口端にキス2
- 1 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/09(火) 18:40
-
りーちゃん絡みを徒然と。
適当に自分の好きなものを書いていきます。
りしゃみや、りしゃゆり、りしゃもも中心。
そんなスレ第二段。
- 2 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/09(火) 18:41
-
まずはりしゃもも。
アンリアル、学園もので草板の続きです。
- 3 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:42
-
熊井ちょーはかっこいいよ。
優しいし、男前で、背も高くてさ。
きっとももよりしっかり、りーちゃんを守れると思う。
でもね、りーちゃんを譲る気は無いんだ。
許してね?熊井ちょー。
- 4 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:43
-
―譲れない 桃子Ver.―
- 5 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:43
-
ぼんやりと桃子は空を見つめる。
自分の足元から聞こえてくるのは一年前に桃子自身が習った曲。
微妙に一緒に口ずさむ。
退屈だった。
一週間ぶりに訪れた中学の屋上には珍しく誰もおらず。
桃子にとってそれは計算外のことで。
今までは桃子が来るといつも梨沙子がいた。
―あちゃ〜、失敗した?
心の中でそう思いつつも、高校に戻る気は無い。
今下で行われているのは今日最後の授業で。
これさえ終わり放課後になれば梨沙子は屋上に来るだろう。
部活が終わるまで梨沙子は雅を待つに決まっているのだから。
- 6 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:44
-
「あー、早くりーちゃん来ないかなぁ。」
ちらりと携帯電話を確認すれば終業の鐘まで後二、三分という所だった。
いつの間にか下の階から響いていた音楽は消えていた。
早めに終わった所もあるのか、ざわざわとした喧騒が感じられる。
それに少し期待した。
梨沙子のクラスが早く終わったかは流石の桃子でも分からない。
もどかしい心のまま、屋上にいるとメールした。
早く終わっていたとしたら梨沙子はすぐに来てくれるだろう。
そしてそんな桃子の期待に応えるように屋上の戸が開く音がした。
「りーちゃん!待ってたっ……?」
- 7 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:44
-
フェンスに捕まり外を見ていた体勢から振り返る。
喜びに溢れた桃子の声は途中までで止まってしまった。
そこにいたのは待ち人ではなかったのだから。
「もも?どうしてここにいるの?」
「それはこっちのセリフだよ、熊井ちょー。」
きょとんとした表情で自分を見る友理奈に桃子は苦笑するしかできなかった。
タイミングが良いと言っていいのか、悪いのか。
友理奈がこの時間にここにいるなど滅多にない。
部活や生徒会で忙しいだろうから。
少なくとも桃子がここを使っていた時は一度たりとも来なかった。
今だって当然桃子に会いに来たわけではないだろう。
そんな友理奈と週一がいい所の自分が屋上で会うとは桃子は予想してなかった。
- 8 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:44
-
「あたしはりーちゃんがいるかなって思って。」
―やっぱりかぁ。
そうだろうと思った。
去年一回もここに来なかったのに、今年ここに来るという事実。
その違いは桃子と梨沙子だけ。
つまり梨沙子に会うことが目的なのだ。
「今、りーちゃんはいないよ。」
「そっかぁ、残念。」
肩を落とす友理奈に桃子はどうしたらいいのか分からなかった。
梨沙子を待っているのはお互い様だ。
桃子が誰を待っているかなどここにいる時点で友理奈にばれているのだから。
だから桃子が気になるのは一つだけ。
友理奈がいつからここまで梨沙子に対して踏み込むようになったかということだ。
- 9 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:45
-
―……熊井ちょーもってなると、きついなぁ。
雅なら諦めがつく。
だが友理奈にはどうしても梨沙子との時間を譲る気にはなれなかった。
譲らなければならないとも思わなかった。
それはたぶん梨沙子の気持ちの問題で。
梨沙子が好きな雅になら、桃子は梨沙子と雅が一緒の時間を増やすのを許すことはできた。
なぜなら梨沙子もそれを望んでいて。
そして桃子は梨沙子の幸せを一番望んでいるのだから。
- 10 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:46
-
フェンスの側から動かない桃子の側に友理奈が歩み寄る。
その顔にはまだ落ち込んでいることが如実に表れていた。
桃子はそんな友理奈を見上げて、苦笑いを続けることしかできない。
ここで友理奈の肩に手をやり慰めることは何か違っていた。
「まぁ、もう少しで来るでしょ。そんな落ち込まないで。」
「でもあたし部活いかなきゃいけないから。」
「あー……。」
かける言葉をなくした。
どうやら忙しい時間の間を縫って屋上に来たらしい。
梨沙子がここに来て、雅と帰るまで一緒にいる予定の桃子は何も言えない。
- 11 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:46
-
キーンコーン……
微かな沈黙に包まれた二人に聞きなれた鐘の音が聞こえてきた。
ふっと空気が軽くなる。
お互いに見合わせた顔には困ったような笑みがあった。
「掃除の時間だし、もう少しいたら?りーちゃんもそろそろ来るかもよ。」
「ないんでしょ?」と聞けば友理奈は静かに頷いた。
真面目な友理奈のことだから掃除があったらここに来ていないだろう。
それくらいは分かる仲だった。
- 12 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:46
-
「ももは良くここに来るの?」
真っ直ぐに見られる。
質問ではなく確認だった。
友理奈の真っ直ぐな性格は桃子にとって眩しくて、思わず目を細めてしまった。
友理奈の綺麗な目と目が合わせられなくて桃子は僅かに俯く。
「うん、来るよ。りーちゃんに会いに。」
「そうなんだ。」
桃子の答えに友理奈は静かに頷いただけだった。
桃子が気づいたように友理奈も知っていたに違いない。
梨沙子を真ん中に自分と対岸に立った友理奈。
お互い梨沙子を好きな気持ちにズレはない。
ただ表現の仕方とか、関係とかが異なるだけ。
- 13 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:47
-
―何してるんだろ。
分かりきったことを聞きあって。
同じ人を好きになって。
でも渡す気も、諦める気もない。
面倒くさい関係になったと桃子は思った。
「ももはりーちゃんが好きなんだよね。」
「熊井ちょーもりーちゃんが好きなんでしょ。」
友理奈の言葉に即答するように言う。
言い終わった後、顔を見合わせてしまった。
桃子よりよほど背の高い友理奈を見上げるような形になる。
一瞬だったかもしれない。
視線が交差したその瞬間に体のそこから笑いがこみ上げきた。
- 14 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:47
-
「ぷっあはははは!もうっ、分かりきったこと聞かないでよー。」
「だってももちも、聞いてるし。」
友理奈は桃子のように大笑いこそしていないが、くすくすと笑いが抑えられない様子だった。
桃子はお腹を抱えて笑う。
自分でも何がそんなに可笑しいか分からなかった。
「あー、涙も出てきた。」
「笑いすぎだよー、そんなに笑う箇所じゃないじゃん。」
「ね、普通だったら空気がピリピリしてる所だよ。」
- 15 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:48
-
同じ人が好き。
つまり友理奈と桃子は恋敵というものなのだ。
だが嫌な雰囲気にはならなくて。
それは互いにもう心を決めてしまっているからなのだろう。
桃子は今の立ち位置を譲れない。
友理奈は今の桃子、下手すると雅の位置まで登ろうとしている。
後は正々堂々闘うだけだ。
だから桃子はにっこりと笑うと友理奈を見た。
「譲れないよ、りーちゃんは。ももはみーやん以外に渡す気は少しも無いから。」
「甘いよ、ももち。りーちゃんは苦しんでるんだよ。」
俯く友理奈。
そっと目を瞑る様子はとても綺麗だった。
- 16 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:48
-
―苦しんでるかもしれない……けど。
桃子にだって分かっている。
梨沙子が鈍感すぎる雅に困っていることくらい。
伝わらない、煮え切らない態度に苦い感情を抱いていることに。
そしてそれでも梨沙子は雅が好きなのだと知っていた。
桃子は小さくため息をつく。
「りーちゃんはそれでもみーやんが好きなんだよ。」
覆せない事実。
桃子が梨沙子の恋人になれない理由。
友理奈だって、誰だって、梨沙子を知っている人なら知っていることだった。
桃子は苦笑を浮かべた。
- 17 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:48
-
「みーやんの側にいることが一番幸せなんだよ。」
「……きっと、そうなんだろうね。」
友理奈が桃子の隣に並ぶ。
二人揃って空を見上げる。
友理奈の声にも諦めのようなものが混じっていた。
友理奈も理解しているのだ。
何だかんだで梨沙子の基盤は雅なのだから。
「あたしは梨沙子に笑ってて欲しい。」
「うん、あたしも同じ。」
滅多に使わない一人称に、梨沙子の名前呼び。
それは本当に真剣な時しかしないこと。
もっとも今まで梨沙子のこと以外で使ったことは無いのだが。
- 18 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:49
-
「だから熊井ちょーが梨沙子の笑顔を壊すようなことさせられない。」
「……ももちはずっとそれでいいの?」
気配で友理奈が自分を見たのが分かった。
だが桃子は目線を動かさない。
ずっと青い空を見上げているだけだ。
そんな桃子の目に映るのは雲と一緒に来ては消える梨沙子の表情。
色んな顔を見てきた。
笑顔も、泣き顔も、拗ねた顔も、艶っぽい顔も。
そして雅といる時の満面の笑みも。
ぎゅっと手を握り締める。
溢れそうになった心を閉じ込めて、桃子はようやく友理奈を見た。
- 19 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:49
-
「いいの、あたしは。梨沙子の一番になれなくても。」
「そっか。あたしには真似できないよ。」
悲しそうな笑顔が友理奈の顔に作られていた。
友理奈がそんな顔をする必要はないのにと桃子は思った。
それに真似する必要もない。
友理奈と自分、そして雅。
全員が違う風に梨沙子のことを大切にしていて。
恐らく全員が梨沙子のことを好きなのだから。
―バランスがいいんだよね。
桃子は思う。
梨沙子は不安定な子だ。
繊細と言ってもいいかもしれない。
そんな子が安定するには色々支えが必要なのだ。
桃子はそう考えていたから、わざわざ雅を潰して隣に立とうとは思わない。
雅は雅で、桃子は桃子で梨沙子に必要とされているから。
- 20 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:49
-
「りーちゃんをみーやんから離しちゃいけないんだよ。」
「だから諦めるんだ?」
「諦めるんじゃないよ、幸せでいて欲しいだけ。」
そうでなければ誰が梨沙子の背を押すことなどできようか。
梨沙子が幸せになるために。
そのためだけに桃子は雅と梨沙子の関係が進むのを許せるのだ。
―じゃなきゃ、張り倒してるし。
桃子は元々気の長いほうではない。
我侭だし、辛抱強くも無い。
梨沙子だから。
自分が好きで仕方ない梨沙子だから我慢できるのだ。
- 21 名前:―譲れない 桃子Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:50
-
「……どうしようもないね。」
「そうだよ、みーやんを好きなりーちゃんを好きになった時点でどうしようもないんだよ。」
「わかってなかったの?」と桃子は少し口角を上げて友理奈を見上げた。
できる限りの悪戯な笑みだった。
まだ気づいてない友理奈への。
―りーちゃんに嵌ると大変なんだから。
年下だけど大人っぽくて。
綺麗だけど幼くて。
そんな彼女と自分たちはどうしようもない恋をしている。
―譲れない 桃子Ver.―終
- 22 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/09(火) 18:50
-
- 23 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/09(火) 18:51
-
つづいてりしゃゆり。
りしゃももの友理奈視点です。
- 24 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/09(火) 18:51
-
- 25 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:52
-
ももちは可愛いなぁって思う。
仕草とか言葉遣いとか、凄く女の子っぽくて。
でも実は凄く優しくて、包容力があることを知ってる。
りーちゃんと一緒にいるとこを見ると本当にそう思うもん。
りーちゃんのこと本当に好きなんだなって。
だけどあたしも好きになった。
だから悪いけど引く気は無いんだ、ももち。
- 26 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:52
-
―譲れない 友理奈Ver.―
- 27 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:52
-
授業が早く終わった。
今週はたまたま掃除も休みの日だった。
いつもならなんとなく友達の手伝いをしたりしている。
だがその掃除の時間までも十分近く余っていて。
友理奈は梨沙子に会いに行こうと思ったのだ。
―りーちゃん、いるかなぁ。
屋上へと続く階段を軽い足取りで進む。
今日のように天気のいい日は間違いなく梨沙子は屋上にいると思ったから。
ただ心は弾む。
雅は梨沙子を迎えに来るときしか屋上に来ない。
だから今、梨沙子に会いに行けば二人っきりになるわけで。
それが楽しみで仕方なかった。
- 28 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:52
-
―ガチャ
少し鈍い音を立てて扉を開いた。
刹那、暗かった踊り場と明るい屋上の明度の差に視界が真っ白に染まる。
だんだんと色が戻ってきたとき、そこにいたのは梨沙子ではなかった。
青い空とそれをバックにして立つ桃子がいた。
「りーちゃん!待ってたっ……?」
くるりと振り返ったその顔は見たことがないくらい優しい笑顔。
驚いた。
桃子が屋上にいることもだが、むしろ友理奈はその見たことが無い表情に驚いた。
桃子との付き合いは長い。
しかもよく笑っている桃子なのに。
今の梨沙子に向けた笑顔は本当に別格だった。
驚きのまま口から言葉が出る。
- 29 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:53
-
「もも?どうしてここにいるの?」
「それはこっちのセリフだよ、熊井ちょー。」
友理奈のセリフと共に桃子からは笑顔が消えて、苦笑になった。
もうちょっとさっきの顔を見てたかったと友理奈は思う。
だが梨沙子専用のそれは友理奈には見せてもらえない。
―ももちも、良くここに来るのかな?
そんな感じの言葉だった。
高校に行った桃子が何故という疑問は残る。
屋上まで誰にも見つからないことなどできるのだろうか。
そこまで考えて友理奈はそういえば桃子もサボり魔だったと思い出す。
友理奈は桃子が授業を抜けているのを直接見たことはない。
しかし生徒会で会う佐紀が時々愚痴っていた。
それは一年前の出来事。
桃子は友理奈の知らないことを色々知っているのだ。
- 30 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:53
-
「あたしはりーちゃんがいるかなって思って。」
素直に理由を口にした。
梨沙子と会える時間なんてそうない。
部活や生徒会で忙しかったし、たまに暇なときがあると梨沙子は雅と一緒にいた。
友理奈はそういう時、梨沙子に近づけなかった。
近づこうと思えなかった。
雅と二人きりの梨沙子は本当に楽しそうだから。
―邪魔なんてできないよ。
遠慮してしまう。
だから友理奈が梨沙子とまともに話せるのは週に二、三回がいいとこだった。
- 31 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:53
-
「今、りーちゃんはいないよ。」
「そっかぁ、残念。」
半ば分かっていた桃子の言葉に自分でも気落ちするのが分かった。
今の自分はきっと残念な顔をしているんだろうなぁと友理奈は思う。
やっと梨沙子と話せると思ったのに。
友理奈の心はその思いで一杯だった。
友理奈ははぁと小さく息を吐くと切り替える。
とりあえず待ってみよう。
そう考えながら桃子の元へと足を進める。
余り近づかないフェンスの側からはグラウンドや町並みが遠くまで見渡せた。
側に来た友理奈を見て桃子が困ったような笑顔のまま見ていた。
- 32 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:54
-
「まぁ、もう少しで来るでしょ。そんな落ち込まないで。」
「でもあたし部活いかなきゃいけないから。」
身長差がかなりある友理奈を桃子は見上げる。
その顔は自分を慰めようとしていてくれて。
それは分かった。
だが友理奈は掃除の時間が終わったらすぐに行かなければならない。
だから友理奈は桃子の言葉に笑うことはできなかった。
「あー……。」
- 33 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:54
-
目の前で桃子が目を泳がせる。
言葉を捜しているのだろう。
桃子は人の感情に聡い人だと友理奈は知っていた。
人を見て、人を思いやり、言葉をかける。
そんな桃子だから梨沙子の中で二番目を獲得できたのだ。
梨沙子は甘えん坊で、寂しがり屋で、優しい子だ。
大好きな雅といつも一緒にいたいと思っていることを知っている。
そして鈍い雅がそれに気づいていないことも。
桃子はそんな時、人知れず梨沙子を支えてきたのだろう。
キーンコーン……
鳴った終業のチャイムと共に桃子の顔が明るくなった。
言葉を見つけたからだと思った。
- 34 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:55
-
「掃除の時間だし、もう少しいたら?りーちゃんもそろそろ来るかもよ。」
「ないんでしょ?」と聞く桃子に、友理奈は頷くしかできない。
なんとなく見合わせた顔に笑顔が浮かんだ。
これはこれでない機会だと友理奈は思った。
桃子に改めて梨沙子とのことを聞くことなどもうないだろう。
「ももは良くここに来るの?」
答えはわかっていた。
桃子が学校に忍び込むなんて面倒くさいことをするのは梨沙子の為だ。
そして梨沙子の為なら桃子はそういうことを多々する。
桃子を真っ直ぐに見つめる。
すると桃子は少し苦い表情をして、答えた。
- 35 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:55
-
「うん、来るよ。りーちゃんに会いに。」
「そうなんだ。」
友理奈の考えどおり桃子はほぼ即答した。
俯いた顔からは何も読み取れない。
何故か大人の表情だと友理奈は思った。
人を愛せる大人の。
だから友理奈は分かりきったことを聞いてしまった。
「ももはりーちゃんが好きなんだよね。」
「熊井ちょーもりーちゃんが好きなんでしょ。」
- 36 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:55
-
―好きだよ、もちろん。
答えなくても桃子は分かっている。
友理奈も分かっている。
それだけで十分だと思った。
「ぷっあはははは!もうっ、分かりきったこと聞かないでよー。」
「だってももちも、聞いてるし。」
ぷっと空気が漏れたかと思うとすぐに桃子は噴出した。
友理奈も可笑しかった。
お互いに知っていて、分かりきっていることを聞く。
梨沙子を好きで、だけど一番にはなれない自分と桃子。
そんな二人だから笑えてしまったのだ。
- 37 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:56
-
「あー、涙も出てきた。」
「笑いすぎだよー、そんなに笑う箇所じゃないじゃん。」
「ね、普通だったら空気がピリピリしてる所だよ。」
ふと雅相手だったらこんなに笑えたのだろうかと友理奈は思った。
だがすぐにその考えを払拭する。
笑えるはずが無い。
雅とだったら桃子の言うとおり空気が張り詰めていただろう。
名実共にずっと梨沙子の一番は雅のものだ。
そして雅はそれを当然のように思っている。
梨沙子を好きという気持ちには気づいてない。
それでも雅は自分から梨沙子が奪われることを許せないのだろう。
雅は梨沙子の一番であることで安定している部分があるのだから。
- 38 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:56
-
「譲れないよ、りーちゃんは。ももはみーやん以外に渡す気は少しも無いから。」
「甘いよ、ももち。りーちゃんは苦しんでるんだよ。」
桃子が雅になら梨沙子を譲ると言う。
それは以前ならば友理奈も納得できることだった。
しかし今はそうではない。
苦しんでいる梨沙子をそのままにはできなかった。
「りーちゃんはそれでもみーやんが好きなんだよ。」
小さなため息と共に桃子が言った。
その言葉に友理奈は唇をかむ。
悔しかった。
知っていた事実が痛かった。
そんな友理奈に追い討ちをかけるように桃子が言葉を発する。
- 39 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:56
-
「みーやんの側にいることが一番幸せなんだよ。」
「……きっと、そうなんだろうね。」
友理奈にだって分かっている。
いくら友理奈が騒いだ所で梨沙子の一番は変わらない。
それは誰でもない梨沙子が決めたことで。
苦しくても、怖くても、梨沙子は雅から離れないのだ。
ふっと桃子の表情が変わった。
真剣な顔。
いつもの可愛く作られた桃子ではない。
- 40 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:57
-
「あたしは梨沙子に笑ってて欲しい。」
「うん、あたしも同じ。」
その一人称も、表情も梨沙子のためだけに使われているのを知っている。
桃子にとって梨沙子はそれこそ梨沙子にとっての雅と同じくらい特別で。
きっと桃子は梨沙子の為なら全てを賭けれるのだろう。
それほど桃子の梨沙子を見る目は違った。
だから友理奈は納得できなかった。
桃子が梨沙子を諦めていることが。
「だから熊井ちょーが梨沙子の笑顔を壊すようなことさせられない。」
刺さった言葉の釘が痛かった。
桃子の視線が友理奈を串刺しにする。
桃子は梨沙子を不安にさせるようなことは徹底的に排除する気なのだ。
友理奈は何度か手を握ったり開いたりしてから尋ねる。
- 41 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:57
-
「……ももちはずっとそれでいいの?」
先ほどからずっと空を眺める桃子に友理奈は視線を移した。
真っ直ぐに遠い空を見つめるその姿には何か固い意志が感じられた。
ようやく友理奈を見た桃子に既に迷いは無かった。
「いいの、あたしは。梨沙子の一番になれなくても。」
「そっか。あたしには真似できないよ。」
和らげられた表情に逆に友理奈が悲しくなった。
自分の心を押し殺して、自分の一番好きな人を譲る。
それは友理奈には到底無理なことだった。
- 42 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:58
-
「りーちゃんをみーやんから離しちゃいけないんだよ。」
「だから諦めるんだ?」
自分に言い聞かせるような口調に反射的に言葉が出た。
言ってから子供っぽいなぁと自覚する。
まるで責めるような言葉になってしまった。
そんな友理奈に桃子はちょっと困ったように笑って見せた。
「諦めるんじゃないよ、幸せでいて欲しいだけ。」
梨沙子に幸せでいて欲しいから、自分のものにできなくて。
諦めてないと桃子は言うがそれはなんだか酷く切ないことのように思えた。
- 43 名前:―譲れない 友理奈Ver.― 投稿日:2007/10/09(火) 18:58
-
「……どうしようもないね。」
「そうだよ、みーやんを好きなりーちゃんを好きになった時点でどうしようもないんだよ。」
ふふっと桃子が笑う。
悪戯な笑顔の影にきっといろいろな想いが隠れていた。
どうしようもないかもしれない。
どうしようもない恋かもしれない。
だけど捨てることはできなくて。
友理奈も桃子もずっとそれを抱いたまま歩き続けるのだ。
年下だけど大人っぽくて。
綺麗だけど幼くて。
そんな彼女と自分たちはどうしようもない恋をしている。
―譲れない 友理奈Ver.―終
- 44 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/09(火) 18:58
-
- 45 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/09(火) 19:03
-
ちょっと新しいことに挑戦してみたかったのさ(エ
うん。
……っていうか、りしゃももとかりしゃゆりとか、書いておきながらりーちゃんが出て来ない罠。
そんな小説の多いスレですが生暖かく見守ってやってくださいw
- 46 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/09(火) 19:03
-
- 47 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/09(火) 19:05
-
あ、言い忘れました。
もし前スレが気になる人はがいたら草版に同じタイトルでありますんで。
お手数ですが、お探し下さい。
すんません。
……URLの張り方がわかんないんで(爆
- 48 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/09(火) 19:05
-
- 49 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/09(火) 22:40
- 向こうを一気に読んでこっちにも飛んでまいりました
更新速度もすごいし、
なにより話の中身がすごいですね
梨沙子を軸に絡み合う人間関係っていうのが、なかなか悲しくて好きです
これからも頑張ってください
- 50 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/10(水) 00:43
- ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン飛んできましたw
新スレに大量更新乙です!
今回もりーちゃんに甘い白桃と熊しゃんでしたね!
りーちゃん出てなかったけどハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!!!
チャイコーでつ!
りーちゃん愛されてるぅうう!たまりません><
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/10(水) 01:25
- 新スレおめでとうございます
今後熊井ちゃんはどう動くのか?とても気になります
- 52 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/15(月) 20:55
-
49>>名無飼育さん
一気にですか?!
あっとうございます!!
暗い話ばっかで、すんませんw
切なめの話ばっかですが、気に入っていただけたなら良かったです。
はい、頑張ります!w
50>>名無飼育さん
同じ話を別視点、一回やってみたかったんですが。
思ったより膨大な長さになってしまいましたw
ほんと、表示に偽り有りっすよね(爆
これからもりーちゃんにハァーンしてやってください。
51>>名無飼育さん
あっとうございます!!
自分もここまで妄想が止まらないとは予想していませんでしたw
熊井ちょーは色々奮闘する予定です(ニヤ
たくさんのレスあっとうございます!!
ちょっと忙しくてこれから暫くノロい更新になりますが、のんびり見てやってください。
- 53 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/15(月) 20:56
-
いつも通りの設定で、りしゃみや。
少し雅ちゃんを動かせ始めます。
- 54 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/15(月) 20:56
-
- 55 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 20:57
-
ずっと大切にしてた。
最初は義務感で。
今はなんでそんなに大切なのか分からない。
だけど梨沙子はずっと大切な子だったんだ。
- 56 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 20:57
-
―Fortune―
- 57 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 20:58
-
「みやさぁー、いい加減にはっきりしたら?」
「え?」
お昼ごはんも食べ終わって、授業が始まるまでの僅かな時間。
そんなことを言い出したのは千奈美だった。
前の席にいる千奈美が何を言っているのか分からなくて。
雅は首をかしげて千奈美を見つめる。
分かっていない雅を見て千奈美がはぁと大きなため息をついた。
「りーちゃんって、かなりモテるんだよ。」
「へっ、梨沙子が?」
裏返った声が出た。
千奈美から出たのは雅に予想できなかった事柄で。
信じられなかった。
- 58 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 20:58
-
「あのさぁ、りーちゃんってかなり美少女だよ。みやは分かってなさすぎ。」
呆れた目で見られた。
なんとなく、むっとした。
梨沙子のことはきっと雅が誰よりも分かっている。
少なくとも雅はそう思っていた。
―梨沙子は、そりゃ、美人だけど。
白い肌も、ぱっちりとした目も、柔らかい唇も。
雅は全て間近で見てきたのだ。
一番輝く梨沙子の顔も、一番楽しそうな顔も全てを。
だからその可愛さや綺麗さはよく知っている。
- 59 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 20:59
-
「だって梨沙子だよ?かなりアフォだし。」
―子供っぽいし、頼りないし、泣きやすいし。
それは恋というものにおいてマイナスでしかない、はず。
少なくとも雅が聞いてきた中ではそうだった。
子供っぽすぎたり、頼りなかったり。
そして泣きすぎるというのは、男は勿論、女でも好かれない印象があった。
「もー、そんなのどうだっていいんだよ。」
「あんだけ可愛いんだから。」という千奈美の言葉が胸に刺さった。
実際、雅も梨沙子の容姿、いや雰囲気にどきっとさせられたことがあるからだ。
毎日梨沙子の整った顔を見ているのにそうなのだ。
一目惚れや、好きになることもあるかもしれない。
- 60 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 20:59
-
「そんなりーちゃんをみやはどう思ってる?」
「どうって……。」
答えられない。
小さい頃から一緒にいた。
そして一緒にいるのが当たり前だと感じている。
だから嫌いという事は当然無くて。
雅は困ってしまう。
「りーちゃんね、結構な数の人に告白されてるんだよ。」
「え?」
唐突な話の巻き戻しに雅は着いていけない。
ぽかんとした顔のまま千奈美を見る。
- 61 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 21:00
-
「なのに、全部即答で断ってるの。なんでか分かるでしょ?」
なんでそんなに詳しいのかと雅は逃避気味に考えた。
雅は知らなかったのだ。
梨沙子が告白されていることも、それを全て断っていることも。
だが千奈美はそれを当然のように知っていて。
その事実に少しだけむっと来たのも本当だった。
「みやの、せいだよ。」
ついと目線が動かされ、ばっちりと合った。
どこか雅を責めるような感情がそこには見える。
はっきりと発音された音は、雅に聞き逃すことを許してくれない。
聞きたくない言葉だった。
雅は逃げるように目線を逸らす。
嫌な沈黙が場を覆った。
- 62 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 21:00
-
動かない、動けない雅。
そして今は俯いてしまった千奈美。
雅と千奈美の付き合いは長いがこんな空気になったのは初めてだった。
「梨沙子は良くも悪くもみやが中心にいるんだよ。」
「茉麻。」
ぽんと千奈美の肩に手が置かれた。
茉麻だった。
茉麻は千奈美の前の席で、少し席を外していたのだ。
少し空気が緩んだ。
しかし千奈美は顔を上げない。
茉麻は仕方なさそうに笑うと自分の席から椅子を引っ張り、雅の前に座る。
- 63 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 21:00
-
「あたしからもお願いしたいな、みや。」
「……何を?」
「はっきりさせて。あたしはもう梨沙子を楽にさせてあげたい。」
その声は雅が聞いた中で一番真剣さを伴っていた。
梨沙子を桃子に負けないくらい可愛がっていた茉麻だ。
真摯な態度に雅は怯む。
何も悪いことなどしていないはずなのに、自分が物凄い悪人になった気分だった。
―わかんないよ。
雅は茉麻の言うことも、千奈美の言うことも理解できない。
自分にとって梨沙子は幼馴染で。
梨沙子を苦しめている自覚なんて無い。
ましてやはっきり好き、嫌いなんて決められるわけが無かった。
- 64 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 21:01
-
「うちは、わかんないけど、梨沙子が泣くのは嫌で。」
「うん。」
静かな茉麻の声が響いた。
騒々しい教室で雅の席周辺だけ異世界のようだった。
「なんか、放っておけなくて。」
「うん。」
ちらりと千奈美を見る。
俯いたままの千奈美の表情は見えない。
そして千奈美が何故いきなりこんな事を言い始めたのかも分からなかった。
ふっと自分の考え、梨沙子のこと、に没入する。
答えが出そうな気がした。
- 65 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 21:01
-
「一緒にいるのが普通だと思ってた。」
梨沙子は自分を待っているのが普通で。
それを自分が迎えにいくのが日常で。
一緒にいないところを想像できなかった。
雅の正直な気持ち。
「なんでさ、そこまで分かっているのに……っ?」
千奈美が押しつぶしたような声を出した。
雅は思わず眉を顰めた。
何も分かってなどいない。
付き合うとかそういう関係じゃないのだ。
自分と梨沙子は。
そんなものじゃない。
雅はそう感じたのだ。
- 66 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 21:02
-
頭に熱が上ってきた雅を冷静に茉麻が見る。
茉麻の表情には千奈美のような怒りや責めは見当たらない。
ただ事実を述べているだけで。
しかし何より雅を追い詰めようとしているのがわかった。
「一緒にいたいんだ?」
「いたいんじゃないよ、いて当然みたいな。」
「同じだよ。」
ぐっと言葉に詰まる。
同じ、なのだろうか。
一緒にいたい、という欲求じゃない。
いて当然、というのが日常なのだ。
「だってみやは、それが変わったら絶対イライラする。」
「そんなことない。」
「気づいてないだけだよ。みやは梨沙子と一緒に登下校できないと怒りっぽくなる。」
「自覚してなかったでしょ?」と言って笑う茉麻。
- 67 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 21:02
-
―そんなつもり、ないけど。
まず梨沙子と登下校が違うときが少ない。
登校は風邪などを引いて休まない限りずっと一緒だ。
そして梨沙子は常に雅を待っていてくれたから下校もほぼ一緒といってよい。
それができなくなるのは大会前の部活が忙しい時期だけで。
イライラしていたとしても梨沙子と居られないからではないと雅は思った。
「それは部活が忙しいから。」
「違うよ、あたしも最初はそう思ったけど。」
はぁと茉麻もため息をついた。
認めない雅に対する呆れのようなものが込められていた。
茉麻はこの話はもういいとばかりに首を二、三回振ると口を開いた。
- 68 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 21:03
-
「まぁ、いいや。でもそろそろ自覚しないと熊井ちゃんに盗られるよ?」
「熊井ちゃん?」
意識せずに視線が千奈美へと動く。
千奈美が何故こんなに感情的になるか分かった気がした。
そして自分の眉間に皺が寄ったのがわかる。
「そこは分かってるんだ?なら行動しないと。」
にやりと茉麻が笑った。
幾ら人の噂に鈍い雅でも耳に入る。
友理奈がこの頃頻繁に屋上に行くようになった話は。
そしてそれが本当であるのも、梨沙子を通して知っていた。
- 69 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 21:04
-
「熊井ちゃん、本気だから。あたしには止められない。」
久しぶりに千奈美と目が合った。
嫉妬、困惑、諦念、羨望。
色々混じった目だった。
自分と梨沙子のように幼馴染の千奈美と友理奈。
だからこそ言える言葉で。
その言葉が千奈美のできる最大限の忠告だと雅は知る。
「みや、一回話してみなよ。梨沙子の考えてること聞いたこと無いでしょ。」
「……うん。」
―そうするしか、ないのかもしれない。
- 70 名前:―Fortune― 投稿日:2007/10/15(月) 21:04
-
鈍い雅に対して梨沙子は感情に敏感だ。
梨沙子の素直な気持ちを聞けば自分の勘定が何なのか、わかる気がした。
ただ一つだけ、今の雅でも分かったこと。
それは雅にとって梨沙子は大切で。
小さい頃から守ってきた宝物のようなものであること。
雅は響いてきた予鈴を聞きながら、思考をやめた。
授業に身が入るはずも無かった。
―Fortune―終
- 71 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/15(月) 21:05
-
- 72 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/15(月) 21:07
-
やっと考え始めた雅ちゃん。
マイペース過ぎるよ、雅ちゃん。
そんな感じの更新でしたw
今日は一本のみです。
トロイ更新に十月中はなりますが、見捨てずよろしくお願いしますw
- 73 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/15(月) 21:07
-
- 74 名前:名無し 投稿日:2007/10/15(月) 21:33
- おぉ、遂に!
