夜華物語
1 名前:図書 投稿日:2007/09/02(日) 21:24




ーー夜の華達の物語ーー



2 名前:第±話 投稿日:2007/09/02(日) 21:28
夜空に星が輝き多くのビルの明かりが消える頃、鮮やかなネオンに照る場所あり。
そこは金と酒と擬似恋愛の街。


そんな街の頂上付近に堂々と座っているまだ歴史の浅い店、名は『Renoir(ルノアール)』。
甘美な色彩表現で女体美を創造したフランスの画家の名を付けなれた店。
街のほぼ中央に建てられたお洒落なビルの最上階に存在しているその店には、今五人の女が働いている。


その女達はホステスであってホステスでなく、ホストであってホストでない。
そうその店は"女"が"女"を接待するお店。
3 名前:第±話 投稿日:2007/09/02(日) 21:30
『Renoir』の"華"達には、夜の蝶や温室育ちの蝶が群がって来る。
つまりトップクラスの同種業者、どこかのお嬢様や奥様、かなりの成功者などの御用達の店なのだ。
よってこの店の中で飛び交う金額の単位は何百万が基本。
そんな大金を惜しめもなく支払うのは、"華"達本来の魅力と卒業していった先輩達の指導の賜物。


しかし人気の秘密はそれらだけでなく、店の位置も関係あるだろう。
いくら有名な政治家の妻であっても、誰もが知る有名人であろうと、高層ビルの最上階にある為怪しまれる事はないのだから。
4 名前:第±話 投稿日:2007/09/02(日) 21:32
このビル…つまり『Renoir』の親は、『HELLO-PROJECTグループ』。
様々な分野に手を出し一流企業へと上り詰め、今や勝者達に愛されている巨大グループである。
そのためビルの中に入るには紹介制で得られる専用カードが必要で、マスコミ関係者や一般人が入る事が出来ない。
それに色々な人脈もある。羽を休めるにはぴったりの場所。


一階に受付を構え、四階にセキュリティ室、十三階にコンピュータ管理室を置き、他の階には美容院・ネイルサロン・ブランドショップ・レストラン・バーなどの店が階ごとに一つ入っている。
5 名前:第±話 投稿日:2007/09/02(日) 21:35
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6 名前:第±話 投稿日:2007/09/02(日) 21:37
受付で専用カードのチェックを抜けてエレベーターに乗り、専用IDを打ち込んで最上階のボタンを押す。

エレベーターの中には監視カメラが設置されており、機械音を出しながらこちらを睨んでいる。


「最上階です」とゆうアナウンスと同時にドアが開くと、そこに広がるは真っ赤な絨毯。

そして正面に見える金色の扉。扉を開くとそこは………。

今は早朝五時少し前。

世界が動き始めようとしている時間に、『Renoir』の夜がやってくる。

太陽が昇れば眠りにつき、月が昇れば華はまた鮮やかに咲く。

7 名前:第±話 投稿日:2007/09/02(日) 21:39
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8 名前:図書 投稿日:2007/09/02(日) 21:47
図書(tosyo)と申します。
今の所、主人公は決まっていません。
一応、広ーくやって行きたいなと考えています。

ノロノロ更新になってしまうかもしれませんが、よろしくお願いします!!!
9 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 21:50
……47、48、49、50。
閉店の三時に最後のお客様を笑顔で見送った後、いつもしている一番嫌いで一番神経を使う一番単純な仕事。

目が疲れた。
軽く息をはくと肩に何かで刺されたような痛みも感じる。
同じ姿勢は肩もこるなぁ。


顔を上げると、目の前に広がる全ての鏡にお金の束と万年筆を口にくわえながらカウンターの椅子に座っている自分が映っていた。
黒と白の、例えるとすればどこかのお金持ちの家に仕える執事のような格好。

私、新垣里沙はここ『Renoir』のニ代目マネージャー。
10 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 21:54
鏡の自分の手には今数え終えたばかりの五十枚の紙切れがまるで扇子みたいに広がっている。
その一枚一枚には皺や折り目がないものが多く、見慣れ過ぎたおじさんが印刷されていて……。

なんて名前だっけ!?てか何した人だっけ!?
首を右に傾け視線を泳がせていると、夜の香を逃がす為に開けた窓から朝日が見えた。
集中するあまり、時間の経過を忘れていたみたい。


今まで数えていたものをカウンターに整えて置き、黒い革靴を脱ぎながらさっきまで背を向けていた方を見る。
11 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 21:58
営業中は布でソファーを囲んで個室っぽくしているから狭く感じるけど、囲いを無くした今ではとても広く感じた。
どこかの宴会場ぐらいのフロアにライトで照らされている八組のテーブルとソファーが三・二・三に列んでいる。
ほとんどが無人であるが、中には主人がいるソファーもあった。
それぞれお気に入りのソファーで眠る四つの影。


私は靴と一緒に脱げてしまったた靴下を靴の中に入れて今まで座っていた椅子に置き、カウンターから一番近くにある主人のいるソファーに近づく。
なるべく音を立てないように、夢から現実に戻らせる事のないように……。
12 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 22:05
この時間ぐらいになると毎日している『靴を脱ぐ』習慣。
別に誰にこうしろと教え込まれた訳でも頼まれた訳でもない。
自然に体がそうするようにしていた。


私に仕事を指導してくれたマネージャーの先輩は、私よりもずっとずっと小さい人だった。
場の盛り上げ役であり、誰よりも気配り上手で、実は策士な矢口真里さん。
「オイラは中心にいるより、横で支える方が好きなんだ。目立つ自信もあるし♪♪」なんてよく口にして。
矢口さんはもう店を卒業し、超人気アイドルのマネージャーをしてる。
13 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 22:11
ピタピタと裸足で歩く音がする。
床は少しひんやりとしていて、熱が逃げにくい革靴のおかげでしっとりと汗をかいた足を冷ましてくれる。
気持ちいい−。


カウンターから真っ直ぐ左にある、店の入り口の扉にすぐ近く。
そこには黒い革のソファーに座り、机に伏せて眠っている紫の少しサイズの大きいパンツスーツの少女。
田中れいな、源氏名『レイナ』。


最近入ったばかりだけど、もうかなりのお客さんを集めてる。
子供っぽい笑顔で、可愛くて生意気そうな女の子が好きなお客様に大人気。
14 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 22:16
実は田中っちはおもいっきり未成年………まぁ、私もなんだけどね。
法律的に見れば労働ナンチャラ法に引っ掛かるらしい。
しかし彼女にだってこうゆう店で働くのには、少々言いにくい理由があるのだろう。


もしあったとしても、理由を聞いたりはしない。
もちろん話したくなったらいくらでも耳は貸すけど、話したくない事を聞き出す気はない。
だって何故かこの店は心に少し傷を持つ者を引き寄せる傾向があるからみたいだから……。


ここは私達にとって、"やるべき事が見つかるまで"守ってくれる大切な居場所。
15 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 22:20
私は起こさないようにそっと田中っちをソファーに寝かす。
誰だよ、未成年をこんなベロンベロンにしたのは!!!
………とは思ってはみたものの、犯人はわかってる。

関西弁を話し、座右の銘が"弱肉強食"。
酔うとかなりセクハラの多い、この店の管理を任されている中澤裕子さん。
そして猫目で口元にホクロがあり、いつも冷静沈着。
"仕事が恋人"と仕事に意気込み、矢口さんの働く事務所の社長さんである保田圭さん。

二人とも時間が開くと顔を出しに来てくれる。
しかしかなりの酒豪。
そんな二人に狙われたのだ、当然だね。
16 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 22:24
きっとこの子の明日の目覚めは最悪だろう。
二日酔いの薬まだ残ってたかな?
あとで確認しておかなきゃ。


田中っちの寝ているソファーの下の引き出しから毛布を出して、そっと掛けた。
少し口元が緩んだ気がした。
いったいどんな夢を見てるのか。


起こさない程度に頭を撫でて立ち上がり、この辺りの電気のスイッチに手をのばす。
あのお二人は酔ってくると注意しても、私が見てない隙にお酒を飲ませるから質が悪い。
もっとしっかり見てなきゃ。


「おやすみ、田中っち」


私は暗くなったソファーから、次のソファーへと足を運ぶ。
17 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 22:28
田中っちが眠るソファーの列の一番奥の真っ赤なL字型ソファー。
そこで体を抱えるように丸って眠るのは高橋愛、源氏名『アイ』。


白いワンピースから見える腕には爪の跡。
どうやら彼女の潤んだ瞳はSっ気のあるお客さんを心を掴んでしまうようで、ちょっとした傷を負うのは日常茶飯事。
私の記憶が正しければ、今日の怪我は三つ。


左腕の引っ掻き傷、ふともも付近のヒールで付けられた内出血、首から胸元に伝線した傷。
本当はこのまま寝させてあげたいけど、消毒の為とはいえ勝手に脱がす訳にはいけない。
そんなの変態っぽいから。
18 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 22:34
仕方なく肩を軽く叩く。

「愛ちゃん。ゴメン、ちょっと消毒するから起きて」
「ん、んぅーー。里沙ちゃん?」

愛ちゃんが目を擦りながら体を起こす。
引き出しから出した毛布を掛け、薬箱の中の消毒液で消毒し始める。

「もっとちゃんと私が守ってあげられれば、愛ちゃんが痛い思いしないのに……。ゴメンね」
「何ゆーとんよ。あーしはいっつも里沙ちゃんに守ってもらってるがし。」
「でもさ…」
「だからー、ぃっ!!」
「ゴメン!!しみた?」

傷を消毒したり、内出血した場所に湿布を貼る度思う……傷を負わせたくない。
守れるなら、守りたい。
19 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 22:42
「大丈夫やってー、もうゴメンは無しな?」
「………うん」

愛ちゃんの笑顔に心が騒ぐ。
年上なのに相変わらず可愛い人。
本当はずっと愛ちゃんの近くで見張っていたいけど、それではマネージャーの仕事が出来ない。
それに色々と注意して見ていなくてはならない事は、他にもあるいくつかある。

「きっと里沙ちゃんがおらんかったら、毎日もっと傷だらけやよ!?ありがとなー」
「なら、いいんだけどさ」

笑顔がお客さんに見せるものより輝いて見えるのは、今は自分だけに向けられていると思っているからかな!?
それとも気のせいかな!?
20 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 22:50
いつも通り小さな声で話をしながら素早く消毒を終わらせる。
この店の定休日は週に一度。
色々と忙しい生活なのだから休める時には休ませてあげたい。

「はい、終わり」
「ん、あんがとー」
「起こしてゴメンね、おやすみ」
「ううん。それは全然ええからさ…頭撫でてな?」
「もぉ、しかたないなぁ」

落ち着いている時は大人っぽいんだけど、こうゆう所が年上に見えないくさせる。
横になった愛ちゃんの頭の少し上に座った。
呆れた顔をしつつ、正直うれしい。

目を閉じた愛ちゃんの頭をゆっくり撫でてるいると、すぐに規則正しい寝息が聞こえて来た。
21 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 22:58
眠りに入るのが早い…やっぱり疲れてるんだろうなぁ。
皆もだけどお客さんが帰ると倒れるみたいに眠っちゃうし。
まぁ、お酒の力もあるだろうけどね。

「おやすみ、愛ちゃん」

腰を上げる振動で起こしてしまわないようにゆっくり立ち上がって電気を消す。
それによってフロアの一番左側は薄暗くなった。
さっきよりも少し視界が悪い足元に気をつけながら、次のソファーへ。

フロアの真ん中の列の一番奥、窓が近くにあるヒョウ柄のソファー。
そのソファーには背中の開いた赤いドレスを来て、背中をこっちに向けている人。
藤本美貴、源氏名『ミキ』。
22 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 23:01
もっさんは今ここにいるメンバーの中では最年上だけど、店で働くようになったのは私よりも後。
でもいつも用意される露出度の高い衣装を着て笑う姿は、慣れているとゆうか……あまりにも似合い過ぎていて。
ホステスの経験があるんじゃないかって思うくらい、もっさんの周りは甘く危なく香る。

ゆっくりゆっくり、今まで以上に音を消して近付く。
彼女は気配に人一倍敏感で、ちょっと近くに行くだけで目を覚ましてしまったことがある。
信用されてないんだなぁって落ち込んだっけ……。
23 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 23:25
残りはあと一つ。
一番右端の真ん中、大きな花瓶の前にある白い毛で覆われたソファー。
そこで眠っているのは、この店の"リーダー"のような人。
吉澤ひとみ、源氏名『ヒトミ』

長いソファーに仰向けになって右手を顔の上に乗せている。
黒いスーツに同色のワイシャツと白いネクタイ、きちんと着ずにボタンを二つほど開けてる。
どっからどう見てもホスト。
この人は平凡な男の人より断然かっこよくスーツ類を着こなす。

ピタピタと吉澤さんの方に歩きながら、この前お客さんから聞いた面白い話を思い出した。
24 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 23:30
お客さんが言うには私を含める全員に"キャラ"というものが付けられていたらしい。
どうやら、田中っちは「"俄然強め系"やんちゃキャラ」。
愛ちゃんは「"純情系"Mキャラ」。
もっさんは「"小悪魔系"Sキャラ」。
吉澤さんは「"軟派系"王子キャラ」。
私は「"悠然系"執事キャラ」だそうで。

納得する部分半分、ツッコミ所半分みたいな……。
まず"俄然強め系"とはどんな系統なんだ!!とか。
"Mキャラ""Sキャラ"とか言われているけれど、結構意外に……とか。
"悠然"ってなんだ!?とか。
25 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 23:34
そして目の前で眠る、"軟派な王子様"。
言ってしまえば、硬派な人ならこんな店で働いていないと思う……。
私は心の中でツッコミを入れながら毛布掛けオイルをテーブルの上に置き、小さな灰皿の中で煙を放つ煙草を揉み消した。

吉澤さんは煙草を吸わないのに何故か寝る前に必ず火を付ける。
そのせいで煙草嫌いのもっさんは窓際のソファーに移動する事になり、二つから三つに増えた空気清浄機は深夜もフル稼働。
私はテーブルの上に置いたオイルを少し手に馴染ませながら、吉澤さんの側に膝を着いた。
26 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 23:45
この店にはこの人がNO.1!!ってゆうのがない。
誕生日だったり、お客さんの希望で指定される服装によってNO.1が変わる。
だけど一番NO.1の確率が高いのはこの人だと思う。
それは一番長くいるからじゃなくて、熱狂的なお客さんが多いから。

外見がホストっぽいからかもしれない、お客さんからの愛され方が"仕事"の域ではないと思う時がある。
「独占」「特別」「繋がり」、その気持ちが吉澤さんの指や手や首に現れてる。
有り得ないくらいのアクセサリー、一体何キロの重りを付けている事になるんだろう……。
27 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 23:50
首にはどれがどれかわからないくらいのチェーン。
手首や足首はまるでリストバンドをしてるみたいに一部肌が見えない。
指は親指から小指まで曲がるのか心配になるくらいの指輪がはめられてる。
誕生日になると全てが新しく変わるけど、数が減る事はまずない。
良くて現状維持。

私は手に付けたオイルを吉澤の手に塗り、マッサージをする。
首や手首や足首はそれほど問題がないとしても、指はそうではない。
長い時間付けている為、朝方になってくると血が行き渡らず痺れを感じるらしい。
しかも血が溜まり、一人では抜けなくなっているんだって。
28 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 23:52
一つ一つゆっくり外して、転がらないように使ってない二つの灰皿の中に右手と左手に分けて入れる。
吉澤さんは眠っているように見えるけど、きっと今日も起きてる。
いや、正しく言えば起こしてしまった……だけど。

前に冗談で「起きてるなら、起きてくださいよ!!」と言った事がある。
その時吉澤さんは「だって気持ち良いだもーん。愛されてる気がするし♪♪」と、少し恥ずかしげに笑ってた。
私も嫌じゃないし、喜んでくれてるのなら嬉しい。
だから起こさないよう注意しても結果は同じだけど、毎日出来る限りの努力してるつもり。
29 名前:第0話 投稿日:2007/09/02(日) 23:56
両手全部の指輪を外し終えると、二つの灰皿には小さな丘が出来てた。
その丘はどちらもティッシュで五層になってる。
下が親指で上が小指。
はめる指を間違えるとちょっとした騒ぎになるから、かなり気をつけている。

やっぱり指輪は特別な感じがするからか、お客さんの戦いは熱い。
指にしてもらえるか、ネックレスの飾りになるかは早い者勝ちなのだから。
今丘を作ってるのは勝ち組と言える。
そっと毛布の中に吉澤さんの左手を入れて、電気を消す。
もう明るいのはカウンターだけとなった。
30 名前:第0話 投稿日:2007/09/03(月) 00:00
「吉澤さん、おやすみなさい」

私は足元に気をつけながら、カウンターに戻ろうと体の向きを変えた。

「お疲れ、ガキさん」

後ろから声がする。
振り返るとさっきの眠っているような状態のまま、吉澤さんが口の端を片方だけ上げて笑ってた。

「はい、もう少しで終わります」

カウンターへ歩き出す。
ほら、今日も失敗しちゃった。
だけどこの言葉を聞く度に、一日が終わったんだって実感する。
31 名前:第0話 投稿日:2007/09/03(月) 00:03
二日酔いの薬がまだあるか心配だけど。
消毒してない傷がないか気になるけど。
今日は少し冷えるからやっぱり窓を閉めたほうがいいかなと悩むけど。
いつも通り返事をされちゃったけど。
今日もいい夢が見れそう。

明日も頑張っていきまっしょい!!
32 名前:図書 投稿日:2007/09/03(月) 00:06



<<第0話・完>>
33 名前:図書 投稿日:2007/09/03(月) 00:21
ミスしました↓↓
22と23の間が3つほど抜けてました。
見にくい文になって、申し訳ないです。

抜けた3つをのせるます。
34 名前:22と23の間 投稿日:2007/09/03(月) 00:24
それにしても寒そう。
冷房はすでに消しているけど、ここは窓の近く。
こうしてる間も朝の新鮮な風がもっさんを包んでる。
冷え性のくせになんで毛布使わないかな……。
毛布を取り出そうと床に膝を着いた。

カラン
「ぅゎっ!!……」

テーブルの上にあったグラスの氷が音を立てて崩れ、その音にびっくりして声を出してしまった。
慌てて口を塞いだけど、確実に声は空気中に放たれてしまった。

「……………;」
「………んっ」
「!!!!」

まずい、起きちゃう!!
なんか悪戯がバレないかそわそわしてる子供のような気分……。
35 名前:22と23の間 投稿日:2007/09/03(月) 00:28
ドキドキバクバクしている私を余所に、もっさんはクルリとこちらに寝返りを打った。
まったくもって心臓に悪い。
でもなんだか嬉しかった。
ずっと警戒心剥き出しだった野良猫が自分の側で昼寝をし始めたような心地。
こんな事本人の前でなんて言えないけどね。
……言ったら何を言われるか。

毛布を取出し掛けると、首付けてる長いチェーンがいつも通り左手へと繋がっているのが見えた。
もっさんの手の中には赤い石がちりばめられたあの人とお揃いのピンキーリング。
左手の小指にはめると、まるで"赤い糸"みたいだね。
36 名前:22と23の間 投稿日:2007/09/03(月) 00:30
ゆっくりと列の真ん中の柱へ向かい、電気のスイッチを触る。
眠るもっさんを見ると、髪が少しそよいでいた。
閉めたほうがいいかな?と考えたけど「朝の匂いって気分がスッキリするよね」と口にしていた事を思い出して、窓はこのまま開けておく事にした。

「おやすみ、もっさん」

OFFにするとフロアの約三分の二は薄暗くなった。
少し列を崩しながら並べられたテーブルとソファー、それらはそれぞれ色や形や大きさが違う。
だけど明かりが消えると全てが同じように見えて少し寂しい感じがした。
やっぱりここには人工的な光が似合う。
37 名前:図書 投稿日:2007/09/03(月) 00:31
間違いすみませんでした……。
次回は頑張ります。
38 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/03(月) 02:32
面白そうな舞台ですね、頑張ってください。
39 名前:通りすがり 投稿日:2007/09/03(月) 20:56
面白かったです。続き期待しています。
40 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/04(火) 16:56
面白くなりそうですね。期待して更新待ってます。
41 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/04(火) 23:41
続きが気になります。
作者さんのペースで頑張ってください!!
42 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/04(火) 23:53
おもしろそうですねー!
続き楽しみにしてますw
そして密かに…あいがき?w
43 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/06(木) 10:23
この設定すごく好きです!
怪しい感じが良いですねw
楽しみです。
44 名前:図書 投稿日:2007/09/09(日) 13:25
ちょっと物語とは関係ないですけど、短編挟みます。


途中で関係ない話が挟まれるのがあまり好みでない方、
または少しエッチィのが好みでない方は
スルーでお願いします。

こんなん書いてないで本編書けやって感じですが……、
あの方のお誕生日も近いことですので許して下さい〔><;〕


本編は少し時間がかかりそうです↓↓
訛りが難しぃぃ。。。
45 名前:短編 投稿日:2007/09/09(日) 13:27
なぁーー。
それ、ちゃんと息出来とるんか?

あーしの右隣、二歳年下で同期でもある恋人は顔を枕に埋めて眠ってる。
どうやって眠ろうが自由だけどさ、普通に苦しいやろ……。
でも白いシーツから見える肌色の背中が上下しとるから、大丈夫なんやろうけど。

そっと枕に埋まる少し茶色の髪を撫でてみた。
髪を乾かしながら"傷んで来たぁ"って嘆いてたのを思い出す。
グルングルンに巻いたり、ストレートにしたりしとるんやから当たり前やろうが。

だけどちゃんとケアしてるからか、そんなに気にならない。
撫でても絡まる事なくスーっと指の間を通ってく。
46 名前:短編 投稿日:2007/09/09(日) 13:29
今日はやっと揃ったオフの日。
やから久しぶりに肌を重ねたりしたけど、少し後悔というか罪悪感を感じた。
もちろん承諾あっての行為やったけど。

やけど。
あんた、また細くなったんやない……?
元々華奢な恋人、前に抱いた時よりも痩せたように感じた。
髪から背中に手を移す。
壁に掛かってる時計はもうちょっとで十時。

最近、途中で起きんな……。
前はあーしが動いただけで起きたのに。
現に背中を撫でても、起きたりせずに夢の中。

断ってよかったのに……。
あーしならどんな事があっても離れたりせんが。
47 名前:短編 投稿日:2007/09/09(日) 13:31
楽しそうに仕事をしてるのは知ってる。
でも無理せんで。
もしコンサート中に目の前で倒れられたら、きっと歌えなくなる。
もしあーしのいないとこで倒れられたら、普通になんて出来ない。

なぁ、あんたB型やろ?
だったらもう少し自己中心的になってもいいんやなんか。
周りに気を使い過ぎやよ。

背中に置いたままの手を離して、その場所にそっと唇を寄せる。
空気中にキス特有の音が響いて消えた。
触れた瞬間少しだけピクリと動いた肩。

「    」

背中から離れようとした時、枕に声は吸い取られていたけど何かを言ったのはわかった。
起こしたらしい。
48 名前:短編 投稿日:2007/09/09(日) 13:33
「あ、ゴメン。起こした?」
「    」
「ん?聞こえんて」
「……愛ちゃんのすけべ」

あーしが元の位置に戻ると、ガキさんは顔をこっちに向けてはっきりと言った。
腰まで落ちたシーツを首まで引き上げながら、赤い頬でアヒル口。
お互いの身体なんてもう何度も見てるのに、今でも裸には抵抗あるんやね。
慣れる日は来んかも。
あーしだって今だに慣れる事なくドキドキしてる。

「…すけべ」
「二回も言うな」
「さっき、何考えてたの?」
「へ?」
「だってブツブツ言ってたじゃん」

どうやらキスのせいで起きたんやなさそう。
気遣うような目でこっちを見てる。
49 名前:短編 投稿日:2007/09/09(日) 13:35
「別にぃー」
「もぉー」

なんでか素直になれない。
"しんどくない?"って、"あーしも負担になってない?"って聞けばいいだけやのに。
頭に過ぎっても声にはならんかった。
あんた以外の話ならなんでも言える。
でもあんたのその目があーしの言葉を奪ってく。

ノロノロとベッドから出ようとすると、最後に残った手を掴まれた。
反射的に振り返る。
手をのばしたせいで落ちたシーツ、若干高さの違う下からの視線、赤い小さな顔。
罪悪感を感じていたはずなのにあーしは何を考えてるんよ……。
身体を形成する全てが疼いてる。
50 名前:短編 投稿日:2007/09/09(日) 13:38
手をのばしてしまいそうで、首を戻して背中を向けた。
「どこ行くの?」
「特別にご飯作ってあげるやよ。だからまだ寝てなて」
「まだいいよ…」
「もう昼やんかぁ。いいからガキは寝てな」
「ガキって……。もう十九になるんだけども」
「その前にこっちは二十一やもん」

会話が止んでも手は離されない。
むしろ引っ張られて後ろに傾いて来た。

「何やの、いったい」
「…ぃ…ちゃ……のは…なぃ」
「なん?聞こえんて」
「愛ちゃんといるのはしんどくないって言ったの!!!////」

……何や、聞かなくても知ってるやんか。
と言うか、あーしそんなに声に出してたんか。
51 名前:短編 投稿日:2007/09/09(日) 13:40
おもいっきり引っ張られてベッドに横になる形になった。
寝起きそうそう、年頃の娘が裸で何やってんだか。

「何やの、行くなって?」
「……ぅん」
「あらー、珍しいのぉ」
「だ、だって最近別々が多いんだもん///」

あんまり甘えて来ないしっかり者の恋人。
断る理由がない、と言うより断るつもりもない。
少々にやけながら素早くシーツの中に入った。

「しゃーないなぁ。電池切れちゃうの?」
「何それ」
「前のハロモニでやったデートのやつ。お芝居してたやんかぁ」
「ハハハ、懐かしーぃ。あれすっごい恥ずかしかったんだよね」
「そうやろーね」
52 名前:短編 投稿日:2007/09/09(日) 13:43
確かその時に美貴ちゃんやら吉澤さんやらに、"ガキさんって高橋と付き合ってから急に女になったよね"なんて言われたんやっけ。

「なぁ、なってや。あのお芝居」
「はぁ!?なんでよ」
「今のバージョンが見たいから」
「いや、意味わかんないからー」
「やってや」
「やぁだ」
「ケチ」
「すけべ」
「アホ」
「それは愛ちゃんでしょーが」
「なんやとぉ」

シーツの中でバタバタゴロゴロ。
これがもう少しで共に誕生日が来る二十歳と十八歳の会話で、こんな状況にすることやろうか。
大きめのベッドを転がって、気付けばあーしがガキさんの上に乗ってた。
額をくっつけて笑い合う。
53 名前:短編 投稿日:2007/09/09(日) 13:45
「バーカ」
「はぁ?あーしはチャンポンチャンとか言わんし」
「もぉー、いつの話してるのさぁ」
「んー、五年前…ぐらい?」

あーしの背中辺りにあった腕が首まで上がって来る。
近くにいすぎてガキさんの瞳にあーしはいない。
それが少し切なくてくっついてる額を離そうするけど、首に巻き付いた腕でそれは出来ない。

「……誘っとんの?」
「……普通聞くかな、そういうの////」
「倒れられたら嫌なんやって。……最近忙しいやろ?」
「もしかして、ブツブツ言ってたのはそれ?心配してくれたんだ?」
「するやろ、普通……」
54 名前:短編 投稿日:2007/09/09(日) 13:48
この距離で嬉しそうに笑うから、照れくさくてまた可愛くないことを口にしてた。
休みも全然揃わない、娘の仕事でもコンサートでいなかったりした、急いで次の仕事に行く姿も見た。
なのに十分に走ってるくせに、まだ"走りたい"とか言う恋人。
心配しないはずないやんか……。

「愛ちゃん、顔怖いよ」
「怖いって、あんたなぁ!!」

誰のせいだ。
新垣里沙さん、あんたやろ!!

「愛ちゃんだって、人の事言えないでしょーが。悪いけど、心配歴と片思い歴はあたしの方がずーっと長いんだからね!!」

グルリと世界が回って立場が逆転。
ガキさんが上から見下ろしてた。
55 名前:短編 投稿日:2007/09/09(日) 13:49
「へ?」
「ミュージカルとか…人がどんだけさぁ」
「あれはごめんなさい」

大好きな舞台の上で、中心となる役を演じられる。
そう思うと、次々にやってくる大きな壁がより心を熱くさせてた。

「それにコンサート中に転んで怪我するしぃ」
「それもごめんなさい」
「皆に止められてるくせに踊るし」
「……お互い様やね」
「若干愛ちゃんの方が罪は重いけどね」

見慣れない下からのアングルに落ち着かなくて、元に戻ろうとガキさんの肩を掴んで上下反対になった。
あーしが上で、ガキさんが下。
やっぱりこの方がしっくりくる。
なのに下の恋人はふくれ顔。
56 名前:短編 投稿日:2007/09/09(日) 13:52
「怒っとんの?」
「なんか思い出したらムカムカして来た」
「痛いて、なんでよ」

眉間にシワを寄せながら腕とか肩をペチペチ叩いてくる。
痛いと言いつつ、手加減してくれてるから全然痛くない。
すると叩くのをやめて今度は首を絞めて来た。
やっぱり苦しくはない。

「バカ」
「一応勉強は出来ますぅ」
「ドジ」
「それはあんたもやて」
「すけべ」
「結局それ?」
「だってそうじゃん」

もうお互い笑顔。
元々本気でケンカをしてる訳やない。
ただの遊び、楽しいじゃれ合い。
喉から腕に手が流れてくる。

「……大丈夫じゃないなら泊まってないよ」
57 名前:短編 投稿日:2007/09/09(日) 13:56
流れる手が離れる前に握って、視線はぶつけたまま。

「……誘っとんの?」
「……普通聞くかな、そういうの」

何分か前の聞き覚えのあるこんな会話、違うのは表情だけ。
これがあーし達の歩き方。
二人で子供と大人の道を行ったり来たり。
時に無邪気に、時に激しく。

「あ、でも倒れない程度にしてね?」
「……努力します」
「努力じゃ困るんだけども」
「だったらあんまり煽らんといて」

顔を近付け、瞼を閉じる。
あとは二人で道を変えるだけ。
道は違くても変わらないのは一つだけ。

ーーあなたの胸で、笑顔で眠るーー

……まぁ先に眠りに落ちるのは、ガキさんの方やけどね。

<<fin>>
58 名前:図書 投稿日:2007/09/09(日) 14:00
【38様】
ありがとうございます。
しかし、こんなお店があったらいいですよねぇ〜♪♪ww

【39様】
続きはもうしばらくお待ちを。
でも……暗い感じになりますが大丈夫でしょうか。。。

【40様】
期待してくださったのに、本編でなくてごめんなさい。
頭に浮かぶと我慢出来ない性でして…↓↓

【41様】
ペースは遅いです。
その分、長いと思いますのでご勘弁を〜。

【42様】
あいがき…さぁ、どぅでしょうww
短編はあいがきでした。
どうでしたか?

【43様】
怪しいですか……。
いやはや、図書自身怪しいからですかね(ニヤリ
59 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/09(日) 14:55
ちょーイイ!!
あなた天才
60 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/09(日) 17:41
作者さん最高ー!
凄くいい!!
普通に好きですわぁ、こんな感じ
61 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/09(日) 20:46
愛ガキやー愛ガキ少ないので嬉しかったです。
本編も楽しみにしてます。
62 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/10(月) 02:00
短編も良いですよぉ〜、どんどん挟んじゃって下さい。
63 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/10(月) 06:26
他カプヲタですが此処のあいがきは可愛いかったです。
作者さんの書くいろんなカプをもっと読みたい気持ちになりました。
64 名前:名無しです 投稿日:2007/09/10(月) 19:47
愛ガキ(*´Д`)ハァハァ
最初のお話の続きも気になりますが、
愛ガキもちゃいこーでした♪
…ってか作者さんの愛ガキにハマりそうです☆
65 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/13(木) 06:26
愛ガキー!!愛ガキ大好きなんですよぉぉぉ(泣)

もうニヤニヤして嬉しかったです!
短編最高ですよ!文もよく、映像にしやすく…もう最高!愛ガキ最高!(落ち着け)
66 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/15(土) 01:39
ガキさんもこういうのがハマるようになったんだなぁ。

気づいたら小さかった娘がすっかり大人になってて…。
そんな父親目線な自分がいましたwww
67 名前:第二話 投稿日:2007/09/18(火) 23:59
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
68 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:02
苦しみから逃げたくて、白い籠の中でずっと過ごす事。
願いを押さえ付けて、いい子の演技をする事。
会ったこともない家族を夢見て、借金の為に働く事。


この中で誰が一番かわいそうやと?
じゃあ……誰が一番普通と?


生まれる場所は選べん。
きっとこの道を歩くって決まってたけん、もうなんとも感じんのやね。
ただ、三人でいる時だけが自由になれた気がしたと。


なー、どうやって仲良くなったとか覚えとー?
二人は適当だったり過去にこだわらんけん、きっと覚えてないっちゃね。
でも昔話は好きじゃないと。
やけん三人共覚えてなくても関係なか……ね。
69 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:03
危ないところを助けられて、いきなり何の説明もなしに連れてこられた大きなビルの最上階。
赤と金色、そして甘い香り。
香水の?
いや花の?


