推理「春たちの学園」
- 1 名前:いこーる 投稿日:2007/03/15(木) 19:57
- 久住×須藤。学園を舞台に推理ものです。
読者様に参加いただける推理クイズも。
人見知り探偵茉麻と、泣き虫の助手小春の、謎解きと青春の物語。
どうぞお楽しみくださいませ。
- 2 名前:教室が密室1 投稿日:2007/03/15(木) 19:58
-
春たちの学園 −教室が密室−
- 3 名前:教室が密室1 投稿日:2007/03/15(木) 19:58
- 今日は私の親友の話をしようと思う。
中3になってはじめて同じ知り合ったコで
名前は須藤茉麻。まーさん!
窓際の席に座ってるんだけど、いっつも外を見ながらあくびばっかしてる。
その後ろ姿を毎日じーーーーっと見てるのが私、久住小春。
あだ名は特になくってまーさんからは「小春ちゃん」て呼ばれてる。
でもまーさん、滑舌の悪さは筆舌に尽くしがたく
いっつも「こはぁちゃん」て聞こえてしまう。
それを聞いたクラスメイトがあだ名だと勘違いしてしまい
周囲からは「こはっちゃん!」て呼ばれるようになってしまった。
自分でいうのもなんだけど、呼びにくいったらありゃしない。
まったくどうしてくれんのよ、まーさん!
まーさん本人は極度の人見知り症で、よほど仲良くならないと普通に会話すらできない。
だから私のあだ名を訂正してくれなんて頼めやしない。
だってまーさんは、お財布落として職員室に行ったって
先生の前でもじもじしてるだけなんだもん。
「どうした須藤。お腹痛いの?違う?じゃあ宿題忘れた?」
その後も先生、あれこれ考えて
「いじめてくるコがいた」にはじまりいろいろ推理した挙句
「晴れてるのに傘持ってきちゃった」の後にようやく「財布落とした?」
と聞いてもらえたんだから。
先生の推理も変だけど、それをずっと黙って聞いてるまーさんもすごいと思う。
- 4 名前:教室が密室1 投稿日:2007/03/15(木) 19:58
- そんなまーさんだから、当然友達も少ない。
だって話しかけたって黙ったままなんだから。
こんな暗いコと友達なんかやってては
私まで友達が減ってしまうだろうし
それは平穏な中学生活を送りたい私にとっては大きなマイナスのはずなのだが
私はその茉麻ちゃんと一緒にいる。
実は4月に私は一度、クラスから集団無視をくらったことがあった。
このクラスはそう、乾いてて冷たくて、自己中心的なやつらばっかりだ。
そんな私を絶望の淵から救ってくれたのがまーさんだった。
その出来事は4月下旬ころ。
そのころはまだお互い「須藤さん」「久住さん」と呼び合う
クラスメイト未満のほとんど他人同士だった。
でもこの事件を通してお互いの呼び名が変わった。
教室から教材費が盗まれた事件の謎を
2人で解くことになったのだ。
- 5 名前:教室が密室1 投稿日:2007/03/15(木) 19:59
- <事件:2人が友達になったきっかけとなる>
木曜日は2時間目が体育だった。
1時間目の授業が終了したので、次々と更衣室に移動していく。
「あ、徳永さーん。教材費ください」
私は教室を出ようとしていた徳永さんに声をかける。
私が教材費集めの係り。
徳永さん以外のコからは、朝のうちに教材費を受け取っていた。
徳永さんは通院で遅刻してきたので、そのときにいなかった。
月曜の体育で右腕を骨折したのだ。今もギプスで補強した腕を吊っている。
「あ……そっか。ちょっと待ってて」
- 6 名前:教室が密室1 投稿日:2007/03/15(木) 19:59
- 「徳永さんどうせ着替えないんだから、のんびりしてけば?」
教室の外からとげのある声が飛んできた。ひゅんっ、と音が聞こえそうなほど鋭い。
いやな感じ。
声の主は徳永さんたちと対立しているグループのリーダー、夏焼さん。
夏焼さんは普段は明るく、かわいいのだけれど
徳永組の人たちに対するとき、顔つきが一瞬変わる。
顔を前に傾けて上目遣いになると、夏焼さんの目は前髪の陰に入り
暗い中で眼光だけ鋭く放たれているのだ。
それはまるで天使の中から漂う妖気。アンバランスが返ってグロテスクだった。
夏焼さんに続いて、取り巻き立ちがキャハハーと笑う。
殺伐。これが3年2組。
徳永さんは顔をしかめてから、自分のかばんに向かって封筒を取ると
私の方に小走りでやってきた。
「ご、ごめんね」
「何で久住さんが謝るの?」
「だって、私が呼び止めたりしたから……」
「いいって、あんなやつの言葉なんて気にしてないから」
徳永さんはにこっ、と私に笑顔を見せた。
- 7 名前:教室が密室1 投稿日:2007/03/15(木) 19:59
- しかし「あんなやつ」のところだけは、その顔から笑みが消えた。
ふと見せる冷たさは、夏焼さんと同じ匂いがする。
そんな徳永さんだから、グループのリーダーになれるのだ。
このクラスの勢力は
大きく徳永組と夏焼組に分かれている。
夏焼さんにも徳永さんにもバックには
怖い高校生がついているから誰も逆らおうとしない。
私はというと
どちらの人たちとも
そこそこ仲良くし、そこそこ距離をとるという
まあ一般の中学生が取り得る手段の中ではそこそこスマートなやり方で
クラスメイトたちと接していた。
抗争になんか、巻き込まれたくない。
「はい、教材費」
徳永さんの声がしたので私は顔を上げてB4サイズの大きな封筒を広げた。
徳永さんがその中に自分の封筒を入れる。
私はガサリと手ごたえを確認してから封筒をたたんだ。
「よし、全員分!」
私は誰にともなくそう言った。
「わーもうこんな時間」
- 8 名前:教室が密室1 投稿日:2007/03/15(木) 19:59
- 着替えの時間がなくなってしまいそうだったので
私はあわてて着替え袋をつかんだ。
教材費を届けるのは後回しだ。
教材費の封筒は自分のカバンにしまった。
骨折中で見学の徳永さんは
「先に行ってるよ」
と言い残して後ろ扉から教室を出て行った。
私も後に続こうとして、後ろ扉に手をかけた……とそのとき
前扉のところから、須藤さんが、じーっとこちらを見ているのに気がついた。
半身を扉に隠してじーっと。こ、怖い。
申し訳ないが映画『叫』に出てくる赤い幽霊を思い出してしまった。
「す、須藤さん……どうしたの?」
「久住さんいるから、鍵閉められない」
須藤さんは鍵係りだった。
3−2と書かれた赤いテープが貼ってある鍵を掲げていた。
「ごめん。すぐ出る」
「待って。前から出て!」
「あ……そっか」
この学校の扉は不便なことに前扉と後ろ扉の鍵が違う。
須藤さんの持ってる赤の鍵は前扉用。
後ろ扉用の鍵には青いテープが貼ってあるらしいが
原則として生徒は赤の鍵しか使えない。
青の鍵は用務員室にまとめてしまってあるらしい。
「後ろは中から鍵かけて」
「あ、はい」
私は言われたとおり、後ろ扉の鍵をかけて前扉から教室を出た。
私に続いて須藤さんも出てきた。ガチャリと前扉に鍵をかけた。
- 9 名前:教室が密室1 投稿日:2007/03/15(木) 20:00
- それから2人は大急ぎで更衣室に移動した。
更衣室に残っていたのは3人だけだった。
夏焼さんと、橋本さんと、秋山さん。
「久住さんお疲れ様」
夏焼さんが私にだけ声をかけてきた。
須藤さんは無視。
暗く黙ったままの須藤さんに声をかけても益なしだが
私ならばグループに引き込めると思っているらしい。
私は、へへっ、と引きつった笑顔を返す。
どっちつかずの日和見主義者としては精一杯の返答だ。
「教材費届けた?」
「まだ……教室に置いてある」
「大丈夫なの?」
「須藤さんが鍵かけたから、ね!」
「……」
須藤さんは無言で首をちょこっとだけ動かした。スーパー省エネモード!
YESともNOともわからない微妙なリアクションだった。
私たちは急いで着替えを済ませて、運動場に行った。
須藤さんは教室の鍵を体育の先生に預けていた。
- 10 名前:教室が密室1 投稿日:2007/03/15(木) 20:01
-
授業を終えて、教室に戻る。
須藤さんが鍵を開け、中から後ろ扉の鍵も開ける。
開くとみんなが教室になだれこんでいく。
私は教材費を職員室に持っていこうと
自分のカバンを開けた。
「あれ?」
「どうしたの?」
となりから橋本さんが聞いてきた。
でも私は
とんでもない事態が私に降りかかったことを自覚するのに
結構時間がかかった。
「封筒がない……」
カバンの中からは
「教材費がなくなってる!!」
大きな封筒が姿を消していた。
私の叫び声に、教室が一瞬しん、と静まり返った。
「ええ?」
「うそ……どうすんの?」
「久住さん、失くしたの?」
「ううん、確かにカバンの中に入れたよ」
- 11 名前:教室が密室1 投稿日:2007/03/15(木) 20:01
- 「私も久住さんが封筒をしまうのを見たよ」
徳永さんが大声を上げたので、再び教室は沈黙になった。
「久住さんが失くしたんじゃない。誰かが教材費を盗んだんだ」
「……誰が?」
「さぁ……泥棒が入ったんじゃない?」
「でもさぁ」
夏焼さんが徳永さんに近づいてくる。
「教材費だけがなくなったんでしょう?」
「?」
「だから、他になくなったものとかないんでしょ?」
「ない、んじゃないかな……久住さん?」
徳永さんに言われて私はカバンの中をチェックした。
「封筒以外はある。財布は預けてたから」
「でしょ?おかしくない?」
「何が?」
「だって体育のとき、貴重品は係りが集める」
「それの、どこがおかしい?」
「貴重品は普通置いておかないんじゃん。
たまたま久住さんが時間なくて置きっぱなしにしただけでしょう?」
「ご、ごめんなさい」
「別に責めてるわけじゃない」
「夏焼さん、何がおかしいって言うの?」
- 12 名前:教室が密室1 投稿日:2007/03/15(木) 20:01
- 徳永さんが聞く。
「だから、泥棒さんはどうして今日
教材費がここにあるって知ってるの?」
「……え?」
徳永さんは、驚いた表情で止まった。
「部外者はそんなこと知らないんだよ。
ましてここは4階だし。ふらっ、と入るところじゃない。
犯人は、教材費を狙って入った。そして
今日、大金が置いてあるのを知ってたのは……」
夏焼さんは一同をぐるりと見回してから言った。
「このクラスの人だけだ」
場に緊張が走った。
「犯人は3年2組の誰かだよ」
- 13 名前:いこーる 投稿日:2007/03/15(木) 20:03
- こんなノリでやっていきます。
週1ペースで更新して参ります。
よろしくおねがいします。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/15(木) 21:37
- タイトルと須藤が出てると言うので、告白大作戦と同じ世界化と思ったら違うのね。
今回は当てれるようにがんばろ
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/17(土) 01:43
- こちらのわがままだと思うけど食道などの作品も更新してほしいYO!
- 16 名前:教室が密室2 投稿日:2007/03/22(木) 22:30
- 夏焼さんの言葉は、教室全体に重くのしかかった。
この中に泥棒がいる、という事実だけでなく
夏焼さんの口から発せられているということが大きかった。
クラスで夏焼さんが「犯人はこの中だ」と言えば
夏焼組のメンバーがその意見に従うことになる。
夏焼さんの発言は、クラスの半数を左右するのだ。
「徳永さん、質問は?」
夏焼さんは、挑戦的な目で徳永さんを見た。
周囲がざわつきはじめる。
「……」
「どうなの?」
夏焼さんが迫る。徳永さんが同意すれば、徳永組のメンバーも反論しない。
その場合「犯人はこの中」はクラス全体の決定事項となる。
「……」
「ねぇ、黙ってないでよ。
繰り返すけど、普段、教室の中に大金はないんだよ。
今日、たまたま教材費があった。それを知ってるのはクラスの人だけ。
今日の体育はフットサルだったけど、
練習場所を探す振りをして抜け出すことは誰にでもできたでしょ。
授業のはじめに自由練習の時間が20分あるんだから」
「いや……」
- 17 名前:教室が密室2 投稿日:2007/03/22(木) 22:31
- 徳永さんが小さく言った。
「違う」
周囲がざわつく。
沈黙と喧噪が、3年2組の空気を交互に塗り替えている。
「どこが違うの?部外者が入るわけが……」
「そうじゃなくって……容疑者はもっと絞れる」
「え!?何で?」
「久住さん本当は、職員室に届けるつもりだったんだもん。
でも時間がなくて教材費を置きっぱなしにした。
それを知ってる人が犯人だ」
私は思わず徳永さんの腕をつかむ。
「それって……」
「久住さん……久住さんが遅れそうになってたのを知ってるコって誰?」
教材費を職員室に持っていく時間がないと、知っていた人。
それは……徳永さん自身だ。
私の中で疑念が膨らむ。
徳永さんは、私が出て行く直前に、教材費を渡して教室を出た。
だから私に時間がないことを知っていた。
しかも……腕を骨折してて見学だったから、授業を抜け出すことも可能だ。
もちろん、徳永さんはそれをわかってるはずだ。
- 18 名前:教室が密室2 投稿日:2007/03/22(木) 22:31
- 「えっと……まず、徳永さん。それから……更衣室で会ってる
夏焼さん、橋本さん、秋山さん。
鍵を閉めるため教室に残ってた須藤さんも知ってる」
「全部で容疑者は5人…」
「もう1人いるじゃん」
夏焼さんは、すっと指を指した。
「久住さん本人、可能性はゼロじゃないでしょう」
「そうだね」
夏焼さんと徳永さんが同意見。
クラス全員から私は疑われることになった。
私はクラスを見回した。全員が疑うような目を私に向けている。
息苦しさを感じた。自分がやってないことは自分が知っている。
でもそれを証明できない。
私は夏焼さんと徳永さんを交互に見る。
2人が急に冷たくなった気がした。
いや、
―――気のせいか…
もともと2人はこうだった。
私の味方でもないし、敵でもない。
ただ2人は、この事件の解決をどちらが仕切るか、競っているだけだ。
これは2人にとって、クラスの主導権を賭けたゲームなのだ。
私たち容疑者は、ゲームの駒。
もちろん、2人が犯人でなければの話だけれど。
- 19 名前:教室が密室2 投稿日:2007/03/22(木) 22:31
- 「じゃあ聞こう。まず、授業の後半の全体練習を抜け出してた人いる?」
誰も返事をしない。
「全体練習は全員がいた。ここまではいいね。
だとしたら犯行は、前半25分の間に行われたことになる」
今日の体育は前半25分が自由練習だった。
「この間にアリバイがある人は犯人じゃない。
その時間のアリバイを証明できる人?」
夏焼さんはなぜか、楽しそうに聞いた。
「夏焼さんは私とずっと一緒だったよ」
岡田さんが手をあげて言った。
「そうだよねー」
「うん」
夏焼さんは笑って岡田さんの頭をポンポンと叩く。
「共犯じゃなければね」
徳永さんが言い捨てた。
「何よ!ロビンが嘘ついてるっていうの!?」
「可能性はゼロじゃない」
徳永さんは夏焼さんをまねして言った。
夏焼さんは岡田さんに聞く。
- 20 名前:教室が密室2 投稿日:2007/03/22(木) 22:31
- 「ロビン、私たちどこで練習してたっけ?」
「朝礼台の前。嘘じゃないよ。先生もいたから」
「だって、徳永さん。先生に確かめてみる?」
「……いや」
「はい、決定」
これで夏焼さんのアリバイが証明された。
容疑者は残り5人。
徳永さん、秋山さん、橋本さん、須藤さん、私。
「他に、アリバイを証明できる人」
夏焼さんが再び聞く。自分が容疑圏から外れたところで
一気に場の主導権を持っていった形になる。
はじめからこうなることを予想してアリバイの話を始めたに違いない。
嫌らしい……。
夏焼さんの問いかけに手をあげて答えたのは徳永さんだった。
「私は昇降口にいた」
「何でそんなところに……」
「あそこなら、集合の笛は聞こえるから」
どうせ見学するなら、昇降口は涼しくていいだろう。
徳永さんは1人でずっとそこにいたと言った。
そこへ夏焼さんが突っかかる。
- 21 名前:教室が密室2 投稿日:2007/03/22(木) 22:31
- 「1人じゃ何の証明にもならないじゃん。
ていうか、一番教室に行きやすかったんじゃない?」
しかし徳永さんは、気にする様子もなく続ける。
「でも、そこにいないとわからないことを私は知ってる」
「そこにいないとわからないこと?」
「秋山さん、授業開始5分後くらいに、一度校舎の中に入ったよね」
一同が秋山さんに注目した。
「と、トイレだよ。すぐ戻った」
秋山さんが伺うように言った。
「本当なの?」
「う、うん」
「確か、5分くらいで戻ってきてたね」
徳永さんが付け足した。
「あんた何で黙ってたの?」
「だって……」
夏焼さんは責めるが、わざわざ自分から疑われるようなことを言うわけがないだろう。
たとえ犯人でなくても、クラスから疑われるのはいやなことだ。
- 22 名前:教室が密室2 投稿日:2007/03/22(木) 22:31
- 「それから、橋本さんも来た。開始15分後くらい」
「私も……トイレに」
「10分くらいいたよね」
「う、うん」
クラスは困った顔をした。
容疑者の2人が、問題の時間、校舎内に立ち入っていたとは……。
ややこしいことになってきた。
「これで、私のアリバイってことになるんじゃない?」
「徳永さん、ずっと1人だったんでしょう?2人が通ったのを見たってだけ」
「そうだけど、私が犯人だったら、秋山さんと橋本さんがトイレに行ってる間に
泥棒なんかしないよ。もしトイレから戻ってくるのが早かったら
私がいないってことで怪しまれるもん。そこは犯行時間にはなり得ない」
なるほど、と誰かが言った。
確かに、泥棒を企んでいたとしても、2人がトイレにいる間は避けただろう。
もし、2人が戻ってきたときに徳永さんが昇降口におらず
グランドにもいないとなったら不審に思う。
いつ戻ってくるかわからないのに、そんな時間に教室に向かうのは危険すぎる。
戻ってきてから行けば、怪しまれずに済むのだから。
「そうすると、私のアリバイはほぼ5分刻みで証明されるよ。
秋山さんがトイレに来たのが開始5分後。
それから5分して秋山さんが戻ってきた。
そのまた5分後に橋本さんがトイレに来た。
そして10分経って戻ってきた」
- 23 名前:教室が密室2 投稿日:2007/03/22(木) 22:32
- 私は頭の中で、徳永さんの話を整理した。
9:55 授業開始
10:00 秋山さんが校舎に入る。
10:05 秋山さんが戻ってくる。
10:10 橋本さんが校舎に入る。
10:20 橋本さんが戻ってくる。
「この時点で自由練習は終了。ここからは全体練習だから、
見学の私も先生の見える位置に行かなくちゃいけない。
アリバイは証明される」
「されないよ!間が空いてるでしょう」
「5分で盗むのは無理だ!
昇降口から4階の教室まで直接往復して、ぎりぎり5分くらいじゃない?」
「でも、徳永さん足速いから、5分で行けたかも」
「直接往復できたならね」
「え?」
「でも職員室まで鍵を取りに行かなきゃいけないでしょう。
確かに鍵は、職員室の入り口すぐのところだし、
授業中で先生が少ないときなら誰にも見つからずに鍵を取れる。
でも時間的には厳しくなるよ。
昇降口から職員室に向かったら、教室とは反対方向。
いくらなんでも5分じゃ足りない」
「うーん。けどさぁ。橋本さんが入ってからは10分の余裕があったでしょう」
「その部分はいつ戻ってくるかわからないと
動きようがないって言ったでしょう?」
「橋本さんと共犯でなければね。2人、仲いいじゃん」
「……」
- 24 名前:教室が密室2 投稿日:2007/03/22(木) 22:32
- そのとき、秋山さんが言った。
「授業が終わってから盗んだってことはない?」
「いや……それはないでしょう。みんなの目があったし封筒も大きかった。
みんながいる前でこっそり盗むことなんてできないよ」
「ちょっと待って!」
「何?ロビン」
「さっき徳永さん。教室に入るには鍵を取りに行かなきゃいけないって言ったよね」
「うん」
岡田さんは、夏焼さんの顔を見上げながら言った。
「今日、須藤さん鍵を職員室に戻してない」
「え?」
「時間なかったからって、授業に鍵を持ってきてた。
体育の先生に預けてたの見たよ」
「え?……じゃあ」
「体育の時間、教室の鍵は誰も持ち出せない」
赤の鍵は先生。青の鍵は用務員室。
「職員室にかけてあれば、こっそり持ち出すこともできるけど
今日は、持ち出せない状態だった。
鍵のかかった教室には、誰も入ることができなかったんだよ」
「じゃあ……」
「犯人はどうやって……教室に入ったんだろう」
- 25 名前:教室が密室2 投稿日:2007/03/22(木) 22:32
- また、沈黙が訪れた。
「そういえば……須藤さん、いなくない?」
「え?」
みんながキョロキョロした。
「本当だ、いない」
「まさか、あのコが犯人?」
……違う。
須藤さんが確かに教室に鍵をかけたのを私は見ている。
そのあとは、先生に預けてしまったのだから、須藤さんにも鍵は開けられない。
というか、これでは鍵を開けられた人なんていないのではないか、と思えた。
授業の前、鍵を最後に閉めたのが須藤さん。
授業の後、最初に鍵を開けたのも須藤さん。
その須藤さんにも犯行は不可能。
まして他の人には、無理だったのではないか?
―――ひょっとして、須藤さんはこうなることを予想して逃げたんじゃないか?
鍵を預けていたことは、須藤さん自身が一番知っている。
徳永さんと夏焼さんがそのことに気づいたら、
教室に入れたのは誰だ、という話になり真っ先に須藤さんを疑うはずだ。
実際、そうなった。
須藤さんはそれを恐れ逃げ出したんだ。
―――あのコ、人目に晒されるのを極端に怖がるから……
私は
「久住さん、どこ行くの?」
教室を飛び出していた。
- 26 名前:いこーる 投稿日:2007/03/22(木) 22:34
- >>14
告白大作戦と、違うというか同じというか……
場合によってはつなげるかもしれません。
今回も推理していただけると幸いです。
>>15
はーい、わっかりましたー。
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/23(金) 13:36
- =
- 28 名前:教室が密室3 ミニクイズ 投稿日:2007/03/29(木) 19:11
- 屋上で須藤さんを見つけた。
手すりに寄りかかって、景色を眺めている。
「ねぇ」
「……」
「どうして逃げたの?」
「……久住さんも」
「ん?」
「久住さんも、私が犯人と思うの?」
やっぱりこのコ、疑われるのが嫌で逃げて来たんだ。
「そんなこと思ってないよ」
「だって、鍵開けられた人、いない」
「やっぱり、須藤さん気づいてたんだ。
ねぇ、いつからいなかった?」
「夏焼さんが、犯人は3年2組の誰かだ、って言ったとき」
私は相変わらず背中を丸めたままの須藤さんに近づいた。ゆっくり。
「鍵閉める直前に久住さんが封筒をしまった。鍵を閉めたのは私。
だから、私が疑われると思って、逃げた」
「やっぱりね」
「目立つだけでも死ぬほどいやなのに
みんなから疑われるなんて考えたら……普通じゃいられなかった」
「須藤さん、頭いいんだね。そんなにすぐに気づくなんて」
- 29 名前:教室が密室3 ミニクイズ 投稿日:2007/03/29(木) 19:11
- 隣に立つ。
「でも、鍵は先生に預けちゃったじゃん。須藤さんにも開けられない」
須藤さんは、一瞬だけ私の方を見たが、またすぐ下を向いた。
「そう言ってもきっと信じてもらえない」
「どうして?」
「私なら……密室状態の教室に入るトリックがあったから」
「え?」
そのとき、大きく鳴ったチャイムの音が
私たちの胸の中まで揺さぶった。
屋上にいると、こんなに大きく聞こえるんだ。
私はわざとらしくため息をついた。
そしてくるりと身体の向きを変え、手すりに背を向けてその場に座った。
「授業、始まっちゃったね」
「うん」
「なんか、わくわくするね」
そのとき須藤さんが、ようやく私を見てくれた。
「久住さん、いいの?」
「サボりって、一度やってみたかった」
「私は……」
「?」
「ううん。私も何か、わくわくする」
- 30 名前:教室が密室3 ミニクイズ 投稿日:2007/03/29(木) 19:11
- 柔らかい風が、さーっと2人の髪を揺らす。
春の空気は、ちょっと甘い。
私はよいしょ、と立ち上がると
須藤さんと同じように手すりにもたれて景色を見る。そして言った。
「須藤さんの考えていること、当ててあげようか」
「え?」
「ちょっとした遊び。さっき密室トリックとか言ってたでしょう?
ひょっとして、推理小説好き?」
「うん」
「いっつも本ばっか読んでるもんね」
「人と、話たくない」
「暗いよ」
「別にいい。クラスの人みたく、
意味もないのに張り合ったりしたくない」
「……わかる。でも私と推理の話するならいいでしょ?」
「……」
もどかしいなぁ。心の扉を閉ざしちゃったみたい。
「決定。やろう!」
私が肩をぽんと叩くと、須藤さんはようやく笑ってくれた。
- 31 名前:教室が密室3 ミニクイズ 投稿日:2007/03/29(木) 19:11
- 「須藤さんが考えたのはー、そうだな。私と共犯だった!」
「違う」
「じゃ、先生か用務員さんと共犯」
「ダメ。共犯なし」
「違うの?」
すると須藤さんはこっちに身を乗り出してきた。
わぁ、このコ本当に推理好きなんだ。
須藤さんは言う。
「条件は3つ。
@ 犯行は私の単独
A 秘密の通路は存在しない。
B 針金や合鍵・マスターキーの類は使わない。アバカムも使わない」
アバカムって何?……じゃなくて。
「ねぇ須藤さん」
「ん?」
「これ当てたら、次の時間から、一緒に授業に戻ろう」
「え?」
「どうせこのままここにいても解決しない」
「……でも、犯人扱いさせる」
私は、手すりにあごを乗せた。
はるか向こうに河が見える。
コンクリートで仕切られた河。
手前を見た。
コンクリートで囲われた建物。私たちの学校。
- 32 名前:教室が密室3 ミニクイズ 投稿日:2007/03/29(木) 19:12
- 「でも、逃げてばかりも入られないよ」
「だけど」
「須藤さん。
私も、あのクラスの雰囲気は好きじゃない」
「でも、久住さん明るい」
「そうやって本心を隠してるんだよ。
須藤さんは黙ることで心を隠した。
私は嘘の笑顔を振りまくことで
クラスの悪意からどうにかして逃れようとしてた。
でも、事件は起こった。その結果クラス抗争に巻き込まれる。
現実から逃げたりできない。辛くてもね。
私たち……似たもの同士だよ」
須藤さんがこっちを見たらしい。
でも私はなんか顔を上げられなかった。
ほとんど話したことのないコと授業をさぼって
私ってば語っちゃってる。照れくさかった。
この春の空気と須藤さんのテンポが
私のテンションを狂わせたらしい。
「それに逃げる必要もないよ。だって
須藤さんは犯人じゃないもん」
「え?」
「徳永さんが練習時間、昇降口のところにいて
須藤さんが通らなかったことを証明してくれた」
「うそ」
「うそなんかつかない。他の出入り口は、全て誰かに見つかるようになってるし
昇降口を通らなければ、犯行は不可能だ」
「……」
- 33 名前:教室が密室3 ミニクイズ 投稿日:2007/03/29(木) 19:12
- と、いうわけだから、本当は須藤さんに密室トリックなんか
使えるわけがないんだ。
「てことで須藤さんにはお金は盗めない。
クイズ終了」
「……」
「あ、怒った?」
須藤さんは上目遣い。
その上目遣いはいつもの怯えるような目ではなく
私への怒りを熱く燃え上がらせた鋭い目だった。
私はクスリと笑って、言った。
「でもそれだとつまんないよね。てことで
須藤さんの言った条件の他に
C アリバイはないものと仮定する。
てのを加えよう。
この条件で私が須藤さんの考えたトリックを当てたら
一緒に授業に行こう」
須藤さんは、しばらく両手をもじもじさせて考えていたが
「わかった、当てられたら、授業に戻る」
そう言った。
- 34 名前:教室が密室3 ミニクイズ 投稿日:2007/03/29(木) 19:12
- 心の扉、ちょっとは開いたかな。
「さてと……」
私は手すりから身を離した。
本格的に
扉を開けてあげよう。
須藤さんの心という
密室の鍵は私が探す。
視界は目の前から遊離し、
思考の世界にダイブしていく。
クイズの前に最終確認といこう。
・須藤さんが先生に預けた鍵には「3−2」と書かれた赤いテープが貼ってあった。
・普段なら赤の鍵は、使ってないとき職員室にかけていた。
・鍵は職員室にかけてある状態なら誰でも持ち出すことができた。
・青の鍵を生徒が持ち出すことはできなかった。
目を閉じる。
教室の様子、当時の行動が頭の中に高速でカットバックされていく。
そして
血液がざわめくような感覚の中で
私の脳内に、一つのストーリーが描かれていった。
- 35 名前:教室が密室3 ミニクイズ 投稿日:2007/03/29(木) 19:12
- そのストーリーに従えば
須藤さんは授業の前、教室で私を追い出すタイミングを待っていたことになる。
封筒を持ち出しそうになったら時間がないと急かして
教室に置いておくように仕向ける。
そう……この犯行は事前に計画されていた。
そしてこのトリックは、須藤さんにしか使えないものだった。
「わかった!須藤さんの考えた密室トリックがわかった!」
「本当?」
須藤さんは嬉しそうに微笑んだ。
笑うとこ見るの、初めてだ。
推理の話ができるのが、嬉しくて仕方ないのだろう。
だとしたら私は、このコの期待に答えなくてはならない。
「答えの前に、もう一つ。私が正解したら茉麻ちゃんって呼んでいい?」
「……」
「いいよね。で、私のことも小春って呼んで」
そう言うと須藤さんは照れくさそうに言った。
「当たったら、いいよ」
「よし、では私の考えた解答です」
- 36 名前:教室が密室3 ミニクイズ 投稿日:2007/03/29(木) 19:13
- この条件で可能な密室トリック。
須藤さんはクラスメイトたちや、体育の先生を欺いて
密室を破ることを可能にしたのだ。
犯人は……
A:教室に入ることなく、封筒を手に入れたんだ!
B:鍵を使って扉を開け、教室に入ったんだ!
C:封筒がなくなったかのように、クラスを錯覚させたんだ!
そしてこのトリックを成立させるには、ある準備が不可欠だ。
それは……
1:テープとマジック
2:糸とおもり
3:携帯電話
4:それ以外(メル欄に記入のこと)
- 37 名前:いこーる 投稿日:2007/03/29(木) 19:13
- 親愛なる読者様へ
事件の解決とは無関係に、茉麻と小春は推理合戦に興じることになりました。
作中にもありますとおり、
茉麻は実際の犯人ではありえません。小春も犯人ではありえません。
この時点で実際に起きた教材費盗難の犯人を指摘する必要はないし
それは不可能です。
本番の推理クイズには、まだ情報が不足しています。
ということで作中の2人よろしく
ちょっとした遊びとしてクイズに挑戦していただけたら幸いです。
クイズの結果で2人の呼び名が変わり、親密度が更新されます。
読者様のうち、お1人でも正解者が出た場合フラグが立ち
どなたも正解できなかった場合、フラグを逃します。
*
解答は「A1」「B2」のように、二つの選択肢の正しい組み合わせを書いてください。
この場合、メル欄ではなく、レス本文に書き込みいただいて構いません。
「4:それ以外」を選ぶ際にはメル欄にその内容を記入してください(簡潔にお願いします。)
メル欄以外での内容予測やネタバレは
他の読者様のご迷惑となりますので、厳禁でお願いします。
感想は大歓迎……ていうかむしろください。お願いします。
- 38 名前:いこーる 投稿日:2007/03/29(木) 19:14
- 本日はここまでとなります。
- 39 名前:いこーる 投稿日:2007/03/29(木) 19:15
- >>27
いこーる!
……?
えーと、他スレの方も順番に更新準備すすめておりますので……;
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/31(土) 22:18
- ==
- 41 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/01(日) 00:04
- むぅ・・・・・・B1かなぁ・・・
とりあえず、アバカムで飲んでいた紅茶を噴出しそうになりましたww
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/04(水) 15:09
- B1・・・だと思う
- 43 名前:教室が密室4 答え 投稿日:2007/04/06(金) 22:49
- 「鍵のかかった教室に入るには、鍵が必要だった。
しかし、青の鍵は用務員室にあって生徒は使用できない」
「でも、赤の鍵は先生に預けてた」
「そう。確かに須藤さんは赤の鍵を先生に預けていた。
それを授業中に持ち出すことはできない。
そこで須藤さんは、もう一つの鍵を使うことにしたんだ」
「もう一つの鍵?」
「そう、もう一つの鍵とは……
A:赤の鍵だ。
B:青の鍵だ。
→B
青の鍵だ」
須藤さんは目を丸くして言った。
「でも、青の鍵は用務員室にあって生徒は使えない」
「そう、つまり正解は……
須藤さんは生徒じゃない
そういうことになる」
- 44 名前:教室が密室4 答え 投稿日:2007/04/06(金) 22:49
- 風が吹き抜けた。
須藤さんは、目が点。
「須藤さん、あなたはこの学校の用務員さんです。
用務員さんだから、青の鍵を自由に使うことができた。
そこで須藤さんは堂々と、鍵を使って教室に入ったんだ」
須藤さんが3年2組の生徒だなんて、一言も書いてない。
窓際の席であくびしてる後ろ姿を私が見てた、としか書いてない。(>>3)
これは、私が教室の窓から、用務員室に座ってる須藤さんの姿を見たって意味に読める。
「わたしが?用務員?」
「そう、でもあなたの心はそれを認めたくなかった。
自分は中学生だ、と無意識のうちに信じ込むようになってしまったんだ!」
私は須藤さんがかわいそうになった。
満足いく青春時代をすごせずに、今の自分に納得できない須藤さん。
私は、そんな須藤さんにそっと手を差し伸べた。
- 45 名前:教室が密室4 答え 投稿日:2007/04/06(金) 22:49
-
- 46 名前:教室が密室4 答え 投稿日:2007/04/06(金) 22:49
-
- 47 名前:教室が密室4 答え 投稿日:2007/04/06(金) 22:49
-
- 48 名前:教室が密室4 答え 投稿日:2007/04/06(金) 22:50
- 「冗談だよ」
「もう!」
ふざけてごめんなさい。
須藤さんは間違いなく3年2組の生徒です。
間違いなく、私のクラスメイトです。
「さ、気を取り直してタイムチャートを戻すよ」
真顔に戻って言った。
そう、須藤さんがそんなに簡単に鍵を手にできたなら
夏焼さんも徳永さんも、あんなに悩むことはなかった。
それに、犯人は3年2組の中にいると確認してあった。
用務員さんや先生が犯人では、あり得ない。
須藤さんは、青の鍵を持ち出すことができなかった。
それが推理の条件となる。
残った答えは……
私は指をくるくると回した。
須藤さんは首をかしげる。
「巻き戻しだよ。時間が戻ったと思って、さっきのセリフからいくよ」
今度こそ、私の推理を発表。
*
- 49 名前:教室が密室4 答え 投稿日:2007/04/06(金) 22:50
- 「鍵のかかった教室に入るには、鍵が必要だった。
しかし、青の鍵は用務員室にあって生徒は使用できない」
「でも、赤の鍵は先生に預けてた」
「そう。確かに須藤さんは赤の鍵を先生に預けていた。
それを授業中に持ち出すことはできない。
そこで須藤さんは、もう一つの鍵を使うことにしたんだ」
「もう一つの鍵?」
「そう、もう一つの鍵とは……
A:赤の鍵だ。
B:青の鍵だ。
→A
赤の鍵だ」
「赤の鍵が二つあったってこと?」
「そうなんだよ」
いつの間にか須藤さんは、推理小説に聞き役になっていた。
答えを知っているくせに……。
「しかしそんなことがありえるのか、京極堂?」
「ありえるのだ。というより、それしかなかったのだよ関君」
こんなノリのいいコだったとは。
私も思わず探偵口調になってしまった。
- 50 名前:教室が密室4 答え 投稿日:2007/04/06(金) 22:50
- 「正確には、鍵はもっとたくさんあった」
「え?」
「トリックに使うための鍵は、ある場所にたくさん用意されていたんだ」
「ある場所?」
「そう、須藤さんは複数の鍵を、いとも簡単に調達することができた。
だってそうでしょう?職員室には、全クラス分の鍵があったんだから。
須藤さんは時間割りをチェックして
今日、移動教室がなくて鍵を使う予定のないクラスを探した。
そして、その鍵を今朝、職員室から持ち出したんだ。
鍵に赤いテープを貼って、マジックで『3−2』と書く。
これで先生に預ける用の偽の鍵ができた。
須藤さんが先生に渡したのは
別のクラスの鍵だったんだ。
本物の鍵はポケットに入れたままね」
私は一息ついた。須藤さんが真剣な表情でこちらを見ている。
「体育の時間の前、須藤さんは、教室に鍵をかけて私と一緒に更衣室に行った。
そのとき、着替える途中でこっそりと鍵を偽物と入れ替えた。
本物はポケットに入れたままにしておいて
先生に偽物を預ければ、準備完了。
鍵は預けていることになっているから、
みんなは須藤さんに鍵を開けることはできない、と勘違いする」
- 51 名前:教室が密室4 答え 投稿日:2007/04/06(金) 22:50
- 「じゃあ、自分にはできなかったと示すために密室を?」
「そのとおり。ある人に容疑をかぶせるためにね」
「ある人って?」
「密室で誰も入れないとなれば
あと疑われるのはただ一人しかいない。みんなが疑うだろう。
私の自作自演だと。
それを狙って、須藤さんはわざわざ教室を密室にした、というわけ。
どう、当たってる?」
須藤さんは、言った。
「正解。久住さん、大正解です」
「やったー!」
私は跳びはねるような気持ちになり
須藤さんに握手を求めた。
須藤さんは戸惑いつつも、私に応え握手をしてくれた。
「よし、教室に戻るぞ!」
「おう!」
- 52 名前:教室が密室4 答え 投稿日:2007/04/06(金) 22:50
- 私たちは2人並んで、階段に歩き出した。
階段に差し掛かり、私から階段を下りる。
「あ、そうだ」
途中振り返り、須藤さんの方を見上げた。
「これからもよろしくね、茉麻ちゃん」
須藤さん……茉麻ちゃんは一瞬きょとんとした。
そして、顔を赤くすると、もと来た階段を駆け上がっていってしまった。
「あ、待てー」
私は叫びながら追いかける。
「どーしたのさ?」
「急に……茉麻ちゃんて呼ぶから」
「だって正解したらこう呼ぶって約束でしょ?」
階段のてっぺんで茉麻ちゃんは止まったまま、背中を向けたまま。
「ねぇ」
「……」
「ねぇってば」
- 53 名前:教室が密室4 答え 投稿日:2007/04/06(金) 22:50
- 茉麻ちゃん、ぎこちないからくり時計みたいに
ゆっくりと向きを変えた。
そして、ぎゅっと目を閉じて言った。
「小春ちゃん、ありがとー」
「……」
うっわー
「ごめん、確かに照れるね」
「でしょう?」
「……」
「……」
「ぷっ……あははははははははははははっ」
そして2人は
壊れたように笑いまくった。
笑い声は屋上から、空高く。春の青い、空高く。
それは私たちの休息。
乾いたクラスにいて、息詰まるような学園生活の
ほんのつかの間の休息だった。
- 54 名前:教室が密室4 答え 投稿日:2007/04/06(金) 22:50
-
−そして春たちは、事件の捜査に戻る−
- 55 名前:いこーる 投稿日:2007/04/06(金) 22:51
- 正解は「B1」でした。
どうもありがとうございました。
- 56 名前:いこーる 投稿日:2007/04/06(金) 22:56
- >>40
いこーる!!
……? ?
>>41,42
どうも、ご回答ありがとうございました。
おかげで思ったとおりの流れで書くことができました。
メル欄によらない推理クイズ。
レスを見るまで続きが決まらない、というのも
スリリングでかなり楽しく書けました。
またよろしくお願いします。
- 57 名前:いこーる 投稿日:2007/04/06(金) 22:57
- 流し
- 58 名前:いこーる 投稿日:2007/04/06(金) 22:58
- おーどん
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/10(火) 18:34
- 終わり?
