神様、この恋を
1 名前:竜斗 投稿日:2008/04/25(金) 20:27

田亀普及。
どこかで見たことある方もいらっしゃるかもしれません。
ただの普及活動なのでそっと見守ってやってください。
新作はあまり期待しないでください。

田亀たまに藤道。
総攻&モテれな傾向。




2 名前:竜斗 投稿日:2008/04/25(金) 20:28



かわいい彼女のおかしな行動/田亀



3 名前:かわいい彼女のおかしな行動 投稿日:2008/04/25(金) 20:30


おかしい。
絶対におかしい。


「もーガキさぁん」
「亀痛いから、力入り過ぎだから」

もうすぐ一日の仕事が終わる。
今は地方にきとるから、このままホテルに泊まって明日東京に帰るという日程。
そろそろマネージャーさんがきて、みんなで移動になるんだろう。

しかし…なんか、今日は変だ。

何がって、絵里が。
まぁ絵里が変なんはみんな知っとることやけど。
朝からずっと、いつもと違っとった。

「みんなー、ホテルに戻るよー」
「はーい」

それぞれ自分の荷物を手にして楽屋を出て行く。
絵里は…ガキさんと腕を組みながら。
ほんと、なんでなんやろうか。



4 名前:かわいい彼女のおかしな行動 投稿日:2008/04/25(金) 20:36



「おはよーございまーす」
「おはよう亀ちゃん」
「おはよぉ」

集合場所に絵里がきてみんなに挨拶する、毎日見る光景。
が、その後からの行動がおかしかった。

「れーな、おはよー」
「はよ」

そう言っただけで、れいなをスルーしてさゆの元へ。

………は?
あれ?なん?
どうしたと?

毎朝れいなを見つけると嬉しそうに笑って、横にくっついて離れんのに。
れいなの顔をちらっと見ただけで、笑いもせんかった。
…なんかしたっけ?

昨日は別々の部屋、つーか最近同じ部屋になっとらんし。
寝るまで絵里はれいなの部屋にいるけど、そん時は普通やったし。
絵里が部屋戻る時に…ちゅーしてやったし。
特に絵里を怒らせることはしとらんと思うんやけど。



5 名前:かわいい彼女のおかしな行動 投稿日:2008/04/25(金) 20:42

楽屋に入ってもれいなの傍にこんと、他のメンバーと喋ったり。
昼もいつもなら弁当を手に取ったら真っ先にれいなのとこにくる筈が、さゆやガキさんと一緒で。

「ちょっとれいな、亀井ちゃんに何したの?」
「は?なんもしてないですけど…」

さゆを絵里に取られた藤本さんが不機嫌そうに隣に座った。
何したって…こっちが教えてほしいっちゃ。


6 名前:かわいい彼女のおかしな行動 投稿日:2008/04/25(金) 20:44


「亀井ちゃん、れいなと何かあるといっつも美貴からしげさん取るからさぁ」

いやいや、それはさゆも同じやけん。
藤本さんと喧嘩したりするとすぐ絵里にひっついて離さんくて。
仲直りするまでずっとそうやけん、勘弁してほしか。

「あ、でも今日は部屋割り自由だし明日オフなんだから。美貴はしげさんと一緒になるからね」

あ、そうなんや。
部屋割りが自由なんてれいなは知らんかったけど、たぶん藤本さんは吉澤さんに聞いたんやろ。
れいなやって、絵里と一緒がよかよ。
でもこんな調子じゃ、無理やろうか…。

結局、傍にくるどころか目すら合わせてくれんくて。
移動車の中でも絵里はれいなから離れたとこに座っとった。



7 名前:かわいい彼女のおかしな行動 投稿日:2008/04/25(金) 20:45



ホテルのロビーに到着すると、吉澤さんが鍵を手に集合をかけた。

「今日は全部二人部屋ね、好きな人と組んでいいから」
「はーい」
「じゃ行くか、小春」

そう言って自分の分以外の鍵を藤本さんに渡して、小春と部屋へ向かった。
…吉澤さん、小春の保護者みたいやけん。
藤本さんも自分の鍵を取って残りを新垣さんに渡し、さゆの手を取って吉澤さんの後を追った。

残ってるのはれいな、新垣さん、愛ちゃんと…絵里。
どうするんやろ…やっぱり新垣さんとなんやろうか。

「ガキさん、鍵ちょーだい」
「はいよ」

ん?新垣さんから鍵を受け取ったってことは、新垣さんとじゃないんか。
じゃあ、愛ちゃんと?


8 名前:かわいい彼女のおかしな行動 投稿日:2008/04/25(金) 20:47

ぼーっと絵里を見てると、いつの間にかれいなの目の前に立っとった。
何も言わずにれいなの腕を取って歩き出す。

「え…絵里?」

戸惑うれいなを無視して足を進める絵里。
その横顔は無表情。
なん…何を考えてんのか分からん。


部屋に着くまで無言のまま。
鍵を開けて中に入り、荷物を隅に置く。
絵里が話すのを待っとるんやけど、相変わらずこっちを見ない。

「…あー、れいな風呂入ってくる」

沈黙に耐えられなくなり、着替えとタオルを持って風呂場へ向かう。

それでも絵里は、何も言わんかった。




9 名前:かわいい彼女のおかしな行動 投稿日:2008/04/25(金) 20:49


「…どうしたもんやろうか」

風呂から上がって部屋着用のジャージに腕を通しながら独り言。
何も話してくれないんじゃ、どうにもならん。
れいなから話しかけられる雰囲気でもないし…。
だからといってこんままじゃ…。

ここで悩んでても仕方ないと絵里の元に戻ると、ベッドに腰掛けてテレビを見ていた。
れいなが戻ってきたのは気付いとると思うんやけど、絵里は背中を向けたまま。

「…絵里、風呂入ってきんしゃい」
「………うん」

ようやく口にした言葉はたった二文字。
れいなと同じように着替えとタオルを持って風呂場へ入って行った。
一度も、れいなを見ないまま。

「あー……」

ばふっ、とベッドに倒れ込む。
なんなんやろう、この重い空気は。
逃げ出したいけど、そんなことしたらますます悪化しそうやし。


10 名前:かわいい彼女のおかしな行動 投稿日:2008/04/25(金) 20:51

うつ伏せだった体を反転させて天井を見つめる。
目を閉じてこれまでの自分の行動を思い返してみた。
けど…考えても考えても、こうなった理由が分からん。

なんか、疲れた…。
普段使わない頭をたくさん使ったし、仕事も忙しかったしで、だんだんと意識が遠退いていく。
ふわふわとしたその心地好さに身を任せようとしたその時、

「……ぅ」

何かが上に乗っているような感覚、体が動かん。
まさか…金縛りとか?
そんなに疲れとるんかなぁ…。
目を開けるのもなんとなく怖い気がしてそのままでいたら、唇に柔らかい感触。


―――なん?


恐る恐る薄く目を開くと、そこには…ドアップの絵里の顔。


11 名前:かわいい彼女のおかしな行動 投稿日:2008/04/25(金) 20:52

「っ!?…な、何しとー!?」

覆い被さってる絵里の肩を掴んで体を遠ざけた。
見上げた絵里の頬は紅くて、瞳は潤んでて。
…これは、どういう状況?

唖然とするれいな、それでも絵里はまたキスをしようと顔を近付けてくる。

「ちょ、待ちんしゃい!」

慌てて体を起こして絵里を止める。
そしたら、不満気に唇を尖らせて上目遣い。

「れーな…ちゅーしたくない?」
「したいけど…って、そうやなくて!お、怒ってたんやないの?」

そう言うと、きょとんとして首を傾げた。

「誰が?」
「絵里が」
「誰に?」
「れいなに」
「何で?れーな、絵里怒らせるようなことしたの?」
「いや、何もしとらんけど…」

れーな意味分かんなーい、って…意味分からんのは絵里やろ。
とりあえず怒ってないってことには安心したけど。

まだはてな顔の絵里に、今日一日の様子を話した。


12 名前:かわいい彼女のおかしな行動 投稿日:2008/04/25(金) 20:53

「あー、そう言えばそうだったかも、で?」
「で?やなくて、何でれいなんとこ、こなかったん?」
「…やー、それはぁ…」

耳まで紅くしてもじもじしとる絵里。
や、かわいいんやけどね?

「なんか…れーな見たらすっごい甘えたくなっちゃって」
「…は?」
「だってだって!こっちきてから一回も同じ部屋になれなかったし」
「毎日れいなの部屋きとったやろ」
「そーだけどぉ……ちゅーも全然してなかった」
「絵里が部屋戻る時にしてるやん」
「あれだけじゃやなの!」

んなこと言ったって…同室の人がおるんやから。
絵里がきとる時は、大体他の人もおったし。

「れーなの顔見たら…がまんできなくなりそうだったんだもん」

れいなのジャージの袖をちょこんと握って。
…そんなかわいいこと言われると、れいなのが我慢できんのやけど。

13 名前:かわいい彼女のおかしな行動 投稿日:2008/04/25(金) 20:54

絵里の腕を引っ張って抱き寄せ、ぎゅーっと力を込めて抱き締める。
え?え?、とあたふたしてる絵里。
少し体を離して顔を覗き込むと、真っ赤になって目を逸らした。
あんなことしといて、今更恥ずかしがらんでよ。

頬を片手でそっと撫でて、口付ける。
絵里の腕がれいなの首に回された。
舌を絡ませながらゆっくりと押し倒す。
唇を離すと絵里の口から漏れた色っぽい溜め息。
今にも涙が零れそうなその瞳は、誘ってるようにしか見えんかった。

「絵里が悪い」
「ふぇ?」
「今日は、寝かせんよ?」
「……ん」

今日初めて見た、絵里の笑顔。
かわいい彼女のおかしな行動は、すごくかわいい理由やった。




14 名前:かわいい彼女のおかしな行動 投稿日:2008/04/25(金) 20:55



おわり。



15 名前:_ 投稿日:2008/04/25(金) 20:57

 

16 名前:_ 投稿日:2008/04/25(金) 20:58

 

17 名前:竜斗 投稿日:2008/04/25(金) 20:59



お願い、神様/田亀+新



18 名前:お願い、神様 投稿日:2008/04/25(金) 21:01



「………」
「………」
「…あのー、お二人さん?」
「………」
「………」


神様教えてください、私はどうしたらいいんでしょうか…。



19 名前:お願い、神様 投稿日:2008/04/25(金) 21:02

一日かかったロケもようやく終わって、今は帰りのバスの中。
みんな疲れて眠ってしまっているので、普段は騒がしいはずがとても静か。
聞こえてくるのはバスのエンジン音と、外を走る車の音。
私、新垣里沙も疲れているので寝たいんだけど…両側から伝わるピリピリした空気が痛すぎて、それは叶わない。
それを発している人達に何度か話しかけてはみてるものの、

「…ねぇ、亀?」
「………」
「田中っち?」
「………」

この通り、無反応。
お互い窓の外を眺めたままで、一言も話さない。
なんで私がこんな目に…。



20 名前:お願い、神様 投稿日:2008/04/25(金) 21:04


朝、ロケ地へ向かう時はいつもと同じだった。
亀は田中っちに引っ付いて、田中っちはなんだかんだ言いながら亀の手をほどけない。
行きのバスでは二人席に座っていちゃいちゃして、もっさんにウザいと一喝されて。
そのもっさんだってさゆにべったりだった。
撮影中も仲良く手を繋いだりしていた二人。
それが午後に入ってからだんだん雲行きが怪しくなって…。
最後には亀は私、田中っちは愛ちゃんの傍から離れなくなっていた。

そんな状態のまま、バスに乗ったんだけど…。
もっさんはさゆの隣をキープしてるし。
吉澤さんは相変わらず小春ちゃんの保護者みたいに一緒だし。
愛ちゃんは光井ちゃんとなにかの話題で盛り上がったらしく、そのまま二人席に座った。

21 名前:お願い、神様 投稿日:2008/04/25(金) 21:07

今日に限ってロケバスは小さくて、空いていたのは一番後ろの席。
残っているのは私、亀、田中っち。
三人なら余裕で座れるからそこはいいけど、問題は席順。
田中っちはなにも言わずにすたすたと歩いて、私達から見て左奥の席に座ってしまった。
それを見た亀はむっとしながら右奥へ。
必然的に私の席は決まっていた。



それから約三十分、この状況が変わる兆しはない。
今回のロケは結構遠くの場所だった為に、まだ一時間近くはかかるだろう。
なんとかしなければ。
私の胃に穴が開いてしまう前に。

「かーめってば」
「………」
「なんでそんなに怒ってんのさ」
「………れーなが悪いんだもん」

あぁ、やっと喋ってくれた。
でもそれだけでは解決の糸口は見えない。
なんとか理由を聞き出そうとしたら、右にいるその人が亀の言葉にぴくっと反応した。

22 名前:お願い、神様 投稿日:2008/04/25(金) 21:08

「…悪いのは絵里やろうが」

……こわっ!
普段より数倍低いトーンの声。
田中っちの方に目をやると、眉間に皺を寄せて口は一文字。
亀の方はアヒル口で膨れっ面。
なにかが始まりそうな、嫌な予感。

「なんで絵里なの?絵里はなんもしてないもん」
「はぁ?なん言っとー、そっちが勝手に怒っとるんやんか」
「だかられーなが悪いんだよ!」
「やけん、れいなはなんもしとらん言うとるやろが」

始まってしまいました。
こうなってしまった以上、私は黙って見守るしかない。
でも私を間に挟んでの言い合いはやめてほしいんだけどな。

「理由を言いんしゃい、なんでそんな怒っとるとよ」
「…れーなが悪い」
「それじゃ分からん」
「……れーなが、絵里よりガキさん選んだ」

23 名前:お願い、神様 投稿日:2008/04/25(金) 21:09

へぇ、それで怒ってたんだ…って私!?
え、え、私なにかしたの?
胸に手を当てて考えてみても、身に覚えはないよ?
田中っちも意味が分からないみたいで、眉間の皺が深くなった。

「あぁ?」
「久しぶりにれーなと一緒で嬉しかったのに、れーなずっとガキさんとしゃべってた」

…あー、確かに話はしてたけど。
それって十分程度じゃなかったっけ?
そういやその後から亀の機嫌が悪くなっていたような気がする。

「そんなん、ちょっとの間だけやん」
「ちょっと?れーなにとってはそれだけでも絵里は寂しかったの!」
「じゃーれいなは他の人としゃべったらいかんと?」
「そこまで言ってない」
「同じことやろうが」

ピリピリどころかビシビシくるんですが。
田中っちは亀みたいに怒鳴ったりはしてないけど、その落ち着いた低い声が更に恐さを倍増させていて。
イライラしてるんだろう、窓の縁に置かれた手が無意味に一定のリズムを刻んでいる。

24 名前:お願い、神様 投稿日:2008/04/25(金) 21:12


そろそろ傍観もお終い。
やっぱり先輩としては、喧嘩をやめさせなきゃいけない。
例えそれがただの痴話喧嘩であろうとも。
だけど…入っていける雰囲気ではないよね?

「…れいなやって我慢しとー」
「…なにを?」
「絵里はいっつもガキさんとべたべたしとるやないか、れいなんこと無視して」

お願いだからもう私の名前を出さないでください…。
っていうか、こうなったのは私の所為?
いやいやいやいや、私はただ普通に接してるだけだし。
絡んでくるのは亀の方で、今日のことだって話しかけてきたのは田中っちだし。
…そんなこと言っても仕方ないんだけどさ。

25 名前:お願い、神様 投稿日:2008/04/25(金) 21:13

「ガキさんだけやない、絵里はみんなとべたべたして…れいなやって嫌やけん」
「べたべたなんてしてない!れーなのこと無視なんてしてないもん!」
「あーそうやって無意識やから余計タチ悪いんよ!」
「どなんないでよ!れーなが悪いんだから!!」
「人のこと言えんやろ!それにれいなは悪くないって言っとろうが!」

ものすごいヒートアップしてますが。
二人とも、そんなに大声出さないで。
落ち着こう?ね?
じゃないとあの人が…―――

「れいなと亀うっさい!!!」

…ほら、もっさんがキレた。
私の右斜め前に座っていたもっさんが後ろを向いてこっちを睨む。
なぜか私が悪いことをした気分になってしまい、すいませんと頭を下げた。
そしたらもっさんは「ったく」とか言いながら前を向いて、さゆの肩に寄りかかり再び眠りについた。


26 名前:お願い、神様 投稿日:2008/04/25(金) 21:15

怒られた二人は、今だ睨み合ったまま。
いつまで続くのかとその間で耐えていたら、田中っちが溜め息を吐いて視線を逸らした。

「…自分ばっか、被害者みたいに言うな」

冷たく言い放って顔を背けた。
うわ…本気で怒ってるよ田中っち。
言われた亀は膝の上で両手をぎゅっと握って唇を噛み締めている。
田中っちはもう話す気はないみたいだ。
なにか気のきいた言葉をかけてあげたいけど…なんて言ったらいいのか。


「…………グスッ」

しばらく沈黙が続いていたその時。
鼻を啜る音が聞こえて亀を見たら、頬に涙が一筋流れていた。
必死に嗚咽を抑えながら俯いて泣いている亀。
…ど、どうしたらいいのでしょうか。


27 名前:お願い、神様 投稿日:2008/04/25(金) 21:17

「……絵里」

それに気付いた田中っちが振り向いて眉尻を下げる。
私が立ち上がって横に移動するように促すと、素直に従った。
亀の隣に座って顔を覗き込む。
田中っちが亀の握り締められた手を柔らかく包むと、亀はそっと顔を上げた。
目の前にいる田中っちを見た瞬間、その瞳からぼろぼろと涙が零れ落ちた。

「絵里…」
「…れー、なっ……ごめんなさいぃ」

二人の喧嘩はよくあること、それに毎度巻き込まれる私も私なんですけど。
どっちも負けず嫌いで意地っ張りだけど、その度に折れていたのは田中っちだった。
亀より年下なのに、そういう時は大人でしっかりしているなと感心する。
でも今回の田中っちの怒り方は、これまでとは比べ物にならない。
もしかしたら別れると言われるかも、と思ったんだろうか。
あの意地っ張りな亀が、自分から謝った。

28 名前:お願い、神様 投稿日:2008/04/25(金) 21:19

「っう、ごめんなさ…れーなぁ…」
「…もう謝らんでよかよ」

謝り続ける亀の頭を優しく撫でて、自分の服の袖で涙を拭ってあげてる田中っち。
拭い終わると亀の腰に腕を回して抱き寄せた。
亀も甘えるように田中っちの首に両腕を絡ませ、首筋に頭を擦り付ける。
よかった、これで一件落着……はいいんだけど。


「れーな?」
「ん?」
「好き、大好き」
「分かっとぉよ」
「むぅ…れーなはぁ?」
「なん」
「絵里のこと、好き?」
「…うん」
「ちゃんと言って」
「…好きやけん」
「絵里だけ?」
「絵里だけ」
「ウヘヘ、絵里もれーなだけぇ」

…バカップル全開。
抱き合った体勢のまま額をくっつけて愛を囁き合う二人。
いや、別にいいよ?
喧嘩するくらいならこの方が全然いいんだけどね?
お二人さん、私の存在忘れてないかい?

