tempest
1 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2006/11/05(日) 21:59
性懲りもなく戻ってきました。
もちろん、藤本さんと松浦さんのお話です。
2 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:00

3 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:00
一番の親友だって、みんなが知ってる。
行き過ぎって言われるくらい、仲良しの自覚もある。

抱き合ったり、ふざけ合って頬にキスなんて当たり前だったし、何かの拍子で、唇にしたことだってある。
もちろん触れるだけのもので、親愛を込めたものだってお互いわかってたから、直後は吹き出した。

メールは毎日。
電話だってしょっちゅう。

ふたりで買い物に出かけたり、家に遊びに行くのも前と変わらない。

泊まりにも行く。
一緒にお風呂にも入る。

寝るときだって、ひとつのベッドにふたり並んで寝る。

変わらない。
何も変わってない、ように思うけれど。

でも、いつからか、亜弥ちゃんから美貴のほうに寄ってこなくなった。
そばにいるのに、触ってこなくなった。
4 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:01
思い違いかな、って思ったりもした。
考えすぎかなって。

嫌われてはいない。
それはわかる。

だって、美貴に対する態度は変わらない。
言葉遣いは少し乱暴になったけど、でも、突き放すような冷たさなんて全然ない。

美貴から亜弥ちゃんに触っても、亜弥ちゃんは前と変わらず笑ってくれる。
嫌がって逃げられたりとか、そういうことは全然ない。

でも。
亜弥ちゃんからは、美貴に触ってこなくなった。

なんで、って思ってもそれは聞けない。
だってそれを聞いたら。

聞いてしまったら、何かが、崩れる気がするんだ。
5 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:01
「あー、もう、またちゃんと乾かさないまま出てきて!」

濡れた髪をタオルで拭いながらバスルームから出てきた美貴に、
キッチンで何か作ってる様子だった亜弥ちゃんが呆れたような声で言って手を止めた。

「いつも言ってるでしょ、ちゃんと乾かせって」
「めんどくさいもん」
「めんどくさい言うな、風邪引くよ」

明日の仕事は珍しく亜弥ちゃんと一緒。
そんな嬉しいことは滅多にないから、そういうときはたいてい美貴が前の夜から亜弥ちゃんの家に押しかける。

仕事が終わった帰りにそのまま寄ると、今日はオフだと言ってた亜弥ちゃんは、
眉ひとつ描いてないスッピンの顔と、アイドルとは思えないくらいラフな格好で美貴を出迎えてくれた。

ああ、本当に一日家にいて休んでたんだな、って思ったら、今日ぐらいは来ないほうが良かったかも、なんて思ったりもしたけど、
合鍵持ってる美貴のことを玄関まで出迎えてくれたときの顔が、自惚れかも知れないけどすごく嬉しそうに見えて、
ひょっとしたら待っててくれたのかなって思ったら、やっぱり来てよかったって思った。
6 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:01
「何作ってたの?」

美貴を座らせ、美貴の背後でドライヤーを使って美貴の髪を乾かす亜弥ちゃん。

「あ? なに?」

ドライヤーの音がうるさくて聞こえなかったのか、一旦スイッチを切って美貴の顔を覗き込んできた。

「キッチンで何作ってたの?」
「ん? …あ、お酒だよ。スタイリストさんに教わったの。家でも簡単に作れるカクテル」

答えて、すぐにまたスイッチを入れて美貴の髪を乾かすことに集中する。

亜弥ちゃんの言葉を聞いて、目線だけキッチンのほうへ向けると、
鮮やかなピンク色の液体が入った細いグラスがふたつ並んでた。
7 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:01
「…そっか、亜弥ちゃん、もうハタチだもんね」

今までだってお酒の味を知らなかったことはないだろうけれど、それでも家で飲もうとは思わなかっただろう。
まして、自分で作ろうだなんて。

誰かが、亜弥ちゃんにそれを教えたのだ。
美貴の、知らない、誰かが。

そう思うと、なんだか面白くなかった。

「んー? なんか言った?」
「べえっつにー」
8 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:02
亜弥ちゃんにされるがままで約10分。

いつのまにかかなり伸びた美貴の髪を丁寧に乾かした亜弥ちゃんは、満足そうににこにこ笑って手櫛で梳いていく。

「たんの髪、柔らかくて気持ちイイなー」
「どーせ薄いですよーだ」
「んなこと言ってないっつーの」

笑いながら好きなことを言い合うのはいつものことで。

美貴の髪をひとつにまとめようとする亜弥ちゃんの手が美貴の頬に触れて、その指が優しくて。
ずっとずっと、触っていてくれたらいいのにな、なんて、妙なことを考えてしまった。

「…さて。あれ飲んだら、もう寝るか」

まるで美貴が考えたことを読み取ったみたいに。
9 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:02
美貴から離れた亜弥ちゃんがキッチンに置いたままだったグラスを持って来た。

「…もう寝るの?」
「夜更かしはよくないからね」

仕事においては完璧主義の亜弥ちゃん。
美貴だって手を抜いてるワケじゃないけど、でも、亜弥ちゃんほどの真摯さはないって自覚はある。

「飲んでみ」

差し出されたグラスを受け取って、美貴を見ている亜弥ちゃんを上目遣いに見上げながら口をつける。

「…あ、おいしい…」
「でしょ」

満足そうに笑った亜弥ちゃんも自分のグラスに口をつけ、
喉を鳴らしながらすぐに飲み干して、グラスをテーブルに置いて立ち上がる。

美貴のグラスの中身はまだ半分以上残ってるのに、待っててくれないのがなんだか少しだけ淋しくなって。
10 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:02
「…待って、美貴、まだ全部飲んでない」
「あ、いいよ、ゆっくり飲みな」
「やだ、待って」

立ち上がった亜弥ちゃんのパジャマの裾を掴んで引き止めて。

「…なに、どした?」

亜弥ちゃんを見上げた美貴はどんな顔をしてたんだろう。

急に心配そうな顔をした亜弥ちゃんが美貴の前に座り込んで顔を覗き込んできた。

「置いてったらやだ」
「はあ?」

自分でも恥ずかしいことを言ったと思ったけど、思ったらもう言葉になるのが美貴だから。

「…ばーか」
11 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:02
咄嗟に俯いた美貴の旋毛あたりに届いた呆れ混じりの声。
それと一緒に亜弥ちゃんの指が伸びてきて、美貴の顎を掴んで上を向かせた。

「…じゃ、早く飲め」

きっと眉尻とか下がりまくって、頬とか恥ずかしくて赤くなって情けない顔してるはずなのに、
亜弥ちゃんは笑ったりふざけたりしないで、むしろ真剣な顔でそんなふうに言った。

言われるままにグラスを空けてすぐ、亜弥ちゃんは美貴の腕を引っ張って立ち上がらせた。

「…あした、結構早いじゃん? でも、お酒飲んだからさ、きっとぐっすり眠れるよ」

寝室のドアを開けて、先にベッドの中へもぐりこんだ亜弥ちゃんが美貴を手招く。
12 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:03
「おいで?」

口元を和らげて美貴を見る亜弥ちゃんの纏う雰囲気にカラダ中が痺れたみたいになる。

抱きしめて欲しい、なんて、考えてる自分がらしくなくて、すごくイヤだ。

イヤなのに、願望は躊躇を上回る。

促されるまま亜弥ちゃんの胸に抱かれるようにベッドにもぐりこむと、
シーツを被せてきた亜弥ちゃんが美貴の肩を抱くように腕枕をしてくれた。

首筋に鼻をすり寄せて、亜弥ちゃんの匂いを思い切り吸い込む。

「ふはっ、なに、マーキング?」

くすぐったいのか、少し身を捩らせながら亜弥ちゃんが笑う。

「そう」
「なーに言ってんだか」

笑う亜弥ちゃんの振動が直に美貴のカラダに伝わる。
13 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:03
ねえ、亜弥ちゃん。
ホントは、ホントはね?

「…しょーがないなあ」

言葉とは裏腹に優しい声音で亜弥ちゃんが美貴を抱きしめてきた。

「ほら、たんもそっちの手、貸しな」

言うなり美貴の左腕を引っ張って亜弥ちゃんの腰にまわさせる。

抱きしめあうみたいに、ぴったりとカラダを寄せ合って。

「亜弥、ちゃん?」
「ここまでくっつくとさすがに寝苦しいかも知れないけど、そのほうがいいでしょ?」
「え?」

言われた意味がわからずに顔を上げると、亜弥ちゃんはちょっと困ったような顔で美貴を見ていた。
14 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:03
「…なんか淋しくなっちゃったんでしょ」

ただ感じていただけのことをまっすぐ、美貴の中に落とすように言った亜弥ちゃんの言葉に泣きそうになった。

「たんは、バカだね」
「…なんでよ」

思わず涙が出そうになって、悔しくて強がってそんなふうに言ったけど、きっと亜弥ちゃんにはバレてる。

「……あたしはさ、たんが悲しむのは、見たくないんだよね」

美貴の肩を抱いてるほうの手で美貴の髪を撫でながら、亜弥ちゃんは言った。

「淋しいなら淋しいって言えばいいんだよ。なんで隠す? なんで強がる?」

だって。
だってそれを言ったら。

「…亜弥ちゃん、困るかと思って」
「困らないよ、そんなことで」
15 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:03
美貴の頭を撫でながら言う亜弥ちゃんの声は本当に優しくて。
もしかして、なんて期待してしまう。

「だって、たんはあたしにとって大事な…」

どきっ、と胸が鳴った。
いらぬ期待で心音が早まる。

でも、きっと次に出てくる答えは決まってる。

「親友なんだし」

わかりきってたはずの答えなのに、途端に美貴の中に訪れる落胆。
でもきっと亜弥ちゃんは、それには気付かない。
16 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:03
「……じゃ、もっとぎゅーってして」
「ははっ、なに、早速?」
「いいじゃん。ぎゅってして。亜弥ちゃん、いい匂いするんだもん」
「はいはい」

美貴に言われたとおりに、美貴の肩を抱く亜弥ちゃんの腕のチカラが強くなる。
それにつられてますます密着するふたりのカラダ。

美貴の鼻の先を掠めていく、嗅ぎ慣れた亜弥ちゃんの匂い。

「おやすみ」

亜弥ちゃんの声が耳のすぐうしろで聞こえた。
それに応えるように、美貴は亜弥ちゃんにしがみ付いた。
17 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:04
ねえ、亜弥ちゃん。
ホントは、ホントはさ。

今まで、ずっと黙ってたけどね。

ホントは、亜弥ちゃんのこと、誰にも渡したくないの。
もっともっと、美貴のこと見て欲しいの。
美貴のことだけ、見ていて欲しいの。

こんなふうに、美貴以外の誰かを、抱きしめたりしないで。
美貴のことだけ、抱きしめてて。

決して言えない言葉を飲み込んで、
美貴はまた亜弥ちゃんの首筋に顔を埋めて、泣きたくなる気持ちを堪えて、目を閉じた。
18 名前:tempest 投稿日:2006/11/05(日) 22:04


19 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2006/11/05(日) 22:05

今回はここまでです。
長い話ではありませんが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
ではまた。
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 01:07
おかえりなさい
ミキティ切ないですなー
次回更新、どきどきしながら待ってます
21 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 15:33
赤鼻の家政婦さんキタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!
おかえりなさいませ
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/07(火) 00:20
赤鼻さんキタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!
ありがとうございます!
続きお待ちしております
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/07(火) 17:30
おお、藤本さんの想いはどこにいくのでしょう。
続きを楽しみにしております!
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/08(水) 01:32
赤鼻の家政婦さまお帰りなさい
待ってました
作者さんのあやみきめっちゃ好きです
更新頑張ってください
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/08(水) 04:32
おかえりなさいませ。
お待ちしておりました!!!!
あやみきなんですね。
大好きデス!!!!
26 名前:tempest 投稿日:2006/11/11(土) 01:07


27 名前:tempest 投稿日:2006/11/11(土) 01:08
珍しく亜弥ちゃんと一緒の仕事、といっても、正確にはモーニング娘。とDEF.DIVAとしてだから、
楽屋だって違うし、まして収録になれば座る椅子だって決められてて、話すことさえ簡単じゃなくて。

収録中も、何度か目が合うことはあっても、
亜弥ちゃんはほとんど前のモニターを見てて、美貴のほうに振り向いてくれることはなかった。

これが公私混同ってやつなのはわかってたけど、
それでももうちょっとぐらい美貴のほうを気にかけてくれてもいいのに、なんて思ったりもしてて、
こんなこと思ってるって亜弥ちゃんに知られたら、
怒られるか呆れられるかのどっちかなんだろうな、なんてことも考えてまた落ち込む。

美貴が悲しむのは見たくないって亜弥ちゃんは言ってくれたけど、
だけど、美貴が亜弥ちゃんのことをどう思ってるかを知っても、それでも、あんなに優しい手で撫でてくれる?

昔みたいに、美貴にもっと触ってほしい。
美貴も、もっともっと、亜弥ちゃんに触りたい。

そんなふうに思ってるって知っても、美貴のこと、嫌わないでいてくれる?
28 名前:tempest 投稿日:2006/11/11(土) 01:08
収録が終わって、亜弥ちゃんたちは次の仕事があるからって、挨拶もそこそこに早々に引き上げていった。

楽屋へ続く廊下を歩くメンバーの、いちばんうしろをひとりで歩きながら溜め息を吐き出す。

一緒のスタジオに入って、同じ空間にいたはずなのにほとんど喋れないままだったことが本当に淋しくて、
本人が聞けば、そんなことぐらいで、って鼻で笑われそうなことで落ち込んでる自分が本当に情けなくなる。

次の仕事への移動の支度をするメンバーを横目に、
メイク落としをする気力すら起きずに簡易椅子に美貴が座った直後、ちょっと控えめなノックがして、扉が開いた。

「たーん? いるー?」

そこに現れたのは予想外の亜弥ちゃんで、呼ばれた美貴が椅子から飛び上がるように立ち上がると、
それを視界の端に認めたであろう亜弥ちゃんが、小さく笑いながら手招きをした。
29 名前:tempest 投稿日:2006/11/11(土) 01:08
「な、なんで? なんでまだいるの?」

ろくに挨拶も出来ないまま今日はもう会えないと思ってただけに、こんな不意打ちは驚きでしかなくて。

駆け寄りながらそんなふうに言ってしまった美貴に、亜弥ちゃんはちょっとムッとなったように唇を尖らせた。

「なに、その言い方ぁ。こっちはアンタが心配だったから戻ってきたっつーのに」

けど、亜弥ちゃんが言った言葉に美貴の心臓の音が跳ねる。

「…心配って? なにが?」
「ん? んー、…いや、思ってたより元気そうだから、いいや」
「へ?」

亜弥ちゃんの言おうとしてることがうまく掴めず眉をしかめてしまった美貴の眉間を、
亜弥ちゃんは笑いながら人差し指で突付いた。

「…さっき、モニターで見てたら、アンタ、なんかちょっと淋しそうな顔して見えたからさ」

見てた、という言葉が、ますます美貴の心音を跳ね上げる。
30 名前:tempest 投稿日:2006/11/11(土) 01:08
見てたの?
美貴を?

公私混同するな、って、美貴には口が酸っぱくなるぐらい言う亜弥ちゃんが?

