ぼくときみのこと。
- 1 名前:竜斗 投稿日:2008/12/29(月) 16:02
-
懲りずに戻ってきてしまいました。
相変わらず田亀時々藤道ところによりモテ田。
亀更新ですがよろしければお付き合いください。
- 2 名前:竜斗 投稿日:2008/12/29(月) 16:03
-
寒空の下で/田亀
- 3 名前:寒空の下で 投稿日:2008/12/29(月) 16:04
-
今日は今年一番の寒さだと朝の天気予報で言っていた。
強い風のおかげで薄い雲は瞬く間に流れ空一面青が広がっているが、その反面冷たい風は服の隙間を見つけて入り込み容赦なく体温を奪う。
悴んだ手は指先まで冷えきっていて、携帯のボタン一つ押す動作すらままならない。
動かない指に苛立ち途中だったメールを諦め鞄に携帯をしまう。
手袋をしてくればよかったと今更ながら後悔した。
被っていた白いニット帽の端を目の上ぎりぎりまで下げ、口元までマフラーに埋めてなるべく風に当たる面積を減らす。
ポケットに手を入れて吐き出した息は白く染まり、僅かに宙を漂った後空気に溶けていった。
- 4 名前:寒空の下で 投稿日:2008/12/29(月) 16:06
-
「……遅い」
ぽつりと零し向かい側のロータリーを見上げたら、待ち合わせの時間を二十分過ぎた時刻を示す時計。
待たされるのは嫌い。
寒いのも嫌い。
近くにあるコンビニに入ろうかと何度か足を踏み出したけれど、数歩動いただけでもう少し待とうと元いた場所に戻る。
しかしさすがに寒さの限界か、身体が震えて歯がぶつかり合いかちかちと音を鳴らす。
―――…あと一分。
それでも来なければコンビニでも喫茶店でもいい、暖かい場所に移動しようと決めた。
頭の中でカウントダウンを開始する。
自分の間隔で数えては確実ではないが、傍にある時計には秒針がないのだから仕方ない。
- 5 名前:寒空の下で 投稿日:2008/12/29(月) 16:08
-
―――九、十、十一。
数えている間も次々と人が横を通り抜けていく。
始め数人いた自分以外の待ち合わせらしき人達は、今や残り一人。
黒い短髪を無造作に立てて細い黒縁の眼鏡を掛けている、二十代前半くらいの男性。
あの人より先に、なんてこんなことでも負けず嫌いな自分に苦笑した。
―――三十三、三十四…。
カツカツと急いだようなヒールの音が近付いてきて、若干期待して音のする方に顔を向けた。
緩く巻かれた茶色い髪を靡かせて走ってきた女性。
笑顔を浮かべ手を振るその人は、こちらなど見向きもせず一直線にもう一人の方へ。
- 6 名前:寒空の下で 投稿日:2008/12/29(月) 16:09
-
負けた。
心中で呟き、遠くなっていく二つの背中を見ながらカウントダウンを再開させる。
―――…三十五。
背後の壁に体重を預けて目を閉じた。
段々強くなる風に、小さな身体を更に小さくする。
―――四十九…五十…。
あと十秒。
十数えればこの寒さから解放される。
身体は早く早くと訴えていたが、なぜか頭は数える間隔を長くしていた。
もうとっくに十秒は経っているはずなのに、数字はまだ五十四。
―――……五十、六………五十…な。
- 7 名前:寒空の下で 投稿日:2008/12/29(月) 16:11
-
七を言い切る前に風が止んだ。
同時に身体を包む暖かい感触と甘い香り。
目を開く、視界に入ったのはさらさら揺れる茶色い髪と仄かにピンク色の頬。
「…遅い、あほ」
「んー、ごめんね?れーな」
離れた待ち人、絵里は悪びれた様子もなくふにゃりと笑った。
時計を確認すると、結局二十六分の遅刻。
さっさと歩き出したれいなの手を掴んだ絵里が「わっ」と驚いた声を漏らす。
「れーな、手冷たい」
「誰かさんがなかなか来なかったせいやろ」
「…怒ってる?」
小走りでれいなの前に回ると両手でれいなの右手を包んで、はーっと息をかけた。
れいなと絵里の間でゆらりと舞う白は、あっという間に色を失う。
- 8 名前:寒空の下で 投稿日:2008/12/29(月) 16:12
-
ぎゅっと手を握る暖かい手と、れいなを見つめる不安げな瞳。
手だけではなく、身体全体の温度が上がる。
「…もう慣れとぉ」
いつも遅いという意味で嫌味のつもりで言ってみたが、解っていない絵里は安心したように笑って隣に並んだ。
繋いだ手をもぞもぞ動かして指を絡めてくる。
「絵里の手、あったかい」
「電車乗ってたからねー、れーなもコンビニとか入ってればよかったのに」
「…そうやね」
「あー、もしかして絵里に早く会いたくてずっとあそこにいたとか?」
れいなの返答に間があったのを聞き逃さなかった絵里は、からかうような口調で言って口端を持ち上げた。
言葉を詰まらせたれいなの顔を覗き込む。
勝ち誇ったその笑顔が悔しくて、たまには言い返してやりたくなった。
- 9 名前:寒空の下で 投稿日:2008/12/29(月) 16:14
-
「…そうやけん」
「へ?」
「早く絵里に会いたかったと」
「え…れ、れーな?」
「なんて言うとでも思ったか、あほ絵里」
べー、と舌を出して歩く速度を上げた。
手は離さない、指は絡めたまま。
斜め後ろで何やら喚いているようだが、熱くなった頬が冷めるまでは振り向いてやらない。
実際、絵里の言ったことは正解だ。
けれど素直に認められないのがれいなの性格。
―――それくらい、分かれ。
力を込めて握った手は、どちらが自分か判らないくらいに温度が溶け合っていた。
- 10 名前:寒空の下で 投稿日:2008/12/29(月) 16:14
-
おわり。
- 11 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 16:14
-
- 12 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 16:15
-
- 13 名前:竜斗 投稿日:2009/01/01(木) 00:13
-
明けましておめでとうございます。
ってことで田亀を1つ。
℃Sれいなさんを書きたかっただけのただのエロです。
- 14 名前:竜斗 投稿日:2009/01/01(木) 00:14
-
あまいゆび/田亀
- 15 名前:あまいゆび 投稿日:2009/01/01(木) 00:15
-
二人分の体重を支えるシングルベッドがぎしぎしと音を鳴らして軋む。
重ねているだけだった絵里の唇が薄く開き、その隙間かられいなの舌が口内に侵入する。
舌を絡ませているうちに漏れる声が静かな部屋に響く。
「ん……んぅ、は…ぁ…」
れいなの手は一つ一つ絵里のパジャマのボタンを外していき、絵里の手はれいなの頭の形をなぞるように動いていた。
ボタンが全て取れ、現れた絵里の素肌をれいなの手が滑る。
腰の辺りを撫で上げ、肌の感触を確かめながら上へと昇っていく。
唇から離れた舌先が輪郭を辿り、耳朶を緩く舐める。
- 16 名前:あまいゆび 投稿日:2009/01/01(木) 00:17
-
「あ、……んっ!」
れいなの舌に気を取られていたら指で胸の突起に触れられて、大きくなる声と跳ねる身体。
指の腹で撫でられ押し潰され、そこは素直に反応を示す。
「腰、上げて」
耳の端に齧り付きながら低い声で囁かれて、絵里の身体がぞくりと震える。
ふわふわしている頭でなんとか言葉を理解して少し腰を上げると、胸に触れている手とは逆の手でズボンと下着を一緒に脱がされた。
合わせた膝はあっさりと開かれ、その間にれいなが身体を割り込ませる。
「…あっ、ぅ…ん…」
指はまだ突起に触れたまま、反対の胸に舌が這わされる。
- 17 名前:あまいゆび 投稿日:2009/01/01(木) 00:18
-
舌と歯で弄ばれ、わざと音をたてて舐められて甘噛みされて、だんだん呼吸が乱れていく。
「はぁ……噛んじゃ、や…」
「なん、痛いと?」
「…ぃたく、ないけどぉ」
「ならいいやん」
さっきより強く歯を立てられて、絵里の手がれいなの髪を掴む。
強すぎたかもと思ったけれど、れいなは気にせず舌と指を動かし続ける。
「…ん、はぁ…は……ぅ、あ」
絵里の呼吸が浅く速くなり、身体が小刻みに震え出すと、胸にあった手が下腹部へと移動を始めた。
到達した手はすぐにそこには触れずに、手のひらで足全体を撫でる。
膝の裏に手を添えて軽く持ち上げられ、胸から離れた唇が太股に触れる。
太股の内側に口付け、舌先が付け根から膝までの間を舐め上げた。
- 18 名前:あまいゆび 投稿日:2009/01/01(木) 00:19
-
「っ…れー、なぁ」
じれったさに耐えられなくて、せがむようにれいなを呼ぶ。
含んだ笑いが聞こえて視線を向けると、れいなは唾液で濡れた自分の唇を舐めてにやりと口角を上げた。
恥ずかしくなって腕で顔を隠した時、太股の付け根を這っていた指がそこに触れる。
「んぁ!…んっ、ん…」
「うわ、すごかね」
「…んん……やぁ、だ…」
「ん?やめると?」
顔を隠していた腕をどかされ、間近にあったのはれいなの意地悪な笑み。
絵里が目を逸らすとれいなは片眉を上げ、そこから手を離す。
- 19 名前:あまいゆび 投稿日:2009/01/01(木) 00:21
-
思わずその手を掴んで引き寄せ、ぎゅっと目を閉じて長く息を吐いた後に、れいなに届く程度のか細い声を出した。
「…………やめないで」
言った途端、火が付いたような熱さが全身を巡る。
にひひ、と満足気に笑みを浮かべたれいなの指が再びそこを這う。
少しずつ中に入ろうとする指に絵里が腰を浮かせると、それ以上は進まずに浅い場所をゆるゆると撫でるだけ。
「はぁ、あ……れーなっ…ちゃんと、してよぉ」
「しとるやん」
「そ、じゃなくて…」
「なんよ、言わんと分からんやろ?」
溢れる液を指で弄ぶ。
絵里の反応を見ながら動く指は、僅かに的を外れた場所ばかりを擦る。
れいなを欲しがって疼く身体の中心。
理性など、保っていられなかった。
- 20 名前:あまいゆび 投稿日:2009/01/01(木) 00:23
-
「………早く…ちょーだいっ」
溜まった涙の所為で揺らぐ視界に映るれいなに手を伸ばす。
れいなの肩を掴んで引き寄せると同時に絵里は上半身を浮かせ、近付いたれいなの唇を舐めてねだった。
「はっ、仕方なかね」
一つ息を吐き出して笑ったれいなの指に力が入る。
「ん……ぁ、あ!」
抵抗なく焦らすようにゆっくりと進む指に合わせ、絵里が抑えきれずに甘い声を漏らす。
奥に着いた指がぎりぎりまで引き抜かれ、またゆっくり中に入っていく。
じわりじわりと襲う快感に小さく跳ねる絵里の腰を逃がさないよう、れいなの腕が回される。
「気持ちよか?」
「ふ、あ!……あっ…」
「なぁ、絵里」
「…んっ、れ、な……気持ちぃ…」
- 21 名前:あまいゆび 投稿日:2009/01/01(木) 00:24
-
深く浅く出入りを繰り返すれいなの指が、淫らな水音を響かせる。
それを恥ずかしいと思う理性は、すでに絵里には残されていない。
「これじゃ、足りんやろ?」
「んぁ、ぁ……あぁっ!…んぅー、はぁっ…!」
中に入っていた人差し指を一旦抜いた後、中指も追加されて戻ってきた。
ばらばらに動く二本の指が内壁を引っ掻く度、甲高い嬌声が上がる。
与えられる刺激が強すぎて、掴んだれいなの腕に爪が食い込む。
「れーなっ、れーなぁ……絵里っ…おかしくなっちゃう…!」
「もういきたいと?」
答える余裕もなくなった絵里はこくこくと何度も首を縦に振った。
名前を呼ぶと返事の代わりに中を強く擦られる。
- 22 名前:あまいゆび 投稿日:2009/01/01(木) 00:26
-
指は絵里の弱い部分を突いているが、速度は変わらず一定のまま。
あと少しのところで焦らされ続け、絵里の腰が自然とれいなの指の動きに合わせて揺れる。
「絵里、もぉ……だ…めぇ…あっ!」
「まだ我慢しぃよ」
「ん、あ……れぇ、な…れーなっ…ぁ、あ…っ!」
絵里の口端から零れた唾液をれいなが舌で掬い、唇で口を塞がれる。
酸素が回らなくなった頭は真っ白で、無意識に腕を伸ばしてれいなの首に絡ませしがみ付く。
息苦しさと快感で飛びそうになる意識。
的確に絵里の弱い部分を突く指。
もう、限界だった。
「はぁっ、ぁ……れーっ、な…やぁ、あ、んんぅ…ぁあ!」
一際高い声を上げ、れいなの指をぎゅうっと締め付ける。
頭から足の先まで痺れるような感覚。
びくびく痙攣して強張る絵里の身体をれいなの腕が優しく抱き締めた。
- 23 名前:あまいゆび 投稿日:2009/01/01(木) 00:27
-
しばらくすると徐々に震えは治まり、力の抜けた身体がベッドに沈む。
「…っは…はぁ、ん…」
「まだやって言ったやん、悪い子やねぇ」
目を閉じて呼吸を整えていると、上から降ってきた声。
汗で貼り付いた髪を払い、頬を撫でる手にうっすら瞼を開く。
絵里を見下ろし、指に伝う白く濁った液を舌で舐め取るれいなの姿がぼんやりと見えた。
重ねられた唇から舌が割り込んできて、やっと落ち着いた呼吸を乱される。
「…悪い子には、お仕置きっちゃん」
耳元に落とされた低い声に、身体の奥の方が熱をもって疼き出す。
首筋に噛み付かれ、指はまだ濡れているそこを撫で上げる。
夜はまだ、終わらない。
- 24 名前:あまいゆび 投稿日:2009/01/01(木) 00:28
-
おわり。
- 25 名前:_ 投稿日:2009/01/01(木) 00:28
-
- 26 名前:_ 投稿日:2009/01/01(木) 00:28
-
- 27 名前:名無し飼育さん 投稿日:2009/01/02(金) 00:52
- 新年一発目からごっつぁんですw
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/11(日) 22:41
- うおおおお
竜斗さんのれなえり大好きなんで嬉しいですw
これからも待ってます
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/12(月) 02:05
- このサイトはsageの心は無くなってしまったの?
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/12(月) 02:08
-
- 31 名前:竜斗 投稿日:2009/01/12(月) 10:43
-
今回はレス返しだけ。
27名無飼育様
新年早々こんなんですみません(ノ∀`)
28名無飼育様
ありがとうございます!
