あたらしい朝
- 1 名前:もりずん 投稿日:2011/06/15(水) 19:33
- 愛ガキでいきたいと思います
- 2 名前:もりずん 投稿日:2011/06/15(水) 19:38
- 「こんな風になってごめんなさい」
「忘れられない人がいます」
「いい恋してください」
っっ.......
----頭いた.....
最悪だ。
本当に最悪だ。
そもそもなんて卑怯なんだろう、メールだけで済ますなんて。
早起きのあたしが見たメールは、いつもの爽やかな朝を一変させるには容易い内容だった。
- 3 名前:もりずん 投稿日:2011/06/15(水) 19:40
- 何が起きようとも、朝がきて、いつもの毎日が始まる。
ママには気づかれないように頑張ったけれど、朝ごはんが喉を通らなくて変に心配させてしまった。
せめて仕事に行くまでにはなんとかしなければと思う。
気持ちはダメでも、せめて表情だけは。
- 4 名前:もりずん 投稿日:2011/06/15(水) 19:48
- 『おはよー ガキさん』
「あ、おはよー」
いつも通りの風景。
楽屋ではいつも通りに過ごしていたつもりだった。
座る場所。メイクをしながらかける音楽。メンバーとの距離。
ホントに我ながら完璧と思えるほどに演じきったように思う。
またいつものようにブログを作ろうと携帯に眼をやると、メール受信を知らせるランプ。
送り主は高橋愛。
同じ場所にいるのにも関わらず、わざわざ送るには何か意味があるのだろう。
自分に今朝降りかかった災難を見抜かれたのかと不安になる。
――――仕事終わったらご飯いこ
内容は意外にも軽いものだった。
直接言えばいいのに。
でも長い付き合いだ。
それすらに意味がある気がして、そんな思いは口にせずにいた。
- 5 名前:もりずん 投稿日:2011/06/15(水) 21:44
- 久しぶりに二人でいくプライベートな食事。
思っていたような話が愛ちゃんから出てこなくて、なんとなくほっとする。
きっとたまたま重なっただけ。
なんとなくメールで来ただけ。そう思っていた。
・・・と思っていたのだけれど。
『あのさ、ガキさん。あーしに言いたいことない?』
「...え?」
『だって今日のガキさんなんか変やもん』
「いやぁ....」
そう言って口ごもる。
言いたくないわけじゃない。隠そうとしているわけじゃない。
でもいきなりのことすぎて、まだまだ口に出せるほど消化しきれていない。
かと言って泣き出すほど我慢できないわけでもなく。
『...言いたくないなら言わんでもえーけど。でも無理せんでや?』
「ん....ありがと」
- 6 名前:もりずん 投稿日:2011/06/15(水) 21:50
- 無理に聞き出さないことが優しさの一つでもあって。
心の整理がつけばいつかは愛ちゃんにも話せるときが来ると思う。
そしてそれを愛ちゃんも待つ。
そんなことは長い付き合いの仲で、当たり前になっている事象の一つでもあった。
もちろん立場が逆の場合でも。
- 7 名前:もりずん 投稿日:2011/06/15(水) 22:02
-
- 8 名前:もりずん 投稿日:2011/06/15(水) 22:18
- あの朝から数週間経ったろうか。
なんとなく自分の中でも消化し始めたことを自覚する。
と同時に、心配をかけた愛ちゃんに話してみようかと思い始めた。
言葉に出来ないほど辛いわけでは無いけれど、一人で抱え込むには重過ぎる。互いに許しあっている愛ちゃんならば、何でも話せるし自分の気持ちも軽くしたい、そんな甘えた気持ちもどこかあった。
「愛ちゃん....?」
『ん、ガキさんなんやー?』
「あたしね、あたし、振られたんだ....」
強がりな性格のあたし、泣かないと決めて口に出したはいいが、やっぱりどこか辛くて顔が歪む。
愛ちゃんはきわめて冷静に、あたしの手をとると言葉を出すわけでなく、首を傾けた。
どこか悲しげな眼をしながら、でも微笑みながら。
まるで話してごらん?
- 9 名前:もりずん 投稿日:2011/06/15(水) 22:22
- そう言われてるような気がして、自分でも驚くほどするすると言葉が出てくる。
あの朝起こったこと。
なんとなくその終焉が近づいてきていることに気づきつつも、気づかないフリをしていたこと。
- 10 名前:もりずん 投稿日:2011/06/15(水) 22:28
- その間、愛ちゃんは何も言わなかった。
時々言葉に詰まりながらもゆっくりと話し終えると、ギュッと抱きしめてきて。
まるでお母さんみたいだなぁ、と思いながら、その体温に無性に安心している自分がいた。
『大丈夫』
「え?」
『大丈夫やから』
「そうだね....大丈夫だよね」
振られてしまった事実の何に対しての大丈夫なのかは分からなかったけれど、強く、しなやかな愛ちゃんの言葉に妙に納得させられた自分がいた。
- 11 名前:名無し 投稿日:2011/06/16(木) 10:31
- おお、おもしろくなりそう!
期待してます
- 12 名前:もりずん 投稿日:2011/06/16(木) 21:24
- 俗に男性の恋愛はフォルダが増えていくし、女性はフォルダの上書きをする。
そう言われている。
ということは、あたしがあの朝から引きづるこのモヤモヤは、新しい恋が訪れないと消えないわけで。
でも簡単に次へすすめるほど簡単な想いでなかったのも事実だった。
「ねぇ、愛ちゃん。あたし、新しい恋できるかなぁ?」
『んー まだ1ヶ月くらいやろ?焦らんでえーやん。待ってればえーやん』
「んーでもさぁ.........」
新しい恋でもしなくちゃ、やってられない。
仕事に誇りを持ってたし、打ち込むことがあるにも関わらず、なんだか焦燥感が消えなくて。
恋を恋で上重ねするなんて我ながら安易だなぁとも思ったけれど、このモヤモヤを消したい思いは強くなる一方だ。
馬鹿ばかしいんだけれど。
- 13 名前:もりずん 投稿日:2011/06/16(木) 21:31
- 「ねぇ愛ちゃんはさ、どうしてたの?こういうときは」
『こういうとき?』
「その、失恋したときってことよ」
『はは、あーしなんかずーっと片思いやよ?だからさ、どーもこーもないんやよ』
意外だった。
そういえば私が照れくさくてあんまり恋愛話ってしたことなかったなぁとは思っていたけれど、
まさか愛ちゃんが今片思いだなんて。
前回の恋はいつだったんだろうか。
仕事のときにはプライベートのことは一切構わない愛ちゃんだから、まさか楽屋なんかで
恋のことや、ましてや片思いのことなんて話すことなんてなかった。
というよりは、私がきっといっぱいいっぱいで気づかなかったのかも知れない。
そういう点では愛ちゃんのほうがよっぽど大人だ。
- 14 名前:もりずん 投稿日:2011/06/16(木) 21:40
- いざ片思いと言われれば気になるもので。
「愛ちゃんの好きな人はどんな人なの?」
すかさず聞いてみる。
『なんやー えらく直球やのー』
「あ、嫌ならいいんだけど」
『んー 頑張り屋さん。あーしを助けてくれる人。あーしが助けたい人』
「最後のは願望じゃん」
『はは、そーやのー』
「あとはあとは?」
『あとは、んー 鈍感』
「鈍感?それよくないじゃーんww」
『周りのことはよく分かってるくせに、自分のことは鈍感。ま、そんなとこも含めてあーしはその人のことが好きなんやよ』
「そーかー 素敵だね、叶うといいね、あたし応援してるから」
心からそう思った。
- 15 名前:もりずん 投稿日:2011/06/16(木) 21:43
- 相変わらず鈍感や。
鈍感すぎて笑えるくらいだ。
ガキさんが失恋したらしいのは約1ヶ月ほど前。
顔も口もとも笑ってるけれど、眼がいつもと違う。
なんかあったに違いないと思ったけれど、強がりなガキさんが素直に話すとは到底思えず。
ましてや後輩たちがいる楽屋なんて尚更だ。
だから気になって食事に誘った。
- 16 名前:もりずん 投稿日:2011/06/16(木) 21:47
- ガキさんの気持ちを落ち込ませていたのは「失恋」だった。
あーしはガキさんの恋を応援していたし、恋をしているときのキラキラした
表情が大好きだったから、ガキさんの失恋はあーしにとっても一大事。
でも。
でも。
以前ならば大事な友人の失恋を一緒に悲しんでいたのに、ちょっと違う気持ちを抱く自分に気づく。
- 17 名前:もりずん 投稿日:2011/06/17(金) 21:40
- 女同士って難しいもので、仲よしの子の恋は応援できても、彼氏が出来るとちょっと置いてけぼりに
なって気持ちがするものだ。
だからなのか、あーしはガキさんの失恋をどこかほっとした気持ちで
見ているところがあった。
また戻ってきた、あーしのところに。
そんな気持ちがじわじわと心の中で広がり始め、そんな自分を必死で
否定する。
ガキさんの失恋を喜ぶ自分と、それを否定する自分、
そしてそんな自分自身をおかしいと見ているさらに別の自分がいて、
アンバランスな気持ちだった。
- 18 名前:もりずん 投稿日:2011/06/17(金) 21:45
- もしかしたらこの気持ちは恋愛感情の一端なのかも知れない。
新垣里沙という大切な人への。
今まで必死でかき消していた、抱いてはいけない感情がふつふつと形を現してきているように
思えた。
見て見ぬフリをすることの限界がいま、そこに来ているのかもしれない。
- 19 名前:もりずん 投稿日:2011/06/17(金) 21:58
- 目の前には愛する人がいて。
その人を見ながらその「愛情」が友情なのか家族愛なのか、はては恋愛感情なのか。
ずーっとずーっと格闘していた答えがその日でた気がした。
- 20 名前:もりずん 投稿日:2011/06/17(金) 22:01
-
- 21 名前:もりずん 投稿日:2011/06/17(金) 22:06
- 失恋を語るその表情。
どこか凛々しい眼。間違いなくあーしを信用してくれているところ。
言葉使い、声色。
それにこの間抱きしめたときの体温を思い返すと、今自分が抱く、いや、いままで抱いていて気づかないフリをしていた
この感情をこの愛しい人にいつか伝えたい、そう思った。
もし、この人を手に入れたい、そう願うならば今は言ってはいけない。
失恋したばかりの人に付け込むような感じがして、卑怯な気がするのだ。
でもつい口にだす。
「あーしなんてずっと片思いやよ」って。
- 22 名前:もりずん 投稿日:2011/06/17(金) 22:07
- そして愛しく思う人を、その人本人に語ってしまう。
と同時に、いつかきちんと伝えようと心に誓った。
- 23 名前:もりずん 投稿日:2011/06/18(土) 00:19
-
- 24 名前:もりずん 投稿日:2011/06/18(土) 00:24
- 私の失恋からまだ間もないけれど、愛ちゃんに話すと少し気持ちが
落ち着いた気がした。
それと同時に発覚した愛ちゃんの「片思い」
その人を語る愛ちゃんの表情が、声のトーンが、とっても優しくて。
じんわりとその人への想いが伝わってくる。
「素敵だね」
思わずそう口に出す私。
愛ちゃんは惚気るわけでもなく、すごく落ち着いた目をしていた。
- 25 名前:もりずん 投稿日:2011/06/18(土) 00:25
-
- 26 名前:もりずん 投稿日:2011/06/18(土) 00:29
- あれからどれくらいの期間が経ったっけ。
もうあの人の声も顔もうろ覚えな自分に、そんなもんだったんのかと呆れてしまう。
仕事が楽しいし、素敵な仲間がたくさんいるし、いまさら振り返ることもない。
そんな風に思っていたのだけど。
〜♪〜♪〜♪
「........................」
なに?このアドレス。
- 27 名前:もりずん 投稿日:2011/06/18(土) 00:32
- 私はあまり親しくなる前に連絡先を教えることは無いし、教えてもらった連絡先を登録し忘れることもない。
でもメールが届く。
誰と表示されることもなく。ということは、以前登録しておきながら削除してしまったんだろうか。
――元気ですか?
