魔女ッ娘。ミキティ
- 1 名前:パム 投稿日:2006/11/09(木) 03:01
- 森と草で短いのばっか書いてるパムです。
長編は初ですがなんとかやっていくつもりですので、どうぞよろしく。
- 2 名前:旅立ち 投稿日:2006/11/09(木) 03:02
- 世界の果ての小さな村に一人の女の子と一匹の黒猫が暮らしていた。
女の子の名はミキ。師匠の下で魔女の修行をしている。
黒猫の名はれいにゃ。魔女ミキの使い魔である。
今日はミキにとって特別な日。
一人前の魔女として旅に出る日であった。
ミキはれいにゃをカバンに入れるとほうきにまたがり、師匠のゆゆたんの家に向かって飛び立った。
「前から思ってたことなんだけどさ」
「何っちゃ?」
れいにゃはミキのカバンから頭だけだしてミキに問いかけた。
「ゆゆたんは無いよな」
「どういう意味っちゃ?」
「だからさ、ユウコって名前だろ。なんでゆゆたんなんだよ。いくつだと思ってんだよって話だよ」
「お師匠さまが聞いたら怒られるっちゃ」
「れいにゃが言ってたことにするから大丈夫」
「酷いっちゃ!れいにゃはそんなこと言わないっちゃ!!」
れいにゃがバタバタとバックの中で暴れ出すと、留め金がはずれて中身が落ちてしまった。
ミキは「チッ」と舌打ちをすると勢いよく下降して地面に降り立った。
落とした中身を拾い上げると、ミキはれいにゃごとカバンに押し込んだ。
- 3 名前:旅立ち 投稿日:2006/11/09(木) 03:03
- 飛べるようになってからのミキは一度も歩いて行くことがなかったので久しぶりの地上からの景色を懐かしんでいると、
少し離れたところに直径1mほどの真っ黒い円が空中に浮いているものを見つけた。
「あれを見ろれいにゃ!」
ミキは黒い穴に向かって指を指す。
れいにゃはカバンの底から必死に荷物をどけてようやく頭だけで出した。
「ミキ様。絶対に喋っちゃダメっちゃ!」
「うっさいよ。もう話変ってんだよ。なんだろこれ?」
「知らないっちゃ。急がないと怒られるっちゃ」
ミキはその円形のものに近づくと、中の様子を伺ってみた。
真っ黒い円は、辺りの空間を飲み込む様に時計周りにグルグルと渦巻いていて底が見えないほどの暗闇だった。
「う〜ん。どっかに繋がってそうだな」
「誰かが閉め忘れたっちゃ。入ると危険だっちゃ」
「よし!れいにゃ入って確かめて来い!」
ミキはバックかられいにゃを猫掴みで取り出すと円に近づけた。
「嫌っちゃ!!絶対嫌っちゃ!!」
「猫は穴があったら入りたいもんだろ。ほら行けって」
「猫は入りたくならないっちゃあああ!!」
ミキはれいにゃを放り投げると、れいにゃは黒い渦に巻き込まれて消えてしまった。
すぐに戻ってくるだろうと思っていたミキであったが待ってもれいにゃが戻ってくる気配がなく、
ようやく心配したミキは黒い渦に顔近づけて、れいにゃに呼びかけた。
「おーい。れいにゃ〜。もう戻ってきてもいいぞぉ〜」
- 4 名前:旅立ち 投稿日:2006/11/09(木) 03:03
- 耳を傾けて返事を待ってみたが何も聞こえなかったので、思い切って片手だけ中に突っ込んでみた。
腕は渦と一緒にぐにゃりと歪むが、特に何ら痛みを感じることは無かった。
何も感触がないのでミキは腕を振ってれいにゃを探していると、突然誰かに腕を掴まれ引っ張られそうになった。
「おー!!誰か触った!!ふざけんなぁー!!」
ミキは素早く腕を引っ込めると、反対の手で素早く穴の中めがけて雷を放ったが、何も反応はなかった。
そして、さらに待つこと十分。
「遅刻しちゃうなぁ〜。ねえ?先行っていい?」
返事は返って来なかった。
諦めたミキは一人でお師匠さまの家に向かうことにした。
「まっ、猫だからなんとかなるだろ」
- 5 名前:旅立ち 投稿日:2006/11/09(木) 03:04
- 大魔女ユウコは、村のはずれにある森の奥深くに一人でひっそりと暮らしている。
ユウコの樹齢数千年の大木の中で暮らしている。
そして、この大木の中は毎回違う。
ユウコのそのときの気分で部屋の様相が変えてくる。
ミキも長い間ここで暮らしていたとはいえ、時には灼熱地獄であったり、時には一般的な民家の部屋だったりところころ変るのでいつも中に入るときには躊躇してしまう。
今までで一番怖かったのはお姫様の部屋。
あれは一体どういうことだったろうか。ミキは今でも疑問に思う。
そんな思いが巡るのはこれからしばらくの間ここに入ることはないからだろう。
ミキは扉に手をかける前に大きく深呼吸してゆっくりと扉を開けて中に入った。
一面真っ白の大理石。
ミキは数歩歩くと立ち止った。どうせ奥に行っても変らないことを知っているから。
ミキは静寂の中ユウコが訪れるのを待った。
しばらくするとユウコの声はどこからともなく聞こえてきた。
「遅かったな。怖気づいたか?」
- 6 名前:旅立ち 投稿日:2006/11/09(木) 03:04
- ミキはなんとなく見上げたがユウコの姿は見えなかった。
こんなことは良くあることなのでミキは気にせずユウコに応えた。
「そんなことないですよ」
「れいにゃはどうした?」
「あいつは怖気づいちゃって、おしっこちびりながら泣いてたんで置いてきました」
「そっか。とりあえず女の魂取ってきて」
「はい?」
「道は準備してあるから。ここに来る途中になかったか?黒い穴」
「あ、ありましたけど。いや、その前にですね、魂って取れるもんですか?」
「取れる取れる。って言うても、女と男の二つの魂を持ってる奴に限るけどな」
「そんな奴いるんですか?」
「いるから言ってるやん。なんか誰か悪さしよったらしくてな。そんでうちに頼まれたけど、いい機会やしあんた行ってきて」
「それがミキの最終試練なんですか?」
「そうや、良いやろ」
「あのぉ〜、二つの魂を持ってるかどうかってどうやったらわかるんですか?」
「さあ?」
「さあって!それでも師匠ですか!」
「知らんもん。そんな奴に会ったことないもん」
「あのぉ〜。他になんかないですかねぇ〜」
「さっさと行きぃや!!れいにゃはとっくに行ってるんやろ!!」
「あっ!!知ってたんですか!」
「当り前や!まったく、ゆゆたんの何が悪いんや!!」
「あー!それまでも!!い、行ってきま〜す」
「生きて帰ってくんな!!」
ユウコの怒号から逃げるようにミキは外に出た。
後ろを振り向くとそこにはいつも見ている大木だけがあった。
これから旅立つというのに顔も見せてくれなかったことにちょっと寂しくも感じ、ミキはしばらく大木を見ていた。
そして、よしっ!と気合を入れてミキは大木に背を向けると一歩を踏み出した。
「とりあえず、れいにゃを探さなくちゃいけないな」
- 7 名前:パム 投稿日:2006/11/09(木) 03:06
- つづく
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/10(金) 01:21
- 新スレおめでとうございます
ミキティむちゃくちゃやるなぁw
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/10(金) 03:58
- れいにゃの喋りがラムだっちゃw
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/10(金) 19:45
- ミキティれいにゃの意見総無視だっちゃw
- 11 名前:パム 投稿日:2006/11/15(水) 02:50
- >>8
>>9
>>10
まとめてですが、レスありがとうございます。
無茶苦茶なミキ様とにゃ〜とは鳴かないれいにゃをこれからもよろしくちゃw
- 12 名前:ぽっぽ族 投稿日:2006/11/15(水) 02:50
- 場面は変って、ここはゴールドランドとの国境に程近いシルバーランドの森。
その森の中を真っ白いローブを身にまとった女性が歩いていた。
今晩の夕食となる鴨を捕まえたその女性は機嫌よく歌いながら自分の家に帰る途中だった。
「ぽっぽぽぉ〜。ごとぉぽっぽぉ〜。ごとぉーが通るぽ。ほらどけぽぉ〜」
ごとぉーの歩みを邪魔する倒れた木は当然どくことはなく、ごとぉーは倒れた木を乗り越えた。
すると、乗り越えた先に真っ黒い円が空中に浮いていた。
「んぽぽ?これなんだぽ?」
ごとぉーは不思議そうに真っ黒い円をじっと見つめると円の奥のほうから声が聞こえてきた。
「猫は入りたくならないっちゃあああ!!」
ごとぉーはその声にビックリして尻餅をつくとその上に黒猫が飛び降ってきた。
「ミキ様酷いっちゃ!!」
落ちてきたれいにゃはごとぉーのおなかの上に着地すると円に向かって叫んだ。
ごとぉーは自分のおなかに乗っているれいにゃを自分の顔のところまで抱きかかえて見つめた。
「んちゃ?」
「猫だぽ!猫が落ちてきたぽ!しかも喋ってるぽ」
- 13 名前:ぽっぽ族 投稿日:2006/11/15(水) 02:51
- れいにゃは突然抱き上げられ、目の前に人の顔が現れて呆気に取られたのも束の間、れいにゃの頭の中によぎったのは目の前にいるごとぉーが話した言葉であった。
「ぽって言ったっちゃ」
「だからなんだぽ?」
「ぎゃあああーー!!!」
再度『ぽ』を聞いたれいにゃは力一杯ごとぉーの腕を叩くと大声で叫んだ。
「んぽぽぽっ!?」
れいにゃの叫び声に驚いたごとぉーは手を離した。
れいにゃはすかさずごとぉーの手からすり抜けて、木の後ろに隠れた。
そして、足を震わせながらもれいにゃはごとぉーにわかって貰おうと力一杯叫んだ。
「ぽっぽ族ちゃ!れいにゃを食べても美味しくないっちゃ!!」
「んぽ?ごとぉーは猫は食べないぽ」
ごとぉーは何故そんなことを言われるのか理解できなかったが、突然現れた猫が気になって近づいて行った。
「まずいっちゃ。れいにゃはまずいっちゃ」
「大丈夫だぽ。こっちおいでだぽ」
「いやっちゃ!ミキ様助けてくれっちゃ!」
するとれいにゃの助けに応えるかのように黒い円から手が出てきた。
辺りを探るようにぐるぐると回す腕をごとぉーは不思議そうに見つめた。
- 14 名前:ぽっぽ族 投稿日:2006/11/15(水) 02:51
- 「なんか手が出てきたぽ」
「ミキ様の手だっちゃ!」
ごとぉーの言ったことに反応したれいにゃも黒い円の方へ顔を向けると見慣れたミキの腕があった。
「んぽ?友達ぽ?ひっぱってあげるぽ」
ごとぉーはミキの腕を掴むとひっぱろうとしたが、腕はすぐさま引っ込んで代わりに眩い雷光がごとぉーの横をかすめて爆発した。
「んぽぉー!!なんだぽ!爆発したっぽ!!」
「ミキ様の雷ちゃ!」
れいにゃはごとぉーが驚いている隙に飛び出して黒い円目掛けて走り飛んだ。
「ここは危険だぽ。ごとぉーのお家に行くぽ。ご飯あげるぽ」
が、しかし、あともう少しのところでごとぉーにキャッチされてしまった。
そして、ごとぉーはれいにゃを抱えると歩き出した。
「いやっちゃ!やめてくれっちゃ!れいにゃは食べれないっちゃ!!」
れいにゃはなんとかして逃れようとごとぉーの腕の中で暴れるが、しっかりと抱きかかえられていて逃れることができなかった。
「暴れん坊な猫だぽ」
「ミキしゃまぁ〜。助けてくれっちゃ〜」
- 15 名前:パム 投稿日:2006/11/15(水) 02:52
- つづく
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/15(水) 18:06
- やっぱり出てきたかw
- 17 名前:パム 投稿日:2006/11/16(木) 02:01
- >>16
ええ。ミキティにはごっちんがつきものですからねw
さて、昨日、更新があまりに短かったので今日も更新します。
- 18 名前:シルバーランドの王子 投稿日:2006/11/16(木) 02:01
- れいにゃとごとぉーが立ち去って数十分後。
「イテッ!なんだよ、もうちっと低い位置につけろよな」
地面の高さが同じつもりで黒い円をくぐったミキであったが、こちら側の地面はわずかに低くなっていて転げ落ちるようにしてミキはシルバーランドの地に降りた。
ミキは服についた汚れを払いながらぶつぶつと文句を呟いた。
「うっさい。位置は調節できんのや」
「おおっ!!いたんですか!」
まさかいるとは思ってもいなかった人物が真後ろにいることに驚きながらも、円から顔だけが出ているユウコの姿を気持ち悪いなとミキは思った。
「これ渡すの忘れとった。これでうちと連絡取れるから、困ったことがあったら連絡し」
「ああ、どうも」
ユウコから渡されたのは直径2cm程の水晶のネックレスだった。
見た目は単なる水晶ではあるが、これに向かって話すとユウコと会話ができる。
以前にユウコから貰って使ったことはあったが、ユウコとしか会話できないのでいつの間にか無くしていた。
懐かしい物をじっと見つめながら、これってどうやって作るんだったっけかななどと思っていると、すっと黒い円とともにユウコの姿が消えた。
「あっ、ちょっと待って!!」
黒い円があったとこに手を伸ばしてもすでに遅くそこには何もない。
とりあえずネックレスを首かけると辺りを見回した。
辺りは木々が立ち並び、もうすぐ日が沈みそうだった。
「どうしよう。とりあえずれいにゃはどこ行ったんだ?」
- 19 名前:シルバーランドの王子 投稿日:2006/11/16(木) 02:01
- 「おーい。れいにゃ〜」
ミキは大声でれいにゃを呼ぶが鳥が数羽逃げて飛んでいくだけだった。
困ったミキは首かかった水晶を手に取ると口に近づけた。
「もしも〜し」
「なんやぁー!!」
「怒鳴らないで下さいよ」
「普通いきなり使うか?」
「だって、れいにゃが見当たらないですよ。知ってるかなぁ〜と思って」
「知るか!お前がほうり投げたのがいかんのやろうが!」
「でもぉ〜。いないんだもん」
ミキは甘えた声でユウコに言ったが、ユウコから何も応えてこなかった。
水晶を振ったり、覗いてみたりもしたが何も聞こえてこなかったので、ミキは水晶を手から離すと歩き始めた。
「仕方ないれいにゃは諦めるか」
「探せや!!」
すると突然ユウコの声が水晶から鳴り響いて、ミキは慌てて水晶を手に取った。
「なんだよ!聞こえてたのかよ!」
「うっさいボケ!れいにゃを探すのも最終試練の一つやからな!」
「あ゙ー、増えた!!ずるいですよ!!」
ミキは大声で叫ぶが、また、ユウコからの応答が返って来なかった。
「あれ?ずるいですよぉ〜。ゆゆたぁ〜ん」
もう一度話し掛けてはみたが、やはり反応はない。
- 20 名前:シルバーランドの王子 投稿日:2006/11/16(木) 02:02
- 「ちくしょー!!」
ミキは大声で叫ぶと、横たわった木の上に足を組んで座った。
「誰かいるの?」
「ん?誰だー!!!」
突然背後から声をかけられて反射的にミキは雷を放った。
放った雷は声をかけた人物の目の前で爆発した。
「うわっ!ちょ、ちょっと危ないよ」
「チッ、外したか」
寸前のところでマントを翻し身を守ることが出来たその人物はマントを払うと、ミキに近づいてきた。
「今の雷、君が出したの?」
「なんだよ。それくらいミキだってできるよ。バカにしてるのか?」
「い、いや。そうじゃなくて、ひょっとして君は魔女?」
「だったらなんだよ」
「魔女なんだ。凄い」
ミキは、目の前で両手を胸の前で合わせて大喜びしてる人間を睨みつけた。
「なんだよさっきから、お前こそ誰だよ」
「私はこの国の王子のアイです」
「王子?じゃあ、男か?」
「え、ええ。そうですよ。何言ってるんですか」
「じゃあ用はない。消えろ」
格好は騎士であったが顔は女性ぽかったので女かと思って少し期待していたが、あてが外れるとミキはアイを無視してさっさと歩き始めた。
- 21 名前:シルバーランドの王子 投稿日:2006/11/16(木) 02:02
- 「ちょっと待って下さい。お願いがあるんです」
「え〜。ミキ忙しいんですけどぉ〜」
アイはミキの後を追って話し掛けるが、ミキは振り向くこともなくずんずん先に進んで行った。
「ミキって言うんですか。ミキさん、私の国を救ってください」
「断る」
「ちょっと、少しは話聞いてくださいよ」
「なんだよ。ミキに関係ないじゃん」
ミキは立ち止って振り向くと、もう付いて来るなという思いを込めて睨んで言うと、また、歩き始めた。
アイはミキの睨みなど気にせず、また後を追って話し続けた。
「今、私の国は隣国に攻めらてとても危険な状態になっています」
「知るかバーカ」
「それでこの状況をなんとかしようと占い師に占ってもらったところ、今日ここに魔女が現れると聞いてやってきました」
「ふ〜ん。その占い師なかなか凄いね」
「ええ。よく当たると有名な占い師です」
「あっそ。そいつも魔女なんじゃないの」
「そうかもしれませんね」
「じゃあ、そいつに頼めよ」
「あなたがこの国を救ってくれると占ったんです。あなたでないといけません」
「ミキには関係ないじゃん。勝手にやれよ」
「もちろんタダとは言いません。望むものならなんでも差し上げます」
「じゃあ、魂くれ」
「た、魂ですか・・・」
「冗談だよ。もうあっち行けって」
魂を要求されたアイは戸惑い立ち止った。
立ち止ったアイに気付いたミキはやっと諦めと思い、手でしっしとアイを追い払った。
アイは俯いて考えた。
このままではどうせ負けてしまう。
私ひとりの命でこの国が助かるのなら安いものだろう。
そう決心したアイは顔をあげてミキと目を合わせた。
- 22 名前:シルバーランドの王子 投稿日:2006/11/16(木) 02:02
- 「わかりました。無事に終わりましたら私の魂を差し上げます」
「うるせぇー!!お前の魂なんかいらねぇんだよ!それにな、魔女は戦争の道具じゃないんだよ!」
諦めたと思っていたのに、まだしつこく頼んでくるアイに苛ついたミキは大声で叫んでアイを威圧した。
その迫力にアイも目を大きく見開いて硬直してしまった。
「じゃあな」
ミキは片手を挙げて、アイを置いて歩き進んでいった。
アイはミキが少し離れたところでようやく硬直した体が解放され、そして肩をガックリと下げるとミキとは反対方向に歩き始めた。
「おい、待て」
「はい!引き受けてくれるんですか?」
アイはミキの引き止める声を聞いて大急ぎでミキの下まで走りより訊ねた。
「違うよバカ。この辺で猫見なかったか?」
「猫?」
「猫って言ってるじゃん。聞き返すなよ」
「すみません。そういえば、猫を抱えた女性を途中で見かけました」
「おっ!それか?どんな猫だった?」
「黒い猫でした。なんか暴れてました」
「それで?」
「えっと」
「おいおいそれだけかよ。ちゃっちゃ言ってなかったか?」
「ああ、なんか騒いでましたね」
「それだな。どこ行った?」
「あっちのほうに」
アイが指を差すと、ミキはその方向に向き、背負っていたほうきを手にとり跨った。
- 23 名前:シルバーランドの王子 投稿日:2006/11/16(木) 02:02
- 「よっしゃ!案内しろ!」
「え?」
「早く乗れよバカ」
ミキは後ろの空いてるスペースを叩いて乗るように合図をするが、アイはただじっとほうきを見つめた。
「これに?」
「そうだよ」
「凄い。やはりほうきに乗るんですね」
「関心してないで早く乗れよ!」
「は、はい」
アイは急いでミキの後ろに跨ると、ミキの腰に手を回してしかっり掴まった。
すると、ほうきがゆっくりと浮き上がり、木を越える高さまで上がると猛スピードで飛び出した。
- 24 名前:パム 投稿日:2006/11/16(木) 02:02
- つづく
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/22(水) 14:16
- 高まる期待
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/24(金) 14:45
- れいにゃっちゃ。なるぽぽ。
- 27 名前:食うか食われるか 投稿日:2006/11/25(土) 02:15
- 丁度アイとすれ違った頃、ごとぉーはれいにゃを抱えて森の中を歩いていた。
「れいにゃはまずいっちゃ。美味しくないっちゃ。やめたほうがいいっちゃ」
「さっきからおかしなこと言ってる猫だぽ」
「騙されないっちゃ。れいにゃは知ってるっちゃ。ぽっぽ族は猫を食べるっちゃ」
「ぽっぽ族ってなんだぽ?」
「しらばっくれても無駄っちゃ。ぽっぽ言ってるっちゃ」
「なるぽぽ。なら、れいにゃはちゃっちゃ族だぽ」
「そんな一族ないっちゃ」
「なるぽぽ」
ごとぉーは獣道から外れると木々の間を潜り、家一件分ほどの小さな平地に出た。
「ついたぽ。ここがごとぉーのお家だぽ」
ごとぉーが指さした所には草が多い茂っているだけで家らしきものはどこに見当たらなかった。
「お家なんてないちゃ」
「今から呼ぶんだぽ」
そう言うとごとぉーは片手を地面に向けて大声で叫んだ。
「んぽぉ〜。んぽぉ〜。ごとぉーのお家出てこいぽっぽぉー!!」
すると何もなかった地面から木が急速に伸びるように一件の家が現れた。
「ど、どいうことっちゃ!何したっちゃ!!」
「ごとぉーのお家を呼んだんだぽ」
「意味わからんちゃ」
不思議がるれいにゃを他所にごとぉーは呼び出した家の中に入った。
家の中は至って普通の民家と変らず、中央にはテーブルがあり、脇には本棚がずらっと並び、本がびっしりと詰まっていた。
そして、奥には台所と二階へ続く階段があった。
- 28 名前:食うか食われるか 投稿日:2006/11/25(土) 02:15
- 「ちょっと待ってるぽ。すぐご飯の用意してあげるぽ」
ごとぉーはれいにゃをテーブルの上に置くとごとぉーは台所に入っていった。
そして、れいにゃはごとぉーの様子をじっと見て逃げるチャンスを伺っていた。
ごとぉーが鍋に火をかけたときに丁度れいにゃに背を向けた。
れいにゃはここぞとばかりにそうっとテーブルから降り、扉の前まで気付かれないように歩いていった。
「れいにゃは何が好きだぽ?」
「んちゃ!この扉開かないっちゃ!」
しかし、扉のノブはれいにゃが頑張って飛んでも届かない位置にあった。
それでもれいにゃは一生懸命に扉を押して開けようとしていためにごとぉーの声も聞こえなかった。
れいにゃが逃げようとしていることに気付いたごとぉーはれいにゃに近づき、れいにゃを抱えるとまたテーブルに戻した。
「れいにゃ大人しく待ってるぽ」
「いやっちゃ!お願いっちゃ、許してくれっちゃ!」
「んぽぉ〜困ったぽ。勘違いしてるぽ」
「ううぅ〜。ミキさまぁ〜」
「すぐ作るぽ。待ってるんだぽ」
「短い命だったっちゃ。ミキ様が一人前になった魔女の姿見たかったっちゃ」
逃れることが出来なかったれいにゃはテーブルの上で沈む夕陽を見ながらミキのことを思った。
「できたぽぉ〜。れいにゃ食べろぽ」
「んちゃ?」
感慨にひたっていたれいにゃを呼び起こしたのは何とも美味しそうな匂いだった。
目の前に出された料理は今まで嗅いだ事のない美味しそうな匂いで、れいにゃの食欲をかき立てる。
溢れそうになるよだれをごくりと飲む混むとごとぉーのほうをちらっと見た。
「どうしたぽ?嫌いぽ」
「た、食べていいっちゃ?」
「いいぽ。れいにゃのご飯だぽ」
「ふ、太らせてから食べる気っちゃ!食べないっちゃ!食べられるくらいなら餓死するっちゃ」
- 29 名前:食うか食われるか 投稿日:2006/11/25(土) 02:16
- 食べたい。でも、食べられる。
昔、れいにゃはミキと大喧嘩して村からかなり離れたところにある洞窟に逃げ込んだ。
れいにゃの逃げ込んだ洞窟はぽっぽ族が出入りする洞窟で、誰も近寄ってはいけない洞窟だった。
ミキはれいにゃを探しにくることはなく、かといってれいにゃもミキの元に戻るつもりなく、洞窟の中で泣いていた。
しかし、翌日の朝になると泣きながられいにゃを探しに来たミキを見てれいにゃは驚いた。
ミキが泣いてる姿を見たのは初めてではないが、泣き顔を見せることは決してしなかったミキが隠すことなく大泣きしていた。
ミキはユウコからぽっぽ族は猫を食べると聞かされ、大慌てでれいにゃを探しに来た。
ミキによって連れ戻されたれいにゃはミキと共に師匠であるユウコにこっぴどく怒られた。
本気で怒っているときのユウコは死を感じるほどの恐怖ではあったが、怒られている間もぎゅっとミキが抱きしめていてくれた。
あれかられいにゃは決して洞窟に近寄ることもしなし、ミキと喧嘩しても離れることはしなかった。
しかし、目の前にぽっぽ族と美味しそうな料理。
美味しそうな匂いにれいにゃは戸惑う。
食べなくても食べられてしまう。
なら、食べたほうがいいのだろうか。
「まあいいぽ。ここに置いておくぽ」
「お、美味しいそうだっちゃ〜」
「そうだぽ。今日取ってきたばかりの鴨だぽ」
「鴨!?んちゃちゃちゃぁ〜」
「美味しいぽぉ〜」
「んちゃ〜」
鴨と聞いてれいにゃの食欲はさらに高まり、お腹も鳴る。
ここにミキがいたらどうするだろうか。
食べるか?食べないか?
