好きなもの。
- 1 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/05(日) 16:59
-
スレタイ通り好きなものを載せていくスレです。
相も変わらずりーちゃん中心。
りしゃみや、りしゃもも、その他りーちゃん絡み。
時々気分で他CPも書くかもしれない。
でも基本りーちゃんとベリキューな感じです。
では初めての方もまたか!の人もどうぞよろしくお願いします。
- 2 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/05(日) 16:59
-
まずは短編。
りしゃあいりで、リアル。
切ない感じが苦手な方はご注意を。
- 3 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/05(日) 17:00
-
- 4 名前:―卒業― 投稿日:2008/10/05(日) 17:00
-
あたしが一番好きだった人とあたしが一番相談してた人。
その二人が付き合いだした。
みやの幸せそうな顔とももの申し訳なさそうな顔が忘れられない。
世界が壊れる音をあたしは確かに聞いた。
- 5 名前:―卒業― 投稿日:2008/10/05(日) 17:01
-
―卒業―
- 6 名前:―卒業― 投稿日:2008/10/05(日) 17:01
-
情けない。
あの日からどうにも身体に力が入らない。いや、身体は動く。
たぶん、そう動かす力、エネルギーそのものが枯渇してしまったんだ。
自分が生きてきた意味など彼女しかないから。
だから彼女を失った自分に生きるエネルギーはもはやないのだ。
薄目を開けると歪んだ天井が見えた。
何処だろうと一瞬考えて、梨沙子は倒れたことを思い出す。
暗くなる、閉じていく視界がリアルだった。
「りーちゃん、大丈夫?」
四角く歪んでいた視界に見たことがある顔が出てきた。
愛理だ。その瞳は心配そうに細められている。
いつもたれ気味の眉が更に情けない八の字になっていた。
その顔にクスリと笑いを漏らす。
出たのは自分で思っていたより更に嘲りの色が強くなった声だった。
- 7 名前:―卒業― 投稿日:2008/10/05(日) 17:02
-
「何が?」
「何がって……倒れたんだよ?」
「うん、知ってる。」
楽屋のソファに寝かせられているのだろう。
右手を突こうとして、一度空を切る。
自分の寝ている場所から辿って梨沙子はやっと右手をつけた。
ゆっくり、ゆっくり身体を起こす。
ソファに膝立ちになっていた愛理が梨沙子の邪魔にならないように身体を避ける。
身体を起こした見えた映像は楽屋に違いなかった。
腰から下に掛かっていた毛布を手繰り寄せ、丸まる。
体育座りというのは安心できる姿勢だ。
愛理が再び心配そうに身体を寄せた。
「身体は平気。」
ガヤガヤと騒がしい空気が蔓延している。
梨沙子と愛理の周囲だけが違う世界のように静かだった。
梨沙子の言葉に愛理が眉を顰める。
ぎゅっと包まれている毛布を握られた。
- 8 名前:―卒業― 投稿日:2008/10/05(日) 17:02
-
「りーちゃん。」
そろそろと隣から腕が回ってくる。
恐る恐るという雰囲気のそれは拒絶を恐れているからなのだろうか。
梨沙子から触らないでと言われることが怖くて、愛理の腕はゆっくりとしか回らないのだろうか。
判断が出来なかった。
―別に、しないよ。そんなこと。
今の自分にそんな力さえ残っていないことは梨沙子が一番よくわかっていた。
億劫なのだ。嫌というのも好きというのも。
どちらも使うエネルギーに差はないように思えた。
「ねぇ、わたしじゃダメなのかな。」
染み込むように愛理の体温が梨沙子に伝わる。
ほんわかとした温もりは人肌だからだ。
今までも何度か感じたことのある温もり。
愛理はいつもこうやって梨沙子が落ち込んでいる時は手を握っていてくれた。
- 9 名前:―卒業― 投稿日:2008/10/05(日) 17:03
-
「愛理がダメとかじゃないよ。」
ただ今の自分は何も受け付けないだけ。
愛理以外だったらこんな風に抱かれていることもないだろう。
全て話してきた。
雅への想いも、桃子への感謝も。
愛理は梨沙子の感情について一番知っている。
「愛理は、世界が壊れる音、聞いたことある?」
「……世界が、壊れる音?」
うんと頷く。
感覚的過ぎてしまう自分の言葉は多くの人に伝わらない。
愛理はそれを汲み取ってくれる人間の一人だった。
- 10 名前:―卒業― 投稿日:2008/10/05(日) 17:03
-
「みやとももが付き合いだしたとき。」
「っ、りーちゃん。」
愛理が慌てた様子で梨沙子が話すのを止めようとする。
しかし梨沙子はそれを軽くいなして「大丈夫だよ。」と笑った。
雅と桃子が付き合いだした。
それを梨沙子が知ったのは奇しくもボーノのときだった。
つまりその時愛理は現場にいたのである。
はっきりと覚えている。
持って行った差し入れも、その時の衣装も髪型も。
そして三人の梨沙子を見る表情も。
嫌と言うほど瞼に焼き付いていた。
「知らなかったなぁ。」
じっと一点を見つめて喋る。
梨沙子の瞳に何が映っているか愛理には分かっていた。
悲痛な顔で自分を見つめる姿が目の端で動いた。
- 11 名前:―卒業― 投稿日:2008/10/05(日) 17:03
-
梨沙子の世界はあの時壊れてしまった。
雅の一言で梨沙子の世界の音は消えてしまったのだ。
消えた音の中で一際際立つパンという破裂音。
それこそが世界の壊れた音だった。
戻ってきたのは単なる雑音と色を失くした世界。
「あたしが、壊れたから……愛理には関係ないんだよ。」
この身体は雅しか受け付けないように出来ていた。
なんでかなんて知らない。
小さい頃から、気づいたらそういう風にできていたのだ。
その上、壊れて尚、梨沙子の身体は雅に反応するようになっている。
皮肉すぎて梨沙子は自嘲した。
少し視線を動かせば雅が見える。
桃子と一緒に何か楽しそうに話している。
その姿は幸せそうで、結局梨沙子にあれを壊すことはできない。
ただ自分を枯らしていくしか方法はなかった。
- 12 名前:―卒業― 投稿日:2008/10/05(日) 17:04
-
「やだ。」
「愛理?」
目を瞑った視界に聞きなれた声が響く。
ぎゅっと先程より強い力で、毛布ごと抱きしめられた。
耳元で流れる声は震えていた。思わず瞳を開ける。
見えたのは必死に涙を我慢する親友の姿。
「りーちゃんと関係ないのはいや。」
「やだやだやだぁっ。」と連呼される。
そこに見えたのは酷く幼い色だった。
いつもは自分より余程しっかりしている親友の姿に眉を下げる。
ここまで大泣きしているのは初めて見る。
どうしていいのか分からなくて、梨沙子はとりあえず自分に掛かっていた毛布を分けた。
- 13 名前:―卒業― 投稿日:2008/10/05(日) 17:04
-
「……愛理泣かないでよ。」
仕方のないことなのだ。
雅を好きだった。間違いなく、愛してた。
それが叶わなくなって梨沙子にできることなど何があるのだろう。
雅一色で過ごしてきた人生はそれ以外の生き方を梨沙子に教えなかった。
「あーあ、こんなに愛理ちゃん泣かしちゃって。」
「ママ。」
「ベイビーは女泣かせだね。」
愛理が泣いているのが分かったのだろう。
対面のソファに座っていた茉麻が側に来ていた。
ぽんぽんと宥めるように愛理の頭を撫でて、それから隣に座る。
にっこりと自分に向けられた笑顔に梨沙子は安心した。
- 14 名前:―卒業― 投稿日:2008/10/05(日) 17:04
-
「…ひっぅ…りー、ちゃん。」
自分に伸ばされた手を握る。愛理の涙は収まる様子を見せなかった。
なんで自分のことでここまで泣いているのだろうと梨沙子は他人事のように思う。
愛理が優しいことは最早言うまでもない。
いつも梨沙子のことに心を痛めてくれたのは愛理だった。
「梨沙子さ、もうちょっとみや以外も見てみなよ。」
「ママ、でも、あたし。」
「分かってる、梨沙子がどんだけみやを好きだったか。」
メンバーは誰もがわかっていた。
梨沙子が雅を好きなことなど。
雅以外皆、とっくの昔に気づいていたことだ。
その上で雅が桃子を選んで、桃子は雅を選んだ。
ならばそれは仕方ないことなのだ。
茉麻はそう思う。
- 15 名前:―卒業― 投稿日:2008/10/05(日) 17:05
-
「でも愛理ちゃんみたく梨沙子を必要な人もいるんだよ。」
茉麻の手が優しく愛理の背中を撫でる。
釣られる様に梨沙子も愛理を見つめた。
ぽろぽろと黒目がちの瞳から大粒の涙を零す愛理。
握られた手からは痛いほどの力が伝わってきた。
愛理は必死なのだ、梨沙子を繋ぎとめておくことに。
自分にそんな価値などないのにと心の中で呟く。
「梨沙子は、愛理ちゃん嫌い?」
「ううん。」
嫌いじゃない。
むしろ雅を抜かせば一番好きな相手だ。
愛理の震える身体が梨沙子に振動を伝える。
不定期なそれは梨沙子の心まで痛くさせた。
- 16 名前:―卒業― 投稿日:2008/10/05(日) 17:05
-
「愛理が泣いてちゃ、あたしどうしたらいいか分かんない。」
「りーちゃんっ。」
抱きついてきた愛理にバランスが崩れる。
「わっ。」と思ったより大きな声が出て、すぐに泣いている愛理を毛布で隠す。
雅は気づいてもない。
視界の端で見えたそれに少しイラついた。
「1個壊れたなら、また作ればいいじゃん。」
「へ?」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら愛理が言う。
見えた瞳は見たことがないくらい綺麗な黒だった。
真剣な瞳が梨沙子の世界を揺さぶる。
涙が光って星のようだった。
- 17 名前:―卒業― 投稿日:2008/10/05(日) 17:06
-
「世界は広がってるんだよ、ベイビー。」
「みやからの卒業だね。」と愛理が笑う。
笑いきれてない顔がおかしくて梨沙子は久しぶりに笑った。
一つ壊れたならまた作ればいい。世界は幾らでも繋がっている。
梨沙子の世界に色が戻るのもそう遠くない未来のことだろう。
―卒業―終
- 18 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/05(日) 17:06
-
- 19 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/05(日) 17:08
-
まぁまぁ、こんな感じもありじゃないかとw
『びちゃん、ちょっとりーちゃんに構ってあげてくれ。』
と思って書いたらこんなの出来ました。
りしゃあいりは甘くなりやすくて、好きですw
二つ目、永久種シリーズ。
こっちはちゃんとしたりしゃみや、のはず……(エ
- 20 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/05(日) 17:08
-
- 21 名前:―秋空デート― 投稿日:2008/10/05(日) 17:09
-
―みやとの約束教えてよ。
そう言うと梨沙子はどこかはにかんだ笑みを浮かべた。
その顔が可愛くて。ちょっと悔しくて。
うちらは秋の空の下へと繰り出した。
- 22 名前:―秋空デート― 投稿日:2008/10/05(日) 17:09
-
―秋空デート―
- 23 名前:―秋空デート― 投稿日:2008/10/05(日) 17:09
-
とことこ、とことこ、道を歩く。
学校帰りから繋がる道のはずなのに。
雅が一度も通ったことのない道だった。
そこを梨沙子はまるで自分の道というように歩いていく。
そうなってしまっては付いて行くしかできなかった。
「梨沙子ー?何処行くの?」
「ないしょ……着いて来て。」
自然な動作で梨沙子は唇の前に指を立てる。
穏やかな顔に雅は何も言えなくなって、ただ差し出された手を握る。
ぎゅっと力を込めれば梨沙子の極端に低い体温も得られる気がした。
ふわりと撒かれた笑顔は雅の胸を締め付ける。
―かわいすぎ。
そんな感情を誤魔化すように、顔の赤さを誤魔化すように。
雅はばれないように少し顔を俯ける。
繋いだ手があるから前を見なくても平気だった。
梨沙子はそれを理解しているのか、何も言わない。
ふわりと夏の名残がある風が吹き抜けていった。
- 24 名前:―秋空デート― 投稿日:2008/10/05(日) 17:10
-
「みやはさぁ。」
「うん?」
ほわほわとした声が耳朶をくすぐる。
雅は梨沙子の低めの声が気に入っていた。
穏やかな低音はとても馴染む。
まるで子守唄を歌われているように、安心できる。
雅にとって特別な音。
そう感じている。
「生きるってなんだと思う?」
「へ?」
突拍子も無く聞かれて間抜けな声が出る。
生きる。生存。存在。
雅にはどれも良く分からない。
動きを止める雅に梨沙子がもう一度繰り返す。
- 25 名前:―秋空デート― 投稿日:2008/10/05(日) 17:10
-
「だから、生きるってなんだと思う?」
「よく分かんないけど。」
前置きを一つ置く。
自信のない声はすぐに風に消えてしまう。
質問しながらも歩みを止めないのには理由があるのだろうか。
ずんずんと進む梨沙子の背中をちらりと見る。
変わらないものがそこにある。
ずっと、きっと探していた背中。足りなかった何か。
すぅと僅かに深く息を吸い、それから雅は話し始めた。
「今、なんじゃないの。生きるって。」
「今?」
「うん、今うちは生きてる、ってことは生きるって今のことでしょ。」
生きるなど雅は良く分からない。
分かるのは生きている自分だけだ。
一分一秒と雅は今を生きている。
だから雅にとっての“生きる”は生きている“今”と等価になる。
- 26 名前:―秋空デート― 投稿日:2008/10/05(日) 17:10
-
「今、今かぁ……うん、確かにそうだね。」
何度か今という言葉を梨沙子は繰り返す。
小さい声はでも納得しているように雅には聞こえた。
少なくとも気に入らない答えではなかったようで。
良かったと胸を撫で下ろす。
「なんで、そんなこと聞くの?」
微かな疑問。
なんでそんなことを聞く必要があるのか雅にはわからなかった。
梨沙子は一瞬黙り込み、何かを探すように視線を動かす。
細い路地が途切れる。
迷路のような道筋が雅の目の前で終わっていた。
夕方の斜光と優しい風が二人の間を通り抜ける。
梨沙子の緩やかな声がその風に乗って届く。
- 27 名前:―秋空デート― 投稿日:2008/10/05(日) 17:11
-
「あたしは生きるって死ぬことだと思うから。」
「え?」
道案内は終わり。という感じで梨沙子が手を離す。
開放された右手が所在無げに彷徨う。
二人の間の距離が寂しかった。
「例えば、そうだなぁ……。」
きょろきょろと周りを見渡す梨沙子。
向けられた背中がなんか寂しくて。
先ほどまでと何も変わらないその背中が、知らないものみたいで。
行く先を求めていた雅の手は梨沙子の服の裾に収まる。
―……子供っぽい。
まるで迷子になるのが嫌な子供みたいな行動。
梨沙子といるとどうしても自分の中の幼い部分が出てしまう。
分かっているのに、嫌なのに。
雅はそれを治す方法を知らなかった。
それ以上に離れるのが酷く怖かった。
- 28 名前:―秋空デート― 投稿日:2008/10/05(日) 17:11
-
雅から裾を掴まれた梨沙子はそれでも動きを止めることなく。
まるで引っ張られていることなど感じていないように何かを探している。
服を掴んでいるため梨沙子の動きに合わせて雅も動くしかない。
むしろ離れないための行動だったので、目論見どおりといえばそうだった。
「なに、探してるの?」
「うん、別になんでもないんだけど……どうせならね。」
それでも背中しか見えない図が嫌になって。
雅は梨沙子の隣に並ぶ。
並んで初めてそこが何処かの河原という事に気づいた。
秋という季節に相応しく落ち着いた緑が広がっている。
「こんな場所、あったんだ。」
「あったよ。みや、知らなかったの?」
「あんま外でないし。」
言い訳のように出た言葉に梨沙子は目を細める。
不思議と不機嫌の中間の顔だった。
そうなんだよね、と梨沙子が呟く。
- 29 名前:―秋空デート― 投稿日:2008/10/05(日) 17:12
-
「人間って、自分の周りのことに興味ないんだよね。」
「そんなことも……ないんじゃない?」
「ううん、変わらないって思ってるから。人は見逃す。」
そんなことないのにと梨沙子が視線を落とす。
雅は何も言えなくて。
ただ梨沙子の手を求めるように、握った。
伝わる力に安心する。
「この、コスモスととかもさ。」
「うん。」
一輪の花を囲うように支える。
緑の葉と薄紅の花弁の色が梨沙子の手の中に収まる。
梨沙子はそれを見て眉を下げ優しい顔で笑った。
- 30 名前:―秋空デート― 投稿日:2008/10/05(日) 17:12
-
「最初からここに在ったわけじゃないじゃん。」
種が飛んできて、芽が出て、根を張って、花になる。
最後にはまた種になる。
そんな輪がここには確かに存在している。
その前には何もない更地だったのかもしれないし。
また別の花の種床だったのかもしれない。
「変わってくでしょ?全部。」
愛おしそうに、小さなコスモスを撫でる梨沙子。
雅には難しくて良く分からなかった。
良く分からなかったが、でも梨沙子が大切にしていることだというのは分かった。
ただ隣に立って梨沙子の話を聞く。
- 31 名前:―秋空デート― 投稿日:2008/10/05(日) 17:12
-
「……で、変化の初めと終わりが、生と死だと思う。」
一心に梨沙子の視線が秋桜に注がれる。
隣から見える横顔は綺麗だった。
前にも思ったことだ。
梨沙子は人間離れした綺麗さを持っている。
造詣以外で、何かこう眩しいものがある。
雅はこういう何でもない場面で時々それを自覚する。
「だからあたしにとっての生きるは生と死の間のこと。」
「そう、なんだ。」
「うん、人の一生って凄いことだと思う。」
―なんか、やだ。
梨沙子の顔は笑っている。
笑っているはずなのに、とても悲しく雅には見えた。
諦めているような寂しい様な表情。
それがぎゅっと雅の胸を締め付ける。
川原を通り抜ける風が目の前のコスモスを揺らす。
まるで生きていることを主張しているかのようだった。
- 32 名前:―秋空デート― 投稿日:2008/10/05(日) 17:13
-
「ごめんね。」
唐突に謝られる。
困ったような顔に雅の方が戸惑った。
「え?何が?」
「ううん、まだいいの。」
何を謝られているか。
それさえ分からなくて雅は梨沙子に尋ねる。
しかし返ってきた答えは否定だった。
緩やかに横に振られた顔の表情は穏やかなのに。
言葉から伝わる感情はそれとは正反対のもの気がした。
- 33 名前:―秋空デート― 投稿日:2008/10/05(日) 17:13
-
「――――――――――」
「梨沙子……?」
何かを言われて気がして梨沙子の顔を覗き込む。
雅の眉間には皺が寄っていた。
―みやとの約束、守れなくてごめん。
顔は見えなかった。
表情も当然分からなかった。口の動きなどもっとだ。
それなのに雅は梨沙子がそう言ったように思えてならなかった。
声の一筋も漏れていない梨沙子の想い。
それは音より確実に雅に何かを伝えた。
ぎゅっと制服のブラウスを握る。
不吉な予感がしてならなかった。
―秋空デート―終
- 34 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/05(日) 17:14
-
- 35 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/05(日) 17:17
-
なんか今読み返すと二つとも妙に哲学ってるorz
そういう季節ということで納得しといてください。
りしゃこに哲学っぽいこと言わせるの大好きな人種なんでw
知ってる人は知っていると思いますが、幻板に新スレ立てましたー!!
あっちは完全に一つの設定で貫きとしたいと思います。
こっちは永久種シリーズと、その時その時の短編挙げます。
ということで、以上更新でした。
ではまた妄想が溜まる日に。
- 36 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/05(日) 17:17
-
- 37 名前:YOU 投稿日:2008/10/05(日) 18:47
- 新スレおめでとうございま〜す\^o^/
いや〜初っ端からAつのお話を更新されるとは。
『卒業』は切ないですね〜。
「世界が壊れる音」ですか〜(´〜`;)
『秋空デート』はこれまた意味深な内容ですね〜。
梨沙子と雅の約束ってなんなんですかねぇ〜。
また更新待ってます。
- 38 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/15(水) 06:59
-
- 39 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/15(水) 07:03
-
こっそりこっそり朝にあげます。
ものっそ眠いっすw
37<<YOUさん
レスあっとうございます!
