向日葵のように
- 1 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/02(日) 14:33
 
-   
  
 りーちゃん絡みを徒然とひたすらに書いていくスレ。 
 好きなものを好きなときに書いていきます。 
  
 おそらくりしゃみや、りしゃもも、りしゃゆり中心。 
 だけど他カプも時々混じるかも。 
  
 そんな感じでどうぞよろしくお願いします。 
  
   
- 2 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/02(日) 14:34
 
-   
  
 まずは一作目。 
 スレタイでりしゃみや、アンリアル。 
  
  
   
- 3 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/02(日) 14:34
 
-   
  
  
  
   
- 4 名前:―向日葵のように― 投稿日:2008/03/02(日) 14:34
 
-   
  
  
 向日葵の笑顔っていったら言いすぎかなぁ。 
 でも梨沙子はいつもきらきらした笑顔を見せてくれて。 
 うちはその顔を見るのが好きで。 
 だから結局、面倒見ちゃうんだと思うんだよね。 
  
  
  
   
- 5 名前:―向日葵のように― 投稿日:2008/03/02(日) 14:34
 
-   
  
  
  
 ―向日葵のように― 
  
  
  
  
   
- 6 名前:―向日葵のように― 投稿日:2008/03/02(日) 14:35
 
-   
 とんとんとんと軽い音を響かせながら二階へと上る。 
 上りきった所で静かに息を吐いた。 
 この行動に慣れてしまっている自分に呆れた。 
  
 「梨沙子ー、開けるよ。」 
  
 ―どうせ、寝てるんだけどさ。 
  
 そう思いつつも、マナーはマナーである。 
 もしここで雅が何も言わずにしたとしても梨沙子は何も言わなかったに違いない。 
 にへらと力の抜けるような笑みを浮かべて、雅を迎えたのだろう。 
 ぞんざいに声をかけ雅は梨沙子の部屋の扉に手をかけた。 
 少し押しただけで軋むことなくドアは開いた。 
 入り口から見える梨沙子の部屋。 
 そこに物音は存在しなくて。 
 静かに響くのは雅の予想通り、梨沙子の寝息だけだった。 
  
   
- 7 名前:―向日葵のように― 投稿日:2008/03/02(日) 14:35
 
-   
 「……やっぱ寝てるし。」 
  
 起こさないように、と意識したわけではない。 
 しかし体はできる限り物音を立てないように動いて。 
 雅は梨沙子の寝るベッドサイドへと歩を進めた。 
  
 ―穏やかな顔で寝すぎ。 
  
 すやすやと幼い顔で眠る梨沙子を見ていると何故かイラッと来て。 
 雅は梨沙子の頭を軽く叩いた。 
 ぺしんと間抜けな音が出て、梨沙子の寝顔が微かに歪んだ。 
 それがおかしくて雅は一人ふふと小さく笑いを漏らす。 
  
 「ん……ぅ?みや?」 
  
 もぞもぞと梨沙子の被っていた布団が動いて。 
 ひょこりと半ば隠れていた顔全体が雅に見えた。 
 その仕草に、見慣れてきた行動に自然と雅の頬は緩む。 
 出たのは自分でも驚くほど優しい声だった。 
  
   
- 8 名前:―向日葵のように― 投稿日:2008/03/02(日) 14:36
 
-   
 「あー、梨沙子。起きちゃった?」 
 「叩いたのはぁ……みや、だもん。」 
 「ごめん、ごめん。」 
  
 未だに夢の中にいるらしい梨沙子の声はとても甘くて。 
 雅は叩いてしまった所をゆっくりと撫でる。 
 梨沙子の髪は柔らかくて、しかも雅の手に絡まることもない。 
 その撫で心地を雅は密かに気に入っていた。 
  
 「どうするの、梨沙子?もう起きる?」 
  
 ―っていうか起こしたの、うちだけど。 
  
 今はなんだかもう少しこの雰囲気に浸かっていたい気分だった。 
 たった数分で自分に何が起きたのかは雅自身把握していない。 
 すると梨沙子は半開きにも至ってないような目で雅を見つめて。 
 それからワンテンポ遅れて緩やかに頭を振った。 
  
   
- 9 名前:―向日葵のように― 投稿日:2008/03/02(日) 14:36
 
-   
 「ん、やだ……まだ、眠い。」 
 「でも梨沙子が起きてくれないとうち、暇なんですけど。」 
  
 勝手知ったる梨沙子の部屋ではある。 
 梨沙子が寝ていても大体の物の位置は理解していたし。 
 暇を潰せるような漫画などが何処にあるかも知っていた。 
  
 ―でもさぁ。 
  
 もったいないじゃんと雅は心の中で呟く。 
 寝る梨沙子を待つのは慣れていた。 
 なぜなら梨沙子の家族は梨沙子の世話を雅に一任しているような所があって。 
 今日みたいな用事のない休日は梨沙子を起こす係りは雅になっているのだ。 
 昔からの習慣であるそれが雅の身に馴染んで久しい。 
 最早、疑問にも苦痛にも思わなくなった行為。 
 だけど梨沙子が起きてくれるなら、やはり一緒に話したりした方が楽しいと雅は思うのだ。 
  
   
- 10 名前:―向日葵のように― 投稿日:2008/03/02(日) 14:37
 
-   
 「うーん、ならぁ……。」 
 「ひゃっ。」 
  
 ガバッと周りから見たらまさにそんな音だったのだろう。 
 眠そうな梨沙子。 
 その体を隠している布団から突然腕が伸びてきて。 
 雅の体は一瞬にして梨沙子の腕の中に引きずり込まれた。 
  
 「みやも、一緒に寝よ?」 
  
 梨沙子の顔を少し見上げるというのは新鮮な気がした。 
 自分の頭の上でふにゃふにゃの笑顔を梨沙子が見せて。 
 雅は一刹那動きを止めた。 
 柔らかい柔らかい梨沙子の笑顔。 
 いつもの笑顔とまた違ったその表情に雅は見惚れていたのだ。 
  
   
- 11 名前:―向日葵のように― 投稿日:2008/03/02(日) 14:37
 
-   
 「……いやいやいや、うちまで寝たら意味がないじゃん。」 
  
 だけどそんな事、雅が素直に認められるはずもなく。 
 ぷいと顔を梨沙子から逸らしぼそぼそと呟くように言った。 
 雅がここに来た理由は梨沙子を起こすことだったし、 
 それは雅以外だと梨沙子は素直に起きないからである。 
 特に起きる時間の決まっていない休日はその傾向が強くなって。 
 もしここで梨沙子の言葉に従って寝てしまったら、雅が来た意味がなくなってしまう。 
  
 「いいじゃん、偶には。」 
 「良くないから言ってるんだって。」 
  
 そう言っても梨沙子は既に雅と寝ることを決めていたようだ。 
 僅かに体を離すと、もぞもぞと布団に潜って。 
 遠慮なく雅の体に顔を埋めた。 
 その動きに雅は半分起こすのを諦める。 
  
 「んふー……みや、いい匂いがする。」 
 「そんな事、ないと思うけど?」 
  
 「そんな事あるもん。」とくぐもった声が雅の胸から聞こえた。 
 自分の顔から下、全身と言っていい範囲に梨沙子の体温が伝わってきて。 
 雅より明らかに高い温度は寝ていた為なのか雅には分からない。 
  
   
- 12 名前:―向日葵のように― 投稿日:2008/03/02(日) 14:37
 
-   
 ―……くっつけすぎ。 
  
 いひひとか、うふふとか。 
 余り可愛くない笑い声を漏らす幼馴染なのに。 
 なんでこんなに可愛く思えるのだろうと雅は自分の思考回路を確かめたくなった。 
 顔が熱いのはたぶん気のせいじゃない。 
 間違いなく真っ赤なんだろうなと雅は思う。 
 照れくさいのと恥ずかしいのと緊張が同じくらいの分量で溢れていた。 
  
 「大好き、みや。」 
 「っ……馬鹿。」 
  
 ―馬鹿バカばか。 
  
 ああ、もうと。 
 どうしようもなく真っ赤になっている自分の顔を抑える。 
 梨沙子の好きは唐突に、突然に、遠慮なく雅の心を奪っていく。 
 そのだらしないほど緩んだ嬉しそうな声で。 
 梨沙子は雅の一番を余すことなく取っていくのだ。 
 完全に負けたと雅は少しずれた考えで思った。 
 躊躇なく、完膚なきまでに。 
 自分は梨沙子に負けたのだと雅は思った。 
  
   
- 13 名前:―向日葵のように― 投稿日:2008/03/02(日) 14:38
 
-   
 「バカ梨沙子。」 
 「バカバカ言いすぎー。」 
  
 雅の腕の中で梨沙子が体を動かすのが分かった。 
 ちらりと視線を少し下に向ければ満面の笑みを浮かべた梨沙子。 
 文句を言っているとは思えない表情。 
 実際梨沙子は文句を言っているのではないのだと雅は知っている。 
 雅にこうやってくっつけるのが嬉しくて、楽しくて。 
 梨沙子なりの照れ隠しのようなものなのだ。 
 そしてそれは雅も変わらない。 
  
 「ほんと、仕方ないんだから……。」 
  
 言ってから思う。 
 仕方ないのはむしろ自分なのではないか。 
 梨沙子に甘くて仕方ない。 
 梨沙子が好きで仕方ない。 
 それなのに素直になれなくて仕方のない自分。 
 思い浮かんだどれにも当てはまって。 
 雅は自分自身に苦笑した。 
  
   
- 14 名前:―向日葵のように― 投稿日:2008/03/02(日) 14:39
 
-   
 「ちょっとだけだからね……。」 
  
 ぽんぽんと自分の胸辺りにある梨沙子の頭を撫でる。 
 雅の腕の中で梨沙子は既に夢の国へと飛び立っていた。 
 すーすーと穏やかな寝息が響いてきて。 
 その音と梨沙子の体温に雅自身にも睡魔が降りてくる。 
  
 ―うちも眠くなってきちゃった。 
  
 うとうとと瞼が落ちてくる。 
 ちらりと見た時計はまだ正午まで余裕があって。 
 何だか分からないけど凄く安心感があった。 
 それもこれも全て梨沙子のおかげ。 
 なんだかそんな感じが雅にはしたのだ。 
  
 ―梨沙子の側って、なんか気持ちいいんだよね。 
  
 梨沙子の側は温かくて。 
 梨沙子は常に雅へとその全てを向けてくれて。 
 その向日葵のような梨沙子に雅は癒されているのだ。 
  
  
  
 ―向日葵のように―終 
  
  
   
- 15 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/02(日) 14:39
 
-   
  
  
  
  
   
- 16 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/02(日) 14:42
 
-   
 初めての方もそうでない方もこんにちわ。 
 性懲りもなくりーちゃんの短編を書くスレです。 
 ってことで勿論一作目はりしゃみやでした。 
  
 りーちゃんっていうとまずりしゃみやなのは自分がりしゃみやヲタだからなのでしょうかw 
 この二人のほのぼのした感じが伝われば幸いです。 
  
 ではまた妄想が溜まった日に。 
 ゲキハロDVDを見てウハウハなCPヲタでした。 
  
   
- 17 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/02(日) 14:42
 
-   
  
  
  
   
- 18 名前:YOU 投稿日:2008/03/02(日) 18:54
 
-  新スレおめでとうございますッ!!!! 
 今回はりしゃみやのほのぼのな話だったのでりしゃみやファン自分としてはとても和みました。 
 これからも楽しみにしていますッ!!!!  
- 19 名前:麻人 投稿日:2008/03/02(日) 19:03
 
-  待ってましたー!!! 
 新スレおめでとうございます。 
 これからも頑張ってください!  
- 20 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/08(土) 12:03
 
-   
  
 ゲキハロのDVDが楽しくて仕方ない今日この頃。 
 皆さんはどうお過ごしでしょうかw 
 妄想がハイペースなんで、早めに更新いたします。 
  
 18<<YOUさん 
 あっとうございます! 
 相変わらずな話ばかりのスレですがよろしくお願いします。 
 りしゃみやで甘いの書くのは苦労しました(エ 
   
 19<<麻人さん 
 お待たせしましたw 
 はい、これからも妄想頑張ります(爆 
 どうか着いてやってきてくださいw 
   
 では今日の更新。 
 かなりマイナーからですw 
  
   
   
- 21 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/08(土) 12:03
 
-   
  
  
  
   
- 22 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/08(土) 12:04
 
-   
  
 一作目、ちなりしゃw 
 リアル、ツンデレです(エ 
  
   
- 23 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/08(土) 12:04
 
-   
  
  
  
   
- 24 名前:―両側片道通行― 投稿日:2008/03/08(土) 12:04
 
-   
  
  
 あたしはワガママだ。 
 そんな事とっくに自覚している。 
 ワガママな自分が嫌いで。 
 なのにそんなあたしを受け入れてくれる彼女があたしは分からなかった。 
  
  
  
   
- 25 名前:―両側片道通行― 投稿日:2008/03/08(土) 12:05
 
-   
  
  
 ―両側片道通行― 
  
  
  
   
- 26 名前:―両側片道通行― 投稿日:2008/03/08(土) 12:05
 
-   
 突然、呼び出された。 
 場所は梨沙子の家とあたしんちの中間地点。 
 他のメンバーと比べればまだ近い。 
  
 「でーもーとーおーいー。」 
  
 無駄に伸ばして口に出してみた。 
 まだ中学生なあたしは当然免許なんてもの持って居なくて。 
 だから移動はバスか電車、はたまたタクシーになるわけだけど。 
 タクシーなんてお金のかかる乗り物使えるわけもなく。 
 あたしは駅から地味に待ち合わせの場所に向かっている。 
  
 ―梨沙子は時々ワガママだよねぇ。 
  
 もしかしたら時々でもないかもしれない。 
 収録で一緒の時はもっと分かりにくいワガママを言っているだけ。 
 例えばお菓子頂戴とか、ジュース頂戴とか。 
 ワガママというより甘え。 
 ほいほいと聞いてしまうあたしもどうかと思ったし。 
 梨沙子のそういう甘えを何時まで経っても許すメンバー全員がどうかとも思った。 
  
   
- 27 名前:―両側片道通行― 投稿日:2008/03/08(土) 12:05
 
-   
 「まぁ、そういうとこも可愛いんだけどさ。」 
  
 ちょっと顔を上げて空を見てみれば、寒く感じるほど透き通った青空だ。 
 梨沙子はどうやれば自分が可愛く見えるか知っている。 
 それはかなりズルイと思う。 
 梨沙子の可愛さに負けて、あたしは骨抜きもいいところだ。 
 今も寒い風の中駅から歩いている。 
 その前はばれない様に注意ながら電車に乗って。 
 更にその前は家から駅まで歩いていた。 
  
 ―惚れた弱みですか。 
  
 そうですかと思わず自分の中で相槌を打つ。 
 昔の人は上手いこといったもんだと、余り知らない格言に感心する。 
 マフラーから出ている箇所が寒くて顔を埋める。 
 何で外に居るんだろうと自分で出てきといて思った。 
  
   
- 28 名前:―両側片道通行― 投稿日:2008/03/08(土) 12:06
 
-   
 「ちー!」 
 「梨沙子。」 
  
 ちょっとした広場になっている所に梨沙子は居た。 
 ぶんぶんと目立つようにあたしに向かって手を振っている。 
 マフラーと帽子で顔はほとんど見えないけど。 
 可愛いなぁと顔が緩んだあたしはもう救いようが無いほど彼女のことが好きなんだと思う。 
  
 ―やっぱ、梨沙子は可愛いよ。みや。 
  
 何時だったか梨沙子に惚れるなんて信じられないと言った親友。 
 一人脳裏で言い返して、とととと梨沙子に駆け足で駆け寄る。 
 すると梨沙子は少し拗ねたような顔をしていた。 
  
 「遅ーい!十分は待ったぁ。」 
 「しょうがないじゃん、梨沙子の方がここ近いし。」 
  
 「快速とかも無かったんだよー。」と言い訳する。 
 梨沙子の方がここに早く着くのは仕方ない。 
 大体あたしは寝起きを起こされて、そこから準備して来た。 
 待ち合わせの時間に間に合ったらあたしは自分を褒めただろう。 
 いや、十分しか遅れてない時点で褒めてあげたい。 
  
   
- 29 名前:―両側片道通行― 投稿日:2008/03/08(土) 12:07
 
-   
 「で、今日はどうしたの?」 
  
 ポケットに手を突っ込んで聞く。 
 アイドルとしてはどうだろうと思ったけど。 
 でも寒いものは寒いから仕方ないと思う。 
  
 「別に……何もないけどさ。」 
  
 ぷいと逸らされた顔。 
 帽子とマフラーの間から見える顔は微かに赤い。 
 それであたしは梨沙子も寒かったんだと当たり前の事を思った。 
 十分は待ったと梨沙子は言っている。 
 ってことは、十分は待っててくれたってことになる。 
 何を言ってるか分かんなくなってきたけど。 
 でも何だか梨沙子の赤いほっぺを見てたら嬉しくなってきた。 
  
   
- 30 名前:―両側片道通行― 投稿日:2008/03/08(土) 12:07
 
-   
 「はい?何もないって。」 
 「用事もないし、ここでしたい事もないよ。」 
  
 じゃあ、なんであたしはこんな所に呼び出されたのと言いかけて。 
 寸での所で飲み込んだ。 
 そんな事言ったら梨沙子は拗ねる。間違いなく拗ねてしまう。 
 ワガママで、拗ねやすくて、優しくて、傷つきやすい。 
 今までの経験であたしはそれを身に沁みて知っていた。 
  
 「えっと……じゃあ、ブラブラする?」 
  
 本当はあんまり外を歩きたくない。 
 一応でもあたしたちはアイドル、芸能人だ。 
 ファンの人たちがどこに居るかも分かんないし、無いと思うけど記者の人とかもいるかもしれない。 
 もしかして急に囲まれちゃったりしたらとても怖いと思う。 
 だけどそれ以外にあたしは何も思いつかなくて。 
 ぽりぽりと鼻の頭を掻きながら梨沙子に聞いた。 
  
   
- 31 名前:―両側片道通行― 投稿日:2008/03/08(土) 12:07
 
-   
 「うん。する。」 
 「っ……じゃ、行こう。」 
  
 だからぱぁっと梨沙子の顔が変わった時は、凄く驚いた。 
 梨沙子だってそんなあたし達の状況を知らないわけじゃない。 
 それに梨沙子も外を出歩くのはそんなに好きじゃない、と思う。 
 確信は持てないけど。 
 何となく、今までのデートだって外に行こう何て言ったことはないから。 
  
 ―はぁ、もう、どうしよ。 
  
 バクバクとあり得ない位早いスピードで、あたしの心臓は動いている。 
 どうってことない笑顔。今までだって何度も見てきた笑顔。 
 それなのにあたしの胸は痛いくらいに反応した。 
 顔も熱くて、きっと赤くなってる。 
  
   
- 32 名前:―両側片道通行― 投稿日:2008/03/08(土) 12:08
 
-   
 ―ダメだなぁ、あたし。 
  
 梨沙子に甘くて。 
 梨沙子が可愛くて。 
 梨沙子を好き過ぎて。 
 あたしはダメダメすぎる。 
 だけど止められない、嫌いになんて勿論なれない。 
 そんな事、嫌って程自覚している。 
 ただあたしが思うのは、好きだなぁっていう気持ちだけなのだ。 
  
 「ちー?……ちょっと、ちー、聞いてる?」 
 「え、ああ、うん。聞いてるよ。」 
  
 くいくいと袖を引っ張られてあたしは梨沙子を見た。 
 ぼーっとしていた。ほんの僅かな時間。 
 でも梨沙子はそのちょっとの時間でもあたしが話を聞いてなかったのを許せないみたい。 
 ぴたりと梨沙子は立ち止まって。 
 人がたくさんあたし達の周りを通り過ぎる。 
 道の真ん中でいきなり止まったあたし達はちょっと目立っていた。 
  
   
- 33 名前:―両側片道通行― 投稿日:2008/03/08(土) 12:08
 
-   
 「絶対、聞いてなかった。」 
 「聞いてたってぇ!」 
 「ちー、あたしのこと見てなかったもん。」 
  
 ―何、可愛い事言ってるんですか。 
  
 そしてあたしはなぜ敬語なのだろう。自分の中で突っ込んだ。 
 ぷくーっと頬を膨らませて梨沙子はあたしを見る。 
 怒ってるつもりなんだろうけど、全然怖くない。 
  
 「ちーは見てない時は聞いてないもん。だから今は聞いてなかったの!」 
 「え、そうなの?」 
  
 聞いた話だと自分でも知らない癖って結構あるらしい。 
 これはまさにあたし自身も知らない情報だった。 
 よく空気読めないとかは言われるけど。 
 見てない時は聞いてないって、どんだけ分かりやすいんだとあたしは思った。 
 知らなかったあたしが首を傾げる。 
 するとむっとした顔をした梨沙子があたしを強い視線で見返してきた。 
  
   
- 34 名前:―両側片道通行― 投稿日:2008/03/08(土) 12:09
 
-   
 「そうなの!」 
  
 「……それくらい、知ってるもん。」と梨沙子が言う。 
 その声は視線の強さに合わないくらい弱い声だった。 
 ちょっと俯いちゃった梨沙子の原因が分からなくて。 
 あたしはどうしたいいいか分からなくて。 
 ただきゅっと梨沙子の手を握った。 
  
 「ほんと、今日どうかしたの?」 
  
 今日の梨沙子はどこか不安定だ。 
 いつも安定しているとは言わないけど。 
 今日の梨沙子はそれに輪をかけて繊細な気がした。 
  
 「……どうもしない。」 
  
 顔を上げない梨沙子。 
 あたしからだと完全に表情が見えなくなっちゃう。 
 それが嫌で、あたしは少し腰を屈めて梨沙子の顔を覗き込む。 
  
   
- 35 名前:―両側片道通行― 投稿日:2008/03/08(土) 12:09
 
-   
 ―泣きそうなの? 
  
 ぎゅっと顰められた顔。 
 眉が寄って、眉毛が八の字。 
 唇もぎゅっと噛まれてて痛そうだった。 
 そんな梨沙子の顔を見てるとなんかあたしも痛くなって。 
 あたしも泣きそうな顔になってるんだろうなぁと思った。 
  
 「梨沙子?あたし言ってくれなきゃ、分かんないよ。」 
 「……ばか。」 
 「ん?」 
  
 繋がれた手を梨沙子が握り返してきて。 
 次の瞬間あたしの視界が梨沙子で溢れた。 
 視界だけじゃなくて、あたしの耳も鼻も肌も全部が梨沙子で埋められていた。 
 全部で梨沙子を感じていた。 
  
   
- 36 名前:―両側片道通行― 投稿日:2008/03/08(土) 12:09
 
-   
 ―へ? 
  
 まず見えたのは梨沙子の瞳。 
 ちょっと涙目で、ふるふると震える瞼。 
 憂いを含んだその表情にあたしは息を呑んだ。 
 綺麗だった。今まで見たことがないくらい綺麗な存在がそこにはあった。 
  
 「あたしだって、ちーのこと好きなんだもん。」 
  
 取った両手はそのままで梨沙子が再び俯いた。 
 あたしはまだ状況を理解できなくて。 
 梨沙子に取られた両腕を雨後越すこともできずにただ梨沙子を見ていた。 
 だって梨沙子に好き、なんて言われたのってない。 
 恥ずかしがりだし、照れ屋だし、余りにしつこく聞いちゃうとすぐ拗ねちゃうし。 
 あたしはそんな梨沙子の性格を分かってたから、否定しないのを肯定として受け取って。 
 あたしから好きって言って嫌がられなければそれで良かった。 
  
 「用が無くても会いたくなっちゃう時もあるの!」 
  
 梨沙子の言葉があたしの脳みそを刺激して。 
 あたしはやっと半ば飛んでいた意識を現実に連れ戻す。 
 目の前の梨沙子はすでに顔を上げていた。 
 さっきとはまるっきり違う、拗ねたような顔。 
  
   
- 37 名前:―両側片道通行― 投稿日:2008/03/08(土) 12:10
 
-   
 「ワガママだって分かってるよ?だけど、それでも会いたくなっちゃったんだもん!」 
 「……ほんとに?」 
  
 情けないことにあたしの声は震えてた。 
 嬉しいのと信じられないのと、梨沙子の可愛さに。 
 あたしはこの時も参っていたのだ。 
  
 「こんな時に嘘なんてつくわけないじゃん。ばか。」 
  
 梨沙子の声だって震えてた。 
 でもそれに気づけないくらいあたしは自分ことで一杯一杯だった。 
 梨沙子が好きだと思った。 
 梨沙子から離れられないくらい、梨沙子のことを大好きだと思った。 
  
 「そんな、ワガママなら……どんどん聞いちゃうよ。」 
  
 振り絞った一言。 
 あたしの想いが何より詰まった言葉。 
 あたしは梨沙子のお願いならどんなことだって叶えてあげたい。 
 例えそれがワガママでも、あたしは叶えてあげたい。あたしが叶えてあげたい。 
 それがあたしの願いだった。 
  
  
  
 ―両側片道通行―終 
  
  
  
   
- 38 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/08(土) 12:12
 
-   
  
  
  
   
- 39 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/08(土) 12:12
 
-   
  
 初めての一人称、失敗した気がしてなりませんw 
 ただ一言言わせてください。 
  
 な、ツンデレりしゃこって萌えるだろ?w 
  
  
 では次、りしゃもも。 
 リアルです。 
  
   
- 40 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/08(土) 12:12
 
-   
  
  
  
   
- 41 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:13
 
-   
  
  
 桃子の白い肌に咲いた一つの赤い華。 
 それが全ての始まり。 
 色の白い桃子にその赤は余りにも目立ちすぎて。 
 だからついつい着替えという短い時間であるのに目が行ってしまった。 
  
  
  
   
- 42 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:13
 
-   
  
  
 ―キスマーク― 
  
  
  
   
- 43 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:14
 
-   
 「ちょ、桃!それどうしたの?」 
  
 突然、雅が声を上げたのは衣装から着替えているとき。 
 その声は純粋な驚きとわくわくが混じっていて。 
 つまり面白半分、からかい半分という感じの声だった。 
  
 「え?」 
  
 雅の指の先を辿って、たどり着いたのは自分の胸。 
 左の鎖骨より少し下に雅の視線と指は来ていた。 
 桃子は僅かに顔を下げて雅の刺す方を見やる。 
 するとそこにあったのは小さな紅い痕。 
 桃子はすぐにああとそれが何かを思い出す。 
  
 ―りーちゃんがつけた奴だ。 
  
 ゆるりと腕を上げて、着替えで晒されていた肌にそっと触れる。 
 何の感触も無いそこ。 
 しかしそこには確かに梨沙子がくれた愛の印があるのだ。 
  
   
- 44 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:14
 
-   
 大切なものを愛でるようにゆっくりと手を動かす桃子。 
 桃子の思考はそれがつけられた時に飛んでいた。 
 ぼんやりと何かを考えるように黙った桃子に雅がにやりとする。 
  
 「キスマーク、だよね。……もも、そんな人いたんだぁ。」 
 「あー。」 
  
 はっきりとした返事をしないで桃子は目だけを動かす。 
 楽屋内の何処かにいるはずの梨沙子を探す。 
 左から右へ。右から左へ。 
 そんなに必死にならなくても桃子は梨沙子を見つけることができた。 
  
 ―どうしようねー。 
  
 見つけた梨沙子はまさに我関せず。 
 冷静にまるで何も起こっていない様に着替えていた。 
 桃子の視線に気づいたのかちらりと梨沙子は桃子を見て。 
 一瞬ばちりと合った視線はしかしすぐに逸らされた。 
  
   
- 45 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:15
 
-   
 言わない方がいいのだろうか。 
 桃子は別に困らない。 
 むしろ大っぴらにいちゃいちゃできるようになって嬉しいくらいだ。 
 だが梨沙子は違う。 
 梨沙子は分かりにくいけど恥ずかしがりで。 
 メンバーの前でさえもいちゃいちゃするのは嫌がるのだ。 
 だからこそ今まで付き合っていることを秘密にしてきた。 
  
 ―……もも以外だと大丈夫なのにさ。 
  
 桃子とくっつくことは極力嫌がる梨沙子。 
 だが他のメンバー、雅や茉麻とは平気で抱きついたりしている。 
 そこが桃子にとって少し不満であった。 
 とりあえず着替えを終わらせて、桃子はその赤いマークを隠す。 
  
 「これは、別にそんなんじゃないよ。」 
 「うっそだー!」 
  
 勿論、嘘である。 
 誰よりも言った桃子が分かっている。 
 否定するまで時間が掛かりすぎだし、内容も不鮮明すぎる。 
 誤魔化すにしてはダメダメな文であった。 
  
   
- 46 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:15
 
-   
 ―虫刺されとか……定番すぎるでしょ。 
  
 誤魔化すことが桃子の中で決定されて。 
 最初に出てきた方法は定番の虫刺されにしてしまうこと。 
 そんなありきたりすぎる言い訳では逆に雅たちに突っ込まれてしまう。 
  
 「何、何?そんなにばれちゃヤバイ人なの?」 
 「だから、キスマークじゃないって。」 
  
 苦く笑って桃子はひたすら否定する。 
 いつの間にか千奈美や佐紀も集まってきていて。 
 事態は既に大事と言っていい風になってきていた。 
 キラキラと好奇心に輝く目で雅が桃子を見つめてくる。 
 その様子を見ながら、みーやんが知ったら驚くんだろうなぁと桃子は思う。 
 ヤバイ、わけじゃない。 
 マズイ、わけでもない。 
 ただショックだろうなと桃子は予想した。 
 桃子の目から見たら雅が梨沙子のことを可愛がっているのは分かりきったことで。 
 鈍感な雅は気づいてないが、桃子は知っている。 
 だからもし桃子と梨沙子が付き合っていると知ったら。 
 雅はショックを受けるのだろうと桃子は思った。 
  
   
- 47 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:15
 
-   
 ―ま、こればっかりは譲れないから。許してよね。 
  
 早い者勝ちと言ったら言葉が悪いだろうが。 
 しかし桃子はこればかりは少しも手を抜く気がないのだ。 
 桃子は一人心の中で肩を竦めて。 
 どうやってこの場を抜け出そうか考え始める。 
 と、そこで桃子と雅の間に入ってきた影があった。 
  
 「まぁ、いいじゃん。そんなの、ほら……個人の自由だし。」 
 「ってことは、梨沙子は知ってるんだぁ。これつけた人のこと。」 
  
 梨沙子だった。 
 視線はあちらこちらに動いて。 
 慌てていると言うか動揺しているというか。 
 庇ってくれようとしているその気持ちは嬉しい。 
 だがその姿は明らかに逆効果であった。 
 梨沙子の言葉に雅はにやりと我が意を得たとばかりに笑う。 
  
   
- 48 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:16
 
-   
 「……知ってるけど、さ。」 
  
 ―認めちゃダメだよ、りーちゃん。 
  
 梨沙子がつけた物なのだから梨沙子が知っているのは当然である。 
 雅の言葉に梨沙子はしぶしぶながら頷いてしまった。 
 それを見て桃子はあちゃあと一人小声で呟く。 
 梨沙子が雅に抵抗できるとも思わないが、もう少し頑張って欲しかった。 
  
 「なら教えてよ。別にいいでしょ?」 
 「えっとぉ〜。」 
  
 梨沙子がちらりと後ろにいる桃子に助けを求めてきて。 
 桃子はうんと頷いて梨沙子の隣に立つ。 
 状況は良くなってないが、桃子には梨沙子の気持ちだけで十分だった。 
  
   
- 49 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:16
 
-   
 「まぁまぁ、りーちゃんは偶々知っちゃっただけだから。」 
  
 「そんなに強く聞かないであげてよ。」と桃子は雅を宥める。 
 すると雅は颯爽と桃子に標的を替えて。 
 「じゃ、誰なのさ。」と言い逃れができないような瞳で聞いてきた。 
 真っ直ぐに正直にそう聞かれると何だか拒んでいる自分の方が悪い気がしてきて。 
 桃子は視線を雅から床へと落とす。 
  
 「あー、もう!みや、いいじゃん。そんなの知らなくても。」 
 「梨沙子は何でそんなに庇うわけ?」 
 「そ、それは……。」 
  
 初めにあった好奇心はほぼ消えている。 
 今、雅が持っているのは真剣な気持ちだけ。 
 梨沙子も雅の真っ直ぐな目に見つめられているのが桃子には分かった。 
 ただでさえ雅に懐いている梨沙子だ。 
 雅の意見を遮って、雅に問い詰められて。 
 それでもそこに立っている姿には梨沙子の意地のようなものが感じられた。 
  
   
- 50 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:17
 
-   
 ―りーちゃん。 
  
 どうすると下から伺うように見る。 
 梨沙子より背の低い桃子からはその表情がはっきりと分かった。 
 雅から言われぐっと唇を噛んで俯いて。 
 その後、決心したかのように小さく一人頷いて、ちらと横にいる桃子にぎこちない笑みを見せた。 
 微笑むとまでいかない顔。 
 口元しか緩んでいないそれは、しかし桃子に安心してと言っているようである。 
 まさかという考えが桃子の中に広がった。 
  
 顔を上げた梨沙子は見たことがないくらい真面目で。 
 怯むことなく、照れることなく雅と向かい合った。 
 すうと自分自身を落ち着かせるように梨沙子が大きく息を吸う。 
 そして答えを待つ雅にゆっくりと口を開いた。 
  
 「それは……ももにその痕つけたの、あたしだから。」 
 「りーちゃんっ。」 
 「いいよ、ももち。もう、はっきりさせよう?」 
  
 止めようとする桃子を逆に梨沙子が止めた。 
 隠していた秘密を暴露したからか梨沙子の声は落ち着いていて。 
 その顔には穏やかささえ表れていた。 
  
   
- 51 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:17
 
-   
 ―勝手に決めちゃうんだから。 
  
 それでも喜ぶ心に桃子は苦笑する。 
 きゅっと軽くだが確りと桃子の手が梨沙子に握られた。 
 決めてしまった梨沙子の頑固さを桃子は知っている。 
 だからこの時点で桃子が口出しできることなど限られてしまった。 
  
 「どういうこと?」 
  
 しかしそれで収まらないのが雅である。 
 真面目顔を半分ほど超えて、険しくなったその顔。 
 梨沙子と桃子を交互に見るその視線は鋭い。 
  
 「ももにそのキスマークつけたの、あたし。」 
  
 言葉少なに梨沙子がそれだけを言う。 
 きっと梨沙子の中にはそれ以外の言葉がなかったのだ。 
 恋人というには恥ずかしくて。 
 だから逆に直接的な表現をするしかなかったのだと桃子は思う。 
 ぼんやりと梨沙子と雅のやり取りを見る桃子。 
 梨沙子は桃子の様子を確認するように目を動かし、桃子と目が合った。 
 ばちりとその瞬間に梨沙子が言いたいことが桃子に伝わる。 
  
   
- 52 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:17
 
-   
 「ちょっ、説明になって。」 
 「そういうことだから!」 
  
 当然納得していない雅の言葉を途中で遮って梨沙子が叫ぶ。 
 限界だったのだろう。 
 雅にはどんな砂糖菓子よりも甘い、優しい梨沙子だから。 
 これ以上雅の言葉を遮るのも、雅の険しい顔を見るのも嫌だったのだろう。 
  
 ―無理しちゃって。 
  
 繋がっていたままの手が桃子を導く。 
 初めの一歩だけが桃子のために緩くなっていた。 
 その後はひたすらに全力疾走。 
 楽屋を飛び出し、廊下を走って、どこをどう来たのかさえ妖しくなってきたとき。 
 梨沙子はようやく空き部屋に入ったのだ。 
  
   
- 53 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:18
 
-   
 しばらく二人とも息が切れていて、まともに喋れなかった。 
 はぁはぁと荒い息遣いだけが部屋に響いて。 
 何してるんだろうとちょっと笑えてきてしまった。 
  
 「……ふぅ、りーちゃん。んんっ……良かった、の?」 
  
 息が上手く吐けなかった。 
 走ったこともだが、聞きづらいことであるのも多分に関係していた。 
 桃子より微かに早く息が整った梨沙子は、言葉を探す様に下を向いている。 
 いつの間にか離れた手が少しだけ寂しかった。 
  
 「いいの、ももだけ聞かれるのヤだもん。」 
 「別にそんなの気にしなくていいんだよ?」 
 「ももが気にしなくてもあたしが気にするの。」 
  
 梨沙子が滑らかな動きで桃子の体に触る。 
 左胸の上、鎖骨の下であるそこは例え服の上からだろうとくすぐったかった。 
 梨沙子の手が己の付けたキスマークの位置をなぞる。 
 人差し指と中指だけで壊れ物に触るようなその仕草は限りなく優しかった。 
  
   
- 54 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:18
 
-   
 「これは、あたしが勝手に、ももはあたしのだって。」 
  
 途切れ途切れに一言を強調するように梨沙子が言った。 
 じっとその一点を見つめる梨沙子には服の下の赤が見えていたに違いない。 
 桃子は未だに動く梨沙子の手をそっと取るときゅっと握り締める。 
  
 「違うよ、ももはりーちゃんにこれをつけて欲しかったんだから。」 
  
 梨沙子が勝手につけたものでは断じてない。 
 桃子は梨沙子に所有印をつけられることで、所有されることで梨沙子を所有したかったのだ。 
 事実梨沙子の体にも桃子のキスマークが所々にあるはずだ。 
  
   
- 55 名前:―キスマーク― 投稿日:2008/03/08(土) 12:18
 
-   
 「だからそんなこと言わないで。」 
 「……もも。」 
  
 欲しかったのは貴方だけじゃない。 
 示したかったのは梨沙子だけじゃない。 
 むしろ桃子の方が。 
 梨沙子が欲しかったし、示したかったし、身勝手だった。 
 そんな想いを込めてただ桃子は梨沙子を見つめた。 
 優しいキスが降ってきたのはそれから数秒も経たないうち。 
 二人の想いが重なった証拠だった。 
  
  
  
 ―キスマーク―終 
  
  
   
- 56 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/08(土) 12:19
 
-   
  
  
  
   
- 57 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/08(土) 12:20
 
-   
  
 りしゃももっていいですね(エ 
 りしゃみやとは違った良さがありますw 
  
  
 ではまた妄想が溜まった日に。 
 CPヲタでした。 
  
   
- 58 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/08(土) 12:21
 
-   
  
  
  
   
- 59 名前:YOU 投稿日:2008/03/08(土) 15:52
 
-  2つの話の更新お疲れ様ですッ!!! 
 ちなりしゃは見たことがなかったのですが見てみて「良い!!!」と思いました。 
 「キスマーク」では2人が楽屋に戻ってきたら雅たちはどういう反応するのか気になりました。 
 次回も更新待ってますッ!!!  
- 60 名前:名無し 投稿日:2008/03/09(日) 00:08
 
-  嫉妬に狂う雅視点希望w 
 
- 61 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/09(日) 01:40
 
-  マイナーカプ最高 
 
- 62 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/16(日) 12:36
 
-   
  
 マイナー強化月間中のCPヲタです。 
 しばらくマイナーなりーちゃん絡みで頑張りたいと思いますw 
 ・・・・・でもりしゃみやもあるかも? 
  