続きを非常に楽しみにしてます。
- 75 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/16(火) 01:48
- 遂にみやが動いてしまうのか!
みやが動くとアッサリ話しが進みそうだが…
そこは作者さんの手腕に期待
- 76 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/16(火) 01:57
- ぬハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!!!
りーちゃん愛されてる!みんなに愛されてる!!
千奈美。・゚・(ノД`)・゚・。
更新お疲れ様です。
今回のは今までと違ったドキドキでした^^
まーさんはやっぱりベイビーが可愛いんですね^^
- 77 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/23(火) 17:53
-
レスあっとうございます!!
かなり嬉しいです。
以下レス返しです!
74>>名無しさん
ええ、遂に動きます。
がうちの雅ちゃんはヘタレなのでしばらく来ないかとw
のんびり楽しんでください。
75>>名無飼育さん
動くと言っても、あっさりとはいきません。
そういう話ですw
このこんがらがる関係をどうするか迷ってます。
期待に答えられる自信はないっすが、がんばります!
76>>名無飼育さん
りーちゃんは愛されてます!!
というか愛させてます(爆
千奈美にはちょっと可哀想な気がしますが、そこは追々w
ママ&ベイビーはさり気に好きです。
きっとりーちゃんは茉麻といるときが一番安定しています(エ
- 78 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/23(火) 17:53
-
今日も一本のみの更新です。
りしゃゆり。
- 79 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/23(火) 17:54
-
- 80 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 17:55
-
ぼんやりと教室から空を見つめる。
この頃は酷く空が高くなった。
天高く、馬肥ゆる秋という言葉もある。
だが梨沙子の心はただぼんやりしているだけだったのだ。
- 81 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 17:55
-
―イッシュンノ出来事―
- 82 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 17:55
-
梨沙子はイライラしていた。
自然と階段を上る足も荒くなる。
なんてことはない。
ただ秋の独特の空気がそうさせていただけのことなのだ。
だからこれは八つ当たりのようなものだと梨沙子自身理解していた。
―今だけは、誰もいないといいなー。
この頃、誰もいないはずの屋上に人がいることが多くなっていた。
と言っても来るのは梨沙子の知り合いだけで。
自然と屋上に一人でいる時間も減っていたのだ。
それは桃子だったり、友理奈だったり、時には雅だったり。
嬉しいことには違いない。
でも今だけは駄目だと梨沙子は思った。
- 83 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 17:56
-
―きっと、当たっちゃうし……。
梨沙子は眉を少し下げた。
情けない顔になっていると思う。
イライラとモヤモヤが混ざり合って、何故か泣きそうになる。
切ないわけでも、悲しいわけでもない。
むしろこの頃は雅と一緒の時間も増えた。
桃子と遊ぶのも変わらず楽しかった。
友理奈とのんびりするのも心地よく感じていた。
そんな傍目から見たら何の不自由も無い生活を送っていた。
だからこそ梨沙子は自分の苛立ちの意味がわからない。
秋のせいにするしかないほどに。
「りーちゃん!」
「っ。」
息が詰まった。
梨沙子がいるのは扉の一歩前。
まさに扉を開けようとした瞬間に声をかけられたのだ。
- 84 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 17:56
-
―タイミング、悪いよ。
すーっと息を大きく吸い、止める。
ゆっくりと「普通に。」と言い聞かせて三秒位経ってから吐く。
余り意味は無いかもしれないが、少しでも気持ちを落ち着けるためだ。
「何、ゆり?」
怒った口調にならないように気をつけて、いつものように振り返る。
階段の中腹。
今、まさに梨沙子が上ってきた場所に友理奈はいた。
その表情はほんわりとした笑顔で。
急いできたのか僅かに息が切れていた。
- 85 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 17:57
-
「屋上に行こうと思ったら、ちょうどりーちゃんがいたから。」
「そんなに急がなくても、あたしは大体ここにいるし。」
ちょっと声に険が含まれる。
昼休みという時間帯。
人並み以上に役割を担う友理奈だから。
梨沙子を訪ねてくるのがどんなに難しいか知っている。
友理奈ほどではないが雅だって部長で忙しそうなのだ。
―ちーの相手もしてるのに。
自分になど構っている暇はないはず。
だけどそれでも来てくれる友理奈に来なくていいとは言えなくて。
梨沙子はイライラを募らせる。
- 86 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 17:57
-
「あのさ、今日はあたし独りでいたい気分なの。」
「え?」
びっくりした表情で固まる友里奈に梨沙子は顔をしかめた。
それは友理奈に対する表情ではなく、自分に対するもの。
友理奈にそんな顔をさせる自分に一番イラついた。
「えっと、どうかしたの?」
「なんでもない。ただ一人にさせて欲しいだけ。」
声を荒げないのは、梨沙子の持つ最後の矜持。
自分の気持ち一つで傷つけたくなかった。
どんどん、ここにいたくない気持ち、一人になりたい想いが広がる。
そして困惑したような、少し悲しそうな顔をする友理奈にプツンと何かが切れた。
- 87 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 17:57
-
「もうっ、いいよ。あたしが行くから!」
「あっ、りーちゃん。」
たんたんたんっと階段を駆け下りる。
突然の梨沙子の行動に友理奈は動けなかった。
伸ばした手は梨沙子を捕まえられない。
限界まで横目で友理奈の姿を見る。
それは友理奈から確実に逃げるため。
―下まで下りきればっ。
なんとかなる。
友理奈は無理やり梨沙子を捕まえるような人ではない。
優しいから。
そして優しい友理奈を今の自分は傷つけるしかできないのだ。
- 88 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 17:58
-
だからこれは罰なのだ。
梨沙子は自分の足が階段を踏み外すのを感じて、そう思った。
元々梨沙子の運動神経はよくない。
なのによそ見をしていた。
そんな状態で階段を下りるなどできる訳がないのだ。
ふわりと空中に投げ出される感覚。
結構な勢いで前につんのめった梨沙子は宙に浮いていた。
「りーちゃんっ!」
さっきとは違う切羽詰った声が聞こえた。
間延びした空間で梨沙子はそれを感じた。
- 89 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 17:58
-
―……あたしが悪いんだし。
だからそんな顔はしないで欲しい。
目の前にはさっきより悲しそうな顔。
梨沙子の視界一杯に友理奈がいた。
ぎゅっと強い抱擁。
梨沙子を守るようにすっぽり包む友理奈。
―えっ?
温かい。
梨沙子が感じ取れたのはそれだけだった。
ふんわりと友理奈の匂いが梨沙子の鼻を掠める。
そしてその瞬間に梨沙子は元の世界に戻される。
ドンと落ちる衝撃が友理奈越しに伝わる。
ズダダダダッと凄まじい音が人のいない階段に響いた。
- 90 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 17:59
-
「いっ、つぅ〜………。」
いつの間にか閉じていた目を開ける。
周りにはあれだけの音がしたのに人っ子一人いなかった。
僅かに体を動かしてみる。
痛みは無い。
友理奈が庇ってくれたからだ。
「あっ!」
友理奈。
自分を庇って階段を落ちた友理奈は何処にいるのだろう。
ほんのりと体に残る体温。
少し手を動かした場所に友理奈はいた。
うつ伏せに倒れている体を肩に手を掛け仰向けにする。
梨沙子よりかなり大きい友理奈を動かすのは結構な力が必要だった。
- 91 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 17:59
-
「ゆり、大丈夫?」
見たところ酷い怪我は無い。
だが一番打っただろう背中は制服の下だ。
そして梨沙子がこうして呼びかけている今も友理奈は起きない。
それが何より梨沙子を不安にさせた。
酷く緩やかな速度で友理奈の頬に手を伸ばす。
その手は僅かながら震えていた。
どうしようもない、震え。
―起きてよ、ゆり。
触れた指先から変わらぬ温もりが伝わる。
少し心が落ち着いた。
「ぅん……いったぁー……。」
「ゆり?」
- 92 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 18:00
-
自然と顔を覗き込む形になった。
気づけばイライラは消えていた。
梨沙子の心にあるのは友理奈が心配な気持ちだけ。
「あ、れ?りーちゃん、大丈夫?」
そう言われた瞬間に泣きそうになった。
それはただ気が緩んだだけなのだ。
「……ばか。」
ぽろりと涙が一粒零れた。
言葉も一つしかでなかった。
言いたいことは一杯ある。
助けてくれたお礼も、庇ってくれて嬉しかったことも。
たくさん言いたいことはあった。
しかし梨沙子の口から出たのはそれだけなのだ。
- 93 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 18:00
-
「あたしなんか、庇って。ゆりの方が大変なのに。」
色々動き回らなければならない身。
ましてやバスケ選手として活躍している友理奈だ。
足とか捻ったりしたらどうする気だったのだろう。
座り込んだ姿勢のまま梨沙子は動けなかった。
「バカだよ、あたしなんて庇ってもしょうがないのに。」
「違うよ、りーちゃん。」
力強い言葉が聞こえた。
ゆっくりとしかし危なげない様子で友理奈は体を起こす。
その目は真っ直ぐに梨沙子を見ている。
そして梨沙子と目が合うとにこっと笑った。
「りーちゃんだから、庇いたかったんだよ。」
「……ゆり。」
「だからりーちゃんはただお礼を言ってくれればいいんだよ。」
- 94 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 18:01
-
きっと本当にそう思っているのだろう。
そう自然に思えるほど友理奈の言葉に嘘は見えなかった。
―ほんと、優しいんだから。
梨沙子は不覚にも涙が止まらなくなった。
梨沙子の周りにいる人は皆優しい。
雅も桃子も茉麻も皆一番年下の梨沙子に優しかった。
だがその優しさが梨沙子には辛い。
―なんで、そんな、優しいかな。
自分は応えられない。
その優しさに何も返せない。
雅以外に返せる気がしないのは、最早染み付いてしまったから。
梨沙子は雅以外に好意と言うものの返し方を忘れてしまった。
ただただ悲しくなる。
- 95 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 18:01
-
「ありがとう、ゆり。」
自分は笑えていたのだろうか。
梨沙子には分からない。
―ちー、ごめんね。
ふと千奈美のことが頭に浮かんだ。
千奈美が友理奈のことを好きなのは知っていた。
それはきっと梨沙子が雅を好きなのと同じくらい、皆が知っていることで。
だからこそ梨沙子は千奈美に幸せになってほしかった。
千奈美も優しい。
友理奈が自分の方を向いてくれなくても何も言わない。
こんな風になってしまった関係にも何も言わない。
本当は文句の一つや二つくらい梨沙子に言って当然なのに。
もしかしたら同い年の雅や茉麻には言っているのかもしれないが。
- 96 名前:―イッシュンノ出来事― 投稿日:2007/10/23(火) 18:01
-
何だか、誰も彼も不幸にしている気が梨沙子はした。
桃子も友理奈も、千奈美も。
自分がいなかったらもっと幸せに、綺麗な形で纏まっていたはずだ。
澄んだ秋空と比べて、梨沙子の心は曇ったままだった。
―イッシュンノ出来事―終
- 97 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/23(火) 18:02
-
- 98 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/23(火) 18:04
-
しばらく話を煮詰めます。
よってりーちゃん視点が続くか〜も、か〜も?(エ
悪いですがもうしばらく、もやもやしていてください。
自分もネタが無くてもやもやしています(爆
- 99 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/23(火) 18:05
-
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/23(火) 22:06
- あれ、目から汗がw
最後のりーちゃんの語り?がすごく悲しかったです
りーちゃんのモヤモヤが可哀相で、でも、仕方なくて・・・
楽しみにしてるので、是非ぜひ頑張ってください!
- 101 名前:名無飼育 投稿日:2007/10/23(火) 23:29
- くまいちょーかっけー。
断固りしゃみや族の自分が揺れそうだよ。
で、で、でも、りしゃみやあっての、りしゃもも!w
- 102 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/24(水) 01:39
- 葛藤するりーちゃんハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン
細やかなところに”らしさ”が出てますね!
更新乙です。
りーちゃん視点待ってます^^
- 103 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/30(火) 21:50
-
ネタがないー。
けど妄想は止まらない、止めちゃいけない〜♪(エ
レス返しっす。
100>>名無飼育さん
目から汗が!!
大変すっねw
りーちゃんはりーちゃんなりに色々考えてます。
はい、これからも頑張ります!w
101>>名無飼育さん
熊井ちょーをかっこよくするためだけの話ですw
自分も断固りしゃみや族ですよ(ホント
ただりしゃみや前提のりしゃもも、りしゃゆりが楽しすぎるだけで(爆
こういうのを人は雑食と呼ぶのでしょう。
102>>名無飼育さん
らしさが出てたら嬉しいっす!!
悩むりーちゃハァーンでっすw
りーちゃんは満面の笑顔より、真剣な顔の方が綺麗になると思います。
ゆえにうちのりーちゃんは悩んでばかりですw
皆さん、レスあっとうございます!!
まだノロいペースですがのんびり見てください。
- 104 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/30(火) 21:51
-
では今日の更新。
りしゃももです。
- 105 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/30(火) 21:51
-
- 106 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:52
-
はぁと吐いた息は白かった。
長めのマフラーに顔を埋める。
秋だなぁと思った。
- 107 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:52
-
―知ってる―
- 108 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:52
-
寒い。
マフラーも巻いているし、コートも着ている。
だけど寒い。
梨沙子は桃子の家への道を歩きながらそう思った。
「あー……なんで、こんな遠いかな。」
雅の家みたいに近くにあればいいのに。
そう考えて、すぐにそれを打ち消した。
意味が無いことだし何だかいい想像はできない気がした。
- 109 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:52
-
『りーちゃん、ももと恋しない?』
目を閉じると聞こえてくる声。
言ったときの桃子の悪戯な笑顔も思い出せる。
そんな風に言われてから随分時間が経った。
あの時も梨沙子は返事ができなくて。
今までにもきちんとした返事を返せていない。
笑顔の裏であれが真剣な告白だったのを梨沙子は分かっている。
その感情のまま空を睨みつけるように見上げた。
「嫌なわけないじゃん。」
桃子の側は落ち着ける。
何もしなくても受け止めてくれて。
何もしなくても愛してくれる。
でも、桃子は雅ではない。
- 110 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:53
-
ぷーっと響いてきた音に梨沙子はそちらを見る。
間を空けずにいい匂いが漂ってきた。
焼き芋だ。
意識せずに頬が緩む。
梨沙子は少し足を速める。
桃子には良いお土産だろうと思った。
- 111 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:53
-
「これ、焼き芋。」
軽い音と共に桃子の腕に袋を置く。
すると桃子が目を輝かせた。
予想通りの反応過ぎて笑えた。
「えー、いいのっ?ありがと、りーちゃん!嬉しい!!」
「あたしも食べたかったし、いいよ。別に。」
桃子は食べるのが好きだ。
特に甘いもの等のデザート系。
梨沙子はそれを知っていた。
小学校の時に楽しそうに給食の話をしていたのを見ていた。
それに遊んでいても何かを食べているときが一番楽しそうだった。
- 112 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:54
-
「もも、これ好きだと思ったから。」
「え、うん。好きだけど、よく知ってたね?」
素で驚いている桃子。
自分の好みを梨沙子が知っているのを本気で驚いている。
その事実に少しむっとした。
「ももの好きなもの位、覚えてるもん。」
桃子も友理奈も自分を何だと思っているのだろう。
雅以外に興味がないわけじゃない。
皆と仲良くしたいし、色んな事を知りたい。
ただその中で雅が特別なだけなのだ。
「怒んないでよー、ちょっと意外だっただけだからさ。」
「別に怒ってないし。」
「怒んないでよー。」ともう一度情けない声で言われた。
ちょっと眉が八の字になっていて。
桃子の困った顔が嬉しく感じた。
- 113 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:54
-
―あぁ、またももちに甘えちゃってる。
こういう時、桃子は非常に大人だ。
勝手に怒った梨沙子に対して絶対に怒らないし、放っておかない。
放って置くとさらに梨沙子が拗ねること分かっているからだ。
機嫌が直るまでずっと側にいてくれる。
梨沙子はそれが嬉しかった。
だけどそういう表現しかできない自分が嫌でもあった。
「もういいから。早く食べよ?冷めちゃうし。」
「うん!」
そう言って桃子が袋から焼き芋を取り出すのを見る。
ぼーっと見ていたら焼き芋を差し出されてびっくりした。
桃子が自分の好物をくれようとしていることに。
そんな場面を梨沙子は見たことが無かった。
ふにゃりと顔が苦笑に変わったのが分かった。
- 114 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:55
-
―何、驚いてるんだろ。ももちはいつもあたしに優しいじゃん。
他の人にしない、特別。
それは何だか心がむずむずするものだった。
だから緩やかに首を振り、いらないと示す。
桃子がくれる特別だけで十分だと思ったからだ。
「あたしはいいよ、ももが食べて。」
「二人で食べたほうが美味しいから。」
「はい。」と強引に渡される。
半分になった焼き芋は中の黄色い美味しそうな色が見えていて。
素直においしそうだなと梨沙子は感じた。
- 115 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:55
-
―まぁ、いっか。
隣に桃子が座り、二人並んで焼き芋を食べる。
桃子と梨沙子が並ぶと独特な雰囲気が流れる。
それは雅と梨沙子が一緒のときとはまた違ったもの。
梨沙子はそれが嫌いではなかった。
ぼんやりとしているような空気の流れ。
それはとても心地よいもので、まったりしている風だった。
ちらりと桃子の方を伺うと少し気の抜けたような表情をしている。
桃子にしては珍しい表情と他の人には言われるのだろう。
だが梨沙子といる時はこういう時のほうが多かった。
「どうかした?」
「へ?」
桃子の問いかけに梨沙子ははっとする。
目の前には首を傾げた桃子の顔。
何を聞かれたか理解できなくて、梨沙子は惚けるしかなかった。
- 116 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:55
-
「んー、なんか、調子悪そうっていうか……。」
「そんなこと、ないよ。」
反笑いのような表情の桃子に緩く首を振り返答する。
鋭い言葉にどきっとした。
別に具合が悪かったわけではない。
それはちょっとした感情の沈み。
桃子に対する弱みのようなもの。
桃子はそんな梨沙子の感情の変化に対して敏感に反応したのだ。
―……おいしい。
一口食べたらじんわりとした甘味が口内に広がった。
桃子は知っている。
梨沙子の雅に対する感情を。
きっと誰よりも、下手したら自分よりも知っているのではないかと梨沙子は思う。
だから桃子が未だに自分と一緒にいることが不思議で仕方なかった。
- 117 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:56
-
「ねぇ。」
「ん?なに、りーちゃん?」
梨沙子の声に桃子は優しい顔で答える。
ふわっと桃子の空気に包まれた。
それは梨沙子を酷く安心させる。
桃子特有のもの。
「ももちは、なんであたしと一緒にいるの?」
そっと片手を伸ばして桃子の頬に触れる。
桃子の頬は外の寒さとは違い温かい。
- 118 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:56
-
「どうしたの?りーちゃん。」
緩やかに、撫ぜる様に梨沙子の手に桃子の手が重ねられた。
何故か目頭が僅かに熱くなる。
重なった手に心まで温かくなった。
持っていた焼き芋を放り投げるように机に置き、桃子に抱きつく。
とんとんとあやす様に背中を撫でられる。
―桃が優しいからだよ。
梨沙子は知っている。
桃子が自分にどうしようもないほどに甘いことも。
桃子が何より自分を想っていてくれている事も。
そして時には梨沙子以外に対して冷酷ともいえる表情を見せることも。
全て気づいていた。
- 119 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:57
-
「答えてよ、もも。」
桃子の答えで全てを無くせる気がした。
この自分で処理できない感情も。
動かない事態も。
甘えだとは分かっている。
しかし梨沙子は桃子に縋るしかできなかったのだ。
数年前から、桃子と会ってから染み込んだ習慣。
それはまるで優しい麻薬。
- 120 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:57
-
「ももは前に言ったよ。」
「え?」
「ももはぁ……りーちゃんに恋してるから。」
―だから一緒にいるんだよ。
響く声。
含まれたぶりっ子も気にならないほど完璧な答えだった。
「あぁ、そうなんだ。」と梨沙子は納得する。
胸の奥にその答えがすとんと落ちてきた。
恋しているから。
それは何にも勝る答えだと思った。
桃子に対して何もできない梨沙子。
なのに離れていかない桃子。
―恋しちゃったら、離れられないよね。
梨沙子に対する答えは。
また梨沙子も持っている想いだった。
- 121 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:58
-
ぎゅっと桃子の体を抱きしめ、顔を寄せる。
何もかも明快に分かった気がした。
桃子はきっと梨沙子に何かしてもらいたいわけではないのだ。
自分もそうだから梨沙子にはその気持ちがよく分かる。
―みやからは離れられない。
好きだから、離れられない。
何もしてもらわなくていい。
ただ側にいてくれるだけで。
一緒にいてくれるだけで幸せなのだから。
- 122 名前:―知ってる― 投稿日:2007/10/30(火) 21:58
-
「あたしもだけど、それでいいの?」
「いいのはりーちゃんが一番分かってるでしょ。」
くすりと微笑まれた。
触れた肌から伝わってくるのはただ幸せということだった。
だから梨沙子は頷くしかできない。
「うん。」
幸せは結局好きな人の側にしか転がっていなくて。
自分の幸せは雅が持っている。
だけど桃子の幸せはきっと自分が持っている。
そんな関係の中で桃子を切り離すなんて無理だと梨沙子は思った。
―知ってる―終
- 123 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/30(火) 21:59
-
- 124 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/30(火) 21:59
-
- 125 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/30(火) 22:02
-
なんだかんだでりしゃももが一番書きやすいのは何故でしょう(キクナ
りしゃみやは好きだけど書きにくい。
りしゃゆりは無邪気すぎて難しい。
なんて、どうでもいいことを書き散らしてますw
このシリーズでりしゃもももりしゃゆりも、りしゃみやも。
同じ話数にしたいんですが。
中々できないです(エ
ではまた妄想が溜まる日に。
- 126 名前:CPヲタ 投稿日:2007/10/30(火) 22:02
-
- 127 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/31(水) 00:19
- 更新乙です
りちゃハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン
焼き芋2人で半分こりーちゃんかわいいいい!!!!
毎回ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ンをありがとうございます!
りしゃもも萌えます
りしゃみやも読みたいですが妄想溜まるのを待ってます^^
- 128 名前:CPヲタ 投稿日:2007/11/06(火) 17:03
-
もう十一月です。
妄想は変わらず絶えません。
127>>名無飼育さん
レスあっとうございます!
秋と言えば焼き芋と言う感じで書いたんですがw
ハァーンしてもらえてよかったです。
りしゃみやに関してはほんと申し訳ない(汗
妄想が溜まるのをお待ち下さい。
では今日の更新です。
りしゃみや、のはず(エ
- 129 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:04
-
無邪気に好きでいられた幼稚園。
ちょっとこの気持ちが何なのか考えた小学校。
そして結局分からないまま入った中学校。
だけどみやを好きなのは変わってないんだよ。
- 130 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:04
-
―いつかの日々―
- 131 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:05
-
「…ぁ…はぁ……んっ…みやっ……どこ、行ったの?」
きょろきょろと辺りを見回す。
見慣れた路地。
学校への道のりだ。
微かに薄暗くなってきた空の下を梨沙子は走っていた。
―みや!!
足の速い雅が何処に行ったかなど分からない。
だが梨沙子はまた走り出す。
泣きながら走り去った雅を一人にすることなどできないのだから。
―なんで?なにが……っ。
梨沙子にも状況は皆目不明だ。
ただ飛び出して行った雅を追いかけるだけ。
そのいつも見てきた背を見失わないようにするのみ。
といっても路地を一本曲がった所から既に雅はいなかったのだが。
- 132 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:05
-
―喧嘩でもしたのかな?
でもそんな様子ではなかった。
ちらりと見えた雅は片手に電話を持っていて。
言い争いとかそういう雰囲気ではない。
むしろ、怒られて逃げ出したような。
そんな雅らしからぬ空気だった。
雅が泣いて逃げ出すなんて無いことだった。
雅は泣くのが嫌いで、泣いているのを見られるのが嫌いで。
そして何より逃げるのが大嫌いなのだから。
「……みやぁ。」
家の近辺は探した。
小さい頃遊んだ公園も、良く寄り道しているコンビニも見た。
だが雅はいなかった。
- 133 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:05
-
―なんで、いないの?
じんわりと梨沙子の目にも涙が滲む。
常にこうだ。
雅と自分の関係は。
逃げる雅を追いかけて、追いかけて。
それでも追いつくことはできなくて。
捕まえたと思ったらするりとまた零れ落ちていってしまう。
―そんなにあたしがヤなの?
梨沙子の手は雅に届くことは無い。
なのに梨沙子は雅に囚われたまま。
雅が好きなまま。
いつの間にか中学生だ。
- 134 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:06
-
「みやも、こうやって探してくれたのかなぁ。」
はぁと吐いた息は白く消えた。
物心が着く前。
拗ねやすい梨沙子はよく逃げ出していた。
だけどそんな梨沙子を迎えに来るのは必ず雅で。
雅は小さい頃から梨沙子を見つけるのが上手かった。
何処に行っても、何処に隠れても見つけられる。
それはかくれんぼでも、拗ねて逃げた場合でも変わらない。
泣いていた梨沙子は雅の手でいつも慰められたのだ。
- 135 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:06
-
―梨沙子、こんな所にいたの?
―ほら、帰るよ。
今でも目をつぶればその声を鮮明に思い出せる。
呆れたような笑顔も。
だけど優しい声音も。
全てが梨沙子の中に保存されている。
あぁ、好きだなと梨沙子は思う。
小さい頃から。
自覚する前から。
物心つく前から、なんて当たり前。
きっと自分は生まれたときから雅が好きだったのだと梨沙子は思った。
- 136 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:07
-
―ブルルルルッ!
「っ……誰だろ、こんな時に。」
腰のポケットに入っていたケータイが震えた。
一応のためこれだけは持ってきていた。
雅も持っていたし、もしかしたら連絡が入るかもしれない。
そんな一縷の望みを掛けたものだった。
―ももち。
ディスプレイに映った名前は雅ではない。
だが無視することも出来なくて梨沙子はしぶしぶながら手を動かした。
- 137 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:07
-
「何、ももち。」
つっけんどんになってしまったのは、仕方ない。
感情を抑えることは得意でない。
特に桃子に対して梨沙子は感情を隠すのができないのだ。
すると向こうから聞こえた声は苦笑を含んでいた。
『全く、みーやんのことになると、ほんとカリカリしてるよね。』
「……どういうこと?」
桃子から指摘されなくてもそれくらい分かっている。
自分は雅がいないとどうしようもない。
だから聞きたいのはそんなことではなくて。
何故桃子がこんなにも早く消えた雅について知っているかという事だった。
- 138 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:07
-
―予想はつくけど。
当たって欲しくないと思った。
だが桃子は優しいから。
自分を殺せるほど優しいから。
恐らくその予想は当たってしまうのだろう。
『みーやんならたぶん学校にいるよ。』
「なんで、知ってるの?」
声が冷える。
しかし桃子はそんな梨沙子を気に留めることなく言葉を続ける。
『ももが、みーやんを泣かしたから。』
ふふっと微かな笑いが聞こえた。
刹那、梨沙子の頭に血が上る。
顔が熱い。
確実に今の自分の顔が真っ赤になっていることが分かった。
- 139 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:08
-
「なんでっ?」
『いつまでも煮え切らないみーやんにムカついたんだもん。』
―なんで、なんで、なんで!!
どうしようもないくらい怒りが湧いてきて。
どうしようもないくらい悲しく思った。
桃子が自分を想ってしてくれた行動。
それが雅を泣かせた。
自分のためにしたことだと分かっていた。
でも桃子に対する怒りを納めることが梨沙子にはできない。
そして桃子がそこまで理解していることも分かっていた。
- 140 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:08
-
『早く、行ってあげなよ。みーやんの所に。』
「っ!」
息が詰まる。
桃子に対する感情がごちゃ混ぜになって。
雅のことも追いかけなくてはならなくて。
言葉が出なかった。
―駄目だよ、もも。
言葉の裏に悲しみが読める。
桃子と自分は何処か似ているから。
苦笑交じりの言葉。
受話器の向こうで桃子はきっと諦めたような顔をしているのだろう。
- 141 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:08
-
―そんなんじゃ、嫌いになれないよ。
桃子は嫌って欲しくてこんな事を言っているのだ。
梨沙子が心置きなく雅の元に行けるように。
だがその計画は失敗だ。
梨沙子が桃子の考えに気づいてしまったから。
桃子が梨沙子のことを分かるように、梨沙子だって桃子のことは分かるのだ。
「……今は、みやを追いかけなきゃなんない。それに桃がみやを泣かせた事はすごく怒ってる。」
『うん。』
素直な言葉。
それは自棄にも似た諦めているから出るもので。
梨沙子が手に入ることは無いと思っている言葉だった。
桃子のそんな態度は梨沙子をむっとさせる。
- 142 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:09
-
「だけど嫌いになんて絶対になってあげないから!!」
受話器越しに桃子の息を呑む声が伝わってきた。
梨沙子はそのまま何か言われる前に電話を切る。
そして。
「……諦めるなんて、ももちらしくないよ。」
一人呟いた。
梨沙子の知っている桃子は優しくて。
自分の欲しいものの為なら何でもして。
最後には必ず手に入れる。
そんな人物だ。
だから諦めて欲しくなかった。
思い続けられることが自分に都合の悪いことでも。
そうして欲しくないと梨沙子は思ったのだ。
- 143 名前:―いつかの日々― 投稿日:2007/11/06(火) 17:09
-
ぎゅっと一度胸の前で携帯を握り締め、ポケットに仕舞う。
今は雅だ。
学校にいると桃子は言っていた。
そして休日の学校で入れる場所など特定される。
梨沙子はまた走り出す。
―みや。
梨沙子は雅がなんで泣いていたのかを知らなかった。
ただ泣いている雅を放って置けなくて走り出しただけ。
だが桃子の電話で原因がはっきりとした。
雅が泣いたのは梨沙子のせい。
それは梨沙子にとって嬉しいこと。
泣かない雅が梨沙子のことで泣いてくれたなら。
少しでも雅は梨沙子のことを気にしていたということで。
自分の未来に僅かでも光があるんじゃないかと思えるものなのだから。
―いつかの日々―終
- 144 名前:CPヲタ 投稿日:2007/11/06(火) 17:10
-
- 145 名前:CPヲタ 投稿日:2007/11/06(火) 17:10
-
- 146 名前:CPヲタ 投稿日:2007/11/06(火) 17:12
-
ちょっとスランプorz
ゲキハロ3を見に行きたいです!!
……が、そんなことできない地方ヲタっす(泣
りしゃゆりが見たいんだーーーーーーーっ!!!!
そんなこんなでまた妄想が溜まる日に。
- 147 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/07(水) 00:12
- んハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!!!
胸がキュンキュンですよ!
チャイコーでつ!!
梨沙子の桃子への殺し文句がグッとキましたよ
ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン
もうハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ンでございました
ありがとうございます
- 148 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/07(水) 00:52
- 優しいね二人とも、ももガンバレ!
- 149 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/08(木) 22:25
- りしゃこが必死なところがいいよね
- 150 名前:CPヲタ 投稿日:2007/11/17(土) 23:03
-
かなりお久しぶりっすorz
色々ギリギリの生活で更新できませんでした。
そんなゆったりスレです。
ではレス返し。
147>>名無飼育さん
いえ、どういたしましてw
りーちゃんは時々無意識に殺し文句を言う子です。
そうまるでラブコメの主人公のようにw
こちらこそハァーンしてくださってありがとうございます!