新スレです。トロくはなりますが細々と頑張ります。
卒業は切ないりしゃみやが見たくて突発的にできますたw
永久種はもう少し続きます。
あっちこっち行く話ですが楽しんでくださると幸いです。
では今日の更新。
永久種である意味、みやもも。
- 40 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/15(水) 07:03
-
- 41 名前:―ザワツク胸― 投稿日:2008/10/15(水) 07:04
-
台風が近いらしい。
朝から黒くて重い雲が空に立ちふさがって。
ちっとも爽やかじゃない朝を雅は迎えていた。
- 42 名前:―ザワツク胸― 投稿日:2008/10/15(水) 07:04
-
―ザワツク胸―
- 43 名前:―ザワツク胸― 投稿日:2008/10/15(水) 07:04
-
ばんと強い音がして、桃子はのんびりと顔を上げる。
社会科準備室。
ソファが備え付けられているそこは桃子にとって絶好の隠れ蓑だった。
たゆたう意識にズカズカと入ってきた侵入者を桃子は顰め面で迎えた。
「ねぇ、知ってるんでしょ?」
開口一番、そう言われる。
一瞬何のことか良くわからなかった。
しかし雅が桃子に言う事など梨沙子のことしかなく。
桃子は興味をなくしたように顔を戻す。
戻した頭がソファに沈んで、雅の顔が視界から消える。
キュというゴムの音が近づく。
「何が?」
「梨沙子の、約束だよ!」
ちらりと雅を見る。
その顔は真剣そのものであった。
みやとの約束がそんなに気になるのだろうかと思考する。
雅は雅でしかないし、雅はみやの一人だ。
昔の約束なんてはっきり言って意味がない。
- 44 名前:―ザワツク胸― 投稿日:2008/10/15(水) 07:05
-
―……なんかさぁ。
雅は勘違いしている。
自分はあくまで梨沙子の手伝いしかしない。
前、梨沙子の元に連れて行ったのは単に必要だったから。
消えていく彼女を引き止めるに他に方法がなかったからだ。
梨沙子には幸せになって欲しいが、それが雅を助けることにはならない。
むしろ現れては消えていくみやに傷つく梨沙子は見たくなかった。
桃子ははぁと小さく息を吐く。
「知ってたとして。」
目を細めて天井を見る。
寝起きで頭がよく回らない。その上機嫌も悪い。
無表情に近い表情で少し首を反らす。
ソファから数歩の位置、遠くも近くもない場所に雅は立っていた。
- 45 名前:―ザワツク胸― 投稿日:2008/10/15(水) 07:05
-
「もぉがあんたに教えると思ってんの?」
出た声は冷たい。
人間にかける温もりのある声などあの時全て捨ててしまった。
梨沙子と一緒に生きていくと決めたときから、桃子は既に人でない。
体育でもしているのだろうか。
社会化準備室に唯一ある窓からは騒がしい声が聞こえてきた。
くぐもった音が耳に煩わしい。
「……教えて欲しい。」
それでも雅は真っ直ぐに見つめてくる。
馬鹿みたいに素直な人間だと桃子は溜息をつきたくなった。
しかしそれは雅だけではない。
みやという人物は総じてそういう傾向があった。
知りたいから、教えて欲しい。
間違ってはいない。正攻法の理由だ。
- 46 名前:―ザワツク胸― 投稿日:2008/10/15(水) 07:05
-
梨沙子の約束を桃子は勿論知っている。
それを叶えられなくて、叶えたくなくて梨沙子は長年悩んできたのだから。
その上約束に縛られているのはきっと弱さ。
みやに対して梨沙子はとことん弱くなってしまう。
みやというその一言だけで、梨沙子は何もできなくなってしまうのだ。
―そういうとこが、嫌い。
桃子にとって梨沙子は絶対だった。
永久種としてはまだ若い彼女でも。
人間として生きてきた桃子からすれば途轍もない年月を生きている。
桃子を拾ったのは梨沙子の暇つぶしだったのかもしれない。
それでも桃子は梨沙子から与えられたものは全て覚えている。
飛べないときに見た、空からの光景も。
初めて行った別世界も。
また迫害というものがどんなものかも。
桃子は全て梨沙子の腕の中で知ったのだ。
- 47 名前:―ザワツク胸― 投稿日:2008/10/15(水) 07:06
-
「梨沙子、この間謝ったの。」
意識を沈めていた桃子の耳に雅の呟きが入る。
トットという軽い音がして、雅の顔が桃子の視界に出た。
その表情は複雑だ。
悲しそうなようで戸惑っていて、泣きそうなのに泣けない。
面倒くさい色をしていると桃子は思った。
「なにを?」
それでも聞かないわけには行かない。
梨沙子に関係している限り、桃子に無視するという選択肢はない。
「わかんない。」
「はぁ?」
「わかんないから、聞きに来てるんじゃん!」
さらりと長い髪が揺れる。
揺れる度に雅の表情は見え隠れした。
語気を強める雅が桃子には理解できなかった。
- 48 名前:―ザワツク胸― 投稿日:2008/10/15(水) 07:07
-
―子供の癇癪みたいなんだけど……。
雅と言う少女は見た目に反して子供っぽいところがある。
桃子はたびたびそう思っていた。
梨沙子も年に吊り合わない幼さがあるが、それともまた違う。
ギャップがあるのだ。幼いのではなく、子供っぽい。
そんな風に頭の片隅で考えながら、雅の言葉を整理する。
梨沙子について教えて欲しいと来た雅。
そして謝られたと悲観した雅。
つまり聞きたいのは何について謝られたか。
- 49 名前:―ザワツク胸― 投稿日:2008/10/15(水) 07:07
-
「気づいてんじゃないの?」
「え?」
「りーちゃんが、何に謝ったか。」
半身を起こして座りなおす。
肘掛に肘を乗せ顎も乗せる。
胡乱な目で見れば、少々雅の体がたじろいだ。
桃子に梨沙子の約束について聞きに来た時点で、雅は答えを知っている。
「それは……。」
雅が答えに詰まる。
少し顎を引いて視線が落ちた。
何も聞こえない空間が部屋に満ちる。
耳が痛くなるほどの静寂は嫌じゃない。
答えられないなら出ていけばいい。
それさえも聞けない覚悟なら、近づかなければいい。
梨沙子が苦しむ理由なんてなくなってしまえばいい。
- 50 名前:―ザワツク胸― 投稿日:2008/10/15(水) 07:07
-
「約束が、守れないから?」
ぽそりと雅が呟く。
伺うようにこちらを見る目にこくりと頷いた。
違うと言って欲しいとその瞳が言っていた。
だが桃子はそんなこと言うつもりは更々ない。
人間に優しくする気は欠片もないのだ。
「なんだ、やっぱわかってるんじゃん。」
梨沙子と似た薄茶色い瞳を桃子は輝かせる。
雅には酷薄に見えただろうと思う。
思うがそれだけだ。
桃子の中の人としての心はとっくの昔に凍り付いている。
今の桃子は完全に半魔、もしくは永久種に近い存在になっている。
梨沙子が人に近づくのとは反対に。
それが少し皮肉すぎて、桃子は自分に嘲笑を向けた。
- 51 名前:―ザワツク胸― 投稿日:2008/10/15(水) 07:08
-
「なんで?あんなに、守りたそうなのに。」
「守れない約束だからだよ。」
桃子は知っている。梨沙子がそれを叶えられない理由を。
しかし雅に言うわけにはいかない。
梨沙子から口止めがされていたし、教える義理もないからだ。
「でもっ。」
「あんたにりーちゃんを責めれると思ってんの?」
―みやが大切だから、りーちゃんは守れないのに。
桃子の言葉に雅はぐっと言葉に詰まる。
何より桃子の冷たい視線が雅の動きを止まらせた。
- 52 名前:―ザワツク胸― 投稿日:2008/10/15(水) 07:08
-
「信じて、あげてよ。」
あんなに雅を大切にしているんだから。
梨沙子が何かを躊躇うとしたらそれは全て雅に不利益になることだから。
何があっても揺るがないで欲しい。
だけど、それでも揺れてしまうのが人間だと桃子も知っていた。
桃子はそれだけを言って再び固いソファに身を横たえた。
―ザワツク胸―終
- 53 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/15(水) 07:09
-
- 54 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/15(水) 07:11
-
こっちの嗣永さんはややこしいw
まぁ、それだけりーちゃんが好きってことで(エ
……大変な小姑(ももち)がいるけどびちゃん頑張ってね!!
と、びちゃんに丸投げして終わります。
ではまた妄想が溜まった時にお会いしましょうw
- 55 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/15(水) 07:11
-
- 56 名前:YOU 投稿日:2008/10/15(水) 23:33
- 更新お疲れ様です。
この話の嗣永さん夏焼さんにはなんか恐いですねぇ〜。
いったい梨沙子は夏焼さんとどんな約束をしたのかなぁ〜???
また更新待ってます。
- 57 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/02(日) 11:54
-
- 58 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/02(日) 11:57
-
風邪から復活。
そして今回は何も関係の無い短編二本挙げます。
56<<YOUさん
お待たせしました!
永久種の嗣永さんはりーちゃんが好き過ぎるだけですw
少なくとも自分の中ではそういう設定(エ
約束についてはもう少しで明らかになると思います。
コメントありがとうございます!
ではではまずベリコレ終結記念w
りしゃみや、リアルです。
- 59 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/02(日) 11:57
-
- 60 名前:―掴ませないのは君― 投稿日:2008/11/02(日) 11:58
-
ねぇ、知ってる?
繋いでおけないのは君のせい。
捕まえられないのも君のせい。
不安になるのもうちのほうがきっと多い。
- 61 名前:―掴ませないのは君― 投稿日:2008/11/02(日) 11:58
-
―掴ませないのは君―
- 62 名前:―掴ませないのは君― 投稿日:2008/11/02(日) 11:59
-
コントが終わって舞台袖に下がる。
間を置かずに流れ始めたイントロが雅の耳に聞こえる。
この瞬間いつもピクリと身体が小さく反応してしまう。
―梨沙子。
ちらりと後ろを振り向く。
丁度よく反対の方から梨沙子が階段を上るのが雅の目に映る。
その表情は見たことがないくらい大人っぽい。
今まで散々梨沙子の顔なんて見てきた。
それなのに今回の表情は何故か見ていられず、雅は背を向ける。
「みや。」
切なさが込められた梨沙子の声が袖にも響く。
気づかない振りをして歩くも、すぐに千奈美に呼び止められた。
本当はそれさえ無視してしまいたかった。
だが無視することなど当然できるわけがなく、足を止める。
千奈美を見れば予想通りモニターの前に立っていた。
- 63 名前:―掴ませないのは君― 投稿日:2008/11/02(日) 12:00
-
「ちー、また見てるの?」
雅は呆れを滲ませた声をかける。
千奈美から手招きされ、仕方なく側によった。
モニターには青いドレスを着た梨沙子が映っている。
タイミングよく画面は引きから煽るような表情に切り替わる。
雅の知らない少女の顔がそこにはあった。
「うん。相変わらず凄いよ。」
「好きだねぇ、ちーも。」
千奈美が梨沙子のことを気に入っているのに雅は気づいていた。
「大人っぽいね!」と梨沙子を褒める様子は純粋な憧れに近い気がする。
一番混じりけのない目で梨沙子を見られるのは千奈美なのかもしれない。
ふとそんな感想が頭を過ぎった。
桃子と佐紀はどうしても年下としての梨沙子が先に立つ。
茉麻は本当に梨沙子を甘やかすし、友理奈は友達としての感覚が大きい。
まして雅自身は懐かれすぎて、世話を見すぎて評価なんてできない。
だからアイドルとしての梨沙子を真っ直ぐに見ているのは千奈美だと思えた。
- 64 名前:―掴ませないのは君― 投稿日:2008/11/02(日) 12:00
-
「この曲来るたびに凄いなーって思うよ。あたしは。」
「梨沙子に言ってあげて。喜ぶから。」
流れる楽曲に負けないように大きめの声で話す。
千奈美の言葉に雅は少し困ったように笑いながら返した。
なぜわざわざ自分に言うのか雅には分からない。
すると千奈美はそんな雅の胸中を見抜いているかのように口角を上げた。
嫌な感覚が背筋を通り抜けていく。
失敗したと言葉が発せられる前に理解した。
「みやが言ってあげなよ。その方が梨沙子嬉しがるし。」
「あー、うん。」
そんなの出来たらとっくにしていると雅は心の中で毒づく。
褒めてあげようと何度か思ったがそれを実行できたことはない。
恥ずかしいという感情も確かにある。
しかしそれ以上に自分の知らない梨沙子を認めるという行為が嫌なのだ。
歌はサビに入っていた。早くなるテンポにくっと眉間に力が入った。
暗いステージ裏、しかし千奈美には雅の表情が見えたらしい。
ちらりと画面を確認しつつ、千奈美は苦笑いをした。
- 65 名前:―掴ませないのは君― 投稿日:2008/11/02(日) 12:00
-
「なんでこの歌、そんなにヤなのさ?」
「別に嫌ってわけじゃないよ。」
歌詞も曲調も嫌いじゃない。
ただ歌っているのが梨沙子だから。
ましてや自分の見たことの無い梨沙子だから。
雅は見ていられないだけなのだ。
―なんで、梨沙子なんだろ。
大人っぽさや格好良さが滲む曲だと思う。
これを歌うのが桃子や佐紀ならここまで何かを思わない。
雅自身に回ってきたとしても、普通に歌っていただろう。
梨沙子以外ならば良かった。
七分の一。そんな確率が偶々当たってしまったのだ。
黙って画面を見つめる雅を千奈美は隣から見ていた。
その横顔は見たことがないくらい真剣だ。
きっと本人は気づいていない。
自分が何にそれほど動揺しているか、雅は気づいてない。
それが少し可笑しくて千奈美は口角を吊り上げた。
- 66 名前:―掴ませないのは君― 投稿日:2008/11/02(日) 12:01
-
「みやは、あれだよね。」
千奈美の言葉に雅が画面から視線を動かす。
その顔は怪訝そうだった。
深く考えず思ったことを口に出す。
「いきなり兄弟の変化に気づいて吃驚するタイプだよね。」
「ん?どういうこと。」
千奈美の言葉に雅は首を傾げる。
雅には実際弟がいるが、そういう話でないことくらいは分かった。
千奈美は突拍子も無いことを言い出す人物ではある。
だがそれには千奈美なりの繋がりがあるのも知っていた。
首を傾げたまま待つ。
「だから気づいてなかったんでしょ?」
「何が?」
理解しない雅に腹立たしいというように語気が強まる。
それでもただ困惑した風に雅は眉を顰めるだけだった。
仕方がないと自分を納得させるかのように千奈美が息を吐く。
- 67 名前:―掴ませないのは君― 投稿日:2008/11/02(日) 12:01
-
「梨沙子だってみやだって変わってるんだよ。」
タイミングよくサビの歌詞が被る。
―もう、昔のままの私じゃないわ。
他ならぬ梨沙子の声で告げられたそれに雅は衝撃を受けた。
それが何かは分からないが雅はこの時確かに何かを理解した。
「そのままのものなんて、無いんだから。」
歌詞に合わせるかのように千奈美が言う。
ニッと上がった口角は雅の様子の変化に気づいたからだろうか。
トンと画面を指差し、そこに映る梨沙子を見せる。
そんな千奈美の言葉を否定しようと雅は勢い半分に口を開いた。
「違うよ、うちが嫌なのは。」
一度言葉を止める。
うちが嫌なのはともう一度呟いて、考える。
何が嫌なのだろう。この曲を歌う梨沙子の。
くるくると思考が回る。
出たのは雅の中で一番の真実で、しかし周りからしたら分かりにくいものだった。
- 68 名前:―掴ませないのは君― 投稿日:2008/11/02(日) 12:01
-
「掴まえられないこと。」
「掴まえられない?」
つい先ほどまでとは逆に今度は千奈美が首を傾げる。
こくんと雅は小さく頷いた。
暗がりで見えにくい動きはしかし千奈美へと伝わる。
梨沙子を掴えることは非常に難しい。
表面的には凄く簡単に見えるかもしれない。
だが少なくとも雅にとっては酷く難しいことだった。
「うん、梨沙子ってね。掴みどころが無いから。」
「ああ、うん、それは……なんとなく分かるかな。」
ふわふわしていて、そよ風にのって動く雲のように自由だ。
単純に見られがちな梨沙子だが気難しい面が多いのを雅は知っている。
雅に対してその面があまり出ないだけだ。
しかしそれでも梨沙子を捕まえておくことが大変なのはわかっていた。
- 69 名前:―掴ませないのは君― 投稿日:2008/11/02(日) 12:02
-
「梨沙子は、捕まえようとすると逃げちゃう気がするんだよね。」
「みやからなら逃げないでしょ。」
「……無意識、なんだ。きっと。」
ふとした仕草。
例えば目が合ったときの笑みや何てこと無い会話の間。
そういう時、梨沙子に近寄ることは無理な気がしてしまう。
恐らく雅にしか分からない。
梨沙子に一番懐かれている雅だからこそ分かる空気。
近づけば近づいた分だけ梨沙子は遠くなるのだ。
―繋いでおきたいのはうちの方。
いつも側に居てくれる分だけ、分からなくなる。
梨沙子が自分を好きでいてくれるのは間違いないだろう。
そこは確信している。だからこそ不安になる。
- 70 名前:―掴ませないのは君― 投稿日:2008/11/02(日) 12:02
-
「ふーん、みやの考えすぎだと思うけどね。」
「そうかな……?」
「梨沙子はみやが大好きだし、離れることなんて無いよ。」
僅かに肩をすくめて千奈美が言う。
違うと言ってしまいたかった。そういうことじゃない。
梨沙子と雅の関係はそれだけで言えるほど簡単ではない。
幼すぎる恋はいつか消えてしまう。
特に梨沙子のように半ば刷り込みのように雅を好きな想いは。
時が来たら泡沫の夢のように消えてしまうのではないかとずっと考えていた。
そんな思いがあるから雅は梨沙子を素直に好きになれない。
「ほら、次の曲になるよ。準備したら?」
「そうだね、そうする。」
いつの間にか曲も終盤になっていた。セリフが終わって最後のサビだ。
この後、雅は佐紀達と一緒に梨沙子に合流する。
「……早く。」
舞台袖からステージを見つめ、呟く。
大人っぽい顔じゃなくて、あの子供っぽい笑顔が雅は見たかった。
―掴まらせないのは君―終
- 71 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/02(日) 12:03
-
- 72 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/02(日) 12:05
-
うん、もうちょっとREAL LOVEを上手く使いたかったw
ヤキモキする雅ちゃんを感じてくれたら幸いです。
そして、次。
問題児な駄文ですw
りしゃもも、リアル裏。
無駄に長くて無駄にえろくなっとりますw
苦手な方は回避してください。
- 73 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/02(日) 12:05
-
- 74 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:06
-
始まりはみやから。
みやがあたしに一つの飴をくれた。
ちょっとした悪戯だったんだけど。
あたしはそれに乗った。
- 75 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:07
-
―溶ける飴―
- 76 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:07
-
「ねぇねぇ、梨沙子。これ使ってみてよ?」
「なに、これ。」
手渡されたのは良くあるキャンディ。
包み方も両脇で捻ってある、昔ながらの奴で。
コロンと掌に転がったそれに梨沙子は首を傾げた。
「飴ー……ちょっと特別だけど。」
「ふーん。」
ふふっと笑う雅を目の端に端を摘んでみる。
悪戯な表情から普通の飴じゃないことを察する。
あの顔をするときは大抵が悪ふざけを考えているときだ。
それが分かる程度には長い年月を過ごしてきた。
「ま、ももにでも使ってみて。効くかわかんないけどね。」
「ももに?」
「だいじょぶ、だいじょぶ。梨沙子も気に入るよ、きっと。」
ぴくりと梨沙子の肩が反応する。
悪戯好きを自覚している梨沙子だがその相手が恋人となると少しは考える。
といっても泣かないように配慮だけで、するという事自体は変わらないのだが。
- 77 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:07
-
「ん、わかった。」
「どうだったか教えてね?」
ぽんと雅が軽く肩を叩いて自分の席に戻る。
ニヤリと笑う顔はどことなく妖しい。
しかし今までの経験から雅がそこまで酷いことをしないと知っている。
だから梨沙子は飴を片手に軽く頷く。
片手で遊ばせるそれがどんな物なのか梨沙子は少しも把握していなかった。
××××
- 78 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:08
-
「もも、これあげる。」
「うん?なに、アメ?」
コロンと雅がしたように桃子の手の上に飴を置く。
自分の手の上に転がったそれを桃子は不思議そうな顔で見つめた。
梨沙子は素知らぬ顔でうんと答えた。
「おしいから、食べてみて。」
御誂え向きに今日は桃子が泊まりに来ることになっていた。
仕事も終わり今は梨沙子の家へ向かう車の中だ。
暗い車中を街灯と車のライトがランダムに照らした。
梨沙子の言葉に桃子は余り疑問を持たない。
普段は用心深いくらい慎重な性格の癖に。
そんな風だから桃子に対する悪戯は大概梨沙子を通して行われる。
これにはしやすいという事ともう一つ、検閲の意味もあった。
以前一度悪戯で桃子が泣いてしまったことがある。
その時の梨沙子が怖すぎて、桃子に悪戯する時は梨沙子の許可を取ってからになった。
- 79 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:09
-
「へぇ、白い飴ってことはミルクかなぁ。」
「それは食べれば分かるよ。」
包み紙が解かれて雪のような白さの飴が現れた。
ビー玉より少し大きい程度の丸い玉だった。
「それもそうだね。」と桃子が飴を摘んで口に運ぶ。
梨沙子はそれをただじっと見ていた。
「んー?」
カラカラと固い音がして、桃子が口の中で飴を転がす。
もごもごと動く口に思わず視線が集中した。
右に左に絶え間なく味を染み込ませるように動く。
「どう?」
「あんま、味しないかな。ちょっと甘いけど。」
「そっか。」
とりあえず変な味がするという悪戯ではなかったようだ。
雅の表情から考えると確かにそれだけで済むわけが無い。
効くとか言っていたからとその場面を思い出そうとして。
梨沙子の携帯電話が鳴った。
チカチカと点滅するディスプレイが目に痛い。
- 80 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:09
-
―みや。
直ぐに雅だと分かった。
この図ったようなタイミングは彼女しかいない。
鞄の隣に置いておいたそれを手に取りメールを読む。
瞬間、梨沙子は雅を恨みたいような感謝したいような気持ちに襲われた。
『あの飴、家に帰ってから使ってねvじゃないと大変なことになるよ。』
『結構効くって噂の媚薬入り特製キャンディーだから。』
一文目でもう遅いしと突っ込んだ。
二文目でどうしようかと思考回路が詰まる。
ちらりと隣を伺えばまだ変化はなかった。
―まぁ……毒じゃないし。
慌てて吐き出させるほどのものではない。
それに確かにそういう桃子を見たいという梨沙子の感情も存在していた。
悪戯好きは何も雅だけじゃない。
梨沙子も十分に悪戯好きな性質であった。
- 81 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:10
-
「どうかした?」
「ううん、何でもない。」
桃子の様子を観察するように見る。
視線に気づいた桃子がキョトンとした顔で梨沙子を振り返る。
コロコロと転がる飴が先程よりは小さく、だがはっきりと存在していた。
―家まで保つかな?