更新は遅いと思いますがまたーりとお待ちください。
29名無飼育様
落としたつもりだったんですが目欄が消えていました、すみません。
以後気をつけます。
- 32 名前:竜斗 投稿日:2009/01/14(水) 18:38
-
ビタースイート/田亀
- 33 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:38
-
重い目蓋を開くとそこはホテルの自室。
電気はついておらず真っ暗な部屋の中、頭から布団を被り、猫みたいに身体を丸めていた。
起き上がって辺りを見回した視界が霞んでいて、泣いていたことに気付く。
なんで、泣いてるんだろう。
乱暴に袖で擦りながら、自分が今に到るまでの経緯を思い返す。
- 34 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:39
-
一日の仕事が終わり、メンバーはそれぞれ与えられた一人部屋に帰って行った。
絵里も自分の部屋に入りシャワーを浴びて、のんびりとテレビを見ていた。
そこに届いた一通のメール、差出人はれいなだった。
『部屋にこい』
命令形で書かれていて少しむっとしたが、この方がれいならしい。
すぐに頬はだらしなく緩み、躊躇なくれいなの部屋へ向かった。
- 35 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:40
-
出迎えられて中へ入るとすでに数人のメンバーがいて、円を描くようにして床に座っている。
絵里もその輪に混じる、もちろんれいなの隣。
皆に見られないよう自分の身体で隠して、こっそり手を繋いでみた。
ぴくりと反応したが振り払われることはなく、嬉しくて顔が綻ぶ。
時間を忘れて話し込んでいたら、一人がそろそろ部屋に戻ると言い出した。
それならばと絵里以外のメンバーも、連れ立って各々自室へと散って行く。
「絵里も戻った方がよかよ」
残った絵里にれいなはそう言い、手を引いて立ち上がった。
だが絵里はそこから動こうとはせず、れいなを見上げている。
- 36 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:41
-
「絵里?」
「…ここで寝ちゃ、だめ?」
一度触れてしまった温もり、離したくなくなった。
繋がったままの手をぎゅっと握ると、れいなは困ったように苦く笑う。
しゃがみ込み、空いている手が絵里の頬を撫でる。
微笑んで目を閉じれば、唇に降ってくるキス。
数秒合わせて離れた唇から、絵里が予想もしなかった言葉が届く。
「…今日は、戻りんしゃい」
「……え?」
いつもみたく、「仕方なかね」って笑ってくれると思っていたのに。
目を丸くしてれいなを見つめたら、ばつが悪そうに視線を逸らした。
「明日も早いし、疲れとるやろ?」
だから一人でゆっくり寝た方がいい、と。
- 37 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:43
-
「…絵里がいたら迷惑?」
「や、そうやないけど」
「じゃあいいじゃん、絵里は一緒に寝たい」
確かに明日も朝から仕事だし、最近は遅くまでの仕事続きで疲労も溜まっている。
でもそんなもの、一人で寝たからといってそう簡単になくなるわけがない。
疲れているからこそ、れいなの傍にいたい。
その腕の中が一番安らげる場所だから。
「……やっぱり、だめやって…な?」
そんな絵里の想いは通じず、再び戻るように促される。
ちくん、と針で刺されたような痛みを胸に感じる。
大好きなはずのれいなの微笑みが、なぜかそれを増長させていく。
「…やだぁ」
「絵里…」
駄々を捏ねている絵里、宥めるれいな。
- 38 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:45
-
当たり前になってしまったこの光景が、絵里を余計に腹立たせる。
いつもそうだ。
れいなは大人で、絵里は子供。
絵里がどんなに不条理なことで声を荒げ、怒りをぶつけたとしても、言い返したりはするが最後は結局れいなが折れる。
その度に、自分は子供なんだと思い知らされて。
「………分かった、もういい」
ここで泣くなんて、ますます子供に思えて惨めで情けなくて。
伸びてきた腕を払った時、れいなの顔が歪んで罪悪感にさいなまれた。
それでもれいなに涙を見せたくなくて、制止の声を振り切って部屋を飛び出した―――
- 39 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:46
-
―――そうだった、それで戻ってきたんだ。
今更になって後悔の念が絵里を襲う。
我儘を言って困らせて、終いにはあんな顔をさせてしまった。
甘えるなんて可愛い物ではない、本当にただの我儘だ。
もう一度布団にくるまってきつく目を閉じる。
真っ暗な世界に浮かぶれいなは笑顔でなく、最後に見た悲しそうな表情だった。
- 40 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:47
-
「おつかれさまでしたー!」
「光井ー!置いてくよー!」
「待ってくださいよ久住さーん」
「こらー小春達!廊下は走っちゃだめだって言ってるでしょー!」
スタジオ内に響く、メンバー達の声。
ラストの撮影が終了したうえに明日がオフだからか、みんなテンションが高い。
年上組は談笑しながらのんびりした歩調で、年下組は競争するかのように走って楽屋に向かう。
絵里はどちらにも加わらずにれいなを探す。
廊下の先を見ると、小春に手を引かれよろけながら走っていく背中が遠くにあった。
- 41 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:48
-
あの後一睡もできなかった所為で腫れぼったい目蓋と目の下にうっすらとできた隈。
それはメイクで隠せたけれど、絵里の沈んだ気持ちは誤魔化せない。
さゆみや里沙が気付いて心配してくれたが、曖昧に笑ってその場を逃れた。
今日一日、一言も会話をしていないどころか一度も目が合わなかった。
いや、絵里が意図的に避けていたからだ。
眠れない間考えていたこと。
絵里といたられいなは疲れるのではないだろうか。
無理をして絵里に付き合ってくれているのではないだろうか。
れいなには笑っていてほしいのに、絵里がれいなから笑顔を奪ってしまっているのかもしれない。
他の人といる時の方が、絵里といるよりも笑顔が多いかもしれない。
もしかしたら、れいなはもう絵里を好きではないのかもしれない。
考えれば考える程、悪いことばかりが頭を過る。
嫌われたくないから、絵里はれいなを避けていた。
- 42 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:49
-
愛達の後ろにくっついて歩いて到着した楽屋前。
そこの扉に腕組みをして凭れ掛かっていたのは、れいなだった。
「絵里、ちょっと」
呼んで手招きしているその表情は、どこか不機嫌なようにも見える。
前にいた愛達が心配そうな顔をして絵里を見ている。
そこから動かない絵里に痺れを切らしたれいなは、戸惑っている様子の愛達には目もくれず絵里の前まで来ると、乱暴に腕を掴んで歩き出した。
「な、なに?」
「いいから来んね」
少し前を歩く小さな背中。
手を伸ばせば簡単に触れられる距離にあるのに、なんだかとてつもなく遠くにある気がした。
- 43 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:50
-
人気のない場所まで来た時、不意に足を止めたれいなが振り返る。
「なんで、避けると?」
余計なことなど一切ない直球なれいなの言葉に唇を噛む。
避けてない、と言える態度でなかったことは絵里が一番分かっている。
絵里を見つめるれいなは怒っているような、不安そうな、泣き出しそうな、色々な感情が混ざった顔をしていた。
普段強気な瞳は頼りなく揺れていて、胸がずきりと痛む。
やはり、れいなは絵里といると笑ってくれない。
「…れいなのこと、嫌いになったと?」
「ち、違うよ!絵里は嫌いになんてなってない!れーながっ…」
「れいな?」
咄嗟に否定をしたその勢いで、奥に留めていたものまで吐き出しかけてしまった。
途中で口を閉ざしたけれどれいなはしっかり聞いていて、視線で続きを言うように促す。
- 44 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:51
-
「……れーなが…絵里のこと、嫌いになったんでしょ?」
「は?なんで」
「だって…昨日、帰れって言った」
語尾が弱々しく掠れた。
顔を俯かせ視線だけ上げてれいなの様子を窺う。
理解できずにきょとんと目を丸くしてから、思い出したかのように「あー」と一言漏らして一度髪を掻き上げた。
その手は数秒宙をふらふらと彷徨い、首の辺りに触れたり意味もなく服の裾を伸ばしたり。
落ち着きのなくなったれいなに、絵里の脳は様々な推量をする。
しかし全て絵里にとって悪い結末に結び付くものばかり。
聞くのが怖くて、ぎゅっと目を瞑った。
「……一緒に寝たら、したくなるやろ」
- 45 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:52
-
次は絵里が目を丸くする番だった。
返ってきた予想外の言葉に自ずと顔を上げれいなを見つめる。
表情は変わっていないけれど、微かに紅く染まった頬に悲哀は含まれていない。
「理由って、それだけ?」
「…悪いか」
他に理由なんてない。
ますます紅くなっていく頬が、それが嘘ではないと証明している。
「……」
「絵里?」
「………っう」
「なっ、なん泣いとぉ!」
「だってぇ……れ、なに…嫌われたって…思った、からっ」
絵里の涙を拭う指の熱が伝わり、止まるどころか更に溢れてくる雫。
止まらないそれを拭うことを諦めたれいなの指は絵里の頬を柔らかく撫で、一旦下に落ちてから身体全部で絵里を抱き締めた。
- 46 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:53
-
「昨日はれいなの言い方が悪かった、ごめん」
嗚咽で声が出ない為に首を振って答える。
背中を擦る優しい手付きに、身体の震えはゆっくりと収まっていった。
「……怖かったの」
「ん?」
「絵里が我儘言って困らせてばっかりだから、他の人といる時の方が笑ってるから…れーなに、嫌われたんじゃないかって思った」
今なら言えると、募った不安を打ち明けた。
背中にあった手が絵里の肩を掴んで二人の間に僅かな距離をつくる。
絵里よりも背の低いれいなは踵を持ち上げ、唇を触れさせた。
- 47 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:54
-
「絵里は、そのままでよか」
「れーな…」
「我儘でやきもち妬きで子供みたいで、たまに年上らしくなって…そんな絵里が、れいなは好きやけん」
にひひ、と笑うれいな。
それは他の人に見せる物とは違う、どこが違うかは解らないけれどそう気が付いた。
笑わないのではなくて、絵里には色々な表情を見せてくれているのだと、ようやく気が付いた。
今度は絵里からキスをして、額同士をくっつけ目を閉じる。
ふとれいなの言葉を思い返した時、一つ引っ掛かることがあった。
「そういえば、れーなはしたくなるからって言ったけどさぁ…絵里はしてもよかったのに」
「…疲れるんは絵里やろ?それで仕事に支障が出たらいかん」
「むー…」
「今日は一緒に寝るっちゃ」
「…なんかやらしぃこと考えてる」
「当たり前やろ」
明日はオフやけんね。
意地悪く笑うれいなの頭を小突いて、ありったけの力を込めて抱き付いた。
- 48 名前:ビタースイート 投稿日:2009/01/14(水) 18:54
-
おわり。
- 49 名前:_ 投稿日:2009/01/14(水) 18:54
-
- 50 名前:_ 投稿日:2009/01/14(水) 18:55
-
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/14(水) 22:36
-
- 52 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/15(木) 01:42
- やっぱりれなえり癒されますね
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/20(火) 19:40
- 最高ですw
楽しみにしてます!
- 54 名前:竜斗 投稿日:2009/01/21(水) 15:44
-
52名無飼育様
疲れた時にはれなえりが一番です(`・ω・´)
癒せるれなえりを書けるよう頑張ります。
53名無飼育様
ありがとーございます!
更新は亀ですがまたーりとお待ちください。
- 55 名前:竜斗 投稿日:2009/01/21(水) 15:49
-
前スレ「神様、この恋を」内の「不器用な恋の行方は」設定の話。
♂化ですので苦手な方はスルーしてください。
Sunny Holiday/れなえり
- 56 名前:Sunny Holiday 投稿日:2009/01/21(水) 15:50
-
土日月と三連休、天気予報は三日間全て快晴。
外でのデートには絶好の条件だ。
金曜日の夕方、普段通り学校帰りにれいなの部屋に来た絵里が話を切り出した。
「ねぇ、れーなぁ」
「なん?」
「明日から三連休だね」
「あぁ、そうやね」
「すごい天気いいらしいよ」
「へぇ」
「どっか遊びに行くには最高じゃない?」
「おー」
「そういえば近くにアイス屋さんができたんだって、友達が言ってた」
「俺も聞いた」
「その友達ね、明日彼氏と一緒にそこ行くんだってー」
「ふーん」
「…絵里になんか言うことない?」
「…はぁ?」
切り出しはしたものの、相手から誘ってほしいななんて思うのがちょっとした乙女心。
甘えた声で可愛く首を傾げて言ってみた。
- 57 名前:Sunny Holiday 投稿日:2009/01/21(水) 15:52
-
三連休、いい天気、近くにできたアイス屋。
このキーワードと声色で、なにが言いたいか分かってくれる人は多いはず。
というかほとんど言ってしまっているのと同じだが。
けれども相手は友人達も認める人一倍鈍感なれいな。
鈍感なうえに乙女心も理解してないれいなには、絵里がどんな答えを欲しがっているのか見当もつかない。
「なん、なにが言いたいと?」
「……ばかれーな」
「は、ちょ…なんで怒っとぉ?」
唇を尖らせてそっぽを向いてしまった絵里。
怒ってる理由は分からないが、れいなは床に座る絵里の隣に移動して顔を覗き込み、怒りの度合いを量る。
「なぁ、絵里?」
「…れーななんか嫌い」
完全に拗ねてしまったようだ。
れいなは頭をがしがし掻いて、溜め息を一つ。
- 58 名前:Sunny Holiday 投稿日:2009/01/21(水) 15:53
-
機嫌を治す方法なら熟知しているが、れいなのキャラではないしとても恥ずかしい。
それでもやはり、このままでは困る。
自分のプライドよりも絵里の方が断然大事だ。
れいなは「背に腹はかえられない」ということわざがテストに出たのを思い出した。
「…絵里」
呼んでも返事をしない絵里の頭に手を置いて、れいなの方へ引き寄せる。
抵抗なくれいなに凭れ掛かったその髪に指を通しながら、空いている手で絵里の片手を握った。
「俺ばかやけん、ちゃんと言ってくれんと分からん」
「……」
「答え教えてくれん?」
頭に額を付けて、優しく囁く。
まるでホストみたいな自分の言動に寒気が走るが、これも絵里の機嫌を治すため。
単純な絵里は頬を紅くしてれいなを見上げた。
「……明日、デートしよ?」
少し首を傾げて上目遣いでおねだりなんて。
熱くなった顔を見られないようにれいなは意味もなく髪を弄る。
- 59 名前:Sunny Holiday 投稿日:2009/01/21(水) 15:53
-
いつもなら「よかよ」と返事をくれるれいなだが、今日はなかなか口を開こうとしない。
絵里の方を向いた顔はなんだか暗くて、不思議に思ってれいなを見つめていると、
「…すまん、明日は無理っちゃ」
意外な言葉が返ってきた。
いつも絵里を優先してきたれいなが初めて絵里の誘いを断ったのだ。
「……え、なんか、用があるの?」
「親戚の子が家にくるって。で、俺が相手してやれって言われたけん」
また申し訳なさそうに謝られては、絵里も文句の一つも言えなくて。
実は結構ショックだったりするんだけれど、仕方なく頷いた。
それなら明日の分までと、日付が変わる直前まで絵里はれいなの傍を離れようとはしなかった。
- 60 名前:Sunny Holiday 投稿日:2009/01/21(水) 15:53
-
- 61 名前:Sunny Holiday 投稿日:2009/01/21(水) 15:54
-
「…で、私はれいな君の代わりってわけですか」
「やだなぁ、そうじゃなくて絵里は久しぶりにガキさんと友情を深めようと」
「結構です」
「ガキさんひどーい!」
絵里の大声に里沙は手で両耳を塞いだ。
その対応が気に入らなかった絵里は、頬を膨らませ拗ねた表情を作る。
里沙は思わず吹き出しそうになったのを懸命に堪えた。
「嘘だよ、私もたまには亀と遊びたかったし」
数年の間、親友というポジションにいる里沙は絵里の扱いには慣れている。
里沙が本心からそう言った後、ちらりと視線だけを向けた絵里に微笑めばあっさり表情を崩した。
- 62 名前:Sunny Holiday 投稿日:2009/01/21(水) 15:55
-
昨日、正確には今日の午前一時頃。
絵里から遊びの誘いを受けた里沙は珍しいなと思ったと同時に、れいなと何かあったのだろうと察しがついた。
付き合い始めてから休日は必ずれいなと過ごしていたのだ、絵里は。
そうなれば里沙が誘われたということは、多大にれいなが関係しているということで。
喧嘩でもしようものなら一日愚痴に付き合わされるので、それは勘弁してほしかった。
だが聞いた理由は大したことなく、れいなにだって用事の一つや二つはあるので仕方ない。
だから今日は久しぶりに女同士楽しく過ごすことにして、二人は駅前まで買い物にきている。
「どこ入る?」
「んー、絵里はどこでも」
「じゃあ適当に……あれ?」
「ガキさん?」
里沙の呟きが聞こえて振り返ると、数歩後ろで立ち止まっていた。
近付いて声をかけたが、一点を見つめたままぴくりとも動かない。
その肩をぽんぽん叩いたら、やっと里沙の瞳が絵里を映した。
- 63 名前:Sunny Holiday 投稿日:2009/01/21(水) 15:57
-
「どーしたのさぁ」
「…いやいやいや、なんでもない。私はなにも見てないから」
「えー?なになに」
「ちょ、見ちゃだめだって!」
あんなに凝視していたのだから、そこになにがあるのか気になるのは当然。
絵里も里沙が見ていた方に視線を向けると、里沙は慌てて視界を塞ごうとしてきた。
見ちゃだめと言われると余計に見たくなってしまって、止めようとする里沙の制止を振り切る。
道路を挟んだ向かい側、斜め前にはここら辺の若者に人気がある古着屋。
様々な人達が出入りしている入り口の前に立っている、男女のカップルが一組。
女の子は相手の腕にくっついて、楽しそうに笑顔で話している。
男の子は片手に紙袋を持ち、店の壁に寄り掛かって女の子の話に相槌をうっている。
絵里達とは反対の方を向いていて顔は見えないが、男の子が誰かなんてすぐに分かった。
「………れー、な?」
見間違うはずがない。
そこにいたのは正真正銘、絵里の彼氏である藤本れいな。
- 64 名前:Sunny Holiday 投稿日:2009/01/21(水) 15:57
-
でも、なんで。
今日は親戚がくるからと絵里の誘いを断ったれいなが、ここに。
しかも、女の子と二人で。
「…亀」
