:2011/08/16(火) 22:18
-
彼女は目を閉じたままそう言って、いつの間にか掴んでいたあたしの服の裾を軽く引っ張る。
まるで、もっとして、とでも言いたげなその仕草。
弱っているからなのか、最近は滅多に見られない、だけど昔は同期相手によく見せていた甘えん坊な彼女の姿に、胸の奥を柔らかく刺激されて、乞われるままに撫でるように首元を拭う。
――― いつも。
いつも“こう”ならいいのに。
そうしたら、きっと。
辛さをひた隠しにして、里沙ちゃんが倒れることもなかったはずだ。
彼女の性格や今の自分達の立場を考えれば、それは難しい事だとは分かっていたけれど、あたしは思わずにはいられなかった。
「……始まる前からしんどかったん?」
気持ち良さそうにあたしに身を預ける彼女に静かに尋ねれば、その身体が強張ったのが触れている部分から直接伝わる。
その反応と開演前の彼女の態度で、答えは出ていたも同然だったけれど、黙って彼女の言葉を待つ。
- 135 名前:だれよりも 投稿日:2011/08/16(火) 22:18
-
少しの沈黙の後、強張っていた彼女の身体からゆっくりと力が抜けていくのが分かった。
「今日はこれで最後だし、だーいじょーぶだと思ったんだけどねえ」
どこか諦めたような口調でそう言うと、里沙ちゃんは顔を隠すようにあたしの肩口へ額を押し付けて、自嘲気味に笑った。
「……でも、心配かけたよね。ごめん」
くぐもった小さな謝罪。
消え入りそうな声音に、思わず彼女の存在を確かめるように肩を抱く腕に力を込める。
小さい子をあやすように髪を撫でて、額を肩に押し付けているせいで丸見えになった彼女の特徴的な形の耳に唇をそっと押し当てると、里沙ちゃんは、びくり、と一度肩を大きく揺らした。
逃げられないように、髪を撫でていた手も背中へ回して、細い身体を腕の中へ閉じ込める。
「ほんまやし」
「ごめん。おこんないでよぉ……」
甘えるようにすり寄りながらそう言って、里沙ちゃんは、あたしの服を掴んでいた手を緩く腰にまわした。
- 136 名前:だれよりも 投稿日:2011/08/16(火) 22:18
-
愛ちゃん、と小さく呼ばれる。
声音に含まれる幼い甘ったるさに胸の奥の方がきゅんと疼いた。
ベッドの上でよく聞く眠くなった時の彼女のそれだとすぐに察して、背中を一定のリズムで、とんとんとん、と叩く。
そうしながら視線を下げると、明るい色の髪の間から見える細い顎。
その上にある可愛らしい唇がむにゃむにゃと動いた。
それもまた眠りかけの彼女がよくやる仕草で、本人に伝えると拗ねるから言わないようにはしてるけれど、その仕草は赤ちゃんみたいで愛らしいとあたしはいつも思ってた。
「眠い?」
「んぅ……」
「寝てええよ」
迎えの車が来るまで、あとどれくらいかかるか分からないけれど、側にいるから。
一定のリズムで背中を叩きながら、汗で濡れた髪にそっと唇を落とす。
すると、腰にまわっていた里沙ちゃんの腕の力が強くなった気がして。
「あいちゃんが、いてくれてよかった……」
ぽそり、と呟かれた言葉。
言い終わると同時に、凭れかかる彼女の重みが増して、辛そうだった呼吸は規則正しい寝息へと変わっていく。
- 137 名前:だれよりも 投稿日:2011/08/16(火) 22:19
-
――― あたしは。
あたしは、どうしようもなく胸の奥が震えて、仕方がなくて。
彼女の性格や人となりを、もしかしたら彼女以上に、あたしは知っている。
生真面目で世話焼きで先輩であろうとする彼女にとって、こんな風に無防備に、甘えた姿を見せられる相手が、どんな意味を持つのか知っている。
それが今のメンバーの中ではあたしだけで。
そして多分、彼女がそれを見せる限られた人たちの中でも、あたしにしか見せない甘さがそこには確実にある。
眠くなると口元をふにゃりとする癖も。
そういう時に見せる掠れた甘え声も。
きっとあたししか知らない。
その一つ一つが彼女に許されている証拠に違いなかった。
じわりじわりと広がる甘くて切なくて優しい熱に、改めてそんな事を実感してしまう。
それが嬉しくて嬉しくて、あたしは涙が出そうなくらいに幸せだった。
甘えん坊な彼女は、もうあまり見ることはないけれど、そうする相手はいつまでも自分でありたいと強く思った。
あたしが“ここ”を離れても、彼女の側で、ずっとそういう存在であり続けたい。
- 138 名前:だれよりも 投稿日:2011/08/16(火) 22:19
-
抱き締める腕に力をこめる。
眠る里沙ちゃんを刺激しないように、その肩にそうっと額を押し付けた。
手放すことなんて考えられないくらいに、あたしの中で、彼女の存在は大きすぎる。
里沙ちゃんにとってのあたしもそうであればいいと思った。
――― そうでありたいと思った。
心の中で願いながら、マネージャーさんが来るまで、あたしはずっとそうして里沙ちゃんの温度を感じていた。
おわり
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/16(火) 22:22
-
最終的に何が言いたいか分からない話になった。
どっちもステージに対しては超ストイックそうですが、
お互いに相手の方が無茶してると思ってそう。
>>122-123
まとめてレス失礼します。
ついったは日々愛ガキ愛ガキ!呟いてますので見かけたらよろしくです。
ガキさんの細さは本当に心配ですね。愛ちゃんと焼肉しに行けばいいと思います。
レスありがとうございましたー。
- 140 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/20(土) 18:45
-
愛ガキ←生田
移動中の話。
- 141 名前:優しさの弊害 投稿日:2011/08/20(土) 18:45
-
仕事柄、地方への公演のために夜中に近い時間に新幹線で移動なんて事は少なくない。
移動中、メンバーは音楽を聴いたり睡眠時間にあてたり、お喋りに興じたいりと様々だ。
私も移動時間は大抵寝てしまうのだけれど、今日はたまたま隣が生田で、楽しそうに喋り続ける生田の声に耳を傾けていた。
車窓から覗く景色は皆一様に真っ暗なそんな時間帯。
公演後すぐの移動ということもあって、さすがの生田も疲れてきたのか、気がつくと楽しげに弾んでいた声が段々と緩やかになっていった。
そうして、終まいには隣から聞こえてきた眠そうな声。
隣へ視線をやれば、窓際に座る生田が一生懸命目を擦っている所で、小さな子供みたいな仕草に知らず笑みが零れた。
目をしょぼしょぼさせる生田はどこか小動物のようで可愛らしい。
「こーら。擦っちゃダメでしょーが」
「はあい」
目を擦る腕を掴んでやんわり止める。
返ってきた生田の声もどこかふわふわと宙を舞うようなあやふやさがあった。
これは私が思っている以上に相当眠いのかもしれない。
- 142 名前:優しさの弊害 投稿日:2011/08/20(土) 18:46
-
掴んだ細い腕を膝まで下げさせてから、生田の方へ身体を近づけて足を組んだ。
生田との間にある肘掛に肘を突いて更に彼女の方へ身体を寄せる。
「生田」
「……はぁぃ」
「眠いんでしょ?よりかかっていいよ」
「へ……、えっ」
途端に生田はしょぼしょぼさせていた目を大きく見開いて私を見た。
その反応に、そんなにおかしな事を言っただろうかと、逆にこちらが驚いてしまう。
差し出した私の肩と顔を交互に見ながら、困ったように八の字眉になった生田の姿に、そういえば、と思い直す。
この子は物怖じしないそのキャラクタに似合わず、とても気遣い屋な所があった。
もちろん、そこは中学生だから、全てが全てきちんと出来た気遣いというわけではないけれど、意外にも周りを見て行動する子だ。
それに、同じグループに所属してるとはいえ、愛ちゃんと私は一応一番の先輩に当たるわけだし、遠慮するなと言う方が無理な話かもしれない。
- 143 名前:優しさの弊害 投稿日:2011/08/20(土) 18:46
-
ふむ、と一瞬思案して、困り顔の生田の細い腕を再び取った。
生田が反応する間を与えずに、そのまま勢いよく引き寄せる。
こてん、と肩にぶつかった生田の頭。
掴んだ手は離さずに、反対の手で逃げられないように生田の頭をぽんぽんと軽く叩く。
「に、にーがきさんっ」
「はいはい、いいからいいから」
生田との間の肘掛に生田の腕を掴んだまま置いて、再度、ぽんぽんぽん、と撫でるように叩いてから、くしゃくしゃと髪を混ぜた。
焦ったように上擦った声を出す生田をちらりと見やると、心なしか頬を赤らめていて、初々しい可愛らしさに心の奥の方がほわりと暖かくなる。
それは小動物や赤ちゃんに感じる愛おしさに似ているようでもあり、だけれど、どこか違うような気もした。
生田は抗議するように何度か口をぱくぱくと動かしていたけれど、結局何も言葉にしなかった。
幼い子供にそうするように生田の髪をゆっくり梳いていたら、生田は暫く視線を彷徨わせて、諦めたようにゆっくりと瞳を閉じた。
- 144 名前:優しさの弊害 投稿日:2011/08/20(土) 18:46
-
肩へ増す重みに頬が綻ぶ。
素直でよろしい、と心の中で囁いた。
暫くの間、ゆっくりゆっくり髪を梳いたり撫でつけたりを繰り返していると、いつの間にか八の字眉毛が元に戻り、緊張したように張り詰めていた呼吸が規則正しいそれに変わっていた。
そっと首を回して肩口を見やれば、薄っすらと無防備に開いた口元とあどけなくと閉ざされた瞼が視界に入ってきて、時々びっくりするくらい大人っぽい表情をする子だけれど、こういう所はやっぱりまだまだ中学生なんだなあと思った。
生田はどこか放っておけない雰囲気を持っていた。
性格なのか何なのか物怖じせずに先輩にも構わずお喋りしていたかと思えば、一人ぽつんと佇んでいたり。
にっこり笑顔でお喋りが大好きなのに、トークをすれば収集がつかなくて、リハがあれば人一倍怒られる。
だけど私は、生田がいつも懸命に取り組んでる事を知っているから。
生田の真っ黒な髪の毛をさらさら撫でる。
- 145 名前:優しさの弊害 投稿日:2011/08/20(土) 18:47
-
放って、おけない。
生田が落ち込んでいれば、どうしても手を差し伸べて、その背中をはたいて、顔を上げさせたくなってしまう。
手のかかる子ほど可愛いってこういう事なのかも知れない。
尤も、さゆみんに言わせれば、絵里や小春の世話を焼いていた時点で気付いてください、らしいけれど。
ぼんやり考えながら、飽きもせず生田の髪を撫でていると、急に視界が陰り、ぎし、と座席が沈む音。
顔を上げれば、私の座席の背もたれに腕を置いてこっちを見下ろす愛ちゃんの姿があった。
愛ちゃんの席は私達の席から二つ後ろのはずだ。
トイレにでも行く所だったのか、それとも帰ってきた所だったのか、愛ちゃんは私の肩で眠る生田と私を見比べて、ひょい、と器用に片方の眉を上げると、顎で生田を指した。
「寝てるん?」
「うん。さっきまで喋ってたんだけど、さすがに疲れたみたい」
- 146 名前:優しさの弊害 投稿日:2011/08/20(土) 18:47
-
自分から聞いてきたくせに愛ちゃんは興味なさ気に、ふうん、と呟いて、それきり黙ってしまう。
けれど、そこを動く気はないらしく、私を見つめたまま何か言いたげに口元を小さく歪めた。
動かない表情と彼女の纏う空気で、不機嫌な時のそれだと分かってしまう。
彼女の機嫌を損ねるような事をした覚えはないけれど、と首を傾げた。
「……なに?」
「……いんや。……最近、よう生田構うなあと思って」
「え?」
やけに渋るような響きで落ちてきた言葉に目を丸くする。
不機嫌さの滲み出る彼女の雰囲気と、その言葉の裏に隠された意味を理解して、何よりもまず先に苦笑してしまった。
それを見た愛ちゃんは、拗ねた子供のように唇を尖らせた。
「生田まだ中学生だよー?変なコト考えないでよ」
「……そういう問題やないやんか」
「そーゆー問題でしょーが。まだ子供なんだから」
生田を起こさないようにトーンを落として答えれば、愛ちゃんは眉根を寄せてむっとした。
- 147 名前:優しさの弊害 投稿日:2011/08/20(土) 18:49
-
普段、モノや事柄に対して競争心や執着心を殆ど見せない愛ちゃんは、自分のモノに関しては子供のような執着心を見せる。
それは私に対しても同じで、私が誰かと二人でご飯をしたり遊びに行ったりすると、分かりやすく拗ねることが昔はよくあった。
それも、私に対して怒ればいいのに、嫌われた、とか、飽きられたんやあ、とか、ネガティブな方へ方へ一人で突き進んで行ってしまうのだから手に追えない。
今改めて考えれば馬鹿馬鹿しいけれど、それで言い争いになるような喧嘩に発展した事も少なからずあった。
さすがに最近は落ち着いてはきたけれど、時々、こうやって当時の愛ちゃんが顔を出す。
むっとして分かりやすく唇を尖らす愛ちゃんに、呆れの向こう側から愛しさが溢れてきて、ふふ、と笑って、そっと顎を撫でてやった。
そうしたら、愛ちゃんは少しだけ目を細めて、何かを諦めたように細く息を吐き出した。
- 148 名前:優しさの弊害 投稿日:2011/08/20(土) 18:50
-
「……てゆーかさあ」
「うん」
「里沙ちゃんより、……生田の方が心配やし」
「……うん?」
彼女の言わんとする事がイマイチ分からなくて、首を傾げると、愛ちゃんはまた溜め息を吐いた。
有り得ない事だけれど、私が生田の方に傾いてしまう、という類のヤキモチじゃなかったんだろうか。
彼女の言動や今までの経験から、てっきりそうとばかり思っていたけれど。
思い違いならば、相当恥ずかしい。
真相を確かめるべく、口を開こうとした時だった。
私を見ていた愛ちゃんが急に周囲を確認するように首を回した。
時間帯のせいなのか車両には乗客は疎らで、周囲にはメンバーや顔見知りのスタッフしかほぼいない。
彼女の行動をいぶかしんでいると、愛ちゃんはすぐにまた私を見つめ直して。
掠め取るように唇を奪われた。
それは本当に一瞬の出来事で。
柔らかな感触さえも、きちんと感じる間もなかったのに。
けれど、否応なしに心音は跳ねていく。
- 149 名前:優しさの弊害 投稿日:2011/08/20(土) 18:50
-
反射的に口元に手をやって彼女を仰ぎ見れば、どこか困ったように笑う愛ちゃんの姿。
こんな公共の場でキスされて、そんな風に困りたいのは私の方だ。
抗議の声を上げようとしたら、今度はくしゃりと前髪を撫でられた。
「世話焼きなんも、優しいのも、……行き過ぎはいかんよ」
ぽつりと呟かれた言葉に、出かかった抗議の声を飲み込んだ。
困ったように笑いながら、でもその声は酷く切なげで切実な響きを持っていたから。
それと呼応するように長い睫毛に縁取られた彼女の瞳もゆらゆらと揺れていた。
切ないのか哀しいのか、でもどこか包み込むような柔らかな、不思議な色を湛えた瞳から視線を逸らせない。
- 150 名前:優しさの弊害 投稿日:2011/08/20(土) 18:50
-
二の句が継げないでいると、愛ちゃんは、ふい、と瞼を伏せてから、にっこり笑った。
それはいつも通りの愛ちゃんの笑顔で、少しだけほっとする。
愛ちゃんは撫でていた所を軽く二度叩いて、「後でね」と言い置くと自分の席へ戻っていった。
一体、今の表情と言葉は何だったのか。
考えてもやっぱり分からなくて、私は目的地へ到着してから、ゆっくり問い詰めようと心に決めた。
そうして、ずり落ちそうになっていた生田のブランケットを引き上げてやってから、そっと目を閉じる。
肩に感じる生田の重みが、少しだけ、震えたような気がした。
おわり
- 151 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/20(土) 18:51
-
ごめんね生田。
- 152 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/21(日) 00:30
- 生田ちゃんちょっとかわいそう
- 153 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/21(日) 15:30
- ガキさん鈍感すぎるで
しかし報われない系生ガキが大好きだと気付いてしまった
- 154 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/28(日) 03:13
-
こはガキ行きます。
今までの作品との繋がりはありません。
愛ガキは影も形もありませんです。
- 155 名前:失敗 投稿日:2011/08/28(日) 03:15
-
ゆるりゆるりと意識が浮上する。
意識と無意識の境界線のような所をうつらうつらしていたら、冷たい空気が肌を撫でて、思わず一つ身震いをした。
自分を抱き締めるように肩に腕を回すと素肌の感触がして、夢うつつの中、あれ、と思う。いつものTシャツの感触がしない。
重い瞼を押し上げれば、カーテンの隙間からほのかな月明かりが床を柔らかく照らしているのが見えた。
どうやら起き出すにはまだまだ早い時間みたいだ。
もぞもぞとシーツの中に潜ろうとしたその時。
隣から自分のモノじゃないくぐもった声が聞こえて、一気思考が覚醒する。
勢いのままにシーツを跳ね除けて起き上がれば、何も身に着けていない自分の姿と、裸の肩をむき出しにして眠っている小春の姿が視界に飛び込んできた。
一瞬頭の中が真っ白になって、どくりどくりと心臓の音がやけに大きく鳴り響く。
- 156 名前:失敗 投稿日:2011/08/28(日) 03:15
-
すっ裸の自分の状況に慌ててシーツを手繰りよせて、額に手を置き、落ち着け、と自分に言い聞かせた。
何度か深呼吸を繰り返して、そうっと小春を見やる。
あどけない寝顔を無防備に晒す小春の長い睫毛が、寝息に合わせて規則正しく揺れていた。
するりと通った鼻筋から唇、むき出しの肩、腕、細くて長い指先。
ゆっくりと視線を這わせていくと、徐々に昨夜の行為が思い出されていく。
昨日、久しぶりに小春に会った。
小春が卒業してからメールのやり取りは細々と続けてはいたけれど、直接姿を見るのは数ヶ月ぶり。
手のかかる子だったとはいえ可愛い後輩には変わりない彼女に久しぶりに会えた事がただただ嬉しくて、あれよあれよと言う間に小春のおうちにお邪魔する事になっていた。
小春の家へ着くと、家族は外出していて次の日まで戻らないから、と小春がへにゃへにゃのいつもの笑顔で缶チューハイを持ってきたのだった。
- 157 名前:失敗 投稿日:2011/08/28(日) 03:15
-
久しぶりに会えた小春に、私の心もどこか浮かれていたのかもしれない。
始めは渋りはしたけれど、勧められるままにお酒を飲んで、小春と他愛のないお喋りに興じていた。
そこからの記憶は曖昧だった。
アルコールをどれくらい飲んだのか分からない。
いつもの外飲みならば自分でセーブするのだけれど、今回は小春の家で油断をしていた。
気が付いたら、小春のベッドの上に二人して倒れこんでいて。
いつも天真爛漫に輝く小春の瞳が、酷く切なげに揺れていたのをおぼろげながらも覚えている。
暫く見詰め合ったあと、押し付けられた唇の熱さがいやに印象的だった。
そうして。
―――そうして。
額に置いていた手を後頭部に回して、私は文字通り頭を抱えた。
- 158 名前:失敗 投稿日:2011/08/28(日) 03:16
-
今現在のこの状況と、曖昧ながらも昨夜の記憶から、導き出される答えは一つしかなかった。
深く深く息を吐く。もう溜め息しか出てこない。
酔っていたとはいえ、どうして抵抗の一つもしなかったのか。
自問したって今更なんの意味もない事は分かっていたけれど、思わずにはいられなかった。
私も二十歳を越えた年齢だ。
“そういう”経験もそれなりに重ねてきたつもりだけれど、さすがに女性経験はなくて、ましてやこれからも仕事で顔を会わせるだろう後輩との経験なんて、もっとあるわけなかった。
はあ、とまた大きく息を吐き出す。
お互い酔っていた時の出来事で、小春にだって、もちろん私にも深い意味があった行為だとは思えない。
小春になんと説明をして、これからどういう顔をして会えばいいのか、私には全く分からなかった。
ごめん、と謝ればいいだろうか。
それとも、何もなかった振りをしていつも通り笑い飛ばせばいいのだろうか。
考えつくそれらどれもが、私にはできそうになかった。
- 159 名前:失敗 投稿日:2011/08/28(日) 03:16
-
一向に纏まらない考えが頭の中を行ったり来たり。
もう一度、大きな溜め息をつきかけた、その時。
軽い衝撃と共に腰に腕を回された感触がして、慌てて視線を下げれば、寝ているものとばかり思っていた小春の後頭部が視界に入る。
小春が私の腰辺りをへばりつく様にして抱き締めていた。
「……なに、考えてるんですか」
衣擦れの音しか聞こえない静かな部屋に、掠れた小春の声がやけに大きく響いた。
いつもの甲高いそれじゃなく、いやに通る低いその声に、小春の感情が読めなくて、緊張感が背筋を走り抜けた。
こくり、と一度喉を鳴らして、慎重に声を出す。
「小春、あのねこれは、」
「……小春っ」
上擦った甲高い声が私の言葉を遮って、思わず顎を引く。
腰に回された小春の腕の力が心なしか強くなった気がした。
- 160 名前:失敗 投稿日:2011/08/28(日) 03:17
-
「好じゃない人と、こんな事しませんから」
「こは……」
「小春、後悔してません」
それは力強い声音なのに、どこか切羽詰ったような頼りなさを孕んでいて、反射的に私は小春の後頭部を撫でるように手を置いていた。
ぴくり、と小さく小春の頭は震えたけれど、構わず梳くように長い髪を撫で付けてやる。
後悔していないと、小春は言った。
それじゃあ、昨夜のあの行為は、小春の望んだ事だったということなのか。
私は何と応えればいい?