梨沙子の家は遠い。
スタジオを出て暫く経ったがそれでもあと三十分弱は掛かるだろう。
薬の効力も即効性も分からない梨沙子はただ祈るしかなかった。
「っ……んっ…は、ぁ…。」
飴を舐め終えて五分経っただろうか。
それくらいから桃子の様子に変化が出始める。
車の振動や梨沙子が少し身体に触れる度に小さく身体が揺れる。
漏れ始めた吐息は明らかに色づいていて、梨沙子は目を細める。
- 82 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:10
-
「梨沙子、まだ着かない?」
「あと五分くらいだから。」
暗がりでも見える薄紅に染まった頬に潤んだ瞳。
元から自分より小さい桃子に見上げられて、梨沙子は自分の身体が熱くなるのを感じた。
じんわりとした熱が燈る。
自分でさえこうなのだから桃子は更に大変なのだろうと頭の隅で考える。
「もも。」
「ひゃ……な、なに?」
知っていながら触りたくなる。
違う。知っているから触りたくなる。
梨沙子の中の嗜虐心にも似た悪戯心が桃子に触りたがった。
「なんか様子変だけど大丈夫?」
わざと頬に触れる。
その途中掠めるように首に触れた。
篭った熱が伝わって一人暗がりで口角を上げる。
桃子に梨沙子の顔が見えるはずも無かった。
- 83 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:10
-
「うん、だいじょぶ…っ…だから。」
するすると首筋から頬、耳裏までを撫でる。
どこも桃子がくすぐったがる場所だった。
梨沙子の手が場所を移す度に桃子の口からは小さく息が漏れた。
窓から見える風景は最早見慣れたものだ。
運転席に目を向ければいつもと変わらない様子で会社の人が運転している。
梨沙子はその視線がこちらに届かないことを確認してから桃子に顔を寄せた。
「熱いじゃん、風邪でも引いたんじゃない。」
「りさ、こっ。顔、近いよ。」
ふっと耳に息を吹きかけるように喋る。
小刻みに身体を震わせる様子が堪らなく愛しかった。
余程余裕が無いらしい。
顔を覗きこむような体勢は相手にも自分の顔を見せることになる。
梨沙子の顔は既に緩んでいた。
いつもなら桃子はとっくに自分の異変が梨沙子によるものだと気づいただろう。
- 84 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:11
-
「いつも言ってるでしょ?」
顔を離す間際、甘く桃子の耳を噛む。
バッと桃子が身体を反転させ梨沙子を見た。
その瞳は今真実を知った被害者のようだった。
ニッと梨沙子は意地悪気に唇を上げながら、その瞳を見つめ返す。
「簡単に貰っちゃだめだって。」
キッという軽いブレーキ音と共に車が止まる。
梨沙子は鞄を持つと桃子の手を引っ張りながら外に出た。
「ありがとうございます。」とにっこり笑って車を見送る。
桃子はその間ずっと黙っていた。
「今日、家に人いなくて良かったね。」
梨沙子の家族は皆で旅行だ。
一人になるのが怖くて桃子を呼んだ。
それがまさかこういう展開になるとは予想していなかったけれど。
都合が良いに越したことは無かった。
- 85 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:11
-
「……梨沙子。」
玄関を開けて直ぐに部屋へと向かう。
いつもならリビングで話したり、ご飯を食べたりするが。
その余裕が無いことは明らかだった。
名前に込められた熱を梨沙子は微笑むだけでかわして、桃子を引っ張る。
常より熱い温度が伝わってきた。
「んっ…ふっ……り、さこ。」
扉が閉まる音と共に梨沙子は桃子に引き寄せられていた。
僅かにある身長差が梨沙子の身体を屈ませる。
確かめるように触れた口付けはすぐに深いものになった。
熱い舌が梨沙子の何かを求めるように動く。
「最初から、激しいよ。もも。」
「だって。」
息が続かなくなって桃子を剥がす。
恨めしそうな視線が梨沙子の唇を未だに見ていた。
その瞳が愛しくて、チュッと軽いキスを落とす。
それだけで桃子は小さく身体を揺らした。
- 86 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:12
-
「そんな焦んなくても大丈夫だよ?」
「誰のせいだと思ってんのっ?」
「んー、みやのせい?」
―あたしは感謝してるけど。
つーっと服ごと体の線をなぞる。ひゃっと可愛い悲鳴が上がった。
求める視線に応じて、服をたくし上げる。
もう片方の手で桃子の体温を確かめながら、うなじに顔を埋めた。
びくびく震える感触を楽しみながらゆっくりと梨沙子は上のカットソーを脱がせる。
「ちょ…もう……っ!」
「いつもより、敏感。すごいね、クスリって。」
桃子に言い聞かせるように言う。
きゅっと最早固い胸の飾りを摘めば、桃子は恥ずかしそうに顔を俯かせる。
でもその瞳がもっとと言っているのを梨沙子は知っていた。
- 87 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:12
-
「言わないで、よ…ふぁ…。」
「言わなくてもあたしは知ってるよ?」
―ももが気持ちいいこと大好きなの。
耳元で呟く。
きゅっと強めに力を込めれば「んぅっ!」と大きな声が上がった。
羞恥が多分に入った声音にくすりと小さく笑う。
脱がした服を落とし、ずらした下着も外す。
わき腹や臍の周りなどをくすぐるように触りながら梨沙子は桃子をベッドへと歩かせる。
夢心地というようにその足取りは浮ついていた。
いつもはさらさらしている決めの細かい肌。
それが少し汗ばんで、梨沙子の手に吸い付く。
十分すぎるほど桃子の体は蕩けている。
「ね……り、さこ…熱い、のっ。」
ギッと二人分の体重にベッドが軋む。
パサと梨沙子よりは短い桃子の髪が広がった。
擦りあわされる内股は何処が熱いのかを何よりも教える。
放たれる視線は梨沙子さえ中てられるほど魅惑的だった。
発情している、そう断言さえできる状態だ。
- 88 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:13
-
「早く、はやくっ。」
スカートを捲る。すぐに目に付く白い布地。
桃子の声に急かされるように触る。溢れた蜜が白い色に染みを作っていた。
しかし直には触らない。意地悪だなと自分でも思った。
「ひゃ…ん…っう…ぁ。」
「気持ちいい?」
布の上からリズミカルに指を動かす。
ぎゅっとシーツを握る桃子の手に力が入る。
わざと首をかしげて尋ねればうっすらと目を開けた。
「りさ、こ……ふぅ……ぁっ、ちゃんと…!」
「ん?もっと欲しいの?」
「う、ん……っ、触ってぇ。」
その言葉を待っていたとばかりに梨沙子は体勢を変えた。
体を反転させ尻を高く上げさせる。
履いたままのスカートが逆に卑猥に梨沙子の目に映った。
桃子の体は小さくて細い。
余り力の強くない梨沙子でもある程度動かすことは出来る。
- 89 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:13
-
「ひゃっ、梨沙子?」
「この方がやりやすい。」
戸惑う声を遮断して、続ける。
下着に指を掛ければするりとそれは落ちた。
桃子にはきつい体勢だと知っていた。
だがその上で梨沙子はそれを変える気がなかった。
なぜなら桃子が一番気持ちよくなるのがこの格好だと知っていたからだ。
背中に覆いかぶさるようにして桃子の秘部に指を這わせる。
「んぅ!ひゃ、めぇ……っ。」
桃子の背中が大きくしなった。
梨沙子はそれを体で受け止めながら更に指を動かす。
固く尖った核を指の腹で撫でる。
くるり、回して。
ゆるり、摘む。
熱を持って膨らんだそれは梨沙子の指から逃げるように跳ねる。
それさえも利用して徹底的に快感を植えつける。
- 90 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:14
-
「あ、あっ……り、さこっ、ひゃ……めらよ…っ!」
「ダメじゃないじゃん。気持ちいいって言ってる。」
「っ…よしゅぎて…あぁっ…だめにゃの!」
「なぁんだ。」
くっと指に力を込める。
するとまるで吸い込まれるかのように桃子の中に吸い込まれた。
一段分、桃子の嬌声が高くなる。
きゅっと梨沙子の指に加わった力は熱もあって、とても強く感じた。
薬指と小指だけを入れて残りの指は変わらず核を愛撫する。
枕の脇のシーツに今までで一番皺が寄った。
「やっぱ、ももはこうされるのが好きってことだね。」
「はぁんっ……らめぇっ、あぁっ……んうぅ!」
くすりと呂律の回らなくなった桃子に微笑む。
柔らかな天使の笑みだったが、桃子にとってはきっと悪魔のようにも見えただろう。
桃子の体を支えていた手で止めとばかりに胸の頂を摘む。
同時にうなじに首を埋め耳たぶを吸った。
きゅんと桃子の締め付けが強く長く繰り返される。
絶頂の前兆だ。
- 91 名前:―溶ける飴― 投稿日:2008/11/02(日) 12:14
-
「イきなよ、ほら。」
「あああっ、り、さこっ…すきっ…ぃ!」
―あたしも。
呟いた言葉は聞こえただろうか。
それは桃子にしか分からない。
止めとばかりに押しつぶした核は桃子の意識を消していた。
いつもは一回目でこうまではならない。
クスリって怖いなと梨沙子は軽く痙攣する桃子を見ながら思う。
崩れ落ちた桃子の服を脱がせて、ベッドに横になる。
腕の中にいる桃子に起きる様子はない。
温もりに頬を緩めつつ梨沙子は優しく、優しく手を繋いだ。
とりあえず次に雅に会ったら礼を言おう。
それであの飴を何処から貰ったか聞こう。
そして注意が遅いよと惚気つつ言ってやろう。
安らかに眠る桃子の顔を見てそう思った夜だった。
―白い飴―終
- 92 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/02(日) 12:15
-
- 93 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/02(日) 12:19
-
最後の最後でミスorz
白い飴→溶ける飴
タイトル間違うとかどんだけー。
つーか恥ずかしっw
eroは自分にはやはりムズイっす。
ある人のリクだったんすけど。
頑張ったよ、自分orz
つーことで真昼間から不健全な更新でしたw
また妄想が溜まった日にお会いしましょう。
CPヲタでした。
- 94 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/02(日) 12:19
-
- 95 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/02(日) 12:22
-
>>60-70
―掴ませないのは君―
りしゃみや、リアル。
>>74-91
―溶ける飴―
りしゃもも、リアル、裏注意。
- 96 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/02(日) 12:22
-
- 97 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/09(日) 14:04
-
急遽短編が一本できたのであげます。
りしゃみや、アンリアル。
- 98 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/09(日) 14:05
-
- 99 名前:―honey― 投稿日:2008/11/09(日) 14:05
-
ピンクに染まる頬。
キラキラ輝く瞳はしっとり濡れた闇色。
空に溶ける吐息と同じ透けるように白い肌。
そして甘い甘いハニーブラウンの髪。
全てが全て、君を構成するもの。
- 100 名前:―honey― 投稿日:2008/11/09(日) 14:06
-
―honey―
- 101 名前:―honey― 投稿日:2008/11/09(日) 14:06
-
「みやー。」
今日も遠くから声が響いてくる。
それ程経たない内にトトトトトと足音が雅の後ろにたどり着く。
気づいたときにはもう遅い。
がばりと後ろから抱きすくめるように飛びつかれる。
「……飛びつかないでって、いつも言ってるでしょ。」
はぁとため息をついて首に回る腕を外す。
ふわり甘い芳香が冬の寒さに冷たくなった鼻をくすぐる。
嗅ぎ慣れた匂いだ。別に慣れたかったわけではない。
気づいたときには慣れていたのだと雅は一人思う。
「みや、今日早いね?」
「そう?梨沙子こそ、早いんじゃない?」
早いとは言っても辺りはすでに暗くなっている。
立冬を迎えた季節は早々と日の光を奪う。
帰宅時間自体は早くなったが、体感としてはそんなに変わらない。
- 102 名前:―honey― 投稿日:2008/11/09(日) 14:07
-
「冬はコンクールとかないし、好きなときに止められるもん。」
「あー、なるほどね。」
雅に腕を外された梨沙子は気にした様子も見せずに隣を歩く。
寒さに染まった頬は薄紅色だった。当たり前のように雅の腕をとり繋ぐ。
昔から甘えっこの梨沙子は中学生になってからも変わらなかった。
小学生のときと変わらないように手を繋ぐ。
幼稚園のときを同じように抱きつく。
そして何年経っても変わらない声音で雅に言うのだ。
「みやの手、温かいね。」
「手袋してたからね。梨沙子の手が冷たいんだよ。」
「そうかな?」という蕩けた笑顔も変わらない。
梨沙子が雅に懐いている。
誰も、雅自身も否定できないくらいそんなことわかっていた。
- 103 名前:―honey― 投稿日:2008/11/09(日) 14:07
-
「手袋くらいしなよ、大事なものでしょ?」
「うん、先生からもよく言われる。」
何も変わらない雅と梨沙子の関係。
しかし周りの環境は年月と共に確かに変化していた。
雅は中学校で何をする気も起きず、部活に入らなかった。
時々請われて助人に行く程度だがそれでも充分に楽しいと感じている。
高校になってもそんな性格は変わらなかった。
そして梨沙子は中学校で美術部に入った。
絵を描くのは好きな子だったし、似合っていると雅も思っている。
暇な雅はよく梨沙子のモデルになったものだ。
―懐かしいね……。
学校から家までの道はほぼ一緒だ。
夕暮れの赤をとっくに紺に塗り替えた空を月だけが照らしていた。
いつも雅が梨沙子を家に送ってから帰ることにしている。
年上としての習慣と、周囲からの視線がそうさせていた。
- 104 名前:―honey― 投稿日:2008/11/09(日) 14:07
-
中学三年の秋。
梨沙子にとっては中学一年の秋。
梨沙子は絵画コンクールで金賞をとった。
雅にはよく分からなかった。梨沙子にもよく分かっていなかったに違いない。
その後も梨沙子は何個かのコンクールで表彰された。
雅と梨沙子にはさっぱりわからなかった。
ただ現実というものは現金なもので。
二人を取り巻く環境は分かりやすいほど転換したのだ。
「大事にしなきゃ駄目だよ、絵描けなくなるじゃん。」
その変化が今雅の口からそんな言葉を発せさせる。
まさかこんなことになるなんて雅は少しも想像していなかったのだ。
雅は二歳年上で、いつも梨沙子を引っ張ってきた。
梨沙子はいつも雅の言うことをよく聞いてくれた。
二人一緒の時それはちっとも変わっていない。
- 105 名前:―honey― 投稿日:2008/11/09(日) 14:08
-
雅の言葉に梨沙子が頬を膨らませる。
きゅっと手を握る力が強くなる。柔らかくて、少し冷たい感触。
たぶんこの手を一番知っているのは自分だろうと雅は思う。
「別に、いいもん。みやの手がわかれば。」
「そういう問題じゃないから。」
あの日から梨沙子の手は特別なものに変わった。
体育なんてもっての外。物を運ぶのさえ重いものは他人に回される。
梨沙子の手を傷つける可能性のあるものは全て排除された。
もちろん多くの時間を過ごす雅に対しても注意が来た。
大人の変わり身の早さには本当に驚かされる。
「なんで手袋だけそんなに嫌がるかな。」
以前から余り手袋をしない子ではあった。
だけどそれに輪をかけて現在の梨沙子は手袋を嫌がる。
まるで何かを認めないように、絶対にしない。
雅にはそれが理解できなかった。
- 106 名前:―honey― 投稿日:2008/11/09(日) 14:08
-
梨沙子に転校の話が来ているのを雅は聞いていた。
有名私立から特待生としてである。
全て梨沙子の絵を描く才能が評価されてのことだった。
その時初めて雅はコンクールで賞を取ることの凄さがわかったのだ。
「だって。」
「だって?」
もごもごと梨沙子の唇が動く。言葉を探しているのだ。
これも昔から変わらない仕草の一つ。
絵で表現することが得意な梨沙子はその代わり言葉で表すことが苦手だ。
唇を尖らせて、目を動かして。梨沙子は言葉を探す。
「手袋してると、わかんないじゃん。」
再び繋いでいる手に力が込められて、顔の前に引っ張られる。
梨沙子の視線はただ繋がれた手に注がれていた。
真剣な、それでいて拗ねたような横顔。
雅はそれを隣でじっと見ていた。
- 107 名前:―honey― 投稿日:2008/11/09(日) 14:08
-
「何が?」
「みやが。」
挙げられていた手が下げられる。
それと同時に梨沙子の顔がぷいと横に反らされた。
―あたしが?
あたしが分からないってどういうことだろうと雅は考える。
梨沙子の表現は難しい。それは絵も言葉も同じだ。
コンクールで金賞を取ったという絵だって雅にはよく分からなかった。
まして梨沙子はそれを説明してもくれなかった。
恥ずかしいと言っていたが、説明が恥ずかしいというのさえ意味不明だった。
「手袋、してるとみやの手の感触がわかんない。」
言われた言葉に一瞬息が出来なくなった。
どんな顔でそんな事を言うのだろうと梨沙子の方を見る。
自然にと心がけるがどうしてもぎこちなさが出てしまう。
変わらない真っ直ぐな瞳が雅を見ていた。
視線がかち合って頬に熱が篭るのを感じた。
- 108 名前:―honey― 投稿日:2008/11/09(日) 14:09
-
「……そんなことより寒くない方が重要じゃない?」
「重要じゃない、あたしにとってはみやが一番だもん。」
「また、そういうこと言う。」
手が緩んで梨沙子は雅の指で遊び始める。
恋人繋ぎにしてみたり、逆手で握ってみたり色々と組み替える。
その姿が余りに幼く見えて。昔から知っていた小さい梨沙子と重なって。
雅は梨沙子が拗ねるからとなるべく使わないようにしていた口調を使ってしまう。
「あのね、梨沙子。梨沙子の手はもう特別なんだよ?」
諭すように、子供に教えるように言う。
すると予想していた通り梨沙子は機嫌を急下降させた。
俯いた視線は雅と合うことはない。
「普通の手だし。」
「違うの。分かるでしょ?」
それが分からないほど子供じゃないはずだ。
梨沙子は転校の話を蹴った。
転校の意味も理由も知らなければ嫌がることさえしないだろう。
その話を蹴ったのだから梨沙子はきっと自分の置かれた状況を理解している。
- 109 名前:―honey― 投稿日:2008/11/09(日) 14:09
-
「私立の学校がお金出していいって言うくらい、梨沙子の手は特別なんだよ?」
押し黙ったままの梨沙子を説得するように言葉を続ける。
梨沙子が雅の方が重要だと言っても他の人はそうではない。
恐らくかなりの確立で今重要なのは自分ではなく梨沙子だ。
ここ数年の状況の変化でそう見られるくらいは雅も成長していた。
「あたしが特別なら、みやはもっと特別だもん。」
「だから……。」
言葉を続けようとした雅の手に力が篭る。
何かと思って視線を動かせば、強い夜色の瞳が雅を見ていた。
その視線だけで雅は何も言う事ができなくなる。
梨沙子は昔からこういう所がずるい。
「みやがあたしにとって特別だもん。」
同じ文面を繰り返すように言う。
その口調は拗ねているに近いのに、何故か力があった。
穏やかな低音が冬の優しい空に溶ける。
- 110 名前:―honey― 投稿日:2008/11/09(日) 14:10
-
「みやがいたからあたしは絵を描けるし、描きたいと思えるんだよ。
転校だってみやのいない所に行きたいと思えないから断ったんだし。
あのコンクールで描いた絵だってみやのこと思って描いたんだもん。」
「だからあたしが特別ならみやはもっと特別。」と言って梨沙子は話を終えた。
口下手な梨沙子にしてはよく喋った方だと思う。
全てを聞き終えて雅は複雑な気分に襲われた。
嬉しいような、泣きたいような、楽しいようなそんな感情。
誰もが彼女を特別だと言う。雅もそう思う。雅にとっても梨沙子は特別だ。
だけどその梨沙子が一番大切だと言うのは昔から雅なのだ。
そう、知っていた。自分が梨沙子にとって特別だと。
ああ、もう。と雅は心の中で呟いた。
「ばかりさこ。」
出た声は泣きそうなくらい震えていた。
雅に拘らなければ梨沙子はきっともっと遠くまで行ける。
きっともっと凄いものを描けるようになる。
だが梨沙子は雅から離れない。この先もずっとそうだろう。
その特別が嬉しくて、悲しくて、大好きだった。
- 111 名前:―honey― 投稿日:2008/11/09(日) 14:10
-
揺れて、揺れて、恋心。
あたしの特別はこれからも甘い、甘いあなたのものです。
―honey―終
- 112 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/09(日) 14:10
-
- 113 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/09(日) 14:12
-
うん、時にはこんなりしゃみやもいいんじゃないかとw
今回の話は中々にお気に入りです(爆
ではこれからもこんな風に妄想が湧き出てくることを祈って。
また妄想が溜まった日にお会いしましょうw
- 114 名前:CPヲタ 投稿日:2008/11/09(日) 14:12
-
- 115 名前:CPヲタ 投稿日:2008/12/04(木) 00:22
-
- 116 名前:CPヲタ 投稿日:2008/12/04(木) 00:23
-
ちょっと意味のない短編。
コソーリ更新。
……ま、あげるんだけどねw
- 117 名前:CPヲタ 投稿日:2008/12/04(木) 00:24
-
- 118 名前:―爽快蒼色― 投稿日:2008/12/04(木) 00:25
-
梨沙子の性格。
人懐っこい人見知り。
甘えん坊で、ちょっと頑固。
あたしの性格。
完璧内弁慶で恥ずかしがり。
人に頼られるより頼りたい。
そんな二人がなんでこうなったのかあたしにも分かんない。
- 119 名前:―爽快蒼色― 投稿日:2008/12/04(木) 00:25
-
―爽快蒼色―
- 120 名前:―爽快蒼色― 投稿日:2008/12/04(木) 00:25
-
ぷにと頬に指を埋める。
人肌の柔らかい感触が伝わる。
その感触がむず痒かったのかううんと小さく声が上がった。
「起きないし。」
はぁと雅は大きくため息をつく。
自分の膝の上で幸せそうに眠るのは他でもない梨沙子だ。
数分前どうしてもと言う言葉に折れて膝枕した。
ぎゅっとお腹にまで手を回し、雅を抱き込んでいる。
立つ事は勿論手を伸ばすことさえ困難な体勢である。
「梨ー沙ー子ー……。」
無駄に伸ばして呼ぶ。
これくらいでは起きないことを知っていた。
よく寝ている子だった。
特に雅が側にいる時は仕事が始まるまで起きない時も多い。
- 121 名前:―爽快蒼色― 投稿日:2008/12/04(木) 00:26
-
「んぅ……み、や。」
ぴくりと瞼が揺れて、言葉が漏れる。
掠れたそれはしかしはっきりと雅自身の名前になっていた。
どこか恥ずかしくて、くすぐったい。
梨沙子といると時折感じる感情である。
梨沙子の寝返りと共にソファが少し揺れる。
向いた顔は天井を見ていて、安らかな寝顔がそこには存在した。
さらりと落ちる黒髪。
緩くウェーブが掛かったそれを何の気はなしに撫でる。
微かに梨沙子の頬が緩んだ気がして雅はくすりと笑みを零した。
―髪、長くなったね。
伸ばすと宣言した髪は確かに長くなっている。
出会った頃とは比べ物にならない長さ。
梨沙子を女の子として形作る重要なパーツ。
雅もそれ以降なんとなく切る気にならなくて、既に腰近くにまでなっていた。
目の前で寝る女の子とは違う茶色い髪。
これがお揃いだった時期もあったと考える。
- 122 名前:―爽快蒼色― 投稿日:2008/12/04(木) 00:26
-
『みや!』
今も思い出そうと思えばすぐに聞こえてくる。
あの頃の梨沙子の声。
今よりちょっと甲高くて、それでもそこに込められる質はさほど変わっていない。
自分を真っ直ぐに好きでいてくれる音。
昔からあるそれはいつも雅を引っ張っていった。
梨沙子の目標になるように。
梨沙子に情けない所を見せないように。
……そして、梨沙子に嫌われないように。
大きな目標がある中でふとした時に出る感情は常に梨沙子だった。
雅の手は梨沙子の頭をいとおしむ様に動く。
―ねぇ、梨沙子。
いつもだったら絶対こんな事出来ない。
それなのに今日は違った。どこかいつもより素直な自分がいる。
それが寝ている梨沙子のせいなのかなど雅には分からない。
ただ心の中で呼びかけた。
- 123 名前:―爽快蒼色― 投稿日:2008/12/04(木) 00:26
-
―梨沙子は知らないでしょ?
出会った時、同じ人見知りでも雅と梨沙子は少し違った。
梨沙子は一目である程度人の性質を見抜くことが出来る。
甘え上手な彼女の天性の素質なのかもしれない。
それに対して雅は本当に人見知りである。
初対面なんて緊張しすぎて話せないレベルだ。
慣れるにはそれこそ毎日少しずつ会話を重ねるしかない。
コポと耳元で音がする。
水中で空気が抜けるときのような、澄んだ音。
雅はそれに知らない振りをしてそっと目を閉じた。
段々と視界に慣れ親しんだ青が広がり始める。
―あたし、梨沙子が羨ましかったんだよ。
梨沙子の笑顔は太陽だった。
何があって気に入られたのか、雅にも分からない。
しかし雅が梨沙子に気に入られたのは事実。
梨沙子はそれから甘え上手の気質を存分に使って雅に甘えた。
人見知りなど嘘のように甘えた。
それが自分だけの特別だと知ったのはまた後のことだ。
- 124 名前:―爽快蒼色― 投稿日:2008/12/04(木) 00:27
-
梨沙子はかわいかった。
人形の様な造詣に白い肌。
にっこりと笑うその顔は本当に人形のようだった。
二つ下の分、抜けているところも不器用な所も目に付いた。
だがそれさえ覆して梨沙子は皆から可愛がられた。
それが梨沙子の持つ天性だった。
『みやぁ。』
梨沙子の甘えた声を思い出せる。
もちろん、思い出すなんて面倒くさいことをしなくともすぐに聞くことが出来るのだが。
雅はわざとそうはしなかった。
自分の中に沈んでいる梨沙子を一つ一つ取り出したくなったからだ。
青い空間は雅と梨沙子以外を染めつくしてしまう。
ああ、夢だなと冷静な一部が呟く。
夢なのに、夢だからこそ雅の回想は止まらない。
- 125 名前:―爽快蒼色― 投稿日:2008/12/04(木) 00:27
-
人を引き付ける、それは雅の目から見てとても羨ましく見えた。
人見知りの雅に取って梨沙子の人を引き付ける朗らかな性格は眩しかった。
歌もダンスも梨沙子は際限なく雅のことを褒めてくれる。
『みや、すごい!』
『みや、きれい!』
どれもたくさん、たくさん与えてくれた。
全てが今の雅を形作る宝石のようなものだ。
梨沙子が一つ褒めるたび、雅は一つ自信を持つことが出来た。
「梨沙子のほうが、すごいよ。」
梨沙子が褒める雅は梨沙子によって作られた。
夏焼雅の一つの真実。
それだけと言えば大げさかもしれないが、関係ないとは言い切れない曖昧さ。
プレッシャーも中々にある。けれど雅は知ってしまった。
梨沙子がそれくらいで雅を嫌わないと。
今雅の膝で眠る少女は馬鹿馬鹿しい位真っ直ぐに好きでいてくれる。
どんな雅でも、どんな情けない姿でも好きでいてくれる自信が雅にはあった。
- 126 名前:―爽快蒼色― 投稿日:2008/12/04(木) 00:28
-
「わかってても恥ずかしいのは嫌だけどね……。」
たゆたう視界の中で雅は一人苦笑する。
唯一自由に動かすことの出来る首を曲げて上を仰ぐ。
そこにはいつか見た水面が映っていた。
きらきら、きらきら、海底から見た彷徨う太陽光の光。
―梨沙子が好き。
そんなのはいつの間にか当たり前になってしまっていた。
知らぬうちに二人の間に落ちてきて染み付いてしまった事実。
当たり前に、梨沙子が好きだ。
そして梨沙子もそれ以外ありえないと言うように雅のことが好きである。
毎日直接ぶつけられる感情が確信させる。
雅は梨沙子が好きだし、梨沙子は雅が好き。
たったそれだけがどんなに難しいか分かっていた。
恥ずかしがりの雅は言葉にも態度にもできない。
梨沙子は逆にそういう感情に照れを持たない。
似ているようでどこも似ていない二人だったのだ。
- 127 名前:―爽快蒼色― 投稿日:2008/12/04(木) 00:28
-
「真似なんてしなくていいんだよ。」
膝の上ですやすやと眠る梨沙子に呟く。
梨沙子は梨沙子で、雅は雅だ。
梨沙子には梨沙子にしか出来ないことがあるし、雅には雅にしかできないことがある。
梨沙子が自分と同じようになりたいと願っているのを雅は知っていた。
だが雅は少しもそんなことを望んでいない。なぜなら梨沙子が好きだから。
梨沙子が自分のようだったら、恐らく雅は梨沙子を好きになれなかっただろう。
「あたし、ちゃんとあんたのこと、好きなんだから。」
時々怖くなるのは雅の方だった。
好きでいていいのだろうか。
無邪気な感情をひたすらにぶつけてくる梨沙子に比べて。
雅が梨沙子に向ける感情は綺麗とは言いがたかった。
梨沙子に触れることが、梨沙子と同じと思うことが酷く怖くなる。
それはまるでプールの底に沈んだような苦しさ。
上を見れば水面が綺麗に光る。
だが雅の身に掛かるのは見えない圧力と取り残される静かな世界。
梨沙子を好きだと思うたび雅は孤独を感じた。
- 128 名前:―爽快蒼色― 投稿日:2008/12/04(木) 00:29
-
視界に広がるは変わらない蒼。
しかしそれは先ほどまでとは違う重さを持っていた。
息が苦しい。
こぽとまたもや乾いた音がして、水音を知る。
「梨沙子……。」
それでも口から漏れるのはただ彼女のことだ。
だってこの苦しさはきっと彼女に関係するから。
どこかで雅はわかっていた。
苦しさに水面を仰ぎ見る。
変わらない光る水面がそこにはあった。
そっと手を伸ばす。その先に広がる太陽を求めるように。
手が握られる優しい感触が雅に伝わり、そこで雅の意識は暗転した。
どちら夢だか分からなくなる転調の仕方だった。
- 129 名前:―爽快蒼色― 投稿日:2008/12/04(木) 00:29
-
「みや。」
「梨沙子。」
「だいじょうぶ?かなり魘されてたけど。」
目を開ければそこにいるのは、やはり梨沙子だった。
いつの間にか移動したのか膝ではなく目の前に膝をついて座っている。
その顔は心配そうに顰められていて、雅は思わず笑った。
「大丈夫だよ。」
「ほんと。」
「本当に、平気だってば。」
「なら良い。」
にっこりと梨沙子が笑う。
きらきら光る太陽の笑顔。
その顔はやはり雅が憧れた光そのものだった。
水面を越えれば空がある。空があれば太陽がある。
夢でも現でも雅が見つけたのは真っ青を背景に輝く太陽の笑顔。
同じ青なら水よりも空が好きだと雅は思った。
―爽快蒼色―終
- 130 名前:CPヲタ 投稿日:2008/12/04(木) 00:29
-
- 131 名前:CPヲタ 投稿日:2008/12/04(木) 00:31
-
>>118-129
―爽快蒼色―
りしゃみや、リアル
この季節はりしゃみやが書きたくなる。
- 132 名前:CPヲタ 投稿日:2008/12/04(木) 00:31
-
- 133 名前:RAMヲタ 投稿日:2008/12/05(金) 21:00
- いい!とてもいい!
