遠雷
1 名前:salut 投稿日:2008/08/24(日) 13:20










今ちょうど、窓の外では雨が降っています。
夏が終わる前に書き上げます。
お付き合い下さい。
2 名前:salut 投稿日:2008/08/24(日) 13:22









3 名前:salut 投稿日:2008/08/24(日) 13:24





遠くで雷の鳴る音がする。
儚い雨の予兆だった。





4 名前:salut 投稿日:2008/08/24(日) 13:25









5 名前:遠雷 投稿日:2008/08/24(日) 13:28





遠雷






6 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/24(日) 13:28









7 名前:遠雷 投稿日:2008/08/24(日) 13:31

「…ありがとーございましたー…」

太った巨体に張り付いた、背中の灰色の汗染みに向かって、美貴は小さく呟いた。
豚骨のカップラーメンにツナマヨと昆布のお握り、カツサンドにコーラ、おまけにアイスが3つ。
よくもまあ…ねえ。

自動ドアが開いて、蝉の大騒音とむあっとした熱気が店内に侵入してくる。
それに幾分かあの男の湿気が含まれているかと思うと、不快で仕方なかった。
去り際に見せた、目を細めてにたりとする卑俗な笑い方も。
8 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/24(日) 13:34

この夏で5年目になるコンビニ店員のアルバイト。
学業(といっても全然勉強なんてしてないけど)の片手間だったこの仕事も、卒業して見事フリーターになった美貴にとって、週休2日8時間労働は大切なライフワークになっていた。

海沿いに沿って走るローカル線の小さく寂れた駅。
その駅前にある、この町唯一のコンビニが、美貴の城だ。
小さな田舎町のたった1つのコンビニってことは、ここら辺に住む人にとって貴重な物資調達源だし、この町の玄関の様な役割も担っているから、客足が少ないってわけではない。
けれど基本、爺さん婆さんの人口比率が圧倒的に多いし、若者はここから電車で30分先の大きな市やその先の工場町まで、通学したり働きにいったりしてるから、昼間はなにぶん暇なのだ。
さっきの様な常連客に、ガキがぱらぱら涼みに来る程度で、夏休みだからといって忙しさはさほど変わらない。

くあ、と大口を開けて欠伸をする。
噛み締めたり、口元を手で覆う様なことはしない。
だって客は誰一人としていないから。
二十歳の夏も、こうやって過ぎていくのかなあ、と思うとちょっとだけ泣けてきた。
9 名前:遠雷 投稿日:2008/08/24(日) 13:36

「お嬢さん、ほれ」

ふいに声を掛けられて美貴は飛び上がりそうになった。
レジの台の上には1束の榊とパックのおはぎ、そして無糖の缶コーヒー。
声の主はいない。

と、思ったら、腰の折れた小さなお婆さんが隠れていた。
お、脅かせやがって。
それにしてもいつ入ってきたんだ。

「657円です」

平静を装って美貴がバーコードを読み取ると、お婆さんは下げた巾着の中から、小さく畳んだ1000円札を差し出してきた。
褐色にくすんだ、骨と皮だけの皺だらけのか細い腕。
今にも折れてしまいそうで恐くなる。
10 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/24(日) 13:37

「343円のお返しでーす…」

硬貨の重みだけでもぽきっといっちゃうんじゃないか、と心配したが、老婆は意外にもそれをがっしりと掴み、また巾着へ戻した。

「…ありがとーございましたー…」

榊の飛び出たレジ袋を下げて、よたよたと出口へ向かう後ろ姿を眺めて美貴は思う。
しかし婆さんよ、ブラックコーヒーなんて渋いじゃないか…
だが、さっきの商品ラインナップを思い出して、はっとする。
ああ、お墓参りに行くんだな、と。
11 名前:遠雷 投稿日:2008/08/24(日) 13:40

この町は、駅を中心に、扇状に小高い山に囲まれている。
その山の一部を切り開いたところに、小さな神社と墓地があるのだ。
ちょうどこの町を一望出来る様になっていて、見晴らしは最高。
生い茂った周りの林や、駐車場スペースになっている広い更地は、子供たちの格好の遊び場で、昔はよく暗くなるまで走り回っていた。

駅前のロータリーから1時間に1本のペースでバスが出ている。
ちなみに、そのためうちではお供え用の花なんかが売っているコーナーがあるのだ。
店長曰く、売り上げは上々らしい。
12 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/24(日) 13:43

婆さんはやはりロータリーの側の、木陰のベンチに腰掛けた。

粗方、先に死んだ伴侶の供養に行くのであろう。
くの字に曲がった、枯れた稲穂の様な身体が哀愁を帯びている。
そしてそのブラックコーヒーは生前彼がよく飲んでいたものに違いない。
コーヒーをブラックで愛飲するくらいだから、なかなかのダンディズムだ。
暇過ぎのため、少しの燃料で妄想は止まらない。
きっとおー石原裕次郎みたいにいー男前でえー厳つくてえー婆さんとは大恋愛の末の結婚でえー勿論両方の親からは反対されててえー駆け落ちで身を隠すためにこの町に来てえー…

ここまで展開が広がったところで、婆さんはおもむろにコーヒーを取り出して缶を開けた。

「お前が飲むんかい!!」

ツッコまずにはいられなかった。
13 名前:遠雷 投稿日:2008/08/24(日) 13:44









14 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/24(日) 13:46

しばらくしてバスが来て、件のお婆さんや数人を乗せて再び出発した。
腕の時計を見やる。
午後4時半。
仕事が終わるまであと1時間半。
もうちょっとだあ、と大きく伸びをする。
15 名前:遠雷 投稿日:2008/08/24(日) 13:47

ふと、外がほんのり暗くなっていることに気付く。
茜差す暮れ方ではなく、灰がかった陰り。
遠くで、ごろごろと不穏な音がする。

雨の予感。

「てんちょー、雨降りそうなんで傘立て出しときますねー」
「あーよろしくー」

バックヤードから、店長の腑抜けた声がこだました。
16 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/24(日) 13:49

店の奥からアルミの傘立てを引っ張りだして店の前に置いた。
それと同時に、ぽつ、と第一陣が漏れだした。
それを皮切りに威勢良く雨が打ち付けてくる。

夕立だ。

ここら辺じゃあ夏はしょっちゅうで何も特別なことじゃないし、そのお陰で大分涼しくなるんだからありがたいんだけど、如何せん美貴の帰宅時刻に被ると鬱陶しいことこの上ない。
美貴はここまでチャリで通ってる。
1時間半でやむか。
もし降ってたら、お母さんに迎えにきてもらうか。
ちょっと待って車通勤の彼氏に寄ってもらうか。
17 名前:遠雷 投稿日:2008/08/24(日) 13:51

「うーん…」
「…あの、すいません」

突然の呼び掛けに心臓が跳ね上がる。
いかんいかん、また考え込んでて遠くにいっていたようだ。
今日、同じ様なことがあったはず。
…何だっけ。
18 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/24(日) 13:52

レジ台に置かれた商品を確認する。
黄と白の小さな花を付けた菊が1束ずつ。

ふと無造作に添えられていた指が濡れていることに気付く。
細く長い白魚の様な指。
血管が透けそうなほど薄い手の甲の肌膚。

目線を上げる。
ノースリーブの、デコルテの開いたシンプルな黒いワンピース。
身体に張り付いたラインが、彼女の華奢さを強調する。
海から上がってきた人魚の鱗の様に、袖から生えたか細い腕で雨粒が反射する。



それよりも、それよりも。
19 名前:遠雷 投稿日:2008/08/24(日) 13:54

白い。

白い。

発光している。

青白く。

ぼんやりと。

肌が。



肌が青白く発光しているまるで死んだ人の様に。
20 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/24(日) 13:57

ふいに、彼女が顔に張り付いた黒く長い髪を耳に掛ける。
ぽたり、と水滴が珠になって落ちる。
艶やかな絹糸の間から顔が覗く。

下を向いて目を伏せているから、その顔をちゃんと拝むことは出来ない。
けどこの長い睫毛。
整った鼻梁。
頬骨から顎にかけての滑らかな曲線。
21 名前:遠雷 投稿日:2008/08/24(日) 13:58



私は、この顔を知っている。




22 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/24(日) 13:59

思い出せ。
思い出せ。
思い出せ。

記憶を探る。
遡る。
引っくり返す。
照合する。
違う。
違う。
お前じゃない。
23 名前:遠雷 投稿日:2008/08/24(日) 14:01




「…あ」



思わず口から漏れた吐息。
雷の様な衝撃が美貴を貫く。
24 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/24(日) 14:02





「…よっちゃん?」






25 名前:遠雷 投稿日:2008/08/24(日) 14:03

彼女の睫毛が僅かに揺れる。
ゆっくりと瞼が持ち上がる。
漆黒の繊維に縁取られた、大きな瞳とぶつかる。
瞳孔が収縮して一点を捕らえる。
捕らえられる。
26 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/24(日) 14:04





「…美貴…」






27 名前:遠雷 投稿日:2008/08/24(日) 14:06

形の良い薄い唇が動く。
音が付いていない。
でも確実に空気は震えた。

強烈な驟雨に、美貴たちは切り取られていた。
28 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/24(日) 14:07









29 名前:遠雷 投稿日:2008/08/24(日) 14:11









30 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/24(日) 14:11









31 名前:salut 投稿日:2008/08/24(日) 14:16

遅ればせながら、初めまして。
これが処女作品となります。(むしろちゃんと文章にしたのすら初めてかもしれない…)
重く、暗く、痛いお話しになりますので、苦手な方はご遠慮下さい。
冒頭にある様に、遅筆ですけれど頑張って夏が終わる前に完結させます。

それにしても、まあ間抜けな間違えをこう…お恥ずかしい。
次から気を付けます。

あ、それと次回から下の方でsageてやっていきたいと思います。

拙い文ですがよろしくお願いします。
32 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/24(日) 15:04
こういう雰囲気の文章好きです
頑張ってください
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/24(日) 17:27
みきよしなら敬遠させていただきます。
処女作という事ですので頑張って欲しいとは思いますが。

34 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/25(月) 01:21
かなり面白くなりそうな予感
情景が浮かぶような文章ですね
頑張ってください!
35 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/25(月) 03:04
自分もみきよし苦手ですが、作者さんの文章は好きな感じです
みきよし嫌いを克服させて下さい(切実w
36 名前:遠雷 投稿日:2008/08/25(月) 13:02









37 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/25(月) 13:02









38 名前:遠雷 投稿日:2008/08/25(月) 13:03









39 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/25(月) 13:06

ああ、もう、どうしよう。
にやにやが止まらない。
美貴はだらしなく緩む頬を隠す様に、湯船に更に深く身を沈めた。
40 名前:遠雷 投稿日:2008/08/25(月) 13:08

嬉しい再会をしてしまった。
よっちゃん。
吉澤ひとみ。
美貴の幼馴染み。
同い年で、物心ついたときから一緒にいた。

整った顔。
落ち着いた佇まい。
困った様に笑う癖。
透明感。
幼い頃から、大人びた雰囲気を纏っていた。

目を閉じて、美貴の知っているよっちゃんの全てを呼び出そうとする。
頭の奥にある記憶の泉に沈めておいた。
壊れない様に慎重に、丁寧に、編み目の細かいざるで掬いあげる。
41 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/25(月) 13:11

一番古い思い出は、保育園のときだ。
皆で鬼ごっこをしていて、よっちゃんが転んじゃったときに、美貴が手当をしてあげたんだ。
よっちゃんは、ほっときゃ治るよ、って笑ってたけど、膝からじわじわ血が滲んでくるのを美貴が見てられなくて、園舎の裏まで引っ張っていったんだ。
…手当っていっても、水道水ぶっかけて絆創膏張っただけだけど。
小さな膝小僧にピンクのキティちゃんのイラスト。
美貴のお気に入りだったけど、背に腹はかえられない、と断腸の思いで手放したんだった。
42 名前:遠雷 投稿日:2008/08/25(月) 13:13

そうそう、絆創膏といえば、あれは小学生のときか。
放課後はよく学校の子たちと山に登って、神社の周りではしゃぎ回っていた。
よっちゃんのお母さんは厳しい人で(教育ママって意味ではなく)よっちゃんが外に遊びに行くことすら、渋い顔をし反対していた。
だから、美貴は部屋に押し込められていたよっちゃんを、窓からこっそり連れ出しては一緒になって遊んでいた。
勿論、見つかって怒られることは多かったけど、おばさんはそれ以上のことはしてこなかった。
今考えれば、ある程度黙認されていたって分かるんだけど、だったらなぜ閉じ込めておく必要があるのか。
親心ってのは理解出来ない。
43 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/25(月) 13:15

