うさぎの王子様
- 1 名前:七作 投稿日:2006/09/24(日) 03:19
-
今回も石川さん絡みの短編予定です。
前スレ「恋するうさぎ」
ttp://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/wood/1142152483/
- 2 名前:七作 投稿日:2006/09/24(日) 03:19
-
ひらりひらり。
プリーツスカートが恥ずかしげに揺れる。
レンガ造りの下り坂。
足取りが軽いのはこのせいだけじゃない。
もうすぐ、あともうちょっと。
そこのカーブを曲がったら。
- 3 名前:路面電車 投稿日:2006/09/24(日) 03:20
-
路面電車
- 4 名前:路面電車 投稿日:2006/09/24(日) 03:20
-
「おっ、おまたせっ!」
息を切らしてやってきた私にあなたは少し苦笑い。
「急いできたの?」
汗かいてる。
そう言って、あなたはブレザーのポケットからハンドタオルを出して、私の額に当てる。
「だって、ごっつぁんをまたせちゃったらいけないと思って。」
「時間ぴったりじゃん。ごとーだって今来たとこだよ。」
やさしく私の頬にタオルを押し当てるあなた。
「はい、終了。」
「ありがと。」
「梨華ちゃん、やっぱセーラー似合うね。」
「え?」
にこにこ笑うごっつぁんは紺色のブレザーと赤いスカートの制服。
三年前、私達は高校はそれぞれ違うところに進学したのだ。
「どうしたの?いきなり。もう三年も私はこの制服着てるよ。」
「そうだけどさ。なんか急に言いたくなった。」
さ、行こっか。
彼女が歩き出したので、私は慌ててその後を追った。
- 5 名前:路面電車 投稿日:2006/09/24(日) 03:20
-
久しぶりにごっつぁんとお出かけ。
受験や何やらでなかなか時間が合わなかったから。
それでなくとも違う学校に通っていて、友達がたくさんいるごっつぁん。
ようやく今日、二人の予定が合って、学校帰りに待ち合わせ。
買い物でも行こうかと昨日の夜メールで決めたので、私達は駅に向かう。
大通りを二人で話しながら歩く。
別にたいした話をしてないのに、なんでこんなに楽しいんだろう。
ごっつぁんもそう思ってくれてるとうれしいんだけどな。
- 6 名前:路面電車 投稿日:2006/09/24(日) 03:21
-
がたんごとん・・・
電車の音がして、私は振り向く。
遠くから電車が見え、こっちに向かってる。
駅は目の前。
ちょうど信号は青。
「ねぇ、ごっつぁん、電車来たよ。走ろ?」
私が走り出そうとすると、がしっと腕を?まれた。
「ごっつぁん?」
「すぐにまた来るから。」
だからさ、ゆっくり歩いていこう。
あなたが笑ってそう言うから。
私は黙ってうなづいた。
- 7 名前:路面電車 投稿日:2006/09/24(日) 03:22
-
私の腕を?んだ手はゆっくりと離れ、そして私の手をぎゅっと握る。
「まだ時間はたくさんあるよ。」
「うん。」
私はごっつぁんの手をしっかり握り返した。
- 8 名前:路面電車 投稿日:2006/09/24(日) 03:22
-
がたんごとん がたんことん
路面電車はゆっくり進む。
急ぐことなくマイペースに。
私達を乗せて未来まで。
- 9 名前:路面電車 投稿日:2006/09/24(日) 03:23
-
END
- 10 名前:七作 投稿日:2006/09/24(日) 03:23
-
* * *
- 11 名前:七作 投稿日:2006/09/24(日) 03:25
- 昨日は後藤さんの誕生日でした。
というわけで、急遽書かせてもらいました。
後藤さん、お誕生日おめでとうございます。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/25(月) 02:54
- なんかいい空気感の二人ですねぇ。
もし続きがあれば、またぜひ読みたいです。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/25(月) 22:22
- 前スレから追っかけて来ました♪
あったかくて良いですね。
また次回作も楽しみにしています!
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/26(火) 20:25
- 新スレ立ってたんですね!更新お疲れ様です。
この作品のごっちんいいなぁ。こういう人になりたいかも。
- 15 名前:夏の終わり 投稿日:2006/10/09(月) 00:00
-
夏の終わり
- 16 名前:夏の終わり 投稿日:2006/10/09(月) 00:00
-
なぜあたしはここにいるんだろう?
ちらりと隣の人を見て思う。
黙ってればきれいなんだけどなぁ。
でもあたしのライバル。
あたしは今、公園のベンチに藤本さんと座ってる。
- 17 名前:夏の終わり 投稿日:2006/10/09(月) 00:01
-
携帯で、メールじゃなくて電話で呼び出された。
着いてみれば藤本さんは機嫌悪そうにベンチに座っていた。
「いきなりどうしたんですか?」
もしかして梨華さんに振られたとか?
それだったら恋敵のあたしに言いたくないか。
「とりあえず座んなよ。」
「はぁ。」
あたしは藤本さんの隣に少しだけ間を空けて座った。
- 18 名前:夏の終わり 投稿日:2006/10/09(月) 00:01
-
「まこと、ほんとなの?」
少し経ってから藤本さんが口を開いた。
「何がっスか?」
「外国に行くって・・。」
「あぁ、そのことですか。」
私は暗くなりつつある空を見つめる。
「急に父の転勤が決まったんです。で、家族みんなでニューヨークに行こうってことになって。」
「そう、なんだ。」
「あたし、勉強できないけど、英語だけは好きだったから。語学留学してみたいなぁって思ってたんでよかったですよ。」
「さびしくないの?」
なんだかすっごく淡々としてるじゃん。
そう言われてあたしはふぅーっと息を吐いた。
「さびしいですよ、そりゃ。」
のんちゃんとも、梨華さんとも離れてしまうし。
でも、夢と言えるかもしれないものを見つけ、その夢に一歩近づけるかもしれないチャンス。
あたしはそのチャンスを逃したくないって思ったから。
一人日本に残ることもできたけど、あたしはニューヨークに行くことを決めた。
- 19 名前:夏の終わり 投稿日:2006/10/09(月) 00:01
-
「梨華ちゃんには言ったの?」
「言いましたよ、のんちゃんと梨華さんに。」
「何だって?」
「さみしくなるって泣かれました。」
「梨華ちゃん、まことのことかわいがってたからね・・。」
自惚れではなく梨華さんはあたしのことをかわいがってくれてたと思う。
「美貴もさみしい。」
「ライバルが一人減って清々するんじゃないですか?」
「ライバルがいるからこそ燃えるってこともあるの。」
「そっスか。」
- 20 名前:夏の終わり 投稿日:2006/10/09(月) 00:02
-
「まことがあっちにいる間、梨華ちゃんのこと捕っちゃうよ。」
「別にうちらの中で抜け駆け禁止なんて約束なかったじゃないですか。」
「梨華ちゃんと美貴がラブラブになってても知らないから。」
「大丈夫です。英語ペラペラなかっこいいあたしを梨華さんは選んでくれますから。」
「ずいぶんな自信だね。」
「それは藤本さんの方でしょ?」
「とりあえずはさ。」
「はい。」
「梨華ちゃんを狙う奴がいたら、美貴がやっつけとくから。」
「藤本さんが一睨みすれば一発ですね。」
「まこと言うじゃん!」
「本当のことですから。」
二人は顔を見合わせ笑う。
- 21 名前:夏の終わり 投稿日:2006/10/09(月) 00:02
-
「がんばんなよ。」
「はい。藤本さんも。」
ライバルだけど戦友。
たぶんあたしと藤本さんはそんな関係なのかもしれないとそのときふと思った。
- 22 名前:夏の終わり 投稿日:2006/10/09(月) 00:03
-
* * * *
- 23 名前:夏の終わり 投稿日:2006/10/09(月) 00:03
-
「ねぇ、ほんとに行っちゃうの?」
「のんちゃん、それもう何回も聞いたよ。」
今にも泣きそうなのんちゃんに苦笑いするあたし。
本日、あたし、小川麻琴はニューヨークへ旅立つ。
空港まで見送りに何人かのクラスの友達、親友ののんちゃん、梨華さん、そして藤本さんが来てくれた。
みんなが餞別や一言言葉をかけてくれる。
泣きそうになってるけど、あたしは泣かないと決めていた。
もう会えなくなるわけじゃない。
きっとまたあたしは戻ってくるから。
ひとまわりもふたまわりも大きくなって。
- 24 名前:夏の終わり 投稿日:2006/10/09(月) 00:04
-
「まこと・・・。」
「梨華さん。」
梨華さんはぼろぼろ泣いていた。
その姿に胸がぎゅっと締め付けられるようだった。
「か、体に・・気をつけて・・ね・・・。めーる・・・ちょうだいね・・。」
「はい。梨華さんもお元気で。」
「まことぉ!!」
梨華さんがあたしに抱きついた。
「まことがいなくなってさみしいよ・・。」
「あたしもです。でも絶対に帰ってきますから。」
だからそのときは・・。
あたしは梨華さんの額にちゅっと口付けた。
「・・まこと・・。」
「ホームシックになって戻ってくんなよ。」
「藤本さんじゃないんですから。」
「美貴はんなことしないっつーの。」
ふいっと横を向く藤本さん。
「もしかして泣いてます?」
「バカ!誰が泣くか!!」
目じりにちらっと見える涙、今は見逃しておこう。
- 25 名前:夏の終わり 投稿日:2006/10/09(月) 00:04
-
そろそろ飛行機に乗る、と親に言われ、あたしはかばんを持つ。
みんなが口々にまこと、がんばって、元気でね、と言ってくれている。
あたしはみんなに向かって笑顔で言った。
「では、小川麻琴、元気にいってきまぁーっす!!」
いつかまたみんなに会えるそのときまで。
- 26 名前:夏の終わり 投稿日:2006/10/09(月) 00:04
-
END
- 27 名前:七作 投稿日:2006/10/09(月) 00:05
-
* * *
- 28 名前:七作 投稿日:2006/10/09(月) 00:13
- 少し季節は前ですが・・。
前スレの484-505の「夏休み残り2週間」の続きです。
続きらしくはないのですが。
小川さんの卒業のコメントを何かで見て、どうしても書きたくなってしまいました。
コメント、ありがとうございます。
>12様
機会があればぜひ書きたいと思います。
>13様
追っかけて来ていただいたとは!
ありがとうございます。とてもうれしいです!
今後もよろしくお願いします。
>14様
この話の後藤さんは自分で書いてても好きだなぁと思います。
せっかち石川さんとマイペース後藤さんという組み合わせは結構好きだったりします。
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/14(土) 19:24
- なんか寂しいね、やっぱ。
この物語もこれで完結でしょうか?
またモテ梨華の話を読みたいです。
次回の更新も楽しみに待っています。
- 30 名前:しょうがない。 投稿日:2006/10/22(日) 18:33
-
しょうがない。
- 31 名前:しょうがない。 投稿日:2006/10/22(日) 18:34
-
どうしてあの子だったんだろう。
いつも思う。
どうして?どうして?って。
でも結局行き着くところは同じなの。
あの子のことが好き。ただそれだけ。
- 32 名前:しょうがない。 投稿日:2006/10/22(日) 18:34
-
「辛くない?」
「辛いよ。」
私のこの恋心を唯一知っているよっすぃはときどきそう尋ねる。
「でもしょうがない。」
そしていつも私はそう答える。
「梨華ちゃんってさ、負けず嫌いで頑固で、仕事に関しては諦めるってことをしないくせに、恋愛ごとになると簡単に諦める。」
「だってしょうがないんだもの。」
あの子には恋人がいる。
けれども好きという気持ちを捨てられない自分がいる。
だからしょうがない。
- 33 名前:しょうがない。 投稿日:2006/10/22(日) 18:34
-
「私さ、無邪気に笑ってる顔が好きなの。」
特に彼女の隣にいるときの顔が。
「私ってば重症じゃない?」
「うん、相当ね。」
よっすぃは困ったように笑う。
あんな風に楽しそうに幸せそうに子供みたく笑ってる顔は私には引き出せないから。
最近、同じユニットや仕事をして前よりも接することが多くなったとしても、いくら仲良くなったとしても、あの子の隣のポジションはもう埋まってる。
- 34 名前:しょうがない。 投稿日:2006/10/22(日) 18:34
-
いつからなんて分からなくて、いつのまにか私の中に居ついたこの想い。
気づきたくなんてなかった。
気づいてはいけなかった。
知らない間にすーっと何もなかったように消えてしまえばよかったのに。
なのに、あの子が笑う、その姿に胸がどくんと高鳴って。
私はあの子が好きだと気づいてしまった。
- 35 名前:しょうがない。 投稿日:2006/10/22(日) 18:35
-
「告白しないの?」
「しないよ。」
振られることが分かっているそんな負け試合にのこのこと私は参加できない。
このままじゃ前に進めないと分かっていても、自分の中にあるちっぽけなプライドと大きな恐怖心が私にけじめをつけさせない。
だから私にできることは。
この自分の想いをあの子に気づかれないようにすること。
そして、私の中から消してしまうこと。
簡単なことではないけれど。
「なんか梨華ちゃんと見てると悲しくなってくる。」
「どうして?」
「なんか楽しそうじゃないから。」
「恋愛って楽しいだけじゃないよ。」
この世の中にはたくさんの報われない恋がある。
成立する恋はそんな報われない恋の犠牲の上に成り立ってるの。
- 36 名前:しょうがない。 投稿日:2006/10/22(日) 18:35
-
「しょうがないよ。私の恋は叶わない恋だったの。」
「梨華ちゃんって結構ひねくれてる。」
「うん、私も思う。」
私が笑うと、よっすぃは泣きそうな顔になった。
繊細で敏感なよっすぃ。
「よっすぃはやさしいね。」
「・・よく言われる。」
「それはそれは。」
私は立ち上がる。
「そろそろ行くね。」
「うん。」
私は鞄を手にドアへ向かう。
そして開けようとしたとき、梨華ちゃん、と呼ばれた。
「何?」
振り返るとよっすぃは穏やかに笑っていた。
「いつでも話くらい聞いてあげるからさ。」
「・・・ありがと。」
- 37 名前:しょうがない。 投稿日:2006/10/22(日) 18:36
-
この後の仕事、あの子と一緒じゃん。
廊下を歩きながらふと思い出して私はため息をつく。
気づかれないように、気づかれないように。
心の中で呪文のように何度も繰り返す。
恋をするって何でこんなに辛いんだろう?
いっそのこと恋心なんてなければいいのに。
そんな無理なことを思って、私は首を振る。
- 38 名前:しょうがない。 投稿日:2006/10/22(日) 18:36
-
ねぇ、いつか。
私にも恋人ができて、このときの想いがきれいな片思いの思い出になったら。
そのときは、あの子に実は好きだったんだよって言ってみよう。
驚いてくれたら大成功じゃない。
だから今は“しょうがない”を繰り返して。
この想いに鍵をかけて。
それが今の私の恋なの。
- 39 名前:しょうがない。 投稿日:2006/10/22(日) 18:37
-
END
- 40 名前:七作 投稿日:2006/10/22(日) 18:37
-
* * *
- 41 名前:七作 投稿日:2006/10/22(日) 18:42
- この話には実はもう一つ、全く違う結末を考えてもいました。
ただ最初に書こうとなったときのイメージが今回のラストだったので、少し暗くなってしまいました。
次回は明るい話を書けたらいいなと思います。
>29様
できればこのシリーズのものをあと一作書いてみたいという気持ちがあります。
いつかのせられたらと思いますので、そのときはよろしくお願いします。
モテ梨華に関しましては、違う設定のもので書きたいなぁと思っているものがあります。
完成しましたらそちらもよろしくです。
- 42 名前:Liar 投稿日:2006/10/22(日) 23:59
- なんともいえないこの感じ…。
切ないですね。
お相手は…あの人かな?
作者さんの文章大好きです!頑張ってください!
- 43 名前:七作 投稿日:2006/10/29(日) 00:11
-
はぁっはぁっはぁっ・・・。
結構急な上り坂。
一歩一歩重さを感じながら前に進む。
もう少しで到着する。
あともうちょっとで。
君が待ってるバス停に。
- 44 名前:路線バス 投稿日:2006/10/29(日) 00:11
-
路線バス
- 45 名前:路線バス 投稿日:2006/10/29(日) 00:12
-
バス停の側で背筋をぴっと伸ばしている彼女を見つけたら、さっきまでの疲れは吹っ飛んだ。
「梨華ちゃん!」
あたしが呼ぶと彼女は振り向いてぱっと笑顔になった。
「ごっつぁん!」
「待たせちゃった?」
「ううん、今来たとこだよ。それよりもごっつぁん疲れてない?」
「ま、ちょっと大変だったけど、平気。」
「そう?」
- 46 名前:路線バス 投稿日:2006/10/29(日) 00:12
-
地元じゃ有名な急な坂の上に梨華ちゃんの学校はある。
路面電車組の生徒は毎日この坂を上らなければならないのだけど、梨華ちゃんも含めバス組の生徒は坂の上に停留所があるので免除される。
なので、この学校に通う生徒の八割はバス通学らしい。
今日は梨華ちゃんと映画を見る約束をしていた。
梨華ちゃんがアクション映画を見たいというので、上映している映画館を探したところ、そこはバスに乗っていく方が便利だったのだ。
で、待ち合わせを坂の上のバス停にしたわけだ。
- 47 名前:路線バス 投稿日:2006/10/29(日) 00:12
-
めったにこの場所を待ち合わせに使ったことはない。
今日でごとーがここに歩いて来るのは二回目。
初めてきたのは高校に入学してすぐの頃だった。
中学の頃、ずっと一緒だった梨華ちゃんと高校が別々になって、すかすかになってしまった隣にすぐにさびしさを感じ始めた頃のこと。
これからこの先、少なくとも三年間は梨華ちゃんはあたしの隣にいないというのに、早くも数週間でギブアップを出しかけていたごとー。
こういうのってどちらかというと梨華ちゃんじゃないかって思ってたんだ。
『ごっつぁんがいなくてさみしい。』
なんてメールを期待していたのだけど、向こうからそんなメールは全く来なくて。
梨華ちゃん意地っ張りだからそういうところ我慢してるのかな、なんて思ってたけど、先に我慢がきれたのはあたしのようだった。
そして、急に梨華ちゃんに会いたくなったあたしは、校門で待ち伏せしようと考えたのだった。
- 48 名前:路線バス 投稿日:2006/10/29(日) 00:13
-
いきなり来たら驚くかな。
目を丸くしてびっくりしている梨華ちゃんを想像したら、思わず笑ってしまった。
これから起こることに少しドキドキしながら歩いていたあたしは大きな壁が立ちふさがっていることを全く忘れていたのだった。
「何これ・・・。」
目の前に聳え立つ山・・・じゃなくて坂。
あまりに急で思わず足が止まってしまった。
そうだ、そうだった、梨華ちゃんの学校はこの坂の上にあったんだ。
- 49 名前:路線バス 投稿日:2006/10/29(日) 00:13
-
「ふふっ・・・。」
「どうしたの、ごっつぁん?」
思い出し笑いをしてしまったあたしに梨華ちゃんはきょとんとしてる。
「うん、初めてここに来たときのこと思い出しちゃったから。」
「初めて・・・あぁ、ごっつぁんが校門で待っててくれたときのこと?」
「うん。」
「ほんと、あのときびっくりしちゃったよ。だってまさかごっつぁんがいるとは思ってなかったんだもん。」
- 50 名前:路線バス 投稿日:2006/10/29(日) 00:14
-
ごとーの姿(ちょっと疲れ気味)を見た梨華ちゃんは予想通りに目を丸くして驚いていた。
「ごっつぁん?!」
「やっほー・・。」
「今日、約束してたっけ?」
「ううん。急に会いたくなったからごとーが勝手に来ただけ。」
今思えば、梨華ちゃんに必ず会える保障はなかったんだよね。
梨華ちゃんがその日、何時で授業が終わるとか部活があるかとか何も確認してなかったんだもん。
会えたことは奇跡と言ってもよかったかもしれない。
- 51 名前:路線バス 投稿日:2006/10/29(日) 00:14
-
「この後、もしかして予定とかあった?」
「ううん、ないよ。ちょっと寄り道して帰ろうと思ってただけ。」
そう言う梨華ちゃんにあたしはすごくほっとした。
「ね、ごっつぁん、おいしいケーキ屋さん見つけたの。一緒に行こう?」
上目遣いに梨華ちゃんは言うからごとーはうなづく。
梨華ちゃんのお誘いをごとーが断るわけないじゃん。
梨華ちゃんがごとーの手を握る。
ちっちゃなあったかい手。
「会いに来てくれてありがとう。」
梨華ちゃんが小さな声で言った。
「私もごっつぁんに会いたいと思ってたの。」
- 52 名前:路線バス 投稿日:2006/10/29(日) 00:15
-
「結局、そのケーキ屋さん、お休みだったんだよね。」
「そうそう。梨華ちゃん、すっごく申し訳なさそうにごめんね、って繰り返してさ。」
「だってぇ・・。」
「ま、いいじゃん。次の週に一緒に食べに行ったんだからさ。」
バスに乗って、あたし達は思い出話に花を咲かせる。
- 53 名前:路線バス 投稿日:2006/10/29(日) 00:15
-
セーラー服だらけの車内に一人、ブレザー姿のあたし。
なんかちょっと違和感。
「どうしたの?」
梨華ちゃんが首を傾げてる。
「いや、なんかごとーだけ浮いてるかなって。」
ぐるりと車内を見回して苦笑いのあたし。
梨華ちゃんも一緒になって視線をめぐらす。
「ごっつぁんもセーラー服着てみたい?」
「うーん・・・なんか似合わなさそうだからいい。」
「そう?私は似合うと思うんだけどなぁ・・。」
セーラー服のごとーを思い浮かべてみる。
そして隣には梨華ちゃん。
梨華ちゃんと同じ学校に通ってるごとー。
同じ授業を受けて、一緒にごはん食べて・・・うん、いいな。
といってもそれは無理な話。
だからこそ、こうやって過ごす時間が貴重に思えてくるんだよね。
- 54 名前:路線バス 投稿日:2006/10/29(日) 00:15
-
「映画観るの久しぶり。」
「うん、ごとーも。」
「楽しみだね。」
「うん。」
バスは進む、あたし達を乗せて。
これからの二人の時間も一緒に。
- 55 名前:路線バス 投稿日:2006/10/29(日) 00:16
-
END
- 56 名前:七作 投稿日:2006/10/29(日) 00:16
-
* * *
- 57 名前:七作 投稿日:2006/10/29(日) 00:19
- このスレの2-9の話と同じ設定のいしごま。
>42 Liar様
お相手はおそらくあの人です。
これからもがんばりますのでどうぞよろしくです。
- 58 名前:Liar 投稿日:2006/10/29(日) 23:52
- あったかい…の一言です。
甘いいしごま大好きです。
実は夢板のほうで書かせてもらってるのですが、
私のは真っ黒です…。
甘いいしごまがかけない自分には尊敬します。
頑張ってください。
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/31(火) 10:35
- 更新お疲れ様です。いしごまホッとするなぁ。
石川さん大好きなので更新されてるとテンション上がってしまいます。
そしてすっかり色んなカプに嵌ってしまいました。
これからも楽しみにしてますね。
- 60 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/03(金) 20:04
- ほのぼのとしてて良いですね♪
この話の続きがまた読みたいものです。
- 61 名前:七作 投稿日:2006/11/03(金) 22:52
-
拝啓 小川麻琴様
お元気ですか?