まさに自分の思うりしゃこ&みや&りしゃみや像!
- 134 名前:CPヲタ 投稿日:2008/12/25(木) 22:05
-
133>>RAMヲタさん
あっとうございますw
自分もりしゃみやの雰囲気はこんなのが理想です。
まぁ、現実の素っ気無い雅ちゃんとデレデレなりーちゃんも大好きですが!
隠れて梨沙子に惚れてる雅ちゃんもありだと思うのはりしゃみやヲタだからでしょうw
ではクリスマスですが、クリスマスと全然関係ない話をw
りしゃみや、リアルっす。
- 135 名前:CPヲタ 投稿日:2008/12/25(木) 22:05
-
- 136 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:06
-
ファーストキスの味はレモンなんてよく言う。
なら初恋の味もレモン?
そんなわけ、ない。
だってあたしの初恋の味は苦くて、酸っぱくて。
でも止められない甘さがあった。
- 137 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:07
-
―first love―
- 138 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:08
-
例えば二人きりになった時、妙に緊張して心臓の音が煩くなったりする。
それだけじゃなくて話しかけられれば嬉しい。
目が合っただけでどうしようもない位頬が緩む。
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。
尻尾振っている犬みたいなんて時々言われてしまう。
「聞いてる?」
「聞いてる。」
「嘘。」
「嘘じゃないよ。」
はぁと小さく息をついて雅が雑誌から顔を上げる。
それだけで梨沙子の顔はどうしようもないほど緩んでいた。
昔から良く見る表情だ。ぱさと乾いた音がして雑誌を閉じる。
相手をしてくれると分かった梨沙子の表情が更に輝いた。
- 139 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:08
-
「あのね、聞いてるって言ってるでしょ。」
「みや、時々聞いてないもん。」
時々って何よ。と呟く声が梨沙子の耳に届く。
時々は時々だよ。と梨沙子は答えにならない言葉を返した。
雅が聞いていないときを言ってみろと言われれば数多く言う事が出来る。
例えば今みたいに雑誌に集中しているとき。
他にも携帯を弄っているときや、髪を触っているとき。
そういう時の話を雅は八割がた流していた。
「聞いてたって。」
「なら、何の話してた?」
梨沙子の言葉にぐっと息を呑む。すぐに言葉が出なかった。
それこそ話を聞いていなかった証だし、また雅である証拠だ。
聞いていなくても話をでっち上げたりしない真面目な所が梨沙子は好きだと思った。
みやだなと梨沙子は思う。昔から何にも変わっていない夏焼雅がいる。
- 140 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:09
-
「もういいじゃん。別に、悪かったけど……。」
そしてこういう所も雅らしい。
意地っ張りで、認めたくなくて、けれど優しい。
雅の手が決まり悪そうに雑誌の端をなぞっていた。
梨沙子はそれを目で追いつつ、僅かに唇を尖らせる。
その顔に今度は雅が苦笑した。
「いいよ、別に。でも、ちゃんと聞いて欲しいな。」
「うん、わかってる。」
雅の手が梨沙子の頭を緩く撫でる。
隣に座る梨沙子の頭は雅にしたら少し撫でにくいに違いない。
少しだけ高い身長に少しだけ低い年。
変わらない二人の差だった。
雅の手の感触が温かくて梨沙子は頬が緩んでしまう。
ゆっくりと動くそれは同時に梨沙子の心も溶かしてしまうようだ。
昔から雅にだけ感じる特別。
それを否定しようとは露にも思わない。
- 141 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:09
-
梨沙子が雅を好きだと思ったのはいつだろう。
きっと覚えていないくらい前に決まっている。
もしかしたら初めて会ったその瞬間に。
下手したら出会うその前から。
梨沙子は雅を好きになることが決まっていた気がした。
「みやの初恋って、いつ?」
「……なに、そんな事聞いてたの?」
梨沙子の言葉に雅が目を丸くする。
その姿に頬を緩めながら梨沙子はうんと頷いた。
本当は全然違う話をしていた。
今日合った事とか、偶々見つけた可愛い服の話とかだ。
だけれど雅の視線が向いたその時に聞きたいと思ったのはそれだった。
それしか梨沙子の頭の中には残っていなかった。
- 142 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:10
-
「そんなの、もう顔さえ覚えてないって。」
「それでも聞きたい。」
呆れたような苦笑いが広がる。
梨沙子はそれに唇を尖らせつつ、また言った。
すると雅はしょうがないという顔をして少し視線を上げる。
思い出すときの仕草だと梨沙子は知っていた。
梨沙子が雅と出会ったのは八歳の時だ。今は十四歳。
会ったその日から梨沙子の特別は雅のものだ。
見て、話して、手を繋いで、この人しかいないと思った。
思えば人生の半分に雅がいたことになる。
梨沙子にとってそれはとても幸せなことだ。
「えーと、確か小二とかそこら辺だった気がするけど。」
「そうなんだ。」
「うん、ただ単に話しやすい子でチョコ挙げたとかそんだけ。」
「へえ。」
余りに素っ気無い返事に雅は一瞬言葉を止める。
梨沙子としても意識してやったわけではない。
自分から聞きたいと言ったことだし、それがどんな内容になるかなど予想していた。
ただ、それでも、気に食わないことはあるらしい。
- 143 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:10
-
「……梨沙子、話して欲しいって言いながら機嫌悪くならないでよ。」
梨沙子の機嫌の急降下に気づかないほど雅も鈍い人物ではない。
梨沙子が雅と一緒にいたという事は、雅も梨沙子と一緒にいたという事である。
感情の起伏の激しい彼女の性格は身に沁みてわかっている。
雅は困ったような顔で隣に座る少女の顔を覗き込んだ。
「悪くなって、ない。」
梨沙子はそんな視線から逃れるように顔を逸らした。
子供っぽい行動だなんて百も承知している。
雅の前だとどうしても心が走ってしまって、上手くいかない。
これも恋のせいだと梨沙子は八つ当たり気味に考えた。
「ああ、もう、分かったから。じゃ、次は梨沙子の話してよ。」
すると雅は軽く眉間に皺を寄せ溜息を吐いた。
呆れられている。分かってはいたがそう簡単に曲がった臍は治らない。
梨沙子は視界の端で雅が仕方ないと呟くのを聞いた気がした。
- 144 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:11
-
「あたしの、話?」
「そ、梨沙子にもあるんでしょう?」
ここで終わりというように雅が髪の毛を払って、梨沙子に視線を向ける。
その言葉が自分にとって意外すぎて梨沙子は思わず顔を上げた。
雅の話が終わったから梨沙子の話。流れ的には何も不自然な所はない。
むしろそうなることが自然である。
しかし今の今まで梨沙子の中で初恋話をする事になるとはちっともなっていなかった。
ちらりと伺うように瞳を動かす。梨沙子を見つめる雅の視線は只管に穏やかだった。
―そりゃ、そうだよね。
雅は梨沙子の初恋なんて知らない。
雅の初恋の人を梨沙子が知らないのと同じ理由である。
その二つの間に違いがあるとすれば、遠いか近いか。
雅にとっての初恋は最早、昔話である。だけど梨沙子にとっては違った。
つい此間まで引き摺っていた恋なのである。
- 145 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:11
-
「あたしの初恋かぁ。」
「……流石に、あるでしょ?」
余りにもしみじみと繰り返す梨沙子に雅は不安になる。
外見の大人っぽい梨沙子がその実酷く子供っぽいことを知っている。
そんな雅に梨沙子ははっきりと言い切った。
「いるよ、初恋の人くらい。」
雅の言葉に梨沙子は唇を尖らせた。
馬鹿にしないで欲しい。好きな人くらいちゃんといる。
そういう事を梨沙子は表したかったが、まるで逆の効果を与えていた。
我が意を得たとばかりに雅がにやりと口角を上げる。
さらりと勢いに乗った髪が肩から零れていった。
「ならどんな人だったの?」
雅の一言に思い浮かぶのは優しい笑顔。
いつも梨沙子を見ていてくれて、助けてくれる。
繋がれた手の温かささえ鮮明に思い出せる。
そう考えてから当然だと梨沙子は一人心の中で呟いた。
- 146 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:12
-
―みや。
思い浮かんだのはたった一人。
今も隣で話をしている彼女だけだったのだから。
記憶の中の笑顔も温もりも直ぐ側にある。
初恋も何も、梨沙子の恋は全て雅だった。
「優しくて、あったかい人。」
「へぇ。」
「綺麗で、格好良くて、運動神経抜群。」
「……ふぅん、すごいね。」
次々と口を出て行く言葉。
全てが雅に対して思っていることだった。
梨沙子の中の雅への言葉は尽きることを知らない。
好きで仕方ない人だから。
雅の表情がどんどん冷たくなっていく。
不機嫌という事を表したくない彼女は、ただ表情を消すだけだ。
そういう不器用な表現をする人。
不器用で、人見知りで、それでもやっぱり優しい人。
- 147 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:12
-
―みや、なんだよ?
その変化をわき目で見つめながら梨沙子は一人微笑んだ。
雅は知らない、そこまで褒められているのが自分だという事を。
知っているわけがなかった。
「初恋は、叶わないから初恋なんだもん。」
「……。」
完全にそっぽを向いてしまった雅に梨沙子はゆっくりと話す。
そっと近づいてゆっくりと手を繋いだ。されるがままの雅に愛しさが募る。
梨沙子の初恋は終わったのだ。他でもない雅の手によって。
雅の初めての恋人は梨沙子ではなかった。
その瞬間、梨沙子の初恋は終わってしまった。
- 148 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:13
-
「ねぇ、みや。」
「……うん?」
僅かに肩が揺れる。
気づいた事実に悲しんでくれているのだろうか。
そうだとしたら、やはり雅は優しい人に違いない。
「あたしは今、みやに恋してるんだよ。」
自分に出来る限りの優しい笑顔で雅の顔を覗き込む。
梨沙子の好きな人は何とも言えない顔で梨沙子を見つめていた。
余り見ない表情。
眉は力なく下がって、いつもの凛々しさが見られない。
泣きそうとも言える表情だった。
それでも真っ直ぐな黒い瞳だけは変わっていなくて。
梨沙子は笑みを零す。
- 149 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:13
-
「大好き、みや。」
「……恥ずかしいじゃん、ばか。」
梨沙子を見つめる顔には朱がさしていた。
ばかと言われたことも気にならないくらいの嬉しさ。
雅の赤面は実は珍しいのだ。
それが自分に向けられたことが嬉しくて仕方ない。
同じ人に二度恋をするなんて思いもしなかった
だけど梨沙子は確かに恋をしている。
初恋じゃない、二回目の恋だ。
いつの間にか好きになっていた。
一度は諦めた恋なのに。
―初恋は叶わなくてもいいんだよ。
だって、本当に好きな人ならもう一度好きになる。
そしてそうなったら、きっと運命みたいなものに違いない。
だから梨沙子は言い切れる。
雅しか好きになれない自分を恥じる気なんて毛頭ない。
- 150 名前:―first love― 投稿日:2008/12/25(木) 22:14
-
「あたしはきっと何度でもみやを好きになるよ。」
繋いだ手にそう呟く。
叶わない初恋がどうした。
好きなんてどうしようもない気持ちをそんな言葉で縛れると思わないで欲しい。
初恋がダメなら何度だって好きになるだけだ。
重なった唇はレモンの味なんてしなかった。
さっき貰った差し入れとジュースの味。
それでもそれは雅のものに違いなかった。
―first love―終
- 151 名前:CPヲタ 投稿日:2008/12/25(木) 22:15
-
- 152 名前:CPヲタ 投稿日:2008/12/25(木) 22:18
-
>>136-150
―first love―
りしゃみや、リアル。
糖分控えめ、なのに甘く。
という矛盾に満ちた目標を達成しようとしましたw
クリスマスなのに少しもクリスマス関係なくてすみませんorz
ではまた妄想が溜まる日に。
CPヲタっした。
- 153 名前:CPヲタ 投稿日:2008/12/25(木) 22:19
-
- 154 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/18(日) 10:45
- 州*‘ ー‘リ<CPヲタさん更新楽しみにしてますゆー
- 155 名前:CPヲタ 投稿日:2009/02/17(火) 10:31
-
- 156 名前:CPヲタ 投稿日:2009/02/17(火) 10:33
-
154>>名無し飼育さん
レスあっとうございます。
お待たせしました二ヶ月ぶりの更新です。
待っていて下さり感無量ですw
りーちゃんは顔文字でも可愛いなー(殴
では今日の更新。
突発的にできた短編です。
- 157 名前:CPヲタ 投稿日:2009/02/17(火) 10:34
-
- 158 名前:―散る雫― 投稿日:2009/02/17(火) 10:35
-
ねぇ、アタシ、知らなかったんだよ。
でも今になってこんなに胸が痛い。
ねぇ、もも、泣かせるくらいなら。
絶対に、貴女に梨沙子を任せたりしなかった。
- 159 名前:―散る雫― 投稿日:2009/02/17(火) 10:35
-
―散る雫―
- 160 名前:―散る雫― 投稿日:2009/02/17(火) 10:37
-
梨沙子が泣く姿は綺麗だと雅は場違いに思った。
色素の薄い頬を透明な雫が滑り落ちて、リノリウムの床に反射する。
光沢のあるそこに涙が弾ける度雅は自分を責めたくなった。
ここは楽屋から少し離れた空き部屋で、余り人が来ない。
目を細めれば見える薄らと積もった埃がそれを証明しているようだった。
人のいない空間は耳に痛いくらい静かで雅は少し眉を寄せた。
「大丈夫だよ、梨沙子。そんな、頑張らなくても。」
何を言って良いのか分からなかった。
泣かないでと声をかけるのも、泣いていいよと声をかけるのも違う気がした。
ひっくと梨沙子の肩が小さく震えるたびに、空気が揺れて波紋が出来る。
白い壁は余りに味気なさ過ぎて雅は苛立たしげに一つ床を蹴った。
宥めるように優しく背中を撫でる。慣れた行為だ。
慣れたくなどなかった行為でもある。
- 161 名前:―散る雫― 投稿日:2009/02/17(火) 10:37
-
「ごめっ……みや、っく…すぐ、おさまっ…」
未だ止まらぬ涙を隠すように頬を擦る。
しゃくり上げてまともに話せていなかった。
半ば呼吸困難のようだと雅は思った。
何時だか学校で過呼吸の人を見たことがある。
それの一歩手前の姿が梨沙子だと言われたら納得してしまう。
変に現実逃避をした頭がそう考える。
「いいよ、全然いい。まだ時間もあるし。」
自分の隣で泣く姿を見たのはこれが初めてではない。
幼い頃から、出会った頃から良く泣く子供であった。
よく泣くだけではない。梨沙子はよく笑ったし、よく拗ねた。
大人っぽい容姿とは反して酷く子供らしい子供だった。
その分笑ったときの顔はとても愛らしかった。
今でもその印象は雅の中で変わっていない。
- 162 名前:―散る雫― 投稿日:2009/02/17(火) 10:38
-
チクタクと進む針の音が響く。
梨沙子の息継ぎと絶妙に絡んで独特な空間を作っていた。
どこで息を吸って、吐けばいいのかも分からなくなる。
雅にできたのはただ寄り添って、背中を撫でることだけ。
―なんで、こんな。
梨沙子の涙の質が変わったのに雅は直ぐに気づいた。
それは青かった空がいつの間にか夕焼けに染まるように、自然で。
しかしはっきりとした違いとして雅の目に映った。
理由は簡単だ。
梨沙子が恋をした。いや、恋人が出来た。
たったそれだけ。それだけが雅にとって途轍もなく大きなものに見えた。
「こんな、簡単に…ぅ…泣いちゃ、だめ、だよね。」
泣き笑い。
ずっと俯いていた梨沙子が顔を上げて雅を見る。
その瞳はまだ確りと濡れていた。
色素の薄い瞳が水の膜でぶれて、光って、揺れる。
- 163 名前:―散る雫― 投稿日:2009/02/17(火) 10:38
-
「我慢しなくていいよ、あたしといる時くらい。」
昔から見てきた瞳に違いなかった。
そこに込められたモノに大きな変化があったとしても。
それが梨沙子の瞳である限り、雅にとって大事なものに違いない。
在り来たりなことしかいえない自分に腹が立った。
梨沙子が妹で、雅が姉で。
そんな事を決めたのは一体誰が最初だったのだろう。
気づいたときには雅は梨沙子の面倒を見ていたし、梨沙子は雅の後ろを付いてきた。
自然すぎる関係の中で育まれるものに雅は鈍感すぎた。
「ふ、ぇ……みやは、相変わらず、っく、優しいね。」
段々と収まってきた嗚咽に梨沙子は笑う。
気持ちが落ち着いてきたのか、ただ涙の生産が追いつかなかったのか。
落ちる雫は確かに減ってきていた。だが白い頬には光る道筋がはっきりとついている。
時折思い出したかのようにその道は光って、堪えない雫を雅に知らせる。
何を言われるのかを理解して雅はそっと瞼を下ろす。
言わないで欲しかった。それが叶わぬことだとも分かっていた。
- 164 名前:―散る雫― 投稿日:2009/02/17(火) 10:39
-
「わたしが、好きだったみやのまま。」
二人しかいない部屋に梨沙子の掠れた声が響く。
んひひと照れ隠しのような笑い声が空っぽの頭に届いた。
一瞬、息が出来なくなる。
だが雅はそれを悟らせないようにゆっくりと静かに息を吐いた。
「はいはい、あたしは昔から優しいですよ。だから、ね?」
泣かないでと想いを込めて、少し無理をしてでも明るく微笑む。
過去形だった梨沙子とは違い雅にとって梨沙子への想いは現在形だ。
もっとも気づいた時には既に遅かった。
梨沙子の想いが過去形になって、暫くして雅は気づいたのだ。
意味の無いことと切り捨ててしまうことも出来ず、雅は今もその感情を抱いている。
雅の言葉にうん、と小さく頷く姿はちっとも変わっていない。
懐かしさに胸が切なくなった。
「こんなんじゃ、ももに、嫌われちゃう。」
最後にひっくと大きく肩を揺らして梨沙子は涙を止めて見せた。
ごしごしと乱暴に擦った目元は直ぐに赤味帯びる。
そっと手を伸ばしポケットに入っていたハンカチを当てる。
無いよりはマシだろうと思った。
- 165 名前:―散る雫― 投稿日:2009/02/17(火) 10:39
-
―もも……。
貴女の大事な人が泣いてるよと言いたかった。
泣かせて放っておくなんてとイラついてもいた。
だが桃子が来ないという事は居ないほうが良い事態なのだろうとも分かっていた。
悔しいことに昔から人の機微には桃子のほうが敏い。
雅に任せたのなら、たぶんそれが一番梨沙子に良いと判断したのだ。
「ももはそんな事くらいじゃ、嫌いになってくれないと思うけど?」
梨沙子の雫が静かに雅のハンカチに吸い込まれていく。
雅はそれを見ながらわざとからかうような声で言った。
梨沙子は知らない。ならば自分も知らぬ振りをするのが良いだろう。
今いるのは桃子を好きな梨沙子だけなのだから。
白い床に雅の顔が映る。冴えない顔だと一人苦笑した。
「そうかな?」
「そうだよ。」
「……そうだといいけど。」
「そうだって。」
押し問答のように戯れる。
泣いた烏がというが既にいつもの笑顔が戻りつつあった。
それが嬉しくて、嬉しくて雅はそっと顔を俯けた。
梨沙子の涙が移ったんだと自分に言い聞かせる。
- 166 名前:―散る雫― 投稿日:2009/02/17(火) 10:40
-
「ほら、そろそろ楽屋戻ろう?」
椅子から腰を上げる。
ずっと触れていた体温が遠のき少し寂しい。
それを振り切るように雅は梨沙子に向かって手を伸ばした。
静かに手を差し出して待つ。
「みや。」
「うん?」
そうすればその手を梨沙子が握ってくれると知っていた。
届く声に雅は反射的に姉のような笑顔で聞き返す。
目を真っ赤にして、もう片手にはハンカチを持って、それでも梨沙子は笑っていた。
だらしなく緩む頬は昔から変わっていない。
それなのにここにいる梨沙子は昔とはもう違う。
少しだけその事実が胸に刺さった。
「ありがとう、だいすきだよ。」
「何かあったら言ってよ。……涙くらい拭いてあげるから。」
ふわりと微笑まれて、切なかった。
雅は照れ隠しのように顔を背けると繋いだ手に力を込めた。
今の雅ができる精一杯の強がりだ。
梨沙子の好きは真っ直ぐすぎる。
悲しいくらい真っ直ぐな想い。
受け止められない雅はそれを避けるしかできない。
お姉さんって便利だなと自嘲しながら思った。
- 167 名前:―散る雫― 投稿日:2009/02/17(火) 10:41
-
―あたしだって、好きなんだよ。
誰にも知られることのない呟きは反射する床に散った。
梨沙子の雫と同じようになるならそれでもいい。
見せられないものなら、一緒に葬ってしまえば良い。
ただただ綺麗な雫と違って雅の想いは少し重たいけれど。
出る前最後に見た部屋はやはり味気ないほど白かった。
ねぇ、もも。
あなたが梨沙子を泣かせるなら、アタシはひたすらに涙を拭うよ。
ねぇ、梨沙子。
側に居て欲しいなら、あたしは幾らだって側に居るよ。
ねぇ、だから。
もうしばらくこの雫には気づかない振りをしていて欲しい。
―散る雫―終
- 168 名前:CPヲタ 投稿日:2009/02/17(火) 10:41
-
- 169 名前:CPヲタ 投稿日:2009/02/17(火) 10:45
-
>>158-167
”―散る雫―”ももりしゃみや
本人のキャラとかけ離れているとは分かっていても書きたくなるのがみやびちゃん。
こういうのも萌えるじゃねーか、このやろーっ!!