いや、絶対に食べる。
「早くしないと冷めちゃうぽ」
「れいにゃは熱いの食べれないっちゃ」
「そうだったぽ。猫だったぽ。猫は猫舌だぽ」
「そうっちゃ」
「冷ましてくるぽ」
「お願いしますっちゃ」
- 30 名前:合ってます 投稿日:2006/11/25(土) 02:18
- 一方、ミキとアイはほうきで森の上空を飛んでれいにゃを探していた。
「おい!こっちで合ってるんだろうな」
「え?」
「ちゃんと聞いてろよ!合ってるのか?」
「はい。多分」
「どっちだよ!」
「合ってます。合ってます」
「二度も言わなくていいんだよ」
「すみません」
「ったく、それでも王子かよ」
「一応」
「ふん。なんで戦争なんかしてんだよ」
「え?あっ、あの。この国を欲しいみたいで」
「なんで?」
「領地を拡大したいんでしょ」
「そんなことしたって自分の住む場所なんてたかが知れてるだろ。そいつらは巨人なのか?」
「違います。普通の人間です」
「人間の考えることはわかんないね」
「そうですね」
「お前も人間だろ」
「はい」
- 31 名前:合ってます 投稿日:2006/11/25(土) 02:19
- 「お前も欲しいのか?」
「何をですか?」
「土地だよバカ。話の流れから推測しろよ」
「う〜ん。別に今のままで十分ですね」
「ふ〜ん。じゃあ、もしミキがその隣国とやらを倒してもその国の土地は取らないのか?」
「引き受けてくれるんですか!」
「ちゃんと話を聞けよバカ!もしって言っただろ!」
「えっと、そりゃ、まあ、倒したら私たちの領地になりますね」
「なんだそりゃ。結局お前も欲しいんじゃん」
「そんなことありません!私はただこの国を守りたいんです」
「どうだか」
「本当です。信じてください」
「別に信じたところでどうにもなんないよ」
「ところで、ミキさんは何をしに来たんですか?」
「お前に言う必要はない」
「そうですか」
「おい、こっちで合ってるのか?」
「合ってます」
- 32 名前:パム 投稿日:2006/11/25(土) 02:19
- つづく
- 33 名前:ヒトミ 投稿日:2006/12/04(月) 23:47
- シルバーランド城では王子の帰りを待っている二人がいた。
椅子に座り、もうじき沈みそうな夕陽を眺めているヒトミ。
そして、その周りを落ち着きなく歩いているマコト。
「ヒトミ様。王子遅いですね」
「夕陽が綺麗だねぇ〜」
「何のん気なこと言ってるんですか。もうすぐ日が暮れてしまいますよ!」
マコトはヒトミの目の前に立ち大声で叫んだ。
マコトに落ち着きがないのはそういう性格というのもあるが、明日の朝には敵軍が攻め込んで来るというのにのん気にしているヒトミの姿にイライラしていた。
「落ち着けってマコト。カオリの占いはよく当たるんだから大丈夫だって」
「だったら何故もっと早くに占わなかったんですか!」
「それもまた占いでしょ」
「意味がわかりません!」
マコトは吐き捨てるように言うと、また、うろうろと辺りを歩き始めた。
- 34 名前:ヒトミ 投稿日:2006/12/04(月) 23:47
- 「大体ですね。魔女が来たくらいで勝てると思ってるんですか?敵は五万ですよ!」
マコトはこの占いが気に要らなかった。
国の運命を左右する争いをたった一人の魔女に託すなんて到底無茶な話。
それよりももっと確実な作戦を考えるべきなのに、ヒトミは占い師の話を聞くとすぐに王子を出発させ、自分はのん気に座って待っている。
これも気に食わない。マコトのイライラは募る一方だった。
「ところでさ、コハルの容体は?」
「今は安静にしておられます。それよりも王子の心配をして下さい」
「大丈夫だって、それよりも私はコハルのほうが心配だ」
マコトは溜息をついた。ヒトミはいついかなる時でも妹であるコハルのことを優先する。
重要な会議中であってもコハルが咳ひとつしただけで大慌てで飛び出して行くことが幾度とあった。
ヒトミの過保護ぶりにマコトはいつも悩まされていた。
「コハル様は大丈夫です。心配する必要はまったくございません。それよりも王子の心配を」
「そっか。戦いが終わったら、穏やかなところに行って二人で暮らそうかな」
「ヒトミ様ここを離れるお積りですか?」
マコトの足が止まった。
ヒトミがまさかそんなことを考えていたなんて思ってもいなかった。
- 35 名前:ヒトミ 投稿日:2006/12/04(月) 23:48
- 「ああ、だって別にここ故郷じゃないし」
「そうえいばヒトミ様の故郷はどこですか?」
「愛の国さ」
「仰りたくないのであればもう二度と聞きませんよ」
「言ったじゃん。愛の国って」
マコトは呆れて溜息をついた。
ヒトミはよく冗談を言う。長年仕えてきたマコトにとってそれが冗談かどうかはすぐにわかる。
愛の国と言ったのは冗談。
でも、離れると言ったのは本当。
「とにかくですね、この戦争が終わっても勝手に出て行かないで下さいよ」
「マコトも一緒に行く?」
「そういうことを言っているのではありません。戦争は終わった後のほうが大事です。まだ、ヒトミ様のお力が必要なのです」
「私は戦うことしかできないよ」
「何を言ってるのですか。これからも王子を支えてやってください」
「十分やったと思うけどね。もう教えることないよ」
「そんなことはありません。死ぬまで勉強です」
「ははっ。なんだそりゃ。じゃあ、私は永遠に勉強しなくちゃいけないのか?」
- 36 名前:ヒトミ 投稿日:2006/12/04(月) 23:48
- マコトは困惑した。
その表情は笑っているがどうみても冗談のようには見えなかったからだった。
「どういう意味ですか?」
「さてと、ちょっと出てくる」
ヒトミはマコトの質問をはぐらかすように立ち上げると部屋を出て行こうとした。
マコトはヒトミのコートを素早く掴むとヒトミの後を追いかけた。
「私もお供します」
「付いて来なくていい」
「では、せめてどちらに行かれるかだけでも」
「いつものところだ。王子が戻ってきたら知らせてくれ」
ヒトミはマコトが手にしているコートを掴み、城を出て行った。
- 37 名前:パム 投稿日:2006/12/04(月) 23:48
- つづく
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/05(火) 19:23
- リボンの騎士の設定とは若干違うんですね。
続きが楽しみです。
頑張ってください。
- 39 名前:パム 投稿日:2006/12/09(土) 03:12
- >>38
はい。単純に魔女のミキティを書きたくて始めたので、多少リボンの設定とか使ってはいますが、全然違うものになります。
- 40 名前:酒場 投稿日:2006/12/09(土) 03:13
- ヒトミは準備中と書かれた札に見向きもせず扉を開けて店の奥のいつも席に腰を降ろした。
準備中の店内には当然客はおらず、店主の姿も見えなかった。
「アヤカいるか?」
ヒトミの呼び声に反応して、奥で準備をしていた店主のアヤカが顔を出した。
「酒をくれ」
「飲んでていいの?色々と準備があるんじゃないの?」
アヤカは倉庫から運んできた酒を棚に並べながらヒトミと話した。
もうすぐ開店の時間になる。決戦を明日に控えた兵士達は最後の酒を飲みにやってくるだろう。
アヤカの手は休まることはなかった。
けれども、そんな兵士達の総大将を勤めるヒトミは至ってのん気だった。
これが格の違いなのだろうかとアヤカは思った。
「大丈夫だ。王子が魔女を連れてくる」
「魔女?もう酔ってるの?」
変なことを言い出したヒトミに思わずアヤカの手も止まり、アヤカはヒトミの方を振り向いた。
「いいから、酒をくれ」
ヒトミはテーブルを指でトントンと叩いてアヤカを急かした。
「はい、はい」
アヤカは一旦準備を止めグラスを二つ並べて酒を注いだ。
ヒトミと軽く乾杯して一口飲み、「あっ」と声をあげて嬉しそうな表情でヒトミを見た。
「そうだ。あなたの欲しがってた情報が手に入ったわ」
「そうか。で、今はどこに?」
ヒトミはアヤカの言う情報のことが何のことか察知すると身を乗り出して訊ねた。
- 41 名前:酒場 投稿日:2006/12/09(土) 03:13
- 「ゴールドランドにいたらしいわよ」
「本当か?」
「ええ、ぽっぽ言ってたらしいから間違いないと思うわ」
「ははっ、そうか」
ヒトミは探していた人物が見つかったことに気分を良くして一気に酒を飲み干すと、アヤカは酒を注いで話しつづけた。
「でもね、今はゴールドランドにはいないらしいわよ。先月、シルバーランドに行くって言って去っていったらしいわよ」
「そうか。ごっちんはこの国にいるのか」
「でも、先月の話だから」
「いや、まだここにいるだろう」
「どうしてわかるの?」
「カオリがそう言ってたから」
「魔女ってその人のことなの?」
「いや、ちょっと違うけど、まあカオリの占いだし」
「どういうこと?凄い占い師なんでしょ」
「ああ、よく当たるよ。でも所詮占いだから多少の違いはあるよ。それに何よりもごっちんが居ればまず負けることはないね」
「ふ〜ん。あなたよりも強いの?」
「う〜ん。どうだろ。でも殺したりでもしたら罰が当たるよ」
「ふふっ。女の子には相変わらず優しいのね」
「いや、そういうことじゃなくて…」
ヒトミがその先を言おうかどうか迷っていると、突然扉が勢いよく開いた。
「ヒトミ様!!コハル様がっ!」
慌てて中に入って来たマコトはヒトミを探すこともせずに大声で叫んだ。
- 42 名前:酒場 投稿日:2006/12/09(土) 03:13
- ヒトミは店を飛び出してコハルの部屋へ走っていった。
部屋の扉を勢いよく開けるとコハルの元へ駆け寄った。
「コハル!!」
「お姉さま」
「コハル。それは言うなと言っているだろう」
「ごめんなさい」
「ふぅ〜。とはいえなんだ。容体が悪化したのではなかったのか?」
容体が急変したかと思ったヒトミだったか、なんともなさそうなコハルの表情を見てヒトミは一気に力が抜けて椅子に腰を降ろした。
「別に私はそのようなことは言っておりませんが」
少し遅れて入ってきたマコトが息を上げながらヒトミに言った。
「ごめんなさい。ただ、会いたかったの」
コハルは申し訳無さそうな表情でヒトミを見つめた。
その表情を見たヒトミは優しく頭を撫でた。
「そうか、謝らなくていいんだよ。悪いのはこのバカだから」
「バカって・・・」
「また、戦争にいっちゃうんでしょ」
コハルは哀しい表情を見せるとヒトミが撫でる手を強く握った。
ヒトミも強く握り返して、心配させないように優しく微笑んだ。
「ああ、でも、これで最後だ。終わったらどこか穏やかなところで暮らそう」
「死なないよね?」
「何を言ってるんだ。私は世界で一番強い騎士なんだぞ。例え五万の兵が来ても死にはしない」
「十万です」
マコトはきっぱりと言った。
ヒトミは聞き間違えたかと思い、マコトの顔を見つめた。
- 43 名前:酒場 投稿日:2006/12/09(土) 03:14
- 「十万の兵が国境付近まで来ています」
「じゅ、十万でも死にはしないさ」
「本当に?」
「もちろんだ。私を信じろ
「うん」
「それじゃ、私は戦いの準備をしてくるから、良い子にしてるんだぞ」
「うん。行ってらっしゃい」
「ああ」
ヒトミはコハルの頭を撫でると部屋を出て行った。
ヒトミは少しイライラした感じで早足で歩く、その横を小走りでマコトが追いかけた。
「おい、マコト!!」
「なんですか?」
「十万なんて聞いていないぞ!」
「つい先ほど入った情報なので」
「そんなにいたのか。マズいな」
ヒトミは急に足を止めると腕組をしてどうするか考えた。
「いかがいたしますか?」
「王子は戻ってきたか?」
「いえ、まだです」
「ったく、大体なんで王子が独りで探しに行ってるんだ」
「それは占い師がそのように言ったのでは?」
「そうだったな」
「でも、その占い師は当たるんですよね?必ず王子は魔女を連れて戻ってきますよね?」
「ああ。しかし、カオリの占いは私が絡むとよく外れる」
ヒトミはそう言うとマコトを置いて先に行ってしまった。
マコトはヒトミの言った意味がわからずただヒトミの後ろ姿を見つめていた。
- 44 名前:パム 投稿日:2006/12/09(土) 03:14
- つづく
- 45 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/14(木) 05:57
- 更新乙です
なんだか一気に話が動いてきましたね
お城の話に可愛いごちんとネコがどう絡んでいくんでしょうか・・・
次回更新楽しみに待ってます
- 46 名前:パム 投稿日:2006/12/16(土) 03:53
- >>45
徐々に役者が揃ってきましたがまだまだこれからです。
楽しみにしててくださいね。
- 47 名前:れいにゃを探せ 投稿日:2006/12/16(土) 03:54
- ミキはアイの指示に従って森の上を飛び回り続けていた。
「お前いい加減にしろよ。さっきから同じとこグルグル回ってるだけじゃんかよ」
この森を上から見たことがないアイにとってどこを眺めても同じ風景にしか見えなかった。
いつまでもこうして飛んでいるわけにもいかない。
アイは魔女を連れて帰ることが目的であって、猫を探すことが目的ではない。
アイは魔女に猫探しを諦めてもらうためにとりあえず適当な場所に降りてしばらく探す振りをしようと思った。
「あっ!ここです!!」
「おっ!そうか。よっしゃ」
アイが適当に指を差したとは知らずにミキは喜んで勢いよく地面に降り立つと辺りを見渡した。
辺りは前いたところと区別がつかないほど木々に覆われている。
アイも辺りを見渡したがやはりここですれ違ったかどうかまったくわからなかった。
しかし、ここで違うと言ったらまた飛びまわされる。
嘘をつくしかない。
アイは決心して口を開いた。
「この辺りですれ違いました」
「うん。なるほどなって!おい!」
「なんですか」
「いないじゃんかよ!」
「当り前じゃないですか、すれ違ったのは随分前ですよ」
確かにそうだ。すれ違ったのは随分前だ。どこで降りようが見つからなくて当り前だ。
アイは自分で言った嘘に安堵した。
「もう、なんだよぉ〜。二人乗りって意外と魔力使うんだぞ」
ミキはその場にへたり込むと疲れた表情でアイに訴えた。
- 48 名前:れいにゃを探せ 投稿日:2006/12/16(土) 03:54
- 「そんなこと言われても」
「それにさ、なんだよここ」
「何がですか?」
「全然魔力ないよ。これじゃ魔力回復するの時間がかかるよ」
「ここに魔力なんてあるんですか?」
「ないって言ってるじゃん!聞けよ!」
「そ、そうでしたね」
「ったく。なんかさ、慣れない土地だから疲れちゃった」
ミキはそう言うと地面に寝転んだ。
その姿を見つめながらアイは非常に困っていた。
まさかこれだけのことでこんなに疲れるとは思ってもなかった。
そして、早く起き上がって城に一緒に行って欲しい。
アイは悩み考えると一つの名案を思いついた。
「猫は日を改めて探しましょう。私の部下を使えばすぐに見つけることができますよ。今日のところは城に戻りましょう」
ミキは体を起こすとアイを睨みつけた。
アイは嘘を言っていることがバレたのかと思い目を逸らした。
「城には行かない。でも、探すのは明日にしよう。てことで、休めるところ探して」
「ええっ?なんで私が?」
「お前しか動けるのいないじゃん。それともここで野宿するのか?ヤダよ」
「それは困ります。一刻も早く城に行っていただかないと」
「行かないって言ってるじゃん。れいにゃを探すんだよ」
「しかし・・・」
「いいから探せって!!」
「はい!!」
- 49 名前:れいにゃを探せ 投稿日:2006/12/16(土) 03:54
- 結局、アイはミキの迫力に押されてどこか休めるところを探しに走り出した。
ミキはまた地面に寝転がると空を見上げた。
夕陽に照らされて真っ赤になった空は村で見る空と変らない。
夕方になるとその日の修行は終わりれいにゃと一緒に自分の家に帰る。
そんな日々が今日から変ってしまった。そして、いつも一緒にいたれいにゃが側にいない。
ミキはなんか寂しくなって少し目を潤ませた。
「ありましたぁー!!」
大声をあげてアイが木々の間から飛び出してきた。
ミキはアイに見えないように目をこすると起き上がった。
「早いな」
「すぐそこに小屋がありました」
「そっか。じゃあ」
「なんですか?」
ミキはアイのほうへ両手を伸ばした。
それをアイは不思議そうに眺めた。
「おんぶぅ〜」
「どうして?」
「疲れて動けない」
「もうぉ〜」
アイは腕組をして困り果てた。
こんなだらしない魔女がほんとうにこの国を救ってくれるのだろうか。
ひょっとしたら他にも魔女がいるのかもしれない。
アイは考え込むと両手を差し出すミキを無視して小屋の方へと歩き出した。
「おい!待てよ!ほうきに乗せてやったじゃんかよ」
「あっ!馬置いてきちゃった」
「なんだよ。馬いたのかよ。先に言えよ!」
「だって・・・」
「とにかくおんぶ!!」
アイは溜息をつくとしゃがみミキをおぶって小屋の方へと向かった。
- 50 名前:れいにゃを探せ 投稿日:2006/12/16(土) 03:54
- 「美味しいっちゃ!」
れいにゃは今まで味わったことのない美味しさに思わず声をあげた。
れいにゃが喜んで食べる姿を見たごとぉーはれいにゃに微笑むと空になった皿を取り立ち上がった。
「たくさん食べろぽ」
「んちゃ!?やっぱ太らせて食べる気っちゃ!」
れいにゃはごとぉーの微笑みを自分が美味しそうに見られてると勘違いして部屋の隅に逃げ出した。
ごとぉーはゆっくりとれいにゃに近づき優しく声をかけた。
「ごとぉーは猫は食べないって言ってるぽ」
「ホントっちゃ?」
「ホントだぽ」
「信じていいっちゃ?」
「信じていいぽ」
「信じるっちゃ。おかわりっちゃ」
れいにゃはごとぉーの目をじっくり見つめて嘘を言ってないことを確認するとごとぉーにおかわりを頼んでまたテーブルに戻った。
ごとぉーの作る料理はとても美味しかった。
れいにゃはミキが作った料理しか食べたことがなく、これほどまで美味しい料理に感動していた。
ごとぉーは新たに料理をのせた皿をれいにゃの前に置いた。
れいにゃはそれをじっと見つめるとまだ湯気がたっていたので、冷めるまでの間ごとぉーと話すことにした。
- 51 名前:れいにゃを探せ 投稿日:2006/12/16(土) 03:54
- 「ごとぉー様は何をしてる人っちゃ?」
「様なんてつけなくていいぽ。ごとぉーはごとぉーでいいぽ」
「そういうわけにはいかないっちゃ。ご飯ごちそうになったっちゃ」
「まあいいぽ。好きなように呼べばいいぽ」
「それでごとぉー様は何をしてる人っちゃ?」
「ごとぉーは世界中を旅してるぽ」
「なんで旅してるっちゃ?」
「探してるぽ」
「何っちゃ?」
「それは秘密だぽ」
「じゃあ、聞かないっちゃ」
れいにゃは一度、料理を見つめた。まだ冷めていないようだ。
ごとぉー様は旅をしている。
れいにゃも本当ならミキ様と一緒に旅をするはずだったのに、なぜか今は初めて会った人にご馳走してもらっている。
そう思うと急に寂しくなりれいにゃは俯いた。
「れいにゃも一緒に行くぽ?」
「れいにゃはミキ様のところに戻らないといけないっちゃ」
れいにゃは顔をあげるときっぱりと断った。
ミキ様はこんなに美味しい料理を作れない、こんなに優しくもない。
でも、今まで一緒に暮らしてきたミキ様と離れたくはなかった。
- 52 名前:れいにゃを探せ 投稿日:2006/12/16(土) 03:55
- 「れいにゃの飼い主ぽんはどこにいるんだぽ?」
「あの黒い穴の向こう側にいるっちゃ」
れいにゃが言うと同時にドアをノックする音が鳴った。
ごとぉーとれいにゃはドアのほうを振り向くと一人の騎士が女性をおんぶしながらドアを開けた。
「すみません。少しの間ここで休ませてもらいませんか?」
アイはごとぉーにお願いすると同時にミキを降ろした。
「かまわないぽ。今日はお客ぽんがたくさんだぽ」
「んちゃ!?ミキさまぁー!!」
れいにゃはおぶさっていた女性がミキとわかると大声をあげてミキの元へと走りだした。
しかし、ミキは気付かず目の前にいるごとぉーを凝視していた。
「お前は…」
「よかったっちゃ!!れいにゃを探しにきてくれたっちゃ!!」
「おい、バカ!閉めろ!!逃げるぞ!!」
ミキは素早く外に逃げるとまだ中にいるアイに向かって大声をあげた。
「え?」
「んちゃ?」
「んぽ?」