私はとても元気です。
- 62 名前:秋の色づくころに 投稿日:2006/11/03(金) 22:53
-
秋の色づくころに
- 63 名前:秋の色づくころに 投稿日:2006/11/03(金) 22:54
-
「送信っと・・。」
送信完了の文字を見て、美貴はふっとため息をついた。
なんか不思議だよね。
アメリカと日本。
すっごく離れているのにこんな簡単に連絡とかできちゃうんだから。
- 64 名前:秋の色づくころに 投稿日:2006/11/03(金) 22:54
-
麻琴が旅立って一ヶ月が経とうとしてる。
初めて麻琴からメールが来たのは二週間後だった。
いろいろとバタバタしてるけど、とりあえず落ち着いてきたからってメールには書いてあった。
麻琴はちょくちょくデジカメの画像を添付して送ってくれる。
それを梨華ちゃんと一緒にあーだこーだと言いながら見てる。
梨華ちゃんは少し寂しそうな顔で笑う。
それを見て美貴は少し切なくなる。
へたれな麻琴がかっこよく旅立っていったときはやられた!と思ったけど。
梨華ちゃんは麻琴のこと、かわいがってたもんね。
- 65 名前:秋の色づくころに 投稿日:2006/11/03(金) 22:54
-
***
- 66 名前:秋の色づくころに 投稿日:2006/11/03(金) 22:54
-
まことに一つ、報告しなければならないことができたんだ。
実はうちらのライバルが出現したよ。
残念なことに二人。
それが中澤さんよりも強敵。
ほら、中澤さんはいつも近くにいるわけじゃないじゃん。
でも今回は同じ大学。
まだいいのは学年が一つ下だってこと。
ただ、まことは美貴が一睨みすれば一発って言ってたけど、それが相手には効かないんだよね。
- 67 名前:秋の色づくころに 投稿日:2006/11/03(金) 22:55
-
一人目はフットサル同好会のキャプテン。
名前は吉澤ひとみ。
顔はきれい、背は高い、性格はさっぱりしてて頼れる男前。
超もてる奴なんだよ、これが。
二人目は演劇部の花形。
名前は松浦亜弥。
顔は当然かわいい。色白で人懐っこい性格。
この子ももてる。
読んだだけでも強敵って感じでしょ?
正直、普段会ってても手ごわいって感じる。
でさ、この子達、性格はいいし、面白いわけ。
だからライバルなんだけど、いまいち強く出れないっていうか。
あ、まこと、今、美貴らしくないって思っただろ!
まことも会ってみたら分かるって。
- 68 名前:秋の色づくころに 投稿日:2006/11/03(金) 22:55
-
美貴と梨華ちゃんの友達がフットサル同好会に入っててさ、その試合があるから見に行ったわけ。
そしたらそこで吉澤ひとみ・・よっちゃんが梨華ちゃんに一目ぼれしちゃったんだよ。
それと同じで、友達が入ってる演劇部の公演を見に行ったときに、友達から亜弥ちゃん紹介されて、亜弥ちゃんも梨華ちゃんに一目ぼれ。
梨華ちゃんは梨華ちゃんで全く二人の気持ちには気づかなくてさぁ。
まぁ、うちらの気持ちにだって気づかないくらいの鈍感だからね。
にこにこっと二人に笑いかけちゃったりするもんだから二人はメロメロなわけよ。
- 69 名前:秋の色づくころに 投稿日:2006/11/03(金) 22:56
-
現在、梨華ちゃんはよっちゃんからはフットサル同好会のマネージャーに、亜弥ちゃんからは演劇部に入らないかと交渉されてる。
でも本人はその気はないみたい。
バイトが忙しいからって断ってる。
梨華ちゃんが必死で働いてお金を貯めてるのは・・・ってその話はやめる。
気になるなら気になってるままにしてやる。
ちなみに美貴も梨華ちゃんと同じコンビニで働いてるよ。
- 70 名前:秋の色づくころに 投稿日:2006/11/03(金) 22:57
-
>来月の三日、従兄弟の結婚式のため、一時日本に戻ります。
長くいられるの?
時間あるなら会おう。
のんちゃんも梨華ちゃんも美貴だってまことに会えるかもしれないって楽しみにしてるんだからね。
早く夢叶えて日本に戻ってくるように!
美貴とまことがタッグを組めばどんな強敵にも勝てる気がする。
じゃ、またメールするね。
美貴
- 71 名前:秋の色づくころに 投稿日:2006/11/03(金) 22:58
-
追伸 まことががんばって勉強できるように写真送るね。
こっそり撮った梨華ちゃんの寝顔。いっとくけどエロ画像じゃないよ。
あ、でも刺激が強すぎてまこと鼻血出すかもね。
- 72 名前:秋の色づくころに 投稿日:2006/11/03(金) 22:58
-
END
- 73 名前:七作 投稿日:2006/11/03(金) 22:59
-
* * *
- 74 名前:七作 投稿日:2006/11/03(金) 23:08
- 前スレの484-505の「夏休み残り2週間」、このスレの15-26「夏の終わり」の続編。
コメントありがとうございます。
>Liar様
Liar様も書かれているんですか。
お互いいいものが作れるといいですね。
>59様
石川さん大好き・・・作者と同じですね!
テンションが上がるだなんて、とてもうれしいです。
またマイナーなCPで書いてみたいなぁとは思っています。
>60様
今のところ、続きは考えていないのですが、もし書けたらまたここに載せればと思います。
- 75 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/04(土) 01:48
- 楽しませて頂きました
梨華ちゃんのいろんなカプが読めて嬉しいです
これからも更新楽しみにしております
- 76 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/05(日) 07:27
- 梨華ちゃん、罪なお人♪w
このお話もすごくおもしろいのでまた続き読みたいです。
楽しみに待ってます♪
- 77 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:43
- 私もこの話の続きが読みたいです!
またーり更新待ってます
美貴ちゃんがんばれー!
- 78 名前:白薔薇の誘惑 投稿日:2006/11/11(土) 22:17
-
白薔薇の誘惑
- 79 名前:白薔薇の誘惑 投稿日:2006/11/11(土) 22:18
-
キィー・・カタンッ・・・
そっと開けたつもりが思わず音が出て、どきっとした。
静かなこの場所は少しの小さな音でも響いてしまうから。
中に一歩足を踏み入れる。
緑の匂い、花の香り・・・。
- 80 名前:白薔薇の誘惑 投稿日:2006/11/11(土) 22:18
-
「小春ちゃん?」
高い声が聞こえて、あたしは足早に奥に進む。
咲き誇る薔薇の花々の中から覗く短めの髪。
ピンクのワンピースに白のカーディガンといういでたちの彼女を見つけ、あたしの顔は笑顔になる。
「石川さん。」
呼べば振り向くきれいな顔。
「やっぱり小春ちゃんだ。」
「どうして分かったんですか?」
「だって、ここに来るのは私か小春ちゃんくらいだもん。」
滅多に誰も来ない温室。
ここはあたしと石川さんの秘密の場所。
- 81 名前:白薔薇の誘惑 投稿日:2006/11/11(土) 22:18
-
中学二年生のあたしと大学四年生の石川さん。
接点なんて絶対にないはずの二人が出会ったのもここだった。
中学校から大学まであるこの女子校の敷地の端の方にひっそりと建っている古びた温室。
今年の春、広すぎる校舎で迷ったあたしが偶然にもたどり着いた場所。
興味本位で足を踏み入れたあたしが見たものは美しい花とそれ以上に美しい女の人−石川さんだった。
- 82 名前:白薔薇の誘惑 投稿日:2006/11/11(土) 22:19
-
「あ・・。」
あたしの気配に気づき、振り向いた石川さんは泣いていた。
静かに涙を流すその姿にあたしの心はきゅっとせつなく鳴いた。
「・・ごめんなさい。」
思わず口に出たあたしに石川さんは指で涙を拭きながら穏やかに言った。
「どうしてあなたが謝るの?」
「だって・・・。」
泣いている姿を誰にも見られたくなかったんじゃないかと思って。
そう言うあたしに石川さんはふふっと笑った。
「やさしいのね。」
「い、いえ・・。」
きれいに笑う石川さんを見て、あたしの顔は赤くなるのが分かった。
「もう大丈夫だから。気を遣わせてごめんね。」
あたしはこのときから石川さんに恋をした。
- 83 名前:白薔薇の誘惑 投稿日:2006/11/11(土) 22:19
-
時間を見つけては一人、温室に足を運ぶあたし。
中学校と大学の校舎は結構離れているから会うことなんて難しい。
だから石川さんに会えるんじゃないかと期待して温室に通う。
会えたときはうれしくて、会えなかったときは悲しくて。
- 84 名前:白薔薇の誘惑 投稿日:2006/11/11(土) 22:20
-
「小春ちゃんにあげたいものがあるの。」
「何ですか?」
石川さんはにっこり笑って、近くに咲いている白い薔薇を一本ぷちんとはさみで切った。
「えっ?切っていいんですか?!」
「これは私がこっそり育ててたの。」
棘をとってからはい、と言ってあたしに差し出す石川さん。
「もらってくれる?」
「・・・ありがとうございます。」
薔薇を受け取りながら、あたしはうれしくて、でも恥ずかしくて俯いた。
「白薔薇の花言葉、知ってる?」
「いえ・・・。」
すると石川さんはあたしの耳元で囁いた。
「私はあなたにふさわしい。」
「えっ?」
- 85 名前:白薔薇の誘惑 投稿日:2006/11/11(土) 22:21
-
重なる唇。
甘い香り。
唇が離れ、目を開ければやさしい笑顔。
「・・・あたしは石川さんが好きです。」
小さい声だったけれど、それでも確かにあたしは想いを口にする。
初めての告白。
自然にするりと音になった。
- 86 名前:白薔薇の誘惑 投稿日:2006/11/11(土) 22:21
-
石川さんの目が三日月のように細められる。
「私も好きよ、小春ちゃん。」
ぎゅっと抱きしめられる。
「初めてあなたを見たとき、妖精が私のもとにやって来たと思ったのよ。」
そんな台詞を言われて、あたしは恥ずかしくなった。
頬が熱い。きっと耳まで真っ赤になってる。
そんなあたしを石川さんはおかまいなしにまっすぐ見つめてくる。
黒目がちのきれいな瞳。
きらきら輝いて宝石みたいで・・・引き込まれてしまいそう。
「ずっと私の傍にいてくれる?」
「はい・・。」
- 87 名前:白薔薇の誘惑 投稿日:2006/11/11(土) 22:22
-
あぁ、この匂いたつほどの甘い香りは何だろう?
温室に咲き誇る薔薇の香り?それとも石川さんの香水の香り?
分からない。
分からないほどにあたしを包んで、クラクラさせる。
あたしの心に咲き続ける、恋の花。
- 88 名前:白薔薇の誘惑 投稿日:2006/11/11(土) 22:22
-
END
- 89 名前:七作 投稿日:2006/11/11(土) 22:23
-
* * *
- 90 名前:七作 投稿日:2006/11/11(土) 22:33
- ノリo´ゥ`リ <お姉さま♪
( ^▽^)<小春♪
な感じで。
ずれてるのはきっと気のせい・・(汗)
コメントありがとうございます。
>75様
これからもいろいろなカプに挑戦できたらなぁと思ってます。
>76様
石川さんは天然で無自覚です(笑)
もし続編書けたらまた載せますのでよろしくお願いします。
>77様
続編は気長にお待ちいただけたらと思います。
77様はこのシリーズだとりかみき派でしょうか。
最終的にどうなるかは・・・石川さん次第です。
(;^▽^)<プレッシャーだよぉ・・。
- 91 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/12(日) 12:29
- これは…!はじめてかもしれないですこのカプ。
ちょっとびっくりドキドキしました。
- 92 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/13(月) 08:07
- 84の最後の梨華ちゃんのセリフがなんか大人っぽくて良かったです!あと珍しいCPですねw新鮮でした
- 93 名前:マシュマロン 投稿日:2006/11/19(日) 17:16
-
マシュマロン
- 94 名前:マシュマロン 投稿日:2006/11/19(日) 17:17
-
「ぎゅってしていい?」
石川さん、じゃなくって梨華ちゃんはたまにそう言う。
「いいですよ。」
そしてあたしはいつもそう答える。
するとほわーっと笑って、とことこって寄ってきてあたしの胸にぐっと顔を押し付ける。
まるでそれが子供みたくって思わずあたしは頭を撫でてしまう。
- 95 名前:マシュマロン 投稿日:2006/11/19(日) 17:17
-
梨華ちゃんがこう言ってくるときは緊張してるときとか心配しちゃってるときとか、本番終わってほっとしてるときとかだ。
普段はあたし達のリーダーしなくちゃと気を張ってるんやけど、実は相当の甘えたがりだとあたしは思ってる。
あたしの方が年下だけど、こんなときは梨華ちゃんの方が年下みたいな感じがする。
あたしの中にある母性本能ってのがくすぐられるようだ。
- 96 名前:マシュマロン 投稿日:2006/11/19(日) 17:18
-
「なんか安心するんだよねぇ、唯ちゃんにこーしてるの。」
「ほんまですか?」
「うん。」
「人肌恋しいんですかね。」
あたしの胸からちょこんと目を出した梨華ちゃんはなんだかアヒル口。
「なんかその言い方やらしい。」
「えぇ〜そうですかぁ?」
「うん。・・でもまぁ、そうかもしれない。」
と言って、また岡田の胸に逆戻り。
「ふわふわしてる。」
「はい。」
「なんか甘い匂いがする。」
「はい。」
あたしは梨華ちゃんの髪の毛をゆっくりと撫でる。
こないだまで金髪だったけれど、最近色を戻した栗色。
金髪もよかったけど、あたしはこっちの方が好きだ。
- 97 名前:マシュマロン 投稿日:2006/11/19(日) 17:18
-
「唯ちゃんって癒し効果あるかも。」
「岡田はマイペースでゆっくりしてますからねぇ。」
「ねぇ、私専用にしていい?ダメ?」
上目遣いな石川さん。
「リーダーは甘えん坊ですねぇ。」
「こんなに気持ちいいんだもん。ひとりじめしたい。」
「欲張りやなぁ。」
でも。
あたしはふふっと笑う。
「いいですよ。」
「やったぁ!」
「その代わり、岡田もひとりじめさせてください。」
「ん?」
- 98 名前:マシュマロン 投稿日:2006/11/19(日) 17:19
-
顔を上げた石川さんにあたしは一つキスをおとす。
「石川さんを岡田専用にしてください。」
すると石川さんはふわっと笑って。
「いいよ、その代わり、私のこと名前で呼んで。」
「あ・・・。」
いつのまにかまた元に戻ってしもた。
「梨華ちゃんは岡田のものです。」
「唯ちゃんこそ、私のものだよ?」
- 99 名前:マシュマロン 投稿日:2006/11/19(日) 17:19
-
おでこをこつんとぶつけ合って。
くすくす笑い合って。
甘い甘いこの空間は、あたし達以外立ち入り禁止やねん。
- 100 名前:マシュマロン 投稿日:2006/11/19(日) 17:20
-
END
- 101 名前:七作 投稿日:2006/11/19(日) 17:21
-
* * *
- 102 名前:七作 投稿日:2006/11/19(日) 17:28
- 美勇伝説3記念ということで。
最近、りかゆいの仲良し加減が七作のツボにはまりまくりです。
コメントありがとうございます。
>91様
久住さんと石川さんって確かにあまり見ないですよね。
作者はいいと思うんですけどねぇ。
>92様
どうしても大人な石川さんを書きたくて。
相手を年下にしてもどうもお姉さんになってくれず、どちらかというと押され気味( ^▽^)になってしまうので。
- 103 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/20(月) 04:37
- 更新ありがとうございます!
りかゆい大好きなので嬉しいです
甘くてめっちゃ可愛いですね〜
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/20(月) 10:21
- 美勇伝リーダーが可愛すぎですよーww
唯ちゃんお姉さんな感じもいいですね
- 105 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/21(火) 02:01
- りかゆいかわいいなぁ。そのまんまな感じですね。
ラジオ聴く限り最近岡田ちゃんと石川さん急接近な感じですね。
三好さんとの距離感みたいなのも私は好きだったりしますがw
美勇伝最高。
- 106 名前:七作 投稿日:2006/11/30(木) 23:47
- この話は「リボンの騎士 ザ・ミュージカル」より台詞など一部引用しています。
多少ネタバレな感じなのでご注意ください。
- 107 名前:フランツ王子の苦悩 投稿日:2006/11/30(木) 23:49
-
フランツ王子の苦悩
- 108 名前:フランツ王子の苦悩 投稿日:2006/11/30(木) 23:49
-
( ・e・)<フランツ様〜!
ノノ*^ー^)<お待ちになってフランツ様〜!
从*・ 。.・)<私と一緒に踊りましょー!
从´ヮ`)<フランツ様、どこ〜!
(;^▽^)<これほどまでに顔を知られているとは思わなかった。
- 109 名前:フランツ王子の苦悩 投稿日:2006/11/30(木) 23:50
-
(0^〜^)<フランツ殿下。
( ^▽^)<あなたは・・・シルバーランドの大臣。
(0^〜^)<探しましたよ。
( ^▽^)<・・私に何か用でも。
(0^〜^)<はい。こんなところでなんですから、どうぞ、こちらへ・・。
- 110 名前:フランツ王子の苦悩 投稿日:2006/11/30(木) 23:50
-
( ^▽^)<話とは何でしょう?
(0^〜^)<殿下を何度かお見かけしてそのたびに思っていたことがありまして。
( ^▽^)<はぁ。
(0^〜^)<あなたは私の亡き妻に似ている!!
(;^▽^)<え?!
(0^〜^)<私には一人息子がいる。まだ甘えたい年頃だ。ぜひともあなたに妻となっていただきたい!
(;^▽^)<ちょ、ちょっと待て!私は男だ。
(0^〜^)<だから何です!そんなことは構わない。ドレスはもう用意してある。
(;^▽^)<いや、そういう問題では・・。
(0´〜`)<トメコ、私の愛しい妻・・。
(;T▽T)<た、助けて、食われる!!
(;^▽^)<はぁ・・はぁ・・何なんだ・・。
- 111 名前:フランツ王子の苦悩 投稿日:2006/11/30(木) 23:51
-
声<見つけた・・。
( ^▽^)<誰だ!
从VvV)<私は魔女・・。
( ^▽^)<魔女?!魔女が私に何の用だ。私の魂が目的か?
从VvV)<いいえ。私の目的は・・・あなたよ!
( ^▽^)<私?
川*VvV)<そう。フランツ王子、私と一緒に永遠のときを過ごすの。
(;^▽^)<・・か、体が動かない・・・。
川*VvV)<フランツ王子・・・私のものに・・・。
(;^▽^)<う、うわぁー!!
「た、助けてっ!!」
- 112 名前:フランツ王子の苦悩 投稿日:2006/11/30(木) 23:51
-
がばっと起き上がる。
楽屋で横になっていたらつい寝てしまったみたい。
気づけばすごい汗をかいていた。
「何か・・・すごい夢を見ていたような・・・って、ん?」
はっとして横を向くと、そこには見知った顔がちらほら。
何やら集まってこそこそしてるような・・。
「何やってるの?」
- 113 名前:フランツ王子の苦悩 投稿日:2006/11/30(木) 23:51
-
「いや、何って。ねぇ・・。」
「そうそう、美貴達は別に・・。」
そう言って顔を見合わせるよっすぃと美貴ちゃん。
「れーな達も何もしてないです。」
「そうです、はい。」
「さゆも。」
あははと笑うれいな、絵里、さゆ。
「まめ?」
「いえ、気にしないでください。」
まめはみんなをちらっと見て苦笑い。
「??」
- 114 名前:フランツ王子の苦悩 投稿日:2006/11/30(木) 23:52
-
かちゃっとドアが開いて顔を覗かせたのは愛ちゃん。
「あ、石川さん、起きました?」
「うん、何か私寝ちゃったみたいだね。」
「はい。すっごく気持ちよさそうにしてたからぎりぎりまで起こさなかったんですけど。」
「ありがと。」
「スタッフさんが石川さんのこと呼んでますよ。あーしも呼ばれてるんで一緒に行きましょ。」
「あ、うん、今行く。」
私は立ち上がって、彼女達の方を向く。
「もしかして・・・。」
「「「「「えっ?!」」」」」
「みんなもここで横になりたかった?」
「「「「「!!」」」」」
「ごめん、私一人で占領しちゃって。」
- 115 名前:フランツ王子の苦悩 投稿日:2006/11/30(木) 23:52
-
「石川さん?」
「待って、愛ちゃん。」
愛ちゃんがにっこり笑って手を出したので、私はその手を握った。
「さ、行きましょ。」
「うん。」
『王子様に王子様を取られたーフーララーフラー』
廊下に出たら楽屋からなぜか淑女の歌が聞こえた。
みんな練習してたのかなぁ。
- 116 名前:フランツ王子の苦悩 投稿日:2006/11/30(木) 23:53
-
***
- 117 名前:フランツ王子の苦悩 投稿日:2006/11/30(木) 23:53
-
「微妙に石川さん、ずれてるね。」
「最初に見つけたのは絵里だったのに!」
「絵里がぬけがけして石川さんにキスしようとするから。」
「れーなだって添い寝したいって。」
「梨華ちゃんとそんなことしようなんて十年早いんだよ。」
「梨華ちゃんは美貴のなんだから。」
「吉澤さんなんて六年も一緒にいて全然手出せてないじゃないですか!」
「藤本さんだってそんなこと言ったってへたれなくせに!」
「今の言葉、聞き捨てならない。」
「言ったね!」
「私にはこの五人、止められない・・。」
- 118 名前:フランツ王子の苦悩 投稿日:2006/11/30(木) 23:54
-
END・・・?
- 119 名前:誰を選ぶ? 投稿日:2006/11/30(木) 23:55
-
誰を選ぶ?
- 120 名前:誰を選ぶ? 投稿日:2006/11/30(木) 23:55
-
( ・e・)<ミュージカル、終わったねぇ。
川 ’ー’)<そうやね。
( ・e・)<で、愛ちゃんは結局どのフランツ王子を選んだのさ。
川 ’ー’)<えっ?!
( ・e・)<安倍さん、石川さん、松浦さん。
川 ’ー’)<そ、それは・・・。
( ・e・)<記者会見での石川さん、最終的には愛ちゃんのハートを射止めるって言ってたしさぁ。
川 ’ー’)<え、えーっとぉ・・・。
- 121 名前:誰を選ぶ? 投稿日:2006/11/30(木) 23:55
-
从VvV)<愛ちゃん、もしかして亜弥ちゃんって言わないよね?
川; ’−’)<み、みきちゃん!
从VvV)<亜弥ちゃんの恋人は誰か知ってるでしょ?
川; ’−’)<は、はいぃ・・。
- 122 名前:誰を選ぶ? 投稿日:2006/11/30(木) 23:55
-
川 ’ー’)<じゃあ・・。
( ´ Д `)<高橋、なっちを選ぶの?