29 名前:お願い、神様 投稿日:2008/04/25(金) 21:20


「ね、れーな」
「なん?」
「…ちゅーしたい」
「…ん」
「んっ……」
「……」
「ぅ、ん……はぁ…」
「絵里…」
「…や、れーな…だめ」
「えー」
「ちゃんとお家帰ってから、ね?」
「はいはい」

甘すぎる。
さゆの好きなチョコレートの何十倍も甘すぎる。
もっさんが見てたらきっと、ウザいよりもキモいと言いそうなくらいの甘さだ。


もう今後一切この二人の痴話喧嘩には関わりたくない。
それは無理な望みだろうと、私は少しへこんだ。
神様、私に平穏な時間をくださいませんか。
ほんの僅かな時間でもいいので、宜しくお願いします。




30 名前:お願い、神様 投稿日:2008/04/25(金) 21:20



おわり。



31 名前:_ 投稿日:2008/04/25(金) 21:21

 

32 名前:_ 投稿日:2008/04/25(金) 21:21

 

33 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/25(金) 21:32
あまいですねー
幸せになりました
34 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/26(土) 00:39
れなえり甘すぎ!
ガキさんやっぱり苦労人
35 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/26(土) 03:22
イイ!!
最高のれなえりでした!
36 名前:竜斗 投稿日:2008/04/26(土) 21:37



→33 名無飼育さん
れなえりはとにかく糖度高くを目標で。
幸せになっていただけたようでよかったです。


→34 名無飼育さん
もっと甘く書きたいですれなえり。
ガキさんはれなえりの保護者なのでこれからも苦労をかけると思います。


→35 名無飼育さん
ありがとうございます。
また最高と言ってもらえるよう頑張ります。



37 名前:竜斗 投稿日:2008/04/26(土) 21:39



午後十一時ジャスト/田亀



38 名前:午後十一時ジャスト 投稿日:2008/04/26(土) 21:40


自室に置いてあるクッションに座り、前にあるテーブルに肘を付いて。
両手で持った携帯型のゲームをやり始めて、二時間弱。
さっきから全く進まず、同じ場所をぐるぐると回っているばかり。
比較的優しいRPGなのに、歩いても歩いても目的地に辿り着けずにいた。
いい加減飽きてきたし目も疲れてきたので、元の町まで戻って宿屋でセーブをしたところで電源を切った。
それをテーブルに置いて壁に掛かった時計を見遣ると、時刻は午後九時十三分。
夕食を終えてお風呂も入ったのでやることはないが、まだ寝るには早すぎる。
明日は仕事が午後からなので、昼まで寝ていられるし。

もう一度挑戦しようかとゲーム機に手を伸ばしたが、それほどやる気も出ないので横にあったテレビのリモコンを取った。
頬杖を付いて一通りチャンネルを回した後、なんとなくお笑い番組のところで止めた。

39 名前:午後十一時ジャスト 投稿日:2008/04/26(土) 21:42


―――………つまんない。


新人らしき二人組がスタンドマイクを前にオーバーなリアクションをしながら何やら喋っている。
観客にはうけているようだが、どこがおもしろいのかさっぱり分からない。
ぅあー、と意味のない声を出して後ろに倒れ込む。
その時に腰が鈍い音をたてた。
長時間前屈みのままゲームをしていたせいだろう。
ちょっと痛かったが、起き上がる気力もないので寝ながら軽く腰を捻ってみた。
痛みはすぐに引いたから特に問題はないようだ。

天井を見つめながら腕を真横に広げると、指先に固いものが触れた。
首を右に傾けると、そこにあったのはコードに繋がれた携帯電話。
昼過ぎに充電をしてからずっと放置していたことに気付く。
ストラップを掴んで引き寄せ、開いてみた。

40 名前:午後十一時ジャスト 投稿日:2008/04/26(土) 21:45

着信、なし。

ぱたん、と閉じてそれを握ったまま手をお腹の上に降ろす。
付けっ放しのテレビからは馴染みのコマーシャルソングが流れている。
見たいものがあるわけでもないが、消すことすら面倒で。
再び携帯を顔の上まで持ってきて開く。
画面に映し出されているのは、今日も仕事をしている彼女とのツーショット。
今、何をしているのだろうか。

眠くはないが、ゆっくり目蓋を閉じる。
朝起きてご飯を食べて部屋で寛いでお風呂に入ってゲームをしてテレビを見て、今こうして目を瞑っていても。
考えてしまうのは、彼女のことばかりで。


―――…電話してって、言ったじゃんか。





41 名前:午後十一時ジャスト 投稿日:2008/04/26(土) 21:48

 

42 名前:午後十一時ジャスト 投稿日:2008/04/26(土) 21:48



「すまん、明日仕事になった」
「…え?」

昨日、帰り道の途中。
突然彼女が立ち止まったので、どうしたんだろうと振り返ったら。
申し訳なさそうに、手を合わせて頭を下げる小さな姿。

「今日の朝言われて…もっと早く言おうと思ってたんやけど」
「……何時まで?」
「分からん、たぶん遅くまでかかると思う」
「そうなんだ…しょーがないね」
「ほんと、すまん」

再来週の木曜日は二人ともオフだから、一緒に過ごそう。
二週間前からしていた、明日の約束。
とても楽しみにしていたので、ちょっと、かなりショックだったけれど。
叱られた子供みたいな顔をするせいで、思わず笑ってしまった。

43 名前:午後十一時ジャスト 投稿日:2008/04/26(土) 21:50

少し屈んで、きょとんとした彼女の唇に触れる。
紅くなってそっぽを向いた彼女に微笑み、手を握って指を絡めた。

「明日、電話して」
「電話?」
「それで、がまんする」
「…うん」

二度目のキスは、彼女から。
明日はできないので、ちょっと長めに。

唇を離すと力強く抱き締められて、華奢な肩に顔を埋めた。
目一杯息を吸い込むと、大好きな彼女の香り。
腕の力が緩んだので、ぎゅっと抱き付く。

「もーちょっと…」
「……ん」

明後日になれば会えるのに、別れがいつもより辛かったのはなぜだろう。




44 名前:午後十一時ジャスト 投稿日:2008/04/26(土) 21:50

 

45 名前:午後十一時ジャスト 投稿日:2008/04/26(土) 21:52



目を開けると溢れた雫。
これは電話をくれない怒りからか、それとも会えない寂しさからか。
自分でも理由の分からない水滴を乱暴に服の袖で擦る。
霞んだ視界に入った時計が示した時刻、午後十時六分。
お笑い番組は終了したらしく、ドラマの主題歌が耳に届いた。
上半身を起こして視線をテレビに向ける。
それは連続ドラマで、初回を見ていない為なんで主役らしき俳優が走っているのか分からなかった。

なんとなくぼーっと眺めていたら、軽快な音楽が着信を知らせた。
しかし、待ち望んでいた着信音ではない。


『今日もさゆみはかわいかったの』


親友から送られてきたメールは、いつもの意味のない内容で。
返す必要もないと、放っておくことにした。
さゆみは仕事が終わったのだろうか。
それなら彼女もさゆみと同じだと言っていたから、終わっているはず。

46 名前:午後十一時ジャスト 投稿日:2008/04/26(土) 21:54


微かな期待をしていたが、それから携帯が鳴ることはなく。
遅い夕飯をとっているのかもしれない。
疲れて寝てしまったのかもしれない。
忘れてる、なんてことはないと思いたい。
自分からかけるという選択肢はなかった、彼女からかける約束だから。
待ちきれなくてかけてしまうこともあるけど、今日はどうしても彼女からがよかった。
刻々と時間は過ぎていく、携帯は鳴らないまま。

「…………ばか」

電話をしなくても、せめてメールくらいくれてもいいじゃないか。
待受画面の彼女を指で突つく、指の跡が残った。
変わらないその笑顔に、余計悲しく寂しく虚しくなってくる。
もう、声だけじゃ足りない。


会いたい。
触れたい。
触れてほしい。
抱き締めてほしい。
キスしてほしい。


47 名前:午後十一時ジャスト 投稿日:2008/04/26(土) 21:57

起きていても彼女に会えるわけではないのだから、寝てしまった方が楽になるかも。
明日会った時に文句を言って、言い訳してきたら無視してやる。

テレビを消して電気も消そうと立ち上がった時、玄関のチャイムが鳴った。
こんな時間にお客さんなんて、珍しい。
自分には関係ないと、部屋のドアの横にある電気のスイッチを押しに行く。
押す寸前、自室のドアを向こう側から誰かが二度叩いた。
母親だろうか、そう思ってドアノブを捻り内側へ引いた。

「絵里」
「………な、んで」

予想に反して、そこにいたのは母親ではなかった。
走ってきたのか、はぁはぁと肩を上下させて髪はぼさぼさ。
吐かれる息は白いが、頬はうっすらとピンク色。
ここにくるはずのない彼女が。
会いたいと願った彼女が。

48 名前:午後十一時ジャスト 投稿日:2008/04/26(土) 21:59

「会いたかったけん」
「れーな…」

ふわりと包まれた腕の中、暖かくて心地好くて涙が出そうになる。
額を肩に押し付けて背中を掴むと、痛いくらいに力が強まった。
首筋にかかる吐息はくすぐったいけれど、離れたくないし離してほしくない。
伝わってくる彼女の鼓動と体温に安心して、抑えていたものが溢れ出てしまう。

「絵里も、会いたかった…」

彼女の肩は濡れてしまっているが、そんなことを気にする余裕はなかった。
ただお互いに相手の温もりを感じていたくて。

そっと顔を上げると柔らかいそれが目尻の涙を拭った。
背の低い彼女は背伸びをしながら、顔の至るところに口付ける。
最後に行き着いた唇、今日はできないと思っていたキス。


只今の時刻、午後十一時ジャスト。




49 名前:午後十一時ジャスト 投稿日:2008/04/26(土) 22:00



おわり。



50 名前:_ 投稿日:2008/04/26(土) 22:00

 

51 名前:_ 投稿日:2008/04/26(土) 22:01

 

52 名前:竜斗 投稿日:2008/04/27(日) 20:25



Keep out!/田亀+α



53 名前:Keep out! 投稿日:2008/04/27(日) 20:26



よく晴れた暖かな日曜日のこと。
安倍家の長女なつみが昼食の後片付けをしていると、来客を知らせるチャイムが。
エプロンで手を拭きながらぱたぱたスリッパを鳴らして玄関へと向かう。

「あら、いらっしゃい田中ちゃん」
「こんにちは」
「絵里なら部屋にいるっしょ、あがってあがって」
「はい、おじゃまします」
「絵里ー!田中ちゃんきたべさー!」

なつみが扉を開いて笑顔で出迎えると、来客は礼儀正しく挨拶をして頭を下げた。
中へ入るよう促してから、なつみは二階の自室にいる妹を呼んだ。
田中ちゃんと呼ばれた田中れいなは、安倍家三女絵里の恋人である。

54 名前:Keep out! 投稿日:2008/04/27(日) 20:27


絵里から恋人ができたと報告があったのは今から二年ちょっと前、絵里は高校一年生。
中学二年の時に、委員会で知り合った一つ年下の子だと言う。
とても嬉しそうにその子のことを話すので、なつみは絵里に相手を紹介するよう頼んだ。
次の日絵里が連れてきた恋人に、なつみは目を丸くした。
髪は茶色く染められ、学校帰りであろう制服姿は不良のオーラを醸し出している。
きつめな瞳がなつみを睨んでいるようにも見えて。
絵里に声をかけられるまで、放心状態だった。
まさか絵里が、こんな子を好きになるなんて。

遊ばれているのかも、別れさせた方がいいのではと真剣に悩んだなつみ。
しかしよくよく話してみると、れいなはなつみの予想とはかけ離れた人物であった。
実際のれいなは真面目でしっかりしていて常識もある。
中学に上がる時に福岡から引っ越してきたらしく、なつみ同様方言を使うところにも好感を持てたし。
何より、本当に絵里を好きでいてくれているというのが伝わってきて。
この子になら絵里を任せられる、そう思えた。

55 名前:Keep out! 投稿日:2008/04/27(日) 20:30

二人は高校が別々になってしまったが、最低でも週に一度はれいながこうして安倍家を訪れる。
喧嘩をすることもあるけれど、お付き合いは順調に続いているようだ。


「れーなぁ!」

階段を駆け降りてきた勢いのまま、絵里はれいなに飛び付いた。
れいなが踏ん張ったおかげで倒れずには済んだものの、もし倒れていたら今頃大騒ぎになっていたかもしれない。
苦笑いで絵里を受け止めているれいな。
抱き付いて離そうとしない絵里に、なつみも同じく苦笑い。
お姉ちゃんの前なんだから、もうちょっと遠慮してほしい。
昔は内気で人見知りで手を握ることすら恥ずかしがっていたなんて、誰も想像がつかないだろう。

56 名前:Keep out! 投稿日:2008/04/27(日) 20:32

「絵里、お姉さんおるんやから…」
「もぉ照れ屋さんなんだからー、じゃあ早く絵里の部屋行こ?」

ふにゃふにゃと笑みを浮かべてれいなの手を引く絵里。
だらしなく緩んだその顔を見て、なつみが一言。


「ちゃんと高校生らしいことするんだよー」
「え?……っ、お姉ちゃんのばかぁ!!」

意味を理解した瞬間頬が紅く染まり、降りてきた時以上の速さで階段を駆け昇って行った絵里を、なつみは天使スマイルで見送った。






57 名前:Keep out! 投稿日:2008/04/27(日) 20:34

 

58 名前:Keep out! 投稿日:2008/04/27(日) 20:34



「お姉ちゃんのばか…高校生らしいことってなによぉ……」
「…絵里、そんな気にせんでよかやん」

部屋に入って二人でベッドに腰掛けて、これから甘い甘い一時が始まると思いきや。
絵里の口から出てくるのは、先程のなつみに対する愚痴のようなものばかり。
放って置いても終わりそうにないので、れいなは他の話を振ろうと考える。

「……あ、絵里。今日美貴さんはおらんの?」
「…ん?あー、美貴ちゃんは友達と遊びに行った」
「そーなんや」
「夜まで帰ってこないんだって…だーかーら、今日はじゃまされないよぉ、ウヘヘ」

そう言うと、打って変わって甘えモードに突入した絵里。
れいなの肩に頭を乗せて、腕に自身の両腕を絡ませぴったりとくっつく。

59 名前:Keep out! 投稿日:2008/04/27(日) 20:37

美貴とは絵里の姉でありなつみの妹、つまり安倍家の次女になる。
家族大好きな美貴は、特に妹を過保護なくらい大事にしている。
絵里を溺愛する美貴にれいなを紹介した時は、それはもう大変だった。

初めて絵里がれいなを連れてきた日。
美貴は用事があって家におらず、挨拶は後日また改めてということに。
なつみと絵里はそれまでれいなのことを秘密にしていた。
何も言わずに紹介して美貴を驚かせようなんて、ちょっとした悪戯のつもりだった二人。
だが、その考えは甘かったようだ。

数日後、美貴がいる時間に合わせてれいなが安倍家にやってきた。
絵里が美貴に「絵里の恋人です」とれいなを紹介したら予想通り驚いていたが、次の行動がなつみと絵里には予想外。
無言でれいなの前に立ったと思ったら、「貴様…美貴の大事な妹に何手ぇ出してんだ!!」って。
なつみと絵里で美貴を抑えて、れいなは殴られるのを免れたけれど軽く涙目になっていた。

60 名前:Keep out! 投稿日:2008/04/27(日) 20:38

その後絵里が三日間口を聞いてくれなくなり、なつみにも大人げないと叱られ。
渋々、美貴は二人の交際を認めざるを得なかった。

初めは会話もぎこちなくて田中ちゃんと呼ばれていたけれど、一年経ってやっと普通に話せるようになり、れいなを名前で呼んでくれるようにもなった。
しかし、やっぱり心ではなかなか納得できないらしい。
手を繋いでいるだけで睨まれるし、部屋にいればお菓子を持ってきたりして様子を見にくるし。
にこにこしながらも、目で「絵里に手出すんじゃねぇぞ」と威嚇していく。
そのせいでキスより先に進むのに、どれだけ時間がかかったことか。

丸二年経った今でも、美貴の監視は変わらず厳しい。
だけど今日は美貴がいないのだから、好きなだけいちゃいちゃできる。
学校がある日は放課後に会って休みはれいながきてくれてるけど、もっともっと一緒にいたい。
お付き合い歴は三年目でも、まるでまだ三ヶ月目と思える程にらぶらぶだ。


61 名前:Keep out! 投稿日:2008/04/27(日) 20:39

「れーなぁ」

甘ったるい声で呼ばれ、れいなが顔を向けると絵里は目を閉じて唇を尖らせた。
絵里の頬に手を置いて、そっと唇を重ねる。
腕に巻き付いていた絵里のそれは解かれ、するすると上がってきてれいなの首に回される。
れいなが腰をぎゅっと抱くと唇が薄く開き、その隙間に舌を差し入れた。

「んぅ……っ、は…」
「……ん…」
「…れぇ、な…ぁ……」

抱き締め合って口内で舌を絡ませて、上昇する体温と心拍数。
時折キスの合間に漏れる絵里の声は、れいなの欲望を煽る。
布越しに触れる柔らかさにれいなの我慢も限界になり、絵里の頭に手を添えて優しく押し倒した。
噛みつくように口付けながら少しずつ体をずらして、ベッドの中央まで移動する。
息苦しくなってれいなが舌を解き顔を上げると、潤んだ瞳と上気した頬の絵里がれいなを見上げる。
絵里の口の端を伝う涎を舐めとり、首元に顔を埋めた。

62 名前:Keep out! 投稿日:2008/04/27(日) 20:40

「……ヤバい、我慢できん」
「…………絵里も」

「高校生らしいことするんだよー」というなつみの言葉が頭を過ったけれど。
ベッドの上で激しいキスをして、しかもこの体勢。
まだまだ若くてらぶらぶな二人には、姉の言うことなど聞けるはずもない。

髪をどかして現れた耳を舌でなぞり、服の上から手を胸に這わす。
耳朶に軽く歯を立て、唇はそこから首筋を伝い下へと降りていく。

「ん、やっ……」

れいなの髪を掴み下唇を噛んで、絵里は必死に声を抑えている。
一階にはなつみがいるため、大きな声を出すわけにはいかない。
二人が最後までいっていることなど、なつみはすでに知っているのだが。

「……っ…れ、な」
「絵里…」

れいなが絵里の服に手をかけ、焦らすようにゆっくりとたくし上げる。
キスを求める絵里に応えたら、すぐに舌が潜り込んできて。
押し返してれいなのそれと絡め、夢中で口付けを交わす。
相手のことしか考えられなくなっていた二人は気付かなかった。
ぎしぎしと軋む、階段の音に。


63 名前:Keep out! 投稿日:2008/04/27(日) 20:41


「ただいまー!つまんないから早く帰って…きちゃっ……た」

ノックもなしに開いた扉に驚いて、二人同時に見遣った先には。
夜に帰ってくると言っていたはずの絵里の姉、美貴の姿。
美貴の手から紙袋がばさっと床に落ち、その音でれいなはようやく我に返った。
途端、嫌な汗が背中に流れる。
今、れいなは絵里を組み敷いていて。
さらにまだ胸までは到達していないけど、れいなの手は絵里の服にかかったまま止まっている。
とてつもなく危険な、この状況。

「……」
「あの、美貴さん…?」
「………てめぇ田中あぁぁ!!!美貴の絵里に何してんだぁ!!!!」

やはり、こうなりますか。
固まっている美貴に恐る恐る声をかけたら、こめかみに青筋を立てて怒鳴られた。
れいなを田中と呼んだのは、完璧にキレてしまっている証拠。
どすどすと詰め寄って胸ぐらを掴み、体が浮くんじゃないかというくらい力強く持ち上げられ、れいなは固く目を閉じる。
今度こそ、殴られる。

64 名前:Keep out! 投稿日:2008/04/27(日) 20:43

ぐっと歯を食い縛ったその時、殴られたものとは違う鈍い音が。
掴んでいた手が離れて、力が入っていなかったれいなの体は後ろへ倒れた。
何があったのかと薄目を開けたら、頭を押さえて座り込む美貴と、いつの間にか起き上がって大きめなクマのぬいぐるみ片手に美貴を睨む絵里。
確か絵里が持っているぬいぐるみの中身は綿ではなく、硬くて小さいパイプ状のものがたくさん詰まっている。
それで叩かれたらたぶん、かなり痛い。

「ったぁ……え、絵里?」
「美貴ちゃんのばかっ!!だいっきらい!!!」
「えぇ!?ちょ、待ってよ!美貴は絵里が心配で」
「ばかばかばかぁ!!早く出てって!!」

見られた恥ずかしさと邪魔された怒りで、絵里は耳まで真っ赤。

65 名前:Keep out! 投稿日:2008/04/27(日) 20:45

大好きな絵里に大嫌いと言われてしまった美貴は、泣きそうになりながら弁解しようとした。
しかし完全に怒ってしまった絵里には美貴の言葉など届かず、再びぬいぐるみを振り上げる。
どれほどの痛みかを知っている美貴は、さすがに二度はごめんだとばかりに言われた通り部屋を出て行った。


それから一週間が経過した今日も、絵里は美貴と口を聞いてくれずにいる。
妹が大好きなのはいいことだが、あまり過保護過ぎるとこうなるかもしれないのでご注意を。




从 v )<絵里ぃ…。

ノノ*^ー^)<……。
从;´ヮ`)<……。




66 名前:Keep out! 投稿日:2008/04/27(日) 20:46



おわり。



67 名前:_ 投稿日:2008/04/27(日) 20:46

 

68 名前:_ 投稿日:2008/04/27(日) 20:46



69 名前:竜斗 投稿日:2008/04/29(火) 13:44



やっぱり君には敵わない/田亀



70 名前:やっぱり君には敵わない 投稿日:2008/04/29(火) 13:44


「れーな」
「…」
「…れーな?」
「…」
「れーなれーなれーなぁ」
「…絵里うっさい、重い」

れいなの背中にのし掛かっている絵里を無視していたら、名前を三連発。
さらにゆさゆさ身体を揺さぶられ、持っているケータイの画面を見ることもままならない。
無視できる限度を超えていた。
不機嫌にそう言って視線だけ向けると、元々尖り気味な唇がもっと尖っていて。

「絵里重くないもん」
「れいなは重い、どけ」
「や」

誰もが恐がる目付きで睨んだが、見慣れている絵里には効き目なし。
首に絡んだ腕に力が入る、何がなんでも離さないとでも言うように。
それならばれいなだって、何がなんでも無視してやる。
背中に当たる柔らかい感触に変な気分になりそうな自分を押さえ付け、途中だったメールの続きを打ち始めた。


71 名前:やっぱり君には敵わない 投稿日:2008/04/29(火) 13:46


「……ばかぁ、れーななんか嫌いだぁ」

抱き付いたままそんなことを言われても。
矛盾した絵里の言動に呆れながらも、無視すると決めたからには突っ込みもしない。
ぐりぐりと頭を押し付けられて、頬に当たる髪がくすぐったいけどここは我慢。
本文が完成してあとは送信ボタンを押すだけとなった時、れいなの手からするりとケータイが逃げた。

「な…絵里っ」

勝手に動いたのではない、絵里に奪われたのだ。
さすがにこれにはいらっとして、反応せずにはいられなかった。
力ずくで首に巻き付いている腕を解き、れいなは身体を反転させて絵里と向き合う。
逃げられないよう、絵里の右腕は離さずに。

「返せ」
「……や」
「絵里」
「………消しちゃったもん」
「はぁ?」

強引に絵里からケータイを奪い返し画面を見たら、映し出されているのは開いていたメールボックス。
ではなく目の前にいるそいつとれいな、一昨日撮ったばかりの写メ。
絵里に無理矢理変えられた待ち受け画面だ。
どうやら、本当にメールは消されてしまったらしい。

