じゅげむ
- 1 名前:ランドスケープ 投稿日:2009/01/26(月) 13:43
- 最近ふと思い出したように過去の飼育作品を眺め、
思い出したように書き留めてみようと思いました。
元ネタというかモチーフとなった作品はありますが
オマージュとして受け取っていただければと。
1話完結の連作形式になると思いますが
恐らく更新頻度はそこまで良くないと思います。
それでも良い方は、お付き合い下さい。
- 2 名前:0.プロローグ〜寿限無×寿限無〜 投稿日:2009/01/26(月) 13:45
- 「ですから、その様なものは非科学的だと言っているんです」
紺野あさ美と名乗った少女は開口一番そう言った。
銀縁の眼鏡をずり上げ、ふっくらとした頬を更に膨らませている。
もちろんこれはいくつかあるうちの一般的な反応の一つだ。
うん、まぁ否定はしないさ。おいらだって最初はそう思ってたし。
「うーんでもねぇ、カオリに未来が見えるのは本当のことだから」
奥から人数分の紅茶を運んできたのは安倍なつみ。
よたよたとした手つきは見ているだけでもあぶなっかしい。
案の定、紅茶はキッチンからリビングまでの数メートルの間に
半分近くがお盆に海を作る形でカップからこぼれていた。
「占いとか、あんなの全部嘘っぱちですよ。
視線とか、表情―
そういう細かな仕草を鋭く拾い上げて
それっぽく伝えるだけです」
あさ美は意見を変えるつもりはないらしい。
まだ幼さの残る外見とは裏腹に、かなり頑固な性格のようだ。
何としてもおいらたちに間違いを認めさせようというつもりか。
- 3 名前:0.プロローグ〜寿限無×寿限無〜 投稿日:2009/01/26(月) 13:46
- 「ま、今は交信中だから終わったら本人に言ってやってよ。
どうせ今は何言ったって聞こえやしないんだからさ」
間に入ったおいら、矢口真里はため息まじりに紅茶をすする。
「…しょっぱい」
「あらー、また間違えたかい?まぁ砂糖も塩も似てるからねぇ」
全く反省を感じられない能天気な声でなっちは
塩っ辛い紅茶に少しだけ口をつけ―、眉をひそめてカップを置いた。
ったく、こんなのがどうやったら社会人として働けるんだろ。
「似てないよ!ちゃんとラベルに書いてあるだろ!
もうこれで間違えるの何回目だよ、この前は甘いパスタだったしさぁ」
「まぁアレはアレで美味しかったでないのさ」
こんなやり取りは日常茶飯事だ。
おいらがここに住み出したのは1年半ほど前、
その時からなっちのそそっかしさはちっとも治らない。
というよりもむしろ、悪化しているように思える。
- 4 名前:0.プロローグ〜寿限無×寿限無〜 投稿日:2009/01/26(月) 13:46
- 大学と駅のちょうど真ん中あたりにあって、コンビニも近く
南向き物件の築3年というのは最高の環境だった。
本当は一人暮らしの方が良かったんだけど、
ルームシェアで家賃が安かったのが最大の決め手になった。
実際に連絡してみると、年上の女性が2人で迎えてくれた。
片方は、やわらかい笑顔を常にふりまく太陽のような人、なつみ。
そしてもう片方はスタイル抜群でちょっと感じのキツそうな人。
そう、さっきからおいらたちのやりとりなど全く聞こえない様子で
窓から空を見上げている美女、飯田圭織だった。
「あ・の!お二人は変だなーとか思ったこと、ないんですか?」
あさ美が交互においらたちの顔を確認しながら強い口調で言った。
その目は未だ説得を諦めていない、強い光。
この子もおいらと同様、ルームシェアの格安料金を決め手に
物件を見学に来たおいらと同じ大学の新入生。
とりあえず軽い自己紹介でも、となったときに
当の家主であるカオリが交信中なのがまずかった。
- 5 名前:0.プロローグ〜寿限無×寿限無〜 投稿日:2009/01/26(月) 13:46
- カオリには特殊な力が備わっている(らしい)。
宇宙のどこかと交信?して過去や未来を見ることができるのだ。
無論これだけ聞くと大層な力のように聞こえてしまうが
おいら自身この力をすごいと思ったことは一度も無い。
曰く、明日は初雪が降るだの
曰く、昔のクラスメイトがおいらを好きだっただの
曰く、今日もなっちはコショウでくしゃみして皿を割るだの
とにかく、あまりにどうでも良いことしか見えないのである。