きゅ、って心臓を掴まれたみたいな感じになって、顔が熱くなる。

嬉しさと驚きとが入り混じって言葉が繋がらない美貴の反応に、
亜弥ちゃんも自分の言った言葉が模範的じゃないことを悟ったみたいで。

「…つか、あたしの顔見て元気になったってことかー。たんは安上がりだなー」

なんて、本気なんだか照れ隠しの裏返しなのか、
それともそのどっちもなのかわかんない口調で言って、少し乱暴に美貴の頭を撫でた。
31 名前:tempest 投稿日:2006/11/11(土) 01:09
いつもだったら、そんな亜弥ちゃんに対して美貴も何かしら言い返して、
お互いに軽く無駄口叩いて、適当に会話を終わらせてた。

でも、そのときの美貴には、
美貴の髪を無作為に撫でた亜弥ちゃんの手が少しも乱暴じゃなくてむしろ優しすぎたことや、
どこか高飛車な態度のわりに声は労わるような響きを持っていたことが気持ちを騒がせて、
いつもみたいな態度で返せなかった。

溢れ出すように込み上げてくる感情はひとつ。

それに逆らえないまま、美貴は腕を伸ばして亜弥ちゃんに抱きついた。
32 名前:tempest 投稿日:2006/11/11(土) 01:09
「…たん?」

いきなり抱きついたにもかかわらず、
その勢いをしっかり受け止めて美貴の背中に腕をまわしてきた亜弥ちゃんの戸惑い気味の声。

好き。
好きなの。

もうどうしたらいいのかわかんないくらい、亜弥ちゃんが好きなの。

「どした?」

戸惑いを孕んだ声にハッとして、感情には無意識にブレーキがかかる。

言ってしまえたらどんなにラクかと思うけれど、それだけは言ってはいけないと、ぐっと飲み込んだ。

「…マーキングしてんの」

言いながら抱きつく腕のチカラを、気持ちが伝わらない程度に強める。
33 名前:tempest 投稿日:2006/11/11(土) 01:09
「は?」
「人が好い亜弥ちゃんに変なムシがつかないように」

亜弥ちゃんの耳元に囁くように言って、その耳に鼻先を押し付けた。

「オマエってやつはぁ」

くすぐったそうに言って美貴の頭を軽く小突いて。

「…まー、ちょっと気になったからね」

ぽんぽん、て、赤ちゃんをあやすみたいに美貴の背中を撫でるように軽く叩いて、亜弥ちゃんが言った。

「そんだけ。…そろそろ行くわ」

だから離れて、とは、亜弥ちゃんは決して言わない。
美貴が亜弥ちゃんに対してこんなふうに甘えてるときは、特に。

その優しさが、ときどき、すごく残酷だと思うけれど。
34 名前:tempest 投稿日:2006/11/11(土) 01:09
なかなか離れない美貴に小さく笑って、美貴の頬を軽く引っ張る。
いきなりで思わず上体を起こしたと同時に、ひょい、とカラダを前のめりにして、亜弥ちゃんが楽屋の奥を覗き込んだ。

「よっすぃー、たんのこと、頼むねー」
「へーい。頼まれたー」

軽い口調で片手を挙げたよっちゃんの声を聞いてから、名残惜しさを顕著にしながら亜弥ちゃんから離れる。

「…夜、電話してもいい? ちょっと遅くなるかも知んないけど」
「いちいち断らなくていいよ。いつでもかけてこい」

ちょっとだけ冷たい手で美貴の頬を撫でて、亜弥ちゃんは走って行った。
35 名前:tempest 投稿日:2006/11/11(土) 01:09
見えなくなるまで見送って、楽屋のドアを閉じたら、よっちゃんがニヤニヤ笑ってた。

「ほんっと、松浦相手だとミキティは甘えたになるねー」
「…うっさい」

よっちゃんが言ったことは、メンバー全員が思ってることだ。
よっちゃん以外のメンバーはあからさまにそれを指摘したりはしないけど、それでもそんなのは空気でわかる。

「…ま、珍しいミキティが見れるから、あたしは面白くていいけどね。それより、早く支度しなよ。ウチらもそろそろ出ないと」

ここで変に動揺したり反論したりするのはあまり歓迎できる状況を呼ばない。
リーダーらしくまとめようとするよっちゃんの言葉に従って、美貴は少し慌てた演技で荷物を片付けた。
36 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2006/11/11(土) 01:10

今回はここまでです。

>>20-25
レスありがとうございます。
ひとまとめにしてしまってごめんなさい。
今回は見切り発車ではないので、次回更新も、あまりお待たせすることはないと思います。
がんばります。

ではまた
37 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/11(土) 15:25
また、作者さんのあやみき読めて嬉しいです。
続き期待してます。
38 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/11(土) 18:43
どきどきします。
つづきお待ちしております。
39 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/11/12(日) 00:01
うっほい!また赤鼻さんのが読めるなんて・・・ww 
男前あややにホレボレしましたw
40 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/13(月) 02:47
乙女ティが可愛すぎてヤバイ
あやちゃん…なんでどうしてそんなもう好きw
41 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:04


42 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:05
それを見たのは偶然だった。

たぶん、当人たちにとってはなんでもない、他愛もないただのスキンシップで。
むしろ、普段の美貴たちのほうが遥かにそれを越えてるようなことをしているハズで。

でも、それでも。
当人たち以外は入り込めない空気が、あった。
43 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:06
指示待ちなのか、簡易椅子にふたり並んで座っている。
亜弥ちゃんの肩に甘えるように頭を乗せて喋っているのはごっちんだった。

ごっちんの表情はよくわからなかったけれど、亜弥ちゃんは穏やかに笑っていた。
誰が見てもそうだとわかる、満たされている笑顔だった。

そしてそれは、美貴にはあまり見せなくなった顔だった。

美貴じゃない誰かにも、そんなことをさせているのだと知って切なくなった。
美貴じゃない誰かにも、そんな顔を見せているのだと知ってカラダ中の血が逆流した。

亜弥ちゃんに触るなと言いたかった。
亜弥ちゃんに触らせないでと言いたかった。

だけど声をかけることは出来なかった。
ただ見ていることしか、出来なかった。
44 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:06
「あれ? ミキティじゃん。どうしたの、こんなとこで」

聞き慣れたけれど時折癪に障る甲高い声の主に意識が向いたのは、
呼ばれた当人の美貴だけではなく、亜弥ちゃんもごっちんも同様だった。

ごっちんが亜弥ちゃんの肩から頭を起こして美貴を見た。
その表情に、申し訳なさや取り繕ったようなうしろめたさは感じない。

ごっちんの向こうにいる亜弥ちゃんもそれは同じで、ふたりは、
この場にいることが意外な人物である美貴を見て怪訝そうな顔になった。

「あ、もしかして、まっつーに会いに来た?」

声の主である梨華ちゃんが亜弥ちゃんを呼ぼうとしたのがわかったけれど、
美貴は咄嗟に梨華ちゃんの腕を掴んでそれを制した。

「…なんでもない、ちょっと通りがかっただけ」

亜弥ちゃんの訝しがる顔付きが美貴を臆病にさせる。

いつもみたいに亜弥ちゃんのもとへ駆け寄ることを拒絶された気分になって、思わず一歩後退さった。
45 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:06
「…行くわ」
「え、いいの?」
「なんか、お邪魔っぽいから」

言ってから、しまったと思った。
梨華ちゃんが亜弥ちゃんに美貴の今の言葉を伝えないわけがない。

「ちょ…、嘘、今のなし。今の、亜弥ちゃんに言わないで…っ」

視界の端で、怪訝そうな顔付きのまま立ち上がる亜弥ちゃんが見えた。

梨華ちゃんの返事は聞かないまま、まるで亜弥ちゃんから逃げるみたいに美貴は駆け出す。

「え? ちょっ、たんっ?」

美貴を呼ぶ亜弥ちゃんの声が聞こえたけれど、振り返れなかった。
46 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:06

どこをどう走ったのかわからないまま、すぐ脇に見えた階段を駆け下りた。

非常階段らしく、階段を下りている間、響くのは美貴の足音だけで、人の話し声や騒音は少しも聞こえない。

人の気配を感じない薄暗い空間で、美貴は足を止めた。

階段の段差に腰を下ろし、そのまま頭を抱えると、
乱れていた呼吸が次第に整ってきて、さっきの亜弥ちゃんの笑顔が自然と思い浮かんでくる。

同時に、ぐるぐると、灰色のどろりとした吐き出したくても出来ない気持ち悪さが喉の奥に引っ掛かった。

「…ゃ、ちゃ…」

ずっとずっと、こんな日が来るのが怖かった。

亜弥ちゃんが、美貴じゃない誰かを選ぶ日が来るのが怖かった。
それが美貴の知っている人だったら、絶対に素直に祝福なんて出来ないから。
47 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:07
好き。
好きなの。

もう、どうしていいかわかんないくらい、亜弥ちゃんのことしか見えないの。

美貴じゃダメ?
ダメなのかな。

ねえ、美貴を選んでよ。
他の誰かじゃなくて、美貴を選んで。

「……亜弥ちゃぁん…」

こんなに。
こんなに、亜弥ちゃんが好きなのに。

「……そんな声で呼ぶくらいなら、なんでさっき逃げたんだ、バカ」
48 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:07
不意に頭上で声がして驚いて振り向くと、少し息を乱しながらも呆れ顔の亜弥ちゃんがそこにいて。

「…なん、で…」
「アンタのあんな顔見て、ほっとけるかっつーの!」

言うなり美貴の隣にまで駆け下りてきた亜弥ちゃんが美貴の両手を掴まえる。

「最近のたん、おかしいよ。何があった?」

美貴の顔を覗き込む亜弥ちゃんの目は、本気で美貴のことを心配している目だった。

「なんで隠す? なんで強がる? あたしにも言えないようなことなの?」

優しい、優しい亜弥ちゃん。
その優しさは澄んでいて、それだけで泣きそうになる。
49 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:07
「……ごっちん、は?」
「は? なんで今ごっちんの話なんかすんの」
「…なんて言ってきたの? ごっちんに、なんて言って美貴のこと追いかけてきたの?」
「なんなの? なんでごっちん?」

苛立ちが口調から窺える。

それでもそれ以上何も言おうとしない美貴に、亜弥ちゃんは何かを理解したように眉根を寄せた。

「…ごっちんが関係してんの?」

返事をしないことを肯定と受け取ったのか、美貴の手を掴んだ亜弥ちゃんがそのまま勢いよく立ち上がった。

「…あんにゃろ…、たんに何したんだ…っ」

今にも駆け出して行きそうな雰囲気の亜弥ちゃんの、
美貴を気遣うその優しさがホンモノだとわかるから、余計に胸が痛くなる。

亜弥ちゃんを突き動かすその感情は、美貴が今抱えているそれとは比べものにならない、まったく別の感情だから。

「…違う、亜弥ちゃん。違う」
「え? なに?」
「ごっちんは、関係ない。…違うの、そうじゃないの」
50 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:07
ねえ。
その優しさ、他の誰にも向けないで。

もっともっと、美貴のことだけ見て。

美貴を、選んで。
51 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:08
美貴の両手を掴んでいた亜弥ちゃんの手を振り解いて、そのままの勢いで亜弥ちゃんの服の襟元を掴んだ。

無意識で、自分から亜弥ちゃんに寄ったのか、掴んだ襟ごと引き寄せたのかは思い出せない。

だけど、強引に顔を近づけて唇を押し付け、触れたとわかった瞬間、突き飛ばされたのは、わかった。

その衝撃で背中が手摺りにぶつかって、美貴はそのまま、項垂れた。

「ご、ごめんっ」

自分のしたことを瞬時に悟った亜弥ちゃんが美貴に近付いてきて、俯く美貴の手を再度掴まえる。

「…急にあんなことするからビックリしたじゃん、ごめん、どっかぶつけた?」

美貴の手を掴む亜弥ちゃんの手の体温。
そのぬくもりを美貴だけのものにしたくて掴み返すと、びくりと、亜弥ちゃんのカラダが震えた。

「…き……」
「え?」
「亜弥ちゃんが、好きなの」
52 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:08
こんなふうに、言うはずじゃなかった。

たとえば気持ちが抑えきれなくなって、伝えたい想いが強くなって告白したくなったときがきても、
こんなふうに困らせるとわかってて、言うつもりはなかった。

「…ば、バカ…、今更そんなの、言わなくても知って…」

そんなふうに軽く言って目を逸らした亜弥ちゃんも、見上げる美貴の顔から、掴む手の強さから、全部を悟ったようで。

視線を外しかけた亜弥ちゃんが、誤魔化そうとして崩した口元を真一文字に引き結んだ。

ゆっくり美貴に戻ってきた亜弥ちゃんの目がまっすぐ美貴を捕らえる。

「……本気で、言ってるの?」
「美貴はいつだって本気だよ」

感情の箍が外れたのは、自分でもわかった。

少し顎を引いて美貴を見つめる亜弥ちゃんに顔を近づけて頬に唇を押し付け、そのまま抱きつく。

「亜弥ちゃんのことが好きで好きで、もうどうしたらいいのかわかんないくらいなんだよ」
53 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:08
一息で言って、大きく息を吸い込んで。
溢れ出す感情に任せて亜弥ちゃんにしがみ付く。

「…最近の美貴はおかしいって言うけど、それなら亜弥ちゃんだって変わった。
前みたいに、美貴に触らなくなった。それはなんで?」

ずっとずっと言いたくて聞きたくて、だけど言ってしまえば何かが崩れることもわかっていた。

見つめる瞳の優しさや熱さとか、抱きしめてくれたときの腕の強さとか、一緒のベッドで眠ったときのぬくもりとか、
『トモダチ』でいるから分かち合えたすべてを、失うかも知れないってことも承知していたけど。

それでももう、気持ちは溢れ出してしまった。

「前みたいに、もっと美貴のそばにいて。もっと美貴に触って。他の誰も見ないで、美貴のことだけ見てて」

そんなふうに想う相手はもう、『トモダチ』じゃない。
もう『トモダチ』には戻れない。

「……亜弥ちゃんが、好きなの」
54 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:09
カラダを強張らせて美貴を抱きとめていた亜弥ちゃんから、ゆっくり、緊張が解けていくのが伝わってきた。

抱きつく美貴の耳に届くほど大きく息を吐き出して、いつものように優しく美貴の背中を撫でる。

「……そっか…」

ぽつりと、呟くように漏れ聞こえてきた声はやはり呆れた声色で。
でも、さっきまで孕んでいた張り詰めたような空気はなくて。

ぽんぽん、と、いつものように美貴の背中をあやすように叩いて、髪に指を差し込んできた。

「…そういえば、なんで今日、ここにいるの? 今日はフットサルの練習日でしょ?」

いきなり話題を変えられて思わずカラダを起こした美貴を、亜弥ちゃんは普段どおりの顔で眺めていた。
55 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:09
「…練習は…、もう行ってきた。…昨日、ここに忘れ物して、それ取りに寄ったの」
「ああ、なるほど。…で、忘れ物は見つかった?」

こくりと頷き返した美貴に亜弥ちゃんは笑って。

「そか、よかったね」

そう言って、いつものように美貴の頭を撫でた。

普段と変わらない笑顔を向けられて、なんだかこのまま誤魔化されそうな気がして、
咄嗟に前のめりになった美貴を制するように、不意に亜弥ちゃんが美貴の肩を掴む。

「亜弥ちゃん、美貴は…」
「…うん。わかってる。でもちょっと、落ち着こ?」
「落ち着いてるよ」

まるで相手にされてない雰囲気が癪に障った。
56 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:09
「ぜんぜん落ち着いてるし、さっきのことだって本気だよ。美貴は亜弥ちゃんが」
「言うな」

ぴしゃり、と強く言い放たれた声の強さに思わず顎を引いた。

美貴を見つめる亜弥ちゃんの目は、緩く弧を描いている口元とは対照的に鋭く光って見えた。

「…いい? よく聞いて」

それは、言い終わるまで口を挟むな、という意味だ。

「たんがあたしを好きなのはわかった。でも、それはたぶん、恋愛感情じゃないよ。
最近、あたしも忙しくてなかなか構ってあげられなかったし、頼れるところとかなくて淋しくて、
そういうときにあたしが他の誰かと一緒にいるのを見て不安になって、放り出された気分になったんだよ。
家に帰って冷静になったら、きっとそうだったって思うはず。…だから」

「…なかったことに、するの?」
57 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:09
亜弥ちゃんの言葉を遮った美貴に、亜弥ちゃんは少し困ったように眉尻を下げた。

「美貴のこの気持ちごと、亜弥ちゃんはなかったことにする気なの?」

美貴から目を逸らし、ゆっくり視線を落とされて痛感する。

亜弥ちゃんは、美貴が想うようには、美貴のことが、好きじゃないんだって。

「なんで? なんでそんなヒドイこと言うの? 本気だって言ってるじゃん。
この気持ちが恋愛感情かそうじゃないかなんて、そんなの美貴が一番わかってるよ」
「…たん、あたしは…」
「会えなくて淋しいって思ったり、構ってもらえなくてつまらないとか思ったり、
声が聞きたいってだけで電話するのは、亜弥ちゃんだけだよ」
「…たん」
「他の誰にもそんなふうに思ったりしない。亜弥ちゃんだけだよ。それでも違うの? これは勘違いだっていうの?」
「たん、あたしの話を…」
「そんな遠まわしな言い方しないで、美貴の気持ちが迷惑なら、はっきりそう言えばいいじゃんか!」
「たんっ!」