- 60 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/10(火) 21:30
- 更新お疲れ様です
当たってて良かった…
回答しておいて外れてたらどうしようかと思ってました。
それも見てみたいような気がしなくもないですが(笑
- 61 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:10
- 私たちが教室に戻ると、みんな一斉に注目してきた。
「どこに行ってたの?」
徳永さんがとがめるように聞いてきた。
「ちょっと……ね」
私は何とも言うことができなかった。
茉麻ちゃんは、その大きな身体を私の背後に隠すようにしていた。
「ちょっとじゃないよ!」
徳永さんの向こうから、夏焼さんが私をにらみつけてくる。
「久住さん……あなたがなくしたお金
出てこなかったらどうするの?」
私が、なくした?
違う。
「だって、あれ誰かが盗んだ……」
「犯人が見つからない。
誰も密室に入れなかった。
鍵を持ってた須藤さんにはアリバイがあるしね」
「それで……私の自作自演だと?」
ああ、本当にこうなってしまった。
屋上で推理したまんまだ。
教室では私のいない間に
私を陥れる話が進んでいたに違いない。
- 62 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:11
- 「でも、カバンに入れるところは徳永さんも見てるし
授業の後は、私にも隠す暇はなかった」
「わかってる」
徳永さんが、フォローするように言う。
「だから久住さんが犯人とは、誰も言ってないよ。
ただ、犯人が見つからないんだから、これは久住さんの責任」
……徳永さん。そんなフォローいらなかった。
ていうか、最低。
「何?犯人捜しに行き詰まったから
今度は誰に責任取らせるか、て話でもしてたの?そんなの……」
「別にそうじゃないよ。だけど、久住さんがちゃんと届けてれば
お金はなくならなかったでしょう?」
「だって、徳永さんからもらうの、遅れちゃったから」
「千奈美ちゃんが悪いって言いたいの?」
橋本さんが突っかかってくる。
「そんなこと言ってない」
私は、後ずさっていた。
クラスの空気が、私を圧迫してくる。
だめだ……この雰囲気。耐えられない。
「わ、わかった。弁償する……」
「弁償って、いくらかわかってんの?
一人5600円の教材費が36人分」
「20万1600円……」
自慢の計算力が、このときばかりは恨めしかった。
- 63 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:11
- 「……私」
私は、頭をがくんと垂らし
蚊の泣くような声を震わせた。
「どうしたらいいですか?」
「知らないよ」
冷たく言い放った夏焼さんが、私にとどめを刺す。
「ただし、あんたの責任だからね」
「そう」
徳永さんが同意して、この一方的な裁判は終了した。
◇
放課後になっても、誰も私と口をきこうとはしなかった。
先生にも相談してみたが、先生の答えは「みんなでよく探してみて」。
でもみんなの中では私が悪者に決まっていた。協力するつもりはないらしい。
ひどい……。
夏焼組と徳永組、両グループにとってお互いを疑いあう状況は好ましくないとの判断が
私がいない間に為されたらしかった。
これ以上、犯人捜しをしてもお互いに益なし。
結局、
私が集団無視を受ける形で事件は収束した。
そうすれば、クラスみんなのもやもやは解消されるみたいだった。
もともと夏焼組にも徳永組にも属していない私。
生け贄として捧げるのにちょうどいい人材だった。
- 64 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:11
- 「はぁ……」
教室から誰もいなくなっても、私は一人でいた。
みんなよりも先に帰ることはできなかった。
私一人の責任で、教材費を探さなくてはならない。
と言っても、誰かが盗んでいったのだから探したところで
出てくるはずがなかったのだが
私がお金を探しもせずに帰るなどと言うことは
許されることではなかった。
「はぁぁ……」
どうしよう。
まだ4月なのに、無視されるようになっちゃった。
別にあんな奴らと仲良くするつもりはないけれど
でもあと1年は、クラスメイトをしないといけない。
これは義務だ。逃れることなどできない。
きっと私は卒業するまでの間に
「友達いないキャラ」に仕立て上げられ
いつの間にか自分でも意識しないうちに暗くなって
本当に根暗人間になってしまうに違いない。
私たちには、個性を選ぶ権利などない。
個性とは、クラスから押しつけられる役割に過ぎないのだから。
「ちっくしょー。中学生のくせに、20万も盗みやがって……」
犯人に対する怒りが、ふつふつと沸き立つ。
そうだよ。だいたい盗むやつがいなければ
私はこんな目に遭わずにすんだのだ。
- 65 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:11
- 「ただじゃおかないからな!」
私は立ち上がった。
きっと犯人をつかまえてお金を取り返してやる。
そして私は、犯人について考えた。
教室は密室だったはずなのに、お金はなくなっていた。
その余裕があったのは練習の途中で校舎に立ち入った人物。
秋山さん、橋本さん。
それから校舎内で待機していた、徳永さん。
この3人が容疑者だ。
「秋山さんがいたから……私が生け贄になったんだ」
容疑者のうち秋山さんは、夏焼組のメンバー。
橋本さんは徳永組。
両方のグループに容疑者がいたために、犯人捜しが難航した。
もし、秋山さんが容疑者の中にいなかった場合は……
きっと夏焼組が徳永組を悪し様に罵って
クラスはいっそう険悪になっていたにちがいない。
しかしそうはならなかった。
両方に怪しい人がいて
どっちか一方のせいにはできないという微妙な状況が生まれた。
だからクラスは、どちらでもないスケープゴートを必要としたのだ。
そう思うと、私が無視される、ということがクラスの平和に貢献しているように思われ
悔しくて泣けてきた。
- 66 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:11
- だとすれば、取るべき道は……
A:秋山さんの無実を証明して、徳永組が悪いということにしてしまう。
B:真犯人を指摘して、盗んだお金を返してもらう。
→B
真犯人を指摘して、盗んだお金を返してもらうことだ。
これがクラスの均衡を乱さずに解決させる方法だ。
よし、まず、本当に3人しか容疑者がいないのか……
昇降口を使わずに校舎に立ち入ることはできない。
もちろん、一階のどっかの窓から進入することは物理的に可能だが
授業中のため、どの部屋にも誰かの目があったはずだ。
移動教室で教室を空にする際は、窓に鍵をかける。
物騒な時代なので、これは徹底されているはずだ。特に一階の教室は。
ガラスを割れば入れるけれど、あの時間、学校のガラスは一枚も割れていない。
まさか窓が開いてました、なんてオチではないだろう。
というかそんな偶然を期待して無計画に校舎の外側をうろうろするような
間抜けな泥棒はいない。
「……廊下の窓」
いや、たしかに廊下にも窓はあるが
一階の廊下は換気用に小さく開くだけだ。
一階の窓から不審者が入れないセキュリティになっていると聞いたことがある。
- 67 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:11
- 「……非常階段」
非常階段は格子状の手すりがあるだけで校庭から丸見え。
クラスのコが非常階段を使っていたら、絶対誰かが気づいていた。
昇降口以外の進入口は、どれも使用不可能。
OK。容疑者はやっぱり、昇降口を使えた3人しかいない。
私はアリバイについて考えた。
徳永さんが昇降口にいる間、校舎に立ち入った2人の行動を再確認する。
秋山さんには5分の猶予しか与えられていない。
それから徳永さんは、心理的に行動を制限され、やはり5分しか余裕がない。
橋本さんには10分の余裕がある。
しかし、あのとき徳永さんは5分で往復は難しいと言ったが本当だろうか。
もしかしたら、職員室に立ち寄っても5分で戻ってくることができたのではないか。
「……やってみよう」
私は立ち上がると、昇降口に向けて歩き出そうとして……
「やめた」
あまり意味がないことに気づいてやめた。
徳永さんは自分のアリバイを主張するためにああ言ったが
正確に時間を計っていたわけではない。
主観的に5分くらい、と言ったにすぎないのだ。
- 68 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:11
- ひょっとすると実際に秋山さんが戻ったのは
3分後だったかもしれないし8分後だったかもしれない。
秋山さんが早く授業に戻っていた場合、徳永さんには時間的余裕ができ
秋山さんが遅く戻っていた場合、秋山さん自身に時間的余裕ができる。
「あー、頭こんがらがってきた!!」
アリバイから犯人を絞ることは難しいように思えてきた。
「やっぱ……密室かぁ」
犯人が教室にどうやって入ったかを考えないことには、
推理が進みそうにない。
しかし、赤の鍵は確かに先生に預けてあったのだ。
3人にそれを取ることはできない。
さっき屋上で考えたトリックを使って
預けた鍵をごまかすことができたのは茉麻ちゃんだけだ。
しかし茉麻ちゃんは校舎に立ち入っていない。
そのとき私は、あまりに単純な答えを思いついた。
「合鍵」
犯人は合鍵を作って持っていたのではないか。
近くの合鍵屋さんまで、どのくらいかかるかわからないが
もし放課後に赤の鍵を持ち出すことができれば、
合鍵を作ってその日のうちに鍵を戻すことも可能だ。
さっき屋上で須藤さんとクイズをしたときは
クイズということで、合鍵なし、という条件をたてた。
しかし、実際の犯人が合鍵を使った可能性はあるかもしれないじゃないか。
- 69 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:12
- 放課後、職員室の鍵がどうやって管理されているか確認しないといけない。
私は、カバンを持って教室を飛び出していた。
◇
職員室に着くと同時に私は思わず「あっ」と声をあげた。
茉麻ちゃんが先生の前で手をすりあわせてもじもじしていたのだ。
「だから須藤!言ってくれなきゃわかんないよ。何か質問?」
担任の藤本先生は、困った顔をして頭を掻いていた。
「あ……教室の鍵……」
「ああ、そこまでは聞いた。教室の鍵が何?」
「藤本先生」
「久住!ちょっと須藤の通訳してくれない?」
「茉麻ちゃん!
ちょっと先生、すみません……」
私は茉麻ちゃんを引っ張って、いったん職員室から出た。
「何やってんの?」
「だって、……」
もどかしい……
「だって何?」
「…このままじゃ小春ちゃん犯人にされちゃう」
「え?私?」
「うん」
- 70 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:12
- ああ、このコはこのコで、犯人を見つけるつもりなのか。
「茉麻ちゃん……」
私は、茉麻ちゃんの肩を持って
言った。
「いいよ。そんなことしなくて」
「え?」
茉麻ちゃんは意外そうな顔をした。
「だって、私のために行動してたら
茉麻ちゃんまで無視されちゃうよ」
「いいよ。どうせ話なんてしないし……」
「だけど、私のせいで茉麻ちゃんまでいじめられるようになったら
私が困る。私のためなんて考えないでいい」
「私は……」
茉麻ちゃんは、息をのむようにごくん、とやってから言った。
「誰かのために何かしたりしない」
「え?」
「人には、関わらない。ずっとそうやってきた。今も……。
お金がなくなったって、知らないって思ってたし
誰かが疑われたって、知らないって思ってた」
ぽつぽつと、小さな声で語る茉麻ちゃん。
その雰囲気に飲まれて、私のまわりの空気も
力をなくして、温度をなくしていく。
- 71 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:12
- 「茉麻ちゃん。どうして?」
「人と関わって行くの、つらいから。
小さくまとまっていればいい。
小さくまとまって、敵を作らないで
空いた時間に推理小説を読めれば、私はそれでいい」
「だけどそれじゃ……つまんないよ」
「人に罪をなすりつけるような人たちの方が、つまらない」
茉麻ちゃんはそう言うと、急に表情を変えて「ごめん」と言った。
「私、何を語っちゃってるんだろう。ごめんなんでもない」
「ううん」
「ただ、小春ちゃんは他の人たちとは違った。
押しつけがましくなかった。
一緒に推理しよう、て言ってくれた」
「……茉麻ちゃん」
「だから、最後まで推理しようって、
ちゃんと真犯人をつきとめようって、そう思った。
別に小春ちゃんのためじゃないよ。
ただ、ゲームは最後までやりたいから」
茉麻ちゃんの言葉を聞いているうちに
なんだか泣いてしまった。
「ありがとう」
「だから、別に小春ちゃんのためじゃないってば」
「そうだったね」
でもさっきは「このままじゃ小春ちゃん犯人にされちゃう」て言ってたじゃんか。
だから、心の中で
ありがとう茉麻ちゃん。
- 72 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:12
- 私は涙を拭いて無理に笑顔をつくると
茉麻ちゃんに言った。
「茉麻ちゃん。ゲームには相手が必要だよ。
私と一緒に、推理ごっこしよう」
「……うん」
私は、茉麻ちゃんの手を取って、職員室に戻った。
「お、戻ってきた」
藤本先生が言った。
「ひょっとして、教材費の話?」
「そうです」
「先生……鍵ってどうなってますか?」
「はぁ?」
「えと、茉麻ちゃんが言いたいのは、教室の鍵はどうやって管理してますかってこと」
「管理?」
「そう、特に放課後なんですけど」
「ああ、しまっちゃう。ほれ、おいで」
私たちは藤本先生について鍵のところまで行った。
「あ、鍵かけがなくなってる」
「そう、授業中に置いてある鍵かけは一枚の板に釘を打ってあるだけなんだ。
放課後になると、全部そのまま奥のロッカーにしまっちゃうの。
翌朝8時20分の職員会議まで、このままだ」
「なんで……」
「4時半過ぎると教員も生徒も数が減るからねぇ。泥棒が入るかもしれない。
それに、教室に鍵かけるのって、移動教室のときだけだからね」
「はぁ……」
- 73 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:12
- それにしても、生徒がいる間は鍵を取り放題なのに
生徒が帰るときになって急に泥棒を警戒するとは……
学校というところは、内部に対して用心が足りない。
「放課後は荷物も置いてないし、鍵かけてないクラスばかりだから」
「うちのクラス昨日から放課後も鍵かけてますよ。
先生知らなかったんですか?」
「し、知らなかった。どうしてそんなことしてるの?」
「教科書を隠したり、そういうことする人がいるからって
夏焼さんが放課後も鍵をかけようって言い出して」
夏焼さんは「徳永組の嫌がらせに決まってる」と言っていた。
「いつ?」
「いつだっけ、茉麻ちゃん」
「おととい」
「そうです。思い出した。おとといそういう話があって、
そのときは別にそこまでしなくていいんじゃないかってことで終わったんですけど。
昨日になってやっぱり鍵をかけようと、夏焼さんが言い出して徳永さんが同意した。
それで結局、放課後もかけるようになったんです」
「4時30分以降に教室使いたい人がいたらどうすんのかね?」
藤本先生がそう聞いてきた。
「いや、4時30分に鍵をしまう、ってこと自体、私たち初耳でしたよ。
それに3時30分にホームルームが終わってすぐ教室は空になっちゃうから
そんな遅くに教室を使う人なんていなかったんだと思います」
「そっか……、じゃあ3時30分すぐに鍵を閉めちゃうわけね」
「そうです。昨日は3時36分に閉めました」
「あ、須藤が閉めてるんだ」
「係りだから」
- 74 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:12
- 「今日は?」
「今日は小春ちゃんがいたからまだ……あ!まだ閉めてない」
「いいんじゃない?別にちょっとくらい」
「でも……」
「もう鍵は先生がしまっちゃったんでしょ?いいよ別に」
20万円が盗まれたのだ。
教科書を隠した隠されたなどと、つまらないグループ抗争なんて
この際どうでもいい。
「それにしても教科書隠すなんて幼稚だな」
「先生もそう思いますよね?」
「うーん。外じゃ恐喝事件に巻き込まれた生徒までいるってのに」
「そんなことあったんですか?」
「ホームルームで話したじゃん。聞いてなかった?」
「うちのクラスの人?」
「ああ」
「誰ですか?」
「それは……うん。言わない方がいいな」
恐喝事件。それは恐ろしい。
「とにかく」
茉麻ちゃんが質問を再開する。
「放課後に……持って行けないですね」
- 75 名前:教室が密室5 投稿日:2007/04/12(木) 21:13
- 「?」
「か、鍵を持ち出せないですね、ってことです先生」
「ああ、4時30分以降は無理だな。
その時点で鍵がなくなっていたら大騒ぎだ」
◇
私たちは職員室を出た。
「合鍵……作れなかったんだね」
「でも小春ちゃん、4時30分より前なら作れるよ」
「そうだけど……でも時間が足りなくない?
3時30分に学校が終わって、その後1時間しか……
1時間あれば行って来られる……かな。微妙だな」
「行こう!」
「待って、どこに?」
私が呼び止める。
「一階の公衆電話に電話帳があった。
あそこで鍵屋さんを調べよう。
この近くにあったら合鍵を作れた。
この近くになかったら……」
茉麻ちゃんが振り返って言った。
「密室はまだ、解かれない」
- 76 名前:いこーる 投稿日:2007/04/12(木) 21:13
- 本日の更新は以上になります。
- 77 名前:いこーる 投稿日:2007/04/12(木) 21:14
- >>59
つづきますです。
>>60
いや、なんかいろいろ、ありがとうございます。
外れていたら……それは作者の恐れる展開でして;汗
- 78 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:55
- 電話帳で調べて見た結果、合鍵屋さんはどれも遠く
いかなる手段をもってしても
3時30分に学校を出て4時30分までに合鍵を作って戻ってくるのは
不可能ということだった。
「だめか。合鍵作れないや……」
「そうだね」
4時30分時点で職員室に鍵が戻っていなければ
職員室で騒動になってしまう。
「茉麻ちゃん、やっぱり合鍵の線は薄いよ」
「んーー」
「第一、茉麻ちゃんが鍵を先生に預けるっていうこと自体
犯人にとっては想定外だったはずじゃん。
事前に合鍵なんて用意するわけないよ」
「……」
茉麻ちゃんは、納得いかない様子だった。
「でも、合鍵あったら便利だと思わない?」
そんなことを言う。
「何で?」
「たとえば、教科書隠しの犯人なら……」
「でも、教科書隠すためにわざわざ合鍵作る?」
- 79 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:56
- 合鍵を作るには、往復1時間以上の道のりを移動しなくてはならない。
「うーん……」
「どっちにしても4時30分までに合鍵は作れないんだし……」
そう、犯人が使ったのは合鍵ではないのだ。
その後、長い沈黙が訪れた。
公衆電話の前で2人して考え込んでいた。
言葉が減ったのは、
脳が働いている代償。
……
鍵を使わずに教室に入る方法は……本当にないのだろうか。
「……」
扉の鍵は構造上、ワイヤーなんかで細工することはできない。
それなら……
……
『わかったかも』
2人同時に、そう言っていた。
- 80 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:56
- 「え?茉麻ちゃんもわかった?」
「いや……確かめてみないとわかんない」
「私も……教室に行かないと」
「教室?ううん、違う」
「違うの?茉麻ちゃんどこに行くの?」
「職員室」
「……」
どうやら、2人は別々の推理を組み立てていたようだった。
「ふふっ」
茉麻ちゃんが笑った。
「推理合戦か。おもしろくなってきたね」
「うん」
「よーし、小春ちゃん、調べるのにどのくらいかかる?」
「わかんない……」
「じゃあ、こっちの確認が終わったら教室に行くよ。
そこで、お互いの推理を披露する。それでいい?」
「OK!!」
私たち2人は、それぞれの推理を確認するべく、2手にわかれて調査することになった。
その時2人は、教室じゃ絶対に見せない生き生きとした表情をしていた。
不謹慎と批判を受けるかも知れないけれど
そうやって私たちは、精神が追いやられるのをどうにか回避していたのかもしれない。
推理ゲームが私たちの心をいやしてくれていた。
- 81 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:56
- ◇
準備に意外と手間取ってしまった。
「ふぃ〜〜」
作業を終えると私の額には汗びっしょり。
疲れたので扉の前に寄りかかっていると、茉麻ちゃんがやってきた。
「お、茉麻ちゃんどうだった?」
「こっちはOK!」
「本当に?」
「うん。密室の謎が解けたかも。小春ちゃんは」
「こっちもOK!」
私はぴょこんと一つ跳ねて
扉に手をかざした。
「じゃーん!これが密室トリックです!」
「……どれ?」
「茉麻ちゃん!扉をよく見て。
この状態なら外から自由に鍵を開けることができる」
「あっ!」
茉麻ちゃんは一歩前に出ると、つまみを引っ張って鍵を開けた。
- 82 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:56
- 「ね、これならOKでしょう?
教室の扉は、外は鍵を使わないとロックできない。
でも、教室の中からは鍵を使わずにロックすることができる。
犯人はそこを利用したんだ。
扉は裏返しだったんだよ。
こうすれば鍵なんか使わずに自由に出入りできる」
私は得意になって言った。
茉麻ちゃんは
「なんでわざわざ裏返しにするの?
扉をはずして、そのまま入ればいい」
と指摘してきた。
「え?え?あ……そうか」
「ちょっと小春ちゃん!」
私の推理、間違ってた?
「ううん。間違ってなんかないよ。
さっきやってみたけれど、鍵がかかった状態では扉ははずせない」
「そうなの?」
「うん。なんか引っかかっちゃうんだよ。
裏返すには、扉の両端を持ち上げないといけないんだけど
閉まっていると、手を入れることもできないでしょう?
鍵が開いてないと扉ははずれなかった」
- 83 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:56
- 茉麻ちゃんは
「はぁぁ……」
頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「え?何?何かまずかった?」
「鍵が開いてないとダメなんでしょう?
それじゃ授業中に扉は裏返せない」
「そうだよ。だから事前に裏返したんだよ」
「いつ?」
「さぁ……昨日にでも」
「昨日の放課後から、教室には鍵がかかっていた。
鍵がかかってたら扉は裏返せない」
「じゃ、おとといより前だ」
「そんな前から扉が裏返しになってたら絶対ばれるって」
「ばれなかったんだよ」
「はぁぁ……」
茉麻ちゃん、しゃがんだまま指で床をいじくりだした。
いじけた子どもみたい。
「体育の前に鍵をかけたのは私だよ。小春ちゃんも見たでしょう?
あのとき扉はいつも通りだった。
後ろ扉は小春ちゃん自身が閉めたでしょう?」
「あ……」
「体育の時間、扉は正しい向きにあった」
どうやら私の推理は、完全に見当外れだったようだ。
- 84 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:57
- 「もっとましなこと考えてるかと思ったよ。
例えば扉についてるのぞき窓を取り外すとか……」
「……」
ん?
「茉麻ちゃん、今なんて?」
「のぞき窓を取り外す……」
2人は飛び上がった。
扉に張り付いてのぞき窓を見つめる。
「あ、茉麻ちゃん、ネジだ!このネジを外せば窓は取り外せるんじゃない?」
「でも、人間が入れる大きさかな?」
「ううん、違う。
のぞき窓を外して、そこから手を入れて鍵を開けるんだ!」
新たな推理が浮かんできたので私は興奮した。
しかし、茉麻ちゃんは首をかしげると
「ダメだ」
そう言った。
「どうして?」
「このネジ、内側にしかついてない」
- 85 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:57
- 茉麻ちゃんは教室の中に入って、窓を指し示す。
「こっち側には、ネジがない。
今は小春ちゃんが裏返してる。本来、ネジのない方が廊下側だから
外からネジを外すことはできないよ」
「いや……」
私は、言った。
「できる」
「え?どうやって」
A:あらかじめネジをゆるめておいたんだ!
B:あらかじめ扉を裏返しておいたんだ!
→A
「あらかじめネジをゆるめておいたんだ!
下のネジは完全に外しておいて、横と上のネジはゆるめておく。
振動で外れるくらいにね。
その状態なら窓はついているから、人にも気づかれない」
「で?」
「犯人は、扉の前までくると、扉をガンガンたたいてゆるんでいたネジを落とす。
そうすれば窓枠が外れる。そこから手を伸ばして鍵を開けて教室に入ったんだ!」
「……」
茉麻ちゃんは何かを考えていたようだったが「ダメだ」と言った。
- 86 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:57
- 「なんでダメなの?」
「帰りに窓を元に戻せない。教室の中にいないとネジは締められないんだから」
「中から戻して、扉から出たんだよ。
帰りは鍵を開けたままでいいじゃん。もうお金は盗んだんだし」
「でも、授業の後、私が鍵を開けたときは、鍵かかってたよ」
「……」
ということは、この方法でも密室は解けないのか。
茉麻ちゃんは人差し指を立て、クスリと笑ってから偉そうに言った。
「謎は、犯人がいかにして密室を突破したか、だけじゃないわ。
その後いかにして密室を再構成したか。これも考慮しなければならないのよ黎人」
「たしかにそうだな蘭子」
出た!茉麻ちゃんの探偵ごっこ。
「じゃ、じゃあ
→B
扉が裏返しになっていれば……」
「はぁぁ……」
茉麻ちゃんため息。
私、バカなことを言ってしまった。
扉が裏返されなかったことは、さっき確認したばかりじゃないか。
- 87 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:57
- 「もう、さっさと扉を元の向きに戻そう」
「う、うん」
私は両手で扉を抱えて持ち上げる……
「んーー、重い……」
「小春ちゃん、わざわざこんなことを…」
「ちょっと茉麻ちゃん、手伝ってよ!」
「小春ちゃんどいて」
茉麻ちゃんは扉を両手で抱え、ひょいと持ち上げて向きを変えてしまった。
もう一枚の扉もひょいと持ち上げる。
「うっわー茉麻ちゃん力強い」
「ふー。この扉重いね。両手が痛い……」
「茉麻ちゃん……」
「何?」
「かっこいい」
「……」
茉麻ちゃん苦笑い。
「てことで小春ちゃんの推理は間違いでした」
茉麻ちゃん、うれしそう。
悔しい……
「さ、次は私の推理だね。職員室に行くよ」
◇
- 88 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:57
- 職員室で茉麻ちゃんは、出席簿を取って開いた。
「私が考えたのは、合鍵を作る方法」
「合鍵?でも合鍵を作る時間はなかった」
「そう、3時30分まで学校があって
それ以降では間に合わない。だから……
授業を休んだコがいないか
それを調べてたんだ。
授業がある時間帯は、生徒が鍵を取り放題だから
犯人が授業に出てなければ、合鍵をつくる時間がある」
私はほぉ、とため息をついてしまった。
「ほら見て」
茉麻ちゃんは出席簿を開いた。
「2日前に秋山さんが欠席してた」
「そ、そういえばそうだった」
4月になってから、欠席は秋山さん1人。
「それから欠席は秋山さん一人だけど、遅刻ならもう一人いる」
「誰?」
「骨折の治療で病院に行ってた徳永さん。
徳永さんは3日前にけがをして学校を早退。
翌日は病院に行って、2時間目から授業に来た。
そして今日も経過観察ということで2時間目から授業に来た」
- 89 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:57
- 「でも、合鍵を作るには1時間じゃ足りないから……」
「やっぱり秋山さんしかいない」
容疑者の中に合鍵を作れる人がいた。
なんてことだろう。
「まって茉麻ちゃん。おとといって移動教室があったよ」
「そう、2時間目が体育。
それから3・4時間目の美術と、5時間目の理科」
美術は3・4時間目ぶっ通し。
理科では実験室を使った。
そのときには教室に鍵をかけておくから
少なくとも2時間目の前後。
3時間目の始まりと、4時間目の終わり。
それと5時間目の前後には、教室の鍵は職員室にないといけない。
「じゃあ、1時間目か6時間目……あるいは美術の時間は2時間あるから……」
茉麻ちゃんは首を振って言った。
「おとといは、3時間目と4時間目の間にも鍵を使った」
「そうなの?」
「道具を取りに、教室に戻るコがいたから」
なんかすごいな。
鍵を使うことが多すぎる。
おとといは鍵感謝デーかなんかだったんじゃないか?
2、3、4、5時間目。それぞれの前後には鍵を使っている。
- 90 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:57
- つまり、鍵を持ち出せたのは
1時間目か6時間目しかない。
でも1時間じゃ合鍵を作って戻ってくることはできない。
一応、この学校のタイムテーブルを確認しておこう。
8:20〜 8:30 職員会議
8:40〜 8:50 朝のホームルーム
8:55〜 9:45 1時間目
9:55〜10:45 2時間目(グランド)
10:55〜11:45 3時間目(美術室)
11:55〜12:45 4時間目(美術室)
12:45〜13:30 お昼の休憩時間
13:30〜14:20 5時間目(実験室)
14:30〜15:20 6時間目
15:20〜15:30 帰りのホームルーム
16:30〜 赤の鍵はロッカーに格納される
「秋山さんは6時間目に鍵を持ち出したんだ。
6時間目の開始は14時30分。
おとといはまだ、放課後に教室の鍵をかけてなかったから
16時30分までに職員室に鍵を戻すことができれば、誰にも怪しまれない」
「2時間の余裕がある」
「そう、秋山さんには、合鍵をつくることができた」
「待った」
私は手を挙げた。
「徳永さんにもつくることはできたんじゃない?」
- 91 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:58
- 「でも、徳永さんは骨折して」
「それが偽装だとしたら?」
「なんだって?」
茉麻ちゃんは目玉をでっかくして叫ぶ。
「骨折が偽装?」
「だって骨折したかどうかを知ってるのは、徳永さんだけでしょう?
ギプスをして腕を吊っていれば誰も疑わない。
先生だって本人が骨折だと言っているのに
わざわざ病院には電話をかけないし」
「家には電話するかもよ。具合はどうですか?って」
「あの、面倒くさがりの藤本先生が?」
「……ん。たしかに、電話なんてしそうにない」
茉麻ちゃんは、そこで黙った。
私は自分の推理を展開する。
「この場合徳永さんには2度チャンスができることになる。
1回目は、骨折して病院に行くため早退したとき」
徳永さんが骨折したのは月曜日の3時間目。
午前中に病院に行ったのだから、時間的には充分余裕がある。
「あのとき、体育の先生が病院まで送ったんじゃなかった?」
「そのときに鍵を隠し持っていた。
病院の診察が終わったら『家に帰る』と言って先生と別れる。
あとは病院近くの鍵屋に直行し合鍵を作って戻ってくる。
16時30分には楽勝で間に合う」
- 92 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:58
- 「待って小春ちゃん。それは違う。
体育の時間中には2組に鍵がかかる。
徳永さんが持ち出したら、私たち授業後に入れないじゃん」
そのとおりだ。
徳永さんが鍵を持っていってしまったら
教室を開けるときに鍵が見当たらずに騒ぎになっていたはずだ。
もちろん、そんな騒動は起きていない。
「じゃあ翌日の朝の時間は?
徳永さん2時間目から学校に来たでしょう?
職員会議の後は鍵を持ち出せるから
8:30に速攻で鍵を持ち出してしまえば
ぎりぎり9:55分までに戻せるんじゃない?」
もしそうだとしたら、徳永さんにも鍵は作れた。
あるいは、今日合鍵を作って来たということも考えられる。
今日も徳永さんは遅れて1時間目が終了してから登校してきた。
3日前、2日前、そして今日。徳永さんは3度、病院に行っている。
……。
何か引っかかった。
骨折の経過観察で、そんな頻繁に通院が必要だろうか?
多すぎないだろうか?
「やっぱり怪しい。なんか裏がありそうな……」
「何が?」
- 93 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:58
- 私は、今の疑問を茉麻ちゃんに話した。
通院の回数が多すぎやしないかと。
茉麻ちゃんは考え出す。
「でも、体育の授業中の骨折だと、保険が下りる」
「え?」
「お金が下りるんだよ」
「へえ、知らなかった。……でも、それがどうしたの?」
いくらお金を出してくれるとしても
そんな頻繁に通院する必要はないんじゃないか?
と思ったら、茉麻ちゃんが
ものすごい知識でもってその疑問に答えてくれた。
「日本スポーツ振興センターの保険なんだけどね、その規定によると
学校の管理下での負傷に対する給付金額は
医療保険並の療養に要する費用の額の4割、とある」
「よ、よく知ってるね……」
「入学するときに資料を配られた」
それを3年の今になるまで覚えていたというのか!?
驚異的な記憶力だ。ていうか普通そこまで読まないだろう。
私は一瞬、茉麻ちゃんが恐ろしくなった。
このコの脳みそ、一体どうなっているのだろう?
- 94 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:59
- 「話を戻すけど、医療費の4割給付ってところがポイント。
現在日本では、私たちが負担する医療費は3割。
つまりこの給付額は
病院で支払う金額よりも多いんだ。
薬にかかるお金とか、療養にかかるお金まで負担してくれるの。
だから病院にいっぱい行けば、その分お金がもらえるんだよ。
『痛み出した』と言えば、とりあえず診察はしてもらえるからね」
本当らしいです。学校で怪我したら必ず先生に言いましょう。
「これで、徳永さんが毎日のように通院してる理由が説明できたね
ん?……あれ?……てことはぁ……」
「どうしたの?」
「ああ、やっぱり偽装はなし。徳永さんに骨折偽装はできない。
保険が下りる以上、審査があるんだから」
……え?
「授業中の怪我は、必ず診断書を提出しなくてはいけないんだ。
だから骨折の振りをしたっていうのは無理な話なんだ」
「じゃ診断書も偽装だ」
「無理だよ!」
「無理じゃないかもしれないよ。それっぽく書けば……」
「だけど……、怪しまれたら困るじゃん」
「普通診断書が偽物だなんて思わないから
そんなしっかりとは見ないんじゃない?」
- 95 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:59
- 「先生が見なくても、保険の審査でバレちゃうよ。犯罪になっちゃうんだよ!
もし小春ちゃんの言うとおりだとしたら
徳永さんは合鍵作りに授業をサボる口実として
診断書を偽装したことになるでしょう?」
「そうだね」
それ以外に、骨折を偽装する理由が思いつかない。
「そんなにまでして、合鍵をつくるの?」
「だって20万円だよ。大金だよ」
「……偽装はないと思う」
「なんで?」
「犯人が合鍵を作ったのは20万のためじゃない」
「なんで?」
「小春ちゃん、ちょっとは自分で考えてよ!」
怒られてしまった。
「小春ちゃんが言ったんだよ。
私が鍵を先生に預けるっていうこと自体
犯人にとっては想定外だった」
「そうだけど……」
それなら、茉麻ちゃんの合鍵説そのものが
意味をなさないではないか。
「だから、20万を盗むために合鍵を作ったんじゃないんだよ。
もっとちょっとした理由……例えば、放課後こっそり教室に入りたいとか」
- 96 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:59
- 「なんのため?まさか教科書隠しのイタズラ?」
「うん。そうだと思う」
「くだらない。そんなことのためにわざわざ……」
「そう。いくら夏焼組と徳永組の抗争だと言ってもくだらない。
だけど、それがこの3年2組の行動を決定しているというのも事実。
現に小春ちゃんは、それで無視を受けている」
茉麻ちゃんは淡々と、そういった。
私は言い返せなかった。
教科書隠し自体は、つまらないイタズラでも
それがグループ間の力関係に影響するとなると……
3年2組全体の意志決定にも影響を与え
巡り巡って私たちの学園生活を大きく左右する。
抗争に中立でいた私でさえ、そのあおりをくらったのだ。
「だから、教科書を隠すという目的のために合鍵を作るコがいても
おかしくはないと思う」
私はうなづいた。
確かに、グループ抗争のために合鍵をつくる人はいたかもしれない。
- 97 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:59
- 「ただ、それは合鍵を作るだけの場合ね。
小春ちゃんの徳永さん犯人説は
秋山さんが合鍵を作るだけのときとは、労力があまりに違う。
合鍵のためにわざわざ骨折を偽装して3日前から腕を吊り
診断書まで偽装する。手が込みすぎだ。
家に電話されるリスク、診断書が疑われるリスクだって高い。
教科書隠しのためのカムフラージュとしては、釣り合わないよ。
そんなことはありえない。
しかも事故が起きたのは体育の時間だしね。
事故の状況はみんなが見てた。あれがわざととは思えない。
仮に偶然、けがをしたのを利用して
大げさに骨折したことにした、としても……やっぱり手がかかりすぎてる。
教科書を隠すという目的に対して、コストが重すぎるんじゃない?」
「なるほど……」
「それにね、今徳永さん、お母さんに送り迎えしてもらってるんだよ。
さすがに親まではだませないでしょう?」
「送り迎え?」
「うん。徳永さん自転車通学だったんだよ。
いっつも橋本さんと一緒に帰ってたの見てる。
骨折してると自転車は運転できないから送り迎えしてもらってるの。
お母さんは骨折だと知ってる。嘘はつけないよ」
「うーんそっか。お母さんにまで骨折を偽装はできないよね」
そうなるとやはり、骨折は嘘ではない、と考えるしかなさそうだ。
ていうか茉麻ちゃん、饒舌……。普段の彼女からは想像もできない姿だった。
「10時前に合鍵屋さんは開いてないしね。
1時間目に鍵を持ち出せても、意味がない」
ガクッ。
とどめを刺されてしまった。
- 98 名前:教室が密室6 投稿日:2007/04/19(木) 22:59
- 「そっか。じゃあやっぱり犯人は6時間目を自由に使えた……」
「秋山さんが怪しい」
「よし、問い詰めてみよう!」
「ええ?」
茉麻ちゃんが、顔をしかめた。
「やだ、そういうのしたくない」
問い詰めるとなると、嫌なようだ。
人と話すの苦手なのは知ってたけど、
これじゃ探偵失格ではないか?
さっきはあんなに生き生きとしゃべっていたのに
私以外のコとは、まるで会話もできないなんて……
「そんなこと言ってる場合じゃないよ!お金を取り返さなきゃ」
「もし違ってたら、最悪」
「じゃあ……」
私は、茉麻ちゃんを説き伏せるように言った。
「証拠を集めることにしよう。
お休みのはずの秋山さんが学校に来ていたんだから
誰かが見てるかもしれない。目撃者の探そう」
- 99 名前:いこーる 投稿日:2007/04/19(木) 23:00
- 本日の更新はここまでとなります。
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/20(金) 03:11
- 小春とまーさん!ナイスタッグ!!
- 101 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:35
- 「あ、岡田さんだ」
昇降口の前に座って絵を描いている岡田さんを見つけた。
「岡田さん、美術部だったんだ……」
「何か見てるかもしれない。小春ちゃん……」
「えー、私が聞くの?茉麻ちゃんの推理じゃんよ」
「やだ。小春ちゃん聞いてきて……」
この探偵は聞き込みもできないのか……。
探偵ごっこは好きなくせに……、
「うにー、そういうのは僕様ちゃんの仕事じゃないのだよ、いーちゃん」
「まあ僕に任せておけって、玖渚」
まったく、戯言だよなあ。
私は
「岡田さん」
岡田さんに声をかけた。
岡田さんは顔を上げると、顔をしかめて
「……」
すぐ絵に戻った。
やっぱり無視か。
- 102 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:35
- 「今、夏焼さんいないから、私と話してても平気だよ」
「……」
「絵、ここでずっと描いてるの?」
「……」
岡田さんは頑固に顔を上げようとしない。
しかし、さっきから筆が止まっている。
きっと話には関心があるのだろう。
だけど私を無視することになっているから
声をかけるわけにいかないのだ。
「いつから描いてるの?」
「……」
岡田さんは、一瞬だけ顔を上げると
指で「3」を作って、すぐまた下を向いた。
「3日前か。じゃあ、おとといもずっといた?」
「……あのさ」
「ん?」
「何が聞きたいの?」
そう言ってきたので、
私は一気に核心に踏み込むことにした。
「おととい、ここを秋山さんが通ったかどうかを教えて」
岡田さんはすぐに首を振った。
- 103 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:36
- 「あっきゃんは、おとといお休みだった」
「あれ?そうだったっけ?」
私は、知らない振りをした。
こちらのねらいを見せてしまうと、
岡田さんは秋山さんをかばうかもしれないと思ったからだ。
しかし、岡田さんに嘘をついている様子はなかった。
「じゃあ、通ってない?」
「だから休みだったんだってば」
「でも岡田さんが絵に夢中だったら、気づかないかも知れないね」
「あっきゃんに気づかないわけないでしょう」
「そっか……」
どうやら信用してよさそうだ。
岡田さんと秋山さんはどちらも夏焼組で仲がいい。
仲のいいコが通って、見落とすということはないだろう。
それに、秋山さんが欠席していることを岡田さんははっきり覚えていた。
欠席のはずの秋山さんが通ったら、絵に夢中でもさすがにおやっ、と思うだろう。
嫌でも気づく。
「じゃあ、もう一つ質問。
岡田さんは何時からここで絵を描いてる?」
「毎日、放課後になったらすぐにここに来る。
コンクールが近いからね。それから最終下校時間までずっといるよ」
「……え?」
それは……まずいことにならないか?
- 104 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:36
- 「じゃ、じゃあ放課後はずっといたってこと?」
「そう言ってるでしょ」
その間、秋山さんは通っていない。
つまり、放課後の校舎から、秋山さんは出ていない。
結論。
秋山さんには鍵を戻すことができない。
これはどういうことだ?