  
 59<<YOUさん 
 いえいえ、ちなりしゃ気に入ってくれたようで良かったです。 
 あー、確かにどうなるんでしょうね(トオイメ 
 そこは考えてなかったんで。 
 ちょっと妄想してみますw 
   
 60<<名無しさん 
 了解しましたw 
 雅ちゃん視点になるかは分かりませんが。 
 とりあえず嫉妬に狂わせてみたいと思います。 
   
 61<<名無飼育さん 
 マイナーカプ最高!!w  
 同士がいてくれて嬉しいっす。 
  
  
 では今回の更新です。 
 一本だけで、ほのぼのりしゃゆりっす。 
  
   
- 63 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/16(日) 12:37
 
-   
  
  
  
  
   
- 64 名前:―雪見世界― 投稿日:2008/03/16(日) 12:37
 
-   
  
  
 雪が舞って、落ちて、積もって。 
 白一色になった世界を眺める。 
 それはとても不思議な感覚。 
 世界に一人だけ、一人の世界。 
 だけどもし共有できたら、それはとても素敵な世界だと思う。 
  
  
  
   
- 65 名前:―雪見世界― 投稿日:2008/03/16(日) 12:38
 
-   
  
  
 ―雪見世界― 
  
  
  
   
- 66 名前:―雪見世界― 投稿日:2008/03/16(日) 12:38
 
-   
 「うわー、降ったねぇ。」 
 「ねぇー、全部真っ白。」 
  
 梨沙子は縁側に座って外を眺めている。 
 友理奈はそれを中から見ていた。 
 昨日の夜に降った雪は見事に家の庭を真っ白に染めている。 
 雪に光が反射して梨沙子の横顔を照らす。 
 とても眩しい光景だと友理奈は思った。 
  
 「ゆりも早くこっち来なよ。」 
 「うん、今行く。」 
  
 梨沙子の雪に負けない白い腕に導かれて。 
 梨沙子の隣に友理奈も腰を下ろす。 
 肌寒い空気が友理奈の肌を掠める。 
 息が微かに白くなって、当たり前のような寒さを実感した。 
  
   
- 67 名前:―雪見世界― 投稿日:2008/03/16(日) 12:38
 
-   
 「最後の雪かなぁ。」 
  
 梨沙子がぽつりと呟く。 
 視線は変わらず雪に向いたまま、友理奈を見る事はない。 
 今梨沙子の目に映っているのは白さ以外の何者でもないのだ。 
 それが少し寂しく感じた。 
  
 「たぶんね、もう暖かくなったし。」 
 「だよねー。」 
  
 ぽんと庭に垂らされた梨沙子の足が積もった雪を蹴って、きらきらと光った。 
 雪に光が反射して梨沙子の周りを彩る。 
 その景色は酷く梨沙子に似合っていた。 
 綺麗で、変わりやすくて、儚い。 
 一瞬しか見れない光景。 
 ずっと見てなきゃ見せてくれない。 
 そんな我侭さを梨沙子も持っていた。 
  
   
- 68 名前:―雪見世界― 投稿日:2008/03/16(日) 12:39
 
-   
 ―りーちゃんみたいだね。 
  
 梨沙子と雪は似ている気が友理奈にはした。 
 隣で見る梨沙子の顔はいつもとは少し違うように見える。 
 肌の白さが雪の白さに強調されて。 
 綺麗だなぁとその横顔を眺める。 
 いつもよりちょっと凛々しい横顔。 
 いつもよりちょっと愛しい横顔。 
  
 ―壊れやすいのに綺麗。すぐ拗ねちゃうけど、だから可愛い。 
  
 白い吐息と共にそんなことを考える。 
 少し大げさかもしれない。 
 友理奈もそれ位は分かっている。 
 だけど友理奈には確かにそう感じられたのだ。 
  
 「……寒くない?大丈夫?」 
  
 そんな事を思う自分が少し照れくさくて、友理奈は誤魔化すようにそう尋ねた。 
 コートまでしっかりと着込んでいる友理奈でさえ寒いのだ。 
 コートを着ていない梨沙子は寒くないはずが無い。 
  
   
- 69 名前:―雪見世界― 投稿日:2008/03/16(日) 12:39
 
-   
 「うん、大丈夫。」 
  
 やっとこっちを向いた梨沙子の顔は笑顔だった。 
 口から漏れる息は白く染まっていて。 
 笑顔さえその吐息のように溶けていきそうだった。 
 それほどまでに梨沙子の存在感は雪の中に朧気に混ざり合っていた。 
 ありもしない心配に胸が潰れそうになる。 
 わかっているのに自分ではどうしようもできなかった。 
 梨沙子に恋してるんだなって思った。 
  
 「でも。」 
  
 大丈夫なはずは無い。 
 分かりきっている事実に友理奈は言葉を続ける。 
 ただ友理奈は怖かったのだ。 
  
 友理奈の中では心配が摩り替わっていた。 
 寒さから梨沙子が消えないかと言う酷く抽象的なものに。 
 梨沙子は気づいていない。 
 当然だ。こんな事自分以外に知れるはずがないと分かっている。 
  
   
- 70 名前:―雪見世界― 投稿日:2008/03/16(日) 12:39
 
-   
 「大丈夫だよ、そんなに心配なら。」 
  
 そっと梨沙子の手が友理奈の手に重なる。 
 外の気温に冷えた梨沙子の手はやはりひんやりとしていた。 
 梨沙子の左手が友理奈の右手に繋がっていて。 
 友理奈は唐突に訪れたその感覚にびっくりする。 
 びっくりしたまま梨沙子を見れば、その横顔はさっきとは違っていた。 
  
 「こうすれば心配しなくて済むでしょ?寒くなくなるし。」 
  
 少し早口に告げられた言葉。 
 照れが混じった声音。 
 頬は寒さ以外の要素で赤くなっていた。 
  
 ―りーちゃん。 
  
 ぎゅっと握られた手に力が込められる。 
 友理奈に梨沙子の存在を教えてくれるもの。 
 梨沙子は確かにそこにいて、友理奈の隣にいてくれる。 
 この自分より小さい手がとてつもない安心感を友理奈に与えてくれるのだ。 
  
   
- 71 名前:―雪見世界― 投稿日:2008/03/16(日) 12:40
 
-   
 「りーちゃんの手、冷たいね。」 
 「ゆりだって温かくはないじゃん。」 
  
 ぷいと梨沙子が顔を逸らして唇を尖らせる。 
 変わらない仕草になぜだか涙がこぼれそうになった。 
 だけど泣くことなんてできるわけが無い。 
 この優しい女の子に涙など見せられない。 
 友理奈はばれないように静かに顔を下げた。 
  
 さくりと軽い音がした。 
 梨沙子が庭に降り立った音だ。 
 見えなくても繋がった手が梨沙子の動きを教えてくれる。 
 重なった手を中心に梨沙子がくるりと半回転。 
 友理奈の真正面に梨沙子の体が移動する。 
 すっぽりと梨沙子の影に入った友理奈の視界は僅かに暗くなった。 
  
 「ねぇ、なんでそんな顔してるの?」 
  
 梨沙子の手が友理奈の頬に触れる。 
 またもや友理奈の体にひんやりとした温度が広がった。 
 でもその温度さえ愛しくなって。 
 友理奈は梨沙子の手をそっと覆うように包んだ。 
  
   
- 72 名前:―雪見世界― 投稿日:2008/03/16(日) 12:40
 
-   
 「りーちゃんが好きだからだよ。」 
 「あたしが、好きだから?」 
 「うん。」 
  
 梨沙子が好きだから泣きそうになる。 
 梨沙子が好きだから怖くなって。 
 梨沙子が好きだから安心できて。 
 したがって梨沙子が好きだから今、友理奈はそんな顔をしている。 
 友理奈の全ての事象は梨沙子に繋がる。 
  
 ゆっくりと顔を上げて、友理奈は梨沙子を見上げる。 
 視界に広がるのはただ梨沙子だった。 
 白く輝く雪と淡い青の空を背景に佇む梨沙子。 
 悲しくなるくらい綺麗だと思った。 
  
 「あたしが好きなら……。」 
  
 優しく梨沙子が手を離す。 
 離れる温もりに、再び求めそうになって。 
 しかし求められなくて友理奈はぐっと押し黙る。 
  
   
- 73 名前:―雪見世界― 投稿日:2008/03/16(日) 12:41
 
-   
 「笑ってて、欲しいな。」 
  
 ふんわりと体が梨沙子に包まれる。 
 柔らかく、温かく梨沙子が友理奈を抱きしめた。 
 下に広がった雪がキラキラと眩しい。 
 ぎゅっと抱きしめられて、友理奈は静かに梨沙子を見た。 
 そこにいたのはまるで見守るような笑みを浮かべた梨沙子。 
 トクンと心臓が跳ねたのが分かった。 
  
 「りーちゃん。」 
 「あたしだってゆりが好きだもん。」 
  
 「好きな人に笑ってて欲しいのは誰でも一緒でしょ。」と梨沙子はさらりと言った。 
 格好つけたわけではない。 
 意識をしたわけでもない。 
 自然に、思ったことを言っただけだ。 
 だけどその言葉が、言葉は友理奈の胸に落ち着いて。 
 何の違和感もなく友理奈の中に溶け込んだのだ。 
  
   
- 74 名前:―雪見世界― 投稿日:2008/03/16(日) 12:41
 
-   
 ―カッコいいね、りーちゃん。 
  
 カッコいいとよく言われる友理奈だったけれど。 
 友理奈が一番、カッコよくて、可愛いいなと思うのはやはり梨沙子なのだ。 
  
 「温かいね、こうやってると。」 
  
 ゆっくりと体重をかけて、押し倒される。 
 友理奈の上で梨沙子がそう呟いた。 
 この体勢は少しこそばゆかった。 
 友理奈の胸に梨沙子が顔を埋めていて。 
 少し視線を下げればすぐに梨沙子の顔を見ることができる。 
 まるで猫みたいだと友理奈は思う。 
 縁側で、胸の上で、甘えるように丸まる梨沙子。 
 その目が心地良さそうに細められているのが友理奈から見えた。 
  
 「ん、そうだね。」 
  
 何となく手が動いた。 
 自分の上に乗っかるような姿勢の梨沙子の頭を撫でる。 
 さらさらとした感触が気持ちよい。 
  
   
- 75 名前:―雪見世界― 投稿日:2008/03/16(日) 12:42
 
-   
 「ねぇ、ゆり。」 
 「なぁに、りーちゃん。」 
  
 驚くほど甘い声が出た。 
 こんな声も出るんだなぁと友理奈が自分自身に感心した。 
 きっとこれ以上ないほど顔も緩んでいると思う。 
  
 ―ちゅ 
  
 「りー、ちゃん?」 
 「ふへへへぇ、キス。」 
  
 突然降ってきた柔らかい感覚。友理奈はその感触に目を丸くする。 
 とてもとても愛しいキスだった。 
 梨沙子と雪は凄く似ているのかもしれない。 
 綺麗で、儚くて、拗ねやすくて、傷つきやすい。 
 だけど、だからキラキラ、キラキラ光って眩しい。 
 雪が景色を一変させるように、梨沙子も友理奈の世界を一変させる。 
 そんな事を梨沙子に乗られたまま友理奈はぼんやりと考えた。 
  
  
  
  
 ―雪見世界―終 
  
  
  
  
   
- 76 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/16(日) 12:42
 
-   
  
  
  
   
- 77 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/16(日) 12:45
 
-   
  
 あれ、ほのぼの? 
 あれれ、おかっしいなぁー…… 
 えー……独特な雰囲気を気に入ってくだされば幸いです。 
 ファンタジーってことでw(エ 
  
 ではまた妄想が溜まる日に。 
 CPヲタでした。 
  
   
- 78 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/16(日) 12:45
 
-   
  
  
  
   
- 79 名前:YOU 投稿日:2008/03/16(日) 16:29
 
-  いや×2ほのぼのした空気がかなり伝わってきましたよ。なんだか幸せな気分になりましたわ〜。 
   
- 80 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/17(月) 10:38
 
-  あまぁーいっ!素敵!w 
 
- 81 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/23(日) 15:20
 
-   
  
 地味ーに忙しくて、更新がとろいです。 
 まったりでしばらくいきますがお許し下さい。 
  
 79<<YOUさん 
 あ、そうですか!ほのぼの伝わったらよかったですw 
 ゆりりしゃは幸せな気分になります。 
 書いてる間もそうでしたw 
  
 80<<名無飼育さん 
 あっとうございます!! 
 甘さを目指して頑張りました!w 
 ゆりりしゃ素敵!!  
   
  
 では今日もマイナーですw 
 でも何気に好きCPでっす。 
  
  
   
- 82 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/23(日) 15:20
 
-   
  
  
  
   
- 83 名前:―砂糖菓子― 投稿日:2008/03/23(日) 15:21
 
-   
  
  
  
 珍しく梨沙子が楽屋にやってきた。 
 「差し入れ。」と差し出された箱にはシュークリームがたくさん。 
 甘い甘いお菓子の横で、一瞬見えた暗い顔。 
 それがちょっとだけ気になった。 
  
  
  
  
   
- 84 名前:―砂糖菓子― 投稿日:2008/03/23(日) 15:21
 
-   
  
  
 ―砂糖菓子― 
  
  
   
- 85 名前:―砂糖菓子― 投稿日:2008/03/23(日) 15:21
 
-   
 「忙しそうだねー……ボーノ。」 
 「忙しいよぉ、アニメも終わってないし暫く続きそう。」 
 「そっか、大変だね。」 
  
 梨沙子の持ってきたシュークリームは今机の真ん中に鎮座している。 
 その机を中心に桃子と愛理、雅と梨沙子という風に座っていた。 
 食べのもの大好きと公言しているボーノ三人組の顔は明るい。 
 それぞれが一つずつシュークリームを手に持っていた。 
 ニコニコと機嫌の良い雅。 
 愛理は嬉しそうな表情でシュークリームにぱくついていて。 
 梨沙子も雅の隣で非常に楽しそうだった。 
 それを桃子はシュークリームのおいしさに頬を緩ませながら見ていた。 
  
 「いやー、ありがとね!こんなおいしいシュークリーム。」 
 「ん、いいよ。気にしないで。」 
  
 雅の言葉に梨沙子がパタパタと顔の前で手を振って、自分の意思を示す。 
 微かに緩んでいる表情はきっと見間違いではない。 
 梨沙子が雅の隣にいるとこういう顔をするのを桃子は知っていた。 
  
   
- 86 名前:―砂糖菓子― 投稿日:2008/03/23(日) 15:22
 
-   
 「あ、愛理はどう?調子とか。」 
 「っ……うん?あたしは何時も通りだよ。元気、元気。」 
  
 ―愛理? 
  
 桃子の隣で愛理の体が小さく跳ねた。 
 突然掛けられた声に驚いたにしてはその動きは大きい。 
 一人首を傾げるも、愛理の一瞬の動きは桃子以外には見逃されている。 
 誰も気づかずに場は進んでいく。 
  
 「何、愛理には優しいねー?」 
 「だって同学年だし、上しかいない大変さも分かるから。」 
  
 「愛理はいつも下も同学年もいるしさ。」と梨沙子は付け足す。 
 雅のからかうような言葉にも動じずにそう答えた。 
 知っていた事実に恐らく、桃子と雅は同時に気づいた。 
 梨沙子から言われるまで忘れていたのだ。 
 愛理は一人、キュートから選抜された。 
 それは桃子に雅が一緒なのと違い寂しいことに違いない。 
 同学年で仲の良い梨沙子は愛理のそういう感情を分かっていたのだ。 
 いつもベリーズでは同学年のいない梨沙子だから。 
  
   
- 87 名前:―砂糖菓子― 投稿日:2008/03/23(日) 15:22
 
-   
 ―りーちゃんは優しいねぇ。 
  
 こういう時、さり気無い優しさに桃子は気づく。 
 ベリーズで一緒の時はただ甘えや我侭がよく目に入る梨沙子だから。 
 その根本が優しいというのに気づくのは余りないことなのだ。 
  
 「ありがとー、りーちゃん。」 
 「いえいえ、どういたしまして。」 
  
 嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑って愛理が梨沙子に頭を下げる。 
 すると梨沙子も笑いながら律儀に頭を下げて。 
 対面の二人が頭を下げあうという不思議な状況になった。 
 ほのぼのとした空気が流れて、これが梨沙子たちの雰囲気なんだなと桃子は思う。 
  
 「あ、ごめん!あたし、そろそろ行かなきゃ。」 
 「……そうなんだ。」 
  
 ゆっくりと頭を上げて、開口一番梨沙子はそう言った。 
 すぐに愛理の顔が残念そうに変わる。 
 愛理ってこんなに顔に出たっけと思いながら桃子はちらりと時計を見る。 
 自分たちの仕事の時間まではまだ少しある。 
 しかし家の遠い梨沙子なら確かに帰るだけで結構な時間になるだろう。 
  
   
- 88 名前:―砂糖菓子― 投稿日:2008/03/23(日) 15:23
 
-   
 「仕事頑張ってね、じゃ、お邪魔しましたぁ。」 
  
 手早く荷物をまとめて、梨沙子が立ち上がる。 
 邪魔しちゃ悪いと本気で思っているのだろう。 
 その行動は素早かった。 
 「ばいばーい。」と軽い調子で雅と桃子が見送って、梨沙子は楽屋を去る。 
 愛理は少し寂しそうにしながらも笑顔で手を振っている。 
  
 ―もしかしてー? 
  
 ここまで来ればさすがに桃子にもわかっていた。 
 たぶん愛理は梨沙子が好きなのだ。 
 仲間とかそういうのじゃなくて、本気で、“恋”しているのだ。 
  
 ぱたんと軽い音と共に扉が閉まる。 
 梨沙子が完全に部屋から消えた瞬間、桃子は愛理を捕まえていた。 
 自分の側にあった左腕を掴み移動できないようにする。 
 そして桃子は愛理の方に座りなおした。 
 顔を見れば気まずそうで、勘の良い愛理はもう何を聞かれるのか分かっている様子だった。 
  
   
- 89 名前:―砂糖菓子― 投稿日:2008/03/23(日) 15:23
 
-   
 「さて、愛理。ちょっと教えてもらおうかな?」 
  
 ぴくりと愛理の眉が嫌そうに歪んだ。 
 しかし優しい愛理は桃子の手を振り払うこともせず、桃子を見ている。 
  
 「何?ももち。」 
 「りーちゃんのこと、好きなんでしょ。」 
  
 ずばり遠回りしないでの言葉に愛理はぐっと唇を噛んで、俯く。 
 桃子が掴んでいた手を離せば力なくその腕は下がった。 
 一秒、二秒と沈黙は広がっていき。 
 最初に声を上げたのは愛理でも桃子でもなかった。 
  
 「ええー?!愛理、それマジ?」 
  
 がたっと結構大きな音がして、対面のソファから雅が立ち上がった。 
 ついさっきまで食べていたシュークリームは綺麗になくなっている。 
 黙々とそれを食べていたせいで、桃子は雅の存在を半分ほど忘れていた。 
  
   
- 90 名前:―砂糖菓子― 投稿日:2008/03/23(日) 15:24
 
-   
 「……みーやん。」 
 「知らなかったぁ、梨沙子の何処がいいの?」 
  
 呆れたような桃子の呟きはスルーされた。 
 にまにまとした笑顔を浮かべて雅が言う。 
 ソファから立った雅はそのまま桃子たちのほうに移動してきて。 
 しかし座る場所のないことにずるずると鏡台から椅子を引っ張って来た。 
 桃子の隣、テーブルとソファの僅かな隙間に椅子を置いて雅は座る。 
 準備万端とばかりに雅は愛理に目を向けた。 
  
 「で、何処がいいのさ?あんな甘えっこ。」 
  
 嬉々とした表情で聞く雅。 
 本当に女の子はこの手の話題が大好きだ。 
 もちろん、桃子もそれに違わず愛理に詰め寄っているわけである。 
  
 「りーちゃんは、甘えっこかもしんないけど凄く優しいんだよ?」 
  
 雅の言葉に愛理は自分が言われたかのように反論する。 
 真摯な目で、赤い顔で、尖った唇で言う。 
 恋してるんだなぁとまた思った。 
  
   
- 91 名前:―砂糖菓子― 投稿日:2008/03/23(日) 15:24
 
-   
 「それに疲れたーって思ったときとか、いつの間にか側にいるし。」 
  
 笑みに変化した唇は、きっと梨沙子のことを思い出しているから。 
 愛理の心に梨沙子が贈った色んな場面があるから。 
 好きな人のことを思い出すだけで幸せになれる。 
 そんな愛理がちょっと羨ましい。 
  
 「ああ、それは確かにあるかも。」 
  
 雅が微かに頷く。 
 言われてみれば桃子にもそういう覚えがあった。 
 疲れたときふと隣を見ると静かに微笑む梨沙子。 
 あの子はどちらかというと物静かなときが多い子だから、疲れない。 
 逆に目が合って微笑まれただけでこちらも笑顔になるような雰囲気。 
 俗な言葉で言えば癒し系な雰囲気がある。 
 ベリーズでその恩恵に肖っているのはきっと一番懐いている雅で。 
 だからこそ今、雅は愛理の言葉に頷いたのだと桃子は考える。 
  
   
- 92 名前:―砂糖菓子― 投稿日:2008/03/23(日) 15:24
 
-   
 「それだけじゃないけど、なんて言うか、あの笑顔が好きだなーって思うんだ。」 
 「「へぇー。」」 
  
 雅と桃子の感心したような声が重なる。 
 笑顔が好きという愛理の表情こそ、好きになっちゃいそうなくらいイイ表情だった。 
 可愛くて、ときめいちゃう様な甘い顔。 
 きっと雅にもそう見えたからこそ声が被ったのだ。 
  
 「りーちゃんって凄く、凄く甘いんだよね。」 
  
 ―甘い? 
  
 性格がということだとうか。 
 桃子には愛理の言葉が分からなくて首を傾げる。 
 桃子と雅から視線を外して天井を見る愛理。 
 そして静かにぽつぽつと途切れながら、言葉を零し始める。 
  
   
- 93 名前:―砂糖菓子― 投稿日:2008/03/23(日) 15:25
 
-   
 思い出すたびに胸がきゅんってなって。 
 顔が勝手に緩んできちゃって。 
 でも病み付きになっちゃう。 
 まるで砂糖菓子みたいな、女の子なんだと思う。 
  
 そんな事を幸せそうな顔で愛理が言った。 
 聞いているだけで胸が詰まりそうになるくらい、甘い話だった。 
  
 ―なーんだ。 
  
 思わず雅と顔を見合わせる。 
 雅の頬は少し赤い。 
 愛理の話に当てられたのだと桃子は思った。 
 にやりと人の悪い笑みが互いの顔に浮かぶ。 
  
 「ベタ惚れなんだね、愛理。」 
  
 「ねー。」と隣にいる雅と示し合わせた。 
 すると愛理は一瞬で顔を真っ赤にさせて、バシンと桃子の肩を叩く。 
 いつもならしない行動によっぽど恥ずかしかったんだろうと桃子は思う。 
  
   
- 94 名前:―砂糖菓子― 投稿日:2008/03/23(日) 15:25
 
-   
 「もうっ、恥ずかしいから言わないでよ!絶対、りーちゃんには。」 
 「言わないよー、っていうか言えないしー。」 
 「こんなにベタ惚れじゃ下手にちゃかせないじゃん。」 
  
 軽く肩を竦めて言う。雅も同じような状態だった。 
 元々桃子にも雅にも愛理の邪魔をする気はないのだから。 
 ただ梨沙子のどこに惚れたか、それが気になっただけなのだ。 
 好きって感情はとてもあやふやで曖昧なものだ。 
 どこが好きなのか判んないのに人を好きになるのだってきっとあるし。 
 逆に愛理みたいに好きな所をどんどん挙げられることだってある。 
  
 ―でも……。 
  
 両方に通じるのは、好きという気持ち。 
 全部好きだから、どこが好きか挙げられない。 
 全部好きだから、どこも好きだと挙げられる。 
 それって凄いことだなぁと桃子は思う。 
  
   
- 95 名前:―砂糖菓子― 投稿日:2008/03/23(日) 15:26
 
-   
  
 そしてこんな表情ができるようになるなら。 
 きっと愛理が梨沙子を好きになったのは間違いじゃない。 
 恋っていいなぁと桃子は年寄り臭く思った。 
 二人肩寄せ合って笑う、梨沙子と愛理が見えた気が桃子にはした。 
  
  
  
  
 ―砂糖菓子―終 
  
  
   
- 96 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/23(日) 15:26
 
-   
  
  
  
   
- 97 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/23(日) 15:28
 
-   
  
 りしゃみやー? 
 りしゃももー? 
  
 と見せかけて同学年のあの二人でしたw 
 気に入ってくれたら幸いです。 
  
 じゃ、また妄想が溜まる日に。 
 CPヲタでした。 
  
  
   
- 98 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/23(日) 15:29
 
-   
  
  
  
   
- 99 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/23(日) 16:33
 
-  りしゃももかりしゃみやかと思いきや、りしゃあいりw気に入りましたw 
 
- 100 名前:名無飼育さん  投稿日:2008/03/23(日) 17:53
 
-  りしゃあいりって・・・素敵やん(*´Д`) 
 
- 101 名前:YOU 投稿日:2008/03/24(月) 13:38
 
-  まさか、りしゃあいりがくるとは思いませんでした。 
 この2人の話かなり好きですわ〜w 
   
- 102 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/28(金) 23:43
 
-  いつもいつも胸キュンをありがとう! 
 
- 103 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/30(日) 20:43
 
-   
  
 ジンギスカン、三輪車って楽しいっすねw 
 りしゃみやあってりしゃキャプあって。 
 やばい面白かったです。 
  
  
 99<<名無飼育さん 
 りしゃあいり、さり気に仲の良い二人だと思いますw 
 気に入ってくださって嬉しいです。 
 愛理はりーちゃんベタぼれが楽しいwそんな脳内設定です(バク 
   
 100<<名無飼育さん 
 りしゃあいりって、素敵w 
 マイナーなんで共感してくれる人がいてくれて良かった(泣 
   
 101<<YOUさん 
 ええ、人の死角に入る球を投げるのが好きです(エ 
 自分的にはありだったんで。 
 好きと言ってもらえてほんと良かったっすw  
  
 102<<名無飼育さん 
 いえいえw 
 お礼を言われると思わなかったんで逆に驚いてます(ドキドキ 
 こちらこそ、胸キュンしてくださってあっとうございます!! 
   
  
 で、ジンギスカンを散々語っておいてなんですが。 
 今日の更新には全く関係ないです(エ 
  
 久しぶりに二本、続きものの更新です。 
  
  
   
- 104 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/30(日) 20:44
 
-   
  
  
  
  
   
- 105 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/30(日) 20:44
 
-   
  
 マイナー月間中ですが。 
 りしゃみやで、アンリアル。 
 ファンタジーになっておりますw 
  
  
   
- 106 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/30(日) 20:45
 
-   
  
  
  
   
- 107 名前:―逢瀬― 投稿日:2008/03/30(日) 20:45
 
-   
  
  
 ちらり、ひらりと舞う花弁。 
 薄紅色の花びらは春の淡い空色と酷く似合っていた。 
  
 ―いい天気ー……。 
  
 桜の季節は出会いと別れの季節って言うけれど。 
 まさかこんな出逢いが待っているなんて雅はこの時思ってもいなかった。 
  
  
  
   
- 108 名前:―逢瀬― 投稿日:2008/03/30(日) 20:45
 
-   
  
  
  
 ―逢瀬― 
  
  
  
  
   
- 109 名前:―逢瀬― 投稿日:2008/03/30(日) 20:46
 
-   
 雅は歩いていた。 
 片手には真新しい鞄。 
 足元はまだ違和感のあるローファー。 
 鏡で見た自分はまだ見慣れない姿をしていて、雅はどこかくすぐったい感じがした。 
 この春から近くの高校に入学する。 
 さっき届いたばかりのブレザーに身を包み、雅は一足早い高校生気分を楽しんでいたのだ。 
  
 ―セーラーも着てみたかったなぁ。 
  
 歩くたびに足に当たるプリーツスカート。 
 その上は真っ白なブラウスにリボン、さらにブレザーを羽織っている。 
 これはこれで自分の好きな制服である。 
 しかしセーラー服というのもやっぱり興味を引くものであるのだ。 
  
  
   
- 110 名前:―逢瀬― 投稿日:2008/03/30(日) 20:46
 
-   
 「しっかし、この桜満開だね。」 
  
 僅かに顔を上げればそこにあるのは満開の桜。 
 いや、散り始めているから満開とは言えないのかもしれない。 
 ずっと桜並木が続くこの道では、真っ直ぐ前を見ると道にも空にも桜の花弁が溢れていて。 
 どこもかしこも桜色に染め上げられている。 
 時に緩やかに、時に早く。 
 桜は散って、雅の前を通り落ちていく。 
 それは少し寂しいことなのかもしれない。 
 でも雅は満開で重たそうにしている桜より、少し散り始めたときの方が好きだった。 
  
 ―高校かぁ。 
  
 高校に入学するという事は今年で16歳になるということである。 
 16年。 
 雅の生きてきた全ての年数。 
 特に幸せというわけでもなかったが、特に不幸ということも無い。 
 平凡な、普通な人生だったと雅は思う。 
 そしてそれこそが幸せということなのだと雅はもう知っていた。 
 両親が居て、兄妹が居て、友達が居て。 
 それだけで十分に幸せなのだと分かっていた。 
  
  
   
- 111 名前:―逢瀬― 投稿日:2008/03/30(日) 20:47
 
-   
 「結局、ちーもまぁも一緒の高校だしね。」 
  
 小中と同じ学校だった友達は、高校も共にすることが決まった。 
 だから何も寂しくない。 
 寂しくなんてないはずなのに、この時期になるとどうもダメだ。 
 入学とか卒業とかそういうのは関係無しに。 
 どこか物足りなさを感じてしまうのだ。 
  
 いるはずだった場所にその人がいない。 
 あるはずだった場所にあるはずのものがない。 
 それはそんな感覚に似ていた。 
 ふと隣にいる人に笑いかけようとして、いないその人に寂しさを感じる。 
 いないと分かっているはずなのに、思わず教室を見回して探してしまう。 
 時に雅を襲うその感覚が一番強くなるのがこの桜の季節だった。 
  
  
   
- 112 名前:―逢瀬― 投稿日:2008/03/30(日) 20:47
 
-   
 ―……何なんだろう。 
  
 これが雅特有の物なのかも分からない。 
 もしかしたら全員が持っているただのセンチメンタルなのかもしれないし。 
 ただ桜という儚い存在に感化されているだけなのかもしれない。 
 だからこの時期はなるべく出歩くように雅はしていた。 
 寂しさも楽しさに紛れてしまうから。 
 千奈美や茉麻とバカ騒ぎしていれば自然と忘れてしまうから。 
 だけど年々大きくなっていくそれはいずれ消えなくなるのではないかと雅は少し怖かった。 
  
 ぼんやりと上を見上げていた視線を前に戻して歩き始める。 
 遠くが見えない程の桜吹雪。 
 一人の少女が歩いてきているのが、桜に見え隠れしていた。 
 のんびりとした歩調で歩く雅に段々とその少女の姿がハッキリしてくる。 
 右頭頂部で結われた髪はうっすらと茶色をしていて、残りの下ろされた髪は肩よりも長い。 
 目はぱっちりとしていて、耳がやけに大きい気がした。 
 そして何より印象に残ったのはその肌の白さ。 
 雪の様に白いとはよく聞く言葉だったが、そう思える人を見たのは初めてである。 
  
   
- 113 名前:―逢瀬― 投稿日:2008/03/30(日) 20:48
 
-   
 ―うわぁ、ハーフとかかな。 
  
 全体として日本人らしくない顔つきだった。 
 もうすぐ通り過ぎるという距離になった時、ようやく見えた顔。 
 桜色の唇に、髪より薄い色をした瞳。 
 はっきり言って美少女だった。 
  
 「……みや?」 
 「え?」 
  
 まさにすれ違うその時に雅の耳に声が届いた。 
 確かめるような、だけど半ば確信しているような不思議な音。 
 自分の愛称だった。 
 本名は夏焼雅であるのだが、友達からはみやと呼ばれることのほうが多い。 
 だからか雅は反射的に声の聞こえた方。 
 つまり見知らぬ少女の方へと振り返ることになった。 
  
   
- 114 名前:―逢瀬― 投稿日:2008/03/30(日) 20:48
 
-   
 「みや。」 
 「……どこかで会った事、あったっけ?」 
  
 改めて向かい合っても、やはり可愛いという感想は変わらなかった。 
 首をかしげて自分を見つめる視線。 
 少女の口調は既に確信しているものに変化していた。 
 だが雅の中にその少女の記憶はない。 
 初対面であることに違いないはずで、雅はそう尋ねた。 
 その瞬間、まさに花が咲いたような笑みがその少女の顔に浮かんだ。 
  
 「うわぁ、やっぱみやだったんだ!」 
 「へ?!」 
  
 一メートルも無かった距離。 
 それは少女の一歩であっけなく埋まった。 
 自分の胸に飛び込むようにして抱きついてきた少女。 
 雅はその唐突な動きについていけなくて、避けることもできずに受け止める。 
 ふわりと鼻腔をくすぐった匂いに何故か懐かしさを感じた。 
  
   
- 115 名前:―逢瀬― 投稿日:2008/03/30(日) 20:48
 
-   
 「だ、誰?」 
 「あたし、梨沙子!ずっと、みやを探してたの。」 
  
 戸惑いながら聞くとすぐに元気よく答えが返ってきて。 
 そこには先ほどまであった大人っぽさは完全に消えていた。 
 雅の様子など関係なく梨沙子と名乗った少女は雅の肩に顔を埋める。 
  
 ―リサコ?……梨沙子? 
  
 リサコという音を聞いてぱっと浮かんだ字。 
 何でそんなことが起こるのか自分でも分からなかった。 
 また抱きつかれたままでいる自分も分からなかった。 
 雅は自身の人見知りの性質をよく知っている。 
 初対面の人と抱きつくなんて勿論、言葉を交わすのも苦手だ。 
 なのに今、自分は見知らぬ少女に抱きつかれてそれを受け入れている。 
 それどころか梨沙子のひんやりとした体温に安心している自分がいて。 
 雅は驚いていた。 
  
   
- 116 名前:―逢瀬― 投稿日:2008/03/30(日) 20:49
 
-   
 「探してた?」 
  
 何でとか、自分をという疑問が頭を過ぎる。 
 この少女に探される理由が雅には見当たらない。 
 だが梨沙子は雅を知っていた。 
 雅の与り知らぬ所で世界が変わっていく。 
 そういう変な予感がした。 
  
 「うん、ずっとずっと百年は探してた。」 
 「え?」 
  
 雅の肩から顔を上げて梨沙子が笑う。 
 最初に見た息を呑むような美しさがそこにはあった。 
 雅より下なのか上なのかそれさえあやふやな笑み。 
 何故だかこの少女からは曖昧で艶やかな雰囲気が感じられた。 
  
 ―ひゃく、ねん? 
  
 初めは何を言っているかが分からなかった。 
 百年が期間を表す百年だと気づいて、更に分からなくなった。 
 冗談?嘘?と心の中で首を傾げる。 
 しかし梨沙子の声色に冗談も嘘も微量にも入っていない。 
 むしろ今までで一番綺麗で澄んだ声だった。 
  
   
- 117 名前:―逢瀬― 投稿日:2008/03/30(日) 20:49
 
-   
 「やっと、見つけた。そろそろだと思ってたんだもん。」 
 「え?え?」 
  
 安心したように梨沙子が言って、雅の混乱は極まる。 
 思考がこんがらがって何をどう考えるべきなのか分からない。 
  
 ―やっと?そろそろ? 
  
