キミといるあした
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:07
- 高橋さんと新垣さん以外はほとんど出ません。
高橋さんの方言などには詳しくないので、細かいツッコミはしないでいただけるとありがたいです。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:08
-
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:09
- 飲酒年齢に達したからといって、すぐにアルコールに強くなるワケじゃない。
コンサートの打ち上げなどで盛り上がってしまったとき、本当はちっとも強くなんかないのに、
勢いにまかせてグラスを空ける愛を見るたび、里沙はいつもはらはらしていた。
あんまり飲んではダメだと、そんなふうに自制がきくときはまだいい。
自分でグラスの中身をノンアルコールのドリンクに変えるようなときは酔っていない証拠になるから、里沙もそこで目を離すことができる。
けれど、人間は誰でも、テンションが高くなるとタガが外れやすくなる。
それは里沙自身もそうだし、愛も例外ではなかった。
細めのコリンズグラスで6杯目が空いたのを見て、里沙は自分のいた場所から愛のそばに移動して、7杯目に手を伸ばそうとした愛の手を捕まえた。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:09
- 「はい、ストップストップ。愛ちゃん飲み過ぎー」
そう言った里沙に振り向いた愛は一瞬驚いたような顔をしたけれど、手を掴んだのが里沙だと確認したあと、ふにゃり、と相好を崩した。
「里沙ちゃんやぁ…」
愛が自分を名前で呼ぶときは気を許しているときだ、ということを里沙は承知している。
つまり、今の愛がかなり酔っ払っている、ということでもある。
「なん、里沙ちゃん飲んでないんか?」
「未成年だってば」
「そんなん、バレんやろー?」
「そういう問題じゃないから」
酔っ払い相手に真面目に返しすぎたか、と思ったけれど、その直後、ぐらり、と里沙のほうへ頭をもたげて来た愛に咄嗟に腕を広げて受け止めた。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:10
- 「ほらあ、もう飲んじゃダメ」
「うー…」
「えっ、まさか吐くとか言わないよね?」
「…へーき…。…けど、あたま、グラグラする…」
「あーあー。もー、愛ちゃんはぁ…」
呆れた声で返しながら自分のほうへ重心を移してくる愛の肩を支えていたら、近くにいた男性スタッフが里沙ごと支えるように手を貸してくれた。
「結構飲んでたみたいだし、そろそろ部屋に戻ったほうがいいかもね。部屋まで俺が連れて行こうか?」
返事を返す前にスタッフが愛に手を伸ばしたのを見て、里沙は咄嗟にその手を阻むように彼の腕を掴んだ。
「ひとりで大丈夫です。リーダーの世話は慣れてますから」
いつのまにか身についてしまった営業用の当たり障りない笑顔で答えて、里沙は愛を支えながらゆっくり立ち上がった。
「すいません、お先に失礼します」
まだ盛り上がっている部屋の隅に座っていた女性スタッフに声を掛け、
その奥にいた絵里とさゆみが心配そうに見ていたのに気付き、心配させまいと、軽く手を挙げてからそこをあとにした。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:10
-
打ち上げ場所から今日割り振られたホテルの部屋まではさほど離れてなかったとはいえ、
半分以上意識のない、自分とほぼ同体格の人間をひとりで支えながら歩くのはかなり困難だった。
正直、何故あのとき素直に男性スタッフに甘えなかったのかと思ったが、その考えはすぐさま打ち消した。
相部屋だったから、キーは持っていた。
肩に寄りかかる愛を支えながらではやはり少し手間取ったけれど、どうにかドアを開けて部屋の中に入り、
ベッドに近付くなり、そこに投げ飛ばすように愛のカラダを放り出した。
ばふ、と大き目の音と一緒にベッドは沈んだが、愛からは文句が出てこない。
おや? と思いながら顔を覗き込むと、許容以上のアルコール摂取のせいで顔を赤くしたまま、愛は寝息をたてていた。
「うっそ。ちょっと愛ちゃん、そのまま寝たら服がしわになっちゃうよ?」
カラダを揺さぶってみたが、愛からは聞き取れない言葉が返ってくるだけで、目を覚ます気配はない。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:10
- 起きそうにない、と判断した里沙は、大きく肩を竦めたあと、うつ伏せになった愛のカラダをベッドの上で転がした。
腕を引っ張って起き上がらせ、上体を里沙に凭れさせたままで、愛の着ている服を手際よく脱がせていく。
愛の上半身を覆うものが下着だけになってから再びベッドへ横たわらせたとき、何かに誘われるように愛の瞼がゆるりと持ち上がった。
「あ、起きた」
呟くように言った里沙をぼんやりした表情で見上げ、愛が首を傾げる。
「……里沙ちゃんがあっしを襲おうとしてる」
「なっ、ばか! 違うよっ」
確かに、今この場面だけを傍から見れば、愛に里沙が覆い被さっているようにも見えるだろうけれど。
「愛ちゃんが服着たまま寝ようとするから、あたしがさぁ!」
ちょっと責めるような棘のある口調になってしまったのに、愛はまだどこか状況を把握しかねているようだ。
アルコールが残ったままのせいで、里沙を見上げる目元は眠そうに、けれどどこか艶を孕んで締まりがない。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:11
- 普段の素面の愛ではない。
愛が醸し出す雰囲気に里沙は咄嗟にそう考えたが、
苦しそうに唇の端から漏れ聞こえた吐息の熱が、里沙の気持ちを淫らなほうへと向かわせる。
このまま、こんな微妙な体勢で向き合っていたら、なんだかとんでもないほうに事態が進みそうで。
そう考えてカラダを起こそうとして、腕を捕まれた。
「…やらしいこと、するん?」
「なっ、しないよ…!」
さらりと受け流せずバカ正直にうろたえてしまったけれど、愛はそんな里沙に気付いているのかいないのか、
ゆっくり両腕を伸ばして里沙の顔が他方へ向かないように頭を固定した。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:11
- 「ちょ…、愛ちゃん…っ」
「……里沙ちゃんとやったら、ええよ?」
言うなり、愛は頭を浮かせて里沙の唇を塞いだ。
触れる直前、里沙の鼻先をあまり好ましくないアルコールの匂いが掠めたけれど、直後に感じた愛の唇の感触に嫌悪感が吹き飛ぶ。
すぐに我に返って愛の腕から逃げようと試みたけれど、
里沙の頭を固定したまま引き寄せるようにまたベッドに沈まれ、ますます逃げられなくなってしまう。
愛の腕を解きたくて何度かもがいてみたけれど、ナントカの馬鹿力、というのだろうか、酔っ払っていて素面じゃないくせにそのチカラは強力で、
気がつくとふたりのカラダはベッドの上で反転していて、里沙のほうが愛に組み敷かれる体勢になっていた。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:11
- 舌先で何度も味わうように唇を舐められ、保っていたはずの理性という思考が次第に鈍って、自然と愛の背に腕がまわる。
「……胸、触っていい?」
自分がされるほうなのか、と一瞬思ったけれど、好奇心と雰囲気に流されるまま頷いてしまった。
酔いがまわっているせいだろうか、それとも本当はもう正気なのか?
赤らんでいる愛の頬の仄かな朱色に見とれながら、まだ砂の粒ほど残っていた理性がぼんやり考える。
しかし、愛の手が里沙の服の裾からゆっくり入ってきたのを素肌で感じたとき、それ以上の思考を遮断するように、里沙は目を閉じた。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:12
-
もともと眠りの浅い里沙が目を覚ましたのは、まだ明け方にもならない時間だった。
自分の真横で眠る愛を見て、カラダ中に残る、ずっしり、とは言わないまでも鈍くて重い感じに戸惑いながらも、
一番最初に思ったのは、愛が起きたらどう言い訳しようか、ということだった。
いくら酔った勢いとはいえ、メンバー間で、しかも同性同士での肉体関係はまずい。
そもそも、生真面目な愛がこの事態を軽く受け流すとは思えない。
昨夜の状況を受け入れた里沙自身でさえ、起きた瞬間、夢だったら良かったのに、と、考えたのだ。
しかし、起き掛けでは思考もうまく働かず、里沙は愛を起こさないようにそっとベッドから降りた。
床に足をついた途端、普段、ダンスレッスンなどで使う筋肉とは違う箇所が軽く悲鳴をあげていることを知らされる。
慣れない感覚が里沙のカラダにまだ鮮明に残っていて、一瞬でカラダが火照る。
昨夜のことが思い出され、それを振り切るように、カラダに残る痕跡を洗い落とすため、浴室に向かった。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:12
- 幸いにも、この部屋はツインだったので思ったよりも広く、浴室からベッドまでは距離があるから、シャワーの音もあまり届かない。
それでも起こさないとは言い切れないから、手早くカラダの汗を洗い流し、持ってきていたスウェットを着込んだ。
タオルドライだけでは髪を乾かしきれないのはわかっていたが、ドライヤーの音はさすがに起こしてしまう。
里沙は細く息を吐き出すと、タオルを首に掛けたまま、愛の眠るベッドの向かい側に腰掛けた。
シャワーを浴びたことで、いくらか思考もしっかりしてきた。
けれど、だからといってうまい言い逃れは何も浮かんでこない。
さっきから思うのは、昨夜の出来事を愛が覚えていなければいいのに、ということだけだ。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:12
- カーテンの隙間から、細い光の筋が差しこんできた。
枕元のデジタル表示で時間を確認して、寝なおすにはさすがに時間が少ない、と思ったとき、里沙の前で、もぞり、と愛のカラダが動いた。
咄嗟に身構えた里沙の耳に、声にならないだるそうな声が届く。
寝言かも知れない、と、無闇に声を掛けるのは憚られて、息を潜めて愛の次の行動を待つ。
「……ったまいて…」
頭が痛い、と聞き取れて、愛が目覚めようとしているのだと気付き、身構えたカラダが強張る。
言い訳を何も用意していない。
何の心構えも出来ていない。
果たして愛は覚えているだろうか。
それとも。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:13
- 昨夜のアルコールがまだ消化しきれていないまま残っているのか、もぞもぞと小さく動くわりにはなかなか愛は起き上がらない。
里沙は里沙で、愛が何かを言うまでは何も言葉が見つけられそうになかった。
やがて動きが止まり、毛布の中にいた愛がひょっこりと頭を出した。
目が合い、思わず顎を引いた里沙の目に訝しそうに眉をしかめる愛が映る。
「もう起きてたん?」
「う、うん…、ちょっと目が覚めて」
「ふうん」
あまり興味なさげに言った愛の視線が里沙から自身の被っている毛布の中に戻る。
「…それよりさ」
「なっ、なに」
何を聞かれるのか。
もしかして覚えているのか。
里沙のカラダは瞬時に強張り、額には汗が滲んだ。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:13
- 「なんであっし、裸なん?」
再び顔を出して言ったその声の抑揚のなさに、里沙は一瞬、言葉を見失った。
里沙が起きたときに真っ先に感じた嫌悪に似た戸惑いも、昨夜のような蟲惑的な雰囲気も、今の愛にはカケラもない。
あるのは、自分が何故、何も身に纏っていないのか、ということに対する疑問だけだった。
「……覚えてないの?」
おそるおそる口にすると、僅かに思考を巡らせる仕草をして、それからこくり、と頷いた。
「昨夜のこと、思い出してみて? どこまで覚えてる?」
「ガキさんと一緒だったんじゃないの?」
「一緒だったけどさ、けど、自分がなんで何も着てないのか、なんでそういうことになったのか、思い出せない?」
起き抜けの今だから思い出せないだけで、そうやって誘導すれば思い出してしまうかも知れない、と考えたのは、声にしてからだった。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:13
- 覚えていなければいい、と思ったのは本当だった。
何もかも夢だったらいいのに、と。
なのに、実際に覚えていないかも知れない、ということが、何故か里沙には酷く淋しく感じたのだ。
里沙の心の乱れになど気付いたようすもなく、愛がぶつぶつと小さく声を漏らしながら昨夜の自分の行動を反芻する。
「…打ち上げで…、ガキさんがあっしの腕を掴んだのは、覚えてる」
「うん。…飲みすぎてたからね、もうダメって止めた」
「………そっから、曖昧」
「…あたしが愛ちゃん支えながらここに戻ってきたことも?」
「ガキさんが?」
「そうだよ、ひとりでここまで運んだんだよ、酔っ払ってほとんど意識のない愛ちゃんをさ」
「うあー…、…ごめん、覚えてないわ…」
申し訳なさそうに声のトーンを落として、毛布に包まりながらまた頭を抱える。
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:13
- 「…じゃあ、この頭痛いのは二日酔いか…」
「たぶんね」
覚えていない。
それは確かに、里沙が一番望んだ事態だったはずなのに。
なのに何故。どうして。
こんなに落胆している自分がいるんだろう。
「…じゃあ、なんでなんも着てないんやろ…?」
おそらく今の愛には、昨夜なにがあったのか、というより、今現在の自分が一糸纏わぬ姿でいることのほうが重大なようだった。
毛布の中でまたもぞもぞ動き出す愛に、里沙は咄嗟に浮かんだ都合のいい言い訳を口にする。
「……それ、酔っ払って、自分で脱いだんだよ」
ちょっと弱いか、と思いはしたけれど、他にもっともらしい言葉は思い浮かばない。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:14
- 再び頭だけを覗かせた愛が里沙の顔を見た。
じろじろと嘗め回すような不愉快なものではなかったが、後ろめたさがあるぶん、居心地は悪い。
「……ガキさん、あっしの裸、見た?」
「うえっ?」
平静を装いつつも次はどう切り返そう、と考えていたときに不意に投げかけられ、里沙の声が予想外に裏返る。
「…その反応は見たなー? ガキさんのエッチ」
「なっ、見てないから! エッチじゃないから!」
慌てて反論したけれど、その慌てぶりが逆に愛をますます不審がらせたようで、じとり、と疑いの目を向けられた。
確かに「見ていない」というと語弊があるだろうが、昨夜の里沙はそれどころじゃなかったし、
そもそも人工的な明るさが僅かしかなかった状態では、「見た」とは到底思えなかった。
けれどそれを言うわけにもいかず、だからといって変な誤解もされては困る、と必死に潔白を訴えると、
そんな里沙のようすに愛は渋々ながらも納得したようだった。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:14
- 「…なんか、だるいなあ…」
「まだ酔いが醒めきってないんじゃない?」
「そうかも…。ガキさん、お風呂入った?」
「うん」
「じゃあ、あっしもシャワーしてくる」
言うと、愛は毛布にくるまったままベッドから降りた。
ベッドの脇に脱ぎ捨てていた衣類を鞄の中に片付け、レッスン着にもしているラフなジャージを取り出す。
愛がシャワーをしている間にちゃんと髪を乾かそう、と、里沙も自分の荷物の中から持参していたドライヤーを取り出した。
コンセントに差し込み、スイッチを押して温風を受けはじめてすぐ、浴室に向かう途中の愛がふと立ち止まって里沙を見た。
目が合ったけれど、何故か愛は里沙を見ながら不思議そうに首を傾げ、それからすぐに、何かに思い至ったように顔を赤くした。
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:14
- 「愛ちゃん? どうしたの?」
「なっ、なんでもないっ」
音が邪魔して聞き取れないだろうかとスイッチをオフにして尋ねたけれど、早口に告げると、愛はそのまま浴室に入ってしまった。
「…なんだ?」
何かおかしなところでもあるのか?
自分はもうスウェットを着ていたし、先に目を覚ましてシャワーをしていたのだから別に変わったところはないはずだ。
けれど、愛は明らかに里沙を見て不思議そうな顔をした。
それから何かに気付いて、それを誤魔化したのだ。
自分の顔に、愛を慌てさせ、愛の顔を赤らめるようななにがあるというのか。
そう思いながら壁に張りつけられた全身用の鏡まで移動して自分の顔を覗き込んでみたけれど、特に変わったところは見当たらない。
いつもどおりの、あまり特色あるとはいえない平凡な顔立ちをした自分がいるだけだ。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:15
- シャワーから出たら愛を問い詰めよう、と、鏡に映る自分から枠外へ視線を流したときだった。
視線の流れの中で、視界に見慣れないものを見た。
普段の自分にはないものだ。
慌てて鏡の中の自分に目を戻し、見慣れないものの正体を知る。
そっと顎を上向きにして、そこに映る自分の首筋。
鏡を見なければわからないその場所に、薄い桃色の小さな跡。
それが何かを瞬時に理解して、一気に顔に熱が集まる。
愛が見たのはきっとこれだ。
顔を赤くして誤魔化した、ということは、これの意味を悟った、ということだ。
つまり、昨夜の余韻である、ということを、愛は気付いてしまったのだ。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:15
- 里沙の膝からチカラが抜け、思わずぺたりと座り込む。
さっき自分が取り繕った言い訳が嘘だったということを、愛ももうわかっただろう。
ついた嘘はもうその効力を失った。
騙しておきたい相手が、その嘘に気付いてしまったのだから。
愛は、このしるしを、どう解釈しただろう。
自分以外の誰かにつけられたものだとは、きっと思いもしないだろう。
事実、愛に残された跡なのだから、そんな風に思われてしまうほうが里沙にはショックである。
昨夜の記憶はほとんどない、と愛は言った。
けれど、里沙のカラダに残された痕跡は、忘れた記憶を引き出す鍵になってしまったに違いない。
そして愛は、そんな自分自身をどう思うのだろうか。
なかったことにしようとした里沙を、どんな目で見る?
浴室から、水音が聞こえ始めた。
シャワーを済ませて神妙な面持ちで出てくる愛をどうやって迎えればいいだろう。
問い掛けたところで答えの返ってこない浴室のドアに目をやって、里沙は深い溜め息と一緒に頭を抱えた。
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:15
-
ベッドに腰掛け、ぐるぐると今後のことを考えながら項垂れていたせいで、どれくらいの時間がたったのかわからなかったけれど、
普段のような勢いではなく、かちゃり、と静かに、窺うように開かれたドアから出てきた愛は、里沙が思ったとおりに神妙な顔付きをしていた。
里沙が思っていたより長く、愛は浴室にいた。
それだけ愛も里沙への対応を考えていたということだろう。
どんな顔をすればいいのかわからない、とも思ったのかも知れない。
今朝起きたときの里沙がそうだったように。
いつもは柔らかそうに揺れる髪も今は半乾きで湿っていて、ジャージ姿でタオルで口元を隠しながら愛は立ち尽くす。
言葉を探している。
そう察して、里沙は唇を噛んだ。
愛を困らせたくなかった。
自分だって限界だった。
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:15
- 「…あのな、ガキさん」
「確認したいんだけどさ!」
愛が何か言いかけたのを遮るように里沙は少し大きめに声を張った。
思ったより声が大きくなってしまったことで驚いたように愛が頭を上げる。
その不安げな顔に、里沙は、ゴメン、と謝ってから、もう一度言った。
「確認していいかな」
「なに?」
口元を覆っていたタオルを降ろした愛が里沙を見つめる。
「…どこまで、覚えてる?」
声が震えなかったか、それが少し気掛かりだった。
里沙の問いかけに愛の表情がすっと引き締まる。
「…全部。…全部覚えてるよ、思い出した」
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:16
- ほんの僅かな期待が砕かれ、里沙は深く深く、溜め息をついた。
覚えていない、と答えて欲しかった。
何があったか予測はつくが、あまりよく覚えていない、と。
そうしたらどんな嘘でもでっち上げて、その場限りの嘘八百を並べ立てて、愛を説き伏せることだった出来たかも知れないのに。
全部覚えている、と言った。
思い出した、と。
もう逃げ道はなかった。
「…里沙ちゃん」
愛が、そろりと一歩、里沙のほうへ足を踏み出した。
途端、里沙の心音が跳ね上がる。
考えないようにしていた熱がぶり返す。
忘れたいと思っている感覚が戻ってくる。
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:16
- 「…あの、な」
どんな言葉を紡ごうとしているのか、愛の顔を見るのが怖くて里沙は俯いた。
そして、ベッドの縁をぎゅっと掴み、きつく目を閉じた。
「お願いっ、なかったことにして!」
愛の呼吸の間合いを読んで、愛の口から声が漏れるより先に里沙は半ば叫ぶように言った。
「え…」
「……お願い…」
「里沙ちゃん…?」
俯きながらだったせいで声が少しくぐもった。
けれど自分のことにはかまっていられなかった。
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:16
- 「昨夜の愛ちゃん、すごく酔ってたじゃん? たぶん、雰囲気に流されただけだと思うんだよね。あたしも好奇心に勝てなかったし。
そりゃ女同士だから、ちょっとはいろいろ考えたけどさ、でも別に、気にしてないし、ていうか気にしないから。
逆に考えたらさ、女同士だから赤ちゃんとかそんな心配もないし、カラダにもひどく傷がつくわけでもないしね。
なんていうんだっけ、こういうの。…お互いさ、ちょっとヤケド? したみたいなさ、そんな感じで…」
我ながらすらすら言葉が出てくることに嫌悪も感じたけれど、それでも、言わないわけにはいかなかった。
「……お願い、愛ちゃん…」
言葉は出るのにカラダは震えて強張る。
愛の顔を見ることが出来ないまま、里沙は顔を覆った。
「忘れてください……」
泣いてはいけないと思った。
涙の理由を聞かれてしまうから。
たけど、それなら、込み上げてくるこの感情はなんなのだろう。
自分は、何に打ちのめされている?
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:17
- その答えを自分からは見ないように、その答えに自分からは気付かないように、覆った手の中でまたぎゅっと目を閉じたとき、
里沙から少し離れたところに立っていた愛がぽそりと言った。
「……それが、里沙ちゃんの望み?」
その声は、ひんやりとした色で里沙の耳まで届いた。
「なかったことにして、今までどおり。…そういうこと?」
顔を覆ったまま里沙は頷いた。
「それが、里沙ちゃんの本心っていうんやな?」
確認させる声色からは怒ってるようには感じなかったけれど、呆れているようにも思えず、かといって困惑の色は消えていて。
愛の言葉にもう一度、今度は少し強めにはっきりと頷く。
自分を見ているであろう愛の表情が気になって、ゆっくりと手を下ろして頭を上げた。
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:17
- 頭を上げた里沙の目に映ったのは感情の読めない無表情の愛だった。
怒ってるようにも、悲しんでいるようにも、ホッとしているようにもとれて、里沙の背中を冷たい何かが滑り落ちた気がした。
「…わかった。里沙ちゃんがそう言うなら、そういうことで」
まっすぐ里沙を見つめていた愛の目が伏せられ、愛から目が離せなかった里沙は、金縛りがとけたように全身からチカラが抜けた。
里沙に背を向けるようにベッドに腰掛け、巻いていたタオルで髪を拭いていく。
無言でのその動作は、言葉がないぶん、逆に責め立てられている気分にさせられた。
忘れてほしかった。
だからそう言った、なかったことにしてほしい、と。
愛はそれに頷いてくれた。
今までどおりでいたいと言った里沙の願いを聞き入れてくれた。
言い出したのは自分なのに、そう望んだはずなのに、どうして捨てられたみたいな気分になるのだろう。
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:17
- 目の奥が熱くなって、それが何の前触れなのかがわかって思わず手で目元を覆ったとき、まるでそんな里沙が見えていたみたいに愛が言った。
「喉渇いたから、ガキさん、なんか買ってきて」
近くにいるのが苦しかった。
このまま愛のそばにいたら、無言の圧力に押し潰されてしまいそうだった。
だから、愛の言うままに部屋を出た。
本当は、泣くのを堪えた里沙に気付いた愛が、わざと里沙を部屋から追い出したのだとわかっていたけれど。
朝もまだ早いせいで、部屋の外はまだ人の気配もなくシンと静まり返っている。
スリッパの安っぽい音がパタパタと響く中、自動販売機のある場所に向かいながら、里沙は自分の頬を伝う滴を拭った。
- 31 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:17
-
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/02(金) 23:18
- 今日はここまで。
ちょっと長くなってしまったので2回に分けます。
- 33 名前:sage 投稿日:2007/11/03(土) 00:56
- マジにめっちゃいいです!
すげぇー好きな雰囲気の話し、
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/03(土) 01:21
- 引き込まれました…
続きが気になるっス!!
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/03(土) 03:00
- 泣いてしもた…。
綺麗な文章で凄く良かった!続き楽しみにしてるやよー
- 36 名前:ぽち 投稿日:2007/11/03(土) 09:38
- ドキドキ。続きが楽しみです。
- 37 名前:名無しです 投稿日:2007/11/03(土) 10:39
- やっばいです…っ!!
愛ガキ好きなのでのめりこんでしまいました。
続きも楽しみにしてますね♪
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/03(土) 13:10
- これは愛ガキ好きとしては見逃せないスレですね
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/03(土) 18:28
- 素晴らしい!!