扉を開けるとそこは、、、。


名前・田中れいな。
年齢・もうすぐ十八歳。
生年月日・1989.11.11。
家族・両親共に他界、兄弟なし。
経歴・事情より高校中退。
職場・Renoir。


………借金・あと約三千万。
嫌いな花・……桜。
70 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:05
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
71 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:07
夢を見た。
お母さんがご飯を作っとって、お父さんが新聞を読んでる。
あ、ヤカンが沸騰しとー。
お母さんが慌てて火を消した。

目線をお父さんに向けると、新聞を畳みながられいなを見て口を動かしてる。
『おはよう、れいな』
たぶんこんな感じ。
頷いて目の前の席に座った。

食卓に並ぶ、トーストやら目玉焼きやらサラダ。
隣に誰かが座った気配がして横を見ると、お母さんに頭を撫でられた。
『早く食べなさい。遅刻するわよ?』


遅刻……あ、学校か。
時計を見るともう七時だった。
大変だ、これからお風呂にも入るのに。
急いでバターナイフに手をのばした。
72 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:09
カランカラン
食卓の隅に置かれてたバターナイフは、れなの手が触れる寸前に床へと落ちた。
チッ、時間ないのに……。
身を屈めてナイフを探す。
あれ!?どこいったと?
ナイフはどこにもなかった。
確かに落ちたはず……。
急に怖くなって恐る恐る顔を上げてみる。


目の前にお父さんはいなかった。
隣にお母さんはいなかった。
食卓の朝ご飯は消えていた。


わかっとーよ、夢だって。
だってヤカンが沸騰する音も新聞をめくる音も聞こえたのに、二人の声だけは聞こえんかった。
当たり前っちゃ、やって聞いた事ないけん。
……当然たい。
73 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:12
お父さんはトラックの運転手で、れなが生まれる前に事故で死んじゃったらしい。
そしてお母さんはれなが生まれた日に死んじゃった。
やけん声なんてわかるはずない。
顔も写真で見た顔しかわからないから、笑った顔以外は夢に出て来ない。


れなは、二人の事を何も知らない。
でも面倒見てくれた叔父さんが福岡出身やけん、お父さんはたぶん博多訛りと思う。
もしかしたらお母さんも……。


だから自然に出てしまうこの博多訛りが好きで、それと同時に悲しかったりする。
それはただの予想だから。
普段は明るい叔父さんでも悲しい表情になるけん、聞けんかった。
74 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:15
何もない食卓から視線を移して、部屋を見回した。
さっきは気付かんかったけど、ここは叔父さんと住んでたアパート。
視界が歪んで、過去の映像が見えた。
もちろん過去を思い出す。


いつも優しい叔父さん。
やけん、信じられんかった。
高校の入学式、来ると言った叔父さんがいなかった。
そんな大きくはないけど社長さんだからしかたないなって、途中まで仲良くなった新しい友達と話しながら家に帰った。


何故か嫌な予感がした。
階段を上がる。
見たことない男の人が二人、れなに気付いて寄って来た。
二人の胸元には二枚の桜の花びらのペンダントが光ってた。
75 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:17
それからはあんまり覚えてない。
ただ理解出来なかった、意味がわからなかった。


数日過ぎて、やっと理解したと。
伯父さんの会社が倒産した。
かなりのお金持ちからお金を借りてた。
そして伯父さんがいなくなった。
れなが返さなきゃ、そう思った……。
だからすぐに高校を辞めて、バイトを始めた。


視野がぼやけてアパートに戻ってきた。
手放した部屋、もうれなの家じゃない。
なのによく覚えてるなぁってくらい、そのまんま。
懐かしい。
悲しくはない。


なのに遠くの洗面所の鏡に映ったれなは、涙を流しながら三回しか着れなかった制服を着て立っていた。
76 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:20
鏡を見ながらボーっとしてた。
映ったれなは泣いとーけど、ほっぺに冷たい感覚はない。
夢やけん、感じんのかな……。


すると急に部屋が体がグラグラ揺れてる心地がした。
あれ、揺れとー。地震?
耳をすませば声も聞こえる。


「ーーっち!!田中っち!!」
「ガキさん落ち着け。……やっぱ、昨日飲まされすぎたからかなぁ」


誰?あ、でも知っとー。
心配してる。
どうしたと?れな今起きるけん、ちょっと待つっちゃ。


目を開けると心配そうにしてるガキさんと、それをなだめてる藤本さんがいた。
体を起こす。
少し頭が痛い、やけど嫌な気分じゃなかった。
77 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:22
「あ、おはようございます」
「田中っち大丈夫?」
「へ?」
「へ?じゃないっての。うなされてるし、泣いてるし。それ見てガキさん暴れ出すし…」


藤本さんが呆れた顔でため息をついて、カウンターの方に歩いてく。
言われて気付いた。
ほっぺが冷たい。
本当に泣いてたっちゃね。


「ねぇ、大丈夫?」
「……昔話思い出しただけやけん、大丈夫っちゃ」


涙を袖で拭いて笑うとガキさんが安心したように笑った。
無理してるんじゃないってわかってくれたみたい。
暖かい手で頭を撫でてくれた。
カウンターに座って足を組んでる藤本さんもこっちを見ながら笑ってた。
78 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:24
ガキさんはポンポンっと軽く頭を叩いて、後ろの方に歩いて行く。
れなの後ろの後ろには愛ちゃんが眠っとーけん、きっと起こしに行ったっちゃね。
ソファーから腰を上げて、藤本さんのいるカウンターへ向かった。
少しフラフラした。


「はい、これ飲みな。まだ酔い残ってるでしょ?」
「あ…ありがとうございます」


差し出された小さな茶色いビン。
中には白っぽいドロドロした液体が入っとー。
二日酔いにはいいみたいだけど皆飲む度にオェとか言ってるけん、正直あんまり喜べない……。


「大丈夫、舌に根っこがくっついた感じがするくらいだから」
「ハ、ハハハ」
79 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:27
ニヤリと意地悪そうな顔で笑う。
余計飲みたくなか……。
でもいつもと違う感じがするけん、まだお酒が抜けてないのかも。
それにあの夢なんて最近はほとんど見てなかったと。


「ちょっとでも飲んどきな。その方が今日楽だし、なによりガキさんが安心する」
「……そうですね」


深く深呼吸して、一気に飲み干す。
ゔ、想像以上……。
藤本さんが渡してくれたミネラルウォーターを大量に流し込んだ。
人が飲むもんじゃないたい。


「ちょ、ちょっと愛ちゃん?」


ガキさんの焦った声がする。
そっちに目を向けると、ガキさんが愛ちゃんにしがみつかれてた。
80 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:29
「zzzーくぅー、…zz」
「あ、愛ちゃん。苦しいから!!待って。ストップ、ストーップ!!」


幸せそうに寝ぼけてる愛ちゃんと、真っ赤になってあたふたしとーガキさん。
こっちから見たら完璧に好き同士なのになかなかくっつかない二人。
鈍感にもほどがある。


「まーたやってるよ。それにしてもよくよっちゃんは起きないね」
「……吉澤さんってお父さんって感じっちゃね」
「は?何それ」
「よくドキュメンタリーとかで大家族のやつやってたりするじゃないですか。そんな感じっちゃ」
「あんなアホっぽい親父、ダメでしょ」
「やけん、なんか雰囲気が…」
81 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:31
大家族じゃないけど、吉澤さんがお父さんで藤本さんがお母さん。
そして長女の愛ちゃんに次女のガキさん。
そんな雰囲気っちゃ。


「吉澤さんは明るくて面白いお父さん。藤本さんは強くてお父さんを尻に敷いてるお母さん」
「えー、よっちゃんが旦那?あんなセクハラ親父やだな……」
「そうと?結構お似合いたい」
「残念ながら……納得は、出来るけどさ」


吉澤さんの方を見ると相変わらずスースー眠ってた。
そしていつの間にか起きて静かになった愛ちゃんは、ガキさんに傷の手当てをしてもらってる。
82 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:33
「じゃあ、あとは子供?」
「愛ちゃんはやんちゃな長女で、次女のガキさんはしっかり者」
「確かに…。だったら三女は甘えん坊ってとこ?」
「へ?」
「ちょこっとヤンキー入ってるけどね」


三女?
まだ誰か……あ、れなやと?


「さぁて、パパを起こして来ようかな」


藤本さんはヒールの音を響かせながら、吉澤さんに近づく。
それとすれ違いに愛ちゃんとガキさんがこっちに来た。


「れーな、おぁよ」
「愛ちゃん今日もご機嫌っちゃね」
「んー!?んふー♪♪」
「もぉ、びっくりするからー。毎日毎日」
「あれはあーしの癖やもん、いい加減慣れてや」
「はいはい」
83 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:36
れな知っとーよ?
皆寝静まった後に、一人で仕事してるガキさんが愛ちゃんを微笑みながら見てるの。
それにさっきだって"やめて"なんて言わんかった。
愛ちゃんだって、ガキさんやけん抱き着いとー。
他の人ならあんなに長くないっちゃ。
ほんとに寝ぼけとると?


「どした?田中っち」
「ボーっとして、まだ眠いのけ?」
「んーん、何でもn」
「がっっ!!ぐぇー!!」


何でもないって言おうとしたら、後ろからすっごい声。
驚いて皆で振り返る。
すると藤本さんが寝てる吉澤さんのお腹に綺麗な足を乗っけてた。
長ーい尖ったヒールで……。
とっても苦しそうっちゃ。
84 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:38
「ほら、ダーリン。お・き・て」
「ハ、ハニー。もう少し優しく起こしてくれないかい?」
「いやーん、十分優しいでしょvv」
「痛ぇぇえ!!ミキティ刺さってるって!!」


こんなママとパパは嫌やと……。
でもお客さんがいたら喜びそうなツーショットっちゃね。


「美貴ちゃーん、ヒールはやめぇ。痛いんよ、結構」
「大丈夫だよ。ベルトに当ててるから」
「なんやー、安心したぁ」


……愛ちゃんが言うとリアル過ぎるけん、あんまり笑えんとよ。
そしてガキさん、ツッコミおかしいっちゃ。


こんな家族、独特過ぎる。
でもさっきの藤本さんの言葉が嬉しかった。
85 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:41
家族ってこんな感じかな……。
三人でいる時に感じるのとは違う、自由な感じ。


明日はお休みやけん、今の事話すっちゃ。
あ、ちゃんと約束も覚えとーよ。
後でお願いしてみる。
でも予定があるって言われたら、それはれなのせいじゃないけんね。


「かぁ〜、痛ぁ。おい、君達!!笑ってないで助けろよ!!」
「でも美貴のおかげですっきり目が覚めたでしょ?」
「……うん、強烈な目覚めだったよ」


吉澤さんと藤本さんがソファーからこっちに歩いて来た。
ぐったり気味の旦那に、ご機嫌の妻。
これが巷で噂の鬼嫁というやつっちゃね……。
86 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:43
「…ヒヒッ♪♪」
「なんだよ、れいな〜。人の災難を笑うんじゃねぇよ」
「ぁだっ!!」


吉澤さんに頭を叩かれた。
だけど笑みは消えない。
理由を知っとー藤本さん以外は不思議そうにれなを見てる。
やけん、さっきの話をした。
家族の例え話。


「ふふ、だったら愛ちゃんはお父さん似だねー」
「んぅ!?なんでよ」
「だって、たまにちょっと抜けてるもん」
「「なるほど」」
「何気に失礼じゃね、ガキさん」
「やったられーなは美貴ちゃん似やざ」
「「確実に」」
「ぁんだよ、それ」


ここで皆の目がガキさんに向けられる。
ガキさんは…パパ似?それともママ似やと?
87 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:45
「え!?な、なに?」
「絶っ対に美貴でしょ」
「いや、ガキさんは優しいもん。うちだな」
「うーん、半分半分ってとこやない?」
「どっちにも似とーし、どっちにも似てないと」
「そう言えば…真ん中はひねくれるらしいやよ」
「コラーー!!ひねくれてないから!!てか、そろそろ準備しないと!!」


そんなこんなで、今は準備中。
カウンターの奥にあるお風呂の順番待ちをしながら掃除もしつつ、昨日来てくれたお客さんにお礼の電話をする。
衣装は専属クリーニング屋さんに預けて今はジャージやけど、皆電話中はしっかり仕事の顔っちゃ。
きっとれなも……。
88 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:47
電話が終われば、いつものお店でご飯を食べる。
もうお昼は過ぎとーけん、かなりお腹が減って来た。



「よし!!飯行くぞ、飯」
「やた♪♪美貴何食べよう……やっぱ肉?」
「れなも肉ー♪♪」
「……胃もたれしない?それ」
「里沙ちゃん、今更やよ」



カギをかけて、目指すは三階のレストラン『NACCHI』。
いつもご飯系はお世話になってます。
すっごいおいしいっちゃよ♪♪
朝(昼?)ご飯を食べたら、クリーニング屋さんに預けた衣装を来て髪を整えてメイクして……。
ふと見ればもう暗くなっとー。
街も明るくなって、人の姿もたくさん確認出来る。
89 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:50
ここは予約制。
やから来る人はわかっとー。
テーブルにその人のためのお酒を用意して、扉が開く度に笑顔のお客さんを笑顔で出迎える。


「ヒトミ〜」
「今日も美しいですね」
「貴女も相変わらず」


「ミキ様〜」
「あれ!?今日も新しい服だね」
「可愛いでしょ?」


「アイ」
「…全然お見えにならないので、心配しましたよ」
「ゴメンね、ちょっと仕事がバタバタしてね」


「れいにゃ♪♪会いたかったょー」
「れなもー♪♪」


ガキさんの指示でテーブルを回って、気付けばお客さんを見送ってる。
明日は定休日やけん、今日は人数が少なくしてある。
閉店時間も早い。
90 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:52
「申し訳ありません。本日はもう閉店時間でございます。Renoir一同、またのお越しをお待ちしております」
「「「「「また次の夜に」」」」」


最後のお客さんを見送れば、やっぱりやってくる睡魔。
吉澤さんはぐったり床に座っちゃったし、藤本さんなんかもう寝る気満々。
愛ちゃんは……ガキさんにソファーに運ばれてる。
あんまりお酒飲めないからなぁ、れなよりずっと。


……眠い。
でも、まだすることがあるから眠れない。
約束を守らんと、あの二人は恐いっちゃ。
愛ちゃんをソファーに寝かして、次に吉澤さんを引っ張ってるガキさんに近づく。
91 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:54
「吉澤さん、ちょっ。ぬぉー、倒れるー!!」
「今日ここでいい…」
「ダメです。体おかしくなり、ますって」


……大変そう。
そういえば、吉澤さんめちゃくちゃ飲まされてたっちゃね。
ガキさんとは逆の左側を支える。
軽いんちゃけど、身長差が……。
フラフラしながらなんとかソファーに寝かせた。


「ハァ…。ありがと、田中っち」
「大丈夫と。……あのガキさん」
「んぅ?」
「明日予定あります?」
「明日は特にないよ。愛ちゃんも用事あるみたいだし、お酒も足りてるからね。でも何で?」
「あのちょっとお願いが…」


事情を説明したら、快くOKしてくれた。
92 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 00:57
お願い……それは、約束を守らないと恐い二人に何気なくバイトの話をしたのがきっかけだった。


*****
「絵里、そろそろ片付けるの」
「えぇー、いいよぉ。だってさゆとれーな以外気にしないもん」
「ったく…ほんとに十八歳と?」
「そうだよぉ!!」
「バイトしとーとこに絵里と同い年の人いるっちゃけど、すっごいしっかりしとーよ?」*****



この言葉がきっかけで、最終的に来週連れて来いって話になってしまった。
普通なら面倒なことなのに、ガキさんは笑顔で"いいよ"と言ってくれる。
第一印象なんてあてにならんと……最初見た時は何となく怖く感じたっちゃから。
93 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:00
怒られる原因がなくなって安心したのか、目を開けた時にはもう空は明るかった。
フロアを見渡すともう寝てる人はいない。


「田中っち、おはよ」
「あ、おはよぅございます。皆どこ行ったと?」
「もっさんと吉澤さんは買い物で、愛ちゃんはお母さんのとこ」
「えっ!!今準備すると!!」
「大丈夫、まだ昼前……って聞いてないかぁ」


急いでお風呂に入って準備して、久しぶりの朝ご飯を食べる。
そして目的地の病院へ。
ここで働いてから何故か催促も利子もなくなったけど借金はあるし、仕事の内容を話していない二人に感づかれては困るので、移動手段はバス。
94 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:02
ガキさんは久しぶりに乗るのか、かなり焦ってた。
れなだって、二人に会う習慣がなかったらバスに乗ることなんてなかったかもしれん。
…絶対吉澤さん辺りは乗れんちゃね、かなり長く働いとーし。



「うわぁ、バスだよ……」
「久しぶりと?」
「え、あ、うん。…てかさ、なんて話を合わせればいいの?」「へ?」
「言ってないんじゃない?仕事のこと」



さすが。
ほんとガキさんでよかった。
吉澤さん、藤本さんは雰囲気でバレそうっちゃ……。
愛ちゃんはポロって言ってしまいそうやと……。
ガキさんなら嘘が下手なれなを上手くフォローしてくれそう。
95 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:05
「…一応、飲食店って言ってます」
「了解。ま、詳しく言わなきゃ大丈夫でしょ」
「お願いします。あ、降りますよ」



揺れるバスの中、隣に座る寛大な先輩にお礼を言っていると見覚えのありすぎる風景に気付いた。
時間にすればわずか二十分程度のバスの旅を楽しんでいるガキさんには悪いけど、もう目的地に着いてしまったらしい。
『亀井総合病院』
ここがもう一つの自分の居場所。



「ねぇ、田中っち。お友達ってどのくらい入院してるの?」
「入院っていうか、ずっとそこで暮らしてるんです。体弱くて」
「いつから?」
「うーん、たぶん何年も前からやと……」
96 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:08
"何の病気か"ではなく"いつからか"と聞くことが不思議に感じたけど、気を使っているのかなと思って理由は聞かなかった。
それに聞けなかった。
だって一歩後ろを歩くガキさんの顔は痛そうだったと。
もしかしたら病院に連れて来るのは傷に塩を塗るような事だったのかもしれない。



後ろを気にしつつもう顔見知りになった看護婦さんに挨拶しながら歩く。
二階の一番奥、人通りの少ない個室。
ドアの横には『亀井絵里』と書かれたボードが掛かってる。
それを見たガキさんは途中で買った四人分のケーキの箱を胸の位置で持って、悲しそうなため息をついた。
97 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:11
ガラガラガラ
「れーな、遅いの」
「さゆだってさっき来たばっかじゃーん」
「さゆみはいいの」



廊下は静かなくせに、相変わらず中はうるさいっちゃねぇ。
まるで病院じゃなか…。
一週間に一回集まるけど、それは今も昔も変わらない。
昔と言ってもいつからかはわからんっちゃけどね。
いつになくハイテンションの二人に呆れながら、真っ白で物もないのに散らかっている病室に入る。



「れーな、一人なの?」
「えー、絵里楽しみにしてたのにぃ」
「ちゃんとお願いして来たと。それより連れて来るのわかっとーなら、少しは片付けんしゃい!!」
「少しはしたもん」
98 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:15
少し?ただ寄せただけっちゃろ……。
全体から見れば全然変わってなかよ。
せっかく来てもらったのに申し訳ないなと思いつつ、ガキさんを中に呼ぶ。



「すいません。ちょっと散らかってますけど…」
「ひどーぃ。これでもしたも……ん」



白いベッドの上で絵里が固まった。
側のソファーに座るさゆも不思議そうにしてる。
れなも何でかわからなかったけど、すぐに理解出来た



。「……久しぶりだね、カメ」



ガキさんのその言葉を聞いた途端、絵里はボロボロと涙を零した。
声にならない音を出しながら泣いとー。
ここまで泣き崩れる絵里を初めて見た気がした。
99 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:19
絵里は結構重度の喘息持ちで、少し心臓も悪かった。
だからこんな風に呼吸を乱して泣くことはあまりいい事じゃない。
だから呼吸の合間に喘息特有の音が聞こえて来たので、さゆが枕元のナースコールに手をのばした。



「待って、大丈夫」
「でもっ!!苦しそうなの!!」
「これはまだ大丈夫」

ガキさんはケーキの箱をさゆに手渡して、絵里を優しく抱きしめた。
背中をゆっくり叩きながら、大袈裟に息をする。
するとだんだん絵里の呼吸がそれに合わせてゆっくりになってく。
まだ不安そうにしてるさゆに近付いた。
箱を持つ手が震えてた。
やけんその手を握った。
100 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:26
「大丈夫だよ、カメ」
「ハァハァ、ハァ…スー、ハー…スー、ハー」
「まだ苦しい?」
「へーき」
「ほんと?」
「もぉ、ガキさんは心配性だなぁ」



発作も涙も完全に止まってた。
声に安心してガキさんは離れようとしたけど、絵里が服を離さなかった。
ガキさんは困ったようにしながらも懐かしそうに笑って、絵里の側にまた腰を降ろした。



話を聞くと二人は幼なじみだそうだ。
だけど急にガキさんと連絡が取れなくなって、それ以来会ってなかったらしい。
その時期がガキさんがRenoirで働き出したのとピッタリ重なったけん、話題を変えた。
触れてはいけん、そんな感じがしたから。
101 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:28
さゆも空気を感じ取ったのか、少し手荒な切り替えの流れに乗ってくれた。
そのおかげて楽しい時間だったと。



絵里の適当さを三人で注意した。
さゆのナルシストぶりも発揮した。
ガキさんにれなの話を暴露された。
やけん、お返しに愛ちゃんの話で冷やかしてやったと。
楽しい時間は早いっちゃ。
あっという間に帰る時間だった。
絵里にまたねと告げて、病室を出た。
薄暗くなった廊下を三人で歩く。
するとガキさんが急に立ち止まった。



「どうしたと?」
「携帯忘れた…。ちょっと取ってくる!!」



れな達に先に行っててと言って、歩いて来た道を走って行った。
102 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:30
「意外におっちょこちょいっちゃねー」
「……れーなの鈍感。きっとわざとなの」
「へ、そうやと?」



さゆに引っ張られて、近くのベンチに座った。
中庭の木のすき間から、絵里の病室にガキさんが入ってくのが見えた。
ここからだと意外にはっきり見えるっちゃねぇ。
新たに見つけた発見を教えようと隣を見るとさゆが何か考え込んでいた。



「どうしたと?」
「さゆみ達にも出来るかな、新垣さんみたいに」



主語はなかった。
でもずっとれなも考えてたけん、それが何だかすぐにわかった。
……れな達もガキさんがしたように絵里の発作を静めてあげられるかな。
103 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:32
絵里のお父さん、つまりこの病院の医院長さんに教えてもらったと。
確かに絵里の喘息は軽くはないけど薬もある。
それに心臓だって昔に比べると丈夫になった。
やけん運動などは出来なくても病院に篭る必要はないって……。



なのに絵里はこの白い場所から出ない、最近では窓さえ開けなくなった。
それに発作が起きても薬を嫌がる。
訳を聞いても適当に濁すだけ。
もし、れな達が薬の代わりになれるなら……。
一緒に風に乗れるのなら……。



「ちょっと…頑張ってみよう。さゆみ達が出来る範囲で」
「やね。ずっと一緒やけん、焦らなくても大丈夫と」
104 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:34
いつまでも側にいてあげる。
いや、いてほしい。
いくら大人になっても三人で……。



そっと心に誓って、目線を窓に上げた。
ちょうどガキさんが出て来たのが見える。
なのにドアの前から進もうとしない。
ガキさんは人を待たせた状態でゆったり出来る人じゃないっちゃ……。
違和感。



「ガキさん、どうしたっちゃろ」
「え?」
「やって動かん。ちょっとれな行って来る」
「あれ!?誰かいるの…」



走り出そうとしたのをさゆに止められて、窓を見た。
男の人…?
知っとー、れなは似た人を覚えとー。
まだ細部まで覚えてる、二枚の桜の花びらが重なったペンダント。
105 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:36
さゆの制止を振り切って、おもいっきり走った。
あの人は……れなの客っちゃ。
運動不足からか足が重い。
いつもの病室が遠く感じた。
廊下の先の人影が歩いて来る見えた。



「ガ、キさん!!」
「ゴメンゴメン。待たせた?ちょっと見つかn」
「っ今誰かいたと?!」
「んぅ?誰かって?」
「黒い服で男の人っちゃ。桜のペンダントの……」
「あぁ、病室聞かれただけだよ?でも…ペンダントなんて付けてなかったと思うけど」



そんなはずは……、もしかして恰好が似てたけん間違ったと?



さゆと別れてバスに乗っても、その事が頭から離れなかった。
106 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:38
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107 名前:第二話 投稿日:2007/09/19(水) 01:40
赤と金色、そして甘い香り。
扉を開けるとそこは、、、風を感じさせてくれるもう一つの場所でした。



れなは、二つの風を知ったと。
一つは真っ白な場所っちゃ。
もう一つはライトの明るい場所やと。
れながれなでいれる場所。
両方手放したくない。
こう思うのは、我が儘と?



やけど一つだけ、何だか気になって仕方のないことがある。
もしかしたら二つの場所は関係ないかもしれん。
やけど、引っ掛かる。



……『桜のペンダント』



だけど触れてしまえば今の幸せが消えないか恐い。
確か、お父さんとお母さんの顔を初めて見た写真の背景も桜だったっちゃね。
108 名前:図書 投稿日:2007/09/19(水) 01:44
訂正です。
"第二話"と題を付けましたが、"第一話"の間違いです。
ほんと、ミスが多いです↓↓↓

題は内容と無関係ですので、気にせず読んで頂ければと思います。
109 名前:図書 投稿日:2007/09/19(水) 01:53
【59様】
天才って言われちゃったぁ♪♪
いえいえ、ただの元図書委員ですよww



【60様】
いやぁ、照れますなぁ////
嬉しい限りですvv



【61様】
確かに少ないですよねぇ↓↓
個性的だからですかね……。

本編やっと書きました。
どーでしょう?


【62様】
じゃんじゃん、ハマって下さい♪♪ww
こんなに褒めて頂くと、消去しなくてよかったなぁと思いますね。


【63様】
二人共可愛いからでしょー↑↑

いろんなカプ……
雑食なのでいろいろ書く可能性はありますょ♪♪
110 名前:図書 投稿日:2007/09/19(水) 02:00
【64:名無しです様】
よかったです↑↑
かなり嬉しいですな

本編はどんな感じですか?



【65様】
私も大好きですvv
娘。が好きなんでだいたいのカプは好きなんです。
推しはガキさんですが♪♪



【66様】
ほんと美しく、可愛くになりましたよね〜。
時々、色っぽすぎて涙が出ますww
111 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/19(水) 08:06
更新お疲れ様です。
もしかして本編も愛ガキたくさんあるのかな?
こっそり期待して待ってますw
112 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/19(水) 10:30
本編も続きが気になりますw
そして密かに愛ガキ要素があって嬉しいなw
113 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/20(木) 00:43
世話好きガキさんにぴったりの役ですね、
ドラマチックな話しなのに淡々と進む空気感がとても良いです。
114 名前:名無しです 投稿日:2007/09/20(木) 20:53
おっと!新キャラ!!
また続きが気になる終わり方で…w
なんか区切りつけるの上手ですよね。

ちょっと愛ガキに期待しちゃったりして♪w
115 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/20(木) 22:10
すげー惹きつけられます
頑張ってください
116 名前:図書 投稿日:2007/09/25(火) 23:41
どうやら、愛ガキ好き読者様が多いようですので……また書いてしまいました。
次回は他のcpにも挑戦したいなぁなんて、思ってます。


それにしても二連続でおもいっきり曲にリンク。
音楽を聴きながら書くスタイルだからか。
それとも表現が上手な愛ちゃんとガキさんだからか。
こういうタイプが好きだからか。


今回も楽しんでいただけたら、嬉しいです。
117 名前:短編A 投稿日:2007/09/25(火) 23:46
……私は、まったくもって損な性格をしてる。
『朝の二度寝が出来ないらしい』


今日は仕事がない、つまりオフ。
だから昨日は携帯のアラームを設定しないでシーツの中に入った。
その時はなんて贅沢なんだ♪♪って思いながら。
なのに今は何時だ。
まだ早い時間に目を覚まし、いくら二度寝を試みてもイライラするだけ。
夜中に起きてもすぐ寝れるくせに……。



諦めて体を起こした。
さぁて何をしよう。
そうだ、掃除でもしよう。
掃除機をかけて、洗濯物などを片付ける。
天気もいいし布団でも干そうか。
きっと今日寝る時はフカフカで太陽の匂いがするだろうな。
118 名前:短編A 投稿日:2007/09/25(火) 23:50
張り切って始めた掃除は、開始して一時間経つ前に終わってしまった。
……私は、まったくもって損な性格をしてる。
『何をするでも、せっかちらしい』


同い年の後輩と違って部屋はそれほど散らかってはいなかったけど、何もこんなに早く終わらせる必要なかった。
急いでるわけじゃないのに……。
仕事柄!?いや、小さい頃もそうだった。


あぁ、何をしよう。
愛ちゃんを誘おうか。
でも昨日何も言ってなかったし、予定でもあるんだろうなぁ。
何となく携帯に目を向けた。
途端に震えるそれ。
おぉ、気が合う!!
近づいて手に取る。
開けば、新着メール有りの文字。
119 名前:短編A 投稿日:2007/09/25(火) 23:53
「あれ、愛ちゃんじゃん!?」


送り主は仕事の付き合いも私的な付き合いも長くなった、二歳年上の恋人。
少しだけ高まった鼓動に気付いてないふりをしつつ、メールを開く。


"ガキさん、暇やろ?"