二人と一匹が突然のミキの行動に呆然と見つめていた。
ミキはほうきを取り出してまたがるとアイを急かした。
アイは何のことかわからないままミキの元まで走り寄った。
- 53 名前:れいにゃを探せ 投稿日:2006/12/16(土) 03:55
- 「早くしろ!!」
「え?でも、魔力がもうないんじゃ」
「嘘に決まってるだろ!逃げるぞ!」
「はい!」
アイが後ろに乗ったことを確認するとミキは猛スピード逃げ出していった。
「ミキ様いちゃったっちゃ」
「なんだったぽ?」
そして、何が起こったのかよくわからないれいにゃとごとぉーはただ飛び去っていくミキとアイを見ていた。
- 54 名前:パム 投稿日:2006/12/16(土) 03:55
- つづく
- 55 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/16(土) 22:42
- 更新お疲れ様です。
続きがめちゃ気になりますw
- 56 名前:ais 投稿日:2006/12/17(日) 03:11
- やばいっす、超面白いです!
他2スレ同様楽しみにしてます
- 57 名前:パム 投稿日:2006/12/26(火) 05:19
- レスありがとうございます。楽しんで頂けて嬉しいです。
- 58 名前:れいにゃを探せ 投稿日:2006/12/26(火) 05:19
- 「さっきのが飼い主ぽんぽ?」
「そうっちゃ。魔女のミキ様だっちゃ」
れいにゃはごとぉーを見上げると、少し誇らしげに言った。
ごとぉーはそれを聞いて頷きながら家の中に入って行った。
「なるぽぽ。何でれいにゃが喋るのかこれでわかったぽ」
「ごとぉー様は何者っちゃ?ミキ様驚いてたっちゃ」
「ごとぉーは普通の人間だぽ。誰かと見間違えたんだぽ」
「本当にぽっぽ族じゃないっちゃ?」
「違うって言ってるぽ」
「よかったっちゃ。ぽっぽ族に会ったらお師匠様に怒られるっちゃ」
「お師匠様って誰だぽ?」
「ユウコ様っちゃ」
「んぽっ!?ゆ、ゆうちゃんぽ?」
- 59 名前:れいにゃを探せ 投稿日:2006/12/26(火) 05:19
- ごとぉーはユウコの名を聞いた途端に落ち着きなくなった。
れいにゃはごとぉーの豹変に首をかしげた。
「ごとぉー様。お師匠様のこと知ってるっちゃ?」
「知らないぽ!知らないぽ!ゆうちゃん何て知らないぽ!」
「怪しいっちゃ。お師匠様のことをそう呼ぶのはカオリ様くらいだっちゃ」
「んぽぽっ!?」
「カオリ様も知ってるちゃ?」
「知らないぽ!ごとぉーは何も知らないぽ!」
「怪しいっちゃ」
「ごとぉーは何も怪しくないぽ。れいにゃはもう飼い主ぽんのところに戻るんだぽ」
「いいっちゃ?」
「ごとぉーはもう出かけるんだぽ」
「どこ行くっちゃ?」
「内緒だぽ!着いてきちゃダメだぽ!」
「着いて行かないっちゃ。ミキ様のところに行くっちゃ」
「それでいいぽ」
- 60 名前:れいにゃを探せ 投稿日:2006/12/26(火) 05:20
- ごとぉーが扉を開けると、れいにゃは外に出てごとぉーの方を振り向いてお辞儀をした。
「ごとぉー様。ありがとうっちゃ。美味しかったっちゃ」
「んぽ。早く行くぽ」
「バイちゃ〜」
「バイバイぽぉ〜」
れいにゃは挨拶を終えるとミキが飛んで行った方向に走りだして行った。
ごとぉーは手を振りながられいにゃが見えなくなるを待った。
「危ないぽ。危ないぽ。ゆうちゃんに見つかったら怒られるぽ。ここから離れたほうがいいぽ」
ごとぉーはそう呟くと、家に向かって手をかざした。
「んぽぉ〜。んぽぉ〜。ごとぉーのお家戻れぽっぽぉ〜」
ごとぉーが家に向かって唱えると家は地面に潜り込み、あっと言う間に元の平地になった。
そして、ごとぉーはミキが行った方向とは逆の方向に走り出して行った。
- 61 名前:れいにゃを探せ 投稿日:2006/12/26(火) 05:20
- 一方、ミキ達は一直線に飛び出すと、少し離れたところで急降下した。
その弾みでアイは投げ出されるように転がり落ちた。
「ちょっと、どういうことですか一体」
アイは頭をさすりながら不満げな表情をしてミキに言った。
アイにしてみればせっかく休憩場所を見つけた上に、そこにはミキが探していると思われる猫もいたのに突然逃げ出したことに納得がいかなかった。
しかも、魔法が使えないと嘘まで言っていた。
「お前も見ただろあいつ」
ミキはアイとは目を合わさずに飛んできた方向を見つめながら言った。
「猫いましたね」
「は?違うよバカ!!あの女だよ!」
「ああ、いましたね。それが何か?」
「ってか、れいにゃいたのかよ」
ミキはがっくりと肩を落とすとそのまま地面にへたり込んだ。
その様子をアイはいぶかしげに見つめていた。
「状況がまったくわからないのですが」
「ああ、そっか。人間じゃ知らないか。あいつはな、ぽっぽ族だ」
「ぽっぽ族?」
「ああ。魔女とはちょっと違うがとんでもない力を持ってる。しかも、あいつはぽっぽ族の長の娘のごっちんだ。めちゃくちゃ強い」
「そうなんですか!!」
アイは強いという言葉に反応して喜びの声を上げた。
しかし、ミキはそんなアイを呆れるように溜息をついた。
- 62 名前:れいにゃを探せ 投稿日:2006/12/26(火) 05:20
- 「何喜んでんだよ」
「だって強いのなら協力して頂きたい」
「そんなことしたらお前の国だってタダじゃすまないぞ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。しかし、まいったな。よりによってれいにゃがあいつに捕まるとは」
「どうしますか?」
「諦めるしかないな」
「何ということを!あなたの猫なんでしょ!」
「バカぁ〜!!あいつは猫食うんだぞ!強いんだぞ!取り返しにいったら絶対殺されるわ!!」
「あなたはそれでも魔女ですか!!」
「だからなんだよ」
「見損ないました。私が猫を連れ戻してきます」
「何故お前に見損なわれるんだ?」
「とにかく。ここで待っててください。すぐ取り返してきます」
「あっそ。成仏しろよ」
「ムッ!猫を取り返してきたらそれでおさらばです!先ほどの頼みごとはなかったことに!!」
猫を探すと言って連れまわされ、見つけたかと思えば逃げる。
そんな身勝手なミキにアイは腹を立て、ミキを睨むと踵を返して先ほどの場所へと歩き出した。
そのぽっぽ族とやらは魔女が怯えるほど強いのだろうか。アイは何としてでも仲間にしたいと思った。
あの魔女では国を救うことは出来ない。
さほど遠くまでは逃げなかったので先ほどの場所には簡単に着くことが出来た。
しかし、木々の間を潜り抜けるとそこには先ほどの家はなく。ただの空き地に変っていた。
アイは辺りをキョロキョロと振り返ってみたがやはり何もない。
アイは場所を間違えたと思い、さらに森の奥へと歩き始めた。
- 63 名前:シルバーランド城 投稿日:2006/12/26(火) 05:21
- その頃、シルバーランド城では、マコトが新たに追加された情報を元に作戦を考えていた。
現在、十万の兵が城に向かって進軍している。明日の朝には攻め込んでくるはずだ。
こちらの兵は三万。
五万でも太刀打ち出来ないからこそ占い師に頼み、勝てる希望を見出せたかと思ったのにさらに五万も増えては魔女が来たところで勝てるわけがない。
しかし、何も妙案は浮かばずマコトは駒を動かしては戻す、ただそれを繰り返すだけだった。
マコトは何気なくヒトミの部隊の駒を取ると、それを十万の兵に投げ入れた。
するとたくさん並べた駒のほとんどが崩れた。
マコトは苦笑い浮かべると、先ほどから何か準備をしているヒトミの方を見た。
ヒトミはマコトと目が合うと剣を持ち、マコトに向かってその剣を投げた。
「マコト。それを持ってろ」
「これは?」
「どう見ても剣だろ。コハルのことを頼んだぞ」
ヒトミはそう告げると部屋から出て行こうとした。
マコトは慌ててヒトミを引き止めるため扉の前に立ちはだかった。
「どこに行かれるのですか?敵軍はすでに目前にいます。誰が軍の指揮をとるのですか!」
「お前がいるだろ。私にはやることがある。心配するな、逃げるわけじゃない」
「そんなことはわかってます。せめてどちらへ行かれるか教えていただけませんか」
「私にもわからん」
「ちょっと!ヒトミ様!!」
ヒトミはマコトを退かすと足早に出て行った。
マコトも後を追いかけようと飛び出したが、突然身動きが出来なくなった。
そして、背後から優しく声をかけられた。
- 64 名前:シルバーランド城 投稿日:2006/12/26(火) 05:21
- 「行かせてあげなさい」
その声は聞き覚えのある声だった。
その声の主はマコトの前にゆっくりと現れると微笑んだ。
すると動けなかった体が急に動き出し、マコトは思わずよろけそうになり壁に手をついた。
マコトはまた金縛りに合わないために背中を壁につけるとヒトミから渡された剣を強く握り締めた。
「お前は占い師。まさかお前がヒトミ様に何か言ったのか?ヒトミ様はどこへ向かおうとしているんだ?」
「いいえ。私は何も…。ヒトミ様の運命を占えるほどの力はありません」
「なっ、何を言ってるんだ!貴様、ペテンか!」
マコトは腹を立て思わず手にしていた剣を引き抜いた。
しかし、占い師のカオリは目の前に剣先があるのにも関らず、怯えることなく笑みを浮かべた。
「いやですわ。私ほどの占い師どこを探してもいませんよ」
「何を言ってるんだ。国の運命を占っておきながら、人一人の運命を占えないのか!」
「ヒトミ様の運命に比べたら、この国の運命など取るに足りません」
「貴様、自分の言ってることがわかっているのか!」
「もちろん。占い師ですから」
「この国から出て行け!さもなくば今ここで処刑する!」
マコトは剣を城の出口の方へ向け、カオリを強く睨んだ。
「それでは、失礼します。幸運を」
カオリはマコトに一礼すると出口に向かって歩き出した。
そして、数歩歩いたところで忽然と姿を消した。
「くそっ!何が幸運をだ。何が魔女だ。すべて嘘じゃないか!」
マコトはカオリの姿が消えると剣を投げ捨てて大声で叫んだ。
- 65 名前:パム 投稿日:2006/12/26(火) 05:22
- つづく
- 66 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2006/12/29(金) 05:34
- 陽は落ち、辺りはすっかり暗闇と静寂に包まれた。
しかし、ここ、シルバーランド国境付近は別世界のように明るく等間隔に松明の灯火が並
び、多くの兵士が酒を飲み騒いでいた。
エリは騒いでいる兵士達の間をすり抜けながら奥にある本営に向かっていた。
エリの姿を見ると兵士達は次々に声をかけ、酒を勧めるがエリは笑みを返して断っていっ
た。
すると一人の兵士がエリの腕を掴み引き止めるのでエリは仕方なく歩みを止めた。
「隊長さん。一杯くらい付き合ってくださいよ。これが最後の酒かもしれないんですか
ら」
「そんな風に言うな。それに殿下からお呼びがかかってるんでね。後で頂くよ」
「ありゃ〜。わがまま殿下のお呼びですか。ははっ。これまたお気の毒に」
兵士は掴んだエリの腕から手を離すと頭に手をあて笑った。
エリはその言葉に苦笑すると、兵士の肩を軽く叩き「行ってくる」と言ってその場を後に
した。
エリは本営の前まで来ると一つ息を吐いて中に入った。
「失礼します。エリです」
- 67 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2006/12/29(金) 05:34
- リカはエリの声に気付き読んでいた本を閉じると、エリを自分の方へと招き寄せた。
エリはリカのもとに近づきながらリカが読んでいた本の題名を盗み見た。
しかし、題名は古代文字で書かれていて読み取ることが出来なかった。
今や古代文字を読めるのは考古学者か魔女くらいで、いくら王子とはいえ古代文字の勉強
まではしない。
それに何より訳書はたくさん出ているのでわざわざ古代文字の本を読む必要はない。
それなのにリカが読んでいることにエリは不思議に感じ、その本をマジマジと見つめた。
リカはエリの顔を見るとエリの視線が本にあることに気付き、本をバンと叩いた。
エリは驚いて顔を上げてリカの方へと視線を移した。
「失礼しました。何の御用でしょうか?」
「まあ、とりあえずそこに座れ。何か飲むか?」
リカは立ち上がると空のグラスを取り出しエリの前に置いた。
そして、エリの返事を待たずにグラスにワインを注いだ。
エリは飲むつもりがなかったがさすがに注がれては断るわけにもいかず、グラスを手に取
り口をつけた。
- 68 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2006/12/29(金) 05:34
- 「コールドブレスだ」
リカはエリがグラスを置くと同時にそう言った。
エリは一瞬何のことかわからなかったが、すぐにそれが本の題名であることに気付いた。
『コールドブレス』は誰もが知っている有名な実話の物語で百年ほど昔に突如現れ人々を
恐怖に陥れた氷の女王を倒すまでの魔女と騎士の物語である。
エリも当然この物語は読んだことがある。何よりこの本が騎士を志したきっかけであった。
エリは、なんだ『コールドブレス』かと思うと同時に疑問に思った。
百年前とはいえ既に古代文字は廃れていて、古代文字でわざわざ書く必要がなかったから
である。
「その本は古代文字で書かれていますが、本当にコールドブレスなのですか?」
「そうだ。こんなことでわざわざ嘘はつかん」
「失礼しました。しかし、古代文字のコールドブレスをわざわざお読みならなくても」
「これは誰が書いたか知らないが、内容はコールドブレスそのものだ。そして何より面白
いのがこれは日記だ」
- 69 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2006/12/29(金) 05:35
- リカは本を手に取りエリに見えるようにして題名部分を指でなぞった。
エリには読み取ることはできないが、指でなぞった文字が『日記』という意味の文字だろうと推測した。
「日記ですか、それはとても興味深いですね。どこでそれを?」
「一月程前に森を散策しているときに拾った」
一月前…。
エリは一ヶ月前のことを思い出してみた。
一ヶ月前といえばシルバーランドに対して宣戦布告をした頃だった。
この戦争とその本が何か関係しているのだろうかとエリは思った。
「さて、この話はこれくらいにして。本題に入ろう。エリ、明日の戦でお前は真っ先に城の中に入りヒトミの妹を捕らえろ」
「はい?」
エリはリカの言葉に思わず間の抜けた声を上げた。
「わかったか?」
「えっ!?あっ、はい。い、いや、何故、ヒトミ様の妹を?」
エリはリカの言葉をようやく理解して慌てて聞き返した。
「そうすればヒトミが大人しくなる」
「ちょ、ちょっと待って下さい!人質を捕れと仰るのですか!しかも子供を!」
「だったら、お前はヒトミを倒せるのか?あの英雄だぞ」
- 70 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2006/12/29(金) 05:36
- エリは立ち上がってリカに抗議したが、リカの言葉に何も言い返せずにすぐに大人しく座った。そして、エリは俯いて頭を抱えた。
エリは誰よりも騎士道を重んじていた。
それはエリの憧れである氷の女王を倒した英雄に近づくためでもあった。
確かに今の自分ではヒトミ様を倒すことはできないかもしれない。
ヒトミ様が妹を大切にしていることは周知のことで人質に取れば大人しくなるのはわかっている。
けれども、そんなことをしたら自分は騎士の道から外れてしまう。
そして何よりも、その英雄の子孫であるヒトミ様に対してそんな卑怯な真似をしたくはなかった。エリは俯いたまま、どう返答しようか悩んでいた。
しかし、そんなエリの様子を気にせずリカは続けた。
「エリ。いいか、この戦いで一番重要なのはヒトミを捕まえる事だ。勝ち負けは関係ない」
「はい?」
エリはまたリカの言葉に間の抜けた声を上げた。
「勝ち負けが関係ないというのはどういうことでしょうか?」
「だから、ヒトミを手に入れることが重要なんだ」
- 71 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2006/12/29(金) 05:36
- エリはリカの言葉の真意がまったくわからずに困惑した。
勝ち負けの関係がない戦なんてあるのだろうか。
どうしてヒトミ様を手に入れる必要があるのだろうか。
「リカ様はシルバーランドが欲しかったのではなかったのですか?」
「私がいつそんなことを言った」
「たった一人を捕らえるために戦争を起こしたのですかっ!!」
「ヒトミはそれに十分値する人間だ」
「しかし、私にはそのような卑怯なことは出来ません!」
「話はこれで終わりだ。いいな、これは極秘命令だ。誰にも喋るな」
リカはエリを強く睨みつけた。
エリは何も言えず、下唇を噛み締めて俯いた。
リカはそっぽを向くと本を手に取り読み始めた。
エリは何を言っても無駄だと悟り、こみ上げてくる怒りを抑えながら本営を出て行った。
- 72 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2006/12/29(金) 05:36
- エリは途中で声をかけてくる兵士を無視して一直線にテントへと向かった。
エリは荒々しく中に入るとテーブルに置いてあった酒を一気に飲み干した。
突然入ってきたエリにリサは驚きの声を上げた。
「ちょっとカメ!それは私のでしょうが!」
「もう、聞いてくださいよ。ガキさん」
リサはやれやれといった感じでコップをもう一つ取り出すと、エリと自分の分の酒を注いでエリに渡した。
「あっ、やっぱダメだ。言っちゃダメって言われたんだ」
エリはそう言うと、リサが注いでくれた酒をまた一気に飲み干した。
そして、エリは自分で酒を注ぐと、口はつけずにコップを持ったままぼうっと上を眺めていた。
リサはリカから厄介ごとを頼まれたのだろうと察しはしたが、内容を知らなくては何て言ったらわからないので黙ってエリが何か話すまで待った。
「ガキさん。ヒトミ様をどうやって倒せばいいでしょうか?」
リサはエリの言葉に驚いた。
エリは英雄ヒトミ様に憧れている。そして、いくら敵とはいえその子孫であるシルバーランドのヒトミにも憧れを抱いていた。
たまにシルバーランドに生まれていれば良かったのにと言うくらいだった。
敵であるから倒すと思うのは当然ではあるが、エリは今まで一度も倒したいなど言ったことはない。
それが今になってこう言うということはリカ様からそう言われたのだろうとリサは思った。
しかし、ヒトミを相手にするのは危険すぎる。それに今回の作戦でもヒトミとは無理に戦わないと決まっているはずだ。
- 73 名前:ゴールドランド陣営 投稿日:2006/12/29(金) 05:37
- 「カメ。無理してヒトミを倒す必要なんかない。王を討ち取ればそれで勝ちだ」
「勝ち…ですか」
「そうだ。ヒトミを倒しても勝ちではない」
「でも、ヒトミ様は我々を倒しに来ますよ」
「それは当然だろう。しかし、こちらには十万の兵がいる。全員を相手に出来るわけがない」
「しかし、ヒトミ様は英雄の子孫ですよ」
「そうだ。名は同じでも子孫だ。英雄ではない。何ら怯えることはない」
「でも…」
「カメ。今を見ろ。この状況を見ろ。完全に我が軍が圧倒しているじゃないか」
「そうですよね」
エリはそう呟くとそっと立ち上がって外を出ようとした。
「カメ。どうした。どこに行く」
「すみません。ちょっと夜風にあたってきます」
「そうか。気分を変えて来い。くれぐれも気をつけるんだぞ」
「はい」
エリはゆっくりとした足取りで誰もいない森の中へ入っていった。
- 74 名前:パム 投稿日:2006/12/29(金) 05:37
- つづく
- 75 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/31(日) 14:41
- 謎な事がまだ多いですね。
この先どうなっていくのか楽しみですがんばってください。
- 76 名前:憧れの騎士 投稿日:2007/01/05(金) 03:43
- エリは森を抜けて、崖を目の前にして足を止めた。
いつの間にかかなり遠くまで来てしまったようで、兵士達が騒ぐ賑やか声も聞こえなくなっていた。