リアルな雰囲気が感じられました。
早く続きが読みたいですw
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:08
-
更新します。
- 41 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:08
-
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:08
- 時間は、まるで何事もなかったかのように過ぎていく。
あの夜の出来事はひょっとしたら夢だったのではないかと思えるほど、言葉にも態度にも見せず、愛は、里沙が望んだとおり、以前のままの愛だった。
ただ、アルコールだけは目に見えて控えるようになった。
その理由を知るのは里沙だけで、そしてそれは、決して口にしてはいけないことだった。
- 43 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:09
- 「ガキさん」
呼ばれた里沙の肩がびくりと竦んだ。
すぐに声の主がわかっておそるおそる振り返ると、部屋の入り口付近からまっすぐ里沙を見据えている愛が立っていた。
「ちょっと話あるから、出てきて」
「…なに、怖い顔して? ここで言えばいいじゃん」
ジャケット撮影の合間の休憩時間。
用意された楽屋には里沙たち以外にもメンバーがいる。
明らかに不機嫌だとわかる愛の態度に、室内に緊張が走った。
「ええから、ちょっと来い」
言い捨て、愛は踵を返して歩き出す。
不機嫌を通り越して怒っている。
それはその場にいたメンバー全員が理解した。
そしてその原因に、少なからず里沙が絡んでいるのだろう、ということも。
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:09
- 「…ゴメン、ちょっと行ってくる」
そばにいた絵里の肩を軽く叩いて椅子から立ち上がると、困惑をその表情に乗せた絵里が里沙の手を捕まえた。
「なんかあったの?」
「ちょっとね…。でも、カメたちが気にすることじゃないよ」
他のメンバーに笑顔を向け、戸惑っているようすの小春やさゆみには手を振って見せた。
楽屋を出てドアを閉じたら、少し先で愛が待っていた。
一目で不機嫌だとわかるように腕組みをして。
楽屋から里沙が出てくると、無言のままで人通りの少ない場所まで移動する。
つまり、聞かれたくない話ということだ。
- 45 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:09
- 愛が里沙を呼びつけた理由には、思い当たる節がありすぎた。
あの日、何もなかったことにしたいと言ったのは里沙のほうで、愛はそんな里沙の望みに異議を唱えなかった。
最初のうちは、お互いがお互いとも、「以前のようなふたり」を演じていたように思う。
前以上にお互いが何を思っているのか見えなくて、読めなくて、朝晩の挨拶ですらひどく緊張した。
けれどそんなぎこちなさは時間が進むにつれて解消され、気がつくと里沙だけがいつまでも同じ場所から動けないでいた。
あの夜がきっかけで、お互いの距離が変わってしまうのがイヤだった。
あの夜に感じたことで、お互いにしかわかり合えない絆が変わってしまうことが怖かった。
- 46 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:09
- 変わらないでいたかった。
変わらないでほしかった。
だからなかったことにしたかった。
なのに。
なかったことにしたいと言った里沙のほうが、あの夜のことをいつまでたっても忘れられなかった。
忘れられない、と思った途端、すべてが怖くなった。
必要以上に愛に近付くことは避けた。
愛と喋る内容は何度もシュミレーションした。
愛に向ける表情だって言葉遣いだって、なんでもない振りを貫いた。
周囲にはきっと何も変わっていないように見えていただろう。
以前のままでいようと言われた当人だけが、イヤでも里沙の態度の顕著さに気付いていたに違いない。
プライベートでさえ、愛と里沙の会話は、まるで台本のようだった。
それでも愛は何も言わなかったし、里沙も何も言えなかった。
- 47 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:10
- なかったことにしようと、した。
だけど、実際にあったことをなかったことになんて出来ない。
そんなこと、考えなくたってわかっていたことなのに。
里沙から愛に近づくことができなかった。
里沙から愛に触れることができなかった。
愛が里沙に近づいてくると息苦しくなった。
愛が里沙に触れるたびにカラダが竦んだ。
それが何を意味するのかわからないほど子供でもなかったし、黙ってやり過ごせるほど大人でもなく。
今になって自分の過ちに気付いても、時間はもう引き戻せないことも痛いほど知っていて、里沙はただ流れる日々の中に身を置くことしか、できなかった。
そんなふうに里沙が愛を、本人にしかわからない程度に避けるようになってから、そろそろ2ヶ月になろうとしている。
いつまでたっても態度を改めない里沙に愛も痺れを切らしたのだろう。
前を歩く愛の表情は少しも見えないけれど、愛を取り巻く空気は負の色に見えた。
- 48 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:10
- 「…まわりくどいのは性格に合わんから率直に聞くけど」
人通りの途絶えたところまで来た愛が不意に足を止め、そのまま振り向かずに切り出した。
「ガキさん、なんであたしを避ける?」
いきなり核心をつかれたせいで言葉は見つからなかった。
避けてない、とは言えなかった。
そんな見え透いた嘘はついても意味がない。
「…こんなの言いたくないけど、ガキさんからなかったことにしたいって言うたんやんか」
かぼそく震えた声に里沙はぎくりと胸を鳴らした。
里沙の前で、里沙には背を向けながら、次第に頭を項垂れさせていく姿に胸が痛む。
「…なのに、なんで避けるん…?」
- 49 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:10
- 言えるワケがない。
愛に触れられたくないからだなんて。
触れられて本当のことに気付かれるのが怖いだなんて。
忘れて前に進んでいるように見せて、本当はあの日のまま、一歩も動いていないことを悟られるのが怖いだなんて。
まるで何かに奪われたみたいに声が出ない。
カラダも、楔を打ち込まれたみたいに硬く強張ったままだ。
何でもいいから声を出したいのに。
頼りなさげに揺れている肩に手を伸ばしたいのに。
何も答えない里沙に焦れたように愛が振り向く。
怒っていると思ったのに、その顔に浮かんでいたのは見ただけでそうと知れる悲哀で、
そんな顔をさせたのが自分なのだと思うと、それだけで里沙の胸は締め付けられた。
- 50 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:10
- 唇を噛み、目線を落とす。
里沙にしてみれば出てこない言葉を探すために俯いただけだったけれど、愛はそれを、自分から目を逸らしたと解釈した。
「…ガキさん」
呟く、というより、縋るような響きだった。
声色を不審に思って頭を上げたとき、里沙の目の前には愛の手が伸ばされていた。
予想外の展開がいきなりそこにあって、里沙は思わず肩を竦ませ、顔の前で両手を交差させる。
しかしそれは、愛が自分に触れてくるとは予測してなかったせいの咄嗟の行動で、ぶたれると思ったからじゃない。
けれど言葉にしていないぶん、愛を更に誤解させてしまった。
「……殴ると思った?」
自分の気持ちに手一杯の不用意な行動で思い違いをさせたと気付いたときには、もう遅かった。
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:11
- 「そんなん、するわけないのに…」
自嘲気味に愛が薄く笑う。
引きずられるように里沙の心が軋む。
「……あたしな、あのとき、里沙ちゃんがなかったことにしようって言うたんは、あたしのことを思ってくれたからって、思ってた。
今までどおり、って言うたんも、今までのあたしらの関係を壊したくないからやって」
ゆるゆると伸ばした手を下ろし、里沙を見る愛の目が淋しげに揺れている。
誤解を解くのは今しかないと思った。
「そ、そうだよ。壊したくなかった、前のままでいたかったから、だからあたし…っ」
しかし愛は、ゆるく首を左右に振って里沙の続きの言葉を聞こうとはしなかった。
「もうええよ、嘘つかんでも。…もうわかった」
「愛ちゃん?」
揺れていた愛の目にゆっくりと涙がたまっていくのを目の当たりにして、里沙は文字通り息を飲む。
- 52 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:11
- 「……触られるのもイヤなくらい…、怖がらせてしまうくらいイヤな思いさせたって、思わんかった」
「なっ、違う!」
すぐに返した反論にも愛はただ弱く首を振って見せただけで。
「ごめんな、気ぃつかんで」
「待ってよ、愛ちゃん、勘違いしてるよ」
「…勘違いしてたよ。ひょっとしたら里沙ちゃん、あっしのこと好きなんかな、って」
さらりと紡がれた言葉に里沙は思わず身構えた。
そんな里沙に愛はまた薄く苦笑いする。
「そういう、都合のいい勘違いしてた」
「あいちゃ…」
「でももう、わかった。もういい。今度こそ、ホントに里沙ちゃんの望むようにする」
まるで吐き捨てるような口調に里沙のカラダが震えた。
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:11
- 里沙を見て静かに微笑んだあと、愛の視線はゆっくりと厳しくなって、何かを払い落とすように里沙から目を逸らした。
「もう、戻ってもいいよ」
「…なんで…、まだ話、途中じゃない…」
「もう話すことなんてないよ。あたしのことはいいから、ガキさんはもう戻ってもいいよ」
「愛ちゃんっ」
「しつこいっ! 早よ戻れ!」
振り返った愛の顔に浮かぶのは怒り。
あまり見ることのない、完璧に近いほどの確かな拒絶だった。
「…呼び出したあたしが先に戻るより、ガキさんが戻ったほうがええんや」
「…愛ちゃん」
「怒鳴ってごめん。あたしもすぐ戻るから、だから今は先に行って」
呼び出された相手にもう用は済んだと言われ、一緒に戻る理由がない以上、いつまでもここに留まる理由は里沙にはなかった。
愛に言われるままに、愛の拒絶を受け入れることしか、里沙には許されていなかった。
- 54 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:12
- 肩を落とし、愛に背を向けて楽屋のあるほうへと歩き出す。
けれど数歩歩いただけで愛のようすが気になって振り向くと、愛は里沙のほうに背を向けたまま、しゃんと背筋を伸ばしていた。
愛の姿勢のよさは知り合った当初から知っている。
そして同時に、あれが愛の、決意の表れのひとつでもあるということも。
何度も見てきた後ろ姿に思わず里沙は見惚れたけれど、背後で人の声がして我に返る。
自分のことばかり考えて、愛がどんな気持ちであの日の里沙の願いを受け入れてくれたかなんて考えもしなかった。
自分勝手に行動していた里沙の態度に、どんな気持ちで接していたのかなんて考えもしなかった。
- 55 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:12
- 壊したくなかった。
変えたくなかった。
なくしたくなかった。
ずっと変わらないままでいたかった。
だけど里沙が望んだそれらは全部、里沙のせいで叶わないものになってしまった。
自分はただ足掻いただけで、何も言わず願いを聞き入れてくれた愛を傷つけただけだった。
今の自分には愛を背中さえ見る資格はないように思えて、ぎゅっと唇を噛む。
そして、愛が少しでも早く戻って来れるようにと、里沙は走って楽屋に戻った。
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:12
-
- 57 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:12
- あと数分で日付が変わる。
そんな時間に里沙の携帯が着信を知らせた。
メールとは着信音を変えていたから、それが電話だと気付くのに時間はかからなかったけれど、
こんな深夜に里沙の携帯を鳴らす相手に心当たりがなかった。
一応、メンバーや親しい友人のメモリには着信音も個人設定はしているものの、あまり聞き慣れないメロディということは、
携帯ではあまり過度には話すことのないない相手、ということになるが、ディスプレイに表示された見知った名前に、
里沙は少しでも逡巡してしまったことを反省しながら慌てて通話ボタンを押した。
- 58 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:13
- 「もしもし」
『あっ、ごめんね、こんな時間に。寝てた?』
「いえ、まだ全然起きてましたよ」
小さな機械を通して聞こえてくる独特の声色に、里沙の口元が知らずに綻ぶ。
「でも、珍しいですね、石川さんが電話くれるなんて」
綻ばせながら思った疑問を告げると、携帯の向こうの梨華は急に焦った声を出した。
『ねえ、今から出て来れない?』
「はっ?」
『今あたしさ、愛ちゃんとこにいるんだけど』
不意に出た、今の里沙を何よりも揺るがす名前に思わず唇が凍る。
けれど、次に続けられた言葉に里沙の中のためらいが消えた。
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:13
- 『愛ちゃんがさ、ちょっと大変なのよ』
「たっ、大変って…、えっ、まさかなんか怪我したとかですかっ?」
『怪我っていうか…、まあ、怪我みたいなもんなんだけど』
「なんなんですか、はっきりしてくださいよ!」
『とにかく今すぐ来てよ。ガキさんが来ないと、たぶん、ダメになっちゃうと思うんだ』
「はあっ?」
梨華の言いたいことがちっともわからない。
愛のことだ、というだけでもひどく動揺しているのに、梨華の濁し方はカンに障る。
「ちょっと、石川さんっ?」
『もう遅いし危ないからタクでおいで。ご両親には石川に呼び出されたって言っていいから』
いいからって、実際に呼び出してるじゃないか。
そう文句を言おうとして通話は途切れる。
- 60 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:13
- あまりに急なことでなにがなんだかよくわからなかったけれど、愛が大変なことになっているらしい、ということだけは把握できた。
昼間、愛を傷つけてしまったのだと自覚したあと、さほど時間を空けずに楽屋に戻ってきた愛は一度も里沙を見なかった。
いや、視線は向けられたが、その目は決して里沙を捉えてはいなかった。
里沙が愛にだけわかるように避けていたように、愛も、里沙にだけわかるような避け方をした。
愛に避けられて、改めて自分がどれほど愛を傷つける態度をとっていたのかを知った。
梨華の電話を切ったあとも、ぐるぐるとイヤな考えが過ぎって、それらを振り落とすように頭を振る。
手近にあった財布と携帯をバッグに詰め、まだリビングにいた両親に出かける理由を簡潔に言うと、
青ざめて慌てている娘に、それなら、と父親が車を出してくれることになった。
里沙の自宅から愛の住むマンションまでは結構な距離がある。
しかし、深夜だったおかげで渋滞に巻き込まれることもなく、思ったより早く辿り着くことが出来た。
- 61 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:13
- 待っている、と言った父親を、何かあれば必ず連絡いれるから、と説得して帰らせ、マンションのエントランスから梨華の携帯を鳴らした。
『もしもーし』
「つっ、着きましたっ」
『えっ、早いじゃん』
「お父さんに送ってもらったんで。今から上がります」
通話しながら以前教えてもらっていた暗証番号でロックを解き、エントランスを抜けてエレベーターに乗り込んだ。
ひどい怪我なのだろうか。
春先の足の怪我もようやく治ったばかりだというのに、どうしてまた愛なのだ。
もし何かの罰だというなら、愛を傷つけた自分こそが罰をうけるべきではないのか。
焦る気持ちと腹立たしくも思う気持ちが入り混じって苛立ちが増し、口の中に唾が溜まる。
愛の部屋の前まで来て、一度深く息を吐き出してからインターホンに手を伸ばすと、それを見計らっていたように内側からドアが開いた。
- 62 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:14
- 「いらっしゃい」
「…っ、なんでそんな呑気なんですか!」
出迎えた梨華が笑顔で、なんだかひどく馬鹿にされている気分になって、里沙は息を荒げて思わず怒鳴ってしまった。
声にしてから今が深夜だったことを思い出し、慌てて自分の口を覆う。
怒鳴られたことで梨華は申し訳なさそうに眉尻を下げ、ごめん、と一言言ってから里沙を部屋の中へと促した。
「…愛ちゃんは?」
「部屋で寝てるよ」
「怪我、ひどいんですか?」
その問いかけには小さく笑って見せただけで、梨華は何も答えなかった。
怪我をしているのに自宅の寝室で寝ている、ということは、そんなにひどい怪我ではないということだろうか。
眉を潜めながら愛が眠っているという寝室のドアを開けたとき、里沙の鼻先を不愉快な匂いが掠めた。
まさかと思って梨華に振り向くと、梨華はちょっと意地の悪そうな顔で笑っていた。
- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:14
- 「……石川さん?」
「あ、もうわかっちゃった?」
「わかりますよ、なんですかこの匂い!」
「わわわ、声が大きいって」
憤慨する里沙の口を梨華が慌てて手で覆い隠す。
覆われながら、じとり、と梨華を見ると、悪びれたようすもなく肩を竦めた。
怒る気が失せ、目だけで愛を探すと、ベッドに人がひとり眠っているとわかる膨らみがあった。
梨華の手をゆっくり解いてベッドに歩み寄り、枕元に立って愛の顔を覗き込むと、
ツン、と鼻の奥にまでさっき感じた不愉快な匂いが届き、里沙は思わず顔をしかめた。
里沙の鼻先を掠めたのはアルコールの匂いだった。
少し飲んだくらいではここまで匂わないだろうし、あの夜だって眉をしかめるほどではなかったのだから、今夜は相当量を飲んだことになる。
あの夜以来、ずっと控えていたはずなのに、どうして。
- 64 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:14
- 「今日の昼間、愛ちゃんから、ヒマだったら飲みに行きませんかって、急に連絡もらってさ」
薄暗い明かりに照らされた愛の寝顔を眺めていた里沙に、梨華が話し出す。
「……愛ちゃんのほうから?」
「そう。最初はあたしもさ、珍しいなー、って思ったんだけど、飲みたい気分なんです、とか言われちゃってさ。
まあ別に用もなかったし、仕事終わってから飲みに行ったのよ」
あのときだ、と里沙は思った。
里沙を先に楽屋へ戻らせたあのとき、梨華に電話したのだ。
「飲みたい気分、なんて、ハタチそこそこの、ましてそんなに強くない子がいうことじゃないよね。
なんかあったってのはすぐわかったんだけどさ、でもなーんも言わないの、この子。ずっと黙ってあたしの話聞いてんのね。
でもさ、飲むピッチだけはすんごい早いのよ。だから落ちるのも早かったんだけどさ」
「落ちる、って…」
「人間って、酔っ払うと正直になるよね。愚痴だったり悪口だったり、文句だったりさ。
普段言えないようなこともお酒の勢いで、っていうのはこの子も例外なくて、出るわ出るわ、びっくりするぐらい」
- 65 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:15
- どんな? と尋ねるより前に、梨華はまた肩を竦めた。
「ガキさんの話ばーっかり」
「えっ」
ちら、と目線を投げてきた梨華と目が会って顔に熱が集まる。
焦りながら俯くと、軽く握られた拳で頭のてっぺんを小突かれた。
「言っとくけど、悪口じゃないよ?」
「……はい」
返事を聞いてから小突いた拳を解き、そのまま里沙の頭を撫でた。
「…愛ちゃん、なんて言ってました?」
「なんかね、ずーっと、ガキさんに悪いことした、って言ってた。嫌われたから、これからどうしていいかわかんない、って」
里沙の胸がぎゅうっと締め付けられる。
アルコールのせいで顔を赤くした愛が、泣きそうな顔で話している姿は想像に難くなかった。
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:15
- 「ケンカしたの? そのわりに、さっき電話したらすんごい心配してたよね?」
「ケンカじゃ…ないです……。あたしが、愛ちゃんのこと、傷つけちゃって……」
「ふたりして同じこと言うんだね」
ふっ、と短く息を吐いた梨華が里沙の肩を軽く叩く。
「アンタたちさ、お互いの気持ちばっか気にして、自分の気持ち、ちゃんと相手に伝えてないでしょ?」
自分でも見ないように気付かないようにしていたことを見抜かれた気がして、里沙は返す言葉を見つけられずに口を閉ざした。
「なにがあったの、なんて野暮なことは聞かないけどさ、でも、毎日顔を合わす相手を見て見ぬフリは出来ないんだから、
こじれようが傷つこうが、泣こうが喚こうが、ちゃんと向き合って自分の気持ちから話さないと前へは絶対進まないよ?」
わかっている。
隠れることも、逃げ出すことも出来ないことくらい。
あの日あったことをなかったことには出来ないように、里沙が愛を傷つけたことは消せない事実で、
自分本位の軽はずみな態度で傷つけることしか出来なかった理由も、隠しきれるわけはないのだ。
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:16
- 「大事なんでしょ、愛ちゃんのこと」
「大事です」
「即答できるんじゃん」
クス、と小さく笑われ、頬が熱くなった。
「それ、ちゃんと愛ちゃんにも言ってあげな。この子、ガキさんに嫌われたっていうのがホントにショックみたいだったから」
言いながら梨華が部屋の時計を見上げ、それから寝室のドアのそばにおいてあった鞄を持ち上げた。
「じゃ、あたし、帰るわ」
「えっ!」
「あとはふたりでごゆっくりー。…つっても、愛ちゃん寝てるけどー」
「ちょっとちょっと待ってくださいよっ、どうやって帰るんですか! 終電とっくに終わってますよ!」
「ガキさん待ってる間にタクシー呼んだの。あと10分で予約の時間だから、もう下に来てると思うし」
ならば、どんな理由をこじつけてでも、初めから里沙をここに呼び出すつもりだったということか。
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:16
- 「ごめんね」
玄関先で座り込みながらブーツの紐を結んでいた梨華が、追いかけてきた里沙にそのままの姿勢で言った。
「石川さん?」
「…嘘ついたのは悪かったって思ってる。…けど、あたし、あんな愛ちゃん、あんまり見たくないんだよね」
結ぶ手を止めた梨華が思い返しているのは、きっと里沙の話をしていたときの愛だろう。
どんなふうに自分の話をしたのかはわからない。
けれど、見たくない、と思わせるほど、普段の愛からは懸け離れていた、ということだ。
結び終えて立ち上がり、鞄を持った手とは逆の手でまた里沙の頭を撫でる。
「それに、おまめのそういう顔も、できたらもう見たくないしね」
「いしかわさん…」
「大丈夫、何も怖がんなくていいよ。愛ちゃんだっておまめのこと、ちゃんと大事に思ってるから」
涙が込み上げてきそうなのを堪えたら声が出なくなって、里沙はただ、何度も何度も、頷くことしか出来なかった。
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:16
- ドアの向こうに梨華の姿が消えてもしばらくそこで俯いていた里沙だったけれど、急に愛のことが気になって寝室に戻った。
愛の眠るベッドに歩み寄り、起こさないようにベッドの端に腰掛けて愛の寝顔を眺める。
熱を帯びて火照っているように見える赤くなった頬にそっと手を伸ばし、指の腹だけで撫でる。
たったそれだけでも伝わる熱に里沙の胸が鳴った。
指先で撫でるだけでは物足りなくなって、それでもまだどこか震える手のひらで包み込むように頬に触れる。
そうっと、顎の輪郭に手を添えたら、指先は愛の耳に届いた。
短くなってしまった愛の髪の一房を耳に掛け、耳のカタチを縁取るように指を滑らせると、ぴくりと愛の眉が動いた。
起こしてしまうのが躊躇われたけれど、目を覚まして欲しいとも思った直後、閉じられていた愛の瞼が、ゆるりと、数度の瞬きを繰り返して開かれる。
そしてその瞳に里沙の姿を映し、一瞬嬉しそうに口元を緩めたけれど、すぐに悲しそうにへの字に歪ませた。
- 70 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:16
- 「……これ、夢やな…」
消え入りそうな声が切なくて、里沙は愛の頬を撫でていた手をとめた。
「なんで?」
「…だって…ここに里沙ちゃんがいるわけ、ないもん……」
拒絶するような言葉でありながら頬を撫でる里沙の手を嫌悪しているようすは見られなくて、一瞬躊躇ってしまったけれど、里沙は再び愛の頬を撫でた。
「……ほら、やっぱり夢や…」
「どうして?」
「だって…、里沙ちゃんがあっしに触るわけない……」
目を閉じた愛の唇が淋しそうにまた歪む。
「……嫌われてるもん…」
酔いのせいもあるのだろう、伏せられた瞼が小刻みに震えている。
- 71 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:17
- 「…嫌ってなんかいないよ」
あまりにも切なそうに口元を歪める愛に、それだけ言うのがやっとで。
里沙は、乾く自分の唇をきゅっ、と噛んだ。
「……でも、夢でいい…。そしたら里沙ちゃん、触ってくれるし…、里沙ちゃんに触れる…」
布団の中に隠されていた愛の手が、そっと、愛の頬を撫でていた里沙の手に重ねられる。
「…夢じゃないよ、あたし、ちゃんとここにいるよ?」
閉じられていた愛の瞼が静かに上がる。
ぼんやりとどこか虚ろな瞳に自分は映っていないような気がしてまた唇を噛むと、愛の口元がふにゃりと歪んだ。
「…それ、里沙ちゃんのクセや…」
- 72 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:17
- 里沙の手に重ねられていた手が里沙の頬に伸びてくる。
顔に触れられるのは、あの日以来だ。
手以外で愛の体温を感じるのも。
そう思うと、目の奥が急に熱くなってきた。
「……あっし、夢でも里沙ちゃん泣かしてるな…」
呟くように漏れた声が里沙の心を大きく揺らす。
里沙の頬を撫でる愛の手を両手で包み込んだら、堪えた涙が零れた。
「……泣かんとって…」
言われてますます涙が溢れ出す。
こんなに優しい人を、どうして傷つけることが出来たのだろう。
どうしてもっと、この人を思い遣ってあげられなかったのだろう。
- 73 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:17
- 「…愛ちゃん、ごめん…」
愛の手を掴みながら、涙声で呟く。
そんな言葉では足りないとわかっていても、自分の過ちを、悔いを認める言葉はそれ以外に知らない。
「……なんで、里沙ちゃんがあやまるん?」
困惑を含んで熱っぽく聞こえる声がまた里沙の心を揺さぶる。
「…あたしのほうが、愛ちゃんにひどいことしたからだよ」
あの日、あの朝。
目を覚ました最初、愛が何も覚えていなければいいと思った。
愛が里沙にしたことを知れば、きっと自分たちは今までのようには付き合えなくなるだろうから。
責任だとか、罪悪感だとか、そんなもので愛を縛りたくなかった。
自分だけが覚えていればいいと思った。
そうすれば、あの夜の愛を独占できるのは自分だけだとさえ、里沙は思ったのだ。
- 74 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:17
- 酔った勢いがあったとはいえ、愛にカラダを許したことに好奇心がなかったとは言えない。
雰囲気に流されたことも否めない。
けれど、そこに露ほども嫌悪はなかった。
覚えていなければいい。
そうすれば自分の浅はかな欲望は誰にも知られず、自分のカラダを這った愛の指も唇も吐息も全部、自分だけのものになる。
そんなふうに考えた自分が信じられなかった。
同じぐらい許せなかった。
変わりたくなかった。
壊したくなかった。
なくしたくなかった。
けれどそれらは、ふたりの間にあったことを消すことも忘れることもできないなら、叶わぬことだった。
叶わぬことだとちゃんと知っていたのに、それでも変わりたくなかった、壊したくなかった、なくしたくなかった。
- 75 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:18
- 「…愛ちゃん、あたしね、ホントは…ホントはね」
里沙の頬に触れている愛の手が里沙の涙を拭う。
その手をもう一度握り締めて、自分の心の奥底に沈めた感情を引き上げた。
本当の気持ちは、たとえ生涯かけて世界中のすべての人に隠せても、自分自身には隠せない。
そしてその隠し切れない気持ちを伝えたい相手は目の前にいる。
「……愛ちゃんが、もっとあたしに触ってくれたらいいのに、って、思ってるんだよ」
里沙の涙を拭っていた愛の手が強張る。
自分の告白に引かれた気がして、掴む手から思わずチカラが抜けた。
伸ばしていた手を支える手がなくなった愛の手がぱたりと落ちる。
里沙を見上げる目が窺うように揺れている。
- 76 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:18
- 「……すごい、都合のいい夢見てるなあ…」
呟くように漏れた声に里沙は慌てて首を振った。
夢のままで終わられては困る。
忘れて欲しくない。
覚えていて欲しい。
そろりと瞼を下ろした愛がゆっくり起き上がる。
酔いが醒めていない状態で起き上がったせいか、少し覚束ない体勢になった愛を支えようと咄嗟に腕を伸ばしたら、二の腕を捕まえられた。
「……でも、夢やったら、何してもいいよな…」
その意味を把握する前に強く引き寄せられ、バランスを崩して愛のほうへ倒れこむと、きつく抱きしめられた。
抵抗せずにいたらすぐに首筋に鼻を擦り付けられ、匂いを嗅いでいるとわかる、すん、という音が聞こえた。
- 77 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:18
- 「現実みたい…、匂いまでおんなじ…」
「夢じゃないよ、あたし、ちゃんとここにいるよ」
里沙の背にまわる愛の腕のチカラが強まる。
応えるように里沙も愛の背中に腕をまわした。
「…触って、いいの?」
まだ夢だと思っているくせに確認するように耳に近い場所で囁かれて、その意味を悟った里沙のカラダが揺れる。
こくりと頷いたら、愛の上体の重心が里沙へと移ってきて、そのまま押し倒された。
赤く火照った頬で、まだ不安そうに見下ろす愛にまた里沙の胸が鳴る。
「……愛ちゃん、お酒くさいよ」
ひどく緊張していることを誤魔化すように言っても、愛は小さく首を縦に振っただけで、目の奥で不安そうに揺れている翳りは薄らがない。
- 78 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:18
- 「里沙ちゃん…」
呟くように呼ばれて目を閉じた。
戸惑いが空気の流れで伝わってきたけれど、すぐに唇を重ねられた。
反応を窺いながら少しずつ深くなっていく口付けに里沙も応える。
愛の背にまわしたままだった手でシャツを握り締めると、気付いたように、愛の手が里沙の髪の中に差し込まれてきた。
忘れるなんて言わない。
覚えてないなんて言わせない。
だから、もっと刻み付けるように跡を残してくれていい。
祈るように縋るように里沙は思った。
そして。
声にならない自分の心の声に重なるように届けられる愛の吐息に、里沙はそれ以上は考えることをやめた。
- 79 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:18
-
- 80 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:19
- 朝は来る。
なかったことにしたかったあの夜にも、覚えていて欲しいと願ったこの夜にも。
目を覚ました愛に、言わなければならないことはたくさんあった。
目の前にいる里沙を見て、きっと愛はひどく動揺するだろう。
繰り返してしまった自らの過ちに、泣いてしまうような気がした。
逃げ出してしまうかも知れない。
怒り出すかも知れない。
同じ過ちを繰り返したなら里沙も同じだと、呆れて責めるかも知れない。
しかし里沙には、どんな愛を前にしても、すべてを打ち明けなければならない義務があった。
そして、たとえ軽蔑されても、今度こそ本当に距離が出来てしまうのだとしても、何よりも伝えなければならない気持ちと言葉が。
- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:19
- 先に眠りに落ちてしまった愛の手をそっと握り締めると、無意識のはずなのに、ゆるく掴み返された。
その熱を愛しいと思う。
失いたくないと思う。
どんな夜にも朝がくるなら、目を覚ます瞬間はせめて穏やかであればいい。
訪れる朝が、愛にとって優しくあればいい。
そして、自分たちにとって新しく迎える朝が、
何かが壊れてもまた新たに始められる、変わらないものも確かにあると信じられる、なくしたものが見つかるような、そんな朝であればいい。
目を覚ましたときにその気持ちがまっすぐ愛に伝わっていればいいと、里沙はただそれだけを願った。
END
- 82 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:19
-
- 83 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:21
- 以上で、「キミといるあした」は終了です。
ところどころ、改行ミスがあったので、お見苦しかったら申し訳ありません。
>>33-39
レスありがとうございます。
思っていたより愛ガキスキーな方がいらっしゃったので、とても嬉しかったです。
読んだくださり、本当にありがとうございました。
- 84 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 22:59
- 愛ガキ好きです。でもあまり多くないので読めてうれしかったです。
続きとか新作があるとうれしいな。
- 85 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 23:25
- ありがとうございました…
ホントに泣きました。
- 86 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/06(火) 00:18
- とても綺麗にまとまった素晴らしいお話でした。
愛ガキの良さがよく出ていたと思います。
できれば、もっと作者さんの愛ガキが読みたいです!
- 87 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/06(火) 00:19
- ありがとうございました。
愛ガキ好きで、凄い感動しました。
作者さん、よければもっと愛ガキを!!
- 88 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/06(火) 00:46
- 短編だったのか!長編だと思ってましたよ!
でも素晴らしい作品でした
次もまた期待しています
- 89 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/06(火) 02:56
- 良かったぁ!揺れたよ
- 90 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/06(火) 03:56
- 涙を拭きつつ読みました最高でした。
作者さん視点の他カプも是非読んでみたいですね。
- 91 名前:ぽち 投稿日:2007/11/06(火) 05:27
- 愛がき、大好きです。
二人の信頼関係が描かれていて良かったです。
もし可能なら、その後も読んでみたいです。
- 92 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 23:34
- 更新します
「キミといるあした」の続きのような…視点違いのような…
- 93 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 23:35
-
- 94 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:35
- 曖昧だったとはいえ、目を覚ました直後は、手に、耳に、肌に、自らのカラダに、里沙の余韻はちゃんと残っていた。
それでも夢だと思っていた。
いつものように、自分に都合のいい夢を見ただけだと。
服を着てなかったことには少し眉をしかめてしまったけれど、酔って自分で脱いだと言った里沙の言葉を、愛は信じた。
けれど、里沙の首筋に薄い桃色の跡を見つけたとき、願望のように思えた余韻が夢じゃなかったことを悟った。
夢などではなく、真実この手で里沙を抱いたのだと。
同時に、なんでもないように見えた里沙が、平静を装っていただけだった、ということも。
夢だと思っていたことを最初から振り返ってみて、間違いなく現実に起きたことだと実感して、愛は素直に嬉しかった。
本当はずっと好きだったから。
もしも許してくれるなら、そのカラダに触れてみたいとずっと思っていたから。
だから。
なかったことにしてほしいと言われたとき、愛は、すぐにはその意味を受け止められなかった。
- 95 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:35
- どうしてそんなことを言うのか。
どうしてそんなに苦しそうな声を出すのか。
確かに愛は酔っていたから、愛のほうは酔った勢いと思われても仕方ないけれど、でも本当に好奇心だけで同性にカラダを許したというのだろうか。
雰囲気に流されただけ?
本当に、自分に対して少しの好意も持っていなかったと?
けれど、ひどく怯えたようすで忘れてほしいと訴える里沙を見ていたら、
自分の里沙に対する気持ちはなんだか間違っているように思えて、そしてそれはきっと里沙には重いものでしかないのだともわかって、
里沙の望みに応える以外、自分には許されていないのだと愛は思った。
- 96 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:35
- 里沙は自分に好意を抱いているのではないだろうか。
だからカラダを許したのではないか?
そんなふうにまで考えた自身の自惚れが恥ずかしくてたまらなくて、
なかったことにしてほしいと言われたあと、愛はしばらく里沙の顔をまともに見ることができなかった。
それは里沙も同様だったようで、些細なことでも愛のもとに駆け寄って話し掛けてくれていたのに、
いつのまにか、里沙のほうから愛に近付いてくることはなくなってしまった。
最初のうちは、愛も、それは仕方のないことだと諦めていた。
さすがにあんなことがあった直後に今までのように振る舞うことは出来ないだろう。
なかったことにしたい、と言ったのは里沙のほうなのだから、
いずれは以前のように何もなかった自分たちに戻れるのだと思っていたし、愛もそうするつもりでいた。
ただ、たとえ里沙が忘れても、自分は忘れたふりで、ずっと胸の奥に留めておくつもりだった。
あの夜触れて初めて知った里沙の肌のやわらかさを、その熱を。
- 97 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:38
- けれど里沙は、愛にしかわからない態度で愛のことだけを避けるようになった。
愛にとって顕著なくらいのその態度は、それまで仕方のないことだと諦めていたような謙虚なものではなく、
深く踏み込んで今以上に距離を広げたくない、という里沙を気遣う気持ちを逆撫でるには充分なくらい不自然なものだった。
自分は里沙の望みを聞き入れて何もなかったふりでいるのに、いつまでたっても少しも以前のような里沙に戻らないことに苛立ちが募り、
強引に理由と本音を問いただそうとして、愛は、あの夜の出来事が里沙を怖がらせただけだったのだと知った。
- 98 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:38
- 好奇心はあった、と里沙は言った。
雰囲気に流されたとも。
でも、だからと言って自分が恐怖を与えなかったなんてどうして言える?
カラダに目に見える傷はつかなかったからといって、心も傷つかなかったなんてどうして言える?
ひどく怖い思いをしたから、目には見えないところで傷ついたから、だから里沙はなかったことにしたかったのだ。
どうしてそんな簡単なことさえ気付かなかったのだろう。
すべてにおいて自分の都合のいいように進めようとしていたのは、むしろ自分のほうではなかっただろうか。
- 99 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:39
- 愛の手を拒んだ里沙の、怯えたように震えていた口元が瞼の裏に焼きついて離れない。
やりきれなくなって、けれどひとりで抱えるにはそれは少し重すぎて、ひとりきりになってしまうのがイヤで、無理を言って梨華と会う約束をした。
けれど、正直、梨華と会ってもどんな話をしていたかは覚えていない。
おそらく梨華も、愛が上の空だったことは承知していただろう。
あの夜以来、ずっと控えていたアルコールをどれほど摂取したかも覚えていない。
思いを振り切りたくて。
里沙を傷つけた自分自身が許せなくて。
そんな風に思いながら飲んでも瞼に焼きついた里沙の顔は薄れるどころか鮮明になるばかりで、
カラダはどんどん酔っていくのはわかっても気持ちは少しも酔えず、溺れることも出来なかった。
- 100 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:39
- これは罰だと、愛は思った。
ずっとずっと好きだったのに、その気持ちをまっすぐ伝えられず、ただ傷つけてしまうことしか出来なかったことへの。
だから。
目を覚ました愛の目の前で、困ったように眉尻を下げている里沙を見たときは、
こんな風になってもまだ都合のいい夢を見る自分に、呆れるのを通り越して笑ってしまったほどだった。
けれど、そんな自分の手を握り返されて、その体温に覚えがあったこと、そしてそのリアルさに、一瞬で夢ではないと悟って飛び起きた。
飛び起きて一番に目に付いたのは、愛の眼下で、お互いがあの夜のように何も着ていなかったこと。
そして、あの夜以上に、里沙の肌に赤いしるしがあったことだった。
- 101 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:39
- 瞬時にパニックになって、愛は文字通りベッドから転げ落ちた。
自分が一糸纏わぬ姿だったことなど気にはならなかったが、
ベッドの上で愛を追って心配そうに起き上がった里沙の視線に耐え切れず、脱ぎ散らかしていた自分の服を手繰り寄せた。
「なっ、なっ、なんで!?」
里沙に触れながら、そのカラダに跡を残しながら、夢にしてはリアルだと思っていた。
だけど自分に怯える里沙が、抱き合う、という行為にあんなにも従順に応えるわけがないと思っていたから、夢だと思うほうがずっとずっと自然だったのに。
いきなり大声を出したせいもあるけれど、昨夜、過度に摂取したアルコールは愛にそれ相応の頭痛をもたらした。
自分の声が響いてうずくまるように両手で頭を抱えると、ベッドの上の里沙から心配そうな声が聞こえてきた。
「だ、大丈夫?」
聞こえてくる声は紛れもなく里沙の声。
毎日のように聞いている、忘れたくても忘れられない声。
- 102 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:40
- そろそろと頭を上げて里沙を見る。
見ただけで、目には見えない自分の欲望の濃さがどれくらいのものだったのか思い知らされるほど、
里沙のカラダには愛がつけた赤いしるしが残されていて、その数の多さに一気に顔に熱が集まる。
どうせ夢なのだからと、自分の欲望のままに好き勝手に触れた。
前よりも乱暴にした覚えもある。
傷を残してやしないかと、急に不安になった。
「…夢じゃなかったんか?」
「夢じゃないよ」
「なんで! なんでまた…!」
声が大きくなるのは仕方がない。
それで里沙をまた怖がらせてしまうかも知れないと思ったのは、声にしたあとだった。
- 103 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:40
- 申し訳なさそうに愛を見下ろす里沙が唇を噛む。
それから静かに頭を下げた。
「…ごめん、愛ちゃん」
震える声に愛のカラダが強張る。
夢の中でも、何度も謝られていた気がした。
謝らなければならないことをしたのは愛のほうなのに、何故、どうして里沙が謝るのだ。
あの日のように怯えさえ見える瞳でこちらを見つめるくせに。
苦しそうにこちらを見つめるくせに。
なのに、どうしてここから去ろうとしない?