カオリ自身この力をコントロールすることもできないらしく、
また交信に入るとこちらの世界で何をしようと気づかない。
ただカオリの力は本物で、カオリが言ったことは全て事実であり、事実となった。
まぁとにかく、今の不思議な状況を説明したら
彼女、あさ美がつっかかってきて今に至ると言うワケ。
おいらたちとしては家賃が安くなるから新しい入居者が増えるのは
大歓迎なわけだけども今の状況だとそれも難しそうである。
- 6 名前:0.プロローグ〜寿限無×寿限無〜 投稿日:2009/01/26(月) 13:47
- 「だって便利でないかい?カオリに聞けば今日の特売品が分かるんだよ」
なっちはけらけらと笑いながら言う。
ちなみに全く質問の答えにはなってない。
おいらとあさ美が目を合わせて、同時にため息をついた。
あぁ、こりゃダメだな。と思ったその時、
「見えた!」
我関せずだったカオリが突如として叫んだ。
ようやくこれで交信終了、というわけ。
「で、今日は何が見えたのさ?」
一応あさ美がまだ入居者候補である以上、
カオリも交えて説明をした方がいいと判断したおいらが聞く。
「んーとねぇ、最初はお茶っ葉のビンが空を飛んでて、
明日の天気は雲ひとつ無い快晴だっていうニュースでしょ、
その後はなんかもやがかかって良く見えなかったけど…
知らないおばあちゃんが見えた。何か寂しそうだったよ」
- 7 名前:0.プロローグ〜寿限無×寿限無〜 投稿日:2009/01/26(月) 13:47
- カオリの見る「モノ」は時に具体的で、時に抽象的だ。
彼女自身も何を見たのか分からないということもままあり
それはどこかの誰かの過去や未来であるということらしい。
というかそんなことよりももっと大事なことがある。
「なっち!気をつけないとお茶のビン落っことすよ」
「大丈夫、もう落としたあとだから。ごめんねやぐち」
…どうやら今回カオリが見たお茶っ葉云々は「過去」ということらしい。
過ぎてしまったことはもう仕方ない。
あのアールグレイ、高かったのになぁ…
「で、そのおばあちゃんってどんな感じだったの?」
自分のしたことに対する罪悪感からか
なっちがいそいそと話題を変える。
「顔とかはわかんないんだけど、あれは多分病院…かな。
白い壁に白いカーテン、白いベッド。
本人は元気だから気づいて無いけどもう長くないのね。
古ぼけた写真をすごく、すごーく優しい目で撫でてた」
- 8 名前:0.プロローグ〜寿限無×寿限無〜 投稿日:2009/01/26(月) 13:47
- カオリの見える"モノ"は具体的、抽象的に関わらず
彼女に関係するものしか見えないというのも特徴の一つだ。
つまり今回の場合カオリの周囲にいた人間、
おいらかなっちか、カオリ自身或いはあさ美の誰かに
関係している人間ということになる。
カオリが誰か分からないということはもちろんカオリではないし
おいらとなっちも頭の上にハテナマークがぐるぐる回っている。
そしておいらたちはほんのちょっとだけ顔を見合わせて―
みな、一様にあさ美の顔を見つめた。
「わ、わわ、私のことだって言うんですか?」
ずり落ちたメガネを右手でかけなおし、
垂れた前髪をかき上げながらあさ美は答えた。
「だって、うちらじゃないもの。
したらあさ美ちゃんしかいないじゃないのさ。
信じる信じないはあさ美ちゃんの自由だよ、でもね。
もしあさ美ちゃんに心当たりがあるなら
今すぐにおばあちゃんに会いに行って欲しい」
- 9 名前:0.プロローグ〜寿限無×寿限無〜 投稿日:2009/01/26(月) 13:47
- いつもはにこにことお日様のような笑顔のなっちが
真剣な表情であさ美を見つめながら言う。
あさ美は最初、戸惑いながら話を聞いていたが
そのうちに自分の荷物を無造作にかばんに詰め込むと
「ごめんなさい、今日はこれで失礼します!」
とだけ言い残してドタバタと走り去ってしまった。
おいらとなっちはベランダから小さくなっていく彼女を見ながら
「やっぱ心当たりがあったんじゃんかよ」
「まぁ、何事も丸く収まったようで良かったんでないかい」
とルームメイト候補がいなくなったのにのん気な会話をしていた。
ある休日の、午後の昼下がり。
猫は車のボンネットでひなたぼっこをし、