「………」
さっきとは逆に、呆然と立ち尽くす絵里に里沙が声をかけた。
しかし反応は返ってこない。
こうなることが目に見えていたから、里沙は止めようとしていたのだ。
里沙は見て見ぬ振りをして通り過ぎればよかったと後悔した。
「なんで…」
「亀、とりあえず一回戻ろう」
なぜれいなが女の子と二人でいるのかは知らないが、とにかくここから離れた方がいい。
絵里の腕を掴んで来た道を引き返そうとした時、視線に気付いたのかれいながこちらに顔を向けた。
びくっと身体を震わせる絵里。
れいなは絵里を見てどんな反応を示すのか。
やばいという顔をするのだろうか、女の子の手を振り解くだろうか。
もし逃げたりなんかしたら、僅かな疑いは確信に変わってしまう。
- 65 名前:Sunny Holiday 投稿日:2009/01/21(水) 15:58
-
「絵里!」
不安に押し潰されそうで強張っている表情の絵里とは正反対に、れいなは笑って手を振っていた。
思いがけないれいなの行動で、絵里は手を振り返すこともできずきょとんとしている。
れいなは左右を確認した後、腕にくっついている女の子を連れて道路を渡り絵里の前までやってきた。
「…れーな、今日は親戚の子がくるって」
「あぁ、そうやけど」
じゃあなんで、女の子と二人で楽しそうに買い物なんてしちゃってるんですか。
腕なんか組んじゃってるんですか。
っていうか、その子は誰ですか。
言いたいことがありすぎて上手く言葉がまとまらない。
ずっとれいなにくっついたままの子を見つめていると、れいなは「ん?」と首を傾げた。
「絵里、もしかして分からん?」
「……なにが」
「まぁ俺も久し振りに会ってびっくりしたけど。ほら、挨拶しぃ」
分からんも何も、初対面だし。
心中穏やかではなかったが、女の子がにこりと笑うので絵里も引きつった笑顔を返した。
- 66 名前:Sunny Holiday 投稿日:2009/01/21(水) 15:59
-
「こんにちは亀井さん、小春です」
「こはる?」
その名前には聞き覚えがあった。
確か新潟に住んでる小さくて可愛い小学生の女の子で、れいなの従妹。
数年前に会ったきりなので、今はどんな風に成長したのかは分からない。
そういえば、目の前にいる『こはるちゃん』はなんとなくその子に似て―――。
「え………あの小春ちゃん!?」
「はい、小春でーす」
手を挙げて元気に返事をしたその子。
日本人離れした顔、スタイルもよく、背は絵里よりも数センチ高い。
小学生の頃のイメージしか残っていない絵里には、『こはるちゃん』と『小春ちゃん』が同一人物だと理解するのに少々時間を要した。
「せっかく東京きたから買い物したいとか言い出して、俺が付き合わされてると」
うんざりだと言うように溜め息を吐くれいな。
寝ていたところを無理矢理起こされて、ずっと連れ回されていたらしい。
すでに疲れているれいなとは対照的に、小春はまだまだ元気一杯な様子。
「そうだったんだ…」
「今日はこいつのお守りやけん…明日、な?」
「…わかった」
- 67 名前:Sunny Holiday 投稿日:2009/01/21(水) 16:00
-
絵里の頭を一度撫でて歩き出したれいなをとことこ追いかける小春。
が、すぐにまた絵里の元へと引き返してきた。
「お兄ちゃんから聞きました、付き合ってるんですよね?」
「え、うん」
お兄ちゃんとはれいなのこと。
聞かれて答えた絵里は、だらしなく頬を緩める。
そんな絵里を小春はじっと見ていて、見下ろされている所為か少し威圧感を受けた絵里がたじろいだ時だった。
「小春もお兄ちゃん好きなんです」
「…………へ?」
「従兄妹でも結婚できるんですよね?」
「え、あー、そうだね」
小春の視線が絵里から里沙に移り、驚いた里沙は反射的にそう答えた。
満面の笑みを浮かべた小春が、親指と人差し指を立てて絵里に向ける。
「亀井さんには負けません」
ばーん。
と、銃を撃つ真似をした小春は背を向け小走りでれいなを追った。
撃たれた絵里はというと、なにも言い返せずにれいなと小春の後ろ姿を見ているだけ。
「…新たなライバル誕生だね、亀」
里沙の溜め息混じりの呟きも、放心状態の絵里には届いていなかった。
- 68 名前:Sunny Holiday 投稿日:2009/01/21(水) 16:01
-
おわり。
- 69 名前:_ 投稿日:2009/01/21(水) 16:01
-
- 70 名前:_ 投稿日:2009/01/21(水) 16:01
-
- 71 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/24(土) 06:55
- 亀井ちゃん可愛い
- 72 名前:竜斗 投稿日:2009/01/26(月) 23:03
-
71名無飼育様
ありがとうございます。
田中さんをかっこよく、亀井さんを可愛くをモットーに書けたらいいなと思ってます。
- 73 名前:竜斗 投稿日:2009/01/26(月) 23:04
-
田亀エロ第2弾。
相変わらずの℃Sれいなさん。
- 74 名前:竜斗 投稿日:2009/01/26(月) 23:05
-
悪戯心/田亀
- 75 名前:悪戯心 投稿日:2009/01/26(月) 23:05
-
「れーな、見て見て」
風呂から出てきた絵里が、三人掛け程のソファーの端に座ってテレビを見ていたれいなを呼んだ。
背後にいる絵里の方に振り返ると、そこにいた絵里はいつものパジャマ姿ではなかった。
くるりと一回転して見せる絵里が身に付けているのは、黒生地のワンピースにフリルの付いたエプロン。
スカートの部分は何層も布を重ねてボリュームを出している。
至ってシンプルな、世間一般で言うメイド服。
「…で?」
「で?って、なんか感想ないのぉ?」
「別に、何度も見とぉし」
後ろに向けていた首を戻してれいなの前まで来た絵里を見上げると、れいなの返答が気に入らなかったのか少し頬を膨らませ不機嫌な様子。
- 76 名前:悪戯心 投稿日:2009/01/26(月) 23:06
-
メイドの衣装など、番組で着ているのを数えきれないくらい見ている。
しかも絵里は一時期自分のコーナーで毎週そういう系統の服を着ていたのだ。
だから感想を求められても、「メイド服やね」としか答えようがない。
「てか、それどうしたと?」
「さゆが絵里に似合うってくれた」
絵里の答えにれいなはやっぱりかと額に手を当てた。
これまでもさゆみは数回、絵里に似合うと言い制服などのコスプレのような衣装を渡していた。
どこで手に入れているのかは不明だが。
初めはれいなも驚き、たぶんさゆみが仕向けた通りの展開になっていたけれど、さすがにもう慣れてしまった。
「絵里はちょー優秀なメイドさんなんですよ?」
「…へぇ」
「あー、絶対信じてない」
信じるも何も、そんな仕事をしたことないだろう。
わざと絵里に聞こえるよう深く息を吐き出すと、今度は唇を尖らせる絵里。
- 77 名前:悪戯心 投稿日:2009/01/26(月) 23:07
-
ソファーに踏ん反り返り、何やらぶつぶつ呟いている絵里を眺めていたら、ちょっとした悪戯を思いついた。
結局さゆみの思い通りになってしまうのは癪だったが、この先のことを考えにやけそうになるのを抑えて絵里を呼ぶ。
「なぁ、絵里は優秀なメイドなんやろ?」
「はい!」
「じゃあ…れいなの言うこと、なんでも聞けると?」
「もちろんです」
メイドに成りきっているのか敬語で話す絵里は、れいなの悪戯心に火を付ける。
組んでいた足を下ろし、肘をソファーの背凭れに掛けたまま絵里に手招きをする。
れいなに対して警戒心など全くない絵里は構ってもらえると思ったのか、ふにゃふにゃ笑いながられいなのすぐ前に立った。
「上乗って」
「……へ?」
「早く」
足を揺らしてここだと示す。
不思議そうな顔をしつつも、絵里はれいなの足を跨いでソファーの上に乗った。
ひらひらしたその服を触ったり摘んだりしてみる。
- 78 名前:悪戯心 投稿日:2009/01/26(月) 23:07
-
「これどうなっとぉと?」
「背中にファスナーがついてるの」
自分でもこういった衣装は着たことがあるが、物によってボタンだったりファスナーだったりで様々な種類がある。
これは背中のファスナーを下ろすだけで脱げるタイプのようだ。
ふーんと呟き、背中に触れていた手で一気に下までファスナーを下ろした。
「きゃっ、れーな!」
「れいなじゃなくて、ご主人様」
「…ご主人様?」
慌てて背中に向かう絵里の手を捕まえてそう言うと、絵里は小首を傾げれいなの言葉に疑問符をつけて繰り返した。
ニュースなどで見ている時はこんな風に呼ばれて何がいいんだと思っていたが、今ならその気持ちが解らなくもない。
相手が絵里限定での話だが。
絵里を見上げ、悪戯開始の合図を出す。
- 79 名前:悪戯心 投稿日:2009/01/26(月) 23:08
-
「キスして」
またソファーに身体を預けて背凭れに両肘を付く。
優秀なメイドならば、ご主人様の命令は絶対である。
絵里がどこまでれいなの命令に従うか。
それが、れいなが思いついた悪戯。
絵里の手がれいなの頬を包み、そっと唇が合わさる。
数秒重ねただけの唇が離れ、不満げにれいなが眉根を寄せると絵里は目を逸らした。
それでも一応絵里は従ったので、次の行動に移す。
「上だけ、服脱いで」
「え…」
「脱げって」
「だ、だって」
「ご主人様にはちゃんと敬語使わんといかんなぁ」
「う……はい」
「なんでも言うこと聞くんやろ?」
意地悪く口角を上げて絵里をじっと見る。
その為に先に背中のファスナーを下ろしておいたのだ。
しばらく視線を彷徨わせ躊躇していた絵里が、意を決して身に纏っているメイド服を肩から滑らせていく。
- 80 名前:悪戯心 投稿日:2009/01/26(月) 23:09
-
腰の辺りまで露になった肌。
だが一部だけ、まだ隠されている部分がある。
「それも」
胸を覆い隠している布を顎で指す。
耳まで紅く染めた絵里は微かに震える手を背中に回し、繋ぎ止めているホックを外した。
留め具が取れたそれは肌を滑り、れいなの太股の上へ落ちる。
手に取り床に落としたついでに、横にあったリモコンを取ってテレビを消した。
音の消えた空間。
何も身に付けていない絵里の上半身は点けられたままの蛍光灯に照らされ、はっきりとれいなの瞳に映った。
「もっかい」
「…ん」
「そうじゃなかって」
れいなが自分の顎を持ち上げて催促すると唇が触れる。
すぐに離れようとした絵里の後頭部を抑え、舌で唇を抉じ開け口内に入り、絵里の舌を絡めとった。
- 81 名前:悪戯心 投稿日:2009/01/26(月) 23:10
-
「ん……ふぅ、ぁ…」
呼吸が出来ないくらい乱暴に口内を掻き乱す。
上にいる絵里の口端から零れた唾液が、糸を引いてれいなの顎を伝った。
絵里の唇を舌でなぞった後、自分の顎を指で拭う。
拭った液を擦り付けるように、絵里の腰から脇腹を何度も撫でる。
「ん?どうしたと?」
視線を感じて見上げると、瞳を潤ませた絵里が唇を尖らせてれいなを見つめていた。
絵里の両手が脇腹を撫でていたれいなの手を包み、自分の胸へと誘導する。
押し当てられた手に直に伝わる柔らかい感触。
何をしてほしいかなんて解りきっているが、れいなは首を傾げて解らない振りをする。
「なん?」
「……触って、ください」
小さな声だったけれど、きちんと言い付けを守っている絵里。
れいなはくつくつ喉を鳴らして笑い、触れていた手に力を込める。
- 82 名前:悪戯心 投稿日:2009/01/26(月) 23:11
-
柔らかさを味わいながらすでに主張している胸の先にも指を触れさせた。
「…あ、っ……ん…」
吐き出す息に声が混じり始めたのを確認して、舌を胸に這わせる。
前歯で刺激して舌でつつくと、絵里の身体が僅かに震え出す。
「はぁ…ぁ、ん……っ」
強めに噛んだり舌で押し潰したり、胸の突起ばかりを弄び続けた。
もぞもぞと絵里が足を動かすが、間にれいなの足がある所為で閉じることは出来ない。
絵里のその動きの意味を理解したれいなは、まだ下半身を覆ったままの布を引っ張る。
「汚れるとめんどいけん、全部脱いで」
下着ごと下ろして絵里に片足ずつ抜かさせ、床に投げ捨てた。
汚れると洗うのが面倒だったのだが、絵里の太股を伝う液を見て、もう遅いかと溜め息を吐いた。
白濁した液を指で拭いながら上まで滑らせ、そこに辿り着くと指の腹で表面を撫でる。
- 83 名前:悪戯心 投稿日:2009/01/26(月) 23:12
-
「あっ!ん、ぅ…はぁ…」
充分すぎるほどに濡れたそこは、れいなが指を動かす度に水音を響かせる。
何度も往復させているうちに大きくなる、絵里の身体の震えと声。
そろそろ絵里も限界だろう。
指の動きを止めると、焦点の合わない瞳が先を急かすようにれいなを見つめる。
「ほら、自分でするとよ」
指を二本、そこにあてがう。
肘掛けに置いた左腕で頬杖を付いて、れいなからは何もしないと態度で表した。
虚ろな瞳の絵里はれいなの肩に手を置き、少しずつ腰を落とす。
僅かに指が入ると、絵里の足に力が入り腰を浮かせた。
- 84 名前:悪戯心 投稿日:2009/01/26(月) 23:12
-
逃げないよう身体を起こして左手で腰を掴み、首を伸ばし唇に軽く触れる。
落ち着かせるように長く一息吐いた絵里は強張っていた足から力を抜き、徐々にれいなの指を飲み込んでいく。
「んん、あっ…ぁ……ふ、ぁ!」
腰を下ろしきって一息つくと、ゆっくり持ち上げまた下ろしてと同じ行動を繰り返す。
黙って絵里を見つめているれいなの顔に、俯いた絵里の甘い息がかかる。
垂れ下がった髪で絵里の顔が見えないのが不満で、絵里の顎を掴み無理矢理顔を上げさせた。
「んぅ…やっ、だ」
「れいなの方見てろ、目逸らすんやなか」
「…ぅー、っ、あ…は、はぁ…」
頭を振ってれいなの手を外そうとした絵里を至近距離で睨む。
抵抗を止めた絵里は泣きそうな表情でれいなの命令に従った。
- 85 名前:悪戯心 投稿日:2009/01/26(月) 23:13
-
荒くなっていく呼吸に合わせ、腰の動きがだんだんと早くなっていく。
そこから滴り落ちる液がれいなの服を濡らす。
「あーあ、ご主人様の服汚して…だめなメイドやねぇ」
「ごめっ、なさ…っあ…!」
「そんなんじゃ許さんよ」
ずっと動かさずにいた指を根元まで思い切り突き立てた。
すると悲鳴に似た声を上げて仰け反り、達してしまったらしい絵里の中がれいなの指を締め付ける。
それでもれいなは指の動きを止めない。
「あぁっ!…あっ、やぁ……れーなぁ!」
「れいなじゃないやろ」
「んん…ごしゅじ、様っ、あ…ふぁ!」
がくがくと膝が震え自分の身体を支えられなくなった絵里は、れいなの首に腕を回してしがみつく。
指は締め付けられて動かしづらいが、出来る限り奥まで到達させて強く中を引っ掻いた。
- 86 名前:悪戯心 投稿日:2009/01/26(月) 23:14
-
「あ、ぁ!……いたっ…やぁっ!」
「こんくらいの方が気持ちいいやろ?」
「…っは、ん!…気持ちぃ、です…っ」
指を伝うどろっとした熱い液体と耳にかかる絵里の荒い息遣いが、れいなの興奮を更に煽り立てた。
容赦なく中で暴れるれいなの指に、絵里の身体が小刻みに跳ねる。
「んぁ、あ、あ!…んーっ、ぅ、はぁ……ぁ―――!」
れいなが絵里の首に歯を立て、指で一番弱い箇所を突いた瞬間、声にならない声を上げた絵里は大きく身体を跳ねさせ二度目の絶頂を迎えた。
小さく声を洩らしながら身体を震わせる絵里の背中を擦り、タイミングを見計らってゆっくり指を抜く。
指に絡みついた液体に鈍く光が反射する。
どうしようかと考えたけれど絵里がしっかり抱き付いて離れないので、もう汚れてしまっている自分の服の裾でそれを拭った。
- 87 名前:悪戯心 投稿日:2009/01/26(月) 23:15
-
「たまにはこういうのもよかね」
「……も、ばかぁ」
余韻でいつもより甘く響く舌足らずな絵里の声。
それによって鎮火したはずの火種が再び燻り始め、れいなに凭れ掛かってぐったりしている絵里をソファーに寝かせる。
鼻先すれすれまで顔を近付け、まだぼんやりしている瞳を覗き込んでれいなは笑みを浮かべた。
「ご主人様にそんなこと言っていいと?」
「ふぇ?」
「まだ、仕事は終わっとらんよ」
絵里が聞き返す前に口を塞ぐ。
れいなの肩を押して絵里がくぐもった声を洩らしたのも束の間、力の抜けた絵里の腕がソファーの上に落ちる。
本当はここまでするつもりはなかったのだが、れいなを煽った絵里が悪い。
下になった絵里を見下ろして、一人頷いた。
- 88 名前:悪戯心 投稿日:2009/01/26(月) 23:15
-
おわり。
- 89 名前:_ 投稿日:2009/01/26(月) 23:16
-
- 90 名前:_ 投稿日:2009/01/26(月) 23:19
-
- 91 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/31(土) 22:40
- エロれなえりいいっすねー
- 92 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/20(金) 01:03
- えろい!w
- 93 名前:竜斗 投稿日:2009/03/08(日) 20:11
-
91名無飼育様
ありがとーございます。
エロはほとんど書いたことがないので難しいです(´・ω・`)
92名無飼育様
エロいですか、よかったw
- 94 名前:竜斗 投稿日:2009/03/08(日) 20:13
-
超短編を1つ。
「欲しかったもの」
- 95 名前:欲しかったもの 投稿日:2009/03/08(日) 20:13
-
あの時私が欲しかったものは、それじゃないんだよ。
- 96 名前:欲しかったもの 投稿日:2009/03/08(日) 20:14
-
「すいません、休みなのに付き合ってもらっちゃって」
「いやいや、私も買い物したいなーとか思ってたから」
平日の昼間とはいえ、若者が集まる街には曜日も時間も関係ない。
目立たないようにしているつもりでも、なんとなく感じる視線。
私と隣を歩く彼女は目深に帽子を被って、なるべく小声で会話をしながら歩道の端を歩いていた。
「さゆは用があるって言うし、一人じゃなかなか決めらんなくて」
「そんな悩まなくても、なーんでも喜ぶんじゃない?」
「それ、さゆにも言われました」
昨日、仕事終わりに買い物に付き合ってほしいと頼まれた。
なんでも、数日後が恋人との記念日だとか。
彼女がそういうことをきちんと覚えていて、しかもプレゼントを買うと聞いて意外だと思いつつ、私はその誘いを快く受けた。
確かに純粋に買い物をしたいのもあったけど、一番大きかったのは不純な動機。
彼女と、二人きりで過ごせるから。
- 97 名前:欲しかったもの 投稿日:2009/03/08(日) 20:15
-
「こんなんどうですかね?」
「あーいいね、可愛いじゃん」
「でもこっちも…」
アクセサリーショップの片隅にある指輪コーナー。
一つ一つ手に取り、真剣に色や形を確かめる。
私は彼女に相槌を打ちながら、指輪を見る振りをして彼女の横顔を見つめていた。
きっと恋人の顔を思い浮かべているんだろう。
その表情は優しくて、幸せそうで。
彼女が微笑む度に、私の胸はぎゅっと締め付けられた。
- 98 名前:欲しかったもの 投稿日:2009/03/08(日) 20:17
-
しばらく悩んだ後一つに決めた彼女は一人、レジで会計を済ませてきた。
用事は終わったけどまだ時間があるからと、二人で色々お店を回ってみる。
今だけは、彼女は私のだと思うと幸せだった。
けれど時間を止めるなんて魔法みたいなこと、できるはずもない。
日も落ちかけて辺りが薄暗くなってきた頃、私達は駅に到着した。
「新垣さん、手出してください」
「え、こう?」
改札の手前で彼女が鞄の中を漁りながらそう言う。
特に何も考えず、言われた通り右手を前に出してみた。
私の手を取った彼女は、鞄から取り出した物を私の人差し指へ。
―――………え?