「そうだ、最後にもう一つ。
岡田さんがここでずっと絵を描いてることは秋山さんも知ってるの?」
「知ってる」
「仲いいもんね」
「……ねぇ、もういい?話してるとこ、誰かに見られると困る」
「特に夏焼組の人たちに?」
この嫌みは、さすがに岡田さんもムッとしたようだった。
「ごめん。ありがとうね、岡田さん」
「……」
岡田さんは、再び絵筆を取って作業に戻った。
「岡田さん。もし犯人見つかったら……また私と普通にしてくれる?」
「……」
「だめかな?」
「……」
「なんでもない。ありがとう」
- 105 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:36
- 私は岡田さんに背を向けて歩き出した。
その背中に岡田さんの声が聞こえてきた。
「……久住さん」
「……」
「ごめんね」
ごめんと言われても
岡田さんの微妙な立場を思うと
それ以上責めることはできなかった。
むしろ勇気を出して「ごめん」と言ってくれた気持ちがうれしい。
「ありがとう岡田さん」
また私は、泣きそうになってる。
だめだ。優しさにふれると私はだめだ。
◇
戻って報告すると、茉麻ちゃんはがっかりした様子だった。
「うーん。じゃあ、秋山さんには無理か」
「そう。つまり、誰も合鍵をつくることはできなかった」
「昇降口以外から出るのは?」
「無理でしょう。岡田さんの場所からは正門も丸見えだし。
秋山さんには通れないでしょう」
「窓から脱出して、フェンスを越えて出る。
あるいは、岡田さんが帰ってから抜け出す」
- 106 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:37
- 「フェンスって全部監視カメラ付きだし、
たしか最終下校時間になるとセキュリティがかかって
窓もドアも全部開けられなくなる」
午後7時以降はドアや窓を開けると警報が鳴ってしまうのだ。
ちなみにその時間帯はフェンスを越えても、同様に警報が鳴る。
「非常階段は?」
「そこまで行く前に岡田さんに見つかるよ」
位置関係からいって
昇降口も非常階段も、岡田さんに目撃されずに通ることは不可能だ。
「何か……何か方法が……」
「確かに、スパイ映画みたいな方法で脱出することはできるかもしれない。
だけど、茉麻ちゃん言ってたじゃん。
合鍵を作ったのは、泥棒のためじゃなくてイタズラのためだったって。
そのために窓から脱出したり、フェンスを乗り越えたりするのは
ちょっと釣り合わない気がする」
「秋山さんは普通に鍵を戻す予定だったとしたら?
だけど岡田さんがいた。でも、もう合鍵を作っちゃったから
何が何でも鍵は戻さないといけない。そういう状況なら多少の無理はするかも」
「岡田さんが言うにはね、
秋山さんは岡田さんが絵を描いてたことを知ってるはずだって。
鍵を持ち出したら戻すのが難しくなることを秋山さんは知っていた。
だから今の推理は成り立たないよ」
「……そっか」
結局
茉麻ちゃんの合鍵説も行き詰まってしまった。
- 107 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:37
- 1つ、4月になる前に合鍵をつくっていたという仮説を思いついたが
すぐに打ち消した。
クラス発表は4月。それまで犯人は自分がどのクラスになるかを知らない。
全クラスの合鍵をつくれば可能かもしれないけど、
それなら4月に入ってから実行すればいい。
しかし4月に入ってから欠席は、おとといの秋山さんが初めてだった。
休みの日には教室の鍵は持ち出せない。
もう1つ、先輩の誰かが合鍵をつくっていて犯人がそれを引き継いだ
という仮説をこれは茉麻ちゃんが言い出したがすぐに自分で否定した。
「私たち中3の先輩ということは、もう高校生。
高校生が中学生のグループ抗争に荷担して合鍵を渡すのは考えにくい。
そんなことをすれば、学校から鍵を持ち出したという
過去の犯罪行為が露見してしまうかもしれない。
後輩のためにそんなリスクを負う人はいないよね」
「そうだね。しかも合鍵は教科書隠しのためなんだから」
「後輩のいたずらのために合鍵を渡したりはしないと思う」
「そうだね」
可能性はゼロではないから、この説は保留しておいてもいいと思うが
どうもしっくりこない。
クラス抗争のための合鍵づくり、という今回の構図と合わない気がする。
しかしそうなると、
「本気で密室の謎が深まっていくね」
「うん」
いったい犯人は、何を使って鍵のかかった教室に出入りしたのだろう。
「しょうがない、いったん教室に戻ろう」
- 108 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:37
-
◇
教室に戻ろうと階段をのぼっていた私たちは、
一人の女の子とすれ違った。
特に知り合いでもないので、お互い言葉を交わすこともなくすれ違うだけ。
トン、トン、トン、トン……
足音が私たちの後方に遠ざかっていった。
「ねぇ小春ちゃん」
「今のコが持ってたのって……」
私たちは振り返って
「待てー!」
同時に走り出した。
そのコは管理人室に向かう廊下を歩いているところだった。
そのコの背後までたどり着くと、茉麻ちゃんが私の背中を押した。
こんなときまで、人任せかよ!
- 109 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:37
- 「なんですかぁ?」
「あ、あのね……君が持ってるもの見せて」
「はぁ……これでええんか?」
そうして彼女が示したものは
青の鍵だった。
「どうしてそれを君が……ええっと」
「光井です」
「光井さんがどうして青の鍵を持ってるの?」
青の鍵は教室の後ろ扉用の鍵で、原則生徒は使えないことになっている。
「ああ、うちのクラス、赤の鍵が壊れてんやんかぁ。
せやから青の鍵でええって先生が」
「光井さん、何組?」
「3年3組です」
ということは3年2組のとなりの教室になる。
「赤の鍵が壊れてるって、具体的にどういう」
「昨日の朝から前扉が閉まらんようになってな」
「閉まらない?」
「中からは閉められるんやけど……。
せやから鍵が壊れてんねん」
私は思わず茉麻ちゃんを見た。
茉麻ちゃんは私の袖を引いて言った。
- 110 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:37
- 「今日の2時間目はどうだったか聞いて」
今日の2時間目とは、つまり2組の体育の時間。
教材費の盗難があった時間だ。
……って自分で聞けってば!
しかし光井さんはこっちの会話を聞いていたらしい。
「今日の2時間目は音楽やったよ」
「そのとき、教室の鍵はかかってた?」
光井さんは管理人室に向かって歩き出した。
私たちもなりゆき上、ついていくことになった。
「ううん……そんときはまだ青の鍵の話は出てへんかったから。
今日の昼休みに、青の鍵使おうって話になって
今日の6時間目の体育から使うようになったんです。
それを今、管理人室に戻しに行くとこ」
「じゃ、じゃあ……2時間目、教室は開け放しだったわけ?」
「はい」
「小春ちゃん」
また、茉麻ちゃんが袖を引く。
「鍵が開かなくなったの、昨日の朝って言ってたけど……
おとといの放課後はどうだったか聞いて」
もー!
- 111 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:37
- 「光井さん。鍵が壊れたの、昨日の朝っていってたけど
おとといの放課後は鍵使えた?」
「んーおとといはー。
5・6時間目の美術までは使えた。そのあとは知らん」
管理人室に到着。
病院の受付みたいな小さな窓を開けて
光井さんは「失礼しまぁす」と礼儀正しくお辞儀をした。
「管理人さぁん。鍵持ってきましたぁ」
茉麻ちゃんが私の方を引っ張る。
「小春ちゃん見て!鍵が」
「本当だ!」
茉麻ちゃんが指したところは受付窓にちょっとだけ出っ張っている
カウンター状のテーブルだった。
そこに赤の鍵が放置されていた。「3−3」と書いてあった。
「ねぇ光井さん。
赤の鍵、ここに置きっぱなしだけど……」
「使えない鍵はしまってもしゃあないやん。
ここに放置でええ、って先生が」
「これ、こっそり持ってっても管理人さん気づかないよね」
「なんかぁ、鍵が壊れたときはいっつもここに追いとくらしいで。
しきたりみたいなもんや」
そんな頻繁に壊れる鍵なのか。
まったく高いセキュリティを使ってるくせに
鍵は安物かよ。
- 112 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:38
- しかしとにかく、すごい情報だった。
体育の時間、3組の鍵を持ち出すことができた。
いや、そもそも鍵がかかっていなかったのだから
犯人は3組になら自由に出入りできたのだ。
「茉麻ちゃん聞いた?」
「うん」
2人は、同時に言った。
『謎が解けた!』
「茉麻ちゃん確認しないと。3年3組に行こう!」
「3年3組?違う。まずは管理人さんに……」
茉麻ちゃんは、ふふっ、と笑った。
「またしても2人は違う推理を展開してるね。
よーし。推理合戦再びだ!鳴海君」
「わっかりました後動さん!」
◇
- 113 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:38
- 私は3年3組に入った。
こちらの部屋は2組と違って放課後も開け放し状態だった。
……今日は2組も開いてるけどね。
窓を開ける。窓の外は夕焼けだった。
遠く、部活の音が聞こえてくる。
この学校にはベランダというものはないが、
雨よけが張り出しているため、外をつたって隣の教室に行くことは可能だ。
かなり危ないが。
盗難発生時、現場のとなりの3組が開け放し状態だった。
犯人は堂々と3組に入り、窓の外に出て、2組に行ったんだ。
よーし、可能かどうか検証してみよう!
と思って身を窓の外に乗り出したとき
「はぁぁ……」
茉麻ちゃんのため息が聞こえてきた。
「小春ちゃん、また変なこと考えてる」
「なんでよ!窓を使ったに決まってるじゃん!」
「向かいのマンションから丸見えだよ。
窓の外を生徒が歩いてたら通報されちゃう」
「でも……だけど……えっと……」
た、確かに。
「それに2組の側の窓が閉まってたわけだしね」
ガクッ
全然ダメじゃないか。
- 114 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:38
- 「それよりも小春ちゃん、これ見て」
茉麻ちゃんは廊下から私を手招きする。
私がそれに従って廊下に出ると茉麻ちゃんは
扉を閉めて、鍵穴に鍵を差し込んだ。
「茉麻ちゃん、そこの鍵、壊れてるはずじゃ……」
カチッ
音がして
鍵がかかった。
「え?え?どういうこと?」
そうして
茉麻ちゃんが見せたのはなんと
青の鍵だった。
「管理人さんにお願いして、借りてきた」
「え?青の鍵って前も閉められるの?」
だとすると……
もし、そうだとすると……どうなる?
「これで間違いない。全部つながった。
小春ちゃん、犯人がわかった!」
- 115 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:38
- 「ええ?」
茉麻ちゃんは自信たっぷりの表情で頷いた。
「これは大胆なトリックだ。
でも、確かにこれなら誰にも気づかれることがない。
そこまで計算した犯人は、恐ろしく頭がよくて
恐ろしくぶっ飛んだ発想の持ち主……」
「そ、そうか。じゃあさ、茉麻ちゃん、明日みんなにそれを……」
「やだ!そういうの、したくない」
またそういうことを言う。
「20万円だよ!そんなこと言ってる場合じゃない」
「私の謎解きは……」
茉麻ちゃんは、手をもじもじさせて下を向いていった。
「誰かのためじゃない。自分のためにやったこと。
それを偉そうにクラスで発表なんてしたくない」
「茉麻ちゃ〜ん。私、無視されてるんだよ」
「……でも……やっぱりやだ。
探偵が真相を発表すると、決まって誰かが不幸になる。
私は……そんな存在には、なりたくない。
事件なんて、解決しなくていい」
このコは、探偵失格以前に、人間失格ではないだろうか。
- 116 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:38
- 「じゃあ、犯人を教えて!私がみんなに話す」
「やだ!!」
茉麻ちゃんは頑固だった。
「もし間違ってたら、私、小春ちゃんに申し訳ない気持ちになっちゃうじゃん」
「いいよ」
「私はいやなの」
あーもう。
なんか、イライラしてきた。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!」
「そこまで言うなら」
茉麻ちゃんは、一つ息を飲み込んで言った。
「小春ちゃんが自分で推理して。
それがあってたら、小春ちゃんの好きにしていい。
私が教えたんでなければ、いいよ」
「つまり、私に茉麻ちゃんと同じことを考えろと?」
「そう。クイズ」
クイズ再び!
まったくなんてことだろう。
探偵が真相を見抜いているのに、それをもう一度考え直さなきゃいけないなんて。
こんなに重労働な探偵助手が果たしていただろうか。
茉麻ちゃんの腰の重いことといったら京極堂や犀川先生だって目じゃない。
- 117 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:39
- 「よし。クイズだね」
よーし、いいだろう。
この、失格ダメ探偵め!
茉麻ちゃんの心を開くのは、私の役割だ。
私の言葉に茉麻ちゃんは素直に喜んだ。
その笑顔を見ると、私の中からイライラが消えていった。
あとに残ったのは
謎に対峙するときの頭が研ぎ澄まされる感覚。
一つ深呼吸をして、私は言った。
「受けて立ちましょう!」
ちょうど教室に夕日がさしこむ。
セピアの強すぎる光が、教室にある色という色を奪い去った。
窓際に立っていたために逆光を受けて
シルエットになった茉麻ちゃんが人差し指を立てて言った。
「小春ちゃんへの挑戦状。
@教材費窃盗は単独犯であり、登場人物たちの間に共犯関係はない
A秘密の抜け穴は存在しない
B針金・合鍵・マスターキーの類は使わない。アバカムも使わない
C犯人以外の人物が、故意に虚偽の証言をすることはない」
- 118 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:39
- 私個人への挑戦状なんて、なんか興奮してしまう。
「アバカムも使わない」というのは、非科学的な魔術の類を使わないという意味らしい。
私は、目を閉じて思考を回し始めた。
3組の鍵が壊れた件は……この事件と関係があるのか、ないのか……。
私の頭に、事件が始まってからのことが高速でフラッシュバックされる。
茉麻ちゃんのこと。
この事件がなければ、こんなふうに話すことのなかったはずの2人。
不思議な運命の巡り合わせで出会えた友達。
そのコのために今、私は推理する。
そして
私は目を開けた。
「つながった」
一つの推理が脳内に構築される。
この推理は大丈夫か?
……
大丈夫。
今度は茉麻ちゃんをがっかりさせるダメ推理じゃない。
今度こそ、正解だという確信が湧いてきた。
- 119 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:39
- 「茉麻ちゃん、これ正解したら、茉麻ちゃんをあだ名で呼んでいい?」
「ええ?」
「ね、いいでしょ?かわいいあだ名つけるから」
「わかった。正解だったら、呼んでいい」
よーし。私はもう一度目を閉じて、自分の推理を確認する。
ここが山場だ。ここでミスをするわけにはいかない。
犯人は……
A:徳永さんだ!
B:秋山さんだ!
C:橋本さんだ!
そして犯人が用いたトリック。
犯人が教室に入るのに使ったのは……
1:赤の鍵
2:青の鍵
3:窓
- 120 名前:教室が密室7 クイズ 投稿日:2007/04/26(木) 21:39
- 親愛なる読者様へ
もどかしい探偵たちの思考遊技は大詰めを迎えました。
選択肢以外の解答はありません。
徳永、秋山、橋本の中に必ず犯人がいます。
読者様にご提示いたします挑戦状の内容は
作中で茉麻が語ったものと同一ですので割愛させていただきますが
一点だけ、茉麻が握ってる情報のうち、小春に知らされてないものがあります。
そのハードルは、読者様の想像力によって飛び越えていただくことを期待して
あえてハードルのまま置かせていただきました。
クイズの結果で2人の呼び名が変わり、親密度が更新されます。
読者様のうち、お1人でも正解者が出た場合フラグが立ち
どなたも正解できなかった場合、フラグを逃します。
*
解答は「A1」「B2」のように、二つの選択肢の正しい組み合わせを書いてください。
この場合、メル欄ではなく、レス本文に書き込みいただいて構いません。
内容予測やネタバレは
他の読者様のご迷惑となりますので、厳禁でお願いします。
感想は大歓迎……ていうかむしろください。お願いします。
- 121 名前:いこーる 投稿日:2007/04/26(木) 21:41
- 本日の更新はここまでとなります。
よろしくおねがいします。
- 122 名前:いこーる 投稿日:2007/04/26(木) 21:41
- >>100
やった!
作者の脳内では最強コンビ、のはずです。
- 123 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/01(火) 04:24
- A2、、、かな
- 124 名前:推理もの大好き 投稿日:2007/05/01(火) 05:08
- 初カキ、C2かな…… ついでに感想カキ×2φ(.. )こうゆう推理ものが大好きな人間です。続きを楽しみにしてます。
- 125 名前:ネコ科の娘 投稿日:2007/05/02(水) 17:13
- 初めましてです。謎解きをしようとしたのですが、分かりませんでした。
とりあえず、なんとなくで推理してみました。
C1かなぁと思うのは私だけでしょうか?
更新待ってます。
- 126 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 20:28
- A1?
- 127 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:32
- 私たちは公衆電話の前にいた。
茉麻ちゃんに番号を教えてもらって目的の人物を呼び出す。
恐るべきことに茉麻ちゃんはクラス全員の連絡先を丸暗記していた。
電話には家の人が出たので、かわってもらう。
「もしもし?」
「徳永さん?久住です」
「……」
「無視してる相手からの電話で変に思うのわかるけど
大事な話なんだ」
「何?」
「徳永さん、地元の不良グループから怖がられてるでしょ?」
「人聞き悪いこと言わないで!
私と仲いい高校生が、ちょっと顔がきくってだけ」
徳永さんのバックは田中さんと言って
たいていの不良はこの人の名前を聞くと逃げ出すという。
「今日、私のカバンから教材費20万円以上が盗まれた」
「知ってるよ」
「なんでそんなことしたと思う?」
「さぁ……」
「この前恐喝事件があったと、藤本先生が言っていた」
「知ってる」
「犯人は、恐喝事件の被害者で、もっと持ってくるようにと
脅しを受けていたんだ。だからお金を盗んだ」
「久住さん犯人が誰だか知ってるの?」
「知ってる、だから電話をした。その人物は教材隠しの犯人でもある」
「何決めつけてんの?どうしてそうなるの?」
「徳永さん、そうやって慌てて否定するとかえって怪しいよ」
「私が犯人だって言いたいの?ふざけないでよ!!」
「どうやって犯人がわかったか教えてあげる」
- 128 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:33
- 私は、茉麻ちゃんを見た。
茉麻ちゃんがうなづくのを確認して
私は言った。
「犯人は……」
◇
「犯人はおととい……」
<翌日の教室で……>
「ある事情から教室の合鍵を手に入れなくてはならなくなった」
「ある事情?」
「おととい、クラスであったことと言えば?」
私が言うと岡田さんが答えてくれた。
「雅ちゃんが放課後も教室に鍵をかけようと言い出して……」
「そう。そして、その提案は徳永組の反発にあって
とりあえずは流れた。おとといの時点ではね」
「でも……」
夏焼さんがゆっくり、私に近づいてくる。
「結局、翌日からは鍵をかけることになったよね」
「うん」
- 129 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:33
- 私は教室を見回した。
室内には、夏焼組のメンバーと私、そして茉麻ちゃんしかいない。
徳永組のメンバーには昨日
事件の真相を話してもらっていた。
「犯人はきっと、夏焼さんの提案に焦ったはずだ。
おとといの時点で話は流れたけれど
これ以上教材隠しを続けていたら本当に教室には鍵がかかってしまう。
そうなれば、もう教材は隠せない」
「確かに……」
放課後以外の時間には誰かに見つかる可能性が高い。
「犯人は本当なら、合鍵を作りたかったんじゃないかな?
だけどそれは、できなかった」
「どうして?」
夏焼さんが聞く。
「教室の鍵は16時30分にしまわれてしまうからだよ」
「え?そうなの?」
「そう。15時30分までホームルームにいなくてはならない。
1時間で合鍵は作れない。
そこで犯人は自分だけが教室に自由に出入りできるよう
大胆なトリックを使ったんだ」
- 130 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:33
- 「大胆なトリック?」
「そのトリックを使えば、犯人は簡単に
自分だけの“合鍵”を手に入れることができる。
この……」
そう言って私は
3年3組の前扉を指して言った。
「3組の前扉に青の鍵が使えた。これはどういうことか?
青の鍵は後ろ扉用で、前扉は赤の鍵でないと開け閉めできないはずだ」
「待って……ちょっと待って。わかるように説明して?」
私は、昨日の話をした。
光井さんが聞いた、3組の前扉の故障。
茉麻ちゃんが壊れたはずの扉を青の鍵で開けたこと。
「あとは簡単なパズルだよ。
3組の前扉に青の鍵が使えた。
反対になぜか、赤の鍵が使えなくなっていた。
結論は
ここにあるのは後ろ扉だ
そういうことになる。
茉麻ちゃん。昨日茉麻ちゃんが使った、青の鍵を見せて」
私がそう言うと、茉麻ちゃんは手の中にあった鍵を見せた。
青のテープが貼ってある。
- 131 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:33
- 「犯人は3組の前扉と、2組の後ろ扉を入れ替えたんだ」
「入れ替えた!?」
テープには「3−2」と書かれていた。
茉麻ちゃんは、2組の青の鍵を使って、3組の前扉を開けたのだ。
「扉は取り外し可能なものだった」
私が昨日、迷推理の際に
扉を取り外してひっくり返している。
鍵が閉まっているときには外すことができないが
おとといの放課後は2組も3組も、鍵はかかっていなかった。
だから扉は取り外し可能だったはずだ。
「この方法なら数分でできる。疲れるけどね」
なんせ力持ちの茉麻ちゃんでさえ
ひっくり返すときに両手が痛くなったほどだ。
「でも1時間以上の時間をかけて合鍵を作りに行くよりはずっと手軽だ。
3組の赤の鍵は壊れた、ということになって管理人室に放置されてる。
壊れた鍵は毎回そうすることになってるみたいだから
扉を入れ替えさえすれば
3組の赤の鍵を自由に持ち出せるようになる。
犯人はそのことを知っていたんだね。
まさか3組の鍵で2組に入れるとは誰も思わない。
そのことを知っている犯人にとって、これはまさに“合鍵”だったんだ。
それを狙って犯人は扉の入れ替えを行った」
- 132 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:34
- 「じゃあ……」
岡田さんが聞く。
「3組の前扉が2組の後ろについてるってこと?」
「そう。犯人は3組の赤の鍵で、2組に入れたんだよ」
私は、ポケットの中から、もう一つの鍵を取りだした。
それは「3−3」と書かれた赤の鍵。
「管理人室の前に放置されていた鍵を拝借してきた」
盗難のあったときにも、この鍵は放置され
自由に持ち出すことができた。
今回も茉麻ちゃんは、容易に鍵を持ち出せたはずだ。
私は茉麻ちゃんからその鍵を受け取ると
2組の後ろ扉の前に立って鍵を入れた。
カチッ
扉が開いた。
「これで鍵のかかった2組に入って、堂々と教材隠しができる」
密室が解けた。
- 133 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:34
- 「私は犯人にとって、一番使いやすい鍵は何だろうって考えた。
青の鍵は管理人さんに断らないと手に入らない。
赤の鍵は時間内なら自由に持ち出すことができる。
そして、なによりも手に入れやすかったのは
放置されたままになっていた3組の赤の鍵だ。
この鍵はいつでも持ち出して使うことができる。
特に教材隠しの犯人にとって、放課後も自由にできる鍵は
もっとも使いたかったに違いない」
「扉を取り替えているとこを、誰かに見られたらどうするの?」
夏焼さんが聞いてきた。
「このトリックの上手なのは、
扉の入れ替えと教材隠しを同時に行わない、ということなんだ。
扉の入れ替えを見とがめられたら
『うまく閉まらないから建て付けを見ようと思った』
とでも言えばいい。変なコだと思われるかもしれないけれど
目撃者が犯人の行動を教材隠しと結びつけて考えることは難しい。
まだ、入れ替えの時点では、鍵がかかっていないんだから」
「でも、こんなトリックいつかばれるよね?」
さらに夏焼さんが質問を繰り出してくる。
私は首を振った。
- 134 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:34
- 「そんなことはない。このトリックが露見する可能性はほとんどないと言っていい。
犯人はそこまで計算して、扉を入れ替えたんだよ。
実際、光井さんは3組の赤の鍵が壊れてると信じて疑ってなかった。
2組と3組、両方の鍵を使ってみないと、入れ替えには気づかないよ。
でも青の鍵はめったに使わないから、2組の後ろ扉の異変に気づくのは相当先だ。
その頃には3組の鍵の方はとっくに付け替えられている。
扉が入れ替わっているわけだから合鍵使っても開かないからね。
錠前ごと交換することになるだろう。証拠は残らない。
それから半年か1年経ったころに、2組の青の鍵が使えないことがわかる。
時間がここまで離れてしまえばもう、
2組と3組の鍵の異常を結びつけて考える人はいないよ。
この学校の鍵が壊れるのは、初めてじゃないみたいだしね」
このトリックの巧妙な点は2つ。
1つは扉の入れ替えと犯行が同時ではないこと。
もう1つは、2組の前後ではなく、3組の前と入れ替えたこと。
これによって、鍵の不調と教材隠しを結びつけて考える人がいなかったのだ。
もし
2組の鍵が壊れて放置状態になっている最中に教材隠しや盗難が行われていたら
怪しまれるのは時間の問題である。
「そこまで計算していたとしたら、犯人はすごいね」
「うん
クラス勢力がかかっているとはいえ
それは恐ろしい執念だ」
- 135 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:34
- しかし私はそう言いながらも、決して犯人の行動を不自然と思わなかった。
閉鎖的な空間にいる中学生にとって
教室は生活のすべて、世界のすべてとも言える。
抜け出すことのできない密室。
密室の中で有利な立場を狙うために
少女たちは必死になる。
扉を入れ替えるくらい平気になってしまう。
さて……
ここからが大詰めだ。
「これで密室トリックは解明された。
3組の赤の鍵を使って、2組に出入りしていたんだね。
そして、トリックがわかれば犯人もわかる」
この事件では密室トリックの究明が
犯人当てともリンクする。
「光井さんの話から推理すると
おとといの6時間目までは赤の鍵で通常通り3組の前扉を開けられた。
その翌朝、鍵は使えなくなっていた。
つまり、
扉が入れ替えられたのはおとといの放課後しかない。
容疑者は3人。体育の時間中のアリバイがない徳永さん。秋山さん。橋本さん。
この中でおとといの放課後扉の入れ替えトリックを実行できた人物は一人」
- 136 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:35
- 私は指を立てて言った。
夏焼さんが聞く。
「犯人は誰?」
「まず秋山さんはおととい欠席で学校に来ていない。
放課後校舎に立ち入ってないという岡田さんの証言があった。
したがって、秋山さんにこのトリックは使えない」
「うん」
「それから、右腕骨折中の徳永さんにも無理。
骨折が偽装でないことは確認してあったね。
この重い扉を徳永さんは持ち上げられない」
扉は重かった。
茉麻ちゃんでさえ、両手で持たないと入れ替えられなかったのだから。
「お金を盗むことができた人物。それは橋本さんだ」
◇
- 137 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:35
- 「犯人は……橋本さんだ」
受話器の向こうで、徳永さんは沈黙していた。
「徳永さん!橋本さんは恐喝を受けて、お金を渡すために盗んだんだ。
徳永さん。お願いやめさせて。徳永さんならできるでしょう?」
「……」
徳永さんは何かを迷っている。
「徳永さん!
徳永さんが教材隠しを命じてたことは黙っているから!」
「そこまでわかってるの?」
「何となく、個人の意志じゃないな、とは思っていた。
だって教材隠しのために扉を入れ替えるなんて異常だよ!
ただこれが、グループの意志だとしたら、
自分1人じゃ決してできないようなこともやってしまうんじゃない?」
組織は個人を殺す。
血の通った個人を、冷酷ないじめっ子に変えてしまう。
岡田さんもそう。
私を気遣いながらも私を無視しなくてはならなかった。
グループの意志が、みんなをおかしくしてしまうのだ。
「でも……ドアを取り替えてたなんて知らなかったよ!」
「徳永さん!
橋本さんは徳永組から見捨てられたくなかったんだよ!
だから必死に言われた通り、夏焼組の教材を隠していたんだよ」
「なんで……そんな必死に……」
- 138 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:35
- 「たぶん……」
私は一度、声を小さくした。
ここからは、茉麻ちゃんの想像になる。
「橋本さんは地元の不良から目をつけられてる」
「……え?でも私、一緒に帰ってたけど」
「3年生になってからでしょ?」
「うん」
「徳永さんが一緒にいるようになってからは
そいつらも手を出せなかったんだよ。
徳永さんには田中さんというバックがあるから」
「でも、ここんとこは1人で帰ってるから……」
「そう、徳永さんが骨折して、車で送り迎えしてもらうようになった。
だから不良グループはまた橋本さんを脅すようになったんだ。
田中さんだって橋本さん1人のためには動かないでしょう?
直接顔見知りの徳永さんが被害に遭ってるわけじゃないんだから」
「……確かに」
あくまで橋本さんが守られていたのは、徳永さんと一緒にいたからだ。
徳永さんが一緒にいないときには、怖い目に遭っていたのかも知れない。
だから橋本さんは、徳永さんの命令を拒否できずに教科書を隠していた。
扉を入れ替えてまで必死に、徳永組から見放されないように。
いじらしいまでの献身だ。
「ね、徳永さんやめさせて!
橋本さんを守れるのは徳永さんしかいないの!」
- 139 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:35
- 「……愛奈」
「お願い!」
私は、もう一度茉麻ちゃんを見た。
推理クイズに正解した時点で、事件を解決する権利はもらったわけだけれど
最後の確認。
茉麻ちゃんはうなづいた。
「徳永さんが動いてくれないとお金は取り返せない。
そうなったら私は責任を負わされてしまう。
それは困るからもしそうなったら
明日私は、みんなの前で真相を話します。
徳永さんが教材隠しを命じていたことも
橋本さんの泥棒も全部話す」
「……」
「別に私は、橋本さんのために言ってるんじゃない。
私にかぶせられた罪を晴らしたいだけだ。
お金が戻ってくるなら、それで解決。
戻ってこないなら、みんなの聞いている前で犯人を指摘しなくちゃいけない」
「わかった……。下校途中に絡んでくるとしたら場所はわかる。
今から行ってみる」
「間に合うの?」
「……」
「もう橋本さん帰って結構時間経つけど」
「そうだね……」
徳永さんは何かを考えたようだった。
- 140 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:35
- 「今、携帯から連絡してみるからこのまま待っててくれる?
まだお金を渡してないようだったら、どこかに隠れて私を待つように言う」
「もし……もうお金を取られていたら?」
「そのときは久住さん……」
「?」
「先生に全部話して」
「ありがとう」
「ううん……久住さん」
「?」
「ありがとう」
向こうで、話声が聞こえてきたが、何を話しているかはわからなかった。
「小春ちゃん、あれでよかったの?
みんなに犯人を言わなくていいの?」
「私の推理は……誰かのためじゃないよ。
茉麻ちゃんと一緒の時間を過ごしたくてしたことだもん……」
茉麻ちゃんに教えてもらったことだ。
小さくまとまっていればいい。
偉そうに推理を振りかざすんじゃなくて
小さくまとまって、自分に降りかかる火の粉だけ払えば
それでいい気がする。
「久住さん!連絡ついた。
愛奈、私が行くまで奴らから隠れて待ってるって!」
「徳永さん……気をつけて」
「ああ、行く前に田中さんにもメールしとくから大丈夫だよ」
「そっか……さすが」
「じゃあね」
通話が切れた。
茉麻ちゃんに話すと茉麻ちゃんはよかったぁ、と胸をなで下ろした。
- 141 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:36
-
◇
でも私は結局、夏焼組の人たちに事件の真相を話すことになった。
その理由を書いておこうと思う。
夜、私の家に電話がかかってきた。
橋本さんからだった。
「久住さん、……」
橋本さんは、いつもの元気な姿からは想像できないほど
小さな声で申し訳なさそうに言った。
「すみませんでした」
私は一瞬出てきそうになった怒りを必死に飲み込んだ。
「橋本さんも被害者じゃん」
「だけど……」
「いいよ」
「……」
しばらく、沈黙。じー、という電話の音だけが聞こえてきた。
- 142 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:36
- そして橋本さんは言った。
「あのね……」
「何?」
「私、今回のこと先生に話すよ」
「そう……」
「久住さん、クラスのみんなに話すんでしょ?」
「ううん。今回はいいの。話さない」
「お願い!」
「いいよ。橋本さん1人が悪いわけじゃないんだから。
みんなには黙っておくよ」
橋本さんの仕掛けたトリックは、教材隠しのため。
自分のためではなく、グループのためだった。
お金を盗んでしまったのは、恐喝を受けていたため。
橋本さんは徳永さんにも相談できずに
大金を手に入れなくてはならなかった。
「違うの」
「え?」
「みんなに、久住さんから話をして欲しいんだけど」
え?
「どうして?」
「お金だけ返しても、犯人が見つからなきゃ
やっぱり久住さんのせいにされると思う」
「だけど……」
「もう……終わりにして欲しい。グループ抗争なんて……」
- 143 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:37
- 橋本さんは受話器の向こうですすり泣いていた。
「私、クラスのドロドロした関係とか、もう耐えられない。
そのせいでこんなことに巻き込まれるなんて……。
私だって、扉の入れ替えなんてしたくなかったのに」
その言い訳に、私は腹が立った。
「そんなの関係ないよ!!」
「……久住さん」
私は、思わず大声を出していた。
「教材隠しは確かにグループのせいかもしれないよ。
だけど、橋本さんは泥棒じゃん!個人の意志で盗んだんじゃん!
グループ抗争とは全然関係ないっ!!
その罪までグループのせいにするなんて、橋本さん卑怯だ……。
橋本さんは恐喝事件の被害者だった。どうしようもなくて盗んでしまった。
そう話して、みんなにわかってもらったらいいじゃん!
なんでグループ抗争のせいなんかにするの?
被害者面して、ずるい………。すごくずるい。
橋本さんの行動は、橋本さんが責任取ってよ!
橋本さんみたいなコがいるからいつまで経っても……」
まだ、私たちには自分のことに自分で責任を持つなんて
重すぎるし早すぎるのかもしれない。
でも、そうやって自分の行動をすべて
グループにゆだねたりしてはいけないんだ。
そういうことまでグループに依存したりするから
教室は私たちの個性を封じ込め、組織は個人を殺す。
- 144 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:37
-
なんて説教クサいことは結局言えなかった。
私は泣いている橋本さんに、そんな偉そうなことを言える立場じゃない。
それなのに怒鳴ったりして、私もまだまだなのかな。
私は橋本さんに言った。
「大きな声だしてごめん。
橋本さん。じゃあ、夏焼組の人たちには、私から話をするから
徳永組の人たちには、自分から話をして」
それで橋本さんは
何かグループから制裁を受けることになるかも知れないけれど
それは私が干渉することではない。
橋本さんは橋本さんの責任において
自分のしたことを受け止めればいい。
「でもさぁ、橋本さん……」
「?」
「私も願ってるよ。グループ抗争なんてなくなって
もっと個人として君と話がしてみたい」
ちょっと
理想がすぎるかな?
でも、
そんな時がいつか訪れて欲しいと思う。
◇
- 145 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:37
- と、まぁこんな事件だった。
その日から、私は彼女をまーさんと呼んでいる。
ちなみに(千奈美に)クラスはちょっとずつ変わり始めた。
まず、橋本さんが徳永組を抜けた。
泥棒の犯人ということで同じグループに居られなくなったのか
それとも本人の意志かはわからない。
しかし、他のクラスメイトからは特に攻撃を受けてはいないようだ。
それというのも
犯人である橋本さんは、
私やまーさんと一緒にお弁当を食べるようになったからだ。
こうなると橋本さん1人をいじめてもつまらないみたいで
とりあえずクラスは平穏な毎日を過ごしていた。
「こはぁ!」
「何よ、まーさん」
「はしもんに玉子焼きさん取られたぁ」
「じゃあ私のあげる」
「ありがとー」
「その変わりウィンナーちょうだい!」
「あーっ!」
- 146 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:37
- この3人のお弁当は壮絶だった。
なんせ3人とも大食いなのだから。
まーさんなんて、肉まん4つをぺろり。
すごいわほんとに。
でも、にぎやかな3人だった。
私とまーさん、それに
はしもん(橋本さんのあだ名!)。
3人は、どちらのグループにも属さないメンバーとして
クラスの平和に少しでも貢献していきたいと思う。
だって中学生最後のクラス。
ドロドロデロデロの1年間なんて嫌だもんね。
ということで、名探偵小春の活躍はしばらくお休み。
まーさんは謎が無くなってちょっと淋しそう。
推理小説ばっかり読んでいる。
でもまたクラスの平和を乱すようなやつが現れたときには
「まーさん、よろしく頼むよ!」
「OK!こはぁ」
- 147 名前:教室が密室8 答え 投稿日:2007/05/07(月) 23:38
-
教室が密室 −完−
- 148 名前:いこーる 投稿日:2007/05/07(月) 23:41
- ということで正解はC1でした。
挑戦していただきまことにありがとうございます。
そして正解された方、おめでとうございます。
難易度高くしたつもりだったのでちょっと悔しいw
感想もありがとうございます。
推理好きな方に満足していただける内容となったでしょうか。
また感想いただけると作者は非常に喜びます。
- 149 名前:いこーる 投稿日:2007/05/07(月) 23:47
- 流しを含めてあとがき
中3について
キッズが発足した当所、茉麻ちゃんの学年は全部で5人いてすごく賑やかでした。
今では茉麻ちゃんと同い年の現役メンバーは3人になってしまいましたが。
小春ちゃんが加入したとき作者は1人で「まぁちゃんと同い年のメンバーが入った!」
と意味不明な喜び方をしていました。
本人たちは学年関係なく仲良くしているようですが
やっぱり中学生にとって年上年下って大きいんじゃないか、と思ったのです。
茉麻ちゃんと同学年のメンバーだけで小説が書けるようになったことは
なんだか嬉しいです。
うん、細かいこだわりだとは思いますが……。
(てか藤本先生も出てるしね;)
- 150 名前:いこーる 投稿日:2007/05/07(月) 23:51
- 推理について
昨年発売された有名サウンドノベル推理の3作目に夢中になりました。
鍵の所在の問題なんですが、これがすっごく面白かったです。
どの鍵を誰が持っているかをパズルの様に整理していって
犯人を絞り込んでいく。
見破れないトリックではなく、考えてわかるトリック。
意外な犯人ではなく、論理的に導ける犯人。
この小説がそれを達成できたかどうかは、実はちょっと自信ないですが。
しっかし、犯人当て。むずかしーなやっぱり
- 151 名前:いこーる 投稿日:2007/05/07(月) 23:57
- クイズについて
せっかく掲示板で小説やっているのだから
読者レスが作品に影響する話をやってみたい。
そんな無謀なことをやってみたくなってしまいました。
これは要するにレスいただくまで続きを書けないわけで
すっごくひやひやしていましたが、これも飼育の醍醐味だったな、
と思います。
コンビについて
小春×茉麻CPには1つだけ元ネタがあって
2006年のスポーツフェスティバル。跳び箱選手権で脱落した2人がしゃべっていました。
なのにお互い目を合わせもせずにマイペースに独り言が行ったり来たりしているだけ。
「これだ!」と思い、あとはもうこの妄想CPにはまってしまいました。
とりあえず完結です!
次なる事件の準備も進めてはおりますが、
一つの事件を書くのに偉いエネルギーを費やしました。
気長にお待ちいただけると嬉しいです。
- 152 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/08(火) 00:26
- おぉ!面白かったです!!