近所の子供たちがグローブとバットを持って公園に走る、
いつもと変わらない街が眼下に広がっていた。
- 10 名前:0.プロローグ〜寿限無×寿限無〜 投稿日:2009/01/26(月) 13:48
- 「ところでさぁ、あの女の子、誰?」
おいらたちの背後でカオリがそう言いながら紅茶を飲み、
盛大に床に吹き出したのはその少し後のこと。
――――――――
- 11 名前:0.プロローグ〜寿限無×寿限無〜 投稿日:2009/01/26(月) 13:48
- 「この家に住みたいのかい?」
騒動からちょうど1週間後の週末、あさ美がまたウチを訪ねてきた。
あれだけカオリの力を信じてなかったのが嘘のように
彼女はメガネの奥の目をキラキラさせながら言った。
「とりあえず飯田さんのことは一言で説明できないことは分かりました。
だから一緒に住んで研究しようと決めたんです。
絶対、ずぇーったい科学的に証明して見せますからね!」
鼻息荒く意味不明な宣戦布告をしてきたあさ美。
これでこの家の変人がまた増えてしまうことに
一抹の不安を覚えずにはいられないおいらと、
ただにこにこしているだけのなっちと、
今日も空をぼーっと眺め続けるカオリ。
とにかく、そんな4人の奇妙な同居生活が始まろうとしていた。
- 12 名前:0.プロローグ〜寿限無×寿限無〜 投稿日:2009/01/26(月) 13:48
-
ちなみに、今回カオリが見たものが何だったのか。
それは後日あさ美の口から明らかになる。
「あ、あれ。おばあちゃんが大好きなドラマなんです。
あの時ウチのおばあちゃんぎっくり腰で入院してたんですけど、
退院したら絶対全部見るから録画しといてくれって言われてて。
飯田さんのおかげでちゃんと間に合いました。
え?ウチのおばあちゃん?
もう退院して今日も縁側でみかん食べてましたよ」
…やっぱりカオリの力なんて、所詮そんなもんなのである。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/26(月) 13:50
- スレ流し。
年齢設定などは多少昔かつ錯誤している部分があります。
まぁ過去作品読んで感化されたということでご容赦下さい。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/26(月) 13:51
- スレ流し。
感想など気ままにいただけたら幸いです。
今更このメンバーで需要があるのかは気になりますが。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/26(月) 13:52
- スレ流し。
次回更新は早ければ一週間以内に。
一応書いてはいるのですがネットに接続するのが稀なので。
それでは次回まで。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/13(金) 03:40
- うーん、たしかにコンコンは好きなんですけど…(>_<)
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/13(金) 18:55
- 面白いです。
次の更新にも期待しております。
- 18 名前:作者です 投稿日:2009/02/22(日) 15:30
- ネット環境と時間の確保が難しい状況にあり、
今まで放置のような形になってしまいました。
途中までになりますが、お付き合い下さい。
- 19 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:30
- おいら、矢口真里はそう大きくない私立大学に通う3年生。
普段は駅近くのカフェと、派遣のバイトで生活費を賄いながら
3人の女性と同居している。
そうレベルも高くない私立大学の3年生ともなると
ほとんどの単位は既に取得済みで
(持つべきものは友達だよね、レポートとか、テストとかさ)
今では週に2,3回大学に行くだけで
後は友達と遊んでいるかバイトに精を出す毎日だ。
今働いているカフェも、オーナーの趣味だという
木目調に統一されたテーブルや椅子、
オープンテラスが評判の落ち着いたカフェで、
大学に通い始めの頃、一目ぼれしてその場でバイトを申し込んだ。