- 99 名前:欲しかったもの 投稿日:2009/03/08(日) 20:19
-
それを見て固まった私に、彼女は悪戯っ子な笑みを浮かべた。
「今日付き合ってくれたお礼です」
「で、でも悪いよ」
「いいけん、貰ってください。新垣さんそれ見てたやろ?」
あぁ、彼女は優しい。
けど、鈍感だ。
私が見ていたのは、欲しかったのは、指輪じゃなくて―――
「……うん、ありがと」
―――田中っちだよ、とは言えなかった。
- 100 名前:欲しかったもの 投稿日:2009/03/08(日) 20:19
-
彼女と別れて電車を乗り継ぎ、駅から出て家までの帰り道を歩く。
右手の人差し指がじわりと熱くなった気がして足を止めた。
それに触れてみたけれど、冷たい外気に晒されていた指輪に彼女の熱は残っていない。
でも彼女が触れた指輪は、彼女の体温を憶えている。
指から抜き取り、横を見遣ると小さな池みたいなところがあった。
一瞬そこに投げてしまおうかと思った。
うん、思っただけ。
苦笑いと涙が一粒だけ零れた。
帰ったら、視界に入らないように机の奥にでもしまっておこう。
指輪の存在と一緒に、彼女への想いも忘れられたらいい。
あなたが私のものにならないのなら、あなたを思い出す物なんていらない。
- 101 名前:欲しかったもの 投稿日:2009/03/08(日) 20:20
-
あの時私が欲しかったものは、間違いなくあなたでした。
- 102 名前:欲しかったもの 投稿日:2009/03/08(日) 20:20
-
おわり。
- 103 名前:_ 投稿日:2009/03/08(日) 20:21
-
- 104 名前:_ 投稿日:2009/03/08(日) 20:21
-
- 105 名前:竜斗 投稿日:2009/03/17(火) 21:00
-
いつもよりちょい長め。
「世界でいちばん」
- 106 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:01
-
鈍感で無神経で生意気でちっちゃくて口が悪くて目付きも悪くて。
女心なんて、これっぽっちも理解してない。
なのに、なんで、それでも、世界でいちばん―――
- 107 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:02
-
「………別れた?」
「おぅ」
赤くなった頬に手を当て、足を投げ出し、だらーっと椅子に凭れているれいなが不機嫌な顔で返事をした。
「…付き合って何日?」
「あー……四日?」
「…二番目に早い記録だね」
れいなの前の席の椅子を借り、れいなの方を向いて座っていた絵里は呆れたように溜め息を吐いた。
ここは二年のれいなの教室。
同じ高校の三年生、絵里の携帯にメールが届いたのは今から五分程前、六限目が終わってすぐだった。
開いたメールには『待ってる』とたった一言。
れいなが中学に入った辺りから、何度か同じ内容のメールが絵里に届いている。
これで何回目だろうか。
指折り数え、五までいって面倒になり止めた。
- 108 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:03
-
「朝、昼休みに音楽室に来てって言われたっちゃん」
「うん」
「けど、れいなすっかり忘れてて…昼休みが終わるぎりぎりに思い出して行ったと」
「…うん」
「んで着いたら怒っとって、れいなが謝ったら『れいな、私のこと好き?』って聞かれて」
「……なんて言ったの?」
「よく分からん、って」
「………」
彼女と別れるまでの経緯。
答えは解っていたけれど、やはり呆れるしかなかった。
あの一言メールが届くのは、れいなが彼女と別れた時だと決まっていた。
大抵どこかに呼び出され、忘れていたれいなが遅刻して、最終的に「私のこと好き?」と聞かれたれいなが馬鹿正直に「分からん」と言って終わりを迎える。
ただ今回の彼女は、去る前にれいなに平手打ちをくらわせたらしい。
ちょっと腫れたれいなの頬が気になるが、自業自得なので心配でも口には出さなかった。
「…今回で何人目?」
「えー?覚えとらんよ」
考える素振りすら見せずあっさり答えるれいなに、絵里は大袈裟に項垂れた。
- 109 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:03
-
―――なんで絵里が覚えてるのに、本人が覚えてないの?
勉強は苦手な絵里だけれど、これまでのれいなの彼女のことははっきり覚えている。
初めてれいなに彼女ができたのは中学二年の時。
最短記録である二日で別れたのは、れいなが高校一年の時。
先輩、後輩、同級生。
一時期は教師と、なんて噂があったが、それはただの噂だ。
幼い頃からずっと一緒、いわゆる幼馴染みの絵里はれいな以上にれいなのことを覚えている。
幼馴染み、もしもれいなへの感情がそれだけだったら、きっと絵里も忘れられていたのに。
「つーか、いつも向こうからやのに…なんでれいなが振られると?」
「…自分の胸に手当てて考えてみたら?」
首を傾げて唸るれいな。
絵里は窓の外に視線を向け、声にはせずに呼気で「ばか」と呟いた。
しばらくどちらも黙り込み、グラウンドにいる運動部の声がやたら教室に響く。
- 110 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:04
-
「…れーな、さゆは?」
長い沈黙に耐えられなくなって、ここにいるはずの幼馴染みの名前を出した。
「委員会やって」
「ふーん…まだ時間かかるのかな」
「もう終わるやろ、なんか確認するだけって言っとったし」
「れーな、今日は一緒に帰るでしょ?」
昨日までれいなと帰っていた相手はもういないのだから、と当然れいなは頷くと思っていた。
凭れていた椅子から身体を浮かせたれいなはちらりと壁に掛けられた時計に目をやった後、首を横に振った。
「え、な、なんで?」
思わずがたっと音をたてて立ち上がり、声は上擦ってしまった。
絵里の反応に肩を跳ねさせ何度か瞬きをしたれいなは、顔にかかった自分の髪を鬱陶しそうに払い退ける。
それからまた目だけで時刻を確認すると、
「まぁ、その…用があると」
詳しくは話さず、机に頬杖をついてさっきまで絵里が見ていた窓の外に顔ごと向けた。
- 111 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:05
-
何か隠している。
絵里は瞬時に悟ったが、れいなの横顔が絵里を拒絶しているように見えて、深く追及することはできなかった。
「お待たせーれいな。あ、やっぱり絵里もいた」
開けられっ放しのドアの方から聞こえたほわほわした声に、絵里とれいなは顔を向けた。
委員会を終えたさゆみが手を振って二人の傍までのんびり歩み寄る。
「絵里聞いた?れいなまた振られたって」
「…うるさかね」
「本当のことじゃん、仕方ないから慰めてあげるの。ねー、絵里?」
笑って絵里に同意を求めるさゆみ。
絵里は上手く笑い返せていただろうか。
「カラオケでも行く?」
「え?でもさゆ、れーな用があるって」
「そうなの?さゆみ聞いてないんだけど」
「さゆに言うとどこ行くのとかうるさいけんね」
「ひどーい!まぁ聞くけどさ」
- 112 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:06
-
普段通りの掛け合いをしつつ、さゆみが自分の席に置いていた鞄を手に取る。
立ったままだった絵里も、それを合図に足元にある鞄を持つ。
れいなは絵里とさゆみの様子を眺めているだけで動く気配はない。
「れいなは行かないの?」
「もうちょっと時間あるけん、ここにおる」
「じゃあ絵里、二人で行こ?」
「…うん」
「れいな、また明日ねー」
「おー」
先を歩くさゆみを追って足を踏み出す。
最後に盗み見たれいなは、絵里の視線に気付かなかった。
- 113 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:06
-
- 114 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:07
-
絵里とれいな、それともう一人、れいなと同い年のさゆみの三人は幼稚園からの付き合いだ。
絵里だけは一つ年上だったが、年によって分けられる学校を出れば三人はずっと一緒。
それぞれの家や近所の公園で日が暮れるまで遊び、毎年行われる夏祭りにはもちろん三人で行った。
小さな頃泣き虫だった絵里をいつも守ってくれたのは、れいなだった。
からかってくる男の子と絵里の間に立つ背中。
泣いている絵里の頭を撫でてくれる暖かい手。
絵里が泣き止んだ後に見せる笑顔。
絵里の名前を呼ぶ柔らかい声。
『絵里は泣き虫やね』
『ずっとれいなが守ってやるけん』
全部、絵里のものだと思っていた。
- 115 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:08
-
れいなが変わってしまったのは、絵里がれいなへの恋心を自覚したのは、れいなに彼女ができた頃。
その年の夏祭り、絵里の隣にれいなはいなかった。
放課後は彼女と帰宅し、休みの日には二人で出掛け、学年の違う絵里との時間はほぼ皆無。
れいなが隣にいないのが寂しくて、れいながその人と笑っているのを見るのが辛かった。
数ヶ月後、彼女と別れたれいなは再び絵里達と同じ時間を過ごすようになった。
だがそれもほんの一時、すぐにできたれいなの新しい彼女。
そうなるとれいなはまた絵里から離れていく。
そんなことを繰り返した数年間。
絵里はただ、れいなに彼女ができる度に早く別れてと願うしかなかった。
- 116 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:09
-
- 117 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:09
-
「…絵里、さいてー」
「なんで?」
学校帰りにお邪魔したさゆみの家。
さゆみのベッドに寝転がってぽつりと零した絵里の言葉を、さゆみは聞き逃さなかった。
「れいなが別れたんだから、今嬉しいんじゃないの?」
大きな鏡をテーブルに置いて前髪を弄りながらさゆみが絵里に問う。
さゆみは何年も前から絵里の気持ちを知っていた。
だからそう言ったのだが、横目で見た絵里は唇を尖らせて泣きそうな顔をしている。
「嬉しいよ…でも、嬉しいって思うのが最低なんだよぉ」
うつ伏せになって足をばたつかせた。
絵里が笑顔の裏でこんな風に考えているとれいなが知ったら、軽蔑されるかもしれない。
そうならない為、表面に出すまいと必死に心の奥底に押し留め続けている。
- 118 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:11
-
「そう?さゆみはいいと思うけど」
「…なんで」
「だって好きな人に彼女がいたら誰だってそう思うんじゃない?さゆみだって、もし藤本さんに彼女がいたら別れちゃえって思うよ」
ね?と微笑んださゆみに、重かった身体が僅かに軽くなった気がした。
けれどさゆみが去年からお付き合いしている藤本さん――美貴は元々彼女がいたわけではないし、告白したのは美貴の方。
始まりも約一年経った現在も、なんの問題もなく幸せなさゆみに、本当に絵里の気持ちが解るのかと疑念を抱いた。
いや、これは単なる八つ当たりと羨望。
大事な幼馴染みを妬ましく思ってしまう自分が余計に惨めで情けなくて、じわりと目頭が熱くなる。
膝立ちで絵里に近寄ったさゆみは、顔を布団に押し付けた絵里の頭を優しく撫でた。
- 119 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:11
-
「………ごめん、さゆ」
「うん、いいよ」
いつだってさゆみは、絵里よりも大人だ。
怒りもせず、言葉少なにただ頭を撫でるのはれいなと似ている。
さゆみの手の暖かさと、記憶に残るれいなの手の暖かさがだぶって、少しだけ泣いた。
- 120 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:12
-
- 121 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:13
-
「ただいまー」
オレンジに染まっていた空が黒に包まれて、そろそろ亀井家では夕飯の時間。
さゆみの家から徒歩三分の自宅に到着した。
階段を上がり、普段通り部屋の扉を開くと、
「おかえり」
なぜか、れいながベッドに寄り掛かかり絵里に向かって片手を上げていた。
自分の部屋にれいながいるとは考えもしなかった絵里は、目を丸くして立ち尽くす。
「絵里?」と名前を呼ばれ、我に返った絵里は慌てて扉を閉めてれいなの傍に座り込んだ。
「なっ、なんでいるの?」
「あー、ちょっと絵里に話があって。とりあえず荷物置いてきんしゃい」
れいなに促され、鞄を定位置である机に置いてかられいなの前に座り直す。
一度家に帰ったらしく、れいなは私服姿。
制服以外のれいなを見たのは、新しい彼女ができて以来なので四日振りだ。
相変わらずの派手な原色に、ほんの数日空いただけなのになんだか判らないがほっと安堵した。
- 122 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:13
-
目線を上げた絵里とれいなの視線がぶつかり、心臓が大きく脈打った。
「話って、なに?」
若干、声が震えた。
暑くもないのに汗ばむ手を握り締め、早くなった鼓動を悟られまいと平静を装う。
緊張している、なぜ?