確かその日はケイドロをやっていて(美貴は爆弾魔っていう設定で追いかけ回されていた)警察のよっちゃんが美貴を捕まえようとした。
その寸で、くらえ!松ぼっくり爆弾!と投げた美貴のそれによっちゃんは驚いて、またしてもつまずいたのだ。
地面が枯れ葉で覆われていたお陰で、腕にちょっとかすり傷をつくった程度ですんだけど、そのときはおばさんにばれるのを恐れて2人で震え上がったんだっけ。
それで美貴の家に急いで帰って、あーでもないこーでもないって傷を隠そうとしたんだけど、結局、美貴のお母さんのエレキバンを大量に重ねることしか出来なかったんだよね。
今でも覚えてる、あの蛙の卵みたいな腕。
当時のそれは、今程良く出来たものじゃなかったし、よっちゃんの皮膚が白過ぎたってのもあって、黒い磁気が目立って目立って仕方なかった。
速攻見つかって、おばさんは金切り声を上げて、直ぐさまよっちゃんを病院へさらって行ったんだっけ。
44 名前:遠雷 投稿日:2008/08/25(月) 13:17

ぷっ、と美貴は思わず吹き出す。
おかしくって、そのままくっくっくと肩を揺らした。
顔の半分はまだお湯の中だったから、ぶくぶくと水泡が立って、そして消えた。
あれは厳しいっていうより、過保護だ、過保護。
あれじゃあ、よっちゃんも大変だったろうなあ、と気の毒になる。
美貴のお母さんはそれとは正反対の、肝っ玉母ちゃんって感じで楽だけど。



数珠繋ぎで思い出が呼び起こされていく。
しかし次に手繰り寄せた糸口からは、ちょっと複雑な思いがまとわりついていた。
45 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/25(月) 13:18

ああ、怪我。
怪我といえば…

美貴は静かに目を伏せ、じっと身体を強張らせた。
ぴちょん、と天井から雫が落ちて、凪になっていた湯船に波紋が広がる。



中学2年の夏。
美貴とよっちゃんがまともに会話した、最後の日だ。
46 名前:遠雷 投稿日:2008/08/25(月) 13:20









47 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/25(月) 13:22

その日、美貴は家で一日中ごろごろしていた。
家で1番風通しの良い居間、扇風機の目の前が特等席。

当時所属していたバレー部の練習もなし。
どこもお盆で忙しいだろうってことで、家で大人しくしていた。
次の日にお坊さんが来るらしく、ああ忙しい忙しい、とお母さんはわざとらしく聞こえる声で呟きながら、居間と仏間を往復していた。
それは美貴にとってウザイものでしかなかったけれど、かといって、外はかんかん照りで日差しが最も強い時間帯。
今一歩太陽の下に出たら確実に焦げ死ぬ!!と懸命な判断をし、お兄ちゃんのジャンプを枕に狸寝入りを決め込んでいた。
48 名前:遠雷 投稿日:2008/08/25(月) 13:25

本格的に寝入ってしまったらしく、寒気がして目を覚ました。
涎の跡をこすりながら見やった壁掛けの時計は、5時ちょっと過ぎを差している。
時計の横の窓、薄いレースカーテンの向こう、灰色の空から透明な針が降っているのに気付く。

夕立だ。

「雨よ雨!美貴!洗濯物手伝って!」
「…ふぁーい」

どたどたと慌ただしく2階へ掛け上がるお母さんにどやされ、美貴も渋々後を追った。
49 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/25(月) 13:27

「…けっこう強いわねえ」
「…うん」

台所に立つお母さんが、背中を向けたまま話し掛けてくる。
漂ってくるのは、甘い醤油の香り。
また煮物か。
まあ爺さん婆さんと暮らしてると、和食が多くなるのはしょうがないんだろうけど。

あれから雨足はどんどん強くなっていって、俗にいうバケツを引っくり返した状態になっている。
仕舞いには、雷まで落ちる始末。
カーテンの隙間から漏れる閃光、そしてしばらくした後に轟く怒号。
その度に美貴は、洗濯物を畳んでいた手を止めて、雷!雷!と騒いでいた。
50 名前:遠雷 投稿日:2008/08/25(月) 13:29



ピンポーン



土砂降りの雨音を割く様に、インターフォンが鳴った。
すかさず、美貴!とお母さんに尻を叩かれて、ほいほーい、と美貴は重い腰を上げた。

誰だ、こんなときに。
お父さん、鍵忘れたのかなあ。
51 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/25(月) 13:30

美貴はサンダルをつっかけて、戸の前に立つ。
鍵を開けて、引き戸の取っ手を掴む。

からからから、とこ気味良い音がして対面したものに、美貴は感電した様に全身がはねた。
背中にざわざわと大きなムカデが這っていく感覚。
ひっ、と喉の奥で引きつった様な声が出そうになったけど、なんとか飲み込んだ。



それがよっちゃんだと分かったからだ。
52 名前:遠雷 投稿日:2008/08/25(月) 13:34

よっちゃんは、この豪雨に打たれてきたらしく、頭の先から爪先まで全身びしょ濡れだった。
黒いショートカットの髪は、その表情を隠すかの様にへばりつき、垂れたこうべから絶えず水滴が落ちて、玄関に水たまりをつくっている。
水に濡れれば身体に張り付いて中身が透ける、大変色っぽいはずの制服だが、それより別のことに目がいってしまった。
右半身の肩から下が、泥だらけだったのだ。
しかも、シャツもスカートも、ところどころ小枝に引っ掛けた様に破れ、ほつれている。
よく見れば、腕や脚にほんのり何かぶつけた跡が浮かんでいる。
53 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/25(月) 13:37



幽霊かと思った。



浮かんできた言葉を慌てて打ち消す。
しかし既に、だらしなく開けられたシャツから覗く白い胸元が、僅かに上下しているのを確認して、安心している自分がいた。
そんな感情を吹き飛ばしてなかったことにすべく、美貴はわざと明るく大きく、彼女の頭頂部目掛けて声を飛ばした。



「なーにやってんの、よっちゃん!」
54 名前:遠雷 投稿日:2008/08/25(月) 13:41

すると、ようやくよっちゃんは頭をもたげた。
瞳が黒く塗り潰されている。
それが美貴を捕らえると、何も映っていなかった膜に徐々に光が集まり出す。

そしてお決まりの顔。
よっちゃんはいつも通り、眉根を寄せて今にも泣きそうな、情けない顔で笑った。



「転んじった」
55 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/25(月) 13:42









56 名前:遠雷 投稿日:2008/08/25(月) 13:43









57 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/25(月) 13:43









58 名前:salut 投稿日:2008/08/25(月) 13:48
回想シーンはまだもうちょっと続きます。



レスありがとうございます。
嬉しくって思わず震えてしまったのは内緒です。

>>32
初めてのレス、何度も読み返してしまいました笑
この空気、壊さない様に頑張ります!

>>33
みきよし…なんですかね。
私はあんましそういう風に思ってなくて、ただ藤本さんと吉澤さんが出てくるお話ってとらえて頂けると嬉しいんですが…
多分人それぞれ、定義も好みも違うと思いますので、お任せします!
完結まで突っ走っていきます!

>>34
う…嬉しいお言葉…;;
目を閉じて、自分もとけ込めて読めるお話を目指しています。
でもそれだと文章を見れなくなるジレンマ…

>>35
わー苦手な人、多いんですね;;
上記の通り、私自身みきよしってことを意識せずに書いているので…どうなんでしょうね笑
ただ、読者さんに苦手ってことを意識させる前に、引き込んでいけたらいいなって思ってます!
あくまでも目標ですが…良かったらお付き合い下さい。
59 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/25(月) 17:55
続きがすごく楽しみです
60 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/25(月) 22:47
ストイックな文章がいいですね
今後も期待しています
61 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 11:06









62 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 11:07









63 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 11:07









64 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 11:09

しんと、静まり返った浴室。
遠くから、バラエティー番組の馬鹿笑いが聞こえてきた。
見上げた小さな窓に、切り取られた夜の闇。
雨はもう上がったけれど、月は顔を隠したままだった。
65 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 11:10









66 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 11:11

あの日、美貴はよっちゃんを風呂に入れ、ちょっと小さかったけど美貴のジャージを貸した。
よっちゃんも、こんな風に湯船に身を沈めて、冷えた身体を温めたのだろうか。
よっちゃんも、こんな風に窓を見上げて、降り続ける雨を眺めていたのだろうか。
67 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 11:15

ねえ、泊まってけば?と、ドライヤーで髪を乾かすよっちゃんに話し掛けたが、大丈夫、と微笑んで小さく断られた。
そのとき、胸につかえていた砂壁に穴が空いて、一握の砂がさらさらと撫で下りていくのを感じた。
思わずついた安堵の息。
次に迫ってきたのは少しの後ろめたさ。

それを振り落とす様に、そして気付かれない様に、美貴は努めて明るく振る舞ったり、よっちゃんの小さな痣にエレキバンを貼ってはしゃいだりした。
よっちゃんも、一緒になって笑い合っていたし、何ら変わった様子はなかった。
68 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 11:19

よっちゃんが帰る頃には、土砂降りだった雨は嘘の様に止んでいた。
美貴とお母さんは門のところまで見送りに出る。
美貴の愛車である、ちょっとライトが付きにくくてブレーキの固い、ボロ自転車に股がるよっちゃん。
辺りはこの世の全ての悪が集結していそうな位に真っ暗で、美貴は小さく身震いがした。
脇の田んぼから、蛙の湿った鳴き声と、気の早い鈴虫の独唱が響いている。



「本当に大丈夫?」
「はい」

心配そうに眉を寄せるお母さんに、よっちゃんは爽やかな笑顔で応えた。
じゃーね、ばいばい、おやすみ、と挨拶し合って、よっちゃんはペダルを漕ぎ出した。
69 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 11:20

頼りない光が尾を引いて、闇の中へと溶けていく。
畦道に姿が消えるまで、美貴はよっちゃんの背中をじっと見つめていた。
確かに彼女は発光していた。
儚げな存在とは裏腹に、彼女のはっきりとした輪郭は、美貴の瞼の裏にしっかりと焼き付いた。
70 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 11:22





それが最後。





71 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 11:23









72 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 11:24

う、何だか寒くなってしまった。
お湯に浸かっているのに、悪寒がするのはなぜだろう。
美貴は咄嗟に自分を抱きしめる。

「えーい、やめやめ!考えるの!やめっ!」

大きく独りごちて、勢いを付けて立ち上がった。
そのままどっかと、風呂いすに座り、シャワーで髪を濡らす。
乱暴にプッシュしたシャンプーを、自慢の茶色く長い髪の上で泡立てる。
お気に入りの花の香りが鼻腔をくすぐって、美貴を幾分か落ち着かせてくれた。



再びシャワーで泡を流そうとする。
忘れようと思って頭に打ち付けた水流の音に、まだ残っていた彼女に関する記憶の糸。
美貴は迂闊にもまたそれを引き抜いてしまった。
73 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 11:26









74 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 11:27

そういえばよっちゃんには、雨にまつわるエピソードが多い。

保育園の七夕祭り、よっちゃんと短冊を下げに行くと、その夜は必ずといっていいほど天の川は雨雲に隠れた。
小学校の運動会、美貴とよっちゃんはよくリレーの選手に選ばれてたけど、いつも競技が近付くにつれて雲行きは怪しくなっていった。
中学校のバレーの初めての大きな大会、ボールが何個も入ってかさ張る荷物を両腕で抱えながら、小雨の中をバス停まで一緒に走ったのを覚えている。

美貴は強烈な晴れ女って言われていたけど、よっちゃんはその上をいく雨女だった。
75 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 11:28









76 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 11:30

よっちゃんが美貴の前から姿を消してから、学校ではこんな噂がまことしやかに流れた。



吉澤ひとみ死亡説。



77 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 11:31

よっちゃんは、残りの夏休みの部活にも顔を出さなかったし、2学期になっても学校には現れなかった。
あの日から数日後の玄関先に、美貴の古ぼけた自転車と、そのかごにクリーニングされたジャージが入った紙袋が置かれていただけで、それっきり、ぱったり。