 やっとという事はこの少女はしばらく雅を探してくれていたという事になる。 
 そろそろという事は雅が見つかることを予想していたという事である。 
 対極にあるようなその二つの単語を梨沙子は迷うことなく口にしていた。 
  
 「これで、またみやと一緒に過ごせる。」 
  
 嬉しそうに、心のそこからそう望んでいたように梨沙子が言う。 
 あどけない笑みだった。何より純粋な笑みだった。 
 その顔に雅はこの時自分が何かに巻き込まれていくことを確かに感じさせられた。 
  
  
  
 ―遭遇―終 
  
  
   
- 118 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/30(日) 20:50
 
-   
  
  
  
   
- 119 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/30(日) 20:52
 
-   
  
 ありゃ、最後に失敗がw 
 遭遇→逢瀬にしといてください。 
  
 逢瀬の続き物。 
 まぁ、いつもの展開です。 
  
   
- 120 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/30(日) 20:52
 
-   
  
  
  
   
- 121 名前:―彼女達のこと― 投稿日:2008/03/30(日) 20:53
 
-   
  
  
 ももは怒ってるんだよ。 
 みや、みやって人間との恋に現を抜かしちゃってさ。 
 そんなのりーちゃんが苦しくなるだけなのに。 
 それでも止められない自分に一番ムカついてる。 
  
  
  
   
- 122 名前:―彼女達のこと― 投稿日:2008/03/30(日) 20:53
 
-   
  
  
  
 ―彼女達のこと― 
  
  
  
  
   
- 123 名前:―彼女達のこと― 投稿日:2008/03/30(日) 20:53
 
-   
 「えっと、つまり梨沙子たちは吸血鬼って事でいいの?」 
 「違うから。永久種、永遠に生きてる種族。」 
  
 きっぱりと言い切って、呆れたように目の前の少女は言葉を発した。 
 梨沙子と会って、そのままの足で雅はファミレスに来ていた。 
 平日だからか店は結構空いていた。 
 窓際の席へと通されて、席順で争うこともなく雅たちは座った。 
 全ては雅から離れない梨沙子のせい。 
 梨沙子は雅から離れる気は微塵もないようで。 
 流石に抱きついたままではなかったが手はずっと離してくれなかった。 
 今も雅の隣でニコニコと楽しそうに笑っている。 
  
 「……吸血鬼じゃん。」 
 「ももたちは血も吸わないし、太陽で灰になる事もないから。」 
  
 そしてそんな雅たちの前に座っている女の子。 
 桃子と名乗った女の子は先ほどから雅に事態の説明をしてくれている。 
 困って固まっていた雅の側に突然現れた少女。 
 どうやら梨沙子の知り合いらしく、梨沙子も桃子の言うことだとまだ素直に聞いていた。 
  
   
- 124 名前:―彼女達のこと― 投稿日:2008/03/30(日) 20:54
 
-   
 「吸血鬼が永久種の一種なんだよ。永久種は長生きする種族全部だから。」 
 「へー。」 
  
 桃子の言葉を補足するように梨沙子が言う。 
 嘘も冗談もまやかしも少しも入っていない言葉。 
 だが、だからこそ現実味の無い話だった。 
  
 ―大体、永遠に生きる種族って何さ。 
  
 梨沙子と桃子。 
 突然に雅の前に現れたこの二人は人間ではないらしい。 
 桃子の説明によると永久種。 
 老いることも死ぬことも無い、人とは根本的に違う種族だと言う。 
 梨沙子が百年間ずっと雅を探していたと言うのは比喩でも何でもなくて。 
 実際、梨沙子は雅をここ百年探していたらしい。 
  
   
- 125 名前:―彼女達のこと― 投稿日:2008/03/30(日) 20:54
 
-   
 「もう、みーやんったら信じてないでしょ。」 
 「っていうか信じられるわけないし。」 
 「えー、何で?みや。」 
  
 目の前で桃子がため息をついて。 
 梨沙子が桃子の言葉に雅を不満そうに見る。 
 その顔は雅が信じないことが逆に信じられないといった顔だった。 
  
 ―なんで、あんたは信じてもらえると思うわけ? 
  
 心の中でちょっと言葉遣いも荒く考えてから、雅は口を開く。 
 言いたいことはたくさんあった。 
 さっきから桃子が呼ぶみーやんという不可思議な名称が何時決まったのか。 
 また梨沙子が雅を探していた理由は結局何なのか。 
 雅にとって梨沙子たちがどういう存在かより聞きたいことは多々あるのだ。 
  
   
- 126 名前:―彼女達のこと― 投稿日:2008/03/30(日) 20:55
 
-   
 「だってさ、どこも違わないじゃん。うちと梨沙子。」 
 「は?」 
 「え?」 
  
 ぴたりと桃子と梨沙子は同時に動きを止めた。 
 両方の顔に浮かぶのは驚き。 
 びっくりしている、その一点でまったく同じ顔をしていた。 
 一分も経っていなかったと思う。三十秒は沈黙していただろうか。 
 いや、もしかしたらもっと短い時間だったのかもしれない。 
 驚愕が支配したテーブルにやっと声が降り立ったのは。 
 ある意味誰よりも状況を客観的に知っている桃子だった。 
  
 「いやいや、全然違うから。もも達とみーやんじゃ。」 
 「どこが?」 
 「例えば……。」 
  
 何も分かっていない雅に桃子が答えを探すように周りを見渡す。 
 雅はただ桃子の前でその様子を眺めていた。 
 ぼんやりと、本当にぼんやりと雅は考える。 
 永久種という存在について。 
 それを何も思わず受け入れようとしている自分について。 
 そしてそれに何の違和感もない事について。 
 現実味のすっかり薄れてしまった世界から逃げるように考えていた。 
  
   
- 127 名前:―彼女達のこと― 投稿日:2008/03/30(日) 20:55
 
-   
 「こういうことだよ、みや。」 
  
 袖を引っ張られて、雅は隣を見る。 
 思考が中断されたが気にもならない。 
 ここ数時間でこの梨沙子という少女に随分と甘い事に雅は気づいている。 
 そこには変わらない笑顔で笑う梨沙子が居た。 
 片手には先ほど店員が持ってきたナイフが握られている。 
 包丁のように綺麗に切れるものではないが、それでも凶器に違いは無い。 
 その武器を梨沙子は笑顔のまま自分の腕に当てた。 
 すっと音もなく刃を引けば梨沙子の白い肌にぷつぷつと赤い珠が浮かび上がる。 
 血である。一気に雅の背筋が冷えた。 
  
 「な、梨沙子っ……何して?!」 
 「うん?証明だよ、証明。」 
  
 痛みなどないように軽い調子で梨沙子が言う。 
 実際痛みという感覚は彼女達にはないのかもしれない。 
 しかし一般人である雅には血が出ているという事態だけで慌てるに値した。 
  
   
- 128 名前:―彼女達のこと― 投稿日:2008/03/30(日) 20:56
 
-   
 「大丈夫だよ、すぐに消えるから。」 
  
 止血するためにハンカチを傷に当てようとした雅を梨沙子が片手で止める。 
 梨沙子の言葉の通り、傷はできた側から静かに消え始める。 
 血が止まり、やがて縦に引かれた線が見えなくなる。 
 最後に梨沙子がぺろりと舌で血液を舐め取れば。 
 そこには元の傷一つ無い白い腕が存在していた。 
  
 「はあ、自分の血ってなんで不味いんだろうね。」 
  
 呆然とその動きを見つめていた雅。 
 その目の前で梨沙子はさらりとした風にそう言った。 
 水を苦い顔をして飲む様子は本当に今の自分の行動に何の疑問も感じていないことを表していた。 
 梨沙子はそういう面で確かに人とは違う存在だったのだ。 
  
 「……嘘。」 
 「ほんと。これで分かったでしょ?体は勿論、思考もみーやんともも達じゃ違う。」 
  
 とんとんと桃子が自分の米神に人差し指をあてる。 
 その仕草に雅はぐっと押し黙った。 
 皮肉なことに今の梨沙子の行動が何よりも雅と梨沙子の違いを明らかにさせた。 
  
   
- 129 名前:―彼女達のこと― 投稿日:2008/03/30(日) 20:56
 
-   
 「普通、証明するからって自分の腕切んないでしょ?」 
 「だってあたしすぐに治るし。」 
 「りーちゃんは治るけど普通の人間は治んないの。」 
  
 桃子の言葉は何よりも正論だった。 
 驚異的な再生能力よりも、一般的な思考方法の違い。 
 再生能力なんて別にいいのだ。 
 問題なのは思考が違うこと。 
 こればかりはどうにもならない。 
 梨沙子は自分の体を傷つける事にためらいが無い。 
 それはもっと容易に他人を傷つけられることを意味している。 
 誰だって自分が一番大切で、自分が傷つくことは怖いのだから。 
 その自分を簡単に傷つけられる人に誰が近づけるだろうか。 
  
 「そんなんだから周りの人間から怖がられるんだよ。」 
 「あたし、人間を怖がらせるようなことしてないもん。」 
  
 呆れたように物を言う桃子に梨沙子が拗ねた口調で返した。 
 しかし雅の頭にその会話が入ることは無かった。 
 本当の本当に自分の隣と前にいる人たちが人ではないかもしれない。 
 その可能性が雅の中で急に立ち上がって。 
 論理的な思考回路が完全に固まってしまったのだ。 
  
   
- 130 名前:―彼女達のこと― 投稿日:2008/03/30(日) 20:57
 
-   
 「だから、もも達は存在だけで人間には十分怖い存在なんだって。」 
  
 ―存在だけで……怖い? 
  
 フリーズしている雅の耳にその単語が飛び込んできた。 
 存在だけで怖い。 
 確かに自分が年をとっていくのに、一人だけ変わらなかったら気味が悪い。 
 またあれ程までに容易く自分のとは言え人の体を傷つけられる事は怖い。 
 確かにこの二人は存在だけで怖がられる要素を持っていた。 
  
 「でも。」 
 「ん?どうかしたの、みや。」 
  
 思わず思考が口を出た。 
 その瞬間、梨沙子がふわりと微笑んで雅を見る。 
 優しい笑顔だった。人を傷つけるとは思えない笑顔だった。 
  
   
- 131 名前:―彼女達のこと― 投稿日:2008/03/30(日) 20:57
 
-   
 「うちは、梨沙子がそんな事しないって知ってるよ。」 
  
 結局はそういう事なのだと雅は思う。 
 梨沙子達は確かに人を傷つける存在かもしれない。 
 だけどそれは雅も変わらないのだ。 
 梨沙子達の方が雅よりも傷つけやすく見える、というだけで。 
 もしかしたら雅の方が誰かを傷つけて生きてきたのかもしれない。 
 見えるだけならば、事実は違う。 
 事実を知れば梨沙子達を怖いと思うことは無くなる。 
 つまりそういうことなのだと雅は思った。 
  
 「梨沙子がうちを傷つけないって分かってるよ。」 
  
 そして、梨沙子が危険でないと言い切れる自分に驚いた。 
 会って数時間も経たない。 
 しかし雅は自分の隣に座っているこの少女が自分を傷つけるとはどうしても思えなかった。 
 本能的な安心感。 
 出会ったその時から雅の梨沙子に対する警戒心はとても薄かった。 
 雅本人が驚くほど梨沙子に対してマイナスのものは何も感じなかったのだ。 
  
   
- 132 名前:―彼女達のこと― 投稿日:2008/03/30(日) 20:58
 
-   
 「みや。」 
 「……みーやん。」 
  
 梨沙子がキラキラと顔を輝かせて。 
 桃子が苦虫を噛み潰したような顔を見せて。 
 同じ存在の二人が全く対極の表情を雅に示した。 
  
 「ほら!みやは分かってたじゃんっ。」 
 「あー、もう、みーやんは何でそう……。」 
  
 勢い良く抱きついてきた梨沙子に桃子の言葉は掻き消える。 
 聞こえなかった桃子の後半。 
 だが桃子の表情だけで彼女の言葉が苦情に近いものだというのは分かった。 
  
 「前から全然変わってない。」 
  
 桃子が俯いて机に視線を落とすとボソリと呟く。 
 前が何を表すのかも雅には分からなかった。 
  
   
- 133 名前:―彼女達のこと― 投稿日:2008/03/30(日) 20:59
 
-   
 「ねー!これってやっぱ、みやだからだよね。」 
 「まぁ、きっとそうなんだろうね。ちょっと嫌になる程似てるし。」 
  
 だから桃子がそう言った事も。 
 梨沙子が凄く期待した目で見てくるのも。 
 雅には何一つ分かっていなかった。 
 根本的に何故自分がこういう事になっているかも。 
 自分自身に関わることさえ雅は把握していなかったのだ。 
  
  
  
 ―彼女達のこと―終 
  
  
  
   
- 134 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/30(日) 20:59
 
-   
  
  
  
   
- 135 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/30(日) 21:02
 
-   
  
 そんなには長くならないと思われ。 
 というかベリでファンタジーとかw 
 見たことねー!!(バク 
 うん、でも妄想ってそんなもんよね。 
  
 マイナー月間はまだ続きますんでw 
 どぞ、もう少しお付き合い下さい。 
  
 ではまた妄想が溜まる日に。 
 CPヲタでした。 
  
   
- 136 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/30(日) 21:02
 
-   
  
  
  
   
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/30(日) 23:26
 
-  なんだか面白そうな、興味をそそられる出だしですね。 
 ベリでは珍しいファンタジーだからこそ楽しみにしてます^^  
- 138 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/31(月) 00:28
 
-  続きに期待 
 
- 139 名前:YOU 投稿日:2008/03/31(月) 13:24
 
-  いや〜面白そうな話ですね。 
 僕もベリのファンタジー は見たことがないので楽しみにしています。  
- 140 名前:麻人 投稿日:2008/03/31(月) 19:50
 
-  また日々の楽しみが増えましたw 
 頑張ってください。  
- 141 名前:CPヲタ 投稿日:2008/04/09(水) 07:01
 
-   
  
 あー、メーデーメーデー。 
  
 携帯から失礼します。 
 ちょっとやばい程忙しくて更新遅れますorz 
 今週末にはたぶんうぷできると思うのでもう少しお待ち下さい。 
  
 では連絡だけでした。  
- 142 名前:CPヲタ 投稿日:2008/04/13(日) 23:39
 
-   
  
 手を怪我してしまいましたさorz 
 手さえ動けばもっと妄想をつづれるのに・・・ 
 と、ぐちって遅い更新です。 
  
  
 137<<名無飼育さん 
 あっとうございます!! 
 期待に応えられるよう、頑張りたいと思います。 
 ファンタジーっぽくなったら嬉しいです(エ  
   
 138<<名無飼育さん 
 続き、うぷしたかったのですが・・・ 
 手のせいで別の方をあげることになってしまいました。 
 もう少しお待ち下さいorz 
  
 139<<YOUさん 
 いつも感想あっとうございます。 
 面白くなるようにしたいですw 
 ですが今まで以上に遅筆になりそうです(汗 
   
 140<<麻人さん 
 あは、そうなれるようにしたいですw 
 自分の都合の性でお待たせしてすみません! 
   
  
 ってことで、ファンタジー続きです・・・ 
 と言いたかったのですが。 
 手がどうにも動かないんで、マイナー週間用に書いといた奴あげますw 
  
  
 りしゃキャプでリアルです(エ 
  
  
   
- 143 名前:CPヲタ 投稿日:2008/04/13(日) 23:39
 
-   
  
  
  
   
- 144 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:40
 
-   
  
  
 ベッドの横にぽつんと置かれたケータイ。 
 あたしのじゃない。 
 ならそれはさっきまで部屋にいた梨沙子のもの。 
 久しぶりにオフだった昨日から恋人らしく梨沙子は佐紀の家に泊まりに来ていた。 
  
  
  
  
   
- 145 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:40
 
-   
  
  
 ―ケータイ電話― 
  
  
  
   
- 146 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:41
 
-   
 嫌な予感がした。 
 それを見つけたときから。 
 何か面倒くさいことになる気配はしたのだ。 
  
 ―……今日も仕事あるし、そん時に渡せばいいだけじゃん。 
  
 その不安を打ち消すように心の中でそう呟き、イメージする。 
 梨沙子にケータイを渡す場面を。 
 いつもの楽屋で、いつものように。 
 何でもないメンバーとして忘れ物を渡す様を。 
 それができれば何の問題もないはずだから。 
  
 ―できるよね? 
  
 自分に問いかける。 
 だけどどこか上手くまとまらなくて、佐紀は頭を切り替えた。 
 梨沙子はさっき帰ったばかりだ。 
 佐紀は鮮明に見送った姿を思い出せる。 
 何も変わらなかった。いつもどおりの後姿だった。 
 大丈夫、そう自分に言い聞かせて。 
 右手に収まる見慣れた携帯電話を佐紀はそっと握った。 
  
   
- 147 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:41
 
-   
 「早いねー、流石キャプテン。」 
 「……そっちこそ。」 
  
 扉を開けて最初に聞こえてきたのは梨沙子の声ではない。 
 梨沙子より高くて細い声。 
 早めにを心がけてきたのだが、佐紀が来たとき既に桃子と雅がいた。 
 「あれ、早いね?」と尋ねればボーノの仕事があったのだと言う。 
  
 ―あー、そう言えば……そうだっけ? 
  
 迂闊だった。 
 思い出せば桃子からそんな話をされていた気がする。 
 だがある事柄で頭が一杯だった佐紀は桃子の話を完全に聞き流していた。 
 ある事柄とは当然泊まりに来る梨沙子のことで。 
 仕事も終わった佐紀は次の日に訪れるイベントを必死に計画していたのだ。 
  
   
- 148 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:43
 
-   
 ―馬鹿だなぁ、あたし。 
  
 キャプテンなのだからメンバーの予定ぐらい把握して置けよと自分で突っ込む。 
 これで誰もいない内に梨沙子にケータイを渡すという一番安全な方法は消えてしまった。 
 幸いなことに桃子も雅も佐紀が早くに来たことに違和感はないようだ。 
 佐紀は鞄の中に入っている梨沙子のケータイを意識して柄をぎゅっと握った。 
  
 佐紀の次に茉麻が来てその次に梨沙子が来た。 
 気づかれるわけがないと思いながら、佐紀は心配で鞄の側を離れられなかった。 
 梨沙子が楽屋の扉から変わらない様子で入ってきたのにほっと息をつく。 
 自分でも知らないうちに息を詰めていたようだ。 
  
   
- 149 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:43
 
-   
 「梨沙子、おはよ。」 
 「あ、キャプテン。おはよー。」 
  
 今日朝まで一緒だったことなどなかったかのように声をかける。 
 すると梨沙子はニコリと綺麗に笑って。 
 佐紀は相変わらず梨沙子の切り替えの良さに舌を巻く。 
 梨沙子は仕事のとき、佐紀のことを名前で呼ぶことはない。 
 それは梨沙子の切り替えであると共に佐紀の切り替えでもある。 
 どうしても顔に出てしまう佐紀からお願いしたことであった。 
 付き合っていることを隠し始めたときから、梨沙子は一度もそのルールを破っていない。 
  
 「これ、忘れてたよ。」 
  
 ちらりと目だけを動かして、注目が集まっていないことを確かめる。 
 そして鞄から携帯電話を出すとさっと手渡す。 
 梨沙子は一瞬何を言われたか分からないという首を傾げてから。 
 出された物にあっと合点いった顔をした。 
 えへへと照れたように力の抜ける笑顔を見せた。 
  
   
- 150 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:44
 
-   
 「ありがとー、また忘れてたんだね。あたし。」 
 「……あたしの家だったからまだいいけどさ、あんま忘れ物しちゃだめだよ?」 
 「うん、気をつける。」 
  
 佐紀の手から梨沙子がケータイを取って、ぞんざいにポケットに突っ込む。 
 案外梨沙子は色々雑だ。 
 几帳面と言われる佐紀としては心配なことは色々ある。 
 例えばケータイ傷ついたりしないのかなとか、そんな所に入れてたら壊れるよとか。 
 だけど言う事はできなくて。 
 佐紀は困ったような顔で梨沙子のその行動を見つめる。 
  
 「もう、梨沙子は大雑把過ぎ。」 
 「いいじゃん、佐紀ちゃんがいるんだし。」 
 「そういう問題じゃ、ないから。」 
  
 はぁと小さく息を吐く。 
 これだ。暖簾に腕押し、糠に釘。 
 意味がないと佐紀は重々承知しているから、言わない。 
 梨沙子が佐紀の家に物を忘れるのは初めてではない。 
 帽子を忘れたり、マフラーを忘れたり、酷いと下着を忘れたり。 
 来るたびにと言って良い程梨沙子は物を忘れていく。 
 楽屋に持って来れないそれらの物は実は未だに佐紀の家に置いてある。 
  
   
- 151 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:44
 
-   
 「なになに〜?りーちゃん、キャプテンの家に遊びいったの?」 
 「っ……もも、びっくりするじゃん。」 
  
 ぴょこりと梨沙子の背後から顔を出したのは桃子だ。 
 やばっと思わず声を出しそうになって佐紀はそれを辛うじて抑えた。 
 注意していたはずなのに。 
 桃子はいつの間にか忍び寄ってきていたのだ。 
 梨沙子は何時ものことのように動じず、桃子の方を振り向く。 
  
 「うん、ちょっとね。ケータイ忘れてきちゃって。」 
 「へー……ケータイ忘れると困るよねぇ。」 
  
 誤魔化すように笑っている梨沙子の後ろで桃子の目が光るのを佐紀は見た気がした。 
 マズイと思うが、佐紀が割り込む間もなく。 
 梨沙子は答えてしまった。 
  
   
- 152 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:45
 
-   
 「ううん、忘れたの朝だからそんなに困ってないよ。」 
 「そっかぁ、朝なら確かに困んないよね。」 
  
 僅かに首をかしげて言う。 
 自分の言ったことに何も疑問を覚えていない。 
 そんな感じを梨沙子から受けたが、佐紀はそれ所ではない。 
 桃子の目がどういう事?と問い詰めてきているのだから。 
 逸らすこともできずに、佐紀は「あはは。」と空笑いをした。 
 桃子は梨沙子の背中から離れると佐紀の元に来て、腕を引っ張る。 
  
 「ちょっとキャプテン借りてくねー。」 
 「あ、うん。わかった。」 
  
 ずるずると半ば引き摺られるようにして連れて行かれる。 
 そんな様子を梨沙子は不思議そうにしながら見ていた。 
 だが佐紀は見逃さない。 
 佐紀の視界から梨沙子が消えるその瞬間。 
 梨沙子がニヤリと笑ったのを。 
 全てがそれで分かった。 
 嵌められたと思いながら、しかし佐紀は引き摺られるしかないのであった。 
  
   
- 153 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:45
 
-   
 「ちょっとちょっとちょっと!もも、聞いてないんですけど。」 
 「うちも……梨沙子、何も言ってなかったし。」 
  
 引き摺られて連れて行かれたのは、先ほどいたのとは反対側。 
 そこには桃子ともう一人、雅が待機していた。 
 この頃ボーノで忙しい二人で、ボーノで仲良くなった二人。 
 そして佐紀はあと一つ共通点を知っていた。 
  
 ―寄りによって、梨沙子を気にしてる二人じゃん。 
  
 佐紀は一人そう思うと心の中でため息をつく。 
 桃子はとても分かりやすい。 
 梨沙子には甘いし、優しいし、面倒見が良い。 
 それとは逆に雅はとても分かりにくい。 
 梨沙子に懐かれているし、くっ付かれているし、好かれている。 
 でも自分から行く事はしなくて、ただ梨沙子にされるがままの様に見える。 
 だけど雅が嫌がってないのを、むしろ何処か好かれているのに安心しているのを。 
 佐紀は知っていた。いや、きっと佐紀だけが知っていた。 
  
   
- 154 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:45
 
-   
 「そりゃ、言ってないし。」 
 「いつの間に泊まる約束とかしてたの?」 
 「えーと……いつだろ。」 
  
 オフがあると泊まるのはお互い馴染んだ行為で。 
 梨沙子が佐紀の家に泊まる時も、逆に佐紀が梨沙子の家に泊まる時も沢山あって。 
 いつからそうしていたのか少しあやふやになっていた。 
  
 「なに、それぇ?ほら、思い出すっ……もぉでさえお泊り会とかしたことないのに。」 
  
 ―してたら、困るし。 
  
 佐紀のはっきりしない答えに桃子がぐらぐらと肩を掴んで揺する。 
 がくがくと動く視界に酔いそうになりながら、佐紀はどう誤魔化そうか考えていた。 
 すると今まで事態を傍観していた雅がすっと桃子の隣に立つ。 
 雅の真っ直ぐな瞳はある意味一番誤魔化すのに堪える。 
 罪悪感がこれでどうだとばかりに襲ってくるからである。 
  
   
- 155 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:46
 
-   
 「ねぇ、佐紀ちゃん。梨沙子、泊まったの初めてじゃないんでしょ?」 
 「……そんなこと、ないよ。なんで?」 
 「だって梨沙子は初めて泊まった所で忘れ物なんてしないから。」 
  
 うっと佐紀は言葉に詰まる。 
 さすが梨沙子に懐かれている雅だと思う。 
 そう大体が大雑把な梨沙子なのだが、それはあくまで打ち解けてから。 
 それまでは几帳面に近い性質を発揮する子なのだ。 
 じっと見つめられて佐紀は思わず目を逸らす。 
  
 「やっぱり、ってことは結構な回数、寝泊りしてたわけだ。」 
 「……はい、そうです。」 
 「えー!それずるい!!何で同い年のもぉを誘わないかな。」 
  
 淡々とした雅の問いかけに観念した佐紀は素直に返事をする。 
 桃子だと平気なのに、雅を無視できないのは年下だからなのだろうか。 
 今も雅の隣で分かりやすい怒りの顔をしているが、少しも気にならなかった。 
  
   
- 156 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:46
 
-   
 ―みやに、冷たく、とかできる人いたら見てみたい。 
  
 「ねぇ、佐紀ちゃん。うち、こういうのなんて聞いていいか分かんないからそのまま聞くけど。」 
 「うん、何?」 
  
 この時点で佐紀の中で覚悟はできていた。 
 雅はズバリと物事の中心を言う人だから。 
 この流れで何を聞かれるかなんて分かりきっていた。 
  
 「梨沙子と、付き合ってるの?」 
  
 来たと佐紀は一拍息を止める。 
 全ての感覚がなくなったかのような雰囲気に包まれる。 
 周りを見て桃子もいつの間にか佐紀を注視しているのに気づく。 
 それも仕方ないかと心を決めて、佐紀は小さく口を開いた。 
  
   
- 157 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:47
 
-   
 「うん。」 
 「……いつから?」 
 「一年、ちょっと前くらい。」 
  
 「そっか。」と響いた雅の声はとても小さくて、低い。 
 ここまでテンションが落ちる雅は見たことがなくて。 
 なんだか申し訳ない気持ちになる。 
 佐紀は雅を見ていることができなくて、ふいと視線をずらす。 
 すると今度は本気で怒っているらしい桃子と目が合ってしまい。 
 佐紀は一人苦笑する。 
  
 「もぉは、許さないから。」 
 「珍しいね、ももがそんなにこだわるのも。」 
  
 それだけ、自分の恋人が魅力的ということで。 
 それは佐紀にとってとても嬉しいこと。 
 嬉しいことなはずなのだが、笑っていられるものでもない。 
 しかし桃子はそれじゃないと言うように首を横に振る。 
 そして無に近い表情で佐紀を見つめて言った。 
  
   
- 158 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:47
 
-   
 「付き合ってるのもだけど、もぉが許せないのは言わなかったことだから。」 
 「あー……ごめん。」 
  
 確かに桃子にくらい言うべきだったのかもしれない。 
 唯一のグループ同い年で、一番長く一緒に仕事をした仲間。 
 それでも佐紀に梨沙子と付き合い始めたという勇気はなかった。 
 ずっと一緒だった分、桃子が誰を好きかなどわかっていたから。 
 グループが混乱するのを解っていて佐紀にそうすることはできなかった。 
  
 「覚悟しなよ、佐紀。」 
  
 ニヤリ笑って桃子が言う。 
 佐紀と呼ばれるのは思ったより新鮮な気がした。 
  
 「……うちも。」 
 「ん?みーやんも?」 
 「うん、うちも梨沙子のこと諦めないから。」 
  
 「これから、よろしくキャプテン。」と言われて佐紀は仰ぐように天を見る。 
 真っ直ぐに、真っ直ぐな雅の視線。 
 分かりにくいけど底に熱いものを秘めた桃子の視線。 
 その両方を受けて、佐紀は肩を竦めたくなった。 
  
   
- 159 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:48
 
-   
 ―やっぱ、面倒くさいことになっちゃった。 
  
 朝、梨沙子のケータイを見たときの予感。 
 当たって欲しくなかったそれは的中してしまい。 
 佐紀ははぁと小さくため息をつく。 
  
   
- 160 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:48
 
-   
  
  
  
   
- 161 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:49
 
-   
 「梨沙子、わざとでしょ?」 
  
 二人が離れたその足で。 
 佐紀はそのまま梨沙子を連れ出した。 
 この騒ぎの元であるはずなのに。 
 梨沙子はそんなこと知らないという風ににっこりとした笑顔を浮かべていた。 
  
 「んふ、だって佐紀ちゃんはあたしのだもん。」 
 「はぁ?」 
 「佐紀ちゃん、ももとかみやとかちーとか。色んな人と一緒にいるから。」 
  
 一転して拗ねたような顔でそう呟く梨沙子。 
 そんなことを言うとは思わなくて、佐紀は本気で驚いていた。 
 梨沙子は人の感情に敏感でだからか人の視線にも敏感。 
 するりと掴みどころのない彼女に佐紀はいつも振り回されていた。 
  
   
- 162 名前:―ケータイ電話― 投稿日:2008/04/13(日) 23:49
 
-   
 ―……モテてるのは、梨沙子だよ。 
  
 妬いてくれたのだろう。 
 しかしそれは的外れ以外のなんでもない。 
 なぜなら梨沙子が妬いた彼女達に佐紀が呼び出される大半は梨沙子絡みのことなのだから。 
 梨沙子のそれは勘違いで、結果は恐らく佐紀の気苦労が増えただけ。 
 でも梨沙子にそれを言う気も、梨沙子を責める気にもなれなかった。 
 嫉妬してくれたというその事実が何よりも嬉しくて。 
 少しくらいの苦労なら笑って許せる、そんな気持ちが佐紀の中にあったのだから。 
  
  
  
  
 ―ケータイ電話―終 
  
  
  
   
- 163 名前:CPヲタ 投稿日:2008/04/13(日) 23:53
 
-   
  
  
  
   
- 164 名前:CPヲタ 投稿日:2008/04/13(日) 23:53
 
-   
  
 あー、めっちゃ長いw 
 マイナーになればなるほど長くなるw 
 何故?何故?(キクナ 
  
 ってことで、すみませんがファンタジーシリーズは少しお待ち下さい。 
 週一になりそうです・・・ 
 腕が痛いよ、りーちゃん(泣 
  
  
 ってことでまた妄想が溜まる日に。 
 CPヲタっしたw 
  
   
- 165 名前:CPヲタ 投稿日:2008/04/13(日) 23:54
 
-   
  
  
  
   
- 166 名前:YOU 投稿日:2008/04/14(月) 00:57
 
-  手を怪我されているのに更新されるとは……さすがですッ!!! 
 悩めるキャプテンいいですね〜〜w 
 次の更新待っていますけどあまり無理をしないで下さいね。  
- 167 名前:麻人 投稿日:2008/04/14(月) 03:26
 
-  更新ありがとうございます。 
 マイナーカプ、最高ですねw 
 あの二人も出てきて、読んでてとても楽しかったです。 
 お怪我は大丈夫ですか?無理はせずに、どうぞお大事にしてください。 
   
- 168 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/14(月) 10:41
 
-  マイナーカプ最高です 
 続きに期待w  
- 169 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/24(木) 02:07
 
-  超意外なカプにめちゃくちゃ萌えましたw 
 
- 170 名前:CPヲタ 投稿日:2008/04/27(日) 09:59
 
-   
  
 週一と言っておきながら、普通に二週間過ごしていましたw 
 嘘つきな奴ですみませんorz 
 CPヲタです。 
 手も全快とはまでは行かなくても良くなって来たので更新しますゆー。 
  
  
 166<<YOUさん  
 いえいえ、これが生きがいなもんでw 
 しないと逆に調子が悪くなりそうっす(エ 
 苦労人キャプテンが主旨だったんで(アハ 
 そう言ってもらえると幸いです。 
 無理せず、頑張りまっすw 
   
 167<<麻人さん  
 更新お待たせしました。 
 マイナーカプ大好きっす!!w 
 独りよがりなCPだったんで、受け入れてもらえて嬉しいです。 
 無理せず頑張ります! 
  
 168<<名無飼育さん 
 マイナーカプ最高!! 
 マイナーは嵌ると止まりませんw 
 続きお待たせしましたw 
  
 169<<名無飼育さん 
 萌えましたか?! 
 そりゃ、良かったっすw 
 マイナー萌えをこれからも頑張って普及します(エ  
  
  
 では今日の更新です。 
 ファンタジー設定、続きっすw 
  
   
- 171 名前:CPヲタ 投稿日:2008/04/27(日) 09:59
 
-   
  
  
  
   
- 172 名前:CPヲタ 投稿日:2008/04/27(日) 10:02
 
-   
  
 りしゃもも。 
 ももちとの出会い編。 
 と言いたいですが相変わらずりーちゃんが余り出ませんw 
  
   
- 173 名前:CPヲタ 投稿日:2008/04/27(日) 10:03
 
-   
  
  
  
  
  
  
   
- 174 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:04
 
-   
  
  
 逢魔時。 
 それは日が地平線に落ちて、真っ赤な赤から薄暗い青へと空が変わる時間帯。 
 人が魔に会うとされた刻。 
 まさにその狭間で桃子は梨沙子に会ってしまった。 
  
  
  
   
- 175 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:04
 
-   
  
  
  
 ―再見― 
  
  
  
   
- 176 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:05
 
-   
 桃子が生まれたのは江戸時代の初め。 
 もっともその頃の桃子には今が江戸時代だという自覚もなかった。 
 だから実際に自分が何年に生まれたかなど分からない。 
 その時代に小耳に挟んだ単語を照合してみて大よその年代を特定しただけだ。 
  
 物心ついたときにはすでに桃子は働いていた。 
 大きな農家だった。 
 桃子のように拾われた子供も幾人かいて、それらを養えるくらいに大きな家だったのだ。 
 不満はなかった。そうするのが当たり前だった。 
 むしろ衣食住が保障されていて恵まれていると思ったこともある。 
 だが年々過ごしているうちに桃子と他の子の違いは明らかになる。 
  
 「桃!ほら、しっかり働くんだよ。まったく何時までも大きくならなくて。」 
  
 この頃はまだ単に“桃”と呼ばれていた。 
 桃子というのは後から梨沙子がくれた名前である。 
 元の桃に自分から子をとって桃子。 
 安易な名づけだと今は思うがその時は本当に嬉しかったのだ。 
  
   
- 177 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:09
 
-   
 「は、はい!今。」 
  
 桃子の体は中々大きくならなかった。 
 一年経とうと二年経とうと、桃子の体は一向に成長せず。 
 桃子の記憶にある最初から少しも姿は変わらなかったのだ。 
 いや、本当に徐々にではあるが背は伸びていた。 
 しかし他の子供と比べれば違いは明確であった。 
 桃子と同い年であったはずの子供が成人して、結婚して去っていく。 
 もう何人の背を見送ったか分からない。 
 そんな時でも桃子の体は未だ十歳にも達していなかった。 
  
   
- 178 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:09
 
-   
 減らない食い扶持と増えない労働力に家人たちがイライラするのも当然である。 
 体は十に満たない桃子でも、頭脳の方は着々と成長しており。 
 自分の立場や状況、そして自分の異常さには気づいていた。 
 気づいてはいたが原因が分からない。 
 まだこの家が自分の生まれた家だったら。 
 そうだとしたら桃子は思い切って親を問い詰めることもできたのかもしれない。 
 だがここは桃子の家ではなく、桃子の出生も知られていない。 
 まして長年住まわせてもらっている身で。 
 桃子は黙々と体の小ささをカバーするように働くしかできない。 
 そんな日々を既に数年送っていた。 
  
   
- 179 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:09
 
-   
 ―あたしって何なんだろう。 
  
 忙しい時間を過ぎて、暇ができるとぼんやり頭に浮かぶ疑問。 
 働きづめて時間はもう夕暮れだ。 
 日が暮れるという事は農家にとってそのまま終わりの時間になる。 
 夕食が終わった後の僅かな時間、桃子は川べりを歩いていた。 
 同年代の子は既におらず後から入って来たものには奇異の視線で見られる。 
 それが嫌で桃子は一人でいる時間を増やしていた。 
  
 「もう、なんで大きくならないんだろ。」 
 「教えてあげようか?」 
  
 こつんと道端の石を蹴る。 
 とんとんとんとそれは思ったよりも遠くまで跳ねて、橋の欄干で止まる。 
 それと同時に声が響く。 
 声からして女の子ということだけが分かった。 
 石を追って視線を動かした桃子の目に見たことのない格好が見えた。 
 ぼんやりとはっきりしない人影はそれでも十分な存在感を持っていて。 
 桃子は首をかしげながらその人影に近づいた。 
  
   
- 180 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:10
 
-   
 「あなた、誰?」 
  
 見たことのない、茶に近いような髪色。 
 見たことのない、全身を覆う黒い布。 
 見たことのない、真っ白な肌。 
 その少女の全てが桃子には不思議だった。 
  
 「あたしの事は、どうでもいいじゃん。あなたは自分のこと知りたいの?」 
  
 全てはそれからとその目が言っていた。 
 じっと見てくる顔は真剣で、少し冷たいような感じを桃子は受けた。 
 周囲に人はいない。 
 暗くなってから外を出歩くのは余り良い顔をされない。 
 それにこの薄暗いという微妙な時間帯はまだ仕事をしている人も多くいる。 
 まずいかなと桃子の背にじんわりと危機感が滲む。 
 考えたくないが人攫いとかもありうる。 
 だけど興味は殺しきれなくて、桃子は口を開いた。 
  
   
- 181 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:10
 
-   
 「知ってるなら、教えて?」 
  
 するとその少女は艶やかに微笑んだ。 
 欲しい玩具を見つけたような、面白いものを見つけたような。 
 そういう明らかに格下のものに対する目線ではあった。 
 だがそれでも桃子はその笑みに見惚れたのだ。 
  
 「良いよ、教えてあげる。でも知ったらあなたは戻れない。」 
  
 「それでもいいの?」という言葉に桃子は迷いなく頷いた。 
 元から分からないこの体。 
 このままで何時まで同じ生活を続けられるか分からなかった。 
 ならば今話を聞いて戻れなくなっても、結局は同じこと。 
 そしてそんな事なんかより桃子はただ魅了されただけなのだ。 
 この一人の少女に着いていきたいとそれだけを思った。 
  
   
- 182 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:11
 
-   
 「あなたは半魔だよ、珍しい匂いがするなーと思って来たらあなただった。」 
 「はん、ま?」 
  
 一瞬、何を言われたのか分からなくて桃子は動きを止める。 
 しかしすぐに半魔という言葉にたどり着き。 
 桃子はまさかという思いのまま少女を見た。 
  
 「半分でもあたしの仲間だからねー。成長も遅いし、その分寿命も長いよ?」 
 「あたし、人間じゃないの?」 
 「半分人間、半分あたしの仲間―永久種って呼ばれてる。」 
  
