剣におぼえあり。
1 名前:エーコウ 投稿日:2008/04/07(月) 18:51

ベリキュー時代物パラレル。
時代背景は江戸・明治辺りをご想像いただければ…。
CPは登場してからのお楽しみ。

のろのろと書かせていただきます。
お付き合いくださいませ。
2 名前:序章 投稿日:2008/04/07(月) 19:01

むかしむかしのお話。
世界のどこかに、球都国と部里居豆国という国があったそうな。
これは、そんな国に住む人々の、小さなお話。

3 名前:序章 投稿日:2008/04/07(月) 19:01

「姫ー!!!お待ちください!!!」

4 名前:序章 投稿日:2008/04/07(月) 19:02

桜がひらりひらり散り始め、暖かい風が吹く春。
大きな城の中では、焦ったように声を張る1人の声が響いている。

5 名前:序章 投稿日:2008/04/07(月) 19:03
「姫!!外出は危険です!!殿の許可も下りていないし、城下町は危ないんですよ!!」
「大丈夫だよ!!どうせ許可してくれるし、あたしか弱くないし。」
「…しかし!!」
6 名前:序章 投稿日:2008/04/07(月) 19:04

長い廊下を早足で歩く2人。
先を歩くのは、球都国の姫である舞美。
お姫様といえば想像するのはお淑やかな印象だが、今目の前にいる姫はバタバタと活発に動き、姫という感じが一切しない。
後ろを歩く用心棒をいつも困らせる問題児だ。
7 名前:序章 投稿日:2008/04/07(月) 19:07

さて、後ろを困り顔で歩くのは舞美姫の用心棒兼世話係のえりか。
腰に刀を差し、舞美の危機にはここぞとばかりに剣を振るう一流の用心棒。
しかし、バカでヘタレ。

8 名前:序章 投稿日:2008/04/07(月) 19:09
「姫ぇ……あっ!殿!!いいところに!」
2人が言い合っていると、暢気な顔をして前から歩いてくるのは球都国のお殿様麻琴。

「おぉ?舞美にえりか。何か急いでいるようだけど、どうしたぁ?」
舞美は麻琴に近寄り、えりかは麻琴の前で片膝立ちで頭を下げる。
「殿…舞美姫がまたわがま……「お父さん!!あのね、あたし友達に会いに城下町に行きたいの。いいでしょ?」
えりかの言葉をさえぎり、麻琴の腕に抱きつきながら甘えるような声を出す舞美。

「…あぁ、行ってきなさい。気をつけるんだぞ。まぁ、えりかがいるから問題ないだろうし。」

デヘデヘ笑いながら頷いている、娘に弱いアフォお殿様。
そんな殿を見上げ、どこまでこの人はアフォなんだ、と頭を抱えるえりかだった。
9 名前:序章 投稿日:2008/04/07(月) 19:13

笑いながら去っていった麻琴を見送った後、舞美が歩き始め、その少し後ろをえりかが歩く。

必然的に出来た、姫と用心棒という格差の距離。

10 名前:序章 投稿日:2008/04/07(月) 19:14

「大丈夫、大丈夫。あたしが危ない時は、絶対えりが助けてくれるもん…ねっ、えり?」
嬉しそうにスキップして歩く舞美が、少し後ろを歩くえりかに振り向き首をかしげる。

そんな少女のような可愛げのある動作に、えりかの胸がどきりと高鳴る。

「…えぇ。もちろん、姫の事はこのえりかが命を懸けて守ります。」
「えぇ…命懸けてってえりが死んじゃったらダメじゃん。」
「……姫の為に死ねるなら、本望です。」
「ダメ。えりはもし死んでも生き返ってこなくちゃダメ。」
「どうやってですか!!」
「そんなの…自分で考えなさい!…とか言って。」
「……はい。」
11 名前:序章 投稿日:2008/04/07(月) 19:18