一体何を期待しているんだ、絵里は。
ただの世間話、学校の宿題のことかもしれない。
れいなは放課後に用があるとどこかに行ったけれど、もしかして―――という悪い選択肢は頭から消した。
だってまさか別れたその日になんて、と自分に言い聞かす。
それよりも絵里にとって良い話、僅かな可能性を信じてれいなの言葉を待った。
「っと…その……」
「……」
「彼女、できた」
―――あぁ…やっぱり、ね。
- 123 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:15
-
期待する絵里も馬鹿だけど、いちいち報告しにくるれいなはもっと馬鹿だ。
れいなはいつもそうだ、いつも、いつも。
彼女ができた、と必ず絵里に報告する。
話があると絵里に淡い期待を持たせるくせに、次の瞬間一気にどん底に突き落とす。
―――どうして、
「…用事があるって、それ?」
「んー、まぁ」
「…誰?」
「同じ学年の三組の子、けっこう可愛かったけん。…絵里?」
黙って俯いた絵里を覗き込んでくる。
れいなの視線から逃げるように立ち上がり、きょとんとした顔で絵里を見上げているれいなに背を向けた。
- 124 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:15
-
「絵里?」
「…帰って」
「は?」
「帰ってよ!」
れいなに顔は見せず、細い腕を掴んでれいなを無理矢理立たせた。
そのまま引っ張って数歩進み、扉を開けて前のめりになったれいなの身体を部屋の外に押し出す。
何か言いたげにれいなが口を開いたが、言葉を待たずに絵里は扉を閉めた。
「絵里、絵里ー?」
絵里を呼ぶ声と、扉を叩く音。
扉に背を預けて耳を塞ぐ。
もう、れいなの口から他の女の子の話なんて、聞きたくない。
今はれいなの声すら、聞きたくない。
―――どうして、れーなは、
- 125 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:17
-
どれくらい経っただろう。
気付けば扉の振動はなくなっていた。
音を遮断していた手をどかすと、耳に届くのは時計の秒針と外を歩く人達の笑い声。
ふっと身体から力が抜けて、その場にずるずるとへたり込んだ。
一粒落ちた滴をきっかけに、次から次へと涙が溢れ出す。
「……っ、う……ばかぁ」
『好きじゃないのになんで付き合うの?』
昔、れいなに聞いてみた。
そうしたられいなは首を捻って考えた後、
『せっかく告白してくれたのに、断ったら可哀想やろ?』
そう言って、無邪気に笑った。
れいなは優しい。
告白されれば付き合って、誘われれば毎日でも会いに行って。
自分よりも相手を優先させるれいなは、優しいと思う。
でもそれが相手を傷つけていることを知らない。
好きの気持ちがないのに付き合ってもらってもただ辛いだけってことを解ってない。
その優しさが間違っていることに気付いていない。
- 126 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:18
-
もし絵里が好きだと言ったら、れいなは付き合ってくれるだろう。
それでもそうしないのは、今までの女の子達と同じ枠に入れられるのが嫌だったから。
「絵里だって……」
ずっと好きだった。
れいなが絵里の世界の中心だった。
れいなが他の誰かのものになるなんて許せなかった。
れいなには、絵里だけを見ててほしかった。
伝えたいことは一つしかないのに。
その瞳に絵里が映っていないから、喉の奥に引っ掛かってしまう僅か二文字。
―――どうして、れーなは、絵里だけのものにならないの?
夕飯の時間だと呼びに来た母親が絵里の姿を見て驚いていたけれど、何も聞かずに一階へと降りて行った。
泣いて泣いて、泣き疲れた絵里はいつの間にか夢の中へ。
そこにいたれいなは、絵里に手を差し出して無邪気な笑顔を見せる。
夢の中でさえ、伝えたい言葉は音にならなかった。
- 127 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:18
-
- 128 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:19
-
「れいなと何かあったの?」
昼休み、絵里の教室までやって来たさゆみが開口一番そう言った。
今朝起きてすぐ、絵里はさゆみにだけ『今日は先に行く』とメールを送っていたのだ。
ここにはいないれいなを含め、三人は家から学校まで徒歩通学で、絵里の家の前で待ち合わせて三人で一緒に登校している。
待ち合わせ場所は変えず、れいなが到着して歩き出したさゆみに「絵里は?」とれいなが訊ねたことで、さゆみは絵里がれいなには連絡していなかったのだと知った。
この場合、絵里とれいなの間で何かあった、そう考えるのが妥当だろう。
れいなは不思議がっていたので、理由は知らないはず。
だからこうして、昼休みを利用してさゆみは絵里に会いに来たのだ。
「……別に」
「うそ、絵里は隠し事できないんだから」
「…れーなは?」
「さぁ、ちょっと出てくるってどっか行ったの」
「そう…あ、絵里も用があるんだけど」
「さゆみも絵里に用があるの」
腕を掴むさゆみの手が、逃げることを許さなかった。
- 129 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:21
-
教室の出入り口では邪魔になるからと、あまり人が通らない校舎の隅の廊下まで連れていかれた。
到着しても無言で絵里の腕を捕えたまま、絵里の言葉を待っているさゆみ。
乾いた唇が上手く開かなくて、一度舌で舐めて湿らせる。
絞り出した声はいつにも増して小さくなった。
「…昨日、れーなが、家にきてたの」
「うん」
「話があるって、それで…」
「うん」
「それで……彼女っ、できたって、絵里に…絵里っ」
「分かった、もういいから」
込み上げてきた涙は抑えられず、しゃくり上げながら途切れ途切れに言葉を紡いだ。
腕を離したさゆみの手が絵里の身体を抱き締めて、あやすように背中を摩る。
「なんで、れーな、絵里じゃ…ない、のっ」
「ほんとに、れいなって馬鹿だよね。さゆみだったら一発殴ってるの」
「…っ、もぉ…どうしたらいいか、分かんない」
「大丈夫、絵里は可愛いんだから、さゆみの次に」
「好き…なのにぃ……」
さゆみの肩に額を押し付け、初めて自分の想いを全て打ち明けた。
その一つ一つにさゆみは冗談混じりに相槌を打つ。
- 130 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:22
-
きゅっ、と上履きが廊下を擦る音がした。
頭に触れていたさゆみの頬の感触がなくなり、絵里を抱き締めていたさゆみの腕の力が緩む。
軽く顔を上げて上目でさゆみを窺う。
もともと大きい瞳を更に大きくさせ、二人が歩いてきた廊下の先、絵里の背後を見つめていた。
どうしたんだろう。
流れは止まったものの、視界をぼやけさせるには充分過ぎる程の涙が瞳の縁に溜まっている。
制服の袖でそれを拭い、さゆみの視線を追いかけた。
「え……」
なんで、ここに。
教師でさえも滅多に寄り付かない場所に、なぜ。
その人は右足を一歩踏み出した体勢で硬直していた。
「………れー、な」
息を吐くと同時に自然と洩れた声。
泣いた後だからか、その人の名前を呼んだ絵里の声は弱々しく掠れていた。
- 131 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:23
-
三人しかいない廊下では、呟き程度の声でもよく通る。
ぴくりと身体を揺らしたれいなは前に出ていた右足を下げ、左足の隣に並べて背筋を伸ばした。
「あ、あー、すまん…教室帰ったらさゆおらんから」
絵里とさゆみの視線に、忙しなく頭を掻いたりきょろきょろと無意味に周囲を見回してみたり。
れいなの動揺は絵里にもさゆみにも手に取るように解った。
「…れいな、邪魔っちゃね」
苦笑いを洩らし、れいなはブレザーのポケットに手を突っ込んで踵を返す。
単純馬鹿なれいなのことだから、絵里とさゆみの姿を見て勘違いしているに違いない。
―――違う、違うの!
言いたいのに声にならない。
- 132 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:23
-
絵里がれいな以外の誰かを好きなんだと誤解されるくらいならば、れいなが好きだとばれた方がましだ。
なのにこういう時に限って、頭と身体の回路は正常に機能してくれない。
「れいな!」
「は?」
呼び止めたのはさゆみだった。
振り返ったれいな同様、絵里も今かなり戸惑っている。
さゆみは絵里の肩をぽんと叩いて微笑み、前にいるれいなを見ると表情を一転させてれいなを睨んだ。
足音を響かせ、真っ直ぐれいなの元へ向かう。
「あ…さ、さゆっ…」
「……」
「…な、なん?」
掴み合いの喧嘩、はしないだろうけれど。
平手の一発くらいはやってしまいそうな雰囲気のさゆみに、れいなが少し後退さる。
絵里がはらはらしながら見守っていると、速度は落とさずれいなの横を通り過ぎようとしたさゆみ。
すれ違う時に人差し指でれいなの額を小突いて、「いい加減にしなよ」とさゆみが一言告げた。
そして背を向けたままで、二人に手を振ってこの場から去って行った。
- 133 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:24
-
残された絵里とれいな。
突かれた箇所を手で覆い、ぽかんとしたれいなが絵里に向き直る。
さゆみの足跡を辿るように、一歩ずつ絵里に近付いてくる。
何もなかったことに安堵したのも束の間、身体中を血液が駆け巡り、体温が一気に上昇した。
目の前までやってきたれいなは、首の辺りを擦りながら目を伏せた。
「……すまん」
「…なんで、謝るの?」
「や、聞くつもりはなかったんやけど」
「全部、聞いてた?」
「途中から?さっきさゆに怒られたっちゃん、やっぱりれいな邪魔しちゃったんやね」
いい加減にしなよ、とさゆみがれいなに告げた一言。
たぶんれいなはその言葉を、自分が絵里の告白を邪魔したんだという意味で捉えている。
- 134 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:25
-
「…ちょっと驚いたっちゃけど、れいなは悪いと思わんよ」
「……え?」
「さゆに藤本さんがおっても、好きなら仕方ないし」
ふと、世界が変わった。
くすんだ灰色の世界には細い道が一本だけ。
自分の誤信を信じて疑わないれいなは、一人でどんどん絵里がいる方とは反対の薄暗い道を進んで行く。
絵里はそれを引き留めたいのに、足がすくんで動けない。
距離は開き続け、もう手を伸ばしただけでは届かない。
声の限り名前を呼んでも、れいなには聞こえない。
黒さを増していく周囲に比例して、小さくなるれいなの背中。
やっと立ち止まったれいなと絵里の間にある距離は、なんとか表情が判る程度で。
ずっと先にいるれいなが笑って絵里に手を振り、
「好きなんやろ?さゆのこと」
暗闇の向こうへと、消えた。
―――どうして、れーなは絵里から離れていくの?
- 135 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:26
-
「え、絵里?なんで泣いとぉ?」
頬に触れる暖かい手が、絵里を現実の世界へ引き戻した。
見慣れた学校の廊下、絵里の数十センチ前には眉を八の字にしたれいながいて、闇に飲み込まれたのはれいなではなく絵里だったと気付く。
絵里を闇に突き落としたのはれいな。
そこから助け出してくれたのもれいな。
笑うのも楽しいのも泣くのも悲しいのも全部、絵里の全部がれいなだった。
『もういい加減にしなよ』
頭の中で反芻してみると、れいなにだけだと思っていたさゆみの言葉は実は半分絵里にも向けられていたんだと理解して自嘲した。
なんで絵里を好きになってくれないの。
いつだってれいなの所為にしてばかりいたけれど、結局は自分から何もできない絵里も同じだ。
ぐっと拳を握り、十数年の片想いを終わらせる決心をした。
絵里の涙を拭おうとしたれいなの手を払い、睨み付ける。
- 136 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:27
-
「ばかっ!!」
怯んだれいなが口を開く前に、思い切り叫んだ。
「れーなのばか!鈍感!」
「なっ、なん?なんで絵里そんなに怒っとぉと?」
狼狽えるれいなは絵里が怒っているだけとしか思っていないだろう。
しかもその怒りが何に対してなのかも解っていない。
「ばか」としか言わない絵里を手で制しながら、れいなはどうにかして宥めようと言葉を探している。
「ばか、れーなのばか!」
「ちょ、待てって」
「絵里が好きなのはれーななのに、なんで気付かないの!?」
「落ち着きぃ、って………へ?」
勢いそのままに吐き出したれいなへの想い。
落ち着かせようと必死だったれいなはすぐに解らなかったらしく、数秒間を置いた後に間抜けな声を出した。
見開かれた瞳が絵里を呆然と見つめている。
「ずっとれーなが好きだった…好きっ、だったのに」
「…え、絵里?」
- 137 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:28
-
声のトーンを落とした絵里にれいなは戸惑いを隠しきれない表情で恐る恐る声を掛けた。
それを無視して乱暴に目を擦ったが、止まる気配はなく目尻から溢れる。
ぼろぼろ零れる絵里の涙が床に小さな水溜まりを作っていた。
一旦唇を結んで深く息を吐く。
絵里が黙ったことにより、一息ついたれいなの右手を両手で掴んだ。
「……れーな、彼女と別れて」
「は?な、なんで…」
「もういいじゃんっ、れーな、誰と付き合ったって同じなんでしょ?」
「…や、そんなことは」
「絵里なられーなのこと振ったりしないし…それに…」
色々な感情が混ざりすぎて頭は真っ白で。
ただ勢い任せに紡ぐ科白はほとんど覚えていなかった。
かなり力を入れて握り締めているれいなの右手。
痛いはずなのに文句も言わず振り解きもしないれいなの優しさに苛立ち、手の甲を爪で引っ掻いた。
一瞬顔を歪めたれいなが気を緩めた隙に唇を重ねた、というよりはぶつけたに近かった。
歯が当たって鈍い痛みがお互いの唇に残る。
- 138 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:29
-
「……絵里にしてよ」
「え?」
「絵里が一番れーなを好きなんだから、もぉ絵里にしてよっ!」
半ば投げ遣りな告白。
昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴る。
教室に戻る生徒達の急いだ足音が微かに聞こえたが、二人は動かない。
「………嘘やろ?」
息遣いさえ聞こえそうな沈黙を先に破ったのはれいなだった。
独り言とも取れる呟きを落として、絵里の手を握り返す。
足元に向いていた視線を持ち上げると、
「嘘やろ?」
繰り返しれいなが言う。
他人にきつい印象を与える瞳は強さを失い、今にも泣き出しそうだった。
人前で泣くことを嫌うれいなが見せたその表情に思わず力が抜けてしまい、同じく力が抜けていたれいなの手は絵里の手の中から滑り落ちてだらりと垂れ下がった。
- 139 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:30
-
「絵里がれいなを好きなんて、あるわけないやん」
「…なにそれ、絵里はれーなが好きだって言ってるじゃん」
「でも、さっきさゆに好きって言ってたっちゃん」
「だからっ、あれは違うんだってば!」
これだけ言っているのに未だに絵里がさゆみに告白していたと思い込んでいるれいなに、さゆみが絵里を訪ねてきたところから説明した。
最後に絵里が好きなのはれいなだと付け足して。
「……まだ信じられん」
「なんで信じらんないの?」
「絵里は、れいなのこと友達としてしか見とらんと思っとった」
「…違うもん、絵里は」
「れいなも絵里のこと好いとぉ」
言葉を遮られたうえに、身構える間もなくされた返事。
聞き間違いかと問い直すと、照れ臭そうに頭をがしがし掻きながら「やけん、好いとぉ」とぶっきらぼうな口調で返された。
- 140 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:31
-
「……ほ、ほんと?」
「こんな時に嘘はつかん、ずっと好きやった」
「…じゃあ、なんで他の子と付き合ったりしたの?」
「絵里がれいなのこと好きとは思わなかったけん、誰かと付き合えば絵里じゃなくてそん人のこと好きになれると思ったと」
やっぱり無理やったけど。
にひひ、と笑うれいなは幼い頃と変わらない笑顔で。
わざわざ絵里に報告していたのも、少しでも絵里の気を引きたかったからだとか。
そんな理由でと呆れつつも、緩む頬は抑えられなかった。
―――絵里も、れーなのこと言えないね。
れいなも絵里が好きだったなんて。
散々馬鹿だ鈍感だと言っておいて、絵里もそれに気付かなかったんだからお互い様だ。
けれど直接謝るのはなんとなく悔しかったので、「ごめんね」の代わりに、愛を込めて「ばか」と囁いた。
「れーなのばーか」
「そうやね」
「ばか、鈍感、へたれーな」
「ちょ、言い過ぎやなか?」
「…でも、大好き」
- 141 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:31
-
絵里がふにゃりと笑うと、れいなもつられて笑った。
どちらともなく重ねた唇。
二回目のキスは、心地好い柔らかさと甘さを感じた。
離れていた手を、今度はれいなから繋いでくる。
「放課後、会う約束しとる…好きな人がおるって話してくるけん」
「…また叩かれちゃったりするかもね」
「うわ…まぁ、仕方なかね。つーかこれ跡残ってるんやけど」
絵里の手を握るれいなの右手の甲に引かれた赤い線。
自分の手ごと顔の前まで持ち上げ、唇で線をなぞった。
このまま残っちゃえば、絵里のものだって証になるのに、なんて思いながら。
- 142 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:32
-
鈍感で無神経で生意気でちっちゃくて口が悪くて目付きも悪くて。
しかもへたれで勝手に絵里はれいなを好きじゃないなんて決め付けて。
女心なんて、これっぽっちも理解してない。
なのに、なんで、それでも、世界でいちばん―――大好きなんだから、しょうがないよね。
- 143 名前:世界でいちばん 投稿日:2009/03/17(火) 21:33
-
おわり。
- 144 名前:_ 投稿日:2009/03/17(火) 21:33
-
- 145 名前:_ 投稿日:2009/03/17(火) 21:33
-
- 146 名前:竜斗 投稿日:2009/04/26(日) 20:36
-
亀井さんと新垣さん。/亀+新
- 147 名前:亀井さんと新垣さん。 投稿日:2009/04/26(日) 20:37
-
「…うへへ…れーなぁ」
「……」
楽屋の机に突っ伏して眠っている絵里。
隣で雑誌を読んでいた里沙の耳に、絵里の寝言が届く。
「…んー?……うん…」
「……」
「だめだってばぁ…もー……」
「……」
「れぇな……」
「はいそこまでー」
ちょっとイラッときたので雑誌に視線を向けたまま里沙が絵里の頭に拳を振り下ろすと、ごんっ、と鈍い音が鳴った。
それまでだらしなく口元を緩め、幸せそうに笑みを浮かべていた絵里が頭を抑えてがばっと身を起こした。
「なになになに?…え?」
「おはようございます」
「あ、おはよーございます…ってガキさん?」
「なに?」
「なんか頭が痛いんですけど…」
「気のせいでしょ、気のせい」
「えー……そうかなぁ」
- 148 名前:亀井さんと新垣さん。 投稿日:2009/04/26(日) 20:40
-
単純な絵里は里沙が殴った辺りを擦りながらも、一切疑わずに里沙の言うことを信じた。
まだ横で「痛い気がするんだけどなぁ」とかぶつぶつ言っているが、里沙は完全無視。
読み終えた雑誌を閉じて時間を確認すると、大体三十分程経過していた。
腕を突き上げて丸めていた背中をぐーっと伸ばす。
「はぁ…いいとこだったのにな」
「……ふあぁ」
「どんな夢見てたか気になります?」
「いいえ」
「むっ」
「…どんなゆめだったんですか」
欠伸を噛み殺しながら即答した里沙に絵里が不服そうな顔をする。
わざわざ聞かなくたって、寝言で大体予想はつく。
だがこのまま拗ねてしまうと後が面倒なので、仕方なく里沙は絵里の話を聞いてやることにした。
- 149 名前:亀井さんと新垣さん。 投稿日:2009/04/26(日) 20:41
-
「うへへー、あのですねぇ、れーなが絵里の家に遊びにきたんですよ」
「うん」
「そしたられーな、絵里にくっついて離れなくなっちゃってぇ」
「へー」
「ちゅーとかいっぱいしてくれて、だんだんいい感じになってきて…ってとこで目が覚めちゃったんですよー」
「すごいすごい」
「…ガキさん、聞いてないでしょ」
やっぱり聞きたくなかったので右から左へ流していた里沙に絵里が気付く。
結局拗ねさせる結果になってしまったけれど、話をさせたことで多少は満足した絵里は唇を尖らせるだけだった。
「…れーな、まだかなぁ」
拗ねるのに飽きた絵里が呟いて時計を見上げる。
里沙と絵里が楽屋に残っているのは、まだ仕事中のメンバーの帰りを待っているからである。
里沙は愛、絵里はれいなという違いはあるが、ここにいる理由は同じ。
愛とれいな二人での撮影なので、終われば揃って帰ってくるはずだ。
- 150 名前:亀井さんと新垣さん。 投稿日:2009/04/26(日) 20:42
-
「そういえば、ガキさんと愛ちゃんてどこまでいってるんですか?」
「は?どこまで?」
ぱっと里沙の方へ顔を向けた絵里が唐突に切り出した。
どこまで、里沙はそれを実際に行った場所という意味で捉えた。
お互いの家には行っているし、もちろん仕事で海外に行ったこともある。
それとも仕事を抜きにしてプライベートでの旅行の話か。
二人で行ったのはどこまでだったかな…などと真剣に考えていると、答えを待たずに絵里から次の質問。
「もうしたんですか?」
「したって、何を?」
「もぉ!はぐらかさないでくださいよー」
「だから、なんの話よ」
―――あんたはいつも主語がないから分からないんだよ。
ばしばし肩を叩いてくる絵里の手を払いつつ、里沙は内心愚痴をこぼした。
- 151 名前:亀井さんと新垣さん。 投稿日:2009/04/26(日) 20:43
-
いつまでたってもそれが何か解らない里沙に痺れを切らした絵里が、自分の口元に手を当てて里沙の耳に近付ける。
条件反射で里沙も絵里に近付くと、少し照れたような声が里沙の頭に入ってきた。
しかしその言葉の意味を里沙の脳が理解するまでに、かなりの時間を要した。
いや、ただ脳が受け入れを拒否したのだろう。
もう、えっちしたんですか?