声と一緒に、右の頬に平手が飛んできた。
58 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:10
「…いいかげんにしな」

怒っているようにも困っているようにも見える顔付きで、いつもよりも低い声で亜弥ちゃんは言った。

感情的になった美貴を落ち着かせようとして殴っただけで、悪意も嫌悪も感じない。
それは言われなくても痛いくらいわかった。

だけど、張り詰めていた細い糸のような感情の揺れはその振動で容易く決壊し、美貴からチカラを奪うのに充分だった。

手摺りに重心を預けながら膝から崩れ落ちていく美貴に亜弥ちゃんがそっと手を伸ばしてきた。

自分でも気付かないうちに零れていた涙を伸ばされた亜弥ちゃんの手が拭い取っていく。

「……ねえ、たん。聞いて」

親指の腹の部分で拭ってそのまま髪の中に手を差し込んでくる仕草は今までと何も変わらない。

変わらないことが、悲しい。
59 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:10
「あたしだってたんのこと好きだよ。いちばん大切に思ってるよ」

知ってる。
今更言われなくても、知りすぎてる。

「それじゃダメなの? まだ足りないの?」

足りない。
足りるわけがない。

だって何よりも気持ちが違う。

美貴には亜弥ちゃんしか考えられないけれど、亜弥ちゃんはいつか、美貴じゃない誰かを選ぶから。
60 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:10
「…亜弥ちゃんが好きなの」
「あたしだって好きだよ」
「触って欲しいの」
「いつでも触ってあげるよ」

言いながら亜弥ちゃんが美貴の頬を撫でる。

「……キスが、したいの」

その途端、美貴の頬を撫でていた手のチカラに緊張が走った。

「キスしたい。キスして欲しい。抱きしめたい。抱きしめられたい。美貴は亜弥ちゃんが…っ!」

最後まで言い切れなかったのは、美貴の頬を撫でていた亜弥ちゃんの手が違う緊張を孕んだからで、
それに気付いて亜弥ちゃんを見たときには、もう目の前まで亜弥ちゃんの顔が近付いてきていて、
何をされるのか把握する前に、美貴の唇が亜弥ちゃんのそれで塞がれていた。
61 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:10
唇が重なるそれは確かにキスだったけれど、
でもたぶん、美貴にとっても亜弥ちゃんにとっても、それは「キス」と呼べるものじゃなかった。

目を開けたまま一方的に、亜弥ちゃんが美貴の歯を割って美貴の口の中を侵犯する。

頬を撫でていた優しい手はいつのまにか美貴の手首を掴まえていて、
どこに隠されていたのかと思うほどの強いチカラで手摺りの柵に押さえつけられていた。

唇を重ねているのに、お互いに目は開けたまま、まるで氷の海に放り出されたような冷たさを感じた。

亜弥ちゃんはひどく怒った様子で、そんな亜弥ちゃんに美貴もだんだん怖くなって、思わずきつく目を閉じた瞬間、
半ば突き飛ばすようにして、亜弥ちゃんが美貴から離れた。
62 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:11
「…人の気も知らないで……」

唸るように呟かれた言葉のあと、亜弥ちゃんが立ち上がる。

「……頭冷やせ。もうすぐ一緒の仕事はじまるんだよ」

言われて思い出す。

夏のはじめ、やっと念願が叶って、亜弥ちゃんとふたりだけのユニットが決まった。
その本格的なプロモーションが、来週から始まるのだ。

「…こんな状態で一緒に仕事なんてできない。あたし、こんなことでたんを失うのはイヤだよ」
「亜弥ちゃ…」
「冷静になって、よく考えて」

考えるまでもない、と答えたら、亜弥ちゃんは美貴を軽蔑するだろうか。

言葉に詰まって亜弥ちゃんを見上げると、美貴を見下ろしていた亜弥ちゃんはもう怒ってなくて、
何故か少し、ほんの少しだけ悲しそうに、眉尻を下げていた。
63 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:11
「…さっきみたいなこと、もう言わないで」

それは、美貴の気持ちには応えられないという返事だ。

「もし、また同じようなことを言ったら…」

押し寄せてくる絶望感に自然と項垂れていく美貴の旋毛に向かって亜弥ちゃんは続ける。

「あたしがここまで言っても、まだ言う気なら」
「……なら?」
「覚悟決めてから、言え」

命令口調のそれは、美貴から言葉だけでなく呼吸ごと奪う一言だった。

喉を引き攣らせながら亜弥ちゃんを見上げた美貴に、亜弥ちゃんはもうそれ以上何も言わなかった。
64 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:11
美貴の気持ちを知られた今となっては、もう今までのような付き合い方は出来ない。

そのうえで、今までのように『トモダチ』のままでいるか、
覚悟を決めて、今まで築き上げたすべての関係を崩す気で、叶うはずもない気持ちを伝えるか。

そのどちらかしか、選択肢をくれないなんて。

「…そん、な…」

美貴の訴えを聞く耳は持ち合わせていない。

そんな素振りで亜弥ちゃんは美貴に背中を向けた。

「…まだ仕事の途中だから、もう行くわ。…気を付けて帰りなよ」

美貴の返事も聞かずに亜弥ちゃんは歩き出す。
65 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:11
「…ま…、待って、亜弥ちゃ…っ」

人通りの少ない非常階段から、美貴以外の気配が消える。
美貴の声だけが、悲しく響く。

美貴が引き起こした事態だとわかっていても、差し出された選択肢はどっちも選べない。

もう戻れない。
昨日までの日々はもう、戻って来ない。

「亜弥ちゃん…っ!」

どんなに溢れても、拭って欲しい人は決して拭ってくれない涙が、また零れた。
66 名前:tempest 投稿日:2006/11/14(火) 20:11

67 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2006/11/14(火) 20:12

今回はここまでです。
メロディーズシングルVのフラゲ日に、こんな内容の更新で申し訳…。


読み返して、前回更新分で間違いハケーン
>>30 の8行目
>本気なんだか照れ隠しの裏返しなのか
正しくは、
>本気なんだか照れ隠しなのか

照れ隠しの裏返しなんてねーよ…orz
細かい間違いなら他にもあると思いますが、この点はちょっと自分的にも許せなかったので訂正します。
すいませんでした。脳内訂正と補完、お願いします。


>>37-40
レスありがとうございます。
最近は攻め顔の亜弥ちゃんにハァハァしまくりです(殴)
次回もできるだけ早くに更新できますように。

ではまた
68 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/14(火) 21:11
最高ですね 毎日更新されてるかチェックしてます

ビンタのシーンと気を付けて帰りなの部分で泣いてしまった……
自分もこの小説のみきたんと同じ気持ちを抱いてる女の子だから
感情移入しすぎてしまったかもしれない

69 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/15(水) 01:54
また気になるところで…
うわーうわー
やっぱり最高です。
70 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/15(水) 10:35
こういう展開ですか…。この先どうなるんだろう。
また眠れぬ夜が続きそうです。
71 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/15(水) 13:46
私も毎日チェックしてます。
あー続きが気になる!!
72 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/11/17(金) 00:05
せつないけど・・・所々の亜弥ちゃんのやさしさに期待してしまう・・・(涙)
73 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/11/17(金) 00:59
藤本さんの心情についてもそうですが
未だ語られない松浦さんの胸の内も
あれこれ妄想を巡らすと
なんともいえない気持ちになってきます。
ともあれ、続きがほんとに楽しみです。
74 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/17(金) 18:23
なんですかその究極の二択は
どうなるどうでる
続きがきになります
75 名前:tempest 投稿日:2006/11/18(土) 18:45


76 名前:tempest 投稿日:2006/11/18(土) 18:46




何事もなかったように毎日が過ぎて、今日からはじまる亜弥ちゃんとのユニットの仕事のため、
美貴は指定された時刻より少し早く打ち合わせのスタジオに入った。
亜弥ちゃんは、午前中に別の仕事が入っているらしく、到着は早くても正午を過ぎると聞いた。

あれから5日が過ぎている。
その間、美貴と亜弥ちゃんは一度も連絡を取り合わず、
亜弥ちゃんが何をしていたのか、何を思っていたのか、知る術がなかった。

でもそれは美貴に、亜弥ちゃんのことだけじゃなく、自分のことやこれからのことも考える事態を呼んで、
『冷静になれ』と言った亜弥ちゃんの言葉が、あながちその場凌ぎの言葉なんかじゃなかったことを思い知った。

それでも、久しぶりに亜弥ちゃんに会えると考えただけで、昨夜はほとんど眠れなかったけれど。
77 名前:tempest 投稿日:2006/11/18(土) 18:46
亜弥ちゃんが来るまでの待機場所として用意された控え室の隅で、
簡易椅子の上に膝を抱えながら座って亜弥ちゃんが来るのをひとりで待つ。

何日も会えない日は今までだって何度もあったけれど、声すら聞かずに5日間も過ごしたのは初めてかも知れない。

そう考えるとますます緊張感が増した。

そんな美貴を煽るみたいに、スタジオの外の道路を行き交う車の音ぐらいしか聞こえてこないその部屋は、
だんだんと美貴の緊張を膨らませて落ち着かなくしていく。

不意にドアの外が心なしか騒がしくなって、亜弥ちゃんが到着したのだという気配が伝わってきた。

そう思った次の瞬間には控え室の扉が開いて亜弥ちゃんが現れた。

心の準備はしていたはずなのに、5日ぶりに見た亜弥ちゃんの顔が少しやつれているように思えて、心音が跳ねる。

抱えていた膝を椅子から降ろして立ち上がろうとしたとき、それを認めた亜弥ちゃんが口元を綻ばせたのが見えた。

「おはよー。ごめんね、遅くなって」

あの日以前のままの、変わらない笑顔がそこにあった。
78 名前:tempest 投稿日:2006/11/18(土) 18:46
気持ちは決まっていた。

あの日差し出された、選べないふたつの選択肢。
ふたつしかないのなら。

そのどちらかしか選べないというのなら。

「おはよ、亜弥ちゃん」

応えた声は、震えなかった。
79 名前:tempest 投稿日:2006/11/18(土) 18:47


GAM結成のニュースはメディアには既に伝えられていても、
本格的な始動となる仕事は今日の取材がはじめてに等しかった。

亜弥ちゃん専属のメイクさんが、亜弥ちゃんのメイクを済ませてから美貴のもとへやってくる。
亜弥ちゃんは、これからメイクする美貴のかわりに取材の進行をスタッフから聞いていた。

「…ね、美貴ちゃん」

鏡に映る亜弥ちゃんの姿を観ていた美貴に、メイクさんが急に声をひそめた。

「はい?」
「亜弥ちゃん、なにかあったの?」
「え? どうしてですか?」
「いや、なんていうか、ここんとこ、ちょっと集中力に欠けてるっていうか…」

メイクの手は止めず、何か思い出すように首を傾げて。
80 名前:tempest 投稿日:2006/11/18(土) 18:47
「今日だって、ホントならここまで遅れるハズじゃなかったのよ。でも何度もNG出てね」
「…そう、なんですか?」
「うん。ぱっと見た感じは普段と変わらないけど…。美貴ちゃん、何か聞いてない?」

思い当たる節はひとつしかない。

それは美貴の心音を早めるだけだった。

「…美貴は、なにも」
「そっか…」

ごめんね、亜弥ちゃん。
美貴のせいだよね。

白黒はっきりさせたい亜弥ちゃんが、美貴のせいで悩んでるんだよね。
美貴が悩んでるってわかってて、亜弥ちゃんが悩まないワケないよね。
81 名前:tempest 投稿日:2006/11/18(土) 18:47
「…美貴からそれとなく聞いてみます。亜弥ちゃん、自分からは絶対何も言わないから」

美貴の言葉にメイクさんがホッとしたように頷いたあと、取材の進行表を持った亜弥ちゃんが戻ってきた。

「ねえ、たん、ここのトコだけどさ」
「亜弥ちゃんにまかせるよ。それより」

メイクが済んで振り向きながら言うと、進行表に目を落としていた亜弥ちゃんが不思議そうに美貴を見た。

ごめんね、亜弥ちゃん。
もう悩まなくていいからね。

「今日の仕事終わったら、亜弥ちゃんの家に泊まりにいってもいい?」

ほんの一瞬目の奥に過ぎった戸惑いは見逃さない。
82 名前:tempest 投稿日:2006/11/18(土) 18:47
「…明日の仕事は?」
「午後から。亜弥ちゃんは?」
「夕方まで何もない、けど」
「じゃ、いいよね」

強引に約束を取り付けようとする美貴から何かを感じ取ったのか、
幾らか強く美貴を見つめていた亜弥ちゃんの目の色が少しずつ優しくなっていくのがわかった。

「…ったく、しょーがないなあ」

いつもみたいに、どこか呆れ口調でいながら美貴を甘やかす柔らかな声で、亜弥ちゃんは答えた。
83 名前:tempest 投稿日:2006/11/18(土) 18:48
ごめんね。
もうそんな言葉しか浮かばないけど。

亜弥ちゃんのこと、もう困らせたりしないから。
もう悩ませるようなこと言ったりしないから。

最後にもう一度だけ、美貴のわがままを、聞いて。
84 名前:tempest 投稿日:2006/11/18(土) 18:48

85 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2006/11/18(土) 18:48
少ないですが、今回はここまでです。

>>68-74
たくさんのレスありがとうございます。
次回で終了予定ですので、あとしばらく、おつきあいいただけると嬉しいです。

ではまた。
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/19(日) 00:49
またぁぁぁいいとこでぇぇぇぇぇぇ
ほんとにやきもきします
この先どうなるのか・・・次回を楽しみにしてます!
87 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/19(日) 01:18
えっ、ちょ、マジですか。
この二人がどうなるのか早く知りたいのと、
もう少し長く作者さんの世界に浸りたいのと…。
その二つの気持ちが混ざってわけわかんないことになってますが。
とりあえず次の更新を楽しみに待つことにします。
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/20(月) 00:18
うわぁ…またこんなとこで…!!!
89 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/20(月) 02:55
やだ。待てない!眠れない!早くー
しょうもない本音失礼しました、更新楽しみに待ってます。
90 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/11/20(月) 15:40
えぇ!終わっちゃうんですか!?(泣)
うぅ・・・寂しいけど続きが読みたいですw
91 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/22(水) 21:57
更新楽しみに待ってます。
92 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:16


93 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:16
思ったよりも早く仕事が終わって、家に帰る前に、ふたりで夕飯の買い物に出かけた。

狭いキッチンで、あーだこーだと文句を言い合いながらも分担して料理して。

今までどおりに振る舞えているのは自分でも驚くほどで、
亜弥ちゃんも、この間のことはなかったように、美貴に対しての口調や態度に目に見えての気遣いがない。

それでも、美貴に触れるときだけ細心の注意を払っていることは、どうしてもわかってしまうけれど。
94 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:17
他愛ない会話や今日の取材の感想なんかを言い合って夕飯を済ませ、適当にDVDを流す。

前ならここで何の迷いもなくふたりでバスルームに向かっていたけど、
さすがにそこまで何もなかったみたいには振る舞えない。

美貴の気配を感じ取ったように亜弥ちゃんが立ち上がってキッチンに向かった。

「たん、先に風呂入りな」
「…亜弥ちゃんは?」
「あたしは喉渇いたからお酒作って飲む」

キッチンで洋酒の瓶を選ぶ亜弥ちゃんの後ろ姿を眺めながら、この間のことをいつ切り出そうか考えた。

あとへ引き延ばせば引き延ばしただけ言い辛くなることはわかっていた。
早く決着をつけないと、それだけ亜弥ちゃんの悩みが解消されるのも先へ延びてしまう。

大きく一度深呼吸してからゆっくり立ち上がり、グラスにお酒を注いでいる亜弥ちゃんの斜め後ろに立った。
95 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:17
「…亜弥ちゃん」
「ん?」

美貴が近づいてきたことはわかっているはずなのに、亜弥ちゃんは振り向かなかった。

「大事な話があるの」

肩が揺れたのを見逃さない。

「この間のこと」

美貴の立っている位置からその顔が見えないように、亜弥ちゃんは瓶を置いて何もないほうを見る。

「…うん」

静かにそれだけ返された声はとても冷ややかだった。
96 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:17
「その前に、聞いておきたいことがあるんだけど」
「…なに?」
「亜弥ちゃん、誰か好きなひと、いる?」

