彼女の革命
1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/16(日) 23:42
幻板「彼女の魔法」の続きみたいなものです
登場人物の年齢と性別をかなりいじっています。苦手な方はお読みにならないほうがいいかと思います
突然エロになる可能性もありますので、15歳未満の方、心がピュアな方もお読みにならないほうがいいかと思います
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/16(日) 23:43
登場人物


从*^ー^) :絵里ちゃん(社長令嬢)
(;・e・):ガキさん(弁護士の息子)

川*’∀’):愛ちゃん(大地主の娘)
(0´〜`) :吉澤さん(イケメン執事)

ノノl∂Д∂'ル:夏焼くん(湾田高バスケ部エース)
州*‘ o‘リ:梨沙子ちゃん(大物政治家の孫)

洲´・ v ・):愛理ちゃん(セレブJC)
从・ゥ・从:矢島くん(ハロ高陸上部の短距離エース)
ル ’ー’リ:桃子ちゃん(湾田高バスケ部マネ)

川*^∇^):熊井ちょー(寿司屋の息子)
ノソ*^ o゚):なかさきちゃん(熊井ちょーの同級生)

リ ・一・リ:岡井少年(縁九中サッカー部 副部長)
リl|*´∀`l|:えりかちゃん(矢島くんの女友達)
从´∇`从:徳永くん(夏焼くんの悪友)
从o゚ー゚从;須藤くん(夏焼くんの戦友)
川=´┴`):愛佳ちゃん(柔道部マネ)

从*´ ヮ`):田中さん(柔道野郎)
从*・ 。.・):道重さゆみ(重ピンク)

(●´ー`) :安倍さん(新米弁護士)
从#~∀~从:中澤さん(極道の妻)

川´・_・リ:キャプテン(湾田高バスケ部 新キャプテン)
ノ|k|‘−‘):栞菜ちゃん(なかさきちゃんの同級生)
(o・D・):舞ちゃん(縁九中の裏番長)

ノリo`ゥ´リ:久住くん(帰国子女の転校生) ※こはっピンクとはまた別人


その他もほとんどおなじみメンバーです

3 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:44



4 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:44


*****



5 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:44

リンリンリリン、リンリンリリン。

軽快に鳴り始めたモバイルフォンをにらみつけ、久住くんは舌打ちした。
せっかくいいところなのに誰だよ。誰なんだよ。
新年早々、ベッドの上でお楽しみの真っ最中だったのを、しょうがなく一旦中断する。

「ハイハイ今出ますよーっと」
乱暴にそれに手を伸ばしていると、今夜パーティで出会ったばかりの女、
リンダが不満げに寄り添ってくる。久住くんはヘラヘラ笑いながら
彼女の肩を抱き、「ヘロー」とふざけた声で電話に出る。

ここはアメリカの大都市にある、一流ホテルのスイートルーム。
まだまだヤングマンな久住くんだが、いつもこういう贅沢な部屋で
チョメチョメしている。

久住くんのダディはものすごいリッチマンである。
アメリカで大成功した、まさにアメリカンドリームを叶えた男。
年商何億、何兆円。いや兆は言いすぎか。とにかくダディは大金持ち。
6 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:45
ウワサをすれば何とやら。電話の相手は、そのダディだった。

「おぉ、パパ。どうしたの」
『すまん小春。今、大丈夫か』
「全然大丈夫じゃないけど、なに」
リンダの金髪を指でパスタみたいにぐるぐる巻きながら久住くんは笑う。
日本生まれのアメリカ育ち、実はイングリッシュはてんで喋れない。
だけどプレイボーイ魂を生まれ持ち、アメリカで好き放題やっている。
色んな女をとっかえひっかえ、好きなときだけ、食べちゃっている。

『いや、そろそろ日本に引っ越そうかと思って』
「は?!なにそれ、冗談でしょ」
『冗談なんかじゃない。パパは本気だ。ママも、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、
いいって言ってくれた。あとは小春、おまえのOKだけだ』

いやいやいや、いきなりすぎるし。何言い出すんだこのエロオヤジ。
久住くんは、引きつった顔でリンダを見た。
リンダはいやらしい目つきになって、耳たぶを甘噛みしてくる。
アハッ。耳弱いっ。やめてっ、て感じちゃってる場合じゃない!
7 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:45
「無理。ムリムリムリ。急すぎるし。おれは絶対OKしないよ」
『日本へ行くのは、パパの仕事のためでもあり、おまえのため
でもあるんだ。頼むよ。このとおりだ』
どのとおりだ。これ電話だし。顔見えないし。
「おれのためってどういうこと?」
『それは日本に引っ越してからちゃんと話すから』
いま話せよエロオヤジ。焦らされるのは嫌いなんだよ。
久住くんはイライラしながら、「引っ越すって、いつごろ?」と尋ねる。

『来月だ。来月、家が完成する』
「えぇ?もう家建てちゃったの?」
さすが、デキる男は違う。やること早いわ。
その息子の久住くんだって、まったく血は争えないんだけども。

『おまえが行く学校も、もう決めてある』
「えぇぇ?学校は自分で決めさせてよ」
『…それじゃあ』
「しょうがないじゃん。家建てちゃったんならさ。行くしかないよ」
『ありがとう。小春』
「その代わり、学校は自分で決める」

8 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:45

コハル、コハル、とリンダが後ろでしつこく呼んでいた。
でも久住くんは彼女そっちのけで、デスクに向かいインターネットをしている。
目が悪いのに今はメガネもコンタクトもつけていないので、
ノートPCの13.3インチ画面に思いっきり顔を近づけて、マウスをカチカチやっている。

「波浪学園高等学校、ねぇ」

ダディがチョイスしていたのは、いかにもお金がかかりそうな学校だった。
でも色々と設備も充実しているし、快適なハイスクールライフが送れそうだ。
しかも、ホームページにのっている女の子が、みんなチョー可愛い。
日本人も案外捨てたもんじゃないな、なんてニヤニヤしてみたり。

クラブ活動のページがあったので見る。
陸上部が強いらしく、”優勝”という文字が並んでいる。
このクラブに入ったら女の子から注目されるかもしれない、なんて計算もする。
せっかく日本に行くんだから、女にモテなきゃ楽しくないし面白くない。

「ん、駅伝大会?」

 11月23日に湾田高等学校と駅伝大会を開催しました。
 その様子はこちら→

「これ、なんて読むんだろう…」
9 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:46
久住くんは”湾田”という漢字を検索してみる。

「WANDA…わんだ、か」

検索結果の一番最初に出てきたのは、”湾田フルハーツ”という
日本のフットボールクラブだった。でもそんなのはどうでもいい。

「あった。湾田高等学校」

その2つ下になんと”湾田高等学校”の文字を発見。
クリックすると大当たり。その学校のホームページだった。

トップページに最近のニュースが書かれてある。
久住くんの目を惹いたのは、
『祝 男子バスケットボール部ウインターカップ3位!』という項目。

なんと、湾田高等学校はバスケが強いらしい。
得意なスポーツが、まさにバスケの久住くん。

「WANDA…」

ニヤリとして、モバイルフォンを手に取った。

10 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:46


*****



11 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:46
舞台はアメリカからガラッと変わって、我らが日本。

2008年も明けて数日。
あと残り少ない冬休みを満喫しようと、夏焼くんは梨沙子ちゃんと
夢が丘商店街のアーケードを歩いていた。
今年初のプリクラを撮るべく、ゲームセンターを目指している。

「恋?愛理ちゃんが?」

夏焼くんが彼女を見ると、彼女はうんとうなずいた。
今の話題は彼女の幼なじみ(♀)についてで、
なんと、その子が最近恋をしているというのだ。

「誰に?」
「たぶん、矢島さんっていう人」
「矢島さんって」

その名字を聞いて、夏焼くんはハッと思い出す。
数日前、梨沙子ちゃんと保田神社へ初もうでに行ったとき、
偶然遭遇したカップル、桃子ちゃんと矢島くんという、
別れたはずのカップルのことを。

12 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:47

数日前。2008年の1月2日。
今日も保田神社は初もうでに訪れる人々で溢れかえっていた。
家族連れや友達同士で来ている若者、新年早々イチャつくカップル。
たくさんの人が今年1年のためにお祈りしにやって来ていた。

「梨沙子、大丈夫?」

境内までの階段をのぼりながら、夏焼くんは尋ねた。
梨沙子ちゃんは微笑んで「大丈夫。ありがと」と応える。
彼女の手は、夏焼くんの腕をしっかりと掴んでいる。

お正月だからなのか、彼女は今日、なんと和服姿なのだ。
髪型も和風でうなじがチラリ、みたいな。
ううむ、色っぽい。惚れ直した。なんちゃってなんちゃって。

彼女に合わせて、一段ずつ、ゆっくりと長い階段をのぼる。
その間、たくさんの人とすれ違い、追い越される。

この近所に住んでいる人たちは、初もうではみんなここに来る。
だから、当然学校の友達とか知り合いにいっぱい会う。
13 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:47
「おーい!夏焼!」

前方から声がして、夏焼くんは「あ」と呟く。
夏焼くんの所属する湾田高バスケ部の、キャプテンが笑顔で手を振っていた。

「おお、キャプテン!あけましておめでとうございます!」
「おめでとう!」
と大きな声で答えながら、キャプテンが急いで階段を駆け下りてきた。

「ん?」

気のせいか、キャプテンの後ろには誰か女の子がついてきている。
誰かって、知ってる女の子だし。どういうことだ?首をひねる。

「やぁやぁ、ハーワーユー」
怪しげな英語で挨拶したキャプテンに、とりあえず夏焼くんは
「アイムファイン」と答える。
その答えに満足げに笑ったキャプテンは、梨沙子ちゃんを見る。
「りーちゃん、着物すっごい似合うね」
「あ、ありがとうございます」
トゥーシャイガールな梨沙子ちゃんは、ぎこちなく頭を下げた。
14 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:47
「なっちゃん、あけおめ」

キャプテンの後ろから現れたのは、えりかちゃん。
夏焼くんの中学時代の先輩である。

なんでこの2人が一緒にいるの?不思議でしょうがない夏焼くん。
えりかちゃんは確か、ハロ高の背の高いイケメンと付き合ってたはず。
それなのに、このカップルみたいな雰囲気は何なんだ?

視線を合わせる目の前のカップルはとても良い雰囲気。
えりかちゃんよりキャプテンのほうが背が低いから、なんかアンバランスなんだけど。

もしかしてもしかすると、これって浮気だったりする?夏焼くんの頭は大混乱。
でもあのイケメンのカレシとは別れたんですか、とかいきなり聞けないし。

「みや、みや」

梨沙子ちゃんがくいくいっと腕を引っ張ってきた。
「ん?」と彼女を見ると、彼女はキャプテンのさらに向こうを見ていた。
15 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:47
「あ」

夏焼くんは思わず口をぽかんと開けた。

「みーやん、あけおめぇ!」

キャプテンとえりかちゃんの間を裂いて、桃子ちゃんが元気に現れた。
「あ、あけおめ。ツグさん」
「わぁ、着物。チョー可愛い!桃も着てみたーい!」
新年早々ハイテンションでぶっ飛ばしてくる桃子ちゃんに、夏焼くんは苦笑する。
そして、桃子ちゃんがいることで、キャプテンとえりかちゃんの謎もハッキリする。

桃子ちゃんとキャプテンはお家が近所の幼なじみだ。
えりかちゃんは桃子ちゃんと仲良しで、それで一緒に初もうでに来た、と。
さっき、変な疑惑を抱いてしまった自分が恥ずかしくなる。

「あれ、舞美は?」えりかちゃんが桃子ちゃんに言う。
「なんかとうもろこし食べたいとか言い出したから置いてきた」
「あのバカ」
「ホント食い意地張ってるっていうかぁ、まぁ、そんなとこも可愛いんだけどね」
「でたノロケ」
「いいじゃぁーん。ノロケたいお年頃なのよぉ」

なんだか、全然会話についていけない夏焼くん。
妙に機嫌が良い桃子ちゃんを見つめる。
16 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:48
「ていうか、もうこんな時間」

腕時計を見たキャプテンが呟いた。えりかちゃんもハッとする。
「うちら、今から映画観に行くんだよね」
「そうなんですか」

ようやくこの場から動こうとする先輩たち。
でも、桃子ちゃんはひとり立ち止まったまま、
「えりかちゃんたち先行っててよ。桃、舞美待ってるから」
「えぇ、早くしないと間に合わないよ?」
「そうだけど」
「ま、いいや。シミちゃん行こっ」

えりかちゃんとキャプテンが、仲良く階段をおりて行く。
残ったのは夏焼くんと梨沙子ちゃんと、桃子ちゃん。

「じゃあ、ツグさん。おれら行くね」
「あ、桃も行く」

なぜか3人でゆっくり階段をのぼる。
梨沙子ちゃんは、こっそりカレシとカレシの女友達の様子を窺っている。

「映画って何観るの?」
「ナショナルなんとかっていうやつ」
「へー」
「リンカーンがどうたらこうたら、みたいな話なんだって」
17 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:48
やっとこさ鳥居まで辿り着く。
夏焼くんは、ふう、と一息ついて、賑わっている境内を見渡す。

「あ」

隣の梨沙子ちゃんが突然目を丸くした。
「どうした?」夏焼くんは彼女の顔を覗きこむ。

「桃!」

まさか。声のしたほうを見て、夏焼くんも目を丸くした。
さわやかに現れたのは、どこからどう見ても、矢島くんその人だった。

「もぉ、えりかちゃんたち先行っちゃったよ」
「ごめんごめん」
矢島くんは迷わず桃子ちゃんの手を握って、アハハと笑う。
しかも恋人繋ぎ。うえぇぇええええ?!なにこれ?!!!
一瞬、目を疑う夏焼くん。頭はまた大混乱。

「あ、あの……」

おそるおそる桃子ちゃんに声をかけると、
彼女はそれはもう、とびっきりの笑顔で言ったのだ。

18 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:48


『桃たち、また付き合い始めたの』

矢島くんと一緒にいる桃子ちゃんは、とても幸せそうに笑っていて、
2人はすごいラブラブでウザイくらいイチャついていて、ビックリしたのだ。
いつの間にそんな展開になっていたのか。
夏焼くんは全然知らなくて、ちょっとした衝撃を受けたりした。
でもまあ、彼女が幸せならそれでいい。それが一番いいのだ。
だからうだうだ言わずに『よかったね』とだけ笑って返したのだ。

「矢島さんって嗣永先輩のカレシなんだよね」
「うん。最近ヨリ戻したみたい」
そう答えると、梨沙子ちゃんは渋い顔をする。
「どうなるんだろう。愛理」
「どうなるんだろうね」

はぁ。梨沙子ちゃんが重たいため息をつく。
彼女の頭の中は、親友の恋の行方でいっぱいらしい。
だから、夏焼くんも考える。その子の恋は、果たしてうまくいくのだろうか。

桃子ちゃんとは仲良しだから、うまくいってもらっても困るし、
だけども愛理ちゃんも良い子だから、うまくいって欲しいと思う。
どっちがいいんだ。よくわからなくなって、黙り込む。
19 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:49
「嗣永先輩、みやのこと好きじゃなかったんだね」

すると、梨沙子ちゃんがボソッと呟いた。
夏焼くんはドキッとするけれど、「え?」と聞こえないフリをする。
彼女は首を横に振って「なんでもない」と言った。

こうやって現実から逃げるのは、ずるいことなのだろうか。
あの日の桃子ちゃんのマジ顔も何もかも忘れたい、
無かったことにしたいと思うのも、卑怯なことなのだろうか。

自問しても、答えは出ない。はっきりわかっていることは、
梨沙子ちゃんに余計な心配をさせたくない、ということだけだ。
20 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:49
いつものゲームセンターに到着する。
冬休みだから、たくさんの若者たちが遊んでいるようだ。
自動ドアをくぐった2人は迷わずプリクラコーナーへ進み、
適当に空いていた場所に入る。

もう、2人で何十回と撮ってきたプリクラだ。
夏焼くんがお金を入れると、梨沙子ちゃんがちょちょいと操作し始める。
ああだこうだ言い合いながら設定を終わらせて、撮影が始まる。

画面には2人の姿が映し出されている。
今日もやっぱりスカートで女の子らしくて、髪型もやっぱりおしゃれで、
(JCにしてはちょっとケバいかもしれないけど)やっぱりメイクばっちりで、
やっぱり可愛いすぎるなあ、と梨沙子ちゃんに見とれる夏焼くん。
好きになってからもう1年以上経つというのに、まだドキドキする。
付き合ってるのに片思いしているような、感覚になる。

「ほら、みやもピース」

だけど、これは片思いじゃない。間違いなく両思いだ。
彼女の微笑を見て、夏焼くんは実感する。

夏焼くんがじっと見つめているから、梨沙子ちゃんも見つめ返してしまって、
そのままなんと1枚撮られてしまう。
「あ」と同時にカメラを見る2人。とても、間抜けだった。
顔を見合わせて、一緒に噴き出し笑いした。
21 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:49

「何回見ても笑える」

帰り道。夏焼くんは、今日撮ったプリクラを、暗くなった空にかざしながら言った。
梨沙子ちゃんもニコニコしながらそれを覗きこんで、「ホント、バカっぽいね」
「ね」彼女を見て、夏焼くんはさわやかに笑う。

時間はまだ18時くらいだけど、外はもう真っ暗だ。
歩道にポツポツと立っている電気だけが、2人を照らしている。

「ていうか、もう学校始まるじゃん。宿題終わった?」
「まだ。みやは?」
「まだ。明日、一緒にする?」
「する」
「ウチで、する?」

別に下心があるわけじゃないけど、明日は家に誰もいなかったりする。
いや、普通に一緒に宿題したいから誘ったわけで、本当に別に何も。
夏焼くんは心の中でなぜか必死に言い訳をする。

「する」

梨沙子ちゃんは二つ返事でOKしてくれる。
明日、2人きりでのお勉強タイムが決定する。
まったく何の勉強するのやら…ってそんなこと全然考えてないし。
ホントだし、事実だし、オトナの階段は焦ってのぼる必要なんてないし。
22 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:49
だけど、大きな大会も終わっていったん落ち着いて、
冬の寒さも相変わらずで人肌恋しくなって、
彼女のことが、彼女の全てが欲しいなあなんて、思わないわけがない。

菅谷家がだんだん近づいてきて、お別れの時間が迫ってくる中、
夏焼くんは梨沙子ちゃんの手をとって、ぎゅっと握った。
唐突なカレシを彼女は見つめるけれど、嫌がらずに握り返してくる。

うれしくなった夏焼くんは、恋人繋ぎなんかしてみたり。

「ねぇ、みや」
「ん?」
「梨沙子は、愛理のこと応援したい」

彼女も唐突。せっかくの甘酸っぱい雰囲気が、ちょっと変わる。
23 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:50
「矢島さんは嗣永先輩と付き合ってるかもしれないけど、
愛理に無理だからあきらめろなんて言えない。
好きなのにそんなこと言われたら、悲しいから」
「うん」
「愛理にはちゃんと自分の気持ちを矢島さんに伝えて欲しい」
「そうだね」
「…矢島さんが嗣永先輩と付き合ってるって、愛理に教えた
ほうがいいと思う?」
「それは微妙だな。でも、知らないフリするのって梨沙子が辛くない?」
「辛い」
「じゃあ正直に話して、愛理ちゃんにどうするか自分で決めてもらう?」

真剣に会話をしていたから、菅谷家に気づかず、通り過ぎるところだった。
その場に立ち止まった2人は、しっかり手を繋いだまま向かい合う。

「明日、何時に迎えに来ようか」
「8時」
「早っ。学校より早いし」
夏焼くんがツッコむと、梨沙子ちゃんはパッと笑顔になった。
いたずらっ子みたいな子供っぽい表情に、夏焼くんはなんだか安心する。
焦る必要なんかない。心の中でもう一度唱えて、ニカッと笑う。
24 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:50
「せめて9時にして?」
「しょうがないなぁ」
「ていうかちゃんと起きとけよ?」
「起きますぅ」
イー。憎たらしい言い方をした彼女のほっぺを軽くつまむ夏焼くん。
それから髪をふわっと撫でて、最後に頭のてっぺんをポン、とやさしく叩く。
そこに手を置いたまま、彼女をじっと見つめる。

「じゃあ、また明日」

見つめ合っていると、なんだか自然とキスしたくなって、
夏焼くんはそっと彼女の唇を奪った。でも、たったの3秒で離す。
なんとなく彼女を一度ハグしてから、一歩下がる。

「おやすみ」

そう言うと、彼女は微笑みながらうなずいた。
そのときの顔が、すごいオトナっぽくて、女っぽくて色っぽくて、
夏焼くんは堪らなくなった。まだ童貞だけど、無性にヤリたくなった。

25 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:50


*****



26 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:51

「ななな、なんですかこれは!!!」

動揺を隠せない正直者のガキさんは、吉澤さんに詰め寄った。
ガキさんの手にはよくある写真週刊誌。
その表紙にはでかでかと『大スクープ』と書かれてあった。

「知らねえよ。おれもショックなんだ。そっとしといてくれ」
「こここ、こんな…信じられない。ていうか信じたくない」

実は今、2人がいるのは愛ちゃんの部屋のベランダ。
真冬の極寒を承知で外へ出てきて、密談をしているのだ。
ふと室内を見てみれば、吉澤さんの愛する愛ちゃんと、
ガキさんの大好きな絵里ちゃんが、楽しそうにDSなんちゃらの
ボンバーマンで通信対戦している。
見て。あの絵里ちゃんの笑顔。ああ、かわいい、じゃなくって。

「そ、それにしても…」
ガキさんは改めてそのページに視線を落とす。
27 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:51

『大スクープ!重ピンクのリアル・メリピンクリスマス☆』

それは、ガキさんと吉澤さんのお気に入りAV女優の熱愛記事。
普通の女優やアイドルが熱愛発覚してもショッキングだけど、
これもこれで破壊力バツグンの爆弾だ。

こんなにショックが大きいのは、9割がた相手の男のせいだ。
一般ピーポーらしいけど、明らかにチャラ男だ。
こんなチャラいDQN野郎が、彼女におっぱいを押し付けられてるのだ。
うらやましいったらありゃしない。
モザイクの下の顔はさぞいやらしくニヤけていることだろう。

「もう、こはっピンクしか信じられない」
「ですね」

男2人は、深くうなずき合った。

「そういえば、来月、バレンタインデー」
「へ?」
「1周年だろ。何すんの?」
せっかくの男だけの時間なので、吉澤さんは尋ねた。
ガキさんは室内の絵里ちゃんを振り返る。
ケタケタ笑いながら、愛ちゃんとゲームをしている。
28 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:51
「カメは温泉に行きたい、って」
「温泉!」
「それで露天風呂に入りたい、って」
「露天風呂!」

大げさな吉澤さんに視線を戻して、ガキさんは呆れたような顔をする。

「だから、鹿児島に行ってきます」
「あ、スイッチ入っちゃった?」
「ええ、入りました」
「鹿児島スイッチ入れつつ、アレも入れつつってか」
「くだらない」
「事実だろ」
「まぁ、そうですけど」
素直に認めたガキさんの肩を抱いて、吉澤さんは囁く。
「絵里お嬢様とは、週何ペースなの?」
「は?」
「最近さぁ、なんつうか、お嬢様の身体中からエロスが滲み出てんだよ。
ていうかもう、お嬢様そのものがエロスみたいな?」

はあ?何言ってんだこの変態執事は。
眉間にシワを寄せながら、あらためて絵里ちゃんを振り返るガキさん。
吉澤さんも彼女の姿を舐めるように見つめる。
29 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:52
「あんな胸の開いた服着てさ、短いスカート穿いてさ、ヤバイだろ。
あんなのと毎日一緒に居たら、絶対毎日ヤリたくなるだろ」
「……あんなのって」
「あ、メンゴ」

ぶっちゃけ、最近は毎日のようにヤリまくっていたりする。
クリスマスイブ、激しく愛し合ったあの夜から、なぜだか。
きっと今夜も、ホテルとってあるし、あの子はヤル気マンマンだし。

「カメも、不安なんだと思います」
「不安?」
「ほら、カメは誕生日の日、お父さんとお母さんとぼくを呼び出した
じゃないですか。あのとき、ぼくとしか結婚する気ないから、って
宣言しちゃって、お見合いの話は全部断ってくれー、って」

ベランダから絵里ちゃんを見つめていると、彼女が気づいて
笑顔で手を振ってくる。ガキさんはやさしく笑いながら、吉澤さんに言う。
30 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:52
「いざとなったら、ぼくはカメと一緒にどこかへ逃げるつもりです。
どこか遠く、それこそ鹿児島にでも」
「スイッチ入りまくりだな」
「入りまくりだし、入れまくりです。誰にも邪魔なんか…させません」

微笑んでいた吉澤さんはふと真剣なまなざしになる。
情熱的なガキさんを見つめて、何か言いたげな表情になる。

でも、愛しの絵里ちゃんに見とれていたガキさんの視界には、
吉澤さんの顔は全く入っていなかった。


31 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:52


*****



32 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:52

部屋には時計の針が進む音と、シャーペンでかりかり書く音。
梨沙子ちゃんは真面目に宿題に集中していて、
夏焼くんはひとりソワソワしながら、無意味に教科書を眺めていた。

勉強が全然手につかない。
まあ、普段も手についた試しないけど、今日は特にひどい。
隣で一生懸命勉強してる彼女が気になってしょうがない。
でも話しかけたり邪魔はできない。悶々とする。

「あぁ、疲れた」

すると、急にシャーペンを置いた彼女が、両腕を大きく伸ばした。
そして後ろにバタッと倒れこむ。

「みや、眠たい」

子供みたいなことを言う彼女に、夏焼くんは笑う。

「ベッドで寝れば?」
「そうだね」
ぴょんと跳ね起きた彼女が、そばのベッドに飛び乗って、
横になって布団を被る。
33 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:53
「マジで寝るの?」
「だって眠たいんだもん」
だもん、ってクソ可愛いな。夏焼くんは彼女を見つめる。
「みやも一緒に寝ようよ」
「はっ?!」

彼女は微笑みながら目を閉じて、本当に寝ようとしている。
誘われた夏焼くん。どうしよう、とちょっとだけ迷う。

どうせ勉強もするつもりないし、彼女が隣に居ないのも寂しいし。

「おれも寝る」
ボソッと呟いて、ベッドに近づく。

そしたら梨沙子ちゃんが布団をめくってきて、
「寝よ寝よ」
「あ、うん」
たぶん、彼女にはそんなつもりないんだろうけど、
夏焼くんは意識してしまって、変な反応になってしまう。
今なら、この状況なら、自然にエッチできるかも。
なんていう考えが脳みその中でぐるぐる回っている。

彼女の隣に寝転んで、彼女を見る。
楽しそうな彼女は、布団を被せてくれる。
2人で布団にくるまって、ぬくぬくする。
34 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:53
ムフフ、と怪しい声で笑った梨沙子ちゃんは、
なんと夏焼くんに抱きついてきた。
「ちょっ」
「おやすみー」
おいらは抱き枕か。こっそりツッコむ夏焼くん。

「昨日の夜、愛理と電話した」

ホントに唐突。寝たかと思ったら。
夏焼くんは、いきなり話し始めた彼女を見る。

「言ったの?」
「言えなかった」
「ダメじゃん」
「うん。ダメなんだよ。ダメなんだけどさ」
彼女は唇を尖らせて、天井を見つめる。

「なんか、言える雰囲気じゃなかったんだよ。
まだ知り合ってちょっとしか経ってないけど、
愛理、ホントに矢島さんのこと、好きみたいでさ、
その気持ち、すごいわかるから」
「そっか」
「梨沙子も、みやのこと、一瞬で好きになったから」
35 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:53
うひょっ。ストレートな表現をした彼女にドキッとする夏焼くん。
そんな風にマジ顔で言われるとチョー照れるんですけど。

「大げさだな」
照れ隠しでそう返すと、彼女はまっすぐ見つめてきて、
「大げさじゃない。ホントだもん」
また、だもん、って。可愛すぎる。
抱き枕にされている夏焼くんは、彼女の手に自分の手を重ねる。

「まぁ、おれもそうだし」
「ホントに?」
うおっ。梨沙子ちゃんが迫ってくる。
夏焼くんはドキマギしながらうなずく。

近い。顔近い。
なぜか彼女と無言で真剣に見つめ合う。
たぶん、こういう瞬間からABCが始まるのかもしれない。
夏焼くんは彼女の頭を引き寄せて、ブチュッと口づける。

ひとつの布団にくるまってベッドの上。
長い長いキスをしていると、呼吸も荒くなるし、そういう雰囲気になってくる。
夏焼くんはとても興奮してきて、もっとすごいことをしたくなる。
36 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:53
すごいこと。それはたとえばベロチューだったり。
思いきって舌を出してみたりすると、彼女が少し口を開けてくれたり。
わけわかんないけどとりあえず入れてみたり、適当に動かしてみたり。
もう徳永くんにチェリーボーイとは言わせないぜ。みたいなみたいな。

無我夢中で彼女と唇を合わせながら舌を絡める。
なんだかよだれが出てきて大変だけど、下半身のほうがもっと大変だ。
フルでビンビン。略してフルビンだ。ってこれどっかの地名みたい。
どこかな。中国かな。うん、チョーどうでもいい。

1回彼女から離れて、呼吸を落ち着かせる。
でもハァハァいってるものは、なかなかおさまってくれなくて、
それは彼女も同じで2人してハァハァいいながら見つめ合う。
37 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:54
「なんか、ごめん」

何か言わなきゃと思って、出てきた言葉がそれだった。
彼女は「なんで謝るの?」と囁く。
「なんか、いきなりだったし」
「うん。ビックリした」
「ごめん」
「けど、もっといっぱいチューしたい」

あばばば。なんておませな!でも大好き!
夏焼くんは何も答えずにまたブチュッとキスをする。
もちろんレモンのような香りはしないけれど、なんとなく恋の味がする。
べろべろなベロチューを、何度も何度もする。

結局、冬休みの宿題は須藤くん(正確には愛佳ちゃん)に
泣きつくことになりそうだなと、夏焼くんはふと思った。
それでも梨沙子ちゃんとのキスは、いつまでもやめられなかった。


38 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:54

つづく


39 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/16(日) 23:54

从o゚ー゚从<なっちゃんベロチュー止まりじゃまだチェリーだよ
Σノノl∂Д∂'ル<なんと!

40 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/17(月) 00:22
何気に新キャプテンが登場してるし。
実は気になってた小春もこんな登場の仕方だし。

やじももを巡るあいりしゃこにも期待。
41 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/17(月) 01:58
新スレおめでとうございます

登場人物も増えて新シリーズますます楽しみになってきました!
これからの夏焼くんと久住くんの絡みが楽しみですw
42 名前:重ピンピン 投稿日:2008/11/17(月) 02:13

新スレオメです
これからもみんないろいろとありそうでたのしみですなぁ〜

よっすぃとガキさんには重ピンクを見捨てないでほしい・・・
っていうか、2人とも重ピンクへの想いはその程度だったのか!!
さんざん世話になったくせにぃぃぃ


自分は最後まで重ピンクを応援します

少し話がそれてしまいましたがこれからも楽しみにしてま〜す♪

43 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/17(月) 12:16


新スレ待ってました!

愛理ちゃんには悪いけど、最後までやじももで行ってほしいですね
44 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/17(月) 17:23
新スレ楽しみにしてました。
桃子が幸せそうで何よりです。
45 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/18(火) 00:19
( ・e・)<僕は本当に絵里だけだから
46 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/20(木) 06:51
新スレおめでとうございます!!
りしゃみやもありがとうございます!!
しかしイケメン久住くん、気になるわぁ〜
47 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/11/21(金) 09:25
久住くん、かなりイケメンになりそうですねw
皆のこれからが、楽しみです
48 名前:(0´∀`)人(’ー’*川 投稿日:2008/11/24(月) 22:36
>>40さん
キャプテンはどこでどう登場させようか悩みに悩んで今回初登場となりました
小春ちゃんはシンデレラでまた男役だったしこりゃ使わな損だと思いました
期待は裏切らないようにしたいです

>>41さん
恐縮です
新シリーズっていうかこれまでの総決算というかそんな感じで
>これからの夏焼くんと久住くんの絡みが楽しみですw
ボーイズラブにする予定はないですが前向きに検討してみます

>>42 重ピン
ありがとうございます!
水板はたっぷり容量があるので思いきり色々書こうと思います
>っていうか、2人とも重ピンクへの想いはその程度だったのか!!
ワロタwwwwwwwwwwwwwww

>>43さん
ありがとうございます!
私も愛理ちゃんには悪いけどそう思います

>>44さん
ありがとうございます!
ももちは前スレでかわいそうだった分を取り戻します多分

>>45さん
なんかガキさん自ら「絵里」って言うと何か裏を感じますねw

>>46 りしゃみやヲタさん
ありがとうございます!!
このスレでりしゃみやがどこまでイクのか?!
そこをぜひ注目していただきたいと思います
私の脳内で久住くんは超絶イケメンです

>>47さん
久住くんはただプレイボーイなのが玉に瑕です
これからも温かく見守っていただけたらありがたいです
49 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:37


*****



50 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:37

今年もいい年でありますように。
吉澤さんが保田神社で願ったのはほんの数日前。
家族や、恋人の愛ちゃん、そして絵里お嬢様。
ついでにガキさん。藤本一家。エトセトラ、エトセトラ。
みんなみんな幸あれと、心からお祈りしたのだ。

だけど、そんな穏やかな願いとは裏腹に、
とんでもない大波乱が、いま幕を開けようとしていた。

51 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:38


ドンドンドン!と部屋のドアがノックされる。
「はい」と答えると、青山さんの必死な声。

「ちょ、いったいどうしたんですか」

ドアを開けるなり、青山さんはすごい勢いで吉澤さんに迫ってくる。

「よよよよ、よよよし、よし、吉澤さん……!!」
「ちょちょちょ、しっかりしてくださいよ。どうしたんですか」

青山さんの顔は、真っ青になっている。
いったいなにごとなのだ。青山さんの説明を待つ。

「よ、吉澤さん。今から私の言うこと、落ち着いて、冷静に聞いてくださいね」

ガッと両方の肩を掴まれて、青山さんから真剣なまなざしで見つめられる。
ウホッ、とか冗談を言える空気じゃ全然ない。
空気が読めるほうのKYである吉澤さんは、はい、とただうなずく。
落ち着いて、冷静に聞かなきゃいけない話って何。という疑問は飲み込む。
52 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:39
「絵里お嬢様に、縁談のお話が持ち上がったみたいなんです」

「ええええぇぇぇぇえええぇえええぇええええええ!!!!?!!?」

「吉澤さん!!!!!冷静に!!!!!!!!!!!!」

暴れだした吉澤さんを青山さんは必死で押さえ込む。
何度も「冷静に!」と繰り返して、吉澤さんを落ち着かせる。

「縁談って!!!!!!!縁談って何ですか!!!!!!!!!!!!」
「とにかく一旦落ち着いてください!!!!!!!!」
「落ち着けませんよ!!!!!!!絵里お嬢様に縁談なんて!!!!!!
落ち着いていられますかああああああああ!!!!!!!!!!!」
「とりあえず!とりあえずショパン聴いて落ち着いてください!」

青山さんは大きな声で言って、吉澤さんのCDラックを漁り、
その中から1枚CDを取り出して、コンポに挿入する。
優雅なピアノの音色が流れ始める。それはとても有名な曲。
53 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:40
「あぁ…ノクターン」

吉澤さんは気が抜けたように呟いて、椅子にドカッと腰かけた。

「絵里お嬢様は、まだ知らないみたいなんです」
「知らない?」
「縁談のことです」
「ていうか青山さん。相手ってどこの誰なんですか?」

ようやく冷静になってきて、吉澤さんはショートしかけた脳みそを
再び回転させ始める。

青山さんは身を乗り出してなぜか小声で囁く。
「それが、相手はKBMの御曹司らしいんですよ」
「KBMって、あの、アメリカの、コンピューターの会社ですか?」
「ザッツ、ライト」
「えっ、じゃあ、相手はアメリカ人」

ノンノンノン、青山さんは人差し指を振った。

「KBMの会長は、日本人なんです」

WAO…吉澤さんは大きく目を見開いて驚いた。
54 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:40
「アメリカの会社だから、アメリカ人だと思ってた」
「その会長一家がなぜか、日本にお引越ししてくるみたいなんです。しかも来月」
「来月!」
「ウワサによると、心臓に大病を患っているらしいんですね。会長は。
だから、その治療のためにこっちへ移住してくるんじゃないかって」
「なるほど」
「たぶん、もう先も長くないだろうから、早いうちに自分の跡継ぎ、
その跡継ぎの跡継ぎも決めておきたいんでしょう」
「だから、縁談の話が」
「はい」

腕組みをして、吉澤さんは青山さんを見つめる。

「それは、マジネタのマジネタなんですか?」
「もちろん。井上さん情報なので、ほぼマジネタと言っていいかと」
井上さんとは絵里ちゃんパパの秘書である。
彼から漏れてくる情報はいつも正確で、ガセだったことがない。
だからこの縁談の話も本当だろうと、青山さんは言っている。

なんてこった。頭を抱える吉澤さん。
今日も仲良くデートをしているであろう絵里ちゃんとガキさんを思い浮かべる。
いつも、どんなときでもラブラブで、間に入る隙間もないのに、
旦那様は一体どうやってこの縁談を進めていくつもりなのだろうか。
無理やり強行突破?まさか。あの松浦亜弥じゃあるまいし。


55 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:40

パッと目が覚めて、吉澤さんは起き上がった。
そのせいで布団がめくれ上がり、隣の愛ちゃんが迷惑そうにそれを引き寄せる。

「…寝れないの?」
「いや、おしっこ」

あのことを知った日から、何度も同じ場面を夢に見てしまう。
青山さんが『ウッソぴょーん』って言ってくれるんじゃないかって、
ありえないのに期待して、でもそれはやっぱり覆らなくて。
うわああああどうしよおおおお、と思ったら目が覚めて、
でも外はまだ真っ暗で、横で愛ちゃんがすやすや寝ているのだ。
今夜は、たまたま彼女が起きてしまった。

吉澤さんはベッドからおりて、キッチンへ向かう。
冷蔵庫の中からカルピスを取り出して、コップに注いでぐいっと飲み干す。

「おしっこは?」

振り返ると、愛ちゃんが眠そうな顔で立っていた。
微笑んだ吉澤さんは、彼女の頭を撫でる。
「今からだけど、見たいの?」
彼女は顔をしかめて首を横に振った。
HAHAHA、とさわやかに笑って、吉澤さんはコップをすすぐ。
56 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:41
「寒いだろ。ベッド戻ってな」
「うん」
「さーて、おしっこおしっこ」

トイレへ逃げ込む。
別に尿意があるわけでもないけど、とりあえずズボンを下ろす。

愛ちゃんも、もちろん絵里ちゃんの縁談の件を全く知らない。
ちゃんと公になるまでは他言無用。青山さんとそう約束したから、
相手が愛ちゃんであっても言えない。
吉澤さんは固く決心している。それは、たとえ、ガキさんであっても同じだ。

ふにゃふにゃで元気のない息子を見つめ、吉澤さんはため息をつく。
これから先の展開を考えるだけで、暴れまわりたくなってくる。

『旦那様は、お嬢様にギリギリまで知らせないつもりのようです。
井上さんも参ってましたよ。新垣さまのことはどうするんだって』

あぁ!もう!
壁を叩きたいけど叩いたら愛ちゃんに聞こえてしまうから叩けない。
57 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:41
ベッドに戻る。愛ちゃんはむこうを向いて眠っていた。
吉澤さんは彼女に寄り添うように横になる。
彼女の後姿をじっと見つめて、頭の中で色々考える。

このまま何事もなく、絵里ちゃんとガキさんは結婚できるって、
根拠もないけどそう思っていた。
いつかは絵里ちゃんたちも子供ができて、自分たちの子供と
一緒に遊んだり、旅行したりして、平和にのんびり過ごせるって。

これが現実だとしても、吉澤さんは納得できそうもなかった。
何としてでもこれを阻止しなきゃいけない。強くそう思っていた。
58 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:41


*****



59 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:42
冬休み明けの、縁九中学校。2年3組の教室の中心に、
ため息ばかりついている少女がいた。

「はぁ」

その子の名前は愛理ちゃん。おさげ髪が清楚な雰囲気で、
まさに清純派女子中学生のお手本のような女の子である。

それもそのはず、愛理ちゃんは生まれてこのかた苦労知らず。
何不自由ない裕福な家庭で育った、純度100%のお嬢様なのだ。

だけど、最近ある壁にぶち当たり、悩んでいる。
今までは何でも手に入れられるわって感じだったけれど、
簡単に手に入らないものだってあるのだと初めて知った。

「はぁ」

愛理ちゃんの頭の中は、あの人のことでいっぱいだ。
あの人、そう、亀井絵里ちゃんのバースデイパーティで出会った、
矢島さんという人。背が高くて、王子さまそのものみたいな人。
本当にひと目会っただけで好きになっちゃうような、圧倒的な人だった。
もう1度だけでいいから会いたい。会いたい。会いたい。

でも、会ってどうする。無難に世間話して、それでお別れ。
次いつ会えるかまたわからないお別れをするだけだ。
あのパーティのときも、こないだ、京東体育館で偶然会ったときも、そうだった。
60 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:42
あぁ!そうだ!
愛理ちゃんはピコーンとひらめく。
矢島さんの、連絡先がわかればいいんだ!
なんでこんな簡単なこと今まで思いつかなかったんだろう。
バカ。アイリーンのバカたれ小僧。自分で自分を責める。

「愛理、学級委員は?」

ハッ。横から男の子の声がして、我に返る愛理ちゃん。
「な、なに?」
「だから、学級委員、ならなくていいの?」
そう言いながら、岡井少年が黒板を指差していた。
慌てて前を向くと、担任の先生と目が合った。
ハッ!3学期の係決めか。いつの間に。アイリーン一生の不覚だ。

「鈴木、3学期も学級委員やってくれないか?」
「やります。やらせてください」
愛理ちゃんは、手を挙げながら立ち上がる。

「じゃあ、学級委員は長谷川と鈴木に決定」
クラスに拍手が起こる。
「よっ、学級委員」なんて、岡井少年がふざけて言ってくる。
愛理ちゃんは頭を下げて、席についた。
61 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:42

そして放課後。

「あぁ、今度はあたしが千聖の隣かぁ」

席替えの結果を嘆きながら、梨沙子ちゃんは階段を下っていた。
まぁまぁ、となだめる愛理ちゃんは階段を踏み外しそうになって焦る。
注意力散漫!いったいどうしちゃったのアイリーン。
あの才色兼備のアイリーンはどこへいっちゃったの?
やっぱり恋という病にかかったせい?とかいって。

「大丈夫?」
「うん、だいじょうぶ」
階段の途中で立ち止まっていた2人を、
他の女子生徒たちが賑やかに追い越して行く。

「やっぱ勝負はバレンタインだよっ」「うんっ」

愛理ちゃんはその会話を聞いて、「そっか」と呟く。

「愛理?」
「そういえば来月はバレンタインだね。りーちゃん」
「うん、そうだけど」
「やっぱ勝負はバレンタインだよ」
さっきの女の子のセリフをパクって、拳を握る愛理ちゃん。
全くわけわかんない梨沙子ちゃんは、アホ面で彼女を見つめていた。
62 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:43

その日の夕方。新垣家。

お家の前に高級外車が停まっているのを見て、
誰かお客さんかな?とガキさんは思った。
でもどうせ両親のお客さんだろう、と。

「おかえりなさいお坊ちゃま」
「ただいま」
「愛理お嬢様がお見えになっていますよ」
「えっ」
「お坊ちゃまに用事があるとかなんとかで」

愛理ちゃんが自分に用事?
いきなりのことに、ガキさんは驚く。

もしかして、愛の告白とかだったりして。

あなたのことが好きです。

ごめん、ぼくには絵里という可愛いカノジョが……。

なんて罪な男。ハハハ。ってオイ。
63 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:43
「こんばんは」

ガキさんがリビングに入ると、ソファに座っていた
愛理ちゃんが立ち上がって挨拶をした。
学校帰りでそのまま来たのか、中学校の制服姿。
おさげ髪がとっても可愛らしい。萌えー。じゃなくって。

「突然すみません」
「いや、いいんだけど、ぼくに用事って」
「できれば、2人きりで話したいんですけど、いいですか?」
「うえっ」

ちょっと、ちょっとちょっと!
2人きりで話したい=愛の告白じゃん!
まったく。今どきの中学生はませてるんだから!

2階にあるガキさんの部屋へ、一緒に上がる。
ガキさんは勉強机の椅子に座り、彼女をソファに座らせる。

まさか、愛理ちゃんとここで2人きりになるだなんて。
絵里ちゃんが知ったらどう思うだろう。
やきもちをやいてくれるのだろうか。いや、どうだろう。
愛理ちゃんは絵里ちゃんにとっても可愛い妹みたいな存在。
ガキさんにとってもそうだし、嫉妬なんかしないか。
64 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:43
「あの」
「うん」
「あのですね」

彼女は、モジモジしながらガキさんに上目遣い。
うはっ。ちょっと可愛い。っていかんいかん。
なに女子中学生に萌えてんだ。
ロリコンか。R\C(ロリータ\コンプレックス)かおまえは。
彼女と何歳離れてると思ってんだ。5歳?6歳?ありえねえ。

「矢島さんのケータイの番号とか、知ってますか?」

勇気を出していざ愛の告白。
あなたのことが好きです、と言われるとばかり思っていた
ガキさんは軽くずっこける。は?矢島さんのケータイの番号?

「矢島さんって、あの、矢島くんのこと?」

愛理ちゃんは頬を赤らめて小さくうなずいた。
うはっ。なんてこった。ガキさんの頬も赤く染まる。
ラーメン、つけ麺、ぼく……勘違い野郎とは、自分のことか。
65 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:43
「あっ、いやっ、知らなかったらいいんです」

そっかそっか。そういうことか。ガキさんはしっかりと理解する。
つまり彼女のベクトルはこの自分ではなく、矢島くんへと向いているのだ。

でも、ガキさんは思い出す。あの日の、矢島くんの言葉を。

『言ってみようと思います。素直に、もう1回付き合いたいって』

あれは昨年末の絵里ちゃんのバースデイパーティのことだった。
矢島くんと偶然遭遇して、なぜか恋愛相談を受けたりした。
別れたけどまだ好きなカノジョがいるって、彼は言っていた。

『また、フラれるかもしれないけど、言わなきゃ後悔しそうだから』

もうカノジョにその気持ちを打ち明けたのか、まだなのかはわからない。
だけど、矢島くんはその子のことが好きなのだ。きっと、今この瞬間も。
66 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:44
「やっぱり、知らないですよね」
「いやっ、知ってる。知ってるんだけど」
「ホントですか?!」
「うん、でも、矢島くんに言わずに勝手に教えるってのは
アレだから、教えてもいいか聞いてみるよ」
「ありがとうございます」

はにかむ愛理ちゃんを見つめて、ガキさんは複雑な気分になった。
それから、とりあえず、絵里ちゃんに相談しようと思った。
67 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:44


*****



68 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:44
リンリンリリン。リンリンリリン。

今日もなんともまあ絶妙なタイミングで、モバイルフォンが鳴り出した。
久住くんはチッと舌打ちをして、上着のポケットを漁る。
すると今夜の遊び相手、マリリンが「コハル」と囁き、キスを求めてくる。

鳴り止まないそれをポケットから取り出しながら、
もう片方の腕でマリリンを抱き寄せて、久住くんも口づける。
でも、電話に出んわ、っていうわけにもいかず、
唇を離し、片手でマリリンを抱きしめてから、モバイルフォンを耳にあてる。

「ヘロー」
『ボス、大変です』

電話の相手は、久住くんの世話係の1人、クリストファーだった。

「なんだクリスか。今こっちも大変なんだけど」
『申し訳ありません』
マリリンがグラマラスな身体をいやらしく擦り付けてくる。
久住くんは今すぐヤリまくりたい気持ちをこらえて、
「何?」
『ボスが日本へ行かなければならない理由がわかりました』
69 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:45
クリストファーは元FBIの優秀な捜査官。
知りたい情報はいつも、インターネットか、彼を使って調べている。

『ボスは、日本で結婚をさせられるかもしれません』
「結婚?」
『イエス』
「本当に?」
『イエス』
「相手は?」
『お相手は、ピースカンパニーの、社長のご令嬢です。
今そちらへメールをお送りしました。その女性の写真を添付しています』

なんだと。電話を切った久住くんはマリリンからそっと離れて、ニッコリ笑いかける。
「ウェイト」と言って、そばの鞄の中からノートPCを取り出してネットに接続する。
メールボックスを見ると、確かにクリストファーからメールが1通届いていた。
内容はピースカンパニーという会社の情報と、その社長の娘について。

「WAO…」

久住くんは添付されていた画像を見て、思わず呟いた。
ロングヘアーの女性が、綺麗に着飾って微笑んでいる写真だった。
彼女の名前は亀井絵里。えり、Eri、エリーか。
70 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:45
「チョーかわいい」

写真の中の、彼女の微笑を見つめて、久住くんは唇の端を上げた。
それからノートPCを畳んで脇に置き、マリリンの髪を撫でる。

「ごめんね。もう大丈夫」

顔を近づけて、日本語で囁く久住くん。
マリリンは何て言ってるかわからなさそうだったけど、
久住くんの表情と声でなんとなく意味を掴んでいた。

待たせた分、激しいキスでカバーする。
久住くんはマリリンの唇を吸う勢いで口づける。

突然日本へ引っ越して、それで結婚、か。
ダディは息子の人生をいったい何だと思ってるのだろう。

マリリンの着ているワンピースを、引っ張り上げる。
あらわになったセクシーな下着と大きなおっぱい。
久住くんはすぐにおっぱいに手を伸ばして、モミモミする。
マリリンがいやらしい顔で、声で大げさに反応する。
71 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:45
初体験の相手が誰だったか、もう忘れてしまった。
それくらいたくさんの女を抱いて、ポイ捨てしてきた。
ただセックスをするだけのに、ラブもパッションも何もいらない。

ていうか、そんなのありえないし。
久住くんはマリリンのおっぱいを揉みながら、お股の間に
手を入れながら、場所をベッドへと移動させる。

お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、適当な相手と結婚させられたんだ。
だから自分もそうなるのは自然なことだし、そう思っていたからこそ
こうやって、たくさんの女をヤリ捨ててきた。
女なんて、お金を出せばみんなついてくる。ヤラせてくれる。
言葉が通じなくたってそれは変わらない。女なんて、みんな世界共通。
お金を持った男を求めてる。セックスの上手い男を、求めてる。

アイラブユー・アイウォンチュー・アイニージュー。
全部、綺麗ごとだ。自分にはまったく関係ない。一生使わないセリフだ。
久住くんは愛も何も囁かずに、ただ欲望を満たすためだけに、彼女を抱いた。
彼女が泣いてしまうくらい、狂ってしまうくらい激しく抱きまくった。
72 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:46


*****



73 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:46
「ねぇ、見て見てガキさん」

絵里ちゃん専用車の中。
彼女はうれしそうに旅行会社のパンフレットを取り出していた。
その隣のガキさんは、なになに、と彼女に寄り添って、微笑んでいる。
相変わらずアツアツな2人の様子を、吉澤さんはバックミラーからチラリ。

「見て、この露天風呂。広くて良さげじゃない?」
「ホント。いいじゃん、ここ」
「でもねでもね、こっちの旅館も良いんだよねぇ」
「そうだね。いやー、迷っちゃうね」
「迷っちゃうね」

2人の頭の中は、恋愛1周年記念の温泉旅行でいっぱいだろう。
それはとても、よいことだ。仲が良いことは、本当に素晴らしい。
だけど。吉澤さんは”あのこと”を知っているから全然笑えない。

「ねぇ、カメ」

唐突に、ガキさんは落ち着いた声で言った。
車を運転しながらドキッとする吉澤さん。
いや、まだ、ガキさんは何にも知らないはずだ。

「ちょっと、相談っていうかなんていうか」
「なぁに?」
74 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:46
「愛理ちゃんのことなんだけどさ」
「愛理ちゃん?」

ガキさんの口から出てきたのは意外な人の名前だった。
吉澤さんは安心しながら、また耳をダンボにする。

「昨日さ、いきなり家に来たんだ。矢島くんの連絡先を教えて欲しいって」
「えっ、それってもしかして」
「うん。たぶん愛理ちゃんは、矢島くんのことが、好き、なんだろうね」
「あららら」

どうして絵里ちゃんはそういう反応をしたのだろう。
愛理ちゃんのことや、矢島くんのことをあまり知らない
吉澤さんにはサッパリわからない。

「カメならどうする?」
「うーん、絵里ならすぐ教えてあげるかなぁ。だって、ねぇ」
「そうだよね。やっぱり、教えたほうがいいよね」

意味深な2人の言い方が気になってしまう吉澤さん。
75 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:46
「ていうか、矢島くんあれからどうなったのかなぁ」
「さあ」
「とりあえずさ、矢島くんにそれ聞いてみない?」

そうこうしているうちに、車が亀井家にたどり着いた。
吉澤さんはすぐに外へ出て、後部座席のドアを開ける。

「ありがとうございます」
携帯電話を片手に持ったガキさんがまず降りる。
それから温泉旅行のパンフレットを大事そうに抱えた絵里ちゃんが続く。

「こんな感じでいい?」「どれどれ」

メールでも打ったのか、ガキさんは絵里ちゃんに携帯電話を見せた。
2人はピッタリくっ付いて、その画面を覗き込んでいる。
吉澤さんの存在なんて完全シカトだった。
仲良しなのは素晴らしいとか言いながら、ちょっと寂しかったりもする。
まぁ、別にいいんだけど?所詮、ただの執事だし、ただの運転手だし。

「いいんじゃない?」
「よし。じゃあこれで送信、っと」
76 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:47
腕を組みながら廊下を歩くお嬢様たちの後ろを吉澤さんはついて行く。
ホントに、いつでもどこでもイチャついてるなこの2人。
悔しいけれど、なんか負けてる気がする。うらやましいと思う。

それってもしかして、いわゆる倦怠期ってやつなのだろうか。
いや、落ち着いてきたっていうことにしておこう。
ベタベタしている絵里ちゃんとガキさんを眺めながら、吉澤さんは納得する。

もう、結婚というゴールも見えてきて、お互いホッとしているのだ。
今さら心変わりなんてありえないし、心配なんて何もいらない。はず。

「あ、キタ」

絵里ちゃんの部屋に到着する頃、ガキさんの携帯電話が鳴った。
先ほど送ったメールの返事が来たらしい。

「おっと、これは」
ガキさんが、絵里ちゃんにケータイを見せた。
「おっとっと」彼女はガキさんを見つめた。
なんなのなんなの。すごい楽しそうなんですけど。

彼女は自分の部屋にガキさんを通してから、クルッと振り返った。
ニコッと笑って、吉澤さんに言う。
「吉澤さん。もう下がっていいですよ?」
「はい。それでは」

吉澤さんが頭を下げると、パタンとドアは閉まった。


77 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:48


「その先輩って、男?女?」

メールをえいっと送信した瞬間、桃子ちゃんが尋ねてきた。
矢島くんは「男だよ」と答えて、携帯電話を制服のポッケにしまう。

「そっか」彼女はその答えに安心したように笑って、繋いだ手を揺らした。
矢島くんも笑顔でゆらゆら揺らす。

今は学校の帰り道。
部活が終わってから、待ち合わせして、一緒に帰っている。

「ねぇ、ピースカンパニーって知ってる?」
「聞いたことあるけど」
「その先輩、ピースカンパニーの社長さんの、娘さんと付き合ってるんだよ」
「えぇ、ホント?」
「こないだその娘さんのバースデイパーティがあって、そこで先輩と色々話して、
桃のこととか相談に乗ってもらってさ」

歩きながら、矢島くんは桃子ちゃんを見る。
78 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:48
「それで、先輩は言ったんだ。ビビってちゃ何も始まらないよ、って。
それ聞いて決心がついた。桃に、もう1回告白しようと思った」

彼女は照れくさそうにはにかんで、前を向いた。
矢島くんはそんな可愛い彼女の横顔を見つめる。

「好きだよ、桃」
「なぁにいきなり」
「なんか言いたかったから。今」
「桃も好きだよ」
「よかった」
ムフフ。2人は微笑み合う。
一度別れたのがウソのような、なかなかのバカップル具合だった。

「あれ」

とある公園を通りかかったとき、ふと、桃子ちゃんが立ち止まった。

「どうした?」
「熊井ちょーがいる」

え、と思って公園のほう見てみれば、遠くからでもわかるデカイ少年。
桃子ちゃんのバイト先の、寿司屋の息子だ。
79 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:48
「隣にいるのって、カノジョ?」
「うん」
「へぇー」

デカイ息子と、ちっちゃいカノジョ。身長差がものすごい。
矢島くんと桃子ちゃんもけっこう差があるけど、あれほどじゃない。

ずっと観察していると、息子たちはベンチに座って、教科書かなんかを
広げておしゃべりを始めた。「受験生は大変だねぇ」桃子ちゃんが呟く。

彼女は、息子たちを見つめて微笑んでいた。
ていうか息子をずっと見ているような気がした。
そのまなざしが優しすぎて、なんか微妙な気持ち。
80 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:49
「桃」

思いっきり道端だけど、矢島くんは突然彼女を抱きしめた。

「そんな顔で、見ないで」
「え?」

いきなりの抱擁に戸惑っている彼女を、さらに強く抱きしめる。
「ぼくだけ見てて」
「もぉ、何言ってんの?」彼女はクスッと笑った。
「ごめん」
矢島くんは、彼女からそっと離れる。
なんて気持ち悪いことを言ってしまったのだ、と少し後悔する。
なんてバカなのだ、と凹んでいると、彼女の手が伸びてくる。
ほっぺたを撫でられる。彼女は微笑んでくれる。

「舞美も、桃だけ見ててね」
「見てるよ」
「ずっと、桃だけだよ?」
「うん」
「桃もずっと、舞美だけ見てる」

矢島くんは頬にある彼女の手に自分の手を重ねる。
胸はドキドキときめき、止まらなかった。
彼女に恋してる。もう彼女のとりこだと、心底そう思った。
81 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:49

桃子ちゃんをお家まで送り届けて、帰宅した矢島くん。
ごはんを食べてお風呂に入って、ようやく部屋で落ち着いた
ときにまたガキさんからメールが来た。

実はきみの連絡先を教えて欲しいという女の子がいるのだ。

という内容を見て、矢島くんは斜め上を見上げて考える。
なんだろう。連絡先を知って、どうするのだろう。よくわからない。

でも、連絡先を教えるくらい別に大したことじゃない。
いいですよー、と返事を打って送信した。


82 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:49

つづく

83 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/24(月) 22:50

(0´〜`)<はぶらひーちゃんカワイソウだYO
( ・e・)<ケッ!

84 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/25(火) 00:58
小春そう来たか。まったく予想ができない。

桃と愛理の絡みにも期待してます。
85 名前:りしゃみやヲタ 投稿日:2008/11/25(火) 16:24
作者さんから命名ktkr!
謹んでりしゃみやヲタを名乗らせていただきます
りしゃみやイクの?イッちゃうの!?(・∀・)イク?
正座して見守ります!

私の脳内ではシンデレラのイケメン久住くんに変換されてます
なのでクリストファーはガキ王子がチラつくw

複雑に絡み合ってきましたね…執筆頑張って下さい
寒くなってきたので風邪などひかないように気をつけて下さいね
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/25(火) 23:00
从*^ー^)<ガキさんガキさんっ
87 名前:やじももヲタ 投稿日:2008/11/29(土) 20:19
桃に甘える舞美がチョーーーーーー可愛い。
桃の前だと舞美の無邪気さ(子供っぽさ)が倍増する気がする。
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/29(土) 20:22
小春もかなりカッコ良さそうだし、天敵とか登場してほしいな。
89 名前:(0´〜`)人(’ー’*川 投稿日:2008/11/30(日) 23:47
>>84さん
今後の展開はかなり予想しにくいと思われます
>桃と愛理の絡みにも期待してます。
ガールズラブにもする気はありませんが前向きに検討してみます

>>85 りしゃみやヲタさん
まあまあゆっくりあぐらをかきながら見守っててください!
登場人物たちの複雑すぎる関係をぜひ楽しんでいただきたいです
私はバカなので風邪はひきません

>>86さん
(0´〜`)<おいらのことも呼んでくれYO

>>87 やじももヲタさん
うんうん
やじまんはなんか無邪気な感じしますね
可愛いですね

>>88さん
天敵!!!
もしかしたら出てくるかもしれません!!!
とかいって
90 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:47


*****



91 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:48
新垣法律事務所はつい昨年誕生10年を迎えた。
今年は誕生11年記念。
事務所を始めた1月28日に、一流の高級ホテルで、
大勢のお客様を招いて、盛大なパーティが行われる。

「これが今年の招待客リストだそうだ」

吉澤さんは父親からA4サイズの紙を渡されて、
とりあえず目を通す。
絵里ちゃんや、愛ちゃんのお父様の名前がある。
ざーっと並んでいる名前は、昨年と特に変わりはない。

と思ったけど、1つ、見慣れない名前を発見する。
嫌な予感がして、お父さんに尋ねてみる

「親父、これって何て読むの?」
「くすみだよ、くすみ」
「くすみさん、か」
「この人はあれだ、KBMの会長だよ」

ちょ!!!KBMって!!!