「…えりっ!」
「はい、なんでしょうか?」
「この距離、なんか嫌。隣にきて。」
「…しかし、姫と並んで歩くなんて用心棒の身であるあたしが…。」

「…えり、これは姫の命令です!」

えりかの前には、仁王立ち姿の舞美。

12 名前:序章 投稿日:2008/04/07(月) 19:19

ほんとうに、可愛いお姫様だ。


13 名前:序章 投稿日:2008/04/07(月) 19:20

そんな事を思いながら、くすくすと笑ってえりかは舞美の隣に並ぶ。
えりかが隣に並んだのを確認して、舞美は歩き出す。

14 名前:序章 投稿日:2008/04/07(月) 19:20

空は快晴。
最高のお出かけ日和になりそうだ。

15 名前:エーコウ 投稿日:2008/04/07(月) 19:56

本日の更新終了。

16 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/07(月) 23:26
何やら面白くなりそうな予感
続き楽しみにしてます
17 名前:510-16 投稿日:2008/04/08(火) 12:29
あの、ココだけの話・・・作者さんのブログ熟読するほど大ファンですw
こちらでのご活躍も楽しみにしています!
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/08(火) 21:44
なにこの萌える設定…

超期待してます
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/09(水) 23:16
なんだかほのぼのしててとても癒されます
正座して待ってます!!
20 名前:【この子どこの子お城の子】 投稿日:2008/04/12(土) 20:04

城下町の大通りは朝昼晩、いつでも賑やかで人々が耐えない事で有名だ。
衣類・食料品・日用品・刀・仕事と、大通りに出れば全てが揃っているという。

そんな大通りを人ごみ掻き分けて楽しげに歩くのは、町娘のように質素な着物姿の舞美。髪は下ろし、帯に財布を挟み、外見はどう見てもどこかの町娘。
城を出る前、お姫様の着るような派手な着物では目立つとえりかに指摘され、着替えたようだ。

21 名前:【この子どこの子お城の子】 投稿日:2008/04/12(土) 20:04

「そこのおじょうちゃん、辺里居豆国からいい魚がきたんだ。一匹どうだい?」


22 名前:【この子どこの子お城の子】 投稿日:2008/04/12(土) 20:05
もちろん、舞美がまさかこの国の姫だと思ってもいない人々は、一際目立つ舞美を呼び止める。
「わぁ!すっごい新鮮なお魚!!ねぇ、えり!買って帰る?」
「……いくらだって城の料理班が調達して…
「……しろ?」
「…っ!?あっ、あの「何!?えりは白い身のお魚は食べたくないって?そっかそっか、じゃ他のところ見よっか!!ごめんね、おじさん。」

23 名前:【この子どこの子お城の子】 投稿日:2008/04/12(土) 20:06

舞美はえりかの腕を掴んで、魚屋から遠ざかっていく。
魚屋から離れた人通りのない路地に入ると舞美はえりかを掴んでいた手を離し、立ち止まると正面を向き合う。
そして、えりかの鼻にデコピンを入れた。

「…えり。着物は指摘するのに、えりが外でお城のこと話しちゃ意味ないじゃん。」
「………すみません。」
「お城に帰るまでは、あたしは町の娘っていう設定でよろしくね。えりは可愛い町娘のあたしをほおっておけなくてついてきた武術学校の生徒って設定。」
「……姫の設定はやけに詳しいですね。」
「設定があった方が話合わせやすいでしょ。…それに、ここでは姫って呼び方と敬語もなし!!」
「えぇ!!あたしにとって姫は姫です。」
「駄目。姫なんて呼ばれたら疑われちゃうじゃん。だから、今日一日は舞美って呼ぶこと!!」
「しかしっ!!」
「姫の命令です!!」
「……はい。」
「はい、じゃなくて?」
「……うん。」
「よしよし。」

24 名前:【この子どこの子お城の子】 投稿日:2008/04/12(土) 20:06

困り顔で返事をする少し背の高いえりかの頭を、背伸びをした舞美が優しく撫でる。
そんな舞美を見下ろして、えりかは困ったように笑った。

25 名前:【この子どこの子お城の子】 投稿日:2008/04/12(土) 20:07

確認を終えると、大通り巡りは再開された。
楽しげに様々な店を物色する舞美を、えりかは優しい眼差しで見守る。
そこらを歩く町娘とはオーラが違う舞美と、大通りを歩きなれない舞美を優しくエスコートする紳士的な侍の姿は一際目立ち、すれ違う町人が少しばかり振り返るほどだ。
「…えり、なんかすっごい見られてるよ。」
「そうです……じゃなくて、そうだね。」
当の本人達は、なぜ自分達を見られているのか、全く気づいていないようだった。