川; ’−’)<後藤さん!
( ´ Д `)<なっちは後藤のって分かってるよね?
川; ’−’)<わ、分かってます・・・。
- 123 名前:誰を選ぶ? 投稿日:2006/11/30(木) 23:56
-
( ・e・)<と、なると・・。
川; ’−’)<・・・。(選びたいけど、言えない・・。)
( ^▽^)<どうしたの?
川 ’ー’)<石川さん!
( ・e・)<今、愛ちゃんに最終的にどのフランツ王子を選ぶかって聞いてたんです。
( ^▽^)<そうなの!で、私を選んでくれたの?
川 ’ー’)<あ、あの、今、吉澤さんは・・?
( ^▽^)<よっすぃならスタッフさんに呼ばれて今いないよ。
川 ’ー’)<そうですか・・。(今がチャンス!)石川さん、もちろんあーしは石川さんを選びます。(言えた!)
( ^▽^)<ありがとう!
川*’ー’) <石川さん!
- 124 名前:誰を選ぶ? 投稿日:2006/11/30(木) 23:56
-
(0^〜^)<なぁに楽しく話してるのかなぁ?
( ^▽^)<あ、よっすぃ。
川; ’−’)<吉澤さん?!
(0^〜^)<なんか梨華ちゃんを選ぶとかどうとかって聞こえたけど?
(; ・e・)<(うわ、なんて地獄耳・・。)
( ^▽^)<うん、実はね、愛ちゃんが・・。
(; ・e・)<!!
川; ’−’)<あわわ・・・。
( ^▽^)<まめと私にジュースおごってくれるの。
(0^〜^)<ジュース?
(; ・e・)<そうなんです。あ、吉澤さんはダメですよ。三人分の小銭しか愛ちゃん持ってませんから。
川; ’−’)<吉澤さんは自分の分出してください。で、何にするー?
( ^▽^)<レモンティー!
( ・e・)<コーラ!
川 ’ー’)<はーい。
(0^〜^)<あたしはコーヒーにでもするか。
( ^▽^)<(よっすぃ、意外に嫉妬するのよね・・。)
- 125 名前:誰を選ぶ? 投稿日:2006/11/30(木) 23:56
-
川*’ー’)<あーしのほんとの王子様はまことだけやよ。
∬*´▽`)<照れるよぉ!
( ・e・)<バカップル!!
- 126 名前:誰を選ぶ? 投稿日:2006/11/30(木) 23:57
-
おわる
- 127 名前:七作 投稿日:2006/11/30(木) 23:57
-
* * *
- 128 名前:七作 投稿日:2006/12/01(金) 00:08
- リボンの騎士DVD発売記念。
短いのを2つ。つながってはいません。設定も違います。
くだらなくてすみません。
コメントありがとうございます。
>103様
りかゆい大好きですか。
なんか二人のまったり感が七作は好きです。
>104様
姉唯ちゃん、妹石川さんな図がふと浮かんでしまいまして。
意外に合うなぁと書いてて思ってしまいました(笑)
>105様
最近、唯ちゃんと石川さんが急接近なんですよね!
ほんと好きです、この二人。
もちろん三好さんもいい!
美勇伝最高。
- 129 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/03(日) 08:03
- 更新お疲れ様です。
リボンの騎士、リカンツ様もリカールも凛々しすぎて…。
石川さんが私の中ではすっかり男前キャラになってしまっています。
- 130 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/03(日) 10:13
- 更新ありがとうございます
こういうのもいいですね〜
面白かったです!
- 131 名前:七作 投稿日:2006/12/04(月) 22:55
-
「ねー、梨華ちゃん。」
「んー?」
「あたし達。」
「うん。」
「結婚しよっか。」
- 132 名前:プロポーズ 投稿日:2006/12/04(月) 22:56
-
プロポーズ
- 133 名前:プロポーズ 投稿日:2006/12/04(月) 22:57
-
言っておくがここは高級レストランでも夜景のきれいな埠頭でもない。
「ななななな何言ってんだべ!!」
・・・マジっすか?!
「なっち、動揺しすぎだから。っていうか、そのリアクションは梨華ちゃんだから。」
「ごっちんは驚かないの?!」
「いや、驚いてるけどさー・・。」
いや、びっくりはしてるよ。
いきなり前ふりもなくプロポーズだもん。
ただ驚きすぎて反応が遅れたというか・・。
- 134 名前:プロポーズ 投稿日:2006/12/04(月) 22:57
-
ここはDEF.DIVAの楽屋。
これから行われる収録の待ち時間。
まっつーは今日発売の雑誌をパラパラめくってて、梨華ちゃんはストレッチをしてて、ごとーは音楽を聴いてて、なっちは台本を確認・・とそれぞれ思い思いに時間を過ごしてたんだ。
ただそこには普通の時間が流れていて。
ムードも何もなかった。
と、そこにまっつーの爆弾投下。
本人達を見てみればこれまた面白い。
にっこにこのまっつーと顔を真っ赤にして固まってる梨華ちゃん。
- 135 名前:プロポーズ 投稿日:2006/12/04(月) 22:58
-
「まつーら思うの。まつーらって顔も性格もいいし、経済力だってある。結婚相手にぴったりでしょ?」
「あ、亜弥ちゃん・・?」
「梨華ちゃんとは体の相性もいいしね。梨華ちゃんを幸せにする自信あるから。」
胸を張って自信たっぷりのまっつー。
そこまで堂々と言われると反論できないよね。
でもさ、一つ重要な障害があるじゃん。
「亜弥ちゃん、いくら好き同士でも私達女の子なの。今の法律じゃ、結婚できないよ?」
そう、それだよ。
「んー、でもさぁ、外国に行けばできるんでしょ?」
そんな簡単にさらっと言う。
隣のなっちは唖然。
驚いて口開いたまま、ぴしっと固まっちゃってるよ。
解凍には少し時間かかるな。
- 136 名前:プロポーズ 投稿日:2006/12/04(月) 22:59
-
「外国に行ったら、お仕事できなくなるよ?」
「あ、そっか。」
今、気づくのかい。
「だったら外国でお仕事できるようにがんばる。」
うわ、大きな目標持っちゃったよ。
まっつーだったら本気でやりかねないから恐ろしいんだよね。
- 137 名前:プロポーズ 投稿日:2006/12/04(月) 22:59
-
まっつーと梨華ちゃんが付き合うと知ったときは耳を疑ったね。
オンナノコ同士という前にありえないでしょ?この二人。
性格も趣味もバラバラで、どちらかといえば合わない感じじゃん。
仲悪いなんて記事も出てた気がするけど。
ミキティも驚いたって言ってたよ。
まっつーがやけに機嫌がいいから何かあったかと聞いてみたら恋人ができた、と。
その相手が梨華ちゃんだ、と。
即効で嘘でしょ?って聞いちゃったと言っていた。
- 138 名前:プロポーズ 投稿日:2006/12/04(月) 22:59
-
ごとーもまっつーから聞いたんだけど、そのことを梨華ちゃんは全く知らなかったみたいなんだよね。
オンナノコ同士だし、アイドルだし、梨華ちゃんは隠そう隠そうと必死に思ってて、そしたらあっさりごとーとミキティが知ってるもんだからすっごく驚いてて、「なななななな何で知ってるの?!」なんて超慌ててた。
まっつーは一部の人には教えてたみたいで。
一部というのは、四期までの娘。メンバーとミキティ、柴ちゃん。
何かあったときに頼れるメンツだとまっつーが判断したみたい。
そのあたりも用意周到なまっつーらしい。
- 139 名前:プロポーズ 投稿日:2006/12/04(月) 22:59
-
「ね、梨華ちゃん、まつーらに付いてきてくれるよね?」
「亜弥ちゃん・・。」
見詰め合ってるお二人さん。
あぁ、なんかピンクがかってるのはごとーの気のせい?
ドキドキするなぁ。
って、なんでごとーが緊張してんだよ。
でもどうなるか気になる・・・。
完全にごとーとなっちの存在、二人の世界で消されちゃってるけど。
そして。
梨華ちゃんは恥ずかしそうに目を伏せて、そして小さくこくんとうなづく。
- 140 名前:プロポーズ 投稿日:2006/12/04(月) 23:00
-
おおぅっ!!
ここに一組の夫婦が誕生しました!
おめでとう。
みんなに報告しなきゃね。
お赤飯炊かなきゃ・・・って合ってたっけ?
- 141 名前:プロポーズ 投稿日:2006/12/04(月) 23:00
-
「亜弥ちゃんが私のおよめさんになってくれるんだよね?」
「えっ?梨華ちゃんがまつーらのおよめさんだって。松浦梨華になるんだよ。」
「石川亜弥になってくれるんじゃないの?」
「だってあたし長女だもん。」
ん?何だ、何だ?
「私の方がきっとタキシード合うよ。だってフランツ王子のとき、男装かっこいいってみんな言ってくれたし。」
「それだったら、あたしだってフランツ王子やったよ。梨華ちゃんはドレス。絶対ドレス!」
「わ、私、亜弥ちゃんのドレス見てみたいよ・・・。」
「そんなのいつだって着てあげるから。梨華ちゃんはまつーらのおよめさんなのっ!!」
まっつーはがしっと梨華ちゃんの肩を掴んでる。
「ね、ごっちんも梨華ちゃんのドレス見てみたいでしょ?」
え?いきなりごとーに振る?
「ん、まぁねぇ。」
「ほら、ごっちんも言ってる。梨華ちゃんがドレス決定!」
「あ、亜弥ちゃん・・。」
軍配は、おそらく大方の予想通り、まっつー。
まっつーが旦那なわけだから、亭主関白ってやつだね、うん。
- 142 名前:プロポーズ 投稿日:2006/12/04(月) 23:01
-
「スタンバイ、お願いします。」
スタッフさんの声が聞こえて、一気に現実に戻された。
いや、今までも現実だったんだけど、あまりにかけ離れてたからね。
「なっち、そろそろこっちに戻ってきて。」
肩をゆらすと、んーと声が聞こえて、なっちの目がはっとする。
「あ、なっち・・・どうして・・。」
「収録始まるって。」
「あー、うん・・・。」
- 143 名前:プロポーズ 投稿日:2006/12/04(月) 23:01
-
新婚夫婦予定の二人は早々に仲良く手を繋いで楽屋を出て行ってる。
と、そのとき、開きっぱなしのまっつーの雑誌が目に入った。
でかでかと書かれてる『結婚』の文字。
「ごっちん、置いていくよ?」
いつのまにかなっちがドア付近で手を振ってるので、あたしは小走りでかけていく。
- 144 名前:プロポーズ 投稿日:2006/12/04(月) 23:02
-
どこまでこの話は本気か分からないけれど、ま、二人が幸せでいてくれればごとーはいいよ。
でも、あんまりみんなには迷惑をかけないでね。
Congratulations!
- 145 名前:プロポーズ 投稿日:2006/12/04(月) 23:04
-
END
- 146 名前:七作 投稿日:2006/12/04(月) 23:04
-
* * *
- 147 名前:七作 投稿日:2006/12/04(月) 23:11
- 最近こんなんばっか・・。すみません。
でもちゃんと好きです、りかあや。
コメントありがとうございます。
>129様
リカンツ王子、かっこいいですよねぇ。
男前な石川さん、書きたい!でも書けない(涙)
いつか挑戦できたらと思ってます。
>130様
こちらこそありがとうございます。
「リボンの騎士」を使ったもっとちゃんとしたものが書けたらと思ってたのですが・・。
面白いと言っていただけてよかったです。
- 148 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/05(火) 04:15
- 大好きなカプなので七作さんのりかあやが読めて嬉しいです!
- 149 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/05(火) 20:04
- りかあやいいなぁ。そこでもめますかw
これからも楽しみにしています!
- 150 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/06(水) 01:19
- どっちもドレス着ればいいじゃないw
可愛いあやりかをありがとう
- 151 名前:桃色瓶詰めハチミツ 投稿日:2006/12/11(月) 01:04
-
桃色瓶詰めハチミツ
- 152 名前:桃色瓶詰めハチミツ 投稿日:2006/12/11(月) 01:05
-
「お待たせ。」
白いトレーに乗ってる青とピンクのマグカップ。
私はトレーに意識しつつ、彼女を見る。
まるで自分の家みたくソファでくつろいでいる彼女。
まぁ、ほとんどうちに泊まってるし、合鍵だって持ってるし、彼女にとっては第二の我が家となってるんだけど。
そんな事実が私はちょっぴりうれしかったりする。
- 153 名前:桃色瓶詰めハチミツ 投稿日:2006/12/11(月) 01:05
-
ハロモニの収録の後、珍しく私もよっすぃも仕事は入ってなくて、久しぶりに一緒に帰宅した。
よっすぃのためにコーヒーを、自分のために紅茶を入れるのは私の仕事。
その間によっすぃは散らかってる私の部屋を片付けてくれたりする。
ローテーブルの上に二つのマグカップとミルクと大きめのビンを置く。
私はよっすぃの隣に座ると、ビンに手を伸ばした。
「ん〜。」
「ほら、貸してみ。」
なかなか開かないビンに四苦八苦している私を見かねたよっすぃが手を差し出してくれる。
私が渡すと、よっすぃは「ふんっ。」と言って、かぽっとすぐに開けてしまった。
「ありがと。」
「相変わらず梨華ちゃんは非力だなぁ。」
「しょうがないじゃん。」
開かないものは開かないんだもん。
- 154 名前:桃色瓶詰めハチミツ 投稿日:2006/12/11(月) 01:06
-
「でも、よっすぃがハチミツが好きなんて知らなかったな。」
「言ってないから。」
私はビンの中のハチミツをスプーンですくってマグカップに垂らす。
隣のよっすぃはすました顔でミルクだけを入れてコーヒーを飲んでいる。
- 155 名前:桃色瓶詰めハチミツ 投稿日:2006/12/11(月) 01:06
-
***
- 156 名前:桃色瓶詰めハチミツ 投稿日:2006/12/11(月) 01:06
-
話は数時間前くらいに戻る。
ハロモニの収録が終わって、一緒に帰る約束をしていたよっすぃを迎えに娘。の楽屋に行ったときのこと。
よっすぃはまだ戻ってきていなくて、楽屋の中には数人のメンバーがいるだけだった。
私はれいなを待ってる絵里とさゆとおしゃべりをしていた。
「あぁ、ケーキ食べたい!」
急に絵里が言った。
「どうしたの?いきなり。」
「疲れたときって甘いもの食べたくなるでしょ?今、絵里、そんな気分。」
「さゆみはいつだってケーキ食べたいけど?」
「さゆは相変わらず甘党だねぇ。」
「石川さんだって甘いもの好きじゃないですか?」
「そうだけど・・。」
- 157 名前:桃色瓶詰めハチミツ 投稿日:2006/12/11(月) 01:07
-
「何話してんの?」
「よっすぃ。」
「「お疲れ様です。」」
二人と話しててよっすぃが戻ってきたことに気づかなかった。
よっすぃは私の横の席にどかっと座る。
「今ね、絵里とさゆとケーキが食べたいって話をしてたの。」
「ケーキ、ねぇ・・。」
「吉澤さんってあまり甘いものは食べないですよね。」
「うん、嫌いじゃないんだけどね。」
「太るとか気にして・・?」
「いや、そういうわけじゃないよ。ただ、甘いものをよく食べてる人が側にいると、あたしは食べなくていいかなぁ、なんてさ。」
と言って、私をちらりと見てくるから、私は肘でよっすぃをつついた。
「絵里は疲れたときって甘いもの食べたくなるんですけど、吉澤さんってどうなんですか?」
「疲れたとき・・・あたしも甘いもの食べるよ。」
「そうなんですか?」
「そうだっけ?」
今まで長いこと一緒にいるけど、よっすぃにそんな印象はなかった。
私にもまだまだ知らないよっすぃの一面があるってことか。
- 158 名前:桃色瓶詰めハチミツ 投稿日:2006/12/11(月) 01:07
-
「大好物は・・・。」
よっすぃは絵里とさゆを見て笑った。
「桃色瓶詰めハチミツ。」
- 159 名前:桃色瓶詰めハチミツ 投稿日:2006/12/11(月) 01:08
-
***
- 160 名前:桃色瓶詰めハチミツ 投稿日:2006/12/11(月) 01:08
-
「何で教えてくれないの?私が最近紅茶にハチミツ入れるの知ってるくせに。」
お砂糖よりも健康にいいし。
自然な甘さがなんかほっとするんだよね。
「おいしいの知ってるなら教えてくれたっていいじゃん。」
私がそう言うと、よっすぃはくすくす笑った。
「知りたいんだ?」
「知りたいよ。」
なんか少し悲しかったんだもん。
こんなに一緒にいるのに、よっすぃがハチミツ好きなんて知らなかったから。
「ほんとに?」
「うん。」
「どうしよっかなぁ〜?」
「もったいぶらないで教えてよ。」
そんなにおいしいの?そのハチミツ。
よけいに知りたくなっちゃうじゃん。
- 161 名前:桃色瓶詰めハチミツ 投稿日:2006/12/11(月) 01:08
-
「じゃ、教えてあげる。」
そう言って目の前によっすぃのきれいな顔。
重なったあたたかい唇。
数秒の後すっと離れた。
「えっ・・?」
よっすぃはにやにや笑ってる。
「キスでごまかさないで。」
「ごまかしてなんかないよ。」
そう言うと、よっすぃはちゅっとまたたくまに私の唇を奪っていく。
「ちょっとっ・・!」
「甘いのは苦手だけど、この甘さは飽きないんだよなぁ。」
むしろさ。
よっすぃは私の顔にぎりぎりまで近づける。
いつにもまして爽やかな、でもなんか意地悪な感じがちらりと覗くそんな顔。
私の胸は今にもパンクしそうなくらいにドキドキしてる。
ずっと一緒にいるけど、いつだってなくなることはない。
あなたへのトキメキ。
- 162 名前:桃色瓶詰めハチミツ 投稿日:2006/12/11(月) 01:09
-
「もっともっと欲しくなる。」
ねぇ、もしかして・・。
私の自惚れじゃないとしたら・・・。
「よっすぃ、ハチミツって・・。」
よっすぃの手が私のピンクのジャージに伸びる。
触れたと思ったら、ぐっと押し倒された。
私を見下ろす真っ直ぐな目。
「あのさ、あたしの大好物いただいちゃっていい?」
その顔がいたずらっ子みたく無邪気に笑ってるから。
私はしょうがないなぁ、なんて困った顔をしながら言っちゃうの。
「・・どうぞ、召し上がれ。」
- 163 名前:桃色瓶詰めハチミツ 投稿日:2006/12/11(月) 01:09
-
あなた限定、桃色瓶詰めハチミツ。
たくさんたーくさん食べさせてあげる。
- 164 名前:桃色瓶詰めハチミツ 投稿日:2006/12/11(月) 01:10
-
END
- 165 名前:七作 投稿日:2006/12/11(月) 01:11
-
* * *
- 166 名前:七作 投稿日:2006/12/11(月) 01:22
- とにかくすごく甘いものが書きたかった。
七作にとってはかなり糖度は高めだと思ってますが・・(汗)
甘さはどうでしょう?
コメントありがとうございます。
>148様
ありがとうございます!!
七作も大好きです!
>149様
あんなところでもめるりかあやです(笑)
>150様
( ^▽^)<そうだ、その手があった!
从‘ 。‘)<でも、かっこいいまつーらを梨華ちゃんに見てもらいたいの。
(*^▽^)<亜弥ちゃん・・。
( ´ Д `)<(バカップル・・。)
ドレスもタキシードも着ちゃえばいい。
これからもかわいいあやりかが書けるようがんばります。
- 167 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/11(月) 02:19
- 更新ありがとうございます!
糖度めっちゃ高いです!
めっちゃ甘くて良かったです!
読んでてニヤニヤしちゃいました
- 168 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/11(月) 22:32
- あま〜い
- 169 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/11(月) 23:12
- ものごっつーあま〜いっす。
あま〜いのは“いしよし”が俄然強め。
- 170 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/12(火) 00:05
- 桃色瓶詰めハチミツって何気にエロいっすねw
- 171 名前:七作 投稿日:2006/12/25(月) 02:05
-
たぶんこれからこの先、この日を楽しむことなんてあたしはできないと思う。
- 172 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:05
-
クリスマスパレード
- 173 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:06
-
家に帰ってくると、ローストチキンのおいしそうなにおいがした。
「ただいまぁ〜。」
「おかえり。」
台所ではお母さんが忙しそうに料理を作っていた。
ゆでえびの洋風マリネ
帆立のゼリー仕立て
オニオングラタンスープ
サラダ
すでに出来上がった料理はテーブルに並べられている。
もともと料理好きなお母さんだけど、特にクリスマスは気合の入ったごちそうが並べられている。
「手を洗ったら唯ちゃん、手伝ってね。もうすぐ石川さんが来られるから。」
「はーい。」
- 174 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:06
-
あたしはいったん自分の部屋に戻って、コートを脱ぐ。
カバンと買ったものをテーブルに置いて、あたしは一呼吸する。
棚の上に置いてある写真立て。
絵梨香ちゃんと石川さんとあたしが笑ってる写真。
こんな風にまた笑える日がくるのかな・・?