思いがけないことを聞かれた、と言いたげに振り向いた亜弥ちゃんが目を見開いている。

「…なに、急に」
「いる? …もちろん、恋愛感情を持って、って意味だよ?」

美貴の質問の意図が読めない様子で眉根を寄せた亜弥ちゃんが美貴を眺める。

けれどすぐに美貴から目を逸らして、また向こうを向きながら、静かに頷いた。

「いる」

がつん、と、頭のてっぺんから大きな重いものを打ち込まれたような衝撃が全身を巡る。
予想していた答えだったのに、それでも本人の声で聞くとダメージが大きい。
97 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:17
「……そっか」
「うん」

誰なのか、いつから好きなのか、付き合っているのか、どうして今まで美貴に言ってくれなかったのか。
深追いして聞き出すのはきっと今なら容易いけれど、それらは今の、そしてこれからの美貴には特に必要がない。

向こうを向いたままだった亜弥ちゃんに一歩近付いた。

その気配を感じ取ったのか、キッチンに逃げ場がないことを悟ったのか、
亜弥ちゃんはくるりと身を翻し、美貴の横をすり抜けて行こうとする。

完全に逃げられてしまう前に、美貴はその腕を強く掴まえた。

「…亜弥ちゃん、美貴の最後のお願い、聞いてくれる?」

取り戻そうと掴まれた腕にチカラを込めた亜弥ちゃんが、美貴の言葉を反芻したのか動きを止めた。
そのまま振り向いた亜弥ちゃんが怪訝そうに美貴を見つめる。

「…亜弥ちゃんのこと、抱きたいの」
98 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:17
言い切る前に、もう一方の腕を掴まえ、亜弥ちゃんの動きを封じる。

「…たん…っ?」
「あんなことがあったのに、もう前みたいには戻れない。『トモダチ』にも戻れない」
「…っ、は、離…っ」
「もう言うな、って、亜弥ちゃん言ったよね。言うなら覚悟して言えって。だから美貴、覚悟決めたの」
「…たんっ!」
「もうそばにいられなくなっても、もうこんなふうに会えなくなっても、美貴は亜弥ちゃんが」
「言うな!」

耳を塞ごうと、美貴に掴まれた腕にチカラを込めるけれど、美貴はそれを許さない。
99 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:18



「亜弥ちゃんが、好きだよ」


100 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:18
堅く目を閉じ、唇を噛んだ亜弥ちゃんを床へ押し倒す。
そのまま唇を塞ぐと、すぐに顔を振って美貴から逃げた。

「たん…っ! やめて!」
「ごめん、聞けない」

掴んでいた手を離し、亜弥ちゃんの着ている服の裾から中へ手を忍び込ませると、服の上からそれを阻まれる。

「たん!」
「ごめん…、美貴を、亜弥ちゃんの好きなひとと思って、ガマンして」
「…っ、ふざけんな!」

振り上げられた腕を難なく受け止めると、かわされると思わなかったのか、亜弥ちゃんの瞳が怯えを含んで揺らぐ。
101 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:19
「……こないだとは違うよ。亜弥ちゃん、チカラでは美貴に勝てないでしょ?」
「…っ、なんでこんなこと…っ!」
「好きだから」

キスしようと顔を近づけて、首を振った亜弥ちゃんにまた阻まれた。

「こんなことしたら、本当にもう、戻れなくなる…ッ」
「もう無理だよ」
「無理じゃない! だったらあたしのこの2年間はなんだったって言うの!」

聞こえたままの言葉に思わず亜弥ちゃんの腕を押さえ込んだ手からチカラが抜け、
その隙をついて亜弥ちゃんは自身の腕を取り戻し、取り戻したその手で美貴を突き飛ばした。
102 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:19
情けなく突き飛ばされた美貴は、茫然としながらも床に倒れこんで、
それでも亜弥ちゃんが発した言葉の意味が知りたくて、だけど何も言えないまま、
乱れた衣服を胸元で押さえ込む亜弥ちゃんを見るしか出来なくて。

「…いま、なんて…?」

ようやく搾り出せた声に、亜弥ちゃんは小さく肩を揺らしたあと、唇を噛んで俯いた。

「…なんでもない。忘れて」
「なんでもないことないじゃん! いま亜弥ちゃんが言ったことって…!」
「忘れて!」

胸元を押さえながら、亜弥ちゃんはそのまま美貴に背中を向けた。

手を伸ばそうとして、それまでとは違った頼りなさげな肩が震えていることに気付いて動けなくなる。

「……お願い、忘れて」
103 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:19
弱々しく掠れる声に胸が痛む。
亜弥ちゃんにそんな声を出させているのも、最近は見せなくなったかよわげな肩の震えも、美貴のせいだ。

だけど。
そんなことはもう構っていられない。

だって。
だって亜弥ちゃん。

「イヤだ」

さっきの言葉は、美貴を好きだって、言ったのと、同じ意味だよ?
104 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:19
答えた美貴の声に、亜弥ちゃんは頭を抱えながら床へ崩れ落ちた。

「…亜弥ちゃん」
「…こっちに来ないで」
「やだ」
「…来ないでよ」
「やだよ。美貴、亜弥ちゃんが好きなんだから」

うずくまるようにしてカラダを小さくさせている亜弥ちゃんに近付いて、その背中を撫でる。

「…触んないで」
「なんで?」
「…それ以上触られたら」
「触られたら?」

ゆるゆると、亜弥ちゃんが頭を上げた。

涙で潤んだ大きな瞳が美貴を見上げる。
美貴を見つめて、堪えきれなくなったように顔をくしゃくしゃにして。

「もう、自分のこと、誤魔化せなくなる…」

目を閉じて告げた途端、その目尻から涙が零れ落ちた。
105 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:19
「誤魔化す?」

鸚鵡返しに言うと、目を閉じたままの亜弥ちゃんの喉が引き攣ったように小さく鳴った。

「…亜弥ちゃん。2年って、なに? 亜弥ちゃんは何を誤魔化してきたの?」

尋ねながら手を伸ばして亜弥ちゃんの手を掴まえる。

掴んだ瞬間はカラダを揺らせたけれど、
合わせた両手を更に上から包み込むようにしたら、上目遣いに美貴を見て、それからそっと目を伏せた。

「……たんは、いつからあたしを好きだったの?」
106 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:20
逆に聞き返されて答えに詰まる。

知り合ってからはずいぶん時間が過ぎている。
最初こそ、言葉で好きとは言っていても、親友だと言える程度の感情しか持っていなかった。

いつからだったのか、それは思い出せないけれど。
自覚してからはもう1年くらいになる。

「…去年の亜弥ちゃんの誕生日のときは、もう自覚してたよ」

正直に答えたら、亜弥ちゃんは伏せていた瞼を上げて、まっすぐに美貴を見つめた。

「……その前のたんが、あたしが想うようには、あたしを好きじゃないって知ってた」

なら、美貴が自覚するよりもずっと前から、亜弥ちゃんは美貴を好きでいてくれたことになる。
しかも、それを少しも美貴に気付かせないで。
107 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:20
「たんがあたしに求めてるのは居心地の好さで、『トモダチ』以上の関係なんて考えてもないこともわかってた。
だけどあたしは、たんがあたし以外に目を向けるのがイヤで、怖くて、でも淋しくて、
どうしたらあたしのことだけ見てくれるようになるか、そればっかり考えてた」

美貴に口を挟ませない亜弥ちゃんの告白は、どれも今の美貴の心情とシンクロする。

「…気持ちを伝えるのは簡単だと思った。だけど、たんに嫌われるのだけはイヤだった。
いつでもたんのことを考えてて、好きで好きでどうしようもなくて、自分で自分が何するかわかんないくらいで」

少し俯き加減になったせいで、さらりと前髪が流れて亜弥ちゃんの表情を隠す。

「…ちょうど、それくらいからたんはガッタスの練習が増えて、あたしも仕事が忙しくなって会える時間も減って、
たまに会えてもお互いに仕事の話ぐらいしか出来なくて、そのうち、気持ちが落ち着いてきた。
ひょっとしたら、恋愛感情じゃなくなったのかなって。知り合った頃みたいな『トモダチ』に戻れるかもって」

記憶を辿るように話す亜弥ちゃんの声が美貴の胸を揺さぶる。
108 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:20
「…けど、ダメだった。たんがよっすぃーと仲良くしてたり、嬉しそうにそのことを話したりするのを聞いたり、
梨華ちゃんとかごっちんとか、他の誰かとあたしの知らない話をしたりしてるのを聞くだけでイライラして…。
仕事にも集中出来なくなってきて、こんなんじゃダメだと思った。いつか隠し切れずに気付かれるって」

亜弥ちゃんの手を包んでいた美貴の手を、亜弥ちゃんが掴み返してきた。

「嫌われたくなくて、失いたくなくて、甘えて欲しくて、頼って欲しくて、だけど、
こんな気持ちのまま近くにいても、たんが欲しくなるだけだから…だから、自分の気持ちに、嘘ついたの」

その頃の美貴は、何も知らずに亜弥ちゃんに甘えて、頼って、それでも正面から向き合っていたつもりだったんだろう。
亜弥ちゃんがどんな風に美貴を見ていたのかなんて、考えもせずに。

亜弥ちゃんの話を聞きながら、とても自分自身が情けなく思えた。
美貴がずっと悩んできたことを、美貴よりもずっとずっと前から、亜弥ちゃんも悩んでいたんだ。
109 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:20
「…どんな嘘?」

掴み返された手で表情を隠す亜弥ちゃんの前髪を撫で上げると、まだ潤んでいる大きな瞳が美貴を見上げた。

「…言わせるの?」

瞳の奥が悲しげに揺れて、亜弥ちゃんは口元を少しだけ歪ませながら微笑んだ。

卑怯な問いかけだったと思う。
言葉にするのは亜弥ちゃん自身もイヤだとわかっていたのに。

「たんなんか、好きでもなんでもないって」

それは亜弥ちゃんの本心じゃない。
だけど、嘘だとわかっていても、その言葉自体が美貴の心にとても強く刺さった。
110 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:21
「あたしには他に好きなひとがいるって、そう思うことにした。
そのひとは、たんだけどたんじゃなくて、あたしのことを誰よりも愛してくれるひと」

亜弥ちゃんはずっと、届けられない美貴への気持ちを、この世に存在しない『美貴』に向けていた。
美貴を失いたくないからだ、と亜弥ちゃんは言ったけれど、でもそれは美貴を想ってのことと同じ意味だ。

美貴を困らせないために。
美貴から亜弥ちゃんを奪わないために。

「たんが欲しくなるから、自分からは触らないようにした。自分からは甘えないようにした。
たんと向き合いながら、たんの向こうに、あたしの気持ちに応えてくれるたんを夢見てた」

そんなに、美貴のこと、好きなのに。

「…なら、どうしてあのとき、美貴の気持ちを認めてくれなかったの?」

好きだと言った。
本気で好きだと。

だけど亜弥ちゃんは美貴の気持ちを正面からは受け止めず、聞かなかったことにしようとした。
美貴のことが好きなのに。
111 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:21
亜弥ちゃんの髪を撫でた手で亜弥ちゃんの手を取ろうとして一瞬早く逃げられる。

「……たん、あのとき、何て言ったか、覚えてる?」
「覚えてるよ、あたりまえじゃん」

美貴から離れるようにわざと距離をとり、亜弥ちゃんが美貴を見る。

「亜弥ちゃんが好きで好きで、どうしていいかわかんないくらいだって、そう言ったじゃんか」
「…そのあとで、前みたいにそばにいてって言った。前みたいに触って欲しいって」
「そうだよ、そう言った。でもそれのどこが……!」

言いながらハッとする。
目の前の亜弥ちゃんの大きな瞳がまた悲しげに揺れて、
美貴は自分の発した言葉がどういう意味を持つのかをようやく思い知る。
112 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:21
「前みたいにそばにいてって思うのは、あたしがたんのそばにいる時間が減ったから」

違う。
そうじゃない。

「前みたいに触って欲しいって思うのは、あたしがたんに触らなくなったから」

違う。
それだけじゃない。

「たんはただ前みたいに戻りたいだけだってわかるのに、それをあたしと同じ好きだと思えないよ」

あのとき言った言葉はあのときの本心だった。

前みたいに戻りたいと思った。
前みたいに戻れたらいいと思った。

だけど、美貴はそれだけを望んだワケじゃない。

「……たんは、あたし、っていう親友を失うのがイヤなだけなんだよ」
113 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:21
そう紡いだ亜弥ちゃんの声は語尾が掠れた。
掠れて聞き取りにくかったぶん、亜弥ちゃんの秘めた想いの強さを感じた。

紡がれた言葉が、亜弥ちゃんを傷つけてきたのだということも。

「…じゃあ亜弥ちゃんは、その親友に対して、キスしたいとか思うの?」

逸らし気味だった視線が弾かれたように戻ってきた。

「ただ触るってだけの意味じゃなく触りたいとか、服を脱いだ裸が見たいとか、抱きたいとか、思うの?」

直接的な言葉を並べた美貴に亜弥ちゃんは声を詰まらせた。
だけどそれは、美貴の言葉に対する否定を意味する。

「美貴は思わない。よっちゃんや梨華ちゃんや、どんなにカッコイイ男の人にだってそんなこと思ったり考えたりしない。
そんなこと思うのは、相手が亜弥ちゃんのときだけだよ」
114 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:22
声を詰まらせ、薄く唇を噛み、眉尻を僅かに下げて美貴を見つめる亜弥ちゃんは怯えているようにも見えたけれど、
でも、美貴が続ける次の言葉を待っている。

「亜弥ちゃんにしか、こんな気持ちにならないよ」

目を見て真っ直ぐ伝えると、亜弥ちゃんはますます眉尻を下げて、床に両手を付いて項垂れた。

いつのまにか少し開いてしまった距離を詰めるように亜弥ちゃんに近付いても、亜弥ちゃんは逃げなかった。

「…亜弥ちゃんは?」

呼びかけながら床についた手に自分の手を重ねても亜弥ちゃんは逃げなかったし、何も言わなかった。

俯いているせいで前髪が亜弥ちゃんの表情を隠すから、顔が見たくてその前髪をもう一方の手で払い避けると、
涙の跡が残った目尻が見えて、伏せられていた瞼が持ち上がり、美貴を見上げた。

「亜弥ちゃんは、美貴以外の人にも、こんな気持ちに、なる?」

さっきよりももっと卑怯な問いかけだとわかってて聞いた。
だって、美貴は、その答えを知っているから。
115 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:22
美貴を見上げた亜弥ちゃんの唇のカタチが口惜しげに歪む。
美貴の手を掴み返した亜弥ちゃんが、そのまま強く引っ張って美貴に抱きついてきた。

「……なるか、バカ」

耳元に静かに、けれどとても大きな重みをもって届いた亜弥ちゃんの声。

美貴の背中にまわされた手が強く美貴の服を掴む。
縋るように掴むその手の強さは美貴が覚えている、前のままの亜弥ちゃんで。

それは、あの頃の美貴は知らなかった、今の美貴だからわかる、亜弥ちゃんの思いの強さ。

「…あたしが、今までどんな思いで……」

同じような言葉を、あのときも聞いた。
あのときはわからなかったその意味も、今ならわかる。

「ごめん…」

何も知らなくて、ずっと気付かなくて、ごめん。
ツライ思いさせてばかりで、本当にごめん。
116 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:22
美貴にしがみつくように抱きついてきた亜弥ちゃんに引かれるままふたりして床へと倒れ込み、
その勢いのままで、亜弥ちゃんの頬に唇を押し付けた。