26 名前:【この子どこの子お城の子】 投稿日:2008/04/12(土) 20:09

ふらふらと店を眺めながら歩いていると、えりかが気になっていた事を口に出す。
「舞美、なんで急に城下町に行きたいなんて言ったの?」
「んー、友達に会いたくなったの。」
「友達?」
「そう。小さな頃に城に遊びに来てた友達。愛理って子でね。いつからかお城に来なくなって音信不通だったんだけど、城下町にある甘味処の【ぼおの】って所で働いてるって女中さんから聞いてね。確かめようと思って。」
「そうだったんだ…。」
27 名前:【この子どこの子お城の子】 投稿日:2008/04/12(土) 20:09


楽しげに愛理という少女を紹介する舞美。
甘味処はどこにあるんだろうかとえりかがぼんやり考えていると、舞美の肩に思い切りぶつかる人影。
「きゃ!!」
「舞美、大丈夫?」
よろける舞美を両手でえりかがすかさず支える。
支えた勢いで顔が近づき、えりかが慌ててながら舞美の体を元に戻した。
28 名前:【この子どこの子お城の子】 投稿日:2008/04/12(土) 20:10

「もぉ…危ないなぁ……あれ?」
怒ったように帯に手を当てた舞美が首を傾げる。
舞美の様子がおかしいことに気づいたえりかは舞美を覗き込むと、舞美はえりかの肩を掴み、走り去っていく人影を指差す。

29 名前:【この子どこの子お城の子】 投稿日:2008/04/12(土) 20:10
「えり!!あいつ、泥棒!!あたしの財布、あいつにすられちゃった!!!」
30 名前:【この子どこの子お城の子】 投稿日:2008/04/12(土) 20:10
「えぇ!!!?」
31 名前:【この子どこの子お城の子】 投稿日:2008/04/12(土) 20:11

今にも走り出そうとする舞美。
しかし、えりかがなだめるように舞美の体の前に腕を出した。
「舞美が行くのは危ないよ。もし怪我でもしたら大変だから……ここは、あたしにまかせて。」
「でも…」
32 名前:【この子どこの子お城の子】 投稿日:2008/04/12(土) 20:11
「あたしは、舞美の用心棒ですからっ!」
33 名前:【この子どこの子お城の子】 投稿日:2008/04/12(土) 20:12
そう言って、走り去っていく人影に向かって人ごみを掻き分けながらえりかが走り出す。
舞美も、そのあとを追うように走る。

「でも…えりよりあたしの方が走るの速いじゃん…。」

舞美の呟きは、懸命に走るえりかには聞こえなかった…。
34 名前:エーコウ 投稿日:2008/04/12(土) 20:18
更新終了。

愛理の誕生日ですが、本日は愛理の出演がなくてすいません(汗)
梅さんは舞美のために一生懸命だけど少しアホであってほしいという作者の好みがもろに出ていますw
次回は少し場面が変わります。
35 名前:エーコウ 投稿日:2008/04/12(土) 20:25
>>16さん
これからも面白いと思ってもらえるよう努力します!!
どうぞよろしくです。

>>510-16さん
あわわ!?それはそれは、どうもありがとうございますm(__)m
ブログも飼育もへぼへぼな小説ばかりですみません(汗)

>>18さん
萌えていただきありがとうございます。
これからベリキュー総出演なので、どんどん萌えて頂ければ光栄です(笑)

>>19さん
正座だなんてっ!?
更新不定期なので、胡坐で…楽な格好でお待ちくださいませw
36 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/13(日) 16:44
舞美の呟きワロス(ノ∀`)
梅さん頑張れ梅さん
37 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/17(木) 21:36
梅さん足遅いけどかっこいいよw
楽しみに待ってます。
38 名前:【最悪の出会い】 投稿日:2008/05/23(金) 19:34