- 175 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:07
-
ピンポーン
「あ、石川さんかしらね?」
お母さんがオーブンからチキンを出しながら言う。
あたしが玄関を開けると、黒のコートに身を包んだ石川さんがたくさんの荷物を抱えて立っていた。
「こんばんは、唯ちゃん。」
「こんばんは。ちょうどチキンが出来たとこですよ。」
「私ってばグッドタイミングじゃない。」
ふふふと笑いながら、石川さんは「おじゃましまーす。」と言って、うちに上がった。
- 176 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:07
-
「いらっしゃい、石川さん。」
「こんばんは。今年もお招きありがとうございます。」
石川さんは頭を下げる。
「あの、これ・・。」
そう言って、石川さんが差し出すのはラッピングされたワインと花の小鉢。
「毎年ありがとうね。」
「いえ、いつも変わりないもので申し訳ないのですが。ところでおじさまは・・?」
「お父さんは今日は残業やって。」
「会社で何かトラブルがあったみたいなのよ。さっき電話で石川さんに会えなくて残念がってたわ。」
「そうですか・・。」
お母さんはワインをテーブルに置くと、花の小鉢を隣の部屋に持っていく。
石川さんもお母さんの後について、部屋に入っていった。
- 177 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:07
-
- 178 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:08
-
うちのクリスマスパーティーに石川さんが来るようになったのは五年前からだ。
石川さんは絵梨香ちゃんの大学の友人。
一人暮らしをしているからって絵梨香ちゃんが誘ったのが始まりだ。
初めて石川さんを紹介されたとき、あたしはなんてきれいな人なんやろうなぁって思った。
カフェで、あたしの前で紅茶を飲む石川さんは一つの絵みたいやった。
それから。
「絵梨香の大学の友達の石川梨華さん。」
やけに明るい絵梨香ちゃんの声。
絵梨香ちゃんは石川さんのことが好きなんだということにも確信を持った。
それまでも絵梨香ちゃんから石川さんの話を聞いていたけど、石川さんを見つめる視線が恋してるって目で、それを目の当たりにして少しだけ恥ずかしくも感じていた。
と同時に罪悪感。
絵梨香ちゃんには悪いと思ったけれど、あたしも石川さんのこと、好きになってしまった。
姉と同じ人をまさか好きになるなんてやばいなぁと思ったけど・・。
- 179 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:08
-
あたしと絵梨香ちゃんは姉妹だ。
でも血は繋がってない。
本当のお母さんはあたしを生んですぐに亡くなり、あたしはずっと大阪のおばあちゃんに育ててもらっていた。
そしてお父さんが再婚したのがあたしが中学二年生の頃。
それが今のお母さん。で、その連れ子が絵梨香ちゃんやった。
お父さんが仕事であまり構ってくれない分、お母さんと絵梨香ちゃんはあたしのことをすごくかわいがってくれた。
だからあたしは全然寂しくなんてなかった。
この先、ずっとこんな楽しい生活が続くってあたしは思ってた。
- 180 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:08
-
- 181 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:09
-
「このゼリー、おいしい!」
おいしいを連発しながら石川さんの手と口は動いてる。
「実は最近、料理教室で習ったものなのよ。」
「へぇ。ぜひ私にも教えてください。」
楽しげに話す石川さんとお母さん。
そんな二人を見て、あたしは少し寂しくなる。
本来ならこの会話に加わってる人がいないんやから。
でも、たぶん、二人もあえてそんな弾む会話を演出してるんじゃないかって思う。
寂しいのはあたしだけやないから。
- 182 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:09
-
「この写真、いつ撮ったんだっけ?」
「たぶん・・・あたしと石川さんが出会ってすぐだと思います。」
「そっか。」
棚の上に置いてある写真立てを手に取り、石川さんはじっと見ている。
クリスマスケーキまできちんと食したあたし達は今、あたしの部屋にいる。
片付けを手伝うと言った石川さんはあたしの相手をしてあげてとお母さんに言われたのだった。
「クリスマス、やっぱり雪降りませんね。」
「東京だと難しいよ。」
「そうですよね・・。」
二人、窓の近くで外を眺めてる。
「北海道はクリスマスに雪降ってるって絵梨香ちゃん、言ってたなぁ・・。」
東京に来る前、北海道に住んでた絵梨香ちゃん。
「ホワイトクリスマスってロマンチックだよねって言ったら、絵梨香、“え?そうですか?”って。向こうじゃ、特に珍しいことじゃないみたいだし。」
- 183 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:10
-
石川さんの横顔をちらりと見る。
絵梨香ちゃんと石川さんは恋人ではなかった。
でも、おそらく石川さんも絵梨香ちゃんを好きだった、いや、今も好きかもしれない。
たぶん、きっと好きだ。
あの年、あたし達の前から絵梨香ちゃんがいなくなってしまった日から毎年、石川さんはずっとあの花をうちに持ってきているんやから。
- 184 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:10
-
- 185 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:10
-
三年前。
その年、絵梨香ちゃんはとにかくクリスマスを楽しみにしていた。
「絵梨香ちゃん、何かいいことでもあるん?」
「いいことっていうか・・とにかく当日までのお楽しみ。」
絶対に教えてくれなかった絵梨香ちゃん。
子供みたく笑ってるからあえてあたしは追及することはなく。
その方がクリスマスが楽しくなると思うし。
けれども・・・・そのサプライズは結局本人の口からは聞くことはできなかった。
この年のケーキは絵梨香ちゃんが用意してくれることになっていた。
「じゃ、行ってくるから。」
「気をつけてね。」
「梨華ちゃんがもうすぐ来ると思うから。」
「うん、わかっとる。」
大事な大事なお客様やもんなぁ。
ちゃーんと接待しますって。
手を振って見送る絵梨香ちゃんの背中。
そしてこれが元気だった絵梨香ちゃんの最後の姿。
- 186 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:11
-
「こんばんは。」
「石川さん、こんばんはぁ。」
「絵梨香は?」
「今、ケーキ取りに行ってます。」
「そうなんだ。今年は絵梨香意気込んで・・・。」
「唯ちゃん!!石川さん!!」
玄関先にいたままのあたし達にお母さんは慌てた様子でやって来た。
顔が青白い。
「どうしたん?お母さん。」
「え、絵梨香が・・・。」
「絵梨香ちゃん?」
「事故にあったって・・・。」
ガチャン
絵梨香ちゃんが事故?・・・嘘やろ?
「今、警察から連絡があって・・・。」
「お母さん・・。」
「病院に運ばれたって・・・。」
あたし達が病院に着いたときには絵梨香ちゃんはもうすでに意識はなくて。
あたし達は病院で泣き崩れるしかできなかった。
- 187 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:11
-
家に帰ってきたあたし達。
玄関先の粉々に割れている鉢と花。
冷め切ってしまった料理。
電飾付けっぱなしのクリスマスツリー。
あたしはまた泣いた。
あの日のことは正直、あまり覚えてない。
すべてが断片的。
ただ頭に残っているのは声を出さずに泣いた石川さんの姿。
- 188 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:11
-
- 189 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:12
-
絵梨香ちゃんがいなくなってから三回目のクリスマス。
面白いことや楽しいことが絵梨香ちゃんは好きやったから。
だから毎年、クリスマスには必ずパーティーをすることにした。
天国にいる絵梨香ちゃんもきっと楽しんでくれてると思う。
- 190 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:12
-
仏壇の横に置いてある花。
石川さんから絵梨香ちゃんへのクリスマスプレゼント。
あの日、絵梨香ちゃんに渡せなかった花。
彼女は毎年同じ花を持ってくる。
「あの花、何て言う名前なんですか?」
「・・・クリスマスパレード。」
石川さんはそう答えた。
でもあたしは本当は知ってる。
あの花の学名は『エリカ・ヒエマリス』。
絵梨香ちゃんと同じ名前の花。
- 191 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:13
-
「石川さん。」
「ん?」
「泣きたかったら泣いてもいいですよ?」
泣きそうな顔してるから。
「そう言う唯ちゃんも泣きそうな顔してるけど。」
「あたしは別に・・・。」
「私は・・泣かないよ。」
石川さんはあたしを見つめる。
「絵梨香が言ってくれたの。私の笑ってる顔が好きだって。だから泣かない。」
そう言い切った石川さんはとてもきれいだと思った。
- 192 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:13
-
「ちょっと散歩に出掛けようか?」
「そうですね。」
駅前に大きなツリーがあってイルミネーションがきれいやったから、そこに行ってみたいな。ほら、絵梨香ちゃん、おっきなツリーが大好きやったし。
あたしがそう言うと、石川さんはうなづいた。
そしてぎゅっとあたしの手を握る。
小さなあったかい石川さんの手。
- 193 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:14
-
クリスマスはせつない。
でも、絵梨香ちゃんを一番身近に感じる日かもしれない。
いつか絶対に絵梨香ちゃんに追いつくから。
そしたらクリスマスを石川さんと二人っきりで過ごさせてな。
遠い空の上にいる姉に、あたしは小さくお願いをした。
- 194 名前:クリスマスパレード 投稿日:2006/12/25(月) 02:14
-
END
- 195 名前:七作 投稿日:2006/12/25(月) 02:15
-
* * *
- 196 名前:七作 投稿日:2006/12/25(月) 02:21
- 偶然通りかかった花屋で思いつきました。
クリスマスなのに明るくない。
今思えばもっと明るい話も書けたのになぁと反省しています。
コメントありがとうございます。
>167様
こちらこそありがとうございます。
>168様
どうもです。
>169様
いしよしは甘いのが好きです。
>170様
ギリギリのところでセーフにしたかったのですが、アウトですかね(汗)
- 197 名前:七作 投稿日:2007/01/02(火) 23:51
-
ピンク色に染まった会場。
多くのファンが君の名を叫んでいた。
ずいぶんとあたしより先に走っていってしまった君の、小さいけれど大きな背中を見つめ、絶対に泣くものかと歯を食いしばった。
お互いにがんばろうと、離れても傍にいると誓った日。
君が卒業した春がまたやってくる。
- 198 名前:春 投稿日:2007/01/02(火) 23:52
-
春
- 199 名前:春 投稿日:2007/01/02(火) 23:52
-
携帯を持つ手が震えていて、思わず笑ってしまう。
覚えてしまった君の番号をディスプレイに出し、あたしは小さく深呼吸をする。
プルルプルル・・・
『もしもし、よっすぃ?』
「うん、今時間平気?」
『大丈夫だよ。何かあった?』
「ちょっと話したいことがあるんだけど。」
『うん。』
「えっと・・会って話したいんだけど・・。」
『会って?』
「うん。」
『よっすぃはもう仕事終わったの?』
「終わった。」
『私の方はまだちょっと残ってるんだ。あと一時間くらいかな。』
「じゃあ、梨華ちゃんちで待ってるよ。」
『うん、終わったらすぐに帰るから。』
「あ、うん、じゃ、あとで。」
- 200 名前:春 投稿日:2007/01/02(火) 23:53
-
君はどんな反応をするんだろう?
驚くかな?それとも、やっぱりって思うかな?
お疲れ様って言ってくれるのだろうか?それとも、これからだねって背中を押してくれるだろうか?
重要なことは一番に君に伝えたいから。
あれから二年。
あたしも君を追って卒業するよ。
君と同じ春の日に。
- 201 名前:春 投稿日:2007/01/02(火) 23:53
-
END
- 202 名前:七作 投稿日:2007/01/02(火) 23:55
-
* * *
- 203 名前:七作 投稿日:2007/01/02(火) 23:56
-
すごく短いのですが、どうしても何か書きたくてしょうがなかった。
今後の吉澤さんのソロ活動に期待します。
- 204 名前:七作 投稿日:2007/01/19(金) 23:30
-
ごめんね、ほんとごめん。
もうあなたには会えないの。
あなたのこと、好きではなくなったから。
私のことなんて忘れて。
私もあなたのことは忘れるから。
私だけの松浦亜弥じゃなく、みんなの松浦亜弥に戻ってください。
- 205 名前:七作 投稿日:2007/01/19(金) 23:31
-
恋人はスーパーアイドル3
- 206 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/01/19(金) 23:31
-
「今日は寒いからお鍋にしよっか。」
「うん、そうだね・・・。」
「冷蔵庫の中は・・・って何もないじゃん。買い物行こ、買い物。」
「うん、そうだけどさ・・・。」
そう言って私をじっと見る。
「梨華ちゃん、いつまでうちにいるの?」
「柴ちゃん・・・。」
ここは一人暮らしをしてるアパートでも実家でもない。
一人暮らしをしてる親友の柴ちゃんち。
「確かに泊めてあげるとは言ったけど。」
「うん、ごめん。早く新しいアパート見つけるから。」
「今住んでるアパートってまだ解約してないんだよね?」
「・・・・。」
黙ってしまった私に柴ちゃんはふぅーっとため息をつくと、立ち上がった。
「鍋の材料買いにいくよ。」
「・・・うん。」
- 207 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/01/19(金) 23:32
-
急にやって来てしばらく泊めてと言った私を柴ちゃんは何も理由を聞くこともなく泊めてくれた。
すでに二週間。
少しずつ私の荷物は増えている。
「何鍋にしようか。」
「そうだねぇ、キムチ鍋は?」
「いいね、そうしよう。」
柴ちゃんと私はてくてくスーパーまでの道を歩いていく。
- 208 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/01/19(金) 23:32
-
中学、高校と同じ学校だった柴ちゃんとは大学は別のところだけど、同じ東京に住んでいるので今でも交流は続いている。
昔から私は柴ちゃんのことを頼ってばっかだった。
泣きついてくる私を柴ちゃんはいつもしょうがないなぁという目で見つつも甘えさせてくれた。
突然やって来た私に柴ちゃんはいまだその理由を聞こうとはしない。
私が言い出そうとしない限り、話さないということを知っているから。
ただときおり心配そうに私を見つめている。
昔から変わらない柴ちゃんのやさしさ。
「柴ちゃん。」
「んー?」
「大学の授業が終わるまでいてもいい?休みに入ったら実家に帰るから。」
「・・・うん。」
- 209 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/01/19(金) 23:32
-
夜空を見上げた。
あまり星は見えない。
東京の空はなんだか狭い。
ふと視界に入ったビル。
大きな看板。
思わず立ち止まってしまう私。
「梨華ちゃん?」
不振に思った柴ちゃんが声をかける。
「あ、ごめんごめん。」
歩き出す私。
今度は柴ちゃんが立ち止まったまま。
「あそこの看板変わったんだ。」
柴ちゃんの視線は今さっき私の見ていたところへ。
「渋谷とかでもあの看板たくさん見るね、松浦亜弥の。」
- 210 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/01/19(金) 23:33
-
松浦亜弥。
今をときめくスーパーアイドル。
そして。
少し前まで私の・・・恋人だった人。
ひょんなことから知り合って、友達になって・・・。
幸せだった。怖いくらいに幸せだった。
でもそれはもう過去の話。
「行こう、柴ちゃん。お腹すいた。」
「うん。」
いつまでも柴ちゃんに迷惑はかけられない。
そして私自身も前に進まなければならない。
- 211 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/01/19(金) 23:33
-
いつからだったっけなぁ?
柴ちゃんちのお客様用ふとんに入って考える。
散々しゃべっていた私達は明日のことを考えてさっき「おやすみ。」を言った。
けれども私はなんだか眠れなくてそして考えてしまったのだ。
前の恋人のことを。
忘れようとしているのに忘れさせてくれない。
それは彼女が毎日のようにテレビに出ていて、街中に彼女の写真の大きな看板があるというスーパーアイドルだから・・。
って、たぶんきっとそれは言い訳。
・・・今でも私の心の中に亜弥ちゃんが住んでしまってるから。
- 212 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/01/19(金) 23:33
-
美貴ちゃんに紹介された二日後、亜弥ちゃんは急にうちにやって来た。
ドアフォンが鳴ったので出てみれば「松浦です。」というかわいい声。
慌ててドアを開けてみれば本人登場。
「松浦さん・・!」
「遊びにきたよ、梨華ちゃん。」
にっこり笑顔で「お邪魔しまーす。」なんて家に上がった彼女。
私は慌てて彼女の後についていく。
「あ、あの、どうして・・?」
「どうしてって、友達でしょ?」
「えっと、そう、だけど・・。」
「来ちゃまずかった?」
「ううん、そんなことないよ。」
「よかった!」
無邪気に喜ぶ亜弥ちゃんを見て、この世界にはこんなにもかわいい子がいるんだなぁって思って・・・。
で。
――――!!
「えっ、ちょ、ちょっ・・・えぇー?!」
「にゃは、かわいい反応!」
- 213 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/01/19(金) 23:34
-
そうだ、私はいきなり亜弥ちゃんに唇を奪われてしまったのだ。
後で聞いた話だとこのときのキスは宣戦布告だったのだそうだ。
まさか亜弥ちゃんが私のことを好きだなんて気づきもしなかったから、このキスの意味がさっぱり理解できなくて毎日悩んでいた。
今思えば、亜弥ちゃんは最初っから飛ばしてた。
そんな彼女にいつも私は振り回されていた気がする。
- 214 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/01/19(金) 23:34
-
年末は特に忙しいって言ってたな。
たくさんの音楽番組に出たり、正月番組の収録をしたりするからうちにも来れないって。
今年のクリスマスは初のディナーショーもやるからクリスマスイブは一緒に過ごせないって亜弥ちゃん半泣きで・・。
毎日電話もメールもするからって私が何度も約束してようやく立ち直った亜弥ちゃん。
・・・でももう別れたのだからそんな約束もなくなった。
彼女の着信とメールは二週間前のもので最後。
私が着信拒否をしたから。
お仕事がんばりすぎて体を壊さないでね。
遠くから一ファンとしてこれからも応援してるから・・・。
- 215 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/01/19(金) 23:35
-
つづく
- 216 名前:七作 投稿日:2007/01/19(金) 23:35
-
* * *
- 217 名前:七作 投稿日:2007/01/19(金) 23:37
- 前スレ「恋するうさぎ」の140-158、198-250の続きです。
本日は石川さんのお誕生日ということで。
おめでとうございます。
- 218 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/20(土) 02:05
- 七作さんのあやりかだ!!
また良い所で…!続きどきどきしながら待ってます。
- 219 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/29(月) 21:55
- 待ってました!
続きワクワクドキドキ
- 220 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:30
-
「これじゃ正月休みはレポートのためにあるようなもんじゃないですか・・。」
学食のテーブルに肘を付いて暗い顔をしてるのは絵梨香。
「まぁ、この量は結構大変だよねぇ・・。」
「三好、今年は実家に帰りたかったのに・・。」
同じゼミの同い年で一学年後輩の絵梨香と一緒にごはんを食べているところ。
専門科目の同じ授業をとっているのだけど、先生が厳しい人でどっさり課題を出されてしまったのだ。
その分、試験はないんだけど。
「梨華ちゃんは正月は実家に帰るんですか?」
「うん、そのつもりだよ。」
「いいですよねぇ、神奈川。東京から近い。」
絵梨香の実家は北海道。
なかなか簡単には帰ることは難しくて、去年もなんだかんだと帰れなかったらしい。
- 221 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:31
-
「なーに話てるんですかぁ?」
のんびりマイペースな声が聞こえた。
振り返ってみれば、そこには同じゼミの二学年下の後輩の唯ちゃんが立っていた。
「課題が多くてどうしようって話。」
「唯ちゃんはたくさん出た?」
「岡田はほとんどないですねぇ。」
「ほんとに?!うらやましい・・。」
絵梨香はがっくし頭を下げている。
「今から悩んでもしょうがいないって、絵梨香ちゃん。」
「唯ちゃん・・・。」
「これから三人でカラオケ行こ、カラオケ!嫌なもんは忘れるに限る!」
忘れても課題がなくなるわけじゃないけど・・・。
ってこの雰囲気では言わない方がいっか。
「そうだよ、絵梨香。ガンガンに歌おう。」
「うん。」
- 222 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:31
-
というわけで、私達はカラオケボックスにいる。
音痴の私とは対照的に絵梨香や唯ちゃんは上手だから、さっきから歌いっぱなし。
絵梨香なんか半分やけになってる。
お酒も入ってちょっとテンションは上上の私達。
「じゃ、次、岡田歌いまーっす!」
そう宣言してマイクを持って立ち上がった唯ちゃん。
絵梨香と私でヒューヒューと言いながら手拍子をしていたのだけど、流れてきたイントロに思わず私は手が止まってしまった。
この曲・・・。
「最近PVが流れること多くなりましたよねぇ。」
昔っぽい突っ込みどころの多い、独特な映像も面白かったけど。
絵梨香がそう言ってるのが聞こえたけど、私は思わず画面に見入ってしまう。
・・画面にはまだ少し幼い笑顔の松浦亜弥が映っていた。
- 223 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:32
-
「迷うなぁ、セクシーなの、キュートなの、どっちが好きなの〜?♪」
(梨華ちゃんはセクシーなまつーらとかわいいまつーらどっちが好き?)
私の周りには“亜弥ちゃん”が溢れてる。
街を歩けば亜弥ちゃんの看板。
テレビを付ければ歌ってる亜弥ちゃんの姿。
カラオケにきたって亜弥ちゃん・・。
どうやっても私は・・・亜弥ちゃんから逃れられないの?
- 224 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:32
-
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる。」
「あ、はい・・。」
絵梨香に断って、私は部屋を出た。
そう言えば、唯ちゃん、亜弥ちゃんのファンだったよね。
昔は亜弥ちゃんに憧れてアイドルになりたいって言ってたし。
トイレの洗面所の前で、私はふぅーっとため息をつく。
鏡の中の私はどこか青ざめていた。
「石川さん。」
声をかけられてドキっとする。
ひょっこり顔を覗かせたのは心配そうな顔の唯ちゃん。
「大丈夫ですかぁ?」
「うん、平気だよ。」
私がなんとか笑顔を作ってうなづくと、唯ちゃんは少し微笑んで、お邪魔しまーす、なんて言って入ってきた。
- 225 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:33
-
「石川さん、今度の土曜日って空いてます?」
「土曜日?」
唯ちゃんが手を洗いながら、鏡の中の私を見つめてくる。
「実はその日、合コンがあるんです。先輩にかわいい子連れてこい言われて。」
「そう、なんだ。」
私が答えるのを聞いて、唯ちゃんはあっと声を上げた。
「すいません、石川さん、彼氏とかいますよね。」
「ううん、いないよ。」
「えっ?そうなんですか?」
「・・どうして?」
「石川さん、きれいやし、てっきり恋人の一人や二人いるかなぁって。」
なのに、岡田ってば思わず合コン誘っちゃって、しまった思ったんです。
「一人も二人もいないって。」
私が笑うと唯ちゃんも照れくさそうにふふふと笑った。
- 226 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:33
-
もしかしたらこれはチャンスなのかもしれない。
私が一歩前進するための、新しい恋に進むための・・・。
「唯ちゃん。」
「はい。」
「その合コン、ぜひ私も行きたいな。」
一瞬浮かんだ彼女の顔・・・私は強く振り払った。
- 227 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:35
-
- 228 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:35
-
「珍しいじゃん、梨華ちゃんが来るなんて。」
「そうかなぁ?」
「そうだよ、あたしが誘ったって全然来ないくせに。」
合コンをする居酒屋に行く前に女の子組は近くのカフェに集合することになっていた。
着いてみれば唯ちゃんの姿はなく、そこには同じクラスのまいちゃんがいた。
まいちゃんも今日の合コンに参加するメンバーの一人。
まいちゃんと唯ちゃんは同じ一般教養の授業をとっていて、仲良くなったらしい。
- 229 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:35
-
「他に誰が来るか知ってる?」
「みうなとアヤカを誘ったって唯ちゃん言ってたけど。」
「そう。」
「今日の男子は医大生だって。医者の卵だよ。」
「そう、なんだ。」
「・・・。」
「・・・まいちゃん?」
「梨華ちゃん。」
まいちゃんが私の両肩をがしっと掴む。
「え?な、何?」
「もっとテンション上げろ!」
「は?」
「滅多にあるかないかの医大生なんだから。目指せ玉の輿!!」
「は、はい!」
えーっと、合コンって気合なのかしら・・?