エリは側にある岩に腰をかけると頭を抱えて俯いた。
子供を人質に取らずにどうやってヒトミ様を倒すかエリは悩んでいた。
しかし、今の自分の力で倒すのは到底無理だ。でも、やらなければいけない。
これは命令なんだ。命令には絶対に従わないといけない。でも、人質を取るなんてことはしたくない。
では、どうすれば…。
エリは何の解決も見出せずにただ同じことを延々と悩んでいた。
「何か困ったことでもあったのかい?」
エリは突然の背後から声に体が震えた。
考え事をしていたとはいえ、誰かが近づいていることに気付かない事はエリは今まで一度も経験したことがなかった。
エリは呼吸を整えると、心の中で一、ニ、三と数えて素早く振り向いた。
エリから数メートル離れたところに、声を掛けた人物が馬に跨っていた。
しかし、木の陰に隠れて顔を見ることが出来なかった。
- 77 名前:憧れの騎士 投稿日:2007/01/05(金) 03:43
- 「誰だ!!」
未だ震えは治まっていないが、エリは力を振り絞って声を上げた。
「さて一体私は誰でしょう」
「ふざけるな名を名乗れ!」
エリは自分の震えを止めるように全身に力を込めて言った。
すると馬に跨っていた人物はゆっくりとエリのほうへと近づき、木の陰から抜けて顔に月の光が射したところで足を止めた。
「ヒトミだ。名ぐらい聞いたことあるだろう」
エリはヒトミと言った目の前の人物に目を疑った。
まさしく目の前にいるのは憧れの英雄の子孫のヒトミだった。
エリは先ほどとは違う緊張が走り気を失いそうになったが、はっとすると素早く跪きヒトミに対して頭を下げた。
「私はゴールドランドの騎馬隊隊長をしております。エリと申します。お目に掛かれて光栄です」
「えっ?」
ヒトミは馬から下りると頭を下げているエリに驚いた様子で見た。
- 78 名前:憧れの騎士 投稿日:2007/01/05(金) 03:43
- 「ヒトミ様。何故ここにいらっしゃるのですか?」
「何故って、ここは私の国だよ」
「確かにそうですが、しかし、すぐ近くには私達の軍隊があります。どういう御積りですか?」
「いや、たまたまだよ。ちょっとした用で近くを通ったら、エリちゃんがいたからさ」
『エリちゃん』と呼ばれて思わずエリは顔を上げて、ヒトミを見上げた。
ヒトミは優しく微笑んでいた。
エリはその優しくて美しい顔に見惚れそうになって慌てて顔を下げた。
ヒトミ様と話をしている。自分のことを『エリちゃん』と呼んでいる。
エリは信じられないことが起きていることに興奮していた。
しかし、興奮も束の間。エリはリカが言ったことを思い出した。
今、ここでヒトミ様を捕らえれば戦争はしなくて済むはず。
エリは勇気を振り絞って顔を上げるとヒトミと目を合わせた。
「ヒトミ様。一体、何のご用件でしょうか?」
「それは言えないよ」
「とりあえず、私と一緒に殿下のところへご同行頂けますか?」
「やだよ。用事が済んでないもん」
「ヒトミ様は私達に用があるのではないのですか?」
「違うよ。たまたま近くを通っただけだよ」
「そうですか」
「ところで、何か悩んでたみたいだけど何かあったの?」
「あっ、いえ。何も、ありません」
- 79 名前:憧れの騎士 投稿日:2007/01/05(金) 03:44
- エリはヒトミ様をどうやって倒すか考えていたなんて到底言えるはずもなく慌てふためいた。
しかし、言ったほうがいいかもしれない。シルバーランドの兵力では到底勝てるはずがない。
ヒトミ様は騎士だ。自分が捕まれば戦争が終わるとわかれば素直に聞いて下さるだろうとエリは思い、意を決して顔を上げるとヒトミを見据えた。
「ヒトミ様。あなたを捕らえればこの戦争は終わります。お互いむやみに犠牲を出さないためにもどうか捕虜となって頂きませんか?」
「はい?」
「殿下はヒトミ様を欲しがっているようです。この戦争もヒトミ様を捕らえるために起こした戦争です。ヒトミ様さえ手に入ればシルバーランド自体はどうでもいいそうです」
「あっ、そう」
「わかって頂けましたか?」
「えー、嫌だよ」
「えっ!?でも、そうすればシルバーランドは無事なんですよ」
「でも、私が無事じゃないじゃん」
「何を…」
ヒトミの発言が思ってもいないことにエリは絶句した。
騎士であるのならば自分の命に代えてでも国を守るはず、それなのにこの人は自分の無事を考えてる。
なんと言うことだ。
エリの落胆は激しく、それは一気に憧れから憎しみに変っていった。
- 80 名前:憧れの騎士 投稿日:2007/01/05(金) 03:44
- 「それでもあなたは英雄の子孫ですか!先代のヒトミ様が知ったら嘆きますよ!」
「どうしたの急に」
「騎士ならば国のために命を捨てる覚悟は出来ているでしょう!それが何ですか、あなたは自分のことしか考えていない!」
「ちょっと待ってエリちゃん。ひょっとして自分達が勝つと思ってるの?」
「え?」
エリはヒトミの言葉に拍子抜けして、一気に興奮が冷めた。
ヒトミの表情は相変わらず微笑んだままであった。単なる強がりでもない。
騎士ならば戦って勝利を手にするんだ。ヒトミ様はそう仰りたいんだとエリは思い、先ほどの憎しみはあっさり消え、さらに強く尊敬を抱いた。
そして、エリは決心すると、足を踏ん張り、剣をゆっくりと引き抜きヒトミに向けた。
「ヒトミ様。いざ!」
- 81 名前:憧れの騎士 投稿日:2007/01/05(金) 03:44
- しかし、ヒトミは剣を抜こうとはしなかった。
「やめようよ。私はエリちゃんと戦うつもりはない」
「何を言ってるのですか!もう戦いは始まっています。剣を抜いてください」
ヒトミは溜息をつくと呆れた様子でエリを見た。
「私に勝てると思っているのか?」
「必ず勝ってみせます」
「そっか」
ヒトミはエリの真剣さに折れて剣を引き抜いた。
すると先ほどまでの微笑みは消え、とても冷酷な表情に変った。
エリは全身に突き刺さるような殺気を感じ身動き一つも出来なくなった。
そして、エリは振りかざしたヒトミの剣を受け入れるしかなかった。
- 82 名前:憧れの騎士 投稿日:2007/01/05(金) 03:44
- ヒトミは剣に付いた血を振り払い鞘に収めると、倒れているエリに見向きもせず馬に跨った。
エリは傷口を抑えながら、声を振り絞った。
「とどめを刺せ私の負けだ」
「死ぬ必要はないだろ。それに私はこんなところで油を売ってる場合じゃないんでね」
「もう死ぬのはわかってる!とどめを刺せ!!」
「そんなこと言うな。近くに仲間がいるんだろう。助けがくるかも知れないぞ」
「ここからはかなり離れている。誰も来ない」
「もう喋るな。すぐ死んでしまうぞ」
「待て」
「じゃあな」
「待てぇー!!」
エリの渾身の声も空しくヒトミは馬を走らせ森の中へと消えていった。
残されたエリは傷口を抑えながら仰向けになって夜空の星を見つめた。
もうすぐ私もあの星の中に加わることになるのだろうかと思いながら。
- 83 名前:パム 投稿日:2007/01/05(金) 03:45
- つづく
- 84 名前:パム 投稿日:2007/01/05(金) 03:50
- >>75
まだまだ先は長いので、謎な部分もありますが引き続きよろしくです。
- 85 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/06(土) 00:27
- いつになく、と言っては失礼ですがシリアスですね
話の展開がまったく読めず面白いです
続きをワクテカしながら待ちます
- 86 名前:パム 投稿日:2007/01/07(日) 16:22
- >>85
いつになく頑張ってますw
- 87 名前:再会 投稿日:2007/01/07(日) 16:23
- 一方、一人残されたミキは膝を抱えて、ブツブツと独り言を言っていた。
「う〜ん。どうしよう。どうやってぽっぽ族かられいにゃを奪い返そう。ゆゆたんに頼もうかな。いや、ダメだ。絶対に怒られる。ゆゆたんに怒られるくらいなら死んだほうがマシだ。でもなぁ〜。強いんだよなぁ〜。よく知らんけどさ。てか、何でれいにゃも捕まるかな。バカだよなあいつ。ぽっぽ族に近づくなって言われたじゃん。めっちゃ怒られたじゃん。めっちゃ泣いてたじゃん。おしっこちびってたじゃん。はあ、どうしよう。やっぱ助けに行かないとダメだよな。う〜ん、どんな魔法使えばいいのかな」
- 88 名前:再会 投稿日:2007/01/07(日) 16:24
- ミキはカバンから一冊の本取り出すと、それを広げてペラペラとめくっていった。
「う〜ん。この魔法は熱いからダメだな」
「これは時間がかかるダメだな」
「これはあれだ。面倒臭いからダメだ」
「えっと、これは服が汚れるからダメだな」
「う〜ん。ないなぁ〜」
ミキはページをめくりながら何かと文句を付けてまったく魔法を決める様子がなかった。
そんな中、森の中から何かが走ってきた。しかし、ミキはまったく気付かずにじっと魔法書を見つめていた。
- 89 名前:再会 投稿日:2007/01/07(日) 16:24
- 「ミキさまぁー!!よかったっちゃ。よかったっちゃ。やっと会えたっちゃ!」
れいにゃはミキを見つけて大喜びでミキの元に走り抱きつくと、ミキはまるで蝿を振り落とすようにれいにゃを振り払った。
「何するっちゃ!」
「今、考え中だから邪魔しないで」
「何見てるっちゃ?」
れいにゃはミキが見ている魔法書を覗きこんだ。
ミキはれいにゃに見向きもせず熱心に魔法書を見ていた。
「魔法書だっちゃ。何で今ごろ勉強してるっちゃ?」
「うっさいな。勉強じゃねぇよ。どの魔法を使うか選んでるんだよ」
「この魔法なんかどうっちゃ?」
「あ?ダメだよこれはお腹減るから」
「そんなの初耳だっちゃ」
「てか、うっさいよ。れいにゃ」
「何で魔法使うっちゃ?」
「は?だからさ、れいにゃを…」
「んちゃ?」
ミキはようやくれいにゃのほうを振り向いてれいにゃと目を合わせると固まった。
- 90 名前:再会 投稿日:2007/01/07(日) 16:24
- 「あっ!!れいにゃあああああああああああああ!!」
「ミキさまぁー!!」
れいにゃがいることに気付いたミキはれいにゃを抱きかかえて大声をあげた。
「よく食われずに逃げてこれたな」
「そうだっちゃ!ミキ様さっき逃げたっちゃ!」
「逃げてねぇよ!ちょっと急用を思い出したんだよ」
「なんだっちゃ?」
「あの〜。あれだよ」
「あれって何っちゃ?」
「あれはあれだよ」
「あれじゃわからないっちゃ」
「うっせぇ!いいんだよ!この世は全て結果オーライ!成せば成る、成さなくても何とか成る!」
「無茶苦茶っちゃ」
「ちゃが多すぎて何言ってるかわかんね。しかし、まあ、本当よく食われなかったな」
「ごとぉー様はぽっぽいってるちゃけど、ぽっぽ族ではないっちゃ」
「はあ?何言ってるの。あいつは間違いなくごっちんだぞ!」
「そんなことないっちゃ。ごとぉー様はれいにゃにご飯食べさせてくれたっちゃ」
「それはあれだよ。太らせて食べる気だったんだよ。れいにゃは痩せてるからな」
「違うっちゃ!違うっちゃ!ごとぉー様は優しい人だっちゃ」
「なんだよ!ミキの言うこと信じないのかよ!」
「信じられないっちゃ。穴にほうり投げたあげく、逃げるような魔女は信じられないっちゃ」
「だったら、あいつのとこ行けよ!」
ミキはビシッと先ほどの小屋の方を指さすと、れいにゃを地面に降ろした。
ミキに言われたれいにゃも先ほど走ってきた方角へとプイっと顔を背けた。
「そうするっちゃ。バイちゃ!」
- 91 名前:再会 投稿日:2007/01/07(日) 16:24
- れいにゃが歩き出すとミキは少し考えて、素早くれいにゃを引きとめた。
「あっ、待てれいにゃ」
「止めても無駄っちゃ」
れいにゃは振り向かず一直線に歩いている。
ミキはれいにゃの元へ近づいていった。
「そうじゃねぇよ。いっちゃダメだよぉ〜」
「ミキ様・・・」
ミキの寂しそうな声にれいにゃは目を潤ませてミキの方を振り向き足を止めた途端、ミキはすかさずれいにゃを猫掴みで拾い上げると、すぐさまカバンの中にれいにゃを放り込んだ。
「あぶねぇ〜。危うく最終試練の一個逃すとこだったよ」
「んちゃ?」
れいにゃはミキの言った意味がわからず、カバンから顔を出してミキの顔を見つめた。
「よっしゃ!行くぞ!」
ミキは適当に指差すと元気良く踏み出していった。
- 92 名前:再会 投稿日:2007/01/07(日) 16:25
-
- 93 名前:再会 投稿日:2007/01/07(日) 16:25
- 森の奥深くに入っていったアイはごとぉーを見つけることが出来ず闇雲に森の中を彷徨っていた。
「一体どこにいったんだ」
森の中を歩き続けたアイは疲れ果て、少し休憩をとるため岩に腰を降ろした。
はあ。と溜息をつくとアイは占い師カオリが言ったことを思い返した。
『明日の夕暮れ時に南東の森に魔女が現れます。その魔女が王子に力を貸してくれるでしょう』
カオリの言葉を聞いたアイは驚き、そして、喜んだ。
アイもエリと同じようにコールドブレスを読んで魔女と騎士の物語に憧れを抱いていた。
いつか自分も魔女と共に旅をしてみたいと思っていた。
そして、何よりアイはその資格が自分にはあると確信していた。
アイは幼い頃から英雄の子孫であるヒトミに剣術を教わっていた。
それはすなわち魔女の騎士として育てられたとアイは思っていた。
だから、魔女に会えば自分のことを認めて共に行動をしてくれると思っていた。
それなのにあの魔女はわがまま言いたい放題でこちらの言うことには一切耳を傾けず挙句の果てには自分の飼い猫を目前にして逃げ出した何とも頼りない魔女だった。
アイはあの魔女は違うと思った。今、探している人こそが本物の魔女だろう。
そう、目の前にいるその人が…。
- 94 名前:再会 投稿日:2007/01/07(日) 16:25
- 「こんなとこで何してるぽ?」
「あー!!いたぁー!!」
「んぽぽっ!?何だぽ?びっくりしたぽ」
「やった。見つけたぞ!」
アイは不意に目の前に現れた人物に驚き、歓喜するとすぐさま立ち上がって抱きついた。
「何だぽ。離すぽ」
「あっ、これは失礼しました」
「んぽ?さっき突然現れて突然逃げた人だぽ」
「先ほどは失礼しました。連れの者が急に逃げようとしたので思わず一緒に立ち去ってしまいました」
「なるぽぽ」
「申し遅れました。私はこの国の王子アイと申します」
「ごとぉーはごとぉーだぽ」
「ごとう様ですか。折り入ってお願いがあります。聞いて頂けないでしょうか?」
「なんだぽ?」
- 95 名前:再会 投稿日:2007/01/07(日) 16:25
- アイは落ち着きを取り戻すとごとぉーの周辺を伺った。
ごとぉーの近くにあの猫がいない。
ひょっとしてあの猫は食べられてしまったのだろうかと不安に思った。
「あっ、あの、その前に猫はどこに?」
「飼い主ぽんのところに戻ったぽ」
「あ、あ〜。そうですか。よかった」
「話ってなんだぽ」
「私の国にもうすぐ敵の軍隊が攻め込んできます。とても今の軍では太刀打ちできるような相手ではありません。そこで、魔女であるごとう様の力を貸して頂きたいのです」
「ごとぉーは魔女じゃないぽ」
「あ、失礼しました。確かに連れのものが魔女とは違うとは申しておりましたが、私には何がどう違うのかはわからなかったものですから、つい」
「なるぽぽ。でも、ごとぉーは普通の人間だぽ。戦うことなんてできないぽ」
「何を言ってるのですか、あなたを見て魔女が恐れて一目散に逃げたのですよ。とても普通の人間とは思えません」
「間違えたんだぽ」
「そんなはずは・・・」
- 96 名前:再会 投稿日:2007/01/07(日) 16:26
- アイは喜びも束の間、ごとぉーの言葉に一気に落胆してしまった。
もう時間がない。これからまたあの魔女を探しに行くわけにもいかない。かと言って本当にこの人が普通の人間だったら連れて帰っても何の意味もない。
アイは腕を組み思い悩んだ。
するとどこからとなく声が聞こえてきた。
「王子。ここにいましたか」
「誰だ!」
アイは突然の声に驚き、大声を上げて周囲を見渡した。
しかし、どこを見てもごとぉー以外に誰の気配も感じることができなかった。
「参ったな。声だけでわかってくださいよ。何年の付き合いですか」
声を掛けた人物は木の上から飛び降りるとアイに言った。
「なんだヒトミか、どうした?」
アイは目の前に現れた人物がヒトミであることを確認すると安心した。
しかし、一方のごとぉーはヒトミの姿を見て声も出せないほど硬直していた。
「王子の帰りが遅くて心配になって探しにきました。この方が魔女ですか?」
ヒトミはごとぉーをチラリと見るとアイに訊ねた。
- 97 名前:再会 投稿日:2007/01/07(日) 16:26
- 「どうやら違ったようだ。その前にも魔女に会ったのだが、どうも頼りがいのない奴だったから連れて行くのをやめた」
「そうですか。しかし、私はこちらの方がお探しの魔女かと思いますが」
「どういうことだ?」
「久しぶりだね。ごっちん」
ヒトミはごとぉーに微笑んで挨拶をして握手を求めた。しかし、ごとぉーはそっぽを向いてヒトミと目を合わせないようにした。
「違うぽ!!ごとぉーはごっちんじゃないぽ!」
「ごっちん?ヒトミ違うぞ。この方はごとう様だ」
「ああ、確かそんな名前でしたね」
「知り合いだったのか!何故それを先に言わなかった!」
「まあいいじゃないですか、こうやって見つかったのですから。さあ、行こうごっちん」
ヒトミはごとぉー肩に腕を回して連れて帰ろうとした。
しかし、ごとぉーはヒトミの腕を払いのけて離れた。
「違うぽ。違うぽ。ごとぉーはごっちんじゃないぽ。魔女でもないぽ」
「あれ?おかしいな、ごっちんだと思ったんだけどなぁ」
「気のせいだぽ」
「そっかな。じゃあ、ごっちんの本当の名前を大声で呼んでみようかな」
「ヒトミ何をしたいんだ?この方は違う。時間がない急ごう。先ほどあった魔女を無理矢理にでも連れて帰ろう」
「呼ぶよ。ごっちん」
- 98 名前:再会 投稿日:2007/01/07(日) 16:26
- ヒトミはごとぉーを見てニヤリと笑うと、空を見上げて大きく息を吸い込んだ。
それを見てごとぉーは慌ててヒトミを制止するように大きく手を振った。
「やめてくれぽ!わかったぽ!協力するぽ!」
「ん?ごとう様であってるのか?」
「ええ、もちろん。これで勝てますよ」
「そうか。ご協力感謝します。ごとう様」
「んぽぽぉ〜」
アイはごとぉーに向かって一礼した。
ごとぉーは手をモジモジさせながら困り果てていた。
ヒトミは先ほど飛び降りた辺りに振り向くと馬を呼んだ。
すると木の陰から二頭の馬がこちらに歩いてきた。
「王子。ここに来る途中で王子の馬を見つけたときはヒヤリとしましたよ。王子の身に何かあったのかと思いましたよ」
「ああ、すまない。魔女に連れまわされてしまって馬をどこに置いたのかわからなくなってしまったんだ」
「魔女ですか」
「そうだ。何だ?その魔女も心辺りがあるのか?」
「いえ。とにかくごっちんがいれば大丈夫ですよ」
「そうか。しかし、本当に良いのかこれで?占い師が言っていたこととだいぶ違うぞ」
「まあ、仕方ないですよ。私が絡んでしまいましたから」
- 99 名前:再会 投稿日:2007/01/07(日) 16:26
- アイはヒトミの言ったことに首を傾げながらも馬に跨った。
ヒトミはさらっと笑うとごとぉーを馬に乗せて、自分も跨った。
「急ぎましょう。敵は目前まできてます」
「今どの辺りだ?」
「かなり近くです。夜明けとともに始まるでしょう」
「そうか。それでは急ごう」
「あっ、そうそう。ここに来る途中に敵の隊長さんに会ったので始末しておきましたけどね」
「よくやった」
「殺してはいないですけどね」
「何故だ?それでは敵軍に知られるではないか!」
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。いくらなんでも召喚士がいるとは誰も思いはしませんよ」
「召喚士?」
「一回だけだぽ」
「うん、それで十分だよ」
ヒトミはごとぉーの言葉に微笑むと勢いよく馬を走り出した。
- 100 名前:パム 投稿日:2007/01/07(日) 16:27
- つづく
- 101 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/07(日) 21:45
- ウォーなんだかワクワクしてきました!!