148>>名無飼育さん
自分自身、ももを応援したくなってきた今日この頃ですw
真面目にりしゃももエンドを作ろうかと思い始めてます。
149>>名無飼育さん
りーちゃんは雅ちゃんに対してだけは常に必死ですw
基本のんびりした子なんですがね。
でもそこがりーちゃんの良い所です。
では今日の更新。
- 151 名前:CPヲタ 投稿日:2007/11/17(土) 23:04
-
りしゃももです。
秋と思って読んでください。
- 152 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:06
-
- 153 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:06
-
食欲の秋とは言うけれど。
桃子の欲求は満たされない。
なぜならそれは手に入れてはいけないものだから。
ここ数年ずっと、桃子はどこか飢えていた。
- 154 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:07
-
―deprive―
- 155 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:07
-
目の前にはすやすや眠るお姫さま。
緩やかに上下する胸。
柔らかそうな頬。
全てに目を引き付けられて、桃子はベッド側に膝立ちしたまま梨沙子を見つめる。
「りーちゃぁーん……。」
間延びした声で呼ぶも梨沙子はピクリともしない。
じーっと見ているとなんだか触れたくなって。
桃子は静かに手を伸ばす。
―おいしそう。
触れた手に伝わってくる仄かな体温。
寝ているからか、僅かに半開きになった唇。
冬も近い乾燥の季節だと言うのに梨沙子のそれは潤っていた。
りんごのような赤さとは違う。
どちらかと言えば桜に近いような薄い色。
桃子は意識せず自分の唇を舐める。
そして自然と顔が近くなっていたことにはっとした。
- 156 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:07
-
「これじゃぁ、変態みたい。」
自らの無意識の行動に苦笑が漏れる。
今日は珍しく梨沙子の家で遊ぶ手はずになっていた。
大体梨沙子が桃子に家に来ていた為、梨沙子の家に来ること自体久しぶりだった。
そうして来てみたらこの通り。
梨沙子は自分のベッドの上で熟睡していたのだ。
「もおー、起きてよー。」
つんつんと梨沙子の頬を押す。
といっても強くは押せない。
あくまで優しく、爪で傷つけたりしないように触れる。
- 157 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:08
-
―いつからかなぁ。
梨沙子をこんなに丁寧に扱うようになったのは。
傷つきやすい子だとは知っていた。
精神的にも肉体的にも。
だけど桃子がそれを本当に意識して接するようになったのは、桃子にも分からない。
いつの間にか愛しさが積もって。
いつの間にかそういう風にしか触れられなくなった。
「りーちゃん……。」
―好き。
「好きだよ、りーちゃん。」
溢れた想いは止まらない。
梨沙子が好きだ。
だけど自分のものにはならなくて。
だから自分のものに出来なくて。
- 158 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:08
-
「奪うなんて、出来るわけ無いし。」
優しく頬を撫ぜる。
純粋な、いつも自分を振り回しているとは思えない寝顔。
この顔が悲しそうに歪むのを桃子は見たくない。
奪うこと、というより雅に譲らないことなら簡単にできる。
ただそれをした時、梨沙子が笑顔でいれるのか。
そうではないのだろうと桃子は思う。
だから奪わない、壊さない。
- 159 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:08
-
―それにしても、よく寝るなぁ。
約束の時間、つまり桃子がこの家に来てから二十分が経過している。
普通これだけ弄られれば起きるものだ。
桃子はベッドに広がる薄茶の髪を一房手に取った。
梨沙子の髪は細くて柔らかい。
所為、猫毛というやつだ。
さらりと掌から零してみる。
梨沙子の髪はとても触り心地が良い。
それに加えて絡むということが無い。
「ほんと、起きないね。」
桃子は呆れたように一つ息を吐き出した。
もしここにいるのが雅だったら。
そうだったら梨沙子は起きたのだろうか。
- 160 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:09
-
―いや、みーやんとの約束だったらそもそも寝てないかも。
うきうきした目で雅が来るのを今かと待っている梨沙子の姿が目に浮かんだ。
約束の時間が近くなれば下の階に下りて。
インターホンが鳴った瞬間にきっと梨沙子は扉へと走るのだ。
その場面が鮮明に思い描けた。
「……いつまで持つかな。」
ぎゅっと目を瞑り、梨沙子のベッドサイドに顔を埋める。
きっとこの時間はそんなに長く続かない。
曖昧で、不鮮明で、愛しくて。
誰も幸せではないが誰も不幸でないこの状態。
桃子はそれが続いて欲しいような気もしたし、また終わって欲しくもあった。
- 161 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:09
-
―ねぇ、りーちゃん。もものこと嫌ってよ。
桃子の脳裏に響くのはあの時の声。
それはとても幸せな言葉だった。
そう言われる為に桃子は頑張ってきたのだから。
『絶対に嫌ってなんかあげないから!!』
だがその言葉が今では辛い。
梨沙子は桃子との関係を切らなければ、雅と一緒にはなれない。
雅は何だかんだで独占欲の強い人物である。
自分にべったりだった梨沙子を、愛情を感じている梨沙子を手放せるわけが無い。
ましてや桃子に渡す気は無いだろう。
そして何より梨沙子は頑固だ。
雅に言われれば話は別だが、基本的に自分で決めたことを変えたがらない。
どうすればいいのか桃子には分からなくなった。
- 162 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:09
-
―みーやんと付き合わなきゃ、きっと梨沙子は進めない。
ちらちと僅かに顔を上げて梨沙子を見る。
煮詰まっている梨沙子の感情。
生まれてから積もってきた雅への想い。
それらが清算されるには付き合うしかない。
桃子はいつまでも待てるから。
とりあえず梨沙子のキツイ状態を解消してあげたいと想ったのだ。
宙ぶらりんな雅にとっての梨沙子。
そこがハッキリすれば梨沙子は進める。
ぼすんと再びベッドに顔を埋めた。
―難しいなぁ。
はぁと心の中でため息をつく。
すると髪の毛にするりと指が通される感覚があった。
- 163 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:10
-
「また面倒くさいこと考えてるの?」
少し眠そうな声が聞こえてきて。
桃子の顔は思わず緩んだ。
そのままの顔で視界をベッドから梨沙子へと上げる。
視界に映ったのは目を眠そうに擦る梨沙子。
「起きたんだ……遅いよ、りーちゃん。」
「だって眠かったんだもん。」
拗ねているような幼い口調。
ああ、まだ寝ぼけているんだと桃子は思う。
頭には寝癖がついていて。
桃子はそっと梨沙子の髪へと手を伸ばした。
- 164 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:11
-
「ここ、跳ねてるよ。」
「ん。」
それだけ言って梨沙子は僅かに桃子の方へ頭を傾けてきた。
直せということらしい。
甘え丸出しの梨沙子の行動に桃子は苦笑が漏れる。
―いつもは甘えるの嫌がるのになぁ。
眠たいからだろう。
こんなにも素直な梨沙子は珍しかった。
いつもの意地っ張りな梨沙子も可愛いが、これはこれでやはり可愛い。
「あたしはね……ももちみたいに、難しいことは分かんない。」
「うん。」
「でも自分の好きなようにするのが、ももだと思うよ?」
まだ眠気が抜けていない声。
途切れ途切れに告げられた言葉は優しかった。
ゆらゆらと梨沙子の頭が揺れる。
- 165 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:11
-
―りーちゃん。
そしてそのまま、ぽてんと桃子の太ももの上に落ちた。
桃子は梨沙子の頭を緩やかな手つきで撫でる。
誰よりも桃子自身が理解していた。
「……我慢はらしくない?」
「うん、らしくない。」
もう梨沙子は半分寝ている。
だがその言葉ははっきりとしていて。
ずっとそう思っていたのだろうか。
桃子はくすりと笑みが漏れた。
「なら、もう我慢しないよ?」
「ぃいよ……我慢しなくて。」
消え入りかけた声はそれでも桃子の耳にきちんと届いていて。
桃子はもう夢の世界に入り込んでいる梨沙子に顔を近づけた。
- 166 名前:―deprive― 投稿日:2007/11/17(土) 23:12
-
「りーちゃん……。」
すぅすぅと穏やかな寝息さえ聞こえる距離。
桃子は再び寝入った眠り姫を見つめる。
梨沙子から、他ならぬ梨沙子から許可が下りた。
そうなってしまっては、桃子は自分の気持ちを抑えることはできない。
―これはじゃあ、初めての宣戦布告だね。
ちゅっと梨沙子の唇に自分のそれを重ねた。
雅への宣戦布告と自分に対する決意。
それら色々な想いが詰まったキスだった。
自分たちの関係が変わり始めた。
それは確かにこの瞬間からで。
奪う決意は何よりも桃子にとって重い物だったのだ。
―deprive―終
- 167 名前:CPヲタ 投稿日:2007/11/17(土) 23:12
-
- 168 名前:CPヲタ 投稿日:2007/11/17(土) 23:12
-
- 169 名前:CPヲタ 投稿日:2007/11/17(土) 23:15
-
うちのりーちゃんはほんと、よく寝る子です。
そして桃子はよく頭の回る子です。
そんな二人を押しています(エ
では夢にネタが出ることを願って。
また妄想が溜まる日に。
- 170 名前:CPヲタ 投稿日:2007/11/17(土) 23:16
-
- 171 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/17(土) 23:29
- りしゃこは悪気のない小悪魔ですねぇ…天使で小悪魔というか。
嗣永さん辛いなぁw
- 172 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/18(日) 12:32
- んハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!!!!
りーちゃんメチャメチャ可愛いでございます!
桃子を悩ませる無邪気なりーちゃんに激萌えハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!!!
毎回素敵なハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ンをありがとうがとうございます。
- 173 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/18(日) 23:51
- りしゃみやあってのももりしゃであってほしい・・・・・
- 174 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/19(月) 09:53
- もも、頑張って!!
りしゃもも希望。
- 175 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/19(月) 17:31
- 何かが動き出す予感
雅、桃子、熊井ちゃんそしてりしゃこ
これからどうなるか楽しみです
個人的にはりしゃゆり希望ですかね
- 176 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/20(火) 19:19
- 作者さん的にはこういうレスってどう思うのかわからないけれど、
自分もりしゃみやに1票w
- 177 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/27(火) 19:56
- 私はりしゃももの方を応援しますね
- 178 名前:CPヲタ 投稿日:2007/11/28(水) 23:09
-
携帯からレスします。
ちょっと用事が立て込んどりまして次の更新は来週になる予定です。
申し訳ないですがもう少しお待ち下さいw
レス返しは今回出来ませんが参考にしてますのでどんどん書いちゃって下さい!
ではCPヲタでしたー。
- 179 名前:お初 投稿日:2007/12/02(日) 10:44
- りしゃみや大好き!!!!!!!!!!!!!
CPヲタさんの小説はもっと好き!!!!!!!!!!
- 180 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/04(火) 23:43
-
ども、皆さん、お待たせしましたw
やっとネットに復帰のCPヲタです。
FCツアーに参加できたおかげで妄想速度が早くなったんで。
これからはちょくちょく更新できると思いますw
171>>名無飼育さん
りしゃこは魔性の女ですw
でないと無意識に小悪魔なんてとんでもないことできたりしません。
嗣永さんはそういう菅谷さんがすきなのですw
172>>名無飼育さん
りしゃこは優しい子ですんで。
幾ら桃子にはSっぽくても優しい時は優しいですw
でも桃子には逆にそれが辛いという逆転現象が(エ
毎回、ハァーンしてくださってありがとうございます!!
173>>名無飼育さん
りーちゃんの存在は雅ちゃんがいないと語れないんでw
りしゃみやがなくなるって事はありえませんよ、自分の中では(マテ
まぁ、りしゃみや結末も書きますよって話です。
174>>名無飼育さん
りしゃもも希望っすかw
桃子は頑張ってますよ。
りしゃもも、楽しいですからね。
- 181 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/04(火) 23:44
-
175>>名無飼育さん
とうとう最後の桃子まで動き出しました。
どうなるかは自分にも未定ですが(エ
全員に幸せになってもらいたいとは思ってます。
りしゃゆりはどうしても少ないっすからw
くまいちょーガンバ(ナゲ
176>>名無飼育さん
レスってだけで嬉しいですよー。
特にこういう短編集では好きなCPのデータは必要ですw
まぁ、結局好きなものしか書かないんですけど(爆
177>>名無飼育さん
りしゃもも、人気あるなーw
自分もりしゃももを応援したくなりますから。
その気持ちは分かりますw
179>>お初さん
自分もりしゃみや大好きっす!!
こんな駄作でも好きといってもらえると嬉しいですw
たくさんのレスあっとうございます!!
皆さんの希望としては
りしゃみや:3
りしゃもも:2
りしゃゆり:1
ってとこですかね。
まぁ、これについては追々w
では今日の更新です。
- 182 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/04(火) 23:44
-
- 183 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/04(火) 23:45
-
りしゃゆり。
いつもの通りです。
- 184 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/04(火) 23:45
-
- 185 名前:―ソラノイロ― 投稿日:2007/12/04(火) 23:46
-
蒼い空。
灰色の壁を背に見た光景。
青に舞う黒のポニーテールが酷く印象的だった。
- 186 名前:―ソラノイロ― 投稿日:2007/12/04(火) 23:46
-
―ソラノイロ―
- 187 名前:―ソラノイロ― 投稿日:2007/12/04(火) 23:46
-
ダンッと壁に叩きつけられる。
一瞬息が止まった。
だが梨沙子の心境は静かで。
またかという思いだけだった。
「あんた、なんなの?」
「夏焼先輩と馴れ馴れしくしてさ。」
「迎えまで来させて、幼馴染だからって調子に乗りすぎじゃない?」
雑音が梨沙子の耳を通り過ぎる。
俯いたまま梨沙子はばれないように小さく息を吐いた。
場所は屋上。
いつも寝ている給水塔の側面の壁に梨沙子は追い詰められていた。
- 188 名前:―ソラノイロ― 投稿日:2007/12/04(火) 23:47
-
―……うるさい。
イライラする。
梨沙子と雅の関係をこうやって問い詰めるのは他の小学校から来た人たちだけだ。
梨沙子と同じ学校出身の人たちならばわざわざ訊くまでも無いのだ。
分かりきったことだから。
だがそれを事細かに説明したところでこの人たちは納得しない。
それは梨沙子が中学校に入学してから理解した事実だった。
もし梨沙子が雅を迎えに行ったりしても結果は同じだろう。
―関係ないじゃん。
雅との事など今梨沙子を囲んでいる人たちには必要ない。
梨沙子にこんなことする人たちが雅と仲が良い訳も無いことを梨沙子は知っていた。
雅は何だかんだで自分を守ってくれるのだから。
だから梨沙子は何も言わずただ黙っているだけ。
ここで雅の名前を出したらそれこそ結果は火を見るより明らかだ。
- 189 名前:―ソラノイロ― 投稿日:2007/12/04(火) 23:48
-
「ちょっと、何か言ったらどう?」
「っ!」
どんと肩を突き飛ばされた。
元より壁に背を取られている状態だ。
梨沙子は強かに背中を打ちつけた。
―いったぁ〜。
じわっと目が熱くなるのを感じた。
梨沙子の涙腺は強くない。
ちょっとした事で、自分でも嫌だと思うのに泣いてしまうのだ。
今だって泣きたくなどない。
ここで泣いたら負けの気がした。
だけど痛みによる生理的な涙は簡単には止まってくれない。
- 190 名前:―ソラノイロ― 投稿日:2007/12/04(火) 23:48
-
「あれー?あんた、もしかして泣いてる?」
「泣いたら夏焼先輩が助けに来てくれるって?ばっかじゃないの。」
にやにやとした嘲笑が梨沙子を覆う。
ぎりと梨沙子は奥歯を噛んだ。
悔しくて、悔しくて、悔しくて。
また溢れそうになる涙を必死に止める。
―助けに来てくれるなんて、思ってない。
雅はこういう事に鈍くて。
一回顔を洗ってしまえば分からないだろう。
それにわざわざ心配をかけたくもなかった。
雅は梨沙子が順調に学校生活を送っていると信じているから。
自分のせいで呼び出されているなんて知ったら、酷く落ち込み、怒るだろう。
- 191 名前:―ソラノイロ― 投稿日:2007/12/04(火) 23:49
-
―むしろ……。
こういう事に敏感なのは。
梨沙子をタイミングよく救ってくれるのは。
あのぶりっ子が入った年上の先輩だ。
今にも影から出てくるような気がした。
「何、してるの?」
低く、乾いた声が聞こえた。
梨沙子は目を見張る。
本当に桃子が、珍しく雅が、来たのかと思った。
扉から入ってきたのだろう。
梨沙子の真正面に見えた顔は、逆光で見えない。
だがその背格好で理解した。
ああ、ある意味一番そうなのかもしれないと。
- 192 名前:―ソラノイロ― 投稿日:2007/12/04(火) 23:49
-
―ゆり。
確かにここに来る頻度は多いし、不定期だ。
たまたまだったのだろう。
友理奈が屋上を訪れたのは。
しかしそれはまさに狙い済ましたようなタイミング。
すらりと下手な男子より高い身長。
風邪に揺れる黒髪は何よりも綺麗に梨沙子の目に映った。
そして今、友理奈の顔は梨沙子が見たことないくらい険しい。
「何してるの、こんな所で。」
もう一度繰り返された言葉。
静かな声だった。
聞いたことのない声だった。
いつも元気な友理奈が出すその声は確りと怒りを表していて。
- 193 名前:―ソラノイロ― 投稿日:2007/12/04(火) 23:49
-
―……初めてだなぁ。
それなりに長い年月を重ねてきた。
喧嘩もしたことがある。
だがここまで怒った友理奈を梨沙子は初めて見た。
「熊井先輩っ?!」
「何でこんなとこに……っ。」
「良いから、行こっ!」
唐突に現れた雅と同じくらい目立つ友理奈。
その存在は梨沙子を囲んでいる人たちには何よりも困ることだろう。
友理奈と雅に交友関係があるのは知れていたことで。
そこからこの事実が雅に伝わるのは時間の問題になる。
―分かりやすい人たち。
慌てふためいて屋上から出て行く様子は滑稽だった。
友理奈が現れたことで梨沙子の涙もいつの間にか止まっていた。
微かに残った水分を指で擦っているとふと周囲が暗くなる。
顔を上げた先に心配そうな友理奈の顔があった。
- 194 名前:―ソラノイロ― 投稿日:2007/12/04(火) 23:50
-
「……りーちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ……ありがと、ゆり。」
涙のあとが残る顔で笑う。
すっと目の前に伸ばされた手を取る。
すると友理奈らしい力強く、しかし優しく立たせてくれた。
そのままぽんぽんと友理奈が制服の背面の汚れを落とす。
梨沙子はただされるがままになっていた。
汚れが落とされるたびに張り詰めていた気も抜けて。
梨沙子はきゅっと目の前の友理奈の制服の裾を握った。
「どうかした?りーちゃん。」
「なんでもない。」
先ほどとは大違いの優しい笑顔を向けられて、梨沙子は思わず俯いた。
ふるふると小さく頭を振る。
友理奈の笑顔に思っていたより安心している自分に驚いた。
柔らかな感触が頭に触れる。
友理奈の手だとすぐに分かった。
- 195 名前:―ソラノイロ― 投稿日:2007/12/04(火) 23:50
-
「時々、こういうこと、されるの?」
聞いていいのか分からないといった雰囲気で友理奈が尋ねた。
その問いに梨沙子はピクリと体を竦ませ、さらに小さく身を縮める。
「みやには言わないで。」
響いた音は震えていて。
それだけは守りたいことだった。
―みや。
今、いてもらいたいのは雅で。
今、慰めてもらいたいのも雅で。
だけどここにいるのは友理奈で。
友理奈の優しさが胸に沁みた。
梨沙子は顔を見られたくないというように友理奈の胸に顔を埋めた。
- 196 名前:―ソラノイロ― 投稿日:2007/12/04(火) 23:51
-
「だってあれ、みやの、その、ファンだよね?」
友理奈の戸惑ったような声に梨沙子は小さく頷く。
梨沙子と雅の関係を知らない人たち。
梨沙子はそんな人たちのせいで雅から離れる気はちっともなかった。
「だったらみやに言った方が……。」
「大丈夫、ああいう人たちは少ししかいないから。」
無理にでも笑顔を作る。
大丈夫。
負けたりなんかしない。
そういう思いが梨沙子の中にあった。
自分の方があの人たちの何倍も雅を好きなのだから。
梨沙子の言葉に友理奈は眉間に皺を寄せた。
友理奈だって梨沙子の頑固な性格を分かっている。
一度決めたら中々譲らないそういう性格。
- 197 名前:―ソラノイロ― 投稿日:2007/12/04(火) 23:51
-
「ならせめてあたしには言ってよ。」
真っ直ぐな瞳。
見上げた友理奈の顔は梨沙子より泣きそうで。
梨沙子はなんだか可笑しくなってしまった。
「ゆりが泣かないでよ〜。」
「だって……。」
先程とは逆に友理奈の頬へ手を伸ばす。
その頬は濡れてこそいないが情けなく眉が下がっている。
抱きついていた体をきゅっと抱きしめる。
「ゆりのせいじゃ、ないから。」
これは自分の問題で。
友理奈がそんな顔をする必要はないのだ。
すうっと息を吸い込み、梨沙子は空を見上げる。
友理奈の後ろに広がる空は雲ひとつない青で。
冷えてきた空気の中で梨沙子は知らず嬉しそうに微笑んでいた。
―ソラノイロ―終
- 198 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/04(火) 23:52
-
- 199 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/04(火) 23:52
-
- 200 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/04(火) 23:55
-
一本だけっす。
次は二本妄想を載せられると思いますw
で最終的な結末なんですが、前にちらっと言った通り
ギャルゲーのようにCP毎の話を書きたいと思います!!
りしゃみや前提のりーちゃん絡みなんで当然りしゃみやはあります。
であとはりしゃももと、りしゃゆりも作ると思います。
細かいことは何も決まってないでこんな感じでw
ではまた妄想が溜まる日に。
- 201 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/04(火) 23:56
-
- 202 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/04(火) 23:56
-
- 203 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/04(火) 23:56
-
- 204 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/05(水) 03:39
- ぬハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!!!!!
りーちゃん実際に囲まれそう。・゚・(ノД`)・゚・。
熊井ちゃんがカッコイイです!!
更新お疲れ様でした!
- 205 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/05(水) 08:45
- 更新してるー!!嬉しすぎる!!( ̄― ̄°)
- 206 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/05(水) 23:23
- ここの登場人物はみんないい子なのが好きだ。
そしてひたすらみんなに愛されている梨沙子を描いてくれるのが嬉しい。
- 207 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/09(日) 23:08
-
やはりツアーの影響で妄想が止まらない。
なので二本溜める前に更新しちゃいますw
204>>名無飼育さん
ハァーン来たー!!
囲まれるりーちゃん萌えw
泣き顔なりーちゃん萌えでっすw
熊井ちょーはかっこよすぎて驚いてます!
あんなにイケメンにするつもりは無かったのに(エ
205>>名無飼育さん
更新しましたー。
嬉しがってくれて嬉しいです。
206>>名無飼育さん
ありがとうございます!
一歩間違えば皆黒くなってしまう話ですがw
イケナイりーちゃんを中心に絶妙なバランスで皆さん頑張ってます。
では、今日の更新です。
- 208 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/09(日) 23:09
-
りしゃみや。
いつもの設定で。
- 209 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/09(日) 23:09
-
- 210 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:10
-
同じ学校にいるのに梨沙子の場所を把握できなくて。
梨沙子はうちの事、何でも分かっている風なのに。
うちは結局そんな梨沙子に甘えていただけなのかもしれない。
- 211 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:10
-
―彼女の居場所―
- 212 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:11
-
「梨沙子?」
一瞬、生きてないかと思った。
廊下に備え付けられているベンチなんてものの上で寝ている梨沙子。
その胸はしっかり上下していて。
雅は止めていた息を吐き出した。
「なんでこんなとこで寝てるのよ。」
風邪引くじゃない、とは言えない。言わない。
珍しく早く終わった部活。
着替えるために歩き出した廊下に梨沙子は寝ていた。
雅は静かに歩み寄ると寒さのせいかいつもより赤く感じる頬に触れる。
―やっぱり、冷たくなってる。
それはそうだ。
もう十二月に入ろうとしている。
そんな時期、こんな暖房も入っていない場所で寝るなんて。
屋上じゃなくなった分だけマシかもしれないが、それでも雅は呆れを隠せない。
- 213 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:11
-
「梨沙子、起きて。帰るよ。」
壁に寄りかかるようにして座ったまま寝る梨沙子を揺する。
大方自分がここを通ることを知っていて寝たのだろうと雅は思う。
雅が更衣室に行くにはこの道しかないのだから。
「んー……みやぁ?」
「はいはい、みやですよ。だから起きて。」
もう一度、今度は頭をぽんぽんと撫でて起こす。
元から甘えたような声を出す梨沙子だが寝起きは特にそうだった。
そんな梨沙子を雅はしょうがないなぁと見つめる。
寝起きの梨沙子は本来の甘えっ子の姿が前面に出て、思わず甘やかしたくなる。
- 214 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:11
-
―寝起きの梨沙子って、なんか可愛いんだよね。
昔から、何回も見てきた。
だけどそれは雅が昔から思うことで。
だから疑問に思ったことなど全くない。
『熊井ちゃんに盗られるよ。』
『もも、本気でりーちゃん、貰うよ?』
脳裏に響いた二種類の声。
一つは茉麻で、一つは桃子。
その言葉に雅は心臓が大きく跳ねた。
どくんどくんと苦しいくらいだ。
- 215 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:12
-
「みやぁ、眠い。」
ぎゅっと梨沙子に抱きしめられる。
座っている梨沙子と立っている雅。
その差は歴然で、梨沙子の顔は雅のお腹に埋まってしまっていた。
梨沙子はそんな事少しも気にせず、甘えるように顔をこすり付ける。
条件反射のように雅は梨沙子の頭を撫でていた。
慣れている状況に雅のほうが安心した。
しかし頭から離れない二つの声。
―茉麻、もも。
どちらも聞いたことのないような真剣な声で。
どちらも梨沙子について言ってきた。
雅には分からない。
梨沙子が自分の側にいないという出来事が。
だがあの桃子の目は確かに自分から奪う目だった。
昔から桃子が梨沙子に甘いことは知っていた。
そんな桃子に梨沙子も懐いていて。
雅はそれだけだと思っていた。
まさか、桃子が本気で梨沙子を欲しがっているとは知らなかったのだ。
- 216 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:12
-
「梨沙子……。」
ぽろりと零れた名前。
雅の体温が心地よかったのか梨沙子はまた寝始めていた。
梨沙子が触れている箇所から温もりが伝わってきて。
雅は唐突に理解した。
「梨沙子。」
するりと梨沙子の頬へと手を滑らせる。
そこはまだ冷たいが先程よりは幾分か温かくなっていた。
僅かに身じろぎした梨沙子に雅は目を奪われた。
いつかの夢で見た、白い頬に赤い唇。
- 217 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:13
-
―うわっ、やばい。
本能が理性を破って雅の体を動かす。
寝てしまっている顔を上げ、慎重に体を折り曲げて梨沙子の唇に掠めるようにキスをした。
柔らかさを感じることもできない。
ただ本能のまま梨沙子を求めた。
雅の頭より先に体が知っていた。
自分はこの温もりを放したくないのだと。
友理奈にも、桃子にもあげる気など欠片もないのだと。
「梨沙子。」
壊れたように名前を呼び続けるしかできない。
この体もこの手もこの顔も。
全てが自分のものだと雅は思った。
自分のものだと思っていたからこそ、今まで分からなかった。
こんなにも梨沙子を離す気はないのに。
- 218 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:13
-
『もうこれ以上、りーちゃんを苦しめるならももも遠慮しないから。』
きゅっと瞑った瞳の暗闇にまた桃子の声が響く。
聞いたことがないくらい冷めた声だった。
あの時は分からなかった。
何も言い返せなかった。
ただ悲しい気持ちだけが湧いてきて、雅は逃げるしかできなかったのだ。
だがそれも過去の話。
―あげられない。
はっきりと分かった今となっては桃子に言うべきことなど決まっている。
雅には自分の物を手放す気など微塵もないのだから。
未だに起きない梨沙子の体に手を回し抱きしめ直す。
すると梨沙子の顔が胸の位置まで上がってきて。
仄かな温もりと甘い香りがした。
- 219 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:13
-
―……この香り。
気づけば、思い出せばいつもあった。
雅の思い出のほとんどに梨沙子はいたのだ。
トクントクンと穏やかな心音が体を通して雅に響く。
そのゆったりとしたリズムが嬉しい。
「梨沙子。」
「ふ…ぅん?みやぁ?」
強く抱きしめすぎたのだろうか。
今までピクリともしなかった梨沙子が雅の腕の中からもぞりと顔を出す。
そして雅の顔を見たかと思うと一瞬で驚きにその表情を変えた。
- 220 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:14
-
「みやっ!どうしたの?!」
「えっ?何が?」
「何がって……みや、涙。」
雅の腕の中からすっと梨沙子の腕が伸びてきて。
柔らかな指先が右の目の下から唇の脇まで一筋になぞる。
寝ていたせいか雅より幾分か高い体温が感じ取れた。
「涙?」
梨沙子の言葉に自分の頬に触る。
そこには確かに水分が感じ取れた。
その感触に梨沙子より誰より雅がびっくりした。
―なんで?
泣く理由なんて一つもない。
というか自分がいつから泣いていたかさえ雅には分からなかった。
- 221 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:14
-
「怪我?どっか痛いの?それとも嫌なこと、あったの?」
「違う、違うよ、梨沙子。大丈夫だから。」
たぶんこれはうれし涙で。
梨沙子が心配しているようなことは一つもないのだ。
雅はその涙の痕を消そうと頬を擦ろうとした。
そこにすっと梨沙子の手が伸びてきて雅の腕を止める。
いつの間にか梨沙子は立ち上がっていて、目の前に立っていた。
同じくらいになった視線が絡まる。
「擦っちゃ、駄目だよ。」
手を取られたまま動けなくなる。
これまでも何回かあった現象。
しかし自分の気持ちを知った今ではそれは何倍も強固になって雅を襲った。
雅の前で梨沙子は見たことのない凛々しい顔をしていた。
- 222 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:15
-
「ちょ、梨沙子?」
「黙って。」
ちうと至近距離で音がなった。
梨沙子が雅の目元に唇を寄せてきたからだ。
梨沙子以外見えない状態に雅は焦る。
目尻の涙を吸われるという未知の感触に背筋が毛羽立った。
「梨沙子っ?!」
「駄目、擦ると赤くなるから。」
器用にも梨沙子は唇を寄せながら喋る。
本気でそう思っているのだろうか。
梨沙子の声は真剣で。
恥ずかしくて仕方ない自分の方がおかしいのかと一瞬思ってしまった。
- 223 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:15
-
―いつも、こうなんだから。
梨沙子は雅の事になるととても大胆だ。
人前で抱きつくのだって良くあることだし。
頬にキスも何回かあった。
その度に雅は恥ずかしいのに梨沙子はそんな事ないというばかりの満面の笑みで。
その顔を見ると雅は梨沙子を止められなくなる。
「梨沙子、うち、わかったから。」
「?……何が?」
気が済んだのかやっと雅の顔から唇を離して。
きょとんとした表情で梨沙子は雅を見つめる。
そんな梨沙子に雅は照れ笑いの顔で自分の唇の前に指を立てた。
- 224 名前:―彼女の居場所― 投稿日:2007/12/09(日) 23:15
-
「今は恥ずかしいから、内緒。」
「えー、何それー。教えてよ。」
―梨沙子のことが、だよ。
こんなに必要だったんだ。
こんなに大切だったんだ。
知らなかった事実。
気づかなかった想い。
梨沙子が好き。
今までの自分に雅は少し呆れた。
―彼女の居場所―終
- 225 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/09(日) 23:16
-
- 226 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/09(日) 23:17
-
あー、こういうりしゃみやが書けてちょっと満足w
たまには雅ちゃんに頑張ってもらいましょう(エ
ではまた妄想が溜まった日に。
- 227 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/09(日) 23:18
-
- 228 名前:206 投稿日:2007/12/09(日) 23:41
- 素晴らしい・・・
嬉し涙が出そうだ・・・
- 229 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/09(日) 23:53
- 待ってました!!!
やっぱりしゃみや最高だなっ!!!
次のお話も、楽しみに待ってまーす!
- 230 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/10(月) 00:46
- やっぱりしゃみやだなー!(だなー!!)
いやーみやびちゃん、頑張って素直になってもらいたいものですね。
でもその想いが伝わって晴れて梨沙子とくっついたら、このお話終わりなのかな…
それはなんかやだな。(´・ω・`)ショボーン
- 231 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/15(土) 18:10
-
シングルVクリップ集、買いましたさw
付き合ってるのに片思いは色々ヤバイでっす(エ
りーちゃんは可愛いし、雅ちゃんは美人だし。
妄想しまくり!!
……そんな感じの更新です(ニガ
228>>206さん
素晴らしいっすか?!
あ、ああ、ああああっとうございます(ドモリ過ぎ
うれし涙はこんなので良かったら、流してやってください(エ
229>>名無飼育さん
待っていてくださってありがとうございます!!
りしゃみや最高!w
と言いつつ今回はりしゃみやじゃないんです。
230>>名無飼育さん
やっぱりしゃみやですよー!!
やっと自覚しましたからね、少しは素直になるんじゃないんでしょうか。
どこで終わらすかはまだ未定ですが、ありがとうございます!!
レスありがとうございます!