「新垣さんもホント顔が広いよ。あのKBMの会長とも繋がりがあるなんて」

92 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:48


絵里ちゃんのお父様と、KBMの会長はどういう関係なのだろう。
どこからどういう話になって、子供たちをくっ付けようということになったのだろう。
やっぱりお互いの利益のため、としか思えない。

「吉澤さんはどう思います?」
「へ」

吉澤さんはアホ面で絵里ちゃんを見た。
ここは某高級百貨店で、絵里ちゃんは新しいドレスを選んでいた。
それはガキさん家のパーティで着る用のドレスだった。
彼女は形の違うドレスを両手に持って迷っていた。

「もぉ、なんか最近ボーッとしすぎですよ?」
「すみません」
「愛ちゃんのことで、何か悩み事でもあるんですか?」
「そうですね、まあ」
適当に答えると、絵里ちゃんは大げさに反応した。
ドレスを置いて、吉澤さんと向かい合う。

「もしかして、ケンカですか?」
「お嬢様が心配なさることじゃないですよ」
「えぇ、気になる」
「それよりも、早くドレスをお選びになってください」

はーい、と言った絵里ちゃんは再びドレスを眺め始めた。
吉澤さんはホッとしながら、彼女の横顔を見つめた。
言えない。まだ、何も言えない。それがとてももどかしかった。
93 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:48


今日のディナーは、珍しく幼なじみ3人水入らずだった。

「たまにはいいね、こういうのも」

愛ちゃんがワインの入ったグラス片手に言った。
ガキさんはうなずいて、絵里ちゃんを見る。
絵里ちゃんも微笑んでうなずいた。

「来年になったら、2人もお酒飲めるようになるしさ」
「そうだね」
「絵里って酔っ払ったらどうなるんだろうね」
「どうなるのかなぁ」

愛ちゃんとガキさんは、もちろん知らない。
絵里ちゃんが吉澤さんとカナダに行ったとき、
酔っ払ってとんでもないことをやらかしたことなんか、まったく。
ていうか絵里ちゃんも覚えてないし、吉澤さんしか知らない。

「ガキさんはなんか、泣き上戸になりそうだね」
「は?泣き上戸?」
「うわぁ、チョーうざそー」顔をしかめる絵里ちゃん。
コラッ。ガキさんは彼女へガブッと噛み付くマネをする。
94 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:49
「ていうかていうか、愛ちゃん」
ガキさんをスルーして、絵里ちゃんは言う。
「なに」
「吉澤さんと何かあった?」
「何かって?」
「ケンカとか」
「なんで?」
「んー、なんとなく」
絵里ちゃんの答えを聞いた愛ちゃんは、ワインをぐいっと飲む。
ガキさんは2人の顔を交互に窺っている。

「最近さぁ、吉澤さんなーんか様子がおかしいんだよね。
ボーッとしてるっていうか、いつも考え事してるみたい」
「そうなの?」愛ちゃんより先に、ガキさんが口を開く。

「何かあったのかなぁ」
心配そうに言った絵里ちゃんに、愛ちゃんは、
「道重さゆみが熱愛発覚して、凹んでんじゃん?」
「えっ?」
「ちょ!」

テーブルの上にグラスを置いた愛ちゃんは、アッヒャーと笑った。

「絵里の気のせいでしょ。あの人、別に、いつもと変わんないよ」

95 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:49


*****



96 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:50
冬休みもあけ、3学期に突入した湾田高等学校。
気がつけば男子バスケ部の新人大会はもう明後日。
ということで、ふたたび練習で忙しい毎日を送っていた。
3年生が引退して気分も新たにがんばっていた。

「遅い!本気で走れ!」

特に気合が入っているのは、新キャプテン。
背が小さいながらもスピードとテクニックを買われてレギュラーになり、
さらに人柄の良さを評価され、キャプテンになった。

お家が近所で、生まれた時からずっと兄弟のように育ってきた桃子ちゃんは、
ずいぶんと頼もしくなったキャプテンを、自分のことのようにうれしく思っていた。
バスケ部でマネージャーをしているのも実は、キャプテンに誘われたのが
きっかけだったりする、なんていうことは今ここで初めて公にする事実である。

「キャプテン、気合入ってますね」

紅白戦の様子を眺めながら、後輩マネージャーが言った。
桃子ちゃんは微笑んで「そうだね」と答える。
97 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:50
「かっこいいですよね、キャプテン」
ボソッと呟く後輩。
「あれあれ?もしかして」
「ちっ、違いますよ!ただフツーにかっこいいなって思っただけです!」
「あやしー」
「もー、違いますって!」
桃子ちゃんはニヤニヤしながら、後輩をからかう。

そういえば、キャプテンの浮いた話って聞かないなぁ。
キャプテンのことを好きな子の話なら聞いたことあるけど、
告白してもみんなフラれたって言ってたし。
あの子はずっとバスケ部で、普通にモテてるのに、なんでだろう。

じゃあもしかして、まだ童貞?
バスケットボールを夢中で追いかけるキャプテンを見つめて、
桃子ちゃんはそんなことを思った。

「おい!ルーズボールはしっかり追いかけろよ!」

キャプテンの大きな声が体育館に響いた。
すると、言われた相手の2年生部員がキャプテンに近寄り、
胸ぐらをガッと掴んでにらみつけた。

ざわつくコートの中。止めに入る周りの部員。
「桃子先輩」後輩からジャージの袖を握られる桃子ちゃん。
98 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:50
「キャプテンになったからって調子乗んじゃねえぞ」

その先輩はバスケ部の中心選手だった。
でも最近はレギュラーを夏焼くんに完全に奪われて、補欠が続いていた。

「ちょっとやばくない?」
須藤くんが囁いてきて、夏焼くんは小さくうなずいた。
今ちょうど顧問の先生が席を外していて、3年生も引退したからいないし、
この場をどうにかしてくれる人がいないのが辛い。

「キャプテンがそんな偉いのか?ああ?」

キャプテンはただ黙ってその部員を見つめていた。
堂々としてるっていうか、肝が据わっているというか。
ビビって何も言い返せないっていうか、怯んでるっていうか。

「もうやめろって」
「そうだよ、シミは間違ったこと言ってないんだし」

同級生からなだめられて、そいつは乱暴に手を離す。
そして周りの部員たちをもにらみつけて、体育館を出て行く。
残された部員たちは、静まり返っている。

漂う嫌な雰囲気を吹き飛ばすように、
パンパンッ、とキャプテンは手を叩いた。
「さ、練習再開しよう」
99 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:50


それから何事もなかったかのように、練習は終わった。
みんな口には出さないがさっきのできごとを気にしていて、
でもキャプテンは顔色ひとつ変えずに、部活を解散させた。

「松本くん結局戻ってこなかったね」

床に座ってストレッチをしていたキャプテンに、桃子ちゃんは言った。
キャプテンが顔を上げる。
桃子ちゃんはキャプテンの隣に腰を下ろす。

「気にすることないよ。キャプテンは、全然悪くないんだしさ」

ストレッチをやめ、あぐらをかくキャプテン。
さっきから無言で、元気がない。

「ちょっと、なに凹んでんの?まさか真に受けたんじゃないでしょうね」
「…けっこう」

あのときそんな素振りは全く見せなかったのに。
桃子ちゃんはキャプテンの反応に驚く。
100 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:51
「おれだって別に、キャプテンになりたくてなったわけじゃないんだよ。
安藤先生が、キャプテンやらないか、って言ったからやることになっただけで」

愚痴っぽく、キャプテンは言った。

「多分あいつ、夏焼にレギュラーとられてイラついてるんだよ。
今日もレギュラー組から外されてたしさ。でも、おれに当たるなってのに」
「だよね。あれはよくないと思う」
「このままじゃ、あいつ、孤立しちゃうよ」
「いいじゃん孤立させとけば。あんな嫌な言い方して。自業自得でしょ」
「よくないよ。確かに、あいつは今日は嫌な奴だったけど」

この幼なじみは、なんて人がいいのだろう。
彼女ナシで、多分童貞だけど。桃子ちゃんは肩をすくめる。

「明日、ちゃんと部活来るかなあ」
「来るかなぁ。来ないかもねぇ」
「あー、やっぱおれ、キャプテンなんて無理だったのかなあ」
「なーに弱気なこと言ってんのよ、しっかりしなさい」
桃子ちゃんは、キャプテンの背中をバシっと叩いた。

「やったな」キャプテンは桃子ちゃんにデコピンして仕返しした。
そして、2人で笑い合った。
101 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:52


矢島くんは携帯電話の画面をじっと見つめていた。
初めて見るメールアドレスだったから、誰かと思ったら。
もしかしてガキさんの言ってた連絡先を知りたい女の子っていうのは…。

「鈴木愛理、か」

亀井絵里ちゃんのバースデイパーティで初めて出会ったときも
バスケの試合を観に行ったときも、助けてもらった。
2度も偶然に遭遇して、お世話になった女の子。
あまり物覚えが良くない矢島くんだが、さすがにちゃんと記憶に残っていた。

「でもなー」

愛理ちゃんからのメールには、クラシックコンサートのチケットが
余ってるから明後日一緒に行きませんか、ということが書かれていた。
クラシックコンサートなんて行ったことないし、ぶっちゃけあんまり興味もない。

「うーん」

でもせっかくのお誘いだし断るのも悪いなー。どうしようかなー。
首を左右に傾けながら悩む矢島くん。

「舞美!」
102 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:52
そこへ、桃子ちゃんが笑顔で駆けてきた。
矢島くんはパァッと明るい表情になり、ケータイをポッケに入れる。

「ごめん、遅くなった」
と言いながら、桃子ちゃんが矢島くんの手を握る。
「いいよ。全然」
矢島くんはやさしく微笑んで、その手を揺らす。

「今日、ちょっと部活で色々あってさ」
「色々?」
「うん。軽いいざこざ?みたいなの」
「いざこざか。大変だね」

2人は、手を繋いで歩き出す。
さっきまで悩んでいた矢島くんは、そのことをすっかり忘れて、
桃子ちゃんでいっぱいいっぱいだった。

「明後日はバイト?」
「あ、明後日はあれなんだよ。新人大会」
「そっか。新人大会か。休む暇ないね」
「うん。ゆっくりデートしたいけど、まだおあずけだね」
103 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:53


帰宅して、まだメールの返事をしてなかったことを思い出す矢島くん。

「明後日かー」

どうせ桃子ちゃんとも会えないし、行っちゃうかー。
ぴこぴこ返事を打って送信する。

今は自覚なんて全くなかった。
愛理ちゃんには恩がある。だから誘いを受けた。

矢島くんは自分の行動の意味を深く考えていなかった。
考える理由が、まだ何もなかった。
104 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:53


*****



105 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:53
明日は、新しい湾田高男子バスケ部のスタートを飾る
大事な大会の初日だ。

でも、今日の練習の雰囲気は昨日のできごとを引きずったままで、
夏焼くんも、他の部員たちも全然集中できていなかった。
原因を作った先輩は今日来てないし、最悪だった。
何も変わらなかったのは、キャプテンだけだった。

後片付けを終えて、須藤くんと部室に戻る夏焼くん。
そのドアノブに手を伸ばした瞬間、中から声が聞こえてくる。

「やっぱシミにキャプテンは無理だったんじゃない?」
「な。あんなこと言われてさ、何も言い返さないとか弱すぎじゃね?」
「普通キレるよな。あんなこと言われたら」
「キレるキレる」
「あいつは人がよすぎるんだよ」

2年生の先輩たちがそんな会話をしていて、夏焼くんは手を引っ込めた。
須藤くんと顔を見合わせる。

「でもシミはアンドーナツに気に入られてるからな」
「いいよな。あんなチビでもレギュラーになれるんだから」
106 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:53
ひどい言われようだ。
キャプテンの前では味方ぶって、陰でコソコソ。許せない。
けど、このドアをぶち破って先輩たちをぶん殴る度胸は、夏焼くんにはなかった。

(なっちゃん…)須藤くんが肘で突いてくる。
彼の視線は、なぜか後ろのほうへ向いていた。

「キャプテン」

なんと、後ろにキャプテンがいた。

ここで聞こえるくらいだから、そこでも聞こえているだろう。
つまり、さっきの会話を全部聞いていたのだろう。

「なに突っ立ってんだよ。中入らないのか?」

でも、キャプテンは普段と変わらない笑顔で言った。
絶対聞こえてたはずなのに。
夏焼くんは戸惑いながら、部室のドアを開けた。
中は気まずそうな空気に包まれていて、先輩たちが黙々と着替えていた。
107 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:54


「うわぁっ!」

薄暗い下駄箱に桃子ちゃんの叫び声が響き渡った。
誰も居ないと思っていたのに、キャプテンが居たのだ。

ビックリしすぎて、ちびるかと思った。
桃子ちゃんは唇を尖らせながら言う。

「もぉー、おどかさないでよ!」

だけど、キャプテンはまったく無反応。
桃子ちゃんはすぐ真顔になって、「何かあった?」と尋ねる。
わかりやすいくらい、キャプテンは無言だ。心配になる。

「ねぇ、桃」
「なに?」
「今から、一緒についてきて欲しいんだけど」
「どこに?」
108 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:54

あいつの家に行くんだと、キャプテンは言った。
その表情があまりに深刻だったもんだから、
桃子ちゃんは素直に受け入れた。
待ち合わせ場所で待っているだろう矢島くんには
申し訳ないけど、今日は急用ができたとメールした。

「でも、何しに行くの?」
「明日の集合時間を教えにだよ」

キャプテンはずんずん先を行く。
桃子ちゃんは小走りになりながらついて行く。

湾田高から歩いて約10分。
あいつの家の前にたどり着いて、キャプテンがチャイムを鳴らす。

「湾田高バスケ部の清水といいます。松本くんに会いたいんですけど」

ちょっと待つと、玄関のドアが開いた。
ラフな部屋着姿の松本くんが出て来る。

「よ」キャプテンは片手を挙げた。
「なんだよ」あからさまに嫌な顔をする松本くん。
109 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:54
「明日、7時半に正門集合だから」
「行かねえよ。行くわけないじゃん。試合出れねえのに」
「そんな言い方ないでしょ。キャプテンは心配してわざわざ」
桃子ちゃんがフォローしようとすると、
松本くんが飛び出してきて、キャプテンの胸ぐらを掴む。

「ホントうざいな。おまえ。うざすぎて寒気がする」
「松本くん!」
「来るなら1人で来いよ。なに嗣永連れて来てんだよ。
ぶん殴りたくても、殴れねえじゃねえか」

そう言われて、ガンをとばされても、キャプテンは黙っている。
なんで無言なのよ!何か言い返しなさいよ!と思う桃子ちゃん。
なんなら私が!と寒いけど意気込んで腕まくりしようとする。
そしたら、キャプテンがやっと口を開く。

「今年は絶対、全国優勝しよう」
「は?」
「先輩たちができなかった全国優勝、しようよ」
「ふざけてんじゃねえぞ!」
110 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:54
松本くんは力任せに思いきりキャプテンを突き飛ばした。

「キャプテン!」

キャプテンが道路に倒れこむ。
慌てて桃子ちゃんがその脇にしゃがんだ。

「痛っ…」
「キャプテン!大丈夫?!」
とっさに手をついたのがまずかったらしい。
キャプテンはとても痛そうに左手で右手首を押さえた。

「大丈夫?」
「うん」渋い顔をしながら、キャプテンがすくっと立ち上がる。
真剣な顔で松本くんを見つめる。

「ふざけてなんかないよ。本気で、優勝したいって思ってる。
でも、まっちゃんなしで優勝したって、意味がないんだ。
部員みんなで戦って、優勝したいんだ」

そう言って、松本くんに微笑みかけるキャプテン。

「明日、待ってるから」

怖い顔の松本くんは、何も答えずに家の中に戻って行った。
111 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:55
「ていうかキャプテン手首ホントに大丈夫なの?!」
「大丈夫、じゃない香りがプンプンしてきた」
「えぇ?」
「骨は折れてないと思うけどな」
キャプテンは自信なさげに笑って、歩き出した。

「明日、病院行きなよ」
「行けないよ。時間ない」
「それで試合出るなんて、桃が許さないからね」

強い口調で桃子ちゃんが言うと、キャプテンは苦笑して、
「あー、ホントに情けないな。おれ」
「そんなことないよ」
「だって、1人じゃ怖いから桃連れて行ったんだよ?
情けなすぎるよ。結局、説得できなかったし。手首は怪我するし」
はあ。キャプテンは深いため息をつく。

「マジ、サイアクだ」

こんなに落ちているキャプテンを見るのは初めてで、
桃子ちゃんはどうしていいかわからなくなった。
112 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:55


*****



113 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:55
待ち合わせ場所は、夢が丘南駅前の広場。
真ん中にどーんと立っている時計のところだ。

車から降りた愛理ちゃんは、一度心臓を押さえる。
今から、ていうか昨夜から、胸がバクバクしている。あぁ、緊張するわ。
きょろきょろと辺りを見渡す。まだ来てない。
ホッとするけど、早く会いたい。変な気持ちになる。

ガキさんを通じて連絡先を教えてもらって、数日。
夢みたいだ。まさかメールとかできるなんて。
さらに今日は一緒にクラシック鑑賞。
もしかしたらこのまま…イヤーン。
なんて妄想してるの。アイリーンったら。てへっ。

「こんにちは」
「ヒャッ」

時計の前に立っていると、後ろからいきなり声をかけられる。
ビックリして振り返ると、そこにはキラキラ笑顔が眩しい王子さまがいた。

「ごめんなさい。3分遅刻しちゃいました」
「そそそそ、そんな。3分くらい」
114 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:56
3分なんて、この地球の長い歴史からするとほんの一瞬。
いや、一瞬なんていう言葉で表せないくらいの短い時間だ。
そんなことくらいで腹を立てるなんて、おバカさんのすること。
アイリーンは、賢いんだから。成績は学年トップクラスなんだから。

「今日、天気が良くてよかったですね」
「そうですね」

澄み切った青空を見上げて、気持ち良さそうに深呼吸する矢島くん。
なんて綺麗に整ったお顔。ぜひ額に入れて部屋に飾っておきたいものだわ。
って、何気におそろしいことを思ったりして。こら。ダメだぞ。アイリーン。

「あの、会場まで、うちの車で行きましょうか」
「はい」

どうぞどうぞ、と愛理ちゃんは矢島くんを車まで案内する。
じいやがドアを開けてくれて、順番に後部座席に乗り込む。
115 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:56
さて、なにを話そうかしら。
窓の外の景色を眺めている矢島くんの横顔を見て、愛理ちゃんは考える。
でもまぁ、別にこのままでもよかったりして。うっとりする。
隣でこうやって、彼を見つめているだけでも、十分だ。

「そういえば今日」

いきなり矢島くんがこっちを向いてきたので、慌ててそっぽを向く。

「湾田高のバスケ部、新人大会に出るみたいですね」

さっきまでガッツリ見つめてたこと気づかれてないかしら。
愛理ちゃんは内心ビクビクしながら、矢島くんのほうを見る。

「菅谷さんは、見に行ってるのかなぁ」
「行ってますよ。りーちゃんは、近くである大会は全部見に行ってます」
「そうなんですか」
「まぁ、試合を見にっていうか、夏焼先輩を見に、ですけどね」
「夏焼先輩」
「あ、りーちゃんのカレシです」
「カレシ、か」
矢島くんは、困ったような変な笑顔になった。
なんかまずいこと言っちゃったかしら。愛理ちゃんは首をかしげる。
116 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:56
「菅谷さんと夏焼くんって、いつから付き合ってるんですか?」
「えぇっと、こないだ1周年の記念日だって言ってたから、
おととしの12月くらいからですね」
「そうですか。けっこう続いてるんですね」
「はい」
「鈴木さんは、好きな人とかいるんですか?」

ドキッ。まさかの質問に、愛理ちゃんは固まる。
矢島くんの眼差しはとてもまっすぐで、もしかしたらもうすでに
心の中を全部見抜かれてるんじゃないかって、思ったりする。
矢島くんはなんていうか、余裕の微笑み。
チョーかっこいいんだけど、ちょっとこわい。

いますよ。あなたです。
なんて今ここで言えたらすごいんだけど。
モジモジしながら愛理ちゃんは、「矢島さんは?」と逆に尋ねる。
矢島くんは照れ笑いを浮かべて、人差し指で鼻の頭をかいた。
それから、さわやかに答える。

「鈴木さんが教えてくれたら、言いますよ」
とかいって。「ウソですよ」と矢島くんがハハハと笑った。

「いますよ」
「え?」
「好きな人」
「……」
117 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:57
「実はその人、湾田高のバスケ部の人なんです」

ガビーン。
心の中に響いた効果音は、たぶんそんな感じ。
愛理ちゃんは衝撃を受けたけど、矢島くんにバレないように、
「そうなんですかー」と笑って誤魔化した。

好きな人いるんだー。バスケ部の人なんだー。

ん?

いや、待って。ちょっと待って。
バスケ部の人って、もちろん女の人だよね?
でも矢島くん、男子バスケ部の試合を見に来てたよね?
ということはつまり。ウホッ。いやいやいや。そんなわけ。

アイリーン。賢いアイリーン。思い出してみて、あの日のこと。
あの日、矢島くんが言った、あの一言を。
118 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:57

『湾田高に友達がいるんです』

『友達がいるんです』

『友達が』

『友達』

『 と も だ ち 』

まさか。ハッとした愛理ちゃんは、矢島くんを見る。
「?」首をかしげる矢島くん。

もしかして、アイリーンのライバルは、女じゃないの?

「どうしたんですか?」
「あっ、いやっ、別になんでもございませんのよ」
オホホ、と口元に手をあてて、上品に微笑む愛理ちゃん。

矢島くんに、ソッチの趣味があっただなんて。
想像できないけど、想像してみたら…意外とイケる!
って、アイリーンったら何考えてんの。脳みそ腐るぞ。

119 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:57

でも、よくよく考えてみると、矢島くんには好きな人がいる。
性別はどうであれ、矢島くんのハートをがっちり掴んでる相手がいるのだ。

こうなったらこの戦い、負けられない。負けたくないし、負けてない。はず。
アイリーンが女子中学生だからって、油断してたら痛い目みるんだから。

なんだか身体の芯からやる気がみなぎってきた愛理ちゃん。
のほほんと笑っている矢島くんを見つめて、決意をした。

絶対、矢島くんのハートを奪ってやる。奪ってみせるんだから!
こうして、恋の大泥棒・怪盗アイリーンが誕生したのだった。


120 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:58


つづく



121 名前:彼女の革命 投稿日:2008/11/30(日) 23:58

洲´・ v ・)<待ってなさい恋のライバル!こてんぱんにしてやるんだから!
( ・e・)<やれやれ、とんだ勘違いガールなのだ

122 名前:84 投稿日:2008/12/01(月) 00:22
絡みっていってもそっちの意味じゃなくて、愛理によってやじももの愛が揺るぎないものになるとかです。

桃愛理も、単純に戦って、決着がついて終わりじゃもったいない気はしますが。
123 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/01(月) 00:23
ちょww愛理間違ってるww最後の1行作者さんパクってるww
でもそれよりなにより、>>94の最後のセリフにきゅんとしました。
愛ちゃんのこういうざっくばらんな所、すごく魅力的だと思います
124 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/01(月) 00:45
川*’∀’)<あーしが呼んであげるっ
125 名前:やじももヲタ 投稿日:2008/12/01(月) 01:10
桃に対するシミちゃん、心配していた通りの展開だぞ。
愛理もいるけど、ずーーーっと「やじもも!!」と叫び続けます。

あと、シミちゃんが桃に対して、「ツグ氏」と呼ぶのも一部では好評です。
126 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/01(月) 12:37
腐女子アイリーンキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
また新しい面白さが出てきて非常にワクワクしております
127 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/01(月) 20:20
この後の展開が気になります。まさか、名探偵ピーチッチは出ませんよね?
128 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/02(火) 01:05
愛理が腐女子すぎて辛いwwwwww
129 名前:重ピンピン 投稿日:2008/12/02(火) 03:21

更新おつかれっす

ガキさんとくっすみの事もきになりますが、
ここはアイリーンのガンバリに期待大です


負けられない戦いがココにある
頑張れアイリーン、負けるなアイリーン!!
どうしても、どうしようもなくなったら参考書に重ピンクを
オススメしますよ


まぁ、個人的な感情はここまでにして、
これからも楽しみにシテマース

130 名前:りしゃみやヲタ 投稿日:2008/12/02(火) 05:57
夏焼くんの試合は必ず見行くりーちゃん萌え!
りーちゃん寄りなのでなんとなくアイリーンを応援しちゃうなぁ
でも、みんな幸せにぁ〜れ(AA略
131 名前:(0´〜`)人(’ー’*川 投稿日:2008/12/14(日) 22:12
>>122 84さん
マジレスされるとちょっと困っちゃいますねw
まあどうなるかわかりませんけど温かく見守っていてくださいな

>>123さん
このスレの裏タイトルは「怪盗アイリーンvs名探偵ピーチッチ」です
でも話のメインはまったく別のところなんですけどね
私は愛ちゃんヲタなのできゅんとなったとか言われると本当にうれしいです

>>124さん
(0´〜`)<あーあーきーこーえーなーいー

>>125 やじももヲタさん
どうぞどうぞ叫び続けてください!私も叫びます!やじもも!!
ていうか「ツグ氏」とかwwwどこで使えとwwwwww

>>126さん
腐女子wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
これからもワクワクさせられるようにがんばります

>>127さん
そっ、そんな野暮なこと聞かないでくださいヽ(`Д´)ノ 

>>128さん
アイリーンが大人気すぎて辛いwwwwwwwwwwwwwwwwww

>>129 重ピン
うんうんまさに負けられない戦いですね
でも参考書が重ピンクなんてハレンチな!
そうですね、どうしようもなくなったらその手を使いましょう

>>130 りしゃみやヲタさん
水板ではこの1つの話しか書かないつもりなので
何が何でも必ずみんな幸せにさせます!!!

132 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:12



133 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:12



134 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:13


それと同じころ。
九戸総合体育館。湾田高男子バスケ部の控え室。

安藤先生は、キャプテンが手首を怪我したから試合には出れないと言った。
夏焼くんはもちろん、部員たちはみんな動揺を隠せず、その場はざわついた。
でも、キャプテンはうつむくことなく、ずっと前を向いていた。

「まったく、こんなときに松本も来とらんなんて」

温厚な先生が珍しく苛立った様子で呟き、頭をがしがしかいた。
彼のそばにいる桃子ちゃんは、キャプテンをチラリと窺う。
キャプテンはそれに気づいて、小さく首を横に振る。
何も言うな、ってことか。その怪我をした理由でさえ。
135 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:13

キャプテンが怪我したといっても、試合の開始時間は必ずやってくる。
夏焼くんは赤いリストバンドをしっかりはめて、控え室の入り口で
桃子ちゃんとしっかりハイタッチをした。

「あー、萎える。全然やる気しねえ」

廊下を歩いていると、誰かのそんな声がして、夏焼くんは振り返った。
昨日、部室でキャプテンに文句を言ってたうちのひとり、桜井先輩だった。

「なんだよ」

ずっと見ていると、そんなことを言われてにらまれる。
なっちゃん、と隣の須藤くんの心配そうな声がする。

「こういうときだからこそ、やる気出していきましょうよ」

正直、腹が立ってしょうがなかった。
でも昨日、キャプテンはこの人たちに何も言わなかった。
言いたかっただろうけど、ぐっとこらえていたのだ。
それを見習って、夏焼くんも我慢しながら先輩に笑いかける。
136 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:13
「おまえは何のしがらみもなくていいよなー。うらやましいよ」

笑みを浮かべた桜井先輩は、夏焼くんと肩を並べる。

「しがらみって、なんですか」
「1年にはわかんねえよ。おれの、いや、おれら2年の気持ちは」
「え?」
「とにかく、ウインターカップ3位の湾田が1回戦負けとかありえねえから。
やる気出ねえけど、やるしかない」
ポンポン、と夏焼くんの肩を叩いて、先輩は小走りで去って行った。

「なんなの、あの態度」
「うわっ」

いつの間にか横に桃子ちゃんがいて、夏焼くんはちょっとビビる。
彼女は腕組みして前方をにらみつけ、プンプンしていた。

「キャプテンの気持ちも知らないで、なにが”しがらみ”よ」
「ていうかツグさん。しがらみ、ってどういう意味なの?」
「今から図書館行って調べてくれば?」
「ちょ、なんか今日ツッコミ厳しくない?」


137 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:14


「あれ、偶然だね」

今日も観客席の最前列に座っていた梨沙子ちゃんは、
なんだか聞いたことがある声が聞こえてきて、辺りを見回した。

「あ」「やあ」
そしたらなんと近くに砂山さんがいた。バッチリ、目が合ってしまう。
笑顔で手を振られて、梨沙子ちゃんは微妙な表情になる。

「残念ですけど、愛理は今日来ませんよ」
「ええっ」
聞かれる前に言う梨沙子ちゃん。
砂山さんが動揺している。本当にバカだこいつ、とか思う。

「今日、愛理はデートです」
「でででで、デート?まさか」
「ほんとです。クラシックコンサートに行ってます」

なんてことだ、と砂山さんは頭を抱えた。相当ショックらしい。
さっさと、あきらめてくれればいいのに。
梨沙子ちゃんが冷たい目で彼を見つめていると、
湾田高の面々がぞろぞろと姿を見せ始めた。

「デートの相手は、誰?」
「それは自分で愛理に聞いてください」
彼女はクールに言った。
こわっ、この子こわっ。砂山さんは、そんな顔をした。
138 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:14


レギュラーメンバーのキャプテンも不在だし、チームの雰囲気は
今ちょっぴり悪いし、そもそも新人戦だし、大丈夫なのだろうか。
と心配していた桃子ちゃんだったが、いざ試合が始まってみると、
予想以上にみんなのチームワークが良くて驚いてしまう。

さっき廊下で文句を垂れていた部員が中心となって、ガンガン点数を稼いでいる。
もしかしたらこの第1試合目、圧勝してしまうかもしれない。
桃子ちゃんはそう思いながら、隣に座るキャプテンをチラリと見た。
「すごいね、みんな」
「うん」キャプテンはうれしそうに笑って答えた。

夏焼くんもすごいがんばっている。
3ポイントシュートが次々決まる。調子はすこぶる良いようだ。
こりゃ、松本くんの出番がなくなるわけだ。悪いけどそう思ってしまう。

ブザーが鳴って、試合終了。
結局第1試合目は相手に50点差以上をつけて湾田高は快勝した。
139 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:14
「おつかれ!」

ベンチへ戻ると、キャプテンが元気良く迎えてくれて、夏焼くんはハイタッチをする。
「やりましたよ!キャプテン!」
ハイテンションの夏焼くんとは対照的に、他のレギュラーメンバーの2年生たちは
クールにベンチに腰かけ、タオルで汗を拭いている。
キャプテンの言葉にもあんまり反応していない。ちょっと気まずい空気だった。

控え室に戻って、次の試合対策を顧問の先生と話し合う。
堂々と自分の意見を言うキャプテン。
他の2年生部員たちは、またクールに眺めている。
なんだよ。なんなんだよ。夏焼くんは、ちょっとイライラしてくる。

「一旦解散」

先生はそう宣言したあと、控え室から出て行った。
それから、今日レギュラーの2年生部員たちも、なぜか固まって部屋を出て行く。

夏焼くんと同様に、なにやら嫌な雰囲気を感じていた桃子ちゃんは、
キャプテンの様子を窺うが、何にも変化ナシ。
やっぱりこいつはちょっと情けないかもしれない。少しだけガッカリする。

「なんなんですかね。桜井先輩たち」
夏焼くんがプンプン怒った感じで話しかけてきて、桃子ちゃんはうなずいた。
140 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:14

しばらくして、控え室のドアが開いた。
さっき出てった桜井くんたちが戻ってきたのだ。
彼らはキャプテンをにらみつけながら、一直線に入ってくる。
それから、キャプテンの前で立ち止まる。

なにごとだ。もしかしてリンチ?集団リンチ?
とか不安になる桃子ちゃん。
夏焼くんが黙って彼らに近寄って、いつでも止めに入れるポジションにつく。

「シミ」桜井くんが口を開く。

「ぶっちゃけるとさ、今日までおまえをキャプテンだって認めてなかった。
チビだし。上手いけど、夏焼のシュート精度みたいな、すげーって思える
部分なかったし、なんでおまえがキャプテンなんだ、ってずっと思ってた」

えぇっ?室内に他の部員たちがどよめいた。

「それで、さっき先生に聞いたんだ。おまえがキャプテンになった理由」
「先輩たちが、みんなおまえにキャプテンを任せたいって言ったんだってな」
「しかも満場一致だったって」
「えっ」
驚く夏焼くんをシカトして、桜井くんはキャプテンの肩に手を置く。
141 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:15
「おまえ抜きで1試合戦った後だと、先輩たちがそう言った理由がすげーわかる
気がするんだよ。なんつうか、上手く言えないけど、おまえのすげー部分って、
多分そういうところなんだよな」
「レギュラーの経験、ダントツトップだし。やっぱその経験は、ダテじゃねえよ」
「あぁ、ダテじゃない」
「その怪我が治るまで、試合出れなくて辛いけど、
それまでおれらががんばって、勝ち続けるからな」
「今年は、めざせ無敗だ」
「今年の湾田は最強なんだって、見せつけてやろうぜ」
「多分シミが入ったらヤバイんじゃない?」

不敵な笑みを浮かべる2年生のレギュラーたち。
キャプテンも微笑む。夏焼くんも、やさしい顔になった。
桃子ちゃんは恥ずかしながら泣きそうになった。

142 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:15


*****



143 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:15
ゆったりとしたピアノの音色は、どうしようもなく眠気を誘っていた。
矢島くんはこっくりこっくりなってしまう頭を必死でまっすぐにして、
絶対寝ないように、まばたきを何度も繰り返している。

やっぱりクラシックコンサートなんて無理だ。
コンサートなら流行の歌手のコンサートに行きたい。
こんな、退屈な音楽なんて、興味ない。

目を閉じればすぐにでも行ける、夢の世界。
旅立ちたい。そこへ、行ってしまいたい。
だけど、隣の席の愛理ちゃんにバレたら申し訳ない。
申し訳ないけど、興味ない。興味ないけど、聴かなきゃいけない。

ふと横目で彼女を見てみれば、彼女はじっとステージを見つめている。
真剣な表情で、優雅な音楽に聴き入っている。
まだ中学生なのに、クラシック鑑賞なんて、すごい趣味を持ってるものだ。
なんだか、この子はお嬢様すぎる。亀井絵里ちゃんよりも、それっぽい。

そういえば、湾田高バスケ部の試合はどうだったのかなあ。
勝ったかなあ。負けたかなあ。どっちかなあ。気になるけどとにかく眠い。

一瞬、一瞬だけ目を閉じてもいいですよね。
ほら目を閉じて耳をすます感じ?音楽だけに集中するみたいな?
矢島くんはそう自分の中で言い訳して、静かにまぶたを下ろす。
あぁ、キモチイイ。もうひらけない。目、ひらけない。
ちょっとだけ、ちょっとだけだから。そう言い聞かせて、旅立っていった。
144 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:15

全ての演奏が終了し、会場内は盛大な拍手に包まれていた。
愛理ちゃんも、一生懸命手を叩いていた。
音楽ってどうしてこんなに素晴らしいんでしょう。
人間に生まれて本当に良かった!とかいって。

矢島さんも感動してくれたかしら、と思って、隣の席を見る愛理ちゃん。
するとなんと、彼はすやすや居眠り中だった。
この気持ち良さそうな寝顔!天使かしら。天使降臨かしら。

って!この人いつから寝てるの!
まさかコンサート始まった瞬間からグースカだったりして!
信じられない!せっかく誘ってあげたのに!

「……」

とかいって。素直になりなよ。アイリーン。
今日は一緒に居られるだけでうれしいんでしょう?
たとえクラシックに興味ナッシングで、みごとに爆睡されたとしても、
可愛い寝顔が見れて幸せ、とか思ってるんでしょう?
145 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:16
あぁ!恋は盲目!
愛理ちゃんは目を細めながら、矢島くんを見つめる。
見つめるっていうか、見とれる。うっとりする。
完全にひと目惚れだ。簡単にフォーリンラブだ。
今まで感じたことがないくらい胸はドキドキときめいて、
鈴木さん家のご令嬢らしくもなく、テンパっている。

これが本物の恋というものなのね。
そっかそっか。これがリアルラブか。

愛理ちゃんがウンウンうなずいていると、
矢島くんがゆっくりとまぶたを開けた。
彼はハッとして背筋を正す。
誰もいないステージと客席を見渡す。
コンサートが終わっていることを悟ったのか、
愛理ちゃんを見て、後頭部をかきながら苦笑した。

「ごめんなさい。寝ちゃってました」

ウフ。可愛い。愛理ちゃんは微笑んで応える。

「うわー、ホント、ちょっとのつもりだったんですよ。
まさか最後まで寝ちゃうなんて。ホントにごめんなさい」
「そんな、謝らなくていいですよ」
「いや、本当に申し訳ない」
頭を下げて謝罪している矢島王子さま。
愛理ちゃんは「それじゃあ、出ましょうか」とやさしく言った。
146 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:16
矢島くんと愛理ちゃんは会場から外に出た。
じいやが車とともに待っているのが見えた。

「お家までお送りしますよ」

と愛理ちゃんが言っている。
矢島くんは笑顔でうなずいたあと、ふと携帯電話の電源を入れる。

「おっと。すいません」

ワオワオ。桃子ちゃんからのラブメール発見。とかいって。
それは別になんてことない普通のメール。
さっき試合が終わったっていう、ただの報告。
でも、湾田高は無事に勝ったらしい。

「あ、やっぱりぼく、歩いて帰ります」
「え?遠慮しないでください。車で送りますよ」
「いや、ちょっと寄りたいところがあって」
「どちらですか?」
「好きな人に、会いに行ってきます」
147 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:16
愛理ちゃんはそれを聞いて、おしとやかに笑った。

「そうですか」
「今日はありがとうございました。楽しかったです」
「矢島さんは半分以上寝てたみたいですけどね」
「ハハハ」
「今度は、眠くならない場所に行きましょうね」
「そうですね」

車に乗り込んだ愛理ちゃんに、矢島くんは笑顔で手を振った。
彼女も笑顔で振り返してくれる。車が出発する。
少しの間それを見送ってから、矢島くんは桃子ちゃんに電話をかけた。


桃子ちゃんはすでにお家に帰っているようだった。
でも、会いたいと言ったら会えると言ってくれたので、
矢島くんはダッシュで彼女のお家へと走った。

さすが、ハロ高陸上部の短距離エースはアッという間に辿り着く。
ピンポーン、とお家のチャイムを鳴らす。
『はい』と聞こえてきたのは子供の声。弟くんだ。
「お姉さんいますか?」
『ゲッ……ねぇねぇ!ストーカー来たけどどうする?!』
「ちょ!!!」
まだ勘違いしてる!!!
148 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:17
玄関のドアが勢い良く開いて、桃子ちゃんが苦笑しながら出てきた。
矢島くんも同じような顔をして、頭をかいた。

「ストーカーじゃないんだよ、ってちゃんと言い聞かせてきたから」
「うん」

彼女は矢島くんの手を握って、ブラブラさせる。
矢島くんはデレデレしながら言う。「お散歩でもしようか」

手を繋いで、近所を歩く。
彼女はうれしそうに今日の試合結果を説明してくれる。
湾田高は圧勝だったと、とても自慢げに話してくれる。
彼女のことなのに、自分のことみたいにうれしくなる矢島くん。

「舞美は今日何してたの?」
「んとね、クラシックコンサートに行ってきたよ」
「クラシックコンサート?」
「うん」
「誰と?」
「鈴木愛理ちゃん」

その答えを聞いたとたん、桃子ちゃんの顔から笑みが消えた。
あれっ?バカで正直者の矢島くんは、首をかしげる。
149 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:17
「誰それ」
「友達だよ。友達」
「ホント?」
「いや、微妙だ。ただの知り合い?」
「もぉ、どういう知り合いなのよ」

矢島くんは基本的に人気者だから、女友達も多いことは知っている。
でも、2人でおでかけするような相手は、えりかちゃんぐらいのはずだ。
えりかちゃんは、桃子ちゃんにとってのキャプテンのような存在。
もし2人でおでかけしたとか言われても、別に気にならないのだけど。

鈴木愛理ちゃんなんていう名前、初めて聞く。
その子、矢島くんのこと好きなんじゃないの?
ていうか絶対好きでしょ。絶対そうだ。そうに違いない。
何を隠そう、あたいは恋の名探偵。解けない謎はないんだからね!
とかいって。ふざけてる場合じゃない。桃子ちゃんは矢島くんを見つめる。

「どういう知り合いかー。話すと長くなるんだけど、話したほうがいい?」

そう言ってカラっと笑う矢島くん。
誤魔化したそうでもないし、簡単にウソをつくような人にはとても思えない。
まさにポーカーフェイス。ぬぬ。こりゃ強敵だぞ。
150 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:17
しかーし。
名探偵ピーチッチは、その表情の裏の裏も読めちゃうんだから。
ってあんた。裏の裏だと表じゃん。推理もへったくれもないわ。
ていうかピーチッチってあんた。どっから出てきたそのニックネーム。

ああもう。イライラしちゃう。
桃子ちゃんは唇を尖らせて、矢島くんを軽くにらむ。

「桃だけ見てるって言ったのに」
「えぇー」
「えぇー、じゃない」
「鈴木さんって中2だよ?中2とか、そういう目で見れなくない?」
「見れるか見れないかは個人の自由でしょ」
「桃は見れるの?」
「今は舞美の話してるの」
「なにカリカリしてるんだよー」

手を繋いだまま、桃子ちゃんはぷんすか怒っている。
その原因を作ったのはもちろん矢島くん。
しかし本人にはその自覚が全くないようで、のん気に笑っている。
悔しい。許せない。全然心の中を見抜けない。

このままじゃ、ピーチッチはへっぽこ探偵になってしまう。
そんなの嫌っ。桃子ちゃんはちょっと不機嫌そうに尋ねる。
151 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:17
「鈴木さんって、可愛い?」
「うん。可愛いよ」
「ふーん」
「でも桃のほうが可愛いよ」
「とかいって」
「もーもー。機嫌直してよー」

彼女の肩に手を置いて、矢島くんは彼女の顔を覗きこむ。
プイっと顔を背けられて苦笑する。

「桃しか見てないって」

矢島くんは通せんぼするように桃子ちゃんの前に立つ。
彼女へ顔を近づけて、彼女の瞳を見つめる。

「ほら、桃しか見えない」

さわやかに笑ってみせる矢島くん。
まだブスっとしている桃子ちゃんは、カレシをにらむ。

すると、笑みを引っ込めて、マジ顔になった矢島くんは、
いきなり彼女にキスをする。勢い良く重なる2人の唇。
152 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:17
「こんなことも、桃にしかしないんだよ」

人気のない道端で、矢島くんは桃子ちゃんをガバっと抱き寄せる。
ぎゅうっと思いきり抱きしめて、彼女の頭をやさしく撫でる。

しばらくすると、彼女は矢島くんの背中に腕をまわした。
抱く力を少し弱めた矢島くん。彼女の顔を改めて覗きこむ。

「久しぶりのチューだったね」

ハハハ、と笑顔になる矢島くんを見て、彼女の頬もついに緩む。

「ねぇ、もう1回チューしよ」
とおねだりされて、はにかんだ矢島くんはそっと顔を近づける。
今度はゆっくり、唇の位置を確かめて口づけた。

離れた後、桃子ちゃんは笑いながら鼻の頭をくっつけてくる。
矢島くんも笑顔で彼女と鼻チューした。
まるで2人はミッキーマウスとミニーマウスのようだった。

153 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:18


*****



154 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:18
リンリンリリン、リンリンリリン。

ビリヤードテーブルに身を乗り出し、Fのボールに狙いを定め、
そして、カモンナ!とキューを引いた瞬間だった。
とつぜん鳴り出したモバイルフォンに、久住くんはチッと舌打ちして、
上着のポケットからそれを取り出す。

「ヘロー」
『もしもし、パパだよ』
「なーんだ」
『なーんだってなんだ。なーんだって』
「ちょっと今すごい取り込んでるんだけど」
『すまんすまん』

久住くんは、キューを杖のようにして、そばにあった椅子に腰かける。
今夜の遊び相手、ヴィヴィアンが早くしろっていう視線を送ってくる。
彼女にウインクをしてみせた久住くんは、
「それで、何の用?」
『何の用って、学校のことだ。どうして波浪学園にしなかったんだ?』
「あー、そんなこと?」
『そんなことって、重要なことだよ小春。やはりおまえにはそれなりの
学校に通ってもらわないと、パパとしても困るんだよ』
「えー、学校は決めさせてくれるって言ったじゃん」
『でもな小春』
「何でも縛り付けてばっかじゃ子供はまっすぐ育たないよー」
155 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:18
まあ、実際育ってないしね。久住くんはこっそり笑う。
お金はカードで使いたい放題で、つまりヤリたい放題。
毎晩夜遊びしてるし、そのうちほとんど女遊び。
おかげで知り合ったばかりの女も、軽々とイカせることができるようになってしまった。
女なんて、ただのセックス道具にしか思えなくなってしまった。

でも、こんなどうしようもない人間に育てたのはこのバカ親なのだ。
バカ親の子供もまたパッパラパー。カッパの子はカッパってわけだ。
あれ、カッパじゃなかったっけ。何だったっけ。久住くんは斜め上を見上げる。

『おまえの選んだ、湾田高校とかいう学校は、偏差値が低いそうじゃないか』
「へんさち?」
『どうしてそんな頭の悪い学校に行きたいんだ小春』
「バスケットボールがしたいから」
『バスケットボール?』
「湾田高校は、バスケットボールが強いんだよ。それで、日本で一番になれば、
パパも自慢できるかなと思って」

もっともらしくそう言うと、ダディは渋々だけど納得してくれた。
さっさと電話を切った久住くんは、ヴィヴィアンに「レッツゴー」と言って、
ふたたびビリヤードテーブルに向かった。
156 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:18
日本で一番、か。
さっき適当に言った言葉を思い出す久住くん。
それもそれで面白いかもしれない。なんて思う。

人生面白くなきゃつまらない。
あんなバカ親の言いなり人生なんてくだらない。
まだハタチにもなっていないのに結婚だなんて、本当にバカげてる。

真剣なまなざしになった久住くんは、キューボールを突く。

「カモンカモン」

おみごと。Fのボールが、一直線に穴へと落ちる。

「イエス!」

ガッツポーズした久住くんは、ヴィヴィアンに可愛くウインクをした。

157 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:19


*****



158 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:19
どうなることかと思われた新人大会だったが、無事に決勝リーグ
への進出が決定した湾田高男子バスケ部。
その部室で、昼休み、2年生部員たちが輪になって相談をしていた。

キャプテンがレギュラーで試合に出なかったことがきっかけで、
みんなはキャプテンの存在の大きさに気づいた。
それから、悪くなりかけていた雰囲気はガラッと良くなったのだが、
まだ問題は1つだけ残っている。
あの日から、松本くんは部活に姿を現していないのだ。

「まっちゃん、もう戻ってこないつもりなのかな」
キャプテンが言うと、桜井くんが、
「実は、おれに一個いいアイデアがあるんだよ」
「なになに」
桜井くんはキャプテンに耳打ちして、そのアイデアを伝える。

「えっ?」
しかし、キャプテンはその意味がわからなかったみたいで、間抜けな顔をした。
「おまえ、まさか何も知らないの?」
「ああ」
「マジかよ」
桜井くんから呆れた表情で見られる。まだわけわかんない状態のキャプテン。
159 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:19
「つまりだ」

また彼から耳打ちされるキャプテン。

「えぇぇ?!マジで?!マジなの?!それ!?」
「シミだってさ、好きな女の子に”がんばって”って言われたら
よしがんばろうって気になるだろ?」
「まぁ、ならないとは、言い切れないな」
「じゃあシミ、そういうことでよろしく」
「うえっ」
「頼りにしてまっせ。キャプテン」


160 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:20

その日の練習が終わった後。

「早く帰りたいのにごめんな。仙石(せんごく)」

キャプテンは後輩の女子マネージャーにとりあえず謝った。
仙石という変わった名字の彼女は、いえいえと謙遜する。

「キャプテンの頼みですから」
「ありがとう。それじゃあ、行こうか」


校門を出て、2人はある所を目指す。
そのある所とは、松本くんの自宅だ。

キャプテンはピンポーンとチャイムを鳴らす。
はい、というお家の人の声がすると、仙石さんを見る。
彼女と小さくうなずき合って、一歩下がる。
その代わりに彼女が前に出てきて、
「湾田高バスケ部の仙石といいます。松本先輩はいらっしゃいますか?」

松本くんはもう少ししたら出てくる。
キャプテンは仙石さんの肩に手を置いて、「頼んだよ」と言う。
それからささっと走ってほんのちょっと離れた場所にある電柱の陰に隠れる。
161 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:20
ガチャっと玄関のドアが開いて、松本くんが外に出てきた。
仙石さんの突然の訪問に驚いている様子だった。

『仙石に惚れてんだよ。まっちゃんは』

会話をしている2人を、キャプテンはこっそり眺めている。
松本くんはなんだか照れくさそうに仙石さんを見ていて、
桜井くんが言ってたことは本当だったのだと思う。

『仙石に頼んで、説得してもらうんだよ』

『好きな女の子に”がんばって”って言われたら
よしがんばろうって気になるだろ?』

今まで、恋の”こ”の字もない生活を送ってきたキャプテンには、
正直、好きな子から”がんばって”と言われる奴の気持ちがわからなかった。
だから本当にこんな作戦で松本くんを説得できるのか、甚だ疑問だった。

それもそのはず、周りの友達たちには見栄を張って、恋愛経験ありますよ
みたいな雰囲気をかもしだしたりはするが、実のところまったくのゼロ。
キャプテンは女の子よりもバスケットボールと遊んできて、バスケ一直線。
色気づくお年頃だというのにも関わらず、花よりボールの少年なのだ。
162 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:20
「明日、絶対来てくださいね!」

仙石さんの弾んだ声が聞こえてきた。
松本くんは微笑みながらうなずいている。

別れ際、彼女は松本くんから何かを言われていたが、
首を横に振って断って、おじぎをした。
それから松本くんは名残惜しそうにだがお家の中へ戻ってゆく。

松本くんの姿が見えなくなった瞬間、仙石さんはクルッと振り返った。
キャプテンに向かって、笑いながら両腕で○を作る。
シンジラレナーイ。すげえ!恋の力ってすげえ!
いとも簡単に松本くんを説得した仙石さんに、尊敬の念をも抱いた。


「まっちゃんにはなんて言ったの?」
「松本先輩がいなかったら困るんです、って」

今度は仙石さんのお家に向かって歩く。
松本くんは明日の朝練から出てきてくれるそうで、
キャプテンはホッと胸を撫で下ろしていた。

「ホントによかったです。これで全員そろいますね」
「そうだね。ホントによかった」
163 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:20

仙石さんのお家の前にたどり着いて、2人は自然と向かい合う。

「送ってくれて、どうもありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ色々と助かったよ。ありがとう」

それじゃあまた明日、と去ろうとしたキャプテン。
彼女から「あの」と呼び止められて、振り返る。
そして、今まで見たこともない彼女の真剣な表情に、ドキッとする。

「さっき、松本先輩から家まで送ってやるよって言われたんですけど、
私、断ったんです」
「えっ?」
「それがどうしてか、キャプテンにはわかりますか?」
「いや…」
「キャプテンと一緒に帰りたかったからですよ」

仙石さんはそう言って、フフッと笑う。
あ然としているキャプテンに手を振って、
「それじゃあまた明日」
「あ、あぁ。また明日」
「おやすみなさい」

なんだ、今のやりとりは。
なんだ、あの意味深な笑みは。
ていうかなんなんだ、この胸のドキドキは。
仙石さんのお家の前で、キャプテンはしばらく立ち尽くしていた。
164 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:21


*****



165 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:21
1月ももう中旬に入った、ある日の縁九中学校。

数学の授業中、愛理ちゃんは1枚の紙とにらめっこをしていた。
それは今朝に梨沙子ちゃんからもらったもので、
新人大会の一連のスケジュールが書かれてあった。

梨沙子ちゃんの報告によれば、湾田高は無事に新人大会の
決勝リーグへと駒を進めることができたようで、次の試合は今度の日曜日。

矢島くんのハートを奪うと心に決めた恋の大泥棒は、
賢い頭でカタカタ計算をしている。
数学の公式なんかよりも面白い、恋の方程式を解いている。
166 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:21
「それじゃあこの問題を、鈴木さんに解いてもらおうかしら」
「はいっ?」
「さあさ、前に出て解いてちょうだい」

いきなり計算問題をあてられて、渋々前に出てチョークを握る。
まあ、アイリーンは賢いから?こんなのちょちょいのちょいなんだけど?

カリカリと手を動かしている間も、愛理ちゃんの頭の中は矢島くんでいっぱいだった。
この恋がどうなるかはまだ予想も何もできないけれど、すでにわかっていることもある。

湾田高男子バスケ部が忙しい=矢島くんはヒマ。

∴アイリーンのチャンス到来。

ケッケッケ。今夜、またメールして、日曜日に会う約束をしちゃいますかね。
私は怪盗アイリーン。絶対に矢島くんのハートをゲットしちゃうんだから。

167 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:21

そして放課後。

愛理ちゃんはいつものように、梨沙子ちゃんと一緒に下駄箱へ向かう。
彼女のカレシは部活で忙しいから、今日は2人で美味しいケーキでも
食べに行こうという約束しているのだ。

お家に帰ったらまず矢島くんにメールしちゃおう。
なんて考えて、ひとりではしゃぐ。
愛理ちゃんはルンルン浮かれながら階段を下りる。

「ねぇ、愛理」
「んー?」
「矢島さんに付き合ってる人がいるとか聞いた?」
「うん、聞いたよー」
「えっ」
「矢島さん、好きな人がいるんだって。それも、湾田高のバスケ部に」

明るくそう言うと、なぜか、梨沙子ちゃんは動揺している。
なにそのリアクション。愛理ちゃんは首をかしげる。

「その人の名前は聞いた?」
「いーや。まだ聞いてないよ」
「ていうか、愛理、ショックじゃないの?矢島さんにカノジョがいて」
「ショックじゃないよー。……」
168 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:22
って、待って。ちょっと待って。

「りーちゃん今なんて言った?」
「ショックじゃないの?」
「いや、そのあと」
「矢島さんにカノジョがいて?」
「かかかか、カノジョ?!」

今度は愛理ちゃんが動揺する番だった。

「うん。カノジョ。あのちっちゃいマネージャーの人」

オー!マイ!ゴッド!
よくよく考えてみれば、男子バスケ部にも女子がいるじゃないか!
マネージャーっていうれっきとした女子が、いるじゃないか!
頭を抱えて、愛理ちゃんは階段の手すりにもたれる。
浅はかだった。アイリーン一生の不覚パート2。

「ライバルはやっぱり女だったのか…」
「大丈夫?愛理」
「だーいじょうぶ!大丈夫!」

無理やり復活して、グーのポーズを作る愛理ちゃん。
ちょっと衝撃はでかかったけど決意は変わらない。
絶対に変えないんだから!と強がる。
169 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:22
「カノジョがいたって、絶対にあきらめないよ」

愛理ちゃんは梨沙子ちゃんに宣言した。
カノジョがいるからって、あきらめてたまるもんですか。

戦う前から負けを認めるだなんて、そんなことはしたくない。
これからの展開なんて、誰にも予測できないんだから。
ありえないミラクルだって、起こっちゃう可能性だってあるんだから。
やるっきゃない。あの人のハートを奪うまでは、なにがなんでも。

ますますメラメラと燃えてきたらしい愛理ちゃんの様子を見て、
梨沙子ちゃんはとても不安げな表情になっていた。


170 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:22
そしてそしてその日の夜。鈴木さん家の大豪邸。

「お嬢様。砂山さまからお電話です」

今度の日曜日においしいランチでも食べに行きませんか。
と矢島さんへメールを送って、返事を待っていたときだった。
じいやが電話の子機片手に部屋に入ってきた。
愛理ちゃんは(アイツかよ)なんて思うけれど、それを受け取る。

「もしもし」
『こんばんは。夜分遅くすみません』
「いいえ。かまいませんよ」

梨沙子ちゃんによると、こないだ矢島さんとクラシックコンサートへ
行ったあの日、砂山さんが新人大会を見に来たらしい。
軽くストーカーだよね。と梨沙子ちゃんが渋い顔で言ってたのを思い出す。

『突然ですが、今度の日曜日空いてますか?』

ハァ?一瞬、ガラの悪い顔になる愛理ちゃん。
空いてるわけないじゃーん。バッカじゃないのー。
と言ってやりたいけど、そこは一応お嬢様のイメージを
悪くしないためにやめとく。
171 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:23
空いてませんわオホホ、と上品に答えようとしたその瞬間。
そばの携帯電話が勢いよく鳴り出した。
うひょっ。このタイミングで返事来るの?!愛理ちゃんはテンパる。
慌ててそれを確認する。矢島さんからのメールだった。

 おいしいランチもいいですけど、
 新人大会の試合を見に行きたいです!

それから愛理ちゃんは即答する。

「ごめんなさい。空いてないです」
『それじゃあ次の日曜日は』
「ごめんなさい」

砂山さんと話している場合じゃない。ブチっと電話を切る。
ケータイを握りしめ、そのメールを見つめる。
矢島さんにどう返事しようか、脳みそフル回転で考える。
172 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:23
ここは彼のリクエスト通りに、試合を見に行くべきだ。
でもそこには恋のライバルがいるわけで、直接対決というわけなんだけど。

恋敵は試合のことで手いっぱい=矢島くんはヒマ。

∴ミラクルを起こすチャンス到来。

さすが賢いアイリーン。すえおそろしい大泥棒だわ。
愛理ちゃんはケケケと笑いながら、ぴこぴこメールを打った。


173 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:23


つづく



174 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/14(日) 22:23

洲´・ v ・)<恋人になれなきゃまあなんとも興ざめ
州*‘ o‘リ<それってどんなサメ?

175 名前:やじももヲタ 投稿日:2008/12/15(月) 00:48
やじももサイドから見ると、ここの矢島君って、イライラするけど何だか可愛い。

あと、ツグ氏と小春って愛理も含めた3人で仲がいいそうですね。
こちらの今後にも、二人の絡み?が期待できそうですが、現実の方でも、小春には同年代のベリキューともっと絡んでほしいです。
176 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/15(月) 03:30
お疲れ様です。
嗣永さんの嫉妬が今後どうなっていくか気になります。
177 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/15(月) 23:35
お疲れ様です。
出ましたね。名探偵ピーチッチ。こりゃ、石川警視もびっくりだわ。
178 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/16(火) 00:38
仙石ちゃんが桃子の後輩ということは、「お姉ちゃん」とか呼んだりするのかな?
179 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/16(火) 01:10
仙石オッパイみなみちゃんの今後の動向が気になります。
180 名前:重ピンピン 投稿日:2008/12/16(火) 01:56

更新オツです

まさかの仙石氏の登場ですね
これからのキャップ攻めが楽しみです♪

あとはまったく引かないアイリーンの矢島攻めも楽しみです
これはやっぱり2人とも重ピンクを参考にしたほうが・・・

あとは重ピンクの新作も吉澤さんとガキさんも待ってるはずです
自分も当然待ち焦がれてます


それではこれからもマイペースで頑張ってくださいませ

m(__)m



181 名前:りしゃみやヲタ 投稿日:2008/12/22(月) 06:47
新キャラたちの動きに目が離せないですねぇ〜
ところで熊井ちょーとnkskカップルのその後も気になるのですが・・・
や、作者さんにお任せしておきます うん

まぁでも
「ももちは今、矢島くんと幸せなえっちしてるんだろうな〜」
くらいの妄想は許してくださいw
182 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/23(火) 20:59
洲´・ v ・)<あーしてこーして、ケッケッケッ…
183 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/12/25(木) 01:43
愛理が可哀想すぎて泣ける
184 名前:(0´〜`)人(’ー’*川 投稿日:2008/12/26(金) 00:34

>>175 やじももヲタさん
矢島くんはとにかく純粋無垢なイメージですね
>現実の方でも、小春には同年代のベリキューともっと絡んでほしいです。
いま振り返ってみても小春ちゃんとベリキューの絡みっていうのは無いに等しいですよね
年齢的には夏焼・徳永・須藤っていうベリメンと同級生なのに
小春ちゃん&ベリキュー精鋭の新ユニットとか見たいなあとつくづく思います

>>176さん
こちらこそお疲れ様です
彼女の嫉妬が今後どうなっていくか私もワクワクドキドキです

>>177さん
どうもどうもお疲れ様でございます
最近まったく出番がない石川警視はたぶん育児で忙しいんだと思います

>>178さん
なにその情報!!!それは何ネタなんですか?!!
バッチリメモっときます

>>179さん
テーマソングは「タッチ」でお願いします

>>180 重ピン
仙石先生の名前今まで出すの忘れてましたwwwwwww
たぶん以前の幻板のスレでも何度か登場してたはずです
愛理ちゃんはなんか意外と意思が強そうでしっかりしたイメージなので
これからもきっとそういう感じで書いていくと思います
重ピンク・・・書けたら書く

>>181 りしゃみやヲタさん
そうですね新キャラに大注目ですね
くまなっきぃ・・・書けたら書く
妄想は自由ですどんどんしちゃってください

>>182さん
洲´・ v ・)<スキしてなんちゃってダーリン!