最近はキッズ物も増えてきましたが茉麻×小春は初じゃないかなーと。
とてもハラハラワクワクしました^^
- 153 名前:いこーる 投稿日:2007/05/20(日) 00:26
- レス返しのみ
>>152
作者も、このコンビは自分しか書いていない気がします。
それにしてもキッズものが増えてきたのは喜ばしい限り。
今後もお楽しみいただける作品を書いて
少しでもこのCPを布教していけたらいいなと思います。
- 154 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 22:26
- 全部読んでみたんですけど
推理小説としての完成度がすっごい高くて驚きました
このトリックは本当にすごいなあと感心しましたよ
- 155 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/13(日) 11:11
- 保全おねがいします
- 156 名前:いこーる 投稿日:2008/01/13(日) 11:38
- すみません。↑は作者です。
- 157 名前:白い登校1 投稿日:2008/06/20(金) 21:26
-
それは、私たちにとって中学生活最後となる事件だった。
この事件で私たちは、味方であったはずのコから見事にだまされ
解決できたはずの事件は袋小路に迷い込んでしまう。
私たちを翻弄する謎。泥沼の人間関係。
どん底に落ちた私たちの心をいやしてくれたのはまたしても
推理クイズだった。
- 158 名前:白い登校1 投稿日:2008/06/20(金) 21:27
-
春たちの学園 −白い登校−
- 159 名前:白い登校1 投稿日:2008/06/20(金) 21:27
- 雪で白く覆われた橋に、朝日が照っている。
昨晩まで降り続いた雪がキラキラと眩しい。
関東の田舎に暮らす女子中学生なら
その非日常的な光景に心も躍ることだろう。
しかし私が真顔で歩いていたのは
小学生時代を新潟で過ごした私にとって
雪の橋というのは実に見慣れた光景だったからだ。
私はひょいひょいと歩道に足跡をつけながら
通学路である末黒野(すぐろの)大橋を渡る。
「いっちばん乗りー!」
歩道には誰の足跡もついていない。
みんな、雪に尻込みして電車を使うことにしたのだろうか。
この程度の雪で、関東の人たちは弱いなぁ。
手すりが低いので慣れていないと怖いのかも知れない。
きれいな歩道に、私の足跡だけが一筋残る。
車道は除雪作業が終わったところらしく
作業員の人が通行止めの柵を撤収していたけど
歩道にまでは除雪車も入らない。
意味もなく気分がよかった。
時計を見ると時刻は7:30。
- 160 名前:白い登校1 投稿日:2008/06/20(金) 21:27
- 大橋を渡りきると見慣れたでっかい看板がある。
<ようこそ須黒野町へ>
末黒野大橋とは漢字が違うが、こっちも「すぐろの」と読む。
国語の松浦先生が言うには、もともと「末黒野」と書くのが正解らしい。
野焼きの後、 黒々と広がる大地のことで、春を表す季語だと聞いた。
あのときの話はちょっと面白かった。
◇
「大橋を挟んで、東が須黒野町で西が葉桜町。
ちなみに『葉桜』は夏の季語ですから、
下校時に大橋を渡る人は、毎日春から夏へと時をまたいでいることになります。
時の旅人。うーん、いいですねぇ須黒野は」
とか急にうっとり目線で話し始めちゃったもんだから
その様子は休み時間に私たちの間で話題になった。
「登校するときは、夏から春に逆戻りじゃん」
というつっこみは「はしもん」こと橋本愛奈ちゃん。
- 161 名前:白い登校1 投稿日:2008/06/20(金) 21:28
- 「でも面白いね。
学校のある須黒野が春。
私たちの住んでいる葉桜が夏。
ちなみにぃ〜小春は『冬』の季語で〜す」
「んなこと聞いてないよ!」
はしもんがバシッ、と突っ込む。
「でもまーさんの『茉』って春の花なんでしょ?」
とそこで私が「まーさん」こと須藤茉麻ちゃんに話を振る。
「……」
おーい。
まーさん、ぼーっとしてる。
「まーさん!うちら春と冬コンビだよ!」
「こはぁ」
お、ようやく口を開いた。
「おなかすいた」
「は?」
この、マイペース女め!
◇
- 162 名前:白い登校1 投稿日:2008/06/20(金) 21:28
- 私はへらへらと思い出し笑いをしながら突き当たりのT字路まで進む。
ここを右折すると、前方200メートル地点に「須黒野駅」が見える。
葉桜町から須黒野町に来るためのルートは、2つしかない。
電車と大橋。
今日は雪が積もっていたから、みんな電車で来ているのだろう。
駅から北方向に、無数の足跡がついている。
でも、この足跡は学校の生徒ではない。
私たちの学校は、線路よりも南側にあるため
仮に生徒が電車に乗っていたとしても
北側に足跡がつくことはないのだ。
この足跡は須黒野工業団地に向かう通勤の人たちの足跡だ。
私はわざと足跡を避けて、雪をざくざく踏んでいく。
このざくざく感……なんとも言えぬ快感だ。
駅改札を右に見て踏み切りを越えるとき
駅から放送が聞こえてきた。
<本日雪のため、上下線とも運転を見合わせております。
さきほど葉桜駅から須黒野駅まで1本だけ走りましたが
その後は運行の目処が立っておりません。お急ぎのところ……>
どうやら電車が止まっているらしい。
まーさん、大丈夫かな?今日は電車で行くって言ってたけど……。
気になった私は携帯にかけてみる。
「まーさん、電車止まってるんだって?」
『うん。でもねぇ……さっき1本だけ走ったからそれで来た。
今、校門についたとこ……』
「へー、1本だけ。混んでたでしょ?」
『うーん。でも工場の人たちばっかで、
学校の人誰もいなかったよ。私だけ』
え?
- 163 名前:白い登校1 投稿日:2008/06/20(金) 21:28
- 普通、この時間なら登校する生徒がもっといるんじゃないか?
と、思っていた私の足が
「本当だ」
踏切を渡り終えたところでぴたりと止まった。
「まーさんの足跡しかない」
踏切を渡ると足跡が一筋のみ。
つまり、本日駅からこっちに向かったのは1人だけ、ということになる。
あとの乗客は、みな北の工業団地に向かったのだ。
車輪の跡もなかったから、車も通ってないようだ。
なんでだ?と思いながら私は左折した。
あとは線路とほぼ平行する道をまっすぐ行けば学校なんだけど
こっちの道もやはり、まーさんの足跡のみ。
じゃあ、本当に、学校にいるのはまーさんだけなのだろうか?
私は道の先を見た。
道はまっすぐなので、遠くではあるが、校門が見える。
『こはぁ……最悪……』
「え?どーしたの?」
『本日雪のため休校だって』
「ええ!?」
なんだ、今日来る必要なかったのか。
- 164 名前:白い登校1 投稿日:2008/06/20(金) 21:28
- 『こはぁ、どーする?』
「と、とりあえず行くよ。まーさん待ってて」
『……わかった』
いったん電話を切った。
時刻は7:40
◇
私が学校に到着したのが7:50。
校門の前に立つ。
「やっぱり……」
ひょっとしたら反対方向から来た生徒がいるかな?と思ったが
校門から校舎に向かう足跡も、やはり1つしかついていない。
この学校は3方向を田んぼで囲まれていて
通常使う入り口はこの校門しかないのだ。
そのたった1つの入り口から校舎に
足跡が一筋。
「♪まーさん一人ぼっち〜♪」
とか歌いながら私は、その隣に足跡をつけ校舎へ向かう。
そのとき
まーさんから電話がかかってきた。
『こはぁ!大変!早く来て!』
「ど、どうしたの?」
『お願い。早く来て!』
私は駆けだした。
- 165 名前:白い登校1 投稿日:2008/06/20(金) 21:29
- 何があったのだろう?
まーさんらしくない、切迫した声だった。
なんか……嫌な予感がする。
また、変な事件に巻き込まれそうな……。
上履きになって4階まで駆け上がり
3年2組の教室に駆け込む。
入った途端、色鮮やかな何かが目に飛び込んできた。
「まーさん……何があったの?」
「こ、こはぁ〜」
まーさんが情けない声を上げる。
「私が来たら、こうなってて」
「これ……夏焼さんの机じゃん!」
夏焼さんはクラスのトップに君臨するカリスマ生徒。
絶対に敵に回したくない人だ。
「うん」
「誰がやったの?」
「……知らない」
- 166 名前:白い登校1 投稿日:2008/06/20(金) 21:29
- 夏焼さんの机、その周囲には色とりどりの蛍光塗料が飛散していた。
塗料の正体は、すぐにわかった。
「購買で売ってるカラフルペンだよね?」
末黒野中学購買で売っている人気の蛍光マーカーだ。
まぁ人気というよりは、他にマーカーが売ってないから
カラフルペン以外に選択肢はないわけだけれど
色とりどりのキャップが、半透明のケースから見えてかわいい、と評判だった。
近所に文房具屋のない田舎の中学生の間で流行るものなんて限られている。
私が聞くと、まーさんが床からピンク色のペンを取った。
正確にはペンの残骸を……。
改めて辺りを見回すと
あっちに青。むこうに黄色。
夏焼さんの机だけでなく、その周辺の机や椅子にまで被害が及んでいる。
なんてことだろう。
犯人は
夏焼さんのカラフルペンをばらまき
何かで叩いて砕いてしまったらしい。
よりによって夏焼さんのを……。
その異様な光景に私たちは立ちすくむしかなかった。
飛び散った蛍光塗料。バラバラにされたペンたち。
犯人の悪意がグロテスクに炸裂している。
抑圧された人間の醜い部分を見せつけられているような
嫌な気分になった。
- 167 名前:白い登校1 投稿日:2008/06/20(金) 21:29
- 「ねぇ、こはぁ、まずいよ」
「う、うん。夏焼さん、キレるよね」
「それどころじゃないよ!」
まーさんが泣きそうになってる。
「学校に私たちしかいないんだよ!絶対疑われる」
「あ……」
そうだ。足跡だ。
学校へ向かう道には
私たち2人の足跡しか残っていないんだ。
しかし私は笑った。
「平気だよ。犯人は昨日のうちにいたずらしたんだよ」
「それは、あり得ない」
「何で?」
「昨日、みんな一斉に教室を出たじゃん」
「……」
そうだった。
昨日は、雪がひどくなるから早く帰るようにと言われて
みんなして教室を出たのだった。
その後は先生たちが、残っている生徒がいないか見回っているはずだ。
こんな派手ないたずら、先生がそのまま放置するはずがない。
「つまり昨日の犯行は不可能だった。
犯人は今日、ペンをバラバラにしたんだ」
- 168 名前:白い登校1 投稿日:2008/06/20(金) 21:30
- 「でも……でも、まーさん。犯人は足跡を残してない」
「そう。雪が止んだのは、午前3時。
それ以前に誰かが登校しているはずがない」
「だけど、午前3時以降に歩いたら、絶対足跡が残ってしまう」
犯人はどうやって……学校に来たのか。
それを見つけなくてはならない。
見つからなかった場合、状況的に
犯行が可能だったのは私たちだけ、ということになってしまう。
「やばいよ……」
「うん……」
カラフルペンバラバラ事件。
それはまーさんにとって
宿敵との対決でもあった。
- 169 名前:いこーる 投稿日:2008/06/20(金) 21:31
- 本日の更新は以上になります。
今回も、読者様に参加いただける推理クイズを予定しています。
よろしくおねがいします。
- 170 名前:いこーる 投稿日:2008/06/20(金) 22:58
- 今回は学校周辺の地理が重要になってきます。
図があった方が推理しやすいと思って、用意しました。
ttp://berryfields.hp.infoseek.co.jp/
こちらのサイトに「春立の学園 特設サイト」がございますので、お役立てください。
- 171 名前:白い登校2 投稿日:2008/06/27(金) 19:28
- まずい……。
実にまずい。
犯人が私たちとしか考えられない状況で
始末に困るいたずらが発生!
しかもその被害者は、クラスの絶対的なカリスマ、夏焼さん。
「こはぁ……」
まーさんが相変わらずの情けない声で聞く。
「このペン……誰の?」
「そ、そりゃ」
夏焼さんのだろう。
夏焼さんの机周辺でぶちまけられていたのだから。
「みやって、カラフルペン持ってたっけ?」
「みや?」
「あ……夏焼さん」
おや?まーさんが夏焼さんのことあだ名で呼んだ。
「これは夏焼さんので間違いないと思う」
「なんで?」
「ほら」
私は、机の脚に付着した赤いインクを指さした。
- 172 名前:白い登校2 投稿日:2008/06/27(金) 19:28
- 「夏焼さんの使ってるカラフルペン8にはこの色がある。
他のコのはみんな5色セット。5色には濃い赤は含まれていない」
購買で売っているカラフルペンセットには種類が2つあった。
カラフルペン5:ピンク・オレンジ・黄色・緑・青
カラフルペン8:赤・ピンク・オレンジ・黄色・黄緑・緑・青・紫
「8色セット持ってるのって、みやだけなの?」
……またみやって言った。
「そのはずだよ」
夏焼さんがカラフルペン8を買って使い始めたことから
他のコも真似をし始めてグループ内でブームになった。
夏焼組のグループでみんなが買い始める。
しかし、なぜかみんな5色セットの方を買った。
8色セットの使用はリーダーである夏焼さんだけの特権となった。
別に、夏焼さんが指示したわけじゃないと思うけど
子分たちがみんな5色を買っているのに
8色を買う勇気のあるコがいなかったのだろう。
そんなことをしたら、抜け駆けしたと言われ
グループ内でも冷たくされてしまう。
このクラスはそう、乾いてて冷たくて、自己中心的なやつらばっかりだ。
夏焼組メンバーがそうやって8色を夏焼さんだけのものにしてしまった。
対抗する徳永組はというと「そんなの使わないよねー」と決め込み
カラフルペンを使う者は1人もいなかった。
- 173 名前:白い登校2 投稿日:2008/06/27(金) 19:28
- 私?
……持ってますが何か?
……5色ですが。
「だいたい、8色セットなんて必要ないんだよ!」
私はなぜか怒った声を出してしまった。
「確かに、あれ大きくて邪魔だもんね」
そうなのだ。カラフルペン8は、机上で扱いに困るサイズなのだ。
夏焼さんだって授業中は、ケースを机にしまって
必要なマーカーだけをその都度、机の中から取りだしていた。
もっとも、夏焼さんは色の順番をしっかり把握していて
目的のペンを見もせず、ブラインドタッチで取り出していたけれど。
夏焼さんはなかなかどうして、まめまめしい能力の持ち主らしい。
「じゃ、これはみやの物で間違いないんだね?」
「うん。8色使えるの、クラスじゃ夏焼さんだけだし
ぶちまけられた机だって夏焼さんのだし、間違いないよ」
徳永組のメンバーは、夏焼組のメンバーとはまず話をしない。
用事があるときには、第3勢力の私かはしもんにわざわざ伝言を依頼に来るくらいだから
夏焼組で流行しているペンなど持っているはずがない。
やはり、このペンは夏焼さんの物だ。
- 174 名前:白い登校2 投稿日:2008/06/27(金) 19:29
- しかしその結論は正直、好ましくはない。
他のコのものであった方が、夏焼さんの怒りもその分小さかったのだが……。
ほんっとに、
「よりによって夏焼さんのを……」
犯人は何を考えているのだ。やばすぎるだろ。
「ね、まーさん、どうする」
「ううぅ……」
まーさんは頭を抱えてしまった。ま、予想通りの反応だったけどね。
このコは頭は良いわりに、決断力がないのだ。
仕方ない。
私が決めよう。
今のところ時間が早いこともあって誰も来ていないが
いつ誰が来るか、全く予測できない。
足跡の状況からいって
私とまーさんが疑われることは避けられない。
それなら……
A:「いたずらの痕跡を隠せ!」
B:「真犯人をつかまえろ!」
C:「逃げろ!」
- 175 名前:白い登校2 投稿日:2008/06/27(金) 19:29
- 時間的に真犯人を捜している暇はない。
犯人追跡のためには足跡トリックを解明しなきゃならない。
この雪密室、難易度高そうじゃないですか?
ということで、真犯人の推理は却下。
え!?とか言わないでね。時間がないんだから。
では、逃げてしまえばどうか?
残念ながら私たち2人とも、しっかりと足跡を残してしまっている。
しかも、田んぼばっかりの須黒野町のことだ。
反対側から誰か歩いて来たら逃げ場所がなくなる。
疑われないように逃げおおせるには
誰にも見られず須黒野駅までたどり着き
誰にも見られず電車に乗り
誰にも見られず葉桜町まで戻らなくてはならないのだ。
途中で誰かにばったり出くわしてしまえば
足跡の正体が私たちであることがバレてしまうし
そうなったとき「なぜ逃げたか?」と疑問に思われて
余計に不利な状況を招いてしまうことになる。
逃走はかなりリスクが高い。
結論……
→A:「いたずらの痕跡を隠せ!」
「ええぇぇぇ!?」
まーさんは仰天した。
- 176 名前:白い登校2 投稿日:2008/06/27(金) 19:29
- 「まーさん!なんとかして、いたずら自体をなかったことにしちゃうんだ」
「こ、この状況を?」
改めて教室を見回す。
あちこちに飛び散ったインク。
砕かれたペンたち。
たしかに、取り繕うのは大変そうだ。
しかし他の選択肢よりは、わずかだがリスクが小さいようにも思う。
「無理だよ!無理!」
「そんなこと言ったってクラスから疑われてもいいの?」
「……」
まーさんは
人の視線に晒されるのを極度に恐れる癖がある。
授業中に当てられたとき、わかっていても絶対答えないくらい重傷。
たとえ一時であっても、クラスから犯人扱いされるなんて耐えられないだろう。
「ね!隠すしかないよ」
「……」
まーさんは下を向いてしまった。
そしてぼそっ、と
「みやの目はごまかせないよ」
「え?」
さっきから、まーさんは夏焼さんのことみやっていう。
「まーさん、夏焼さんとなんかあったの?」
- 177 名前:白い登校2 投稿日:2008/06/27(金) 19:29
- 「小学校のころ……ね」
小学校のころ、ということは私はまだ新潟にいた。
「私とみやと、もう一人のコでいつも遊んでたの」
「まーさん、夏焼さんと仲良かったの?」
「もう、昔の話」
まーさんの表情がさらに暗くなった。
あまりの暗さに、私は質問をすることができない。
だから、まーさんの言葉が出るのをじっと聞くしかなかった。
「私たち、推理が好きで、よく一緒に探偵ごっこをしていた。
みやは、目が良くて証拠を見落とさないから
私たちの間では『捜査担当』ってことになってたの。
すごいんだよ。壁をざっと見ただけで
『以前、ここに画鋲が刺さってた』とか見抜いちゃうんだから」
確かに、夏焼さんは「教室が密室」事件のときも鋭かった。
「で、もう一人のコはみやの集めてきた証拠を見て
真相を考える『思考担当』。めっちゃ頭のいいコでね」
まーさんが頭良い、と認めるとはよっぽどだろう。
ホームズのお兄さんってとこか。
「まーさんは?何担当?」
前回の事件で、あれだけの探偵力を発揮したまーさんだって
相当活躍したに違いない。と、思っての質問だったのだが
- 178 名前:白い登校2 投稿日:2008/06/27(金) 19:29
- 「語り担当」
思いっきり予想外の答えが飛んできた。
この人見知りで決断力に欠ける超絶マイペース娘が、語り担当?
驚愕の真相!
このまーさんが語り担当を務めるとは
恐るべきハイレベル探偵集団だ。
そして……
夏焼さんはその中でも
捜査担当を任されるほどの観察眼の持ち主。
下手な証拠を残してしまえば、即座に見破られてしまう。
私は教室を見た。
「この……悲惨な状況を……」
「そう。みやに気づかれないように修復しなくちゃいけない」
「……」
私の手が、柄にもなく震えていた。
「こはぁ」
「何?」
「もし……証拠隠滅に失敗したら、さらにまずいことになるかもよ」
「……」
まーさんの言うとおり。
やるからには
万全を期して、完璧に元の状態に戻す必要がある。
- 179 名前:白い登校2 投稿日:2008/06/27(金) 19:30
- しかし
水性マーカーのインクはどうにでもなると思うが
砕けてしまったペンの方は修復しようもない。
「うう、厳しいな」
「でしょう?」
しかし
だからと言って、それ以外にこの危機的な状況を打破できるとも思えない。
考えろ……
何か良いトリックはないか……
考えろ……
ん?
違うぞ。
私1人で考えるんじゃない。
インクを拭いたりするのはしてもいいが
トリックの考案なんてのは、
私の隣に立ちつくしている推理オタクに任せた方がいいに違いない。
さっきからまーさん、弱気になっているけれど
この人を上手く乗っけてその気にさせればいいじゃないか。
「まーさん!」
「何?いきなり大きな声出して……」
「なんか、ワクワクするね」
「な、何が?」
「推理小説の犯人になった気分じゃない?」
その瞬間、まーさんの表情が変わった。
怯えるウサギの顔が一気に
狡猾なヘビの表情になった。
- 180 名前:白い登校2 投稿日:2008/06/27(金) 19:30
- 「まーさん、犯人役、やってみたくない?」
「でも……だけど……」
いいぞ、いい感じに揺らいでいる。後一押し。
最後のとどめに、まーさん大好きの探偵ごっこをふっかける。
「小鳩君の知恵で、この状況を打破して欲しいの」
「小山内さんの頼みじゃ、仕方ないかもしれないね」
よし来た!
「こはぁ、やるよ!」
「うん!」
「まずは手駒を揃えよう。
無傷のペンが何本あるか探して!」
「おう!」
かくして
須藤茉麻 VS 夏焼雅
因縁の対決。その火ぶたが切って落とされたのだった。
次回ミニクイズ。倒叙形式(犯人視点)でお楽しみください。
- 181 名前:いこーる 投稿日:2008/06/27(金) 19:30
- 本日の更新はここまでとなります。
- 182 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/28(土) 17:33
- 待ってました!これからの展開が楽しみです。
それにしても思考担当が気になりますね…
- 183 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:25
- 私たちは教室中を歩き回って
カラフルペンの残骸をかき集めながら
夏焼さん周辺の机を入念にチェックし
被害状況を余すところ無く確認した。
犯人がペン以外にもいたずらを施している可能性を考慮して
夏焼さんのロッカーを開けてみたりもしたが
中には教科書・辞書が整然と並んでいるだけで
ペン以外に、いたずらは確認できなかった。
つまりペンのいたずらさえ隠しおおせれば
私たちの平和は保たれる、ということだ。
「よし、調査はここまでとしよう」
まーさんが、自分の机上に集めた物を並べていく。
<カラフルペンの状況>
・無事だったペン:黄色・青・紫
・破壊されたペン:赤・ピンク・オレンジ・黄緑・緑
・無事だったキャップ:ピンク・オレンジ・黄緑・緑・青
・破壊されたキャップ:赤・黄色・紫
- 184 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:25
- 「うわー。面倒くさっ!」
すっごく、ややこしいことになっている。
これなら全部壊してくれよ、と意味不明なキレ方をしそうになったけど
ギリギリで止めた。
「どこから取りかかればいいか……」
私たちがやるべきことは
@カラフルペン8を元の状態に戻す。
A教室に飛散したインクをぬぐい、痕跡を消す。
「まずは、ペンの修復からいこう」
まーさんは、難問の方から取りかかるつもりらしい。
私は組み合わせを確認した。
本体、キャップが同色で組み合わさる者は……1つしかない。
「青は問題ない」
そう言うと、青のペンにキャップをはめた。
<完成:青>
「……ってまーさん、1本しか復活しないじゃん!」
青以外のペンは、本体かキャップのどちらかが破損していて元に戻せない。
いきなりピンチか。
- 185 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:26
- 「こはのペン、貸して!」
おお、そうか。私のペンと取り替えちゃえばいいんだ。
私は自分の机からカラフルペン5を取り出し、まーさんに渡した。
まーさんは青以外のペンをケースから出すと、机の上に並べた。
8色セットと5色セットになにか外見上の違いがあったらごまかせないが
見たところ、違いはない。
私のペンがセットに混じっていても、きっと区別はつかないだろう。
インクの減り具合は外側から見ることはできないし。
「よし、5色は私のと取り替えればOKだ」
<完成:ピンク・オレンジ・黄色・緑>
あっという間に5色が完了。
残るは、5色セットにはない「赤」「黄緑」「紫」だ。
時計の音が、寒い教室に大きく響いていた。
残りの3色で本体が破損しているのは赤と黄緑。無事なのが紫。
キャップが破損しているのは赤と紫。無事なのが黄緑。
手持ちで使えるのは、紫の本体と、黄緑のキャップのみ、ということだ。
「……だめじゃん」
これでは、3つとも復活できない。
- 186 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:26
- 「こはっ!よく見て。ペンの本体に色の区別がない!」
「え?」
「この青のペン。どうして青だってわかるの?」
「そりゃ、キャップの色が青だから……」
「それ以外では?」
「……むむ」
「キャップがないとわかんないでしょ?」
「本当だ」
なんとこのカラフルペン、キャップには色がついているが、本体は黒一色。
閉じてしまうとそのペンが何色か示すものがなくなる。
もちろん、キャップが開いていれば、インクの色で簡単にわかるし
キャップしている時は、キャップが何色かを示してくれるから
通常使う分には全然問題ないわけだが
例えば、黄色のペンに赤のキャップをしてしまった場合
キャップを開けるまでは赤のペンにしか見えなくなる。
「やった!なんて使えるペンだ!」
これなら、キャップが無事な色に違う本体をつっくけても平気だ。
- 187 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:26
- 夏焼さんはペンを教室に置きっぱなしにしているくらいだから
勉強以外の目的では、このペンを使わないのだろう。
そして、今日は休校。授業がない。
つまり、ペンの中身が違っていても、夏焼さんは気づかない!
私は、本体だけが残された黄色のペンに、黄緑のキャップをかぶせた。
うん。これで、どこからどう見ても黄緑のマーカーだ。
<完成:黄緑>
「よし!いいぞ。上手く組み合わせれば8色全部完成するかも!」
まーさん、ぼそっ、と
「『占星術…』みたい」
と、有名な推理小説のタイトルを挙げた。
人体のつなぎ合わせならぬ、マーカーのつなぎ合わせか。
「これ……明日になったらバレちゃうね」
「その頃には容疑者の範囲が広がるから……」
なるほど、私たちだけが疑われる状況は避けられるってわけか。
って、それでいいのか名探偵!?真犯人を捕まえるとか、しないの?
「だって……聞き込みとかしたくないし」
まーさんは相変わらずの消極さだったが
今はそれを議論している場合ではない。
残りは赤と紫だ!
- 188 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:26
- さあ、ここからどうする?
中身をすげ替えるトリックはキャップが無事でないと使えない。
キャップの壊れた赤と紫は、ごまかすことができない。
本体は何でもいいが、キャップだけは正しい色でないといけないのだ。
「誰か、カラフルペン8を持ってる人いない?」
と、まーさんは言うが無理な話だ。
「そんな人、このクラスにはいないよ」
だって、あれは夏焼さんだけしか使っていなかったんだから。
だからこのクラス内に赤と紫は1つしか存在しない。
そして、そのキャップは壊れている。
ここはトリックを使うしかなさそうだ。
何か、キャップの色をごまかすようなトリックはないか?
「まーさん、ピンクのキャップつけて、赤ってことにできない?」
8つもあるんだから、そういうのが混じっていても気づかないんじゃないか?
と思ったが
「ピンクが2つ並ぶことになる。みやがそんなの見落とすわけがない」
と言われた。そりゃそうか。なんせ「捜査担当」だもんな。
- 189 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:26
- 「キャップをポスターカラーで塗っちゃうってのは?」
「きれいにできる?」
私は、ピンクのキャップを手にとって見た。
小さな筒状のプラスチックにポスカで色をつける作業は難しそうだ。
下地の色を完全に覆わなくてはならないし
斑をなくすためにはある程度厚く塗る必要がある。
といっても、あんまり厚すぎるとかえって不自然さが目立ってしまうかもしれない。
「捜査担当」を相手に、完璧に塗りつぶすことは難しい。
それになにより……
「時間が足りないと思う」
いつ、人が教室に入ってくるかわからない状況なのだ。
となると、手の込んだトリックはどれも使えなくなってしまう。
色をごまかすトリック……色をごまかすトリック……。
「……ダメだ。思いつかない」
残念ながら、私の思いつく方法は、完全に尽きてしまった。
と、そのとき
「そうだ!」
まーさんがはっ、と顔を上げた。
「ナトリウムランプがあれば……」
「無理!!」
何か、ものすごい超絶トリックを思いついたっぽいが
聞く前に却下する。
高速道路のトンネルじゃないんだから!
- 190 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:26
- 「ねぇ、ケースに入れても色ってわかるかな?
今日はみやもケースから取り出さないだろうから
ケースの色によってはごまかせるかも」
「そりゃダメだまーさん。透明なぐにょぐにょケースだもん」
「ぐにょぐにょケースって……」
「ほら」
私は実物を見せた。
ケースは箱ではなく、封筒状のもの。上からペンを差し入れていき
袋の上にべろべろんの蓋をする。
蓋も透明なビニール製だ。
このときキャップは当然、上向きに入れる。ケースの下からはペンが取り出せないから。ということは、透明な蓋をしていても色が見えてしまうのだ。
「あのね、こは。これビニールケースとかソフトプラスチックケースって言うんだよ」
「いいじゃん。わかりやすくって。ぐにょぐにょでべろべろん〜」
「はぁぁ……」
まーさんがため息をついた。
「やっぱ、ケースに入れても色が違ってたらバレちゃうかぁ」
- 191 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:27
- 「どうしても赤と紫のキャップは必要」
私はそう言った。他のキャップで代用はできない。塗りつぶすのも無理。
透明なケースだから、色をごまかすことはできない。
どうしても赤と紫のキャップは実物でないといけないのだ。
しかし……この教室内で唯一の持ち主である夏焼さんのキャップは壊されている。
……と、待てよ。
このクラスでは夏焼さんしか持ってない。
それが、3−2の暗黙のルール。
なら……
「隣のクラスから借りればいいんだよ!」
私は思いつくと、早速携帯をかけた。
相手は隣のクラスの友達。
「もしもしぃ?」
「あ、みっつぃ?」
「だれ〜。久住さん?」
みっつぃ、寝起きっぽい声を出した。
「ねぇ、みっつぃ。君のカラフルペンを貸して」
「んー。今、久住さん学校におるん?」
「そうだよ。だから貸してって言ってるの!」
「はぁ、ほんならロッカー入っとるから、ええよ」
「ありがとう!」
私たちは大喜びで、3組の教室に駆け込んだ。
このとき、私たちは、みっつぃの凄さを目撃する。
- 192 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:27
- みっつぃのロッカーを開けると中から出てきたのは……
「うわっ、すごっ」
カラフルペン30という、特大セットだった。
群青とか山吹とか萌葱とか、細かく色分けされている。
購買では手に入らない30色セットをわざわざどこかで買ってきたらしい。
なんなんだあのコは?
「でも、これなら赤と紫が使える」
私は喜びの中で、ケースの両端にあった赤と紫のペンを取り出した。
しかし、なんと名前が書いてあった。
「み……みっつぃ〜〜」
几帳面なことに30本全て、キャップと本体部分にそれぞれ名前が書かれている。
キャップには黒いサインペンで名前があり、
本体はもともと黒いので修正液を使って白い名前が記されている。
ほんっと……なんなのよあのコ。
困った。他には、頼れるコは思い当たらないし……
「どうしよう」
「こは、名前消しちゃおう!」
「それはさすがにみっつぃ〜が困るでしょう」
「平気だよ!明日までに返せばいいんだから。
帰りに文房具屋に寄っていこう!」
「わ、わかった」
仕方がないので、私たちは名前を消すことにした。
まーさんの持っていたポケットティッシュを水で濡らし
サインペンのインクを落としていく。
インクは水性だったようで、すぐにきれいにすることができた。
拭き残しがないか慎重にチェックする。
- 193 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:27
-
「OK!まーさん、本体はどうする?」
「修正液は、やめとこう。跡が残ったらまずい」
確かに、相手が相手だけに、ちょっとの拭き残しでも命取りになりかねない。
修正液を拭うことに時間をかけるよりも、別の色で代用した方がいいだろう。
本体は開けなければ色がわからないのだから。
紫の本体はもともと無事だから問題がないわけだし
赤の本体だけ代用すればいい。
2組に戻って、無事だった紫の本体に、みっつぃの紫キャップをかける。
赤のキャップは手持ちの中で唯一残った、もともとは私のものだった青のペンにつけた。
<完成:赤・紫>
「よーし、ペン完成!」
ずらりとならんだ8色のペン。偽装があるなんて、開けなければ絶対わからない。
よーし、これなら夏焼さんをごまかせる……。と思っていたら
- 194 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:28
- 「ねぇ……」
まーさんが、暗い声をだした。
「何?何か問題?」
「どういう順番でケースに入ってた?」
「あ……」
そうだ。ペンの順番が狂っていたら、夏焼さんが不審に思うかも知れない。
しかし、カラフルペン8がどういう順番になっているか見たことがなかった。
購買は閉まっているから、今から確認はできない。
まーさんが登校した時点で、すでにペンはバラバラになっていた。
まーさん自慢の記憶力でも、さすがに見ていないものはわからない。
「まーさん、私のペンはどういう順番だった?」
人に聞くのもどうかと思ったが、まーさんなら、絶対に記憶しているはずだ。
「ピンク、オレンジ、黄色、緑、青」
やっぱり!さすがまーさん。
そして、予想通り、色は系統ごとに並べられているらしい。
左から順に、赤系統から黄色、緑を経由して、青になる。
ということは……。
私は、8本のペンを並べてみた。
赤→ピンク→オレンジ→黄色→黄緑→緑→青→紫
「ね、こうじゃない?」
「赤から紫か」
「虹の配列だよきっと」
「そういえば、みっつぃのやつも赤から紫になってたね」
さすが、まーさんはよく覚えていた。
- 195 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:28
- 「でも……この赤とピンクの順だけは自信ないな」
「うーん。みっつぃのだと、赤が左だったけど」
「じゃ、これで合ってる?」
「たぶん」
「OK!じゃ、今度こそペンの修復完了!」
「次の問題は……」
まだ、何かあるのか?
「みやは、ペンをどこにしまってた?」
「なんだ。それは知ってる。机の中だよ。見たことある」
私は机の中にペンをしまう。
夏焼さんの机の中は、教科書類が整然と置き勉されていた。
サイズを上手く調節し、ほとんど隙間なく、無駄なく、教科書が詰め込まれている。
そこに調度ぴったりと、カラフルペンの入れる隙間が空いていた。
私はそこにペンをしまう。色が目立たないようにキャップを奥に向けて入れた。
こうしておけば立った位置からは色の配列が見えないことになる。
授業のない今日、夏焼さんがわざわざ席につくとは思えないから
色の配列に不備があったとしても、夏焼さんが不審に思うことはないだろう。
「次は、教室を掃除しないと」
「おう!」
ペンを取る可能性は低いと言っても、教室に飛び散ったインクの方は
完璧に消しておかないと、夏焼さんが異変を察するかもしれない。
とくにカラフルペン8にしかない「赤」「紫」「黄緑」のインクを拭き残そうものなら
即座に夏焼さんは、自分のペンを確認するだろう。
そうすれば、キャップのすげ替えトリックは見破られてしまう。
- 196 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:28
- 「と言っても、拭くだけだからね」
さっきのようなややこしいパズルは必要がない。
「よし、全部拭くぞ!」
見ると夏焼さんの席と、左の席が特にひどい。
「きっと犯人は、左の席の椅子を使って、ペンを壊したんだね」
「うん」
私は想像する。
犯人は夏焼さんのペンを出して、床に敷くと椅子の脚を使って砕いた。
インクが飛び出たペンを拾い、ボタボタ垂れるインクを
夏焼さんの机に塗りたくっていく。
……そこまでするか。考えただけで、背筋が寒くなった。
窓の下に一列にかけられた雑巾の中から、私とまーさんのを取って
(この学校は雑巾に名前を書いて、自分のを使う)
私たちは教室の掃除に取りかかった。
床の水性マーカーは水拭きをしてやると難なく消すことができた。
途中、砕けたペンの破片も見落とさぬように一つ一つ拾っていく。
特に赤・黄緑・紫の破片は要注意だ。
「よし!床OK!」
そう言って2人立ち上がってみた。
すると……
「やばい……この辺だけきれいすぎる」
夏焼さんの机付近だけがきれいになってしまった。
- 197 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:29
- 「た、確かに不自然だ。どうするまーさん?全部きれいにしちゃう?」
「それはダメ。昨日は雪が降るからって、一斉下校になって掃除をしていない。
教室がぴかぴかになってたら、私たちが何かしたって思われる」
「じゃあ……」
「わかった。これだ!」
まーさんはなんと、教室の後ろからゴミ箱を持ってきた。
「ま、まさか」
「ぴかぴかで不自然。だったら、汚せばいい」
まーさんはゴミ箱を傾け、周囲に綿埃をまいた。
「ほら、このくらいの方が自然でしょ?」
「そ……そこまでするか?」
「みやは……絶対に油断できない」
「そ、そっか」
まーさん、すごいこだわり。
「あー、この辺ゴミかたまりすぎ」
私が足で、まとまっていたゴミをさっ、さっ、と周囲に散らす。
- 198 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:29
-
と……そのとき私の心の中に、急な空しさが襲ってきた。
私たちは……一体何をしているのだ?
夏焼さんに怒られたくないという恐怖心で
雑巾をかけたり、ゴミをばらまいたり
他人のいたずらの尻ぬぐいに必死になっている。
もしかすると、夏焼組のみんな、こんな風にして
夏焼さんの機嫌を損ねないように一生懸命なのかもしれないと思うと
自分たちが、クラスの権力を支えるような行動を取っているのがバカバカしくも思えたが
それでも、今さら引くに引けなくなっている。
これは前回の「教室が密室」事件で、痛い程思い知らされた組織の論理。
個人を食い物にして肥大化するグループの権力構造だ。
中学校って、中学生って、なんておかしいんだろう。
卒業間際になって、ようやく私はそのことを思い知らされた気分だった。
それと同時に、こんないたずらをして夏焼さんに牙をむいた犯人に
ちょっと共感してしまう自分がいた。
- 199 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:29
- 気を取り直して椅子。こちらも雑巾で一拭きするだけできちんと落ちる。
私が机を拭こうとしたとき、まーさんが手を引いた。
「待って!強く拭くと塗料が剥げるかも」
「……そっか」
私たちはしばらく、机とにらみ合う格好になった。
「でも、から拭きじゃさすがにインクは落ちないし」
「塗料を剥がさないように、インクだけを落とそう」
「む、難しいな。机ごと隣と入れ替えちゃえば……」
「うーん。だぶん、みやは気づいちゃうと思う。
木目とか脚の高さとか、人の席に座ると結構違和感を覚える」
「そっか……じゃあ、やっぱり」
「力を調節して、拭くしかない」
私たちは力を加減しながらインクだけを落としていく。
変に緊張してしまい、腕がつりそうになった。
インクを拭うと、塗料に異常がないかを確認しながら
少しずつ作業を進めていった。
そうやって塗料を損傷せずにインクを全て拭き終えたときのことだった。
「まーさん!」
私は、窓の外を指さす。
学校に向かう南須黒町の田んぼ道に足跡が一筋。
その足跡の主が、こちらに向かってくる。
「あのコートって、……」
「夏焼さんだ!」
「まずい!急ごう!」
- 200 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:29
- 私たちは廊下に出て、大急ぎで雑巾を洗った。
そして雑巾かけに干す。
急げ……
「ねぇまーさん、私たちの雑巾だけ濡れてるのって、不自然かな?」
「それは……近くで見れば気づくかも知れないけど……」
「だとすると、隠しといた方がよくない?」
「そうすると、私たちの所だけ、穴が開いちゃう」
「他の雑巾全部の間隔を開ければいいんだよ」
名前は見えにくい位置に書いているコもいる。
というかこうして見ると、手に取るまで誰の雑巾かわからないものばかりだ。
出席番号順だから、左から数えていけば何番のコの雑巾かはわかるが
一覧しただけでは持ち主のわからない雑巾が多い。
私たちの分の雑巾2枚が抜けたとしても
残り34枚を等間隔に配置しなおせば一応、雑巾かけの端から端までが埋まるし
いくらなんでも36枚が34枚になったことには気づかないだろう。
「よし!」
まーさんが頷いたので、作業開始!
まず自分たちの雑巾は袋に入れて(私がビニール袋を持参していた)カバンに隠す。
残った雑巾の間隔を調整して見ると
完全にもとの教室と変わらない風景だった。
- 201 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:29
- 「よし……」
トリックは、完成した。
あとは、夏焼さんが来るのを待つだけだ。
「まーさん……大丈夫かな?」
「大丈夫……完璧にやった。気づかれはしない」
本当に……大丈夫か?本当に……
そのとき
私の背中にものすごい悪寒が走った。
―――何か……何か見落としてるぞ……
その正体はわからない。
しかし、私の直感はうるさいくらいに警報をならしていた。
「私たちはミスをしている。夏焼さんにトリックを見破られる」と。
もう夏焼さんはこちらに向かっている。
修正するチャンスは一度しかない。
私はまーさんを横目でみた。
しかし、まーさんは達成感に満ちた表情をしているのみ。
私がなんとかしなくては……。
- 202 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:29
- 私は必死に自分たちの行動を振り返る。
夏焼さんはキャップを開けない。
雑巾かけの配置も不審に思われることはない。
汚れの跡や水拭きの跡、ペンやキャップの破片は一切、残っていない。
それでも
やはり、夏焼さんは気づいてしまうだろう。
どこから、見破る?