2年1組、窓際から3列目、後ろから4番目。
美貴の席から右斜め横に当たるそこが、いつも空席だったのを見て、美貴は胸を潰される様な思いでいっぱいだった。

メールも電話も通じない。
美貴は何度もよっちゃんの家を訪ねたけれど、おばさんは、ひとみはちょっと具合が悪いから、と顔を背けて一向に取り合ってくれなかった。
もう美貴も中学生になっていて、屋根を登って部屋の窓を叩くことはしなくなっていた。
玄関先から見上げるよっちゃんの部屋の窓は、いつも青いカーテンがかかっていた。
78 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 11:37

次第に日常はよっちゃんを隠し、美貴たちから遠ざけて行った。
恋愛に部活に…まあ勉強に。
中学生の周りには夢中になれること、やらなくちゃいけないことが、そこら辺に転がっていたし、美貴には他に友達と呼べる人もいた。

教室の喧噪に。
はしゃぎ声が響く廊下に。
放課後の体育館に。
学校中のそこかしこに残されたはずの吉澤ひとみの影が、歪み、ぼやけ、霞んでいく。
それが普通だと自分に言いきかせて、皆と足並みを揃える様に、美貴も考えない様にしていた。



そんなときだった。
79 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 11:39



「俺、吉澤見たよ」



ある日の休み時間、男女集まって他愛のない世間話をしていると、1人の男子生徒がそう切り出した。
昨日の夕飯カレーだったよ、といった気軽さで。
いつ!?どこで!?と、詰め寄る美貴に彼は若干気圧されていたが、恐る恐るそのときのことを話してくれた。
80 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 11:41

「い、いや、あの、俺、塾通ってんじゃん?
あの街の…そうそう、それ、大きいとこ。
一昨日…だっけなあ…そう巨人戦中止になったから一昨日だ。
その日は他校のやつとだべってたからさ、帰んの遅くなっちまったわけよ。
10時過ぎかなあ…終電の1個前だから。
しかも7時位から雨降ってたじゃん?
俺、駅から家までチャリンコなんだけど、ババアは迎えにこれねーっつうし、やべえ!って傘差してチャリンコで帰ったわけよ。
そしたらさあ、あの神社に続く道、分かる?道幅ばっかやたら広い、田んぼばっかの。
そこをさ、白い人影がひたひた…って歩いてんの。
あの時間、ここら辺で外出る人なんていねーじゃん?
げ、俺幽霊見ちゃった?幽霊見ちゃった?ってよーく目を凝らしてみたらさ。
…吉澤だったわけよ。
何かヤバかったぜー、顔面真っ白だったし、傘も差さずにずぶ濡れになってたし」
81 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 11:45



そいつの話が、途中から怪談話や自慢話みたいになっているのには腹が立ったけど、美貴の頭は真っ白でそれどころじゃなかった。

急に空間が裂けて、ぽっかり空いた暗闇の中から青白い腕が伸びてくる。
細い指がくい込むほど、美貴の心臓は強い力で握られる。
忘れないで置いてかないで側にいて。
つたってくる懇願に、美貴は溺れまいと必死に抵抗した。
82 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 11:49

やがてその話題は、この田舎の小さな学校を駆け回り、充満していった。

もともとよっちゃんは、こんなくすぶった田舎町では浮いてしまう様な、派手な顔立ちをしていたため、学校ではけっこう有名人だった。
凛とした佇まいとそれが相まって、特異な存在として敬遠されていた節があったから、面白おかしく囁き合われる格好の餌食だったのだ。
83 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 11:51

秋が深まり、冬が近付くにつれ、目撃談は増えていく。

畦道で。
バス停の側で。
商店街のアーケード前で。
公園のブランコで。
踏切の上で。

仕舞いには海に潜っていったって情報もあった。

いずれの話も、夜中、雨の日、人気のない場所で。
84 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 11:57

生徒たちの中では、よっちゃんはもう既に死んで幽霊になっているってことになっているらしく、冗談で、吉澤ひとみに呪い殺されるぞ、って言い出すやつも現れた。

尾ひれの付いた噂は、どんどん加速していく。
いや、尾ひれだけじゃない。
強靭な牙を持ち、鋭い爪を持ち、全てを射抜く眼光を持ち、醜悪な化け物に形を変えて、美貴に襲いかかってきた。



眠れない夜が続いた。
85 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 11:59

それを振り払うが如く、その話をしているやつを見つけると、美貴は片っ端から殴りかかって暴れた。



それは巽も同様だった。
ふざけんじゃねえよてめえ、とか何とか叫んで、相手の胸ぐらを掴む巽の、あの鬼気迫った顔。
彼のあんな表情は見たことがなくて、どうしても美貴は嫉妬の情を燃やせずにはいられなかった。
86 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 12:01



そうだ、巽。
よっちゃんの話をするには巽の話もしなければいけない。



巽は昔っからのガキ大将気質で、小学校ではみんなの親分、中学校では学校の頭として、いつも集団を引き連れている様な人だった。
喧嘩っ早くてぶっきらぼうだけど、仲間思いの優しいやつ。

浅黒い肌。
細身だけど筋肉質な身体。
ぼさぼさの無造作ヘアの間から覗く切れ長の目は鋭く、笑うと見える八重歯が幼くて可愛かった。
87 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 12:02

巽はよっちゃんのことが好きだった。
美貴が知っている限り、保育園のときからだから、長い長い片思いだ。



何で美貴がそんなことを知っているかって、美貴も同じ位、巽のことを見ていたからだ。
88 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 12:04

学校の目立つ2人が大暴れしているとあって、誰もそのことは口にしなくなり、噂は失速し、やがて消えていった。
冬休み直前のHR、担任が、吉澤は転校したそうだ、と発して以来、彼女の名前は聞くことはなくなった。



そして3年生になる前の春休み、美貴と巽は付き合うことになる。
二十歳になった今でも、巽との関係はまだ続いてる。
89 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 12:05

いつだったか、暴れ回っていた頃、職員室に呼ばれて言われたことがある。
担任は、ずらした眼鏡から美貴の顔をぎょろりと見上げ、くわえていた煙草を苦々しく灰皿に押し付けた。

「お前なあ、いくら友達だったからって人を殴っ………」

彼の呆れた声に、美貴は思わず、違う!と大声で反論しそうになった。
90 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 12:06

違う違うそうじゃない!

昔から、幼い頃から一緒にいて仲が良かった友達が、何も知らない人に揶揄され馬鹿にされ騒ぎ立てられたから?

違う!!

じゃあ何!?

この押し潰されそうな圧力は!!

迫りくる脅迫観念は!!
91 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 12:08

嬉しい再会!?違う!!大切な思い出!?違う!!よっちゃんを見たとき、美貴は何を思った!?よっちゃんに関する記憶は、鎖を厳重に巻いて、重石を付けて底へ底へ沈めたはずだ!!
92 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 12:10

だってだってだって■■は■■を好きだからでも■■は■■を好きだから■■さえ■■さえいなくなればいいと思った■■さえいなくなれば■■を手に入れることが出来ると思っていた■■だ■■だ■■だ

93 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 12:12





よっちゃんを忘れたかったのは美貴だ





94 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 12:13









95 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 12:15



背中を、つうと、冷たいものが滑り下りる。
シャワーの水滴か。
美貴の汗か。
それとも…



美貴はシャワーのコックを最大まで捻って、ぎゅっと目を瞑った。
背後によっちゃんの白い影が佇んでいそうで怖かったから。
96 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 12:17



罪の意識を削ぎ落とす様に叩き付けるシャワーの音は、あの日の雨音に良く似ていた。
97 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 12:21









98 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 12:21









99 名前:遠雷 投稿日:2008/08/26(火) 12:22









100 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/26(火) 12:26

加速していきます。
己の表現力のなさと語彙の乏しさに落ち込んでいますが、短期集中、がつがついきます。



>>59
ありがとうございます。
「すごく」のところがすごく嬉しいです。

>>60
ストイック…!初めて言われました!
ありがとうございます。
ご期待にそえられるか分かりませんが、頑張ります。
101 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/26(火) 13:01
すごく面白い。
どきどきしました。期待してます。
102 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/26(火) 14:43
物語に引き込まれます。
男キャラが出てきても全く嫌な感じがしないですね。
103 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/27(水) 04:30
男が出るなら黒に行くか一言注意書きがないと納得しない人がいると思うよ
104 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/27(水) 04:37
別に平気だと思うよ
105 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 18:47









106 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 18:48









107 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 18:48









108 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 18:50

風呂から上がると、居間ではお母さんが寝転がってテレビを見ていた。
旬の若手芸人がリアクション芸をする度に、噴き出したり、げらげら笑ったりして、小太りの身体を揺らしていた。
美貴はそれを見て、心底安心した。
我が家は、お洒落とか洗練といった類いの言葉とはまるっきり無縁の家庭だけど、ほっとする様な温かさがある。
今の美貴には救いだった。
109 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 18:51

美貴はお母さんに向いていた扇風機を奪い取り、髪を乾かすべく、肩に掛けたタオルで髪をわしわしと乱暴に拭いた。
あ!とお母さんは非難の目で見てきたが、ちょうどお気に入りの芸人が出ていたらしく、すぐにテレビに向き直った。



「明日もコンビニ?」
「そー」
「時間いつも通り?」
「そー」

美貴は髪を乾かしつつ携帯をいじり、お母さんはあくまでもテレビから目を離さない。
目を見ないでも成立する何気ない会話が、家族だなあ、と感じさせてくれる。
110 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 18:52

「あ、でもご飯いらない。巽のところ行くから」
「あら、たっちゃん」

お母さんと巽は仲が良い。
最初家に連れてきたときこそ、あんたあんな不良大丈夫なの?と偏見の目たっぷりで、何かと避妊避妊うるさかった。
今時の若い男=性欲の方程式はやめて頂きたい。
しかし今では、早く結婚しろだの、早く孫の顔が見たいだの、ちくちくと口を挟んでくる。
残念ながら全くその予定は立ってないし、巽もそんな素振りを見せたことがない。
…美貴はいつでもいいんだけどね。



しかし困った。
巽の名前を出すとお母さんにスイッチが入る。
お母さんがその煩わしい小言を言い出す前に話題を変えなければ。
111 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 18:54



「そういえば今日よっちゃんに会ったよ」



何の気なしに口にした。
いや、そういう風に装おうとした。
よっちゃん、という単語を発音することに、美貴の喉や舌が拒否反応を起こしたけれど、半ば勢いで声にした。
自分で口にして直ぐに、しまった、言わなければよかった、と早速後悔したけど、もう1人の美貴が、大丈夫大丈夫、となだめてくれた。
112 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 18:56

そうだ、よっちゃんと美貴は幼馴染みで仲が良かったし、傍目から見ても2人の間には何のいざこざも争いもなかったはずだ。(美貴の気持ちにも気付いていなかっただろう)

ましてや、よっちゃんは死んでなんかいない。
その証拠に、美貴たちが睨みをきかせたら目撃談なんてなくなった。
結局は見間違えか、話を面白くしようとした作り話なのだ。
そう、現に今日この目で見たじゃないか。
指、手、腕、髪、顔、目。

友達と再会したことを母親に報告することは、自然なことなのだ。
むしろ、隠しておくことの方が不自然じゃないか。
落ち着け、美貴。
大丈夫、大丈夫。
意識しちゃ駄目だ。
113 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 18:57

予想通り、よっちゃん、という単語へのお母さんの食い付きはすごかった。
勢い良く美貴の方へ寝返りをうち、目をらんらんと輝かせている。

「よっちゃんってよっちゃん!?」
「そーだよ」
「吉澤のよっちゃん!?」
「そーだって言ってんじゃん」

お母さんは不格好な匍匐前進というか、芋虫の様によじよじと近付いてきて、美貴の顔を覗いてきた。
年甲斐もなく恋する乙女の様な表情をしていたので素直に、キモい、と蔑んだ目で見た。
しかし、何でよーと、不貞腐れるお母さんを少し、可愛いなあと思ったのも正直な気持ちだった。
114 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 18:58

「随分久しぶりじゃない、元気だった?」
「元気だったよ」

惰性の即答。
今思い出しても、あの状態のよっちゃんを元気と形容するのは美貴にはちょっと出来ない。
だからといって、何て言っていいのかも分からなかったからだ。



「何年ぶりかしらねー」
「…中2だから…6年ぶり?」
「あらもうそんな経つの」
「そりゃ老けるわ」
「お互いにね」
「うっさいなー」

じろっと睨んで扇風機をお母さんへ向ける。
髪は粗方乾いていた。
115 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:00