72 名前:やっぱり君には敵わない 投稿日:2008/04/29(火) 13:48

脱力したれいなの手が絵里の腕の拘束を解く。
自由になった絵里の右手は、重力に逆らうことなく床に落ちた。

「なにしとーよ…」
「だって…れーながかまってくんないから。久しぶりにれーなの家きてるのに、れーな全然相手してくれない」

絵里の眉間にきゅっと縦皺が寄り、見つめると逃げるように瞳を伏せた。

長かったライブツアーが終了して仕事も落ち着いてきて、やっともらえた貴重なオフ。
なのに絵里を放ってメールに熱中していたれいなも悪い。
でも、だからって消すことはないだろう。
年上のくせに、やることが子供すぎる。
れいなが溜め息を吐くと、絵里はむくれて完全なアヒル口。

「………ぅー…」
「……はぁ」

唸って俯く絵里に再びれいなの口から漏れる溜め息、部屋が静かなおかげでよく響く。
同時に絵里の伏せた瞳から涙が溢れた。
ぽたっと落ちたそれは、自身の服に染み込んで消える。
絵里は、狡い。
涙なんか見せられたら、これまでの怒りが簡単に消えてしまう。
例え絵里が悪くても、だ。


73 名前:やっぱり君には敵わない 投稿日:2008/04/29(火) 13:49


濡れた頬を拭おうとした腕を掴み、もう一方の手を絵里の顎に掛ける。
抵抗なく持ち上がった顔に唇を寄せた。

「れいなが、悪かった」

視線は斜め下に向けて、ぽつっと呟いた。
あやすように頭を撫でると一瞬口角が上がったが、すぐ元に戻った。
機嫌を直そうとしたのに、れいなの行動は絵里の癇に障ってしまったようだ。
子供扱いされたとでも思ったんだろうか、絵里はそれを嫌がるから。

どうやってご機嫌取りをしようかと考えていたら、掴んでいた方の腕を引っ張られ、体勢を崩して前のめりになる。
口を開く前に、今度は絵里から唇をぶつけてきた。


「……いっ、」

機嫌を直してくれたのかな、なんて油断していたれいなの下唇に、絵里が噛み付いた。
れいなは反射的に絵里の肩を押しやり距離を取った。
口の端にじわっと何かが滲んできたのが分かる。
触れた指先には、赤い液体。
絵里の八重歯が刺さったところから、僅かに出血していた。

74 名前:やっぱり君には敵わない 投稿日:2008/04/29(火) 13:52


「……ごめん、痛い?」

結構痛くて噛まれた箇所を手の甲で抑えていると、心配そうに下から覗き込んできた。
心配するなら、やらなければいいのに。
後先考えずに行動するのはいい加減辞めてほしいと切実に思う。

効果はないだろうが、痛かったことを分からせる為に睨み付ける。
それを気にすることなく腕が伸びてきて、口に当てている手をどかされ、近付いてくる絵里の顔。
触れるか触れないか、微妙な距離。
口の端に滲む血を、舌で舐め取られた。
ぴりっと痺れるような軽い痛みが走る。

「…怒ってる?」

眉を八の字にして上目遣い。
さっき泣いた所為で、瞳は潤んでいる。

こいつ、確信犯か。
…否、たぶん無意識だ。
しかし、どちらにしろ関係ない。
あんなことされて。
そんな顔されて。
れいなが怒っていられるわけがないではないか。

「…もう怒っとらん」
「ほんとに?絵里のこと嫌いになってない?」
「なっとらんよ」


75 名前:やっぱり君には敵わない 投稿日:2008/04/29(火) 13:54

何度もしつこく訊いてくる。
うるさいと言って抱き寄せる、耳元で気が抜ける絵里の笑声。
なぜかれいなまで可笑しくなってきてしまう。

つくづく、自分は絵里に甘いな。
絵里以外の人間だったら、絶対に許せないのに。
これも惚れた弱みなんだろうか。

「れーな…ちゅーしていい?」
「やだ」
「もう噛まないからぁ」
「…ったく」

触られたらまだ痛いけど、絵里の甘えた声には勝てない。
いつからこんなに弱くなってしまったんだろう。
情けない自分に苦笑すると、それに気付いた絵里が不思議そうな顔をした。

「なんでもなか」

誤魔化して唇を重ねれば、絵里は笑って目を閉じた。
とても甘く感じて、どうにかなってしまいそう。
…あぁ、もうなっているか。
むかついても好きだとか、どんな子よりも可愛いとか、触りたいとか、傍にいてほしいとか、絶対に離したくないとか、柔らかい身体に堪らなくなってしまうとか。
どうしようもない、どうにもならないこの気持ち。


76 名前:やっぱり君には敵わない 投稿日:2008/04/29(火) 13:56

これほど想っているってこと、知ってるのかな。
知ってなくても、れいなから伝えはしない。
絵里が調子に乗ることなんて、目に見えているから。

「うへへへぇ」
「…絵里、きもい」
「嘘つきー、かわいいって思ってるくせにぃ」

自信満々に言って、れいなの腕の中に収まってきた。
その通りだったので言い返せず黙ると、勝ち誇った笑みを浮かべる。


あぁもう、ほんとに―――


ごめん、メール返せない。
心の中で返信を待っているであろう友人に謝った。
れいなに抱き付いている絵里の背中に腕を回し額同士を合わせると、ふにゃふにゃ笑う。
それでどれだけれいなが堪らなくなっているか、絵里は分かっていないだろう。
無意識なのは、一番タチが悪い。
なんで、こんなやつ。
好きになったのかと考える気力もないし、必要もない。
惚れてしまったものは、仕方ない。


77 名前:やっぱり君には敵わない 投稿日:2008/04/29(火) 13:57


「絵里」
「んぅ?」
「……好いとぉよ」


―――敵わない、絵里にだけは。


今日幾度目かの溜め息。
幸せが逃げていく…とは思わなかった。
れいなの隣には絵里がいる、傍にいて笑ってくれるだけで充分。

すっかり嵌まってしまっている、絵里に。
どうせ抜け出せないのなら、堕ちるとこまで堕ちればいい。

そこに絵里がいるなら、それでいい。





78 名前:やっぱり君には敵わない 投稿日:2008/04/29(火) 13:58



おわり。



79 名前:_ 投稿日:2008/04/29(火) 13:58



80 名前:_ 投稿日:2008/04/29(火) 13:58



81 名前:名無飼育 投稿日:2008/04/30(水) 02:49
あまぁぁぁい!!!!今日もまたご馳走さまでしたw
絵里の八重歯いいと思うw
82 名前:竜斗 投稿日:2008/05/02(金) 21:58


→81 名無飼育さん
ありがとうございます。
自分が絵里の八重歯が好きなので利用してみました。



83 名前:竜斗 投稿日:2008/05/02(金) 21:59



襲い受と小虎/田亀


84 名前:襲い受と小虎 投稿日:2008/05/02(金) 22:00


「…なにしとぉ?」
「んー?」
「くすぐったいんやけど」
「んー」

ソファーに座りテレビを見ていたれいなの隣に絵里がやってきた。
テレビを見る訳でもなくべったりくっついて、さっきかられいなの手を弄んでいる。
指や爪、手の甲に浮かぶ血管をなぞってみたり、自分のと絡めてみたり。
れいなが抗議してみても、その動きは止まらない。

言っても無駄だと分かっているので好きにさせていたら、絵里の手が徐々に上へと昇り始めた。
肩まで辿り着くと来た道を戻り、今度は膝に置かれる。
膝の形を確かめるように撫でられ、ぴくっと反応するれいなの身体。

85 名前:襲い受と小虎 投稿日:2008/05/02(金) 22:01

「絵里…やめぇって」

くすぐったさに耐えきれず絵里の手を掴む。
そうしたら絵里は、何か言いたげな表情でれいなを見つめた。

「……ね、れーな」
「ん?」
「あのね…」
「なん、聞こえん」

普段より小さくなった声が聞き取りにくく、れいなは絵里の方に耳を近付けた。
絵里が話し出すのを待っていたら、

「ぬおぉ!?」

ふーっ、と息を吹きかけられた。
驚いたれいなは変な声を出してしまい、恥ずかしさで紅く染まる頬。

照れ隠しに睨むため顔を向けると、視界は絵里によって塞がれた。
固まっているれいなの頬を両手で挟みキスをしたまま、絵里はその身体を跨いで腰を下ろす。
しばらく続けているとやっと状況を把握したれいなの腕が絵里の腰に回り、強く引き寄せられた。

86 名前:襲い受と小虎 投稿日:2008/05/02(金) 22:04

すぐに絵里は頬に当てていた手を外してれいなの首に両腕を絡め、一旦離れてから再び口付ける。
息が出来なくなるくらい、激しく。

「ん…ぁ……ふぅ、ん…」
「…ん……っ…」

テレビの音も耳に入らない程に夢中で。
れいなの手は服の上から脇腹を通り、柔らかな膨らみに触れる。
少し力を加えると、絵里は甘い吐息を漏らして身を捩らせた。

前のボタンを全て外し終わり、ゆっくり服を肩から下へ滑らせていく。

「れーな…なんか、やらしぃ」
「やらしいことしてるんやけん、当たり前やろ」
「そうじゃなくて、れーなの脱がせ方がやらしぃ」

一気にではなくじわじわと素肌を伝っていく感触が、やけにもどかしい。
その間、れいなは膝の上にいる絵里から目を離さない。
見つめられながら脱がされるのが気恥ずかしくて、れいなと視線を合わせないよう俯く。

87 名前:襲い受と小虎 投稿日:2008/05/02(金) 22:06

ようやくそれが腕を抜けてぱさっと床に落ちる。
露になった目の前の膨らみに、れいなは唇を寄せた。

「んっ……ねぇ…」
「なんよ」
「…ベッド、行かないの?」
「ここでもいいやろ、めんどい」

狭いソファーより、すぐ近くにある広いベッドの方がいいけれど。
僅かな距離でも移動する時間が勿体ない気がして。

「嫌なら向こう行くけど」
「………ここでいい」

そう言って絵里はれいなの頭を抱え込んだ。
絵里の了承を得たので、そのままの体勢で止めていた動きを再開させる。
れいなは耳元で聞こえる声と肌の感触に酔い痴れ、もっと深く絵里を感じる為に目を閉じた―――。




88 名前:襲い受と小虎 投稿日:2008/05/02(金) 22:06



おわり。



89 名前:_ 投稿日:2008/05/02(金) 22:07



90 名前:_ 投稿日:2008/05/02(金) 22:07



91 名前:竜斗 投稿日:2008/05/06(火) 22:14

今回は田亀以外の超短編を2つほど。


92 名前:竜斗 投稿日:2008/05/06(火) 22:15



君といる幸せ/田新



93 名前:君といる幸せ 投稿日:2008/05/06(火) 22:16


今日の撮影は私が一番最後。
終わった時には外はすでに真っ暗で、車の通りも少なくなっていた。
先に撮影を終わらせたメンバーはきっとみんな帰ってしまっているだろう。

ただ、なんとなく。
一人で帰るということが、今日はいつも以上に寂しく感じた。



「新垣さーん、遅いですよ」
「え、あ、ごめん…ってなんでいるの?」

誰もいないと思い込んでた楽屋に入ると、まさか残っているとは予想もしてなかった人物に迎えられた。
遅いと言われ反射的に謝ってしまったが、なぜ彼女がこんな時間までここにいるのだろうか。
確か私より先に終わっていたはずだ。


94 名前:君といる幸せ 投稿日:2008/05/06(火) 22:17


「なんでってひどくないですか?新垣さんが待っててって言ったのに」
「…私が?」
「そう、新垣さんが」

着替えも終えて荷物もまとめて、帰る準備万全の彼女、田中っちは私に人差し指を向けた。
私が現場に向かう途中、その現場から戻ってきた田中っちと会って。
待っててよって言ったけど、冗談のつもりだった。
田中っちだってそれにのって、今日は用事があるとか言ったのに。

「待たない方がよかったですか?」
「いやいやいやいや!そんなことないって!」

実は半分冗談、半分本気だったあの時の言葉。
だから待っててくれてすごい嬉しいんです。
正直にそう伝えたいけど、恥ずかしい。
普段なら何気なく言えるのに、ただ二人きりというだけでなぜこんなにも恥ずかしくなってしまうのか。

95 名前:君といる幸せ 投稿日:2008/05/06(火) 22:19


―――だって、自分の好きな人だもん。


意識したら余計おかしくなって、変なこと口走ってしまいそう。
田中っちの方を極力見ないよう、急いで帰り支度を済ませた。

「おっけーですか?」
「あ、うん。おっけーです」
「じゃ、帰りましょう」

隣にきた田中っちは、さりげなく私の手を取った。
手を繋ぐなんて、それこそよくあること。
亀やさゆとも繋ぐし、田中っちとだって。
それなのに、今までにないくらい胸が高鳴る。

「たた田中っち、手…」
「いいじゃないですか手ぐらい、新垣さんはれいなの恋人なんですから」
「こ、こい……」

さらっと言ってくれた田中っち。
…だめだ、私は恥ずかしくて言えない。
田中っちの小さな背中を追いながら、私達はそれぞれの家に帰るためにそこを後にした。




96 名前:君といる幸せ 投稿日:2008/05/06(火) 22:21





「さっき、嘘つきました」
「…はい?」

会話もなく淡々と足を進め、しばらく人通りのない道を歩いていた。
握った手に力が込められたと同時に、田中っちは前を向いたままぽつりと呟いた。
嘘?なんか嘘つくような内容だったっけ?

足を止めた田中っち、それにならって私も立ち止まった。
振り返った田中っちの頬は街灯に照らされた所為か、少し赤く見える気がする。

「本当は待っててって言われなくても、待ってるつもりでした」
「へ?」
「…新垣さんと、二人で帰りたかったんです」

気がする、ではなく。
実際、田中っちの頬は赤かった。
その彼女の瞳に、今の私はどう映っているんだろうか。
繋がっている箇所からは、心地好い温度が伝わってくる。

あぁもう、死んでもいい。
なんて言ったら、彼女はどんな顔するかな。





97 名前:君といる幸せ 投稿日:2008/05/06(火) 22:21



おわり。



98 名前:_ 投稿日:2008/05/06(火) 22:22



99 名前:_ 投稿日:2008/05/06(火) 22:22



100 名前:竜斗 投稿日:2008/05/06(火) 22:24



one way traffic/藤→道



101 名前:one way traffic 投稿日:2008/05/06(火) 22:25



美貴なら、そんな顔させないよ。

あいつよりも、君を幸せにできるのに。



102 名前:one way traffic 投稿日:2008/05/06(火) 22:26


今日は使われていない空き部屋。
そこへ吸い込まれるように入っていった君を見つけた。
何故か、そのまま消えてしまうんじゃないかと不安になって。
自然と後を追いかけていた。
薄暗い部屋の中、佇む姿。

「泣いてんの?」
「…泣いてませんよ」

ふざけた口調で声をかけると、驚く様子もなく顔をこちらに向けた。
気配で気付いていたんだろう。
確かに涙は流れていない、だけど。
瞳の淵に溜まる水滴は、今にも零れ落ちそうだった。
無理に笑う姿は、見ていられないくらい痛々しい。

「もうやめなよ、あいつなんて」
「藤本さんこそ、いい加減諦めたらどうですか?」

美貴の言う「あいつ」とは、君の好きな人のこと。
君の「諦めたら」が指すのは、美貴の好きな人のこと。

103 名前:one way traffic 投稿日:2008/05/06(火) 22:28

「嫌だね、好きだもん」
「…私だって、好きなんです」
「知ってる」

君の好きな人には、恋人がいる。
そして美貴の好きな人は、恋人がいる人に想いを寄せている。
美貴も君も、一方通行な片想い。

美貴は何度も好きだと伝えた。
その度に、あいつが好きなんだと断られ続けた。
でもそれで簡単に諦められるほど、小さな気持ちではない。

「しげさん」
「はい」
「好き」

そう、こうやって。
馬鹿の一つ覚えみたいに、何度も。
君は聞きたくないとばかりに、顔を俯かせる。


104 名前:one way traffic 投稿日:2008/05/06(火) 22:29

「好き」
「私は好きじゃないです」
「美貴はしげさんが好き」
「っ…もう、やめてください」
「好きなんだよ」
「だから、私はっ…!」

あいつの名前が出る前に、抱き寄せた。
身長で負けているから、抱き付いているようで格好つかないけれど。

「好き。好きだよ、しげさん」

ひたすら繰り返し言っているうちに、強張っていた身体から力が抜け、ゆっくり美貴の方へ体重を預けてきた。
首筋に触れる髪がくすぐったい。
微かに震えている、君の肩。
鼻を啜る音が小さく聞こえた。

「絶対諦めないから」
「……」
「れいななんかより、美貴を見てよ」

腕に力を込めると、遠慮がちに背中に回った君の手。
すぐ傍で感じられる、息遣いと鼓動、温もり。
このまま時が止まってしまえばいいのに。
柄にもなく、本気でそう思った。

105 名前:one way traffic 投稿日:2008/05/06(火) 22:31


背中にあった君の手が美貴の服を引っ張り、そっと身体を離した。
君の頬には、涙の筋。
そこを辿るようにまた一つ、涙が零れる。


「藤本さんを好きになれば、幸せだったんでしょうね」

君の言葉に、美貴を好きになることはないという意味が含まれていることに気付く。
苦しい、のはお互い様。


―――あぁ、神様は残酷だ。


美貴と君の気持ちが交わらないのならば。
せめて、願いだけでも叶えてはくれないだろうか。


君が、幸せになれますように。





106 名前:one way traffic 投稿日:2008/05/06(火) 22:31



おわり。



107 名前:_ 投稿日:2008/05/06(火) 22:31



108 名前:_ 投稿日:2008/05/06(火) 22:31



109 名前:竜斗 投稿日:2008/05/08(木) 23:42


モテれなを2本。
新作はないと言ってましたが1つ新しいのを。


110 名前:竜斗 投稿日:2008/05/08(木) 23:42



王子様を手に入れろ!/モテれな



111 名前:王子様を手に入れろ! 投稿日:2008/05/08(木) 23:43


「れいな、ちょっと」

両側にいる絵里とさゆがひたすらしゃべっとるから、れいなは黙って聞き役になっとった。
したら、娘。の楽屋に遊びにきとった石川さんがれいなを呼んだ。
なんやろうか?
手招きしてるからとりあえずこっちにこいということなんやろ。
後ろで絵里がなんか言っとーけど、無視した。
先輩やけん、呼ばれたら従うしかないやん。

石川さんが隣をぽんぽん叩いたから、れいなはそこに腰を下ろした。
そんまま石川さんの言葉を待ってたら、にこにこしながられいなの頭を撫でてきた。


112 名前:王子様を手に入れろ! 投稿日:2008/05/08(木) 23:44

「な、なん?」
「れいなってほんとかわいいね」

…いきなりなんね。
れいなが怪訝そうな顔をしても変わらずにこにこ。
こん人は、ほんとに読めん。
石川さんの言動は意味不明なことが多い。
やけん藤本さんにキモいって言われるんよ。
こんなこと先輩には言えんけど。

「なんか猫みたい」
「…はぁ、そうですか」
「にゃーって言って?」
「…………にゃー?」
「きゃーっ!やっぱりかわいい!」

ぐはっ!
石川さんに羽交い締めにされて身動きがとれん。
…む、胸がおもいっきり当たっとる…。
絵里よりおっきい…いやいや、変なこと考えたらいかん。
てか、今のは聞き返しただけで鳴き真似したわけじゃないんやけど。
あの石川さん、そろそろ離してくれんと…息が…。


113 名前:王子様を手に入れろ! 投稿日:2008/05/08(木) 23:46


「梨華殿、れいないじめちゃだめやってぇ」

そこへ現れた救いの神。
この声は、愛ちゃん?
よかった…は、早く助けて。

「いじめてませんー」

そう言って石川さんはようやくれいなを解放してくれた。
あー、なんかくらくらするっちゃ…。
れいなが頭を抑えとると、愛ちゃんはれいなの横に座った。

「大丈夫かぁ?」
「…なんとか」

それはよかった、と頷く愛ちゃん。
愛ちゃんがきてくれんかったら、どっか飛んでしまうとこやった。
やっぱり年上、頼りになるっちゃね。
れいなが感心しとったら、愛ちゃんはかわいらしく小首を傾げて、

「なぁれいな、あーしのお願い聞いてくれる?」

れいなの左手を両手で包んだ。
…この手はなんなんやろうか。
まぁそれは置いといて、助けてもらったし、れいなにできることなら。
そう思って軽い気持ちでおっけーした。


114 名前:王子様を手に入れろ! 投稿日:2008/05/08(木) 23:48

「やった!今日一緒にごはん食べに行きたいやよ」
「………え」

ちょっと、それは…。
今日は絵里と二人で食べに行く約束をしとる。
れいなは別に三人でもいいんやけど…絵里がそれを許してくれるとは思えん。
ただでさえ最近別行動が多くて、絵里が不機嫌やというのに。

「あー、私が誘おうとしてたのに」

れいなが答えにつまっとると、横から石川さんが割り込んできた。

「残念でした梨華殿、あーしはれいなと二人で行くんでぇ」
「高橋のがあとからきたじゃない」
「先に言ったのはあーしやもん」

いつの間にか決定しとる。
愛ちゃん、まだれいなは返事しとらんよ。
ていうか、なんで二人してれいななん?
他のメンバーでもいいやんか。
れいなを挟んでばちばちと火花を散らす二人、そこへ更にもう一人。

「小春も行きたいですぅ」

お前は入ってくんな!
よけいややこしくなるけん。
小春は放置でいいとして、この先輩方はどうしたらよか?