では今日の更新です。
- 232 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/15(土) 18:11
-
一本目、りしゃもも。
長いです。
- 233 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/15(土) 18:11
-
- 234 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:12
-
冬になって寂しくなった花壇。
雪で埋まってしまうそれの下に、もも達は秘密を埋めた。
それはこの花壇じゃないけど。
花壇を見るたび思い出しちゃうんだ。
- 235 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:12
-
―秘密の華―
- 236 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:13
-
「あれー…何処いったんだろ?」
肌寒い空気の中、桃子は花壇を漁っていた。
時間帯としては昼休み。
桃子は上から落としてしまった髪飾りを探していた。
―りーちゃんから貰った奴なのに。
情けなく眉毛が下がる。
あれがないと落ち着かない。
それほど桃子の生活に染み付いていた。
貰ったのはもう一年も前だ。
梨沙子から何かを貰うのは初めてで。
大した事のない髪飾りでも飛び跳ねて喜んだのを桃子は覚えている。
- 237 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:13
-
「ぼーっとし過ぎだよね。」
桃子は一人苦笑する。
ぼんやりと窓辺で梨沙子から貰った髪飾りを見ていた。
そうすること自体は珍しくない。
元気がないときにするおまじないみたいなものになっていたからだ。
ただ今日が違ったのはその後、人とぶつかった拍子にそれを落としてしまったこと。
幸い窓から落ちた場所は見えた。
だから昼休みになってすぐ桃子は教室の真下の花壇を探している。
自分の思いが染み付いたそれを失くす等ありえない事だった。
―りーちゃん。
そっと目を瞑ってみる。
あの髪飾りを貰った日のことを。
それはすぐに浮かび上がってきた。
- 238 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:13
-
- 239 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:13
-
「これ、あげる。」
そう、素っ気無く渡されたのは桃の髪飾り。
綺麗な髪飾りだった。
材質はプラスチックだが彫ってある桃の花が可愛くて。
桃子は一目見たときからそれを気に入ったのだ。
「いいの?ありがと!!」
ぎゅっと胸の前で握る。
場所はいつもの中学校の屋上。
校門で雅を待っていた梨沙子を桃子は屋上に引き入れたのだった。
「別に、桃だけに買ったんじゃないから。」
ぷいと逸らされた顔は微かに赤くて。
ずっと梨沙子を見てきた桃子には照れ隠しなのだとすぐに分かった。
愛しくて、愛しくて。
どうしようもなかった。
- 240 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:14
-
「それでも、嬉しいよ。大切にするから!」
嬉しくて、嬉しくて。
胸が温かくなって、自然に笑顔になった。
「……うん。」
すると梨沙子も釣られたように嬉しそうに微笑んで。
桃子はその可愛さに息を呑む。
相変わらず、ふとした表情に、何気ない表情に引き込まれる。
幼さと大人っぽさが混ざったその顔。
泣き虫なくせに、絶対自分の決めたことを曲げない頑固さ。
そういう矛盾だらけの梨沙子。
だが桃子はそんな梨沙子に心を奪われたのだ。
―ずるいよ、りーちゃん。
敵わないと知っている。
梨沙子の目的はいつも雅で。
そこに自分が滑り込むことなど無に等しいと言うことくらい。
それでも桃子は梨沙子を諦めることができない。
- 241 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:14
-
「りーちゃん……。」
「何……っ?」
振り向いた梨沙子に、その瞬間口付けた。
目の前に広がるのは驚きに満ちた梨沙子の顔。
唇から感じるのは柔らかな弾力。
鼻腔を微かな香りが掠めた。
桃子はそれら全てを味わっていたくて。
目を閉じるのがもったいなくて。
ただ幸せで目を細める。
「……もも?」
一秒と少し。
長く感じたその時を堪能してから桃子は唇を離した。
梨沙子は呆然と唇を押さえている。
何をされたか頭がついていっていない状態。
- 242 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:14
-
―そりゃ、そうだよね。
桃子は苦笑する。
まさかいきなりキスされるとは誰も思わないだろう。
桃子自身驚いていた。
あのはにかんだ笑みを見た瞬間、歯止めが利かなくなっていた。
今まで出会ってから溜めていた何かが溢れた。
「駄目だよ、りーちゃん。本当に好きな人以外、そんな顔見せちゃ。」
「今みたいに襲われちゃうよ?」と冗談交じりに言って。
桃子は僅かに俯くと唇をかむ。
笑顔は得意だが、笑えていた自信が桃子にはない。
―どうして、今、我慢できなくなっちゃうんだろう。
ずっと、ずっと我慢してきた。
欲望のまま動いたら梨沙子の側にいれることができないと思ったからだ。
雅の為にとっておいたその唇を桃子は奪ってしまった。
梨沙子の想いがどんなに大きいか分かっていながら。
それは梨沙子を一番に考えてきた桃子にとって最大のタブー。
- 243 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:15
-
「ごめん、ごめんね。りーちゃん。」
まだ、みーやんにあげてないのにという言葉は飲み込んだ。
自分がそう言ってしまうのは違う気がした。
ひた向きで純粋な梨沙子の想いを馬鹿にしている様に感じた。
桃子はひたすら謝って、頭を下げる。
「謝んないでよ、もも。」
目の前の地面に影が差して。
少しいじけているような梨沙子の声が聞こえた。
ゆっくりと顔を上げた桃子の目にそっぽを向いた梨沙子が見える。
その表情は嫌悪ではなく、照れでもなく。
謝られたのが気に入らないとそれだけの顔。
- 244 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:16
-
「だって……。」
「いいよ、ももにそうさせたあたしが悪い。」
ふるふると力なく首を振る梨沙子。
梨沙子が悪いなんて事は決してない。
しかし力強いような、諦めているような表情の梨沙子を見て桃子は何も言えなかった。
「あたしはももがあたしのこと好きって知ってたのに。」
そう言って寂しそうに笑う梨沙子に胸が痛くなる。
梨沙子は桃子が梨沙子を好きだと知っている。
だが応えてくれることは無く、日常が過ぎるばかりだ。
そして雅は梨沙子が雅を好きなのを知らない。
自分の気持ちに気づいていない。
だから応えてくれる事は無く、日々が過ぎるばかりだ。
その僅かな共通点が梨沙子にその顔をさせたのだ。
桃子と自分の境遇を重ねて。
桃子と自分の気持ちを重ねて。
切なく梨沙子は微笑む。
- 245 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:16
-
「ももの気持ちも分かるから……これは秘密にしよう?」
桃子を切ることは、梨沙子自身を切ることになって。
桃子を拒否することは、雅が梨沙子を受け入れないことになって。
梨沙子には選択肢が無かったのだ。
雅に許容してもらえなかったら悲しすぎるから。
それは桃子にとっても悲しくて切ない選択だった。
―結局、みーやんだもんなぁ。
きっと泣きそうな顔になっている。
桃子はそう自覚した。
嫌われるという最悪の事態は避けられた。
だがそれと共に直視したくなかった現実まで浮上してきて。
どうにもこうにも切なくなった。
- 246 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:16
-
「秘密でいいの?もも、りーちゃんの。」
「言わなくて良いっ。」
―唇を奪ったんだよ。
梨沙子の様子に桃子は言葉を飲み込む。
気づけば梨沙子の表情は複雑で。
悲しいような、怒りたいような、ほっとしたような。
それら全てが混ざって眉間の皺で表情が保たれていた。
すっと梨沙子の指が桃子の唇の前まで伸びて、唇に触れるか触れないかで止められる。
「ももは、我慢できなかった。それは仕方ないと思う。」
静かに話される事実。
喋ることのできない桃子はこくんと小さく頷いた。
- 247 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:17
-
「だからみやにあげるのは、あたしからの、初めてのキスにする。」
「っ?!」
「それでいいの?」と桃子は視線で訴える。
すると静かに微笑まれた。
つまり梨沙子は桃子を完全に許したのだ。
梨沙子が雅にあげるのは自分からする全てで。
だから桃子からされたのは初めてにならなくて。
これからも桃子がする分にはキスをして良くて、求めて良くて。
至上の喜びだった。
ゆっくりと桃子の唇から梨沙子の手が離される。
「もも、歯止め利かなくなるよ。」
梨沙子が考えているより、きっとずっと、桃子の気持ちは深い。
桃子は梨沙子の全てが欲しい。
手が許されればそれ以上。
キスが許されればそれ以上と、どんどん上を求めてしまうだろう。
手を伸ばせばあるのに今まで触れることさえできなかったもの。
それが許されたら、桃子は止まらない。
秘密の関係を結んでしまう。
- 248 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:17
-
「ももちだからいいよ。」
苦笑い。
それは梨沙子にしては珍しい表情。
桃子に対するというより自分に対する表情だった。
―相変わらず甘くて、優しいね。りーちゃん。
まるで砂糖菓子のようだと桃子は思った。
食べればその瞬間に溶けていってしまう。
後に残るのは甘みだけ。
桃子はそれが止められなくて、焦がれ続けているのだ。
目の前の梨沙子の体をぎゅっと抱きしめた。
何故か溢れそうになる涙を隠すために。
- 249 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:17
-
「優しすぎるのは、残酷になるんだよ?」
「うん、知ってる。けど、ごめん、あたしにはこうしか出来ない。」
梨沙子の耳元に小さな声で呟く。
すると梨沙子は誰よりも知っている風に頷いた。
残酷な優しさを梨沙子はずっと受けてきたから。
ふと桃子は頬を緩ませる。
どうしようもない所で、桃子と梨沙子の立場は重なってしまうのだ。
偶然の一致、なのだろうか。
諦められない自分と梨沙子。
「好きだよ、りーちゃん。」
零れた言葉は頷かれただけで屋上の空気に消えていく。
二人だけの屋上で桃子は梨沙子の温もりを感じていた。
- 250 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:17
-
- 251 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:18
-
「あの後、秘密の証ってお花植えたんだよねぇ。」
それはなんてことは無いチューリップだったけど。
桃子にとっては愛の証でもあった。
―変わらぬ愛、か。
恐らく桃子だけが知っていた花言葉。
梨沙子はあの花にそんな意味があったのを知らないだろう。
今でも桃子はチューリップを見るたび思い出す。
あの秘密が結ばれた時を。
これだけは雅も知らない、桃子と梨沙子の関係。
「あ、あった!」
花壇の真ん中にそれは落ちていた。
桃子は嬉しくなって植えられている物を踏まないように、しかし早足に進む。
そっと取り上げた髪飾りは少し土を被っていたが割れたりはしてなくて。
良かったと桃子はそれを握り締める。
ある意味、あの花よりも桃子達の秘密を知っているものだ。
伝わる無機物の感触。
- 252 名前:―秘密の華― 投稿日:2007/12/15(土) 18:18
-
―そろそろ、だもんね。
秘密の関係も終わりに近づいている。
雅も友理奈も動き出した。
そして自分も動き出さなければならない。
次に動きが止まったときに、秘密の関係も終わっている。
それは悲しいことかもしれないが必要なことで。
梨沙子を手放す気は誰もないのだ。
「負けないよ。」
梨沙子から我慢しなくていいと言われた。
なら止まる理由はもうなくて。
あとはひたすら進むだけだ。
あの日埋めた秘密の華。
もうすぐ散ってしまうそれは。
しかしそこから新たに何かが芽生えてきて。
それは決して無駄にならないだろう。
桃子は髪飾りに軽く唇を寄せ、決意を新たにした。
―秘密の華―終
- 253 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/15(土) 18:19
-
- 254 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/15(土) 18:19
-
二本目、りしゃゆり。
これも長いですw
- 255 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/15(土) 18:19
-
- 256 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:20
-
保健室。
りーちゃんに合うような、合わないような場所。
だけど戸を開けたそこには先生はいなくて。
りーちゃんだけが存在していた。
- 257 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:20
-
―テーピング―
- 258 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:21
-
ずるずると足を引き摺りながら前に進む。
体育館と保健室はそう遠くない。
普通の状態だったら一分もかからない。
だが今の友理奈には遠く感じる。
―失敗したなぁ。
練習も後半になった紅白戦。
ジャンプをした後の着地に失敗してしまった。
そこまで酷く捻ったわけではないが歩くにはきつい。
―ガラッ
「失礼しまーす……。」
静かな、それでいて穏やかな雰囲気。
保健室独特な空気は友理奈の声を小さくさせた。
一歩進み、中に入る。
先生は職員室にでも行っているのかいない。
確りと温度調整された室温と湿気が心地よい。
- 259 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:21
-
―先生、いないのかな?
ベッドのカーテンは一つ閉められていて。
余り大きな音を出さないように気を使う。
「先生?」
部屋の中に入り、念のためもう一度声をかける。
しかしやはり返答は無くて。
友理奈はどうしようかと眉をしかめた。
―あたし、テーピングできないし。
先輩の中にはできる人もいる。
だが保険の先生がいるならそっちのほうが良い訳で。
友理奈は保健室に来ることになったのだ。
とりあえず立っているのが辛くなって、側にあった丸椅子に座る。
- 260 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:21
-
「……湿布だけでも張ろうかな。」
小さく呟いた言葉は和やかな空気に溶けた。
友理奈は湿布を取ろうと、台の上に置いてある救急セットへと手を伸ばす。
と、その瞬間にシャッとカーテンを引く音が聞こえた。
ピタッと友理奈の手が止まる。
「やっぱ、ゆりだ。」
振り向く前に聞こえてきた声。
それは耳に馴染んだもので。
友理奈は気を緩めた。
こちらに近づく足音が聞こえて友理奈はゆっくりと振り返る。
「りーちゃん?」
「どうしたの?」
梨沙子の視線が延ばされた右足へと落ちた。
靴下の上からでも少し腫れているのが分かる。
梨沙子はそのまま屈むとそっと触れた。
つきんと響いた痛みにぐっと歯を食いしばる。
- 261 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:22
-
「っ!」
「痛い?……固定しないの?」
「あたし、仕方が分からないから。」
苦笑が漏れた。
バスケを始めてから捻挫したことは無かった。
だからテーピングが必要なのは初めての経験なのだ。
するとしゃがんだままの姿勢から梨沙子が視線を上げる。
そして微かに首を傾げると口を開いた。
「あたしで良かったらテーピングしようか?」
「え、りーちゃんできるの?」
驚いた。
梨沙子は小中と本格的には運動をしていない。
また怪我をしたのも友理奈の記憶に無い。
何故、そんな梨沙子がテーピングの仕方を知っているのだろうか。
そう考えた友理奈の思考を読むように梨沙子が微笑んだ。
あ、と友理奈はその笑みだけで理解する。
- 262 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:22
-
「みやが、テニス部に入ったから。……だから覚えた。」
予想通りの答え。
滑らかな動きで梨沙子が立ち上がり、テーピングを取る。
その様子はとても慣れていて。
梨沙子が保健室に詳しいことを示していた。
「足、椅子の上に上げられる?」
「うん、大丈夫だよ。」
足首に力を入れないように、膝を上げるようにしてそっと目の前の椅子に足を置く。
どうにかして靴下を脱いだ。
テーピングを取ってきた梨沙子がその側に座る。
「足、触るよ。」
つま先に触れられ足首を直角にさせられる。
鈍い痛みが全身を走るが声は出さない。
続けて腫れている部分と逆の方を触られた。
- 263 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:22
-
「こっちは痛くないよね?ってことは……」
優しく撫でるような動き。
友理奈の痛い箇所を確かめると梨沙子はどう巻くかをぶつぶつと考え始める。
顎に手をやり、唇は少し尖っている。
―可愛い。
場違いに、痛みを忘れて友理奈はそう思った。
梨沙子はテーピングの白い布を少し伸ばすと持ったまま、外側に回したり内側に回したり忙しない。
足を見ているので顔全てが見えるわけではない。
友理奈のために一生懸命にしてくれる様子はそれだけで愛しかった。
「じゃあ、巻くけど今日はもう帰ったほうがいいと思う。」
「え?」
- 264 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:23
-
ぼーっとしていた友理奈は突然の言葉に反応が返せない。
ぼんやりとしている友理奈に梨沙子は僅かに怒ったような顔をする。
それは心配しているからで。
梨沙子はまた唇を尖らす。
ついと逸らされた視線はそのまま友理奈の足へと向き。
梨沙子の手がゆっくりと動き始める。
「テーピングしたら歩けると思う。でも試合でもないんでしょ?帰った方がいいよ。」
「あ、うん。先輩もそう言ってた。」
真剣な声に思わず顎を引く。
元よりそのつもりだった。
今日は固定だけして家で大人しくしていろと実際言われてもいた。
「ゆり、今日自転車?」
「ううん、歩き。」
「ならあたしと一緒に帰ろう?一人で帰るの、大変だと思うし。」
続けられた言葉は二人しかいない保健室に思ったより大きく聞こえた。
話をしながら梨沙子の手が動く。
早くは無いが確りとした手つき。
よほど勉強したことが分かった。
- 265 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:23
-
「でも、りーちゃんはみやを待ってるんだよね?」
梨沙子の言葉に驚きを隠せない。
友理奈は困ったような、なんとも言えない表情で梨沙子に尋ねる。
すると梨沙子は一度手を止め、しかしすぐにまた巻き始める。
その顔は拗ねているようで。
どうしたんだろうと友理奈は首を傾げた。
「みやは今日一緒に帰れそうに無いんだって。」
「え、部活でってこと?」
「そう、だからゆりは気にしないでいいよ。一緒に帰ろ。」
「別に……いいけど。」
それはそれでモヤモヤしたものに包まれる。
自分は雅の代替品でしかなくて。
雅が帰れないから、一人で帰るのが嫌だから友理奈が選ばれて。
代わりじゃない梨沙子の気持ちが欲しいと友理奈は思う。
- 266 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:24
-
「できた。ゆり、ちょっと足ついてみてくれる?」
そんな友理奈に気づかず、梨沙子は嬉しそうに微笑む。
勝手すぎる感情を表に出すことをできるはずがない。
友理奈は素直に立ち上がる。
ゆっくりと慎重に足をついて。
痛みが走らないことを確かめる。
「凄い、りーちゃん、全然痛くないよ。」
思わず言葉が飛び出る。
苛ついていたはずの気持ちも何処かに行っていた。
それほど純粋に驚いたのだ。
「固定したから、痛い方には曲がんないはず。」
「へえー!こんなに違うんだ。」
「歩けないほど酷い奴じゃなかったし……でも無理は駄目だよ。」
- 267 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:24
-
すごいすごいと興奮の引かない友理奈。
それを梨沙子が嬉しそうに笑って見つめる。
これ程真っ直ぐに褒められたことがないからだろうか。
その様子は表面にこそ出ていないが友理奈にも感じ取れた。
「その様子なら大丈夫そうだね。ゆり、鞄は?」
「あ、更衣室に置いてるから取りに行かないと。待っててくれる?」
「いいよ。一人で平気?」
微かに眉を寄せて梨沙子が聞いた。
友理奈はにこっと微笑み、うんと頷く。
梨沙子のおかげで普通に歩けるようにはなっていた。
これなら荷物を取りに行くくらい平気だろう。
そう思い、立ったままの状態から足を進める。
違和感は拭えないが仕方ない。
友理奈は保健室の入り口まで歩き出す。
- 268 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:24
-
「ゆりっ、足元!気をつけて。」
―えっ?足元?
友理奈が下に視線を落とすのと足が何かに躓くのは同時だった。
幸い引っ掛かったのは捻挫していないほうの足。
しかし捻挫した足で踏ん張ることが出来るわけも無く。
友理奈の体は傾いていく。
それはなんてことは無い電線コード。
怪我した足を庇って無意識に足が下がっていた。
普通だったら躓くこと自体ない。
「……っ。」
来るべき衝撃に耐えるために目を瞑る。
だが何時まで経っても予想していた衝撃は来ず。
代わりにふんわりとした感触と甘い香りが友理奈を包む。
- 269 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:25
-
「やっぱ、あたしも行く。ゆり、危なっかしいもん。」
「りーちゃん。」
目をゆっくり開くとそこにいたのは梨沙子で。
背の差のせいでほぼ抱きつくような形で自分を支えていた。
近い、顔。
至近距離での上目遣い。
そして優しい笑顔に友理奈は呼吸を忘れた。
―りーちゃん……きれい。
「ゆり?さっきからぼーっとしすぎだよ。」
変なのという梨沙子の言葉も耳を通り過ぎていく。
それほど梨沙子は綺麗だった。
可愛くて愛しくて、目を奪われて。
友理奈は固まっているしかできなかったのだ。
そんな友理奈の頬に温かい感触が訪れる。
反射的に手を頬にやって梨沙子を見る。
- 270 名前:―テーピング― 投稿日:2007/12/15(土) 18:25
-
「……へ?りーちゃん?」
「早く良くなるおまじない。」
ぷいと照れ隠しに逸らされた顔。
だけどその言葉には何よりも想いが詰まっていて。
友理奈は知らず微笑んだ。
ああ、梨沙子だなと思った。
意地っ張りで、頑固で。我侭で。
ふとしたときに見せる顔が酷く大人っぽくて。
こういったちょっとした事が友理奈の心を掴んで離さない。
「ありがとう。」
だから友理奈はただ感謝の言葉を伝える。
それが梨沙子と友理奈の独特な距離感を一番示していた。
梨沙子の触れた頬はまだ温かくて。
友理奈は本当に早く治りそうだと思った。
―テーピング―終
- 271 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/15(土) 18:26
-
- 272 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/15(土) 18:28
-
長いりしゃももとりしゃみやでした。
りーちゃんは色々魔性の女だと思います。
いや、自分がそうさせてるんですけどw
絶対かなりの素質を秘めていますよ。
タラシのw
じゃなきゃPVであんな顔できるもんか!!
と、痛いことを言って終わります。
ではまた妄想が溜まった日に。
- 273 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/15(土) 18:28
-
- 274 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/15(土) 18:30
-
間違い→りしゃみや
正解→りしゃゆり
りしゃみやの呪いがw
最後にすんませんorz
- 275 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/20(木) 21:40
-
妄想が溜まるのが早いですw
ってことで、今日の更新。
りしゃみやです。
- 276 名前:―初めての感情― 投稿日:2007/12/20(木) 21:41
-
梨沙子がそこにいる事自体に違和感は無くて。
だけどそれ自体は珍しくて。
だから雅に梨沙子がそこにいると分かったのは偶然。
もしくは幼馴染の長年の勘という奴なのだ。
- 277 名前:―初めての感情― 投稿日:2007/12/20(木) 21:41
-
―初めての感情―
- 278 名前:―初めての感情― 投稿日:2007/12/20(木) 21:42
-
ゆっくりと扉を動かし中に入る。
しんとした空気が雅を包んだ。
物音一つしない、下手したら自分の息遣いさえ響いてしまいそうな空間。
雅は一人苦笑する。
―うち、この空気苦手なんだよね。
入学してから三年が経つが、雅自ら足を運んだことなど数えるほどしかない。
そんな雅がわざわざ来たのはなんてことは無い。
梨沙子を探していたからだ。
梨沙子は絵を描くのも好きだが本を読むのも好きで。
最近、視力が下がったと愚痴るのも雅はよく聞いていた。
だからいつもの場所にいなかった梨沙子がここにいるのではないかと雅は思ったのだ。
慎重に足の運びにさえ気をつけて雅は図書室を進む。
カウンターを通り過ぎて机が並ぶ隙間をすり抜ける。
本棚の少ないスペースだけあって視界が開けている。
直射日光を余り取り込まないように調整された窓からグラウンドが良く見えた。
- 279 名前:―初めての感情― 投稿日:2007/12/20(木) 21:42
-
―へぇ、テニスコートもよく見えるんだ。
図書館は校舎の端に位置していて。
グラウンドの隅にあるテニスコートには一番近い場所だった。
ここからうちを見ていてくれたのかなと心の片隅で思いながら雅は周りを見渡す。
「……ぃ……でも……だよ?」
「あ……は、そう……。」
部屋の奥からぼそぼそとした声が聞こえてきた。
二人分の声。
それは両方とも雅に馴染み深いもので。
雅の足は自然とそちらに向いた。
―今の声……。
勝手に顔がしかめっ面になる。
自分の耳が確かならばそれは雅にとって余りよろしくない状況である。
足を進めるごとにその声は大きくなって。
雅の足も段々と忍び足になっていく。
- 280 名前:―初めての感情― 投稿日:2007/12/20(木) 21:42
-
「資料探しとか手伝わせてごめんね。」
「いいよ、あたしの方が図書館のこと知ってるだろうし。」
―梨沙子……熊井ちゃん。
物語ではなく、所為専門書と言われるものの棚。
図鑑や中学校にはちょっと不向きな本まで置いてある。
そこに梨沙子と友理奈は並んで立っていた。
柔らかな表情で会話を交わす二人。
その絵に雅は下ろしている手に力が入る。
以前だったら、何も思わなかった。
だけど雅は気づいてしまった。
知ってしまった。
梨沙子を手放せない自分に。
梨沙子を好きな自分を。
胸を覆うのはただただ黒い感情。
嫉妬、だった。
- 281 名前:―初めての感情― 投稿日:2007/12/20(木) 21:43
-
―梨沙子。
心の中で呟いた声は止められず。
本棚から一歩足を出すと共に声が零れていた。
「梨沙子。」
「あ、みや。」
雅を視界に入れた瞬間、ふんわりと梨沙子が微笑む。
その顔は知らない間に大人びていて。
一刹那、雅は目を見開く。
雅はいつから梨沙子がこんな表情をするようになったのか分からない。
だがその笑顔に胸が温かくなったのは本当。
梨沙子の笑顔を雅は側でずっと見てきたのだから。
- 282 名前:―初めての感情― 投稿日:2007/12/20(木) 21:43
-
「部活、終わったの?早かったね。」
「うん、今日は顧問の先生がいなかったから。」
へらへらとした見慣れた笑顔で首を傾げる梨沙子。
何だか少しほっとした。
あのままの表情だったらそれは雅にとっての梨沙子ではなく。
知らない、見知らぬ少女になっていただろう。
―ももや熊井ちゃんは知ってた……?
―知っていたから梨沙子を好きになった?
雅の中にどんよりとした疑問が立ち上がる。
ちらりと梨沙子の後ろに立つ友理奈に目を移す。
背の高い友理奈は人の後ろに立っていても十分に顔が見える。
するとそこにはまたもや見たことのない柔らかい顔をした友理奈がいて。
雅は息を飲み込んだ。
- 283 名前:―初めての感情― 投稿日:2007/12/20(木) 21:44
-
「……熊井ちゃんと何してたの?」
「えっと、生徒会で使う資料探し、でいいんだよね。ゆり。」
「そうだよ、図書室に来たらりーちゃんがいたから手伝ってもらったんだ。」
確かに友理奈の手には数冊の本があった。
雅はそれに一瞥をくれてやるとすぐに梨沙子へ視線を戻す。
「もう終わったの?終わってるなら、うち、疲れてるから帰りたいんだけど。」
ぶっきら棒な物言い。
自分でも分かっていた。
大人気ないと。
だが初めての感情への対処の方法が雅には分からなかった。
「あ、うん。そうだよね。……資料足りてる?」
「大丈夫だよ、これだけあれば。」
雅の言葉に梨沙子は一瞬不思議そうな顔をしたもののすぐに友理奈の方へ振り返る。
梨沙子と対面する友理奈。
その瞬間、友理奈と目が合った。
細められた目に何故だか全てを、大人気ない感情を見透かされた気がした。
だけど優しいその瞳は雅に不快感を与えなかった。
- 284 名前:―初めての感情― 投稿日:2007/12/20(木) 21:44
-
「今日はありがと、助かったよ。」
「いいよ、別に。」
それだけ言って雅の元に梨沙子が戻ってきた。
雅も軽く手を振ると帰ろうと背を向ける。
「あ、みや。」
「何?」
と、背を向けた雅に友理奈の声がかかる。
梨沙子がきょとんとした表情で雅の顔を見た。
雅は梨沙子に先に行っててと手で合図をしてから、くるりと向き直る。
静か過ぎるここでは梨沙子が離れていく足音さえはっきりと聞こえた。
- 285 名前:―初めての感情― 投稿日:2007/12/20(木) 21:45
-
「……やっと、気づいたんだね。」
「何のこと?」
友理奈の顔が苦笑に変わる。
雅だって分かっていた。
友理奈が何について言っているかは。
だけどそれを人に認めるのはやはりまだ恥ずかしいのだ。
「りーちゃんのことだって。」
「梨沙子がどうかしたの?」
あくまで知らないと言う雅に友理奈ははぁと小さくため息を吐いた。
困ったと言うより呆れたと言う風のそれ。
この頃梨沙子に関係すると呆れられるのが多いなと雅は人事のように思う。
- 286 名前:―初めての感情― 投稿日:2007/12/20(木) 21:45
-
「でもこれだけは分かっていた方がいいよ。」
重い空気。
元から静かな雰囲気が友理奈の声一つで、重圧を感じさせるものになる。
まただ、と雅は眉を顰める。
この空気は以前感じたことがある。
それはあの時、桃子と茉麻に言われたとき。
雅にとって転機になった言葉。
「ももちはずっと、ずっとりーちゃんを支えてきたんだよ。」
知らないわけじゃないでしょと言うように首が傾げられる。
知らないと言ってしまいたかった。
だがそうすることはできない。
桃子の気持ちを、感情を、想いを雅は知ってしまっていたから。
- 287 名前:―初めての感情― 投稿日:2007/12/20(木) 21:45
-
「知ってるよ。そんなこと。」
「ならいいんだ。あたしも引く気はないけど。」
にっと強気に笑った友理奈を見ていられなくて雅は目を逸らす。
ぎりっと奥歯をかんだ後、雅は勢い良く視線をぶつけた。
「梨沙子が待ってるからうち、もう行くね。」
「うん、バイバイ。」
軽く手を振る友理奈に雅は頷くだけで答えると再び背を向けた。
何も言えなかった。
梨沙子は渡さないとも。
梨沙子は自分のものだとも。
ここで言ってしまうのは違う気がした。
- 288 名前:―初めての感情― 投稿日:2007/12/20(木) 21:46
-
―まだ梨沙子にも言ってないのに。
それは嫌だった。
梨沙子という気持ちはやはり梨沙子に一番に伝えたい。
ただ胸に重く圧し掛かるのは友理奈の言葉。
―……もも、熊井ちゃん。
雅が知らないうちに梨沙子を取り巻く人間関係は複雑になっていて。
だけど梨沙子を離す気など毛頭無くて。
雅は一人ため息をついた。
―初めての感情―終
- 289 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/20(木) 21:46
-
- 290 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/20(木) 21:49
-
今日は一本のみの更新です。
妙にりしゃみやが書きたい、今日この頃w
……と言いつつやはり手が動くとりしゃももになっていたりしますw
何ででしょう。
ではまた妄想が溜まる日に。
- 291 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/20(木) 21:49
-
- 292 名前:名無し飼育 投稿日:2007/12/20(木) 22:46
- 大人だね、くまいちょーは。そこがいい。
大人げないね、雅は。そこがいい、この小説では。
なかなか嬉しい成り行きだ。
- 293 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/21(金) 00:52
- ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン
ジェラシみやに激しく萌えますた!
りーちゃんはみんなから愛されてるぅぅぅうハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン
あ、更新乙です(遅っ
妄想待ってます!
- 294 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/21(金) 19:00
- どきどきする
- 295 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/26(水) 17:47
-
恐らく今年最後の更新でっす。
しばらくネット環境から離れますので。
次の更新は早くても年明け一週間経った位だと思いますw
292>>名無し飼育さん
うちの雅ちゃんは大人気ないですw
そしてうちの熊井ちゃんは素直ですw
よって大人っぽく見えます。
気に入ってもらえたなら嬉しいです!
293>>名無飼育さん
ハァーンあっとうございます!!w
雅ちゃんはきっと独占欲が強いに決まってますw
あ、ありがとうございます(笑
お待たせしました、妄想持ってきました。
294>>名無飼育さん
どきどきしますか?!
それは萌えでしょうか?
それともハラハラの方でしょうか?