>>183さん
なんか申し訳ないです
185 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:34



186 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:35


*****



187 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:35
『明日の試合、鈴木愛理ちゃんと見に行くよ』

桃子ちゃんは、昨夜の電話でカレシが言ってたことを思い出していた。
今日から新人大会の決勝リーグスタートで、もちろん緊張はしている
んだけれども、それとはまた違うところで、複雑な感情と戦っていた。

『菅谷さんも多分一緒だよ。あの2人、友達みたいだし』

意外な繋がりも明らかになった。
誰かのバースデイパーティで知り合ったという、鈴木愛理ちゃんという女の子。
あの菅谷梨沙子ちゃんとおともだちだったなんて…。

ちょっと待って。と、いうことは。

「ツーグさん」

当然こいつとも、繋がっているはずだ。
声をかけてきた夏焼くんを、ついついガン見する桃子ちゃん。
背番号11番のユニフォーム姿で、今日も相変わらずかっこいい。
その微笑みはどこかクールなんだけど、かっこいい。
ってちゃうちゃう。自分自身にツッコミを入れる。
188 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:36
「ねぇ、今日もカノジョ来るの?」
「えっ?あぁ、まぁ」
「鈴木愛理ちゃんも?」
「ハッ?!」
その女の名前を出すと、夏焼くんはなぜか動揺した。
「愛理ちゃんって、どんな子なの?」
「なんつーか、一言で言えばお嬢様?家がすっげー金持ちらしいんだよね。
まさにセレブって感じ」
「セレブねぇ」
「ていうか、愛理ちゃんのこと知ってたんだ」
「うん。カレシがね、最近仲良くなったみたいで、ちょっと気になって」
「ふうん」

こいつはまったく、誤魔化すのが下手だ。
何か知ってる風な夏焼くんに、名探偵の目がキラリと光る。

「ねぇ、ぶっちゃけさぁ、あの子って」
最後まで言う前に、安藤先生が「行くぞー!」と大きな声を出した。
うわっ。タイミング最悪っ。桃子ちゃんは顔をしかめた。
夏焼くんを見ると、なんだなんだと首をかしげている。

ちくしょうめ。だけどニコッと笑って桃子ちゃんは、
「あとで聞くね」と言って、出発する準備に入った。

189 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:36

部員全員とハイタッチをし終えた桃子ちゃんは、
大荷物を抱えていざ試合コートへ。

すでに試合はいくつも行われているので、ワイワイ賑わっている館内。
観客席を見上げると、たくさんの応援団。たくさんの垂れ幕。

桃子ちゃんは歩きながらも、観客席をチェックしている。
梨沙子ちゃんは目立つから、すぐに見つけられる。
そしてそのすぐ隣には、彼女の友達。鈴木愛理。
もうこれからは最後に”ちゃん”なんて付けて可愛く呼んであげないんだから。

だって、矢島くんとあんなに仲良さげにおしゃべりしてるんだもん。
こっちに見せ付けるようなあの微笑み。なんて生意気な!
あの女は、可愛い顔した泥棒猫だ!桃子ちゃんはライバル心むきだし。

ずっとにらんでいたら、矢島くんがさわやかスマイルで手を振ってくれる。
あれでご機嫌とりのつもりかしら。プンプンしちゃう。
桃子ちゃんはプイッと顔を背けて、ずんずん歩いて行った。
190 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:36

「あれ。行っちゃった」

矢島くんは苦笑いしながら呟いた。「緊張してるのかな」
彼の隣の愛理ちゃんは、ニヤリとして恋敵の後姿を眺める。

「湾田、勝つといいですね」
「そうですね」
「いっぱい応援しようね。りーちゃん」

と、愛理ちゃんが梨沙子ちゃんを見ると、彼女は赤いリストバンドを
握りしめて、カレシのいるほうをじーっと見つめていた。
肩をすくめた愛理ちゃんは、矢島さんとクスッと笑い合った。

191 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:37


*****



192 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:37
絵里ちゃんがお見合いするなんてウソだ。
そう信じたかった吉澤さんだけど、どうやらその話は
順調に進んでいるようで、とても悲しくて悔しかった。

「2月10日に、久住家の大きなパーティが催されるそうです」

絵里ちゃんのパパの秘書である井上さんから、情報を
流してもらっている青山さんが言った。

「じゃあ、その日に絵里お嬢様は相手の御曹司と初めて
会うことになるんですね」
「おそらくそうでしょうね。あと、吉澤さんも、行かれることになるかと」
「ガキさん、じゃなくって新垣様は」
「お父様のほうは、招待されているようですが、
お坊ちゃままで行かれるかどうかはわかりません」
「そうですか」
「あ、それとですね。吉澤さん」
青山さんが顔を近づけてきた。吉澤さんも同じようにする。

「2人、いるみたいなんです」
「2人?」
193 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:37
「KBMの会長の息子です。それで、1人は既婚らしいんです」
「じゃあ、お嬢様の相手は下の」
「そういうことです。でもですね、1個大きな問題がありまして」
「なんですか」
「下の息子は、まだ16歳なんです」
ワオ。吉澤さんは目を見開いた。
「それ、婚約以前の問題じゃないですか」
「そうなんです。まだ未成年なのに、どうしてそんなに結婚を急ぐのか。
井上さんはやはり会長の重病説が有力なんじゃないかって」
「もう先は長くないと」
「そう考えるのが妥当じゃないかっていう話です」

なるほど。吉澤さんは腕組みをする。
でも、あの甘えん坊な絵里お嬢様が、年下と結婚するだなんて。

いやー。ないな。それはない。
あの子はやっぱり、ガキさんみたいなしっかり者と一緒に
なったほうがきっと幸せになれるだろう。

ガキさんみたいな、というか、ガキさんとじゃなきゃ。
彼女の幸福は誰が決めるものでもないけれど、
吉澤さんはただただそう思った。
194 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:37

絵里ちゃんとガキさんの関係がこの先どうなるかわからない。
こんな今の状態で、愛ちゃんとの結婚なんてのん気に考えてられない。
だから吉澤さんは最近、彼女の前でそういう言葉を口にしなくなった。
そういう話をされても、軽く受け流していた。

でも、吉澤さんはほぼ毎晩愛ちゃんのマンションへ帰っている。
一緒に夜ご飯を食べて、一緒にお風呂に入っている。

「ねぇねぇ」

愛ちゃんの頭を洗ってやっていると、彼女が明るい声で言った。

「忘れないうちに言っとくけど、2月10日、あけといてね」

キタ。だけど、吉澤さんは知らん顔して、
「2月10日?なんで?」
「なんか、アメリカからすごい人が来日するんだってさ」
「すごい人って誰だよ」
「ママが言ってたの。すごい人って」
「誰かな」
「誰だろ」

そいつはKBMの会長だよ!
そいつの息子と絵里ちゃんは結婚しちゃうんだよ!
吉澤さんは愛ちゃんにぶちまけたかったけど、ぐっとこらえたのだった。
195 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:38


*****



196 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:38
憎たらしい。思い出すだけでもう、はらわたがグツグツと煮えくり返ってくる。
自分の部屋のベッドの上、桃子ちゃんは体育座りで怖い顔をしていた。
何をそんなにイライラしているのかといえば、何もかも、あの泥棒猫のせいだった。

鈴木愛理。名前はもう二度と忘れない。
あいつは絶対矢島くんとニャンニャンするつもりだ。
人のカレシと、ニャンニャンするつもりなのだ。

湾田高は今日も勝って、部員たちの雰囲気も良くて、それはすごい
うれしいことなんだけど、あの女のせいで全然喜べない。

試合が終わって、矢島くんは帰るまで待っててくれるかと思ったら、いなかった。
どこに行ったのか後で聞けば、あの女と食事に行ったと答えた。
元々は今日2人でおいしいランチを食べに行くつもりだったから、と。

矢島くんはバカがつくほどの正直者。そして心やさしい、いいひとだ。
それは、桃子ちゃんが他の誰よりも理解していることだった。
彼の言うこと、することには裏なんてない。
単純明快。常に表で、わかりやすいのだ。
グーを出すよと言ったら本当にグーしか出さない。そういう人なのだ。

今日はだから単に誘われたから食事に行った。
矢島くんは何も悪くない。悪いのは全部、あの女。
あの女がちょっかい出すことこそが一番の悪なのだ。
調子に乗らせないためにも、早いうちに手を打っておかないといけない。
197 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:38


*****



198 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:38
それから数日後。

縁九中学校のすぐ近くに、1台の黒い車が停まった。
後部座席から出てきたのは、背の高い、1人の男子高校生。

(あれハロ高の制服だよね)(誰なんだろう)
下校中の生徒たちは興味津々の様子で通り過ぎている。

その生徒たちの中に紛れている、愛理ちゃんと梨沙子ちゃん。
彼女たちは、みんなの視線を集めている方向を見て、「あっ」と呟く。

「砂山さん」

愛理ちゃんに気づいて、笑顔になった砂山くん。
やあ、と手を挙げて、彼女に近づく。

「どうしたんですか」
「鈴木さんに会いに来ました」

えええええ。顔がちょっと引きつる愛理ちゃん。
砂山さんは苦笑しながら、
「そんな怖い顔しないでくださいよ。ちょっとだけ、
今からお時間を頂けませんか。話したいことがあるんです」
199 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:39
それから愛理ちゃんは、しょうがなく梨沙子ちゃんと別れ、
砂山さんと一緒に車へ乗り込んだ。
とあるカフェへと連れてこられて、向かい合って座る。

「何を飲みますか?」
「いえ、けっこうです。それよりお話というのは」

愛理ちゃんがキッパリそう言うと、砂山さんはまた苦笑いした。

「そんなに僕のことが嫌いですか」
「は?」
おっとっと。お嬢様らしくもない顔になってしまった。
愛理ちゃんは慌ててニコリと微笑む。
「嫌いなんて。そんなこと」

砂山さんは真面目な声で言う。
「こないだ、クラシックコンサートに行ったと、菅谷さんから
聞いたんですけど」
「はい」
「誰と、行ったんですか?」
「どうしてそんなこと聞くんです?」
「気になるからですよ」
「別に、あなたが気にすることじゃないと思うんですけど」
200 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:40
よく考えなくても、冷たいなーと自分でも思う。
だけど運命の王子さまと出会った今、他の男になんて興味ない。
やさしくする意味もないし、こうやって2人で会う理由もない。

「あの、鈴木さん」

砂山さんは、愛理ちゃんをじっと見つめている。

「僕は、鈴木さんのことがずっと好きでした。もちろん今も好きです。
できればお付き合いしたいと思っています」

それは、いつか言われるだろうと思っていたセリフだった。
覚悟はしていたが、実際、直接言われるとちょっとドキッとする。
口が裂けても、ロリコンキモーイだなんて言えない。

しっかし、こんな、まだ中2の小娘に惚れるだなんて変わってる。
砂山さんは普通にイケメンだし、育ちも良いし、お金持ちだし。
そんな人がどうして?っていう。ちょっと理解できない。

「ごめんなさい」
「やっぱり、そうですよね。僕なんか、無理ですよね」
「いや、そういうわけじゃなくて」
「いいんですよ。正直に言っても。僕のこと鬱陶しいって思ってた
でしょ?何度も何度も、しつこい男だなって」
201 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:40
正直に言うか言うまいか、迷っていたら、砂山さんは笑った。

「ですよね。でも、わかってました」
「あっ、いや、本当に、そういうわけじゃなくて」
「いいんです。ハッキリ言ってくれていいんです」
「…私、いま好きな人がいるんです」
「じゃあもし、その好きな人がいなかったら、僕と付き合ってくれましたか?」

ありえない。あなたは私の王子さまなんかじゃない。
全然違う。違いすぎる。だけどそう言うのはむごいかしら。
無言でいると、砂山さんはまた笑った。

「…ごめんなさい」

彼の気持ちに応えられない愛理ちゃんは、謝るしかなかった。

だけどこれでもう、しつこくてうざったいお誘いもなくなる。
心の中では、それがちょっとうれしいかも、なんて思った。
自分がとてつもなく性悪な女なんじゃないかって、思えてきた。
202 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:41


*****



203 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:41
ある平日の昼下がり。
ガキさんは、絵里ちゃんとハロ大の喫茶店Memoryにいた。
のんびりとランチを食べて、寛いでいた。

「鹿児島まで、あと3週間だね」

スケジュール帳を眺めながら、絵里ちゃんがそんなことを言う。
彼女が開いているページには2月のカレンダーがあった。

ガキさんはこっそりと、書いてある内容を盗み見る。
まず目に入ったのは、2人の恋愛1周年記念である2月14日。
ハートマークで囲まれていて、思わずにやけてしまう。

いま、彼女の耳には小さなカメのピアス。
こないだの誕生日にガキさんが贈ったものだ。

そして、彼女の右手薬指にはブランドものの指輪。
クリスマスに交換したペアリングだ。
ガキさんも彼女と同じ場所に同じ指輪をしている。

このペアリングは、彼女の、そして自分自身の決意でもある。
2人の愛をこうやって形にして、誰にも邪魔させないと心に誓った。
たかが指輪。されど指輪。これをはめるだけで、なんだか前よりも
強くなれた気がした。
204 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:41
「2月10日と11日って、何かあるの?」

なぜかその2つに、可愛い☆マークを発見して、
ガキさんは彼女に尋ねてみる。

「10日は、KBMって会社のパーティがあるんだって」
「KBM」
「吉澤さんが言うには、アメリカのパソコンの会社らしいけど」
「うん、有名な会社だね」
「お兄ちゃんが、もしかしたら何かあるかもって言ってた」
「うえっ?」
ガキさんは昭和なリアクション。
頬杖ついた絵里ちゃんは、微笑みながらガキさんを見つめている。

「お父さんの様子がね、ちょっと変なんだって。
もしかしたらKBMと何かあるかもしれない、って」
「何かって、何?」
「さぁ。仕事のことはよくわかんない」

絵里ちゃんがわかんないと言っていることを、
ガキさんがわかるわけもなかった。
これから何が起こるのか。それもまったく、わからなかった。
205 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:41
「11日は?」
「あぁ、なんか、家族でコンサート見に行かなきゃいけなくて」
「コンサートって誰の?」
「ナントカっていう有名なピアニストらしいんだけどさ」
つまらなさそうに言う絵里ちゃん。

「ここせっかくの3連休なのにさぁ、ガキさんと会えそうなのは9日だけだよ」
「まー、付き合いなんだからしょうがないじゃん?大人しく行ってきなさいよ」
「はーい」
絵里ちゃんはふてくされながら返事をした。
可愛くない返事だったのに、ガキさんにはとても可愛く思えた。

ていうか、いつでも、どんな彼女でも可愛く見える。
なんかもう末期だな。手の施しようがまったくない。
だけどそれでもいい。むしろそのほうがいい。
ガキさんは開き直って、笑ってみせた。

206 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:42


*****



207 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:42
あれから、泥棒猫対策を色々考えている桃子ちゃん。
朝の登校時も、学校の授業中も休み時間も、
部活のときでさえ、あの女の顔を思い浮かべては
イライラしていて、周りの友達たちから心配されていた。

「桃。なんか、あった?」

部活が終わった後、キャプテンはおそるおそる桃子ちゃんに尋ねた。

「ちょっと、泥棒がね」
「えっ、大丈夫なの?!」
「お家に入ったんじゃないよ?桃のとこに入ったの」
「…どういう意味?」

首をかしげているキャプテンに、桃子ちゃんは微笑む。

「でもたぶん大丈夫だから、心配しないで」
「そ、そう」
「それよりあれ何?いつからなの?」

桃子ちゃんは、体育館の隅っこのほうを指差した。
松本くんと仙石さんがなにやら楽しげそうにおしゃべりしている。
208 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:42
「なーんかアヤシイよねぇ」
「……」

仙石さんたちを見つめて、黙り込むキャプテン。
その横顔を見て、首をひねる桃子ちゃん。

「こっちもアヤシイ」
「え?」間抜けな顔のキャプテンを、訝しげに見る。
キャプテンは困った表情になって、後頭部をかく。
ここは恋の名探偵ピーチッチの腕の見せ所かしら。

桃子ちゃんは尋ねる。
「仙石って、松本くんと付き合ってるの?」
「は?!そうなの?」
「なに動揺しちゃってんの?」
「どど、動揺とかしてないし!普通だし!」
「もしかしてキャプテンって、仙石のこと」
「ちーがーうって!そんなんじゃないから!」
「焦りすぎだし。アヤシすぎるー」
209 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:43

キャプテンに探りを入れつつも、今はそれより自分の心配だ。
制服に着替えた桃子ちゃんは、矢島くんとの待ち合わせ場所へ急ぐ。
そこで彼は携帯電話をいじっていて、まさか、と思う。

「あ。桃」

顔を上げた矢島くんは、パァっと笑顔になった。
でも、桃子ちゃんは唇を尖らせる。

「もぉ、誰とメールしてんの?」

矢島くんは陽気にハハハと笑って、桃子ちゃんの肩を抱き寄せる。
彼女の顔を覗きこみながら、「ヤキモチ?とかいって」
なんかちょっとイラっときた彼女は、冷たく言う。
「どうせまたあの子とメールしてたんでしょ」
「うん、なんか最近よくメールくるんだよね」
なぬっ?!桃子ちゃんは矢島くんをにらむ。

矢島くんは、何が楽しいのかずっとニコニコしている。
桃子ちゃんの頭をなでなでして、ゴキゲンだ。
210 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:43
「桃の髪、綺麗だね。さらさらしてる」
「おだてたって何も出ないよ」
「怒った顔も可愛いよ。とかいって」

もう!いいかげんにして!
ふざけすぎな矢島くんを思いきり突き飛ばして、桃子ちゃんは走り出す。
変な走り方。矢島くんは一瞬それに見とれるが、慌てて追いかける。

「桃!待って!桃!」

陸上部エースの矢島くんに、かけっこで勝てるわけがない。
すぐに追いつかれて、手を掴まれる桃子ちゃん。

「ごめん」

桃子ちゃんはそれをシカトして、そっぽを向く。

「もーもー」

そんな甘えた声が聞こえてくるけど、完全無視。
手を振り払って、彼に背中を向ける。
なんて子供っぽい抵抗だろう。
冷静にそんなことを思ったりするけど、ムカツクからやめない。
211 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:43
「桃がそんなに怒ってるのって、やっぱ愛理ちゃんのせいだよね」

わかってんじゃん。それすらわかってないと思ってた。
桃子ちゃんは矢島くんの声に耳を傾ける。

「なんでそんなに怒るかなー」

のん気な言葉にまたイラっとくる。
次また同じようなこと言ったら、1回引っ叩いてやろうか。
静かに拳を握り、構える桃子ちゃん。
すると、後ろからいきなりガバっと抱きしめられる。

「って思ったけど、怒って当然だよ」

矢島くんはぎゅっと腕に力を込めて、桃子ちゃんにすりすりする。

「いま、桃が夏焼とメールしてたら、って想像したら、
めちゃくちゃ嫌だった。すっごいムカついた」

夏焼。カレシの口から不意にそんな名前が出てきて、
桃子ちゃんはドキッとする。
それに、ムカついた、って。温厚な矢島くんらしくない言葉。
彼の知らない一面を見たようで、なんかちょっと怖かった。
212 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:44
「ぼくは、それと同じことしてたんだよね」

でも矢島くんはすぐにいつもの矢島くんに戻って、
桃子ちゃんは小さな声で「わかってんじゃん」と呟いた。

矢島くんは離れて、彼女の身体をくるっと回す。
向かい合うようにして、彼女の肩を掴む。

「嫌な思いさせて、ごめん」
「…わかればいいの」

憎たらしい口調でそう言うと、矢島くんは笑顔になった。
それがとても無邪気すぎて、桃子ちゃんも笑ってしまった。
やっぱり好きだと、誰にも奪われたくないと心から思った。

213 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:44


*****



214 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:44

なんてったって恋愛経験が少ないし、夏焼くんは困っていた。
でもそれよりも梨沙子ちゃんのほうが困っていて、
どうにかして力になってあげたいと、そう思っていた。

部活中。バスケットボールを追いかけながら、頭の中で考える。
いったいどっちの味方になればいいのだろう。
彼女の親友か、自分の親友か。
どちらも大切な存在だけに、選べない。

選べないから、何も口を出さない。ただ見守る。
それが一番簡単で、楽なんだけど。

キャプテンからもらったパスを受け取って、
ゴールのリングへ向かってシュートを放つ。
まあ、まったく集中していないから、入るわけがない。
ガーン!ボールは枠に当たって跳ね返り、
ジャンプした須藤くんがそれをガッチリと掴んだ。

「なっちゃん!」
ボールはもう一度夏焼くんの手に戻ってくる。
少し移動して、シュート体勢に入る。
215 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:45
『ちゃんと、別れたよ』

『自分の、ホントの気持ちを隠して、ウソついて付き合ってた』

いつかの桃子ちゃんは、そんなことを言っていた。
彼女には矢島くんよりも好きな人がいた。だから2人は別れた。

それから、いつ何のキッカケでヨリが戻ったのかは、夏焼くんは知らない。
でも知ったところで何がどうなるわけでもなく、
桃子ちゃんがとても幸せそうだったから、別に深く考えなかった。

次こそ決める。夏焼くんは狙いを定めてシュートを打った。
よっしゃ。思い通りに美しく決まる。ガッツポーズする。

クセで得点盤を振り返る。そこには桃子ちゃんがいた。
笑顔で親指を立てていて、夏焼くんも同じポーズで応えた。


部活も終わり、夏焼くんは部室で制服に着替える。
練習漬けの最近は、梨沙子ちゃんとは一緒に帰っていない。
外は寒いし、待たせて風邪でもひかれたらたまらないからだ。
お家に帰ったらすぐに電話する。それでお互い我慢している。
またベロチューみたいなことをしたいけど、大会が終わるまでは。
216 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:45
須藤くんと一緒に部室を出る。
この親友も、忙しい部活のせいで、カノジョと会えない日々が
続いているようで、このごろはどこか元気がなかった。

「最近さ、メールの返事、遅いんだよね」

校門までの道で、須藤くんが呟いた。
”今から帰るよー”というメールを梨沙子ちゃんに打っていた
夏焼くんは、須藤くんの横顔を見る。

「橋本さんも、忙しいんじゃん?」
「だったらいいんだけど」
「橋本さんって、部活何かやってたっけ」
「部活はしてないけど、バイトはしてる」
「平日も?」
「うん」
「だからじゃん?心配すんなって」えいっとメール送信。
「うん」

夏焼くんの場合、送ればソッコーで返ってくる。
なんだかちょっとうれしくなって、すぐに確認する。

「えぇっ」
「どうした?」
「あ、いや」
217 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:46
マジかよ。梨沙子ちゃんからの返事を見つめる夏焼くん。

 今みやの学校の門の前なんだけど

門の前なんだけどって、もうすぐそこじゃん。
ちょっと、心構えが。急にテンパってきて、挙動不審になる。

「あれ?」

須藤くんが気づいて、ニヤっとした。

「いいなー。カノジョが迎えに来てくれるなんて」

梨沙子ちゃんは本当に門の前で待っていた。
分厚いコートに身を包み、マフラーと手袋完全装備。
薄暗い中にひとりたたずむ姿はちょっと寂しげだった。

須藤くんがいなかったらもっとアレだったんだけど、
夏焼くんはゆっくりと彼女に近づいていく。

「久しぶりだね。元気してた?」
「はい」
なんていう会話をしている2人は以前から兄妹みたいに仲良しだ。
気が合うのかなあ。わかんないけど。
218 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:46
「じゃあ、おれは先に帰りまーす」

バイバイ、と須藤くんは小走りで去って行った。
えっ、もう行っちゃうの?ポカーンとする夏焼くん。

でもそんなとぼけてる暇はない。
他のバスケ部員たちが後からぞろぞろ来ている。
特に先輩たちに見られたら、からかわれるに決まってる。
それだけは絶対に避けないと。

夏焼くんは黙って歩き出す。
梨沙子ちゃんがとことこついてくる。

「みや。怒ってる?」
「怒ってないよ」
彼女を振り返って、やさしく言う。
すると彼女が急いで隣に来て、腕を掴んでくる。

「あのね、愛理のことなんだけど」
「何かあったの?」
「メール、こなくなったんだって」
心配そうに、彼女は言った。
219 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:46
「前はちゃんと返ってきてたらしいんだけどね」
「そっか」
「矢島さん、嗣永先輩から何か言われたからメール
しなくなったのかな」
「………」

梨沙子ちゃんは愛理ちゃんを応援していて、心配している。
その気持ちはすごいわかるけれど、何も言わない夏焼くん。
もし本当に桃子ちゃんが愛理ちゃんの邪魔をしたとしても、
全然、悪くないと思ったからだ。

たとえば、ありえないけど、岡井という梨沙子ちゃんの同級生が
彼女と頻繁にメールをしてるとする。自分はそれを知った時点で
即やめさせる。下手したら彼女のケータイを奪って、
あいつのアドレスを容赦なく削除してやるかもしれない。

だから、桃子ちゃんがそうしたのも、全然おかしくないと思う。
矢島くんはただの友達としか思っていないとしても、
愛理ちゃんはそうじゃないのだから、やめさせて正解だと思う。
220 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:46

『ぶっちゃけ、あの子って矢島くんのこと好きでしょ』

こないだ、桃子ちゃんからこっそり聞かれたことを思い出す。
ウソが上手くない夏焼くんは、口では『わかんない』とか
答えたものの、たぶんバレバレだっただろう。

矢島くんからのメールが途絶えたのはきっと、そのことが原因だ。
そしたら夏焼くんのせいで、愛理ちゃんには本当に申し訳ない。
だけどしょうがない。やっぱり、あの2人を別れさせるようなことはできない。

それに、だいたい、愛理ちゃんが矢島くんと上手くいく可能性って…。
考えてみた夏焼くんは沈黙して、梨沙子ちゃんの横顔をチラリと見た。
彼女はやっぱり凹んでいて、ちょっと胸が痛くなった。

221 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:47

つづく


222 名前:彼女の革命 投稿日:2008/12/26(金) 00:48

( ・e・)<何かが起きているんだけれどそれが何かわからない
川*’ー’)<わたしも同じ気持ちです

223 名前:178 投稿日:2008/12/27(土) 00:22
>なにその情報!!!それは何ネタなんですか?!!

ゲキハロです。このタイミングで仙石ちゃんの登場なので、その流れかと。
実際には仙石ちゃんの方が11か月お姉さんなんですけどね。
224 名前:やじももヲタ 投稿日:2008/12/29(月) 00:40
梨沙子よ。舞美が愛理に行っちゃうと、ツグ氏は雅の所に行くかもしれないぞ。
それが嫌なら、やじももを応援しなさい。
225 名前:(0´〜`)人(’ー’*川 投稿日:2009/01/06(火) 00:58
>>223 178さん
そうそう
仙石先生の年齢をイジるのは気が引けましたけど
あの後輩マネージャー役は彼女以上の適任者がいませんでした

>>224 やじももヲタさん
あなたの言葉に梨沙子ちゃんが何て答えるか…
まあ決まってますよね!
226 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 00:58



227 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 00:59


*****



228 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 00:59
2008年1月28日。晴れ。
雲ひとつない空を見上げて、ガキさんは1年前のことを思い出していた。
人生まだまだこれからだけど、これからもっとすごいことが起こるかも
しれないのだけれど、1年前の今日よりも重要な日は、来ないかもしれない。
たぶんきっと、あの日が人生のターニングポイントだったのだ。

「ちょっと、お兄ちゃん?」

前方から妹の声が聞こえて、ハッと我に返る。
ここは某一流ホテルの目の前。さっき、車から降りたところだった。

『泣きながら告白とか、チョーかっこわるい』

絵里ちゃんとその元カレ・田中っちとの別れが決定的になったあの日。
彼女からそう言われたのは、あの車の中だった。
2人とも一緒になって泣きながら笑って、変な雰囲気に包まれていた。

きみがどれだけ最低な女でもぼくは構わない。
だって、ぼくにとってはいつでも最高な、運命の女性だから。

ガキさんは、あのとき叫びたかった言葉も思い出す。
229 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:00
そういう自分は、自己中心的な最低の男。
口では田中っちと元通りになって欲しいと言いながら、
心の奥底ではずっと彼女のことを手に入れたいと思っていた。
別れさせたかった。そう思わないようにしていたけど、常に思っていた。

あれは人生最大のチャンスだったのだ。
彼女を自分のモノにする、絶好すぎるチャンスだった。
そしてガキさんはそのチャンスを掴んだ。

もう、あれから1年になる。
だけどたまにあの頃のことを思い出して、そして自問自答する。
本当にあんな結末でよかったのかと。
全部彼女のためだった。そんなのただの言いわけじゃないのかと。

こんなに最低な男だと知ったら、彼女はどう思うだろう。
最低でも構わない。迷わず言ってくれるだろうか。
そうやって不安になる。自信が、なくなってくる。

でも、ガキさんは、右手の薬指にはめてある指輪を見つめる。
そして、考えなきゃいけないことは、そんな過去のことじゃない、
これから先の未来のことだと思い知らされる。

「どうしたの?」

心配そうな妹の声がして、ガキさんはニカッと笑ってみせた。

「いや、なんでもない。行こう」
230 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:00

パーティ会場は毎年同じで、新垣兄妹は
『新垣法律事務所 誕生11年記念パーティ 会場』と書かれた
看板を通り過ぎて、受付までやってきた。

「あら、お早いですね」

そう言って笑顔で迎えてくれたのは、新垣法律事務所に
勤める若手の女性弁護士だった。
名前は安倍さん。安倍元首相と同じ漢字の安倍さんだ。

「安倍さん。今年も受付なんですね」
「ええ。私は下っ端ですからね」
あははと明るく笑う安倍さんは、パッと見とても弁護士には見えない。
普通のOLさんっぽい。年上だけど可愛らしいなあ。ガキさんも笑う。

「あ。あたしちょっとお手洗い行ってくるね」
妹がそう言ってその場を離れた。

「お坊ちゃま、大学生活は楽しいですか」

事務所に所属しているメンバーの中だと、一番年齢が近い安倍さん。
こうやって、何かのイベントごとでしか会わない関係だけど、親しみやすかった。
231 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:00
「はい。楽しいです。でも、勉強がちょーっと大変ですけど」
「覚えることばっかりで、つまんないでしょ」
「ええ、まあ。でも必要なことですから、覚えるしかないです」

安倍さんは、ガキさんがこれから進む道をすでに行っている。
気軽に色々とアドバイスをもらうには、ちょうどいい先輩だった。

「私でよければいつでも相談に乗りますからね」

ニコッと笑う安倍さん。すぐに「あっ」と言う。
ガキさんが首をかしげると、スーツのポケットから携帯電話を取り出す。

「私の番号、教えますよ」
「おお」

赤外線通信で、安倍さんのケータイ番号とメールアドレスをゲットしてしまう。
ついでに安倍さんのケータイにも、ガキさんの情報を送ってしまう。

「何かあれば、電話でもメールでも」
「ありがとうございます」

232 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:01


パーティの開始時刻が迫ってきて、ガキさんはそわそわしていた。
なぜかというと、まだ恋人が到着していないからだ。
遅刻だけはするなとあれだけ言ったのに、おかしいな。

会場の入り口付近で、腕時計を何度も見ながら待つ。
すると、見慣れた姿を見つける。愛ちゃんだった。
今日の彼女は大人っぽいドレス姿で、けっこう綺麗だった。

彼女の隣にはもちろん、背の高いスーツ姿のイケメン。吉澤さんだ。
そして、彼に隠れて見えなかったけど、ようやく現れる絵里ちゃんの姿。

「もー、カメー、来るの遅いって」

とか小言を言ったりするけれど、素敵なドレスを着ている
素敵な絵里ちゃんを見て表情が緩んでしまうガキさん。
「ごめんね。ちょっと準備に時間かかっちゃってさ」
なんて言いながら彼女はガキさんの腕に触れる。
彼女の綺麗な髪から大人の色気がムンムン漂ってきて、
ガキさんはちょっとムラムラしてきたり。

「え、あたしはシカト?」
2人の間に、愛ちゃんがわざわざ割り込んでくる。
吉澤さんはそんな彼女たちを微笑んで眺めている。
233 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:01
「どうせあたしなんてどうでもいい存在だよ」
「いやいや、どうでもよくはないけどさ」

マジ面倒くさい女だ。なんて思うガキさん。
吉澤さんに助けを求める視線を送ると、彼はすぐに愛ちゃんの肩を
引き寄せて、「まあまあ、早く中に入ろうよ」となだめてくれた。
さすがサルまわし。その技術はベテランの域に達している。
大人しくなった愛ちゃんを連れて、吉澤さんはパーティ会場へ向かった。

「カメ。今日さ、ぼくも父さんと母さんに言おうと思うんだ」

絵里ちゃんはきょとんとした。ガキさんははにかみながら、
「こないだ、カメがおじさんとおばさんに言ってくれたみたいに」
そう言うと、彼女はふにゃりと微笑む。
「うん」
「だから、あとで呼びに行くから」
「わかった」

234 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:01

特にハプニングもなく、パーティは和やかに進行されていた。
そんな中、吉澤さんはある人物の姿をこっそり探していた。
でも、顔も年齢も知らないから、全然わからなかった。
青山さんに調べといてもらえばよかったと、思っていた。

「吉澤さん、吉澤さん」

愛ちゃんとおしゃべりしていると、肩をddと叩かれる。
振り返ればなんと、絵里ちゃんのパパの秘書の人。

「井上さん。いらっしゃってたんですね」
「ちょっといいですか」と井上さんが吉澤さんに囁く。
吉澤さんは愛ちゃんに「すぐ戻ってくるから」と言って、
井上さんと会場から出た。

「お楽しみ中のところ申し訳ありません」
「いえ。どうかされましたか?」
「例の件で、お知らせしたいことがあって」

それならなるべく人気のない場所で、と吉澤さんたちは
会話をしつつパーティ会場からどんどん遠ざかってゆく。
235 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:02
「今日、KBMの久住会長がいらっしゃってるのはご存知ですよね」
「はい。知ってます。けど、誰が会長かわからなくて」
吉澤さんが苦笑いしながら頭をかくと、井上さんは厳しい表情になった。
「あとでお教えしますよ。きっとビックリすると思いますけど」
「え?」
「とっても、お元気そうだから」
「お元気そう?会長はご病気じゃなかったんですか?」
「どうやらそれはデマだったのかもしれません」
それに、と井上さんはパタッと立ち止まった。
「会長一家が日本へ引っ越してくる、という話も、怪しいなと」
「それは、どういうことですか?」
「わかりません。いったい何が事実なのか、私にも」
「じゃあ、絵里お嬢様の縁談の話は」
「それは…」
事実なのか。井上さんの反応を見て、吉澤さんは肩を落とす。
ちょっと期待しちゃった自分がバカみたいだった。

パーティ会場に戻ると、井上さんから耳打ちされる。
「いま、社長と新垣さまとお話されている方が、久住会長です。
そのお隣にいらっしゃるのが奥様ですね」
絵里ちゃんのパパに、ガキさんのお父さん。そして久住会長。
なんという3ショットだ。吉澤さんは思わず息をのむ。

「当の本人たちがまだ何も知らないっていうのが、辛いですね」

井上さんはそう言い残して、去って行った。
ええ、相当、辛すぎますね。吉澤さんは心の中で呟いた。
236 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:02


パーティが終わる前に、ガキさんは絵里ちゃんを連れて
両親の元へ行った。

「ちょっと話があるんだけど」と切り出して、彼女を見る。
彼女はやさしく微笑みながらうなずく。ガキさんもうなずく。

ガキさんは、真面目な顔で両親を見つめながら、
「今までちゃんと言ったことなかったけど、ぼくはカメと付き合ってます」

すると彼らは噴き出し笑いをした。
「突然かしこまって何だと思ったら」
「そんなこと、ずいぶん前から知ってたわよ」
「うん、だけど、ちゃんと言いたかったんだ。それで、認めて欲しかった」
「認めるも何も、あなたはもう子供じゃないんだから」
お母さんが穏やかに言った。
ガキさんは絵里ちゃんと顔を見合わせて微笑む。

そんな若い2人を見て、お父さんはなぜか複雑な表情になる。
「絵里ちゃん」と言って、彼女を見つめる。

「こいつと、いつまでも仲良くしてやってくれるかな」
「はい。もちろん。いつまでも」

彼女がしっかりとそう答えると、お父さんは少しだけ笑った。
ガキさんはホッと安心した。
237 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:02

無事にパーティが終わり、一緒に帰ろうということで、
ガキさんは絵里ちゃんと会場を出る。

「あ、ちょっと待ってて」
「うん」

彼女が化粧室に行って、ひとりになるガキさん。
どこからか視線を感じてふと振り返ると、
黒いスーツ姿の見知らぬ外国人(♂)がいた。
目が合うと、その男はそそくさと去っていく。
あんな人、パーティに出てたっけな。ガキさんは首をかしげる。

「お坊ちゃま」
「おお、安倍さん」
後片付けをしているのか、荷物を持った安倍さんが通りかかった。

「今日はお疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
安倍さんは笑顔だが、ちょっとお疲れの様子だった。

「今から帰って、また仕事です」
「えぇっ?今からですか?」
「こう見えても色々と忙しいんですよ」
「いやー、大変ですね」
238 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:03
それから、安倍さんが今どういうことをしているのかとか、
ガキさんは聞いてみたりしていると、絵里ちゃんが戻ってきた。

「あ、カメ」

でも、絵里ちゃんはなんかブスッとしていて、不機嫌そう。
その理由をなんとなく察しているガキさんはおでこをかく。
ニコニコしている安倍さんに、「それじゃあ、帰ります」と言う。
「お気をつけて」「はい」

エレベーターの中。2人きりで、彼女はずっと無言だった。
まあその理由もなんとなくわかるんだけど。ガキさんはちょっと苦笑い。

「安倍さん、これから帰って仕事するんだってさ。すごくない?」
「……」
「カメ?」
「仲良いんだね。安倍さんと」
「そうでもないけどね。今日だって久しぶりに会ったんだし」
「久しぶりに会って、胸がときめいた?」
「はあ?ときめくわけないじゃん。何言ってんの」
おっとっと。このケンカ、買っちゃいけない。
冷静に。落ち着いて。ガキさんはスーハー深呼吸。

扉が開く。絵里ちゃんはすたすた先に行ってしまう。
ガキさんは黙って彼女の後をついて行く。
239 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:03
ホテルを出てすぐ、ガキさん家の黒い車が待っていた。
後部座席のドアが開いたけど、絵里ちゃんは乗ろうとしない。

「カーメ」
「……」
「ほら、乗って乗って」
ガキさんは彼女の背中を無理やり押して、車の中へ押し込む。
自分も乗り込んで、運転手さんに「お願いします」と言う。

車が静かに走り出す。絵里ちゃんは無言で窓の外を眺めている。
やっぱりちょっと気まずい雰囲気。
ガキさんも彼女と同じように窓の外を見る。
1年前の今ごろは、どしゃ降りだった。なんて思い出す。

だって、今はまったく昨年と同じシチュエーション。
彼女が携帯電話の電池に貼ってあったプリクラを、
窓の外へ投げ捨てたあの夜と、全く同じ。

「ねぇ、ガキさん」

ふいに彼女の声がした。
悶々としていたガキさんは、彼女のほうを見る。

彼女は何も言わずに、ガキさんの手を握った。
そして、ガキさんの肩にそっともたれてくる。
240 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:03
「絵里って、ホントにダメな女だよね」
「え?」
「こんなんじゃ、ガキさんに愛想つかされちゃうよね」
「…つかすわけないじゃん」
ガキさんは言って、彼女と指を絡める。

「カメがたとえどんなにダメな女でも、最低な女でも、
ぼくは構わない。だって、ぼくは、カメのことが大好きだから」

ちょっとサムイくらい真剣に言うと、彼女がクスッと笑った。

「それ、なんかどっかで聞いたことある」
「昨年の今日、この車の中でカメに言ったことだよ。覚えてた?」
「うん。あの日のことは、何があっても忘れないよ」
「ぼくも、一生忘れないと思う」

241 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:04

亀井家に到着する。
絵里ちゃんはガキさんを引っ張るようにして車から降りた。

「今日はなんか強引だね」

部屋で2人きりになって、ガキさんは言う。
彼女は微笑んで、ガキさんに抱きつく。

「今日は帰さないから」
「こわー」

でもまあ、こんな彼女も嫌いじゃない。
独占欲が強くて、やきもちをやいたりする彼女も好きだ。
どんな彼女でも大好きだ。大好きなのだ。

それからガキさんは強引にベッドへ押し倒される。
彼女は脱がされる前に自らドレスを脱ぎ捨てる。

「どうしたの」
ガキさんは珍しそうな、でもちょっとうれしそうな目で
下着姿の絵里ちゃんを見つめる。
「どうもしないよ?」
彼女は妖しく微笑んで、背中に手をまわし、
ホックを外してブラジャーをそこらへんに投げ捨てる。
242 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:04

彼女はおっぱいを見せ付けるように背筋をピンと伸ばす。
いったい、今日は本当にどうしちゃったのだろう。
あの恥ずかしがり屋でシャイな彼女は、どこにいっちゃったのだろう。

ガキさんの手を掴んだ彼女は、それを自分の胸へもっていく。
さあさあ揉んでくれと言わんばかりに、ぐいぐい押し付ける。
そんなことされたらもう我慢できるわけないガキさんは、
やわらかいそのおっぱいをモミモミする。
硬くなった乳首をツンツンして、またモミモミする。

なんとも艶かしい声で反応している絵里ちゃん。
ガキさんはそんな彼女に見とれてしまう。

彼女はガキさんに覆い被さってきて、ネクタイをほどき始める。
そしてそれをするっと取って、そこらへんに投げ捨てた。
今度は上着を脱がせてシャツのボタンを外してゆく。

いつもは脱がす側だから、ちょっと変な感じのガキさん。
シャツを脱がし、下半身をチラリと見た絵里ちゃんは、
笑いながら楽しそうにベルトをするすると抜き取って、
ガッとズボンを下ろした。
243 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:04

あっという間に全裸にされたガキさんは、大の字になってされるがまま。
積極的にアレをアレしている絵里ちゃんを、じっと見つめている。
黙々と、顔を上下に動かしている彼女と、時々目が合ったりする。

「あああ」
気持ち良すぎて、もうどっかイッちゃいそうなガキさん。
情けない声を上げながら、彼女の頭を撫でる。

「気持ち良い?ガキさん」
「うん、気持ち良い」
「絵里も気持ち良くなりたいな」
「……」
覆いかぶさってきて、彼女はそっと口づけてくる。
彼女をぎゅっと抱きしめて、激しいキスをしながらガキさんは、
くるりと体勢を変えて彼女の上になる。

「これからいっぱい気持ち良くしてあげるから」
そしていやらしく囁いて、ガキさんは彼女の首筋に顔を埋めた。

今も、これからも、ずっと気持ち良くさせてやる。
他の男なんて目に入らないくらい夢中にさせてやる。
もう一生離れられないように、いっぱいいっぱい愛してやる。
ガキさんはとても強気で絵里ちゃんを抱く。抱きまくる。
上になったり下になったり、色んな格好で交わって、何度もイキまくった。
244 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:04


*****



245 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:05
1月はあっという間に終わり、2月3日。節分の日。

縁伊豆(べりいず)国際空港・国際線ターミナルの
到着ロビーでは、数名の用心棒がある人物を待っていた。
そのある人物とは、アメリカの大企業KBMの御曹司。
しかし、そんなことを何も知らない周りの普通の人々は、
どんな大スターが来日してくるのか、興味津々の様子だった。

「ボス!」

人ごみの中に混じっていたクリストファーが、右手を挙げた。
だるそうにダラダラ出てきた御曹司のもとへと小走りで近づく。

「あーあ、疲れた」

不機嫌そうに呟く御曹司に、クリストファーは冷たい水を渡す。

周りの人々は、彼らを眺めながらコソコソ何か言い合っている。
(もしかして若手のイケメン俳優?)
(いや、イケメンスポーツ選手?)
(いったい誰なのかしら?)

「会長が新居でお待ちです」
「はいはい」
246 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:05


やってきたぜJAPAN!なんていう感動を味わう暇もなく、
御曹司久住くんはすぐに大きな車に乗せられた。
今日からこの国に住むというのに、その実感も全くなかった。

「新居って……」

車から降りて、目の前にあったのはどでかい建物。
空まで届きそうなくらい高いビルを、久住くんは見上げる。

「これ、家?」
「申し訳ありません。ボス」

なぜか頭を下げるクリストファー。
意味わかんないんですけど。久住くんはちんぷんかんぷん。

とりあえず中へ案内されて、エレベーターで最上階へ。
それから通された部屋に、ダディが待ち構えていた。

「ヘイ、ベイビー。長旅ご苦労だったね」

久住くんは、ピッカピカの新居を見渡す。
家具もデザインも色合いも何もかもが自分好みで、
なんかだんだん嫌な予感がしてくる。
247 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:05
「パパ。ちょっと、1個確認してもいい?」
「なんだ?」
「もしかして、ここに住むのって、ぼくだけ?」

ダディはHAHAHAと陽気に笑って、息子の肩を抱く。

「賢い息子を持ってパパは幸せだよ」
「なんで?パパたちはどこに住むの?」
「パパたちは、向こうへ帰るさ」
「はあ?!みんなで引っ越してくるっていうのは?」
「全部、ウソだよ」
「そんな。冗談きつすぎるよ」
「そうかな。小春」
「え?」
「ようく、自分の胸に手をあてて考えてみなさい。
これまで自分がどんなことをしてきたのか」

言われたとおり、(ぺったんこな)胸に手をあてる久住くん。
やんちゃ盛りだけど意外と素直な坊やは、とりあえず考えてみる。
だけど、特に何も思い当たらない。

「いいかい。きみには今日からここで暮らしてもらう。
もちろん、身の回りの世話は、クリスたちにやって
もらうように頼んでいるから、何にも心配することはない。
学校も、明日から湾田高校へ行くといい。制服も、用意してある」
248 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:06
申し訳なさそうなクリスが、どこからか学校の制服を持ってきて、
テーブルの上に広げて見せた。

やっぱりなんか納得できない久住くんは、
「なんで、ぼくだけなの?」
「だからそれは自分でよく考えてみなさい。その理由をきみが
ちゃんと理解できたとき、また家族で一緒に暮らそう」
「ほんっとに、意味わかんないよ」
「まだ、今はそうかもしれない。でも小春。時間はたっぷりある。
あと2年、ゆっくり考えなさい」
「あと2年?」

腕時計を見たダディは「さて、パパはそろそろドロンするよ」と呟く。

「ああ、そうだ。2月10日は豪華客船で盛大にパーティをするから、
きみも必ず出席するように。いいかい?」
「…はい」
「それと、2年後、きみには結婚してもらうからそのつもりで」
「ハッ?!」

なんでそれを別れ間際に言うんだよ!
詳しく話を聞きたかったのに、気づいたらダディはいなくなっていた。
249 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:06
「そういう重要なことは最初に言えばいいのに…」

乱暴にソファに座り、久住くんは頭をかく。
参ったな。まさかの展開すぎる。
これまで好き放題遊んできたツケがまわってきちゃった、ってか。

「ねぇ、本当にぼく結婚させられちゃうよ。クリス」

クリストファーは、でかい図体を縮こませて、黙っている。

「ていうかさ、クリス。全部知ってたんでしょ?」
「…申し訳ありません」
「なんでぼくはこんな目に遭わなきゃいけないのさ?」
「…実はそこまでは私も知りません」

はあ。使えない野郎だ。死んでしまえ。
なんておそろしいことは口では言わない。
平和主義者の久住くんは肩をすくめて、斜め上を見上げた。

「とりあえず、ガールフレンド作らなくちゃ」
250 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:06


*****



251 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:07
そして翌朝。週の初めの月曜日。

「あー月曜の朝はなんかユウウツー。しかも1時間目数学とか…」

須藤くんが気だるい声で呟いた。隣の夏焼くんも、同意する。
部活の朝練終わりの2人は、教室へ向かって廊下を歩いていた。

「おっ、夏焼須藤。ちょうどいいとこに通りかかった」

担任の先生がなんか慌てた様子でやってきた。
先生はいつもラフな格好なのに、今日はなぜか背広を着ている。
何かあるのかなあ。夏焼くんは須藤くんと顔を見合わせる。

「どうしたんですか?」
「今すぐ、倉庫にある机を一つうちの教室まで運んで欲しいんだよ」

「え」「まさか」

「「転校生?!」」

一気にテンションが上がる2人。
しかし先生は慌てているので、そんな生徒たちをまともに相手しない。
「いいから早く来い」と促され、夏焼くんたちは小走りで倉庫へと向かった。
252 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:07
「よっこいしょっと」

力持ちの須藤くんが、机と椅子の1セットを抱えた。
彼の荷物は夏焼くんが持っている。

「この机って、どこに置くんですか?」
「一番後ろでいい。須藤の後ろでも」
「やった。じゃあおれの後ろに置きます」

先生は腕時計を確認して「うわっ」と仰け反る。
「それじゃあよろしく頼むっ」
と言い残してバタバタ去って行った。

「絶対転校生だよ」
「ああ。間違いない」
「男かな、女かな」
「ドッキドキだな」

教室に入るなり、夏焼くんと須藤くんはみんなの注目を浴びる。
「まーさん、なにその机?」
「なんか転校生が来るっぽいよ」
須藤くんは説明して、その机を一番後ろの列に置く。
マジかよ!転校生だって!教室内はガヤガヤ騒がしくなる。

そんな中、夏焼くんはあることに気づく。
「あれ、徳永来てないじゃん」
253 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:07

キーンコーン カーンコーン

「やばいやばいやばい…!!」

朝のホームルームの始まりを告げるチャイムの音を、
徳永くんは全力ダッシュしながら聞いていた。
たぶん今日は完全遅刻だ。また担任から怒られる。
遅れれば遅れるだけ叩かれる強さが強くなるから、
1秒でも早く教室へと急ぐ徳永くん。
が、しかし、まだ校門をくぐっていなかったりして。

一生懸命走っている徳永くんを、1台のいかつい外車がスーッと追い越してゆく。
そして徳永くんよりも先に湾田高の中に入ってゆく。

なんだなんだ。走るスピードは保ちながら、徳永くんは学校の正面玄関前に
停められた車と、それを出迎えている校長や教頭たちを眺める。
なんとなく気になるけど、今はそんな場合じゃない!早く教室行かなきゃ!
254 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:08


その大きな車から降りてきたのは、もちろんあの久住くん。

「I'm very glad to meet you」

おっとっと。条件反射でつい英語で挨拶してしまった。まいっか。
とりあえず校長先生とがっちりシェイクハンドして、お行儀よくニコッと笑った。

つい昨日、日本に来たばかりで、何が何やらよくわからない状況ではある。
色々とややこしいこともあるし、でもとにかく遊びまくりたいし、学校なんて
実際どうでもよかったなと思う気持ちもなくはないんだけども、全部とりあえず、とりあえず。

湾田高校。可愛い女の子がたくさんいればいいな。仲良くなりたいな。
頭の中はそれだけでいっぱいだった。
255 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:08

チャイムが鳴ってたのに、担任の先生は教室にいなかった。
だから徳永くんも余裕の登校。楽々セーフ。とかいって。

「あれ。こんなとこに机あったっけ」

須藤くんの後ろの席に新しく机が置かれているのに気づいて、徳永くんは言った。
ニヤニヤしながら須藤くんが「転校生が来るっぽいよ」
「ええええ?!」
転校生!!!だからなんかみんなソワソワしてるのか!!!

ガラガラガラ、とタイミング良く教室の戸が開いた。
珍しく背広姿の担任の先生が入ってくる。
そして、先生に続いて、初めて見る男子生徒が入ってきた。

転校生は、そこそこ背が高くて、スタイルの良い少年だった。
顔を見れば…うわー。
チョーイケメンで、女子たちの瞳が当然のように輝いていた。

「えー、いきなりですが、転校生を紹介します。
クッジューイントロデュースユアセルフ・トゥクラスメイツ?」

たどたどしい英語で先生がお願いすると、転校生はニコッと笑った。
256 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:08
「My name is Koharu Kusumi」

ええええええ???
英語でしゃべり始めた少年に、全員がいっせいに驚いた。
「しーずーかーにー!」先生が大きな声で言う。

わかりやすい単語を選んでしゃべっているのか、
転校生はゆっくりはっきりと英語で自己紹介をした。
バカな徳永くんでも、何を言っているのか、ちゃんと理解できた。

コハル、って呼んでください。
ぼくはアメリカから来ました。
でも生まれたのは日本です。
好きなスポーツはバスケットボールです。

「Thank you」
話し終え、転校生はペコッと頭を下げた。
おおおおお!!!大きな拍手が巻き起こる。

「アメリカからの転校生とか…かっこよすぎる」

先生が黒板に”久住小春”と書いている。
その名前に、男子生徒のほとんどが自分の目を疑った。

(ここここ、こはっピンクと同姓同名!!!?)

もちろん、須藤くんも驚いていた。
257 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:09

バカ高で有名な湾田高校に突然やってきた、アメリカからのイケメン転校生。
(しかも名前はなぜか超人気AV女優と同姓同名)
そのウワサはたちまち学校中に広まっている。らしかった。

昼休みになって、須藤くんと徳永くんは後ろの席を振り返る。
「?」首をかしげている久住くんを、ランチに誘う。
「昼飯、一緒に食おうぜ」
「あー、意味通じてんのかな」
「昼飯、食べよう」
徳永くんがジェスチャーで久住くんに伝える。
わかってくれたのか、久住くんは笑顔で「OK」と答えてくれる。

「あー、腹へったー」
そこへ、夏焼くんがお弁当を持って、お腹をさすりながらやってきた。
須藤くんが「久住くんと食堂行こうよ」と言う。
「うん」と答えながら、夏焼くんは久住くんのほうを見る。
すると目と目が合う。彼はずっとニコニコしていて人懐こい感じだ。
好きなスポーツはバスケらしいし、仲良くなれそうな気がする、と思った。

「あ、そういえば、おれら自己紹介してないよな」と須藤くん。
「ホントだな」と徳永くん。
「マイネームイズ・徳永」
「マイネームイズ・須藤」
「マイネームイズ・夏焼」
「徳永、須藤、夏焼…」
「「「イエス」」」
258 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:09
食堂に行くついでに、久住くんに学校のことを色々と教えてあげる。
とりあえず通りかかった売店の前で、徳永くんが言う。

「ここは売店。ジュースとかパンとか、ノートとかも売ってる」
「完全日本語」徳永くんの説明に、プッと噴き出す夏焼くん。
「だって英語とかしゃべれるわけねーじゃん」
「まあそうだけど」

「あ。みーやん」

聞いたことがある声が聞こえて、夏焼くんは振り返った。
そこにはやっぱり桃子ちゃんがいた。
友達と売店に何かを買いに来たらしかった。

「もしかして、アメリカからの転校生?」
「なんで知ってんの?」
「風のウワサでちょこっと聞いたの」

はじめまして、と桃子ちゃんが久住くんに挨拶をした。
久住くんは微笑みながら、彼女に握手を求める。
259 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:09
「はじめまして。久住小春です」

「うえっ?!」

転校生の口から初めて聞く、ジャパニーズ。
夏焼くんたちはマジでビックリする。
日本語、ペッラペラじゃん。

「なんだよ!日本語しゃべれるならしゃべれよ!」

徳永くんにツッコまれて、久住くんは桃子ちゃんと握手をしながら
ヘラヘラ笑っている。そのひょうひょうとした態度が、ちょっと面白い。

久住くんが彼女に尋ねる。
「名前は、なんていうんですか?」
「嗣永桃子です」
「つぐなが?」
「ツグさんでいいよ。ツグさんで」
夏焼くんがアドバイスしてあげる。
すると、桃子ちゃんはちょっとムッとしながら夏焼くんに言う。
「あのさぁ、ずっと言いたかったんだけど、ツグさんって
呼んでるのみーやんだけだよ?」
「ていうかおれもずっと言いたかったけど、みーやんって
呼んでるのも、ツグさんだけだよ?」
260 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:10
ああだこうだ言い合いを始めた2人を見て、
徳永くんと須藤くんは(また始まった)という顔になる。
久住くんは、やっぱりニコニコしながら彼らのやりとりを眺めていた。


桃子ちゃんと別れた後、4人はやっと食堂へやってくる。

「まず食券買わなきゃいけないんだけど」
須藤くんは食券の販売機にお金を入れながら説明する。
「日替わり定食が食べたかったら、こうやってボタン押して…」
ボタンをポチッと押すと、下から券が出てきて、
久住くんは「Oh!」と子供っぽく驚いた。

「何食べたい?うどんとかそばとか、カレーとかあるけど」
「きみと同じものでいいよ」
「じゃあ、ここにお金入れて…」
「お金かぁ」
ポケットから財布らしきものを取り出す久住くん。
夏焼くんは、高そうなその財布を見て、おおっとなる。

「いま、カードしか持ってないんだけど」
「か、カード?!」
すげー。まじまじと久住くんの財布を見つめる3バカトリオ。
薄っぺらいけど、ブランドものですごい高そう。
(もしかしてこいつっていいとこのボンボン?)なんて思う。
261 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:10
結局、久住くんの食券は須藤くんが代わりに買ってあげて、
みんなでお昼ご飯を食べる。

「どう久住くん。うまい?」
「うん。意外とおいしいね」
「ていうか箸使うのも上手いじゃん」
「日本語も上手いしね」
「まぁ、ぼく、日本人だからね」
ニコッと笑って、味噌汁をすする久住くん。

お母さんの作ったお弁当を食べながら、夏焼くんは尋ねる。
「なんでずっとアメリカに住んでたの?」
「パパの会社が、アメリカにあって」
「パパの会社?!」
やっぱり。そういうことだと思った。
3人は妙に納得して、久住くんを見る。

「ところでさっきの嗣永さんって、きみの恋人?」
「へっ?恋人?」
なななな、何を言い出すんだこいつは。夏焼くんは慌てる。
「違う違う!ツグさんはただの友達だって!」
「友達?」
夏焼くんは、ウンウンうなずく。
262 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:10
「好き、だったりは」
「しない!全然しない!」

キッパリそう言った夏焼くんを見つめて、久住くんは首をかしげる。

それから、夏焼くんはわざとらしく話題を変える。
「そそ、そういえば、自己紹介のとき、バスケが好きって言ってたよな」
「うん」
「おれと須藤は、バスケ部なんだ」
「バスケ部?」
「そう。放課後、練習あるから見学に来いよ」


放課後。
久住くんは、夏焼くんと須藤くんに連れられて、体育館に来ていた。
彼らは「着替えてくるからここで待ってて」と言い残して、どっかに行った。

まだ誰もいない体育館。なんとなく歩きながら、全体を見渡す。
大きなかごにたくさんのバスケットボールがあって、1個手にとってみる。
何度か床について、ゴールのリングに向かってみる。
こうやってボールに触るのも、シュートをするのも久しぶりだった。
懐かしい気持ちになりながら、久住くんはふわっとシュートを放つ。

「イエス」ビシッと決まる。さすが天才。
かっこよすぎる、と自賛しながら床に転がるボールを拾いに行く。
263 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:10
「バスケ、上手なんだね」

女の子の声が聞こえてきて、久住くんは顔を上げた。
そこには、お昼に会った、桃子ちゃんがいた。
さっきは制服姿だったけど、今はジャージー姿。
この子は小さい動物みたいで可愛いな。と思う。

「バスケ部、入るの?」

彼女が近づいてくる。
久住くんは「まぁ」と曖昧に答えて、またゴールに向かう。
今度はそこまでドリブルをして、シュートする。
ボールは綺麗にゴールに入る。「おー」と彼女が拍手をしてくれる。

「でも、もしかしたらバスケする時間ないかもしれないから、
入れるかどうかまだわからないよ」

実は今夜もパーティに招待されているし、明日も何か予定が入っていた。
これからも、だいたい毎日忙しい。
だからのん気にバスケットボールなんかしてるヒマ、ないかもしれない。

たまにはしたいけどな。できるのかな。
久住くんはもう一度ふわっとシュートを打つ。
まったく枠に当たらずに、美しく決まる。
264 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:11
「すごーい」
「惚れちゃった?」

ふざけた口調で言うと、彼女がクスッと笑った。
キタコレ。久住くんはニヤリとして、彼女へ顔を少し近づける。

「ねぇ、きみは夏焼のこと好きなの?」
「はぁっ?!」
「好きなんだ」
「好きじゃないよ!あっ、好きは好きだけど、そういう好きじゃない」
「Love、じゃないってこと?」
「そう。ライクだよ、ライク」
「Loveな相手は、いるの?」
「えっ?うん。いるけど」
「そっか」
久住くんは、ボールを拾いに行く。

そうこうしていると、ぞろぞろとバスケ部部員たちが集合し始めた。
当然、彼らの注目を浴びてしまう久住くん。ボールをそっと元の場所に戻す。

「おーい」
ジャージーを着込んだ夏焼くんと須藤くんが、駆け寄ってくる。
久住くんは腕時計を一瞥して、2人に微笑みかける。
「ごめん。もうドロンしなきゃいけない時間になっちゃった」
「えっ?」
「グッバーイ」
残念そうな顔の夏焼くんたちに手を振って、久住くんは体育館を出る。
最後に桃子ちゃんを振り返る。彼女にも手を振って、去っていく。
265 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:11

「あっ。久住くん」

渡り廊下を歩いていると、女の子の声が聞こえた。
声のしたほうを見ると、ジャージ姿の見知らぬ女の子が笑顔で立っていた。

「同じクラスの光井愛佳です」
「光井…」
「あ、みっつぃって呼んで?」
「OK。みっつぃ。ぼくのことは、小春って呼んでね」
「わかった」
久住くんは、愛佳ちゃんと握手を交わす。
彼女はずっとニコニコしているとても明るい子だった。

「みっつぃは何のクラブやってるの?」
「あたしは柔道部のマネージャー」
「柔道?」
「うん。あ、見学する?すぐそこでやってんねんけど」
「いや、今日はちょっと用事があって、もう帰らなきゃ」

シーユートゥモロー、と久住くんはついついキザに言ってしまう。
でも、彼女はバイバーイと普通に見送ってくれた。
まだまだ子供だな。久住くんはそう判断して、去って行った。
266 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:11

迎えの車は学校の正面玄関に停められていた。
久住くんはそれに乗り込んで、いったんお家へ戻る。

「ボス。学校はどうでしたか?」
クリストファーが尋ねてきた。
「疲れた」
久住くんはふかふかシートにふんぞり返りながら、
冷たい水を一口含む。

でもすぐにクリスへ顔を近づけて、
「でも、日本人って案外親切なんだね。安心したよ」
「そうですか」
「そうだクリス。お金ちょうだい」
「は?」
「お金がないと、ランチ食べられないんだって」
「おいくらぐらい用意しましょうか」
「それはクリスに任せるよ」
「承知いたしました」


翌日、久住くんが学校に福沢諭吉をたくさん連れて来て、
夏焼くんたち3バカトリオがギョッとしたのは言うまでもない。


267 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:11

つづく


268 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/06(火) 01:12


从o゚ー゚从<魚屋のおっさんが驚いた
从´∇`从<うおっ!!!