115 名前:王子様を手に入れろ! 投稿日:2008/05/08(木) 23:49

「なられいなに決めてもらいましょ」
「そうね、れいなは私と高橋、どっちと行きたい?」

なんですか、その究極の選択は。
笑ってやり過ごそうかと思ったんやけど、二人の目はかなり真剣。
これは答えなきゃいかん雰囲気やんか…。

二人とも先輩やけど、石川さんの方が上。
愛ちゃんは同じメンバーで仲もいい。
でもここでどっちかを選んだら、絶対絵里が怒る。
それは困る、絵里の機嫌を直すのは並大抵の苦労やない。
あーでもでも、先輩二人は引き下がってくれん。
どれを選んでも結局れいなに平和は訪れんやん…。


「こらこらー!石川さんも愛ちゃんも、田中っちが困ってるでしょ?」

れいながなんも言えずに固まってたら、再び現れた救いの神。
今度は―――新垣さん。
新垣さんなら大丈夫や、きっとれいなを助けてくれる。

116 名前:王子様を手に入れろ! 投稿日:2008/05/08(木) 23:52

れいなが目で訴えると、新垣さんは任せろと言うように頷いた。

「石川さん、さっき唯ちゃんが探してましたよ。愛ちゃんはスタッフさんに呼ばれてたでしょ?」
「あ、もうこんな時間?私戻らないと。れいな、また今度ね」
「忘れとった!ありがと里沙ちゃん。また誘うからなぁ、れいな」

申し訳ないんですが、れいなの予定はしばらく絵里で埋まってます。

新垣さんの一言で、二人は慌ただしく楽屋を出て行った。
さすが新垣さん、一番頼りになるけん。
れいながほっと胸を撫で下ろすと、新垣さんはさっきまで愛ちゃんがいた場所に座った。

「新垣さん、ありがとうございます」
「いやいやいや、田中っちが困ってたからさ」

ほんといい人や、新垣さん。
いい先輩を持ってれいなは幸せやけん。
れいながそうしみじみ感じとると、新垣さんがじっとれいなを見つめてきた。
…ちょっとどきどきするんやけど、ちょっとだけ。

117 名前:王子様を手に入れろ! 投稿日:2008/05/08(木) 23:54

「あのさ、田中っち」
「は、はい?」
「よかったら、今日私の家にこない?」
「…………はい?」

なんか数分前と同じことになっとらん?
内容は違うけど、れいなにとって意味は同じ。
今日は絵里と食べに行って、そんまま絵里の家に泊まることになっとるから。
助けてもらった立場としては断りにくい。
しかし…これをおっけーしたら、それこそ絵里の怒りが爆発してしまう。

「田中っち、だめ?」

やけに甘ったるい声、れいなの膝に置かれた手。
見つめてくる瞳はれいなを誘っているようで。
……かなりどきどきしとるかも。


「れーな」

危うく流されそうになった時、れいなを呼ぶ声が。
顔を上げると、いつの間にか絵里が目の前に。
三度目の正直…絵里ならなんとかしてくれるはず。

118 名前:王子様を手に入れろ! 投稿日:2008/05/08(木) 23:55


「絵―――」
「ずいぶんもてもてなんですね」

…なんで敬語なん?
しかも顔は笑っとるのに、目が怖い。
つーか、もてもてって………あ、やばい。

絵里はずっと同じ楽屋におった。
ということは、今までのことは全て見られとったわけで。

「ち、違うんやって…れいなはなんも…」

れいなは悪いことはしとらん。
ただ周りがれいなに迫ってきとっただけや。
れいなが怒られんのは間違っとる。

そうや、新垣さんに説明してもらえば………って、すでにおらんしね。


119 名前:王子様を手に入れろ! 投稿日:2008/05/08(木) 23:56

「ふーん、いいわけするんだ」
「え、絵里、落ち着きんしゃい」
「れーなの浮気者!!」
「ばかっ待て―――!!!」

ぱしーんと乾いた音が楽屋に鳴り響いた。
振り上げられた絵里の右手は、見事にれいなの頬に命中。
叩かれた場所を抑えて唖然としてるれいなに構わず、絵里はさゆのところへ戻って行った。
こっちを見てたさゆは苦笑い。

我に返ってなんとか絵里の機嫌を直そうとしたんやけど、一切口を聞いてくれん。
やっぱりそう簡単にはいかんか…。
お泊まりはどうなるんやろ、れいなやって楽しみにしとったのに。

れいなは今日、例え先輩からのお誘いでも、絵里を優先させんといかんということを学習した。





120 名前:王子様を手に入れろ! 投稿日:2008/05/08(木) 23:56



おわり。



121 名前:_ 投稿日:2008/05/08(木) 23:56



122 名前:_ 投稿日:2008/05/08(木) 23:57



123 名前:竜斗 投稿日:2008/05/08(木) 23:58



王子様を手に入れろ!2/モテれな



124 名前:王子様を手に入れろ!2 投稿日:2008/05/08(木) 23:58


朝から続いたダンスレッスンが一段落して、やっと休憩に入ったメンバー達。
壁際に移動して身体を休めようとしたれいなの元に、メンバーの一人が駆け寄ってきた。

「田中さん田中さん田中さん!」
「うっさい小春、何度も呼ぶんやなか」
「たーなーかーさーん!!」
「無駄に伸ばすな」

別に漫才の練習をしているわけではない。
テンション高く絡んでくる小春の相手をしているだけ、一種のコミュニケーションだ。
度が過ぎると鬱陶しいが、この程度なら耐性がついている。
数年間を集団で過ごしているれいなは、こういうタイプはきちんと相手をしてやれば満足するのだと知らずの内に学んでいた。

「聞いてください田中さん!小春ケータイ変えたんです!」
「おー、ほんとや」

嬉々として携帯電話を頭上に掲げる小春。
テレビなどで話題になっていた最新機種だったので、れいなも素直に反応を示した。
それに気を良くした小春が更にテンションを上げて話し出す。

125 名前:王子様を手に入れろ!2 投稿日:2008/05/09(金) 00:00

「で、で、メモリー一番は誰だと思います?」
「さぁ、誰なん?」
「少しは考えてくださいよぉ」
「考えても分からん、誰?」
「えへへー、それはぁ…田中さんです!」
「れいな?」
「はい!小春は田中さん大好きですから!」
「あー…そりゃどうも」
「冷たいー、なんか反応が冷たいー」
「いやいや」

返答が気に入らなかったらしく、小春はばたばたと地団駄を踏む。
始まっちゃったか、とばれないよう溜め息を吐き頭を掻いていたら、

「二人でなに話してるんですかぁ?」

二人目の後輩がのんびりと間に入ってきた。

「ちょっとみっつぃー、田中さんは今小春と話してるんだから」
「いいやないですか、混ぜてくださいよー」

片方は落ち着きがなく、もう片方は落ち着き過ぎ。
正反対な二人だが、意外と相性はいいらしい。
が、れいなが絡むと話は別。
まだ子供な二人は、好きな人を独占しようと一歩も譲らない。
小春に右手、愛佳に左手を握られぶんぶんと振り回される。

126 名前:王子様を手に入れろ!2 投稿日:2008/05/09(金) 00:02


「なんや騒がしいのぉ」

板挟み状態のれいなに、また一人厄介なのが後ろから抱き付いてきた。
れいなより年上であり、れいなが所属するグループのリーダーでもある愛だ。
この二人と違ってれいなの先輩になる愛は、とても扱いに困る。

「れいな、あーしと静かなとこで話そうか」

そうだ、そして自由奔放な人だった。
小春と愛佳の存在を無視してれいなの腕を引っ張る。
だが、はいそうですかと簡単に諦める後輩達ではない。

「高橋さんまで!田中さんと小春の二人の時間を邪魔しないでください!」
「あの…」
「ほぉ、そら邪魔せんといかんなぁ?」
「そうですねぇ」
「ちょ、無視ですか?」

れいなの言葉など三人は聞く耳持たず。
それぞれに腕や肩を掴まれていて、身動きすらとれない。
助けを求めようにも、この場にいて唯一この騒ぎに参加していないさゆみは鏡を見つめているし。
まぁさゆみに頼んだところで、面白がって三人に加勢する可能性の方が高いだろう。

127 名前:王子様を手に入れろ!2 投稿日:2008/05/09(金) 00:04


「なーにやってんの、廊下まで聞こえてるよ?」

苦笑しながら輪に入ってきたのは、しっかり者のサブリーダー。
リーダーより頼りになるサブリーダーの登場に、れいなは少し安堵した。
だがしかし、助けてもらえるというれいなの予想は大きく外れることになる。

「田中っちが嫌がってるでしょうが」
「って里沙ちゃん!れいなをどこに連れて行くんや!」

自然な動作でれいなを三人から引き離した里沙。
そしてこれまた自然に空いたれいなの手を取って移動しようとしたが、もちろん愛が許してくれるはずもなかった。
まさか里沙までこんな騒ぎに参加するとは、れいなはがっくりと項垂れる。
ここから四人によるれいな争奪バトルが開始された。


128 名前:王子様を手に入れろ!2 投稿日:2008/05/09(金) 00:05


「もー!田中さんは小春のなんですよ!」
「あほ、そんなんはリーダーであるあーしの許可を得てから言いなさい」
「なんで愛ちゃんの許可が必要なのさ」
「愛佳も田中さんほしいですぅ」

「小春が最初に田中さんのとこにきたんですよ!」
「順番なんて関係ないがし、年功序列や」
「それじゃ愛ちゃんが有利じゃん」
「たまには逆年功序列ってことでぇ、一番下の光井が」
「「それはない」」


129 名前:王子様を手に入れろ!2 投稿日:2008/05/09(金) 00:07


すっかり蚊帳の外なうえに、物扱いされてしまっている始末。
気付けば身体は解放されていたので立ち去ろうとすると、「待てれいな」と愛に制される。
もう好きにやってくれと静かに眺めていたら、背後に気配を感じた。
なんだろう、振り向いてはいけないオーラが漂っている。
見なくとも、それが誰かは分かっているが。


「みんなでなにやってるんですか?」
「小春があーしのれいなに手出そうとするんやよ」
「だから田中さんは小春のですってば!」
「光井のです」
「あのねぇ、って―――」

不穏な空気を一番に感じ取ったのは里沙だった。
里沙が言葉を詰まらせたことにより、遅れて他の三人もそれに気付く。
同時に背筋が寒くなった。
四人が一斉に視線を向けた先には、満面の笑みを浮かべたその人。

130 名前:王子様を手に入れろ!2 投稿日:2008/05/09(金) 00:09


「…か、亀?」
「あはは…冗談、冗談やってぇ」

れいなの前に立っているのは、部屋から出ていたはずの絵里だ。
絵里がいなくなったのを見計らってれいなを独り占めしようとした四人だが、案外早く帰ってきてしまった。
この場をなんとか取り繕おうとする先輩二人と、硬直してしまった後輩二人。

――あ、愛ちゃんなんとかしてよ!
――なんであーしが!元はと言えば小春が悪いんやって!
――小春じゃないです!みっつぃーですよ!
――えー、違いますってぇ。

小声でそれぞれが自分のことを棚に上げて擦り付け合う。
どうにかして命だけは守らなければと必死だった。
ごほん、咳払いが一つ。
四人の口も動きもぴたりと止まる。


131 名前:王子様を手に入れろ!2 投稿日:2008/05/09(金) 00:10


「れーなは絵里のですよ?」


絵里が小首を傾げながらふにゃりと笑いそう一言告げると、れいなを含めた全員が凍りついた。
その仕草に似つかわしくない、怒りを露にされた時と比べ物にならない程の恐怖に襲われたからだ。

「れーな、あっち行こ?」
「……あ、はい」

すでに疲労がピークに達しているれいなは、抵抗なく絵里に手を引かれ移動する。
部屋を出る直前、絵里が振り返り四人に向けて微笑んだ。

「あれー?みんなどうしたの?」

絵里とれいなの姿が見えなくなった後、ようやくおかしな雰囲気を察したさゆみが歩み寄ってきた。
今までの経緯を知らないさゆみは不思議そうに声をかけてみたが、誰一人として口を開くことはなかった。




132 名前:王子様を手に入れろ!2 投稿日:2008/05/09(金) 00:11



川; 'ー')<……死ぬかと思ったやよ。
(;・e・)<…ほんとに。
リ0*´ゥ`)<……。
川=´┴`)<亀井さん…怖かったですぅ。

从*・ 。.・)<?





おわり。



133 名前:_ 投稿日:2008/05/09(金) 00:11



134 名前:_ 投稿日:2008/05/09(金) 00:12



135 名前:竜斗 投稿日:2008/05/24(土) 21:17



*暗・痛

It's all my fault/亀⇔田新



136 名前:It's all my fault 投稿日:2008/05/24(土) 21:18



悪いのは全て、自分だ。





自惚れ、ではないだろう。
彼女が自分に、仲間以上の好意を抱いている。
悟ったのは昨日か、あるいは数ヶ月、数年前か。
気付かぬ振りをして、仲間として接していればいい。
そうできないのは何故だ。
胸の奥の方がもやもやして、とても不快だった。




137 名前:It's all my fault 投稿日:2008/05/24(土) 21:19



『今日私の家にこない?』


恋人からのメールに、だらしなく頬が緩む。
幸い他のメンバーは各々自由行動をしていて、この場にいるのは自分だけ。
誰にも見られないだろうと、緩みきったままにしていたら、

「ガキさんからメール?」

一番見られたくない奴が、背後に立ってメールを盗み見ていた。
足音も気配もなく突如現れた二本の腕に、冗談抜きで心臓が止まりかけた。
冷静を装って速攻顔をしかめ、首に絡んでいた腕を振り解く。

「見んなアホ」
「私の家にこない?って、お誘いメールじゃーん」

やらしー、とか言いながら今度は肩に顎を乗せてくる年上の同期。
皆からガキさんと呼ばれる恋人、新垣里沙と同い年の亀井絵里。
やたら絡んでくる絵里を鬱陶しいと思いながらも、どうしてか最初のように振り払えなかった。

138 名前:It's all my fault 投稿日:2008/05/24(土) 21:21

今度は腕を捕えられ、逃亡はほぼ不可能。
というか、する気など毛頭ない。

「いいなぁ、絵里も恋人ほしー」
「作ればいいやん」
「簡単に言わないでくださーい」

頬を膨らませる仕草は可愛らしいと思う。
素直に本人にそう言えないのは、自分が口下手だから、ではないのか。
恋人である里沙はもちろん、さゆみや愛になら平気で言える。
しかしどんなに強要されても言えないのだ、絵里にだけは。

「好きな人おらんの?」
「えー、好きな人ねぇ…」


―――れいなが、好きなんやろ?


答えは聞かずとも、知っている。
我ながら意地の悪い質問をした。
腕組みをしてわざとらしく唸る姿に、胸が痛む。




139 名前:It's all my fault 投稿日:2008/05/24(土) 21:23



視線を感じて振り向けば、そこにいるのはいつも絵里で。
偶然と片付けられる頻度ではない。
だとしてもそれだけで絵里が自分を好きだと決めつけるのは、ただの自意識過剰である。

だが実際、絵里がさゆみに自分を好きだと打ち明けているのを聞いてしまった。
途端に感じたのは困惑、とは違う。
歓喜、叫び出しそうな程に嬉しかった。
そしてこれがどういう意味を持っているのかを理解するのは、とても容易かった。
が、自分は認めることを拒んだ。
すでに自分には、里沙がいたから。


中途半端なところで停止した思考、消え去ってしまえと胸の奥底に沈め二度と出てこないよう封印した、筈が。
今になって再び顔を覗かせ、自分を見つめていた。




140 名前:It's all my fault 投稿日:2008/05/24(土) 21:26


「れーな」

舌足らずな声で、名前を呼ばれる。
脳を痺れさせ何も考えられなくなる、絵里の甘い声。
何十何百と人がいて、耳を塞ぎたくなる雑音の中にいたとしても。
絵里の声ならば聞き分けられる、何故かそんな妙な自信があった。

今の「れーな」というのは、単に呼んだだけなのか。
それとも、自分の質問への答えなのか。
もし後者だった場合、あっさり誤魔化せる科白を吐ける程の経験を積んでいない。
だからといって、短時間でいい方法を思いつく頭の良さも残念ながら持ち合わせていない。
後者ではありませんように、と神に運を任せるしかなかった。

「……なんでもない」

どうやら前者のようだ、ほっと安堵した。
しかし今度は緊張から苛立ちに変わる。

そんな顔で見るな。

思わず口に出してしまいそうなくらい、絵里のその表情が嫌いだった。
カメラや他人に向ける時と同じ、仕事用の顔。
造られた絵里の笑顔は無性に腹が立ち、どうしようもなく切なくなる。

141 名前:It's all my fault 投稿日:2008/05/24(土) 21:28

いや、自分にその偽りの顔を見せて欲しくないと言った方が正しい。
泣こうが怒ろうが全て受け止めるから、偽者の絵里を自分の前では出さないで欲しかった。
説明のしようがない感情は、時間が経つ毎に色を濃くして身体中を支配していく。


―――違う、これはそんなんじゃない。


飲み込まれる前に咄嗟に否定する。
絵里の想いを知った日と同じように、また否定する。
そうすることで、逃げていた。
逃げて逃げて、追い付かれたらきっと壊れてしまう。
今まで積み重ねてきた物、友情も恋愛も全部。
そうならない為に絵里の想いから、自身の深い場所に閉じ込めている想いから目を背け続けてきた。


「なんもないなら、もう行くけん」
「…うん」

自分が、限界だ。
極力絵里の顔を見ないようにしながら、鞄を掴んで楽屋の出入り口へ。
廊下に出てドアを軽く押した後、もう大丈夫だろうと振り向いたことを後悔した。

142 名前:It's all my fault 投稿日:2008/05/24(土) 21:30

閉まる直前、ドアの隙間から見えた絵里。
手で顔を覆って俯いていたので表情はよく見えなかったが、いくつもの水滴が指の間から床へと落ちていく。
絵里の元へ駆け出しそうになる身体を抑え付け、がちゃりと閉まるドアの音を聞き終えた。

自分と絵里を隔てる、たった一枚の薄い板。
そこに背を預け、ずるずるとしゃがみ込んだ。
直接的な距離は壁一枚分なのに、心は近づくどころか遠ざかっていく。
すぐにでも抱き締めて奪い去ってしまいたかったが、自分にその資格などない。

痛い、痛い。

抉られるような胸の痛みは増す一方。



こんなのは、初めてだった。
里沙に対する感情に酷似しているが、それよりも特別で。
際限なく増大するこの感情の扱い方を知る由もない自分は、溜め込んでいくしかできない。
身体が熱い、目眩がする。


143 名前:It's all my fault 投稿日:2008/05/24(土) 21:32


「…メール、返さんと」

朦朧とする意識の中、先程届いた里沙からのメールを思い出して返事を打つ。
里沙に会えば、こんな訳の解らない感情など忘れさせてくれる。
そう思うと少し気が楽になり、宙を仰いで一度大きく深呼吸をして。
メールを送信しようと、画面に視線を向けた。

「……はっ、はは」

自分で打った筈の内容を確認した途端、意味もなく込み上げてきた可笑しさ。


『今日は行けない』


今だって頭を埋め尽くしているのは、里沙ではなく絵里で。
思考と真逆の内容を打っていたのはおそらく、里沙への罪悪感。
このまま会ったとしても、里沙に絵里の姿を重ねてしまうだろう。

開いたまま握っていた携帯が震え、着信を知らせた。
新垣里沙、と堅苦しいフルネームが表示されている。
少し躊躇してからボタンを押し、携帯を耳に当てた。

『もしもし、田中っち?』

里沙だけの、自分の呼び方。
すごく好きなのに、愛しいのに。
なんだかとてつもなく息苦しかった。

144 名前:It's all my fault 投稿日:2008/05/24(土) 21:34

「はい」
『あのさ…今日、何か用事あった?』
「…ちょっと、今日は」
『そっか、うん。分かった』
「ごめんなさい」
『なーに言ってんの、謝ることないでしょ』

ごめんなさい。
里沙と話しているのに、絵里のことばかり考えている。
絵里の方が声高いな、とか。
絵里だったら駄々を捏ねて拗ねるんだろうな、とか。
相手が絵里ならどんな用事があっても自分はそれをキャンセルして絵里を選ぶんだろうな、とか。

言えない、言ってはいけない。
誰よりも自分を愛してくれている里沙を、傷付けるなんて許されない。
会話はほとんど頭に入っていなかったが、最後に『また明日』という言葉が聞こえて通話は切れた。

また、明日。
明日になれば、絵里に会える。
絵里が隣で名前を呼んで笑ってくれる。
自分の世界は絵里を中心に回っている。


もう、認めてしまおう。



145 名前:It's all my fault 投稿日:2008/05/24(土) 21:36



「…なぁ絵里、れいなは―――」




絵里が、好きやけん。



 

146 名前:It's all my fault 投稿日:2008/05/24(土) 21:37


手を伸ばせば、絵里は迷わず自分の手を取ってくれるだろう。
伸ばそうとしないのは拒否されることが怖い訳でなく、どう足掻いても繋がれたもう片方の手を離すことができないからだ。
向こうから離してくれない限り、ずっと。
自分から離してしまったら、里沙が悲しむ。
その気持ちは愛情ではなく、むしろ同情に近かった。
初めから里沙に抱いていたのは恋愛ではなく友愛だと、今更になって気付く自分があまりにも滑稽で、また一人で笑う。