 戸惑った顔で尋ねながら、頭の中では納得していた。 
 自分の成長の遅さは人間だったら絶対にありえない。 
 それに言われてみれば桃子にはまだ異なる点があった。 
 異常に遅い成長に、異常に早い回復力。 
 病にしても傷にしても桃子の治癒力は凄まじかった。 
 小さい体だが健康は誰にも負けず、だからこそ子供のような成りでもずっと置いてもらえたのだ。 
  
   
- 183 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:11
 
-   
 「あなた生まれて何年?」 
 「えっと、多分二十年くらい。」 
 「じゃ大人に成るにはあと二十年くらいかかるね。」 
  
 さらりと言われた一言に桃子の目の前が暗くなる。 
 あと二十年。普通の人だったら大人どころか死に近づく年齢。 
 もし本当にそうだとしたら、桃子は確実に居場所を失う。 
 そんなに経って小さいままなど不気味以外の何者でもない。 
  
 「それでも早い方だよー?あたしなんてこの大きさになるまで百年はかかったし。」 
  
 落ち込む桃子に不思議そうな顔で少女が見つめる。 
 感覚がずれていると桃子は思った。 
 魔だけあって人としての常識がないのだ。 
  
   
- 184 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:11
 
-   
 「どうしよ、あと二十年もあそこに置いて貰える訳ないし……。」 
  
 へたり込むように桃子のその場に蹲った。 
 変だと思っていた。異常だとわかっていた。 
 だけどどこかでそれを否定したい自分が確かにいて。 
 桃子はいつも期待していたのだ。 
 唐突にいきなりにこの体は成長するのではないか。 
 ただ単に成長が遅いだけではないのか。 
 しかしその希望は今、絶たれてしまった。 
  
 「あたしんとこ来れば良いじゃん。」 
 「え?」 
  
 じゃりっと目の前で音がして、桃子は顔を上げる。 
 視界に映ったのは少女の顔それだけだった。 
 いつの間にか目の前まで移動した少女はしゃがんで、桃子と同じ目線にいる。 
 優しげに笑う姿は人以外にみえなかった。 
  
   
- 185 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:12
 
-   
 「そのつもりで、声かけたんだし?」 
 「でも、いいの?」 
 「いいの。あたしは梨沙子。よろしくね。」 
  
 ぽんと先ほどまで決して教えなかった名前を名乗る。 
 それは桃子が確かに異なる道を歩みだした証拠だったのかもしれない。 
 少女の名前を聞いたときから、いや自分を知ってから、桃子は普通ではなくなった。 
  
 「ありがと、梨沙子。」 
 「……この頃ちょっと退屈してたし。別にお礼はいらないよ。」 
  
 ぷいと顔を逸らして少女が言う。 
 桃子は後に知った。 
 この時梨沙子は退屈だったんじゃない。 
 退屈という感情もあっただろうがそれよりきっと寂しかったのだ。 
 なぜなら当時の恋人、梨沙子は必ず“みや”と呼ぶその人と死に別れたばっかりだったのだから。 
  
   
- 186 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:12
 
-   
 不思議なことに“みや”は必ず“みや”であった。 
 何時の時代も何度生まれ変わっても。 
 必ず“みや”と呼べる名で存在しているのだ。 
 今回は雅だった。何々の宮という通り名だったり、おみやだったり。 
 とにかく“みや”は“みや”としての名前を持っていた。 
 桃子にとっては不思議でしかないその現象。 
 しかし「みや。」と名前を呼ぶ梨沙子は何より幸せそうで。 
 だからそれでいいと桃子は思っている。 
  
 「梨沙子はみーやんを好き過ぎる。」 
  
 この出会いのあと、誰よりも梨沙子と長い時間を過ごした桃子は知っている。 
 寂しいという感情さえ知らなかった梨沙子。 
 その彼女は雅と巡りあう度に人間らしくなっていった。 
 百年に一度。“みや”は必ず現れて、必ず梨沙子を獲っていく。 
 必ず梨沙子という魔を人間に近づけていく。 
 それは皮肉にも梨沙子と桃子の間も近づけて、また遠くした。 
 桃子にはそんな感じがしてならなかった。 
  
   
- 187 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:13
 
-   
 ―人間との恋なんてさっさと諦めれば良いのに。 
  
 あの時珍しいと思った黒い布、マントを纏って空を見上げる。 
 そこには昔を思い出すには丁度言い月が浮かんでいた。 
 あれから既に400年弱が経っている。 
 その内“みや”が現れたのはたった二回。いや、雅を入れれば三回。 
 なのに梨沙子は桃子と過ごした日々より雅と過ごした日々の事をはっきりと覚えているのだろう。 
 寂しくて、悲しい事実。だが長さだけは負けない。 
 梨沙子と共に過ごした時間は確かに桃子の方が長いのだから。 
 だから桃子はその事実を受け入れられるのだ。 
  
   
- 188 名前:―再見― 投稿日:2008/04/27(日) 10:13
 
-   
 「まったく、親離れもいい加減にしないとねぇ。」 
  
 半魔の桃子を大人になるまで守ってくれたのは梨沙子だった。 
 そして今も桃子の信頼と信用と信実は梨沙子にある。 
 案外抜けている所があると分かった梨沙子を逆に心配するようにもなった。 
 そう、梨沙子には火急の問題が差し迫っているのだ。 
 梨沙子も分かっている筈だが梨沙子は常に雅が中心である。 
 したがって桃子が今、誰よりも梨沙子の危険をわかっていることになる。 
  
 「もう、時間がないよ。梨沙子。」 
  
 ポツリと呟いた言葉は親しんだ闇に消えていった。 
  
  
  
  
 ―再見―終 
  
  
   
- 189 名前:CPヲタ 投稿日:2008/04/27(日) 10:14
 
-   
  
  
  
   
- 190 名前:CPヲタ 投稿日:2008/04/27(日) 10:16
 
-   
  
 短いですが、今日はこんなもんで勘弁してくださいw 
 自分りーちゃんヲタなのに。 
 小説で使うと長くなるのは桃子ですw 
 そして相変わらずりしゃこにベタぼれ桃子が好きなCPヲタです。 
  
 では今度こそ、週一を守れるようにと思いながら。 
 また妄想が溜まる日に、お会いしましょうw 
  
  
  
  
   
- 191 名前:CPヲタ 投稿日:2008/04/27(日) 10:16
 
-   
  
  
  
   
- 192 名前:名無飼育さん  投稿日:2008/04/27(日) 14:30
 
-  更新お疲れ様です♪ 
 前回の話で気になってたとこが繋がりました。 
 これからの展開、楽しみにしてます。  
- 193 名前:YOU 投稿日:2008/04/27(日) 15:08
 
-  更新お疲れ様ですッ!!! 
 桃子と梨沙子の出会いが 
 こんな理由だったとは… 
 このお話好きなので次回も楽しみにしていますッ☆  
- 194 名前:麻人 投稿日:2008/05/03(土) 19:26
 
-  更新お疲れ様です! 
 奥が深そうなお話ですね! 
 楽しみにしてますw  
- 195 名前:CPヲタ 投稿日:2008/05/13(火) 07:35
 
-   
  
 久しぶりで申し訳ないorz 
 忙しさに死んでました…… 
  
  
 192<<名無飼育さん 
 あっとうございます! 
 色々と分かりにくい所もあるかもしれませんが追々分かるはず、はず……? 
 珍しく伏線とか考えてます(バク 
 期待に応えられるように頑張りますっ。  
   
 193<<YOUさん 
 遅くなってすみません。 
 やっぱりしゃももも好きなもんでw 
 ちょこっと力入れてみました。 
 これからも楽しめるように頑張ります! 
   
 194<<麻人さん 
 お待たせいたしました! 
 奥が深くなってくれるといいのですが(トオイメ 
 自分の萌え消化なんでw 
 気に入ってくださったら幸いです。 
  
  
 ほんと、間が空いて申し訳なかったっす。 
 では朝で時間がないので今日の更新に行きますw 
   
  
   
- 196 名前:CPヲタ 投稿日:2008/05/13(火) 07:35
 
-   
  
  
  
   
- 197 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:36
 
-   
  
  
 春を迎えるのは初めてじゃない。 
 桜を見るのも初めてじゃない。 
 違うのはただ貴方がいるというそれだけ。 
 だけどそれはきっと初めての春。 
 貴女といるハジメテノハル。 
  
  
  
   
- 198 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:36
 
-   
  
  
  
 ―ハジメテノハル― 
  
  
  
   
- 199 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:36
 
-   
 ふわりと風が吹き雅の鼻の頭を掠める。 
 窓から吹き込む風は優しく。 
 まるで雅たち新入生を歓迎しているようだった。 
  
 「へー、じゃあ、梨沙子はこの春この町に来たんだ?」 
 「うん、そうだよ。みやとは近くの公園で会ったの。」 
 「だからみやのこと知ってたのかぁ、あれって思ったんだよね。」 
 「んふふー。」 
  
 いいでしょと自慢しているかのように笑う梨沙子。 
 雅の席のすぐ近くでその会話は行われていた。 
 ついこの間出会ったばかりの少女、自分を永久種だと名乗る梨沙子。 
 それに自分の幼馴染で、小中高全てが同じになった千奈美に茉麻。 
 その三人が何故か楽しそうに話している。 
 雅はこんな状況になったのがいまいち信じられなくて。 
 現実逃避のように梨沙子から目を逸らしていた。 
  
   
- 200 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:37
 
-   
 「ねー、みや、そうだよね?」 
  
 しかし梨沙子本人からそう直接尋ねられてしまっては。 
 逸らすことなどできないと雅は思う。 
 実際梨沙子が言うことに嘘はなかったし、否定する必要もなかった。 
  
 「うん……お花見してたら、会ってね。」 
 「一人で?」 
 「そ、一人で。」 
  
 不思議そうな顔をする千奈美に雅は苦笑する。 
 千奈美だって知っているはずだ。 
 春、という季節の雅がどことなくブルーなのを。 
 それを察したのかもう一人の幼馴染、茉麻がちょんと千奈美を肘で突く。 
  
 「ほら、みやは、この時期……。」 
  
 小声でボソリと呟かれた声は、しかしはっきりと雅の耳に聞こえた。 
 茉麻の言葉に千奈美は一瞬考えた素振りを見せて、すぐにああと納得した。 
 ちらりと雅を見て、千奈美は小さく肩をすくめる。 
  
   
- 201 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:38
 
-   
 「気分を紛らわせたくてブラブラしてたわけか。」 
 「まぁ、そういうこと。」 
  
 そう言ってから雅は恥ずかしくなってきて再びそっぽを向き。 
 ひらひらとこの話はいいと言う風に手を振る。 
 梨沙子は何の話か分からないのだろう。 
 きょとんとした顔で雅たちのやり取りを見ていた。 
  
 「で、どうだった?みやは?心ここにあらずって感じっしょ。」 
  
 春の調子の悪い雅を知っている茉麻は半笑いで梨沙子を見る。 
 そんな事ないと言いたくて。 
 しかし言うことはできなくて。 
 雅は止めることもできずに、ただ見ているしか出来ない。 
  
   
- 202 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:39
 
-   
 ―聞かなくても、別にいいじゃん。そんなこと。 
  
 雅だって春の自分がいかに常と違うか知っている。 
 できるだけ何時ものように、何時ものようにと願っても。 
 何か物足りない気分に陥る確立はどうしてもこの季節が断トツで。 
 それはやはり表面に出てしまうのだ。 
 顔に出るとよく言われる雅だから尚更。 
  
 「ううん。」 
  
 ―……へ? 
  
 思わず逸らしていた顔を梨沙子のほうに向ける。 
 するとそこには穏やかな目をした梨沙子がいた。 
 それはまるで桜のような笑顔。 
  
   
- 203 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:39
 
-   
 「すっごく、優しかったよ。」 
  
 にっこり、にこにこ。 
 擬音にしてみればそんな感じ。 
 そんな返事は予想していなかった。 
 これまでは雅の第一印象は?と聞けば大概“怖い”とか“カッコいい”とか。 
 優しいなど言われると思わなくて、雅はぽかんと動きを止めてしまった。 
 勿論、それは茉麻や千奈美も同じで、沈黙が場を覆う。 
  
 時間の経過と共に梨沙子の言葉が場に染み込んだ。 
 意味を理解した雅は、梨沙子の満面の笑みに頬を赤く染める。 
 正確には雅と梨沙子は初対面ではない。 
 いや、梨沙子と“みや”にとっては初対面ではない。 
 だけどそれでも、梨沙子が言ってくれた“優しい”の一言はとても嬉しかった。 
 もしそれが雅以外の“みや”を指していたとしても、雅は嬉しいに違いない。 
  
   
- 204 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:40
 
-   
 「へぇ……それは、珍しいね。」 
 「ほんとほんと、人見知りのみやがねぇー。」 
  
 じーっと凝視されて。 
 その上雅は自分の顔が赤いことを自覚していて。 
 なのに梨沙子は変わらない表情で雅を見て。 
 それら色々な要素が重なって、雅は更に赤面した。 
  
 「?みや、大丈夫?顔、赤いよ。」 
  
 千奈美と茉麻はにやにやした視線のままだった。 
 梨沙子は、梨沙子だけは笑顔を心配そうな表情に移して。 
 そっと雅の頬に手を伸ばそうとした。 
  
 ―ばっ、馬鹿。 
  
 心の中でぽんとその言葉が飛び出す。 
 だが目の前の少女にその言葉を発することは何故かできなくて。 
 雅はただ身を引くのみでその手をかわした。 
  
   
- 205 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:40
 
-   
 「だ、大丈夫だから!なんでもないし。」 
  
 言い訳のように口早にそう言って、雅は梨沙子を押し止める。 
 梨沙子が雅の様子に怪訝な顔をして。 
 更に尋ねようと口を開こうとする。 
  
 ―まずいなぁ。 
  
 雅は分からないほど微かに渋い顔を作る。 
 きっと梨沙子の口から出てくるのは「何が?」とか「大丈夫じゃないじゃん。」とか。 
 雅のことを案じるものに違いない。 
 そう自惚れられる位には雅は梨沙子と一緒にいた。 
 もしくは出会ってからの短時間で理解できるほど梨沙子が雅をそれだけ好いてくれた。 
 下手すれば口に出しちゃ不味いことまで言いそうな勢いだった。 
  
 雅がどう止めようかと対策を考えている内にも時間は過ぎて。 
 いい考えが浮かぶ前に梨沙子がとうとう声を出そうとする。 
 あーと心の中で頭を抱えて。 
 しかし運は雅を見捨てなかった。 
  
   
- 206 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:41
 
-   
 ―キーンコーンカーンコーン…… 
  
 タイミングよくチャイムが鳴って、梨沙子は言葉を飲み込んだ。 
 千奈美も茉麻も席について。 
 二人が席に散った後も何か言いたそうにしていた梨沙子も席に向かう。 
 雅はその後姿を見て、ふーと小さく息を吐いた。 
 梨沙子たちのように自分の席に着こうとする人影が疎らに雅の周囲を動く。 
 その人影が見えていないかのように雅は窓へと視線を動かす。 
  
 梨沙子と出会ってからまだ一週間と経っていない。 
 しかし梨沙子がいかに“みや”という人物を大切にしているかは分かっているつもりだ。 
 梨沙子は本当に雅に懐いてきて、甘えてきて。 
 雅なら決して口にできないような直接的な言葉で好意を伝えて。 
 こそばゆいそれらの想い。 
 恥ずかしくて、照れくさくて、だけど心地よい。 
  
   
- 207 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:41
 
-   
 ―梨沙子が、梨沙子を好きになった“みや”ってどんな人だったんだろ。 
  
 ぼんやりと。 
 ただぼんやりと青い空を見つめて、雅は思考を潜らす。 
 梨沙子が好きでいてくれるのは雅ではない。 
 雅なのだが、それは雅ではなく。 
 雅が“みや”という存在だからなのだ。 
 千年経とうと未だに想い焦がれ続けられている存在。 
 梨沙子にそこまで強い感情を植えつけた張本人。 
  
 ―……会ってみたかったなぁ。 
  
 梨沙子の言う“みや”。 
 雅にとっての自分で、自分でない人物。 
 この頃雅の心の中に常にあるその願望。 
 それを知りたい理由など分からない。 
 雅は知りたいだけなのだから、そんなこと考える必要がなかった。 
  
   
- 208 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:42
 
-   
 ―トン 
  
 軽い音がして雅は机の上に何かが投げられたのに気づく。 
 それは何てことはない小さな紙片。 
 中心に消しゴムを置くことで投げることが可能になった手紙。 
 授業中に良く回ってくる類のそれに、雅は小さく首を傾げる。 
 回して来る人物に心当たりがなかったからだ。 
 雅は微かに首を後ろに向け、投げられた方向を確認する。 
  
 ふわりと雅の側から入った風が教室を吹きぬけた。 
 とても優しくて、甘い風だ。 
 雅の中でカチリとピースが嵌る音が聞こえた気がした。 
  
 ―……梨沙子? 
  
 目が合って、小さく微笑まれる。 
 雅はそれにほんの僅か笑い返すとすぐに前を向く。 
 いや、前を向かなければならなかった。 
 なぜならたったの一瞬で雅の顔は真っ赤に染まっていたのだから。 
 胸の奥にぽとんと落ちてきた分からない感情。 
 理解できないそれは、しかしそれは快い気持ちだった。 
  
   
- 209 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:43
 
-   
 ―……あ、れ? 
  
 机に肘をつき、額に手をやる。 
 フラッシュバック。 
 何かが雅の中から出てこようとしていた。 
  
 『みや。』 
 『みーや。』 
 『みやっ!』 
  
 微笑む梨沙子が、甘ったるい声で自分を呼ぶ梨沙子が。 
 そして切羽詰った顔で自分を見つめる梨沙子が。 
 雅の目に見えた気がした。 
 まるで絵画のように自分の目の前を通る映像。 
 そのどれもが雅を好いていた。 
 どの梨沙子も雅を好きでいてくれるのが分かった。 
  
   
- 210 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:43
 
-   
 ―梨沙子が好き。 
  
 と、同時に雅の中で湧き上がる気持ち。 
 自分の意思を無視するかのように、そう発する心。 
 雅は自分が梨沙子を好きか分からなかった。 
 出会って間もないのだから当然である。 
 だが梨沙子に対する警戒心が零に等しかったのは事実で。 
 また梨沙子を好きなのも事実だった。 
 好きと言っても今の自分の感情は友情の好きだと何処か冷静な部分の雅が考える。 
  
 だからこの感情は正しく、雅のものではない。 
  
 “みや”のものであって雅のものではない。 
 過去のものであって今のものではない。 
 例え自分の中にそうなりそうな感情があったとしても。 
 今、雅は、梨沙子に対してそういう感情を抱いていないはずである。 
  
   
- 211 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:44
 
-   
 ―好きなのに、好きじゃない。 
  
 ふと今までの“みや”もこんな疑問を抱いたりしたのだろうかと思う。 
 自分の感情のようで、自分のものではないそれ。 
 戸惑って、考えて、悩みぬいて。 
 いつの時代の“みや”も答えを出してきたのだろうか。 
 雅には未だその対処法が分からない。 
 そしてそんな現実離れしたことを普通に考えてしまう自分に苦笑した。 
 短い間であるのに自分は随分と梨沙子から影響を受けているようだ。 
  
 ―でも……。 
  
 たった一つだけ分かったことがある。 
 雅の中にあったセンチメンタル。 
 何が足りないのか分からない不足感。 
 隣にいる誰かに笑いかけようとして、そこにいない誰かに寂しさを感じる気持ち。 
 雅を春の間暗い気分にさせるそれは。 
 確かに、梨沙子が来てから薄まっていた。 
  
   
- 212 名前:―ハジメテノハル― 投稿日:2008/05/13(火) 07:44
 
-   
  
 ―そういう、こと……なのかな。 
  
  
 梨沙子を好きかなんて分からない。 
 けど今が梨沙子と向かえる初めての季節なのに違いはない。 
 だから雅はただこの時間を大切にしようと、それだけを思ったのだ。 
  
  
  
  
 ―ハジメテノハル―終 
  
  
   
- 213 名前:CPヲタ 投稿日:2008/05/13(火) 07:45
 
-   
  
  
  
   
- 214 名前:CPヲタ 投稿日:2008/05/13(火) 07:48
 
-   
  
 コピペしてて思ったより長くて驚いたw 
 ていうかうちのスレはほんと、梨沙子が出てこなくてスマソ 
 りーちゃん中心、とか銘打ってるのにほんとりしゃこ語りの話ないよね(アハ 
  
 ってことで今回は雅ちゃんでした。 
 いつもよりちょっと乙女チックな雅ちゃんを楽しんでくださると嬉しいですw 
 うん、自分はきっと悩めるびちゃんが好きなんだなw 
  
 では急いだ性で支離滅裂なCPヲタっした。 
 また妄想が溜まる日に。 
  
  
   
- 215 名前:CPヲタ 投稿日:2008/05/13(火) 07:48
 
-   
  
  
  
   
- 216 名前:YOU 投稿日:2008/05/13(火) 21:55
 
-  大量更新お疲れ様ですッ!!! 
 自分もりーちゃんのことで悩む雅が好きなのでテンションがあがってしまいましたw  
- 217 名前:CPヲタ 投稿日:2008/05/26(月) 00:23
 
-   
  
 この頃更新がのろくてほんと、すんませんorz 
 ちょっとりーちゃん不足で死にそうな日々を過ごしとりますw 
  
 ……あー、りーちゃん可愛いー(病 
  
  
 216<<YOUさん  
 いえいえ、全然大量じゃなくてすみません。 
 りーちゃんのことで悩む雅ちゃんは珍しいっすよねー。 
 その分楽しいんですけどw 
 亀なペースのスレですが見守ってやってください。 
  
  
 では今日の更新ー。 
 アンリアル、りしゃみや、暗めっす。 
  
  
   
   
- 218 名前:CPヲタ 投稿日:2008/05/26(月) 00:23
 
-   
  
  
  
   
- 219 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:23
 
-   
  
  
 ありがとう。 
 あたしが伝えたい言葉。 
 みやがいたから、今のあたしがいる。 
 ありがとう。 
 教えてくれて、ありがとう。 
 ……愛してくれて、ありがとう。 
  
  
  
   
- 220 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:24
 
-   
  
  
  
 ―喰らう世界― 
  
  
  
   
- 221 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:24
 
-   
 梨沙子が“みや”と始めて出会ったのは今から約千年前。 
 歴史の教科書で言うならば平安時代中期。 
 梨沙子が人としての名前も、倫理も、常識も、何も持っていなかった頃。 
 人は餌でしかなく、人を食らうことになんの疑問も抱いてなかった時。 
 梨沙子は、初めて“みや”と出会ったのだ。 
  
 「もう……失敗したなぁ。」 
  
 永遠に続くかと思えるような竹林。 
 一面の青緑の中を一人歩いていた。 
 もぎ取られた左腕は出血こそ止まっているが再生する様子はない。 
 ここが封印指定の地域だからだ。 
 神聖な結界が永久種としての力を出せないようにしている。 
 ちっと小さく舌打ちをして、ただ前のみを見て歩く。 
 空を飛ぶにも、風のように走るにも血が足りなかった。 
  
   
- 222 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:24
 
-   
 ―陰陽師だっけか。 
  
 この傷をつけた人間。 
 陰陽師と名乗り、自分を懲罰しようとした人間。 
 返り討ちにしてやったがその代償に腕一本。 
 生まれてから幾百年経ったかなど疾うに忘れてしまった。 
 しかしここまで人間にやられたのは間違いなく初めてだろう。 
 傷が疼く、疼く、疼く。 
 じわじわと熱を持っているその箇所は。 
 今までどんな傷もすぐに再生していた自分にとってこれまた始めての感覚だ。 
  
 青々と茂る葉に覆われた世界は突然に終わりを迎える。 
 竹は元々群生するものだからそれも仕方ないのかもしれない。 
 変わりに目の前に現れたのは大きくこそないが荘厳な雰囲気を持った建物。 
 急な勾配の屋根には太い柱が何本も組まれることで土台がつくられ。 
 その上をこの国でよく使われる木の板が張り巡らされている。 
 その姿に引き込まれるように足を踏み出した。 
  
   
- 223 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:25
 
-   
 ―ん……っ。 
  
 ぱきりと小枝を折ったような音。 
 存在しないはずのその音が確かに聞こえた気がした。 
 思わず眉を顰める。 
 自分のような存在が一番踏み入れてはいけない場所に入ってしまったと知った。 
  
 「ここ、神域?いや、この国じゃ神社って言うんだっけか。」 
  
 体にかかる負荷。 
 苦しくなる呼吸、激しくなる動悸。 
 それらは全てこの場所に相応しくない自分を排除しようとしている証。 
 封印指定された地域の中にある神域。 
 何かとてつもなくきな臭く感じた。 
  
 重い体を無理にでも動かして、社に近づく。 
 出ようと思えば出られた。 
 こんな、能力がほぼ人間化してしまう場所なんて去ってしまえばいい。 
 そういう思いがありながらもそうすることはできなくて。 
 引き込まれるようにゆっくりとした歩調で近づく。 
  
   
- 224 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:25
 
-   
 ―日が暮れてて、本当に良かった。 
  
 一つだけ幸いなことに天敵といえる太陽だけは姿を消していた。 
 別にどこかの眷族みたいに太陽で灰になってしまうわけではない。 
 ただ夜を生きる身としてはどうしても昼の間に能力が低下してしまうことは避けられない。 
 永久種は多くの“化け物”がそうであるように。 
 夜、つまりは月を属性としているのだから。 
 光よりは闇。昼よりは夜。 
 そうなってしまうのも自然な話なのだ。 
  
 「……誰?」 
  
 かたんと小さく木戸が動く音がして、中からそう年の変わらない少女が顔を出した。 
 そろりそろりと足を進めていたためまさか気づかれるとは思わなくて。 
 驚きに刹那動きを止める。 
  
   
- 225 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:25
 
-   
 「怪我してる。」 
  
 心配そうにそう言って手を伸ばしてくる少女。 
 普通だったらその手が触れる前に身を引いていただろう。 
 しかしこの時は何故かそうできなくて、そのまま固まっていた。 
 その手が触れるかという所で、びりびりと雷撃を食らったかのような痺れが走る。 
 「んきゃっ。」と小さく声が漏れそのまま周囲が暗くなる。 
 ああ、このまま死ぬのかなと永久種である自分が初めてそう思った。 
  
   
- 226 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:26
 
-   
  
  
  
   
- 227 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:26
 
-   
 「あ、目覚めた?」 
  
 ゆっくりと視界に光が戻ってくる。 
 蝋燭だろうか。 
 ぼんやりとした赤い光がほの暗い部屋を照らしていた。 
 人間では辛うじて物をみるのがやっとの視界。 
 だが夜の種族であるものにとっては何もかも明瞭に見ることができる。 
 そう先ほど良く見る間も無かった少女の顔も。 
  
 「部屋に、いれてくれたの?」 
 「酷い怪我だったし、急に意識失うから。」 
  
 にこりと笑う顔は整っていると言って良かった。 
 長い黒髪は癖一つなく真っ直ぐに伸び。 
 何よりもその瞳は人間らしい生きる輝きに満ちていた。 
 その瞳の前で呆れた息を吐いて、言葉を吐き出す。 
  
   
- 228 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:27
 
-   
 「あたしが“ナニ”か分からないわけじゃないでしょ。」 
 「それは……。」 
  
 少女が眉を顰める。 
 こんな封印された神域の中にいて。 
 しかも幾ら弱っているとはいえ触れるだけで自分を気絶させるほどの人物。 
 それだけの力を持っている人間がただの人間だとは思えなかった。 
  
 「永久種、貴女の、人間の敵だよ?」 
  
 この国に来たのは戯れだが。 
 それでも少ないとは言えない人間を糧にしてきた。 
 永久種が人を喰らう方法は大まかに分けて三つある。 
  
   
- 229 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:27
 
-   
 一つはまさに文字の如く、人を食うこと。 
 一番残虐で、一番手っ取り早く力を補給することができる。 
 空腹になるまでの期間も長く効率的。 
 ただその分目に付きやすく攻撃もされやすい。 
 二つ目は魂だけを奪う方法。 
 吸血鬼や死神などと言われるのはこれに分類される。 
 吸血による場合は半分だけに止める者もいるため死なない場合もある。 
 三つ目は性交。 
 得られる力も少なく、人間と交わるのを嫌悪する者が多いため余り取られない方法。 
 しかし何かは物好きもいてこれしかしないものもいる。 
 その代わりそういう者は最も頻繁にエネルギー摂取をせねばならない。 
 人が死なない平和的な方法。 
  
 この少女がどこまで知っているかは知らない。 
 だがどれにしても襲われる可能性が低いわけではなく。 
 なぜ自分を中に入れたのか全くもって理解不能であった。 
  
   
- 230 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:27
 
-   
 「でも、なんか、あなたはそんな事しないと思ったから。」 
  
 そっと再び少女が手を頬に伸ばしてきて。 
 チリと少し痺れる感覚の後に柔らかい温度がそこに広がる。 
 今度は気絶しなかった。 
 構えたし、相手もなるだけ力を抑えてくれたのだろうと予想はできる。 
 「んっ。」と触れた瞬間に声を上げてしまったのは仕方のないことだ。 
  
 「そんな保障、どこにもないじゃん。」 
  
 真っ直ぐに、余りにも真っ直ぐに見てくるから。 
 視線を合わせることすらできなくなって、ぷいと顔を逸らす。 
 確かに他の同族に比べ人を殺める事は少なかった。 
 人を食うという事が余り好きではなかったし。 
 ましてや血を飲んだり襲ったりとそういうのも面倒で仕方なかった。 
 だから戦場や既に死にかけている人間の魂を食らうことが専らだったし、ほとんどだった。 
 だが人を殺すことに躊躇いがあったかと問われれば否。 
 食事をするのに戸惑う人間がいないように。 
 何も思わず人を殺めてきた。 
  
   
- 231 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:28
 
-   
 「あたしは人を殺してきたし、これからも殺す。だってそれがご飯だから。」 
  
 暗に自分は危険だから外に出せと訴える。 
 幸い空腹ではなかったし、能力を抑えられている状態だ。 
 今なら襲わずここを離れることができる。 
 ただ能力が抑えられているという事は体力も削られているわけで。 
 いつ目の前の少女を襲うかなど分からなかった。 
  
 「いいよ、それでも。」 
 「え?」 
  
 しょうがないなぁという風の苦笑い。 
 しかしそれでも少女が笑ってそう言った事に違いはない。 
 意外すぎる反応にぽかんと口を開けて固まってしまう。 
 そして次に出てきた言葉は更に自分を仰天させるものだった。 
  
   
- 232 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:28
 
-   
 「ここから出たいなら、出てもいい。けどこれだけは約束して。」 
 「何?」 
 「次、人を襲いたくなったら……その時はうちを食べて。」 
  
 本当にこの人間が理解できないと思った。 
 人とは死にたくない生き物だ。 
 死ぬことのない永久種からは永遠に理解できない感覚。 
 理解できないが知ってはいた。 
 彼らが短い期間しか生きられないからこそ輝くのだとも。 
  
 「なんで?」 
 「うち、どうせ長くないし。こんなとこに隔離させられるくらい。」 
  
 そういって弱く微笑む彼女は確かに生命力というものが希薄に見えた。 
 だがすぐ死ぬほど弱っているかといえばそうではない。 
 少なくともわざわざ人外の前に命を投げ出す必要はなかった。 
  
   
- 233 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:28
 
-   
 「わかった。そうする。……名前は?」 
  
 それなのに頷いたのは糧になってくれるという彼女を止める気にはならなかったから。 
 人間が自分から名乗り出てくれるのならありがたい。 
 死に掛けを見つけたり戦場に移動しなくて済む。 
 その手間が省けるだけで十分だった。 
 この時は少なくとも彼女はただの人間で、人間は餌でしかなかった。 
  
 「さぁ?名前なんて忘れちゃった、ただ皆からは“竹林の宮”って呼ばれてる。」 
 「じゃあ、“みや”でいいね。みや以外、人の名前知らないし。」 
  
 まさか、こんなに安易に決めた単語が千年以上も使い続けることになるなんて。 
 誰が予想できただろう。 
 “みや”と決めた本人さえも微塵もそんなこと思っていなかった。 
 目の前の少女を“みや”と認識して一人頷く。 
  
   
- 234 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:29
 
-   
 「あなたの名前は?」 
 「あたし?」 
  
 尋ねられてもきょとんとした顔をすることしかできなかった。 
 永久種として生きてきた中で名前を尋ねられることなんてなかったから。 
 自分という個があれば、それで良かったのだ。 
 永久種は魔力の質で個人を見分けることができた。 
 そこに名前という概念は必要ない。 
 三人以上集まることのない個人主義。 
 それが更に名前を不必要にしていた。 
  
 「そういえば、あたしも名前ないや。」 
  
 今その事実を知り、ぽつりと言葉を漏らす。 
 本気で今の今まで気づいていなかった。 
 それほどまでに名前というものはいらなかったのだ。 
 すると“みや”と決められた少女は小首をかしげて自分を見る。 
  
   
- 235 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:29
 
-   
 「名前、ないの?」 
 「うん、ない。」 
 「なら……うちが決めてもいい?」 
 「別にいいよ。」 
  
 自分の名前に興味がなかった。 
 だから適当に返事をしたに過ぎない。 
 だが余りにも嬉しそうにみやが笑うから、直視することができなくて。 
 視線を横に逸らす。 
  
 「りさこ、ってどう?」 
  
 恐る恐る、しかし期待に満ちたという複雑な目で自分を見る少女。 
 りさこと自分の中で一度繰り返してみて。 
 思ったよりしっくり来て、初めて名前がもらえることに喜んでいる自分に気づいた。 
  
   
- 236 名前:―喰らう世界― 投稿日:2008/05/26(月) 00:30
 
-   
 「りさこ?うん、いいけど。」 
 「音感だけで選んだけど、結構可愛い名前でしょ。」 
  
 胸を張って言うみやに笑いが漏れた。 
 音感だけで選んだという割りに自信満々な姿が面白かったのだ。 
 ここで一人の永久種は“りさこ”という名前を得た。 
 それがきっと全ての始まり。 
 人を喰らうだけだった永久種と、一人の人間の絆の始まりである。 
  
  
  
  
 ―喰らう世界―終 
  
  
  
   
- 237 名前:CPヲタ 投稿日:2008/05/26(月) 00:31
 
-   
  
  
  
   
- 238 名前:CPヲタ 投稿日:2008/05/26(月) 00:33
 
-   
  
 場面があっちこっち行ってますw 
 書きたい所しか書かない奴ですみません(ドーン 
  
 つーことで物語の始まりの始まりでしたー。 
  
  
  
  
 ……あり得ない位かっこいいりーちゃんが見たかったんです(ボソ 
  
 そんな感じで、また妄想が溜まる日に。 
 CPヲタっした。 
  
  
   
- 239 名前:CPヲタ 投稿日:2008/05/26(月) 00:33
 
-   
  
  
  
   
- 240 名前:麻人 投稿日:2008/05/26(月) 13:06
 
-  更新お疲れさまですっ! 
 この時はまだクールなりーちゃんなんですねw今はデレデレなのにw今後の展開に期待してます!  
- 241 名前:YOU 投稿日:2008/05/26(月) 20:08
 
-  やばいくらいカッコイイりーちゃんかなり良いですね〜w 
 雅とりーちゃんが今後どうなっていくのか楽しみに待ってますッ!!!  
- 242 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/01(日) 22:57
 
-  カッコいいりーちゃんいいですねぇ 
 みやりしゃもものこれから気になります! 
  
 なんか、ここに来る度その世界に癒される気がすごくしますわ 
 これからも頑張ってください!  
- 243 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/02(月) 17:19
 
-   
  
  
  
   
- 244 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/02(月) 17:29
 
-   
  
 いやー、一週間ってあっという間ですなw 
 てことでちょっと忘れてた今回の更新です(エ 
  
  
 240<<麻人さん 
 どもっ、感想あっとうございます。 
 ええ、クールなりしゃこです。 
 本当はアフォの子ですが、たまにはこういうのもいいかとw 
 自分の中でもデレデレと繋がってないんでどうしよーかと思ってます(バク  
  
 241<<YOUさん  
 良いっすかぁー?w 
 そう言ってもらえると安心します(アハ 
 雅ちゃんとりーちゃん。 
 種族の違う二人ですがどうなるんでしょうねー(トオイメ 
 とりあえず、頑張ります!! 
  
 242<<名無飼育さん 
 たまーに見えるカッコよさが源泉ですw 
 ももちは影薄ーいですが、きっともうすぐ出てくることでしょう。 
 だって最初はりしゃももだけで一話できると思ってなかったしw 
 癒せてたら、とても嬉しいっす。 
 では感想ありがとうございました!!  
  