……これが恋人に送るメールか?
いや、今に始まったことじゃない。
私がいくらデートのプランとかを長々送っても、"おう!"とかで終わらせる人なんだから。


でも、どうして暇だと決め付けてるわけ!?
そんなのわからないでしょーが。
……ま、実際に当たっちゃってるけども。
もし私が誰かと遊んでたらどーしたんだろ。
不機嫌になる可能性は結構高い、かも。
120 名前:短編A 投稿日:2007/09/25(火) 23:58
……私は、まったくもって損な性格をしてる。
『素直になれないらしい』


この誘い方、つまり遊びの誘い。
その誘いに"今から掃除しようと思ってたのにぃー"しっかり喜んでるくせに、過去の話を送ってしまう。
返事と裏腹に頭の中は着て行く洋服の事。
暖かいし、スカートにしようかなぁ。
髪も巻いてー、靴は先週買ったやつにしよう♪♪


震える携帯、"カギ開けとるから"。
さっきのメールで引き下がる人じゃないのはわかってた。
でも今日はいつになく淡々としてる。
もしかして……別れ話?
それともなんかあった?
どちらも嫌だけど、どっちか前者でないことを願いたい。
121 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 00:03
頭に浮かんだ洋服を着て、鞄に必要な物を入れる。
髪は巻かないことにした。
早く行った方がいい気もするし、長い時間カギを開けっ放しにしてるのは危ないから。


歩きながら返事をつくる。
器用なもんだ。

"わかったぁ。でもカギは閉めてて、危ないから"

たぶん閉めてくれないだろうな…そうゆう人だもん。
だけど、一応。
そして暗くなった画面でチェック。
変ではないな。


帽子を被って通りに出て、呼んだタクシーに乗り込む。
愛ちゃんのマンションだったらタクシーの方が近いから。
だけど早く着いてほしいような、ほしくないような。
なんて言うんだろ、こんな感じ。
122 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 00:08
ちょうどピークを過ぎたからか、混んでいなくてタクシーはスイスイ進む。
乗ってる間にメイク。
強制的にでも気分を変えたかったから、ゆっくり慎重に。


そして目的地より手前で降りた。
運転手さんを疑ってる訳じゃないけど、憧れの先輩達から最初に言われた事だから。
帽子を深く被り直して何度も泊まった場所を目指して歩く。


メールを返してから三十分以上は過ぎたのに返事はまだ来ない。
勝手に足が早くなる。
マンションがはっきり見えた頃には走ってた。
……発汗CMじゃないんだからさ
。あ、でもあれは階段かぁ。
それに自分から走っちゃってるし。
123 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 00:12
乱れた息を整えるドアの前。
いきなりの呼出しにゼーゼー状態なんて恥ずかしい。
普通に戻った呼吸。
念のために鏡を見る、大丈夫。


鏡を鞄に戻しながらチャイムを鳴らす。
応答なし。
DVDでも見てるのかな。
ドアノブを回す。
案の定、開いてしまったドア。
閉めてねって言ったのに。
不満と文句を込めた息を空気中に逃がしながら、ドアの向こう側に入った。


「おじゃましまーす。……愛ちゃん!?どこ?」


スリッパの音しかしない部屋。
テレビの前にも姿がない。
キョロキョロ探す。
……いた。
寝室のベッドの上。
俯せでねっころがり、こちらを見ずに手を振る彼女。
124 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 00:15
近づいてることを知らせる為に専用となったスリッパを鳴しながら歩く。


「眠いの?」
「んーぅ」
「愛ちゃん?」


ゆっくり顔を上げた彼女の顔は少し赤かった。
咄嗟に手をあてる、やっぱり熱い。
体温は私の方が高いはずなのに。
コホコホと体を揺らす。
大変、風邪だ。


「手…気持ちえぇ」
「なんで風邪ひいたって言わないの!?そしたら飲みものとか買って来たのに!!」
「……そんなん言ったら、あんた遅いやんかぁ」


そう言って、さっきの体制に戻った。
正直、風邪ゆえの呼出しとわかって嬉しく思ってしまう。
ごめんね?
別れ話じゃないんだって安心したんだもん。
125 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:06
誤解されたくなくて笑顔になりそうなのを耐える。
もし誤解されてしまったとしても、"別れ話じゃなくて安心した"なんて言えるはずない。
隠せてないと困るから愛ちゃんの足側に座った。


「熱は?」
「少し」
「そぉ。じゃあ、薬は?」
「ある……。でも飲んでない」
「うぇぇ!?なんでよ!!」
「だって粉やもん」


粉だから飲みたくないって……何歳よ、あなた。私よりもお姉さんでしょーが。
「飲みなさい!!ワ」「やだ。苦いし、喉にへばり付くんよ」「なら、買って来ようか?」「…………。飲む」私のスカートの裾をギュッと掴んでる。ちっちゃい子みたい。
126 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:09
ここ数日、少しだけ違和感を感じてた。
やっぱり風邪っぽいかったのだろう。
"休憩しよ?"とか"無理しないで"とかの言葉を掛ければ余計強がって平気なふりをする人。
そのくせ、多くの我が儘を言う人。


スカートの裾を掴む手をやんわり解いて台所へ。
薬は簡単に見つかった。
食べかけのパンの近くにある小さな箱。
箱の中から一袋持って戻る。
一緒に水と熱さましも。


「はい、飲んで」
「んー……ォェ、苦っ」
「薬だもん、美味しいはずないでしょーが」
「苦いって!!苦い苦ーい」


そんなに?ってくらい暴れるのを大人しくさせて、ベッドの中に押し込んだ。
127 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:11
手でもう一度確認。
何度あるのかはわからないけれど熱いなってぐらいはわかる。
そっと熱さましをおでこに貼った。



「寝ててね。お粥でも作ってあげるからさ」
「……どこ行くんよ」
「台所だよ?何か食べないとダメでしょ?」



愛ちゃんはブンブン頭を振る。
どうやら、一人にされるのが嫌らしい。
布団をめくって、自分の隣をポンポン叩く。


……一緒に寝ろと?
でも今日は暑いくらいだし熱もあるから、寒くはないでしょ?
それに……私、普通にメイクしちゃってるんだけども。
そもそも看病する人が一緒に寝ちゃっていいのだろうか?
いや、ダメでしょー。
128 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:21
だけど…すぐ戻るからと言っても今はいらんと返され、ここにいるからと言っても嫌だと返される。
あぁ、もぉ。
……私は、まったくもって損な性格をしてる。
『どんなに考えても、この人には勝てないらしい』



本人が言ってるんだ、言う通りにしよう。
隣に滑り込んだ。
中は思ったよりも熱が篭ってた。
しかも抱き枕並に抱えられているから、それは尚更。


困ったなぁ、全く眠くない。
音楽でも聴こうと何とか鞄から小さな機械を出して、イヤホンを片耳だけに繋げた。
流れる私達の、仲間達の曲。
私を抱えてる、すでに夢の中の人を起こさないように音量を下げた。
129 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:23
静かな部屋では最小にしても十分聞こえる。
同じグループにはもういない、同期達と先輩達の声。
今と比べると弱気な後輩達の声。
探しても見つからない新しい仲間達の声。
少し違く感じる私の声。


……私は、まったくもって損な性格をしてる。
『どうやら、あなたが好き過ぎるらしい』


どんなに小さい声でも気付いてしまう。
気付いてしまえば、それが全員のパートであったとしてもそればかり追い掛けてしまってる。
ちょうど胸の辺りにある頭。
この音で起こしてしまうのではないかと心配しても自分では操作出来るわけなくて、無駄な努力をするのをやめた。
130 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:26
私って変わってるのかなぁ?
こんなに近くに本人がいるというのに、機械から流れる録音された声を聞いてドキドキするなんて。


……もしかしたら、違うかもしれない。
皆が知ってるあなたの声を聞きながら、私以外は知らないあなたを感じてる状況にドキドキしてる。
きっと、そうなのかもしれない。


曲が止んで、次の曲が流れ出す。
もはやイントロでわかるこの曲。
あなたの声しかしないから、こんなにも切なくなるのかな?
それても、感情の込め方が上手だからかな?


この曲は私をどこかへ連れ去ってく。
悲しくて愛しくて切ない所。
目では見えないあの世界へ。
131 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:28
"ねぇ 聞こえる? 私の声が"
ーーうん、聞こえてるよ。
あなたの声なら、どんなに小さくてもどんなに離れてても。
たまに話を聞いてないって怒られるけど、声はちゃんと届いてるんだ。
私、目だけじゃなく耳もいいんだから。


"ねぇ 感じる? 私の心"
ーー大丈夫、どんな時でも近くに感じてるよ。
今だってほら、こんなに近くにいるから尚更ね。
でも例え同じ場所にいなくても力を分けてくれる気がするんだ。
だから頑張れるんだよ。
こんな事、言ったことはないけれどさ。


だけど時々不安になる。
愛ちゃんはあまり言葉にしてくれないから。
矛盾してるかな?
132 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:31
"そう 聞こえる あなたの声が"
ーー私の声は聞こえてますか?
どんなに小さくても、どんなに離れてても。
本当に?
今、あなたに話し掛けてもちゃんと気付いてくれますか
?……そんな事、実際にしたりしないけどね。


"そう 感じる あなたの心"
ーー私の心は感じてますか?
距離に関係なく、隣にいても違う場所にいても。
本当に?
じゃあ、私がどれだけあなたを想ってるか知ってくれてますか?
……まだ折り返し地点なんて見当たらないんだ。


時々不安になる。
私はあまり言葉に出来ないから。
欲張りだよね、はっきり言葉で伝えないくせにわかってほしいなんて。
133 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:33
あなたの歌を聴きながら思考がどこかに離れていった。
あぁ、やっぱりこの曲は私をどこかに連れ去ってく……最後に思ったのはこんな感じだった気がする。


隣で動いてる気配がして、この白いベッドの中に戻って来た。
あのまま眠っちゃったみたい。
その証拠に流れる音楽は新体制で初の曲だった。
ゆっくり目を開ける。
状況に大きな変化はない。
変わったことと言えば……もう片方のイヤホンが本来の役目を果たしていて、寝てた人が起きているぐらい。


「あ、起きた」
「……具合は?」
「大丈夫やよ、バッチリ回復♪♪」
「そぉ。でも薬は飲んでね」
「え゙っ!?」
134 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:36
そんなに嫌なわけ?
だけど飲んでもらうから。
おもいっきり眉間にシワを寄せて唸っても涙目でおねだりして来ても、こればっかりは許さない。
大抵の我が儘は叶えてあげるけど、ダメなものはダメ。


「んじゃ、あんた今日一日看病な?」
「もちろん。でもお風呂に入れてとかなしね」
「ちぇっ」
「もぉ、当たり前でしょーが」


……考えることぐらいわかる。
明日は仕事があるんだからさ、大人しくしてもらうよ。
とりあえず約束のお粥でも作ろうとイヤホンを取って体を起こす。


「お昼食べれる?」
「うん、お腹減った」
「オッケー、待っててね」
「あーい」
135 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:38
イヤホンを両耳に繋げて上機嫌に体を揺らす人に見送られて、寝室を後にする。
とは言ってもそんなに離れてないけどね。
ほら、鼻歌が聞こえて来る。
曲が変わったらしい。
……夕飯はそれにしようか?
クスリと笑いつつ、まずはメイクを落としに洗面所へ。
中途半端に落ちたメイクならしない方が心地いいからね。


素顔に戻って冷蔵庫をチェック。
普段から結構料理をする人だから何もないってことはない。
使う食材を取り出して扉を閉めた。


夕飯も決まっちゃった。
だって右下に長方形の箱を見つけちゃったし、材料も足りるんだもん。
好きでしょ?カレーライス。
136 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:41
愛ちゃんの鼻歌をBGWに昼ご飯を作る。
包丁の音が曲に乗る、曲ごとにリズムを微妙に変えて。
気付けば私も鼻歌に参加してた。
途中から愛ちゃんにもそれが聞こえたのか、ハモったりしてる。


あ、これハワイで歌ったね。
二人でさ。
ハモるの大変だったなぁ。
料理が終わるまで、お客さんのいないコンサートは続いた。
台本も衣装替えもダンスもないコンサート。
あ、それじゃコンサートって言わないか。


食べ終わってからお母さんにメールした。
愛ちゃん家に泊まるという報告と布団を取り込んでほしいというお願い。
仕事前に帰るからと付け足して。
137 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:42
後日リーダーがマネージャーに呼ばれて不在の時、なんであの日私が暇だというのがわかったのかを知った。
どうやら私と遊ぶ人は律義にもその前日に愛ちゃんにメールしていたようだ。
理由を聞くと七人が口を揃えて言う、「だって怖いんですもん」と。


「別に何か言われるわけじゃないとよ」
「そうそう、特には何にもないんだよねぇー」
「ただ……一瞬の視線が怖いの、すごく」と、六期の三人。


「小春達は実際に見たことないんですけどぉ、怖そうなんで」と、ミラクル。
その言葉に頷く三人。


……一体、何やってるわけ?
てか、そこまでさせてる私達って?
138 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:44
どうリアクションすればいいのかに迷いつつ、ごめんと頭を下げる。
だけど笑顔で戻された。


「れな達が勝手にしとーことやけん、気にせんでよか」
「それに、しないと逆に気持ちが悪いの」
「理想のカップルですぅ♪♪」
「相思相愛って感じですやん」
「ナカヨシハ、イイコトデス」
「ソーデス」
「そ・の・か・わ・り、愛ちゃんとガキさんにはおもいっきり頼らせてもらいますから♪♪」


その温かな言葉達に不覚にも泣いてしまった。
恥ずかしいのに、慰められては止まる気配のない涙。
そこへ、タイミング悪く戻って来るリーダー。
泣いてる私に、囲むメンバー。
139 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:46
途端に静まった楽屋はまるで一時停止みたい。
ドアの前にいる愛ちゃんの驚いた目が一瞬だけ鋭く変わるのを見た。
これのことか、と理解して瞳だけで周りを見る。


初めてであろう四人は見事な静止、経験者である三人は完璧なホールド・アップ。
視線を戻して笑う。
私の声が聞こえるなら、私の心を感じられるなら……わかるでしょ?
今、すっごく嬉しいんだって。


「お帰り、愛ちゃん」
「……んー、ただいまぁ」


愛ちゃんがにっこり笑う。
普段のリーダーに戻ったのを感じてか、周りは息を吐き出して緊張を解いた。
楽屋に訪れる、賑やか過ぎる平和の気配。
140 名前:短編A 投稿日:2007/09/26(水) 01:48
こっちに歩いて来る時にわかったこと。
声には出さず、視線だけで訴えて来たこと。
ちゃんと聞こえたよ、はっきり感じたよ。
後で全部話すね。
涙の理由も、温かい言葉達も。
聞き取ってくれた、感じ取ってくれたお礼と一緒に。


……でも少々のお説教は覚悟してね?
わかってるだろうけど、コラーー!!程度じゃ済まさないよ。
今、あなたを怒れる人は私しかいないんだからさ。


それは……同期かつ、サブリーダーかつ、恋人の特権でしょ?
141 名前:図書 投稿日:2007/09/26(水) 01:50



fin
142 名前:図書 投稿日:2007/09/26(水) 01:52
【111様】
本編……どぅでしょー♪♪w
ただ好きなcpの詰め合わせとだけ、申しておきます!!
無謀にも王道cpにも挑戦煤I?


【112様】
少々、お待ちを。
今育ててるとこなので。
期待にそえるよう頑張ります!!


【113様】
ガキさんのキャラを壊してなくて良かったぁー♪♪
良いですか、最高級に嬉しいっすw


【114様】
まだまだ増えますょぉ↑↑
えっと……、とりあえずいっぱいですw


【115様】
ほんと有り難いお言葉で>_<頑張ります!!
……本編6割、短編4割でw
こんな書き手ですが、見捨てなぃでぇぇえ。
143 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/26(水) 02:28
カワイイねぇ愛ちゃんガキさん
たしかに愛ちゃんあの目はちょっと怖いかもw
他のCPも大歓迎です
144 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/26(水) 05:01
また短編愛ガキキター!二人がラブラブだと癒されます。
出来ればもっとイチャイチャしてるところも見てみたいなーなんて。
本編も期待します。
145 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/26(水) 09:51
いいですねぇ。
あの曲自分も好きです。
そして何か凄い想像がつきました(笑)

確かに、一瞬鋭いアレは怖いですw;
146 名前:ぽち 投稿日:2007/09/27(木) 03:11
愛ガキもいいですね〜。
二人が自然にハモるとか、可愛い
147 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/27(木) 07:46
短編の愛ガキ最高です♪

自分は愛ガキ大好きなんで、これからも頑張ってほしいです
148 名前:図書 投稿日:2007/10/20(土) 13:11
まず、お詫び申し上げマス↓↓

只今、本編に悩みまくっております……。
なのでもぅ少々、待っていただきたい(xx;)

そしてそして前回に愛ガキ以外を書きますと宣言致しましたが、間に合いませんでした。
なのでまたまたまた……愛ガキです。
有言実行出来ず、申し訳ありません!!!
必ず書きますので、どうかお許しを(__)


今回の愛ガキですが、過去のお話です。
外見等はお任せしますが、設定が過去のアンリアルです。
149 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:14
高校の真っ直ぐな廊下。
休み時間にでもなればそこは、自分と同じ制服で賑わう。

赤、青、緑ーーーリボンの色など関係無しに。


「…………」
「……がきさぁん、いいの?高橋先輩見てたよぉ」
「……だってさっ///どういう反応すればいいかわかんないもんっ!!」

「えぇー!?」

「な、なによぉ」
「幼なじみなのに!?恋人同士なのに?!」
「ちょ、カメ!!声大きい!!」


ここは二階渡り廊下。
北と南の校舎への移動で、よく生徒や先生を渡す掛橋となる。
一階と三階にもあるけどこここのように四方を囲まれていないため、比べると好まれないみたい。
150 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:17
コンクリートと窓ガラスで囲まれているので、雨や強風や寒さなどを防いでくれる。
しかし残念なことに驚いてた様子で叫んだ親友の声までも、空で薄まらせずに響かせてくれてしまった。
なので話の役者が誰か、私だけでなくこの場にいた数人にも伝わってしまっただろう…願いむなしく。
背中に視線を感じ、耳が小さな声を拾う。


「あ〜ぁ、高橋先輩かわいそぅ」
「ぅ〜。だってさぁ…」


掛橋を渡り終わってもこの話題。
私の、幼なじみ兼恋人である高橋愛の。
つい先程たまたま渡り廊下ですれ違い、目が合ったのにもかかわらずそらしてしまった私の。
151 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:19
カメの言い分は十分わかってる。
だけど体が動いてしまうのだから、どうにもこうにも……。

幼なじみの関係がレベルupしてから、まだそんなに日が過ぎていないからかもしれない。
相手がこの学園のちょっとした有名人だからかもしれない。
私の隣にも彼女の隣にも、友人がいたからかもしれない。
何故か付き合っていることが全学年に知れ渡ってしまっているからかもしれない。

メールは出来ても、ばったり会ってしまうと………。
二人だけならすごくドキドキするけどこんなことにはならないのに。
話すことも触れることも出来るのに……。
152 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:21
キーコンカーコン♪♪

「「あ゙゙っ!!」」
「次って確か……」
「全校集会!!ほら、カメー!!ダッシュ」
「ふぇ〜〜。ガキさん待ってぇー」


階段を二段飛ばしで降りて並んで走る。
目指す先は体育館。
遠くに見えた扉は、最悪のことに閉められていた。
……遅れて来る全校集会、どれほど目立つものか。

静かに扉を開けて自分のクラスの列の最後尾に座った。
当然、ほとんど全員の視線を二人で浴びながら。
そしてさらに気まずいことに隣には愛ちゃんの姿。
学年は違えど、一年二年三年と横に並ぶと列が隣なのだ。
最後尾にいるということは彼女も遅れたらしい。
153 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:24
正座を横にくずして、手に持った携帯を床に置く。
リレーのバトンみたく持って走ったせいで、携帯の表面にはしばらく指の跡が白く残ってた。

前では薄くなった部分を必死に隠しているような頭の教頭が何かを話してる。
無駄だと思う。
そのお話も、その日々の努力も。


「(がきさん)」
「(んぅ?)」
「(皆プリント持ってるから、絵里の分も取って来てぇ?)」
「(えぇーー)」
「(疲れたんだもん。お願い!!)」
「(……もぉ、しかたないなぁ)」


静かに少し離れた場所に置いてあるプリントを二枚取りに行く。
……愛ちゃんは持ってたみたいだし。
154 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:26
プリントを持って戻り、さっきのように座った。
なのにカメときたら、見ずにずっと携帯をいじってる。
せっかく私が取って来たというのに……。
まぁ、私も読んではいないけども。

ただボーっと前の人の背中を見て、暇な時間を過ごした。
……正しくは、隣の愛ちゃんの気配を気にしながら。

全校集会が終わった。
退場は出入口の一番近い三年生から。
そして愛ちゃんの背中が見えなくなった時、一・二年生に向けての注意が始まる。
制服がどうとか、ピアス・化粧がどうだとか……。
いまさら注意しても、従う生徒などいないに等しいのに。
155 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:29
私たちが教室に戻ったのは、あれから四十分ほど過ぎた頃だった。
彼女は図書室で受験勉強をしてるだろう。
いつもならば私の部活が終わる時間まで。
呆れただろうか、怒らせただろうか。
……今日も待っていてくれているだろうか。
中身のほとんどない潰れた鞄を肩に掛けながら後ろを向いた。
すると何故かニヤケ顔の親友。
さらにその親友は私の携帯を指差し、何かジェスチャーをしてくる。

携帯?……開くの?

意味はわからないが、とりあえず携帯を開いてみることにした。
まったくもって、この子は時々変なんだ。
……時々か?
いやいや、いつもだ。
156 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:34
開いた携帯、光り出す画面。
そこには見覚えのない、メール作成の画面。
三分の一も埋まっていない、絵文字もない文章。


ーーーーーーーーーー
昨日の、ちゃんとしてくれてるんやね。
大好きやよ
おめでと
ーーーーーーーーーー


これだけで全てがわかる。
いたずらの犯人があの人だって。
昨日の夜に彼女から貰ったピアスの話だって。
いつどのタイミングでされたのかって。


「がきさん、赤いー」
「あ、赤くないから!!」
「"大好きやよ"だってよぉ?」
「っ////勝手に見ないでくれる?///」
「うへへへ、それは失礼ww」


どうやら見られたらしい……いや、バッチリ見られた。
さらに顔が熱くなるのを感じる。
157 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:37
ぴったり隣でニヤつく親友との距離を手で無理矢理つくる。
いつもとは違って、簡単に離れたことが少し気になった。
私を理解してくれてるから、気を回してくれたのだろうか。


「んじゃ絵里、先に行ってるねぇ♪♪」
「え、なんで?一緒行こうよ」


同じ部活でいつも一緒に行ってるのに、意図がわからない。
やっぱりこの子は変だと思う。


「だってがきさんは〜、しなきゃいけないことがあるじゃないですかぁ」
「へ?」
「それのお返事♪♪じゃあ、後でねぇ」
「はぁぁあ?ちょちょ、ちょっとカメー!!!」


私の制止を無視して、カメは走り去っていった。
158 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:39
あの子は、私の予想よりもはるかに気を回してくれたみたい。
……とっても素晴らしい部分にまで。

誰もいない教室、音のない校舎は気味が悪い。
怖い話によくありそうなシチュエーションだからかな。
少しビクビクしながら教室の電気を消した。
だって温暖化だもん、エコしなきゃ。
……なんかお化け屋敷みたいでより一層怖くなったけども、我慢。

一人で廊下を歩く。
足音を響かせながら、階段に着いた。
当然ある上下への階段。
……部活なら下、図書室は上。
私を悩ませる選択肢。

どうしよう、ほんとどうしよう。
意味もなく、その場でうろうろしてみる。
159 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:42
何周したかな?
だけど例え何百周したとしても解決するがはずない。

………よし!!

途中でまた悩み出さないように、おもいっきり足を踏み出した。
なるようになってしまえ、さぁ上へ!!

……上の階へ到着した今、気付く。
図書室は反対の校舎じゃないかと。
そして、廊下でばったり会うくらいで焦ってしまう私が直接言えるのかと。
そしてそして、三年生が多数いるだろう図書室から愛ちゃんを呼び出すことなんて出来るかと。

……無理、だと思う。
そんな時、頭の片隅でいたずら好きの親友の声が聞こえた気がした。
その声に心の中でお礼を言って、実行するために歩みを進める。
160 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:44
着いた場所は愛ちゃんの教室。
電気を付けて教卓の真ん前の机へ近づく。
席替えのクジでこの場所になったと話していたので、きっと間違いない。
一応確認してみると、机の中の青いノートには"たかはし あい"と書かれていた。

大きく深呼吸。
手に持った青いノートを机の上に開いて、自分は席に座る。
何だかすごく難しそうだけと、これは数学のノートらしい。
来年はこんなの勉強をしなきゃいけないのかという不安をごまかしながら、スカスカの鞄から手帳を出した。
用があるのは、それに挟んだシャープペン。

……これが私に出来る、精一杯のいたずら。
161 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:46
ノートのど真ん中、授業で解いたと思われる問題の答えのすぐ下。
跡が残らない程度に薄く、だけどちゃんと気付いてくれる程度の力で。
読み返すのも恥ずかしくて、すぐに机の中にしまう。
それから電気を消してダッシュで部活へと。
少し遅刻したけれど、カメがうまく言ってくれたおかげで何も聞かれることなく終えた。

それから待っててくれてた愛ちゃんと帰った。
カメと恋人の田中っちの繋がっているような背中見ながら、いたずらについては一切触れずに他の話をして笑う。
ゆっくりゆっくり歩く。
家は近いのだけれど、より長く一緒にいられるように。
162 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:48
そして人が確認出来なくなった所で手を繋いで、時々立ち止まってキスをする。
ここは大通りではないにしても家で囲まれているから、ただ触れるだけの短いキス。
数秒だけど満たされる心地。
なのに足りない足りないと心が叫ぶ感じ。


「んっ。……やだぁ///」
「ん、もっと?♪♪」
「…ぅ、ん///」
「うーーん。じゃあ、あっち行こうや」


愛ちゃんに連れてかれた場所は知り合いでない人の家の車庫。
シャッターが付いていないコンクリートで出来た、銀色の車が停まっている車庫の奥。
……きっと立派な家宅侵入だろう。
だけど導かれる手に従って奥へ。
163 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:52
「ひっで暗いのぉ」
「愛ちゃんどこ?」
「んー?ここ」


中は見掛けよりずっと暗かった。
きっと目が慣れない限り、視野ははっきりしないだろう。
なのに手を離されたからどこにいるのかさえわからない。


「どこ?暗くてわかんなっっん、ふぁ…んんんっ」
「ここやって。な、ベ〜ってして?」
「はぁ、はぁ……べ〜///」
「ひひ、いい子やね」
「んっんん……っく、ぁっ。ちょ、んぁ…まっっぁ……んんんっー」
「…ふぅ。あ、ちょっとやり過ぎたけ?おーい」


……合唱部を最近引退した人と、合唱部じゃない人。
肺活量で勝てるはずない。
……それ抜きでも、こっちはすでにいっぱいいっぱいなのに。
164 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 13:59

それから三日後の五時間目。
斜め前に座る親友が初っ端からコクコクと一定のリズムで頷きまくっていた頃、机の中の携帯のライトが光る。
先生に見えないように教科書で隠しつつ、新着メールを開いた。


ーーーーーーーーーー
先生に提出する時があったら、どうしたらいいんよ!!
しかもビックリして声出してもうたから、当てられたやんかぁ〜。

どういたしまして
ーーーーーーーーーー

あ、今数学なんだ。
どうやらいたずらは成功したみたい。
だけどそれよりも、消さずに残してくれるのが読み取れて嬉しくなった。

だって私の携帯の未送信のボックスには、実は愛ちゃんのいたずらが保存してあるんだから。
165 名前:短編(生誕記念) 投稿日:2007/10/20(土) 14:12


あれからまた日が過ぎた。
青いノートは先生に提出されたのかどうか、それはわからない。
だけどきっと、あれはまだどこかにあるんだと信じてる。
いや、絶対にある。
彼女はそういう人だから。

………もしかしたら、今この瞬間に彼女の目に入っているかもしれない。


ーーーーーーーーーー
実は今度二人で遊ぶ時に付けようと思ってたんだけど、待ち切れなくて……。
ピアス、ありがと。
大事にするね

私も、好きだよ
ーーーーーーーーーー


思い出したら恥ずかしくなってきた。
だから、"勉強頑張ってね"とだけ返した。
予想通り、携帯の画面には赤くなってる自分。
……彼女はどんな顔をしてるかな。

あれから毎日、私の耳には誕生日プレゼントのピアスが光っています。
166 名前:図書 投稿日:2007/10/20(土) 14:15


『ぇんど』


167 名前:図書 投稿日:2007/10/20(土) 14:17
【143様】
そうです、お二人はカワイイんです♪♪
イメージを崩さなくてよかったぁ(´Д`)曹R

他のCP……ごめんなさい。
頑張りますので、許して下さい。゚(p´ロ`q)゚。


【144様】
またまた短編愛ガキ、書いちゃいました↓↓
自分、おもいっきり偏り過ぎですね。

イチャイチャですか。
……勉強しなくてはっ!!!

本編もごめんなさい。
……美貴様、難しいくて↓↓


【145様】
あの歌は泣けます。
愛ちゃんの歌は、気持ちが入ってますから。

怖いという意見が2票も……。
さすがリーダーと、喜ぶべきでしょうか(ww
168 名前:図書 投稿日:2007/10/20(土) 14:18
【146様・ぽち様】
歌が好きなお二人なので、あんな話がうかんでしまいました。
実際はどうなんでしょうね?(ww


【147様】
頑張っちゃいました。
自分も愛ガキ大好きなので、これからも書いちゃうと思います。
ついてきていただけたら、嬉しいです。
169 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/20(土) 19:17
ガキさん誕生日おめ!
生誕記念の愛ガキ堪能させていただきました。
本編ゆっくり待ってます。
170 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/21(日) 00:33
とんでもない素晴らしさです。
愛ガキはこのガキさんの感じが魅力ですね。

ガキさんの未来に幸あれ〜
171 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/21(日) 01:00
うん!うん!良いねぇ愛ガキ

リアルのダイヤのピアスはお揃いなんだろか?
172 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:13
いい子ちゃんの演技をする気もなかったし、多くの味方がほしいとも思わなかった。
一緒にいても疲れない奴らがいて、退屈しない夜が過ごせればいい。
これが自分だし、相手に合わせるなんて馬鹿馬鹿しい。
お互いに楽だから一緒にいる。
干渉もしてこないし、しようとも思わない。
ただそれだけ。


人に自慢するような生き方じゃない。
誰かに見下されるのなんてしょっちゅうで、悪い噂が途切れたことはなかった。
見下したいならすればいい、真実だろうが嘘だろうが勝手にすればいい。
関係ない。


青春時代に育ったこの考え方は、まだずっとそのままだった。
173 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:15
気に入らないとかで先輩達から呼び出されるのはほぼ毎日。
大人にはおもいっきり見下されてゴミみたいな扱い、それは学校でも街でもどこでも同じ。
クラスメートは"不良のお友達"がほしいらしく、近寄って来る。
その他いろいろ、人の男を取ったと囲まれたりとか問題が起きる度に呼び出しされたりとか……。


こんな馬鹿馬鹿しい日が中学高校、計六年間。
面倒なことに叔母さんが余計なお節介してくれちゃって、三年でいいのに二倍になった。
だけどその分遊べたってことでは感謝してるよ。
だって、学生でいることはなにより一番の武器だったから。
174 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:21
学校は寝る場所、留年しない程度に勉強が出来ればいい。
そして夜の街は息抜きの場所、いつの間にか出来た気の合う奴らと夜明けまでワイワイ遊ぶ。


バイクの後ろは風が気持ちが良いからヘルメットなしで。
綺麗な月夜に皆で飲む酒は美味しくて楽しくて、いつの間にか巨大な輪が出来てる。
警察との鬼ごっこは疲れるけどやめられない。
お金が無くなったら簡単に手に入る、初めて夜の商売をしてる母親に似てよかったと思った。
ま、仕事まで似るとは思ってなかったけどさ。


……嫌いじゃないよ、この人生。
なんだかんだ楽しかったし。
ここにも来れたしね。
175 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:24
今でも覚えてる、全てのきっかけになった月夜の散歩。
広場の大きな噴水に腰掛けて、流れて来る音楽に耳を傾けながら品定め。
こうしてる間にも数人寄ってくるけど、演技までして抱かれてやるんだからこっちだって選ぶ権利くらいある。


キョロキョロ視線を動かしてると、この賑わう広場でも一際目立つ奴がいた。
同じ、もしくは年下。
長身で綺麗な顔立ち、そいつの金髪が月の光を浴びてより眩しく見えた。
男相手よりも断然女相手の方がいい。
愛す自信もない命を授かるのは困るから。


……今日はあいつにしよう。
そう決めて立ち上がり、足を前に踏み出した。
176 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:27
そいつは見た目通り夜の人間だった。
仕事前に少しブラブラしてたらしい。


「ねぇ、美貴の時間買わない?」
「何だ、売りしてんの?可愛いのに」
「それはどうも。で、買うの?買わないの?」
「……OK、買いましょう」


そして連れて来られた高いビルの最上階。
赤と金色、そしてお金はいらないから楽しんでとの言葉。
扉を開けるとそこは、、、。


名前・藤本美貴。
生年月日・1985.02.26。
家族構成・母親は夜の商売をしており、父親は不明。
補導経験・数知れず。
趣味・特になし。
職場・Renoir。

………補足・人気アイドルの彼女がいます。
177 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:30
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
178 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:33
ポチャン


天井から落ちた水滴が洗面器に溜まった水とぶつかって、微かな音を響かせる。
意外と高音なそれは、湯舟に入っていた美貴のウトウトした気分を追い払うのに十分な刺激だった。


目線を設置された電子時計に送る。
………どうやら記憶のない時間は二、三分だったらしい。
最近は肌寒い日が続いてるおかげで、ついつい温かな湯舟の中では眠気が襲って来る。
冬に近づいている、そういうことなのだろうか。


湯舟から出て、シャワーを浴びる。
体を透明なお湯が流れて排水溝へと消えていった。
この瞬間、この数秒だけ……なんだか嫌な気分になる。
いつも。
179 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:36
歩いて来た道は後悔のない道。
それを変えるつもりはない、だけど………。
この瞬間だけはこの体が嫌いだと思う、過去の自分を嫌だと感じる。
流れるお湯も排水溝へ消えるお湯も、どちらも透明。
だけど一生消えないものを見ているような気分。


この体に触れたことのある人は、この街には何人いるのだろう。
この体を使って、一体いくら稼いだんだろう。


シャワーを止めた。
答えは簡単、覚えてないくらいたくさん。
毎度毎度、自分でも馬鹿馬鹿しくて笑えてくる。
この瞬間だけ、"生涯ずっとあの子だけの美貴でいたい"と望んでしまっていることに。
180 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:39
濡れて張り付く髪をしぼって浴室を出た。
今日も美貴が最後だから、湯舟のお湯を抜いて軽く洗うのを忘れずに。


これほど誰かを愛しいと感じたことはない。
抱くのも抱かれるのも初めてじゃないけど、こんな気持ちは初めてなんだよ?
出来るのなら顔を隠さず、手を繋いで太陽の下を歩きたい。
"たんはあたしのだから"と言う君に、それを証明したい。
もちろんその逆も証明してほしい。


今の美貴を見たら、過去の美貴はどれほど馬鹿にするだろう。
恋愛ほど面倒で意味のないものはないって言ってた美貴が、こんなに囚われてるなんて。
大笑いでもされるかな。
181 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:43
ジャージに着替えて、湿気を逃がすために窓を開ける。
髪は……後でいいか。
黒いジャージに不釣り合いなヒールの音を刻みながら、フロアとを区切るカーテンをめくった。


目の前には水を飲んでるよっちゃん。
腰に手をやってオヤジみたい。
そのオヤジは美貴を見るなり、首に掛けたタオルを美貴に投げてきた。


「プハァー。ほい、やる」
「いいよ、大丈夫」
「いいからいいから。もう使わねぇし、邪魔だし」
「…うわっ!!」


差し出したタオルを美貴に被せて、ワシワシと髪の水分を拭き取られる。
まるで犬でも洗った後みたいに、痛くない程度に力強く。
182 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:46
ご主人様はニシシと声が聞こえそうな笑顔を浮かべて、フロアへと歩いていった。
首に触れるタオルは水分を吸って湿っぽい。
自分で思ってるよりも濡れていたらしい。


"優しさ"をわざと感じさせない人。
それが心地良くて、少しだけくすぐったくて。
……感謝してるよ、ここに連れて来てくれたことも含めて。


「美貴ちゃん、何やっとんの?」
「あ?ううん、なんでもない」


カウンターに置いておいた赤いピンキーリングの付いたチェーンを首に。
胸付近にいつもの冷たい感触を感じながら、皆のいるフロアへと向かった。
……いつもは消えるはずの気分と一緒に。
183 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:48
仕事の時間が始まった。
なんだろう……金色の扉が開く度、何かが近づいてくる気配がする。
誰かが動く度に、聞こえもしない足音をさせながら。