れいにゃああああああああああああって言いたかったんでしょ?w
- 102 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 01:57
- ミキティが「ゆゆたん」言ってるのが自分的に超ウケてます
- 103 名前:ais 投稿日:2007/01/08(月) 11:50
- ミキサマ自分に正直すぎwww
れいにゃはある意味鍵なんでしょうかね〜?
続きもがんばってください
- 104 名前:パム 投稿日:2007/01/11(木) 00:41
- >>101
れいにゃと呼ぶからには一度は叫んでみたいもんですからねw
>>102
ゆゆたんもそうでけどミキ様、れいにゃも使ってみたかった呼称なんで今回使ってみましたw
>>103
れいにゃはどうなるんでしょうかねぇ〜。頑張ります。
- 105 名前:夜の森 投稿日:2007/01/11(木) 00:42
- ミキは右手を少し掲げるとその手から雷の玉を作った。
そして、それを宙に浮かせると玉は回転しながらバチバチと放電して辺りを明るくした。
「ミキ様。目がチカチカするっちゃ」
「暗いよりマシだろ」
「火の玉のほうがいいっちゃ」
「バカ。森の中で使ったら燃えちゃうだろ」
「そこは上手い事やれっちゃ」
「なんだとれいにゃ!燃やすぞ!」
「ごめんちゃ」
「ったく、文句言うなっての」
ミキは明かりを頼りに森の中を進んで行った。
光に誘われて近づいてくる虫達はことごとく雷の玉から放たれる小さな雷によって殺され、ミキに虫が近づくことはなかった。
この雷の玉は明かりとして使うというよりも生物探知のために使われる。
虫くらいの小さい生物の場合は1mくらい近づくと反応して攻撃を自動的に開始する。
人間の場合は100mくらい離れていても反応して攻撃も行う。
しかし、威力が小さいために届く前に消えてしまうが、どの方向にいるかわかることができる。
- 106 名前:夜の森 投稿日:2007/01/11(木) 00:42
- 「ミキ様。さっきから左の方向に雷が飛びまくってるっちゃ」
「知ってるよ。うるさいな」
「どうするっちゃ?」
「どうせ狐か狸だろ」
そう言ってミキは何度も放たれる雷を無視して歩き続けた。
しかし、雷は一向に止むことがなく何度も同じ方向へ放ち続けていた。
「がぁー!!鬱陶しい!!」
「上手い事やれっちゃ」
「うっせぇ!これはこういうもんなんだよ!ミキはすでに上手い事やってんだよ!」
「でも、やまないっちゃ」
「確かに」
「どうするっちゃ?」
「食ってやる!!」
ミキはそう言うと雷が示す方向へと歩き続けた。
近づくにつれ雷はさらに攻撃の頻度を増した。
「しかし、鬱陶しいなこれ」
「消せばいいっちゃ」
「暗くなるじゃん」
- 107 名前:夜の森 投稿日:2007/01/11(木) 00:42
- ミキは止めることなく近づいて行くと、「うっ」と小さく人の呻き声が聞こえた。
「ミキ様!人の声が聞こえたっちゃ!人に当たってるっちゃ!」
「やべぇ。逃げよう」
「何言ってるっちゃ!れいにゃ見てくるっちゃ!」
「バカ!危ないよれいにゃ!」
れいにゃはミキが止めるよりも早くカバンから抜け出すと雷が示す方向へと走り出して行った。
「ミキ様。大変っちゃ!人が倒れてるっちゃ!」
れいにゃの大声を聞いたミキは宙に浮いる雷の玉を手で握り潰すと、すぐさまれいにゃの元へと走り出した。
ミキがれいにゃの元にたどり着くと、れいにゃの傍らにエリが大量の血を流して仰向けになって倒れていた。
「ミキ様。酷いっちゃ。人殺しっちゃ」
「違うよ!こんなんで人が死ぬかよ!それに良く見ろ、血が一杯出てるじゃんかよ。誰かに切られたんだ」
エリはミキたちの声に意識を戻したのか、うっすらと目を開けた。
- 108 名前:夜の森 投稿日:2007/01/11(木) 00:42
- 「生きてるっちゃ!」
「だからなんだよ」
「何言ってるっちゃ!助けるっちゃ!」
「そんな義理なんかないよ」
「ミキ様は人でなしっちゃ!」
「人じゃないよぉ〜。魔女ですよぉ〜」
「どっちでもいいっちゃ!とにかく助けるっちゃ!」
エリは声が聞こえる方へと顔を向けると、エリの目にれいにゃの姿が映った。
「あ〜。ここは天国か?猫が喋ってる」
「どっちかつうと地獄だぞ」
「ミキ様!余計なこと言わないっちゃ!」
「チッ。なんだよお前」
「ミキ様治すっちゃ」
「指図するなよ!てか、こりゃ無理だよ。死ぬな」
「何言ってるっちゃ!助けるっちゃ!」
「ありがとう子猫ちゃん。もういいんだ。私はもうじき死ぬ」
「だってさ、子猫ちゃん」
エリは手を伸ばしてれいにゃの頭を優しく撫でると、その手は力なく地面に落ちた。
れいにゃはエリに撫でられた手に優しさを感じると共にもうじき死んでしまうことを感じた。
れいにゃはミキを見上げると強く睨んだ。
- 109 名前:夜の森 投稿日:2007/01/11(木) 00:43
- 「魔女の端くれなら治してみろっちゃ!」
「なんだとてめぇ!ご主人様に向かってなんて口利いてんだよ!」
「傷も治せない魔女なんて魔女じゃないっちゃ」
「あのな、魔女は傷治すのあんま得意じゃないんだぞ」
「いいからやれっちゃ!」
「な、なんなんだ一体・・・」
「早くしろっちゃ!」
「わかったよ。やるよ。いいか、黙ってろよ。マジで。失敗したらエライことになるからな」
ミキはれいにゃに根負けして腰を降ろすとエリの傷の具合を見た。
エリは左脇腹を見事に切られていて、右手で傷口を押さえていた。
ミキは押さえているエリの手をどかすと大量に血が溢れて出てきた。
「うおおっ、あぶねぇ。押さえてろ!」
ミキは慌ててエリの手を元に戻した。
「ミキ様。何やってるっちゃ!」
「うるせぇ!黙ってろって言ってるだろ!」
ミキは今までこんな酷い傷を治したことのないどころか見たこともなかった。
ミキはどうしたらいいのか悩んだ挙句、首にかけてある水晶を手に取るとそれに向かって喋りだした。
- 110 名前:夜の森 投稿日:2007/01/11(木) 00:43
- 「もしも〜し。ゆゆた〜ん」
「なんやぁー!!」
「なんで怒鳴れるんだ?」
「いいから要件を話せアホ」
「アホって・・・。まあいいや、あのですね。今にも死にそうな人がいるんですけど」
「そりゃ大変やな」
「そうなんですよ。どうしましょう」
「どうって、殺すか生かすかのどっちかしかないやろ」
「あのぉ〜生かす方向で行きたいんですけど」
「だったら治したらええやん。しょうもないことで連絡してくんな」
「あっ!ちょっと待って、どうやってやれば・・・」
「んちゃ?ミキ様、傷治せないっちゃ?」
「出来るよ!かすり傷くらいなら。でも、これ血いっぱい出てるし」
「カバンの中に傷薬入ってるやろ」
「え?マジで?」
「いつだったかあげたやん」
ミキはすぐさまカバンを開けると中を探ると、一本の瓶を見つけて取り出した。
「おお!!あった!ありましたよ、ゆゆたん」
「もうええか?」
「はい。ありがとうございましたぁ〜」
- 111 名前:夜の森 投稿日:2007/01/11(木) 00:43
- ミキはニコニコしながら瓶の蓋を開けると手のひらに少量の粉をこぼした。
その姿をれいにゃは怪訝な表情で見ていた。
「ミキ様、魔法は使わないっちゃ?」
「魔女だからってなんでもかんでも魔法で済ませると思ったら大間違いだぞ」
「頼りない魔女っちゃ」
「バカ!ゆゆたんが言ったんだぞ!傷薬で治せって!」
「わかったっちゃ、早くするっちゃ」
「おう。じっとしてろよお前」
ミキはゆっくりとエリの手をどかした。
エリはミキが何をするか気になって少し頭を上げてミキを見た。
「何をするんだ?そっとしておいてくれ」
「じっとしてろって!こぼれるじゃんかよ!殺すぞ!」
「心配ないっちゃ。お師匠様が作った傷薬だから大丈夫っちゃ」
れいにゃはエリの耳元に近づいてエリを安心させるように優しく囁いた。
「どういう意味だよ」
ミキはれいにゃを一睨みして舌打ちすると、傷薬をエリの傷口にこぼした。
流れる血に混じった粉はキラキラと輝き出し、血とともに体の中に入っていった。
血がすべて体の中に入ると同時に傷口は綺麗に塞がった。
- 112 名前:夜の森 投稿日:2007/01/11(木) 00:43
- 「よっしゃ、これでいいぞ。見ろよ傷口がふさがった」
「お師匠様は凄い魔女だっちゃ」
「ミキが治したんですけどぉー」
エリは体を起こして、傷口を手で確認した。
先ほどまで止まることなく血が流れていた血も傷口も綺麗になくなっていた。
エリは何が起こったのかわからず、唖然としてミキを見つめた。
ミキは立ち上がると腕を組み、エリを見下ろした。
「お礼は肉がいいな。牛肉」
「お礼なんていらないっちゃ!」
「なんでだよ。死にそうな奴を完全に復活させたんだぞ」
「えっ?ああ、今はこの干し肉しかないけど・・・」
エリは慌てて体中を探って、一切れの干し肉をミキに差し出した。
ミキはそれを受け取ると不満気な表情でエリを見た。
- 113 名前:夜の森 投稿日:2007/01/11(木) 00:43
- 「う〜ん。まあ無いものは仕方ないな。これで許してやるか」
「戻ったら御礼は好きなだけ致します」
「そっか。お前はどこに住んでるんだ?」
「ミキ様!やめるっちゃ!」
「ゴールドランドです。エリに会いたいと言えば会えると思います」
「ほう、有名なんだあんた」
「凄い人っちゃ」
「すぐにでもお礼はしたいですが、急いで戻らないといけないので失礼します」
「まあいいよ。そのうち会いに行くよ」
「いくっちゃ」
「では!」
エリはミキに一礼をして森の中へと走り去っていった。
れいにゃは走り去るエリの後ろ姿をじっと見つめていた。
エリの姿が消えると少し寂しそうな表情を浮かべてミキの足元に寄り添った。
「エリ様行ったっちゃ」
「なんだよ、れいにゃ。やっぱお前もお礼欲しいかったんだろ」
「ち、違うっちゃ!」
れいにゃは慌ててミキのカバンへと駆け上って中に入った。
「ん?なんか変だなお前」
- 114 名前:夜の森 投稿日:2007/01/11(木) 00:43
- つづく
- 115 名前:十万対二人と魔女と猫 投稿日:2007/01/31(水) 02:40
- マコトはコハルが眠るベットの隣で座り、王子とヒトミの帰りを待っていた。
しかし、いつの間にか眠ってしまい目が覚めたときにはすでに朝陽が昇っていた。
マコトは寝惚けながらも立ち上がって窓のカーテンを開いた。
眩しさに目をしからめながらも徐々に慣れてくると、遠くにおびただしい数の兵士が目に入った。
背筋が凍り一気に目が覚め、すぐさまコハルの部屋を飛び出して王子の部屋へと向かった。
「王子!!」
マコトはノックもせずに扉を開けるとアイはベットで眠っていた。
アイのもとへ駆け寄り体を揺さぶってアイを起こした。
「王子。起きてください。敵が目の前まで来ています!」
「何!なんでもっと早く知らせないんだ!」
「申し訳ありません。私もついうとうととしてしまって」
「とにかく急いで準備をするからマコトはヒトミのところへ行ってくれ」
「かしこまりました」
- 116 名前:十万対二人と魔女と猫 投稿日:2007/01/31(水) 02:41
- マコトは全速力でヒトミの部屋へと向かって走った。
しかし、部屋に辿り着く前に途中でヒトミとごとぉーに出くわした。
「ヒトミ様!敵が来てます!はやく出撃の準備を!」
「マコトおはよう。これからごっちんと行ってくるよ。マコトはゆっくり朝食でも食べてなよ」
「何をのん気なことを言ってるのですか!兵士達もすでに準備が出来ているのですか?どのようにするのですか?」
「みんなは安全なところへ移動させた。街には誰もいない」
「誰もいないって、戦わないのですか?」
「戦うよ。ごっちんが」
「んぽ」
「ごっちん?この方ですか?」
「そうだ」
「この娘一人が相手をすると言うのですか?」
「うん。じゃあ、行ってくるからコハルことよろしくね」
「ちょっと待ってください!何を言ってるのですか。敵は十万ですよ!一人で戦えるわけがない」
「大丈夫だって。誰も殺させはしない」
ヒトミはそう言うとマコトの横を通り抜けてごとぉーと共に城の外へと向かっていった。
- 117 名前:十万対二人と魔女と猫 投稿日:2007/01/31(水) 02:41
- リカの両脇にリサとエリを、背後には十万の兵士がシルバーランド城の前に並んでいた。
リサは双眼鏡で城の状況を探るが人の気配がまったく感じられず首をかしげた。
「様子がおかしいですね。誰もいないような感じすらします」
リサは双眼鏡を外すとリカに状況を報告した。
しかし、リカはリサの言うことにまったく耳を貸さず城を見つめていた。
「ひょっとすると降伏するつもりではないでしょうか」
「ヒトミ様がそんなことするはずがない!」
リサの言ったことにすかさずエリが反論してきて、リサは目を見開いて驚いた。
「何を言ってるんだカメ!じゃあ、この状況をどう考える」
エリはリサの質問に口篭もっていると、リカが視線は城を捕らえたまま口を開いた。
「降伏するんだったらとっくにしているだろう」
「リカ様は何があるとお考えですか?」
「わからん。そんなことはどうでもいい。ヒトミさえ居ればいい」
- 118 名前:十万対二人と魔女と猫 投稿日:2007/01/31(水) 02:41
- リカがじっと見つめるその先を捕らえているのは、まだ見えないヒトミの姿なのかもしれないとエリは思った。
それと同時に昨夜リカから言われたことを思い出した。
エリはあの後、急いで陣地に戻ると自分の寝床に潜り込んだ。
そして、ヒトミに殺されかけたということよりも出会えたことが嬉しくてずっとニヤけていた。
すっかりリカが言っていたことを忘れて、結局どうするか答えを出していないままだった。
次は確実に殺される。ふいに冷酷なヒトミの表情が脳裏に浮かび、エリは恐怖に震え上がった。
「エリ。ちゃんとやるんだぞ」
エリの様子がおかしいことを察知したリカはエリの肩を叩いた。
エリははっとして顔あげると、目の前の城門の扉が開いた。
ゴールドランド軍に緊張が走り、身構えるも現れたのはヒトミとごとぉーの二人だけだった。
リカはヒトミの姿を確認すると嬉々として、身を乗り出した。
エリもヒトミに引き寄せられるようにリカと同じ位置まで前に出た。
リサだけはたった二人だけで現れた真意がわからず警戒して一歩後ろに下がった。
何より遠くにいるというのにここまではっきりとわかるその存在感に恐怖すら感じていた。
「リカ様!まだ動かないで下さい。二人だけしかいないのは逆に危険です」
「すぐ目の前にヒトミがいるというのに何を言ってるんだ!エリ行くぞ。ヒトミを捕らえるんだ」
リカは剣を引き抜き高々とあげるとヒトミ目掛けて一直線に馬を走らせた。
リカの合図に兵士達も後を追って前進し始めた。
次々と兵士が前進する中、リサは大声をあげて制止するが、動き出した大群はそう簡単には止まることはできなかった。
リサは仕方なく自分も馬を走らせ、自分の部隊に大きく迂回させるように指示を出した。
- 119 名前:十万対二人と魔女と猫 投稿日:2007/01/31(水) 02:42
- ミキは暖かい季節だというのに凍てつくような空気を察知して目覚めた。
ミキは起き上がると、異様な雰囲気の出所を探ろうと辺りを見回した。
しかし、何も変った様子は伺えなかった。とはいえ、とても清々しい気分にはなれないのは近くで何かが起きているはずだと思った。
ミキはまだ寝ているれいにゃごとテントを畳むと脇に抱えると、ほうきにまたがり飛び出した。
押しつぶされてようやく目が覚めたれいにゃは巻きつくテントから抜け出したところにはすでに地面がなく慌ててまた中に引っ込んだ。
「ミキ様!何してるっちゃ!!」
「うっせぇ!なんかヤバイことが起きてるぞ」
れいにゃは頭だけ出して外の様子を眺めた。
まだ、森の上を飛んでいるのでれいにゃは何が起きているのかわからなかった。
「ミキ様どうしたっちゃ?教えてっちゃ」
「わかんねぇよ!とにかくヤバイ」
ミキはスピードを上げて森を抜けていった。
ようやく開けた場所に出たかと思いきや、無数の人間が雪崩のように城目掛けて流れていた。
「ミキ様。人間がたくさんいるっちゃ!」
「こりゃ戦争だな」
「そうみたいっちゃ」
「あのバカ王子こんな人数をミキに相手させようとしたのかよ」
「なんのことっちゃ?」
「まあミキには関係ないことだけどな」
「どうするっちゃ?」
「どうもしないよ。せっかくだから見物でもするか」
- 120 名前:十万対二人と魔女と猫 投稿日:2007/01/31(水) 02:42
- ミキは上空に留まると、大群の先頭に目をやった。
大勢の兵士達よりも距離をあけて先頭を走る二人の姿があった。
ミキはその二人のわずかに遅れているほうの人物を目を凝らして眺めた。
「おい。あれ、あいつじゃないか?」
「どれっちゃ?」
「あそこだよ。先頭にいる奴。昨晩、傷治した奴だよ」
「ホントだっちゃ。エリ様っちゃ」
「まったく。せっかく傷治してやったのにまた戦うのかよ」
「それが騎士だっちゃ」
「何わかった風に言ってんだよ」
次にミキはエリが向かっている方向に目をやった。
城門の前に立ちはだかる二人の姿を捕らえた。
ミキはその二人のうちの一人がごとぉーであることに気付いた。
「あれ、ごっちんじゃねぇか!」
「ホントだっちゃ!ごとぉー様だっちゃ!」
「ほら、やっぱりあいつはぽっぽ族だったじゃないかよ」
「まだわからないっちゃ」
「どう考えてもそうだぞ。こんな人数を相手できるのはぽっぽ族しか考えられん」
「でも、ごとぉー様はれいにゃを食べなかったっちゃ」
「それはれいにゃがまずそうだったんだろ」
「そんなことないっちゃ!」
「食われたかったのか?」
「そんなこともないっちゃ!」
「どっちだよ」
「どっちもだっちゃ」
「まあいいや。てか、ここにいたら巻き添え食らうな。もっと離れよう」
- 121 名前:十万対二人と魔女と猫 投稿日:2007/01/31(水) 02:42
- ミキは辺りを見渡してどこか眺めのいい場所を探した。