「―――……………はああああぁ!?あんた何言ってんの!?」
里沙と絵里以外誰もいない広めの楽屋は、よく声が響く。
まるでマイクでも使ったかのような音量に、傍にいた絵里は驚いて椅子から落ちそうになった。
もし楽屋前を誰かが歩いていたら何事かと飛び込んできたかもしれない。
その大声をあげた張本人は、頭から湯気が出そうなくらい真っ赤になって口をぱくぱくさせていた。
- 152 名前:亀井さんと新垣さん。 投稿日:2009/04/26(日) 20:44
-
「そんな慌てなくても、付き合ってるなら普通じゃないですか」
「つつ付き合ってる!?って私と誰が!」
「愛ちゃん」
「あああ愛ちゃんと私!?」
「てゆーかガキさん、うるさいしどもり過ぎ」
絵里に突っ込まれるとは、里沙にとっては屈辱だ。
これではいつもと立場が完全に反対ではないか。
里沙は荒くなった呼吸を整え、体勢を変えて絵里と向き合った。
ツッコミとしてのプライドよりも今は一刻も早く、里沙の目の前にいる同い年の後輩の大きな勘違いを訂正しなければならない。
「あのね、亀はなにか勘違いしてるようだけど、私と愛ちゃんは付き合ってないから」
「別に隠さなくてもいいですよ」
「いやいやいやいや、なーんにも隠してないから」
全くもって、これっぽっちも。
なんなら嘘発見器にかけてもらってもいい。
本当に里沙と愛は、れいなと絵里のような関係ではないのだ。
いつかなりたいとは思っているけれど、二人は未だ友達以上恋人未満。
- 153 名前:亀井さんと新垣さん。 投稿日:2009/04/26(日) 20:45
-
里沙が恥ずかしがっているだけだと思っている絵里に、お得意のオーバーなリアクションをつけて弁明した。
「…そんなことよりあんた達、え、えっ……そういうことしてるんじゃないでしょうね」
自分と愛のことから話を逸らしたかったのもあるが、落ち着きを取り戻した里沙が気になった、絵里が出したその話題。
ストレートに言えなかった里沙は、言葉を濁して絵里に訊ねた。
「え、してますけど」
あっさり返された絵里の答えと口振りに、自分が何か変なことを言ってしまったんじゃないかというような錯覚に陥る。
あぁそうですかと里沙は頷こうとしたが、思い直し慌てて首を横に振った。
「しっ、してますけどってあんたね!あんたは成人したけど田中っちはまだ未成年でしょうが!」
「ガキさん、お酒じゃないんだから」
「口答えしないの!そういうことするにはまだはやーい!」
「や、絵里達付き合ってかなり経ちますよ?」
- 154 名前:亀井さんと新垣さん。 投稿日:2009/04/26(日) 20:46
-
再び真っ赤になって慌てふためく里沙に、ツッコミ同様お付き合いについての考え方まで昭和なのかと呆れる絵里。
何を思ったのか、ぱんと手を叩いた絵里はばたばた忙しなく動いている里沙の手を掴んで膝の上に降ろさせた。
「じゃあ絵里が教えてあげましょう」
「は!?そんなのいいから!」
「だっていつか愛ちゃんとする時困るでしょ?」
「ししししないから!それに私と愛ちゃんは違うって!」
「まーまー」
絵里はれーなだけなんで手取り足取りは無理ですけどぉ、とか言いながら里沙の手をがっちり抑える。
顔を近付けて絵里がにやりと笑うと、抵抗を止めた里沙の口元がひきつった。
- 155 名前:亀井さんと新垣さん。 投稿日:2009/04/26(日) 20:47
-
「ガキさんはどっちかなぁ…ガキさん迫られたら断れなさそうだし、愛ちゃんがリードしそうだからガキさんが下ですかねぇ」
「は?下?」
「でもガキさんもれーなみたいに夜は狼になっちゃったりして」
「夜?狼?」
「あ、れーなは猫だからライオンかな?そうそう聞いてくださいよ!この前珍しくれーなから誘ってきて、絵里も嬉しかったんですけどなかなか寝かせてくれなくてぇ」
「ちょ、亀井さん話が分からないんですが」
「次の日腰痛いって言ったらすっごい慌てちゃってかわいかったんですよぉ、うへへ」
あっという間に話が逸れて単なる惚気話へ。
里沙の聞き返しに対しての答えは一つもなし。
実は里沙もちょっと興味があったのだけれど、相手が絵里という段階でこうなると予想していたので返ってこない答えは諦めた。
- 156 名前:亀井さんと新垣さん。 投稿日:2009/04/26(日) 20:47
-
「…それってさ、しなきゃいけないものなの?」
絵里の話だけではそれの必要性が解らなくて、里沙はぽつりと呟く。
好きな人とするものだとは知っていても、自分には必要ないと思っていたから。
ふと絵里が真面目な表情に変わったので、なんとなく姿勢を正して絵里の目を見た。
「しなきゃいけないわけじゃないですけど、絵里はした方がいいと思います」
「なんでさ」
「だって、その時は絵里のことしか見えないでしょ?」
目を細めて柔らかく微笑む絵里は撮影でも見せない、本当に幸せそうな表情で。
里沙は、ほんの少しそれをする意味が解った気がした。
だが、するしないの前に里沙は今の愛との関係を変えなければならない。
友人や仲間ではない、恋人という関係に。
まずは一歩踏み出してみようと里沙が心で決めた時、楽屋の扉が音を鳴らして開いた。
- 157 名前:亀井さんと新垣さん。 投稿日:2009/04/26(日) 20:48
-
「お待たせやよー」
「遅くなったと」
「れーなっ!」
れいなの声に勢いよく立ち上がった絵里が駆け出した。
飛びついた絵里をよろけながらもなんとか受け止めたれいなは絵里の頭を軽く叩く。
「このあほっ」
「む、絵里あほじゃないもん」
「いつも危ないって言っとろうが」
「だってー」
怒った顔を作っているれいなだが、声色は優しかった。
絵里は机に置かれた鞄を取るれいなの後ろに回り、背中にしがみついて離れようとしない。
ぼんやり二人を眺めていた里沙は、先程までの会話の内容を思い出す。
「……」
「ん?ガキさん、なんか顔赤いっちゃん」
「へ?」
「熱でもあるんやなかと?」
「や、別になんでもない、なんでもないですから!」
れいなの指摘にあははーと笑って誤魔化したが、実際里沙の頬は赤く染まっていた。
- 158 名前:亀井さんと新垣さん。 投稿日:2009/04/26(日) 20:50
-
熱があるとかではなくて、絵里の話を参考にしてれいなと絵里で妄想したからだとは口が裂けても言えない。
それ以上追及されずに済んだ里沙は、熱くなっている顔を両手で扇いだ。
「それじゃ、お先に失礼します」
「おつかれさまでしたー!」
「はいよー、おつかれ」
「あ、れーなちょっと待ってて」
楽屋を出ようとしたれいなを止め、扉の手前で踵を返した絵里が里沙に小走りで近寄ってきた。
首を傾げる里沙に絵里は腰を屈め、
「がんばってくださいね」
そう小さく囁いた。
仲良く帰って行ったれいなと絵里に手を振り、扉が閉まるのを見届ける。
視線を向けた先にいる里沙の待ち人だった愛は、ペンや台本を鞄にしまっているところ。
―――今、言わなきゃ。
決心した気持ちが鈍らないうちに。
大きく一度深呼吸をして自分自身を落ち着かせる。
立ち上がった里沙が最後にファスナーを閉めた愛の手を捕まえて握ると、きょとんとした愛が里沙を見つめた。
- 159 名前:亀井さんと新垣さん。 投稿日:2009/04/26(日) 20:50
-
「…あのさ」
「んー?」
「その…えっと…」
「なんやよー」
里沙が何を言おうとしてるかなど知る由もない愛は、唇を噛む里沙の肩を叩いて無邪気に笑う。
激しくなる鼓動に震える声。
喉の奥に詰まった言葉がなかなか出てこない。
愛の反応が怖くて、どうにかなってしまいそうだ。
けれど自分の想いに嘘を吐くのはもう疲れてしまった。
里沙は自分が逃げないように、触れていた愛の手に指を絡めた。
「…私、私ね?……愛ちゃんのこと―――」
- 160 名前:亀井さんと新垣さん。 投稿日:2009/04/26(日) 20:51
-
おわり。
- 161 名前:_ 投稿日:2009/04/26(日) 20:51
-
- 162 名前:_ 投稿日:2009/04/26(日) 20:51
-
- 163 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/28(火) 19:30
- 久しぶり読む竜斗さんのれなえりはやはり最高ですね。
れなえり大好きなのでこれからもよろしくお願いします。
- 164 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/19(火) 23:09
- もっともっと読みたいっす
待ってます
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/04(土) 11:44
- 更新待ってます
- 166 名前:竜斗 投稿日:2009/07/27(月) 00:21
-
163名無飼育様
ありがとうございます!