―――そっか……
私の脳に閃光が走った。
―――やっぱり、ミスってる。
「まーさん!」
私は言った。
「やばいよ。1箇所、修正しなくちゃ!」
「ええ?」
「今ならまだ間に合う。早いとこ、直しておこう」
「ど、どこを?」
私は頷いて、気づいた箇所を指摘した。
その1箇所とは……
- 203 名前:白い登校3 ミニクイズ 投稿日:2008/07/04(金) 21:30
-
親愛なる読者様へ
小春と茉麻は、あと一歩のところで完璧なトリックを構築できたはずでした。
しかし誰にでもミスはあるものであり、完全犯罪というものは往々にして
名探偵の手であっけなく崩れ去る運命にあります。
そこで今回は読者様の手で、2人のトリックを完全なるものにしていただきたい。
作中にありました3つの条件を確認します。
・夏焼さんはキャップを開けない。
・雑巾かけの配置も不審に思われることはない。
・汚れの跡や水拭きの跡、ペンやキャップの破片は一切、残っていない。
それに以下の条件も付け加えます。
・夏焼さんがカマをかけた質問や、罠によって2人の犯行を暴くことはない。
・夏焼さんが第三者(光井さんを含む)から情報を得ることはない。
それでは出題します。
須藤、あるいは久住の犯したミスが書かれているのは、何レス目か?
*
解答はレス番号を3ケタの数字でお答えください。
この場合、メル欄ではなく、レス本文に書き込みいただいて構いません。
数字以外に文章による指摘は不要です(というか厳禁です)。
数字さえ合っていれば、読者様の勝ちですので。
内容予測やネタバレは
他の読者様のご迷惑となりますので、厳禁でお願いします。
感想は大歓迎……ていうかむしろください。お願いします。
- 204 名前:いこーる 投稿日:2008/07/04(金) 21:30
- 本日の更新は以上になります。
- 205 名前:いこーる 投稿日:2008/07/04(金) 21:33
- >>182
ありがとうございます。是非チャレンジしてみてください。
> それにしても思考担当が気になりますね…
茉麻たちの小学校時代については、ずっと前に書いたものがあるんです。
ttp://mseek.xrea.jp/sky/1080086138.html
こちらのスレの「奇天烈!キッズ探偵団」と「白雪姫毒殺事件」の中に登場します。
- 206 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/05(土) 15:40
- 195
結構真剣に考えました
- 207 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/07(月) 01:24
- 同上
- 208 名前:白い登校4 答え 投稿日:2008/07/11(金) 17:25
- 夏焼さんの足音が、コツコツと近づいてくる。
私たちは、立ちすくむのも変なので
椅子に座っておしゃべりしている振りをした。
ガラガラ
扉は、開かれた。
「あれ?」
夏焼さんが入り口で立ち止まる。
「な、夏焼さん、おはよう……」
声が無意識に高くなってしまう!落ち着け私!
「誰もいないの?」
「うん、今日は雪で休校だって」
「あ……そういや、貼り紙の跡が残ってたね。剥がしてあったけど」
そんなものがあったのか!?
確かにまーさんが電話で「本日雪のため休校だって」と言っていたけど
私は気がつかなかった。私が着く前に、剥がれてしまったのか。
「全然……気づかなかった」
「昇降口のガラス戸に
テープの貼ったような跡が4箇所あったよ」
さすが「捜査担当」は見逃さない。
改めて、今対峙している敵が、名探偵であるとわかる。
- 209 名前:白い登校4 答え 投稿日:2008/07/11(金) 17:25
- 「ま、しょうがないか」
そう言って
夏焼さんが
教室に
入った。
私の手の中が、汗でぐっしょりなっている。
夏焼さんは、ゆっくりと自分の机まで移動する。
カバンを机上に置いて、椅子を引いた。
って……座るの!?
もう、私の心臓は飛び出しそう。
夏焼さんは椅子に座って……止まった。
「ねぇ……まぁ」
「な、何?みや……」
「あんた何したの?」
ギクッ!!
バレた!?こんなに早く!?
一体……一体……どうして。
- 210 名前:白い登校4 答え 投稿日:2008/07/11(金) 17:25
- 夏焼さんはまだペンに触れてもいないはず。
ペンの配列には若干自信なかったが
座った位置からでは、ペンの配列までわからないはずだ。
まだだ……まだバレたと決まったわけじゃない。
うかつなことを言って、ボロを出さないようにしなくては。
「何の話?」
私はとぼけた。
「今日、先に教室に来たのはどっち?」
「……」
質問の意図が見えない……。これは、答えるべきか、黙っておくべきか。
と思っていたら、まーさんが
「私」
と答えた。
遅れながらも、まーさんの判断が正しかったとわかった。
夏焼さんのことだ。2人の足跡が並んでいなかったことくらいチェック済みだろう。
2人がバラバラに登校したことを、夏焼さんは知っている。
夏焼さんは、再び机に目を落とす。
「まあ、今日、学校に来てからなんかしたでしょ?」
これは……どう答えるべきだ。
何か夏焼さんが不審に思っていた場合「何もしてない」という解答はかえってまずい。
- 211 名前:白い登校4 答え 投稿日:2008/07/11(金) 17:26
- 私が固まっているとまーさんが答えた。
「したよ」
ドキンっ、となる。
まーさん!そんなこと言って、大丈夫!?
「やっぱりね……」
「みやは、さすが。見逃さないんだね」
「そりゃ、もちろん」
夏焼さんはまーさんの方を見て
にやり、と笑った。
「入り口の貼り紙はがしたの、あんたでしょ?」
「……」
私とまーさんは
同時に目を合わせた。
―――気づいて、ない。
- 212 名前:白い登校4 答え 投稿日:2008/07/11(金) 17:26
- 夏焼さんは得意になって言う。
「あの剥がし方、誰かがキレて八つ当たりしたって感じ。
しかも強い力でね。
一番最初に来たのがまぁだって聞いて納得した。
『休校』って言われて頭に来たんでしょ?」
「ふっ」
「ふふっ」
私たちは嬉しさの余り
思わず笑ってしまった。
「そうだよ。あれは私が剥がした。
廊下のゴミ箱に捨ててある」
まーさん、なんてこと……
「あーあ。今日授業ないんなら、来なきゃよかった。帰ろうかな?」
「うん!そうだ!!そうするといい」
「く……久住さん?どうしたの?そんな前のめりに……」
「な、何でもない」
夏焼さんは「変なの」と言うと立ち上がってカバンを持った。
「じゃ、私は帰るね」
「バイバイ」
私たちは、夏焼さんに手を振って見送った。
◇
- 213 名前:白い登校4 答え 投稿日:2008/07/11(金) 17:26
- 「いやー危なかったね」
須黒野駅に向かう帰り道。
足跡をつけながら2人、帰宅する。
「うん。こは、よく気がついたね」
「というか、そもそも私が余計なことをしちゃったわけだし……」
本当に気がついて良かった。
あのままだったら、夏焼さんは即座に、トリックを見破っていただろう。
「みや、机の中にケースをしまったままなんだよね」
「そう。授業中も机の中に入れたまま。
ブラインドタッチでペンを取り出す姿は私もよく知っている」
そう。夏焼さんの机の中は整然と教科書類がしまってあった。
机の中のペンケースも、きちんとポジションが決まっている。
だからこそ、見もしないで目的のペンを取り出すことができるのだ。
それなのに、私はキャップを奥に向けてしまっていた(>>195)。
あれでは夏焼さんはペンを取り出すことができない。
私は、夏焼さんが来る直前にそのことに気づき
ペンケースをキャップが見える方向に戻したのだ。
- 214 名前:白い登校4 答え 投稿日:2008/07/11(金) 17:26
- 「こは、葉桜で買い物するよ」
「え?」
「8色セットを買ってみやのペンを入れ替えておかないと。
今はキャップと中身がバラバラの状態だから。
光井さんに赤と紫、返さないといけないし」
「そうだね」
私はまーさんを見た。
「犯人……結局つかまえられなかったね」
「いいよ別に」
「でも、またいたずらするかも」
「いいよ別に」
まーさんは興味なさそうにそう言った。
私たちは別に警察じゃない。
自分たちの時間が保たれるのなら
それ以上のことは、する必要がない。
それはまーさんのポリシーみたいなものらしい。
空は晴れてまぶしい太陽が昇っている。
それは
私たちの平穏な気持ちを表しているみたいで
なんか嬉しかった。
「そうだ、まーさん。帰りに鯛焼き買っていこう」
「お腹空いた」
「まーさん、また5つくらい食べちゃうでしょう」
「余裕!」
学校のない日。
2人の楽しい時間は
これから始まるのだった。
- 215 名前:白い登校4 答え 投稿日:2008/07/11(金) 17:26
-
−了−
ENDING No.1「平和は守られた」
- 216 名前:白い登校4 答え 投稿日:2008/07/11(金) 17:27
-
- 217 名前:白い登校4 答え 投稿日:2008/07/11(金) 17:27
-
A:はじめから
B:つづきから
→B
- 218 名前:いこーる 投稿日:2008/07/11(金) 17:28
- これで終わりじゃつまらないですからね。
次回タイムチャートを戻してもう1つのパターンを更新します。
- 219 名前:いこーる 投稿日:2008/07/11(金) 17:30
- >>206
>>207
ありがとうございます。
解答いただけるのが、とにかく何より嬉しいですよ。
次回も是非ご解答ください。
次こそは……
- 220 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/11(金) 23:21
- 真犯人も気になるところです
- 221 名前:いこーる 投稿日:2008/07/14(月) 21:16
- 今から更新するのは、
正解者がでなかったとき用のストーリーです。
実はこっちが物語の本流のはずでした。
解答してくださった方がすばらしい頭脳で即正解だったため
あっという間にハッピーエンドとなりました。
さて、敗北編から犯人捜しへのストーリーをお楽しみください。
- 222 名前:白い登校4 投稿日:2008/07/14(月) 21:17
- 夏焼さんの足音が、コツコツと近づいてくる。
私たちは、立ちすくむのも変なので
椅子に座っておしゃべりしている振りをした。
ガラガラ
扉は、開かれた。
「あれ?」
夏焼さんが入り口で立ち止まる。
「な、夏焼さん、おはよう……」
声が無意識に高くなってしまう!落ち着け私!
「誰もいないの?」
「うん、今日は雪で休校だって」
「あ……そういや、貼り紙の跡が残ってたね。剥がしてあったけど」
そんなものがあったのか!?
確かにまーさんが電話で「本日雪のため休校だって」と言っていたけど
私は気がつかなかった。私が着く前に、剥がれてしまったのか。
「全然……気づかなかった」
「昇降口のガラス戸に
テープの貼ったような跡が4箇所あったよ」
さすが「捜査担当」は見逃さない。
改めて、今対峙している敵が、名探偵であるとわかる。
- 223 名前:白い登校4 投稿日:2008/07/14(月) 21:17
- 「ま、しょうがないか」
そう言って
夏焼さんが
教室に
入った。
私の手の中が、汗でぐっしょりなっている。
夏焼さんは、ゆっくりと自分の机まで移動する。
カバンを机上に置いて、椅子を引いた。
って……座るの!?
もう、私の心臓は飛び出しそう。
夏焼さんは椅子に座って……止まった。
「ねぇ……まぁ」
「な、何?みや……」
「あんた何したの?」
ギクッ!!
バレた!?こんなに早く!?
一体……一体……どうして。
- 224 名前:白い登校4 投稿日:2008/07/14(月) 21:17
- 夏焼さんはまだペンに触れてもいないはず。
ペンの配列には若干自信なかったが
座った位置からでは、ペンの配列までわからないはずだ。
まだだ……まだバレたと決まったわけじゃない。
うかつなことを言って、ボロを出さないようにしなくては。
「何の話?」
私はとぼけた。
「ここに、私のカラフルペン8が入ってる」
これは……
「うん。知ってるよ」
一瞬、身体が固まったが、夏焼さんが8色セットを使っていることは
私が知っていても不自然ではないので普通に答える。
机の中に入れてあることも、周知の事実。
わざわざとぼけるのは、かえって不審がられる。
夏焼さんが次の手を打つ。
「今日、先に教室に来たのはどっち?」
「……」
- 225 名前:白い登校4 投稿日:2008/07/14(月) 21:17
- 質問の意図が見えない……。これは、答えるべきか、黙っておくべきか。
と思っていたら、まーさんが
「私」
と答えた。
遅れながらも、まーさんの判断が正しかったとわかった。
夏焼さんのことだ。2人の足跡が並んでいなかったことくらいチェック済みだろう。
2人がバラバラに登校したことを、夏焼さんは知っている。
夏焼さんは、再び机に目を落とす。
「朝来たとき、私のペンどういう状態だった?」
まずい……。
夏焼さんはやはり、ペンの状態を不審に思っている。
焦る私たちに、夏焼さんが追い打ちをかける。
「私のペンに、異常はなかった?」
これは……厳しい質問だ。
足跡が私たち2人分しかなかったと、夏焼さんは知っている。
ここでまーさんが「異常なし」と答えた場合、
1、朝の時点で異常なし。
2、ペンには不審な点がある。
結論:犯人はまーさんだ!
ということになりかねない。
- 226 名前:白い登校4 投稿日:2008/07/14(月) 21:18
- ここは、潔くいたずらの事実を認めるべきか……。
しかし、夏焼さんがいたずらを見破ったかわからないのに
ここで下手なことを言ってしまうのも得策ではない……。
どうする……まーさん……。
その凍った空気のまま、たっぷり1分は経過していたと思う。
その沈黙を、
「さすが」
まーさんが破った。
「座っただけで、わかっちゃうんだね」
そう言って、がっくりとうなだれる。春冬コンビ、敗北。
しかたない。ここまできたら潔く負けを認めよう。
「夏焼さんのペン、バラバラにされてた」
私は、いたずらの悲惨な状態を、夏焼さんに説明していった。
私たちが犯人に疑われるかも知れなかったが、負けたのだから仕方ない。
「インクが……飛び散って?」
「そう、ペンも粉々に……」
夏焼さんは、机の中から、カラフルペン8を取る。
「うわー、全然、そんなのわかんない。
よくここまで元に戻せたね」
夏焼さんは、心底感心した様子で言った。
- 227 名前:白い登校4 投稿日:2008/07/14(月) 21:18
- 「床も雑巾かけも、全然、痕跡ないし。
まあ、やっぱあんたすごいわ」
あれ?
「夏焼さん、私たちが犯人と思わないの?」
「可能性はゼロじゃない。だけど、微妙かな。
犯人が自分のいたずらを隠すなんておかしいよ。
逆に、うちがそう考えるのを見越して、わざとやったのかもしれない。
いずれにしても……」
夏焼さんの声のトーンが、1つ下がった。教室が緊張する。
「誰かが、私に悪意を持ってる」
目つきが、突然暗くなった。
かわいいはずの目が前髪の影に入り、眼光だけが異様に鋭い。
夏焼さんが攻撃性を剥き出しにするときの表情だった。
夏焼さん、あなたそういうきつい性格直さないから、恨み買ってるんじゃないですか?
……なんて言えないけどね。
「まあ、久住さん」
「?」
「2人は、犯人じゃないんだよね」
ぎろっ、と睨まれる。
「ち、違うよ」
- 228 名前:白い登校4 投稿日:2008/07/14(月) 21:18
- 「じゃあ、真犯人は誰?」
「知らない。知ってたらあんな偽装工作しないよ」
「そりゃそうか……」
夏焼さんが、何かを考え出す。
「昨日は犯人にも、いたずらする機会はない。
足跡は、2人の分しかなかった。
なのに……2人とも犯人じゃない……。
うちとしては、2人が犯人ってことにした方が楽なんだけど……」
犯人ってことにした方が……
その言い方に、ぞっとなった。
夏焼さんには、真犯人を捜す気などないのだ。
確かに、不可解な状況で、夏焼さんが被害を受けたってことになったら
また徳永組との喧嘩になるに違いない。
犯人が特定できないという曖昧な状況は、関係ないコたちまで疑心暗鬼にさせ
結果、グループ抗争はより、険悪なものになっていってしまう。
誰でもいいから、犯人がはっきりしさえすれば、そのコに対して制裁を加えられる。
クラスのもやもやは解消され、普段通りの生活に戻れる。
クラスの均衡が乱されそうになったときの解決手段はただ1つ。
生け贄をつくること。それが真実であるかは、関係ない。
謎の犯人が夏焼さんに牙を剥いたとするよりも
友達少ない私たち2人が、根暗ないたずらをした、というストーリーの方が
夏焼組のみんなも徳永組のみんなも納得しやすいだろう。
結果、クラスの均衡は保たれる。
- 229 名前:白い登校4 投稿日:2008/07/14(月) 21:18
- まただ……
またしても、中立である私たちが都合良くスケープゴートにされようとしている。
夏焼さんが、もう一度私たちを睨んだ。
「犯人、探して」
……。
私たちは、顔を見合わせてしまった。
私たちは夏焼組の人間ではないから、夏焼さんの命令を聞く義理はない。
しかし、拒否した場合、私たちが犯人にされてしまう。
「小さくまとまる」が信条の私たちだって
降りかかる火の粉くらい、払わなくては。
真犯人を見つけるまでしなくてもせめて、自分たちの無実は証明しなくてはならない。
夏焼さんに従うことになるのは、正直悔しいけど。
「わかったよ。ペンの偽装トリックを見破られちゃったから
罰ゲームだね、まーさん」
私は、精一杯強がってみせる。
「みやも……」
「ん?」
「みやも、協力して」
夏焼さんは
笑った。
- 230 名前:白い登校4 投稿日:2008/07/14(月) 21:18
- 「ていうか、うちに対していたずらしてきた犯人だしね。
もちろん、一緒に捜査するよ。
真犯人が見つかったほうが、ありがたいし」
ん?
夏焼さん……、結局、私たちに協力して欲しかったのかな?
よくわからなかったが、とりあえず協定が結ばれた。
夏焼さんにとっては、打算的な協定に違いないが
「捜査担当」が味方になってくれたのは、ありがたい。
春冬コンビ + 夏
ここに、強力な探偵団が結成されたことになる。
「ところで夏焼さん」
私が質問する。
「どうしてペンの偽装がわかったの?
キャップも開けずに……」
夏焼さんはいたずらっぽく、にっ、と笑った。
へぇ。こんな表情もできるんだ。
- 231 名前:白い登校4 投稿日:2008/07/14(月) 21:19
- 「うちは、授業中、机の中から使うペンだけを出してる」
「うん、それは知ってる」
ブラインドタッチで、ペンを取り出す姿は私も見たことがある。
……って
「なんだ……そういうことか」
「気づいた?
いつもはこっち側向けてしまってあったのに
今日は、キャップが奥を向いてた。
あれじゃ、取り出せないよ。あんなしまい方、うちはしない」
思いっきり力が抜けてしまった。
ペンの配列も、キャップと本体のつなぎ合わせトリックも、全く意味がなかった。
ケースの向き1つのミスで、全てがパーになってしまったなんて……
私には
完全犯罪なんて無理みたいだ……。
こないだも藤本先生に、カンニング見つかっちゃったしなぁ。
- 232 名前:白い登校4 投稿日:2008/07/14(月) 21:19
- 「はぁぁ」
私はまーさん顔負けのでっかいため息をついた。
「ほら、気を落としてないで、真犯人見つけるよ!」
さっそく「捜査担当」がリーダーシップを取っている。
不本意だが、私たちはこれから始まる探偵ごっこを思い
なぜかワクワクしていた。
−そして、探偵団は捜査を開始する−
- 233 名前:いこーる 投稿日:2008/07/14(月) 21:19
- 以上になります。
- 234 名前:いこーる 投稿日:2008/07/14(月) 22:22
- >>220
はい。きちんと犯人を推理していきますので
よろしくお願いします
- 235 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/15(火) 00:16
- 犯人捜し楽しみです
話しとしては偽装がばれた方が断然面白そうですね
いろんな意味でキレキレ夏焼さんに期待してます
- 236 名前:白い登校5 投稿日:2008/07/21(月) 12:29
- 「まず、2人が犯人じゃないと仮説しよう」
夏焼さんが、事件の考察を開始したので
私たちも前のめりになって話を聞く。
「犯人は何らかの方法で、この学校に侵入した。
そしていたずらを仕掛けて逃げた……」
私は首を振った。
「学校から出るのは難しいと思う。
校門が南向きだから教室から丸見えだし」
「でも、2人はペンの偽装に夢中だったでしょ?」
「それはそうだけど、そんなこと犯人は知りようがない。
むしろ、窓から誰か見ているんじゃないかと思って
逃げるに逃げれなかったと、考えるべきじゃない?」
まーさんが話に加わる。
「実際みやが来たのはすぐに気がついた」
「そう。作業の途中でも、さすがに人が通ったら気づくよ。
雪道で、人影は目立ちやすいし……それに」
夏焼さんは頷いた。
「わかってる。帰りの足跡がないもんね」
さすが、話が早い。
- 237 名前:白い登校5 投稿日:2008/07/21(月) 12:29
- 「やっぱり、犯人はまだ、逃げてないんじゃないかな。
足跡がどうやったって残っちゃうよ」
「待って!」
まーさんが反論。
「犯人は何らかの方法で足跡を残さずに登校してきた」
「そりゃ……」
それが今回の事件の大前提だ。と言おうとしたら
「帰りも同じ方法で帰ったとは考えられない?
それなら足跡は残らない」
「どんな方法?」
「それは……わからないけど……」
夏焼さんが「うーん」と考え出す。
「確かに……来るときに足跡残さなかったんだから
そのまま足跡つけずに帰ることもできるか……。
まあ、何かトリック思いつく?」
「ヘリコプター」
っと。いきなり反則技登場!
「校庭には着陸した形跡がないし、屋上はスペースが足りない。
第一、こんな田舎に朝からヘリが降りてきたら大騒ぎだよ!」
夏焼さんが素早く三段つっこみを入れる。
- 238 名前:白い登校5 投稿日:2008/07/21(月) 12:30
- 私は他にも飛ぶ系のトリックをいくつか言ってみてが、全て夏焼さんに却下された。
気球やスカイダイビングは目立ちすぎだし、飛行機は着陸できない。
「ていうかさぁ、釣り合わないよ。
ペンにいたずらするのに空を飛ぶなんて大げさすぎる」
「そうだね。そんなお金があるなら夏焼さんの家に爆弾しかけてるよね」
この発言は、叩かれるかと思ったが睨まれただけだった。
「だから……もっと簡単なトリックなんだと思うよ」
夏焼さんの言う通りだ。
「確かにそうだね。
雪がたまたま今朝止んだから足跡が目立つようになったわけで
事前に大がかりなトリックを用意できたはずがないもんね。
足跡が残ることは、今朝になるまでわからなかったんだから」
そもそも、雪がめったに降らない地域なのだ。
犯人が使ったとすれば、手軽なトリックのはず……。
「あっ……」
私は手をポン、と叩いた。
- 239 名前:白い登校5 投稿日:2008/07/21(月) 12:30
- 「何?」
「スキーを履いてたとか」
「なかったよ、そんな跡」
夏焼さんがそういうのだから間違いないだろう。
「竹馬は」
「だめ。頭の体操シリーズじゃないんだから。
足跡も、その他怪しい形跡も一切なかった」
「スパイダーマンしながら来た!」
「は?」
「いや……だから、フェンスをつたって校舎まで来たとか」
「駅からずっと?」
「どこからかはわからないけど
実験してみればそういうルートもあるんじゃないかなって?」
私は子どものころ、高鬼という遊びをしているとき
一度も地面に足をつけずに帰宅するルートを開発したことがある。
他人の敷地に不法侵入していたけど……。
「うーん。でも学校は3面が田んぼに囲まれてるじゃん。
手前の歩道には、2人の足跡しかなかったし。
それに、フェンスから校舎まではどうやったって足跡が残る」
「そっかぁ……」
足跡を残さずには、登校も下校もできそうにない状況だ。
残念ながら、私の思いつく方法は、完全に尽きてしまった。
- 240 名前:白い登校5 投稿日:2008/07/21(月) 12:30
- と、そのとき
「そうだ!」
まーさんがはっ、と顔を上げた。
「マイスナー効果とか……」
「無理!」
何か、またしても超絶トリックを思いついたっぽいが
聞く前に却下する。
リニアモーターカーじゃないんだから!
……。結局、トリックはわからず仕舞いとなってしまいそうだった。
と私が落胆していると、おもむろに夏焼さんが立ち上がる。
「さーて、足跡トリックは思いつきそうにない」
夏焼さんは、たいして落ち込んだ様子もなく言った。
「なら自然に考えて足跡がどこかに残ってるはず」
なるほど。捜査担当は思考が現実的だ。
彼女にとってここまでの話は、トリックが使われていないことを確認したにすぎない。
ガラガラ。夏焼さんが扉を開ける。
「探そう!」
- 241 名前:白い登校5 投稿日:2008/07/21(月) 12:30
- 「え?」
「とりあえず可能性は潰しておかないと。飛ぶ系の仮説は、まずあり得ないけど
久住さんの言ったスパイダーマン説は、まだ不可能と決まったわけじゃない」
「けど、フェンスつたって来たら、フェンス上の雪が不自然にならない?」
私はなぜか、自分の説に自分で反論してしまった。
私の言った方法は足跡残さない代わりに、フェンスに変な痕跡を残すだけで意味がない。
そもそも
「どこにフェンスがあるんだよっ、て話だよね」
3面を田んぼに囲まれた学校に
どうやってフェンスづたいで侵入できるというのか。
そのとき
まーさんがポン、と手を叩いた。
「わかった。足跡はある」
「え?」
私と夏焼さんが同時にまーさんを見る。
「校舎の裏側から、非常階段経由で一階廊下に入れる。
あそこは鍵をかけないから。たぶん、そのルート」
「裏側って……、どうやってそこまで行ったの?道もないのに……」
言い終える前にまーさんの手が伸びてきて私の腕を強く引っ張った。
「痛っ……。ちょっと!」
まーさんはぐいぐいと私を引いて廊下に出た。夏焼さんもついてくる。
- 242 名前:白い登校5 投稿日:2008/07/21(月) 12:31
- 廊下の窓は寒さのせいで曇っていた。
まーさんは窓を開け
「ほらっ」
と、北側の田んぼを指さした。
「あ」
「そっか……田んぼ」
はたしてそこには足跡があった。
線路から田んぼを横切って一筋、校舎に向かっている。
その足跡は、確かに非常階段のところまで伸びていた。
◇
夏焼さんが近くで確認したいと言ったので
3人は1階まで降りていくことにした。
「ん?久住さん、こっちの階段の方が裏口に近いよ」
夏焼さんは、私たちが普段使わない階段の方に歩き出した。
途中で私が質問する。
「まーさん、どうしてわかったの?」
「私たちトリックとかバカなこと言ってた」
「え?」
「犯人は足跡トリックなんか使うわけなかったんだよ」
「それはさっき確認した、雪がいつ止むかわからないのに
大がかりなトリックを用意できなかったって話?
でも、朝起きた時点で雪が止んでいることに気づいたんだから
簡単なものなら用意できたんじゃ……」
- 243 名前:白い登校5 投稿日:2008/07/21(月) 12:31
- 「違う、こは。雪の状況を知ることはできた。
だけどその時点では、いたずらを決行するかどうか
犯人にはわからなかった」
「どうして?」
「だって犯人が登校してるってことは
今日が休校だってことを知らなかった。
そういうことになる。
だからこそ学校に来てるんでしょ?
あらかじめ休校だと知っていたらわざわざ登校して来ない」
「あ……」
そりゃそうか。
「犯人は学校に来て、はじめて休校を知ったんだよ。
教室に行ってみたら誰もいない。
そこで、あんないたずらを思いついてしまった」
「待った。まーさんは、休校だと知らないから登校したって言ったけど
犯人は始めからいたずらする目的で登校したかもしれないよ。
犯人はどこからか、休校の情報を得た。
今日、教室にいけば誰にも見られず日頃の恨みを晴らせるって考えて登校した。
それなら行きに足跡を残さないように注意することもできた」
「それはないでしょ」
横から、夏焼さんが言う。
「休校だって知ってても、教室に誰も来ないという保証はない。
実際、うちら3人も休校を知らずに登校してる。
教室に入るまでは、誰もいないことは知りようがないんだ」
「……そっか」
- 244 名前:白い登校5 投稿日:2008/07/21(月) 12:31
- 「だから」
まーさんが話を再開する。
「犯人は一切の足跡トリックを使っていない。
なのに正門には足跡がなかった。
結論は
正門以外から侵入した。
そういうことになる」
「なるほどね。だけど、よく田んぼを横切ったなんて気づいたね」
雪がないときは田んぼを歩こうなどとは誰も考えない。
「きっとその子は、雪が珍しくって
普段通らないところを通ってみたくなったんだろうね」
「なるほど。それで線路に、田んぼか……」
「線路の上って、誰でも一度は歩いてみたいって思うでしょ?」
私の地元は、普通に線路を歩く小学生がいっぱいいたが
関東の子どもは線路を歩くことなんてないんだろう。
雪で電車の止まっている今日みたいな日は線路を歩くチャンスだ。
犯人のコも、そんな心理で学校の北側から田んぼを横切って来た。
「北側からなら、昇降口に回るよりも非常階段から中に入った方が近い。
上履きがないけど……」
「上履きも土足も、気にしないコは気にしないからね」
「うん。犯人は校舎内を通って下駄箱に行き
上履きを取って教室に行ったんだ。ほらっ」
- 245 名前:白い登校5 投稿日:2008/07/21(月) 12:31
- 1階の廊下。まーさんが指さしたところが水に濡れている。
水跡は非常階段口と下駄箱を結んでいて、まーさんの説が正しいことを証明していた。
誰かが今朝、ここを濡れた靴で通過したのだ。
私たちは非常階段口まで走って行く。
扉を開けると、さっき上から見た通りの足跡が残っていた。
「よし、手がかり」
捜査担当はそう言うと
自分の靴を脱いで、残された足跡の上にかぶせる。
すると、ぴったりはまった。
「これ、学校指定の靴だ」
さすが行動が早い。
だけど、学校指定の靴跡だとわかったところで
「そんなの何人もいるよ」
それじゃあんまり手がかりにならない。
「いや、そんなことないよ」
「どうして?」
「いい?久住さん。
さっきまぁが言ったとおり、犯人は一切のトリックを使っていない。
足跡は、こっちに向かってくるものが一筋だけ。
校舎から出て行ったものはない。
つまり、犯人はまだ校舎内にいる」
確かに。論理的だ。
- 246 名前:白い登校5 投稿日:2008/07/21(月) 12:32
- 「水跡は下駄箱に向かっていた。
よって、犯人は上履きに履き替えている。
以上2つの条件から……」
まーさんと私は
同時に言った。
「犯人の靴は下駄箱に残ってる!」
「当たり!」
夏焼さんは、嬉しそうに笑って下駄箱に駆けだした。
いや……、その捜査力。感服する。
◇
しかし
ちょっと私たちは遅かった。
その時点で、夏焼さんの後にやってきた
2人の分の足跡が正門ルートに追加されていたため
容疑者が特定できなくなってしまったのだ。
とりあえず夏焼さんは3年2組全員の下駄箱を豪快な音を立てて開けていく。
ほとんどの下駄箱には上履きが残っていたが
6つだけ、学校指定の外履きが入っているものがあった。
下駄箱に靴があったのは6人。
まーさん、私、夏焼さんの3人に加え
秋山さん、岡田さん、徳永さんの3人。
- 247 名前:白い登校5 投稿日:2008/07/21(月) 12:32
- 「この3人の誰かが……」
「見て、久住さん」
夏焼さんが外を指す。
「足跡が、増えてる」
この時点で正門ルートの足跡が合計5つ。
非常階段口ルートの足跡(犯人の足跡)が1つで合計6つ。
学校を出て行く足跡はゼロ。
校舎にいる生徒数と、足跡の数が一致したことになる。
それ以外に誰かが出入りした形跡はなし。
読者の皆さんには、その後わかったことを
ちょっとだけお伝えしておこう。
朝、「本日雪のため休校」の貼り紙をしたのは宿直の用務員さんで
この人は用務員室と昇降口を往復したのみ。あとは一歩も宿直室から出ていなかった。
もちろんクラスに関係ない用務員さんは犯人ではあり得ない。
また私が犯人でないことは自分自身がよく知っているし
夏焼さん自身も私たちが偽装工作をしている途中に登校してきたのを
私とまーさんによって目撃されているので犯人ではあり得ない。
つまり、容疑者は
秋山さん、岡田さん、徳永さん。
……忘れちゃいけない。
まーさんもまだ、容疑者圏から外れていないのだった。
容疑者は4人。この中に、犯人は必ずいる。
- 248 名前:いこーる 投稿日:2008/07/21(月) 12:32
- 本日の更新は以上になります。
- 249 名前:いこーる 投稿日:2008/07/21(月) 12:33
- >>235
そーなんですよ。
どうしてもこっちのパターンで続きを書きたかったので
タイムチャートを戻したのは苦肉の策ですね;汗
- 250 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/25(金) 00:11
- 第1話の頃はまぁが苦手だったので、ここも今一の印象でしたが、
まぁの魅力が解って読み返したら、とても面白く読めました。
ここの季節は冬ですが、春になって高校生になったら、
思考担当も出演してくれるのかな?
- 251 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:34
- 「この3人を探そう!」
「どこに行ったのかな?」
「教室は?」
私たちが非常階段に行っている間に
入れ違いになった可能性がある。
「そうだね。戻ろう」
まーさんがうなづいて歩き出した。
「待って」
夏焼さんが呼び止める。
「教室に何人いるかわからないけど
入ったら、1人1人バラバラに尋問するよ」
「じ、尋問するの?」
「まさか犯人が正直に『裏ルートを使いました』なんて言うわけない。
登校時間、通ったルートを正確に聞き込めば、ボロを出すかも知れない」
なんとも捜査担当らしい発想だ。
私たちが考えないような方法で
犯人を特定しようとしている。
それにしても……
「なんで2組の人たちだけ登校してるかな……」
足跡ルートを発見した途端、容疑者が3人も増えるなんてご都合主義もひどすぎる。
なんだって休校の日に2組の生徒ばかり6人も集まってくるのだ!?
- 252 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:34
- 「がっかりだね」
「本当。『かまいたちの夜2』で犯人当てたのにフラグが立ってなくて逃げられた
みたいな理不尽さだ……」
まーさんこれまた、わかりにくいたとえだ。
「タイミングも悪かったね。うちら1階に降りるまで
話しながらゆっくり歩いていた。
その20分くらいの間にみんなが来ちゃうなんてね」
と夏焼さんが言う。
そのとおりだった。
私たちが足跡について、歩きながら議論をしている間に
その他のコたちは登校してきたのだ。
私たちは足跡を見るために、昇降口からは遠い方の階段を使った。
その間に、みんなもう1つの階段を使って教室に行ってしまったのだ。
◇
教室に戻ると徳永さんと秋山さんが話をしていた。
まずは夏焼組の秋山さんの方が聞き込みやすい、ということで
秋山さんを廊下に呼び出す。
徳永さんに不審がられないかと心配になり
教室の中をうかがったが、徳永さんは気にせず漫画を取り出していた。
「あっきゃん、何時頃学校来たの?」
夏焼さんがそれとなく聞いた。
事件のことを話すつもりはないようだ。
情報を隠して尋問する。
推理小説でおなじみ「犯人しか知り得ない情報」を
誰かがうっかり話してしまうのを待つためだ。
- 253 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:34
- 「8時30分」
「どうやって来た?」
「歩き」
「秋山さん家って葉桜町だよね」
私が質問に加わった。
「橋を渡って来たの?」
「うん」
「電車使わなかったんだ」
「家からだと、橋の方が近い。
駅に行くのはかえって面倒だし。
電車止まってるって聞いたから」
「誰から!?」
夏焼さんが鋭く聞く。
「お父さんが家に電話してきた」
夏焼さんはちょっとがっかりしたようだった。
もし、クラスの誰かから聞いた、と秋山さんが言ったら
きっとそのコに裏付けを取るつもりだったのだろう。
さすがに秋山さんのお父さんまでは
聞くことができない。
「あっきゃん登校してからは、すぐ教室に?」
「?」
秋山さんは首をかしげた。
- 254 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:35
- なんでそんなこと聞くのか?という表情だった。
しかし夏焼さんが無言で促すので、秋山さんは言った。
「教室に直行したよ」
「間違いない?」
「うん」
「教室に入ってからはずっといた?」
「うん」
「ありがと」
夏焼さんが教室に入ろうとした。
「待って、もう一つ質問」
私が聞く。
「今日、橋使う人なんていた?」
「え?」
「雪が積もってて歩きにくかったんじゃないかなあ、って」
私は、罠を張った。
「橋の上に、秋山さん以外の人の足跡とか、あった?」
さあ、どう答える?
私が一番に歩道の足跡をつけているのを、秋山さんは知らない。
「足跡がない」と言えば秋山さんのウソがわかる。
「けっこうあったよ」
「そう……」
あてが外れた。
- 255 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:35
- ◇
続いて教室内で徳永さんに質問する。
秋山さんは何をびびったのか、教室に入ってこなかった。
「徳永さん、何時頃学校に来た?」
「は?」
徳永さんは警戒心を剥き出しにした。
対抗グループのリーダーが
なれなれしく質問してきたから怪訝に思ったのだろう。
「ついさっき。8時45分くらい。それが?」
「どうやって来たの?」
「電車。ねぇ、何かうちに用?」
うぅぅ。険悪なムード。
私は敢えて明るい声を出す。
「へ、へぇ……徳永さん電車で来るなんて珍しいね。
自転車通学じゃなかった?」
「もう2ヶ月前から電車通学にしてる」
徳永さんは私に対しては普通に話してくる。
これは
私がメインで質問した方がいいかもしれない。
「ほら」
徳永さんが出したので、私は定期券を見せてもらった。
3ヶ月定期。期限は今日から約1ヶ月後になっていた。
2ヶ月前から使い始めたというのは本当のようだ。
- 256 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:35
- 「電車、動いてた?」
「8時30分に運転再開してた」
「え?もう走ってるの?」
「だからうちが学校に着いたんじゃん」
この話は……。秋山さんの話とは……
食い違わない。整合性がある。
「ありがとう」
私は頭を下げて、質問を終了した。
◇
「8時30分運転再開で
徳永さんの学校到着が45分。
時間的にも自然な感じだね」
3人だけになるとまーさんが話し出した。
……。聞き込み中は黙り通しだったのに急に饒舌。
運転再開から学校到着まで15分か。
今日は駅から学校まで、私でも10分かかった。
雪に慣れていないコなら、もっとかかっても不思議じゃない。
「葉桜から須黒野って、電車でどのくらい?」
「3分くらいかな?鉄橋のとこ、あんまりスピード出さないし」
「となると……」
- 257 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:35
- 夏焼さんが手帳に書き出していく。
電車移動=3分
駅→学校=12分
電車ルート合計=15分
ま、そんなもんだろう。
「久住さん。橋ルートだとどのくらいかかる?
うち、南須黒だから橋も電車も使わないんだよね」
「橋の入り口……葉桜側に立ってから、須黒野駅まで約10分」
「え?そんなもんで着いちゃうの?」
「うん。電車が時間かかりすぎなんだよ」
「いや……」
まーさんが首をかしげる。
「こはが歩くの速いんだと思う」
確かに、雪道には慣れていますが……
「普通のコなら、橋を渡るだけで10分。
駅までは15分くらいかかると思うよ」
「なるほどね」
橋移動=15分
駅→学校=12分
橋ルート合計=27分
- 258 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:35
- 「あっきゃん家が駅から遠いってのは本当なの?」
夏焼さんが聞いた。
さっき言っていたように夏焼さんは南須黒の住人なので
葉桜の地理には詳しくない。
「遠いね。橋を素通りして駅に向かうわけだから。
まして電車が動いてないんだから、橋を使うでしょ」
「逆に……」
まーさんも加わる。
「徳永さんは南葉桜だから、橋に向かう途中で必ず駅を通過する。
南葉桜から橋に向かうのは面倒だ。
だからこそ、電車通学に切り替えたんだろうね」
夏焼さんは一瞬、頭を抱えた。混乱してるらしい。
しかしそこは捜査担当。即座に持ち直して、メモ帳に地図を書き出す。
まず、真ん中に流れる川。
西(左)が葉桜。東(右)が須黒野。
次に左右を結ぶ須黒野大橋。
そこから少し南(下)の位置に線路を書き込む。
線路は緩く右上がりになった斜め線。
縦方向に川。横方向に線路。この2つの線に分けられた4つのブロックができた。
左上が葉桜。右上が須黒野。
左下が南葉桜。右下が南須黒。
- 259 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:36
- 夏焼さんは続けて、そこに住んでいる人の名前を書き込む。
葉桜(秋山、久住、須藤)。須黒野(なし)
南葉桜(徳永)。南須黒(岡田、夏焼)
※画像↓
ttp://berryfields.hp.infoseek.co.jp/gakuen.htm
「なるほどね。南葉桜だと、駅の方が全然近いんだ」
「そうだね」
実際、南葉桜の生徒はほとんど電車か自転車。
歩いて橋を渡るのはもっぱら、駅より北に住んでいる生徒たちだった。
まーさん家は、橋からも駅からも大して変わらない微妙な位置だが
私や秋山さんの家は、断然橋の方が近い。
「だから秋山さんが橋を使って来たのは自然だし……」
「徳永さんが電車の運転再開を待っていたのも自然だし……」
私とまーさん、2人してため息をついた。
「今のところ、手がかりなしか……」
となると怪しいのは、残った岡田さん、ということになるか。
「ところで、岡田さんはどこにいるのかな?」
「そういえば、教室にも来ないで何をやってるんだろう?」
「まさか……あのコが犯人?」
私たちは顔を見合わせた。
- 260 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:36
- 「待って……そう決めるのはまだ早い」
慎重派のまーさんはそういうが私は首を振った。
「おかしいよ。教室にいないのに、靴だけあるなんて」
「別に……どこかに行ってるんじゃない?」
「どこに?」
「さあ……。でも、授業がないって知ってたら
いちいち教室に来ないで、どこかで時間潰しているかも」
「そんなもの……」
どうやって知ったのか?と質問しようとしたとき
私の電話にメールが届いた。
「あ、はしもんからだ」
「はしもん?」
夏焼さんが首をかしげる。
「橋本さんのあだ名」
<本日雪のため休校だって。今頃回って来た(笑)。次の人に回しといて〜。
私はだるいので登校してませーん>
「連絡網だ……」
「え?」
今頃ですか?