..............あいつだ。
あたしを振ったあいつだと、直感的に思い、妙に腹が立ってくる。
- 28 名前:もりずん 投稿日:2011/06/18(土) 00:40
- 「愛ちゃん、あいちゃん!!!ちょっと聴いてよー」
『なん、でっかい声だして』
「あのさ!!!................やっぱ何でもない」
『はぁ?!なんよー??』
いまさらな気がした。
確かに腹は立つけれど、今更話すことでもないし、大きな声で「ちょっと聴いてよー」
と叫んだら、今度は急にどうでも良くなってきた。
そのことをそのまんま伝えると
『ほかほか。じゃーガキさん、もー次いけるんじゃないかー?』
そう言われて。
「え?」
『だから、嫌なこともどうでもよくなったやろ?じゃー次へすすめるやよー』
愛ちゃんはそう言うとにっこり笑ってた。
- 29 名前:もりずん 投稿日:2011/06/18(土) 07:23
- 「次か.....」
『そう、次やよー』
愛ちゃんが言わんとする「次」の意味を理解し、
そこまで消化過去になりつつあることに、ちょっとホッとしている自分。
まだまだ誰かを思う気持ちはないけれど、それでも一歩進めた気がした。
- 30 名前:もりずん 投稿日:2011/06/18(土) 07:23
-
- 31 名前:もりずん 投稿日:2011/06/18(土) 07:29
- そろそろ伝えるべきときが近づいてきているらしい。
ガキさんに元恋人から突然のメールが来たらしく、「ちょっと聞いてよー!」
と大騒ぎした割に、あまり落ち込んだ様子はなかった。
もちろん不快な表情ではあったけれど。
あーしのこのガキさんへの思いは、きっとそこらの恋愛感情だけでは
済まされないんだと思う。
同期と友人と家族と恋人。
それらの感情が複雑に絡まっているのだ。
だからこそ、どれか一つにひびが入ると、その関係は全てバランスを崩してしまう気がする。
でも。それでも。
伝えたくて仕方なかった。
新垣里沙という大切な人を、見ているだけでなく、この手で抱きしめたいと思った。
- 32 名前:もりずん 投稿日:2011/06/18(土) 07:33
- ある仕事の日、楽屋が別々だったからガキさんには
メールで残ってほしい旨を伝える。
もちろんビジネスライクに。きわめて冷静に。
「おつかれさまでしたー」
「おつかれー」
「愛ちゃん お先でーす」
他のメンバーは次々に引き上げていく。
皆が帰ったことを確認し、ガキさんのいるだろう隣の楽屋を
ノックした。
- 33 名前:もりずん 投稿日:2011/06/18(土) 22:40
- 『お疲れー』
楽屋に入ると、帰り仕度を終えたガキさんが座っている。
「なにーなんか あった?」
今更戻ることも出来ないし、まっすぐに眼をみていう。
『ガキさん、あんな、あーし........』
「なんか悩みでもあるの?」
優しい眼に一瞬ドキっとして、どもりそうになるのを必死でこらえながら。
『単刀直入にいう。あーしはガキさんの事が好きやよ....』
「。。。。。。。。ふぇっ???」
『友達とかじゃなくて、恋愛感情で好き。いや、愛してるのかも』
「。。。。。」
『急にごめん。でももうすぐあーしも卒業やろ?だから、はっきりさせたかったやよ』
「えと....ちょっと何がなんだかわからないんだけど
その、愛ちゃんが私を好きで...えと.....」
『ガキさんと付き合えたらいいなと思ってる。でも返事は今じゃなくていいから。待ってる』
「わかった........」
- 34 名前:もりずん 投稿日:2011/06/19(日) 18:00
- 言ってしまった。
ついに。今まで黙っていた気持ちを。
気づかないフリしていた時もある。自分の正直な気持ちを自覚してしまったら、二人の関係が壊れてしまう気がしたんだ。
別の人に恋をしているガキさんの、その想い人に嫉妬してしまうのが怖かった。
だからこそ押し殺していた気持ち。
でも、ついに。ついに伝えてしまった。
多分狼狽しているだろう、がきさんは。
これまで単なる同期や友人として接していたあーしが
恋をしているなんて突然知ったんだから。
正直いうとどんな反応が返ってくるか分からない。
もしかしたら拒絶されるかも知れない。仕事に支障をきたすかも知れない。
それでも伝えないと、自分自身がおかしくなってしまいそうだった。
- 35 名前:もりずん 投稿日:2011/06/19(日) 18:02
- そうは言っても、もうやることはやった。
あとはガキさんの思いを待つだけだ。
どんな答えが来ようとも、あーしは逃げたりしない。
決して。
- 36 名前:もりずん 投稿日:2011/06/19(日) 18:02
-
- 37 名前:もりずん 投稿日:2011/06/19(日) 18:12
- 〜♪〜♪〜♪〜♪
携帯に表示されるは新垣里沙。
『はい』
「愛ちゃん....あのさ」
『この間はごめん、突然でびっくりしたやろ?』
「うん....でさ。私の今の正直な気持ちを伝えます」
『うん』
「えと。私にとって愛ちゃんは大切なひと。うん。ホント大切。
言わなくても私のこと分かってくれるし、愛ちゃんのことも私も
分かるし。一緒にいてとっても楽だし。でもね?」
『でも?』
「うん。壊れないか、怖い。今まで大切にしてきたものが、もしかしたら変わっちゃうんじゃないかって、思うの。
愛ちゃん、私とずっといたら、私の嫌なとこいっぱい見ちゃうよ?イライラしちゃうかも知れないよ?」
『なに言うやー もう何年も一緒やん。ガキさんのいろんなとこ沢山見てきたやよ。それでもガキさんのこと大好きなんやよ
』『いや、それも含めて愛してる』
「あいちゃん....」
『ガキさん 今どこにおるん?』
- 38 名前:もりずん 投稿日:2011/06/19(日) 19:39
- 今直接会ってもう一度言いたい。
貴女を愛してると。傍にいてほしいと。
今言わないと後悔する気がして、あーしはタクシーに乗り込んだ。
- 39 名前:もりずん 投稿日:2011/06/19(日) 19:46
- ガキさんは自宅にいて、幸いにも家族はみな出かけていなかった。
インターフォンを鳴らすと、愛しい人が扉を開けてくれた。
あーしは姿が見えただけで堪らなくなって、ガキさんを抱きしめた。
力強く。そしてもう一度言葉にする。
『ガキさん、愛してる。同期とか友達とか、そんなんじゃなくて。
あーし、ガキさんが隣にいてくれんとダメかも。卒業してもそばにいて?
いつでも抱きしめられるところにおって?』
「あいちゃ.....