もちろんコーヒーや紅茶も美味しいんだけどね。
もちろんウチの大学生も利用はするのだけれど、
ちょっと値段がお高めなのと、駅近くはオフィスビルが多いこともあって
利用者のほとんどはOLやサラリーマンが占めている。
- 20 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:31
- そんな中にあって、彼女たちは明らかに"異質"であった。
「やぐちぃ、これ4番テーブルねー」
ある土曜日、ランチタイム後の休憩終わりで
オーナーから差し出された2つのパフェを慣れた手つきで運ぶ。
が、そこにいたのはどう見ても中学生、
ひょっとしたら小学生かもしれない二人の女の子だった。
二人とも頭をおだんごにして、ボンボンをつけおり、
運ばれてくるパフェをまじまじと見つめている。
明らかにこの場には似つかわしくない二人、
そんなにパフェが食べたいのかな…
「あ、あの!ちょっと待ってください」
テーブルにパフェを置き、去ろうとした後ろから声がかかる。
振り返るもどちらが話しかけたのかは分からない。
二人とも、とても真剣な目でおいらを見ていたから。
さっきから見ていたのはパフェじゃなくて、おいらだったのか。
「注文ですか?それともお姉さんに何か用事?」
おいらは営業スマイルを崩さないように二人に話しかけた。
が、返された言葉においらはその笑顔にひびが入ることになる。
- 21 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:31
- 「子供や思てバカにしたらあかんでねーちゃん。
昔から言うやろ、お客様は神様なんやで。
のの、やっぱり帰ろ。話にならんでこんなねーちゃん」
おもむろにパフェにスプーンを伸ばし、鼻にクリームをつけながら
言う姿はそれなりに可愛らしいものではあったが、
子供にここまでバカにされてはスマイルも崩れる。
と、ののと呼ばれた女の子がおいらたちの空気を察したのか
上目づかいで甘えた声を出す。
「あいぼん、やめてよ。
せっかくせんせーが教えてくれたんだから」
なるほど、最初に聞こえた声の主はこっちの方らしい。
どこか舌っ足らずな話し振りが更に幼さを印象付ける。
「あのー、あたしたちせんせーに教えてもらってー、
ここにちょーのーりょくを使える人がいるって」
と"のの"は言葉を続けた。
いまいち要領がつかめないのはおいらというよりも
この子に責任があるように思う。
- 22 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:31
- 「えー、っと…お客様。何か私にご相談でしょうか。
でしたら勤務中の個人的なお話はちょっと…
退勤後でよろしければ伺えますけども」
おいらは努めてこの小さなお客様に対して敬意を払った。
食い入るようにおいらの目を見ていた二人は顔を見合わせ
あいぼん、と呼ばれた女の子が口を開いた。
「何やねーちゃん、やればできるんやんか。
ほんなら終わるん待ってるわ。
もちろんその間の食事代は持ってくれるんやんな?」
にやっといたずらな笑みを浮かべてこちらを見ている。
おいらはもうこれ以上この場にいて
営業スマイルを続ける自信が無かったので
かしこまりました、とだけ告げてその場を離れた。
「ねーねー、あいぼん。"たいきん"ってなーに?」
と、後ろから舌っ足らずな声が聞こえたが
振り返らずに厨房の方へ戻った。
――――――――
- 23 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:31
- それから2時間後、パフェはもちろん
ケーキ、アイスクリームなどメニューにある
一通りのデザートの空の皿が山積みにされた
テーブルに、私服に着替えたおいらがつく。
既に"のの"はこっくりこっくり舟をこいでいたし、
"あいぼん"も携帯を片手に眠そうな目をこすっていた。
「さて。3000円も飲み食いしてくれたんだから覚悟はできてるよな。
ここまで来て何も無かったらただじゃおかねーぞ」
勢いよく椅子に腰掛け、凄みをきかせる。
さっきまでは従業員とお客様だったが今は対等だ。
むしろおいらが年上なんだから立場は逆転している。
「あれ、もしかして怒ってるん?