里沙と、絵里。

もっと早く感情の色の違いに気付けていれば、今は絵里と二人で笑っていられたのだろうか。
出会った時から、自分は絵里に惹かれていたというのに。


遅すぎた自覚が招いた、この結果。
本当に愛する人が泣いていることが、何よりも悔しかった。
これ以上、好きになるな。
押し殺そうとすればする程に増長する想いを、生涯引き摺りながら。
彼女の幸せを願って、これからも仲間として傍にいると誓う。
それが、馬鹿な自分が犯した罪の代償。




147 名前:It's all my fault 投稿日:2008/05/24(土) 21:38



おわり。



148 名前:_ 投稿日:2008/05/24(土) 21:38



149 名前:_ 投稿日:2008/05/24(土) 21:38



150 名前:竜斗 投稿日:2008/05/26(月) 21:00



恋せよ少女達!/高+亀+道



151 名前:恋せよ少女達! 投稿日:2008/05/26(月) 21:01


「暴露大会しましょうよ」

明日から地方でのライブがあるため、前日は会場近くのホテルに宿泊。
絵里の部屋に遊びにきていた愛とさゆみ。
奥のベッドに絵里とさゆみが、向かい側に愛が座って楽しくおしゃべりをしていたら、唐突にさゆみがそう切り出した。
ただお題も何も言わなかったので、愛がその意図を尋ねる。

「暴露ってなにを?」
「決まってるじゃないですか、自分の恋人についてですよ」

顔の横で両手を合わせて小首を傾げ、可愛くポーズ。
絵里の恋人で同室のれいなは、愛の恋人であるまことに連れられ、さゆみの恋人美貴の部屋に行っている。
れいながいたら止められるだろうから、女の子同士の話をするなら今がチャンス。
三人の恋人も女の子なんだけども。

「相手の好きなとことかいいとこを言い合うんです」
「えー、恥ずかしくない?」
「いや、たまにはこんなんもおもしろいやよ」

消極的な絵里とは逆に、愛は乗り気。
早速先陣を切って話し出した。


152 名前:恋せよ少女達! 投稿日:2008/05/26(月) 21:02


「あーしのまことは完璧やで、優しくてかわいくて真面目な顔したらかっこよくて。あ、普段もかっこいいけど。でも笑った顔はすっごいかわいいんや。それですっごい一途であーしをほんとに愛してくれてるんやよ、こんな人世界中探してもまことしかいないね」

大好きな恋人への想いを、包み隠さず話してくれるのはいい。
しかし、早口すぎてほとんど聞き取れない。
一人突っ走る愛に、残された絵里とさゆみはそれが終わるまで口を挟めずにいた。
愛の一人語りが続くこと約十分。

「―――なんで、あーしのまことが一番!」
「藤本さんの方がかわいいの、まこっちゃんみたいにヘタレじゃないし。さゆみの藤本さんが一番なの」

ようやく一段落したところで、愛に負けじと言い返すさゆみ。
しかし聞き捨てならない台詞を言われ、愛は反論する。

153 名前:恋せよ少女達! 投稿日:2008/05/26(月) 21:05

「まことはヘタレじゃないし!美貴ちゃんみたいなのをヘタレって言うんやよ。しかも吉澤さんにデレデレしちゃってさぁ」
「愛ちゃん間違ってる、藤本さんはさゆみだけだし吉澤さんにデレデレしてるのはまこっちゃんなの」
「いーや間違ってない、つーかまことはあーしだけって言ってるがし。それに…まことは夜だって優しいし」
「そんなの藤本さんだって優しいの」
「まことや」
「藤本さんなの」

バチバチ火花を散らしている愛とさゆみ。
単なるのろけ大会にするつもりだったのに、バトルへと発展してしまっていた。

「うへへ」

睨み合う二人の間に、殺伐とした空気を掻き消すかのような笑い声が。
同時にその出所を見やると、愛とさゆみとは対照的に頬を緩めた絵里の姿。
すっかり存在を忘れてしまっていたが、絵里もすぐ傍にいたのだった。

「…絵里、なに一人で笑っとんの?」
「また妄想でもしてるの?」

少し引き気味な愛と、いつものことだと呆れているさゆみ。
そんな二人にはお構いなしに、絵里はふにゃふにゃ笑っている。

154 名前:恋せよ少女達! 投稿日:2008/05/26(月) 21:06

「だってー、二人ともおかしいんだもん」

今度は同時に顔を見合わせる、普段は姉妹のように仲が良い二人。
確かに熱くなってはいたが、それほどおかしいことは言っていないと思う。
どこら辺で絵里のツボに入ったのか。
相変わらず訳が分からないなと思っていたら、

「一番は、絵里のれーなに決まってるじゃん」

そう言って、また笑った。

「え、うん……っていやいや待たんかい」

あまりにも堂々とした絵里の口振りに、納得してしまうところであった。
頷きかけた愛が、慌てて首を横に振る。
治まりそうだった闘争心に、再び火がつく。

「れいなこそヘタレの代名詞やんか」
「そうなの」
「手繋ぐだけで真っ赤になっちゃってさー、自分からキスもできんし」
「寂しいくせに強がってるし」
「ちっちゃいし、ヤンキーやし」

155 名前:恋せよ少女達! 投稿日:2008/05/26(月) 21:08


どう贔屓目に見てもヘタレやん、愛の言葉にさゆみもうんうんと賛同する。
途中から関係ない方にまでいってしまっているが。
恋人の散々な言われように、絵里はぷくっと頬を膨らませて唇を尖らせた。

「れーなは照れ屋さんなだけだもん、そこもかわいいんだから!」
「かわいいって言っても限度があるやよ、あそこまでいったら嫌われてんのかって不安になるし」
「確かに手繋いだら振り払われるっていうのは自信なくしますよね」
「だからあれは照れてるだけなんだってば!」
「そんなこと言って、絵里だって不満なくせに」
「う……」
「つーことで、一番はあーしのまことで決まりやな」
「「それは違います」」

まるでコントのようだけれど、本人達は至って真面目である。


156 名前:恋せよ少女達! 投稿日:2008/05/26(月) 21:09


「まことや!」
「藤本さんなの!」
「絶対れーなだもん!」

れいなが美貴とまことを連れて部屋に戻るまで討論は続き、愛とさゆみは自分の恋人によって強制的に部屋に連れ戻された。
結局勝敗はつかず、それでは納得いかないという三人。

当初の目的だったのろけ大会から道が外れた恋人ナンバーワン決定戦は、次回の勝負に持ち越されることとなった。





157 名前:恋せよ少女達! 投稿日:2008/05/26(月) 21:09



おわり。



158 名前:_ 投稿日:2008/05/26(月) 21:10



159 名前:_ 投稿日:2008/05/26(月) 21:10



160 名前:竜斗 投稿日:2008/05/27(火) 21:34



*♂化

不器用な恋の行方は/田亀+藤道



161 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/27(火) 21:35



「え、何?」
「だから、告白された」

藤本家の二階にあるれいなの部屋。
絵里がいつものように学校帰りに立ち寄って、れいなが腰掛けているベッドに寄り掛かってくつろいでいたら、突然れいなからそんな報告。

「だ、誰から?」
「さぁ…二年らしいけど」

名前なんか覚えとらん、と興味なさそうに呟くれいな。
視線は手にしているマンガに落としたまま。

二年ということは絵里と同学年でれいなの一個上。
絵里達が通っている高校は、今の三年生が入学した年まで女子校だった。
絵里の代から共学になったのだが、女子校という先入観にとらわれ男子はなかなか近寄りがたい。
女子ばかりの中に入ればモテるかもという単純な考えで入学する男子もいるらしいが。
れいながそこを選んだ理由は、別にモテたかったとかそんなことではなく。
ただ単に家から近かったのと、特に志望校もなかったれいなを絵里が誘った、それだけ。

162 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/27(火) 21:37

しかしそんなつもりはなくても、数少ない男子は注目される。
れいなは背はそんなに高くはないけれど、某男子アイドル事務所の人達にも負けない顔立ち。
不良っぽい見た目なのに接してみたら意外に優しい。
気付けばれいなは高校ではかなりの有名人になっていた。

表には出さないようにしているが、絵里は動揺していた。
これまでも何度か噂でれいなが告白されたと流れていたけど、直接れいなの口から聞くのは初めてだったから。

「…今日以外にもあるの?」
「あーまぁ…何度か」

噂は本当だったらしい。
だけどれいなが誰かと付き合っているということはないはず。
現にこうして、ほぼ毎日絵里はれいなの部屋にお邪魔している。

「全部断ってるの?」
「あぁ、悪いとは思うんやけど俺は好きじゃないし」
「…そっか」

はっきりとしたれいなの言葉に、絵里はほっとしてふにゃりと笑った。
れいなはちらりと絵里を見ただけで、特に何も反応はなし。
絵里の笑顔の意味を、れいなは知らない。


163 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/27(火) 21:39




「れいなぁ!ちょっと手伝えー!」

再びくつろぎモードに入ろうとした時、下から大きな声が。

「悪い絵里、美貴にぃが呼んでるけん」
「いいよぉ、じゃあ絵里帰るね」

れいなの兄であり藤本家の長男、藤本美貴。
藤本家は酒屋を営んでおり、大学生の美貴は休みや時間が空いた時は家の手伝いをしている。
れいなもたまに店に入るが、それは忙しい時やお小遣いが欲しい時くらい。
夕方の五時を回った今、買い物や会社帰りの人で込み出す時間帯だ。
面倒だったが美貴に逆らうと後が怖い。
仕方なくれいなは重い腰を上げて一階へと降りて行く。
絵里も鞄を手にしてれいなの後を追った。


164 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/27(火) 21:41



外に出るには一度店の中を通らなければいけない。
その為お客さんの間をすり抜けながら進んで行くと、表で美貴がビールを運んでいる最中だった。

「おー絵里、悪いねれいな呼び出しちゃって」
「大丈夫ですよぉ、絵里もそろそろ帰ろうと思ってたんで」

じゃーねー、とれいなと美貴に手を振って絵里が入って行ったのは、藤本家の隣に門を構える亀井家。
徒歩約三秒という近さにあるのだ。

藤本一家が北海道から東京に、亀井家の隣に引っ越してきたのはれいなが生まれてすぐの頃。
それまでは普通の会社員だった父親が知り合いに勧められて酒屋を始め、今年で早十数年。
ご近所付き合いの上手い両親のおかげで店は順調だ。



165 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/27(火) 21:42


先程のれいなと美貴の話し方で、なぜれいなだけ博多弁なのかという疑問が浮かぶ人もいるだろう。
解りにくいかもしれないが、少し説明を。

藤本家は父親が北海道出身で母親は福岡出身。
出会いなどはここでは省略しておこう。
美貴が小さい時、両親は共働きをしており、美貴は父方の祖母に面倒を見てもらっていた。
祖母はそれほど訛りはなかったし、父親もほぼ標準語。
どちらかといえばお父さん子な美貴はよく父親の口調を真似たりしていた。

しかし母親はばりばりの博多弁。
れいなが生まれてから、母親は仕事を辞めてれいなに付きっきりで世話をしていた。
物心がつく前からその博多弁を聞いていたれいなは、自然とそれを口にするようになって。
成長しても一度身に付いてしまったものは変わらず、今に至る。

決して血が繋がっていないわけではないので、そこはお間違えなく。




166 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/27(火) 21:44



「ただいまー」

玄関を開けて一歩中に入ると美味しそうな香りが鼻に届いた。
今日はカレーかぁ、と絵里は顔を綻ばせて二階へ続く階段を昇る。
部屋に到着して机に鞄を置いて部屋着に着替え、カーテンを開ける。
そこから見えるのは、隣の藤本家にあるれいなの部屋。
れいなは今、店の手伝いをしているのでそこにいないことは分かっていた。
でもこれは絵里の小さい頃からの習慣なのだ。

「……ばーか」

主のいない部屋に向かってぽつりと呟く。
虚しくなって乱暴にカーテンを閉め、ベッドに寝転んだ。
頭の近くにあった枕をばふっと叩く。


―――告白されたなんて、そんなん聞かされた絵里の気持ちも考えろ。


れいなにとっては何気ない会話の一つだったのだろう。
でも絵里にしてみればそれは衝撃的で、次第に焦りへと変わる。
本当は帰りたくなかったのに。
我儘を言ってれいなに嫌われるのが、絵里は怖かった。


167 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/27(火) 21:46

学年は一つ違うが幼い頃からずっと一緒だったれいなと絵里。
小中、中高と離れてしまうことはあっても学校が終わればどちらかの部屋へ。
と言っても、ほとんど絵里がれいなの部屋へ上がり込んでいるのだが。
小学生くらいまでは手を繋ぐなんて普通にしていたのに、思春期を迎えてかられいなは段々素っ気なくなって。
だからといって、絵里にくるなとは言わない。
そんなれいなの態度が分からなくて、むかついて、寂しくなって。
それくらいからだろうか、絵里がれいなを好きだと気付き始めたのは。
もしかしたらもっと前から好きだったのかもしれない。
少しでも長く傍にいたくて、行きたい高校がないと言うれいなに絵里が通っている高校を勧めたり。
同じ学校なら幼馴染みという理由で登下校を共にしても変に思われないし、と。

絵里の思惑通り、れいなは今年同じ高校に入学して朝も帰りも一緒。
しかし、一つ予想外なことが起きてしまった。

168 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/27(火) 21:47


れいながこんなにモテるなんて、思わなかった。
自分の好きな人が人気があるというのは悪くない。
だけどそれは同時に不安の要素にもなってしまう。
れいなは絵里のものじゃない。
いつれいなに彼女ができてもおかしくない状況なのだ。
れいなと同じクラスの、絵里の従姉妹兼親友はそんなことないと言うけれど。
絵里の不安は募るばかり。

「絵里ー、もう降りてきなさーい」

母親に呼ばれ、落ちていた気分をなんとか元に戻す。
家族に心配をかけたくないから、絵里はいつも笑顔でいることを心掛けている。
部屋を出る前にカーテンの隙間から向かいの部屋を覗いて見た。
灯りがついていないのでまだ仕事中なんだろう。
もう一度「ばか」と呟いて、絵里は母親の手伝いの為に台所へと向かった。




169 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/27(火) 21:49




「あー…疲れた」

絵里が帰った後、店には客が絶えることなくやってきて、終いには閉店作業までやらされてしまった。
夕飯はこれから作るので一時間は待たないといけない。
テレビでも見て時間を潰すかとリモコンのスイッチを押した。
適当に回してみたがれいなが面白いと思える番組はやっていない。
たまたまやっていた特番のチャンネルで止めて、ぼーっと画面を眺める。
が、やはり面白くない。
目蓋が重くなってきてうとうととしかけた時、ドアをノックする音。

「入るぞー」

れいなの返事を待たずにずかずか入ってきたのは美貴だった。
よくあることなのでれいなは気にしない。

「なん?」
「いや、悪かったね今日は。絵里きてたのに」
「別にいつものことやし、自分の家やからね」

育ててもらってるんだから、家の手伝いくらいするのは当たり前。
今時の男の子なのに、れいなはそういうところはしっかりしているのだ。

170 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/27(火) 21:51

れいなの隣に腰を下ろした美貴がにやっと笑みを浮かべた。
こんな顔をする時は、ろくなことを言わない。
長い付き合いだ、れいなは美貴のことを充分熟知している。

「で?絵里りんとはどーよ」

……やっぱり。
ってか絵里りんてなんだ。

「どーって、何が」
「まだ好きって言ってないのかよ」
「…関係ないやろ」

大きなお世話だ、とれいなは顔を背ける。
れいなだって、こんな友達以上恋人未満な関係は終わりにしたいと思っている。
絵里のこと、好きだから。
だけど絵里がれいなを好きだという自信はない。
今日だって絵里を試すように告白されたなんて言ってみた、それは本当のことだけど。
帰る時も笑顔で、少しくらい名残惜しそうにしてくれてもいいのに。
絵里に自分の気持ちを伝える勇気は、まだれいなにはなかった。

171 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/27(火) 21:54


美貴はれいなに直接絵里が好きだと聞いてはいない。
そこは兄弟ということもあってか、兄は弟の微妙な変化を見逃してはいなかった。
絵里の前でのれいなを見ていたら、美貴がれいなの気持ちを見抜くことなんて簡単すぎる。
第一、れいなが自分の部屋に入れた女の子は絵里以外いない。
それに彼女だって、毎日毎日飽きもせずにれいなの部屋を訪れる。
れいなの傍にいる時の、彼女のとろけそうな笑顔。
端から見たら、完全な両想いではないか。
口をへの字にして黙ってしまったれいなに、美貴は呆れ顔で溜め息を吐いた。

「情けないなぁ、それでも俺の弟か?」
「……うっさい…ロリコンが」
「はあぁ!?誰がロリコンだ!!俺としげさんは四つしか離れてないっつーの、この年上好きめ!」
「なっ、俺は年上なんか好きじゃなか!たまたま絵里が上やっただけやろ!」

172 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/27(火) 21:54

ちょっとカチンときて嫌味程度にれいなは言ったのだが、美貴は本気で受け取ってしまった。

美貴の彼女、道重さゆみはれいなと同い年。
少し前に出てきたれいなと同じクラスで絵里の従姉妹兼親友というのはさゆみのことである。
十代と二十代と言ったらとても離れていると感じるが、実際は高校一年と大学二年。
ロリコンだなんて言われるのは心外だ。

れいなもれいなで、年上好きなわけではない。
好きになった人が年上だっただけ。
しかもたった一つの差でその言われ方はどうなんだ。
まぁ結局は、どっちもどっちということで。


れいなと美貴のじゃれ合い同様な兄弟喧嘩は、母親がうるさいと怒鳴りにくるまで続いたのだった。






173 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/27(火) 21:55

ノノ*^ー^)<続きますよ?

174 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/27(火) 22:15
これはまた珍しいみきれなですね
175 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/28(水) 11:40
このもどかしさがたまりませんw
頑張れ、へたれーな!
176 名前:竜斗 投稿日:2008/05/30(金) 22:22


→174 名無飼育さん
美貴様とれいな君は兄弟設定で。
れなえりとみきさゆなのでれなみきではありません。


→175 名無飼育さん
両想いなのにくっつかないもどかしくてじれったいのが大好きです。
基本れいな君はヘタレですがたまに男前になる…かも。


177 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:23


水曜日の朝、れいなは藤本家の前に立っていた。
近所の人なら平日は毎日見る光景。
通りすがるおじさんやおばさんがれいなに挨拶をして、れいなもきちんとそれに答えている。
四人目の人の背中が見えなくなり、れいなは携帯で時間を確認した。

「おそ…」

呟いてそれを制服のポケットに突っ込んだ。
同じ高校に通う家が隣の幼馴染み、亀井絵里。
れいなが毎朝待たされる相手。
マイペースな絵里が家から出てくるのはいつも遅刻寸前で。
短気なれいなはいらいらするのだが、絵里を置いて行くことはない。
そんなことをしたら後で何を言われるか。

その理由もあるが、絵里はれいなの好きな人。
学年が違う為、学校では傍にいられない。
だから登下校の時間はれいなにとって、とても大事な時なのだ。
絵里がどう思っているかは分からないけれど。



178 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:25



「ご、ごめんれーな!」

そろそろ本当に遅刻になってしまいそうだと心配になってきた時、やっと亀井家の門が開いた。
急いで降りてきたんだろう、絵里の髪は少しぼさぼさになっている。

「…髪」
「ふぇ?」
「ちゃんと直しぃよ」
「……あ、うん」

れいなに指摘されて絵里は手櫛で髪を梳かす。
梳かしながら歩き出したれいなを早足で追いかけて隣に並ぶ。

学校までは徒歩で二十分弱。
れいなが普通に歩けばもっと早いのだが、マイペースな絵里は歩くのも遅い。
でもれいなは文句を言わず、絵里に合わせて歩いてくれる。
横顔を盗み見ると、眠いからか絵里が待たせたからか、少し不機嫌そう。
そんな顔も好きだなぁと、絵里は呑気に考えていた。


学校に近付くにつれ、制服姿の女の子がちらほらと増えてきている。
後ろから自転車が走ってくる音が迫ってきているのに気付いたれいなは、それを避けようと歩道側を歩く絵里の方へ体を寄せた。

179 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:27


「お、亀とれいな君じゃないかい」

自転車は通りすぎることなくれいな達の傍で速度を落とした。
その自転車の持ち主は二人の歩くスピードに合わせて、片足で地面を蹴りながら進んでいる。

「ガキさん、おはよー」

絵里にガキさんと呼ばれたその人に、れいなは軽く頭を下げた。
ガキさん―――新垣里沙は絵里のクラスメイトであり親友。
中学二年の時から今まで絵里と同じクラスで、ずっと絵里の面倒をみている。
世話のかかる親友に何度振り回されてどれだけ迷惑を被ってきたか。
しかし絵里は憎めない人柄で、里沙はもう腐れ縁だと諦めている。

「お二人さん相変わらずらぶらぶで、うらやましいねぇ」
「ちょ、ガキさん!!」

諦めてはいるが、迷惑なのは事実。
だから里沙はこうして絵里をからかうことで、密かに仕返しをしているのだ。

180 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:30

顔を紅くして「そんなんじゃないから!」と反論する絵里をさらりと流して、里沙は自転車を漕いで颯爽と去って行った。

「もぉ、ガキさん…」
「……まぁいいんやない?」
「……………え?」

それは、どういう意味でしょうか?