所は変わり。
今日も大勢の人で賑わっている城下町のメインストリート。
その中で客を取り合い激戦を繰り広げている道がある。

城下町の飲食街だ。

店ごとに暖簾やのぼり旗をあげ、店の前では客引きが声を張り、店内では忙しそうに店主が働く。
そんな飲食街で、店の前には行列ができ、一際目立つ店がある。
39 名前:【最悪の出会い】 投稿日:2008/05/23(金) 19:34

甘味処・ぼおの
40 名前:【最悪の出会い】 投稿日:2008/05/23(金) 19:35

店の暖簾には、そう書かれているようだ。

「いらっしゃいませ!!」
店の中では、可憐な女の子が笑顔で客の相手をしている。
その名は、愛理。
ぼおので働いている看板娘だ。

可愛い少女は、ぼおのの、城下町のアイドル的存在だ。
店主のけめぞうじいさんとけめこばあさんが作る物が美味しいのはもちろん、看板娘・愛理見たさに店にやってくるファンが後を絶たない。
色々な意味でリピーターの多い、城下町の1,2位を争う飲食店である。

今日もぼおのは満席、大盛況。
愛理はいそいそと客の間を走り回っていると、店の奥からけめぞうじいさんが愛理を呼ぶ。
厨房に愛理が入る。すると、餡蜜を作りながらけめぞうじいさんとけめこばあさんが困ったように頭を掻いていた。
41 名前:【最悪の出会い】 投稿日:2008/05/23(金) 19:36
「おじいちゃん、どうしたの?」
「…餅が足りなくなってしまってのう。愛理、悪いんじゃが中澤の餅屋までを買ってきてくれんか?」
「大丈夫だけど…お店は?」
「ばあさんが店番はやるから安心せい。」
「おばあちゃんで大丈夫…?」
「あたしゃまだまだ若いからね!!安心して行ってきなさい。」

けめこばあさんが自慢げに力こぶを作り餡蜜をお盆にのせると、客の席まで運んでいく。
愛理はけめこばあさんが無事に客の席まで餡蜜を運んだ姿にほっとする。
「それじゃ、あたしが行ってくるね。」
「愛理や。いつも働いてばかりなんだから、息抜きもしてくるといい。」
けめぞうじいさんは、そう言っての代金よりも少し多めに銭の入った巾着を愛理に手渡す。
愛理は申し訳なさそうに微笑んで、けめぞうじいさんにぺこっと頭を下げた。
42 名前:【最悪の出会い】 投稿日:2008/05/23(金) 19:36

「いってきます!」
「いってらっしゃい。」
愛理が桃色の羽織に袖を通しながら店の入り口から出て行くと、店に入ってから愛理を目で追っていたファンが一斉に声をあげる。

「お鈴ちゃん、どこいくの!!」
「…買出し行ってきまーす!!」

満面スマイルであたふたしている人々に手を振る。
客たちは愛理の買出しを手を振って見届けていた。
43 名前:【最悪の出会い】 投稿日:2008/05/23(金) 19:37

けめぞうじいさんの言っていた中澤の餅屋は、代々続く餅の名家。
餅といえば中澤、中澤といえば餅。
今は6代目の女主人・裕子が店を仕切っている。
信頼している客にしか売らないという裕子の作る餅は、天下一品なのだ。
中澤餅店は、城下町の端でひっそりと商売しているため、ぼおのからはそれなりに距離がある。
しかも、あまり良い印象のない有楽街を通らなければいけないというのが少し難点だ。

44 名前:【最悪の出会い】 投稿日:2008/05/23(金) 19:37


有楽街を通ることに少し気分がのらない愛理だったが、昼間の有楽街は思っていたほど人通りがなく愛理はほっと胸をなでおろして足を踏み入れた。
それでもやはり有楽街を通ることは気が引ける。
愛理は自分の下駄を見つめるように俯きながら、足早に歩く。