酔っていたとはいえ、小春の唇を受け入れて、舌を、指を、身体を、受け入れた。
身体を這う手の感触や耳元に感じた熱い吐息までもが、記憶の底から引きずり出されて、ぞくり、と何かが腰の辺り駆け抜けて、思わず、目と閉じて思考を振り払うように首を小さく振った。
そうしたら、小春の後頭部がもぞりと動く感覚がして、慌てて小春を見やる。
「にーがきさんは、嫌でしたか…?」
昔のような呼び方で、恐る恐るこちらを窺うように発せられた子供みたいな声に、胸の奥が、きゅ、と締め付けられる感覚がした。
- 161 名前:失敗 投稿日:2011/08/28(日) 03:17
-
――― 嫌では、なかった。
押し倒された時も、押し付けられた唇も、抵抗しようと思えばできたはずだ。
こうして今思い返せる程の意識を保っていたにも関わらず、私はそれをしなかった。
できなかったんじゃない、しなかったのだ。
今だって、これからどうやって小春と向き合えばいいのかなんて考えるくせに、嫌悪感は微塵も感じていなくて。
不思議だった。
私は小春とのその行為を、嫌だなんて、欠片も思っていなかった。
それが、また私を混乱させる。
「……嫌、じゃないよ」
ぽそり、と言葉を落としたら、顔を伏せていた小春がバッと上半身ごと顔を上げた。
それまで小春の身体に巻きついていたシーツがずり落ち小春の裸が丸見えになって、慌てて私は視線を逸らす。
会わない間に大人っぽさが増した黒めがちの瞳が、拳一つ分程の距離を空けて、私をじっと見つめてくるのが視界の隅に写った。
小春の長い睫毛に縁取られた真っ黒なそれは、次第にふにゃりと泣き出しそうに崩れて、同じように歪んでしまった薄い唇がゆっくりと開いた。
- 162 名前:失敗 投稿日:2011/08/28(日) 03:17
-
「小春、にーがきさんが好きです」
迷子の子供のような弱々しい声音。
いつも飄々としてマイペースな小春のこんな声を聞くのは初めてかもしれない。
出会った時から、弱音や泣き言は言わない子だった。
私は、そんな小春が心配で、どこか羨ましくもあった。だって、それは私には持っていないモノだったから。
もしかしたら、初めて触れるかもしれない小春の感情に、胸の奥が騒ぎ出す。
高鳴る鼓動は一体どこに向かっているモノなのか、自分の物なのに私には分からなかった。
「……私は、」
ただ一つ、はっきりしていた事は、小春の唇や優しく身体をなぞったその手が、嫌じゃなかったという事実だけ。
けれど、それはつまり―――。
「私は、小春のこと好きだけど、……そういう風に見たことない」
小春が薄い唇をきゅっと噛んだのが見えた。
- 163 名前:失敗 投稿日:2011/08/28(日) 03:18
-
「でも昨日の、その、……アレは、酔ってたけど、嫌とかそういう風には思ってなくて」
「……はい」
「自分でもよく分かんないんだけどさ、今も嫌じゃないっていうか……」
どう伝えればいいのか分からなくて、言葉がどんどんと崩れていく。
当たり前だ。自分でもこの気持ちをどこに落ち着ければ良いのか分かっていないのだから。
中途半端に言葉を切ると、小春は元々大きな瞳を更に大きく見開いた。
そうして、唇を一文字に引き結んでから、上目遣いに私を見やる。
「期待、……しちゃいますよ?」
「……期待外れかもしんないよ」
「いいです。小春、超諦め悪いんで」
にーがきさんも覚悟しといてください、と続けてニッと笑った小春は、強気なその言葉とは裏腹に今にも泣き出しそうに見えて、胸の奥がまたざわりと騒ぎ出す。
- 164 名前:失敗 投稿日:2011/08/28(日) 03:18
-
気付いたら、私は小春の頬に手を伸ばしていた。
優しく優しくそこを撫ぜてやると、それでもまだ笑顔を作っていた小春の表情がみるみるうちに崩れていって、ぐ、と唇を噛んだかと思うと、全体重をかけるように抱きつかれた。
予想外の小春の行動にその身体を支えきれず、小春と一緒にベッドに倒れこむ。
小春の腕が首元にぎゅうと巻き付いて、ひっついた部分から感じる小春の肌の感触に、羞恥心と焦りが一緒くたになって私を襲った。
「ちょっ、ちょっと、こはるっ」
「……っにーがきさんっ」
「小春っ、あの、ふ、服っ」
「すきです……っ」
これ以上ないくらい上擦った幼い声に、思わず小春を引き離そうともがいていた手を止めた。
そっと小春を見やると、長い髪の毛の間から顔を出した小ぶりな耳が、夜目にも分かるくらい赤くなっているのが見えて、普通とは言い難い状態で抱き合っているのにも関わらず、頬が綻んでしまう。
その姿から、たぶん早くなっているだろう鼓動も聞こえるような気がして、胸の奥からくすっぐったいような感情が湧き上がる。
- 165 名前:失敗 投稿日:2011/08/28(日) 03:19
-
強張る身体からゆっくりと力を抜いて、小春の髪を梳くように撫でた。
小春は一瞬、ぴくり、と肩を震わせたけれど、特に抵抗しなかった。
「ぜったい、振り向かせてみせますから」
耳元へ落ちてきた声に、笑みを深めた。
それは、まったく根拠のない自信だ。
だけど、小春はいつだって大きな口を叩いては、いつの間にか飄々とそれをやり遂げる子だった事を私は知っている。
最初から、逃げ場なんてなかったのかもしれない。
小春の大きな瞳に捉えられた、その時から。―――と、言うよりも。
- 166 名前:失敗 投稿日:2011/08/28(日) 03:19
-
髪を撫でる手と反対の手を小春の背中に静かに回す。
小春の腕の力が少しだけ強くなって、肩先に頬擦りされたような感触がした。
子供じみた仕草に高鳴る鼓動に、もう誤魔化しきれないのかもしれないと頭の隅でぼんやりと思いながら、顔を出した赤い耳にそっと唇を寄せた。
「覚悟しとく」
小さく小さく吹き込んで、私は、小春と同じように腕に力を込めた。
答えなんて、すぐそこに見えているも同然だった。
昨夜の小春を受け入れた、その時点で。
おわり
- 167 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/28(日) 03:21
-
遠くない未来でくっつくだろうこはガキでした。
- 168 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/28(日) 03:23
- >>152-153
本当に生田には申し訳ない事を…。
いつかもっと楽しげな生ガキが書ければなあと思います。
まとめてレス失礼しましたー。
- 169 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/28(日) 23:28
- ガキこは好きすぎて…ぐはっ
- 170 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/29(月) 21:11
-
愛ガキ。
ハロタイのケーキシーンの高橋さんが新米パパみたいっていう話題から。
- 171 名前:ふたりのみらい 投稿日:2011/08/29(月) 21:11
-
テレビから芸人さんの軽快な声が流れ出る。
最近よく見かけるその姿から目を離して、ぼんやりと窓を見つめた。
この時期、日が長いとは言え、さすがにお日様もすっかり隠れてしまった時間帯。
外はもう真っ暗だった。
テレビに負けないくらい軽快な笑い声が隣から上がって、そちらへ視線をやれば、あたしの隣に腰掛けた里沙ちゃんの横顔とぶつかった。
楽しげなその表情につられるようにあたしの頬も緩んでいく。
ご飯を食べて、お風呂に入って、こんな風にソファに並んで腰掛けながらゆっくり過ごす時間があたしはとても好きだった。
毎日仕事やリハーサルで顔を合わせるとは言っても、こんな風に二人で過ごす時間はまた特別で、彼女との付き合いが片手の指では追いつかなくなった今でも、あたしにとってかけがえのないモノだったから。
- 172 名前:ふたりのみらい 投稿日:2011/08/29(月) 21:12
-
気が付くと番組は終わったみたいで、芸人さんの声が止んでいた。
リモコンを手にした里沙ちゃんが、ぴこり、とチャンネルを変える。
途端に妙に聞き慣れた声が耳に届いて、慌ててテレビへ顔を向ければ画面に映っていたのは、あたしたち。
しかも間の悪い事に、丁度ケーキを差し出されたあたしが泣きそうになっているシーンで、思わず顔を顰める。
あたしは、画面を楽しげに見つめる里沙ちゃんの隙をちらりと窺って、その手からリモコンを奪い取ると、素早くチャンネルを変えた。
「あーっ!ちょっと見てるのに!」
「しらーん」
べえ、と舌を出してリモコンを高く掲げると、むっと膨れっ面になった里沙ちゃんが、リモコンを奪おうと飛びついてきた。
子供みたいに必死に手を伸ばす姿が何だか微笑ましくて、笑いを噛み殺しながらリモコンを持つ手と反対の腕をそっと彼女の腰へ回した。
ほとんど変わらない体格の彼女にリモコンを奪われるのは時間の問題だ。
あたしはリモコンを頭の上に掲げたまま背中を反らせて、腰に回した腕で彼女の身体を引き寄せながら、二人で座るには少し大きめのソファに二人して倒れこんだ。
- 173 名前:ふたりのみらい 投稿日:2011/08/29(月) 21:12
-
倒れこむ直前、アイドルらしからぬ太い悲鳴を発した里沙ちゃんに、我慢していた笑い声が漏れた。
あたしの胸のあたりから顔を上げた彼女が、拗ねたように唇を尖らせて上目遣いに睨みながら「笑いすぎ」とぼそりと一言。
体勢こそ里沙ちゃんに組み敷かれたような形だけれど、子供みたいな彼女の姿に可愛いと思いこそすれ、睨まれた所で怖いとは少しも思わない。
「てゆっか、いいとこだったのに何で変えんの」
「やって、かっこわるいもん」
「はあ?」
「泣いててかっこ悪いやんか」
あの場では嬉しさと感動で感極まって泣いてしまったけれど、さすがに自分の醜態を改めて、しかも彼女の隣で見るのは嫌だった。
里沙ちゃんは一瞬きょとんとしたかと思うと、すぐに眉尻を下げて困ったように微笑んで、脱力するようにあたしの上へ倒れこんできた。
首元らへんに彼女の顔が埋まり、肌を撫でる吐息がくすぐったかったけれど、それ以上に幸せを感じさせる重みに、あたしは頬を緩めながら彼女の腰を抱え直した。
- 174 名前:ふたりのみらい 投稿日:2011/08/29(月) 21:12
-
「愛ちゃんの泣き顔なんていまさらじゃん」
「でも嫌なもんは嫌やし」
「……もぉー」
くすくすと笑いながら鎖骨あたりに頬擦りされて、柔らかく刺激される胸の奥。
持っていたリモコンを静かに床に落として、その腕を彼女の背中へ回し、華奢な身体をぎゅっと腕の中へ閉じ込めた。
暖かな彼女の熱と甘えるような仕草が何よりも愛おしく思えて、丁度良い位置にある彼女の旋毛あたりにそっと唇を落とすと、何かに気が付いたように里沙ちゃんが「そういえば」と呟いた。
「あのケーキ渡した時さあ」
「……その話はええやんかー」
「いや違くて。渡した時の愛ちゃん、新米パパみたいだったよ」
「へぇ?」
予想外な話の展開に、惚けた声が漏れてしまった。
視線をやれば、里沙ちゃんがあたしの首元あたりに顔を置いているせいで、彼女の鼻先のホクロがやけによく見えた。
丸見えのホクロに、ちゅうしたいなあ、なんてぼんやり思いながら、「なんそれ」と話を促すと、里沙ちゃんは少しだけ身じろぎをした。
- 175 名前:ふたりのみらい 投稿日:2011/08/29(月) 21:13
-
「なんかね、涙目でケーキ受け取る姿がさ。
初めての自分の子供を見たおとーさんみたいだったなあ、って思って」
笑みを含んだ声で言われて、先日の自分の姿を思い出す。
けれど、嬉しさから泣きじゃくっていた事しか思い出せなくて、あたしは首を傾げた。
「そーか……?」
「うん」
何がそんなにもおかしいのか、くふふ、と笑いながら擦り寄られる。
その密やかな笑い声を聞きながら、自分ではよく分からないけれど、里沙ちゃんがそう言うならば“そう”なんだろうと思った。
そうして、里沙ちゃんの背中を回した手でそっと撫ぜながら、里沙ちゃんは良いお母さんになるだろうな、なんてぼんやりと思った。
これを言うと本人はあんまり良い顔をしないけれど、9期への接し方を見ていてもまるでお母さんみたいだし、何より彼女は子供好きだから。
- 176 名前:ふたりのみらい 投稿日:2011/08/29(月) 21:13
-
「里沙ちゃんはさ、子供、女の子と男の子とどっちがほしい?」
ふと思いついた疑問をなんとはなしに声に乗せれば、首元あたりで考え込むような唸り声。
「どっちもほしいけど、……どっちかと言ったら女の子かなあ」
「ほー、そうなん?」
「うん。女の子の方が手がかからないって言うじゃん」
「現実的や」
あまりにも“らしい”理由に笑ってしまう。
当の本人はあたしの上で「普通だし」なんて憮然と呟いた。
ご機嫌を取るように項辺りを撫でさすれば、猫みたいに鼻先をすり寄せてきて、愛おしさが溢れてくる。
現実的で、ちょっと抜けてるけどしっかり者で、優しい里沙ちゃんが、自分の子供に笑いかけている姿を想像するのは容易だった。
彼女のお母さんのような、厳しくも暖かい良い母親になるんだろう。
そうなった時、その隣にいるのは自分であってほしい、と思った。
今置かれている状況では、それが難しい事だと十分に分かってはいたけれど、自分じゃない誰かが彼女の隣に立っているだなんて、想像するだけでも嫌だったから。
- 177 名前:ふたりのみらい 投稿日:2011/08/29(月) 21:13
-
――― けれど。
梳くように髪を撫ぜて、髪の間からひょこりと顔を出した可愛らしい耳の輪郭を親指でそっとなぞる。
けれど。
もしもそんな未来がやってきた時、あたしは彼女のために潔く身を引くだなんて出来そうにない、と思った。
きっと、みっともなく泣いて縋って、里沙ちゃんを困らせる。
だって、もう、そんな事が簡単に出来る程、私の中の彼女の存在は小さなモノではなくなっているから。
泣き顔一つ、かっこ悪い姿を見せるのも嫌なくせに、まったくおかしな話だ。
自嘲気味に笑ったら、不意に彼女が顔を上げて、思わず顎を引く。
彼女はあたしの心情に気付いた様子もなく、あたしを数秒見つめると、嬉しそうに口元を綻ばせて。
「顔は、愛ちゃん似がいいなあ」
心臓が、止まるかと思った。
はにかんだように笑う里沙ちゃん。
抱き締める腕に力が入る。
- 178 名前:ふたりのみらい 投稿日:2011/08/29(月) 21:13
-
――― 嬉しかった。
たった一言なのに。
他愛のない言葉のじゃれ合いの中の、たった一言なのに。
だって、それはつまり、彼女が自分の子供に笑いかけている隣に、あたしがいるという事で。
冗談でも何でも、彼女があたしと同じ未来を思い描いていてくれる事が、あたしはどうしようもなく嬉しかった。
鼻の奥がツンとして、溢れそうになる涙をぐっと堪える。
泣きそうな顔を見られないように、彼女の項に置いていた手でいくらか強引に彼女の顔を伏せさせる。
突然の行動に上がった非難の声を遮るようにあたしは口を開いた。
「……なーんでよ」
「へ?」
「里沙ちゃん似でもええやんか」
なんとか“いつも通り”の声を出す事に成功する。
里沙ちゃんが納得したように笑みを含んだ声で頷いて。
「だって、愛ちゃんの顔、好きだからさ」
まるで内緒話のように、そっと差し出された言葉。
その声音だけでもう、彼女の照れたような笑顔が容易に想像できてしまって、目頭が熱くなるのをあたしは止められなかった。
- 179 名前:ふたりのみらい 投稿日:2011/08/29(月) 21:14
-
どうしてこんなに可愛らしい事を言うんだろう。
あたしの考えていた事なんて、きっと分からないはずなのに。
本格的に零れ落ちそうな涙を堪えるために、ぎゅっと瞼を閉じるて、ぶつけようのない愛しさのままに、きつくきつく彼女を抱き締めた。
「……じゃあ、男の子は、里沙ちゃん似がええなあ」
慎重に出したつもりだったのに、声はみっともなく震えてしまった。
確実に、泣きそうなのが彼女にバレただろうけれど、涙だけは零すまいと彼女の頭に鼻先を押し付けた。
彼女が纏う空気が微かに震えて、彼女が小さく笑ったのが分かる。
そうして、甘えるように肩先に頬擦りされる感触がして。
「パパは泣き虫だ」
堪えきらなかった涙が、ぽろりと一つ、零れ落ちた。
おわり
- 180 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/29(月) 21:15
- ガキさんは愛ちゃんの顔が好きだと萌えます。
>>169
私もガキこは好きすぎてどうにかなりそうっす。
レスありがとうございました。
- 181 名前:よくじょう 投稿日:2011/09/02(金) 21:01
-
愛ガキのつもりが気が付いたらガキ愛に。
- 182 名前:よくじょう 投稿日:2011/09/02(金) 21:01
-
久しぶりの愛ちゃんちで二人きり。
大きめのソファに二人並んで座って、他愛の無い話のふとした隙間、絡んだ彼女の瞳の奥に薄くゆらめく熱い炎がちらりと見えた気がして、鼓動が跳ねた。
女の子にしては少し大きめの愛ちゃんの手の平がそっと頬に添えられて、こつり、と額が触れ合う。
大きな瞳を縁取る長い睫毛が細かく揺れるのを至近距離で見てとって、条件反射のように私は瞼を下ろした。
生暖かな吐息が唇を撫でたかと思ったら、すぐにそれ以上の暖かなモノを押し付けられた。
唇の端を啄ばむように軽く吸われて、柔らかく震える心の奥の奥。
私は震える心のままに愛ちゃんの服の裾をそっと握った。
- 183 名前:よくじょう 投稿日:2011/09/02(金) 21:01
-
やらかく湿った舌先で、何度か唇の感触を確かめるみたいに舐められる。
強請るような動きに小さく口を開けば、遠慮なしに侵入してきた彼女の舌に、少しだけ強引に私のそれを絡めとられた。
舌も歯列も口蓋も、触れていない場所がないという程に優しく撫で擦るように弄られて、自然と息が上がる。
吐息まで奪うような熱い唇に、全てがとろけそうになって、僅かに残っていた理性が警鐘を打ち鳴らす。
これは完全に。
―――“スイッチ”が入ってる。
とりあえず一度口付けを止めようと、ちりじりになった理性を総動員して彼女の肩に手をかけた。
そうしたら、それまで頬に置かれていた彼女の手が、耳の形を確かめるようにそろそろと輪郭をなぞり出して、腰辺りにぞわぞわとした感覚が走り抜ける。
彼女が徐々に重心を傾けてきて、ソファに沈んでいく背中。
柔らかな舌の感触だけに支配されそうになる思考を何とか引き戻す。
角度を変えるために離れた彼女の唇の一瞬の隙を突いて、私は再び降ってきた唇に自分の手の平を押し付けた。
- 184 名前:よくじょう 投稿日:2011/09/02(金) 21:02
-
は、と呼吸を整えている間に、口元を手で覆われた彼女は、大きな瞳を見開いてから不満気に歪めていった。
「……なん?」
瞳と同じく不満気な声が手の平越しに響いた。
黒目がちな瞳の奥で確かにくすぶっている熱が見て取れて、心臓ではない部分が酷く疼いたけれど、さすがに今日はこれ以上を許して上げられない。
「今日はダメ」
「……なんで?」
「ダメなんだって」
「……久しぶりなのに?」
低い声の中に見え隠れする、物欲しそうでいてだけど寂しそうな色に、胸の奥がぎゅっと刺激される。
リハだったり撮影だったり、仕事場では毎日のように顔を合わせているけれど、二人きりで過ごすこんな時間は久しぶりだった。
前にこんな風に二人きりで夜を過ごしたのはいつだったか、はっきりと思い出せない。
それは確実に、両手の指では足りない日数が経っていた。
だから、今日二人で会えるのを彼女が殊更に楽しみにしていたのも知っていたし、もちろん私だって楽しみで、キスしたりぎゅってしたり、触れたり触れられたりしたいって思っていた事も、確かなんだけれど。
- 185 名前:よくじょう 投稿日:2011/09/02(金) 21:02
-
「ごめん、昨日からなっちゃって……」
手の平を口元から離しながら、拗ね顔の愛ちゃんへ恐る恐る告げる。
その言葉が何を指しているのか察したのか、彼女はぐっと眉尻を下げると、私に覆いかぶさるようにして肩口に額を押し付けてきた。
「そっかぁ」と脱力した小さな声を受け止めて、私は項垂れた背中をゆっくり撫でた。
つくづくタイミングが悪いとは自分でも思ってた。
なんとなく被りそうだなとは予測してたけれど、何も本当に、月に一度がこのタイミングでこなくてもいいのに。
「なんか、ごめんね」
「ええよぉ。しゃーないやん」
謝るのもどこか違う気がしたけれど今の気持ちに見合う言葉が見つからなくて、顔のすぐ横に見える愛ちゃんの耳に吹き込むように告げると、彼女は苦笑しながら少しだけ身体を浮かして、私の鼻の頭にちゅっと唇を軽く押し付けてきた。
くすぐったくて顔を振ると、愛ちゃんはくふふと悪戯っ子みたいに笑ってから、私の下腹の辺りを優しく撫ぜる。
- 186 名前:よくじょう 投稿日:2011/09/02(金) 21:03
-
「しんどくない?」
「ん……。薬飲んだから平気」
「そか」
労わるような手の動きと安心できる温度に、知らず入っていた力が抜けていく。
その心地良さに、思わず瞳を閉じてその温度に身を任せた。
痛みは強い方じゃないけれど、こうやって誰かに撫でてもらうととても落ち着く。
それが愛ちゃんの手なら尚更だった。
暫くそうして手の平の温度を感じていたら、瞼の上に優しくキスされる感触がして、誘われるようにゆっくりと瞼を持ち上げる。
視界に入ってきた愛ちゃんが優しく微笑んで、それに以上に優しく私の髪を撫でてから「寝よか」と囁いた。
小さく一つ頷くと、ソファから引っ張り起こされて、手を繋いだまま寝室へ。
ベッドへ促されて、素直にシーツを被る。
電気を消してから私の隣へ横になった愛ちゃんに、甘えるように擦り寄ると、ふわりと緩く腰に腕を回された。
そのまま、さっきとお腹のそれと同じように腰を撫でられて、甘やかされてるなあ、と頭の隅っこでぼんやりと思ったけれど、この心地良さを手放す気は私には更々ない。
- 187 名前:よくじょう 投稿日:2011/09/02(金) 21:03
-
もっとしてほしくて、愛ちゃんの肩口に頬擦りすれば、くすくすと小さな笑い声が空気を震わせた。
「甘えん坊やなあ」
「……たまにはいいじゃん」
「“たまに”、ねえ」
妙に含んだ言い方が気になって顔を上げると、これ以上ないくらいに口元を緩めた愛ちゃんの顔。
唇を尖らせて「なに」と問うと、表情を崩さずに「別に」とあしらわれた。
からかう様な態度にむっとする。なにさ、さっきまでぶすくれてたくせに。
少しだけ睨むように愛ちゃんの瞳を見つめたら、不意にさっきの愛ちゃんの瞳の奥の熱い色が脳裏に蘇ってきて、知らず腰あたりが震える。
今は穏やかな色を湛えるその瞳が、見る人の心も身体も全てを焼き尽くしてしまいそうな熱い色へとその姿を変える瞬間を知っているのは、たぶん今は、私だけ。
その事実が胸の奥を刺激する。
ぞくり、と背筋を何かが走りぬけた。
衝動に突き動かされるように、私は静かに彼女の名を呼んだ。
不思議そうな邪気の無い視線を返されて、無意識に、こくり、と喉の奥が鳴る。
- 188 名前:よくじょう 投稿日:2011/09/02(金) 21:04
-
「……したかった?」
えっち。続く言葉を飲み込むと、愛ちゃんは僅かに眉尻を下げて困ったように微笑んだ。
「そりゃあ、まあ、……久しぶりやったし?」
「うん」
「でも、それだけが目的やないし、べつに……」
「うん」
私は彼女の声を聞きながらも、言葉を探しながら歯切れ悪く動く唇をじっと見つめてた。
時々その唇を舐めるために赤い舌が顔を出して、その度にどきどきと鼓動が跳ねる。
もう一度、小さく喉を鳴らして、言い訳を続ける彼女の喉に、そうっと人差し指を乗せた。
小さく彼女の肩が揺れて、言葉が途切れて、その代わりに困惑気味な視線が私を捉えた。
私は、その視線を見つめ返しながら、ゆるゆると撫でるように人差し指を鎖骨辺りまで下げていく。
- 189 名前:よくじょう 投稿日:2011/09/02(金) 21:04
-
「したげよっか?」
愛ちゃんにしか聞こえないような大きさでそっと囁くと、彼女は大きく目を見開いて、頬を赤らめた。
さっきまであんなにも濃厚に絡んできたくせに、その姿からは想像できないような可愛らしい反応におかしくなる。
けれど、それ以上に身体の奥から溢れてくるのは、言い訳のしようもないような愛おしさで。
答えを促すように首を傾げてやると、愛ちゃんは恥ずかしそうに視線を逸らした。
「で、でも、ガキさん、あかんやん」
「え?」
「だって、ネイル……」
指摘されて、そういえば、と愛ちゃんの鎖骨あたりに置いていた自分の指の状態を思い出した。
ついこの間サロンに行ってきたばかりの私の指はきらきらと飾られていて、彼女の言う通り、こんな状態では彼女の身体を傷つけかねない。
―――でも。
恥ずかしそうに俯く彼女の顔を見やる。
―――でも、嫌だとは言わないんだ。
- 190 名前:よくじょう 投稿日:2011/09/02(金) 21:04
-
指の状態を指摘して、恥ずかしそうに視線を逸らすくせに、拒否の言葉は一つも口にしない。
その先で彼女が期待しているであろう事が手に取るように分かって、心が疼く。
思わず出そうになった笑みを口の中で噛み殺して、額がくっつきそうなくらいに顔を寄せた。
至近距離で、嫌でもかち合う視線に、愛ちゃんが息を呑んだのが分かった。
「じゃあ、口でしたげる」
元々大きな彼女の瞳が更に大きく見開かれた。
眉根が寄って、隠しきれていない動揺が綺麗な瞳を揺らしていた。
その反応にさえも胸が高鳴って、鎖骨あたりに置いていた人差し指で形の良い顎をそっとなぞって。
「それならいいでしょ?」
彼女の周りの空気だけを震わせるように囁いた。
近すぎる距離のために、綺麗な瞳の揺れが期待に変わる瞬間を、私は見逃さなかった。
そして、たぶんきっと、私のそれも同じような色をしているに違いない。
- 191 名前:よくじょう 投稿日:2011/09/02(金) 21:05
-
人差し指をゆるゆると顎から頬へ滑らせて答えを促せば、頬を赤らめた愛ちゃんは、数秒間を置いて、恥ずかしそうに小さく頷いた。
綺麗な瞳の奥に見つけ出した確かな欲望の炎とは裏腹な淑やかな態度に、酷く震える胸の奥。
私は、静かに身体を起こして彼女の上へ覆いかぶさると、期待に揺れる瞳を見つめながら、そっと柔らかな唇に自分のそれを押し付けた。
おわり
- 192 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/02(金) 21:06
-
リバも大好き。
攻めガキさんも女の子愛ちゃんも好きっす。
- 193 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/02(金) 22:01
- はっ鼻血が…!!