<おそーい!!学校来ちゃったよ!>
返信する。
- 261 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:36
- すぐに返ってきた。
<秋山さんがドメイン指定してて、先生のメールが届いてなかったみたい>
連絡網をメールで回すな!
「ふ、藤本先生〜っ」
「ったくミキティは、面倒くさがりなんだから……」
夏焼さんが呆れ果てる。
そのときポン、とまーさんが手を打った。
「なるほどね」
「ん?何が?」
「こはの次って徳永さんでしょ」
「そうだね。回す手間が省けた……」
「そうじゃなくって、徳永さんの次が私なの」
「……」
「で、私から」
夏焼さんを指さす。
「みやだよね?」
夏焼さんがうなずく。
「で、うちの次はロビン。ロビンが……」
「秋山さんに戻してゴール」
- 262 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:36
- 「それって……」
秋山→橋本→久住→徳永→須藤→夏焼→岡田→秋山
「そう、今日間違って登校しちゃった6人+はしもん」
「え……それじゃあ……」
私は、力が抜けそうになるのを必死でこらえて続きを聞いた。
「今日、学校に2組の人ばかり集まったのは
藤本先生の連絡ミスが原因だったってこと」
結局、力が抜けた。ご都合主義ではなかったわけだけど、脱力感は大きい。
「ひどーい!藤本先生!!」
「落ち着いてこは。
それよりも岡田さんの居場所を探さないと……」
そのとき夏焼さんが言った。
「そうだ。ロビン、コンクール近いんだった!」
「!」
岡田さんは美術部なのだ。
「よし、行こう!」
◇
- 263 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:37
- 岡田さんは美術室で絵を描いていた。
夏焼さんビンゴ!
「ロビン」
「あ、どうしたの?」
岡田さんは夏焼さんと仲が良い。
「今日、ロビンは何時頃学校に来た?」
「8時35分くらいかな?」
どうやって?とは聞く必要がない。
岡田さんの住んでいる南須黒からは、歩いて来るしかないのだから。
それよりも、どうして美術室にいたかが問題だ。
「岡田さん」
私は聞いた。
「どうして美術室にいたの?」
「コンクールが近かったから」
「でも……」
私は、一歩岡田さんに詰め寄った。
「どうして授業がないことを知ってたの?」
「え?」
「さっき、はしもんからメールが来たばかりだ。
岡田さんのところには連絡がいってない。
だからこそ、学校に来たんでしょう?」
- 264 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:37
- 「えっと……」
さあ、どう答える?
岡田さんは何かを考えるような表情をしてから、言った。
「一度教室に行ったの。
だけど誰もいなかったからこっちに来ちゃった」
◇
美術室を出て、歩く。
教室はまだ徳永さんがいるだろうから、行く当てもなく廊下を歩いていた。
「久住さん。さっきのは?」
「ん?」
「どうして授業がないことを知ってたのか、てなんで質問したの?」
「ああ。引っかかるかなぁ、と思ったんだけど……」
「何が?」
私は立ち止まって、夏焼さんの方を向いた。
「連絡網は回っていなかった。
だから休校ということを知らないで、岡田さんは学校に来た。
休校を知らないはずの岡田さんが、なぜか授業に行かずに美術室にいた。
どこで休校ということを知ったのか?怪しいと思ったの」
「それで……罠を張ったの?」
「そう」
「でも……」
夏焼さんが呆れたように言う。
「連絡網が回ってないって、本人の前で言っちゃダメだよ。
そんな情報を与えたら、引っかかるわけないでしょう?」
- 265 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:37
- 「連絡網は囮だよ」
「え?ダミー?」
「私が狙ったのはそこじゃない。
そうじゃなくて、犯人しか知り得ない方法で休校を知った可能性がある」
「犯人しか、知り得ない方法?」
「そう。まーさんより先に来ればわかったけど
まーさんより後に来たらわからなかったこと」
「こは……ひょっとして」
「まーさんは見てるよね。
でも私が到着した時点では無くなっていた。それは
本日雪のため休校、と書かれた貼り紙だ。
もし岡田さんが、私の質問に対して
『貼り紙があったから』と答えたなら
岡田さんはまーさんが紙を剥がすより前に登校していたことになる」
「そっか……」
夏焼さんが、私を見て目を輝かせた。
「あの貼り紙はまぁより先に登校してないと見られないもんね。
でもロビンは貼り紙とは言わなかった。
つまり、ロビンは犯人じゃない!!」
「そう!そういうことになる」
「あっ!……じゃあ、後の2人にも同じ質問をすれば……」
「犯人が見つかる!」
私は夏焼さんの手を取った。
すると、背後から
「はぁぁ」
ため息が聞こえた。
- 266 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:38
- 「まーさん?どうしたの?」
「こは、犯人は昇降口の貼り紙を見てない」
「え?どうして?」
「はぁぁ……。みんなで確認したじゃん。
犯人は非常階段から校舎に入った。
そのあと校舎内を移動して下駄箱まで行って靴を履き替えてる。
だから、犯人は貼り紙なんて見てないよ。
残念だけど、岡田さんもまだ容疑者から外すわけにはいかない」
「じゃあ……」
「まだ犯人はわからない。この事件は思ったより手強そうやぞ、アリス」
「望むところや、火村!」
「……」
夏焼さん、きょとんとしてる。
「そう……この事件は手強い」
そして
まーさんがぼそっ、と、思っても見なかったことを言った。
「まだ、足跡の問題が残ってる」
「え?」
それは、解決したんじゃないのか?
「足跡はあったじゃん!裏の田んぼに」
「そうだよ、まぁ。犯人は線路から田んぼをつたって来た。
まぁが足跡見つけたんじゃん」
「でも……まだ問題が残る」
「どういうこと?」
- 267 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:38
- 「まず、徳永さんだけど」
まーさんは人差し指を立てた。
「徳永さんは電車で学校へ来たと言っている」
「そうだね。地理的にも、電車で来るのが自然だったよね?」
「ところが、私の乗った7:25発の電車より前は
運転見合わせ中だった」
「え?」
「私の乗った電車が、あの時点で唯一の電車だったんだよ」
思い出した。
私も駅のアナウンスを踏み切りで聞いている。
確かあのとき一本だけ走ったと言っていた。
「そこに徳永さんが乗ってなかったのは、私が知ってる。
他に同じ制服のコがいなかったんだから。
須黒野駅で全員が電車を降りた。もちろん乗る人はいなかった。
駅にこの学校の生徒はいなかった」
「じゃあ」
「電車ルートでは、私より先に学校に来ることはできない。
もちろん、いたずらもできない」
なるほど。ってことは、徳永さんは白か?
いや……実は橋を使っていたという可能性もある。
遠回りにはなるけど。
「次に橋ルート。
橋ルートで、こはより前に渡った人の足跡はあった?」
私が通った時点で橋には足跡がなかった。
- 268 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:38
- 「そうか。足跡が残ってないんだから……」
「こはが学校に着いたのは私よりも後」
「田んぼの足跡は、普通に歩いた感じだったね。
走ったりしてない」
捜査担当が言った。
「あの足跡じゃ、久住さんより遅く歩いただろうね」
「ってことは」
「久住さんより前に学校に来て、いたずらすることはできないよ」
じゃあ……どういうことになる?
橋も電車も使えないのなら、葉桜の住人には犯行は不可能、ということになるか。
「じゃ、岡田さんは?」
まーさんが首を振る。
「岡田さんは南須黒から来る」
「だから、電車も橋も使わないでしょ?岡田さんが犯人なら問題ない」
「ある」
「え?」
「いい?犯人は線路を使って学校裏まで移動して来た。
でも南須黒からは、線路を通らない」
確かに……そうだ。
「でも、足跡を残したくなくて、わざわざ線路まで行ったかも」
「そんなことないよ。いたずらは突発的だったことは検討済みじゃん。
計画的な犯行ではなかったんだよ。
犯人が線路を歩いたのは、ただ何となく普段と違うところを通りたくなったから。
トリックのために線路を歩いたわけじゃない」
- 269 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:38
- 「言いたいことはわかるけどさ。
そういうのは心理的な要因であって
他の2人みたいに不可能ってわけじゃないでしょ?」
「そうだけど……」
「橋に足跡なかったし、電車にも乗ってなかったんだから、葉桜の住人は白。
消去法で、唯一須黒野側に住んでいる岡田さんが犯人ってことにならないの?」
「待って久住さん」
夏焼さんが言った。
「ロビンが線路ルートを取ったなら、そこまでの足跡がなきゃおかしい。
そっち向きの足跡なんてあった?」
「えーっと……」
私は思い返す。
踏切を越えた地点から足跡は、まーさんのつけた一本だけだった。
それも、南下する方向……つまり、踏切から離れる方向であって
南須黒から線路に向かう足跡は、ついていない。
「線路に向かう足跡はなかった」
「でしょ?ロビンは線路に入ってないよ」
「でも、河原をぐるっとまわって駅に出れば……」
「……鉄橋でもよじ登るつもり?何のトリックよ。
それに、いくら運転見合わせだって、駅の中までは通過しないでしょ?」
確かに、この地域でそれをやったら通報されてしまう。大騒ぎだ。
今回、犯人が線路ルートを取ったのは、ちょっとした気まぐれ。
駅の中を通過したりはしないだろう。
- 270 名前:白い登校6 投稿日:2008/07/28(月) 21:38
- 岡田さんの住む南須黒から線路に入ろうとすると
かならず学校前の通りに足跡を残す、ということになる。
しかし、そんな足跡はなかった。
私とまーさんが見ているのだから
岡田さんの足跡があったら絶対に見落としているはずがない。
これはもう、岡田さんは線路に立ち入っていないと結論するしかなさそうだ。
しかし……
唯一須黒野の住人である岡田さんは位置的に、線路には入れない。
秋山さんと徳永さんは、橋か電車だけど
誰かが私より先に橋を渡った形跡はないし
まーさんより早く登校するための電車がない。
容疑者の誰も、私たちより先に登校できなかったことになってしまう。
足跡の問題、再び。
そういうことになる。
まーさんはぼそっと、
「雪密室再び……」
本当に小さな声で言った。
「面白くなってきた」
- 271 名前:いこーる 投稿日:2008/07/28(月) 21:39
- 本日の更新は以上になります。
- 272 名前:いこーる 投稿日:2008/07/28(月) 21:43
- >>250
まぁの魅力。まぁの魅力!!
思考担当については連載当初、出てくる予定でした。
というか「茉+桃+梨」で
春の花トリオ=春たちの学園
という予定だったんですが、大きく変わってしまいました;汗
そうですね、事件の構想ができたら高校生編にもチャレンジしたいですね。
- 273 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:14
- 私たち3人は応接間のソファに座っていた。
鍵がかかってなかったから勝手に入っている。
ソファはふかふか。
学校にも、こんな椅子があったんだな。
先生のいない日の学校というのも、中々楽しい。
まずここで、私たち3人の行動を発表しあった。
それを1つずつ、捜査担当が書き込んでいく。
メモ帳には、6人の行動パターンが時系列に記された。
「あくまで証言通りだと仮定して……」
7:25 須藤、電車に乗る
7:28 須藤、須黒野駅着
7:30 久住、橋を渡り始める。
7:40 須藤、学校着。久住、須黒野駅着。
7:50 久住、学校着。カラフルペン偽装工作開始。
8:15 夏焼、学校着。
8:25 須藤、田んぼに足跡発見。3人で調べに行く。
8:30 秋山、学校着。徳永、電車に乗る。
8:33 徳永、須黒野駅着。
8:35 岡田、学校着。
8:45 徳永、学校着。
うおーっ、ややこしすぎる!
私たちはメモをじっ、と睨みつけていた。
- 274 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:14
- しかしこうして見ると、容疑者たちがちょうど
私たちが非常階段を調べている間に登校していたことがわかる。
私がメモをにらめっこをしている間に
夏焼さんは素早く葉桜駅に電話をして
電車の再開が8:30で間違いないことを確認していた。
さすが……。
「まーさん。私が学校に着いたとき、教室から電話くれたよね?
大変なことが起きたって」
「うん」
「あれがちょうど7:50だった。
まーさん、それまで何してたの?」
まーさんが学校に着いたのは40分。
教室に行くのに10分もかからない。
「教室見て、びっくりしちゃって……
最初、何が起きたのかわからなかったし」
「そっか」
あの惨状じゃ仕方ないかもしれない。
「みんな8時30分以降に来たって言ってる。
あの3人のうち誰かが裏の田んぼの足跡をつけたはずなのに……」
「部外者が紛れ込んでる可能性は?
あるいは、宿直の用務員さんとか……」
「それはない。足跡は学校指定の靴だった」
「じゃあ……やっぱり3人のうち誰かが犯人……」
- 275 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:14
- でも、3人の家から来ることは不可能に見える。
……
もしスタート地点が違っていたらどうだ?
例えば、須黒野工業団地の方面から出発したら
橋も電車も使わないし、踏切より北側には無数の足跡があったのだから
線路までいける。
あるいは須黒野より先の枯野駅方面から線路をつたってくるとか。
……
「ねぇ……」
私は、小さく言った。
「犯人は、どこかに泊まってたんじゃない?」
「どこかって?」
「例えば、友達の家……親戚の家、なんでもいい。
とにかく、線路ルートを取れる方面から来たのだとすれば
足跡の問題は解決する」
「そっか……」
夏焼さんは考え出した。
「だとしたら……ロビンは犯人じゃない」
「なんで?」
「うち、昨日の夜ロビンと電話してたから。
夜10時から11時くらいまで」
「外で電話してたんじゃないの?」
「ううん。家にかけた。
携帯は通話料が高いから、お互いが家にいるときはそうしてる」
「じゃあ、夜11時に、岡田さんは家にいたんだね。
それなら、外泊はないか」
- 276 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:14
- まさかこんな田舎の中学生がその時間から外出はしないだろう。
まして外は雪だったんだし。
「じゃあ……岡田さんは違う」
残るのは、徳永さんと秋山さん……。
……
まてよ……
「答えは、もっと絞れる」
「え?」
「徳永さんは、今朝の電車の運転再開時間を知ってた。
実際に電車ルートで来ないとわからないよ」
「誰かから聞いたのかも」
夏焼さんはそう言うが、私は首を振った。
「徳永さんが電車を使ってないなら
運転再開が何時か誰も知らないことになるよ。
秋山さんは橋ルートだし、岡田さんはもともと須黒野だもん」
「家族とか……」
「うーん。どうかなー。
だって、もし徳永さんが外泊して
電車を使う必要がないんだとしたら
家族がわざわざ電車の再開を知らせる必要がないよ」
「じゃあ、これは?徳永さんは携帯で運行情報の掲示板を見ていた」
「電車使わないのにわざわざ?」
「……そっか」
- 277 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:15
- 「予め答えを用意していたとも考えにくいしね。
私たちが徳永さんに尋問したことは
向こうにとっては予想外の展開だったはずだもん。
やっぱり、徳永さんが電車の再開を知っているのは
実際に駅にいたからだ、と考えるべきだよ。徳永さんは外泊をしていない」
「じゃあ……犯人は……」
「秋山さん……」
そのとき、まーさんが私の肩に手をかけた。
「秋山さんも外泊していない」
「どうして?」
「今朝、秋山さんのお父さんが家に電話をしてる」
「あ……」
そうだった。
秋山さんはお父さんからの電話で、電車の不通を知ったのだ。
「それがウソの可能性は?」
夏焼さんの質問に、まーさんが首を振る。
「そうなると、秋山さんが電車の不通をどこで知ったかが問題になる。
もし外泊をしていて、川を越える必要がないなら
お父さんはわざわざ秋山さんに電話しない」
なるほど。
徳永さんのときと、同じ理屈だ。
「秋山さんや徳永さんが犯人だとしても、必要のないウソはつかないでしょ?」
「でも、外泊してたのがわかったら、犯人扱いされる」
「そんなこと、2人には知りようがない。
私たちは2人に事件のことすら話してないんだよ?」
- 278 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:15
- 「でも、犯人なら事件のことは知ってるはずじゃん」
「そうだけど、足跡が問題になってることまでは知らない」
「どうして?」
「こはが通ったときに橋に足跡がなかったことを犯人は知らない」
「あ……」
そりゃ、そうだ。
「ね、外泊を隠す意味がないんだよ。
いくら犯人でも、必要のないウソまではつかない。
そんなことして、あとでバレたら余計に怪しまれることになる」
結局、外泊説は完全に行き詰まってしまった。
やはり、犯人は朝、自宅から出発したと考えるしかない。
「ていうか、だとしたらさぁ……」
「ん?」
「犯人には、足跡トリックを使う必要性なんてなかった、ってことだよね」
「それは前に確認したじゃん」
「いや、なんか改めてさ。
まーさんが唯一の電車に乗ってて、なおかつ私が橋を使ってたから
不可能状況だとわかったわけで、犯人にはそんなこと予測しようがないもんね」
「そう。この犯人は、何のトリックも使っていない」
「なのに……足跡が見当たらない……」
なんとも、困った状況だ。
トリックも何も使ってないのに、橋に足跡を残さず、電車も使わず。
どういうことだ?
……足跡を残さず、電車も使わないルート。
- 279 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:15
- 「あ、じゃあこれは?」
私の脳裏に1つの仮説が浮かんだ。
この方法なら、いけるのではないか。
私は顔を上げた。
「犯人が……わかった」
「え?」
「橋に足跡が残っていない。
電車に容疑者は乗っていない。
でも、このルートなら犯人は川を渡ることができる」
「こは……まさかこの寒い中、泳いだとか言わないでよ」
「言わないよ」
「渡し船なんてのもないよ。
ゴムボートだって、そんな面倒なことする必要性がないんだから」
「そうじゃない
犯人は鉄橋を渡ったんだ」
「だから……来るための電車がない……」
「その通り。唯一の電車にはまーさんという目撃者がいた。
だから犯人は
歩いて鉄橋を渡った
これが唯一のルートだよ!」
聞いている2人は、目が点。
「はああ?」
「鉄橋を歩くなんて、やりすぎだよ。目立つ」
2人が揃って私に反論してくる。
でも、私は自分の推理を続ける。
- 280 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:15
- 「でも、足跡がない以上、どんなに不可能に見えても線路ルートしかない」
「『モルグ街…』みたいなこと言わないでよ。
なんでそんな危険を冒す必要があるの?」
「だから……足跡を残さないため……」
「それは違う。
登校する段階では、犯人には足跡をごまかす必要性がない」
そうだった。じゃあ……
「じゃあ、これは?
犯人は最初、普通に電車で登校するために駅まで来た。
だけど電車は動いていない。
外は晴れているとはいえ雪が残っていて寒い。
少しでも早く学校に着きたかった犯人は、迂回路を取らず
直接鉄橋を渡ることにした。
つまり、犯人は通常、電車ルートを使っている人物ということになる。
犯人は、徳永さんだ!」
「ダメ……そんなわけない!さっきも言ったけど鉄橋歩くなんて目立ちすぎる!
それにね、駅アナウンスからはいつ復旧するかわからなかった。
7時に私が駅に着いたときからずっと
『運転再開まで今しばらくお待ちください』て言い続けていてさ。
私はてっきり、もうすぐ再開するんだろうなって思ったよ。
そういう言い方だったから」
私は想像する。
電車が止まっている状況で『今しばらくお待ちください』と言われれば
誰でも少し待てばいい、と思ってしまうだろう。
何も危険を冒して、鉄橋なんて渡ることはない。
- 281 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:15
- 「実際、駅員にキレてる人もいたしね。
『まだなのか?』って」
「そうだろうね。まーさんも30分近く待たされたわけでしょ?」
「私なんかまだいいよ。須黒野までは着いたから。
その先に行きたかった人は、乗れなかったんだから」
「まぁ。電車って須黒野までしか走らなかったの?」
「そうだよ。電車が来たときも『とりあえず須黒野まで運行します』って言ってた。
実際にそこから10分待たされてようやく電車が動き出した」
「それは……間違いない?」
「うん」
「間違いないよ」
私は言った。
「私も踏切渡るとき、駅のアナウンスを聞いたよ。
『さきほど葉桜駅から須黒野駅まで1本だけ走りましたが
その後は運行の目処が立っておりません』って。
これは、須黒野までしか走ってないってことでしょ?」
「なるほど……」
夏焼さんは
目を閉じた。
何かを考えているようだ。
その間にまーさんが言った。
「徳永さんは鉄橋を渡ってないよ。
いつ電車が再開するかわからないのに、そんな危ないことしない」
「そっか……。渡ってる途中に電車が来たら大変だもんね」
「そう……」
- 282 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:15
- 夏焼さんが
「途中で……電車が来たら大変……、そうだよ……」
小声でつぶやきだした。
「だとしたら、あのルート……どうやって……」
「夏焼さん?」
私の声も届かず
夏焼さんは思考に浸っている。
「足跡が、1つ。その足跡は……」
部屋が緊張した。
夏焼さんの小さな声が部屋に響いて聞こえる。
私は直感した。
今、夏焼さんの脳内で急速に推理がまとまり出している。
「そっか……そうだよ……」
「な、夏焼さん?」
そのとき、夏焼さんの身体がビクッ、てなった。
そして夏焼さんはゆっくり目を開ける。
顔を前に傾けて上目遣いになると、夏焼さんの目は前髪の陰に入り
暗い中で眼光だけ鋭く放たれる。
暗く、攻撃的な目。
この目だ。
夏焼さんがクラスを仕切るときの目。
クラスのみんなが恐れる目。
「犯人が、わかった」
- 283 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:16
- 「え!?」
「誰?」
「まぁがさっき言った。電車はいつ再開するかわからない。
だから、鉄橋を通ったはずがないって。
その条件は犯人の通った線路ルートだって似たようなもんじゃない?
鉄橋とは違って逃げ道があるとは言え
いつ電車が来るかもしれない線路を歩こうなんて普通は考えない」
「そうだね」
「まぁの話だと、電車がいつ動くかわからない状況だったんでしょ?」
「そういう話だった」
「じゃあ、誰も線路から裏ルートで学校には来られない」
「どうして?」
「考えてもみてよ。いつ動くかわからない電車。
むしろ駅アナウンスでは今にも走りそうな雰囲気だった。
それなのに犯人はどうして
線路が安全だと知っていたの?
電車が須黒野より先に行かないという情報をどこから得たの?」
……。
私は反論できなかった。
犯人が線路を歩いたのは、まぎれもない事実なのだ。
つまり犯人は、線路を歩いても安全だということを知っていた人物、ということになる。
でも……それは……
「それを知ることができたのはただ1人。
須黒野で止まった電車に実際に乗っていた人物」
夏焼さんが、まーさんを鋭くにらんだ。
- 284 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:16
- 「まぁ。線路ルートを取れたのは、あんた1人だよ」
「……」
「まぁより先に、電車が須黒野で止まるということを知る手段はない」
「な、何らかの方法で知ったかもしれないじゃん!」
夏焼さんは私を憐れむような目で見た。
「何らかの方法って?
そんなの、全然説得力がない」
「だけど、まーさんはいたずらを隠そうとしてた」
「やってから、しまった、って思ったのかも」
違う。それはない。
痕跡を隠そうと提案したのは私なのだ。
って言っても夏焼さんは納得しないだろう。
私が言い出したから、仕方なく協力した、という可能性も残る。
そう言われてしまえば反論できない。
「だけど、まーさんにあんないたずらする動機がないよ」
「いたずらする動機?じゃ、誰なら動機がある?」
だからって……動機を無視していいのか?
そんなんで、まーさんを疑うなんて……
「夏焼さん」
「何?」
「自分が、誰かから恨み買ってるんじゃないかって
考えたことない?」
今度は夏焼さんが固まる番だった。
- 285 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:16
- 「誰が、ってのはわかんないけど。
夏焼さん、いたずらの話を聞いても全然そういうこと考えなかったでしょ?
それよりも、いたずらによってグループが乱れることを心配していた」
グループが乱れる……というより
自分の権威が落ちることを心配していたのかもしれない。
「どうして?
夏焼さんにあれだけのことをした誰かがいるんだよ。
どうして夏焼さんは動機に無関心でいられるの?
自分が誰かを傷つけて、それで恨まれてるかもって考えない?
普通、あんなことされたら、怖くてたまらないよ……。
夏焼さん、ちょっと無神経すぎる」
そのとき急に肩を強く引かれて、私は顔を上げた。
まーさんが、険しい顔で私を睨みつけていた。
何事かと思っていると、ぐす、と音がした。
ああ……、私……。
夏焼さんが肩を震わせて、目を真っ赤にしている。
私……、ひどいこと言った……。
「な、つやきさん?」
「……わか…ってる。どうせ……私が悪いって言いたいんでしょ?
犯人だって本当はかわいそうなコで、悪いのはいつも威張ってる私だって……」
今度は私が固まる番だった。
事態を理解するのに手間取った。
確かに私は、ひどいことを言った。
だけど、あの夏焼さんが泣くなんて予想していなかった。
いつもはあんな強気に、クラスメイトを仕切っているのに……
- 286 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:16
- 「ねぇ、久住さん。……なんでみんな……」
彼女の言葉が私の胸の奥まで冷たく沁みた。
「カラフルペン8使わないんだろうね」
胸が冷たく沁みて、
鈍感な私はようやく、夏焼さんの涙が理解できた。
「うちと同じじゃ……みんな嫌なんだよね……」
ここにも1人、寂しいコがいた。
グループから外れている私やまーさんとは反対のところで
みんなの羨望と畏怖の中で孤立しているカリスマがいた。
それなのに……
「ごめん……私、……夏焼さんの気持ち考えてなかった…」
「……考えたことなかったでしょ?」
「……」
私の心は複雑だった。
私は4月に、夏焼さんから無視されたことを今も恨んでいる。
夏焼さんは、私にとって横暴な悪者で
グループに入ろうとしない私に非はなくて
全て、権力握ってる連中が元凶なのだ。
私は普通の中学生であって、悪いところなんて1つもなくて
もし私がみんなと仲良くできないのだとしたら
それは冷たいクラスの方が悪いんだ。
私は悪くなんかない。
私は悪くなんかない。
- 287 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:16
- そう思ってた。
それ以外のストーリーなんて
考えたこと……、なかった。
夏焼さんの涙を見るまでは。
でもひょっとしたら私は今のように
無神経に誰かの心を踏みにじったりしていて
そのせいで誰かの恨みを買っているかもしれない。
今回はたまたま、私がやられなかっただけで
いつまた、私がターゲットになるかもしれない。
―――だとしたら……
私は自分の発言を強烈に後悔した。
―――自分が誰かを傷つけて、それで恨まれてるかもって考えない?
あれは夏焼さんのことじゃない。私のことだ。
自分を責める言葉を、自分で発していただけだ。
なんという道化。
「ごめん……。泣いてないよ」
夏焼さんは笑った。必死に笑顔を作っていた。
「それより、犯人探そう」
「……夏焼さん」
夏焼さんも怖くてしかたないんだ。
だから一生懸命なんだ。
いたずらの悪意が自分に向いているという不安。
それを一時でも忘れたくて、私たちと謎解きに興じている。
- 288 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:16
- やるせない思いの中ふと思った。
卒業前に夏焼さんと、こんなふうに話せてよかったかもしれない、と。
「よかった、仲直り」
まーさんが、ほっ、とため息をつく。
えっと……他人事ですか?この気まずい状況はそもそも
私がまーさんをかばおうとしてのことなんですけど……
「まーさん!人ごとじゃないよ!
君が疑われてるんだよ!」
「そうだよ!」
夏焼さんが言った。
「まぁが一番怪しいじゃんよ!」
こ、こいつ……。さっきまで泣いていたくせにもう復活した。
その切り替えの早さ。これがクラスみんなの憧れるリーダーの強さなのだろう。
最低だ。やっぱり信用できない。
「もう、これまでの議論で確認ができてる。
他の3人に犯行は不可能でしょ?
まぁより先に学校に来るルートがないんだから」
「だから……それは何らかのトリックが」
「トリックは使われていない。何度も確認したでしょ?
3人には無理なんだよ。だからまぁが犯人ってことでいいじゃん。
誰も文句言わないし」
「なんてこと……」
犯人ってことでいいじゃん、だと?
- 289 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:16
- 結局、夏焼さんは、事件を収めようとしているだけだ。
自分に不利がないようにできれば、真相なんてどうでもいいんだ。
味方と思ったけど、やっぱりこのコは敵!
私はついさっき、夏焼さんに同情したことを後悔した。
「じゃあ、動機は何なの?」
「動機……動機ね。
ペンの中身をぶちまけるなんてのは
あんたみたいに言いたいことを自己主張できない人間が
ため込んだストレスを晴らすためにやるようなことじゃないの?
クラスで孤立した最下層民の憂さ晴らし。
それがカラフルペンバラバラ事件の真相だよ」
憂さ晴らし……
「ひどい!なんでそう決めつけるの?
ストレスをため込んだ人が犯人?
それなら……それなら……みんなそうだよ!」
誰だって犯人になり得る。
どんどん複雑になる人間関係。
大人の目を盗んで行われる陰険ないじめ。権力のゲーム。
誰がどこでストレスを抱えているかわからない。
どちらのグループにも入れず孤立している最下層民。
下層に落ちるのを恐れリーダーの命令に従うしかない中間層。
権威が失墜するのを恐れる孤独なリーダー。
誰もが、出口のないストレスをたくさん抱えている。
- 290 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:17
- そう考えると……
「バカバカしい……」
なんのための抗争。なんのための意地の張り合いなのだろう?
まーさんがその生け贄になろうとしているなんて……許せない。
「夏焼さん……そんな強引な話、通用しないよ。
みんなだって納得しない。犯人扱いするだけの証拠がない」
「証拠か……証拠は、うん。ないかもね。
でも、まぁ以外の誰も線路ルートを通れなかったってことを
証明できれば、充分じゃない?」
「足跡でしょ?それは……それは何かトリックが……」
「だからトリックなんかない」
ピシャリと否定されて私は言葉につまった。
「みや……」
まーさんが、小さな声で言った。
「何?」
「それで、私を犯人にすれば、満足?」
「犯人にすれば、って白々しいよ。まぁがやったんでしょ?」
「私は……犯人じゃない」
「そんなの信じない」
「私は……」
「え?」
「みやが私を犯人にするなら、私はみやの説に反論するよ」
「な、何よ」
「教えない」
- 291 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:17
- 「……」
夏焼さんの勢いが
止まった。
「教えないけど、反論できる。
私を犯人扱いするなら、それをみんなに話す」
「……」
私はハラハラしながら2人を交互に見た。
これはまーさんの駆け引きだ。
夏焼さんは、まーさんが犯人だったということにして事態を収めようとしている。
きっと、明日、夏焼組のみんなにその話をして、まーさんに制裁を加えるのだろう。
しかし、まーさんの手の内に有効な反証があった場合
夏焼さんはグループの前で恥をかくことになる。
この状況では、夏焼さんはまーさん犯人説を披露しづらい。
どんな反論が待っているかわからないのだから。
まーさんが反証をしめさないことが、むしろ夏焼さんを牽制している。
「みや……もういたずらのことは忘れよう。
いたずらがあったこと自体、みんな知らないんだから。
みやが攻撃を受けたという事実は、誰にも知られないよ。
それで、いいじゃん」
「ふ……ふざけないでよ!!」
夏焼さんが怒鳴った。
「まぁが反論するっていうんなら、
私はまぁが犯人だっていう証拠をつかんでみせるからね。
捜査担当をなめないでよ!」
- 292 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:17
- 「夏焼さん」
私は言った。
「夏焼さんがまーさんを貶める話を作り出すより早く
私たちは真犯人を見つける」
「あんたの親友が真犯人だと証明されるよ。久住さん」
「そんな偏った推理しかできないの?捜査担当」
「……」
夏焼さんは
何も言わずに立ち上がると、ものすごい音を立てて部屋を出て行った。
「はぁぁ」
後ろから、まーさんのため息が聞こえてくる。
「どうしよう」
「まーさん、弱気なこと言わないで!真犯人を捜そう!」
「けど……」
「まーさん!あんなこと言われて黙ってるなんて……」
本当に
まーさんらしい……。
「こは……」
まーさんが、情けない声を出した。
- 293 名前:白い登校7 投稿日:2008/08/04(月) 23:17
- 「私……どうしたらいい?」
「だーかーら!犯人を捜すんだってば!
不可能犯罪の謎を解きたくないの?」
そう言うとまーさんはすっ、と真顔に戻った。
謎解き。
この言葉が一番、まーさんの心を動かす。
「動機は当てにならない。誰にでも動機はある。
だから、足跡の問題から考えるんだ」
まーさんの表情が変わり始めている。
よし、あと一押し。
ここで恒例、探偵ごっこ!
「お前の探偵能力を、天帝に捧げるんだ、まほ!」
「はふぅ。やっぱそれしかないよね、柏木!」
……。
我ながらマニアックな探偵を出してしまった。
しかしともかく
まーさんがその気になってくれた。
それならやるべきことはただ1つ。
「足跡の謎を解いて、犯人を見つけるぞ!」
「お、…おう」
そして春たちは最後の戦いに挑む。
- 294 名前:いこーる 投稿日:2008/08/04(月) 23:17
- 本日はここまでとなります。
- 295 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:04
- 「夏焼さんの説の、主な根拠となっている点は」
私はまーさんの肩に手をかけながら言う。
「動機を除いて2つ」
私たちは2つの反駁を容易しなくてはならない。
夏焼さんがまーさん犯人説の根拠として主張している点は
@足跡をつけずに、まーさんより先に登校できた人がいないこと。
A線路ルートが安全だという情報をまーさん以外が知り得なかっただろうこと。
2点だ。
この2点を突破することができれば、真相は解明できないが
少なくともまーさん犯人説は崩れる。
「まーさんより先に学校に到着するルートを見つけ
電車の運行状況に関する情報ソースを見つければいい。
そういうことになる」
しかし、足跡の問題がやはり大きく横たわってる。
線路から田んぼを横切るルートを取ったことまではわかっているが
線路まで行く方法が思いつかない。
いや……
私は目を閉じて思考に集中した。
- 296 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:04
- ……
そうじゃない。
線路に行くだけなら、できる。
線路の周辺には工業団地に向かう人たちの足跡がたくさんついていた。
向きも特定できないほどたくさん。だから、線路には行ける。
問題はその手前、線路に行く前に問題があるのだ。
まず秋山さん。秋山さんの住んでいる葉桜町からは橋を使う。
でも橋は私が通った時点で足跡が残っていなかった。
次に徳永さん。徳永さんの住んでいる南葉桜からは電車を使う。
でも今日一番早くに走った電車にはまーさんが乗っていた。
もっとも、秋山さんが電車を使った可能性や、徳永さんが橋を使った可能性も
微妙にではあるけれど、まだ残っている。それも忘れてはならないだろう。
最後に岡田さん。岡田さんの住んでいる南須黒からは、通りを横切る。
そこにも足跡は残っていなかった。
「ねえ……岡田さんだけどさぁ
踏切に行くまでには足跡が残っちゃうって話だったよね?」
「うん」
「そこだけ、フェンスをつたっていくことはできない?」
「そんなフェンスはなかったよ。
それに、犯人にとって足跡を隠す意味がないってさっき確認したじゃん」
「じゃあ……河原をぐるっと回って駅の北側に移動するっていうのも……」
「それもやっぱり意味がない。
岡田さんがそんなことをするのは不自然だよ」
「そっか……」
- 297 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:04
- じゃあ、それ以外のルートはどうか。
例えば須黒野町の住人が工業団地方面から線路に歩いて来ることはできた。
しかし、そっち方面に住んでいる容疑者がいない。外泊という可能性もない。
みっつぃは須黒野だけれど、今日学校に来ていない彼女に犯行は不可能。
それに、みっつぃの家からなら線路を使わず直接田んぼを横切るルートが取れるのだから
線路ルートを彼女が使ったはずがない。
だいたいみっつぃは、うちのクラスじゃない。
工業団地からは痕跡を残さず線路まで行ける。
工業団地からなら……
……
そしてある仮説が、私の脳内に構築されていった。
「わかったかも」
私はまーさんに言った。
「足跡を残さずに線路まで行く方法がある!」
「ええ?」
「よし、電話で確認してみよう!」
「ちょ……ちょっと、どこにかけるの?」
「道路交通課へ」
私はにっ、と笑って携帯を取り出した。
町役場の電話番号を調べ、とりあえず相談窓口にかける。
夏焼さんの行動力が私にも感染したらしい。
- 298 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:04
- 「すみません。今日、末黒野大橋の除雪作業をやったと思うんですけど
それって、何時くらいでした?」
『え……っと。少々、お待ちください』
私が一気にまくしたてたもんだから、窓口のお姉さんはびっくりしていたが
保留音がしばらく続いて、道路交通課の人が出てくれた。
『えー、今朝の大橋の除雪作業についてですね?』
「はい」
『あのー、除雪作業に当てられる車の数も限られていましたからね。
順次行っていましたから、橋の作業はね、朝方になってしまったんですよ』
「いや……」
私は別に遅いと文句を言っているわけじゃないんだけど……。
そういう苦情が多いのだろうか。
「あの……その作業の時間は……」
『あそこは葉桜の方から出すかも知らんかったから
確認が取れないと作業できなかったんですよ。橋は……。
うちだけの判断で通行止めにすることもできないしね』
「あー、なるほど。管轄の微妙なラインだったから後回しになったと……」
って、それはどうでもいいんだってば!!
だいたい、通行止めにするも何も、雪が積もってるんだから車は通れないじゃないか。
「で!!末黒野大橋の除雪作業は何時から何時までだったんですか!?」
『えー、ちょっと待ってくださいね』
保留音が再び流れる。
もー。お役所ってどうしてこう……
- 299 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:05
- 『もしもし?』
「もしもし?わかりましたか?」
『はいはい。末黒野大橋の除雪は本日の7時10分から7時半までですね』
「それって、7時半以降なら車が通れたってことですよね?」
『はい、そうなります』
「わかりました。ありがとうございます」
私は通話を終了した。
「思った通りだった」
「何が?」
「今日、私が橋を渡ったとき、歩道に足跡がなかった。
だから私より先に橋を渡れた人はいない、って言ったよね」
「うん」
「でも、そうじゃなかったんだよ。
私が一番乗りだと思った。
いや、実際一番乗りだったはずだけど
私より後ろから橋を渡ることはできた」
「だけどそれじゃ、こはには追いつかない」
「歩いて渡ったならね」
「え……」
まーさんの動きが一瞬、止まった。
「私が橋を渡り始めたのが7:30。
そのときちょうど除雪が終わっていたのだから、
もう車で橋を渡ることは可能。
きっと犯人は、私のすぐ後ろから車で橋を渡ったんだ。
私が橋を渡り終えるのに10分。車なら2、3分で渡りきることができる」
「車で送ってもらったってこと?」
「そう。私も歩いているときに車が通過したかどうかまでは覚えてなかった。
たぶん、私を橋の上で追い抜いた車があったんだよ」
- 300 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:05
- まーさんは首を振った。
「でも……こは、車輪の跡なんて見た?」
「ううん。見てない。だって除雪作業が終わってるんだから」
「違う。踏切から学校までにそういう形跡はあった?」
踏切を越えてから学校までは
私が登校した時点でまーさんの足跡しか残されていなかった。
車が通った形跡も、もちろんない。
「車を使ったのは、橋を渡るまでなんだよ」
「どうして?そんな中途半端な……」
「でも、橋を渡ってしまえば、足跡を残したところで私には気づかれない」
駅よりも北側には、工場に向かう人たちの足跡が無数にあった。
「つまり犯人は、橋を渡ったところで車を降りて
そこからは歩いて線路まで行ったんだ」
そこまでいけば、まーさんの見つけた線路ルートが使える。
「そこで『ああ、雪で電車が止まっているんだから線路の上を通ろう』
と思いたち、そこからは線路ルートを取った。
それで足跡が残らなかったんだよ」
「でも、どうして?