自分のことが怖いならそばにいなくていい。
自分といることで苦しいというなら、もっともっと離れてくれていい。
そんな顔を見たいわけじゃない。
苦しめたいわけじゃない。
- 104 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:40
- 「あたし、ずっと嘘ついてたの」
搾り出すように里沙の口から零れた言葉に愛は眉を潜めた。
「ホントはあたし、ずっと愛ちゃんのことが…」
僅かに伏せている里沙の瞼が、声と同じように震えている。
届けられる言葉はすべてが愛の都合のいいように聞こえたけれど、里沙の震える声と、その声が纏う雰囲気が嘘でも夢でもないことを伝えてくる。
「愛ちゃん…」
里沙の告白を聞いても茫然としたまま身動き出来ずにいた愛を見て、里沙もベッドを降りた。
愛と視線の高さを合わせて、手を伸ばそうとして、けれどひどく震えているその指先が愛の目に留まる。
その震えは、愛の目には、愛のことが怖いのに無理して触れようとしているようにしか見えない。
なのに、自分を見つめる里沙の瞳の色に怯えが感じられない。
- 105 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:40
- 「…嘘やぁ」
里沙の震える指先が愛の頬に触れる直前、今、自分の目の前で起きようとしていることが信じられなくてそんな言葉が出た。
愛の声を聞き、里沙の手が愛の目の前で止まる。
里沙の意志など半ば無視して自分の気持ちのままに抱いたのに、それでも好きだと言うのか。
同情や友情などではなく、それをとうに越えている自分と同じ気持ちで?
「こんな…、こんなことって…」
目の前で、それ以上は伸ばすことをやめてしまった里沙の手。
困惑を纏いながら小刻みに震えて揺れているその手が愛の胸を鳴らす。
もう二度と口にすることは許されないと思っていた気持ちが込み上げてくる。
里沙の手がゆるりと下がりかけたのを見た途端、気持ちを抑えられず、愛はその手を掴んでいた。
びくっ、と里沙のカラダが驚いたように揺れても構わず、愛はその手に自身の頬をすり寄せた。
- 106 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:41
- 「……愛ちゃん…?」
「もう、こんなふうに里沙ちゃんに触れんと思ってたのに…」
言葉と一緒に愛の目尻から涙が零れる。
戸惑いを孕んでいた里沙の指が、愛に掴まれたことで逆に強さを纏って愛の頬をそっと撫でた。
「触ってもらうのも、もう無理やと思ってたのに…」
「…ごめん」
頬を撫でられながら頭を振った。
謝って欲しいわけではなかったから。
そっと里沙を見上げると、愛を見ている里沙の瞳には怯えなどカケラも見えなかった。
おそるおそる里沙のほうへ腕を伸ばしたら、口元は幾らか柔らかく微笑みを浮かべていても、ほんの少しだけ緊張が窺えた。
けれど愛は、それに気付かなかったフリで伸ばした腕の中に抱き込むように、里沙をカラダごと抱き寄せた。
- 107 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:41
- 「すき…」
「愛ちゃ…」
「ずっとずっとすきやった。ずっとずっと…、こうしたかった」
ぎゅ、っと、幾らか強めに抱きしめても、里沙は抵抗しなかった。
そのかわりのように、愛の背中にそうっと手がまわされてくる。
「…あたしも、愛ちゃんのことがすきだよ」
夢だと思った。
夢だから何をしてもいいと。
でも今は夢じゃないと思いたかった。
夢で終わらせたくなかった。
- 108 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:41
- 「……なかったことに、しなくていいの?」
今、素肌で感じている里沙の体温を。
その肌のやわらかさを。
吐き出される吐息が孕むその艶と熱を。
「うん、覚えてて。 …あたしも、忘れるなんて言わないから」
なかったことにしなくていいのだという思いが愛に涙を零させる。
あの夜のことも、昨夜のことも。
里沙を抱きしめた夜を、その肌に触れたいと思ったこの情熱を。
「…愛ちゃんに、もっと触ってほしいって、思ってるから」
あまりに愛にとって都合のいいことばかり続いたので、さすがにそれは聞き間違いかと思って思わず頭を上げると、
目が合った里沙の頬は恥ずかしそうに赤らんでいて、口元は言った言葉自体を濁すようにへの字に歪められていた。
- 109 名前:…and I love you 投稿日:2007/11/09(金) 23:41
- 「……そんなの言われたら、ホントに触るで?」
きゅ、と軽く噛まれた唇が、昂ぶっていた愛の気持ちをほんの少し落ち着かせ、自分で言っておいて躊躇している里沙をますます愛しいと思わせた。
肩を抱いていた手で里沙の前髪を払うと、そんな愛の行動に里沙のカラダが僅かに竦んだ。
それでも平静を装おうとする里沙が健気でいじらしくて可愛くて、愛はまた里沙を強く抱きしめる。
愛の体温のせいか、それとも抱きしめられたことで別の感情が生まれたのか、里沙のカラダからゆっくり強張りが解けていく。
愛を思って傷付くほうを選んでいたというのなら、その気持ちごと包めるぐらい大切にするから。
今度からは、もうそんな風に里沙ひとりだけで傷付く選択はさせないから。
竦むカラダを、緊張を、ほぐすのはいつでも自分であればいい。
そう思いながら、いくら繰り返しても足りない告白を、愛はまた、息を吹き込むように里沙の耳の奥に囁いた。
「…里沙ちゃんが、すきやよ」
END
- 110 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 23:42
-
- 111 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 23:42
- >>84-91
たくさんのレス本当にありがとうございます。
愛ガキには実は最近ハマッたばかりなのですが、小説はあまり見かけなくて、
勢いのまま自給自足の手段に出たんですけど、予想以上に需要があったことに驚いております。でもとても嬉しいです。
「キミといるあした」「…and I love you」で、一応の一区切りですので、続き、と言えるものはまだ何もありませんが、
手元に短編など書きかけのものがありますので、書き上げたらまた書き込みにきます。
他カプは…ええとええと(遠い目)
半年以上更新ストップしてる自スレがある、ということだけで勘弁してください、すいません。
ではまた次回更新までごきげんよう。
- 112 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/10(土) 05:41
- 更新お疲れさまです。ラブラブな愛ガキでうるっときてしまいました。
愛ガキは少ないので、ありがたいです。
次の更新を心待ちにしてます。
- 113 名前:ぽち 投稿日:2007/11/10(土) 07:31
- 更新ありがとうございます。
愛ちゃんのせつなさと、ガキさんの愛らしさが良かったです。
これからも楽しみです。
- 114 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/10(土) 10:26
- 87です
続き更新されていて嬉しいです…!
作者さんはきっとあの方かと勝手に想像しておりますw
続編でなくても愛ガキどんどん読んでみたいですw
どちらもゆっくりお待ちしております<半年?
- 115 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/10(土) 14:36
- 最後まで涙涙でした。完結お疲れさまそしてありがとう。
私も作者さまはたぶんあのお方?だとw
DDなのでどのカプでも癒されます新作心待ちにしておりますね。
- 116 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/10(土) 19:52
- 愛ちゃん視点も読みたいと思ってたらなんてナイスなタイミングで……
ありがとうございます…
短編また期待しちゃいます
- 117 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/10(土) 22:31
- 完結お疲れさまです。ハッピーな話を読んで幸せな気持ちになれました。
愛ガキのラブラブなところとかも見てみたいな…なんて
次の更新待ってます。
- 118 名前:名無しです 投稿日:2007/11/11(日) 22:30
- 大好きな愛ガキをお腹いっぱい味わえました!!
ありがとうございました♪
もっと作者様の愛ガキが読みたいと思っちゃうのは贅沢ですか…?
- 119 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/15(木) 22:46
-
更新します。
「キミといるあした」「…and I love you」の、続編となります。
- 120 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/15(木) 22:46
-
- 121 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:46
- 愛との関係が今までのような、友愛や信頼を含めていながらも更に濃度のあるものになってから、気付いたことがふたつある。
ひとつは、里沙が思っていたよりも、愛が自分に触れたいと思っていること。
もうひとつは、そのタイミングをわざとらしくならないような距離感と雰囲気で計っていること、だ。
けれど、そのわりには何故か愛はあまり里沙に触れてくることがない。
ふたりの事情を何も知らないメンバーの目があるから、というのはわかるが、
撮影などで肩に手を置くときですら何だか緊張しているように思われて、それは里沙を少しだけ居心地悪くした。
- 122 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:47
- 里沙に触りたい、と愛は言った。
それに対して里沙も、愛に触って欲しい、と応えた。
お互いが同じような気持ちでお互いを想い合っているのはわかるけれど、カラダを重ねることに躊躇するならまだしも、
手を握ったり腕を組んだりすることさえタイミングを計ろうとする愛が、里沙には時折腹立たしくも思えた。
抱かれたことに後悔は微塵もないし、これからだって、愛が望むならその心積もりは出来ている。
そもそも、好き合っているなら、もっともっと触れ合ったり抱き合ったりするほうが自然じゃないだろうか。
もっと求めてくれてもいいのに、と考えて、自分のほうがずっとずっと愛を求めていることに思い至って、急に恥ずかしくなった。
けれど。
このままではいつまでたっても必要以上には触れてこないような気がして、それはもっとイヤだと思った。
里沙には、里沙を抱きしめたいと思っているくせに行動に移さない愛に尋ねる権利がある。
そして、里沙に触れたいと言った愛には、尋ねた里沙に答える義務が。
- 123 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:48
- 「ガキさーん、かーえろー」
「ごめーん、カメ。今日は愛ちゃんと約束してるんだー」
「ふえっ?」
絵里の声に里沙がそう答えたあと、里沙の背後で驚いたように裏返った愛の声が聞こえた。
里沙が振り向くと、半ば茫然としながら帰り支度の手を止めている愛がいた。
「…なに、まさか忘れてたとか言う?」
腕組みして少し怒ったように愛を見ると、焦ったように両腕をホールドアップして見せた。
「わっ、忘れてません、よ…っ」
「だよね」
クギを差すように言って絵里に向き直ると、絵里は残念そうに唇を尖らせていた。
- 124 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:48
- 「いいなあ、絵里も一緒に行きたいー」
「何言ってんの。今日はお母さんのお迎えがあるんでしょ」
「…そーだけどぉ」
「また今度ね」
「絶対だよー」
「はいはい」
名残惜しそうに出て行く絵里の背中を見送り、それに続くようにさゆみや小春たち他のメンバーも次々に出て行って、
楽屋に愛と里沙がふたりだけになった途端、それまで騒がしかった室内が無音になった。
最後に出て行ったメンバーの残像をドアに見て一息ついた里沙が愛に振り返ると、
おそらくずっと里沙の背中を眺めていたのだろう、目が合った途端、慌てて帰り支度の手を進めた。
その頬が少し赤い。
不意に訪れたふたりきりの空間に緊張しているのだと悟って、それが伝染したように里沙の胸の奥が小さくきゅっと鳴った。
- 125 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:48
- 「…愛ちゃん」
呼びながらそっと歩み寄ると、びくりと愛の手が止まる。
それから、おそるおそる、といったふうに頭を上げて里沙を見た。
「…こっち来て座って?」
2人掛けの長椅子に先に里沙が座ると、誘導されるままに愛が里沙の隣に腰を降ろす。
座ってすぐ里沙が愛の肩にもたれかかったら、思ったとおり、愛のカラダが小さく揺れて強張った。
「……あの、ガキさん…?」
「ん?」
「や…、約束…って、…してたっけ?」
「ううん。してないよ」
もたれる愛の肩から少しだけチカラが抜けたのがわかった。
- 126 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:48
- 「…なんや…、びっくりした…」
「ごめんね」
「いいけど。…でも、なんで?」
わからないのか、と思って、思わず里沙の口元が綻ぶ。
愛から離れ、下から覗き込むように顔を見て目が合っても、まだ不思議そうに首を傾げる愛に綻んだ口元がますます緩んでしまった。
「…ふたりになりたかったから」
声にした途端、愛の頬に朱が差した。
焦ったように里沙から目を逸らし、けれど逸らすことが失礼だと瞬時に悟ってゆっくり視線を戻す。
「…ダメだったかな」
「だ、だめじゃないっ、ぜんぜん!」
「そっか。…よかった」
ホッと息を吐き出しながら答えて再度愛の肩に寄りかかると、また少し強張ったのがわかった。
ふたりでいるのに緊張させていると思ったら、それだけで居心地が悪くなる。
- 127 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:49
- 「…あのね、愛ちゃん」
「な、なに?」
「……ひょっとして、あたしに触るの、我慢してる?」
それに対する返事は、カラダが揺れたことで肯定と受け取れた。
「やっぱり…」
「やっぱりって…気付いて…?」
「気付くよ、愛ちゃん、わかりやすいもん」
「……わかりやすいですか」
「わかりやすいです」
強張っていたカラダから少し緊張がほどけたと思ったら、自嘲を含んだ細い息を吐き出した。
- 128 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:49
- 少しの間が出来たあと、愛がそっと里沙の手を握った。
その熱は普段の抑制を感じるようなものとは違う、どこか艶っぽく感じられる熱で、少しだけ愛の内側に触れた気がして、里沙の胸が鳴る。
「……我慢、っていうか…」
「ていうか?」
「恥ずかしいっていうか…」
「…今更?」
ちょっとカラダを離して顔を覗き込むと頬の朱色が増して、やがて観念したように頭を項垂れた。
「……怖い、って感じに、似てる」
「怖い?」
今度は深く深く息を吐き出して、でも里沙の手を握る手のチカラは逆に強くなって。
- 129 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:49
- 「なんか…なんていうか、まだ実感みたいなのが薄いっていうか…」
「…まだ信じられない?」
「いや…、信じられんっていうか…、信じてるけど、なんか、なんていうか…」
「……不安?」
ぽつりと、呟くように出た里沙の言葉に愛のカラダが揺れた。
そっと窺うように里沙に振り向いて、それから困ったように唇のカタチを歪める。
「……そんな、感じ…」
弱気な声が返ってきて、里沙は思わず愛の手を掴み返した。
- 130 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:50
- 「ね、愛ちゃん」
「なに?」
「いま、あたしと手を繋いでるって、わかるよね?」
「うん」
「熱は、感じる?」
「うん、あったかい」
確かめるように里沙の手を掴み、そっと指を絡ませた愛の口元が柔らかく綻ぶ。
「こうやって触らないと、相手の体温って、わかんないよね…」
「え?」
「……あたし、そんなに平熱高いほうじゃないはずなんだけど」
「ガキさん?」
「なのにあったかいってことはさ、あたしきっと、愛ちゃんと手を繋いでるから熱があるんだって思う」
絡んでいた指先がびくりと反応を示す。
その手の先に視線を落とし、また更に強く握り返したら、答えるように愛の手のチカラも強くなった。
- 131 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:50
- 「……触らないと、わかんないこともあるよ」
「…うん」
「触ってみて初めて、わかることもあるよ」
「うん」
「…愛ちゃん、あたしに、触りたくない?」
「ううん。…めっちゃ触りたい」
顔が熱いのは、きっと顔に熱が集まっているからで、つまりそれは顔が赤くなっている、ということだ。
里沙の目に映る愛のはにかんだような、でも嬉しそうに笑う口元がそうと確信させる。
「……里沙ちゃん、顔真っ赤や」
「誰のせいだと思ってんの」
「あっしのせいやな」
口元だけでなく声にまで嬉しさを含んで言って、里沙と手を繋いでないほうの手で里沙の頬を撫でる。
指先に僅かに緊張を感じたけれど、気付かないフリで里沙は瞼を伏せた。
- 132 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:50
- 頬を撫でる手が違う緊張を孕んだと察した直後、里沙の唇を柔らかなものが塞ぐ。
触れて、軽く押し付けられて。
里沙が更に求めるように顎を上向きにしたら、弱く挟むようにして軽く吸われた。
思わず肩を揺らしたらそっと愛が離れた。
足りない。
もっとしてほしい。
それを訴えるように目を閉じたままでいたら、ほんの少しの間を置いて、瞼にキスされた。
- 133 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:51
- 「…里沙ちゃん」
呼ばれてすぐに、口元でちゅ、と音がして、愛の舌先が唇の輪郭を辿る。
繋いでいただけの手に変にチカラが入って強く握り締めてしまったのに、愛は嫌がることなく、しっかりと握り返してくれた。
窺うように愛の唇が里沙の上唇を軽く食んで、薄く開いた隙を狙って舌が歯列を辿る。
おそるおそる里沙が舌先だけを差し出すと、柔らかく絡めとられて、そのまま深く、入り込まれた。
舌を吸われたり、歯の裏側を舌で這われたり、頭の奥が痺れたようになるキスがあるということを、里沙はそのとき初めて知り、
キスだけで自身のカラダに火を灯される、という意味も、身を持って知ることとなった。
呼吸がしづらくなって思わず愛の肩を軽く殴ると、それに気付いた愛がようやく里沙を解放した。
「ごめん…、苦しかった?」
唇を離されて、俯き加減に浅く早い呼吸を繰り返す里沙の肩を心配そうに撫でる愛に、里沙は一度深呼吸してからそっとしがみ付いた。
- 134 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:51
- 「…こんなのどこで覚えたのよ…」
「えっ」
里沙の言葉にたじろいだ愛が何を考えたのかわかって、そちらへ気を向けたくなくて、また少し強く抱きつく。
「…別に、愛ちゃんがどこで覚えてきたとか、そんなの気にならないけど」
知ってる、なんて言ったら、驚かせてしまうだけでなく変に傷つけてしまいそうで言いたくなかったし、
愛の過去に誰がいたのかなんて、改めて聞きたいとも思わなかった。
里沙の声に反応した愛が戸惑いを纏ったのを感じ取って、里沙は気を逸らすように愛の首筋に自分の鼻先をすり寄せる。
吐息が素肌に触れたせいか、愛のカラダが僅かに震えた。
- 135 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:51
- 「……愛ちゃんさ、自分だけが不安に感じてるって思ってたでしょ」
「…え?」
「でもさ、でもきっとさ、愛ちゃんよりあたしのほうが、もっともっと不安だったよ」
「どういう、こと?」
「…触って欲しいって言って、全然触ってもらえない不安って、愛ちゃん、考えてみた?」
里沙の言葉を噛み砕いていたのか、少し間を置いてから愛のカラダが僅かに強張り、それからぎゅっと、抱きしめられた。
「……ごめん」
「…大事にしてくれてるっていうのもわかるけどさ、でも、大事にされすぎても、不安になるんだよ」
「うん…」
「わかったら、もう不安にさせないで」
どこか命令形になった里沙の口調にも愛はこくりと力強く頷いて、里沙を抱きしめる腕にまた少しチカラを込めた。
抱きしめてくる腕の強さは、強いといっても同性であるぶん、まだどこか頼りない感じがあって、
けれどそのほんの少し息苦しさを感じるだけのような強さが、里沙には愛しくて嬉しいぬくもりだった。
- 136 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:51
- しばらくお互いに寄り添うように抱き合っていたけれど、不意に里沙の鞄の中に入れていた携帯が着信を知らせ、
自分たちが思っていたよりも長い時間ここに留まっていたことに気付き、慌てて帰り支度を始めた。
「…ねえ、今日、愛ちゃんとこ行ってもいい?」
「へっ?」
帰り支度を済ませた愛の手をとりながら言うと、声と同じくらい驚いた顔で愛は目を丸くした。
「…か、帰らんの?」
「愛ちゃんの家に一緒に帰ったらダメ?」
「だ、だめじゃないよ…っ、けど…」
「けど?」
「…家には?」
「朝出るとき、愛ちゃんとこ泊まるって言ってきたから。だから愛ちゃんが泊めてくれないと困るんだよね。カメももう帰っちゃったし」
- 137 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:52
- 泊まる、という言葉に愛の顔が少し赤くなった。
「…あ、いま、やらしいこと考えたでしょ」
「なっ、そんなこと…っ」
「ない? ホントに?」
言葉尻を奪うようにして下から顔を覗き込んで言ったら、愛はますます赤くなった。
里沙と目が合うと、下手に嘘はつけないと悟ったのか、降参するように項垂れたあと、ごめん、と謝った。
「謝らなくていいよ。…っていうか、あたしもそういう意味で言ったから」
申し訳なさそうに頭を下げている愛の手を、里沙は小さく笑いながらそっと捕まえる。
伝わる熱が嬉しくて、口元のゆるみが隠せなくなる。
- 138 名前:cherish 投稿日:2007/11/15(木) 22:52
- 手を繋いだことに少し気を取られたようすだったけれど、愛は俯いたまま里沙の言葉に僅かに首を傾げ、すぐに理解したとわかる勢いで頭を上げた。
「そ、それって…!」
愛が頭を上げたと同時に、繋いだ手にチカラを込めた。
そしてその勢いのまま、里沙のほうから愛に顔を寄せ、掠め取るように唇を奪う。
「…もう不安にさせないで、って、言ったでしょ?」
唇を離して少し上目遣いで勝ち誇ったように告げ、予想通りまた更に赤くなった愛の顔に、里沙は満足気に笑った。
END
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/15(木) 22:52
-
- 140 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/15(木) 22:53
- >>112-118
レスありがとうございます。
感想はとても励みになり、嬉しいです、ありがとうございます。
微妙に含みのある内容になってしまいましたけども、それは次の更新で明らかに出来れば…と思っております。
ではまた、次回更新で。
- 141 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/16(金) 00:06
- 続編キター!!お疲れさまです。
いい感じの愛ガキを読むと幸せな気持ちになれます。ありがとうございました。
次回を心待ちにしてます。
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/16(金) 00:13
- 更新ありがとうございます。
二人の心情が綺麗に描かれてて、いつも引き込まれます。
含みの内容、気になりま〜す。
あぁ、もう次が待ち遠しいなんて…w
- 143 名前:名無しです 投稿日:2007/11/16(金) 00:22
- とぅわっは〜!!!!
す、すいません!リアルに鼻血出してもいいですかっ!!w
ちょっとだけ大人な雰囲気を持ったガキさんが可愛くてしょうがありませんでした。
次回を楽しみにしてます。では、もう一回読み返してきま〜すノシ
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/16(金) 00:23
- キタキタキター!
お待ちしておりました!しかも続編って凄く嬉しいです。
あぁ、やっぱり愛ガキいいです(*´Д`)ポワワ
次もお待ちしてます。
- 145 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/16(金) 00:53
- 続編待ってました!!
次の更新が待ち遠しいです。
- 146 名前:ぽち 投稿日:2007/11/16(金) 04:56
- いいですね〜。最高です!
- 147 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/16(金) 20:48
- 初々しいあいがきがに完全はまりました。
次も楽しみにしてます。
- 148 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/18(日) 12:14
- 一番の楽しみになっています♪
これからも頑張ってください
- 149 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/20(火) 00:07
- 更新します。
- 150 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/20(火) 00:07
-
- 151 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:08
- 今から行く、と電話をして家を出て、里沙の家に向かう途中、本当に偶然、美貴に会った。
美貴も、この人ごみの中で気付いたことに驚いたように目を丸くして、それから愛もよく知る仕草でひょいと右手を挙げてこちらへ歩いてきた。
「久しぶり」
「うん、元気そうや」
「まあね」
答えて美貴は視線を落とす。
続ける言葉を探しているように見えて、らしくない美貴のようすに急にふたりのまわりだけ空気が強張ったように感じた。
そして、自分たちがこうして正面から向かい合うのが本当に久しぶりだということを愛も改めて実感する。
- 152 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:08
- 「買い物?」
「ううん、これからガキさんとこ行くんよ」
「そっか、ガキんちょも元気?」
「元気やよ、絵里もれいなもさゆも小春もみっつぃもジュンジュンもリンリンも」
全員の名前を告げたら、美貴の口元が申し訳なさそうに、少しだけ歪んだ。
けれど愛はそれには気付かないふりをする。
「美貴ちゃんはどこ行くの?」
「フットサルの練習。ちょっと休むだけでカラダなまるからさ」
なんとなくそれ以降の会話が続かない。
こんなふうに相手の出方を探るような間柄ではなかったと思うのに。
- 153 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:08
- 夏の初め、美貴は自らの意思で娘。を脱退した。
脱退決定直後に謝罪のメールと電話があったけれど、ほとんど挨拶も何も出来ないままで、
GAMのツアー以後の美貴は世間とファンに対して、事務所側が取り繕った体裁での自宅謹慎となり、気安く会えることもできなくなってしまっていた。
毎日会っていたのに、大切なメンバーだと思っていたのに、いなくなっても変わらず続いていく時間の流れが、愛を少しだけ鈍感にしていたのかも知れない。
美貴を前にしても、思うことはなにもなかったからだ。
なにもない、ということが、愛の心と足を重くした。
- 154 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:08
- 思わず視線を落とした愛のほうに、美貴がゆっくり手を伸ばしてきた。
何かと思うより先に美貴の指が愛の髪を撫でる。
「…ずいぶん切ったね」
「ああ、うん。切ったときすっきりした。とうぶんは短いままかな」
「…そっか」
指先にするりと愛の毛先を絡ませて、すぐに解いて手を降ろす。
「……長いほうがよかったな」
「え?」
「美貴、愛ちゃんは長いほうが好きだった」
たぶんきっと、美貴には他意なんてなかっただろう。
思ったことをすぐに口にしてしまうのが美貴で、その飾らなさが美貴の長所でもあり、短所でもあるから。
けれど過去形であったことが愛の胸の奥を揺らした。
- 155 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:09
- 当時は、なんて、そんなふうに思い返すほど昔のことでもないのに、今の自分を取り巻く周囲の環境はやっぱりどこかしら変わっていて、
今のメンバー間もバランスはいいけれど、自分がまとめる立場になって初めて、ひとみが背負っていたものの重さを知った。
そしてそれはずいぶん時間が過ぎたようにも思わせて、過去形で話した美貴の気持ちが流れ込んできたようで、顔をうまく見れない。
あの頃はまだひとみも娘。にいて、美貴もいて、自分の髪も今よりずっと長かった。
大きな争いごとも目立った問題もなく、それぞれがそれぞれいい立場関係でグループは成り立っていた。
けれど美貴と自分は、笑顔でいながらも、自らを取り巻くすべてに、ひどく怯えていた。
好きなひとに好きだと告げることが出来ず、近づくことも遠ざけることも出来ず、表面では笑って心で悲鳴をあげていた。
- 156 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:09
- 淋しかった。
苦しかった。
怖かった。
自分たちを取り巻くすべてのものから逃げ出してしまいたかった。
けれどそれは許されることではなく、そして行動に移せるほどの勇気もなく。
周囲の期待や激励に抗うことすら出来ないまま日々を重ねていくうちに、
息をすることさえ辛くなって、壊れてしまいそうになって、もがきながら助けを求めて手を伸ばした先に、お互いがいた。
誰でもよかったわけじゃない。
美貴だったから愛も手を伸ばせたし、愛だったから、美貴も手を取ってくれたのだ。
- 157 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:09
- 恋人同士のように抱き合うことはあっても、自分たちの間にあったものはきっと恋愛感情ではなかった。
欠けた部分を塞ぎ、足りない部分を補い、倒れそうになる部分を支えあう同志だった。
けれど、だからといって僅かな愛情もなかったわけじゃない。
ふたりで築いたあのカタチも、自分たちにとっては確かな絆だった。
今はもう、美貴にも愛にも、隣には別の人がいるけれど。
その相手が一番大事だと思う毎日を過ごしているけれど。
自分たちが過ごした時間は、過去の時間として、心の隅で眠ろうとしているのだろうか。
- 158 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:10
- 「似合ってない?」
「ううん、いいと思うよ」
けれど美貴は、前のほうが良かったと言うのだ。
伏せがちの目が語る言わない言葉が見えるようで、胸が締め付けられそうになる。
隣にいてあげる、と言って愛の手を取ったのは美貴が先で、もう隣にはいてあげられない、と愛の手を離したのも美貴が先だった。
たとえ抱き合うことはしなくなっても、それでも美貴はいつでも愛を見ていてくれたし、本当にダメになりそうなときは何も言わないでそばにいてくれた。
触れ合う必要はない。
自分たちの距離はそれが最適なんだと思えた。
なのに。
会わないでいた時間が、距離を広げた気がした。
- 159 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:10
- 「……ごめん、時間ないから、もう行くよ」
どうやって声をかければいいか迷っていた愛に、美貴が頭をあげて小さく笑う。
らしくない笑い方だった。
そしてそんな笑い方をさせているのは自分なのだろう。
自分はずっと美貴に助けられていたというのに、なにひとつ言葉にできるものがないなんて。
「…うん」
「またね。ガキんちょによろしく」
ぽん、と愛の肩を叩き、横を擦り抜けるように歩いていった美貴の背中を見送りながら、愛の胸のざわめきは、その音も色も濃くした。
- 160 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:10
-
- 161 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:10
- 「おっそーい!」
玄関のドアを開けて愛の姿を確認するなり、里沙は少し怒ったように声を出した。
「ごめん、電車乗り遅れた」
「だったらメールしてよ、もう。何かあったのかと思って不安になるでしょうが」
「うん…、ごめん」
怒っているようで、実はとても心配していたのはすぐにわかって、愛は素直に謝罪した。
そんな愛を家の中へ、更には自室へと促しながら、里沙が不思議そうに首を傾げる。
「…なんかあった?」
「ん?」
「や、なんか、あんまり元気ないからさ」
「…あー、うん」
部屋に通され、ジャケットと帽子を取りながら里沙の顔を眺めると、愛の言葉を誘導するようにその口元が緩んだのが見えた。
- 162 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:10
- 「…来るとき、美貴ちゃんに会った」
「美貴ちゃん?」
「うん。ばったり」
「へえ、元気だった?」
「うん。フットサルの練習行くって言うとった」
愛が脱いだ帽子とジャケットをハンガーにかけた里沙の声はたいして気にかけてもいないふうで、
こんなに気にしてしまう自分はどこかおかしいのかという気分になって、愛は思わず里沙の背中から抱きついてしまっていた。
里沙は知らない。
自分と美貴が、以前は今の自分たちのように抱き合うような関係でいたことを。
うしろめたさはあるけれど、今更どう説明すればいいかわからなかったし、たとえ過去のこととはいえ、里沙を傷つけてしまうかも知れない。
それだけはイヤだったし、そのことで里沙に軽蔑されやしないかと思うと、怖くて何も言えなかった。
- 163 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:11
- 「愛ちゃん?」
窺うような声にハッとして、思わず抱きしめる腕にチカラがはいる。
「…美貴ちゃんな、ちょっと痩せとった」
「…うん」
「あんなに一緒にいたのに、何喋ってええんかわからんくなって、ほとんど喋れんかった」
背中越しに愛の言葉を聞いていた里沙も黙った。
里沙のカラダの前にまわした愛の手を、そっと包み込むように掴む。
掴まれたところから直接伝わってくる里沙の熱が愛の気持ちをゆっくりとほどくように落ち着かせていく。
このぬくもりを失うのが怖い。
それなら、うしろめたさを背負ったまま、何も言わないでいたほうがいい。
- 164 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:11
- 「……あっしの髪型も、前のほうがよかった、って言われた」
「え?」
「長いほうが好きやった、って」
それを聞いた里沙が、愛の手を掴むチカラを僅かに強めた。
「…それ、ショックだったんだ?」
「……わからん。ショックやったんかな…、なんか、そういうのとはちょっと違う気もするんやけど」
「あの人は思ったこと何でも言う人だからなあ」
どこか呆れたような口調で、けれどそこに嫌悪を含まず言った里沙の肩に額を押し付ける。
自分が、美貴の言った言葉の何にこんなに気持ちを揺さぶられているのか、よくわからなくて気持ちが悪かった。
「髪が短かろうが長かろうが、愛ちゃんは愛ちゃんなのにね」
薄く笑いながらの里沙の言葉に、愛は弾かれたように頭を上げた。
「…今なんて?」
「ん? だから、髪を切ったって中身は変わらないのにね、って」
- 165 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:11
- 里沙の言葉が、すとん、と愛の中に落ちてくる。
ああ、そういうことか。
美貴の言葉の何に居心地悪くなったのかがようやくわかった。
髪を切るのはずいぶん前からの念願だった。
美貴が脱退したことがきっかけにはなったけれど、だからといって何かを変えようと思っての行動ではなかった。
何も変わらないのに、何も変わったつもりはないのに、美貴の言葉に、美貴と過ごした過去の日々ごと否定された気分になってしまったのだ。
もちろん、そこに美貴自身、特に深い意味は含んではいなかったのだとわかっていても、それでも、いい気持ちになれる言葉ではなかった。
「……愛ちゃん?」
まじまじと里沙の顔を眺める愛に、里沙の顔と声に困惑が浮かぶ。
内側から湧き上がってくる気持ちに後押しされるように、愛はそんな里沙をまた更に強く抱きしめた。
- 166 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:11
- 「…里沙ちゃぁん」
「うわっ? えっ? なになに、どうしたの?」
「…あっし、やっぱり里沙ちゃんが一番好きやぁ…」
「はっ? 何言うのよ、急にっ」
じたじたともがくのは照れ隠しだと承知しているから、愛もわざと腕のチカラは弱めない。
それでも愛の腕を解こうとする里沙の背中越しの肩先にまた額を押し付けると、ぴたりと動きが止んだ。
「…愛ちゃん?」
溜め息混じりに呼ばれて、押し付けた額を更に擦りつけるように寄せる。
と、戸惑い気味の手が愛の頭を撫でた。
「…どしたの?」
「ちょっとな、嬉しかったんよ」
「? なにが?」
「里沙ちゃんが、あっしのそばにいてくれることが」
理解できていなさそうな様子で里沙が首を傾げる。
- 167 名前:you are special 投稿日:2007/11/20(火) 00:12
- 「…よくわかんないんだけど?」
「わかんなくていいよ。あっしはわかってるから」
「ちょっとお、なんかそれ、悔しいんだけどー」
「いいの! 里沙ちゃんはそのまんまでいて」
唇を尖らせて不満を述べる里沙をまた抱きしめると、里沙は僅かに肩を竦めて、愛の頭を撫でた。
「…なに、今日は甘えんぼだね」
「今日は、って、あっしはいつも里沙ちゃんにしか甘えませんー」
「どうだか」
呆れたように言った里沙が愛と目線の高さをあわせる。
「…で、遅刻のペナルティは?」
滅多にそんなことは言わないくせに、と思いつつ、愛はそのまま、柄にもなく誘ってきた里沙の頬に唇を押し付けた。
END
- 168 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/20(火) 00:12
-
- 169 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/20(火) 00:12
- >>141-148
レスありがとうございます。
楽しみにしていただけるなんて、書き手冥利に尽きます、ありがとうございます。
前回更新分での微妙な含み、を、今回の更新で一応明らかにしてみましたが、
まだちょっと解決出来ていない部分もありますので、このシリーズはもう少し続きます。
ではまた、次回更新で。
- 170 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/20(火) 01:15
- 更新ありがとうございます。
この方が……
どうなっていくのかとても楽しみです。
- 171 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/20(火) 02:41
- 二人の初々しさがかわいいですね。愛ガキ大好きです。
- 172 名前:ぽち 投稿日:2007/11/20(火) 06:34
- 色々なことがあったのですね〜。
嵐の前の静けさでしょうか。次回更新が楽しみです。
- 173 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/20(火) 10:08
- 更新ありがとう!