お酒と一緒にサービスのキャンディをグラスに入れて持ってくる、いつも通り黒をまとった新垣里沙。
首筋に噛み付く演技をしてる、吸血鬼の衣裳を着た吉澤ひとみ。
悪魔のくせに押し倒されかかってる、小さな黒い翼を背負った高橋愛。
これほど猫の格好が似合う奴はいないだろうとさえ思う、黒猫の姿の田中れいな。


今日はハロウィンの衣裳。
アンケートで決められただけあって、毎回衣裳も評判がいいらしい。
184 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:51
何故なんだろう。
大好きな黒を着てるのに、皆に似合うと言われているのに……。
壁の鏡にいた美貴は自分の予想よりもずっと、冷たい笑顔をつくってた。


まるで……心が凍っているみたいな。
まるでこの衣裳の魔女みたい……。
お客さんは気付かない。
それも演出だと、寧ろ喜んでグラスを仰いでる。


全く酔わない。
ワインやらシャンパンが水のように感じる。
美貴の様子が変だと心配した誰かが、水で薄めたんじゃないかとさえ思った。
酔わない、酔えない………会いたい。
今すぐ、君に。


想うのは温かな笑顔で笑う恋人のこと。
……亜弥ちゃんに会いたい。
185 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:54
お客さんの言葉が頭に入って来ない。
いつもは感じるはずの金属の感触がない。
背後から気配が消えない。
時間の流れさえわからない。


こんな事はなかったのに……。
いつから、美貴はこんなにも弱くなったんだろう。
いつの間に、ここまで溺れていたんだろう。


心配の気持ちの込められた視線を感じながら時が過ぎ、気付いた時にはもうお客さんはいなかった。
覚えてない。
なのにスラスラと返す言葉が口から流れたのは感じてた。


眠くない、きっと眠れない。
ここから出たくなって、扉へと足を進めた。
やっぱり背中には心配の色と、嫌な色を感じながら。
186 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 00:57
扉の向こうは少し寒かった。
エレベーターの数字が光って動いてる。


どこから入ったのか、冷たい風が黒いドレスが揺れさせる。
血のように赤い絨毯の上に黒いドレスを泳がせる魔女が一人。
残虐で冷酷な魔女か。
心優しき異色の魔女か。
それとも、平気な顔で泣く孤独の魔女か。


「アハハハッ……馬鹿馬鹿しい」


美貴は一体何を考えてるんだろう。
自分を嘲笑って高笑い。
それはまさに魔女っぽくて余計笑えた。


無理矢理にでも寝てしまおうと、冷たさも感じなかった金色の扉から背中を離す。
たぶん疲れてるだけ。
やっぱり酔ってるのだろう。
……きっと最初から。
187 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 01:00
チン

「よっ!!」


少し扉が動いた時、背後のエレベーターに呼び止められた。
すぐ後に聞き慣れた声。
近づく気配に力が抜ける。


「ちょっと、あんた。聞いてんのー?」
「…………」
「たん?おーい、藤本美貴さぁん?」


腕を引っ張られて、強制的に向き合う形になる。
だけど顔を見られるのが嫌で、抱き着いてみた。


「何、シカトの次は甘えるわけ?ww」
「……いいじゃんべつに」
「にゃはは♪♪たんは可愛いなぁ」


よしよしと髪を撫でられる。
その手はとても冷たかった。
だけど腕の中に閉じ込めた体は温かかった。
強く力を入れれば、胸に感じる金属の感触。
188 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 01:03
「亜弥ちゃん、仕事は?」
「今終わった…てか抜けて来た♪♪ドラマがクランクアップしたから打ち上げがあってさぁ」
「……抜けちゃっていいの?」
「いいんじゃない!?やぐっつぁんも大丈夫って言ってたし♪♪」


彼女は少し酔っているみたい。
保田さんは飲むペースが異常なのに全く酔わないからもはや宇宙人だの。
矢口さんはやっぱり打ち上げの場でも上手く支配してて本物だと思っただの。
オッサンに軽くセクハラされて最悪だったなんて話を楽しそうに話してる。


美貴もいっぱい笑った。
ムカツク話もあったけど、背後の気配を綺麗に消してくれた。
189 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 01:05
「そうだ!!あのね、今日雑誌のインタビューで『赤い糸は信じてますか?』って質問あったんだけど、たんは?」
「何が?」
「はぁ?聞いてなかったわけ!!?」
「聞いてた聞いてたww。赤い糸でしょ?」


赤い糸……運命の人と繋がるもの。
絶対に切れなくて、見えなくて、触れられないもの。
美貴はほとんど信じてない。
だって確かめる手段なんてないし、見た人だっていないわけだし。


だけど少しだけ、あったらいいなとは思う。
美貴と亜弥ちゃんが繋がっていたらいいなとは……。
そしたら間違いではないんだと確認出来るんだろうなって思うから。
190 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 01:08
「どうだろうね。信じてはいないけど、あるならあったでいいんじゃない?」
「ふーん」
「亜弥ちゃんは?」
「雑誌ではもちろん信じてます♪って言ったけど、あたしはない方がいいな……」


亜弥ちゃんは明日も仕事だからとすぐに帰っていった。
暗くなったフロアではいつも通りガキさんが、カウンターで色々してた。


「松浦さん、もう帰ったの?」
「うん。聞こえた?酔ってたっぽいんだよね」
「大丈夫ww」


ガキさんはよく足音だけで誰が来たかを言い当てる。
亜弥ちゃんは間隔が短くて、まるで踊ってるみたいなんだって。


「……ねぇ、ガキさん?」
「はぃ?」
191 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 01:10
なんだか他の人はどう考えてるのかを知りたくなった。


「……赤い糸って信じてる?」
「赤い糸って、運命の赤い糸?」
「そう」


こんなおかしなことを聞いているのに、真面目だからなのか真剣に悩んでる。
そして笑って答えてくれた。


「信じてますよ?だって願うぐらいは自由じゃないですかぁ」
「ふーん。でも願ってないで早く告れば?」
「……うぇぇええ!!」
「しー!!wwそんなに騒ぐと、愛しの高橋愛さんが起きちゃうぞ?」


固まってるガキさんを置き去りにして定位置のソファーに横になる。
気付いていないとでも思ってたのか。
……それは本人達だけだよ。
192 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 01:14
目を閉じて考える。
思い出すのは亜弥ちゃんの言葉。


『あたしはない方がいいな……。だって秘密にしなきゃいけない恋人とはさ、きっと繋がっていないもん。だったらいらない。それにこの赤い指輪の方が現実的じゃん?ww』


正解はない。
美貴もガキさんも間違いではない。
だけど美貴には亜弥ちゃんの答えが正解に思えた。


糸はいらない、この指輪があればいい。
いつも通りに香るよっちゃんの煙草がやけに強く感じた。
昔の美貴に染み付いてたこの香り。
だから好きになれない。
だけどさっきは嫌いではなかった。
……亜弥ちゃんの髪からこの香りがした時は。
193 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 01:17
やっぱり過去の自分が嫌いだったのかもしれない。
後悔していたのかもしれない。
どうしてもっと早く合わせてくれなかったのかと、ずっと思ってたのかもしれない。


それを認めることは意外にも簡単なことだった。
過去は過去、今の美貴とは違う。
していることはあまり違わなくても全く違う。
より大切な仲間がいる、尊敬できる人達がいる、初めて愛した人がいる。


月夜のレースなんて日頃のバカ騒ぎには敵わない。
指輪が繋げてくれるなら赤い糸なんて必要ない。
……今が一番幸せかもしれないなんて思いながら意識を手放し、目を開けるといつもの朝だった。
194 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 01:22
「お、魔女の目覚め」
「……何やってんの?」
「見てわかんねぇ?運んでんの」


体を起こすとカウンターの方向から声がした。
顔を向けると、早起きな吸血鬼が何かを運んでた。
お嬢様抱っこというやつで。


「まさかそれ、カウンターで寝てたの?」
「どっかの魔女のせいで固まっちゃったんじゃね!?結構アホだからさ、これ」


"それ"や"これ"で表現されるという失礼な扱いをされているガキさん。
あのまま固まって?……いやいや、まさか。
よっちゃんの指には何もなかったし、皆にも毛布が掛けられてるし。
……とにかく、美貴のせいではない。
195 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 01:25
「てか、こいつ軽いなぁ」
「……早く降ろさないと起きるよ?」
「大丈夫大丈夫。おもいっきり爆睡してっから」
「そっちじゃなくて」
「…あぁ〜、そっちね。それは困る」


よっちゃんがゆっくりガキさんをソファーに降ろして、毛布を掛ける。
するとモゾモゾと俯せになって、動かなくなった。
一応フロアを確認してみると、起きているのは美貴達だけだった。


……拗ねちゃって使いもんにならなくなるからね、愛ちゃん。


そんなことを思って気付く。
昨日あれほど使いものにならなかった美貴の台詞ではないなって。
そしてもう一つ。


「……昨日起きてたの?」
196 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 01:29
さっきよっちゃんは、"どっかの魔女のせいで固まっちゃった"と言った。
起きていたということは確実だろう。
ならば言わなければならないことがある。


「あのさ、昨日は」
「"ごめんなさい"ってか?」
「えっ?」


「そんなの全員わかってるって、わざわざ言わなくても。てか逆に気味が悪いってww」
なんだか泣きそうになった。
……理解してくれてる、それが嬉しかった。亜弥ちゃんとは違う温かさ。気恥ずかしそうに自慢の金髪を弄ってる様子が、また美貴の頬を上へと引き上げさせた。


「とにかく!!注目すべきは違うとこだ、藤本くん」
「ふっ、誰だよ」
197 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 01:32
よっちゃんが人差し指を空に向け、美貴のいるソファーへと近づいて来る。
それはそれはおもしろいことを発見した子供のような顔で。


「ポイントは、全員が寝たふりをしていたってこと」
「それが何?」
「ふはは♪♪お忘れかな、藤本くん」
「だから誰だよww」
「昨日、誰かさんの秘密を暴露しなかったかな?」


はぁ!?何をいきなり。
なんで美貴がそんなことしなきゃ……。


『そんなに騒ぐと、愛しの高橋愛さんが起きるぞ?』


……言った。
おもいっきり言った。


「どうなるかねぇ〜♪♪」
「……悪い顔」
「あんだよ、照れるじゃないかぁ」
「褒めてねぇよ!!」
198 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 01:34
いつもよりもボリュームを落としたツッコミは、眠る三人を起こすがことない程度にひっそり響いた。
しかし……。
勝手に想いを伝えてしまったという事実に、少々罪悪感。
なのに目の前の人はかなり楽しそうだ。


「気にすんなって。昨日がなけりゃ、たぶんずーっとあのままだぜ?」
「……確かにww」
「どっちが動くかな♪♪……賭けでもしてみる?」
「ふっ、いいよぉ?」


罪悪感なんてものを抱くのをやめた。
蜜の味を知った身としてもお勧めしたいから。
クセになって抜け出せない、甘い甘い蜜の味。
それはたぶん、片思いよりもずっと糖分の多いものだから。
199 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 01:36
胸元にある、呼吸と笑った振動で揺れた指輪に触れる。
自分の体温が移ったのか、それはふんわり温かかった。


君は今、どこで笑っているかな。
美貴はここで笑ってるよ。


「お風呂、先いい?」
「どーぞww」
「……何?」
「いや、ミキティが自分から風呂にいくなんて珍しいなぁって♪♪」
「まぁねww」


カウンターに指輪を置く。
重さなんてそんなにないはずなのに、感覚が残っている気がした。
金属でできてるはずなのに、温かいもの。
軽いはずなのに、ずっしり重いもの。


それを手放しても、今日は離れている感じはしなかった。
……きっとこれからも大丈夫。
200 名前:第2話 投稿日:2007/11/05(月) 01:39
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201 名前:図書 投稿日:2007/11/05(月) 01:43
本編第2話、終了です。

一部、途中で載せてしまった部分がありますので
かなり読みにくい箇所があります。
申し訳ありません(xx;)


少し期間がズレましたが、気にせず読んでいただければ嬉しいです。
202 名前:訂正 投稿日:2007/11/05(月) 01:47
>200の次に↓が入ります。
ミスが多くて、ほんとすいません!!!


【200と201の間】
赤と金色、そして話し掛けた金髪の奴が言った言葉。
扉を開けるとそこは、、、過去の美貴をちゃんと認めさせてくれる場所でした。


たぶんここで働いていなければ、ずっとあのまま変われなかった。
"これが美貴の生き方だ"とごまかして、毎日毎日大嫌いな煙草の煙を吸っていたかもしれない。
それこそ、母親とまるっきり同じ道を歩んでただろう。


だけど美貴は違う道を選んだ。
楽ではない。
でもたくさん手に入れることができた。
理解し合える仲間も、楽しい仕事も、愛しい人も。
赤い糸よりも確かなものも、この手の中にある。


……ね、亜弥ちゃん?
203 名前:図書 投稿日:2007/11/05(月) 01:50
【169様】
本編、やっと書き終えました。
………ミスをかなり連発してしまいましたが↓↓
ほんと申し訳ないです。

初あやみきです。
どうでしょうか?(ドキドキ


【170様】
いやぁ////ありがとうございます!!
嬉しくて、涙がぁぁあ(><。)

ガキさんの未来に……、娘。の未来に……、幸あれ〜♪


【171様】
良いですか?!
ホッと安心です。
自分はガキさんを絡め過ぎなのかな……と、不安に思っていましたので、かなり嬉しいです。

リアルでは…どうなんでしょう?ww
でも愛ちゃんは0:00に誕生日メールを送ったらしいじゃないですかぁ♪♪
さすが男前ww
204 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 05:05
ミキティGJ
ガキさんがどうなっていたのかと愛ガキの今後が気になるー。
次の更新を楽しみに待ってます。
205 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 08:30
今回のCPも素敵でしたよ〜☆
どっちから動くのかねw
206 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/06(火) 09:38
更新お待ちしてましたー。
あやみきもいいです。2人が知り合ったきっかけも気になりますねw

愛ガキの今後もこれを機会にどうなるww
207 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 11:29
【何においても疑問を持ってはいけない】

空は青い、しかし雲が動くことはない。
月は輝く、昼から夜に変わる瞬間ほど明るく強く。
植物は育つ、しかし彼女たちは決して変わることがない。
だが疑問は持たない。
自分の存在に関しても疑問などない。
神こそ"全て"、それが掟だ。


【力は生死ある命の為に】

耳を凝らし声を聞き、そっと手を差し延べる。
過ちを悔いる者には試練を、悔いない者には戒めを与える。
消えてしまった灯を違う世界へと導き、生まれたばかりの灯の幸福を祈る。
彼女達は神より与えられた役目を果たす。
神こそ"全て"、それが掟だ。
208 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 11:31
【誰かを深く愛してはいけない】

誰かを深く愛せば疑問が生まれ、それはやがて迷いになり欲となる。
そうなれば蓄積した欲は暴走し、白き衣は紅へと変わる。
だから神はこれを禁じた。
特にきっかけとなる交わることを強く。
神こそ"全て"、それが掟だ。

だから想いが痛みとなった時、白い翼を羽ばたかせながら天使達は涙する。
お互い想いが通じているなら、なおさら。
泣けども泣けども涙は枯れず、痛みも増すばかり。
そして考えが過ぎる。

……罪に触れ、二人で裁きを受けようと。
その者達は、笑みを浮かべ裁きを受ける。
愛しき名と愛の言葉を呟きながら。
209 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 11:33


HURTs or HEARTs


210 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 11:36
side:ERI

暗い。
上を見ても空はない。
どこを探しても闇の色だけ。
今は朝かな、それとも夜かな。

あの日から絵里の目は役に立たなくなった。
大好きな人と一緒に罪に触れた、次の日から。
掟を破ればどうなるのか、頭ではちゃんと理解してた。
だけど心は頭よりも正直で、何よりも貪欲だった。


「どこ行く気?こんな暗い時間に」


ドアからでなく窓から黒く染まった空へ飛び出そうとした時、よく知る声に呼び止められた。
その人はまるで絵里を待っていたみたいに、木の枝に立ってこちらを見てる。
全てを知っているような目で。


「……答えて。黙ってたらわかんないでしょーが」
211 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 11:39
目を反らさず枝からフワリと飛び降りて、目の前に立った。
その背中にある翼は、月の光を反射して絵里のものよりも綺麗に見えた。


「聞いた話では、森の小屋に誰か向かってるみたいなんだって。……小屋になんて用はないよね?」
「……ごめん、なさい!!」


地面を強く蹴って空へと飛び出した。
本気を出されたら、絵里に勝ち目なんてない。
しかし追って来てはいなかった。

目を凝らせば見える、立ち続けている小さな後ろ姿。
少し離れたこの場所にいても、風に乗って聞こえて来る細い声。
……泣いている。
その背中と声は、絵里の心を罪悪感で締め付けた。
212 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 11:42
隣人で、姉のような親友があんな風に泣く姿は初めてだった。
小屋へと急ぐせいで溜まった涙が流れてく。
だけどもう止まることなんて不可能だった。
きっとそれがわかってたから、追い掛けて来なかったんだろうな。
だったら聞かないで欲しかった。
泣いてるあなたに背を向けたくなかった。

ごめんなさい、絵里は迷惑かけてばかりだったね。
ありがとうございました、大好き。


その後絵里達は罪に触れて、日が昇ると神の御前へと連れて行かれた。
ここまでで絵里の記憶は途切れてる。
あれから何日過ぎているのかもわからない。
たけど知らなくてもいい。
だから数えない。
213 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 11:45
朝も夜もない。
眠くなったら寝て、目が覚めたら起きる。
お腹が空いたら、いつの間にか置いてある食べ物に手をのばす。
数えれば過ぎた時間だけ辛くなるだけだから、ただぼんやり過ごす。

するとあることに気付いた。
ここは絵里の家かもしれない。
木々の音も声もしないし、時々訪れる誰かは翼を使って長い距離を下の方からを飛んで来る。
絵里の家ではあり得ない。
だけど手や足で感じる感覚は、考えが当たっていると伝えてくる。
家具の傷の位置まで同じ。
ということは、家をそのまま高い場所に移したのかな。

身動きもとれない、高い高いどこかに。
214 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 11:47
神は寛大で、残酷だと思った。

こんなことなら罪人は罪人らしく、牢屋にでも縛り付けて欲しかった。
ここは思い出がありすぎる。
どこに行っても、思い出さないことがない。
さよならも言わず1人にしてしまった親友。
姉のような二人。
大好きな人。

……多くの思い出を夢に見て、涙を流して起きることをどのぐらい繰り返せばいいのですか?
これでは薄れるばかりか、想いは濃くなっていく。
悲しませた人への懺悔も濃くなっていく。

だから出会いは輪廻すると願うしかない。
何万年先でも、お互い覚えていないけど、もう一度皆に………出会いたい。
215 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 11:49
side:SAYUMI

あの日の風は何だか騒がしかった。
何だか眠れなかった。
あの二人の顔が浮かんだまま消えない、胸に感じる嫌な予感。
次の日その予感が当たってしまったことを聞いて、後悔した。
ずっとずっと前から感じてたいたことのに……。

力の強い大天使と違って、普通の天使は恋という感情を持ってるらしい。
実際に想い合ってる人達もたくさんいた。
だけどその人達は決して罪には触れない。
そこが二人とは違うところ。
もしさゆみが何かしたとしても、結果はきっと同じだっただろうな。
炎は風が強いほど、激しく燃えるみたいだから。
216 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 11:52
二人にとっては掟さえも心地良い風。
これでよかったなんて思わない、だけどこうなるしかなかったとは思う。
だったらさゆみは、二人の為に何が出来るの?
そう考えた時、神の所へと飛び出していた。


「裁きは受けます。だから不自由になった二人の世話をさせて下さい!!」


神の御前に立って、思いを叫ぶ。
罪に触れた者に関わることは禁じられてる。
だけどこのまま何もしないでいるのは嫌。
白い光で姿は確認出来ないけれど、困っているのはわかった。

神は困ったような笑いを含んだ声で言った。
君もですか…って。
小さい声だったけれど、確実にそう言った。
217 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 11:54
その言葉は、さゆみと同じことを言った人がいたということを教えてくれてる。
考えられるのは、あの二人。
だけど全ての天使を管理する立場にいる大天使が、こんな馬鹿げた事を口にするなんて出来るはずがない。

やっぱり一番最初に浮かんだ人で正解だと思う。
優しくて頼りになる人。
さゆみより早くに行動してる辺りも、その人らしい。
広い視野と優れたサポート力で、声を聞いて手を差し出す仕事をしてる天使の元締めのような人だもん。
困ったような声で笑うしかないのも納得出来る。

その日は、結論が決まり次第連絡するとのことで渋々家に帰った。
218 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 11:56
後日、願いを承諾しようという便りが来た。
困ったのような様子ではあったけど、決定が意外にも早くて驚いた。
だけどそれはすぐに喜びになって、頭の中から追いやられた。
便りによると、さゆみは塔の近くにある古びた家の方に付くらしい。

嬉しかった。
でもそれと同時に悲しかった。
……塔の上には行けない。
今までのように三人ではいられない。
涙が溢れそうになったけど空へ飛び立つ。
その時さゆみが受けた裁きの内容知った。

神からの便りを持って、友人のいる古びた家へ。
驚くかな。
もしかしたら怒られるかもしれない。
そっちの方があの子らしいもん。
219 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 11:58
古びたドアをノックもせずに開けると、文字通り目を点にして驚く友人。
何か言われる前に、手に持った便りを広げて見せる。

さゆみは裁きを受けた。
さっきドアから出た瞬間、喉に違和感を感じた。
痛むというよりは気持ちが悪いって感触。
それが止むと、今までどうやって声を出していたのかわからなくなった。
元々望んだ結果だから後悔なんてしてない。

それに失ったのが声でよかった。
どんなに間違っても、あの子の名前を声に出してしまうなんてことはないから。
……悲しい名前を呼ぶのは心の中だけでいい。
神は残酷だけど、やはり寛大だと思った。
220 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:01
side:RISA

止めるつもりが、止められなかった。
無理矢理にでも止めておけば未来は変わらなくても先延ばしには出来たかもしれないのに。
それをすることは出来なかった。
罪は私にもある。

だったら、同じく裁きを受けるなら……より深い罪を。
あの子達を一人になんて出来ない。
立場的に部下であっても、大切な親しい友達なんだから。

そう思って叫んだ、無茶なことだと承知の願い。
それは意外にも許された。
きっと促してくれたんだろう。
私のさらに上に立つ、とても親しい大天使のあの人が。
もし涙が流せたのなら、たぶん一番泣いてただろう人が。
221 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:02
今日もいつも通り日が昇ると同時に起き出して、裏の森にある花壇に水をやる。
多彩な花が咲き乱れる、どこか抜けている隣人によってつくられた秘密の花壇。
仕事終わりに植物の種を持ち帰り、適当に巻いたせいでお世辞にも綺麗とは言えない大きな花壇。
いつの間にか私が世話をするようになった。
ここに来ると思い出す。


「コラーー!!アンタが世話するんじゃなかったの?!」
「そのつもりだったんですけどぉ、譲ります♪♪」
「……はぁぁあ!?」
「だって、嫌いじゃないでしょぉ?ww」


感覚のない左足を、黒の混じった翼で支えてゆっくり進む。
222 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:04
木のアーチをくぐって、さらに奥。
ちょうど太陽の光がバッチリ照るこの場所。
あの子が持って来た最後の花が咲く場所。

背丈は私の肩まであって太陽みたいな形の花。
皆が同じ方角を向いて、まるで自分達を連れて来た人を見つめてるみたいだと思ってしまう。
調べてみれば、ただ太陽のいる方を向いているだけだと言う。
例え理論上ではそれが正しいとしても、私は自分の考えを信じてる。

今日は満開みたい。
下の世界では、咲いてる花なんてないのに。
暖かくなるまで、皆眠って待ってるんだって。
今日はその話をするね。
あと、新しい本も持ってくよ。
223 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:07
黒の混じった翼で飛び上がり、感覚のない左足から地面を離して荷物を抱える。
四角い形跡だけ残った、ただの空き地が見えた。

奪われたのが声じゃなくてよかった。
下の世界に興味津々のあの子に色んなことを伝えられる。
それに、大事なことも教えられた。
この塔の近くにいるよって、ずっと見上げてるみたいだよって。

神は残酷だけど、やはり寛大だと思った。
目の見えないあの子は私の二回目の裁きに気付かない。
罪悪感を抱かせてしまう心配はない。
私の翼が好きだと言っていたあの子が、この翼を見ることはないんだから。
……知らない方がいいこともある。
224 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:09
side:AI

白い廊下を進んで、自分の部屋へ入る。
手にはたった今届けられた報告書を持って。
これは経験の為に自分に管理させて欲しいと提案した、罪人四名に関するもの。
罪に触れた二人を神に告げ、その二人の世話をすることになった者達に神の指示通りの裁きを与えた。
四人とは仲が良いのにも関わらず、涙一粒さえ流さずに。

覚えている頃からこうだった。
神が右だと言えば、先に道が無くとも右へ進んでみせる。
神が赤だと言えば、自分の血を使ってでも赤に変えてみせる。
感情と引き換えに手に入れていたのは、大きな翼と力だけだった。
225 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:11
広げれば自分の体を包み込める、白い翼。
この翼は管理区内で罪に触れた者達を追い掛けるためにある。
あの夜も早々と前を飛ぶ影に追い付いて警告し、翌日の朝に罪人を迎えに行った。

神を支える、大きな力。
例え束になって襲って来たとしても蹴散らす自信はある。
この力を使って友人の声を奪い、左足を奪った。
そして話してはいけないことを話した古くからの友人の、白を半分ほど奪った。

なのに誰も責めようとも、恨む気持ちも全く感じない。
素直に受け入れ、笑顔さえ浮かべた。
恨んでくれればいい、最低な奴だと責めてくれたら……。
226 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:12
そしたらもっと非情に振る舞ってみせる。
誰が見ても完璧に。

悪は彼女達じゃない。
愛や友情、下の世界で生きていた名残を貫いただけ。
何かに絶望し、自ら命を断った者達がやってくると言うこの世界、とても美しく素晴らしいことではないか。
彼女達は悪じゃないんだ。

かと言って、神が悪でもない。
たった微量の雫でも落ちてしまえば溢れてしまう不安定なこの世界、守る為には必要な掟だった。
一度裏切っているにも関わらず、罪滅ぼしの機会と転生のチャンスを与えてくれた寛大なお方だ。
責めてはいけない、恨んではいけない。
神は悪ではないんだから。
227 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:14
悪は自分。
涙さえ流さず、平気な顔をしてここに座っている自分だ。
彼女達の為にと動く訳でもなく、報告書という紙の上からただ眺めているだけ。
その報告書を掴む手も、直接26人の笑みを奪ったものだ。

そんな自分が悪ではないと、何故言える。
言えるはずはないし、言うつもりはない。
自分が悪だ。
だから転生することがあったとしても、自分を幸せにはしないで。
どうかあの26人に幸福を……。
どうか友人だった彼女達に幸せを……。

次の命が歩む道は、喜びのある真っ白なものでありますように。
228 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:16
side:REINA

翼の消えた身体がこんなに重いなんて、初めて知った。
一歩がこんなに進まないなんて、知らなかった。
前は風が全てを教えてくれた。
だけど風がれいなに話し掛けてくることは、もうない。
翼を失ったと同時に、その声がどんなものかさえも忘れてしまった。

罰を受けたあの日から。
……違う。
二人で罪に触れようと決めてから、もう聞こえてこなかったかもしれない。
だって誰が追って来ているかも、わからなかったのだから。
あんな力のある人に気付かないなんて、もう聞こえてないようなもの。
確かに、自ら来るとは思ってなかったけど。
229 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:18
速く、出来るだけ速く。
いくら気配を消そうとしても無理なことはわかってる。
だったら力の全てを使ってでも、一秒でも速く小屋へ。
もっとスピードを上げようと翼に力を入れると、力強く腕を掴まれ動けなくなった。
掴まれた腕がバチバチと音をたてている。

まさか……。
振り返ると案の定、親しい仲の大天使が大きな翼を羽ばたかせてた。
その翼はやっぱり輝いていて位の違いを感じさせた。
だけどこっちだって引き下がる訳にいかない。
震える手で拳をつくって、月を背負う偉大な天使を睨み付けた。
この想いの強さと、変えるつもりのない決心を伝える為に。
230 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:21
「自分達が何をしようとしてるか、わかっとるんか?」
「わかっとーよ」
「……報告するで。それが親しい友達でも、必ず」
「よかよ。それが当然と」
「…………」


ゆっくり離された腕を押さえながら、また翼を動かした。
まさか自ら動くとは思いもしなかった。
あっちは誰だろうか……。
姉のようなあの人か、それとも共通の親友か。
どちらにしても嫌な仕事をさせてしまった。
さっき会ったあの人にも。

だけど、もう。
壊れそうになるくらい、あいつが欲しい。
あいつもれいなを求めてくれた。
こうなってしまえば、止まれない。
早く速く、約束の場所へ。
231 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:22
次の日の朝、ドアを叩く音に急かされて外へ出た。
夢にまでも見たこの場面。
親衛隊を引き連れて立っている昨夜の人。
その目がまるで悲しむように動いたのを見た。

理由はわかる。
床に散らばった服を着るとき、わざと互いに自分のものでないものを手に取ったから。
知っている人だけが気付く、罪の余韻。
その余韻をまとって裁きを受けた。

今もまだ、もう無いはずの翼が痛い。
剥ぎ取られ、何かが抜け出ているような鈍い痛みを背中に感じる。
今日もその痛みを愛しみながら、西の空を見る。
正しく言えば、あの古びた塔の最上階に置かれた見慣れた家を。
232 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:24
あの中にはあいつがいる。
神は寛大で、残酷だと思った。

襲い掛かる更なる裁きを覚悟して、あの家まで飛んでいくか……。
それともあいつだけに罪が加算されるかもと、飛んでいくのを思い止まるか……。
神は、こんな選択肢すら与えてくれなかった。
それなら、絶対目に入らない場所に閉じ込めてほしかった。
悩むことも出来ず、ただ見つめ続けることが罪に触れた罰ですか?

あいつの側にも自分と同じように、誰かが付いているのだろうか。
心の中で問い掛けながら、今日もこの窓から空を見上げる。
……今日の空も綺麗な青色だよ。
233 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:25
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
234 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:27
「だぁぁあっ…はぁ」


すっごい変な夢を見た。
怖い夢でも嫌な夢でもない、変だとしか言えない夢。
古い窓からただ太陽と空を眺めてるだけ。
映画か何かのワンシーンだろうか、まるで静止画みたいに動きが全くなかった。

頭を振って段々とぼやけてくるその場面を無理矢理追い出す。
すると夏でもないのに、首筋を流れる汗を感じた。
いけない、風邪をひいたら大変だ。
パジャマは湿った感触がないけど、汗は拭いた方がいい。

寒いのを我慢して温かい布団から出て、ソファーに掛かるタオルを手に取る。
時間は朝に近くて、カーテンの隙間から濁った空が見えた。
235 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:29
今日は寒そうだ。
もしかしたら雪まで降るかもしれない。
そっとカーテンに近付き隙間を広げると、雲で覆われた空があった。
好きではない天気、だけど夢で見た空よりはいい。
あの空は何だか悲しい感じがした。
そういえば、太陽が変な形に欠けていたっけ……。

追い出したはずの場面をまた思い出して、眉間にシワを寄せて乱暴にタオルを投げる。
もう寝よう。
急いで布団の中に滑り込む。
温かいなと思っていると、足に固い物が触れた。
足と手を器用に使って引き寄せると、それは開いたままの携帯だった。
確か寝る前にメールをしてたっけ。
236 名前:短編 投稿日:2007/11/24(土) 12:31
引き寄せる際にボタンを押したようで、画面の光は暗さに慣れた目では少し痛かった。
目を細めて画面を見る。
メールが開かれたままだった。


『ねぇ、れーな?テレビでね、今会ってる人は前世でも会ってるんだってぇ』


だから何なんだと言いたくなるようなメール。
というか実際に送った。
なのに一つ年上の彼女はこれを投げ掛けたまま、眠ってしまったようだった。

………これのせいか?
だからあんな変な夢を見たのか?
いくら考えても意味がないと、携帯を閉じて枕元に置いて感じる眠気に従って瞼を閉じる。
根拠はないけどもう変な夢は見ないような気がした。
237 名前:図書 投稿日:2007/11/24(土) 12:33
短編・ぇんど
238 名前:図書 投稿日:2007/11/24(土) 12:35
今回はかなり現実から離れたものを書きました。
図書としては神話(?)チックな話も好きだったりするのですが、読んで下さった方の中にはあまり興味が……という方もいるのではと内心ドキドキです。

そして初の視点形式。
話の置き方に戸惑いました。
読んでいただけたら嬉しいです。
239 名前:図書 投稿日:2007/11/24(土) 12:37
【204様】
ガキさんがどうなっていたのかは、図書にもわかりませんww

愛ガキは次回の本編で触れるつもりですので、もう暫くお待ち下さい。
……結果がどうなるかはわかりませんがww

【205様】
嬉しい限りです!!
美貴様が難しいかったのですが、伝わってよかったぁ♪♪

どっちからでしょう。
……賭けてみますか?ww

【206様】
2人が知り合ったきっかけは、後々書く予定です。
何番目になるかはわかりますせんけどもww

愛ガキはいったいどうなる!?
図書にもわかりませんww
240 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/24(土) 20:22
普段の感じももちろん、こんな雰囲気もとっても素晴らしかったです。
読み終わった後改めて読み直すと、なるほどなって思いました。
個人的には愛ちゃんのところが特に染みました。
241 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 00:52
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
242 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 00:54
『……愛?』
『なぁに?お母さん』
『お母さんにはもう愛しかおらんのよ。……愛は、お母さんのこと、好き?』
『うん、大好き♪♪』



小さな頃から言われ続けてきた。
その時のお母さんは、とてもとても悲しい顔をしてたのを覚えとる。
そして言う、『いなくならんでな』。


だからあーしは出来る限りお母さんの側から離れなかった。
友達より恋人もお母さん、それがあーしにとっての普通ゃった。
所詮友達と言っても、ただの知り合いみたなもん。
恋人だって、恋愛に興味があったからOKしたようなもん。
ゃからお母さんの方が大事。


…中学生まではそうゃった。
243 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 00:57
高校は家から一番近いとこにした。
遠くまで通うのは面倒ゃし、別に行きたい高校なんてぇんかった。
そして何よりお母さんがそう望んだ。
ゃから先生に『勿体ない』って言われても変えんかった。


もし違う高校を選んどったら違う未来になってたかもしれん。
高校生になって初めて、お母さんよりも優先する友達が出来た。
入学式でいきなり話し掛けて来た変な奴。
暖かい手をしてて、ダンスが好きで、一緒にいると楽しい本当の意味での友達。
仲がいいからお互いライバル視もしてた。


その子を初めて家に入れた時、あーしのいつも側にあった"異常"を知った。
244 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 00:59
『愛ちゃん、今日は帰るね』
『用事でもあったんか?』
『だって無理に来ちゃったようなもんだし…』
『そのうち連れて来ようと思っとったし、気にせんでえぇよ』
『でも……』



トイレから戻った麻琴は急に帰ると言い出した。
それまではそんなそぶりすら見せんかったのに。
理由を聞いても言葉を濁すだけ。
やっと聞き出した本当の理由は、かなり衝撃的ゃった。



『愛ちゃんともう関わらないでって言われたんだ』



耳を疑った。
ゃって普通、初めて連れて来た娘の友達にそんなことを言うか?