- 194 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/06(火) 21:17
-
愛ガキでデレガキさん。
- 195 名前:ゆうわく 投稿日:2011/09/06(火) 21:17
-
浮上する意識に逆らわずゆっくりと瞼を押し上げる。
視界に入ってきた見慣れた天井を、カーテンの隙間から漏れた月明かりがぼんやりと照らしてた。
今何時だろうと覚醒しきっていない頭で考える
枕元に置いていたケータイを手探りで引っ張り出して画面に表示された時間を見れば、明け方に近い時間帯だった。
今日の仕事は午後からだから、まだまだ十分に眠れそうだ。
結論付けてケータイを元の場所へ戻すと、隣のシーツがもぞりと揺れた。
ぎくりとして慌ててそちらへ視線をやれば、口元までシーツに埋まった里沙ちゃんが、むずがるように身じろぎしていた。
起こしてしまったかと息を潜めて彼女を見つめていると、少しだけ乱れた息遣いが規則正しいそれに変わって、ほっと胸を撫で下ろす。
- 196 名前:ゆうわく 投稿日:2011/09/06(火) 21:18
-
枕に頭を預けて、そろりそろりと里沙ちゃんの方へ身体を向けた。
腕を伸ばして寝乱れた前髪をそっと避けて、特徴的な形の耳へ引っ掛けてやる。
顔を出した飾らないあどけない寝顔が、普段よりももっと彼女を幼く見せて、胸の奥にじんわりと暖かいモノが広がっていく。
それは胸が高鳴るような高揚感ではないけれど、もっと身体の奥深くに染み渡るような不思議な感情だった。
たぶんだけど、母性本能とか庇護欲とかそういう類の感情に似たモノで、こんな風に彼女のあどけない表情を見る度に、強く強く愛しいとあたしに思わせた。
寝息に合わせて小さく揺れる睫毛を見ながら、閉ざされた瞼の上を親指でそうっと撫でる。
僅かに震えた感触に息を潜めながら、今度は鼻筋をゆっくり撫で付けた。
口元を覆うシーツを軽く引っ張ると、ぽってりとした唇が顔を出す。
無防備に小さく開かれたそれの奥から赤い舌がちらりと見えて、じんわりと広がっていた暖かさが急速に温度を上げていく。
- 197 名前:ゆうわく 投稿日:2011/09/06(火) 21:18
-
どきどきと跳ねる心音を聞きながら、無防備な唇に誘われるように顔を近づけて、口端を弱く吸い上げた。
ちゅ、と音を立てて顔を離して、上唇にそっと自分のそれを押し付ける。
少しかさついた、でも柔らかな感触に酔いしれながら、舌先で小さく撫で上げて、押し付けたのと同じくらいゆっくりと唇を離した。
もっと、深いのがしたい衝動が湧き上がるけれど、さすがにこれ以上は起こしてしまう。
変わらず誘うような無防備な里沙ちゃんの唇を見つめながら、自分の唇をぺろりと舐めた。
もう一度触れようと顔を近づけたその時、ふふ、と小さな笑い声。
ぎくりと肩を揺らしたら、彼女の唇が笑みの形にゆっくり弧を描いて。
「くすぐったいよ」
寝起き特有の低く掠れた里沙ちゃんの声が耳に届いた。
慌てて顔を離すと、彼女の瞼が小さく震えて、ゆっくりと持ち上がる。
次いで顔を出した真っ黒な瞳が楽しげに揺れて、あたしを捉えた。
- 198 名前:ゆうわく 投稿日:2011/09/06(火) 21:18
-
「……ごめん、起こした?」
「さすがに起きるって」
くすくすと笑いながら言われて、言葉につまる。
ばつが悪くなって視線を逸らしたら、彼女の手の平があたしの頬を静かに撫でた。
その仕草に誘われるように視線を戻せば、隠す気の無いからかいの色に瞳を染めた里沙ちゃんがにやりと笑った。
「寝てる間にイタズラなんてひどいなあ、愛ちゃん」
楽しげな声色に唇を尖らせると、里沙ちゃんはますます笑みを深めた。
普段の張りのある姿とは違う、ゆるりとした態度と雰囲気に胸の奥が柔らかく刺激される。
頬に置かれてた彼女の手が、ゆっくりと移動して耳たぶをなぞってから、すとんと肩へ降りた。
まるで答えを促すように優しくそこを撫でられて、あたしは、はあ、と溜め息と共に肩の力を抜いた。
「やってさぁ」
「ん?」
「可愛いんだもん」
「……はあ?」
「里沙ちゃんのくちびる」
肩を撫でていた手がぴたりと止まり、からかうような笑顔が一瞬にしてこれ以上ない程の仏頂面へと姿を変えた。
その反応に思わず顎を引くと、里沙ちゃんはぐっと眉根を寄せた。
- 199 名前:ゆうわく 投稿日:2011/09/06(火) 21:19
-
「……熱でもあんの?」
表情と同じくらいぶっきら棒に問われて、目を丸くする。
その意味を察するのに数秒かかって、慌てて「あるわけないし!」と返すと、呆れたように「知ってる」と突き放された。
溜め息を吐きながら視線を伏せた里沙ちゃんの姿に、今の言葉が適切な返答じゃなかった事を悟る。
取り繕う言葉を探していたら、肩に置かれた彼女の手がゆっくりと降りてきて、あたしの手を取った。
なに、と問いかける間もなく引き上げられて、ふにふにと遊ばれる。
形を確かめるように爪を撫でたり、人差し指を引っ張ってみたり。
暫く好きなようにさせていたら、手の平に優しく唇を押し付けられて、こんな接触は初めてでもないのに頬が熱くなるのを自覚する。
そうしたら、唇を離した里沙ちゃんはまたあたしの手を弄りながら「まあ、でもさ」と呟いた。
「私も好きだよ」
「なにが?」
「……愛ちゃんのくちびる」
密やかな声に、心音が跳ね上がる。
- 200 名前:ゆうわく 投稿日:2011/09/06(火) 21:19
-
思わず、あたしの手を弄っていた彼女のそれをぎゅっと握ると、里沙ちゃんがあたしを見やった。
自分で言ったくせにどこか恥ずかしそうに見える瞳の色に、跳ねた鼓動が加速する。
「……熱でもあるん?」
知らず口を突いて出ていた言葉は、さっき彼女が言ったそれだった。
一瞬目を見開いて、すぐに拗ねたように唇を尖らせた里沙ちゃんに、慌てて口を噤む。
―――でも、だって。
だって、恥ずかしがりな彼女がこんな事を言うのは本当に稀で。
長い付き合いだけど、―――長い付き合いだからか、彼女は滅多にそういう好意を面と向かって口にはしない。
言葉の一つや二つで揺らぐような関係ではないし、彼女との関係が友達以上のモノになった当初に比べれば、彼女と重ねた年数の分だけ言葉で表現しなければ不安になる、なんて事も少なくなったけれど。
でも。
だからこそ、思い出したように時々伝えられる彼女の言葉は、酷い破壊力を持ってあたしを襲う。
- 201 名前:ゆうわく 投稿日:2011/09/06(火) 21:20
-
どきどきと胸を鳴らしているあたしを知ってか知らずか、里沙ちゃんは数秒あたしを見つめて視線を伏せると、甘えるように肩先に擦り寄ってきた。
「あったかくて柔らかくて、好きだよ」
小さく小さく囁かれた言葉に、胸の奥が痛いくらいに高鳴った。
行き場がない程の愛しさが身体の奥からどんどんと溢れてきて、涙腺を刺激する。
彼女の仕草も言葉もその声音も、ただただあたしを悦ばせて。
掴まれていた手を引き抜いてから、あたしは彼女の腰をきつく抱き寄せて、彼女の頭にそっと口付けた。
「そんな可愛いこと言うて」
「べつに可愛くは……」
「襲うぞ、あほう」
寝起きだけど、午後からしっかり仕事が入ってるけど。
今この瞬間のあたしの優先順位は間違いなく里沙ちゃんが一番だから。
あまり煽るような事を言わないでほしい。
我慢は、得意じゃないのだ。
- 202 名前:ゆうわく 投稿日:2011/09/06(火) 21:20
-
押し黙った里沙ちゃんに少しだけほっとして、暴れ出しそうな心を落ち着けるように、ぎゅっと目を瞑り鼻先を髪にすり寄せて、抱き締める腕に力を入れた。
そうしたら、二の腕あたりを優しく撫でられる感触がして。
「好きだよ。愛ちゃんのくちびる」
囁かれた言葉に息を呑む。
心音が一段と速度を増した。
あたしと違って、すぐに言葉が出てくる里沙ちゃんは、その言葉がどう動いていくのかをきちんと理解しているはずだ。
動いた先で、起こるであろう事態も。
息をゆっくりと吸い込むと、シャンプーの香りが鼻先をくすぐる。
鼓動が走り抜ける音が頭の中に響き渡って、酷くうるさかった。
あたしはちゃんと忠告した。
それを無視したのは里沙ちゃんだ。
―――だから、あたしは悪くない。
一度ぎゅっと抱き締めてから、腰に回した腕を外して、上半身をゆっくり起こした。
覆いかぶさるように里沙ちゃんの顔の横に手を突いて見下ろすと、里沙ちゃんは困ったように眉尻を下げた。
- 203 名前:ゆうわく 投稿日:2011/09/06(火) 21:20
-
「……里沙ちゃんが煽ったんやからな」
言い訳がましく呟いたら、彼女は僅かに瞳を細めて、その手が静かに伸びてくる。
それは、あたしの唇をそっと撫で付けて。
「好き」
潤んだ瞳に射抜かれる。
喉の奥が引き攣って、上手く言葉が出てこない。
代わりに唇を撫でる彼女の手を捕まえると、彼女は自分から仕向けたくせに恥ずかしそうに視線を伏せた。
加速し続ける心音も、下腹あたりにわだかまる熱も、とおに誤魔化せるラインを過ぎ去っていた。
溢れる愛しさとは裏腹に、めちゃくちゃにしてしまいた衝動があたしを突き動かす。
捕まえた華奢な手に指を絡めて、シーツに縫い付けて、ゆっくりと顔を彼女へ近づけて。
震える睫毛を見つめながら、あたしは自分のそれを彼女の唇へ押し付けた。
おわり
- 204 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/06(火) 21:22
- デレガキさんに振り回されるリーダーも好きです。
>>193
ティッシュを…!
コメントありがとうございました。
- 205 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/08(木) 20:20
- 最高!!
いつもニマニマできる愛ガキをありがとうございますww
- 206 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/09(金) 19:23
- ここの愛ガキに癒されてます
- 207 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/13(火) 02:58
-
カミスン愛ちゃんの本番直前のなうとフォロワさん方のナイスなネタから。
ガキさんしか出てこないけど愛ガキ。
- 208 名前:弱気なキミ 投稿日:2011/09/13(火) 02:58
-
ケータイを片手に、ぼすん、と枕へ頭を埋めた。
頬を擦りよせると大好きな彼女の匂いがして、胸の奥が小さく震える。
私は、手にしたケータイを目の前に掲げて、メール画面をきらきらに変えていく作業を再開した。
今ごろ、緊張でそわそわしてるだろう愛ちゃんへ精一杯の応援メール。
数分かけて仕上げた画面の最後の一文。その文末をどうしようか、と手を止める。
彼女の大好きな金髪のコックさんにするべきか、それとも麦わらの少年にするべきか。
むむ、と思案して、時計を見やると、自分の部屋とは違うシンプルなそれは、もうすぐ番組の放送時間がやってくる事を示していた。
愛ちゃんの出演時間はマネージャーさんに聞いておいたから、まだ時間の猶予がある事は分かっていたけれど。
視線を手元のケータイへ。
ぴこぴこスクロールして数分かけて作ったメールを読んだ。
- 209 名前:弱気なキミ 投稿日:2011/09/13(火) 02:59
-
本番前に弱音を吐くくらい緊張している愛ちゃん。
スタジオの前室で顔を強張らせてじっと一点を見つめているだろう姿を想像するのは容易だった。
きっと余裕なんて全くなくて、手なんか冷たくなっちゃって。
その顔を思い浮かべて、知らず頬が綻んだ。
もう一度メールを読んで、私は、ケータイのクリアボタンをぴこりと押した。
数分かけた力作は一瞬のうちに消え去った。
私は新たなメール画面を開くと、本文に手早く文字を打ち込んでいく。
作業はたった数秒。
件名は真っ白。
文末に彼女の好きなキャラクタもいない。
- 210 名前:弱気なキミ 投稿日:2011/09/13(火) 02:59
-
一気に素っ気無くなったその画面を少しの間見つめてから、ベッドから立ち上がり、リビングへ移動していつものソファへ腰を降ろした。
リモコンを手にとってチャンネルを合わせると、丁度、見知ったメガネの司会者が喋り始めた所だった。
テレビ画面に映る彼女の名前に少しだけ誇らしさを感じながら、手にしたケータイの送信ボタンをぴこりと押した。
ケータイをぱたりと閉じて、ソファに凭れこむ。
もうすぐテレビに映る彼女の顔も、歌い始める時のその視線も、今きっと緊張でどうにもならなくなってるだろう姿も、想像するのは簡単だった。
今すぐに隣へ行って背中を叩いてあげたいけれど、さすがにそれはできないし、あんな弱音を見せても、本当の所きっと彼女もそれは望んではいないはずだ。
- 211 名前:弱気なキミ 投稿日:2011/09/13(火) 02:59
-
でも。
私はちゃんと知ってるから。
愛ちゃんは、一人でも、まっすぐにステージに立てる人だって知ってるから。
ケータイをぎゅっと握り締める。
お気に入りのストラップがしゃらりと揺れた。
私はここでしっかり見て、愛ちゃんを待ってるね。
テレビ画面に見慣れた後ろ姿が映し出されるのを見てとって、逸る鼓動をそのままに、私はもう一度、ケータイを握り締めた。
宛先:愛ちゃん
件名:
------------------
大丈夫
------------------
おわり
- 212 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/13(火) 03:02
-
突貫工事な上、短いですが。
現実の愛ガキが想像以上に愛ガキで胸が苦しいです。
もっとやれ!