「お盆だからお墓参りかしらね」
「って言ってたよ」



夕方のよっちゃんとの会話を思い出す。

突然の再会に2人とも驚いて、しばらく時が止まった様に固まっていた。
しかし、久しぶりじゃーん!と美貴がテンションの高い声を上げたのをきっかけに、会話がスタートしたんだっけ。
116 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:01

今日はお墓参りに来たこと。
夜は実家に泊まること。
今は冬には雪の降る、山間の町に住んでいること。

もっと聞くべきことはあったはずだけど、美貴はどうなの?と話を振られ、コンビニバイトのどうでもいいことを喋り倒している内に、バスの時間になったんだ。
去り際に、明日時間ある?と訊ねられた。
コンビニのバイトが9時から6時で、夜に用事があるからそれまでだったらいいよ、と返したら、じゃあ6時にここに、と言っていた。
117 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:02

美貴は内心相当動揺していたけど、それが表に出ない様に、鋭く感覚を尖らせていた。
だけど会話しているときのよっちゃんの表情は思い出せない。
美貴は、演技をすること、会話を成り立たせることで精一杯だった。
だから、目に透明のコンタクトレンズを幾重にも重ねて、よっちゃんの表情を読み取らない様にしたのだ。

普通の友達としての会話を成立させなければ、という焦り。
こんなに余裕がなかったのは初めてかもしれない。
防衛本能というか、上手く世を渡るための機能というか。
無意識にそして即座に引かれるトリガー。
本心を隠すのが上手くなるのは、長く片思いをしてきた者が身に付ける特技の1つだ。
報われない恋の上にあるんだから、皮肉なものだけど。
118 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:04

「コンビニに来たの?」
「そー」
「今日こっちに来たばっかかしらね」
「さー分かんないけど…夜は実家に泊まるってさ、おばさん元気かな」
「え?」
「最近見ないよねー」
「あんた何言ってんの」
「…何」
「吉澤さん家、大分前に引っ越したじゃない」

お母さんは怪訝な顔をして、やあねえこの子は、親友のことなんだからちゃんと聞いてなさいよ、とぐちぐち文句を言っている。
しかし、ノイズは膜1枚隔てた空間に何も響いてこない。

取り繕え、何か言え、表情をつくれ、という脳からの命令は途中で消息を途絶えた。
辛うじて、左頬の筋肉が少々釣り上がっただけだった。
119 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:05

嘘をつかれた?
でも何のために?
分からない。
…いや、考えるな。
流せ流せ。
きっと他意なんてない。
落ち着け。
落ち着け。
落ち着け。
120 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:07



「…のーど渇いちゃったっ!」

美貴は、よっ!とわざと声を出して立ち上がり、台所に向かった。

明かりやテレビが付いて賑やかな居間と対照的に、誰もいない台所は暗くて静かだ。
流しの桶に溜まった水は、張り詰めた様に揺らがない。
背の高い食器棚に整列された器は、色形こそそれぞれ違えど、同じ様に沈黙を守り息を潜めている。

同じ空間なのにに光と闇が混同している。
121 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:11

「お母さんビールある?ビール」

冷蔵庫を開けると強い光。
それに顔を突っ込んで生活感丸出しの混沌を見ると、少しだけ緊張が和らいだ。

「買ってあるけど…あんたねえ、今から飲むの?
もう身体冷めちゃったでしょ?
それにもう寝るだけじゃない、明日起きられるの?」
「いーのいーの」

お母さんのお節介な小言は無視して、美貴は銀色の缶を取り出した。
喉が渇いているからというのもあるけど、何より何も考えずに眠りたいからアルコールの力を借りたいのだ。
122 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:13

美貴はダイニングテーブルの椅子にもたれ掛かる。
明かりと暗闇が混じる曖昧な境界線。
食事しながらテレビが見れる位置。

薄暗がりを背負って、美貴はタブに爪を引っ掛ける。
開かない。
何度も挑戦するが、綺麗にケアした人差し指の長い爪が悲鳴をあげるばかりだ。

お母さんはそれを呆れた顔で一瞥すると、さあ私もお風呂入ろうかねえ、と起き上がった。
しかし美貴の前を通り過ぎようとするときに、ふと立ち止まり、彼女が小石を投げる様に話し掛けてきた。



「よっちゃんっていったら、もう病気は治ったの?」



123 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:14



軽やかな放物線を描いた小石は、美貴の胸に信じられない重みでのしかかった。
爪が欠けた。



何だっていうんだ。
やめてくれ。
何で今更。
こんな美貴の知らないことばかり…

…当たり前だ、美貴が避けてきたんだから。
124 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:16

常闇に白く浮かぶ刀刃。
その冷たい切っ先が、美貴の背骨に沿って肌を撫でる。
焦らす様な、ゆっくりとした速さで。
1本の赤く細い経線。
125 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:17

落ち着け。
落ち着け。
落ち着け。
考えるな。
繕え。
顔の筋肉。
声帯。
動かせ。
126 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:20

お母さんは呆れたというより、驚いた表情で続けた。

「あんた何も覚えてないの?あのときいなかったかしら。
ほら、よっちゃんのお母さんがわざわざ訪ねてきてくれて…」



やめてやめてやめて。
お願い言わないで聞きたくない聞きたくない。



「よっちゃん、病気で大きな病院で手術するからって転校したんじゃない」



127 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:22



背中の傷がぴりぴりと裂ける。
血も出ずに開いた裂け目。
皮膚と肉の間に無数の羽虫が蠢いている。



美貴の意思を無視して、強力な磁石で吸い寄せられる様に、様々な記憶の断片が集結した。
128 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:25





病気   怪我   傷   よく転ぶ   過度な心配   敏感  過保護  よっちゃんのおばさん


小さい頃  昔  膝小僧  腕 白 血 赤 絆創膏 痣 転んで あの日も

雨 土砂降り 泥 傷 制服 笑顔 困った様な 発光 白 幽霊





129 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:27

それを合図に数千匹、数万匹という羽虫の蠢動が激しくなる。
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
血管や神経を伝って一斉に散っていく。
心臓や脳を食い散らかす。
それは小さな空洞が真っ黒になるほど充満するが、それでもところ狭しと飛び回る。
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
130 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:30





消えた 空席 病気 噂 雨 夜 闇 暗い 
白浮かぶ雨道踏切海闇黒白肌雨死幽霊指手白黒ワンピース墓お盆死者帰ってくる病気幽霊嘘黒目瞳大きな闇死濡れた雨白肌発光白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白白死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ





131 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:31










132 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:32





美貴




133 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:33










134 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:35





「美貴!」





135 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:37

身体が大きく跳ね上がる。
反射で顔上げる。
揺れる眼球に映るはお母さんの心配そうな顔。

「あんた大丈夫?顔真っ青よ?」

お母さんは、おもむろに美貴の手からビールの缶を取り上げると、ぷしゅっとプルトップを押し上げた。
爪、こんなに伸ばしてるから、と言って、また美貴の手元に置いてくれる。
自分の指が微かに痙攣しているのが見えた。
程々にしなさいね、とお母さんは美貴の頭を軽く小突いて、鼻歌を歌いながら部屋を出て行った。
136 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:38









137 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:40

静寂。
纏う空気は冷たいのに、美貴の背中や脇の下は、汗でぐっしょりと濡れている。



…大丈夫。
落ち着け。
何も、何も考えることなんてないのだ。
138 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:44

美貴はビールを一気に流し込む。



しかし、美貴はもう既に1つの疑問を掴んでしまっていた。
疑問であり、美貴の見つけた答えだった。
会ったときからちょっと気に掛かっていた。
けれど、本当に些細なことだったし、自分の見落としかもしれない。
何より他に考えることがあったから忘れていたのだ。
いや、忘れようとしていたのかもしれない。
頭に浮かんでいこうとするそれを、美貴は必死で押さえ込もうとする。



ねえ…



139 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:45

喉が忙しなく上下する。
濁流の様な液体が、全てをさらってくれればいい。
弾ける炭酸が、全てを散らしてくれればいい。



ふと、気管にビールが入る。
息苦しくなり背後の流しに駆け込もうとするが、急に立ったせいか、アルコールが急激にまわった。
目眩。



ねえ、よっちゃん…



140 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:47

床に倒れ込む。
激しく咳き込む。
乱れた呼吸。
止まらない動悸。
揺さぶられる脳みそ。



全身ずぶ濡れでレジの前に立っていたよっちゃんの姿が一瞬、砂嵐の中に見えた。



アルコールの渦にのみ込まれる。
美貴は呆気なく掴んだものを手放してしまっていた。
141 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:51





ねえ、よっちゃん、いつからそこにいたの?





142 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:52









143 名前:遠雷 投稿日:2008/08/27(水) 19:52









144 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/27(水) 19:53









145 名前:salut 投稿日:2008/08/27(水) 20:01

>>101
ありがとうございます。
「面白い」は大好物です。
光栄です。

>>102
その言葉にとても救われました。
ありがとうございます。

>>103
そのことはどちらも、スレを立てる前に散々悩んだので、今回ご指摘頂けて嬉しかったです。
心配して下さってありがとうございます。

>>104
ありがとうございます、とても安心しました。
146 名前:salut 投稿日:2008/08/27(水) 20:02

せっかく良いレスを頂いたので…
上記の通り、男を出すに当たって色々迷いましたが、今の感じにしました。
「男」が出るってことに毛嫌いしている人にも>>102さんの様な感想を持って頂けたらな、それすら忘れて楽しんで頂けたらな、という目論みがありました。
最初に頂いた「みきよし」に対してもやはりそんな気持ちです。
でもそれは、私の勝手な目標だしエゴだし、ここにはここのルールがあるので、もし不快になられた方がいらっしゃいましたら、すいません。
この場を借りてお詫びします。
技量も伴ってないぺーぺーがこんなことを書くのはおこがましいし、別にどーでもいーよって思われていたら恥ずかしいんですけどね。

私はここで書くって決めました。
続きます。
147 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/28(木) 14:33
私みたいに存分に楽しませてもらってる読者もたくさんいると思う。
男とかみきよしがどうとか、あまり気にしないで続けてください。
いいもの読ませてもらってることに感謝しています。
この調子で頑張ってください。
148 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/28(木) 15:23
鬼気迫る文章ですね。
入り込んでしまいます…!
読んでて疲れたw←誉め言葉です
149 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 09:58









150 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:00









151 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:00









152 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:02





これは14歳の夏のこと。





153 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:03

頭上の窓からスポットライトの様に強い日差しが差し込んで、私の肌を灼いていく。
入道雲の隙間にコバルトブルー。



薄暗い体育館倉庫。
密室のこもった熱気に、私は額に汗が滲んでいるのを感じた。
驚いた。
体中の水分は、もう枯れ果てて残っていないと思っていたから。
154 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:04

遮断されてもなお小さく響く蝉時雨。
陽炎の様に薄く揺らめく煙草の紫煙。
充満する生臭い匂い。
耳にこびりつく下劣なせせら笑い。
身体の中心に埋め込まれた鈍痛。

かび臭いマットに身を投げ出して、私は光に浮かぶ埃のワルツを眺めていた。
155 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:06



どれぐらいそうしていただろうか。
いつの間にか日は陰り、空は白く淀んでいる。



死、という言葉が頭に浮かんでは消え、その方法を冷静に考えている自分がいた。
ライターがあればマットに火を付けていただろう。
カッターがあれば手首を切っていただろう。

でもそれよりも。
それよりもしたいことは。
豪快に笑い飛ばして、いつも私を内側から引っ張り出してくれる彼女。

彼女に会いたい。
156 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:07

私は上体を静かに起こす。
身体の節々が、錆び付いているみたいに軋み、痛んだ。

ゆっくりと立ち上がろうとしたが、末端まで充分に血が回っていなかった様で、脚に力が入らず、頭がくらりと揺さぶられた。
体重を支えきれなくなって、膝から倒れ込む。
しかし小さく息を吸ってまた起き上がる。
私を突き動かす強い衝動。