突然の感触に驚いたように亜弥ちゃんが顎を引いて美貴を見る。

美貴を見つめる亜弥ちゃんの瞳が戸惑いを孕みながら揺れている。
触れたくて、触れて欲しくてたまらない衝動が湧き上がる。

心臓、飛び出しそう…。
117 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:23
「……たん」

高鳴っていく鼓動で息が乱れる。
みっともなくて恥ずかしくて、それを隠すために思わずカラダを起こして目を逸らした。

そんな美貴の感情の揺らぎを悟った様子の亜弥ちゃんが、ゆっくり起き上がって美貴の頬にそっと触れてくる。

その熱は、美貴が欲しくて欲しくて夜も眠れずにいた、紛れもない亜弥ちゃんの熱で。

「あたしを、抱きたいんじゃなかったの?」

眩暈を起こしそうな意識の中、美貴に触れている亜弥ちゃんの手の熱はリアルで。
そしてその熱以上に、亜弥ちゃんが言った言葉が美貴のカラダを芯から痺れさせる。

「……亜弥ちゃん…っ」

昂ぶる感情のままに亜弥ちゃんに抱きつくと、亜弥ちゃんは倒れることなく美貴を抱きとめてくれた。

「…好き…っ、亜弥ちゃん…好き…!」

もうそれ以外の言葉が見つからなくなった美貴の背中を亜弥ちゃんが優しく撫でてくれる。
118 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:23
「知ってる」

いつものような、強気なくせに甘えてるみたいな口調が美貴の耳元に響く。

「…ねえ、たん?」

美貴を呼ぶ声色に含まれた甘さと耳のうしろをくすぐる吐息でカラダの痺れが増す。
亜弥ちゃんの熱と声だけで火照り始めたカラダが小刻みに震えだす。

そんな美貴が、今望んでることに、亜弥ちゃんだってきっと気付いてる。

「あたしは、たんの最後のお願いを叶えてあげたほうがいい? それとも」

そっと美貴からカラダを起こして、お互いに少し動くだけで唇が触れ合える距離まで顔を近づけて。

「そんなのは無視して、今して欲しいことを、してあげたほうがいい?」

その唇に触れたくて追いかけたら逃げて、なのに、顎を引いたら追いかけてくる。
119 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:24
「…ゃ、ちゃ…」

亜弥ちゃんの瞳に映る美貴の顔はひどく赤くて、呼吸だって早くて、恥ずかしいくらいみっともない。
だけど。

「どっちがいい?」

答えを知ってて聞くのは卑怯だと思うけど、美貴もさっき、亜弥ちゃんに同じことをした。
ずるいと思うけど、同じくらい焦れったくてもどかしくて、早く、『欲しい』。

こんな気持ちに、亜弥ちゃんも、なったの?
120 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:24
美貴の背中を、背骨の数を数えるように確かめるように辿る亜弥ちゃんの指。
それを感じるだけで吐き出す息が熱を孕む。

浅く早くなる呼吸の合間を縫って、息を吸い込んで。

「…っ、…キス、して…っ」
もっともっと、美貴に、触って。

亜弥ちゃんの服を握り締めながら半ば叫ぶように言ったとき、美貴の上唇を亜弥ちゃんの吐息が撫でた。

美貴に触れてきた亜弥ちゃんの熱が美貴から正気と理性を奪っていく。

美貴の全部を、飲み込んでいく。

「…ベッド、行く?」

誰よりも美貴を幸せにするその声に、美貴は震えながら頷いた。
121 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:24


122 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:24
朝の気配を感じても、全身を包む気怠さが目を開けることを拒否している。

このままもっと眠っていたいという欲求に応えるのは容易いけれど、
それとは相反する場所で別の思考が動いて、目は閉じたままで、美貴はぼんやり考えを巡らせた。

けれどいろんなことが細かなジグソーパズルのピースのように断片的に浮かぶだけでうまく結びつかない。

余計な思考は遮断しようとする気怠さは確かにあるのに、同じくらい、いや、
それ以上っていってもいいいくらいの幸福感がカラダにも気持ちにも満ちている。

でも、どうしてこんなにカラダがだるいんだろう…?

自然と考えが及んだ先で意識が覚醒しようとしたとき、美貴の髪に触れている優しい体温を感じた。
ほんの少し控えめで、だけど指先だけでもわかるくらいの。

それは…
123 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:25
「…ゃ、ちゃ…?」

ちゃんとした音らしい音じゃない自分の声が出た途端、優しい熱が緊張したようにピクリと震えた。

その熱がゆっくりと離れていくのがわかって、それがイヤで咄嗟に手をのばした。

そしてそれを掴まえた瞬間、ふわふわしたあたたかな空間にいたような浮遊感は消え、
バラバラだったパズルのピースが次々と形を整えていき、美貴は目を開けた。

美貴の目の前で、美貴の手に掴まれているのは亜弥ちゃんの手。
そしてその向こうに、戸惑い気味に眉尻を下げ、口の端を僅かに上げている亜弥ちゃんの顔があった。

一気に、完成したパズルが昨夜の出来事を美貴の脳裏に鮮明に蘇らせる。
124 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:25
「…おはよう」

静かに亜弥ちゃんの唇がそう紡いで、美貴は文字通りに飛び起きた。

その弾みでベッドのスプリングが少しだけ軋む。

聞き逃してもおかしくないその小さな音は美貴の耳の奥にはっきりと残っていて、
今度は全身に昨夜の余韻を思わせた。

昨夜、美貴たちが何をしたのか、それが思い出されて、どんな顔をしていいのかわからなくなって、
起き上がった態勢のまま、身動きできなくなる。

「…たん?」

不安そうな声が背後で聞こえたと同時に空気が動き、亜弥ちゃんも起き上がったことが伝わる。

美貴の肩先に、亜弥ちゃんがキスしたのがわかった。
125 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:25
「…覚えてる?」

なにを、と聞き返さなくても、言おうとしていることぐらいわかるから、美貴は素直に頷いた。

亜弥ちゃんの唇の触れたところが、ほんの少し熱を帯びる。

「…亜弥、ちゃん」
「ん?」

返ってきた声は、一晩中、美貴の耳元に響いていたものと同じもので、泣きそうになった。

「…美貴、亜弥ちゃんのこと、好きでいて、いいんだよね?」

美貴の腰にまわされてきた亜弥ちゃんの腕が震えたのが肌に直に伝わってきた。
そしてゆっくり、キスした場所に額を押し付けてくる。
126 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:25
「…うん」
「キスしたいって思ったり、キスして欲しいって思ったりしても、いいんだよね?」
「いいよ」
「触って欲しいって思ったり、触りたいって思っても、いいんだよね?」
「いいよ。思うだけじゃなく、言葉にしてもいい」

聞いてすぐに顔だけで振り返ると、亜弥ちゃんはちょっと驚いたように顔を上げて目を見開いた。

「亜弥ちゃんも、美貴と同じ気持ちで美貴を好きだって、思っていいんだよね?」

他の返事は許さないと言いたくなるのをガマンして聞くと、
亜弥ちゃんは見開いていた目をゆっくり伏せて、口元を綻ばせて頷いた。

その口元の綻びは美貴の今の心情を読み取ったからだってわかったけど、
そんなことには構わず、美貴はカラダごと振り返って亜弥ちゃんに顔を近づけた。

額に唇が触れて、亜弥ちゃんが目を開ける。
その瞼にもキスをして、鼻筋に触れて、上唇を舐めたら薄く唇が開かれて、誘われるままに舌先を差し込んだ。

徐々に重心を移しながらベッドに倒れこんで、唇を離す。
127 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:25
「…ねえ、亜弥ちゃん」
「ん?」

顎に口付けながら呼びかけると、甘い吐息が漏れてきた。

「昨夜美貴が言ったこと、訂正してもいい?」

閉じていた瞼が静かに開かれ、美貴を見上げる。

「最後のお願いって言ったけど、あれ、訂正する」

眉尻を下げて僅かに首を傾げた。

「…亜弥ちゃんのこと、抱きたい」

その途端、亜弥ちゃんの頬に朱が差した。
美貴と違って色素の薄い、色白の素肌もその色に染まっていく。

「これからも、ずっとずっと、美貴のお願い、聞いて?」
128 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:26
顔を赤くしながら、微かに困惑を含んでいた口元がその言葉で緩んで崩れた。

美貴の背中にまわされていた手が美貴の前髪を撫で上げて、そのまま指を絡めながら梳いていく。

返事を待たずにその頬に口付けたとき、美貴の耳元に亜弥ちゃんの掠れた声が届いた。

「…いいよ」

少し上体を起こして亜弥ちゃんの顔を見つめる。

閉じられていた瞼が持ち上がるのを待って、もう一度、今度は反対側の頬にキスをした。
そのすぐあとに、優しい声が、美貴を幸せにするその声が、美貴の全身を包んだ。

「……ずっとずっと、聞いてやる」





end
129 名前:tempest 投稿日:2006/11/23(木) 00:26

130 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2006/11/23(木) 00:27

以上で、『tempest』終了です。
短いお話でしたが、お付き合いくださり、ありがとうございました。

>>86-91
たくさんのレス、ありがとうございました。


久しぶりに書いた藤本さんと松浦さんは、
以前私が書いていたふたりとはまったく違った雰囲気を持ってしまってますが、
書いてる本人はとても楽しく書かせていただきました。
前のふたりがよかった!と、いう方がいらっしゃいましたら、本当にごめんなさい。
でも私、今のふたりも前のふたりも大好きなので。

じわじわ熱が上がって、まだまだ冷めそうにないGAM熱。
このスレもまだ容量が残ってますし、また何か書けそうな気もしますので、
更新したら、また覗いてってくださると嬉しいです。

ではまた、そのときまで
131 名前:A 投稿日:2006/11/23(木) 01:13
完璧です。
132 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/23(木) 04:40
最高です。
133 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/11/23(木) 09:40
ハァァァァン(*´д`*)
とても素敵な作品でした。ありがとうございます。
134 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/11/23(木) 10:35
人って最高に幸せなときって泣くんですね。
泣かせて頂きました。
135 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/23(木) 11:14
作者さんの昔の二人も、今の二人も好きです。
この二人以外のお話も好きです。
つまり私は作者さんのお話が大好きなんです。

今回のお話もすごく良かったです。色んな感情を味わうことができました。
ありがとうございます。お疲れ様でした。
次回作に期待しつつも、今回のお話をまた読み返そうと思います。
136 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/11/23(木) 14:24
こ・これは・・・キング・オブあやみき小説!
137 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/11/23(木) 15:13
素敵な作品をありがとうございました
138 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/11/24(金) 01:56
ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!!

本当にいまの2人がそのまま出てる
本当に素晴らしいです
次も待っています
139 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/24(金) 21:07
YES!YES!YES!
素晴らしいとしか言いようがないです
前のあやみきも今のあやみきもどっちも好きだー
あやみきの力関係?が変わっても気持ちは変わらない
これだと思います
またネタが浮かべば書いて下さい!
140 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/24(金) 22:59
面白かったです。
141 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 10:10
一気に読みました。リアルで切なくて、でも嬉しくて。
面白かったです。続編、新編あったら楽しみにしてます。
142 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 12:04
とっても良かったです。
やっぱり作者さんの作品は好きです。
143 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2006/12/03(日) 23:03
更新します
144 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:03
昨夜は浮かれて寝るのが遅くて、ちょっと寝坊した。

でも今日は朝から気分がいい。
理由はもちろん、今日からしばらくは亜弥ちゃんと同じ現場だから。

いつもより少し遅れて劇場に着くと、既に亜弥ちゃんのマネージャーさんがいて、
もう来てるんだと思って、慌てて自分の楽屋に荷物を置いて亜弥ちゃんの楽屋に向かった。
145 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:04
亜弥ちゃんの楽屋は、美貴たちの楽屋から少し離れてて、その途中にはケータリングがある。

今日もありがたいくらいに豪勢なメニュー。
気の早い食いしん坊のメンバーは、もうその前に陣取ってあれこれチョイスしている。

その中に、亜弥ちゃんの姿を見つけた。

亜弥ちゃんは食事してるワケじゃなくて、
ケータリングのメニューの幾つかをトレイに乗せてニコニコ笑ってる岡田ちゃんと三好ちゃんと談笑中。
146 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:04
なんとなく誰も寄せ付けない雰囲気で楽しそうに笑ってる光景が面白くない。
呼ぼうとして挙げかけた手を思わずおろしてしまったくらい。

じっと見てても、亜弥ちゃんはこっちに気付かない。
それどころか大口あけて笑いながら岡田ちゃんと話してる。

まあ、同じ関西出身ってことで、笑いのツボっていうのが似てるからかも知れないけどさ。

でも、でもさ。
アナタのカノジョは、ここにいる美貴なんですけど。
147 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:04
自分でも、だんだん不穏な空気が出てきたことがわかるのに、まだ亜弥ちゃんは気付かない。

すると、不意に岡田ちゃんが亜弥ちゃんに何か言われたのか、持っていたトレイを隣の三好ちゃんに渡した。
三好ちゃんはくすくす笑いながらそれを受け取った。

亜弥ちゃんに向かって無防備に、でもちょっと恥ずかしそうに首を傾げた岡田ちゃん。

なに? と美貴が思った直後、岡田ちゃんの胸を亜弥ちゃんが触った。
それも、両手で、包み込むみたいに。
148 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:04
それは、傍から見ればただのスキンシップだ。
岡田ちゃんの胸は、同性が見ても魅力的なくらいで、変な意味なんてなく、触ってみたい好奇心が湧く。

触ってみたいよねー? なんて冗談ぽくよっちゃんに言われて、曖昧に適当に誤魔化したりしたけど、
美貴だって少し興味はあったし、機会があれば、なんて、考えたこともあった。

目の前で繰り広げられてるのは、メンツが美貴じゃないってだけで、状況は特に変わりない。

だけど、それが亜弥ちゃんってだけで、むちゃくちゃ面白くなかった。
149 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:04
「…亜弥ちゃんっ!」

思わず叫ぶように呼んでしまって、しかも声にはみっともないくらいの嫉妬心が含まれてて。

美貴の声に弾かれたように3人が振り返る。

「おー、たん、おはよー」

美貴を認めて、亜弥ちゃんはいつものように笑ったけど、でも手はまだ岡田ちゃんの胸を触ってる。
美貴の声色に含まれてる気持ちなんて、全然気付いた様子がない。

早く離せ、亜弥ちゃんのすけべ。
150 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:05
「…なにやってんの」

美貴の立ってるところから亜弥ちゃんたちがいるところまで、距離にして4メートル弱。
さすがに普段の声量では届かないだろうから、
ほんの少し声を大きくして聞くと、亜弥ちゃんもそこでやっと気付いたようで。

自分の手元を見て、ゆっくり手を降ろす……かと思ったのに。

「なに、って、唯ちゃんの胸のチェックを」

こともあろうに、さっきみたいにただ触るだけじゃなくて、岡田ちゃんの胸を柔らかく撫でやがった!
151 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:05
「やぁん」

って、おい、岡田ちゃんも喜んでんじゃねーよ。
三好ちゃんも笑ってないでなんか言え、バカ。

「うーん、やっぱ大きいねえ」
「そんなことないですよぉ、てか、あんまり撫でやんとってくださいよぅ」

岡田ちゃん特有の、のーんびりした口調がなんだか嬉しそうで。

「え、なに、感じちゃったりするの?」

答えた亜弥ちゃんの声のトーンもやっぱり嬉しそう。

むかつく。
152 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:05
「…っ、亜弥ちゃんのえっち!」

思わず叫んだ声はさっきより断然大きく響いて、亜弥ちゃんがびっくりしたように振り返った。

「すけべ! エロオヤジ!」
「ちょ、…アンタねえ、こんなの、ただのスキンシップでしょーが」
「ただのスキンシップで、そんな撫で方しねーよ、バカ!」
「バカぁ?」

さすがにその一言は亜弥ちゃんもカチンときたみたい。

岡田ちゃんの胸からようやく手を離して美貴のほうにカラダごと向き直った。
153 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:05
「アンタ、なんなの? ちょっと胸触ってるくらいでさ」
「…うっさい、亜弥ちゃんのヘンタイ!」

美貴が気に入らないってこと、気付いてて言ってるってわかるから、余計にむかつく。

「ヘンタイ、って…。…あー、アンタ、あれでしょ、羨ましいんでしょ」
「なっ、ちが…っ」

腕組みして、ニヤニヤ笑い出す亜弥ちゃん。
…ちくしょー。

「前に言ってたことあるもんね、大きくていいなあって。あれぐらいあると、何か違ったかなあ、とかさ」

ひ、人が気にしてることを…っ!

「それをあたしが触ってた、っていうのも、気に入らないんでしょ?」

口の端が意地悪く持ち上がる。
154 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:05
ちくしょー、ちくしょー。
わかってるくせに。知ってるくせに。
それをわざわざ言うことないじゃんか!
亜弥ちゃんのアホ!