269 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/06(火) 09:36
あー小春くん可愛い
これからどんな展開になるのか楽しみです

>>268
実際こんなこと言ってそうw
270 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/07(水) 00:33
うおーやばい今後が超楽しみっす
271 名前:やじももヲタ 投稿日:2009/01/08(木) 01:20
とりあえず、ツグ氏と小春の間に衝撃的な物はなかったようですね。
密かに、小春と舞美のイケメン対決を期待してたりもしてますが。
272 名前:重ピンピン 投稿日:2009/01/09(金) 03:23

更新おつで〜す
ちょいご無沙汰です

いやぁ〜亀ちゃんよかったですね
ついでにガキさんもね

小春の学校内の動きが意外と楽しみです
いかにブルジョアを発揮してくれるのか♪

では、また後日で

273 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/10(土) 00:25
(0´〜`)<お嬢様、あんなにも強引に…
274 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:26



275 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:27



276 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:27

「雅、雅」

休み時間。夏焼くんはちょっと寝ようかと思っていた。
それで、机に突っ伏した瞬間、そんな声が聞こえてくる。
顔を上げてふと教室の入り口を見れば、田中さんが扉から
ひょっこりと顔を覗かせていた。

「田中さん」

(こっち来い)と手招かれたから、夏焼くんは席を立って、
田中さんのいるところまで行く。
なぜか、田中さんのお友達も2人一緒にいた。

「どうしたんすか」
「転校生、どこおるん?」
教室の中を覗きこんで、田中さんがキョロキョロしだす。
「あー、呼んできますよ」

一番後ろの席で、須藤くんと徳永くんとしゃべっていた久住くんを
引っ張って、田中さんたちのところまで連れてくる。

「うわっ、チョーイケメンっ」

田中さんは瞳をキラキララと輝かせて、久住くんを見つめた。
久住くんはニコッと笑って、「はじめまして」と握手を求める。
ガッチリ握手した2人は、ブンブン腕を振る。
277 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:27
「小春。この人、先輩の田中さん」
「よろしくっ」
「よろしくお願いします」
「あとこっちは、斉藤さんと、林さん」
「よろしくっ」「よろしくっ」
「よろしくお願いします」
ミーハーな先輩トリオをうざがることなく大歓迎の久住くん。
にこやかに、田中さんに話しかける。
「田中さんはクラブは何をやってるんですか?」
「もう引退したんやけど、ずっと柔道やっとったよ」
「やっとった?」
首をかしげた久住くんを見て、斉藤くんがフォローする。
「ごめんねー。この人、博多弁なのー」
「博多弁」
「普通はなんとかだよ、っていうのを、なんとかったい!とか、
なんとかっちゃ!とか言うんだよ」
「ぜんぜん似とらんっちゃ!」斉藤くんをどつく田中さん。
「面白いっちゃ!」
「そうそうそういう使い方!久住くんセンスあるよー」
「ホントですか!ありがとうございます!」

なんかすげえ、と夏焼くんは思う。
久住くんは初対面の、しかも先輩相手でも、すごい落ち着いている。
転校初日からそうだったけど、超フレンドリー。
度胸があるというか、肝が据わっている。
さすがアメリカ帰りのボンボン。夏焼くんは感心した。
278 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:27


*****



279 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:28
それから数日後の2月7日。
こないだ京東都の新人大会に優勝した湾田高男子バスケ部一同は、
授業をちょっとお休みして、東関地方の新人大会に参加していた。
怪我が治ったキャプテンも合流し、湾田高はますます絶好調だった。

桃子ちゃんはベンチでいつもと同じように応援しているのだけれども、
頭の中は今日、試合が終わってからのことでいっぱいだった。
なぜかというと、今日はカレシのお誕生日。
夜ご飯を一緒に食べよう、という約束をしている。
泥棒猫を撃退してから、さらにラブラブ街道まっしぐらなのだ。

「キャプテン、すごいですね」

湾田高が一方的に攻め続けている試合を見つめながら、
仙石さんが、桃子ちゃんの隣で呟いた。
仙石さんの視線は、攻撃の起点となって活躍しているキャプテンにロックオン状態。
その目がハートになっているような気も、しないでもない。

「そうだね」と同意しながら、恋の名探偵は、幼なじみの恋愛が気になったりする。

もし本気で好きなら全面的に協力するのにな。
でも、キャプテンも、仙石さんも、何もアクションを起こさないから、よくわからない。
280 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:28
気がつけば、来週はバレンタインデイだ。
何か起こりそうな予感もするけど、まったく起こらない気もする。

「仙石は、バレンタインはどうするの?」
「え?」
「誰かにチョコあげるの?」

そう尋ねると、仙石さんは困ったような微妙な表情になった。

「内緒にしてて欲しいんですけど」と前置きして、
「キャプテンに、あげようと思うんです」

ワオ。桃子ちゃんは目を丸くした。
来週のバレンタイン。間違いなく、何かが起こっちゃうじゃん。
はにかんでいる仙石さんを見つめて、桃子ちゃんはちょっとドキドキした。

281 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:28


今日はハッピーマイバースデイ。
いつも全力な部活の練習もほどほどにして、矢島くんは下校する。
軽やかな足取りで、桃子ちゃんとの待ち合わせ場所へ。

ちょっと早く着いたはずだったのに、彼女はすでにそこにいた。
「桃!」無駄に大きな声で呼んで、笑顔で手をブンブン振る矢島くん。
すると彼女もにっこり笑ってくれる。うは。チョー可愛い。とかいって。

「早かったんだね」
「うん。お誕生日おめでとう」
「ありがとう。あ、どうだったの?試合」
「勝ったよ。しかも圧勝」
「すごいじゃん」
「うん」
会って早速彼女と手を繋いで、指を絡める。
超ラブラブ。まるで宇宙のどこかいるような妙な気分だ。

「それ、プレゼント?」

桃子ちゃんは、矢島くんが手に持っていた紙袋を見て言った。
矢島くんはうれしそうに「そうそうそう」と答える。
「えりから変なTシャツもらっちゃった」
「よかったね」
「うん」
282 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:29
近くのファミレスで、2人は仲良く食事する。
デザートはもちろんケーキで、ろうそくは立ってないけどお祝いする。
そして最後の最後に。

「はい。これ、プレゼント」
「おー。開けていい?」
「うん」

矢島くんは桃子ちゃんからもらったプレゼントの袋を開ける。
中身をチラッとのぞいてから、それを取り出す。
「キーホルダー?」
「うん。おそろいだよ」
彼女がお家の鍵につけたキーホルダーを揺らして見せた。
矢島くんは頬を緩ませながら、それを見つめる。
「おそろいかー」
「嫌だった?」
「うれしいよ。チョーうれしい」

そのキーホルダーを、すぐに自分の家の鍵につける。
チャラチャラさせて、彼女と微笑み合う。

「それとね、手紙」
さらに彼女は矢島くんにピンク色の封筒を差し出してくる。
「それは帰ってから読んで?」
「わかった」
283 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:29

桃子ちゃんをお家まで送り届け、帰宅した矢島くん。
彼女とおそろいのキーホルダーを見つめて一度ニヤけた後、
鞄に仕舞っていた手紙を取り出して、読み始める。

中身は予想通りのラブレターだった。
『舞美の笑顔が好き。舞美のやさしい声が好き』
なんて、読んでいてちょっと恥ずかしくなっているくらい、
彼女のストレートな想いが詰め込まれていた。

でも最後のほうになってくると、だんだんよくわからなくなってきて、
『桃よりも字が綺麗なところが好き。背が高いところが好き。
いつもおいしそうに食べ物をほおばるところが好き』
みたいなどうでもいいとこが好きとか言い出して、思わずふき出す。

全部読み終えて、矢島くんはベッドの上に大の字になる。
ボーっと天井を見つめながら、彼女のことを想う。
そしたらやっぱり声が聞きたくなって、ポケットの中から携帯電話を取り出す。

彼女に電話をかけようとして、矢島くんは気づく。
新着メールが1通あった。
「誰からだろ」とメールボックスを見てみれば…。

「……」
284 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:29
鈴木さん家の愛理ちゃん。
そういえば最近、ずっとメールを返していない。
申し訳ないと思いつつ、ずっと無視をしている。

今の矢島くんにはちゃんと自覚がある。
あるからメールを返さない。何がなんでも、返さない。

あの子から送られてきたメールも、開かない。
削除はしないけど絶対に開かない。

「ごめん」

矢島くんは謝ってから、桃子ちゃんに電話をかける。

「桃?」
『うん。もうお家?』
「もうお家。今日は、ありがとね」
『手紙読んじゃった?』
「うん。読んじゃった。なんか、チョー照れた」
『それが目的だったからね』
ムフフと笑った彼女につられて、矢島くんも頬を緩ませる。

「桃のそういうところが好き」
『え?』
「ぼくも桃の笑った顔が好き。桃の声が好き。
いっつも小指立ってるとこが好き」
『もぉ、やめてよ』
「桃のこと、本当に大好き」
285 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:29


*****



286 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:30

「この問題、前に出て解いてくれる人」

シーン、と静まり返る教室。なんでみんな黙ってんの?!
ハイハイハイハイ!
一番後ろの席から、久住くんは元気に挙手をする。
白衣を着た化学教師が、「じゃあ、久住くん。お願いします」

「ハーイ」
スキップをする勢いで、黒板の前まで来る久住くん。
白いチョークじゃ地味だから、赤のチョークを手に取る。

「こうなってこうなって、こうなって…答えは4モルです!」

黒板にでっかく”4mol!”と最後に書いて、自信満々に断言する久住くん。
先生は笑顔で「正解です」と言ってくれた。
「センキュー」
久住くんは先生と握手して、それから自分の席に戻っていった。
287 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:30
休み時間、久住くんは須藤くんの席に座り、徳永くんとおしゃべりをする。
須藤くんは今日、部活の試合があるから学校をお休みしている。
もちろん同じ部の夏焼くんも欠席。話に聞く限り、バスケ部は相当忙しいようだ。
こりゃ、絶対無理だ。バスケ部入部を久住くんはちょっとあきらめかけていた。

「ていうか小春、モテすぎだよ」

ニヤニヤしながら、徳永くんが廊下のほうを指差す。
久住くんがそっち見た瞬間、群がっていた女の子たちがパッと散っていく。
ぬはー。モテすぎ、か。良い響きだ。苦しゅうない。

「アメリカでカノジョとかいたの?」
「いないよ」
「マジで?」
「ガールフレンドならいっぱいいたけどね」
「じゃあ、今まで誰かと付き合ったことないの?」
「ない」
「へー。意外」

アソコを突き合った人なら、いっぱいいたけどね。
久住くんはそこまで言いそうになるけれども、お口にチャックした。
288 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:30
その日の夜。招待されてやって来た何かのパーティにて。

紹介された女の子はみんな良い家柄のお嬢さまたちばっかり。
みなさんとてもスタイルがよくて、可愛くて最高だった。

やっぱり、大企業の御曹司久住くんは、女の子から大人気。
褒められおだてられ持ち上げられ、チヤホヤされる。
みんな気に入られようと必死だ。下心みえみえ。

「スキあり!」
っていきなり女の子のおしりを撫でても、怒られない。
「もぉ、エッチ」
怒られるどころか逆に色目を使われて、誘惑される。
「ねぇ、きみ、名前なんていうの?」
「友(ゆう)」
「友ちゃんね。覚えた」
ヘラヘラ笑った久住くんは、その子の腰に腕をまわして、
「ちょっと外、出ようよ」と囁いた。

会場の外。少し薄暗い場所で、久住くんはすぐに彼女の唇を奪う。
すると待ち構えていたような態度で、彼女が応えてくれる。
日本の若い女の子も、やっぱりエロイ。

気が済むまで全力でキスをする。舌もべろべろに絡めてやる。
彼女をここでその気にさせて、そして後でホテルに連れ込んでやる。
289 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:31
唇を離して、久住くんは無駄に熱いまなざしで彼女を見つめる。
うっとりしている彼女は、久住くんにもたれかかる。

おしりをもう一度撫でる。
今度はがっつり触ったのに、「エッチ」なんて言われなかった。
ちょろすぎる。久住くんは心の中で大笑いしていた。

リンリンリリン、リンリンリリン。

チッ。久住くんは鳴り出した携帯電話に舌打ちする。
友ちゃんの頭をやさしく撫でながら、「ちょっとごめん」と囁く。
彼女は微笑んで首を横に振ってくれる。

「ヘロー」
『ボス、大変です』
「もー、そのセリフ聞き飽きたんだけどー。何?」
友ちゃんにいったん背中を向ける久住くん。

『11日、亀井様と会うことが決まりました』
290 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:31
「亀井?誰だっけ、それ」
『ボスの結婚相手です』
「…WAO」
『WAOじゃありません、ボス』
「会うって、まさか2人だけじゃないよね?」
『もちろん会長と奥様も同席されるそうです』
「それはそれで面倒なことになりそうだね」
久住くんは顔をしかめて、頭をかく。

『実は、亀井様のことで、ちょっと気になることがあって』
「なになに」
『亀井様にはどうやら、交際している男性がいらっしゃるようで』
「それは…やっかいだね」
『詳しいことはメールで送らせていただきます』

はいはい、と返事して、久住くんは電話を切る。
ケータイをポケットに仕舞って、くるりと振り返る。

「ねぇ、今からどっか遊びに行かない?」
友ちゃんの髪を撫でながら、甘い声で囁く久住くん。
こくりとうなずいた彼女をハグして、彼女の見えないところでニヤリとした。
291 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:31


*****



292 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:31
何かが起こっているんだけど、それが何かわからない。
愛ちゃんはなんだかモヤモヤした霧の中にいるような、
そんなすっきりしない毎日を送っていた。

「はぁ」

でも、どうやら悩める子羊は自分だけではないらしい。
なぜか深いため息をついた絵里ちゃんを見つめて、
愛ちゃんは怪しむような表情になる。

この子は今朝いきなりメールしてきて、お昼にハンバーグを
食べに行こうと誘ってきたのだ。ガキさんはどうしたのかと聞けば、
向こうは今日ずっと授業で忙しいそうで。

「はぁ」

指輪のついた右手で頬杖ついて、絵里ちゃんはまたため息をつく。
注文したハンバーグセットが出てくるのが遅いからではない。
たぶん、彼女はガキさん絡みのことで、何かあったのだろう。
293 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:32
「ガキさんとまたケンカしたの?」

どうせそうだろう、と愛ちゃんは尋ねてみる。
すると絵里ちゃんがじっと目を見つめてくる。

「ねぇ、愛ちゃん」
「なに」
「吉澤さんのケータイの中身とか、こっそり見たことある?」

まさか。愛ちゃんは大きな瞳を丸くする。
絵里ちゃんはとても深刻な顔で、愛ちゃんを見つめている。

「ないけど…もしかして」

小さくうなずく絵里ちゃん。

「アチャー。そういうのはさ、バレないようにしないと」
「あっ、バレてはないの。バレては。ただ、勝手に見ちゃっただけで」

絵里ちゃんが凹んでる原因は、ガキさんのケータイの中身にあるらしい。
まあ、カレシのケータイを見て凹む理由なんて、だいたい相場は決まっている。
294 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:32
「ガキさんのことは信じてるんだけど、本当に心から信じてるんだけど、
やっぱちょっとだけ心配な気持ちがずっと絵里の中にあってさ。
なんかホント、好きすぎるんだよね。絵里。頭おかしいくらい」

ふにゃふにゃ笑いながら、絵里ちゃんは頭をかいている。
愛ちゃんはちっとも笑えない。難しい顔で、黙っている。

「安倍さんっていう、人がいてね。その人、ガキさん家の事務所で働いてる、
女の弁護士さんで、最近、いろいろ相談に乗ってもらってるらしいの。
司法試験のこととか、将来のこと、安倍さんは大人で頼りになるんだよって。
ガキさんがそんな風に言う女の人、安倍さんが初めてで、絵里…」

まるでこの世の終わりみたいな、暗い表情になる絵里ちゃん。
安倍さんという人への嫉妬で狂ってしまいそうな気持ちを、
必死で抑えている、そういう感じだった。

「なんかこのままじゃガキさんのこととられちゃいそうな気がして、
見ちゃいけないのわかってて、勝手に見ちゃったの。ガキさんのケータイ」

絵里ちゃんは、うつむく。
295 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:32
「見なきゃよかった」

そう小さな声で呟いて、また顔を上げた。

「バカだよね。後悔するくらいなら最初から見るなって感じ」

うへへ、と彼女は笑っているけれど、やっぱり笑えない愛ちゃん。
無理してるのがバレバレで痛々しかった。


その日の夜。愛ちゃんの暮らす高級マンション。

「ただいま!」
「おかえり」

飲みに行ってた吉澤さんが帰ってきたので、愛ちゃんは玄関で出迎える。
手ぶらの吉澤さんから受け取る荷物もなく、彼女はただ突っ立っている。

「今日は金曜か。金曜のドラマって何だっけ」
靴を脱ぎつつ吉澤さんが尋ねてくる。

「未来講師めぐる」
「そうだ!それそれ」
とか言いながら、先に部屋の中へ進んでいく吉澤さん。
そして「深キョン見なきゃ今週終われない」とかわけのわからないことを
言いながら、リビングにあるテレビのスイッチを入れた。
296 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:32
愛ちゃんは、ソファに座った彼の横に、ちょこんと座る。
うーん。パッと見、何も変化ないんだけどな。
テレビを見ている彼の横顔を観察して、愛ちゃんは首をひねる。

「ねぇ、10日のこと聞いた?」
「…10日のこと?」

ぎくりとしたような顔になった吉澤さんに、愛ちゃんも驚く。
ありゃ。無意識に当たりを引き当てちゃった?

「パーティ会場、豪華客船らしいよ」
「あ、あぁ。知ってるよ」
「何そんな焦ってんの?」
「べつに焦ってないよ」
「いま絶対焦った」
「焦ってないよ。焦ってない」

愛ちゃんは、吉澤さんから急に抱きしめられる。
「ドラマ始まるよ?」
「もう、いいや」
「深キョンは?」
首筋にキスされながら、やっぱりなんかおかしいと思う。
思うけど愛ちゃんは黙って抱かれた。ソファでしっかりと、抱かれた。

知らないところで、何かが起こっている。
愛ちゃんの気持ちはますます強くなった。
297 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:33


*****



298 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:33
そして2日後。2月10日の亀井家。

「絵里お嬢様。お車の準備ができました」

これからKBM主催のパーティへおでかけする
絵里ちゃんの、お部屋の扉を開けたのは青山さんだった。

「絵里お嬢様?」

でも、彼女の返事はなくて、青山さんは首をかしげる。
失礼します、と言って、ゆっくり部屋の中へ入ってゆく。

綺麗なドレス姿の絵里ちゃんが、ソファでボーっとしていた。
まさか宇宙と交信中?青山さんは思わず天井を見上げる。
すると彼女が青山さんに気づく。

「青山さん?」
「ああっ、すみません!返事がなかったので入ってきてしまいました」
「どうしたんですか?」
「お車の用意ができました」
そう言うと、彼女は静かに立ち上がった。
なんとなく彼女は元気がない。
思い当たる節がありすぎる青山さんは、無表情で彼女を見ている。
299 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:33
「吉澤さんは?」
「それが急に体調を崩したみたいで、パーティも欠席なさるそうです」
「風邪、ですか?」
「いえ、詳しくは私もよくわからないんですが」
「そうですか…」

それから、車に乗り込んだ絵里ちゃん。
バッグから携帯電話を取り出す。そして電話をかける。

「もしもし愛ちゃん?」
『おお、絵里。どした』
「吉澤さん具合悪いんだってね。大丈夫なの?」
『うーん。朝からずっとお腹痛いって言ってたんだよ。最初は無理して
絵里ん家戻るとか言ってたけど、今は薬飲んで寝てる』
「今日のパーティ、愛ちゃんは来れる?」
『どうしよっかなぁ。行きたいんだけど、吉澤さんがあぁだから…』


数十分後。湾田港に接岸している豪華客船『レボリューション号』前。

車から降りた絵里ちゃんは、大きな船を見上げて、小さくため息をつく。
彼女の両親は一足先に到着していた。
300 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:34

船内はまるで高級ホテルのように綺麗だった。
パーティが行われるのは7階のメインラウンジで、
他のフロアにはレストランやバー、小さな映画館にカジノ、プールまであるらしい。

絵里ちゃんとその両親は、パーティ会場にたどり着く。
すでにたくさんの招待客で賑わっていた。

「亀井さん!」
「おお、久住さん。本日はお招きいただきありがとうございます」
「お忙しい中よくいらっしゃいました」

会場に入ると、お父様と、知らないおじさんが握手をしていた。
お招きいただき、ということは、この人が主催者?
絵里ちゃんは、やけに陽気なおじさんを観察する。
若々しいしオシャレだし、まさにちょい悪オヤジみたいな。

お父様は、絵里ちゃんの肩を抱き、「長女の絵里です」と言った。
絵里ちゃんはよそ行き用の笑顔で、会釈をする。

「KBMの会長をやっております、久住といいます」

おじさんは笑顔で挨拶した。この人があのKBMの。
絵里ちゃんは「はじめまして」と返す。
「どうぞ楽しんでいってください」
「ありがとうございます」2人はしっかりと握手を交わした。
301 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:34
「久住さんのお坊ちゃんは」
絵里ちゃんの父親が尋ねる。
「あれ。さっきまで私のそばにおったんですがね。どこ行ったんだ」
そう言いながら、久住さんは周りの部下たちを見る。
しかし、みんな首をかしげていた。肩をすくめた彼は、
「あいつは本当にやんちゃな子供でね。すぐ勝手な行動をする。
自由すぎて参りますよ」HAHAHAと、明るく笑っていた。


今日絵里ちゃんの隣には、ガキさんも、愛ちゃんも吉澤さんもいない。
(両親はいるんだけど)ひとりぼっちの寂しいパーティだった。

やっぱり近づいてくる、しつこいお坊ちゃまたちにはうんざり。
セレブ自慢をしてくる派手なお嬢様たちにもうんざり。
早くお家に帰りたい。帰りたい帰りたい。何度も胸の中で呟いていた。

お父様たちが偉い人たちの相手で忙しそうな姿を、
絵里ちゃんは少し離れた場所から退屈そうに眺めている。
ボーっと周りを見渡すと、みんな楽しそうに談笑している。
あんな風に楽しめたらいいけど、全然楽しめないや。

「ヒマそうですね」

突然そう声をかけてきたのは、初めて見かける、同年代の男の子だった。
イケメンだったけど(またか)って感じで、絵里ちゃんは作り笑いを浮かべる。
302 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:34
初対面だというのに、人懐こく無邪気に笑っている男の子。
スーツのポケットの中から四角い小さな箱を取り出して、
絵里ちゃんに差し出す。

「はい。プレゼントです」
「はぁ」
「どうぞどうぞ」
強引な態度に負けて、彼女はその箱を受け取る。
まさか初対面でこんな(アクセサリーみたいな?)ものを
プレゼントされるなんて…参っちゃうな。とか思う。

「開けてみてください」
「……」

もちろん何かがビヨーンと飛び出してくるわけもなく…

「キャッ!」

って本当に飛び出してきて、絵里ちゃんはあっと驚いた。
男の子は大爆笑しながら、床に落ちている、長細い変な人形を拾っている。

「もぉ、これ、何なんですか?」
「ヒマつぶしですよ。ヒマつぶし」

可愛くない人形を絵里ちゃんに見せて、ニコッと笑う男の子。
彼女は怪しむような表情をしながら、小さな箱を彼につき返した。
303 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:35
「あげますよ?」
「いりませんよ。こんなもの」
「そんなこと言わないでもらってくださいよ」

彼は、箱の中に人形を戻して、ふたを閉めた。
それを無理やり絵里ちゃんの手に握らせる。

「でも、一瞬で終わっちゃうヒマつぶしでしたね」

と言った男の子は、絵里ちゃんの腕をくいっと引っ張る。

「もうちょっとヒマつぶししちゃいましょうか?」
「うえっ?ちょっ」

わけもわからず、絵里ちゃんはパーティ会場のある7階から、
誰も居ない10階へ連れて行かれる。

「なんと!ここから外に出れちゃうんです!」

ジャジャーン!
男の子はハイテンションでそう言って、勢い良く扉を開けた。
絵里ちゃんは彼の後に続いて、広々としたデッキに出る。
寒っ!何よりもまずそんな感想を抱いた。
304 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:35
「ほら!素敵な夜景、独り占めですよ!」

両腕を広げてグルグル回りながら、彼は満面の笑顔。
見た目からは想像できないほど子供っぽい姿に、
絵里ちゃんは自然と目を細めてしまう。

「あ、でも今はあなたと一緒だから、二人占めですね」

そう言って、男の子の表情は急に大人っぽくなる。
ちょっと面白い人かもしれない、とか思ったりしてしまう絵里ちゃん。

「でも寒い!寒すぎる!」

でも彼はまた子供みたいに叫んで、ジャケットを脱いだ。
それをスマートな仕草で絵里ちゃんに羽織らせる。

「あっ、あの…」
「風邪ひいちゃ困りますからね!」
「いいんですか?」
正直この上着をもう手放したくないけど、絵里ちゃんは尋ねた。
男の子はただニコッと笑うだけで、何も言わなかった。
305 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:35

「ホント、きれい」

彼がさっき言ったとおり、確かに夜景がすっごい綺麗だった。
横浜にあるあのホテルのスイートルームから見る夜景も
最高だけど、この船から眺める景色もまた格別だ。

「良いヒマつぶしになりましたか?」
「えぇ、とっても」
「よかった。喜んでもらえて」
「そういえば…初めてお会いしますよね?」
「そうですね。はじめまして」
「はじめまして」なぜか彼と握手を交わす絵里ちゃん。

「ぼくは、久住小春です」
「えっ。久住って…もしかして」
「はい、ぼくの父はKBMの会長です」
「あなたは、人をビックリさせるのが本当に好きなんですね」

絵里ちゃんの言葉に、久住くんはHAHAHAと明るく笑った。

「わたしは」「亀井さん、ですよね」
彼女が全部言う前に、久住くんは言う。
「なんで知ってるんですか?」
「有名ですよ?亀井さんはすごい美人で可愛いって」
「そういう冗談は結構ですけど」
可愛くない返事をした彼女を見て、楽しそうな久住くん。
306 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:35
「あなたのフルネームは亀井絵里。1988年12月23日生まれの大学1年生。
そして、『ピースカンパニー』っていう会社の社長令嬢。ですよね?」
「どうして」
「実は、ぼく、エスパーなんです。こうやって、目を見るだけでぜーんぶ
わかっちゃうんですよ」

久住くんは顔を近づけて、絵里ちゃんの瞳の奥をじっと見つめる。
彼女はぽけーっとした顔で久住くんを見上げている。

「あ。もう1個、わかりました」
「え?」
「あなたには恋人がいますね?」
「…ホントに?」
「エスパーですから」
無邪気に笑って、久住くんはわざとらしくポーズを作る。
それを見て、クスッと笑う絵里ちゃん。
「変な人」
「え?ぼくが?亀井さんのほうが変わってますよ」
「どうして?」
「だって、目の前にこんなイイ男がいるのに、キスの1つもしてこないから」
久住くんの勘違い発言に、絵里ちゃんはケタケタ笑いだす。
307 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:36
「失礼ですね。亀井さん。ここは、そうですねって言って
ぼくにキスしてくる場面でしょ」
「だってイイ男とか自分で言うからぁ」
「いけませんか?」
「いえ、すっごいイイ男だと思いますよ?」
「え!ホントに?!」
「しゃべらなかったら、ですけどね」
「ちょ!バカにしないでくださいよ!」

さっきからずっと頬が緩みっぱなしの絵里ちゃんは言う。
「あなたの性格は、きっとお父様譲りですね」
「そうですか?」
「えぇ。笑った顔も、よく似てると思いますよ?」
そう言われて、意外そうな反応の久住くんは、
ヘックシュン!と大きなくしゃみをした。

さすがにそろそろ寒さが限界なので、2人は戻ることにする。
7階までは階段。久住くんはさっと絵里ちゃんへ手を差し出す。
「え?」と首をかしげた彼女に、「手」と言う。

何のことか察した彼女が、ふにゃりと笑って、その手をとった。
「子供なのに、ジェントルマンなんですね」
「当然ですよ」
「…意外」
「さっきからちょこっと失礼なんですけど!」
なんて言って笑い合いながら、久住くんのエスコートで2人は階段を下る。
308 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:36
その途中、鼻水をすすりながら久住くんは言う。
「本当に、ぼくはラッキーだなぁ」
「へ?」
「日本に来てたった1週間で、こんなに素敵な女性とめぐりあえるなんて」
「もぉ、何回冗談を言ったら気がすむんですか?」
「冗談じゃないですよ。本当です。亀井さんは、可愛すぎますね」
「そんな、口説いたって無駄ですよ?わたし、カレシいるんだから」
「そうですね。亀井さんと1回キスしてあきらめることにします」
「は?」

階段の途中で立ち止まり、久住くんは素早く絵里ちゃんの唇を奪おうとする。
でも、とっさに彼女が避けたので、それは未遂に終わる。

「やっぱり、キスするのはカレシだけですか」
「当たり前でしょ」
「アメリカじゃ挨拶なのに」
「ここは日本です」
「そうでした」

パーティ会場の様子は、さっきと全く変わりがなかった。

絵里ちゃんがハッとして羽織っていたジャケットを脱ぐ。
「そういえば、これ、ありがとうございました」
309 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:36
「よかった。もう返してもらえないかと思いました」
「もぉ、そっちこそ失礼じゃない?」

久住くんは微笑んで、絵里ちゃんからジャケットを受け取る。
そして、かっこよくそれを羽織る。

「ヒマつぶし、楽しかったです。ありがとうございました」
「こちらこそ」
「それじゃあ、失礼します」

礼儀正しく挨拶して、絵里ちゃんが去ろうとする。
久住くんは、そんな彼女の背中に「亀井さん」と言う。
彼女が振り返って、
やけに真面目な表情の久住くんを見て、首をかしげる。

「どうしたんですか?」
「いや。ちょっと呼んでみただけです」
ヘラヘラしだした久住くんに、彼女は呆れたように笑った。

310 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:36


ひとりになった久住くんの元に、クリストファーが近づいてくる。

「どうでしたか?亀井様は」
「うん。可愛かった」
「明日、会うことは」
「言ってない。というか、あの人まだ何にも知らないかもしれない。
恋人がいるのに、カワイソウだね」


311 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:37

つづく


312 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/12(月) 23:38

ノリo`ゥ´リ<近日、幻板にて「エスパー小春」連載スタート! ※もちろんウソです
从*^ー^)<あっちこっちぬっちしまくりですよ?


313 名前:(0´〜`)人(’ー’*川 投稿日:2009/01/12(月) 23:39

>>269さん
ありがとうございます
これからもよろしくお願いします
ダジャレ寒いとか言われなくてよかったです

>>270さん
ありがとうございます
今後の展開は私も書くの楽しみです

>>271 やじももヲタさん
久住くんと矢島くんのイケメン対決!!!
忘れないようにメモっときます

>>272 重ピン
ありがとうございます
ガキカメはあんまり安心できないかもしれません
ブルジョアっていう言葉の響きいいですね
学校のシーンも書けるだけ書きたいですね

>>273さん
( ・e・)<うらやましいだろ!ヘヘン
314 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/13(火) 12:39
久住君がかっこよすぎます
315 名前:あねご 投稿日:2009/01/13(火) 21:09
>>284
下6行の矢島きゅんカッコよすぎる…
あの爽やかな笑顔でこんなこと言われたら世の女子は一溜まりもありませんねw
316 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/14(水) 00:01
(0´〜`)<お嬢様がぁぁあぁ……
317 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/15(木) 02:31
>>304の久住くんとかかっこよすぎるわ
そらモテるわ
318 名前:(0´〜`)人(’ー’*川 投稿日:2009/01/25(日) 22:42
>>314さん
そう言われるとさらにかっこつけて書きたくなりますね
これからもそう言ってもらえるようにがんばります

>>315 アネゴ
矢島キュンも久住くんに負けず劣らず超イケメンですからね!
いちおう、矢島キュンの通うハロ高には”矢島ファンクラブ”があるという
設定にしています

>>316さん
果たして!吉澤さんはお嬢様を救うことができるのか!
そのへんも注目して読んでいただきたいと存じます

>>317さん
女性に対してすごく優しい人っていうのはポイント高いですよね
モテる男はやっぱりレディーファーストでジェントルマンだと思います
319 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:42



320 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:42



321 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:43

豪華客船にて絵里ちゃんが謎のエスパーと遭遇したのと同じころ。
愛ちゃんの部屋では、大きな子供がずっと布団の中にこもっていた。

「……」

寝室のベッドの上の、盛り上がっているところを、愛ちゃんは見つめている。
そこには彼女の恋人が寝ている。今朝、急に体調不良を訴えてきて、
そのために今日の予定は全部キャンセルすることになった。

どうも、おかしい。何がおかしいって、こいつ、ずっと布団の中にいる。
お腹が痛いって言ってたのに、全然トイレに行ってない。
朝に薬を飲む前、ていうか昨夜ベッドに入ったときから1度も行ってないはずだ。
もう夜になった。でも、まだベッドから出てこない。おかしい。おかしすぎる。
愛ちゃんは腕を組みながら、恋人が出てくるのをじっと待っている。

いい加減、姿を現すだろう。と思っていたそのときだった。
布団がファサァっと舞い上がって、吉澤さんが起き上がった。
ベッドの上に立って、小さな愛ちゃんを見下ろす。
322 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:43
「お腹、よくなった?」
「愛」
「なに?」
全然、病人の顔をしていない吉澤さん。真剣な表情で愛ちゃんを見つめている。

「ウソついてごめん!」

そう叫んで、吉澤さんがいきなりベッドの上で土下座した。
正直この状況をまったく掴めない愛ちゃん。吉澤さんの前に正座する。

「ウソってどういうこと?」
「……」
吉澤さんは顔を上げない。愛ちゃんは、彼の頭を撫でる。
「ねぇ、ひーちゃん。ちゃんと話して」
「…今日、パーティには来るなって言われた」
突然の告白に、愛ちゃんは息をのむ。

「言われたって、誰に?」
「旦那様に」
「なんで?」
「それはたぶん…邪魔、だから」
323 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:43

何かが起こっている。その予感は的中してしまった。
愛ちゃんはなんかどんどん怖くなってきて、土下座したままの
吉澤さんの身体を無理やり起こす。

「邪魔って、どういうこと?」
「絵里お嬢様、結婚するんだ」
「……」
「かわいそすぎるよ…お嬢様もガキさんも…かわいそすぎる」

吉澤さんは愛ちゃんを強く抱きしめて、しくしく泣き始めた。
大の大人の男がみっともない。だけど、吉澤さんは泣いていた。
愛ちゃんは、放心状態で彼を抱きとめていた。


324 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:44


豪華客船から出てきた絵里ちゃんは、ふと視線を上げる。
さっき、久住くんという男の子と夜景を見た、デッキを見つめる。

そして、彼女はバッグの中から小さな四角い箱を取り出す。
思い出し笑いをして、またその箱を仕舞う。

お家まで帰る途中の、車の中。ガキさんと電話をする。

「今日、意外と楽しかったよ」
『何が楽しかった?』
「んとねぇ、絵里ねぇ、エスパーと知り合いになったよ」
『エスパー?』
うふふ。絵里ちゃんはまた思い出し笑いした。
「なんかね、目を見たらぜんぶわかっちゃうんだってさ。
でね、その人、初めて会ったのに絵里の誕生日とか知ってたの」
『それ、ただ口説かれてるだけなんじゃないの?』
「口説かれてるっぽかったけどぉ。絵里、ちゃんとカレシいるって
言ったし。ていうか、全然本気じゃなさそうだったし」
『そう?』
「そう。その人、イケメンだったし絶対カノジョとかいそう」
『…イケメンねぇ』
「あぁ、明日も会えないんだね。つまんないね」
『ね。でも来週は鹿児島行くじゃん。それまでの辛抱だよ』
「うん」

まだ何も知らない2人は、いつものように楽しくおしゃべりした。


325 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:44


「小春」

まだ『レボリューション号』の、パーティ会場の中。フラッと戻ってきて、
残った料理をつまんでいた久住くんのところに、ダディがやってきた。

「なーに?」
「どこ行ってたんだ。ずっと探してたんだぞ」
「退屈だったから船の中探検してた。この船、プールもあるんだね。
個室もホテルみたいだったし、ビリヤードする場所があったら最高」
「今日、きみの結婚相手を紹介するつもりだったんだが」
「亀井さんでしょ?会ったよ」
あっけらかんと言って、久住くんはエビチリを食べる。
ダディは珍しく真面目な顔で、息子を見つめている。

「本当にきみは、勝手な行動ばかりしてくれる」
「どうしたの。そんな怖い顔して」
「亀井さんはどんなお嬢さんだった?」
「可愛かったよ。優しかったし、きっといい奥さんになってくれるんじゃない?」
「そうか。それはよかった」
「ねぇ、なんで相手を亀井さんにしたの?あの人、恋人がいるらしいのに」
久住くんはナプキンで手を拭って、ダディと向かい合う。
326 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:44
「ぼくなんかと結婚するために、恋人と別れてもらうなんて、カワイソウだと思うな」
「恋人を作ったことがないきみに、彼女の気持ちがわかるのか?」
「わかるよ。それくらい」
「それくらい、か」ダディは笑った。
「本当に結婚したくないのなら、もっと説得力のあるセリフを考えてきなさい」

息子にそう忠告して、ダディは去って行った。
久住くんは眉間にシワを寄せて、難しい顔になる。

「クリス」

物陰に隠れていたクリストファーが、ひょこっと姿を現す。

「いまのセリフ、聞いたよね」
「はい」
「”結婚したくないのなら”…」

さっきのダディみたいに、久住くんはにやりとした。
そして、近くのテーブルにあったパイナップルを、パクッと食べた。


327 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:45


328 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:45


「井上さん?」

自宅に着いた絵里ちゃんは、玄関でパタッと立ち止まる。
なぜかお父様の秘書が待ち構えていたからだ。

「どうされたんですか?」
「お嬢様。明日の予定のことで少しお話があるのですが」
「明日?」
「社長の部屋まで、よろしいでしょうか」

よくわからないけど、井上さんについていく絵里ちゃん。
でも、何も思わないわけがない。なんとなく、嫌な予感はしている。

お父様の部屋には、お母様もいて、重たい空気が流れていた。
絵里ちゃんはお父様たちの向かいにあるソファに座る。

「明日の話って?」

お父様は腕組みをして、怖い顔で黙っている。
見かねたお母様が「お父さん」と言う。すると、彼が口を開く。
「明日は、着物を着なさい」
「へ?」アホっぽい顔になる絵里ちゃん。
「着物って、明日は誰かのコンサートじゃなかったの?着物でいいの?」
「お父さん、ちゃんと言わなきゃ」
「わかってる」
329 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:45
ん?絵里ちゃんは首をかしげて父親を見つめる。
まだ怖い顔をしている彼は、何かを躊躇っている。
何かを言葉にするのを、迷っている。
アホだの何だの言われる絵里ちゃんでも、それはわかった。

「お父さん?」
「明日、コンサートには行かない」
「え?」
「その代わりに、会って欲しい人がいる」
「会って欲しい人?誰?」
「今日会ったKBMの久住会長の、息子さんだ」

えっ。思いがけない人物の名が出てきて、絵里ちゃんは口をぽかんと開ける。
久住さんの息子さんって、つまりあの、今日出会ったあの変な人?

「おまえには、2年後、その人と結婚をしてもらいたい」
「はぁっ?!何?冗談でしょ!?」
「これはお父さんからの一生のお願いだ」
「……」
「頼む」

父親から頭を下げられて、いったい何が何やら状態の絵里ちゃん。
だけど確実にどんどん頭に血がのぼってきて、そして、バッと立ち上がる。
330 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:46
「そういう話は全部断ってって!絵里はガキさんとしか結婚する
気ないって!前に言ったじゃん!なんで勝手にそういうことするの?!
一生のお願いとか言われても絵里は絶対に無理!ムリムリムリ!!」

近年稀に見るほどの大声で、絵里ちゃんは怒り狂う。
ハァハァいいながらお父様を見下ろして、拳を握る。
でも、彼は全くと言っていいほど動じていない。それがまたさらに腹立つ。

「なんで…なんで絵里なの?里絵(絵里ちゃんの妹・仮名)がいるじゃん。
なんで里絵に言わないの?なんで絵里にそういうこと言うの?」
「久住さんのほうがそうご希望なさってる」
「絵里がいいって?ウソでしょ?本当は誰でもいいんでしょ?
なんで絵里なの?なんで絵里が結婚しなきゃいけないの?
お父さんのため?お父さんの会社のため?そんなの納得できないよ。
ていうかどんな理由でも納得できないし、するわけないから」

絵里ちゃんはとても強い口調で父親に言う。
彼女の表情は、普段のふにふにしている様子からは想像できない
くらい冷たかった。SMの国の女王様みたいだった。

「ガキさん以外の人と結婚なんて、絶対に無理だから」

最後にそう言い残して、絵里ちゃんは部屋を出て行く。
バタン!と派手に音を立てて、ドアを閉めた。
331 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:46
廊下に出ると、タイミング良く、彼女の携帯電話が鳴った。
着信相手は、愛ちゃんだった。
感情が高ぶったせいで、泣いてしまいそうだったのを、ぐっとこらえる。
天井を見上げながら絵里ちゃんはその電話に出る。

「もしもし」

愛ちゃんからの返事はない。
だけど、もぉ〜無言電話なんて趣味悪いぞ☆、なんていうセリフも出てこない。

「愛ちゃん?」
『絵里…』
「吉澤さんの調子はどう?よくなった?」
『結婚するってホントなの?』

目を見開いて、固まる絵里ちゃん。
愛ちゃんの唐突な質問にも驚いたけれども、
それより彼女がそのことを知っていることに、ビックリした。

頭の回転が意外と早い絵里ちゃんは、すぐに点と点が
線でピンと繋がる。
「吉澤さん、知ってたんだ」
『うん…でもずっと黙ってろって言われてたんだって。
あたし、さっき初めて知って、ビックリして、電話した』
「絵里もさっき初めて聞いたよ」
笑えない状況だけど、なぜか笑ってしまう絵里ちゃん。
332 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:47
「KBMっていう会社の、会長の息子さんと、2年後、結婚して欲しいんだってさ。
それで、実は今日、その息子さんとたまたまパーティで会ったの」
『…どんな奴だった?』
「すごい、イケメンだったよ。背が高くて、ジェントルマンで。
いいか悪いかで言えば、いい人だったよ。でもちょっと変わってるかなぁ…」
『絵里』
「なに?」
『ホントに、結婚するの?』

電話の声だけで、愛ちゃんが今どんな顔をしているかわかる絵里ちゃん。

「ねぇ、愛ちゃん。絵里、ガキさんだけは絶対に傷つけたくないって思ってるし、
他の誰を裏切っても、ガキさんのことだけは裏切らないって、決めてるの。
そんな絵里が、ガキさん以外の人と結婚すると思う?」
『思わないよ。思わないけど…』

沈黙する愛ちゃん。

「絵里、絶対に結婚しないからさ。愛ちゃんは心配しなくていいよ?」

絵里ちゃんがそう言っても、愛ちゃんはずっと黙っていた。

333 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:47


*****



334 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:48
2月11日は月曜日だったけれど、祝日でお休みだった。
試合明けの湾田高男子バスケ部は、久々の1日丸まる休日。
もちろん夏焼くんは、昼まで思いきり爆睡して、

「ちょっといつまで寝てんの!梨沙子ちゃん来たわよ!」

というお母さんのうるさい声で、目覚めた。

夏焼くんは渋い顔をしながら寝巻き姿のまま1階へ下りる。
居間を覗くと、両親と梨沙子ちゃんが和やかにおしゃべりしていた。
ハッとして廊下に引っ込む。マジかよ。いったん洗面所に逃げる。

顔を洗って、鏡を見る。寝ぐせヒドッ。ヤバッ。直らない。
ていうかダサッ。着替えるしかない。と思って2階へ戻ろうとしたら。

「あんた何食べるの?ごはん?パン?どっち?」

あばばばば。お母さんがやって来た。
「パパ、パン」
「梨沙子ちゃん待ってるんだから、早く行ってあげなさいよ。
ボケーッとしてるとお父さんにとられちゃうよ」
と脅されて、「ありえねー」とか呟きながら夏焼くんは居間へ行く。
そしたら、父親がデレデレしながら梨沙子ちゃんと話していて、
若干イラッときたりする。
335 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:48
梨沙子ちゃんが夏焼くんに気づいて微笑む。
「おはよう」
「おはよ」
「いやー、雅。梨沙子ちゃんは本当に可愛いなー。
今すぐ母さんと別れて結婚しようか。なあ梨沙子ちゃん。
あっ、梨沙子ちゃんはまだ結婚できる年じゃないか」
あはは、お父さんってばおもしろーい。
みたいな顔で梨沙子ちゃんが笑ってて、それにもちょっとイラッとくる。
勝手にやってろ。夏焼くんは朝ごはんを食べるために椅子に腰かける。

「あ、そうだ。梨沙子ちゃん。おばさんの作ったヨーグルト食べてみない?
こっち来てさ。ほら。ここ座って」

強引なお母さんは、梨沙子ちゃんを息子の隣に座らせる。
そしていつ作っていたのか、冷蔵庫から手作りヨーグルトを出してくる。
夏焼くんと梨沙子ちゃんは顔を見合わせて苦笑い。

「食べてみて。ちょっと酸っぱいかもしれないけど」
「いただきます」
器を持って、スプーンでヨーグルトをすくい、口に入れる梨沙子ちゃん。
夏焼くんは彼女を見つめている。

「あっ、おいしいです」
「あらまあ。本当に?」
336 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:48
マジでか。夏焼くんは、自分の分のヨーグルトをパクッと食べてみる。
うはっ。すっぺー。なんだこれ。と思ったけども、口には出さない。
「意外と、うまいよ」とフォローする。
もちろん彼女のために。お母さんを喜ばすためじゃない。

「ごちそうさま」

全部食べ終わった夏焼くんは、手を合わせる。
横で梨沙子ちゃんも「ごちそうさまでした」と言った。


夏焼くんと梨沙子ちゃんは2階に行く。
お部屋に入って、2人きりになる。

「みや、寝ぐせひどすぎ」
笑いながら、梨沙子ちゃんが手を伸ばして夏焼くんの髪に触れる。
「あ、写メしよ」と言って、ケータイのカメラを構える。
「しなくていいって」
カシャ。寝ぐせの写真を撮られてしまう夏焼くん。
そんなに笑って、何が楽しいんだろう。
よくわかんないな。夏焼くんは困り顔であごを撫でる。

ソファに並んで腰かけて、他愛もないおしゃべりをする。
しばらくゆっくり会えなかったから、最近あったことを色々話す。
337 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:49
「アメリカから来た転校生、どんな感じ?」
「あぁ、あいつ、日本語ペラペラなんだけどさ、やっぱなんかアメリカっぽい
っていうか、リアクションいちいちでかいし、すっげー面白いよ。イエス、とか、
カモン、とか普通に言うし」
「へぇ」
「それにさ、あいつチョー頭良いんだよね。金持ちで、イケメンで、頭も良くて、
面白いでしょ。あと性格も良いし、マジで完璧。ツグさんが言ってたんだけど、
バスケも上手いらしいんだよなー。バスケ部入ってくれないかなー」

入って欲しいなー。と夏焼くんが呟いていると、
梨沙子ちゃんはなぜか浮かない顔で俯いてしまう。

「どうした?」
「みやはやっぱり、嗣永先輩の味方なんだね」

ころっと話題が変わって、夏焼くんは面食らう。

「いや、味方っていうか…」
「味方じゃん。愛理のこと、全然応援してない」
「応援してるよ。でもさぁ」
「何?」彼女が顔を上げた。ちょっとひるんでしまう夏焼くん。
338 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:49
「ほら。応援してない」
「してるよ。ていうかなんで怒ってるの?」
「怒ってない」
「怒ってんじゃん」
「怒ってない」
「怒ってるよ」
「怒ってない」
「あー、もう。しょうがないじゃん…矢島先輩はツグさんと付き合ってるんだしさ。
愛理ちゃんのために別れて欲しいなんて思わない。っていうか、思えないよ。
梨沙子だって、先輩たちを別れさそうとか、そこまでは思わないでしょ?」
「思っちゃ悪いの?」
「いやいやいや。梨沙子。もし梨沙子がさ、誰かに、おれと別れてください
って言われたら嫌じゃないの?」
「…嫌。ありえない」
「でしょ?」
「…」
近くのクッションを掴んで、梨沙子ちゃんはいきなり夏焼くんに投げつける。
ぐはっ。それはみごと夏焼くんの顔面にクリーンヒット。
ノックダウンした夏焼くんは、わけわかんない行動をした彼女に
ちょっとムカついたので寝転んだまま動かないことにする。

無理だよ。うまくいく可能性なんて0%だよ。
夏焼くんはずっとそうハッキリ言ってやりたかった。
でも、それじゃあまりにもかわいそうかなと思って黙ってきたのだ。
339 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:49
たぶん、彼女もいい加減気づいていると思う。
ラブラブな矢島先輩と桃子ちゃんの間に、割って入る隙間はまったくない。
別れさせようなんて絶対に無理だと、わかっているはずなのだ。

告白しても、愛理ちゃんは100%フラれちゃうんだよ。
間違いないんだよ。パッパラパーのバカだけど、夏焼くんは確信していた。

無言の梨沙子ちゃんは、夏焼くんをじっとにらんでいる。
まだ認めないか。むくっと起き上がる夏焼くん。

「矢島先輩のことは、もうあきらめたほうがいい。
あきらめて、違う人好きになったほうがいい。
梨沙子だってそう思ってるでしょ?」

言ってしまった。とうとう言ってしまった。
だけど夏焼くんは視線を逸らさずに、まっすぐ梨沙子ちゃんを見つめる。

彼女は何も答えずに、俯いてしまう。
やけに嫌な雰囲気だけが、その場に残った。

340 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:49


*****



341 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:50
今日は祝日だけれど、ガキさんは1人でお家にいた。
真面目に机に向かって、六法全書を読んでいた。

コンコン、とお部屋のドアがノックされる。

「坊ちゃん。旦那様がお呼びですよ」
「え?」
「応接間でお待ちですので」

こんな日にお父さんがお家にいるなんて、意外なガキさん。
家政婦さんに言われた通り、応接間に向かう。

「失礼します」と言いながら、その部屋の扉を開けると、
父親の他に、もう1人いて、ガキさんは驚く。
しかも、その人はこないだのパーティで見かけた、
アメリカにあるKBMという大きな会社の、会長さんだった。
342 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:50
「こんにちは。豆彦くん」

誰からも、父親からもファーストネームでめったに呼ばれないので、
ガキさんは一瞬ドキッとしながら「こんにちは」と返す。
普段あまりにも下の名前で呼ばれないものだから、自分には名前が
ないのかもしれない、と思うことも少なくないけれど、
やっぱり自分の名前は豆彦なのだ。と実感する。

お父さんが「座りなさい」と静かに言った。
ガキさんは、彼の隣の空いていた席に腰かける。
そして、妙にニコニコしている会長さんから、見つめられる。

「ぼくに、何か」
「……」
なぜか、お父さんは黙り込んだ。しかもちょっと怖い顔で。
怒られる?でも怒られるようなことは何もしてないぞ?と思う。
ていうかどうして会長さんがここに?わけわかんない。
343 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:50
「実は、豆彦くんに1つ、お願いしたいことがあるんです」

と言いながら片手でピースしている会長さん。
すごい偉い人らしいけど、若造のガキさん相手でも敬語だし、
全然そんな風に見えない。

「お願い、ですか?」
「ええ。お願いです」
さわやかに微笑んだ会長さんを見つめるガキさん。

「いきなりで申し訳ないのですが」
「はい」
「亀井絵里さんと、2年以内に別れてくれませんか?」
「……は?」

首をかしげたガキさんは、ちょっとアホっぽい顔になる。

いい、いきなり、ななな、何を言い出すんだこの人は。
まままま、まさかこれが噂のアメリカンジョーク?ハハハハハ。
とりあえず笑っておく。というか笑うしかない。
344 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:51
「絵里さんは、2年後、私の下の息子と結婚することになりました」
「うえっ?!」

けけけけ、ケツコン????!?!!?!!!?!!!

久住会長突然の報告に、ガキさんの頭の中は
!マークと?マークだらけになってしまう。

「今すぐにとは言いません。2年以内に、頃合を見計らって」
「ここ、こ、頃合を見計らってと言われましても…」

会長さんはニコニコしていて、とても本気とは思えない。
でも、隣の父親の微妙な表情を見たガキさんは、
ひょっとしてこれは、ひょっとしちゃうのかもしれない、と思う。
父親の口から、ギャグなんて、生まれてきてから今まで、
まったく一度も聞いたことがないからである。

「カメは…彼女はその、結婚のこと、知ってるんですか?」

動揺しまくりのガキさんだが、一番気になることを聞く。
345 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:51
「はい」

会長さんは、即答した。

ガキさんの脳裏には、昨夜電話してきた絵里ちゃんの様子が
ブワーっと浮かび始める。

『今日、意外と楽しかったよ』

『口説かれてるっぽかったけどぉ。
絵里、ちゃんとカレシいるって言ったし』

うへへ。彼女のへなちょこな笑い声もすぐに思い出せる。
ちょっとお疲れの様子だったけれども、そんな、結婚が決まった
だなんていう重要なこと、彼女が隠すはずない。
彼女のことを心から信じているガキさん。
微笑んでいる久住会長をにらむ勢いで見つめる。

「彼女は、結婚するって言ったんですか?」
「さぁ。どうでしょうね」
いい年してヘラヘラした態度で、会長は答える。
「実は今から、亀井さんたちに会いに行くんです」
「え」
「そこで、絵里さんと、私の息子と、結婚の話をする予定です」
「……」
346 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:51
コンサート。ナントカっていうピアニストの、コンサート。
ガキさんは絵里ちゃんの今日の予定をハッと思い出す。
まさか、彼女がウソを?んなわけない。ありえない。
だけどガキさんの眉間にはどんどん嫌なシワが増えてくる。

「おっと、もうこんな時間」

いかにも高そうな腕時計を、わざとらしく一瞥した会長さんは、
ソファから立ち上がって、
「それでは私はそろそろ失礼させていただきます。お邪魔致しました」

彼がガキさんたちに向かって頭を下げる。
呆然としているガキさんの、横に座っているお父さんは、
とても神妙な面持ちで立ち上がって、きちんとおじぎをした。

お父さんと久住会長が部屋から出て行く。
ガキさんは座ったまま彼らの背中を眺めているだけだった。
347 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:52
「あ、豆彦くん」

出で行ったと思った会長が、再び戻ってくる。
HAHAHAと笑いながら、人差し指を立てる。

「いちばん肝心な、きみの答えを聞き忘れていました」
「……」
「絵里さんと別れてくれますよね?」

なるほど。だからいつもニコニコしてるのか。
ガキさんは急に真剣な表情になった会長の顔を見つめる。
このギャップで、相手を黙らせるのか。
まだまだ未熟なガキさんは、悔しいけど圧倒されてしまう。
内心、この人には勝てそうにないとか弱気なことを思ったりする。
348 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:52
「いや、別れませんよ。絶対に」

だけど、負けちゃいられない。
ガキさんには、どんなことがあっても譲れない気持ちと、
大切にしたい人が居るのだ。
こんな激しい突風なんかで簡単にポキッと折れない、
強い心を持ち続けていたいと思っているのだ。

ガキさんの答えを聞いた久住会長は、引き締まった表情を
また緩めて、HAHAHAと明るく笑い飛ばした。

「この、私のお願いを断るなんて、まるでうちの息子、下の、
絵里さんと2年後結婚する息子みたいですね」
「だから、結婚しませんから。彼女も、絶対に納得しないと思います」
「ほう。自信満々ですね」
「ぼくたちは、何があっても別れたりなんかしません」

断言したガキさんに会長はフッと笑う。
349 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:52
「そうですか。まあ、親不孝な息子だけにはならないように
努力して下さいね」
「え?」
「それじゃあ、私はいよいよドロンします」

バーイ。陽気に言った会長が、ようやく部屋から出て行った。

ちょっと経って、お父さんが戻ってくる。
彼を待っていたガキさんは、立ち上がって近づいていく。

「父さん」
「こんなことになって、本当に申し訳ないと思ってる」
「…カメが結婚するって、いつから」
「昨年末、突然亀井さんから知らされたんだ」
「じゃあこないだ、カメにこれからも仲良くしてくれって言ってた
ときはもう知ってたっていうこと?」

縦にうなずく、お父さん。どんどん腹が立ってくるガキさん。
350 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:52
「なんで…カメのお父さんは…」
「亀井さんも最初は反対してたんだよ。絵里ちゃんは、きみと
付き合ってるんだからって。でも、久住会長から色々交換条件を
出されて、仕方なく結婚の誘いを受けてしまった」
「…交換条件」
「内容は教えられないが、全部、あの会社絡みのことだ。
もちろん、大事なお客様である久住会長の頼みを、私が断れる
わけもない。つまり、今は絵里ちゃんが会長の次男と結婚する
という方向で順調に進んでいるということだ。きみには本当に
申し訳ないけれども、こうなった以上は、なすすべもない。
私も、亀井さんも、久住会長には絶対に逆らえないんだ」
「…」
「こんなことを言いたくはないが…。
絵里ちゃんのことはあきらめて、他にいい人を見つけなさい」


351 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:53


ウエストを帯で思いっきり締められて、絵里ちゃんは「うっ」と呟いた。
もうちょっと優しくしてよ、と着付けのおばさんをキッとにらみつける。
けど、おばさんはそんな視線にまったく気づかずに、テキパキと仕事をしていた。
周りの人たちも、淡々と自分の仕事をしている。
この衣裳部屋は気味が悪いくらい静まり返っている。

吉澤さん。帰ってきて吉澤さん。
絵里ちゃんは信頼する大好きな執事のことを思うけど、
彼は体調を崩して自宅(愛ちゃんの家だけど)で静養している。

吉澤さんがいないから、この家の中に味方がいない。
遠くでじっとこちらを見つめている青山さんを、ちらりと振り返る。
あの人も信頼してたのに、見事に今日裏切られた。
どこかへ連れていかれる前に外へ逃げようとしたら、この部屋に強制連行された。
全力を尽くして反抗したけど、たった一人じゃ無理だった。

メイクも、髪型セットも、着付けも終わった絵里ちゃんは、
青山さんや他の男たちに囲まれたまま、玄関までやってくる。
そこには父親が待っていて、また頭に血が上ってくる。

少し遅れてお母様が来て、3人は一緒の車に乗り込んだ。
車内は無言で、ものすごく気まずい雰囲気に包まれていた。
352 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:53
逃げたい。逃げるしかないんだけど、逃げられそうな気がしない。
監視している人間は無駄に多い。汚い。本当に腹が立つ。

辿りついた場所は、高級料亭だった。
だからお父様は着物にこだわったのだ。
ついでに動きにくいし、これじゃ逃げたいけど走れない。
ずる賢い父親に、イライラする。

お店の奥のほうにある、広い個室に案内される。
両親に挟まれて、ブスッとしながら絵里ちゃんは正座する。

その後すぐに、ふすまが開く。

「いやー、遅れて申し訳ない」

昨日会った陽気なおじさんが、奥さんと一緒に入ってきた。
そして、あの変な人、自称・エスパー久住くんも現れた。

亀井家と久住家はお互い向かい合って座る。
絵里ちゃんはひたすらブスッとしている。
そりゃそうだ。笑顔なんて一切見せない。見せるわけがない。
久住くんはニコニコしてるけど、そんなのシカトだ。
353 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:53
「ゆうべのドレスも素敵でしたが、着物もよくお似合いですね。
とてもお綺麗ですよ」

とおじさんから褒められても、ツンとした態度をする。
早く嫌われたほうがいい。嫌われて、結婚がナシになればいい。
そう思いながら、絵里ちゃんはずっと不機嫌そうな顔で無言だった。
ふいに久住くんと目が合っても、すぐに逸らした。

最初の話題は、久住くんのアメリカでの生活ぶりについて。
それから久住くんの知らない日本の文化について。
絵里ちゃん以外、みんなとても和やかにおしゃべりをしていた。

そんなこんなで、1時間ほどが経過したころ。

にこやかな表情のおじさんが「絵里さん」と言う。
いきなり話しかけられて、ちょっとビックリする絵里ちゃん。

「お父様からすでに聞いて、知っているとは思いますが」

笑みを絶やさずに、おじさんは続ける。
354 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:54
「絵里さんには2年後、2010年の7月に小春と結婚していただいて、
それから、小春は高校卒業後、亀井さんの『ピースカンパニー』でお世話になることに」
「Sorry?」
なぜか英語で久住くんは父親に聞き返した。父親は英語で何か答えている。
納得できない様子の久住くんは、オーバーなアクション付きで反論している。
目の前で始まったイングリッシュマシンガントークに、ポカーンとなる絵里ちゃん。
ていうかこの人まだ16歳なの?にわかには信じられない。

シャラップ!と大きな声で息子を一喝して、おじさんはオホンと咳払いをする。

「失礼。見苦しいところをお見せしてしまいました。先ほどの話の続きですが」
「まだ話は終わってないよ。ちゃんと説明してよパパ」
「説明の必要なんてないだろう。きみは私の言う通りにしていればいいんだよ」
「……」

久住くんは怖い顔で父親を睨みつけている。
あのー親子ゲンカするなら帰ってからしていただけますかー状態の絵里ちゃん。
355 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:54
「ということで、小春は、亀井さんのところに婿に出そうと思っています。
煮るなり焼くなり、お好きなようになさって構いません」

おじさんの口調はとても軽いけど、言ってる内容はちょっとおそろしい。
どこまでが本気なのかわかりにくい。彼の微笑みが逆に怖い絵里ちゃん。
「婿って…」
「ご不満ですか?」
「いやぁ…」
婿とかそれ以前に、結婚すること自体に不満だらけなんですけど。
絵里ちゃんはものすっごい苦笑いしながら、首をかしげた。