と、いう激しい想いが具体化したものでありますw
ではまた妄想が溜まった日にお会いしましょう。
CPヲタっした。
- 170 名前:CPヲタ 投稿日:2009/02/17(火) 10:45
-
- 171 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/18(水) 23:18
- ヤバイ泣ける。・゚・(ノД`)・゚・。
キャラとかけ離れてると言ってしまえばそうだけど、
こーいうのびちゃん似合ってる!ゆーあーりさこずお姉ちゃん!←
びちゃんが切なすぎて涙が止まりません。・゚・(ノД`)・゚・。
- 172 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/18(水) 23:30
- みやびちゃん切ない!
いいお話でした
- 173 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/18(水) 23:34
- 夏焼さん視点で片思いって珍しいですね!
でもすごく切なくて良かったです。
- 174 名前:CPヲタ 投稿日:2009/03/14(土) 17:48
-
あー、りしゃみやが見たい……
自給自足じゃなく、他の人が書いた甘い奴が読みたいorz
足りんよ、萌え分がw
171<<名無飼育さん
あっとうございます!
切ないのが目的なんで泣いてくださると嬉しいっス(エ
びちゃんは鈍感なのも似合いますが、傷つくのも似合います。
つーか何してもある程度似合うのでとっても同人向けな人物ですw
172<<名無飼育さん
あっとうございます。
珍しくみやびちゃんが切ないりしゃみやでした。
りーちゃんが切ないことの多いりしゃみやですが、たまにはいいかとw
173<<名無飼育さん
ありがとうございます!
しーぴー的にはももりしゃなんですが、自分としてはりしゃみやですw
せつないのが似合うCPで本当に困ります。
甘いのが書きたいのに……
- 175 名前:CPヲタ 投稿日:2009/03/14(土) 17:50
-
では今日の更新。
珍しくみやもも……っぽい
けどこれはりしゃみやとりしゃみやなんだと主張してみる
- 176 名前:CPヲタ 投稿日:2009/03/14(土) 17:50
-
- 177 名前:―ティ・アーモ― 投稿日:2009/03/14(土) 17:51
-
好き?
そんな言葉じゃ生ぬるい。
愛?
そんな言葉じゃ綺麗過ぎる。
きっとこれは壊れてしまうほど狂った恋。
- 178 名前:―ティ・アーモ― 投稿日:2009/03/14(土) 17:51
-
―ティ・アーモ―
- 179 名前:―ティ・アーモ― 投稿日:2009/03/14(土) 17:52
-
柔らかい肢体は心地よい。
透けるほど白い肌は彼女を錯覚させる。
仄かな体温を感じるたび雅は自問するのだ。
どこで自分は道を踏み外してしまったのだろうと。
「んっ…ふぁ……。」
吐息が混じる。
湿った音が二人しかいない空間に響く。
相手を求めるように互いの手が身体を探って動いた。
甘い息が頬に当たってくすぐったい。
楽屋で何をしているのだろう。冷静な雅が頭の中で呟く。
まだ集合時間まで早いとはいえ何時誰が来るか分からない。
そんな場所で唇を合わせ、舌を絡ませあう。
非常識だと分かっていた。
分かっていながら身体は止まらなかった。
- 180 名前:―ティ・アーモ― 投稿日:2009/03/14(土) 17:52
-
「ん、みー…やん。」
何秒そうしていたか分からない。
ふふと桃子が笑って、熱くなった身体が離れる。
ぷつりと銀の橋が渡ってすぐに途切れた。
桃子の瞳は息苦しさからだろうか少し潤んでいた。
だがその奥にあるものは微塵も揺るいでいない。
無機質な光が歪んでいる。
自分と同じ、そう思うからこそ雅は桃子を求める事ができた。
「もも、楽屋はダメだって。」
残る残滓さえ嫌で雅は手を振って、切れた橋を更に壊す。
――女同士なんて馬鹿げている。
誰もが自然に体得する本能を破ることを何でするのだろう。
呆れたような雅の声に桃子はただ肩を竦めた。
「みーやんだって乗り気だったくせに、そういうこと言うんだ。」
拗ねたような顔は画面に映る時と何も変わらない。
作り物だ。
そこに真も贋も存在しない。
ただ嗣永桃子としての在り方が有るだけだ。
- 181 名前:―ティ・アーモ― 投稿日:2009/03/14(土) 17:53
-
「別に……ももがしてきたんでしょ。」
真っ直ぐに雅を見る視線から顔を逸らす。
誤魔化すように髪をかき上げ、苛つきをぶつける。
ずれる事無く進む時計の音が耳についた。
そんな桃子に対応する自分は何なのだろう。
ぼんやりと雅は思って、しかし直ぐに答えは出た。
作り物だ。
作り物に対応するのは作り物に他ならない。
雅が雅として在る為に作った、無機質な何かなのだ。
「だって、もう少ししたら梨沙子来ちゃうから。」
ほら、時間と桃子の明るい声が場違いに響く。
朗らかな笑顔と共に見せられた携帯電話には時計が付いている。
デジタルな文字が丁度良く動いて今の時刻を雅に知らせた。
質素な待ち受け画面、恐らく備え付けのものなのだろう。
そこに黒い数字が踊って更に素っ気無いものにしている。
それが何より空っぽな自分を表しているようで雅は少し怖かった。
- 182 名前:―ティ・アーモ― 投稿日:2009/03/14(土) 17:53
-
「なら尚更。」
「もぉは困らないもん、梨沙子に見られたって。」
雅の言葉を遮って桃子が笑う。
鬱々とした気分が雅を襲った。
三日月のように細くなった瞳から無邪気な光が飛び出す。
黒目が占める割合の多い瞳が細められたことで黒にしか見えなくなる。
ぞくりと嫌な気配が背筋を昇っていった。
ぱちんと携帯電話を閉めてポケットにしまう。
見えた時刻は集合時間まで三十分と言った所だった。
前の仕事から続けて来た雅達以外には少し早いくらいだ。
だが梨沙子は早めに仕事場に入る性質である。
桃子の言うとおり、そろそろこの場に現れても可笑しくは無かった。
「梨沙子に見られて困るのはみーやんでしょ?」
言葉に詰まる。
くすりと笑って桃子の手が伸びてくる。
頬に触れる手を雅は止める事ができなかった。
その白い肌に、その滑らかな艶に、梨沙子を見出しているのは本当なのだから。
ああと雅は嘆息する。
何で自分はこうなってしまったのだろう。
手に入らないものを求めるのは余りにも馬鹿げている。
- 183 名前:―ティ・アーモ― 投稿日:2009/03/14(土) 17:54
-
「ももだって、同じじゃん。」
苦し紛れにそう返す。
軽く頭を振ればすぐに桃子の手は離れた。
雅は知っていた。桃子も雅と同じ人種だと。
絶対に手に入らないものを手に入れようと足掻いている。
そういう見苦しい種類の人間なのだ。
「もぉはね、いいの。」
繰り返される言葉はやはり同じ響きだった。
全てが計算されているように冷たい、感情の見えない声。
二人のことなど関係ないと言うように進む時計と同質な存在。
微笑む顔の下に何があるか、雅には時折怖くて仕方なかった。
「みーやんに触れれば、梨沙子は見るもの。」
「……っ。」
一瞬の隙を突いて桃子の唇が頬に触れた。
柔らかい感触に雅は刹那息を止める。
今、梨沙子がこの部屋に入ってきたらと思うと心臓が凍るようだった。
- 184 名前:―ティ・アーモ― 投稿日:2009/03/14(土) 17:55
-
雅は桃子を通して梨沙子を求めている。
桃子は雅を使って梨沙子を引き寄せる。
お互いに欲しいモノは同じだった。
一人の少女が欲しくて、欲しくて不毛な関係を続けている。
「みーやんには、分からないんだろうね。」
柔らかい笑みが一瞬で底冷えするものに変化する。
緩やかに上がった口角は優しく雅を突き放す。
分かりたくなどないと雅は絡まる指を見つめながら思う。
自分も桃子も何処か壊れてしまっている。
それだけが分かれば最早充分だ。
「ももには分からないよ。」
なんで、自分たちはこんな道を選んでしまったのだろう。
絡まる指から伝わるものは何もない。
空しい肉の柔らかさと、意味の無い温もりがあるだけだ。
求めているのは一つだけなのに、その一つが足りないだけで世界はこんなにも味気ない。
そっと目を瞑るとすぐに欲しいものが映り、声が聞こえる。
いっそ世界が無くなればいいのにと雅は思った。
- 185 名前:―ティ・アーモ― 投稿日:2009/03/14(土) 17:55
-
最初は好きだった。
その気持ちに間違いはない。
無邪気に後ろを付いてくる幼子に愛しさを感じた。
もしかしたらこの時既に雅は誤っていたのかもしれない。
好きで、愛おしくて、そんな気持ちが煮詰まるのは決まっていたことなのだろう。
「――好き、なんて言える言葉じゃない。」
狂おしいほどの愛を好きなんて単語に詰めることはできない。
それはしてはいけないことだと雅の中の誰かが叫んだ。
この気持ちをたった一つの言葉に当てはめることは詐欺のようなものだ。
伝えた瞬間に梨沙子本人を壊してしまいそうで雅は恐怖した。
「みーやんは優しいね。」
桃子がゆっくりと微笑む。
穏やかな笑みは雅にとっては嘲笑でしかない。
何を考えてそう言うか雅には何となく裏が分かるからだ。
そう、雅が壊れているとしたら、桃子は狂っている。
同じ想いのはずなのにこんなにも違う。
- 186 名前:―ティ・アーモ― 投稿日:2009/03/14(土) 17:56
-
「もぉは梨沙子が手に入るなら何でもするよ。」
みーやんを抱くことだってね、と桃子が悪戯に言った。
自然と険しい顔になる。雅だって了承していることだ。
だがそれは梨沙子に抱かれているのであって、桃子に抱かれているのではない。
雅を抱くことで桃子が得るものは梨沙子であって、雅ではない。
二人の間では暗黙の了解のようなものだ。
腕を取られて腰に回される。
白い肌も柔らかい感触も全て幻惑の中では梨沙子のものだ。
甘える声が頭の中で梨沙子のものに変換されて溶ける。
ああ、何してるんだろうと雅は再び思った。
近くなった距離が、視界に広がる桃子の顔が現実を思い出される。
これは桃子であって梨沙子ではない。
- 187 名前:―ティ・アーモ― 投稿日:2009/03/14(土) 17:57
-
「もぉはね、梨沙子の頭の中を占められるなら何でもいい。」
「もも。」
「壊しても、泣かせても、何でもいい。」
ちゅと乾いた音がして唇が落ちてくる。
最初こそ触れるだけだったキスは直ぐに水音が混じる激しいものになる。
心は冷めているのに熱い舌が雅の思考をかき混ぜる。
――どうでもいい、今はそんなこと。
桃子は梨沙子で、雅は梨沙子でそれが世界を作っているのだから。
酔ってしまえば全ては同じことだ。
桃子と雅の感情は似ているようで全く違う。
息苦しい呼吸の中、腰に回した手に自然と力が入る。
雅は梨沙子に手を伸ばすことさえ出来ない。
不毛と分かりきった関係に何故梨沙子を巻き込むことが出来ようか。
何より雅は梨沙子を手に入れた瞬間に壊してしまいそうで怖かった。
それに比べて桃子の感情はむしろ破壊衝動だ。
梨沙子の全てを手に入れたい。
壊しても手に入れたいというのは壊したくないから手を出せない雅とは反対だ。
- 188 名前:―ティ・アーモ― 投稿日:2009/03/14(土) 17:57
-
「馬鹿みたい、こんな事。」
ぽつねんと雅が呟く。
漏れたと息は嫌になるほど熱に濡れていた。
「知ってるよ、そんな事。」
答える桃子の声も何処までも空虚だった。
雅と同じ大切なものを諦めたガラス玉の空っぽな瞳だった。
ティ・アーモ。
愛してるなんて言える訳が無い。
身体を重ねたのは事実なのだ。
降り積もる熱に意識を薄めながら雅はそう思った。
―ティ・アーモ―終
- 189 名前:CPヲタ 投稿日:2009/03/14(土) 17:58
-
- 190 名前:CPヲタ 投稿日:2009/03/14(土) 18:05
-
>>177-188
―ティ・アーモ― みや→りしゃ←もも
自暴自棄×1.5
みやびちゃんは完全に自棄だけど、桃子は少し違います。
殺伐とした感じにしたかった。後悔はしていないw
どうやら自分りーちゃんを可愛がりたい季節。
そんな短編が続きそうですがこれからもよろしくお願いします。
ではまた妄想が溜まった日に。
CPヲタでした。
- 191 名前:CPヲタ 投稿日:2009/03/14(土) 18:05
-
- 192 名前:CPヲタ 投稿日:2009/04/04(土) 23:35
-
りーちゃん誕生日おめでとう!
つーことで急ぎですが、駄文1つうpります。
あんま誕生日っぽくないのは、もはやお約束w
- 193 名前:CPヲタ 投稿日:2009/04/04(土) 23:36
-
- 194 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:36
-
桜が咲いた。
薄紅の花びらが舞う。
また一つ彼女が大人になる。
そう考えると嬉しい反面、どうしても寂しかった。
- 195 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:37
-
―春眠―
- 196 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:37
-
開かれた窓からか風が吹き込みフワフワと少女の髪を揺らした。
優しい風に時折薄紅の色が交じり、柔らかい空間が形成される。
まるで妖精が遊ぶかのように桜の花弁が少女の髪の毛に触れて揺れる。
静寂の空間に小さな足音が響き始め、それはやがて部屋の前で止まった。
「梨沙子ー……っと。」
寝ている様子に雅は声を潜めた。
撮影も終わり楽屋で待機している梨沙子を迎えに来たのだ。
他のメンバーは皆既に休憩へと入ってしまっている。
楽屋には梨沙子以外誰もいなかった。
足音を消してソファに近づく。
微動もしなかった。
「早くって、言ったくせに。」
春らしい温かな風が梨沙子の周りには吹いていた。
短くなった髪が揺れて、雅は開け放されたままの窓を見る。
無防備と言って良い程大開になっていた。
仮にもアイドルの楽屋なのにと雅は苦笑する。
- 197 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:37
-
雅が近づいても梨沙子の目が覚める気配は無かった。
静かに腰を折り曲げて顔を覗き込む。
窓に背を向ける形に座っている梨沙子の背後には鮮やかな桜が見えた。
撮影所の中にある桜だ。この楽屋に入ったとき、メンバー全員が目を輝かせた。
この地域は桜の名所らしく様々な所に桜が咲いていた。
「……寝てるし。」
特に梨沙子は感動していた。
空とか、星とかそういうものが好きだから。
梨沙子が桜を好きなことに何の違和感も無い。
どうしようかと寝顔を見ながら考える。
桜を見に行く約束はしたが梨沙子は寝ている。
穏やかな表情を見ていると起こすのも憚れた。
―好き、なんてね。
心の中で呟いて、笑う。
前より素直になったつもりではあるがまだ恥ずかしい。
ソファに肘をついて梨沙子の顔を眺める。
これはこれで心地よい時間だった。
- 198 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:38
-
- 199 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:38
-
桜の木の下へ雅は来ていた。側に梨沙子はいない。
あれから幾らか待ったが起きる気配は無かった。
下見でもしようとそっと抜け出てきたのだ。
楽屋でも見た限りなく白に近い色が頬を掠める。
近くで見る桜木は思っていたより大きくて雅は目を細めた。
撮影所の隣には同じように桜に溢れている公園があった。
梨沙子がいたら大喜びしたに違いない。
その場面が目に浮かぶようで雅は胸が温かくなる。
「お姉ちゃんも、さくら、見にきたの?」
見上げるようにして桜ばかりを見ていたからだろう。
雅は声をかけられるまでその子の存在に気づかなかった。
幼い声に視線を下げる。
自分の腰より少し上までくらいしか背がない。
幼稚園か小学生かの境目の少女だった。
一瞬、一般の人に見つかったかと思って驚いた。
だがこの少女なら心配ないだろうと思い、雅は安心したように笑う。
- 200 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:39
-
「そう、あとでもう一回来るけどね。」
少ししゃがんで視線を合わせる。
下から見上げる顔を見た事があるような気がした。
既視感に雅は僅かに首を傾げる。少女はただじっと雅を見つめる。
なんとなく、目をそらしてはいけない気がして見つめ返す。
幾百、幾千の桜が舞い落ちる。
ふわりと少女が微笑んだ。
白い肌に、花の顔。
とても可愛い顔をしているのに雅は今更ながらに気づいた。
「すきな人と、くるの?」
「……よく、分かったね。」
そんなに浮かれた顔でもしていたのだろうか。
少女の言葉に雅は照れ隠しのように笑った。
こくりと小さく頷いて、雅を指差す。
- 201 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:40
-
「わかるよ、お姉ちゃん、キラキラしてるもん。」
そっかとしか雅は返せない。
いつの間に、溢れるほど梨沙子を好きになった。
こんなに幼い少女にもそれはわかってしまうようだ。
「いいなぁ。」
「好きな人、いるの?」
舞う桜のように温かい呟きだった。
羨ましそうに雅を見つめる視線に聞き返す。
はにかむような顔が梨沙子を思い出させる。
一緒に来たら、梨沙子もこんな顔をしてくれるだろう。
「ううん、いない。」
「そっか。」
小さく横に首を振る。
まだ早かったなと雅は苦笑した。
このくらいの時期なんて覚えてもいない。
- 202 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:40
-
「でも―――」
少女が己より遙かに大きな桜を見上げる。
雅の目には花弁がまるで降り注いでいるようだった。
緩やかな風に撒かれて少女を包み込む。
「きっと、お姉ちゃんみたいな人、好きになるよ。」
え?と自然に声が漏れた。
少女はそれだけを言って笑う。
悪戯が成功したような、鮮やかな笑みだった。
「だって、お姉ちゃん、キラキラしてるもん。」
さっきと同じセリフを零す。
だがそこには先ほどまでと違う重さがあった。
くるりと雅に背を向けると走り去る。
その姿はすぐに小さくなった。
完全に見えなくなって雅はそっと胸に手を当てる。
とくんとくんといつもより少しだけ早い鼓動が伝わってきた。
呼吸を落ち着かせるように瞳を閉じればあの笑顔が浮かぶ。
- 203 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:41
-
―……梨沙子みたい。
違うことなど分かっているのに、面影が重なって仕方ない。
ふと目を奪われてしまうそんな笑顔だった。
「あら、貴女も桜を見に来たの?」
胸の高まりが収まるのを待っていた雅に声がかけられる。
今日はよく話しかける日だと思いながら、半ば反射的に振り返る。
そこにいたのは上品そうな笑顔のおばあさんだった。
貴婦人と呼ばれていそうな、質の良い香りが全身からした。
「は、はい。」
どもってしまったのは何故なのだろうか。
慣れない上品な空気に萎縮してしまったのか。
ただその色素の薄い瞳と目が合った瞬間に背筋が伸びた。
- 204 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:41
-
「不思議なこともあるものねぇ。」
穏やかなアルトの声が投げかけられる。
ついと雅の全身を見てから柔らかく微笑んだ。
不思議と言っておきながら、その表情に不思議という色は浮かんでいない。
「貴女、私の好きな人にとても似ているわ。」
「そうなんですか?」
「ええ、とても。」
まるで生き写しねとその女性はたおやかに言った。
さり気無く引き上げられた口角さえ計算されているようだった。
全てが無駄なく、優雅にあるように見える。
伺うように見た視線が合ってしまって、ふふっと嬉しそうに女性が笑う。
「ほんと、そっくり。若い頃よくそういう顔してたもの。」
「えっと……その方は同い年なんですか?」
どう聞けばいいのか、雅は一瞬逡巡した。
ひらひら、ひらひら、桜のシャワーが降り注ぐ。
満開になった桜はただ散るのみが宿命。
それに逆らう事無く潔く花弁は舞っていく。
- 205 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:41
-
「いいえ。私より、二つ上なの。」
へぇと間の抜けたような驚きの声が上がる。
雅と梨沙子の年の差と同じである。
何より好きと言い切れる強さに吃驚した。
雅にはとても真似できない。
「すごい、ですね。」
「なにが?」
「好きって、あたしは思ってても言えないから。」
苦笑を隠すように空を見上げる。
春らしい淡い色した空が薄紅の背景として広がっていた。
淡さが交じり合って光っているようだった。
ふふと可笑しそうに女性が笑う。
「私のね、初恋みたいなものだから。」
「初恋……?」
首を傾げる雅に少し目を細める。
同じように女性も桜木へと視線を移した。
だがそれは桜を見ているのではない。
その向こうにいる好きな人を見ているのだ。
- 206 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:42
-
「あの人以外、好きになったこと無いのよ。私。」
困ったようにそれでも嬉しそうにはにかみながら言う。
頬に手を当てため息をつく姿はとても様になっていた。
まるで少女のように可憐で、初々しい。
「色々、試したりもしたんだけど……無理だったわ。」
「すごいですね。」
素直に驚嘆した。
人を好きになるのはそれだけで大変なことだ。
一人を思い続けるというのは更に難しいと若い雅にもわかっていた。
「あの人も貴女みたいに恥ずかしがりだから。」
分かりにくいけど、分かるのよ。と女性は笑った。
清々しいほど幸せそうな表情だった。
いつか自分もこんな顔が出来るようになりたい。
雅はその横顔を見ながら思う。
「貴女は言ってあげてね、雅ちゃん。」
「へ?名前……。」
「さぁ、桜の魔法じゃないかしら。」
悪戯に笑う姿が桜吹雪に包まれた。
ざっと梢が揺れて風が吹きぬける。
視界に薄紅の花弁が揺れて、散って視界が閉ざされる。
身体を絡みつく風に雅は反射的に目を閉じていた。
- 207 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:43
-
「みや?」
「ん……りさ、こ?」
風が収まってゆっくりと瞳を開ける。
最初に見えたのは不思議そうに雅を見つめる梨沙子だった。
暖かな空気の流れに顔を動かす。
ぼんやりとしていた目に変わらぬ楽屋が像を結ぶ。
「あれ?」
一瞬何処にいるのか分からなくなった。
風の吹くまで雅は確かに桜の下にいたはずなのに。
ふわふわと足が地に着いている気がしない。
ただここにいるのは梨沙子で、窓から見えるのは桜だった。
それは雅がここに来た時と何も変わらぬ光景だ。
「どうかした?凄く静かに寝てたけど。」
「……夢?」
梨沙子の言葉に少女と女性の笑顔が浮かぶ。
あの時感じた桜の花弁も、風も、笑顔だってはっきり覚えている。
夢にしては現実味がありすぎていた。
- 208 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:43
-
「桜、見に行く?」
晴れない霧にモヤモヤとしたものが雅の心を覆う。
だがそんな気持ちを押し隠して、梨沙子に尋ねた。
時間を確認すればそれほど経っていない。
桜を見に行くには充分な時間だった。
―やっぱり、夢だったのかな。
二人連れ立って楽屋を出る。咲き乱れる花の道を歩く。
とてもじゃないが、ここまで来て楽屋に戻るのは時間的に無理だった。
ぼんやりと桜に浮かれる梨沙子を見ながら雅は少し気を落とす。
「ねぇ、みや。キレイだね。」
「そうだね……。」
梨沙子が立ち止まって振り返る。
その笑顔があの幼い少女に重なった。
機嫌よく笑う顔はそれこそキラキラしているように見えた。
- 209 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:44
-
「梨沙子、桜好き?」
だからだろうか、そんな事を聞いてしまったのは。
梨沙子は色んなものが好きだが、その理由まで聞いたのは初めてかもしれない。
そっと梨沙子の白くて細い指が桜の幹に触れる。
「うん、桜には魔力があるんだよ?」
「まりょく?」
「あたしをみやに会わせてくれたのは、桜だもん。」
くすりと笑う。
その顔が今度はあの女性に重なる。
とくんと勝手に身体が反応した。
昔から梨沙子は不思議な子だった。
出会った時から、雅にとても懐いてくれた。
『きっと、お姉ちゃんみたいな人、好きになるよ。』
耳の奥に残った音が雅を揺さぶる。
桜の魔力なんて信じてないけれど、梨沙子が言うならばあるのかもしれない。
そう思えるくらいには雅は梨沙子を好きである。
- 210 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:45
-
「あたしの言う事、当たってたでしょ?」
桜を見上げていた梨沙子がこちらを振り返る。
ゆったりとした歩調は風のざわめきに吸い込まれる。
身体が触れそうなくらい近くなって、耳元に唇が寄せられる。
――やっぱ、みやを好きになったよ。
驚いて固まる雅に梨沙子は優しいキスを一つ落とした。
そういえばと昔の記憶を掘り起こす。
梨沙子に自分のことを何故好きなのかと聞いた事がある。
その時の答えは『キラキラしてるから』だった。
聞いた時は良く分からなかったが、今になって全てが繋がる。
「きっと、あたし、ずっとみやのこと好きだよ。」
零された言葉に泣きそうになる。
あの少女が言った事は本当だった。
ならばあの女性が言ったことも本当なのだろう。
- 211 名前:―春眠― 投稿日:2009/04/04(土) 23:46
-
「知ってるよ。」
泣きそうなのを誤魔化すように、雅は桜を見上げる。
そこにあったのはやはり絢爛たる桜木だった。
もう梨沙子の誕生日に寂しさなんて感じない。
幾ら歳を経ても、何年経っても一緒だと。
そう桜が教えてくれたのだから。
―春眠―終
- 212 名前:CPヲタ 投稿日:2009/04/04(土) 23:46
-
- 213 名前:CPヲタ 投稿日:2009/04/04(土) 23:50
-
>>194-211
―春眠― りしゃみや
15歳おめでとう!!という勢いだけでできました。
無駄に長いw
では急ぎなので、帰ります(バク
とりあえず今年もりしゃみや頑張ってと勝手な言葉をお祝いに贈りますw
- 214 名前:CPヲタ 投稿日:2009/04/04(土) 23:50
-
- 215 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/05(日) 15:16
- いいですねぇ。幻想的なところが素敵です。この感じは、りしゃみやじゃないと生まれないですね。
更新おつです、また楽しみにしてます。
- 216 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/05(日) 17:55
- 綺麗な文章にとても優しい気持ちになれました。
りしゃみやはやっぱり凄いですね。
- 217 名前:CPヲタ 投稿日:2009/06/04(木) 06:55
-
久しぶりの更新w
ひっそりこっそりの気分で更新します。
215<<名無飼育さん
あっとうございます!