>>205-206
まとめてレス失礼します。
ニマニマして頂けてよかったっす。
私もコメントに癒されて元気をもらってます。
コメントありがとうございました。
- 213 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/13(火) 03:08
-
補足
ガキさんは愛ちゃんちに勝手に上がりこんでる体でお願いします。
文章で伝えられるように精進精進。
- 214 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/16(金) 03:22
-
あんまり祝ってませんが高橋リーダーおたおめ話の愛ガキ。
いつも以上に山なし落ちなし意味なし状態です。
ひたすらイチャイチャしてるだけ。
- 215 名前:特別な一日 投稿日:2011/09/16(金) 03:22
-
一年で、たった一日の、特別な日。
細いけれど柔らかな太ももに頬擦りして、ひょいと視線を上げると、あたしを見つめる優しい笑顔とかち合った。
身長差はほとんどないから、彼女にこうやって見下ろされるのは少しだけ新鮮で、彼女の膝の上でへらりと笑んだら、笑顔と同じくらい優しく前髪を撫でられた。
彼女とは言葉にしても実感が沸かない程の月日を共に過ごしてきたから、あたしの部屋でいつものソファに腰掛けて、こんな風に膝枕で甘やかされるのは初めての事ではない。
けれど、一年に一度のこの日だけは、初めてではないそんな行為にも、普段とは違う意味が含まれるのをあたしはちゃんと知っている。
里沙ちゃんも口には出さないし、あたしも敢えて言葉にはしなけれど、あたしの誕生日のたった一日。
その日だけは、どうやら彼女の中であたしを目一杯甘やかす日と決められているようで。
- 216 名前:特別な一日 投稿日:2011/09/16(金) 03:22
-
付き合いだして早数年。
誕生日に彼女から誘いを断られたり怒られたりした記憶があたしにはなかった。
あたしの髪を撫でさする手と反対のそれを取り口元へ引き寄せて、その手の平にそっと口付ける。
あたしの行動に、里沙ちゃんは少し目を細めただけで特に何も言わずに、またあたしの髪をゆっくりと撫で付けた。
優しい動きに心の中がじんわりと満たされていくのを自覚して、あたしはうっとりと目を閉じた。
最初はこんな風にされる事に少しだけ戸惑った。
ただでさえ、普段から彼女に頼って支えられていた自覚があったから。
でも、やっぱり、里沙ちゃんにただただ優しく甘やかされるのは心地良くて嬉しくて、二人きりで過ごす数度目の誕生日からは、あたしも彼女のその心遣いに甘える事にした。
年上のプライドも意地も、今日だけは心の底に仕舞いこんで、彼女が向ける愛情に身を委ねる。
それはとても幸福で、泣きたくなるくらい愛おしいひとときだった。
- 217 名前:特別な一日 投稿日:2011/09/16(金) 03:23
-
瞼をゆっくり押し上げ、口付けた彼女の手を離して、腕を伸ばす。
顎の先をゆるゆると撫でると、くすぐったそうに里沙ちゃんは口元を綻ばせた。
「なぁ」
「ん?」
「しあわせ?」
主語も会話の流れも何もない勝手な問いかけに、彼女は驚いた様子も見せず、顎を撫でていたあたしの手を取ると、指を絡めて「幸せだよ」と笑みを深めた。
絡め取られた手に力を込めれば同じだけの強さで返されて、心の奥がじんと震える。
「……ちゅうして」
繋がった手を軽く引っ張ると、一瞬の間を置いてから、柔らかな唇が降ってきた。
瞼の上にそっと触れたそれは、すぐに唇を撫ぜて、下唇を優しく食んだ。
いつもとは違う角度のキスに少しの違和感を覚えて、膝の上で身じろぎしようとしたら、彼女のそれは口端にちゅっと音を立てて吸い付いて素早く離れていってしまう。
- 218 名前:特別な一日 投稿日:2011/09/16(金) 03:23
-
瞼をゆるりと持ち上げると、困ったように眉尻を下げて微笑む里沙ちゃんの顔が視界に入る。
子供騙しのような軽い口付けに、唇を尖らして不満を表すと、彼女はますます眉尻を下げた。
いつもならその表情を見たら後は自分から動くのだけれど、―――今日は特別だから。
あたしは繋がった手をもう一度軽く引っ張った。
「足らん」
下がった眉尻がぴくりと動いて、また少しの間を置いてから、彼女の唇が今度は直接あたしのそれに降ってきた。
唇を舌先で舐められて、小さく口を開いて誘えば、生暖かな舌がぬるりと侵入してきた。
絡めとって小さく吸い上げると、同じように返される。
繋がった手を解き、彼女の項へそっと添える。
柔らかな舌に上顎も下顎もゆるゆると撫でさすられて、ぞくぞくと震える腰あたり。
体勢のせいで、いつもよりも余計に落ちてきた唾液が口端から零れると同時に、里沙ちゃんの唇はあたしのそれからそっと離れた。
上半身を起こすついでのように口端から零れたそれをぺろりと舐め取られる。
- 219 名前:特別な一日 投稿日:2011/09/16(金) 03:24
-
そっと目を開ければ、あたしの唾液で妖しく濡れる彼女の唇が視界に入って、そうしてすぐに、熱に浮かされたように潤んだ瞳とぶつかった。
間違いなく里沙ちゃんがリードを取っていたくせに、まるであたしにされている時のような瞳の色に、腰あたりにわだかまった熱が温度を上げる。
彼女と同じように唾液で濡れているであろう自分の唇を舌先でぺろりと舐めて、否応なく早まっていく鼓動に急かされるように、身体を起こす。
不思議そうにあたしの行動を見守る里沙ちゃんを見つめながら、彼女の太ももに跨って、その肩に両手を置いた。
体重をかけないように注意しながら彼女の膝に腰を降ろし、さっきとは反対に黒髪から覗く瞳を見下ろせば、彼女は恥ずかしそうに口元を引き結んだ。
いまさらなその反応と、いつもならすぐに恥ずかしげに伏せてしまう視線を、一生懸命に上げてくれている健気さに、胸の奥がぎゅっと刺激される。
彼女の真っ黒で綺麗な横髪をそっと梳いて、可愛い耳へ引っ掛けて。
「もっと」
- 220 名前:特別な一日 投稿日:2011/09/16(金) 03:24
-
耳の輪郭をなぞりながら強請れば、彼女の眉が情けなく歪んだ。
その表情に、少し意地悪だったかなとは思ったけれど、今すぐにでも口付けたい衝動をぐっと堪えて、彼女の行動を待った。
そうしたら、里沙ちゃんの手がそっと頬に添えられて、引き寄せるように僅かに力が込められた。
すぐに縮まる彼女との距離に、どきどきと逸る鼓動。
彼女の瞳を縁取る睫毛の小さな震えを見とめてから、そうっと瞼を閉じると、柔らかな感触があたしの唇を覆った。
間もなく侵入してきた舌先に優しく丁寧に撫でさすられて、彼女の首に腕を絡めてぎゅと抱きついた。
乱暴でもないけれど器用でもない、律儀な里沙ちゃんらしい一生懸命なその動きが、あたしは愛しくてたまらなかった。
あたしの舌先に可愛いらしく吸い付いて、里沙ちゃんがそっと顔を離した。
額をこつんと合わせて瞳を覗き込めば、熱く潤んだ彼女のそれがあたしを見つめ返してくる。
その表情がどれほどあたしの目にやらしく映るのか、彼女はきっと分かっていない。
それが、あたしの心をどれほどかき乱すのかも。
- 221 名前:特別な一日 投稿日:2011/09/16(金) 03:24
-
ぞくりと背中を悪寒にも似た何かが駆け抜けて、心臓が痛いくらいに早まって。
上がった彼女の生暖かな吐息が、濡れた唇を優しく撫ぜた。
こくり、と喉を鳴らして、小さく小さく名前を呼ぶと、視線で先を促された。
「あたしのこと、好き?」
密やかに紡ぎ出せば、促した瞳が驚いたように僅かに見開かれた。
こんな事、いつもなら彼女に軽くあしらわれるだろうし、あたしもわざわざ聞いたりしない。
頻繁に伝え合わなければ不安になるような軽い付き合いをしてきたわけではないし、何よりも、真面目で律儀な彼女が、キスやそれ以上を受け入れてくれてる事が、答えそのものだと分かっているからだ。
視線をそのままに、彼女の首に絡めた手で彼女の髪を軽く引っ張った。
―――でも。
それでも、やっぱり時々は言葉が欲しい時も、もちろんあって。
照れ屋な彼女から言葉を引き出せるこんな機会はそうそうやってはこないのだ。
このチャンスをみすみす逃す手はないじゃないか。
- 222 名前:特別な一日 投稿日:2011/09/16(金) 03:25
-
自分に言い訳をして、揺れる瞳をじっと見つめていたら、腰あたりに静かに腕が回される感触がして。
「好きだよ」
下がった眉尻に、掠れ気味な優しい声音。
じわりじわりと暖かな感情が胸の中を占領していく。
無意識のうちに頬が緩んで、にへらと情けなく笑ったら、つられたように里沙ちゃんも口元を緩めた。
「どんくらい好き?」
調子に乗って普段絶対に聞かないような事を口にしたら、彼女はまたおもしろいくらいに困り顔になった。
今年23歳になる女性とは思えない可愛らしい反応に内心でほくそ笑む。
あたしはさっきの言葉が聞けただけで嬉しかったから、それの答えは特に期待してはいなかった。
だから、意地悪な問いに困りながらも、それでもあたしを喜ばせようと言葉を考える里沙ちゃんの姿を見れただけで十分満足で、ごめん、と言葉を撤回しようとした時。
- 223 名前:特別な一日 投稿日:2011/09/16(金) 03:25
-
彼女の顔がそっと離れたかと思ったら、あたしの肩口に額を押し付けてきた。
腰に回された彼女の腕にも心なしか力が入ったような気がして、その行動に不思議になって名前を呼べば、さらに肩口に擦り寄られる気配。
「りさちゃ…」
「神様にさ、」
強めの口調に気圧されて、思わず口を噤む。
首に絡めた腕の力を少しだけ抜いて彼女を見やれば、黒髪から顔を出した可愛らしい耳がほんのりと赤く染まっていて、胸の奥が静かに疼く。
「……神様にさ。
愛ちゃんと出会わせてくれて、ありがとうって感謝したいくらい、」
途切れる言葉。
腰に感じる彼女の腕に力が入る。
「それくらい、すき」
搾り出したようなか細い声は、だけどあたしにはしっかりと聞こえてた。
身体の奥から暖かなモノが溢れ出してくる。
それは一瞬であたしの隅々まで行き届いて、心の一番奥底を切なく甘く締め付けた。
たまらなくなって、ぎゅっと抱きついたら、背中をゆっくり撫でさすられる。
- 224 名前:特別な一日 投稿日:2011/09/16(金) 03:25
-
「……里沙ちゃんくさい」
「自覚あるから言わないで」
どうしようもないくらいの気持ちを誤魔化すために悪態をつけば、それ以上に渋い声が耳に届いた。
妙に律儀で真面目な部分がある彼女が、照れや恥じらいで簡単に動けない事をあたしは知っている。
だからこそそんな彼女が、あたしを喜ばせるために一生懸命紡いでくれただろうその言葉が、あたしは嬉しくて仕方がなかった。
彼女の耳あたりに頬擦りして、そっと唇を押し付けたら、里沙ちゃんの身体が小さく揺れた。
「誕生日おめでと」
「……うん」
今日何度目かのその言葉に素直に頷いて、彼女の黒髪に鼻先を押し付ける。
シャンプーのほのかな香りに胸の奥が柔らかく刺激されて。
「生まれてきてくれて、ありがと」
走る鼓動が速度を上げた。
それは涙腺を刺激して、喉の奥を小さく引き攣らせて。
- 225 名前:特別な一日 投稿日:2011/09/16(金) 03:26
-
今日一日で抱えきれないくらいたくさんの祝福の言葉をもらった。
それは嬉しくて幸せで、この日を迎える度に、あたしは支えてくれる周囲の人たちにひどく恵まれている事を実感する。
だけど。
誰のどの言葉や贈り物よりも、彼女のたった一言があたしは何よりも嬉しかった。
たぶん、それはきっと、この先何度この日を迎えても変わらない事実で、変わってほしくない、願いだった。
溢れ続ける暖かなこの気持ちが里沙ちゃんにも届けばいいのに、と強く思った。
たった一言で、どれほどあたしが幸せを感じているのか、彼女に直接伝わればいい。
決壊しそうな感情に、声を出せばきっとみっともない涙声を晒してしまうだろうから、代わりに柔らかな頬に擦り寄って、1ミリの隙間さえ埋めたくて、あたしは、抱きつく腕に力をこめた。
おわり
- 226 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/16(金) 03:26
-
同じような話ばっかで申し訳。
お目汚し失礼しました。
- 227 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/16(金) 22:18
- のぉぉぉぉっっ…
キュンキュンやられました…
- 228 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/17(土) 03:49
- リーダーおたおめ更新お疲れ様です。
>>225の愛ちゃんの独白の部分、すごく甘いけれども
どこか胸に迫ってくるような…時期が時期だからですかね。
愛ガキ最高です
- 229 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/19(月) 21:37
- ぬはぁぁぁ〜〜(# ̄∇ ̄#)
- 230 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/21(水) 12:05
- 愛ガキもガキこはも生ガキも大好き
いっきに読んじゃいました!
- 231 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/24(土) 05:01
-
愛ガキで憂鬱なガキさん。
- 232 名前:あめおんな 投稿日:2011/09/24(土) 05:02
-
事務所の自動ドアを潜り抜けると、むわりと不快な空気が身体に纏わり付いてきて、思わず顔を顰めた。
まだまだ夕食には少し早いくらいの時間なのに、辺りは薄暗い。
ついこの間までは昼と見間違うような明るさだったのに。
空を見上げれば幾重にも連なる灰色の雲が重そうな身体をゆっくりゆっくり移動させていた。
いつもよりも低い位置にあるそれは、真向かいのビルの先にくっついてしまいそうだ。
その奥にあるだろう太陽の光が、分厚い雲に遮られて、薄ぼんやりと暗いオレンジに姿を変えてアスファルトを照らしていた。
今にも雨に変わりそうな嫌な色の雲を眺めながら、出入りする人の邪魔にならないように自動ドアを避けて、事務所のビルの外壁に背中を預けた。
湿ったアスファルトの匂いが鼻につく。
暑苦しいほどではないのに、湿り気を帯びた空気にむき出しの腕を撫でられているようで、無意識のうちに腕を擦っていった。
肩にかけていたバッグの位置を直して、もう一度薄暗い空を見上げる。
- 233 名前:あめおんな 投稿日:2011/09/24(土) 05:02
-
こんな日に、ぼんやりと頭に思い浮かぶのは、困ったように笑う同期の姿。
自他共に認める雨女の彼女が、また今日も雨雲を連れて来たのか、なんて考えてしまう。
10年間、嫌という程その“被害”にあってきたから、彼女がいるいないに関係なくそんな風に思考が働いてしまうのは条件反射に近かった。
そうして、一緒にいる時に雨女の“被害”にあえば、冗談交じりに文句を言って、彼女は彼女で困ったように笑いながらごめんと謝る。
そんな会話もほとんど条件反射なようなもので、そんな他愛ないやり取りが私は好きだった。
ああ、でも。
それも、あと数日もしないうちにできなくなるのか。
頭の上を流れる分厚い雲みたいに、一気に心が重くなった錯覚がした。
嫌な思考を振り払おうと頭を振ると、自動ドアが開く静かな駆動音。
何気なく視線を向ければ、今まさに思い描いていた同期の姿がそこにあった。
ドアを潜り抜けて私を見つけた愛ちゃんは、当たり前のように私の隣へ寄ってきた。
そうして、私と同じように壁に背中をくっつけると、これまた同じように空を見上げる。
- 234 名前:あめおんな 投稿日:2011/09/24(土) 05:02
-
「雨降りそーやなあ」
「……愛ちゃんのせいじゃん」
「あは、ごめーん」
悪気の欠片も感じられない謝罪に自然と口元が綻んだ。
けれど、それとは裏腹についさっきまで思考が胸の中を駆け巡って、心の奥は切なく鳴った。
空を見上げながら、ふひひと無邪気に笑う愛ちゃんを何だか見ていられなくて、外した視線を愛ちゃんと同じように空へ投げる。
「てか、ガキさんなんで外におるん?」
「愛ちゃんこそ」
「あたしはタクシー待ち。そんでちょっと外の空気吸いたくなって」
「私もそんなとこ」
お互いに空を見上げながら、テンポよく投げ交わされる会話。
気張らない低いトーンの愛ちゃんの声音が、身体の奥にすとんと落ちてきて、そこから広がっていく安心感に似た暖かいモノ。
愛ちゃんは私の答えを聞くと「ふぅん」と一つ頷いて、それきり口を閉ざした。
横たわる沈黙も、だけど彼女との間での事ならば苦ではない。
それは、共に過ごした月日がそうさせるのか、愛ちゃん“だから”なのか。
たぶんきっと両方だ。
- 235 名前:あめおんな 投稿日:2011/09/24(土) 05:03
-
沈黙の最中、不意に手を掴まれて、するりと指が絡まって。
確認しなくても分かる身体に馴染んだ温度に、振り向きもせずに好きにさせていると、肩先に彼女のそれが、とん、と軽くぶつかってきた。
手を握ってぴたりと側に寄ってきた愛ちゃんに口元を綻ばせて、内緒話をするみたいにひそりと口を開く。
「なに?」
「だめやった?」
「や、いいけど」
触れた部分からじわりじわりと広がる温度が泣きたくなるくらい愛しく思えて、私はそっと彼女の肩に頭を乗せた。
そうしたら、繋がった手にほんの一瞬力が入って、柔らかく握り直される。
- 236 名前:あめおんな 投稿日:2011/09/24(土) 05:03
-
数日口を聞かないような喧嘩も、小さな言い争いも、それこそ数え切れないくらいしてきたけれど、たぶんだからこそ、彼女との空間は私にとって、とても心地が良いモノだった。
見栄を張らなくたって、変に構えなくたって、私がどういう人間なのか愛ちゃんにはもう全部バレているから、彼女の前で今さら何も隠すものなんて私にはないのだ。
家族以外でこんなにも気張らない空間を共有できる人は、たぶん後にも先にも彼女しかいないんじゃないかと思えるほど、それは私にはなくてはならないモノだった。
愛ちゃんの肩の上で今にも弾けてしまいそうな深い灰色の雲を見つめる。
まるでそれは最近の私の心模様みたいだ。
今にも溢れて零れてしまいそうな弱音やプレッシャーを、心の端っこで寸前の所で塞き止めている私みたいだ。
愛ちゃんには何も隠す必要なんてない。
けれど、だけどこれは伝えてはいけない。
こんな風に考えていることさえ、きっと彼女にはバレているんだろうけれど、それでも口にしてはいけない事だ。
- 237 名前:あめおんな 投稿日:2011/09/24(土) 05:04
-
涙が零れる事があっても、ありがとうと感謝を伝える事があっても、お疲れ様と労う事があっても、弱音だけは彼女に見せてはいけない。
それは、彼女がここから離れるために、私がここで頑張るために、踏み越えてはいけないボーダーラインだった。
「最近雨ばっかやなあ」
「だねえ」
「まあでも。それもあと少しのことやから、我慢してよ」
まるでいつも楽屋で交わすような世間話みたいに、愛ちゃんはぽろりと言葉を投げた。
笑みを含んだいつもの声音。
聞き流してしまいそうないつも通りのそれに、だけど嫌でも連想させられる卒業後の自分達の姿。
ついさっきまで私も同じことを考えていた。なのに。
いつもは何よりも安心感を与えてくれる彼女の声が、今は私の心をひどく軋ませた。
私は彼女の手をぎゅうと握り締める。
「……やだ」
「ん?」
「そういうこと言うな」
「なーんでぇ」
「泣くじゃん」
- 238 名前:あめおんな 投稿日:2011/09/24(土) 05:04
-
小さく呟いたら、ほとんど同時に手を優しく握り返されて、口の中で噛み殺したような低い笑い声が耳に届いた。
顔を見なくても、彼女が困ったようにだけど優しく目を細めているのが手に取るように分かった。
―――分かっているのに。
私が分かるように、きっと愛ちゃんにだって、私が今どんな心境でいるか分かっているはずなのに。
超が付くほど鈍感な愛ちゃんにだって、その言葉が私の心をどう打ちのめすかなんて気付いてるはずなのに。
弱音なんて吐きたくない。
本当は涙だって見せたくなかった。
愛ちゃんが「いってきます」をする時は、笑顔で「いってらっしゃい」と送り出したかった。
飛び立つ彼女が心配する事なんて何一つないんだって、私は思って欲しかった。
じっと雲の流れを見つめる。
私の心模様なそれは、ゆっくりゆっくり移動しながら灰色をさらに深めていく。
太陽のオレンジが雲の筋の合間から時々ちらりと顔を覗かせては一瞬のうちに儚く消えた。
数秒の間を置いて「なあ」と軽く引っ張られる、繋がった手。
- 239 名前:あめおんな 投稿日:2011/09/24(土) 05:04
-
「雲すっごいなあ」
「……」
「太陽も隠れてる」
「……」
「里沙ちゃんのこと、あたししか見とらんなあ」
その手が握り直される。
それは、決して力強くはないけれど、暖かで優しい確かな彼女の感触だった。
幾度となく、私を引き寄せ、頭を撫で、時には涙を拭って、そうしてそっと私を導いた、愛ちゃんの手のひらの感触だった。
胸の奥がぎゅっと締め付けられて、鼻の奥がツンとした。
私は勉強はできないけれど、彼女に比べたら頭の回転は悪くない。
だから、愛ちゃんが何を言おうとしてるのかも、すぐに分かった。
彼女は、幾度となく繰り返したように、今もまた私を心ごと引き上げようとしていた。
それは、意地っ張りで甘え下手な私を知っている彼女なりの不器用な優しさで、だけど私にとっては、何よりも覿面な効果をもたらす方法だった。
雲が流れる。
深い灰色の今にも雨に変わりそうな重たい雲。
- 240 名前:あめおんな 投稿日:2011/09/24(土) 05:05
-
愛ちゃんの密やかな声が、鼓膜を柔らかく振るわせて。
「あたししか、見とらんよ」
アスファルトの上に雨が一粒、ぽたりと零れ落ちた。
おわり
- 241 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/24(土) 05:06
-
高橋さんなりの優しさでした。
>>227-230
まとめてレス失礼します。
レスありがとうございます。励みになります!