ガキさんが絵里とれいなをらぶらぶだと言った。
それに対してれいなから肯定とも取れる発言。
絵里とれいながそういう風に見られても、いいってこと?

れいな的には、里沙がああ言うのはいつものことだからという意味で言ったのだが。
絵里の頭は別の解釈をしてしまったらしい。

真っ赤になった絵里の顔を、れいなは不思議そうに覗き込む。


181 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:31


「なんか顔赤いんやけど」
「へ?あ……なっ、なんでもないぃ!!」
「いてっ、おい…絵里!?」

至近距離にあったれいなの顔に驚いた絵里。
その肩を力任せに突き飛ばして走り出してしまった。

取り残されたれいなは訳が分からず追いかけることもできずに、ただ呆然と立ち尽くしている。

「……なん?」

頭を掻いて遠ざかっていく絵里の後ろ姿を見つめた。
自分の行動が原因だとは気付かない。
れいなはとても鈍かった。

遠くから聞こえるチャイムの音に気付いて、れいなは慌てて学校へと駆け出した。





182 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:32





183 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:34



走った所為で身体は熱かったが、普段より早く教室に到着できた絵里。
ぱたぱたと火照った頬を手で扇ぎながら、窓際の前から二番目にある自分の席に着く。
教科書やノートを鞄から取り出している最中、里沙がやってきた。
先に行った里沙だが、駐輪場が校舎から少し離れている為、絵里よりも遅くなったのだろう。
普段はゆっくり歩いてくる絵里が、走ってきたということもあるけれど。

絵里の二つ右隣の席に鞄を置いて、

「亀ぇ。どーしたの、早いじゃん」
「……………ガキさんのせいだ」
「は?なにさ、私なんかした?」

絵里の前の席を借りて座ったら、アヒル口でその科白。
何がどうしてを言わずにそれだけ言われても。
里沙にそれを読み取るエスパーのような能力はない。

「なにがあったわけ?言わなきゃ分からないでしょーが」
「うー………ガキさんがあんなこと言うから…」


184 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:36

もうそれは分かったから、内容をきちんと説明しなさい。
まるで母親みたいな口調だ、と里沙は苦笑した。
同い年なのに里沙が保護者に見えてしまうのは、それほど里沙が大人っぽいということなんだろうか。
絵里はぶつぶつと文句を混ぜながら、「ガキさんのせいだ」の理由を話した。


「で、れいな君を突き飛ばして走ってきちゃった…ってことね」
「………うん」
「言っちゃえばよかったのに、れいなが好きだぁ!って」
「ガキさん声おっきいよ!!!」

分かりづらい絵里の説明をどうにか頭で整理して、里沙は導き出した結論を大きく声にした。
教室は既に人で溢れているのにそんな告白紛いなことを、しかも大声で。
だがそれよりも大きかった絵里の声に、周りの視線が集中した。
なんでもないと言うように手を降ると、それはあっさりと散らばって、二人はほっと胸を撫で下ろす。

「……あのさぁ亀」
「絵里ー」

里沙の言葉に被さった絵里を呼ぶ声。
こちらに向かってくるのは去年絵里達と同じクラスだった、今は隣のクラスの人。

185 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:38

話した記憶はあまりない、けれどなぜか絵里を名前で呼ぶ。
その人が絵里になんの用だろうか。

「なに?」
「絵里って一年の藤本君と仲いいんだよね?」
「藤本君って…れいな?」
「そう、ねぇどうなの?」
「あー………まぁ」

そりゃ、幼馴染みですから。
自分で言ってちょっと落ち込んだ。
それが絵里とれいなを繋いでいるもの。
幼馴染みなんて関係なく、もっと仲良くなりたいのに。


「絵里?聞いてる?」
「……あ、ごめん…なんだっけ?」
「だから、藤本君。紹介してほしいんだけど」
「しょ…しょうかい?」
「すごい私のタイプなんだもん、絵里お願い!」

手を合わせて頭を下げた。
絵里は黙ったまま困った表情を浮かべる。
ここで頷いて、その子がれいなと仲良くなって、付き合うなんてことになってしまったら。
…そんなこと、あってはならない。
絵里だって、れいなが好きなのだ。
その想いは絶対、誰にも負けない自信がある。
だけど絵里の性格上、お断りするのはいけない気がしてしまう。


186 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:41


「れいな君は無理だって、好きな人いるって言ってたから」

絵里が里沙に助けを求めようとしたら、その里沙から思いもよらない一言。

「が、ガキさん…?」
「うそ、マジで?」
「マジマジ、だよね亀?」
「え…っと……」

どう答えていいか分からずおろおろする絵里に、里沙はとりあえず頷いとけと目で合図する。
里沙の指示通りに首を縦に動かすと、元クラスメイトは残念そうに項垂れた。
用件はそれだけだったようで、その後は会話もなく自分の教室へと帰って行った。

まったく…なんて言いながら、里沙は体の力を抜いて壁に凭れ掛かかる。
勢いがよすぎてごんっと窓に頭が当たったが、痛くはないので気にしない。

「……ガキさん」
「んー?」
「…………れーなの…好きな人、って…?」

絵里はれいなに好きな人がいるなんて聞いた覚えがなかった。
一番仲がいいはずの絵里が知らないのに、なぜ里沙が知っているのか。
れいなと里沙はそんな話をする程、仲良くなっていたんだろうか。
もしかしたら、絵里に内緒で二人は…。


187 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:44


「あんた、また変な勘違いしてんでしょ」
「…ふぇ?」
「言っときますけど、私とれいな君はただの先輩と後輩。亀に隠れて付き合ったりなんてしてませんから」

主語のない絵里の話を読み取ることはできないが、顔を見れば何を考えてるかくらい分かる。
なんせ、今年で四年目の付き合いですから。
そう言われてもまだ少し疑うような眼差しの絵里。
その額を小突くと「いたーい!」と大袈裟に騒ぐ。
ほとんど力なんて入れてないのに。

「ああでも言わないと引き下がんないでしょ?そうじゃなくても亀は人の頼み断んの苦手なんだから」

おかげで里沙がどれだけ苦労してきたか。
嫌だとはっきり言えないこの親友には、頭を抱えたくなる。
せめてれいなのことくらい、自分の意見をきちんと言ってほしいものだ。

HR開始のチャイムが鳴ったが、担任はまだくる気配がない。
里沙が借りている席の人も、友達と盛り上がっているみたいだし。


188 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:45

ふと里沙がグラウンドに視線を移すと、一年生が校舎からぞろぞろと出てくるところだった。
里沙の視線を追うように、絵里も外に顔を向けた。

「…………あ」
「なに?どした?」
「…れーな……」

女子の団体に混じった男子数名。
二クラス合同の体育の授業、女子と男子は別々の種目を行うが始まりと終わりの集合時は全員が一ヶ所に集まる。
男子はサッカーをやるらしく、れいなはボールを足で転がしている。
そこへとことことやってきた、絵里の従姉妹であるさゆみ。
同じクラスなのだから、当然さゆみも体育の授業だ。

さゆみはれいなが蹴っていたボールを横から奪った。
が、あっさりとれいなに取り返されてしまい、さゆみはむくれてれいなの腕をぺちっと叩いた。
れいなはにひひ、と意地悪く笑う。
二人はとても楽しそうだ。

「…いいなぁ」

誰に言うでもなく呟いた独り言。
学年もクラスも同じ、れいなとさゆみだからできること。
絵里はれいなと一緒に授業を受けることはできない、校舎で会うことすら滅多にない。

189 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:48

二年の絵里は三階、一年のれいなは四階。

移動教室で南校舎から北校舎に行く際、三階の通路を通る為にれいなが下に降りてきた時に偶然会ったりするくらいだ。
しかしそれも、週に二、三回。
帰りは絵里がれいなを迎えに行くけれど、それとは全然違う。
朝同じ教室に入って、同じ授業を受けて、一緒にお昼を食べて。
年が違う絵里には、到底無理なことである。


れいなを見つめる絵里の横顔を、里沙は見つめる。
そんなに悲しそうな顔をするなら、なんで早く自分の想いを伝えないのか。
積極的な里沙には、絵里がいつまでもうじうじしているのがもどかしくて仕方なかった。

それでも絵里なりに一生懸命なのは、分かっている。
だから、からかってはいても、無理に急かしたりはしない。


190 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:49

「…放課後一緒に帰るんでしょ?」
「…ぅん」
「ちゃんとれいな君に謝ること、分かった?」
「…………分かった」

里沙が微笑むと、絵里は堅かった表情を和らげた。
若干ぎこちなかったけれど、笑えるなら大丈夫だろう。
本当にどうしようもなくなったら、絵里は造り笑いになる。
周りには普通に見えても、親友の里沙にはお見通し。


―――これからも私が面倒みるんだろうなぁ…。


ま、それも悪くないか。
絵里同様、自分もお人好しだ。

自嘲気味に笑って廊下を見遣ると、ちょうど担任が急ぎ足で入ってきた。
椅子から立ち上がって席に戻る際、窓の外を仰ぎ見る。
青く澄み渡った空、雲一つない快晴。

今日も一日平和でありますように。

そう願いながら、里沙は担任に注意される前にと自分の席へ着いた。





191 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/05/30(金) 22:50

从´ヮ`)<まだ続くっちゃ。

192 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:11



あぁもう、わけ分からん。


購買で買ってきたパンを片手に、れいなは悩んでいた。
内容は、今日の朝の出来事について。
普段通り学校まで絵里と並んで歩いて、途中里沙と会って、里沙が去った後絵里の顔が紅くなっていて、熱でもあるのかと心配になって覗き込んだら突き飛ばされて、突き飛ばした本人はれいなを置いて走り去ってしまった。
その間に絵里を怒らせるようなことはしていない、たぶん。
ならば何が原因なのだろうか。
授業中もそればかり考えて上の空で教師に注意されるし、最悪だ。

鈍感なれいなには、乙女心ってものが分からない。


「なーに難しい顔してんの?」
「のんちゃん、おかえり」
「ただいまー」

がしがしと頭を掻いていたら、人影が視界の端に入った。
のんちゃん―――辻希美、れいなの前は彼の席である。


193 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:13

希美とは約一ヶ月半前、入学式の時に出会ったばかりだが、数少ない男子の中でも特に気が合うのでいつも行動を共にしている。
ちなみにれいなの席は廊下側の一番後ろ、授業中に抜け出すには絶好の位置。
髪は黒いが、風貌は正に不良。
第二ボタンまで開けたシャツはだらしなく出しっ放しで指定外のセーターを着て、校則違反なネックレスやピアスをつけて。
けれど外見と違い真面目なれいなは、寝ることはあってもさぼることはしない。

「ちょー眉間にしわ寄ってんですけど」

昇降口前にある自販機で買ってきた紙パックのオレンジジュースにストローを刺しながら。
自分の眉間を指差して、ひひっと笑う希美。

「なんかあったのか?」
「……まぁ、あったと言えばあったかな」
「亀井ちゃんでしょ」
「は…なんで」

あったりー、とガッツポーズ。
当てられたれいなは間抜けな顔で希美を見ている。
付き合いの短い希美だが、れいなが絵里を好きなことは聞いていた…れいなから無理矢理聞き出したんだけれども。

194 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:15

希美は前に一度だけ、今みたいに悩むれいなの姿を見たことがあった。
理由は、れいなが絵里に言わず放課後希美と遊びに行ってしまい、怒った絵里がしばらく口を聞いてくれなくなったということ。
その時と同じように頭を抱えているのだから、今回もほぼ間違いなく絵里絡みだろう。
そうでなければどんなに教師から叱られようと平気なれいなが、こんな泣きそうな顔はしない。

絵里は放課後必ずれいなを迎えにきていて、その場によく希美もいて。
四階までくるのは面倒だろうと思い絵里の教室に行くとれいなは言ったけど、「絵里が行きたいからいいの」って断られたらしい。
始めは先輩だからと敬語を使っていたし亀井先輩と呼んでいた。
だけど人懐っこい希美を絵里も気に入ってくれて先輩とか敬語とかいいからと言ってくれたので、今は亀井ちゃんと呼び友達として接している。
ほんの僅かな時間だが、三人で過ごしているうちに希美が気付いたこと。
れいなの絵里を見る瞳は、とても優しい。
好きな人の前で変わるのは、男も女と一緒のようだ。

195 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:17

では、他の人の前ではどうかと言うと。
クラスの女子達がれいなに話しかけても、冷めた態度で適当に相槌を打つだけ。
そこもまたクールでかっこいいとか言っちゃって、女の子の気持ちはほんと理解できないと希美は思う。
そろそろ相談相手になってやろうとした時、

「藤本くーん」

ほら、またきた。
語尾にハートマークでも付いてそうな甘い声、後ろのドアから女の子が三人。
それぞれ後ろ手に何かを隠している様子。
希美は一組の子だと分かったが、れいなは首を傾げた。
分からないけど別に名前を聞く必要性もないなと、普通に会話をする。

「なん?」
「今日家庭科の調理実習でクッキー焼いたの、藤本君に食べてもらいたいなぁと思って」
「…俺甘いもんは」
「愛情たっぷり入ってるからね、はい」
「………どうも」
「辻君にもあげる」
「お、さんきゅー」

少々強引にクッキーをれいなに渡した女子達は、きゃーきゃー言いながら戻って行った。


196 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:19


今度は何をしたんだとれいなに聞こうとしていた希美、しかしタイミングを逃してしまった。
…ま、いいか。
これはれいなと絵里の問題だから。
希美は早速リボンを外して袋を開け、ちょっと焦げ目のついた欠片を口に放り込む。
不味くはないが、旨くもなかった。
まぁれいなのついでだろう、それか失敗作かもしれない。
真っ黒じゃないだけましだと、前向きに考えよう。

「…よく食えるねのんちゃん」
「俺は甘いの好きだもん」

二個目を口に運ぶ希美をげんなりした顔で眺めるれいな。
れいなは甘い物は食べれなくはないけど苦手だった、カフェオレとか飲み物なら平気なのだが。
調理実習ではラッピング用の包装紙なんて用意されていないはず、わざわざ買って持ってきたんだろうか。
男のれいなには、そこまでする女の子の気持ちは理解不能だ。

197 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:21


机に置かれた三つの小さな袋、さてどうしよう。
捨てるなんてことはできないし、食べる気分でもない。
希美にあげるのもよくないだろう、れいなのために作ってきてくれたんだから。
変なところで気を使ってしまうのは、れいなが優しい所為なのか。
そこが女の子達を惹き付けたり勘違いさせたりするのだとは、れいなは知らずにいる。

鞄に入れたらそのまま忘れてしまいそうなので、セーターのポケットにそれを詰め込んだ。






198 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:21



199 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:23



「亀、れいな君迎えに行かないの?」

鞄を肩から提げて帰り支度万全の里沙が、絵里に歩み寄る。
絵里も帰る用意はできているものの、席を立とうとしない。
日直や掃除当番じゃない限り、HRが終わるとすぐ里沙に手を振りながら教室を出て行くのに。

「行くよ…行くけどぉ……」
「なにさ」
「………気まずい」

朝、突き飛ばして走ってきちゃったから。
なんであんなことしちゃったんだろうと絵里は後悔している。
短気なれいなは、怒っているかもしれない。
でもでも、いきなり顔を近付けてきたれいなにも責任はある。
あるけどやはり悪いのは絵里の方で。

「あのねぇ亀、そんなん言っててもしょーがないでしょ…って、なんかうるさくない?」

お得意の独り言を始めてしまった絵里を里沙が宥めようとしたら、何やら廊下が騒がしい。
女の子達が集まって会話しているなんてレベルではなく。
隣の校舎まで聞こえるんじゃないかと思える大きさの、アイドルでも発見したような黄色い声が。

200 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:25

なんだろう、絵里と里沙は顔を見合わせる。
その中に混じっていた足音が、絵里達のクラスの前で止まった。
にゅっと顔を覗かせた人物は、絵里と里沙の姿を確認して、

「なんだ、おるやん」
「うぇ?……れ、れーな?」

ドアの縁に手を掛けてだるそうに立っているれいなが。
後ろにたくさんの女の子を引き連れての登場。
と言ってもれいなが連れてきたんじゃない、勝手に付いてきただけですから。

「なんで……」
「なんでって、絵里がこんから見にきたんやけど」
「あ、あー…ごめん」
「ったく、先帰ったんかと思ったやん」

取り囲んでいる女子達を気にしてないのかどうでもいいのか、れいなは絵里しか見ていない。

201 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:26

「じゃーねーガキさん、また明日」
「はいよー」

現金なやつめ。
れいなが現れたことによって、落ちていたテンションがあっという間に復活した絵里に聞こえないように呟いて。
半ば呆れながらも里沙は手を振り返した。

里沙も帰りたかったのだが、廊下にいる人達の目が怖かったので、もう少し待っておくことに。
今日は見たい再放送のドラマがあるのにな。
ほんと、損な役回りだ。


窓から身を乗り出して見上げた空は、オレンジ色に染まっていた。






202 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:26



203 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:27



昇降口から校門までの道程。
絵里がぐだぐだしていた所為でいつもより遅くなったが、まだ人は多い。
大半はもちろん女子で、そのほとんどの視線はれいなと絵里に向けられている。
否、れいなにむけられいると言った方が正しいか。
これだけ視線が集中しているというのに、本人は欠伸なんかしちゃって全然気付いていない様子。

「ほんと鈍いんだから…」
「あ?なんか言った?」
「別にぃ」
「気になるやろが、言いんしゃい」
「わわっ、れーなのばかっ!ぐしゃぐしゃになったじゃんかぁ」

頬を膨らませ髪を撫で付ける絵里に、れいなは意地悪く笑う。
れいなに髪を乱された絵里も、口では怒っているが目は細められ口元は緩んでいて。
今の関係を壊してしまったら、こうやってふざけてじゃれ合うこともできなくなるんじゃないか。
絵里もれいなもそれが恐くて、あと一歩を踏み出せない。


204 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:28


「あ、れいな!」

校門に寄り掛かっていた金髪ロングと茶髪でセミロングのギャル系っぽい女子が二人、れいなに近付いてきた。
同じクラスだけど仲良くもないし名前も覚えてないのに、馴れ馴れしく接してくるれいなが苦手なタイプ。
彼女達がれいなに好意を寄せているのは誰の目から見ても明らかで。
れいなには迷惑以外の何物でもないので相手にしてないのだが、めげずに毎日絡んでくる。

「あたしら今からカラオケ行くんだー、れいなも行かない?」
「行かん」
「幼馴染みだかなんだか知んないけどさ、その人のお守りばっかじゃつまんないでしょ?」

金髪の方が横目で絵里を睨む、敵対心を剥き出しにして。
絵里がれいなの制服の袖を掴んだら、チッと舌打ちをして目線をれいなに戻した。
袖を握る手が少し震えているのを感じたれいなは、絵里を隠すように前に立つ。
かなりむかつくことを言われたが、ここは我慢して冷静に対応する。


205 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:31

「今、なんつった?」
「だから、そうやって毎日毎日べたべたされてれいなも迷惑っしょ?」
「………」
「へらへらしながられいなにまとわり付いて、ほんとはうざいんじゃない?」

にやにや笑って隣にいる茶髪と顔を見合わせながら、金髪が絵里を詰る言葉を吐く。
彼女の甲高いアニメ声もまた、れいなの気分を害する。

「そーそー、彼女でもないくせにさ」
「もうよか、黙れ」

茶髪が続けようとしたら、彼女達よりも数倍低い声がそれを遮った。
空気を読めないらしい二人が「なにその言い方」と軽口をたたこうとしてれいなに向き直る。

206 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:32

瞬間、びくっと肩を揺らして後退り、にやついていた顔は怯えた表情に。
それもそのはず、れいなはゴミでも見るような冷たい瞳で二人を見下ろしていた。

「お前らに絵里の何が分かると?」
「な、なによ。そんなマジになんなくてもいいじゃん」
「俺が好きで絵里といるんやけん、関係ないやろ。それにお前らが俺を好きでも、俺は絶対お前らみたいなやつ好きにならんから。もう二度と近付くんやなか」

背は低いが喧嘩は強いれいな、三人程度ならまとめてこられても勝てるくらい。
男だったら半殺しにしてやるとこだけど、相手は女の子。
判断する理性は残っていたので手は出さず言葉で責め立てる。

言い返す暇など与えず、一気に吐き出して。
れいなの後ろでぽかんとしている絵里の手を掴むと、早足でその場を去った。






207 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:34






無言でずんずん進んで行くれいなの後を引っ張られながら付いていく絵里。
強く掴まれている手は痛かったが、それよりれいなと手を繋いでいるという嬉しさのが勝っているので何も言わない。
それに絵里を罵った人達に対してあんなに怒ってくれたのも嬉しかったし、その時のれいながかっこよかったし。

「…れーな?」
「……ん?」
「ありがと」

絵里を、守ってくれて。
何も答えなかったけど、髪の間から見えるれいなの耳は紅い。
さっきはかっこよかったのに急にかわいくなっちゃって、絵里はふにゃりと微笑む。
れいなが迎えにきてくれたり守ってくれたり、今日は嬉しいことばかりだ。

「…あ、すまん」
「なにが?」
「手…勝手に握ったりして…」

いらいらしていたのが落ち着いてきて、絵里の手を握ったままだと気付いたれいな。
離そうとしたら、絵里がぎゅっと力を入れてそれを阻止した。
驚いて振り返ると、頬を染めて俯く絵里。