れいにゃは走るエリの姿を心配そうにじっと見つめた。
「何が起きるっちゃ?」
「何って、ぽっぽ族が出て来て、こんだけの人数相手にするっていうなら召喚獣が出てくるに決まってるだろ」
「エリ様危ないっちゃ!」
「そうだな。傷薬もったいないことしたな」
「何言ってるっちゃ!助けるっちゃ!」
「なんでだよ!あいつが望んだことだろ。知らねぇよ」
「ミキ様に頼ってられないっちゃ!れいにゃ行ってくるっちゃ!」
「おい!れいにゃ待て!死ぬぞ!」
れいにゃは体に巻きつくテントから抜け出すと、かなり上空にいるのにも関らず飛び降りた。
ミキが手を出して止めようとしたときはすでに遅く、れいにゃはエリ目掛けて一気に急降下していった。
ミキは舌打ちすると、れいにゃの後を追って急降下した。
落ちてるだけでもスピードが出るにも関らずミキはスピードを上げてれいにゃに追いつこうとした。
ミキはあっという間にれいにゃに追いつくと片手でれいにゃを掴み、ほうきを上に引き上げて一気に急上昇した。
「バカじゃねぇの!!こんな高さから落ちたら死ぬじゃんかよ!」
「エリ様を助けるっちゃ!」
「何でこんなに人がいる中であいつだけ助けるんだよ!」
「助けるっちゃ!」
「知るか!人間のやることに一々関るつもりなんかないんだよ!」
「ミキ様お願いっちゃ。エリ様助けてくれっちゃ」
- 122 名前:十万対二人と魔女と猫 投稿日:2007/01/31(水) 02:42
- 興奮していたれいにゃが急に涙を流しながらミキの顔見つめた。
ミキはれいにゃが何故こんなにもエリを助けようとしているのかさっぱり理解ができない。
とはいえ、泣きながらお願いするれいにゃをそう突っぱねることもできなかった。
「わかったよ。確かにあいつに死なれたらお礼貰えないしな」
「そうっちゃ!エリ様死んじゃったらお礼貰えないっちゃ!助けるっちゃ」
ミキはお礼が欲しいがために必死になって助けようとするれいにゃにちょっと疑問を抱きながらも先頭目指して飛び出した。
「いいかれいにゃ。ごっちんが召喚したら逃げるからな」
「助けるっちゃ!」
「バカ!ミキたちも死ぬぞ!」
「ミキ様ならできるっちゃ」
「何をさせようとしてるんだよ!」
- 123 名前:パム 投稿日:2007/01/31(水) 02:43
- つづく
- 124 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/31(水) 22:24
- すっごい召喚楽しみにしてます
- 125 名前:パム 投稿日:2007/02/07(水) 02:13
- >>124
楽しみにして下さってありがとうございます。
では、ちょっとですが更新します。
- 126 名前:十万対二人と魔女と猫 投稿日:2007/02/07(水) 02:13
- ヒトミは迫り来る兵士達の群れに動じることもなく余裕の表情でそれを眺めていた。
「近づいてきたね。ごっちん」
「んぽ」
「すぐ召喚できる?」
「何がいいぽ?」
ヒトミは腕を組みながら一面に広がる兵士の姿を眺めた。
ヒトミの目には迫り来る兵士達が津波のように見えた。そして、その津波の中で暴れる怪獣の姿を思い描いた。
「そうだな。これだけの人数だからリヴァイアサンで一気に飲み込んだほうがいいんじゃないかな」
ごとぉーは頷くと敵兵に向かって両手を掲げた。
「んぽぉ〜。んぽぉ〜。リヴァイアぽん出て来いぽっぽぉー!!」
「いつもながら簡単な呪文なんだね」
「呼べは出てくるもんだぽ」
「そうだったね」
- 127 名前:十万対二人と魔女と猫 投稿日:2007/02/07(水) 02:13
- ごとぉーの呼び出しに呼応するように大地が揺れだし、ひとみ達と兵士達の間の地面が裂けた。
そして、その直後、爆発するように大量の水が噴出した。
飛び出した水柱は勢いよく天に向かって伸びていく。
兵士達は突然の出来事に驚いて足を止めるが後ろから来る兵士に押されて隊列が乱れた。
先を走っていたエリも足を止め、天に上っていく強大な水柱をじっと見つめていた。
しかし、リカだけはその渦が目に入っていないようだった。ヒトミだけを見つめ、スピードを緩めることなく吹き上がる水柱の中に飛び込んだ。
「あの野郎!あっさり召喚しやがった!!」
召喚というものを初めて目の当たりにしたミキは驚きを隠せなかった。
強大な力を持つ術は得てして時間がかかるもので、召喚ともなればそう容易くできるものではないと思っていた。
それなのにただ呼んだだけで出てくるものとはミキは思いもよらなかった。
ミキは十メートルくらいの高さを飛んでいるが、水柱はそれを超え天に突き刺す勢いでさらに高く昇り上がっていく。
水柱の飛沫は大雨のように兵士達に降り注いでいた。
「れいにゃ逃げるぞ。召喚獣出てくるぞ!」
「エリ様を助けるっちゃー!!」
「あっ!バカ!」
またしてもれいにゃはミキの懐から抜け出して、エリ目掛けて飛び出した。
れいにゃはうまいこと兵士の頭の上に飛び降りると、兵士の上を渡りながらエリ目指して走っていった。
- 128 名前:十万対二人と魔女と猫 投稿日:2007/02/07(水) 02:14
- 「な、なんだこれは・・・」
エリはこれから何が起きるのか全く予想が出来ない状況にただ呆然としていた。
れいにゃはそんなエリの後ろ姿を捉えると思いっきりジャンプしてエリの肩に飛び乗った。
「エリ様。すぐ逃げるっちゃ。みんな殺されるっちゃ」
「おっと、君は昨晩の子猫ちゃん」
「逃げるっちゃ。召喚獣だっちゃ!」
「召喚獣?」
「そうっちゃ。でっかい化け物が出てくるっちゃ。危険っちゃ」
「これはそういうことなんだ。わかったよ子猫ちゃん。ここは危ないから逃げて」
「エリ様も逃げるっちゃ。死んじゃうっちゃ」
「大丈夫だよ。それに一度は死んだようなものだし」
「何言ってるっちゃ!」
エリは肩に乗っていたれいにゃを手で掴むとそっと地面に降ろした。
そして、剣を握り締めると、先ほどとは違って強い眼差しで水柱を見上げた。
水柱は頂上が見えないほどになっていた。
先ほどまで唸りを上げて昇っていた水柱が一瞬静かになったその直後、強烈な破裂音とともに水柱が弾けた。
滝のように大量の水が兵士達に降り注ぐ中、遂にリヴァイアサンがその姿を現した。
- 129 名前:十万対二人と魔女と猫 投稿日:2007/02/07(水) 02:14
- 「んぎゃあああ!!!出てきたっちゃー!!!」
れいにゃは大声を上げると同時にエリの馬に飛び乗ってエリの背中に強くしがみついた。
「うぉーでけぇ!!これはリヴァイアサンだ!初めて見たぞこんなの。写真、写真!!」
ミキは落ちてくる大量の水を交わしながらリヴァイアサンの姿を嬉々として見つめた。
これはいい記念になると思ったミキは写真をとるためカバンの中を漁っていると、ふと気が付いた。
「って、違う!れいにゃぁあああ!!」
「ミキ様!!」
「うりゃあああーー!!!」
ミキはれいにゃを追っていたことを思い出すと、全速力で飛び出してれいにゃの元までやってきた。
しかし、れいにゃはエリに強くしがみついてて掴むことができない。
「れいにゃ、離せって!逃げるぞ!」
「エリ様も掴まるっちゃ」
「バカ!重たいよ!」
エリは後ろを振り向くとそこにミキが飛んでいる姿を見て、あることを思いついた。
そして、ミキが跨っているほうきに手を伸ばして掴んだ。
- 130 名前:十万対二人と魔女と猫 投稿日:2007/02/07(水) 02:14
- 「あの化け物の上に落としてくれ倒してやる」
「バカ!あんな化け物お前が倒せるわけないだろ!離せって!」
ミキはエリの手を振り払おうと何度もほうきを揺さぶるがエリはしっかりと掴んで離さなかった。
そうこうしているうちに、リヴァイアサンがミキ達の方へ襲ってきた。
「ミキ様!!来たっちゃ!」
「逃げるぞ!」
ミキは渾身の力を振り絞って猛スピードでエリを連れたまま飛び出した。
間一髪でミキはリヴァイアサンの攻撃を交わすことができた。
しかし、その背後にいた兵士達は何も成す術もなく次々とリヴァイアサンに飲み込まれていった。
兵士達は逃げようとするが、リヴァイアサンが召喚したときに溢れた大量の水で兵士達の足を重くした。
リヴァイアサンは兵士達の海の中で縦横無尽に泳ぎ、次々と飲み込んでいく。
- 131 名前:十万対二人と魔女と猫 投稿日:2007/02/07(水) 02:14
- 「いつ見ても爽快な光景だね。ごっちん」
ヒトミはリヴァイアサンが次々と飲み込んでいく姿をじっと見つめていた。
ごとぉーもその横で眺めていると、リヴァイアサンを横切って猛スピードで飛び抜けていくものを見つけた。
「んぽ?何かが横切ったぽ」
「魔女だな」
「ユウちゃんぽ?」
「違うよ。ユウコ様だったらリヴァイアサンが怖気づく」
「なるぽぽ。魔女も殺すぽ?」
「いや、無視していいよ。あいつを助けたかっただけだろう」
ヒトミはそう言うとほうきにぶら下がるエリを指差した。
「あの騎士も無視していいぽ?」
「ああ、あいつの運命はどうやら決まったようだ」
「ヒトミの考えてることはいつもわからないぽ」
「気にしないで」
ヒトミはごとぉーに微笑み返しながらも、脇を流れる一部隊に鋭い視線をやった。
「ちょっと行儀の悪い連中がいるみたいだから行って来る」
ヒトミはそう言うと、すうっとその場を立ち去った。
- 132 名前:パム 投稿日:2007/02/07(水) 02:15
- つづく
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/07(水) 11:30
- こえー大臣こえー(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
でもどんな状況でも変わらぬミキティに(*´д`)ポ
- 134 名前:パム 投稿日:2007/02/10(土) 02:32
- >>133
こえー?大臣こえー?てか、大臣ではないんですけどねw
でも、大臣の怖さはこれからですYO
- 135 名前:命知らずが三万 投稿日:2007/02/10(土) 02:33
- 正面から大きく迂回したリサの部隊はリヴァイアサンの直撃を免れることができた。
巨大な水柱が吹き出たときはやはり罠だったと、自分の判断に間違いはなかったと思った。
しかし、その中からリヴァイアサンが現れたときは何も考えることができなかった。
リサは立ち止まると、暴れ狂うリヴァイアサンの姿とそれに飲みまれて行く兵士達の姿を見つめた。
兵士達も立ち止り、リヴァイアサンの姿を見つめながらリサの指示を待っていた。
リサの部隊の兵士達は喧嘩っ早い粗暴な男達ばかりで、どの戦でもいの一番に敵陣に飛び込み敵の壁を突き破っていく命知らずばかりである。
それに相反してリサは小柄で、それこそ騎士に見えなくらいだが、冷静に状況を読み取り兵士達の指揮をとる。
命知らずと呼ばれる兵士達が命を落とさずに生きて帰ってこれるのもリサのおかげだった。
そのため信頼も厚く兵士達は絶対にリサの命令があるまで動かない。
しかし、誰もがあの化け物と戦いたくてうずうずしている。リサからの突撃の合図を待っていた。
- 136 名前:命知らずが三万 投稿日:2007/02/10(土) 02:33
- リサはどうするか悩んでいた。
突撃と一言上げるだけでこいつらは恐れることなく戦いに行くだろう。しかし、生きて帰ってくることは到底できない。
そして、あの中にエリがいること思うと早く助けに行きたい。
しかし、何度も死線を乗り越えてきたリサでも、これを乗り越えるほどの力は流石になかった。
リサは意を決してリヴァイアサンからシルバーランド城へと視線を移した。
私達が倒すべき敵は向こうにいる。あの化け物ではない。
リサは剣を城へ振りかざして前進の合図を出した。
兵士達の間からどよめく声が次々とあがった。
しかし、リサはもう一度声を張り上げて指示を出した。
リサの一番近くにいた兵士がリサに向かって大声をあげた。
「リサ殿!何を仰っているのですか!あの化け物を倒さずに前へ進めと言うのですか!」
「そうだ。我々の敵はあの化け物ではない。城の中にいる」
「仲間がやられているというのに見過ごす訳には行きません!エリ殿を助けに行かないのですか!」
リサはエリの名を聞いて城へとかざした剣をリヴァイアサンの方へ向けようとするのを必死でこらえた。
- 137 名前:命知らずが三万 投稿日:2007/02/10(土) 02:34
- リサはゴールドランド国王の隠し子で、リサが十歳のときそのことを知った。
それまで父親は早くに死んだと聞かされ、母親と二人で貧しいながらも毎日楽しく生活をしていた。
しかし、そんな生活も突然リサの前に現れた大臣達によって奪われてしまった。
母親と引き離され、訳も分からずに連れて行かれた城の中は誰もがリサの敵だった。
リサが城に連れいかれたのは、国王の気まぐれだった。病に倒れ、命わずかと感じた国王は突然リサのこと思い出し、城に連れて来るように大臣達に命じた。
しかし、国王の病が治ると手のひらを返したようにリサのことなど気にすることもなくなった。
とはいえ、王族の血を引いている人間を元の平民暮らしに戻すことも出来ず、リサは城の生活を余儀なくされた。
半分は王の血。しかし、もう半分は平民の血。誰もがリサのことを蔑んで見ていた。
周りは敵ばかり、自分の中に流れる王の血が憎かった。
リサはその血をすべて流してしまたい一心で戦場では常に命を晒し続けた。
リサの部隊が命知らずと呼ばれる所以はリサ自身にあった。
- 138 名前:命知らずが三万 投稿日:2007/02/10(土) 02:34
- リサが幾度となく命を投げ出して戦っている中、エリと戦場で出会った。
リサは普段なら味方が窮地に晒されていようがお構いなしに戦い続けた。しかし、まだ戦い方が覚束ないエリの姿を見たとき居ても立ってもいられなくなり、初めてリサは仲間を助けた。
助けられたエリはリサに感謝して何度もリサの元へと訪れた。誰にも心を開かなかったリサもエリの執拗な行動に根負けして少しだけ会話をしてもいいかなと思ったら、気付けば朝になるまでエリと語りあっていた。
久しぶりに暖かい気持ちになったリサはその日からエリと仲良くなった。何をするにも一緒だった。
戦場でもそれは同じでリサはまだまだ危なっかしいエリを助けながら戦い抜いた。
いつ死んでも構わないと思った自分が変れたのはエリのおかげで今こうして三万の大部隊を引き連れられるまでになった。
命知らずと呼ばれながらもリサは誰よりも仲間の命を大切に思った。
しかし、今のこの状況は尋常ではない。確かに多くの仲間が殺されている。しかし、加勢したところで犠牲者が増えるだけ。
ならば、一刻も早く勝利を治める必要がある。
大丈夫だ、エリだってもう昔の危なっかしいエリじゃない。英雄に憧れているんだろ、エリもあの英雄のようになりたいんだろ。
そうリサは心の中で呟くと顔を上げて、もう一度部隊に向かって号令をかけようとした。
- 139 名前:命知らずが三万 投稿日:2007/02/10(土) 02:34
- しかし、リサは声を出すことができなかった。
リサが見た光景はとても信じられないものだった。
何が起こっているのかまったく理解ができない。
三万の兵士達の中央で竜巻のように赤い飛沫と肉片が旋風していた。
遠くにいる兵士達はリサと同じように何が起きているのかわからずただ唖然として見ていた。
中央にいる兵士達も訳がわからず近づいてくる竜巻に恐怖の声を上げていた。
竜巻は兵士達を巻き上げながら徐々にリサの方へ向かってきた。
リサははっとして気を取り戻すと、すぐさま兵士達にその場から逃げるように指示を出した。
しかし、逃げるよりも早くその竜巻は突き進んでいき、遂にはリサの目の前にいるニメートルを超す大男を真っ二つに切り裂いた。
切り裂かれた肉体が倒れたとき、ようやくその竜巻の正体が現れた。
それは大量の返り血を浴びて真っ赤に染まったヒトミだった。
ヒトミは剣についた血を振り払い、顔についている血を腕で拭い落とした。
血が拭き落とされたその表情は相変わらず微笑んだままだった。
誰にも気付かれずに兵士達に近づき、ほんのわずかな時間で百人以上の人間を切り殺したのが自分と変らない人間だったということにリサは絶句した。
ヒトミはふうと一息つくと、剣を鞘の中に収めた。
- 140 名前:命知らずが三万 投稿日:2007/02/10(土) 02:35
- 「さすがは有名な命知らず達だ。よく死ぬ」
ヒトミの言葉にリサはこの上なく怒りを覚えた。こみ上げてくる怒りをぐっとこらえるため剣を強く握り締めた。
そして、剣を天高くかざすと全員に向かって大声を張り上げた。
「全員こいつに構うな!城に突撃しろ!」
兵士達は一瞬聞き間違えたかと思い、動きが鈍ったがもう一度リサが命令を出すとヒトミを無視して次々と城壁に向かって走りだした。
「あれ?戦わないの?」
ヒトミは次々と自分を追い越していく兵士達を眺めながら、のん気にリサに問いかけた。
「当り前だ。お前を倒すことが勝利ではない。我々はこの国を倒しに来たのだ」
「城に行かれては困るんだけどね」
「そんなの私の知ったことではない」
「そうだね」
リサはヒトミに背を向けると自分も城壁目掛けて走りだした。
ヒトミはリサを追う事なく黙ってその後ろ姿を眺めていた。
ちょうどリサが城壁付近に来たところで、ヒトミはリヴァイアサンに向かって叫んだ。
「リヴァイアサン!!」
リヴァイアサンはヒトミの声に気付くと甲高い声を上げて城壁を登る兵士達に襲い掛かった。
城壁ごと兵士達を飲み込むとその勢いは止まらず兵士達を次々と飲み込んでいった。
そして、ヒトミまでをも飲み込むとあっと言う間に誰もいなくなった。
- 141 名前:パム 投稿日:2007/02/10(土) 02:35
- つづく
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/12(月) 16:55
- 面白いですね、あと大臣はハンパないね
- 143 名前:パム 投稿日:2007/02/13(火) 01:48
- >>142
ありがとうございます!