「…っ、そ、ぉだよ! 気に入らないよ!」
「ふうん?」

亜弥ちゃんのニヤニヤした口元はまだ崩れない。

「胸が大きいのがなんだっていうのさ! そりゃ美貴のは小さいよ、悪いかっつーの!」
「や、悪くはないとおもうけど」

今にも笑いが噴き出しそうな亜弥ちゃんの口元が美貴の暴走に拍車をかける。
そんな亜弥ちゃんの向こうで、岡田ちゃんと三好ちゃんがオロオロしてるのが見えた。

「でも、小さくったって、感度は最高なんだから!」
155 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:06
言った直後、周囲がシンと静まり返った。

亜弥ちゃんは目を見開いてる。

岡田ちゃんと三好ちゃんも、びっくりしたように口を開けて美貴を見てる。

おそるおそる視線だけで周囲を見回すと、スタッフの数人も、驚いたみたいに美貴のほうを見てた。

……あれ?
美貴、いま、なんて言ったっけ?

なんだか亜弥ちゃんの態度にムカムカして、腹立たしさが頂点で、思いつくままに言った気がするんだけど。

ええと……。
156 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:06
自分自身で反芻して、さあっ、と血の気が引いた。

なんてことだ!
なんつーこと口走っちゃったんだ!

最悪だ。
最低だ。

亜弥ちゃんは目を見開いたまま、そのまま硬直しちゃったみたい。

次第に顔を赤くしていく岡田ちゃんや三好ちゃんは、美貴と目を合わせないように下を向いた。

視線が集中して、居心地はもう最悪で、美貴は何も言わずにその場から逃げ出した。
157 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:06
最悪だ。
最低だ。
超恥ずかしい。
言い訳の言葉が全然出てこない。

一番近くの化粧室の個室に駆け込んで、頭を抱えて座り込む。

売り言葉に買い言葉だったかも知れないけど、思い返せば思い返すだけ、顔から火が出そうだった。

どうしよう。
どうしよう。
このあと本番なのに、まともに亜弥ちゃんたちの顔が見れないかも。

顔が見れないだけならまだしも、演技で失敗したらどうしよう。
完璧に覚えたはずの台詞が飛んだらどうしよう。
立ち位置間違えたらどうしよう。
158 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:06
畳み掛けるみたいに降って来る心配事の数々に気持ち悪さまで襲ってきて口元を押さえたとき、
個室のドアのむこうに人の気配がした。

「たん? ここにいるの?」

黙ってやり過ごすことだって出来たはずなのに、
唐突に亜弥ちゃんの声が聞こえたことで美貴はみっともないくらい慌ててしまって、狭い個室で尻餅をついてしまった。

「開けてよ」
「…ゃだ…」
「やだじゃねーよ、開けろって」

怒ってる声と一緒に、ごん、って強くドアをノックされて、美貴はおそるおそる施錠を解いた。
159 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:06
外側に開いたドアは亜弥ちゃんが入ってきたことでまた閉じられて。

座り込んでいた美貴をゆっくり立ち上がらせた亜弥ちゃんは、
言葉の出てこない美貴をじっと見つめたあと、溜め息と一緒に美貴を抱きしめてきた。

「…へいき?」

ぽんぽん、と背中にまわされた手で優しく撫でるようにゆっくり叩かれて。

昂ぶっていた焦りが、密着したところから流れ込んでくる亜弥ちゃんの体温と、
鼻先に届く亜弥ちゃん自身の匂いでゆっくりゆっくり、ほどかれていく。
160 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:07
「ごめん、ちょっと言い過ぎた」
「……ぅー…」

耳元で響く亜弥ちゃんの声が優しくて、肩に額を押し付けて亜弥ちゃんの腰に腕をまわす。

「悪気はないんだよ」
「わ、かってる…、けど」
「けど?」
「…でも、イヤだった」

ふ、と耳元で笑われて、恥ずかしさが戻ってくる。

思わず身を捩った美貴の動きを、亜弥ちゃんは腕のチカラを強めて封じ込んで。
161 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:07
「…ホント、オマエ可愛いなあ」

普通に、当たり前みたいに、なんでもないことみたいに言わないでほしい。

そんなこと言われたら…。

「…ほら、顔上げてみ?」

言われるままに俯き加減にさせていた顔を上げると、目が合った亜弥ちゃんは満足そうに笑ってた。

「たん、かわいい」

声が聞こえてすぐに、キスされた。

ゆっくり、なぞるように亜弥ちゃんの舌が美貴の唇の輪郭を滑る。
薄く開いたらすぐに歯列を辿られて更に入り込んでくる。
162 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:07
「…ゃ、ちゃ…」

重なる唇の隙間を縫うように亜弥ちゃんの名を呼ぶ。

呼んでいないと、意識が飛びそうだった。

「…たん」
甘い響き。

「好きだよ」
たった一言なのに、饒舌な感情の波。

「……美貴も、好き」

そう答えたあと、亜弥ちゃんはカラダを揺らして美貴から上体だけを離した。
163 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:07
何故離れたのかわからず首を傾げた美貴に亜弥ちゃんは小さく苦笑いして、
美貴の額に亜弥ちゃんの額を押し付けてきた。

「楽屋戻ろ? こんなとこじゃゆっくり抱き合えないよ」

抱き合う、という言葉に直結した思考が美貴の顔を熱くして、それを見た亜弥ちゃんの目が丸くなる。

「…あ、いま、えっちなこと考えたな?」
「ちっ、違うよ、そんなんじゃ…」

言い訳しようとして、亜弥ちゃんの口元がニヤニヤ綻んでいることがなんだか悔しい。
どんなに隠したって結局は読まれてしまうんだ。
164 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:08
「……じゃ、いっぱい、ちゅーしてくれる?」

美貴の手を取り、個室の鍵の施錠を解いていた亜弥ちゃんの耳のうしろに向かって呟くように言うと、
少し驚いたように振り向いた亜弥ちゃんが、美貴の顔を見て小さく笑った。

「言われなくても、それ以上のこともしてあげる」

ニヤリと下がった目尻と持ち上がった口の端。

やっぱエロオヤジじゃん、と思ったけど、それは言わないでおいた。
165 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:08


亜弥ちゃんに手を引かれながら楽屋のほうへ戻ると、さっきの場所にいた数人が、ホッとしたように美貴たちを見た。

わざわざ声を掛けてきたりはしなかったけど、
岡田ちゃんも三好ちゃんも表情には安堵が見えて、感情的になってしまったことを申し訳なく思った。

けど、戻ってきた美貴たちを顔を赤らめながら見ているふたりの表情は、
安堵よりももっと何か別のものが含まれているようで。

その様子がなんとなく気になったけど、
亜弥ちゃんは何も言わないまま美貴を楽屋に引き込んだから、追求することは出来なかった。
166 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:08


そして後日。
亜弥ちゃんのいない日に、岡田ちゃんが恥ずかしそうに、教えてくれた。

逃げ出してしまった美貴を茫然と見送る岡田ちゃんたちに向かって、亜弥ちゃんはこう言ったそうだ。


『ほんっと、たんは可愛いなあ』
『ね、可愛いでしょ? あたしのこと、好きで好きで仕方ないってすごいわかるよね』
『でもさ、どんなに可愛くても、そうじゃなくても、あれ、松浦のだから。誰にもやんないから』


聞いたときは、呆れて言葉が出なかった。

確かに普段からスキスキ言ってるのは間違いないけど、亜弥ちゃんだって、美貴のこと好きすぎだと思う。
167 名前:好きすぎてバカみたい 投稿日:2006/12/03(日) 23:08
でも…まあいいや。

今日は、舞台が終わったら電話しよう。
そんで、もっかいちゃんと言おう。

知ってる、って、絶対言うだろうけど、何回だって言ってやる。
呆れた声で「わかったよ!」って言われても、何回だって。

亜弥ちゃん大好きって。





end
168 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2006/12/03(日) 23:10


今年のミュージカルの合間のお話ってことで…(^^;)


>>131-142
たくさんのレス、本当にありがとうございました。
レス返しをまとめてしまってごめんなさい。
読んでくださった方々に「面白かった」って言ってもらえると、
本当に嬉しくて、励みにもなります。ありがとうございます。


GAMさんの紅白出場が決まり、年末はホクホクですね。
あ、そのまえにFNSだわ。にしし。

ではまた
169 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/12/03(日) 23:49
ハァ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ン!!!!!
170 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/12/04(月) 00:59
読んでいて、あまりのラブっぷりに
赤面しましたw
ホント最高です。ごちそうさまでした m( _ _ )m
171 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/04(月) 01:13
さすがです。最高だーっ。
大好きvv
172 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/04(月) 12:23
同僚達と昼食を取りながら読むんじゃなかった…。
どれだけ顔の緩みを抑えることに必死になったことか。
冷静さを装いながらも言わせてもらいます。

あやみきハァ━━━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━━━ン!!!!!!
173 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/05(火) 22:21
かわいい藤本さんも素敵ですが、男前まつーらさん素敵過ぎる!!!
174 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/12/05(火) 22:35
赤鼻さんハァ━━━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━━━ン!!!!!!
175 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/11(月) 22:35
女の子ミキティハァ━━━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━━━ン!!!!!!
176 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/23(土) 15:49
また2人のお話、お待ちしております。
177 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2006/12/26(火) 00:02
わあ、ハァ━━━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━━━ン!!!!!! がいっばいw

ちょいとお詫びを
今、ちみちみと書いてはおりますが年内はちょっと無理そうです。
年明けに更新できればよいな、と思ってますので、もうちょっとお待ちくださいませ。

ちょいと早いですが、皆様よいお年を。
178 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/01/01(月) 16:48
あけましておめでとうございます。
今年も赤鼻さんのハァ━━━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━━━ン!!!!!!なあやみきを楽しみにしております。
179 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 21:42
マッテマス!!
180 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2007/02/01(木) 00:51
更新します
181 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:51
「おつかれさまー」

まだ興奮覚めやらぬ歓声に包まれている中、
ステージを降りてきた亜弥を、既に着替えていた美貴が舞台袖で出迎えた。

「あれ? なに、アンタ、着替えちゃったの?」
「うん。待ってる間に汗とかかいちゃったらヤダなと思って」

スタッフに渡されたタオルで汗を拭っていた亜弥が、ジャージ姿になっていた美貴のその言葉に小さく笑う。

「…まー、あたしも、あの衣装で何時間も控え室で待ってろって言われたら、ちょっとイヤだけどね」

言いながら、アンコール時の衣装のままで亜弥は控え室へ向かう。
その亜弥を美貴は無言で追いかける。

脱いだ衣装をスタッフに渡し、追いかけてきた美貴に笑って見せただけで、亜弥はシャワールームに入った。
182 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:52
衣装を受け取ったスタッフがそれを持って控え室を去り、
部屋の外は夜公演に向けての準備に慌しい声が行き交い始めた。

美貴がシャワールームに目を向けるとすぐに聞こえてきた水音。

汗を流すだけだろうからそんなに待たされることはないだろうけれど、
舞台袖に設置されていたモニタ画面でコンサートを見ながら待っていた美貴にとっては、その数分すら長く感じられた。

「ねー、亜弥ちゃん」

水音にかき消されないように、少し大きめに呼ぶ。

「んー?」
「入っていい?」
「はあっ? って、もう開けてるし!」

返事を聞く前に扉を開けていた美貴に亜弥が鋭く突っ込みをいれる。
183 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:52
シャワーコックを捻って水音が消える。

何も身に付けていない姿を見るのも見られるのももうとっくに慣れているけれど、
美貴が醸し出す雰囲気に普段と違う何かを感じ取った亜弥の口元が僅かに戸惑いを孕む。

「5分も待てないの?」
「1分だって惜しい」

言うなり、亜弥の唇を奪いにゆく。

「キスだけでガマンするから」
「…バカ、当たり前でしょ」

シャワーの温水のせいか、それとももっと別の何かのせいか、亜弥の頬の色が鮮やかな朱色に染まっていく。
その亜弥の唇が紡ぐ甘い声に胸を鳴らしながら、美貴は少し強引に亜弥を抱きしめた。
184 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:52
「…濡れるよ」
「いいよ、衣装じゃないし」

触れ合う唇の隙間から反論を返す。

舌先で上唇を撫でると、美貴の肩に乗せられている手のチカラが弱まった。

歯列を辿って開かせ、顎を上向きにしたその口の中へ忍び込む。
含みきれなかった唾液が唇の端から零れて亜弥の顎に伝う。

肩に乗っていた亜弥の手は背中へとまわされ、
シャワールームの湿気から与えられた水分を含んだ美貴の髪に指を絡める。

唇を離した途端、美貴の肩に額を押し付けた亜弥の耳に噛み付くと、掠れた甘い吐息が漏れた。
185 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:52
「バカ、噛むな」
「だって、可愛い」
「…ね、ホント、許して…」

聞こえていても、もう一度噛む。

「…たん…、お願いだから、火、付けないで。…夜…、歌えなくなる…」

頬に朱が差したことで増した亜弥の艶やかさでかき立てられた激情を抑え込んで、
小刻みに震えはじめた亜弥の懇願に、美貴もさすがにそれ以上の深追いはやめた。

「…ごめん」

朱色に染まっている頬に唇を滑らせて、まだ何も身に付けていない亜弥をまた抱きしめる。

「嬉しすぎて、ちょっと余裕ないや」

ホッとしたように美貴の肩に頭を預けてきた亜弥が、美貴のその言葉に小さくカラダを揺らす。
186 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:53
「…嬉しい?」
「うん。亜弥ちゃんと同じステージに立つの、実は夢だったりしたんだよね」
「そうなの?」
「そうだよ。だって、ハローのステージとは全然違うじゃん。亜弥ちゃんと美貴だけなんだよ」

ほんの少し唇をとがらせて言った美貴に亜弥が目を丸くする。

それからゆっくり表情を和らげて、見ている美貴の胸がそれだけで高鳴るような笑顔になった。

「…それもそうだね」

告げてすぐに、亜弥が美貴の頬に唇を押し付ける。
そのままうっとりとした吐息を漏らして、美貴の耳に囁いた。
187 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:53
「……ねえ、たん?」
「なに?」
「…して?」
「え…、えっ? でも、夜が…」
「…うん、でも…、夜が終わるまで、たん、待てる?」

思わずカラダを離しかけた美貴を背中にまわした腕にチカラをこめて食いとめ、上目遣いで見つめながら亜弥が問う。

湯気と水滴で湿った髪。
潤いを含んだ唇。
この先の事態を思ってか、色艶を浮かべた瞳。

「……無理」

どんなときも、美貴は亜弥には、さからえない。

余裕のない声で短く呟いたあと、更に艶を帯びて綻んだ亜弥の唇を、美貴はいつもより少し強引に塞いだ。
188 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:53
「……ん…、ふ…」

呼吸をも奪う勢いで口付けたせいか、
亜弥の唇の端から漏れた吐息が少し苦しげに聞こえたけれど、気付かないフリでそのまま深く舌を捩じ込む。

含みきれなかった唾液が溢れて顎へと零れ落ちていくのを見遣って、
美貴はそっと、亜弥の胸を手のひらで包み込んだ。

柔らかなそのふくらみを、亜弥が感じるままに、
漏れ聞こえてくる吐息に熱が孕むまで、強すぎず弱すぎず揉みしだく。

反り勃つ胸の先を指の腹で強く押し返すと、亜弥のカラダがびくりと震えた。

胸を撫でていた手をカラダのラインに沿って下腹部へと滑らせ、少し開かれている足の間へと伸ばす。

しかし、触れようとして、美貴は自分の指先の状態を思い出し、慌てて引っ込めた。
189 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:53
「…たん?」

美貴のその躊躇に待ち受けていた亜弥が不安そうに声を漏らす。

「…ネイル、で…、傷つけちゃう…から」

亜弥を見ると、次第に昂ぶっていく熱のせいか頬が赤らんでいた。

「……じゃあ、舐めて…?」

熱を孕んだ息を吐き出しながら、亜弥は言った。

言われるまま、美貴はまだ少し水滴の残るバスルームの床へと膝を付き、亜弥の足の間へと顔を埋めた。
190 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:54
肩幅ほど開かれている足の付け根に舌先を這わすと、
指や手のひらとは違う感触のせいか、美貴の愛撫に対する亜弥の反応がそれまで以上に顕著になる。