麻琴が離れて行くように思えて、お母さんに対して初めて憎しみを覚えた。
245 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:01
前からお母さんは何かに強く依存する傾向があった。
それを知っていながら、あーしは明らかにお母さんより友達を優先するようになった。
休みの日に皆で遅くまで遊んだり。
麻琴にダンスサークルを見に来ないかって誘われて、夕飯前に家を出たり。
歌が好きなことに気付いて合唱部にも入った。


ゃから気付かんかった。
お母さんがあーしの次に何に依存してるのかなんて……。
もちろん、単身赴任であまり帰って来れないお父さんも。
あーし達が気付いた時にはすでに遅かった。


極度のアルコール依存症、お母さんは"お酒"という悪魔に深く依存していた。
246 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:03
すぐにお父さんはこっちに戻って来た。
あーしも部活を辞めて極力一緒にいるようにした。
ゃけど悪化していくのが目に見えてわかる。
ヒステリックに暴れるようにもなった。
顔のアザが酷い時は学校を休んで、水泳の授業は一回も受けらんなかった。



『ねぇ見て』
『…虐待されてるって本当だったんだ』
『かわいそうー』



噂があるのは知ってた。
どんな目で見られているかも。
……ゃけどあーしは学校に行きたかった。



『このカボチャプリン、すっごい美味しいんだよ♪』



同情するでもアザのことを聞くのでもなく、ただ側に居てくれる麻琴がそこにはいたから。
247 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:05
でもあーしもお父さんも限界ゃった。
アザや傷が増えることよりも、壊れたお母さんを見るのが辛い。


専門のお医者さんの提案で特殊な病院にお世話になることに決めた。
卒業式の日の朝、お母さんは空中の何かを捕まえようと手を動かしながら病院に運ばれていった。
そして麻琴はダンスを学ぶ為に日本を離れた。
麻琴は最後まで麻琴ゃった。



『本当に大丈夫?』
『大丈夫ゃって。麻琴は心配性ゃな』
『心配だよ…友達だもん』
『ありがと。…ほら乗らな』
『うん…手紙書くから!!』
『ぉぅ!!』

『いつか自慢させてやるやよ!!』
『真似すんな、バカ麻琴!!』
248 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:08
お父さんはお母さんと離婚した。
一緒に来るかと言われたけど、一人暮しをすることにした。
その頃にはお母さんの中にあーしという娘はいない。
それからしばらくして、金髪のあーしよりずっと小さい女の人に声を掛けられた。


そして連れて来られた高いビルの最上階。
赤と金色、そして違う国にいる親友を思い出す金髪。
扉を開けるとそこは、、、。



名前・高橋愛。
生年月日・1986.09.14。
家族構成・両親は離婚。籍は父親。
職場・Renoir。
友人・ダンスを学ぶため外国へ。結構順調のようだ。

……補足・好きな人と同じ職場で働いています。
249 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:09
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
250 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:11
「なぁ〜」
「離せっ!!今日は亜弥ちゃんと約束があるんだって」
「うわっ、恩知らずめ」
「何とでもどーぞ。…てかさ、可愛い子でも探してくれば?」
「…仕方ない、そうするか」



れいなはもういない。
"亀"とかっていう、里沙ちゃんの幼なじみがいる病院に行くんゃって。
……あーしからしたら、誰って感じゃけど。


美貴ちゃんは吉澤さんに言ってた通り、亜弥ちゃんとデート。
仕事中には絶対に見せんようは顔で出て行った。


吉澤さんは……ナンパ?
用事がないなら手伝ってゃ、なんてことは思ってても言えん。
まぁ、色々とあるゃろう。
色々と……。
251 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:14
「もぉ、いっつも片付けの日は逃げるんだから!!また手伝わせてゴメンねぇ」



隠していた段ボールを抱えながら、里沙ちゃんが近付いて来る。
そう、今日はハロウィンの飾りを片付ける日。
ゴメンなんて言わんでえぇよ。
そもそもアンタだけの仕事ゃないし、一緒におれるなら何をするでもいいが。


たぶん名前を知ったあの日からずっと。
幸せに生きて来たようで深く傷ついてるような感じ。
根拠はないけど、何となくアンタはそう見えた。
たぶんここで働きたいって言ったのを聞いたから、あーしも頷いたんゃと思う。


握手したときに触れた手はすごく温かくて優しいものだった。
252 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:16
黒い布を畳んで、飴の入ったカボチャを集める。
里沙ちゃんはというと、同じ顔の少し大きいカボチャを抱きしめて運んどる。
視線を手に戻すと持っていたカボチャが笑ってて、自然におもいっきり叩いてた。
ゃけどダメージを受けたのはあーしだけみたい。


……生意気ゃな、お前。
そう思った瞬間、うまそうにカボチャを食べてるアホを思い出して結構スッキリした。



「ぁーいちゃん」
「んー?……」



声に振り返ると一面オレンジ。
顔すれすれの位置に、なんでかカボチャがいた。
そいつが後ろに下がると、魔女っぽい尖った帽子をかぶった里沙ちゃんが笑ってる。
253 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:18
「とりっく、おあ、とりーと♪♪」



……こんな時、やっぱ年下ゃなって思う。
仕事をしてる時はあーしよりしっかり者ゃのに。
大人っぽいのか子供っぽいのかわからん、そんなとこも好き。



「ねぇ……なんか言ってよ」
「あ、ゴメン。びっくりしてもぉて」
「恥ずかしいでしょーがっ///」



頬を赤く染めて膨れっ面。
確かにすぐ反応せんかったのは悪いと思うけど、ハロウィンはとっくに終わってるゃんか。
しかも……意味わかっとる?


ふと思い出した、持ってるカボチャの中身。
それを取り出して、まだ膨れてる里沙ちゃんの頬を突く。
空気が少し抜ける音がした。
254 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:20
「ほい、あーん」
「んぅ?」
「いいから」
「う、うん」



包みから出して遠慮気味に開いた口にほうり込む。
砂糖でできた、甘いだけのかたまり。



「意味知らんで言ったゃろ?」
「意味なんてあるの?吉澤さんが言うもんだって…」
「……簡単に言うと、お菓子くれって意味ゃよ」
「そうなんだぁ。んー、おいし♪♪」



甘い飴で笑顔に戻った里沙ちゃんは、片付けを再開する為に離れて行った。
里沙ちゃんの後ろ姿を見ながら、飴を口にもほうり込んだ。


"Trick or Treat"……、"お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ!"。
255 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:23
飴一個ゃけど、お菓子はあげた。
ゃったらこっちがイタズラしてもいいんゃろうか。
足りないんゃったら今から買って来てもえぇけど、別にいらんょね?



「なぁ、里沙ちゃん」
「んぅー?」



ソファーに乗って背伸びをしながら首だけで振り返る。
確かにイタズラも捨て難い。
でも、イタズラゃなくてイジワルにしよう。
ちゃんと、あーしの目を見て、独り言じゃなくて、オーバーなリアクションと一緒に……
もう一度聞きたいんょ。



「美貴ちゃんが少し変ゃった日、寝てるあーしになんか言わんかった?」
「っ起き…!!」



固まる里沙ちゃんが予想通りで嬉しくなった。
256 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:25
「何言ったん?」
「知らないっ///夢でも見てたんじゃ…」
「今、起きてたの?って言いかけたゃろ」
「いや、あの…違くて」



視線から逃げるみたいに首を元に戻した。
その肩は微かに震えているようにも見える。
寒いんか?
悩んでるんか?
……それとも怖いんか?
でもダメゃょ、逃がさん。



「あーしに言えんことなのかぁ……」
「そういうんじゃ!!」



わざとボリュームを落として呟くと、体ごとこっちを振り返った。
そしてすぐに視線を泳がす。


……あーしはやっぱりお母さんの娘ゃね。
直接言葉にされたら、どっぷりと依存してしまいそう。
深く、深く…深く。
257 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:28
「す、き…って」
「何を?」



ほら、どんどん沈んでく。
依存してもえぇ?
あーしはお母さんからの依存に耐えられなかった。
里沙ちゃんも、あーしを突き放す?
そしたらあーしは何に……。



「あ、いちゃんが…好きです」
「……知っとるょ」
「っっイジワル///」



里沙ちゃんは力が抜けたみたいにソファーに座り込んだ。
ゆっくり近付いて距離を縮めて、あと一歩あれば届く場所で立ち止まる。



「あーしも好き。でも、束縛激しいゃよ?」
「……ぃぃよ。愛ちゃんになら」



赤い顔を上げて、目の前に立つあーしに小さな声で言った。
『愛ちゃんが初恋の人なんだよ』
258 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:31
鍵を掛けて、手錠をつけて。
あーしの心から出れないように。
誰にも盗られないように、どこかに隠してしまいたい。



「……手、出して」
「なんで?」
「両手な」
「もぉ、話聞いてよ」



疑問文で言ったのに答えが返って来なくて、納得してない顔をしつつも両手を出す。
……ゃって、言ったら逃げるゃろ?
手をのばして里沙ちゃんのポケットからはみ出てるネクタイを取る。
そしてその勢いのまま、目の前に出された両手へ。
痛くない程度に結ぶ。



「…うぇぇえっ!!ちょ、愛ちゃん!?」
「あーしになら縛られてもいいって言ったが」
「……こういう意味だったの?」
259 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:35
縛られた両手とあーしの顔を交互に見ながら眉を下げる。
困ってる、でも嫌がってはいない……と思う。
ゃって"取れ"なんて言って来んし。


ゃけど、やっぱり放してあげる。
自由に飛ぶアンタが好きゃから。
……でもちゃんと帰って来てな。



「里沙ちゃん?」
「んー」
「ガキさん?」
「聞こえてるってば」

「……里沙」
「ぅん///……なんか、照れるね」
「やだ?」
「ううん、呼び捨て初めてされたなぁって」
「こっちも照れるで///」



里沙はくすぐったそうに笑った。
やっとあーしのものになったような気がした。
ゃからネクタイを取ろうと手をのばす。
260 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:38
「あのピンク女ぁ!!誰がオメェなんか……」



荒々しく急に扉を開いて、怒りを隠さずに入って来たのは吉澤さんゃった。
予想よりも早いお帰りにムッとする。
そのニヤつく顔にも。
両手を縛られた里沙に、その手に触れるあーし。
超能力なんて持ってぇんけど、きっと頭の中は良からぬことでいっぱいゃろう。



「もしかして、お邪魔しちゃった?ww」
「ち、違いますよっ!!」
「えぇ、もしかしなくても」
「っ愛ちゃん!!!」



「……あ、吉澤さん」



赤い顔でテンパりながら手首のネクタイと戦う里沙を視界の隅に置いて、出て行こうとする吉澤さんを呼び止める。
261 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:40
眠りから心地良く目を覚ました瞬間に聞こえた悪巧み。
それを理解すると同時に、夢と現実との合間で聞こえた声は幻ゃないんゃってわかった。
ゃとしたら、あーしから言った方が……。
考えただけで騒ぐ心臓に呆れながら、薄く目を開ける。


見たのは寝起きにしてはダメージの大きい光景。
体格差がゼロに等しいあーしには出来ないことを軽々と。
無理矢理言わせた感があるけど、結果的にはあーしはされた側ゃと思う。



「賭けは負けゃからの、吉澤さん」
「……まいったな、こりゃ」



吉澤さんは頭を掻きながら金髪を揺らして、扉の向こうへ歩いて行った。
262 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:43
「愛ちゃん、何の話?」
「んー、勝敗の話?」
「はぁ!?」



笑いながら里沙の両手からネクタイを解く。



「あーしのもんになってくれるんゃろ?」
「……愛ちゃんが私のになってくれるなら」



そっと距離をつめて、顔を寄せる。
触れた唇はやっぱり温かかった。


後日、外国にいるアホに手紙を送った。
たった一行、"両想いでした"とだけ写真に書き込んで。
するといつもより早く返って来た返事。
中には"同じく"と書き込まれた写真と、教えてはいないはず名前の入った黄と緑のミサンガ。
それらを見せた途端里沙が泣き出して、落ち着かせるのが大変ゃった。
263 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:44




264 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:47
赤と金色、そして違う国にいる親友を思い出す金髪。
扉を開けるとそこは、、、『依存』の姿を知った場所でした。


お母さんだった人を苦しめたのは紛れも無く自分。
ゃからあの人の世界からあーしは消えた。
ゃけど……依存していたのはあーしも同じ。
大切な人達にで重い鎖を巻き付けてた、あーしから離れないように……。


でもこれからは鎖なんていらん。
二十一年目でやっと鎖を手放せた。
大切な人達とは絆で結び、愛する人とは想いで結ぶ。
それが近くでも遠くても。


いつでもえぇから四人で会おうゃ。
それまでに二人が好きなカボチャ料理でも見つけとくで。
265 名前:第3話 投稿日:2007/12/05(水) 01:48


ぇんど
266 名前:図書 投稿日:2007/12/05(水) 01:50
本編、第3話終了です。
一部年齢を変えました。
どうしてもまこっちゃんしか当てはまらなくて……。


それにしてもこれは愛ちゃんか?と不安ですが、読んでくださると嬉しいです。


【240様】
有り難いお言葉をありがとうございます。
"なるほど"と思っていただけたようで、嬉しい限りです♪♪

愛ちゃんは現在と少し被せてみたんです。
上に立つ身ですし、涙もろいですしねww
267 名前:& ◆/p9zsLJK2M 投稿日:2007/12/05(水) 06:34
いいよ! いいよ!
特にあのネクタイプレーィ!w
愛ちゃん専用の子供ぽいガキさんも!

キャワww

お互いの物の感じは凄い。
更新ありがとうございました! 

やっぱり、この二人最高や。
268 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/05(水) 20:50
更新お疲れ様です。
二人がこの先どうなっていくのか気になります。
269 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/06(木) 02:16
毎回素敵な御話しで楽しみしております。
吉澤ストーリーも期待しております。
270 名前:名無しです 投稿日:2007/12/06(木) 07:04
やっと!やっと!!
やりましたねぇw
これからどうなるのかドキドキわくわくなのです♪
271 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/10(月) 01:39
ガキさん良かったねw
吉澤さんのストーリーも読みたいです。
ピンク??
272 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 01:11
やっと恋愛成就してガキさん良かったね!!
本編もですけど、
愛ガキの続きがすごーく気になります。
273 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 22:51
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
274 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 22:54
幼いというだけ。
理解していないというだけ。
知ろうとしなかったというだけ。


親父の"お手伝い"は楽しかった。
"魔法のお薬"なんだと疑わなかった。
親父に褒められることが何より嬉しいことだった。
いつかの手料理の匂いより、側にいてくれる煙草の匂いが好きだった。


愛されている……そう思ってた。


無知こそ罪。
無知こそ幸福。


知らなかったことを知った時、それは幸福が不幸に変わる時。
……まだ小さかったこの手は、無自覚に金と命をむしり取っていた。


だけどうちは裁かれなかった。
両親ではなく、"知らない"という名の罪がうちを守ってくれた。
275 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 22:57
よく知らない野球チームの帽子を被って、噴水に腰掛ける。
そして名前も知らない人が来るのを待つ。
親父が教えるヒントがどんなに些細なものでも間違えなかった。


だってそいつらは皆、苦しそうな顔だったから。


少しそいつとブラブラして、親父のいる車に戻る。
ポケットに入ってた"魔法のお薬"はもうない。
代わりにあるのは、お金。


その金を渡すと親父は嬉しそうに頭を撫でてくれた。
だから"お手伝い"が夜遅くでも、すごく眠くても楽しみだった。
参観日や運動会には来てくれなくても、親父が大好きだった。


……母親は側にすらいてくれなかったから。
276 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 22:59
"お手伝い"はいつからだったかな。
小学校からか幼稚園からか……。
よく覚えていない。


だけど幸福が不幸に変わったのは、小学五年の夏。
太陽からの熱を避けて日影で涼む、暑い暑い昼休み。
流れる汗を生温い風で冷やしながら、青い空で白い雲がゆっくり動いてるを屋上から見ていた時。



『ひとみちゃんだね?』



見上げれば知らない二人のオジサン。
スーツを着て微笑むその姿はとても暑苦しい。



『大事な話があるんだ』
『おいで』



うちは差し出された手を無視して扉へ向かった。
そして扉をくぐる前に、日影から心配そうに見ているアイツにピースをした。
277 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:03
うちが知らなかったこと。
知ろうとしなかったこと。


"お手伝い"は悪いことだった。
"魔法のお薬"は悪いものだった。
……愛されてなどいなかった。
連れて来られた場所に親父の声が響く。



『俺は関係ない』
『俺は売ってない』
『売ったのはあいつだろ!?』



真っ直ぐな廊下を歩いて来たおばさんは、うちの手を取った。
親父とは暮らせなくなったらしい。
だから親父と別居状態にあった母親の所へ。


水泳の特訓をしてやるって約束したのにな。
適当に荷物をまとめて車に乗る時、なんとなくあいつの家の庭に向かって家の鍵を投げた。
バイバイのつもりで。
278 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:05
久しぶりに会った母親は髪をバッサリ切っていた。
でもうちを見るその目は変わっていない。
親父によく似たこの顔に、自分の分身を見て嘲笑うような目。
その視線を受けながらわざと泣きそうな声で言った。



『ぃやだ』



初めて見た母親の笑った顔は、とても心地良かった。
それからは施設で暮らし、中学と施設を卒業してすぐ出発。


働くなら、夜の似合うあの噴水の近くで。
しばらくして話し掛けてきたお姉さんは、大阪弁で見た目がちょっと怖かった。
けど、利用しない訳ない。


親父によく似たこの顔を。
同情と危険が匂うあの過去を。
誘いに頷くのは簡単だった。
279 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:08
染めたばかりの金髪で顔を隠してニヤリと笑った瞬間、アイツの声が聞こえた気がした。


やけに高音の声。
懐かしい場所が連れて来た幻か?!
いるはずがない。
真面目で人見知りなアイツが、こんな所にいるなんて。



そして連れて来られた高いビルの最上階。
赤と金色、そして微妙に残る声。
扉を開けるとそこは、、、。


名前・吉澤ひとみ。
生年月日・1985.04.12。
家族構成・両親は離婚し、共に今の所在は不明。
職場・Renoir。
逮捕歴・なし。しかし軽度の保護観察の対象となっている。


……補足・幼なじみが同じ街の小さな花屋で働いています。
280 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:09
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
281 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:12
「……なんで戻って来るのっ!!」
「キンキンうっせぇな。店は使用中だったんだって!!」



この街にある唯一の花屋。
看板の文字が消えかかってるようなこの店に、理由は知らないが幼なじみがいる。
昔住んでた家の隣人、ピンク女。
……間違った、石川梨華。


店にいない時は大体ここで時間を潰す。
だって家がないんだ、仕方ないじゃないか。



「…腹へったんだけど」
「…食べてくれば?」
「作れ」「嫌です」
「暇じゃん?」
「そういう問題じゃないのっ」


「なんか夫婦みたぁい」
「それも熟年…」
「ちょっと二人共!!口より手を動かしなさい」
「「はぁ〜ぃ」」
282 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:15
レジの椅子を陣取って、三人しかいない店員の後ろ姿を見る。
石川梨華に、三好絵梨香に、岡田唯。
一度も見たことがない店長はきっとスケベなんだろう。
採用の基準は胸の大きさなんじゃないかと、本気で思う。


成長ってのは恐ろしい。
ガキの頃はまな板だったのに……、なんて当たり前なことを考えてみた。
ボーッとしてると頭に軽い衝撃。
振り向くと顔に柔らかい感触。
そして声が上から聞こえてくる。



「……セクハラで訴えるよ?」



数秒してから状況を理解し、勢いよく身体を引いた。



「なっ、事故だろ!!事故!!」
「…故意にやってたら許さないけどね」
283 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:17
石川は笑いながらうちの手元に小さな袋を落とした。
中には見るからに胃がもたれそうな、菓子パン。
それを確認して、つい眉間にシワが寄る。



「これしか無かったの。文句言うなら外で食べなさい」
「……甘そっ」
「たまには良いんじゃない?」
「まぁ、サンキュー」
「じゃあ帰って。よっちゃんがいると仕事が増えるっ」
「へいへい」



パンの袋を軽く結んで素直に立ち上がる。
そろそろ人の出入りが多くなる時間帯だ。
夕方から夜にかけて、そこでこの店が成り立ってると言っても過言じゃない。


何故ならここが夜の街だから。
この世界に、花は不可欠だから。
284 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:19
「これからどうすっかなぁ」



店の外に出て、目一杯手を空に伸ばす。
今日は堅苦しいスーツじゃなくてジャージ。
ただそれだけで身体が軽く感じる。
ジャンプしてみると、無理矢理ポケットに詰め込んだパンが地面に落ちた。



「捨てるなら…」
「捨てねぇよ、落ちたの」
「てか街で綺麗な人でも捕まえればいいじゃない。得意でしょ?そういうの」
「やだね。なんで休みの日まで媚びなきゃいけねぇんだよ」
「サイテー」
「それはどうも」



拾ったパンの袋を持つ手を胸に当て軽く頭を下げて、石川が大嫌いだと言う笑顔を浮かべて店を離れた。
目的地も決めずに。
285 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:21
「よっちゃーん」



後ろからあの声。



「マメと愛ちゃんにおめでとって言っといてー」




振り向くともうそこにはいなかった。
身体の向きを元に戻して、ただ思うままに進む。


勘のいい奴。
二人の話なんて少しもしていないのに。
……成長したもんだな。
泣き虫で消極的で年上には見えなかったアイツが、今じゃすっかり責任者代理。
だけど変わらない部分は恐ろしくそのまんま。


甘ったるいパンをくわえながら、気が付くと噴水の場所にいた。
反対方向に歩いてたはずなのに……。


過ちの、出発の、場所。
何だか誰かに呼ばれてるような気がして、噴水に近付いた。
286 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:24
働き始めて一年ぐらいまでは、壊れることを望んでた。
今なら自分でもそうと思う。


同情を漂わせて、言葉で捕まえて、いらなくなるまで離さない。
堕ちるとこまで堕ちてしまえばいい。
……どうせ誰からも愛されたりしないんだから。
……どうせ求める言葉を好みの顔の奴が喋っていれば、客は満足なんだから。


全てが真っ黒に見えた。
金を運び続ける客達も。
自分よりも早くにこの世界に入った先輩達も。


……こんな生き方しか出来ない自分、が。


この手で触れた物が黒へと変わってく。
だったら全てを黒に染めてやろう。
……もう鮮やかな色なんて見たくない。
287 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:26
そんな時、ちょうどこの場所で石川に会った。
そして言葉を交わす前に全力で殴られたんだ。
意味がわからない上にめちゃめちゃ痛かったっけ。



バチンッ
『っ、何すんだよ!!』
『最低……』
『はぁ?!』



普通記憶も薄れかかっているのに、会ってすぐ全力でぶっ叩く奴がいるだろうか?
今思い返しても、衝撃的だ。
もし人違いとかだったらどうするつもりだったのか……。


きっとそれはそれで、笑える話になっていたんだろう。
たぶんあの時会わなくても、いずれうちはアイツに殴られることになっていたんだと思うから。


まぁ、感謝は……ほんの少しだけしてる。
288 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:29
会う度にウザイぐらい説教されて、その度に心に溜めてたことぶちまけて。



『過去を盾にするんじゃないの!!』
『してねぇよ!!』
『してるじゃないの!!』



『自分の罪、忘れたら許さないからっ!!』
『どう生きようと関係ねぇだろ!!』



『お前にはわかんねぇよ!!』
『そんなのお互い様でしょ!!』



街の中心で大声出して。
人の目なんか気にしないで。
すごく腹が立って、イライラした。


でも気が付けば、いつの間にか世界が変わってたんだ。
黒が薄くなっている。
もう一度鮮やかな色を、先にある未来を見てみたくなってる。
久しぶりに空の青さを実感した。
289 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:31
『なによぉ』
『何だよ』



"ありがとう"って言葉は言うのも聞くのもくすぐったい。
でも変われたんだ。


煙草に火をつけて寝るのは、罪を忘れないように。
二度と過去に隠れないように。
確かに目線の位置は違うけれど、ここは何も変わっていない。
天気によって異なる水の音や、周りの景色も。


あの頃は寂しい街に見えたのに、今は違う街のよう。
もうここはうちの街。


遠くで同じ職場の友人を引っ張りながら手を振る芸能人に気付いて、二人に向かって歩き出す。
ずっとここで待たせたままだった、子供のうちの手を取って。
喉を通るパンの甘さが、一瞬懐かしい気がした。
290 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:33





291 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:35
連れて来られた高いビルの最上階。
赤と金色、そして微妙に残る声。
扉を開けるとそこは、、、変わるきっかけをくれた場所でした。


責められないことが一番辛かった。
そしていつの間にか、周りから寄せられる悲感に酔っていた。


一人で立っていられないから、過去にすがり付く。
目がまわるから、優しさや心配にも気付かない。
頭が痛いから、誰の声も聞こうとしない。


でも長すぎた二日酔いは強烈なビンタでもう覚めてる。
今は前を見て歩いてる。
色々誤解の多い職場だけど、結構誇れる仕事だ。
会う人に何かを与えられればいい。

……うちが皆に貰ったように。
292 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:37
心の中を見せるような言葉は照れ臭い。
それらは肌に合わない。
だけど嫌いではない、かもしれない。


そういえば、アイツは昔からそんな言葉をよく口にしてた。
それが小さなことでも、誰が相手でも。


『石』『川』『梨』『華』どんだけ自然が好きなんだよって感じの、アイツの名前。
石みたいに頑固で、川よりずっとサブくて、花が好きで。
そして、梨(ナシ)の花言葉は博愛だと誰かが言ってた。
酔った気分の中でぼんやりとだけど。


博愛とは、すべての人を等しく愛すること。
あのビンタがアイツにとってのうちへの愛かと、カップルの後ろで笑いそうになった。
理由はないけど何だかおかしくて。
293 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:40
昔のうちは何かを求めてた。
正直、一人ぼっちは寂しかった。
だから愛されたくて、愛されたくて。


でも普通の優しさじゃ不安で、どうせ心の中では違うくせにと考えてた。
それはあの店で働き出してすぐには変わらなかった。
周りには差し延べてくれる多く手があったのに、背を向けて助けてと叫び続けてた。
ずっと一人ぼっちじゃなかったのに。


今頃になって再確認するなんてな……。
そんな時、前を歩くカップルの片方が振り向いた。



「な、なんだよ」
「亜弥ちゃん?」
「なんかゾクッて……」



帽子から覗くまつーらの目は、何かを探そうと動いてた。
不安げに。
294 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:42
それは隣の恋人にも伝染して。
夕暮れに染まる空の下、二人は何度も周りを見渡していた。
きっとこいつらもまだ少し酔いが覚めてないんだ。
周りに全てを見せているようで、二人の世界から出れずにいる。


特にまつーらは……。
そっちの世界の不安定さを知りながら、休む木陰がないことも知っている。


うちは誰かに愛とか言うものを与えるほど、立派な人間じゃない。
まして木陰なんて作ってやれない。
出来るのは、些細なだけ。


「てか飯行かね?」
「…ぅーん」
「賭けに負けたから、二人共奢ってやるよ」
「「え、やたっ♪」」
「吉澤さん、今月1位でしたから。吸血鬼効果かな?」
295 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:45
いつの間にか上機嫌の二人。
バカ話をして、ノロケ話に呆れて。
ジャージゆえにいいレストランには入れないけど、どこにでもあるチェーン店だけど、それがいい。



「アハハハ!!ひぃ、くるしー」
「おい、笑い過ぎだ!!」
「よっすぃ、ほんと頭大丈夫?」



楽しければ、今はそれでいい。
こいつらはきっと、誰かに作ってもらった木陰じゃ休まない。
そういう奴らだ。
うちに出来るのはこのぐらい。



「ぁ、やちゃ…美貴、死にそっ」
「へー、死ねば?」
「いやいや…」
「いーの、たん実はMだから♪」
「そ、そーすか」



……まぁ、上出来かな。
296 名前:第4話 投稿日:2008/01/21(月) 23:46
ぇんど
297 名前:図書 投稿日:2008/01/21(月) 23:48
放置し過ぎで、申し訳ありません。
ちょっとバタバタしてまして。
……まだバタバタしなきゃなんですけどね↓↓ww
読んでいただけたら嬉しいです。



【267:& ◆/p9zsLJK2M様】
ネクタイプレイww
子供っぽいガキさんと、変態気味の愛ちゃん。
それが書きたくて頑張りましたww
名前すら出て来なかったが一人いるのですが、わかったでしょうか……。

【268様】
愛ガキ……次回のガキさんの巻で少し出すつもりです。
予定ですが(xx;)

【269様】
今回ちょっと危ない感じはありますが、楽しめたでしょうか……。
知識がないのは大変です↓↓
298 名前:図書 投稿日:2008/01/21(月) 23:51
【270:名無しです様】
やっとです、やりました!!
……が、しかし?
とか言ってみたりしますww

【271様】
今回は吉澤さんストーリーでした。
はい、ピンクはあの人ですww
どうでしたでしょうか。

【272様】
この話は短編の積み重ねなので、主人公がいないんですよね……。
愛ガキ番外編でも作ってしまいましょうかww


今回ですが、法律などに詳しくないので実際とは異なるかもしれません。
なので軽くスルーして頂けるとありがたいです。

では、またの機会に。
……また期間が開くと思いますが、よろしくお願いします。

そして、ここはあとどれくらい書けるのでしょーか…?
299 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/22(火) 01:20
おぅ!!!
キタ! キタね!
基本的あいがきが大好き、でも、図書様のいしよしは... 素晴らしい。
特に図書様書くの二人の関係、これが好き! 二人のキャラも凄いね。
なんかさぁ、あの美勇伝花屋がちょっと気になったわ。w
そっちの話も面白そうな〜と思います。
今回も楽しかった、ありがとうございます!
次回まで、待ってます! 

300 名前:名無し 投稿日:2008/01/22(火) 22:57
やべー、吉澤さんストーリーなんかイイww
やっぱりいしよしですよね!
この二人の関係すごーく好きです。
次回のガキさんストーリーすごーくお待ちしています。
301 名前:名無しです 投稿日:2008/01/23(水) 02:39
今回はよっちぃの過去でしたか…
ウザがってても何気にピンクの人が大切なんですねぇ。

…私への返レスにドキッとして気になりすぎるんですが…w
302 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:07
手にした淡いピンクの封筒を見つめながら、思う。
もう一人にはなりたくない。
まだ一緒にいたい、側にいてほしい。


自分の身体を抱きしめると、小さくカタカタ震えてた。
寒いから?
違う……すごく、すごく恐くて。
ドアの向こうで寝息を立てる皆の今を、壊してしまいそうで。
見なかったフリをして、皆の幸せを奪ってしまいそうで。


もうあの場所は飛び出したのに……。
やっと開放されたと思ってた……。
二十歳の誕生日もここで……。

私はいつまでマニュアルの中で生きなきゃいけないのかな?