あたし。あたし....恋かはわからない。でも愛ちゃんの傍で支えになりたい。
そんなんでもいいの?」
腕の中のガキさんが振るえながら言う。
あーしはもう一度愛してるとささやいて、ガキさんの昔から変わらないおでこに
キスをした。
- 40 名前:もりずん 投稿日:2011/06/19(日) 19:49
- 唇に愛しい人の温度を感じて、胸の奥がきゅっとなる。
ガキさんの表情は見えなかったけど、耳が真っ赤。
あーし嬉しくなると同時に、絶対にこの人を悲しませたりしない、いつだって
笑顔でいさせるんだと強く思った。
おわり
- 41 名前:もりずん 投稿日:2011/06/20(月) 22:53
-
初心者なもので、困難極めました。
修行します
- 42 名前:もりずん 投稿日:2011/06/21(火) 21:46
- 新作 更新
- 43 名前:ためいき 投稿日:2011/06/21(火) 21:50
- 失恋した私の傷が癒えるのをそっと、じっと待っていてくれた愛ちゃんは
私は強いなぁと感じていた。
それに比べ、私は卑怯だったのかも知れない。
傷は癒えても寂しさは癒えず、それを埋めたくて愛ちゃんの告白を受け入れたのではないだろうか。
自分で自分に問う。
「傍で支えになりたい」
そんな言葉は言い訳であって、本当は寂しいから愛ちゃんに甘えているんじゃないか。
そんなネガティブな思いに囚われていた。
- 44 名前:ためいき 投稿日:2011/06/21(火) 21:52
- 「ふぅー.............」
思わず出たためいきに、自分でも嫌になっていた。
とは言え、愛ちゃんは変わらぬ笑顔を私に向けていてくれて、それは純粋に嬉しかった。
- 45 名前:ためいき 投稿日:2011/06/21(火) 21:56
- 「愛ちゃん。。。。あたしといて楽しい?」
『なんやの、急にぃ。あーしはな、ガキさんといてすっごく幸せ』
「.......そんなストレートに言われたら照れるじゃんか////」
『あーしはな、ガキさんが寂しいと思ってたら傍にいたいんよ。悲しいと思ってたら助けたいんよ。楽しいと思ってたら一緒に笑いたいんよ。
別になんにもいらなくて、ガキさんが隣におってくれたらそれでいいんやよ』
- 46 名前:ためいき 投稿日:2011/06/21(火) 22:01
- なんで、なんで。
なんでこの人はこんなにもまっすぐなのか。
少し斜めから見てるように私に真っ直ぐな視線を向けてくれてるのか。
愛ちゃんが放つ強い思いにちょっとくらくらしそうだった。
いや、実際くらくらしているのかも知れない。
ただただ寂しいだけだったあたしの心に、じんわりじんわりゆっくりと
光を照らしてくれている。
最初は間違いなく負けていたその光。
しかし時間の経過と共に、その強さに負けないくらいに私自身の何かが
生まれ育っていることを自覚していた。
- 47 名前:ためいき 投稿日:2011/06/21(火) 22:04
- 「あー おまめ、元気ぃ???」
久々に会ったこんこんは、やっぱりいつだってこんこんだ。
「おまめさぁ、愛ちゃんと付き合ってるんだって?」
「うん。。。ちょっと前からね」
なんとなく照れくさくて、視線をそらす。
「愛ちゃんさぁ、なんだかすっごく嬉しそうだったけど、
寂しいって言ってた。ガキさんが甘えてくれって。そうなの?」
- 48 名前:ためいき 投稿日:2011/06/21(火) 22:07
- ・・・・・
確かにそうかも知れない。
寂しさを埋めるだけのために愛ちゃんの隣にいるようで、ちょっと
後ろめたかった。
でもそれは返って愛ちゃんの悲しませる結果になることは
当然であって。
自分で自分に聞きたくなった。
「本当に愛ちゃんがすきなの?」
- 49 名前:ためいき 投稿日:2011/06/23(木) 21:21
- 私が思案してるのを見透かすように、こんこんが言う。
「まめぇ...眉間に皺が寄ってるよ?あんまり考えこまなくていいよ」
ふわっとした微笑みに心が素直になっていく。
「まめ、愛ちゃんの隣にいるのつまんない?」
「ううん、全然。むしろ心地いい。でも......」
「でも?」
「なんて言うか、寂しいから傍にいてほしいって思いがあったから、
なんか後ろめたいっていうかさ」
自嘲気味に言うわたし。
「でも今もそうなの?さっき、愛ちゃんのこと聞いたときのおまめ、
なーんか可愛かったけどなぁ....なんとも思ってない人のことで
照れたりしないんじゃない?」
「。。。。。。。。」
「あのさ、まめ。愛ちゃんといてホッとするんでしょ?」
「うん、なんか安心する。守られてるみたいなさ」
「あのね、あたしは愛ちゃんと一緒にいて楽しいし、同期だし気兼ねないけどさ、
守られてるって感じはない。守られてるって、愛されてるし、自分も
それが心地いいから思うことなんじゃないかなぁ」
- 50 名前:ためいき 投稿日:2011/06/23(木) 21:22
- ...........
こんこんの言葉になんて返すか考えているうちに、また言葉がくる。
「まめの気持ち、ちゃんと愛ちゃんに伝えてあげなよ?」
- 51 名前:ためいき 投稿日:2011/06/23(木) 21:25
- 確かに伝えていなかった正直な気持ちは。
安心するし、ほっとするし。
あたしは愛ちゃんの隣が心地いい。
それに、それに。
あたしは愛ちゃんに何をしてあげられるだろうか?
そんな風にも思う自分がいて。
こんこんから聞いた、愛ちゃんの本当の気持ち。
きちんと自分の思いを伝えてあげなきゃ。
あたしはあなたと一緒にいたいんだよ?
- 52 名前:ためいき 投稿日:2011/06/23(木) 21:26
-
- 53 名前:ためいき 投稿日:2011/06/24(金) 00:22
- その次の日は夕方には仕事が終わるのが分かっていたから、帰りにご飯でも食べようと
愛ちゃんにメールをしておいた。
「愛ちゃん 終わったー??」
『うん、この書き物終わったら』
「じゃ、下のロビーで待ってるね」
- 54 名前:ためいき 投稿日:2011/06/24(金) 00:35
- 『お待たせー』
「いこっか」
まだまだ日が沈み切る前。
二人並んで駅に向う。
こうして二人で帰るのは今までもあったけれど、
人気が少ないのをいいことに、愛ちゃんの手をそっと握る。
こうして私のほうから握るのは珍しいから、愛ちゃんは案の定驚いたようで肩が一瞬
ビクつく。
『りさちゃん。。。。。???』
「なあに??」
『いや、りさちゃんからこうして手ぇつなぐるの珍しいなぁと思って』
「んー そんな気分なのかな」
『そんな気分??』
「そ、そんな気分」
分かったような、分からないような表情を浮かべて愛ちゃんは
きっと私の言葉を待っている。
「んとね、ちゃんと伝えてなかったよね?愛ちゃんに。私の気持ち」
『りさちゃんの気持ち.....?』
「愛ちゃんが私に告白してくれて、その時からちゃんと話してなかったなぁと思って」
- 55 名前:ためいき 投稿日:2011/06/24(金) 00:45
- 愛ちゃんは歩くテンポを変えなかったけれど、
私の言葉に緊張しているのだろう、握る手の力が少し強くなった。
「私ね、今とっても自分が好きなの」
『え??』
拍子抜けしたような表情に、つい微笑んでしまう。悪気はないのだけれども。
「愛ちゃんの隣にいる私が好きなの。愛ちゃんの隣にいるとね、
安心するし、なんか守られてるような気分になって、すごーく幸せなんだ」
ちらっと視界に入る愛ちゃんの横顔は少し赤くなっていて。
「それにね、愛ちゃんに私もなんかしてあげたいなぁって」
『りさちゃんは!!!......りさちゃんは、もう充分やよ。』
「充分???」
愛ちゃんが言わんとすることを、分かってるくせに意地悪っぽく
言ってみた。
『ちょっと.....ちょっと、りさちゃんがあーしに甘えてほしいなぁって思ったりしたけど、
でも。』
「でも??」
『なんか、なんか...今の言葉でおなかいっぱいやぁ....』
さっきとは打って変わって、愛ちゃんの顔はふにゃふにゃになっていた。
- 56 名前:ためいき 投稿日:2011/06/24(金) 00:49
- ふぅーーー.....
愛ちゃんからでた大きなため息。
でもきっと不安のため息ではなくて、安堵のため息だ。
「ごめんね??ちゃんと言ってなくて。
私、今、愛ちゃんが大好きだよ」
真っ直ぐに愛ちゃんの目を見つめて伝える。
私の偽りのない思いを。
『あーし、もう幸せすぎて 死んでもいいがーーーー!!!』
「これこれ!!」
- 57 名前:ためいき 投稿日:2011/06/24(金) 00:51
- 死んでもいいと叫ぶ愛ちゃんには笑ってしまうけど、
同時に申し訳なくも思った。
こんなにも不安にさせていたのか。
これからはちゃんと伝えないといけない。
愛する人に、自分の素直な気持ちを。
そう心に誓って。
もう一度愛ちゃんの手を強く握り返した。
- 58 名前:ため 投稿日:2011/07/02(土) 22:07
- おわり
- 59 名前:秘密 投稿日:2011/07/02(土) 23:50
- あたしのこの気持ちはだれにも話さない。
話せない。
話したくない。
口にした瞬間に嘘になってしまう気がするし。
誰かに話すと茶化されて、その気持ちに蓋をしてしまう自分がいるし。
とにかく、今の思いを大切にしたい。
そう思った瞬間に、誰にも話すまい。
そう心に誓った。
- 60 名前:秘密 投稿日:2011/07/02(土) 23:56
- あの人との出会いは突然と言えば突然で、必然と言えば必然だった。
二人で飲みに行こうと約束していた吉澤先輩が
「今日はゲストがいるからー」と勝手に連れてきたのが里沙ちゃんだった。
吉澤先輩と並ぶと小柄で、顔もちっちゃくて、華奢だった。
あたしより年下らしい彼女は、少し幼い顔つきではあったけれど、すごく大人びているようにも見えた。
- 61 名前:秘密 投稿日:2011/07/03(日) 00:00
- 「たかはしー!あたしの今のバイト先の後輩、新垣だよ」
「はじめまして、新垣里沙です。」
「高橋愛です」
「あの、ホントは吉澤さんと二人で約束だったんですよね?
なんかのこのこついて来ちゃってすみませんでした.....」
「えっ??いやいや、気にしないでください」
そう言ってあたしは、とりあえずの笑顔を作った。
- 62 名前:秘密 投稿日:2011/07/03(日) 00:10
- 正直あたしは、初対面の人と話すのが苦手だ。
いわゆる人見知りというやつで。
人が嫌いなんてことは無いけれど、なかなか親しくなるのに時間を
要する。
お酒を飲めばなんとかなるかな、そんなこと思いながら2杯目の梅酒に口をつける。
「悪い、ちょっとトイレ」
吉澤先輩はそういって席をたった。
一瞬緊張したあたしは、顔がこわばるのが自分でも分かった。
「あの、ホント、すみませんでした。」
口を開いたのは里沙ちゃんだった。
「初対面って、緊張しますか?」
「えっ....うん ちょっとね」
あたしは本音を言う。
「実は私もなんです。でも吉澤さんから高橋さんのお話を聞いて、
直接会ってみたいと思って。それで今日は勇気を出して来ました」
ふんわりした笑顔で彼女は言った。
「よしっ....吉澤先輩がなんて???」
「ははっ やっぱり」
彼女は笑って言う。
- 63 名前:秘密 投稿日:2011/07/03(日) 00:20
- 「なんかすごい真っ直ぐで、歌がすごい上手で努力家で、でもおちゃめだって」
彼女が言う言葉がなんだか不思議で仕方ない。
吉澤先輩の言葉は素直に嬉しいけれど、だからと言ってなんであたしに
会ってみたいのだろう。彼女もあたしと同じく人見知りだというのに。
- 64 名前:秘密 投稿日:2011/07/03(日) 13:55
- 「いやぁ、悪いねーぇ 戻ってきたよーん」
「あ、吉澤先輩酔いが回ってきました??」
「ふふ、ホントだ」
「なんだよー二人して、別にいいじゃんか。
いやあ、楽しいわ。可愛い後輩二人と飲めるなんてさ」
吉澤先輩はそういって目を細める。
「なんか、高橋と新垣って、どっか似てんなぁって思ってさ。
んー姉妹までは行かないけど、従姉妹みたいな?