会いたい。
157 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:10

重い扉を開ければそこには。

見上げた天に敷き詰められた灰色い暗雲。
遠くで、雷の低い唸り声が響いている。



私は一歩一歩、確実に地面を踏み、歩き出した。



もうすぐ雨が降る。



158 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:11









159 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:12

「…5円のお釣りでーすありがとーございましたー…」



よっちゃんとの再会から一夜明けた今日。
少し顔が浮腫んでいることを除けば、普段と変わらない様子の美貴が、いつも通りレジに立っていた。

昨日は結局、這いずる様に自室に戻り、アルコールのせいかすぐ深い眠りに落ちた。
幸い、何の夢も見なかった。
これで夢に彼女が出ようものなら救いようがない。
そしたら美貴は今日バイトを休んでいただろう。
160 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:13

今日美貴がここに来た…つまりよっちゃんと会うことにしたしたのは、確かめたかったからだ。
昨日は情報が錯綜して動揺してしまったけれど、基本的に美貴は幽霊といった類いのものを信じていない。
落ち着いて考えてみれば、ただ単に墓参りのために地元に戻ってきたというのが妥当だろう。
とやかく探るものじゃない。
生身の人間であることを確認して、安心したかったのだ。

しかしそうは思っていても、仕事はいつも以上に機械的だったし、約束の時間が近付くにつれて胸がざわついていったのも事実である。
今朝のニュースでキャスターが、今日は1日中曇りで、ところによって夕方から小雨がぱらつくでしょう、と言っていたのもどこか引っ掛かった。
ところによってってよっちゃんの周りのこと?と一瞬でも勘ぐってしまったからだ。
気にしていない素振りをしていても、確実に意識は敏感になっていた。
161 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:15
6時ちょっと過ぎによっちゃんはやって来た。
自動ドアが開く音がして、美貴は弾ける様にそちらに顔を向けた。



「お疲れ様」

美貴の方まで歩み寄り、そう言ってよっちゃんははにかんだ笑顔を見せた。

肩のストラップが細いだけで、昨日と同じ様なシンプルな黒のワンピースに黒の半袖カーディガンを羽織っている。
相変わらずの白と黒い服とのコントラスト。
闇にぼんやり発光していた肌と背景との確かな境界線。
浮き上がる彼女の存在。
162 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:16

直前まで、なんだかんだ言って胃に穴が空きそうなほど緊張して、落ち着きがなかった美貴だったけれど、会ってしまえばそれは呆気なく治まった。
よっちゃんの笑い顔が妙に人間臭く、照れ屋で人見知りだった幼い頃の彼女の面影を、色濃く残していたからだった。
美貴も恥ずかしそうに笑みを浮かべると、着替えてくるね、と奥に引っ込んだ。



ほら、やっぱ大丈夫だったじゃん、と美貴は胸を撫で下ろしながら制服を脱いだ。
ただスカートの裾からちゃんと脚が生えていることは目ざとく確認していたのだけれど。
163 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:17









164 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:18

海まで行かない?と私服に着替えて戻ってきた美貴に、よっちゃんはそう誘ってきた。

この町は太平洋に面していて、ここから数分歩けば海に出る。
切り立った黒い岩肌の海岸に打ち寄せる白く激しい波飛沫。
危険だから海水浴は出来ないし、あまり人も近付かない。
しかし電車の窓から見下ろすこの広大な海の景色は、美貴がこの町を好きなところの1つである。
そういえば小さい頃、親に内緒でよっちゃんと一緒にここで遊んでいた記憶がある。
波の近くには寄り付かなかったけど、打ち上げられた海藻や流木、その他珍しいものを2人で宝探しの様に探し回っていたんだっけ。

美貴は二つ返事で快諾すると、並んで曇り空の下を歩き出した。
165 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:20

海に出るには地下道を通らなければならない。

緩やかな下り坂で始まり上り坂で終わるそれは、上を電車の線路や国道が走っていてそこそこ距離がある。
今にも消えそうな外灯の弱々しい光がぼうっと点在するだけで、中は薄暗く少し肌寒い。
車が2台通るか、といった中途半端な幅の道路。
その両脇のコンクリートの壁はスプレーの下手糞な落書きで汚されていた。
微かに潮の香りと波の音がする。
166 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:21



久しぶりにやって来て、辺りをきょろきょろ見回している美貴を追い越して、さも歩き慣れた道の様に前を行くよっちゃん。
2人のミュールやパンプスの踵の音が、かつーんかつーんとこだました。
そういえば昔、音が響くのが面白いのと、暗いのが怖いのとで、あー!だか、わー!だか奇声を発して、じゃれ合いながら走り抜けたんだ。

美貴は突然、あーーーーー!!と大声を上げた。
するとよっちゃんは美貴を振り返ってにやりと笑った。
美貴も悪戯っぽく目を細めた。
167 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:22

「そういえばよっちゃん、今何してんの?」
「何が?」
「仕事とか」
「…あー色々」
「色々って何さ」
「んー…やっぱ若いと働き辛いじゃん、何かと。だから色々やってる。
お金欲しいし…うん、色々」
「ふうん」

よっちゃんの語気は段々小さくなっていき最後は独り言になっていた。
若干、彼女の背中が頼りなく丸まった様に見えた。
ちょっと言いにくいことなんだろうな、と察して美貴は話題を変えることにした。
168 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:23

「そういえばさー、よっちゃん!何で転校するとき美貴に何にも言ってくれなかったの!」
「…ごめん」

美貴の冗談ぽく責める口調に、よっちゃんはばつが悪そうに笑った。

いつしか2人とも歩く速度を緩め、会話に夢中になっている。
こうして並んでるとまるであの頃に戻ったみたいだ、と美貴は嬉しくって仕方なかった。
些細なことでも可笑しくって、2人でけらけらと笑い転げていた学校帰り。
169 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:25

「いーや、これは許せないね!…でどうなのよ」
「…え、何が?」
「何がって、病気だよ病気!手術したんでしょ?」
「…病気?」
「…どうしたの?」
「お母さんが言ったんだ」
「…うん」

よっちゃんが目を伏せて、自嘲気味に言い放ったのを見て、美貴はどきっとした。
彼女のそんな表情を見たことがなかったからだ。
そこでやっと夢から覚める。
時の経過をまざまざと見せつけられた。
美貴たちは二十歳になっているんだった。



さっきまでの楽しい雰囲気が一転、重い空気に包まれる。
再び、彼女を追う様にして歩き始めた。
170 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:26



「美貴は変わらないね」

沈黙を破るよっちゃんの言葉。
地下道も残すところ4分の1になったときだった。
あまりにも唐突過ぎて、下を向いて黙々と歩いていた美貴は、へっ!?と、間抜けな返事をしてしまう。
それも気にせず彼女は続ける。

「二十歳になって、大人になって、もっと綺麗になったけど、中身は変わってない。
全然変わってない。それを見て、すごく安心した」

上体だけ振り向いて微笑むよっちゃん。
その目が何か眩しいものを見つめる様に細まっていて、美貴は背筋が凍り付いた。
…やめて、そんな目で見ないで。
171 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:28

「よっちゃんは…」

変わったね、と言おうとして口を噤んだ。
何か言おうと思ってつい口に出してしまったが、これだけは言ってはならないと直感が走ったからだった。



昔から背が高く、すらっとした体型だったけれど、もっと幸せそうに肉が付いていた。
今、美貴の見つめるよっちゃんの肩や腕や脚は、骨の形が分かるほど不健康に痩せ細っている。
白い肌もよく見れば、透明感というよりは血色の悪さが目立ち、ファンデーションでは隠せない、どこか疲れた表情が時折覗いている。
それらは彼女を実年齢より老けさせて見せ、纏う空気にどこか物悲しさを漂わせていた。



美貴の前から姿を消してから6年間。
よっちゃんはどんな生活をしてきたのだろうか。
172 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:29



「…よっちゃんも綺麗になったよ」
「ありがと」

言い直した美貴に、よっちゃんは寂しそうな笑みを向けた。
173 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:30

「…実はね」

ふとよっちゃんは歩みを止め、こちらを振り向いた。
距離を推し測る様に美貴も立ち止まった。
保たれる一定の空間。
そこに張り詰める緊張。
美貴は反射的に身体を強張らせた。
背後からの微かな自然光が、俯いた彼女に薄い影をつくっていた。



「…昨日ね、私、自分のお墓に行ってきたの」



174 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:32

あ、まただ、この感じ。
心臓が大きく脈打って、次第に全身を鼓動に支配される感覚。
自分でコントロール出来なくなる浮遊感。

え?と聞き返そうと思ったけど、声が掠れて音にすらならなかった。

嫌だ嫌だ嫌だ。
身体は上手く動かせなくなるし、頭は痛い。
この短期間で何度体験した?
フラッシュバックしそうになる鮮明な記憶。
雨幽霊白死あああああ!
嫌だ聞きたくない!
もう何も考えたくない!
心の中で美貴は何度も叫び、耳を塞いでしゃがみ込んだ。
175 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:33

「…美貴に聞いて欲しいことがあって」

嫌だ嫌だ嫌だ美貴は嫌だ!
早くここから逃げ出したい早く早く早く!
心は激しく掻き乱されているのに、美貴はそこを1歩も動けない。



言いにくそうに躊躇っていたよっちゃんは、意を決して顔を上げた。
その表情は今にも泣き出しそうな切羽詰まったもので、美貴は思わず息を飲んだ。
一瞬で激しい津波にのみ込まれる。
白に溺れる。



「…私っ…!」



176 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:35

ちょうどそのとき、携帯の着信音が鳴り響いた。
安室ちゃんの、美貴が1番好きな曲。
ぷつり、と緊迫していた糸が切れた。

金縛りが解ける。
ごめん、と断りをいれて、美貴はショートパンツのお尻のポケットから携帯を取り出す。
巽だった。
177 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:36

「もしもし」
「お前どこにいんの?もう駅前にいるんだけど」
「…あ、すぐ行く!」
「うーい」

短い通話。
しかし美貴は助かった、とすこぶるタイミングの良い彼の電話に心底感謝していた。



「…ごめん、もう行かなくちゃ」
「…彼氏?」

見慣れたよっちゃんの困った様な笑い顔。
いつの間にか空気がほぐれているを感じた。
178 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:37

「うん…あの、巽って覚えてる?」
「……………」
「ちっさい頃から、あの」
「………ああ…」
「そう、あいつ」
「…」
「…」
「…美貴」
「え?」
「良かったね」

それは穏やかで柔らかく、今まで見て来た誰のどの笑顔より美しかった。
荒廃した土に降る慈雨みたいな温かさ。
それは、よっちゃんを疑い拒絶した美貴をも優しく包み、申し訳ないやら自分が情けないやらで泣きそうになってしまった。

次いでようやくその言葉の真意に気付く。
ああ、なんだ。
美貴の片思い、ばれてたんだ。
返事の代わりに美貴は小さく照れ笑いを浮かべた。
179 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:38

「じゃあ…またね」
「…うん…」
「…あのさ!明日、空いてる?」
「…うん」
「話、聞きたいから、さ、会わない?」
「…じゃあ夕方、同じ時間に、美貴ん家行くね」
「分かった」

美貴は気恥ずかしくてずっと目が合わせられなかった。
空白の6年間を経て、やっとよっちゃんと本当の友達として繋がれた気がしたからだ。
180 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:39

じゃあまた明日!とそのまま踵を返して美貴は来た道を走って戻った。
身体は羽が生えた様に軽く、心は爽やかな高原の風が吹き抜けていた。
今ならどこまででも飛んで行けそう!
罪悪感からの解放は、美貴をどこまでも自由にし…



…そしてどこまでも盲目にしていった。
181 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:41

薄暗がりに1人残され佇むよっちゃん。
彼女の瞳が、光の透過しない深海みたいに、冷たく静かな情念にたぎっていたことを美貴は知らない。



どうして美貴は1度も顔を上げなかったんだろう。
どうして美貴は1度も振り返らなかったんだろう。
どうして美貴は彼女の気持ちを知ろうとしなかったんだろう。



美貴は一生後悔することになる。
海よりも深い自責の念を抱いて。



182 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:42









183 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:43

美貴は急いでコンビニに戻ると廃棄になった弁当やお握りを鞄にかき込み(本当はいけないらしいんだけど、うちは店長がゆるくて許してくれている)巽の元へ向かった。
店の前のロータリーに停まっている白い軽自動車。
その助手席のドアを開け、シートに身体を潜り込ませる。

「ごめんお待たせ!」
「お疲れー」

運転席で携帯を弄っていた巽が、こちらに顔を向けて白い八重歯を覗かせた。
184 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:45

この日、巽は上機嫌だった。
夏はこれだろ!と断固としてローテーションを変えない「俺・サザンベスト」をBGMに気持ち良く熱唱し車を走らせている。
フロントガラスのダッシュボードには、UFOキャッチャーの戦利品である様々なキティーちゃんが並べられ、ルームミラーにはココナッツの香りがするヘンプのエアフレッシュナーがぶら下がっている。
美貴と巽の趣味や好みが詰まった空間。
彼が嬉しそうに今日の仕事場での出来事を話すのを、美貴は忠犬の様にうんうん頷いて聞き、小麦肌の上でシルバーのネックレスが揺れるのを眩しそうに見つめていた。
185 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:47

「つーか今日の弁当、何?」
「えー焼き肉カルビ弁当2つとー冷やし中華とーたらこと赤飯のお握りとー」
「おっ、分かってんねー」
「つーかあんたこれしか食わないじゃん」
「…分かってんねー」

美貴と巽は食の好みも似ている。
2人ともかなりの肉食だ。
焼き肉カルビ弁当は彼の好物で、これを与えとけばまあ気分を損ねることはない。
だが、美貴もランキング上位に入るほど好きなので、この弁当が1つしかなくて2人も食べたいとき、激しいバトルは避けられないのだ。
186 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:48

獣対獣だからかなりの肉弾戦である。
ときには手も出し足も出す。(そして巽は全く手加減せずに応戦してくる)
最終的には美貴が折れて終戦するのだが、こいつはどんなことをしても欲求を満たそうとしてくるから凄い。(だって女の子に本気でヘッドロックかける!?)