またガラスケースの中に飾られなきゃいけないのかな?
303 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:09
音もなくこぼれた涙が、封筒の一部だけを濃い色にしていく。
その度に繰り返し繰り返し、答えを誰かに求めた。
誰かが都合よく、"これは夢だよ"なんて言ってほしくて。
でもぼやける視界に顔を出した太陽の光が入って、叶わない願いが消えるの見た。


早く立たなきゃ、すぐに動かなきゃ。
そう頭では思っているのに、思い出とかに包まれて動けない。
やっと身体が少し動いたのは、光が手元の封筒を照らした時だった。


改めて目にした模様とその中身。
やっぱり桜の花びらが舞う、淡いピンクの封筒で。
見知った仲の良い人達の笑顔が、数枚の写真の中にあった。
304 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:11
皆が起きちゃう前に、早く出なきゃ。


きっとこの星にいる限り、一日隠れることすら出来ないんだよね。
受け入れるしかない。
今度は自分でも驚くほど簡単に決心がついた。
皆は優しいから、見られたらきっと巻き込んでしまう。
そうなったら、きっと私は何も出来ないから。
あの時みたいに、離れてく背中をただ見ているだけなのはもう……悲しすぎるから。



『お願いします!!』
『仕事中だ、出ていきなさい』
『あさ美ちゃんは私の友達なのっ、だから…』
『おい誰か、早く部屋から連れて』
『聞いてくれないなら、家出します!!私、本気ですからっ!!』
305 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:22
あの時、私は必死だった。
小さな頃から側にいてくれるカメとは別の、大切な友達を守りたくて。
あの子とまた一緒に笑いたくて。
……でも、出来なかった。



『ふっ、好きにしなさい』
『どうせ今のお前は使い道がない』
『無能な親の娘と付き合っても、得などないぞ』



黒光りする皮の椅子に座るその顔を、ピクリとさえも変えさせられなかった。
あの人は簡単にその子のお父さんの会社と手を切った。
次の日、その子は外国の学校へ転校。
お別れ会のその日は、一度も"マメ"と呼んでくれなかった。
私も近くに行くなんて、出来るはずがなかった。
306 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:24
それからしばらくして、本当に家を飛び出した。
長年手を付けていなかったお年玉の束と、貰ったばかりの中学校の卒業証書を抱えて。



そしてここへ。
愛ちゃんに初めて会った時、隠したはずの弱い私を見られているような気がしたよ。
吉澤さんは正直、日本人じゃないのかと思いました。
もっさんは少し怖かったかな。
田中っちの笑顔は可愛いけれど、少し苦しかった。


それからたくさんの人に会った。
カメにもまた会えた。
あさ美ちゃんからミサンガも貰った。
好きな人が恋人になった。


あの頃に比べれば、私も少しは大人になったのかもしれない。
でも……。
307 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:25
例えいくら姿が変わっても、流れる血は変わらない。
いくら強くなったとしても、きっとまた離れてく背中を見ることになる。
だったら私が出来ることは、静かに足を前に進めることだけ。


ここに来た時の荷物を持って、エレベーターに乗った。
もう数時間すれば、セットした目覚ましが鳴る。
適当な理由を書いたメモは残して来た。
直接サヨナラを言わないワガママな私を、皆は…貴女は…嫌いになるかな。
でもどうしても言えなくて、自分から繋がりまで消したくなくて。


エレベーターは涙を拭って笑う私を、ゆっくり地上へ連れて行く。
……もう、サヨナラだね。
308 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:26
もう使うことがないICカードを、上着のポケットにしまうのが少し辛かった。
だけど見上げた先に皆がいるんだなと思うと、すごくホッとした。


空は小さな隙間からしか見えなくて、道はたぶんどこかに続いてて、目の前にあるビルは小さな私をただ見下ろしていた。
連れて来られた高いビルの最上階。
赤と金色、そして知らない場所への恐怖と安心。
扉を開けるとそこは、、、。



名前・新垣里沙。
生年月日・1988.10.20。
家族構成・戸籍上では、父母兄妹。
職場・Renoir。


……補足・母親は有名華道流派の本家家元。父親は巨大財閥のトップ。
309 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:26
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
310 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:28
あれからすぐ、黒い車によって飛び出した家に連れ戻された。
私はもうマニュアルの中。
新しく用意された着物に着替えされられて、二人の見覚えがない女の人が付けられた。
この人達は付き人という形の監視役。
一人には散る桜の花びらが、もう一人には咲いた桜の花が胸元で光る。


"散る"お父様の紋に対し、"咲く"お母様の紋。
どうやら今は両方に監視されているみたい。



「お嬢様、旦那様がお呼びです」
「はい、わかりました」



自分の家だと言っても迷いそうな廊下を、二人に導かれて進む。
ドアを開けられると一番会いたくなかった人がそこにはいた。
311 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:29
「ーー3日後だ。失礼のないようにな」
「はい」
「部屋に戻りなさい」



記憶よりも豪華になったお父様の部屋。
そこで説明されたのは予想通りのことだった。


お父様の後継者はお兄様で、お母様の方には妹がいる。
お父様の仕事と生け花を嫌う私は、どちらにも必要ない。
だったらきっと橋をかけたい島を見つけたとしか考えられなかった。



「里沙さん、お帰りなさい」
「…お母様」
「見ないうちにとても綺麗になりましたね。いい恋でも?」
「いえ、…失礼します」



廊下でばったりと会ったお母様に、逃げるように会釈して部屋に戻る。
答えたくはなかったから……。
312 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:30
長い廊下を歩いて、部屋のドアを閉める。
やっと一人の空間に入れて力を抜くけど、淡い木の向こうからは二人の気配。
でも監視カメラがない、それだけでまだ居心地良い空間だった。


物が少ない部屋。
その奥にあるクローゼットを開ける。
そこにはお店から持って帰って来た荷物。
触れてみると少しだけマニュアルの外に出れた気がした。
でもそれは幻。


数日のうちに私の胸元に桜の花びらが散ることになる。
きっと全てが変えられてしまう。
……愛ちゃんに染め直してもらったこの髪はいつまで保てるかな?
……伸ばした爪も、開けたピアスの穴も消えてしまうかな?
313 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:34
でもミサンガだけは失いたくなくて、結ばれたまま荷物の底にしまった。
付けていなければ大丈夫だろうけど、心配だから……。


もう呼ばれない"mame"の文字を、残しておきたい。
形に残せる唯一の幸せな記憶を、隠しておきたい。
恋人との大事なカケラを、幻にはしたくない。
これがあれば幸せな夢を見れる、過ごした時間を思い出せる。


『ガキさーん、煙草買って来てくんね?』
『私まだ未成年なんですけど…』

『ねぇ、もっさん?』
『だからもっさん呼ぶなって言ってんじゃん!!』

『ガキさぁんだー』
『…カメが変だ』
『いつもゃと』
『ううん、いつもよりキモいの』
314 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:36
でもやっぱり一番思い出すのはあの人で。、夢の中でも目を覚ましても、思い出すと心が熱くなる。


私の誕生花はタムラソウ。
花言葉は……《あなただけ》。
どれだけ名前を呼んでも届かないけど、たぶん私はずっとこの気持ちのまま。


あの人の誕生花の花言葉が《薄れゆく愛》でも、愛する人はたった一人だけ。
もし今あの場所に居たのなら、何を話してどんな思い出を重ねていったんだろうね。


全て幻だけどあの場所は今も同じ空の下、時は皆と同じスピードで過ぎている。
ただそれだけで花は咲かせられる。
一人じゃないと錯覚できる。
それだけで私は笑えてた。
315 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:37
三日後の食事会で私は笑う。
お父様のマニュアル通りに。



「里沙さんは中学校卒業後すぐ、経営を学びに留学したんですって」
「ほう、それは素晴らしい」
「まだまだ未熟者です。小さな頃から憧れている父の真似をしてるだけですので」
「生け花はなさるの?」
「母のお花を見る方が好きなので、自分では今はあまり」
「うちの息子が大事なお嬢さんを貰ってもいいのかしら」
「ええ、是非。この子にしたら勿体ないくらいですよ」
「もう息子は里沙さんに夢中みたいでね」



お父様にしたら全部簡単なこと。
私は留学をして、お父様の秘書をしてたことになってた。
316 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:38
食事会は順調にまとまって、お父様はとても満足した様子だった。
相手はスイーツ界の頂点、東十条グループ次期経営者。
食産業系にはしごをかけるなら、文句のない島なんだろう。


それからは東十条家のパーティーに呼ばれたり、個人的なお誘いがあったりと、全てお父様の思いのままに事が運ぶ。
きっとあちらも同じ思惑を持っているんだろう。
私が婚約者なんじゃない、私の家が婚約者。


だから長い間逃げ出していたはずの私でも、もうしっかり"新垣"里沙と見なされる。
その証拠に胸元には桜が散っているけど、胸のもっと奥では隠れて赤紫色の花が咲く。
317 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:40
あれからもう3週間。
言葉通りに良いお付き合いをして、ほぼ毎日東十条さんと会っている。
デートのようで、デートじゃないんだと思ってた。
東十条さんも勉強があるのに、毎日毎日大変だなって。


だけど最近になって、不思議な違和感を感じるようになった。
話を繋ぐために少し指にケガをしましたと言っただけなのに、大学の講義の間に家まで来てくれて。
家から出れない私を色々な場所に連れ出してくれて。
急かされてるはずなのに、私が少しでも震えれば何もしてこない。
食事に行けば、キッチンを借りてデザートを作ったりしてくれる。
大事にされているのがわかる。
318 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:41
その違和感に気付く度に、罪悪感が刺さる。
胸の奥の花が少しだけ揺れる。


心がドキドキ動くのは、今でも好きなあの人と重なった時。
似てないのに、見えてしまえば消えなくて。
きっとこれからも東十条さんの向こうに愛ちゃんを見て、私は笑う。



コンコン
「お嬢様、お客様が見えてます」
「えっ!?まだ…」



ボーっとしていたせいで時計が進んでいたけど、約束の時間より1時間も前。
勘違いしたかなと首を傾げながら玄関へ。
どうやらお母様と話してるようだった。



「ごめんなさい。まだ準備が……」
「里沙さん、わざわざ荷物を届けに来て下さったわよ」
319 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:43
お母様の背中の向こうに見えた人影に足が止まった。
そこには普通の会社で働いてるような格好の皆がいた。



「今日はお忙しいんですって、途中まで送って差し上げたら?」
「…は、ぃ」



お母様は私に付いてる人までも連れて、廊下の奥へ。
皆の背中を見ながら広い庭を歩く。
家の門を過ぎると、皆は記憶と同じだった。



「ガキさん家、予想以上過ぎんだけど」
「急にいなくなるから心配したっちゃろぉ…」
「何が、お母さんが倒れただよ。元気そうじゃん」



流れる優しい空気が心地良くて景色が歪む。
ただ愛ちゃんがこっちを見てくれないから、少しだけ悲しかった。
320 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:44
カツラを取った金髪の吉澤さんに紙袋を投げられた。
桜に気付いているのにタックルして来た田中っちは涙目だった。
残したメモをヒラヒラさせるもっさんは少し怒っているみたいだった。


愛ちゃんは3人の背中が遠くなっても、ただ綺麗な爪を見てる。
怒ってるかな、怒ってるよね。
謝ろうと近付くと、引き寄せられて愛ちゃんの腕の中に。



「……やっぱり閉じ込めておくんゃった」
「……ごめんなさ」



感じる温度と触れた唇に瞼を閉じかけるけど、腕に力を入れて身体を離した。
ここは家の前。
誰に見られるかわからない。お父様の耳にでも入ってしまったら……。
321 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:46
だけどもっと強い力でまた腕の中へ。
そしてまた唇が触れる。



「あ、ぃちゃ…待って」
「待たん」
「見られちゃ…」
「里沙はあーしのゃ」



……もうダメみたい。
もっと触れたくて苦しくて。
涙もキスも止められなくて。
少しは隠れられる裏口まで引っ張っていくと、壁に押し付けられる。
着物が汚れても乱れても、気にしてられなかった。
だけど車のブレーキ音に気付いて、ふともも辺りにいる愛ちゃんを押さえた。



「ひゃっ、待っ…て」
「ゃからっ」「しー!!…もう行かなきゃ」



小さな門から顔を少し出すと、やっぱり東十条さんの車が正門の前に停まっていた。
322 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:48
「……誰ゃ、あれ」
「一応、婚約者…なのかな」
「アイツか」
「ちょ、どこ行くのっ」
「……言ってくる」
「ダ、ダメだから!!」
「なんで!!アイツのこと好きな、んー!!」



原形を留めてない着物を直してた手で、愛ちゃんの口を塞ぐ。
暴れるのをどうにか押さえて、出来るだけ手短に説明する。
私の必死のお願いに、愛ちゃんは納得していないような顔だけど頷いてくれた。



「…変じゃない?」
「……持って来た服に着替えたらえぇのに」
「見送りに行ったのに、服が変わってるのはおかしいでしょーが」
「……なぁ」
「なっん」
「また来るから」
「…えぇっ!?」
323 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:50
愛ちゃんは最後にキスを奪って、何故か満足げに笑いながら帰って行った。
その背中をしばらく見ていたけど、はっと我に返って紙袋を掴んで車へと走る。



「東十条さん!!ごめんなさい、ちょっと友達が来てて……」
「いいよいいよ。今来たとこだから」
「着替えて来ますっ」



いつもみたいに笑うから、ホッとしたのと同時に胸が痛かった。
部屋で着物から用意してた服に着替えて、軽く化粧をする為に鏡の前に立つ。
そこで気付いた鎖骨とふとももにある赤い痕。



「もぉ、いつの間に…」



ふとももには絆創膏、首にはマフラー。
鏡には上手く出来てない困り顔の私。
324 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:51
それから映画に行って、星が見えるからと丘の上の公園へ。
昨日まではふとした仕草に愛ちゃんの影を見てたのに、今日は一切見えなかった。


全然違う。
似てると思ってた笑い方も、愛ちゃんはもっと柔らかくて。
優しいだけじゃなくて、苦しいぐらい抱きしめてくれて。
胸のドキドキも、走った後よりずっと早くて。


冷たい風が熱い頬には気持ち良いから、二人でいるのを忘れてた。
東十条さんの車の中だと思い出したのは、腕を掴まれてから。
愛ちゃんはもっと力を入れてたはずなのに、なんでこんなにも痛いんだろう。
だからかな、近付く気配に顔を背けてた。
325 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:53
「…あっ、ごめんなさい」
「嫌?」
「違くて、あの今日は……」



もし昨日だったら、私は瞼を閉じて受け入れてたはず。
でも今日は、無理だった。
意識する前に身体が嫌だと反応してた。



「今日だけ、今日だけは…」
「そっか」
「…ごめんなさい」



東十条さんはそれからも一切触れずに家まで送ってくれた。
次の日からも前と変わらなくて、何だか余計に恐かった。
もしかして気付かれたのかなとか、お店大丈夫かなとか嫌な考えばかりが過ぎる。



「あの、この前のこと怒ってますか?」
「怒ってないよ?」
「でも……」

「大丈夫、あの人達に何かしたりしないから」
326 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:54
運転する横顔から感じるのは、冷たいだけのような気がしてつい服をギュッと握る。


私があそこに逃げ込まなければ……。
もし出会っていなければ……。
空から聞こえる声に恐れながら、出口のないifの迷路の中にいた。



「ずっと前から知ってたよ」
「僕だって一応、東十条の息子だからね」
「君が戻りたい場所も、誰に一番会いたいかも……」



やっぱり触れるべきじゃなかったと思った。
あれから『また来る』と残した声が忘れられない。
赤から黄色に変わった痕を見る度、心が疼いてしまう。
会えないと諦めたはずなのに、会えてしまったから諦められなくて。
327 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:56
車が静かに止まって辺りを見渡せば、身体中に嫌な予感が伝う。
ここが始めてマニュアルを拒絶した場所だからじゃない。
公園のベンチにお母様が座ってたからでもない。


……どうしてここにいるの?
……何してるの?


丘の上の公園に、お母様と少し距離を作った隣に、愛ちゃんがいた。
車を下りると私以外の三人が笑ってる。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、何も考えられなかった。



「ーー勉強で……三年後…」
「ーー家の方は……だいじょう…」



視界は半透明。
聞こえるのは呪文のような音だけ。
そんな自分を感じていながら、私はここにいなかった。
328 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:57
「ーーな?…って、里沙?」
「…へ?」



呪文だと思ってたそれが言葉だと気付いたのは、愛ちゃんの温度を感じてからだった。
でも公園には私と愛ちゃんしかいなくて、手には二枚の封筒。
でも状況はさっぱりわからない。
話を聞こうにも愛ちゃんは何故か拗ねていて、私に説明してくれる相手は二枚の封筒しかいなかった。


恐る恐る、四つ葉が描かれた小さな封筒を開けてみる。
中の手紙にはお母様のものだと思われる達筆で、携帯らしい番号と
『何かあったらいつでも言って下さいね。どこにいるのであれ、あなたは私の大事な娘なのだから。』

と書かれていた。
329 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 03:59
違う方の、航空会社の名前の入った封筒を開けてみる。
中にはやっぱり飛行機のチケットが。

『君の特等席に座れなくても、男では一番いい席を貰えるように頑張るよ』

の文字で見にくくなっているけど、たぶんフランス行きの。
ますます意味がわからなくて、隣でまだ拗ねてる愛ちゃんの肩を叩いた。



「ねぇ!!ねぇってばぁ!!」
「なんやぁ〜」
「なんコレ!?」
「ゃから…」



心地良い夢を見てるのかと思った。
だから確認し過ぎて、愛ちゃんにしつこいとまで言われた。
だって全然言葉が足りないもん。
嘘みたいなことを説明もなしでなんて、理解出来ないよ。
330 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 04:00
東十条さんの留学で結婚が三年後に延期。
そこでお母様がRenoirと契約したので、結婚まではあの場所にいれることになったらしい。

すごく嬉しかった。
でも同時に戻れないとも思った。
でもそれは目の前で夕日を背にして立つ人が崩してく。
カケラも残らないように砕いて、私を呼び寄せる。
小さな子供に注意するような目で。
そして有無を言わせないような目で。
だけど無邪気な子供のような目で。



「戻らんとかダメゃよ」
「…ぅん」
「三年間ずっと、離れさせんから」
「ぅん…」
「旦那にバレてる不倫なら、簡単ゃね」
「ぅんっ」



泣くななんて、無理だよ。
331 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 04:02
照れるように離れた背中を目で追う。
ちゃんと笑いたい。
でも頬の冷たさが夢じゃないこと教えてくれる。
早く皆の所に帰りたい。
でもまだ帰りたくない。
だから夕日が沈むのをベンチの上に立って見る愛ちゃんに後ろから抱き着いてみた。



「うおっ、びっくりしたぁ」



太陽が眠った頃には向かい合っていて、目線も同じになっていた。



「ねぇ、どうやって帰るの?」
「バス?」
「私バス停の場所知らないよ?」
「…タクシー?」
「ここどこかわかるの?」
「…歩く?」
「その靴で?」

「……まぁ、どうにかなるがし」



ギュッと抱きしめられると、私もまぁいいっかなんて。
332 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 04:04
結局お店に戻ったのはずいぶん後で、早速お母様にお願いしたのは言うまでもない。
そして三色の雷が落ちたのも……。


「お前らなぁ!!」
「……何時間かかってるわけ?」
「遅いとっ!!」
「「…ごめんなさぃ」」



二人でソファーに正座。
吉澤さんはやっとバカ二人が帰って来たと電話を掛けてて。
さりげなく目を擦ったもっさんを、ミキティと呼んだらうるさいと怒られて。
田中っちは私と手を繋ぎながらしびれてる愛ちゃんの足をつっついてて。


そんな光景を見ながら小さく呟けば、時差を持って返ってくる言葉。
その温かさに、また雫が落ちた。

『おかえり』
333 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 04:05





334 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 04:06
連れて来られた高いビルの最上階。
赤と金色、そして知らない場所への恐怖と安心。
扉を開けるとそこは、、、陽のあたる場所でした。


私は、生まれ育ったあの家が嫌いだった。
あの家に存在するもの全てが嫌いだった。
かなり修復された今でも好きだとは言えないくらい。


あの家の大人は皆、子供だから気付いていないと思っていたかもしれない。
そんなことはない。
ちゃんとわかってた、しっかり感じてた。
自分達以外にも兄弟姉妹が何人もいることも。
両親の間に愛がないことも。
仕事の内容も。

そしていつかはどちらかの桜を手を取らなくてはいけないことも。
335 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 04:08
そういうものだと諦めることが、子供ながらに"新垣"と名乗れる代償なんだと思えてた。
でも私は与えられた桜を拒否して、お母様の跡継ぎとしての道を歩こうとしなかった。


植物は昔から好きで、もちろん花も好き。
賞もいくつか貰ったこともあるし、最初は生け花を楽しんでいたと思う。
でも次第に悲しくなっていった。
それがいつからだったのかは覚えいないけど……。


人が傷つかないように改良されて。
ビニールを通した空しか知らなくて。
ライトの下でしか見てくれなくて。
何のため?
誰のため?
飾られた部屋には、風さえ会いに来てはくれない。
336 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 04:09
気付けば、手に持った花に自分が重なって見えていた。


名前が傷つかないように型にはめられて。
マニュアルの中からの世界しか知らなくて。
"新垣"としか誰も見てくれなくて。
私も飾られたこの家から出られない。


それは今も変わらない。
三年後の未来も決まってる。
でも今はそれでもいいかなぁって思う。
ガラスケースに入っていても、真っ直ぐ見てくれる人達がいるのなら……。
気付いてくれるのがたった一人でも、その一人が貴女なら……。


ねぇ、愛ちゃん。
人工の花でも綺麗に見えてる?
赤紫のタムラソウの香りが、貴女に届いているといいな……。
337 名前:第5話 投稿日:2008/02/10(日) 04:09
ぇんど
338 名前:図書 投稿日:2008/02/10(日) 04:16
更新終了です。
雑談ですが、『東十条』は某ドラマから頂きました。
……ドラマではお医者さんでしたが。


今回は時間のスキップが多かったのでわかりにくい部分もあると思いますが、読んでいただけたら嬉しいです。
それと花言葉ですが……。
調べてみると、複数あります。
その中でも話に使えるものを選んでみました。
他の3人も、結構当てはめられるものが多かったですww


これでメインの5人のお話が終わりました。
次回からは周りの人達の話になると思います。
まだ5人が出せるかはわかりませんが、努力はしてみます。

それでは、次回に。
339 名前:図書 投稿日:2008/02/10(日) 04:17
【299様】
結構使いやすい二人だったので、以前はいしよしを書いてましたww

三好チャン、岡田チャンのキャラが掴めてないんです↓↓
図書には言葉の区別が特に難しい二人でして(xx;)


【300:名無し様】
イイですかぁvv
よかったです♪♪
図書も二人の空気が好きなのでww

ガキさんストーリーはどんな感じでしょうか。
ちょっとベタだったかもしれませんね……。

【301:名無しです様】
吉澤さんは素直じゃないイメージなのでww

ハードルを上げてしまった気がしますが、どんな感じでしょうか。
あまり期待を裏切っていなければいいですけど↓↓
340 名前:名無しです 投稿日:2008/02/11(月) 01:19
更新お疲れ様です!!
朝読んだくせに夜中に感想を書き込みに来てしまいました…

何でしょう…どうやってこの気持ちを表現したらいいのかわかりません。
だけど、色々なガキさんの心とか周りとか…
感じ取りやすかったです!!

花言葉、私も調べたことがあります。
本当にみんなぴったりなものがありますよね…w
341 名前:ななし 投稿日:2008/02/11(月) 22:22
今回もニヤニヤしながら読んでました(笑
ガキさんすっげー金持ちでびっくりwww
愛ちゃんとの関係が続いて良かったですね♪

もしかしたらとは思ったのですが…
れいにゃが言う「桜が嫌い」というのは、
もしかしてガキさんの桜と関係があるのでは…?

と思ってしまいましたw
342 名前:だれだべ 投稿日:2008/02/15(金) 10:00
ガキさんの話きたあああああ! イエ〜ィ!
今回も素晴らしいね。
愛ちゃんとガキさんの恋が三年期間限定になったか。;_;
でもね、この二人の恋に落ちる瞬間が知りたいね。
あいがきの出会いとか。
こんこんともこっちの話も... 
あぁ、カメさゆれいにゃの話も...
よしいしもいいね、花屋の三好と岡田も...
イチャイチャするのあやみきも!
もうー 全部見たい!(おい
今回もありがとうございました。 楽しかったです!w
お疲れ様です!
343 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:17
目が覚めるとベッドの上だった。


見慣れ過ぎた自分の部屋なのに、何かが足りない感じ。
その何かはすごく大事なものだった気がして一生懸命部屋中を見回しても、
不自然に欠けている所はなかった。


もっとちゃんと見ようと身体を起こそうとした。
……痛っ。
肌が裂けたような痛み。


少し和らいでから、布団で隠れる左腕をそっと出した。
全く見覚えのない包帯。
ゆっくり解いてみると、2本の赤い線が平行に並んでた。


いつ?なんで?どういうこと?
左手首から赤がポタリとシーツに垂れたのを最後に意識を飛ばした。


……そして、夢を見た。
とても不思議な夢を。
344 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:19
『とぉ!!…出来たっ』
『ーーーーー』
『いいっしょ、別に。癖なのっ!!』
『ーーーーーー』
『うわぁ、ひどいべさ』
『ーーー』
『ふふっ、どうぞ召し上がれ♪』



また目が覚めるとベッドの上。
夢だったのかと左腕を見ると、緩んだ包帯が流れ出た赤によって腕に張り付いてた。
その赤の状態に時間の経過を感じた。


でも考えることは現実よりも夢こと。
とても不思議な夢。


どこかはわからないけど懐かしい感じがするキッチン、たぶんオムライスを作ってた。
目の前にいるのに声が聞こえない、姿が見えない女の人。
根拠はないけどすぐに女の人だと思った。
345 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:21
記憶を探るにはあまり頼りにならなそうなほど、ボーとする頭。
それでも散らばる糸をゆっくり手繰り寄せた。


確か昨日は……お父さんとケンカして、携帯を折られたはず。
何となくベッドの側の棚を開けると、2つに別れた携帯。


……合ってる。


でもなんでそうなったのかはわからなかった。
腕の傷も、夢で見たあの女の人が誰なのかも……。
ただ絶対に確かだと思ったのは3つ。


まず、この手首の傷は自分で付けたということ。
そして、あの女の人とは恋人として付き合っていたということ。
……たぶん、ぱっと浮かんだあの街へ帰ろうとしていたってこと。
346 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:22
そう思うと同時に身体が動いてた。
慣れた手つきで用意する姿に、
やっぱり間違ってないと確信しながら出てきた今日発のチケットを握る。


部屋を出てすぐお母さんやお父さんに止められたけど、降り出した雪の中を必死に走った。
冷たい風、白い雪。


頭が覚えてなくても身体が覚えてる。
肌に残っている優しい感触。
徐々に色づいてく思い出には、自分一人だけ。


生年月日のワインでお祝いした、二十歳の誕生日。
寒いという理由でずっと部屋の中で過ごした、クリスマス。
何もせずに外を見ていた、土砂降りの日。


どの思い出にも、隣には姿の見えない誰かがいた。
347 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:23
離れてく景色は白。
新幹線の中でまた夢を見た。
同じじゃないけど同じ夢……。


テーブルに作った料理を並べて食べていた。
何度も感想を聞いて笑うけど、テーブルの向こうには誰もいない。
ただスペースが開けられた椅子の前の料理だけが減っていく。


目を覚ますと愛しい想い、そして消え去りたいくらい寂しくなるだけ。
声も姿もわからない貴女に願うこと。
それは………。



名前・安倍なつみ。
生年月日・1981.08.10。
出身地・北海道。
将来の夢・自分の店で多くの人に料理を食べてもらうこと。


………補足・記憶がある部分だけなくなっている。
348 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:24
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
349 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:25
「ほれ、やぐち」
「だからっ!!明日も仕事あるって言ってんだろ!!」
「でもアンタの上司は何も言ってへんゃんか」
「……別に辛くなるのは私じゃないもの」
「うわっ、サイテー。…なっちぃ」
「あー、よしよし」



1番奥の個室にはいつものメンバーが集まってた。
つまりVIP専用の部屋。
なのにマナーもなくて、どこかの居酒屋さんな感じ。


……ここはレストランなんだけどな、一応。


高いビルの中にあって、夜にでもなればちゃんとした服じゃなきゃ入れないようなちゃんとしたレストラン。
理想とは全く掛け離れてるけど、なっちの夢は叶ってると言えた。
350 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:26
北海道の家を飛び出してこの街に来たはいいけど何もわからないから、
とりあえずバイトの面接を受けることにした。


コックさんになりたくて取った調理師免許を頼りに、見つけたお店に入ってく。
でも実際に働いた経験もないからか、返事はNOばかりだった。


そして何軒目かで雇ってくれることになった、お世話でも大きいとは言えないお店。
夫婦で経営していて、可愛い小物が飾ってある雰囲気にすごく胸がドキドキした。
……だってなっちの理想を絵に書いたようなお店だったから。
初めて口にしたそのお店の味もすごく優しくて、何だか涙が止まらなかった。
351 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:28
それからこの街に来た理由もそっちのけで働いていたら、おじさんが倒れてしまった。
かなり進行した病気だって……。


新しく変わったオーナーはテレビとかの取材をいっぱい取り入れた。
従業員もすごく増えた。
改築されて、なっちがドキドキした雰囲気はなくなった。


……で、気付いたら大きなビルの中。
ある日渡された紙の空欄を名前の欄だと勘違いして"なっち"書いたら、
少し変わったけど2号店の名前になっちゃって……。
なんでか"オーナー代理"になっちゃってて……。


仕事は楽しいけれど、お店の名前とは違ってなっちのお店だと感じられていない。
352 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:29
それが少し寂しく感じるけど、ここで皆に会えたんだからいいかな……。
そう締めくくるって、過去の思い出話を頭から追い出した。


チラッと腕時計を見て席を立つ。
なっちにもお仕事があるからね。
だからそのついでに隣のムシを助けてあげることにした。



「もぉ、やぐち困ってるっしょー」
「そうだそうだっ」
「ったく、しゃーないなぁ」
「んじゃ、お疲れ」
「……酔っ払いめ!!」
「まだ酔ぅてませんー」



声を掛けるとすんなり開放する2人。
最初から帰すつもりだったんだよね。
だって遊びみたいなものだから。
……絡まれた方はとんでもないけど。
353 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:31
やっと開放されたやぐちと一緒に個室を出て、扉まで歩いてく。
チラチラと振り返って追われる視線に、笑顔で気付いてないフリをしながら。


……やぐちも結構有名だからね。
可愛いマネージャーとして雑誌に載ったりしてるって意味でも、
前に最上階で働いてたって意味でも。
扉の外に出ていつも通り見送ろうとしていたら、やぐちがじっとなっちを見てた。



「今日ボーっとしてない?」
「そう?疲れてるんだべか。んじゃあ、酔っ払いの相手はキツイべ」
「……今日はそんなに飲まないんじゃない?」
「ん?」



やぐちはどこかが痛そうな顔で笑って、そのまま帰って行った。
354 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:32
不思議に思っていたけど、扉をくぐってからやっと気付いた。



「……あ、今日は火曜だべか」




やぐちの言葉と笑顔の理由に納得して、全てのテーブルに挨拶に行く為に足を踏み出した。
"オーナー代理"としての仕事は、わざわざ来ていただいたお礼を言って回ること。
料理について聞かれれば、丁寧にお話したりする。


メニューのほとんどはなっちが考えたからそれは苦じゃない。
寧ろ楽しいくらい。
でも淡々とした事務的なような仕事に飽き飽きしてるのも、正直な気持ち。
だってここにいる人達の表情はまるで仮面のように見えて、
生きてる感じがしないから。
355 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:33
全てのテーブルを回り終わって個室に行くと、やっぱりいつもよりもお酒のスピードが遅かった。
そして次に目がいったのはテーブルの上の書類。
…お仕事かな?