だから、二人揃ってるとこ見てみたかったんだよ」
「えー、で、似てますか?」
里沙ちゃんが面白がって聞く。
「んー 酔ってんから、ぶっちゃけわかんないやww」
「本当 吉澤さんって適当だねぇ。ねね、昔からそうだったの?」
そう少し砕けて、でもさっきと変わらないふんわりした笑顔に
一瞬胸の奥がキュンとなる。
- 65 名前:秘密 投稿日:2011/07/03(日) 14:13
- 「そーやね、ちゃんとしてる時はちゃんとしてるけど。
でも大体は適当やよ」
あたしも笑って返す。
「ひっどいなー 高橋は。
てか、二人ともさ、あたしそろそろ帰らないといけないんだ。急に呼び出されたわ。
とりあえずここまでの分払っといたから、あとは適当にやって」
「あ、彼氏さんですか?」
「ま、そんなとこ。まだ時間も早いし、二人で飲んできなよ。
じゃな!」
そう言うと吉澤先輩はさっさと帰ってしまった。
その背中は昔見ていたかっこいい姿だけでなくて、これから好きな人に
会いに行くからだろう、どことなくウキウキしているのが伺える。
- 66 名前:秘密 投稿日:2011/07/03(日) 15:03
- 「ね、高橋さん。よかったらもう少し飲んでいかない?
なんか楽しくて」
「えーよー てか、愛ちゃんでいいよ」
酔いと彼女のやわらかな笑顔とで、人見知りの私だけれど、
もう少し話してみたいと思えた。
そして少し砕けてきたのが嬉しくて、彼女をなんて呼べばいいのか思案する。
「あ、新垣さんのことはなんて呼べばいいかな?」
「名前でいいよ」
「りさ....ちゃん」
「はーい?」
ふふって微笑む姿はやっぱり年下の女の子だ。
- 67 名前:秘密 投稿日:2011/07/03(日) 15:11
- それから二人でお互いのことを話した。
家族のこと。趣味のこと。今住んでいる街のこと。
里沙ちゃんが、とっても家族を愛していて、とても愛されてるんだな
ということだけは良くわかった。
気づいたら、止まらないガールズトークのおかげで、日付が変わる頃に
なっていた。
「そろそろ帰ろっか」
「そだね、あ、愛ちゃん。これ」
差し出されたのは、どこかのショップカード。
受け取って見つめていると、声が続く。
「これ、あたしと吉澤さんはバイトしてるカフェのカードなの。
良かったら遊びにきてね」
「うん。ありがと。」
その言葉は社交辞令じゃなくて、素直な気持ちだった。
また会って話したい。初めて会ったのに、不思議なくらい思える子だった。
- 68 名前:秘密 投稿日:2011/07/03(日) 18:20
- ************
- 69 名前:秘密 投稿日:2011/07/03(日) 18:28
- 自宅に帰って、もらったショップカードを改めて見てみる。
とてもオシャレなデザインのカードは、その場所と営業時間が
かかれていた。
そして紅茶専門店らしい。
「紅茶....なんか吉澤先輩っぽくないけど里沙ちゃんはいいかもな」
そんな考えを巡らせる。
単に吉澤先輩にボーイッシュなイメージが強く付きすぎて、
なんだか居酒屋とかコンビニとかそんなところで働いてるんだろう、
と勝手に想像していたのだ。
だから、先ほどあたしたちより先に帰っていく背中に少し女の部分が
見えて、それは驚いたし、多少の違和感もいだいたのだった。
そういえば、里沙ちゃんって彼氏いるんだろうか。
お酒が入ったガールズトークをしていた割には聞くのを忘れたな。
ま、そんなことは次に聞けばいいか。
明日もあるし、もう寝よう。
あたしはベッドに横になった。
- 70 名前:秘密 投稿日:2011/07/03(日) 18:29
- *************
- 71 名前:秘密 投稿日:2011/07/06(水) 19:55
- 週末、招かれた知人宅へのお土産を何にするか、思案する。
そうだ、この間教えてもらった、里沙ちゃんからと吉澤先輩がバイトする
お店に行こう。
紅茶ならその場で開けてもらってもいいし、保存も利く。
そう考え、お店へ向う。
- 72 名前:秘密 投稿日:2011/07/09(土) 21:17
- お店には沢山のポットが並び、一瞬圧倒される。
いい香りにつつまれて、どれにするか迷う。
「なにかお探しのものがあれば、試飲も可能ですよ」
店員さんが笑顔で伝える。
王道のアールグレイとフレーバーティーを選んだところで腕時計に眼をやるが、
まだまだ時間があるので、併設のカフェで紅茶を頂くことにした。
- 73 名前:秘密 投稿日:2011/07/12(火) 00:44
- 併設のカフェは、紅茶の茶葉を扱う店内の雰囲気を大切にしつつも、
紅茶を気軽に愉しんでいけるよう、幾分カジュアルに仕上げている。
ここなら里沙ちゃんが働いていても、違和感ないな。
そう思った。吉澤先輩の姿は相変わらず想像つかないけれど。
カフェ店内に入ると、すぐに窓際の席を案内される。
開かれたメニューにある、紅茶の種類に圧倒されるが、よく分からないし
今月のおススメと書かれたそれにすることにした。
「少々お待ちください」
そう伝えて店員さんは去る。
なんや、今日は吉澤先輩も里沙ちゃんもおらえんか。。。
ちょっと残念。また来ればいいか。
そう思い、なんとなく窓の外へ眼をやった。
- 74 名前:秘密 投稿日:2011/07/12(火) 21:02
- 駅にほど近いそのお店は、窓から人が歩く姿がよく見える。
趣味が人間観察のあたしにとっては、それは退屈しない席であり、
肘をついてつい見入る。
「おまたせ致しました」
店員さんの声に反応し、ふと我にかえる。
見ると吉澤先輩だった。
- 75 名前:秘密 投稿日:2011/07/12(火) 21:20
- 「いらっしゃい。一人なの?」
吉澤先輩は慣れた手つきでティーポットとカップ、そして紅茶の茶葉を
蒸らす時間を計る砂時計をテーブルへ並べていく。
「はい、この後人に会うのでお土産に紅茶でも持ってこうかと思って。
それでまだ時間があるし、お茶してくことにしたんです」
「そっかぁ、じゃ、この砂時計の砂が落ちきったら大丈夫だから。
ごゆっくり」
- 76 名前:秘密 投稿日:2011/07/12(火) 21:22
- よく見るとカップ&ソーサーも、ポットもとてもオシャレでお店の
センスを感じるものだ。
それになんてきれいな紅茶の色だろう。
茶葉からゆっくりゆっくりたゆたうように、お湯が紅茶色に染まっていくのを
眺めていることがすごく贅沢なように思えた。
- 77 名前:秘密 投稿日:2011/07/12(火) 21:27
- そういえば、こんなに何にも考えずに紅茶を飲むなんてどれくらいぶりだろう。
特に忙しい日々なわけでもないが、なんだかあたしは毎日頭のなかでいろんなことが
渦巻いていて。
負の感情ではないけれど、なんだか堂々巡りの自問自答にちょっと辟易していたのだ。
砂時計の砂がすべておち、自らの手で紅茶をカップに注ぐ。
透明のポットから見えていた色も綺麗だったけれど、白のカップに注がれると
その色の鮮やかさが一層際立った。
カップを持って口元へもっていくと、強烈な、でも全く嫌にはならない
香りが鼻をつく。
- 78 名前:秘密 投稿日:2011/07/12(火) 21:30
- ひとくち、紅茶を口に含み香りを味を愉しむ。
つい ほーっ と優しいため息にも似た息が漏れる。
「おいしい。。。。。」
強烈な香りなのに、意識をどこかぼんやりさせられている。
いや、その強烈さに思考回路が一時休止をしているのだろうか。
いずれにせよ、ただのお茶ではなく、心と脳と身体になにかを落としていく。
そんな気がした。
- 79 名前:秘密 投稿日:2011/07/12(火) 21:39
- 「お砂糖つかうともっと美味しいですよ」
また声が聞こえてそちらへ眼をやると、里沙ちゃんが立っていた。
「いらっっしゃいませ。愛ちゃん、来てくれたんだね」
そう言いながらシュガーポットを差し出してくれた。
「里沙ちゃん。素敵なお店やねー 紅茶も美味しいし」
「でしょ?あたしも最初お客さんとして来てさ、気に入っちゃったから
バイト募集に応募したんだ」
こないだと同じ笑顔がそこにあった。
「お砂糖、入れたほうがいいの?」
「うん。おススメだよ。私、普段はお砂糖入れないで飲むんだけど、
今日のこの種類だけは特別。入れたほうが断然おいしいんだから」
ごゆっくり。
里沙ちゃんもそうあたしに告げて、他のお客さんへの対応へ向った。
- 80 名前:秘密 投稿日:2011/07/12(火) 22:19
- 勧められたとおり、砂糖を一さじ入れる。
普段ストレートで紅茶を飲むあたしには、これでも充分だ。
甘みが加わった紅茶は、文字通りまた違った味わいを見せた。
さっき感じた強烈な香りが、急にやわらかく感じたのは、甘さが加わった
ことで全体的なバランスが変わったからだろう。
あたしは、その香りと味が気に入り、自分の分もお土産に買っていくことにした。
- 81 名前:秘密 投稿日:2011/07/12(火) 22:24
- 「ごちそうさまです」
レジに立っていたのは里沙ちゃんで、でも何故だか先日初めて会った時との
印象の違いにあたしは驚いた。
「そうか。制服のせいか」
「え?制服?」
里沙ちゃんは不思議そうな声を出しつつも、すばやく会計処理を済ませる。
「この前会った時、すんごく綺麗なオレンジのボーダー着てたでしょ?