どうせ送ってもらうなら、車で学校まで送ってもらえばいいのに」
「たぶんね、送ってもらったわけじゃないんだと思う」
「どういうこと?」
「親か誰かが車でこっちに来ることになってて
せっかくだからと乗せてもらって、途中まで一緒に来ることにしたとか
そういうことだと思うよ。
その車は橋を渡り終えたら左折して駅とは逆方向に行った
そっち方面にあるものと言えば」
- 301 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:05
- 「工業団地……」
「そう。犯人の家族は、工場で働いていて車で出勤するところだったんだよ」
まーさんは、腕組みをしてしばらく考えていた。
まーさんの腕組みはなんか格好良かった。
「それで……、確かに車を使ったならこはより先に線路に到着できるけど。
だけど、線路が安全だという情報はどこから入れたの?」
「それは、どこかから……」
まーさんが、明らかに落胆した。
「それじゃあ、ダメだよ!」
「だけど、夏焼さん説の@に関してはこれで崩すことができた。
そうだ!家族が須黒野工業団地に勤めている人を探そう!その人が犯人だ!」
「待って!」
「え?」
「こは、さっき除雪作業が終わったのはこはが橋を渡り始めたときだって言った」
「うん。言ったね」
「それって、7:30でしょ?」
「うん」
「そのとき、私はもう須黒野に着いていた」
あ……
「私が学校に到着したのが7:40。犯人は、間に合わない」
「確かに……」
10分では、学校に着くのが精一杯。
いたずらする時間は、まずない。
「なんだ……、やっぱりダメか……」
- 302 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:05
- 車説なら、私のことは追い越すことができる。
でもまーさんとは、スタート地点で差がありすぎて、途中で追い越すことができない。
まーさんが言った。
「先にスタートした方が、先に着く。
その後で来ても、教室には私がいる。
もちろん、それでは犯行が成立しない」
「え?」
その言葉にぞくりっ、と何かが背筋を走った。
「まーさん……今、何て言った?」
「?」
「ちょ、……ちょっと待って……どういうことだ?」
「ちょっと、こはぁ?」
「今……何かをつかみかけた」
血がざわついている。
私の直感が「これは大物だ!」と告げている。
あと少し……あと少しで正解にたどり着きそうな……
私はまーさんから遠ざかり、意識を思考に集中させる。
……
これまで見聞きしたことを、反芻していく。
先に来た方が、先に着く。後から来たら……
- 303 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:05
- 思考が加速し出す。
足跡は見当たらなかった。
まーさんは駅で放送を聞いていた。
除雪作業の時間。
教室で見た予想外の光景。
岡田さんの発言の意味。
私の頭の中で、今日の出来事が音を立ててつながっていく。
パズルは少しずつ、全体像を見せ始める。
「……わかった……かも……」
私は、顔を上げた。
「簡単なことだったんだ」
何も難しく考えることはなかった。
答えは、簡単なことだった。
それなのに
私たちは何を悩んでいたのか。
どうして
謎でも何でもないものが謎に見えたのか。
それは……あのときの……
「!!」
はっ、と胸を突かれたような思いがした。
「まーさん、君は……」
- 304 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:06
- 衝撃のせいで、身体から力が抜けていく。
「まーさん……」
胸の衝撃が、震えとなってだんだんのどに上ってくる。
視界が涙でにじみ始めていた。
私は
くしゃくしゃになった顔を見られたくなくて
まーさんを抱きしめていた。
「どうして君は……自分が苦しむようなことをするの?」
やるせない思いがこみ上げて来て、力一杯まーさんを抱きしめた。
その力はまーさんの腕力の何分の一かしかない弱い力だったけど
私の胸をつく思いは、熱く、強く、心を締め付けている。
「こは……」
「まーさん」
「何?」
「まーさん、知ってたんじゃん。犯人が誰か」
まーさんが、息をのむのがわかった。
「私だってバカじゃない。そりゃ、まーさんにはかなわないけど
でも私にも、事件の真相がわかった。
まーさんが、犯人をかばって推理を言わなかったことも
ようやくわかった」
「……うん」
まーさんはゆっくりと、言葉を探すようにゆっくりと言う。
- 305 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:06
- 「きっと、そのコも、苦しんでるから」
バカ、と私は言ったけど、声にならずに小さな息だけが出た。
「だからって……まーさんが疑われていいわけないじゃん」
「私が真相を話すと、きっとクラスは悪い雰囲気になる。それが耐えられない」
「それはまーさんが悪いんじゃない。悪いのは、犯人だよ。
そういうクラスを作ってきたあいつらが悪いんだよ」
「でも……私たちのクラスでもある」
私は、まーさんから身体を離した。
きっと間抜けな顔をしていたと思う。
「まーさんが、そういうこと言うと思わなかった。
誰よりもクラスに混じるのを、嫌がっていたのに」
「そうだよ。私はあの人たちと一緒にはなりたくなかった。
人を貶めて喜んでいるような人と一緒になるくらいなら1人でいい。
そう思ってた。
でも……3年2組にいて、私は楽しかったよ」
「どうして?」
「こはと、一緒にいられたから……。
中学3年間で、一番好きになれた友達。
だから……私は3年2組が好き」
私の目から、涙が溢れた。
「私1人じゃ、こうならなかったと思う。
こはがいるから、私はクラスの空気を守りたい。
あとちょっとしかないけど、いい雰囲気で卒業していきたい」
「……事件は?このまま放置するの?」
「うやむやにしちゃえばいいよ。そうすればみやも、下手なことできない。
事件なんて、解決しなくていい」
「ダメ!」
- 306 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:06
- 私は、叫んでいた。
「ダメだよ!まーさんが疑われたままうやむやになるなんて絶対ダメ!」
「でも……」
「ダメったらダメ!まーさんはそれでいいかもしれないけど私はやだ。
一番大切な友達が苦しんでいるのに、
それを見過ごしにしたままで、いい想い出になんかなるわけない。
お願いまーさん、夏焼さんに真犯人を言おうよ」
「やだ。クラスのため。私のせいで人が傷つくのなんかいやだ」
「バカ!自分1人救えない失格ダメ探偵が
クラスの役になんか立てるもんか!!」
「……」
……。
「ごめん、言い過ぎた」
「ううん」
その後しばらく、気まずい沈黙が続いた。
私は、考えをまとめながら、ぽつりぽつりと、話し始めた。
「まーさんは、クラスをなんとかしたいんでしょ?」
「うん」
「だから、真犯人のことを黙っている」
「うん」
「私は……」
まーさんをまっすぐに見た。
「まーさんを助けたい」
「だけど……」
「まーさんが、自分の推理で人を傷つけたくないっていうなら
私が私の推理で、まーさんの無実を証明する。
それなら、いいでしょ?」
- 307 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:07
- 「……」
「まーさん。いつもの推理クイズをやってよ。
まーさんは犯人を知ってるんでしょ?
私、答えるから、クイズを私に出して」
「……わかった。それなら、いいよ。
っていうか……」
まーさんの声も、ちょっと涙で震えていた。
「ありがと……」
私は、笑って言った。
「本当、君は手がかかる友達だよ。
卒業文集にまーさんのこと書いてやる。
犯人がわかってるのに、それを言わない困ったやつ。
タイトルは……
最善を尽くさない探偵の記録
そう書いてやるんだから」
「正解できたらね」
まーさんは、泣き笑い。
やっぱり、私たちの心を救ってくれるのは
推理クイズしかないみたいだ。
「さーて、気を取り直して、出題頼むよまーさん」
「こは……推理は、大丈夫なの?」
「だい……じょうぶ……。
全部つながった。
まーさん、かかってこい!」
「よーし!」
- 308 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:07
- まーさんが、人差し指を立てて
中学生活最後のクイズを出した。
「小春ちゃんへの挑戦状。
@カラフルペン・バラバラ事件の実行犯は1人である。
Aグライダー、パラシュートなど飛ぶための道具は使わない。レビテトも使わない。
B川を渡るのに橋か電車以外の手段(例えば船など)を使うことはない。
C犯人以外の人物が故意に虚偽の証言をすることはない」
レビテトって何?……じゃなくて
「クイズの前に公平を期すための確認」
以下、推理マニア向けに2、3のローカルルールを確認します。
ここから2レス分、意味不明な所はスルーしてください。
- 309 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:07
-
「まーさんは犯人ではない」
「もちろん」
「じゃ、条件Cは正確ではないよ。
まーさんは解答に気づいていながら
自分より早く学校に来る方法はないって言ってたんだから」
「言ってないよ」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「『足跡の問題が残る』って言っただけ。
あと『雪密室再び』とも言ったけど……」
「そこ!!密室って言ったじゃんよ!」
「雪密室というのは、足跡の状況が一見出入り不可能に見える部屋のこと。
トリック等を使えば出入り可能」
「むー」
オタクを相手にすると怖い。
「私の発言にウソは一個もない。本当のことだけを言ってたよ」
「だけど、私たちが勘違いするような言い方をした」
「それは叙述トリックの範囲内でしょう?言ったことは全部事実なんだから」
オタクを相手にすると(略)。
- 310 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:07
-
「他に質問は?」
「条件@の『実行犯は1人』という部分なんだけど、前回と違ってるよね。
前回は確か『登場人物たちの間に共犯関係はない』て言い切っていたのに
今回は『実行犯は1人』になってる。つまり、計画者は別にいたってこと?」
「ノーコメント」
「ええ!?答えろよ!!」
「今回のクイズは実行犯だけを指摘すればいい。
影で操っていた人物がいるとか、そもそも原因を作ったのはグループ抗争だとか
そんなことを言い出したらきりがないから、それはクイズにはしない。
極端な話、推理小説的ゲーデル命題まで持ち出せば、真犯人はみやになっちゃう」
「は?……」
これはさすがに私にも意味がわからなかった。オタクを相(略)。
- 311 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:08
- とにかく、実行犯1人を指摘すればいい、ということだ。
「よし、これで答えを1つに絞れそうだ」
「本当?」
「うん……」
私は、目を閉じて自分の推理を確認する。
誰かを傷つけないために、沈黙を選んだ探偵。
とても、優しいコ……。
波風を立てたがらない。
小さくまとまっていたい。
小さくまとまっていたいのに、
世界は過酷すぎて
そんな世界に対して
まーさんは優しすぎて
私は弱すぎる。
でも、今度の推理が
まーさんに捧げるせめてもの想いになるだろう。
この推理が……。
私は目を開けた。
「大丈夫。
今度こそ、1つの絵になった」
「こは、答えは?」
ここが正念場だ。ここでミスをするわけにはいかない。
- 312 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:08
- 「今日、まーさんが来るよりも先に教室に来て
夏焼さんのカラフルペンをバラバラにした人物。
その人物とは……
A:徳永さんだ!
B:秋山さんだ!
C:岡田さんだ!
そして、その犯人が学校まで来るのに使ったのは……
1:橋
2:電車
3:どちらも使っていない
- 313 名前:白い登校8 クイズ 投稿日:2008/08/12(火) 12:08
-
親愛なる読者様へ
小春たちの中学生活も大詰めを迎え、探偵は真相に至りました。
選択肢以外の解答はありません。
徳永、秋山、岡田の中に必ず犯人がいます。
この中で犯行の不可能だった人物、犯人にはなり得ない人物を消去したとき
残ったものが正解となります。
余計なことかも知れませんが、最後に1つだけ。
茉麻の提示した条件Cは犯人当ての際に必要不可欠です。
それをヒントとして強調して、挑戦にかえさせていただきます。
*
解答は「A1」「B2」のように、二つの選択肢の正しい組み合わせを書いてください。
この場合、メル欄ではなく、レス本文に書き込みいただいて構いません。
内容予測やネタバレは
他の読者様のご迷惑となりますので、厳禁でお願いします。
感想は大歓迎……ていうかむしろください。お願いします。
- 314 名前:いこーる 投稿日:2008/08/12(火) 12:08
- 本日の更新は以上になります。
- 315 名前:いこーる 投稿日:2008/08/12(火) 12:09
-
- 316 名前:B2 投稿日:2008/08/13(水) 19:45
- 消去法でいくとこれしか考えられない。
犯人と言い切れるだけの証拠は、捜査担当が見つけてくれるでしょう。
- 317 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/14(木) 20:35
- うーん
こいつはわかんないや
- 318 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/15(金) 01:48
- 今回はチョット降参かな?
もう一回読んでみます
- 319 名前:316 投稿日:2008/08/16(土) 00:22
- 御免!!B1でした。
Bと2の組み合わせはありえない。
- 320 名前:名無し飼育 投稿日:2008/08/18(月) 02:13
- B3で!
- 321 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:39
- 「答えは……」
さっき使った応接室。
いるのは、私と、まーさんと、夏焼さん。
「簡単なことだった」
見当たらなかった足跡。
まーさんが駅で聞いた放送。
教室で見た秋山さんと徳永さん。
私の質問に対して答えた岡田さんの一言。
後回しになった除雪作業。
ヒントは多すぎるくらいあった。
それなのに私たちは雪密室だ何だと混乱ばかりしていた。
なぜか……
「まーさんが、足跡の問題が残るなんて言ったから
私たちはすっかりルートがないもんだと思いこんでしまった。
だけど本当は、学校に来る方法はあったんだよ。
まーさんは犯人をかばうために
私たちをミスリードして事件を藪の中に隠そうとしたんだ。
まったく……探偵の発言がミスディレクションだなんて、見たことないよ」
「……ごめん」
「だけどまーさんはウソをついたわけじゃなかった。
もっと私が注意深かったら、その時点で気づいたはずだった」
「みやか、こはが、気づいてしまったら、そのときは仕方ないって考えてた。
ウソはつきたくなかったから」
「どこまで、お人好しだよ」
- 322 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:39
- 私はため息の後、続けた。
「まーさんは自分より先に電車ルートで登校できないと言った。
このまーさんの発言は完全に信用していい。
まーさんは今朝、私が電話したときにすでにこの話をしている。
『学校の人誰もいなかったよ。私だけ』という発言。(>>162)
この時点ではまーさんだって、犯人はおろか事件のこともわかっていなかった。
だからこの発言は言葉通りに受け取って問題ないはずだ」
「もしまぁが犯人を見ていたら?
変なルートで登校する犯人を見て、それを誤魔化すために
電車に乗ったのは自分だけだった、と証言した可能性も……」
「ノー」
夏焼さんの質問を、私は却下する。
「まーさんは自分で田んぼルートを発見して私たちに見せた。
犯人をかばっている人が、ルートを教えるわけがない。
まーさんが犯人に気づいたのはその後。
夏焼さんが容疑者たちの尋問を終えてからなんだから」
「そうなの?」
「こはの言う通り」
私はまーさんに向かってうなずいて、続ける。
- 323 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:39
- 「まーさんのミスディレクションは、もっと後。
足跡の問題が残る、と言い出したところだよ。
この発言だ。
『橋ルートで、こはより前に渡った人の足跡はあった?』
確かに私は足跡を見ていない。そしてまーさんはこう言った。
『こはが学校に着いたのは私よりも後』
この2つ。まーさんが橋に関して発言したのは、この2回だけなんだ。(>>267,>>268)
可能とも不可能とも言っていないんだよ。
それなのに、私と夏焼さんが勝手に議論を進めて
橋ルートも使用不可能ってことになってしまった」
「じゃあまさか、本当は橋が使えたって言うの?」
夏焼さんが聞いてくる。
「その通り。
犯人は歩いて橋を渡った。」
「足跡は、どうしたの?」
「もちろん、堂々と足跡を残していったんだよ。
ただ、私が通った時点で、足跡は見当たらなかっただけ。
足跡がつかなかったわけじゃないんだ」
「久住さんが見落としたってこと!?」
「まさか!そんな落ちが通様するミステリは……」
「1コある」
と、まーさん。推理オタク。
「で、でも今回は違うよ。足跡を見落とすはずがない」
- 324 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:40
- 「じゃあ久住さん。どういうことなの?」
「犯人は私より先に橋を歩いて渡った。足跡はついた。
でもその足跡は、私が着いたときには消えてしまったんだ。
そう
車道を歩いた犯人の足跡は、除雪作業によってなくなった。
これが、足跡問題の解答だ」
「車道を!?」
夏焼さんが驚きの声をあげる。
「そう。橋の除雪作業は後回しにされて遅れていた。
作業が開始されたのは7:10。
犯人に限らず、それよりも前に橋を渡った人は、みんな車道を歩いていたんだ」
「なんで、わざわざ車道を?危なくないの?」
「積雪でどうせ車は通らない。
犯人が通ったときの橋の状態を思い浮かべてみて。
歩道は当然、車道よりも高くなっている。
両サイドの積雪が高くて、真ん中が低い。凹マークの感じだね。
そして、須黒野大橋の手すりは低い(>>159)。
こんな状況では、歩道を歩くほうがかえって危険だよ。
犯人はそう考えて、車道を歩いたんだ。
犯人よりも前に、橋を渡った人がいても、同じく車道に足跡をつけていただろうね」
トリックなんかではない。
犯人にとっては車道を歩くのが、一番理にかなった行動だったのだ。
「このルートなら、足跡の問題は完全に解決する」
「すごい……どうして気づかなかったんだろう」
- 325 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:40
- そう。別に難しい話ではなかったのだ。
それをまぁさんが雪密室だなんていうから
私たちは橋は通れなかったと思いこんでしまったんだ。
私が橋を通ったときには除雪作業が終わっていたから
もう歩道を歩くしかなかった。
車道を歩くという選択肢は、その時点で消えていた。
だから私が歩道の一番乗りになったというだけで
それよりも前に橋を渡った人はいたのだ。
「これで足跡は解決。
次に、電車が止まっているという情報をどこから得たのかについて。
橋を渡ってこっちまで来ることができても、電車が止まっていることを知らなくちゃ
線路の上を歩こうなんて考えない」
「こは、それもわかってるの?」
「わかってる。犯人は、須黒野駅の放送を聞いたんだ」
「え?」
「須黒野駅の放送は、踏切からでも聞こえる(>>162)」
私は犯人と同じように橋を使って須黒野まで来て、踏切を渡った。
私に放送が聞こえたのだから犯人にも聞こえたということだ。
「まーさんの乗った電車が葉桜を出たのが7:25。
犯人が橋を渡り終えたのが7:10だとする。そこから駅までが約5分。
7:15に犯人は踏切に差し掛かった」
「10分開いちゃうじゃん」
夏焼さんが突っ込む。私は首を振った。
- 326 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:40
- 「ううん。電車は葉桜で10分停車してから出発した。(>>281)
電車が来た時点でまーさんが
『とりあえず須黒野まで運行します』という放送を聞いている。
だからその放送が入ったのは7:15。
そのとき、ほぼ同じタイミングで須黒野駅でも似たような放送が入ったはずだよ。
『今から来る電車は、当駅止まりです』ってね。
まーさんが電車を降りたとき、乗ってくる人は1人もいなかった。(>>267)
ということは、事前に電車がこの駅で止まるということを
駅の利用客が知っていたってことだ。
事前に放送が入ったのは間違いない。それを犯人は踏切で聞いた。
それで、どうせ電車が動かないなら、線路を歩いてみよう、となったわけ。
7:15から線路上を移動し始めて7:30までには余裕で学校に着く。
まーさんが学校に着いたのが7:40だから犯人には充分ペンを壊す時間があった」
私は一息ついて夏焼さんを見た。
「これで、まーさん犯人説は転覆した」
「……まだだよ」
「え?」
「他の人にもできた、ていうだけ。まぁがやった可能性はまだ残る」
しつこいなぁ……。
「それに、今の話じゃ犯人はわからない」
「え?
橋ルートだから当然……」
「あっきゃんだって言いたいの?
徳永さんにも、犯人の資格はあるじゃん」
「だけど、徳永さんが橋を使うのは不自然だよ」
「そんなことないよ。まぁの話だと、葉桜駅は混乱してたみたいじゃん。
それを見て、橋を使おうと決めたのかも知れない。
徳永さんは前まで自転車通学をしていたんだから
どのくらいかかるかもわかっていたわけだし」
- 327 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:41
- 「そう。そのとおり」
さすが捜査担当。きちんと考えている。
「じゃあ」
私は、深く息をつくと、次の推理の披露にかかった。
「足跡と、情報ソースはわかったんだから、残るは犯人当てだけだね」
さて……
「この事件の犯人を考えるのに、トリックを暴くだけじゃだめなんだ。
トリックに気づいただけでは正解とは言えない。橋を使えた人物は複数いる」
「じゃあ、どうやって犯人を絞るの?」
「犯人の条件は、今述べた経路上の条件だけじゃない。もう1つあった」
「もう1つの条件?」
「私が今回こうして真相に至ったのはまーさんのある言葉がきっかけだった。
『先にスタートした方が、先に着く』。この言葉を聞いて気がついたんだ。
証言の食い違いが1箇所あったことに。
3人の中で、ウソの証言をしている人物がいる、ということに気づいた」
「ウソの証言?」
「そう。1人、ウソをついているのでなければ筋が通らないことが1つあるんだよ。
もちろんウソをついた人物が犯人だ。
犯人以外に、ウソをつく必要のあるコはいないんだから」
「犯人は誰?」
ここからが大詰めだ。
- 328 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:41
- 「思い出してみると、岡田さんの証言におかしな所がある」
「え?」
「岡田さんは『一度教室に行った』そして『誰もいなかった』と言った(>>264)」
「覚えてる。だから美術室にいた、って話だったよね」
「でも、おかしいんだよ」
「どこが?」
「岡田さんの学校到着は8:35。
おかしいよ。その時間に教室に行ったなら
秋山さんが教室にいたはずだ。
秋山さんは8:30に学校に着いて、教室に直行し、その後はずっと教室にいた
と言っているんだから(>>253,>>254)」
秋山さんは8時30分と即答した。
一方岡田さんは『35分くらいかな?』と控えめな言い方をしていたけれど
5分単位で細かく記憶しているんだから、そう大きくずれることはないだろう。
少なくとも30分より前に着いていたら『35分くらい』とは言わない。
「岡田さんか、秋山さん。どっちかが……」
「ウソを言ってる」
「そう。それが2つめの条件。証言の食い違いを説明するためには
岡田さんか、秋山さんのどちらかが偽証をした、と考えなくてはならない」
<犯人の条件>
経路上の条件を満たす:秋山さん、徳永さん、まーさん
証言上の条件を満たす:秋山さん、岡田さん
「犯人は偽証をする必要があり、なおかつ足跡を残さずに登校できた人物。
犯人は、秋山さんだ」
- 329 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:41
- まーさんも、夏焼さんも、沈黙した。
「まーさん、これで合ってる?」
私はまーさんを見た。
まーさんは、夏焼さんを一瞬見てから言った。
「正解」
「でも……どうしてあっきゃんはウソをついたの?
そもそもどうしてあんないたずらを……」
「うん。秋山さんは夏焼組のメンバーだから
一見、いたずらをする必要なんてないように思う。
ここからは……私の想像だけどいい?」
「いいよ。久住さん」
よし。
「私たちが、足跡を発見して教室に戻ったとき
徳永さんと秋山さんが教室にいた。
2人で教室にいただけじゃなく、2人は一緒に話をしていた」
「……」
夏焼さんは、目を横にやって、記憶を探る。
「ああ、そういえば……」
「対抗グループのメンバーと自然に会話をしていた。
普段は、用事があるときでさえ、私やはしもんを経由して伝えるくらい険悪なのに」
「……どうして?」
夏焼さんの声が、怯んだように聞こえた。
- 330 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:42
- 「どうして、て?
それは、秋山さんが徳永組のメンバーになったからだよ」
「……やっぱり」
「夏焼さん気づいてたの?」
「なんか最近あのコ、ノリ悪いっていうか
うちらといても楽しそうじゃないっていうか」
「グループのノリについていけてなかった……」
「うん……」
「たぶん、2つのグループでは話題とか、盛り上がるポイントとかが
微妙に違うんだよ。しかも、相手グループの悪口を言っては笑う
みたいなことをお互いにやってる。
もし、相手グループに友達がいたら?そのコのことをみんながからかっていたら?
きっとグループを移りたくなるでしょう?」
「そうだね……。だけど、それならそう言ってくれれば……」
「言えないよそんなの」
だって、グループやめるってことは
『あなたたちといても楽しくない』と言ってるようなもの。
そんなことを言ったら確実に、グループを移ってからターゲットにされてしまう。
「秋山さんはどうしても徳永組に行きたかった。
だけど、心配だったのが」
「うちらからの報復」
「そう。そして、徳永組が本当に受け入れてくれるか、ということも」
「……そう、なの?」
「夏焼さんが逆の立場だったら?
昨日まで自分たちの悪口を言っていた一味のメンバーを
いきなり受け入れて仲良くできる?」
「微妙……ってか、無理」
「だよね?
もし夏焼組を抜けたのに徳永さんからも疎んじられてしまったら
秋山さんはクラスの最下層民になってしまう。
守ってくれる人は誰もいない。そこに夏焼組からの報復が襲いかかる」
- 331 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:42
- だからみんな怖くて
グループを抜けることができないでいる。
本当は抗争なんかしたくないコでも
みんなが悪口を言っているのに、自分だけ参加しないことなどできなくなる。
「そんな秋山さんを見て、徳永さんは条件を持ちかけた。
『本当にグループを移る気があるなら、夏焼さんに対して嫌がらせをしろ』
と命じたんだ」
「ああ……あっちのやり方はいつもそう」
以前、教材隠しのいたずらが問題になったこともあった。
いじめられたくないコの弱さを食い物にして
カリスマは権威を強めていく。
「本当は、今日がその日のはずだった。
だけど……私たちがいたずらを隠してしまった。
秋山さんは焦っただろうね。
徳永さんに『結局、夏焼さんの味方じゃん』と言われるかも知れない。
だから秋山さんは、
今朝早く登校したことを隠さなくてはいけなくなった。
今日早く来ていたことを、徳永さんが知ったら
『なんでチャンスがあったのに、何もしなかったのか?』
と問い詰められてしまう。
やったけど失敗した、とも言えない。言い訳をしていると思われちゃう。
それで、徳永さんが登校するギリギリまで、どこかに隠れていたんだ」
私は話しながら胸が痛くなった。
- 332 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:42
- 「徳永さんの登校は8:45。
そのちょっと前に秋山さんは教室に入ったんだよ」
「ん?ちょっと待って。
じゃあなんで、あっきゃんは30分に着いたなんて言ったの?
45分って言えばよかったのに」
「それを徳永さんに聞かれたら困るから、ウソを言ったんだ」
「困る?」
「もし秋山さんが45分に登校したんなら徳永さんのすぐ近くを歩いてたはずじゃん」
「徳永さんにウソがバレる」
「そう。だから
秋山さんは徳永さんよりちょっと早く登校したことにしておく必要があった。
だけど駅から学校までは見通しの良い直線道路。
5分前とか10分前に歩いていたとしても、見えてしまう。
例えば40分に登校したことにしても、
徳永さんから『じゃあ私の前を歩いていたはずだ』
と指摘されてやっぱりウソがバレる。
どうしても秋山さんは8:30までに登校したと言わなくてはいけなかった」
その結果、今度は岡田さんの証言と矛盾してしまった。
しかし秋山さんにとっては精一杯のことだったのだろう。
なんせ、夏焼さんにいたずらを仕掛けた直後に
夏焼さんから「何時に来ていたのか?」と尋問されたのだから焦っていたはずだ。
そんなに何度もウソの上塗りはできない。
夏焼さんにだけ別のことを言っても、それがいつ徳永さんに伝わるかわからない。
秋山さんには8:30と答えることしかできなかった。
- 333 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:42
- 「ねぇ……夏焼さん」
「ん?」
私は、口調を柔らかくして言った。
「今日一日、秋山さんは針のむしろに座っているような時間を過ごしてたんだよ。
私……ちょっとかわいそうになった。
もちろん、いたずらをしたのは悪いことだし
私たちが巻き込まれたことには腹も立つ。
でも、まーさんは自分が疑われている状況でも、秋山さんをかばおうとした。
その気持ちが、今はすごくわかる。
だから……その……」
「あのコを、責めるな……って?」
「うん。……ダメかな?
真相を解明した、私からのお願いってことで」
夏焼さんは、ちょっと不機嫌な表情のまま言った。
「いいよ」
「本当?」
「あんたたちが隠してくれたおかげで誰もいたずらのこと知らないんだから
示しをつける必要もないし」
「夏焼さん……」
「ん?」
グループのリーダーも、大変だね。
「なんでもない……。
じゃあ、秋山さんは?」
「本人の意志で向こうのグループに移った。
私も了承済み。そう言えば、あのコがターゲットになることはないよ」
「よかった」
- 334 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:42
-
◇
こうして
夏焼さんのため、クラスのために事件を葬り去る選択をした私たち。
しかし翌日
結局事件は、クラス中の知れるところとなってしまった。
そのときの様子を書いておこうと思う。
翌朝、教室に入ってきた夏焼さんが
いきなり徳永さんにつかみかかった。
周りが事態を把握できないでいるうちに
夏焼さんは徳永さんの髪をつかみ
ぎゃーぎゃーと泣き出した。
お前のやり方は汚い文句があるなら直接言え陰険な性格が気に入らない
そんな内容のことを5、6回繰り返して叫び続けた。
突然のことにクラスは騒然となり、夏焼さんの子分たちが止めようとしたがその前に
今度は徳永さんが夏焼さんを殴りつけた。
聞こえるように悪口を言うなクラスを仕切っていい気になるなふざけるな
こちらも滅茶苦茶に絶叫しながら何度も何度も夏焼さんを叩いた。
女の子どうしの喧嘩とは思えないほど壮絶にお互い殴り合い、つかみ合い
クラスは収集がつかなくなってしまった。
みんなあまりの恐ろしさに立ちすくんでしまい、誰も止められなかった。
- 335 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:43
-
そのとき
ガァン!と扉が大きな音を立てた。
「うっさいんだけど!」
藤本先生だった。
先生の登場によって、クラスは一気に白け、喧嘩は収まった。
夏焼さんと徳永さんは、前に呼び出されて立たされた。
藤本先生は、たっぷり2人を睨みつけたあと一言だけ
「お前ら面倒くさい」
と恐ろしく低い声で言って、そのまま教室を出て行ってしまった。
残された2人はぽかん。
喧嘩仲裁に入った教師に「面倒くさい」と言われて、言葉もなかったようだ。
それ以降、2人は喧嘩せずに過ごしている。
仲良くなったかどうかはわからない。
私たちには関係のないことだったし
誰に聞いても本人たちの心境はわからないみたいだった。
- 336 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:43
-
卒業式の3日前、徳永さんが夏焼さんの前に立ちはだかった。
また何か起こるかとクラス中が緊張する中、徳永さんは
「卒業式でミキティに花束あげるから、1人100円ずつ」
とだけ言って立ち去った。
夏焼さんは、すぐにグループにその話を伝え翌日には
クラスで3600円、全員分のお金が集まった。
卒業式。
夏焼組と、徳永組と、私たち第三勢力。
クラス全員のお金と、クラス全員の寄せ書きが藤本先生に送られた。
寄せ書きには
夏焼さんと徳永さんの名前が隣に並んでいた。
- 337 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:43
-
ということで小春たちの中学生活は、これでおしまい。
なんだかんだ、思い出に残るクラスになったのでよかったと思っている。
ちなみに(千奈美に)、私とまーさんは同じ高校に進学することになった。
友達作りが苦手なまーさん。
私が一緒にいてあげないと心配でしょうがない。
高校での新しいクラスには、グループ抗争もなく、みんなが自由だった。
これが大人になる、ということだろうか。
これなら、おかしな事件に巻き込まれることもないだろう。
まーさんは謎がなくなってちょっと寂しそう。推理小説ばっかり読んでいる。
でも
2人でやった探偵ごっこの記憶は
これからもずっと、私たちの心の中に生き続ける。
どうしようもない権力抗争の中で
2人(3人?)で興じた探偵ごっこ。
私たちの心を救ってくれた探偵ごっこは
私たちの糧となり、今も私たちの中に生き続けている。
3年2組だったみんながみんな
あのクラスを良い思い出と思ってくれるよう
願いを込めながら
今回の事件簿を閉じたいと思う
- 338 名前:白い登校9 答え 投稿日:2008/08/19(火) 00:44
-
白い登校 −完−
- 339 名前:いこーる 投稿日:2008/08/19(火) 00:46
- ということで正解はB1でした。
正解された方、おめでとうございます。
ご解答くださった方、感想をくださった方、
そしてこのお話を読んでくれた全ての方に感謝です。
本当にありがとうございます。
- 340 名前:いこーる 投稿日:2008/08/19(火) 00:51
- 流しを含めてあとがき
茉麻ちゃんについて
茉麻ちゃんのデビューは小学4年生でしたが
当時の茉麻ちゃんは緊張しぃの、すぐ上目遣いになるコでした。
あれから6年、あんなに度胸のあるコになるとは……
引っ込み思案なのに推理になると饒舌。
強さと弱さを併せ持つ探偵像が伝わってくれれば幸いです。
- 341 名前:いこーる 投稿日:2008/08/19(火) 00:54
- 小春ちゃんについて
小春ちゃんも強烈なインパクトを持って登場したコだったと思います。
でも、しっかりした部分とか、強い部分とかもいっぱい持ったコだと思います。
声優としても大活躍、いろんな才能を持った小春ちゃんを書くことは
とっても楽しい作業でした。
- 342 名前:いこーる 投稿日:2008/08/19(火) 00:58
- 推理について
トリックの方が地味だったので
犯人当てとトリック当てを今回は分散させました。
思いつくかどうかよりも、読んで気づくかどうか。
そういうクイズの方が面白いんじゃないかと思ったからです。
しかし相変わらずヒヤヒヤしますね。
解答いただく度に「どうしてこの解答になるんだ?」と
読者様の思考をトレースしながら
論理に穴がないかどうかを確かめる。
最後の最後まで気が抜けません。
次回作については、全く構想がありません。
思いついたらまたやるかもです。
ここまでお読みいただきました皆様
本当にありがとうございました。
- 343 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/19(火) 01:02
- 今回は??降参でした
高校編も期待して良いのかな?
- 344 名前:316 投稿日:2008/08/19(火) 07:58
- >>252 と >>264 に違和感があったから、犯人は特定できたけど、足跡の問題は
最後まで解らなかった。
実際にはまぁが先に着いていたのだけど・・・とか、線路を通ったのはまぁなんだけど・・・
とか色々考えたのですが。
トリックを使っていないって、不自然がないだけに、むずかしいね。
- 345 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/06(金) 04:31
- お腹いっぱいです☆
おもしろかったとゆいたい♪
- 346 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/12(木) 22:52
- 茉麻が活躍してる小説が読めてうれしかったです☆
珍しいカップリングでしたが良かったです☆
- 347 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 22:48
- まぁさ、かわいいよ。。。
- 348 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/10/08(木) 00:03
- いまさらな感想ですいません
今回の一件で飼育に久しぶりに来たんで、この作品を読めてよかったです
ふと思ったんですが、この話の茉麻って幼い頃に出会ったアイボンさんに考え方とか影響受けてるんだなぁと感じました
そしてそれは何か嬉しかったですw
- 349 名前:いこーる 投稿日:2010/03/02(火) 18:54
- ご無沙汰しています。
久しぶりに更新させていただきます。
小春も茉麻も出てきませんが、よかったらお楽しみください。
- 350 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:55
-
嗣永警部補の娘 −春たちの学園外伝−
- 351 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:55
-
第1話:「携帯メールの罠」
VS 中島早貴
- 352 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:55
- ―――もう、最悪!!
早貴は、イライラしていた。
教室の時計を見ると18:40を回っていた。
教室には誰もいない。
ただ、誰かの飲み終えたビタミンドリンクの瓶が
ロッカーの上に放置されているだけのがらんとした風景だった。
有名進学校といっても、もう開校して結構な年月が経っていて
教室の壁にはひびが入っていた。しかもこの校舎、微妙に傾いているらしい。
そういう光景も、早貴のイライラを加速させた。
―――ほんっと、お母さん余計なことすんだから
先ほど、職員室から解放されたばかりである。
早貴は、地元の公立中学ではそこそこの成績だった。
その早貴が親の見栄で有名進学校に進学したのがこの4月。
今は3月だからもうすぐ1年も終わりになるが。
しかし、いくら地元で成績上位であっても
進学校で優等生ばかりに囲まれては、順位も上がらない。
それは、仕方ないことだ。
仕方ないことなのに……
―――お母さん、何もわかってないんだから……
娘の成績が落ちたと思い込んだ母親が
早貴に無断で担任に相談をしていたのだ。
「中学の頃はよくできていたのに」「あの子はもっとできるはずなのに」
それを真に受けたのか何なのか、今日、担任から呼び出しを受け
なぜか部活を辞めろとかさんざんに言われまくって
ようやく解放されたのがついさっき。
- 353 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:56
- その担任の言い方がまた「夢がない」とか
「何のために生きているのか」とか
人格をえぐるような内容だった。
ああいうことを平気で言える神経が信じられない。
しかし
―――私、生きてる意味ないのか……
早貴は、そういうのを簡単に
聞き流せるような性格ではなかった。
友達からちょっと「抜けている」と言われただけでも
ムキになって問いただすくらいだ。
―――ほんっと、なんで生きてんだろ……
……。
いや、自分でも発想が暗いと思う。
先生から腹の立つことを言われたくらいで……
とは、思うのだが
それがなかなか心から取れてくれないのだった。
もともと親や先生の言うことを従順に聞いて生きてきた。
しかし教師から「なんで生きているのか」とか言われると
それは納得できない。
納得できないなら納得できないで
「バカな大人がいるな」でいいのかもしれないが
早貴にはそれができないのだ。
―――本気で死んだりしたら、あいつ慌てるだろうな…
- 354 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:56
- 親や担任の慌てふためく姿を想像して
早貴の心の不道徳な部分が、急に高鳴りだした。
もちろん、自殺などは本気で考えていない。
自殺をする、と脅しをかけてみる。
演技が得意なわけじゃないけど、
見る目のない担任なら簡単にだませるだろう。
でも……たぶん、親には見抜かれる。
そして「バカなことしてんじゃない!」と叱られる。
それじゃ、ストレス解消にならない。
―――……メール
と、ふと思った。
また、胸が高鳴る。
優等生で通してきた早貴は、普段そんないたずらなどしない。
そもそも考えもつかない。
それが今、教師に叱られた直後、たまたま思いついてしまった。
優等生の自分が、いたずらで大人たちをこまらせる。
その甘美な魅力に、早貴はとり憑かれてしまった。
メールを打とう。先生だけに。
そう思った。
死んでやる、と。
自分には生きている価値はない、と。
しかし、
―――やっぱり、ダメ
自殺予告のいたずらで逮捕された人がいた、というニュースを思い出した。
これまで優等生の振りをしてきた。
自分のいたずらで、そこまで大げさにされては
積み上げてきたものが台無しだ。
- 355 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:57
- ―――もう、変なこと考えるのやめて、帰ろう
と、そのときブゥゥゥゥン。とロッカーが不気味に唸った。
早貴はびっくりして飛び上がった。
―――な、何?
早貴は、おそるおそる、ロッカーに近づいて見る。
すると……再び音が鳴る。
この音は携帯のバイブだ、とわかった。
誰かが携帯をロッカーに忘れている。
早貴は音をたどりながら、そのロッカーを探り当てた。
「熊井」
と書かれたロッカーだった。
「おまえも、熊井を見習え!」
先ほどの担任の罵声が脳内によみがえった。
熊井友里奈。
クラスの委員長を務める超優等生。
担任も贔屓にしている生徒だった。
早貴の中の小悪魔が再び姿を現す。
別に彼女に、直接恨みがあるわけではない。
しかし「熊井を見習え」と言われたのが気にくわなかった。
だから、彼女も巻き込んで騒ぎを起こしてやりたくなった。
しかもこの方法なら、自分には害が及ばない。
- 356 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:57
- 早貴は、友里奈のロッカーへと手を伸ばしながら
どんな文面にしようかと、嗜虐的な考えにふけっていた。
―――先生、私はもうみんなの期待に応えるのに疲れました……
―――プレッシャーが大きすぎました……
「ははっ!」
早貴は、無意識に笑っていた。
ロッカーを開けると
中には教科書が大量に詰み上がっていた。
携帯はその下敷きになっていた。
携帯を置いたことを忘れて、
その上に教科書を載せてしまったらしい。
―――よく壊れなかったな
メールを開くと
<着信あり:夏焼雅>
とあった。
―――だれだろ?