「お、なっち。ちょっと座り」



なっちに気付いて手招き。
その瞬間に"中澤裕子"と"保田圭"の顔から、いつもの裕ちゃんと圭ちゃん顔になる。
その変化にすごい人達なんだなと思いながら、空いてる席に座った。



「アンタ、店持たん?」
「え?」
「だから1人でやってみないかってこと」



書類を見せながらどんどん話を進める2人。
急な話にびっくりした。
……"声が出ない"の例を体験してる気分。
356 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:35
「一軒家探したんゃけど、なかなかなくてな」
「なっちは結構知られてるから、私は地下でも大丈夫だと思うよ?」
「でも大通りから外れるで?こっちなら……」
「そこはそっち系のお店が多いじゃない」
「そっち系て…、ちゃうわっ!!」
「系統は間違ってないじゃない。なっちはどこがいい?」



なっちのお店?
確かに夢だったけど、このお店もあるし……。


混乱してるなっちを見て、裕ちゃんが目の前に紙を並べてく。
その紙はこの辺の不動産関係のものらしかった。
そう確認すると、ますます頷きにくかった。
に今も料理を作ってる皆にも悪い気がして。
357 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:37
「別に任せられそうな奴ぐらいいるゃろ?」
「……だ、大丈夫だべ!!このお店あるし、なっちは…」
「……料理、作りたいんじゃないの?」
「でもっ」



本当は作りたい。
前みたいに誰かの為に。
なっちの料理を食べながら笑ってる顔が見たい。
でも……。


どう答えようか迷っていると、頭に優しい感触。
少し懐かしい感じがした。
でもすぐにその感触はなくなってしまって、ゆっくり頭を上げた。


「ちょっと考えてみてゃ」
「悪いとか考えちゃダメよ?」
「ちょっとはワガママになりっ」
「誰かさんみたいにね」
「なんや圭坊、今日はえらい噛み付くな」
「そう?」
358 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:38
2人は軽く言い争いながら、個室のドアから出て行った。
もちろん崩したスーツを整えて。


それからは2人が言ったことを気にしないようにしながら、仕事を続けた。
仕事が終わる。
いつもならカギを閉めて帰るけど、その日はお店を閉めても個室に残ってた。


なっちの目の前には数枚の紙。
本当は……夜でも服を気にしなくていい店で働きたい。
黒板にチョークでランチのメニュー書いたり、お子様ランチとか……。


でもそれは色んな人に迷惑をかける。
声は出さずにそんな討論をしていたはずなのに、
いつの間にか夢の中にいた。
見た夢は、やっぱり……。
359 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:40
数年たった今でも、なっち一人の夢。


あまり乗り気じゃない誰かを引っ張って大きな遊園地へ。
なのに次第に立場は逆転してる。
連れて行かれた絶叫マシーンの隣は空席。
震えながら泣いてても近くに誰もいない。
お願いして乗った観覧車でもキスしたのかはわからない。


目を覚ますと、枕にしてた手がすごくビリビリした。
夢の中だけで会える、姿のない貴女。
……でも本当はね、予想はついてるんだ。
きっと間違ってないと思う。


だっていつもなっちの味方だし、貴女の手はすごく優しいから。
でもそう感じるからこそ、余計にわからなくなって言えなくなる。
360 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:41
時計で隠した左の手首。
まだくっきり白く痕が残ってる。
貴女も覚えていないのかな。
それとも忘れたい過去なのかな。



「……帰ろ」



淡くなった空を下敷きにしたせいで跡の付いた紙を鞄に詰めて、家に帰る。
時間がないから眠らずにお風呂へ。
湯舟の中で温まりながら少し笑った。


今はこのままでもいいや。
ううん、ずっとこのままでいい。
貴女が夢に来てくれなくても、貴女の夢になっちがいなくても。
現実の世界で一緒に笑えてるなら、それでいいよね?


胸に2種類の答えを抱いて、
お風呂から出ると背中に羽根が生えたみたいに軽い気分になった。
361 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:42





362 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:44
同じじゃないけど同じ夢……。
何度も何度もくり返し見た、ピースの足りない過去の思い出。
目を覚ますと愛しい想い、そして表せないくらい寂しくなるだけ。声も姿も見えない貴女に願うこと。
それは………、夢の続きを求めないことが貴女にとっても正解であること。


ずっとずっとこのままがいい。
誰も傷付くことがないなら、それが正解だと思うから。
ハート型をしていない恋も、恋と呼べるはず。
ピンクでも赤でもないかもしれないけど、恋と呼べるはず。



しばらくしてやって来た2人にお願いしますと頭を下げた。
これがなっちの出した2つの答え。
363 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:45
正解かどうかはわからない。
だって神さまが赤ペンで○×をつけたりしないから。


でも今は軽くなった心で前へと走るだけ。
もう一度、抱いた夢に向かって。
お店の皆も反対せずに、寧ろ背中を押してくれた。


羽根みたいに軽い気持ちで来れるお店にしたい。
笑顔になれる料理を作りたい。
羽根が白だといいななんて思いながら、スタートラインに立った。
そこは皆の近くで、大通りを外れた地面の下。


あのね、気のせいかもしれないけど……。
ほんの少しだけ手首の傷が薄くなった気がするんだ。
それに夢の中の貴女がだんだん白く形作られてる気もするんだよ。

気のせい、かな?
364 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:46
お店が出来るのを待ちながら、メニューを考える。
……本当に当たってるのか確認はしてないけど、なっち以外で最初に食べてもらうのは貴女。
毒味してって笑って、いつかの夢みたいに感想を聞く。


別にこのくらいならいいっしょ?
貴女ならちゃんとはっきり言ってくれるってのは、間違ってないっしょ?


理由とか意味は聞かないでね。
なっちもあんまりよくわかってないんだべ。
今では抜けかけた昔の訛りを使いながら頭の中で笑った。



「ふふっ」
「……??」
「なんでもなぁい」


「ねぇ、美味しい?」
365 名前:第6話 投稿日:2008/03/02(日) 04:47


ぇんど
366 名前:図書 投稿日:2008/03/02(日) 04:49
遅い更新ですが、今回は安倍さんです。
ちょっと…かなり、訛りが抜け過ぎた感があります↓↓
図書にはこれが精一杯でした。
ですが、読んでいただけたら嬉しいです。
では次回に……。



【340・名無しです様】
読んでくださった上に感想までいただけて、嬉しい限りです!!
少し長くなってしまったのでかなり削ったので、感じ取りやすいと言ってもらえて安心しました。
皆の花言葉も登場予定でしたが削った一部です。
本当にピッタリのものが多いですよね♪♪
367 名前:図書 投稿日:2008/03/02(日) 04:50
【341・ななし様】
ありがとうございます♪
本当は連ドラのように引っ張られたらいいのですが、更新が遅いので↓↓

質問どうもですvv
おおざっぱにまとめると、2人の桜はリンクしています。
また誰かの回で触れたいなと考えていますww



【342・だれだべ様】
素晴らしいなんて、嬉しい言葉をありがとうございます♪
3年限定かどうかは、今後の流れによりですねww
他の皆も徐々に触れていきたいと思っています。
ですが、三好さん岡田さんの2人は無理だと判断いたしました↓↓
申し訳ありません。



以上方々、感想ありがとうございました。
368 名前:む〜さん 投稿日:2008/03/04(火) 05:29
初感想書き込み。
今回はなっちでしたかv
普段あちらの方でお世話になってます。わかりますかね?
周りの方々も色々あるのか…
凄い設定の出来たお話しで感動しています。
更新お疲れ様でした。
369 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:04

世界って、日本って……本当に狭いんだ。

そんなことを改めて確認するような出来事があった日、長い間離れていたあなたは一人で戻って来た。
わざと忘れ物をして……。


きっと謝られる、その予想はハズレなかった。
だけどそれ以外は予想とは全く違うもの。

“ほんと、心配したんですからぁ”

そう笑って肩を叩くはずだった。


でも実際は……。
自分で言った言葉に照れながらドアを閉めたあなたの背中を、ただ茫然と見送るだけ。

そのくらい、あなたの言葉はダメージが大きかった。
そのくらい、あなたは大きな勘違いをしてた。


ドアの曇りガラスには、帰るはずのあなたの背中がしばらく映ったまま。
静かすぎる廊下には、厳しい感じのするあなたの声と誰かの声が小さく響く。
370 名前:& ◆SJfmmXNVD. 投稿日:2008/05/12(月) 00:05
「……ここには来ないでくださいと、言ったはずなんですけど」
「はい。ですが、旦那様に…」



聞こえたのはその会話だけ。
後ろを気にする素振りを見せて、あなたの背中が見えなくなる。

わかったのは……また守られていることだけ。


……違う。
そんなに偉くない、優しくもない。
本当はね…、本当は……。


手も白くなるくらいシーツを握る。

感じるのは罪悪感?
それとも嫌悪感?


いつも通り布団の中に潜り込んだ。
暗い視界の中で耳を塞いで、鈍い胸の痛みに声を殺して。

ドクン、ドクン…

誰かが心臓をギュッと握っているみたい。



『私がカメの側からいなくなれば…って思ったの、ほんとゴメン』



……お願いだから、もう謝らないで。
絵里は、あなたに何もしてあげられない。
371 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:07
暗い場所を一人走る。
後ろを気にしながら走る。
来ないで来ないでと泣きながら、絵里は“絵里”から逃げる。

でもいつも逃げられない。
目の前に立つ“絵里”は、いつも通り笑ってた。



『うへへ、つーかまえたぁ』
『ガキさん、また来てくれるって。よかったねー?』
『ガキさんもさゆもれーなも、みんな優しいっ♪♪』


いつも一人になった時に現れる。
もうやめて欲しくても、どんなに頼んでも、“絵里”は笑ったまま。

……胸の痛みと一緒に。
………大事な人たちを背後に従えて。
…現れる。
372 名前:& ◆vDB2VJcB0c 投稿日:2008/05/12(月) 00:08
胸の奥が痛い。
無表情で立つ、みんなの視線が痛い。
耳を塞いでも聞こえてくる、“絵里”の言葉が痛い。



『絵里は悪くないよ?』
『れーなもさゆも、嘘つきだもん』
『ガキさんだってさ、本当は絵里が嫌いなんだよ』
『お父さんもお母さんもみんな、みんな…』



右手は胸の痛む辺りを押さえて、左手は暗い視線の先へ伸ばす。
でもそこには誰もいない。

いつも涙で濡れたシーツの上で目を覚ます。
そして耳に残る“絵里”の声に気付かないフリをしながら、白い病室のベッドで膝を抱えて待ってるの。


一人は怖いよ。
373 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:09
生きたくても死んじゃった人もいる
そんな言葉が欲しいんじゃない………。

もっと苦しくても頑張ってる人もいる。
そんなことはわかってる………。


絵里は悪い子だよね。
ワガママだよね。

だからもう大丈夫になったはずの今でも、心が発作を起こそうと指示してるんだよね。
だから“絵里”はいなくなってくれないんだよね。



『ここから出ないのは、心配されたいだけでしょ?』
『必要とされてるって実感したいから、ここで待ってるんでしょ?』
『昔からガキさんを閉じこもる理由にしてたくせに』
『絵里は何にも出来ない』
『絵里は何も……』
374 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:10
絵里よりもちゃんと自分を持っているさゆ、前を見て歩いてるれーな
昔から絵里を助けてくれてたガキさん。

どうしてこんなにも違うのかな。
さゆとれーなは年下なのに……。
ガキさんとは半分同じ血が流れているはずなのに……

さゆと違って、愛されてないから?
れーなと違って、強くないから?
ガキさんと違って、必要とされなかったから?



……違う。
絵里が弱虫だから。


道の先には二人の親友。
そしてお互い口にはしないけど、腹違いで二か月しか変わらない姉。

絵里はその背中に向かって手を伸ばす。
置いていかないで、一人は怖いの……。
375 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:11
布団の中は隙間からの光で薄暗い。
でも目を閉じると、そこはあの場所みたいに真っ暗。

出口が見つからないよ、道すらないよ。
暗い暗いあの場所には行き止まりも隠れる場所も、何もない。
でも絵里はそこで“何か”を探すんだ。
そして一生懸命探しながら願うこと、それは、、、。



名前・亀井絵里。
生年月日・1988.12.23。
両親・父親は亀井総合病院医院長。母親とはお見合いの後、結婚。
生い立ち・認知はされていないが、里沙の父親と絵里の母親との間の子。


………補足・子供の頃はひどい喘息持ちだったが、今は精神面から発作が生じている可能性が高い。
376 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:12

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377 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:14
大きいけれど、そこまで大きいわけではない病院の奥。
使わなくなった機械を保管しておく場所の隣が絵里の部屋。

ここから声も駆け回る看護婦さんの足音もしない。
たまに迷った人や体力の有り余ったチビッ子が来るぐらい。

でも今日は大きな足音で目が覚めた。



「ここ?…っておせぇよ!!」
「……っちゃ、よぉ」



二種類の声。
片方はよく聞く声に似てる。
でももう片方は聞いたことのない、低音の強い声だった。

のそのそと布団から頭を出してドアの方を見る。

曇りガラスには滲んだ金色。
膝の上に乗せた枕を抱きしめながら、ドアが開かれるのを待った。
378 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:18
ドアが開かれて現れたのはやっぱり知らない人。
背が高くてカッコイイ女の人で、真っ直ぐな視線に身体が揺れた。
でも後ろに息の荒いれーなが見えて、安心した。



「おはよ、れーな」
「っはょ」
「どーしたのぉ?」



バイトがあるれーなはここに来る日が決まってる。
でも今日は来る日じゃない。

何とか息を戻したれーなは、いつもとは違う感じに見えた。
どこがと聞かれると困るけど違ってた。



「だいじょうぶ?」
「うん。突然やけど、ガキさんの家知っとぉ??」
「え」
「ガキさんがいなくなったとよ」
「…なんで?」
「そんなん、こっちが聞きたいと!!」
379 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:19
早口で焦ったように話しながら近づくれーなからは、消毒液とは違うアルコールとキツイ香水の匂いがする。
それにジャージにしては化粧が濃い。
そこでやっと何がいつもと違うのか気づいた。


飲食店でバイトしているとれーなは言ってる。
ガキさんもそう言ってた。
でも絵里とさゆは気付いてる。
だかられーなと金髪の人は仕事終わりにすぐ来たんだとわかった。

ドアのすぐ側に立つ金髪の人はいかにもって感じなのに。
枕で口元を隠して話を聞く。

………絵里はもうすべてわかってしまったけれど。
380 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:22
「ちょっ、聞いとー?」
「うん、聞いてるよぉ。いつの話?」
「たぶん夜やと思う」
「手紙とかなかったの?」
「あったちゃけど……、なんか変だったと。だから絵里なら…」
「うーん。絵里、わかんない」



絵里の声が響いて、なんだか少し悲しかった。

ガキさんはきっとお父さんに呼ばれちゃったんだ。
仕方がなんだと車に乗り込む姿が目に浮かぶ。

まだ病院の夜が1番怖いと泣いていた絵里に、1人が怖いと言ったガキさん。
今ならわかる。
同じぐらいじゃないかもしれないけど。
あの、声の出し方を忘れるほど孤独感……。
世界に1人でいるような疎外感……。
381 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:25
もしガキさんの家のことを知ったら、れーなは嫌いになる?
もし誰かのモノになってしまうとわかっても、ガキさんの好きな人は変わらず想っていられる?



「絵里たち、ずっと病院で遊んでたから……」
「そんなぁー」


その言葉にれーなは全力で落ち込み始めたけど、金髪の人は腕を組んで真っ直ぐ絵里を見てた。

あの人はわかっているのかもしれない。
絵里が嘘をついていると。
……でも、言えない。



「おい、帰るぞ」
「はぃ。じゃあね、絵里」
「うん、ゴメンね」
「大丈夫とよ」

「もし伝えられたらさ、こっちは納得してないって言っといてよ」
382 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:26
無理です、そう絵里が言う前に金髪の人は部屋を出て行った。
れーなの背中をちょっと乱暴に押しながら。

それから絵里はボーとしていたみたい。
我に返った時にはもう窓は赤くなっていて、ノックもなしに開いたドアにびっくりした。



「わぁっ!!びっくりしたぁー」
「……………」
「…どうしたの?さゆ?」



入ってきたのはさゆだった。
珍しく笑顔のない、落ち込んでいるような怒っているような。
いつもなら例え機嫌が悪くてもベッドの上に乗って愚痴が始まるのに、今日はドアの前から1歩も動かない。
おかしいなと思っていると、さゆが静かに言った。
383 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:27
「さゆみ、許さない」
「ん?」
「れーなの生活をめちゃくちゃにしたくせに、一緒に笑ってた新垣さんを許さない」



綺麗な黒い瞳は変わらないのに、初めて本気でさゆが怖いと思った。



「何言ってるのぉ、もう」
「絵里も知ってたんだ」
「だから何がって…」
「ネットで探せばすぐわかるの。有名だね、新垣さん」
「……っっ」
「明日にでもれーなに全部話そうと思っ」
「やめて」



そんなに大きな声で言ったつもりはないのに、また絵里の声が響いた。
でも今度は悲しいというか、怖かった。


……これ以上、苦しめないで。
……お願い。
384 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:28
絵里の口から出るのはその言葉ばかり。
きっと何を言ってるのかわからないんだろう。
黙って立っているさゆはそんなふうに見えた。

さゆはしばらくして絵里が何も話さなくなると、静かに病室を出て行った。
決心の色を抱えたままで。
最後まで絵里の目から逸らさないで。


その夜、絵里は眠れずにいた。
わざわざお母さんがご飯を持って来てくれたのに、1人にしてほしいと思った。
いつもあんなに1人は怖いと思ってるくせに。

嫌だった。
れーながガキさんを嫌いになるのが。
ガキさんの居場所がなくなるのが。
さゆが笑わなくなるのが。
385 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:32
引出しの中に入れっぱなしになっていた非常階段の鍵。
その日、初めて病院を抜け出した。


絵里はどこに行きたいのかな。
ガキさん家?
さゆのとこ?
それともれーなのところ?

ただ足を前に出している、そんな感じ。
周りを見ながら歩いて時々ペースを早めて。


するとブランコしかない小さな公園が目に留まる。
近くに行けば行くほど感じるその小ささ。
そして揺れるブランコの1つには手を振るさゆがいた。



「……あのね、さゆ。ガキさんのことだけど」
「そんなの最初から言うつもりないの」
「へ?」
「あれだけ大きな記事ならもうバレちゃってそうだけど…」
386 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:33
さゆは何事もなかったみたいに、笑顔でそう言う。
そして隣のブランコに絵里の手を引っ張って誘導する。
勢いのままぬくもりのないそこに座った。

そこからの景色が小さい時にガキさんと一回だけ来たことを思い出させた。


あの頃にはピッタリの広さで、ブランコしかないけどまるで絵里たちの公園のように思ってた。
たまたま見つけた、秘密基地。

なのに今はこんなに小さくて、ブランコも膝が余るくらい低い。


時の流れ、絵里は今まで何してきたんだろう。


するとさゆに頭を撫でられた。
いい子いい子と、いつものさゆの優しい笑顔で。
387 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:34
「ねぇー、さゆ?」
「んー?」
「何でここにいたのぉ??」
「何となく、絵里が来る気がしたの」
「ふーん」



納得したように見せておいて、全く理解してなかった。
だから絵里は適当だって言われちゃうんだよねぇー。
でも次の言葉で、長い間晴れなかった心の霧が晴れた心地がした。



「よく、頑張りましたぁ」
「……まぁねぇ」
388 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:35

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389 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:36
見えてなかった、見えるはずなかった。
怖い怖いと目を手で覆って、皆の背中はずっと先にあるものだと決めつけてた。


出口はずっと側にあったのに。
道はちゃんと出口のある場所に続いていたのに。


そんな場所で一生懸命探しながら願うこと、それは……崩れても強引に立ち上がらせようとする手。


ずっと誰かに求めてたから、一人が怖い。
一人になれば進むことも出来ない、そう思ってた。

本当は誰に手を引っ張られても、自分で足を動かさなきゃ進めないのに。


あの夜に見た月は思い出の月より黄色くて。
風は意外に冷たくて。
夜空は黒よりも濃い紺色をしてて。
390 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:40
相変わらず絵里の部屋は病院の一番奥。
非常階段は長すぎる玄関。

でも絵里のアルバムには多くの人の笑顔が増えた。


心配させまいとついた嘘がバレて焦ってるれーな。
そのれーなを笑うさゆ。

酔っ払ってキス魔化してる吉澤さん。
その酔っ払いに絡まれ中の藤本さん。

よくわからないけどヘソを曲げてる愛ちゃん。
そのすぐ横で弁解してるガキさん。


全部の写真に絵里がいる。

楽しい時間に書かれた皆の落書き。
『PPP』、『お疲れいなぁ』、『うさちゃんピース』

おいしい物を食べてるときの幸せ。
遊び疲れて眠るときの快感。


ね、今度は何して遊ぶ??
391 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:41
第7話、END
392 名前:図書 投稿日:2008/05/12(月) 00:44
今回は亀井絵里ちゃん編です。
ほんとすみませんという感じです……。
放置はせずに行きたいと思っていますのでもしよろしかったら、お付き合いお願いします。


訂正です。
お話の名前が“図書”になっていましたが、“第7話”の間違いです。



【368・む〜さん様】
感想ありがとうございます。
そしていつもお世話になっています。
いろいろとお忙しいようですが、これからも仲良くして下さいvv
393 名前:図書 投稿日:2008/06/05(木) 14:57
今回は夜華物語とは違うお話です。
最近短編愛ガキを書いていないので、ちょっと気分転換させていただきます(><ι

もしよろしかったら、お付き合い下さい。




ーーー『23時59分59秒』ーーー
394 名前:23時59分59秒 投稿日:2008/06/05(木) 14:59
「んーっ」



手を組んで、真上に伸ばす。
珍しく静かな楽屋に私の声が響いた。
あと、降ろした両手がソファーを叩いた音も。


今は収録後の空き時間。
とあるメンバーは写真撮影をしてる。
またとあるメンバーは後回しにしたアンケートに追われてる。
あとは打ち合わせをしてたり、どこかで遊んでる。

基本的に自分の番が来るまで自由な時間、そんな感じ。
でも私はただ楽屋でぼーっとしていた。


今日の衣装は普段着みたいだから、別に出歩けないわけじゃない。
ただ出歩く気分ではなかった……。
何となく、意外にうるさい蛍光灯と一緒に楽屋にいるだけ。
395 名前:23時59分59秒 投稿日:2008/06/05(木) 15:02
つい癖で腕を組むと、服に付いてる金属がチャリッと鳴る。


今日は田中っちが好きそうな衣装。
髪に注意しつつソファーに身を預けて、こんな服も可愛いななんて思ったり。



「……でも、手厳しいかなぁ」



静かな場所ではヒトリゴトが増える。
ふと見た鏡の中の私に、恋人でもあるリーダーのヒトリゴトを思い出した。


それは確かフリフリのお姫様ドレスの時。

 『看護婦さんとかは着たりせんよな……』

その時はいいじゃんと笑ったけれど、実際は苦しいものがある。
一人の待ち時間とか打ち合わせは特に……。
396 名前:23時59分59秒 投稿日:2008/06/05(木) 15:04
ありえないとは言えないことに苦笑い。
寧ろ実現しそうで恐ろしい。
こいつは困った。
また、息が出ていく音が響く。


………………。


何だか今日はおかしい気がする。
早くお家で眠りたい気分。
もちろんやる気がないわけじゃない。
皆より特別頑張ってるとか、疲れていると言うつもりも全くもってない。


何度目かのため息が楽屋に響いた時、肩に小さな衝撃を感じた。



「ん?」
「新垣サン、大丈夫デスカ?」
「大丈夫だよー」



振り返るとどこか心配そうなリンリンの笑顔があった。
失礼しますの声と一緒に、私の隣が少し沈む。
ほんと礼儀正しい、しっかりした子だね。
397 名前:23時59分59秒 投稿日:2008/06/05(木) 15:06
すると今度は反対側のソファーが沈む。
顔を向けるとそこにはジュンジュン…withバナナ。



「新垣サン、バナナ食べまショウ」
「えっ?!」
「元気になりマス」



差し出された半分のバナナを受け取る。
……そんなに疲れてるように見えるのかな。

ただ違和感があるだけで、疲れているわけじゃないんだけど。
ジュンジュンとリンリンの視線を受けて、バナナを口に運んだ。



「あ、おいしー」
「バナナ♪バナナ♪」
「バッチリデースv」



もう次のバナナに手を延ばすジュンジュンと楽しそうなリンリン。
その間で食べるバナナはすごくすごく甘かった。
398 名前:23時59分59秒 投稿日:2008/06/05(木) 15:07
2人のおかげか、バナナのおかげか。
写真撮影の時にはもう違和感はなくなってた。


でも私服に着替えた瞬間、また感じる違和感。
心が重くなった心地。
……風邪でもひいたかなぁ。



いつも通り、皆が帰ってく背中を見送る。
あとは愛ちゃんだけ。
すれ違いになったのか、収録が終わってから顔を見ていない。

待つべきか、帰るべきか。
………帰ろう。
これと言って、急用の話もないし。



鞄を肩に掛けて扉に触れた時、反対から開かれる感触がした。
そこから覗くのは帰ったはずの小春と光井。



「あれ、どうしたの??」



小春と光井は私の質問に意味深な笑顔を返す。
399 名前:23時59分59秒 投稿日:2008/06/05(木) 15:09
「お届けものでぇーす」



小春の甲高い声が響く。
さっきまで静かだったせいか、若干耳鳴りがした。



「…心配してはりましたよ?」



光井はそう耳打ちして、ポフッと"何か"を押し付ける。
そして小春と仲良く帰って行った。


押し付けられた"何か"からは、すごく安心するいつも隣からした香水の匂い。
同じぐらいの身長と目線の高さ。



「ぇ…っと」
「………ん?」
「家、来る?」
「……ぅん」



気まずそうな、それでいて照れが見える感じの言葉に頷いた。
頭が理解する前に、言葉が浮かぶ前に……。
400 名前:23時59分59秒 投稿日:2008/06/05(木) 15:14
いつかの収録中に知った、私に足りないもの。


ーーー"何か"。


それは時には"自信"だったり、"落ち着き"だったり。
でも、最近一番足りなかったのは……。
優しい温もりと、隣で眠る恋人で。
強がりも不安も捨てて眠れる場所で。



だけど自分たちの名前を探す度に、今の状況が限りのあるものに思えてしまう。
すぐに見つかる自分たちの名前。
もう上には誰の名前もない。

だから、つい……素直に手を伸ばせない。
強がりと意地と立場が邪魔をする。
401 名前:23時59分59秒 投稿日:2008/06/05(木) 15:16
この夏、私たちは『シンデレラ』をする。
シンデレラの魔法は12時で解けてしまうんだよね。
12回の鐘の音と一緒に……。
なのにガラスの靴だけがその場に残こる。


先に夢の中へ行っちゃってる恋人の顔を見ながら、思う。
どうか時計が止まっていますように……。
もしそれが23時59分59秒でもいい。
誰にも気付かれない場所なら同じ時間でも問題はないはずだから。


幼い頃憧れてた、シンデレラ。
でも今はシンデレラにはなりたくないな……。
402 名前:23時59分59秒 投稿日:2008/06/05(木) 15:21


魔法よ、まだ解けないで



「…寝れんの?」
「ちょっと起きちゃっただけ」
「ほぉかー」


「愛ちゃん?」
「んー?」
「……だい、すき」
「へっ?」
「おやすみっ///!!!」



「…なぁー」
「もぅ寝るのっ///」
「…あーしの眠気、ふっ飛んだゃよvv」
「ちょっ!!」
「あーしも好きゃよー」
「まっ……」
403 名前:図書 投稿日:2008/06/05(木) 15:21
短編・ぇんど
404 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/05(木) 18:21
ハァ━━━━ *´Д`* ━━━━ン
甘いですねーw
ありがとうございました♪
405 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/06(金) 06:25
ガキさんきゃわいい!
家に誘う愛ちゃんもキャワ!
二人の絆最高です!ありがとうございました!
406 名前:第8話 投稿日:2008/08/03(日) 02:37
.

エレベーターを降りる時。
タクシーに乗り込んだ瞬間。
ベランダに出ている間。
外食中。
買い物中。


一人のはずなのに、一人じゃない気分になることがある。
……キズナものなんかじゃない。

仕事場にありふれたあの音を聞くことがある。
……でも音の源は見つけられない。

どうしようもなく、背後が気になることがある。
……根拠も理由もないのに。



怖いとは思う、でももう慣れた。
そう感じるのは一種の職業病なのかもしれない。

鳥肌は立つし、気味が悪いと苛立ったりもする。
だけど歩みを早めたりはしない。
背後を振り返ったりもしない。
誰かに助けを求めたりもしない。
.
407 名前:第8話 投稿日:2008/08/03(日) 02:38
.

あたしは
ただ、またかと笑ってみせる。

ただ、余裕に振る舞ってみせる。


だって自ら望んだ結果だから、ね。

だったらその人たちに、いつか、あたしの歌を口ずさませてやる。
あたしの歌が誰かの人生のバックミュージックになればいい……。


“普通”を代価に、“歌”を手に入れた。
それがあたしの夢だったから。
だから今歌に乗せて願うこと、それは………。



名前・松浦亜弥。
生年月日・1986.06.25。
血液型・B型
住所・*********。
趣味・ネイルアート。



職業・歌手。
.
408 名前:第8話 投稿日:2008/08/03(日) 02:41
.

歌が好き。
歌はあたしを、皆を、誰かを、救ってくれる。
どんな人だろうと平等に。

でも歌は所詮、作り物なんだと思う。
歌の世界のように『君だけ』なんて恋がそこら辺に転がっているなら、誰も悩んだりしない。

実際、この世界はそれほど純白じゃないでしょ。


だから保田さんの書く歌の世界が好き。

出来るだけ長く側にいたいから離れることを選んで。
大好きだから大嫌いになって、でも大好きで。
目を合わせないようにしながらそっとその背中を追いかける。

理解できる矛盾が心地良い。



―――私はハッピーエンドが嫌いなの、それでもいいなら歌をあげるわ



その言葉通り保田さんの歌は、あたしの歌は悲しい。
.
409 名前:第8話 投稿日:2008/08/03(日) 02:42
.

涙の歌姫。
そんな単語を聞く度、眩暈がする。
……あれ、“あたし”今どこにいるんだろって。

だけどその響きに身震いする。
心地良くて、気持ち良くて、心が痺れ出す。
……あぁ、あたし“人形”になってるって。



「えーと、『涙の歌姫』と呼ばれることについてどう思いますか?」
「えぇっ、あたし!?って感じです」
「またまたー」
「いや、ほんとですって」



お仕事中。
つまり雑誌のインタビュー中。
ほんとありがたいことだ。

その最中にまたあの単語と常に側にいる音を聞いた。
カシャ、カシャ
笑いながら“松浦亜弥”を演じるあたし。


ほんとに、どこにいったんだろう……。
でも心の痺れに酔ってしまう……。
.
410 名前:第8話 投稿日:2008/08/03(日) 02:43
.

「では小さい時はどんな子供でしたか?やっぱり歌が好きだったとか?」
「もう歌ってばっかりいましたよ、ほんと」



生憎、嘘は言ってない。
本当に歌が好きだった。

小さい頃のあたしは単純で、人に褒められるのが好きだった。
その中でも『亜弥ちゃんは歌が上手ね』と、言われることが1番の喜び。
だから夢は“歌手”。

きっと楽しくて、キラキラしてる世界だと信じてた。



「この世界に入ったきっかけは何ですか?」
「オーディションです」
「でもそれは違う事務所ですよね?なぜ今の事務所へ?」
「うーん。保田さんの歌を歌ってみたかったから、ですかねぇー」



言えるはずがない。
……初めて開けた夢の扉の向こうが、これほど想像と違っていたからなんて。
.
411 名前:第8話 投稿日:2008/08/03(日) 02:44
.

あの日、あたしはこれまでないくらい緊張してた。
もし電話が来なければ、残念。
でももし来たら、夢の扉の鍵が手に入る。
その現実にただ浮かれて電話の前を何度も往復するくらい、ドキドキしてた。

そして電話が鳴って扉の鍵を手に入れた時、あたしは言った。
一生懸命がんばります、と。


でも頑張れなかった。
……一体何を頑張ればいいのか、誰も言ってはくれなかった。

厳しいダンスレッスンもない。
ボイストレーニングもない。
はっきり言って、歌とはぜんぜん違う世界にいる気がしてた。



だからたまたま見学することになった番組で生歌を聞いて、泣きそうになった。
悲しい歌じゃないのに……。

歌いたいと、心の底から思った。


それから街で保田さんに会って、一緒に行くことにした。
だって“歌”をくれると言ったから。

だって真っ直ぐあたしを見ていてくれたから。

.
412 名前:第8話 投稿日:2008/08/03(日) 02:50
.

「では最後にファンの人たちにメッセージを」
「そうですねぇ。んーと……これからも歌わせてくださいね」
「はい?」
「歌が歌えるのはファンの方がいてくれるからですから」
「なるほど」



もうあたしはあの時みたいに子供じゃないし、いろんな世界も見えてるつもり。
自分がわかるようになったのは、成長した証でしょ。


何がしたいかなんてあたしが1番知ってる。
あの子に愛してほしい。
あの子を愛していたい。

でも、“人形”になりたいの。
歌っていたいの。



“歌”は全ての人に平等。
だから見つけられないものもあるんだよ。
今歌に乗せて願うこと、それは………“人形”の恋心。

あの子の前でだけ“人間”でいれればいい。
歌いながら伸ばした手の先には愛しい姿。
赤い糸の結晶を衣装の中に隠して、今日も“人形”は悲しい歌に乗せて恋を歌う。

.
413 名前:図書 投稿日:2008/08/03(日) 02:51

第8話・えんど。
414 名前:図書& ◆UFPbBGCO9U 投稿日:2008/08/03(日) 02:52
また、期間が開いてしまいましたが更新です。

今回は松浦さんのお話ですが、リアルと似た設定です。
ですがしっかり松浦さんらしさを出せたかどうか心配なところですιι

ほんとはミキティとの出会いも書くはずでしたが、話の流れでカットとさせていただきました。
そして今回は短めとなってしましました。
文章力不足で申し訳ございませんorz


楽しんで頂ければ嬉しいなと思っております。




些細なことですが、407と408の間に区切りを入れ忘れました。



【404:名無飼育さん】
甘いですかぁ??
それはよかったですvv
こちらこそ読んで頂きまして、ありがとうございます♪



【405:名無飼育さん】
そうですww
ガキさんも愛ちゃんもきゃわなんです(ナニ
似たような話ばかりのような気がして心配でしたが、嬉しいお言葉ありがとうございます♪
もっと精進しますっ!!!!
415 名前:I 投稿日:2008/08/05(火) 00:17
ひさびさの更新うれしかったです。しかもあややのお話なんて。
最初から読み返してしまいました。
416 名前:第9話 投稿日:2008/08/15(金) 04:18
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417 名前:第9話 投稿日:2008/08/15(金) 04:21
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ねぇ、自分の1番近くにいた奴がいきなり消えたらどう思う?