甘えん坊の愛ちゃんが大好き。
いつもあの甘えん坊に優しいのガキさんも大好き。
- 174 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/21(水) 06:30
- 胸がズキュンとなりました。切ないね〜
>>171>>173
E−Mail欄にsageと入力してね〜
- 175 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/27(火) 00:08
- 更新します。
が、続きではありません。すいません。
次までのインターバルというか…、ちょっと甘めに、短めのお話で。
- 176 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/27(火) 00:08
-
- 177 名前:雨音を聞きながら 投稿日:2007/11/27(火) 00:08
- 窓の外は昨夜から静かに降り続く優しい雨。
そのせいで昼間だというのに空はどんより曇っていて、気温の低さを計るように吐き出した息は肌寒さを教えるように白く揺れた。
「寒くないの?」
開け放した窓の桟に肘をついて空を見上げていると、部屋の中から不満そうな声がした。
どこか咎めるような口調に愛が振り向くと、寒さを訴えるように肩を竦めて立つ里沙がいて。
「こんなん、寒いうちに入らんよ」
答えながらも愛はゆっくり窓を閉める。
- 178 名前:雨音を聞きながら 投稿日:2007/11/27(火) 00:09
- 「雨やから、ちょっと肌寒いかなーって感じるくらい」
理解しがたそうに唇のカタチをへの字にした里沙に愛は思わず笑ってしまう。
「…寒いんやったら、あったかくなることしよか?」
両腕を伸ばして左右に広げながら言うと、への字だった里沙の唇はますます歪み、眉根にはしわが出来た。
「…真っ昼間からそうゆう冗談やめてよね」
思ったとおりの反応で、愛はまた笑った。
「なんで笑うのさー」
「だって…」
可愛いから、なんて言ったらますます拗ねてしまいそうで、
それはそれで見ものなのだが、せっかくの時間に機嫌を損ねるのは憚られて、愛は里沙に手を伸ばした。
- 179 名前:雨音を聞きながら 投稿日:2007/11/27(火) 00:09
- 逃げるかと思いきや里沙の手は難なく捕まり、捕まえた手ごと自分のほうへ強く引っ張ると、たいした抵抗もなく、里沙は愛の隣へと腰を降ろした。
そんな里沙の腰に腕をまわして下から覗き込むように顔色を窺うと、唇のカタチは変えないまま、僅かに首を傾げた。
「…なにさ」
「なんか、今の言い方やと夜になってから言うのはいいみたいに聞こえる」
途端、愛の言葉の意味を理解した里沙の頬にサッと赤みが走った。
愛から離れようとするのは予測出来ていたので、それに先回りするように腰にまわした腕にチカラを込めて動きを阻む。
「…っ、バカ!」
身動きを封じられた里沙の口からは悔し紛れのような反論が漏れる。
「バカじゃないでーす」
「何言ってんの、じゅーぶんバカっぽいよ…」
呆れたような声でも本気でそう思っていないのがわかるから、なんとなく嬉しくなった。
- 180 名前:雨音を聞きながら 投稿日:2007/11/27(火) 00:09
- 「へへー。なあ、ガキさん」
「…なによ、なんかやらしい笑い方してますけど」
「外、雨やなー」
「? うん」
「出かけても濡れるだけやし、今日はもうずっとこうしてよな」
カラダを寄せたことで里沙の体温が伝わって、その体温は愛を嬉しくさせて、いつもより少し饒舌にする。
「……あたしは、最初から、出かけるつもりなかったけど」
どこか意地を張ってるような素直じゃない返事にも愛のカラダを満たす嬉しさは薄れない。
「あたしはまだそうは思わんけど、だんだん寒くなってきてさあ」
「…うん」
「朝とか夜だけじゃなくて、昼間でも外に出るのイヤになるぐらい寒くなってもさあ」
「うん」
「でもさあ、こうやってたら、寒いって思わんよな」
きゅ、と、腰にまわした腕にまた少しチカラを込めたら、さっきと同じように里沙のカラダは揺れたけれど、抵抗の色は感じなかった。
- 181 名前:雨音を聞きながら 投稿日:2007/11/27(火) 00:10
- 「……そうだね」
聞き逃してしまいそうなくらいの小さな声が聞こえて、愛はそっと頭を上げて里沙を見た。
愛から目は逸らしていても頬に差した朱色はそのいろをさっきより濃くしていて、照れていることは明白なのに強がる里沙が可愛くて、またおかしくなった。
「また笑う…」
「だってガキさん、可愛いんやもん」
悔しそうな声色を隠せずにいたからまた拗ねてしまうかと思ったけれど、細く息を吐き出したあと、里沙は自身の上体を愛に傾けるように寄せてきた。
「…言ってなさい、バカ」
呆れられたようでいて、でもどこか甘えられているようにも感じて、愛はますます口元を緩ませ、自分に寄りかかってきた里沙の肩を抱きしめる。
その手のチカラの意味することに気付いた里沙に上目遣いに見つめられ、笑いながら顔を近付けたら瞼を伏せられた。
愛がその唇を同じそれで塞いだとき、窓の外ではほんの少しだけ雨脚が強くなったけれど、その音がふたりを邪魔することは、なかった。
END
- 182 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/27(火) 00:10
-
- 183 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/27(火) 00:10
- >>170-174
レスありがとうございます。
違う方向へいってしまいそうなので軌道修正中です…、が、すすみません……orz
次の更新までは少々お時間をいただくと思いますが、更新時にはageますので、お待ちくださいませ。
ではまた、次回更新で。
- 184 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/27(火) 19:38
- 愛ガキ更新お疲れさまです。ガキさんが照れ屋でなかなかラブラブにならないのがもどかしいです。
今後どうなっていくのか楽しみです。
- 185 名前:ぽち 投稿日:2007/11/28(水) 05:00
- 可愛いい〜!本当実年齢より幼いというか、初々しい二人ですね。
今回の甘さは、グッときました。
次回も楽しみです。
- 186 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/30(金) 05:55
- 更新ありがとう!
甘いな〜 この二人。
ちょっとフニャフニャの愛ちゃんと照れすぎガキさんは可愛いな〜。
- 187 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 01:13
- 愛ガキ二人の関係がもどかしくてたまらないw
続き待ってます。
- 188 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/03(日) 23:00
- 更新します。
- 189 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/03(日) 23:01
-
- 190 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:01
- 短い悲鳴にも似た嬌声が漏れ聞こえて思わず反らされた喉に甘めに噛みつくと、その感触に反応したように腕の中でカラダが震えた。
大きくしなった背中がゆっくりとベッドに沈んでいくのを見届け、浅くて早い呼吸が整うのを待つ。
幾らか落ち着いた頃を見計らって汗の滲む額にそっと口付けると、閉じられていた瞼がゆるりと持ち上がった。
熱のせいで潤んだ瞳に映る自分。
ぼんやりしていたその瞳に色が宿り、自分を認識したとわかった途端、頬に赤みが走って瞼を伏せられた。
「…平気?」
目を伏せたのは決して嫌悪からではないとわかっているが、尋ねて、ほんの少しの間を置いて頷かれて、ようやくホッとする。
- 191 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:01
- 愛と里沙が、互いの想いを確かめ合ってこんなふうに肌を重ねた回数も、いざ数えてみれば両手の指の数以上になった。
最初が最初だっただけに、乱暴にしたつもりはなくても、愛はいつもそう問い返してしまう。
そして、恥ずかしそうに目を逸らしていても、いつも必ず里沙は頷いてくれた。
それを確かめて、愛は里沙の顔が向いてないほうへ寝転がり、手を伸ばして指に里沙の髪を絡めとる。
そのまま目を閉じて、里沙の背中に鼻先を押し付けるようにして眠りにつくのが通例だったのだけれど。
何故かその日は、愛が里沙の髪を指に絡める前に、里沙が愛のほうに振り向いた。
直後は恥ずかしがってほとんど顔を見せないので何事かと思っていたら、目が合った途端、やっぱり恥ずかしそう顔を背けた。
- 192 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:02
- 「どした?」
「…べつに、なんでも」
そうは言うものの、ゆっくりと上体を起こした里沙が愛を見下ろしてきた。
抱き合うときはいつも愛がリードをとっていたせいもあるが、
こんなふうにお互い何も身に纏わぬ状況で里沙から見下ろされたことは今までに皆無で、
そうだと気付いたら不意に愛のほうに恥ずかしさが込み上げてきた。
「ど、どうかしたん?」
思わず声が上擦ってしまった愛に、里沙は少しだけ困ったように眉根を寄せて、それから愛に覆い被さってきた。
その勢いで、愛の首筋に里沙の吐息がかかり、その熱っぽさに、知らずにカラダが疼いた。
- 193 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:02
- 「里沙ちゃん?」
「…なんでもない」
「ほんまに?」
「…ホントに、なんでもないから、だから…、……もっかい、…して?」
最後の一言を告げてすぐに、里沙が愛にしがみついた。
おそらく、自分で自分の言った言葉に恥ずかしくなったのだろう。
けれど愛のほうは、思いがけず里沙から強請られたことで一気に火が付いた。
唇の近くにある里沙の耳にそっと息を吹きかけてから、里沙の誘いを受け入れるようにそれに弱く噛みついて、背中を抱いた。
- 194 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:02
-
- 195 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:03
- なんだか里沙に元気がない、と、そう思い始めると些細なことでも気になりだした。
絵里とふざけあったり暴走しだす小春を宥めたりするのは普段と変わりはないが、
愛がふと目をやると、何か考え事でもしているのだろうか、テーブルに頬杖をついて、ぼんやりしていることが多かった。
ダンスレッスンやレコーディングで行き詰まったときに見せる表情とはまた違っているから、
心配になって声を掛ければいつもどおりの笑顔がそこにあって、でもそれは逆に不安にも似た感情を生ませる。
「…なー、ガキさん」
「んー?」
帰りの車の中で、偶然にも隣に座った里沙にひそりと話し掛ける。
「……あたし、ガキさんにまた、なんかした?」
「へ?」
「……最近、なんか、元気ない気がして」
- 196 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:04
- 里沙が悩んでいるのはわかる。
でもそれがなんなのかわからないのがひどくもどかしい。
悩んでいるなら、たとえそれがどんなに些細なことでも、自分に打ち明けてくれればいいのに。
「…そう? 元気ないかな?」
「うん」
「…それで、どうして愛ちゃんが何かした、って思うの?」
「だって…」
まだお互いがお互いの気持ちを知らずにいた頃、そうだと知らずに、愛は里沙を傷つけたことがあった。
今思えばお互いさまだったかも知れないけれど、それでも、里沙を悩ませたり泣かせたりしてしまったことには違いないから。
思わず目線を落としてしまった愛の肩に、ふわりと、里沙が頭を預けてきた。
- 197 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:04
- 「…愛ちゃんは、なんにもしてないよ」
「…ほんまに?」
「うん」
「じゃあ、何を…」
悩んでいるのか、と尋ねる前に、里沙の手が愛の手を掴んで握りしめた。
「…ホントに、なんでもないから」
だからもうそれ以上は聞くな、と言われたようで、それは愛から言葉を奪い、唇を凍らせる。
カラダも強張って、けれど胸の内では、これ以上は踏み込めない、という事実に嵐が吹き荒れていて。
「愛ちゃんはもう、あたしに、なんにも悪いことなんて、してないよ」
心配させるまいとしてそう言ってくれたのだとわかっても、愛に安心は訪れなかった。
- 198 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:05
-
- 199 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:05
- 里沙のようすは愛が気になり始めた当初より、少しずつではあっても、更に変化しつづけている。
なのに何も聞けない。
愛に出来たのは、いつもどおりの笑顔を見せる里沙に、同じように笑い返すことだけだった。
ある日、新曲のジャケット撮影の合間の待ち時間、ふと携帯を見遣ると、着信を知らせるランプが点滅していた。
まだここに到着していないメンバーの誰かだろうと思いながら履歴を見ると、美貴からだった。
ここしばらくはメールのやりとりすらなかった相手からなのを不思議に思いながら受信ボックスを開くと、
着信時刻は今から5分ほど前で、文面は、今何をしているかを問うだけのものだった。
不審さが募って、愛は携帯を持ったまま楽屋を出ると、静かに相手の履歴から電話を掛けた。
呼び出しコールは2度ほどで途切れ、耳に慣れた、けれど久しぶりに聞く声が流れ込んできた。
- 200 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:05
- 『うっす』
「うっす、メールなんて久々やん、どうしたん?」
『あー…、今、ヒマ?』
「ヒマっていうか、今日は新曲のジャケット撮影してる。今は順番待ちやから、少しぐらいなら喋れるよ」
『そっか』
「? どうしたん? なんかあった?」
『や…、なんかあった、っていうか、ちょっと気になることあって』
歯切れの悪い口調が美貴らしくない。
「気になること? あたしのことで?」
『愛ちゃんのこと、っていうか…、いや、愛ちゃんのことなのかな』
「? よーわからん、はっきり言うてや」
『んー…、じゃあ率直に聞くけどさー、愛ちゃん、今、ガキさんと付き合ってるってマジ?』
「うえっ?!」
思いがけない相手から思いがけない言葉が紡がれて声が裏返った。
- 201 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:06
- 『どうなの?』
「なっ、なっ、なんで? なんでいきなりそんなこと聞くんっ」
『…その反応はマジかあ、そっかそっか』
小さな機械を通した向こう側で、納得したように頷いている美貴の姿が窺える。
『なんで教えてくんないのさー、冷たいなあ』
「おっ、教える、って、そんな、冷たいとか…っ」
『ま、わざわざ報告すんのもおかしいけどさ』
小さく笑っているようにも聞こえたけれど、それは決してからかっているようなものではなくて、むしろ喜んでくれているようにも感じられた。
『良かったじゃん?』
「……ぅ、ん…」
『…のわりに、元気なさげ?』
顔を見ていないのに、ただ声を聞いただけなのに、どうして美貴にはわかってしまうのだろうか、と愛は思う。
ここ最近、ずっと胸の内で燻っていた不安が揺らぐ。
- 202 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:06
- 『うまくいってないの?』
「そんなことないよ」
けれど、今はもう、美貴に頼ってはいけない。
たとえ美貴が救いの手を差し延べてくれたのだとしても。
「…ていうか、美貴ちゃん、なんでそんなこと知ってるん。まだ誰にも言うてないのに」
『ガキさんから聞いたんだよ』
「はっ?」
『昨日、会ったんだよ。…あれ? 聞いてない?』
「…今日はまだ顔見てない」
ジャケット撮影は9人分あるから集合は時間差になることがあるので、今日はまだ里沙には会っていなかった。
「…会ったって、偶然?」
『うん。で、お互いひとりだったし、近況報告、みたいな感じで、ゴハン食べた』
「…そうなんや…」
- 203 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:07
- 疑うわけではないけれど、それでもあまりいい気分にはならない。
勝手な言い分だとわかっているけれど、今日会ったときに話してくれるつもりだったのだと読めても、
それでも、昨夜のうちにメールでいいから知らせて欲しかった。
『こないだ、愛ちゃんとも偶然会ったじゃん? 美貴がフットサルの練習行く前にさ』
「…うん」
『その話になったときに、ガキさん、ちょっと怒ったみたいな顔したからさ』
「怒った?」
『みたいな、だよ。ホントに怒ったわけじゃないよ』
「うん」
『で、なんでそんな顔すんの? って聞いたら、ガキさんのほうから、今、愛ちゃんと付き合ってるんで、って言ってきたの』
どうしてその流れで美貴に話したのか、愛にはちっともわからなかった。
それはきっと美貴も同じだっただろう。
- 204 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:07
- 『…ね、美貴とのこと、ガキさんに話した?』
「まさか!」
『だよね…』
話せるワケがない。
だいいち、今更どうやって説明すればいい?
どんなふうに話したって、里沙を傷つけることには変わりないのだ。
『それが気になってさ』
「…ガキさんから言うたっていうのは、確かに気になるけど…」
『あの子、こういうことって自分からは言わなさそうじゃん。みんなには秘密にしてんでしょ?』
「一応。…気づいてる子もいてるかも知れんけど、わざわざ言うたりはしてない」
『ひょっとして、ガキさんもそうなのかな』
「そう、って?」
『気づいてたのかも、うちらのこと』
「まさか…っ」
『わかんないじゃん。でも、そう考えたら辻褄合う気もするし』
愛と美貴が付き合っていたことを里沙が知っていたとして、
以前、愛が偶然美貴に会ったときに言われた言葉が引っかかって落ち込んでしまったことを里沙は知っているから、
そのことを含めて、今の自分たちが恋人同士だと、敢えて報告したのだとしたら。
愛の背筋を、すーっと冷たい何かが滑り落ちていく。
- 205 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:08
- と、そのとき、少し遠くから、次は愛の順番だと知らせる声が聞こえた。
「…ごめん、美貴ちゃん、呼ばれた」
『あ、うん、わかった。じゃ、またね』
「うん」
『…美貴から切り出しといてアレだけど、あんまり気にしちゃだめだよ』
「うん、だいじょうぶ」
『じゃあね』
苦笑いした愛の耳に、通話の途切れる音がした。
それから少し考えて、メールボックスを開いて素早く履歴を辿り、里沙のアドレスに短い文面を送信した。
―――――― 今日、うちに泊まりに来て。
- 206 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:08
-
- 207 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:08
- ソロショットだけでなく、全員揃っての撮影もすべて終わる頃には、もう外は夜の闇に包まれていた。
帰り支度を整えたメンバーがひとり、またひとりと帰っていく中、携帯をさわっていた愛のもとに里沙が近付いてくる。
「愛ちゃん?」
「ん」
「用意できたよ」
「ん、ちょっと待って」
視界の端で、最後の1人が楽屋を出て行くのを待って携帯を閉じる。
顔を上げると、いつものように笑っている里沙の顔があった。
本当は、何か理由があって携帯をさわっていたわけではない。
自分の家に帰るより早く、里沙とふたりきりになりたかっただけだ。
- 208 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:08
- 「…そういえばさ」
「ん?」
「昨日、美貴ちゃんに会ったって?」
問われた里沙の表情に、さっと緊張が走ったのを、愛は見逃さなかった。
今日は、撮影中はほとんど里沙と接する機会がなかった。
隣に立ったり座ったりしたことはあっても、ふたりきり、という状況にはならなかったので、愛は敢えてその話題は出さずにいた。
もし自分たちの他に誰かがいても里沙のほうから昨日のことを話題にしてきたなら、この推測も、ただの杞憂で終わっていただろう。
なのに、里沙からも、美貴の名前は出てこなかった。
「…誰に聞いたの?」
「美貴ちゃん。…昼間、メールきた。で、ちょっと喋った」
「へえ」
- 209 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:09
- くるりと、まるで愛の視線から逃げるように里沙は背を向けた。
「会ったよー、偶然だけど。そんで、美貴ちゃんのオゴリでゴハン食べた」
「で?」
「で、って?」
「なんで、美貴ちゃんにあたしらのこと話したん?」
「……知られたくなかった?」
これ以上は踏み込むなと、里沙の背中が語っていた。
それでも、聞かずにはいられない。
「そういうこというてるんやなくて、なんで、って聞いてる」
「…言いたかったからだよ。ダメだった?」
「ダメとかやなくて…!」
思わず里沙の腕を掴んだら、びくりと大きくカラダを揺らして振り返った。
怯えたように見つめられて、愛のカラダが冷える。
- 210 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:09
- 「…今日、やっぱ愛ちゃんとこ行くのやめる」
目線を落とした里沙が呟くように告げたが、愛は掴んだ手に更にチカラを込めた。
「あかん。来て」
「やだ」
「こんなはっきりせんまま別のとこに帰るんはイヤや。絶対あっしのとこ連れて帰る」
「愛ちゃ…っ!」
掴んだ腕を引っぱって抱き寄せ、半ば引きずるようにして楽屋を出る。
正直に言えば、体格差はほとんどないのだから、里沙が本気で抗えば愛の腕はすぐにでも振り解けただろう。
けれど、里沙の抵抗は思ったよりも弱く、それは同時に、里沙もこんな中途半端なままではいたくないのだと愛に教えた。
弱い抵抗を組み伏せてタクシーに乗り込む。
目的地周辺に着くまで会話はなかったけれど、きつく繋いだ手から伝わる里沙の熱は、下手すれば暴走しそうな愛の気持ちを逆に落ち着かせた。
- 211 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:09
- ドアを開けて先に里沙を中に促し、部屋の明かりを灯してから荷物を置いて、里沙の背中を押し出すようにしながら寝室に直行する。
そして、里沙が上着を脱ぐより早く、そのカラダをベッドに押し倒した。
「ちょ、愛ちゃん…っ?」
「逃げられても困るし」
「ここまできて逃げたりしないよ!」
それを聞いて、愛はカラダを起こしてベッドの端に座った。
その愛の隣に、上着を脱いだ里沙も静かに移動してくる。
けれど、お互いに、すぐには何も声が出せなかった。
と、不意に里沙が自身の両膝を抱え、その膝頭に額を押し付けた。
- 212 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:09
- 「……ごめん」
「なにが?」
「…あたしたちのこと、美貴ちゃんに話したりして」
「そんなんは、気にしてない」
「でも、怒ってる…」
「怒ってないよ」
言いながら、小さく背中を丸めてしまった里沙の肩を撫でた。
「…怒ってるんやないよ。ただ…」
そこで言葉を切ったら、ゆるりと里沙の頭が持ち上がった。
「最近、里沙ちゃんが悩んでたのは、それなんかな、って、思ってる」
途端、里沙の表情が今にも泣き出しそうなくらいに崩れ、再び俯いてしまった。
- 213 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:10
- 「…里沙ちゃん、ひょっとして、あたしと美貴ちゃんのこと、知ってたん?」
顔は上げないまま、こくり、と、ほんの僅かだけれど、頷いた。
愛の中で、疑問の点と点がひとつ繋がる。
「…あたしと、付き合う前から、知ってた…?」
もう一度里沙が頷く。
それから、俯かせていた頭を少しだけ上げた。
「…石川さんが、卒業したときから、知ってた」
「そんな前から…?」
気づかせたとしたら、麻琴が卒業した直後のツアーからだと予測していただけに、それは愛には大きな衝撃だった。
- 214 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:11
- 「石川さんが卒業する前、地方のホテルで、愛ちゃんの部屋から出てくる美貴ちゃん、見たことあって。
…そのときは特に何も思わなかったけど、だんだん、美貴ちゃんが夜中に愛ちゃんの部屋に行く理由がわかってきて、それで」
「……全然態度とか変わらんかったから、気づいてないと思ってた…」
「そりゃ最初はびっくりしたけど、だからって別に、ふたりが付き合ってるからって、何か変わったことってなかったもん。
美貴ちゃんも愛ちゃんも、仕事に対して手を抜いたりすることってなかったし、プライベートで他の子たちをほったらかすこともなかったし、
美貴ちゃんは愛ちゃんを守ってて、愛ちゃんは美貴ちゃんを支えてて、そういうのいいなって思ってたもん」
里沙の、こういう素直でまっすぐなところが適わないと思わせる。
思わず抱きしめたくなって腕を伸ばそうとして、続いた言葉に動きを止められた。
- 215 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:12
- 「…だから、あのとき、愛ちゃんが酔っ払ってあたしを抱いたとき、ホントは、あたしがされるほうだったことに、ちょっとだけホッとしたんだよ」
「え…?」
「愛ちゃんはされるほうだって思ったから…もし求められても、あたし、そういう経験なんてないし、もし満足させられなかったら、とか」
「え…と、ちょっと待って…。それって…」
里沙の言葉を遮ったタイミングが悪かったのか、愛と目が合った里沙が戸惑いを孕んで唇を噛んだ。
「…里沙ちゃん、あたしのこと、抱きたい、って思ってるん?」
直球ストレートなその言葉に、里沙の頬にみるみるうちに朱が差していくのが見えた。
堪えきれなくなったように愛から目を逸らし、カラダごとそっぽを向かれてしまう。
素直だと思った途端に素直じゃない態度をとられて、けれどそれがひどく可愛くて、愛は里沙を背中から抱きしめた。
- 216 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:13
- 「…なら、してくれたらよかったのに」
耳元で囁くように告げ、頬に唇を寄せたら、泣きそうだった表情がふにゃりと情けなく崩れた。
「…だって」
「なん?」
「…く、比べられるのかな、って思ったら、怖くて」
「比べる…、って、美貴ちゃんと? 里沙ちゃんを?」
膝を抱えて座る里沙のカラダの前にまわった愛の腕に額を押し付ける里沙の耳が赤い。
「……ひょっとして、それで、悩んでたんか?」
愛の腕に額を押し付けたまま、里沙のカラダが無駄に強張ったのがわかる。
漠然と感じていた不安が吹き飛んで、思わず里沙のカラダを自分のほうへ引き寄せると、愛はそのまま仰向けにベッドに倒れ込んだ。
いきなりベッドに横になられて、しかもそんな愛に覆い被さるカタチで自分も引き寄せられて、里沙は慌てて体勢を整えたけれど、
眼下で物憂げに自分を見上げる愛の潤んだ瞳に咄嗟に息を飲んだ。
- 217 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:14
- 「…してよ」
「えっ」
「比べたりなんかせえへん。里沙ちゃんは里沙ちゃんやもん」
「愛ちゃ…」
ゆっくりと手を伸ばした愛が里沙の髪を撫で、その毛先を指先に絡める。
「するときは里沙ちゃんのことしか考えてへんし、されるときも、絶対、里沙ちゃんのことしか考えられん」
答える言葉を見つけられなかったように里沙が唇を噛む。
それを見てから絡めた髪をほどくと、その指先で、里沙の顎の輪郭を捕らえた。
「……あたし、きっと、下手だよ」
「里沙ちゃんこそ、誰と比べてるん?」
ふわりと微笑むと、それに誘われるように、里沙がゆっくりと愛に顔を近付けてきた。
直前まで見つめ合って、あまりに真剣に見つめてくるから思わず吹き出してしまったら、拗ねたように唇のカタチを歪められた。
への字に歪んだ唇を指でなぞって、それからそっと目を閉じたら、今まで感じていたものとはまた少し違った感触が、愛の唇を塞いだ。
- 218 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:14
-
- 219 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:14
- 乱れた呼吸を整えている間、ずっと心配そうに顔を覗き込んできた里沙の、ハの字に下がった眉に思わず口元がゆるむ。
「あの…、だいじょうぶ?」
「うん、へーき。…てゆーか、里沙ちゃん、ほんまに初めて?」
「なっ、当たり前じゃんっ」
「…のわりに、ずいぶん慣れてた気が」
ゆるりとカラダを横向きにして里沙と向かい合う。
目が合うと、恥ずかしそうに目線を外された。
「…普段、愛ちゃんにされて、きもちいいって思ったことをしただけですけど…」
「…あら、大胆発言」
「もうっ、茶化さないで」
怒ったように背中を向けられても、不安を感じたりはしない。
むしろ、カラダ中に残る里沙の余韻が嬉しさを膨らませてくる。
- 220 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:14
- 「……好きやよ」
その背中に額を押し付け、囁いた。
触れたカラダが小さく揺れる。
顔だけで振り返られて、その唇を奪ったら、困ったようにまた眉尻が下がった。
「…誰かと比べるとか、そんなん考えられんくらい、里沙ちゃんだけが好きや」
軽く唇を噛んでいた里沙が堪えきれない、と言いたげに愛を抱きしめた。
不意に訪れた圧迫感が愛をまた嬉しく、そして幸せにする。
「カラダ、ホントにツラくない?」
「うん」
「……もっかい、したいって言っても?」
抱きしめられてるせいで里沙の表情は見えない。
けれど、顔を赤らめているだろうことはすぐに予測できた。
- 221 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:15
- 愛を抱きしめる、どこか頼りなさげな腕に応えるように頬をすり寄せたら、そっと里沙が上体を起こした。
朱色の残る頬で、潤んだ瞳が愛を見つめる。
「…うん、して。…あたし、里沙ちゃんやったら、するほうでもされるほうでも、どっちでもいい」
こくり、と、里沙が息を飲んだとわかった直後、愛の瞼に優しいキスが降ってきた。
「…愛ちゃん」
どこか苦しげにも聞こえるのに、それすらいとおしく感じられる甘い声色で呼ばれて、愛は、その身の自由を再び里沙に預けた。
END
- 222 名前:全部抱きしめて 投稿日:2008/02/03(日) 23:15
-
- 223 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/03(日) 23:15
- >>184-187
レスありがとうございます。
長らくお待たせしてしまって申し訳ありませんでした。
これで、ここまでの流れのお話は一応の区切りではありますが、
まだスレの容量は残ってますので、また妄想が膨らんだら書き込みたいと思います。
では、またいつか。
- 224 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/04(月) 00:15
- 最高!愛ガキ、ガキ愛最高!!ガキ愛が大好きですが、ガキさんの悩み分かる…!