- 230 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:36
-
そして、近くの居酒屋。
私達が着いたときにはもう男の子達は集まっていた。
女の子メンバーは幹事の唯ちゃん、アヤカちゃん、みうな、まいちゃん、私。
よく見てみれば、みんなすっごくオシャレしてる・・・。
私、一人普通の格好・・。
しょうがないじゃん、私、初心者だもん・・。
・・・なんか緊張してきた・・。
- 231 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:36
-
簡単な自己紹介の後はとりあえずそれぞれで話すって感じになって、私はたまたま横に座っていた少しインテリっぽい人の話に耳を傾けていた。
難しい話とかされたらどうしようかと思ったけれど、映画とか音楽の話で少し安心。
ただ手持ち無沙汰で普段あまり飲まないお酒をどんどん飲んでしまったから、すぐに酔いが回ってきて・・・。
私はそっと席を立った。
一人トイレの洗面台で休んでいると、まいちゃんが入ってきた。
「ちょっと梨華ちゃん、大丈夫?」
「あ、うん・・・少し飲みすぎちゃっただけ。」
やっぱりああいう場所はなんか合わなくてね。
「梨華ちゃんって意外に人見知りしやすいタイプだしねぇ。」
「うん。」
二人並んで鏡越しでお互いの顔を見ながら話す。
- 232 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:37
-
「あのさ。」
「ん?」
「梨華ちゃんって恋人いるんじゃないの?」
突然のまいちゃんの言葉に私はつまってしまう。
誰にも亜弥ちゃんとのことは言ってなかったのに・・。
「これはあたしの勘にすぎないけれど。」
「・・・。」
「最近、別れたの。」
「えっ?」
「だから新しい恋を見つけようと思ってね。」
ちょうどタイミングよく唯ちゃんが誘ってくれたし。
「まぁ、新しい恋を探すってのもいいかもね。」
まだまだうちらは若いんだし。
なんてウィンクするまいちゃんに私は思わず噴き出してしまった。
「まいちゃん、オヤジっぽい。」
「オヤジで結構。」
まいちゃんは私の腕を掴む。
「ほら、行くよ。アヤカ達にいいのが取られる。」
「あはっ、そうだね。」
- 233 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:39
-
〜〜〜〜〜〜♪
ん・・・?
遠くでなんか音が聞こえてる・・・。
誰かの話す声・・?
天気・・・ニュース・・?
・・・・テレビ・・!
「んぅ・・・。」
「あ、起きた。」
- 234 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:39
-
ゆっくりと目を開けると、白い天井とまいちゃんの顔が見えた。
「おはよう。」
「・・・おはよ。」
「ごはん、もうすぐ出来るから。」
「・・・ありがと。」
と、そこに頭に急な痛み。
「・・・痛い。」
「昨日、あんなに飲むからだよ。」
全くしょうがないねぇと言いながら、まいちゃんは薬とお水の入ったコップを差し出してくれる。
「ありがと・・。」
二日酔いなんて大学入ったばかりの飲み会以来だよ・・。
二人でまいちゃんの作ってくれた目玉焼きとトーストを食べる。
正直、あまり食欲はないのだけど、せっかく作ってくれたわけだし・・。
「まいちゃん、お料理上手だね。」
「ただの目玉焼きじゃん。」
そんなことを言いながらも少しテレ気味なところがかわいい。
- 235 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:39
-
昨日、あの後、カラオケに行って、久しぶりにはしゃいでしまった。
みんなお酒が入って、テンション上上で相当盛り上がってた。
正直、恋愛がどーのとかいう感じではなかったというか・・。
記憶が曖昧なんでよく分からないけど・・。
べろべろになってしまった私を見かねたまいちゃんが泊まらせてくれたんだろうなぁ。
- 236 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:40
-
〜〜〜〜〜♪♪
この着メロ・・・。
私はどきりとして思わず手が止まってしまう。
「梨華ちゃん、出ないの?」
「あ、えーっとぉ・・。」
まいちゃんがサイドテーブルにある私の携帯をひょいっと手に取る。
「あ、美貴からじゃん。」
「う、うん・・・。」
「ほら。」
ぐっと私の目の前に携帯を差し出すから、私はようやく携帯を手にする。
- 237 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:40
-
『やーっと出たよ、石川。』
「・・・美貴ちゃん。」
久しぶりの友人の声になつかしさを感じながらも、居心地の悪さも感じる。
『美貴が電話をかけた理由、梨華ちゃんなら分かるよね?』
美貴ちゃんが北海道に戻ってから、定期的にメールのやりとりはしてた。
たまに電話もお互いかけて、長電話になっちゃうこともよくあった。
ただここ最近かかってくるメールや電話にはあえて出ないようにしていた。
たぶん、ううん、絶対に亜弥ちゃんのことだと思ったから。
ちらりとまいちゃんを見ると、気を利かせてくれたのかそそくさと部屋を出て行った。
- 238 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:41
-
『ねぇ、今、どこにいるの?』
答えなかったら美貴ちゃんキレるだろうなぁ・・。
だから私は素直に答える。
「・・・まいちゃんち。」
『何、里田んちにいんの?』
「うん。」
『亜弥ちゃんが急に電話をかけてきたと思ったら、梨華ちゃんと連絡が繋がらないって泣いてさ。家にも戻ってないみたいだっていうし。ねぇ、どういうことなの?』
「どういうもこういうも・・・。」
『梨華ちゃんと亜弥ちゃんが付き合ってるってこと、美貴は知ってるよ。』
美貴ちゃんが知っていることに驚きを感じながらも、一方でそれは当然のことのようにも思えた。
「・・・亜弥ちゃんから聞いたんだよね?」
『うん。美貴は二人の恋のキューピットだからね。』
- 239 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:41
-
「私と亜弥ちゃんはもう別れたの。」
『亜弥ちゃんは受け入れてないみたいだけど。』
「じゃあ、美貴ちゃんからも言ってよ。私と亜弥ちゃんはもう恋人でも何でもないって。」
『えっ、ちょっと・・。』
「他に好きな人ができたの。だから、亜弥ちゃんと別れたいの。」
『梨華ちゃん・・・。』
「美貴ちゃんから亜弥ちゃんに伝えておいて。」
じゃあね、と、私は逃げるように電話を切った。
美貴ちゃんは勘の鋭い子だから。
きっと電話越しでも簡単に見抜いてしまう。
私は携帯の電源をオフにした。
- 240 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:41
-
気づけばまいちゃんが心配そうに私を窺いながらドアの影に立っていた。
「ごめん、立ち聞きするつもりはなかったんだけどさ。」
「ううん、別にいいよ。ここ、まいちゃんちだし。」
「珍しく梨華ちゃんがきつい口調っぽかったから・・・。美貴と喧嘩でもしたの?」
「ううん、喧嘩じゃないよ。」
喧嘩なんてもんじゃない。
心配してくれた美貴ちゃんに私が一方的に八つ当たりをしただけ・・。
- 241 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:42
-
「私が前に付き合ってた人、美貴ちゃん経由で知り合った人だったの。だから、気になって電話してくれただけ。」
「梨華ちゃんは今でもその人のこと、好きなの?」
「・・・。」
「好きなんだ。」
「私から別れを切り出したの。」
「でも、好きなんでしょ?」
「・・・・。」
まいちゃんはじーっと私を見つめてくる。
真っ直ぐすぎるその瞳に私は逃げ場を失ってしまう。
- 242 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:42
-
「その人のこと忘れるために好きでもない合コンに出たってわけね。」
「・・・うん。」
「でもさ、忘れることなんてできるの?例え、新しい恋人ができたとしても、梨華ちゃんはその人のことを忘れることができるの?」
何度も自分自身に問いかけてきたこと。
そのたびに自分はできるんだと思い込もうとした。
「でも、今の梨華ちゃん、前の恋を引きづってる感、ありまくりだもんなぁ。」
「そんな簡単に忘れられるはずがないよ・・。」
「梨華ちゃん・・。」
本気で好きだったから・・・。
- 243 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:43
-
好きになったきっかけがあったのかよく分からない。
ただ、いつのまにか好きになっていた。
会えないとすごく寂しくて。
会えるとすごくうれしくて。
でも、彼女を見ると、ときおり胸がきゅんとして。
彼女の笑顔が好きだった。
彼女の私を呼ぶ声が好きだった。
一緒にいられるだけで幸せだったの。
でも、その幸せを私は自ら手放したんだ―――――・・。
- 244 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/02/11(日) 21:43
-
つづく
- 245 名前:七作 投稿日:2007/02/11(日) 21:44
-
* * *
- 246 名前:七作 投稿日:2007/02/11(日) 21:46
- ずいぶんと前回よりあいてしまい、すみません。
>218様、219様
りかあや、お待たせいたしました。
まだ続きますので、お付き合いいただければと思います。
- 247 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/11(日) 23:55
- 更新キテタ!!!
さとたんとミキティいい人だ…
梨華ちゃん素直になれよー
次の更新もドキドキしながら待ってます
- 248 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/12(月) 01:26
- 更新お疲れ様です。
切なすぎる…なにやってんだよ梨華ちゃん。
男前サトタさんに惚れました。続きをお待ちしております。
- 249 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/20(火) 21:55
- 一体何があったんでしょう?
気になります。
- 250 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:01
-
「やっぱり冬はこたつよねぇ〜・・。」
「こたつでみかんとお茶とおせんべい、幸せだなぁ〜・・。」
妹の絵里と二人でぬくぬくこたつに入り浸っている私。
久々に帰った実家は相変わらずまったりとしていて、居心地がいい。
「お姉ちゃん、正月休みはずーっとうちにいるの?」
「うん、そのつもりだけど。」
「じゃあ、一緒に初詣行けるね!」
へらへらと笑う妹を見て、私は微笑む。
何だろうなぁ、絵里の笑顔ってこう癒されるっていうか・・。
なんていうか・・・ペット?みたいな。
- 251 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:02
-
「お姉ちゃん、リモコンとって。」
「自分でとってよ。」
ぐうたら姉妹はどちらもこたつから出たくないらしい。
「お姉ちゃんの方が近いじゃん。」
絵里が指差す方向を見れば、どう考えても私の方が近い。
「・・・りょーかい。」
私は少しだけ体を伸ばし、テレビの近くに落ちている黒いリモコンを取る。
「何か見たいものでもあるの?」
「うん。音楽番組が始まる。」
音楽番組・・・。
たぶんきっと彼女は出るんだろうなぁ・・。
だってあの子はスーパーアイドルなんだもん。
「え?お姉ちゃん、見ないの?」
こたつから出た私に絵里が驚いて声をかける。
「うん、レポートやらなくちゃいけないから・・。」
「一緒に見ようよー。」
「ママとでも一緒に見て・・。」
「えぇー・・。」
亜弥ちゃんの笑顔を見るのはやっぱり辛いから。
- 252 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:02
-
彼女の出ている番組は当然のこと、全て見ていた。
見たよ、と話すとすごくうれしそうに笑ってくれて。
そうして収録のときの裏話を聞かせてくれる。
表情豊かな亜弥ちゃんのころころと変わるそのかわいい顔を見ているだけで、私はうれしかった。
まだ少し立ち止まったままだけど。
大丈夫、きっと私はまた歩き出すことが出来る。
もうすぐ新しい年が始まるのだから。
- 253 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:02
-
***
- 254 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:03
-
「あけましておめでとうー!!」
絵里のテンション高い声が一階から聞こえた。
あ、もう年が明けたんだ・・・。
そんな風にのんきに思った私は二階の自分の部屋でずっと本を読んでいる。
いつもなら国民的音楽番組を家族と一緒に年越しそばを食べながら見ていた私も今年は早々に自室に引き上げ、課題の本を黙々と読み続けた。
ときおりフライングでやってくる友達からのメールに返信しつつも、私は気になってることが一つあった。
美貴ちゃんへのおめでとうメール。
あんな風に一方的に私が怒って切った電話。
許してくれるかな。
許してほしいんだけど・・・自分勝手かな・・。
こないだの電話の後、ごめんねとはメールを送ったんだけど、返信はなかった。
・・・やっぱり友達にはもう戻れないのかな・・・。
- 255 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:03
-
・・ちゃんと電話して謝ろう。
私が美貴ちゃんの番号を画面に出したとき。
〜〜〜〜〜♪♪
私は急いで電話の開始ボタンを押した。
「もしもし。」
『わ、めちゃくちゃ早い。』
「だって美貴ちゃんに電話しようと思ってたんだもん。」
『なに、美貴の声聞きたくなったとか?』
「うん。」
『素直にうなづくなよ。』
照れくさそうに笑う美貴ちゃんの声に思わず涙が出そうになった。
- 256 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:04
-
『とりあえずあけましておめでとう。』
「あけましておめでとう。」
『今、何してんの?』
「課題の本読んでる。」
『こんな日まで勉強してるとはえらいじゃん。』
「何もすることないしね。」
『・・そう。』
「こないだはごめんね。美貴ちゃん、心配してくれたのに私、八つ当たりして・・。」
『いいよ、別に。』
「メールの返信なかったから怒ってるかなってずっと思ってて・・。」
『あ、返信しなかったら少しは反省するかなぁって思って送らなかった。』
「ひどい、美貴ちゃん。すっごく悩んだのに!」
『そのくらい仕返しさせろ。』
「ふふ、そうだね。」
- 257 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:05
-
『世の中ってものはさ、最後はきっとおさまるところにおさまるって美貴は思う。』
「美貴ちゃん。」
『梨華ちゃんはネガティブで考えずぎるとことがあるけど、あまり深く考えない方がいいときもあると思う。』
「うん、ありがと。」
『前に言ってたじゃん、ポジティブ石川になるってさ。』
「そうだった。」
『ま、なるようになるよ。』
そろそろ電話切るね、という美貴ちゃんに私はもう一度ありがとうと言った。
『美貴に惚れた?』
「うん、ベタ惚れ。愛してるよ。」
『気持ちだけもらっとく。』
「ふふふ。」
『あまり無理はしないように。』
「うん。・・・今年もよろしくね、美貴ちゃん。」
『こちらこそ、梨華ちゃん。』
切れた電話にさびしさを感じながらも私の心はほかほか温かかった。
「お姉ちゃーん!初詣行こー!!」
「うん、ちょっと待って!」
- 258 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:05
-
「なんかドキドキするなぁ。」
「何で?」
「だって絵里、こんな時間に外出歩かないもん。」
「そっか。」
「お姉ちゃんは出掛けたりするの?」
「うん、たまにだけど。」
「あぁ、不良だぁ!」
二人してコートを着込んでマフラーして手袋をしてという完全防備。
話す息は真っ暗な空に白く浮かぶ。
「私もドキドキしてるよ。」
「何で?」
「だって新しい年が始まったじゃん。」
「子供っぽーい。」
「夜中に出歩いてドキドキしてる絵里の方がよっぽど子供じゃない。」
「えぇー。」
- 259 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:05
-
「どっちもどっちじゃない?」
後ろからの声に私達は振り向く。
「二人とも元気そうだね。」
「「保田さん!」」
そこには黒いコートを着た保田さんが片手を挙げて立っていた。
「梨華、こっちに戻ってたの?」
「はい、正月休みなんで。」
保田さんは実家の近所に住んでるお姉さん。
小さい頃からいろいろとお世話になり、中学の頃は家庭教師もやってもらってたのだ。
保田さんは今、神奈川の銀行に勤めている。
「梨華、なんかしばらく見ないうちにきれいになったね。」
「そうですか?」
「保田さん、絵里はどうですか?」
「あぁ、絵里もかわいくなったよ。」
「あは、うれしい!」
絵里は保田さんの腕につかまってにこにこしてる。
- 260 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:06
-
「私はもうあまり感じなくなったなぁ。」
「え?」
「夜中に外で歩くのも、新しい年になるのも。ただ次の日になっただけのことだからって思うようになった。」
「なんかおばさんくさいです、保田さん。」
「うるさい!」
「おばさん、おばさん!」
「絵里、あんたねぇ!」
あははと笑って走り出す絵里の後を保田さんは必死に追う。
なんかそんな二人を見て、思わず噴出してしまう。
- 261 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:06
-
三人で神社の前の長い列に並んで一時間。
ようやく私達の番。
五円を賽銭箱に入れて、鈴を鳴らす。
そして拝礼。
(今年も幸せなことがありますように・・。)
それから。
(亜弥ちゃんが元気にお仕事ができますように・・。)
- 262 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:07
-
*********
- 263 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:08
-
あのときのことは今も頭に残ってる。
今にも雨が降ってきそうなどんよりとした灰色の空。
部屋の片付けをしているところに訪れた予想外のお客様。
「少し話しがあるの。上がらせてもらうわね。」
細身のスーツをびしっと着こなして、飯田さんはやって来たのだった。
「あの、紅茶でいいですか?」
「いえ、すぐに仕事に戻らなくてはいけないから結構よ。」
「そうですか・・。」
ローテーブルの前にぴんと背筋をまっすぐに正座している飯田さんの前に私は座った。
- 264 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:09
-
「松浦、最近もよくここに来るの?」
「あぁ、はい。」
昨晩も急にやって来て、オムライスが食べたいなぁ、なんて言うので作ってあげた。
それを本当においしそうに食べてくれるから、私までうれしくなったんだよね。
思い出し笑いをしかけた私に飯田さんは冷静な口調で話しを切り出した。
「単刀直入に言うけど。」
「はい。」
「松浦とはもう会わないでもらいたいの。」
「えっ・・?」
その冷たい響きに私は一瞬何を言われたのかよく分からなかった。
- 265 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:10
-
「松浦とあなた、恋人同士なんでしょ?」
「・・・。」
「松浦が言ったわけじゃないわ。ただ、あなた達を見て分かってしまったの。」
結構私は勘が鋭いから。
最後は早口に飯田さんはそう付け加えた。
「あなたにとっては松浦をただ好きになっただけかもしれない。けれども、まわりから見れば同性愛ってこと。」
社会の目の中心にあの子はいる。
社会の評価は大事なのよ。
芸能人はね、誰かと付き合ってるというだけでスキャンダル。
ましてや社会に受け入れづらい恋愛だったらあっという間に芸能界にいられなくなる。
あの子は夢を売るのが仕事なの。
言ってしまえば松浦亜弥という商品であるの。
売れなくなった商品は消える運命にある。
- 266 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:10
-
「社会の目は少数には厳しいのよ。」
自分達と少しでも違うと追いやろうとする。
悲しいことだけど、それが現実。
「だから。」
「松浦のことを思うならば別れてほしい。」
- 267 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:11
-
バタンとドアの閉まる音。
私はその場から動けなかった。
静かな静かな私の部屋。
飯田さんの言葉が繰り返し、私の頭の中で響き渡る。
私はテレビの中で輝いている亜弥ちゃんが好き。
アイドルという仕事は彼女の天職だって思う。
これからもずっと亜弥ちゃんはスポットライトを浴び続ける子なのだから。
亜弥ちゃんの未来を閉ざしてしまうことは私にはできない。
亜弥ちゃんのためを思ったら、私がやることはただ一つ・・。
気づけば、外は雨が降り出していた。
まるで私の心を映したかのように。
自分が泣いていることに気づいたのはそれから数分経ってからだった。
- 268 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/03(土) 22:12
-
つづく
- 269 名前:七作 投稿日:2007/03/03(土) 22:12
-
* * *
- 270 名前:七作 投稿日:2007/03/03(土) 22:19
- コメント、ありがとうございます。
>247様
石川さんは意地っ張りで一度思い込んだら・・・ってイメージが実は七作にはあります。
今回の話ではそれが結構強く出てしまってるせいか、素直じゃない石川さんです。
>248様
最近、里田さんはテレビではおバカぶり(失礼)を発揮しておりますが、ここでは男前でかっけー里田さんを目指しています(笑)
>249様
実はこんなことが起きてました。
- 271 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/04(日) 00:49
- 梨華ちゃん…切ない
けど、何にも知らない亜弥ちゃんはもっと切ない・゚・(ノД`)・゚・。
- 272 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/04(日) 15:20
- 梨華ちゃんらしいっちゃ梨華ちゃんらしいけど悲しい決断…
悪い方向に突っ走ってますね。
誰かがきっかけを作ってくれること願っています。
- 273 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:50
-
- 274 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:51
-
「梨華、いつまで寝てるの!」
「・・・たまの休みくらいいいじゃん・・。」
布団にもぐったまま返事をする。
「正月休みくらいゆっくり寝かせてよ。」
「何言ってんのよ、あんた。毎日ごろごろしてんだから!」
そうママに言われても私は布団の中に入ったまま。
なんか、やる気が起きないんだもん。
それに休み明けにはテストとレポート提出に終われ、きっと寝不足になるだろうし・・。
嫌なこと・・・思い出したな。
私は目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をする。
亜弥ちゃんの姿が浮かび上がってくる。
- 275 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:51
-
別に私は女の子が好きだというわけじゃない。
男の子のことを好きになったこともあるし、付き合ったことだってある。
好きになったその人がたまたま女の子で、それが誰もが知ってるアイドルで・・・。
私は“松浦亜弥”という一人に人間に惹かれたんだ。
亜弥ちゃんに出会わなければよかったな。
そうしたらこんなに苦しむことはなかったのに。
もうやめよう!
ネガティブからポジティブになるって決めたじゃない!
亜弥ちゃんを好きになったことは後悔してない。
それでいいじゃない。
- 276 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:52
-
その日一日、私はがむしゃらに課題をやった。
何もかも忘れて没頭できるものがあるのはとても便利だ。
勉強は好きじゃないけど、このときばかりは助かる。
こんこん
「はい?」
ゆっくりとドアが開いて、遠慮がちに顔を覗かせる絵里。
「どうしたの?」
「うん、それがね・・。」
「何?」
「あの、お姉ちゃんにお客さんなんだけど・・・。」
「誰?」
「うん、あのね・・・。」
「りーかちゃん。」
「!!」
- 277 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:52
-
絵里の横からすっと部屋に入ってきた人。
「・・亜弥ちゃん。」
何で、何で・・?!