「……っ、…ん…!」

けれど亜弥は唇を引き結び、声は出すまいと堪えていた。

まだこのあとに夜公演が控えている。
無理に声を出させて、喉を痛めて歌えない、なんて事態は絶対に避けねばならない。

しかし、膨らむ欲望は抑えようがなく。

美貴は、そっと亜弥の左足を持ち上げて自身の肩へ乗せ、
その行動に戸惑った亜弥の隙をつくように、彼女の中心へと唐突に舌を挿し込んだ。

「ひゃう…っ」

悲鳴のような短い声が聞こえ、それに自分でも気付いた亜弥が手で口を隠す。
191 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:54
声を噛み殺すようにしながらも頬に差す朱はそれだけで色艶を含み、
見ている美貴の体温を上げ、欲望を加速させることを亜弥は知っているのだろうか。

小刻みに震えるカラダを支えきれないのか、美貴の肩に乗せられている足の重みが増す。
それがわかっても構わず、美貴は更に奥へと舌を伸ばす。

「…ぁ…っ!」

狭く、湿気の多い浴室内に亜弥の堪えた声が反響する。

舌先を少し尖らせながら舐め上げるうちに、亜弥の息遣いが浅くなっていく。

「…た…、…も…っ、…だめ…っ」
192 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:54
限界が近いことをその言葉が伝え、それに煽られるまま、促されるままに、
迸る熱の具現のように溢れてくる蜜の入り口の少し上を、歯で噛むでもなく、舌で舐めるでもなく、そっと刺激する。

亜弥の、一番感じる箇所を。

「…あ…ぁ、……ぃ、く……!」

美貴の髪の中に差し込まれていた亜弥の指先がチカラを持ったまま小さく震え、
肉感的な色白のカラダが大きくしなる。

腰のあたりの小刻みな痙攣が鎮まるのを待って、美貴は、ゆっくり舌を引き抜いた。
193 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:54
「…亜弥ちゃん…」

全身を駆け抜けたであろう快感の余韻に浸っているのか、亜弥が上半身をゆっくりと美貴のほうへと倒してきた。
立ち上がりながら肩でそのカラダを支え、タイル貼りの壁に押し付けるようにしながら抱きしめる。

火照ったカラダにはタイルは少し冷たかったようで、
背中の肩甲骨あたりに少し触れただけでも、亜弥はカラダを揺らした。

「だいじょぶ?」
「……うん…」

まだ浅い呼吸の亜弥の耳元で囁くと、大きく息を吐き出したあと、うっとりした声が返ってきた。
194 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:54
「……気持ちよかった…」

聞こえてきた言葉に美貴は思わず目を見開いた。

直接的な感想を言われることは滅多になくて、その驚きと嬉しさとが一緒になって、美貴の心臓が大きく跳ねる。

「め、珍しいね、そういうこと言うの」

美貴の言葉に我に返ったのか、
肩に凭れるようにして預けていた顔を勢いよく上げると、亜弥は腕を突っ張らせて美貴から離れた。

「…そろそろ準備しなきゃ」

確かに、たった1曲とその後のMCにだけ登場予定の自分より、
このコンサートの主役である亜弥のほうが準備には時間がかかる。

でも、だからといって数秒前までの甘い雰囲気など素知らぬように背を向けられ、
途端に美貴の心には不安が湧き起こった。
195 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:55
何か怒らせるようなことをしただろううか。
それとも、さっきみたいな言葉は、思っても言わないほうがよかったんだろうか。

追いかけようと手を伸ばしかけて、脳裏に渦巻いたマイナス思考に、触れることが躊躇われる。

しかしその手が完全に落ちてしまう前に、不意に振り向いた亜弥が美貴の手を掴まえた。

「…亜弥ちゃん?」

無表情で見つめる亜弥に声が上擦る。

掴まれた手に、少しだけチカラが込められたとわかったとき、
ゆっくりその手は引き寄せられて、亜弥の唇が押し付けられた。
196 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:55
「……今日、終わったら、ウチ来るでしょ?」
「え…っ?」
「つーか、おいで」
「え? え? …亜弥ちゃん?」

唇を押し付けたまま美貴の指を見ていた亜弥の視線が上がる。

「帰ってから、続きしよ? 今度はあたしの番だよ」
「…っ!」

にやりと持ち上がった唇の端と、亜弥の言葉の意味することは容易く理解できて、美貴は一瞬で顔に血が昇った。

「気持ちよく、させたげるからね」

返事を返せない美貴をどう解釈したのか、
亜弥は口元をゆるめたまま口付けた指先にもう一度キスをして、するりと手を離し、浴室を出て行った。
197 名前:だって好きだもん 投稿日:2007/02/01(木) 00:55
まだ湿気や湯気の残るタイル貼りの浴室に、出て行った亜弥の声が途切れ途切れに聞こえてくる。

その声は、さっき自分の耳で聞いたばかりの色艶の含んだ声と
、誘う口振りでありながら美貴を内側から揺るがすようなものとはまた違っていて、
美貴は自身の口元を抑えながら、そこにへたり込んだ。

「……亜弥ちゃんのバカ…」
――――想像、しちゃうじゃんか…。

カラダで覚えた亜弥の指や肌や唇、そしてそれらの持つ熱のすべて。

たとえ見えなくても、それらがどれほど深く、強く、
美貴の全身に刻まれているのかを亜弥はまだ気付いていないのだろうか。

熱を灯し始めたカラダの芯の疼きを感じながらも、それを隠す術を心得ている美貴は、
熱を孕んだ息を吐き出し、亜弥を追うように浴室をあとにした。




end
198 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2007/02/01(木) 00:56



読んでくださっている皆様、あけましておめで…。<踏
ゲフンゲフン…
…ああ、もう2月なんですね…。年明けには更新、とか言いながら遅くなってしまって申し訳ございません。
今回は、DVDにもなった、亜弥コン秋、東厚生での、昼の部と夜の部の間のお話…みたいな感じで。
ツッコミどころもあると思いますが、目を瞑ってやってくださいませ…
199 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/01(木) 01:22
ハァ━━━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━━━ン!!!!!!


ごちそうさまでした・・・(´¬`*)
200 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/02(金) 00:20
作者さん天才!
201 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/02(金) 19:00
すてき…
202 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/03(土) 00:26
素晴らしい!
203 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/03(土) 02:27
久しぶりにドキドキした
204 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/03(土) 10:10
赤鼻さんがこーゆーの書くと雰囲気がものすごいエロい…。
それってやっぱり中の人がエロ(ry

失礼いたしました。次回作も楽しみにしております。
205 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/03(土) 10:11
メル欄なぜか上げになってたしorz
申し訳ありませんでした…。
206 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/03(土) 16:16
とにかくハァ――――――――*´Д`*――――――――ン!!!!!!!!
207 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2007/02/11(日) 18:21
更新します。
208 名前:そんなムード 投稿日:2007/02/11(日) 18:22
明日の仕事は午後からだし、亜弥ちゃんはオフって言ってたから、いつもよりゆっくりできるかな。

洗面所の鏡に自分を映しつつ、ぼんやりそんなことを考えながら歯磨きを済ませた美貴が寝室に戻ると、
亜弥はベッドの上にうつ伏せになりながら、なにやら厚めの雑誌を見ていた。

「なに読んでんの?」

美貴が戻ってきたことに気付いた亜弥がゆっくり顔を上げる。

「んー? 通販のカタロ、グ…、って重いよ」

最後まで答えを聞くより先に、美貴は寝転んでいる亜弥の背中へとカラダを乗せた。

本気の文句じゃないとわかる声色だったから、
退かずに亜弥が見ていたページを見ると、色とりどりの下着の紹介ページで。
209 名前:そんなムード 投稿日:2007/02/11(日) 18:23
「…亜弥ちゃんって、いつも通販で下着買ってんの?」
「いつも、ってこともないけどさ、たまに可愛いのがあるんだよね」

美貴を背中に乗せていてもさほど苦しげな様子も見せずに亜弥は答えた。

抵抗されないのをいいことに、美貴はそのまま、甘えるように亜弥に乗りかかった態勢でカタログのページをめくる。

「…あ、ホントだ、これ可愛い」
「うん?」

美貴の指したものに目を向けて、それから顔だけで振り向いて美貴の顔を見る。
目が合うと、亜弥は少し考えたような顔つきになって、それからにやり、と、口元を綻ばせた。
210 名前:そんなムード 投稿日:2007/02/11(日) 18:23
「…なんか亜弥ちゃん、やらしい顔してる」
「だって、やらしいこと考えたんだもん」
「はっ?」

美貴の声が裏返ったとき、唐突に亜弥がカラダを揺らして背中に乗っていた美貴の手を掴んだ。
いきなりで戸惑う美貴の隙をつくようにくるりと半回転して、ベッドへと押し倒す。

「あたしさ、いつも思ってたんだけど」
「な、なにを?」

一瞬にして立場も態勢も弱くなったことに気付いた美貴の声色にも困惑が滲む。

「あたしの知ってるアンタのブラって可愛いのばっかりだなあって。あれってひょっとして勝負下着とかいう?」
「な…っ」

何をバカな、と反論したいのに咄嗟に言葉が出てこないのは、
思いもしなかったところから事実を探り当てられたせいに他ならない。
211 名前:そんなムード 投稿日:2007/02/11(日) 18:23
「…詰まる、ってことは図星かあ」

ニヤニヤした笑いはますますその度合いを強めて、予想外に降ってきて煽られた美貴の羞恥心は高まるばかりで。

「……ほんっと、可愛いよね、アンタって」

恥ずかしくて堪らなくなって思わず目を閉じると、そんな言葉とともに美貴の額に柔らかな感触がした。

おそるおそる目を開くと、美貴の頭の右側で頬杖をつきながら美貴の顔を覗き込む亜弥が笑っていて。

その笑顔は、言葉を紡ぐどころか息を飲んだまま呼吸することすら忘れそうなほど綺麗で、
見ている美貴の喉が引き攣るようにかすかに震えて鳴った。
212 名前:そんなムード 投稿日:2007/02/11(日) 18:23
「……だっ、て…」
「なに?」

これ以上見つめ続けると、カラダの内側から競りあがってくるような熱で呼吸困難になりそうで、
美貴は軽く唇を噛みながら、腕をのばして亜弥の首にしがみ着いた。

「…ちょっとでも多く、亜弥ちゃんに可愛いって思われたいもん…」

言いながらしがみ着く腕のチカラを強めると、
美貴の耳のすぐうしろで亜弥が軽く息を飲んだのが振動で伝わり、そのあと細く息を吐き出したのもわかった。
213 名前:そんなムード 投稿日:2007/02/11(日) 18:24
「…ほんっと、オマエってヤツは」

呆れたようなそんな言葉が聞こえてすぐに、亜弥は少し強めのチカラで美貴を抱き返してきた。

「それで誘ってないとか言ったら殴るぞ?」

吐き出された言葉は乱暴だったけれど、
頭を浮かせて美貴の顔を覗き込んできた亜弥の口の端は、苦笑いのように、少し照れて緩んでいる。

「……痛いのはヤダな」
「てめ…、上等だ、こんにゃろー」

言葉に反比例した優しいキスを顔中に落とされ、美貴はうっとりと目を閉じる。

美貴の唇を離れた亜弥の唇が頬から喉元へと滑り落ちたとき、図らずも、
今日は一番のお気に入りの下着だったことを思い出した。



END
214 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2007/02/11(日) 18:24




ふと、
『寝転んで通販カタログを見てる松浦さんに乗りかかる藤本さん』
っていう構図が浮かんだので。
即興でエロもない短い話ですが、甘い雰囲気が伝われば幸いです。


>>199-206
たくさんのレスありがとうございます。
ageやsageは、お気になさらず。
ただ、ageちゃってもochiにはしないでくださいませ。

ではまたー。
215 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/02/11(日) 22:34
ハァ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ン!!!!!
216 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/12(月) 00:10
グハー
217 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/12(月) 02:26
ゴチ!
218 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/12(月) 21:54
ハァ━━━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━━━ン!!!!!!
最高…。
219 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/13(火) 00:33
ぐふッ ....
ハァ―――――*´Д`*―――――ン!!!!!!
220 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/13(火) 16:29
く、口から砂糖が…(;´Д`)
221 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/13(火) 19:30
はいはいハァ━━━━━━;´Д`━━━━━━ン !!!w
ごっつぁんでした!
222 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/20(火) 23:17
ニャーン!!!!!
みきてぃカワエエ…。
そりゃあややもたまらんわ。
223 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/04(日) 23:40
赤鼻さんのあやみきワールドには完敗ですw
224 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/03/17(土) 00:40
作者さん、お待ちしてます…
225 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2007/03/25(日) 23:53
更新します。
226 名前:メロウ 投稿日:2007/03/25(日) 23:54
3枚目のシングルのPV撮影の合間、休憩を兼ねて、亜弥ちゃんが再度進行表を確認する。

大きな目を少し伏せがちにしている亜弥ちゃんの横顔に、初めて見る表情でもないのに一瞬で釘付けになって、
目が離せないままそのまま見続けていると、視線に気付いたのか、不意に顔を上げてこっちを見た。

目が合って、思わず顎を引いたら、口の端が意地悪そうに持ち上がって。

「なに、あたしがあんまり可愛いんで見とれた?」

表情と同じくらい小憎たらしい言葉が出て、その意地悪そうな声色に反抗心も生まれたけど、
言い返してやりたいと思うよりも、彼女の言葉のほうが何よりも美貴の気持ちに近くて。

「……うん、見とれてた」

素直にそう言ったら、さすがにそれは予想外だったのか、
亜弥ちゃんは一瞬驚いたように目を見開いて、それから唇をへの字に結んだ。
227 名前:メロウ 投稿日:2007/03/25(日) 23:54
「…なに、直球だね」

喜ぶかと思ったのに何故か亜弥ちゃんは少し不服そうに言って、
美貴の言葉なんかまるで無視するみたいに、持っていた進行表をすいっと投げるようにテーブルに置いた。

「…ホントのことだもん」

怒らせるようなことを言ったつもりはなかったし、むしろ本心からの言葉だったから、
喜んでくれない亜弥ちゃんの態度になんだかムッとなって、返した美貴の声はちょっとだけ低くなったけど、
唇は真一文字に引き結んだまま、亜弥ちゃんがいきなり美貴に手を伸ばしてきた。

何をされるか読めなくて思わず身を引いても亜弥ちゃんは怯むことなく、美貴の衣装の帽子を上から押さえつける。

少し大きめの帽子はそうされるとツバの部分があっさり美貴の視界を隠してしまって、亜弥ちゃんが見えなくなった。
228 名前:メロウ 投稿日:2007/03/25(日) 23:55
「…何する…」

押さえつけられた帽子を持ち上げようとした手の手首を掴まえられる。

視界が遮られているせいで次の行動が読めずにいる美貴にわかったのは、
美貴の手首を掴んだ亜弥ちゃんの手の熱が思っていたよりも熱かったことだけで。

「…亜弥ちゃ…」

声が途切れたのは、キスをされたから。

ほんの一瞬、軽く触れるだけで美貴の声を奪って、続けてゆっくり、深く塞がれる。

自由だったほうの手をおそるおそる伸ばして亜弥ちゃんの肩に乗せると、キスはまた更に深くなって。

呼吸を飲み込まれそうなくらいの深いキスに思わず衣装のシャツを握り締めたら、
それに気付いたように、亜弥ちゃんがそっと離れた。
229 名前:メロウ 投稿日:2007/03/25(日) 23:55
「…あんま、煽るようなこと言わないでよ」

離れたあとで大きく息を吸い込んで、押し下げた帽子のツバを指先だけで持ち上げる。

「…どう、したの?」

目が合うと、亜弥ちゃんは少しだけ困ったような目をして、また顔を寄せてきた。

「……あんまり、見ないようにしてたのに」
「なに、を…?」

寄せられてくる亜弥ちゃんの唇が美貴の頬を滑る。

「…今回の衣装さ…、結構、キワどくない?」

すり、と頬を寄せられて、そのまま抱きしめられて。

「……いろいろ、想像しちゃって…」

亜弥ちゃんの言葉の意味を理解したとき、抱きしめるチカラが少し強くなったのがわかった。
230 名前:メロウ 投稿日:2007/03/25(日) 23:56
「……亜弥ちゃん、やらしー…」
「…言わないで…。自分でもちょっと、オヤジっぽくて自己嫌悪してるから」