そして前を見ていなかったため、前から歩いてきた人物と思い切り体をぶつけてしまった。
「…ご、ごめんなさいっ!!」
愛理が顔を上げると、そこには紅い着物を身に纏い、腰には二本の刀。
藁で編んだ笠を深めにかぶった侍らしき人が立っていた。
「いや、此方こそごめん。大丈夫?」
深くかぶっている笠のせいで、表情は見えない。
表情が気になった愛理は顔を覗こうとする。
その時、侍の後ろから声が聞こえた。
45 名前:【最悪の出会い】 投稿日:2008/05/23(金) 19:38

「栞菜さーん!またいつでもくるといいべさー!!」
「…ありがとうございます!女の子達によろしくどうぞ。」

店から出てきた訛りの強い可愛らしい女性が「栞菜」という侍に大きく手を振っている。
店の前に立っている木の看板には【遊び処・ふるさと】と書かれていた。

この人…遊び人?

…なんか嫌な人とぶつかっちゃったな。

愛理が眉間に皺を寄せ、侍を見る。
すると侍は、深々とかぶっていた笠をはずし店の前にいる女性に一礼した。
愛理は、侍の顔を見て驚く。
46 名前:【最悪の出会い】 投稿日:2008/05/23(金) 19:38

「お…女の子!?」

そう。
遊び人と思っていた栞菜と呼ばれる侍は、愛理とさほど年齢の変わらない女の子だった。

愛理が目を丸くして驚いている所に、挨拶を終えた栞菜が振り返る。
そして、愛理の顔を見て苦笑いを浮かべながら口を開く。
「…こんな格好してたら、女なんて思わないよね。笠かぶってたら顔も見えないし。」
「あっ…あの、いえ…そんな!」
「顔に驚いたって書いてあるよ。」
栞菜は、愛理の顔を指差してくすくすと笑っている。
どうやらこの姿で、しょっちゅう性別を間違われているようだった。
47 名前:【最悪の出会い】 投稿日:2008/05/23(金) 19:39
「…まぁ、そんな事どうでもいいんだけど…怪我はない?」
「はい!…栞菜、さんは大丈夫ですか?」
「こんなに華奢な子とぶつかったぐらいで、あたしは怪我しないよ。」
「そんなそんな…。」
「こんな可愛い子とぶつかるなんて、今日は良い事あるかもね。」
栞菜から平然と発せられるキザな言葉は、軽い言葉と思いつつも愛理の頬を紅く染める。


相手は有楽街の店に入っていた遊び人。

やっぱり嫌な人と出会ってしまった。


愛理がどう答えようかとクネクネしている所に、1人の男が人の間をすり抜けて走ってくる。
そして、愛理と思い切り肩がぶつけてそのまま走り去っていく。

あまりの不意打ちに、愛理の華奢な体が後ろに倒れる。

愛理の体が地面にぶつかり鈍い音が辺りに響く…と思いきや、何故か愛理は宙に浮かんだ感覚を手に入れ、上には栞菜が間一髪と笑った表情が見える。

地面を見下ろすと、見事に栞菜に抱き上げられていた。

いわゆる、お姫様抱っこというものだ。
48 名前:【最悪の出会い】 投稿日:2008/05/23(金) 19:40
助けてもらったとは言え、人前でこんな姿はどうにもこうにも恥ずかしい。