- 242 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/25(日) 00:44
- 一粒…(T_T)
- 243 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/25(日) 04:17
- これは……。・゜・(ノД`)・゜・。
ラストシーンが綺麗に頭の中に浮かび上がってきてもう
- 244 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/28(水) 23:27
-
いつも以上に意味の無いただただ愛ガキがハワイでいちゃこらしてるだけの話。
- 245 名前:きみのかんしょく 投稿日:2011/09/28(水) 23:28
-
雲一つない綺麗な青空に、高く高く太陽が上ってる。
照りつける日差しが一分一秒と肌を焼いていくように思えて、カメラマンさんの撮影終了の声に、急いで薄手のパーカーを羽織った。
周りのスタッフさんに頭を下げてから、あたしは撮影用に借りているログハウスを目指し、白い砂浜を後にした。
ログハウスの前に戻ると、ログハウスを取り囲むように地面に打たれた真っ白な柵から、少し離れた木陰に見慣れた横顔を見つけた。
椰子の木に背中を預けて、手元のiPhonを真剣に見つめてる。
時折吹く風に前髪を好きなように遊ばせているその横顔が、まるで写真集の1ページのようで、毎日のように顔を合わせているはずなのに、どきりとしてしまう。
素早く周囲に視線をやって、スタッフやメンバーの姿が見えない事を確認し、早足で木陰の彼女に近づいていく。
ざくざくと砂浜を踏みしめる足音に気付いていないはずないのに、ガキさんはiPhonから視線を外さない。
隣に立って名前を呼んでも、ちらりともこっちを見ない彼女に、むっとする。
- 246 名前:きみのかんしょく 投稿日:2011/09/28(水) 23:28
-
あたしは眉根を寄せて、乱暴に彼女の手からiPhonを取り上げた。
大きく目を見開いて非難の視線を向ける彼女を見つめながら、iPhonを素早くパーカーのポケットに押し込んで。
への字に曲がった唇が文句を紡ぐ前に、あたしは、その華奢な身体を腕の中に閉じ込めた。
あたしと同じ薄手のパーカーのフードがふわりと揺らして、少しだけ身じろぎしたものの、里沙ちゃんは大した抵抗もみせなかった。
その代わりに非難がましいつっけんどんな声が耳に届く。
「ちょっと、誰か来たら……」
「見えんし」
「分かんないじゃん」
「影になっとるから向こうからは見えにくいよ」
擦り寄るように腕の力を強めれば、暫く彼女は居心地悪そうにしていたものの、観念したのかゆっくりと身体から力を抜いていった。
その反応に内心でほくそえんでいたら、ゆるゆると腰辺りに腕を回される感触がして、パーカー越しに背中を優しく撫でられる。
- 247 名前:きみのかんしょく 投稿日:2011/09/28(水) 23:29
-
「……あまえんぼ」
幾分か甘くなった声音に、あたしは彼女の肩口に頬をすり寄せた。
いまさらそんな言葉をかけられた所で痛くも痒くもない。
現に今、あたしが里沙ちゃんに甘えているのは事実だから。
それに。
それに、最近バタバタしていて、彼女との少しのこんな時間を取る事さえできなかったから、これくらいの我が侭は許されてもいいはずだ。
「……甘えついでに、もういっこいい?」
「……なに?」
柔らかかった声音が分かりやすく固くなり、警戒するように抱き締めた彼女の身体が少しだけ強張った。
素直な彼女の反応に口の中で微笑んで、そうっと身体を離す。
怪訝な顔つきであたしの行動を見やる彼女にちらりと視線を投げてから、彼女が羽織るパーカーを引っ張っり大きく開いた鎖骨あたりに、あたしはぺとっと頬をくっつけた。
里沙ちゃんは、一瞬びくりと肩を震わせただけで、あたしを引き離そうとはしなかった。
- 248 名前:きみのかんしょく 投稿日:2011/09/28(水) 23:30
-
少しだけ汗ばんだ肌に頬擦りする。頬に吸い付くような感触が気持ち良い。
はあと細く息を吐き出して、彼女の身体に体重をかけすぎないように注意しながら凭れかかる。
背中に緩く回した腕の力を強めれば、腰に置かれていた彼女の腕が静かに離れて、その手のひらがそっと髪の毛の上を滑っていく感触した。
小さな子供にいいこいいこをするように髪を撫でられて、ますます甘やかされている事を実感する。
彼女の肌とくっついた部分から溶けてしまいそうな幸福感があたしを包み込んで、あたしはうっとりと瞼を閉じた。
里沙ちゃんを背中を手のひらでゆっくりと撫で上げたら、不意に“何か”が指先に触れた。
躊躇なくそれを掴む。柔らかな紐状のモノだった。
指先を滑らせて、あたしはその正体に思い至った。
里沙ちゃんが身に着けているビキニの紐だ。
合点がいって、あたしは指先に触れたそれをちょんちょんと引っ張った。
「なあ、これってホンモノ?」
「え?」
「紐、解けるやつ?」
「ああ、本物だけど」
- 249 名前:きみのかんしょく 投稿日:2011/09/28(水) 23:30
-
それが何?と続いた言葉に、内心でにやりと笑う。
瞼を押し上げながら、指先で紐を辿って、行き着いた結び目をそっと撫でた。
「じゃあ、あんま引っ張ったら水着脱げちゃうなあ」
くひひと笑いながら言ってやれば、頭を撫でていた彼女の手の動きがぴたりと止まる。
「……海に蹴り落とすよ」
「うえ、あ、あたし泳げん」
「絶対しないで」
絶対零度の声音に、あたしは唇を尖らせた。
「冗談やんか」とぽそりと言えば、「愛ちゃんならやりかねないもん」と即座に切り捨てられる。
あまりにも素早い切り返しに、思わず笑い声が漏れてしまった。
そうしたら、堪えきれずに吹き出してしまったような彼女の笑い声が耳に届いた。
くすくすと二人して笑いながら、紐から指先を離し彼女の細い腰に腕を回して、じゃれ付くようにその肌に頬擦りをする。
髪を上げているためにむき出しになった彼女の首元に、軽く唇を押し当てながらその薄い肩に顎を乗せた。
- 250 名前:きみのかんしょく 投稿日:2011/09/28(水) 23:30
-
すると、彼女の肩越しの視界に入ったログハウスの影から、綺麗な黒髪がひょっこり顔を出した。
見慣れた黒髪の後ろ姿は、あたしがあっと呟いた時にはもうこちらに振り向いた後。
ばちりと視線がかち合った毒舌の後輩は、大きく目を見開いて、すぐにうんざりしたように細めた。
彼女は、離れたこの場所からでも分かる程オーバーに溜め息を吐くと、くるりと踵を返して離れて行った。
「どうかした?」
「んー、なーんも」
不思議そうな声に曖昧に返して首筋に頬擦りする。
後で何て言い訳しようか、なんてぼんやりと考えて、ゆっくりと髪を撫でつける手のひらの感触に、すぐにそれを放棄した。
言い訳なんて後でいくらでも考えればいい。
今はこの暖かな熱を感じる事の方が先決だ。
そうして、あたしは完全に思考を遮断して、彼女の腰を抱く腕の力をほんの少しだけ強くした。
おわり
- 251 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/28(水) 23:31
-
从*・ 。.・)<うんざりなの
- 252 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/28(水) 23:31
- >>242
>>243
レスありがとうございまっす。そう言って頂けると嬉しいです。
- 253 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/28(水) 23:57
- あま〜〜い!とか思ってたら、さゆw
- 254 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/29(木) 16:10
- ほんとにただいちゃついてるだけw
でもイイ!
- 255 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/21(金) 20:46
-
ガキ誕で愛ガキ話。
勢いでやっちまった感がいつも以上に強いので色々ご勘弁を。
- 256 名前:あなただけ 投稿日:2011/10/21(金) 20:47
-
おめでとうをもらうのはいくつになっても嬉しい。
それが大切な家族や友人や、大好きなあの子からのモノならば尚更だった。
- 257 名前:あなただけ 投稿日:2011/10/21(金) 20:47
-
私は、半ば抱きかかえるようにしていた華奢な背中を、ベッドに向かって放り投げた。
ぼすんと鈍い音を立てて愛ちゃんの身体がベッドに転がる。
だけれど、愛ちゃんはそんな乱暴な扱いに文句を言う所か、何がおもしろいのか、くひひっと笑ってシーツに頬を擦り付けた。
私は、それを横目で見やりながら、自室のドアを静かに閉めて、肩を竦めた。
今日は、明日も仕事の私のために家族がささやかな誕生日会を開いてくれた。
いつもより少しだけ豪華な夕食と、歳の分だけのロウソクを灯したケーキ。
毎年の事とはいえ、そんな家族の心遣いに感動していたら、そこにひょっこりと現れたのは愛ちゃんだった。
どうやらママが愛ちゃんとこっそり連絡を取り合っていたようで、愛ちゃんは目を丸くした私にしてやったりといったしたり笑顔で「おめでとう」と言った。
その場では、少し乱暴な言葉を彼女に投げてしまったけれど、サプライズでわざわざ来てくれた彼女に、嬉しくないわけがなくて、内心泣きそうなくらいに感動していた。
- 258 名前:あなただけ 投稿日:2011/10/21(金) 20:47
-
……いたのだけれど。
手土産にと持参したワインをパパとママとかぱかぱ空けた愛ちゃんは、一応今日の主役となっている私よりも先に潰れてしまって、今現在、私のベッドにご機嫌に横になっているのだった。
にへにへと笑う彼女に近づいて、横たわる彼女の頭の横らへんに、そっと腰を降ろした。
ついこの間見た時よりも短く落ちついた色になった髪をゆっくり撫で付けると、愛ちゃんは気持ち良さそうに口元を緩めた。
彼女との活動場所が分かれてしまった今年は、誕生日を一緒に過ごせないだろうと覚悟していた。
だから、こんな風に私を放って勝手に酔っ払ってしまったけれど、私のためにきっと色々な予定を詰めて時間を作ってくれた、その心遣いが私は何よりも一番嬉しかった。
壁にかかる時計をちらりと見やる。
真上を向いた短針と長針が、もう少しで重なりそうだ。
髪を撫でていた手を頬に滑らせて、人差し指の背で鼻筋をするりと撫でる。
気持ち良さそうに目を瞑る愛ちゃんを見下ろしながら、口の中で小さく「ありがとうね」と呟いた。
- 259 名前:あなただけ 投稿日:2011/10/21(金) 20:48
-
殆ど同時に、ベッドの上に置いていたiPhonからメールを知らせる着信音。
愛ちゃんを撫でていた手でiPhonを取ってメールを呼び出す。
画面に写るのは、最近やたらと写真を撮ってください!と迫ってくる後輩の名前だった。
受信時間を見るとほぼ0時丁度で、メールの内容ときっと時計とケータイと睨めっこをしていただろう後輩の姿が容易に想像できて、思わず笑ってしまった。
そうして同時に、ほっこりと胸の奥が暖かくなるのも自覚する。
緩む頬をそのままにメールを開こうとしたその時。
それまで横になっていた愛ちゃんが急にむくりと起き上がった。
「だれ?」
「生田。たぶん誕生日のメールかな」
ぶっきら棒な声にiPhonに視線を落としたまま答えて、今度こそメールを開こうとすれば、横から女の子にしては少しだけ厳つい手が伸びてきて、iPhonの画面を覆い隠してしまった。
彼女の行動に驚いて顔を上げると、子供みたいに唇を尖らせた愛ちゃんの姿とぶつかる。
- 260 名前:あなただけ 投稿日:2011/10/21(金) 20:48
-
「なに?見えないんだけど」
「……誕生日のメールやろ」
「うん、だから読みたいから手どけて」
愛ちゃんは眉根を寄せると、アルコールのせいで赤く潤んだ瞳を睨むように細めた。
不機嫌そのものなそんな顔をされても、彼女の行動の意味がいまひとつ分からなくて、言葉を促すように首を傾げると、iPhonに重なった手に力が入って私の腕ごと無理やり下ろされる。
「あとでええやん」
ぽつりと落ちてきた表情と同じくらいに不機嫌な声に、抗議しようと口を開きかけた時。
私の言葉を奪い取るように、への字に曲がった愛ちゃんの唇が小さく開かれた。
「あたしの“おめでとう”だけじゃ足らん?」
紡がれた言葉に目を見開く。
搾り出したようなその音と内容に彼女の不機嫌の理由を私はやっと悟った。
拗ねているんだ。
愛ちゃんが隣にいるのに、後輩からの誕生日のメールに気をやる私に、彼女は拗ねているいた。
- 261 名前:あなただけ 投稿日:2011/10/21(金) 20:49
-
自分は来て早々勝手に酔っ払ってしまったくせに。
おめでとうと最初に言っただけで、すぐにママや妹と楽しげにお喋りしてたくせに。
挙句の果てに私のベッドを占領してるくせに。
そのくせ、私が後輩のメールに応えるのを嫌がるだなんて、理不尽な話だ。
本当に、理不尽な話。―――なのに。
それなのに、ふつりふつりと心の奥底から湧き上がる熱を自覚する。
生田の姿を思い描いた時とは明らかに温度の違う熱が、全身に広がって私を酷くかきたてた。
愛ちゃんと私の手に挟まれたiPhonが、また着信音を奏で出した。
愛ちゃんだって気付いていないはずないのに、iPhonごと私の腕を押さえつける力を緩めようとはしない。
赤く潤んだ瞳でただじいっと私を見つめてくるだけ。
彼女がこんな事を言うのは珍しい。
嫉妬したり拗ねたり、そういう事は確かに多いけれど、こんな風にiPhonを隠してしまう程頑なになる事はあまりなかった。
アルコールが気持ちの箍を外してしまったのか。
ほんのり桜色の頬と潤んだ瞳を暫く見つめて、私は押さえつける愛ちゃんの腕に素直に従って枕元にiPhonを置いた。
- 262 名前:あなただけ 投稿日:2011/10/21(金) 20:49
-
その行動に驚いたように少しだけ目を見開いた愛ちゃんに、私は触れるだけのキスをしてやった。
素早く離れて彼女を見やれば、零れ落ちそうなくらいに真ん丸になった愛ちゃんの瞳とぶつかって。
胸の奥から湧き上がる暖かな気持ちのままに腕を伸ばして、私は彼女の華奢な身体に抱きついた。
小さく跳ねた肩に顎を乗せて、その耳元に唇を寄せて。
「……じゅーぶん」
何年経っても変わらない、彼女の子供みたいな嫉妬は確かに時々面倒臭くも感じるけれど、それ以上に、私の心と身体の温度を上げるから。
背中に回した腕の力を強めて首元に頬を擦り寄せると、愛ちゃんの甘い香りが鼻をくすぐって、きゅんと心が跳ねた。
彼女の仕草や言葉一つ一つにこんなにも心が逸っている事が彼女にも伝わればいいと思った。
言葉ではきっと恥ずかしくて伝えられないだろうから、くっついた部分から何もかもダイレクトに伝わればいいのに。
すぐに自分のことを嫌いなんだなんて言い出す愛ちゃんに、何もかも伝わってしまえばいい。
- 263 名前:あなただけ 投稿日:2011/10/21(金) 20:49
-
馬鹿な事を考えながら、また頬擦りすると、首筋に生暖かな感触が押し付けられてびくりと肩が跳ねてしまった。
それが唇の感触だと頭が理解したと同時に、部屋着の裾からそろりと侵入してきた彼女の手。
腰と背中を優しく撫ぜられて、ぞくり、と背筋を駆け抜ける何か。
否が応にも早まってしまう鼓動に、私は慌てて悪戯な手首を掴んだ。
「ちょっと!」
「なん」
「これ以上はダメだから。パパたちいるし、隣に妹もいるって!」
ここは愛ちゃんちじゃないのだ。
ベッドの上で抱き合っているからって、愛ちゃんの熱に心が逸ったって、その先を簡単に許すわけにはいかない。
愛ちゃんは低く唸ると、甘えるように私の首元に唇を押し付けてきた。
そうして、そこに可愛らしく頬擦りされて、胸の奥が甘く刺激される。
「……おねだりしても、ダメなものはダメだから」
念を押すと、彼女の動きがぴたりと止まった。
悪戯をしていた手が渋々と戻っていくのを感じて、ほっと胸を撫で下ろした。
- 264 名前:あなただけ 投稿日:2011/10/21(金) 20:49
-
その瞬間。
彼女の身体が私に凭れかかるように傾いた。
予想外の行動に、愛ちゃんの身体を受け止めきれず、彼女に乗っかかれるように押し倒されてしまった。
慌てて身体を押し返そうともがいたら、背中に回った腕でぎゅうっと抑えられしまう。
抗議の声をあげようとすれば、「一緒に寝る」とぽそり。
「寝るって、愛ちゃん泊まってくの?仕事は?」
「明日は午後から」
「……お風呂はいってないよ」
「明日でええやん」
彼女の顔を見ようと顔を向けるけれど、愛ちゃんは私の首元へ顔を埋めたままで、形の良い耳しか見えない。
子供のように抱きつく腕の力は抜かれるどころかますます強くなって、私は小さく溜め息をついた。
今日は私の誕生日のはずなのに、とぼんやりと思う。
私の上で拗ねるこの人は、私を祝いにきたはずなのに。
いつの間にか、私が彼女にお願いをされている。―――おかしな話だ。
- 265 名前:あなただけ 投稿日:2011/10/21(金) 20:50
-
抱き付かれた腕の中から何とか自分の手を引っ張り出して、愛ちゃんの襟足あたりにそっと置く。
短くなったそれをゆるりと撫ぜながら、私は全身の力を抜いてベッドに身を沈めた。
―――おかしな話なのに。
それなのに、全身をほんのりと熱くするこの温度は、まぎれもなく彼女に対する私の熱で。
甘えるように愛ちゃんに擦り寄られて、どうしようもなく弾む心は間違いなく私のモノなのだ。
擦り寄る彼女の頭を、もう一方の手とともにぎゅうと抱き込む。
そうして、手を伸ばして掛け布団を引っ張っり上げて彼女ごと被さった。
「……今日だけだからね」
呟いた言葉は、我ながら苦しいとは思ったけれど、これくらいのポーズは許してほしい。
素直に受け入れるのにはタイミングが必要なのだ。
いつもの愛ちゃんなら上手に誘導してくれるんだけれど、彼女が酔っ払ったこの状況では難しい。
布団の中で抱き締める腕に少しだけ力をこめる。
同じだけの力で抱き返されて、胸の奥がぎゅうとした。
- 266 名前:あなただけ 投稿日:2011/10/21(金) 20:50
-
こんな風にわがままを許すのは、愛ちゃんにだけなんだから。
心の中で憎々しげに呟いた。
誕生日の日に私より先に酔っ払ったって、来てくれた事、それだけで嬉しくなってしまうのも。
応えられないけれど、ぎゅうと抱き締めて私を求めてくれる事に心の奥が熱く震えるのだって。
愛ちゃんだから、なんだから。
恥ずかしいから、絶対絶対言葉には出さないけれど。
我ながら本当に、とぼんやりと思った。
私は、どうしようもなく彼女が、好きなのだ―――。
抱きつく彼女の頭のてっぺんに鼻先を押し付けて、甘い香りに瞼を閉じた。
―――それはもう、悔しいくらいに。
おわり
- 267 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/21(金) 20:51
- あんまり祝ってない件。
>>253
>>254
コメントありがとうございました!
さゆには毎度お世話になったます。
- 268 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/24(月) 04:51
- 最高。きゅんとしました。
- 269 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/10(木) 00:20
-
ぴろーとーくてきなやつです。意味もないしえろくもない。
そして愛ガキ。
- 270 名前:ほんとうのきみ 投稿日:2011/11/10(木) 00:21
-
シーツに篭る甘い甘い熱。
それさえも逃したくなかったけれど、さすがに息苦しくなって、あたしはシーツを跳ね除けた。
むき出しの肩をひやりと撫ぜる空気が、火照った身体に気持ち良い。
うつ伏せのまま両肘をつき上半身だけをぐいっと持ち上げて、隣の彼女へ視線を移す。
シーツを跳ね除けた勢いでむき出しになった、あたしと同じように汗ばんで火照った肩と背中がオレンジ色のルームライトに照らされている。
浅く小刻みに繰り返される呼吸に合わせて、その度にしなやかに上下する背中の筋肉が妙にいやらしい。
―――もっとも。
つい数分前までそこに舌を這わせて甘く噛んでは撫ぜて、存分にいやらしい事をしていたのはあたしなのだけれど。
- 271 名前:ほんとうのきみ 投稿日:2011/11/10(木) 00:21
-
オレンジに照らされた筋肉が形作る陰影に、どきどきと逸る鼓動を誤魔化すように、ほんのりと染まった彼女の頬に人差し指の背を滑らせた。
汗で吸い付く肌をこめかみまでそうっと撫ぜて、乱れた横髪を小ぶりな耳に引っ掛ける。
そうしたら、それに誘われるように押し上げられた瞼の隙間から、彼女の潤んだ瞳が顔を出した。
それはあたしを一瞬捉えたと思ったら、またすぐに隠れてしまう。
「ねむい?」
「んー……」
むにゃむにゃと言葉に昇華されなかった音が里沙ちゃんの唇から漏れる。
子供がぐずるみたいに動く唇にさっきとは違う暖かな熱が胸を包み込んで、知らず頬が緩む。
艶やかな声で鳴いていた彼女から、子供のようにまどろむ彼女へと変わるこの瞬間が、あたしは密かに好きだった。
だって、たぶんきっと、こんな彼女の姿を見れるのは、今はあたしだけだから。
- 272 名前:ほんとうのきみ 投稿日:2011/11/10(木) 00:22
-
横髪を撫でるように梳くと気持ち良さそうに彼女の口元が緩む。
その仕草に愛おしさが広がって、あたしは枕元に投げ置いていたiPhoneを手に取った。
手早くカメラを起こして、まどろむ里沙ちゃんにレンズを向ける。
薄暗い室内で表情が上手くカメラに納まる位置を探していたら、気配に気付いたのか彼女がそろりと瞳を開けて、向けられたレンズに不機嫌そうに唇を尖らせた。
ばれた、と思った次の瞬間には里沙ちゃんはシーツを頭まで引き上げてすっぽりと隠れてしまった後。
「……やぁだ」
舌足らずなのに掠れた声で彼女は小さく呟いた。
iPhoneを構えたまま、あたしは、シーツの隙間から覗く彼女の耳をそっと撫ぜた。
ひくりと震えて、あたしの指から逃げるように小さく身じろぐ姿にきゅんとする。
きゅんとするけど、……顔出さんとちゅうするぞ、こら。
「なんでぇ」
「はずかしいじゃん」
- 273 名前:ほんとうのきみ 投稿日:2011/11/10(木) 00:22
-
シーツの中でもごもごと聞こえる声からは顔を出す気配は一向に感じられなくて、あたしは渋々iPhoneを枕元へ投げた。
代わりに、耳を撫でていた手でシーツの上から細い肩を抱きこむように回して、はみ出た頭のてっぺんに唇を押し付けた。
けれども、可愛い寝顔をカメラに納められなかった事がやっぱり少しだけ悔しくて、意地悪な気持ちが顔を覗かせる。
「さっきまでのがよっぽど恥ずかしいやん」
つい数分前まで。
あたしの下で可愛らしい声で鳴いてたくせに。
あたしの指を追って妖しく腰を揺らしてたくせに。
そっちの方がよっぽどいやらしくて恥ずかしい事じゃないか。
それこそ、まどろむ姿をカメラに収められるのとは比べ物にならないくらい。
意地悪な気持ちのまま、彼女が嫌がりそうな事を口にして、心の中で舌を出す。
そうしたら、抱き込んだ肩がぴくりと震えて、脇腹をぎゅっと抓られた。
予想外の反撃に思わず叫ぶと、里沙ちゃんは抓った所を一瞬撫ぜてあたしの腰を抱くように腕を回した。
- 274 名前:ほんとうのきみ 投稿日:2011/11/10(木) 00:22
-
「おっさんみたいなこと言わないの」
「……なん、おっさんとやった事あるんか」
「それ、わざわざ答える必要ある?」
悔しくなって叩いた憎まれ口に返ってきたのはいやに静かな声で、うぐっと言葉に詰まる。
冷ややかな声音に、冗談で片付けられない部分を引っ掻いてしまった事を悟って、遅い後悔が胸の奥で渦巻いた。
けれど、その後悔の後ろから、じわりじわりとまた別の気持ちも滲み出できてるのを自覚する。
それは、嬉しさと、違えようのない優越感だった。
付き合いの長さから彼女が“こういう経験”を数える程しかしていない事をあたしは知っている。
その中に年配の男性が含まれない事も、その大部分を自分が占めている事も、あたしはよく知っていた。
その事実はいつだってあたしの心をうきうきと弾ませ、あたしの独占欲を少しだけ落ち着かせるのだ。
今だって、彼女の機嫌を損ねてしまった癖に、あたしの心は酷く弾んでいて、弾む心のままに、あたしは彼女の肩を抱く腕に力をこめた。
- 275 名前:ほんとうのきみ 投稿日:2011/11/10(木) 00:23
-
「……ない」
鼻先を頭のてっぺんに押し付けながら囁いて「ごめん」と付け足せば、腰に回った彼女の腕がそこを撫ぜるように小さく動いた。
くっついた部分からあたしを侵す愛しい温度に、ぴったりと隙間なくくっついたまま離れたくないと思ったけれど、それ以上にもっともっと深く柔らかなトコロに触れたい欲求が頭を擡げる。
一度ぎゅうと抱き締めてから、あたしは肩に回した腕を解いて、ひょこりとはみ出た彼女の耳のふちを再び撫でた。
「なあ、顔見せて?」
喉から零れたのは自分で恥ずかしくなるくらいに甘ったるい声。
彼女へ向ける熱が制御不能に陥っている事を嫌と言うほど自覚する。
けれど、この状況で、彼女を目の前にして、その熱を抑える気なんてあたしには元からなくて。
里沙ちゃんの耳を優しく撫ぜて、髪を梳いて、頭を撫でて、あたしはただひたすらに強請った。
- 276 名前:ほんとうのきみ 投稿日:2011/11/10(木) 00:23
-
そうしたら、シーツがもごもごと揺れて、顔を出したのは不機嫌そうな瞳。
次いで出てきた美味しそうな唇は、瞳と同じように機嫌悪げに尖ってた。
あたしのおねだりに負けて顔を出したくせに、不機嫌なポーズを崩さない里沙ちゃんの姿は、だけど、ただただあたしの熱を上げるだけ。
ふつふつと上昇していく心の温度のままに、あたしは尖った唇に誘われるように顔を近づけて、彼女の潤んだ瞳を見つめながら、自分のそれを押し付けた。
抵抗はない。積極的に応えるわけでもないけれど、少しだけ不機嫌そうな瞳があたしがゆっくりと閉じていく、それだけであたしには十分だった。
まるであたしのそれを自分の腰に引き寄せるように強まった彼女の腕の感触に、心の温度が加速していく。
- 277 名前:ほんとうのきみ 投稿日:2011/11/10(木) 00:23
-
意地っ張りなそんな反応だって、素直じゃない瞳の色だって、あたしを昂ぶらせるだけなのだ。
その裏で、彼女があたしを許しているという事実をあたしはよく知っているから。
そしてそれは、あたししか知らない、あたしだけが知っていればいいことだ。
―――あたしだけが。
この先ずっと、ただ、あたしだけが。
柔らかな感触に酔いしれながら、あたしはそんな事をぼんやりと思っていた。
おわり
- 278 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/10(木) 00:25
-
相変わらずデリカシーのない高橋さん。
お目汚し失礼しました。
>>268
あざまっす!