「えーっと、ごゆっくり・・。」
絵里がそそくさとドアを閉めていった。
信じられなかった・・・信じろってのが難しい・・。
「久しぶりだね、一ヶ月ぶりくらい?」
「・・・うん・・。」
亜弥ちゃんは鼻歌を歌いながら、ぐるりと部屋を見回した
「へぇ〜、ここが梨華ちゃんの部屋かぁ・・。ピンク率、めちゃくちゃ高いねぇ。」
「・・・。」
「ずっとここで梨華ちゃんは育ってきたんだね・・。」
- 278 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:52
-
「何で・・・何でここにいるの・・・?」
「梨華ちゃんを迎えにきたんだよ。」
「だって今日は・・・。」
今日は中野でのコンサートじゃない・・。
こんなところにいていいはずがない。
「梨華ちゃん約束したじゃん。千秋楽は必ず見に来てくれるって。」
約束したよ、だって私、亜弥ちゃんの歌ってる姿、大好きだから。
でも、もうそれは過去のこと。
「私と亜弥ちゃん、・・別れたじゃない・・。」
「それは梨華ちゃんが置手紙なんて残していっただけでしょ。あたしは別れてない。」
「亜弥ちゃん・・・。」
「どうして!・・・どうして・・。」
「それは・・・。」
亜弥ちゃんの目を見ていられなくて私は逸らした。
- 279 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:53
-
「亜弥ちゃんと私は身分が違いすぎる・・。」
「・・身分って?」
「芸能人の、しかも売れっ子のアイドルとその辺の大学生なんて・・。」
飯田さんの言葉が頭の中によみがえる。
「それに私達はおん・・・。」
「分かってない!!」
私の体はびくりと動いた。
大声を上げた亜弥ちゃん。
そんな彼女は初めてだった。
「梨華ちゃんは分かってない!あたしがどれくらい梨華ちゃんのことが好きかって!」
涙をぼろぼろ流す亜弥ちゃん。
「初めて会ったときから・・・あたしは梨華ちゃんのことが好きだったの!」
「初めて・・・美貴ちゃんが紹介してくれたとき・・・?」
「違う、もっと前。たまたまみきたんと梨華ちゃんが一緒にいるところ見たんだ。そのときに一目ぼれして・・・。それからみきたんにたくさん梨華ちゃんのこと訊いて、もっと梨華ちゃんのこと好きになって・・・。だからみきたんに梨華ちゃんのこと紹介してって頼んだ、梨華ちゃんのこと好きだから紹介してって・・・。」
「亜弥ちゃん・・・。」
いつも自信たっぷりの亜弥ちゃんがひどく小さく見えた。
- 280 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:54
-
「ずっと不安だった。ほんとに梨華ちゃんはまつーらこのこと好きかって。もしかしたらしょうがなく付き合ってくれてるんじゃないかって。だから好き?っていつも聞かないと、確認しないとだめだった。」
いっつも笑顔だった亜弥ちゃん。
無邪気に好き?って聞いてきた亜弥ちゃん。
ずっと不安だったなんて・・・私、全然気づかなかった。
「だってあたしと梨華ちゃん、女の子だもん。世間では同性愛ってなるんだ。ただ、あたしは梨華ちゃんが・・・女の子とかそんなこと関係なくて一人の人間として愛してて・・。でもいつか梨華ちゃんの前にはすてきな男性が現れて、簡単にまつーらから奪ってく。そんな夢を見ることも少なくなくて・・。」
「亜弥ちゃん・・・。」
「・・やだよ・・・あたしの前からいなくならないでよ・・・。」
泣き崩れる亜弥ちゃんの姿はスポットライトを浴びてる芸能人では全くなくて、一人の小さな女の子だった。
- 281 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:55
-
「でも・・・・。」
亜弥ちゃんがこれから芸能界でもっと活躍するためには私と一緒じゃ、きっとダメだ。
「私と亜弥ちゃんは別れた方がいいんだよ・・・。」
それがあなたのためになるのだから・・。
「別れる、べきなのよ・・。」
お願い、分かって、亜弥ちゃん。
私はうつむいた。
- 282 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:55
-
「梨華ちゃんの気持ちをちゃんと教えてよ。」
「えっ・・?」
「まつーらのこと、嫌いになったの?」
「亜弥ちゃ・・・。」
「ほんとに嫌いになったの?!」
「・・・うん、そう。」
「なんであたしの目を見ないの?」
「・・・・。」
「ちゃんとあたしの目を見て言ってよ!」
「・・・・・嫌いだよ・・。」
「目をそらすな!!」
「・・・・・・・嫌い・・・。」
「声が小さい!!」
「私は亜弥ちゃんなんてっ―――!!!」
顔を上げた瞬間、そのきれいな瞳に見つめられた私はその続きの言葉を出せなくなった。
- 283 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:56
-
「・・・うぐっ・・・。」
しまったと思ったときにはもう遅かった。
私の目からはとめどなく涙が溢れてしまったから。
私は慌てて、手で顔を覆う。
やだっ・・何で・・・なんで――・・。
止まれと願えば願うほど、なかなか止まってはくれない。
亜弥ちゃんが一歩私に近づくのが雰囲気で分かった。
「・・お願い、私を困らせないで・・・。」
「ただあたしは梨華ちゃんと一緒にいたいだけなの。」
「私は・・・・わたしは・・・・!」
- 284 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:56
-
ふわっ・・・
私は亜弥ちゃんの腕の中にいた。
とても温かくてよけいに涙が出てくる。
「梨華ちゃんのこと、好きだよ。」
「・・わたし・・・。」
「たとえ世界中の人を敵に回しても、梨華ちゃんが好きだってあたしは言えるよ?」
「亜弥ちゃん・・・。」
「まわりのこととかとりあえずいいから、梨華ちゃんの気持ちを聞かせて?」
「私は・・・亜弥ちゃんのこと・・・。」
- 285 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:57
-
ダメ!それ以上言ってはいけない!
私の中に響く声。
亜弥ちゃんを好きなら、愛してるなら、受け入れてはいけない。
『松浦のことを思うならば別れてほしい。』
そうだ、亜弥ちゃんのことを思ったら、私が言うべきことは・・・・。
「世界は自分中心で回ってるわけじゃないって言うけどさ、あたしの人生は・・あたしの世界はあたし中心で回ってるんだ。その世界にはあたしの横に梨華ちゃんがいる。」
『松浦のことを思うならば――――。』
「ねぇ、梨華ちゃん。」
耳元で聞こえる亜弥ちゃんの声。
「まつーらは梨華ちゃんのこと、愛してるよ?」
- 286 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:58
-
あぁ・・・。
・・・ごめんなさい。
・・・・ごめんなさい。
私は我侭なの。
私は・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・
亜弥ちゃんに愛されたい、そして愛したい。
それがいけないことだとしても、私は亜弥ちゃんの傍にいたい・・!!
「・・・私も亜弥ちゃんのこと・・・好き・・愛してる・・。」
私の声は小さく擦れていた。
- 287 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:59
-
「ごめん・・ごめんね、亜弥ちゃん。」
「・・梨華ちゃん・・。」
「傷つけてばっかりでごめん。悩んでいるのに気づかなくてごめん。逃げて・・ごめん。」
「梨華ちゃん!!」
ぎゅっと抱きしめる亜弥ちゃん。
私もそれに負けじと強く抱きつく。
「たぶん亜弥ちゃんが思っている以上に私は亜弥ちゃんのこと好きだよ。」
「・・・どれくらい?」
「・・自分の気持ちを抑えてあなたの幸せを願ってしまうくらい。」
すると亜弥ちゃんは私から体を離して、右手でそっと私の頬に触れる。
「まつーらの幸せは梨華ちゃんの隣にあるんだよ。」
唇が重なる。
久しぶりの亜弥ちゃんとのキスはあの頃と変わらず、やさしくて温かかった。
- 288 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/10(土) 21:59
-
つづく
- 289 名前:七作 投稿日:2007/03/10(土) 22:00
-
* * *
- 290 名前:七作 投稿日:2007/03/10(土) 22:05
- コメント、ありがとうございます。
>271様
自分で書いておいてなんですが、何も知らされてない松浦さんの方が辛いですよね。
>272様
ここの石川さんはなぜか悪い方ばかり考えてしまうという・・・。
- 291 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/11(日) 00:19
- とりあえず良かった。・゚・(ノ∀`)・゚・。
素直が一番だよ梨華ちゃん
- 292 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/15(木) 20:29
- 本気だ。あややは本気なのだ。
梨華ちゃんのために自分の全てをかけることができるほどに。
愛だねぇ。
- 293 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:33
-
タクシーの中。
私と亜弥ちゃんの手は繋がれたまま。
窓の外を見つめる亜弥ちゃんに私は小さな声で尋ねる。
「どうして実家の住所分かったの?」
「みきたんに訊いた。」
「でも美貴ちゃん、私の実家知らないはず・・・。」
「みきたんの知ってる限りの梨華ちゃんの友達に連絡とってもらってどうにかして聞き出してもらった。」
「・・そう。」
「みきたんに働かせた代わりに今度好きなだけ焼肉おごることになったけど。」
「ごめん。」
「でも梨華ちゃんがまつーらのとこに戻ってくれるならそんなの安い。」
「亜弥ちゃん・・。」
- 294 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:33
-
「松浦、あんたどこに行って・・・。」
裏口から入った私達を最初に見つけたのは飯田さんだった。
亜弥ちゃんの隣にいる私を見て、飯田さんは口をつぐんだ。
「まだ時間あるよね?」
「・・リハーサル、すぐにでも始めるわよ。」
「うん、分かってる。」
亜弥ちゃんは私を見つめ、「客席でまつーらのこと、見てて。」と言うと、ゆっくりと手を離す。
そして駆け足で楽屋に入っていった。
- 295 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:33
-
「あの子の傍にはあなたがいないと駄目なのね・・。」
亜弥ちゃんの消えた先を見つめながら、飯田さんはぽつりとつぶやいた。
「ここ一ヶ月のあの子の目には光が灯ってなかった。キラキラ輝いてたオーラも身を潜め、まるで別人だった。」
「・・・。」
「もちろんプロだからテレビの前じゃ、アイドル松浦亜弥を演じてたけど、それでもひとたび舞台を降りてしまえば・・・死人のようだった。」
飯田さんはゆっくりと私の方を向く。
「松浦にとってあなたは生きる希望なんだと思う。」
「飯田さん・・。」
「・・松浦の傍にいてあげて。」
「・・・はい。」
「ただ一つ、覚悟を決めてほしい。あの子がこれからもアイドルとして生きていけるように。あなたとのことは秘密にするってこと。私もいろいろと力になるから。」
「はい、分かってます。」
「ありがとう。」
でもいつか。言いかけて、飯田さんは見上げた。
「あなた達の恋が多くの人に受け入れてもらえたらと思ってる。」
「・・ありがとう、ございます。」
- 296 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:34
-
たくさんの鮮やかな衣装に着替えて、何曲も歌い上げる亜弥ちゃん。
広い舞台の端から端まで走りまくって、踊りまくって、歌いまくって。
その小さな体のどこにそんなエネルギーがあるんだろうってくらい、彼女ははじけていた。
私は二階席の一番前に座って、彼女を見続ける。
ときおり、私の方に視線を向けて、手を振ってくれてるってちゃんと気づいてるよ。
- 297 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:34
-
盛り上がってるコンサートは後半に突入。
さっきまでカラフルだった照明は一気に暗くなり、次の瞬間、パッとライトが彼女一人に当てられてた。
大人っぽい黒いドレスを着た亜弥ちゃん。
「愛する人のためにこの歌を捧げます。」
彼女の落ち着いた声。
「『dearest』・・・。」
ピアノのイントロ。
そっと歌いだす亜弥ちゃん。
スポットライトを浴びる彼女は堂々としていて、凛々しくて、美しくて。
うれしくてせつなくて感動して心が揺れて。
思わず泣きそうになる。
大好きな声。
いつまでもずっと傍で聴いていたい。
「・・・・。・・・大好きだよ。」
- 298 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:34
-
ねぇ、自惚れじゃないって思っていいよね?
亜弥ちゃんは私を見て歌ってくれてるんだって思っていいんだよね?
私は松浦亜弥に愛されてるって・・・思っていいんだよね?
って、いまさらかな。
いつだって亜弥ちゃんは私のことを丸ごと愛してくれたから。
ねぇ、ねぇ、亜弥ちゃん。
私の幸せもあなたの隣で存在しているんだよ。
- 299 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:35
-
***
- 300 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:36
-
夜、バイトを終えて、私はアパートに帰宅する。
結局は今まで住んでいたアパートのまま。
亜弥ちゃんとの思い出がたくさん詰まったアパート。
鞄の中からごそごそと鍵を取り出して、ガチャリとドアを開けた。
「おっかえりー!」
「へっ?!」
ドアを開けたら突然声がして思わず変な声を出してしまった。
「亜弥ちゃん?!」
「待ってたよ、梨華ちゃん。」
ぎゅっと抱きつかれてちゅっとキスをされる。
「今日はお仕事が遅くまであるから来れないって言ってなかったっけ?」
「うん、その予定だったんだけど、収録が早く終わったの。だからさ、来ちゃった。」
「そうだったの。」
「ダメだった?」
「そんなことないよ、うれしい。」
「よかった!」
- 301 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:36
-
「メールくれたらもっと早く帰ってきたのに。」
「だって梨華ちゃんに“おかえり”って言いたかったし、それにこれ。」
そう言って、亜弥ちゃんはじゃらりと顔の前にかざす。
「梨華ちゃんちの合鍵、使いたかったしね。」
ハートのキーホルダーのついた鍵。
あの日、千秋楽のコンサートを終えて、一緒にここに帰ってきたときに私が渡したもの。
「・・そっか。」
すごくうれしいな。
「ごはんはもう食べたの?」
「うん、食べてきた。梨華ちゃんは?」
「私もバイト先の人と食べてきたんだ。」
「だったらさ、一緒にお風呂はいろ?」
「えぇっ!」
「お風呂沸かしておいたからさ。」
- 302 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:37
-
ちゃぷん・・・
ピンク色のお湯に、向かい合ってゆったり浸かる私達。
ほんのりフローラルな香りに包まれて私達はリラックス。
「梨華ちゃんと一緒のお風呂って初めてじゃない?」
「そういえば・・そうだねぇ。」
「まつーらが誘ってもなかなかおっけーしてくれなかったもんね。」
「だって恥ずかしかったんだもん・・。」
明るい中で裸なんて・・・。
今だって絶対顔真っ赤だし。
それに気づき、私は思わず亜弥ちゃんに背を向ける。
「お、お風呂、気持ちいいね・・・。」
「もっと気持ちいいことしよっか、梨華ちゃん・・・。」
「ちょっ・・あ、亜弥ちゃん・・・。」
―――――――・・・・
- 303 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:37
-
ここちよい脱力感とあったまった体。
ベッドの中、お揃いのハート柄のパジャマを着て二人並んでいる。
「ね、亜弥ちゃん。」
「ん?」
「もし、あのとき・・・私が亜弥ちゃんのこと嫌いって言ってたらどうしてた?」
「あー、梨華ちゃんちに迎えに行ったときのことね?」
「・・うん。」
亜弥ちゃんはベッドの中でくるんと体の向きを変え、天井を見つめた。
「たぶんっていうか絶対に連れて帰ったね。」
「え?」
「だってあきらめるつもりなんて全くなかったし。」
「そうなの・・?」
「梨華ちゃんに抵抗されてたら・・・・監禁してたかも。」
「えぇっ?!」
笑顔で恐ろしいことを言ってる亜弥ちゃん・・。
でも、なんかほんとにされそうだわ・・・。
- 304 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:37
-
亜弥ちゃんは私の胸にぐっと顔をうずめる。
なんか子供みたくてかわいい。
「でも、ちゃーんと梨華ちゃんはまつーらのところに帰ってきたわけだし。」
「うん。」
「だって、トップアイドル松浦亜弥がベタ惚れしてるんだから。」
「ふふふ、そうだね。」
「どこにいたって絶対に見つけてやるんだから・・。」
「うん。」
「覚悟・・・してよね・・・。」
「・・うん。」
疲れていたのか、亜弥ちゃんは抱きついたまますーっと眠ってしまった。
私はさらさらな髪をゆっくりと撫でる。
今夜は私、とっても気持ちよく眠れそう。
亜弥ちゃん、いい夢見てね・・・。
- 305 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:38
-
- 306 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:38
-
「亜弥ちゃん、起きて。」
「むぅ・・・あと五分だけ・・。」
「さっきからそう言ってるじゃない。」
朝。
これから仕事がある亜弥ちゃんを起こしているのだけれど、もぞもぞするだけで一向に起きてくれない。
このままじゃ遅刻しちゃうって・・。
「ねぇ、亜弥ちゃん。」
すると布団から目だけを出して亜弥ちゃんが言った。
「梨華ちゃんがキスしてくれたら起きる。」
「えっ?!」
「おはよーのちゅーして。」
「・・・ほんとに起きる?」
「うん、ほんと。まつーら、嘘つかない。」
・・・しょうがないなぁ。
私は目を閉じて、ゆっくりと顔を近づける。
- 307 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:38
-
「!!」
ぎゅっと抱きつかれて強引なキス。
亜弥ちゃんの舌が私の中に入ってきて・・・。
ちょ、ちょっと待って・・・おはようのちゅうのレベルじゃないじゃない!
「はぁ・・・はぁ・・・。」
「朝からうっれしいな♪梨華ちゃんのちゅー。」
ご機嫌な亜弥ちゃん。
ねぇ、もうちょっと手加減してほしいんだけど、なんて。
- 308 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:39
-
いつだって全身全力で私を愛してくれる亜弥ちゃん。
ちゃんと受け止めて、そして亜弥ちゃんに返すから。
私の自慢の恋人はスーパーアイドル。
- 309 名前:恋人はスーパーアイドル3 投稿日:2007/03/18(日) 12:39
-
END
- 310 名前:七作 投稿日:2007/03/18(日) 12:40
-
* * *
- 311 名前:七作 投稿日:2007/03/18(日) 12:45
- 長くお付き合い、ありがとうございました。
「恋人は〜」の続編を書くと決めたとき、実は大雑把な流れは今回の3まで考えていました。
ただ、なかなか筆が進まなく、ずいぶん2から時間が空いてしまいました。
すみません。
「恋人は〜」に関しましては、番外編も考えておりますので、もう少しお付き合いいただければと思います。
コメント、ありがとうございます。
>291様
ようやく素直になってくれた石川さんです。
>292様
まつーらさんは本気です。
本気のまつーらさんは誰も止められないと思います。
- 312 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/18(日) 20:10
- 更新おつかれさまです。
なんというかちょっと泣きました。へへっ。
またこの二人のお話が見れるということで楽しみにしています。
ラジオで『ずっと好きでいいですかっていい曲だね』と発言した石川さん。
たぶんハロコンリハの影響だったんでしょうけどこのスレが浮かびました(笑
- 313 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/20(火) 00:11
- 石川さんって松浦さんの曲好きですよねぇ
ハロプロから5曲選ぶとかいう企画でも「そう言えば」選んでたし
全く別方向ながら突っ走りタイプの二人のお話すごく楽しかったです
続きまた期待してまーす
- 314 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/20(火) 18:50
- 収まる所に収まってよかったw
一生懸命で可愛い二人をありがとうございました。
続きも楽しみにしています。
- 315 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/24(土) 21:27
- 良かった☆
番外編も楽しみに待っています!
- 316 名前:七作 投稿日:2007/04/03(火) 00:00
-
この話は前スレ「恋するうさぎ」の198-250の『恋人はスーパーアイドル2』の番外編です。
そちらを読んでないと分からないかもしれません。
よろしければ、先にそちらをお読みください。
- 317 名前:七作 投稿日:2007/04/03(火) 00:01
-
恋人はスーパーアイドル 番外編
僕と彼女と彼女の話
- 318 名前:七作 投稿日:2007/04/03(火) 00:02
-
「文麿、どっちに帰る?」
「んー、彼女のとこ。」
「・・了解。」
車はゆっくりと僕の家ではない方向に走り出す。
流れ行く景色を見つめ、ふと気づく。
窓に映っている自分の顔。
すっげーゆるんだ顔してんじゃん。
〜〜〜〜♪
ディスプレイを見れば友人の名前。
「もしもし。」
『まろ、まろ、聞いてー!』
テンション高い声。
思わず耳から携帯を遠ざける。
「聞こえてるよ、まっつー。」
『今どこ?話しても平気?』
「うん。車の中だから平気。」
『これから愛ちゃんとこ行くの?」
「うん。」
電話の相手は超がつくほど有名なアイドル松浦亜弥。
以前CMで競演したことがあり、それから仲良くなった。
女の子女の子してるかと思いきや、結構さっぱりしてて話しやすい奴だ。
- 319 名前:七作 投稿日:2007/04/03(火) 00:03
-
少し前、彼女と僕が付き合っているという噂が流れた。
実は僕は歌手の高橋愛と付き合っていて、まっつーも恋人が別にいたので、その噂はデマだった。
しかし、否定したところで誰も信じてはくれなかった。
まっつーは恋人に誤解されて大変だったみたい。
一方僕の方は愛とはそれほどこじれはしなかった。
愛とまっつーは仲がよく、僕とまっつーが一緒にごはんを食べたことも知っていたから。
というよりもまっつーが愛に自分と恋人のノロケ話をめちゃくちゃ話しているようなので、
僕と浮気なんて考えられないはずだ。
僕自身隠し事は下手なので、浮気をしようものならばおそらくすぐにバレるだろう。
まっつーと僕の噂はすぐに消えた。
それもそのはず。
僕が記者会見で話したからだ。
「高橋愛と付き合っています。」と。
- 320 名前:七作 投稿日:2007/04/03(火) 00:04
-
この記事が出たときに僕は思い切って愛に話した。
僕達のことを世間に公表しよう、と。
自分達のプライベートのことをわざわざ話すなんてバカらしいという気持ち。
僕が誰と付き合っていようが関係ないじゃないかという気持ち。
何でそんなことで騒ぐのかという気持ち。
公表したところで騒ぎは静まるわけじゃない。
もしかしたらよけいに追いまわされるかもしれない。
正直いろいろとあった。
けれども最終的には公表。
ただ自慢したくなったんだ。
僕は高橋愛と付き合ってるんだって。
そんな気持ちになったのはまっつーと彼女の恋人のことを聞いたからというのもある。
「まろ、あのね。」
歯切れ悪く話し出したまっつー。
「あたしの恋人って女の子なの。」
『・・・ちゃんと聞いてる?』
「大丈夫、ちゃんと聞いてる。」
いつもののろけ話。
愛だけでなく、僕にまで話すようになった。
「つまりはさ・・。」
僕は小さく笑う。
「“梨華ちゃん”がかわいいってことだろ?」
- 321 名前:七作 投稿日:2007/04/03(火) 00:04
-
恋愛は自由だ。決まった形なんてない。
けれども世間の常識なんてもので追放されてしまう恋もある。
それはとてもおかしいことなのだけれど。
僕の恋はたまたま世の中にあったものであっただけだ。
だったら、堂々と付き合ってるってことを言ってしまえ!
最後はやけになっていたのは本当。
- 322 名前:七作 投稿日:2007/04/03(火) 00:04
-
ピンポーン
ぱたぱたという足音。
ガチャ
そっと覗かせたかわいい顔。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
僕には分かる。
これからもこうして君が僕を迎えてくれるのを。
「まろ君がこっちに来れるっていうから、あーし、今日はハンバーグを・・・」
ギィ・・バタン
さて、ここからは僕と愛の秘密。
- 323 名前:僕と彼女と彼女の話 投稿日:2007/04/03(火) 00:05
-
END
- 324 名前:七作 投稿日:2007/04/03(火) 00:09
-
もう一本、短編を。
- 325 名前:七作 投稿日:2007/04/03(火) 00:10
-
とてもいい匂いがしてくる。
今日はあたしのリクエストでシチュー。
キッチンでヒラヒラの白いエプロンを付けて一生懸命作ってくれてる梨華ちゃん。
もうめちゃめちゃキュート。
ちなみにこのエプロンはまつーらが購入したもの。
これ見たとき、絶対に梨華ちゃんに来てほしいって思ったんだもん。
そんでさ、どうしても、どうしても、ね・・。
「亜弥ちゃん。」
「何―?」
「もうすぐできるからお皿持ってって。」
「はぁーい。」
おいしそうな匂い。
お腹すいたぁ。
あぁ、早く食べたいな。
梨華ちゃん手作りシチュー。
「おまたせー。」
お鍋を持って現れた梨華ちゃん。
ほんっとそのエプロン似合ってる。
あぁ、早く食べたいな。
裸エプロンの梨華ちゃん。
- 326 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:10
-
恋人はスーパーアイドル 番外編2
恋人はセクシー大学生
- 327 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:11
-
「ごちそうさまぁ。」
「おそまつでした。」
あまりにおいしくておかわりしちゃった。
梨華ちゃんはたくさん食べてねって笑顔で言ってくれるからついつい食べ過ぎちゃうんだよね。
「今紅茶淹れるね。」
「うん。」
梨華ちゃんの淹れる紅茶はすっごくおいしい。
紅茶好きだから淹れ方とか凝ってるんだよね。
この味に慣れると外じゃ紅茶は飲めない。
鼻歌を歌いながらキッチンに立ってる梨華ちゃん。
なんかさ、若奥様みたい。
ってことは、まつーらは旦那様?!