作者さん天才です!!
- 225 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/04(月) 00:20
- 待ってました!いい愛ガキをありがとうございました!
- 226 名前:ななし 投稿日:2008/02/04(月) 00:56
- 素敵です…
感動しました!!
愛ガキ最高だー!!
- 227 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/04(月) 01:38
- 愛ガキ愛ガキ
これは良い愛ガキ
- 228 名前:ぽち 投稿日:2008/02/04(月) 04:49
- 今回のも良かった〜。
ここの愛がきの良い所は、ナンカ相手を思いやっている感じが
TVやラジオでの二人とシンクロするからだと思います。
- 229 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/04(月) 05:40
- なんだよ〜もっと深刻な悩みかと思って心配したじゃんか〜
でも愛ガキラブラブで安心しました!
ありがとうございました。
- 230 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/10(日) 22:30
- 愛ガキちゃいこーですこれからもがむばつてください
- 231 名前:ななし 投稿日:2008/02/11(月) 22:24
- 愛ガキ最高だ!!
ガキさんの求める姿が可愛かったです。
これからもがんばってください。
更新楽しみにしています。
- 232 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/24(日) 19:44
- 更新します。
- 233 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/24(日) 19:44
-
- 234 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:45
- 仕事が終わったら、今日は愛の家に行く予定だった。
明日は久々に夕方入りだから、いつもよりは朝寝坊も出来るかな、なんて思って、内心うきうきしながら収録に臨んでいたら、
その休憩中、愛が少し深刻そうな面持ちで里沙に歩み寄ってきた。
「…あのな、ガキさん、悪いんやけど」
「なになに? …あ、ひょっとして、今日ダメになっちゃった?」
「え…? あ、ううん、それは大丈夫。…大丈夫なんやけど、その前に」
「え?」
小春の相談に乗ってやってくれないか、と、真面目な顔つきで愛は言った。
- 235 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:45
- 「え? あたし? 愛ちゃんじゃなくて?」
リーダーだから、という名目を抜きにしても、小春はずいぶん愛に懐いている。
愛のほうも悪い気はしていないようで、
いつのまにか、ときどき暴走する小春を注意するのは里沙で、叱られて落ち込んだところを愛が励ます、という図式が定着していた。
相談に乗って励ますのは本来なら愛の役目だから、その愛のほうからそんなふうに言われて里沙も面喰らう。
「うん。…この相談は、あたしじゃダメなん」
「あたしだと頼りなくない?」
「いや…、ガキさんでないとダメなんよ」
ちょっとだけ困ったように笑ったので、そんな顔をされて断る理由も見つからず、なんだかすっきりしなかったけれど、里沙は素直に承諾して頷いた。
「ありがと」
困ったような笑顔は崩さず、愛はそっと、里沙の肩をゆるく掴むようにして撫でた。
- 236 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:46
-
- 237 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:46
- 話があるからちょっと残ってて、と里沙が小春に告げたとき、一瞬だけ間を置いて、小春はいつものように、わっかりましたぁ!と元気よく答えた。
けれど、その一瞬に、それまで無邪気にはしゃいでいた小春の顔つきが強張ったのを里沙は見逃さなかった。
楽屋に最後まで残っていたのは里沙と愛と小春の3人で、3人になる少し前に、里沙の携帯に愛からメールが届いた。
『下のレッスン室で待ってる。終わったらメールして』
「じゃ、お先にー。お疲れー」
「…お疲れー」
「お疲れさまでーす!」
里沙がメールを受信してしばらくたってから愛が出て行き、楽屋に小春とふたり残される。
誰かメンバーがいた時はうるさいくらい騒いでいた小春が、ふたりきりになった途端しおらしくなって、
椅子に座っているのになんだか縮こまって見えるそのようすから、里沙に叱られると思っているのだと察する。
「…そんな怯えなくても、お説教じゃないから」
声に笑いを含ませて言うと、俯き加減だった小春の頭がパッと上がって、ホッとしたように笑った。
- 238 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:46
- 「なーんだあ、小春、てっきり…」
「叱られると思ったんだ?」
「はい、思いました」
「あっは。なに、叱られるようなことした覚えでもあんの」
「ないですけどー、でも小春が思ってないとこで失敗してたのかなって」
「あはは、してないしてない。とりあえず、今日は」
付け加えた最後の言葉に小春の眉がハの字に下がって、正直な反応に里沙は堪えきれず笑ってしまう。
「愛ちゃんがさ、小春の相談に乗ってやってって言ったのよ」
「え…」
「あたしじゃないとダメだと思うって言うからさ、なんだろ、と思って」
言いながらテーブルに肘を付いて小春の顔を眺めると、昼間、一瞬だけ見せた強張った顔になった。
「…小春?」
「……愛ちゃんが、言ったんですか?」
愛の名前を出すべきではなかったことは、言われてから気づいた。
- 239 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:47
- 「…あー、うん。…心配してたからさ。あたしも気になって」
なんとなく言い訳がましい声になった里沙をまっすぐ見つめたあと、小春の視線がゆっくりと下に落ちた。
そのまま黙り込んでしまって、自分が思っていた以上に軽率なことを言ったのだと痛感する。
「…えっと…、その…」
しばらく沈黙が続いたけれど、小春との会話のない空間に慣れていないせいで変な焦りが起こる。
けれど何をどう切り出せばいいか見当もつかず、どうでもいい接続詞だけが声になる。
「……新垣さん」
「んっ、なに?」
俯きながらだったとはいえ、小春のほうから切り出してくれたことを、里沙は正直に、助かった、と思った。
「…小春…、小春ね…、実はいま、好きなひとがいるんです…」
「あー、そうなんだ、好きなひといるんだ。そっかそっか…好きな…、って、ええっ!?」
- 240 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:47
- 安心が先にたったせいで咄嗟に返した返事がどうでもいい響きになったけれど、
繰り返しながら噛み砕いた小春の言葉はあまりにも予想外で声が裏返る。
「…す、す、すき、な…ひと…?」
俯いたまま、小春が小さく頷く。
愛が言っていた小春の相談事とは恋愛相談のことだったのだろうか。
だとしたら明らかに人選を間違っている。
自分は人に話せるほど恋愛経験なんてないし、まして今現在は、自分自身のことでもいっぱいいっぱいになるときだってあるのに。
そもそも、小春に好きなひとができたことに気づいたのなら、何故愛が相談に乗ってやらなかったのだろう。
何故里沙が適していると思ったのだろうか。
そこまで考えて、ひとつの考えが思い浮かぶ。
ひょっとして。
- 241 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:47
- 「…あー、あのさ、あのね、小春…。ひょっとして、好きなひと、って、メンバーの誰かとか、言う?」
途端、小春の肩が大きく揺れて、けれど、その頭が僅かに上下する。
それで確信した。
小春の想い人が愛である、ということを。
それならば、愛本人が小春の相談には乗ってあげられない。
それは相談ではなく告白になってしまうからだ。
でも、それなら里沙に相談相手になってあげてくれ、というのは、もっと残酷ではないだろうか。
小春にも、そして、里沙にとっても。
里沙の口から、愛は自分と付き合っているから諦めろ、とはとても言えない。
でも、嘘でも頑張れ、なんて、もっと言えそうになかった。
続ける言葉に迷っていた里沙をどう解釈したのか、小春がそろそろと頭を上げた。
そしてあの大きな瞳で、まっすぐ里沙を見つめてくる。
- 242 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:48
- 「…やっぱ、気持ち悪いですよね…」
「えっ?」
「同じ女の子なのに」
「バカ、そんなこと思ってないよ!」
幾らか強めの声で否定して、嫌悪していないことを伝えるために、そっと手を伸ばして小春の頭を撫でた。
「気持ち悪いとか、絶対思わないから」
小春の目を見ながら力強く答えたら、強張っていた表情に少しだけ安堵が宿り、泣き笑いの笑顔になった。
笑ってみせようとするその姿勢が胸に痛い。
「……でもその、ちょっと言いにくいんだけどさ」
「…はい」
「その、好きなひとのことは、ちょっと、頑張っても、無理かと、思う」
「……はぃ…」
「やっ、あのっ、好きになるのは自由だよっ、自由だけどっ、でも…っ」
「……はじめっから、小春なんて問題外って知ってます…」
「小春…」
「…へへっ、高望みってこういうことですよね」
「そんなこと…」
- 243 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:48
- 苦笑いを浮かべる小春の顔つきは15歳のそれではなくて、その感情が濁りのないモノだとわかる。
「小春なんてまだまだ子供だし、いっつも迷惑かけてばっかで」
「迷惑なんて…、そんなの思ってないよ、きっと。可愛がってると思うよ」
「…でも、いっつも新垣さん、小春のこと叱るじゃないですか」
「や、だってそれは小春が…」
黙って見過ごせないようなことをするから、と続けようとして、小春と顔を見合わせた。
お互いの会話が噛み合ってない気がしたのだ。
小春も不思議そうに首を傾げる。
「…あれ?」
「……新垣さん、誰のこと言ってるんですか?」
「誰、って、愛ちゃんでしょ?」
「なっ、違いますよっ」
「ええっ? じゃあ…」
誰のこと、と言おうとして、ようやく、小春のどこか潤んだ視線に気付いた。
- 244 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:48
- まさか。
そんなまさか。
「…新垣さんですよ」
「こは…」
「小春の好きなひとは、新垣さんです…」
小春の告白は、予想の範疇外だったせいも重なって、大きな衝撃となって里沙に襲い掛かった。
思ってもなかった展開に返す言葉を見つけられず、半ば茫然として小春を見つめる里沙に、小春が軽く唇を噛んで俯いた。
「…ほら、迷惑でしょ?」
消え入りそうな声だったことにハッとする。
けれど、ふたりきりになったあの瞬間のようにまたカラダを竦ませ、更に脆さまで纏ったように見えた小春に対して、どう返事していいかわからなかった。
- 245 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:48
- 「…別に、いいです…。最初から叶わないって、わかってたし」
「小春…」
「……帰ります…」
「えっ、あ、待って…っ」
ぽそりと告げて椅子を立った小春の、荷物を持とうとした手を咄嗟に掴んでいた。
引き止められるとは思わなかったのか、弾かれたように里沙に振り返った小春が唇をへの字に歪める。
引き止めたくせに掛ける言葉は見つからない。
どんなに優しい言葉も、もう傷付いている小春を癒せるとは思えなかった。
自分から掴んだ腕をどうやって離していいかもわからなくて、そのままただ小春を見つめていた里沙に、
唇のカタチを歪めていた小春が、身動きできなくなっていた里沙の腕を不意に掴み返した。
そしてそのまま強く引かれて、里沙のカラダは小春のほうへと抱き寄せられた。
「こは…っ」
- 246 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:49
- 年下とはいっても、まだまだ成長途中の小春と里沙とでは体格差もかなりあった。
抵抗する、ということを考える間もなく抱き寄せられた腕の中は、当たり前だけれど、愛に抱きとめられたときと何もかも違っていた。
「…好きです…」
耳の近くで、胸に切ない響きで届いた告白。
声だけでなくカラダも小刻みに震えていて、泣いているのだとわかった。
まだまだ子供だと思っていたのに、押し殺すように吐き出された声には幼さなど微塵もなくて。
「……小春…」
どんな言葉も、今は薄っぺらいうわべだけのものにしか聞こえない気がして、里沙はそっと身を捩ると、小春の背中に腕をまわした。
そして、宥めるように、その背中を撫でる。
それが合図だったように、ますます強く抱きしめられたけれど、里沙は抵抗せず、ただ、小春の背中を撫で続けた。
- 247 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:49
-
やがて、涙の止まったようすの小春が洟を啜りながら里沙から静かに離れた。
そっと見上げると、手の甲で目を擦ろうとするので、やんわりとそれを制する。
「擦っちゃダメ。余計腫れちゃうから」
すん、と、頷きながらまた洟を啜ったので、里沙は小さく笑ってテーブルの上にあったティッシュを数枚引き出すと、それを小春の鼻に近づけた。
「ほれ、チーンして」
言われるままに鼻水を吹き出したのを拭き取ってやったあと、目が合ったら恥ずかしそうに俯いた。
「…落ち着いた?」
俯きながらも小さく頷いたのを確認して、テーブルの下にあったゴミ箱にティッシュを投げ捨て、小春には気づかれないようにそっと息を吐く。
- 248 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:49
- 「とりあえず座ろ?」
促すと、素直に従う。
それに続いて里沙も小春に向かい合うカタチで椅子に座った。
泣いたせいでまだ少し目の充血している小春を見つめると、困惑したように俯く。
その旋毛を見ながら、里沙はもう一度、今度は小春にもわかるようにはっきりと深呼吸した。
「……小春の気持ちは、正直、すごく嬉しいよ。そんなふうに想ってもらえて、ホントに、嬉しい」
俯いていた小春がそろそろと頭を上げた。
「小春のことはホントに大事に思うし、大切な仲間だって思ってるから、気持ち悪いとか、そういうのも全然思わない。…でも」
真一文字に引き結ばれた唇が、さっき感じたような脆さを纏っていないことを伝える。
正直な里沙の気持ちを伝えても、もう崩れない安心があった。
- 249 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:49
- 「…ごめん。…あたし、好きなひとが、いる」
目を閉じればすぐにでも思い浮かぶ姿を瞼の裏に映しながら、里沙は答えた。
「ごめん…」
テーブルに手をついて、額をつけるようにして頭を下げた。
「ちょっ、やめてください、新垣さん…っ」
「…ごめん。…もう、そのひとのことを好きすぎて、自分でも怖いぐらいなの」
小春が息を飲んだのは、顔を見なくても空気の振動が伝えた。
「……頭、上げてください」
小春の声色が思ったより明るいことに幾らかホッとして頭を上げると、
苦笑いだったけれど、それでもさっきまでとは格段に違う落ち着いた顔つきの小春が里沙を見つめていた。
- 250 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:50
- 「ごめん…」
「やだなー、謝らないでください」
言いながら、小春がそっと里沙の手に触れてきた。
「……こんなふうに触ること、イヤじゃないですか?」
「うん、イヤじゃないよ」
えへへ、と嬉しそうに軽く笑って、触れた里沙の手をぎゅっと握り締める。
「…ちゃんとフッてくれて、嬉しいです」
「小春…」
「ひとつだけ、聞いてもいいですか?」
「なに?」
「新垣さんの好きなひとって、どんなひとですか?」
「え、どんな、って…」
言われてすぐに、ぱっ、と、思い浮かんだ愛を形容する言葉はたくさんありすぎて、
そしてそれらのいくつかはすぐに愛に結びつくもので、里沙は少しの間、どう伝えようかを迷う。
- 251 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:50
- 「新垣さん?」
「……綺麗で、可愛くて、強くて、でもときどき脆くて、……泣きたくなるくらい、優しいひと、だよ」
自分で改めて言葉にして、胸の奥が熱くなる。
好きで好きで。
きっと、どんなに言葉にしても足りない。
きっと、どんなカタチにも表しきれない。
自分で思っている以上に、愛を好きなのだと、今更ながら実感した。
「……小春にも、そんなひと、現れますか?」
里沙の手を握り締める小春の手がほんの少し震えた。
顔を見ると僅かに目尻に涙が浮かんでいて、里沙は小春の手を握り返すと、空いたほうの親指の腹でその滴を拭ってやった。
「…うん」
「ホントに?」
「うん、きっと」
涙を拭った手で頭を撫でてやると、ほんの少し照れくさそうに笑って、それから、どこか名残惜しそうに里沙の手を離した。
- 252 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:50
- 「……小春、もう帰りますね」
「ひとりで大丈夫?」
「平気ですよ。お母さんに迎えに来てもらいます」
「…そっか」
里沙の返事を聞いて、立ち上がった小春が荷物の中から携帯を取り出してメールを打ち始めた。
送信してからまだ椅子に座ったままの里沙に向き直り、誰もがよく知る、無邪気なあの笑顔になる。
「じゃあ、またあした」
「うん、気を付けて帰るんだよ」
「はい」
楽屋の出入り口に小走りに向かった小春が、ドアノブを持ってすぐ、頬杖を付きながらそれを見送ろうとした里沙に振り向いた。
「ん? なに?」
忘れ物でもしたのだろうかと里沙が姿勢を正すと、無邪気な上に更にイタズラっぽく笑い返される。
- 253 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:51
- 「どっかで待ってる愛ちゃんにも、心配しないでって伝えといてくださいね」
「えっ!?」
「お疲れさまでしたっ、おやすみなさいっ」
「ちょっ、小春っ?」
しかし、呼び止めたその声は小春に届く前に楽屋のドアにぶつかって跳ね返された。
小春の言葉は、里沙と愛とのことを知っていると窺わせるものだ。
同時に、愛から相談に乗ってやってほしいと言われたと口を滑らせたときに見た小春の表情の意味も、
愛が、里沙が小春の相談相手として適役だと言った真意もわかって、
そうだとわかった途端、さっき愛を形容するときに選んだ言葉のすべてが恥ずかしくなってくる。
「…あんにゃろ…」
誰もいなくなった部屋で、赤面してしまった里沙は思わずそう呟いたけれど、
ドアを閉めるときに見せた小春の笑顔が元通りだったことに、これから先も大切な仲間を失わずに済んだのだと安堵する。
大きく深呼吸して、自分の荷物の中にしまった携帯を取り出すと、
おそらく階下のレッスン室で待ちくたびれているだろう愛にメールを送り、送信してすぐに楽屋をあとにした。
- 254 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:51
-
「お待たせ」
「…うん」
里沙のメールを受け取ったあとだったからか、愛はレッスン室の前で待っていた。
しかし、その表情はどこか冴えない。
「……愛ちゃん、小春のこと、気付いてたんだね」
「…あー、うん…。……ごめん」
「いいけど。最初愛ちゃんのことだと思ってて、びっくりしたんだからね」
視線を落とし気味だった愛が、それで驚いたように里沙を見た。
「まあ、結果的には、うまく落ち着いたけど」
「…そっか」
ホッとしたように愛の肩が下がり、そっとその手が里沙の手を捕まえる。
小春に触れられたときは何も思わなかったのに、それが愛だというだけで、嬉しさが込み上げてくる。
申し訳ない気持ちがないわけではないが、それでも、この感情が真実なのだろう、と里沙は思う。
- 255 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:51
- 「……聞いてもええかな」
「うん?」
「……泣きたくなるぐらい優しいひと、って…誰のこと?」
「なっ!」
愛の発した言葉が、さっき自分が小春に向けた愛への告白だとすぐに気付いて、里沙の体温は一気に上がり、顔に熱が集中する。
恥ずかしさから、繋いだ手を思わず振り解いてしまった。
「ちょっと、愛ちゃんっ、立ち聞き!?」
「やってっ、なかなかメール来んから、何かあったんかと思って心配になって…っ」
小春との遣り取りを聞かれたことも恥ずかしかったし、同時に、小春の想いにも横槍をいれられたようで少なからず腹立たしくもなって、
里沙は大げさに愛に背中を向けた。
- 256 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:52
- 「……どっから聞いてたのさ」
「…小春が、好きなひとってどんなひとですか、って、聞いたあたりから」
「どこまで?」
「小春が帰る、って言うたから、鉢合わせると思って、慌てて戻ってきた」
尋問口調だったにもかかわらず素直に返事が返ってきたので、愛の言葉に嘘はないだろう。
「相談に乗ってやってって言ったくせに立ち聞きなんて、マナー違反じゃない?」
「…うん、ごめん。…ごめんなさい」
しゅん、と頭を項垂れされて、態度で顕著に反省を表す愛に腹立たしさも恥ずかしさもあっという間に薄れる。
これはもう惚れた弱みだなあ、とぼんやり思って、さっき振り解いた愛の手を掴むと、下を向いていた顔がパッと上がった。
「…あしたからも、今までどおりに小春と付き合える?」
「そ、そりゃ…っ」
「小春は飲み込んでくれたんだからね?」
「…うん、わかってる」
真面目な顔つきで力強く頷いた愛に、里沙は小さく笑って掴んだ手を握り締めた。
- 257 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:52
- 「…じゃあ、そろそろ帰ろっか」
「うん…っ」
へへっ、と声にもして笑った愛が里沙の手を握り返してきて、嬉しそうに繋いだ手をぶんぶんと前後に振って歩く。
「ところで、里沙ちゃん」
「なーによ」
「さっきの質問の答え、ちゃんと聞いてないんやけど」
話題を逸らしたつもりが忘れてなくて、里沙は恥ずかしさを隠すように唇を尖らせる。
「…言わなくてもわかってるくせに」
「えー、なんでー、わからんわからん。教えてーなー」
- 258 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:54
- 下へ降りるエレベーターを待っている間も何度も何度もしつこく聞いてくるからさすがにムッとして、
到着したエレベーターの扉が開いて乗り込んだ瞬間、愛の額にデコピンを食らわした。
思いがけない攻撃に愛は、エレベーターが動き出しても額を押さえたまま無言で痛みを堪えていて、
そのようすに少しやりすぎたかとは思ったけれど、あえて何も声には出さなかった。
けれど、目的の階に到着して扉が開く瞬間、涙目で顔を上げた愛の隙をつくように、里沙はその唇を奪った。
そして、愛より早くエレベーターを降りて歩き出し、数歩進んだところで振り向く。
- 259 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:54
- 額の痛みはもうほとんど薄れているはずなのに、愛はまだ額を押さえたまま、茫然と、けれど頬を僅かに朱に染めて里沙を見ていて。
思ったとおりの愛がそこにいたことに満足して、里沙は愛に向かって幾らか大きめに叫んだ。
「そんなの、愛ちゃんに決まってんでしょーが!」
それがさっきの質問の答えだと気付くのは時間の問題で、額を押さえていた手を降ろすのを勢いにして、愛が里沙に向かって駆け出してくる。
その愛を、里沙はさっきの愛よりも頬を赤くして、照れくささを誤魔化すようにふにゃりと笑って、両手を広げて抱きとめた。
END
- 260 名前:love you only 投稿日:2008/02/24(日) 19:54
-
- 261 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/24(日) 19:55
- >>224-231
レスありがとうございます。
今回新しく登場したのは最近ガキさんと仲良しさんのあの子ですが、
>>1に書いたことが若干嘘になってる気がして、内心ビクビクしています。
でも、今回の話は書けて満足でした。
最近は本当にもう、ガキさんのことが可愛くて可愛くて可愛くて…∞(笑)
妄想は尽きることがありませんが、またカタチになったら書き込みに来たいと思います。
それではまた。
- 262 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/24(日) 21:10
- うわああああああああああああああああああああ
読んでるこっちが恥ずかしくなってくるw
ガキさんの仕草がいちいち可愛いぞコノヤロウw
作者様GJ!!!!
- 263 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/24(日) 23:11
- ガキさんとあの子の絡みは面白くて好きだったのでよかったです!
無事に解決したようでホッとしました
また作者様のアイデアが形になるのをまってます。
- 264 名前:& ◆vK4fdXi5xA 投稿日:2008/02/25(月) 04:06
- がきこはか...
最近ちょっとはまっているCPw
ここで見た瞬間... ちょっと微妙ww
でもやっぱり最高のはあいがきだな。
今回も楽しかった、ありがとうございます。
次回まで待ってます!!
- 265 名前:ぽち 投稿日:2008/02/25(月) 06:42
- いいですね〜。最高です。
- 266 名前:ななし 投稿日:2008/03/16(日) 22:15
- ガキさん可愛すぎ…www
まだまだ待ってますよ〜!