愛理は口を開こうとすると、先ほどの笑みは消え、眉に皺を寄せて困った表情に変わった栞菜が口を開いた。

「……やられたね。」

「…なにをですか?」

「キミ、多分金持ってたなら盗られたよ。」

「えっ!?」

帯の中に手を入れると、けめぞうじいさんから受け取って確かに入れたはずの巾着がなくなっていた。

「今城下町で有名になってる盗人兄弟。通行人にわざとぶつかってその時華麗に金目のものを盗む。…まさか本当にこの手口とはね…。」

「…どうしよう。頑張って稼いだお金なのに…。」

栞菜の下で、八の字眉を更に下げて泣き出しそうな愛理。

栞菜は愛理の顔を見ると、愛理を安心させるかのように笑みを浮かべた。

「なにそんな顔してんの。…あの盗人、あたしと一緒にいる子を狙うなんて運が悪いねぇ。」

「…はい?」
49 名前:【最悪の出会い】 投稿日:2008/05/23(金) 19:40
「キミの財布、返してもらおう。」
50 名前:【最悪の出会い】 投稿日:2008/05/23(金) 19:41
「…はいっ!?」
「あたし、足と力には自信あるかんな。」
自慢げに笑った栞菜。
通りかかる人は、不思議な格好の二人をじろじろと見ながら通り過ぎる。
金を盗られたのに妙に冷静なった愛理は、先程言おうとした事を口に出す。
「それじゃ、とととりあえずあたしを下ろしてから…
「下ろしてる時間もったいないし、そのまま行こっか。まだあの辺走ってるようだし。」
「えぇ!?…っていうか、見えるんですか?」
愛理が先を見ても、通行人ばかりで先程の盗人は全く見えない。
「見えないけど…臭いで分かる。あいつ、相当錆びた刀と銅の臭いがしたから。」

愛理には臭いなんて感じられなかったが、栞菜は愛理を抱き上げたまま走り出す。

この人の体力と嗅覚はどうなっているんだろうか。

じっと固まって抱き上げられたまま、愛理は懸命に走っている栞菜の横顔を見つめていた。
51 名前:エーコウ 投稿日:2008/05/23(金) 19:50
更新終了。

>>36さん
舞美の足の方が速いことを忘れる程ここの梅さんはアフォなんですよ(笑)

>>37さん
梅さんはヘタレかっこいいを目指してます(笑)

久々の更新でした。
次回どうなるかは秘密ですww笑
ではでは、フェードアウトします…。
52 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/23(金) 21:45
きましたよーwwお世話になってますwYくんですw
栞ちゃん侍めっちゃかっこいいwそして愛理が愛理で可愛い(なに
続き楽しみにしてますw
53 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/25(日) 20:16
栞侍カッケー!!これが愛理にとって素敵な出会いになってほしいですね〜
54 名前:510-16 投稿日:2008/05/27(火) 21:37
更新お疲れ様です!

・・・・・・・・なんですか、この男前栞菜w
55 名前:【追いつめた二組】 投稿日:2008/09/27(土) 20:36

盗人を追ってどのくらい走ったのだろうか。
栞菜は息を切らすことなく愛理を抱えて走っていた。

金を盗られたにも関わらず、自分を抱えて走る侍の体力の心配をする愛理は控えめに話しかける。
「あの…重くないですか?」
「全然。キミ、刀より軽いんじゃない?」
「そ、そんなわけないです」
「さて…臭いが近づいてきた。」

栞菜は愛理に向けていた視線を前に戻し、ニヤリと笑った。
クンクンと臭いを確かめてみたけれど、相変わらず愛理に栞菜の言う臭いとやらは理解できなかった。

56 名前:【追いつめた二組】 投稿日:2008/09/27(土) 20:37
「…兄貴。見てくれよ!」
「こっちも今日はかなり報酬があるぜ」

真っ昼間にも関わらず、陽が当たらない裏通り。
塀が並び、一本道が奥まで続いている。
悪の道に手を染めた者、帰る場所がない者などが集まってくる無法地帯。
平和な球都国にも裏側があるものだ。
裏通りの入り口付近。
盗人兄弟は今日町の民から盗り上げた報酬を見せ合っていた。

「今日の標的は楽勝だったよ。なんせ、ぽやっとした顔した女だったから」
「あぁ、オレもだ。顔は可愛い姫みたいな顔した女だったけどよ、隣についてた侍が鈍くさそうでな」
「そういやぁ、オレが盗んだ女の隣にも笠被った侍がいたような…。雨が降っても今の時代和紙の傘使うのに、笠被るなんて時代遅れだよな」
「笠被った侍が城下町歩いてるなんて、放浪気取り!?」
「形から入る気取るやつほど、なーんもできねぇんだよな!」
57 名前:【追いつめた二組】 投稿日:2008/09/27(土) 20:39
「…形から入る奴で悪かったね…。」