嫌やなぁ、子供の冗談やんか、さっきのは。
あんなんで怒るなんてカルシウムが、あがががが」
最後まで言わせずに口の両端を引っ張る。
「この口か、そんな生意気なこと言うのは。
礼儀を知らんヤツに礼儀を使う必要は無いよな。
え、え、コノヤロー!」
- 24 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:32
- 溜まっていた鬱憤が一気に吐き出される。
3000円だぞ、時給にして3時間以上だぞ、
今月の家賃だってまだ払って無いのに。
それなのに、それなのに…
「やめてください。ごめんなさい。
あいぼんがいっぱい頼むから、
ののもお腹空いてたしつい食べちゃって。
その、ほら、あいぼんも謝って」
「ご、ごめんなひゃい」
"のの"に促されて"あいぼん"が口に指を突っ込まれたまま謝る。
とりあえず一通りの気が済んだおいらは具体的な話を聞くことにした。
話を聞くと、"せんせー"は塾の講師であり、
あさ美の大学の友人である、ということが分かった。
どうやら塾で二人がもめているところを仲裁に入ったらしく、
解決策としてあさ美の同居人に不思議な力があることを教えたらしい。
ったく、なーにが「信じません」だ、あのやろー。
友人連中に言いふらして迷惑被るのはこっちだっての。
しかも同居人は同居人でもおいらじゃないんだよそれは。
- 25 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:32
- その辺の詳しい説明をおいらに任せて逃げたあさ美には
今度3000円よりも高い何かをねだるとして
今はこの子たちの話を聞くほかない。
カオリなんかの力が何かの役に立つなんて
おいらはこれっぽっちも思わないけど。
「えっとー、この前あいぼんと遊んでたときにー、
ののたちがケーキ食べてたんですけどー、
その間にー、お母さんの着物が破れちゃってー、
犯人を見つけたいんです」
のの、辻希美はどうも話をするのが苦手らしい。
順序だてて説明できない上に大事な部分が抜け落ちている。
その上舌っ足らずで語尾が延びていて
論点がどこにあるのかさえ分からなくなる。
「要するにおばちゃんが帰ってきて
ウチらじゃないのにこっぴどく怒られたっちゅうわけや。
まぁ、出したらあかん言われてた着物で遊んでたんは事実やけどな。
でも着物を破ったんは絶対にウチらちゃうねん。
そこは真犯人を見つけなあかんやろ?被害者として」
- 26 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:32
- あいぼん、加護亜依は耳年増なのか随分と弁が立つ。
希美と一緒にいることで多少の通訳も必要になるからだろう。
自分がしたことを差し置いて真犯人探しというのが
いかにも子供の発想で少し笑ってしまう。
「あさ美ちゃんの友達に何言われたのかは知らないけど
カオリの力…カオリが解決できるかは分かんないよ?
というか多分無理だと思うけど。
それでもいいんなら明日ウチにおいで。
多分、カオリも暇してると思うから」
お腹一杯でもう眠いのか、それとも目的の人物が
目の前にいる人と違ってがっかりしたのか、
解決できないと言われて落ち込んだのかは分からないが
二人はおいらにお礼を言うとすごすごと店を後にした。
- 27 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:33
-
もちろん、レシートはテーブルの上に置きっぱなしだったけど。
- 28 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:33
- そして翌日の日曜日。
この日は雲ひとつ無い快晴で、
朝からなっちが洗濯機から泡を吹かせていた。
「なっち!どんだけ洗剤入れたらこんな泡吹くんだよ!」
「おかしいねぇ、ちゃんと書いてある通りやったはずなのにねぇ」
いつも通りのかみ合わない会話。
しかし、最近はもう一人この会話に口を挟む人間がいる。
「安倍さんは普段から軽量スプーンを間違って使っています。
大さじ一杯、スプーン一杯というのはたくさんという意味ではありません」
あさ美はいつだって論理的で、どこか冷めた口調で
メガネをずり上げながら会話に入ってくる。
"全ての不可能を排除したら事実だけが残る"というのが彼女の口癖だ。
- 29 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:34
- 今日もリビングのソファーに座ってクッションを抱え込み
"知られざる深海世界のすべて"という
ワケの分からない分厚い図鑑をめくっている。
そして言葉を発するとすぐにまた図鑑に目を落とした。
「あらー、そうだったのかい?一杯っていうからには
そりゃもうたくさん入れる方がいいと思ったのにねぇ」
何でこんなのが今まで普通に生活して来れたんだろ。
そもそも大さじ2杯とか3杯はどうしてたんだ?