だから、今日とだいぶ印象が違うね」
ここのお店の制服は、紅茶やカップやポットを引き立てる為なのか、もしくは清潔さの
演出なのか、真っ白なシャツだった。
「そうだね、私こういう格好私服じゃあんまりしないかも。はい、おつりです」
「ありがと。また来るかも。すごく美味しかったです。」
そうお礼を言って店を出た。
- 82 名前:秘密 投稿日:2011/07/14(木) 22:15
- **************
- 83 名前:秘密 投稿日:2011/07/14(木) 22:23
- 数日後、吉澤先輩と里沙ちゃんが働くあのお店で買った紅茶を飲みたいと思い、
あの時の蒸らす時間だったり、色だったりを思い出しながら丁寧に淹れ、
お気に入りのカップに注ぐ。
そしてあの時と同じように砂糖も用意する。
自宅にあった、頂き物の砂糖。
ひとくち口に含み、ゆっくり味わう。
「ふー.......... やっぱ美味しい」
そして香りと同時に不思議とあの時見た光景を思い出していた。
お店のなかのポットの並びやロゴ。
窓からの日差しの加減や、そこから見える景色。
そして、里沙ちゃん.......。
あの時吉澤先輩にも会ったのに、何故か里沙ちゃんの印象がやたらと
強く残っていた。
そして不意にでたコトバ。
「あー会いたいな........」
- 84 名前:秘密 投稿日:2011/07/14(木) 22:28
- ......会いたい。
そのコトバに他意は無い。
ただ単純に会いたい。それだけ。
そういえば連絡先とか聞くの、忘れたな。
ま、吉澤先輩に聞けばいいんだけれど。
だけれど。
どうせだったら会いに行こう。里沙ちゃんに。
あのお店に行けば、会えるのだから。今日がダメでも数回行けばきっと会える。
そう思ったら急に楽しくなってきて、あたしは浮かれ気分で仕度を始めた。
- 85 名前:秘密 投稿日:2011/07/15(金) 21:43
- あのカフェはあの日よりもいくらか空いているようだった。
お店の雰囲気のせいなのか、あの日もさほど忙しない空気ではなかったけれど、
今日はさらに落ち着いた雰囲気で、心を穏やかにさせた。
いらっしゃいませ。
出迎えてくれたのは、里沙ちゃんで。
再度現れたあたしに少し驚いた様子だ。
「また来てくれたんだね」
「あの紅茶がとっても気に入って。家で淹れてみたけど、
やっぱりお店の方が美味しかった気がして」
最大の目的は里沙ちゃんに会うことだったんだけれど、その場で出た言葉に
嘘はなかった。
前回と同じものを頼むと、里沙ちゃんが手馴れた様子で準備をする。
何故だか分からないのだけれど、その姿にあたしは釘付けになってしまった。
- 86 名前:秘密 投稿日:2011/07/16(土) 01:41
- ふわりとした笑顔が印象的だったけれど、仕事中の彼女の表情は
真剣そのもので。
よく見ると白く細い指。華奢な腕。でもきびきびとした動き。
最初に見た柔らかな物腰とあまりに違う姿に、圧倒されてしまった。
もちろん嫌悪感など、少しも無いのだけれど。
純粋にまた見てみたい。そう思った。
職人が当たり前にこなす技にぼんやり見入ってしまうように。
単なる学生の、アルバイトの、里沙ちゃんが当たり前にやっている
姿は、それはそれは無駄が無くて綺麗な立ち振る舞いだった。
- 87 名前:秘密 投稿日:2011/07/16(土) 21:34
- *************
- 88 名前:秘密 投稿日:2011/07/16(土) 21:36
- あれからというもの、あの紅茶の香りを感じるだけで里沙ちゃんの
表情や立ち居振る舞いが思い出されてきて。
香りと記憶はリンクするとどこかで聞いたことがあるけれど、これはあれか。
恋か。
- 89 名前:秘密 投稿日:2011/07/16(土) 21:38
- 「そうきたか」
呟きながらフっと自分で笑う。
今まで好きになってきたのは男性。
でも今気になるのは同性。
そんな感情を抱く自分に驚いたけれど、後ろめたさとか躊躇とかそんなものはまるでなかった。
むしろその気持ちを大切にしたい、そう思った。
- 90 名前:秘密 投稿日:2011/07/16(土) 21:42
- あたしは、ついそんな感情を人に言ってしまうことが多かったけれど、
今回は秘密にしておきたかった。
誰かに話すとその感情が実際のものよりも大きく形を変えて嘘になってしまうような気がして。
大切にしたい。そう思うからこそ、一人ひっそりと育てていきたいと思った。
それにしても、なんてうっかりしていたのだろう。
相変わらず里沙ちゃんの連絡先を把握していないのだ。
会いたくても、里沙ちゃんのことを知りたくても手段がない。
そうだ、やっぱりここは吉澤先輩に聞こう。
- 91 名前:秘密 投稿日:2011/07/16(土) 21:44
- 里沙ちゃんのアドレスを教えてください。
簡潔に吉澤先輩にメールする。
すぐの返信なんて期待していない。きっとメールが来るのはあしただろう。
吉澤先輩はそんなもんだ。
- 92 名前:秘密 投稿日:2011/07/16(土) 22:40
- 予想外に数分後にはメール受信の合図である、携帯ランプが点滅をする。
期待していなかっただけに、吉澤先輩からの返信が思いのほか早くて動揺してしまう。
吉澤さんからの返信は簡潔だった。
本当に里沙ちゃんのアドレスと電話番号だけ。
突っ込みどころは満載だけれどとりあえずお礼のメールを送る。
さて、里沙ちゃんになんてメールしよう?
友達ならば簡単に送ることが出来るのに、恋していると自覚しただけで躊躇う気持ちと
送りたい気持ちと相反する気持ちが同居していて。
でも里沙ちゃんをもっと知りたい。その想いがあたしを奮い立たせた。
- 93 名前:秘密 投稿日:2011/07/16(土) 23:13
- 件名:愛です
こんばんは☆愛です。
里沙ちゃんの連絡先、吉澤先輩から聞いたよー♪
また都合あう時に一緒にご飯食べにいきたいな☆
これからどうぞよろしくね♪♪
ちなみに私の番号は 080−****−****
- 94 名前:秘密 投稿日:2011/07/16(土) 23:35
- 件名:ありがとー♪
りさです。
メールありがとう☆
私も愛ちゃんのアドレス聞きたかったし、嬉しかったよ♪♪
今度一緒に遊びに行こうね☆
- 95 名前:秘密 投稿日:2011/07/16(土) 23:43
- あたしがメールを送ると数分後に返信があって、それを見ながら
思わずニヤニヤしていると知らない番号からの突然の着信。
「もしもし?」
「もしもし、愛ちゃん?りさです」
鼓動が急に速くなるのを自覚していた。
「びっくりしたー どうしたの?」
「いやぁ、なんかさ、愛ちゃんからのメールが嬉しくてすぐにメールしたけど、
思わず電話しちゃった♪ あ、今話しててだいじょうぶ?」
柔らかな声に心地よくなって、初めての電話だったにも関わらず、気づいたら30分過ぎていた。
「あ、ごめんね、結構話したね」
「そやねー でも楽しかったやよー」
「ホント?また電話していい?」
「うん、待ってる。」
「あ、愛ちゃんてさ、その、どこか地方出身なの?」
「あー 福井やよー なまっとる?」
「うん、訛ってるW でも可愛いから良いと思う」
「そーかー じゃ、このまんまでいくわ」
「そうして。.....ホント長くなっちゃってごめん。またかけるね?」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
- 96 名前:秘密 投稿日:2011/07/16(土) 23:46
- 電話を切ったあと、里沙ちゃんの声が名残おしくて、思わずメール
見つめる。
少し、少し近づけた。
それだけで嬉しくて。それだけでさらに想いが強くなるのを感じていた。
- 97 名前:秘密 投稿日:2011/07/17(日) 21:37
- そもそもあたしは電話自体が苦手で。
まだあまりコミュニケーションをとっていない相手と電話するのは、
相手が誰であれ抵抗がある。
どんな表情をしているのか、声色だけで判断するのは難しく、相手の真意が読み取れないからだ。
例えそれが好きな想いがある相手だとしても、話したい思いよりその不安のほうが強い。
がしかし、どうやら里沙ちゃんだけは特別らしい。
まだ数回しか会っていないのに、不安より声に聞きほれる自分がいた。
- 98 名前:秘密 投稿日:2011/07/17(日) 21:42
- メールを見返しながら、先ほどの電話でのやり取りや里沙ちゃんの声を
自分の中で反芻する。
すぐにでもまた電話した衝動にかられるけれど、せめて日付が変わるまで我慢しよう。
「..............あーー.......すっかりやられてもーたな...」
そう呟き、自分でおかしく笑ってしまいそうだけれど、しばらくぶりの愛しい感情に
嬉しく、そして浸る。
そしてさっきのお礼をしようと、メール作成のボタンを押した。
- 99 名前:秘密 投稿日:2011/07/17(日) 21:42
- *****************
- 100 名前:秘密 投稿日:2011/07/17(日) 22:02
- あれから1ヶ月が経過した。
里沙ちゃんとの電話やメールはほぼ日課となっており、友達として近づけている事実が
嬉しかった。彼女の癖や性格もなんとなく分かってきて、今度は直接会ってみたいと思う。
ショッピングでも誘おうか。
洋服大好きな二人だし、見ているだけで楽しい。
今度のメールか電話で誘ってみようと思案していたら、吉澤先輩から電話がきた。
- 101 名前:秘密 投稿日:2011/07/17(日) 22:24
- 「もしもし?」
「高橋?吉澤だけど。げんきー?」
「はは、何言ってるんですか。この間吉澤先輩のお店で会ったばかりじゃないですか」
「うっわー ひっでーなw まぁ、いいけどさ。それよりさ」
その後に続く言葉に一瞬あたしは怯んだ。
「それよりさ。新垣とはうまくいってんの?」
「....え?」
吉澤先輩の声は別に攻めているわけでも、茶化しているわけでも、興味本位で言ってるわけでもない。
そんな声だったけれど、その真意を読み取れずにあたしは黙ってしまった。
「ははw わっかりやすい奴だなー え、うまくいってんだな」
「ええっ いや、上手くいってるとか.... えーと...」
「何、ちがうの?」
「いや その.....」
上手くいってるもなにも、あたしの想いはあるけれど、確かにやり取りはあるけれど、
里沙ちゃんにとってあたしは女友達の一人だ。
「てゆーか 吉澤先輩も急になに言うんですか?」
「あー だってさ、新垣がわかりやすいんだもん」
「・・・・?」
あたしが黙っていると、吉澤先輩は言葉を続ける。
- 102 名前:秘密 投稿日:2011/07/17(日) 22:25
- 「なんかさ、ここんところ凄い楽しそうだし、なんか可愛くなってるし。
もともと可愛い顔してるけどさ、なんてゆーの?恋してる表情ってあるでしょ?