これからもそうできるように頑張りますw
では今日の更新です。
このカプが今年最後ってw
絶対このスレならではだと思いますww
- 296 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/26(水) 17:48
-
ママベビでw
今日は一本だけです。
- 297 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/26(水) 17:48
-
- 298 名前:―ターニングポイント― 投稿日:2007/12/26(水) 17:49
-
息も白く染まる季節。
久しぶりに梨沙子と一緒に帰ることになった。
雅や桃子とは違うが茉麻だって長年梨沙子を見てきた。
だから沈んだ顔をした梨沙子を見ると放っておくことなどできないのだ。
- 299 名前:―ターニングポイント― 投稿日:2007/12/26(水) 17:49
-
―ターニングポイント―
- 300 名前:―ターニングポイント― 投稿日:2007/12/26(水) 17:50
-
「ママと一緒に帰るの久しぶりだねー。」
「梨沙子がいっつもみやと帰ってますからねー。」
へにゃっと力の抜ける笑みを浮かべた梨沙子。
その顔を見つめながら茉麻はにやっと意識的に口角を上げて言う。
もちろん、余りにも雅を好きな梨沙子に対するからかいだ。
「むー、そんなことないもん!」
「いやいや、あるから。」
「ないもん!」
「あるから。」
半ば意地になって梨沙子が言う。
茉麻はそのふくれた表情を見て梨沙子だなぁと今更ながらに思った。
甘えっこで拗ねやすくて。
茉麻を“ママ”と呼ぶ可愛い“ベイビー”だった。
- 301 名前:―ターニングポイント― 投稿日:2007/12/26(水) 17:50
-
―……この頃は大変みたいだけど。
ちらりとグラウンドの方を見やる。
校門を出ようとしているこの場所からでは校舎にさえぎられてそこを見ることは出来ない。
だが熱気のある声がワイワイガヤガヤと聞こえてきて。
そこで活動している人たちがいるのを感じさせた。
「みやも、せっかちなんだもんなぁ。」
「ん?」
ぽつりと呟いた言葉は梨沙子の耳には届かず。
寒い北風に攫われていった。
自覚して、そこからの行動は早かった。
好きだから獲られたくない。
今まで変わらずあった温もりを雅が離す気がないのは明白で。
だからこそ梨沙子は戸惑っているのだと茉麻は思う。
自分は変わってないのに周りの風景だけが目まぐるしく変わって。
逆に梨沙子は混乱している。
- 302 名前:―ターニングポイント― 投稿日:2007/12/26(水) 17:50
-
「何でもないよ。帰ろう、梨沙子。」
軽く首を振り笑みを作る。
ゆっくりと歩き出すと「待ってよー。」という声と共に足音が聞こえた。
隣に来た梨沙子を見るとまたもやふくれっ面で。
茉麻は思わず噴出した。
「あっ、笑ったー!」
「だって梨沙子、すっごい拗ねてるんだもん。」
ぽんぽんと梨沙子の頭に手を置くように撫でる。
すると梨沙子はむーと呻りながらも大人しく撫でられていた。
その表情は幼くて。
雅たちはこの事に気づいているのだろうか。
梨沙子の大人っぽい部分ばっかり見て。
梨沙子の歳相応な子供っぽい部分を無視しているような気がする。
- 303 名前:―ターニングポイント― 投稿日:2007/12/26(水) 17:51
-
「梨沙子も大変だねー。」
「うん?何が?」
理解してない様子に苦笑が漏れる。
それともその狭間に慣れてしまったのだろうか。
一瞬頭を過ぎった思いは直ぐに在り得ないと棄却される。
「みやとかももとか……。」
「あー、うん。」
情けなく梨沙子の表情が歪んだ。
ちょっと俯いた顔を茉麻は見ることができなくて。
何もできない自分が悲しかった。
幾ら梨沙子が自分に懐いていたとしても、それだけで。
梨沙子と雅たちの間に入ることはできないのだ。
―可愛い娘を持つと大変だわ。
冗談のようにそう思う。
日が暮れかけている通学路。
二人の影が長く前に伸びていた。
- 304 名前:―ターニングポイント― 投稿日:2007/12/26(水) 17:51
-
「みやにね、ずっと一緒にいて欲しいって言われたの。」
ぼそりと言った一言は、しかしすでに茉麻は知っていて。
その日のガチガチに緊張している雅も見ていた。
する前からそんなに緊張しなくていいのにと思うほどあの時の雅は緊張していた。
雅は普段はそんなに見えないが、緊張する時は凄まじくする人なのだ。
―そんだけ、大切って事だよね。
結局雅にとっても梨沙子は不可欠な人で。
だからこそ緊張したのだろう。
だっていつもの雅は告白されたとしてもそんなに緊張したことは無いのだから。
「で、梨沙子はどう思ったの?」
「……嬉しかった。」
僅かに見える口元は確かに緩んでいて。
茉麻も釣られたように笑った。
そりゃそうだよなと意味のないことを聞いたと思う。
梨沙子が雅からそう言われて嬉しくないことなどあるわけが無いのだ。
- 305 名前:―ターニングポイント― 投稿日:2007/12/26(水) 17:52
-
―ずっと待ってたんだもんね。
雅から言われるのを。
雅が言ってくれるのを。
雅が自分を必要としてくれるのを。
梨沙子はずっと待っていた。
どんなに不安になろうと切なくなろうと、梨沙子は忍耐強く待っていたのだ。
―……もも。
ふと浮かんだのは年上の友達の姿。
待っている梨沙子。
その梨沙子をずっと求めていたのは桃子だった。
雅は最近まで気づいてなかったようだが、茉麻は知っていた。
- 306 名前:―ターニングポイント― 投稿日:2007/12/26(水) 17:52
-
―勝ち目の少ない勝負だよね。
そこをあえて行くのが嗣永桃子なのだ。
欲しいものを諦められないのは桃子だって一緒で。
むしろ桃子がここまで梨沙子を完全に奪ってないことの方が不思議だった。
茉麻にとって桃子はそういう激しいものを持っている人だったのだから。
目の前を猫が横切って、梨沙子はそれを見て駆け足で近寄る。
人に慣れている猫なのか逃げることも無かった。
その姿を見ながら茉麻は歩調を変えることなく進む
「好き過ぎて奪えなかったってこと?」
梨沙子の背中に茉麻は呟く。
夕焼けに苦笑いする桃子の顔が見えた気がした。
桃子は好きだから梨沙子の悲しむことは出来なかったのだ。
それが自分の願いを潰すことになろうが、出来なかったのだ。
- 307 名前:―ターニングポイント― 投稿日:2007/12/26(水) 17:53
-
―ももらしいね。
梨沙子には底抜けに優しくて。
気づかないような所でさり気無くいつも梨沙子を支えていた。
そんな桃子に梨沙子だって気づいている。
だから桃子には梨沙子の我侭が倍になることを茉麻は知っていた。
そして何だかんだで梨沙子が桃子に心を許していることも。
難しい関係だと茉麻は思う。
「あ〜、可愛かった。」
「良かったね、噛まれたりしなくて。」
「乱暴なことしなければ噛まれたりしないもん。」
たった数分の出来事。
だが妙に茉麻の印象に残る光景だった。
それは猫に桃子を重ねたせいのか、どうなのか。
よく分からない。
猫をまさに猫かわいがりした梨沙子は満足げな顔で。
まぁいいかと茉麻は流した。
- 308 名前:―ターニングポイント― 投稿日:2007/12/26(水) 17:53
-
「あたしね、優柔不断なんだよね。」
「知ってるよ。」
基本的に人を切り離せない子で、だからこそ色々迷ってしまう子なのだ。
そういう梨沙子の性格を知っているから桃子は答えを求めなかったのだろうし。
雅の急激な変化に梨沙子は着いていけないのだ。
「だからみやが好きだとして、ももちにそれを言えるかっていうと判んない。」
「ももだって梨沙子がみやを好きだって事くらい分かってるよ?」
「うん、だからなんて言えばいいのか分かんない。」
困ったような笑顔。
ああ、と茉麻は唐突に理解した。
桃子はずっと雅を好きな梨沙子の側にいてくれて。
それはきっと梨沙子と雅が付き合いだしても変わらないだろう。
何を言った所で桃子が諦めることなどないのだ。
そしてまた梨沙子が諦めるように言うこともできない。
片思いさえさせないのはとても酷いことだと梨沙子は知っているから。
- 309 名前:―ターニングポイント― 投稿日:2007/12/26(水) 17:54
-
「あたしはももを突き放せない。」
微かに首を傾げて言う姿はそれも梨沙子にとっての一つの真実で。
酷いほど優しい子だなと茉麻は思う。
そこが雅たちの梨沙子に惹かれてしまう理由であるとも思う。
「たぶん、ゆりも同じ。」
「そっか。」
悲しそうな顔で言うのは梨沙子本人も酷な事をしていると自覚しているから。
だから茉麻はただ頭を撫でるしかできない。
気にするなと、頑張れとそう想いを込めて。
梨沙子を慰める。
―でも、熊井ちゃんもなんだ。
友理奈ははっきり言って一番の新株で。
そんなに深く梨沙子に影響しているとは思わなかった。
- 310 名前:―ターニングポイント― 投稿日:2007/12/26(水) 17:54
-
―熊井ちゃん、頑張ってるんだ。
あの無邪気な年下の友達。
余り欲を見せない子だった。
だから梨沙子に良く会いに行くという噂を聞いた時は耳を疑った。
なぜなら桃子と雅の狭間にいる梨沙子の元に飛び込むことはとても無謀だから。
―知ってたのに、ねぇ。
友理奈は桃子の想いも梨沙子の想いも雅の鈍さにも全て気づいていた。
それら全てを知っていて、なのに梨沙子を好きになった。
非常に勇気のいることだと茉麻は思う。
「自分の気持ちに素直に答えればいいんだよ。みやも、ももも、皆そう思ってるから。」
「……うん。」
にこっと笑って言えば梨沙子も小さく頷いた。
そのはにかんだ笑顔はとても可愛くて。
あの三人が必死になるのも分かる気がした。
- 311 名前:―ターニングポイント― 投稿日:2007/12/26(水) 17:55
-
「よし、ベイビー。たこ焼きでも食べていこうか。」
「えー、あたし甘いものが食べたーい。」
隣にあった手を握って歩き出す。
大きく手を振りながら歩けば、心は軽くなって。
まるで小学生のようにはしゃいで歩いた。
誰が選ばれてもいい。
誰もが梨沙子のことが好きで。
離れたくなくて、譲ることが出来なくて。
ただ茉麻にあるのは皆傷つくのは最小限であって欲しいという願いだけ。
真っ赤な夕焼けに映える人影は切なくなるほど綺麗だった。
―ターニングポイント―終
- 312 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/26(水) 17:55
-
- 313 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/26(水) 17:58
-
さて今年最後の更新終了ーw
最後くらいほのぼのした奴を書きたかったんですよ。
色々切ない話が多かったんで。
では皆様良いお年を。
自分は妄想をしながらの年越しになるでしょうw
それではまた妄想が溜まる日まで。
- 314 名前:CPヲタ 投稿日:2007/12/26(水) 17:58
-
- 315 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/27(木) 02:09
- ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ンハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ンハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン
今年最後のハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ンありがとうございます!
なんだか少し涙が滲むようなママベビでしたハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン
更新乙です!
そして今年度末にGJなお仕事ナイスグッドですm(__)m
また来年までに年明け妄想よろしくお願いします!!
最後に毎回多大なハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ンをありがとうございます。
- 316 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/27(木) 02:46
- 更新乙です
みや参戦で来年はドロドロしそうな・・・
ほいく共々来年も楽しみに待っております
- 317 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/27(木) 09:47
- あー、このコンビすごく好きだなあ
- 318 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/27(木) 21:47
- ももを思えば涙が……
作者さん今年お疲れさまでしだ
来年もよろしくお願いします
- 319 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/06(日) 18:48
-
遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
今年も元気に妄想いたしますのでよろしくお願いしますw
>>315:名無飼育さん
ママベビ、気に入ってくれたようでw
たくさんのハァーンありがとうございました!!
年明け妄想楽しんでくださると幸いです。
>>316:名無飼育さん
レスあっとうございます!!
ドロドロするのは書けそうに無いので、どうにかこうにか終わらそうと頑張ってます(ニガ
ほいくの方も見てくださってるようでw
これからもどうか見てやってください。
>>317:名無飼育さん
自分もこの二人、好きですw
楽しんでもらえたならよかったっす。
カプとはまた違った味わいがある二人だと思います。
>>318:名無飼育さん
間違いなく裏で一番泣いているのは桃子でしょうw
それがうちの白桃ですww
いえいえ、こちらこそ今年もよろしくお願いします。
では今年初めの妄想更新します!
初めということで、やはりこのカプしかないでしょう。
- 320 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/06(日) 18:49
-
リアルで、りしゃみやです。
ちょっとネタが古いのは勘弁してくださいw
- 321 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/06(日) 18:49
-
- 322 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:50
-
PV確認をした。
そこには大人っぽい表情で歌うみやがいて。
あたしは切なくなって、気づかれないように息を吐いた。
―みやはこの歌詞の意味なんて気にしないよね。
鈍い恋人に涙が出そうだった。
- 323 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:50
-
―付き合ってるのに……―
- 324 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:51
-
何とかPV全てを見終わって。
その直後に梨沙子はスタジオを出ていた。
飛び出すと言っていい勢い。
スタッフさんへの挨拶も雑にしかできなかった。
戻った楽屋。
口から出たのは今までずっと流れていた音楽。
「私ばかりがあなたを……」
―……一方的に、好きなの?
口ずさんだ歌詞に心当たりがありすぎて、梨沙子は歌うのを止めた。
楽屋の窓に映るのは泣きそうな自分の顔。
外の雨が丁度よく梨沙子の目の下の箇所を伝っていく。
―みや。
昔から梨沙子は雅のことが大好きで。
そして梨沙子の想いは余りにも一方通行だった。
- 325 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:51
-
―さびしい顔、してても。
雅が気づいてくれたことなどない。
脳裏に流れた歌詞。
それに続いて出てきた悲しい現実に梨沙子は唇を噛む。
「みやの、ばか。」
ぽつりと出た一言は楽屋の窓に染み込んでいく。
一人しかいない部屋は今の梨沙子には寂しすぎた。
「りーちゃん?」
「……ももち。」
「どうしたの、PV確認終わったらすぐに出てっちゃったけど。」
カチャリと小さな音と共に桃子が入ってきた。
ゆっくりとこちらに近づいてくる足音に梨沙子は一瞬表情を消す。
泣きそうな所など見られたくなかった。
- 326 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:51
-
「ううん、何でもない。」
「そっか、ももは佐紀と喧嘩しちゃった。」
「え?」
桃子の言葉に梨沙子は素直に驚いた。
桃子と佐紀は仲が良くて、言っちゃ悪いがバカップルに近い。
よく佐紀が桃子をからかっているがそれは信頼があるからできるものだと梨沙子は知っている。
そんな二人が喧嘩したという。
梨沙子の首は自然と不思議そうに傾いていた。
「何で?」
だから梨沙子の口からその言葉が出るのは当然で。
桃子は梨沙子の言葉に唇を尖らした。
「佐紀に『あたしたちは付き合う前から両思いだよねー』って言ったら……。」
「え、そんな事言ったの?」
- 327 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:52
-
桃子らしいというか、自分には絶対できないと梨沙子は思った。
思わず出てしまった一言を桃子は頷くだけで流す。
そしてまた唇を尖らせると微かに俯いて言った。
「『それはないから』って言われちゃって。」
「でもそれは。」
それで喧嘩になったのだろうか。
梨沙子には信じられない。
なぜなら佐紀のその言葉は明らかに冗談で。
佐紀が本当にそう思っている訳が無いことは桃子だって知っているはずだ。
「うん、分かってる。佐紀が冗談で言ったんだってことくらい。」
苦笑いを見せる桃子。
その顔は梨沙子に桃子との年の差を確かに感じさせるものだった。
桃子は視線を先程まで梨沙子が立っていた窓へと視線を向ける。
- 328 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:52
-
「それでも、ももは『そうだね』って言って欲しかった。」
下がった口角も、情けない表情も、桃子らしくないと梨沙子は思った。
だが桃子の言葉は梨沙子にも共感できることがあって。
梨沙子も雅に言って欲しい。
理解していることでも、分かっていることでも。
改めてその本人から言われるのはやはり違うのだ。
「あたしも、あるよ。そういうこと。」
慰めるでもなく、ただ梨沙子は独り言のような口調で言った。
自分と桃子では悩みのレベルが違う。
しかし根本的なものに違いは無くて。
結局は好きな人の言葉が欲しいということなのだ。
「ももちとは全然違うけど。そういうの、あるよ。」
「りーちゃんも?」
きょとんと心底不思議そうな表情で梨沙子を見る桃子。
今度はそんな桃子に梨沙子が苦笑した。
- 329 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:53
-
「なんか、よく分かんなくなっちゃうんだよね。」
―本当にあたしとみやが付き合ってるのか。
付き合っているのは事実のはず。
梨沙子が告白して、雅は確かにそれを受けてくれた。
今でもその時の雅の真っ赤な顔を梨沙子は思い出せる。
しかしそれも過去のことだ。
梨沙子は暗い感情に包まれて自然と視線も低くなる。
「みやって本当に、あたしのこと好きなのかなぁ。」
くしゃりと梨沙子の顔が泣きそうに歪められて。
梨沙子はその感覚を自覚してぷいと顔を逸らした。
目頭が熱い。
嫌だ。
こんな事で泣きたくない。
泣いていると、泣いていたと知ったら雅は心配する。
幾ら鈍い雅でも隣に座って慰めてくれる。
それは今の梨沙子にとって苦痛でしかない。
恋人としての雅しか今の梨沙子は受け付けない。
曖昧な雅では、梨沙子は辛くなるばかりだ。
- 330 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:53
-
「みやは本当に梨沙子のこと好きだと思うよ。」
「でも……。」
いつの間にか隣に移動してきた桃子に顔を覗き込まれる。
その顔には既にさっきまでの悲しみの感情は見られなくて。
流石だなぁと梨沙子は思う。
その切り替えの早さも感情のコントロールもとても桃子らしかった。
「大丈夫だよ。さっきだって、みや、めっちゃ梨沙子のPV……。」
「ももっ!」
バタンッと大きな音がして、楽屋の扉が強く閉められたことを知る。
響いた声は梨沙子の耳に誰より馴染んだもので。
梨沙子は慌てた様子で入ってきた雅に視線を向ける。
雅の顔は久しく見ていないくらい赤くて。
梨沙子は一人首を傾げる。
- 331 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:54
-
「ふふっ、お邪魔虫は退散するね。」
雅が来たのをちらりと見た桃子はにっこりとした笑顔を梨沙子に向ける。
いつもの桃子過ぎるくらい、いつもの桃子だった。
完璧にぶりっ子を決めて桃子は楽屋を出て行こうとする。
梨沙子はその後姿に、何か言わなければと強く思う。
「もも!きっと大丈夫だからっ、佐紀ちゃんだって分かってるよ。」
梨沙子の言葉に桃子は一瞬足を止めたかと思うと小さく頷いた。
その時見えた横顔は困ったような苦笑いで。
桃子と佐紀は大丈夫だと梨沙子は思った。
桃子が楽屋を去るのを見ると雅は駆け足でこちらにやってきた。
「梨沙子っ、もも、なんか言ってた?」
「ううん、その前にみやが入ってきたから。」
雅の体温も感じ取れるのではないかと思う距離まで雅は寄ってきて。
梨沙子の腕を取ったかと思うとぐっと顔を近づけて聞いてきた。
梨沙子が緩く首を振って答えるとあからさまにほっとした表情をして。
何故だか少しむっとした。
- 332 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:54
-
「……みや、顔近いよ。」
「ああ、うん、ごめん。」
ゆっくりと雅の顔が離れていき、腕も放される。
握られた箇所が体温以上の熱を持っている気がして。
梨沙子はそこを自然ともう片方の手で押さえる。
雅が触れていたと思うだけど熱く感じる自分に苛ついた。
―なんで、あたしは、こんなにみやが好きなんだろう。
それに答えが無いことも梨沙子自身が一番良く分かっていた。
好きで、好きで、好きで。
どうしようもないのだから。
「みやはどうしたの?」
「うちは、PV見終わって感想とか言ってたら梨沙子がいなかったから。」
探していたと笑顔で言う雅に梨沙子は切なくなる。
いつもなら嬉しい言葉も今の梨沙子には負の感情を増進するばかりで。
だからちょっと意地悪をしてみたくなった。
- 333 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:54
-
「あたし、どうだった?」
「え?」
「今回のPVさ、みやから見てあたしどうだった?」
さっと頬に朱が差す。
雅がこういった感想を言うのが苦手なのを梨沙子は知っていた。
だからか好きは勿論、可愛いとか綺麗とかも梨沙子は余り言ってもらったことがない。
一歩足を進め、今度は逆に梨沙子が雅に近寄る。
逃げないように服の袖を掴むのも忘れない。
「……だった。」
「ん?」
真っ直ぐに目を見つめる梨沙子からプイと顔を逸らす雅。
口がぼそぼそと動くのが分かって。
梨沙子はわざと笑顔を作って聞き返した。
- 334 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:55
-
「綺麗だったってば!」
半ば切れ気味に雅が答えた。
その姿が、久しぶりに見た赤面する雅が可愛くて。
梨沙子はぎゅっと雅の腰に手を回し抱きしめた。
「大好き、みや。」
「ん……うちも。」
首筋に顔を埋めれば雅の匂いがした。
顔に当たる髪さえ梨沙子の安心する要素で。
梨沙子は更に強く雅を抱きしめる。
―付き合ってるって思っていいんだよね。
その言葉を信じて。
梨沙子はゆっくりと目を閉じた。
背中を撫でる雅の手が梨沙子を心地よくさせる。
- 335 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:55
-
「梨沙子。」
「なあに、みや?」
その手の動きが止まって。
呼ばれた名前に梨沙子は顔を上げた。
すると真っ赤な雅の顔が近づいてきて、梨沙子はそれを静かに受け入れた。
―みや、きれい。
幼い子供のようにただそう思う。
梨沙子にとって雅はずっと綺麗で格好良くて、憧れだった。
「うちが、こういう事するのは梨沙子にだけだから。」
キスが終わった後、素っ気無く言われた言葉。
分かりにくい、言葉。
だが梨沙子は確かに分かっていた。
それはつまり雅にとって梨沙子は特別ということで。
恥ずかしくて言えない代わりにキスをくれたという事を。
梨沙子はそれを理解して、ひっそりと微笑んだ。
- 336 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:56
-
「ありがとう、みや。」
付き合ってるのに片思い。
あなたの全てを奪いたい。
きっとそう思っているのは梨沙子だけじゃなくて。
ただこの恥ずかしがり屋の恋人は表に現せないだけなのだ。
梨沙子はそう思うことにした。
- 337 名前:―付き合ってるのに……― 投稿日:2008/01/06(日) 18:56
-
後で桃子に「あの時なんて言おうとしてたの?」と聞いたところ。
桃子は楽しそうに笑ってこう答えた。
―『みや、かなり、りーちゃんのPV見てたよ』って言おうとしたの。
―だからりーちゃんが心配することは何もないよって。
その答えに梨沙子は一瞬固まって。
しかし直ぐに心底嬉しそうに表情を崩した。
鈍感な恋人はそれでもしっかりと梨沙子を見ていてくれて。
だからこそ梨沙子は雅から離れることができないのだった。
―付き合ってるのに……―終
- 338 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/06(日) 18:57
-
- 339 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/06(日) 18:59
-
妄想初め、りしゃみやでしたw
いつものシリーズの方も妄想し取りますんで。
もう少しお待ち下さい。
ではまた妄想が溜まる日に。
- 340 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/06(日) 18:59
-
- 341 名前:YOU 投稿日:2008/01/06(日) 19:24
- どうもはじめましてYOUと申しますッ
これからも楽しみにしているので頑張って下さい!!!
- 342 名前:名無し飼育 投稿日:2008/01/06(日) 20:50
- かわいいなぁ、話も二人も。
新年早々、素敵な話をありがとう。
- 343 名前:名無し飼育 投稿日:2008/01/07(月) 00:27
- 初めまして。
年末に見つけて草板の方からガーッと読ませていただきました。
作者さんの書かれるりしゃみや、りしゃゆり、りしゃもも、
どれもめちゃめちゃ大好物です。今後のお話も楽しみにしてます。
- 344 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/10(木) 07:21
- 萌えさせていただきました
- 345 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/13(日) 21:41
-
今回の更新で一端、口端にキスシリーズは終わろうと思います。
りしゃゆり、りしゃもも、りしゃみやとそれぞれの終末を作りましたw
こればっかりは個人の嗜好だと思うので。
自分の好きなものを、好きな順に読んでください。
りしゃみや以外認められない方なら他の二つは読まない!!となっても仕方ないと思いますw
<<341:YOUさん
始めまして、CPヲタです。
はい、頑張ります!!
と言いつつこのスレは終わってしまうのですがw
また気に入ったら他の短編も読んでください。
<<342:名無し飼育さん
そう言って貰えるととても嬉しいですw
照れる雅ちゃんと落ち込むりーちゃんはヤバ可愛いです(ナニ
こちらこそ新年早々読んでくださりありがとうございました!
- 346 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/13(日) 21:42
-
<<343:名無し飼育さん
初めまして!!
草版のほうからだと結構大変だったのではないでしょうか?(ニガ
妄想しか取柄の無いやつが書く駄文ですがこれからも楽しんでくださいw
<<344:名無飼育さん
あっとうございます!
自分の萌えを形にしたものに萌えてもらうと嬉いっすw
では今回の更新です。
- 347 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/13(日) 21:44
-
まずはりしゃゆり。
熊井ちょーの思うこと。
- 348 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/13(日) 21:44
-
- 349 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:44
-
白い雪。
刻む痕。
見上げた空。
二人並んで、初めて掴んだ気持ちだった。
- 350 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:44
-
―彼女の気持ち―
- 351 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:45
-
「りーちゃん、早く来ないかな。」
目の前を流れるのは華やいだ初詣の人ごみ。
友理奈は真っ赤な鳥居の柱をぼんやりと見上げる。
雪が降りそうなほど白い空にその赤は鮮やかに映えた。
ざわざわと心が浮き足立っているのが分かる。
それは友理奈もだし、視界に映る誰もがそうに違いなかった。
あと数時間で年が明ける。
今日はそういう特別な日。
そして友理奈たちにとってはもう一つ違う意味を持った日。
―初めてだよね、りーちゃんと二人で出かけるのって。
しかも恋人として。
一年前の自分はこうなることを少しも予想もしていなかった。
去年、友理奈は平凡に今年一年元気に過ごせますようにと願っただけだ。
本当に人生何があるか分からない。
- 352 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:45
-
「ゆりー!」
愛しい声が聞こえてきて友理奈は鳥居から背中を離した。
辺りを見渡すように顔を動かす。
すぐに見つけた。
友理奈のように背があるわけでもない梨沙子は人波に埋もれてしまっていて。
でも分かった。
「りーちゃん、こっちだよ。」
きらきらとまるで梨沙子の周りだけ縁取られているようにくっきりと。
友理奈の目には見えた。
軽く手を振って梨沙子に自分の居場所を示す。
見えては消え、頭が微かに見えたかと思うとすぐに隠れてしまう。
自分が動いたらそれこそ梨沙子は目印を見失って迷子になる。
迎えにいくこともできず、じっと梨沙子の到着を待つ。
「っはぁ。ごめん、ゆり。遅くなった。」
「いいよ、大変そうなのは良く見えたし。」
- 353 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:45
-
飛び出すような勢いで人ごみから梨沙子が出てきた。
直進する流れの中で友理奈の方へ横切ってくるのはきつい事だ。
それは見ていた友理奈が一番良く知っていた。
半ば息切れしている梨沙子を見て微笑む。
「……ん、行こう?」
大きく深呼吸して梨沙子が言った。
無理やりなのは良く分かる息の整え方だった。
大丈夫と傾げた首は差し出された手によって直ぐに縦に振られた。
友理奈に手を差し出す梨沙子の顔はもう前しか向いてなくて。
だから友理奈に残されたのはその手を取ることだけだったのだ。
「もう少し、止まってても良かったんだよ?」
流れ出す風景。
神社の本殿までの石畳の両側をずっと屋台が並んでいる。
普段は目にしないちょっと赤味がかった灯りが友理奈たちを照らす。
背の問題か、いつの間にか友理奈が前に来ていて。
友理奈はちらりと後ろを振り返る。
- 354 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:46
-
「いい、一杯遊ぶんだもん。」
僅かに膨らんだ頬。
ちょっと尖った唇。
まさに拗ねていますという表情だった。
友理奈が良く見る梨沙子の顔。
―甘えられてるってことなんだけどなぁ。
やっぱり、どうせなら見たいのは笑顔で。
甘えられるのは嬉しい。
梨沙子に受け入れられたということだから。
そこまで分かっていながら不満に思う。
自分自身の思考に友理奈は苦笑した。
「……贅沢かな。」
- 355 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:46
-
ぽそりと呟いた言葉は直ぐに人ごみにまぎれて消えていく。
少し前までは会えるだけでよくて。
ちょっと前に梨沙子を欲しくて仕方なくなって。
今は梨沙子と恋人になれて、その上で悩んでいる。
知らず友理奈は梨沙子と繋いだ手に力が入っていた。
それは確りと梨沙子に伝わり、逆に梨沙子から手を引っ張られた。
「ゆり?」
「ううん、何でもないよ。」
ふるふると首を振り気にしないでと示す。
梨沙子のせいではないし、これはまるっきり友理奈の我侭だ。
そんな友理奈を見て梨沙子は一瞬不思議そうな顔をしたかと思うと
すぐにきらきらした笑顔に切り替わった。
「なら、屋台見よ?食べたいものも一杯あるし。」
梨沙子の言葉に友理奈は周りを見渡した。
友理奈の背だと人ごみから少し抜け出していて。
周りに何があるかは梨沙子よりずっと見やすいのだった。
- 356 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:47
-
「うーん、わたあめとか?あ、奥にはりんご飴があるみたい。」
目を細めて遠くまで見る。
延々と続く人ごみを挟む屋台の行列。
その僅かに見える文字や置いてあるものから食べ物屋さんを言う。
「わたあめも食べたいけどなー……りんご飴も食べたいし。」
立ち止まる二人の横を次々と追い越していく人の波。
まるで違う空間に取り残されたようだと友理奈は思った。
動く空間と止まる空間。
その中で梨沙子と友理奈の二人きり。
「ゆりは何がいいの?」
「あたし?」
ちょっとびっくりした。
友理奈に特に希望は無かった。
あえて言ったとしても梨沙子が好きなものという在り来りな答えしか返せない。
友理奈は梨沙子が喜ぶ顔が好きで、輝く横顔が好きで。
それを自分のものにしたくて、まっすぐにその輝く顔を見たくて。
友理奈は手を伸ばしたのだから。
- 357 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:47
-
「……梨沙子が好きなのでいいよ。」
それでも結局返せたのはその在り来りな答えしかなくて。
友理奈は困ったように笑った。
すると梨沙子はやはりその答えが気に入らなかったらしく。
闇に映える白い肌と対照的な赤い唇を少し尖らせた。
「もう、そうじゃなくて。」
「時間はたくさんあるんだし、ゆっくり全部回ったら?」
梨沙子の言いたいことは分かっていた。
だから友理奈は全て聞くことはせず、妥協案とも言える提案を出す。
時間を確認するまでも無い。
初詣という目的を果たすのに数時間、そのあとまた屋台を見て。
まだまだ時間はあるのだ。
「じゃあ、とりあえず、クレープ食べる。」
ちらりと梨沙子が一番近くにあるクレープの屋台を見て言った。
甘い甘い笑顔。
わくわくしているのが分かった。
歳相応の幼い表情。
友理奈はその様子を見て頬を緩めたのだ。
- 358 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:47
-
- 359 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:48
-
「んー、終わっちゃたねぇ。」
「ねぇ。」
初詣も除夜の鐘も全て終わって。
友理奈は梨沙子の家へと足を進めている。
あの後、二人で色々なものを見て、食べて、楽しんだ。
今はその楽しさがまだ残っていて、まったりと歩いていた。
周りにはちらほらと友理奈たちのような初詣帰りの人たちがいて。
いつもだったら絶対歩けない夜の道も華やかな雰囲気だった。
「楽しかったね。」
「ね、楽しかった。」
ニコニコと機嫌の良い梨沙子の頬は薄らとピンクに染まっていて。
テンションの高さを表しているようだった。
「んふふー、ゆりに良いこと教えてあげようっか?」
「ええー、何?」
- 360 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:48
-
ぴょんと一歩前に飛び出した梨沙子はくるりと友理奈のほうを向いて。
完璧な上目遣いで友理奈を見る。
それはずるいくらい様になっていて、可愛いなぁと友理奈は素直に呟いた。
まるで酔っている様な勢いで言う梨沙子に合わせて自然とトーンが高くなっていた。
「あたしね、楽しかったからゆりと一緒にいたいと思ったんだよ?」
「え?」
唐突な言葉。思いもしなかった言葉。
友理奈はぽかんと口を開けたまま固まった。
その友理奈の前で梨沙子はもう一度背を向けると大切に話し始めた。
「苦しくて、切なくて、恋の楽しさなんて忘れてた。恋のドキドキなんて忘れてた。」
矢継ぎ早に話す梨沙子は実はかなり珍しい。
友理奈は口を挟むことができなくて、挟む気も無くてただ耳を傾ける。
梨沙子が大事に大事にとっておいてくれた想いなのだから。
- 361 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:49
-
「みやが好きだった。ももが好きだった。あたしにとって二人とも切り離せない、大切な人。」
「うん。」
「だけど、だから選べなかった。いつか選ぶときが来るのは分かってて、その日が来るのが嫌で。」
「……うん。」
雅が梨沙子を選ぶ、もしくは梨沙子が桃子を選ぶ。
そんな日が来るはずだった。
梨沙子の前に合ったのは本来そのどちらかで。
自分を選んでくれたのは本当に奇跡的なことだと友理奈は思っている。
「あたしはみやが好きだった。だけどいつの間にかももを切り離すこともできなくなって。」
ぎゅっと梨沙子が奥歯をかみ締めるのが分かった。
それは痛いほどの想いの発露。
「動けなくなった。」
よく分かる言葉だった。
友理奈もずっと見てきた関係だったのだから。
- 362 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:49
-
「だけど。」
梨沙子がくるりとこちらに振り向いて、柔らかい笑顔を見せた。
ふわりと梨沙子のコートの裾が広がって、色素の薄い髪が軽やかに舞った。
眩しいほど綺麗だった。
それは友理奈がよく梨沙子に抱く感情だった。
切望のような羨望のような憧憬のような。
「ゆりが入ってきた。ゆりと一緒の時間は楽しくて、ドキドキして。久しぶりに思い出したの。」
「……何を?」
「恋って気持ち。うきうきしてドキドキして、楽しくて仕方なかった昔。」
―だからあたしはゆりが好きになったんだ。
そう語る梨沙子の顔は清々しいほどの笑顔で。
梨沙子はすでに大人のようだった。
自分より年下なのに、乗り越えた山谷はきっと自分より険しい。
- 363 名前:―彼女の気持ち― 投稿日:2008/01/13(日) 21:49
-
泣きそうな感情も、切ない想いも。
全て乗り越えて梨沙子は自分を選んでくれた。
愛しくて、愛しくて仕方なくなった。
友理奈は梨沙子をギュッと抱きしめた。
「ありがとう、りーちゃん。」
繊細な少女なのを知っていた。
傷つきやすい少女なのを知っていた。
だけど梨沙子はそれを越えてすっかり女性になっていた。
―もう、なんでそう、上をいっちゃうかな。
追いついたと思ったら離れて。
友理奈は梨沙子に様々なことを教えてもらった。
梨沙子を見て人を好きになるということがどういうことなのかを学んだ。
梨沙子を見て恋が楽しいばかりのものでないと分かった。
そっと重ねた唇はファーストキス。
友理奈と梨沙子が付き合いだして始めて進んだ一歩だった。
―彼女の気持ち―終
- 364 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/13(日) 21:50
-
- 365 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/13(日) 21:51
-
俯いて喋るりーちゃんを想像してくれたら幸いです。
では続いてりしゃもも。
両思いなのに片思いっぽい話です。
- 366 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/13(日) 21:51
-
- 367 名前:―聖なる夜― 投稿日:2008/01/13(日) 21:52
-
手に入った彼女は時々遠くを見つめている。
冬の空を見つめるその姿はとても儚くて。
だから桃子は尋ねてみたくなったのだ。
「なんであたしを選んでくれたの?」と。
- 368 名前:―聖なる夜― 投稿日:2008/01/13(日) 21:52
-
―聖なる夜―
- 369 名前:―聖なる夜― 投稿日:2008/01/13(日) 21:53
-
ちらりちらりと舞う雪を避けるように桃子は足を速める。
桃子にとっては珍しい失敗だった。
昼過ぎから振り出した雪は止むことが無く。
道は車で混雑した。
当然桃子の乗ったバスも軽い渋滞に巻き込まれて。
結果、梨沙子との待ち合わせに二十分近く遅れているのだ。
―あちゃー、りーちゃん怒ってるよね。
ちらりと見た腕時計に眉がしかめられる。
待ち合わせ場所まではもう直ぐだ。
大きなモミの木の下。
綺麗に飾り付けられたそれは遠目からでもよく見えた。
- 370 名前:―聖なる夜― 投稿日:2008/01/13(日) 21:53
-
「りーっ。」
―りーちゃん。
投げかけようとした言葉はもう一度桃子の中に戻っていく。
そこに梨沙子はいた。
予想していたように怒ってはいなくて。
ただ静かにモミの木を背にしてビルの合間の空を見つめていた。
―……きれい。
キラキラと光るクリスマスツリーを背に空を見上げる少女。
それはまるで一幅の絵の様で。
桃子は足を止めて立ち尽くす。
赤いマフラーに埋められた顔。
微かに漏れ出す白い吐息。
ちょっと寒そうに立つその姿さえ、まるで縁取りされたように桃子には目だって見えた。
- 371 名前:―聖なる夜― 投稿日:2008/01/13(日) 21:53
-
桃子に気づいたのか梨沙子がこちらを見て、微笑む。
にっこりと零された笑顔は酷く淡くて。
桃子は一瞬不安になった。
この少女は本当に自分の知っている彼女なのだろうか。
「ももち、遅いよ。」
「あ、うん、ごめん。渋滞に巻きこまれっちゃって。」
そう言われて桃子はやっと動き出す。
小走りに梨沙子に駆け寄って。
その自分より少し高い位置にある顔を見上げる。
「いいよ、ももだし。」
優しい表情だった。
整いすぎているくらい、整いすぎている顔だった。
その言葉に更に違和感を募らせる。
- 372 名前:―聖なる夜― 投稿日:2008/01/13(日) 21:54
-
―ももだし?