まだまだれなえり大好きなので、更新は亀ですがこれからもお付き合いください。
164名無飼育様
遅筆なのでもっと早くたくさん書けるよう頑張ります。
165名無飼育様
更新遅くて申し訳ありません。
たまに上がっていたら覗いてやってください。
- 167 名前:竜斗 投稿日:2009/07/27(月) 00:23
-
笑顔に嘘を重ねて/田←光
- 168 名前:笑顔に嘘を重ねて 投稿日:2009/07/27(月) 00:24
-
「愛佳?」
上から降ってきた声で目が覚めた。
重い目蓋を手でごしごし擦って開くと、少し霞んだ視界に映ったのは愛佳の大好きな人の顔やった。
胸が弾んで、自然と口元が緩む。
「ごめん、起こしたと?」
「いえ、もう起きようと思ってたんで」
「そっか」
愛佳の返事に安堵して笑った田中さん。
好きな人が笑うと嬉しくて、どうしてもにやけるのを抑えられん。
「疲れてるんじゃなか?」
「大丈夫ですよぉ」
「ならいいけど、無理したらいかんよ」
ぽん、と愛佳の頭に置かれた田中さんの手がゆっくりと髪を梳く。
田中さんの優しさを表しているようなその感触が、また夢の中に戻ってしまいそうなくらい気持ち良かった。
- 169 名前:笑顔に嘘を重ねて 投稿日:2009/07/27(月) 00:25
-
このまま独り占めしていたいなんて思った時、一瞬頭に浮かんだあの人の顔。
ぐっと胸の奥を押される苦しさを感じて、静かに深く息を吐き出した。
「…田中さん、亀井さんは?」
言ってから後悔した。
なんで自ら口に出してしまったんやろ。
折角の幸せな時間を壊してしまう、その名前を。
「絵里?ガキさん達と先にスタジオ行っとぉよ」
絵里―――呼ぶ時の表情が違うこと、声がとても柔らかくて優しいこと。
たぶん田中さんは気付いていない。
頭を撫でている手を掴むと、愛佳より僅かに高い体温がじわりと染み込んできた。
この手を自分の物にしたいと何度願ったんやろ。
けど田中さんの手の温もりも、笑顔も、優しさも、どんなに望んだって全て亀井さんの物だって解ってる。
それでも欲しくて欲しくて仕方がないっていうのは、単なる子供の我儘なんやろうか。
「愛佳?」
ただ手を見つめているだけの愛佳に、きょとんとした田中さんが声をかける。
すごく好きな声で呼ばれて嬉しいはずが、なぜか余計に苦しくなって目頭が熱くなった。
- 170 名前:笑顔に嘘を重ねて 投稿日:2009/07/27(月) 00:26
-
「愛佳、どうしたと?」
―――田中さんが好き過ぎて、どうしたらいいか分かんないんです。
そう言ったらきっと困ってしまうやろうから、また笑った。
田中さんが好きだと言ってくれた笑顔、だから笑った。
「なんでもないです、愛佳達も行きましょ?」
「…おぅ」
愛佳が立ち上がると、まだ気になってるみたいやけど田中さんは少し間を空けて頷いた。
掴んでいた手を離そうとしたけど、もう一度力を入れて軽く引き寄せる。
「ん?」
「手、繋いでいいですか?」
「まったく、愛佳は甘えんぼやけんね」
「えへへー」
繋ぎ直された手をぎゅっと握った。
やっぱり暖かくて、泣きそうになる。
スタジオまではほんの数分、その間だけでいいから、
―――亀井さん、愛佳に田中さん貸してくださいね。
「田中さーん」
「なん?」
「大好きです」
「なんいきなり、れいなも好いとぉよ」
これからもずっとあなたの傍で、愛佳は想いを隠して笑い続ける。
- 171 名前:笑顔に嘘を重ねて 投稿日:2009/07/27(月) 00:26
-
おわり。
- 172 名前:_ 投稿日:2009/07/27(月) 00:27
-
- 173 名前:_ 投稿日:2009/07/27(月) 00:27
-
- 174 名前:竜斗 投稿日:2009/07/27(月) 00:29
-
distance of the eye/田亀
- 175 名前:distance of the eye 投稿日:2009/07/27(月) 00:29
-
仕事終わりのバスの中。
れいなの隣に座っている絵里が小さく唸りながら目を抑えている。
「うー…」
「どうしたと?」
「…目、痛い」
れいなの問い掛けに絵里は呟いてぎゅっと目を閉じた。
視力の悪い絵里はたまに眼鏡をかけることもあるが、基本はコンタクト。
たぶんそれの所為だと絵里は言う。
相当痛いのか目を擦り出したので、れいなはその手を掴んで止めさせた。
「やめぇ、擦ったらよくないんやろ?」
「だってぇ…」
何度も瞬きをしながられいなを上目遣いでみつめる。
瞳にはうっすら涙が滲んでいて、思わずどきっとしてしまったれいなは照れ隠しに絵里から視線を逸らした。
- 176 名前:distance of the eye 投稿日:2009/07/27(月) 00:31
-
「あ。今、目逸らした」
「逸らしとらん、そんなに痛いならコンタクト外せばいいやろ」
不満気に唇を尖らす絵里の鞄からコンタクトケースを取り出して渡す。
何やらぶつぶつと文句を言いつつ、慣れた手付きでコンタクトを外す絵里。
そっちの方が痛そうだな、と思いながられいなは黙ってその様子を眺めていた。
一分もかからず外し終えたそれを丁寧にケースにしまい、ふーっと息を吐き出した絵里が背凭れに身体を預ける。
「…はー、痛かったぁ」
「もう大丈夫と?」
「うん、大丈夫だけどぉ…」
痛みの原因は取り除いたのだが、絵里の唇は尖ったまま。
理由が解らないれいなは首を傾げる。
すると絵里はケースをしまった鞄を足元に置き、徐にれいなに顔を近付けた。
「っ、な…!」
驚いて反射的に仰け反ったれいなの腕を捕まえた絵里は、更にれいなとの距離を詰める。
- 177 名前:distance of the eye 投稿日:2009/07/27(月) 00:31
-
どちらかが少しでも動けば唇が触れる距離まで近付いた絵里のアヒル口が、ようやくふにゃりと緩んだ。
「…な、なん?」
「見えた」
「は?」
「コンタクト外すと、れーなの顔ぼやけちゃうんだもん。でもこれくらいならちゃんと見える」
絵里が嬉しそうに目を細めて笑う。
間近でそれを見せられたれいなは耳まで熱くなるのを感じたけれど、首に絡められた絵里の腕により逃げることは不可能だった。
その体勢でしばらく沈黙が続いた後、絵里が微かに照れたような笑い声を洩らした。
「…なんかさぁ」
「…なんよ」
「なんか、どきどきしてきた」
はにかんで目を閉じた絵里に、自然とれいなの唇が重なる。
れいなが絵里の腰に腕を回すと、首に絡んでいた絵里の腕に力が込められた。
- 178 名前:distance of the eye 投稿日:2009/07/27(月) 00:32
-
( ・e・)<…すみません、ここバスの中なんですけど。
川 'ー')<まぁ仲良くていいやんか。
( ・e・)<そういう問題じゃ…。
ノノ*^ー^)<うへへぇ。
- 179 名前:distance of the eye 投稿日:2009/07/27(月) 00:32
-
おわり。
- 180 名前:_ 投稿日:2009/07/27(月) 00:33
-
- 181 名前:_ 投稿日:2009/07/27(月) 00:33
-
- 182 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/31(金) 14:57
- お待ちしてましたッ><
- 183 名前:とうふよう 投稿日:2009/08/24(月) 23:04
- 次作も期待してます!
- 184 名前:竜斗 投稿日:2009/09/01(火) 11:23
-
- 185 名前:竜斗 投稿日:2009/09/01(火) 11:30
-
182名無飼育様
かなり間が空いてしまってすみませんでした。
とうふよう様
書きかけはたくさんあるんですが…最後まで書けるよう頑張ります。
- 186 名前:竜斗 投稿日:2009/09/01(火) 11:32
-
いつものS田中さんとM亀井さんのエロです。
苦手な方はスルーしてください。
- 187 名前:竜斗 投稿日:2009/09/01(火) 11:32
-
I want you/田亀
- 188 名前:I want you 投稿日:2009/09/01(火) 11:33
-
「うへへへぇ」
「…絵里、きもい」
ベッドの上で壁に寄り掛かっている絵里は、傍で携帯を弄っているれいなを見つめてにやけっ放しだった。
別々の仕事が続いた一週間、久し振りに会えてしかも今は二人きりなのだから仕方ない。
普段はれいながかまってくれないと拗ねるけれど、今日は一緒にいれるだけで嬉しかったので何を言われても平気だ。
「れーな、れーな」
「なん」
「うへへ、おいでぇ」
両手を広げた絵里に、れいなはぷいっとそっぽを向く。
めげずに何度も甘えた声で名前を呼ぶと、溜め息を吐いたれいなは携帯をしまって渋々絵里の前まで移動してきた。
- 189 名前:I want you 投稿日:2009/09/01(火) 11:34
-
膝立ちのれいなの腰に抱き付いて、ぐりぐりと額を押し付ける。
くすぐったさで身を捩るれいなに軽く頭を叩かれた。
「いたーい」
「絵里が悪か」
「むぅ」
「……」
「……」
「……」
「……ん」
睨み合い、もとい見つめ合った後に自然と重なる唇。
薄く唇を開いて、れいなの舌を誘い込む。
口内で自ら積極的に絡め、一週間振りの感触を味わう。
透明な糸を引いて唇が離れると、荒い呼吸が静かな部屋に響いた。
「れーなぁ…」
れいなのシャツの袖を摘まんで上目遣い。
こうすればれいなは何も言わなくても解ってくれる。
伸びてきた手が絵里のパジャマのボタンに掛かり、一つずつ丁寧に外していく。
ボタンが外れていくにつれ、速くなる心拍数。
風呂上がりで下には何も着けていなかったので、すぐに素肌が露になった。
次にくるのは、れいなの手の感触。
しかし、それを感じることはできなかった。
- 190 名前:I want you 投稿日:2009/09/01(火) 11:35
-
「…れーな?」
痺れを切らした絵里が呼び掛けるが、れいなの手は降ろされたまま。
首を傾げてれいなを見つめると、にひひと悪戯っ子な笑みを浮かべた。
こういう表情をする時のれいなは、大抵何かを企んでいる。
「なぁ、絵里」
「んー?」
「一人で、してみぃ」
「………ふぇ?」
思わず間の抜けた声が出た。
一人で、何をしろと言うのだろうか。
今の状況とれいなの表情。
少ない知識をかき集め総合して辿り着いた答えに、絵里は「ええぇ!?」と驚きと戸惑いの混ざった声を上げた。
「絵里が自分でしてるとこ、見たいと」
「なっ、な…」
「嫌ならいいけん、もうせんけどー」
ひらひら手を振って、れいなは絵里との間に一人分の間を作った。
れいなの発言に唖然としていた絵里は、慌てて距離を詰めようとする。
が、両肩を掴まれ簡単に元の位置に押し戻されてしまった。
「れ、れーなぁ…」
「絵里が嫌ならもう寝るったい」
「…うー」
- 191 名前:I want you 投稿日:2009/09/01(火) 11:36
-
きっと絵里が拒否したら、れいなは本当に寝てしまうだろう。
キスの余韻はまだ残っていて、昂る気持ちと疼く身体は解放されることを望んでいる。
このまま寝るなど、不可能だ。
最後の抵抗にれいなを軽く睨んでみたが、にっと白い歯を見せられた。
観念した絵里はパジャマの裾を握り、大きく深呼吸をした。
おずおずと、すでに開かれている上着の隙間から覗く胸に自身の手で触れる。
毎日最低でも一度は身体を洗う際に自分で触るところは、その度にれいなから与えられるような刺激など感じはしない。
それは今も同じだった。
いつもれいながするように指に力を入れてみるが、ただ触っているという感覚しかなかった。
熱くなるのは顔のみで、それも羞恥心からくる物である。
「……れーなぁ」
ただ恥ずかしいだけの行為に、助けを求めてれいなに視線を送る。
絵里の前で胡座をかき、黙って絵里を見ているれいな。
真っ直ぐ絵里に向けられている、れいなの瞳。
- 192 名前:I want you 投稿日:2009/09/01(火) 11:37
-
れいなに、見られている。
そう自覚した瞬間、ぞくりと身体が震えた。
全く何も感じなかったはずなのに、触れている胸から熱が全身に回り始め、吐き出す息が熱を帯びる。
「……っ、…は、ぁ」
「気持ち良くなってきたと?」
「ん…はぁ、ん…み、ないでぇ…」
見られて感じている自分が恥ずかしくて、絵里はぎゅっと目を閉じる。
視界を閉ざしても、身体に刺さるれいなの視線。
しかも視覚をなくした身体は触覚と聴覚が余計に働いて、聞こえる自分の荒い呼吸とれいなの息遣いに更に刺激が強くなる。
まるでれいなに触れられているような、そんな錯覚に陥ってしまう。
「絵里、下脱いで」
耳元で囁かれて目を開けると、すぐ近くにあるれいなの意地悪な顔。
言われるがままに胸から離した手で履いているパジャマのズボンと下着を下ろしていく。
力が入らない所為で上手く脱ぐことができない絵里を見て、れいなが膝辺りで止まっていたそれをするりと抜き取り床に投げ捨てた。
- 193 名前:I want you 投稿日:2009/09/01(火) 11:38
-
「じゃ、続きどうぞ」
また少し距離を取って座ったれいなが絵里に続きを促す。
荒くなった呼吸を抑えながられいなを見つめても、笑顔を返されるだけ。
これ以上はという躊躇いと、熱を持って疼く身体。
後者に勝る余裕など、最早残されていなかった。
閉じていた足を僅かに開き、隙間から手を滑り込ませる。
指先を触れさせたそこはぬるぬるとした液で濡れていて、少し指を動かしただけで厭らしい音をたてた。
「っあ、あ……っ、ん…」
我慢しようとしても声が洩れる。
そこをなぞる指は止まることなく動き続け、絵里は膝を擦り合わせて唇を噛む。
「れぇ…な……ふ、ぅ…あ」
「……」
「んっ…れーなぁ、ぁ…」
無意識にれいなの名前を呼んだ。
完全に力が入らなくなった身体を壁に凭れ掛からせ、そこをなぞっていた指をゆっくりと自身の中へ侵入させていく。
初めて自分で触れた中は想像よりも遥かに熱く、絵里の意思とは無関係に指を締め付けてくる。
大きくなっていく声と、そこから響く音。
- 194 名前:I want you 投稿日:2009/09/01(火) 11:39
-
「んぅ、っ、あ…あ…っ」
「……」
「はぁっ、はぁ…ぁ、う…」
「…んー」
絵里の行為を見つめていたれいなは、一つ唸って絵里に近寄ると両手を伸ばして足に触れさせた。
ようやくれいながしてくれると思い安心したのだが、その手は閉じていた絵里の膝を掴むと勢いよく足を開かせた。
「きゃっ!れーな!」
「これでちゃんと見えると」
「やぁっ、だめ、見ちゃだめっ…!」
耳まで真っ赤に染めた絵里が首を横に振る。
だがそれでも絵里の指の動きは止まらず、しっかりと絵里の膝を押さえているれいなの手は離されない。
「あ、ぅーっ…れーな…あっ」
「れいなにはSになるとか言っとったくせに。今度取材があったら、夜はMになるんですって教えてあげた方がよかとね」
「ち、がっ……んっ、ん、ぁ…」
れいなは笑い声を噛み殺し、言葉で攻め立てる。
反論しようにも引き攣った喉はまともな言葉を発せられない。
それにれいなに煽られて快感が増しているのも事実だった。
- 195 名前:I want you 投稿日:2009/09/01(火) 11:41
-
「ん、んぁ、あ…っ、れ…な…」
いつもならばとっくに限界を迎えていてもいい頃なのだが、今日はなかなか天辺に辿り着けない。
確かに身体は感じているのに、何か物足りなさがある。
自分の弱い部分は自分が一番良く知っているけれど、どんなに強くしてみてもあと一歩というところまででその先に進めなかった。
れいなの手じゃない、それだけで。
「は、…もぉ、や……れーなぁっ」
「何が嫌なん?」
「…絵里っ、れーな、みたいに、できな、い…」
息も絶え絶えにそう告げてそこから指を抜くと、どろっと溢れた液が太股を伝ってシーツに染みを作った。
濡れたままの手でれいなの右手を掴み、その場所に押し当てる。
それでも動かされる気配のない手に耐えきれなくなった絵里は、
「ねぇ、お願い…れーながしてっ…」
震える声で懇願した。
恥ずかしさともどかしさで零れた涙。
- 196 名前:I want you 投稿日:2009/09/01(火) 11:42
-
やっと重い腰を上げたれいなの顔が近付いてきて、唇が頬に流れる涙を拭う。
その感触に一瞬気を緩めた時、見計らったかのようにれいなの指が絵里の中に入ってきた。
「っ!ふぁ…あ!」
先程までとは比べ物にならないくらいの甲高い嬌声が上がる。
もしかしたら絵里よりも絵里の身体を知っているのかもしれない、れいなの指。
絵里の弱い部分の手前で焦らすように止まっていた二本の指先が、その箇所を強く擦った。
「れっ、な……あぁ―――!」
自分でしていた時はどうやってもだめだったのに、れいなが触れたらあっという間だった。
待ち望んでいた感覚に意識が飛びそうになり、目の前にある華奢な身体に力加減など忘れて思い切りしがみ付いた。
爪先まで痺れている両足は力が抜けず、太股でれいなの腰辺りを締め付ける。
苦しいのかれいなが小さく呻いたけれど、自分でも力のコントロールができない為、ただ身体の熱が冷めるのを待つしかなかった。
- 197 名前:I want you 投稿日:2009/09/01(火) 11:42
-
しばらくして震えが治まり、脱力した両足はれいなを解放してだらりと投げ出された。
体重をれいなに預け、長く息を吐き出す。
「絵里」
れいなの声に顔を上げる。
霞んだ視界に映ったれいなは、未だに意地悪な笑みを浮かべていた。
戸惑いと焦り、そして僅かな期待。
「まさかもう終わりじゃないやろ?」
「へ?な、にが?………ぁ!」
絵里が聞き返すと、返事の代わりに中に入ったままだった指が動き出した。
突然の刺激に驚き逃げようとしたけれど、まだ身体は絵里の言うことを聞ける状態ではない。
「やっ、待って!…もぉ、む、りぃ、…んん!」
「なん言っとぉ、絵里が離してくれんのやろ?」
「ふぁ、あ!…んっ…!」
一度達して敏感になっている身体に再び快感を与えられ、言葉とは裏腹に反応してしまう。
こうなると逆らえない絵里は、れいなに身を任せるしかなかった。
胸の先に舌を這わされ、指が動く度に跳ねる身体が背後にある壁にぶつかり、絵里が痛みで顔を歪ませる。
- 198 名前:I want you 投稿日:2009/09/01(火) 11:44
-
「れぇな…背中、痛いっ」
「あ、ごめん」
そう訴えるとれいなは「ついでに」と肘で引っ掛かっていたパジャマの上着を脱がし、絵里の背に手を当てて支えながらそっとベッドに横たわらせた。
冷たいシーツは火照った身体にとても心地好い。
覆い被さってきたれいなの首に腕を回してキスをねだる。
舌を絡ませ目を閉じて、れいなの指を感じた。
「んっ、ぅ!…はっ、あ……ん、ふぅ、んん…!」
「…はぁ……絵里」
「れーなっ……え、り…も、だめ、ぇ……ぁ、あ!」
びくびくと痙攣して仰け反る身体、真っ白になる頭。
意識を手放す直前、遠くかられいなが呼んでいる気がした。
- 199 名前:I want you 投稿日:2009/09/01(火) 11:44
-
ふと目を覚まして横を向くと、隣に寝転んでいたれいなが柔らかく微笑んだ。
涙の跡を拭う手に頬を擦り寄せる。
「大丈夫と?」
「……んぅ」
だるい身体を持ち上げ、れいなの上に伸し掛かった。
「ぐぇ」と聞こえた声は無視して、首筋に額を押し付ける。
髪を梳く手と背中に回された腕の暖かさに、また意識が遠退いていく。
「絵里、寝ると?」
「んー……れーなぁ?」
「なん?」
「…ぎゅーって、して」
「はいはい」
両腕できつく抱き締められ、頬に唇が触れる。
終わった後のれいなは、特に優しい。
だから散々好きにされた分甘えてやろうと思ったのだが、襲ってくる睡魔に勝てそうもなかった。
「絵里?」
「……」
「…おやすみ」
ふわふわとした夢の世界。
そこでも絵里はれいなの腕に抱かれ、幸せと温もりに包まれていた。
- 200 名前:I want you 投稿日:2009/09/01(火) 11:44
-
おわり。
- 201 名前:_ 投稿日:2009/09/01(火) 11:45
-
- 202 名前:_ 投稿日:2009/09/01(火) 11:45
-
- 203 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/02(水) 01:39
- キタキタキタ━━(゚∀゚)━━!!!