妻のためならお仕事がんばっちゃうぞぉ!
- 328 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:12
-
「亜弥ちゃん?」
トレーを持ってる梨華ちゃんがあたしを不思議そうに見てる。
いけないいけない、どっかいってた。
これじゃ、飯田さんのこと言えないじゃん。
「何でもないよ!」
「そう?」
梨華ちゃんが赤いハートのプリントのマグカップをあたしの前に置いた。
まつーら専用のマグカップ。
二人で買い物に行ったときに買ったもの。
ちなみに梨華ちゃんはピンク色。
おそろいなんだ☆
「あのさ・・。」
「なぁに?」
紅茶を一口。うん、おいしい!
「梨華ちゃんにお願いがあってね。」
「うん。」
まつーら、食欲は満たされたわけですよ。
だからね・・。
- 329 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:12
-
「あぁ!!」
「へ?」
突然叫んだ梨華ちゃん。
な、何?まさかあたしの言おうとしてることバレた?!
「ごめん、お風呂沸かさなきゃ。ちょっと待っててね。」
「あ、うん・・。」
あぁ、違った・・。
ちょっとびびっちゃったよ。
梨華ちゃんはぱたぱたっとお風呂場にかけていく。
なんかその感じが妙に子供っぽくて思わず笑ってしまった。
- 330 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:12
-
正直言ってあたしは自分大好き人間だ。
とにかく興味があるのは自分のことで、他人は二の次。
だからといってまわりの人を大事にしないとかそんなわけでは決してない。
友達はたくさんいたし、みんな大好き。
ただ自分のことを後回しにして誰かに何かをするってことをあまりするタイプではなかったんだ。
それなのに梨華ちゃんに関しては第一優先。
いっつも頭の中は梨華ちゃんでいっぱい。
まつーらってばめちゃくちゃ乙女じゃん?
- 331 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:13
-
「でね、それからね・・・。」
梨華ちゃんは楽しそうに笑ってる。
最近見たというお笑い番組についてあたしに一生懸命話してるのだ。
そんな梨華ちゃんを前にあたしはなかなか言い出せずにいる。
かわいい梨華ちゃんを見れてるからいいよ、という気持ちと、やっぱりセクシーな梨華ちゃんを見たいという気持ち。
天使のまつーらと悪魔のまつーらが戦っている。(この際、どちらが悪魔かは・・ねぇ。)
ピピピ・・・
「あ、お風呂沸いたみたい。」
「うん。」
「先に亜弥ちゃん入ってきてね。」
「あぁ、うん、ありがとう・・。」
にっこにこ笑顔の梨華ちゃん。
そんな彼女にやっぱり言えないあたし。
- 332 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:14
-
ポチャン・・
あひるがぷかぷか浮いている。
はぁ〜・・気持ちいぃ〜・・・。
うーんと伸びをする。
ふぅー・・。
ピンク色のお湯を手ですくってみる。
どーすっかなぁ。
梨華ちゃんの裸エプロン。
・・・。
・・・・。
・・・・・・・・。
・・・さっきからあたしってばエロオヤジじゃない?
あたしは・・ただ梨華ちゃんが好きなだけ。
別にそんなの着てないからダメとかそういうわけじゃない。
そんな固執することなんてない。
梨華ちゃんに会えるだけで、一緒にいるだけでうれしいのに。
よしっ!
あたしはざばっと湯船から立ち上がった。
- 333 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:17
-
「上がったよぉ。」
梨華ちゃんにちに置いてある黄色のパジャマを着たあたし。
「・・じゃあ、私入ってくるね。」
「うん。」
梨華ちゃんは入れ替わりにお風呂場に。
あたしはぽすっとソファに座った。
なーんか面白い番組ないかなぁ?
テレビのリモコンをぴっぴっと押してみるものの、どれもなんだかつまらない。
あ、DVDとかあるかも。
テレビラックに置いてあるDVDを手に取る。
“松浦亜弥コンサートツアー2006秋 『進化ノ季節…』 ”
“松浦亜弥コンサートツアー2005春 101回目のKISS〜HAND IN HAND〜”
“松浦亜弥コンサートツアー2004秋 松 クリスタル 代々木スペシャル”
“松浦亜弥コンサートスアー2004春 私と私とあなた”
ばさばさと手にとればどれもあたしの。
シングルVやミュージカルのものもずらりと揃ってる。
そりゃ、できたら一番に梨華ちゃんに渡してるけど、こんなまん前に置いてくれてるなんて・・・うれしすぎ。
「梨華ちゃん、好きすぎだよ〜!!」
- 334 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:17
-
- 335 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:18
-
「まだかなぁ・・・。」
ベッドの上で一人ごろんと横になる。
梨華ちゃんがお風呂に入ってから結構な時間が経ってる。
いつもはもっと早いんだけどな。
ん〜・・なんか眠くなってきた・・。
でも、先に寝るのはなぁ・・・。
梨華ちゃん、どうしたのかなぁ?
・・もしかして倒れたとか!
あたしはばっと起き上がる。
ぱちっ
急に部屋の電気が消えた。
「えっ?!」
もしかして停電?
はっとして入り口のあたりを見ると、人影があった。
梨華ちゃんがスイッチを消したらしい。
「あ、梨華ちゃん。遅かったね、倒れたかと思って今見に行こうと思ったんだよ。」
「・・うん。」
入り口あたりに立ったままの梨華ちゃん。
暗いから表情とか良く見えない。
「どうしたの?」
「・・・。」
梨華ちゃんは黙ったまま。
「ねぇ、ほんとに・・・。」
あたしは言いかけて息を飲んだ。
- 336 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:18
-
ゆっくり近寄ってくる梨華ちゃん。
カ−テンの隙間から差し込んでる月の光に当たった。
耳まで真っ赤な彼女。
エプロン一枚の姿。
「梨華ちゃん・・。」
まつーら、まだやってって言ってないよね・・?
何で?どうして?
梨華ちゃんって実は超能力者?!
・・・なんてあるわけないじゃん。
「あ、あのね、その・・・。」
もじもじしながら恥ずかしそうにしてる梨華ちゃん。
それだけでまつーら、かなりやばいんだけど、梨華ちゃんが何か言おうとしているから我慢。
「雑誌で読んだことあるの。洋服とか恋人にあげるのって・・その服を着せるだけじゃなくて・・・・ぬ、脱がすのも目的だって・・。」
はぁ?!どんな雑誌だよ?!
ま、確かにまつーらもそんな欲望に近いけれどさ。
- 337 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:19
-
「亜弥ちゃん、さっき独り言で裸エプロンって言ってたから・・。」
あたしってば声に出してた?!
は、恥ずかしすぎじゃん!!
「亜弥ちゃんが望むことだったら・・私、叶えてあげたいし・・なるべく、だけど・・。」
・・・梨華ちゃん。
ねぇ、ごめん。
もう我慢しなくっていいよね?
- 338 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:19
-
あたしの本能はまっすぐ梨華ちゃんに向かっていった。
「亜弥ちゃん、待って・・・。」
「待てない。」
あたしは梨華ちゃんの首筋に唇を寄せようとすると、梨華ちゃんがぐっとあたしの肩を押した。
「えいっ。」
一昔前のようなかけ声が聞こえたと思ったら、あたしの視界はぐるんと180度変わった。
「亜弥ちゃん・・・。」
梨華ちゃんがあたしを見下ろしていた。
あたし、梨華ちゃんに押し倒されてる・・。
いつもと何か違う。いつもより数倍色っぽい梨華ちゃん。
「きょ、今日は私に愛させて・・・ね?」
梨華ちゃんはかすれ気味の声でそう言うと、あたしの首筋に唇を沿わせた。
梨華ちゃんから、だなんて初めて。
いつもあたしが強引に始めて、それに付き合ってくれてた梨華ちゃん。
ねぇ、まつーら、今、すっごく感動してるよ。
- 339 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:20
-
外がまだ暗い中。
あたしはなぜか目が覚めた。
隣を見ればすやすやと眠っている梨華ちゃん。
かぁわいぃ・・。
思わずにやけちゃう。
昨日の情熱的な梨華ちゃん・・・よかったなぁ。
もちろんあたしもされてばっかじゃやだったので、ちゃんと反撃しました!
上目遣い&涙目で「亜弥ちゃん・・・。」なんて言われちゃったら止まらないっての!
いろんなことがあったけどさ、離れることなんてできないよ。
だってこんなにもまつーら、梨華ちゃんのこと、愛しいって思っちゃってるんだから。
これからずっと、いつまでも、些細な幸せを二人で感じていこう。
眠ったままのスイートハニーにあたしはちゅっと口付けた。
- 340 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:20
-
***
- 341 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:22
-
「ねぇ・・。」
「ちょっと待って。」
「ねぇ、こっち向いてよ。」
「今いいところなの。」
「・・・。」
「・・・。」
「もぉ!!」
横からぎゅっと抱き締められる。
「台本よりも私に構って!」
そんなあなたにまつーら、クラクラです。
- 342 名前:恋人はセクシー大学生 投稿日:2007/04/03(火) 00:22
-
END
- 343 名前:七作 投稿日:2007/04/03(火) 00:23
-
* * *
- 344 名前:七作 投稿日:2007/04/03(火) 00:24
-
一番初めの短編の目指したイメージがちょいエロラブコメな感じだったので、最後もそれを目指して。
でも松浦さんが少し変態気味・・(苦笑)
少々遊びすぎてしまいました。
これにて『恋人はスーパーアイドル』は完結です。
長い間お付き合いありがとうございました。
最初、短編を書いたときはまさかここまで続くとは思っていませんでした。
マイナーCPなので、あまり反応はないかなぁと思ってましたが、意外にも好きな方がいらっしゃって。
機会があれば、またあやりか、書いてみたいです。
本当にありがとうございました。
- 345 名前:七作 投稿日:2007/04/03(火) 00:25
-
>312様
泣いていただけたとは・・ありがとうございます。
>>ラジオで『ずっと好きでいいですかっていい曲だね』と発言した石川さん。
そんなことがあったんですか。
もっともっとりかあやが見れる(聞ける?)といいですね!
>313様
結構りかあやはリアルでもあるんですね!
ここの二人は変化球は投げられないタイプです。
>314様
一生懸命で可愛い二人と言っていただけてうれしいです。
>315様
ありがとうございます。
- 346 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/03(火) 01:17
- 言葉も出ません
ちゃいこーです
- 347 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/04(水) 09:13
- すっごい面白かったしすっごいドキドキしました
まろくんの方も純粋カップルぶりが可愛くて悶えました
ごちそうさまです
- 348 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/05(木) 23:18
- 完結お疲れ様でした。
作者さんの作品を見てから元々石川さん大好きの私でしたが
松浦さんもますます好きになりました。
接点がなかなか無い二人ですがこれからも注目していきたいです!
- 349 名前:& ◆LMRaV4nJQQ 投稿日:2007/04/06(金) 16:02
- 梨華ちゃんが可愛すぎるっ!!w
- 350 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 18:02
- また七作さんの作品が読みたいです。
待ってます。
- 351 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:32
-
A walk of the morning
- 352 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:33
-
Side-A
- 353 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:34
-
雨上がりはどこかつんとするにおいがする。
昨日は一日中ひどく降っていたからか白く霞んでいる。
澄み切った静かな朝。
ちゅんちゅんとどこか遠くで鳥の声がした。
あたしはその中を散歩している。
「ふわぁーぁ・・。」
後ろからあくびをする声が聞こえた。
昨日、遅くまでゲームやってたんだから、そりゃ眠いよね。
だけど、朝の散歩は日課なんだから。
- 354 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:34
-
いつものコースの公園が見えてきた。
あたしは少し駆け足になる。
「あ、ちょっと、よっすぃ、走んなよ。」
後ろの矢口さんは慌ててあたしを追ってくる。
緑の多いこの公園はこの街のシンボルで街の人々の癒しになっているようで、朝も結構散歩してる人が多い。
この公園の中には広いグランドもあって、そのまわりをぐるぐるランニングする人もいるし、休日になると家族連れがキャッチボールをしてる姿も見る。
あたしも矢口さんの休みの日に、ここで一緒に遊ぶこともある。
- 355 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:35
-
遠くから彼女が走ってくる姿が見えた。
あたしも駆け出す。
他より少し大きめの木の下。
そこがあたしと彼女の待ち合わせの場所だった。
「おはよぉ、よっすぃ。」
「おはよう、梨華ちゃん。」
ぱぁーっと花が咲いたように梨華ちゃんは笑う。
頭にちょこんとお気に入りのピンクのリボンを付けている。
あたしの顔、今ぜってーゆるんでるな。
「朝からよっすぃに会えるの、うれしいな。」
「いっつも会ってるじゃん。」
「でも、昨日は会えなかったもん。」
昨日の朝はどしゃぶりだったもんね、さすがに日課でもあの中を行くのはちょっと大変。
- 356 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:35
-
彼女がぴょんぴょんっと跳ねてあたしの顔に自分の顔を寄せてくる。
「ん?」
「ね、キスしよ?」
「ここで?」
「うん。おはようのちゅうがまだだもん。」
あたしはちらちらっとまわりを見渡す。
よし、誰も見てないな。
・・でも、ちょっと恥ずかしいから。
梨華ちゃんの体を木の根元に寄せて、少し大き目の体のあたしはまわりから彼女を隠すようにして、そして頭を下げてそっと口付けた。
「ふふっ、うれしい♪」
梨華ちゃんがにこにこ笑う。
そんな梨華ちゃんを見ると、あたしもうれしくなる。元気になる。
- 357 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:36
-
昨日会えなかったからその分も、と思い、あたしは梨華ちゃんに顔を近づける。
「梨華、もう行くよ!」
あと少しで、というところで圭ちゃんの声。
あぁ、邪魔すんなよ・・・と思いつつ、梨華ちゃんから離れる。
梨華ちゃんも苦笑いで「ごめんね。」と一言。
「じゃあ、今日の夕方にまたね。」
「うん。」
圭ちゃんに駆け寄る梨華ちゃんを見送って、あたしは背を向ける。
「ほら、よっすぃ、行くよ。」
「はーい。」
あたしは矢口さんの小さな体に向かって走っていく。
- 358 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:36
-
Side-B
- 359 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:37
-
眠い、眠すぎる・・。
もう何度目かわからないあくびをする。
これでも私は朝は強い方なんだけど、昨日は遅くまでゲームやっちゃったんだよなぁ。
きりのいいところまで・・・と思いつつ、まぁずるずるやっちゃったわけで。
「ふわぁーぁ・・。」
あー、またあくびが出た。
私の重い足取りとは対照的に目の前のおっきなやつはめっちゃすたすた歩いてる。
そりゃそーだ、あいつはこの散歩をすっごく楽しみにしてる。
体を動かしたいっていうより、愛しの彼女に会いたいっていう理由からだけどさ。
昨日はひどい雨で会えなかったしね。
- 360 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:37
-
散歩コース・・・もとい、逢瀬の場所である公園が見えてきた、と思ったらよっすぃは
走り出した。
「あ、ちょっと、よっすぃ、走んなよ。」
夜更かしの人間にはちょっと辛いんだって。
そんな私の抗議なんか全然聞かないで、ぐいぐいと私をひっぱっていった。
- 361 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:38
-
公園に入ると、私はリードから手を離す。
あいつは絶対に逃げたりしないから、ほんとは散歩のときは付けなくてもいいかとも思うんだけど、あんなおっきいのが放してあると他の人達がぎょっとするからね。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
私はよろよろと近くのベンチに座る。
かなりのスピードで走るんだから疲れるって。
でも、大きな木の下に寄り添っている二つの影を見ると、しょうがないなぁってなんか微笑ましくなる。
「おはよう、矢口。」
「圭ちゃん、おはよー・・。」
圭ちゃんが私に缶コーヒーを差し出してくれたので、私は「ありがと。」と受け取る。
- 362 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:38
-
「なんかあんた疲れてるわね。」
「ちょっとゲームやってたら夜更かししちゃってさ。」
「そんなことやってるとお肌に悪いわよ。」
「ははは・・。」
そう言う圭ちゃんは朝からなんかギラギラしてる・・・。
この人はいつもそうだけど。
「よっすぃに散歩催促されなかった?」
「あぁ、うん。早く行こうって吠えられた。」
「そうよね。私なんかいつもより一時間も早く起こされたわよ。」
「昨日一日会えなかったからね。」
やれやれといった感じで圭ちゃんは白いおっきいのと茶色のちっちゃいのを見つめてる。
その眼差しが子どもを見守るお母さんみたいで、思わず笑ってしまう。
でも、きっと私だってあんな感じであの子達を見てるんだと思う。
- 363 名前:A walk of the morning 投稿日:2007/09/02(日) 15:39
-
「さて、そろそろ行くわ。」
「お仕事がんばってね。」
「矢口もね。」
圭ちゃんが「梨華、もう行くよ!」と呼ぶと、梨華ちゃんがちょこちょこっと圭ちゃんに駆け寄ってくる。
よっすぃはむっとしているようだった。
きっと邪魔されたって思ってんだろうなぁ。
「ほら、よっすぃ、行くよ。」
私が呼ぶと、ワンと吠えて、駆け寄ってくる。
さてさて、私も今日一日仕事がんばりますか!
うーんと伸びをして白い空を見上げた。
- 364 名前:A walk of the morning 投稿日:2007/09/02(日) 15:40
-
END
- 365 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:40
-
* * *
- 366 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:42
-
ずいぶんと間が空いてしまいました。
なかなか書けず、申し訳ありません。
今後もゆっくりめの更新になるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
- 367 名前:七作 投稿日:2007/09/02(日) 15:43
- >346様、347様、348様、349様
長くお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
>350様
大変お待たせいたしました。
読みたいと言っていただけたこと、とてもうれしく思います。
ありがとうございます。
- 368 名前:読者 投稿日:2007/09/02(日) 23:13
- こーゆー展開大好きですv
- 369 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/03(月) 01:53
- 待ってました!かわいいお話ですな〜。
七作さんのペースでまた書いてください!
- 370 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:09
-
絆
- 371 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:10
-
それは無意識だった。
愛してるの響きだけで〜〜〜〜♪
たぶん、うん、リハではそんなこと考えてもなかったし。
いろいろやりたいなとは思ってたし、どうしよっかって彼女とも話してたけど。
でも、楽しそうに歌う隣の彼女を見てたらさ。
なんか自然と動いてたんだ。
ささやかな喜びを〜〜〜〜♪
マイクを持つ手もいつのまにか変えて。
ぐいっとあたしの方に、肩をぎゅっと抱きしめて。
ズルしてもまじめにも〜〜〜〜♪
一瞬固まった彼女なんて気にしない。
いつかまたこの場所で〜〜〜〜♪
たぶん、うん、これは本能。
動いたもん勝ちじゃん?