208 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:35

「絵里?」
「………家まで、繋いでちゃだめ?」
「…好きにしぃ」

ぶっきらぼうに返事をして、少し速度を落として絵里に合わせる。
ちらりと隣に目線を向けたら、れいなが好きな絵里の笑顔。
このまま帰るなんてかなり恥ずかしかったけど、絵里が笑ってくれるなら。
その為なら、なんだってしてやろうじゃないか。

とてもいい雰囲気なのに、二人は黙々と足を進めるだけ。
向こうから歩いてくる人、後ろから二人を追い越して行く人、車で通り過ぎる人。
れいなと絵里は、どう見られているんだろう。
恋人同士に見えたらいいな、そうお互いに思っている。
だけどそれを現実にする為の言葉を、二人はまだ口にできずにいた。

先程れいなが女子達に言った科白、よくよく考えれば絵里が好きだと言っているのと同じなのに。
言った本人も絵里も、全く気付いていなかった。
れいなを鈍いと言う絵里もまた、相当鈍いらしい。

そして今日も幼馴染みとして、絵里はれいなの部屋で二人きりの時間を過ごすのだった。





209 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/04(水) 22:35

( ・e・)<まだ続くよ。

210 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 00:57
久しぶりに面白くて大好きな小説に会えた
しかし亀ちゃんの彼氏とのキス写真が頭に残って切ない今日この頃・・・

更新待ってます
211 名前:竜斗 投稿日:2008/06/11(水) 19:36


→210 名無飼育さん
ありがとうございます。
もともと絵をメインにやっていたので文章はまだ修行中なんですが、少しでも楽しんでいただけるよう頑張ります。

その話題については一切触れたくないので…。


212 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/11(水) 19:39



「今日は先生が休みなので、五限は自習だそうでーす!」

教卓の前に立った委員長が、声を張り上げそう告げた。
委員長は自席に着いて教科書を広げたが、他の生徒達はがたがたと席から離れていく。
自習なんて、名前ばかりの休み時間と同じことだ。
不良と呼ばれる子達に至っては、どうせこの時間と六限目が終われば下校だというのでさっさと帰ってしまった。

騒がしくなる教室、絵里も出していた教科書やノートを机の中にしまい、椅子の背凭れに寄り掛かる。
何をしようかと考えていたら、空いた前の席に親友が座った。

「先生どうしたんだろーね」
「風邪でもひいたんじゃない?昨日顔色悪かったし」

そうだったっけ?
教師の顔などじっくり見ないから分からない。
まぁ里沙が言うなら、そうだったんだろう。

「そうだ亀、昨日校門のとこでなにしてたの?」
「昨日?校門で?」
「なんかがら悪そうな人達に絡まれてなかった?」

あー、そのことか。
思い出したことを手のひらを拳でぽんと叩くことで、里沙に分かりやすく伝える。

213 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/11(水) 19:41

里沙は今の今まですっかり忘れていたが、外に目をやって思い出した。
なぜそれを里沙が知っているかといえば。
昨日れいなにまとわりついてやってきた女子達がなかなか帰ってくれないので、窓の縁に肘を付いて校庭を眺めていた。
少ししてから出てきた絵里とれいなを見つけ、二人を観察していた里沙。
じゃれ合ったりなんかしてるのを微笑ましく思っていたら、そこに現れた一年で有名な不良が二人。
絡まれているのはすぐに分かったが、れいながいれば大丈夫だろうと見守る。
案の定、れいなに何か言われた不良二人はその場に取り残され、絵里達が去った方を見ながら立ち尽くしていた。

そこまで見終わってから、里沙はようやく教室を出ることができた。
だから聞かなくても何があったかなんて知っていたけど、一応当人である絵里に確認の為聞いてみたのだ。


214 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/11(水) 19:43



「―――で、れいな君の家に行ったと」
「うへへぇ…うん」
「…ほんとあんた達って……」
「なになに?どうしたのガキさん」

絵里の話を聞き終えた里沙は、絵里の机に突っ伏して頭を抱えてしまった。
その理由が分からない絵里は里沙の肩をぽんぽん叩く。

なんだ、なんなんだこの二人。
鈍いのは百も承知だが、まさかここまでとは。
誰が聞いたって、告白してうまくいって手を繋いで帰って行ったように思える内容。
だが実際はどちらも告白とは思ってなくて。

「すっごい久しぶりに手繋いだんだよぉ。れーなちっちゃいけど手は絵里よりおっきくてねぇ、それに力も強くてー。昔は絵里のがおっきかったのに、やっぱりれーなも男の子なんだよねぇ」

テンション高く喋りまくる目の前のそいつは、手を繋いだってことだけで喜んじゃって。
自分の手を見ながらにやにやしちゃっている。


215 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/11(水) 19:45

今までは絵里だから仕方ないと思ってたけれど、いい加減いらいらしてきてしまった。
このままでは一生進展することはないだろう。
しかも残りの高校生活、確実に振り回され続けるに決まっている。
もう無理だ、付き合っていられない。

「…亀、さっさと告白しろ」
「えぇぇ!?な、なに言ってんのガキさんっ!!」

びしっと指差してそう言ったら、大声を出して仰け反った。
幸い周囲も騒がしかったので誰も気にする様子はなかった。
里沙が中学の頃から胸の内に溜めていたものは、容量を越えてしまったようだ。
絵里を煽ることはしたくなかったのに、言葉は止まらず出てきてしまう。

「いくら私でも限界ってもんがあるっつーの!」
「が、ガキさん?」
「ずっと我慢してきたけどさ、あんたがいつまでもそんなんなら―――!…っ」
「え?なに?」
「…いやいや、なんでもない」
「途中でやめたら気になるじゃーん」
「とにかくっ!早く言っちゃいな、今日だよ今日」
「きょお!?」
「はい決定、変更はききません」


216 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/11(水) 19:47

横暴だぁ!とか絵里が抗議をしてるが、里沙は腕組みしてそっぽを向いて聞く耳を持たず。
きっと横暴の意味なんて知らないのに、その言葉を連発している。
絵里はさっき里沙が何かを言いかけたことなんてすっかり忘れているらしい。
ぎゃーぎゃー騒がれるのは煩いが、これはこれでよかったと里沙は安堵の溜め息を漏らした。

いくら親友でも、言えないことだってある。
だって言えば絵里は絶対に困惑してしまう。
里沙が絵里と同じ人を好きだなんて、打ち明けても仕方のないことなのだから。
今はまだ、恋より友情。
これは一生絵里に教えない、里沙だけの秘密。


冷静さを取り戻し、真剣な顔つきで絵里を見つめた。

「亀だって分かってんでしょ?れいな君がモテるって」
「………」
「彼女になれば、一緒にいたって文句は言われないわけだし」

昨日の女子達以外にも、絵里に突っ掛かる人は少なからずいる。
危害を加えるわけではなく、遠くでこちらを見てこそこそ話している程度だが。
理由が全てれいな絡みなのは言わなくても分かるだろう。

217 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/11(水) 19:49

自分のことではなくても、親友が陰口を言われていたらいい気分ではない。
どうすればそれがなくなるのか。
彼女じゃないくせにと言われるなら、彼女になればいいのだ。

「ちょっと、聞いてんの?」
「………むりだよ」
「なんでさ」
「だって……れーなは、絵里のことなんか…」

こいつ、まだ言いますか。
昔より明るく前向きになってきたのに、肝心な時にネガティブ思考。
俯いて口を尖らす姿は、同性の里沙からみても可愛らしい。
こんなに可愛いのだから、もっと自分に自信を持ってもいいと思う。

「…それに、れーなの顔見て……す、好きとか、言えない」

その場面を想像したのか、絵里は耳まで紅くなってしまった。
想像だけでこれでは、本人を目の前にしたらどうなってしまうんだろうか。
告白する気になったとしても、れいなの前に立った瞬間緊張で硬直して結局何もできずうやむやになって終わる様子が目に浮かぶ。

だがしかし、この話は終わらせるわけにはいかない。

218 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/11(水) 19:51

さぁ、どうする里沙。
ここまできたら、最後まで行ってもらわないと。
絵里のためにも、里沙のためにも。


「……あ、メールとかどうよ」
「…メール?」
「それなら顔見なくていいし。結構いるらしいよ、メールで告白したって人」
「んー…」

告白というのは、直接面と向かってするのが一番だとは思うが。
絵里はできないと言うし、だからといって先伸ばしにもしたくないし。
とりあえず気持ちを伝えてしまえば、幾分楽になるはず。
その後で想いを口に出して伝えたっていいのだから。

「とにかく一回うってみなって」

机の端に置かれた絵里の携帯を手に取って渡す。
素直に受け取り開いたまではいいが、そこから指は動かない。
椅子ごと絵里の隣に移動して、携帯の画面を覗く。

「ほら、まずはアドレス帳開いて」
「……うん」
「で、れいな君のアドレス出して……」

初めて携帯を買った人に説明するかのように、里沙は一つ一つ指示していく。
絵里は里沙の指示通りに操作をしているだけ。


219 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/11(水) 19:53

「あとは本文に亀の気持ちうって、送れば終了」
「………」
「どした?」
「……なんてうてぱいいか、分かんない」

そもそも絵里は、れいなとメールをするなんてあまりなかった。
くだらない内容や一言だけのメールなら、休み時間に送ったりしているが。
話したいことは登下校の時やれいなの部屋に行った時に話すし、家は隣だからすぐ会いに行けるし。
逆にこっちの方が、緊張しているかも。
意識したら手が震えてきてしまって、両手で携帯を持ち直した。

「ストレートに好きだけでもいいんじゃない?」
「うー……」
「その方が伝わりやすいし、うつだけでいいからやってみなって」
「…………ぅん」

促されて指がゆっくりと動き出す。

カチ、カチカチ。
カチカチ。
カチ…カチッ。

さ行三回、か行二回、変換して確定、計七回のボタン音。
口にすることさえ躊躇われた文字は、簡単に画面に映し出された。


220 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/11(水) 19:56

あと、一回。
一回ボタンを押せば、これがれいなに届く。
でも…本当にいいのだろうか。
一世一代の告白を、こんな機械に任せて。

送信ボタンに親指を置いたまま、絵里は自分自身に問い掛ける。
答えは、案外あっさり決まった。

「亀?」
「………ガキさん…絵里、ちゃんと言うから」
「ん?」
「メールじゃなくて、れーなに……好きって、言う」

やっぱりモノには頼りたくなかった。
携帯でも手紙でも人伝いでもなく、自分の口から自分の言葉で伝えたかった。
そう言った真っ直ぐな絵里の瞳を見て、里沙は柔らかく微笑んだ。

「そっか…私も言い過ぎた、今日っていうのは撤回するよ」
「ふぇ?」
「でも、今年中にはなんとかしてよね」
「……うん、ありがとガキさん」
「よっしゃ、がんばれ!」

お互いに笑い合って、景気付けに里沙が絵里の背中をばんっと叩いた。
ちょっと力が入りすぎたらしく、絵里が前のめりになる。
痛いと言う前にカチッという音が耳に届いて、一瞬、時が止まったかのように二人の身体が固まった。

221 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/11(水) 19:57

顔を見合わせて視線を下に落とす。
絵里の手の中にある携帯の画面に表示されているのは、文字が四つ―――送信完了。

「…え………うわあああああぁー!!!!!」

きっかり五秒の沈黙の後、教室に響き渡った絵里の絶叫。
教室だけでなく、校庭で授業中の人達にまで聞こえる程の大きさ。
驚いたクラスメイト達がなんだなんだとざわついているが、絵里はそれどころではなかった。

「が、が、ガキさん!!!」
「あー……あはは、いや、わざとじゃないよ?」
「送っちゃったじゃん!!どぉすんのさぁ…ガキさんのばかああぁ!!!」
「待て待て落ち着けって、亀ぇ!!」

里沙の肩を掴んでがくがく揺さぶる、首が取れるんじゃないかというくらいの強さで。
里沙は止めさせようとするが絵里には聞こえていない。
周囲の友人達は助けてくれず、憐れんだ眼差しが里沙に注がれていた。





222 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/11(水) 19:59





二年一組でそんな騒ぎがあるとは知らない一年三組は、只今英語の授業中。
もう少しでチャイムが鳴るという時、静かな教室に大音量の着信音が。
クラスメイトの視線が集中した先には、慌ててポケットから携帯を取り出すれいなの姿。
マナーモードにするのを忘れていたらしい。
しかし、タイミングが悪かった。
よりによって、英語の時間なんて。

「藤本ぉ」

びくっ、れいなの肩が跳ね上がる。
徐々に顔を上げていくと、明かりに照らされた金髪…から角が生えてる気がした。
優しい笑みを浮かべているが、目は笑っていない。

「あたしの授業を妨害するとは、いい度胸やなぁ?」
「…いや、中澤先生の授業を妨害するわけないやないですかー」

れいなも笑顔を返したつもりだが、ひきつっているのが自分でも分かった。
そんな自ら進んで自分の寿命を縮める行為なんてするはずがない。
ここの生徒なら誰もが一度は耳にする噂。
英語教師、中澤裕子……この人を本気で怒らせると、命はないらしい。

223 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/11(水) 19:59

「これは没収や」
「え、ちょ…いてっ」
「なんや、なんか文句あんのか?」
「……ありません」

携帯を取り上げられて反射的に手を伸ばしたら、かなり強めに叩かれた。
真っ赤なスーツのポケットにしまわれた、れいなの携帯。

「放課後、職員室まで取りにこい」
「……」
「返事は」
「…分かりました」

去り際に教科書の角で頭を叩かれて、気付かれないように中澤先生の後ろ姿を睨んでやった。
前の席の希美が振り返り、「ご愁傷さまー」とけたけた笑う。
放課後たっぷり一時間はお説教タイムになるんだろう。
携帯を取られてしまっては、絵里に連絡することもできない。


―――くそっ、誰だよこんな時間にメール送ったやつは…。


不機嫌丸出しの顔で声には出さず愚痴る。
内容を確認する前だったので、誰がなんの用で送ってきたのか分からなかった。
前に戻った中澤先生の視線を感じ、れいなはペンを握ってノートをとる振り。

まさかそれが絵里からの告白メールだなんて、れいなが考えるはずもない。






224 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/11(水) 20:01

ノノ*^ー^)<次で最後ですよ?

225 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:13



帰りのHRが終わってこっそり教室を出ようとしたれいなだが、教室の前で待ち構えていた中澤先生に捕まってしまった。
観念して希美に絵里へ遅くなることを伝えてほしいと頼んで職員室まできたはいい、が―――。


「―――それになぁ、そのピアスもほんまは没収なんやで?でも優しい中澤先生だから見て見ぬ振りしてやってんやんか」

中澤先生の机の横に立たされ、お説教開始から早一時間。
何度も同じことをエンドレスリピート。

近くにいる安倍先生に助けてくれと視線を送ったものの、苦笑いを返されてしまった。
矢口先生なんてにやにや楽しそうにこっちを見ているし。
ここにれいなを救ってくれる人は、誰一人としていないようだ。


226 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:14

「今回は許してやるけど、次やったら進級するまで返さんからな」
「…はい」
「じゃあ帰ってよし、ほれ」

れいなは延長を覚悟していたが、中澤先生はこの後用事でもあるのか、時計をちらりと見てお説教を打ち切った。
準備は整っているようで、れいなに携帯を渡すと鞄を手にして立ち上がる。
同時に矢口先生と安倍先生も動いたので三人で食事にでも行くのだろう。
まぁ、始めからデートではないとは思っていたが。

失礼しましたと出入り口で頭を下げ、れいなは絵里がいる二年の教室へ駆け出した。




227 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:14



228 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:16



賑やかな女子達の声が広がる校庭とは反対に、時計の針の音しか聞こえない二年一組の教室内。
窓際の席に残る二つの影。
周りを取り巻く空気は、とてつもなく重い。

「……」
「…かーめ、もう送っちゃったもんは仕方ないじゃん」
「………他人事だと思って」

場の空気を和らげようと、わざと明るい調子で言ってみたけれど。
アヒル口は余計に尖り、弱々しく睨まれてしまった。
確かに里沙にとっては他人事だが、そんなつもりで言った訳ではないのに。
人差し指で頬を掻きながら、なにかいい言葉はないものかと思考を巡らせる。

んー、と唸り始めた時、遠くからばたばたとこちらに走ってくる音。
たぶん、あの人だ。
絵里もそれに気付いたらしく、動きが挙動不審になっている。
鞄を持ったり置いたり、無意味に机の中に手を入れてみたり。

229 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:18

「はぁ……すまん、遅くなった」

肩で息をしながら教室に入ってきたのは、やはりれいなだった。
希美から中澤先生に呼び出されたと聞き、一時間はかかると思っていたから予想通りの時間。

「れいな君、おつかれー」
「ほんとですよ…同じこと何度も何度も…」
「……」
「…絵里?」

いつも「おそーい!」とか「れーなまた怒られてたのぉ?」とかれいなをからかう絵里が、妙におとなしい。

「ほら、帰るっちゃ」

若干心配しながらも、机の上にある絵里の鞄を取って手渡す。
受け取ったその手を掴み引っ張って椅子から立たせると、背を向けてさっさと歩き出した。

「亀、ほら」

里沙に背中を押され、絵里が一歩足を踏み出す。
そっと振り返ると、優しく微笑んだ里沙の口が動く。
「がんばれ」、と。





230 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:19



231 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:20



時刻は五時を回ったところ。
まだ日が落ちるのは早く、辺りはすでに薄暗い。
大通りから一本中に入った道では、すれ違う人も車もほとんどいない。
転々と置かれた街灯が、二人の姿を照らしていた。


やはり、絵里の様子がおかしい。
隣を横目で見遣りながら、れいなは頭をがしがしと掻く。
自分は何か怒らせるようなことをしてしまったんだろうか。
昨日みたいに突き飛ばされて置いて行かれては困る。
だが何もした覚えはないし、昨日だって放課後には普通に二人で帰った。
結局なんで絵里があんなことをしたのかは分からずじまいだけど、終わったことを掘り返したくはないので忘れるようにした。
ただ、今日は昨日と違う。
何がと言われても答えられないが、違う気がする。

「…絵里?」
「………なに?」
「や……なんでも」

頑張って声をかけてみても、言葉が続かない。
普段はほとんど絵里の話に相槌を打つくらいのれいな。
別に話なんてしなくても、傍にいられればいいのだが。
こうも黙っていられては、調子が狂う。

232 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:22


小さく吐かれたれいなの溜め息に、絵里がびくっと反応する。
さっきからずっと、れいなのちょっとした動きにすら過敏になっていた。
間違えて送ってしまった、あのメール。
いつれいなからその話題が出るのか、少しの期待と大きな不安が入り交じっておかしくなりそうだった。
自分から切り出すことなんて、絶対にできない。

一切会話がない状態で、れいなの家である酒屋の看板が見えてきた。
このまま帰ってしまうのか。
れいなは絵里を好きじゃなくて、優しいれいなはそれを言えなくて。
だから、あのメールをなかったことにしようとしているのか。
好きじゃないと言われれば、確かに絵里は傷つくだろう。
でも、なかったことにされる方が何倍も辛い。
考えれば考えるほど、ネガティブな方へ向かってしまう。
我慢の限界がきてしまった絵里の瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。

233 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:24

「は?ちょ、なん?どうしたと?」

突然立ち止まった絵里に合わせて足を止めたれいなは驚いた。
もちろん絵里が泣いているから以外に驚く要素はない。
ほとんどないとはいえ、人も車も少なからず二人の横を通る。
戸惑いながらも、れいなはとりあえずここより更に人目につかない細い道へと絵里を連れて行った。



「絵里…」

一向に泣き止まない絵里。
触れようとしたが、原因が自分かもしれないので手は空を切る。
理由が分からない限り、どうにもならないこの状況。

「なん、なんで泣いとぉ?」
「…いいよ、はっきり言ってくれて」
「絵里?」

ようやく口を開いたかと思えば。
はっきり言うって、何を。
隠し事などしていないし、これといって話すこともないのだが。
ますます混乱して、しかめっ面になってしまう。

「なかったことにされるより、ちゃんと言ってほしい」
「なん、なんの話?」
「…っ、絵里のこと好きじゃないならそう言えばいいじゃん!」

234 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:26

れいなの返答に、絵里が思わず声を荒げる。
いつまでもはぐらかし続けるれいなに腹が立った。
どうせ終わってしまうのなら、我慢する必要などない。
自分を抑えきれなくなってしまった絵里は、困惑しているれいなに気付けずにいる。

「送っちゃったのは事故だけど、絵里っ、すっごい悩んで…それで」
「やけん、なんの話」
「メール見たでしょ!それ以外にないじゃん!」
「…メール?」

ずっと絵里の言っている意味が理解できなかったれいなだが、やっと原因であろう物の正体が分かった。
ちょっと待てと手で制するれいなに、絵里も一旦口を閉じて気持ちを落ち着かせる。
れいなは絵里を宥めるように優しく問い掛ける。

「いつ送ったん?」
「…五限目、絵里のクラス自習だったから」
「あー…あれ絵里やったんか」

苦く笑って頭を掻くれいな。
ズボンのポケットから携帯を取り出して開くと、絵里に画面を見せた。
そこには、新着メール一件の表示。

235 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:28

「俺、メール見とらん」
「……え?」
「マナーモードし忘れて、中澤に取り上げられたけん」
「え、え、…ってことは」

れいなは、メールの内容を知らない。
絵里の頭の中に、そんな選択肢はなかった。
教室でしょっちゅう携帯を弄っていると希美に聞いていたし。
休み時間にメールでどうでもいいことを送れば、れいなは一言だけでも必ず返してくれていたし。
まさか、携帯を取り上げられていたなんて。