呆れてものも言えずに泡ばかりが出てくる洗濯機を掃除する。
ピンポーン、とこの家のベルがなったのは
おいらたちがようやく床の泡をふき取り終えたときだった。
なっちがドアを開けるが早いか、
今日もおだんご頭の二人組がつかつかと入り込んでくる。
後ろをてこてことついて歩く希美だけが
おじゃまします、と小さくなっちに呟いていた。
- 30 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:34
- 「で、カオリにその犯人を見つけて欲しいんだ」
30分後、希美の話に亜依が通訳を入れる形で
ようやく圭織に今回の趣旨を伝えることができた。
なっちは洗剤にまみれた洗濯物とベランダで格闘していたし、
あさ美は相変わらずリビングのソファーに座って図鑑を眺めていたので
おいらたち4人はキッチンでテーブルを囲んでいた。
「でもなぁ、そんなのやったことないし、できるかなぁ」
圭織は自分の力を自覚してかしないでか、
決して大っぴらに自分の力について話さない。
もちろん人助けなんか初めてのことであり、多少戸惑っているように見えた。
「いーださん、お願いします。
ののとあいぼんは、絶対にやってないんです」
希美がすがるような目で圭織を見つめる。
隣で亜依もうんうんと首を縦に振っている。
圭織はしばし何も無い中空を見上げ、
ふっと息を一つつくと優しく希美に微笑みかけた。
「わかったわ。やるだけやってみましょう」
- 31 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:34
- 希美と亜依の顔がぱぁっと明るくなる。
顔を見合わせやったね、と微笑みあう。
圭織は交信の場にいる人やモノにだけ
関係している過去や未来を見ることができる。
しかし当然希美の家にある着物自体は
持ってくることができなかったので
写真から着物の過去・未来を探ることになった。
余計な者がいると関係ないものが見えてしまうから、
という理由でカオリと着物の写真を残して
おいらたちはキッチンからリビングへ移動することになった。
圭織は写真を見たり、撫でたり、
時にあらぬ方向に視線を泳がせていたが
ふっと体の力が抜けたかと思うと
宙を見つめたまま全く動かなくなった。
- 32 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:35
- これでカオリはしばらく交信に入り、
こちらの世界からの情報は全て遮断される。
どのくらいの時間がかかるのかは分からないが
恐らくいつもの感じからすると2〜3時間程度だろう。
「待ちぼうけ、か」
おいらはそういうと机の上のロールケーキに手を伸ばす。
1つ1つの大きさや形にかなりのばらつきがあるということは
なっちが用意したのだろう。
希美と亜依も我先にと両手に取って食べている。
「そんな風に、誰かに頼ってただ待つよりも、
自分たちで考えるということをすればいいのに」
- 33 名前:1.始まりは小さな二人の訪問者〜五劫の擦り切れ〜 投稿日:2009/02/22(日) 15:35
- あさ美の声に全員が振り返る。
しかしあさ美は図鑑から目を離そうともしない。
「そんなこと言ったってしょうがないじゃんか。
この子たちだって自分たちで考えてダメだったから
カオリのところに来たんじゃん?」
その声に反応して紺野がやっと顔をこちらに向ける。
銀縁のメガネの奥は、無表情だが軽く笑っているようにも見えた。
「矢口さん、あなたは自分でこの子たちの推理を聞いたんですか?
10人いれば10人の違った考えがある。その中から非現実を
排除していけば自ずと正解に辿り着きます」
紺野に希美や亜依と同じような扱いを受けた気がして苛立ったが、
どうせただ待つよりは紺野の話を聞いてみようじゃないか。
「じゃあ紺野は分かるのか?誰が着物を破いたか」
「必要なのは状況証拠と証言、それだけです」
落ちた前髪をかき上げながら自信満々に言った。
希美と亜依も、自信なさげなカオリとは対照的な
あさ美の登場に動揺しているように見えた。
- 34 名前:スレ流し 投稿日:2009/02/22(日) 15:35
- 歯切れは悪いですが今回はここまで。
- 35 名前:スレ流し 投稿日:2009/02/22(日) 15:36
- 一応主要メンバー以外は話ごとに入れ替わる予定です。
- 36 名前:スレ流し 投稿日:2009/02/22(日) 15:36
- 旧メン総登場になればいいなと思いつつさようなら。
- 37 名前:作者です 投稿日:2009/02/23(月) 08:37
- >>16さん
けど…のあとが気になるところではありますが
生暖かい目でも構わないので傍観していただければと思います。
>>17さん
ありがとうございます。
かなり不定期かつロングスパン更新になると思いますが
まったりお付き合いいただければと思います。
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/26(木) 23:31
- これからの展開をあれこれ想像しながら読んでます
矢口さんは厄日でしょうかw
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