- 267 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/21(月) 01:24
- 待ってます
- 268 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/28(水) 22:33
- 更新します。
今までのお話と、つながりはまったくありません。
- 269 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/28(水) 22:33
-
- 270 名前:愛を縛って 心を奪って 投稿日:2008/05/28(水) 22:34
- その日、里沙は朝から緊張していた。
いや、正確に言えば、昨夜仕事が終わったあと、愛から家に遊びに来ないか、と誘われてからだ。
改めて考えると気恥ずかしいが、愛とは、先月から付き合い始めた。
帰ろうとした里沙を不意に呼び止め、里沙が着ていた服の袖口を小刻みに震えながら掴んできた愛は、
普段の無邪気だったり頼もしかったりするときからは想像しにくいほど気弱なようすだった。
付き合いが長いぶん、そんな愛を知らないわけではなかったけれど、
掴まれた袖口から微かに伝わる震えと、あまり見慣れないせいもあって、
ライブ直前のような昂揚感にも似た緊張に襲われ、里沙のカラダは一瞬で強張った。
そのときの愛の醸し出す雰囲気に、次に愛の口から出る言葉にはすぐに予測がついた。
そして、思った通りの言葉で告白された。
それまで薄々感付いていながら、相手にも自分にも曖昧に誤魔化し続けていた里沙は、
今までにない愛の真剣さに、今度こそ適当に濁して逃げてはいけないことを悟り、愛の気持ちを素直に受け入れた。
- 271 名前:愛を縛って 心を奪って 投稿日:2008/05/28(水) 22:34
- あれから既に数週間が過ぎ、今のお互いを繋いでいるものが、
以前までのような同期という絆や友情だけでなく、それらを飛び越えたものもある、という自覚はある。
付き合う、という本当の意味をわからないほど愛も里沙ももう子供ではなかったし、
そうなることを望んでない、といえば嘘になる。
けれど、お互いの想いが同じだと伝え合ってまだそんなに日は過ぎていないせいか、
それとも、友達以上恋人未満の関係が長すぎたせいか、
いざその先へ進もうとするにはまだ少し勇気が足らず、踏ん切りもつかなくて。
だから、昨夜。
告白されたときと同じ状況で「明日、ヒマならうちに来ない?」と言われて、里沙は咄嗟に言葉に詰まった。
恋人同士になった今、他に約束も用事もないなら断る理由はないし、
愛にしてみれば、そういうつもりで誘ったんじゃないかも知れない。
自分のほうが変に意識しているだけだ、と言い聞かせて、里沙はなんでもないようすを装って「行く」と返事した。
そのとき愛が見せたホッとしたような顔に、里沙は自身の考えをひどく情けなく思ったのだけれど。
- 272 名前:愛を縛って 心を奪って 投稿日:2008/05/28(水) 22:34
- 朝になって、愛の家の前まできて、インターフォンを押すことに今更躊躇する。
よく考えてみれば、仕事以外で誰の目を気にすることなく二人きりになるのは、付き合い始めてから初めてだった。
愛がそのことに気付いてないわけがない。
里沙だって気付いているのだから、誘った当人が思いもしてないとは考えられなかった。
でも、だからってまさか、いきなりコトに及ぶなんてことはないだろう。
ないとは思う。
ない、と断言できないのは、少なからず里沙が期待しているからで…。
自身の考えにハッとして顔に熱が集まる。
赤くなった顔を見られるのが嫌で、慌てて頭を振って邪念を払った。
ごちゃごちゃとあれこれ考えていても始まらない。
そう決意して、里沙はまるで突き破るような勢いでインターフォンを押した。
- 273 名前:愛を縛って 心を奪って 投稿日:2008/05/28(水) 22:36
-
あれこれ考えたことは杞憂だったな、と思ったのは、部屋に通されてしばらくたってからだった。
愛はいつもと少しも変わらなかった。
声のトーンも、ふとした仕草も、自分を見つめる目も、笑うと途端に年下に見えてしまうその表情も。
何もかもが普段どおりだった。
変に気をまわしすぎだ。
気持ちだけでなく、カラダに残るようなことで進展があるかも、と、
少々不謹慎なほうへ考えを巡らせた自分が本当に情けなく思えて、里沙は静かに息を吐く。
- 274 名前:愛を縛って 心を奪って 投稿日:2008/05/28(水) 22:36
- 「…どーしたん?」
「えっ?」
「溜め息ついた。…退屈?」
「そっ、そんなことないよ」
ソファに座る自分と、床に直に座っている愛とでは目線の高さが違っている。
不安そうに自分を見上げてきたその目つきに、ドキリと里沙の胸が鳴った。
「…ごめん、ちょっとぼんやりしてて。退屈とか、そーゆーんじゃないから」
「ほんまに?」
声色が淋しそうで、里沙はそっと愛の頭に手を伸ばした。
いつのまにか最年長でリーダーになってしまった愛の頭を、こんなふうに撫でることができるメンバーは限られている。
里沙もその限られたメンバーのひとりだけれど、今は、それ以上の強い感情で繋がっている。
- 275 名前:愛を縛って 心を奪って 投稿日:2008/05/28(水) 22:36
- 「愛ちゃんといて退屈に思ったことなんて一度もないよ」
素直に言うと、愛の頬に薄く朱が差した。
戸惑い気味に視線を逸らし、静かに里沙の隣へと移動してくる。
「…愛ちゃん?」
「……あの、さ…」
俯き加減で口を開き、ぽそりと言いかけて、言葉を選ぶように唇を舐めたのが見えた。
それが里沙の心音を跳ね上げたことに愛は気付いただろうか。
じり、と、距離を詰められカラダが強張る。
思わず引き腰になってしまったけれど、そのぶん、また詰められた。
「…な、に?」
答える声が自分でも恥ずかしくなるぐらい上擦る。
今、自分たちを包むこの雰囲気は、昨夜から続いていた緊張の理由そのものだった。
- 276 名前:愛を縛って 心を奪って 投稿日:2008/05/28(水) 22:36
- 「…キス、してもいい?」
想像していたそのままのことを言われ、顔が熱くなる。
「……いい、よ…」
里沙の答えを聞いた愛の手がそっと伸びてきて、里沙の頬に触れた。
ほんの僅か、指先が触れた程度なのに、愛の熱が伝わってきてカラダが震える。
知らずに俯き加減になりながらも上目遣いで愛を見ると、
自分を見つめる愛は追い詰められたように少し潤んだ目をしていて、途端に胸が高鳴った。
自身の心音の早さに気付かれそうで、暑いわけでもないのに額に汗が噴き出すのがわかる。
こうなることを望んでなかったワケじゃない。
愛の唇を、恋しい、と思ったことだって何度もある。
だけど、今、里沙の目の前にいる愛は里沙の知らない顔をしている。
キスして欲しいと思っている。
愛になら何をされてもいいとさえ思っている。
でも、同時に怖くもなって、里沙は思わず肩を竦めてぎゅっと目を閉じた。
- 277 名前:愛を縛って 心を奪って 投稿日:2008/05/28(水) 22:37
- 目を閉じてしまったから、愛がそのときどんな顔をしたのかはわからない。
けれど、愛の唇が里沙のそれでなく額に押し付けられたとき、自分の態度が愛を少なからず躊躇させたのだと気付いた。
思いがけない場所に感触を感じた里沙が目を開けると、里沙の目の前で愛はいつものように笑っていた。
「…愛、ちゃん?」
呼びかけながら愛にキスされた額を撫でると、その手の甲にもキスをされた。
ちゅ、と、小さく音をたてて離れていく唇。
そして、愛自身も、少しだけ里沙から離れた。
「…口にするのだけが、キスとちゃうよ?」
「え…?」
愛の言葉の意味がすぐには理解できずにいた里沙の手を、愛がそっと掴む。
その手をゆっくり自分のほうへと引っ張りながら、手のひらに唇を押し付ける。
「…っ」
額より、手の甲より、唇の感触を一番強く感じて里沙のカラダが揺らぐ。
- 278 名前:愛を縛って 心を奪って 投稿日:2008/05/28(水) 22:37
- 「……こういうのも、キスになるんよ」
そう言って薄く開かれた唇から赤い舌先が覗く。
この次の展開が読めなくて引き腰になったままでいたら、今度は指先にキスされた。
感じたことのない舌の質感が指先を滑る。
さっきと同じように小さく音をたてながら弱く吸われて、弾かれるように大きくカラダを揺らしてしまった。
「愛ちゃ…っ」
「ん?」
里沙の指先に口付けたまま、目だけで里沙を見上げる。
その目の色は行動に伴わないほど無邪気で、逆に戸惑ってしまう。
「………なんで…?」
「なに?」
「…なんで…、そういうことするの…?」
泣きそうな声になってしまったことに愛も気付いたようで、名残惜しそうに里沙の指先から顔を離す。
- 279 名前:愛を縛って 心を奪って 投稿日:2008/05/28(水) 22:37
- 「やって、里沙ちゃん、口にするんはイヤみたいなんやもん」
「…そんなこと…」
ない、と続けられなかったのは、愛が無言で里沙を見つめてきたからだ。
その目の色は少しの濁りもなくて、里沙が感じていた緊張や戸惑いを見透かしているようにも思えた。
心を読まれた気がしてまっすぐ見つめ返せず視線を落とすと、愛はそっと里沙の指に自身の指を絡めてきた。
「ええんよ、別に、慌てんでも」
愛の声色が優しい響きで届いて、そろそろと視線を戻すと、少しだけ困ったように笑っていて。
「付き合ってるんやからキスすんのが当然とか、そういうふうに思わなくていい」
「愛ちゃん…?」
「里沙ちゃんがイヤなことはしたくないから…」
愛の言葉は里沙の感じていたこととは違うもので、そんなふうに誤解されるのがイヤで里沙は思わず首を振る。
「違う、違うよ、愛ちゃん、イヤとかじゃなくて…」
けれどその先を言わせまいと、愛は里沙の鼻の頭を指で軽く押すように撫でた。
- 280 名前:愛を縛って 心を奪って 投稿日:2008/05/28(水) 22:38
-
「…あーしも、ホントはちょっとだけ、怖いんよ」
困ったような笑い方のままそう言って、愛は里沙の手を離して、並んで座っていたソファから降りた。
「…キスとかその先とか、したくないって言うたら嘘やけど…、でも、おんなじくらい、怖い」
さっきまでと同じように床に座って里沙に背を向けた愛が前を見ながら静かに告げる。
その背中は淋しそうにも見えたし、言葉通りに怯えているようにも感じられた。
頼りなさげなその肩に里沙はそっと手を伸ばす。
撫でるように触れたら、愛が応えるように手を重ねてきた。
「…愛ちゃんも、そういうこと、思うんだ」
「思うよ、だって、里沙ちゃんが好きやもん」
不意に言われてカラダが揺れた。
愛の肩に置いた手はもちろんその振動を伝えたはずなのに、愛は里沙の手を更に強く掴まえる。
「……好きやから…、ほんまにほんまに好きやから…、嫌われるのは、怖い」
「愛ちゃ…」
- 281 名前:愛を縛って 心を奪って 投稿日:2008/05/28(水) 22:39
- 里沙の手を掴む愛の手が小刻みに震えている。
こちらへ振り向かない愛がどんな顔をしているのか気になったけれど、見られないようにと俯かれてせつなくなった。
「……愛ちゃん」
里沙の手に重ねられていた愛の手を掴み返し、少し強めに引っ張りながら呼ぶと、
戸惑いを窺わせながらもゆっくりと振り返った。
何かを堪えるように下唇を噛む愛に申し訳なさが募る。
どんな顔をしていいのかわからない。
あやまるのも違う気がする。
里沙に出来たことは、自分を見上げてくる愛を抱きしめることだけで。
「…り、里沙ちゃん…?」
唐突に抱きしめられたことで愛のカラダは当然のように強張り、声も上擦る。
けれど里沙は、さっき愛が自分の手を掴まえたときのように、ただ黙って抱きしめる腕のチカラだけを強めた。
- 282 名前:愛を縛って 心を奪って 投稿日:2008/05/28(水) 22:39
- 何かを悟ったのか、愛がそっと里沙の腕を掴み返してきた。
そして、ゆっくりと態勢を変えて、再び里沙の隣に座る。
抱きしめる腕を解かれ、顔を下から覗き込まれ、視線がかち合う。
何かを問いたそうな愛の口元が不安を帯びているようにも見えて、
里沙は思わず目を閉じて、勢いに任せるようにして再び愛に抱きついた。
「……嫌いになんか、ならない」
「里沙ちゃん…?」
「ぜったい、ならない」
言いながら、強く強く、愛を抱きしめた。
触れ合った部分から、自分のこの気持ちが伝わればいいのに。
やがて、里沙の背中におそるおそる腕がまわされてきて、肩先に頬擦りされる。
無意識のそんな仕草のひとつひとつが里沙の胸を鳴らしていることに、愛は気付いていないのだろうか。
- 283 名前:愛を縛って 心を奪って 投稿日:2008/05/28(水) 22:40
-
そっと里沙のほうからカラダを起こすと、愛が不思議そうに首を傾げた。
「…だから…、だからさ…」
状況がわかっていないらしい愛に少し焦れて、思い切って里沙のほうから愛の頬に唇を押し付けた。
びく、と一瞬カラダを揺らした愛は、その次の瞬間には今まで見たこともないくらい顔を赤くしていて。
「…もっと、ちゃんとしたの、しよう?」
愛に負けないくらい顔を赤くして里沙が言うと、
里沙の言葉の意味を反芻して噛み砕いていた、と推測できる時間をおいてから、
顔は赤くしたまま、嬉しそうに恥ずかしそうに、愛は笑って頷いた。
表情に緊張を滲ませながら少しずつ距離を詰めるようにして顔を近付けて来た愛に、
今度は構えることなく、里沙もそっと、瞼を下ろした。
END
- 284 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/28(水) 22:40
-
- 285 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/28(水) 22:40
-
>>262-267
レスありがとうございます。
なんだかありきたりな話になってしまった感が拭えません…。
というか、おんなじような話ばっかでごめんなさいごめんなさい…。・゚・(ノд`)・゚・。
ノッてるときは異常な速さで書けるんですが、
もともと遅筆なので、次回更新の目処は今のとこたっておりません……。
でも、熱は冷めるどころか上がる一方なので、また何かカタチになれば書き込みに参ります。
それではまたいつか。
- 286 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/28(水) 23:11
- 更新ずっと待っていました。
二人がお互いをすごく好きなのが伝わってくる話でよかったです。
形になるのを祈って待ってます。
- 287 名前:ぽち。 投稿日:2008/05/28(水) 23:28
- この初々しさと、互いの思いやりに毎回グッときます。
- 288 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/29(木) 02:29
- ああなんて可愛い二人なんだろう…
緊張ぶりがこちらにまで伝わってきて、めちゃくちゃドキドキしました
- 289 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/29(木) 17:34
- あー。最高すぎる
愛ちゃん斗ガキさん好きだわー
- 290 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/29(木) 23:04
- 愛斗スレ住人発見w
- 291 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/08(火) 00:05
- ドキドキ満載
愛し合ってる感がすごい出てる
アイガキって素敵。
- 292 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/03(日) 23:08
- 更新します。
- 293 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/03(日) 23:08
-
- 294 名前:taste of sweet love 投稿日:2008/08/03(日) 23:09
- メンバーがそろえば騒がしいといったほうが正しいくらい賑やかになる楽屋も、
朝イチでドアを開けた瞬間は、空調もまだ行き届いていない淋しい空間だ。
けれど、間近に迫った舞台の長い台詞をおさらいするにはちょうどいい。
誰かが来たらやめればいいだけの話。
そんなふうに思いながら、とっくに頭に入っている台詞の確認をするため、
里沙は自分のバッグの中から少しばかり傷んだ台本を開いた。
- 295 名前:taste of sweet love 投稿日:2008/08/03(日) 23:10
- 「おはよーございまー…、て、あれ、早いね」
いくらもしないうちに現われたのは愛だった。
長机に向かうように椅子に座っている里沙を見て、予想外だったと言いたげに目を開く。
「おはよー。なんか今日は早く目が覚めちゃってさ」
いつものように答えて台本に目を戻す。
誰かが来たらやめるつもりでいたが、愛なら変な遠慮はいらない気がした。
無論、他の誰に対しても遠慮なんて言葉は持ち合わせていないけれど。
隣に座るだろうかと椅子を引いてみたが、愛は引かれたその椅子ではなく、
里沙が向かっている机に里沙と向かい合うように腰を下ろした。
- 296 名前:taste of sweet love 投稿日:2008/08/03(日) 23:10
-
「こぉら。お行儀悪いよ」
「別に、これくらいいいやろ」
悪びれもなく言った愛に、里沙は、しょうがないな、と小さく笑って愛を見上げた。
「ホン読みしてんの? もう入ってるやろ?」
「念には念をってね」
「ふうん?」
不思議そうな返事が返ってきても特に気に留めることなく里沙は再び台本に目を落とす。
左腕で頬杖をつきながら、右手の人差し指で台詞を追う。
その次に目を閉じて指で辿った部分を口の中だけで紡ぐ。
それを何回か繰り返していたら、不意に愛が里沙の伸びた前髪を右手の指で軽く払った。
「ん? なに?」
「いや…、伸びたなあ、と思って」
「ああ、前髪?」
「うん。切らんの?」
「うーん、どうしようかなあ」
特に何も考えずに言いながら軽く笑って、
里沙の前髪を払いよけたままの愛をまた見上げると、少しだけ淋しそうな口元が見えた。
- 297 名前:taste of sweet love 投稿日:2008/08/03(日) 23:11
- 「? 愛ちゃん?」
何か言いたそうにしているのに、なぜか愛は唇のカタチをへの字にしたままで。
「どうかした?」
「…なんでもない」
「…って愛ちゃんがいうときは、なんでもなくないよね」
揚げ足を取るように含み笑いで言ったら、唇のカタチはますます歪んで。
「…里沙ちゃんのあほー」
呟くように言って愛が机から降り、そのまま部屋を出て行こうとする。
「どこ行くの?」
「…邪魔みたいやから出てく」
「そんなこと言ってないでしょーが」
言葉のわりに優しく言ってみたが、愛は背中を向けたままで里沙に振り返らない。
拗ねているのも、その理由も容易にわかって、里沙の口元も自然と綻ぶ。
- 298 名前:taste of sweet love 投稿日:2008/08/03(日) 23:11
- 「あーいちゃん」
甘えた声色で呼びかけたら、里沙のようすが気になったのか、唇は尖らせたまま顔だけで振り返る。
「ね、一緒に練習しよ」
「…なんで」
「なんで、って、ひとりで練習するより一緒にやったほうがいいじゃん」
そう言いながらも台本は閉じる。
自分が座っていた椅子を引き、長机と平行に椅子をずらしてから、ぽんぽん、と自らの膝を叩いて。
「おいで、シンデレラ」
そう言って両手を愛に向けて広げると、愛は何が起きたのかと言いたげに目を見開き、顎を引き、顔を赤らめた。
「そっ、そんなシーンない…」
「そうだっけ。じゃ、アドリブ対策ってことで」
里沙を見つめる愛の頬の朱色は引かない。
けれど、部屋を出て行こうとする意志も見られない。
- 299 名前:taste of sweet love 投稿日:2008/08/03(日) 23:12
- 「愛ちゃん」
もう一度呼ぶと、視線を少しだけ落としながらも静かに里沙の元まで戻ってきた。
里沙の左肩に手を置き、促されるままに膝の上に座る。
対応に困ったように目をきょろきょろさせている愛に里沙の口元はますます綻びを隠せなくなって。
自分と垂直になるように座った愛の腰をそっと抱きながら、微妙に里沙から視線をそらしている愛の顔を見た。
見られていることに気付いているはずなのにまだ視線をそらしたままの愛の腕に、里沙は迷わず額を押し当てる。
甘えるように頬も擦り寄せたら、困惑気にカラダを揺らしたのが、密着しているせいですぐに伝わってきた。
「…こんなシーン、絶対アドリブでもないと思うんやけど」
練習なんて口実だとわかってて言ってるのだから、今日の愛はあまり素直じゃないな、と里沙は思う。
でも、だからこそ余計に甘やかしてみたくなった。
- 300 名前:taste of sweet love 投稿日:2008/08/03(日) 23:13
- 「王子は意外と積極的なのよ。恋人とのスキンシップが大好きなの」
恋人、の部分で愛のカラダがまた少し揺れる。
里沙は、横抱きにしていた腕のチカラを、ほんの少しだけ強くする。
顔を上げると、頬の赤みを残したまま、愛は里沙を見下ろしていた。
「ん?」
答えるかわりか、愛はさっきと同じように、里沙の伸びた前髪を指で払った。
「長いの、気にいらない?」
「…顔、見えにくい」
「あー」
納得して頷いたら、愛は手のひらで里沙の前髪をすべて撫で上げた。
前髪という邪魔のなくなった額に、愛がそっとそっと唇を寄せてくる。
額に感じた唇の感触に目を伏せた直後、ふわりと空気が揺れた気がしたかと思ったら、頭を抱えられるように愛に抱きつかれていた。
- 301 名前:taste of sweet love 投稿日:2008/08/03(日) 23:14
- 「どーしたー?」
腰にまわしていた手をずらして、あやすようにその背中を軽く弱く叩く。
するとますます抱きつかれて、里沙の心臓の音が心地よく跳ねた。
密着した部分から伝わってくる愛の体温に、こんなふうにカラダで相手の体温を感じること自体が久しぶりだと思い直す。
やれ舞台の稽古だ、コンサートのリハーサルだと、ここしばらくはゆっくりしたプライベートの時間がなくて、
抱きしめた相手の鼓動を聞く感覚なんて、もうほとんど忘れかけていた。
とく、とく、と、規則正しい心音が里沙の耳に届き、目を閉じてその音に聞き入る。
特に緊張していたわけじゃないのに、その音は不思議と里沙の気持ちを穏やかにする。
そんな里沙に気付いているのかいないのか、愛はなかなか腕のチカラを弱めようとしない。
- 302 名前:taste of sweet love 投稿日:2008/08/03(日) 23:14
- すう、と耳の後ろで息を吸われたのがわかって、そこからくすぐったさが広がって思わずカラダを揺らすと、
不服そうに唇を尖らせて愛は里沙から上体を起こした。
目が合って、口元を緩めながら首を傾げると、再び愛が里沙を抱きしめる。
抱きしめられている、というよりは、抱きつかれている気分だったけれど。
「なーんか、今日の愛ちゃんは甘えんぼだね」
背中を撫でながら言うと、少しだけカラダをずらして、耳のそばに頬ずりされた。
「ね、さっきから何してるの?」
いつもだったらそろそろ唇へのキスをねだるか迫られる頃合いなのだけれど、
さっきの額へのキス以降、愛はカラダをすり寄せて抱きつくだけで、それ以上のことをしてこない。
- 303 名前:taste of sweet love 投稿日:2008/08/03(日) 23:14
- 「…ひょっとして、おねだりしてる?」
いくらか声のトーンを落として聞くと、愛のカラダが大きく揺れた。
そんなことで恥ずかしがって離れていくとは思わなかったけれど、
カラダが揺れたことで抱きしめていた腕のチカラを無意識に強めたら、愛は、微かに熱い吐息を漏らしながら里沙の肩に額を押し付けた。
「うん…」
カラダを寄せ合ってなければ聞こえないほどの小さな声に里沙の心が震える。
「…ちょっと久々やからかな、なんて言うたらええかわからんくて」
「うん?」
「…ホントは…、ちゅーしたいな、とか、してほしいな、とか思うんやけど」
「うん」
密着する愛のカラダに里沙も頬ずりする。
さっきは落ち着くことのできた愛の匂いが、今度は次第に胸を高鳴らせていく。
- 304 名前:taste of sweet love 投稿日:2008/08/03(日) 23:15
- 「なんか…。なんでか里沙ちゃんとくっついてるだけで、胸のとこがぎゅーってなって、
いろいろ話したいこととかあったはずやねんけど…、なんか、言葉が見つからん」
「……ばか」
里沙の言葉を聞き届けて頭を上げた愛の顎にそっと唇を押し付ける。
と、感触につられるように顎を引いた愛が里沙を見下ろしてきて、その赤くなった頬がまた里沙の心を揺さぶる。
「そんだけ話せたら充分だよ」
思わず綻ぶ口元を隠さずに言って顎を突き出した。
里沙が何をしたのかがわかった愛は、まだ少し頬は赤くしながらも、
それまで少なからず漂わせていた緊張は消して、照れたように笑いながら両手で里沙の頬に触れてきた。
「…なんか、緊張する」
里沙の頬を包み込むように撫でてきた愛の手が心なしか震えていて、
それに気づいた里沙は甘えるようにその手に頬をすり寄せて、唇を押し当てた。
「なんで?」
優しく問い返す。
答えは、なんとなくわかっていたけれど。
- 305 名前:taste of sweet love 投稿日:2008/08/03(日) 23:15
- 「…里沙ちゃんはなんでそんな余裕なん?」
「余裕なんてないよ」
不服そうに尖った唇が里沙の鼻先に触れる。
ちゅ、と軽く音が鳴って、ますます里沙の口元が綻ぶ。
「またそういう可愛いことして」
むう、と、更に唇のカタチをへの字にした愛の腕を掴んで引き寄せる。
「久々で恥ずかしいからってはぐらかさないの」
言うが早いか、掠め取るように愛の唇を奪って。
「…ま、愛ちゃんがしてくれないならあたしからすればいいだけだよね」
触れてすぐ離れ、息が届く距離でそう言い返した途端、
愛は、反論する言葉が見つからないようすで、顔を赤くして口をぱくぱくさせた。
「ん? 何か文句ある?」
「…な…、ない、です…」
かぼそくなる語尾が愛の照れと里沙に対しての感情を教えてくるようで気持ちが高ぶる。
- 306 名前:taste of sweet love 投稿日:2008/08/03(日) 23:15
- 落ち着きなく視線を泳がせる愛を眺めていたら、里沙の肩に置かれていた愛の手に、少しだけチカラがこもった。
「あの…」
「んー?」
「も、もっかい…」
「うん? 一回でいいの?」
「……い、意地悪言わんとってよ…」
今度は恥ずかしさの中に少しの悔しさを含んだように唇が歪んだ。
「…次に、誰かが来るまで…」
「いいよ。でももし見られたときの言い訳は愛ちゃんが考えてね」
「ええっ?」
アドリブに弱くて嘘のつけない愛には、それは少しばかり高度なことを承知で言って、
そんなの無理、と言おうとした愛の唇を、里沙はゆっくりと塞いだ。
- 307 名前:taste of sweet love 投稿日:2008/08/03(日) 23:16
-
―――――― ちなみに。
そのときすでにドアの向こうには最年少メンバーの姿があったのだが、
中のようすに気づいてなかなか入れずにいたことをふたりが知るのは、それより少しだけ、あとのこと。
END
- 308 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/03(日) 23:16
-
- 309 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/03(日) 23:17
-
>>286-291
レスありがとうございます。
シンデレラが開幕するまでに書きあげたかったので、なんとか間に合ってよかったです。
とかいって、あんまり起伏のない話ですいません…。
それに、余裕のある攻めガキさんは、私にはまだ難しかったようです…。・゚・(ノД`)・゚・。
シンデレラの舞台で、イケメンなガキさんが拝めることを期待しつつ。
ではまたいつか。
- 310 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/04(月) 00:40
- 甘い愛ガキありがとうございます!
いつになく攻めてるガキさんといつもよりか弱い愛ちゃんがよかったです!
- 311 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/04(月) 05:20
- 何なのよこの二人
ラブラブすぎるw
今回も楽しかった、ありがとう!
- 312 名前:ぽち 投稿日:2008/08/04(月) 08:15
- いい!
愛ガキのシンデレラをニヤニヤしながら見ちゃいそう
- 313 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/04(月) 15:07
- イチャイチャしすぎですね
最年少メンバーがかわいそうですw
- 314 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/05(火) 17:27
- いいです!w
想像しちゃって(*´Д`)ポワワ
ミュージカルで更に想像しちゃいそうですw
- 315 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/07(木) 00:29
- がきさん、いいよいいよ〜!!
かっこいい王子様にドキドキしちゃいましたよ!
甘い愛ガキをありがとうございました。
- 316 名前:present for you 投稿日:2008/09/16(火) 02:04
- 「ねえ、誕生日のプレゼント、何がいい?」
22歳の誕生日を目前に控えたある日の仕事終わり。
ちょっと寄ってかない? と里沙を自宅に誘ったら特に迷うこともなく頷かれた。
そして、部屋に入ってすぐ直球で聞かれて、愛は荷物を置くことも忘れて一瞬固まる。
けれどすぐに口元を綻ばせて、言葉を紡ごうとしたら。
「あ、何でもいいは却下ね」
きっぱりと、言おうとした言葉を振り落とされた。
「えー」
「えー、って。自分で選ぶのに困るから聞いてるんじゃないの」
「ほやけどぉ…」
用意していた言葉を言うなと言われるとどうにも困ってしまう。
もちろん、自分のために選んでくれたものならどんなものだって嬉しいので、何でもいい、という答えも間違いではないのだけれど。
でも、だとしたら、次に言える言葉なんてひとつしかなくて。
「あと、あたし、っていうのもナシね」
「えええええ!」
そこまで自分の思考は短絡的なのか。
昔の里沙なら、そんなことを言うことなんて絶対になかっただろうに。
- 317 名前:present for you 投稿日:2008/09/16(火) 02:04
- 「…なにそのリアクション。さっきより嫌そうだね」
腕組みをして唇を尖らせ、いくらか不本意そうに冷めた視線で愛を眺める里沙。
「…里沙ちゃんがオトナになってもーてつまらん」
「つまんないとかつまんなくないとか、そういう話をしてるんじゃないでしょー、もお」
心底から怒っているわけではないのはわかっていたが、愛はますます困り果てて眉尻も肩も落とす。
「でも、ホントに何でもいいし…。今は身の回りのものでも特に欲しいものとかないから…」
「…確かに、愛ちゃんが今、本気で欲しいものって、ものすごい値段しそうだよね」
「お金で買えんものとかな」
お互い顔を見合わせて、一瞬の沈黙のあと、そろって吹き出した。
「あーもう、本人に聞いても答えがないなんて困ったなあ」
「やから、なんでもええんよ、ホントに」
あまり困ってないような口調で言った里沙が先にソファに腰を下ろしたあと、
くくく、と笑いを堪えながら、里沙に続くように愛もソファに座った。
「でもやっぱ、多少は役立つものだったり助かるものをあげたいじゃん」
「役立つ、ねえ…」
- 318 名前:present for you 投稿日:2008/09/16(火) 02:06
- ふむ、と軽く首を傾げてから、そのままゆっくりと里沙にもたれかかる。
それぐらいなら嫌がらないとわかっていたので、その勢いのままに里沙の膝元へと頭を下げると、
さすがに少し意外だったように里沙のカラダが揺れた。
「え? なに? 膝枕してほしいの?」
「うん」
「もー、真面目にプレゼントの話してるのに」
「にひひ」
困った口調のくせに返ってくる声は優しくて甘い。
聞き届けた愛の口から漏れた声も、それに倣うように甘く響く。
くるりとカラダを半回転させて、膝の感触を後頭部に感じながら里沙を見上げると、
目が合った里沙は少し恥ずかしそうに唇を尖らせながら愛の頬を指先で軽く押すように突いた。
「…愛ちゃんの甘えんぼ」
「里沙ちゃんにだけやもーん」
「嘘ばっかり」
言うが早いか、頬を突く指のチカラが強くなる。
痛くはなかったけれど、尖っていた唇がへの字に曲がったことと心外な言葉に愛は眉をしかめた。
「なんで? 嘘じゃないよ」
「よっく言うよ。さゆみんやカメにも甘えてるでしょーが」
- 319 名前:present for you 投稿日:2008/09/16(火) 02:08
- 頬を突いていた指に親指が加わって、今度は上唇と下唇を同時に摘みあげられる。
「…あたしだけ、じゃないでしょ?」
尋ねるような声色ではあったけれど、愛を見下ろす里沙の目の奥がなんだか淋しげに見えて、
愛は自分の唇を摘んでいた里沙の手首をそっと捕まえた。
そうされてゆっくり指を離した里沙の苦笑いが気になって、
愛は手首を掴んだまま里沙の膝から頭をあげて起き上がった。
里沙と向き合うように態勢を整えてから掴んだ手首を離し、その手で里沙の頬を撫でる。
何をされるのか悟ったらしい里沙が瞼を下ろすのを待って、さりげなく差し出された唇に自分のそれをそっと重ねて。
啄ばむように弱く吸いつき、唇の輪郭を舌先でなぞったあとで上唇だけを甘噛みして、
歯列の隙間から艶のある吐息が漏れるのを待って、ゆっくりと唇を離す。
解放されてすぐに俯いた里沙の息は僅かに上がっていて、頬もほんのり染まっている。
愛の肩に置かれた手からも、里沙の感じる緊張が伝わってくる。
- 320 名前:present for you 投稿日:2008/09/16(火) 02:10
- 愛は、その手を大事なものを包み込むようにそっと捕まえると、その手の甲に唇を押し付けた。
びくり、と揺れた里沙のカラダに、逃がすまいと掴んだ手のチカラを強くする。
「…確かに、絵里にもさゆにも甘えることあるけど」
「…?」
「欲しい、って思うんは、里沙ちゃんだけやよ」
途端、里沙のカラダが今まで以上に大きく揺らいだ。
さらりと流れた髪が隠していた耳を露わにし、それが薄紅に染まっていたことで今の里沙の心情を容易に推し量れる。
「里沙ちゃん?」
どんな顔をしているのか想像がつき、少し卑怯かと思いながらも、愛は里沙の顔を下から覗きこんだ。
けれど愛が里沙の表情を確認する前に、里沙は自身の顔を隠すように愛の肩に額を押し付ける。
- 321 名前:present for you 投稿日:2008/09/16(火) 02:10
- 「…愛ちゃん、ずるい」
「そうか?」
「ずるいよ。だって…そんなこと言われちゃったら、もう何にも言えなくなるじゃない」
「でも、ホントのことやし」
「それがずるいって言うの」
減らず口にも聞こえる声が照れ隠しだというのはわかりすぎるくらいわかっていたので、
愛は口元をゆるめながら里沙をそうっと抱きしめた。
「…じゃ、やっぱりプレゼントは里沙ちゃんで」
耳元に意地悪い声色で囁いても里沙からの言葉の反論はなかったが、
それに対する答えはこれだと言いたげに、愛の背中にゆっくりと腕が回されてきた。
END
- 322 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/16(火) 02:12
-
- 323 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/16(火) 02:13
- 二日も遅れましたが、高橋さん、22歳おめでとうございます。
>>310-315
レスありがとうございます。
シンデレラでのガキ王子はたいそうイケメンでございました…。
てか、今回、更新前に一言いれるの忘れてた、不覚…orz
- 324 名前:ぽち。 投稿日:2008/09/17(水) 02:50
- 愛ガキ、最高!
ガキ王子と愛デレラも良かったけど、やっぱりこっちの方がいい。
- 325 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 17:38
- ハァ━━━*´Д`*━━━ン!!!
やっぱ愛ガキいいです!
- 326 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/19(金) 02:21
- 甘すぎる、すごーく甘すぎる!!
ニヤニヤしながら見ました。
- 327 名前:sage 投稿日:2008/09/19(金) 22:26
- あいがき最高!
最近読んだものの中でいい!
甘いもんだって〜
かわいいすぎる!
- 328 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/19(金) 22:27
- sage
- 329 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/20(土) 12:10
- 最高
- 330 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/09(日) 16:02
- もっとアイガキ読みたいです
- 331 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/29(土) 22:14
- ほんと最高!
続き早く見たい!!