  
 思ってたより評判が良くて吃驚デスw 
 ではやっとの更新。 
 ほんと遅くてすんませんorz 
  
  
   
- 245 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/02(月) 17:30
 
-   
  
 りしゃみや。 
 季節はずれw 
  
  
   
- 246 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/02(月) 17:30
 
-   
  
  
  
   
- 247 名前:―散る桜― 投稿日:2008/06/02(月) 17:31
 
-   
  
  
 散る散る桜、鮮やかに。潔く。 
 未練など微塵も感じさせないその姿。 
 それは梨沙子から見て、酷く羨ましいものだったに違いない。 
  
  
  
   
- 248 名前:―散る桜― 投稿日:2008/06/02(月) 17:31
 
-   
  
  
  
 ―散る桜― 
  
  
  
   
- 249 名前:―散る桜― 投稿日:2008/06/02(月) 17:32
 
-   
 「梨沙子、どうしたの?」 
 「あー、みや。うん……桜、散っちゃたなぁって。」 
  
 近くの神社。 
 そこには立派な桜の大木がある。 
 魔と言う存在であるはずの梨沙子は、それでも何故かその場所が好きであった。 
 今までも何度かこの場所で見かけたことがあったし。 
 ふと居なくなったと思い桃子に聞いてみると「神社。」と愛想の無い声で答えられたこともあった。 
  
 梨沙子はぼんやりと石段に座り込み上を見上げている。 
 それはとても絵になっていた。 
 だがその様子は少し寂しそうで。 
 雅は声をかけずにいられなかったのだ。 
  
 「ああ、そうだね。」 
  
 梨沙子の声に従い雅も桜を仰ぐ。 
 蛙の声も聞こえてくる今の時期、それは既に完全な葉桜へと変貌していた。 
 青々と茂る葉は大きな影を投げかけている。 
 雅も梨沙子もその日陰の中に宿されていた。 
  
   
- 250 名前:―散る桜― 投稿日:2008/06/02(月) 17:32
 
-   
 ―……暑い。 
  
 じわりと背に汗が滲む。 
 葉の間から零れ落ちる太陽光はそれでも気温を上昇させる。 
 隣で汗一つかいていない梨沙子が少し恨めしくなった。 
 梨沙子はズルイ。 
 この頃たびたび雅はそう思う。 
 どんなに恥ずかしいことをされても、面倒なことがあっても。 
 その陶磁のような白い顔でにこりと微笑まれると許してしまう。 
 今だってこの暑い中雅は外になんか出たくなかった。 
 なのに、いつもならいる梨沙子がいないのが心配で。 
 帰ってくると、何の心配も要らないとわかっているのに我慢できなくて。 
 こうやって探しに来てしまった。 
  
 ―うちって、ほんと、梨沙子に甘い。 
  
 理由なんて知らない。 
 思考なんて分からない。 
 ただ梨沙子に甘い。 
 その事実だけが、最初から雅には感じ取れていた。 
  
   
- 251 名前:―散る桜― 投稿日:2008/06/02(月) 17:32
 
-   
 「まだ帰んないの?」 
  
 梨沙子の家など雅は知らない。 
 学校に転入できるくらいなのだから、一応の体面は保っているのだろう。 
 だがその場所も、住所も雅は知らなかった。 
 知る必要がなかった。 
 行かなくても梨沙子は雅の側にいつもいたから。 
  
 「うん、もう少しだけ。ここにいたい。」 
 「……そっか。」 
  
 梨沙子が僅かに目を細める。 
 遠くを眺めるその視線を、雅は好きではない。 
 切なく昔を見つめる瞳が遠く感じて。 
 泡のように消えて行ってしまいそうだから。 
  
   
- 252 名前:―散る桜― 投稿日:2008/06/02(月) 17:33
 
-   
 自分で想像しておきながらその想像が嫌過ぎて。 
 雅はそっと梨沙子の隣に座る。 
 するとこてんと甘えるように梨沙子が雅の肩に頭を乗せてくる。 
 気持ちを浮上させるためのその仕草に、きっと梨沙子よりも雅が安堵していた。 
 まだ梨沙子はここにいる。 
  
 「昔ね、桜の木の下でした約束があるの。」 
 「うん。」 
  
 さっきよりも近い距離。 
 耳元から響く低めの甘い声。 
 そして微かに重なった手とひんやりとした石段。 
 全てが雅を優しく包んでいた。 
  
   
- 253 名前:―散る桜― 投稿日:2008/06/02(月) 17:33
 
-   
 「大事な、大事な約束。何度もチャンスはあったのに、まだ果たせてない約束。」 
  
 大切そうに語る声。 
 それを聞きながら、きっと相手は“みや”なのだろうと雅は思う。 
 梨沙子がそんなに愛しそうに言うのは“みや”だけであったから。 
 雅はその横顔に何も言えなくて。 
 言葉を発しただけで何かが崩れてしまいそうで。 
 できたことは重ねていた手を握ることだけだった。 
 その感触に梨沙子は雅を見て、くすりと自嘲気味に笑う。 
  
 「……未練ありすぎだよねー、もう何年経ってるかもあやふやなのに。」 
 「そんなこと、ない。」 
  
 強く、否定する。 
 約束が果たせないことを未練とするなら、約束の意味が無くなる。 
 約束は果たすためにするのだから。 
 だから約束を守ろうといつの約束か分からなくなっても頑張っている梨沙子は凄いと雅は思う。 
 すると梨沙子は一瞬びっくりした顔をして。 
 それからくしゃくしゃな笑顔を見せてくれた。 
 泣き笑いのような、とにかく切なさが多分に入った笑みを。 
  
   
- 254 名前:―散る桜― 投稿日:2008/06/02(月) 17:34
 
-   
 「みやはやっぱり、時々“みや”過ぎるよ。」 
  
 似ているけど違う人。 
 同じ人間と言って良い程なのに、それでも雅と“みや”は異なる人間である。 
 それは梨沙子にしてみればとても辛いことなのかもしれない。 
 雅はその泣きそうな顔を見ながらそう思った。 
  
 好きな人がいなくなるのを只管に見守って。 
 再び会えた時にはその人は違う人になっている。 
 自分は知っているのに、相手は知らない。 
 それは酷く辛いことだと幼い雅でも想像がつく。 
 だが雅が“みやで”あるのもまた事実で、雅は苦く笑いながら答える。 
  
   
- 255 名前:―散る桜― 投稿日:2008/06/02(月) 17:34
 
-   
 「だって、うちもみやだから。」 
  
 夏焼雅は“みや”ではない。 
 しかし夏焼雅は“みや”である。 
 矛盾に満ちた言葉はけれど何より的確に雅の存在を表していた。 
 その言葉に梨沙子はぷくりと頬を膨らませる。 
 拗ねたようなそんな顔。 
 それは先ほどまでの表情と違いかなり子供っぽかった。 
  
 「あたしはみやはみやとして好きなの。みやはみやだけど“みや”じゃないでしょ。」 
 「梨沙子の言うこと、時々難しいよ。」 
  
 言ってから先ほどの梨沙子の口調と重なる所があるのに気づく。 
 変な相似に、可笑しくてくすりと笑みが漏れてしまった。 
 雅が笑ったことに気づいたのか、梨沙子はムスッとした表情を更に不機嫌そうに変えて。 
 きゅっと雅の制服の袖を握った。 
  
   
- 256 名前:―散る桜― 投稿日:2008/06/02(月) 17:34
 
-   
 「あたしはただ、夏焼雅って人に恋してるだけだもん。 
 似てるとか似てないとかそういう問題じゃないの。 
 あたしは“みや”に会う度毎にみやに恋してるんだもん。」 
  
 袖を握ったまま、梨沙子が眉を寄せて雅を見上げる。 
 真っ直ぐに雅を見る目は酷く純粋で。 
 梨沙子の言ったことに嘘など一つも含まれていないことを知らしめる。 
 どくんと大きく心臓が鳴った気がした。 
  
 「それ、って?」 
  
 急な言葉に脳みそが着いて行けなかった。 
 だって話が違う。そう雅は心の中で呟く。 
 梨沙子が雅を好きなのは雅が“みや”だからで。 
 雅自身のことを好きだ何て少しも考えていなかったのだ。 
  
   
- 257 名前:―散る桜― 投稿日:2008/06/02(月) 17:35
 
-   
 ―梨沙子は“みや”だから好きなわけじゃない? 
  
 それはきっと何よりも雅と梨沙子の関係を大きく変える思考に違いない。 
 梨沙子は穏やかに和やかに頬を緩めて。 
 静かに口を開いた。 
  
 「……いつもあたしの好きな人が“みや”ってだけだよ。」 
  
 それは初めての告白。 
 夏焼雅が、夏焼雅として梨沙子からされた初めてのもの。 
 その真っ直ぐすぎる物言いに雅の顔が赤く染まる。 
 梨沙子の言葉は素直すぎて時々痛い。 
 どうしたらいいか分からなくなって。 
 思わず固まってしまう。 
 そして直接的で、直線的で怖い。 
 そうする事ができない恥ずかしがり屋の雅にとって慣れないのだ。 
 一直線に勢い良く放たれたボールを往なす方法を雅は知らない。 
  
   
- 258 名前:―散る桜― 投稿日:2008/06/02(月) 17:35
 
-   
 知らず雅は胸を押さえていた。 
 梨沙子が言葉をくれるたびに、ちくんと疼くその箇所は。 
 きっと今まで雅の知らなかったものを表しているに違いなかった。 
  
 「あ、う……ありがとう。」 
  
 顔が熱い。恥ずかしい。どうしよう。 
 その三つが雅の中でぐるぐると回る。 
 そんな混乱状態の中返せたのは一言だけだった。 
 拙い一言。 
 味も素っ気も無いそれ。 
 だが梨沙子にはそれだけで十分だったらしく。 
  
 「うん。」 
  
 静かに、静かに梨沙子は微笑んで。 
 嬉しそうに、切なそうにそう言ったのだ。 
 それは余りに普通の少女と変わらない、普通の表情だった。 
 可笑しい位普通だったのだ。 
  
   
- 259 名前:―散る桜― 投稿日:2008/06/02(月) 17:37
 
-   
 ざぁっと神社の中を風が吹き抜けた。 
 青々と茂った葉がざわざわと音を立てているのが雅の耳には聞こえた。 
 日が暮れ始めていた。 
 満月に近い黄色い月が空にぼんやりと浮かび上がる。 
 吹いた風に体をぶるりと震わせ、雅は今更ながらの肌寒さを感じる。 
 温かくなったといっても夜になればまだ寒い。 
  
 「梨沙子、帰ろ?」 
 「うん、行こっか。」 
  
 今度はあっさりと立ち上がる。 
 そのまま雅の方に身を寄せてきてするりと自然に手を握られた。 
 少し恥ずかしかったがもう何も言わない。 
 一緒に帰るとき、梨沙子が雅の手を握ることは最早決定事項だった。 
 それに手を繋いでいた方が温かいから、と雅は言い訳のように考える。 
 梨沙子は雅が何も言わないことに、満足そうな笑顔を漏らして。 
 本人達にしか分からない程小さくしかし確りと身を寄せた。 
 「歩きづらい!」と照れ隠しの雅の声が響く神社の中で、葉桜だけが雅たちを見ていた。 
  
  
  
  
 ―散る桜―終 
  
  
  
   
- 260 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/02(月) 17:37
 
-   
  
  
  
   
- 261 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/02(月) 17:39
 
-   
  
 うん、ほんと、どうやればあのりさこがこのりーちゃんになるんだろw 
 書いといて何ですけど自分も不思議です。 
  
  
  
 ・・・・ま、どっちにしろ萌える自分が致命的な感じですけどw 
 では、また妄想が溜まる日に。 
 CPヲタっした。 
   
- 262 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/02(月) 17:40
 
-   
  
  
  
   
- 263 名前:YOU 投稿日:2008/06/02(月) 20:58
 
-  りーちゃんの告白に照れる雅ちゃん…良いですね〜w 
 普段のりーちゃんと違うんですが自分もかなり萌えさしていただきやした!!!  
- 264 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/10(火) 23:04
 
-   
  
  
  
   
- 265 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/10(火) 23:09
 
-   
  
 番組放送の途中ですが、ここで短編挟みますw 
 降って湧いた妄想なので悪しからず。 
 新鮮なうちにうぷしちゃいたいと思います(カンガエナシ 
  
  
 263<<YOUさん 
 照れる雅ちゃんにこそりしゃみやはあると(エ 
 普段はもっときゃっきゃしてますが、たまにはこういうのも良いっすよね? 
 自分と同じ萌えベクトルを持っている方が居ると思うと嬉しいですw 
 毎回感想ありがとうございます! 
  
   
 では今回の更新。 
 りしゃももみやで、ちょっと黒りしゃw 
   
  
   
- 266 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/10(火) 23:09
 
-   
  
  
  
   
- 267 名前:―No wonder― 投稿日:2008/06/10(火) 23:09
 
-   
  
  
 みやはあたしに欲しいもの全てをくれた。 
 甘えられる腕も。 
 優しい言葉も。 
 明るい笑顔も。 
 だけど一番欲しかったものだけはくれなかった。 
 だからあたしも、みやの一番欲しいものだけはあげない。 
 あげたくない、あげられない。 
  
  
   
- 268 名前:―No wonder― 投稿日:2008/06/10(火) 23:10
 
-   
  
  
  
 ―No wonder― 
  
  
  
   
- 269 名前:―No wonder― 投稿日:2008/06/10(火) 23:11
 
-   
 菅谷梨沙子は夏焼雅が好きである。 
 それは紛れも無い事実だ。 
 梨沙子は昔から何かと自分の世話を焼いてくれる雅が大好きだったし。 
 雅も何だかんだ言いながらも梨沙子の面倒を見てくれた。 
 「みやぁ。」と甘えた声で呼べば甘えさせてくれたし。 
 梨沙子が泣いている時はいつも側にいてくれた。 
 梨沙子はそんな雅が大好きだった。 
 中学生になった今でもその感情は変わらない。 
 だけど、だけど梨沙子は大きくなってたった一つだけ気づいてしまったことがある。 
 そしてその一つが、梨沙子の中でどうしようもないものだったのだ。 
  
 「りーちゃん、どうしたの。難しい顔してるよ。」 
 「もも。」 
  
 僅かばかり俯いて、暗い顔をしている梨沙子。 
 桃子はその年下のメンバーの顔を下から覗きこんだ。 
 元から梨沙子より自分の身長は低い。 
 そうすることは容易かった。 
  
   
- 270 名前:―No wonder― 投稿日:2008/06/10(火) 23:11
 
-   
 「なんでもない、ちょっと……考え事。」 
  
 桃子に梨沙子は顔を挙げ答える。 
 ちょっと苦笑いになってしまった自覚はあった。 
 表情を作ることは得意だ。 
 だが感情が顔に出やすい梨沙子はまた表情を隠すことが苦手である。 
 そして嗣永桃子という人物は人の顔を読むのがとても上手い。 
 「拙いなぁ。」と梨沙子が思ったのは自然の流れだった。 
  
 「嘘は許しませんー。」 
  
 拗ねたような顔で桃子がそう言う。 
 空気で膨れた頬は可愛かった。 
 その感情に梨沙子の表情も緩んで。 
 さっきよりはマシな顔になっていたのだろう。 
  
   
- 271 名前:―No wonder― 投稿日:2008/06/10(火) 23:11
 
-   
 「でさ、本当にどうしたの?」 
  
 そっと桃子が梨沙子の頬に手を伸ばす。 
 ゆるゆると動く手はきっちりと輪郭を辿って行った。 
 ふっと変わった表情は素の桃子のもの。 
 いつもよりちょっとだけ柔らかくて、困っていて、大人びたそれ。 
 それが見られるのは“恋人”である自分だけだと梨沙子は知っていた。 
  
 「大丈夫、大丈夫だから。ほんと、考え事してただけ。」 
  
 心配してくれるのは嬉しい。 
 この優しい恋人は紛れも無く梨沙子のことを好いてくれているから。 
 でも答えられない自分が心苦しい。 
  
 「そう?なら、いいんだけど。」 
  
 桃子は不満そうな顔をして、それでも引いてくれた。 
 こういう時、梨沙子は桃子が年上であることを思い出す。 
 空気が読めて人を気遣える大人に近い存在だと思い知らされる。 
 自分との差を理解させられる。 
  
   
- 272 名前:―No wonder― 投稿日:2008/06/10(火) 23:12
 
-   
 ―あたしって、子供。 
  
 はぁと心の中でため息をつく。 
 表には出せない。 
 大丈夫と言った側から溜息なんて吐いていたら、また桃子に心配されてしまう。 
  
 ちらりと視線を動かし、少し離れた所にいる人物に目をやる。 
 長めの黒髪にすらっとした立ち姿。 
 小さい頃から梨沙子が憧れて、好きで堪らないその人。 
 そう雅である。 
 今、雅の顔はこっちを向いている。 
 数秒経たない内に雅は梨沙子が見ているのに気づきにこりと微笑んで見せた。 
 嬉しくて。『作ったもの』だと判っていてもその微笑が嬉しくて。 
 梨沙子もぱぁっと笑顔になり雅に笑い返した。 
  
   
- 273 名前:―No wonder― 投稿日:2008/06/10(火) 23:12
 
-   
 「……りーちゃん、みーやんだからって顔緩みすぎ。」 
  
 それに気づいた桃子が雅に気づかれない程度の声でそう呟く。 
 雅を確認したわけでもないのに、確信に満ちたその言葉。 
 梨沙子が自分以外を見ているのが嫌なのか、ムッとした顔がそこにはあった。 
 嫉妬。 
 梨沙子の笑顔を持っていく雅に対する、それは可愛らしい独占欲。 
 それは梨沙子にもある感情。 
 長年、梨沙子が桃子に対して持ってきた感情。 
 桃子の言葉に梨沙子は苦笑する。 
  
 「しょうがないじゃん、みやなんだもん。」 
  
 軽く肩をすくめて桃子を見る。 
 雅なのだから仕方ない。 
 それは梨沙子にしてみればとても自然な理論。 
  
   
- 274 名前:―No wonder― 投稿日:2008/06/10(火) 23:12
 
-   
 「それ理由になってないよ?ももにあんな顔するならわかるけど。」 
 「えー?ももに?それはないない。」 
  
 軽く軽く、それがジョークだとわかるように。 
 梨沙子は目の前で大げさなほど手を振りながら桃子に言う。 
 9の冗談に1の本音。 
 梨沙子が桃子にそういう顔をしないのは桃子だから。 
 あれは雅にしかできない顔だから。 
 恋か愛かなんて知らないけれど。 
 あれは雅専門の笑顔なのだ。 
 桃子にはたぶん桃子専用の表情をしていると梨沙子は思っていた。 
  
 「えーって梨沙子こそ『えー!!』だよ。普通ああいう顔は恋人にするのー。」 
  
 軽く言えば桃子も軽く返してくれて。 
 すぐにふわふわとした空間が出来上がった。 
 梨沙子が桃子を弄って、桃子はそれを返す。 
 二人の間は大体においてそんな風にできていた。 
  
   
- 275 名前:―No wonder― 投稿日:2008/06/10(火) 23:13
 
-   
 ―ももはあたしの事、本当に良く知ってるけど……。 
  
 ころころと楽しそうに笑う。 
 そして事実楽しい時間。 
 だけど梨沙子の頭の片隅に浮かんできたのは、それに似つかわしくないもの。 
 梨沙子は桃子が好きである。 
 当然だ。好きでもない人と付き合ったりしていない。 
 桃子を可愛いなと思うことも、好ましいと思うことも増えてきた。 
 それもきっと梨沙子の中の事実。 
  
 ―みやのこと知ってるのは、あたしが一番だよ。 
  
 それでも猶、揺るがないものが梨沙子の中にはあったのだ。 
 雅、雅、雅。 
 昔から見つめてきたその人は、今も梨沙子の心を掴んで離さない。 
 いや、梨沙子の心が雅から離れない。 
  
   
- 276 名前:―No wonder― 投稿日:2008/06/10(火) 23:13
 
-   
 ―みやがもものこと好きだって気づいたのだって。 
  
 きっと雅本人よりも梨沙子のほうが早い。 
 中学生になって、大人に一歩だけ近づいて。 
 梨沙子は気づいてしまったのだ。 
 気づかなければ良かった事実に。 
 知らぬ振りをしていれば、幼さの延長線上であるその日常に居られた。 
 毛布に包まっているような温かさに浸っていることができただろうに。 
 しかしもう遅い。 
 梨沙子は知ってしまったし、それにより気づいてしまった。 
  
   
- 277 名前:―No wonder― 投稿日:2008/06/10(火) 23:14
 
-   
 雅の瞳が梨沙子を見ることはない。 
 少なくとも桃子に触れられる場所に居る内は、間違いなく。 
 一途で純粋な雅の性質を梨沙子は誰より知っていたから。 
 その瞳が梨沙子に向くことはないのだ。 
 そしてそれは梨沙子にとって、どうしようもなく我慢できなかったこと。 
 雅は梨沙子に何でもくれた。 
 欲しいものは全て。 
 だが一番欲しかったもの、雅のその視線、それだけはくれなかったのだ。 
  
 「だから……ももだけは、あげないよ。みや。」 
 「え?りーちゃん、何か言った?」 
 「ううん、何でもない。もも。」 
  
 ぼそりと呟いた一言はすぐに楽屋の喧騒に紛れて行く。 
 不思議そうな顔で聞き返してきた桃子に梨沙子は穏やかな笑みで首を振った。 
 それは気持ちを隠しているとは思えない純粋な笑み。 
 子供だからこそできるただただ透き通った笑みだったのだ。 
  
   
- 278 名前:―No wonder― 投稿日:2008/06/10(火) 23:14
 
-   
 ―好きだよ……。 
  
 桃子か雅か。 
 誰に向けたか分からない言葉は梨沙子の中に埋もれていくだけ。 
  
  
 奇跡はきっと起こらない。 
 あたしが起こさせない。 
 ももをみやに上げるつもりはないし。 
 みやはあたしがみやの好きな人を知っているのを知らない。 
 だけど一つだけ言える事は。 
 あたしはももを使って一番欲しかったものを間接的にだけど手に入れられた。 
 それだけだとあたしは思う。 
  
  
  
  
 ―No wonder―終 
  
  
   
- 279 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/10(火) 23:14
 
-   
  
  
  
   
- 280 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/10(火) 23:19
 
-   
  
 みやもも要素を挟むのは実はこれが初。 
 捻くれてるりーちゃんが書きたかったんですw 
  
 分かりにくいけど、ちゃーんとりしゃこは好きですよ。 
 恋人の彼女が。 
 ま、りーちゃんのガキっぽい所ってことですw 
  
  
 では今度こそ続きを。 
 といいつつ次の更新は来週の終末になりそうなCPヲタっしたw 
 また妄想が溜まる日に。 
  
   
- 281 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/10(火) 23:19
 
-   
  
  
  
   
- 282 名前:YOU 投稿日:2008/06/11(水) 21:08
 
-  いや〜今回のりーちゃんかなり黒いっすね〜。最後のりーちゃんのセリフに「ゾクッ!!!」としましたよ。 
 
- 283 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/29(日) 21:42
 
-   
  
 コソーリソローリ 
  
  
 ども、爆睡しすぎて大遅刻の駄文書きっすorz 
 ちょっといつに無いくらい筆が詰まってこんな感じですw 
  
  
 282>>YOUさん 
 黒いりしゃこを目指したんでそう言ってもらえると幸いですw 
 好きだからこそちょっと怖い梨沙子をお楽しみ下さい。 
  
  
 では今日の更新。 
 なぜか黒りしゃの続きw 
  
  
   
- 284 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/29(日) 21:42
 
-   
  
  
  
   
- 285 名前:―No tender― 投稿日:2008/06/29(日) 21:43
 
-   
  
  
 優しさなんていらない。 
 愛情なんていらない。 
 ももが欲しかったのはただりーちゃんだけだから。 
 側にいてくれるだけで、いいの。 
  
  
  
   
- 286 名前:―No tender― 投稿日:2008/06/29(日) 21:43
 
-   
  
  
  
 ―No tender― 
  
  
  
   
- 287 名前:―No tender― 投稿日:2008/06/29(日) 21:44
 
-   
 「あ、みや。」 
  
 梨沙子の顔が柔らかく楽しそうに変化する。 
 満面の笑みと言ってよいその顔は桃子にとって見慣れたもの。 
 ずっとずっと見てきたはず。 
 恋人であるはずの桃子ではなく雅に向けられるそれを。 
 だから動揺などまるでしていないかのように。 
 いつもの調子で文句を言う。 
  
 「だ−かーらー……。」 
  
 ぷくーっとわざとらしく拗ねた表情を作る。 
 声のトーンは自然と低くなっていた。 
 すると全部言わなくても梨沙子には桃子が何を言いたいか伝わったようだ。 
 眉を下げて誤魔化すような苦笑。 
 はにかんだような笑いに桃子の胸はきゅんと締め付けられる。 
  
   
- 288 名前:―No tender― 投稿日:2008/06/29(日) 21:44
 
-   
 ―まったく。 
  
 梨沙子の行動は変わらない。 
 言っても、言っても雅を見ると満面の笑みへと移行する表情。 
 まるで直通の回路があるかのように。 
 梨沙子が雅を見つけて最初にする表情は決まっていた。 
 そんな梨沙子に対するしょうがないなぁという気持ちの表れ。 
 それと同時に、梨沙子のちょっとした仕草に反応してしまう自分。 
 その二つに対しての「まったく。」だった。 
  
 惚れた弱みと人は言うけれど。 
 桃子自身は別に弱みとも何とも思っていない。 
 桃子が梨沙子に甘いのは、惚れたとか以前の問題なのだ。 
 最初から梨沙子には甘かった。 
 最初から梨沙子は特別だった。 
 最初から梨沙子が欲しかった。 
 それに気づくのには少々時間が掛かったけれども。 
 結局落ち着くところは同じのなのである。 
  
   
- 289 名前:―No tender― 投稿日:2008/06/29(日) 21:44
 
-   
 「ももー?大丈夫?」 
  
 「ぼーっとしてるけど。」と梨沙子が不思議そうな顔で続けた。 
 眼前で緩やかに振られる手に桃子は気づかなくて。 
 掛けられた声にはっと顔を上げる。 
 目の前の梨沙子はただきょとんとしていた。 
  
 「もう、いきなり黙り込むから、具合でも悪いかと思ったじゃん。」 
  
 柔らかく微笑む梨沙子。 
 それは雅に見せる特別とまではいかないが。 
 それでも十分、桃子にとっての特別になり得る可愛い笑顔だった。 
  
 ―可愛いなぁ。 
  
 一時の間、息の仕方を忘れてしまうほど桃子はその笑顔に見惚れる。 
 柔らかくて、優しくて、幼い恋人。 
 その全てが桃子の欲しいものだったのだ。 
 だから梨沙子と付き合えた時は本当に嬉しかった。 
 例えそれが打算と身勝手に溢れたものだとしても。 
 桃子は梨沙子と付き合えるだけで良かったのである。 
  
   
- 290 名前:―No tender― 投稿日:2008/06/29(日) 21:45
 
-   
 「平気、平気ー。それよりさ……。」 
  
 笑って話を逸らす。 
 軽く触れた体はとても温かかった。 
 梨沙子は首を傾げるも突っ込むことなく桃子の話に乗る。 
 それが二人の恋人としてのあり方で。 
 自分に向いていない視線の先が誰に行っているかなど確かめるまでも無いことだった。 
  
 ―りーちゃん。 
  
 ちくりと桃子の胸を金の針が刺す。 
 わかっていたことだった。 
 梨沙子の胸の中に誰がいるかなど。 
 そしてその上で梨沙子が欲しかったのも自分だ。 
 たとえ雅に向く視線が多かろうと。 
 桃子は梨沙子が自分の隣に居るという事実を欲した。 
  
   
- 291 名前:―No tender― 投稿日:2008/06/29(日) 21:45
 
-   
 「欲張りだよねぇ……?」 
  
 少し顔を俯け、声は出さずに口の中で呟く。 
 自分が一番欲しかったものは手に入ったのに。 
 更に欲しくなってしまう。 
 顔を上げれば前に居るのは梨沙子。 
 喋って、笑って、楽しそうにしている。 
 一秒一秒変わるその行動に桃子は目を細めた。 
 そう自分はこれを隣で、一番近い位置で見たかったのだと思う。 
  
 ―ほんと、欲張り。 
  
 梨沙子の全てが欲しい。 
 結局、その答えに桃子がたどり着くまでそんなに時間はかからなかった。 
 視線なんてそんなものじゃなくて。笑顔なんてそんなものじゃなくて。 
 声も、体も、涙も、怒りも、何もかも。 
 全てが欲しい。 
 そう思ってしまう自分に桃子は貪欲という言葉を思い知らされる。 
 わかっていても、欲しい。 
 止まらない衝動はとっくに桃子の体を突き動かそうとしていた。 
 踏みとどまっているのは、単なる桃子の意地みたいなものである。 
  
   
- 292 名前:―No tender― 投稿日:2008/06/29(日) 21:45
 
-   
 「なんだろーなー……。」 
  
 コロコロと主体が変わるおしゃべり。 
 最早梨沙子は桃子の側から離れていた。 
 その事自体は然程気にならない。 
 梨沙子は桃子の恋人になってから義理堅く、必ず隣に帰ってきてくれるから。 
 妬く必要はない。それでも眉間に皺を寄せてしまう自分に桃子は苦笑した。 
  
 「もも?どうかしたの?」 
 「んー、なんでもないよ。みーやん。」 
  
 ふっと横から覗き込まれる。 
 いつの間にか隣には雅が来ていた。 
 僅かに首を傾げてこちらを見る顔は雅らしい。 
 優しい、気遣いのできる雅らしい顔だと桃子は思った。 
  
   
- 293 名前:―No tender― 投稿日:2008/06/29(日) 21:46
 
-   
 「ももらしくない顔してたけど?」 
 「ももにも考え事はあるんですー。」 
  
 くすりと笑って雅が言う。 
 その言葉にぷくりと頬を膨らませる。 
 分かりやすく、彼女の言う“桃らしい顔”を演じてみせた。 
  
 「考え事ねー……梨沙子のこと?」 
  
 わずかばかり顔を上げてからニヤリと口角を上げる。 
 その笑顔はいじめっ子っぽいと桃子は他人事のように思う。 
 ニヤニヤした顔の奥に本当の心配が隠されているのは知っている。 
 雅という人物は照れ屋で、でも優しくて、その上気が利く。 
 そういう人間だと桃子は知っていた。 
 何より梨沙子からまるで自慢するかのように聞かされていた。 
 付き合う以前まで、梨沙子の話題は大方雅のことだったのだから。 
  
   
- 294 名前:―No tender― 投稿日:2008/06/29(日) 21:46
 
-   
 「うん、まぁ、そんな感じ。」 
  
 だからなのだろうか。 
 その一言を、なんでもない一言を口から放つのに力が必要だったのは。 
 過去に嫉妬するのは見っとも無い。そんな事百も承知。 
 それなのに雅はそんな桃子の胸中なんて気にせず言い放った。 
  
 「そっか。うちで良かったら相談に乗るよ?梨沙子のことだったら結構、分かるし。」 
  
 ―……だろうね、きっと。そうだと思うよ。 
  
 明るく、でも心配しているのは滲んでいる雅の表情。 
 雅は好人物だ。裏表が無くて、優しくて、話しやすい。 
 雅を嫌える人間なんてそうは居ないだろうと思えるほどに。 
 彼女の性格はとても良かった。 
 だけど。それでも。いや、そうだからこそ。 
 その雅の言葉は何よりも桃子の胸を抉った。 
  
   
- 295 名前:―No tender― 投稿日:2008/06/29(日) 21:46
 
-   
 「ありがと、みーやん。」 
  
 この時上手く笑えていたのか桃子には自信が無い。 
 ただ上手く笑えていたらいいなとそう思う。 
 桃子の中で何が渦巻いていようと雅には関係のないことなのだから。 
 優しさで声を掛けてくれた雅に当たるのは余りにも酷い好意だと思うから。 
 桃子は耐えて忍んで笑顔を見せたのだ。 
  
 「ううん、別にいいよ。ももの助けになれたなら、それでいいし。」 
 「……ありがとう、みーやんは優しいねぇ。」 
  
 頬を少し染めて照れるその様は可愛かった。 
 可愛かったが桃子の心には響かない。 
 なぜなら桃子の胸には既にたった一人のことで溢れていたから。 
  
   
- 296 名前:―No tender― 投稿日:2008/06/29(日) 21:47
 
-   
  
 りーちゃんは優しい。みーやんも優しい。 
 でも、優しさなんていらない。 
 もしりーちゃんが優しくなくなったとしても、嫌いになんてならない。 
 だってももはももが一番欲しかったものをもう手に入れたから。 
 りーちゃんはももが一番欲しかったものをくれたから。 
 それ以上を望むのは我侭でしょ? 
  
  
  
  
 ―no tender―終 
  
  
  
   
- 297 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/29(日) 21:47
 
-   
  
  
  
   
- 298 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/29(日) 21:49
 
-   
 最初、この話はりーちゃん視点とみーやん視点になるはずでしたw 
 なのに何故か雅ちゃんの代わりに桃子がw 
 うん、りしゃもも好きだからなー…… 
 自分の欲望が出た結果だと思います(爆 
  
  
 では、妄想が溜まる日に。 
 CPヲタっした!! 
  
   
- 299 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/29(日) 21:49
 
-   
  
  
  
   
- 300 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/29(日) 21:50
 
-   
  
 ネタバレ  
- 301 名前:CPヲタ 投稿日:2008/06/29(日) 21:50
 
-   
 防止? 
   
- 302 名前:YOU 投稿日:2008/06/29(日) 22:36
 
-  なんだか桃子が複雑ですね〜。桃子は我が儘だと言ってますが、果たしてそれは我が儘なんですかね〜??? 
 また次回も待ってます〜!!!!  
- 303 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/06(日) 22:30
 
-   
  
 暑い……orz 
 筆が進まないのを暑さのせいにします、CPヲタです。 
 今日は久しぶりのシリーズものうぷします。 
  
  
 302<<YOUさん  
 この桃子は複雑と言うより自分を押さえ込んでる感じっすw 
 こういうももちばっか書いていると、バカなセクハラももちが書きたくなります(エ 
 桃子の言ってることは我侭じゃないです、客観的に。 
 でも桃子にとってそれは我侭、みたいな。 
 そういう雰囲気が通じてくれたら幸いですw 
  
  
 では今日の更新ー。 
 りしゃみや、一本。 
  
   
- 304 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/06(日) 22:31
 
-   
  
  
  
   
- 305 名前:―移ろい― 投稿日:2008/07/06(日) 22:31
 
-   
 笑顔、泣き顔、怒った顔。 
 真面目、真剣、ふざけた顔。 
 色んな君を見てきたけど。 
 きっとそれも一部でしかないんだよね? 
 それが少し悲しい。 
  
   
- 306 名前:―移ろい― 投稿日:2008/07/06(日) 22:31
 
-   
  
  
  
 ―移ろい― 
  
  
  
   
- 307 名前:―移ろい― 投稿日:2008/07/06(日) 22:32
 
-   
 梅雨。 
 じとじとと降る雨は決して快適なものとはいえない。 
 雨の湿気の性で髪は乱れるし、蒸し暑いし。 
 そんな小さな、しかしはっきりとした嫌悪が積み重なって。 
 雅はこの時期が好きではない。 
  
 ―あー……雨ばっか。 
  
 もう少し、晴れてくれてもいいのに。 
 そう思いながらもこの時期だからと半ば諦めていた。 
 授業中の今、自分の席から見えるものといえば限られている。 
 背中と黒板と空と。 
 どれも大した暇つぶしにはならないが、それでも見える空は青のほうがいいと雅は思う。 
  
 ぼんやりと窓の方へと目を向ける。 
 そしてそのままぼんやりと外の景色を見る。 
 代わり映えの無い灰色の中で、ふと珍しい姿を見つけた。 
  
   
- 308 名前:―移ろい― 投稿日:2008/07/06(日) 22:32
 
-   
 ―梨沙子? 
  
 そこにいたのは制服に腕を通した永久種。 
 雅の二列隣の席。 
 窓際の場所に座る彼女はただじっと外へと視線を向けている。 
 いつもは明確な気配を発している目立つ背中がこの時ばかりは暗く見えた。 
 机に肘をつき、顎を乗せる。 
 さらりと流れた髪は湿気など関係ないかのように艶やかだ。 
 はぁと溜息を吐くその姿さえ一枚の絵のようで。 
 雅は刹那見惚れてしまった。 
  
 「平安末期になると武士の勢力が台頭してきまして……。」 
  
 教壇では去年教員になったばかりの若い先生が歴史について丁寧に説明している。 
 生徒に対してさえも丁寧すぎるその口調は生徒に舐められるには十分な要素であった。 
 真面目に授業を聞いているものなど三分の一もいるだろうか。 
 大半が雅と同じように、それぞれの時間を過ごしていた。 
  
   
- 309 名前:―移ろい― 投稿日:2008/07/06(日) 22:32
 
-   
 じっと見つめる雅の視線に梨沙子は気づかない。 
 梨沙子は普段は授業を真面目に聞く派だ。 
 長年生きてきた梨沙子はそれでもまだ学ぶということが好きらしい。 
 ひたすら真っ直ぐに先生を見るその瞳は雅から見ても好ましかった。 
  
 ―……今日はほんと、珍しい。 
  
 しかしたとえ授業を受けていても、梨沙子は雅にだけは何故か敏感で。 
 梨沙子は信じられないほど雅に気づいてくれて。 
 もしこういう風に見ていたら振り向いて微笑んでくれるなど日常茶飯事だった。 
 だから梨沙子が雅にも気づかず、また授業も受けていないなど。 
 二重の意味で珍しかったのだ。 
  
 ―なんかしたのかなー、梨沙子。 
  
 一人首を傾げる。 
 不思議でしょうがない。 
 だけどこの時の雅はそれ以上、梨沙子について考えることもなく。 
 またぼんやりとした時間に戻る。 
 後に雅は後悔する。 
 なんであの時気づかなかったんだろうと。 
  
   
- 310 名前:―移ろい― 投稿日:2008/07/06(日) 22:32
 
-   
  
  
  
   
- 311 名前:―移ろい― 投稿日:2008/07/06(日) 22:33
 
-   
 「りーちゃん?!」 
  
 切羽詰った声が響いたのは昼をちょっと過ぎた頃。 
 昼食も食べ終わって皆がのんびりしていた時だった。 
 椅子から立ち上がりどこかに行こうとしていたのだろうか。 
 立った梨沙子の体がぐらりと傾いだ。 
  
 「梨、沙子?」 
  
 切羽詰った声に雅が何事かと振り返ったのは教室の端。 
 今から梨沙子の元に行ったのでは到底間に合わない。 
 硬直している雅の視界の中でゆっくりと梨沙子の体が床に倒れて行く。 
 何が起こっているのか頭が理解しなかった。 
  
 「りーちゃん、どうしたの?」 
 「りーちゃん?!」 
 「誰か先生、呼んできて。」 
  
   
- 312 名前:―移ろい― 投稿日:2008/07/06(日) 22:33
 
-   
 ドサリと乾いた音がして。 
 それはいつの間にか静まり返っていた教室に響いた。 
 そしてその音と共に皆の時間が動き始める。 
 梨沙子に必死に駆け寄るもの。 
 険しい顔で指示を出すもの。それに戸惑いながら従うもの。 
 皆が梨沙子のために動いていた。 
  
 「梨沙子。」 
  
 ただ一人雅だけが現実に対応できない。 
 だけれど行かなくてはとそれだけが頭の中を巡り。 
 雅は皆が慌てて行動する中をよろよろと梨沙子に近づいた。 
  
 「みや、りーちゃん意識ないみたいなのっ。」 
 「りーちゃん、病気とか持ってるって言ってないよね?」 
  
 梨沙子の側にはさっきまで一緒に昼食を取っていた二人、千奈美と茉麻が居た。 
 雅は梨沙子を挟んでその二人の対面に座る。 
 力なく座る様子はまるで腰が抜けたようだった。 
  
   
- 313 名前:―移ろい― 投稿日:2008/07/06(日) 22:34
 
-   
 「分かんない。」 
  
 茉麻の問いにただ呆然とそう答える。 
 余りに力の無いその声に茉麻は顔をしかめた。 
 まるで梨沙子が死んだかのように雅はショックを受けている。 
 高校生にもなれば貧血で倒れた人など何回か見ているだろうに。 
 そう思い、茉麻は貧血という最もありそうな病名に気づく。 
  
 この時の茉麻の考えはそう外れたものではない。 
 雅は実際、梨沙子が死んだかのような衝撃を受けていたのだから。 
 当然であろう。 
 自分を永久種だと言い、永遠に死なない種族だと言う。 
 まして目の前で腕を切って見せ更にそれをすぐに治して見せたのだ。 
 そんな梨沙子が倒れた。 
 これは雅にとってとんでもないことだったのだ。 
  
   
- 314 名前:―移ろい― 投稿日:2008/07/06(日) 22:34
 
-   
 「貧血、これって貧血の症状じゃない?」 
 「あー、あれはほんとぱったり行くからね。そうなのかな?」 
  
 貧血と言う単語を聞いて千奈美が゙ああと頷く。 
 そう思うと人とは現金なもので、教室の空気が少し安堵に緩んだ。 
 貧血ならとりあえず保健室に運んで寝かせておけば良い。 
 死ぬ可能性などないに等しいだから。 
  
 ―貧血? 
  