大臣はハンパない人物ですYO
なんせ大臣じゃないですからね…。
- 144 名前:リヴァイアサンと記念撮影 投稿日:2007/02/13(火) 01:49
- ミキは猛スピードでリヴァイアサンから遠ざかると森の中へ突っ込んでいった。
そして、地面に転がり落ちるように着地した。
ミキは上手い事何もないところに着地して無事だったが、ほうきを掴んでいただけだったエリは投げ飛ばされて木にぶつかった。
「うぉー!!危なかったぁ〜」
ミキは無事逃れることが出来て安心すると大声を出して地面に寝転がった。
れいにゃは辺りをキョロキョロしてエリを見つけるとすぐさまエリのもとへと駆け寄った。
「エリ様大丈夫っちゃ?」
エリは腰を強く打っていて腰をさすっていた。
剣を杖代わりにしてなんとか立ち上がるとリヴァイアサンがいる方向を見つめた。
「大丈夫だ。二度も助けてくれてありがとう。でも、私は戦いに行かなくては」
「やめとけって。何もしないで死ぬだけだぞ」
ミキもエリの元にやってくると背後からエリに向かって言った。
- 145 名前:リヴァイアサンと記念撮影 投稿日:2007/02/13(火) 01:49
- 「みんなが戦っているのに自分だけ逃げるわけには行きません」
「エリ様格好いいっちゃ」
「よく見ろよ。みんな逃げてるじゃん。間に合わなくて食われてるだけじゃん」
「しかし・・・」
「しかしも何もないよ。死んだら意味無いだろ。もう少し待て、そのうち消える」
「そうなのか?」
「そうだよ。そういうもんだよ」
「そうか。では、待とう」
エリはそう言うと腰をさすりながらその場に座り込んだ。
ミキは何かを思い出したように手を叩くとカバンの中を漁り、カメラを取り出しエリに渡した。
「おい、消える前に記念写真とっておこう。ミキがリヴァイアサンと戦ってるような感じで撮るんだぞ」
「え?」
「ミキ様こんな状況で何してるっちゃ!」
「れいにゃも入れ!みんなに自慢できるぞ!」
「なら入るっちゃ」
ミキはリヴァイアサンに向かってほうきを振りかざしてポーズをとった。
れいにゃはミキの肩に乗っかると口を大きく開けて、さも威嚇してるような表情を作った。
- 146 名前:リヴァイアサンと記念撮影 投稿日:2007/02/13(火) 01:51
- 「ちょっと待てれいにゃ。そこじゃミキの顔が写らないじゃんかよ」
「どこならいいっちゃ?」
「知らねぇよ。とにかくそこはダメだ」
れいにゃはがっくりと肩を落とすとキョロキョロとどこがいいか探すと丁度いい場所を見つけてそこによじ登った。
「なんで頭に乗るんだよ!降りろバカ!」
「ここがいいっちゃ!エリ様とってくれっちゃ!」
「それでいいんですか?」
「ダメだよ!れいにゃ降りろ!」
「エリ様構わないっちゃ撮るっちゃ」
「は、はい。撮りますよ」
ミキは仕方なくれいにゃを頭に乗せて真剣な表情でリヴァイアサンにほうきを振りかざした。
れいにゃはリヴァイアサンのほうを見ずにエリのほうを見てニッコリと笑った。
「ハイ、チーズ」
エリはこれでいいのかと戸惑いながらもシャッターを押した。
写真を撮り終えるとミキは頭に乗っているれいにゃを放り投げて、エリからカメラを受け取った。
「チーズがどうした」
「そう言いません?」
「何故、今言う」
「だから、写真を撮るときの合図で…」
「意味わかんね」
ミキもエリもお互いにおかしなことを言ってるなこいつと思った。
- 147 名前:リヴァイアサンと記念撮影 投稿日:2007/02/13(火) 01:51
- 「お師匠様にも自慢するっちゃ!」
「そうだな。ゆゆたんにも自慢しよう」
ミキはカメラをカバンの中にしまうとその場に座り、首かけている水晶を手に持って話し掛けた。
「もしもし、ゆゆたぁ〜ん」
「なんや!!」
「ちょ、なんでいつも怒鳴るんですか」
「あんたはいつもタイミング悪いねん」
「それはすみませんでしたね」
「で、なんや?見つかったか?」
「それはまだなんですけど、今凄いことになってますよ。こっち」
「なんかやらかしたんか?」
「違いますよ!リヴァイアサンですよ。ぽっぽ族が召喚したんですよ」
「ぽっぽ族?ちょっと見せて」
「どうやって?」
「その手に持ってるのをカメラみたいに使えや」
「そんな機能もあるのか」
ミキは首から水晶を外すと、水晶越しにリヴァイアサンが見えるようにした。
「どうです?リヴァイアサン大きいでしょ」
「そんな海蛇どうでもいいわアホ!ぽっぽ族を写せ!」
「海蛇って・・・」
ユウコも喜んでくれるだろうと期待していたミキだったが、ユウコから思わぬ答えが返ってきてガッカリとその大きな海蛇を眺めると、水晶をごっちんの方へと向けた。
水晶に映ったごっちんはのん気に座ってぼうっと暴れるリヴァイアサンを眺めていた。
その姿はとてもここが戦場とは思えないほど場違いだった。
「あいつ、召喚しっぱなしのほったらかしかよ!」
「あれはごっちんやないか!」
ユウコの驚く声が水晶を伝ってミキ達に響いた。
- 148 名前:リヴァイアサンと記念撮影 投稿日:2007/02/13(火) 01:51
- 「ほら、やっぱごっちんだったじゃんかよれいにゃ」
「ちゃけどぉ〜」
れいにゃが一番恐れていたぽっぽ族。しかし、実際に会ったぽっぽ族のごっちんはとても優しかった。ご飯もとても美味しかった。
でも、恐ろしい化け物を召喚する。人々が次々と殺されていく状況をのん気に眺めている。
れいにゃはごっちんの優しさが嘘だったのだろうかと疑いつつも、信じたくて、そして、それをミキにもわかって欲しかった。
でも、何と言おうがミキが信じてくれる訳もないので何も言えなかった。
- 149 名前:リヴァイアサンと記念撮影 投稿日:2007/02/13(火) 01:52
- 水晶に映っていたごっちんが突然立ち上がり手を大きく広げて何か叫んでいた。
その叫び声は水晶を通してミキとユウコに伝わった。
「ヒトミ!勝手にリヴァイアぽんに命令するなぽ!リヴァイアぽんに命令していいのはごとぉーだけだぽ!」
ミキは何事かと水晶からリヴァイアサンに目を向けると、リヴァイアサンは甲高い声を上げて遠くにいる一部隊の方へと飛んで行った。
「ヒトミ…」
「はい?何か言いました?」
ミキは水晶からかすかにユウコの声が聞こえたので水晶を耳に近づけるとユウコに話し掛けた。
「ミキ!あの海蛇が行った方向を写せ!」
耳に近づけた途端、大声で叫ばれて堪らず耳から水晶を遠ざけた。
ミキは耳を押さえながら、相変わらず勝手だなあと、ユウコの元から離れてまだ一日しか経っていないのに、何か懐かしくて微笑んでた。
「ミキ!早くせんか!!」
ユウコの怒鳴る声にもミキは笑いながら、リヴァイアサンがヒトミの元へ着くよりも早くヒトミを捉えた。
エリはミキの持っている水晶から怒鳴り声が聞こえてきて、一体何をやっているのだろうかと不思議に思って覗き込んだ。
水晶には片手を挙げリヴァイアサンを誘導しているヒトミの姿が映った。
エリは全身を血で染めたヒトミに姿にあのときの恐怖を思い出した。
- 150 名前:リヴァイアサンと記念撮影 投稿日:2007/02/13(火) 01:52
- 「何だこいつ。大怪我して助け呼んでるのか?」
「ヒトミ様が怪我なんかするわけがない。あれはすべて私達仲間の血だ」
エリは放心した感じで淡々と話した。
あそこにいる部隊がリサの部隊であることに気付いていた。
リサが無事なのかはわからない。例え今は無事でもヒトミを前に、そして、迫ってくるリヴァイアサンに無事で済むはずがない。
確実な絶望感にエリは何の感情も生み出すことが出来なかった。
「へぇ〜。ゆゆたん、こいつヒトミって言うらしいですよ。格好いいですね」
「やはりヒトミか・・・」
ユウコの声は何かを思うように静かに水晶から聞こえた。
「あれれ?どうしました?まさか惚れちゃいました。もういい歳なんだらやめてくださいよ」
「ミキ!!」
「はい!ごめんなさい」
「もう一個、最終試練追加だ」
「え〜。ちょっとした冗談じゃないですかぁ〜。ゆゆたんはまだまだいけますよ」
「黙れ。あいつを…、ヒトミを殺せ。いいな」
「え?殺しちゃうの?」
「そうや。じゃあな」
「ええー!!嫌だって!」
ミキの声が伝わる前にユウコは一方的に通信を遮断した。
ミキは途切れた水晶を見つめながら余計な事を言ったことを後悔していた。
- 151 名前:リヴァイアサンと記念撮影 投稿日:2007/02/13(火) 01:52
- 「あっ…」
エリは一瞬の出来事を大声で叫ぶことはしなかった。
それは予想していた出来事で、当然の結果だった。大して驚くべきことでもなかった。
ミキは城壁が破壊される音に気付いて顔をあげると、リヴァイアサンがヒトミを飲み込む瞬間を見た。
「あれま。ヒトミさん飲まれちゃったよ」
「ミキ様。どうするっちゃ?」
「ん?どうって、任務完了じゃん」
「ミキ様何もしてないっちゃ」
「言っただろれいにゃ。この世はすべて結果オーライ。成さなくても成るんだよ」
「そんなんじゃいつまで経っても一人前の魔女にはなれないっちゃ」
「仕方ないじゃん。ミキが殺す前に殺されちゃったんだもん。まあ、ミキは殺すつもりなかったけどな」
「どうしてっちゃ?お師匠様に怒られるちゃうっちゃ」
「れいにゃ。何でもかんでもゆゆたんの言うこと聞いてたらこっちが死ぬぞ」
ミキは立ち上がると、次の獲物を探して飛び回るリヴァイアサンの姿を眺めた。
ミキはヒトミがまだ生きていることを感じ取っていた。しかし、これはこれで終わりにしようと思った。
ユウコとヒトミがどういう関係だったのかミキは知らない。けれど、殺したかったら自分で殺せよとミキは心の中で呟いた。
- 152 名前:リヴァイアサンと記念撮影 投稿日:2007/02/13(火) 01:54
- 「さてと。れいにゃ行くか」
ミキはれいにゃにニッコリと微笑んだ。しかし、れいにゃは放心しきっているエリの姿を心配そうに見つめいていた。
ミキは、はあと溜息をつくとエリの背中をほうきで思いっきり叩いた。
「ミキ様!!」
「おい。ぼけっとしてないでお前も行くぞ」
「ミキ様?」
背中を叩かれて我に返ったエリは不思議そうにミキを見つめた。
「何だよ忘れたのか。お礼だよ。お前の家に行くぞ」
「ミキ様、何言ってるっちゃ!お礼なんて今はどうでもいいっちゃ!」
エリは「お礼か」と呟いて笑った。
「なんだよ。気持ち悪いな」
「申し訳ない。私から直接あなたにお礼はできそうにない。これを持って私の家を訪ねてください」
そう言うとエリは身に付けていた紋章を外して、裏に何かを書いてミキに渡した。
そして、エリはミキとれいにゃに笑顔を見せるとリヴァイアサンの方へと歩き出した。
「エリ様行っちゃダメっちゃ!!」
ミキは紋章の裏に書かれた文字を読むと、ふんと鼻を鳴らした。
そして、叫んで引き止めようとするれいにゃを掴みとるとほうきに乗ってその場から飛び去った。
れいにゃは泣き叫びながらミキにエリを引き止めるように何度もお願いしたが、ミキの横顔からすうっと涙が飛んでいくのを見て黙った。
- 153 名前:パム 投稿日:2007/02/13(火) 01:55
- つづく
- 154 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/14(水) 08:37
- 面白いです 続き楽しみにしています
- 155 名前:パム 投稿日:2007/02/23(金) 02:15
- >>154
ありがとうございます
- 156 名前:天国と地獄 投稿日:2007/02/23(金) 02:16
- ヒトミのリヴァイアサンを呼ぶ声が聞こえた瞬間、リサは咄嗟に目の前にいる仲間たちをどかして城壁に駆け上った。
剣を両手でしっかりと握り、突進してくるリヴァイアサンの方へと向けた。
何をどうすればいいのかなんて考えることはできなかった。ただ、自分がやらなくてはいけないと思った。
迫ってきたリヴァイアサンの口が大きく開いたとき、リサは迷うことなくその中に飛び込んだ。
水の中に飛び込むような感覚を味わった瞬間、目の前に広がった光景は海の中そのものだった。
ほんの遂先ほど飛び込んだのにも関らずいつの間にか海の奥深くまで潜っていた。
リサは突然の出来事を理解しきれなかった。
驚いて声を上げると、口から空気の塊が上へと上って行くのを見て慌てて口を押さえた。
あたりを見渡すと、無数の魚が群れをなして泳ぎ、海藻が揺らいでいる。
リサは残りわずかとなった空気を必死で止めながら海面へと目指した。
しかし、何者かに足を引っ張られ上へ泳ぐことができなかった。
リサは気になって足元を見ると、そこには傷だらけの兵士がリサの足を掴んでいた。
そして、さらにその下、海底には無数の兵士達が山積みになっていた。
ここは地獄だ。このままでは死んでしまう。
- 157 名前:天国と地獄 投稿日:2007/02/23(金) 02:16
- リサは必死に足を振り、掴まれていた手を振り払おうとした。
リサの足を掴んでいる兵士の目は見開き、口は大きく開いている。そして、血はすでに流れきったのだろう。引き裂かれた傷口からは一滴の血も流れていなかった。
最後の力を振り絞って無意識にリサの足を掴んだのだろう。
リサは心の中で詫びると剣を抜き、掴まれていた腕を切り落とした。
体が軽くなったリサは急いで海面へと泳いだ。
次々と兵士達が落ちてくる。よく見た顔だ。
幾度となく戦場を共にし、命知らずと言われてきた奴らが遂にその命を落とす時がきた。
こんな死に方で良かったのだろうか。
そんなはずはない。敵は私が討ってやる。
リサは目を鋭くさせ、上をひたすら目指した。
- 158 名前:天国と地獄 投稿日:2007/02/23(金) 02:16
- 徐々に辺りが明るくなり、海面が光り鮮やかに見えたときリサは泳ぐの止めた。
というよりも、動けなかった。
光が海面に射し込んでキラキラと光る中を優雅に泳いでいるヒトミの姿を見たからだった。
全身を染めていた血は綺麗に洗い流され、真っ白いマントが揺らいで天使の羽のように見えた。
この人は天使なんだ。私達は神を相手に戦っていたんだ。
リサは一気に全身の力が抜け、全てを受け入れるように両手を広げて落ちていった。
- 159 名前:天国と地獄 投稿日:2007/02/23(金) 02:16
- ヒトミはリサがすぐ近くまで来ていることに気付いていた。
この後どうするか素知らぬ顔をして様子を伺っていた。
突然リサが這い上がってくるの止めて落ちていくのを見て、ヒトミはリサの後を追いかけた。
ヒトミにとってリサの行動は予想外だった。
ただ一人、リヴァイアサンに恐れることなく立ち向かい、自らリヴァイアサンの中に飛び込んだのにも関らず諦めてしまった。
そして、後少しで海面に上がれるのに、生き残れるというのに自ら死を選ぶことが理解できなかった。
ヒトミはリサに追いつくと脇に手を回し、海面まで一気にリサを連れて行った。
- 160 名前:天国と地獄 投稿日:2007/02/23(金) 02:16
- 眩い光がリサの顔を照らして、リサは堪らず目を開けた。
目の前にヒトミがいることに気付くと慌てて腕を振り払い、ヒトミから離れた。
「うわわっ!ちょっとあんた!」
「ご、ごめんよ。でもさ、後ちょっとなのに諦めることないじゃん」
リサは驚いて辺りをキョロキョロと見渡した。
すでに自分は海面から頭を出していた。
見渡す限り海一面の光景にリサはここが本当に天国なのだろうかと疑問に思った。
- 161 名前:天国と地獄 投稿日:2007/02/23(金) 02:17
- 「ここは一体どこですか?」
「リヴァイアサンの中だよ」
「天国じゃないんですか?」
「こんな天国やだよ」
「そうですね」
「ところで、何で後もう少しで出られたのに諦めちゃったの?」
「それは、あなたが…」
「ん?なんで私の所為なの?」
「あっ!というか、ここで会ったが百年目!いざ!」
「百年前に君に会った覚えはないよ。そんなことよりさ、ここは天国じゃないけど外では地獄が続いてるよ。どうする?」
ヒトミは空を指指した。
リサはヒトミが指す空を見上げた。
そこに見えたのは青空ではなく、泥と血が混じり肉体が散らばっている地面だった。
そして、その中をゆっくりとエリが歩いていた。
- 162 名前:天国と地獄 投稿日:2007/02/23(金) 02:17
- 「カメ!!!」
リサは空に向かって大声で叫んだ。
「カメ?」
「頼む。あいつを、あいつだけは助けてくれ」
リサはヒトミのところへ近寄ると肩を掴み大きく揺さぶって嘆願した。
「うわわ。ちょっと落ち着いてよ」
「これが落ち着いてられますか!もう十分でしょう。あたなの勝ちです。これ以上殺す必要なんてないでしょう」
「勝ち負けなんてどうでもいいが、私もカメちゃん、なのかな?エリちゃんだよね?」
「どっちでもいいです!」
「ああそう。とにかくカメちゃんにはここで死んでもらっては困る」
「ならさっさと助けて下さい!」
- 163 名前:天国と地獄 投稿日:2007/02/23(金) 02:17
- ヒトミはふうっと息を吐くとまた空を見上げた。
「今、私達は上が上だと思っている。しかし、実際は上が下だ」
「そんなことどうでもいいから早く!」
「よくないよ。ここから出るには重要なことだよ」
「わかりましたから、それがどうしたんですか」
「つまり、上が下だとちゃんと認識するんだ。わかった?」
「はいはい。わかりました。で、どうするんですか」
「本当にわかった?」
「はい。下が上なんですね」
「逆だよ。上が下なんだよ」
「どっちでもいいです!」
「よくないよぉ〜」
「もう!はい、上が下!よくわかりました!」
「じゃあ、落ちる」
「え?」
その瞬間、リサとヒトミは空に向かって落ちって行った。
- 164 名前:パム 投稿日:2007/02/23(金) 02:17
- つづく
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 23:10
- ヒトミは何を考えているのか…そして登場人物がどう関わりあっていくのか…
楽しみです
- 166 名前:始まり 投稿日:2007/02/27(火) 02:42
- エリは幼い頃に一冊の本と出会った。
その本とは、魔女と騎士の物語『コールドブレス』。
世界中を氷と化した氷の女王と無数の魔物達を相手に臆することなく立ち向かい戦った者達の物語にエリは興奮し感動した。
何よりも最後、自らの命を投げ出し魔女と世界中の人々を救った英雄のヒトミに多大なる憧れを抱いた。
エリはこの本を読み終えたとき居ても立ってもいられなくて、父親に騎士になりたいと志願した。
- 167 名前:始まり 投稿日:2007/02/27(火) 02:43
- エリの父親は大臣をしていた。
自ら戦場に赴くことはなかったが、戦争の悲劇は幾度となく経験してきた。
そんな場所にエリを放り出す気にはなれず断固として反対した。
諦めきれなかったエリは兵士になれる年になった日に無断で兵士になった。
父親に知らせることなく兵士になったとはいえ、大臣である父親の耳に入らないわけがなかった。
大臣の子だからと言ってすぐに辞めさせる訳もいかなくなった父親はこっそりとエリを戦争とは無縁の見せかけだけのお坊ちゃま騎士団に配属させた。
父親の思惑を知らずにエリは騎士団に配属されたときは凄く喜んだ。同じ騎士団の仲間に自分は英雄ヒトミのようになりたいと熱く語った。
それは誰からも相手にされず鼻で笑われた。それもそのはず、ここにいる誰もがとりあえず恰好だけ騎士をやって、ゆくゆくは大臣になるつもりでいた。
血生臭い戦場に誰も行きたいなんて思っていない。稽古もろくにせず、たまにある王族の護衛に付き添うだけの騎士団だった。
- 168 名前:始まり 投稿日:2007/02/27(火) 02:43