「そういえば、ここに来る前、豆彦くんと会ってちょっとお話をしてきました」
「えっ」

豆彦くんって、あぁ、ガキさんか。
自分のカレシなのに、一瞬考えてしまう絵里ちゃん。

「2年以内に、あなたと別れて欲しいとお願いしました」
「はっ?!」
356 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:54
さすがデキる男は仕事が速い。なんて感心している場合じゃない。
絵里ちゃんはおじさんをじっと見つめる。

「はい別れます、と約束をしてくれました」
「ウソ…」おじさんの言葉に、彼女はあ然となる。
「ウソですよね?」

会長が微笑んで、彼女の質問に答えようとしたそのとき、

「失礼します。会長。吉川さまからお電話です」

突然ふすまが開いた。スーツ姿のお堅いサラリーマンらしき男が
携帯電話片手に入ってきて、それをおじさんに渡した。
おじさんは「失礼」と断って、電話に出る。
仕事の話だったようで、おじさんの顔つきが一瞬で変わる。

電話を切ったおじさんは、
「申し訳ありません。急に用事ができてしまいました」
と言って、立ち上がった。黙って奥さんの肩を叩く。
357 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:54
「今日は短い時間でしたがどうもありがとうございました」
「こちらこそ。今後ともよろしくお願いいたします」
つられて立ち上がった両親に対して、立つ気にならない絵里ちゃん。

「絵里さん」
おじさんに呼びかけられて、絵里ちゃんは彼を見上げる。
彼の笑顔がやけに憎たらしくて、ついにらむようになってしまう。
「先ほど私が言ったことが本当かどうか、気になりますか?」
「…」
「もし気になって仕方ないのなら、彼に直接聞けばいい。
でも、きっと彼はこう答えるでしょう。そんな約束なんかしていない。
あなたとは絶対に別れない、とね」
「……」
「実は、私は妻と来週カナダに行きます。全ての仕事は子供たちに任せて、
そこで穏やかに余生を送ろうと思っています」
「え?」
「こう見えても、昔から身体が悪くてね。医者からはもう先は長くないと
言われてしまったのです。まったく、情けない話ですが。実際、あなたと小春の
結婚式の日まで生きられるかどうか」
358 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:55
「…ホントに?」
「私のことを、信じられませんか?」
「…」
「まあ、いいでしょう。なんでも、口にするだけなら簡単です。
私だって、口からでまかせなんていくらでも、飽きるほど言えます。
大事なのは、それがホントなのかウソなのか、それを見極める力です。
私の今言ったことがホントかウソか。豆彦くんの言うことが、ホントかウソか。
答えはあなたの中だけにある。そうじゃありませんか?」

問いかけられるけど、絵里ちゃんは何も応えない。
おじさんをじっとにらむ。でも、おじさんは余裕の微笑み。

「会長、そろそろ」
「それじゃあ、私はこれにて失礼。小春。後でまた連絡するからね」
「……」
久住くんはさっきのことを引きずっているのか完全シカトだった。

久住くんの両親が去った後、絵里ちゃんのお父さんが言う。

「絵里。おまえはまだここに残りなさい」


359 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:55


後は若いお2人で、なんていうベタなセリフはなかったけれど、
絵里ちゃんと久住くんを残して、みんな帰って行ってしまった。
2人きりにされても…状態の絵里ちゃんは、足をくずしてため息をつく。

「ああ!もう限界っ!」

すると、突然久住くんが畳みの上に倒れこんだ。
転がりながら、悶え苦しんでいる。

「亀井さん。正座ってマジヤバですねー。死にそう」

あれ。お父さんとケンカして不機嫌だったんじゃなかったの?
絵里ちゃんは不思議に思いながら、久住くんを見つめる。

「あの」
「はい?」
少し落ち着いたのか、久住くんがひょこっと身体を起こした。
360 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:56
「怒ってたんじゃないんですか?」

真剣に尋ねた絵里ちゃんを見て、久住くんがプッとふき出す。

「なに笑ってるんですか?」
「そんな。亀井さんのほうこそ怒らないでくださいよ」
「別に怒ってません」
「怖い顔しないでくださいよ。可愛い顔が、台無しですよ」
「ふざけないでください」絵里ちゃんは唇を尖らせながら言う。
久住くんは肩をすくめて、体操座りの格好になる。

「ぼく、まだ16歳なんですよ?それなのに今から結婚結婚って、
ちょっとあんまりだと思いません?」
「…あなた、ホントに16歳なんですか?」
「ハイ」
「じゃあ、高校1年生?」
「ハイ。もっと年上に見えました?」
「えぇ、わたしと同い年くらいかと思ってました」

HAHAHAと久住くんが明るく笑う。
361 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:57
「高校はどこに行ってるんですか?」
「あっ。やっとぼくに興味出てきました?」
「やっぱりいいです」
「ウソですって。湾田です。湾田高等学校」
「湾田なんですか?」
「はい」
「どうして?」
「波浪学園に行きたくなかったからです。
あ。亀井さんは確か、波浪学園出身でしたよね」
「…」
久住くんは、絵里ちゃんが訝しげな表情になったのを見て、
「エスパーですから」と笑った。

「そうだ、亀井さん。今からどこか連れてってくださいよ。
ぼく、日本に来てからまだ1回も観光してないんです」
「…」
「デートするわけじゃないんですから、行きましょうよ、亀井さん」
362 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:57
ね!決まり!と元気よく立ち上がる久住くん。
だけどまだ足の痺れが完全に治ってなかったみたいで、
アイタタタと情けない声を出している。

緊張感なんてまったくない子供っぽい彼を見て、
絵里ちゃんのイライラが急にピークに達する。
どうして着物を着てるのだろう。
どうしてこんなとこにいるのだろう。
どうしてこんなことになっちゃったのだろう。
なんだか、今の全てが嫌になってくる。

「わたしは、帰ります」


363 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:58


…と言ったはずだったのに、なぜか、
絵里ちゃんは久住くんと大きな車に乗っていた。
押しに弱い、優柔不断な自分自身も本気で嫌になる。

「別に送ってくれなくてもよかったのに」

久住くんは、不貞腐れている絵里ちゃんを見てニコニコしている。
その顔が、年齢を知った今では、とてもガキっぽく思えてくる。

「今度、ぜったい観光に連れてってくださいね」
「イヤです」
「なんで!いいじゃないですか!」
「勝手に好きなとこ行けばいいでしょ」
「そんなぁ、ひどいです」
「ひどいのはどっち?そっちでしょ?」
勝手に結婚なんて。しかもこいつが亀井家に婿入りなんて。
ありえない。マジありえない。ていうかこいつの父親がマジありえない。
ありえなさすぎる。あの笑顔。思い出すだけでムカムカする。
もう思い出したくもない。顔だってもう見たくない。

超ピリピリしている絵里ちゃんに、肩をすくめる久住くん。
おもむろにサンルーフを開けて、そこから顔を出す。
364 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:58
「あー!」

これはもう子供っぽいっていうレベルじゃない。子供そのものだ。
絵里ちゃんは呆れながら、叫んでいる久住くんを眺める。

「キモチイイー!亀井さんも一緒にどうですか?スカッとしますよ!」
「結構ですっ」

車は、亀井家の門を通り抜ける。
久住くんはお城みたいに大きなお家にテンションうえうえ。
サンルーフは閉めたけど、窓は全開で、キョロキョロしている。

「亀井さん!テニスしたい!テニスしましょう!」
「勝手にどうぞ」
「もー」テニスコートを指差していた久住くんは、唇を尖らせる。

玄関まで到着して、絵里ちゃんはハッとした。
そこに吉澤さんが待っていたのだ。
1日ぶりの元気そうな姿に、ホッと安心する。
365 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:59
久住くんが先に車から降りて「どうぞ」と言う。
絵里ちゃんは冷たく「どうも」と答えて、外に出る。

「お帰りなさい」
「ただいま」

吉澤さんと見つめ合う絵里ちゃんの横顔を見て、
久住くんはニヤッとする。

「もしかして、この人がウワサの恋人ですか?」
「だったら何?」
ぶっきらぼうに言って、絵里ちゃんは吉澤さんと腕を組む。
(ちょっと…)(いいから)2人は目配せする。

「あなたが入る隙間は、これっぽっちもないんだから」

ぴったり吉澤さんにくっ付いた絵里ちゃんはそう言い放つ。
すると、久住くんは「そうですね」と言って、HAHAHAと笑い出した。
余裕綽々の態度に、彼女はちょっとカチンとくる。
366 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:59
堂々としている久住くんは、チラリと吉澤さんの様子を窺う。
彼と3秒くらいだけにらみ合って、フッと微笑む。
それから絵里ちゃんのほうを見る。

「彼に、聞かなくていいんですか?」
「なにを?」
「ホントかウソか、確かめなくていいんですか?」
「…」
絵里ちゃんは、久住くんをにらむ。
よくわからない様子の吉澤さんは、首をかしげる。
「確かめるって?」
「あぁっ、気にしないでください。何でもありませんから」
「そうやって誤魔化しちゃって。いいんですか?亀井さん」
「いいんです!もぉ、早く帰ってくださいよ!」

はいはい、と適当に返事をして、久住くんが車の中に戻る。
クリストファーがそのドアをバタンと閉めると、
ウイーン、と窓が下がってくる。
そして、とびきりの笑みを浮かべた久住くんが現れた。

「観光の約束、忘れないでくださいね」

グバーイ。車が走り出して、どんどん小さくなってゆく。


367 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 22:59


「亀井さんって、ホントに何にも知らないんだね」

うーん、と大きく伸びをする久住くん。
助手席に座っているクリストファーに言う。

「ねぇ、クリス。さっきの男、知ってる?」
「彼は亀井家の執事です」
「シツジさんか」
「でも、あの男はただの執事ではありません」
「どういうこと?」
「これを」
クリストファーは胸ポケットから1枚の紙を取り出し、
身を乗り出してきた久住くんに渡す。

それは絵里ちゃんの周りにいる人たちの関係図だった。
今日会ったご両親に、兄1人妹1人。
ラブラブと噂の恋人・新垣さん。その両親と、妹1人。
幼いころからの友人・高橋さん。
そして彼女の恋人の…

「Mr.ヨシザワ。うん。覚えた」

久住くんは吉澤さんの顔写真をじっと見つめた。


368 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 23:00


つづく



369 名前:彼女の革命 投稿日:2009/01/25(日) 23:00


(0´〜`)<Mr.マリックみたいな呼び方するなYO…
从*^ー^) <マジシャンみたいでいいじゃないですかぁウヘヘ


370 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/26(月) 03:44
豆彦wwwwwwww
371 名前:りしゃみやヲタ 投稿日:2009/01/26(月) 04:20
久々のりしゃみやよりファーストネームが衝撃的でしたww
久住くんは未だに掴めないヤツですねぇ…ちゃんとイングリッシュもいけるじゃないか!
今後も彼の動きから目が離せないわぁ
大量更新ありがとうございましたm(_ _)m次回まで正座して舞ってます
372 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/26(月) 14:00
( ・e・)<ぼくたちは、何があっても別れたりなんかしません
373 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/26(月) 23:28
豆彦だったのかw
正直言うと今までりしゃみやの行方ばっかり気になっていましたが
一気にガキカメコハの動向が気になってきました
作者さんの筆力に脱帽です
今後も楽しみにしています
374 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/27(火) 01:23
豆彦がんばれ!
375 名前:重ピンピン 投稿日:2009/01/28(水) 00:41

更新おつです

いやぁ〜まさかまさかの展開じゃないですかぁ〜
この先どうなるんだろ?

頑張れガキさん
それと蘇れよっすぃ

カメ姫の味方は君たちにしかいないのだ
あっ!?

愛ちゃんもおったわ
ゴメン愛ちゃん

これからも楽しみにしてます

376 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/01(日) 13:37
熊井君はどうしてるんだろう。受験は大変じゃないはずだし。
桃子とのやりとりも好きだったので。

それから吉澤さんにお願いです。たまにはコンコンのお店に行ってあげて。
377 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/03(火) 03:40
>373
>374
ネタバレには気をつけてください・・・orz

久住くんはかなり引っ掻き回してくれそうですね
おバカでもかっけーヒーローな吉澤さんに期待してます!!
378 名前:(0´〜`)人(’ー’*川 投稿日:2009/02/08(日) 02:01
>>370さん
好きなだけ笑ってやってください

>>371 りしゃみやヲタさん
豆彦>>>りしゃみや なんて納得いかない!
逆になるようにりしゃみやがんばって書いてやる!
久住くんは英語しゃべれないとか言いつつ普通に会話はできちゃうんです
賢いお坊ちゃんですから
これからも注目して読んでいただきたいと存じます

>>372さん
あれ・・・おかしいな・・・そのセリフ超ウソっぽく見えるんですけど・・・

>>373さん
>一気にガキカメコハの動向が気になってきました
いちおうこの話のテーマのひとつはそこなのでうれしいです
もちろん、りしゃみやの恋の行方もですけどね!
いったいどこが軸なのか、こんがらがっていかないように
気をつけて書いていきたいと思います

>>374さん
( ・e・)<豆彦言うな

>>375 重ピン
この先の展開は私の頭の中だけにあります
とかいって
愛ちゃんって何かと忘れがちな存在ですよね
いかんいかん 忘れちゃいかん
彼女は良き脇役として活躍させたいです

>>376さん
申し訳ないです
熊井ちょーの存在はすっかり忘れかけてました
たぶんもうちょっと先で出てくるハズです
コンコンのお店は吉澤さんの行きつけですからね
書いてないだけで週一で通ってますよ

>>377さん
ネタバレレスを避けたいなら2ちゃんブラウザを導入してみてはいかがでしょう
想像以上にすっごい快適ですよ!
久住くんvsヒーローひーちゃんの超絶イケメン対決
イメージするだけでハアハアしてきますね
379 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:02



380 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:02

「ねぇ、クリス。パパの狙いって、いったい何だと思う?
亀井さんと結婚しろ、亀井さんの婿になれ、亀井さんのピースカンパニーで働け。
亀井亀井亀井って、どうしてあの家にそんなにこだわるのかなー」

後部座席に大股開きでふんぞり返った久住くんは言う。

「亀井様は、日本で5本の指に入るほどの資産家ですから」
「でも、日本のトップじゃないんでしょ?」
「トップではありませんが、3000億以上の総資産をお持ちです。
それでもじゅうぶんすごいと思われますが」
「3000億なんて、パパの何分の一?大したことないよ。どうしてこのぼくが、
その大したことない家に婿に行かなきゃいけないのさ。まったくナンセンスな
話だよね。どうせ婿になるなら、日本でトップの家の婿になりたいよね」
「日本でトップ、ですか」
「うん。そっちのほうがなんか響きがいいでしょ。響きが」

無邪気に笑った久住くんは、さっきの紙をまた広げる。
381 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:02
「この、高橋愛っていうのはどんな人?」
「湾田の大地主である高橋様の長女です」
「亀井さんと比べると、どっちのほうがすごい?」
「それは、亀井様ですね」
「じゃあ新垣豆彦は?」
「新垣様は、お父様が弁護士で、日本KBMの顧問もされています」
「あーそっか。前も聞いたね。新垣さんは、亀井さんと比べると?」
「…当然」
「パパは、勝つ戦いしかしないってわけだ」

楽しげにクスッと笑う久住くんは、クリストファーに紙を見せる。

「ねぇ、クリス。亀井さんと高橋さん、どっちが好み?」
「…」
「どっち?」
「…私はいつでもボス一筋です」

彼の答えを聞いた久住くんは満足げに笑う。
「やっぱりね」と言って、クリストファー(♂)の頬にキスをする。
それから、その紙をぐしゃっと丸めて、ぽいっと投げ捨てた。
382 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:03


*****



383 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:03

今日は久しぶりに彼女の部活がお休みで、
矢島くんは桃子ちゃんのお家に遊びに来ていた。

桃子ちゃんの部屋に飾ってあるコルクボードには、
たくさんの写真が貼ってあった。
その中に、夏焼くんとの2ショット写真もあったはずなのに、
知らない間になくなっていた。
矢島くんは不思議に思いつつ、その代わりに自分との
2ショット写真が増えているのを見つけて、うれしくなる。

「お待たせー」

桃子ちゃんがお盆にジュースとお菓子をのせて部屋に入ってきた。
矢島くんは振り返って、彼女に微笑みかける。

「ありがとう」
「ジュース、オレンジなんだけどよかった?」
テーブルにお盆を置きながら、彼女が言う。
「うん」と答える矢島くんはそのテーブルの前に来る。
ポケットに入っていた携帯電話を取り出して座って、
テーブルの上に、それを置く。
384 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:03
彼の隣に腰を下ろした桃子ちゃんはコップを持って、
「じゃあ、乾杯!」
「えぇっ?」
お酒じゃあるまいし。矢島くんは苦笑いするけど彼女と乾杯する。

「今日、誰もいないの?」
「うん。みんなで買い物に行ってる」
「一緒に行かなくてよかったの?」
「うん」
即答する桃子ちゃん。
「鈴木愛理ちゃんとデートされたら困るからね」
ブハッ。飲んだジュースを吐き出しそうになる矢島くん。

「冗談だよ、冗談」
彼女はカラッと笑って、矢島くんの肩に頭をのせる。

「ていうか、もうすぐバレンタインデイだね」

彼女はチョコレートのお菓子を1個手にとる。
「うん」と答えた矢島くんの口の前に、そのチョコを持っていく。
385 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:03
可愛く「あーん」と言われて、口を開く矢島くん。
もぐもぐしながら、彼女を見る。
「おいしい?」
「うん」
矢島くんが答えると、彼女はご機嫌な様子で笑っていた。

ブーブー

テーブルの上の、矢島くんの携帯電話が鳴り出した。
なんか嫌な予感がした矢島くんは、とりあえず無反応。
「メール?」
勘の鋭い桃子ちゃんが尋ねる。
「うん」矢島くんはうなずく。
「見なくていいの?」「…」

しょうがなく、携帯電話をチェックする矢島くん。
メールボックスを開いて、やっぱりそうで、桃子ちゃんの顔色を窺う。
386 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:04
「もしかして、鈴木愛理ちゃん?」

名探偵も顔負けの桃子ちゃん。ズバッと言い当てる。
苦笑いした矢島くんは、こくりとうなずく。

「でも、メールきても全然見てないよ?」
「全然?」
「うん」
「…じゃあ桃が見る」
「えっ」
彼女にケータイを奪われる矢島くん。
メールにはなんて書いてあるのだろう。
矢島くんは気になって首を伸ばす。

「今度の木曜日って、バレンタインだよね」

桃子ちゃんが振り返って勉強机の卓上カレンダーを見た。
その通り。次の木曜日はバレンタインデイだった。

「会えませんか?って聞かれてるよ」
387 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:04
ケータイの画面を突きつけられた矢島くんは、それを受け取る。

「……」

聞かれてるよって言ってもね。
困り顔で彼女を見ると、彼女は何か考えごとをしていた。

「桃?どうしたの?」
「…返事は?」
「しない」
「しないの?」
「しないよ。ぼくは、桃しか見ないって言ったじゃん」

なんてまっすぐすぎる、矢島くんの熱いまなざし。
それを間近でまともに受けた桃子ちゃんは、
一瞬心臓が止まっちゃうんじゃないかと思うほどの
衝撃を受けて、そして身体が芯から熱くなってくる。

「桃しか見たくない。桃だけいれば、それでいい」
「…」
388 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:04
桃子ちゃんはそっと、矢島くんの肩に頭をのっける。

「桃も、舞美がいればそれでいい」

彼女の肩を抱いて、微笑む矢島くん。
彼女が、キスできるくらいの距離まで顔を近づけてくる。

「桃も、舞美しか見ないよ」

矢島くんはそっと彼女の唇を奪う。
久しぶりのキスは甘いチョコレートの味がした。

389 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:05


*****



390 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:05

「そんな…」

亀井家。絵里ちゃんの部屋。
吉澤さんは、ガキさんがもう彼女の結婚の話を知っている
と聞いて愕然としていた。ソファに座っている絵里ちゃんは、
ずっとうつむいている。

「久住くんのお父さんは、ガキさんに、絵里と別れて欲しいって
お願いしたらしいんです。それで、ガキさんは別れることを
約束してくれた、って」
「別れるなんて…あのガキさんが。ありえないですよ…」
「そうですよね。絵里も、そう思います。でも…」
「でも?」
「久住くんのお父さんが言ってたことがウソだって、言い切れない
自分がいるんです。ガキさんがそんな約束するわけないって
思ってても、ホントかウソか、見極めること、できない」
そう言った絵里ちゃんは、ふにゃりと微笑む。
「ガキさんのこと、信じてない証拠ですね」
「……」
「ガキさんのケータイ勝手に見たりして。それだけでも
サイテーなのに。絵里、もっとサイテーになっちゃう」

悲しい彼女の微笑を見つめて、吉澤さんは難しい表情になる。
このままじゃ、どんどん彼女の歯車が狂っていってしまう。
どうにかして彼女を助けないといけない、と危機感を抱いた。

391 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:05


その日の夜。新垣家。
ガキさんはベッドに寝転びながら絵里ちゃんと電話をしていた。
まるで今日、まったく何もなかったような声で話す。
今日は何もなかった。自分に言い聞かせながら彼女に尋ねる。

「どうだった?ナントカっていうピアニストの、コンサートは」
『うーん…ずっと寝てた』
「えぇぇ」
『絵里、ああいうの苦手なんだよねぇ。マジで』

ストレートに聞けたら、それが一番いいんだけど。
さすがに「ホントに結婚するの?」なんて聞けるわけない。
それを認めてしまった気がして、腹が立ってくるから。
彼女の答えはNOに決まってるけど、ほんの少し不安だから。

『ガキさんは?今日、何してた?』
「今日は…図書館でずっと勉強してたよ」
『ずっと?』
「うん。朝から。いやー、疲れた疲れた」
『そっか』
「そうなんだよー」
『じゃあ、もう眠たいよね』
「ああ、まあ」
『絵里も眠いし、今日はもう寝るよ』
「あ、うん。おやすみ」
392 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:06
おやすみ、と彼女が言って、電話が切れる。
はあ、と深くため息をついて、待ち受け画面にしている
彼女と彼女の飼い犬(アル)の写真をボーッと見つめる。

こんなに早く、嵐がやってくるとは思ってもみなかった。
しかも普通の嵐じゃない。超でっかい、大嵐。
ガキさんは写真の中の彼女の微笑を眺めながら、
久住会長との会話を思い出す。

『親不孝な息子だけにはならないように努力して下さいね』

KBMは世界的に有名な大企業だ。
そのトップである久住会長は、ただの弁護士である父親とは
比べものにならないくらい、すごい強い力を持っている。

絵里ちゃんの結婚を阻止するということは、
お父さんの足を引っ張るということになる。
それがどれくらいの損害になってしまうのか。
もしかしたら事務所の存続すら危うくなるくらい大きいのかもしれない。
393 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:06

『きみには本当に申し訳ないけれども、こうなった以上は、なすすべもない』

彼のその言葉が、全てを物語っている。

『絵里ちゃんのことはあきらめて、他にいい人を見つけなさい』

ああ!もう!ガキさんは頭から布団を被った。
そんなこと言われたって、どうしろってんだ。
いら立つ気持ちはまったく抑まらず、一晩中苦しみ続けた。


394 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:06


*****



395 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:07

連休明けの湾田高校。
昼休みの体育館には、元気な男の子たちがいた。

「小春、今から勝負しようぜ」

バスケットボールを手にした夏焼くんは、久住くんに向かって言った。
須藤くんと徳永くんはその近くで2人を眺めている。
さらに、彼らの姿を目ざとく見つけたミーハーな女子たちが、
体育館の入り口付近に群がって、キャアキャアなっていた。

「どんな勝負?」
「フリースロー5本勝負」
「…」
勝負を挑んできた夏焼くんを、久住くんはまじまじと見つめる。

「OK」
「もしおれが勝ったらさ、バスケ部入ってよ」
「いいよ」
「マジで?!」

じゃんけんして、勝った久住くんが先に投げるほうを選んだ。
夏焼くんからのパスを受け取って、フリースローのラインに立つ。
396 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:07
久住くんは振り返る。

「もしぼくが勝ったら、可愛い女の子を紹介してよ。
恋人のいない、フリーな女の子」
「え?ま、まあ、いいけど」

桃子ちゃんの話だと、久住くんはバスケが上手いらしい。
その実力を一度この目で確かめたかった夏焼くんは、
シュート体勢に入った久住くんの姿を、真剣なまなざしで見つめていた。
何が何でも、バスケ部に入ってもらいたかった。

とはいえ、得意なフリースローで勝負を挑むのは、ちょっとずるいかもしれない。
夏焼くんはそう思っていたけれど、久住くんの1本目のシュートで、思い直す。

久住くんが投げたボールは、綺麗にゴールリングへ吸い込まれていった。
美しすぎるシュートに、須藤くんも、徳永くんも、あ然とした。
女子たちの黄色い声と拍手が聞こえてきて、夏焼くんはビクッとなって
後ろを振り返る。最前列に桃子ちゃんと仙石さんがいて、さらに驚く。

桃子ちゃんは両拳を握ってみせて、(がんばって)と口パクで言った。
もちろん、夏焼くんは(イエス)と言って、親指を立ててみせる。
397 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:07
「すげえな。小春」

そう褒めると、久住くんは「天才だからね」とヘラヘラ笑った。
トコトコ走って行って、床に転がるボールを拾う。

「はい、どうぞ」とボールを渡されて、そのラインに立つ夏焼くん。
男子バスケ部(のイケメンエース)として、負けないわけにはいかない。
当然のように決める。女子たちがさらにキャアキャア盛り上がる。
須藤くんが苦笑いしながら、
「ジャ○ーズ(念のため伏字)のコンサートみたいだね」とツッコむ。

予想外に、かなりハイレベルなフリースロー対決となっていた。
2投目、3投目と投げて、2人とも成功したのだ。
大騒ぎの女子たちに満足げな久住くんと、
ちょっとずつ危機感を感じ始めている夏焼くん。

そしてついに5投目。久住くんのラスト。
外せ、外せ、と夏焼くんは心の中で祈る。
しかしその願いもむなしく、ボールはスパッとゴールリングに入る。
398 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:08
「イエス!」ガッツポーズをする久住くんを見て、
夏焼くんは急に不安になってくる。次ミスすれば、負けちゃうじゃん。
まさか全部成功されるなんて予想外すぎて、今さら緊張してくる。

いやいや。負けられない。
バスケ部が非バスケ部にバスケで負けるなんて、ありえない。
夏焼くんは気を引き締めて、シュートを打つ。
すると…

「あぁっ!」「うおっ!」「キャアアアアアアアアア!!!」

須藤くんと徳永くんと女子たちは同時に叫んだ。
なんと、ゴールに入ると思われたボールが、ゴールリングの上で
グルグルグルと回りだしたのだ。
桃子ちゃんはお祈りしながらそのボールを見つめていた。
399 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:08
入れ!入ってくれ!
険しい表情で、ボールの行方を見つめる夏焼くん。
久住くんはただクールな微笑みを浮かべている。

「あ…」

ボールはゴールに入りそうだったけど、
本当にあとちょっとのところで、入らなかった。

コロコロ…とむなしく転がるボールを、夏焼くんはボーッと眺める。

「ぼくの勝ちだね」
「あぁ…」
「可愛い女の子、期待してるよ」
久住くんから肩をポンと叩かれた夏焼くんは、
「考えとく」と小さな声で答えた。


400 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:09


その放課後。
男子バスケ部は、学校の周りをランニングしていた。

「紹介しろって言われても、誰紹介すればいいんだよ」
走りながら、夏焼くんは呟く。
「可愛くてフリーの子がいいって言ってたよね」
隣の須藤くんが言う。
「可愛い子はみんなカレシいるっつーの」
「ていうか、小春にカノジョいないのが不思議だよな」
「あぁ。すっげーモテるのにな」
「で、誰紹介するの?」
「うーん。あ、そうだ。橋本さんの友達とかは?」
「あっきゃん?」
「あっきゃんでもいいけど、フリーじゃないでしょ」
「うん」
「ダメじゃん」
「りーちゃんの友達は?」
「えー」
可愛い女の子に、年齢制限とかあるのかな。
夏焼くんは難しい顔をしながら、斜め上を見上げた。
401 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:10
「小春ってどんなのがタイプなのかな」
「あー、チー坊がなんか言ってたような気がする」
「どんなのって?」
「女なら、誰でもウエルカムみたいな」
「…さすがスケールが違う」
「誰でもなんて言っても、絶対好みってあるよね」
「うん。絶対あるね。聞いてみよう…
ってそういえば小春のアドレスとか全然知らないんだけど」
「おれも。明日聞こうよ」
「そうだな。ていうか負けたのがマジ悔しいんだけど。
絶対リベンジしないと」

どうして、久住くんはあんなにフリースローが上手いのだろう。
ド素人に見せかけて、サラッとシュートを決めることができる、
そのテクニックの秘密はいったい何なのだろう。
夏焼くんは普通に知りたくなって、もっと久住くんに興味がわいたのだった。
402 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:10


*****



403 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:10

亀井家の広いお庭の一角。
花壇の前には、絵里ちゃんとその執事がいた。

「久住くん、湾田高校に行ってるんだって」

しゃがんで、色とりどりの花を眺めながら、絵里ちゃんが呟く。
吉澤さんは彼女の隣にしゃがみ込む。

「湾田ですか。ハロ高じゃないんですね」
「うん。絵里も聞いたときちょっとビックリしちゃった。
どうして湾田にしたの?って聞いたら、ハロ高に行きたく
なかったからって言ってました」
「けっこう、変わってますよね」
「けっこうっていうか、だいぶ、ね」
絵里ちゃんがクスッと笑う。

吉澤さんは、昨日初めて会った、久住くんを思い浮かべる。
背が高くて、イケメンで、金持ちのボンボンで、自信満々って感じだった。
まだ16歳のガキのくせに、酸いも甘いも噛み分けてきましたって顔をしていた。
404 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:11
「昨夜、ガキさんと電話をしたんですけど」
「えっ」
「ガキさん、ホントに結婚のこと知ってるのかなってくらい普通で…
コンサートどうだったの?とか、昨日はずっと勉強してたよとか言ってたんです」
「たぶん、ガキさんはお嬢様が知ってることを知らないんだと思います。
ガキさんなりに考えて、気を遣ってるんでしょうね」

彼女が立ち上がったのにつられて、吉澤さんも腰を上げる。

「今まで、絵里、ガキさんのことは全部わかってるって思ってたんですけど、
それってただの思い込みだったのかなぁって……今まであった自信がなんか、
どんどん消えて無くなってるような気がするんです」

花壇を見下ろす彼女の横顔を見つめる吉澤さん。

「絵里、最近、気付いちゃったんですよね。ガキさんには、絵里の知らない
別の世界があるんですよ。絵里にはガキさんがいる世界しかないのに…。
ガキさんには、弁護士になってお父さんの跡を継ぐっていう将来の夢もあるけど、
絵里にはそういうの、全然ないし。なんか、それがすごい寂しいっていうか。
このまま、どんどんガキさんが遠い存在になっちゃうのかなぁって、なんか、
ネガティブになってしまって」
405 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:11
なんでこうなっちゃったんだろう。絵里ちゃんが小さな声で呟く。
彼女の辛そうな様子に吉澤さんは胸が痛くなる。
こうやって、彼女が不安に思っているのと同じように、
ガキさんも今ごろ、きっと不安な気持ちで心が落ち着かないのだろう。
彼女のことも心配だけど、ガキさんのこともすごく心配になる。

みんな人間だから、絶対だなんて言えることはない。
サルも木から落ちたりするし、カッパも川で押し流されたりする。
たとえお互い強く信じ合っている2人だとしても、やっぱり、
ちょっとしたきっかけでそれが壊れたりもする。

「ガキさんは、絶対絵里を見捨てない、とか、絶対ずっと一緒にいよう、とか、
言ってくれてたけど、結婚のことを知った今、絵里におなじこと言ってくれるのかな」

絵里ちゃんは、参ったような顔で、微笑んでいた。

「言ってくれなかったら、絵里…ホント、どうすればいいかわかんないよ」


406 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:11


*****



407 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:12

「えっ、マジで?」

夏焼くんは、須藤くんと徳永くんと顔を見合わせた。
なんと、久住くんはケータイでメールをしたことがないらしい。

「本当にメールできるの?これ」

自分の携帯電話を、色んな角度から眺めている久住くん。
「できるよ」と言って3バカトリオは笑う。

「じゃあ試しに送ってみようか」

徳永くんがピコピコ打って、メールを送信した。
すると、久住くんの携帯電話がリンリンリリンと鳴り出す。
「WAO」目を輝かせて、久住くんはそのメールを見ている。

「なにこれ!ワンダフォー!」
408 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:12
夏焼くんと須藤くんがどれどれと覗き込む。
でも、そんなに感動するほどの内容でもなかった。
ただウンチの絵文字が1個あるだけだった。

「それでここ押したら、返信できるのね」
「うん」
「文章は、こんな風にして、ね、入力できる」
「Oh…すごい」

チー坊による初心者のためのケータイメール講座の次は、
「写メとか撮ったことある?」
「写メ?なにそれ」
「写メはねー」
今度はマー坊が優しく教えてあげる。
「ここ押したら、ほら」
「ヒュウ」
カメラみたいになった携帯電話を見て口笛を吹く、ゴキゲンな久住くん。
「それで、ここ押したら写真撮れるんだよ」
「ここ?ここ?」
「うん、そこ」
「OK」
409 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:12
久住くんはそう言って、教室の中をぐるりと見渡し始める。
何を撮るかと思ったら、クラスで一番可愛いと評判の
まのえりちゃん(本名・真野恵里菜)をカシャッと撮った。
「ちょ!盗撮!」ふき出す徳永くん。

「なにしてるの?」
コソコソしている男子たちに気付いたまのえりちゃんが、
おともだちを引き連れて、久住くん with 3バカトリオに近づいてくる。

「小春にケータイの使い方教えてるだけだよ」徳永くんが答える。
「ね!見てこれ!」
とてもうれしそうに、久住くんは、さっき撮った写真をまのえりちゃんに見せた。

「カワイイ」
「……」
まのえりちゃんは、無邪気な笑顔の久住くんに見とれていた。
他の女子たちも同じように、可愛い久住くんにポワワとなっていた。
410 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:12
「ねぇ、久住くん。番号交換しようよ」

と女子の誰かが言い出して、その場は赤外線通信大会となった。
日本製携帯電話の素晴らしい技術に、久住くんは感心しっぱなし。
女子たちと順番に電話番号を交換してゆく。

「じゃあ、最後」
「うん」

久住くんが笑顔で言うと、ちょっと頬を赤くしたまのえりちゃんがケータイを取り出した。
ほんの1分で、交換成立。「グレイト」久住くんは満足げにメモリを眺める。

まのえりちゃんはそんな久住くんにまだポーッと見とれていて、
周りの人々には(まのえり…まさか…)みたいな空気が流れていた。


411 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:13


その日の夜。某一流ホテルのスイートルーム。

久住くんは、こないだのパーティで知り合った友ちゃんという
女の子とオセロをして遊んでいた。
もちろんベッドの上で、だらしなくイチャイチャしながら。

リンリンリリン、リンリンリリン。

すると、離れたところにあるテーブルの上で、携帯電話が鳴り始めた。

「鳴ってるよ?」

友ちゃんが、ボードの角に白の石を置きながら久住くんに言う。
「あ!角!」と叫んで、久住くんは電話の着信をスルーしようとする。
「出なくていいの?」
そんな久住くんをスルーする友ちゃん。
久住くんの黒の石をひっくり返しながら尋ねる。

ちぇっ。すねたような顔をして、久住くんはベッドから飛び降りる。
しつこく鳴り続けている携帯電話を引っ掴む。
412 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:13
「ヘロー?」
『ボス。大変です』
「もー、そのセリフは聞き飽きたって言ったよね?」
『申し訳ありません』
「で?」
『重大な事実が判明したので、すぐにお知らせしようと思いまして』
「えっ、なになに?」
テーブルの端に腰かけて、久住くんは足をブラブラさせる。
ベッドの上では、友ちゃんが退屈そうにゴロゴロしている。
なんてエロス。ふと目が合って微笑まれて、テンションうえうえ。
もうオセロなんてやめだ、やめ。なんて思う。

『やはり、ボスの結婚相手は、亀井様しか考えられません』
「なんで」
『日本でトップの資産家は鈴木様という方なのですが、
鈴木様のお嬢様はまだ中学生で、恋人もいらっしゃらないそうです。
そして、2番目に資産の多い松浦様という方のお嬢様がたは、
長女はすでに結婚されていて、他の妹たちには恋人がいらっしゃらないそうです。
それ以下の資産家のお嬢様がたも、みなさん似たような状況でした。
その中で、亀井さんだけが唯一、順調に交際されていたとのことです』

WAO。さすが、クリストファー。久住くんは真顔になる。
友ちゃんが少し身体を起こして、首をかしげた。
413 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:14
『結婚相手が、どうして亀井さんだったのか。それはおそらく、恋人が
いらっしゃったからだと思われます』
「…そっか」
『それで、私なりに、説得力のあるセリフと言いますか…
ボスのこれからの振舞い方というものを考えてみたのですが』
「うん」
『恋人を作ってみてはどうでしょうか』
「え?」
『それも、真面目に』
「…なるほどね」久住くんはニヤリと微笑む。

「そういうの、ぼくも大事だと思うよ」
『ハイ』
「わかった。前向きに検討してみよう」
『ありがとうございます。では』

電話を切った久住くんに、近づいてくる友ちゃん。
414 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:14
「誰からだったの?」
「さぁ、誰からでしょう?」
「女?」
「男だよ」
ヘラヘラしながら、久住くんは友ちゃんを抱き寄せる。
抱き合って、ゆらゆら揺れる。

恋人を作ってみる。それも、真剣に。
クリストファーは天才だ。内心笑いが止まらない。
友ちゃんのお尻をなでなでしながら、クククと笑う。

やっぱり何よりも大事なのは説得力だ。
それと、あと、演技力。
久住くんは友ちゃんを熱いまなざしで見つめて、
まんまとうっとりなった彼女に、ブチュっと口づける。

いや、待てよ。
とは言つつ、よく考えて行動しなきゃいけない。
何が一番効果的なのか。誰が一番、ふさわしいのか。
賢い頭をフル回転させて、検討しなきゃいけない。

今夜は、とりあえず保留だな。
久住くんは無言でベッドの上に友ちゃんを押し倒して、
彼女の首筋に顔を埋めた。



415 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:14


つづく



416 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/08(日) 02:15


从´∇`从<ね!見てこれ!ベリコレ!
从o゚ー゚从<寒いダジャレはもういいって



417 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/08(日) 06:11
クリス萌え
418 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/08(日) 12:39
イケメン対決第1弾でしたね。
きっと、第2弾は舞美、第3弾は吉澤さんとなることに期待しています。
419 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/08(日) 23:52
(0´〜`)<お嬢様ぁああぁぁぁ…絶対大丈夫だなんて、言えないYO
420 名前:(0´〜`)人(’ー’*川 投稿日:2009/02/16(月) 00:14
>>417さん
ウホッ

>>418さん
期待に沿えるよう精一杯努力します!

>>419さん
川*’ー’)<だけど言うしかないやよー
421 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:15


*****



422 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:15
バレンタイン前日。
放課後、梨沙子ちゃんは愛理ちゃんのお家にお邪魔して、
一緒に明日の準備をしていた。

矢島さんからメールの返事がこなくなった。
そういう報告を受けてから、なんとなく梨沙子ちゃんは
矢島さんの話題を避けてしまっていて、愛理ちゃんのほうも
自分から話そうとしなかった。

勝負はバレンタインだよ、と言ってたけど、どうなるのかな。
気になるけど、聞きにくい。あれから、愛理ちゃんはやっぱり
元気がなくなっていたし、力になってあげたいんだけど、
夏焼くんが言ってたことは間違ってないし、梨沙子ちゃんは悩んでいたわけで。

それがつい昨日、愛理ちゃんから一緒にチョコを作ろうと誘われたわけで。

「あー、この甘い匂い、たまんないね」

キッチンに漂う甘い匂いをかいで、エプロン姿の愛理ちゃんが言った。
おそろいのエプロンを身につけている梨沙子ちゃんは、微笑んで応える。
423 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:15
「りーちゃん、チョコに”好きだよ”とか書かないの?」
「かっ、書かないよ!」
「えー、書かないの?」
「愛理が書きなよ」
「…そうだね」

えっ。冗談のつもりで言ったのに。梨沙子ちゃんは面食らう。
愛理ちゃんはボールの中でとろけたチョコを丁寧にかきまぜている。

「やっぱ、ハート型かな」
と呟いた愛理ちゃんの横顔を見る梨沙子ちゃん。

「ねぇ愛理。明日、告白するの?」
「するよ。告白して、当たって砕け散ってきます」
「砕け散ってとか…不吉だよ」
「だって、結果はもう、わかりきってるんだし」
「そんなの告白してみなきゃわかんないじゃん」
「わかってるよ」
「愛理…」

手を止めた愛理ちゃんは、梨沙子ちゃんを見る。
424 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:15
「最初は、カノジョがいても、奪い取っちゃえばいいって
思ってたんだ。でも、それは向こうに隙があれば、の話で、
矢島さんには、隙なんて全然なかった」

なぜか、穏やかに微笑んでいる愛理ちゃん。
彼女の中では、すでに決着がついているみたいに。

「ゼロには、何をかけてもゼロでしょ?そういうことだよ」
「…え?」
またなんか難しいこと言い出したと思う梨沙子ちゃん。
愛理ちゃんはフフッと笑って、
「つまりあたしが矢島さんのこと1京好きでも、矢島さんが
ゼロだったらイコール・ゼロってこと」
「1京って?」
「10の16乗のことだよ」 
「…でもホントにゼロかわかんないじゃん。もし、0.なんとかだったら?」
「だったらそれは、ミラクルだよね」

もう、愛理ちゃんの言うこといちいち難しすぎる。
おバカな梨沙子ちゃんは眉間にシワを寄せて、渋い顔になった。

425 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:16


*****



426 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:16
そして2月14日。バレンタインデイの朝。

「おっはー!」

そんな元気な声が聞こえてきて、矢島くんは振り返る。
近所に住んでいる幼なじみ、徳永くんが笑顔で手を振って走ってきた。

こんな朝早くに遭遇するなんて。珍しいこともたまにはあるものだ。
隣に並んだ徳永くんに、矢島くんは「おはよう」と返す。

「今日は、バレンタインデイだな」
「うん。バレンタインデイだね」
「ハロ高のアイドル・矢島先輩は、何個チョコもらっちゃうのかな?」
「ハロ高のアイドルって。そんなことないよ」
「またまたー。モテモテだってウワサは聞いてまっせー」

このこのーっと徳永くんは矢島くんに肩を軽くぶつける。
参ったなあという感じの笑顔を浮かべて、矢島くんは頭をかく。
427 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:16
「チーだっていっぱいもらうでしょ?」
「そりゃ、当然」
「そういえば、チーのクラス、アメリカから転校生来たらしいじゃん」
「うえっ、なんで知ってんの」
「カノジョが湾田だから」
「あぁっ!そっかそっか。嗣永先輩ね」
「うん」

穏やかに微笑む矢島くんの背中を、徳永くんは鞄で叩く。

「幸せそうな顔しちゃって!」
「ちょ!痛いって!」
「このこの!」

何度もバシバシ叩かれて、困りながらも、矢島くんは幸せそうだった。
428 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:17


黒くていかつい、久住くん専用車の中。

「ふぁああああ」

久住くんは大きなあくびをして、大きく背伸びをした。
助手席に座っているクリストファーが振り返る。

「お疲れですね」
「うん。ちょっと昨日はしゃぎすぎちゃった」
「今夜の予定はキャンセルされなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫だよーん…」
とふざけて言いながら、窓の外に視線をやる久住くん。

「あ」

湾田高の制服を着た生徒たちが、ぞろぞろと登校中だった。
その中にいた、まのえりちゃんを発見する。
おともだちと笑顔でおしゃべりしながら歩いていた。

久住くんは、ふと真剣なまなざしになって、彼女を見つめる。
そしてピコーン!とひらめく。
懐の中から携帯電話を取り出して、人差し指だけでピピピと操作する。

「クリス。やっぱり今夜の予定はキャンセルするよ」
429 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:17


朝練終わりの夏焼くんは、教室に向かう途中、
知らない先輩(♀)やら同級生の女の子やら、
色んな子から、「夏焼くん…はい」とチョコを何個も受け取っていた。

「モテモテだね、なっちゃん」

冷やかすような須藤くんの言葉に、夏焼くんはアハハと乾いた声で笑った。


昼休み。
久住くんwith3バカトリオは、食堂で楽しくランチ。

「やっぱり、チョコレートってたくさんもらったほうがいいの?」
「そりゃあ、それだけモテるってことだからな」

バレンタインデイに女の子からチョコレートをもらったことがないという
久住くんに、日本のバレンタインデイの過ごし方について教えてあげていた。

徳永くんが力説する。「でも、チョコには2種類あるんだよ」
「2種類?」
「うん。本命チョコと、義理チョコ」
「好きな人にあげるのが本命で、友達とかに配るのが義理」
須藤くんはそう言って、隣の久住くんに微笑む。
430 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:17
「たくさんもらっても全部義理じゃ、寂しいよね」
「それ誰に言ってんだよ!おい!」
須藤くんにツッコむ徳永くんの隣で、夏焼くんがケラケラ笑っている。

「じゃあ、みんなは今日、本命のチョコもらうの?」

久住くんから尋ねられた3人は、パタッと静かになる。

「おれはたぶんもらえないなぁ。カノジョいないし」

徳永くんはさわやかに言って、ヘヘッと笑い飛ばす。

「おれも、たぶんもらえないと思う」
「橋本さんは?」
須藤くんはしょんぼりなりながら、首を横に振る。
「今日もバイトなんだってさ」
「なんだそれ。ありえねー」
「マーくん、カノジョとうまくいってないの?」
久住くんが言って、須藤くんの肩を優しく抱く。

「うん。最初はけっこう順調だったんだけどね。おれも部活で
忙しくて、カノジョもバイトで忙しくて、ずっと会ってないんだ」
「そっか。でも、好きなんでしょ?カノジョのこと」
「好きだけど、もう無理かなーなんて…って、おれの話はやめようよ。
暗くなっちゃうからさ」
431 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:17
あははと笑って誤魔化した須藤くんは、夏焼くんを見る。

「なっちゃんはもちろん、りーちゃんからもらうんでしょ」
「りーちゃん?」
「なっちゃんのカノジョ」
「カノジョ?!」

なぜか、久住くんは目を丸くして驚いた。

「なっちゃん、カノジョいるの?」
「まぁ、いちおう…」

徳永くんが夏焼くんの制服のポケットから携帯電話を取り出して、
「これがりーちゃん」と待ち受け画面を見せる。

「ちょちょちょちょちょ!なに勝手に見せてんだよ!」
「いいじゃんいいじゃん」
「へぇー。可愛いねー」
432 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:18
久住くんは目を輝かせてりーちゃん画像に見入っていた。
そんなに真剣に見なくてもいいじゃん。
だんだん恥ずかしくなってきた夏焼くんは、もじもじしている。

「好きなの?」
「え?」
「カノジョのこと、好きなの?」
「…好きだけど」

ヒュウ。口笛を吹いて、久住くんは微笑んだ。

「じゃあ、いま幸せ?」
「まあまあ、幸せかな」
「まあまあとか照れちゃってー」
「チョー幸せだって正直に言えばいいのにー」
「うっせー」

いいなー、と呟く久住くん。
433 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:18
夏焼くんは、そんな久住くんを見る。
イケメンだしお金持ちだし性格も良いし、すごいモテそうなのにな。
カノジョがいたこともないし、バレンタインデイに
女の子からチョコをもらったこともないらしい。

実は女遊びが超激しくて、バレンタインデイは毎年自ら
女の子にプレゼントを贈っているなんていう、
久住くんの正体を全く知らないもんだから、
カノジョができるように協力してあげたいななんて、思ったりする。

昨夜も可愛い女の子とチョメチョメしていたなんていう、
久住くんのヤリ○ンぶりも知らないもんだから、
同じ童貞仲間なのだと、親近感を抱いたりも、する。

そして、誰か女の子紹介してあげなきゃなーと思った。
434 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:18


吉澤さんは絵里ちゃん専用のお車を運転していた。
後ろの席には、彼女とガキさんが乗っていて、
今は2人を空港まで送りに行く途中だった。

いつもはくだらない話、漫才みたいなやりとりをしながら
うざいくらいイチャついている彼女たち。
でも、今日はなぜだか無言で、寄り添っているだけだった。

その理由に、なんとなく気付いている吉澤さんは、
モヤモヤした気持ちを胸に抱えたまま、ハンドルを握っている。

空港に到着する。
吉澤さんはトランクから絵里ちゃんとガキさんの荷物を下ろす。

「ありがとうございます」
「お気をつけて、いってらっしゃいませ」
「いってきます」
「じゃあ、行こうか」
ガキさんが男らしく2人分の荷物を持った。
絵里ちゃんは、小さくうなずいて、ガキさんの腕を掴む。
435 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:19
ぴったりくっ付いて歩き出した2人を見送る吉澤さん。
今日と明日は、2人きりの鹿児島旅行。
いったいどんな会話をするのだろう。心配になる。
別れ話とか、するわけないと思ってるけど、不安になる。

『吉澤さんには、私の気持ちなんてわかりませんよ』

昨日、青山さんから言われた言葉を、思い出す。

『私にはこの家しか居場所がないんです。
ずっと、この家に居たいんですよ。吉澤さん』

そんなの、吉澤さんも同じだった。
でも愛ちゃんとそろそろ結婚しようかって言ってる
吉澤さんがそう言っても説得力がなかったようで。

『あなたは、いずれ、この家から出て行く人です。
だから、絵里お嬢様の結婚を止めさせたい、なんて簡単に言えるんです。
お嬢様の結婚を阻止するなんて、旦那様の立場を悪くしてしまうのと
同じことなのに、それでもあなたは邪魔をすると言えるんですか?
私は言えない…絶対に、言えませんよ』
436 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:19
青山さんは、絵里ちゃんのことよりも、旦那様のほうを選んだ。
それは決して間違ったことじゃない。正しい答えなんてないのだから。
だけど、吉澤さんは許せなかった。絵里ちゃんがガキさんじゃ
ない人と結婚するということも、青山さんが絵里ちゃんの気持ちを
第一に考えてくれなかったことが、許せなかったのだ。

「おれだって言えないよ…絶対に」

吉澤さんは呟いた。
”ガキさんと別れろ”なんて、彼女に言えるわけがない。
彼女はガキさんと結ばれるべきなのだということを、
他の誰よりもわかっているつもりだから、絶対に言いたくなかった。

437 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:19


ふたたび湾田高校。まだまだ続いている、昼休み。

「なんか、気合入ってるね」

校舎の3階にある女子トイレの中。
さっきからずっと鏡とにらめっこしている仙石さんの横顔を
覗き込みながら、まのえりちゃんはからかうように言った。

「いつ渡すの?清水先輩に」
「…部活が終わったあと」
「うわー、みーこのそういう顔見てたら、なんかあたしまで緊張してくるー」
心臓のあたりを押さえながら言ったまのえりちゃんに、
ふにゃふにゃと微笑む仙石さん。
「そっちは、今日会って渡すの?」
「うーん。それがさ」

まのえりちゃんは、周りに数名の女子生徒がいたので、
仙石さんの腕を引っ張ってトイレを出た。
人のいなさそうな場所まで来て、ケータイを取り出す。
438 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:19
「今日、放課後約束してたから、そのときチョコ渡そうかなって
思ってたんだけど、ちょっと予定が狂ったっていうか…」
「えっ、ドタキャンされたの?」
「実は、久住くんから、今日一緒にディナーしませんか、って
誘われたんだよね」
「久住くん?あの、転校生の」
「そう。しかも今日の朝、いきなりメールきて」

まのえりちゃんははにかんで、壁にもたれかかる。

「ディナー、行っちゃおうかなって」

えぇっ、と可愛い声を上げて驚く仙石さん。

「ということで、みーこには浮気宣言しておきます」
「えぇぇ…カレシ大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫」

まのえりちゃんは、妙に自信満々だった。
439 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:20


ガキさんたちは鹿児島に到着した。
今夜、宿泊するのは絵里ちゃんが選んだ高級旅館。
露天風呂がついている、離れの部屋だった。

2人きりで温泉なんて!と計画を立てた当初は
テンションうえうえだった。でも、こんなことになって、
絵里ちゃんも元気がないし、ガキさんもヤル気が
出てこないし、まったく散々だった。

「ねぇ、ガキさん」

荷物を置いて、窓から見える景色をボーッと眺めていたら、
絵里ちゃんが隣にやってきた。

「なに」

ガキさんが彼女のほうを見ると、彼女は窓の外を見ていた。
外には露天風呂とかがあって、湯けむりもくもくだった。

「お風呂、入ろっか」
440 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:20

プハー。お湯の中からぬっと出てきたガキさんは、
手のひらで顔をごしごし拭う。チョーキモチイイ。
露天風呂ってチョー快適。開放的で、最高だ。

もう、日はすっかり暮れていて、空には星が輝いていた。
なんてロマンチックな、2人きりの空間。夢のようだ。
何もかも忘れて、極楽気分で湯船に浸かる。

「お待たせぇ」

絵里ちゃんが、白いタオルを身体に巻きつけて現れた。
セクシー。ガキさんは微笑んで、「遅いよー」と言う。
「もー、のぼせるかと思った」
「またまた。ガキさんは大げさなんだからぁ」
見つめ合って、笑う。今日初めての、普通の笑顔だった。

彼女は少しかがんでお湯をすくう。
「あぁ、ちょうどいい感じだね」
「うん。すっごい気持ちいいよ」
441 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:20
白いタオルを巻いたまま、彼女はお風呂の中に入ってくる。
ガキさんと肩を寄せ合って、お風呂の縁にもたれかかる。

「あぁ…気持ちいい」
「うん」
「やっぱりいいね。温泉って」

絵里ちゃんはそう言って、ガキさんと身体をぴったりくっ付ける。
手をぎゅっと握りしめて、そっとガキさんの肩に頭をのせる。

「あぁ、絵里このまま寝そうだよ」
「溺れるよ」
「大丈夫だよ。ガキさんマンがすぐ助けてくれるから」

ガキさんマンって、ダサっ。ちょっと笑ってしまうガキさん。

「絵里のヒーローなんだから、絶対助けてくれるよね?」
「…そうだね。たぶん」
「たぶんじゃないの。絶対」
442 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:20
絵里ちゃんは断言して、ガキさんの頬に口づける。
絶対なんて、今はなんか即答する気になれないガキさん。
彼女を見つめて、黙り込む。
そんな反応が不満だったのか、彼女の眼差しがふいに鋭くなる。

「絶対でしょ?ガキさん」
「…」
「ねぇ、ガキさん」
「うん。絶対…たぶん」
「やだ」彼女が抱きついてくる。
「たぶん、とか言わないで。絶対って言って。
ガキさんマンは絵里ちゃんを絶対助けてくれるって、言って」
彼女はそう耳元で囁いた。

どうしていきなり、そんなことを言い出すのだろう。
思い当たる理由がありすぎて、ガキさんは参ってしまう。
ていうか、絶対なんて言葉、そんなのこっちが聞きたいし。
心の中に、複雑な思いが湯気のようにモヤモヤたちこめる。
でも全然良い気分じゃない。この温泉とは大違いだ。
443 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:20
「言ってよ。言ってくれないと絵里」
「…ごめん」
彼女がガキさんから少しだけ離れる。
「なんで謝るの?」
ガキさんはうつむいて、眉間にシワを寄せる。
言いたいこと、聞きたいことが山ほどのどから上に
出てこようとしていて、とりあえず全部ストップさせる。

「なんで黙っちゃうの?なんで、言ってくれないの?」

ちょっと怒ったように、絵里ちゃんが言う。
彼女はガキさんをにらむように、じっと見つめている。

ガキさんは、絵里ちゃんのほっぺたを手のひらで挟む。
こわばった表情をほぐすように、優しく撫でる。

「カメ」

彼女を見つめて、そして抱き寄せる。
444 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:21
「ガキさんマンは、絵里ちゃんを絶対助ける。
絶対、絵里ちゃんを悲しませたりなんかしない」

そう言ったガキさんの身体に腕をまわして、彼女はうなずく。
ガキさんは「でも」と囁く。

「でも?」
「絵里ちゃんが思ってるより、ガキさんマンは強くないんだ。
最強のスーパーヒーローなんかじゃないし、全然、大したことないんだ」
「そんなことないよ?絵里ちゃんは、スーパーヒーローだって思ってるよ?
ガキさんマンはどんな敵が相手でも、絵里ちゃんのことを守ってくれるんだ
って、本当の本当に、信じてるんだから」
445 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:21


矢島さんのことは好きだけど、どうしようもない。
猛スピードで加速していた恋心は、現実という壁に
ぶち当たって、そして、最後に壊れるだけだ。

愛理ちゃんはハロ高近くの並木道を歩きながら、
すれ違う高校生たちの顔を見ていた。
その中に矢島さんの姿はない。

バレンタインデイの今日、会えませんかとメールしてみた。
案の定、返事は何にもなかった。つまり、NOだっていうことだ。

考えてみなくても、それは当然の反応だ。
だって、矢島さんには付き合っているカノジョがいるのだ。
怪盗アイリーンなんてふざけてはしゃいでる場合じゃ全然ない。

それに、砂山さんの告白に、思いのほか衝撃を受けてしまった。
しつこく追いかけまわされるなんてウザイだけだと、思い知らされた。
いくら好きだといっても、矢島さんにはそんな思いはさせられない。

まっすぐと、現実を見るんだアイリーン。
辛くて悲しい現実だけれども、それが事実。真実なのだ。
そういう、運命だったのだ。
446 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:21
ハロ高の校門の前までたどり着いて、愛理ちゃんはひと息つく。
彼女の手には、通学鞄とチョコレート。
昨日梨沙子ちゃんと一緒に作った。ありったけの想いを込めた。
これを渡して、この恋は終わり。泥棒稼業も引退だ。

って、このチョコレートも、この恋も、あの人にちゃんと
渡せるかどうかもまだわからない。
ホントに、どうしようもない。好きなんだけど、どうしようもない。

下校しているハロ高の生徒たちからジロジロ見られて、
とてつもなく居心地が悪い。

でも、目的を達成するまでは、帰ることなんてできない。
当たって砕け散るまでは、この恋は終わらない。
447 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:21


ところかわって、湾田高。

放課後、部活に行く3バカトリオを見送ったりして、
久住くんはずっと教室に残っていた。
そして、まのえりちゃんも、教室に誰も居なくなるまで
待っているように、ずっと席に座っていた。

しばらくして、2人きりになる。
まのえりちゃんがようやく腰を上げた。
近づいてくる彼女に微笑みながら、久住くんも立ち上がる。

「ディナーって、どこ行くの?」
「どこでもいいよ。きみは何食べたい?」
「久住くんが誘ってきたんだから、久住くんが決めてよ」
「そうだね…」

久住くんは、まのえりちゃんと向かい合って、じっと見つめる。
その眼差しに早速クラクラきてるっぽいまのえりちゃん。
乙女のようにはにかんで、視線を逸らす。
448 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:22
「イタリアンとか、フレンチとか、中華料理とか。
あっ、寿司でもいいな。天ぷらでも。迷っちゃうね」
「久住くんは何食べたい気分?」
「うーん。やっぱり、甘いものが食べたいかな。バレンタインだし」

まのえりちゃんが、クスッと笑う。
久住くんは鞄を持って、彼女の肩に手を置く。

「ディナーにはまだちょっと早いから、遊びに行こっか」
「いいよ」
「OK。レッツゴー」

学校の外に出ると、久住くん専用車とともに、クリストファーが
待っていた。久住くんは「Hi!」と手を挙げて、まのえりちゃんの
手を引いてその車のところまで行く。

「紹介するよ。これはクリストファー。クリスって呼んでね。
クリス。彼女はまのえりちゃん。クラスメイトの女の子」
「はじめまして」
少し戸惑っているまのえりちゃんだけど、クリストファーに挨拶をする。
クリストファーは丁寧にお辞儀をして、にっこり微笑む。
449 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:22
彼が後部座席のドアを開けてくれる。
どうぞ、と久住くんはまのえりちゃんを乗るよう促す。

「なんか、すごいね」

まのえりちゃんは、車内をキョロキョロしながら小さな声で呟いた。
久住くんはHAHAHAと明るく笑って、携帯電話を取り出す。
彼女に近づいて、カメラを自分たちの前に持ってくる。

「ハイ、チーズ」

撮った写真の中の彼女は、ちょっとだけぎこちなく笑っていた。
でも可愛い。久住くんは満足げに微笑み、しっかり保存した。
450 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:22


「ガキさん。はい、これ」

お風呂から上がって、浴衣に着替えて、畳の上でゆっくり
していたら、絵里ちゃんが何かを持ってきた。

「なに?」
「お兄さん、今日はバレンタインデイですよ。バレンタインデイ」
「ああ…なるほど」

ガキさんは彼女からハート型の箱を受け取る。
彼女がガキさんの隣に腰を下ろし、女の子座りをする。

「開けてもよろしいでしょうか」
「よろしいですよ?」
「ではでは、拝見いたします」

紐をほどいて、ふたを開ける。
何かがビヨーンと飛び出してくるわけもなく、
もちろん中身はちゃんとしたチョコレート…

「またせんべいかよっ!!!!!!!!」

全力でツッコんだガキさんを見て、絵里ちゃんはケタケタ笑う。
451 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:23
「大丈夫。ちゃんと絵里の愛情がたっぷりこもってるから」
「…ありがとう」