欲しいものは欲しい。
絶対手に入れる。
ガキっぽくて時々呆れるけど、まあ節度はわきまえてるし、美貴は巽のそんな危うさも好きだったりするのだ。
飢えた野生の狼の様にぎらぎら光るその切れ長の瞳に美貴は惚れた。
187 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:50



それはちょっとした冗談のつもりだった。

他愛のない世間話をしながら、巽のアパートに順調に向かっていた。
ふと、よっちゃんに再会したことを思い出し、彼にそのことを伝えようと思ったが、普通に話したんじゃ面白くない。
ちょっとからかってやれ、とドッキリを思い立った。
よっちゃんは巽の初恋の人だし、どんなリアクションが返ってくるか楽しみだった。
188 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:51

「…ねえ…よっちゃんって…覚えてる?」
「あ?誰?」
「よっちゃん…吉澤ひとみ…」
「………」

美貴は深刻な顔と声色をつくりながら、右隣にいる巽の横顔を覗き見た。
彼は表情1つ変えず、僅かに眉をぴくりと動かしただけだった。
189 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:52

「…で、何?」
「…それで…今日…会ったの」
「…どこで?」
「コンビニ…」
「………」
「自分のお墓参りに行った帰りだって…よく見たらね…身体が透けて…」

ばん!!

巽がハンドルを拳で叩き付けた。
その音と衝撃の大きさに、美貴は驚き身を縮ませた。
急変した彼の態度に動揺する。
190 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:54

「…だろ?」
「え?」
「嘘だろ?」

静かにそして強い怒気を含んだ声で問われる。
相変わらず前を見つめ、無表情を貫いているが、彼の瞳は確かに怒りを剥き出しにしていた。
深々とした海の底で激しく燃え上がる青い炎。

美貴はその横顔に、14歳の彼を見た。
噂を口にしたやつの胸ぐらを掴んで殴り倒していった、学生服に包まれた巽のあのー…
191 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:55



美貴は、ごめん、冗談、と小さく呟いて俯くことしか出来なかった。
彼はちっ、と憎々しげに舌打ちすると、家に着くまで何も喋らなかった。
気まずい沈黙が車内に充満する。

曲が「真夏の果実」に変わった。
192 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:56









193 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 10:57

荒々しいセックスだった。
むしろセックスというよりファック。
一方的に食い散らかす、残虐な狩り。
巽は行き場のない怒りを美貴にぶつける様にして腰を打ち付けていた。
美貴の上で激しく呼吸しながら焦った様に細める彼の目には、美貴なんて映ってなかった。
確実に他の誰かを見ていた。

気持ちよくないし、痛いし、悲しいし。
美貴はシャワーに打たれながら少しだけ泣いた。
194 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 10:59

195 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 11:00

静かで涼しい夜だった。
風が優しくカーテンを揺らし、もので溢れた雑多な6畳の部屋はモノクロの世界に沈められている。



なおも巽は壁を見つめる様に、美貴に背を向けベッドに寝転がっていた。
ことが終わってからずっとあんな調子だ。
拒絶。

何に対してそんなに掻き乱されているかは見当がつくし、もともとの引き金を引いたのは美貴だから仕方がないと思う。
ただ理由が分からない。
初恋を、6年前を未だ引きずっているのか。
思いが実らずに終わった淡い恋の顛末を思い出してしまったのか。

じゃあ美貴って何?
美貴との6年間って何だったの?
196 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 11:01

逞しく隆起する筋肉質な背中を見下ろす。
闇に浮かび上がるそれは造形的で美しかったが、いつもみたいに、愛おしいやら抱きつきたいやらの込み上げる感情は湧いてこなかった。

美貴は何もかも馬鹿らしくなって、溜め息を1つつくと、おやすみ、と呟いてベッドに潜り込んだ。
起きているんだか寝ているんだか分からないが、巽はやはり無反応だった。
背中で感じる彼の体温は冷えきっていて、美貴はそれにも泣きそうになった。
197 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 11:03



「…なあ…」
「…何?」

突然、巽が話し掛けてくる。
何だ、寝てたんじゃないのか。
美貴はわざと素っ気なく答える。

巽は、変なこと聞いてもいい?と前置きを入れつつも、暫く沈黙していた。
美貴は、いいよ、と言いながら目を瞑っていた。
このまま眠って聞き流してもいいと思っていた。
198 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 11:04



美貴がうとうとしかけた頃、やっと巽が口を開いた。
高揚のない、掠れた声だった。



「お前、レイプされたら死ぬ?」



199 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 11:05



「…死ぬかもね」



自分の発した声が思いの外、冷たく響いたのに驚いた。

こいつ、どんな顔してこんなこと言ってんだ、と前を覗こうとしたがやめといた。
きっと今まで美貴が見たこともないほど情けない顔をしているだろうから。
200 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 11:06



考えるより先に美貴は眠りに落ちた。
手放してしまえば、通り過ぎてしまえば楽になると思っていた。
6年という歳月は、美貴を大人にするには短過ぎた。

今日のひっそりと静まり返った夜の帳は、荒れ狂う激しい嵐の前兆だった。
201 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 11:07









202 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 11:07









203 名前:遠雷 投稿日:2008/08/30(土) 11:08









204 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/30(土) 11:10

長い…
次回、終幕します。



>>147
ありがとうございます。
私の方こそ感謝しています。
その言葉を頂いただけで、書いてよかったと実感しています。

>>148
嬉しいです、ありがとうございます。
私も書いていて疲れました笑
今回もどっと疲れますが、是非読んでみて下さい。
205 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/31(日) 06:10
うわ、次回で完結ですか
楽しみにしてます
206 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/31(日) 11:51
ドキドキしました
続きが気になります
207 名前:salut 投稿日:2008/08/31(日) 22:51

今回は先にレスを返させて頂きます。



>>205
ありがとうございます。
最後まで楽しんでいって下さい。

>>206
ありがとうございます。
続きはこんな風になりました。



それでは、本編をお楽しみ下さい。
208 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 22:53









209 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/31(日) 22:53









210 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 22:54









211 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/31(日) 22:55



きっかけは1枚の絵だった。



白い画用紙に12色のクレヨンで描かれた絵。
大きな赤い太陽と青い空の下、緑の野原に3体の人間が描かれていた。



212 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 22:57

真ん中は彼女だろう。
他の2人よりも小さな身体で、頭には黒い丸が2つ…つまりお団子がくっついてる。
大きく開いた三角の口からひょっこり顔出しているトレードマークの八重歯。
黄色のTシャツと空色の短パンは彼女のお気に入り。
絵の中でも、彼女は元気に跳び回っていそうだった。

彼女の右隣にいるのはなつみさんだろう。
私が仕事に行っている間、彼女の面倒を見てくれるお隣さん。
これもなつみさんの特徴をよく捉えていて、幸せそうに真っ赤なほっぺたが膨らんでいた。



2人とも楽しそうににっこりと微笑んでいる。
赤、青、黄色、肌色、黒、茶色、橙、緑、黄緑、紫、空色に桃色。
カラフルな色使いが2人に生気を吹き込んでいた。
213 名前:& ◆nQHHXSbE/2 投稿日:2008/08/31(日) 22:58

そして…彼女の左隣にいるのが…私。
目元と口元にほくろがあるから、多分そう。
それは全体の絵に不釣り合いにも、全て黒一色で描かれていた。
肌の輪郭も長い髪も服も黒のクレヨンだけで縁取られ、塗り潰されている。
なぜか目だけが赤い丸で描かれていて、不気味にこうこうと光っていた。
214 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:00

今にも笑い声が聞こえてきそうな2人の絵。
その横に、色を失ってぼうっと佇む、色を失った私。
それはまるで幽霊だった。

私はそこで初めて自分が死んでることに気付いた。
涙がぽたぽたと垂れて、絵の上に落ちていった。
215 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:00









216 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:03

この日は、夏休みの絵日記のお手本になりそうなほどの快晴だった。
白く厚い入道雲に鮮やかな空の青。
部屋でじっとしていても、蝉の大合唱を聞くだけで、汗ばんでくる様な暑い日だった。



午後6時。
辺りはまだ明るいが、日差しは幾分か弱まり、過ごしやすくなっている。
美貴は家の前で、柱にもたれ掛かってよっちゃんを待っていた。
家はお盆でお坊さんが来ていてばたばたとしていたし、何よりお母さんが絡んでくるとうるさいからだ。
217 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:04

程なくして、畦道の向こうからよっちゃんが現れた。
昨日と同じ様に黒いワンピース。
お待たせ、と彼女が微笑んだから、美貴も微笑み返した。



美貴は今までの不安や緊張が嘘の様に落ち着いていた。
これまで知らなかったことがまさに今、メッキが剥がれる様に露になっていく。
それに逐一反応していたが、それももう疲れてしまった。

美貴が巽への恋心を隠していた様に、よっちゃんも巽も、美貴に何かを隠している。
ほつれたセーターの糸を美貴はもう引っ張ってしまっているのだ。
もうこうなったらとことん知ってやろうじゃあないか、と開き直っていた。
218 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:05

だから、神社で話したい、とよっちゃんが言い出しても美貴は動揺しなかった。
やはりそうきたか、とどっしり身構えていた。
昨日の彼女の言葉を思い出す。

「…昨日ね、私、自分のお墓に行ってきたの」

思い詰めた表情と絞り出す様な声のよっちゃん。
神社に何かあるのは明確だった。
美貴は力強く頷くと、2人は歩き出した。
219 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:07



美貴の家から北へ田んぼ道を10分。
山の麓から舗装していない林道を15分。
緩やかに蛇行する道を、ひたすらよっちゃんの後を追って登る。
吹き出る汗をTシャツの裾で拭い、2人は無言で進んで行った。
美貴は、汗1つかかない彼女の涼しげな背中を眺めていて、ふと昔を思い出した。
220 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:08

この状況とは全く逆で、小さい頃は美貴が先頭でよっちゃんが後を追っかけていた。
置いてくよ!と怒る振りをする美貴に、だってこれ…といつも何か面白いものを持ってくるよっちゃん。
そうやって、脇道に逸れてははしゃいで、なかなか目的地に着かなかったこともあったよね。

今では脇目も振らず颯爽と歩くよっちゃん。
彼女の後ろ姿に美貴は、やっぱ変わっちゃったね、と心の中で呟いた。
221 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:10



林道を抜けると駐車場にもなっている更地についた。
急に景色が切り開かれ、開放感に大きく息を吸う。
もうその頃には日は暮れかけていて、涼しい風が2人の間を通り抜けて行った。

柵の向こうを見下ろせば、手前には田んぼや畑が広がり、その中にぽつぽつと明かりの灯った住居が点在している。
そしてその奥には雄大な太平洋。
美貴とよっちゃんが生まれ、そして育ったこの田舎町を一望出来る場所。
222 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:11