- 372 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:11
-
そして、これは宣戦布告。
愛しい君への。
カメラの先にいる大勢のファン達への。
そして。
これからのあたしへの。
- 373 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:11
-
***
- 374 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:11
-
『やっちゃったわね。』
この人から連絡が来るのは分かっていた。
深夜一時すぎ。
こんな時間に電話をかけてくるのなんて迷惑きわまりない行為だけれど、きっとこの人はあたしがこの時間に起きていることは分かりきっていたと思う。
そして、あたしはたぶんこの人からの電話を待っていたのだと思う。
と同時に、そのことをきっとこの人も気づいていたのだと思う。
「何をいまさら。」
『まぁ、そうよね。ここのとこのあんた達はいっつもこんな感じだし。』
「あたし達、というかあたしが、ですけどね。」
そう答えれば、圭ちゃんはどっちもどっちじゃない、と笑った。
- 375 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:12
-
最近彼女と二人、圭ちゃんちにお邪魔することがある。
なんだろ、圭ちゃんの目の届く範囲にいるのって安心するし、自由でいられるからかな。
あたしも彼女も圭ちゃんをすごい頼りにしてる。
『ねぇ、そろそろ決着つけてくれない?』
「何を?」
『ほんとあんたってすっとぼけるのがうまいわね。』
平然と答えたあたしに圭ちゃんはわざとむっとした口ぶりで。
『まさか石川の気持ちが分からないなんてふざけたこと言うわけないわよね?!』
「・・・・。」
『何そこで黙るのよ。図星とか言わないでよね。』
「別に。」
電話の向こうの圭ちゃんはわざとらしく溜息をつく。
『吉澤、あんたなんとかしなさいよね。こっちはじれったくてしょうがないんだから。』
プチッ
「言い逃げかよ。・・・言いたいことだけ言ってさ・・。」
あたしは携帯をその辺に放り投げて、ベッドに寝っ転がった。
見慣れた白い天井。
そういえば昔一度だけ、この天井を君と一緒に眺めたことがあったね。
「言われなくても分かってるよ、圭ちゃん。」
- 376 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:12
-
あたしと彼女の関係を言葉で表すとしたら“同期”。
それ以上でもそれ以下でもない。
友達という感じとはちょっと違うような、仲間とも言えるし、家族とも言えるかもしれないが、なんかぴったりとあてはまらない。
決して甘い関係ではなく、けれども、あたしにとって、たぶん彼女にとってもお互いはなくてはならない存在で。
うまく言葉にできない、曖昧なあやふやなそんな関係だ、とあたしは思っている。
- 377 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:13
-
あたしと梨華ちゃんは、もし学校のクラスメイトだったら絶対に違うグループで、三年間でちょっとしか口を聞いたことがないくらいのそんな関係だったと思う。
それが芸能界の、アイドルグループなんていう特殊な環境下で出会い、しかも同じ時期に同じスタートラインに立って、なおかつ年も近いとなれば、必然的に一緒にいることになり。
性格も正反対なくらい違ったけれど、それでも必死に先輩達に追いつこうとお互い励まし合った。
まわりがみんな敵に見えて、信じられるのはうちら同期だけだった。
言い合いも喧嘩もしたけど、それでも離れなかったのは決して裏切ることはない−その強い根拠はどこから生まれたのかよく分からないけれど−味方だと感じていたからだと思う。
- 378 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:13
-
目の前に与えられた道を早いスピードで走りぬけていくことに必死で、まわりがどんな景色かなんて見る余裕もなかった。
置いて行かれないようにすることに精一杯で、手をしっかりと繋いで、あたし達は走っていた。
そこには協力して戦場を切り抜ける戦友ともいえる絆があった。
少なくともあたしはそう思っていた。
しかし、一部の人はその同志の絆はどうも違う風に見えたらしい。
歪められた絆を目の前に出されたとき、本当はそうではなかったのに、あたし達の中にかすかに疑いが生まれてしまった。
形のないものは、目に見えないものは簡単に崩れていくものなのだろうか。
現にあたしと彼女を結んでいた糸はゆっくりとほどけていった。
- 379 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:13
-
この少し前。
梨華ちゃんには人生初の彼氏ができた。
なぜそのことをあたしが知っているかというと、“仲のよい同期”である彼女がうれしそうにあたしに話してくれたからだった。
「ねぇ、よっすぃ、私ね、好きって告白されちゃったんだ。」
笑顔がこぼれるってきっと今の梨華ちゃんみたいな顔を言うんだって思った記憶がある。
抑えようとしても抑え切れなくて幸せオーラが出てて・・。
当時彼氏がいたあたしもデートはああだ、こうだ、なんて盛り上がって、いつかダブルデートできたらいいねなんて話もしたけれど、あたしと梨華ちゃんの噂が持ち上がったため、それは実現しないままに終わった。
- 380 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:14
-
次に梨華ちゃんからその彼の話を聞いたのは数年後。
あたしと彼女の間に横たわる見えない溝は完璧に出来上がっていた頃。
めったに電話なんかかけてこない彼女からいきなりかかってきて、電話の向こうでぐすぐす泣きながら、今からよっすぃんち行っていい?なんて言うものだから、いいよとしか
答えることができなくて。
昔はよくこんなことがあったね。
失敗して落ち込んでいる梨華ちゃんを慰めるあたし。
歯車がずれてしまってからはぷつんと途切れてしまったけれど。
目を真っ赤に腫らせてうちにやってきた梨華ちゃんは何度もごめんね、ごめんねとあたしに謝った。
彼女は彼と別れた、と言った。
それ以上のことは言わなくて、後はごめんを繰り返すだけだった。
だからあたしはその別れたという事実しか知らない。
- 381 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:14
-
「もう恋はしない。」
今にも消え入りそうな声で彼女は言った。
「こんなに苦しい想いはもう、したくないから・・。」
あのときの梨華ちゃんは今でも忘れられない。
何かが途切れてしまったうつろな、何かを見切ってしまった冷めた、そしてとても悲しい切ない目だった。
思わず伸ばしてしまった手は細い彼女の体を抱きしめた。
躊躇することはなかった。
彼女も拒むことはなかった。
ただただお互い寄り添いあって、彼女は静かに涙を流し、あたしは黙って抱きしめているだけだった。
- 382 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:14
-
このとき、あたしは“仲のよい同期”に戻れた気がした。
どこかぎくしゃくした感じが嫌でずっと修復したいと願っていたのだから。
でもそれは勘違いだったのだ。
あたしの中にそれ以上の気持ちを生み出してしまった。
いや、もしかしたら、ずっと心の底にあった想いを再発させてしまっただけなのかもしれない。
それからの梨華ちゃんは今まで以上に仕事に没頭していった。
空回りなことも多かったけど、仕事にかける情熱は目を見張るものがあった。
言葉使いもぶっきらぼうで、性格もさっぱりしてるあたしのことをみんなは男前だと言った。
でも、あたし以上に仕事スイッチの入った梨華ちゃんは男前だと思う。
仕事に生きる梨華ちゃんは何もかもを後回しにして突っ走っていたのだから。
- 383 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:15
-
恋をしないと決めた梨華ちゃん。
でもふとしたところで、熱を帯びた視線をあたしは感じたことがあった。
人を好きになる気持ちって他人はもちろん自分だって止めることはできない。
それこそ本能じゃん。
梨華ちゃんがあたしに特別な感情を抱いてくれてるってことは気づいてた。
こんな世界で生きているから、やけに敏感になっちゃうんだよね。
それに、あたしだって彼女に特別な感情を持ってるわけだし。
お互いがお互いを見つめ続けてるんだから。
彼女もあたしの気持ちにきっと気づいてる。
分かってるくせにお互い一歩進めなかったのは、きっといろいろなことを考えすぎてたからだと思う。
- 384 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:15
-
あの収録の後、うちらはなんかひどく照れくさくって。
収録前にすでにハイテンションだった梨華ちゃん。
思い立ったら吉日!の即行動のあたし。
カメラチェックをしてるときも、二人っきりの楽屋でもいつもより言葉数は少なくて。
それでも、居心地の悪い感じじゃなくて、ほわんとした空気が流れている、そんな感じ。
この感じ、なんだか出逢ってすぐに仲良くなったあの頃と似てるね。
帰る準備を終えてちらっと梨華ちゃんを見たら、彼女も出る準備はもうできていて、でも、なかなか出ようとしないあたし達。
なんか中学生みたいだなって、今の中学生には失礼かもしれないけど、思わず笑ってしまい、そわそわしている彼女の背中に向けて言った。
「ごはん、食べに行こっか。」
「うん。」
くるりと振り返って、少し照れたようにうなずいた梨華ちゃん。
ようやくうちらはあの頃に戻れた、そんな気がした。
- 385 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:15
-
同じ方向を向いて、手を繋いで走っていたあの頃。
今はお互い違う場所にいるけれど。
違う方向を向いていても、背中合わせに立っている。
背中を預けることができるのなんて、梨華ちゃんだけだよ。
最近さ、思うんだよね。
梨華ちゃんと恋人同士になりたいのかって考えるとそうじゃないのかもしれないって。
あたしは“この関係だ”って一つのものだけに縛られたくない。
同期であり、仲間であり、友人であり、家族であり、パートナーであり、それで・・恋人でもあればなおよくて。
梨華ちゃんとの関係を簡単に一つの言葉でくくりたくない・・って言ったら言い訳がましいかな。
でも、独占欲の強いあたしは彼女の全てが欲しくなる。
- 386 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:16
-
素直になりたいと願うのに、素直になれなかったのは照れがあったから。
まるで小中学生の男子みたいに気になる子ほどからかってしまうような子どもじみた行動。
もうっなんて拗ねる彼女を見るのがうれしくて思わずにやけてしまう。
そんなじゃれ合いも好きなんだけど。
素直にならないと欲しいものも手に入らないってようやく気づいたんだ。
まわりなんてどうでもいい。
あたしと梨華ちゃん、世界に二人だけいればいい。
- 387 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:16
-
***
- 388 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:17
-
朝起きたら、メールが届いていた。
『From 梨華ちゃん
Subject おはよう
歌ドキ見た?やっぱり私達、すっごく笑顔だったよね??』
こんな他愛のないメールでもあたしを笑顔にさせるのに絶大な効果があるって知ってるの?
ひとつ深呼吸をして、あたしは過去の自分がしかけた戦いに挑もうと思う。
「To 梨華ちゃん
Subject no title
話したいことがあるから、今から行く。」
- 389 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:18
-
この先にどんな道が続いているかは分からないけど。
それでも君と一緒にいたいと思うから。
さぁ、あたしと君の未来をはじめよう。
- 390 名前:絆 投稿日:2007/10/07(日) 00:18
-
END
- 391 名前:七作 投稿日:2007/10/07(日) 00:19
-
* * *
- 392 名前:七作 投稿日:2007/10/07(日) 00:23
- 番組を見て、書きたい書きたいと思っていたのですが、なかなか書けず。
少し時間が経ってしまいました。
歌詞は載せてはいけないだろうとも思ったのですが、少しだけお借りしました。
甘い感じにするつもりが全くならずすみませんです。
>368様
ありがとうございます。
>369様
ありがとうございます。
今後もゆっくりめの更新になるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします!
- 393 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/08(月) 04:52
- うさぎの王子様はやっぱりこの御方でしたね。
- 394 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/17(月) 23:22
- 何気に待っておりマス(≧∇≦)
- 395 名前:七作 投稿日:2008/03/02(日) 13:41
- 「ここをこうくるっとね・・。」
「うわぁ、上手ですねぇ〜。」
あたしの手元をきらきらと見つめ、へらっと笑う。
「絵里にもできるようになりますか?」
「大丈夫、やっていくうちにうまくなるから。」
ここに来て一ヶ月の新人かめちゃんに生地の作り方を教えるようにと店長から指令を受けたあたし。
ここでバイトするようになって一年ちょっと。
最初は失敗ばかりの生地作りも一年やれば上手に焼ける。
今では店長にこのお店で一番上手だって言われるくらいになった。
ガーと自動ドアが開く。
小さな女の子とお母さんのお客様。
「いらっしゃいませ、『一番クレープ』へようこそ!」
- 396 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:42
-
ハッピーピンクスペシャル
- 397 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:43
-
「どう?かめちゃん。」
「ふえぇ、うまくできないですぅ。」
トンボ(生地を丸くのばす道具)を握り締めてる半泣きのかめちゃん。
鉄板の上にはへしゃげた生地。
「最初はしょうがないって。あたしもこんなのばっかだったからさ。」
ちょっと見ててね、とあたしはかめちゃんに言い、レードル(お玉)で生地を鉄板に流し込む。
すばやく生地をトンボで回し、時間を見計らってパレットナイフでくるっと裏返す。
そしてすぐに鉄板から取り出す。
ほら、おいしそうに焼けた生地の完成!
「わぁ、おいしそう・・。」
「コツさえ掴めばすぐにできるよ。トンボはね、すばやく生地を外側に押し出す感じで回すといいよ。」
「はいっ!」
かめちゃんはよしっと気合をいれるとレードルを持った。
- 398 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:43
-
昼間のカフェタイムが終わると、比較的お客さんはすいてくる。
あたし一人でもさばける感じなので、かめちゃんには練習をしてもらい、一人レジに立つ。
時計の針は19時を過ぎていた。
今日は来るかな・・・。
この時間、あたしはちょっぴりドキドキする。
常連さんってわけじゃないんだけど、結構食べに来るお客さん。
時間はたいてい決まって19時過ぎ。
いつもスーツ姿だから会社帰りなんだと思う。
日にちや曜日が決まってるわけじゃないからいつ来るかも分からない。
その人はとてもきれいな人だった。
クレープを渡すとうれしそうな声で小さくありがとうと言ってくれる人。
でもちょっと疲れ気味で、椅子に座ってぼーっと外を眺めながらクレープをちょこちょこかじっている。
その姿がなんかすっごく儚げでなんか守ってあげたくなるような・・。
- 399 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:44
-
「今日は来ますかね?ピンクさん。」
「えぇっ?」
さっきまで後ろで練習してたと思ってたら、いつのまにかかめちゃんがひょこっと横にいた。
「来るとしたらそろそろですよね。」
「まぁ・・うん、そうだね。」
ピンクさん、というのはそのきれいな彼女のことだ。
財布がピンク色。携帯もピンク色。持ってるものもピンクばっかり。
そのかわいらしい声とか仕草とかがなんかピンクっぽい。
そして極めつけは珍しく土曜日に来たとき、上下ピンクのジャージを着てたのだ。
で、ニックネームはまんまの“ピンクさん”。
「ピンクさんが来たら、絵里、邪魔しませんから。」
「はは・・ありがとね。」
かめちゃんは普段はぼーっとしてるくせに、こういうことは勘が鋭い。
- 400 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:44
-
やっぱりこんな風に二人のシフトの時だった。
いつものようにスーツ姿のピンクさんが買いに来て、あたしがクレープを作って渡して。
ピンクさんはいつもの窓側の席に座って食べていて。
そして帰っていってすぐにかめちゃんは言ったのだ。
「松浦さんってあの人のこと好きなんですか?」
「は?」
予想外の言葉にあたしは何も言えず、ただ目を丸くしてるばかりで。
そんなあたしに気づくこともなく、かめちゃんは自分の推理をしゃべりだす。
「いつもよりずいぶん丁寧にクレープ作ってたし、なんだかちらちらあのお客さんのこと見てたし。」
ですよね?なんてあのふにゃって笑顔で言われてしまい、あたしはあっさり認めたのだった。
「今日はもう来ないみたいですね。」
「そうみたいだね。」
閉店十分前。店内にはお客さんはもういない。
「そろそろ少しづつ片付け始めようか。」
「はい。」
- 401 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:45
-
そこに自動ドアの音。
「あの、まだクレープ買えますか?」
あたしが振り返る前に声がした。
見なくても分かる、ピンクさんの声。
「はい、まだ大丈夫です。」
あたしがそう言うと、ピンクさんはほっとした顔でレジの前に来た。
「イチゴ生クリーム一つください。」
「はい、400円になります。」
彼女はいつもイチゴ生クリームを頼む。これだけは例外はないようだ。
そしてあたしは心をこめてクレープを作る。
毎日仕事できっと疲れてるんだろうなぁとかほんとイチゴ好きなんだなぁとか
今日もありがとうって言ってくれるかなぁとかそんなことを考えながら。
- 402 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:45
-
「おまたせしました。」
「ありがとう。」
店内で食べていくのかと思いきや、今日はそのままお店を出て行った。
閉店のこと気にしたのかな・・。
ちょっと残念。
「来ましたね、ピンクさん。」
「うん。」
「松浦さん、すっごくうれしそうですね。」
「先輩をからかうな!」
「ごめんなさ〜い。」
ちょっと怒ったふりをしてみるけど、顔が緩んでるってあたしでも分かる。
会えたときはやっぱりうれしいから。
- 403 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:46
-
***
- 404 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:46
-
毎月この日はとても忙しい。
なんてったって今日は『一番クレープ』の日。
全品オール300円というお買い得な日なのだ。
いつもより人数の多いスタッフが広いとはあまり言えないカウンターの中で所狭しと動いている。
あたしはクレープつくりに専念し、次から次へと来るオーダーに対応していた。
今日は土曜日ということもあって特にお客さんが多い。
何が何だか分からなくなるくらい目まぐるしい。
けれどもその忙しさは昼過ぎには去っていった。
というのも雪が降り始めたのだ。
そういえば天気予報は昼から雪が、それも相当降るって言ってたっけ。
窓の外はすでにうっすらと雪が積もり始めていた。
さすがにお客さんは少なくなった。
- 405 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:47
-
オーナーから遠い場所に住んでいるスタッフは電車が止まるかもしれないから先に帰るようにと電話があり、残ったのは徒歩で来ているあたしとかめちゃんの二人。
「雪、すっごく積もりそうですね。」
「そうだね。あ、かめちゃん、生地作りの練習してていいよ。」
「はい、やらせてもらいます。」
店内に密かに流れるBGM。生地の焼ける音。かめちゃんのう〜んとうなる声。
窓の外はもうだいぶ雪が積もり、見るからに寒そうだった。
このお店は駅近くとはいえ、一本道を入った場所にあるので、駅前に案内の看板があってもなかなか人目につきにくい。
暖を取りにわざわざこのお店に来る人は少ないだろうな。
- 406 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:47
-
「できたっ!」
後ろではしゃいだ声が聞こえた。
「松浦さん見てくださいっ!」
かめちゃんが自分の焼いた生地をトレーののせてもってきた。
「うん、うまくできてるじゃん。」
「ほんとですか?うれしー!」
その場でぴょんぴょん跳ねている後輩を見て、あたしもうれしくなった。
「かめちゃん、トッピングしてみなよ。」
「いいんですか?」
「うん。最初から最後まで自分でクレープ作ってみなよ。」
「はい。」
かめちゃんはうれしそうに何にしようかなぁ〜とトッピング材料を選び始めた。
- 407 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:48
-
「松浦さん、これ、持って帰ってもいいですか?」
かめちゃんは生地にフルーツを乗せながら尋ねる。
「うん、いいよ。お母さんに見せたりするの?」
「いえ、その・・。」
「?」
「・・絵里の作った初めてのクレープ、食べてもらいたい人がいるんです。」
ちょっぴり頬を赤くしてうつむきながらそう答えたかめちゃんはすごくかわいかった。
「かめちゃんの好きな人?」
「・・はい。でも向こうは絵里のことただの友達としか思ってくれてなくて・・。」
「じゃあ、とびきり愛情のこもったクレープを作らなきゃね!」
「はい!」
- 408 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:48
-
あたしの初めて作ったクレープ。
偶然にもその相手はピンクさんだった。
今のかめちゃんみたいに生地作りを先輩に教わりながら練習してて初めてうまくいった!と思ったときにやって来たのがピンクさんだった。
先輩からOKが出て、あたしは緊張しながらも初めてのクレープを彼女に渡した。
彼女が受け取ったとき、ありがとうって言ってくれて、あたしはすっごくうれしかった。
彼女の“ありがとう”はすっごく心地いい。
心の中がほわんとやさしくなってあたたかくて。
大変なこととか疲れることとかたくさんあるけど、それでもあの一言でがんばろうって
気になる。
あたしにとって彼女の“ありがとう”はやる気の魔法なんだ。
- 409 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:49
-
「暇、ですね。」
「うん。」
「早くお店閉めちゃダメですかねぇ。」
「そうだねぇ・・。」
外は相当吹雪いている。
今外に出たら固まっちゃいそう、なんて。
「もう少ししてからオーナーに電話して・・。」
あたしが言いかけたときだった。
自動ドアが開いて、そこにいたのは白いコートを着たピンクさんだった。
ピンク色の傘を畳んで、傘置きに入れるとレジにやって来る。
コートにはうっすら雪が付いていて、頬はほんのり赤く染まってる。
こんな寒い日になんでまた・・。
そう思いつつも会えたことにうれしさを感じた。
かめちゃんがすすっと後ろに下がるのが分かった。
- 410 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:49
-
「いらっしゃいませ。」
「あの、イチゴ生クリーム一つください。」
「はい、300円になります。」
いつもと同じ会話。
店員のあたしとお客さんの彼女。
それ以上の会話なんてあるわけないのだけど。
でも今日のあたしはなんかそれが嫌だって思った。
会計を済ませた彼女は少し下がって出てくるクレープを待っている。
あたしはちらりと彼女の顔を見てから、トッピングを始める。
- 411 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:50
-
「お待たせしました。」
あたしの声に彼女ははっとして、カウンターにやって来る。
「プレミアムイチゴ生クリームです。」
「えっ?」
あたしの言葉に彼女は驚きの声を上げる。
「あの、私が注文したのと違うんですけど・・。」
「いつも『一番クレープ』に来てくださってありがとうございます。これはほんのサービスです。どうぞ。」
少し強引にクレープを渡す。
彼女はあたしとクレープを不安げに交互に見る。
「いつもありがとうございます。」
- 412 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:50
-
「うぅっ・・。」
「「えっ?!」」
あたしとかめちゃんの声がはもる。
「あ、あのっ・・。」
あたしは焦った声を出す。
目の前の彼女はなんといきなり泣き出したのだ。
「あ、あり・・・がとぉ・・ござぃ・・ますぅ・・。」
右手でクレープを持ちながら、流れる涙を左手で必死に止めようとしてる。
「えっと、お客様、あのぉ・・。」
ぐすぐすと泣く彼女におろおろするあたし。
ど、どうしよう?!
何、一体どうしてこんな・・?!
もしかして嫌だったとか・・・?
イチゴ生クリームを素直に出しておけばよかった!!
- 413 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:50
-
「松浦さん、あの、控え室にお客さんを・・。ここは絵里がいますから。」
「そ、そうだね。」
かめちゃんの言葉に甘えて、泣き止まない彼女をあたしはスタッフの控え室に案内した。
スタッフの私物やら何やらが散らかっていて、片付けておけばよかったと少し思う。
「すみません、ちょっときたないですけど。」
椅子をすすめて、ティッシュを差し出すと、ちょこんと頭を下げて彼女は受け取った。
涙を流すその姿はなんだか子どもみたくて。
不謹慎にもかわいいな、なんて思えてしまう。
いつもはスーツとか着てるから、バリバリ仕事してるんだろうなぁとか社会人は大変なんだろうなぁとかそんな風に思ってた。
でも、今目の前にいる彼女は“女の子”だった。
- 414 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:51
-
しばらくしくしく泣いてはいたが、ようやく落ち着いたらしい。
あたしは彼女の前に紅茶を置いた。
彼女は顔を上げてあたしの顔を見てから、小さく頭を下げた。
「いきなり泣き出してごめんなさい。」
さっきまで泣いていた彼女の声は少し舌足らずな感じがした。
「驚きましたよね・・?」
「え・・まぁ・・。」
どう答えたらいいか迷ったが素直にうなづいておく。
そんなあたしに彼女は小さくすみません、と言った。
「うれしかったんです。」
「え?」
「いつもありがとうございますって言ってもらえて・・。」
あ、もちろんおまけしてもらったこともですけど。
慌てて付け足した彼女を見て、あたしは思わず笑ってしまった。
- 415 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:51
-
彼女は紅茶の入った紙コップを両手で包み込む。
「毎日会社とアパートの往復ばかりで。家に帰っても一人だし、こっちだとなかなか友達と会うこともできなくて。実家にも帰る時間はないし・・。恋人の一人でもいればいいんですけど、なかなかできなくて・・・。そんな私の小さな楽しみはここのクレープだったんです。精神的にも身体的にも疲れてて、でもここのクレープを食べると元気になれるっていうか。このお店でイチゴスペシャルを食べることが私の癒しだったんです。」
そして、彼女は寂しそうに笑った。
「実は今日、私の誕生日なんです。一人で過ごす誕生日。それが悲しくて、だからここに来たの。元気になりたくて。そしたら思いがけず、店員さんから“ありがとう”って言ってもらえて。だから思わずうれしくて泣いちゃいました。」
ご迷惑おかけしました、そう言って彼女は深々と頭を下げた。
- 416 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:52
-
「あの!」
「はい。」
「あたしじゃダメですか?」
思わず口走っていた。
「え?」
「あたしがお客様の誕生日を一緒に過ごしちゃダメですか?」
「・・・。」
「ケーキはないですけど、でも心を込めてバースデークレープを作ります。」
彼女の目にはまた涙があふれてきた。けれど、笑顔だった。
「・・ありがとう。」
- 417 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:52
-
「お待たせしました。」
あたしの声に席に座っていた彼女は顔を上げた。
「お誕生日おめでとうございます。」
あたしがクレープを差し出すと、彼女は両手が大事そうに受け取ってくれた。
「このクレープは何ていうの?」
「ハッピーピンクスペシャルです。」
彼女をイメージして作った、あたしのオリジナル。
たくさんのイチゴとたっぷりの生クリームをメインにケーキっぽくアレンジ。
「ありがとう。」
華が開いたような彼女の明るい笑顔。
泣いた顔もかわいいかったけれど、やっぱり笑った顔の方がいいな。
- 418 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:53
-
「もしよかったら・・。」
「はい。」
「この後、一緒にごはん食べない?」
「はい!!」
- 419 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:53
-
毎月19日は『一番クレープ』の日。
日頃の感謝を込めて、お客様にとびきりおいしいクレープをお安く提供いたします。
皆様のご来店、心よりお待ち申し上げます。
- 420 名前:ハッピーピンクスペシャル 投稿日:2008/03/02(日) 13:53
-
END
- 421 名前:七作 投稿日:2008/03/02(日) 13:54
-
* * *
- 422 名前:七作 投稿日:2008/03/02(日) 13:54
- この二人、自分はやっぱり好きなんだなぁと思います。
コメントありがとうございます。
>393様
自分の原点はいしよしです。ですが、最近はあやりかが好きですし、りかみきも捨てがたい。
うさぎの王子様は実はたくさん存在するのかもしれません。
>394様
お待たせしてすみません。
これからもよろしくお願いします。
- 423 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/02(日) 15:00
- あの〜、僕の生チョコクレープはまだでしょうか...?orz
- 424 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/04(火) 21:28
- お久しぶりっす!
あー二人とも可愛いな。亀ちゃんがまた可愛い。ホロリときましたよ。
あやみきもかわいいし、りかみきも捨てがたい!(強調)ですよ。
- 425 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/04(火) 23:18
- あやみきじゃなかったあやりかだ。
肝心のとこ間違えてすまそ。
- 426 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/13(木) 01:28
- あやりか、いいですねー。
やっぱり好きですこの二人(*´Д`)
- 427 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 12:08
- 作者さんろこ〜?
- 428 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/25(日) 20:34
- もう更新しないの?
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