もう本当にお腹いっぱいですごちそう様ですw
取材を楽しみにしてるからね、れいなさんww
- 204 名前:竜斗 投稿日:2009/11/19(木) 00:38
-
203名無飼育様
かなり調子に乗ってしまいました。
エロを書くとどうしてもれいなさんが℃Sになってしまいます。
从´ヮ`)<言うと絵里が怒るけん、やっぱり内緒っちゃん。ってオチでw
- 205 名前:竜斗 投稿日:2009/11/19(木) 00:41
-
諸事情で遅くなりましたがれいなさん二十歳の誕生日おめでとうございます!
というこてでれな誕を1つ。
二十三時十一分の受信メール/田亀
- 206 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:42
-
十一月十一日。
今日はれいなの二十歳の誕生日である。
夜中、日付が変わったと同時に届くメール。
メンバーや友人達からのお祝いメールだった。
一通ずつ丁寧に読んでいき、ひっきりなしに鳴っていた着信音が止んで全てを読み終えた時にはすでに一時を過ぎていた。
次の日も仕事があるので、もう寝なければいけない時間。
けれどれいなは携帯を見つめて着信を待っていた。
まだ、絵里からのメールが届いていない。
それからしばらく待ってはみたものの、携帯は静かなまま。
「……なん、あほ絵里」
少し、いや、かなり寂しかったけれど。
携帯のディスプレイに表示された時刻が二時になったので、れいなは携帯を枕元に投げ捨て布団を被った。
- 207 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:43
-
朝早くれいなの携帯に届いた一通のメール、差出人は愛。
『今日は必ず9時ぴったりに楽屋にくること!早くくるのもダメ!』
その内容にれいなは首を傾げてどういうことかと返信をしたが、愛からの返事はなかった。
集合時間は十時なので遅刻になる心配はない。
しかしどうしても時間指定の理由が気になり、他のメンバーにも愛からメールが届いているかを確認するためにメールを送った。
一時間後、結果として誰からも返事はなかった。
メンバー全員で何か企んでいるのだろうと察したが、どうせ仕事には行かなければならないのだからと指定時間の少し前に到着した楽屋前。
「あと一分やけど…入ったらいかんよな」
意外と律儀なれいなはドアの前で時間になるのを待っていた。
ドアに耳を付けて中の様子を窺ったが、物音一つしない。
普段ならば廊下まで騒ぎ声が洩れているというのに。
- 208 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:43
-
「……騙されたと?」
実は場所が変更されてましたとか、まさかそんな苛めなんて。
だんだん不安になりながらも、携帯の時計が九時を示したのでドアノブに手を掛ける。
本当に誰もいなかったら洒落にならんと思いつつ、内心どきどきしながら思い切ってドアを開いた、瞬間―――
「ハッピーバースデー!!」
愛の声と共にたくさんのクラッカー音、それからメンバー達の声。
突然のことでれいなはリアクションもできず、ただ目を丸くして立ち尽くしていた。
「田中さん!誕生日おめでとーございまーす!」
「おめでとう、田中っち」
「ついにれいなも大人の仲間入りなの」
「ほらほら、そんなとこ突っ立っとらんでこっちおいでや」
愛佳とジュンジュンに腕を引っ張られ、強制的に楽屋の真ん中に連行される。
そこにある机の上には、『HAPPY BIRTHDAY REINA』と書かれた板チョコが乗ったショートケーキ。
「本番は夜にやるやよ、そん時はもっとおっきいケーキと料理たくさん用意するがし」
―――あぁ、れいなの誕生日…。
- 209 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:44
-
楽しそうに笑う愛が、ケーキが乗った皿をれいなに手渡す。
ようやく現状を理解したれいなが周囲を見回すと、みんな笑顔でれいなを見つめていた。
「…あ、…ありがと」
なんだか恥ずかしくなって、下を向いてぽつりと呟いた。
途端、しーんと静まり返った楽屋。
怪訝に思って顔を上げると、
「田中さん照れちゃってる、かわいいー!」
「それは反則やよー」
「抱き締めてイイデスカ?」
一斉にれいなに群がってくるメンバー達。
里沙やリンリンが止めてくれた隙に逃げようと一歩引いた時、後ろからがしっと腕を掴まれた。
振り返った先には、いつものふにゃふにゃな笑顔を浮かべた絵里。
すっかり忘れてしまっていたが、顔を見た瞬間絵里だけがメールを送ってこなかったことを思い出した。
少し苛立ったれいなは、わざと険しい表情を造って軽く絵里を睨む。
「れーなぁ」
「……なん」
「うへへ、お誕生日おめでとぉ」
「…おぅ」
「ん?なんかご機嫌ななめ?」
その理由が自分にあると思っていない絵里はきょとんとしてれいなを見つめる。
- 210 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:46
-
本当に忘れているのか、もしくは送ったつもりになっているのか。
絵里を見る限り後者の可能性の方が高いか、とれいなは溜め息を吐く。
一応確認を取ってみようと「なぁ絵里、夜にメー」まで言ったところで、
「あー!あのねっ、プレゼントはね、あとでみんなで渡そうって愛ちゃんが!」
「…そうなん。で、絵里からメ」
「れーなれーな!早くケーキ食べないと時間なくなっちゃうよ!」
「……」
―――めっちゃ動揺しとぉやん…。
明らかにおかしい。
れいなが口を閉じて絵里の目を見つめると、僅かだが笑っている口元が引きつった。
嘘を吐くのが下手なくせに、やけに必死に何かを隠そうとしている。
問い詰めれば確実にボロが出るだろうが、せっかくの誕生日に怒るのも嫌なので今回は見逃してやることにした。
- 211 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:47
-
「絵里も食べるやろ?」
「ふぇ?」
「ケーキ」
「あ、う、うんっ」
メールの話になった途端慌て始めたので、きっとそれ関係のことなのだろう。
今日一日待って、それでも言わなければ白状させよう。
嬉しそうにれいなのケーキを食べている絵里の横顔を眺めながら、れいなは心の中でそう決めた。
- 212 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:47
-
- 213 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:48
-
「では改めまして、れいな二十歳の誕生日おめでとー!」
仕事が終わり、時刻は午後十時を回ろうかというところ。
グラスを掲げた愛に続き、他のメンバー達も一斉にそれぞれのグラスを持ち上げた。
ホテルで頼んでおいた豪勢な食事がテーブルいっぱいに並べられている。
未成年は当然ジュースだが、成人したメンバーはチューハイ系のアルコール。
「ほら、れいなも飲むやよー!」
「愛ちゃん!ちゃんとやらないとこぼすから!」
隣で里沙が心配そうに見守る中、飲む前からテンションが上がっている愛がれいなのグラスに淡いピンクの液体をそそぐ。
匂いを嗅いでみると、どうやらピーチ系のチューハイのようだ。
なぜか愛が目を輝かせてれいながそれを飲むのを待っているので、グラスに口を付け少量を口に含んでみる。
「どうや?」
「…なんか、普通のジュースやね」
「やろ?おいしいか?」
「うん」
「じゃーどんどん飲むやよー」
「愛ちゃん!だからこぼすってば!」
- 214 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:49
-
酔っ払いのように絡んでくる愛に苦笑しつつ、アルコールとその場の雰囲気もあってかれいなもだんだん気分が高揚してくる。
他のメンバー達が代わる代わるれいなの隣にやってきて、おめでとうの言葉と一緒にプレゼントを渡してくれていた。
愛佳との間に割り込み、長々とれいなの隣に居座っていた小春の肩にぽんと誰かの手が置かれる。
「はい、こうたーい」
「えー!」
「また後で代わるから、ね?」
「…はーい」
小春を立たせて代わりに隣に座ったのは、さゆみ。
綺麗にラッピングされた箱をれいなに手渡す。
「はい、二十歳おめでとう」
「ありがと」
「これでまた同い年なの」
「そうやね」
ほわりと笑うさゆみにれいなも笑顔を返す。
二人とも二十歳ということで、来年の成人式の話で少し盛り上がって話し込んでいた。
数十分ほど経った頃、ふと周囲を見回したさゆみがれいなに向けて首を傾げる。
- 215 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:50
-
「ねぇ、絵里は?」
さゆみの問い掛けにれいなも部屋の中を見渡してみる。
しかし、どこにも絵里の姿は見当たらない。
朝の絵里の態度を思い出したれいなは、この状況も相まってまた苛立ってしまう。
「…さぁ」
「そういえば今日なんかおかしかったよね」
「絵里はいつもおかしいっちゃん」
「なになにー?喧嘩でもしちゃった?」
「…しとらん」
朝以来大した会話をしていないのだから、喧嘩のしようがなかった。
なんとなく絵里はれいなを避けていて、必要最低限しか接触してこない。
絵里の行動の意味が全く理解できなかったれいなも意地になり、絵里から話しかけてくるまで無視を決め込んでいたのだ。
「誕生日に喧嘩なんてしてもしょうがないの」
「やけん、しとらん言うとろうが」
苛々が募り、口調がきつくなる。
そんなれいなに八つ当たりされたさゆみが肩を竦めて笑う。
むすっとしたれいなが眉間に皺を寄せた時、携帯がメールの受信を知らせた。
『お誕生日おめでとー!』
- 216 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:51
-
開いてみると絵里から、その一行だけ。
なんだ今更、ご機嫌取りのつもりか。
れいなは携帯を閉じようとしたが、その後に空白の行が続いているのに気付いた。
下へスクロールさせていくと、そこにはもう一行。
『廊下にきて』
考える間もなく身体が動いていた。
呼び止めるさゆみの声に振り返りもせず、部屋のドアを開けて廊下へ出る。
きょろきょろと左右に首を振って絵里の姿を探すと、少し先の曲がり角近くの壁に寄り掛かっているのをみつけた。
れいなに気付いた絵里が曲がり角の向こうに姿を消したので、慌てて後を追いかける。
「おいっ、絵―――っ!」
角を曲がってすぐ、待ち伏せしていた絵里の胸に飛び込む形になった。
そのままぎゅーっと抱き締められ、身動きができない。
「っ絵里、離さんか!」
「んー…」
「マジで苦し、って…!」
本気で息が苦しくて、絵里の腕を叩いてそう訴える。
僅かに力が緩んだ隙を見て素早く腕の中から抜け出した。
乱れた呼吸を整えていると、今度は控えめにれいなの服の袖を掴む絵里の手。
- 217 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:52
-
「れーな、メール気付いた?」
「…気付いたからきたんやろ」
「そーじゃなくてぇ」
「は?なんよ、他になんかあると?」
ポケットから携帯を取り出し、さっき届いたメールを確認する。
『お誕生日おめでとー!』と『廊下にきて』以外には何も書かれていない。
絵文字もなければ、タイトルも無題。
文字を隠す機能なんてないはずだし、とれいなは隠されているらしい何かをみつける為に画面を睨む。
「わかんない?」
「…絵里、もしかして夜にメールすんの忘れてたと?」
悩むれいなをにやにやと見ている絵里に腹が立ち、絵里の質問を無視して逆に質問を返した。
見逃してやろうとは思っていたが、やはり心のどこかにそのことが引っ掛かってすっきりしない。
忘れていたならそれはそれで絵里だから仕方ないと諦められる。
しかし、絵里は首を横に振って「忘れるわけないじゃん」と少し怒ったような表情になった。
「じゃあなんで送ってこなかったと?それに絵里が送ってきた時間、もうすぐ誕生日終わりっちゃん」
「自分の胸に聞いてみれば」
「はぁ?」
- 218 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:55
-
れいなの言葉に唇を尖らせた絵里は完全に拗ねてしまったようだ。
自分の胸に聞けと言われても心当たりはなく、まずどこで絵里の機嫌を損ねたのかも解らない。
困惑するれいなを上目遣いで窺っていた絵里が、ぽつりと言葉を洩らした。
「……時間」
「時間?」
「メール送った、時間」
視線を携帯に落とすと、メールの受信時間は二十三時十一分。
だがそれだけのヒントでは答えが見えない。
「…分からん」
「去年の絵里の誕生日」
―――時間と、去年の………あ。
ばっと顔を上げると、ますます尖っていた絵里の唇。
ようやく理解したれいなは俯いてしまった絵里の手を取って下から顔を覗き込む。
長い髪が邪魔をして、絵里の表情は見えない。
- 219 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:55
-
「…ごめん、今分かったと」
「……」
「あん時はれいなが悪かった、ごめん」
「……」
「絵里…」
去年の絵里の誕生日、しっかり準備はしていたのに寝過ごしてしまったれいな。
メールでは誕生日に合わせたと誤魔化したけれど、ライブのトークでその話題を出した後に罪悪感が湧いてきてぶっきらぼうに事実を伝えた。
絵里はその時多少怒った素振りを見せたが、それほど気にしていないと思っていた。
だが、れいなが思っていた以上に絵里は傷ついていたのだろうか。
「許してくれないと?」
「……」
押し黙ったままの絵里に自業自得のれいなは強く出ることができない。
気まずい空気が流れる中絵里が鼻を啜る音が聞こえ、れいなはどうしようもなくて泣きそうになる。
唇を噛んだれいなの手を、繋いでいた絵里の手が握り返してきた。
「絵里?」
「………ちゅーしてくれたら、許してあげる」
か細い声がれいなに届く。
戸惑う暇などあるわけがない。
- 220 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:57
-
手を離して絵里を抱き寄せ、片方の手で顔にかかっている髪をどかした。
見えたのは、緩んだ口元。
「……は?」
「ちゅーしてくれないと許してあげないよ?」
「なっ、泣いてたんじゃなかと!?」
顔を上げた絵里は泣いた形跡など一切なかった。
見事に絵里の演技に騙されたれいなは思わず大きな声を出す。
ふにゃりと笑った絵里の腕が首に回され、近付いた絵里の鼻先が触れた。
「絵里ちゃん別に泣いてませんけどぉ」
「このっ…」
「んー?」
言い返すことができないれいなの完敗だった。
悔しかったので勝ち誇った笑みを浮かべる唇に乱暴に自分のをぶつける。
それでも絵里は満足そうにれいなの首筋に額を押し付けた。
「うへへぇ」
「…ったく、朝おかしいとは思ったっちゃけど」
「去年のお返しー」
「やけど携帯だと十一時やなくて二十三時やけん、分かりにくいっちゃん」
「だってぇ、午前中に送りたかったけど撮影してたから」
「まぁそうやね」
- 221 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:57
-
「それにれーなだって、夜中じゃ十二じゃなくてゼロだし」
「はいはい、すいませんでした」
ぽんぽんと頭を叩いて顔を向けた絵里に優しく唇を寄せた。
「お酒の味がする」
「愛ちゃんに飲まされたけんね。そろそろ戻らんと、愛ちゃんが暴走するっちゃん」
「んぅ…あとでれーなのとこ行くから、二人になったらプレゼントあげるね」
「なんくれると?」
「ないしょ」
「楽しみにしてます」
「れーな、二十歳おめでと」
頭がくらくらするのも頬が熱いのも、きっとアルコールが回った所為。
絵里の頬も微かに紅く染まっている。
ぼんやりする意識の中、もう一度だけと言って唇を重ねた。
- 222 名前:二十三時十一分の受信メール 投稿日:2009/11/19(木) 00:58
-
おわり。
- 223 名前:_ 投稿日:2009/11/19(木) 00:58
-
- 224 名前:_ 投稿日:2009/11/19(木) 00:58
-
- 225 名前:とうふよう 投稿日:2009/11/22(日) 18:38
- 待ってましたあ.+(´^ω^`)+.
れいなおめでとう!
もうれなえりおめでとう!←
演技派な亀井さん最高です(・∀・)ww
ログ一覧へ
Converted by dat2html.pl v0.2