りしゃみやは独特な雰囲気を持っていると思うので、それを表現できたら幸せですw
これからも頑張りまっす。
216<<名無飼育さん
綺麗な文章だなんて恐れ多いw
りしゃみやは詩的な表現が似合う二人だと思います。
つーか自分はそういう感じの方が好みです(バク
感想あっとうございます!
では更新。
久しぶりでもやっぱりしゃみやです。
- 218 名前:CPヲタ 投稿日:2009/06/04(木) 06:55
-
- 219 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 06:56
-
賭けたのはきっと恋心。
一世一代の大舞台。
- 220 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 06:56
-
―夏の夜―
- 221 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 06:58
-
“明日、約束の場所で待ってます。”
名前も書けずに出した手紙は今頃どうしているのだろう。
きっと彼女の綺麗な手の中にそれは存在していて、持ち主を困らせているに違いない。
最後の最後まで、勇気を出せない自分に少し悲しくなる。
- 222 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 06:58
-
「気づくかなぁ。」
名前はない。
どうしても書く気は起きなかった。
好みの便箋に一行だけ。
そんな手紙とも言えないものをただ置いてきた。
のんびりとした歩調で歩く。
彼女は気づかないかもしれない。
だがそれはそれで問題ない。
「……気づくよねぇ。」
夜の道に声が吸い込まれる。
夏の夜はどこか優しい。
緩やかに吹く風が身体を取り巻いて涼しかった。
いつもの自分なら、もうとっくにテンパっている。
不安で仕方なくなって涙だって出てきているかもしれない。
なのに今日はそんな予兆が少しもなかった。
きっと一番怖いものが分かったから、涙も出られなくなったのだろう。
- 223 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 06:59
-
『引越し、するから。』
そんな理不尽な一言で大人は全てを奪っていく。
父親の転勤。
たぶん、珍しいことではない。
今までそれが巡ってこなかっただけで。
両親の転勤で町を離れる子供はたくさんいる。
今回たまたま自分の所に回ってきてしまっただけなのだ。
「初めてだなぁ、転校って。」
生まれたときからここで育ってきた。
今歩いている道だって、ずっと見てきたものだ。
視線を巡らせれば幾らでも自分の影を見つける事が出来る。
駆け回った公園。
騒ぎすぎて怒られた家の前。
お祭りにはしゃいだ神社の境内。
ゆっくり歩けばそれだけ見えなかったものが見えてくる。
夜の闇に紛れて色んなものが見え隠れした。
- 224 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 06:59
-
じんわりと汗が滲む。
約束の場所は少し坂を上った先だ。
大人は知らない。
子供だけの探検ルート。
その中で彼女と約束をしたのだ。
『ずっと一緒』
はっきりと覚えている。
幼かった日々は今でもキラキラ輝く宝物だから。
あの日も今日みたいな過ごしやすい夏の夜で。
ちょっとした探検に彼女と二人、歩いたのだ。
草と土の匂いがした。
夕方に降った夕立は少しの湿気を大地と大気に含ませた。
嬉しそうに合唱する蛙の声が段々と大きくなる。
夏だなと今更ながらに感じた。
- 225 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 07:00
-
「ずっと一緒、だったんだけど。」
一人苦笑する。
呟きはただ暗闇に吸い込まれていった。
あの約束以来、二人はずっと一緒にいた。
彼女のことは分からないが、とりあえず自分は一緒にいたつもりだ。
それくらい好きだったし離れたいと思ったこともない。
喧嘩もした。
怒りもしたし、泣きもした。
だけどその度仲直りをした。
今までの人生全てがこの町に包まれている。
- 226 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 07:00
-
「やだなぁ。」
この町を離れる事が。
彼女と離れる事が。
どうしようもない涙を誘った。
好きだったのだ、この町が。
好きだったのだ、彼女の事が。
どうしようもないほど大好きだった。
耳に響く音に蝉の声が混じり始める。
目的地に近づいた証拠だ。
田んぼばかりのこの付近とは違って、約束の場所は木が多い。
田舎と言える場所ではあったが自分にとっては全てだった。
- 227 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 07:01
-
「よし。」
ここを登りきれば約束の場所。
その一歩手前で足を止める。
見上げた空は深い群青に、星が散りばめられていた。
手紙に気づいていたら彼女はこの上にいる。
気づいてなかったらいない。
忘れたという選択肢は考えたくなかった。
一歩、二歩と草を踏みしめる。
柔らかい土の感触が靴の裏を通して伝わってきた。
吸い込んだ息に、馴染みきった匂いがしてつんと目頭が刺激される。
――これがここで過ごす最後の夏だ。
「っ。」
ひゅんと風が吹いて反射的に目を閉じる。
だが動かした体は止まらず、いつの間にか目的地に着いていた。
瞼を挙げるのが怖い。
なんて、そんな事を思ったのはこれが初めてかもしれなかった。
- 228 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 07:01
-
- 229 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 07:02
-
「梨沙子!」
逡巡も響いた声にかき消された。
彼女の声が耳から身体に伝わって、全身に流れていく。
その瞬間が梨沙子は堪らなく好きだった。
彼女が自分を呼ぶ声は何時だって温かかったから。
開いた瞳に彼女の姿が映る。
いつもの歩調より少し早い。
暗がりでも近づけば顔くらい見る事が出来る。
段々見えてきた彼女の顔は少し怒っているようだった。
「遅いから、心配した。」
素っ気無い声で告げられる。
甘くも、優しくもない声だ。
だけど自分にはとても温かく感じられる。
裏にある気持ちやそれを隠してしまう性格を知っていた。
- 230 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 07:02
-
―こんなにも、わかるのに。
自分は彼女と離れなければならない。
それだけが悔しくて、悲しい。
これから先、彼女以上の人が現れることはないだろうとさえ梨沙子は思っていた。
近づく体温に涙腺が緩む。
ぽろりと落ちたのは一粒の丸い、透明な雫だった。
途端に目の前の彼女の顔が少しうろたえて。
梨沙子は少し笑った。
「どうしたの、梨沙子?」
心配そうな顔が近づいてそっと涙を拭われる。
その動作に迷いは無く、温かい。
好きだと梨沙子は思った。
どうしようもないほど、やはり自分は彼女が好きなのだ。
さわさわと木立が揺れる。
遠くからは柔らかい蛙の鳴き声が響いていた。
月はいつもと変わらず温度を感じさせない蛍光を振りまく。
まだ夜は僅かに肌寒かった。
- 231 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 07:03
-
「ねぇ……あ、たしさ。」
「うん。」
零れそうになる涙を知られたくなくて顔を俯ける。
見えたのは昼間より冷めた色を見せる大地だった。
ぽろぽろと重力に負けた雫が円になって落ちていく。
きゅっと柔らかな感触が手から伝わる。
彼女の手だとすぐに分かった。
体温も柔らかさも肌触りさえ自分の身体には染み付いている。
口下手な彼女の代わりに“泣かないで”と言っているようだった。
「引越し、するんだ。」
「え?」
「引越し、するの。転勤なんだって。」
「……そっか。」
彼女の温もりに押されて出た言葉は夜の闇に嫌に響いた。
自分の口から出る言葉が呪いのように気持ちを重くする。
ちらりと見えた顔には驚きと微かな寂しさが見て取れた。
良かったと梨沙子は安心する。
少なくとも多少の動揺はしてもらえる。
自分がいなくなる事が彼女は悲しいのだ。
- 232 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 07:04
-
「約束、守れなくてごめんね。」
「いいよ、仕方ないことだし。」
そう言って笑う彼女の顔が酷く寂しく見えた。
それは梨沙子の願望が見せたものだったのかもしれない。
それでも梨沙子にはそう見えたのだ。
これ以上涙を見せたくなくて、上を見上げる。
いつも見える満天の星は少しだけ歪んでいた。
止まれ、止まれと願ってみても涙は従ってくれない。
まるでどうしようにもならない転勤のようだった。
「聞いてくれる?」
「ん、何を?」
「言わなきゃならないことがあるの。」
収まらない涙をぎゅっと瞼に力を込めることで止める。
すぐに溜まってきてしまうけれど、一時凌ぎには充分だ。
だって梨沙子が言いたいことはたった一言だから。
- 233 名前:―夏の夜― 投稿日:2009/06/04(木) 07:05
-
「あたしね、みやのことが―――」
一世一代の大舞台。
これが凶と出るか、吉と出るかはきっと彼女しか知らない。
―夏の夜―終
- 234 名前:CPヲタ 投稿日:2009/06/04(木) 07:05
-
- 235 名前:CPヲタ 投稿日:2009/06/04(木) 07:07
-
>>219-233
―夏の夜―
りしゃみや、アンリアル
夏って雰囲気を出したかったのさ。
ちょっと書き方変えてみた。
- 236 名前:CPヲタ 投稿日:2009/06/04(木) 07:08
-
- 237 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/04(木) 20:11
- 泣いた
- 238 名前:三拍子 投稿日:2009/06/04(木) 20:29
- 泣きました‥‥‥。
- 239 名前:七誌 投稿日:2009/06/05(金) 00:21
- やっぱりしゃみやはいいなぁ
ありがとうございます
- 240 名前:CPヲタ 投稿日:2010/01/01(金) 13:10
-
お久しぶりすぎる、お久しぶりです。
年末の仙台に触発され年明けてすぐに短篇が出来ました。
新たな試みが沢山入ったものですが、お納めくださいw
以下、遅くなりましたがレス返し。
237<<名無飼育さん
ありがとうございます。
りしゃみやで何かを届けられたら幸いです。
238<<三拍子さん
ありがとうございます。
りしゃみやは切ないのが似合うので、こういう話になってしまいがちですw
239<<七誌さん
やっぱりしゃみやはいいです。
こちらこそありがとうございます。
長らくお待たせしました。
(いや、待っている人がいるかはわかりませんが)
とりあえず新年一発目の短篇。
やっぱり、りしゃみやですw
今回は甘めに仕上げたつもりですが、どうでしょう?(キクナ
では、どうぞ。
- 241 名前:CPヲタ 投稿日:2010/01/01(金) 13:10
-
- 242 名前:―口付けのその前に― 投稿日:2010/01/01(金) 13:11
-
好きって呟いて。
その一言だけであたしは生きていけるから。
震える唇に誓いを捧げられるから。
- 243 名前:―口付けのその前に― 投稿日:2010/01/01(金) 13:11
-
―口付けのその前に―
- 244 名前:―口付けのその前に― 投稿日:2010/01/01(金) 13:12
-
少し躊躇する。
だけど手を伸ばさなければ触れることは出来ない。
そう知っているから、天使に触れるような気持ちで声を掛ける。
「ねぇ」
彼女の反応は大体予想できる。
こんなにも勇気を振り絞って行った行為なのに彼女にとっては歯牙にもかからない。
きっといつものように素っ気無く振り向かれるだけ。
「なに?」
ああ、やっぱり。
今日も予感は当たっていたようだ。
ふわりと目の前で彼女の髪が動く。
茶色の、キラキラしたそれは甘い香りがする。
「……ううん、なんでもない」
目と目が合う。
彼女の瞳に私が映って、私の視界に彼女が広がる。
それはとてもとても幸せなことだ。
- 245 名前:―口付けのその前に― 投稿日:2010/01/01(金) 13:12
-
―好きだよ。
心の中で呟く。
本当は声を大にして言いたい。
でもそんな事をしたら恥ずかしがり屋の彼女は怒ってしまう。
だから心の中で呟くだけ。
「なに?なんかしたの?」
それでも彼女は優しくて。
私のちょっとした変化も感じ取ってしまう。
吐く息は白に染まって、見える世界と同じ色に消えていく。
僅かな身長差を見上げるようにして視線がぶつかる。
マフラーに埋まって半分しか見えない表情でも私には充分だった。
「ううん、何もないよ」
心配してくれたのが嬉しくて頬が緩む。
素っ気無いくせに優しくて。
気まぐれな猫のように可愛さを振りまく。
大好きすぎる、彼女。
- 246 名前:―口付けのその前に― 投稿日:2010/01/01(金) 13:13
-
「そう?それにしても寒いねー」
「うん、みや、大丈夫?」
みやが空を見上げる。
そこに見えるのは厚くて白い雪雲。
冬一番の寒さはいつもなら雪の降らないこの地域に白い結晶を運んできていた。
キラキラと光を反射して世界が光る。
みやにも所々それが付いて、デコレーションされたみたいだった。
「こんくらい平気だって。もう心配性なんだから」
私の言葉にみやが苦笑する。
だって心配だ。
みやは平気で無理をする。
たぶん弱い所を見せたくないからなんだろうけど。
それでも、その性質を知っている身としては心配してしまう。
「だって風邪治ったばっかじゃん」
私だってみやが普通に過ごしていたなら何も言わない。
過度な心配は彼女を怒らせるタネになる。
それでも不安になるのはみやが体調を崩していたからだ。
高い熱が出て、息をするのも苦しそうで。
綺麗な声は掠れて、頬は真っ赤に染まっていた。
そんなのを見てしまったから。
- 247 名前:―口付けのその前に― 投稿日:2010/01/01(金) 13:13
-
「梨沙子は今日の予定崩しても良かったの?」
「それは……」
思わず口ごもる。
みやは意地悪だ。
私が「うん」と言わないのを知っていながら訊く。
今だってみやの表情はにやにやした意地悪な笑顔で。
これを浮かべている時、私は必ずからかわれる。
―だって心配なんだもん。
―だって一緒に居たいんだもん。
心配する私と、一緒に居たい私がぶつかる。
みやは人気者で予定が合う事は余りない。
今日だってずっと前から予約していた一日で。
だから「崩してよかった?」の答えは「いいえ」だ。
「それなら、いいじゃん」
ふわりとみやが微笑んだ。
いつも見る楽しそうな笑顔というよりは綺麗な笑顔。
優しさが溢れて、私の胸を突く。
こういう所が卑怯でずるくて敵わない。
その顔をされたら私が何も言えないって知っている。
- 248 名前:―口付けのその前に― 投稿日:2010/01/01(金) 13:14
-
「ほら、行くよ」
差し出された手を握る。
手袋越しの感触はそれでも柔らかくて。
みやに引っ張られる感覚が嬉しくて。
それでも言い包められた事は悔しくて。
私はただ身を任せるように白に染まった地面を見ていた。
****
黙って付いてくる梨沙子にあたしはふぅと息を吐く。
咳が出そうになって、それを無理やり押しとめた。
大丈夫って言ったばかりなのに咳なんてしたらまた心配させてしまう。
―梨沙子も、鈍いよね。
心配してくれるのは素直に嬉しい。
その気持ちに嘘はないし、そういう性格なのも知っている。
でも梨沙子はいつもあたしの気持ちだけ気付けていない。
- 249 名前:―口付けのその前に― 投稿日:2010/01/01(金) 13:14
-
「みや」
「今度はなに?」
もうすぐ目的地に着くという所でまた後ろから声が掛かる。
甘い声、本人は低くて好きじゃないみたいだけど。
あたしは梨沙子の声を気に入っていた。
振り返った視界に映ったのは俯く梨沙子。
髪の毛の間から覗く肌は寒さに赤く色づいている。
いつも見ているから、その白さは目に焼きついている。
その差であたしの目には更に赤く見えるのかもしれない。
「私のこと、好き?」
思わず眉間に力が入る。
「はぁ?」と言いそうになるのを飲み込む。
そんな事をしたら梨沙子は更に萎縮してしまうから。
ぐっと我慢して梨沙子を見つめる。
―好きに決まってんじゃん。
梨沙子のこういう所が嫌いだ。
あたしの気持ちを知らなすぎる。
いや、あたしの中の自分についてだけ梨沙子は知らない、鈍すぎる。
他のそれこそ体調とか、気分とかは凄く良くわかってくれるのに。
自分のことだけ梨沙子は自信がないのだ。
- 250 名前:―口付けのその前に― 投稿日:2010/01/01(金) 13:15
-
「嫌いなら一緒に居ないでしょ」
あたしだって梨沙子と一緒にいたい。
そうじゃなきゃ、態々風邪を押してまで予定を守らない。
梨沙子は「みやは優しいから」なんて言いそうだけど。
残念ながら好きでもない子にそこまで優しくする性質ではない。
「そういうことじゃなくて」
梨沙子の瞳が訴える。
好きって言って欲しい。
切実にそう伝える視線は潤んだ瞳と相俟って破壊力抜群だ。
白いコートに身を包んで雪の中に佇む梨沙子は、まるでこの世界の人ではないみたいで。
いつかあたしの手の中からすり抜けて行ってしまいそうで。
あたしは時々酷く怖くなる。
「そっちは?」
だから、かもしれない。
好きって中々言えないのは。
特にあたしからになるとトコトン言えない。
先に梨沙子の言葉を聞いてからじゃないと無理なのだ。
梨沙子があたしに気持ちを向けていてくれないと不安になる。
- 251 名前:―口付けのその前に― 投稿日:2010/01/01(金) 13:15
-
「好きだよ、みやのこと。大好き」
少し緩んだ口元、寒さ以外で赤くなった頬。
全部全部可愛くて、愛しい。
あたし以外には絶対あげたくない。
こんなにも好きなのに、梨沙子は全然気付いていない。
「あたしも、好きだよ。梨沙子のこと。」
離れていた一歩を詰める。
今、自分がどんな顔をしているかなんて分からない。
でも梨沙子の表情を見る限り優しい顔をしているのだろう。
だって梨沙子が凄く嬉しそうに笑っているから。
それだけで十分だ。
梨沙子のマフラーを直す振りをして手を伸ばす。
少し緩めて顔を隠すみたいにしてから唇を寄せた。
すぐに柔らかい感触が伝わってきて酔いしれる。
“好き”って気持ちをありったけ込めて口付けた。
- 252 名前:―口付けのその前に― 投稿日:2010/01/01(金) 13:16
-
「……わかった?」
「うん」
そっと離れればふにゃふにゃの笑顔で頷いてくれた。
きっとあたしの顔は赤いに違いない。
顔に全ての熱が集まったみたいに熱いから。
それを誤魔化すみたいに梨沙子から離れて歩き出す。
「みや!」
梨沙子の声に振り返る。
雪の結晶がキラキラ光を振りまく。
白は全てを反射する色。眩しくて見ていられないくらい綺麗。
天使みたいだった。白が梨沙子を祝福している。
「大好きだよ」
飛び込んできた身体を抱きしめる。
耳元で囁かれた声に安堵のため息を吐く。
梨沙子はここにいて、あたしを好きでいてくれる。
それが堪らなく嬉しい。
- 253 名前:―口付けのその前に― 投稿日:2010/01/01(金) 13:17
-
「知ってるし……」
照れ隠しに呟いた言葉は雪に吸い込まれる。
梨沙子はただ笑っていた。
綺麗に綺麗に笑っていた。
その笑顔があたしの全てだった。
好きって呟いて。
その一言だけであたしは生きていけるから。
震える唇に誓いを捧げられるから。
ずっとずっと好きだって、誓えるから。
―口付けのその前に―終
- 254 名前:CPヲタ 投稿日:2010/01/01(金) 13:17
-
- 255 名前:CPヲタ 投稿日:2010/01/01(金) 13:20
-
>>242-253
―口付けのその前に―
りしゃみや、一人称
年明け初はりしゃみやだと思いましたw
甘くなっていたら幸せです。
では久しぶりの更新でした。
- 256 名前:CPヲタ 投稿日:2010/01/01(金) 13:21
-
- 257 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/01/01(金) 16:42
- 更新きたああああああああ!!
- 258 名前:名無し飼育さん 投稿日:2010/01/03(日) 04:05
- 更新お待ちしてました!!
しかし甘いですねぇ〜
梨沙子って雪似合いますよね(イメージで)
CPヲタさんが書くりしゃみやが本当に好きなんでまた更新待ってます!!
- 259 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/01/23(土) 18:25
- りしゃみやいい(´∀`)
もっと読みたいです
- 260 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/11(木) 13:36
-
忙しくなると、妄想が降ってくる物で。
りしゃみやが自分を急かします。
(いや、きっとりーちゃんがだけど)
なので勢い短篇を一つ。
257<<名無飼育さん
更新しました。
そして更新します。
258<<名無し飼育さん
お待たせしました。
りしゃみやはほの甘で頑張りたい今日この頃です。
やっと好きCPを甘く書ける様になりましたw
259<<名無飼育さん
自分もりしゃみやをもっと読みたいです。
とりあえず自給自足します。
では今日の更新。
甘いのがいいとかいいながら、再びせつなめかもしれないっす。
- 261 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/11(木) 13:36
-
- 262 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/11(木) 13:37
-
人を好きになるって、なんだろう。
ただ秋の空のように人の気持ちは移ろいやすくて。
それが少し悲しかった。
- 263 名前:―秋の雫― 投稿日:2010/03/11(木) 13:37
-
―秋の雫―
- 264 名前:―秋の雫― 投稿日:2010/03/11(木) 13:38
-
優しく笑ってくれた顔を覚えている。
年上の彼女はいつも何だかんだ面倒を見てくれた。
口では文句を言いながら、世話をしてくれる。
泣いていたら側に来て背中を撫でてくれた。
笑っていたら一緒に笑ってくれた。
怒っていたら愚痴を聞いてくれた。
思い出すことは沢山あるのに、繋がるものは何もない。
「寒いなぁ……。」
秋の風が足元を掠めていく。
からからと乾燥した枯葉が音を立てた。
マフラーに顔を埋める。
もう季節は冬に片足を突っ込んでいる。
『失恋、したんだ。』
告げられた言葉は突然だった。
最初に聞いた時は何を言っているのか理解できなかった。
ただ切なそうな顔が珍しくて、同時に傷の深さを教えてくれた。
- 265 名前:―秋の雫― 投稿日:2010/03/11(木) 13:38
-
―初めて、だよね?