それなんだよ、確実に」
「でもそれって吉澤先輩の勘だけですよね、要は」
「おい、まだ続きがあるのに・・・・・ま、いっかw」
「え、ちょ ちょ....」
「なんだよ、聞きたい?」
きっとにやけてるだろう、吉澤先輩の顔が容易に想像できて、若干イライラするが。
「....はい」
「おー 素直じゃんw これいいフラグじゃね?」
「あ、もー 早く続けてくださいよー」
「はいはい、でさ、その表情がやっぱいいい表情でさ。
わかるじゃん、何かあったんだろうなって。
あたしもなんか嬉しくてさ。で、聞いたの、新垣に。いいことでもあった?って」
- 103 名前:秘密 投稿日:2011/07/17(日) 22:37
- 「そしたらさ、すっげいい笑顔で頷くんだもん。絶対恋だよな。
思わずあたしも聞いちゃったのよ、好きな人でも出来た?って」
「え.....直球ですね」
里沙ちゃんがどんな返事をしたのかが気になって、一瞬強張る。
「そしたら顔真っ赤にしてさ、うんともすんとも言わないのに、その人がどんな人かって
話をし始めて...........」
「.............どんなひと、ですか?」
あたしの声は落ち着いていたろうか。
「あー まるっきし高橋!!!」
「うぇっっっ???」
思わず変な声がでてしまった。
「じゃなきゃどーしよ、あたし高橋にこーして話してんのにねw」
「うわっ 無責任.....」
「でも大丈夫、高橋のことって一発で分かること言ってたからさ、気になる?」
「もー ここまできて焦らすってどういうことですか!」
思わず語気が強くなる。
- 104 名前:秘密 投稿日:2011/07/17(日) 22:43
- 「ま、いろいろ言ってたけど、本人の口から聞いたほうがいいべ。
ただ最後の一つだけ教えてあげるから」
「はい.....」
「訛りが可愛いってさ」
「................あー.....」
「良かったな?」
「てゆーか、吉澤先輩はその、なんていうか女の子同士とか、気にならないですか?」
あたしはあえて核心に触れてみた。あたしが里沙ちゃんに大して、思い切ったことが出来ないのも、そこが唯一の理由だったりする。
好きになったこと自体に後悔は毛頭ない。むしろ大切にしたいと思っている。
でも里沙ちゃんはそんな風に思ってくれるだろうか、そこが引っかかっていたのだ。
だからあえて聞いてみた。異性に恋をする、吉澤先輩に。
- 105 名前:秘密 投稿日:2011/07/17(日) 22:54
- 「そういうの、世間体ってやつか。
周りは色々言うかもしれないけど、正直あたしはあんま気になんないな。
だって好きになること、そのことがまず尊いし、奇跡的だと思うから。
あんなにキラキラしながら、高橋........多分高橋のこと話す新垣のこと気持ち悪いとか
全然思わないよ。むしろあたしがぎゅーって抱きしめたくなったくらいw」
「そっか..........ていうか、抱きしめたいとか!」
「うん、大丈夫とんねーよ!あと、あいつに悪い虫とか付きそうだったら、追っ払うからさ」
「はい........てゆーか」
「何?がんばれよ?好きなんだろ?」
「あたし、何にも言ってません!!!!!!!」
「ばーかw カマかけただけだよww でもまんざらでもなさそうだなー
よしよし、じゃなー」
「え。ちょちょっっっ........」
ツーツーツー...............
切れた。
- 106 名前:秘密 投稿日:2011/07/17(日) 23:28
- なんて嵐のような電話か。
吉澤先輩の一方的な会話も、勢いも、内容も。
完全にあたしのペースは崩されていた。
それより、それよりだ。
里沙ちゃんは恋しているのか。あたしかも知れない。でもあたしじゃない別の誰かかも知れない。
後者だったら、あたしは失恋だ。
今まで大切に、ひっそりと温めてきたこの想いだけれど、今日の急な電話で一気に乱される。
- 107 名前:秘密 投稿日:2011/07/17(日) 23:30
- なんて嵐のような電話か。
吉澤先輩の一方的な会話も、勢いも、内容も。
完全にあたしのペースは崩されていた。
それより、それよりだ。
里沙ちゃんは恋しているのか。あたしかも知れない。でもあたしじゃない別の誰かかも知れない。
後者だったら、あたしは失恋だ。
今まで大切に、ひっそりと温めてきたこの想いだけれど、今日の急な電話で一気に乱される。
- 108 名前:秘密 投稿日:2011/07/18(月) 00:52
- 言うべきか、まだそっとしておくべきか。
携帯に視線をやって、思案する。
何て伝えたらいいんだろう。何て聞いたらいいんだろう。
言葉がうまく出てこない気がして、思わずため息がでる。
「とりあえず寝るか」
先延ばしにして答えがでるかなんて分からないけれど、とにかく吉澤先輩からの
電話の破壊力がものすごくて。
あたしはぐったりしてしまい、急に眠気がきた。
今日のところは休むことにした。
頭がクリアになれば、また違った見方が出来るかもしれないし。
- 109 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/19(火) 04:38
- おおお…すっごい可愛い愛ガキ!
恋に落ちていく愛ちゃんの心情が綺麗で引き込まれました
- 110 名前:秘密 投稿日:2011/07/19(火) 21:29
- 寝て嫌なことを忘れるのはいつものことだけれど、今のあたしの心には
嫌なことではなくて、不安な気持ちがいっぱいだ。
そんな不安は一日寝たくらいですっきりするわけもなく、むしろ増長しているように思えた。
吉澤先輩は、「新垣がすきなのは多分高橋」とトンでも無いことを言って電話きった。
なんて無責任なんだ。
あたしは里沙ちゃんが好きで。里沙ちゃんも誰かが好きで。その誰かはあたしかも知れない。
でも違う誰かかも知れない。
もし違うだれかならば、その誰かにもっていかれないようにあたしは努力しないといけない。
どこを探したら答えがでてくるのは一目瞭然で。
本人に聞くしかないのだけれど、もしあたしじゃない別の誰かならば、あたしは今みたいに里沙ちゃんと
普通の友達としてやっていけるのだろうか。
.........うーーーーーーーー.......
ほら。ほら。
嵌って抜けることができない負のループ。思わずそばにあったクッションを
だき、もだえるあたし。
- 111 名前:秘密 投稿日:2011/07/19(火) 21:33
- ただ唯一間違いないのは、また里沙ちゃんに会いたいという気持ち。
会ってきちんと顔を見て、話したり笑ったりしたい。
とりあえずは会えるようにお出かけでも誘おう。
- 112 名前:秘密 投稿日:2011/07/19(火) 21:42
- 夜、頃合いを見計らって里沙ちゃんに電話をした。
電話が苦手なあたしだけれど、今日は直接話したい気持ちが勝っていた。
メールで話が流れてしまうのが嫌だからだ。
〜♪〜♪〜♪
「もしもーし」
「りさちゃん?愛です」
「あー 愛ちゃーん どーしたのー?」
「あ、今電話してて平気?」
「うん、平気だよ」
「あのさ、今度一緒に出かけない?買い物したり、美味しいケーキ食べに行こうよ」
「行きたい行きたい行きたい!!!!!!!!」
思っていた以上にりさちゃんのテンションが高くて、あたしは舞い上がってしまう。
なんとか心を落ち着かせて、日にちと待ち合わせ場所を決めた。
「じゃ、そういうことで、今度の日曜日ね」
「うん、楽しみにしてるー」
楽しみすぎて眠れないじゃないか。
電話を切ったあたしは、携帯片手にしばらくにやにやしたままだった。
- 113 名前:秘密 投稿日:2011/07/19(火) 23:20
- 日曜日、いつもお昼すぎまで寝ているあたしだけれど、
その日は久しぶりにりさちゃんに会える嬉しさと緊張とでかなり早起きになる。
さて、なにを着ていこう。バッグやパンプスはどうしよう。
........なんだ、これじゃ完全にデート前の乙女じゃん。
ふふ........
自分で気づいておかしいやら照れくさいやら。
でも一番の想いはそんな気持ちにさせるりさちゃんに会えることが嬉しい。
そんなところだろうか。
待ち合わせ場所には絶対に5分前に着こう。
そう気合をいれて、お気に入りのシャドーとルージュを濃くなりすぎないように気をつけて、
さあ出かけよう。
- 114 名前:秘密 投稿日:2011/07/19(火) 23:50
- 待ち合わせの場所にはすでにりさちゃんが立っていた。
うー緊張する.........
あたしは親しい友人でさえ待ち合わせって緊張するのに、好きな人ならなおさらだ。
でも、姿が見えて、一気に顔がにやけているのも事実。
不審がられないよう、普通の笑顔にもどして声をかけた。
「りーさちゃん!!!!」
「あー愛ちゃーん!!!!」
今日一発目、彼女の笑顔はとんでもなく魅力的で、あたしはそれだけで卒倒しそうなぐらいに心拍数があがった。
軽く手を振ってくれて、それも親しさをこめた行為であると感じ、さらに嬉しくなる。
「ごめんね、誘っておきながら後から来ちゃった」
「うーん、全然!あたし、早く来すぎるのが悪い癖でさぁ?それよかどこから行く??」
「じゃー洋服見にあっちの通り行ってみよ」
そう言って、セレクトショップが並ぶ通りを指差した。
あたしがいつも見るお店もあるし、なんとなくりさちゃんも好きな感じのお店がある気がしたから。
- 115 名前:秘密 投稿日:2011/07/20(水) 21:20
- 洋服やアクセサリーを見ながら、たわいも無い話をする。
その、他愛も無い話がつきないことが嬉しかったりする。
気づいたら2時間が過ぎていて、いい具合に小腹が空いてきた。
「りさちゃーん、ちょっとおなか空かん??」
「そーだねー あ、あそこに美味しそうなパン屋さんがあるー」
りさちゃんが指差す方向には小さなパン屋があって、外からもたくさんの種類があるのが見える。
「ねーねー あそこのパン屋さんでパン買ってさ、どっか公園で食べようよ?」
そう言って首を傾げるりさちゃん。若干下から覗かれる体勢になって、彼女の
上目遣いに胸の奥がきゅんとなった。
「そやね」そう言って微笑み返すの精一杯。それくらい、気持ちが高ぶる。
- 116 名前:秘密 投稿日:2011/07/20(水) 21:36
- 沢山の種類のなかから、トマトとバジルが入ったフランスパンとチーズとくるみが入ったパン。
それからデザート代わりに小さなチョコクロワッサンと、真っ赤なベリーが載ったデニッシュを選ぶ。
それらをもって大きな樹が聳え立つ公園にいき、その大きな樹の傍のベンチに二人腰を下ろす。
「そーいえば、こうして会うのって久しぶりだったね」
そう言ってフランスパンにかぶりつくりさちゃん。
「そーやねー でも毎日メールとか電話してたやろ?だから久しぶりって感じしないやよ」
あたしもおんなじように、くるみのパンを頬張る。
「ホントだね。ね、そのパンおいし?」
そう聞いてくるりさちゃんがどうも可愛くて仕方ない。
この子はわざとやっているんだろうか?そう疑いたくなるくらいに、適格にあたしの心のツボをついてくる。
「美味しいやよ、食べる?」
そうやってパンをちぎって渡そうとすると、りさちゃんはあたしの手からそのままパクリと食べてしまった。
- 117 名前:秘密 投稿日:2011/07/20(水) 21:40
- あたしは目をぱちくりさせ、りさちゃんがモグモグ口を動かすのをボーっと見つめるしか無い。
わかってる、きっと今のあたし顔が真っ赤。
急に顔が熱くなるのを感じた。
あーーーーーーーー無理.....................