それは梨沙子からは絶対に出るはずの無い言葉。
そんな甘い言葉を梨沙子が自分にくれるわけがない。
梨沙子からその言葉を貰えるのは。
梨沙子から甘い言葉を貰えるのは。
―……ももじゃない。
たった一人、彼女だけだ。
その事実に全てが暗転する。
綺麗だったイルミネーションも。
楽しそうに周囲を歩いていた人々も。
勿論梨沙子も。
全てが闇に包まれて、残ったのはちらちらと舞い落ちる雪と桃子だけ。
- 373 名前:―聖なる夜― 投稿日:2008/01/13(日) 21:54
-
「りーちゃん。」
―……結局、ももは手に入れられなかった。
呟いた言葉は闇に吸い込まれて。
桃子は先ほどの梨沙子のように上を見つめる。
真っ暗闇から落ちてくる白い結晶。
綺麗で、悲しくて。
桃子の頬に触れては溶けていく。
雪と共にいつの間にか桃子の頬には涙が流れていた。
―りーちゃんはみーやんと。
その瞬間今まで見てきた梨沙子が。
梨沙子の顔が、体が、笑顔が浮かんでは消えていく。
そしてそれは段々と雅と一緒のときの梨沙子の映像になって行き。
桃子はどんどんと苦しくなる。
―いや、いや、いやいやいやいやぁっ!
- 374 名前:―聖なる夜― 投稿日:2008/01/13(日) 21:55
-
「っ……!はぁ……、ゆ、め?」
叫びそうになって、飛び起きた。
体を包む布団の感触に安心して一気に全身の力が抜ける。
部屋はまだ真っ暗で、深夜といっていい時間帯だという事はよく分かった。
―最悪。
なんであんな夢など見てしまうのか。
心臓がバクバクと激しく波打っている。
その鼓動を収めるように桃子は自分の胸元に手を置いた。
膝も抱き寄せて、所為体育座りと言う奴だ。
「ぅ……ん、もも?」
「りー、ちゃん。」
もぞりと隣の布団の山が動いた。
そこから響く声に安堵する。
肩から上だけを出して桃子を見つめる梨沙子。
陶磁のように白い肌は暗闇でも桃子の目に映えた。
- 375 名前:―聖なる夜― 投稿日:2008/01/13(日) 21:55
-
「どうし、たの?」
「ちょっと、悪い夢見ちゃってね。」
寝ぼけているのだろう。
半分も開いているとは言えないその瞳。
その割に桃子の元に伸びてきた手は確りとしていて。
桃子はそのまま引き寄せられた。
「あたしは、ここにいるよ。」
梨沙子の低めの声が聞こえる。
桃子は梨沙子に抱きしめられたままそっと目を閉じた。
布団の中で感じる生の体温。
素肌と素肌が触れ合って。
人肌がこんなに心地いいものだと桃子は梨沙子と出会って初めて知った。
- 376 名前:―聖なる夜― 投稿日:2008/01/13(日) 21:55
-
―なんで、分かっちゃうかなぁ。
梨沙子には昔からそういう所があった。
時々言ったわけでもないのにまるで桃子の心を読んだかのように行動してくれる。
その度に桃子は梨沙子に救われて。
ますます梨沙子を好きになっていった。
「りーちゃんがみーやんと。」
梨沙子の胸に顔を埋めたまま桃子は喋る。
ぽんぽんと背中を宥める感触が嬉しい。
すうっと思い切り梨沙子の匂いを吸う。
少し落ち着いた気がした。
「あたしと、みやが?」
「一杯になる夢を、見たの。」
理解できないかもしれない。
だけど桃子の中にそれ以外の言葉はなかった。
桃子は梨沙子に置いていかれて、梨沙子と雅に溢れた空間に取り残された。
それは何よりも苦しいこと。
- 377 名前:―聖なる夜― 投稿日:2008/01/13(日) 21:55
-
「……そっかぁ。」
その言葉に苦笑いが含まれている気がした。
梨沙子はそれを仕方ないと思うのだろうか。
梨沙子が雅じゃなくて、桃子を選んでくれたのはたった一週間前なのだから。
まだ桃子には梨沙子が手に入ったという感覚がない。
「でもね、あたしはももを選んだんだよ。」
「うん。」
だからここにいるんだよと言うように桃子の体に回った腕に力が込められた。
分かっている。
頭では理解している。
だけど長年染み込んだ片思いが。
桃子に信じさせてくれないのだ。
- 378 名前:―聖なる夜― 投稿日:2008/01/13(日) 21:56
-
「ねぇ、何でりーちゃんは。」
―ももを選んでくれたの?
続く言葉は言うことができなかった。
いつの間にか目の前に真っ直ぐに自分を見つめる梨沙子の顔。
その穏やかさに桃子は続けることができなかった。
「そういう所。」
「え?」
「ももってあたしには甘いから。いろんな事我慢してる。」
ふふと小さく笑って梨沙子が言葉を続ける。
梨沙子の声はとても和やかで。
桃子の不安は急速に退治されていく。
- 379 名前:―聖なる夜― 投稿日:2008/01/13(日) 21:56
-
「そういう所が放っておけなくてあたしはももを選んだんだよ。」
「そう、なんだ。」
それは知らなかった。
自分が梨沙子に甘いことは既に何度も自覚していた。
しかし梨沙子がそれを分かって、その上行動していたとは。
驚いた。
あの小さくて幼くて我侭なお姫様が、いつの間にか立派な女の子になっていたのだ。
「ずるいよ、りーちゃん。」
―どんどん、どんどん、ももばっかり好きになってる気がする。
梨沙子の腕の中で呟けば楽しそうに笑う声が聞こえた。
桃子の言葉が楽しくて仕方ないという風な笑い。
- 380 名前:―聖なる夜― 投稿日:2008/01/13(日) 21:57
-
「あたし、ももちのこと好きだよ。ずっと側にいてくれて、支えてくれた。ごめんね。」
「謝んないでよ、ももが好きでやったことだし……今はもうもものだから。」
「そだね。」
すまなそうな顔から穏やかな笑顔まで、くるくると変わる表情。
その表情を見つめて桃子は思う。
自分はもう手に入れたのだと。
ずっと欲しかったものを、この手の中に。
あんな夢はもう見ない。
桃子は少し顔を上げて梨沙子の唇にキスをした。
不覚にも涙が出てきそうなほど幸せだった。
―聖なる夜に―終
- 381 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/13(日) 21:57
-
- 382 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/13(日) 21:58
-
布団の中で肩を寄せ合うりしゃももを想像してくださると幸いです。
最後にりしゃみや。
りーちゃんの想いが叶うとき。
- 383 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/13(日) 21:59
-
- 384 名前:―唇にキス― 投稿日:2008/01/13(日) 21:59
-
口付けが欲しいと思った。
彼女からの真っ直ぐな口付けが。
掠めたのでも、曖昧なものでもない。
しっかりとした恋人同士のキスがしたかった。
- 385 名前:―唇にキス― 投稿日:2008/01/13(日) 22:00
-
―唇にキス―
- 386 名前:―唇にキス― 投稿日:2008/01/13(日) 22:00
-
目が覚めた。
目の前にあるのは知っているけど慣れ親しんだ天井じゃなかった。
初めてと言っていいほどすっきりと冴えた頭は直ぐに状況を認識する。
雅の家だ。
自分の家ほどではないが小さい頃から何度も泊まりに来ている家。
その何度も雅と一緒に寝たベッドの上で梨沙子は目覚めたのだ。
「梨沙子、起きたの?」
「みや。」
「休みだからって寝すぎ。しかも人の布団で、昼寝って。」
呆れた顔で雅が言った。
緩く上半身を起こせば、覗き込むようにしていた雅の体も一緒に動いて。
さらに梨沙子の頭は思い出す。
そう今日は雅の家に泊まる日で梨沙子は昼前から雅の家に遊びに来ていた。
- 387 名前:―唇にキス― 投稿日:2008/01/13(日) 22:00
-
―あー、みやの布団が気持ちよくて寝ちゃったんだ。
雅の部屋は梨沙子にとって何より落ち着く場所で。
ころんと横になったベッドで襲ってきた睡魔に勝てず、寝てしまったのだ。
雅も雅で梨沙子が寝るというのは珍しくないので放っておいてくれたのだろう。
上半身を起こしたまま、軽く頭を振る。
視界の端に椅子に座った雅が見えて。
梨沙子はそちらに顔を向けた。
布団から出る気は更々起きなかった。
「……梨沙子って、無防備だよね。」
じっと梨沙子を見て雅が言った。
その言葉に込められた感情が分からなくて梨沙子は首を傾げる。
するとまた雅ははぁと大きくため息をついて。
ゆっくりと椅子から立ち上がった。
くしゃくしゃと髪を掴みながら歩くその姿は珍しい。
- 388 名前:―唇にキス― 投稿日:2008/01/13(日) 22:01
-
「何処でも寝るし、そういう仕草も無意識にするし。」
ベッドサイドに立った雅が梨沙子を見下ろす。
その表情は暗くてよく見えない。
しかし何処か拗ねている様な、怒っている様な表情をしているのが分かった。
とんと肩を押されて梨沙子の体は再びベッドに沈んだ。
怖くはない。
勿論、嫌ではないし抵抗する気も無い。
ただ不思議でしょうがなかった。
「襲われたらどうすんの?うちにだってそういうのあるんだよ?」
ベッドに横たわった梨沙子の上に雅が乗る。
頭の横に腕をつかれて、雅の顔が真上に来た。
ぎらぎらとした目は熱く梨沙子を求めていて。
我慢なんてしなくていいのにと梨沙子は思う。
それと同時に自分の中にイラつくものがあるのを感じた。
- 389 名前:―唇にキス― 投稿日:2008/01/13(日) 22:01
-
だって我慢していたのは雅だけじゃなくて。
むしろ梨沙子の方がずっと我慢してきた。
自分の隣で平和そうな寝顔を見せる雅を見て。
何も考えずにおかずを差し出してくる雅を見て。
顔では笑っていても心の中で奥歯を噛んでいたことなど幾らでも有るのだ。
だから梨沙子は雅の首に手を回して、ぐっと雅を引き寄せた。
「っ。」
「んっ……はぁ。」
さらりと雅の髪が顔にかかる。
唇が触れる直前まで開いていた視界にはしっかりと雅の驚いた顔が映っていた。
柔らかな感触。
梨沙子が欲しかったもの。
その唇を通して雅が息を呑む音まで伝わってきて。
梨沙子はそっと唇を離す。
- 390 名前:―唇にキス― 投稿日:2008/01/13(日) 22:01
-
「あたしにだって、あるもん。」
零れた言葉は自然と拗ねたような響きを含んでいて。
譲れなかった。
許せなかった。
雅だけが我慢しているような物言いは。
梨沙子だって雅が欲しいのだ。
「我慢したのは、してきたのは、みやだけじゃないもん。」
「……梨沙子。」
赤い顔をした雅が梨沙子の瞳に映る。
可愛かった、綺麗だった、愛しかった。
全ての感情を込めて梨沙子は微笑む。
- 391 名前:―唇にキス― 投稿日:2008/01/13(日) 22:02
-
「みやが好き。ずっと好きだった。」
―みやになら全てをあげる。
そう断言できるほど梨沙子は雅を愛していた。
桃子を振り切って。
友理奈の手を払って。
梨沙子は雅を選ぶしかできなかった。
「みやが、好きなんだよ。」
自分に言い聞かせるように梨沙子は言った。
悲しいほど事実だった。
雅が好きで、好き過ぎて。
梨沙子は身動きが取れないのだ。
- 392 名前:―唇にキス― 投稿日:2008/01/13(日) 22:02
-
―何でなのかなぁ、みや。
泣きそうな顔で頷く桃子を思い出せる。
ぐっと唇を噛んで我慢する友理奈をはっきりと覚えている。
全て分かっていた。
桃子との関係を続けたら。
友理奈に心許したら。
その結末はこうなるしかないのだ。
最後に梨沙子が選べるのは雅だけなのだから。
桃子を泣かせても、友理奈を悲しませても。
その事に自分自身の心が傷ついても。
答えを一つしか持っていない。
梨沙子はそんな自分が大嫌いだった。
- 393 名前:―唇にキス― 投稿日:2008/01/13(日) 22:03
-
「……分かってる、分かってるから。梨沙子。」
「みや。」
「だからそんな泣きそうな顔、しないで。」
泣きそうな顔をしないでという雅の方が泣きそうだと梨沙子は思う。
そっと壊れやすいものに触るように雅の手が梨沙子の頬に伸びた。
梨沙子はそれを受け入れる。
すっと輪郭を撫でるように雅の手が動いて。
最後に目の下を擦るように撫でていく。
まるで涙を掬うような動作。
雅には梨沙子の頬を流れる涙が見えたのだろうか。
「泣いてないよ?」
「泣いてるよ。」
すとんと梨沙子の顔の横に雅が落ちてきて。
雅はそのまま梨沙子の肩に顔を埋めた。
その感触が慣れなくて、くすぐったくて梨沙子は顔を少し動かした。
- 394 名前:―唇にキス― 投稿日:2008/01/13(日) 22:03
-
「うちを、選んでくれて……ありがとう。」
ぼそぼそと途切れ途切れに雅が言った。
恥ずかしがり屋の雅らしい言い方だと梨沙子は思う。
それと同時に雅がなぜ泣きそうな顔をしたのか梨沙子は分かった。
雅だって理解していたのだ。
梨沙子の針は三人の間で常に揺れていて、でも雅にしか傾かないことを。
そしてその行為が梨沙子にとって辛さを伴うことを。
―気にしなくていいのに。
だけど梨沙子は知っている。
だから雅が気にする必要が少しも無いことも分かっている。
思ったことはするりと口を滑って出て行く。
「馬鹿だなぁ、みや。」
自分の腕の中にいる雅を確かめるように梨沙子はぎゅっと抱きしめる。
雅の肩が跳ねる。
その動作さえ愛しくて、梨沙子は顔を緩ませた。
静かに目を閉じて雅の耳に唇寄せて言う。
- 395 名前:―唇にキス― 投稿日:2008/01/13(日) 22:03
-
「あたしが一番辛いのは、みやが選んでくれないことだよ。」
何より梨沙子が辛いこと。
それはやはりそれ以外なくて。
その気持ちが見えたときから、梨沙子の中で結果は一つだけ。
「っ……梨沙子。」
わずかに顔を上げた雅の視線がいいのかと訊いて来た。
その視線に笑って応える。
何度も自分の中で繰り返してきた問いだった。
雅以外を好きになれないのか。
むしろこの気持ちは本当に“好き”という気持ちなのか。
何度も何度も確認して、認識して、たどり着いた答え。
「良いも何も、しょうがないじゃん。」
幼い頃からずっと持っていた感情は、いくら待っても消えてくれなくて。
梨沙子は諦めたのだ。
雅を好きな自分を変えることを。
- 396 名前:―唇にキス― 投稿日:2008/01/13(日) 22:04
-
―みやのことだけは、ね。
頑固になる自分。
だけどそういう自分を嫌いにもなれなくて。
雅がいることで湧き上がる様々な感情。
全てひっくるめて梨沙子は今、ここにいる。
「あたしはみやが好きで。辛くても、苦しくても、みやが好きなんだもん。」
いらないものを全て排除して。
最後の最後に残る感情。
それは結局、雅が好きという唯一つだけなのだろう。
「梨沙子、うちもっ。」
好きだよという単語は宙に消えた。
くしゃくしゃな顔で雅が言って。
梨沙子の唇にキスが降ってきた。
唇と唇がしっかりと触れ合うキスだった。
- 397 名前:―唇にキス― 投稿日:2008/01/13(日) 22:04
-
年上の彼女を。
年下の彼女を。
ずっと好きだった。
ずっと大切にしていた。
そして今は誰よりも何よりも。
きっと彼女を愛している。
―唇にキス―終
- 398 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/13(日) 22:05
-
- 399 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/13(日) 22:09
-
襲い、襲われるりしゃみやを感じてくださいw
これで一応このシリーズは終わりという事になります。
ですが書き足りないなと思ったり、その後が見たいと思ったら随時足していく予定ですw
もし読者さんでこの場面が欲しいみたいなのがあったら書いてください。
それにより妄想が広がったら、書きますww(テキトー
ではしばらくは繋がりの無い短編をあげていくことになると思いますが。
また妄想の溜まる日まで。
- 400 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/13(日) 22:12
-
最後に
>>349
りしゃゆり:彼女の気持ち
>>367
りしゃもも:聖なる夜
>>384
りしゃみや:唇にキス
好きな所からお読み下さい。
- 401 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/13(日) 22:13
-
- 402 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/13(日) 22:17
- どのカプヲタにも優しいエンディング、嬉しかったですw
個人的にはりしゃみやがぐっときました
- 403 名前:名無し飼育 投稿日:2008/01/13(日) 22:32
- 哀しくないお話で涙を初めて流しました。
りーちゃんよかったねりーちゃん。
そんなわけでりしゃみやヲタなので「唇にキス」を読ませて頂きましたが、
りーちゃん、思いが通じてよかったね。
この一言です。よかった!><
長きにわたりお疲れ様でした。
- 404 名前:名無し 投稿日:2008/01/13(日) 22:42
- 自分はりしゃみや派だけれども、どのお話も素敵でした、
最後の3つだけでなく、スレ全体通して。
それは作者さんの文章の優しさ故だと思います。
作者さんご自身も繊細な方なのだと推察しています。
また妄想がたまって書いてくださるのを心から待っています。
そして、それがりしゃみやだとやっぱり嬉しいですw
- 405 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/13(日) 22:46
- 泣きました゚。(p>∧<q)。゚゚
りしゃみやがすごいよかったです!!感動しました。
これからも、続編とか新しい話も期待しています!もっと、CPヲタさんの書くりーちゃん絡みの小説が読みたいです。
応援しているので、頑張ってください!
- 406 名前:YOU 投稿日:2008/01/14(月) 00:08
- 最高でしたッ(ノ><)ノ
自分はりしゃみや派なんですけど、りしゃゆりとりしゃももの話になんの抵抗もなく読めました。
また新しい小説楽しみにしていますッ!!!
- 407 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/14(月) 03:08
- 完結ありがとうございました
りしゃみや派の方が多いんですね
白桃に一票!本当に良いりしゃももだったな熊井ちゃんもカッコ良かったけど…
作者さんの妄想が溜まるのを楽しみに待ってます
- 408 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/15(火) 08:30
- りしゃみや派だったんだけど意外にもりしゃゆりにかなりグッときてしまった・・・でもどれも良かったです
素敵なお話をありがとう。お疲れさまでした!
- 409 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/15(火) 19:30
- 地道にりしゃももを応援してきましたが、
ももちの想いが哀しくて、でも、幸せでよかったです。
ゆりりしゃも爽やかでステキでした。
みやりしゃは言わずもがなな感じでw
お疲れ様でしたー!
- 410 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/16(水) 10:15
- 毎回ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ンさせて頂いておる者です。
ありがとうございました。
一つ一つが心に沁みて順番通りに読み最後は涙がずっと出てました。
今まで呼んだベリ系小説の中で私の心に間違いなく深く刻まれました。
本当に毎回感動とドキドキを、色々な想いの作品をありがとうございました。
私はこの作品でならりーちゃんは誰とくっついてもいいと思ってましたがりしゃみやのりーちゃんが1番涙が出ました。
好きな人に好きと思ってもらえるのが1番だなと感じました。
それではまた作者様が新しい作品を書くことを小さく期待して待ってます。
素敵な瞬間をありがとうございました。
- 411 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/21(月) 00:16
- ちょっとしか出てないがなにげに千奈美がカワイソウだったな
.゜.(ノ∀`).゜.。
- 412 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/23(水) 11:12
-
ネタが無いーorz
萌え分が足りなくてちょっと死にそうな今日この頃です。
402<<名無飼育さん
ただ単に書いている人がどのカプも切れなかっただけですw
結局CPヲタはCPヲタです(エ
りしゃみやはりーちゃんの基本何でそう言ってもらえると嬉しいです!
403<<名無し飼育さん
ありがとうございます!
唇にキスはこのスレタイを考えたとき、自然にラストのタイトルとして思い浮かんだものです。
関係の進展が微妙にタイトルに滲んでますw
404<<名無しさん
いやいや、そんなに褒められると照れてしまいますよw
自分もりしゃみや派だったはずなんですが……(エ
今ではもう雑食カプヲタです(ワラ
これからも元気に妄想しますw
405<<名無飼育さん
あっとうございます!
りしゃみやはなんだかんだで一番りーちゃんの想いが長いカプですからw
こっちとしても頑張りました。
楽しんでもらえならよかったです!
- 413 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/23(水) 11:19
-
406<<YOUさん
最高でしたかっ?嬉しいっす!
りしゃみや好きな人でも楽しめるように書いたつもりです。
りしゃみやを乗り越えない限り他のカプは成り立たないんで。
できる限りりーちゃんの心の変遷が伝わってくれるといいですw
407<<名無飼育さん
そうですねw
自分もりしゃみや派の人が思ったより多くて驚きますた。
なんとか黒くならず白桃で通すことができましたw
りしゃももを書くと自然になるんで。
これからもお目にかけることが出来ると思います。
408<<名無飼育さん
あ、そうなんですか?
りしゃゆり気に入ってくれた人が少ないみたいなんで嬉しいです。
自分的には一番りーちゃんが話したカプなんで。
ここのりーちゃんが一番成長している気がしますw
- 414 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/23(水) 11:30
-
409<<名無飼育さん
ももちは両思いになったのに、切ない感じになりましたねーw
そして何故か怪しい雰囲気が一番勝手に出てました。
りしゃゆりは楽しく、りしゃみやは幸せって感じで書いたんで。
全て楽しんでもらえたら幸いです!
410<<名無飼育さん
毎回ハァーン楽しみにしてましたw
これからどんどんベリの話は出てくると思うんで。
こんな話もあったなー程度でも思ってくださるとかなり嬉しいです!
やはりりーちゃん絡みの根本はりしゃみやなんで。
一番りーちゃんの幸せが伝わりやすかったんだと思います。
411<<名無飼育さん
千奈美、可愛そうでしたねw
これからはゆりちなとかも書くかもしれないんで(エ
その時に幸せになったらいいなーと思ってます(ヒトゴト
たくさんのレスあっとうございました!!
思ったより反響が多くて驚きましたw
これからも徒然に妄想していくんで。
どうぞよろしくお願いします!
では今日の更新です。
- 415 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/23(水) 11:31
-
- 416 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/23(水) 11:31
-
りしゃみや、リアル。
時事ネタですw
- 417 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/23(水) 11:31
-
- 418 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:32
-
今年一番といって良いほど冷えた日。
白い雪の結晶が降ってきた。
そんな日でも関係なく仕事はあって。
梨沙子は雪を見てテンションをかなり上げていた。
- 419 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:32
-
―雪―
- 420 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:33
-
「みやー!見て見て、雪だよ。雪。」
「あー、もうっ、分かったから窓開けないでよ、梨沙子。」
「だって雪!」
楽屋の窓を開けて梨沙子は雅を呼ぶ。
寒いのが嫌な雅としては絶対その側には行きたくない。
梨沙子が開けた窓から冷たい風が入ってきて雅はぶるりと体を震わせた。
きらきらとした笑顔で窓の外を指差す梨沙子。
その様子に雅は肩を落とした。
一回こうなると梨沙子は駄目なのだ。
重い腰を上げて梨沙子の元へと歩く。
「何よ、もう。」
「だってこれ初雪じゃん?」
窓枠に手を付いて灰色の空を見上げる梨沙子の隣に陣取る。
呆れた声音で言った言葉に、しかし梨沙子は機嫌よく返した。
その言葉に雅は首を傾げる。
- 421 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:33
-
―初雪?
「そうだっけ?」
「そうだよ。」
ちょっとむくれた顔をして梨沙子が雅を見る。
言われてみればそうかもしれない。
昔は雪が降るたび空を見つめていたが、今ではそんな事はなくて。
だからこれが今年初めての雪かなんて雅には分からない。
「綺麗だねー。」
「……寒い。」
にこにこと雪を見つめる梨沙子。
その隣で雅は自分の肩を擦るようにしつつ言った。
窓の側では息まで白くなって。
室内なのにと雅はため息をつきたくなった。
- 422 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:33
-
「そんな、寒いの?」
「寒いよ。」
むしろ何故そんなに笑顔なのか良く分からない。
不思議そうに首を傾げる梨沙子に逆に雅が首を傾げたくなった。
かじかんできた手が梨沙子に取られて。
梨沙子の表情が驚きに染まった。
「みやの手、冷たいね。」
「梨沙子の手が温かすぎるんだよ。」
窓辺に長くいたとは思えない温かさ。
梨沙子の手に包まれた雅の手はじんわりと感覚を取り戻していく。
雅の両手が梨沙子の両手に包まれて、その温もりに雅は目を細めた。
―心配しすぎ。
- 423 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:34
-
雅の手を温める梨沙子の顔は必死で。
その様子に雅は心が温かくなる。
梨沙子は優しくて心配性なくらい心配してくれて、しかも頑固で。
時々アフォっぽいこともするけど。
でもそんな年下の梨沙子に雅は癒されるのだ。
「ていうかみや、顔赤いよ。」
眉に皺を寄せた梨沙子が片手を離し、雅の頬へと手を伸ばす。
ひんやりとしている雅の頬にまた柔らかな温もりが伝わる。
その手は直ぐに額へと移って。
また一つ雅の体に梨沙子の温もりが燈る。
「ソファ、行こう。」
顰めた顔のままで梨沙子は言った。
雅の頬、額と動いた手が雪を眺めていた窓を閉めて。
ずっと繋がれたままの手を引いて梨沙子が動き出す。
- 424 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:34
-
「風邪引いちゃうよ。」
「ちょっと冷えただけだから大丈夫だよ。それに雪。」
「雪はもう見たからいいの。」
ちらりと後ろを向いて言った言葉は梨沙子に一刀両断されて。
雅はソファに座らせられた。
その途中桃子や茉麻と目が合って。
にやにやとした視線は明らかに雅たちを冷やかしのものだ。
途端、雅は恥ずかしくなったが梨沙子はその程度で止まったりしない。
「梨沙子、本当に大丈夫だから。」
「駄目っ、みやは我慢することが多いもん。」
雅の着て来たコートが肩にかけられ、梨沙子の着ていたコートが膝にかけられる。
それだけでふんわりと雅の体は温かくなる。
カーテンまで閉めに再び窓辺に寄った梨沙子に笑みが漏れる。
そこまでしなくても大丈夫なのに。
本当に梨沙子は心配性だ。
そう思いつつそんなにも自分のことを考えてくれているかと思うと何処かくすぐったかった。
- 425 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:34
-
―梨沙子の、匂い。
今の今まで梨沙子が来ていたコート。
それが膝にかけられる際に鼻腔が雅の鼻先を掠めた。
安心できる、香り。
梨沙子は良く抱きついてくる子だった。
特に雅に対してはそうで。
そんなことを何年も繰り返しているうちに染み込んでしまった。
とても慣れ親しんだ匂い。
まるで梨沙子に抱きつかれたときのような温もりが雅の心に燈る。
―好きだなぁ。
こんなに安心するのも、笑顔が溢れてくるのも。
全部全部梨沙子に対してだけで。
湧き出てきた言葉は日ごろ思わないが確かに雅の中に存在しているもの。
雅はしみじみとそう思った。
- 426 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:35
-
「みや、愛されてるねー。」
「ほんと、ほんと。もも、妬けちゃう。」
「っ。」
不意打ちもいい所だった。
さっきまで鏡の前にいた桃子と茉麻が雅の前まで来ていた。
梨沙子は未だにカーテンを閉めている。
眉を八の字にして一生懸命なその姿は可愛かった。
金具が引っ掛かったのか手間取っていて、助けは望めそうに無い。
「まぁ、りーちゃんは昔からだけど。」
「そうだよ、昔からママをほっといてみやのとこに行っちゃってさあ。」
雅がちらりと梨沙子を見た時も二人の追及は収まらなくて。
だんだんと自分の顔に熱が集まってくるのを雅は感じた。
二人とも梨沙子を良く見ている二人で。
だからこそ、その二人の言葉に思い当たる節は多々ある。
- 427 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:35
-
「な、そんなことないでしょ!」
「あるよー。」
「自覚してないの?」
なのにそう言ってしまったのは、雅の中に認めたくない気持ちがあったからで。
それを認めることは雅にとってとても恥ずかしいこと。
雅が梨沙子に甘いことはきっと皆知っている。
雅だってそれ位分かっている。
だけどそれとこれとは別問題で。
―恥ずかしい。
梨沙子のように真っ直ぐに行動になど表せない。
問いかけられても素直に頷くことなどできない。
それは何より梨沙子を好きな気持ちを自覚しているからで。
好きと公言した瞬間に自分の中の何かが壊れてしまう。
そんな気が雅にはした。
- 428 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:35
-
「あーっ、ももとママがみやをいじめてる!」
「駄目だよ、そんなことしちゃ。」と梨沙子が唇を尖らせながら駆け寄ってきた。
やっとカーテンを閉め終えたのだ。
その足音に雅は助かったと胸を撫で下ろす。
とりあえず今の話題は有耶無耶になるだろう。
「いじめてないよ。みやが暖かくなるの手伝ってただけで。」
そう茉麻が言えば桃子は「そう、そう。」と相槌を打って。
雅を庇うように前に立った梨沙子は視線を茉麻と桃子に交互に動かしている。
その表情は雅からは見えないが、きっと怒った顔をしているのだろう。
あの少しも怖くない、むしろ可愛い顔で。
「うちらは退散するからちゃんとみやのこと暖めてあげるんだよ?」
雅の考えは当たっていたのだろう。
茉麻は目を細めて梨沙子の頭を撫でている。
その撫で方は可愛いものを愛でる様子そのもので。
雅はちょっとむっとした。
- 429 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:36
-
―ちょっと、梨沙子、撫でられすぎじゃない。
茉麻に懐いていることをよく知っている。
頭を撫でられるという事はその証拠で。
梨沙子は余り頭を触られるのが好きではないのだ。
それに実を言うと雅も触られたくなかった。
梨沙子に触れていいのは自分だけ。
それはつまり独占欲。
「梨沙子。」
だから不機嫌な声が出てしまったとしても、仕方ない。
雅が梨沙子の名前を呼んだ瞬間に。
茉麻は手を止めて、桃子は雅を見つめて、またもやにやりとした。
思わず眉間に皺が寄る。
その刹那、二人は「怖い、怖い。」と言いながら逃げていく。
- 430 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:36
-
「みや、寒いの、治った?」
「うん、とりあえず隣に座って?」
桃子と茉麻を不思議そうに見送った後、梨沙子はこちらを振り向いた。
雅はいつもなら隣にある顔を見上げて、ソファをぽんぽんと叩く。
梨沙子はきょとんとした表情で、しかし素直に雅の隣に座って。
雅は雪に負けないくらい白い梨沙子の腕を取って、ギュッと抱きしめる。
そうすれば自然と梨沙子の体も雅の方に寄ってきて。
雅は今度こそ本当の梨沙子の温もりに包まれた。
「み、みやっ?!」
「梨沙子のせいで冷えたんだから、別にいいでしょ。」
赤く染まる頬に愛しさを感じて。
雅は梨沙子の肩に頭を乗せる。
ほとんど高さの変わらない梨沙子のそれは少し乗せづらくて。
でも何より慣れた、安心するもの。
- 431 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:37
-
「なんでそんなに雪、見たかったの?」
「え?」
頭が回ってないのか、状況を判断できないのか。
梨沙子はただその赤い顔のまま聞き返した。
雅は先程まで立っていた窓の向こうを見る。
今も変わらずその氷の結晶は舞い落ちている。
「だから、雪。」
「ああ。」
そのままの姿勢で雅が言えば、梨沙子もやっと気づいたように外を見て。
唐突に大人ぶった微笑みを浮かべた。
雅はそれに気づいて、ずしりと胸に重いものが沈んだ。
―まただ。
ここにいるはずなのに、こういう顔をしている時の梨沙子はとても遠く感じて。
嫌だった、梨沙子を感じないのは、梨沙子が近くにいないのは。
何だかんだで雅も梨沙子が好きなのだ。
- 432 名前:―雪― 投稿日:2008/01/23(水) 11:37
-
「初雪って好きな人と見ると来年も一緒にいられるって言うじゃん。」
だからみやと見たかったんだと梨沙子は続けた。
ふにゃふにゃとした笑顔を浮かべる梨沙子。
その顔が嬉しくて、ちょっと崩れすぎな位笑っている梨沙子が嬉しくて。
雅も自然と微笑んでいた。
「……そんなの見れなくたって。」
一緒にいるのにという言葉は雅の中に戻っていく。
それを言うには雅はまだ幼かった。
雅はその代わりにぎゅっと梨沙子の腕を抱きしめる。
言葉をあげられない雅にできる最大限の行動。
―きっと、ずっと一緒にいられるよ。
雅は心の中でそう呟いた。
―雪―終
- 433 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/23(水) 11:38
-
- 434 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/23(水) 11:39
-
そんなわけで一本のみですが、りしゃみやでした。
次の更新は恐らく来週の土日になりそうですw
ではしばらく妄想が溜まる日まで。
- 435 名前:CPヲタ 投稿日:2008/01/23(水) 11:39
-
- 436 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/27(日) 00:21
- りしゃみやハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン
CPヲタ様ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン
最高です。
- 437 名前:YOU 投稿日:2008/01/27(日) 16:46
- 今回もまた良い小説でしたッ!!!o(^-^)o
梨沙子のすべての行動がとてもかわいらしく感じました。
また楽しみにしています。
- 438 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/02(土) 22:11
-
いやー、予定通りこんな時期になったCPヲタですw
とろい更新ですみません。
妄想だけは順調にし続けてますんでw
今日はそのうちの一本を上げたいと思います。
ってことでレス返しです。
436>>名無飼育さん
ハァーンあっとうございます!!