ちなみに駐車場から左に入ったところに、ここら辺の住民がお世話になる墓地がある。
何の変哲もないどこにでもある小さな墓地だが、他とは違うところが1つだけあった。
普通の墓は、通りを挟んで向かい合っているものだが、ここの墓石の正面は全部が全部、町の方を向いているのだ。

それが不思議で堪らなくて、幼い頃、お母さんに訊ねたことがあった。
すると彼女は、私たちをいつでも見守ってくれる様によ、と答えて美貴のおでこを優しく撫でてくれた思い出がある。
当時の美貴にはその意味がよく分からず、ふうん、と曖昧な返事を返していたが、今思い出してみて、やっとそのことが理解出来た。
223 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:13

オレンジ色の夕日が海の縁に沈んでいく。
その境界線は溶ける様に白み、薄い水彩画みたいな青を浸食していく。
波が黄金色に揺れ、入道雲に影が落ちる。
やがてその影は範囲を広げ、色を濃くしていった。
濃紺の闇が世界をゆっくりと包んでいく。

美貴とよっちゃんはその一連の様子を黙って眺めていた。
幻想的な風景だった。
そしてそれは夏の終わりを感じさせる様な、物悲しさを美貴に残していった。
224 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:14



こっち、とよっちゃんはおもむろに呟いて歩き出した。
美貴もその後をついて行く。
墓と言っていたから、てっきり墓地の方に行くと思っていたが、よっちゃんは逆の神社の方に足を進めていた。



神社と言っても大層なものではない。
大人の背丈より少し高いくらいの鳥居と奥に小さなほこらがあるだけだ。
どちらもかなりの年代もので朱色は剥げ、半分朽ちかけている。
それらは鬱蒼と茂る雑木林に埋もれる様に存在し、夜は勿論、昼間に訪れても薄気味悪い場所だった。
225 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:15

よっちゃんはその神社の鳥居の辺りで歩みを止めた。
その近くに1本だけ、仲間外れにされているみたいに林から飛び出て生えている木があった。
それはちょうど鳥居と林の間で影になっていて、なかなか見つけにくい。
ひょろりと長く、頼りない木だった。
よっちゃんはその木に近付き、振り向いて言った。
その顔は困った様に笑っていた。



「これが私のお墓」



226 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:17

木の根元には、ひしゃげて錆びたジュースの缶が2つ、3分の1ほど埋まっていて、それぞれにまだ真新しい白と黄色の菊が刺さっている。
周辺の土は少し盛り上がっていて、最近掘り起こした跡があった。
よく見てみればそれは、町から背を向ける様にしてつくられていた。



「最初、私はここに14歳の私を埋めたの」



よっちゃんは、お墓に向き合い、美貴に背を向けてしゃがみ込んだ。
美貴はその華奢な背中を黙って見つめていた。
急に強い風が吹き、木々をざわざわと揺らした。
227 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:18



「私、あの日、死んでもいいと思ってた。
全部がどうでもよくなって、死んだら楽になれるのにって思ってた。
でも浮かんできたのは美貴の顔で、気付いたら美貴の家まで来てた」



よっちゃんは淡々と喋り続ける。
そして小さな子供を慰める様に、土の表面を撫で始めた。
228 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:19



「多分、笑い飛ばして欲しかったんだと思う。
何やってんのーって。
そんなのどうってことないよーって。
あのとき、美貴が笑いかけてくれたから、私は生きていけると思った」



ゆっくりと彼女は指を立て、土を掘り始める。
白く細長い指が黒い土で汚れていく。
229 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:20

美貴はあのとき…多分そうであろう、あの雨の日を思い出す。

やめてよ、よっちゃん。
あのとき美貴は、よっちゃんのことを怖いって思ったんだよ。
よっちゃんのことを、いなくなっちゃえばいいって思ってたんだよ。

美貴はきゅうっと心臓を握られた様に苦しくなった。
自然と一筋の涙が頬を伝った。
230 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:23



「美貴はいつも私を外へ連れ出してくれたよね。
小さくうずくまってる私の手を引っ張ってくれたのは、どんなときも美貴だった」



よっちゃんはなおも土を掘る手を止めない。
美貴はそれをただ見ているしかなかった。
金縛りにあった様に、1歩も動くことが出来なければ、言葉を発することも出来ない。
ただ次から次へと涙が零れてくる。
それは、無限に湧き出る泉の如く、満たされては溢れていく。
遠くの空が低い唸り声を上げた。
231 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:24



「…今回はね、二十歳の私を埋めに来たの。
ちょっと嫌なことがあって…
私って何だろうって…
色んなことを犠牲にしてまでしてきたことって何だったんだろうって…
…疲れちゃったんだ」



土の間から何かが覗いた。
よっちゃんはそれを丁寧に取り出そうとする。
風が強くなる。
一斉に周りの闇がざわめき出す。
暗雲が蜷局を巻き、空を覆う。
背筋が震える。
鼓動が早くなる。
232 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:26



「だから、美貴に会ってね、また笑い飛ばしてもらおうと思って…
こんなことで落ち込んでる私の背中をばちんと叩いてさ。
大丈夫だよって。
まだ頑張れるよって」



土にまみれた手でよっちゃんが取り出したのは缶の入れ物だった。
円盤形のクッキーの缶。
よっちゃんはそれを抱えて立ち上がり、俯きながらも美貴の方を向き直った。
233 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:28



「美貴に会えてよかったよ」
「…あ…あ……」



枯れた喉の上を音が虚しく擦っていく。
嗚咽は激しくなっていく。
呼吸が出来ない。
立ってられない。
よっちゃんはおもむろに顔を上げた。



「でももう駄目だあ」



234 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:29

その瞬間、白い閃光が辺りを走った。
全ての影を灼き尽くす様に疾く、強く。
追って、空間を引き剥がす様な強烈な雷鳴。
大気を焦がし、つんざく轟音。
真っ暗な空から一筋の稲妻が落ちた。
それは美貴を突き刺し、頭の頂点から引き裂いていく。



雷光の一瞬の間隙に見たよっちゃんの顔は、あの今にも泣き出しそうな笑顔だった。



235 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:30









236 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:31

空が泣き出す。
ぽつぽつと漏れる様だったそれは、次第に酷くなり、土砂降りになる。
ごうごうと風が唸り吹き荒ぶ。
怒号は絶えず、幾度となく空が発光する。
強く、強く、もっと強く。
叩きつける雨。
美貴にはそれが、よっちゃんの涙を代弁しているとしか思えなかった。



暫く2人は豪雨の中、立ち尽くしていた。
動けなかった。
美貴が一歩でも動けば、よっちゃんは揺らめく陽炎の様に消えてしまいそうだったから。
237 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:33



「行って」



下を向いたままよっちゃんが呟く。
彼女の細い身体を雨が容赦なく打ち付けている。
儚げな白が消え入りそうに灯っていた。



「…よっ…ちゃ…」
「行って!!」



絶え絶えの息の中、発した美貴の声はよっちゃんの強い口調に阻まれた。
その彼女の声が若干震えていることに気付いた。
238 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:34

美貴はよっちゃんに背を向けて走った。
がむしゃらに。
まさしく逃げる様に。

また彼女をを闇の中へ置いて来てしまった。
そう、美貴はよっちゃんが思ってる様な人間じゃない。
美貴は…
美貴は…
美貴はーーー…
239 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:34









240 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:36

私は濡れた地面を蹴る美貴のスニーカーの音が小さくなっていくのをぼんやり聞いていた。

「…美貴……」

口の中で呟いた言葉は、思いの外大きく響いた。
私は堪らなくなって、手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んだ。
腕の中の缶が落ちて、雨に晒される。

「……………!」

最後に呟いた言葉は雨音に消された。



願わくば、この頬に伝う熱いものが涙だと信じたい。



241 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:37









242 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:39

美貴は山道を駆け下り、家に帰ると、風呂にも入らず、濡れた身体のままベッドに潜った。
目をぎゅっと閉じ、丸まって震える身体を抱き締めた。
被った布団の中でも激しく響く雨の音は、美貴を責める様に耳から離れない。
それは美貴に科せられた罰だった。

暴風ががたがたと窓を叩き付け、強雨が屋根を突き破ろうとする。
外側から内側から、嵐が美貴を巻き込み掻き乱し苛んだ。
眠れない夜を明かした。
長い長い夜だった。
243 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:40









244 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:41









245 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:42









246 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:43



次の日、巽が死んでいた。
胸をナイフで一突き。
即死だったそうだ。
大きな血溜まりの中でうずくまる巽は、まるで赤い海で溺れている様だった。

誰かが部屋に押し入った形跡がないことから、警察は自殺と他殺の両面で捜査をするらしい。



247 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:45



その数時間後、海岸に女の遺体が打ち上げられた。
身元はまだ分かっていない。



248 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:46





皮肉にも強烈な日差しが照りつける、鮮やかによく晴れた日だった。





249 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:47









250 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:47









251 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:48









252 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:50









253 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:52










254 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:53





遠雷





255 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:53

256 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:54

257 名前:遠雷 投稿日:2008/08/31(日) 23:54

258 名前:salut 投稿日:2008/08/31(日) 23:56

「遠雷」いかがだったでしょうか。

夏の日差しみたいに、強烈に照りつけて濃い影を残す様な…
夕立ちみたいに、短時間で強く降り付ける様な…
そして嵐の翌日の快晴みたいに、呆気ないラストを…
そんな雰囲気を意識して書きました。

雨が続いた夏の終わり、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
レスを下さった方々、励みになりました。
ありがとうございます。
読んで下さった皆様に感謝します。



2008.08.31. salut
259 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/01(月) 00:14
うーん…大体は文脈と行間から読み取れましたが
分からないことだらけです
ochiスレなので読者レスでのネタバレは影響ないと信じて

病気のこと
きっかけだという絵のこと
絵に描かれていたのは結局誰だったのか
吉澤は6年間何をしていたのか
最近あった嫌なこととは何だったのか
そしてクッキーの缶

結局明かされなかったことばかりでモヤモヤしてますが面白かったです
お疲れ様でした
260 名前:a 投稿日:2008/09/01(月) 00:43
面白かったです。
またお会いしたいです
261 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/01(月) 16:32
雰囲気も素敵だしこれからも頑張ってほしいです。
でもやっぱり謎が残りすぎですね。
これはあれですか?ひぐらしのように解答編があるんですかね?
だったら期待待ち!!
262 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/01(月) 16:58
あー確かに解答編ほしいですね
作者さんは分かって書いてても、読者からすれば分からないことが多すぎなのでw
特に>>259さんが書かれていることの辺りが私も全く分かりません
他にも色々とありますが

最終回の前まではかなり面白くて引き込まれる内容でした
263 名前:salut 投稿日:2008/09/03(水) 00:45

お久しぶりです…ってそんなに時間経っていないですね。
予定より早く出て来てしまいました。



レスありがとうございます。
緊張しながら見守らせて頂きました。
猛省の連続です。
あーそうだよなー続きがあるの知ってるのって作者である私だけだもんなー…と肩を落としながら。

あ、言っちゃった。
264 名前:salut 投稿日:2008/09/03(水) 00:47

えーそうです。
「遠雷」には続編があります。
解答編…なんて大層なものではございませんが、1つのお話として成立させて、その中で色々明らにしていこうと考えています。

また、話を盛り上げるために沢山の伏線を用意しましたが、その中には「誰かのついた嘘」や「それほど重要じゃないけど誇張されていること」「もしくはその逆」が隠れています。
続編ではそれらもちゃんと辻褄を合わせていこうと思ってますので、ご自身の予想と照らし合わせて楽しんで頂きたいです。
265 名前:salut 投稿日:2008/09/03(水) 00:49

ちなみに続編は冬にお届けします。
もう話は出来ていますし、焦らすことでもないんですが、物語の雰囲気を大切にしたいのでそう決めました。
また、時間があれば超番外編なるものものせたいです。
これは全く本編とは関係ないんですが、意外な人が主人公です。
こちらは出来れば秋に。

…と、かなり間が空いてしまうので、近日中に続編の予告だけでもアップします。
もしかしたら、ネタばれの可能性がありますので、必要のない方は次回の更新ご注意下さい。



応援して下さった読者様を少しでも置き去りにしてしまった自分を戒めつつ、続編では皆さんを納得させられる様なエンディングをご用意したいと思っていますので、もう少々お付き合い下さい。
がっかりさせてしまってすいません。
サプライズ大好きなんです、見事な空回りですが。