ここで冷静になれといわれても無理。
ほんとは、ほんとは今すぐにでも抱きしめたい。そんな衝動に駆られて仕方ない。
でもまだりさちゃんの想いが100パーセント自分に向いてると確信が持てない今、そんな行動は
どうこの先に影響するかわからなくて、ぐっと堪える。
- 118 名前:秘密 投稿日:2011/07/20(水) 21:47
- それでも、りさちゃんがデニッシュの真っ赤なベリーを頬張った瞬間、
あたしの「女友達」を装っていた冷静さのかけらはどこかへいってしまった。
そのベリーの艶やかさと、ベリーにかかっていたシロップのキラキラした具合がなんとも
胸に突き刺さる。そしてそれ頬張る愛しい人。
目の前にそんなひとがいて、あたしは思わずうつむいてしまった。
本当はずっと見ていたいけれど、これ以上見つめているとあまり胸が苦しくて、愛しくて涙が出てしまいそうだったから。
- 119 名前:秘密 投稿日:2011/07/20(水) 21:51
- あたしはこんなに苦しい程目の前の人が好きなのに、その当人は甘いものに夢中だったりする。
それがちょっぴり寂しくて。
それでもそんなあたしに気づくりさちゃんの声があたしの複雑な心をおだやかにしてくれる。
「あいちゃん?どうしたの?美味しくない?」
「そうじゃなくて、そうじゃなくて.........」
「あんな、りさちゃん。りさちゃんは今、好きなひと、おる?」
思わずでてしまった、あたしが本当に知りたかったこと。
「すきなひと.......?」
「うん........」
「うん........いるよ、好きな人」
その言葉にあたしは顔を上げ、りさちゃんの顔を見る。
- 120 名前:秘密 投稿日:2011/07/20(水) 22:01
- そこには、キラキラとしたオーラのりさちゃんが笑顔でいた。
これだ、吉澤先輩が言っていた、恋する顔ってやつだ。
あたしの心は一気に波立つ。これ以上聞くことは、今のあたしの恋の行方を決めてしまうから。
なんて切り出そうか迷うあたしを知ってか知らずか、りさちゃんがもう一度口を開いた。
「いるよ、好きな人。
真面目で、努力家で、可愛くて、綺麗で。それに」
「それに?」
「訛りが可愛いひと...............だよ?」
やっぱり優しい眼をして、眼の前で微笑んでるりさちゃん。
吉澤先輩が言っていた通りのことをりさちゃんは教えてくれた。
さっきより幾分頬が紅いのは、恋心を打ち明けて照れているからだろう。
その笑顔は一体誰に向けられているのか、その眼の先に本当は誰を見ているのか。
それが知りたい。
何て言ったらいいのか分からなくて思案していると、意外な言葉が返ってきた。
自分の恋心を
- 121 名前:秘密 投稿日:2011/07/20(水) 22:21
- 「愛ちゃん?愛ちゃんって鈍感?」
「うぇっ???」
「鈍感。どんかーん!!!」
ぶすくれるりさちゃんは、やっぱり可愛い。
ていうか鈍感って。もう、あたしってことでいいってことか?!
吉澤先輩の言葉を思い出しながら、またしても言葉がでてこない。
そんなあたしに痺れを切らしたのか、りさちゃんはあたしのほっぺたを摘む。
「ここまでしても分からない?..........私の好きな人」
「えーと、その。えーと聞いてもえーか?」
「うん」
りさちゃんは?今更何をと言いたげな顔だったけれど。
「りさちゃんの周りに地方出身者は?」
「............もー 愛ちゃんだけだけど」
あたしはその言葉を聞いて、ひとつ深呼吸をする。
そしてりさちゃんの眼をしっかりと見つめ、言葉にする。
「あーし、りさちゃんのことが好き」
- 122 名前:秘密 投稿日:2011/07/20(水) 22:31
- りさちゃんは、あたしのほっぺたと摘んでいた手をゆっくりと下ろし、
そして笑顔になった。
そして一言「おんなじだね」
そう言ってにっこり笑う。
その微笑みに胸が熱くなり、思わずギュッと腕の中に抱きしめる。
「愛ちゃんってさぁ。」
あたしの耳元から柔らかな声が聞こえて、思わず身をすくめそうになる。同時に嬉しさでいっぱいになった。
「愛ちゃんってさぁ、ホント鈍感だよねぇ」
半ばあきれながらりさちゃんが言うもんだから、あたしはその腕の力を緩め、りさちゃんの顔を見て反抗してみたくなった。
「さっきからさ、鈍感鈍感って言い過ぎや無い??」
「だってさぁ、私が毎日毎日電話とかメールとかしてんのに、全然気づかないんだもん」
「え、でも仲良いならメールくらいするやろ?」
「いくら女の子同士でも、メールならまだしも、電話はしないけどなー」
「そっかぁ.......あ」
思わず嬉しくなったあたしは、すこしりさちゃんに意地悪してみたくなった。
- 123 名前:秘密 投稿日:2011/07/20(水) 22:36
- 「ん?」
眼をくりくりさせてあたしの顔を覗くりさちゃんに、もう一度問いかける。
「あたし、りさちゃんの気持ち、聞いてないやよ」
「さっき言った!」
「おんなじだね?って?」
「そうだよ!」
「何がおんなじなの?」
思わずにやりとしてしまうあたしを、りさちゃんはちょっとにらみながら。
でも真っ赤にして。
たった一言。
小さな声で。
「すき.........だよ」
fin
- 124 名前:もりずん 投稿日:2011/07/20(水) 22:44
- 109さん
初心者な上、その場の思いつきなものでうまく書けたか。すみません。
もうちょい修行・妄想して再度挑みます。
あと、誤字脱字も無いよう頑張ります
- 125 名前:I 投稿日:2011/07/21(木) 00:21
- 思いつきで書かれているとは思えないくらい、胸がきゅんきゅんする文章です。
次回更新お待ちしております。
- 126 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/21(木) 11:58
- 愛ガキが初々しくて可愛い!
- 127 名前:もりずん 投稿日:2011/07/21(木) 21:23
- 125さん もう少し練ってから書くといいんでしょうが。。でもコメントありがとうございます!!
126さん 甘可愛い愛ガキがすきなもので、こんな感じになりました
- 128 名前:もりずん 投稿日:2011/07/21(木) 21:52
- 短めをひとつ
- 129 名前:もりずん 投稿日:2011/07/21(木) 21:52
-
- 130 名前:声 投稿日:2011/07/21(木) 22:00
- 疲れたとき、悩んでいるとき、不安なとき。
考えたくないいろいろなことを考えてしまうとき、あーしはその重たい感情に押しつぶされそうになってしまって、眠れなくなってしまう。
眠ってしまえば、ひと時でも嫌な思いを忘れられるのだけれど、言うことを聞いてくれないあーしの身体はそれを許してはくれない。
そんな時はあの子に魔法をかけて貰おう。
優しくて甘い幸せな魔法。
大好きなあの子の番号に発信する。
- 131 名前:声 投稿日:2011/07/21(木) 22:13
- 「もしもし、愛ちゃん?」
「りさちゃー...........」
「どーしたのー?」
「なんでもない」
「そう.....?じゃあ、私の話聞いてくれる?」
「えーよー」
そこから嬉しそうにりさちゃんは何かを話していたんだけれど、あーしはその声があまりにも心地よくて、音楽を聴くみたいに声色だけに耳を傾けていた。
「ちょっとー?愛ちゃん聞いてるのー?」
そんな問いかけすらもあーしの気持ちを救ってくれるようで、まともに返事することすら忘れてしまう。
りさちゃんの声は柔らかな毛布みたいで、心も身体も温かくほぐれているような感覚に陥る。
あーしはりさちゃんの問いかけにまともに答えもせず、ひとつお願いをした。
「ねーりさちゃん、何か歌って?」
「えー?うたー?」
「そう、歌。」
「じゃあ、甘えた愛ちゃんにはねぇ............」
そう言って突然のリクエストにも関わらずりさちゃんは歌ってくれて。
それを電話越し気づいたりさちゃんの最後の「おやすみ
- 132 名前:声 投稿日:2011/07/21(木) 22:18
- りさちゃんの優しく甘い声に、次第に意識が遠のいていく。
あしたはきっと叱られるんだろうな。その風に思いながらも、その歌に、声に感謝した。
ふわふわした意識のなかで、遠く「おやすみ」の声が聞こえた気がした。
- 133 名前:声 投稿日:2011/07/21(木) 22:18
- おしまい
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/22(金) 22:43
-
- 135 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/22(金) 22:49
- 全くの創作のお話をまた一つ
- 136 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/22(金) 22:49
-
- 137 名前:カランコロン 投稿日:2011/07/22(金) 22:54
- 大きなグラスにまあるい氷をひとつ浮かべ、いつもの飲みなれた梅酒を口に含む。
あぁ、もう何杯目だろうか。気づくと1杯目よりも濃くなっていて、次第に思考も視界も霞んでくる。
そういえば何であたしは一人でこんなに飲んでいるだろう。
隣にあの子がいれば深酒なんてしなくていいのに。
きっと今電話なんかしたら、一発でバレてしまって叱られてしまうんだろうなとぼんやり思いつつ。
どうしても声が聞きたくなって、あの子に電話する。
- 138 名前:カランコロン 投稿日:2011/07/22(金) 23:01
- 「もしもーし、ガキさーん」
「あ、愛ちゃん。また飲んでるでしょ」
「だってぇ、ガキさんに会えんで寂しいんやもん」
「.............ごめん」
そうだ。
そうだった。大好きなりさちゃんが仕事で地方に行ってしまって、会えない寂しさを埋めるためにあたしは飲み始めたんだった。
「ていうかさぁ。まだ3日目だよ?」
「えー あと何日会えないんやぁ?」
あたしはブスくれながら、グラスの中の氷を人差し指でくるりと回す。
――カランコロン
「あと3日だけだから、いい子にして待っててくれる?」
「うーーーーーー じゃあさ、じゃあさ、帰ってきたらすぐうち来てやー」
「しょうがないなぁ」
そういうりさちゃんの声は心なしか嬉しそうだった。
「愛ちゃん?今何杯目?」
「もー分からん 氷がなぁ、キラキラして綺麗やよー」
そう言いながら再び回す。
――カランコロン
- 139 名前:カランコロン 投稿日:2011/07/22(金) 23:05
- 「まーったく........もう飲んじゃだめだよ?」
「ふえーい!」
「あたし、飲んでる愛ちゃんは嫌いじゃないけど、心配になっちゃうからさ」
「......ごめん」
「わかったらよし!帰ったらさ、すぐ会いにいくね」
その声がとっても優しくて、あたしはにんまりしながら電話を切った。
あの子に会えるまであと3日。
我慢がまん。
そう言い聞かせてあたしはもう一度氷を回した。
――からん
- 140 名前:カランコロン 投稿日:2011/07/24(日) 20:35
- 終わり
- 141 名前:宝物 投稿日:2011/07/26(火) 21:41
- 前述「秘密」のガキさん視点を。
- 142 名前:宝物 投稿日:2011/07/26(火) 21:41
-
- 143 名前:宝物 投稿日:2011/07/26(火) 21:43
- そこそこ楽しい毎日だった。
そこそこ遣り甲斐のある毎日だった。
それでもあの日を境に、また一つ大切なものが増えたんだよ??