挨拶もなし。
誰に聞いても濁される。
一切情報はなくて、ただ待つしかなくて。


普通、連絡先ぐらいいうもんでしょ。



約束したのに、水泳教えてくれるって。
約束したのに、浴衣着てお祭りに行こうねって。
約束したのに……、大きくなったらお嫁さんにしてくれるって。

最後のは無理だと何となくわかってたけど、他はちゃんと守ってくれると思ってた。


なのに勝手にいなくなるなんて、卑怯。
格好付けてカギなんか庭に投げちゃってさ。
バイバイのつもり?

……ほんと勝手。

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418 名前:第9話 投稿日:2008/08/15(金) 04:22
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確かに泣き虫だったし、年上なのに頼りにならなかったかもしれない。
だから全て話してほしかったとは言わない。
言いたくなかった気持も何となくわかるから、聞けない。

でも“バイバイ”ぐらい、直接聞きたかった。



残されたカギを見ては思い出したのは最後のピース姿。
隣の家が新しい家族を迎えても、寝る前にカーテンを開く習慣はなかなかなくならない。
屋根からやって来る人はもういない。

蝉の声が聞こえる季節になると、やっぱりちょっとだけ期待してた。




……勝手な奴。

今も昔も変わらない、あたしを振り回すのが上手いアイツに願うこと。
それは………。




名前・石川梨華。
生年月日・1985.1.19。
職業・花屋。
好きな花・タンポポ。



補足・タンポポの花言葉は“真心の愛”……そして“別離”。

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419 名前:第9話 投稿日:2008/08/15(金) 04:23
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420 名前:第9話 投稿日:2008/08/15(金) 04:24
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「はぁ、本格的に降って来ちゃった」



エプロンで濡れた手を拭いながら外を見ると、空模様はどんより鉛色。
そして道路は水玉模様からだんだん黒へと変わっていく。

今日あたり咲きそうな蕾があった。
でも天気予報は雨で、朝から猫ちゃん達は顔を洗って横切って行った。
嫌味にニャーなんて可愛い声で鳴きながら。


今日はもうお客さんは来ないだろう。
この街では濡れてまで花を求める人なんていない。

『適当に包んで』
そんな言葉で嫌というほど知った。


だからもしかしたら晴れるかもなんて期待しながら、バイトの2人を早めに帰らせてる自分もいた。

.
421 名前:第9話 投稿日:2008/08/15(金) 04:25
.

ザァーーザァー


まさかこんな街で、“バケツをひっくり返した”状態を見られるなんて。
そろそろ地球もやばいんじゃないかしら。


温暖化?
…その前にこのお店が水浸しになるか、流される方が早そう。



雨に打ちつけられて音を立てる窓には、レジの椅子に座って足を組んでるあたしが映る。
そのつまらなそうな表情は自分で言うのもなんだけど、幸せそうには見えなかった。




「はぁ、…これじゃあ幸薄いって言われるわ」




もうお店はclose。
それに対して文句を言う人はいない。
こんな時に来る人はかなり変な人ぐらい。

締め切った花屋はいい香りがするけど、少し悲しい香りがした。

.
422 名前:第9話 投稿日:2008/08/15(金) 04:26
.

目を閉じれば花が良く見える。
……香りがその花を連れて来るから。

雨が子守歌、香りは現実への道標。



子守唄と道標が薄く感じてきたら、夢の始まり。
そう教えてくれたのは一体誰だったかな………。




ガンガン、ガンッ!!!

気のせいか、な?
何か音がする……。




「オラァ、開けろって!!」




びっくりして立ち上がる。
ぶつけた膝がすごく痛かった。

痛みで覚めた目を正面のガラス戸に向ければ、ぼやけた金色が見えた。
……あぁ、変人が来た。
ううん、本物のバカが来た。
一体こんな雨のなか、何をしてるんだろう。

ため息と一緒に開放したガラス戸からは、予想通りずぶ濡れの吉澤ひとみと予想外の量の雨水が飛び込んで来た。

.
423 名前:第9話 投稿日:2008/08/15(金) 04:26
.

「冷てぇー」
「……何やってんのよ」
「ん?」
「だ・か・ら、何してくれっちゃったのよ!!」



さっきまでは無かった床の水溜りを指差す。
入れなければよかったと後悔しても、もう遅い。

こんだけ濡れてちゃ、雨宿りなんて今更なのに。


大型犬みたいに濡れた髪をブンブン振り回してたヤツは、あたしの指の延長を見て『わりぃ』と言った。
……反省の色はない。



「はぁ、掃除大変そうぉ」
「大丈夫だって。うちも手伝ってやっから」
「よっちゃんのせいじゃない!!!」
「とりあえず風呂だ」
「はぁー」



勝手な人。
でもそれに世話を焼くあたしは救われないお人よしだと思う。

.
424 名前:第9話 投稿日:2008/08/15(金) 04:27
.

お店は毎日掃除するからまだしも、2階まで汚されたら困る。
そこにはあたしが住んでるんだから。

タオルで道を作って何とかお風呂場まで誘導した。



「あぁ、疲れた」
「んん。ご苦労」
「怒るよ?」
「なんだよ、ジョークじゃんジョーク」
「…じゃあ、服は適当に用意しておくからね」
「ピンクは着ねぇぞ」
「すっごい可愛いのにしちゃおっかなぁ。ほら、さっさと入るっ」
「うわっ、これさっき床に敷いたやつじゃん?!」



手に持ったタオルを被せて、服のままお風呂場に押し込む。
扉を閉めて寝室に行くと何か叫んでいるのが聞こえた。

失礼ね。
毎日じゃなくても掃除はしてるわ。

.
425 名前:第9話 投稿日:2008/08/15(金) 04:28
.

どんな服を着せてやろう。
全身ピンクを置いといたら、一体どんな顔で出てくるかな?



そんな悪巧みを考えながらも手に取ったのは大部分が黒で袖にピンクのラインが入ったジャージ。
胸元にウサギがいるのはご愛嬌ってことで。


きっと文句を言う。
きっと嫌な顔をする。
……でもたぶん『まぁ、いいや』って笑うんでしょ?



昔からそうだった。
勝手だけどすごく優しい人だから。
器用なのに不器用で、慰めるなんて出来ない人。
なのに何時間でも無言のまま隣にいてくれた人。



「石川ぁ、服ー」
「えっもう上がったの?」
「おーぅ」



ドアを少しだけ開けて、その隙間から中に投げる。

.
426 名前:第9話 投稿日:2008/08/15(金) 04:28
.

もちろんそれはさっき取り出した黒とピンクwithウサギのジャージ。



「おっ、黒じゃん」
「ほんと感謝してよね」
「……何このキショイの」
「可愛いでしょ?」



ドア越しの会話は少しじれったい。
あたしはドアの側に腰を下ろして、やや曇ったいつもの低音と洗濯機の音を聞く。

“まぁ、いいや”

クリアに聞こえた声に顔を向けると、首にタオルをかけたアイツ。
……その胸元にはウサギが笑う。



「やっぱ可愛い」
「だろ?」
「よっちゃんじゃなくて、ウサギよ」
「あぁそうですかっ」
「えぇそうですよ」



外は雨。
勝手なアイツはまだ帰らない。

.
427 名前:第9話 投稿日:2008/08/15(金) 04:31
.

「飯は?」
「早く帰ってよ」
「まだ雨降ってんじゃんか」
「まったくもぉ」



ほんと勝手なんだから。
……でも変わっていなくてホッとしたりもする。

昔から『もう…』があたしの台詞で、『まぁ、いいや』がアイツの。



「何もないから時間かかるよ?」
「ちゃっちゃと作れよ」
「もう…、じゃあオムライスね」
「……まぁ、いいや」



今も昔も変わらない、あたしを振り回すのが上手いアイツに願うこと。
それは………不変と溝のないこの距離感。
2つの台詞がずっと変わらなければいい。

……でも逆転ぐらいはいいかな、なんて。
ほんとはね。
大きめの黒無地のジャージもあったんだよ?


叶わないのが定石かもしれないけど……。
奪われた初恋へのちっぱけな復讐だよ。
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428 名前:第9話 投稿日:2008/08/15(金) 04:31
ぇんど
429 名前:図書 投稿日:2008/08/15(金) 04:33
今回は石川さんのお話です。
読んで下されば嬉しいなと思います。



【415・I様】
読んで頂き、ありがとうございます。
少量の更新でほんと申し訳なかったですorz

一応、松浦さんのテーマは“歌に生きる”でした。
どうしても『“人形”になりたい』と言わせたくて考えたお話です。

感想ありがとうございました。
430 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/16(土) 16:33
この2人うまくいけばいいなあ
ってもうすでにうまくいってるのかもしれないけど
431 名前:第10話 投稿日:2008/09/18(木) 01:36
.
歌って何?
もし誰かに聞かれたら、以前の私ならこう答えただろう。
『メロディーのあるラブレターだよ』と。


でも今の私ならこう答える。
『主人公の変わる絵本だよ』と。

メロディーは物語、詩は挿し絵。
物語は自伝ではなくフィクションでなくてはならない。
挿し絵はもっと物語を理解するためにそこにある。



モノは形があるから壊れるのだろうか。
なら形のないものは壊れないのだろうか。

そうじゃない。
神様は理不尽なことがきらいなのだと、今の私は思っている。
.
432 名前:第10話 投稿日:2008/09/18(木) 01:38
.
歌は絵本。
主人公は私ではいけない。

求めてはいけない。
………それは私がすでに壊してしまったものだから。



あの頃の私は今思う、してはいけないことに気付けなかった。
過ちは取り戻せると思っていた。
形がなくて不安定なものがずっといつまでもそのままの形で保てると信じていた。



遅すぎるラブレター。
それはそれで笑い話になると…………。

神様は意外に残酷ね。
.
433 名前:第10話 投稿日:2008/09/18(木) 01:39

私はまだ今の奇跡を手放したくない。


思い出を引き出しに入れて、鍵をかけて閉じ込めた。
誰かがあの引き出しを開けたら“何もない”と言うかもしれないけど、確かにあの中で眠っている。
なかなか眠れない夜は、開けることはせず引き出しに触れればいい。



記憶にだけ残る、向き合わず逃げてから初めて送ったラブレター。
それは、、、。



名前・保田圭。
生年月日・1980.12.6。
職業・芸能事務所経営と作詞。
目標・多くの物語を残すこと。


補足・職に就く前に“love letter”という詩を書いたようだが、未発表かつ公言もなし。
.
434 名前:第10話 投稿日:2008/09/18(木) 01:39
.

****************************************

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435 名前:第10話 投稿日:2008/09/18(木) 01:40

「ねぇ、松浦」
「はぁい?」
「…あんた、あの話断ったんだって?」
「あぁ〜、はい」



実は海外の有名なアーティストの方からコラボレーションの話が来た。
うちは大きな事務所じゃないから、最終決定は本人の意思に従うことになっている。

松浦は正直だ。
歌に対しても自分の気持ちに対しても。
だからあの話は受けるものだと、そう思っていた。

別にコラボしたからすぐに海外へ行くという話ではないのだから………。


何となくわかるのよ。
もっと歌いたい、もっとたくさんの人に聞いてもらいたいと思っていることは。



「はいってアンタ…」
「え、いけませんでした?」
「…はぁ、アンタの好きにしなさい」
.
436 名前:第10話 投稿日:2008/09/18(木) 01:41
.
なぜ断ったの?
そう聞かない理由もわかってる。

『歌いたくなくなるまで歌わせてあげる』
私のその言葉に囚われて甘えている。

そして新しい世界に触れて、愛しい人と輝く目標のどちらを選べばいいのか悩むのが怖い



私も怖かった。
……だから私は逃げたのよ。


女同士の恋愛には障害が多くて、あの子の家族には冷たい目線で見られた。
強制的に離されたこともある。
そんな時私はちゃんと伝えられずに、会う度冷たい風が吹いてあの子の笑顔が日に日に消えていくのが苦しかった。

だから誰にも言わず、全てを残してあの子の前から逃げた。
自分勝手に別れだけを告げて。
.
437 名前:第10話 投稿日:2008/09/18(木) 01:42

夢を選んだはずなのに、想うのはあの子のことばかりだった。
………だからしてはいけないことをした。

思い出を文字にしてメロディーに乗せ、あの子のところへ送る。
形のないものを形にした。
逃げたくせに両方得ようとした。



夢が現実になる直前、あの子は自分で自分を傷つけ姿を消した。



どう解釈したのか、何が起きたのかはわからない。
でも再び会った時、あの子は私を覚えてはいなかった。

だけど“毒見”と称しては私に初めてのメニューを勧める。
………あの頃のように。
.
438 名前:第10話 投稿日:2008/09/18(木) 01:43
.
「まーつーうーら、帰るぞぉ」
「やぐっつぁん、今までどこに居たんですか?」
「どこって、打ち合わせだバカ」
「にゃはは」



時計を見るともう2時を回っていた。
今回はレコーディングが長引いたから、予定よりも3時間も遅いわね。


「そうだ、松浦」
「はい?」
「返事の期限はあと4日、せいぜい思いっきり悩みなさい」
.
439 名前:第10話 投稿日:2008/09/18(木) 01:43
.
松浦は何とも言えぬ顔で矢口を追った。

逃げるのが似合わない子だから、悩むのを恐れているのだろう。
大丈夫なんて言えない。
でもきっと私のようにはならないとだけは断言できる。


松浦は強いから。
自分に自信があるから。
ちゃんと何が大事かわかっているから。

私が思うに、悩んで悩んで………
結局両方選ぶんじゃないかと思う。



スーツのボタンを2つはずして、レコーディング室の電気を消す。
そして取り出すのは携帯電話。
.
440 名前:第10話 投稿日:2008/09/18(木) 01:44
.
「あ、もしもし」

「そうなのよ。松浦のOKがなかなか出なくてね」

「え?裕ちゃんもいるの?」

「んじゃぁ行くわ」

「何、また毒見させるつもり?」

「そうだ………
 ――今日のなっち特製料理は何?――



記憶にだけ残る、向き合わず逃げてから初めて送ったラブレター。
それは……深夜の小料理屋の招待券。

なんだかんだ言っても、神様は意外に優しいのね。
.
441 名前:第10話 投稿日:2008/09/18(木) 01:45
えんど
442 名前:図書 投稿日:2008/09/18(木) 01:47
今回は保田さんのお話です。
ですが皆ぽくないような……orz
一応前のお話とリンクしているのですが、日が経っていますのでιι
それにちゃんとした流れになっているのかも心配なところでもありますorz

次回ですが、一応最終話となる予定です。
内容的にはもう個人のお話ではなくなりますので連絡です。



【430・名無し飼育様】
感想ありがとうございます!!!
この二人はあんな感じで書かせていただきました。
脳内では、石→吉ですが吉→石なのかは不明ということで書きました。
でもヘボ作者としてはうまくいってると言いたいですねww
443 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/24(水) 20:14
裕ちゃんと圭ちゃんのどっちかなぁ?って気になってました
続きも楽しみに待ってます
444 名前:名無しです 投稿日:2008/10/11(土) 19:02
読みました(書きました
445 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/12(日) 09:36
そういう展開できましたか〜。

最終話はどうなるか…
楽しみにしてます
446 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:14
ある場所に、輝かしい街がありました。
そこは太陽が沈むと所々虹色に咲き誇り、太陽が現れると共に眠りへと旅立つ。
まるで昼夜反対に咲く"花"ような街でした。

その街で根を付き、蕾を咲かせた“華”たちの数年後のお話です。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
噴水前・喫茶店

「ふぁーぁ」



ガラスのドアをくぐると、少し怠そうな店員がレジのところに座っている。
寝不足なのか壮大な欠伸をしているその人は、白い肌と金髪がよく目立つ。
その胸元には『吉澤』とあった。

見回してみると懐かしいような喫茶店だ。
以前はここに小さな花屋があったような気がしなくはない。


奧からはコーヒーのいい香り。
………そして危険な気配。



「あっとっと…」
「熱っ!もぉ熱いですや〜ん」
「ごめん、唯ちゃん!!」
「えーですけどぉ」
「以外に難しいな…」
447 名前:& ◆LDTmxtkJAA 投稿日:2008/10/20(月) 16:15
1杯のコーヒーを入れるのに2人も必要なのだろうか……。
かなり慣れていないような手つきでお湯を注ぐ女性に、カップを押さえている女性。
2人とも何故か露出が多く、スタイルがいいことはある程度わかる。
が、喫茶店に露出はいらないのではないだろうか。

名札から『三好』と『岡田』という名前だとわかる。
話し方から片方の女性は関西出身だろう。



「ちょっと、よっちゃーん?」
「んー?」
「ちょっと手伝ってー、おっきいの」
「……あいつら限度っつーのを知らねぇのかよ」



するとさらに奧からもう1人、大きなモノを支えながら出て来た。
少し変わった声だ。
その声に反応したのは先程の金髪の店員。

どうやらこの喫茶店は開店間近らしく、どこからか贈られて来た花を移動させるようだ。


とても綺麗でちゃんと学んだことのある人が繕ったことは予想出来るが、……デカすぎる。
きっと花瓶に入れ替えるとしたら、いくつかに分割する必要があるだろう。

そんな花の差出人は『Renoir一同』とあった。
448 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:16
「邪魔だから少し切っちまうか」
「ダメだよそれはぁー」
「じゃあ半分にでも分けるか」
「……いいの?それ」
「さぁーな」

ガッシャーン
「熱っ、あっつぅー」
「石川さぁん、箒とかありますぅ?」
「え?ちょっとアンタ達何やっ…キャーーっ、これ高かったのにぃ!!!」

「うーん、今日もいい天気だなぁ」



窓から見上げた空には一筋の飛行機雲。
あの飛行機はこれからどこに行くのだろう。
故郷への帰省か、それともどこか遠い国か。

例えどこであっても空は繋がっているらしい。
時は違えど、言葉は違えど、この星であの飛行機雲を見るのは何人いるのだろう。
もしかすると、たった今飛び立った小鳥も見ていたかもしれない。


そう思うと何だかこの星が小さく感じた。

449 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:18
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
表通り・芸能事務所

程よい高さのビルだ。
少し離れているとは言ってもこんな街に芸能事務所あるなんて珍しい。
だってこの街は“夜の街”なのだから……。

ロビーやらに貼られているポスターはかなり見知った顔ばかり。
とくに枚数が多いのはアイドル『久住小春』。

キラキラした笑顔は皆に力と夢を与える。
ただ……、側にいる人に疲労を与えるのも得意なようだ。



「やったぁー、終わったーー」
「いや、これからラジオが……っていないっ」
「……走って行ったわよ」
「うそぉ!!ちょっと小春ちゃん?!」
「頑張れ矢口」



体中から♪を出しながら走り去ったのは確実に久住小春だ。
そんな彼女を急いで追い掛けた人はマネージャーだろうか。
少し…、いやかなり小さいようである。
450 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:24
窓から外を見下ろすと、表情まではわからないがアイドルでもある問題児を捕まえてタクシーに押し込む先程の小さなマネージャーの姿が確認出来た。
やはりこのビルはそれほど高くはないようだ。
増築しないのは、もしかするとこの高さから見る街が好きだからだったりするのだろうか。

女社長はというと机の上の携帯を手に取り、どこかに電話を掛けていた。
とても慣れた手つきで。



「…もしもし?あたし」
『・・・・・・』
「そうね、久しぶりに顔出すわ」
『・・・・・!!!』
「はいはい、また毒見ね」
451 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:27
その表情は仕事の電話ではないことを表している。
親しい友人か、はたまた………。
その相手は長年連れ添って来たように見える、若干古いタイプに携帯に聞けばわかるのかもしれない。

しかしきっと携帯としゃべれたとしても教えてはくれないだろう。
持ち物も所有者に似る。
その携帯もまた、女社長に似て口が高そうだ。


そして今自分を通って行く声が嫌いではないはずだ。
だって持ち物も所有者に似るのだから。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
中心部・Renoir

大きなビルの最上階。
絨毯は赤く、扉は金色だ。
さすが中心部と言うべきだろうか。
扉を開けると、花と若干のアルコールの香りがそよぐ。

すでに時計の短針が3を指しているだけあって、まだ寝ている姿はないようだ。
……だが、そのうち寝てしまうのではないかという者もいる。



「ふぁぁぁあ…」
「絵里、今起きたと?」
「今じゃないよぉ、さっきだもん」
「絵里が最後やけん、早くお風呂入った方がよかよ」
「んーーー」
452 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:27
奥のソファーに寝ぼけ眼の女性が1人、どうやら“絵里”というらしい。
そしてカウンターの方から出て来た紫のジャージの女性は風呂上がりの様子で、九州地方の訛りが目立つ。



カラーン


この音色はあの金色の扉に付いていた鐘の音だろうか。
扉の方に目を向けると、外にあった豪華な看板を中に引きずっている女性がいた。

あまり力がないのか、こちらがフロアの心配をしたくなるような音を出しながら何とか看板を移動した女性はグレーとピンクのラフな服を着ている。
よく見ると、フードに動物らしき耳が付いている
453 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:28
「ハァ…きつー」
「「お疲れ」」
「やっぱりチョキ出せばよかったの」
「うへへ、残念だったねぇー」
「「あ、絵里。熱は?」
「へ?!…大丈、夫」
「計ってないっちゃね」「嘘なの」
「だってぇ、めんどくさいんだもん」
「ダメ」
「ハイ…」



身体でも悪いのか、眠そうな彼女は体温計と血圧計をソファー下の引き出しから取り出した。

ここは本当にあのRenoirなのか………。
確かに皆魅力的だが、これでは人数が少ないような気がする。
454 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:29
「ダダイマデース」
「ジュンジュン、リンリンお疲れ」
「……今日バナナ何本目と?」
「マダ4本目デース」
「アノー、オーナーと連絡取れマセンですケド…」
「えぇー、愛ちゃん?」
「「あー」」



またまた扉から入って来た。
今度は2人で、カタコトな話し方から海外の人だろう。
1人は執事のような格好で携帯電話を手に困った顔をしている。
もう1人は可愛い服装なのだが、歩きながらバナナを頬張っている。
………もしやその手にぶら下がっているビニール袋の黄色はバナナの皮だろうか。
455 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:29
とりあえず気になるビニール袋の中身はおいとおくとして、困り顔の小さな人は“オーナーと連絡が取れない”と言っていた。
確かRenoirの現オーナーは少し前までここで働いていた女性が就任したはず。
看板を中に入れたことから今日は休みだろうに、大変なものだ。



「今日はお店休みやけん、無理とよ」
「何かアリましたカ?」
「んー、“愛人”しに行ったの」
「いいなぁー。絵里も行きたかったぁ」
「…人参デスか?」
「ジュンジュンはバナナのが好きデス」

「「とにかく、邪魔しちゃダメ」」
「しょぉーゆーこと」
「OK、バッチリデース」「モグモグ…バナナおいしっ」
456 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:30
愛人をしに行ったとはどういう意味なのか。
Renoirは女が女を接待する店なのだから、どこかに旦那に隠れて同性の愛する人と会う誰かがいるのか……。

事実なのかどうかはわからないが、ここにいる5人はなんだか嬉しそうだ。
3人が嬉しそうにしている理由はなんとなくわかるとしても、あとの2人はわからないが何だかうれしいのだろう。
幸せというのは人から人へ伝染するらしい。


もし理由もわからず幸せな気分になったら、誰かの幸せな気分が伝わって来たからかもしれない。
457 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:31
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ビル地下・レストラン“feather”

「うん、うん。じゃあねー」
「……なんやなっち、裕ちゃんには毒見させてくれんのか」
「んー?!だって裕ちゃんおいしいしか言わないっしょ?」
「そうかぁ?!」
「それかお酒に合うとか、ふふふ」
「別にえぇやんかー、ほめてるんやで」



可愛い感じの小さなレストランだ。
『なっち』と呼ばれた小柄な女性もまたその雰囲気によく合う。
ランチのピークを過ぎているのにも関わらずかかわらず、パラパラと客の姿が見えるのは味にも好評があるからだろう。

調理場が見える位置にあり、隅々にまで店の味が出ている。
カウンターもあってそこにはスーツ姿の女性が座っていた。
他にカウンターに座っている人はいなく、隣の席にはケースからはみ出た名刺が散乱している。
458 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:32
1枚見てみると、『HELLO-PROJECTグループ 中澤裕子』とあった。
何枚もあることからこの女性が“中澤裕子”なのだろう。
そう言えば確かこの人がRenoirの前オーナーをしていた気がする。



「そうだ、仕事どんな感じ?」
「挨拶だけで疲れるって貴重な体験をさせてもらったわ…」
「あらぁーー」
「なっち、おやじくさいな」
「むっ、失礼だべ」
「ハハハ。久しぶりやな、その訛り」
「いいっしょ別に……」



小さな店長は少しむくれたようだ。
しかしこの訛りはどこのだろう……。
東北かそれともどこか別の県か、どちらにしてもあまりオーソドックスな方言ではないだろう。
459 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:33
「そう言えば……noirって黒っていう意味らしいで」
「なにさ、急に」
「いや…だからいろいろある子らが集まるんかなって」
「??」

「んーゃなんでもない、うまかったわぁ」
「よかったぁ」
「そや、毒見が終わったら食べさせてなぁ」
「もちろん!!」
「ごちそうさん、お金ここ置いとくな」
「ありがとうございましたぁ」




今日のランチは和食らしい。
耳をすませばいろいろな声が聞こえてくる。
いい店だ……。
心からの笑い声というのはこんなに心地が良いものだったのか。


この様子を見ながら食器を洗う『なっち』と呼ばれた女性はとても幸せそうに笑ってた。
460 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:34
「愛ちゃん?それじ隣街・東十条家

豪華な家々が立ち並ぶ住宅地にある、きれいな一軒家。
周囲に比べると大豪邸という感じはしないが、ここらで1番のお金持ちではないかと思う。
ただ見栄を張らず、必要な大きさ。
それがまた優雅な風格を表しているように見えた。

そんな家の花に囲まれた玄関に1人の女性。



ピンポーン

「はい、どちら様でしょうか」
「あーし」
ゃわかんないからぁ」
「嘘付けー、わかるやろ」
「もぉ、入ってて」
「ん」
461 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:35
その女性はポケットから鍵を出して中に入る。
なぜ鍵があるのにインターフォンを?
お土産らしきものを手に持っていることから、ここの家の人間ではないことは確実だろう。

やはり豪華な家の中にはいると、扉のすぐ近くに小さな少年がいた。
幼稚園ぐらいだろうか。
青いパジャマを着て入ってきた女性を見るなり、いきなり抱きつくという荒技を仕掛けた。

「うおぉお、びっくりしたぁ」
「へへへ」
「なんやぁー」

「コラァーー、早く準備しなさい」
「えーまだいいよぉ」
「もぉ今日はお友達の家にお泊りするんでしょ?!」
「だって愛ちゃん来るの知らなかったし…」
「いいから早くしなさい」
「はぁーい」
「ほら、先に靴履いて」
「うん」
462 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:36
スリッパの音を響かせながら1人の女性が上から降りてくる。
若いが母親だろう。
その足もとにはもう1人の少年がピッタリとくっついていて、その顔は母親に言われて渋々部屋に戻っていった少年と瓜二つだ。

よく似た双子だ、しかし靴を履きに玄関へ歩いて行く甘えん坊の少年には左に泣きボクロがある。
たぶんパジャマの少年が兄、泣きボクロのある少年が弟といったところか。


母親はどうやら兄の着替えを手伝っているようで、玄関には弟と『愛ちゃん』と呼ばれる女性の2人きり。
しかし先程とは違い、なぜか重い空気が2人を包む。



「…今日は晴れてよかったなぁ」
「…………。」
「…どっか行くんか?」
「………………。」
463 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:36
女性がいくつか会話を試みるが、弟は終始無言だ。
人見知りなのだろうか……。



「ハハハハ、ハァ」
「…きらい」
「へ?!」
「おまえがくるとママがボクのママじゃなくなるから、おまえきらいっ」



その言葉を残したまま、弟は外に走って行った。
理由はよくわからないがあまり好かれてはいないようだ。

その時ちょうど準備が出来たのか兄と母親が部屋から出てくる。
そしてその後ろから母親よりも若い女性も。
きっと住み込みのお手伝いさんというところだろう。
464 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:37
「あれ、あの子は?」
「外行った…」
「せっかちなんだからぁ」
「ねぇねぇ!!今度いつ来る?」
「ほら早く行きなさい」
「ぶぅー、はぁーい」
「行儀よくねー?!」

「お願いね、光井」
「任せてください、ふふっ」
「なに?」
「帰る前にお電話しますから」
「なっ」
「では行ってまいります。高橋さんもまた今度」
「おう」



会話から察するにこの2人の女性はあまり大きな声では言えない関係なのかも知れない。
言葉無く手を引いて中に入れる光景は正直少々こちらが恥ずかしい気分だ。
甘えん坊の弟に好かれない理由がなんとなくわかった。
465 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:38
「……………。」
「どうかしたの?愛ちゃん」
「まず指輪取ってや」
「あぁ、はいはい」



微笑みながら左手の薬指につけている指輪を取って、2匹のクマのぬいぐるみが座っているテーブルの上に置いた。
そのクマのぬいぐるみの首にはミサンガが結われている。

黄色のミサンガには『ai』と編まれ、黄緑色のミサンガには『risa』とあった。



「どうしたの?まだ何か変じゃん」
「…弟くんに嫌いって言われたんよ」
「なんで急に?」
「あーしが来るとボクのママじゃなくなるんやってさ」
「そ、そんなこと言ってたのっ」
「…父親似やな」

「でも……お兄ちゃんは私に似たみたいだよ」
「へ?」
「大きくなったら愛ちゃんをお嫁さんにするんだってさ」
466 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:39
例え大声で言えないとしても、こういう恋の形もあるんだろう。
愛が恋の最大ではない。
恋のままずっと輝き続けるのもまた素晴らしいものだななんて、ソファーの上で唇を寄せる恋人たちを見てそう思った。



「んっんん…あいちゃ」
「んふ、いけないママやね」
「…ばかぁ」
「好きやで」
「ぁっ…」



壁に家族写真からは夫婦間のギクシャクは伝わって来ない。
理想的な家族。

きっと子供へは子供への、夫には夫への、恋する人には恋する人への愛があるんだろう。
467 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:39
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街外・自由の国

ここは自由の国の、とある街の白い家。
そこには4人がルームシェアしていた。



「ちょっと亜弥ちゃん、早くしなよっ」
「もぉーたんってば、急かさないでよね」
「はぁ?!」
「あたしは急ぐのが嫌なの」
「…じゃあ、仕事やめちゃえばぁ!!」

「2人とも朝から元気だね」 
「…というか、愛ちゃんとガキさんはとんでもない人たちを送ってきたもんだ」



ケンカでもしているのか、2人は食卓を挟んで口論している。
そしてその間で何事もなく朝食を食べているのが2人。
468 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:40
よくその顔を見てみると、口論をしているのは新たな挑戦へと日本を発った『松浦亜弥』ではないか。
するとその口論の相手はワイドショーで話題となったRenoir出身の新マネージャーか。

そして朝食を食べている2人のうち片方はダンサーの『makoto』だ。
もうお1人はわからないが部屋に飾られている写真を見るに、きっとmakotoの恋人というところだろう。
2人は青とピンクのミサンガをお揃いでつけている。

それにしても………『makoto』『asami』と編まれたそのミサンガはどこかで見たような気がする。



「さぁ歌ってきますかぁ!!」
「ったく亜弥ちゃんは…」
「ほら、たん行くよ」
「はいはい。まことー」

「ふぁい、今行くー」
「今日一緒なの?」
「うん。行って来るね、あさみちゃん」
「行ってらっしゃい」
469 名前:最終話 投稿日:2008/10/20(月) 16:41
makotoが出てったドアのすぐ横には大きなコルクボード。
そこにはたくさんの笑顔があった。


この写真はどこかの花屋で撮ったようで、そこにはあの変わった声の人やコーヒーに悪戦苦闘していた2人がいる。
やっぱりあの喫茶店は少し前まで花屋でこの3人は店員だったのか。

こっちの写真はケーキ屋で撮ったようで、makotoとその恋人と双子の母親と東十条家を訪れていた女性が写っている。
あぁ、どこかで見たと思ったらあの家のクマのぬいぐるみの首に結われていたな。

次の写真は背景からしてRenoirで間違いないだろう。
そこにはさっきの写真にも写っていた2人もいる、喫茶店にいた金髪の人もいる、ついさっきまで松浦亜弥と口論していた女性もいる。
現在もRenoirにいるのはあの九州訛りのあの人しかいないのだな。


他にも写真はあるが、全て1度見た顔。
これまで見て来た彼女たちは今もこんな幸せそうな顔で笑っているだろうか……。
470 名前:図書 投稿日:2008/10/20(月) 16:42
夜華物語・えんど


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