ではまた。
266 名前:salut 投稿日:2008/09/03(水) 00:49

>>259
ありがとうございます。
何か拍子抜けさせてしまってすいませんでした。
レスを頂いてから、速攻で続編のお知らせを書こうとしましたが、必死で我慢しました笑
箇条書きされた謎は全て続編で明かします。
>>259さんにもすっきりして頂ける様なラストをご用意しますので、今暫くお待ち頂けると光栄です。

>>260
ありがとうございます。
もう出て来ちゃいました。
私もまたお会いしたいので、また続編で…

>>261
す…鋭い…笑
ありがとうございます!
ご期待にそえられるか分かりませんが、頑張ります。

>>262
…ですよね。
ここで終わってしまったら、読者を無視するのも甚だしいですよね。
最終回に新キャラ出して放置っていう…笑
全部明らかにしますので、続編もお楽しみ下さい。
「かなり面白くて」はとても嬉しかったです。
ありがとうございます。
267 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/03(水) 00:59
うわー、なんかしてやられたって感じですw
でも、続編冬ですか…と、遠いっすね
268 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/05(金) 03:25
冬まで正座して待ってる
269 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 22:49

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270 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 22:51



雪を見るとあなたを思い出す。



と言っても、暗闇に輪郭を溶かしたあなたの肌が、小さな私の目にも焼き付けられるくらい白かったってだけ。



今は顔も声も覚えちゃいない。



271 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 22:52



ねえ。



ねえ、ママ。



幼い私は、何かあなたにしてあげられることがあったかなあ。



272 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 22:53

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273 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 22:55





「遠雷」続編・予告





274 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 22:55

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275 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 22:57

「ゆーきー!!」

のんは遠くの山にこだまさせる様に大きく叫んで、煌めく銀世界へ飛び込んでいく。
確か、大好きなアニメをちゃっかり観終えてからだったから、日曜日の午前中のことだ。
後ろで、田舎臭いちゃんちゃんこを羽織ったなちみが、こらこら転んじゃうぞ、とほっぺを真っ赤にさせている。
276 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 22:58

普段なら赤茶の塗装が剥げた錆びた鉄階段も、今はうっすら雪が積もっていて、まるでお城の舞踏会へと導くカーペットの様。
のんは早る気持ちを抑えながら、足を1歩1歩揃えては、慎重に慎重に降りていく。
が、最後の1段をクリアして、さあ駆け出そうとしたときに、赤い長靴がつるっと滑ってあえなく転倒してしまった。
ふかふかの積雪に、大の字の人がた。
転んだついでに雪を食べてみたらあんまり美味しくなくて、いちごのシロップが欲しくなった。

「やっぱそっくりだねえ」

むくりと起き上がって振り返ると、既に階段を半分まで降り終えたなちみがころころと笑っていた。
のんが転ぶと、なちみはいつも心配するでもなく慌てるでもなく、そうやって幸せそうに顔を綻ばせる。
だからのんはどんなに痛くても血が出てても涙を堪えて、にっと剥き出しにした歯を見せられるんだ。
277 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:00

昨日の夜から降り始めた雪は、今もまだちらちらと舞っている。
灰色に光る空から次から次へと、それこそ無限に落ちてくる冬の妖精のダンスを、のんはぽかんと口を開けて見上げていた。
それはこのまま止まらなくて、3歳のちっちゃなのんなんてすぐ埋もれちゃって、この木造2階建てのぼろアパートすらのみ込んでしまうんじゃないかと想像しては、身体が疼いてしまって仕方なかった。



土地だけはある山間の静かな田舎町。
低いブロック塀と生け垣に囲まれたアパートの無駄に広い庭を、のんは壊れたミニカーの如く走り回っていた。
まだ誰も足跡を付けていない新雪の感触が何とも言えず気持ち良くて、のんはゴジラみたいに白い息を吐きながら嬌声を上げている。

たまに雪を掬っては天に放って自分にかけてみたり、雪玉を丸めてみてはなちみに投げてみたり。
階段の下で手のひらを擦っては息を吐きかけて、のんを眺めていたなちみだったけど、彼女の赤くなった可愛い鼻に、のんの豪腕から繰り出された速球が命中したのを合図に、やったなあー!と雪合戦が始まった。
278 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:01

なちみはお隣に住むお姉さんだ。
仕事で夜が遅いママに代わって、いつものんの面倒を見てくれてる。
今日だって、ママはそれこそ死んだ様に寝てるから、なちみがのんの遊び相手になってくれてるんだ。
なちみだってお仕事してるのにね。

なちみがママだったらいいのに、とのんは1日に何回も心の中で呟く。
幼いながら、それをママに言ったら傷付くのは薄々感じるから、彼女の前では口にしたことはない。
けれど1度だけなちみにはこっそり耳打ちしたことがある。
そうしたら、彼女は急に顔をしかめて、そんなこと言っちゃ駄目、と真剣に諭してきた。
だからそれからは、これはのんだけの秘密の呪文。

でものんはテレパシーってあるんじゃないかって疑っている。
だってママはのんを見て、時々寂しそうな顔をするから。
279 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:02

280 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:03

「あれ、のの何してるべさ」

はしゃいでたのんの鼻から盛大に鼻水が垂れているのに気付いたなちみは、部屋に箱ティッシュを取りに戻った。
そしてその間にもう別の遊びを始めているのんに近付いて訊ねてきたのだ。

「うあぎあんー!」

元からあまり滑舌は良くないのに更に鼻が詰まって、全く何を言っているか分からない状態になっていた。
はい、ちーん!となちみに促され、彼女の手にしたティッシュで思いっきり鼻をかんだ。
鼻の下ががびがびした。

「えっとね、うさぎさんつくってるの」
「へえー雪うさぎねえ…」

なちみが懐かしそうに微笑むのを見て、のんは作業に戻った。
雪を掻き集めては、大きなオムライスの様な山を盛っていく。
手袋なんてお構いなしに、指が痺れてかじかんでいたけど、のんは夢中になって雪を固めていた。
281 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:04

それを暫く眺めていたなちみは、おもむろに生け垣の葉っぱを2枚失敬していた。
ばさばさと他の葉が揺れ、積もっていた雪が落ちる。
その音に反応したのんの隣になちみはしゃがみ込んで、じゃーん!耳だよー!と弾んだ声で雪山に差した。
深緑のつるつるした細長い葉っぱ。
のんは、ほおお!と感嘆の声を上げると、暫くして周りをきょろきょろと見渡し始めた。
なちみが不思議そうに小首を傾げる。

「どうした、のの?」
「石、探してるの」
「石?」
「うさぎさんの目!」

するとなちみは、にやりと口を引き、ちっちっちっ!と立てた人差し指を振った。
そして、ちょっと待ってて、と残してどたどたとまた部屋へ戻って行った。
今度はのんが首を傾げる番だった。
282 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:05

帰って来たなちみの手には箱ティッシュはなく、変わりにぎゅっと拳が握られていた。
えへん、と咳払いをし、偉そうな口調で訊いてくる。

「うさぎの目っていったら赤じゃないかい?」
「………あ!」
「ふふん!…ね、ののは何でうさぎの目は赤いか知ってる?」

なちみは得意になって質問を続けた。
黒目がちの瞳が更に三日月の形になり、柔らかそうな頬がぷくぷくと持ち上がっている。

なちみの表情や台詞や仕草はどこか幼い。
地が童顔で歌が上手いことを含めて、次の歌のお姉さんは彼女が襲名すべきだとのんは常々思っていた。
283 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:06

「じゃーん!これでーす!」

頭をフル稼働して唸っているのんの返答を待たずして(というか、この人は最初から待つ気なんてなかったに違いない)なちみが握った両手を突き出してきた。
まるで花が開く様にゆっくりと解かれた手のひらには飴が5つ。
赤い包みの丸い飴玉。



うさぎの目が赤い理由に突然飴が出てくるのは、解答として全く的外れだったけど、食べ物を目の前にしたのんには最早そんなことはどうでもよかった。
目をきらきらさせているのんを尻目に、なちみは飴を2つ、包みから出した。
そしてそのまま、その身体に悪そうな合成着色料の赤を、雪山の葉っぱの下辺りにそれぞれ埋め込んだのだ。

完成したのは、大きな胴体に不釣り合いの一回り小さい耳と目を持った、歪なのんの雪うさぎ。
284 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:08

あー飴もったないー!とのんが非難したら、ばっちくないから後で食べな、と頭を撫でられた。
いいの!?となちみを見上げたら、口に飴玉を放り込まれた。
それを目を閉じてゆっくり舌で転がして味わう。
あ、これはいちご味だ。

「甘い」

幸せな砂糖の味にほっぺが溶けちゃうと思って、両手で顔を包んでにやけるのん。
のんを見下ろすなちみも、満足そうに目尻を下げている。
彼女の頬もぽこりと飴玉の形が浮き出ていた。



ここで私のこの記憶は途切れている。



285 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:08

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286 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:10

毛布に包まってすやすやと眠るなちみを起こさない様に、のんは慎重にアパートのドアを閉めた。
冬の早朝のしゃんとした空気が、静かに沸騰していたのんを少しだけ冷ましてくれる。



のんも今年の6月で14歳になった。
小さい頃にのんを捨てたママのことなんて今まですっかり忘れていたけど、つい最近なちみに全てを聞かされた。
ただ単純に興味が湧いたんだ。
14歳。
今ののんと同じ歳で家を飛び出した彼女に。
287 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:11

ママがのんを捨てて、再び家を出たのは9年前。
今、どこで何をやってるかなんて見当もつかないけど、手掛かりならある。



登りかけの朝日が眩しくてのんは目を細める。
白く浮かぶ息を隠す様にマフラーに顔を埋めて、のんは歩き出した。
288 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:12



吉澤希美、14歳。



私は母に会いに行く。



289 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:13

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290 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:14





雪うさぎ





291 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:15

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292 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:15

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293 名前:予告 投稿日:2008/09/09(火) 23:16

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294 名前:salut 投稿日:2008/09/09(火) 23:17

続編はこんな感じになります。
設定の無理矢理感は否めませんね。
目を瞑って下さい。
登場人物も増えますし「遠雷」とはまた違った世界感をつくっていきたいです。

…それにしてもスキャンダラスなメンバー好きみたいですね、私。
…なぜ………



何か若輩者のくせに大風呂敷広げちゃった感が恐縮ですが、予告はあまり深読みせず一旦忘れて頂いて笑、ちょっと肌寒くなってきたな、というときにまたこのスレを覗いて下さると嬉しいです。

初めて想像を文章にして、初めて人に読んで頂いて、毎日が刺激的でとても勉強になりました。
心から感謝しています。
また短いお話なんか書きたいなあと目論んでいるので、その内多分どこかにひょっこり現れると思いますが、見つけたらまた気軽に読んでやって下さい。
295 名前:salut 投稿日:2008/09/09(火) 23:19

>>267
してやったり!なんて笑
リアクションありがとうございます、安心しました笑
冬…遠いですね…;;
でもその頃にはもっといいものをお届け出来る様に精進します。

>>268
つ旦
粗茶ですが…
こんなものしかご用意出来ませんでしたけど、待って頂けて光栄です;;
ありがとうございます。





ではまた、雪の季節に。
296 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/12(金) 14:43
ずっとまってます。
297 名前:sage 投稿日:2009/01/10(土) 14:08
続きめっちゃ待ってます。
298 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/10(土) 14:09
↑あげてすみません。
299 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/11(日) 00:11
そういうときは落として
300 名前:salut 投稿日:2009/01/12(月) 15:24

>>296-298
まとめてしまってすいません。
ありがとうございます、凄く嬉しいです。

>>299
お気遣いありがとうございます。



冬に、という約束でお待たせさせていたのに、本当に申し訳ございません。
この場を借りてお詫び申し上げます。

突然ですがHPをつくりました。
ttp://salutsaisai.web.fc2.com/

続きは登場人物もお話も、かなり自由に考えているので笑、こちらで書かせて頂きます。
多分、冬は越してしまうかもしれませんが、ぼちぼち気長にお待ち頂けたら光栄です。
本当にすいません、よろしくお願いします。
301 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/13(火) 02:48
わーい待ってましたー
報告ありがとうございます
他スレも更新おつです

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