私の大切な大切なたからもの。
- 144 名前:宝物 投稿日:2011/07/26(火) 21:48
- 大学生になってからアルバイトを始めたのは、偶然入った素敵なカフェ。
オシャレな内装と、綺麗に並べられたティーポット。そして魔法にかけられたみたいに、幸せな気分にしてくれる紅茶。
それが気に入って、「アルバイト募集」の文字にすぐさま飛びついた私。
紅茶のことなんて全く知識が無くて、茶葉の種類や煎れ方や沢山の覚えるべき知識の量に驚いたけれど、
それでも感動したことに関する知識を習得するのはとても楽しくて、わくわくしっぱなしだった。
教えてくれる社員の方も、バイトの先輩も、みんなしっかり者だったし女性の割にさばさばしていて過ごしやすい環境でもあった。
- 145 名前:宝物 投稿日:2011/07/26(火) 21:58
- ある時、先輩の吉澤さんにふと言われたんだ。
「そーいやさー、高校ん時の後輩でさ、新垣に似た奴がいたんだよね」
「へーどんな人ですか?」
何の脈絡もない、突然の発言にはへーと言うしかないわけで。
「すっげ真っ直ぐな奴でさー、努力家で。で、おちゃめなんだよな」
「ふーん」
「あ、興味ない感じ?」
「だって、私に似てるって言われても、あんまり良くわかんないんですけど」
「なんか雰囲気似てんだよ、あとね、訛ってるww」
「へー」
「そんなつれない返事すんなよ、今度ご飯いく約束してるから高橋も来なよ。絶対二人似てるから」
絶対に似てる。そんなこと言われたら、気にならなくも無い。
友達が増えるならそれも面白いかもしれない。そんな考えで、吉澤さんの一方的な思い込みによる
展開にのっかてみることにした。
- 146 名前:宝物 投稿日:2011/07/26(火) 22:03
- 数日後、吉澤さんに連れてかれた居酒屋にその子はいた。
高橋愛さん。
とっても綺麗な、とっても可愛い、それでいてどこか聞きなれない訛りのある話し方が特徴で、
でもそれは耳に優しくて関西弁みたいなキツイ感じはどこにも無く、むしろ好感が持てた。
私より少し年上な彼女。初対面は少し緊張するようで、少し表情が硬いような気がする。
少し酔っ払った吉澤さんが席をたった時、思い切って話しかけてみる。二人になって気まずいのもどうかと思うし。
- 147 名前:宝物 投稿日:2011/07/26(火) 22:10
- 「初対面って、緊張しますか?」
そう言うと、高橋さんは正直に返事した。
少し話すとくりくりした目とか、やっぱり訛る話し方とか、話すテンポとか。同じ女の子から見ても、キュートな人だった。
おまけにふんわりした笑顔がとっても可愛くて、私は目標としたい人だな。そんな風に思った。
吉澤さんは彼氏に呼び出しをされたらしく、先に帰宅することになったけれど、それでも私は高橋さんと話がしてみたいと思って思い切って誘う。
「ね、高橋さん。よかったらもう少し飲んでいかない? なんか楽しくて」
高橋さんは快くOKしてくれ、結局その日は日付は変わる頃までおしゃべりをした。
- 148 名前:宝物 投稿日:2011/07/28(木) 00:23
- 初対面でお互いに緊張していたのは、本当に最初の頃だけ。
お酒があったせいもあって、沢山の色々は話ができた。
それでも私は、高橋さん、、、いや愛ちゃんのころころ変わる表情や、私が思いもつかないような考え方や、
ちょっとかわいい訛った話し方に釘付けだった。
またどこかで会えたら楽しいだろうな。そんな思いもあって、軽い気持ちで私がバイトするお店のショップカードを差し出すと
愛ちゃんは喜んで受け取ってくれた。
- 149 名前:宝物 投稿日:2011/07/28(木) 22:15
- 吉澤さんもいるし、また3人で会えたらいい。
それでガールズトークに花咲かすんだ。きっと今日よりもっと楽しいだろうな。
- 150 名前:宝物 投稿日:2011/08/01(月) 21:24
- 愛ちゃんと再会したのは初めて会ってから、ほんの数日後だった。
知人へのお土産に、と、私がバイトするお店の紅茶を買いに来てくれた。私が働くカフェへは、そのついでに寄ってくれたようだった。
愛ちゃんはおススメの紅茶を美味しそうに飲んでくれて、私のアドバイスもすんなり受けいれてくれた。
お客様だから、余計に声はかけない。
でも、窓際の席に座る愛ちゃんは、なんだかとても綺麗だった。
おちゃめだとは確かに思うけれど、紅茶を味わうその横顔は、私が思っていた以上に凛としていて、とても綺麗だった。
つい、見とれてしまう。
あまりにも窓から見える風景と、お店のセンスが光るカップやポットと、それをまっすぐな気持ちで向かい、味わう愛ちゃんの姿が、あまりに画になりすぎていて。
それは、今まで見てきたどんなお客さまの姿よりも美しく見えた。
- 151 名前:宝物 投稿日:2011/08/03(水) 00:25
- まるでどこかの絵画が突然そこに現れたように美しいその一角を、私は眼の奥に焼きついてしまうじゃないかと思うくらいに見つめていた。
不思議なくらい、吸い込まれるんじゃないかと思うくらいに見入る。
少し経ってレジに現れたのは、この前の様子となんら変わらない愛ちゃん。
さっきの窓際の人は、今目の前にいる人。それでも別人じゃないかと思うくらいにころころと雰囲気が変わる。
そこはこの前受けた印象と一緒だった。
愛ちゃんは「また来るかも」そう言ってお店をでた。
私は知らずにその後ろ姿を眼で追っていた。
- 152 名前:宝物 投稿日:2011/08/11(木) 22:49
- ―愛ちゃんって、綺麗だな・・・・・
ふっと細い、ため息にも似た息の流れとともに心にふわふわと湧く感情。
初めて黄金色の稲穂を見たときみたいな、不思議な気持ちがそこにある。
感動というか、癒しというか。キラキラしているその光景に眼が釘付けになったっけ。
今日の愛ちゃんの姿はまさにそれで。
ただただそこに佇んでいるだけなのに、なんだか輝きを見せていた。
そういえば、こんな感じしばらく無かったな・・・・・
最後、いつだったたっけ?
ふと考えた。
- 153 名前:宝物 投稿日:2011/08/29(月) 23:00
- ・・・・・・
しばらく考えた割には答えが出なくて、それよりも過去を遡ることに意味なんてないと思い至る。
大切なのは、今私が抱く感覚。ただそれに眼を向けてればいいことだ。
今日愛ちゃんを見ていてふつふつと湧き出てくるもの。それが何なのか、上手くことばにできなかったけれど、嫌な気持ちは一切なかった。
むしろ、心地よかった。
- 154 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/11(日) 02:03
- 愛ちゃんを例えるガキさんの言葉>>152、
愛ちゃんがその風景の中に佇んでるイメージが綺麗に浮かびました…
結末は知ってるのにドキドキします
- 155 名前:宝物 投稿日:2011/09/18(日) 00:17
- まだその気持ちの落ち着きどころがなんなのか、分かっているようで分かっていないのだけれど、その心地よさに
身を委ねていればそれでいい。
いつか答えが出るだろう、その日まで待てばいいのだ。
それまで思うがままに、私自身の気持ちを大切にしよう。そう思った。
- 156 名前:宝物 投稿日:2011/10/14(金) 21:19
- さらに数日後、愛ちゃんが言葉通り、お客様としてまたやって来た。
先日買ってくれた紅茶を家で飲んでみたけれど、お店のほうが美味しいと言ってくれる。
愛ちゃんのオーダーした紅茶を、愛ちゃんの目の前で煎れる。
いつもやっていることなのに、どうも緊張するのは愛ちゃんがあの大きな眼で私を見ているからだ。
なんとか煎れてその場を去る。
・・・・・・美味しくできたかな・・・?
ちょっと不安にはなったけれど、遠くから見ていても愛ちゃんはいい表情で飲んでいるのが分かったから、
決してまずくはなかったんだろう。きちんとしたものが提供できて、すこしほっとする。
- 157 名前:宝物 投稿日:2011/10/14(金) 21:23
- いつだって大切に、美味しく味わっていただきたい。そう思って煎れてはいるけれど。
知っている人の前では尚更だし、だからこそ余計に緊張してしまう。
愛ちゃんがお会計を済ませた後はなんだかいつも以上に労力を使った気がして、気が抜けてしまった。
でもまた会えたことが嬉しくて。わざわざ来てくれたことが嬉しくて。
その疲れも心地よい疲労感と変わっていった。
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