「まま待って!見ちゃだめぇ!!」

止めようとしたが、時すでに遅し。
携帯の画面を見たれいなの瞳が見開く。

「………絵里、これ」
「……」
「さっきのって、これのこと?」
「…………ぅん」

再び長い沈黙の時間。
しかし学校からここまでの道程よりも、今の方が断然気まずい。
形はどうであれ、絵里からの告白には変わりないのだ。
何度か絵里と携帯の画面を交互に見た後、れいなは何も言わず目を泳がせる。
返事を待つ時間が、とてつもなく長く感じた。

236 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:30


「……や、やだなぁもう!冗談に決まってるじゃん!」
「…は?」
「れーなを驚かそうと思っただけ、冗談!」

あまりの恥ずかしさに耐えきれず、とっさに吐いてしまった嘘。
それこそ、冗談だ。

あんなに悩んだのに。
震える手でうった本気のメールなのに。
今が絵里の長年の想いを伝えるべき時なのに。
本当に、好きなのに。

自分の意思とは関係なく、次々と言葉を繋いでしまう。

「まじで、言っとる?」
「……そう、だよ」

どうして、違うと言えないのか。
もう嫌だ、早くこの場から逃げてしまいたい。
それかいっそ、れいなが笑い飛ばしてくれればいい。
そうしたら絵里も笑えばいい。
家に帰って部屋で思いっきり泣いて、明日からまたいつもの幼馴染みに戻ればいい。


237 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:32


絵里の足が無意識に家に向かおうとした時、れいなの手に腕を掴まれた。
伏せ気味だった顔を上げると、どきっと心臓が跳ねる。
真面目な顔をしたれいなが、真っ直ぐ絵里を見ていた。
動揺した絵里が一歩後ろへ身を引くと、力強く腕を引かれてれいなの腕の中に身体が収まる。

「れっ、れーな!?」
「……俺は…好きやけん」
「え……」

肩を押すと強く抱き締められ、れいならしくない小さな声が絵里の耳に届く。
絵里が冗談と言ったことへのお返しか、もしくは聞き間違いか。
どちらにしろ、本気の言葉だとは思えなかった。

「…そ、そんなこと言っても絵里は騙されないよ?」
「俺は冗談じゃない」

茶化すように言ってみたが、それを否定する声色は真剣で。
軽口をたたこうにも、言葉が喉の奥に詰まって出てきてくれない。
とにかくこの体勢では冷静にはなれないので、れいなの胸を両手で押して逃げようとしてみる。
が、気付かぬ内についていた力の差が許してくれなかった。

238 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:34


「俺は、ずっと絵里が好きやった」

耳元で囁かれ、強張っていた身体から力が抜ける。
胸を押していた両手で、れいなのセーターを握った。

「…おい、聞いとぉ?」

反応のない絵里の身体から少し距離を取って、顔を覗き込む。
俯いてしまっているので表情は見えない。

「………うそだ」
「は?」
「れーなが、絵里のこと好きとか」
「あほ、嘘でこんなこと言えるか」

眉間に皺を寄せて絵里を睨むれいなの頬は、灯りのせいではなく確かに紅い。
口下手で恥ずかしがりなれいなが、嘘でこんなこと言えないのは知っている。
それでも、なかなか実感が湧かないのだ。

「ほんとに、好き?」
「…ほんとやって」
「もっかい言って」
「なにを」
「好きって、もっかい言って」
「そっ、そんなん何度も言えるか!」
「言ってくんなきゃ信じない」

だって、夢みたいだから。
れいなが絵里を、好きだなんて。

239 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:35

あー、と頭を掻きむしった後、またれいなの腕が絵里を包む。

「俺は、絵里が好きやけん」

じわり、と瞳の淵に涙が滲んだ。
れいなの背中に手を回し、胸に顔を押し付ける。
絵里と同じくらい早くなった鼓動が伝わってきた。
一度止まった涙がまた溢れてきて、れいなのセーターに染み込んでいく。

「……絵里もっ、…好き」

嗚咽のせいで上手く話せない。
だけどれいなにはちゃんと伝わった、絵里の精一杯の告白。

「冗談じゃない?」
「うん…れーなが、好き」

見上げたれいなの顔は涙でぼやけてしまっているが、きっと優しく笑っていると雰囲気で分かる。
十数年間ずっと、一緒にいる絵里だからこそ。
その間唯一分からなかった絵里に対する気持ちを、言葉と行動で表してくれたれいな。
やっとお互いの想いが、繋がった。


240 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:36



「……なぁ」
「んー?」

頭を撫でる手が気持ち良くて、目を閉じ夢見心地な気分でれいなに抱き付いていると、黙っていたれいなが声を掛けた。
それから言葉が続かないので、上目遣いで様子を窺ってみる。
目が合うと逸らされ、視線はふらふらと彷徨う。
どうしたんだろうと見つめていると、意を決したれいなが口を開く。

「…キス、してよか?」
「…………ふぇ?」

問い掛けられて数秒後、その意味を理解した絵里の頬が真っ赤に染まる。
少女漫画で読んだ、告白シーンのようだ。
読んでいる時はれいなとこんな風になりたいなと思っていたけど、いざ自分がその場面に遭遇するとどうしていいか分からない。
辺りはいつの間にか真っ暗になっていたが、家の灯りと街灯でお互いの顔は見える。
余計に、気恥ずかしい。
だけどやっぱり好きな男の子とキスをするのは、女の子の憧れ。
絵里は一度だけ、首を縦に振った。

241 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:39


肩に手を置いて、少し屈んだれいなの顔が絵里に近付いてくる。
ぎゅっと目をつむり、れいなのセーターを掴む手に力が入る。
吐息がかかるのを感じた瞬間、唇が触れた。
ほんの数秒の出来事だったが、離れても残る温もりと感触。

「…なんか……すっごい、恥ずかしい」
「俺もやけん」

照れ臭そうに笑うれいなにつられ、絵里の顔も綻ぶ。
このまま、いつまでも二人でいられたらいいのに。
だけどまだ子供な二人は、戻らなければいけない場所がある。


242 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:40

「…そろそろ、帰ると」
「……うん」

本当は帰りたくないけれど。
背中を向けたれいなが絵里に手を差し出したので、素直に自分の手を重ねた。
隣に並んで身を寄せると、肩が触れ合う。
今日からはこれが当たり前になると思うと、叫び出したくなるほどに幸せだった。

家に着いたらすぐ里沙とさゆみに電話をして、話を聞いてもらおう。
誰かに話さないと、昂った気持ちが収まりそうにないから。


幼馴染みの頃は僅かに空いていた二人の距離。
今寄り添って歩く二人はきっと誰が見ても、恋人同士。






243 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:40


おわり。


244 名前:不器用な恋の行方は 投稿日:2008/06/16(月) 21:41

ノノ*^ー^)人(´ヮ`从

245 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/23(月) 19:13
れなえりかわいい〜
かわいいお話をありがとうございました!
246 名前:竜斗 投稿日:2008/06/23(月) 21:45


→245 名無飼育さん

ありがとうございます。
これからもれなえりで行きますので、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。


247 名前:竜斗 投稿日:2008/06/23(月) 21:47



最後はいつもこんな結末/田亀+藤道



248 名前:最後はいつもこんな結末 投稿日:2008/06/23(月) 21:48


夜の十時を過ぎた頃。
テレビを見ながらくつろいでいたれいなの部屋に、ドンドンという荒いノック音が響いた。

「…ど、どうしたんですか?」

扉を開けて出迎えたれいなは、訪問者の不機嫌全開の顔に驚き一歩後退さる。
れいなの問い掛けに答えず無言でずかずか部屋の中へ入っていくその人に唖然としながらも、鍵を掛け直して後を追った。
さっきまでれいながいたベッドに上がって、持っていたビニール袋から中身をぶちまける。
出てきたのは、数種類のチューハイの缶達。

「あの…」
「なに」
「…いえ、なんでも」

鋭い眼光に射貫かれ、れいなは蛇に睨まれた蛙状態。
手招かれて恐る恐る隣に座ると、散らばっていた缶を一つ、蓋を開けて渡された。

249 名前:最後はいつもこんな結末 投稿日:2008/06/23(月) 21:49

「…れいなまだ未成年なんですけど」
「美貴の誘いを断んの?」
「……いいえ」

何を言っても睨みで黙らせる訪問者、藤本美貴。
尋常ではないその苛立ちぶりに身の危険を感じたれいなは、おとなしく美貴の言うことに従うしかなかった。
美貴は自分の分の蓋を開けると、一気に半分ほどを喉に流し込んだ。
無理矢理押し付けられた缶を持ったまま、れいなは黙って美貴の様子を窺う。
しばらく飲み続けていた美貴が三缶目を空にした時、少し虚ろ気味な瞳がれいなに向けられた。

「…れいな」
「は、はい?」
「あのアホ亀をなんとかしろー!!」

突如張り上げられた声に、無意識に身体がこの場から逃げ出そうとする。
だが美貴の言葉の中にあった「亀」というのがれいなに関係する人物を指しているので、それを実行することはできなかった。

250 名前:最後はいつもこんな結末 投稿日:2008/06/23(月) 21:51

「え…絵里が、どうしました?」
「なんなのさあいつ!美貴としげさんがいい雰囲気の時に勝手に入ってきて美貴に出て行けって!!しげさんもしげさんだよ!なんで亀なんかの味方するわけ!?」
「ちょ、落ち着いてくださいよ!」

酒が入った所為か、美貴の我慢の限界だったのか。
どこで息継ぎをしてるのか分からないくらいの勢いで、溜まっていたらしい愚痴を吐き出している。
所々しか聞き取れないが、れいなには心当たりがあった。

数分前、同室の絵里はさゆみに話があると言って部屋を出て行った。
さゆみに、ということはもちろんさゆみの部屋に向かったのだろう。
二人だけで話す為に、美貴を追い出したというところか。
この頃さゆみは他の人との相部屋が多かったから、久しぶりに一緒ということで美貴の機嫌はよかったはずなのに。
空気を読めないれいなの恋人によって、それは急降下してしまったようだ。
止めなかった自分も悪いと、れいなも少し反省した。

「こうなったらやけ酒だ」
「別に部屋変わったんじゃないんやけん、そんな怒らんでも…」
「あ?」
「なんでもなかです」

251 名前:最後はいつもこんな結末 投稿日:2008/06/23(月) 21:53

もう何を言っても無意味なので、れいなは絵里が戻ってくるまで耐えるしかないらしい。
出そうになった溜め息を飲み込み、横目で美貴の顔を盗み見る。
多少和らいではいるが、眉間の皺はいまだに消えていない。
れいなに視線を向けた美貴と目が合ってしまい、驚きと恐怖でれいなの肩がびくっと跳ねた。

「美貴の奢りなんだから、飲めって」
「…やけん、れいな未成年」
「飲め」
「……いただきます」

法律だとか常識だとか、そんな物を優先する余裕などなかった。
ここで断れば、怒りの矛先をれいなに向けられてしまう。
もうどうにでもなれ、とれいなは持っていた缶に口をつけた。





252 名前:最後はいつもこんな結末 投稿日:2008/06/23(月) 21:54






「―――でさぁ、結局ずーっと鏡見てんのよ。しげさんらしいっちゃらしいんだけど…どう思う?」
「……」
「…ちょっと、聞いてんの?」
「……」

途中まであったれいなの相槌が途切れ、問い掛けても返事がないので美貴が話を中断する。
缶を手にしたまま俯いて動かないれいな。

「おい、れいな―――っ!?」

眠ってしまったのかと思って肩に手を置き揺すろうとしたら、一瞬身体が宙に浮いたような感覚に襲われた。
咄嗟に閉じた瞳をゆっくり開けると、見えたのはれいなの顔と天井。
美貴の身体は完全に倒れていて、その上にはれいなが乗っている。
つまり、押し倒されているのだ。

「あの……れいな?」
「……」
「田中さん?おーい」

美貴の上に倒れてくるわけでもなく、れいなは自分の腕で自分の身体を支えている。
寝ているのではなくて、寝ぼけているのか。
呼びかけ頬を軽く叩いてみても、れいなは退いてくれない。
それどころか、両手首を掴まれ布団の上に押し付けられてしまった。

253 名前:最後はいつもこんな結末 投稿日:2008/06/23(月) 21:57

「…好いとぉよ」
「…………はぁ?」

すいとーよって、なんだ?

方言混じりのれいなの言葉を理解するのに、美貴は少し時間を要した。
その意味は分かったけれど、なぜこの状況でそんなことを。
ふっと目の前が暗くなり、鼻先がつきそうな程近くにあったれいなの顔。
その距離を更に縮めてくるれいなは、間違いなく美貴にキスをしようとしていた。

「なぁ!?れ、れいな!待て、どうした!?」
「いいやろ?」
「よくなーい!!ってか悪ふざけすんなって!」
「おとなしくしとき、暴れても無駄やけん」

肩を押し退けて逃げようと試みたが、体勢が不利な為か思うように動けない。
いや、体勢だけではなく、普段のれいなと比べて力が強すぎる。
酒を飲んだからか…酔って力が増すタイプもいるんだと、美貴は新たな発見をした。
そんな発見は、全くの無意味だが。

254 名前:最後はいつもこんな結末 投稿日:2008/06/23(月) 21:58

とにかく今はれいなをどうにかしなければ、美貴の身が危険なのである。

「お前っ、こんなとこ亀井ちゃんにみつかったらどうなるか分かってんの!?」
「なに言っとぉ、亀井ちゃんは自分やろ」
「………へ?」
「もう黙れって、絵里」

だめだ、完璧に酔っている。
しかも美貴を絵里だと勘違いしているということは。
二人きりの部屋でベッドの上で押し倒されて、相手は迫ってきている。
れいなと絵里は恋人同士。
この続きで考えられるのは、想像したくもないがただ一つ。

「い…いやだあぁぁ!!!」




255 名前:最後はいつもこんな結末 投稿日:2008/06/23(月) 22:01






「どうしたんですか藤……もと、さん?」
「…し、しげさぁん」

美貴の叫び声が丁度この部屋の前まできていた絵里とさゆみに届いたらしい。
チャイムもノックもなしに入ってきた二人は、その光景に目を丸くした。
驚いてないで早く助けてくれ、と情けない声を出して美貴が手を伸ばす。

「は、早く助け―――」
「藤本さん…最っ低!!!」
「れーなから離れてください!!!」

今度は美貴が目を丸くする番だった。
だって二人の怒りの矛先が、被害者である美貴に向かったのだから。
絵里とさゆみは美貴かられいなを引き剥がすと、両脇からその小さな身体を守るかのようにがっちりと抱き締めた。
唖然とする美貴に冷たい視線が突き刺さり、はっと我に返る。

「待って待って!なんで美貴が!?」
「藤本さんがれいなをたぶらかしたんでしょ!」
「へたれのれーながこんなことできるわけないじゃないですか!」

どうやられいなに酒が入っていることを知らない二人は、元凶が美貴だと決め付けている様子。

256 名前:最後はいつもこんな結末 投稿日:2008/06/23(月) 22:03

冗談じゃないとこうなった理由を話したら、次は酒を飲ませたことを叱られてしまった。
確かに美貴にも原因はあるが、迫ってきたのはれいななのに。
小声で反論するとさゆみは本日二回目の「最低」という言葉を残し、美貴を放置して自分の部屋に帰ってしまった。
まだ美貴に向けて絵里が何か言っているようだが、無視。
慌てて後を追ったけれど数秒遅かったようで、自室の扉にはしっかりと鍵が掛けられていた。

「しげさん!ほんとに美貴は悪くないんだって!そりゃ確かにお酒飲ませたのは美貴だけど……ごめんなさい、もうしないからさぁ」

固く閉ざされた扉の前で何時間も平謝りしていると、中には入れてもらえたが全く口を聞いてくれない。
触れようとしたら渾身の力で手を叩かれてしまった。
布団を頭まで被ってしまっているさゆみに泣きそうになりながらも、美貴は今日のところは諦めようと別のベッドに潜り込んだ。




257 名前:最後はいつもこんな結末 投稿日:2008/06/23(月) 22:04


次の日起きた時にはすでにさゆみの姿はなく、落ち込みながら集合場所へ降りてきた美貴。
見つけたさゆみの側には、絵里とれいな。

「藤本さん、おはようござっ…ちょ、なん!」
「あんな人に挨拶なんかする必要ないの」
「呼ばれても行っちゃだめだからね」

美貴に気付いたれいなが挨拶をしている途中、さゆみが口を塞ぎ絵里がれいなを隠すように前に立つ。
二人の怒りは一晩経っても鎮まっていないらしい。
記憶がないれいなは意味が分からないといった顔をして二人を交互に見ていた。

さゆみと絵里が許してくれるのは、いつになることやら。
もう二度とれいなには酒を飲ませないし、二人きりにはならないでおこうと胸に誓った美貴であった。





258 名前:最後はいつもこんな結末 投稿日:2008/06/23(月) 22:04



おわり。



259 名前:_ 投稿日:2008/06/23(月) 22:05



260 名前:_ 投稿日:2008/06/23(月) 22:05



261 名前:たっつん 投稿日:2008/06/26(木) 12:26
更新乙です!

師弟関係っぽいみきれなにほのぼのw
いっつも損な役回りの美貴姉ぇに同情しつつ
あの後、酔いどれいなに絵里は強引にいただかれちゃったんだろうと勝手に想像w

田亀+藤道=6期万歳!
262 名前:竜斗 投稿日:2008/10/06(月) 00:56


→たっつんさん
基本美貴様はこんな感じで。
しげさんは美貴様よりもれいなさんを贔屓します。
れなえりのその後は………ご想像でお楽しみください。


 
263 名前:竜斗 投稿日:2008/10/06(月) 00:57



僕の魔法使い/田亀



264 名前:僕の魔法使い 投稿日:2008/10/06(月) 00:58


「れーなー」
「なん、って…ぅお!?」

呼ばれて振り返るとすぐ視界に、いや実際身体ごと文字通りに飛び込んできた絵里。
手加減なんてできない絵里を受け止めたまではいい。
しかしただでさえ二人は体格差があるというのに、気を抜いていたことと振り返ったばかりの体勢というタイミングの悪さでれいなの身体はぐらりと後ろに傾く。

やばい―――思った時にはすでに大きな音と共に身体に強い衝撃が走った。




265 名前:僕の魔法使い 投稿日:2008/10/06(月) 01:00


「…ったー」

人間は痛みよりも驚きの方が先にくるようで、倒れて数秒後ようやく背中辺りがずきずきと疼き出す。
不幸中の幸いか、頭は落ちていたクッションに守られ無事だった。

「れーな、大丈夫?」

こうなった原因である張本人は、れいなの上にいたおかげでどこも打ち付けてはいないようだ。
ほっと安堵したが、真っ先に心配したのが絵里の身体だと知られるのは癪なので、涙の溜まった瞳で思い切り睨み付ける。


「この…あほ絵里、れいなを殺す気か」
「えー、れーなが死んだら絵里、生きてけない」



266 名前:僕の魔法使い 投稿日:2008/10/06(月) 01:01


やっぱりあほだ。

なんだかさらりとすごいことを言われ顔が熱くなった気がしたけれど、得意の無表情で流すことにした。

「れーな、痛い?」
「当たり前やろが」

あれだけ派手な音をたてて倒れれば痛いに決まっているだろう。
絵里は何を考えているのか、眉を八の字にしてれいなを見つめたまま動こうとしない。
固い床の上では治るものも治らないので、上半身だけでも起こそうと腕に力を入れる。


「いたいのいたいのとんでけー」


幼い頃母親が唱えた魔法の言葉。
それとその時にはなかった、唇に柔らかい感触がプラスされて上から降ってきた。


267 名前:僕の魔法使い 投稿日:2008/10/06(月) 01:03


「もぉ痛くない?」

僅かに頭を上げた状態で硬直していたれいなを、絵里は至近距離から覗き込む。
力が抜け、れいなの頭はまたクッションの上へと戻された。

「…そこはぶつけてないし」
「あ、そっか」

ふざけていると思いきや、どうやら絵里は本気だったらしく「失敗したー」なんて悔しそうにしている。


―――ほんと、あほや。


背中はいまだ続く痛みを訴えていたが、れいなの手は目の前で唇を尖らせている顔を包んで引き寄せた。

「…一回じゃ、治らん」
「ふぇ?」

口の端を軽く持ち上げてそう言うと、間抜けな声を出し一瞬きょとんとしてからふにゃりと表情を崩す。
目を閉じたれいなに、絵里はもう一度魔法をかけた。

れいなにしか効かない、絵里のたった一つの魔法。





268 名前:僕の魔法使い 投稿日:2008/10/06(月) 01:03



おわり。



269 名前:竜斗 投稿日:2008/10/06(月) 01:12



数ヶ月の放置申し訳ありません。
今回の更新を持ちまして田亀普及活動を終了させていただきます。
田亀好きな方々に少しでも楽しんでもらえたでしょうか。
田亀熱はまだまだ冷めないので、HPの方で活動を続けて行きます。



拙い文章を読んでくださった皆様ありがとうございました。


ノノ*^ー^)人(´ヮ`从




270 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/10/08(水) 13:53
れなえり萌え!!
271 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/09(日) 16:03
れなえり最高!
272 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/15(土) 00:21
やはり竜斗さんのれなえりは最高ですね。
273 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/12(月) 10:59
あれ?新しい竜斗さんのスレがなくなった?
274 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/22(日) 14:19
れなえり最高ですね!ハマっちゃいそうです!

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