ガキさんはせんべいを1枚手にとって、ぱくっと食べる。

「うん。おいしい」

微笑んで、彼女を見るガキさん。
食べる?と箱を差し出すと、彼女がそれに手を伸ばす。
仲良く一緒にせんべいをバリバリ食べる。

とても、ゆったりとした時間が流れている。
前と何にも変わらない。何もかもがウソのようだった。

「ねぇ、ガキさん」
「なに」
「どうして知らないフリ、するの?」

ガキさんは、絵里ちゃんからの突然の質問に、固まった。
452 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:23
「…知らないフリって、何が?」

彼女は真剣な表情で、ガキさんを見つめている。
しらばっくれたって全部お見通しなのだろう。観念する。

「絵里、知ってるよ。ガキさんが知ってること」
「…そう」

沈黙するガキさん。ハート型の箱を、ちゃぶ台の上に置く。

「信じていいんだよね?」

絵里ちゃんがぐっと迫ってくる。手を掴まれて、握られる。

「絵里、ガキさんのこと信じてていいんだよね?」

彼女は、泣きそうになっている。
なんだか見ていられなくて、自信を持って答えられなくて、
彼女的には即答して欲しいんだろうけど、ガキさんは視線を逸らす。
453 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:23
「絵里と別れて欲しいって言われて、別れるなんて言ってないよね?」
「…言うわけないじゃん。別れるとか、ありえないし」

ボソボソ答えるガキさんに、絵里ちゃんは言う。

「久住会長は、はい別れますって、約束してくれたって言ってたけど」
「え…?」
「そんな約束、してないよね?」

なんで、どうして。ガキさんは思わず動揺する。
あんなにキッパリと断ったのに、なんで彼女にそんなことを。
ふざけんな。ものすごく、怖ろしい顔になるガキさん。
絵里ちゃんはすぐに泣いちゃいそうな表情でその横顔を見つめている。

「……カメは」

ガキさんは彼女を見る。

「カメはあんな奴の言うこと信じるの?」

怒ってるような低い声で、静かに尋ねる。
こんどは絵里ちゃんがうつむいて、沈黙する。
454 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:23
「そんなのウソだって、なんですぐわからないのかな。
ぼくがカメと別れるなんて…そんな約束、するわけないじゃん。
カメはぼくとあいつ、どっちを信じるのさ」
「…ガキさんだよ」
「ていうか、別れるとか別れないとかそういう話、もうやめようよ。
ぼくはカメと別れる気、全然ないし、カメも同じだって信じてるから」
「でも、結婚式の日、もう決まってるんだよ?だから、今のままじゃ…」

ガキさんは、絵里ちゃんを抱き寄せて、彼女の耳元で言う。

「カメは、しょうがない、どうしようもないって思ってる?」
「…」
「こうなった以上、言われたとおりに結婚するしかないって、思ってる?」
「…ガキさんマンが助けてくれるって、思ってる」

彼女はガキさんの背中に腕をまわして、ぎゅっとする。

「絵里は、ガキさんを信じてる」

彼女の身体をやさしく離したガキさんは、彼女にそっと口づける。
すぐに、舌を絡め合うような、噛みつくようなキスになって、
呼吸をする暇もないくらい、激しく求め合った。
お互いの胸の中にある不安を打ち消すために、無我夢中だった。
455 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:24


「…どうしよう」

矢島くんは3つの大きな紙袋に入った大量のチョコレートを見て、呟いた。
教室に置き去りってのも悪いし、陸上部の部室まで持ってきたんだけれども、
こんなものを持って桃子ちゃんに会いに行くなんてアレだし。
かといって捨てるのもアレだし。とすっかり困っていた。

「うわっ」

腕時計を見て、仰け反る矢島くん。
もういい加減そろそろ待ち合わせ場所に向かわなきゃいけない時間。
「お疲れー」と部室を出て行く他の部員たちを元気よく笑顔で見送って、
矢島くんは意を決して立ち上がる。その紙袋も、両手にしっかり持って。

もらったのはチョコだけ。気持ちは1個ももらってない。
彼女にはそうやってちゃんと説明すれば大丈夫。のはず。
456 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:24
大荷物を持って、校門へ向かう。
どこで待ち構えていたのか、また女子たちが寄ってきて、
人のいい矢島くんは立ち止まってあげる。

「矢島くんっ。これっ」「受け取ってくださいっ」
「あっ、どうも。ありがとう」

ただ受け取るだけじゃない、さわやかな笑顔で受け取る矢島くん。
満足したのか、キャアキャアいいながら、女子たちが去っていく。

「はあ」

また2つ増えてしまった。ていうかもう袋に入りきらない。
でも、それらをガーっと無理やり押し込んで、矢島くんは再び歩き出す。

さすがにもう誰も来ないだろう。と安心したその瞬間。
矢島くんの視界に、なんだか見たことのある女の子が、入ってくる。
彼女はまさしく、鈴木さん家の愛理ちゃんだった。

校門のそばに立っている愛理ちゃんも気づいていた。
紙袋を3つも持っていて、まるで夜逃げ状態の矢島くんを
ただボーっと見つめていた。
457 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:24
矢島くんは校門をくぐろうとしているのだから、
そこで待っている愛理ちゃんのもとへ、自然と近づいていく。

『会えませんか?って聞かれてるよ』

桃子ちゃんしか見ない。そう心に決めてから、
愛理ちゃんのことをずっと避け続けてきた。
今日だってせっかく誘ってくれたけど、無視をした。
だから彼女には申し訳ない気持ちでいっぱいで、とても気まずい。

やっぱり、彼女はそこで自分を待っていたのだろう。
鈍感な矢島くんだって、それはわかった。無視なんてできなかった。

彼女はふにゃりと表情を緩めて、微笑んだ。
矢島くんも笑ってみせるけど、絶対ぎこちないと思う。

「ご無沙汰してます」
「あぁ、はい」
「あの、これ」
そう言って、愛理ちゃんがチョコレートを差し出してきた。
矢島くんは慌てて、持っていた紙袋を地面に置き、
それを両手でしっかり受け取る。
458 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:24
「矢島さん」

愛理ちゃんを見つめたまま、矢島くんは首をかしげる。
彼女はまったく躊躇せずに言う。

「好きです」

それはシンプルで、とても潔い告白だった。

「初めて会った時から、ずっと好きでした」

勝手にファンクラブができるほどモテる矢島くんだから、
こんな風に好きだと言われることも少なくない。
だけど、ここまでストレートに気持ちをぶつけてくる
女の子はなかなかいないから、ちょっとクラッときてしまう。

だって、愛理ちゃんはすごい可愛いし、育ちも良いし。
いつも穏やかでおしとやかで、嫌な部分なんてまったく見当たらない。
そんな子に好きだと言われて嫌な気持ちも、もちろんしない。
それどころかすっごいうれしいし、もしカノジョがいなかったら
絶対その想いに応えてあげたくなるだろう。
459 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:25
「ごめん…」
「わかってます。矢島さんには付き合ってる人がいるってこと。
でも、ちゃんと気持ち伝えないと、あきらめられない気がしたんです」

そう言って微笑む愛理ちゃん。オートーナー。
本当に中2か?ってくらい落ち着いた態度で、ビックリする。

「わたしのほうこそ、ごめんなさい。いきなり押しかけて、いきなり
こんなこと…ホントにごめんなさい」
彼女は頭を下げる。矢島くんは「そんな!」と言う。
「謝らなきゃいけないのはぼくのほうだよ。きみからのメール、
ずっと返事してなかったし、ずっと、逃げてたんだ。
好きになってくれたのに、ずっと、ぼくは逃げてた」

ごめん!と矢島くんは勢いよく頭を下げる。

「ホントにごめん!」

全力で謝る矢島くんを見て、愛理ちゃんがクスッと笑う。
顔を上げた矢島くん。ポカーンとなる。
口元に手をあてて、彼女はクスクス笑っていた。
460 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:25
「なんで笑ってるの」
「もっと、冷たくされるかなって思ってました。
チョコだって、こんなのいらないって言われるかも、とか」

矢島くんは手に持っている箱に視線を落とす。
可愛くラッピングされていて、手作り感が漂ってきている。

「うれしいよ。すごいうれしい。ありがとう」

彼女を見つめて、矢島くんは真面目に言う。
すると、彼女が笑みを引っ込めて、困った表情になる。

「どうして、そんなにやさしいんですか」

矢島くんも困った顔で頭をかく。2人は沈黙する。

「じゃあ、わたし帰ります」
「ひとりで大丈夫?」
帰り道の心配までしてくれる矢島くんに、ニッコリ微笑む愛理ちゃん。

「大丈夫です」
461 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:25


「遅かったね」

矢島くんはそれからダッシュで待ち合わせ場所の公園に向かった。
桃子ちゃんはベンチに座って待っていて、矢島くんの大荷物を
見るなりプッとふき出して笑った。意外な反応で、矢島くんは驚く。

「もしかして、それ全部チョコ?」
「う、うん」
「さすがだね。えりかちゃんの言ったとおりだ」
「え?」
「えりかちゃんね、舞美はハロ高のアイドル的存在だから
100個くらいチョコもらっちゃうんじゃないのって言ってたよ。
本当に、100個くらいありそうだね」
「うん。数えてないけど」
矢島くんは苦笑いして、彼女の隣に腰を下ろす。

「全部食べるの、時間かかりそうだね」
「うん」
「手伝ってあげようか」
とかいって。桃子ちゃんがウフフと笑う。
矢島くんはフッと微笑んで、彼女の肩を抱き寄せる。
彼女は矢島くんの肩に頭をのっけて、幸せそうに微笑む。
462 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:25
「はい。101個目」

桃子ちゃんが可愛い紙袋を矢島くんに差し出す。

「ありがとう」

受け取った矢島くん。すぐに「開けていい?」と尋ねる。
彼女はうんとうなずいて、微笑む。

紙袋の中から出てきたのはハート型の箱。
中身はその形に合わせたハート型のチョコレート。
ベタだけどハートだらけで、矢島くんは照れてしまう。

「いただきます」
「めしあがれ」

ハートを割らないように、矢島くんは慎重にチョコを食べる。
もぐもぐしながら、どんどん食べる。あっという間に完食する。
463 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:26
「すっごいおいしかった」
「もぉ、チョコついてるよ」

呆れた声で言いながら、桃子ちゃんが矢島くんの茶色くなった
口元を指で拭った。そして、その指をくわえて、舐める。

「甘い」
でれっと笑った桃子ちゃんは、矢島くんに抱きつく。
そんな彼女の頭を撫でる矢島くん。胸がときめく。

「好きだよ。桃」

そう呟いて、桃子ちゃんをぎゅっと抱きしめた。
さっきの愛理ちゃんのことは、心の片隅にそっと仕舞って、
桃子ちゃんのことだけを考えていた。

「桃も大好きだよ」

嗚呼、幸せだなあ。幸せすぎてしょうがない。
彼女の頭を撫でながら、矢島くんは心底そう思った。
464 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:26


つづく



465 名前:彼女の革命 投稿日:2009/02/16(月) 00:26

从・ゥ・从<チョコ100個分愛してください、とかいって
ル ’ー’リ<いいけど太っちゃうよ


466 名前:泣いちゃう鴨 投稿日:2009/02/16(月) 01:11
実際チョコが苦手な矢島くんにゎ100個のチョコは酷ですなww
467 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/16(月) 01:27
まのえりちゃんと仙石さんが密かに気になります
468 名前:名無し 投稿日:2009/02/16(月) 03:27
ガキカメの2人の恋の行方が気になる(>_<)
そして、よしあいも(≧Д≦)ゞ
全部気になる(>_<)続きを楽しみにしてます。
469 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/16(月) 08:37
たなやんと重ピンも地味に気になるw 冗談です
まのえりちゃんが天使じゃなかったのは個人的に万々歳です
470 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/16(月) 23:34
小悪魔なまのえりちゃんっていいと思います
471 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/16(月) 23:49
(0´〜`)<お嬢様は、…ガキさんと結ばれるべきなのだっ…!
472 名前:やじももヲタ 投稿日:2009/02/17(火) 00:09
やじももがこんなに幸せでいいのだろうか・・・

さらなる試練を与えて、より愛を深めていってください。
473 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/17(火) 12:34
ガキさんマンは最強のヒーローだもん!!
474 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/17(火) 23:47
あぁ愛理ちゃん切ないよ…
475 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/19(木) 00:42
愛理がこのまま梨沙子の友達ってだけになると寂しいぞ。
桃子との直接対決を熱望します。
476 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/19(木) 00:44
ここの小春って悪キャラかと思ってたら、結構可愛いじゃん。
そろそろ裏面とかも出てくるのかな?
477 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/19(木) 03:15
愛理なんか清々しい感じでよかったです
愛理にもいい人が現れますように……
478 名前:りしゃみやヲタ 投稿日:2009/02/20(金) 12:13
次回はりしゃみやハッピーバレンタインを期待して良いってことですね?(・∀・)ミヤミヤ

しかしながら矢島くんの一途さもあっぱれです
これが徳永くんならウッカリちゃっかり愛理ちゃんの気持ちに応えてるなw
479 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/20(金) 22:09
仙石ちゃん・・渡せるかな。
がんばれ!!

更新待ってます
480 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/05(木) 22:58
ガキカメも気になるしたなやんたちも気になるし久住くんも仙石ちゃんと清水くんもくまいちょーも・・

登場人物多すぎて楽しすぎるわーww
481 名前:(0´〜`)人(’ー’*川 投稿日:2009/03/15(日) 02:20
>>466 泣いちゃう鴨さん
そうなんですよねwww
自分で書いておいてなんですけどwww

>>467さん
彼女たちが並んでるところを想像するだけでテンション上がりますよね!

>>468さん
ありがとう(≧Д≦)ゞ
気になるところが全部スッキリするようにがんばって書きます!

>>469さん
いちおうタナやんと重ピンも後々登場予定です
まのえりちゃんは正直キャラがよくわかんないんですけども
なんとか形にしていきたいと思います

>>470さん
私も、あると思います

>>471さん
なんかギャグにしか聴こえませんねwwwwwwwwwww

>>472 やじももヲタさん
いいんですよ!幸せなんだから!
さらに試練があるのかどうかは今後のお楽しみということで…

>>473さん
(0`〜´)<ひーちゃんマンのほうが最強のヒーローだもん!!!

>>474さん
なんか申し訳ないです

>>475さん
直接対決とかwwwww熱望されてもwwwwwwwwwwwww

>>476さん
多分このスレに悪キャラは1人もいませんYO
久住くんの裏面かあ
私にもなんかよくわかりませんね

>>477さん
きっと現れますよ!いい人かどうかは知りませんけど!

>>478 りしゃみやヲタさん
あぁ!もちろんですとも!とかいって
徳永くんwwwウッカリwwwwwwwwwww
あると思います

>>479さん
ありがとうございます
温かく見守っていて欲しいと思います

>>480さん
登場人物が多すぎて良いやら悪いやら微妙ですけども
なんとか全員を活躍させていきたいものです
これからもよろしくです
482 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:20



483 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:20



484 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:21


ブーブー

まのえりちゃんの携帯電話が、さっきからずっと鳴り続けていた。
そばに居る久住くんにもその音が聞こえているのだから、
彼女も当然気づいているはずなのに、完全に無視していた。

どうして彼女は電話に出ないのだろう。
賢くて、勘が鋭い久住くんは、なんとなくわかっている。
彼女はきっと今、何かと何かを天秤にかけている。
比べている。どちらが自分にとってプラスなのか、どうなのか。

このお店。オシャレで高級そうなレストラン。
周りは大人のカップルばかりで、高校生はちょっと浮いている。
だから、彼女も最初は少々居心地が悪そうだったけれども、
堂々とした態度の久住くんと会話をしているうちに慣れ、
この店の落ち着いた雰囲気にすっかり溶け込んでいた。
485 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:21
まのえりちゃんは、普通の高校に通う、普通の高校生。
父親もきっと普通のサラリーマンで、年収だってごく普通。
恋する相手も普通の男。久住くんにとって、戦う敵にもならない。
ビリヤードとか、オセロとか、バスケットボールが得意な男なら
ちょっとライバル視してもいいけど、それ以外なら確実に勝てる。

そこらへんの平凡な男たちに、まったく負ける気がしない。
久住くんには豊富な経験と確かな自信があった。
普通の女の子をオトすなんて、お茶の子さいさいだった。

「ちょっと、お手洗い行ってくるね」

デザートが出てくるまでの待ち時間、彼女がそう言って、席を立った。
何度も鳴っていた携帯電話が入ったブレザーのポケットを
押さえて、妙に早足でトイレに行った。

彼女にこれが食べたいと言われてオーダーしたケーキが運ばれてきた。
だけども、なかなか彼女は戻ってこない。
久住くんはフランツミューラーの超高級腕時計をチラリと見る。
トイレにしては遅い、とは思わない。
486 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:21
とりあえず、美味しそうなケーキを一足先に食べることにする。
黒いチョコレートソースがドッとかかっている、見た目からして甘そうなケーキ。
フォークで一口。うーん、スイート。久住くんの垂れ目がさらに垂れる。

全部ぺろっと食べてしまってから、しばらく経って、まのえりちゃんが戻ってくる。
しかも若干疲れた表情で、久住くんの向かいの席に腰を下ろす。

「……」

久住くんはふと真面目な顔を作って、彼女を見つめる。
それに気づいた彼女が、久住くんを見る。
2人の視線がまっすぐ、真正面からぶつかる。

「大丈夫?お腹痛いの?」
「ううん。大丈夫」彼女は首を振る。
「ケーキ、すごい美味しかったよ」
「そう?」じゃあいただきます、とまのえりちゃんは一口食べる。
久住くんは無駄に熱い眼差しで彼女を見つめ続ける。
「おいしい」
ニコッと笑った彼女は、久住くんに見られながらケーキを食べる。
487 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:21
久住くんは彼女の、唇を凝視している。
きっと彼女も気づいてる。この視線に含まれている何かに。
そして、目の前に居る久住くんをかなり意識している。

「ごちそうさまでした」

彼女がそう言って、両手を合わせた。
久住くんは微笑んで、コーヒーを飲む。

「どうする?これから」
「えっ?」
「もう、帰る?」
「……」

488 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:22


いつものホテルへ向かう車の中で、まのえりちゃんとキスをしながら、
久住くんはずっと考えていた。
ダディを説得するまでのストーリーを、頭の中でイメージしていた。

まのえりちゃんと交際スタート。
ラブラブなカップルになって、ものごっつい愛し合う。
でも久住くんには重大な秘密があった!
2年後に、好きでもない人と結婚させられるのだ!
本当に好きなのはまのえりちゃんなのに!そんなの悲しい!
そこでダディに一生のお願いをする。どうか結婚はやめにして下さい、と。
亀井さんも愛する恋人と別れなくて済むんだから、オールOK。
ダディはきっと納得する。仕方なく、結婚は中止に。
めでたしめでたし。完璧すぎるシナリオだ。

ただし、交際相手は、お金持ちのお嬢様じゃないほうがいい。
利用できそうもない普通の人のほうがいい。
あの男は、世界中の誰よりも計算高くてずる賢い男だから、
なんでも上手く利用しなきゃ気が済まないのだから。

まあ、その男の息子も、同じようにずる賢かったりして。
要するにカラスの子はカラスなのだ。
489 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:22
「ちょっと…久住くん…」

唇を離して、苦しそうな声で、まのえりちゃんが呟く。
久住くんはそんなのお構いなしに、情熱的に彼女の唇をさらに求める。
制服の短いスカートからはみ出ている太ももを、妖しい手つきで撫でる。

「久住くん…ダメだよ…」

久住くんから耳や首筋にキスされながら、まのえりちゃんは
小さな声で囁いている。うっとりしちゃって。説得力がなさすぎる。

見つめ合って、顔を近づけたら、彼女は目を閉じた。
だからキスをした。そしてキス以上のことをしようとしている。
相手が誰でも、いつもそうしてきた。久住くんは強引に迫る。

「もう、我慢できない」

本気で好きでもないのに、すごい好きみたいな眼差しで、彼女を見つめる。
それは彼女の乙女心を、みごとに射抜く。彼女はもう抵抗しなくなった。


490 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:22


湾田高校。

仙石さんはチョコレートが入った箱を大事そうに手に持って、
下駄箱付近で、キャプテンの姿を探していた。
もう帰っちゃったかも。いや、帰ってないかも。
挙動不審な様子でウロウロうろつきながら、
このチョコを何て言って渡そうか、一生懸命考えていた。

「あれ、仙石?」

てひっ!誰かキタっ!と思って振り返ると、
そこには松本くんとキャプテンの2人がいた。
オーマイゴッド!仙石さんは、ちょっと青ざめる。

松本くんはニコニコうれしそうに仙石さんを見ている。
彼女の手の中にあるものも、チラチラ気にしている。
これは最悪の展開だ。
彼女はチョコを背中に隠して、アハハと笑って誤魔化す。
491 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:22
「どうしたの?」キャプテンが尋ねてくる。
仙石さんはブンブン首を横に振って、なんでもないポーズをした。
キャプテンは一度首をかしげたけど、
「おつかれ。また明日」
と笑顔で言って下駄箱へ向かって歩き出した。
松本くんは名残惜しそうに何度も仙石さんを振り返っていた。

はあ。キャプテンたちの背中を見送って、ため息が出る仙石さん。
今日こそは、と思っていたけれど、やっぱり無理だった。
自分の勇気のなさがとても残念だ。
ただこれを渡すだけなのに、渡すだけで十分なのに、
どうしてそれができないのだろう。
492 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:23

「どうしたんだろうな。仙石」

校門に向かって歩きながら、キャプテンは言った。
すると、松本くんがふと立ち止まる。

「シミ、悪い。部室にケータイ忘れた」
「え?」
「先帰っててくれ」
と言って、急いで今来た道を走り出した。
キャプテンはその後姿を見つめて、そしてまた歩き出した。

『仙石って、松本くんと付き合ってるの?』

ふと、いつかの桃子ちゃんとのやりとりを思い出す。
松本くんが仙石さんに片想いしてるというのは、前に桜井くんから聞いた。
仙石さんは?松本くんのことをどう思ってるのだろう。

『キャプテンと一緒に帰りたかったからですよ』

あの日、仙石さんと一緒に帰った日のドキドキも思い出す。
松本くんと仙石さんが2人で居るところをイメージすると、
なんか心が落ち着かない気分になる。
493 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:23
誰かが走ってくる足音が聞こえて、キャプテンは後ろを振り返った。
誰かと思ったら、仙石さんだった。

仙石さんは、キャプテンの姿に気づいている様子だったけど、
何も言わずにキャプテンを追い越して行った。

「仙石?」

彼女は止まらずに、校門を一気に突っ切って行った。
キャプテンは呆然と彼女の後姿を見ているだけだった。


494 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:23


「ケーキ!?」

夏焼くんは興奮気味な声で叫んで、梨沙子ちゃんを見た。
梨沙子ちゃんが微笑んで、可愛いらしい箱を差し出してくる。

「食べていい?」
「いいよ」

彼女のお家に向かって歩きながら、夏焼くんはその箱を開ける。
中身は彼女の宣言どおり、(1人分サイズの)チョコレートケーキだった。

「うまっ。うまいよ梨沙子。天才」
「やった」
「前、誕生日のときに作ってくれたケーキ(※『彼女の嫉妬』参照)
もうまかったけど、これもすっげーうまい。マジ天才」
そんな風に絶賛されて、梨沙子ちゃんは照れくさそうに笑っている。

「あっ、写メ撮り忘れた!」
「梨沙子撮ったよ」
「マジ?送って送って」
「うん」
495 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:23
ポケットから携帯電話を取り出す梨沙子ちゃん。
画面を見て、「あ」と呟く。

「ん?」
「愛理からメールきてる」
「え」
「全然気づかなかった…」
夏焼くんは彼女の横顔を見る。
彼女は怖い顔してその画面を見つめていた。

「なんだって?」
「矢島さんに、フラれちゃったって」
「コクったんだ」
「うん。当たって砕け散ってくるって、言ってた」

自分のことじゃないのに、凹んでいる梨沙子ちゃん。
夏焼くんはそんな彼女の頭をポンポンとやさしく叩く。
496 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:24
「梨沙子が落ち込んでどうすんのさ。
梨沙子は、励ましてあげなきゃダメだよ」
「うん」
「徳永なんて、フラれてもフラれても告白しまくってるんだ。
色んな人好きになって、ちょっと気が多いなって思うけど、
フラれてずっと落ち込んでるより、そっちのほうがいいよ。
だから愛理ちゃんも、また好きな人見つけてさ…あ」

梨沙子ちゃんは、途中で言いかけてやめた夏焼くんを見る。

「すっげーいいこと思いついた」

ニカッと笑ってみせた夏焼くんに、彼女は首をかしげた。


497 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:24


真っ暗な寝室で、2人は裸で絡み合っていた。
ちょっとの隙間も作りたくないらしい絵里ちゃんは、
ガキさんの身体をずっと掴んで離さなかった。

いつもはきちんとしていることも、今日は全然していなかった。
本当に何もかも忘れて、ガキさんは絵里ちゃんと愛し合っていた。

だけど、今だけ忘れてもしょうがない。
絵里ちゃんが結婚するという事実が、消えてなくなるわけじゃない。
今は鹿児島で2人きりでも、明日には向こうに戻らなきゃいけない。
そしたらまた、色々と悩み事も増えてくるに違いない。

『絵里は、ガキさんを信じてる』

信じてる。信じてるのはいいけど、これからどうすればいいのか。
彼女を守るために、彼女を幸せにするために、何をすればいいのか。
ガキさんは考えるだけじゃなくて、行動もしなきゃいけないのだ。
498 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:24
「ガキさん、ガキさん」
「なに?」
「イキそう」
「イキそう?」
「イクっ」

彼女はガキさんの上で、いわゆる騎乗位で、
ガキさんよりも激しく腰を振っている。
ガキさんを見下ろすその眼差しは、ものごっついセクシーで、
ついつい一緒にイッちゃいそうになってしまう。

さらにスピードを上げて腰を動かしてくる彼女につられて、
ガキさんも全力でアソコをパンパンする。
彼女がAV女優みたいなエッチな声であんあん喘いでいる。
今夜はなんか、ハンパない乱れようだ。
普段のおバカなぽけぽけぷぅと、同じ女とは思えない。
長い髪を振り乱して、狂ったように淫らな声を上げている。

とうとうイッちゃったのか、彼女は動きを止めて、静かに身体を震わせた。
ハアハア大きく呼吸をしながら、ガキさんは、上に重なってきた彼女を
抱き止めて、くしゃくしゃになっているその髪をやさしく撫でる。
499 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:24
「疲れた?」

ガキさんがそう尋ねると、うへへ、と力が抜けるように絵里ちゃんは笑う。
そして、ガキさんにチュッとキスをする。
何度かチュッチュしたあと、深い口づけになる。

両腕で彼女の身体を抱いたガキさんは、自分が上になるように、
ぐるりと体勢を変える。絵里ちゃんが首に腕を巻きつけてくる。

「ねぇ、豆彦」

ブハッ。不意打ちのファーストネームに、思わずふき出すガキさん。

「豆彦言うな」
「えぇ、いいじゃんたまには」
「たまには、って、初めてじゃん」
「そうだっけ」
「そうだよ」
「でも、豆彦って名前、ホント変わってるよね」
「しょうがないじゃん。新垣家は代々、名前に豆がついてるの」
「お父さん、豆伸(まめのぶ)だもんね」
500 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:25
絵里ちゃんは微笑んで、ガキさんの唇を奪う。
そしたらまた、甘い甘い大人の口づけになって、
ガキさんは思い出したようにゆっくりと腰を動かし始める。

彼女の秘密な場所の奥の奥をじわじわ攻めていく。
すぐにイッちゃうのはもったいないから、じっくりと味わう。
今は何にも着けてない。着ける暇も与えられなかった。
だからフィニッシュは外で。それが今夜の合言葉のはずだった。

でも、お山の頂上に近づくにつれ、どうでもよくなってくる。
このまま彼女の中に全部ぶちまけてしまいたくも、なってくる。
ぶちまけることがヤバイことだってちゃんとわかってる。
わかってるけど、わかってるんだけど、男としての本能がうるさい。
ヤバイヤバイヤバイ。ガキさんは腰を振りながら焦ってくる。

今までにないくらい激しく突かれて、彼女はめちゃくちゃになっている。
ガキさんもめちゃくちゃで、もうどうにでもなーれ状態。
彼女とのセックスが気持ち良すぎて、泣いちゃうかも。
501 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:25
こんなに気持ち良いのは、相手が絵里ちゃんだからなのか、
それともこの行為自体、そういうものなのか。
前者だと信じたいガキさんは、ぎゅっとかたく目を閉じる。

「ああああ」

そして、とうとう彼女の中でイッてしまう。
最後の一滴まで搾り出す。

「はあ」

深くため息をついて、ガキさんはソレを抜く。
フラフララしながら、枕もとにあるティッシュに手を伸ばす。

絵里ちゃんは放心状態で寝そべっている。
ただただ荒い呼吸が、静かな寝室に響いている。
502 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:25
「ごめん」

とりあえず1回謝って、彼女のお股を綺麗にするガキさん。

「ガキさん」

彼女が腕を広げてきた。ガキさんは素直に彼女に包まれて、
おっぱいに顔を埋める。ぎゅっと抱きしめられる。

「なんで謝るの?絵里はうれしいよ?」

なんていう萌えセリフが聞こえてくる。

「できちゃった結婚は絶対嫌だって言ってたじゃん」
「ガキさんと結婚できるなら、もぉ、何でもいいや」

うへへと笑う彼女を見て、ガキさんはかなり複雑な気持ちになった。
503 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:25


リンリンリリン、リンリンリリン。

高級ホテルのスイートルーム。
キングサイズのベッドの上でまのえりちゃんを腕枕していた
久住くんの耳に、携帯電話の着信音が聞こえてくる。
「ちょっとごめんね」
まのえりちゃんの頭を撫でてから、久住くんは全裸のままベッドを降りる。

床には2人の制服とか白いシャツとか、下着とかが散らばっている。
自分のブレザーを掴んだ久住くん。
そのポケットに入っていた携帯電話を取り出す。

「ヘロー」

どうせクリストファーだと思って、ふざけた声で電話に出る。
そして、電話の向こうの相手に驚く。
504 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:26
「Oh!雅!」
『ういーっす。今だいじょうぶ?』
「うん。OK、OK」

夏焼くんからテレフォンだなんて初めてだ。
パァッと笑顔になった久住くんは明るい声で答える。
ベッドの上に勢い良く飛び乗って、まのえりちゃんに膝枕してもらう。
なでなでされながら、「どうしたの?」と尋ねる。

『こんど、女の子紹介したいんだけどさ』
「えっ?!」

そういえば!!
久住くんは夏焼くんとのあのフリースロー対決を思い出す。
あれで勝ったから、女の子を紹介してもらえるんだった。

でも、すでにもう、まのえりちゃんをオトしてしまったしなー。
彼女の顔をチラリと窺うと、すっごい幸せそうな感じで微笑んでいる。
ちょっと気合い入れてヤリすぎたかなー。後悔してきたりする。
505 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:26
『土日とか暇?』
「次の土日?」
『うん。次の土日』
「どうだろうなー。クリスに聞いてみないとわからないや」
『え?クリス?』
「ちょっと1回切るね」

電話を切って、ひょこっと起き上がった久住くんは、
まのえりちゃんに微笑みかけて、チュッとキスをする。
そして、ベッドから飛び降りて、彼女から少し離れた
場所へと移動する。クリストファーに電話をかける。

「あ、クリス?週末の予定を教えて欲しいんだけど」
『はい。土曜日は、会長と奥様がカナダへ発たれますので
そのお見送りがあります。日曜日はマラソン大会と、その後にパーティが』
「ゲッ」
『何か大事な用事があれば、日曜の予定はキャンセルできますが』
「土曜は?」
『無理です』
「…じゃあ、日曜だけ」
『承知いたしました』
506 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:26
久住くんはすぐに夏焼くんに電話をかけ直す。

「日曜なら大丈夫みたい」
『マジで?じゃあ、日曜遊ぼうぜ』
「うん、いいよ」
『そうだ。バスケしようぜ、バスケ』
「OK」
『あ、ちゃんと紹介もするから。可愛くて、フリーの女の子』

じゃあまた明日、と言って電話を切った久住くん。
可愛い女の子を紹介されるのはとってもうれしいことだけども、
その女の子と変なことになっちゃえば、この完璧な計画が狂ってしまう。

それは、もうすでに始まっている。止めることなんでできない。
1日でも1時間でも、1分でも1秒でも早く、ダディにYESと言わせたい。
早く自由の身になりたい。結婚なんてしたくない。ありえない。
507 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:26
「久住くん?」

電話を切ってから微動だにしない久住くんを心配して、
まのえりちゃんが近づいてきた。
全身に白いシーツを巻きつけて、ペタペタと裸足で歩いてくる。

彼女を振り返った久住くんは、ニコッと笑いかける。
何も考えてなさそうな、のん気な表情で、彼女を抱き寄せる。

「電話、夏焼くんからだったの?」
「うん。そうだよ」
「仲、良いんだね」
「うん。仲良しだよ」

邪魔なシーツを剥ぎ取って、久住くんは少し離れて彼女の
身体を頭のてっぺんからつま先までゆっくり眺める。

「もぉ、エッチ」

まのえりちゃんは右手でおっぱい、左手でアソコを隠した。
ニヤリと笑った久住くんはまたちょっと離れて、携帯電話に
ついているカメラのレンズを彼女に向ける。
許可も得ずにカシャっと1枚、撮ったりして、しっかり保存する。
508 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:26
「撮るのはいいけど、ちゃんと消してよ?」

とか言う彼女に、気をつけの姿勢をさせて、ヌード写真を撮る。
ヘラヘラ笑いながらまた保存する久住くん。
下半身が元気になってきて、ムラムラしてくる。

「ねぇ、ハニー」
「ハニーって…」
「キス、していい?」

熱い眼差しで、甘い声で、妖しい微笑で、久住くんは彼女を誘惑する。
彼女に向かってゆっくり顔を近づけると、彼女が目を閉じる。
唇を重ねた瞬間を、また写真に撮る。
カシャッと鳴った音に驚いた彼女が、久住くんからバッと離れる。

「見て見て」

でも、撮った画像をうれしそうに見せてくる無邪気な久住くんに、
彼女は文句の1つも言わなかった。


509 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:27


高級住宅街・夢が丘にある矢島家。

「……97、98」

矢島くんは、ご丁寧にチョコレートの数を数えてくれている
お母さんをボーッと眺めていた。

「惜しかったわねー。あと2個で100個だったのに」
「あ、嗣永さんからもらったやつは、さっき食べたよ」
「じゃあそれで99個ね。すごい」
パチパチと拍手されて、矢島くんはアハハと笑った。


自分の部屋に戻って、明日の準備をする矢島くん。
教科書を取り出そうとして鞄の中を開けて、ハッとする。

そこには鈴木愛理ちゃんからもらったチョコレートがあった。
矢島くんはそれを手にとって、綺麗に結んであったひもをほどく。
ふたを開けると、何かがビヨーンと飛び出してくるわけもなく、
中にはハート型の小さなチョコレートが、いくつも並んでいた。
510 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:27
桃子ちゃんのチョコが99個目。これは、100個目。
矢島くんは愛理ちゃんからもらったチョコレートを見つめて、
好きです、という彼女の告白を思い出す。

そういえば、初めて会ったときから、って彼女は言ってた。
彼女と初めて会ったのは、亀井絵里ちゃんのバースデイパーティ。

『キャッ!』

廊下の角で、危うく正面衝突しそうになった。
あのときから。矢島くんは振り返ってみて、なんだか不思議な気分になる。

愛理ちゃんの気持ちには応えられないのに。
桃子ちゃんしか見ないと心に決めていたのに。
今、彼女のことを思い出してしまった。

矢島くんは戸惑っていた。
どうしてこんなに胸がざわざわするのだろう。
ごめんなさいと謝って、申し訳ないだなんて思ってしまうのだろう。

彼女からもらったチョコレートの箱を持ったまま、
矢島くんはしばらく固まっていた。
511 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:28


*****



512 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:28
「久住くんってね、湾田高に行ってるらしいよ」

翌朝、ガキさんは絵里ちゃんと仲良く朝食をとっていた。
昨夜はけっこう遅くまでチョメチョメしたから、寝不足っちゃ
寝不足なんだけど、彼女の機嫌はすこぶる良かった。

「自分で選んだんだって。変わってるよね」

今の話題は、絵里ちゃんの結婚相手・久住くんについて。
正直あんまり聞きたくないのだけれども、まあ、敵の情報も
それなりに知っておかないといけないので、黙って聞いている。

「こないだ、エスパーと知り合いになった、って言ったでしょ?」
「あぁ、なんか言ってたね」
「そのエスパー、実は久住くんなんだよね」
「え?!」
(昭和な感じで)目を丸くして驚くガキさんを見て、絵里ちゃんは笑う。
ガキさんは笑ってなんかいられない。急に心配になってくる。
513 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:28
「ねぇ、カメ」
「なぁに?ガキさん」
「その、久住くんってさ、カメと本気で結婚する気なのかな。
久住くんにもちゃんとした相手がいて、本当は結婚したくないとか、
思ってないのかな」
「まだ16歳なのに、今から結婚結婚ってあんまりだー、って言ってたよ。
そりゃそうだよね。勝手に結婚させられるとか、納得できるわけないし。
もしカノジョがいないっていっても、かわいそうだよ。それに」
「それに?」
「なんていうか、久住くんって、お父さんの言いなりっていうか、
きみは私の言う通りにしてればいいんだー、ってそんな感じで。
久住くんのお父さん、いっつもニコニコしててすごい良い人そう
なんだけどさ、目が笑ってないんだよね。目が。
笑いながら、平気でウソつけるタイプの人だと思う。あれは」
絵里ちゃんはそう言って、温かいお茶をすする。

「実際、カメにウソついたじゃん。別れるなんて言ってないのに、
別れるって言ったって」
「うん。でも、あの人、身体が悪いらしいんだよ。あと2年、生きら
れるかどうかって言ってた」
514 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:29
「それもウソなんじゃない?」
「なんでウソだってわかるの?」
「カメが言ったんじゃん。笑いながら平気でウソつけるタイプだって」
「言ったけど、それがウソかどうかはわかんないじゃん。本当に大変な
病気を持ってて、辛い思いをしてるかもしれないじゃん」
「ウソだって。そうやってカメを動揺させる作戦だよどうせ」
「…口からでまかせならいくらでも言えるんだよ」
「え?」
「こないだ、絵里、ガキさんのケータイ見たんだ」
「はあ?!いつ?」

ガキさんは彼女の衝撃発言に、また大げさに驚く。
彼女は怖いくらいの真顔で、ガキさんに言う。

「正直、見なきゃよかったって思った」

勝手に見といてそりゃないよ、と思うガキさん。
しかし、いったいどこからどこまで見られたのか。
(軽蔑したような)彼女の表情からして、吉澤さんとの変なメール
(主にエロDVDの貸し借り)も見られちゃってるのだろう。
もしかしたら、メールの予測変換で『み』を打ったら、
何よりもまず『道重さゆみ』が出てきたり、『え』と打ったら
『絵里』よりもまず『エロハロ』が出てきてしまうとこまで…。
515 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:29
ギザヤバス!
急におでこから嫌な汗が噴き出してきて、慌てておしぼりで拭う。

「安倍さん安倍さん安倍さんーってずらーっと並んでて、
絵里、開いた口が塞がらなかったね」
「…へ?そっち?」
「そっちってどっちよ」
「あ、いや。最近、けっこう安倍さんとメールしてるんだよね」
「うん。知ってる」
「そ、そっか。そうだよね。ケータイ見たんだもんね」
「メールだけじゃないでしょ?電話もでしょ?」

うわ!ギザコワス!
いつのまにか不機嫌になっている絵里ちゃんを見て、
ガキさんは苦笑い。おでこ拭き拭き。
516 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:29
「確かに、カメの見たとおり、安倍さんとメールしてるし、
電話をしたことも何回か(何回も?)…うん、何回かある。だけど
安倍さんは、先輩として心配してくれてるんだよ。心配。わかる?」
「わからない」
「もー、わかってよー。なんていうか、すっごい親身になって
応援してくれてるわけ。安倍さんは」
「なにその絵里が応援してないみたいな言い方」
「ちょっ、そんなこと、ひとっ言も言ってないから!いやその、
確かにカメとはあんまりそういう話したことないけどさ、
カメは別に弁護士目指してるわけじゃないんだし、
話さなくてもいいかなーって思ってるわけ。ぼくとしては」

絵里ちゃんは唇を尖らせて、そっぽを向いている。
どうしてこんな展開になってしまったのだ。意味不明だ。
ガキさんはぽりぽりと頭をかいて、ため息をつく。

「そんなことよりもさ、もっと大事なことあるじゃん。
このまま何もしなかったらカメ、結婚させられるんだよ?
これからどうするか考えることのほうが、大事じゃないの?」
「話逸らすんだ」
「逸らしてるのはカメのほうでしょうが」
517 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:29
なぜか、絵里ちゃんとにらみ合うガキさん。

「…いやいやいや」
「……」
「そんな顔される意味がわかんないんですけど。なに。
ぼくに、安倍さんとメールも電話もするなって言いたいの?
そんなバカみたいなこと、言うわけないよね?」
「……」
絵里ちゃんはまだ唇を尖らせて、ガキさんをにらんでいる。
そんな顔もまあ可愛いけど、ちょっとイライラしてくるガキさん。

「あー、もう。言いたいことがあるんならズバッと言えばいいじゃん」
「ズバッと言ってもガキさん怒らない?」
「それは…内容によるけど」
「じゃあ言わない」
「怒らない!怒らないから、言おうよ」
「…ホント?怒らない?」
じっと見つめてくる彼女に、ガキさんはうなずく。彼女が口を開く。
518 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:30
「ケータイ貸して」
「うえっ?」
「貸して」

彼女はガキさんに向かって手を伸ばす。
ガキさんはテーブルの上にあった自分の携帯電話をとって、
彼女の手のひらの上に乗せる。が、しかし。

「ちょっ!ケータイで何すんのさ!」

渡しかけたそれを、ガキさんは慌てて奪い返す。

「ガキさんのウソつき」
「は?」
「怒らないって言ったのに」

いやはや、彼女の嫉妬は本気でおそろしい。
ガキさんは参ったような表情で、おでこをかいた。


519 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:30


今日は、部活の朝練がお休み。
ということで夏焼くんは菅谷家の門の前にいた。
実は、朝練のときよりも早起きしていたりする。
あくびも何度かかみ殺したりする。

「おはようっ」

だけど、梨沙子ちゃんの可愛い笑顔を見れば、
眠気も一瞬で吹き飛ぶというもので。
夏焼くんも笑いながら「おはよう」と返す。
いきなり手なんか繋いじゃったりして、超ラブラブな感じだった。

ゆっくり歩きながら夏焼くんは言う。
「日曜は、ラウソドワソに行きたいんだけどさ」
「いいよ」
「愛理ちゃんと、小春と、4人で」
「いいよ」
梨沙子ちゃんは夏焼くんの横顔をずっと見ている。

「ボウリングもあるし、カラオケもあるし、スポツチャもあるし」
「うん」
「じゃあ、決まりね」
夏焼くんが梨沙子ちゃんを見る。
2人は見つめ合って、穏やかに微笑んだ。


520 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:30


高級な高層マンションの最上階。久住くんの部屋。

「Good morning.クリス」
「おはようございます。ボス」

バスローブ姿の久住くんは、朝食が並ぶテーブルについた。
ナイフとフォークを手にとって目玉焼きをお行儀良く一口。
うーん、デリシャス。同じ皿のベーコンも、パクッと食べる。

「ねぇ、昨日紹介した子と恋人になろうかなって思うんだけど
クリスはどう思う?」
「まのえり様ですか」
「うん。そう。まのえりちゃん」
「そうですね。土曜日、会長とお会いになる際に、彼女の存在を
どうアピールするかが重要ですね」
「彼女、パパに会わせたほうがいいかな」
「そうですね。きっと、そのほうがいいかと」

クリストファーの答えに久住くんは微笑んで、コーヒーを飲んだ。


521 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:31


「えー?じゃあチョコあげなかったの?」

湾田高校までの道の途中。
仙石さんから昨日の報告を受けたまのえりちゃんは
信じられない様子で彼女に尋ねた。彼女が弱々しく「うん」とうなずく。

「本命のキャプテンにはチョコ渡せないし、どうでもいい松本先輩には
コクられるし。どうするの?これから」
「どうしよう。どうすればいいと思う?」
「さぁ。わかんない」
私には関係ないわ、みたいな顔で肩をすくめるまのえりちゃん。
仙石さんは心底困った様子で、とぼとぼ歩いている。

まのえりちゃんは口元に手をあてて、大きなあくびをする。
そして思い出したように、
「あぁ、あたしさ、カレシと別れる。で、久住くんと付き合おうと思う」
「へっ?なんで?」
「だってチョー優しいし、面白いし。イケメンだし、チョーお金持ちだし、
それに、かなりエッチ上手いし」
「ええええ、エッチ?!」素っ頓狂な声を上げる、ウブな仙石さん。
まのえりちゃんは小悪魔みたいな感じでウフフと微笑んだ。


522 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:31


縁九空港の、国内線の到着ロビー。
鹿児島旅行から戻ってくる絵里ちゃんたちを、
吉澤さんは1人で待っていた。

ふと、スーツのポケットから紙を取り出す。
それは井上さんからいただいたもので、
絵里ちゃんと久住会長の息子の、
結婚式までの段取りが詳細に書かれてあった。

結納は1年半後。結婚式は、2年後。
その間に大規模な婚約披露のパーティもある。
どれも、場所と時間まで決まっていて、おそろしくなる。
あの、久住会長の行動の速さに、とてつもなく
大きな強い力を感じて、不安でたまらなくなる。

会長は、絵里ちゃんと自分の息子を、本気で結婚させようとしている。
冗談じゃない。絵里ちゃんにはガキさんという相手がいるっつうのに。
ピースカンパニーのこととか、絵里ちゃんのお父様の立場とか、
大事なのは大事。確かにそれは間違いない。だけど……
523 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:31
絵里ちゃんたちが現れた。
吉澤さんは小走りで駆け寄って、そして驚く。

なんなんだこの2人。雰囲気悪っ。
行きは彼女の荷物を持ってあげていた優しいガキさんだけど、
今は自分の荷物しか持っていない。

「おかえりなさいませ。絵里お嬢様、お荷物を」

吉澤さんは彼女からバッグを受け取る。
なんか、彼女はブスッとしていて、スタスタ歩いている。
ガキさんも、吉澤さんの顔を見ずに彼女の少し後ろを歩いている。
2人とも機嫌悪っ。いったい何があったのだ。
こんな重要なときにケンカとか。それだけは勘弁してくれよ。


「どうでしたか?霧島温泉は」
「うん、良かったよ…」

車の中。運転している吉澤さんが話しかけると、彼女は返事はしてくれた。
でも、ガキさんはずっと無言で窓の外を眺めてるし、
いっつもぴったり寄り添ってるはずの2人の間には嫌な隙間があった。
なんだかとても、嫌な予感しまくりだった。
524 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:32


夏焼くんたちのクラスは、体育の授業でグランドに集合していた。
今日はマラソンで、学校の外を走ることになっている。
みんな同じ長そでのジャージーを羽織って、寒い寒い言いながら、
マラソンなんて嫌だよねーと愚痴をこぼし合っていた。

「小春、ちょっと」
「ん?」

久住くんと一緒に、夏焼くんは仲間たちの輪から少し離れる。
なになに、と久住くんが顔を近づけてくる。ちょっと、近すぎるくらいに。

「あのさ、日曜のことなんだけど」
「うん」
「12時に夢が丘南駅で待ち合わせしようぜ」
「うん」
「で、どっかで昼飯食って、ラウソドワソに行って、スポツチャしよう」
「スポツチャ?」
「あぁ、バスケもできるし。また勝負しようぜ」
「OK」
「次は絶対ぇ負けねえから」
そう言った夏焼くんは、久住くんの肩らへんに軽くパンチする。
すると、久住くんは大げさに「アウチ!」とかいって痛がる。
525 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:32
夏焼くんと楽しそうにじゃれ合っている可愛い久住くんの姿を、
まのえりちゃんは遠くから見つめていた。
彼女の視線に気づいた久住くんは、彼女をチラリと見て、微笑む。
でも見つめ合ったのはみんなにバレない程度の時間で、すぐにまた
久住くんは夏焼くんの肩を抱いて、必要以上に顔を近づける。

「ねぇ、紹介してくれる子ってどんな子?」
「おれのカノジョの友達なんだけど、可愛いよ」
「名前は?」
「愛理ちゃん」

あいりちゃん、か。どんな女の子なのだろう。
ちょっとだけイメージしてみる久住くん。
可愛い女の子と付き合っている夏焼くんが可愛いと
言うのだから、やっぱり彼女も可愛いのだろう。

「楽しみにしてるよ。日曜日」
「ああ。おれも」

久住くんが根っからのプレイボーイだとも知らないし、
まさか、結婚相手がすでに決まっているだなんていうことも
知るわけない夏焼くん。愛理ちゃんとうまくいったらいいなあ
とか思っている。みんな幸せになったらいいなあ。そう願っていた。


526 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:33


つづく


527 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/15(日) 02:33

ノノl∂Д∂'ル<日曜はリベンジするぞー!おー!
州*‘ o‘リn<みやがんばってー!あいしてるー!

528 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/15(日) 02:54
キテル-!!お疲れさまです。
沢山思うところはあらますが
豆伸に全部持っていかれました。
529 名前:泣いちゃう鴨 投稿日:2009/03/15(日) 07:16
矢島くんが好きです(ぇ
530 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/15(日) 07:46
ラウソドワソwwwwwww
531 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/15(日) 14:31
川*’∀’)<とうとう出番が無かったやよー
532 名前:ゆりもry 投稿日:2009/03/15(日) 16:10
ももちはくまいちょーとくっつけばいいと思うんだ
533 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/16(月) 00:11
矢島君にも変化が・・・
愛理ちゃんも桃ちゃんも、みんな幸せになってほしい。
534 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/16(月) 10:42
>>532
ノソ*^ o゚)<阻止
535 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/16(月) 22:21
ラウンドワソwwwwスポツチャwwwwwww

おじさんは一回行ったら全身筋肉痛になりましたよw
536 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/17(火) 00:26
仙石ちゃんに萌えまくった回でしたw
537 名前:りしゃみやヲタ 投稿日:2009/03/20(金) 11:32
りしゃみやが平和過ぎてどうもすいませんって感じーで頬が緩みますw
>>527でお腹一杯になた
久住くんと愛理ちゃんのビッグカップルに期待してますが…
魔のえりちゃんなんかこええぇぇぇぇぇぇ!!!
日曜日のラウソドワソダブルデートを楽しみに待ってマース
538 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:20



539 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:20



540 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:20
その日の放課後。男子バスケ部の部室。

「おれ、昨日みなみちゃんにコクっちゃった」

松本くんの爆弾発言を聞いて、2年生部員たちは
いっせいにエエエエエと言って驚いた。
キャプテンなんかはあ然として、固まっている。
みなみちゃん、とは女子マネージャーである1年生の
仙石さんのことである。

「おまえ、抜け駆けはやめろって言ったじゃん!」
「そうだ!ずるいぞ!」
「みなみちゃんなんて?まさかOKなんてことは」

ハッハッハ。松本くんが不敵な笑みを浮かべる。
「なんだよ!」「早く言えよ!」部員たちが彼に迫る。
キャプテンはボーっとしたまま、松本くんたちを見ている。

仙石さんって、もしかして、案外人気者?
抜け駆けとかずるいとか、他の奴らは嫉妬してるし。
気づかなかった。みんな彼女を狙ってたのだ。
541 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:20
「もちろん」
「もちろん?」
「フラれました!」手を挙げて、元気良く言う松本くん。

「マジびびったー」
「ハハーン!やっぱりな!」
「みなみちゃんはおまえごときにはなびかないんだよ!」
「うっせー!フラれたけど絶対ぇあきらめねえから!」
「潔くあきらめろ!」

「シーミ」

隣に居た桜井くんが、いきなり肩を組んできた。
キャプテンは彼を見て「なんだよ」と返す。

「おやおや?キャプテン清水、なに焦ってんの?」
桜井くんはニヤニヤ顔。
「ボーっとしてるとあいつらにとられるぞ」
「え?」
「とぼけたってムダだよ。ホント、わっかりやすいんだから」
「…うるせえ」
素直じゃないキャプテンに、桜井くんはハハハと笑う。

「でも気をつけろよ」
「え?」
「可愛い顔して、裏で何してるかわかりゃしないからな」
542 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:21

仙石さんは、たぶんきっと、すごくモテる。

彼女のことをずっと目で追っていたら、必ずそばに誰か男がいる。
しかも、男は必ずうれしそうな笑顔で、彼女とおしゃべりをしている。
全然知らなかった。今まで、自分は彼女のどこを見てきたのだろう。
どこがどう気になって、ドキドキなんかしているのだろう。

「キャプテン?」

夏焼くんに声をかけられて、キャプテンはビクッとした。

「な、なに」
「体調でも悪いんすか?」
「いや、体調はいいけど」
「じゃあこないだケガしたとこがまだ痛むとか」
「全然」
手首をブンブン振って見せるキャプテン。
夏焼くんから不思議そうな顔で見つめられる。

「調子悪いときはあんまり無理しないでくださいよ」
「わかってるよ」
543 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:21

さっきの、桜井くんの言ってたことは本当だろうか。
可愛い顔して、裏で何やってるかわかりゃしないって。

『仙石って、まのえりと仲が良いらしいじゃん』
『まのえり?』
『ほら、1年の中で1番可愛いってウワサの』
『全然知らない』
『その子さ、今は大学生と付き合ってるらしいんだけど、
かなり男遊びが激しいっつうか、結構ヤバイらしいよ』

彼の話は、らしい、らしい、で本当のところどうなのかよくわからない。
でも火のないところに煙はたたず。そんなウワサが出るくらいだから、
相当遊んでいる女の子なのだろう。

要するに、仙石さんはそんな子と仲良しだから、同じように派手に
遊びまくっているかもしれない、と彼は言いたかったのだと思う。
マネージャーとはいえ、男子バスケ部は休みも少ないし、
そんなに遊べる時間なんてないような気もするけれど、どうだろうか。

実際、同じ学校にカノジョがいる桜井くんは、平日はまったく会わない
らしいし、土日の練習がないときに会ってるそうだ。
仙石さんと同じマネージャーの桃子ちゃんだって、矢島くんとは
あんまり会えないから寂しいなんて愚痴をこぼしてたりするし。
544 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:21
だからといって、仙石さんが彼らとまったく同じかっていえば、
そうじゃない可能性ももちろんあるだろうし、実のところはまだわからない。
ただ、彼女のことがやっぱり気になってしまうキャプテンは、そのわからない
部分を全部知りたいような、知りたくないような、微妙な気持ちだった。

でも、あれだけ可愛くて、モテそうな仙石さんだからな。
もしかしたらもうカレシがいるかもしれない。
まのえりっていう子みたいに、男をとっかえひっかえして、
遊びまわってるのかもしれない。それは本当にわからない。

だって、彼女に関しては、よくわからないことだらけなのだ。
知ってるのは、一緒に帰ったあの夜、松本くんに送ってもらえるところを彼女が断ったこと。
あいつよりも自分を選んでくれたという、たった1回、それだけのことだ。

女の子に対してこんなに興味を持つという経験が、まるっきり初めてのキャプテン。
まず何から始めればいいのか、それすらわからなくて、かなり困った。
545 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:21


誰もいない広々とした、音楽室。
まのえりちゃんに連れられてやってきた久住くんは、
ぽつんと室内に置かれてあるグランドピアノに近づいて行く。

「うちね、夢が丘商店街で楽器屋さんやってるんだ」

まのえりちゃんの声が後ろから聞こえてくる。

「おー。名前は?」
「真野楽器。そのまんまだけど」
「うちの会社だって、そのまんまだよ」
「株式会社久住、みたいな?」
「そう、そんな感じ。まあ、いつもKBMって略されちゃうから、
別に気にはならないんだけどね」
「KBMって…なんか聞いたことある」

そう?と久住くんはまのえりちゃんに微笑んで、ピアノの前に座る。
まのえりちゃんの瞳はやっぱり、キラキララと輝いている。
546 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:22
「何弾こうか」
「弾けるの?」
「もちろん」

両手を鍵盤の上にそっと置いた久住くん。
華麗な手つきで、『ねこふんじゃった』を弾いてみせる。
「それくらいあたしも弾けるよ?」
なんてバカにしてくるまのえりちゃんに、ヘラヘラ笑う。

「じゃあ、ぼくが一番好きな曲を弾こうか」
「うん」

まのえりちゃんはピアノにもたれて、久住くんを見つめている。
さっきとは打って変わって、ショパンの有名な曲を真面目に弾きだした。
けっこう難しそうな曲なのに、涼しい顔で、上手に演奏している。

「この曲、知ってる?」
「どっかで聞いたことがあるような気がするけど」
「ショパンのHeroic、英雄ポロネーゼだよ」
「英雄って、ヒーローってこと?」
「うん」
547 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:22
キリのいいところまで弾いて、手を止めた久住くんは、
まのえりちゃんを見つめてフッと微笑む。

「タイトルがかっこいいよね。英雄って。この曲聴いてると、
なんか強くなれそうな気がするっていうか、無敵だぜぇ、みたいな感じ」
「そっか」
「なんか弾く?」

椅子から立ち上がる久住くん。
まのえりちゃんに席をゆずって、彼女の後ろに立つ。
彼女はとりあえず、『ねこふんじゃった』を弾く。
HAHAHA。ゴキゲンな様子で、久住くんは笑う。

振り返った彼女が、はにかんで見せる。
彼女の綺麗な黒い髪に触れた久住くんは、そのまま後ろから
包み込むように彼女を抱きしめる。
548 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:22
「ねぇ、ハニー」
「なぁに?ダーリン」
「土曜日、一緒についてきて欲しいところがあるんだけど、いいかな」
「どこ?」
「空港」
「空港?なんで?」
「ただ、黙ってぼくの横にいてくれればいいんだ」
「うん、いいけど」
「ありがとう。愛してる」
彼女のほっぺにキスをして、久住くんは微笑む。

アイラブユー・アイウォンチュー・アイニージュー。
ぜんぶ綺麗ごとでまったくつまらないけれど、今だけは言う。
目的を達成するためには、何回でも、何百回でも言う。

久住くんは、まのえりちゃんのスカートの中に手を入れて、
彼女の首筋に吸い付くように口づける。
「ちょっと、ダメだよ」彼女はくねくね身をよじらせて、抵抗している。
「嫌じゃないくせに」といやらしく囁いた久住くんは、空いた手で
彼女のおっぱいを制服の上からなぞる。
549 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:22
「えぇ…」
「嫌?」

彼女の顔を覗き込んで、無駄に熱いまなざしを送る。
すると彼女はだんだんうっとりしてきて、顔を近づけると
自然に目を閉じてくれる。ブチュッと、唇を重ねる。
ゆっくり、じっくり、濃厚で濃密な口づけを交わす。
そしたらもう彼女はNOとは言わない。いや、絶対に言わせないのだ。

おパンティを脱がせて、椅子の上でM字開脚させる。
秘密の場所をまじまじと見られて、彼女はとっても恥ずかしそう。
だけど言われたとおり大人しくその格好をしてくれている。
いい子だ。すごくいい子だ。久住くんはニヤけた顔のまま、
彼女のおまんまんにキスをする。尖った部分を、チュウチュウ強く吸う。
息つく暇も与えずに、強引に彼女をイカせる。

見た目は普通の女の子。だけど中身はとてもエッチな女の子。
アソコもココも、どこも敏感でヤリがいがある。
だから彼女をとりこにすることは本当に簡単で、なんでも言うことを
聞いてくれるし、お願いしたらやってくれる。やっぱり、女はこうでなきゃいけない。

この計画、全てが順調だと信じて疑わなかった。
次の土曜日、必ず何か進展すると、期待していた。
550 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:23


新垣家のリビングで、ガキさんがのんびりくつろいでいると、
お父さんが仕事から帰ってきた。ちょうどよかった、と呟いた彼は、
「家庭教師のアルバイトをしないか?」とガキさんに言った。

「家庭教師?」
「私の知り合いのお嬢さんなんだが、来年の高校受験に向けて
苦手な社会科をなんとしてでも克服したいそうだ」
「来年高校受験ということは、今は中学2年生?」
「ああ。できれば週2回で、成績の向上がみられるまで
みっちり鍛えて欲しいらしいが、きみの都合もあるからな。
きみが暇な時間で、なんとか引き受けてもらえないだろうか」

別に大して忙しくもないし、他に断る理由もないので、
「はい」とガキさんは返事をした。
お父さんはうれしそうに「そうか。いやあ、よかった」と笑った。

「それじゃあ、今度の日曜日の昼間、空けておいてくれ。
彼と、彼のお嬢さんと、打ち合わせをしよう」
551 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:23
わかりました、と言って自分の部屋に戻ったガキさんは、「あ」と呟く。
そういえば日曜日って、絵里ちゃんと出かける約束をしていた。

でもまあ、その約束は鹿児島旅行に行く前からのもので、今の険悪な
状況からするとあんまり気が乗らないものだった。

ガキさんは絵里ちゃんにメールを送る。

  日曜日は用事ができたから会えなくなった。ごめんなさい。

絵文字とか何もつける気分にならず、そっけない文面になったけど送信する。
するとものの3秒で彼女からの返信がある。
「何の用事?」と尋ねられて、ガキさんはまたメールを打つ。
家庭教師のバイトをすることになったからその打ち合わせをする、
と正直に全てを報告する。当たり前だけど。

彼女からのメールには「ふーん」と一言。ふーん、ってちょっと冷たい。
ガキさんは苦笑いするけど、もう1回「ごめんなさい」と送る。
それから彼女の返事は来なくて、その日は眠りについた。
552 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:23


*****



553 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:23
絵里ちゃんのご機嫌はすこぶる悪かった。
いつもはニコニコ微笑んでいる可愛らしい彼女だけど、
あの鹿児島旅行から帰ってきて以降、どうも様子が変わってしまった。