りしゃみや、気に入ってくれましたかw
素直じゃない雅ちゃんは素晴らしく楽しいです。
437>>YOUさん
お待たせしました!
りーちゃんはこういう行動が似合うと思いますw
今回もりしゃみやなんで。
楽しんでもらえたら幸いです。
では今日の更新。
- 439 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/02(土) 22:13
-
ももりしゃみや。
リアルで、黒いりしゃももとなっとります。
黒いのが無理な人はご注意を。
- 440 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/02(土) 22:13
-
- 441 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:21
-
ねえ、あたし知ってるんだよ。
ももがみやにちょっかいかけてるの。
だけど悪いけどみやはあたしのだから。
そこらへん分かってる?
- 442 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:21
-
―警告―
- 443 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:22
-
「みーやん、次のシングルなんだけどさ。」
「あ、うん。何かした?」
「実は……。」
話をしながら視線を動かす。
雅の後方に雑誌を読んでいる梨沙子が見えた。
ちらっと梨沙子がこちらを見て桃子は梨沙子と目が合った。
―りーちゃん。
わずかに拗ねているような表情。
その顔に桃子は胸が温かくなるのを感じた。
梨沙子が好きで、でも梨沙子はすでに雅のもので。
桃子はこうやって梨沙子の様々な顔を見るしか出来ない。
ずるいと分かっている。
また雅に手を出すことで梨沙子を手に入れたいという考えがあったのも否定できない。
それは梨沙子の不幸を願うような暗い考え。
- 444 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:23
-
「みやー、こっち来てよ。」
「んー、ちょっと待って。今、仕事の話だから。」
唇を尖らして雅を呼ぶ梨沙子。
しかし雅はその言葉に首を振る。
雅は仕事に対しては真面目で、真剣に答えてくれる。
桃子もそれを分かっていたからこそ、仕事の話を振った。
―ボーノで良かった、なんて。
思う自分に呆れた。
公私混同もいい所だ。
心の中で自嘲する。
梨沙子を好きになってから感情の制御が上手くいかない。
- 445 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:23
-
「んっと、うちは……ふ、ぁ。」
「みーやん、眠いの?」
梨沙子に答えてから雅はまた桃子のほうを向いて話し始める。
しかし直ぐに眠そうな欠伸が出て。
ごしごしと目を擦る様子は如実に眠気を表していた。
「うん、ちょっとね。昨日、遅かったから。」
はにかむ笑顔はいつもと違っていて。
確かに可愛かった。
―りーちゃん、気にしすぎ。
さっきからちらちらと雅を見る梨沙子。
それはいつものことだったが眠そうな様子に気づいていたのか心配も混ざっていた。
桃子が顔を向けると慌てて雑誌に視線を戻して。
桃子はにこっと笑顔をつくると梨沙子が座っている場所の対面のソファを指差す。
- 446 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:23
-
「じゃ、少し寝る?まだ時間あるし、起こすよ?」
「そう?なら、お願いしよっかな。」
わずかに首を傾げて尋ねればすぐに頷いて。
よほど眠たかったんだなと桃子は思った。
視界の隅で梨沙子がむっとする顔が見えて。
また胸が温かくなる。
「いいよ。」
悟らせないように笑顔で頷いた。
笑顔をつくることは得意だったし、完全に表情を消すよりはこっちの方が楽だ。
雅はソファへと数歩でたどり着くと、ころんと横になった。
そして目を閉じる一瞬、雅は確認するように梨沙子の方を見た。
その時の雅の顔は何よりも安心していて。
桃子はちょっと苦しくなった。
- 447 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:24
-
―ももだけじゃ、寝なかったよね。
そこに梨沙子がいるから。
雅は無防備に寝ることを了承したのだ。
ちょっとした所で見える梨沙子と雅の絆。
そこに割り込むのはやはり無理なのだろうか。
「……みや、疲れてるんだね。」
「うん、この頃ボーノの仕事も結構入ってたから。」
目を閉じて静かに寝始めた雅を見つめて、梨沙子は言った。
心配そうな顔が雑誌から雅に向けられて。
桃子は横目で梨沙子を見ながらそう返した。
―気を張ってるから、疲れも倍なんだよね。
気を抜く場所が無いから。
梨沙子がいないから。
雅の疲れはきっと溜まりっぱなしなのだ。
- 448 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:24
-
横になって数分も経たずに雅の寝息が漏れ出す。
それを見て梨沙子はすっと立ち上がると自分の上着を持ってきた。
そして起こさないようにそっと雅にかける。
寝顔を見つめる梨沙子の顔は穏やかで。
桃子はその顔に心乱される。
「ねぇ、もも。」
「うん?」
梨沙子が桃子の名前を呼んだ瞬間。
梨沙子の表情が切り替わって。
雅に見せていたのとはまるで違う、冷たい顔になった。
桃子はその顔に一人息を呑む。
―梨、沙子?
軽やかに滑らかに。
梨沙子は雅の側から離れると桃子の前へと移動する。
そこにあったのは見たことのない梨沙子の顔。
- 449 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:25
-
「あたし、知ってるんだよ。」
「なに、を?」
途切れた言葉は掠れていて。
全ては梨沙子の発する雰囲気のせい。
桃子は梨沙子の空気に完全に呑まれていたのだ。
怖いのに、冷たいのに、逸らしたいのに。
目が、離せない。
「もも、あたしが好きなんでしょ。」
「っ!」
疑問ではない、それは確認。
自分が確固たる事実として認識しているものを言っただけ。
だけどその文は桃子を固まらせるには十分で。
まさか気づかれているとは塵にも思わなかった。
- 450 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:25
-
―なんで。
金縛りにあったように動かない桃子を見て梨沙子が嗤う。
それはまるで捕食者のような、自分に逆らえないものを見る嘲笑。
緩やかに伸ばされた手が桃子の輪郭をなぞり。
その感触に背筋があわ立った。
「いいよ、別に。あたしを好きなのは。」
距離にして三十センチ程だろうか。
その僅かな距離の先で梨沙子の赤い唇が弧を描く。
それは艶。
自分にも誰にもグループのメンバーでは未だ到底立てない場所。
そんな場所に既に梨沙子は到達していた。
「梨沙子……?」
りーちゃんとは呼べなかった。
そこにいる人物に“ちゃん”などという呼称は合わな過ぎた。
うっすらと妖しいとさえ言える笑みを浮かべ梨沙子は目を細める。
ただ凝視する桃子の目に見えたのは怒りの感情。
- 451 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:26
-
「でもみやに手を出すのだけは、許せない。」
底冷えするような声だった。
本当に怖くなると人間何もできなくなるんだなと桃子はぼんやりと考えた。
体を動かすことも、声を出すことも、下手したら息をすることさえ。
それは逃避以外の何者でもない。
―梨沙子、なんだね。
豹変した年下のメンバー。
しかし変わらない部分に桃子は目の前の人物が梨沙子だと確認する。
雅が好きというその一点。
皮肉にも桃子にとって一番辛いそれでしか、共通点を見つけられなかった。
「あたしの気が引きたいなら、別のことにしてよ。」
―それなら許してあげる。
柔らかい笑顔に戻って、梨沙子はそう告げた。
くすりと微笑むその顔は変わらない。
変わらないはずなのだが同じにも桃子には見えなかった。
- 452 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:26
-
「どういう、こと?」
やっと出た声は掠れていて、自分らしくないと桃子は自分を笑った。
飄々として、ぶりっ子で自由人。
それは桃子がメンバーから貰った性格。
そう見られていると思ったからこそ、そう振舞った。
多かれ少なかれ誰でも覚えがあること。
だけど梨沙子のこれは余りにも違いすぎた。
意図的としか思えない、その変化。
「別にどうもこうも、ないよ?あたしは梨沙子だもん。」
そう言いながら桃子の輪郭を辿るように撫でる梨沙子。
変だと桃子は思った。
発言と行動の確かな差異に違和感を覚える。
- 453 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:27
-
「元から?」
「うーん、元からって言うか……。」
すっと梨沙子の手に自分の手を重ねて、動きを止めさせる。
そして最大限の真剣な顔で梨沙子を見る。
梨沙子は少し上を見て考えたかと思うと、すぐに桃子を見た。
「皆があたしって思うのがみやと一緒にいるあたしだからじゃない?」
「あ。」
―……そっかぁ。
悪戯な笑みで言う陰に桃子は少し寂しそうな色を見た。
確かに桃子自身も梨沙子は雅といるときが一番梨沙子らしいと感じていた。
それは嬉しそうに楽しそうに梨沙子が笑うからで。
だけどそれだけが梨沙子とは限らない。
今、目の前にいる梨沙子のように見たことのない梨沙子もいるのだ。
- 454 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:28
-
「なんで、見せてくれたの?」
ならその疑問が湧くのは自然で。
今まで見えなかったという事は梨沙子自身出すつもりも無かったということだ。
幾ら雅といる梨沙子が一番らしいといっても、それ以外の場面だって桃子達は見てきたのだから。
「ももちがあたしを好きだって知ってたから。」
―好きなら、受け入れるしかないでしょ?
また艶のある笑みを見せて梨沙子が言った。
ああ、と桃子は納得した。
今の言葉はストンと桃子の中に落ちてきた。
梨沙子は全て考えて、その上で桃子に見せたのだ。
- 455 名前:―警告― 投稿日:2008/02/02(土) 22:28
-
―ズルイなぁ。
そんなこと言われたら桃子はどうすることもできない。
梨沙子が雅を好きな事実は変わらないのに。
桃子は梨沙子に絡め取られてしまった。
雅に手を出さないという誓約の代わりに桃子が手に入れたのは桃子だけの梨沙子。
桃子しか知らない梨沙子がいるというのはとても嬉しいことだった。
その証とばかりに頬に降ってきたキスはとても柔らかくて。
顔が離れた瞬間に見た笑みにまた魅了されて。
桃子は天使の顔をした小悪魔に心を奪われたのだった。
―警告―終
- 456 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/02(土) 22:29
-
- 457 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/02(土) 22:32
-
うん、りしゃみやっていうよりりしゃももでしたw
黒いりーちゃんって絶対雅ちゃん相手じゃ出ないよね。
基本健気なのがりーちゃんは萌えるけど。
たまにはこういうりーちゃんが見たくなるんですよ、無性にw
ではまた妄想が溜まった日に。
- 458 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/02(土) 22:32
-
- 459 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/02/02(土) 23:29
- ちょwみやびちゃん好きなのにちょっかい出すとかりーちゃん酷い!^^;
罪作りすぎるんですけど!なにそれ!
桃子!こんな小悪魔に騙されてはいけません!.゜.(ノ∀`).゜.。
- 460 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/03(日) 00:41
- ムハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!!!!!!!!
りしゃみや・りしゃももまとめて読みました!!
んハァ━━━━━━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━━━━━━ン!!!!!!
って感じでございます(爆)
毎回ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ンしてますがハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ンの最上級ですw
純粋に雅ちゃん好きなりーちゃんと黒梨沙子の小悪魔っぷりが推せます!!
大量更新乙ですm(__)m
本当に毎回素敵なハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ンをありがとうございます^^
- 461 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/03(日) 00:52
- 梨沙子<ピリリと行こう!ファイティングポーズはダテじゃない!よもも
桃子<ジリリ キテル;
- 462 名前:YOU 投稿日:2008/02/03(日) 16:28
- いや〜黒いっすね〜(-.-;)
梨沙子の小悪魔的な言葉や行動がなんか怖いなぁ〜と感じました。そしてやっぱり梨沙子は小悪魔が似合いますね〜。
- 463 名前:510 2008 投稿日:2008/02/04(月) 09:30
- プロって案外ヘタレが似合いそうだと、ふと思っちゃったりw
めちゃくちゃよかったです!
- 464 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/10(日) 21:41
-
りーちゃんの写真集が届いたさーw
いやー、大人っぽくなったねりーちゃん。
ということで久しぶりにテンション上げての更新です。
459<<名無し飼育さん
桃子にちょっかい出すというよりは、キス一つで桃子を絡め取った感じスカね。
あくまで雅ちゃんが好きだから口止め料的にしてますw
小悪魔梨沙子マンセー。
460<<名無飼育さん
いえいえ、毎回ハァーンあっとうございますw
なぜあれほど豹変するのか書いた本人にも謎です。
まぁ、りーちゃんは雅ちゃんを守るためなら何でもしますよ、きっと(マジ
461<<名無飼育さん
ファイポのりーちゃんは舐めちゃいけませんw
桃子はジリリキテルというよりあぁ!のファーストキスな雰囲気です。
キス一つで完全に心奪われてますw
- 465 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/10(日) 21:42
-
462<<YOUさん
毎回感想あっとうごあいます!
りーちゃんは黒いの似合いますよね〜。
まぁ、でもきっとここまで黒くなるのは桃子相手だからですw
463<<510 2008さん
感想あっとうございます!
桃子はさり気に弱いときがありますよ〜。
ももさきとか尻にしかれてると自分は信じてますw
たくさんのレスあっとうございます!!
では今日の更新です。
口端にキスシリーズ、番外編っす。
- 466 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/10(日) 21:42
-
ゆりちな。
時系列は好きなとこに入れてくださいw
- 467 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/10(日) 21:42
-
- 468 名前:―本気― 投稿日:2008/02/10(日) 21:43
-
制服も夏服に変わった時期。
千奈美は年下の幼馴染と向き合っていた。
いつの間にか千奈美より大きくなって。
いつの間にか千奈美の手を離れて。
大変な場所に飛び込もうとしている幼馴染。
一度は話し合わなければならないと思っていた。
- 469 名前:―本気― 投稿日:2008/02/10(日) 21:44
-
―本気―
- 470 名前:―本気― 投稿日:2008/02/10(日) 21:44
-
千奈美が決心したのは残暑も納まってきた秋の初めだった。
長年見てきた千奈美だから。
今でも見ている千奈美だから、友理奈が梨沙子に傾いていくのはよく見えて。
もう止まらないんだろうなとはどことなく分かっていた。
一本気で直線的な幼馴染だから。
思い始めたら、止まらない。
―……全くさぁ。
あの幼馴染ときたら。
千奈美は肩をすくめると共に独り言ちた。
目の前を小さな子供二人が手を繋いで駆けていって。
自分たちにもあんな時があったとベンチ代わりにブランコに座りながら思う。
- 471 名前:―本気― 投稿日:2008/02/10(日) 21:45
-
「かーわい。」
顎に手を付き、無邪気に遊ぶ様子に目を細める。
ここは千奈美の家から近い公園で、小さい頃は友理奈とよく来ていた場所だった。
目を閉じれば一瞬の迷いもなく重なる懐かしい風景。
だがそれも、もうしなくなるのだろう。
他に好きな人ができた人を好きでいられるほど自分は強くないから。
そういう意味では桃子は勿論、梨沙子も友理奈も自分よりずっと強いと千奈美は感じた。
―あたしだったら、丸く収まるのに。
ちょっと唇を尖らせて、苦笑い。
なんで梨沙子なんだろう。
千奈美には分からない。
梨沙子が雅を好きなのは誰もが知っていることで。
また桃子が梨沙子をずっと好きなのも友理奈は知っている。
その上で、梨沙子なのだ。
- 472 名前:―本気― 投稿日:2008/02/10(日) 21:45
-
「わーかんないなぁ。」
ちょっと急ぎ足で公園に入ってきた人影が視界に入る。
目だけで確認し、千奈美はそう言いながらブランコから立ち上がった。
自然仰ぎ見た空は清々しいまでに晴れていて。
少しだけ心がすっとした。
「ちー、ごめん!遅れた。」
「別にいいよ。そんなに待ってないし。」
慌てて謝る友理奈に千奈美は何てことない普段の口調で言い返す。
小さい頃から繰り返されたやり取りだった。
日常の一コマ。
ついこの間までずっと変わらないんだと思っていたもの。
「家に帰りながら話そう?熊井ちゃん、部活帰りでしょ。」
「あ、うん。いいけどさ……話って何?」
何も知らないで首を傾げる友理奈。
千奈美はちょっと目を伏せてから顔を上げると真っ直ぐに前を見た。
ここが区切りだと心が叫んでいた。
- 473 名前:―本気― 投稿日:2008/02/10(日) 21:45
-
「歩きながら、話す。」
微かに微笑んで、僅かに腕を上げて先を示す。
一歩を確りと踏み出せば同じ道でも違う気がした。
そんな千奈美を友理奈は不思議そうに見て、しかし素直に歩き始める。
「ちー?」とかけられた言葉には目だけで返した。
―好きだよ、熊井ちゃん。
告げられることのなかった想い。
そっと心の奥に閉じ込めて、蓋をして。
それから千奈美は友理奈に尋ねた。
「なんで、りーちゃんなの?」
根本的で、絶対的な疑問。
友理奈は一瞬面食らったような顔をして。
だが直ぐに答えた。
- 474 名前:―本気― 投稿日:2008/02/10(日) 21:46
-
「……放って置けなくなったから。」
真剣な表情だった。
一目で本気だと分かる表情だった。
梨沙子が好きなんだと千奈美はこの問いだけで理解した。
だけど納得はできなくて。
「それだけ?今までずっと放っておいたのに?」
だから意地悪な質問をした。
友理奈が言ったことは理由のようで理由じゃない。
なぜなら今までずっと友理奈は千奈美と一緒に梨沙子達を見てきたから。
―その理由が聞きたいんだよ、熊井ちゃん。
梨沙子と雅と桃子の関係は千奈美たちにしてみれば彼岸の火事で。
まさかこちらまで飛び火してくるとは予想してなかった。
いや、飛び火というより友理奈が飛び込んだのだ。
その激しさも、苦しさも彼岸から見たから知っていたのに。
わざわざその真っ只中に友理奈は突っ込んでいる。
- 475 名前:―本気― 投稿日:2008/02/10(日) 21:46
-
「りーちゃんが、苦しそうだったから。」
あくまで前を見て、お互いの顔を見ずに話す。
過ぎていく風景はとても見慣れたものなのに、まるで違う世界だった。
耳に感じる音は友理奈の声だけを拾って。
目で見る光は友理奈の気持ちを知るためだけに動いて。
今、千奈美の全身は友理奈の話を聞くようになっていた。
―苦しそう?
だから千奈美は敏感に感じ取ってしまう。
それが理由じゃないことを。
理由には違いないが本質ではないことを。
友理奈を動かすにはそれでは足りないのだ。
- 476 名前:―本気― 投稿日:2008/02/10(日) 21:47
-
「それも、違うよ。なんでりーちゃんが欲しくなったの?」
「……。」
黙り込む友理奈に千奈美もただ静かに隣を歩く。
並んでみれば千奈美は友理奈の顔を見上げなければならない。
背だけではない。
知らぬ間にできてしまった差。
―ちょっと寂しいかも。
それは自分の手を離れていく寂しさなのか。
それとも恋を言わずに諦めるための寂しさなのか。
千奈美自身にも分からなかった。
「りーちゃんが……りーちゃんの真っ直ぐさが羨ましかったんだ。」
おずおずと話し出す友理奈に、千奈美は胸がきゅんとするのを感じた。
それは不思議な感覚。
ずっと見てきた友理奈だからこそ感じる感覚。
友理奈にしか感じない感覚。
- 477 名前:―本気― 投稿日:2008/02/10(日) 21:47
-
―真っ直ぐ、だね。たしかにりーちゃんは。
あの子は真っ直ぐに人を好きなままでいられる。
それはとても難しいことだ。
恋の話も多い年になった。
千奈美のその考えはさらに強くなっていた。
ずっと一人の人を好きでいるのは思ったよりずっと難しいのだ。
「りーちゃんの真っ直ぐな想いが欲しかったの。」
梨沙子の雅に対する真っ直ぐな、一途な想い。
それが自分に向けられているとしたら。
梨沙子からでないとしても、好きな人からあそこまで一途に想われたら。
それだけでとても幸せなことだと千奈美は思う。
「そっか。」
だから、その考えが分かるからこそ、千奈美はそう言うしかできなかった。
少し視線を落とせば見える自分の足元。
変わらなく動くそれを見つめたまま千奈美は唇を僅かに尖らせる。
- 478 名前:―本気― 投稿日:2008/02/10(日) 21:48
-
―みやはほんと幸せものだよね。
本人は少しも自覚していないが。
雅は中々手に入れられないものを既に手に入れている。
それは人によっては一生手に入れられないもので。
また人によっては友理奈のようにどうしても欲しいもの。
「本気、何だね。」
唇から零れ落ちた問いは、幼馴染の肩を小さく揺らしただけで。
冬の空風に消えていく。
分かっていた、知っていた。
友理奈は純粋で、優しい性格だが無茶も無理もしない。
その友理奈が梨沙子を欲しがったというだけで。
結果は分かりきっていたのだ。
気まぐれで人に手を出すような人物ではないから。
- 479 名前:―本気― 投稿日:2008/02/10(日) 21:48
-
―初恋、かぁ。
千奈美の初恋は終わろうとしている。
友理奈の初恋は始まろうとしている。
寂しいことだが仕方のないことで。
千奈美は友理奈の手をそっと握った。
きょとんとした顔で友理奈がこちらを見る。
千奈美は知らん振りして顔を前に向けるとそのまま歩き続ける。
「昔、よく繋いだよね。」
懐かしむように言えばにこっと幼い笑顔が降ってきて。
千奈美は切なくなった胸に気づかない様子で笑顔をつくる。
だがそれがいつもの笑顔より少しだけ悲しそうだったのは仕方のないことだ。
- 480 名前:―本気― 投稿日:2008/02/10(日) 21:48
-
「そうだね。小学生のときとかいつも繋いで帰ってたよね。」
「その頃はまだあたしの方が大きかったのになぁ。」
少し恨めしそうな目で見れば友理奈は噴出すように笑って。
千奈美もその顔を見て直ぐに相好を崩した。
まるで何も知らなかった時に戻ったようだった。
「……頑張ってね。」
搾り出すようにして一言だけを告げる。
千奈美の恋心の限界だった。
すると友理奈はそんな千奈美の気なんて知らずに淡く、可愛く微笑むのだ。
- 481 名前:―本気― 投稿日:2008/02/10(日) 21:49
-
「ありがと。」
その一言を。
温かさを。
胸に染み込ませて千奈美は笑顔を持続させる。
きっともう二度と自分がこの笑顔を見ることなどないのだ。
梨沙子のための、梨沙子のために見せた初めての顔。
まさしく恋する表情。
結局自分には引き出せなかった。
ただそれが悔しかった。
―好きだよ、熊井ちゃん。
もう一度そっと告げて、千奈美はこの恋に終止符を打った。
見上げた空は何も変わってなくても、繋がれた手は温かくても。
千奈美の恋は確かに終わったのだ。
―本気―終
- 482 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/10(日) 21:50
-
- 483 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/10(日) 21:53
-
ていうか、このスレでりしゃ〜以外のCP上げたの初めてじゃね?
今更気づいたわー。
ってことでゆりちな、甘くない感じでした。
楽しんでいただけたら幸いです。
あとバレンタインつーことで書いてはいるんですが……。
一つだけ言っておきます。
普通のラブい話にはなりそうにないですorz
ではまた妄想が溜まった日に。
CPヲタっした。
- 484 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/10(日) 21:53
-
- 485 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/11(月) 15:10
- 切ない…
更新お疲れさまです。
- 486 名前:YOU 投稿日:2008/02/11(月) 16:18
- とても胸がジ〜〜ンとなりました。
この話とほとんど同じ体験をしたことがあるので読みながらその時のことをつい思い出してしまいました。
また更新待ってますッ!!!
- 487 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/14(木) 15:36
-
なんとか間に合いましたー、バレンタインw
甘さにおいては微妙だけど。
でもこれも一つのバレンタインだと思います(エ
485<<名無飼育さん
切ないですが、大人な千奈美を見てもらえたらいいです。
いつかは甘いゆりちなも書きたいなぁ(トオイメ
感想あっとうございました。
486<<YOUさん
お待たせしました!
こんな駄文でそう思ってくださるとは・・・。
嬉しい限りです。
今回はまったく違う感じになりますがどぞ、読んでみてやってください。
では今日の更新です。
- 488 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/14(木) 15:37
-
一本目、りしゃももリアル。
といっても雅ちゃんのほうが目立ってますがw
- 489 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/14(木) 15:38
-
- 490 名前:―悔恨― 投稿日:2008/02/14(木) 15:39
-
うちが、貰えたはずのもの。
去年までうちだけが、特別だったもの。
なんで今年から、今年だけ、貰えないんだろう。
- 491 名前:―悔恨― 投稿日:2008/02/14(木) 15:39
-
―悔恨―
- 492 名前:―悔恨― 投稿日:2008/02/14(木) 15:40
-
「あー、ごめん。今年はももちにしか作んないって約束したんだ。」
「そうなんだぁ。」
その言葉が雅の耳に入ったのは休憩時間、友理奈と梨沙子の会話からだった。
鏡台で髪を弄っていた雅からそう遠くない場所。
ニコニコと楽しそうな顔が鏡に反射して見えた。
「ちょっと残念。りーちゃんのお菓子おいしいから楽しみにしてたのに。」
少し悲しそうな顔で言うのは友理奈。
それを申し訳なさそうな表情で見つめるのは梨沙子だ。
ごめんねと聞きなれた口調で梨沙子が言うのを聞いて。
雅はやっと無意識に止めていた手を動かし始めた。
―そっか、今年から貰えないんだ。
今になって身に沁みる事実。
去年の終わりから梨沙子と桃子は付き合いだして。
梨沙子は桃子だけのものになった。
もう雅にくっついてきた梨沙子はいない。
雅の後ろを追いかけてきた可愛い年下はいないのだ。
- 493 名前:―悔恨― 投稿日:2008/02/14(木) 15:40
-
―梨沙子。
鏡の向こうで整った顔が笑って。
その笑顔はもう二度と手に入らない。
そう雅はいきなり突きつけられた気がした。
すると現金なことに、ずきんと胸に痛みが走りまたもや手が止まる。
ぼんやりと鏡を見つめる。
そこに映る自分は少し悲しそうで、切なそうで。
明るいとは決して言えない表情をしていた。
「みや、どうかしたの?」
ただ視線を鏡に向けていた雅に梨沙子が気づいて。
きょとんとした顔が雅の肩越しに向けられる。
雅はその声にぴくりと肩を揺らしてから、何でもないという風に苦笑して見せた。
- 494 名前:―悔恨― 投稿日:2008/02/14(木) 15:41
-
「ううん、ちょっとぼーっとしてただけ。」
「そう?ならいいけどさ。」
ちょっとキーの高い声は機嫌がいい事を表している。
伊達に長い年月を一緒に過ごしたわけではない。
地声の低い梨沙子はテンションの高いときだけ声が高くなるのだ。
―ももと上手くいってるから?