考えてみれば自分は彼女の傷を知らない。
いつも、自分と過ごすほとんどの時間を彼女は笑っていた。
それが義務感なのか、意地なのかまでは分からないが。
少なくともあんなに泣きそうな顔は見た事がなかった。
「教えてくれれば、良かったのに。」
そんな風に思ってしまうのは甘えなのだろうか。
自分は何もかも教えてきたつもりなのに。
彼女が与えてくれたものはとても大きいのに。
何故か、自分は彼女について、殊に恋愛については知らなかった。
傷つけないようにしてくれたのかもしれない。
それは優しい彼女なりの気遣いだろう。
鈍いと思っていた彼女が気付いていたとしても可笑しくはない。
自分の恋心は、呆れるほど巨大で分かりやすい。
その癖何時からなんて少しも分からないのだから性質が悪い。
- 266 名前:―秋の雫― 投稿日:2010/03/11(木) 13:39
-
『気にしないで。』
頭の中で映像が進む。
あんなに泣きそうな顔をしたのに、次の瞬間には笑っていた。
目の端に涙を滲ませようとも。
いつもより歪な笑顔だったとしても。
彼女は確かに笑っていた。
――それが嫌だった。
とても、とても子ども扱いされたような気がして。
まるで、知らなくていいんだよ、と言われた気がして。
どんな顔をすれば良いのか分からなくなってしまう。
泣きたいのか、笑いたいのか。
励ましたいのか、落ち込みたいのか。
全てを包容してとりあえず、笑顔をつくった。
それはきっと彼女に負けないくらい歪な顔だったに違いない。
―嫌い。
彼女を無理に笑わせた自分なんて。
彼女を慰めてやれない自分なんて。
失恋にホッとしている自分なんて。
マフラーに顔を埋めてもう一度嫌いと言えば、誰もいない道に自分の声だけが耳に刺さった。
- 267 名前:―秋の雫― 投稿日:2010/03/11(木) 13:39
-
「でも、好き。」
ぽつんと呟く。
それもまた事実だった。
彼女のために何も出来ない自分は大嫌いだった。
でも彼女の事は幾ら経っても大好きだった。
どんなに考えてもそれは変わらない。
――好きで、嫌いで、それでも好きで。
ぐるぐる回る思考の中で気付いたのはたった一つ。
彼女の役に立てないのに彼女の事を諦められない自分。
ふらふらと進めていた足が止まる。
目の前には見慣れた門がある。
幾度と無く通った道を間違えるわけが無い。
一度、深呼吸する。
秋の清々しい空気が入ってきた。
―いる、よね。
思いつきで飛び出てしまったから確認はしていない。
答が出た瞬間に居ても立ってもいられなくて、ここに向かっていた。
それでも彼女がいないという感じは少しもしなかった。
もし、と考える。
もし彼女がいなかったら、それは神様から彼女を諦めろと言われているに違いない。
- 268 名前:―秋の雫― 投稿日:2010/03/11(木) 13:40
-
インターホンを押す指は震えていた。
彼女に会うのが怖かったのかもしれない。
でも、会わなければならなかった。
伝えたい事があった。
『はい』
「あの、菅谷梨沙子です。みや――雅さんはご在宅でしょうか?」
噛まなかった事に安心する。
道すがら何て言えば良いのか考えていた。
だがきちんとそれを口が発してくれるかは別の話で。
梨沙子は胸を撫で下ろした。
インターホンの向こうでざわめきが起こる。
それが雅を呼んでいるのか、どうなのかまでは分からない。
ただ居る事だけと梨沙子は祈っていた。
暫くして玄関の奥で音が聞こえ始める。
鍵を開ける音がして、梨沙子は居住まいを正す。
- 269 名前:―秋の雫― 投稿日:2010/03/11(木) 13:40
-
「急にどうしたの?」
そこにいたのは間違いなく雅だった。
神様は梨沙子に諦めろとは言わなかったのだ。
涙が出そうになって堪える。
ここで泣いてしまったら伝えたい事も伝えられない。
勇気を持って口を開く。
「みやに、伝えたい事があるんだ。」
怪訝そうな顔をする雅に微笑む。
心臓が五月蝿いくらいに鼓動を跳ねさせる。
緊張しているのは言うまでもなかった。
「わかったよ。上がって?」
雅が背を向けて中に入る。
梨沙子は後を着いて家に上がらせてもらった。
途中インターホンに出た雅の母親に会って、ぺこりとお辞儀をする。
先に進んだ雅が階下の梨沙子を呼んだ。
そんなちょっとした事が嬉しくて大きく返事をして追いかける。
雅の部屋の場所は知っていた。
- 270 名前:―秋の雫― 投稿日:2010/03/11(木) 13:41
-
「で、どうしたの?」
「あのね、考えたの。」
部屋に入って直ぐに雅に尋ねられる。
真っ直ぐな視線にそれでも臆する事無く梨沙子は答えた。
決めてきたのだ。ここで逃げることなどできない。
雅はあの時から少しやつれた。
それが悲しみによるものだという事は考えるまでも無い。
―みやが悲しいと、わたしも悲しいんだよ。
雅の悲しみは梨沙子の悲しみだし、雅の痛みは梨沙子の痛みだった。
少なくともあの時までは。
失恋したと聞いたあの時、梨沙子は初めて雅が悲しんでいるのに心の隅で喜んだ。
「何を?」
「みやのこと。」
「あたしのこと……?」
うんと小さく梨沙子は頷く。
雅の事を考えた。
どうすればいいのか。
どうすれば雅は一番喜んでくれるだろうか。
どうすれば雅が一番幸せになれるだろうか。
雅のために何が出来るかを、何にも出来ない自分が何が出来るかを考えた。
考えて考えて、結局出たのは前から知っていた事で。
それしかない自分に梨沙子は少し苦笑したのだ。
- 271 名前:―秋の雫― 投稿日:2010/03/11(木) 13:41
-
「わたし、みやが好き。」
息を呑む音が聞こえてきそうだった。
目の前の雅は複雑な、それでも驚きが一番強い表情で梨沙子を見る。
「みやが失恋したときにこんなこと言うの間違ってるのかもしれない。」
一度乾いた唇を舐める。
緊張して、舌が絡まってしまうような気がした。
それでも言わなければならない。
「みやがわたしのこと好きじゃなくてもいいよ。」
雅が自分のことを好いてくれたら、それはとてもとても幸せな事だ。
だが重要なのは自分の幸せではない。
雅の幸せこそが、梨沙子の幸せなのである。
考えて考えて、出た結果はそれだった。
ずっと前から知っていた事だった。
「ただ側にいさせて、欲しいんだ。」
動きを止めたままの雅に梨沙子は慎重に告げる。
そのためにできる事は、雅に貰ってばかりだった梨沙子にできる事はそれだけだった。
どんな時でも雅の側にいる。辛いのも悲しいのも一緒に分け合う。
そんな答しか梨沙子の頭では出てこなかった。
- 272 名前:―秋の雫― 投稿日:2010/03/11(木) 13:42
-
「一人で泣くより、二人の方がきっと悲しくないよ。」
梨沙子は笑顔を作る。
緊張で上手く笑えたかは分からない。
でも笑えてればいいなとは思った。
「梨沙子。」
少しだけ震えた声で雅が梨沙子の名前を呼ぶ。
なに?と出来るだけ優しい声で梨沙子は答えた。
頼ってきたばかりの自分だから、今日くらい踏ん張らなければならない。
「ばか。もっと、自分のこと、考えなよ。」
「自分のこと考えてたら、みやのことになったんだよ?」
ぽろりと優しい涙が零れる。
梨沙子はそれを丁寧に拭った。
受け入れられた気が何となくだがした。
―秋の雫―終
- 273 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/11(木) 13:42
-
- 274 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/11(木) 13:45
-
>>262-272
―秋の雫―
りしゃみや、アンリアル。
季節感を無視しすぎてすんません。
この二人が大好きだなぁと今更ながら思う今日この頃。
では、また妄想が溜まったときに。
- 275 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/11(木) 13:46
-
- 276 名前:名無飼育 投稿日:2010/03/12(金) 09:54
- やっぱりしゃみや好きだ〜
本日梨沙子の卒業式だそうです・・・何か妄想を(爆
- 277 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/17(水) 15:32
-
短篇がドンドン出来る今日この頃。
妄想に従い投下します。
276<<名無飼育さん
自分もやっぱりしゃみやが好きですw
梨沙子が中学卒業というと感慨深い気分です。
学生の話も掛けなくなる日が来るんでしょうねぇ。
では卒業ネタとまでは言いませんが。
お別れをイメージした話っす。
りしゃみやで、リアル。
- 278 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/17(水) 15:32
-
- 279 名前:―サヨナラと言えなくて― 投稿日:2010/03/17(水) 15:33
-
きっと、もう少しだけ勇気があったら。
告白なんてできなくても、諦める勇気があったら。
彼女しか見つめられない人生を変えられたんだろう。
でも勇気の無いわたしにそんな事は出来なくて。
結局、変わらない関係を続けているのだ。
- 280 名前:―サヨナラと言えなくて― 投稿日:2010/03/17(水) 15:33
-
―サヨナラと言えなくて―
- 281 名前:―サヨナラと言えなくて― 投稿日:2010/03/17(水) 15:33
-
「すき」
声に出して呟いてみる。
たった二文字に過ぎない単語なのに、口に出すのはとても難しい。
いや、言えないことはないのだ。
ただある人の前だとどうしようもなく引っ込んでしまうだけで。
梨沙子はため息を吐いた。
癖のように早く来るようになった楽屋にはまだ誰もいない。
誰もいないからこそ、“すき”なんて言葉を漏らせるのだ。
―告白もできないし。
諦める事も出来ない。
意気地のない自分には嫌気が差す。
同級生から聞く話はどれも凄いなと思うことばかりだ。
誰彼を好きになった。告白した。振られた。もしくは付き合った。
一連の流れがくるくると淀みなく回っている。
梨沙子にはできない事ばかりだ。
最初の一歩である誰かを好きになるで止まっているのだから当然だ。
- 282 名前:―サヨナラと言えなくて― 投稿日:2010/03/17(水) 15:34
-
「なぁに、考え込んでるの?梨沙子」
「もぉ、早いね」
「うん。お仕事があったから」
ぼんやりとしていたらいつの間にか桃子がいた。
時折こういう事はある。
梨沙子が集中しているせいなのか、桃子の気配が薄いのかは分からない。
だが考え事をしているとそっと側に寄ってくる彼女の存在に助けられる事もある。
梨沙子は桃子を見ると気持ちを切り替える。
たぶん彼女なりに心配してくれている事は気付いていた。
なぜならそういう時にだけ近づいてくるからだ。
それはからかっていいよと言う優しい心遣いだ。
梨沙子はその気持ちに甘えさせてもらう。
「だと思った。いつもギリギリだしね」
くすくすと小さく笑う。
桃子は基本的に朝が得意ではない。
従って梨沙子の次に来るという事はとても珍しい。
そういう時は大体前に仕事が入っているのである。
- 283 名前:―サヨナラと言えなくて― 投稿日:2010/03/17(水) 15:34
-
「ひどーい、もぉだって遅刻はしませんよーだっ」
「遅刻は、でしょ?」
梨沙子の言葉に桃子は大げさに頬を膨らます。
ぷりぷりとした態度は長年見慣れたものだ。
膨れた頬を梨沙子は白い指先で突く。
柔らかい肌の感触が伝わってきた。
空気が抜ける音がして、桃子の頬の膨らみが元に戻る。
その様子が面白くて梨沙子はまた笑った。
「もう、梨沙子ってば」
「ごめんごめん、だって面白くて」
軽く謝る。この関係をとても楽だと梨沙子は感じていた。
桃子は人との距離をとるのが上手い。
梨沙子の嫌な所までは入ってこないし、入ってくるのも落ち込んだりしているときだけだ。
それは何も梨沙子相手にだけ発揮されるものではない。
メンバーの誰に対しても同じような付き合い方である。
反りの合う合わないはあるが総じて上手いと言えるだろう。
- 284 名前:―サヨナラと言えなくて― 投稿日:2010/03/17(水) 15:34
-
「それは謝ってません」
「謝ってるよー。ただももが変なだけじゃん」
「変って、普通ですぅ」
桃子が拗ねた顔で言う。
梨沙子はそれに軽口で返す。
それを何回か繰り返せば、嫌な事など忘れられた。
「いや、おかしいから」
「梨沙子、この頃本当に反抗期」
梨沙子の言葉に桃子が肩を竦めて見せる。
大げさなジェスチャーも彼女の特徴のようなものである。
梨沙子も真似するように肩をすくめ、ついでに鼻で笑う。
そうすれば桃子が怒った雰囲気でじゃれ付いてきた。
「今鼻で笑ったー!」
「反抗期だもーん」
桃子より梨沙子のほうが背は高い。
幾ら飛びつかれようとも苦になる事はない。
昔から桃子はすぐ抱きついてくるから慣れたものである。
- 285 名前:―サヨナラと言えなくて― 投稿日:2010/03/17(水) 15:35
-
―ももなら、こんなにくっ付けるのになぁ。
ふと、思う。
昔は梨沙子も無邪気にくっ付いていられた。
腕を組むのだって、後ろから抱きつくのだって何も考えずに出来た。
それが出来なくなったのは何時からだろう。
自分でも分からなかった。
「あ、みや」
絡まったままの状態で桃子が呟いた。
梨沙子の背後に扉はある。桃子はその梨沙子に抱きついている。
つまり桃子の正面に入り口はあるわけで誰が来たかなど一目瞭然なのだ。
梨沙子は小さく肩を跳ねさせた。
桃子に気付かれたかと思ったが杞憂だったようで会話はそのまま進む。
どうしたらいいのか分からなくなった。
離さなきゃと思うも唐突に離す事は雅の目に変に映るのではないかとも思う。
結局背中に回した手はそのままに梨沙子は声だけを聞くことになった。
- 286 名前:―サヨナラと言えなくて― 投稿日:2010/03/17(水) 15:35
-
「二人で何してんのさ」
雅が呆れた声で言う。
確かに二人しかいない楽屋でこんなにテンション高くしているのは珍妙かもしれない。
雅の言葉にどう返したら良いか迷っていると、桃子が先に口を出す。
「梨沙子が反抗期なの」
返しやすい言葉だった。
また、雅に誤解を受ける事もない。
ほっとしつつ梨沙子は今度こそ桃子の身体を少し離した。
鞄を置きに歩いている雅に言い訳をするように顔を向ける。
「違うよ、ももが認めなかったんじゃん」
「変じゃないし」
「変だから」
遊びのような言葉を交わしながらソファに座る。
桃子も成り行き梨沙子の隣に座った。
雅は変わらず歩みを進め、その背を梨沙子に見せるだけだった。
- 287 名前:―サヨナラと言えなくて― 投稿日:2010/03/17(水) 15:36
-
「まぁ、どっちでもいいけどね」
「みーやー、冷たい」
「仕事終わりで、そんなに元気なももが凄いと思う」
あ、とこの時梨沙子は気付いた。
桃子が早くて、雅も早い。
それは多分同じ仕事、ボーノだったのだろう。
記憶を掘り起こせば愛理から聞いた気がしないでもない。
「自販機行って来る」
「あ、みや」
そして鞄を置いた雅は財布だけ取り出すとまた楽屋から出て行ってしまう。
一言も言葉を交わす前にその背は離れてしまった。
咄嗟に出た言葉は雅には届かず扉の閉まる音に紛れた。
はぁと息を吐く。
駄目だなぁと梨沙子は心の中で呟いた。
雅と何も考えず一緒にいられた頃の事は最早記憶の彼方だ。
昔は梨沙子が着いて行くと微笑んでくれた。
しょうがないなぁと言いながら連れて行ってくれた。
その関係が崩れたのは、梨沙子が近付けなくなったからだろうか。
それでも雅が待ってくれなくなったからなのだろうか。
何も分からなかった。
- 288 名前:―サヨナラと言えなくて― 投稿日:2010/03/17(水) 15:36
-
「まったく、みやはツンデレだねぇ」
「もも?」
再び二人になった楽屋に声が響いた
落ち込む梨沙子の隣で桃子は笑顔を崩さない。
それこそ先ほどと変わらない態度で肩を竦めている。
「梨沙子?みやはね、悔しいんだよ?」
―悔しい?
桃子の言葉が分からなくて首を傾げる。
雅が何を悔しがるというのだろうか。
「行けばわかるよ」
ソファから立って梨沙子の手を引っ張る。
頭にはてなを浮かべたまま抵抗もせず立ち上がる。
その最年少の姿を桃子は微笑んで見つめていた。
ぽんと背中を押す。
雅を追いかけろと言っているのは流石に分かった。
困惑した表情で桃子を見返す。
- 289 名前:―サヨナラと言えなくて― 投稿日:2010/03/17(水) 15:36
-
「梨沙子が諦められなかったのは間違ってないよ」
桃子の言葉に息を呑む。
知っているとは思わなかった。
誰にも明かさず隠してきたつもりだった。
しかし梨沙子の思惑に反して、彼女の想いはほとんどのメンバーに知られていた。
気付いていないのは雅本人と友理奈くらいだろう。
―見れば分かるよぉ。
梨沙子の表情に桃子は内心苦笑する。
見ていれば分かるくらい彼女の感情はずっと雅に向いていた。
長年変わらないそれはむしろ感心してしまうくらいだった。
そして梨沙子に甘いと言われる自分が取る行動などたった一つである。
「みやがね、諦めさせなかったんだけだから」
梨沙子が目を丸くする。
桃子は今度こそ苦笑した。
もう一度、軽く背中を押す。
- 290 名前:―サヨナラと言えなくて― 投稿日:2010/03/17(水) 15:37
-
梨沙子が雅への想いを諦められなかったのは何も梨沙子だけのせいではない。
雅にだってその責任は充分にある。
離れていきそうな彼女を繋ぎとめていたのは他ならぬ雅自身だと桃子は知っていた。
桃子が雅をツンデレと言うのは何も自分に対する温度差だけではない。
梨沙子に対する態度こそ、それに近い。
大体を放っておくのに離れて行きそうになると優しくするのだ。
そしてこの頃広がった梨沙子の交友関係に苛々しているのも桃子は知っていた。
「ほら行って?」
「うん。頑張ってみる」
急がないと他のメンバーが来てしまう。
桃子は梨沙子を急かす。
駆け足で扉まで近づき、閉める直前に足を止めた。
「ありがとう、もも」
零された言葉に頬を緩める。
素直で、顔に出ちゃう、可愛らしい最年少の言葉。
桃子は笑顔で手を振った。
成功する事に疑問は微塵も湧かなかった。
―サヨナラと言えなくて―終
- 291 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/17(水) 15:39
-
- 292 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/17(水) 15:41
-
>>279-290
―サヨナラと言えなくて―
りしゃみや、リアル。
ももが出張ってるけどりしゃみやです。
ちなみにこの雅ちゃんは書いた人の願望ですw
春ボケしている頭で甘い話が書きたいと思ってはいるんですが。
どうにも甘くならないのは、昔から変わらないみたいっす。
ではまた妄想が溜まったときにお会いしましょう。
- 293 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/17(水) 15:42
-
- 294 名前:名無飼育 投稿日:2010/03/18(木) 13:30
- ぬあ〜
やっぱ、りしゃみやですね!
早速妄想創造ありがとうございます。
次回もまた楽しみにしてます^^
- 295 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/22(月) 11:16
-
妄想が止まりません!
つーことで、早めに更新します。
294<<名無飼育さん
レスあっとうございます。
やっぱ、りしゃみやです!!