溜め息混じりの困惑声が、美貴に少し余裕をくれる。
同時に、嬉しい気持ちでココロが満ちていくのがわかった。

「…へへ」

抱きしめてくる亜弥ちゃんの肩に額を押し付けながら背中に腕をまわす。

「? なに?」
「ううん。…可愛いなあって」
「……だから、煽るようなこと言うなって」
「亜弥ちゃん可愛い」
「…たん〜」
「だいすき」

瞬間、密着してる亜弥ちゃんの体温が上がるのがわかった。

「……知ってるっつの」

抱きしめてくれる亜弥ちゃんの腕は、少し突き放すような言葉とは裏腹にとても優しい。
231 名前:メロウ 投稿日:2007/03/25(日) 23:56
「…ねえ、亜弥ちゃん」
「なに」

肩に頬をすり寄せながら、込み上げてくる感情のまま息を吐くように声を出した。

「もっかい、キスして?」

瞬間、亜弥ちゃんのカラダが強張った。

呆れたように、「だから煽るなって言ってるでしょ」なんて亜弥ちゃんは溜め息をついたけど、
それでも美貴が上目遣いで見上げたときには、ちょっと困ったように眉尻を下げて、優しく、キスをしてくれた。





END
232 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2007/03/26(月) 00:01




自分でもよくわからん話になってしまいました…_| ̄|○


>>215-224
たくさんのレスありがとうございます。
ハァ━━━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━━━ン!!!!! がいっぱいで嬉しいですw
GAMツアーも決まり、アルバム発売も決定。うっはうはー。
今年の夏は大忙しになりそうですが、
このスレでは、適当に、のんびり書いていけたらいいな、と思っておりますので、よろしくお願いいたしますです。

ではまたー。
233 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/26(月) 03:18
んはーハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ンですよ!
ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン以外の何者でもない!!!!
ごちそうさまです!!
もうハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ンなんでs(ry
234 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/26(月) 22:52
誘い受けティハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!
耐えろ!耐えるんだ松浦!!!
自分は赤鼻さんのあやみきにハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ンを耐えられませんw
235 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/27(火) 00:27
やっぱり赤鼻さんのあやみきにはハァ━━━━━;´Д`━━━━━ン !!!
ご馳走様でしたw
236 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/30(金) 02:20
やっべぇー!
これはマジでやべーです
237 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/04(水) 00:48
このえろおy

松浦さんはしんぼうたまらなくなったらこうなってるのですね
ァヤ━━━━从; ‘ 。‘)━━━━ン
238 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/04(水) 08:55
我慢あややハァ━━━━ *´Д`* ━━━━ン
もう亜弥ちゃん我慢しないでいっちゃいなYO!!

この忍耐が積もり積もって爆発したときにはあややは鬼のよ(ry
239 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/06(金) 02:03
ハァ━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━ン!!!
なんですかこんなに素敵な小説は!!!
てか続きが見た(ry
作者さんマジでサイコー!! ごちそーさまでしたw
240 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/15(日) 18:57
ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン

あややもうやっちゃっ(ry
241 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 00:03
サイコーすぎます
更新待ってます
242 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/22(金) 00:08
待ってますから
243 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/13(金) 17:12
待ちます
244 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/29(水) 01:36
やべーやべー
作者さんの作品やべー

ごっつぁんです
次も待ってます
245 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/30(木) 00:15
待ってます !!!!!!!!!!!!!!
246 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/02(日) 22:23
興奮しててもメール欄にsageって書こうね
色々あってこそのあやみきだと思ってるんで
また妄想溢れたらupしてやって下さい
247 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2008/01/02(水) 23:08
更新の目処はありませんが、一応自己保全
更新したらageますので、無闇にageレスしないでいただけたら幸いです

248 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/11(月) 13:21
まだまだ待ちますよ!
249 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/22(土) 00:31
あきらめずに待っています
250 名前:I 投稿日:2008/04/15(火) 06:06
久しぶりに全部読み返しました。
首を長くしてお待ちしております。
251 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/26(木) 15:58
久しぶりにあやみき読みました。
元々作者さんのあやみきが大好きです。また読めると嬉しいです。
252 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/09(水) 00:25
作者さんのあやみきめちゃくちゃ好きです!!

待ってます
253 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/27(日) 23:28
作者さんのあやみき大好きです。更新待ってます
254 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2008/12/19(金) 00:19
更新します。
とんでもなく季節はずれなネタです、ご了承ください。
255 名前:person such as the sunflower 投稿日:2008/12/19(金) 00:19
「ただいまー」

美貴が、まるで自分の家に帰ってきたみたいに合いカギを使って上がり込むのはいつものことだ。
事前に連絡をもらっていたので、玄関チャイムが鳴らなかったのに玄関が開いても、亜弥はさほど驚かなかった。

「おかえり、遅かったじゃん」

いつものように答え、リビングのソファの上から玄関口に向けて声を掛けてすぐ、美貴の姿が見えた。

「ちょっと道混んでた」
「タク?」
「んにゃ、地下鉄」
「どこで渋滞すんだよ、テメー」
「にひひ」

美貴の言い訳は、いつも他愛なくて憎めない。
悪気があっての遅刻じゃないとわかってるから、亜弥もそれ以上は咎めない。

と、その美貴が持っていた白の不透明な袋が亜弥の目にとまった。
コンビニに寄って何か買い物をしてきたにしてはずいぶん小さなビニール袋だ。
256 名前:person such as the sunflower 投稿日:2008/12/19(金) 00:20
「何持ってんの?」

荷物を置こうとした美貴の背中に問いかけたら、振り向いた美貴が袋をひょいと持ち上げた。

「これ?」
「うん」
「種」
「たね?」
「うん。ヒマワリの種」
「ヒマワリ? なんでまた」

もっともな疑問を投げかけたら、美貴は嬉しそうに笑って亜弥の隣に勢いよく腰を下ろした。

「亜弥ちゃん知ってた? ヒマワリって5月の後半くらいに植えても夏には咲くんだよ」
「うっそ、そんなに早かったっけ?」
「うん、花屋さんが教えてくれた。植え方とかいろいろ」
「へーえ」
「ここに来る途中の花屋さんで、店の入り口にヒマワリの種売ってるって書いてて、
 なんか懐かしくなってさあ、思わず10個も衝動買いしちった」

鼻歌混じりに袋の中を探った美貴が小さな紙袋をいくつか取り出す。
大きく花開いたヒマワリがプリントされているそれを眺める美貴の口元は言葉どおりに綻んでいる。
257 名前:person such as the sunflower 投稿日:2008/12/19(金) 00:20
「懐かしい? 小学校のころのこととか思い出したの?」
「あー、やったね、そういえば。亜弥ちゃんとこはアサガオ?」
「うん。…で? 子供のころが懐かしくなったって?」
「ん? ああ、違う違う。亜弥ちゃんと初めて会ったときのこと思い出したんだよ」
「あたし?」

亜弥のほうにようやく振り向いた美貴が、子供みたいに嬉しそうに笑う。
その笑顔に亜弥がどきりと胸を鳴らすと、まるでそれを聞いていたかのように亜弥の膝へと上体を倒した。

「美貴さ、初めて亜弥ちゃん見たとき、ヒマワリみたいな子だなあって思ったんだよね」
「あたしが? ヒマワリ?」
「うん。なんかー、眩しく感じたの。キラキラしてて、すごい健康的で、太陽みたいだなーって」

えへへ、と照れくさそうに肩を竦めて笑った美貴が上目遣いで亜弥を見上げる。
258 名前:person such as the sunflower 投稿日:2008/12/19(金) 00:20
「…その言い方だと、今のあたしはそんな面影ないって聞こえるんだけど?」
「あっは、そりゃもう何年だ、えーと…、ろく? いや、なな、だっけ? 7年もたてばねえ」
「老けたって?」
「いえいえ、そんな、滅相もない」

悪戯を仕掛けているときに見せる含み笑いの口元が憎らしくて、亜弥はその薄い唇を摘みあげる。

「…この口か。この口が言うんだな?」
「ちょ、イタイ、イタイイタイ」

両手を挙げて降参を示されたのですぐに手を離すと、美貴が指で自分の唇を撫でた。

「もー、最近の亜弥ちゃん、口より先に手が出るんだから」
「アンタがそういうこと言うからでしょ」

上目遣いのまま唇を不服そうに尖らせる美貴に、亜弥は細く息を吐き出してゆっくりと前髪を撫で上げた。
259 名前:person such as the sunflower 投稿日:2008/12/19(金) 00:21
「…で? それどうすんの」

まだ美貴の手にある小さな紙袋を顎で指し示すと、美貴の口元が次第に綻び始めた。

「植えるんだよ、もちろん」
「植える?」
「うん、庭はないからベランダで植木鉢になっちゃうけど、ここは広いからたくさん置いても平気だよね」
「…ちょっと待て。ここって何。あたしんちで育てるつもり?」
「そうだよー。だって美貴のとこ、ベランダないもん」
「ちょっ、嫌だよ、ダメ! 絶対ダメ!」
「うぉわっ」

想像して即座に背筋に悪寒が走り、思わず亜弥は立ち上がる。
その勢いで、亜弥の膝に頭を預けていた美貴もソファから転げ落ちた。

がたん、と、やや大きめの音がして、美貴が腰をさすりながら床にあぐらをかく。

「ちょっとぉ、急に立たないでよー」
「ダメ、ダメダメダメ、ぜーったいダメ!」
「なんでさー」

あぐらをかいたままで美貴が頬を膨らますと、亜弥は苦虫を潰したような情けない顔になった。
260 名前:person such as the sunflower 投稿日:2008/12/19(金) 00:22
「…だって、虫が出る」
「ベランダに出しとくから平気だって」
「簡単に言うな! だいたい、いくら三ヶ月やそこらで咲くって言っても、水やりとか肥料とか必要じゃん!
 そもそも、ウチのベランダに置いとくってことは要はあたしが世話するってことじゃないのっ?」

それまでどこか飄々とした雰囲気で亜弥を見上げていた美貴だったけれど、
その剣幕に気圧されたのか、それとも意識の甘さを自覚したのか、ゆっくりと頭を項垂れさせた。

「…ふたりで、育てるつもりだったんだけど」

美貴の声色に急に元気がなくなって、亜弥はハッとした。
自分の口調が乱暴なのは今更だとは思うが、嫌悪が先に立っていつも以上に感情的になっていたことにようやく思い至った。

「…でも、うん、そっか、そーだよね、亜弥ちゃん、虫ダメだったの忘れてたわ」

声色の弱さがそのまま美貴の気持ちを投影しているようで亜弥はますますいたたまれなくなる。
261 名前:person such as the sunflower 投稿日:2008/12/19(金) 00:22
思ったことをすぐ口にしてしまう自身の欠点を猛省しながら、俯き加減になった美貴の頭にそっと手を伸ばす。

ためらいながらもそっと撫でると、気付いた美貴がゆっくり頭を上げた。

口元は柔らかく微笑んでいたが、
亜弥の好きな、少し意地悪そうな笑顔ではないことがまたさらに亜弥を申し訳ない気分にさせる。

「…そんなに植えたい?」
「ん? あー、いや、いいよ、別に」
「でも、そのつもりで買ってきたんでしょ」
「そりゃね。…けど、どっちかって言うと懐かしくて衝動買いってのが近いよ」

それは、亜弥と美貴の間に今まで起きた出来事を思い出したから、という意味にもとれて、
そう思った途端、亜弥の胸の奥のほうが締め付けられるような軋んだ音をたてた。

「残念だと思うけど、でも、亜弥ちゃんが嫌なら、もういいよ」

そう言って、美貴は種をビニール袋の中に戻す。
その安っぽい音が余計に居心地悪い気分にさせて、それを振り払いたくて、亜弥は美貴の髪を軽く引っ張った。
262 名前:person such as the sunflower 投稿日:2008/12/19(金) 00:23
「ん?」

痛くはなかったはずだが、振り向いた美貴は少し不審そうに眉根を寄せていた。
けれど亜弥を見て、一瞬だけ目を丸くして、それから小さく笑ってみせる。

「気にしなくていいのに」
「…べつに」
「ふうん?」

見透かされたような返事の声に今度は悔しさが競り上がってきた。

髪を引っ張った手で肩を掴み、ソファに座った自分のもとへと引き寄せる。
そうされることは承知していたのか、特に抵抗もなく亜弥のもとに落ち着いた美貴が、亜弥より先にその唇を奪った。
263 名前:person such as the sunflower 投稿日:2008/12/19(金) 00:23
「…なによ、急に」
「ん? そういやまだ、ただいまのちゅーをしてなかったなーと思って」
「…なに言ってんだか」

興味なさげに返しても美貴は何も言わず笑ったままで、もう一度亜弥の唇を塞ぐ。

軽く押しつけるだけのキスを何度か繰り返してから、舌先で唇の端を舐めて唇を開くよう促す。
促されるままに開くとすぐに歯を割って中へと入り込んできて、自然と顎が上向きになった。

より深くなる口づけにお互いの呼吸も次第に乱れ始め、含み切れなかった唾液が唇の端から零れる。

それを舐めとって美貴の顔を見ると、その瞳は妖しく艶めいていて、亜弥の心音が一際跳ね上がる。

けれどそれを表面には出さないまま、自分の背中に美貴が腕を回すのを待ってから、
亜弥は、ゆっくりと美貴のそのしなやかなカラダをソファへと横たわらせた。
264 名前:person such as the sunflower 投稿日:2008/12/19(金) 00:23

265 名前:person such as the sunflower 投稿日:2008/12/19(金) 00:24
関節に鈍い痛みを感じて、亜弥は目を覚ました。
どうやらあのまま床でふたりして眠ってしまったらしい。

脱いで脱がした衣服があちらこちらに散らばっていて、
その散らかり具合が情けないやら恥ずかしいやらで思わず声もなく笑ってしまった。

態勢を変えようとそっと起き上がったら、テーブルの上に置きっぱなしになっていた小さなビニール袋が目に止まった。

そこから覗く、大きく花開くヒマワリの写真に亜弥の胸がちくりと痛む。

隣で心地よさそうに寝息を立てながら上下する肩をそっと見やり、起こさないように寝顔を隠す前髪を指先で払いよける。

『ヒマワリみたいな子だなあって』

不意に美貴の声が脳裏にこだまして、亜弥は思わず苦笑する。

「…オマエがヒマワリだっつーの」

美貴は亜弥をヒマワリのようだったと言うけれど、亜弥にとっては今でも美貴が『ヒマワリ』だった。
健康的で、真っすぐで、淀みがなくて、太陽のように眩しくて、キラキラしていて。

昔も今も、亜弥には美貴が太陽だった。
266 名前:person such as the sunflower 投稿日:2008/12/19(金) 00:24
種をビニール袋の中に戻したときの美貴の淋しそうな横顔を亜弥は見逃してはいなかった。
あんな顔をさせてしまったことがひどく胸に苦しい。

だから、そのとき決めた。
嫌悪なんてあっという間に吹き飛んだ。
美貴に淋しそうな顔をさせるほうがもっともっと嫌だったからだ。

きっとびっくりするだろうけれど、心配そうに遠慮顔もしてみせるかも知れないけれど、
それでも最後にはきっと意地悪く、でも亜弥が好きなその顔で笑ってくれるだろうから。

美貴が目を覚ましたらすぐに言葉にできるように、亜弥は口の中で同じ言葉を何度も繰り返した。
そのとき見せる、美貴の顔をあれこれと想像しながら。



『植木鉢、何個買う?』






END
267 名前:赤鼻の家政婦 投稿日:2008/12/19(金) 00:25



約一年半ぶりの更新ですが、今回の更新で、このスレでの最終更新といたします。
あと、赤鼻の家政婦名義で小説を書くことも、これで最後になります。
今までたくさんのレスをいただき、本当にありがとうございました。
268 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/20(土) 02:26
赤鼻さん・・
いままでたくさんありがとうございました
269 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/20(土) 08:46
そこをなんとか!と言いたいとこですが
また1から読み直してまた感動しました
ありがとうございました
270 名前:I 投稿日:2008/12/20(土) 18:10
赤鼻の家政婦さん
今までたくさんの作品を生み出してくれて
本当にありがとうございました。
改めて全作品を読み返したいと思います。

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