だから機嫌がいいのだろうか。
雅の中でその推測が事実に発展して。
イラッとした感情が雅の中に沸き起こった。
思わず眉間に皺が寄る。
険しい顔と雅の冷静な部分で誰かが言う。
だけど機嫌が急降下していくのを抑えられない自分も確かに存在していた。
それはどうにもならないこと。
- 495 名前:―悔恨― 投稿日:2008/02/14(木) 15:41
-
「梨沙子、今年、バレンタイン、ももだけに上げるの?」
途切れすぎている言葉に笑いが出た。
何が、何をこんなに動揺しているのだろう。
見過ごしたくせに。
梨沙子が桃子と付き合うことに何も思わなかったくせに。
いつの間にか二人だけになった楽屋に雅の言葉は思ったより大きく響いた。
「うん、そうだけど。みや、どこで聞いたの?」
―今、ここで。
純粋な疑問しかない顔で梨沙子は雅を見た。
雅は一人心の中で毒づきながら少し俯く。
メラメラと暗い炎燃え上がるのを雅は感じた。
- 496 名前:―悔恨― 投稿日:2008/02/14(木) 15:42
-
「うちには、くれないの?」
なんてことはない日常の会話を装って雅は話す。
上手くできていたかは分からない。
そしてそれが梨沙子に通用するとも思わない。
なぜなら梨沙子は雅に関しては昔から敏感だったから。
どんなに隠しても、どんなに知らん振りしても。
梨沙子は気づいてしまうのだ。
―それは梨沙子の一番が長年雅だったという証拠。
雅の言葉に梨沙子は眉尻を少し下げて。
へにゃりと困った表情を見せる。
それは梨沙子の中で答えが決まっているときの表情。
梨沙子の答えとその相手が欲しがる答えが違うとき。
梨沙子はその顔をする。
「うん、ごめん。……ももにだけ作る約束だから。」
やっぱりと雅は小声で呟いた。
ゆっくりとした口調で告げられて言葉は予想通りで。
また雅が欲しくない答えだった。
- 497 名前:―悔恨― 投稿日:2008/02/14(木) 15:42
-
「なんで……?」
「みや?」
鏡台にブラシを置いて、雅は静かに立ち上がる。
ずっと鏡越しに話していた。
その状態に疲れた。
最後に見た鏡越しの梨沙子は怪訝な顔。
瞼の裏にそれを焼き付けて、雅は後ろを向き梨沙子に一歩近づく。
「なんでうちにはくれないのっ?」
奪え、奪え、奪えと脳裏に声が響く。
それは元々うちのものだと心が叫ぶ。
その激情に突き動かされたままに雅は梨沙子に飛びついた。
勢いを殺しきれずに数歩後ずさる梨沙子。
丁度よくそこにはソファがあって。
雅は自分の全体重を梨沙子に預けて、柔らかいとはいえないそれに押し倒した。
- 498 名前:―悔恨― 投稿日:2008/02/14(木) 15:43
-
「う、わっ…っつぅー、みや、なんで!」
「梨沙子が、好きなの。」
「え?」
痛みに顔を歪めるのを雅は上から見ていた。
その目が衝撃に備えて閉じられて、それからまた雅を見るのを見ていた。
梨沙子の言葉と共に梨沙子と雅の視線がぶつかり合う。
瞬間雅は自分の気持ちを吐露していた。
何を言われたのか分かっていない梨沙子にもう一度、語気を強めて言う。
「梨沙子が、好きなの!」
―ああ、そうなんだ。そうだったんだ。
自分の口から言葉が出て。
それから雅は納得した。
こんなに梨沙子のことが好きなのだ、自分は。
- 499 名前:―悔恨― 投稿日:2008/02/14(木) 15:43
-
「みや……。」
雅の言葉に大きい瞳を更に大きく見開かせて。
梨沙子はただそれだけをぽつんと呟いた。
色んな感情がごちゃ混ぜになった顔だった。
悲しさと戸惑いと僅かな嬉しさ。
だがそれは雅には見えない。
雅はただどうやって梨沙子を取り戻すかに必死だったのだから。
「なんで、ももと付き合ってるの?梨沙子はうちのことが好きだったんじゃないのっ?」
思いつくままに言葉を浴びせる。
何を言っているのか自分でも正確に把握していない。
ただそれはずっと雅の中にあった想い。
そしてそのまま雅は梨沙子の唇に顔を寄せようとした。
「ダメッ!」
しかし前に出された手でそれは阻止されて。
雅は唇の前に置かれた手に身動きが取れなくなった。
白い、白い梨沙子の手。
それを払いのけて唇を奪うことは雅にはやはりできないのだ。
- 500 名前:―悔恨― 投稿日:2008/02/14(木) 15:44
-
「ダメだよ、みや。」
「梨沙子。」
穏やかな低音。
耳に心地いい声が響いて、雅は動きを止める。
押し倒したのは雅で、押し倒されているのは梨沙子なのに。
気づくと梨沙子は優しい顔で雅を見上げていた。
「あたしは、確かにみやが好きだったよ。」
「っ。」
やっぱりと雅は強く思った。
薄々だがずっと感じていた。
雅の後を追いかけてくる梨沙子は微笑ましくて。
そこに憧れ以上の感情を見ていた雅は間違ってなかったのだ。
「だけど、あたしの今の恋人は、好きな人はももなの。」
悲しそうな顔で梨沙子が言う。
微かに涙目ながらはっきりとそう言う姿は既に雅の知る梨沙子ではなかった。
そこには桃子の恋人である梨沙子がいた。
- 501 名前:―悔恨― 投稿日:2008/02/14(木) 15:45
-
「もう遅いの?うちは梨沙子を好きなんだよ。」
だけどそれを認めたくなくて。
それを直視することなどできなくて、雅は言葉を紡ぐ。
梨沙子の顔を見たときから頭の片隅にあるもう無駄だという考えを浮かぶ度に打ち消していた。
しかし残酷にも梨沙子ははっきりと首を振る。
「ごめん、もうダメなの。みやを好きなあたしは、みやを愛してたあたしはいないから。」
なんでと雅は再び強く思った。
梨沙子さえ言ってくれたら、許してくれたら。
自分たちは誰もが認める恋人同士になれるのに。
そんな雅の脳裏を読み取ったかのように梨沙子が苦笑した。
「みやはただあたしを取られたくないだけなんだよ。今までずっと一緒にいたあたしが。」
「ちがっ。」
「違わない。みやはあたしが好きなんじゃなくて、自分のものが取られるのが許せないだけ。」
必死に否定しようとした雅を梨沙子はばっさりと切った。
確かにそんな思いがなかったといえば嘘になる。
しかし確かに梨沙子を好きな自分も存在しているのだ。
- 502 名前:―悔恨― 投稿日:2008/02/14(木) 15:45
-
「もしほんとだとしても、もう遅いよ。みやはあたしに言ってくれなかった。」
初めて梨沙子の顔が泣きそうに歪んだ。
口調は少し拗ねているようで、またとても悲しそうな声音。
ああと雅は思った。
―うち、梨沙子を傷つけてたんだ。
そんな当たり前のことに今更気づいた。
幾ら好きだといっても何も返してくれない想い人の姿は梨沙子をどれだけ傷つけたのだろう。
雅には分からなかった。
そこに梨沙子がいることが、好意を持っていてくれることが当然だと思っていたから。
「……梨沙子、ごめん。」
「もういいよ。だからあたしはみやに答えられないし、前と同じにはなれない。」
ゆっくりと梨沙子は雅の肩を押して、上半身を起こす。
強くない力だった。
だが雅は梨沙子を押し止めておくことができなかった。
知ってしまったから、自分が梨沙子にどれだけ酷いことをしたかを。
- 503 名前:―悔恨― 投稿日:2008/02/14(木) 15:46
-
「みやがあたしを好きって言ってくれたことは嬉しかったよ。」
ソファから立って、梨沙子は雅を見てそう言った。
いっそ晴れ晴れと言ってしまう位の笑顔はとても鮮やかで。
雅はただ見惚れた。
「梨沙子。」
「恋人にはなれないけど、好きなのは変わんないから。みやのこと。」
「バイバイ。」
その一言を残して梨沙子は楽屋から出て行った。
一人残された雅はソファの上に蹲る様な姿勢になる。
『バイバイ』とは何に対してなんだろうとそれだけが頭の中をぐるぐる回っていた。
雅に対してか、それとも雅を好きだった自分自身に梨沙子がサヨナラしたものか。
雅に知ることはできない。
一つだけ、雅にわかったことは。
今確かに自分の大切な人物が失われたということで。
そしてそれは雅自身が思っていたより大きなものだったのかもしれないという想い。
またするりと雅の手の中から零れ落ちたそれはもう二度と戻ってくることはないという事実。
たったそれだけだったのだ。
―悔恨―終
- 504 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/14(木) 15:49
-
- 505 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/14(木) 15:49
-
んー、黒い雅ちゃんのはずなのにw
はずなのにヘタれてるなー。
やっぱ雅ちゃんに腹黒という言葉は似合いませんな。
二本目、りしゃみやリアル。
なんだけど色々目立ってますw
- 506 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/14(木) 15:50
-
- 507 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:50
-
今日はバレンタインデー。
そこかしこに甘い匂いが溢れている日。
だからももが一番甘いと思ってるものを貰っても別にいいよね?
一年に一度しかない日なんだから。
- 508 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:50
-
―簒奪―
- 509 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:51
-
ずいと目の前に差し出されたのは味気ない板チョコ。
だがそれもチョコレートには違いなくて桃子は笑顔で受け取った。
「はい、チョコ。」
「あ、ありがとー。キャプテン。」
「うちがあげるから、りーちゃんから貰うのは諦めてよね。」
呆れたというか、疲れたというか。
そんな口調で佐紀が言った。
ちらりと目を向ければ桃子たちの周囲ではそれぞれがチョコを渡しあっている。
千奈美と友理奈が、友理奈と茉麻が、茉麻と千奈美が。
そして梨沙子と雅が。
その光景に桃子は何の違和感もなかった。
「まぁ、佐紀からも貰えたし?貰うのは諦めてあげてもいいよ。」
「何その上から目線。」
はぁと小さく溜息を吐いて佐紀は桃子を見る。
ちょっと非難の成分が入ったその視線を桃子は軽く受け止めた。
佐紀は桃子の様子に肩をすくめる。
桃子はそんな事を知らぬ振りをして視線を動かした。
- 510 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:51
-
「まったく、もう。」
もちろん、目の前にいる桃子の動きに佐紀が気づかないわけがない。
顔は笑顔のままであるがその目は爛々と光っていて。
佐紀は疲れがどっと襲ってきたように感じた。
桃子がそういう性格なのは知っていた。
恐らくメンバーの中では誰よりも。
初めての仕事からずっと一緒に過ごしてきたのだから。
「……りーちゃんも、運が悪いっていうか。」
小さく呟くも桃子に聞こえた様子はない。
よりによって桃子に気に入られてしまうとは。
佐紀にはなるべく桃子が直接的な行動に出ないようにするしか助ける方法はない。
桃子に何かを諦めさせたり、方向を変えさせたりするのは無理な相談だった。
―まぁ、その方がももらしいんだけどさ。
脳裏に浮かぶのは何処かニヒルな笑みを浮かべた桃子。
そこに梨沙子の幸せそうな顔がかぶさって。
頭の中でまるで赤頭巾ちゃんが狼に食べられるような気持ちが広がる。
- 511 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:52
-
「ももー……りーちゃんも幸せそうなんだし止めなよ。」
今にも飛び掛りそうな桃子に無駄だと分かっていながら言う。
雅とチョコを交換している梨沙子は何よりも幸せそうで。
キャプテンとして、仲間として、年上としてその笑顔を壊すことは憚れた。
「んー、無理かなぁ。だってあたし梨沙子が欲しいんだもん。」
即答、とまではいかなくてもかなり早い回答。
少し視線を上げて空に放るように桃子は言った。
そこには迷いと言うものは微量にも感じられない。
小さく息を吐いて佐紀は桃子を見つめた。
じんわりと手に汗をかいているのがわかった。
―ごめん、りーちゃん。うちじゃ止められない……。
桃子は誰にも縛られない。
それが嗣永桃子で、桃子が桃子である理由だと佐紀は思った。
- 512 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:52
-
「佐紀から貰ったこれは後で食べるとしてぇ……。」
「……何、してるの?」
いつの間にか桃子は梨沙子達の方を見ていなくて。
楽しそうに笑いながら鞄を何やらごそごそと漁っていた。
佐紀は訝しげに桃子を見る。
楽しそうに、楽しそうに笑う桃子は悪いが少々気味が悪い。
いつもより低い声だったろうか。
桃子は佐紀の声を聞くと首だけを動かして佐紀を見た。
「うふ、良い事。」
「ごめん、悪い予感しかしないから。」
ひどーいと全然酷くないような口調で言い、桃子がこちらを振り返る。
その手に見えるのは小さな正方形に近いチョコレート。
たくさんの種類があるそれを桃子は一つだけ持っていた。
―それ、どうするんだろ。
直後浮かんできた疑問を佐紀は直ぐに打ち消す。
今日、チョコをその手に持っているとすれば使用法は限られる。
つまり渡すか、食べるか。
そして今、桃子のことを考えれば取る行動は勿論前者である。
- 513 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:52
-
都合がいいのか、悪いのか。
友理奈と千奈美と茉麻は三人ともいなくなっていた。
ジュースでも買いに行ったのだろうか。
楽屋にいるのは梨沙子と雅、桃子そして佐紀の四人だけである。
その状況を確認したのか桃子の目がギラリと光った。
「りーちゃん!」
準備よくその手の中のチョコは既に包装を解かれていた。
大きめの声で言われた梨沙子はきょとんとした顔で桃子を見る。
雅も不思議顔で梨沙子と桃子を交互に見つめた。
「何?もも。」
「ももからバレンタインのチョコでーす。」
言うが早いか桃子は四角形の一辺を口に含んだ。
梨沙子の隣で雅がむっとするのが見えた。
当事者の梨沙子より、側で聞いていた雅の方が理解できたようだ。
いや、独占欲の強い雅だから早く反応できたのだろうか。
どちらにしろ、その三人全ての表情を一番よく観察できたのは佐紀で。
だからこそ、この場面から逃げるようにごちゃごちゃと考えていた。
- 514 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:53
-
「チョコ?でもあたしみや以外から貰わ……。」
「ひーから、ひーから。」
佐紀には桃子が何を言っているのか分かった。
そしてそこから桃子のとる行動も予想できた。
―いいからって……よくないよ、もも。
梨沙子の言葉半ばで桃子は彼女の顔を固定するとそのまま口付けた。
当然、桃子が唇で挟んでいたチョコも一緒に梨沙子の中に入っていった。
その瞬間だけまるでスローモーションのように感じられた。
梨沙子の隣で雅がなんともいえない顔をしている。
大きく目を開いて固まっているその姿は驚愕という題の写真のようだった。
そんな雅の前で桃子の口腔で舌が動いて梨沙子の口の中へとチョコが押し込まれる。
生々しい動き。
少し離れた場所にいる佐紀にでさえその動きが分かるのだから、
近くにいる雅にはどう見えたのだろう。
佐紀は心底頭を抱えたくなった。
- 515 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:53
-
「んー、甘いねぇ。」
「な、な、なっ…何してんの!」
唇を離して、桃子はぺろりと自分のそれを確認するように舐める。
のんびりと桃子がその感想を言った瞬間、凍っていた時間が動き出す。
特に雅の動きは素早かった。
梨沙子と桃子の間に入って、その頬は赤く染まっている。
元来照れ屋な雅だからそれも仕方ない。
された本人である梨沙子は未だに固まっていた。
「何って、バレンタインだもん。チョコ上げるくらい良いでしょ?」
桃子を睨むような目で見る雅の視線をさらりと受け止めて。
平然とそれが自然であるかのように桃子は言った。
涼やかな表情は何も感じていない、日常の顔。
佐紀はそれを見て流石だなと場違いにも思った。
やっと動き出した梨沙子は信じられないという風に唇を押さえる。
雅の後ろでの動き。
それはたぶん佐紀にしか見えなかったもの。
- 516 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:54
-
「あれはチョコを上げたんじゃないでしょ!
どっちかというと、き、キスの方がしたかったんでしょ?!」
「もう、みーやんったら純情なんだから。」
「キスくらいでぇ。」と続けて言って。
桃子は姿には表さず、しかし急いで雅から距離を取った。
―図星のくせに。
うふふと得意のぶりっ子笑いで雅の追及をかわすその様子。
佐紀はその裏に隠された考えがわかった気がして一人小さく笑った。
ぱたぱたとこちらに逃げてきた桃子と佐紀は目があって。
にっこりと微笑むその顔に苦笑した。
「ちょ、もも!こら、逃げるな!」
「いやーん、みやーんったら怖いなぁ。」
すぐに後ろから雅が追いかけてきて、桃子はグンとスピードを上げる。
佐紀の横を通り過ぎるとそのまま楽屋の扉から出て行った。
雅も慌しくその後姿を追っていき。
楽屋には梨沙子と佐紀の二人だけが残された。
目で雅が開けた扉がゆっくりと閉まるのを見て。
佐紀はゆっくりと梨沙子の方へと向かう。
- 517 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:54
-
―りーちゃんも、ほんと、動じない子だよね。
普通好きな人の前であんなことされたら、もっとなにかあるんじゃないかと佐紀は思う。
しかし人間驚きすぎると逆に普通になるということもある。
梨沙子の状況はそんなところなのだろう。
「りーちゃん、大丈夫?」
「あ、うん。」
ゆっくりとただでさえ混乱している梨沙子をこれ以上びっくりさせないように。
佐紀は静かに肩に手を置いた。
すると梨沙子は雅たちが出て行った方をぼんやりと見つめたまま頷いた。
佐紀を認識した様子はない。
ただ反射として答えを返しているだけの、言わば空返事であった。
佐紀はそれに気づいてもう一度今度は少し強く肩に手を置いた。
- 518 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:55
-
「りーちゃん!ほら、もうすぐ千奈美たちも帰ってくるしさ。」
「あ……っ…佐紀、ちゃん?」
真横にいる佐紀に今気づいたかのように反応する梨沙子。
その顔は真っ赤になって。
今の今まで佐紀に気づいてないことを教えてくれた。
「見てたの?」
「うん、ずっと楽屋にいたしね。」
「見たかったわけじゃないんだよ。」とフォローするように付け加えた。
梨沙子はその言葉に「そっか。」と紅く染まった頬を隠すように抑えながら頷いて。
忙しなく前と横に視線を動かす。
やがてその動きも緩やかになって、ほうと梨沙子は息を大きく吐いた。
- 519 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:55
-
「……知らなかったぁ。」
「もものこと?」
確認するように佐紀が聞けば、梨沙子はすぐに頷いた。
素直な子だなと当たり前のことを思った。
梨沙子はしきりに自分の赤い唇を撫でるように触って。
あの出来事が夢ではなかったのか確かめているように佐紀には感じられた。
「結構前から好きみたいだけど。」
「嘘っ?!…ちっとも……そんな感じしなかったけど。」
そこで初めて梨沙子は佐紀に体を向けた。
最初こそ大きかった声は段々と尻すぼみになっていく。
しかし隣にいる佐紀が聞き取るには十分で。
佐紀はあはと小さく苦笑した。
- 520 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:56
-
「ももはあの通りわかりにくいしねー。感情を隠すのだって上手だから。」
「でもさ、気づけたわけじゃん。あたしがきちんとももを見てれば。」
ん?とそこで佐紀は違和感を覚えた。
梨沙子が気にしていることと佐紀が気にしていること。
その二つの間に見えない差異がある。
「あたし、ももちを傷つけてたのかな?あんな強引なこと今までしなかったのに。」
「それは……どうだろ。」
桃子がその程度のことで傷つくとも思えなかったが、
この心優しいメンバーにそれを言うこととはできなかった。
あえて濁すことしか佐紀にはできない。
ふっと気を抜いたように梨沙子が笑う。
「ももってさ、優しいじゃん。あたしが一番下だからそうなのかと思ってた。」
「梨沙子だからだよ、きっと。」
さっきから話が飛ぶのには気づいていた。
だが梨沙子には良くあることだったので佐紀は少し微笑みながら聞く。
桃子が優しいというのは否定しない。
しかし万人に万遍なく優しいかといえばそれは違う。
ましてや桃子の優しさはさり気無くて、分かりにくい。
- 521 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:56
-
「それに、あたし、ももちは佐紀ちゃんが好きなんだって。」
きょろきょろと動いていた視線が佐紀を捉えた。
そして告げられた事実に佐紀は大笑いしそうになる。
が梨沙子の真面目な顔に急いで笑いを堪える。
「んっんん……ももがうちを好きなわけないじゃん。」
良くて何でも話せる戦友。
下手するとただの同期というだけ。
桃子と佐紀の間に甘い感情は動かないのだ。
また自分には役不足だと感じていた。
梨沙子と付き合っている雅には悪いが桃子には梨沙子が合うと佐紀は思っている。
陰と陽、そういう感じの二人だから。
だからここは逆にハッキリしなければならない。
「りーちゃんは、みやが好きなんだよね?」
佐紀の質問に梨沙子は刹那息を止め。
微かに顔を俯けたかと思うと再び佐紀を見つめた。
その決意に満ちた表情を見た一目で佐紀は理解した。
- 522 名前:―簒奪― 投稿日:2008/02/14(木) 15:57
-
「……うん、だからももには悪いけど。」
「そっか、分かった。でもももはきっと諦めないよ?」
「ももは本気なら自分から言ってくれると思うから。」
「ずっと待つの?」
「うん。」
こくりと小さく頷く梨沙子を見て、梨沙子らしいと佐紀は思う。
決断をするのが苦手で、人の感情に敏感で、優しくて。
桃子が自然に諦めてくれるまで梨沙子は待つといったのだ。
そしてそれはずっと雅を好きでいられる自信があったからに違いない。
―ももが惚れるのも分かるかも。
この優柔不断なようで、しかし譲れない所では頑固な性格に
桃子は惹かれたのだろうと佐紀は思った。
「大変だね。」と呟いた声は誰に向けたものか佐紀にも分からない。
―簒奪―終
- 523 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/14(木) 15:57
-
- 524 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/14(木) 16:04
-
実は前に上げた『警告』と今回の二本合わせて腹黒三部作ですw
ももりしゃみやで話ごとに一人が黒くなってるはず・・・?
でもこのりしゃももが一番ぽくなった気がします。
そして今気づいたのですが。
いやー、いつの間にかまた容量がやばくなってたんですね。
まだ書くとは思いますが、何版にいつ立てるかは分かりませんw
決まったときにお知らせします。
ではまた妄想が溜まる日に。
- 525 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/14(木) 16:04
-
- 526 名前:YOU 投稿日:2008/02/14(木) 19:32
- 一気に2つの話の更新お疲れ様ですッ!!!
「悔恨」では雅ちゃんがとても切ないです。大切なものはなくなってから気付きますからね〜。
「簒奪」では桃子が黒いっすね〜。でもすぐに行動にするところは桃子らしいと思いました。
またゆったり更新待ってますッ!!!!
- 527 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/15(金) 01:43
- ももは憎めないねぇ読んでで楽しい
ちなゆり見過ごしてた。.゜.(つД⊂ヽ.゜.。 ちなこ頑張った!
- 528 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/24(日) 21:25
-
526<<YOUさん
レスあっとうございます。
お待たせしてすみません。
桃子はやはり黒い方が違和感がないというのが自分の感想ですw
527<<名無飼育さん
憎めない黒さが桃子ですw
自分も書いてて楽しかったっす。
はい、千奈美は頑張りましたw
ちょっと無謀にもう一本載せて見たいと思います。
途中で切れたとしても笑わないで下さいw
- 529 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/24(日) 21:26
-
口端シリーズ、りしゃもも。
桃子の学園生活ですw
- 530 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/24(日) 21:26
-
- 531 名前:―それが普通― 投稿日:2008/02/24(日) 21:26
-
メールが来た。
都合がいいことに午後の授業は自習が一つに体育が一つ。
早退するのに迷いはない。
もっとも授業内容が何であっても桃子は迷わないのだけれど。
- 532 名前:―それが普通― 投稿日:2008/02/24(日) 21:27
-
―それが普通―
- 533 名前:―それが普通― 投稿日:2008/02/24(日) 21:27
-
「先生!悪いけどもも、午後の授業休みまーす。」
「ちょっ、嗣永さん?」
「じゃ、すみません。」
軽い足音を響かせながら桃子が去っていく。
ひらひらとスカートのプリーツは揺れて、桃子の足元を彩る。
肩にかけられたバッグはまるで重さなどないかのように上下していた。
それを新任の教師、松浦亜弥は見つめていた。
自分も高校時代にサボったことは多々あるがあそこまで鮮やかに、堂々としたことはない気がする。
「先生、無駄ですよ。ももはあーなったら止まりません。」
後ろから落ち着いた声が聞こえてきて。
亜弥はばっと後ろに振り返る。
そこには今去っていった桃子と同じクラス、亜弥が受け持つ生徒の一人。
真面目で、素行にも何の問題のない模範生と言えた。
その顔に浮かぶのは苦笑というか、憐れみと言うか。
普通生徒から先生が見られることのない種類の視線だった。
- 534 名前:―それが普通― 投稿日:2008/02/24(日) 21:28
-
「先生は来たばっかなんで知らないと思いますけど。」
亜弥に向けられた視線が桃子の去った階段に移されて。
その横顔は少し微笑んでいる。
桃子と同年代には見えない表情だった。
「えっと、清水さん、だよね?」
「そうですよ、ついでに言えばももとは小学校から同級生です。」
「あ、そうなの?」
にこりと微笑む佐紀につられて亜弥も頬を緩めた。
少し離れた場所にいた佐紀が近づいてきて、亜弥と向かい合う形になる。
再び見た佐紀の姿はやはり優等生そのもので。
先ほどサボタージュを宣言した桃子の幼馴染とは思えなかった。
「ももはですねー、時々ああいう顔して飛び出していくんですよ。」
目を細めて佐紀は言った。
その瞳には桃子の笑顔が写っているのだろうか。
小さく肩を竦めて佐紀は言葉を続ける。
- 535 名前:―それが普通― 投稿日:2008/02/24(日) 21:28
-
「余りにもいい顔してるんで止められないんです。」
「でも、心配じゃないの?ほら単位とか、色々。」
亜弥の脳裏に浮かんだのは、そういえば貰った出席簿。
流石にはっきりと思い出すことはできないが定期的に×が付いていた子がいた気がする。
もしかしたらそれが嗣永桃子だったのかもしれない。
欠席が重なれば勿論進級することはできない。
自然亜弥の顔は険しくなった。
「大丈夫ですよ、ももはそこら辺ちゃんと分かってますから。」
「それもどうかと思うけど……早退して何してるかとか、気になんないの?」
普通サボると言えばその矢印の先は不良に繋がる。
飲酒だったり、喫煙だったり。
酷いと売春など口にするのも憚る様な事件に発展する可能性もある。
―そんな感じには見えなかったけど。
亜弥の言葉に佐紀はきょとんとした表情を見せて。
そしてすぐに「あはは!」と破顔した。
亜弥はその様子をただ見ているしか出来ない。
廊下で大笑いする生徒とびっくり顔でそれを見つめる教師。
それは傍から見たらとても滑稽な風景だったに違いない。
- 536 名前:―それが普通― 投稿日:2008/02/24(日) 21:29
-
「そんな心配必要ないですよ!ももが何のために早退するか知ってますしね。」
「へぇ?」
この少女は幼馴染が危ないことはしないのを知っていて。
その上で早退するのを止めていない。
つまり元から止めるつもりがないのだと亜弥は思った。
「教えましょうか?」
「え、いいの?」
驚いて思わずそう問い返すと「はい。」とすんなり答えが返ってきた。
普通、こういうのは隠されるもので。
特に女の子同士での秘密と言うのは絶対だ。
ちょっとしたことでどんなに硬く思えた絆も綻びてしまうから。
「秘密、とかじゃないの?」
僅かに首を傾けて聞けばまたもやにこりと笑顔が降ってきて。
それは混じり気のない肯定だった。
「ももは秘密にしてませんし、松浦先生だったらきっと納得しますよ。」
「あたしだったら、ねぇ。」
なんだか不思議な響きだった。
亜弥が佐紀の担当になって一ヶ月と経っていない。
しかしこの生徒は亜弥なら大丈夫だと確信を持っていた。
どこかくすぐったい信頼。
亜弥が始めて感じるものだった。
- 537 名前:―それが普通― 投稿日:2008/02/24(日) 21:29
-
「ちょっと、こっち来て下さい。」
「うん?何?」
すぐそばにあった窓へと佐紀が歩き、からりと窓を開けた。
手招きされて亜弥はその側に寄る。
グラウンド側に設置された窓からは延々と続く住宅の屋根しか見えない。
「あそこに学校があるのわかりますか?」
「あー、一番近い中学校だっけか?」
「そうです、あたしも桃もあの中学校出身です。」
佐紀が指差す箇所には四階建てぐらいの建物がそんなに遠くない距離に見えた。
一番この高校に来る人数が多い学校だと何処かで聞いた気がする。
へぇ、あれが。と亜弥は一人心の中で思って。
だがそれを示して佐紀が何を言いたいのか、予想が付かなかった。
「ももの好きな人が今もあそこに通ってるんですよ。」
「本当に?」
横顔のまま佐紀が言う。
その言葉は亜弥を驚かすには十分だった。
別に好きな人がいる事には驚かない。
高校生にもなれば好きな人の一人や二人できるものである。
- 538 名前:―それが普通― 投稿日:2008/02/24(日) 21:30
-
「意外〜、嗣永さんは年上好きっぽく見えるけど。」
「ももはその子以外好きになったことないですから、年下好きとは違うかもしれません。」
苦笑と共に佐紀がこちらに顔を向ける。
いや、苦笑というよりは微笑だったのだろうか。
仕方ないと思いながらも、しかし許してしまっている表情。
亜弥はふと自分にこんな顔ができるのだろうかと思った。
―しっかし、その子しか好きになったことないって……。
「一途だねー、見かけによらず。」
「先生、それ暴言ですよ。」
「いやいやいや。そんなつもつじゃないから!」
慌てて顔の前で手を振る亜弥に「分かってます。」と佐紀は楽しそうに笑った。
ふと笑顔を消して佐紀が再び窓の外を見る。
その目は遠く、青い空の下を見ていた。
- 539 名前:―それが普通― 投稿日:2008/02/24(日) 21:30
-
「運命、なんだって。ももは言ってます。」
「運命……。」
それはまた重い言葉だと亜弥は思う。
若いときにありがちな想いと言ったらそうかもしれない。
だが佐紀の言葉の通りなら桃子は生まれてからその人一人しか好きでない。
それは彼女が確かに自分の運命を見つけているということの証明ではないのだろうか。
「どうなの?その恋は、叶いそ?」
そう問いかけた亜弥に佐紀は今度こそ苦笑を見せた。
ふふふと唇だけで笑い視線を空に泳がせる。
「どうなんでしょうね。」
「ええー、何それ。曖昧すぎ。」
「あの子の周りは恋愛激戦区ですから。」
「ほほう。」
興味深いことを聞いた。
この瞬間、亜弥の目はキラリと光っていたに違いない。
先生になったとはいえ亜弥もこの手の話題は大好きである。
- 540 名前:―それが普通― 投稿日:2008/02/24(日) 21:31
-
「まぁ、そんなのは理由になりませんけどね。」
「うん?」
「ももはその位の事じゃ、諦めないってことです。」
そう言う佐紀の口調には誇りのようなものが伺えて。
余程桃子を信頼しているのが見えた。
面白い。
桃子は勿論、佐紀も十分に面白く亜弥には感じられた。
「運命って断言して、諦めなくて、あの子に全てを捧げてる。」
真剣に、真剣に桃子という人物のことを語る佐紀。
それを見て佐紀も長年、細やかに桃子を見てきたことがわかった。
恋とか愛とはまた違う絆。
下手したらそれより強いように感じる絆。
自分にもこんな幼馴染がいたらなぁと亜弥は羨ましくなる。
「ももはそんな人なんですよ。」
「……だから、さっき少しも心配いらないって言ったんだね。」
「そうです。ももが学校を放り出して行くとこなんて一つしかないですから。」
亜弥をじっと見るその目はだから見逃してやってくださいと言っている様で。
亜弥は思わず苦笑した。
一人の人間としては応援したいが、先生としてそれを認めるのはどうなのだろう。
- 541 名前:―それが普通― 投稿日:2008/02/24(日) 21:31
-
「今頃、ルンルン気分で学校に向かってますよ。」
窓枠に肘をつき佐紀が桃子の好きな人がいるという中学校の方を向く。
微かに目を細めて遠くを見る姿は大人びて見えた。
と同時に桃子がスキップしている姿も何故か浮かんできて。
亜弥は小さく噴出した。
「おっけー、それじゃ、とりあえず今回のことは不問にしとくから。」
「ありがとうございます。」
「いいよ、いいよ。面白い話も聞けたし。」
亜弥としてもそんなに煩く言う気はない。
それに佐紀の様子を見る限り、大丈夫だという確信があった。
間違って桃子がおかしな方に走りそうになっても、佐紀が必ず止めるだろう。
「あ、でも休みすぎはダメだから。そこら辺のことは言っといてね。」
「はい、分かりました。」
佐紀がにこりと優等生な笑みで答えた時、丁度よくチャイムが鳴った。
それを期に亜弥は職員室へ、佐紀は教室へと足を向ける。
色々と面倒くさい所のある教職だが。
こんな会話ができるならば捨てたもんじゃないなと亜弥は思った。
―それが普通―終
- 542 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/24(日) 21:32
-
- 543 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/24(日) 21:35
-
何とか収まったw
新スレの最初がこの話じゃだめだろということで。
ハラハラしながら更新したのは初めてかもしれませんw
では今度こそ、新スレでお会いしましょう。
予定としては一週間後に夢か、また森かw
よろしければまたお付き合い下さい(ワラ
- 544 名前:CPヲタ 投稿日:2008/02/24(日) 21:35
-
- 545 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/25(月) 00:55
- ありがとうございました
新スレも楽しみにしています
- 546 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/25(月) 10:46
- 次スレも楽しみにしてます!
- 547 名前:YOU 投稿日:2008/02/25(月) 21:32
- 桃の一途なところが伝わる話でした。しかしまさか松浦さんがでてくるとわ思いませんでした。
次スレも楽しみに待っていますッ!!!
- 548 名前:CPヲタ 投稿日:2008/03/02(日) 14:49
-
545<<名無飼育さん
こちらこそ読んでくださりありがとうございました!
新スレも楽しんでもらえたら嬉しいっす。
546<<名無飼育さん
飽きずに新スレ立てました。
期待に応えられるように頑張ります!
547<<YOUさん
まつーらさんには特別にご出演願いましたw
ただ単に青山のCMイメージが強かっただけで意味はありません(藁
新スレもよろしくお願いします。
予定通り森板にまた立てました。
結局は短編なんで夢に立てる勇気が持てませんでしたw
すぐ分かると思いますんで。
まだCPヲタに付き合ってやるという心優しい方は見てやってください。
ではあちらでお会いしましょう。
ログ一覧へ
Converted by dat2html.pl v0.2