吉澤さんが、美味しいおやつとかを持ってきても、全然うれしそうじゃない。
ブスっとした顔で、無言で、パクパク食べるだけ。
笑って欲しくて一生懸命何か話しかけるけど、良い返事が全然返ってこない。

唯一、愛犬アルとお庭で戯れる時だけ、楽しそうに笑っている。
吉澤さんは彼女の微笑を眺めながら、ちょっと心配になる。

今は、ガキさんとしっかり気持ちを通じ合わせなきゃいけないときだ。
何があっても別れないという強い意思を、お互いにちゃんと持ってなきゃ
いけないし、お互いすれ違うことがないようにしなきゃいけない。
そうでないと、今までゆっくりと大切に築いてきた関係が、一瞬で壊れてしまう。

「絵里お嬢様」
「なに?」

アルの頭を撫でている絵里ちゃんが、吉澤さんを見上げる。
554 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:24
「ガキさんと、何かあったんですか?」
「何か。うーん…何かあった」
うへへへへ、と彼女が愛犬と鼻チューしながら笑う。

「愛ちゃんが聞いたら怒りそうだから、吉澤さんにも言いませんけど」

絵里ちゃんはアルと一緒に走り出す。広いお庭を、あちこち駆け回る。
そんな無邪気な彼女をただ見守ることしかできない吉澤さんだった。


555 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:24


時間は夕方くらい。
ミライ百貨店の近くの有名ブランド店に、久住くんはいた。

試着室から、綺麗な格好をしたまのえりちゃんが出てきた。
ちょっと大人っぽくて、そしてとてもオシャレ。
女子高生っていうよりは、それより少し年上の大学生くらいに
見えなくもない。清楚で誠実そうで、上品な女の子にも見える。

明日、彼女を両親に会わせるために、全部久住くんがコーディネートした。
着慣れない洋服に、彼女は少し戸惑った様子だったが、うれしそうだった。

「OK。似合ってるよ」
「そう?なんか、変な感じ」
あまりかかとが高くないパンプスを見たりして、彼女が照れくさそうに言う。

「あとは髪型と、お化粧だね」

店員さんの目の前だけど、久住くんは彼女の頭を撫でる。
彼女がはにかんで、視線を逸らす。アツアツなカップルの雰囲気。
556 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:24
よしよし、いい感じ。内心ニヤリとする久住くん。
2つ結びをしている彼女の、ヘアゴムをすっと取り去る。
ストレートヘアーになった彼女を鏡越しに見つめる。

「髪型はこれでいいかな」
「うん」
「お化粧は、クリスに頼んで、誰かにやってもらおう」

久住くんは素早く決断して、彼女がまた制服に着替えている間に、
カードでさっさとお会計を終えた。

2人はクリスと運転手が待つ車へ戻り、まのえりちゃんのお家へと向かう。

「あぁ、明日、緊張するなぁ」
「どうして。きみは何もしなくていいんだよ」
「小春のお父さんお母さんに会うってだけで緊張するんだよ」
「そっか」
「ねぇ、お父さんとお母さんってどんな人なの?」

そう尋ねられた久住くんは、窓の外を見る。
557 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:24
「ママはとっても美人で、優しくて、いい人だよ」
「お父さんは?」
「パパは、シンプルに言えば嘘つきかな」
「嘘つき?」
「うん」
久住くんはうなずいて、まのえりちゃんのほうに視線を戻す。

「だから、明日パパが何て言っても、絶対信じちゃダメだからね」


2人を乗せた車は、夢が丘商店街のアーケードの中に入っていく。
閉店の準備をしているお店たちの前をいくつか通り過ぎた後、
”真野楽器”という看板が見えてくる。

「家そこだよ」
「ヘイ、ジョニー」
久住くんが運転手の名前を呼ぶと、車が静かにストップした。
クリストファーが後部座席のドアを開けてくれる。
558 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:25
「ありがとうございます」

まのえりちゃんは、さっき買った洋服が入っている紙袋を
クリストファーから渡されて微笑んだ。

「送ってくれてありがとう」
「どういたしまして」

久住くんはまのえりちゃんにチュッとお別れのキスをする。

「じゃあ明日、迎えに来るから、よろしくね」
「うん」

バイバイ、と彼女が手を振ったその時、見知らぬひとりの若者(♂)が
小走りで近づいてきた。ん?と久住くんはその若者を見る。

「恵里菜」

久住くんは、まのえりちゃんのことをファーストネームで呼んだ
その男を見て、ちょっとだけ目を大きくした。
クリストファーと視線をこっそり合わせる。彼が小さくうなずく。
559 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:25
「何回電話したと思ってんだよ」

まのえりちゃんは気まずそうにずっとうつむいている。

「あのー、もしかしてあなたは、彼女のお兄様かなにかですか?」
「ハァ?」男が顔を近づけて、すごんでくる。
両手を挙げて、「まあまあ」と久住くんはヘラヘラ笑う。

「おまえ。おれの女に手ぇ出しやがって」
胸ぐらを掴まれるけど、全然相手にしてない様子の久住くん。
その態度がさらにイラッとさせたのか、「てめえ!」と叫んで
男は右腕を振り上げた。

殴られるっ!まのえりちゃんが顔を背けたその瞬間、
クリストファーがそいつの首根っこをガシッと掴んだ。
そしてそのまま力任せに彼を地面に叩きつける。

「な、なんなんだよおまえ!」

乱れた制服をサッサと整えながら、久住くんはため息をつく。
560 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:25
「彼女の前でこんなこと、みっともないですよ?」
「……」

何にも言わないまのえりちゃんをチラリと窺う。
まあ、せいぜい悩んでくれたまえ。久住くんは優しく微笑んで、
「じゃあ、そろそろぼくは帰るね」と彼女に言う。

「どういう状況なのかイマイチよくわからないんだけど、
彼が納得するまでちゃんと話し合うべきだと、ぼくは思うよ」

それだけ伝えて、バーイと車に乗り込む久住くん。
クリスがドアを閉めて、助手席に座った。
静かに車が走り出して、真野楽器店の前にはその店の
看板娘のまのえりちゃんと、そのカレシらしき男の2人きりになった。

「…サイアク」

くしゃくしゃと頭をかいたまのえりちゃんは、小さな声で呟いた。
地面に転がっていた男が立ち上がり、彼女の前にくる。
561 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:25
「恵里菜」
「何しに来たの?」

彼をにらむまのえりちゃん。

「おれはまだ好きだから、おまえのこと」
「あたしは好きじゃない。あんたの顔なんてもう二度と見たくない」

キツイことを言われて、男は泣きそうな表情になった。

「じゃあね。ここにも二度と来ないでよ」

まのえりちゃんが”真野楽器”のお店の中に消えてゆく。
男は拳を強く握りしめ、しばらくその場に立ち尽くしていた。
562 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:26


*****



563 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:26
桃子ちゃんは多忙な土曜日を過ごしていた。
午前中は部活の練習で、午後から寿司屋でアルバイト。
そしてカレシとちょっとだけデートして、ようやく帰宅。

今はその2つ目の、寿司屋でアルバイト中で、
注文をとったり、レジを打ったり、一生懸命働いていた。

「あ!桃子ちゃんやん!」
「田中さん!いらっしゃいませぇ」

時間はもう夕飯どき。
なんと、同じ高校の先輩である田中くんが恋人と現れてビックリする。
昨年もこうやって、このお店でバイト中に出くわしたりしたことを思い出す。

おしぼりを持ってきた桃子ちゃんは、カウンター席に座った田中くんたちに、
「どうぞ」と渡す。「ありがとう」田中くんが笑顔で受け取る。
そして、そのお隣の恋人も「ありがと」とやさしく言った。
彼女は超ミニスカートに網タイツで、なんかいい香りがして超セクシーで、
桃子ちゃんはちょっとドキドキした。
564 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:26
「れいなの高校の後輩やったっけ?」
「うん、そう。雅とも仲良いんよ。ね、桃子ちゃん」
「はい。バスケ部のマネージャーやってるんで」
「へぇー。可愛いね。スカウトしちゃおうかな」

(スカウト?何の?)首をかしげる桃子ちゃん。
田中くんが苦笑いしながら、「気にせんでね」と言った。

田中くんたちは周囲の目もはばからず、イチャイチャしながらお寿司を食べている。
他のお客さんが使い終わった箸とか湯飲みとかを下げようとした桃子ちゃんは、
裏からひょこっと顔を出して店内を覗いていたこの店の息子に気がつく。

「どうしたの?熊井ちょー」
「あ、いや…あの女の人、どっかで見たことあるなーと思って」

熊井ちょーと呼ばれた息子は、田中くんの恋人をじっと見ている。

「どっかってどこ?」
「…わかんない」
素っ気なく答えた熊井ちょーは、また自分の仕事に戻った。
「えぇー、気になるぅー」
桃子ちゃんはそこら辺を手早く片付けて、熊井ちょーを追いかけた。
565 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:26


久住くんは、縁伊豆空港・第1ターミナルの、ラウンジにある
ふかふかソファに座っていた。隣にはがんばってオシャレした
まのえりちゃんが、緊張気味の顔で腰かけている。

彼らの向かいのソファには、久住くんのご両親がいた。
沈黙を破って、お父様が口を開く。

「それで?きみは何が言いたいのかね」
「だから、恋人ができたので結婚は中止にしてください」

まのえりちゃんがハッとして久住くんを見る。
そりゃそうだ。いつ結婚するの?!って感じだ。

「…なるほど。I see.I see.」

お父様はひとりでウンウンうなずいて微笑む。
久住くんは無表情で彼をじっと見つめている。

「愛してるのか?そのお嬢さんのことを」
「はい。愛してます」
「そうか。愛してるのか」
566 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:27
にらみ合う、久住親子。
まのえりちゃんはふと久住くんのお母様と目が合ってしまう。
険悪な雰囲気の中、ニコリと微笑まれて、軽く会釈する。

「亀井さんだって、本当に好きな人と結婚したいって思ってるはずです」
「ほう」お父様がニヤッとする。
「するときみは、そのお嬢さんと結婚したいと言いたいのかな」
「…それは」

一瞬答えに困った久住くんを見て、お父様はうれしそうな顔をする。
「残念ながら、亀井さんはパパに約束してくれたよ。きみと結婚しますってね。
最初は少し迷っていたけれど、恋人と別れきみと結婚することを選んでくれた」
「えっ」
「きみも、早くあきらめなさい。亀井さんは素敵なお嬢さんだ。
きっと良いお嫁さんになってくれる。きみもそう言っていたじゃないか。
浅はかな、子供っぽい考えで、まったく関係ないそのお嬢さんを巻き込む
だなんて、パパが許さないよ」
「……」
「パパはきみのことを思って言ってるんだ。何が一番ベストな選択なのか。
きみだってもう気づいているんだろう?」

腕時計を見たお父様は「そろそろ時間だ」と呟いて、立ち上がる。
567 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:27
「いいかい。きみはもう逃げられないんだ。悪あがきするのは
勝手だが、無関係な人間に迷惑をかけるのはやめなさい」

久住くんに厳しく忠告したお父様が、お母様の手を引いて
ラウンジから出て行った。

「はあ」

ソファにふんぞり返った久住くんは、深いため息をつく。

「ねぇ、小春」
「なに?」
「結婚って、何?」

くだらないことを尋ねてきたまのえりちゃんを見て、
久住くんはニコッと笑う。

「きみにはまったく関係ない話だよ」
「関係なくないよ。あたし、小春のカノジョじゃないの?」
568 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:27
彼女が迫ってくる。だけど、久住くんは笑顔をキープして、
いけしゃあしゃあと「そうだったっけ?」と答えた。

「えぇ……」
「疲れた。帰ろう」

まだ話し足りなそうな彼女をスルーして、ソファから立ち上がる久住くん。

「さっき、あたしのこと愛してるって言ったのは?」

そんな彼女の質問をHAHAHAと笑い飛ばす。

「”愛してる”なんてさ、言葉にするだけで寒気がしない?」

ああ寒い!大げさに自分の身体を抱きしめた久住くんは、
スタスタとラウンジの入り口へ向かった。
まのえりちゃんは呆然として、その後姿を見つめていた。
569 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:27


「あー、腹いっぱいや」

道重さゆみの派手な外車の助手席で、
田中くんはお腹をポンポンと叩いて笑った。
運転中で前を向いていたさゆみは、田中くんを
チラッとだけ見てフフッと笑う。

さゆみの車は青春大通りをまっすぐ進んでいた。
大きな交差点のところで信号が赤になって、停車する。
横断歩道では、たくさんの若者が行き交っている。

「あ」

田中くんは意外な人物を発見して驚いた。

「どうしたの?」
「愛佳がおった」
ほら、と田中くんが指差した先を、さゆみは見る。
田中くんの可愛い後輩(♀)が、制服姿の男の子と
楽しそうに歩いていた。

「しかも須藤とおるし。付き合っとるんやかあの2人」
「あっ、あの男の子ってバスケ部の?」
「うん。雅の友達。いやー、意外な組み合わせや…」
570 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:28


「初めてだね。とつぜん誘ってくるなんて」

高級ホテルのスイートルーム。
友ちゃんは久住くんを抱きしめながら囁いた。
無言の久住くんは、彼女をベッドの上に乱暴に押し倒す。

「なんか嫌なことでもあったの?」

微笑んだ友ちゃんが、久住くんの頬をやさしく撫でる。
久住くんはその手に自分の手を重ねて目を閉じる。

「あった」
「嫌なことがあって、イライラして、こういうことを
したくなった。だからあたしを誘った」
「そう」
「あたしなら、誘っても断らない」
「Right」
「日本語で言いなさい」
「はい」
まるで母親のような態度の友ちゃんは、
子供みたいに答えた久住くんを見つめている。
571 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:28
「あたしとこういうことをしたら、その嫌なことは消えるの?
全部解決するの?」
「……」
「ごめん。どうでもいいよね、そんなこと。あたしにも、
すごいむしゃくしゃするときあるし。きみがそういうときは、
そばにいてあげたいなって、思ってる」
「友ちゃん」

久住くんは猛烈な勢いで友ちゃんの唇を求める。
2人は熱い口づけを交わしながら、洋服を脱いでゆく。

まのえりちゃんと違って、友ちゃんはとても賢い女だった。
身体の繋がり以上のものを要求してこない。
好きだの愛してるだのくだらないセリフも口にしない。
久住くんの気持ちをちゃんとわかってくれている。

『帰らないの?』

空港のラウンジで、ソファに座ったまま動こうとしない
まのえりちゃんに尋ねたら、彼女はぽろぽろと涙をこぼして、泣き出した。
572 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:28
『じゃあ、今までのも全部ウソなの?』
『全部ホントだと思ってたの?』

彼女がようやく立ち上がって、つかつかと久住くんの前に歩いて来た。
そして『最低』と言って、久住くんのほっぺたに平手打ちをかましたのだ。

でも、久住くんにはこんな経験、今までに何度もあった。
だからどうってことないと思った。ホントとウソの区別ができない
ほうがバカなのだ。本物の恋や愛なんて、存在するわけがない。
それを信じるだなんて、まったく愚かなことだ。バカらしい。

ほっぺたをビンタされたって、そこが痛いのは少しの間だけだし、
彼女を利用することに対して罪悪感なんてまったくない。
ただ頭の悪い彼女にイライラして、もう無理だと思った。

手を出すのも早いが、見切りをつけるのも早い久住くん。
せっかくのダディへのアピールが全くの無駄に終わって、
そのことでもちょっとイライラしていた。
573 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:28
いったい、何が一番ベストな選択なのか。
自称・天才久住くんは最初からその選択が頭にあるけれど、
それだけは絶対イヤだと思っていた。
ダディの命令にどうして従わなきゃいけない。
どうして利用されなきゃいけない。納得いかない。

亀井絵里が結婚をOKしただなんて、ダディが自慢げに
言っていたけど、あれはウソに決まってる。
あの人は何があっても絶対うなずかないはずだ。
ダディはやっぱりウソしか言わないのだ。

「ねぇ、友ちゃんって恋人いるんだよね?」

久住くんは友ちゃんのおっぱいを触りながら尋ねた。
すると、彼女はクスッと笑って、「いるよ」と即答する。

「じゃあ、どうしてぼくとこういうことするの?」
「どうして、か。考えたことなかった」
「もし友ちゃんの恋人が知ったら、どう思うかな」
574 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:29
彼女がまた笑う。
「きみ、そんなこと気にするタイプだっけ?」
「いや全然。でも、友ちゃんはどうなのかなーって、
ふと思ったから」
「あたしたちの関係に意味なんてあるの?
もしあるのなら、ぜひ教えて欲しいんだけど」

挑発するような微笑を浮かべて、友ちゃんは久住くんを見つめる。
ポーカーフェイスの久住くんは、考え込むフリをして、
うーん、とかいいながら、口をへの字に曲げる。
そして彼女の耳元に唇を押し当てて、答えを言う。

「意味なんてないよ」
「でしょ?」
彼女は久住くんの背中に腕をまわしながら囁く。

「意味がないから、こういうことできるんだよ」

久住くんは彼女の言葉にフッと笑った。
575 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:29


矢島くんは携帯電話の画面を真剣なまなざしで見つめていた。
何をそんなに真剣に見ているのかといえば、あの、
鈴木愛理ちゃんという女の子から送られてきたメール。
今までずっと無視し続けてきたメールたちを、読んでいたのだ。

自分には桃子ちゃんがいる。いるんだから愛理ちゃんの
気持ちは受け取ってはいけない。そう言い聞かせて、
心を鬼にしてそのメールたちをまったく見ずにいた。

だけど、直接「好きです」なんて告白されてしまったから、
気になってしょうがなくなってしまった。
愛理ちゃんはすごく良い子なのだから、彼女とちゃんと
向き合わなきゃいけないのだと、思うようになった。

送られてきたメールはほとんど写真付きだった。
しかもその写真はほとんど食べ物の写真。
美味しかったケーキとか和菓子とか、甘いものだらけだった。
見かけによらず食いしん坊なんだなあ。
とかいって、つい頬がゆるんでしまう。
576 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:30
『今度一緒に食べに行けたらうれしいです』
メールの最後はだいたいそういう文章で締めくくられていた。
彼女の誠実な想いがじわじわと伝わってきて、なんとも言えない
気持ちになってしまう矢島くん。こんなに好かれて、うれしくない
わけがない。かなり複雑な感じだった。

ガラガラガラ…

すし熊の戸が開いて、桃子ちゃんが出てきた。
近くで待っていた矢島くんにすぐに気づいて、パァッと笑顔になる。
矢島くんはまだ愛理ちゃんからのメールを読んでいる。

「舞美っ」

彼女の声にドキッとした矢島くんは、慌ててケータイを閉じ、
ポケットの中に押し込む。そして、彼女に向かってアハハと笑う。

「お待たせ」
「うん。お疲れさま」

手を握ってきて、ブラブラ揺らしてくる桃子ちゃんを見て、
さらに複雑な気持ちになってしまう矢島くん。
だけど、それは強引に誤魔化した。誤魔化すしかなかった。
577 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:30


*****



578 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:30
やってきました日曜日。天気は快晴。あっぱれだ。
夏焼くんは心も身体もウキウキさせながら、菅谷家の門の前に居た。

梨沙子ちゃんのケータイにワン切りすると、数秒後に
彼女がお家の中から笑顔で飛び出してくる。
いつもはスカートで女の子らしい彼女だけど、
今日はさすがにズボンだった。でも短いズボンだった。

「珍しいじゃん」と夏焼くんが呟くと、彼女はヘヘヘ、とはにかんだ。
マジかわいい!抱きしめたい!チューしたい!
一気に興奮してきた夏焼くんだけど、まだまだお子ちゃまだから
「行こう」とそっけなく言って、歩き出す。
「うん」と答えた彼女はトコトコ後ろをついてゆく。

待ち合わせは夢が丘南駅の前。
久住くんには、大きな時計のところに集合と言ってある。

駅前の広場に到着した夏焼くんと梨沙子ちゃんは、
同じタイミングで辺りをキョロキョロ見渡し始める。
579 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:30
「愛理、まだみたいだね」
「小春も」

大きな時計は11時50分をさしていた。

「りーちゃーん」

久住くんよりも先に、愛理ちゃんがやってきた。
「あいりー」と梨沙子ちゃんが手を振って応える。

「夏焼先輩、こんにちは」
「こんにちは」

そんな風に、カレシと親友が挨拶を交わしているのを見て、
梨沙子ちゃんはうれしそうに微笑んでいる。

「久住さんって、どんな方なんですか?」
「明るくて面白いやつだよ。あと、背が高い」
「へぇー」
「たぶん、すぐに仲良くなれると思うよ」
580 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:31
12時になって、時計から変なメロディが聴こえてきた
そのとき、1台のいかつい黒い車が駅前に現れた。
夏焼くんはふとその車のほうを見る。
なんか、助手席からスーツ姿の外国人が出てきて、
後ろの席のドアを開けた。

「あっ!小春!」

その後ろの席から降りてきたのは、なんと久住くんだった。

「こんにちは!」

カジュアルな服装の久住くんが、3人に駆け寄ってくる。
きらきらした笑顔がとても眩しく、イケメン以外の何者でもなかった。

「Oh!りーちゃん!」
「あっ、あぁ、はじめまして」
「はじめまして。お会いできて光栄です」
久住くんから握手を求められた梨沙子ちゃんは、
戸惑いながらもそれに応える。
581 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:31
「そして」

久住くんが、愛理ちゃんのほうに視線を向ける。

愛理ちゃんはニッコリ微笑んで、
「はじめまして。鈴木愛理といいます」
久住くんから差し出された手をしっかり握りながら、
彼女は自己紹介をした。

「はじめまして。久住小春です」

久住くんも彼女の手を握りしめ、しっかり目を見て言った。

これが、2人の初対面だった。


582 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:31

つづく

583 名前:彼女の革命 投稿日:2009/03/22(日) 00:32

州*‘ o‘リ<『それは、運命の出会いだった』
ノノl∂_∂'ル <コラコラ勝手に話つくるな

584 名前:(0`〜´)人(’ー’*川 投稿日:2009/03/22(日) 00:32
>>528さん
どうもありがとうございます
ちなみに豆彦の妹は小豆(あずき)ちゃんです

>>529 泣いちゃう鴨さん
私も好きですwwwwwwwwwwwwww

>>530さん
あの伝説の「キラーソー」風にしてみました

>>531さん
出番あるから!600レスあたりにきっと出てくるから!

>>532 ゆりももヲタさん
ええ私もそう思います

>>533さん
まだお話は中盤ですがこれだけは宣言しときます
みんな幸せになります!!!

>>534さん
ル ’ー’リ<阻止を阻止

>>535さん
完全に運動不足ですね☆
エレベーターじゃなく階段を使いましょう!

>>536さん
私も仙石さんに萌え萌えです

>>537 りしゃみやヲタさん
このスレはそのビッグカップルのためにあるといっても過言ではありません
期待に応えられるようにがんばって書きます
魔のえりwwwwひどいタイプミスwwwwwwwwwww
まのえりちゃんはキャラが正直よくわかりません
585 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/22(日) 01:26
ひそかにくまいちょーのファーストネームが気になってたりします
586 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/22(日) 23:01
豆彦さんのチャンポンチャンな家庭教師が楽しみです
587 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/22(日) 23:02
ごめんなさい
588 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/22(日) 23:24
ガキさん誰の家庭教師やるんだ?
589 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/22(日) 23:53
(0´〜`)<お嬢様、私は見守ることしかできないのでしょうか…
590 名前:泣いちゃう鴨 投稿日:2009/03/23(月) 23:59
私も矢島くんにメール送ってニヤニヤ(違う)してもらいたい!w
という事で桃!!矢島くんは私がもらうww
591 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/24(火) 15:54
やじすずやじすず!!!
592 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/24(火) 23:10
yajisuzu nara momosaki puri-zu!!!
593 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/25(水) 00:17
なんかすごい展開になってきたw
みんな幸せになれますように…(-人-)
594 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/25(水) 21:45
熊井くんって意外と…w
595 名前:りしゃみやヲタ 投稿日:2009/03/26(木) 02:39
日曜のラウソドワソktkr

「魔のえり」はにちゃんから拝借しましたw
しかし久住くんの方が一枚上手でしたね
そして更にダディが上手…このファミリーゲーム怖いなぁ

筆が進んでいるようで読者としては嬉しい限りです(´∀`)ぎゃむばって下さい
596 名前:(0`〜´)人(’ー’*川 投稿日:2009/04/11(土) 10:35
>>585さん
くまいちょーのフルネームは「熊井奈理友」です
いちおうマイホームページの登場人物紹介にも書いています
ttp://www.geocities.jp/namake_nonko11/chara.html

>>586さん
チャンポンチャンwwwwwwwwwwwww
懐かしいwwwwwwwwwwwwwwwwww

>>588さん
それは今回明らかに!

>>589さん
ぜひ吉澤さんにも活躍の場を与えたいですね

>>590 泣いちゃう鴨 さん
どういう展開だwwwwwwwwwwwwwwwwwww

>>591さん
突然そんなコールされてもwwwwwwwwwwwwwww

>>592さん
やじすず なら ももさき ぷりーず
ももさき=桃早貴
意外とアリかも

>>593さん
これからもっとすごい展開になる予定です
なんとかうまくやっていこうと思うので
温かく見守っていてください

>>594さん
意外とwwwwwwwwwwwwwwwwww

>>595 りしゃみやヲタ さん
久住くんとダディの関係はひとつの注目ポイントですね
今ちょっぴり忙しくて全然続き書いてないんですけど
なんとか今年中に終わらせられるように努力します
597 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:36



598 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:36

とりあえずお昼ご飯を食べようということで、
夏焼くんたちご一行さまは、とあるオムライス屋さんに入った。
実はここ、夏焼くんの先輩・田中さんゴリ押しのお店だった。

4人がけのテーブルに案内されて、どう座ろうかという空気が流れた。
夏焼くんが梨沙子ちゃんと(どうする?)というアイコンタクトを
とっていると、久住くんが女子2人に「どうぞ、座ってください」と言った。
顔を見合わせた梨沙子ちゃんと愛理ちゃんは並んで、椅子に腰かけた。

「雅も」「あ、あぁ」

結局、男子と女子は向かい合うようにして座る形になった。
「こちらメニューになりまーす」
「ありがとうございます」
店員さんが持ってきたメニューを受け取った久住くんは、
サッと広げて梨沙子ちゃんと愛理ちゃんの前に置いた。

「なに食べましょうか」

彼女たちに言って、クールに微笑む久住くん。
こいつ、なんでこんなに慣れてんの?夏焼くんはちょっとドキッとした。
599 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:36


それと同じころ。
とある映画館には絵里ちゃんと愛ちゃんがいた。

「家庭教師ぃ?」

愛ちゃんは席に座りながら絵里ちゃんに言う。
「うん。家庭教師」
キャラメルポップコーンを抱えた絵里ちゃんが
うなずいて、その隣に腰を下ろす。

「ていうかさ、誰を教えるわけ?」
「前田さんっていう、お父さんの知り合いの娘さんなんだって」
「でも、そういうのはプロに頼めって感じじゃない?なんで
わざわざガキさんに頼むんだろう」
「まぁ、そうだけど」
「その娘さんって、年いくつ?」
「中2。愛理ちゃんとか、梨沙子ちゃんとかと同い年かなぁ」
「中2かー。中2ならまず間違いは起こらないだろうけど」
「間違いって。ありえないでしょ」
「どうかなー。絵里は男ってもんをまだちゃんとわかってないね」
「えぇ、わかってるよ?」
「でも、ガキさんは絶対に浮気しない、って思ってるでしょ?」
「当たり前じゃん。ガキさんは絶対浮気なんかしないよ」
600 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:37
「甘い」
と言った愛ちゃんが、人差し指をピンと伸ばす。
そしてその指を絵里ちゃんの鼻の頭にくっ付ける。

「じゃあ、絵里はガキさんが”浮気なんかしない”って言ったら、
それをそのまま信じるわけ?」
「信じるよぉ。信じるしかないじゃん」
「絵里が”浮気してるんじゃないかなぁ”って思ってても?
ガキさんが他の女とメールしたり電話したり、2人で
会ったりしてても?ガキさんの言葉を信じるの?」
「信じる」
「ホントに?信じられるの?」

絵里ちゃんはこくりとうなずく。

「なんか、そういうのって、ガキさんの言葉がホントかウソか
なんていうことは別に関係なくってさ、絵里が、ガキさんのこと
信じるか信じないかだと思うんだよね」

そう言った絵里ちゃんは、ふにゃりと笑った。
すると劇場内が少し暗くなり、スクリーンに映像が流れ始めた。
愛ちゃんはまだ言いたいことがあったけど、仕方なく前を向いた。
601 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:37


やっぱり久住くんは天才なのかもしれない。
梨沙子ちゃんや愛理ちゃんとは、お店を出るころには
すっかり打ち解けていて、夏焼くんは感心していた。

湾田町にひとつあるラウソドワソには、ボウリングや
カラオケの他に、スポツチャという施設があった。
そこでは野球やサッカー、テニスにバスケットボール、
ゴルフなどで遊ぶことができる。梨沙子ちゃんは今日、
それで遊ぶために半ズボンを穿いてきたのだ。

「とりあえず1回小春と勝負させて」

まず何をしようかという空気が流れて、
夏焼くんは女の子たちに両手を合わせてお願いした。

梨沙子ちゃんが愛理ちゃんの顔を見る。
「いいよね?愛理」「うん」
「よっしゃ。小春行くぞー!」
「OK!レッツゴー!」
美少年コンビは肩を組んで元気に歩き出した。
602 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:37

「今日は1on1で勝負だ」

バスケットボールを抱えた夏焼くんは、久住くんに言った。
じゃんけんで今回も勝った久住くんが先攻を選ぶ。

梨沙子ちゃんと愛理ちゃんは隅のほうで大人しく見学している。
「久住さんってバスケ上手なの?」
「うん。こないだフリースローで勝負して、みや負けたもん」
「へぇー。夏焼先輩、すごい上手なのに」

「もしきみが勝ったら、バスケットボールクラブに入るよ」

夏焼くんからボールを受け取った久住くんが言う。
お互いニヤリと微笑みながら、にらみ合う。

夏焼くんの表情が真剣になった瞬間、久住くんは動き出した。
俊敏な夏焼くんはすぐに反応して、隙あらばボールを奪おうと
目を光らせている。まったくお笑いなしの、真剣勝負だった。
603 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:37
「…かっこいいね」

愛理ちゃんが隣で呟いたのが聞こえて、梨沙子ちゃんはハッとした。

「久住さんも、王子さまみたい」

彼女が今まで王子さまだと認めたのは2人。
亀井さん家の執事・吉澤さんと、初恋の矢島さんだ。
砂山さんなんてずっとロリコン扱いだったけど、久住くんは
すぐに気に入られたみたい。さすが愛理お嬢様。お目が高い。

「久住さん、カノジョいないみたいだよ」

あんなにかっこよくて面白くてやさしいのに。
梨沙子ちゃんは、真剣だけど楽しそうにバスケットボールを
している久住くんを眺めながら、不思議になった。
夏焼くんがモテるのだから、久住くんがモテないわけがない。

「カノジョいないんだ」
「うん。だから誰か紹介して欲しいって、頼まれたんだって」
「……」
604 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:37
久住くんを見つめる愛理ちゃんの横顔を見る梨沙子ちゃん。
矢島さんにフラれた傷は、新しい恋で癒して欲しい。
それが一番なんだと、夏焼くんが言っていたから。

「りーちゃん」
「ん?」
「ありがと」
愛理ちゃんは目を細めながら言った。
とんでもない!と梨沙子ちゃんは首をブンブン振る。

「愛理が幸せになれるんなら、あたし、なんでもするから」
「わたしだって、りーちゃんの幸せのためなら」
お嬢様コンビはムフフ、と笑う。

「よっしゃー!」

勝負は夏焼くんが勝ちそうだった。
ボールを先に5回ゴールに入れたほうが勝ちという
ルールで、夏焼くんはもう4回目だった。

さすが現役バスケ部(のイケメンエース)。
久住くんが持っているボールを上手に奪って、
目にもとまらぬ速さで、シュートを打つ。
最後の5回目のゴールも、華麗に決める。
605 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:38
「勝ったどー!」

拳を突き上げて、大喜びの夏焼くん。
久住くんはさわやかに笑いながら、肩をすくめる。

「参ったなー。負けちゃったよー」
「明日からバスケ部来いよ!絶対だぞ!」

夏焼くんは、ヘラヘラしている久住くんに向かって
ビシッと指差す。

「わかったよ。約束だからね」

「みや!」

梨沙子ちゃんが駆け寄ってきて、手を出してきた。
「イエーイ!」夏焼くんは彼女とハイタッチをする。
久住くんはその様子を微笑みながら見ていたけど、
愛理ちゃんがゆっくり近づいてきてるのにふと気づく。
606 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:38
「久住さんって、バスケットボール、とてもお上手なんですね」
「ハイ。よく言われます」

その答えに、クスッと笑う愛理ちゃん。
久住くんもニッコリして、彼女を見つめる。

「今から何しましょうか。あ、ゴルフでもします?」
「そうですね」

じゃあ行きますか、と夏焼くんと梨沙子ちゃんを見ると、
なんかあっちは彼女が夏焼くんの髪型を直してたりして
2人で盛り上がっていて、愛理ちゃんが苦笑する。

「先に行っちゃいましょうか」
「ハイ」

違う場所に移動し始めた久住くんと愛理ちゃんに気づいた
梨沙子ちゃんは、慌てて「みやっ」と夏焼くんの腕を叩く。

「…ちょっと2人きりにしてみるか」

夏焼くんはその2人を見て呟いた。
607 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:38

パコーン!

愛理ちゃんが打った球は綺麗な軌道を描いて飛んで行った。

「ナイスショット!」

久住くんが後ろからそう言うと、愛理ちゃんはわざわざ
振り返って会釈しながら、照れ笑いを浮かべた。

「久住さんもどうぞ」
「いやー、お上手ですねー。今度、一緒にゴルフしましょうよー」

愛理ちゃんからゴルフクラブを受け取る久住くん。
彼女はあははと笑いながら「そうですね」と答えた。

生粋のお坊ちゃま・久住くんは、ゴルフも難なくこなす。
綺麗なフォームで、どんどん球を飛ばす。

「すごーい。久住さんって何でもできるんですね」

愛理ちゃんの一言に、久住くんは笑顔で振り返る。

「よく言われます!」
608 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:38

「いい感じ、みたいだね」
「そうだね」

夏焼くんと梨沙子ちゃんは、少し離れたところから
ゴルフをしている2人を見守っていた。

「小春って、誰とでもすぐ仲良くなれる才能があるんだろうなあ」
「うん。すごいよね。なんか、完璧って感じ」
「完璧完璧。悪いとこなんて見当たらないし」
「あの2人、うまくいったらいいね」
「うん」彼女と微笑み合う夏焼くん。

「ていうか、バッティングしようぜ、バッティング」
「えぇ、やだ」
「やだじゃないよ。行くぞ!おー!」
609 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:39


一通り遊んだあと、久住くんたちは自動販売機の前で
飲み物を選んでいた。

「どれが飲みたいですか?」
「あっ、自分で買うからいいですよ」
「そんな、遠慮しないで」
「じゃあお言葉に甘えて…」

愛理ちゃんが指差したお茶のボタンをポチッと押す久住くん。
ガチャコン!と音を立てて、ペットボトルが落ちてくる。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」

久住くんは微笑んで応えて、自分の飲み物を選ぶ。
その横顔を愛理ちゃんはずっと見つめていた。

どこか座って休憩しましょうかということになり、
2人は並んでベンチに腰かける。
610 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:39
「いやー、楽しいですね」
「そうですね」
「あとで3階に下りて、ダーツしましょうよ。ダーツ」
「はい」

ミネラルウォーターをぐいっと飲んだ久住くんは、
愛理ちゃんを見る。彼女が首をかしげる。
見つめ合う2人は、なんだか妙なムードに包まれる。

彼女は14歳の中学生。言葉遣いも、態度も丁寧でお上品。
清楚で真面目そうで、頭も良さそう。文句のつけようがない。
まさに純粋無垢という言葉がぴったりのお嬢さんだ。
こんなにいい子をたぶらかすだなんて、さすがに良心が痛んでしまう。
久住くんはこう見えても口説く相手はきちんと選んでいるのだ。

それに夏焼くんの恋人の親友だし、適当になんてできない。
今まで派手に遊んできたけれど、それくらいの常識も持っていた。
611 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:39
「久住さんって、本当にカノジョいないんですか?」

愛理ちゃんがそんなことを尋ねてきて、久住くんはちょっと驚いた。
あれあれ?意外と積極的?なんて思ったりする。

「いませんよ。鈴木さんは?恋人は?」
「あたしもいないんです」
「本当ですか?奇遇ですね」

ええ、と言ってクスっと笑う愛理ちゃん。

「好きな人も、いないんですか?」
「いませんよ」
「本当に?」
彼女が、目をくりくりさせて見つめてくる。
人を疑うことなんてまったく知らないんだろうなあ。
と思った久住くんは、ちょっとだけでいいから、
彼女のことをからかいたくなって、
「いや、ウソです」と訂正した。
「いるんですか?」と彼女は驚いた。
612 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:39
「いますよ。今、ぼくの目の前に」

キザったらしく、久住くんは愛理ちゃんに言った。
彼女はぽかんと口を開けている。

「なんちゃって」
「もぉー、冗談はやめてくださいよー」
初々しくて可愛らしいリアクションに、久住くんは笑う。
「そういう鈴木さんはいるんですか?好きな人」
「え、わたしですか?」
「ハイ」
「…」
愛理ちゃんはふと真顔になって、久住くんをじいっと見つめた。
久住くんも負けじと見つめ返す。無駄に熱いまなざしで。

「いました」
「と、いうことは」
「好きな人はいました。つい、数日前まで」
「じゃあ今はいないんですね」
613 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:39
彼女は答えに迷って、首をかしげて苦笑した。

「もうあきらめたほうがいいって、自分でもわかってるんです。
でも、やっぱり、その人のことが頭から離れなくって…」

切ない表情で少しうつむく愛理ちゃん。
久住くんはその横顔を見つめる。
可愛いすぎて、まだまだからかいたい気分になる。

「ひとつ、いいことを教えてあげますよ」
「え?」
「その人のことをあきらめる方法です」
「あきらめる方法?」
「そう。とっておきの、奥の手です」

ニコッと笑った久住くんは、愛理ちゃんのあごをそっと持つ。
そして彼女にキスする寸前まで、顔を近づけた。
突然のことに彼女は目を丸くしたまま、固まってしまう。
614 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:40

いつもだったらこのまま遠慮なくキスして、舌まで入れる場面だ。
だけどやっぱりそれはやめておこうと思った久住くんは、
無駄に真面目な顔で、彼女を見つめるだけ。
彼女は放心状態。ポーっとした顔で、久住くんを見ている。

「ぼくのことを好きになればいいんです」
「……」
「そうすれば、その人のことなんて、一瞬で忘れさせてあげますよ」

なんちゃってパート2。
彼女から離れた久住くんは自信満々な態度でウインクした。

ニコニコしている久住くんを、彼女はまだボケーっと見つめている。
あのー、と言いながら彼女の目の前に手をかざす久住くん。

愛理ちゃんはハッと我に返る。

「好きになってもいいですか?」
「へ?」
「あなたのこと、好きになってもいいですか?」

…WAO。久住くんは目をまん丸にした。
「いいえ、ダメです」とは、言えなかった。
615 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:40


枝津具(えつぐ)町にある前田邸。

「それじゃあ、これからよろしく頼むよ」

表に停めれられた車に乗り込もうとするガキさん親子に、
前田氏は笑顔で言った。「はい」とお父さんが答え、
「がんばります」とガキさんが答える。

前田氏の隣には、彼の愛娘・憂佳ちゃんが立っていた。
彼女と目が合ったガキさんは、やさしく微笑んで会釈する。
ニコッと笑った彼女が元気に手を振ってくれる。

走り出した車の中で、ガキさんのお父さんが言う。

「結局、成績が良くなるかどうかは、あの子次第だからな」
「そうだね。でも、できるだけ協力するよ」
「色々忙しいときにすまないな」
「いえ」
「そういえば…絵里ちゃんとは、どうなったんだ?」

いきなり恋人の名前を出されて、ガキさんは面食らった。
616 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:40
「どうなったって、別に変わらないけど」
「話はしたのか?」
「したよ。でも、ぼくもカメも、別れる気なんてないから」
「絵里ちゃんは結婚を了承したんじゃなかったのか?」
「は?!了承とかするわけないじゃん」
何言ってんの?っていう顔になるガキさん。
だけどお父さんはものすごく冷静に、
「久住会長から聞いたんだ。絵里ちゃんのおかげで、
予定通り2年後の7月に式を挙げられそうだと」
「ちょっと待ってよ。ぼくらはまだ別れてないし、これから
別れるつもりもないから」
「…そう思ってるのは、きみだけなんじゃないか?」

お父さんの厳しい一言に、ガキさんは何も言い返せなかった。


617 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:41


時間はあっという間に過ぎ、夕方くらい。
夏焼くんたちご一行様は、夢が丘商店街を歩いていた。

「すごいね、プリクラって」

4人が写ったプリクラを眺めながら、感心する久住くん。
さっき、ゲームセンターで撮ったのだ。
プリクラマシンというものは、日本の若者の間では有名らしい。
それを今日初体験した久住くんは、とてもゴキゲンだった。

4人だけじゃなくて、2人ずつ撮ったやつもある。
夏焼くんと久住くんの美少年コンビ。
梨沙子ちゃんと愛理ちゃんの女子中学生コンビ。
そして夏焼くんと梨沙子ちゃんの仲良しカップル。
久住くんと愛理ちゃんの2ショットもあった。

「あ、真野楽器」

夏焼くんが久住くんの肩を叩く。
618 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:41
「これ、同じクラスの真野の家だよ」

真野楽器店の前を通り過ぎながら、夏焼くんは言った。
顔色ひとつ変えない久住くんは、店の看板を見上げて
「へー」とだけ答えた。

リンリンリリン、リンリンリリン。

おっとっと。久住くんの携帯電話が突然鳴り始めた。
隣を歩いている愛理ちゃんに「ちょっとごめんね」と
断ってから、「ヘロー」とふざけた声で電話に出る。
相手はクリストファーだった。

「うん。うん。それじゃあそういうことで」
619 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:41
電話を切ったあと、愛理ちゃんに耳打ちする久住くん。

「帰り、ぼくが送って行きますよ」
「え?」

背の高い久住くんを見上げる愛理ちゃん。

「雅たちは、ホラ、さっきからまた2人の世界みたいだし」

前を歩く夏焼くんたちを見て、久住くんは微笑む。
ラブラブカップルは、おしゃべりしながらはしゃいでいる。

「じゃあ、お願いします」

ちょっと苦笑しながら言った彼女の腕をとって、久住くんは
反対方向へズンズン歩き出す。
620 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:42
「えっ?えっ?」

彼女はいきなりのことに困っていた。
そんな顔もまたキュートで、久住くんは楽しくなってくる。

花屋の角で曲がると、黒い大きな車が停まっていて、
ひとりのイケメン外国人が待っていた。


「りーちゃんからメールきてました」

車に乗ると、愛理ちゃんはケータイを取り出し、
画面を見つめてクスクス笑いながら言った。

「『どこ行ったの?!』って」
「もう帰ってますよー」

HAHAHA。久住くんは愛理ちゃんを視線を合わせて笑う。
621 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:42
「そうだ。連絡先を教えてもらってもいいですか?」

愛理ちゃんはふと思いついたように言った。
いいですよ、と久住くんが答えると、ケータイを出してくる。
それから、2人は電話番号とメールアドレスを交換する。

久住くんの名前が電話帳に加わって、愛理ちゃんはうれしそうだ。
そんな彼女を見つめながら、久住くんもまた、なんかうれしくなる。
なんでなのかよくわからないけれど、ハッピーな気持ちになる。

2人が穏やかな、良い雰囲気に包まれる中、クリストファーの声がする。

「鈴木様のお宅はどちらのほうでしょうか」
「あっ、すみません。夢が丘1丁目です」
622 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:42
ほどなくして、車は高級住宅街・夢が丘へと入ってゆく。

「あそこはりーちゃんのお家です」

通りかかったとあるお家を指差して、愛理ちゃんは言う。
そのお家の大きな門には、厳つい文字で”菅谷”と書かれた表札があった。

「へぇー。ザ・ジャパニーズ・ハウスですね」
「そうですね」

梨沙子ちゃんのお家は大きくてとても目立つ。
あの子、普通の可愛い女の子だとばかり思ってたけど、
もしかしたら、いいとこのお嬢さんだったりするのかもしれない。


「わたしの家はあそこです」
「ん?」

道の突き当たりに、なにやらお城みたいなお家が見えてきた。
似たようなのが建ち並ぶ住宅街の中で、珍しく洋風なお家。
623 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:43
「WAO」

久住くんは思わずサンルーフを開けて、そこからひょこっと首を出した。
まるでそこだけアメリカみたいな、でっかい豪邸があった。

「うわぁー、気持ち良いですねー」

なんと、愛理ちゃんもサンルーフから顔を出してきた。
おでこ全開で久住くんの横で微笑んでいる。
2人で冷たい冬の風を受ける。

「鈴木さんのお父様は、何をされてる方なんですか?」
「お父さんは、これを作ってる会社の社長さんです」

これ、と彼女はケータイを見せてきた。
WAO。これはたまげたね。久住くんはまた驚いてしまった。
624 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:43

車が鈴木邸の前に停まる。クリストファーがドアを
開けてくれて、久住くんは先にささっと降りた。
そして、「どうぞ」と愛理ちゃんに手を差し出す。
彼女ははにかみながらその手をとって、車から降りる。

「ありがとうございました」
「いいえ」
「また、遊びに行きましょうね」
「ハイ」

笑顔で返事した久住くん。
彼女へ顔を近づけ、「今度はぜひ2人で」と囁く。

「はい。よろこんで」
彼女は一瞬呆気にとられたけど、笑ってくれた。
単純に、無邪気で可愛かった。久住くんはまた、うれしくなった。
理由は本当によくわからないけれど、ハッピーだった。
625 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:43
「ボス」

車がふたたび走り出して、助手席のクリストファーは
後ろを振り返りながら言った。

「彼女はもしかしたら…」
「あぁ」

シートにふんぞり返った久住くんは、短く答える。
どうやら、夏焼くんはとんでもない女の子を紹介してくれたみたいだ。

こうなったのはただの偶然か。それとも運命か。
何もかも、全て必然だと信じている久住くんは、
彼女と撮ったプリクラを見つめながら、ちょっと疑問になった。

女の子と一緒にいてハッピーな気持ちになるなんて、
自分で自分が信じられなかった。
この気持ちは、やっぱり何かの間違いだろうと思っていた。


626 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:44


つづく



627 名前:彼女の革命 投稿日:2009/04/11(土) 10:44

州*‘ o‘リ<『でも、間違いではなかった』
ノノl∂_∂'ル <だから勝手に話つくるなってば

628 名前:泣いちゃう鴨 投稿日:2009/04/11(土) 19:30
愛理ちゃんの王子様=矢島くん=鴨の王子様( ̄∀ ̄)ww
629 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/12(日) 03:15
愛ちゃん ひさしぶり 愛ちゃん
630 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/19(日) 23:05
(;・e・)<カメは絶対、大丈夫だよね…
631 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/19(日) 23:45
いやー久住くんどうなるんですかねえ
632 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/29(水) 21:32
仙石ちゃんがどうなるかも期待しよう。

でも、仙石ちゃんがモテるってことは、同じマネジャーの桃ちゃんは?
って思ってしまった。

そういえば、桃ちゃんって不特定多数にモテるっていう設定は、他でも記憶にないなぁ。
633 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/26(火) 01:19
こうしん・・・
634 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:44
待ってます!
635 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/18(木) 01:06
作者さんのサイトの人物紹介では、既に1学年ずつ上がってましたね。
636 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/12(日) 07:44
サイトによると物語は出来上がってる感じが・・・・・・

ドコまでも待っちゃいます。
637 名前:りしゃみやヲタ 投稿日:2009/07/14(火) 04:14
おひさしぶりです
先日某所で久住くんを目撃したのですが
只でさえ背おっきいのにヒール履いてて、超絶イケメンでしたよー
ワンピース着てたけど超絶イケメンでしたよー
私の中ではここの久住くんに脳内変換されてました
小説の影響力すげーわwと思いましたー

毎日暑いですが執筆、更新頑張って下さいね
638 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/23(木) 23:31
川*^∇^)||<更新待ってる
639 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/25(土) 18:30
    
640 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/25(土) 23:21
作者さんがochi進行してるんだから上げないでね
641 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/11(火) 12:57
こんなに停止期間が長いなんて心配になっちゃいます。 でも待ってます
642 名前:(0`〜´)人(’ー’*川 投稿日:2009/08/11(火) 20:09

>>628 泣いちゃう鴨さん
なんだその方程式wwwwwwwwwwwwwwww

>>629さん
愛ちゃん 出番少なくてごめんね 愛ちゃん

>>630さん
从*^ー^)<絶対ってことばをね 君はすぐ使うけれど もう少しだけ考えよう・・・
(;・e・)<なんの曲の歌詞だっけそれ・・・

>>631さん
どうなるんですかねえ
温かい目で見守っていて欲しいです

>>632さん
仙石ちゃん 出番少なくてごめんね 仙石ちゃん
桃ちゃんは多分「あれはナシじゃね?」って男子から言われてるキャラですね
でも彼氏は超絶イケメンだから「なんで?!」みたいな感じで

>>633さん
待たせすぎて申し訳ないです
なんとか前のペースに戻していきたいところです

>>634さん
ありがとう!待ってる人がいる限り!がんばって書きます!

>>635さん
実は「ベリキュー編を始めよう」って思って考えた年齢設定がアレだったんですね
(確かテーマが「あいりさこコンビの高校受験」だったと思います)
でもなぜか遡って遡ってその1つ下の学年から始めてしまったっていう
ホントなんでなんでしょう自分でも記憶が曖昧です

>>636さん
おっしゃる通り物語は完全出来上がってるんですよねwww
でもそれを細かく書いていくとなかなか終わらないっていうこのもどかしさ
まだ色々と書きたいことは山積みなのでがんばって書いていきます

>>637 りしゃみやヲタさん
おひさしぶりです
小説の影響力っておそろしいですよね!
「青春バスガイド」で学ラン着てた雅ちゃん見てハァハァしましたもんね!
アレはヤバイですね!
毎日暑くて頭おかしくなりそうですががんばって更新します!

>>638さん
熊井ちゃん ありがとう 熊井ちゃん

>>639さん
これは・・・早く更新せんかバカタレっていう無言の脅し・・・?
それともこのくだらないスレの晒しage・・・?
どちらにしても本当に申し訳ないです

>>640さん
助かりました
次またageられてたときもどうか落としてやってください

>>641さん
心配かけてすんません
これからもがんばって更新します!

643 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:09



644 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:14




645 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:14

それから数時間後。お城みたいな鈴木家。

愛理ちゃんの右手にはハサミが握られていた。
そして左手には今日みんなで撮ったプリクラ。
全神経を集中させて、愛理ちゃんはひとつずつカットしていく。

プリクラは全部で6種類。
4人で撮ったやつもあれば、2ショットもある。
もちろん、久住くんと2人で撮ったやつもある。

写真の中の、明るい笑顔の久住くんを見つめる愛理ちゃん。
彼女の脳裏にふと蘇ってくるのは、ラウソドワソで言われたあのセリフ。

『ぼくのことを好きになればいいんです。
そうすれば、その人のことなんて、一瞬で忘れさせてあげますよ』

今日が初対面で、お互いのことなんてまだちっとも知らないのに、
久住くんはとても自信満々な態度だった。
どうしてそんなこと言い切れるんだろう。愛理ちゃんは心底不思議に
思ったけれど、同時に久住くんのことをもっと知りたくなった。
その自信はどこからどういう風に出てくるのだろうと、気になった。
面白そうな人だなあと思って、興味を持ったのだ。
646 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:14
愛理ちゃんはとりあえずプリクラ帳を広げ、4人で撮ったプリクラを
ペタペタ貼ってゆく。自分と梨沙子ちゃんの2ショットも、
彼女と夏焼くんのラブラブプリクラも、並べて貼る。
そして最後、久住くんとのプリクラを手にとる。

『あなたのこと、好きになってもいいですか?』

いま冷静に考えると、とんでもないことを口走ってしまったと思う。
実際、そう言ったとき久住くんはあ然としていたし、
『いいですよ』とそのあと笑顔ですぐに答えてくれたのはよかったけれど、
彼が内心どう思ったのかは愛理ちゃんにはわからない。

「本当に、いいんですか?」

プリクラの中の久住くんにもう一度尋ねてみたりなんかして。
でも、答えが返ってくるわけがない。(返ってきたらホラーだ)
647 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:15
久住くんにはカノジョがいないらしい。
もしかすると、付き合えるのなら誰でもいいのかもしれない。
優等生の賢い愛理ちゃんはそこまで考えてしまうけれど、
久住くんのあのキラキラした笑顔を思い出したら、どうでもよくなってくる。

これはきっと運命の出会い。
神様が、矢島さんのことをあきらめた代わりに、
久住くんと出会わせてくれたのだ。

久住くんのことを好きになりなさい。
そうすればきっと幸せになれるでしょう。
なんていう、恋の神様の声が聞こえてくる。
ような気もする。

だから愛理ちゃんは、久住くんとの2ショットプリクラを、
新しいページのど真ん中に貼ってみた。
ただそれだけなんだけど、なんとなく世界が変わったような、
ちょっとした革命が起こったような感じだった。

648 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:15


日曜の夜の新垣法律事務所。

安倍さんはPCの画面に向かって、キーボードをカタカタ
打ちながら真剣に作業している。
さすがに日曜日まで出勤してくる同僚はおらず、
彼女はひとりで黙々と働いていた。

ピロリンピロリン

ふいに、デスクの片隅に置いていた携帯電話が鳴る。
彼女はそれを手にとって、パカッと開く。
メールが1通届いていた。相手は恋人だった。

 ちょっと話がある。今から会えない?

腕時計を見て、時間を確認する。
あっという間にもう21時を過ぎていた。
当然ながら、グルルル、とお腹も鳴る。

真顔でお腹を押さえた安倍さんはメールの返事を打つ。
そして、ゆっくりと帰り支度を始めた。
649 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:15

安倍さんは事務所から馴染みのバーに移動した。
恋人はすでにそこで待っていて、お酒を飲んでいた。

「何飲む?」
「ジンジャーエール」
「飲まないの?」
「うん。車で来たし」
タバコをふかしている彼の、隣の椅子に座る安倍さん。
目の前のバーテンさんに「あと、オムライス」と笑顔で言う。
そして、彼のほうを見て単刀直入に尋ねる。

「話って何?」

フー、と彼はため息をつくように白い煙を吐き出す。

「いや、その、なんというか」

バーテンさんが安倍さんたちカップルの顔を交互に窺いながら、
彼女の前にジンジャーエールを出す。

「おれたちってさ、付き合ってるって言えるのかなーと思って。
実際、こうやって会うのだって1ヶ月ぶりくらいなわけだし」
「確かに」
安倍さんはうなずきながら冷たいグラスに口をつける。
彼はタバコの灰を灰皿に落とす。
650 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:15
「仕事って、そんなに楽しい?」
「うん、楽しいよ」

はっきり答えた安倍さんを見て、彼が苦笑する。

ぐいっとお酒を飲み、一気にグラスを空けた彼は、
スーツのポケットから小さな四角い箱を取り出した。
そして、安倍さんの前に、それをそっと置く。
安倍さんはポカンとしている。

「結婚して欲しいんだ」

その小さな箱の中身を確認する安倍さん。
案の定、高そうな指輪が入っていた。

「これ…」
「だから、仕事は辞めてくれないか」

バーテンさんが、オムライスを出すタイミングを
見計らうように2人を見守っている。
その視線に気づいているのか気づいていないのか、
安倍さんはうつむき、一度目を閉じる。
651 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:16
顔を上げた彼女はしっかりとした声で言う。

「あたしは、仕事、続けたい」
「それでも辞めろって言ったら?」
「…結婚しない」
「じゃあ、おれたち結婚できないじゃん」

彼がまた苦笑する。参った様子で頭をかく。

「別に、仕事辞める必要ないと思うんだけどな」
「いやいやいや。普通辞めるだろう?」
「辞めないよ。今は共働きの夫婦のほうが普通だよ。
2人で働いて稼いだほうが、生活だって楽じゃない?」
「それっておれひとりの稼ぎじゃ不満だってこと?」
「誰もそんなこと言ってないでしょ」
「おれは、おまえを養えるくらいの給料はもらってるし、
いつ子供ができたって困らないくらいの貯金も十分ある」
強い口調でそう言った彼は、安倍さんの反論を待たずに言う。

「だから、おまえは働く必要ない」
652 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:16
彼が安倍さんの肩を抱く。

「絶対、幸せにするから」
「……」

安倍さんは黙ったまま指輪の箱を閉じる。
そして、彼に突き返した。

「なつみ」
「ごめん。やっぱり、これは受け取れない」

動揺を隠せない彼を、まっすぐ見つめる安倍さん。

「あたしは、結婚しても絶対仕事は辞めたくないの」

そこまで言うのなら、仕事は辞めなくていい。
辞めなくていいから、結婚して欲しい。
彼の口からそういう言葉が出てくるのを期待していた。
でも、彼は沈黙し、指輪の入った箱をただ握りしめるだけだった。
653 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:18
バーの近くにある100円パーキング。

車に乗り込んだ安倍さんは、両手をハンドルの上に置いて、
深い深いため息をつく。
オムライスを食べて空腹はしっかり満たされたけれども、
心の中はぽっかりと大きな穴が開いたようだった。

結婚しても仕事は辞めたくない。
そう安倍さんは希望したけれど、彼はそれを望んでいなかった。
結婚したら、女は家庭を守るもの。安倍さんの考えとは正反対だった。

何かで意見が食い違ったとき、いつも彼が先に折れてくれていた。
彼はとても心優しい人で、安倍さんの良き理解者でもあった。
仕事が忙しすぎて、会う回数が1週間に1回、1ヶ月に1回に
なっていっても、文句ひとつ言わずにいてくれた。
彼のおかげで、2人は今まで平和に過ごすことができたのだ。

しかし、今回ばかりはそう上手くいかないらしい。
「別れ」の2文字が、安倍さんの頭の中をぐるぐる回っていた。
654 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:18


超高層マンションの最上階、久住くんの部屋。

大きなクローゼットの扉を開けた久住くんは、
首だけ振り返ってクリストファーに尋ねる。

「ねえ、クリス。バスケットシューズってどこにある?」
「バスケットシューズ、ですか」
「うん。明日から、学校のバスケットボールクラブに
入ろうと思ってさ」
その言葉を聞いて、意外そうな表情になるクリストファー。

クローゼットの中には、高級そうな洋服や靴、時計などが
ずらりと並んでいる。

「確かこちらに…」

四角い箱がたく.さん積み上げられているゾーンに行ったクリスは、
その中から目的の箱を見つけ出し、そのフタを開けた。
すると、アメリカに住んでいたときに久住くんがずっと愛用していた
バスケットボールシューズが現れる。
655 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:19
「おー、これこれ。ありがとう」
「どうして突然クラブに入ろうと?」
「今日、雅と勝負して負けちゃったんだ。負けたらクラブに
入るっていう約束してたから」

シューズを手にとり、微笑む久住くん。

「これ履くの、久しぶりだなー」
「サイズは大丈夫でしょうか」
「あっ」

慌ててソファに腰をおろした久住くんは、その靴を履いてみる。
けれど、入らない。HAHAHAと陽気に笑う。

「クリス!履けない!」
「それだけ成長したってことですよ。ボス」
クリストファーは優しく微笑みながら言う。
656 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:19
「成長ねえ…」

ぽつりと呟いた久住くんは、いつの間にか履けなくなっていた
お気に入りのシューズを見つめる。
昔、お兄ちゃんと、この靴をおそろいで履いて、毎日のように
一緒にバスケットボールをしていたころの記憶がふと蘇ってくる。

お兄ちゃんが、どこの誰だかよくわからない女の人と結婚してから、
このバスケットシューズはめっきり使わなくなった。
あのときから、別人かと思ってしまうくらい、お兄ちゃんは変わった。
いつも面白くて優しかった彼は、すっかり遠い存在になってしまったのだ。

お兄ちゃんだけじゃない。明るくて可愛いお姉ちゃんも、どこの誰だか
よくわからないお金持ちと結婚させられてしまって、みんな離れ離れになってしまった。
久住くんがお金にものをいわせて女の子と遊ぶようになったのはそのころからで、
大好きなバスケットボールから遠ざかっていったのも、そのころからだった。
657 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:19
リンリンリリン、リンリンリリン。

懐の携帯電話が軽快に鳴り出した。
久住くんはそれを手にとって、「メールだ」と言う。
相手は夏焼雅。バスケットボールが上手い、イケメンのあいつだ。

 明日体操服と体育館シューズ忘れんなよ!