兄弟がケラケラと腹を抱えて笑っていると、冷静な声と共に下駄の足音が近づいてくる。
大きな笠を被る赤い着物姿の侍。
兄弟の1人は目を丸くした。
侍の手には、確かに自分が金を盗った少女が抱えられていたからだ。

「ああああ兄貴…アイツ…だ」
「はぁ?」
「アイツなんだよ!!」
「だから何が?」
「オレが金盗った奴だって!!」
「うええぇぇぇ!?」

栞菜は抱えていた愛理を地面に降ろす。
久々に地に足をつけた愛理は脱げそうになっていた塗木履を履き直した。
大きな笠を脱ぎ、愛理に手渡す。
「これ持って下がってて。可愛い顔が傷ついたら大変だから。」
笠を手渡しながら悪戯に笑う栞菜。
相変わらず照れてしまう愛理は照れ隠しに渡された笠で顔を隠した。
58 名前:【追いつめた二組】 投稿日:2008/09/27(土) 20:40
「さて…」
そう呟き栞菜が兄弟に顔を向けると、愛理に向けていた表情が一瞬で変わる。
なんとも冷たい表情に。

「あんたら、人が一生懸命働いて稼いだ金盗るなんて…サイテーだね。根性叩き直してあげるよ。」
「ああああ兄貴…なんかとてつもなく殺気立ってるよ!!」

「こここういう時はな………逃げるが勝ち!!!!」

そう叫び、兄が奥へと走り出す。
「待ってよ、兄貴!!」
その後ろを慌てて弟が追いかけていく。
「…まだ逃げる気か!」
舌打ちをしながら栞菜が後を追おうと走り出そうとする。
すると、後ろで見ていた愛理が声を上げた。
「あっ!!上に人!!」
59 名前:【追いつめた二組】 投稿日:2008/09/27(土) 20:42

愛理の声につられて上を見上げると、真っ黒な2つの影が塀から飛び降りた。

「うわぁぁ!!!!」
ドシン、という大きな音とストン、と華麗に着地する音。

「もう逃げられないわよ、盗人!!」
華麗に着地した着物姿の少女は仁王立ちで盗人を指さした。
そしてもう一方、派手に落ちた侍姿の少女が慌てて立ち上がると仁王立ちの少女の前に立ち、背中にいる少女を守るように手を上げた。
「姫…じゃなくて、舞美のお金を返せ!この盗人兄弟!…っていうか、舞美。急に押したら落ちるに決まってるじゃん!!」
「…だって、盗人さん達逃げちゃうって思ったんだもん」
「だからって急に押さなくても!!」
「えり度胸ないから自分でいけないかなって…」
「…確かにあたしはヘタ…

「あの…お取り込み中よろしいでしょうか?」

60 名前:【追いつめた二組】 投稿日:2008/09/27(土) 20:43
緊迫した雰囲気の中漫才を始めた2人に割り込んだのは、盗人を挟んで向こうにいる栞菜だった。
「とりあえず、この盗人をどうにかしません?」
栞菜は盗人を指さし首をかしげた。
「あぁ!!それじゃ、ガーッといっちゃいましょ
「舞美は下がってください!!!ここはあたしがやりますから!怪我ひとつでもしたらどうするんですか!」
「…なんだよー。あたしだって強いのに」
ぶーたれた顔をして後ろへ下がる舞美。
「よしっ。それじゃ、ちゃっちゃと片づけましょう」
えりかと舞美のやりとりに笑いをこらえながら、栞菜は盗人との距離を縮めていく。
盗人は後ろに下がるが、挟み撃ち状態のためえりかへ近づくことになる。
「ちくしょう…オレたちゃ、捕まるわけにはいかねぇんだ!!」
盗人の兄はそう叫ぶと、栞菜に向かって襲いかかる。
その瞬間、太股に隠していた小柄を取り出す。
61 名前:【追いつめた二組】 投稿日:2008/09/27(土) 20:43
「…錆の臭いがしたのは、その小柄か。ちゃんと手入れしないと、爪さえ切れないよ!」
振り下ろされた小柄を軽々と身体を動かし避ける。
「くそ!!」
「…あんたみたいな奴に、栞使うのは勿体ない。」
鍔に手をかけたが、そう呟くと刀から手を離す。
そして、近くに立てかけてある木の看板を思い切り折った。