- 279 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/10(木) 19:59
- ロマンティックな文章で好きです
確かに愛ちゃんはデリカシーないですよね
だがそこがいかにも彼女らしい(´ー`)
- 280 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/10(土) 19:57
-
ガキさんが出演してる舞台に愛ちゃんと9期と愛佳が観に来てたと聞いて。
真田楽屋での愛ガキな話。
- 281 名前:きみぶそく 投稿日:2011/12/10(土) 19:57
-
熱い指先の温度に、悔しいけれど、あたしはいつだって、逆らえない。
舞台の最中、上げた視界に飛び込んできた見知った姿に涙が出た、と言うのは決して誇張でなくて、本当に心の底からほっとしたのだ。
数ヶ月間毎日のように顔を合わせる、なんて事も少なくないのに、やっぱり離れていると自分の中に占める彼女たちの存在の大きさに気付かされて、なくてはならない大切なモノなんだと改めて思った。
舞台終わりに楽屋へ駆けつけてくれた後輩たちと愛ちゃん。
素敵でした!と賞賛の言葉をくれる彼女らに感じるくすぐったさと、それ以上の嬉しさ。
一人一人にありがとうと返していたら、スタッフへの挨拶があるから、と付き添いのマネージャーさんが後輩たちを楽屋から連れ出した。
そう広くはない楽屋の中に、残されたのは愛ちゃんと私の二人だけ。
横たわる沈黙は、付き合いの長さから、何か話さなければと焦るようなモノではなくて、むしろ心地の良いモノだった。
- 282 名前:きみぶそく 投稿日:2011/12/10(土) 19:58
-
造りつけの机に凭れながら、iPhoneで今さっき撮った愛ちゃんとのツーショットを保存していると、不意に前髪をさらりと撫でられた。
確認するまでもなくそれは愛ちゃんに違いなくて、iPhoneからゆっくり視線を上げれば、瞳を柔らかく細めた彼女と目があった。
「濡れてるなあ」
「そりゃあ、動いたからね」
汗で湿った前髪を躊躇なく梳き上げて、その流れのままに横髪を耳に引っ掛けられる。
地肌を滑る馴染んだ彼女の指の感触に知らず細い吐息が零れ落ちた。
普段ガサツな彼女の指先はこうやって触れる時だけ、不思議なくらいにとても柔らかく動く。
その柔らかな感触が私は大好きだった。
「……汗汚いよ」
- 283 名前:きみぶそく 投稿日:2011/12/10(土) 19:58
-
ぽそりと呟いたら、愛ちゃんは楽しそうに口元を綻ばせて片方の眉を器用にひょいと持ち上げただけで、特に何も口にしなかった。
言葉の代わりのように、横髪を撫でていた指先がするりと耳のふちを辿る感触に思わず肩がぴくりと震えてしまう。
それに気付いていないはずがないのに、愛ちゃんは黙ったまま耳のふちを辿り続けて、耳たぶまで温かい指先を下ろすと、ピアスホールを引っ掻く様に触れてきた。
舞台終わりの高揚感が抜けきれていない体には、ただそれだけでも十分過ぎる刺激で、私は体ごとひくりと揺れてしまうのを抑えられない。
どくりどくり。嫌になるくらい素直に速度を上げさせられる自分の心臓。
けれど、わざとやっているに違いない愛ちゃんに、鼓動ほど素直に反応するのは何だか癪で、耳たぶを弄る指先を振り払いたい衝動を何とか堪えて、それ以上に愛ちゃんにふにゃりと凭れてしまいそうな自分を叱咤した。
- 284 名前:きみぶそく 投稿日:2011/12/10(土) 19:59
-
そんな事をしたら、からかわれるのは目に見えている。
それに、愛ちゃんのこの楽しげな瞳の色は見覚えがありすぎた。
こんな色の瞳の彼女を一度許してしまったら、いずれ戻ってくる後輩たちに醜態を晒しかねなくらいまでに、きっと追い詰められてしまう。
「くすぐったいって」
ぐっと視線に力を入れて語気を強めて、できるだけ冷たく響くように呟いた。
だけど、愛ちゃんは口角を小さく上げてなんとも楽しげだ。
耳たぶを弄っていた指先の感触が、するりと下がり、まるで顔の輪郭を確かめるようにゆるゆると動き出す。
顎の先まで到達したそれは、今度はゆっくりと頤を撫ぜはじめる。
ただ指先が肌の上を滑っているだけなのに、ただそれだけなのに、心の奥に燻った熱を引き摺り出されているような感覚に襲われて、熱い吐息が零れそうになるのをぐっと堪える。
ほとんど彼女を睨みつけるようにその目を見れば、愛ちゃんは楽しげなポーズを一つも崩さずに、形の良い唇の端を小さく舐めた。
- 285 名前:きみぶそく 投稿日:2011/12/10(土) 19:59
-
一瞬覗いた艶やかな赤色。
どこか挑発的な瞳の下で、唾液で濡れた唇が部屋の照明でぬらりと光る。
そうして、その熱い指先は絶え間なく私の肌を這い回り、打ち響く鼓動の速度が、一段と増していく。
その仕草一つ一つに、私は嫌でも思い出してしまう。
彼女の辿る指先の動きが、私の上で彼女が唇と舌でそうするそれと同じだと。
熱い吐息と熱に浮かされたような瞳で、私の全てを暴いてしまうそれと同じだと。
ここは楽屋なのに。きっともうすぐ後輩たちだって戻ってくるのに。
私は下腹あたりからせり上がってくる熱を抑える事ができない。
今にも乱れてしまいそうな呼吸に気付いているのかいないのか、彼女の細い指先は私の喉元を変わらない強さで這いながら、Tシャツの上に乗り上がり、そのままゆっくりと下がって、丁度胸の真ん中辺りでぴたりと止まった。
「どきどきしてる」
楽しげな声音に眉根を寄せると、もっと楽しげに瞳を細められて、唇を噛む。
一瞬だけ途切れてしまった呼吸は、きっともう誤魔化せない。
彼女の瞳がいやらしく細まった。
- 286 名前:きみぶそく 投稿日:2011/12/10(土) 19:59
-
「興奮してるん?」
尋ねているくせに、ほとんど確信しているような声色が悔しい。
だって。
だって、それは間違いなく。
「愛ちゃんのせいじゃん……!」
舞台終わりで確かに心地良い高揚感に包まれてはいたけれど、それとは全く違う種類の興奮を引き摺りだしたのは、目の前のこの人に違いなくて。
二人きりの夜の出来事を連想させるような触り方をしておいて、そんな風に私だけを追い詰めるような聞き方をするのはずるい。
興奮と苛立ちとがない交ぜのまま愛ちゃんを睨みつけると、驚いたように目を見開いた彼女は一瞬だけ何か言いたそうに口元を歪ませて、結局何も言わずに私の肩口に額を押し付けてきた。
詰められた距離のせいでより確かに香る彼女の匂いに、胸の奥が締め付けられたみたいになって、また悔しくなった。
「なあ、今日うち来て」
「……なに?」
いつの間にか胸に置かれた指先は腰に回り甘えるように擦り寄られて、知らず甘くなった声に、慌てて唇を引き結ぶ。
けれど、愛ちゃんは特に気に留めた様子もなく、鼻先を私の肩口にすり寄せた。
- 287 名前:きみぶそく 投稿日:2011/12/10(土) 19:59
-
「泊まってかんでもいいからさあ。帰りもちゃんとうちまで送ってくし」
ぽそぽそと喋る愛ちゃんはどこか頼りなさげで、その声からはさっきまでの挑発的なそれはまったく感じない。
強引に引きずり出された興奮を急に突き放されたような気分になって、少しだけ居心地が悪くなった。
……あのまま続きをされていても、それはそれで困るけれど。
そんな複雑な感情を誤魔化すように、そうっと背中へ腕を回すと、もっともっと擦り寄られて。
「やないと、里沙ちゃん不足で死んでまう」
縋るような言葉にきゅんと高鳴ったのは間違いなく私の心。
駄々をこねるように擦り付けられる額の感触。
思わず彼女を見やると、少しだけ伸びた襟足が動きに併せて可愛らしく跳ねた。
こっちが驚くくらいにストレートな彼女の感情表現は、私をいつだって甘く溶かす。
今だって、ずくずくと溢れ出す感情はどうしようもなく甘いそれで、さっきまで苛立っていたのが嘘みたいに、私は目の前の細い体を抱き締めて離したくなくなっていて。
背中に回した腕の力を、彼女にだけ分かるくらいに強めた。
- 288 名前:きみぶそく 投稿日:2011/12/10(土) 20:00
-
「……泊まってくし」
「ぅえ……?」
「私も、……愛ちゃん不足でしんじゃう」
普段は、絶対に絶対にこんなこと言わないけれど、溶けた心の中身が自然と口をついて溢れてた。
だけどやっぱり少し恥ずかしくて、顔を見られないように愛ちゃんにもっとくっ付いたら、腰に回った彼女の腕が私をあやす様に小さくそこを撫でた。
「里沙ちゃんが可愛いこと言うてる……」
「……やっぱ今日行かない」
「うそうそ!だいすき!」
とってつけたような言葉に思わず噴き出すと、耳元で特徴的な笑い声。
二人してけらけらと笑いながら、もうすぐ戻ってくるだろう後輩たちを思った。
そろそろ離れないと見つかってしまう。
後輩たちの中では少し先輩の言葉のきついあの子はやれやれと首を振るだけだろうけど、戻ってくるのは彼女だけではないから。
愛ちゃんの笑い声を受け止めながら、もう一度だけ、と言い訳をして、彼女の温もりを一つも零さずに感じるために背中に回した腕に力をこめた。
おわり
- 289 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2011/12/10(土) 20:01
-
私が愛ガキ不足です。
>>279
レスありがとうございます。
デリカシーのない愛ちゃんが好きなのでそう言って頂けると嬉しいっす。
- 290 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 03:39
- すごく綺麗な文章で尊敬っっ(*^^*)
愛ガキ、たまりませんね?? そして作者様とは好みが似すぎて、 毎度更新が楽しみで仕方ありません(*´Д`*)
- 291 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 18:06
- 愛ちゃんの妖しい雰囲気に
読んでいるこっちまでドキドキ…
- 292 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/26(木) 15:26
-
アンリアル愛ガキで猫ガキさん。
ガキさんが人になれる猫でその飼い主愛ちゃんっていう、そういう設定です。
- 293 名前:ねこがきさん 投稿日:2012/01/26(木) 15:26
-
うちの猫はちょっと変わってる。
猫のくせにどんなに高いキャットフードよりじゃがりこが好きで、猫のくせにあたしが開けっ放しにしたドアを嫌そうな顔をしてきっちり閉めるて、猫のくせにお酒が好きだ。
そうして一番変わってるのは、猫のくせに、彼女は人間になれた。
- 294 名前:ねこがきさん 投稿日:2012/01/26(木) 15:27
-
猫が人間に変身するなんて俄かには信じがたい話だ。
だけれど、うちのりさちゃんは、ある日突然その茶色の小さな体から年頃の女の子へとその姿を変えて見せた。
猫の時と同じ色の、肩まである茶色の髪の毛をふわりと揺らして、嬉しそうに「あいちゃん」と言ったあの瞬間の彼女の姿を、たぶんあたしは一生忘れないと思う。
猫が人間へと姿を変えて、また猫の形に戻る。
それがどういう仕組みで行われているのか詳しい事はよく分からない。
本人(本猫?)に聞いても首を傾げるだけで明確な答えは返ってこなかった。
どういうきっかけでどういう状況の時に猫から人へと姿を変えるのかもよく分からないまま数ヶ月。
慣れとは怖いモノで、気まぐれに人化を繰り返す飼い猫に無邪気にじゃれつかれる事が、いつの間にかあたしの日常の一部になっていた。
- 295 名前:ねこがきさん 投稿日:2012/01/26(木) 15:30
-
今日も今日とて、茶色の毛並みを震わせて一人の女の子へと姿を変えたりさちゃんは、当然のような顔をして床へ座るあたしの足の間にちょこんと収まった。
今では、こんな風に甘えるように凭れ掛かられても、少し乱れたふわふわの茶色の髪を梳いて整えてやるくらいには、あたしもこの状況に動じなくはなったけれど、彼女が人化し始めた最初の頃は彼女のこんな行動に心底戸惑った。
本人的には猫の時と同じ感覚でじゃれ付いてくるのだろうが、見た目だけでは16、7歳にしか見えない女の子に、首元に擦り寄られたり抱きつかれたり頬を舐められたりするのはさすがにあたしも経験がなかったから。
時折髪を撫でつけながら、りさちゃんの肩越しにぼんやりとテレビを見ていたら、甘える様にりさちゃんが擦り寄ってきた。
それは眠い時に彼女がよくする仕草で、寝心地の良い位置を探しているのだ。
「眠いん?」
「んん…」
「寝るんやったらベッド行こ」
- 296 名前:ねこがきさん 投稿日:2012/01/26(木) 15:30
-
撫でていた手を止め顔を覗き込むようにして尋ねてみたけれど、眠そうなむにゃむにゃ声が返ってくるだけで一向に起きる気配はない。
ふわふわの髪からぴょこんと飛び出た髪と同じ色の猫耳が時折ぴくぴくと揺れているからたぶんあたしの声は届いてはいるんだろうけれど。
「おい、こら、りさちゃん」
ぴくぴくする猫耳を軽く引っ張って低く囁いてやると、嫌そうに首を振られて、ついでのように猫耳と同じ色の尻尾で腰辺りをはたかれた。
なん、やっぱり聞こえてるし起きとるやん。
見た目は人間でも本来の姿の猫らしく気まぐれな彼女は、あたしに抱きついて寝てしまう事がよくあった。
前に一度同じような状況になった時に彼女を放って先にベッドに入ったら、暫くしてりさちゃんは一人でベッドまでやってきて、するりと隣に潜り込んできた。
その経験から、放っておいても特に問題ない事は分かっているのだけれど、―――あたしはどうにもこの不思議な猫に弱かった。
- 297 名前:ねこがきさん 投稿日:2012/01/26(木) 15:30
-
一人放って置いたその時。
ベッドに潜り込んできた彼女に半泣きで、なんでおいてくの、と言われてからは、あたしは彼女を放り出して一人でベッドに入る事ができなくなってしまった。
ただの飼い猫に対して、我ながら甘いなあとは思うのだけれど。
彼女の耳を引っ張った手を耳の形に添うようにゆっくりと下ろして、その付け根あたりを引っかくようにして撫でてやる。
本人はあまり口にはしないけど、猫の時からのりさちゃんが好きな撫で方の一つだという事をあたしは知っていた。
これを暫く続けると彼女はふにゃふにゃと全身の力を抜いて嬉しそうにもたれ掛かってくるのだ。
それは、ただでさえ夢心地な彼女を更に夢の国への階段を昇らせてしまう行為だけれど、今は彼女の機嫌を取るのが先決だ。
暫くの間撫で続けて、彼女がもっともっとと強請るように手に擦り寄ってきたのを見計らい、その手を止める。
代わりに、揺れる猫耳に唇をそっと近づけた。
- 298 名前:ねこがきさん 投稿日:2012/01/26(木) 15:30
-
「運んだげるから、猫に戻りや」
同じくらいの体格の寝ぼけてる女の子を運ぶのはさすがに難しいものがあるけれど、猫ならば片手一本で事足りる。
―――のだけれど。
目の前の茶色の耳がぴくりと立った。
「やだ」
返ってきたのはそれまでとは違ういやにはっきりとした声。
ああ、今回も失敗か。心の中で小さく溜め息を吐いた。
「……ほんじゃ置いてくよ」
「やだ」
「……なん、あたしも眠いもん。でもこんなとこじゃ寝れんやん」
茶色の耳から手を離して、体の線を手のひらで確かめるようにしながらそうっと下ろしていく。
華奢な肩や脇腹を通り過ぎて、ショートパンツから窮屈そうに飛び出た茶色の尻尾を人差し指の背で毛並みに沿ってゆっくりと撫でる。
じゃがりこばかり食べるくせに彼女の茶色の毛は赤ちゃんの髪の毛みたいに柔らかい。
- 299 名前:ねこがきさん 投稿日:2012/01/26(木) 15:32
-
少しの沈黙が部屋の中へ横たわる。
ぴたりと動くのを止めた尻尾をするすると撫でながら彼女の出方を待っていると、腰辺りに細い腕がぴたりと絡みついてきた。
さっきよりも隙間なく近づく身体。
彼女の身体の感触が服越しに妙にリアルに伝わってきて、鼓動が静かに跳ねた。
「あいちゃんと一緒がいい」
彼女が人間に変身してから何度も何度も耳にした言葉が、また今日も落ちてきた。
りさちゃんは、まるでお呪いをするかのようにその言葉を口にする。
洋服を選ぶ時も、ご飯を食べる時も、テレビを見る時も、何かを決めようとする時に必ず口にする。
初めて猫から人へと変わったその時も、うわ言のように「どうして」と呟いたあたしに、彼女は嬉しそうにはにかみながらそう言った。
―――あいちゃんと一緒になりたかったから。
- 300 名前:ねこがきさん 投稿日:2012/01/26(木) 15:32
-
飽きるくらいに聞いたはずのその言葉は、だけど、いつだってあたしの心の一番奥を柔らかく刺激する。
甘やかで少しだけ切ない癖になるその刺激は、いつもいつも一瞬にしてあたしの心の温度を上げるのだ。
心臓の少し下らへんをきゅっと握りしめられたような感覚をあたしは目を閉じてやり過ごす。
一瞬の間を置いて瞼を押し上げて、目の前にある茶色の耳の付け根に唇を押し付けた。
より強く感じる彼女の匂いにくらくらしそうだ。
「じゃあ、ちゃんとベッド行こ」
唇をそのままに小さく告げると、同じくらい小さく彼女が頷いたのが、触れた部分から伝わってきた。
それを追うように揺れた可愛らしい茶色の耳に噛み付いてその感触を確かめたい衝動に駆られたけれど、なんとか堪えて、あたしはゆっくりと顔を離した。
あたしの腰に回した腕を解いて、小さな子供がそうするように目を擦るりさちゃんの手を取り立ち上がらせる。
あたしより小さな手を引きながら、いつもよりも随分と聞き分けよくベッドへ向かう彼女へご褒美を上げなきゃなあとぼんやりと思った。
- 301 名前:ねこがきさん 投稿日:2012/01/26(木) 15:32
-
「明日の朝ごはんは何がいい?」
何かりさちゃんの好きな物でも作ってあげよう。じゃがりこは却下だけど。
寝室の扉のノブを回しながらすぐ後ろに佇む彼女を見やれば、彼女は驚いたように少しだけ目を見開いて、それから蕾が綻ぶように嬉しそうに微笑んだ。
「あいちゃんと一緒のやつ!」
心の奥の大事な所が、また一つ柔らかく弾んだ。
うちの猫はちょっと変わってる。
猫のくせにどんなに高いキャットフードよりじゃがりこが好きで、猫のくせにあたしが開けっ放しにしたドアを嫌そうな顔をしてきっちり閉めるて、猫のくせにお酒が好きだ。
そうして、一番変わってるのは、猫のくせに、彼女は人間になれた。
だけど、そんな飼い猫に恋をしてるあたしが、何よりきっと、―――いちばん、変。
おわり
- 302 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/26(木) 15:33
-
お粗末さまでした。
>>290
>>291
ありがとうございます。
そう言って頂けると嬉しいっす!