メールにはそう書かれてあった。
久住くんは微笑みながら、返事のメールを打つ。
明日もバスケットボールができると考えると、
なんだか心がウキウキと弾んでくる。
それは、とても久しぶりの、懐かしい感覚だった。

「そういえば、鈴木さまの件ですが」

そんな声が聞こえて、久住くんは顔を上げる。
手帳を広げたクリストファーが、調査結果を読み上げる。

「やはり、彼女は日本一の資産家である鈴木氏の
長女で、縁九中学校に通う2年生です」
658 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:19
「日本一ねえ」

ソファの背もたれに背中を預け、ふんぞり返る久住くん。

今日の鈴木愛理ちゃんの可愛らしい姿を思い出すと、
なぜだか無性に胸がきゅんきゅんしてきたりする。
できればまた会いたいし、あわよくば色々したい。
だけど。久住くんは目を細めて、斜め上をにらむ。

『悪あがきするのは勝手だが、無関係な人間に
迷惑をかけるのはやめなさい』

何が一番ベストな選択なのか。本当にもう逃げられないのか。
久住くんはすでにわかっている。すでに、あきらめている。

だって、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、ダディに逆らえなかった。
それなのに、結婚しなくていいわけがない。
2人のために、ダディの決めた相手と結婚するしかない。
久住くんはあれからずっと思っていたのだ。
659 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:20
あの子を利用して、もう一度だけ悪あがきをしてみるか。
それとも素直に首を縦に振って、2年後に結婚するか。
久住くんの前には2つの分かれ道。
でも結局その道は1つになる。どっちに進んでも、結果は同じ。

ダディの壁はとてつもなく大きい。
高くて分厚くて、絶対に壊せないし、乗り越えられない。

お兄ちゃんもお姉ちゃんも、こんな気持ちになったのだろうか。
さっきのウキウキ感から一転して、無力感に包まれた久住くんは、
欠伸をしながら「うーん」と大きな背伸びをする。

「ねえ、クリス」
「はい」
「今度の休みの日、亀井さんに会いたいな」
660 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:20


*****



661 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:20
翌日。湾田高等学校の昼休み。

「なんか、あやしくね?」

徳永くんは夏焼くんに言った。

「あやしい?」

週間少年ジャソプを一生懸命読んでいた夏焼くんが顔を上げる。
徳永くんは教室の端の方を見ていて、そこでは須藤くんと
愛佳ちゃんがノートを広げて何か会話をしていた。

「化学の宿題じゃね?」
「あぁ、そっか。っておい。あれは明らかにあやしいだろ」
「ええ?どこが」
そこそこ勉強ができる者同士、
須藤くんと愛佳ちゃんは元々仲が良かったのだ。
だからあれは別にあやしい光景でもなんでもない。
それより漫画読みたいぜ。
夏焼くんはふたたびジャソプに視線を落とした。
徳永くんは「いやいやいや」とまだ反論してくる。
662 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:20
「あれは恋だろ」

ひそひそと耳元で囁かれて、ハッとする夏焼くん。また顔を上げる。

「そういえば、橋本さんとは…」
「ずっと音信不通らしいぜ?」
「音信不通」
夏焼くんは改めて須藤くんたちを見つめる。
2人はものすごく楽しそうに宿題を見せ合っている。
なんとなくお互いの顔が近い気もしないでもない。
なんかああいうのって、”2人の世界”って感じ?
ああ、そういうこと?そういうことなの?

「あやしい」
「だろだろ?よーし、あとで問い詰めてやろう」
「だな。っていうか、小春はどこ行ったんだ」
663 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:20

久住くんは誰もいない音楽室に居た。
ピアノの前に座って、ショパンの『別れの曲』を弾いていた。

ガラガラガラ、と出入り口のドアが開く。
現れたのはまのえりちゃんで、彼女は少し怖い顔をしていた。
手を止めた久住くんは顔を上げ、彼女のほうを見る。

おとといの土曜日、彼女にはひどいことを言った。
どこがどうひどいのかイマイチ理解できないけれど、
フォローが必要だとクリスが言ったので、そうすることにする。

「話って何?」

ちょっと冷たい感じで、まのえりちゃんが尋ねてきた。
久住くんは一度うつむいて、(この空気!笑っちゃいそう!)
表情を引き締めて、顔を上げる。

「やっぱり、怒ってるよね」

珍しく、弱々しい声を出す。
たまには情けない男になってみるのも面白い。
久住くんは眉毛を下げながら、まのえりちゃんを見つめる。
その瞳はまさに捨てられた子犬みたい。
664 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:21
椅子から立ち上がった久住くんは、彼女の前に立つ。

「おとといは、あんなこと言ってごめんね」
「…」
「ごめん」
彼女を抱き寄せて、(不本意すぎるけど)何度も何度も謝る。
強く抱きしめていると「苦しい」と言われて、彼女が離れる。

「ねぇ、小春」
「ん?」
「結婚って、何?」

真面目に質問されて、久住くんはちょっと笑う。

「もしかして、パパの言ったこと信じちゃったの?
それに、ぼくの言ったことも」

まのえりちゃんは久住くんをじっとにらんでいる。
久住くんは彼女に負けないくらいの強い眼差しで言う

「あんまり、簡単に人を信じないほうがいいよ」
665 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:21
パン!という乾いた音が室内に響く。
まのえりちゃんから平手打ちをかまされ、久住くんはその衝撃で右を向く。

「最低」
「……」

久住くんは彼女の目の前まで顔を近づける。
そして、無駄に熱い視線を送る。

「最低?」
「…最低」

どんどん顔を近づけていくと、彼女は瞳をうるませて、
大人しく目を閉じた。そのまま、久住くんはキスをした。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るまで、
しつこく何度もキスをした。彼女はされるがままだった。

666 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:21


放課後の体育館。
練習が始まる前の男子バスケ部。

「…あれがウワサの?」

腕組みをしたキャプテンは、隣の桃子ちゃんに言った。
「そうだよ」と明るい声で答えて桃子ちゃんはうなずく。
2人の視線の先には安藤先生と1年生3人組。
イケメンエースの夏焼くん、次期センター候補筆頭の須藤くん、
そして、すらっとした長身のイケメン。見慣れない顔。
初対面の先生にさわやかな笑顔で挨拶をしていた。

「あの子、経験者かも。桃、1回シュートしてるとこ見たけど、
すっごい上手だったんだよ」
「マジで?」
「うん。もしかすると、湾田高の黄金時代、きちゃうかもしれないよ」
語尾に♪が付きそうな勢いで、桃子ちゃんが言った。
黄金時代。悪くない響きですなあ。
キャプテンは思わずいやらしい微笑を浮かべた。
667 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:21

本日仮入部した久住くんは、下っ端の1年生部員と共に
体育館の隅っこのほうで練習をこなしていた。

「なかなかやるな。あいつ」

そんな安藤先生の呟きを耳にした桃子ちゃんは、
ちょうど久住くんがシュートをしていたところを見る。
そのシュートは、スパッとゴールに入る。

「上手ですね。久住くん」

仙石さんもボソッと呟いた。

『あたしさ、カレシと別れる。で、久住くんと付き合おうと思う』

仙石さんにとって、久住くんといえば、まのえりちゃんだった。
彼女が言うには、久住くんはチョー優しくて、面白くて、イケメンで、
チョーお金持ちで、かなりエッチが上手いらしい。

出会ってまだ1週間とか2週間しか経っていないのに、2人は・・・。
それに比べて自分は・・・。なんて、ちょっと凹んだりした。
668 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:22

部活が終わって、夏焼くんたちは部室で着替えていた。

「なあ小春、バスケ始めたのっていつ?」

須藤くんから尋ねられて、久住くんは考えるポーズをした。
はて。いつだったか。お兄ちゃんがバスケットボールクラブに
入って、少し経った頃・・・

「10歳か11歳くらいかな」
「へえ。おれらとあんまり変わんないな」
夏焼くんがカッターシャツのボタンを留めながら言う。

「ねぇ、この入部届なんだけど」

着替え終わった久住くんは、須藤くんに1枚の紙を見せた。
それはこの男子バスケ部の入部届で、記入項目のひとつに
保護者のサインがあった。

「保護者って誰?」
「え?普通は親じゃない?」
親、ねえ。久住くんは入部届の『保護者サイン』欄を見つめる。
669 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:22
「じゃあ、カナダに送らなきゃいけないのか」
「カナダ?」
「今、カナダに居るんだよ。ママとパパ」
「そうなの?旅行かなんか?」
「仕事だよ」
入部届を鞄に仕舞って、久住くんは立ち上がる。

「すごいなー。仕事でカナダかー」
「行ってみてー。アメリカとかも行ってみたいよな」
「な。NBAの試合とか生で見てみたいんだけど」

同じように立ち上がった須藤くんと夏焼くんを、
なぜか不思議そうな顔で見つめる久住くん。

「どうした?」
須藤くんが尋ねると、久住くんは微笑んで首を横に振る。

「帰ろうぜ」
スポーツバッグを肩にかけた夏焼くんが言う。
3人仲良く部室を出て、下駄箱へ向かう。
670 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:22
「あれ、ミッチー?」

下駄箱を出たところに、クラスメイトの愛佳ちゃんがいた。
夏焼くんが思わず須藤くんの顔を窺うと、須藤くんは
今まで見たことないような照れ笑いを浮かべた。

「ごめん」
「やっぱ、そういうこと?」
「そういうこと」
「マジかよ」
須藤くんの肩に手を置く夏焼くん。

「ま、詳しくは明日話すわ」
「おう。おつかれ」
「おつかれっ」
右手を挙げた須藤くんは、軽やかな足取りで愛佳ちゃんのもとへ。
2人は肩を並べ、校門に向かって歩き出す。

夏焼くんは久住くんの顔を見て、イヒヒと笑う。
「どうしたの?」
「あの2人、いい感じらしいよ」
後姿でも楽しそうに見える須藤くんと愛佳ちゃんを指差す。
久住くんは少し目を見開いて「WAO」と呟いた。
671 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:22
「ボス。お疲れ様です」

須藤くんたちと入れ違いで、クリストファーがやってきた。
久住くんは自然な仕草で彼に荷物を渡している。
「クリスのこと、まだちゃんと紹介してなかったっけ」
と言って、夏焼くんを見る。うなずく夏焼くん。

「彼はクリストファー。ぼくことをお世話してくれてる」
「はじめまして。クリストファーです」
うわ!なんかすごい日本語ペラペラ!
見た目は完全にアメリカ人なのにな。
夏焼くんはまじまじとクリストファーを見つめながら、彼と握手する。

「家まで送るよ」
「あっ、おれ、図書館行かなきゃいけないから」
「図書館?何か調べ物?」
「いや、まあ、そんなとこ」
「そっか」

それじゃあまた明日、と久住くんは夏焼くんに手を振って、
クリストファーと共に去って行った。
672 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:23

湾田高の校門から少し出たところ。
久住くん家の大きな黒い外車が停められている。

「図書館、ねえ」

急に走り出した夏焼くんを窓から眺めながら、久住くんは呟く。

「ちょっと追いかけてみようか」

車がゆっくりと走り出す。
なぜか一生懸命走っている夏焼くんと併走する。

ほどなくして、図書館が見えてくる。
夏焼くんはそのままそこへ駆け込んでいく。

ほんの少ししたら、女の子と一緒にゆっくり出てきた。
その子はなんか見かけたことのある子で・・・

「りーちゃん」

なるほど。久住くんは初めて理解する。
笑顔でおしゃべりをしている2人の様子が見えて、フッと微笑んだ。
なんだか心が温かくなった。他人のことなのに、ハッピーな気持ちになった。
673 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:23

リンリンリリン、リンリンリリン。

お家に帰って、クリストファーと仲良くご飯を食べた後、
のんびり読書をしていた久住くんの携帯電話が鳴り始める。

「ヘロー」

相変わらず電話の相手を確認しない久住くん。
次に聞こえてきた可愛らしい声に驚く。

「鈴木さん」
『いま、大丈夫ですか?』
「ハイ。大丈夫ですよ」
『あの、今度の日曜日、部活お休みですよね?』
「ハイ。お休みです」
『もしよかったら、ゴルフの練習場に行きませんか?
父が、良い場所を紹介してくれたので』
「いいですよ。行きましょう」
『ホントですか?ありがとうございます』

愛理ちゃんの弾んだ声に、久住くんは微笑む。

『それじゃあ、この間と同じ場所で』
674 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:24
電話を切って、久住くんはパタンと本を閉じる。

『あなたのこと、好きになってもいいですか?』

ふと、脳裏に蘇ってくるのは愛理ちゃんのあの言葉。
久住くんはメガネをはずして、眉間にシワを寄せ、指で目頭を押さえた。
頭の中からなぜかなかなか消えてくれない、彼女の微笑を振り払うように、
何度か首を横に振って、大きなため息をついた。
675 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:24


*****



676 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:24
亀井家。絵里ちゃんのお部屋。

「こんどの週末の予定?」
「はい」
吉澤さんはうなずいて、ソファに座っている絵里ちゃんを見つめた。
「週末、かぁ」
「坊ちゃんと、どこかへお出かけになりますか?」
「いえ…特に予定はありませんよ?」
彼女はそう答えて、そばにあった手帳を手に取る。
ぺらぺらとページをめくって、今月のスケジュールを確認している。

「最近、ガキさん、家庭教師のバイト始めたし、弁護士になるための
お勉強もしたいらしくって、なかなか会ってくれないんです」
「そうですか」
「まぁ、絵里はガキさんのために何もしてあげられないから、
黙って応援するしかないんですよね」
ふにゃりと笑った絵里ちゃんは、ぱたん、と手帳を閉じた。
「それで、週末の予定って」
「それがですね」硬い表情のまま、吉澤さんは言う。
「実は、久住さまが週末に絵里お嬢様とお会いしたいと
おっしゃっていて…どうされますか?」
「久住くんが?」

うーん、と彼女は斜め上を見上げる。
考えること3秒。パッと吉澤さんのほうを見る。

「会おっかな」
677 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:25



*****


678 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:25
晴れた土曜日の午後。
夢が丘南駅の大時計前には、久住くんがいた。
亀井さんとの待ち合わせ時間はとっくに過ぎていた。

「亀井さま、遅いですね」

大時計を見上げたクリストファーが、少しいらだった様子で呟いた。
久住くんは「そうだね」と答えて、うーんと背伸びをする。

「まぁ、待とうよ」

亀井さんは、この町を案内すると自ら言ったらしい。
この前会ったとき、あれだけ敵意むき出しだったのに、
いったいどういう風の吹き回しなのだろうか。
ひょっとすると、彼女も全てあきらめてしまったのだろうか。
ひょっとしてひょっとすると、豆彦との関係はもう・・・
679 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:25
今日は休日なので、駅前にはたくさん人がいて、賑わっていた。
ふいにその騒ぎが少し大きくなって、久住くんは振り返る。

そこにはなんと、珍しい、真っ白なリムジンカーが停まっていた。
運転手が後部座席のドアを開けると、背の高い男が降りてくる。
あいつは確かMr.ヨシザワ。亀井さんの執事。
久住くんとクリストファーは思わず顔を見合わせる。

「どういうことでしょうか」
「まぁまぁ、待とうよ」

彼の次に車から降りてきたのは、久住くんのフィアンセ・亀井さん。
2人はまるで恋人同士のような雰囲気で、ゆっくり歩いてくる。

「遅れてしまって、すみません」

亀井さんがちょこんと頭を下げた。
久住くんはノープロブレムと答えて、笑顔を見せる。

「今日はどこに連れてってくれるんですか?」
「それは行ってからのお楽しみです」

WAO。お楽しみなんて、妄想が膨らみますね。
ニヤッとした久住くんは、Mr.ヨシザワを見る。
680 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:25
「どうもこんにちは。Mr.ヨシザワ」

亀井さんがハッとして久住くんを見上げる。
「エスパーですから」と即答する久住くん。

「吉澤さんのこと、知ってたの?」
「もちろん」
「……」


広々とした白いリムジンの車内は、とても静かだった。
久住くんと亀井さんの間には微妙な距離。

「まさか、本当にこの町を案内してもらえるなんて
思ってもみませんでした」
「わたしの恋人のことも、知ってるの?」
会話をぶった切られた久住くんは、彼女を見つめる。
彼女は久住くんが何か口にする前に、
「エスパーだから」と真剣な顔で言う。

「知ってますよ。もちろん。あなただけじゃなく、
新垣豆彦のことも全部調べさせてもらいましたから」

それが何か?久住くんは亀井さんに微笑む。
彼女はムッとした表情になって、唇を少し尖らせた。
681 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:25

派手な白いリムジンが停まったのは、センチュリーランドという
遊園地の近くにある広い駐車場だった。

「…WAO」

車から降りた久住くんは、ジェットコースターや
観覧車などを見た瞬間、パァッと笑顔になる。

「亀井さん!早く行きましょう!」
「ちょっ」

勢い良く亀井さんの手を掴んだ久住くん。
入り口に向かって、ずんずん進んでゆく。

「ちょっと、久住くん待って!」

もうすぐで入場ゲートだというところで、亀井さんが大きな声を上げる。
久住くんはぱたっと立ち止まり、振り返って彼女を見る。

「今から行くのはそっちじゃなくって」
「え?」
682 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:26
センチュリーランドの向かいに、大きな水族館があった。
どうやら、亀井さんが案内したかったのはこっちのようだった。

「あー、ジェットコースター乗りたかったなー」
「ごめんね。遊園地は後ででもいい?」
「いや、気にしないでください。ぼくは、亀井さんが案内して
くれるならどこだっていいんですから」

クサいセリフをさらっと言ってのける久住くんは
生粋のプレイボーイ。
たとえ亀井さんが相手でも、それは揺るがない事実だった。

「どこでも?じゃあ、地獄でも?」
「亀井さんと一緒なら地獄も天国みたいなものです」
「バッカじゃないの?」呆れた顔して笑う亀井さん。
久住くんもHAHAHAと明るく笑った。
683 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:26
「実はこの水族館はまだ完成したばかりで、
明日、オープンするんです」

たくさんのお魚さんが泳いでいる大きな水槽のガラスに
そっと手で触れながら、亀井さんは微笑んだ。
久住くんは彼女の横に並んで、同じようにガラスに張り付く。
色とりどりのお魚さんが、縦横無尽に泳いでいる。
水族館なんて滅多に来ないから、なかなか新鮮な気分だった。

「本当は、ガキさんと来たかったんだけど。
明日までには来れそうになかったから…」
「ガキさん?あぁ、新垣豆彦ですか」
「豆彦」
恋人の名前を口にして、亀井さんがクスッと笑う。
久住くんはそんな彼女の横顔を見つめる。

「キレイですね」
「うん、なんか、ずっと見てたいよね」
「そうですね」
亀井さんはお魚さんたちを眺めている。
久住くんはじーっと彼女のことを見つめている。
その無駄に熱い視線に気づいた彼女が、ふと久住くんを見る。
久住くんはちっとも躊躇わず彼女に言う。

「ずっと、見てたいですね」
684 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:26
2人は見つめ合う。
オープン前の館内には、彼ら以外、お客さんは誰もいない。

「…何言ってるの?」
「あれあれ?照れちゃいました?」
「照れてませんっ」
亀井さんはプイッと顔を背けて、すたすた歩き出した。

それから2人の間にはまた微妙な距離ができた。
会話も特に無く、出口のほうに近づいていく。

突然、久住くんの前を歩いていた亀井さんが、くるっと振り返る。

「……」

その表情は、真剣なのか何なのか。
頭の中で何を考えていて、何を言おうとしているのかも、
よくわからない感じだった。

久住くんは彼女の瞳の奥の奥までじっと見つめて、
その心を見抜いてやろうと思ったけれど、残念ながらできなかった。
685 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:26
「ねぇ、亀井さん。2つ、質問していいですか?」
「いいですよ?」
亀井さんはそう答えて、近くの水槽を覗き込む。
久住くんは彼女の背中に向かって言う。

「どうして今日、ぼくとここに来ようと思ったんですか?」
「どうして?うーん、どうしてかなぁ。わかんない」
彼女は一生懸命水槽の中を覗きながら、
のんびりとした感じで笑っている。
「やっぱり、遊園地のほうがよかった?」
「いや、そういう意味で言ったんじゃないんですけど」
久住くんは彼女の隣に行く。
水槽の中ではクラゲが綺麗に輝いていた。

「キレイだなぁ」
「クラゲ好きなんですか?」
「それが2つ目の質問?」
「違いますけど」
「じゃあ何?」
「亀井さんの指輪のサイズを教えてください」
686 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:27
亀井さんはきょとんとした顔で久住くんを見る。

「そんなこと聞いて、どうするの?」
「さて、どうするでしょう?」
「質問は2つしか受け付けませんよ?」

その言葉にフッと笑った久住くん。
彼女の右手薬指にはめられてある指輪にチラリと視線を移して、
「その指輪のサイズでいいです」
「だから、そんなこと聞いて何になるの?って」
「知りたいんです。教えてください」

まっすぐ彼女を見つめる久住くん。
彼女はおもむろにその指輪を外し、久住くんに差し出した。
久住くんはなぜかそれを受け取る。

「10秒だけ見せてあげる」

WAO。そう言われた久住くんは、慌てて指輪の
大きさをチェックし始める。
亀井さんは本当に10秒計るために腕時計を見ている。
687 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:27
「10秒経った」

久住くんは彼女に指輪を返した。

「サイズわかった?」
「ハイ」
自信満々に答える久住くんを見て、「えぇ?」と言う亀井さん。
まったく信じていない様子だ。

「ひと目見ただけでわかりました」
「ウソだー」
「ホントですよ。ぼくを誰だと思ってるんですか」
「はいはい」
そっけない返事をした亀井さんは、すたすたと出口のほうへ。
そんな彼女の背中を見つめて、久住くんはやさしく微笑んだ。

688 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:27

水族館を出た後、センチュリーランドで遊んでいると、
すっかり日が暮れた。亀井家の白いリムジンは、
ミライ百貨店や大きな夢が丘駅のある繁華街のそばを
通り過ぎ、とある高層ビルの前へとたどり着いた。

「中華料理はお好きですか?」
「ええ。大好きです」
「それはよかった」

微笑んだ亀井さんが、エレベータの中に入って行く。
久住くんはその後に続く。
2人を乗せた箱は、そのビルの最上階へ。

お目当てのお店は、中華料理屋だった。
奥のほうにあるVIPルームに案内される。

「うわー。綺麗な夜景ですね」

席に着く前に、久住くんは窓際に立つ。

「でしょ?」

亀井さんも一緒に夜景を眺める。
ふと彼女の横顔を見た久住くんは、
綺麗な彼女の微笑に思わず見とれる。
689 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:27
「本当に、綺麗ですね」
「うん。夜景がね」
それに気づいている彼女がテンポ良く言葉を返す。

「そうですね。夜景”も”すごく綺麗です」

”も”を強調して、久住くんが言う。
クスッと笑った彼女は席に座る。

「カノジョでもない人に、簡単にそういうこと言っちゃダメだよ」
「はい?」
久住くんも彼女の向かいの席に腰を下ろす。
彼女は微笑みながら、やさしく尋ねる。
「そういうことは、自分のカノジョだけに言うもんだよ」
「カノジョ」
「うん。カノジョ。いるんでしょ?」

2人は見つめ合う。数秒の沈黙。
すると、亀井さんの顔色が微妙に変化する。
690 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:28
「いないの?」

久住くんはニコッと笑って、「いますよ」と答えた。

「でも、もう別れます」
「え?」

なんで?っていう顔をした亀井さんに、明るい声で言う。

「だから、亀井さんも別れてください。新垣豆彦と」

2人きりのVIPルームが、シーンと静まり返る。
そんなタイミングで、たくさんの料理が運ばれてくる。

久住くんの最後の言葉に対して、亀井さんの返事は
なかった。黙々と、彼らは食事を済ませた。

691 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:28


本日のスケジュールは全て予め決められていたのか、
久住くんたちがまた乗り込むと、リムジンはどこかに
向かって走り出した。

亀井さんはずっと窓の外を眺めている。
久住くんも同じく、流れる景色を眺めている。
あれから、ずっと無言だった。


2人が訪れたのは、リゾナントタワーというランドマークタワーだった。
先ほどの中華料理屋のVIPルームよりも、さらに高い場所から
見下ろす夜景は、それはもう、格別なものだった。

亀井さんが貸し切ってくれたのか、展望台は2人きりだった。
でも、彼女はこのタワーについて説明もせず、それ以前に言葉を
発そうともせず、ボーッと夜景を見つめている。

近くにあったここのガイドブックを手に取った久住くん。
パラパラと目を通しながら、彼女に言う。

「黙ったままじゃ、何も変わらないんじゃないですか」
692 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:28
ゆっくりと、彼女が振り返る。無表情だった。
まなざしだけ妙に強くて、久住くんは負けじと見つめ返す。

「…何か言ったら、何か変わるわけ?」
「それは、変わりませんけど」
「じゃあ、何も言う必要ないじゃん。わたしが、ガキさんと
別れたくないって言ったって、何にも変わらないんだから」
「そうですね」

亀井さんはふたたび夜景に視線を戻す。

「言っておくけど、わたしは絶対に別れないから。
わたしはガキさんと結婚するの。誰にも邪魔はさせないんだから。
あなたのお父さまにも、あなたにも。誰にも。絶対に」
「…何も言う必要ないって言ったのに」
「あなただって、親に決められた相手と結婚したくないでしょ?
一生一緒にいる相手なんだから、本当に好きな人と結婚したいって」
「本当に好きな人」
「そう。わたしは、ガキさんのこと本当に好きなの。
本当の本当に愛してるの。愛し合ってるの」
「愛し合ってる?本当の本当に?」
「だから、ガキさんとは絶対別れない。あなたとも絶対結婚しない」
「……」
693 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:28
久住くんはやけに真剣な顔で、亀井さんの隣に並ぶ。
そして、彼女の肩を掴んで、自分のほうを向かせる。
彼女が身体をひねってその手から逃れようとするけれど、
久住くんの強い力には勝てないようだった。

「ちょっと!離して!」
大きな声を上げて、亀井さんがジタバタ抵抗する。
久住くんはしつこく彼女を捕まえている。

「離してってば!」
「無理しないでください」
「無理なんかしてない!」
「亀井さんだってもうわかってるんでしょ?ぼくと結婚するしかないって。
新垣豆彦とは、別れるしかないんだって」
「…結婚しない…別れない!」
「本当にぼくとは結婚しない?新垣豆彦とは別れない?」

真剣な表情でうなずく亀井さん。
久住くんは黙って彼女から離れた。
そして、展望台から見える景色をにらみつけた。
笑顔を絶やさない久住くんらしくない、怖ろしい顔をしていた。
694 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:29


*****



695 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:29
「はあ」

新垣法律事務所の所長は、深いため息をついた。
彼を助手席に乗せ、車を運転していた安倍さんは、
疲労困憊の様子の彼を一瞥する。

「お疲れですね」
「ああ。今週は忙しかったせいで睡眠不足だ。
しかしきみも同じようなもんだろう?」
「わたしはまだ若いですから。全然平気です」
安倍さんが言うと、所長は笑った。
でも、やっぱり疲れの色が濃かった。

信号が赤になり、安倍さんはブレーキを踏む。

「私は、最低の親なのかもしれないな…」

所長は小さな声で呟いた。
えっ。思わず彼のほうを見る安倍さん。

「なにかあったんですか?」
「いや…青になったぞ」

ハッとして前を向いた安倍さんは車を出発させた。
696 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:29


*****



697 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:29
翌日。
久住くんは朝早くから愛理ちゃんとゴルフの練習場にいた。

「お父さまもゴルフなさるんですか?」

まだ2月。季節は真冬で、吐く息は白い。

「はい。ずっと趣味でやっていて、わたしも、弟も
小さな頃から一緒に」

でも愛理ちゃんはそんな寒さなんてへっちゃらだというように、
すごく楽しそうにニコニコしている。
なんて可愛らしいのだ。久住くんはご機嫌だった。

「弟さんは何歳なんですか?」
「11歳です。今は、小学5年生かな」
「へぇ」
「久住さんは、ご兄弟いらっしゃるんですか?」
「ハイ。兄と姉が1人ずつ」
「末っ子なんですねぇ」

小さな頃からやっているというだけあって、
愛理ちゃんのスイングは綺麗で、ボールもよく飛んでいた。

「本当にお上手ですね」
「いえいえそんな。久住さんのほうが断然」
698 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:30
彼女は日本一の資産家の娘。
だけど、雰囲気が素朴すぎるし、普通すぎる。
今まで出会ったことのないタイプだ、と久住くんは思った。
もっとこう、あたいは大金持ちの娘なのさ!って態度だと
こちら側もやりやすいんだけどなあ。いつもの調子が狂う。

「そういえば、ずっとアメリカに住んでたってことは、英語とか
ペラペラなんですよね?」
「ハイ。ペラペラです」
「すごーい。わたし、英語しゃべれるようになりたいんです」
「じゃあ教えてあげますよ」

手取り足取り…と言いかけて久住くんは止める。
これは悪いクセだ。すぐこういうことを言ってしまう。

「鈴木さんも、何かぼくに教えてください」
「えぇ?」
「何でもいいです。鈴木さんが得意なこと」
「あぁ、じゃあ、音楽」
「音楽?」
699 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:30
「わたし、音楽が大好きなんです。演奏を聴くのも、するのも。
コルネットって知ってますか?」
「いえ」
「トランペットみたいな楽器なんですけど、それなら教えられますよ」

そう言った愛理ちゃんの笑顔が輝いて見えて、
久住くんは目を少しだけ細める。

「久住さんは、何か楽器弾けますか?」
「ピアノ、弾けます」
「ピアノですかぁ。わたしも弾けますよ。ショパンとか、
小学生の頃よく弾いてたなぁ」
「ぼく、ショパン大好きです」
「ホントですか?わたしもです。いやぁ、奇遇ですねぇ」
「……」

愛理ちゃんが目をくりくりさせながら見つめてくる。
彼女は無邪気というか、純粋というか、まだ何色にも
染まっていない真っ白な感じがした。
まのえりちゃんや友ちゃん、リンダにマリリン、それから
これまでチョメチョメしてきた女たちにはなかったものが
愛理ちゃんにはあるような気が、なぜかした。
それが一体全体何なのか、久住くんにはよくわからなかった。
700 名前:彼女の革命☆700 投稿日:2009/08/11(火) 20:31
「ショパンの曲だと、何が一番好きですか?」

彼女が首をかしげながら久住くんに尋ねる。
久住くんは彼女を見つめて、微笑む。

「革命かな」
「革命、ですか」
「鈴木さんは?」
「…革命です。わたしも、革命が好きです」

なぜだか知らないけど、真顔になった愛理ちゃんと
見つめ合う久住くん。

「…本当に、奇遇ですねぇ」

彼女は小さな声で言った。
好きな曲が同じだったりして、運命的なものを感じたとか?
久住くんはフッと笑って、新しいボールをティーにのせる。
そしてパコーン!と気持ちの良い音を立ててボールを飛ばした。

それから、久住くんがショットに集中し始めたのをきっかけに、
2人は黙々とボールを飛ばしていた。
愛理ちゃんはときどき手を止めては久住くんのほうをチラリと
振り返っていたが、久住くんはただクラブを振るだけだった。
701 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:31


つづく



702 名前:彼女の革命 投稿日:2009/08/11(火) 20:31


州*‘ -‘リ<女の感です 恋の予感
洲´・ v ・)<キラキラしている 甘い視線


703 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/12(水) 15:29
それぞれがそれぞれに揺れてて
読んでてハラハラドキドキです

クリストファーはやっぱり金髪巻き髪バシバシまつげなんでしょうか
704 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/14(金) 02:55
>週間少年ジャソプ

ワロスwww
更新お待ちしておりました!!
705 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/14(金) 04:54
川*^∇^)‖
706 名前:りしゃみやヲタ 投稿日:2009/08/24(月) 00:04
更新キテタ!嬉しい!ありがとう!久住くんイケメン!!
707 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/26(水) 10:13
久住くんの思考がどのように展開していっているのかいちいち気になって仕方ないです。
豆じゃないけど、絵里ちゃんがとても愛しい。
708 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/02(水) 20:46
ノリo`ゥ´リ<相手は亀井さんなんです
709 名前:川*’ー’)<もうすぐ9月14日やよー 投稿日:2009/09/09(水) 22:51
>>703さん
これからもハラハラドキドキさせられるようにがんばります
クリストファーは多分金髪ですけど軍人みたいな外見だと思います

>>704さん
屋根スレとナッチスレに比べると更新ペース遅すぎで申し訳ないです
ちなみに夏焼くんを始めとする3バカトリオは「ジャソプ」だけじゃなくて
「マガジソ」「サソデー」「チャソピョソ」も全部しっかり読んでるおバカな男子という設定です

>>705さん
熊井ちゃん ありがとう愛してる 熊井ちゃん

>>706 りしゃみやヲタさん
こちらこそ読んでくれてありがとう!久住くんイケメン!

>>707さん
このスレの主役は久住くんなので今後も注目して欲しいです
絵里ちゃんが魅力的に感じられるようにこれからもがんばります

>>708さん
(0`〜´)<人生そんな思い通りになると思うなYO!
710 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:52



711 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:52


*****



712 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:52
縁九中学校の2年3組。
おさげ髪の愛理ちゃんは、両方の腕で頬杖ついて、
どこか一点をボーッと見つめていた。

教室の後ろの入り口から入ってきた梨沙子ちゃん。
愛理ちゃんの席まで一直線に進み、彼女の前に立つ。

「愛理、おはよ」
「あ、りーちゃん。おはよう」

ふにゃりと笑ったけど、どっかイッちゃってるっぽい
愛理ちゃんを見て、梨沙子ちゃんはちょっと苦笑いする。

「ねぇ、りーちゃん」
「ん?」
「昨日ね、革命が起こったんだぁ」

(なんかまた難しいこと言い出したぞ)
梨沙子ちゃんの眉間に少しばかりシワが寄る。
713 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:53
「革命?」
「うん、革命。いや、運命?」
「運命」
「久住さんとね、同じだったの。好きな曲。
これって運命だと思わない?」

愛理ちゃんの顔は、まさに恋する乙女の顔。
彼女と久住さんを結びつけたキューピッド役としては、
やっぱりうれしくて、一緒になってニヤけてしまう梨沙子ちゃん。
愛理ちゃんの前の席に勢い良く座る。

「うん。運命だよっ、運命っ」
「だよねぇ」
「うんうん。絶対運命だと思う」
「だよねぇ」
ムフフフフ。顔を見合わせて、恋する乙女たちは微笑んだ。

「朝っぱらからなに笑ってんだ。キモチワリー」

そこに通りかかったのはクラスメイトの岡井少年。
キモチワリーとか心外なことを言われた梨沙子ちゃんは、
ムッとした顔になって立ち上がる。
714 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:53
「真冬なのに真っ黒な千聖のほうがキモチワルイんだけど」
「は?真っ黒じゃねーし。チョー色白だし」
「どこが?鏡見て出なおしてくれば?」
「まぁまぁ、りーちゃん。そんなにカリカリしないで」
愛理ちゃんがクネクネしながら梨沙子ちゃんと岡井少年の間に入る。

「ね?」

穏やかな親友の表情を見て、梨沙子ちゃんはウンとうなずく。
そして、岡井少年に向かって、わざとらしいくらいニコッと笑って見せた。
少年はたじろいで、そして去って行った。
715 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:54


お昼休みの湾田高校。

「牛乳好きなん?」

愛佳ちゃんは階段を上りながら須藤くんに言った。
須藤くんの手には売店で買ったパン3個と牛乳パック。

「大好きってわけじゃないけど、身長伸びるかなーと思って。
ほら、やっぱデカイほうが有利だからさ」
「そっか」
「今さらかな」
「今さらや」
「えーそれひどくない?」
楽しそうに笑い合う2人。
付き合って1週間も経たない仲良しカップルが
向かう場所は屋上だった。

「よいしょっと」重たい扉を須藤くんが開けて外に出る。
やっぱり、ランチをしながらイチャイチャしてる男女がちらほらいる。

「あのへんで食べる?」
愛佳ちゃんが指差した場所に並んで座る。
2人はおしゃべりをしながら昼食をとった。
716 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:54

お昼休みが終わる5分くらい前。
須藤くんたちは教室へ帰る途中、音楽室の前を通りかかった。

「わっ…」
いきなり愛佳ちゃんが須藤くんの腕を引っ張って、後ろに引き戻す。
「どした?」
彼女は唇の前に人差し指を立てて、首を横に振っている。
首をかしげた須藤くんは、そーっと音楽室の中を覗く。
そして、目玉が飛び出しそうなくらいビックリする。

(真野と、小春?!)

その意外な組み合わせにもたまげたが、2人が親密な様子で
会話をしていたことにも仰天する。

キーンコーン カーンコーン

(ヤバイ!)(逃げるぞ!)

予鈴が鳴り始めて、2人はあばばばばとテンパる。
急いで来た道を引き返し、教室まで一生懸命走った。
717 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:55

「小春」

チャイムが鳴って、音楽室から出て行こうとした久住くんを、
まのえりちゃんは呼び止める。

「…」

久住くんは神妙な面持ちで、彼女を見る。
かと思ったらニコッと微笑みかけた。

「授業、遅刻しちゃうよ」
「でも」

引かない彼女に、久住くんは真面目なトーンで言う。

「本当に悪いと思ってるんだ。色々、迷惑かけて。
自分の問題は、自分で解決しなきゃいけない。
誰かの力を頼ってもいけないって、気づいたんだ」
クスッと笑う久住くん。
「頼るっていうか、ぼくはきみのことを利用しようとした」
「あたしは、それでもいい。利用されても、いいんだよ」
「ダメだよ。そんなの、ダメだ」
718 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:55

5時間目。

須藤くんはまのえりちゃんの後頭部を見つめながら、
先ほど音楽室で見た光景を思い出した。
2人はまるで恋人どうしのようだったけれど、久住くんも
まのえりちゃんも、平然とした顔で別々に教室に戻ってきた。

いったい、どういう関係なのだろう。
もしかして付き合ってるの?疑問が頭をぐるぐるまわる。

ふと、愛佳ちゃんを見ると、彼女もまのえりちゃんを
ちらちらと意味深な目で見ていた。
彼女と目と目がバチッと合った須藤くんはプッとふき出す。
それから机に突っ伏して、横の席の徳永くんと同じように居眠りした。
719 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:55

放課後の体育館。
バスケ部が練習している。

「ねぇねぇ、なっちゃん」

パスを待つ列にいた夏焼くんの後ろに須藤くんは並ぶ。

「小春からカノジョできたとか聞いた?」
「え?聞いてないけど」
「そっか」
「なんで?」

生き生きした表情で、笑顔をキラキラ輝かせながら、
久住くんは元気にバスケットボールを追いかけていた。
須藤くんはそんな彼を眺めながら、
「昼休み、見ちゃったんだよ」
「なにを?」
「真野と音楽室にいたとこ」
「はぁっ?!」
ビックリした夏焼くんの大きな声が、安藤先生の耳に届く。

「そこ!練習中だぞ!」
怒鳴られて、2人は「すいません!」と謝る。
720 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:55
(マジかよ)
(マジマジ)
(マジで真野?)
(うん、マジで真野)
目線で会話をしていると、夏焼くんの番になった。

真野?なんで真野?

頭の中はとても混乱していたが、シュートはきっちり決める。

夏焼くんは振り返って久住くんを見る。
バスケに夢中で、真剣な横顔。正直かっこいい。
モテないはずないって思う。だけど、だけど、そりゃねえよ。

(…愛理ちゃんはどうなんだよ)
721 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:56


「えっ、どういうこと?」

その話を梨沙子ちゃんにすると、彼女の表情が険しくなった。
彼女の隣をゆっくり歩く夏焼くんは首をひねるしかなかった。

「久住さん、カノジョいないって言ってたじゃん」

彼女は明らかに怒っていたけれど、何とも言えない夏焼くん。

「カノジョいるのに愛理と仲良くなろうとしてたってこと?」
「わかんないよ。小春に直接聞いてみないと」
「とにかく、小春に聞いてみるから。愛理ちゃんにはまだ
黙っててよ」
「当たり前だよ…」
722 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:56


帰宅した夏焼くんは何をするよりもまず久住くんに電話をかけた。
でも、久住くんは出なかった。何回かけても、出なかった。

「なにやってんだよ…」

いらだった様子で呟いて、ケータイを投げ出す夏焼くん。

よくよく考えてみれば、久住くんが転校してきてまだ1ヶ月も経っていない。
それなのに、もうまのえりちゃんと付き合ってるなんて。
手が早い。早すぎる。そんなの恋愛上手すぎる。
あいつ童貞のくせに!(夏焼くんはそう思い込んでいる)

『もしぼくが勝ったら、可愛い女の子を紹介してよ。
恋人のいない、フリーな女の子』

その約束をして、愛理ちゃんを紹介して、
彼女とうまくいってくれたらとずっと思っていた。
彼女は失恋したばかりだったし、久住くんにもカノジョが
いなかったんだし、2人とも幸せになって欲しいと。
だけど、もし久住くんがまのえりちゃんと付き合い始めたのなら・・・
723 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:56


新垣法律事務所。

「あっ、安倍さん。おかえりなさい」

安倍さんが外出先から事務所に戻ってくると、
他の弁護士仲間たちが輪になって固まっていた。
なんだなんだ。トラブルか。安倍さんは彼らに近づいてゆく。

「どうしたんですか?」
「ねぇ、安倍さん知ってた?所長の坊ちゃんの話」
「坊ちゃんさ、ピースカンパニーの社長令嬢と付き合ってたでしょ」
「でもその社長令嬢、KBMの御曹司と婚約が決まったんだって」
「それで、坊ちゃん、彼女と無理やり別れさせられたらしいんだ」
「ひどい話だよな。昼ドラかよ」
「だから、所長、それでかなり落ち込んでるらしいの。
息子の幸せを奪ってしまった、って。かわいそうだと思わない?」

『私は、最低の親なのかもしれないな…』

安倍さんはあの日のことを思い出していた。
どうして所長はあんなことを言ったのだろうとずっと考えていた。
あの言葉は、そういう意味だったのか。
724 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:57
所長の坊ちゃんとは、連絡先を交換してからしばしば
メールのやりとりをしていた安倍さん。
帰宅するため乗り込んだ車の運転席で、携帯電話を取り出す。
坊ちゃんあての、新しいメールを作成する。

坊ちゃんは自分の将来についてとても悩んでいるようだった。
父親のように優秀な弁護士になれるのかという、
大きなプレッシャーで押し潰されそうになりそうだとか、
それよりもまず司法試験にちゃんと合格するのか不安だとか。
男のくせに超長文メールを安倍さんに送ってきていた。
全部読むのはさすがに目が疲れたけれど、
少しでも力になってあげたかったから、がんばって返信もした。

でも、悩んでいたのはきっとそのことだけじゃない。
恋人との未来についても、苦悩していたはずだ。

困っている人を放っておけない、おせっかいな性格を自覚している安倍さん。
だからこそ弁護士という職業を選んだんだし、
やっぱり、坊ちゃんのために何かしてあげたい、と強く思っていた。
725 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:57


リンリンリリン、リンリンリリン。

さっきから久住くんの携帯電話は何度も鳴っていた。
だけど、久住くんはそれをチラリと見るだけで、
読書をやめようとはしなかった。

クリストファーが久住くんのそばに心配そうに立っている。

「ボス。鳴ってますよ」
「うん、知ってる」

顔も上げずに答えた久住くんは、本の次のページをめくる。

「出なくていい」

そして、そう冷たく言って、真面目に本を読み続けた。
726 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:57


*****



727 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:58
次の日。
朝の練習が終わった男子バスケ部の部員たちが、
体育館の中からぞろぞろと出てきている。

「小春」

夏焼くんは、1人で部室に向かっていた久住くんを呼び止めた。
でも久住くんは歩くのをやめず首だけ振り返る。

「なに?」
「あのさ」
小走りで久住くんの横に並ぶ夏焼くん。
タオルで汗を拭きながらスタスタ歩く久住くんは、
夏焼くんの顔をまったく見ない。
その態度はとてもクールで、なんか威圧感というか、
話しかけづらい雰囲気を感じた夏焼くんは少し動揺する。

「…」
「なに?」
久住くんは強い口調でもう一度言う。
見かけによらず気の弱い夏焼くん。うっ、となる。
結局何も聞けないまま、部室にたどり着いた。
728 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:58

どうも様子がおかしい。

転校してきてからいつも授業中は張り切って
手を挙げていた久住くんが大人しい。
夏焼くんは後ろを振り返って久住くんを窺う。
ぼんやりとした表情で教科書を眺めている。
いつもの目の輝きが、今日は全然ない気がする。

なんか、あったのかな。
昨夜、全然電話に出なかったし。
なんて思いながら、夏焼くんはまた前を向く。
すると教壇に立っている安藤先生とバチッと目が合ってしまう。
わざとらしいけどニカッと笑顔を作って、誤魔化した。

昼休みになったら、少し話をしてみよう。
そう決めた夏焼くんは、机に突っ伏した。
729 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:58

そして昼休み。

「あれ、小春は?」

授業が終わって、夏焼くんが後ろのほうの席に行くと、
徳永くんと須藤くんの姿しか見当たらなかった。

「トイレじゃない?」
「あー、マジ腹減った。早く食堂行こうぜ」
「…」

教室の出入り口を見つめる夏焼くん。

「ちょっと探してくる」
「うえっ?」

駆け出した夏焼くんを見送って、残された2人は顔を
見合わせ首をかしげた。
730 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:58

夏焼くんはとりあえず近くの男子トイレに向かった。
だけど、久住くんはいない。やっぱりおかしい。
廊下に出て、周りをきょろきょろ見回しながら走る。

「あっ、みーやん」
「ツグさん」

すると、両手に今日のお昼ご飯を抱えた桃子ちゃんとすれ違う。

「小春見なかった?」
「久住くん?さっき階段ですれ違ったよ」
「どこの階段?」
「すぐそこのだけど」
「ありがとう」
「えっ、なに」

また走り出した夏焼くん。
何だかよくわからない桃子ちゃんは首をひねった。
731 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:58
階段を上って、3階までたどり着く。
勢い良く扉を開けて、屋上に出る。

カップルがちらほらいるけど、久住くんはいない。
ため息をひとつついて、校舎の中に戻る。

「どこ行ったんだよ…」

夏焼くんは小さな声で呟く。
誰もいない3階の廊下を、とぼとぼ歩いている。

「…?」

なぜか、音楽室のほうからピアノの音色が聞こえてきた。
そこまで行って、夏焼くんは中を覗く。

(小春!)

ものすごく真剣な表情で、久住くんはピアノを弾いていた。
ピアノとか全然弾けない夏焼くんは、慣れた手つきで
鍵盤を押さえている久住くんをまじまじと見つめた。
732 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:59
何なんだろう。この話しかけづらいオーラ。
なんか、何も聞いちゃいけないような、何も聞かない
ほうがいいんじゃないかみたいな、そんな感じ。

転校してきて、仲良くなって、一緒にバスケもするようになった。
だけど、まだまだ久住くんのことをほんの少ししか知らない。
家庭の事情とか、いま悩んでることとか、全然知らない。
人懐こいニコニコ笑顔で、元気な久住くんしか知らない。

廊下から、夏焼くんがずっと久住くんを見つめていると、
久住くんは突然ガン!と乱暴に鍵盤を叩いた。
その大きな音に驚いた夏焼くんだが、とても厳しい表情の
久住くんにも驚く。あんな怖い顔、するんだ。

昨日、電話に出なかったのだって、何か理由があるのかもしれない。
気になるけれど、久住くんのことをもっと知りたいのだけれど、
今は、1人にしておいたほうがいいのかもしれない。
なんとなくそう思った夏焼くんは、静かにその場を後にした。
733 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:59


*****



734 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 22:59
ガキさんが家庭教師のために訪れている前田邸。

「おお、すごい!よくがんばったねー」

返ってきたばかりの小テストの結果を見せられて、
ガキさんはオーバーなくらい大きなリアクションをした。

「いえ…先生のおかげです」

褒められたけど謙虚な憂佳ちゃんは耳まで真っ赤にして、
モジモジしながら照れている。
純粋というか純情というか、可愛らしいなあ。
ついつい頬が緩んでしまうガキさん。

イマドキの女子中学生はもっとおませで生意気なもんかと
思っていたけど、憂佳ちゃんは全くそんなことなかった。

「わたし、ハロ高の特進クラスに行きたいんです。
だからこれからもがんばって勉強します」

ガキさんは優しくウンウン相槌を打ちながら、
彼女の話を聞いてあげる。
735 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:00
「これ、パパとママに見せたら、すっごい喜んでて、
新垣先生のおかげだねって言って」
「いやいや。これは憂佳ちゃんの努力の結果なんだからさ」
「でも、先生と一緒に勉強したから、点数が良かったんです」
「えー、そう?」
「はい」
ニコッと笑った彼女。うん。可愛い。
ガキさんは彼女に優しく微笑みかける。

ブーブー

「うおっと」
ポッケの中の携帯電話がいきなり震えだして、
ガキさんはビクッとした。
「電話ですか?」
「いや、たぶんメール」
「もしかして、カノジョからだったり」
「いやいやいやいや…」
女子中学生の言葉を必死で否定したガキさんは、
一応メールの相手を確認する。
736 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:00
受信箱の一番上には”安倍なつみ”という名前があった。

「……」
「やっぱりカノジョだ」
憂佳ちゃんがなぜかうれしそうに言う。
いやいやいやいや。ガキさんは苦笑する。

実は安倍さんから来週の金曜日に食事に誘われているのだ。
最近、美味しいレストランを見つけたから、と。
その日は特に大事な用事がなかったし、家庭教師もないし、
せっかく誘われたのだから『行きます』と返事をした。
今来たメールはきっとそのメールの返事だろう。

ケータイをまたポッケに仕舞ったガキさんは、
ぱん、と手を叩く。

「さあ、そろそろお勉強を始めようか」
737 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:00


ブーブー

帰宅途中の車内。
安倍さんからのメールを確認して、返事を打っていると、
電話がかかってくる。絵里ちゃんからだった。

「もしもし」
『あ、ガキさん?もう終わった?』
「うん終わった。いま帰ってるとこ」
『そう、お疲れさま』
「どうしたの?」
『あのね、来週の金曜のことなんだけどさ』
「うえっ?」
『あれ、言ってなかったっけ。松浦さん家のパーティ』
「うん。聞いてないけど」
『うっそー。でも大丈夫だよね?ガキさん来れるよね?』
「行けないよー。用事ある」
『えぇ、用事って何の用事?』

ここは、安倍さんと食事に行く、と正直に言うべきところだった。
だけど何を血迷ったか、ガキさんの口からぽろっと出てきた言葉は・・・

「ケンちゃんとさ、会う約束してるんだよね。
なんか、相談したいことがあるらしくて」
738 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:01
ガキさんと仲良しのケンちゃんの名前を出されて、
絵里ちゃんはまったく疑う様子もなく納得してくれた。
良いような、悪いような。いや、全然良くない。

何でこんな簡単にウソなんかついてしまったのだろう。
彼女にウソなんて、今までついたことないのに。
ついてもどうせすぐバレるって、そう思っていたのに。

いざウソをついてみると、彼女は全部信じてしまう。
ウソなのに。ケンちゃんとなんか会わないのに。

ああ!なんてことを!
ガキさんはすぐに後悔したけれど、言ったことを
引っ込めるわけにもいかずに、電話を切ってしまった。
しかしながら、バレなきゃいいや、なんて開き直ることもできず、
悶々とした夜を過ごすことになってしまったのだった。
739 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:01


*****



740 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:01

あおーげばーとおーとしー 

3月に入り、湾田高校では卒業式が行われていた。
田中くんは『仰げば尊し』をみんなと合唱しながら、
高校3年間の思い出を振り返っていた。

高1のときに初めてカノジョができて、童貞も捨てた。
柔道もめきめき強くなって、湾田高の大将にもなった。
斉藤くんや林くんと同じクラスになって、バカばっかりした。

「ちょ、タナやん、なに泣いてんだよー」
「泣いとらんし!ていうかおまえが泣いとるやん!」
「だってー」
うわーん。斉藤くんがボロボロと涙を流している。
子供か。田中くんは呆れながらも、溢れてくる涙を制服の袖で拭う。
大人の林くんは笑いながら2人の頭を優しく撫でている。

「別に、卒業したってまた会えるだろ」
「そうだよな。うん。そうだよな」
「そうそう」
741 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:01
高2のとき、大金持ちのお嬢様と合コンで出会い、短く切ない恋もした。
大好きだった。でも、ささいなことで別れてしまった。
後悔して、もう恋なんてする気になれない。そこまで思った。
そんな傷心の田中くんを癒してくれたのは、道重さゆみだった。

「れいなぁ!」

式が終わった後、会場の体育館から出てきた田中くんは、
自分の名前を呼ぶ声に振り返った。

「さゆっ!?」

なぜか私立のハロ高の制服を着たさゆみが、
田中くんのところへ一直線に駆け寄ってくる。
メガネをかけて、地味なおさげ髪で、スカートも長い。
なんちゅう変装や。田中くんはちょっと引きながらも、
闘牛のように突進してくる彼女をしっかり受け止める。
まだたくさん生徒たちがいる渡り廊下で、抱き合う2人。
うっひょー。斉藤くんは思わず林くんに寄り添う。
742 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:01
「卒業おめでと!」
「ちょ!!」
田中くんは恥ずかしいのでさゆみから離れようともがくが、
彼女はメチャクチャな力でぎゅうぎゅう抱きしめてくる。

(あれ田中のカノジョ?)(マジ?地味っ!)(ハロ高かよ)
(てか公衆の面前でありえなくない?)(ありえなーい)
クラスメイトの派手なギャル集団が、抱き合う田中くんたちを
冷めた目で眺めながら通り過ぎてゆく。
その視線が快感だったのか、さゆみがさらに興奮して、
田中くんのほっぺにブチューっとキスをかました。

「…もう勘弁して…マジで」
「もー、照れちゃって。かわいいんだから」

やっと解放されて、田中くんはぐったりしながらさゆみを見た。
さゆみはその場でくるっと1周まわって、「似合う?」

言いたいことが色々あったけど、優しい田中くん。
「似合っとうよ。チョー可愛いやん」と普通に言って、彼女を喜ばせた。
743 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:02
その夜。
とあるお店で田中くんたちの卒業おめでとうパーティが行われていた。
パーティの主催者はもちろん道重さゆみ。
そして今夜は貸切のこのお店は、彼女の所属する事務所の女社長が
小銭稼ぎで始めたお店だった。

「ほんまに卒業おめでとう!」
「ありがとうございます」
田中くんは、ビールジョッキを掲げてきた女社長に笑顔で応えた。
コーラの入ったグラスをジョッキに合わせて、乾杯する。
「なんや、ビールやないんか」
「当たり前じゃないですか。まだ未成年ですよ、ボク」
そんな優等生発言をした後、イヒヒ、と笑う田中くん。
関西弁の女社長もアッシャッシャと高らかに笑う。
「じゃあ、ハタチになったら飲もうな。お姉さん、おいしいお酒、
いっぱい知ってるから」
「ハイ」
「もー、中澤さんったら、お姉さんって歳じゃないでしょ」
さゆみが2人の間にゴリゴリっと割り込んでくる。
彼女の手にはカクテルの入ったグラス。
それで何杯目なのか、彼女はかなりハイテンションだった。
744 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:02
「それにしても、れいなのおともだちはイケメンぞろいやなぁ」

パーティに参加している男性陣を、舐めるような視線で見つめる中澤さん。
バカみたいに騒いでいる斉藤くんに、その横でクールに微笑んでる林くん。
柔道部の仲間たち。それから、可愛い後輩たち・・・

「ねぇねぇ、あそこにおる子たちは何なん?」

田中くんは首を伸ばして、中澤さんが指差した先を見る。
そこでは田中くんと同じ学校の制服を着た高校生たちがおしゃべりしていた。
夏焼くんと須藤くんだった。ちなみに愛佳ちゃんもいた。

「あそこにおるのは、仲良い後輩です。夏焼に須藤に、あと愛佳」
「愛佳ぁ?」
さゆみが眉をひそめて田中くんをにらむ。
そして、カレシのアゴをぐいっと掴む。
「なに馴れ馴れしく下の名前で呼んじゃってんの?デキてんの?」
「でっ、デキとらんって。何言いよん」
「あやしい」
目を細めながら、さゆみが迫ってくる。
田中くんの顔は嫌な感じに引きつる。
745 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:03
「あやしい」
「あやしくないあやしくない!」

中澤さんはニヤニヤしながら2人を眺めているだけ。
ちょっと!仲裁くらいしてくれよ姐さん!
田中くんは心の中で助けを求めるけれども、
そんなの知ったこっちゃない彼女はフンフン鼻歌を
歌いながらお酒を飲んでいる。

「ていうか愛佳は、須藤とデキとるやん」
「え?」
「あれ、言わんかったっけ。付き合い始めたって」

さゆみがバッと愛佳ちゃんのほうを見る。
なんか須藤くんと隣同士で座ってて、妙にくっ付いていた。
あれは恋人の距離だ。付き合ってるに違いない。
勘の鋭いさゆみは、そう断定する。
その瞬間、田中くんのアゴを持つ手を離して、
ニコッと笑顔になる。
746 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:03
「そういえば、雅くんのカノジョはなんで来とらんと?」
「梨沙子ちゃんはまだ中学生やけね。誘っとらん」
「へぇ。オトナ」
「やろ?」
イヒヒと笑うと、さゆみがもたれかかってくる。
田中くんは彼女の黒い髪を一度撫でる。
すると彼女はすぐにまた元の体勢に戻った。
なんでかと思ったら、1人の女性がこちらに
向かって来ていたからだった。

その女性に気づいた中澤さんが手を挙げる。
「おお、なっち!」
「ごめん遅くなって。なかなか仕事片付かなくてさ」
両手を合わせて謝ったなっちは、田中くんに微笑みかける。
「本日はどうもご卒業おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「安倍さんって毎日ホントによく働きますよねぇ」
さゆみが感心したように言う。
いやいや、と手を振って否定するなっちこと安倍さんは、
ヨッコラショと中澤さんの横に腰を下ろした。
747 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:03
「そんなに働いてたら、カレシに捨てられちゃいますよ」

冗談で言ったつもりのさゆみは、ニコニコ笑顔の安倍さんの
目が笑ってないのに気付いて田中くんを見る。
(まさか地雷踏んじゃった?)
(…そうみたいやね)
中澤さんも微妙な顔になっている。
さゆみはアハハと笑い飛ばして、ぐいっとお酒を飲み干した。


パーティがお開きになってから、安倍さんは中澤さんと
ゆっくりお酒を飲んでいた。

「あのね、裕ちゃん」
「ん?」
裕ちゃんこと中澤さんは、安倍さんを見る。

「別れちゃった」
「…やっぱりな」

中澤さんの反応に、安倍さんはアハッと笑う。
748 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:03
「もう、これ以上付き合えないって言われちゃった」
「だから君は仕事しすぎなんやって。がんばるのもええけど、
休むときはちゃんと休まんといつか身体壊すで」
「うん。前、お母さんにも同じこと言われた」
「仕事、やっぱり忙しいん?」
「実を言うと、そうでもないんだよね。でも勉強しなきゃ
いけないことまだまだあるしさ、休んでる暇なんてないの」
「相変わらず真面目やなぁ」

頬杖つきながら安倍さんを見つめる中澤さん。
安倍さんは楽しそうにお酒を飲んでいる。
その充実した横顔といったら。
けっこう長く付き合っていた恋人と別れて、
ちょっとは落ち込んでるかと思っていたけども、
そうでもないようだった。安心というか、何と言うか。

「あ、そうだ」
どっかのおばちゃんみたいな仕草で、安倍さんが手を叩く。
「今度の金曜の夜、ここ来ていい?」
「なんやいきなり」
「ちゃんこ鍋のコースで」
「別にいいけど、何人で来るん」
「2人。なっちと、坊ちゃん」
「坊ちゃん?」
749 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:04
「うん。所長の坊ちゃん」
「ボンボンか」
「そ。なんかその坊ちゃんさ、いま色々大変みたい
だからさ、お姉さんが相談に乗ったげようと思って」
「恋の悩みか」

中澤さんのツッコミを聞いて、安倍さんは少し考える。
恋の悩み?そうだ。坊ちゃんは今、大変なのだ。
恋人が政略結婚させられようとしているなんて、
まるでドラマみたいなのだ。正直実感がない。
無理やり別れさせられるって、一体どういう状況なのだろう。

いやいや。安倍さんは首を振る。
興味本位で、軽い気持ちで、彼と会おうとしているわけじゃない。
ちゃんと悩みを聞いて、相談に乗ってあげたいのだ。
本能が叫んでる。坊ちゃんの力になってあげたい!って。
そして、悲しんでいる所長にも、元気を出してもられえたらと。

安倍さんの脳裏には、あの日の所長の顔が焼きついている。
所長はいつも自信満々で、どんなことにも動じない人だと思ってた。
だけど、あのときはとても弱い人に見えた。ビックリした。
息子の一大事は、父親の一大事でもある。
あの人たちの、ほんの少しでも役に立てればと、そう思っていた。
自分の別れ話なんて、とっくの昔に忘れ去っていた。
750 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:04

つづく


751 名前:彼女の革命 投稿日:2009/09/09(水) 23:04

从*・ 。.・)<地雷踏んでも無傷なの
从*´ ヮ`)<ヒヤヒヤしたばい


752 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/10(木) 03:33
更新キター!!
いろんな話が急展開でハラハラします!
753 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/13(日) 22:57
(●;´ー`)<大丈夫だべ、うん。…大丈夫だべさ。
754 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/10/07(水) 22:48
あぁいつものガキカメに戻ってよ
はやくいつものいちゃこらしてるのみたいよ
755 名前:りしゃみやヲタ 投稿日:2009/10/09(金) 16:15
久々に読み返してみました
いまとなっては熊井ちゃんの不可解な行動にも納得の行くほどのベリ好きになりました。私。
ありがとうございますw
756 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/10/31(土) 21:58
いつまでもお待ちしております
757 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/11/02(月) 13:12
待ってます
758 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2009/11/02(月) 18:07
楽しみに待ちつつも、
びっくりしたんで落とします。。。
759 名前:sage 投稿日:2009/11/19(木) 01:07
更新待ってます(>_<)
760 名前:sage 投稿日:2009/11/19(木) 04:16
もー
761 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/11/19(木) 04:18
落とします
762 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/31(木) 15:10
HPのブログすら更新してないけど
大丈夫なんだろうか
763 名前:sage 投稿日:2010/01/04(月) 03:37
>>762
お主が書き込んだちょいと後にブログ更新きてたぜ
取り合えず生きてるみたい・・・気長に待つかな
764 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/01/04(月) 03:39
みすったOrz 
765 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/02(日) 19:56
ゆっくり更新してください
ずぅーっと待ってます
766 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 18:40
あげんな
767 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/08(土) 21:02
待ってます
というよりAKBに流れそうで心配です
768 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/08(土) 21:03
すみません
769 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/06/24(金) 18:06
まだまだ待ってます

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