早貴は無視してメール作成を選択した。
アドレス帖を開くと「1年6組」というフォルダがあった。
- 357 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:57
- 開くと
―――うわっ!
なんとクラス全員の連絡先が入っていた。
もちろん、早貴のもある。
友里奈とは名前で呼ぶことは呼ぶが
連絡などほとんどしない程度の仲なのに。
―――さすが委員長
担任の名前を見つけて、選択しメールを文面を打ち込む。
ドキドキは頂点に達していた。
送信ボタンを押すと、深くため息をついた。
震える手で携帯を元の位置に戻すと、早貴は教室を急ぎ足で後にした。
教室を出るとき、再びブゥゥゥゥン、とロッカーが大きく響いた。
- 358 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:58
-
夜は眠れなかった。
自分のしたことの重大さが、今さら実感できる。
学校では、どんな騒ぎになるだろう。
自分は、平気な顔でごまかせるだろうか。
……
目を閉じても、想像は悪い方向にしか流れてくれない。
やはり、眠れなかった。
- 359 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:58
-
翌日……
教室に入ると、とたんに嫌な予感がした。
雰囲気がいつもと違って、騒がしい……。
と思っていたら、沙弥香が近寄ってきた。
北原沙弥香。通称さぁや。沙弥香とは教室でよくしゃべる仲だ。
と、いきなり沙弥香は、早貴を驚かせる一言を発した。
「ね!警察来てるよ」
―――!?
いきなり心臓が飛び出しそうになった。
まさか……まさか……
「け、警察!?」
「なんか、先生のところに昨日『自殺する』てメールが入ったんだって」
警察なんか呼ぶとは思わなかった。
確かに、自殺予告は先生としても放っておくことはできないだろうけど
「でも、なんで警察が?」
そのとき、
「ふふふっ」
会話の流れを遮る不気味な笑い声が背中から聞こえてきた……。
嫌な感じの気配……。
―――この声は……
- 360 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:58
- 「嗣永先輩?」
「や、早貴ちゃん久しぶり!」
「なに人のクラスに勝手に入って来てるんですか?」
「ひどーい!!ももと会えて嬉しいくせに、このこの!!」
「や、やめてください」
まとわりついてくる桃子の身体を引き離し、あらためて相手を見た。
相変わらず低い背に、
人の神経を逆なでするしゃべり方。
彼女の名を学校で知らぬ者はいない。
超弩級の勘違い女、
しつこうざむさくるしい嗣永桃子とは彼女のことである。
早貴は一度、
押しつけられた選挙管理委員会の仕事で一緒になったことがあり
不幸にも彼女と知り合いになってしまった。
―――めんどくさい人が、めんどくさい時に……
早貴は選挙管理委員会の最中
「私のことはももって呼んでね」と言われたのだが
未だに「嗣永先輩」と呼び、敬語も崩さずにいる。
あまり、親しくなるつもりはない、
という意思表示のつもりなのだが
その意思が桃子に伝わっている様子はない。
「で、嗣永先輩、何しにきたんですか?」
「それがさー、熊井ちゃんが
自殺メールしたとかで呼び出されちゃったみたいなの」
―――……。
もちろん早貴は、
友里奈が疑われる理由を知っている。
早貴自身が、彼女の携帯を使って
メールを送ったのだから。
- 361 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:58
- しかし、周囲にはあくまで
「今、初めて聞いた」という印象を与えなければならない。
早貴は一瞬で、対応を決定した。
「え!?友里奈ちゃんが!?」
「そーなの」
「あの人、そんなに悩んでたの?」
会話は自然に流れていると思う。
よし、大丈夫。
ボロを出さなきゃ、自分が疑われることはないはずだ。
「それはないと思うんだけどぉ。
でも、警察の人が調べたら
メールの送り主は熊井ちゃんだってことになったの」
そこで、早貴は先ほどからの疑問を口にした。
「なんで、警察が?」
友里奈が先生に呼び出されることくらいは予想していたけど、
まさか警察を呼ぶとは思わなかった。
「自殺予告は、警察が送り主を調べられるんだよ。
まーさんに聞いたら『威力業務妨害に当たる』って」
「まーさん?」
「須藤茉麻」
「あ、あの2年の……」
オタクの人、と言いかけてぎりぎりで止めた。
- 362 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:59
- 「だからね、警察が調べれば、そういうのはすぐにわかるの」
桃子はそう説明した。
しかし、早貴の疑問に対する答えになってない。
そこで、言葉を換えてもう一度聞く。
「先生、友里奈ちゃんの携帯アドレス知らなかったんですか?」
そう、
いきなり警察を呼ぶ前に、
本人に確認しようとはしなかったのか?
早貴はそれを聞きたかったのだ。
早貴は、普通に携帯から送信しただけだから
当然相手にアドレスがわかるはずである。
「知らなかったらしいよ」
「へぇ、以外だね」
と、沙弥香が言った。
友里奈といえば
先生からエコ贔屓を受けている学級委員長。
当然、アドレス交換くらい
しているものと早貴も思っていたのだ。
携帯の中にも担任のアドレスが入っていた。
もっとも、友里奈は
全員分の連絡先を携帯に入れていたから
向こうがそれを知っているかどうかはわからない。
事実、早貴も自分の連絡先が
友里奈の携帯に入っているとは思わなかった。
しかし……
いきなり警察?
なんか信じられない。
- 363 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:59
- 「それでも、送られてきたアドレスに返信するくらいは……」
と言いかけたが……
―――無理か。ロッカーの中にあったんだもんね。
当然、先生は送り主に返信しただろう。
しかし、肝心の携帯はロッカーの中だ。
連絡が取れる訳がない。
そこで、警察に通報してしまった、というわけか。
と、早貴は1人納得したのだったが、
「ん?どうしたのかな?」
桃子がぐいっ、と顔を近づけて(うっとうしい!)迫ってきた。
「せ……先生は、自殺メールに返信しなかったんですか」
「したらしいけど、全然、反応がなかったんだって」
「へ、へぇ。そうなんですか」
桃子は、ようやく早貴から離れた。
―――あぶないあぶない。
危うく桃子に変な疑いをもたれるところだった。
携帯がロッカーにあったことを知っているのは犯人だけなのだ。
ロッカーにあったからといって、早貴が1人納得してはいけない。
あくまで、知らない振りをしなくては。
「じゃあ、先生も困っちゃったわけですね」
「そ。だから、警察に通報した。
で調べたら発信元が
熊井ちゃんの携帯だって特定できたってわけ」
- 364 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:59
- 「ところで先輩、詳しいですね」
「今日来てる人、パパと同期の人でね
ももともお知り合いなの。
いろいろ教えてもらっちゃった」
桃子の父親が警察官
というのは学校でも有名な話だ。
「それで先輩は、
うちのクラスに野次馬しに来たんですか?」
と、これはあまり意識せずに言ったのだが、
「ひどーい!!野次馬じゃないもん!」
桃子から猛反発を食らってしまった。
―――あー、ウザい……
「ただのいたずらなのに
先生が警察呼んじゃったでしょ。
それで、パパの同期の人が、
忙しいのに来てくれて、なんかかわいそう」
「確かに…」
「え!?いたずら!?」
沙弥香が大きな声を出したので、
慌てて早貴も「いたずら!?」と沙弥香と声を揃える。
―――そうだよ。驚かなきゃね…
早貴はまだ、自殺予告としか聞いていなかった。
いたずらと桃子が断言するなら
びっくりしたリアクションを取るのが正解だ。
- 365 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 18:59
- 「自殺予告っていたずらだったんですか?」
「そうだよ。警察の人は、信じてくれないけど」
「へ?」
―――警察の人は信じてない?ってことは……
「なんだ、先輩がそう思ってるだけなんだ」
「だけどだけどだけどぉ。ももは絶対間違ってないもん!」
桃子が足をドタドタと鳴らす。
「なんでですか?」
「熊井ちゃん、携帯を学校に忘れて来たって言ってるの」
「それを、信じるんですか?」
「だってぇ……」
―――なんだ。びっくりした。
自殺メールがいたずらだというのは、桃子が1人で言っているだけなのだ。
警察がそう思っているわけじゃない。
それなら、あまり心配はないだろう。
―――心配ない……よね?
早貴は、状況を頭の中で整理する。
警察を呼んだと知ったときはやばいと思ったが
警察は友里奈がメールを送ったと思っている。
友里奈の携帯が使われたのだから、当然だろう。
本人がそれを否定しても
怒られたくないから嘘をついているだけだと思うだろう。
- 366 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 19:00
- 仮に、友里奈が犯人ではない、と証明されたとして
友里奈の携帯を早貴が使ったという証拠は何もない。
指紋を採られたらアウトだけど
いたずらメールだとわかっていながら
そんなことはしないだろう。
友里奈が送ったのでないなら
誰かが友里奈の携帯を勝手に使ったことになるけど
本気の自殺予告を
他人の携帯から送信するのはかなり不自然だ。
当然、警察もいたずらと見なすだろう。
その時点で、本格的な捜査はなくなるはずだ。
―――大丈夫、……大丈夫。
早貴は自分に言い聞かせた。
- 367 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 19:00
- 「ももちゃーん」
教室の入り口で声がしたので見ると
知らない生徒が立っていた。
あのバッジの色は、2年生だ。
「みーやん。おそーい」
「急に呼び出されたって、
部活抜けられないよ!」
「あーそんなこと言って!
熊井ちゃんがピンチなんだよ!」
「うん。聞いた」
「でね、でね。
熊井ちゃんの無実を証明する証拠を
みーやんに見つけて欲しいの」
「あのー、先輩?」
「あ、早貴ちゃん。紹介するね、みーやん」
「夏焼雅です」
―――この人が……
昨日、友里奈に電話をかけてきた人だ。
友里奈の知り合いが増えたと思うと
早貴は居心地の悪さを感じてしまった。
「あ、みんな気にしないで。
ちょっとだけ教室見させてください」
雅がそう言うので見ると
教室のみんなが桃子たちに注目していた。
朝から3年生と2年生が自分たちの教室にいるのだから
気になるのも仕方ない。
しかも3年生の方は学校一の奇人だし。
- 368 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 19:00
- 「失礼しまーす」
そういうと雅は、友里奈のロッカーを探り出した。
桃子が後に続いていく。
「うわ、すごい教科書」
「そうなのそうなのよ。さすが委員長って感じ」
「ここに携帯を忘れてったわけ?」
「て、熊井ちゃんは言ってる。これじゃ
携帯が下にあっても見えないよね」
「私が電話したときも出なかったしねー」
と言いながら雅はロッカーの中をがさごそやり出した。
「あのー先輩?」
早貴はおそるおそる声を出した。
「さっき、友里奈ちゃんの無実を
証明するって言ってましたけど」
「うん」
「そんなこと、できるんですか?」
「みーやんは天才捜査担当なんだから」
そんな人がこの学校にいたのか、と
のんきなことを考えてしまった。
確かに、目をじっとロッカーに向けて
ちょっと鋭そうだけど……。
早貴はちょっと不安になってきた。
桃子たちの関心を別の方に向けた方がいいかも知れない。
そう思って早貴は言った。
- 369 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 19:00
- 「でもー、それっておかしくないですか?」
「何が?」
「だって事実、メールは送られているわけですよね?」
「誰かが送ったんだよ」
「なんでそうなるんですか?
自殺予告に人の携帯使ってどうするんですか?」
「ふふふっ」
桃子は気味の悪い笑い方をすると
早貴の正面に立った。
「早貴ちゃん、どうしたの?
友里奈ちゃんが犯人であって欲しいの?」
「な……、何言ってんですか!?
ただ、先輩の話の筋が通らないから……」
「あらー、必死ちゃんだ」
「だ……、な……、え……!?」
―――こ、この人……
ただのアホな勘違い女だと思っていたけど、……まさか
「自宅で携帯がなくなったことに気づいたんだって……」
桃子は急に話を変えた。
展開の早さに、早貴の頭が混乱し始める。
「……。」
「私もよくやるんだ。
携帯どこ置いたかわかんなくなっちゃって、
で、熊井ちゃんどうしたと思う?」
「え、……えっと」
桃子の早口にのまれまいと、早貴は一呼吸置いて言った。
「自分でかけてみた?」
- 370 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 19:01
- 「ピンポーン!熊井ちゃん自宅の電話を使って
自分の携帯にかけてみたらしいの。
その時刻が昨日の午後6時50分でした。
でね、自殺予告メールの送信が49分。
その後もみつからなくて
熊井ちゃん2分後にかけ直してるんだよ」
桃子はメモも何も見ずに時間を分単位でスラスラと言う。
早貴は脳内ですばやくメモを取る。
自殺予告…18:49
自宅から1…18:50
自宅から2…18:52
確か早貴が教室を出る際、一度ロッカーの中で鳴った。
それが18:50の電話だったのだろう。
「いい?メールの直後に2回もかけてるの。
まさか自殺予告をして1分で……」
桃子は、変なところで間を置いた。
と、思ったら
「携帯をなくしたなんてことわぁぁぁぁ」
はぁぁっ、と息を吸って
「ぜっっっっったいにありえない」
と言い切ったと思ったら
「ぜぇはぁぜぇはぁ」
と息を切らす。
- 371 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 19:01
- 「おかしなしゃべり方しないでください!
みんな怖がってるじゃないですか」
「でも、ときどきえら呼吸しないと、ほら人間なんだから」
意味がわからない。
さっきのどこがえら呼吸だろう。
「ね?ね?熊井ちゃんが送ったんじゃないでしょ?」
「そんなことありません!!
自宅から電話があったってだけじゃないですか!
本人がかけたとは限らないでしょう!?」
「……」
「それに、本人が携帯片手に持ったまま
自分にかけたのかも知れないじゃないですか?
自分が送信したことをごまかすために!!」
「……」
桃子がじっ、と
早貴をにらみつけていることに気づいた。
―――な、なによ……
「ふぅん。やっぱり早貴ちゃん、
熊井ちゃんを犯人にしたいんだ」
血液がさっ、と凍り付いたように感じた。
―――……しまった。
イライラするしゃべり方に乗せられて
つい必死になってしまった。
これでは桃子の気を逸らそうとして
墓穴を掘っただけだ。
- 372 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 19:01
- 「そ、そういうわけじゃ……」
「以上」
桃子は強制的に早貴の話を止めて
雅の方を向いた。
「みーやん、どう?」
「うーん。証拠がない……」
「どうする?」
迷っている2人の様子を見て
早貴は、ほらみろっ、と思った。
いくら桃子が早貴を疑ったって
早貴が送った証拠なんてないのだ。
「仕方ない。聞き込み捜査だね」
そう言って、雅が立ち上がる。
「ねー、昨日最後に教室に出た人って誰?」
雅がクラスに向けて聞いた。
すると、沙弥香が手を挙げた。
「私……だと思います。
部活の帰りに荷物を取りに戻ったから」
「何時」
「18:30くらいです」
「そ、じゃあちょっと話聞かせてもらっていいかな?」
「いいですよ」
そういって、桃子と雅が教室を出て行こうとする。
沙弥香もそれに続いて行く。
- 373 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 19:02
- 早貴の心が、どんどん落ち着きを失っていく。
自分の望まない方向に
話がどんどん進んで行っている。
教室を出る直前
「あ、……」
と言って、雅がゴミ箱に手をつっこんだかと思うと
「割れてる」
そう言ってビタミンドリンクの瓶を取り出した。
- 374 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 19:02
- 桃子たちが図書室に入ると、
雅は沙弥香をソファに座らせた。
リラックスさせ、覚えていることを話してもらうのだ。
「昨日、部活が終わったのは18時25分くらいでした」
この学校の部活終了時刻は18時30分である。
30分を過ぎても活動をしていると叱られるので
ほとんどの部活は25分以前に活動を切り上げる。
「部室棟を出たのも私が最後で、どの部室も暗かったです。
教室に忘れ物をしたので、取りに行ったんです」
「教室に誰かいた?」
「いいえ。いませんでした」
「それで?」
「それで……って、別に何も……」
「他に何か変わったことなかった?」
「そうそう、なーんかないかなぁ?」
と桃子が身を乗り出して来た。
雅が迷惑そうな顔をする。
「早貴ちゃんのこととか」
「なっきぃ?」
「そうそう」
「それって何か関係あるんですか?」
「あるかも知れないし、ないかも知れない」
「……。」
相手が警戒しそうだったので、雅がフォローする。
「とりあえず関係ありそうなことは
確認しておきたいんだよね。
深い意味はなくてもいいから」
- 375 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 19:02
- 「なっきぃ……あ、昨日なっきぃ先生に呼び出されてました」
「何時頃までかかってた?」
「ずいぶん遅くまで残ってましたよ」
「ちょっと待って、北原さんなんで知ってるの?
教室には誰もいなかったんじゃなかった?」
雅が鋭く、質問を挟む。
「えーっと、なんでだっけ?
確かに直接見たわけじゃないんですけど……」
「何か、彼女の持ち物を見たとか?」
「うーんと、違う……じゃなくて……」
記憶があいまいっぽかったので、雅が助けを出す。
「昨日の18時半過ぎ、
北原さんは部活を終えて教室に戻った。
外は暗かったよね?ちょっと、寒かったし……」
「はい、暗かったです。
廊下の床も冷たくて……あ!靴です、靴!!」
「思い出した?みーやんグッジョブ」
記憶が曖昧なときは、その周辺を思い出させる。
聞き込みの基本である。
「靴?」
「私、渡り廊下の扉から、靴脱いで教室に行ったんです。
ほら、部室棟からだとその方が近いじゃないですか。
なのに、帰るときにはすっかり忘れてて、昇降口に行ったんです。
もちろん靴あるわけないですよね?
だけど『なんでないんだろ?』って思って……。
それで、なっきぃの靴箱を確認したんです。
そしたら私のはもちろんなかったんですけど
なっきぃの靴は、ありました。」
- 376 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 19:02
- 桃子が首をかしげる。
雅は聞いた。
「北原さんは自分の靴を探してたんだよね?
なんで中島さんの靴箱を見たの?」
「よくあるんです」
「?」
「なっきぃって貸した物戻ってこないんですよ。
テニスシューズ貸したら、
そのまま自分の靴箱にしまっちゃったり
この間なんか貸した教科書に
自分の名前書いちゃったんですよ。
すごいでしょ?」
「確かに……それはすごい」
「だから、なんかなくしたら
一応なっきぃのロッカーと靴箱は
確認するようにしてるんです。
クラスのみんな、そうしてますよ」
雅は苦笑した。
まじめそうなコだと思っていたけど
案外おっちょこちょいなのか。
「で、北原さんが靴箱を見た時間は?」
「えーっと、45分くらいでした」
「間違いない?」
「間違いありません」
「その後は?」
「そのすぐ後に、思い出したんです。
渡り廊下から来たんだって。
それで、戻って靴を履いて……」
「そのまま帰った?あるいはどっか寄った」
「そこのコンビニに……」
- 377 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 19:03
- 「何買った?」
「雑誌を……。待ってください。レシートあります」
雅はレシートを受け取って
「ありがと……あと、ついでに、
これ、割れてたんだけど…」
さっき拾った瓶を見せた。
「……ああ、割れてたんで私が朝、片付けました……って
それがどうかしたんですか?」
「わかんないけど、気になったから」
「はぁ……」
「結構直感ってバカにできないんだよ、捜査のときって」
「ふふふっ、みーやんは嗅覚鋭いもんね」
「たぶん、昨日ロッカーの上に
放置されてたやつだと思います」
そのとき桃子が雅の背中を素早くつついた。
「ももちゃん?これ大事?」
「すごく大事!
ねぇ、さぁや」
いつの間にか沙弥香をニックネームで呼ぶと
桃子は
「できればそれ、詳しく教えて」
にやりと笑って言った。
雅と沙弥香が先に図書室から出る。
桃子は、不敵な笑顔を浮かべたまま
くるりと振り返った。
- 378 名前:嗣永警部補の娘 投稿日:2010/03/02(火) 19:03
- 親愛なる読者様へ
「えー、
なかさきちゃんはリアルの世界でも
矢島舞美ちゃんのDVDを返さなかったり、
萩原舞ちゃんの靴下を借りたままだったりするそうです。
ずぼらでかわいいところもあるんですね。
さて、この事件はももの見事な頭脳によって
あと数手で詰み上がります。
しかし、機転の利く早貴ちゃん。
簡単には白状しそうにありません。
正しい手順で事実を積み重ねて
追い詰めなければなりません。
頭のいいももに、みんな惚れちゃってくださいね。
ここで一つ、クイズします。
えー、私はいつ、彼女が犯人だと気づいたか?
それは何レス目に書かれているか?
答えは、次回更新のとき。
読者の皆様は、答えとなるレス番号を3ケタの数字でご記入ください。
この場合、メル欄ではなく、レス本文に書き込みいただいて構いません。
数字以外に文章による指摘はいりません。厳禁です。ちゃーんと、守ってくださいね。
もちろん内容予測やネタバレも
他の読者様のご迷惑となりますので、やめてください。
感想は大歓迎……ていうか、みなさん頑張るももを応援してください。
以上、嗣永桃子でしたー!」
- 379 名前:いこーる 投稿日:2010/03/02(火) 19:04
- 本日の更新は以上になります。
解決編は一週間後くらいに。
- 380 名前:いこーる 投稿日:2010/03/02(火) 19:06
- 第1話と書きましたが、
今のところ第2話以降の構想はまったくありません。
読み切り短編と思っていただけるとありがたいです。
- 381 名前:いこーる 投稿日:2010/03/02(火) 19:10
- 亀すぎるレス返し。すみません。
>>343
えーっと、2年越しの高校編になります。
>>344
どうもー。本格的なトリックはどうも苦手でして
「教室が密室」トリックが作者の限界のようです。
>>345
ありがとうございます。遅レスごめんなさい;
>>346
茉麻小説。また、機会があったら挑戦してみたいです。
>>347
激しく同意です!
>>348
どうも。
アイボンさん……そう、似てますよね言っていることが。
影響、受けてるんですね。
一方、桃子はあんまり影響受けなかったみたいですw
- 382 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/03(水) 01:06
- 375???
いこーるさんの作品をまた読めて良かった
しかもももちのキッズ探偵団とは楽しみ過ぎる!
- 383 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/03(水) 10:40
- 362かな?
更新、楽しみに待ってます!!
- 384 名前:名無飼育 投稿日:2010/03/03(水) 13:30
- 361って気がしますた
- 385 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/04(木) 00:06
- では、363で。
キャラ変わり過ぎ。何があったんだ。
- 386 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/05(金) 23:16
- 371かも
- 387 名前:茉麻不足 投稿日:2010/03/06(土) 00:20
- 362かな
- 388 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/07(日) 10:22
- 362ですね。
- 389 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:18
- 体育に行こうとしていたら
「中島」
担任に呼び止められた。
「教室に来て」
「な、何ですか?」
「警察の方が呼んでいる」
―――!?
「ど、ど、どうして、私が?」
「知らない」
早貴は、教師の横を通り抜けて
教室に走り出した。
ジャージ姿の早貴が到着すると
教室には桃子1人しかいなかった。
窓際の席に座って、外を見ている。
「……警察の人は?」
早貴は聞いた。
「うーんとぉ。
早貴ちゃんと2人にしてもらうように
ももが言ったの」
「はぁ?そんなこと勝手に……」
「だってだって、大切な話だから」
「私、次体育なんですけど」
- 390 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:19
- 桃子はぴょん、と席を立ち
早貴の方に歩いてくる。
「大丈夫、すぐ終わるから」
「……」
「ね?ね?お願い!」
「わかりました。すぐ終わるなら…」
ふふっ、と例のごとくうっとうしい笑い方を1つ。
そして
「早貴ちゃん、昨日どこにいたの?」
そう聞いた。
「ど、どういうことですか?」
「昨日の18時49分、どこで何していましたか!?」
「わ……私が犯人だって言いたいんですか」
「えー、」
桃子は一瞬、迷ったような顔をして後
「うん」
言った。
「なんでそうなるんですか!?」
「さぁやがね、
さぁやが早貴ちゃんの靴を見てるんだな〜。
45分くらいにまだ靴箱にあったんだって。
さぁやね、自分が裏口から入って来たの忘れて
早貴ちゃんが持ってるんじゃないかと思って
それで見たの。そしたら、早貴ちゃんの靴があったって」
- 391 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:19
- 「さぁやが?」
「ふふふっ。1度、借りたものを返さないと
次に物がなくなったときにも疑われちゃうよ。
ちゃーんと、返しましょうね」
「もう、テニスシューズは返したもん!」
「とにかく昨日のさぁやは慌てていて
早貴ちゃんの靴箱を調べたわけよ」
そこで、一呼吸置くと
桃子がもう一歩詰め寄ってきた。
「さあ、早貴ちゃん?
その時間、まだ校舎内にいたんでしょ?」
―――気をつけろ!
早貴の頭が、ものすごい勢いで回転する。
「いたって言ったら?
私が犯人だって言うつもりでしょ?」
距離を取るため、早貴は一歩下がる。
そして、慎重に言葉を選びながら言った。
「じゃあ、仮にその時間残ってたところで、
そんなこと、話したくないじゃありませんか!」
「認めないなら、なんで嘘つく必要あるのか?
かえって疑われることになると思うけどぉ?」
- 392 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:20
- 「さぁやが?」
「ふふふっ。1度、借りたものを返さないと
次に物がなくなったときにも疑われちゃうよ。
ちゃーんと、返しましょうね」
「もう、テニスシューズは返したもん!」
「とにかく昨日のさぁやは慌てていて
早貴ちゃんの靴箱を調べたわけよ」
そこで、一呼吸置くと
桃子がもう一歩詰め寄ってきた。
「さあ、早貴ちゃん?
その時間、まだ校舎内にいたんでしょ?」
―――気をつけろ!
早貴の頭が、ものすごい勢いで回転する。
「いたって言ったら?
私が犯人だって言うつもりでしょ?」
距離を取るため、早貴は一歩下がる。
そして、慎重に言葉を選びながら言った。
「じゃあ、仮にその時間残ってたところで、
そんなこと、話したくないじゃありませんか!」
「認めないなら、なんで嘘つく必要あるのか?
かえって疑われることになると思うけどぉ?」
「嘘かどうか、わからないでしょ?」
「えー、でもさぁやの証言は信用できるよ。
彼女はいたずらメールの3分後
コンビニで買い物をしている。
みーやんが抜かりなく、レシートも確認しています」
「それだけじゃ……」
「もちろんそれだけならー、
友達のレシートを預かったという可能性もある。
そこで今、みーやんとさぁやがコンビニに行って
店員さんに確認してもらっています。
でもぉ、そんなことしなくても
彼女は犯人じゃないと思うんだよね。
自分から最後に教室に残ってたと言ったんだしぃ。
それに……」
桃子は早貴に近寄る。
「先生に呼び出されてたってことは、さぁやだけじゃなくて
他のクラスメイトも知ってるんでしょ?
熊井ちゃんも知ってたよ?」
「ホームルームのとき名指しで言われましたから」
「じゃ、先生に聞けば、
それが何時までかかったかわかるよね?
最終下校ギリギリの時間に早貴ちゃんを解放したんだから
そのことはきっと覚えている」
「先生が先輩なんか協力すると…」
「先生は今回、一番の被害者だよ!
教え子から変なメールが届いて、
不安だから警察を呼んだら
教頭先生からはおかしな騒ぎを起こしたって睨まれて……
一番、先生が犯人を憎んでいるはず。
きっとももに協力してくれるよ!」
「……。」
- 393 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:20
- 「さ、どうするどうする?
18時49分、早貴ちゃんはどこにいましたか?」
「……校舎内に」
「校舎内のどこ?
ちなみにぃ〜、18時25分の時点で
部室棟の部屋は全部電灯が消えていて暗かったってさ」
「……。」
「他の教室に用事があったというなら
それが何なのかちゃーんと言ってね」
「と、友達と待ち合わせを……」
「じゃーそのコに証言してもらえばいい。
それで無罪です。おめでとう!!
で、そのコの名前は?」
「……。」
「どうしたの?どうしたの?
名前を言えば、疑いは晴れるよ?」
「……。」
早貴は、一つため息をついた。
「……1人で、教室に戻ってました。
荷物置いたままだったから」
「ふふふっ」
- 394 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:20
- 「でも」
―――落ち着け。
今の話は、メールのあった時間
早貴が教室にいた、というだけだ。
教室にいただけで
犯人と確定するわけではない。
「そのとき、熊井ちゃんの携帯を見つけたんでしょ?」
「……。」
早貴は、素早く
次の対応を決定して言った。
「友里奈ちゃんの携帯なんて知りません!」
「でも、荷物を取るためにロッカーの所には来たでしょ?」
「違います!荷物は机の上だもん」
「だーけーどー、直前にみーやんが電話してんだよ。
ロッカーの中でバイブが鳴ると結構大きな音がするよね」
「知りません!
本当にロッカーにあったかどうかも知りません!」
「じゃあ、ロッカーには?」
「だから言ってるじゃないですか。
私、ロッカーには近づいてないんです!」
「ふーん……、でもぉ」
ももこは、一度大きく天井を仰ぎ
「教室に1人でいたんなら、
教室に放置されてた熊井ちゃんの携帯は
早貴ちゃんにしか触れないでしょ?」
- 395 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:21
- 「でも」
―――落ち着け。
今の話は、メールのあった時間
早貴が教室にいた、というだけだ。
教室にいただけで
犯人と確定するわけではない。
「そのとき、熊井ちゃんの携帯を見つけたんでしょ?」
「……。」
早貴は、素早く
次の対応を決定して言った。
「友里奈ちゃんの携帯なんて知りません!」
「でも、荷物を取るためにロッカーの所には来たでしょ?」
「違います!荷物は机の上だもん」
「だーけーどー、直前にみーやんが電話してんだよ。
ロッカーの中でバイブが鳴ると結構大きな音がするよね」
「知りません!
本当にロッカーにあったかどうかも知りません!」
「じゃあ、ロッカーには?」
「だから言ってるじゃないですか。
私、ロッカーには近づいてないんです!」
「ふーん……、でもぉ」
ももこは、一度大きく天井を仰ぎ
「教室に1人でいたんなら、
教室に放置されてた熊井ちゃんの携帯は
早貴ちゃんにしか触れないでしょ?」
「だから、
友里奈ちゃんの携帯が教室にあったと
どうやって証明できるんですか!?」
「熊井ちゃん自身が自宅から電話してるんだってば」
「それは……それは……
本人が偽装のためにやったかも知れないじゃないですか!
警察に調べられたときのために!」
「そんなことするかな?」
「だって……自殺予告なんて
いたずらでやったら大騒ぎじゃないですか。
現に、友里奈ちゃん呼び出されて……」
「そー!そのとーり!」
「だったら……」
「だったら、さぁ」
そこで初めて、桃子が一歩引いた。
そして上目遣いになって、早貴を鋭く睨んだ。
「それを知っていたら、自分の携帯から送信しないよ」
「でも……警察がそこまで調べられると知らなかったら?」
「おやぁ?早貴ちゃん自分で言ってること矛盾しちゃってるよ。
警察が調べることを知らなかったら
自宅から偽装工作をするわけないでしょ?」
「……。」
早貴は、桃子の話を理解するのに時間がかかった。
調べられることを知っていたら、そもそも自分の携帯を使わない。
調べられることを知らなかったら、偽装工作をするはずない。
―――……。
桃子の言う通りだ。
- 396 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:21
- 早貴はじわじわと追い詰められている。
―――待てよ!
「け、けど……」
まだだ。今の話だけでは
携帯が教室にあったかどうかわからない。
「それだと友里奈ちゃんの携帯が
彼女の手元になかったことの証明にしかならない。
教室にあったと、証明でき……」
「それができるんだな〜」
「どうやって?」
「あれ!」
桃子が指さした方を見る。
それはロッカーの上に置かれたビタミンドリンクの瓶だった。
「これと同じタイプの瓶が、今朝、教室に捨てられていた。
さぁやによれば、昨日はロッカーの上に放置されてたんだって。
ちょうどあのくらいの位置に」
それは、早貴も見た。
「今朝、あの瓶を拾ったのは
朝一番、朝練の道具を取りに来たさぁや。
彼女は瓶が床に落ちて割れているのを見て
片付けたと言ってる。
つまり、
さぁやが帰ってから翌朝彼女が登校するまでの間にあの瓶は割れた
そういうことになるでしょ?」
- 397 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:22
- 「はい……。」
「誰もいない間に、落ちたってことになる。
つまり、ロッカーの中に……」
「携帯バイブの振動があったくらいで瓶は動きませんよ!」
「この校舎、ちょっと傾いてるんだよね。知ってるでしょ?」
「でも、携帯で瓶が落ちるなんて……」
「もちろん、携帯の振動で瓶が落ちるかどうかも
みーやんが実験済み!結果は……」
まずい……まずい……
「ちょっと、やってみよう。
見て、今、友里奈ちゃんの携帯を
熊井ちゃんのロッカーに入れます」
「それ……」
「警察の人から借りた」
「先輩、何者なんですか!?」
「早貴ちゃん、かけてみて!番号は…」
早貴は、黙って言われた番号にかける。
ロッカーの上の瓶に注目してみると……
……。
…………。
「……なんだ」
「そう、結果は、携帯が中で滑っていくだけで
瓶は動かない……」
早貴は、ほっと胸をなで下ろした。
- 398 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:22
- 「たーだーし!!」
「ただし?」
桃子は友里奈のロッカーを開け、教科書を取り出した。
「こうして携帯を下にして、大量の教科書で押さえつけるとぉ……
早貴ちゃん、もう一回かけて」
言われるままにもう一度かける。
すると
―――!?
音とともに、瓶がわずかに滑り出した。
「こうすると、携帯自体が動かなくなるかわりに、
振動がロッカーに伝わって瓶が動く」
「でも、ちょっとしか動かないじゃないですか」
「コールが1度ならね」
「2回やったって3回やったって、
ちょっと移動するくらいで
瓶が落ちたりしませんよ!」
「それがねぇ〜」
桃子は、ロッカーから携帯を取った。
そしてメールの受信箱を開いた。
- 399 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:22
- 「こ、これは!?」
早貴は、驚愕した。
「ただのいたずらで、先生がどれだけ心配したかわかる?
着信履歴が37件。
先生は、誰だかわからない教え子のことを心配して
返信があるまで粘り強くメールを送りつづけていたんだよ」
「先生が……」
「以外だった?
結構、あの先生、いいところあるんだから。
さらに……熊井ちゃん自身、その後もなくした携帯を探して
合計7回のコールをしていたの。
37回のメール着信と、7回のコール。
小さな振動が積み重なって、少しずつ、瓶は動いていった。
校舎が傾いているから、何度やっても瓶は同じ向きに移動する」
「待ってください!
携帯で…携帯で瓶が動くことはわかりました。
でも……そうじゃないかも……
そ、そうだ!きっと何かの拍子に落ちたんですよ」
「ちなみにぃ〜」
桃子はロッカーの一つを勢いよく開き、音を立てて閉じた。
「こうやって激しく開閉した場合
みーやんの実験によると
開いて閉じてを3回行うと瓶は落下した」
「だったら……その拍子に…」
「誰が?
早貴ちゃんロッカーに近づいてないんでしょ?
他には誰も教室にいなかったはずだよ?」
- 400 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:22
- 早貴は下唇をかんだ。
さっきのやりとりは、その確認だったのか……。
「昨日は地震なんてなかったし
熊井ちゃんの携帯がここになかったら瓶が落ちることはなかった。
あー、あと他の誰かも携帯を忘れてた
なんてこともないからね。
あまりにも非現実的だ。
1晩でこんなに大量に着信する携帯が他にもあって
それをたまたま忘れた誰かが
たまたま教科書を上にのせていたなんて
まず考えられない。
結論は……
熊井ちゃんの携帯は、確かにこの教室のロッカーにあった!
そして……いたずらメールが送信された18時49分、
教室にただ1人いたのは……」
…………。
「……私です」
桃子は、にっこりと笑った。
「はい、ももの話はこれで終わり」
- 401 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:22
- 早貴はその場にへたり込んだ。
なんだか、どっと疲れてしまった気がする。
「……いつから、疑ってたんですか?」
「今朝、早貴ちゃんと会って5分でわかった」
「うそ……」
「だってぇ〜」
変な角度に首をかしげたまま、桃子が言う。
「早貴ちゃんさ、
『先生、友里奈ちゃんの携帯アドレス知らなかったんですか?』
とか聞くんだもん。何で知ってんかな〜?と思うじゃない」
「だって先輩が言ったんじゃないですか!
警察が調べてようやく友里奈ちゃんだとわかった、って」
「だってさ〜
メールってパソコンから送ることもあるでしょ?」
「あっ……」
固まってしまった。
「熊井ちゃんと早貴ちゃん、
そんなに親しいわけじゃないでしょ。
『あの人』とか言ってたし。
なのに、どうして
携帯から送ったこと知ってんかな?と思うでしょ?ね?ね?
それでわかちゃった。早貴ちゃんが送ったんだって……」
- 402 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:23
- 早貴は、床に手をつき、大きくため息。
「……私……もともとできないコなんです。
怒られるの嫌だから、必死になってただけ。
本当は、こんな進学校来たくなかった。
来たくなかったのに……」
早貴は
自分の感情を桃子に対して
早口で、次々とぶつけていく。
「お母さんがここ受けろっていうから……
自分に向かないって最初からわかってた。
嫌だったのに……来たくなんかなかったのに……
「甘えてんじゃないの!!!」
桃子が急に怒鳴ったので、びくっとなった。
「そんな風にネガティブなことばっか言って
自分のせいじゃないみたいな言い方して……
早貴ちゃんはこの学校に来られて
本当なら感謝しなきゃいけないんだ。
だって……だって……」
「せ……先輩……」
「だって、この学校に入学したから
ももと出会えたんでしょ?」
- 403 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:23
-
……。
…………。
―――い、一瞬、いい人かもって思った私のバカ!
「ほーら、ももと会えたことに感謝して!
ちゃーんと友里奈ちゃんと先生に謝ってきなさい」
もう、反発する気力もない。
「はーい」
早貴はがっくりと肩を落として教室を出て行く。
まさか、自分が警察につかまることになるとは……。
出来心であんないたずらをしてしまったことを
本気で公開する……。
教室を振り向くと
桃子が相変わらず
勘違い全開のキラキラした笑顔で見送っていた。
- 404 名前:嗣永警部補の娘 −解決編− 投稿日:2010/03/09(火) 21:24
- 第1話:携帯メールの罠 −完−
- 405 名前:いこーる 投稿日:2010/03/09(火) 21:25
- 以上になります。正解は362。
正解された皆様、おめでとうございます。
それ以外の方も含め
多数のご回答、ありがとうございました。
- 406 名前:いこーる 投稿日:2010/03/09(火) 21:26
- 394は登校ミスにより内容が次のレスと重複してしまいました。
すみません。394はスルーしてください;汗
- 407 名前:いこーる 投稿日:2010/03/09(火) 21:28
- コメントいただいた方にレス返しです。(解答のみの方へのレス返しは省略させていただきます)
>>382
楽しんでいただけましたでしょうか。
キッズ探偵団も高校生となってしまいました。
>>383
お待ちいただきましてどうもありがとうございます。
>>385
きっと、中学時代に壮絶な経験をしたのではないでしょうかw
- 408 名前:いこーる 投稿日:2010/03/09(火) 21:34
- −流し用のあとがき−
警部補。警部補といえば倒叙推理。
しつこく犯人をつけまわし、
マイペースなしゃべりで犯人を翻弄し、しっぽをつかむ天才。
地味ーなお話ではありますが、
結構楽しくかけました。
<早貴ちゃんについて
大人っぽくなりました彼女。
しっかりものになりました。
でもオーディション時「持久走あるじゃない?」の意味不明発言は
いまだに忘れられません。
ちょっと抜けてる早貴ちゃん、犯人役として書き上げて見ました。
<桃子ちゃんについて
あまり大人っぽくなりません彼女;
「成長」なんてありきたりな言葉では表わしきれない魅力を誇っています。
まさに、天才肌。
こんなに「警部補」の似合うキャラに育っていたのに
これまで書いてこなかったのが不思議なくらいです。
<茉麻ちゃんについて
今回はちょっとお休みです。
次回……、があるかどうか、ちょっと未定です。すみません。
- 409 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/10(水) 00:47
- ももち探偵最高!
面白かったw
- 410 名前:茉麻不足 投稿日:2010/03/11(木) 19:08
- なるほど、おもしろかったです!正解うれしいっす☆
- 411 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/03(土) 08:00
- これは見抜けない
感心しました
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