- 303 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/01(水) 23:24
- 設定だけでも萌え氏にそうなんですが
文章から醸し出される甘い雰囲気がさらに堪らないです
- 304 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/22(水) 13:45
-
愛ガキでガキ愛。
いつも通り特に意味のないいちゃこら話。
- 305 名前:わたしのあなた 投稿日:2012/02/22(水) 13:46
-
だってあなたは、私のモノ。
- 306 名前:わたしのあなた 投稿日:2012/02/22(水) 13:46
-
「どうしたの、これ」
彼女の家の彼女のお風呂、一人用のバスタブには白く濁ったお湯がゆらゆらと揺れている。
入浴剤の甘い香りと温かな湯船にほんわりとしながら、彼女と向かい合って白いそれの中に身体を沈める。
足が当たっちゃうくらいに狭いけれど、彼女とならあまり気にならないそんなお風呂の中で、膝を立てて座っているせいで湯船からひょこりと顔を出した彼女の左の膝小僧の少し下に、赤い痕を見つけた。
赤いそれが痣であるのか、それとも他のモノであるのかを考えるよりも先にぽろりと零れた私の言葉に、目の前の愛ちゃんは濡れた髪を耳に引っ掛けながら自分の膝小僧に視線を落として、すぐに口元を苦く緩めた。
- 307 名前:わたしのあなた 投稿日:2012/02/22(水) 13:46
-
「イベントではしゃぎ過ぎたみたい」
「って、こないだの?」
「うん」
相変わらず私の質問への答えとしては彼女の返事は少しズレたモノだったけれど、その一言だけでなんとなくその赤の正体ができた経緯は察せられた。
大方、歌やダンスに夢中になってどこかにぶつけたんだろう。なんとも愛ちゃんらしい。
年上の彼女のあまりにも“らしい”赤い痕の経緯に身体を包むお湯よりも温かな何かがじわりじわりと胸の中に広がって、ちょっと恥ずかしそうにふへへと笑う彼女につられるように私の頬も緩んでいった。
湯船から顔を出した膝小僧に、赤い痣に触れないようにしながらそうっと手の平を乗せて、立てた自分の膝を抱きこむように身を屈めながらその痕をじっと見つめる。
愛ちゃんの白い肌に浮かび上がる赤いそれはとても痛そうで、痣に触れないように膝小僧をゆるゆると撫でた。
- 308 名前:わたしのあなた 投稿日:2012/02/22(水) 13:47
-
「……痛い?」
「んー、もーそんなに痛ないかなあ」
愛ちゃんはバスタブの淵に肘を置いて、鬱陶しそうに濡れた前髪を払った。
水分を含んだ明るい栗色の髪の毛が跳ね上がって、再び愛ちゃんの額にぺたりと張り付く。
ちょっと間抜けな光景だけれど、それが愛ちゃんとなると、何故だか絵になってしまって、それにどきどきしてしまう事が少しだけ悔しい。
胸の中の変化を悟られないように愛ちゃんから微妙に視線を外すと、また張り付いた前髪を乱暴にかき上げた彼女が、何かを思いついたように目を細めたのが視界の隅っこにちらりと映った。
瞬時に湧き上がる嫌な予感。
―――あの顔は、何か悪戯を思いついた時のそれだ。
私にとって歓迎できない悪戯を思いついただろう彼女を阻止すべく、慌てて話題を変えようとしたら、それよりも一瞬早く目の前の唇が楽しげに動き始めた。
- 309 名前:わたしのあなた 投稿日:2012/02/22(水) 13:47
-
「痛い」
「……は?」
「痛い、痣」
その言葉の持つ意味とは裏腹に目を細めて口元を緩めた彼女の姿。今さっき痛くないって言ったばっかじゃんこら。
にやにや締まらない表情の愛ちゃんを警戒しながら、膝小僧から手を離そうとしたら、前髪をかき上げていた彼女の手に素早く捕らえられて。
「治して」
だらしなく緩んだ唇が紡いだ言葉に眉根が寄った。
彼女のその言葉には聞き覚えがありすぎた。
彼女の言う“治す”が指す行為にも心当たりがありすぎた。
そうして、それが行き着くであろうその先の行為にも。
唇を引き結ぶ。
白い湯船に裸で向かい合う私と愛ちゃん。
捕らえられた右手はいつの間にか指が絡められている。
戦況は、あまりにも不利だ。
その状況を十二分に理解しているのだろう彼女はにやにやと楽しげに笑っていて、なんか。
なんか、―――むかつく。
- 310 名前:わたしのあなた 投稿日:2012/02/22(水) 13:48
-
絡まっていない方の手を膝小僧に乗せて、指先でそうっと痣をなぞる。
彼女の表情が痛みに歪まない事を見て取って、私は痣を“治す”べく、赤い痕にゆっくりと唇を近づけていった。
痣に唇をそっと押し当てる。
愛ちゃんは痛くないと言ったけれど、細心の注意を払ってゆっくりと唇で痣を撫ぜた。
唇をつけたまま愛ちゃんの顔をちらりと見て、相変わらず締まりなく微笑んでる事を確認し、今度は赤くなった肌を軽く吸い上げた。
前歯で軽く引っかくようにしてやると、絡んだ彼女の指先に少しだけ力が入ったのが分かって、知らず甘く弾む胸の奥。
- 311 名前:わたしのあなた 投稿日:2012/02/22(水) 13:48
-
一度数センチ顔を離してから、今度は唇の代わりに舌先を落とす。
舌先にぴりっと感じた入浴剤の苦さは、だけどすぐに唾液と混ざって分からなくなった。
歪な楕円系の赤の淵をなぞるように舌を這わせると、愛ちゃんの自由な方の指先が髪の毛の中に潜り込んできた。
まるで私の行為を褒めるように地肌を優しく撫でた彼女の指先は、濡れた私の髪の毛を耳に引っ掛けるように動く。
指先の感触が気持ち良い。
彼女のそれはどちらかと言えば労わるような動きなのに、腰辺りがぞくりと震えて、その指先の感触に急かされるように、私は舌の真ん中で痣全体を覆って舐め上げた。
引っかかりのないすべやかな肌の感触。髪をくしゃりとかき混ぜる指先の感触。
そうして、さっきよりも明らかに上がっている彼女の息遣い。
そのどれもが、私の胸の奥を甘く激しく、刺激する。
- 312 名前:わたしのあなた 投稿日:2012/02/22(水) 13:48
-
また唇を押し付けて吸い上げて、引っ込めた舌先を伸ばして舐めて撫ぜて。
唾液が唇から零れ落ちるのも構わずに、私は夢中で彼女の膝小僧の少し下辺りを“治す”。
湯気が立ち上がる浴室に唾液の絡む音と荒い息遣いだけが響く。
好きな人に肌を舐められる気持ち良さを私は知っている。
愛ちゃんの舌が私の上で滑る度に、鼓動が早まって胸の奥がきゅっと縮まって、そうして下腹部に溜まったやらしい熱を直接引きずり出されるような、そんな感覚に陥るのだ。
それは、指先であろうが、頬であろうが、お臍の周りであろうが変わらない。
どこを撫ぜられたって私は―――。
愛ちゃんの舌の感触がいやにリアルに蘇ってくる。
私の上にいるくせに余裕なさげに潤んだ瞳も優しく優しく身体を包む手の平の感触も、それに付随するように溢れ出して、私が愛ちゃんの膝を舐めているのに、私のそれも愛ちゃんに可愛がられてるような感覚になって、腰辺りで蟠っていた熱が温度を上げた。
- 313 名前:わたしのあなた 投稿日:2012/02/22(水) 13:49
-
高ぶる感情のままに、一度舌先を離して再び膝への行為を続けようと顔を近づけたら、繋がった手を引っ張られた。
同時に、「りさちゃん」と余裕の無い時によく聞く彼女の声が耳に届く。
その声に促されるように顔を上げれば、声以上に余裕の無い顔で私を見つめる愛ちゃんの姿。
赤く染まった頬と熱に浮かされたような瞳の色は、お湯でのぼせたからではないとすぐに分かる。
余裕の無い顔で拗ねたみたいに唇を尖らせて、愛ちゃんはもう一度私の手を引っ張った。
「そこばっかやだ。……こっちもしてや」
言葉と同時に軽く持ち上がった顎にその意図を察して、知らず笑みが零れた。
笑われたと思ったのだろう彼女がますます拗ねたようにむくれる姿に胸の奥がきゅんとして、今すぐにでも彼女の頭を撫でてぎゅっと抱きしめたい衝動に駆られる。
―――同時に、背筋がぞくぞくとして、可愛らしく拗ねる彼女をめちゃくちゃにしてしまいたい欲求が頭を擡げた。
- 314 名前:わたしのあなた 投稿日:2012/02/22(水) 13:49
-
バスタブの底に膝を突き湯船からざばりと上半身を持ち上げて、彼女の肩に自由な方の手を置きながら、上から覆い被さるようにして顔を近づけた。
驚いたように顎を引いた彼女が逃げないように繋がった手に力を入れる。
「愛ちゃんが治してって言ったんじゃん」
あと数十センチで鼻先が触れそうな距離で指摘してやると、拗ねた色を更に深めた彼女の潤んだ瞳が非難するように私を見上げた。
私は何も間違った事は言っていないのだから、非難がましく見つめられる謂れはないのだけれど、その視線が私に膝先を舐められていろんな事が我慢できなくなった末のわがままから来るモノだと分かっているから、私は彼女のそんな行動も全て可愛く見えて仕方ない。
自然と緩んでいく頬をそのままに、濡れた前髪を払ってやると、むくれた愛ちゃんの唇がゆっくりと動き出した。
「……怪我人なんやから優しくしてよ」
「じゅーぶん優しくしたげたでしょ」
「なん、……えーやんかあ」
- 315 名前:わたしのあなた 投稿日:2012/02/22(水) 13:49
-
子供のような声で強請る彼女を無視して、前髪を払って丁度良く現れた額に唇を押し付ける。
そうしたら、焦れたように腰に片腕を回されて引き寄せられた。
湯船の中で肌がぶつかる。
湯温よりも低いはずの彼女の体温は、だけどすごく熱く感じて、すべやかな肌の感触とその熱に否応なく早まっていく心音。
「そこ違うって、もっと、」
「てゆかさ」
愛ちゃんの言葉を遮って濡れた額に唇を押し付けたまま声を出す。
くすぐったかったのか首を振った彼女の動きに従ってそっと顔を離した。
拗ねた愛ちゃんの顔を見つめながら髪を払った手の平をゆっくりと頬まで滑らせる。
そのまま耳たぶを優しく撫ぜると、愛ちゃんの長い睫毛が僅かに震えた。
「怪我とか気をつけてよ」
- 316 名前:わたしのあなた 投稿日:2012/02/22(水) 13:50
-
撫でた耳に親指を引っ掛けて、頬を手の平全体で包み込む。
汗なのかシャワーの水滴なのか分からない雫が彼女の髪の間から私の手へと向かって肌を伝って落ちてくる。
舐めとってやりたい衝動を抑えながら、私は今さっき唇を押し当てていた額へ今度は自分のそれをこつんとくっつけて。
「愛ちゃんは、私のなんだから」
超至近距離で、ただでさえ大きな愛ちゃんの瞳が更に大きく見開かれていくのをじっと見つめた。
珍しい事を言っている自覚はある。
普段、好きの一言も滅多に言わない私だけど、こんな風に可愛いわがままを言われたりぐずられたりすると、どうにも甘やかしてしまいたくなってしまうのだ。
傷なんて作ってこないでよ、と付け足したら、丸くなった瞳を縁取る睫毛がまた震えて、ゆるゆると伏せられて。
- 317 名前:わたしのあなた 投稿日:2012/02/22(水) 13:50
-
「そか、あたしは里沙ちゃんのか」
ぽつりと落ちた言葉と同時に、繋がった手が柔らかく握り直される感触。
同じだけの力で握り返したら、伏せられていた瞼がゆっくりと持ち上がり、顔を出した潤んだ大きな瞳が私の視線をしっかりと捕らえた。
「じゃあ、はよ里沙ちゃんの好きにしてや」
喉が鳴る。
息が詰まりそうだ。
私を見上げる意思の強い、ただひたすらに真っ直ぐな瞳。
向けられる度に圧倒されて私の心音を跳ね上げるそれは、今はその奥深くに妖しい炎をゆらめかして、私の中のいつもとは別の熱をいとも簡単に引きずり出す。
彼女の吐息が唇を撫でて、彼女の手の平が裸の背中をゆっくりと這い上がる、そんな些細な動き一つに、痛いくらいに胸の奥が刺激されている事をきっと彼女は知らない。
鼻先をそっとすり合わせて、私を真っ直ぐに見つめる彼女の潤んだ瞳の奥でちりちりと燻る妖しい熱に急かされるように、痛いくらいに拍動を続ける心のまま、私は誘うように薄く開いた目の前の唇に自分のそれを押し付けた。
おわり
- 318 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/22(水) 13:51
-
お粗末様でした。
>>303
ありがとうございます!
- 319 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/23(木) 04:33
- この雰囲気大好きです!
- 320 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/29(木) 01:37
-
ガチな感じのガキ生田。
中学生といちゃいちゃちゅっちゅするリーダーの話です。
今までの愛ガキとは全く別の世界のお話ですのであしからず。
- 321 名前:ボーダーライン 投稿日:2012/03/29(木) 01:38
-
「あ、生田は残って」
新垣さんが声を上げたのは、事務所のレッスンスタジオでツアーのリハ終わり。
帰り支度を整えて、バッグを肩に掛けようとしたその時だった。
一瞬、楽屋の中をぴりりと走る抜けた緊張感。
えりなはバッグを中途半端に持ったまま、思考をフル回転させた。
自慢じゃないが、新垣さんに限らず、こんな風に先輩や先生に名指しで呼び止められる経験は少なくない。
自分で言うのもアレだけれど、えりなは物覚えが良い方でも要領が良い人間でもないから、リハをすれば先生に注意され、イベントではしゃぎすぎてはマネージャーさんに怒られる、なんて事は悲しいかな日常茶飯事だった。
今日のリハでも何かやらかしてしまっただろうか。
朝から続いたリハーサルを頭の中でぐるぐると反芻してみたけれど、思い当たる節がない。
それどころか、今日は自分でも珍しくスムーズにリハを終える事ができたとちょっとだけ誇らしく思っていたくらいだったのに。
その証拠に楽屋の入り口のあたりでえりなの支度を待っていた9期の3人も、新垣さんの言葉に不思議そうに顔を見合わせていた。
- 322 名前:ボーダーライン 投稿日:2012/03/29(木) 01:39
-
「あのっ」
自分で気づかない所で何かへまをしていたのかもしれないと少し落ち込んでいたら、里保と香音と目配せをし合っていた聖が言葉と共に一歩前へ飛び出した。
「今日えりぽん何かしましたか…?」
控えめだけれど意思の強さを感じさせる声が、新垣さんとえりなたちしかいない楽屋に柔らかく響いた。
困ったように下がった眉尻とは反対に、聖の強い色をした瞳が新垣さんをじっと見つめてた。
いつもはのんびり温厚な一つ年上の同期のえりなを庇うような姿に泣きそうになっていたら、その異様な雰囲気にようやっと気づいたのか、楽屋の長椅子に座りiPhoneを弄っていた新垣さんが顔を上げて、驚いたように目を丸くした。
新垣さんは、すぐに違う違うと胸の前で手を左右に振って、片方の眉をひょいと上げて苦笑い。
- 323 名前:ボーダーライン 投稿日:2012/03/29(木) 01:39
-
「別に怒ろうとかそういうのじゃないから。個人的にちょっと用があるだけだって」
笑いながら長椅子の背凭れに背中を預けた新垣さんの纏う優しげな雰囲気に、大人の余裕のようなモノを感じて胸の奥が少しだけざわついた。
新垣さんの言葉を聞いて強めた視線を瞬時に解いた聖はわたわたとすみませんと頭を下げた。
こっちこそごめんね、と笑う新垣さんに、聖はもう一度頭を下げて、一瞬だけ心配そうにえりなを見てから、香音と里保を促して楽屋を出て行った。
3人の背中をひらひらと手を振って見送った新垣さんは、楽屋の扉がぱたんと閉まったのと同時に上げていた手を長椅子の背凭れにそっと置いた。
しんと静まり返った楽屋の中には、えりなと新垣さん、二人だけ。
新垣さんは個人的に用があると言った。怒るつもりではない、と。
それでは一体なんの用事なのだろうか、そこまで考えて、一つの憶測にたどり着く。
その憶測に胸の奥がどきどきと高鳴って、さっきとは別の緊張感がえりなの足を床に磔にする。
- 324 名前:ボーダーライン 投稿日:2012/03/29(木) 01:39
-
中途半端に持ったバッグがずり落ちそうになって慌てて抱え直したら、「生田」と柔らかな声がえりなを呼んだ。
視線を向ければ声と同じくらいに柔らかに微笑んだ新垣さんが、長椅子の自分の隣をぽんぽんと軽く叩いた。
「おいで」
次いで聞こえた言葉に、床に磔になっていた足がまるで魔法にかかったみたいに簡単に動いた。
そろりそろりと近づいて、新垣さんの隣に少しだけ距離を空けて腰を下ろす。
抱えたバッグを更に隣に置くと、見計らったように新垣さんが少しだけ空いた距離をつめてきた。
服越しに二の腕がぶつかる。
鼻先を掠めた新垣さんの香水の香りに、胸の奥の方をぎゅっと掴まれたみたいに苦しくなって、鼓動が早まって、胸が、痛い。
思わず息を詰めると、膝の上に置いていたえりなの手に新垣さんの細いそれが重なって、えりなが声を出すよりも早くするりと指が絡まった。
こてんと肩先に感じる重さに、びくりと体が跳ねる。
確認しなくたってえりなの肩先にちっちゃな新垣さんの頭が乗っかっている事は明らかで、更に強く感じる新垣さんの匂いが、えりなの鼓動を見境なく、煽る。
- 325 名前:ボーダーライン 投稿日:2012/03/29(木) 01:40
-
「きんちょーしてる」
笑みを含んだ小さな声が耳に届いた。
普段の快活な新垣さんとは違う可愛らしい声音に、こくりと喉が鳴ってしまって、至近距離でそれが聞こえただろう新垣さんが、おかしそうに小さく肩を揺らしたのがくっついた部分から伝わってくる。
そんな余裕な新垣さんの態度にほんの少し、ほんの少しだけ悔しくなって、同時にどこまでも緊張している自分が情けなくって、唇を尖らせた。
「……しない方がおかしいです」
だって。
好きな人と一緒にいるんだもん。
新垣さんが、二人きりになるとこんな風に可愛らしい声を出す事をえりなは最近知った。
その手の温度がえりなよりもずっと低い事も、手を握る時はネイルがえりなの手に当たらないようにいくらか緩く握る事も、あの日、夕日に照らされたオレンジ色の窓の前で新垣さんに好きだと伝えた、その後に知った事だ。
- 326 名前:ボーダーライン 投稿日:2012/03/29(木) 01:40
-
あの日から少しだけ変化した、えりなと新垣さんの距離。
ふとした瞬間に重なる視線にも、ぶつかる手にも、名前を呼ぶその声にも、その日から全く別の温度が含まれるようになって、こんな風に二人きりの空間で、新垣さんの熱を間近で感じる機会も、あの日から変化して増えたモノの一つだった。
だけれど、えりなは一向にその熱に慣れる事ができない。
それどころか回数を重ねる度に、胸の高鳴りは大きくなる一方で、それがなんだかとても、―――情けない。
「そんなにがちがちになられると、私まで緊張するじゃん」
「う……、だ、だって」
「いーくた」
小さな子供みたいな甘ったるい声が鼓膜を揺さぶる。
それは心も涙腺も同じように揺さぶって、鼻の奥がツンとした。
新垣さんのこんな声が聞けるだなんて思ってなかった。
こんな風に柔らかに名前を呼んでもらえるなんて思ってなかった。
あの告白はただの自己満足で終わるはずだったのに。
- 327 名前:ボーダーライン 投稿日:2012/03/29(木) 01:41
-
あの日あの場所で、オレンジ色に照らされて擽ったそうに笑った新垣さんをえりなはきっと一生忘れない。
ただの自己満足が、自己満足じゃなくなったあの瞬間。
えりなに「好きだよ」と答えてくれたあの日の新垣さんの姿に、えりなは涙は幸せすぎても溢れてくるモノなのだという事を初めて知った。
繋がった手をそっとぎゅっと握り締めると、同じように新垣さんの手に力が入るのが分かる。
「最近さ」
えりなの膝の上で繋がった手をぽんと弾ませて遊ばせながら、新垣さんがぽつりと呟いた。
「生田、大変そうだよね」
「たいへん?」
「いや、ほら、仕事とかさあ」
「はぁ……?」
言葉を選びながら、更にいくらか渋っているような声音。
伝えたい事は真っ直ぐに言葉に乗せる人なのを知っているから、その様子に、どきどきに困惑が重なる。
何か遠回しに伝えようとしているのは分かるのだけれど、ただでさええりなの頭は回転数が早いとは言えないのに、その上新垣さんの隣で緊張しているこの状況で、濁された答えを正しく導き出す事は困難だった。
- 328 名前:ボーダーライン 投稿日:2012/03/29(木) 01:41
-
間抜けな声を返したえりなに、新垣さんはどこか焦れたように小さく唸ったかと思ったら、繋がった手を持ち上げて。
「……おつかれさま」
えりなの手の甲に唇を押し付けた。
手の甲に感じる生暖かで柔らかな感触と目の前で自分の手に顔を寄せてる新垣さんの姿に、一瞬何が起きたのか分からなかった。
ぼんやりとその姿を眺めて、一拍遅れてその状況を把握。
一気に顔に熱が集まる。痛いくらいに熱くなる耳。
自分の顔がどうなっているのか鏡を見なくたって分かった。
それが更にえりなの温度を上げていく。
新垣さんの唇が触れている所の神経が研ぎ澄まされて、まるで自分の身体が手の甲だけになってしまったような感覚に陥って慌てて手を引っ込めようとしたら、むっとしたように目だけで睨まれた。
- 329 名前:ボーダーライン 投稿日:2012/03/29(木) 01:42
-
「ひっこめるな、ばか」
手の甲から顔を離しながら拗ねた口調でえりなを批難した新垣さんは、子供みたいに唇を尖らせた。
その姿は、えりなのどきどきと緊張と高揚感を更に加速させていく。
幸せなのか、不安なのか、嬉しいのか、怖いのか。
そのどれもが混在してごちゃごちゃになった感情を、処理をする事を放棄した脳みそが、全てを涙へと変換して鼻の奥をつっついた。
また新垣さんに泣くなと怒られそうで、涙をぐっと堪える。
この感情を言葉でちゃんと伝えたいのだけれど、喉の奥が引き攣って上手に声が言葉にならない。
唇を噛むと、新垣さんの繋がっていない方の手が持ち上がるのが見えた。
その手の平は躊躇することなくえりなへと伸びてきて、そうっと頬を撫で上げて顎を捉えると、唇の辺りの感触を確かめるように親指で唇を優しく押してきた。
親指の辺りを見ていた新垣さんの視線が持ち上がる。
新垣さんの茶色の瞳の中にえりなの目がちらりと写った気がした。
- 330 名前:ボーダーライン 投稿日:2012/03/29(木) 01:42
-
新垣さんはえりなの目を見て細い顎を上向けて、ゆっくりとえりなとの距離を詰めてきて。
ごちゃごちゃになったえりなの頭でも、次に起こりうる事を予測するのは簡単だった。
「……こういう時は目を閉じなさいよ、ばか」
どこか怒ったような言葉と共に近づいてきた新垣さんの言葉に慌ててぎゅっと目を瞑る。
生暖かな吐息が唇を撫ぜたすぐその後に、予想以上に柔らかな感触がえりなの唇を覆った。
高鳴る鼓動の向こう側からじわりじわりと滲み出る熱くて苦しくて、けれど蕩けそうなほどに甘い感情に、えりなは無意識に新垣さんの服の裾を握ってた。
こうやって新垣さんとキスするのは初めての事じゃない。
それなのに、新垣さんの唇の柔らかさにえりなはいつだってびくりと驚いて感動して、足元からふにゃふにゃと崩れてしまいそうな幸福感で胸がいっぱいになる。
そうして、新垣さんの特別になれた実感と、選ばれた事への喜びと、ただただ単純にその柔らかな唇に触れられるという興奮がえりなの心を躍らせた。
- 331 名前:ボーダーライン 投稿日:2012/03/29(木) 01:42
-
少しだけ角度を変えた新垣さんに挟むようにして下唇を食べられる。
感触を確かめるような動きが気持良くて、思わず顎を上向けて押し付けるようにしたら、えりなの下唇に小さく吸い付いて新垣さんはあっさりと離れて行ってしまう。
―――いやだ。
えりなの頭の片隅で、誰かが叫んだ。
まだ、離れたくない。
気持良い感触を、新垣さんの唇を、もっともっと深く感じたかった。
唇じゃなくて、もっと。
瞼を押し上げる。
視界に入った熱に浮かされたような大好きな人の瞳の色に、その欲求が強くなる。
掴んだ裾を引っ張った。
「もっと、ちゃんとしたの、してください」
こうやって新垣さんとキスをするのは初めての事じゃない。
恋人同士が軽く触れ合うキスの先にどんな行為をするのか、さすがにえりなだって分かってるに。
だけど、思わず飛び出した言葉に、いつだって新垣さんは少しだけ目を逸らして困ったように笑うだけで、唇を触れ合わせる以上に深いキスを決して許してはくれなかった。
- 332 名前:ボーダーライン 投稿日:2012/03/29(木) 01:43
-
「もうちょっと大人になったらね」
そうしていつも、宥めるようにそう言うのだ。
もう何度となく聞いた言葉にハッとして、寂しさと居た堪れなさに心が攫われる。
しょんぼりと視線を下げたら、新垣さんが繋がった手を慰めるみたいに小さく揺らした。
「約束したでしょ。高校生になるまでは待ちなさいって」
落ち着いた大人の声だった。
えりなとは違う、大人の言葉だった。
中学を卒業したら。
高校生になるまでは。
その約束は、新垣さんと何度目かのキスの後、初めて同じように強請った時に新垣さんが言い出した事で、“高校生”というのが、新垣さんの中のボーダーラインらしかった。
けれど、えりなはそう線引きをされる度に寂しくて苦しくて切なくなる。
まるで子供扱いされているようで納得できない。
だって、たった1、2年の事だ。一体何が違うと言うのだろう。
今だって1、2年後だって、えりなはえりななのに。
- 333 名前:ボーダーライン 投稿日:2012/03/29(木) 01:43
-
俯いたまま唇を尖らせたら、肩先に擦り寄られる感触がして、心と身体がびくりと跳ねる。
そろりと新垣さんの方を向いたら、えりなの肩に乗っかる前髪と鼻の頭が見えた。
えりなの膝の上で揺れていた繋がった手が、新垣さんの膝へそっと引き寄せられる。
「拗ねないの、……ばか」
至近距離で聞く新垣さんの声に唇をぎゅっと結んで、引かれた手に力をこめた。
「……すきだよ、いくた」
零れ落ちたように呟かれた言葉が心地よく鼓膜を刺激する。
新垣さんは自分の言葉がえりなにとってどれだけ大切で影響を及ぼしているのか分かっているのだろうか。
そのたった一言が、拗ねた原因もくすぶる感情も、えりなの全てを苦しくて泣きたくなるくらいに甘いそれに塗り替えてしまうという事を。
- 334 名前:ボーダーライン 投稿日:2012/03/29(木) 01:43
-
心臓の奥をきゅっと掴まれたみたいな息苦しさに結んだ唇を解いて、小さく息を吐き出したけれど、鼓動も甘い息苦しさも一向に治まってはくれなかった。
堪らず新垣さんの小さな頭に額をすり寄せて、そういえば一人呼びつけられた理由をまだ聞いていなかった、と思い出したけれど、えりなの肌を溶かしてしまいそうな新垣さんの温度にえりなはすぐに考える事を放棄した。
おわり
- 335 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/29(木) 01:45
-
お疲れ気味の生田を見て生田を元気付けるガキさんと、大人のキスは高校生になってからという謎ルール設けるガキさんも書きたかったんですが何だかよく分からないものになりました。
お粗末さまでした。
>>319
ありがとうっす!