「器物破損!!」
「…その通り…だけど、今の状況見ればしょうがないとしか」
舞美が指をさして注意するが、栞菜に聞こえているはずもなく。
えりかがしょうがなくフォローを入れた。


盗人の兄はなにふりかまわず小柄を振り回すが、栞菜はまるで幼子と遊ぶかのようにひらりひらりとかわしていく。

「…そろそろお仕舞いにしようか。あんたと遊んでる時間、勿体ないんだよね。」

62 名前:【追いつめた二組】 投稿日:2008/09/27(土) 20:44

栞菜が呟くと同時に、左足を踏み込み背を屈める。
そして、先程折った看板の棒を刀を抜く時の構えで持ち直す。
盗人・兄が小柄を振り下ろしたその時、栞菜が下から盗人・兄を睨み付ける。
誰もが鋭い眼光に目を奪われた。

カタン。

何かが落ちる音に皆が我に返る。
先程棒を構えていた栞菜は、いつの間にか棒を腰から抜いた姿になり。
落ちた音の方に目を向けると、盗人・兄が振り下ろした小柄が刃が真っ二つに割れた状態で無惨に落ちていた。

「…木の棒で折れる小柄。ちゃんと手入れしないからだよ………っていうか、まだ戦う?」
白目を剥いて今にも口から泡を吹き出しそうな盗人・兄の額に木の棒を当て、栞菜は笑った。

63 名前:【追いつめた二組】 投稿日:2008/09/27(土) 20:45
「…えり…今、あの人何したの…?」
「…動きが速すぎて何も見えなかった…」

目の前の戦いを唖然としてみていた舞美の質問に、目をこすりながらえりかが首を横に振った。
そして、同じく唖然としていた盗人・弟がポカンとしている舞美とえりかをちらりと見ながら「今がチャンス」とコソコソと塀の隅を通って脱走を試みる。

しかし

「……さっき塀から落ちたりしてアホな事やってますけどあたしも一応侍なんで、なめられちゃ困りますよ。…こっちは穏便にいきましょう?お兄さんみたいになるの、嫌でしょう?」

逃げる弟の肩にポン、と手が置かれる。
後ろを振り向くと、刀の鍔に手をかけたえりかが笑みを浮かべて盗人・弟の肩に手を置いていた。
気を失っている兄が見えると、弟は観念したようにその場に座り込んだ。
64 名前:エーコウ 投稿日:2008/09/27(土) 21:27


65 名前:エーコウ 投稿日:2008/09/27(土) 21:27




66 名前:エーコウ 投稿日:2008/09/27(土) 21:27




67 名前:エーコウ 投稿日:2008/09/27(土) 21:42

久々の更新でした(汗)
間が開きすぎて申し訳ないです。

分かり難い表現が出てきたと思うので、補足を。
愛理の履いている『塗木履』は、漆が塗ってある下駄の事です。
盗人・兄が取り出す『小柄』とは、小さな刀を想像してくれれば分かりやすいと思われます。
フルーツナイフよりも少し大きいナイフのような刀と思ってください。
68 名前:エーコウ 投稿日:2008/09/27(土) 21:46

>>52さん
お久しぶりです!!
栞菜はとにかくキザになってますね(笑)
今後の愛理のくねくね加減にご期待くださいww

>>53さん
愛理にとって素敵な出会いなのか最悪の出会いなのか…
栞菜侍次第ですね(笑)

>>510-16さん
栞菜が男前すぎて、どうもすいません!!(爆)
これからも愛理を翻弄していくことでしょう(笑)
69 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/01(水) 23:03
いやー待ってました!!やっぱ栞菜カッコイイなあ(・∀・)
70 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/02(木) 19:15
梅さんが愛しすぎるw
71 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/02(木) 23:35
 栞菜カッケー!ビックリするくらい綺麗な居合抜き(で良いのかな?)
ですね。
 梅さんはまいみぃ〜に完全に振り回されてる・・・だがそれがいいww

ログ一覧へ


Converted by dat2html.pl v0.2