- 332 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/04(木) 01:59
- 待ってるよー
- 333 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/12(金) 23:04
- 更新します。
内容がアレなので、ochiで投稿します。
- 334 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/12(金) 23:05
-
- 335 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:05
- 雨の音が聞こえた気がして、それに誘われるように愛は目を開けた。
室内をぐるりと視線で巡ってから、頭上にある窓のカーテンに手を伸ばす。
遮光カーテンによって遮断された外界からの光を求めて、そっと指先を動かせて一筋の光だけ取り込む。
しかし、そこから見えた外の景色は思っていたような曇天ではなく、
むしろこれから眩しい太陽の日差しが伸びてきそうなほどの爽やかな空だった。
不思議に思いながらもう一度視線を巡らせて、キッチンのほうから聞こえてきた水音に得心がいく。
昨夜、洗い物をしたあとの蛇口のひねりが少し甘かったらしい。
雨の音に思えたのは、そこから落ちる水滴がシンクを叩く音だった。
- 336 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:06
- カラダのだるさとともに込み上げてくる睡魔。
口の中で少し強引に欠伸を噛み殺してから、自身のすぐ隣で、小さく動いた個体に目をやった。
掛け布団からはみ出した部分から読み取れたのは、その個体がまだ夢の中にいること。
そして、長い髪が枕の上でずいぶんと乱れていることだけ。
顔はすっぽりと布団の中に隠れていて、寝顔は拝めない。
けれど穏やかな規則正しい寝息は聞こえる。
愛はそっと布団をめくり、相手の顔を見た。
薄く開いた唇が少しカサついていて、昨夜はお互い、あまり水分を摂らないままベッドに潜り込んだことを思い出す。
「…喉かわいたな…」
ぽつりと呟いてからベッドから抜け出す。
冷気が布団の中に忍び込んで眠っている相手を起こしてしまわないようにと、できるだけそっと抜け出たつもりだったのに、
愛がキッチンでコップに手を伸ばしたとき、その声は少しだけ心配そうな音色で愛の耳に届いた。
「…あいちゃん?」
- 337 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:06
- 冷蔵庫の扉を開ける音も悪かったかと今更思うが、起こしてしまった相手の問いかけの声には答えねばならない。
「ごめん、起こした?」
上半身だけを起こした相手、里沙は、まだ眠そうな目をしながら愛をその目に捉えた。
その里沙を見ながらコップの水を飲み干し、新たに注ぎ足してベッドに戻る。
「飲むやろ?」
「ん」
差し出したコップの縁を里沙の口に持っていき、そっと傾ける。
角度を多くとってしまったつもりはないが、それでも含み切れなかった水が口の端から零れ、
そしてその筋は里沙の喉元を滑らかな弧を描いて落ちていく。
「ありがと」
水が零れて濡れてしまったことは特に気にならなかったようで、
手の甲で軽く口元を拭うと、里沙は再び布団の中へと潜り込んだ。
「まだ寝る?」
「ん、もうちょっとだけ…」
「早起きの里沙ちゃんがめっずらし」
もちろん、咎めるつもりで言ったわけではない。
それだけ疲れさせた、ということだ。
- 338 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:06
- 「…だって、愛ちゃん、激しかったもん」
「里沙ちゃんこそ、もっと、って強請ったくせに」
そう言うと、パッと里沙の頬が朱に染まった。
愛の視線から逃げるように布団を頭の上まで引き上げて、更に中へと隠れてしまう。
「……愛ちゃんって、何気にエッチだよね」
「里沙ちゃんもな」
「違うよ、愛ちゃんの…その…、仕方、が、エッチなんだよ」
「そういう里沙ちゃんのカラダかて、感度良くてエッチですぅ」
「もうっ、恥ずかしい言い方しないでよっ」
頭までかぶった布団を跳ね飛ばすようにしながら里沙が起き上がる。
それを待って、愛は里沙に覆いかぶさった。
「ちょ、愛ちゃん?」
「しよ」
「えっ、やだよ、疲れてるんだってば」
「もっと疲れたらもっとぐっすり寝れるやろ」
「…バカッ」
- 339 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:07
- 拒絶の言葉じゃなかったのをいいことに、里沙のパジャマの裾から手を滑り込ませる。
「ちょ…っ」
抵抗される前に唇を塞いだ。
舌でいくらか強引に唇を割って中へと押し入り、上唇を甘噛みしてからその裏側を舐める。
「…んぅ…」
漏れる息遣いがうっとりしているように聞こえ、愛はそっと目を開けて里沙を盗み見た。
抵抗を示しているのか、里沙の手は愛の肩を押すように掴んでいる。
しかしそのチカラはかろうじて感じる強さでしかなく、里沙も心底から嫌がっていないことがわかる。
裾から滑り込ませた手で腰を撫で、そのままカラダの輪郭に沿いながら胸元へと這い上がる。
昨夜寝るとき、お互いブラは外したままでベッドに入ったから、愛の手のひらは難なく里沙の胸を包み込んだ。
撫でるように少し強めに持ち上げると、びくりと大きく体が跳ね、重ねていた唇が離れる。
「あ、ごめん、痛かった?」
「ううん…、へーき…」
艶のある息が吐き出され、それは自然と愛の気持ちを煽る。
- 340 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:07
- 一度手を引き、里沙の両腕を掴んで起き上がらせ、パジャマの裾に手をかけてそのまま勢いよく脱がせると、
見慣れているのに何度見ても鼓動の高鳴る里沙の素肌が薄暗い部屋に浮かびあがった。
「…愛ちゃん、強引だよ」
「ごめん」
答えながら愛もパジャマを脱いだ。
それをベッドの下に落としてから顔をあげると、
頬をほんのりと赤く染め、両腕を胸元で交差しながら唇を僅かに尖らせて愛を見つめる里沙がいた。
思ったとおりの里沙の態度に思わず口元が綻ぶが、
不審さを訴えられる前にその唇にもう一度吸いつき、重心を里沙に移しながら二人してベッドに倒れこむ。
胸に顔を埋めると、ほんの少しだけ、里沙のカラダが強張った。
「ほんまに嫌なら、やめるけど」
胸に舌を滑らせる前に視線だけを向けて聞くと、目が合った里沙は意外そうに目を開いた。
それから小さく口元を緩ませる。
「ここでやめられるの?」
愛の本心を見透かした言葉に思わず口を噤むと、里沙の指がゆっくりと愛の髪の中に差し込まれてきた。
- 341 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:08
- 「……やめない、で…」
はっきりと聞き取れる声ではなかったけれど、決して聞き逃すことのなかった愛は、
それを合図にして、すぐに里沙の胸の突起を口に含んだ。
「ん…っ」
舌と歯で転がすようにしながら丁寧に舐めていくうちに、突起はゆっくりと勃ち上がっていく。
小刻みに震えだす里沙のカラダが快感を引き出せていることを愛に教える。
「…あ…、あ…っ」
強く吸いあげて、弱く噛み付いて。
お世辞にも豊満とは言えないが、カタチのいい胸のふくらみの頂上が愛の唾液で鈍い色を持って艶めき始める。
里沙の吐き出す息も淫らな艶を放ち始めたのを確認して、愛はゆっくり右手を里沙の下腹部へと這わせる。
パジャマのズボンの中へ手を滑り込ませても、抵抗らしい抵抗にはあわなかった。
- 342 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:09
- 「…ちょっと腰あげて」
胸の先に軽く唇を押し付けながら乞うと、言葉の意味を理解するまで少しの間を置いて、里沙はゆっくりと腰を上げた。
そのタイミングを計って、ズボンと下着とを同時に引き下ろす。
しかし、それは予測外だったのか、里沙のカラダが驚きで大きく揺らいだ。
「ちょ…、ホントに強引…」
自身が何も身にまとっていないことが恥ずかしいと言いたげに不満の声を漏らして両膝を合わせる。
「うん、自覚してる」
「自慢するとこ、じゃ、な…っ」
里沙の声が不自然に中途で途切れたのは、合わされていた両膝に愛が手を伸ばしたからだった。
するりと左膝の裏側へ右手を滑らせ、左手は右足首を捕まえる。
合わさっていた膝を開かせようと手にチカラをいれると、僅かだが抵抗にあった。
それでも構わず足を開かせ、膝の裏側を撫でた手を更にカラダの中心に向けて這わせる。
「…っ」
声にならない息遣いが愛の耳に届き、煽られるように、肩を押されるチカラに逆らって里沙の膝に唇を押し付けた。
- 343 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:09
- びくりと里沙のカラダが跳ねて、愛の肩を押していた手がぱたりとベッドへ落ちる。
そしてそのままシーツを握りしめた。
「なあ、里沙ちゃんは口と指、どっちが好き?」
「なに…っ」
唐突な問いかけに思わず上体を起こした里沙の頬が赤く染まる。
それをちらりと見やりながら、以前里沙が怪我した部分をぺろりと舐めた。
「そ、そんなの…っ」
「恥ずかしくて言われへん?」
先回りして続けたら、悔しそうに唇を噛み、ふたたびベッドへと横たわる。
唇を噛みながら顔の前で交差した里沙を見て、少し意地悪なことを言ってしまったと、愛が反省したときだった。
「……くち…」
密やかに、けれど確かに愛の耳に届く声で。
「…くち…が…、いい」
甘ささえ感じる艶のある吐息のようなその声は、それまで少し抑えられていた愛の欲望を焚きつけるには充分だった。
- 344 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:10
- 聞き届けたあとで膝の内側に口づけると、里沙のカラダが小刻みに震えた。
顔を見られないようにと腕で顔を隠し、頬を染め、唇を引き結んでいる里沙を見下ろしながら、
掴んだ足首のあたりからゆっくりと上へ這い上がるように手を滑らせる。
「…っ」
自分の手を追うように、里沙の中心へと落ちるように顔を埋めようとしたら、
里沙のカラダはそれに合わせて強張っていくように感じられた。
そして。
里沙の中心に辿り着く直前、里沙のカラダが目に見えて大きく震えた。
それはたぶん、次に起こりうる事態への期待からだろう。
そう思うだけで愛は感情も欲望も抑えられなくなった。
緊張の窺える里沙の足を抑えつけながら、愛はそろりそろりと、舌を落とす。
「あ…っ!」
舌先で触れただけなのに、里沙のそこはすでに潤っていた。
少し乱暴に舌先を押し入れると、里沙のカラダが高い声と一緒にまた跳ねる。
- 345 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:10
- 思うままに舌を動かせているうち、淫らな水音が響きだした。
その音に合わせるように里沙の口からは艶のある息が吐き出され、それが少しずつ愛の理性を飛ばす。
貪るように舌で中を掻き乱せば、その動きに合わせるように里沙の腰も震えた。
「んっ、ん! ぁあ…っ」
舌先を尖らせるようにして舐め上げるうちに、里沙の息遣いが浅く、早くなっていく。
「…あい、ちゃんっ、…あ…っ!」
漏れ聞こえてくる声が限界が近いことを伝える。
愛の髪の中に差し込まれてきた里沙の手がさっきまでとは違った震えを見せはじめ、
続きをせがむように指先にチカラが入ったのがわかる。
溢れだす蜜の入り口の少し上を、愛はそっと前歯で刺激した。
「ああっ!」
一気に快感を引き出されたかのように、一際大きく里沙のカラダが揺らぎ、声も更に高くなった。
- 346 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:11
- 膝や膝の裏側を撫でていただけの右手を足の付け根までゆっくりと這わせ、舌で刺激していたその箇所にそっと添える。
「…挿れてもいい?」
その声が聞こえたかどうかはわからなかったが、里沙の敏感になっている部分に愛の指が触れた直後、
里沙の口からはそれまでにないほどの甲高い声が上がった。
上体を起こし、浅く呼吸を繰り返す里沙の耳元に唇を近づける。
「…いい?」
意識が飛び始めているのか、耳のすぐ近くで尋ねても返事は返ってこなかった。
それを肯定と受けとり、愛はゆっくり、指を差し入れる
「…っ! く…ふ…、ぁ…、あぁ…」
じわりじわりと沈んでいく指の動きに合わせて里沙の口から甘い吐息が漏れる。
その声は、愛の腰のあたりにぞくりとした感覚を落とした。
引き出された快楽に抗うことなく溺れ、色づいていく頬が淫らだと愛は思う。
最初に見せた羞恥はもう彼方に飛んだのか、開かれた唇から赤い舌が覗いていて、それもまた卑猥だった。
でも、里沙のそんな顔を引き出したのが自分だと思うだけで、愛はひどく満たされていた。
- 347 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:11
- 抵抗が薄いのをいいことに、更に指を押し込む。
指先で感じる里沙の中は、とても熱かった。
「ん…っ! あ…、あ、ふ…っ、ぁあ…っ!」
「…里沙ちゃん…、里沙ちゃん、好き…」
引き出された快感に身を委ねている里沙の耳に何度も囁くように吹き込む。
頂点が近いことは、里沙のカラダに沈めた指先が教えてくれていた。
「里沙ちゃん…」
もう一度名前を繰り返したとき、それまでシーツを握りしめていた里沙の手がふわりと浮いて、
何かと思うより早く愛の背中にまわされ、そのまま、きつく抱き締められた。
「…っ、あ…、愛、ちゃん…っ、…愛ちゃ…っ、…あい…、あ…、や…っ、あっ!」
抱きつかれたことで指は更に奥へと沈み、里沙の声と同時に締め付けられる。
「あぁ…っ!」
愛の背中にまるでしがみつくようにまわされた腕のチカラが声とともに増して、里沙の背筋が大きくしなる。
愛はその背中に慌てて手をまわし、
ゆっくり、ゆっくりと、カラダから緊張がとけていくようにベッドに沈んでいく里沙のカラダを抱きとめる。
- 348 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:12
- 汗の滲んだ額に貼りついた前髪を左手で払いよけると、まだ呼吸の乱れが治まらない里沙がゆるりと瞼を上げた。
「…気持ちよかった?」
額に口づけながら愛が問うと、唇のカタチを少し恥ずかしそうに歪めながらも小さく頷いた。
けれど、愛が続きの言葉を告げるのを待たず、里沙はくるりとカラダを半転させて愛に背中を向けた。
「なーんでぇ」
「…るさい、バカ、エロオヤジ」
「エロオヤジ、て…」
照れ隠しなのは一目瞭然だったが、余韻に浸りたい愛としては里沙の顔が見れないことが不満だった。
「うりゃ」
乗り上げるように里沙の背中にのしかかる。
無論、重心をすべて預けるわけではない。
「…愛ちゃん、重い」
「重いやとぉ?」
不服を述べながらも里沙の腕を撫でてうなじに口づけると、快感を完全にはまだ手放せていない里沙のカラダがぴくりと小さく震えた。
うつ伏せになった里沙が頭だけで愛に振り向く。
- 349 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:12
- 「なん?」
「…なんでもないよーだ」
そう言って、自身の腕を撫でていた愛の指を捕まえる。
そしてそれをそのまま口元へと運び、指先にやわらかく口づける。
愛おしそうに、大事そうに口づけられて、途端に愛のカラダの芯が疼いた。
「ちょ…、それズルイわ」
「え?」
「そういう可愛いことすんな、アホ」
「はあ?」
里沙にしてみれば些細なことが、愛にはどれほど嬉しいことなのか、なんて、里沙は思いもしないのだろう、
知らずに顔を赤くしていた愛を、里沙は不思議そうに見上げている。
悔しさも重なって、愛は口のカタチを歪めながらも里沙の瞼にキスをする。
そのあとでゆっくり頬に滑らせ、耳を舐め、顎を噛むと、里沙は再びベッドに顔を埋めた。
もう一度うなじに唇を寄せ、押し付けるだけのキスをいくつも背中に振らせていくうちに、
里沙のカラダが徐々に震えだし、途切れ度切れに吐き出される息にも艶が混じりはじめた。
- 350 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:12
- 「…くすぐったいよ」
「感じる、の間違いやろ?」
「…愛ちゃんって、なんでこういうときはいつもよりエッチになるの?」
言いながらくるりとカラダを半転させて向き合う態勢になってから腕を愛の頭のうしろへと伸ばす。
「キライってわけでもないくせに」
顔のすぐ近くにある里沙の二の腕の内側にキスをして、
ニヤリと、見ている者に意地悪く映るよう口元を緩めたら、里沙は呆れたように眉尻を下げた。
「…よくわかってるじゃない」
そう言って、愛の意に反して不敵そうに笑った里沙が上体を起こして愛の頬にキスをする。
すぐに元の枕に頭を戻し、まだ熱の引かない桃色の頬のまま上目遣いで愛を見上げた。
その、誘うような瞳の色に愛は一瞬、息を飲んだ。
「…里沙、ちゃん?」
「ね、どうするの?」
「え…?」
「あたし、まだ疲れてないんだけど?」
- 351 名前:恋愛過多 投稿日:2008/12/12(金) 23:14
- 里沙の言おうとしていることを瞬時に悟り、愛の口角があがる。
「…里沙ちゃんも言うようになったな」
「そう?」
触れるだけで恥ずかしがっていた里沙はもういない。
それはほんの少し淋しくも思ったけれど。
「やめてって言うても、やめんからな」
「意外と愛ちゃんのほうが先にダウンしたりしてね」
次第に憎らしくなってきて唇を唇で塞ぐ。
しかし、意外にも先に口を割って舌を差し込んできたのは里沙のほうで。
深く入り込んできた舌が愛の歯列を舐め、食むように上唇を啄ばまれる。
唇を離すと、お互いの唇の間に唾液の糸が引いた。
引力に従って落ちて行ったそれは里沙の唇を艶めかしく彩り、愛の胸が鳴る。
続けて里沙の舌が唇に落ちた唾液を舐めとったのを見て、火のついた欲望が加速する。
カラダの芯のほうから追い立てられるような欲望のままに、愛は強く強く里沙を抱き締め、その肩先にきつく噛みついた。
END
- 352 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/12(金) 23:14
-
- 353 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/12(金) 23:15
-
- 354 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/12(金) 23:15
-
>>324-332
レスありがとうございます。
今回更新分は内容がアレですので、感想など、レスをいただける場合は、
必ずsage もしくは ochi で、お願いいたします。
個人的に痛恨のミス…orz
>>349の下から二行目
× 振らせて
○ 降らせて
他にも誤字や脱字は多々ありますが、脳内補完でお願いいたします。
- 355 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/12(金) 23:18
- ああ、もうひとつあった…orz
同じく >>349の最終行
× 途切れ度切れ
○ 途切れ途切れ
もっとちゃんと見直してからの投稿を心がけます…orz
- 356 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/13(土) 15:11
- 更新お疲れ様です。
こういうあいがきもありとおもいました。
どきどきしましたよw
- 357 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/14(日) 02:29
- ドキドキ、なぜか緊張しましたw
- 358 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/14(日) 11:21
- こっちも胸が高鳴ってしょうがないw
- 359 名前:さくしゃ 投稿日:2008/12/14(日) 11:54
- レスはsage もしくは ochi でお願いします…orz
- 360 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/14(日) 16:21
- こういう愛ガキ大歓迎です
- 361 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/19(金) 22:27
- 更新まってます
- 362 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/19(金) 22:50
- 私も楽しみにしてます!
- 363 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/20(土) 16:48
- やっぱり愛ガキがいい
私も待ってます
- 364 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/08(木) 00:42
- 待ってます
- 365 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/08(木) 01:32
- 作者さんが言ってるんだからsageましょうよ
- 366 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/08(木) 20:59
- とりあえず落とします
- 367 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/26(月) 22:07
- 待ってるー
- 368 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/22(日) 12:12
- 絶対待ってます
- 369 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/28(土) 16:48
- 楽しみにしています。
- 370 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/23(月) 17:03
- ガキさんが可愛いのにいい女で困ります
あーこんなにガキさんにドキドキさせられる日が来るなんて…
何か作者さんの文章読んでるとどんどんガキさんのこと好きになってしまいます
- 371 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/02(木) 22:03
- 前、ずっとアゲてしまっていた者です。
すいませんでした。
飼育に関しては全然初心者でsage方も分からず、勝手に読んでいました。
本当にすみませんでした。
でも、この作品は大好きです。
私のせいで作者さんがやる気を無くしてしまったことはすごく申し訳なく
思っています。
まだ、この作品の続きがぜひ見たいので、よろしくお願いします。
本当に申し訳ありませんでした。
- 372 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/08(水) 22:15
- 更新します。
超がつくほど短編です。
- 373 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/08(水) 22:15
-
- 374 名前:ありふれた幸せ 投稿日:2009/04/08(水) 22:15
- 夜中に、ふと目が覚めた。
何時だろう、と思って頭だけ動かしたら、
そこには愛のほうに向かって横向きで、けれど穏やかに眠る里沙の顔があって、
それを見ただけで、時間なんてあっというまに気にならなくなった。
起こさないようにそっと寝返りを打ち、眠る里沙と向かい合う。
規則正しい寝息は、眠りの浅い里沙を確かに休息させていると知らせ、
他人であるはずの自分と一緒に寝ていても安眠を与えられている、ということが、 愛には素直に嬉しかった。
- 375 名前:ありふれた幸せ 投稿日:2009/04/08(水) 22:15
- 枕に添えるように置かれた里沙の手が軽く握られていて、
それは愛の目には幼さを纏った仕草に映り、知らずに口元がゆるむ。
起こしてしまわないかという懸念もあったけれど、
触れたくなった衝動に逆らわずに手を伸ばして頬を軽く撫でると、 閉じられている里沙の瞼が僅かに揺れた。
まさかこんなことで起こしてしまったかと思って慌てて手を引っ込めたら、
薄く震えた瞼がゆるりと開き、半覚醒とわかる眼差しが愛に向けられた。
「…ごめん、起こした?」
ひそりと囁くように愛が謝罪すると、里沙は何も答えずに再び目を閉じた。
「里沙ちゃん…?」
起こしたというわけではないのだろうか。
そう思いながら更に小さく呼びかけたら、 枕に添えられていた里沙の手が愛の顔のほうに向かってきた。
なにかと思うより早く里沙の指先が愛の頬を弱く撫で、それから頭の後ろへと伸ばされる。
里沙の手のひらが愛の後頭部に届いた、と思ったとき、
強くはないけれど弱くもないチカラで、いきなり里沙のほうへと抱き寄せられた。
- 376 名前:ありふれた幸せ 投稿日:2009/04/08(水) 22:16
- 「り…?」
「…愛ちゃんの…匂い、落ち着く…」
なにごとかとカラダを揺らすより前に、まるで独り言のような呟きが愛の耳に届いた。
そしてその言葉の意味を愛が把握したときには、再び里沙は穏やかな寝息をたてていた。
里沙の胸元に不意に抱き寄せられた、という事態に愛の心臓は当然跳ね上がったけれど、
それとは対照的な、うっすらと聞こえてくる規則正しい寝息や心音が、
自分という存在が里沙を安心させているのだ、と教え、
そしてそれが今の自分にとってどれほど幸せなことであるのかを痛感させた。
嬉しさが込み上げてきて、目頭が熱くなる。
幸せだと思える今に感謝しながら、自分を抱き寄せてきた里沙の腰に腕をまわす。
失いたくないと思えるぬくもりのなかで、知らずに零れ落ちた涙を拭うこともせず、
穏やかな眠りの中にいる里沙を追うように、愛も目を閉じた。
END
- 377 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/08(水) 22:16
-
- 378 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/08(水) 22:16
-
たくさんのレスありがとうございます。
まとめてしまって申し訳ありません。
のんびりやっていきます。
- 379 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/09(木) 11:39
- 更新ありがとうございます。愛ガキ最高!
こういうまったり系もいいね
- 380 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/09(木) 19:45
- 愛ガキキャワ!
次も待ってます
- 381 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/10(金) 00:11
- うーんかわいい^^
- 382 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/10(金) 06:22
- 読んでいてこちらまで幸せな気分になってしまいました
- 383 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/11(土) 03:09
- まじで幸せな瞬間だ
二人が可愛すぎる…
- 384 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/11(土) 22:17
- 更新本当にありがとうございました。
すごくよかったです
次も楽しみに待ってます。
- 385 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/27(月) 22:19
- 更新待ってます
- 386 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/11(月) 23:39
- 更新します。
- 387 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/11(月) 23:39
-
- 388 名前:teething fever 投稿日:2009/05/11(月) 23:40
- 「さんじゅうななどはちぶ」
デジタル文字を読み取った里沙の言葉は、
若干思考能力が鈍っている愛の頭の中でも『37.8℃』と的確に脳内変換された。
思っていたより高かったことに、吐き出した吐息がまた熱を含んだ気がする。
ピッ、という軽い電子音がしたかと思うと、ゆっくり額に手が触れた。
水に浸かっていたのか、その手はひんやりとしていて気持ちがよかった。
「…思ったよりあるね」
「平気や」
「どこが」
強がる愛に呆れたように里沙が肩を竦める。
それから持っていた電子体温計をテーブルに置いた。
「まったく…、自己管理がなってないよ、リーダー」
言葉のわりには心配色のほうが強く窺える。
本来の感情を誤魔化しての素っ気なさなのはわかっていた。
- 389 名前:teething fever 投稿日:2009/05/11(月) 23:40
- 「…ツアー終わって、気が抜けただけやもん」
「はいはい」
適当な相槌がちょっと淋しい。
けれど、ソファに深く座る愛の隣にそっと腰をおろして顔を覗きこまれ、
感じたばかりの淋しさが緊張と戸惑いに変わった。
「…あんまり近づいたら感染るで」
「これぐらいじゃ近づいたなんて言わないよ」
確かに、覗きこまれはしても、いうほどの至近距離ではない。
それでも感染してしまわないとは言い切れなくて、愛はそっと顔を背ける。
「…カッコ悪いから、あんまし顔見んな」
「なにそれ」
ぷっ、と小さく吹き出した里沙が、汗で少し湿った愛の前髪を撫で上げた。
「…ま、たまにはカッコ悪い愛ちゃんもいいかもね」
いつもより鈍っている思考能力が言葉の意味の理解を遅らせて、
ハッとして振り向いたら、ふふん、と、里沙は鼻で笑った。
「何か食べれそう? リンゴ、すってきてあげよっか?」
「…あ、うん…」
答えた愛に満足そうにうんうん頷くと、よしよしと頭を撫でてからキッチンに向かう。
- 390 名前:teething fever 投稿日:2009/05/11(月) 23:40
- 間もなく楽しげな鼻歌が聞こえてきて、愛の肩からチカラが抜ける。
背凭れに重心を移し喉を逸らすように頭も預けたら知らずに息が漏れた。
夢を見ているのかと思う。
けれど、自分の額や頭を撫でた里沙の手の感触は決して夢ではなかった。
嘘みたいだと思う。
けれど、自分を見つめる里沙の穏やかそうな目や優しげに綻ぶ口元は微塵も嘘ではなかった。
「…カッコわる…」
さっき里沙にも言った言葉を自分に向ける。
里沙は笑ったが、気まずいというより、恥ずかしさのほうが勝っている気がした。
泊まりに来て、と言ったのは3日前で、
風邪を引いたっぽいから来たらダメ、とメールをしたのは昨日の夜だった。
尚更気になる、と返事が返ってきたけれど、愛は敢えて返事をせずにいた。
そうしたら、今朝になって里沙がやってきた。
体調悪いなんて聞いたらほっとけないでしょう?
そう言って照れたように笑った里沙がまた少し愛の熱を上げたことは、きっと気づかないままだろうけれど。
- 391 名前:teething fever 投稿日:2009/05/11(月) 23:41
- 何度かこの部屋に来たこともあるからか、
食器棚から手頃な大きさの器をとってその中にすりおろしたリンゴを入れると、
小ぶりなスプーンを手に持ちながら、愛の座っている隣に里沙が戻ってきた。
「…ありがと」
そう言って手を差し出して器を受け取ろうとしたら、里沙の口元が少しだけ意地悪く綻んだ。
「食べさせてあげるよ」
「えっ?」
「はい、あーんして」
スプーンで少しだけ掬って、愛の口元に近づけてくる。
「ちょ、ええよ、自分でできる」
「いいじゃん、ちょっとくらい」
「いややって。子供じゃないんやし」
不満そうに唇を尖らせる里沙から半ば奪うように器を受け取った。
正直なところ、食べさせてもらうことに対してそんなに強い拒否感があったわけではない。
ただでさえ甘やかされていると思えるこの現状で、そんなことをされたらまた熱が上がりそうな気がしたのだ。
スプーンを口に含むと、冷やしてあったおかげか口の中に程よい冷たさでリンゴの甘みが広がった。
- 392 名前:teething fever 投稿日:2009/05/11(月) 23:42
- 味覚がちゃんとあることに安心して二口目を口に含んだら、
そんな愛を、自身の膝に頬杖をつきながら前傾姿勢で眺めている里沙に気がついた。
「? なん?」
「味、してる?」
「うん。冷えてておいしいよ」
「そっか、よかった」
小さく微笑んだ口元がまだ何か聞きたそうにしていたので、
そのまま首を傾げて見せたら、ますます口角が上がったのがわかった。
「子供、って言葉で思い出したんだけどさ」
「? うん」
「昨日、メールくれたじゃない?」
「うん」
「あのあと、さゆみんとカメに用事があったから電話したんだけどさ」
「うん」
「愛ちゃんが熱あるらしいんだよねって言ったら、2人とも同じこと言ったの」
「? なんて?」
三口目を飲み込み、四口目を掬って口元に近づけながら愛は続きを促した。
「知恵熱じゃないの?って」
早々に舌に慣れたはずのリンゴの甘味が、その一言で吹き飛んだ気がした。
咄嗟に言い返す言葉が見つからない。
- 393 名前:teething fever 投稿日:2009/05/11(月) 23:42
- 「おかしいでしょ? だって知恵熱って、赤ちゃんの…」
里沙の言葉が切れたのは、愛の顔が少し赤くなったような気がしたからだ。
「愛ちゃん?」
「…それ、イヤミ」
「そうなの?」
「うん」
きょとん、とする里沙を見ていられずに、
はあっ、と深く息を吐いて器をテーブルに置き、再び背もたれに深く深く背中を預ける。
「…イヤミっていうか、からかってんのよ、あたしを」
「愛ちゃんを? ふたりが?」
まだよく掴めてない声色になんだか焦れったくなる。
ちらっと目線だけを里沙に向けたら、まだ不思議そうに愛を見ていて、詳しい説明を待っているようだった。
- 394 名前:teething fever 投稿日:2009/05/11(月) 23:42
- その里沙に向けて小さく手招きをする。
それに気づいた里沙が迷いもなく少し開いていた愛との間を詰めてきて、2人の距離がぐんと近くなる。
確認しなくても肩先が触れ合うほどまで近づいてから、愛はそっと里沙の肩に凭れかかるように頭を傾けた。
「ん?」
「…もうちょっと、くっついてもいい?」
「うん、いいよ」
許可を得てから、愛は上体を起こして隣の里沙を正面から見つめた。
もっとカラダを寄せてくるのかと思っていた里沙は、突然見つめられて少し戸惑ったようだ。
不思議そうにしながらも綻んでいる里沙の口元が愛の心音を少しだけ早くする。
そのままゆっくり上体を里沙のほうへ寄せて、半ば覆い被さるように正面から里沙を抱き締めた。
「…こうきたか」
「イヤか?」
「ううん、ちっとも」
耳元に響く里沙の声が甘く聞こえた。
気のせいか、肩先で頬ずりされた感覚もあった。
- 395 名前:teething fever 投稿日:2009/05/11(月) 23:42
- 「…やっぱりちょっと熱いね」
愛の背中に手をまわした里沙の声はどこかうっとりしていた。
「なんか、こんなふうに愛ちゃんと抱き合うの、久々だね」
「うん」
「ツアー中だったもんね」
どきっとして、愛の肩が少し揺れた。
「二人でいるときって結構甘えたのくせに、ツアー中だとストイックになるんだから」
やっぱり気づいていたんだな、と、里沙を抱きしめながらぼんやり思う。
「…ツアー終わったら、いっぱい、こういうことしたくて」
「うん?」
「…それが、絵里とさゆにはバレてたみたい。だから、からかわれたんや」
「? そうなの?」
ぽんぽん、と、愛の背中を里沙が宥めるように軽く叩く。
- 396 名前:teething fever 投稿日:2009/05/11(月) 23:43
- 「それに、ツアー中かて、こういうことしたいって、考えてなかったわけじゃないから…。
でも、ライブのほうに集中したかったから、なるべく考えんようにしてたっていうか…」
「……どういうこと?」
愛の歯切れの悪さを里沙のほうも焦れったく思ったようだった。
「…よ、欲求不満…みたいな?」
里沙が返事を返さなかったことでその言葉だけが鮮明に響いた感じがして、
その居心地の悪さに愛の背中をイヤな汗が滑り落ちた。
「…ってことは、愛ちゃんはツアー中もホントはこういうことしたくて、でも我慢してて」
「うん」
「それがさゆみんやカメにはバレちゃってて…?」
「うん」
「……つまり、欲求不満が溜まって熱出たってこと?」
「…そういう、ことに、なります」
まるっと見事に言い当てられて、愛は里沙の肩に額を押し付けるように項垂れた。
- 397 名前:teething fever 投稿日:2009/05/11(月) 23:43
- 「…いろんなこと考えすぎた…」
「いろんなこと、って、たとえばどんなことよ?」
「えっ」
そんな切り返しがくると思わず焦って上体を起こしたら、里沙は、少し拗ねたように唇を尖らせて愛を見上げていた。
「あ…えっと…」
「なに、言えないようなこと考えてたってことぉ?」
「そういうわけじゃ…っ」
「ホントにぃ? 熱出すほどだったのに?」
揚げ足をとられて口を噤むしかなくなった愛に里沙は満足気に笑うと、
両腕を伸ばして愛の熱っぽいカラダを抱き寄せた。
「嘘つけないなあ、ホント」
胸元で笑われて悔しさも生まれたが、自分を抱き寄せている里沙の腕の心地良さがそれを大きく上回る。
- 398 名前:teething fever 投稿日:2009/05/11(月) 23:43
- そろりそろりと里沙の肩に手を置くと、それに気づいた里沙がゆっくり頭を上げて愛を見つめた。
曇りのないまっすぐな視線。
心なしか上気して見える頬の赤み。
口角が上がって薄く開いた唇。
見ているだけで淫らな想像を掻き立てられている愛の心を見抜いているのかいないのか、
当然と言いたげに顎を出してきた里沙に誘われるまま、吸い込まれるように顔を近づける。
触れて、感触を味わって、名残惜しく思いながらも離れたら、愛の頬を、里沙の小さな手がそっと撫でた。
「…まだ熱いね」
「え…?」
「愛ちゃんのこの熱、どうしたら下がるのかな」
うっとりした目で見上げられ、熱っぽい声色が愛の感情を煽る。
「教えてくれる?」
わかってて聞かれたようでたまらなくなって、愛は里沙のカラダを強く強く抱き締めた。
「…そんなん、こっちが知りたい」
- 399 名前:teething fever 投稿日:2009/05/11(月) 23:44
- どこか苦しそうなのにそこに孕む熱情は紛れもなく自分に向けられたもので、
重なる部分から伝わる愛の熱い体温が、同じように里沙のカラダにも熱を灯していく。
愛だけではない。
澄ました顔をしていても、本当は自分も同じだった。
同じように、愛のことばかり、考えていた。
でも里沙はそれを言葉にはしない。
しないかわりに愛に手を伸ばす。愛を抱きとめる。愛のすべてを受けとめる。
熱を持った手が里沙の腕を掴んだことに気づいて、
愛の背中にまわした腕に、ゆっくりと、けれど伝わる熱さえ逃さないようにきつく、チカラを込めた。
END
- 400 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/11(月) 23:44
-
- 401 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/11(月) 23:44
-
たくさんのレスありがとうございます。
まとめてしまって申し訳ありません。
愛ガキでのディナーショーが決まって嬉しい反面、
それが終わったあとも生きている自信がありませんw
公式で燃料投下とか嬉しいですけど、こんなに幸せでいいんでしょうか…。
- 402 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/12(火) 07:07
- 愛ガキ最高!