- 336 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/29(木) 13:31
- ガキさんといるときの生田がかわいい
- 337 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/31(土) 22:49
- 生田さんから見る新垣さんはこんな風に素敵な大人なんでしょうね。
イチャラブな生ガキ最高です。
- 338 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/26(土) 20:28
-
武道館行ってきました。
立派にステージに立つガキさんと愛佳を見届けられて良かったです。
卒コンとは全く関係のない愛ガキ早く結婚しろ話です。
- 339 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:29
-
久しぶりに太陽が出ている時間帯に帰り着いた我が家。とは言うものの、世間は夕食の時間帯。
お腹は盛んに栄養をくれと急かしてくるけれど、撮影やら稽古やらでへとへとになった身体では食事を作る事はもちろん買ってくる事すら億劫で、あたしは着替えもせずにリビングのソファへダイブした。
うつ伏せで頬をソファに押し付ける。革のひんやりとした感触が気持ちが良い。
最近新調したこのソファは里沙ちゃんと選んだ物だ。
オフが重なる度に家具屋さんを巡って、ああでもないこうでもないと相談しながら決めた。
その時の里沙ちゃんの真剣は表情は今思い出してもなんだか微笑ましくなる。
他人の部屋の家具一つに家主のあたしよりも真剣に悩んでいた彼女。
一度その事をからかったら、これまた真剣な目で「だって私も使うんだし」と言われて、胸の中がじんわりと暖かくなったのを覚えてる。
ソファに頬を擦り付けて細く息を吐き出す。
ソファが届いた時の嬉しそうな彼女の顔を思い出すと胸の奥がぎゅっとした。
- 340 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:29
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会いたい、会えない、会いたい。
もうどれくらいあの笑顔を見ていないんだろう。
最後に会ったのはいつだったか数えるのも嫌になる。両手の指じゃ確実に足りないはずだ。
お互い違う道に進むと決めた時点で、こうなる事は覚悟していたはずなのに、現実は想像以上に厳しかった。
声は電話で頻繁に聞くことができるけれど、もう、そんなのじゃ足りなかった。
ちゃんと会って、触って、抱きしめたい。
匂いと感触を確かめて、あの耳障りの良い甘えた声で名前を呼んでほしかった。
胸の奥がこれ以上ないくらいに切なく鳴って、目を閉じる。
次に会えるのはいつだったか疲れ切った頭で考えたけれど、スケジュールを確認するまでもなく当分先のことだと思い当たって、切なさは増す一方。
更に強くなる疲労感と空腹感に眠気が誘発されて、あたしは意識を手放した。
- 341 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:29
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とんとんとん、と小気味の良い音が鼓膜を打つ。
次いで聞こえた、くつくつくつ、と何かを煮込むような音と共に、すきっ腹を刺激するおいしそうな匂いが鼻先を掠めて、あたしはゆっくりと瞼を押し上げた。
視界に入ってきたキッチンの入り口から光が漏れている。
寝ぼけた頭で電気を点けっ放しにしてしまったかとぼんやりと思っていたら、ひょこりと、今一番会いたくて会えない人が姿を表して、あたしは目を丸くした。
「あ、起きた」
違えようない耳に馴染んだその声に、がばりと上半身を起こす。
すっぴんの幼い顔、緩く後ろで結っただけの素っ気ない髪型、何より柔らかく笑んだその表情に一気に思考が覚醒する。
- 342 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:30
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なんで、どうして、ここに彼女がいるの。
だって、今日も彼女は仕事はずだ。
数日前に会えないかと連絡した時には、時間が合わないからと寂しそうに言っていたのに!
突然の出来事に言葉が紡げずにいると、あたしをそうした当の本人はおかしげに片方の眉をひょいと上げて、エプロンを外しながらこちらへ歩いてきた。
そのエプロンを外した姿に、あたしは更に目を見開いた。
ゆったりした部屋着を押し上げるように、ゆるやかな曲線を描く彼女の腹部。
ぽこりと突き出たお腹の形には見覚えがあった。
少し前に事務所で偶然会った美貴ちゃんのお腹と同じだ。
今は可愛い赤ちゃんを産んで、美貴ちゃんのお腹は妊娠する前と変わらないぺったんこになっているけれど。
目の前に立っている里沙ちゃんのお腹は、妊娠した美貴ちゃんのそれと同じ形をしていた。
この間会った時はこんな風にはなってなかった。
里沙ちゃんのお腹はいつも通りちょっと硬くてぺったんこだった。
直接見て触って確かめたのだから間違いない。
でも、それじゃあ、このお腹はいったいどういうことなの。
- 343 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:30
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ぐるんぐるんと頭の中で色んなどうしてが回っていくけれど、答えは一向に出てこない。
里沙ちゃんの大きくなったお腹を凝視して絶句していたら、上から「どーしたのよ」と不思議そうな声が降ってきた。
恐る恐る視線を上げて、こくりと小さく唾を飲み込んだ。
「や、やって、里沙ちゃんお腹が……」
「うん?」
「え、ど、…どーしたん?」
みっともなく震えてしまった声に、里沙ちゃんはまるで今更何を言っているんだと言うような顔をして小首を傾げた。
そうして、彼女は大きくなった自分のお腹を、優しく優しく小さな手のひらで撫でて―――。
事務所で会った美貴ちゃんの顔がフラッシュバックする。
嬉しそうに愛おしそうに自分のお腹を撫でる美貴ちゃんの姿。
その姿を見て、ああ、こんな風に女の子はお母さんになっていくんだ、とあたしは思ってた。
今、里沙ちゃんは、あの時の美貴ちゃんと同じ表情をしていた。
母になる、女性の顔だった。
里沙ちゃんは、妊娠している。
その細い身体に小さな命を宿している。
本能のような部分があたしに直接そう教えていて。
- 344 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:32
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ずくり、と腹の奥底からせり上がってくる感情に一瞬目の前が真っ暗になった。
鼓動が早まって、こめかみのあたりがずきずきと痛み出す。
腹の底でぐつぐつと滾っているのは、それは、間違いなく、怒り。
引き攣る喉を無理やり捻じ伏せて、あたしは掠れた声を張り上げた。
「っ、誰の子なん!」
里沙ちゃんの肩が驚いたようにびくり震える。
訝しげに寄せられた眉に、だけれど、そんな事に気遣っている余裕なんてなかった。
だって、彼女が妊娠している以上、その相手の男性がいるということだ。
あたしが言うのもおかしいけど、里沙ちゃんはすごくガードが固い。
そういう事に対して人見知りな部分もあるし、何より真面目だ。
付き合っている人間がいるのに、遊びで他の誰かとそういう事になるなんて考えられない。
だから、彼女が妊娠していると言う事は、遊びじゃない人がいるということだ。
そう、―――あたし、以外に。
- 345 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:33
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その事実に頭に上った血がすうっと引いて、代わりに吐き気にも似た重苦しい悲しみが胸の中を占めていく。
すきっ腹で吐き出す物なんて何もないのに、嘔吐きそうになって口元を片手で押さえた。
泣きたくなんてないのに勝手に涙が溢れてくる。
揺れ始めた視界。情けない顔を見られたくなくて俯いた。
ぐるぐるとお腹の辺りを這いずり回る黒い感情に、何に悲しんでいるのか、どこに怒りを覚えたのか、分からなくなる。
彼女に裏切られた事?あたしじゃない誰かを愛した事?あたしのモノではなくなってしまった事?
あたしではあげられなかったモノを誰かが彼女に与えた事?彼女が、母になる事?
分からない。
ただ、里沙ちゃんがあたしじゃない誰かとの命を愛しげに育んでいるという事実に、押し潰されそうだった。
本格的に涙が零れそうで両手で顔を覆う。
この状況で彼女に泣き顔なんて死んでも見せたくなかった。
- 346 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:33
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暫く腹の底を這う感情をぐっと抑えるように俯いていたら、頭の上から溜め息が聞こえた。
出会ってからこれまで何度聞いたか分からないその音と共に、頭の天辺を優しく撫でられる感触。
髪の毛を梳いて流すようなその動きは、里沙ちゃんの癖だ。
「愛ちゃんこそどーしたのよ」
なでなで、なでなで。
優しく動く手のひらの感触と苦笑気味な優しい声音に心と一緒に涙腺まで刺激される。
目を閉じてなんとか堪えていた涙が零れそうになって唇をを噛みしめた。
どうしてそんな声であたしの名前を呼ぶの。
あたしじゃない誰かを、愛したくせに。
「誰の子って、愛ちゃん以外いないでしょーが」
そう、あたし以外……あたし?
聞き捨てならない一言に、俯いていた顔を勢いよく上げた。
その拍子にぽろりと一粒涙が転がり落ちたけれど、そんな事には構っていられない。
今、彼女は、なんて言った?
- 347 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:34
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「あ、あんた何言うてんのっ」
「それはこっちの台詞だし。愛ちゃんこそさっきから何言ってんのさ」
拗ねたみたいな声音で、そのくせ優しい顔して、里沙ちゃんはあたしの頬に伝った涙を人差し指の背でそっと拭った。
「や、やって!あたしら女だし!」
「はあ…?ホントどーしたのさ。
こないだまでは赤ちゃんにも身体にも良くないから、早く仕事休め休めってうるさかったのに」
こっちが恥ずかしくなるような顔してお腹に話しかけてたのはどこの誰よ、続いた言葉に呆然とする。
あたしが彼女の妊娠を知ったのはたった今だ。
仕事を休めなんて、ましてやお腹に話しかけた事なんて一度だってない。
それに、お腹の子はあたしの子だってどういう意味なのだろう。
あたしも彼女も女だ。そんな事、あるわけがないのに。
なのに。
なのに、里沙ちゃんの目や口調は嘘を言っているそれではなくて。
- 348 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:34
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ただ彼女を見つめる事しかできないあたしを、口元に笑みを湛えた彼女は優しく見下ろしてくる。
涙を拭った指先がそっと頬を滑る感触がして、すぐに暖かな手のひらの熱があたしの頬全体を覆った。
そうして、眉の上あたりにそうっと落ちてきた彼女の唇の久しぶりの柔らかな感触が、戸惑いで固まったあたしの心をじんわりと溶かし始める。
あたしの頬に手のひらを添えたまま少しだけ顔を離した里沙ちゃんは、ねえ、と笑みを含んだ声で囁いた。
「今日はしないの?」
「…え?」
「お腹。いつもは帰ったら真っ先に触るじゃん」
楽しげに笑った彼女の顔と手のひらがそっと離れていく。
胸の奥が締め付けられるような顔をして笑う彼女から視線を下げて、大きくなったお腹を見つめた。
恐る恐る手を伸ばす。
逸る鼓動がまるで耳元で脈打っているかのように、どきどきと大きな音を立てた。
- 349 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:34
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指先が、触れる。
壊さないようにそっとそっと手のひら全体を乗せた。
張りのある感触とじわりと染み込むような柔らかな熱。
今まで感じた事のないような感動に包まれて、手が、震えた。
胸の奥底からじわりじわりと全身へ染み込んでいくようなこの感情は何なのだろう。
悲しくもないのに鼻の奥がツンとして、暖かな感情が零れそうなのに胸が締め付けられる。
泣きたくなるくらいの感動に息を潜めてその感触をじっと感じていたら、静かな笑い声と共に頭をまた撫でられた。
「今日は大人しいんだね。いつもは煩いくらいに話しかけるのに」
ふふふ、と優しい笑い声に顔を上げると、声以上に優しい視線とかち合った。
その瞳にまた泣きそうになる。
里沙ちゃんの笑顔なんてそれこそ飽きる程に見てきたけれど、今、目の前に立つ彼女のその笑顔はいつも見ているそれとは少しだけ違っていた。
全てを包み込んでしまいそうな優しくて暖かくて、強い笑みは、いつか会った美貴ちゃんのそれと重なる。
何かを守ろうとする人の、お母さんになる人の笑顔だった。
- 350 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:34
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彼女の手のひらの感触とその瞳の色に視線を外せずにいたら、とん、と手のひらを頼りなく押すような衝撃を感じた。
思わず手のひらを当てた里沙ちゃんのお腹に視線を移すと、また頭の上から笑い声が響く。
「今蹴ったね」
「蹴った?」
「ふふ、愛ちゃんが触るといっつも蹴るよね、この子」
やっぱりさ、と里沙ちゃんの声が続く。
優しい優しい声があたしの鼓膜を震わせる。
「やっぱり、ママが触ってるのは分かるんだね」
寸前のところで堪えていた涙が零れ落ちた。
一度崩壊した涙腺はもう元には戻らない。堰を切ったように後から後から溢れ出る。
苦しいくらいに胸を締め付ける感情を彼女に伝えたいのに、喉の奥が引き攣って言葉が出ない。
喘ぐようにしてやっと出した声は、みっともなく震えて嗚咽になった。
- 351 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:35
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カラリとした笑い声と共に頬を撫でられる。
涙を拭うようなその仕草に、だけど涙は一向に止まってはくれなくて、呆れたような声があたしの名前を呼んで「泣き虫」とからかった。
お腹へ当てていた手のひらを彼女の腰の裏側へ回して、お腹に頬をくっつけて、力を入れないように注意しながら緩く抱きしめた。
再び頭へ戻ってきた彼女の手のひらが、労わるようにあたしの髪の毛をかき回す感触が胸を焦がす。
大きくなったお腹に頬ずりをして、そっと耳を押し付けると、とくりとくりと小さな鼓動が聞こえたような気がした。
自分の鼓動なのか、里沙ちゃんの鼓動なのか、それとも本当に彼女のお腹の中で眠っている小さな命の音なのか、あたしには判別できなかったけれど、ひっそりと呼吸を繰り返すようなその音に、締め付けられていた胸の痛みが甘く解けて溶けていくような感覚に陥った。
- 352 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:35
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「なんかさ、早く愛ちゃんに会いたいって言ってるみたいじゃない?」
彼女に触れた部分から直接伝わるその声と小さな鼓動に耳を傾けながら、あたしはゆっくりと瞳を閉じて、感じた事のない幸福感に身を委ねた。
***
- 353 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:35
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「愛ちゃん」
ぽんぽんと肩を叩かれて、閉じていた瞳を開けた。なんだか頭がぼんやりする。
さっきまで里沙ちゃんに抱きついていたはずなのに頬に感じるのは革の冷たさで、はて、と思いながら身体を起こすと、ソファの傍らに里沙ちゃんの姿があった。
けれど、その顔は幼いすっぴん顔じゃなくて、今にもお仕事できそうなくらいのばっちりメイクで、髪型も綺麗なお団子になっている。
服装も、さっきまで着ていた部屋着から、つい今しがた仕事から帰ってきたようなそれになっていて。
そうして。
「あれ…?」
そうして、ぽこりと大きくなっていたお腹が、見慣れたぺったんこに戻っていた。
「え、里沙ちゃん、なんで…」
「仕事が思ったより早く終わってさ。来ちゃった」
へへへ、と悪戯っぽく笑った彼女は、メールしたんだけど見てなさそうだね、と少しだけ呆れたように続けた。
あたしの“なんで”は彼女のお腹の変化に対しての事だったのだけれど、どうも上手く伝わらなかったらしい。と言うよりも。
- 354 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:36
-
今、目の前で起こった事をぐるりと思い出す。
優しいお母さんの笑顔で大きくなったお腹を撫でていた里沙ちゃんの姿。
あたしの頬を撫でて「泣き虫」と笑った彼女の顔。
両の手のひらを胸の前に広げる。
張りのあるお腹の感触が手のひらには確かに残っていて、その熱も胸の奥を焦がした感情もすぐに思い出せるのに、目の前に立つ彼女は数日前に会った時と何も変わってはいなかった。
不思議そうに小首を傾げる里沙ちゃんのぺったんこなお腹と、手のひらを交互に見やって、ああ、そうか、とさっきまでの出来事が夢である事を悟った。
それにしても、いやにリアルな夢だった。
感触も声も表情も、本当に彼女が妊娠したみたいで。
本当に、……あたしたちの子供をお腹に宿したみたいで。
- 355 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:36
-
そうしたら、胸が締め付けられるくらいの幸福感が蘇ってきて、涙が一つ零れ落ちた。
慌てて拭おうとしたら、それよりも早く里沙ちゃんの手のひらが頬を滑る。
夢の中で彼女がそうしてくれたように、そっと人差し指の背で目元を拭われた。
顔を上げるとあたしを見つめる優しい笑顔。
夢の中で見た包み込むような母親のそれとは違うけれど、それは、優しくて子供っぽいあたしが好きな里沙ちゃんの笑顔だった。
「泣き虫め」
夢の中の彼女の声と重なる。
視界が歪んで、里沙ちゃんの笑顔がぐにゃりと崩れた。
広げていた手のひらを彼女の腰の裏へ回して引き寄せた。
腕に馴染んだ華奢な感触を、今度は少しの遠慮もせずに強く強く抱きしめる。
女の子らしからぬ短い叫び声を上げた彼女は、けれど、少しの抵抗もせずにあたしに引き寄せられてくれる。
- 356 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:36
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そんな彼女が愛しくてたまらなかった。
この華奢な身体を守りたいと思った。
この熱を手放したくないと思った。
あの時、あの夢の中で、小さな鼓動を聞いた瞬間、彼女の事も、もしかしたら本当に生まれてくるかもしれない子供の事も。
「…ぅう、ぜったい幸せにしたるからなぁっ」
「……意味分かんないんですけど」
誰よりも幸せにしたいと、あたしは思った。
情けなく震えた決意表明に、返ってきたのは、当たり前だけれど小さな笑い声と呆れたような言葉。
だけど、それでも良かった。
この決意は、あの夢の中で感じた幸福感と責任感は、あたしだけが知っていればいい事だったから。
- 357 名前:守りたいモノ 投稿日:2012/05/26(土) 20:36
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もう大きくはない彼女のお腹に頬ずりすると、頭の上にふわりと降ってきた手のひらの感触。
いつものあの撫で方で、するりと髪の毛を梳かれる。
「私は、……もうずっと前から幸せだよ」
ぽつりと落ちてきた言葉に、あたしは腕の力をそっと強めた。
おわり
- 358 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/26(土) 20:38
-
愛ガキ早く結婚しろ!
お粗末様でした。
>>336
>>337
生ガキも大好物なのでそう言って頂けるとすごくうれしいっす。
- 359 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 08:46
- 何度読んでも綺麗な文章で惚れ惚れします。
愛ガキ早く結婚しろ!
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