いや、卒業式なんて素敵情報が貰えたので早くなりましたw
そしてやっぱりしゃみや!って言っておきながらなんですが、今回はりしゃももです。
りしゃもも、リアルです。
そして甘め設定。
- 296 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/22(月) 11:16
-
- 297 名前:―たった一つ― 投稿日:2010/03/22(月) 11:17
-
君のこと。
ずっと見てきた、君のこと。
だから今が幸せだと思えるんだ。
笑ってられると思うんだ。
- 298 名前:―たった一つ― 投稿日:2010/03/22(月) 11:17
-
―たった一つ―
- 299 名前:―たった一つ― 投稿日:2010/03/22(月) 11:17
-
「ももー」
「はーい」
遠くから響いてきた声にあなたは答える。
きっと、何より可愛らしい笑顔なのは間違いない。
そう確信できるほどわたしはあなたを見てきたのだから。
―ももは、この頃人気者だ。
わたしの、恋人なんだけど。
わたしだけが独占できるかといえばそんなわけない。
何よりわたしたちはアイドルで、笑顔を見せる相手は全国にいる。
それは仕方ない事なのだ。
「なんだかなぁ」
わたしは遠くなる背中に呟く。
大人になれない自分が悔しくて、悲しい。
彼女が帰って来てくれることはわかっている。
いい加減なようで、そういう所は凄く誠実だから。
理解しているのに納得できないのは、きっとわたしが子供だからだ。
- 300 名前:―たった一つ― 投稿日:2010/03/22(月) 11:18
-
じっとももの背中を見ていた。
何となく動けなくて、見えなくなっても見つめていた。
彼女が好きなのに素直になれない自分に少し呆れながら。
それでも好きと言う気持ちは真っ直ぐに彼女に向けられている。
「りっさこー!なぁに見てんの?」
後ろから声が聞こえて、まるで金縛りが解けた様に身体を動かす。
振り返るとそこにいたのはまだ衣装のままの千奈美だった。
更衣室に戻るでもなく、ぼんやりと立っていたから気になったのだろう。
わたしはももと一緒に最初に部屋を出たから。
並び的に千奈美が最後の方に部屋を出たんだろうなぁと思った。
「なんにも」
んーんと首を横に振って誤魔化す。
ももを見ていたなんて、ちょっと言いたくない。
それはわたしの余計なプライドみたいなものだった。
子供なわたしは未だにメンバーにもももが好きだと言えない。
たぶん、知ってはいると思うけどみんな優しいから何も言わないのだ。
- 301 名前:―たった一つ― 投稿日:2010/03/22(月) 11:18
-
「そか、楽屋行かないの?」
お菓子があったりするんだなぁ、これがと明るい声で言われる。
千奈美は上手い。わたしの扱いが。
子供っぽい事をしても何も言わない。
そのまま受け止めてくれる。
いや、これはベリーズのメンバー全員に言えるのかもしれない。
みやもキャプテンも、まぁも。
みんな優しい。
「行く」
わたしは千奈美の言葉にすぐ頷いた。
お菓子も食べたいし、ここにいる事に大した意味も無い。
ちょっとした、そう言うなれば感傷でここに留まっていただけなのだ。
「え、ずるい!」
「よし。じゃ、競争ね」
唐突に走り出した。
千奈美の言葉が耳に届くまでの一瞬が開いてしまう。
そしてそれは競争にはとても不利だ。
だからわたしは声にした。ずるいと。
すると千奈美は可笑しそうに笑って、それでも待ってはくれなくて。
追いかけて慌てて走り出すしか方法はなかった。
- 302 名前:―たった一つ― 投稿日:2010/03/22(月) 11:18
-
++++
- 303 名前:―たった一つ― 投稿日:2010/03/22(月) 11:19
-
ももが部屋に戻ってきたのはお菓子を食べ終えたくらいだった。
小さな袋に入ったチョコレートはとても甘くて美味しい。
ドンドン食が進んで5つ貰ったのにもう1個しかない。
―ももに残してあげればよかったかなぁ。
なんて思ったけどもう遅い。
わたしにできる事は残りの一つを食べないように我慢する事くらいだ。
じっと大切に、でも溶かさないように気をつけながら握っていた。
「梨沙子、待っててくれたの?」
にこにこした笑顔でももが歩いてくる。
それだけでわたしの体温は少し上がった気がする。
だけど素直じゃないわたしは「別に」と素っ気無く答えて顔を逸らす。
ももに気にした様子はない。
わたしのこの対応はいつものことで。
だから少々冷たいくらいじゃ、何も感じなくなってるんだと思う。
ごめん、と小さな声で謝るけどきっと聞こえてない。
- 304 名前:―たった一つ― 投稿日:2010/03/22(月) 11:19
-
「これ、ちぃから」
千奈美から貰ったチョコを一つ差し出す。
するとももは顔を輝かせて、独特な走り方で近寄ってきた。
甘いもので満面の笑みになるのはまさに女の子って感じがした。
ももは食べる事が好きだから更にかもしれない。
「うわぁ、残しといてくれたの?」
「うん、ごめん。一つしか残んなかった」
掌からももが袋を持っていく。
これでわたしの欲求と戦う時間も終わりだ。
嬉しそうに袋を開ける顔を見つめる。
幸せそうな表情は見てるこっちまで幸せになりそうで。
我慢してよかったなぁと素直に思えた。
「いいよ、1個残してくれただけでも」
にこにこ、ふわふわ。
ももは機嫌良さそうに笑う。
幸せそうな笑顔は嬉しいんだけど。
嬉しいはずなんだけど、何でかもやもやしたものがまた出てくる。
それを知られたくなくてわたしはそっと顔を逸らした。
- 305 名前:―たった一つ― 投稿日:2010/03/22(月) 11:20
-
「梨沙子?」
きょとんとした顔でももがわたしを見つめる。
でも真っ直ぐから見ることなんて出来ない。
今のももの顔を見たら、もやもやした何かをそのまま彼女にぶつけてしまいそうで。
黙り込むことをわたしは選んだ。
「どうしたのさ」
「別に……」
なんて言えばいいか分からない。
だって、何を言いたいかわからない。
何にこんなにもやもやして、何がこんなに嫌なのか。
わたしには少しも分からない。
ううん、分からないんじゃなくて分かりたくない。
これを認めてしまったら子供過ぎる自分を認めることになるから。
「一つしか残して無くて、ごめん」
言葉を探して、結局出たのは同じ言葉だった。
それにももはまた不思議そうに首を傾げてわたしを見る。
- 306 名前:―たった一つ― 投稿日:2010/03/22(月) 11:20
-
「それはいいって」
「でも、五個もあったのに」
千奈美から貰ったのは五個。
わたしが食べたのは四個。
そしてももの手にあるのは一個。
明らかに不公平だ。
「いいのに。でもそんなに気にするなら」
「なら?」
ももの手に合ったチョコが口に含まれる。
あ、と声が出たのは最後の1個だと思ってたからに違いない。
小さなお菓子は一口で彼女の口に吸い込まれた。
わたしはそれをただ見つめていた。
「梨沙子」
ももの顔が悪戯に笑う。
ぐいっといつもより強引に腕を引っ張られた。
ちゅっと柔らかく唇が重なり合う。
すぐに甘い味が口の中に広がった――チョコだ。
- 307 名前:―たった一つ― 投稿日:2010/03/22(月) 11:21
-
「こうすれば、1個でも何個分にもなるよ?」
「……ばか」
すぐに柔らかい感触は離れて。
それでも私の中に温かくて甘いそれは残っていた。
顔が熱くなる。ももを見ると満足そうな顔だった。
「もぉはね、梨沙子がくれたらなんでも嬉しいよ」
わたしの恋人はずるい。
徹底的にわたしを甘やかして、駄目人間にするつもりに違いない。
にこにこ笑って、ももはそう言った。
「梨沙子が笑ってくれたら、もぉも嬉しいし」
ももの手がわたしの頬を撫でる。
それからそっとまたキスをされた。
少しだけある身長差を背伸びして、可愛いキスをいつもくれる。
- 308 名前:―たった一つ― 投稿日:2010/03/22(月) 11:21
-
「梨沙子が嬉しそうだから、もぉも笑えるんだよ?」
知らなかったでしょ?と彼女は少し恥ずかしそうに笑った。
わたしも何だか恥ずかしくなる。
こんなにももはわたしを好きでいてくれるのに。
幸せをいっぱいくれるのに、何も返せない。
――せめてものお返しに好きと呟けば、彼女も幸せそうに笑ってくれた。
わたしの彼女は凄い人だ。
みんなの人気者で、優しくて、温かい。
それでも一番上手なのはわたしの扱いに違いない。
だって彼女の一言で嫌な気持ちなんて忘れてしまうのだから。
それは甘いチョコにも似た不思議な感覚だった。
―たった一つ―終
- 309 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/22(月) 11:22
-
- 310 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/22(月) 11:25
-
>>297-308
―たった一つ―
りしゃもも、リアル。
甘めで攻めてみた。
いや、こういうりしゃももが好きなんですよ。
結局両方がベタぼれっていう。
……ももち片思いでも全然いいけど。
ではまた妄想が溜まったときにお会いしましょう。
- 311 名前:CPヲタ 投稿日:2010/03/22(月) 11:25
-
- 312 名前:CPヲタ 投稿日:2010/04/04(日) 01:07
-
- 313 名前:―このはなさくや― 投稿日:2010/04/04(日) 01:08
-
小さな花弁に雄大さを込めて。
舞う花びらに切なさを込めて。
刹那の時を咲き誇る。
- 314 名前:―このはなさくや― 投稿日:2010/04/04(日) 01:08
-
―このはなさくや―
- 315 名前:―このはなさくや― 投稿日:2010/04/04(日) 01:09
-
遠くから足音が響いてきた。
同じリズムで刻まれるそれは桃子のものである。
急いでいるらしいことが雅には何となく分かった。
「あれー、梨沙子は?」
「知らない」
予想した通り直ぐにドアが開けられる。
掛けられた声に雅は視線を動かさずに答えた。
かち、とケータイのボタンを押すと音がした。
「そっかぁ、プレゼント渡したかったんだけど」
ドアを開け中に入ってきた桃子は少し肩を落とした。
プレゼント――梨沙子の誕生日プレゼントである。
今日は記念すべき16回目のバースデーなのだ。
桃子以外のメンバーは朝来た時に既に渡していた。
だが時間ギリギリだった桃子はまだ渡していないのだ。
見ていたから知っている。
雅は桃子が急いでいる理由も、梨沙子の居場所を聞く理由も結局知っていた。
- 316 名前:―このはなさくや― 投稿日:2010/04/04(日) 01:09
-
―さっさと渡せばいいじゃん。
少し呆れる。
梨沙子の鞄はまだある。
探せば直ぐにでも見つかりそうなのに。
そうしないのはきっと本気で探していないからだろうと雅は思った。
「……探しいかないの?」
戸口から歩いて桃子が雅の対面に座る。
そこで初めて雅はケータイから目線を外して桃子を見た。
早く渡したいならここに居るより行動した方が早いだろう。
そんな意味を込めてけしかける。
すると桃子はうふふふといつもの調子で笑って、小指で雅を指した。
「みやの側に居た方が見つかりそう」
「何それ」
意味が分からない。
雅は今度こそはっきり呆れた視線を桃子に向ける。
絶対、自分の側で待つよりも探しに行ったほうがよい。
梨沙子はそう動きが早い子ではないし、一箇所に止まる時間も長い。
どうせブラブラしている事だろうから同じようにすれば会う確立も高まるはずだ。
少なくとも雅はそう思った。
- 317 名前:―このはなさくや― 投稿日:2010/04/04(日) 01:09
-
「だってこの後一緒に帰るんでしょ?」
まぁ、そうだけど。と雅は桃子の言葉に渋い顔で頷いた。
一緒に帰るというより少し寄り道をする約束をしていた。
いつもならこんなに甘やかさないのだがしょうがない。
なんたって今日は誕生日なのだから。
「だと思った。梨沙子今日機嫌良すぎだし」
桃子は自信たっぷりの顔で頷いた。
そう言われてしまうと雅は何も言えなくなってしまう。
確かに今日の梨沙子は誰の目から見ても浮かれていた。
それがたった一つの約束のおかげだと誰が思うだろう。
だが雅は知っていた。そして桃子も理解していた。
梨沙子の機嫌の良い悪いは雅に大きく左右されるのだ。
「みやぁー」
ばたんと荒々しく扉が開かれる。
入ってきたのは今話題に上っていた本人だった。
軽やかな足取りで雅の元へと走り寄る。
昔から変わらない姿だ。
- 318 名前:―このはなさくや― 投稿日:2010/04/04(日) 01:10
-
―高校生なのにね。
雅から見える梨沙子は変わらない。
きっとメンバーから見た梨沙子もそう変わっていないはずだ。
容姿は確実に大人の階段を上っているけれど。
彼女の本質みたいなものは少しも損なわれていない。
甘えたで、子供みたいな笑顔を見せる仲間なのだ。
「梨沙子ってば遅い」
「ごめん、ごめんね」
そこまで待ったわけでもないが挨拶のようにそう口にする。
雅がポーズであれ怒ったような雰囲気を出せば梨沙子は直ぐに謝る。
日常良く見るシーンであるがシリアスになるには相手の顔が緩みすぎていた。
雅が本気で怒っていない事に気付いているのである。
「いいの、いいの。そんな待ってないんだし」
雅の内心を読んだかのように桃子がぱたぱたと手を振りながら答えた。
その顔は微笑んでいて、梨沙子に甘いことを露見させる。
僅かに開けてある窓から暖かな風が吹き込む。
春の匂いがした。
- 319 名前:―このはなさくや― 投稿日:2010/04/04(日) 01:10
-
「ももが言うことじゃないでしょ」
「そういうの自分から言わないし?」
それより、と桃子は雅の視線をひらりとかわす。
二人のやり取りを笑顔のまま見つめていた梨沙子に向かい合う。
ポケットに手を入れて何かを探す。
「ん?なに、何?」
本当に機嫌が良い。
雅は心の中で苦笑しつつそう思った。
梨沙子は桃子をニコニコした笑顔で見つめて待っている。
期待と好奇心が半々になったような表情だった。
「梨沙子誕生日おめでとう、これプレゼントだからね」
「わぁ、ありがと!」
出てきたのは小さな箱だった。
ポケットに入れたまま探していたのだろうかと雅は少し呆れる。
きっと直ぐに渡したくて持ったままうろちょろしていたのだろう。
桃子らしい行動だった。
- 320 名前:―このはなさくや― 投稿日:2010/04/04(日) 01:11
-
大切そうに梨沙子が箱を手に乗せる。
掴んだりしないで、掌に乗せている。
相変わらずな子だなぁと雅は思った。
昔から見てきた変わらない彼女に雅は近づいた。
「ほら、そろそろ行かないと遊べないよ?」
時計を見るとある程度の時間が過ぎていた。
今日の仕事が速く終わったとはいえ、一緒に遊べる時間は少ない。
まして遊んだ後帰る事も考えればそう遅くまでいられないのだ。
「ももだって、満足したでしょ」
プレゼント渡せたんだし。と告げれば大きく頷かれた。
純粋な笑顔は仕事のときに見るものとは少し違って。
本当に嬉しかったんだろうなと感じた。
- 321 名前:―このはなさくや― 投稿日:2010/04/04(日) 01:11
-
数分後、雅と梨沙子は部屋に二人きりとなった。
桃子は自分の鞄を持ってさっさと出て行った。
“ごゆっくり”なんてにやけた顔で言っていて、雅は肩をすくめるだけで答えた。
「あれ、梨沙子。なんか付いてるよ?」
帰る準備をし始めた梨沙子。
雅はその後姿を見つめる。
そう時間のかかるものではないと知っているからだ。
手持ち無沙汰に眺めていたら梨沙子の後ろ髪に何かついていた。
薄い色をしたそれは花弁のようで、雅はそっと手を伸ばす。
「んー、とって?」
「はいはい」
甘えた声音に雅は苦笑を零す。
言われる前に自然とそうしていた自分に、だ。
困った事に梨沙子に対する行動は染み付いてしまっていた。
長年一緒に居たからそれも自然の事なのかもしれない。
- 322 名前:―このはなさくや― 投稿日:2010/04/04(日) 01:12
-
―花びら、だよね?
優しく摘めば、すぐに取れた。
柔らかく手に馴染む。雅も見慣れたものだった。
「これ、桜?」
この時期、目にする薄紅のそれ。
雅は光に好かすようにして掲げる。
梨沙子も振り返って指の先にあるそれを確認した。
「さっきまで見てたからかな」
「さっきまでって、何処にいたわけ?」
あー、と少し考えたあと梨沙子は何でもないことのように言った。
雅は顔を顰める。
桜は確かにこの季節には咲き誇っている。
公園などに足を伸ばせば飢えられている所も多い。
だが梨沙子が“今”見に行くには外に行くしかないのだ。
- 323 名前:―このはなさくや― 投稿日:2010/04/04(日) 01:12
-
―危ないじゃん。
さっきの様子からして、何もつけずに外へ行ったのだろう。
浮かれているとはいえ抜けているとしか言えない。
こういう事があると雅は更に梨沙子を放って置けなくなるのだ。
「んふふ、ひみつ」
だが梨沙子は雅の心配など知らぬ顔で微笑んだ。
楽しそうな笑顔に雅は何も言えなくなる。
準備を終えた梨沙子が鞄を肩に掛ける。
「みや、行こう?」
「あんま一人で出歩かないでよ」
言いたいことはまだある。
でも今日は梨沙子の誕生日なのだ。
どうせなら楽しいままに過ごして欲しい。
そんな気持ちで雅は言いたいことを一言に纏めた。
- 324 名前:―このはなさくや― 投稿日:2010/04/04(日) 01:12
-
「なら一緒にいてよ」
きょとんとする。言葉を理解できなかった。
一拍間をおいてから漸く意味が頭の中に入ってくる。
同時に顔が段々と熱くなってきた。
昔から唐突にこの子はこういう事を言う。
「……考えとく」
「うん、ありがと!」
ぷいと顔を逸らし答える。
梨沙子は花が咲いたような笑顔を見せた。
――桜咲く。
それは昔から飛び切り良い事の知らせだった。
そして梨沙子にとても似合う花だと実や微意は思った。
―このはなさくや―終
- 325 名前:CPヲタ 投稿日:2010/04/04(日) 01:13
-
- 326 名前:CPヲタ 投稿日:2010/04/04(日) 01:16
-
>>313-324
―このはなさくや―
梨沙子16才おめでとう小説……のはず。
あっさり風味に仕上げてみました。
とりあえず、おめでとうの気持ちが伝わればいいかと。
むしろ、いい加減雅ちゃんは梨沙子と買い物に行ってあげたのだろうかw
そんな疑問を残しながらの更新でした。
明日東京に向かいます。
もはや緊張で胃が痛いですw
ではまた妄想が溜まったときにお会いしましょう。
- 327 名前:CPヲタ 投稿日:2010/04/04(日) 01:17
-
- 328 名前:麻人 投稿日:2010/04/04(日) 16:51
- りーちゃん生誕小説は絶対りしゃみやだと信じていましたwありがとうございます(´∀`)
- 329 名前:CPヲタ 投稿日:2010/08/25(水) 00:07
-
久しぶりすぎて更新の仕方を忘れてるw
そんな感じですが、雅ちゃん生誕小説をうpしにきました!
328>>麻人さん
りーちゃんと雅ちゃんの誕生日には基本りしゃみやですw
予想はばっちり当たってます!
こちらこそレスありがとうございました。
では、どうぞ↓
- 330 名前:CPヲタ 投稿日:2010/08/25(水) 00:08
-
- 331 名前:―なみのおと― 投稿日:2010/08/25(水) 00:08
-
寄せては引いて。
また打ち寄せる。
その動きを見てるだけで、何だか悲しくなった。
- 332 名前:―なみのおと― 投稿日:2010/08/25(水) 00:09
-
―なみのおと―
- 333 名前:―なみのおと― 投稿日:2010/08/25(水) 00:09
-
梨沙子の家から海は近い。
学校に行くにも、遊びに行くにもいつでもそれを見ることが出来る。
小さい頃からこの町で育ってきた子供たちには当たり前すぎて意識されない。
当然梨沙子自身もその一人だったが、海が好きというのは感覚として持っていた。
海水浴が出来るわけでも無い海岸は人がいない。
いや、地元の子供ならば泳げない事も無いのだが観光客が来るような場所ではないのだ。
聞こえるのはただ波の音だけで梨沙子は瞳を閉じる。
音だけで、蒼い水面が脳裏に浮んでくる。
その感覚が昔から好きだった。
「あつ……」
小さく呟く。
汗が頬を伝っていった。
じーじーと蝉が鳴く。夏を代表するような声は耳に残った。
夏が、好きだった。
輝く季節に海の匂いが混ざるから。
余り活動的でない自分も楽しい気分になれた。
- 334 名前:―なみのおと― 投稿日:2010/08/25(水) 00:09
-
「なんでかな」
だけれど今は少しもそんな気分が残っていない。
あるのは寂寥と、よく分からない何か。
夏とは微塵も縁の無いものだ。
――それが彼女と少しも関係していないといったら嘘になる。
脳裏に浮んだ姿に梨沙子は瞳を細める。
眩しい夏に、彼女は一際輝いて目が眩んでしまう。
夏は彼女の季節だった。それを梨沙子は知っていた。
水面が光を弾く。
なんとなく水に触れたくなって梨沙子は岩場を下りる。
サンダルを履いた足は不安定で少し怖かった。
ヒールで無いことだけが救いのように思える。
慎重に足を運んで、僅かに揺れる海面を覗く。
透き通る水が岩場の底を映していた。
そっとサンダルを隣に置き足を差し入れる。
直ぐにひんやりとした感覚が梨沙子の足を覆った。
- 335 名前:―なみのおと― 投稿日:2010/08/25(水) 00:10
-
―気持ちいいなぁ。
夏の暑さは体力を際限なく奪っていく。
滲む汗は肌を伝い地面に落ちるか、服に吸い込まれる。
少し湿った感覚に、それでも家に帰る気にならなかったのは何故だろう。
梨沙子自身にも分からなかった。
「梨沙子!」
唐突に響いた声に顔を上げる。
とても聞きなれた、それでいて澄んだ声だった。
梨沙子の瞳が揺れる。彼女だった。
「みや」
「何してるの?こんなとこで」
梨沙子が苦労して下った岩場を身軽な動きで下りてくる。
運動神経の良い彼女――雅らしい動きだった。
まるで猫を思わせるしなやかさは夏の青空に良く映える。
身体を捻ったせいで水面が波立つ。
ちゃぷと涼しげな音が梨沙子の耳に届いた。
雅はそれを見て少しだけ顔を顰める。
何をそんなに心配しているんだろう、と梨沙子は不思議だった。
- 336 名前:―なみのおと― 投稿日:2010/08/25(水) 00:10
-
「一人で海辺に近寄るのは危ないって言われてるでしょ?」
少しだけ怒ったような表情だった。
心配してくれるのは素直に嬉しい。
でもそんな小さい子みたいに扱われるのは気に入らない。
梨沙子は唇を突き出して不機嫌な顔を作った。
「だって暑かったんだもん」
本当は違う。
どちらかと言えば、輝く水面に引き寄せられてしまった。
きらきら輝く夏に引き寄せられてしまうように。
ただそれを彼女に素直に言う気にはならなくて、梨沙子は小さな嘘をついた。
「なに、それ」
呆れたように雅が溜息を吐く。
梨沙子はそれにぷいと拗ねた顔を見せることで答えた。
――幼いと雅はきっと思っている。
ただそれでも表情を変えることができなかった。
それが幼さの印だとも分かっていた。
- 337 名前:―なみのおと― 投稿日:2010/08/25(水) 00:10
-
「とりあえずさ、危ないからこっち来なよ」
「やだ」
梨沙子の一言に雅は再び顔を顰めた。
聞き分けの無い子だと思われているかもしれない。
我がままだと思われているかもしれない。
どちらも怖い事だ。同時にそれが起こらないことを知っていた。
雅が梨沙子の腕を掴む。
夏の暑さに火照った肌はその手さえひんやりと感じさせた。
引っ張られる事により体勢が崩れ水面に波が立つ。
ぽすんと梨沙子の顔が雅の胸に埋まった。
「みや?」
「……梨沙子が水辺にいると危なっかしいんだって」
ぎゅっと回された腕に力が篭る。
ああ、心配させていたんだなと素直に思った。
夏の似合う彼女なのに触れた肌は冷めていて触れると心地よい。
段々と身体の力が抜けていくのが梨沙子にはわかった。
雅の腕は不思議だ。昔からこの手に包まれていると幸せになってしまう。
苛々していた事も嫌なことも全て流されてしまうのだ。
- 338 名前:―なみのおと― 投稿日:2010/08/25(水) 00:11
-
「そんなこと、ないよ?」
雅の言葉に梨沙子は首を傾げた。
確かに彼女に比べたら自分の運動神経なんて心配されるものだろう。
それでも水辺に寄っただけで落ちるほど幼くも無いし、馬鹿でもない。
どうすれば危ないかなんて生きてきた年数分は知っているのだ。
「昔から」
梨沙子の言葉に雅は少しだけ言い辛そうに言葉を詰まらせた。
口下手な所のある雅は離していても単語選択しているかのように止まる時がある。
今がまさにその時だった。
岩場の段差分だけ雅を見上げる。
そしてその先の瞳に梨沙子は不安の影が過ぎるのを見てしまった。
「昔から、梨沙子が海に行ったら戻ってこなくなるんじゃないかって……思ってた」
「え?」
雅の腕の力が強くなる。
夏の暑さとまた違う熱――それはゆっくりと梨沙子に伝わった。
潮騒に煽られるように鼓動が早くなる。
最早足に残っていた海水は温くなっているようにさえ感じた。
- 339 名前:―なみのおと― 投稿日:2010/08/25(水) 00:12
-
「だから、ヤなの」
再び胸に引き寄せられて顔が見えなくなる。
それでも耳元で響いた声は飛び切り幼く聞こえた。
梨沙子の前ではいつもお姉さんとしての姿しか見せない雅。
そんな彼女の今までで一番幼くて、それでいて真っ直ぐな感情が伝わってくる。
「梨沙子時々ぼーっと海見てるでしょ?」
特にこの季節、と告げられた言葉に目を丸くする。
雅が気付いていたとは梨沙子はちっとも思っていなかった。
夏に海を見てしまうのは癖のようなものだ。
夏は彼女の、雅の季節だ。彼女が一番眩しくなる。
一番憧れて、一番遠く感じる夏の彼女。
そんな彼女にこそ海は似合うと梨沙子は思っていた。
- 340 名前:―なみのおと― 投稿日:2010/08/25(水) 00:12
-
「海が好きなんだなって、少し悔しかった」
きらきら舞う水しぶきの中にいる雅は何度見ても綺麗で。
それでいて見ていると息が詰まるくらい眩しいのだ。
眩しくて、眩しくて、梨沙子は夏に雅を見ることを止めたくなってしまう。
遠くて、近い――そんな感覚を梨沙子は海を見ることで抑えていた。
水辺に引き寄せられるのだって雅が如何に楽しそうに海で遊ぶかを知っているからだ。
自分がそうなれるとは思わない。
ただ海というものを通して間接的にでも彼女の事を感じていたかった。
「見てた」
だから梨沙子は素直にそれを肯定する。
海を見ていた。彼女に重ねて。
でも雅はそれを知らない。
――だからこんな勘違いをしているんだと梨沙子は思った。
「みやだと思って、見てた」
梨沙子にとって大事なのは昔から一つだけだ。
そしてずっと見ていたのも一つだけ。
それを正直に雅に告げる。
少しだけ恥ずかしかった。
- 341 名前:―なみのおと― 投稿日:2010/08/25(水) 00:12
-
「え?」
きょとんとした声が耳に響く。
幾ら波の音が近くてもこれだけは聞き逃さない。
そういう変な自信が梨沙子にはあった。
「夏の海は、きらきら光ってて……みやみたい」
「り、梨沙子?」
腕の力が弱くなる。
久しぶりに雅の胸から顔を上げて、正面から見つめた。
そこにいたのは見たことの無い表情を浮かべた幼馴染だった。
こんなに驚いた顔を見るのは幼稚園の頃以来だろうか。
ふと今までの思い出が巻き戻される。そのどれでも雅は雅だった。
眩しくて、憧れる梨沙子の大切な人。
遠くて、切なくなる梨沙子の幼馴染。
「わたし、海が好きなんじゃないよ」
じりじりと夏の光が肌を焼く。
これは後で酷い事になると思ったが今は気にしていられなかった。
目の前にいる彼女だけが全てだった。
- 342 名前:―なみのおと― 投稿日:2010/08/25(水) 00:13
-
「ずっと昔からみやだけが好き」
飛んでいった言葉は静かに染み込む。
波の雫が砂浜に染み込むように静かに、けれども確かに雅の胸に落ちていった。
寄せては返す波は気まぐれだ。
惹かれて、離されて、それでも追いかけて――波は海に戻っていく。
雅の自分と同じように早くなった鼓動を聞きながら梨沙子はそっと瞳を閉じた。
触れた唇は懐かしい海の味がした。
―なみのおと―終
- 343 名前:CPヲタ 投稿日:2010/08/25(水) 00:13
-
- 344 名前:CPヲタ 投稿日:2010/08/25(水) 00:18
-
>>331-342
―なみのおと―
誕生日の欠片も無いですが生誕小説です。
夏っぽさとりしゃみやぽさを出してみたかった。
けれどブランクにより出し切れなかった気もします。
とりあえず、この小説で一回更新を止めます。
何を今更な感があると思います。
ですが次の妄想は早くても年明けになるので無言で待たせるのは申し訳なさすぎると。
急な上に短い宣言で申し訳ありません。
では、また妄想が溜まったときに会いましょう。
- 345 名前:CPヲタ 投稿日:2010/08/25(水) 00:18
-
- 346 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/19(月) 21:35
- りしゃみや凄くよいです
作者さん気長に待ってますよ
ログ一覧へ
Converted by dat2html.pl v0.2