- 403 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/12(火) 19:31
- 読みながら愛ちゃんはだいぶ大人になったなあと思う一方で
やっぱり負けず嫌いで素直でキャワいいなあなんて思ったりしました
そして最後の一レスガキさんでにやにやしてしまいましたw
確かに最近、「え、どうしたの愛ガキ」って出来事が増えてなんかオロオロしてます
- 404 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/13(水) 12:28
- やっぱ愛ガキいいわぁ
早くディナーショーで見たいですw
- 405 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/17(日) 14:06
- ほのぼのしている二人もいいなぁと
1人でニヤけてました。
次回も待ってます。
- 406 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/13(土) 18:26
- 更新待ってます!!
- 407 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/07(金) 00:38
- まったり待ってます
- 408 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/13(日) 16:01
- 待ってます
- 409 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/19(土) 06:38
- 更新します。
短いです。
- 410 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/19(土) 06:38
-
- 411 名前:予約済みの未来 投稿日:2009/09/19(土) 06:38
- 「ねー、愛ちゃん、今年の誕生日プレゼント、何かリクエストある?」
洗ったグラスを愛に渡し、濡れた手を拭いながら問いかける。
「プレゼントって言われたら、そりゃもちろん」
里沙から渡されたグラスを丁寧に拭き取ってから戸棚に片付けていた愛の声は途端に弾んだが。
「もちろん、あたし、っていうのは却下だよ」
「…ちぇー」
言われる前に先手を打ったら、思ったとおりの落胆の声が返ってきた。
そういえば、去年も同じようなやりとりがあったな、なんて思って、里沙の口元が知らずに緩む。
去年に限らず、毎年毎年、飽きずに繰り返される同じやりとり。
そんなに遠い過去ではないはずなのに、初めはいつだったかはもう思い出せない。
あのときは里沙もまだ、今みたいにさらりと受け流せずにいたが、
何度も繰り返されていくうちに、今ではコミュニケーションのひとつになっていた。
正直言うと、こういう会話はそんなに嫌いではない。
何の身にもならないような他愛ない会話は、それだけお互いに気を許しているようにも感じられるからだ。
- 412 名前:予約済みの未来 投稿日:2009/09/19(土) 06:39
- そんな里沙と目が合った愛が上目遣い気味にニヤリと笑った。
声にしなかった言葉を見透かされたかと思って咄嗟に顎を引くと、布巾をたたんで、さほどなかった距離を更に詰めてくる。
「ちょ、狭…」
広くないキッチンで、ゆっくりと愛が里沙の行動範囲を奪いはじめる。
なんとなく、このあとの展開を予測して抵抗せずにいたら、
里沙の腰がシンクの淵に当たったと気づいたときには、愛のほっそりとした腕が里沙のカラダをその腕の中に閉じこめてい
た。
「…なに笑ってんの?」
少しだけ低い位置から里沙を見上げる愛の口元が緩んでいる。
「ん? …いや、こういうの、毎年言うてんなあ、と思って」
「…飽きもせずね」
「何回目やろ?」
「さあ…」
「覚えてないくらい一緒にいてるってことやなあ」
「いてるねえ」
態勢に反しての愛ののんびりした声が、ほんの少し強張った里沙の気持ちを和らげる。
- 413 名前:予約済みの未来 投稿日:2009/09/19(土) 06:40
- 「…こんな、長い付き合いになるなんてね」
「何言うてん、まだまだ続いてくんやで」
ちょっと拗ねた口ぶりのあと、何かを思いついたように愛の目がきらめいた。
「…そぉや、欲しいもん、あるわ」
「へ?」
「里沙ちゃん」
「や、だから、それは…」
さっき却下したじゃないか、と言おうとして、
結局、最終的にはそのリクエストに応えることになっていることを思い出して、里沙の顔に熱が集まってきた。
顔が赤くなっていくことを自覚して視線を落としたら、ゆっくりと愛の腕が里沙の腰を抱きかかえた。
「約束、ちょーだい」
「え…?」
「やくそく」
落ちかけた目線を戻すと、幼い声と笑顔が里沙に向けられる。
「来年も、再来年も、その次も、5年後も、10年後も」
そこまで言った愛の顔付きが、幼さを窺わせたものからゆっくりと凛々しくなっていく。
たぶんそれは本人は無意識で、里沙だけが感じ取れる変化なのだろう。
- 414 名前:予約済みの未来 投稿日:2009/09/19(土) 06:40
- 「何年も経って、あたしらがおばあちゃんになっても、里沙ちゃんは、あたしにそれを聞いて」
「…? 何を聞けって?」
「誕生日プレゼント、何がいい? って」
言われてすぐは意味がわからなかった。
けれど、何度も反芻していくうちにその言葉の本質に思い至り、里沙はまた顔を赤くする。
「何年経っても、おんなじこと聞いて。ずっとずっと。あたしのそばで」
どこかうっとりしたような声色に聞こえて、それがそのまま、じわりじわりと、愛の感情として自分に染み込んでくるようで。
「…あー、えっと。それって、さ…」
「うん?」
「…なんか、プロポースみたいなんだけど…」
「みたい、やなくて、そのつもりなんやが」
ちょっとムッとしたように唇を尖らせて、里沙の顔を下から覗きこむ。
「…返事は?」
「えっ?」
「約束、してくれるやろ? 何年経ってもちゃんと聞いてや?」
返事と言いながら、それ以外の答えなんて許してくれないくせに。
そうは思ったが、口にはしないで、里沙は笑って頷いてみせた。
- 415 名前:予約済みの未来 投稿日:2009/09/19(土) 06:41
- 里沙の返事に愛が嬉しそうに満足そうに笑う。
それを見て里沙も嬉しくなったが、同時に、少しだけ意地悪したい気分にもなった。
「…じゃあ、口約束ね」
「ええーっ、軽っ!」
予測したとおりの不満声を漏らすのを待って、里沙は両手を愛の頭のうしろへとまわし、
愛が事態を把握する前に、素早い動作でその唇を掠めとった。
「…な、なん?」
いきなりのキスに面食らったようすは里沙が思ったままの反応で、嬉しさを隠せずに口元が緩む。
「だから、口約束」
一瞬、きょとん、とした愛だったが、すぐに意味を理解したように吹き出した。
「ちゅーで約束で、口約束って? 里沙ちゃんも結構やるようになったやんか」
「いっつもやられっぱなしもね」
「なら、これからちゅーするたびに約束更新ってことか?」
「…揚げ足とらないでよ」
上目遣いで愛を睨んで見せたが、たいした効果はなく、里沙のカラダは再び愛の腕の中に抱きとめられた。
- 416 名前:予約済みの未来 投稿日:2009/09/19(土) 06:41
- 「…ちゃんと聞くよ」
抱きとめられたことで里沙と愛の頬とが触れ合う。
肌で感じる愛の体温は、いつも里沙を素直にさせる。
それを愛は、知っているのだろうか。
だからこんなふうに、いつもいつも優しく、抱きしめてくれるのだろうか。
「ん?」
「…来年も、再来年も…、その次も、5年後も、10年後も、
あたしたちがヨボヨボのおばーちゃんになっても、あたしは愛ちゃんの隣で、ちゃんと聞くから」
最後のほうは愛の耳の奥に囁くように言ったからか、ゆるい振動が伝わってきたけれど、
里沙を抱きしめる腕のチカラは里沙の言葉をまっすぐ受け止めたと言いたそうに強くなった。
「…だから愛ちゃんも、あたしの隣にちゃんといないとダメだよ」
愛の背中に腕をまわしながら言うと、愛はすぐに上体を起こして里沙を見た。
そして。
「おう、まかせとけ」
幼さの残った凛々しい笑顔で答えられ、その眩しさに、里沙は微笑みながら目を細めた。
END
- 417 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/19(土) 06:41
-
- 418 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/19(土) 06:41
-
五日遅れですが、高橋さん、23歳おめでとうございます。
たくさんのレスありがとうございます。
まとめてしまって申し訳ありません。
次はいつ、とは言えませんが、また何か書けたら書き込みにまいりますので、
あまり、過度な期待はされませんようにお願いします…w
- 419 名前:I 投稿日:2009/09/20(日) 06:36
- 新作、ありがとうございます。
- 420 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/20(日) 09:06
- キターーー!!
ずっとずっと待ってました!!
やっぱり作者さんのお話が一番大好きです。
次回も期待して待ってます。
- 421 名前:ぽち。 投稿日:2009/09/20(日) 10:20
- 愛ガキ、最高!
なんか本当に心温まる話で、大好きです。
- 422 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/22(火) 22:08
- 待ってました!
作者さんの愛ガキは想像しやすくて、心が温まるので大好きです。
作者さんはディナーショーに行かれたのでしょうか?
私は想像以上に素晴らしいディナーショーで愛ガキ熱が上がりましたw
- 423 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/28(月) 10:44
- 更新だ〜〜!!
作者さんの愛ガキ本当に最高です。
読んでいて幸せを感じます!
ありがとうございます!
次回も期待してます!
- 424 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/14(日) 00:05
- 更新します。
短いです。
今までのお話とのつながりは全くありません。
- 425 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/14(日) 00:05
-
- 426 名前:sweet? sweet! Valentine 投稿日:2010/02/14(日) 00:05
- 「は?」
「…だからぁ」
少し深めの溜め息をついた里沙がそのまま頭を項垂れる。
それを見ながら、もう一度言って、と言うと、大げさに眉尻を下げながら里沙が自分の腰に手をあてた。
「今日ってさ、バレンタインなんだよ」
「あ、うん。それはわかってるけど。…で?」
「…っ、もらってほしいんだけど!」
やけくそ気味に語尾を強め、がし、と愛の両肩を掴む。
その勢いに愛は咄嗟に顎を引いた。
「…えっと…何を?」
「わざとボケてんのか!」
愛の肩を掴む里沙の手のチカラが強くなって、それが少し痛くて思わず肩を竦める。
「バレンタインだよ? バレンタインつったらチョコレートでしょうが! それもらってって言ってんの!」
「…え、ええっ? あたしに!?」
「ここにあんたとあたし以外に誰がいるっていうのよ!」
今にも咬みつかれそうだとも思ったけれど、それよりも里沙の言葉のほうが驚きが強くて。
ぽかん、と口を開けて里沙を見たら、ムキになりすぎたと言いたげに手を緩めて、そのあとでまた深く深く溜め息をついた。
- 427 名前:sweet? sweet! Valentine 投稿日:2010/02/14(日) 00:06
- 「…ば、バレンタインってさ」
「うん」
「す、好きな人にチョコあげる日やと思ってたんやが…」
「そうだよ」
「そ、そうやんな…」
周囲からも、さんざん鈍感と言われてきたけれど、さすがにこの状況では愛も気付かざるを得ない。
怒ってるのか拗ねてるのか、どちらともとれる里沙の反応がなんだか怖くて、愛は里沙の顔が見れなかった。
俯いたまま、何も言えずにいた愛をどう解釈したのか、里沙かさっきとは違った溜め息を漏らす。
「言っとくけど、義理チョコとか友チョコでもないからね」
「う、ん…」
「あと、この期に及んでボケようと思ってたら殴るよ」
「…あたし、ボケとかできんし」
「マジレスだし」
呆れられた気がしてますます顔を上げられない。
そんな愛の視界に、綺麗にラッピングされた手のひらよりは少し大きい箱が差し出された。
包装紙には、この時期でなくても世界的に有名な店のロゴが見える。
- 428 名前:sweet? sweet! Valentine 投稿日:2010/02/14(日) 00:06
- 「…ホントは、手作りにするつもりだったけど、忙しくて時間なくて」
この業界、なんだかんだと忙しい日々はありがたいけれど、まとまった休日が作れないとこういうとき不便だと愛も思っていた。
「…でも、すごい、勇気いったんだよ、買うの」
「うん…」
「メンバーに渡すヤツとは全然気持ち違うし、本命チョコとか買うのも初めてだったし。てか、今だって心臓ばくばくしてるんだけどさ」
自嘲気味に笑った里沙の声が震えてることにようやく気付いた愛が慌てて頭を上げると、
目があった途端、ホッとしたように里沙の口元が緩んだ。
「…いらなかったら捨ててくれていいよ。けど、あたしの目の届かないとこでお願い」
差し出されたままだったチョコレートに愛は恐る恐る手を伸ばす。
愛の手が里沙の持っていたほうの反対側を持ったのを確認して里沙も手を離した。
受け取ったそれを両手で持って、半ば呆然と眺めていた愛の耳に、里沙が細く息を吐いたのが空気の流れで伝わった。
「…じゃ、あたし、帰るね」
「え」
「ごめんね、帰るとこ引き留めて」
- 429 名前:sweet? sweet! Valentine 投稿日:2010/02/14(日) 00:08
- 愛用している見慣れたバッグを持って出て行こうとする里沙の姿をぼんやりしながら見ていた愛は、
楽屋のドアノブに里沙が手を掛けたときにハッとして、慌てて自分の荷物に振り向いた。
「ちょ、ちょっと、ちょっと待って、ガキさん!」
里沙からもらったチョコレートは手に持ったまま、反対側の手で愛は自分のバッグの中を探る。
それから、里沙がくれたものよりは少し小さい箱を取り出した。
ドアのところで首を傾げている里沙に駆け寄り、顔は見ないまま、腕をまっすぐ伸ばしてその箱を差し出す。
「…? なに?」
「これ、もらって」
「へ?」
「あ、あたしも、持って来とったん、よ…」
「えっ」
掠れる愛の声に引っ張られたように里沙の声が裏返る。
- 430 名前:sweet? sweet! Valentine 投稿日:2010/02/14(日) 00:09
- 顔を見るのが怖かったけれど、里沙の手がおずおずとその箱を手に取ったのを感じ取り、
愛は急いで手を引っ込めると、ばたばたと自分のバッグを持って里沙の横をすり抜けるようにしてドアノブを掴んだ。
それから。
「…捨てるなら、あたしのおらんとこで、お願い」
さっきの里沙の言葉を真似て言い、里沙の顔は見ないまま、愛は時分の顔を隠すようにして楽屋を出た。
「ちょ、ちょちょちょちょ…!」
しかし、楽屋から数メートル離れたところで背後から里沙の声に引き留められる。
ためらいながらも愛が振り向くと、事態を把握したらしい里沙が顔を赤くしながら愛を見つめていて。
「…っ、こ、こんなの、あたし、自惚れちゃうんですけど!」
- 431 名前:sweet? sweet! Valentine 投稿日:2010/02/14(日) 00:09
- 愛が渡した、可愛らしくラッピングされた箱を掲げながら、里沙が照れ隠しのように少し大きめの声で叫ぶ。
里沙らしい反応といえば里沙らしいそれに、愛はこみ上げてくる嬉しさやくすぐったさを隠せなくて口元が緩む。
「それ以外に思うことあるんか?」
含み笑いに乗せて静かに返すと、里沙が口ごもったのが見えた。
首に巻きつけていたマフラーが愛のカラダが少し揺れたせいで緩んで外れる。
それを合図にしたように里沙が愛のもとまで駆け寄ってくる。
そして、少しだけ上目遣いに里沙を見た愛に、両腕を伸ばすと、つよくつよく、抱きしめた。
「…もったいなくて、捨てられるか、ばぁか」
さっきはまっすぐ気持ちを伝えてきたくせに、ここにきて素直じゃない口振りにおかしくなったけれど。
自分を抱きしめる里沙の腕の強さは頼りないのに、でも痛いくらいに気持ちは伝わってきて。
胸の奥から湧き上がってくる嬉しいという気持ちを伝えたくて、愛も、ありったけの気持ちを込めて里沙を抱きしめ返した。
END
- 432 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/14(日) 00:09
-
- 433 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/14(日) 00:10
-
バレンタインということで、浮かれてみました(私が)
ガキさんのビジュアルは、今の髪型でお願いしますw
たくさんのレスありがとうございます。
まとめてしまって申し訳ありません。
のんびりまったりマイペースに。
また何か書けたときは書き込みにまいります。
ではまた、いつか。
- 434 名前:I 投稿日:2010/02/15(月) 00:41
- 甘いお話ありがとうございます!
- 435 名前:ぽち。 投稿日:2010/02/15(月) 00:54
- 更新ありがとうございます。
ガキさんの髪も短くなって、二人の関係も違う感じの
ストーリーになっていくのかな?楽しみです。
- 436 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/15(月) 07:46
- ありがとうございました。
愛ちゃんの行動、がきさんと一緒にちょちょちょ…ってなりましたw
- 437 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/15(月) 16:08
- 更新ありがとうございました。
そして お疲れ様でした!
今回もあまーいお話いただいちゃいましたっ
次回も期待して待ってます。
- 438 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/18(木) 20:42
- ショートガキさん話をさっそく読めてうれしいです
前半のガキさんと後半のうろたえガキさんのギャップがかわいいw
- 439 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/17(木) 22:05
- 更新します。
短めです。
今までのお話とのつながりはありません。
- 440 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/17(木) 22:05
-
- 441 名前:be with you 投稿日:2010/06/17(木) 22:07
- 5期メンバーでのイベントが決まったとき、やっと念願が叶って嬉しくて仕方なかった反面、
これが最初で最後になるんだという事実も同時につきつけられて、そのせいでいろんな気持ちが渦巻き、
胸の奥のほうでは言葉にならない感情がザワついた。
どんなに隠し事をしたっていずれは伝わってしまうとわかっていても、
それが独りよがりな感情だという自覚があるぶん、自分からそれを口に出すことはなかなかできなくて。
そのせいで、不意にふたりきりになったときは、いつそれを切り出されるかと緊張もしていたし、
無駄なことかも知れないとは思っても、聞かれたことへの無難な答えも用意はしていた。
なのに、いつになっても尋ねてこなかったから、今回に限ってはうまく隠し通せているのかなと、そう思い始めていたのに。
- 442 名前:be with you 投稿日:2010/06/17(木) 22:08
- 「ねー、愛ちゃん、5期のイベント、なにやろうとかアイデアある? まだちょっと気は早いけどさ」
来年のカレンダー用の撮影は順調に進んで、あたしとガキさんは早々に終了してしまった。
だけどこのまま帰ってしまうのもなんとなく他のメンバーに悪くて、待機用の楽屋で全員が終わるのを待つことにしたのだけれど、
その楽屋で、サブリーダーが唇の形をへの字にしながらそんなふうに聞いてきた。
「いや、ぜんぜん。ガキさんは?」
「ぜんっぜん」
あたしが言った言葉よりさらに強調して言うから、思わず口元が緩む。
「麻琴たちには聞いてみた?」
「ううん。ていうか、あのふたりはギリギリまで考えてくれなさそう」
「いやぁ、さすがに最後やし、今までよりは気合も入っとるやろー」
自分から『最後』なんて言葉にしてしまってから、しまった、と思ったけれど、彼女は特に気にしたふうもなくて。
「そうだねえ」
小さく笑って肩を竦めたあとであたしの隣の椅子を引いてそこに座る。
- 443 名前:be with you 投稿日:2010/06/17(木) 22:10
- 「ところでさ」
「んー?」
話しかけてくる声は特に神妙な響きを持ってなかったから、持ってた雑誌に目を戻して少し曖昧な返事をしたら、
ガタガタと音を鳴らしながら、座った椅子ごとあたしのほうへと距離を詰めてきた。
「なん?」
「愛ちゃん、ひょっとして、イベントやりたくないの?」
「えっ?」
「あたしの考えすぎかな。…もちろん、楽しみにはしてるけど、なんか、それだけじゃないっぽいっていうか」
不意打ち過ぎて、用意していたはずの答えが咄嗟には出てこなかった。
おかげで彼女の疑問を更に確信に近付けてしまうことになって、まっすぐ見てくるその目を逸らせなくなる。
「…なんで?」
「え?」
「なんでわかるん、もう…」
降参の意味で溜め息を吐き出すと、彼女の眉尻が困ったように下がった。
- 444 名前:be with you 投稿日:2010/06/17(木) 22:11
- 「やっぱり、ガキさんにはかなわんなあ…」
むろん、迷惑などという気持ちなんて微塵もないことは彼女には伝わっているはずで、
照れ隠しのようにガシガシと頭をかいて見せたら、得意気に両手を腰に当てて胸を逸らしてみせた。
「それほどでもないけどぉ?」
「うわ、なんかムカつくわー」
軽い言葉で返されたからこちらも軽めに返したら、ふふっ、と微かに笑ったあとで、目線を強くする。
表情が変わったことはすぐに理解して、ドキリと胸が鳴る。
今年になってからバッサリ髪を切った彼女は、表面上は確かに少し幼くなってしまったけれど、
あたしの目には髪が長かったころよりもずっとずっと色艶がついたように見えて、
こんなふうに何気なく近づかれて、無防備に下から顔を覗きこまれたりなんかしたら、心臓が否応なしに跳ねてしまう。
ひょっとしたら彼女は、あたしがそんなふうに思っていることに気付いているのかも知れない。
なぜって、そんな顔で見上げられたら、あたしには降伏の白旗を掲げる以外には何もできないからだ。
- 445 名前:be with you 投稿日:2010/06/17(木) 22:12
- 「で? なにに悩んでるわけ?」
「あー、いや…、悩んでる、っていうのとは、ちょっと違うんやが…」
もごもごと言葉を濁したら、眉根を寄せて首を傾げられる。
悩んでいる、とは少し違う。
内に抱え込んで言葉にしないのだから、彼女にしてみれば『悩んでいる』と思ったのだろうけれど、
たぶんきっとこんなふうに思う自分はおかしいんだと感じるからこそ、言葉にはできない。
そもそも、適切な言葉自体が見当たらないのだが。
どんな顔で彼女のことを見ていたのか、鏡を持ってない自分にはわからなかったけれど、
あたしを見ていたガキさんの顔がだんだん和らいでいくのを見て、きっと不安な顔をしたんだろうということは読み取れた。
「…ひょっとしてさー」
「ん?」
「あたしのこと?」
当たらずとも遠からずで思わず返事を詰まらせると、苦笑いを浮かべて「なるほどねー」なんて納得した声を漏らす。
- 446 名前:be with you 投稿日:2010/06/17(木) 22:13
- 「や、あの、ガキさんが悪いとか、そんなんやなくって、あの」
「うんうん、わかったわかった。…とりあえずさ、どんなんでもいいから、思ってること言ってみてよ」
ね? と、あたしの膝をポンポン軽めに叩いてふわりと笑われて、やっぱり彼女にはかなわないと痛感する。
焦る気持ちを整えるようにそっと息を吐く。
そのあとで彼女の手を、あたしの膝を叩いた手をそっと捕まえると、
僅かにだったけれど、あたしに向いていたカラダがびくりと揺れたのがわかった。
でもそれを表面上は見せないようにして、あたしに向かって微笑んだりするから、
余計に胸の奥のほうがギュッって締め付けられるみたいになる。
「…もう10年なんやなあ、って、思ったんよ」
「うん、そうだね」
「それから、これが、最後になるんやなあって…」
「…うん」
彼女のカラダが今度は違う意味で強張ったことは触れていた部分から伝わって、
そしてそれはあたしの手のチカラを強めることになって。
- 447 名前:be with you 投稿日:2010/06/17(木) 22:14
- 「今更…、ホント、今更ってわかってるけど、でも、なんか急に、怖くなった」
「…もう会えなくなっちゃうかも、とか?」
「いや、そういうのはわりと平気。会おうって思ったら、たぶん、どこにいても会えるって思ってるから」
「じゃあ…」
いったいなに? と、目で訴えられて、その目がまっすぐで、やっぱり言葉にすることを少し躊躇う。
「……ガキさん、呆れるかも」
「ん?」
なるべく刺激しないよう、それでいて続きを促す目線の優しい雰囲気が逆に苦しく思えて、
その視線から逃げるみたいに上体を倒して、そのまま彼女の膝元に頭を押し付ける。
突然の行動に当然ガキさんは驚いたようで、さっきよりずっと顕著にカラダを揺らしたけれど、
あたしの突飛過ぎるともとれる行動にも意味があることはちゃんとわかっているんだろう、
いつもだったら聞こえてくる非難の声が聞こえてこなくて、ますます、自分の感情の幼さが浮き彫りになった気がした。
- 448 名前:be with you 投稿日:2010/06/17(木) 22:14
- 「あーいちゃん?」
甘やかす声色で呼びながらあたしの背中を撫でる手の熱が嬉しくて、いとしくて。
込み上げてくる悔しさにも似た何かが、喉の奥から掠れそうになった言葉を吐き出させた。
「…いつまで、って、思った」
「へ?」
「あたしら、いつまで、こうしていられるんかな、って」
言葉にしてしまってから、自分で言ったことなのに、いや、自分で言ったことだからこそ、
発した言葉に対する苦い波が口の中に押し寄せてきた感覚がした。
漠然とあった不安のようなものが、言葉にしたことでより明確になる。
同時に、やっぱり独りよがりな感情でしかない気もして、居心地も悪くなった。
あたしの言葉のあと、ぴたりと動きが止まってしまった彼女に悪い意味で心臓がどきどきする。
ただ呆れられただけならまだいいけれど、気分を害してしまったような気もして顔が上げられない。
- 449 名前:be with you 投稿日:2010/06/17(木) 22:15
- そんなあたしの心情を知ってか知らずか、あやすように撫でていた両手が少し強めにあたしの両肩を掴んで、
そのチカラに戸惑って咄嗟に頭を上げたら、その勢いに便乗させるみたいに折っていた上体を起こさせ、
頭、肩、背中、と、上から順番に二度ずつ撫でるように叩いたあとで、
彼女の行動を把握しきれていないあたしを、きゅっ、と正面から抱きしめてきた。
「え、あの、ガキさん…?」
さっきのあたしぐらい突飛な彼女の行動に、当然のように上ずった自分の声が、事態の把握と同時に体温を上げた気がした。
「…愛ちゃんってさーあ」
耳のすぐうしろで、溜め息と一緒にそんなふうに呼ばれて、その続きを言われるより先に、やっぱり呆れさせたのだと思った。
情けなくて、みっともなくて、返す言葉が見つけられなくて、
もう黙り込むしかないあたしの背中を撫でていた手が離れた途端に淋しさが押し寄せてくる。
「愛ちゃんって、ときどき、そういうこと言うよね」
背中を離れた手はそのままあたしの髪の中に差しこまれて、その毛先を指に絡めとられる。
- 450 名前:be with you 投稿日:2010/06/17(木) 22:15
- 「まこっちゃんたちと会えなくなるかも、っていう不安はないくせに、あたしとはいつまでこうしてられるか不安って、
なんでこう、自分に対しての自信ってもんがないかなあ、このリーダーは」
絡めとられた髪を引っ張られた感覚はあったけれど痛みはなくて、むしろ労られている気分になって、
『許されている』のだと自覚したあたしは、おずおずと、彼女の肩先に額を押し付けた。
「…ま、わからなくもないけどさ」
あたしがそうするのを待っていたみたいに、ふ、って鼻先で笑ったのが顔を見なくてもわかる。
頭を撫でられたのがわかって重心を彼女のほうへ少し移したら、腕のチカラが強くなった気がして、抱きしめられていると実感する。
「でもさー、別に、あんまり思いつめなくてもいいんじゃないかなあ、って思うんだよね」
あたしの肩に顎を乗せて抱きしめてくるその腕の強さは、いつものようなどこか遠慮がちなものではなくて、
だからこそ、触れ合っているすべての部分から彼女のあたしへの感情が流れ込んでくるような錯覚がする。
- 451 名前:be with you 投稿日:2010/06/17(木) 22:16
- 「10年も一緒にいるせいだ、って言われたらそれまでだけどさー、でもあたし、これから先もずっと、愛ちゃんといる気がする。
根拠とかそんなのないけど、でも、愛ちゃんのいない未来とか、考えらんないっていうか。
いつかグループを離れるときがきても、それでもやっぱり、愛ちゃんとは離れ離れにはならないって、そう思うよ」
彼女のいうように、ガキさんの言った言葉には根拠も何もない。
ただの思い込みによる、一方的ともとれる自惚れにも似た自信だった。
だけど。
あたしの欲しかったものはまぎれもなくその根拠のない自信と、ゆっくりと、少し頼りないチカラで抱きしめてくれる、彼女の熱だった。
「不思議な話だけど、あたし、これについてはすごく自信ある。
だから、愛ちゃんがもしまた自信がなくなったら、そのたびに聞いてくれたらいいよ。そのたびに自信、取り戻させてあげるからさ」
自意識過剰ともとれるその答えは、だけどあたしにはこれ以上ないくらいの安心の声色で心の奥へと響いてくる。
- 452 名前:be with you 投稿日:2010/06/17(木) 22:16
- いつまで、なんて、カタチに残る確約はない。
でも、だからこそ、言葉で欲しいときがある。
あたしのそんな気持ちにも、彼女は無意識に気付いていたんだと思い知らされる。
同時に、いつまでたっても、こういうときの彼女にはかなわないのだとも。
「…ぅー」
言いたいことはたくさんあって、だけどそれらはどれもうまく伝えられるような言葉としては生まれてくれなくて。
もう一度肩先に擦りつけるように額を押し付けたら、くすぐったそうにガキさんがカラダを揺らした。
「んー? なによ、拗ねた声出して」
「…なんか悔しい」
「なぁんでよ」
「あたしばっかり、ガキさんのこと好きみたい」
- 453 名前:be with you 投稿日:2010/06/17(木) 22:16
- 言った途端、ぽんぽんとさっきみたいに背中をあやすように撫で叩いていた手が不意に止まった。
おや?と思って顔を上げたら、唇のカタチをへの字にしたガキさんがあたしを下から覗きこんでいて。
「…アホか」
「なんでぇ?」
「愛ちゃん、あたしのこと、好きでもない子をこんなに甘やかすような人間だと思ってんの?」
凛々しくさえ思えたさっきまでの強気で自信ありげな表情とは違った可愛いらしい拗ねかたに一瞬言葉を失いかけたけれど、
すぐにいとしさと一緒に笑いが込み上げてきて、あたしはあふれだしそうな気持ちと一緒に腕を伸ばして、彼女に抱きついた。
「思ってません!」
抱きついた拍子にお互いの額にそれをぶつけてしまったけれど、
痛さに顔をしかめてから目を開けたのが同時で、それがなんだかおかしくてふたり一緒に吹き出したら、
さっきまでの不安や言葉にならない胸の奥のザワめきも、一緒に弾け飛んでいった気がした。
END
- 454 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/17(木) 22:17
-
- 455 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/17(木) 22:19
- 久しぶりにもかかわらず、相変わらずワンパターンで申し訳ないです。
そして久しぶり過ぎて思わずageちゃったうえ、何度も投稿時に「長すぎ!」って怒られてしまいましたw
たくさんのレスありがとうございます。
まとめてしまってすいません。
のんびりやっていきます。
ではまた、いつか。
- 456 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/27(日) 22:07
- 待ってました!
やっぱり二人の絆は素敵ですね。
- 457 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/30(水) 20:49
- ありがとうございました。
愛ガキの良さがよく出ていたと思います。
ログ一覧へ
Converted by dat2html.pl v0.2