 目の前で淡々と行われる梨沙子を運ぶ作業。 
 その途中で聞こえた言葉にピクリと雅の耳が動く。 
 貧血、つまりは血がない状態。 
 この時雅の脳裏に浮かんだのはいつかに聞いた会話。 
 永久種の存在のあり方だった。 
  
 『吸血鬼じゃないから!』 
 『血でも栄養は補給できるけど、あたしはしないよ。』 
  
   
- 315 名前:―移ろい― 投稿日:2008/07/06(日) 22:35
 
-   
 あれは出会った当初、まだ梨沙子たちについて余り知らなかった時。 
 何の気はなしに尋ねてみたのだった。 
 人とは違うという食事を。 
 それは吸血鬼に近い存在だと梨沙子たちを分類していたからかもしれない。 
  
 ―……永久種の食事は三つ。 
  
 1、命を食べる。 
 2、人を食べる。 
 3、性交。 
 まるで表のように頭を巡る三文。 
 梨沙子はこの内のどれか一つでもしていたのだろうか。 
 出会って既に二、三ヶ月は経つ。 
 その間雅は梨沙子がそのような行為をしたのを見たことが無い。 
 至って普通に雅と同じものを食べている。 
 永久種の食事について聞いた時、梨沙子は人間の食事でも大丈夫だと言っていた。 
 ちょっと効率が悪いがなんとかなると。 
 しかし今思い出すと梨沙子のそのときの笑顔は苦笑に近かったような気がしてくる。 
 あれがもし雅に心配を掛けない為の嘘だとしたら。 
 いい加減、梨沙子の体力は限界に来ているはずだ。 
  
   
- 316 名前:―移ろい― 投稿日:2008/07/06(日) 22:35
 
-   
 「ほら、みや!ぼさっとしてないで保健室行こっ。」 
 「そうだよ、みやが側に居てあげないと。りーちゃん拗ねちゃうかもよ?」 
  
 強引に手首を掴まれて立たされる。 
 ぽんぽんと軽く肩を叩く感触に目を上げるとそこには優しい顔の茉麻がいた。 
 その後ろには微かに心配そうな千奈美が居る。 
  
 ―心配?梨沙子を? 
  
 だが貧血だと思っているなら、もう心配する必要はないはず。 
 そう考えて、今千奈美が心配しているのが自分であると分かってしまった。 
  
   
- 317 名前:―移ろい― 投稿日:2008/07/06(日) 22:36
 
-   
 「りーちゃんが起きた時そんな顔してたら、逆に泣かれるよ?」 
 「そうかな?」 
 「そうだよ。だから、早くみやも元気出して。」 
  
 「それで側に居てあげて。」と続けられた言葉は雅の内に響いた。 
 優しいなと他人事のように思った。 
 だが心配されているのは自分で心配してくれているのは親友達。 
 確かに雅が死にそうな顔をしていたら、きっと起きた瞬間に梨沙子に泣かれる。 
 「どうしたの?!みやっ。」と自分が倒れたことなど忘れて心配するに決まっている。 
 その場面がありありと想像できてしまって、雅は少し笑った。 
  
 「よし、それじゃ保健室に行こう。」 
  
 雅が僅かながらでも顔を緩ませたのを見て千奈美がほっとした顔で音頭を取る。 
 茉麻はそれを穏やかに見つめていて。 
 雅は肩を支えられながら、その光景に涙がこみ上げて来そうになった。 
 昔から変わらない光景。 
 お調子者の千奈美が先頭を切って、茉麻がそれを支える。 
 雅はその二人の中でただ好きなようにしているだけでよかった。 
  
   
- 318 名前:―移ろい― 投稿日:2008/07/06(日) 22:36
 
-   
 ―ありがとう、二人とも。 
  
 そっと下を向いて静かに告げる。 
 声に出すには恥ずかしくて。 
 雅はただ精一杯の笑顔を作る。 
 そうすることが今一番の感謝の印だと思った。 
  
 教室から出るときに振り返った雅の目に映ったのは未だ灰色の空。 
 二階から見える空は少し高くて。 
 曇っていてもその向こうに広がる青空を、夏の空を垣間見ることができる。 
 そんな気が雅にはした。 
 それだけを見て雅は教室を出る。 
  
 残された梨沙子の席から見ることの出来るもの。 
 上ばかり見ていた雅が気づかなかったもの。 
 雅の席からは見えなくて梨沙子の席から見えるもの。 
 梨沙子の席に座り外を見ると窓の際ギリギリに見えるものがある。 
 それは時によって色を変えるアジサイ。 
 梨沙子と正反対の性質を持つその花を彼女はきっと見ていたのだろう。 
  
  
  
  
  
 ―移ろい―終 
  
  
  
   
- 319 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/06(日) 22:36
 
-   
  
  
  
   
- 320 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/06(日) 22:39
 
-   
 りーちゃん倒れる。 
 うちのスレのりーちゃんは寝たり倒れたり病弱だったりw 
 主役の癖に余りにも活動的ではありません。 
  
 もー少し、行動してくださいwりしゃこさん。 
  
  
 では今日はこの辺で。 
 また妄想が溜まる日にお会いしましょう。 
 CPヲタっした。 
  
   
- 321 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/06(日) 22:39
 
-   
  
  
  
   
- 322 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/06(日) 22:39
 
-   
  
  
  
   
- 323 名前:YOU 投稿日:2008/07/07(月) 13:56
 
-  更新お疲れ様です。 
 雅ちゃんに心配かけたくなくて嘘をつくりーちゃん…良いですね〜wでも、倒れてしまったら意味ないっすよ〜。 
 次回も更新待ってます!!!  
- 324 名前:mi 投稿日:2008/07/07(月) 18:44
 
-  全部読ませてもらいました 
 面白いです 
 次回の更新お待ちしてます。 
 もしよろしければ前のも読みたいのですが、どこかで読めたりしますか??  
- 325 名前:麻人 投稿日:2008/07/07(月) 23:07
 
-  更新お疲れさまです!! 
 りーちゃんいい子だなぁぁw 
 ひ弱なりーちゃん好きですw 
  
 次回も、楽しみにしてます♪  
- 326 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/13(日) 23:53
 
-   
  
  
  
  
   
- 327 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/14(月) 00:03
 
-   
  
 モンキーダンスが楽しくて仕方ない今日この頃。 
 皆様はどうお過ごしでしょうw 
 CPヲタは相変わらず妄想の日々です(エ 
 そのせいか無駄に他のネタだけ浮かびます。 
  
  
 323>>YOUさん  
 実際りーちゃんだったらしそうな気がしますw 
 でもそれより病気をいいことに甘えまくる方がリアルでしょう。 
 うちの梨沙子はちょっといい子です(爆 
  
 324>>miさん 
 ありがとうございます。 
 面白いと言われて嬉しいっすw 
 前のスレは森と草に1個ずつあります。 
 サイトも一応ありますが、内容はほぼここにあるのと変わんないんで。 
 口端にキスというスレタイでお探し下さい。  
  
 325>>麻人さん 
 基本梨沙子は白い方が好きですw 
 ひ弱っつーかただ単に寝ている場面が多いだけな気もします(エ 
 梨沙子は寝ているのが多いイメージです。 
   
  
 では今日の更新。 
 いつものシリーズで、ももりしゃみや。 
  
  
   
- 328 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/14(月) 00:04
 
-   
  
  
  
   
- 329 名前:―期限― 投稿日:2008/07/14(月) 00:04
 
-   
  
  
  
 桃子は走っていた。 
 人間の姿において可笑しくない程度の速さで人の道を走っていた。 
 急ぐ理由はただ一つ。 
 梨沙子の意識がぱったりと消えたから。 
 恐れていたことが起こっている予感がした。 
  
  
  
  
   
- 330 名前:―期限― 投稿日:2008/07/14(月) 00:05
 
-   
  
  
  
 ―期限― 
  
  
  
   
- 331 名前:―期限― 投稿日:2008/07/14(月) 00:05
 
-   
 「だっから、言ったんでしょ!」 
  
 シンとしていなければならない保健室に声が響く。 
 大きな声だった。 
 色んなものが混ざって、ただの音量以外の強さが感じられるように思った。 
 白いベッドに横たわるのは死んでいるのではないかと思うほど色白の少女。 
 唯一情けなさそうに動く瞳だけが生きていることを主張していた。 
  
 「ごめん、もも。まさか、こんな早いと思わなくて……。」 
 「思わなくて?違うでしょ、りーちゃんは知ってて放っておいたのっ。」 
  
 ゆっくりと今は動く上半身を起こし、梨沙子は傍らの桃子を見つめる。 
 桃子の憤りも最もだ。 
 今まで何回も注意されたし、自身も知っていた。 
 ちろりと目を動かす。 
 今にもベッドに乗ってきそうな桃子の後ろに雅がいた。 
 初めて見るだろう桃子の剣幕にちょっと身を竦めている。 
 雅の頬に見えた涙の跡に心配を掛けてしまったと思った。 
  
   
- 332 名前:―期限― 投稿日:2008/07/14(月) 00:05
 
-   
 ―ごめん、みや。 
  
 クリーム色のカーテンの前で雅の黒髪は鮮やかに映える。 
 僅かに揺れるその様さえ愛おしくて。 
 梨沙子はすっとまるで眩しいものを見るように目を細めた。 
  
 「りーちゃん、聞いてる?」 
 「う、あ、き、聞いてるよ。」 
  
 目を離していたのは一瞬。 
 しかし桃子はその一刹那を見逃さなかった。 
 ぴくっと几帳面に眉を動かして、梨沙子の眼前へと顔を寄せる。 
 見えた表情は悪鬼もかくやという風の冷たい、怒ったもの。 
 その表情に梨沙子は思わず身を引いてしまう。 
 桃子の感情に触発されて空気にまでピリピリとした力が加えられる。 
 チリチリと肌を刺す感覚。 
 どれほどの怒りと心配が桃子を襲っていたか。 
 その空気をまさに肌で感じて、梨沙子は申し訳なくなった。 
  
   
- 333 名前:―期限― 投稿日:2008/07/14(月) 00:06
 
-   
 「ほんと……ごめん、もも。」 
 「いいよ、別に。りーちゃんが自分のことわかってないのはわかってたから。」 
  
 ぎしっとばねの軋む音がして、桃子がベッドに腰掛ける。 
 梨沙子は何も言わない。 
 幾ら世界が回っても梨沙子はみやと出会ってきた。 
 だがその間側に居たのは、一番長い年月を過ごしたのは桃子で。 
 だから梨沙子は桃子がすることに口を挟むつもりはない。 
  
 苦い顔のまますっと桃子の手が梨沙子の輪郭に伸びる。 
 触れた手は人間らしく温かかった。 
 半魔の桃子は梨沙子と違い体温というものが存在する。 
 その温度が梨沙子を包む。 
  
   
- 334 名前:―期限― 投稿日:2008/07/14(月) 00:06
 
-   
 「でも、お願いだから……ももをおいてかないで。」 
  
 泣きそうな表情で桃子が願う。 
 むしろそれは懇願に近いものであった。 
 苦しそうな息遣いがまさに泣き出す寸前であることを伝えてくる。 
 困ったなと思いながら梨沙子は自分の頬に触れる桃子の手を取る。 
 ぎゅっと握って宥めるように微笑んだ。 
  
 ―ごめん、もも。 
  
 このまるで出会った頃のような子供の顔で、見捨てないでと縋って来る桃子。 
 おいていかないでと頼む桃子にそう約束することが出来ない。 
 そんな自分が嫌で、とても心苦しかった。 
 ぽんぽんともう片方の手で桃子の頭を撫でる。 
 大人ぶった桃子は時々酷く子供っぽくなる。 
 桃子は梨沙子が育てたようなものだ。 
 梨沙子が気まぐれで見つけて、気まぐれで育てた。 
 今となってはそれが正しかったのかわからない。 
 桃子は梨沙子と違い半魔なのだから。 
 あのまま人と一緒にいても何も困らなかったかもしれない。 
  
   
- 335 名前:―期限― 投稿日:2008/07/14(月) 00:06
 
-   
 「もも。」 
 「……先、帰ってる。みーやんへの説明は自分でしてよ?」 
  
 服の袖で荒く顔を擦り、桃子はぽんとベッドから降りる。 
 ちらりと雅に顔を向けてからそう梨沙子に言った。 
 ついと一度顔を背けて、次に梨沙子を見た時には既にいつもの桃子だった。 
 拗ねたような声音はきっと恥ずかしかったからに違いない。 
 雅が、人間がいることを忘れて梨沙子に詰め寄ったことが。 
  
 「うん、分かってる。」 
 「こういう時だけ物分りいいのってずるい。」 
  
 出来るだけ笑顔で。 
 今の梨沙子ができる最高の表情で、梨沙子は桃子に頷いた。 
 するとはぁと桃子は小さく溜息を吐いてベッドに背を向ける。 
 その背中がなんだか自分より年上に見えて、また少し梨沙子は笑ってしまった。 
  
   
- 336 名前:―期限― 投稿日:2008/07/14(月) 00:06
 
-   
  
  
  
   
- 337 名前:―期限― 投稿日:2008/07/14(月) 00:07
 
-   
 「びっくり、したんだから。」 
 「みや。」 
  
 桃子が帰った保健室は暫し静かなままだった。 
 雅はどこからか持ってきた丸いすに腰掛けてずっと俯いている。 
 梨沙子はそんな雅に話しかけることも出来ずただ困ったように眉を顰めていた。 
 その空気を破ったのは雅で。 
 雅の最初の一言に梨沙子は更に何と言っていいか分からなくなってしまう。 
 チクタクと時計の音が聞こえる。 
 それは確かに過ぎていく時間の流れの音。 
 早さの変わらない一定のそれが逆に梨沙子を焦らせる。 
  
 ―時間が、ない。 
  
 そんな思いに囚われるのは初めてではない。 
 だが自分の時間がないと思ったのはこれが初めてだった。 
  
   
- 338 名前:―期限― 投稿日:2008/07/14(月) 00:07
 
-   
 「うんと……何て言って良いか、わかんないんだけど。」 
  
 雅は動かない。 
 俯いた姿勢から顔を上げてくれない。 
 直ぐそこにいるのに手の届かない距離が嫌だった。 
  
 「あたし、もう、生きてられないかもしれないんだ。」 
  
 直接的に言い過ぎた。 
 梨沙子は跳ねた雅の体を見ながらそう思った。 
 何よりも真実なその言葉は実感が無いからこそ言えたのかもしれない。 
 これが桃子だったら、きっともっと重い言葉に聞こえたのに違いない。 
 だが梨沙子にはこう表現することしか出来なかった。 
  
   
- 339 名前:―期限― 投稿日:2008/07/14(月) 00:07
 
-   
 「生きてられない?」 
 「うん、エネルギーがね、もう空っぽなの。」 
  
 白い掛け布団からそっと手を出し握り締める。 
 ぐっと力を込めたはずのそれはジュースの缶さえ握れないだろう。 
 今の梨沙子はただ生きているだけに過ぎない。 
 そしてその力さえもう長い期間はもたない。 
 自分の体のことくらい、自分が一番わかっている。 
 苦く笑った顔をいつの間にか顔を上げた雅が見ていた。 
  
 「なんで?……ご飯、食べてたじゃん。」 
  
 力ない言葉。 
 雅自身本当は分かってしまったのだろう。 
 人の食事など梨沙子たちにとって意味が無いに等しいことを。 
 ちょいちょいと手招きをして雅を近くに呼ぶ。 
 さっきの桃子ほどとまでいかないが、近い距離で話したいと思ったからだ。 
  
   
- 340 名前:―期限― 投稿日:2008/07/14(月) 00:08
 
-   
 「人のご飯でも、確かにあたし達は生きられるんだ。」 
 「なら……!」 
 「でもあくまで主食じゃないの。あくまで補助。」 
  
 誤魔化してきた。 
 ここ数百年、梨沙子は人を食べていない。 
 元からあったエネルギーを人の食事で磨り減らないようにして。 
 切り詰めて生きてきた。しかしそれも最早限界のようだ。 
  
 「あたしは結局、人を食べないと生きていけない。」 
  
 喋らない雅。 
 静まり返った空間に梨沙子の声だけがただ響いた。 
  
 ―嫌だな、もう。 
  
 生きるために自分は雅に選択を迫らなければならない。 
 はっきり言って雅には何の関係も無い。 
 これはただ単なる自分のエゴ。 
 最初の約束の為に今を犠牲にしようとしている。 
 そんな現実がとてつもなく嫌だった。 
  
   
- 341 名前:―期限― 投稿日:2008/07/14(月) 00:08
 
-   
 「みやは、あたしのご飯知ってるよね?」 
  
 こくりと雅が小さく頷く。 
 良かった、話は聞いてくれているようだ。 
 ほっとした自分にすぐに自己嫌悪する。 
 言わなければならない、だけど聞いて欲しくない。 
 矛盾した感情が梨沙子を覆う。 
  
 「率直に言うね、あたしの食事はみやだけ。」 
 「……え?」 
 「あたしはみや以外食べれないの。」 
  
 呆然とした顔で雅が梨沙子を見つめる。 
 その顔を見てやっぱり言わなければ良かったと後悔する。 
 生きたくないといえばそれは嘘になる。 
 みやと出会う前だったらそれこそ何時死んでも良かった。 
 だが梨沙子は出会ってしまった、つくってしまった。 
 大事な人を、雅を、桃子を。 
 その時点で自分は永久種と言う生き方から大きく外れたんだと梨沙子は思う。 
  
   
- 342 名前:―期限― 投稿日:2008/07/14(月) 00:09
 
-   
 「急な話でほんとごめん。こんな事みやに言いたくなかったけど。」 
  
 ばつの悪そうな顔で謝る。 
 雅はじっと梨沙子を見たかと思うとまた俯く。 
  
 「考えて欲しい。勿論死ぬことはないし、みやの嫌なことも絶対しないから。」 
  
 ―まだ、死ねない。 
  
 自分は何一つ出来ていないから。 
 みやとの約束も何もかも。 
 しかしその為に雅を犠牲にするのかと思うと。 
 梨沙子は自分が間違っているような気がしてならなかった。 
  
  
  
  
  
 ―期限―終 
  
  
  
  
   
- 343 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/14(月) 00:09
 
-   
  
  
  
   
- 344 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/14(月) 00:13
 
-   
  
 サブタイをつけるなら 
 〜梨沙子の我侭、みやとの約束〜 
 って所でしょうか?(キクナ 
  
 珍しく梨沙子が喋ってますw 
 そして相も変わらずうちの桃子はりーちゃんを好き過ぎます(ヒトゴト 
 雅ちゃんお願いだからもうちょっと目立ってくれ……orz 
  
  
 まとめると、ももちはりーちゃんが好きってことっす!! 
  
  
 りしゃみやの話、書いててまとめがそれでいいのか激しく疑問ですがw 
 突っ込まれないうちに隠れます。 
 ではまた妄想が溜まったときにお会いしましょうw 
  
   
- 345 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/14(月) 00:13
 
-   
  
  
  
   
- 346 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/14(月) 09:02
 
-  ドキドキしてきました 
 
- 347 名前:YOU 投稿日:2008/07/14(月) 19:59
 
-  更新お疲れ様です。 
 雅ちゃんしか食べられないとは…w 
 悩める雅ちゃんもステキですが悩めるりーちゃんも良いですね〜w 
 次回も更新待ってます。  
- 348 名前:mi 投稿日:2008/07/14(月) 23:48
 
-  更新お疲れ様デス 
 どうなっていくかすごく楽しみです。 
 期待してます 
   
- 349 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/20(日) 23:22
 
-   
  
  
  
   
- 350 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/20(日) 23:29
 
-   
  
 346<<名無飼育さん 
 自分もドキドキしてきましたw 
 次の更新が一番ドキドキすることになりそうです。 
  
 347>>YOUさん 
 あっとうございます。 
 自分で書いといてなんだそれ?wと思いました(エ 
 りーちゃんは悩んでる顔が素敵ですw  
  
 348>>miさん 
 あっとうございます。 
 妄想しか詰まっていない話になりそうですがw 
 期待に応えられたら嬉しいっす。 
   
  
 では今日の更新〜。 
 ももりしゃみや。 
  
   
- 351 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/20(日) 23:29
 
-   
  
  
  
   
- 352 名前:―決断― 投稿日:2008/07/20(日) 23:30
 
-   
  
  
  
 梅雨が明けた。 
 窓から差し込む日差しは容赦なく。 
 だからこそいない席に降り注ぐそれは目立っていた。 
 あれから一週間。 
 梨沙子はまだ登校してきていない。 
  
  
  
  
   
- 353 名前:―決断― 投稿日:2008/07/20(日) 23:30
 
-   
  
  
  
 ―決断― 
  
  
  
   
- 354 名前:―決断― 投稿日:2008/07/20(日) 23:30
 
-   
 「りーちゃん、どうしたんだろうねー?」 
 「倒れたんだし、しょうがないかもしれないけど。」 
  
 空いた席を見つめて千奈美達は話していた。 
 心配そうな声音。 
 一週間も学校に来なければ誰でもそうなる。 
 雅も以前ならその話の輪に加わっていただろう。 
 しかし雅の頭の中は別のことで一杯だったのだ。 
  
 ―「あたしはみやしか食べれない。」……か。 
  
 それはどういうことなのだろう。 
 少し聞いた話、昔の梨沙子はそんなこと無かった。 
 誰でも食べていた。それは梨沙子にとって人全てが餌だったからに違いない。 
 ならば現在“みや”しか食べられなくなったのは、ただの選り好み?我侭? 
 否。きっと何か理由があるはずだ。 
 梨沙子は優しい。特に雅に対しては優しすぎるほど優しい。 
 そんな子がわざわざ雅の負担になることを言った。 
 絶対的なものが梨沙子にはあるはずなのだ。 
 雅より優先しなければならなかった何かが。 
  
   
- 355 名前:―決断― 投稿日:2008/07/20(日) 23:31
 
-   
 ―何なんだろう。 
  
 それさえ分かれば雅は何のためらいもなく梨沙子に食べられる気がした。 
 怖くない、わけではない。 
 語弊でもなんでもなく、雅は梨沙子に食べられるのだから。 
 死なないとわかっていても恐怖は消えない。 
 だが雅の中でも確立された順位が存在していて。 
 それは梨沙子が倒れたことで明確になったもの。 
  
 ―……梨沙子がいなくなるのはやだ。 
  
 あの日、梨沙子が倒れたとき。 
 雅は一歩も動くことが出来なかった。 
 それは梨沙子が絶対消えるわけが無いという安心感であり。 
 梨沙子が雅を残して何処かにいくわけが無いという油断でもあった。 
 だって今まで“置いて来た”のは全て雅だったから。 
  
 ―置いてきた? 
  
 「あ、みや。バイバーイ。」 
 「またね。」 
  
   
- 356 名前:―決断― 投稿日:2008/07/20(日) 23:31
 
-   
 誰が誰を。 
 雅はいつの間にか終わっていたホームルームに教室を出て、帰り始める。 
 友達への挨拶は軽く手を振るだけに止まった。 
  
 ―梨沙子を置いてきた? 
  
 鞄を持っていないほうの手を額に当てて考える。 
 そんな事自分の記憶にはない。 
 しかし雅の中からその言葉は自然と発せられた。 
 つまり雅にはその覚えがあるということで。 
 ――訳が分からない。混乱を振り払うように頭を振る。 
 この頃こういうことが増えてきていた。 
 自分がした覚えはない。 
 無いはずなのにそれは確かに雅の中に存在している。 
  
 「……なんなんだろ、一体。」 
  
 答えが出なくて顔を上げる。 
 沈み始めた太陽が雅の直線状にキラキラと輝いていた。 
 そして雅に対して丁度逆光になるように見慣れた人影が校門の所に立っていた。 
  
   
- 357 名前:―決断― 投稿日:2008/07/20(日) 23:31
 
-   
 「みーやん。」 
 「もも。」 
 「遅かったね、結構、待ったよ。」 
  
 機嫌の悪そうな声で桃子が雅の名前を呼んだ。 
 腕を組んで校門に寄りかかる様はその外見に反して酷く大人っぽく雅の目に映る。 
 梨沙子が関係しているからだと雅は何の気はなしに思った。 
 桃子は短い間しか見ていない雅にも分かるほど梨沙子を大切にしていたから。 
 真剣で、真面目なその顔は梨沙子が関係しているときのもの。 
  
 「ああ、ごめん。教室でぼーっとしてたみたい。」 
 「そう。」 
  
 冷たくそれだけ言って桃子は普通に雅の隣に並んだ。 
 まるでそうすることが自然であるかのように。 
 桃子は雅の隣を共に歩き始める。 
  
   
- 358 名前:―決断― 投稿日:2008/07/20(日) 23:32
 
-   
 「……ももが来たのに驚かないんだね?」 
 「うん、驚かないことに驚いてるよ。うちは。」 
  
 むしろこうやって自然に話せるとも思っていなかった。 
 桃子が来たら、梨沙子が来たら自分はなんて答えるのだろう。 
 そればかりがずっと頭を回っていて。 
 突然に回ってきたその場面に雅の頭が対応し切れていない気がした。 
 そっかと桃子はそれだけを言って、前だけを見て続けた。 
  
 「りーちゃん、そろそろ限界。」 
 「……うん。」 
 「りーちゃんはみーやんが来てくれなかったらそのまま消えるつもりだよ。」 
  
 ちらりと脇を見る。 
 赤味帯びてきた陽光に照らされ桃子の横顔は僅かに赤い。 
 分かっていた、桃子が何のためにここに来たかなど。 
  
   
- 359 名前:―決断― 投稿日:2008/07/20(日) 23:32
 
-   
 「だけどももはそんな事許せない、させられない。」 
  
 すっと今までに無いほど桃子の表情が冷える。 
 変わらない赤い色の中で雅は桃子の想いを知った気がした。 
 桃子はきっと雅が何と言っても連れて行く気なのだ。 
 梨沙子が死ぬ運命など認めない。 
 梨沙子が雅しか食べないと言うならば雅の気持ちなど関係ない。 
 桃子はただ雅を連れて行くだけ。 
  
 「わかるでしょ?ももはりーちゃんが大切。 
 例えりーちゃんの一番大切な人だったとしても、ももにとっては何も関係ない。」 
  
 ―分かるよ。 
  
 桃子の気持ちは痛いほどよく分かる。 
 なぜならそれに酷似した想いを雅も抱いていたから。 
 ぴたりと桃子の足が止まる。 
 置いていく事もできなくて、というより動くことを許さない桃子の雰囲気が雅の足をも止めさせた。 
  
   
- 360 名前:―決断― 投稿日:2008/07/20(日) 23:32
 
-   
 「ねぇ、なんで梨沙子は“みや”しか食べないの?」 
  
 ざっと木々のざわめく音が雅を包む。 
 その音で気づく、そこが梨沙子と初めて出会った場所であることに。 
 薄紅の花弁が全て散った葉桜の列。 
 それはいっそ清々しいほど緑に輝いていた。 
 雅の言葉にくすりと桃子が微笑む。 
  
 「そんなのみーやんがそうさせたからに決まってるじゃん。」 
 「うちが……?」 
 「みーやんが自分以外食べないでって約束させたから、 
 りーちゃんはみーやん以外の人を食べるのを止めた。 
 りーちゃんの行動の根本はみーやん以外ありえないんだよ。」 
  
 今まで見た中で一番と言っていい優しい笑顔。 
 その中から出てきた言葉はきっと真実で。 
 ならば梨沙子が雅より優先させたのは“みや”に他ならない。 
 何処までも梨沙子らしい答えだった。 
  
   
- 361 名前:―決断― 投稿日:2008/07/20(日) 23:33
 
-   
 「じゃ、梨沙子が倒れたのは。」 
  
 そこまで言って雅の言葉が途切れる。 
 足元が崩れて行くような気がした。 
 雅は分かってしまったのだ、梨沙子が倒れる原因を作ったのは。 
  
 ―うちの、せい? 
  
 雅しか食べられないなら、梨沙子は雅を探すしか生きる方法はない。 
 世界を回って、長い刻を待って。 
 自分の力が消えて行くのを理解しながら、ただ恋しい人を捜し歩く。 
 それは雅には想像できないほど辛いことに違いない。 
  
 「そう、みーやんのせい。」 
 「っ。」 
 「本当は、みーやんに会ってすぐに食べなきゃいけない状態だった。」 
  
 冷たくて鋭い目が雅を睨む。 
 体の中に冷たくて重いものが押し込まれた。 
 そんな感覚が雅を襲う。 
  
   
- 362 名前:―決断― 投稿日:2008/07/20(日) 23:34
 
-   
 「だけど、りーちゃんはあくまでみーやんがいいよって言うのを待ってた。 
 今までもずっとそうしてきたから。」 
 「うちがいいって言うまで?」 
 「ずっと、ずっとみーやんはりーちゃんの恋人だったから。 
 効率悪いけど、死ななくて済む永久種の食事なんて限られてくる。 
 ……まさかこれの意味が分からないなんて言わないよね?」 
 「それ、は。」 
  
 顔が赤くなるのが分かった。 
 永久種の食事で人が死なない方法。 
 雅が聞いていたものだと吸血かもう一つしかない。 
 そしてそこに恋人という要素が加わると限りなくそのもう一つに限定される。 
  
 「いい加減にしてよ。りーちゃんをあそこまで縛って、束縛して。」 
  
 くるりとこちらを振り向く桃子。 
 その瞳は夕日にではなく赤かった。 
 人外の色。雅はそれを始めて桃子に見た。 
  
   
- 363 名前:―決断― 投稿日:2008/07/20(日) 23:34
 
-   
 「当然、『うちじゃないから知らない。』なんて言わないよね?」 
 「……言わ、ないよ。」 
  
 零れた言葉は途切れていた。ズキズキと頭が痛む。 
 ドクンドクンとまるでそこに別の何かが生きているかのように拍動している。 
 みやがなんでそこまで梨沙子をこの世界に締め付けたのか。 
 雅にはなんとなくわかった。 
  
 ―“あたし”は、ただ、“りさこ”が欲しかっただけ。 
  
 人に縛り付けて置けない存在。 
 綺麗で、強くて、怖いほどに純粋な人間と反対の生物。 
 それを自分のものに出来たらどんなに嬉しいだろう。 
 きっと最初はそれだけだった。 
 どうしようもないほどの独占欲が加わったのは、彼女が思っていたよりずっと愛しくなったから。 
  
 ―そういうことでしょ? 
  
 でもそんな事は今関係ない。 
 今、梨沙子を助けられるのは雅で、雅は梨沙子がいなくなるのが許せない。 
 いつの間にか自分も“みや”に違わず、梨沙子に魅入られていたから。 
  
   
- 364 名前:―決断― 投稿日:2008/07/20(日) 23:35
 
-   
 「“うち”だって、“梨沙子”のことが好きだし。」 
 「なら、りーちゃんを助けて。悔しいけどみーやんにしかできないんだ。」 
  
 ぐっと手の平を丸めて、握りこむ。 
 言い切った瞬間、雅の頭痛は消えていた。 
 雅の気持ちを確認して桃子はふっと寂しそうな、悔しそうな笑みを浮かべた。 
  
 「ももが連れてく。掴まってて。」 
 「うん。」 
  
 しかしそんな表情はすぐに消えて、いつもの冷静な桃子の顔になる。 
 すっと出された手を雅は何の戸惑いもなく握ることが出来た。 
  
 ―梨沙子がいなくなるのはやだ。絶対に、ダメ。 
  
 その感情に間違いはない。 
 自分の気持ちが分かれば怖いものはなかった。 
 みやのことなんて、知らない。 
 雅は雅として梨沙子を失うことが怖いのだ。 
 梨沙子を助けたい、それしか雅の中にはなかった。 
 その根本にある気持ち。 
 それが多分好きってことなんだろうなぁと雅は他人事のように思った。 
  
  
  
  
 ―決断―終 
  
  
  
   
- 365 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/20(日) 23:35
 
-   
  
  
  
   
- 366 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/20(日) 23:38
 
-   
  
 この話も一区切りな感じw 
 相も変わらず妄想しか詰まってない文ですが。 
  
 一言だけ。 
 ももちはりーちゃんに必死になってればいいと思う(バク 
  
 そんな感じの話でした。 
 ではまた妄想が溜まったときにお会いしましょう。 
  
   
- 367 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/20(日) 23:38
 
-   
  
  
  
   
- 368 名前:mi 投稿日:2008/07/21(月) 00:32
 
-  更新お疲れ様です 
 ドキドキです 
 次も楽しみに待ってます  
- 369 名前:YOU 投稿日:2008/07/21(月) 15:20
 
-  更新お疲れ様ですッ!!! 
 雅ちゃんしか食べられない理由がこういうことだったなんて…w 
 次回がとても楽しみですッ!!!また更新待ってます。  
- 370 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/31(木) 14:43
 
-   
  
 写真集のおかげでなんかちょっとウキウキなCPヲタっす。 
 遅くなって申し訳ありません。 
 ちょっとゲームに嵌ってましたw 
  
  
 368<<miさん 
 あっとうございます。 
 ドキドキに答えられたら良かったっすw 
 お待たせしました。今回の更新が自分的に一番ドキドキです。 
   
 369<<YOUさん 
 あっとうございます。 
 しょーもない理由ですんませんw 
 でもりーちゃんだとありえそうな気がしてちょっとガクブルです。 
 りしゃみやのりーちゃんはほんと、盲目過ぎますw 
   
  
   
- 371 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/31(木) 14:45
 
-   
  
 では今日の更新。 
 ぬるーいですがエロがありますw 
 苦手な方は飛ばしてくださっても構いません。 
 むしろ描写する必要さえなかったのではないかと思っとります(バク 
  
 ほんじゃ、初の試み。 
 出発しますw 
  
   
- 372 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/31(木) 14:45
 
-   
  
  
  
   
- 373 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:46
 
-   
  
  
 ただ寝ているだけに見えた。 
 だって余りにもその姿綺麗過ぎるから。 
 色白の肌が血の気が失せたせいでさらに白く透き通るようだった。 
  
  
   
- 374 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:46
 
-   
  
  
  
 ―眠り姫― 
  
  
  
   
- 375 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:47
 
-   
 「梨沙子?」 
  
 かちゃりと扉を開けて部屋に入る。 
 桃子がつれてきてくれた場所は一見雅の居る世界と何も変わらなかった。 
 そこが紺とも群青とも言えない空に包まれていること以外は。 
 夜に生きる梨沙子達はやはりこういう色の方が落ちつくようだ。 
 桃子は詳しい説明をしてくれなかったし、雅も聞く気はなかった。 
 今、ここに梨沙子が居ることが大事なのであって、ここがどういう場所なのかなど関係ないのだから。 
  
 ―……質素な部屋。 
  
   
- 376 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:48
 
-   
 何となく梨沙子の部屋はぬいぐるみとかが一杯置いてあるイメージだった。 
 小物もたくさんあって、ベッドとかは天蓋つきで。 
 そういうお嬢様な部屋を考えていた。 
 しかし実際に広がる部屋はただ机と本棚、ベッドがあるのみ。 
 窓際に設置されているベッドだけが雅の想像していた通り、豪華なものだった。 
 ゆっくりと一歩一歩を確かめるように梨沙子に近づく。 
 真っ白のシーツは絹で出来ているのだろうか。 
 遠目から見ても艶やかな光沢を放って中の人物を優しく包み込んでいる。 
 寝台の側まで来た雅の目に映ったもの。 
 それはまさしく“眠り姫”だった。 
  
 「きれい。」 
  
 改めて見ると梨沙子の顔の造形は本当に整っていた。 
 うっすら桜色の唇。線対称の眉目。緩く巻かれたこげ茶の髪。 
 そして透き抜けるような肌。 
 全てが梨沙子をという存在を美しくしているように雅には感じられた。 
  
   
- 377 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:48
 
-   
 ―人じゃないみたい。 
  
 浮かんだ思考に小さく笑う。 
 そう彼女は人じゃない。永久種という人外の存在。 
 だからこそこんなにも浮世離れした美しさを見てしまうのだろうか。 
 すっと柔らかく輪郭をなぞった顔には体温と言うものが欠落していた。 
  
 「今、起こしてあげるね。」 
  
 だけど雅が欲しいのは動かない梨沙子じゃない。 
 動いて、生きていて、雅の側にずっといてくれる。 
 雅が梨沙子の中で一番好きな真っ直ぐな優しい瞳で見てくれる。 
 そういう梨沙子が雅は欲しいのだ。 
  
 桃子から梨沙子の状況を聞いたのはついさっき。 
 梨沙子はこれ以上エネルギーを消費しないために眠りに入ったという。 
 エネルギーが供給されない限り永遠に覚めない眠り。 
 いずれ消えゆくまで、消えたことさえ気づかない眠り。 
 それを起こす方法はエネルギーを満たす、ただそれだけ。 
 もちろんその方法も雅は桃子から教えられていた。 
  
   
- 378 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:48
 
-   
 「起きて、梨沙子。」 
  
 がりと音が聞こえるほど雅は強く唇を噛む。 
 すると薄い粘膜でしかないそこからはすぐに赤い血が溢れ出す。 
 じんわりと雅の口の中に鉄の味が広がった。 
 零れ落ちそうなその液体を、しかし雅は拭くこともなく。 
 そのまま薄い桜色の唇に口付ける。 
 きっと今の梨沙子の唇はいつもより赤いんだろうなと思った。 
  
 「っ……ん。」 
  
 切れた唇がピリピリと痛む。 
 自分でそうしておきながら別な方法にしておけば良かったかなと少し後悔した。 
 梨沙子が起きるのに必要なものは血であって、口付けではないのだから。 
 それでもこの方法を雅が選んだのは区切ると言う意識が大きかったに違いない。 
  
   
- 379 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:49
 
-   
 ―好きだよ、梨沙子。 
  
 合わさった唇から口腔へと血は伝い。 
 やがて弱くではあるがはっきりとした嚥下の動きが雅に届く。 
 最初、今にも止まりそうだったその喉の動きは徐々にはっきりとしたものに変わる。 
 雅はそれを確認してからそっと、静かに唇を離した。 
  
 「おはよ、梨沙子。」 
 「みや。」 
  
 見下ろした瞳は開いていた。 
 久しぶりに見る色素の薄い優しい瞳。 
 この場面では間抜けに聞こえるだろう挨拶に、梨沙子は困惑したように眉を顰めた。 
  
 「なんで……来たの?」 
  
   
- 380 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:49
 
-   
 緩やかに伸ばされた手はしっかりと雅の上腕を握った。 
 伝わる力に何だか嬉しくなって、雅は一人微笑む。 
 そして次の瞬間には雅は梨沙子の下へと移動していた。 
 手品みたいだなとのん気な思いを抱く。 
  
 「決めたから。うちは梨沙子の恋人になるって。」 
  
 戸惑わなかったのは知っていたからに他ならない。 
 桃子はきちんと雅に教えてくれた。 
 血はあくまで気付け薬みたいなものでしかないと。 
 一時的に眠りから覚まされた梨沙子はエネルギーを求め、きっと雅を食らうと。 
 それでもいいのかと桃子は強引に攫おうとした事等忘れたように聞いてきた。 
  
   
- 381 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:49
 
-   
 「みや、ごめん。それと、ありがとう。」 
  
 雅の言葉に梨沙子は全てを察したのか申し訳なさそうな顔をして、それから切なく微笑んだ。 
 そんな顔しなくていいのにと思う。 
 本能に従うままに襲うのは仕方ないことだ。 
 だって梨沙子がこれからすることは生きるために絶対に必要なこと。 
 そして雅は梨沙子に生きていて欲しい。 
 その二つが重なった時点で梨沙子が心配する必要はないのだ。 
  
 「生きてよ、梨沙子。うちをおいてかないで。」 
 「……うん、約束。」 
  
 出た言葉はまるでこの前聞いた桃子のよう。 
 今の雅にはあの時の桃子の気持ちが良く分かった。 
 怖いのだ、この脆くて綺麗な存在に捨てられるのが。 
 一度でも愛されてしまったから、その心地よい目を向けられてしまったから。 
 雅たちはそれを手放すことが出来なくなる。 
  
   
- 382 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:49
 
-   
 ―ずるいね、梨沙子は。 
  
 一度嵌ると決して抜け出せない。 
 そんなまるで麻薬のような中毒性を持った彼女。 
 その性質に魅せられてしまった自分たちはきっともう離れられない。 
 振ってきた限りなく優しいキスを受け止めながら雅はそう思った。 
  
   
- 383 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:50
 
-   
  
  
  
   
- 384 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:50
 
-   
 「んっ……はぁ。」 
  
 浅かったキスは直ぐに深いものへと移行する。 
 唇を舐められ、進入され、蹂躙された。 
 世界が回るようなクラクラとした感覚が雅を襲う。 
 漏れた吐息は違う色に見えた。 
  
 「ねぇ、ほんと、いいの?」 
  
 キス一つでくたっとなってしまった雅を見て、梨沙子が聞く。 
 自分の上に誰かがいるというのは新鮮な感覚だった。 
 梨沙子を見上げて雅はこくんと小さく頷く。 
  
 「いいも、何も。梨沙子が生きるためには仕方ないじゃん。」 
  
 梨沙子は息遣いの荒い雅を宥めるようにゆっくりとたおやかに髪を撫でる。 
 ひんやりとした手が気持ちいい。 
 雅の言葉に梨沙子は困ったように首をかしげて。 
 そっとそっと壊れ物に触れるかのように雅の首筋に顔を埋める。 
  
   
- 385 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:50
 
-   
 「そんな気持ちで、抱くんじゃないよ?」 
 「ひゃ……ぅ、り、さこ、くすぐったい。」 
 「仕方ないとかで、抱くんじゃないから。」 
  
 声が雅の耳を擽る。 
 耳元で聞く梨沙子の声は、その低めな声音のせいもあってかぞくぞくした。 
 同時に首筋に冷たい濡れた感触があって。 
 つーっとなぞる動きに意識せず背中が跳ねた。 
  
 「しっ、知ってるからぁ。」 
  
 僅かに見えた梨沙子の顔は少し不機嫌だった。 
 耳元から首筋へと遷った動きはいつの間にか啄ばむ様なものに変わる。 
 痛覚に変わる一歩手前。 
 そんな触覚が雅の意識を徐々に奪って行く。 
  
 「知らないもん。」 
 「ん…っ…ぅ?」 
  
   
- 386 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:50
 
-   
 恥ずかしいのか何なのか雅には既に自分の状態が判断できない。 
 しかししっかりと熱を持ってきている体だけは理解できて。 
 これが上手いってことなのかなぁと耳年増な知識で思った。 
 制服のままだったブラウスのボタンを外しながら、梨沙子は器用に雅の体を触り続ける。 
  
 「みやはあたしがどんなにみやを求めてたか、知らないもん。」 
  
 プチと小さな音がして下着が外される。 
 拗ねたような口調の梨沙子の言葉は雅の耳に不思議と甘く聞こえた。 
 柔らかく、優しく、丁重に雅の体を扱う梨沙子。 
 触るか触らないかのタッチは逆に感覚を敏感にさせる。 
 同年代と比べて小さめな胸に触れる梨沙子の手。 
 梨沙子の手が冷たいのか自分の体が熱いのか判断できなかった。 
  
 「梨、沙子……。」 
 「ん。」 
  
 きっと物欲しそうな顔をしてたに違いない。 
 じんと熱の芯を持ったようなそれを梨沙子が口に含む。 
 舌で弾かれて、その未知の感覚に背筋が跳ねた。 
  
   
- 387 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:51
 
-   
 ―あつい。 
  
 梨沙子の手はひたすらに下降を辿っている。 
 なだらかなラインのわき腹を通ってスカートを落とされる。 
 わき腹に触れる感覚と胸を弄られる感覚が交互に雅を襲い。 
 ぴくぴくと小刻みに体が震えた。 
 しかしその動きは上に乗る梨沙子に全て抑えられてしまう。 
  
 ―……うち、大丈夫かな。 
  
 無い経験から判断するのは難しすぎた。 
 既に体は限界まで熱くなっている。 
 これ以上熱が篭ったら、くらくらした頭のまま死んでしまうのではないかと思った。 
 つまり怖い。 
 それが雅の意識の片隅にしっかりと存在していた。 
  
   
- 388 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:51
 
-   
 「り、さこ。うち。」 
  
 へその下、足の上。 
 普段自分でもあまり触らないその領域は雅には怖すぎた。 
 梨沙子の撫でるような感覚にまた一つ熱の塊が雅の中に生まれる。 
 潤んだ瞳で見上げた梨沙子の顔はこれまでにないほど真剣だった。 
  
 「だいじょぶ、怖くないから。……掴まってて。」 
 「う、ん。」 
  
 ぎゅっと抱きしめられる。 
 慣れた感覚に雅はやっと安心した。 
 近くなった距離を離したくなくて、雅は梨沙子の背中へと確り腕を回す。 
 それが嬉しかったのか梨沙子は一つ綺麗な笑顔を見せて。 
 ちゅっと可愛らしい口付けを雅にくれた。 
  
   
- 389 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:52
 
-   
 「怖くしないけど、怖いと思う。でもあたしはみやが欲しい。」 
 「いーよ。」 
  
 優しい眼差しも隠し切れない熱が見えていた。 
 息をするのも苦しい状態では一言が精一杯だ。 
 いいよという短い一言。 
 しかしその一言には雅の色々な想いが詰まっていた。 
  
 ―梨沙子が欲しいなら、あげる。 
  
 本気でそう思う。 
 梨沙子が欲しいものは全てあげる。 
 時間も体も何もかも全て。 
  
   
- 390 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:52
 
-   
 「来て。」 
  
 確かめるように撫でる動きから変化する。 
 下着を下ろされたそこに空気が触れて冷たい感触が雅を覆う。 
 それがたまらなく恥ずかしかった。 
 ドクンドクンと梨沙子と触れ合っている部分が波打っている。 
 おかしくなりそうな熱なのに、その部分だけとても心地よかった。 
  
 「んぅっ。」 
 「みやのここ、熱いね。」 
 「うっ、さい。」 
  
 初めての場所に初めての感覚。 
 分からない感覚だが本能は確かにそれが何を意味するか知っていた。 
 無意識にきゅんと梨沙子が触れる場所に力が入る。 
  
   
- 391 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:53
 
-   
 「あっ……ぅ。」 
  
 漏れた声は聞いたことがないくらい高かった。 
 普段なら絶対使わないそのトーンに雅の顔が赤く染まる。 
  
 「可愛いよ。」 
 「ひゃ…しらな、い。」 
  
 浅く浅く梨沙子は確かめるように触れる。 
 表面しか触れない動き。 
 熱の核じゃないかと思える粒を撫でて。 
 知らぬ間に溢れていた泉を掬い取るように指を動かす。 
 その一挙一動に雅の体は震えていた。 
  
 ―やばっ、これ、無理。 
  
   
- 392 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:53
 
-   
 「気持ちいい?」 
 「う、ん……。」 
  
 その言葉に安心したように梨沙子は動きを責めるものに変えた。 
 くっと指に力が込められ、陰核を押し込まれる。 
 瞬間今までにないくらい激しい衝撃が雅を襲う。 
  
 「り、さこっ。それ、だめぇ。」 
  
 くるりと続けて撫でられ、こねられ、摘まれる。 
 その度ごとに雅の中の快感は倍増しになっていく。 
 何も、考えられない。 
 ただ伝わるのは梨沙子の感触だけ。 
 回された腕だけが雅と意識を繋げていた。 
  
   
- 393 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:53
 
-   
 「みやの声、気持ちいい。」 
 「っ……!」 
  
 うっとりとした声に背筋があわ立った。 
 その声に梨沙子の恍惚とした表情が浮かんできて。 
 ――快感が止まらなくなった。 
 雅の体は浮上する様な感覚に囚われ始める。 
  
 「り、さこっ……うち、もぅっ。」 
 「いいよ、みや。」 
  
 くるくると世界が回りだす。 
 分かるのは梨沙子の声と体と、熱と。 
 雅から遷ったのだろうその熱は、しかし確かに梨沙子の体を熱くしていた。 
 それが嬉しい。 
  
   
- 394 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:54
 
-   
 「大好きだよ、みや。」 
 「ばっかぁ……っ!」 
  
 言葉と共に核ばかりいじめていた指が溢れる泉の中へと差し込まれる。 
 中で梨沙子の指が曲げられたその瞬間、雅の意識は弾けていた。 
 全身が硬直する。 
 梨沙子の指を締め付けるそこも。梨沙子の体を抱きしめる腕も。 
 全ては固まって、その直後弛緩がやってくる。 
 ふわりと抱きとめられた感覚はどこまでも心地いいものだった。 
  
   
- 395 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:54
 
-   
  
  
  
   
- 396 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:55
 
-   
 「おはよう、みや。」 
 「……っ。」 
  
 目を開けてまず目に入ったのは梨沙子だった。 
 笑顔の梨沙子を見て全てがフラッシュバックする。 
 そして雅に出来たのは挨拶を返すこともなく、ただ顔を背けることだった。 
  
 「もう、こっち見てよ。」 
 「……食事、終わったの?」 
 「うん。とっくに。」 
  
 それから梨沙子は教えてくれた。 
 何でこの行為で永久種の食事が出来るかということを。 
 永久種はまず基本的に魂をたべることでしか栄養を補給できない。 
 だから死んだ直後の魂がたくさんある戦場や、自ら人を殺してそれを食べないといけない。 
 当然それをされた人は死ぬ。 
 だが例外的に性交におけるものは異なる。 
 セックスにおける絶頂というものは仮死に近いものらしい。 
 したがって絶頂にある時に放出されるエネルギーは魂に近いもの。 
 永久種はそれを食べることでエネルギーを蓄える。 
 そのせいで当然、量は少ないし効率も悪い。 
  
   
- 397 名前:―眠り姫― 投稿日:2008/07/31(木) 14:55
 
-   
 「ってことは、うちは毎回あんな激しくされるわけ?」 
 「今回は一杯食べないといけないから手加減があんまできなかっただけだもん。」 
  
 「ふつーの時はもっと優しくする。」 
  
 ―……あれでも手加減してたんだ。 
  
 そう言う梨沙子を見て、ちょっと違う心配が出てきた雅であった。 
  
  
  
  
 ―眠り姫―終 
  
  
  
   
- 398 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/31(木) 14:55
 
-   
  
  
  
   
- 399 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/31(木) 14:57
 
-   
  
 つーわけで、一区切り終了w 
 ここで終わってもいいような気がしてきたさ。 
  
 しかし予定は未定 
  
 続くと思うけど続かないかも知れないっす(エ 
  
   
- 400 名前:CPヲタ 投稿日:2008/07/31(木) 14:57
 
-   
  
  
  
   
- 401 名前:YOU 投稿日:2008/07/31(木) 15:19
 
-  更新お疲れ様です。 
  
 いや〜なんかすごいですね〜www 
 かなりよかったです。 
  
 このお話好きなので続き待ってます。  
- 402 名前:麻人 投稿日:2008/07/31(木) 16:34
 
-  更新待ってました!! 
 ついにきたっ!って感じですねw 
 読んでてドキドキしちゃいました。 
  
 今後どうなるか、めちゃ楽しみにしています。頑張ってくださいw 
  
   
- 403 名前:mi 投稿日:2008/07/31(木) 23:20
 
-  更新お疲れ様デス 
 またまたドキドキでした 
 2人とも可愛かったです 
 続き楽しみにしてます  
- 404 名前:名無し飼育 投稿日:2008/08/01(金) 00:12
 
-  やっぱりしゃみやっすねー 
 最高デス  
- 405 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/01(金) 21:28
 
-  更新お疲れ様です。 
 すごいドキドキして、とてもよかったです!! 
 このお話が大好きなので、ぜひ続いてほしいですねぇ  
- 406 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/04(月) 22:39
 
-  更新お疲れ様でした! 
 やっぱりドキドキしましたw 
 作者さんの書く小説が本当に好きです、 
 これからも頑張って下さい!  
- 407 名前:CPヲタ 投稿日:2008/08/12(火) 14:45
 
-   
  
 思ったより反響があってびっくり。 
 皆さん、りしゃみやのエロに飢えてたんすねw 
 ではレス返し。 
  
  
 401<<YOUさん 
 あっとうございます。 
 初めての試みですw 
 思ったより好意的に受け止められてほっとしてます。 
 続きは次回になりそうです。 
 またしばらくお待ち下さい(謝 
  
 402<<麻人さん 
 あっとうございます。 
 りしゃみやでこれはあんまないですよねー。 
 自分も同じような思いでこのシーンを書いてましてw 
 りしゃみやっぽさをなくさないように頑張りたいと思います。  
  
  
 403<<miさん 
 感想あっとうございます。 
 ドキドキしながら書いてましたw 
 りしゃみやはなんか何処かに可愛らしさが潜んでます(エ 
 それが伝わって良かったと思います。  
  
   
- 408 名前:CPヲタ 投稿日:2008/08/12(火) 14:46
 
-   
 404<<名無し飼育さん 
 りしゃみや、マンセーw 
 最高なんて勿体無いお言葉っす。 
 感想あっとうございました。  
  
 405<<名無飼育さん 
 りしゃみや、本来は幼い二人ですから。 
 こういうシーン大丈夫かなぁと思っていたのですが……。 
 思ってたより本人達成長してましたw 
 まだ続きますが、それは次回になりそうです。 
 すみません(ペコリ  
  
 406<<名無飼育さん 
 あっとうございます。 
 期待に応えられた様でよかったっす。 
 しがない妄想ですがそう言ってもらえて嬉しいですw 
 これからも見てやってくださいw 
  
   
- 409 名前:CPヲタ 投稿日:2008/08/12(火) 14:46
 
-   
  
 では更新です。 
 全く関係の無いりしゃみや。 
  
 アンリアルで、無駄に長いw 
  
   
- 410 名前:CPヲタ 投稿日:2008/08/12(火) 14:46
 
-   
  
  
  
   
- 411 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:49
 
-   
  
  
  
 女の子なのに、執事の格好。 
 年下なのに、世話係。 
 役に立つかって言われれば、役に立たない。 
 でも、うちの執事……一番の、執事。 
  
  
   
- 412 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:49
 
-   
  
  
  
 ―とある主従関係― 
  
  
   
- 413 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:50
 
-   
 執事、英語ではバトラー。 
 食事の世話から主人の補佐まで様々なことを勤める役職。 
 つまり食器の上げ下げから秘書まで幅広くしなければならない職種。 
 結構、大変な職業だなと見ていて思う。 
 うちだったら絶対に無理だなーって。 
 だけどそんな大変なものに、うちの幼馴染はなっている。 
  
  
 「梨沙子ー?梨沙子?いないの?」 
  
 大きなお屋敷、最早宮殿といってよい建物に声が響く。 
 女の子らしい高めの声が一人の少女の名前を呼んでいた。 
 これはこの屋敷においては日常茶飯事のことである。 
 黒いストレートの髪はさらさらと流れ、着ている服はお嬢様っぽくないカジュアルなもの。 
 彼女こそこの屋敷の娘、所為お嬢様、である夏焼雅である。 
   
- 414 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:50
 
-   
 「ねぇ梨沙子、知らない?」 
 「いえ、今日はまだ見ていません。」 
 「そっか、わかった。ありがと。」 
  
 帰ってこない返事に痺れを切らし、近くにいた黒服に尋ねる。 
 半ば予想していたのだろうか。 
 黒服の言葉に雅は軽く頷くと素っ気無くお礼を言い、その場から立ち去る。 
 目指しているのは一階の一番奥。 
 そこから使用人の住んでいる離れへと繋がる廊下が続いている。 
 こっちにいないのならそっちと雅は安易に考えたのである。 
  
 「ていうか主人より起きるのが遅いってダメじゃん?」 
  
 はぁと小さく溜息を吐く。 
 梨沙子は使用人といってもまだ中学生である。 
 雅よりも年下で朝は仕事自体存在しない。 
 学校に行かなければならないからである。 
 その為なのか元からの性質か朝は寝坊をよくする。 
 早くから働き始める他の使用人の代わりに雅が起こすのだって、もう決まっているようなものだった。 
   
- 415 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:50
 
-   
 ―昔からほんと、進歩ない。 
  
 梨沙子、菅谷梨沙子と夏焼雅はただの主従ではない。 
 夏焼家はそこそこ古い家系だし、菅谷家もそこそこ古くから夏焼家に勤めている。 
 つまり家自体が幼馴染のようなもので。 
 当然の如く雅と梨沙子も一緒に育ったのだ。 
 小さい頃、執事とか何にも分からなかった頃はそれこそ姉妹のように遊んだ。 
 それは今も余り変わっていないと雅は思っている。 
  
 「梨沙子?起きてる?」 
  
 どうせ誰もいないと思って勝手に入る。 
 菅谷家は家で仕えてくれているため部屋も二部屋与えられている。 
 そのうち梨沙子が寝ているのは子供部屋。 
 それを更に小さく区切った一画で、ベッドと机しかないと雅には思える場所だった。 
 シャーっと鋭い音と共にベッドを囲むカーテンを開く。 
   
- 416 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:51
 
-   
 「あ、おはよう、みや。」 
  
 とろんとした声が聞こえた。とろんとした微笑が見えた。 
 寝癖のついた髪に半開きの眼。 
 梨沙子が雅を“みや”と呼ぶのは今ではこういう時だけで。 
 それが少し寂しかったりした。 
  
 「あ、あ、あ、あんたねー!着替えてるなら着替えてるって言いなさいよっ。」 
  
 パジャマから着替えている途中だったのだろう。 
 下はまだパジャマで上は制服のシャツがただ腕を通した状態で羽織られていた。 
 梨沙子の白い肌がシャツの隙間から見えて。 
 雅は思わず声を大にして言う。 
  
 「ふぇ?……だってみや、言う前に開けちゃったし。」 
  
 雅の大声に梨沙子は間抜けな声を出して首をかしげる。 
 寝ぼけているだけあっていつもより更に反応が遅い。 
 ちゃっちゃっと閉めればいいのにボタンは掛けられずに肌蹴たままだ。 
   
- 417 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:51
 
-   
 ―あーっ、もう! 
  
 それが見ていられなくて、雅は梨沙子のシャツに手を伸ばすと掛け始める。 
 これじゃどっちが世話係かと心の中で愚痴る。 
 だけどそれが梨沙子なのだ。 
 昔からどちらかというと雅の方が梨沙子の面倒を見ている。 
  
 「みや、優しいね。」 
 「……これで執事なんだから、大丈夫なのかな、うちの家。」 
  
 へらっと笑われて力が抜ける。 
 梨沙子を執事にしたのは他でもない自分の家。 
 メイドじゃなくて執事。 
 メイドのほうがまだこなせたんじゃないのかと雅は思う。 
  
 「はぁ、早く着替えて来てよね。今日は買い物の予定でしょ。」 
  
 梨沙子なんだから仕方ないと雅は自分を納得させる。 
 昔からぼんやりしていて、天然で自分なんかより余程お嬢様らしい性格をしている。 
 小さく息を吐いて雅はベッドの上から退く。 
 「外で待ってる。」と梨沙子に言い、カーテンを閉める。 
 閉める前に見た顔は頷きながらもどこか不満げだった。 
 雅はその顔が嬉しかった。 
   
- 418 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:51
 
-   
  
  
  
   
- 419 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:51
 
-   
 「お嬢様、夕食はいかがいたしますか?」 
 「あー、なんでもいい。適当にして。」 
  
 そして、雅が一番嫌いな時間がやってきた。 
 昼の買い物は楽しかった。 
 外ではまだ梨沙子は昔のように接してくれるから。 
 しかし楽しさの後に来る時間と言うものはどんな物でも苦く思えてしまう。 
 楽の後に嫌が来た雅にとってその思いは倍増しになる。 
  
 「では洋食で?」 
 「……なんでもいいって。」 
  
 椅子に座ると朝とは見違えるようなピシッとした執事服を着た梨沙子が聞いてくる。 
 そのきちんとした格好が気に入らなくて、梨沙子が梨沙子らしくないのが嫌で。 
 雅はつっけんどんな言葉しか返すことができない。 
 すると梨沙子は一瞬悲しそうな顔をして、すぐに元の感情を感じさせないものに戻る。 
 その変化にズキリと雅の胸が軋む。 
   
- 420 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:52
 
-   
 ―そんな顔、しないでよ。 
  
 梨沙子を悲しませたいわけではない。 
 梨沙子を傷つけたいわけではない。 
 梨沙子の態度に傷ついていいのは雅のはずなのに。 
 梨沙子がそういう顔をすると、雅はどうしても自分が悪い気がしてしまう。 
  
 「わかりました、早急にお持ちします。」 
 「別に、急がなくてもいいし。」 
  
 だけれど今そんな事を言えるわけが無くて。 
 梨沙子に罰の悪そうな顔でそう言うしかできなかった。 
 雅はくしゃりと前髪を握る。 
 雅のもやもやした気持ちを誤魔化す時の癖みたいなものであった。 
  
 遠く、家で使うには相応しくないほど遠くから梨沙子が戻ってくるのが見える。 
 執事である梨沙子の役目は主の注文を伝え、快適に食事できるようにすることである。 
 料理をすることや運ぶことは仕事に入っていない。 
 段々と大きくなる梨沙子を端に雅はぼんやりと考えていた。 
   
- 421 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:52
 
-   
 ―不満なわけじゃない。 
  
 今の生活がとても幸せなことなどわかっている。 
 普通の人にはできない贅沢の山だ。 
 不満ではないし、不幸なわけでもない。 
 だけど、そう、あえて言うならば反りが合わない。 
  
 ―……梨沙子の方がよっぽど似合うよ。 
  
 こうやって行儀良く椅子に座っているのも。 
 穏やかに微笑むのもきっと全て梨沙子のほうが似合う。 
 大体にして雅はじっとしていることが好きではないのだ。 
 昔から梨沙子を引き連れて家の中、下手すると外まで探検した。 
 そのときの情けない梨沙子の顔を思い出して、雅は少し温かい気持ちになる。 
  
 ―梨沙子がお嬢様なら、うちが執事してあげるのに。 
  
 頼りない幼馴染を仕方ないなぁと面倒を見ている自分。 
 そっちの方が自分の性にあっている気が雅にはした。 
   
- 422 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:52
 
-   
 「お嬢様?お食べにならないのですか?」 
 「ああ、うん、食べる。」 
  
 そんな風に想像を膨らませていたら現実の梨沙子に声を掛けられた。 
 目の前にはいつの間にか前菜が届けられていた。 
 用意されているナイフとフォークを取り、お嬢様らしく食べ始める。 
 その間梨沙子も他の使用人たちもずっと立ったままだ。 
 会話も何もない食卓に雅はほとほと嫌気が差していた。 
 ただ手を動かし口に運ぶ。単純作業の繰り返しに雅はまた意識を遠のかせる。 
 何の問題もなかった。 
 何の問題もないはずだった。 
  
 「みやっ!」 
 「えっ……?」 
  
 突如響いた、この場では絶対聞けない呼び名。 
 耳に届いた声に雅は驚いて顔を上げる。 
 そして視界は闇に閉ざされた。 
   
- 423 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:53
 
-   
 「も、申し訳ございません!!」 
 「謝罪よりとりあえず拭く物をっ、火傷してしまう。」 
  
 ―な、に? 
  
 雅には僅かにも理解できない。 
 黒に埋まった視界に鋭敏になった聴覚だけが働いていた。 
 ドクンドクンと一定のリズムで拍を刻む心臓。 
 あわただしい外の音。 
 騒がしさが少し遠のいて、雅の視界は再び急に視界を取り戻す。 
  
 「梨沙子?」 
 「……みや、大丈夫?掛かってない?」 
  
 一見梨沙子には何の変化も無いように見えた。 
 その言葉遣いと雰囲気が幼馴染に戻っている以外は。 
 そしてそれこそが一番、今起こっている問題があることを示していた。 
 火傷、かかる、と拾えた単語を繋げて雅は大よその自体を把握する。 
   
- 424 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:53
 
-   
 「うちは、大丈夫。」 
 「なら良かったぁ。」 
  
 良く見れば梨沙子の黒い服からは湯気が、そして髪を結い上げ見える首筋は赤くなっていた。 
 梨沙子が雅の代わりに熱湯、この場合恐らくスープを被ったのだ。 
 状況を理解して、梨沙子の赤を理解して、雅は瞬間血の気が引いた。 
  
 「バカ、早く脱いで!冷やさなきゃ。」 
 「ここ、食堂だから、脱げない。」 
 「もう今はそんな事どうでもいいでしょ!」 
  
 雅がそう言うも変な所で頑固な梨沙子は首を振る。 
 頑なに拒否する梨沙子がじれったくて、悲しくて。 
 雅は朝のときのように梨沙子の服に手を掛けた。 
   
- 425 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:54
 
-   
 「だめ。」 
  
 しかしその手はすぐにパシンと振り払われる。 
 痛いのか涙目の梨沙子は、それでも意思を曲げない。 
  
 「っ、分かったわよ!誰か、梨沙子をうちの部屋に連れてって。クスリも!」 
  
 手を払われたのと言う事を聞かないのと、悲しいのと悔しいので。 
 雅の頭の中はぐしゃぐしゃになっていた。 
 言ったことはないが雅は梨沙子の白い肌を気に入っている。 
 その肌が自分の為に失われるとなるとぞっとしない。 
 クラクラと揺れる頭を抑え雅は梨沙子と共に部屋に戻る。 
 雅の言う事を聞かないものなど、この場にいなかった。 
   
- 426 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:54
 
-   
 ―なんで、こういう時だけ、立派な執事になるのよ。 
  
 庇って欲しくなんてなかった。 
 それが幾ら執事の役目でも。 
 いつもはヘタレでちっとも役に立たないのに。 
 なんで、とそればかりが雅の頭を巡る。 
 なんでというその問いに多分梨沙子はこう答えるのだろう。 
  
 『みやだからだよ。』 
  
 情けない泣きそうな笑顔で、梨沙子は困ったように言うのだ。 
 その場面が色鮮やかに描けてしまって。 
 雅は何故か泣けてきてしまう。 
 だがその涙は零れる前に雅の袖に吸い込まれる。 
   
- 427 名前:―とある主従関係― 投稿日:2008/08/12(火) 14:54
 
-   
 「……好きだよ、バカ。」 
  
 雅の前を背負われて連れて行かれる梨沙子。 
 その背に向けてそっと誰にも聞こえないように呟く。 
 この気持ちが許されないのは知っている。 
 なんで梨沙子なのかなど雅にも分からない。 
 ただ雅は梨沙子が好きだと思ったのだ。 
 梨沙子を気づいたときには好きだったのだ。 
  
  
  
  
 ―とある主従関係―終 
  
  
   
- 428 名前:CPヲタ 投稿日:2008/08/12(火) 14:56
 
-   
  
  
  
  
   
- 429 名前:CPヲタ 投稿日:2008/08/12(火) 14:57
 
-   
 ある企画から生まれたブツですw 
 最初の所だけ妄想してたはずなのに。 
 いつの間に全てが出来上がっていたという。 
 ある意味一番妄想らしいものですw 
  
  
 ではではまた妄想が溜まった時に。 
 CPヲタっした。 
   
- 430 名前:CPヲタ 投稿日:2008/08/12(火) 14:57
 
-   
  
  
  
   
- 431 名前:麻人 投稿日:2008/08/12(火) 20:24
 
-  おー!!! 
 執事×お嬢様のりしゃみやだぁぁ!! 
 実は、CPヲタさんのサイトでコレを追加投票したの自分なんすw 
 まさか書いて貰えるなんて思ってなかったんで、猛烈に感動しちゃってますw 
 これ、続いたら尚嬉しいですw 
  
   
- 432 名前:YOU 投稿日:2008/08/12(火) 23:24
 
-  更新お疲れ様です。 
 いや〜この設定で書かれるとは思ってもいなかったですよ。 
 かなり自分の中ではいいので続編を書いてくれたらマジでうれしいですッ!!!!! 
 また更新待ってます。  
- 433 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/13(水) 01:23
 
-  私もこのCPに投票しました! 
 読めて嬉しいです。 
 更新お疲れ様です。  
- 434 名前:名無し飼育 投稿日:2008/08/13(水) 01:50
 
-  更新お疲れ様です。 
  
 りしゃみや最高っ!りーちゃん最高!!みや最高!! 
 作者さま最高!!!!!!!!!!! 
 毎回素敵なりしゃみやありがとうございます^^ 
   
- 435 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/08/14(木) 13:46
 
-  りしゃみや最高ですね!!続編希望! 
 
- 436 名前:CPヲタ 投稿日:2008/08/30(土) 19:09
 
-   
  
 携帯から失礼します。 
 ネタづまりのため、しばらく籠もらせていただきます。 
 予定としては九月半ばには復帰できるかとw 
  
 では勝手ですがCPヲタでした。 
 また妄想が溜まった日にお会いしましょう。  
- 437 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/03(水) 22:11
 
-  気長に待ってます、がんばってください 
 
- 438 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/17(水) 14:03
 
-   
 こそーり復活w 
 妄想が溜まりました。 
 ついでにやじうめ萌も開拓しました(エ 
 なのに、それでもやじりしゃのほうが楽しい自分はきっと根っからのりしゃCPDDですw 
  
  
 431<<麻人さん 
 そうだったんですかw 
 気に入ってもらえたようで嬉しいです。 
 今のところ続編は考えてません。 
 まぁ、楽しい設定なので余裕が出来たら書くかもしれませんw 
 しかし予定は未定(バク 
  
 432<<YOUさん 
 おまたせしましたー!更新しますw 
 けれど執事編じゃないっす。すんませんorz 
 気長に待ってくださると嬉しいいです。 
  
 433<<名無飼育さん 
 あ、そうなんですかw 
 執事をする梨沙子はちょっと抜けつつ、凛々しくです(妄 
 勢いだけの文だったので。 
 期待に応えられてたならよかったっすw  
  
   
- 439 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/17(水) 14:04
 
-  434<<名無し飼育さん 
 あっとうございます!! 
 りしゃみや最高!!w 
 りーちゃん最高!!雅ちゃん最高!! 
 りーちゃん絡みを書くのがライフワークです(マジ 
 こちらこそ感想あっとうございます!  
  
 435<<名無し飼育さん  
 あっとうございます!! 
 続編は未定ですw 
 妄想は湧いて出るもんなんで。 
 りしゃみや教の教祖(りーちゃん)に祈っときますw 
  
 437<<名無飼育さん 
 お待たせしましたー。 
 妄想溜まったんでまたキモク書いていきたいと思いますw 
  
  
  
   
    
- 440 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/17(水) 14:06
 
-   
 ではでは今日の更新。 
 またまた何も関係のない短編です。 
 そしてきっと誰も望んでないマイナーw 
  
  
 アンリアルで先輩後輩。 
  
   
- 441 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/17(水) 14:06
 
-   
  
  
  
   
- 442 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:06
 
-   
  
  
 光る空も。 
 眩しい太陽も。 
 翳る雲さえ。 
 彼女の為に存在していると思った。 
  
  
   
- 443 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:07
 
-   
  
  
  
 ―薫る風― 
  
  
  
   
- 444 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:07
 
-   
 熱気が逸るグラウンド。 
 それを佐紀はその隣で見ていた。 
 暑い中頑張るなーと他人事のように呟く。 
 佐紀がいるのは救急のテント下である。 
 数少ない日陰である筈なのに、汗は際限なく落ちる。 
 直射日光の降り注ぐグラウンドは想像したくないくらい熱いに違いない。 
  
 ―保健委員でよかったぁ。 
  
 絶え間なく人が出入りする。 
 忙しくないといえば嘘だが、あの暑さの中にいるのに比べたら楽な気がした。 
 もっとも佐紀自身が体育祭に張り切る人でないのも関係しているのだろう。 
 一個下の後輩である千奈美などはさっきから出ずっぱりという感じでグラウンドにいる。 
 さらりと見回せばその姿を見つけるのは難しくない。 
 飛んだり、走ったり。 
 女子の中では高い方の身長を生かして活躍している。 
 その性で千奈美の分も佐紀がシフト担当になっている。 
 体育祭に出たい千奈美と出たくない佐紀。 
 二人の利害関係が一致した結果だった。 
   
- 445 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:08
 
-   
 「すみませーん。」 
 「はい。」 
  
 止まった人並みにぼんやりしていたようだ。 
 佐紀は掛けられた声に振り返る。 
 するとそこにいたのは見慣れない私服の女の子。 
 背がとても高くて、佐紀は首を半ば反るようにして見上げる。 
 肩にはくたりと見るからに具合の悪そうな子がもう一人いた。 
  
 「どうしました?」 
 「わたし達、体育祭応援に来たんですけど。この子が気持ち悪くなっちゃって。」 
 「あー……テントの中に入って待っててください。今冷やす奴持って来るんで。」 
  
 見た目より幼い声で告げられた言葉は予想通りだった。 
 佐紀は力が抜けてしまっている子に少し近寄り顔を見る。 
 息は荒く、頬も少し赤味帯びていた。 
   
- 446 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:10
 
-   
 ―うわ、大人っぽい子だなぁ。 
  
 病状の確認の為に覗き込んだのだが、佐紀が真っ先に思ったのはそれだった。 
 恐らく年は自分より下のはず。 
 しかし連れてきた子も、具合が悪そうな子も酷く大人っぽい。 
 指示を出して佐紀は救急道具とクーラーボックスの側に行く。 
 熱中症か日射病か。 
 そこまでの判断はできない。 
 しかしどっちにしろ、すべき事は水分補給と体温を冷ますこと。 
 冷たいスポーツドリンクと氷嚢を持ち戻る。 
  
 「これ、飲ませてくれる?あたし、先生に言ってくるから。」 
 「あ、はい。分かりました。」 
  
 とりあえず氷嚢を頭の下に敷く。 
 そして飲み物はその側に心配そうに座っている子に渡した。 
 少し戸惑っているようだったができるだろう。 
   
- 447 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:10
 
-   
 「ごめんね、すぐ戻るから。」 
  
 そう断り、隣のテントで別の人を診ている先生を呼びに行く。 
 先生を呼ばないことには安心できない。 
 佐紀はあくまで保健委員であり、専門家ではないから。 
 昼も過ぎた。 
 仰ぎ見た空は真っ青で、どこまでも高い。 
 まだまだ気温は上がるだろう。 
 これからまた運ばれてくる人が増える時間帯だった。 
   
- 448 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:10
 
-   
  
  
  
   
- 449 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:11
 
-   
 「大丈夫?」 
 「はい、さっきよりは楽みたいです。」 
  
 先生の診断はやはり熱中症だった。 
 対処法も佐紀がしたので間違いなかったらしく。 
 佐紀はほっと胸を撫で下ろしていた。 
 目の前には変わらない目を瞑ったまま横になる少女。 
 その呼吸は確かにさっきより楽になっているようだった。 
  
 「ここまでなる前に来ればよかったのに。」 
  
 穏やかな寝顔は佐紀まで心安らかになる。 
 だからこそ出た苦言だった。 
 佐紀の言葉に背の高い子は苦笑して、首を傾げる。 
 自分も困っているというような表情だった。 
   
- 450 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:11
 
-   
 「わたしもそう言ったんですけど……梨沙子、妙に頑固で。競技、終るまで行かないって。」 
 「そうなんだ。」 
  
 梨沙子っていうんだ。と心の中で思う。 
 顔に合った女の子らしい名前だ。 
 ふとそう考えて、そういえば自己紹介をしていないことに気づく。 
 それに今話している子の名前も知らない。 
 だがいきなり聞くのもどうなのだろう。 
  
 「熊井ちゃん!!」 
 「あ、ちー。」 
 「千奈美?」 
  
 そう考えて固まっていた佐紀の耳に聞きなれた声が聞こえた。 
 視線をグラウンドの方へと移すと、競技の合間なのか。 
 抜け出してきた千奈美が見えた。 
 その様子は見たことがないくらい焦っている。 
 笑えると思ったことは自分の胸に止めた。 
   
- 451 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:12
 
-   
 「梨沙子、倒れたんだって?」 
 「倒れたって言うか動けなくなって……。」 
 「今は?」 
  
 熊井ちゃんと呼ばれた背の高い子に千奈美が近寄る。 
 すっと並ぶ様子はとても慣れたように佐紀には見えて。 
 自然と梨沙子たちが応援に来たのが千奈美なんだと分かる。 
  
 「奥で寝てるよ、ていうか競技は大丈夫なの?」 
 「あ、佐紀ちゃん。」 
  
 心配そうに顔を歪ませテントを見る千奈美の視界に立つ。 
 そこで初めて佐紀の存在に気づいたというように千奈美は声を上げた。 
 焦った様子からなんとなくただの先輩後輩じゃないことを感じる。 
 先輩後輩にしては口調が砕けているし、心配しすぎだ。 
 姉妹といったら丁度よいのかもしれない。 
   
- 452 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:12
 
-   
 「応援て言うから誰かと思ったら、千奈美だし。」 
 「あははー、ごめんね、まかせっきりで。それで梨沙子、大丈夫?」 
 「梨沙子ちゃんなら大丈夫だよ、まだ動かせないけど。」 
  
 それなら良かったと千奈美がほっと息を吐く。 
 いつも明るい顔しか見たことのない佐紀だったから、不思議な感じがした。 
 千奈美の隣にはきょとんとした顔で佐紀を見つめる背の高い子がいた。 
 「誰?」とその子が千奈美に聞いて千奈美はそこでやっと頭が回り始めたらしい。 
  
 「ああ、佐紀ちゃんはあたしの委員会の先輩。佐紀ちゃん、こっちは。」 
 「どうも熊井友理奈です。いつも千奈美がお世話になってます。」 
 「あ、ご丁寧に。あたしは清水佐紀って言います。千奈美の世話は結構してます。」 
  
 紹介しようとした千奈美の言葉を遮り友理奈がぺこりと頭を下げる。 
 つられる様に佐紀も頭を下げた。 
 にこりと笑う顔は酷く可愛らしかった。 
   
- 453 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:12
 
-   
 「ちょ、熊井ちゃん!」 
 「別にいいじゃん、今日も代わって貰ってたんでしょ?」 
 「まぁ、そうだけどさ。」 
  
 頬を膨らませ、拗ねた表情を作る千奈美。 
 今日一日で随分と新しい顔を見る気がした。 
 背の高い二人が並んでいるとまるでモデルみたいだった。 
 思わず話し込む二人に、佐紀は割り込めなかった。 
 すると後ろ、正確には背後にあるテントの中から「う…ん……。」という声が聞こえてくる。 
 ばっと三人が一斉に振り返る。 
 だーっと徒競走のようにテントへと向かった。 
  
 「梨沙子!だいじょぶ?」 
 「あんま動かない方がいいよ、倒れたんだし。」 
  
 まず体操服の千奈美が外履きを荒く脱ぎテントに上がる。 
 続くように友理奈が梨沙子の側へと膝を着いた。 
 佐紀は一歩遅れて二人の後ろから覗き込むようにして様子を見る。 
 梨沙子は先程よりはマシな顔色で、うっすらと目を開けていた。 
 ぼんやりとした視線がテントの空、千奈美、友理奈と動く。 
 そして何故か佐紀の所で止まった。 
   
- 454 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:13
 
-   
 ―ひゃ、可愛い子だなぁ。 
  
 瞬間、ぴりと痺れるような感覚が佐紀を襲う。 
 一瞬動けなかった。息をするのも忘れたように佐紀は梨沙子と見つめあった。 
 驚くほど整った子だった。 
  
 「…きょう…ぎ、は?」 
 「まだやってる、だけど梨沙子はここで見てなよ。」 
  
 とろんとした瞳のまま口を開く。 
 その問いに答えたのは千奈美だった。 
 まだやっているという言葉に梨沙子が上半身を起こそうとする。 
 慌てて友理奈と佐紀が止めた。千奈美が険しい顔で梨沙子に忠告する。 
 それでも梨沙子は半身を起こそうとした。体調が戻っていないのだろう。 
 眉は下がり情けない顔で、でもしっかりと意思を主張する。 
   
- 455 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:13
 
-   
 「でも、みや。」 
 「ここからでも十分見れるって。」 
 「梨沙子、我慢して。梨沙子が倒れたんじゃ、みやも心配で競技できないよ。」 
 「う……。」 
  
 千奈美がグラウンドの方を指差し、ほらと言う。 
 友理奈が心配そうな顔で梨沙子を宥める。 
 二人の言葉に梨沙子は黙り込み、それからもう一度横になった。 
 自分の状況が把握できたのだろう。 
 それとも実際問題として動けなかったのだろうか。 
 佐紀には分からない。 
 分からないがなんだか随分大切にされている子だなぁと佐紀は思った。 
  
 『次の競技が始まります。出場する方はトラックへ集合してください。』 
  
 放送に千奈美が勢い良く顔を上げた。 
 次の競技と佐紀は考えて、人が集まり始めたほうへ目をやる。 
 千奈美は慌てた様子で梨沙子の側から立ち上がる。 
   
- 456 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:13
 
-   
 「あ、やばっ。あたし行かなきゃ!」 
 「うん、ここで梨沙子と一緒に見てるから。」 
 「わかった。頑張るね。」 
 「ちー……頑張って。」 
 「うん!」 
  
 飛び移るような勢いで靴を履く。 
 友理奈と梨沙子の言葉にとても爽やかに答えた後に。 
 千奈美は砂埃を巻き上げながら走っていってしまう。 
 突き上げた拳はどこまでも力強かった。 
  
 「えっと、梨沙子ちゃんでいい?」 
  
 千奈美のいなくなったテント。 
 佐紀はなんとも微妙な空気に居辛くなってしまった。 
 しかしそうも言っていられない。 
 保健委員の職務を全うしようと呼びかける。 
   
- 457 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:14
 
-   
 「呼び捨てで良いですよ。先輩なんだし。」 
 「あ、そう?なら梨沙子、体調どんな感じ?」 
 「だいぶ、楽です。」 
  
 口角を少しあげて梨沙子が笑みを形作る。 
 弱々しいものの普通に喋れるくらいにはなっているようだ。 
 横になったまま梨沙子はグラウンドの方へ視線を向ける。 
 佐紀も一緒になって視線を動かす。 
 一段高い涼しい場所にあるテントからは寝た体勢でもグラウンドの様子が良く分かる。 
 千奈美が走っていくのもすぐに見えた。 
  
 「あ、梨沙子!みやだよ。」 
 「うん、見えてる。」 
  
 友理奈が千奈美の走っていく集団の一部を指差す。 
 佐紀には誰だか判別さえ難しい距離。 
 そのはずなのだが梨沙子は穏やかに笑って、友理奈の言葉に頷く。 
   
- 458 名前:―薫る風― 投稿日:2008/09/17(水) 14:14
 
-   
 ―あー……。 
  
 そういうことかと納得する。ズキンと何故か胸に痛みが走る。 
 穏やかに笑う梨沙子の顔は幸せそうだった。 
 これの根底にある物に気づかないほど佐紀は幼くない。 
  
 ―失恋かぁ。 
  
 風薫るとは良く言うが、風も薫りもどちらも直ぐに消えてしまう。 
 佐紀の中に吹いた風は刹那の薫りを残した。 
 一瞬の甘い香りはすぐにかき消されて、佐紀は短い恋というものを体験した。 
 あの穏やかな顔を壊す気が佐紀には微塵もなかったのだ。 
  
  
  
  
 ―風薫る―終 
   
- 459 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/17(水) 14:15
 
-   
  
  
  
   
- 460 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/17(水) 14:17
 
-   
  
 最後に間違いw 
  
 風薫る→薫る風 
  
 時々無性にりしゃキャプが書きたくなります。 
 なんだろ、この病w 
  
 そして調子に乗ってもう一本。 
 これは永久種シリーズの続きです。 
 蛇足のように、続きますw 
  
   
- 461 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/17(水) 14:17
 
-   
  
  
  
   
- 462 名前:―探し求めて― 投稿日:2008/09/17(水) 14:18
 
-   
  
  
 探してたもの。 
 足りなかったもの。 
 それはきっと梨沙子だったんだよ。 
  
  
   
- 463 名前:―探し求めて― 投稿日:2008/09/17(水) 14:18
 
-   
  
  
  
 ―探し求めて― 
  
  
  
   
- 464 名前:―探し求めて― 投稿日:2008/09/17(水) 14:18
 
-   
 「りーちゃん、具合よくなったの?」 
 「心配したんだよ。全然学校来ないから。」 
 「うん、ごめんね?ありがと。」 
  
 一週間とちょっとぶり。 
 それだけの期間を空けて梨沙子は再び学校に来た。 
 何も変わらない様子で教室に入って。 
 その瞬間、教室は一瞬水を打ったように静まり返った。 
 しかしそれは本当に刹那のことで、すぐに梨沙子を囲んで馬鹿騒ぎが始まる。 
 相変わらず陽気すぎる自分のクラスに雅は一人嘆息した。 
  
 ―確かに、訳分かんなかったしね。 
  
 雅は梨沙子が学校に来られない理由を知っていた。 
 だから他のクラスメイトみたいに只管に心配していたわけじゃない。 
 どうすればいいか。 
 それだけがくるくると頭の中を巡っていたのだ。 
   
- 465 名前:―探し求めて― 投稿日:2008/09/17(水) 14:18
 
-   
 クラス全体での騒ぎが終わり、今度は仲の良かった内輪だけでの話になる。 
 千奈美も茉麻も嬉しそうだった。 
 その表情は雅の見間違いではない。 
 二人とも純粋に梨沙子に久しぶりに会えたことを嬉しがっていた。 
  
 「みやも心配してたんだよ。」 
 「そうそう、ちょっと見てられないくらいね。」 
  
 ぼんやりと三人のやり取りを見ていた雅に唐突に話の矛先が向けられる。 
 まさか自分に話が振られるとは思っていなくて。 
 雅は慌てた様子で梨沙子たちのほうを見る。 
 そこにいたのはニヤニヤとした顔をした悪友たち。 
 小学校からずっと一緒のせいで、その顔だけで自分がどんな目に合うか雅には分かってしまった。 
  
 「みやが?」 
  
 きょとんとした顔を梨沙子は雅に向ける。 
 微かに傾げられた首は計算されたようにぴったりと梨沙子に合っていた。 
 久しぶりに見るその動作はこんな時でも雅の心を和ませる。 
   
- 466 名前:―探し求めて― 投稿日:2008/09/17(水) 14:19
 
-   
 「表面には出ないんだけどねー、みやは視線が動くから。すぐ分かる。」 
 「やっばい、りーちゃん探してんの。」 
 「ちょ、そんなことしてないしっ。」 
  
 爆笑とまではいかないが抑えきれない笑いが見えていた。 
 きょろきょろと雅がどんな状態だったか、千奈美が動作までつけて説明する。 
 茉麻もそれを否定することなくむしろ頷きながら見ていて。 
 雅は一人だけそれはないと主張した。 
  
 ―そりゃ、ちょっと変だったかもしれないけど。 
  
 そこまで顕著じゃないと雅は心の中で呟く。 
 梨沙子がいないから心配していた。 
 それはきっと雅だけではない。茉麻も千奈美もそうだった。 
 たった一つだけ違ったのは梨沙子の為に雅は行動しなければならなくて。 
 その分ボーっとしていた時間もきっといつもより多かっただろうという事だけだ。 
 そんな、千奈美が今してみせたような分かりやすい行為はしていなかった思う。 
 いや、雅はそう思いたかった。 
   
- 467 名前:―探し求めて― 投稿日:2008/09/17(水) 14:19
 
-   
 「自覚してないだけし。春のみやにそっくりだったよ。」 
 「あー、あー、あー!茉麻、上手いこと言ったっ。確かにそっくり。」 
  
 ブンブンと千奈美が腕を振り回す。 
 大きなその動作はもう少しで隣にいる梨沙子に当たってしまいそうだった。 
 「ちー、危ない。」とだけ言って落ち着かせる。 
 今はそんな心配ないが梨沙子はあくまで病み上がりなのだから。 
 過保護気味にそう思った。 
  
 「あー……なんかすっきりしたかも。長年の疑問が解けた感じ?」 
 「千奈美、意味わかんないから。説明、説明。」 
  
 注意されて勢い良く振り回していた腕をそのまま組んだ千奈美は一人納得した様子で頷く。 
 うんうんと小刻みに首を振る。 
 疑問文で尋ねられた問いに雅はさっぱり理解できなかった。 
   
- 468 名前:―探し求めて― 投稿日:2008/09/17(水) 14:20
 
-   
 「だから、茉麻の言葉!」 
 「春のうちにそっくりって奴?」 
 「そうそう。それそれ。」 
  
 じれったそうに千奈美が雅を見て言った。 
 しかしそれだけでは雅の中で答えは浮かんでこない。 
 首を傾げる雅に千奈美は僅かに唇を尖らせた。 
  
 「春、ねぇ……。」 
  
 春、春、春。と頭の中で何かあったか探して見る。 
 春、桜の季節。 
 春、入学式。 
 春、春、春。 
 そういえば梨沙子と会ったのも桜の下だったなと思い出す。 
 浮かぶ単語は数あれど、どれが千奈美の指す物なのか皆目見当がつかない。 
   
- 469 名前:―探し求めて― 投稿日:2008/09/17(水) 14:20
 
-   
 「春のみやっていえば、単語は一つだと思うけど?」 
 「そうだよ、ついこの間までそうだったくせに。」 
  
 うーんと考え込む雅に茉麻が苦笑した。 
 その様子に余程簡単なものなんだろうと考える。 
 梨沙子はただ矢継ぎ早に繰り返される会話を見ていた。 
 不思議そうな顔が可愛いと小さく思った。 
  
 「もう、茉麻教えてあげて!」 
  
 しびれを切らしたというように千奈美が言う。 
 拗ねかけている千奈美の視線を受けて茉麻がしょうがないなぁと笑った。 
 雅は梨沙子と顔を見合わせて首をかしげた。 
  
 「みやさ、春は憂鬱そうだったじゃん。基本的に。」 
 「まー……そうだね。」 
  
 言われてふと気づく。 
 そういえばそうだ。 
 今年まで、正確に言えば今年の春まで雅は雅特有の感覚に苛まれていた。 
 それを紛らわす為に出た外で梨沙子と出会ったのだし。 
 あの変な寂しさとも言えない物足りなさを雅は確りと覚えている。 
   
- 470 名前:―探し求めて― 投稿日:2008/09/17(水) 14:20
 
-   
 「あんな感じ!いないって分かってるのに探してる。」 
  
 ―いないって分かってるのに……? 
  
 千奈美の言葉が腑に落ちなくて、雅は緩やかに首を傾げる。 
 そうだっただろうか。雅にはわからない。 
 むしろいつからその感覚がなくなったのかさえ不明瞭だった。 
 今、あの感覚に襲われることはない。 
 千奈美たちの言うように誰かを探していたというなら。 
 今の雅は誰も探してはいない。 
 物足りない感覚を埋めるために何かを探していた。 
 いるはずの誰かを見つけるために誰かを探していた。 
 隣にあるはずの温もりが、あの時の雅にはなかった。 
  
 「きっとみやは梨沙子を探してたんだね。」 
  
 にっこりと茉麻が綺麗な笑みを作った。 
 鮮やかな笑みだった。 
 ざぁっと教室なのに強く風が吹く。 
   
- 471 名前:―探し求めて― 投稿日:2008/09/17(水) 14:21
 
-   
 ―梨沙子を探してた? 
  
 そうきっと探してた。 
 梨沙子と出会ってから、あの感覚はない。 
 それはきっと梨沙子が雅の足りない部分だったから。 
 雅はいつも自分の隣にいるはずの姿がないことに違和感を覚えていたのだ。 
 梨沙子がいる。 
 それはきっと生まれる前から決まっていた約束。 
  
 ―探してたんだ、梨沙子を。 
  
 うんと知らず頭は動いていた。 
 探していた、梨沙子を。 
 だから見つけられた雅はもうあの感覚を味わうことはないのだ。 
 足りなかった何かを。 
 探していた誰かを。 
 雅はもう知らぬ間に側に引き寄せていたから。 
   
- 472 名前:―探し求めて― 投稿日:2008/09/17(水) 14:21
 
-   
 「みやも、あたしのこと探しててくれたの?」 
 「うん……そうみたい。」 
  
 くいくいと袖が引かれて雅は振り向く。 
 浮かれ気味の声が耳をくすぐる。 
 その様子にくすりと小さく笑いが漏れた。 
 出た声は自然に、自分でも驚くほど穏やかだった。 
  
 「嬉しいなぁ、おそろいだね。」 
  
 ふんわりと梨沙子が笑う。 
 雅も釣られたように笑顔になった。 
 梨沙子がいる。それだけで雅の日々はこれだけ優しくなる。 
 戻ってきた日常が嬉しくて仕方なかった。 
  
  
 振り向けば君がいる。 
 それはきっと信じられないくらい幸せなこと。 
 百年に一度の穏やかな日々。 
  
  
  
  
 ―探し求めて―終 
   
- 473 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/17(水) 14:21
 
-   
  
  
  
   
- 474 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/17(水) 14:25
 
-   
  
 二つとも最後が弱いわぁw 
 つーことで王道のりしゃみやと超マイナーなりしゃキャプの二組でした。 
  
 一本目はむしろりしゃみやだけど(エ 
 あれは違うんだとりしゃキャプなんだ!!と声を大にして言いたいw 
  
 ではリハビリのような二本でした。 
 次は容量が微妙なのでこのスレか。 
 また新しいの建てるかもしれませんw 
  
 それではまた妄想が溜まった日に。 
 CPヲタでした。 
  
   
- 475 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/17(水) 14:25
 
-   
  
  
  
   
- 476 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/17(水) 14:25
 
-   
  
 隠し 
  
   
- 477 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/17(水) 14:25
 
-   
  
 あげ 
  
   
- 478 名前:名無し飼育 投稿日:2008/09/18(木) 00:20
 
-  これを待ってたハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!! 
 りしゃみや゚+。:.゚ヽ(*´∀`)ノ゚.:。+゚リシャリシャミヤミヤ♪♪  
 更新お疲れ様です^^ 
  
 りしゃキャプ(りしゃみやw)も可愛い!! 
 永久種シリーズ大好き♪ 
 蛇足じゃないです(*´∀`*)b  
- 479 名前:YOU 投稿日:2008/09/18(木) 22:46
 
-  復活待ってましたよ!!!!そして大量更新お疲れ様です。 
 キャプテンの梨沙子への片思いっていうのもいいですね〜www 
 永久種シリーズも待っていましたよ。 
 梨沙子だけじゃなくてみやも探していたなんてステキだなぁ〜www 
 また更新待ってますからね。  
- 480 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/22(月) 21:02
 
-   
 あー、梨沙子が不憫すぎて泣けそうなCPヲタですw 
 妄想が早く進むので早い更新っす。 
  
  
 478<<名無し飼育さん  
 ハァーンあっとうございます!!w 
 りしゃみやはりしゃみやであるだけで萌えます。 
 りーちゃんの可愛さを追求するスレとして頑張りたいですw 
 永久種シリーズはまだちょっと続きます。 
 感想ありがとうございました! 
  
 479<<YOUさん 
 復活お待たせいたしました! 
 妄想、溜まっていた分吐き出しましたw 
 りしゃキャプは苦労する川 ´・_・`リが好きです。 
 りしゃみやは妄想だけでも幸せになればいいと強く思う今日この頃ですw 
 感想あっとうございました!! 
  
  
 では今日の更新です。 
 やじうめに嵌ってできたブツ。 
   
- 481 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/22(月) 21:03
 
-   
  
 やじりしゃで、アンリアル。 
 甘めに仕上げたつもりです。 
  
   
- 482 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/22(月) 21:03
 
-   
  
  
  
   
- 483 名前:―perfect girl― 投稿日:2008/09/22(月) 21:04
 
-   
  
  
 あたしの彼女はとても優秀な人だ。 
 運動神経抜群で、頭も良くて、眉目秀麗、品行方正ときている。 
 その上学級委員までしている。 
 そんな完璧な人だ。 
  
  
   
- 484 名前:―perfect girl― 投稿日:2008/09/22(月) 21:05
 
-   
  
  
  
 ―perfect girl― 
  
  
  
   
- 485 名前:―perfect girl― 投稿日:2008/09/22(月) 21:06
 
-   
 掃除も終わって方々に人が散った教室はとても静かだ。 
 沈み始めた夕日を梨沙子はぼんやりと眺める。 
 見慣れた黒板に、落書き。 
 それでも赤く染まる教室はどこか見知らぬ場所だ。 
  
 がたんと小さく音がして、椅子が動く。 
 机に載せていた肘はいつの間にか離れる。 
 鞄だけが主のいなくなった机の脇に下がっていた。 
 窓の外からはまだ元気な部活の声が聞こえている。 
  
 「頑張るね、みんな。」 
  
 数歩歩いて窓枠に手を置く。 
 夕日で赤くなったそこはしかし冷たい。 
 運動部の掛け声や、片付けの喧騒。 
 そして少し遠くから吹奏楽部の音が聞こえてきていた。 
 梨沙子には遠い世界。 
 部活をしていない、というわけではない。 
 美術部に入っているしそれなりに楽しく過ごしている。 
 ただ梨沙子にとっての部活とは真っ白なキャンバスと向かい合う場所だから。 
 放課後のざわめきとは程遠かった。 
   
- 486 名前:―perfect girl― 投稿日:2008/09/22(月) 21:06
 
-   
 ―舞美ちゃんも、走ってるのかな。 
  
 そう考えて、今日は委員会だったかもしれないと思う。 
 舞美こと矢島舞美は陸上部だ。 
 走ることが好きと公言している彼女の姿はまさに風のようで。 
 梨沙子は美術室からぼんやりと舞美が走っているのを見るのが好きだった。 
 今日は部活がないため梨沙子は教室にいるわけだ。 
 中学校の教室から高校のグラウンドを見ることは出来ない。 
 それが残念だった。 
  
 ポケットに突っ込んでいたケータイを取り出し、開く。 
 待ち受け画面に自分と舞美のツーショットが出てきて少し笑った。 
 画面の二人はとても楽しそうに笑っている。 
 結構前の写真だなと懐かしく思いながらメールフォルダを開く。 
 舞美の欄を開くと一番上に今日の昼に来たメールがある。 
   
- 487 名前:―perfect girl― 投稿日:2008/09/22(月) 21:07
 
-   
 『委員会終わったら、迎え行く!!』 
  
 要約すればそんな感じの内容だった。 
 他にも昼ごはんが美味しかったとか、友達に笑われたとか取り留めのないことが書いてある。 
 絵文字とかは少ないがそれが逆に舞美らしかった。 
 ふふと一人メールを見て微笑んで。 
 それから梨沙子は少し恥ずかしくなった。 
  
 ―メール見てニヤついてるとか、怪しい人だし……。 
  
 パチンと軽い音がして、ケータイを閉める。 
 僅かな時間だ。しかしその短い流れの間に夕日は先程より傾いてきていた。 
 赤かった空が紫に近づき、濃紺に染まり始める。 
 梨沙子は窓際に立ったままその変化を見つめる。 
 いつの間にかグラウンドにいる人影も少なくなってきていた。 
  
 「そろそろかな。」 
  
 ちらりと時計を確認する。 
 委員会がどれくらいかかるかなど梨沙子は知らない。 
 だが舞美が迎えに行くと言っている時は大体これくらいの時間には来てくれる。 
 これ以上遅くなる時は先に帰っててとメールが来る。 
 そういう律儀な所があった。 
   
- 488 名前:―perfect girl― 投稿日:2008/09/22(月) 21:07
 
-   
 パタパタパタと静かな校舎に足音がこだまする。 
 力強いその音だけで梨沙子は誰が来たかわかってしまう。 
 結構な速さで近づいてくる音に自分の机に戻る。 
 そして掛けっぱなしになっていた鞄を握る。 
 教室の出口を見たところで丁度その扉が開いた。 
  
 「梨沙子!」 
 「舞美ちゃん。」 
  
 薄暗くなった教室に舞美の声が響く。 
 荒々しく開かれた扉は勢い良く反対側の壁にあたった。 
 大きな音が出て、梨沙子はからかうような笑顔をつくる。毎回のことだ。 
 舞美は何にでも全力過ぎるから、その内壊してしまうのではないかと思った。 
  
 「ごめんね、遅くなっちゃった。」 
  
 申し訳なさそうな顔で舞美が梨沙子の教室に入る。 
 高校になっても染めていない黒髪が僅かに残った夕日に反射した。 
 中学校とは色違いの制服に、群青のスクールバック。 
 舞美の全てがキラキラしているように梨沙子には見えた。 
   
- 489 名前:―perfect girl― 投稿日:2008/09/22(月) 21:07
 
-   
 「ううん、平気。それより、そんなに思い切り開けるとドア壊れるよ?」 
 「あー……気づかなかった。」 
 「もう、生徒会長にも推薦されてるんでしょ?そんなんで大丈夫?」 
  
 初めて気づいたというように自分が入ってきた扉を振り返る舞美。 
 引き戸であるそれはぶつかって半分くらい元の位置に戻ってきていた。 
 半開きになった空間に舞美があははと苦笑した。 
 綺麗な黒髪を気にせず掻いて、少し乱れる。 
 舞美はこういう所が大雑把で無頓着だ。 
  
 「んー、あたしより向いている人一杯いると思うんだけどね。」 
 「舞美ちゃんが推薦されたなら、舞美ちゃんが向いてるってことだよ。」 
 「そうかな。」 
  
 自分の席からゆっくりと舞美の隣に並ぶ。 
 もはや教室は字が見えないくらい暗くなってきていた。 
 昼の教室とは違う、夜の教室だ。 
 距離が狭くなってやっと舞美の顔が見える。 
 梨沙子が見慣れた、明るすぎる笑顔だった。 
 目が合って微笑まれる。梨沙子も同じように微笑み返した。 
   
- 490 名前:―perfect girl― 投稿日:2008/09/22(月) 21:08
 
-   
 「帰ろ?あんま暗くなると怖いし。」 
 「梨沙子、怖がりだもんねー。」 
  
 くすくすと小さな笑い声が漏れる。 
 何だか子ども扱いされているような気がして、梨沙子はむーと顔をしかめてみせる。 
 しょうがないと思う。暗いところは怖いし、怖いものは怖いのだ。 
  
 「はい。」 
 「……ん、ありがと。」 
  
 梨沙子の機嫌など知らないというように、笑顔で手が差し出される。 
 にこにことした笑顔に梨沙子は何も言えず。ただ舞美の手を握った。 
 こういう所がすごく大人だなと思う。 
 からかうだけじゃなく、ちゃんとフォローもしてくれる。 
 そしてそれこそ舞美が人気を集める理由なのだろう。 
  
 廊下は教室よりも暗い。 
 西日の照る教室とは違い、光源が電灯しかないからだ。 
 その頼みの綱である電灯は節電のために切られている。 
 梨沙子は舞美と手を繋ぎながら暗さを意識しないように歩く。 
   
- 491 名前:―perfect girl― 投稿日:2008/09/22(月) 21:08
 
-   
 「でね、その時……。」 
 「うん。」 
  
 舞美が梨沙子の知らない舞美について話す。 
 楽しそうに話す様子が嬉しくて、少し羨ましい。 
 舞美の側にいれるクラスメートが羨ましくて仕方ない。 
  
 ―校舎まで、違うんじゃね。 
  
 心の中で小さくため息をつく。 
 学年が違う、くらいなら良かった。 
 廊下ですれ違うくらいできただろうから。 
 でも舞美と梨沙子の距離はそんなものじゃ足りない。 
 舞美は高2で梨沙子は中2。一年だって被る期間はない。 
 ほんのたまに特別教室棟で見かける程度。 
 それだけでも梨沙子はその幸せになる。 
   
- 492 名前:―perfect girl― 投稿日:2008/09/22(月) 21:09
 
-   
 「ねぇ、舞美ちゃん。」 
 「うん?どうかした、梨沙子?」 
  
 三つというのは小さいようでとても大きい。 
 そんな距離を埋めてくれるように話す言葉を遮る。 
 それでも舞美はいやな顔一つせずに梨沙子を見てくれる。 
 優しいな、舞美ちゃんはとその顔を見ながら思った。 
  
 出会ったのはいつだっただろうか。 
 たまたま、舞美が美術室に遊びに来ていた。 
 親友である愛理に先輩だとその時紹介された。それだけだった。 
 舞美はそれからちょくちょく美術室に出入りするようになったし。 
 愛理もその度に機嫌が良さそうだったので、梨沙子も嬉しかった。 
 だけど、恋とかそういうのを意識したことはなかった。 
 梨沙子が舞美をただの先輩以上に見るようになったのは。 
  
 「あたしのこと、好き?」 
 「ふぇっ?!」 
  
 舞美が吃驚した表情で固まる。 
 面食らった顔というのはこういうのを言うのだろう。 
 ぴたりと止まった足に、薄暗い廊下。 
 向かい合うために解かれた手が少し寂しかった。 
   
- 493 名前:―perfect girl― 投稿日:2008/09/22(月) 21:09
 
-   
 暗がりでも分かるくらい舞美の頬が赤く染まる。 
 その顔が告白してくれたときの顔と被って、梨沙子はなんだか嬉しくなった。 
 告白は舞美から、場所は下駄箱だった。 
 愛理と一緒に帰ろうと足を向けると何故か舞美がいた。 
 高校は昇降口の場所さえ違うからそこにいるのは明らかに舞美の意思だった。 
 妙に緊張した顔に梨沙子は首をかしげたのを覚えている。 
 さっさと愛理が帰り、残された梨沙子は戸惑った。 
 そんな梨沙子に舞美は顔を真っ赤にして「好き。」と言ってくれた。 
 今でもはっきりと思い出せるその顔と声。 
 梨沙子の心の奥にしまってある宝物の一つだ。 
  
 「うー……言わなきゃ、ダメ?」 
 「言わなくてもいいけど、あたしは言って欲しい。」 
  
 うーあーと呻る舞美が可愛くて、小さく笑う。 
 舞美は時々年上とは思えないくらい可愛い。 
 付き合ってから知った意外な一面。 
 それが梨沙子は愛しかった。 
   
- 494 名前:―perfect girl― 投稿日:2008/09/22(月) 21:09
 
-   
 「……梨沙子が、好きだよ。」 
 「あたしも、舞美ちゃんが好きだよ。」 
  
 照れてはにかむ舞美に、にっこりと笑う。嬉しかった。 
 素直で真っ直ぐな舞美が好きだと梨沙子は思う。 
 天然だったり、抜けてたりもするけど大好きだと思う。 
  
 「あーっ、恥ずかしい!!」 
 「あ、待ってよ。舞美ちゃん。」 
  
 恥ずかしさが限界だったのだろう、舞美が突然走り出す。 
 陸上部の彼女に全力で走られては梨沙子がついていけるわけもなく。 
 あっという間にその姿は小さくなった。 
 走り去るその姿は流石に様になっていて、梨沙子は思い出す。 
   
- 495 名前:―perfect girl― 投稿日:2008/09/22(月) 21:10
 
-   
 ―……そっか。そうだった。 
  
 舞美を意識しだした理由。 
 それはやはり美術室から見える姿だった。 
 窓際に座りぼんやりしていた梨沙子の目にそれは行き成り飛び込んできた。 
 パンという乾いた音ともに、飛び出す人影。 
 ぐんぐんと加速するそれは陸上部の中でも群を抜いていた。 
 大きなストライドで軽やかに疾走するその人こそ舞美だったのだ。 
 その姿に梨沙子は一瞬で目を奪われて。 
 それから毎日、探すようになってしまった。 
  
 「梨沙子ー!大丈夫ー?」 
 「あ、うん!今、行く。」 
  
 遠くで舞美が手を振る。 
 廊下の先にいる舞美は階段の前で待っていてくれるようだった。 
 途端に暗い廊下に一人ということが視界に這い出してきて。 
 梨沙子は駆け足で側に寄る。 
   
- 496 名前:―perfect girl― 投稿日:2008/09/22(月) 21:15
 
-   
 「もう、置いてかないでよ。」 
 「あははっ、ごめんごめん。」 
  
 舞美は息一つ切れていなかった。 
 だが元々運動が得意でない梨沙子にとって、廊下の距離は長い。 
 同じ場所まで走ったら息が上がってしまった。膝に手を付いて、息を整える。 
 スカートが膝に当たって少し邪魔だと思った。 
  
 「体力ないなー、梨沙子って。」 
 「あたし、美術部だし……。」 
 「それもそうか、ほら、行こう?」 
  
 笑う舞美を梨沙子は半眼で睨む。 
 そうすると舞美はまた誤魔化すように笑って、手を差し出した。 
 目の前の手に顔を上げるとまた質の違う笑みを浮かべた舞美がいて。 
 梨沙子はまたその手を握る。舞美の体温が心地よかった。 
  
  
 あたしの彼女は完璧な人。天然で、抜けてる人。 
 人によっては完璧とは言えない人。 
 でもそんな所も可愛いって思えるから。 
 やっぱあたしにとって完璧な人。 
  
  
  
  
 ―perfect girl―終 
   
- 497 名前:CP 投稿日:2008/09/22(月) 21:15
 
-   
  
  
  
   
- 498 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/22(月) 21:18
 
-   
 あー、楽しかった!!w 
 幸せそうなりーちゃんを書くのはりしゃヲタ冥利に尽きます。 
 こんなマイナーですみませんが。 
 自分は非常に満足ですw 
 むしろやじうめに嵌ってこれが出来るってどうなんだろ?(殴 
  
  
 ではではまた妄想が溜まった日にお会いしましょう。 
 CPヲタっした。 
  
   
- 499 名前:CPヲタ 投稿日:2008/09/22(月) 21:18
 
-   
  
  
  
   
- 500 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/09/22(月) 21:59
 
-  あったかい気持ちになりました 
 
- 501 名前:YOU 投稿日:2008/09/22(月) 23:25
 
-  更新お疲れ様です。 
 ついにやじりしゃがきましたか〜!!!! 
 いいですね〜。この二人の空気はwww 
 梨沙子と舞美ちゃんの小説は滅多に見ないのでかなりよかったですよ。 
 また更新待ってます。  
- 502 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/09/23(火) 23:24
 
-  ありじゃないですか、やじりしゃ。2人でスキー旅行の仕事してるし。 
 あの冷たいオンナを忘れさせてくれる優しいヒトならだれでもいいです、もうw  
- 503 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/04(土) 20:11
 
-   
  
 500<<名無し飼育さん 
 何かが心に残る話を目指しているので、めっちゃ嬉しいです!! 
 基本萌えを、次に何かを届けられたらいいなぁと思っとりますw 
 感想あっとうございます。 
   
 501<<YOUさん 
 あっとうございます!! 
 ついに来ましたっ、やじりしゃですw 
 あんま見かけない二人ですが私的に好きなんです。 
 独特な雰囲気が出ますよね〜 
 りしゃみやともやじうめとも違いますw 
 そう言ってもらえると安心できます。  
  
 502<<名無し飼育さん  
 ありですよね?!やじりしゃ!! 
 そのスキー旅行の仕事が妄想の始まりですw 
 確かにあの冷たい女を忘れさせてくれるなら誰でもいいですわ(爆 
 でも自分たちヲタが幾らそう思っても、梨沙子本人は違うんでしょうなw 
 これからも幸せなりーちゃんを書き綴っていきたいっす。 
  
  
 たくさんのレスあっとうございます!! 
 なんと、またスレ容量が危うい感じっす。 
 つーことで駄文うpは恐らく明日になるかと。 
 また森板でお世話になろうと思ってます。 
 ではこれからもよろしくお願いします!! 
  
   
- 504 名前:CPヲタ 投稿日:2008/10/04(土) 20:11
 
-   
  
  
  
   
- 505 名前:名無し飼育 投稿日:2008/10/19(日) 22:59
 
-  やじりしゃサイコーです!!!かなり萌えた! 
 
- 506 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/12(月) 02:14
 
-  sageてないから落とすよ 
 
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