- そんなあるとき騎士団が窮地に落とされた。
王族の護衛で城に戻る最中に道を間違えてしまい気付いたときには目の前で自軍達が戦争をしていた。
自軍はかなり追い詰められた状況でエリ達を見つけた兵士が応援を求めてやったきた。
しかし、戦争とは無縁の騎士団は頑なにその要求を突っ張りすぐにでもこの場を離れようとしていた。
エリは逃げ出そうとする仲間達に軽蔑しながらも、初めて見る戦争に恐怖を感じて自分も出来る事なら逃げたくなっていた。
誰もが恐怖に怯えながらその場に立ちすくむ中、状況はさらに悪化していつの間にか周りを敵に囲まれていた。
エリは慌てて剣を引き抜くと敵味方関係なく剣を振り回した。
次々と仲間が殺されていることにエリはまったく気付いていなかった。そして、自分にもその危険が迫っていることに気付いていなかった。
エリは背中を突然蹴られ前に倒れた。敵に襲われたと思ったエリはすぐさま剣を持って振り向くと、そこには敵を切り倒したリサの姿があった。
リサの戦い方は酷く乱暴で、自分自身を守るということをしなかった。
エリの前に立ちはだかり次々と敵を切り倒しながらも自分は傷を負っていく姿にエリはまるで本で読んだヒトミの姿を彷彿させた。
結局エリはそのとき何もすることが出来なかった。そんな自分が恥ずかしくて悔しくてエリは無断で騎士団を抜け出しリサのいる騎士団に潜り込んだ。
最初の頃リサはまったくエリを相手にしてくれなかった。でも、エリはめげずに何度もリサの元に訪れてはヒトミの話をした。
リサはエリがヒトミのようになりたいと言っても鼻で笑うことはなかった。エリはそれが何よりも嬉しかった。
リサがエリのしつこさに根負けした瞬間から、エリとリサは親友となった。
- 169 名前:始まり 投稿日:2007/02/27(火) 02:43
- その親友のリサが化け物に飲み込まれた。
なのに私は何もせずにじっと眺めていた。
魔女に助けられ、そのうち消えると言われて待っていた。
けれど消えたのは化け物ではなく多くの仲間達だ。
結局、私はまた何もせず生き残った。
これでは英雄どころか騎士として誰も認めてはくれない。
私はヒトミ様のようにはなれない。
ヒトミ様はどんな敵でも恐れることなく戦った。そして、多くの人を助けた。
私は誰も助けることは出来なかった。けれど、せめて最後は騎士として死のう。
- 170 名前:始まり 投稿日:2007/02/27(火) 02:43
- エリは死ぬ覚悟を決めてリヴァイアサンの前に立ちはだかった。
戦場にはエリ以外立っている者はいなかった。
多くの兵士達がリヴァイアサンに飲み込まれ、遠くにいた者たちは逃げていった。
静かな荒れた戦場の中、リヴァイアサンの甲高い声が鳴り響く。
エリの頭上に舞い上がり、狙いを定めて一気に急降下してきた。
エリは剣を構えながらも戦う意識はまったくなかった。
リヴァイアサンが降りてくるよりも早く二人の人間が落ちてくるのが見えた。
エリは一体どういうことなのか理解できずにただ落ちてくるのを眺めていた。
近づいてきてその姿と声がはっきりとしたときにはすでに遅く、エリがリサを掴まえようと手を出す前にリサがぶつかってきた。
「うおおっ!イテェ!ちょっとカメ!ちゃんとキャッチしなさいよ!」
「イタタ。ガキさぁ〜ん。どうしたの?」
「どうしたじゃないでしょ、あんた。ここで何やってんの逃げるよ」
「逃げるって、ガキさんダメだよ。あいつを倒さないと」
「倒すってあんたね。って、うおおおっ!!」
リサがリヴァイアサンのほうを見上げるとすぐ目の前までに迫ってきた。
リサと違って上手に着地したヒトミはリサ達の前に立つとごっちんに向かって叫んだ。
「ごっちん!もう終わりだ。こいつを戻してくれ」
「わかったぽ。リヴァイアぽんお疲れっぽ。戻っていいぽ」
リヴァイアサンはヒトミの寸前で体を翻すと現れたときと同じように大きな渦を巻き、その中にあっという間に潜り込んでいった。
- 171 名前:始まり 投稿日:2007/02/27(火) 02:44
- エリはヒトミの姿をじっと見つめていた。
英雄の子孫とはいえ同じように憧れた騎士。しかし、多くの仲間を殺した張本人。
自分は一体どうすればいいのかわからなかった。
このときヒトミ様ならどうするのだろうか。
エリは目を閉じてゆっくりと考えた。
答えは簡単に出てきた。
戦うんだ。
ヒトミ様はどんな敵にも恐れることなく戦った。そして、何よりも大切な仲間のために戦った。
私も同じように。
エリは剣を引き抜くとヒトミ目掛けて振りかざした。
リサはエリの行動に慌てて立ち上がると、すぐさまエリを押さえつけた。
「カメ!何をやってるんだ。もう終わりだ。これ以上の争いは無意味だ」
「ガキさんどいてくれ。私は仲間のために戦うんだ」
「死ぬだけだ。やめろ!」
「死ぬ覚悟は出来てる!倒すんだ!」
リサは必死にエリを押さえつけながら、エリを止めてもらおうとヒトミのほうを見た。
- 172 名前:始まり 投稿日:2007/02/27(火) 02:44
- 「死ぬ覚悟とは立派なことだが、死ぬことは誰でもできる。果たしてそれに何の意味があるんだい?」
「死んでいった仲間のためだ!」
「死ぬことが仲間のためなのかい?」
「そういう意味じゃない。死んででもあなたを倒すと言ってるんだ!」
「じゃあカメちゃんが死んだ後、誰が仲間のために戦うんだ?そこで必死に止めている仲間が次は戦って死ぬのか?」
「あなたを倒せば終わる。もう誰も死ぬことはない」
「本当にそう思うかい?もう誰も仲間を殺す者が現れないとカメちゃんは思えるのかい?」
「えっ…」
エリが言葉に詰まって力が抜けたのをリサは見逃さなかった。
すかさずエリの手から剣を奪うと、エリを突き飛ばした。
「ガキさん…」
「カメ。もうとっくに戦いは終わってるんだ。やめろ」
「カメちゃんは終わってない。これから始まるんだ」
- 173 名前:始まり 投稿日:2007/02/27(火) 02:44
- 「えっ!?」
エリとリサはヒトミの言葉に驚き振り向いた。
ヒトミは腕を組み、真剣な表情でエリを見つめていた。
「これからカメちゃんには死ぬことが許されない旅が始まる。あの魔女のところへ行け」
「ヒトミ!!剣を捨てろ!!」
エリもリサもヒトミの言った意味を理解する間もなく城から甲高い声が聞こえてきた。
「なんだ?」
ヒトミはゆっくりと城のほうを見上げると、そこにはずぶ濡れになったリカとコハルの姿があった。
コハルの喉にはリカが持つ剣先が突き立ててあった。
ヒトミの表情は一辺して険しくなった。
- 174 名前:始まり 投稿日:2007/02/27(火) 02:44
- リカはリヴァイアサンが出てきた水柱に飛び込みんだときに城内にまで一気に投げ飛ばされた。
幸いにも大した怪我もなく城に飛び込めたリカは自分に幸運が巡ってきたと興奮して、城内の中を周りを気にせずコハルを探すため走り抜けた。
リカは本当に幸運だった。シルバーランド城内にいた兵士達も突如現れた大きな化け物に目を奪われていた。
リカはその隙になんなくコハルの部屋を探し当てると剣をコハルに向けて付いてくるように命じた。
コハルを人質に捕られたアイとマコトはどうすることも出来ずに見守ることしかできずにいた。
「こいつが殺されたくなければ大人しく私に捕まれ!」
リカはコハルをさらに引き寄せて剣を近づけた。
コハルは怯えることなくヒトミをじっと見つめていた。
ヒトミはふうっと息を吐き表情を和らげると、エリのほうを向き自分の持っている剣を投げ渡した。
「よく切れるぞ持っていけ」
そして、ヒトミはエリとリサに背を向けるとゆっくりと城に向かって歩いていった。
- 175 名前:パム 投稿日:2007/02/27(火) 02:45
- つづく
- 176 名前:パム 投稿日:2007/02/27(火) 02:56
- >>165
どうもです。
今回ので少し見えてきたのではないかと思います。
ようやく次回から本格的にミキティの旅が始まります。
- 177 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/27(火) 09:00
- ミキティとれいにゃ、そして亀ちゃんにどんな未来が待っているのか
次回も楽しみに待ってます
- 178 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/27(火) 23:13
- 途中で語られたエリ物語に本気で感動しましたよ…
- 179 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/01(木) 14:28
- リカさますっかり忘れてたよ
誰が叫んだのかと思った
- 180 名前:パム 投稿日:2007/03/08(木) 02:09
- >>177
楽しみにして頂いてありがとうございます。
>>178
あれま。なんか照れるw。ありがとうございます。
>>179
忘れちゃいけないこの人。次回からたっぷり出てきますよ。
- 181 名前:釣り 投稿日:2007/03/08(木) 02:09
- あの戦争から数日後。
戦場から飛び出したミキはしばらく黙ったままで、れいにゃが何を言っても答えてはくれなかった。
ようやく大地に降りたと思うと、今度はひたすら歩き回り気付けばシルバーランドとゴールドランドの国境まで来ていた。
国境となる大きな川を目の前にしてミキはその場に座った。
そして、おもむろにカバンの中を漁り釣竿を取り出すと、川に釣り糸を投げ込んだ。
大きな川の流れは緩やかで浮きは川の流れに沿うようにゆっくりと浮き沈みするだけだった。
その浮き沈みする浮きと同じようにれいにゃの溜息が漏れつづけていた。
「んちゃ〜」
「う〜ん。まったく反応なしだな」
「んちゃ〜」
「魚いないんじゃねぇのここ」
「ミキさまぁ〜。エリ様どうなっちゃろかぁ〜」
「死んだんじゃねぇの」
「そうっちゃろかぁ〜」
「ダメだな。場所を変えよう」
- 182 名前:釣り 投稿日:2007/03/08(木) 02:09
- ミキは立ち上がると数歩歩いて釣り糸を川に投げ入れた。
れいにゃもミキの後を追って隣に座った。
「ミキさまぁ〜。れいにゃはエリ様は生きてると思うっちゃ」
「じゃあ、生きてるんじゃねぇの」
「やっぱ生きてるっちゃよね?そうっちゃ」
「ここもダメだな」
また、ミキは立ち上がり数歩歩いて釣り糸を投げ入れる。
れいにゃも後追って座る。
「ミキ様、エリ様のところに行こうっちゃ」
「何でだよ」
「んちゃ〜。………そうっちゃ!お礼っちゃ!お礼もらいにいくっちゃ!」
「別にもういいよ」
「何でっちゃ?ご馳走食べれるっちゃ。もう三日も何も食べてないっちゃ!」
「お前がそうやっていつまでもちゃっちゃか言ってるからだろ!今、魚釣ってんだよ!静かにしろ!」
- 183 名前:釣り 投稿日:2007/03/08(木) 02:10
- ミキはれいにゃを睨みつけて怒鳴るとまた静かに釣り糸を川に投げ込んだ。
怒鳴られたれいにゃは体を丸くして、エリがミキに渡した紋章の裏に書かれている文字をじっと見つめた。
「れいにゃ、まだそんなの持ってたのかよ。そんなので飯は食えないぞ」
「何でっちゃ?エリ様はこれを持って訊ねてくださいって言ったっちゃ。ご馳走して貰えるっちゃ」
「あのな。そこに命の恩人って書いてあるだろ。死んでるのに命の恩人なんて誰が信じるんだよ」
「エリ様は死んでないっちゃ!」
「うるせぇ猫だな」
ミキは釣り糸を引き上げると、れいにゃを掴みとり釣り糸に縛りつけた。
「ミキ様何するっちゃ!」
「飯が食えないのはお前の所為だ!捕ってこい!」
ミキは釣竿を振りかざして川に投げ込んだ瞬間、後ろの林がガサリと鳴った。
それに気付いたミキは持っていた釣竿から手を離して林めがけてけて雷を打ち放った。
- 184 名前:釣り 投稿日:2007/03/08(木) 02:10
- 「誰だぁー!!」
「う、うわっ!」
雷は木に当たり爆発すると、木の陰からアイが飛び出してきた。
「チッ。外したか」
ミキは突然現れたアイがまた変な事を頼みに来たのかと思い睨みつけていた。
そのためミキの手から離れた釣竿とれいにゃは川の中に落ちていって流れてしまっていることにミキは気付いていなかった。
「もう、なんで君はいつもいきなり魔法を放つんだ」
アイは服に付いた汚れを振り払いながらミキに近づいてきた。
近づいてくるアイにミキは眉をしかめるとこっそりと二発目の準備をした。
「王子がこんなところに何の用だよ」
「もう私は王子ではない。私の国は負けた」
「プッ」
「笑うな!!」
「いやいや、だってなぁ〜。あはは」
アイの思いがけない発言にミキはツボに入り、こっそりと準備していた魔法もすっかり抜けて笑いが止まらなくなってしまった。
- 185 名前:釣り 投稿日:2007/03/08(木) 02:10
- 「笑うなと言ってるだろ!」
笑い続けるミキだったが、ふとおかしなことに気付いてピタリと笑うのを止めた。
「あれ?お前の国ってリヴァイアサン使って勝ったんじゃないの?」
アイはふぅと溜息をついて肩を下げると、どこか寂しげに近くの岩に腰を降ろした。
「あの化け物か…。確かにあれで敵の兵をほぼ全滅することができたが、その後一気に形勢が逆転した」
「ふ〜ん」
「いくら国の命運が懸かっているとはいえ子供を人質に捕られては身動きできん。それにヒトミが降伏したのが大きかったな」
「そりゃ、お気の毒に」
「き、貴様!!なんだその態度はっ!」
「何怒ってんだよ。ミキには関係ないだろ」
「ちくしょう。あのリサって奴だけは許せん」
「知らんがな」
「あいつは父上を私の目の前で殺した。そして、私は城から放り出されてそれっきりだ。私には情けをかけたつもりだろうがこんな屈辱許せると思うか!」
「八つ当たりするなよ」
「そんなことはしていない!!」
「騒がしい奴だなぁ〜」
- 186 名前:釣り 投稿日:2007/03/08(木) 02:10
- ミキはどうでもいいことだなと思うと、アイと話をするのをやめて、また釣りをしようとアイから離れた。
すぐそこに落としたつもりの釣竿がないことに気付くと辺りを探し始めた。
アイはミキが何かを探しているのを見て、ふと思い出した。
「なあ、まだ猫は見つかってないのか?」
「は?とっくにれいにゃ見つかってるよ。釣竿を探してるんだよ」
「君は色々とよく無くすな。片づけが出来ないタイプだろ」
「何だよ偉そうに。ていうか、れいにゃがいなーい!!」
「まったくだらしない」
「お前が現れるとれいにゃがいなくなる。帰れ」
「人の所為にするな!」
「ミキさまぁー!!助けてっちゃー!!れいにゃが悪かったっちゃ〜」
- 187 名前:釣り 投稿日:2007/03/08(木) 02:10
- れいにゃの声に気付いた二人は声が聞こえてきた川の方へと振り向いた。
川の流れは緩やかだったが体に縛りつけられた釣り糸のおかげでれいにゃはまともに泳ぐことが出来ず、川から頭だけを出して必死に助けを求めて叫んでいた。
「あー!れいにゃ!!何故そんなところにっ!」
れいにゃを見つけたミキは慌ててほうきを取り出すと川に飛び出すと、すぐさまれいにゃを掴まえて川岸に戻った。
「まったくお前は世話が焼ける奴だな」
「ミキ様酷いっちゃ」
「はて?一体何のことやら」
「もういいっちゃ。それより魚捕まえたっちゃ」
「おっ!でかしたれいにゃ!」
れいにゃは藁にもすがる思いで足をジタバタしているとたまたま取りすぎた魚にしがみついてそのままの状態でミキに助け出された。
大きな魚が地面で暴れているのをアイはうらやましそうに見つめていた。
「美味しそうな魚だな」
「お前にはあげないぞ」
「私は今日で四日間食事をしてないんだ。分けてくれないか」
「ミキ様よりも一日多いっちゃ」
「知るかバカ!自分で釣れ!!」
- 188 名前:パム 投稿日:2007/03/08(木) 02:11
- つづく
- 189 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/08(木) 18:36
- 相変わらずミキ様とれいにゃは面白いですね
意外にもあの人と再会するところが作者さんのセンス素晴らしいです
- 190 名前:ais 投稿日:2007/03/08(木) 23:22
- 何か意外な方向に向かってますねw
この先美貴様はどうなされるんでしょうか・・・?
- 191 名前:パム 投稿日:2007/03/14(水) 00:52
- >>189
素晴らしいってそんなぁ(照
あの人も重要な一人なんでね
>>190
ミキ様は意の向くまま、常に気分次第。わからねぇっすw
- 192 名前:王子と魔女と猫 投稿日:2007/03/14(水) 00:53
- 「はっはっ!どうだ、凄いだろ」
ミキから自分で釣れと言われたアイは、投げ渡された釣竿を手にしてはじめて釣りというのもをやった。
どうしたらいいのかわからなかったが、とりあえず釣り糸を川に入れると簡単に魚が釣れた。
釣れた魚はれいにゃが捕った魚より小ぶりだが、投げ入れるたびにすぐに魚が食いつきアイは機嫌よく何度も魚を釣り上げていた。
一方ミキはアイの釣った魚に興味を示さず一生懸命になって火を起こしていた。
「ミキ様。魔法使えばいいっちゃ」
「バカ!熱いだろ!」
「魔法じゃなくても火は熱いもんだっちゃ」
「おい!!聞いているのか!これを見ろ!君たちより私のほうが才能があるようだな」
アイは釣った魚十匹を両手に抱えてミキに自慢して見せた。
ミキとれいにゃははちらりとアイのほうを見ただけですぐに火起こしに専念した。
「おかしいな。まったく火がつく気配がないな」
「魔法使うっちゃ。れいにゃ、おなか空いてるっちゃ」
「おい!見ろ!凄いだろ!」
- 193 名前:王子と魔女と猫 投稿日:2007/03/14(水) 00:53
- ミキは再びアイの方へと振り向くとアイが釣った魚をじっと見つめた。
「なんだ?欲しいのか?」
「お前それ全部食うのか?」
「欲しいなら欲しいって言えばいいじゃないか」
「食べる分だけ残して、後は川に戻してやれ」
ミキは静かにアイにそう言うとまた火起こしをし始めた。
アイは釣った魚を眺めた。
四日間何も食べていないとはいえ、さすがに全部食べるのは無理だ。
アイは川へと近づき二匹だけを残して、後は川に戻した。
ごめんねと小声で逃がした魚に謝ると、アイはミキを見つめた。
かなり乱暴な言葉使いをする魔女だが、実は優しい奴なのかも知れないとアイは思った。
「おい。これを使え」
アイはポケットからライターを取り出してミキに渡した。
ミキはライターを受け取ると物珍しそうにそれを眺めた。
「何これ?」
「ライターだ。知らないのか?一体どんなところに住んでたんだ」
「どこだっていいだろ!こんなのでどうやって火を起こせるんだよ!」
- 194 名前:王子と魔女と猫 投稿日:2007/03/14(水) 00:53
- バカにされたミキはライターをアイに投げ返した。
アイは投げ返されたライターをキャッチすると、積み重ねられた焚き木の前にしゃがんだ。
紙切れを取り出し火をつけて焚き木の中に放り投げた。
「おおっ!!すげぇ!火ついた!」
「凄いっちゃ。人間が魔法使ったっちゃ」
「これは魔法なんかじゃない」
「そうなの?もう一回それ見せて」
ミキはアイからライターを受け取ると何度もカチカチと火をつけてみた。
「おい、もったいないから何度もつけるな」
「そうなの?まあいいや。ありがと」
「凄いっちゃ。ミキ様より簡単に火を起こせるっちゃ」
「こんな火じゃ、なんの役にも立たないだろ」
「役に立っているではないか!この火はこれで起こしただぞ!」
「わかった。わかった。さて、もうそろそろいいな」
火が焚き木に移り大きく燃え出した。
ミキは木の枝で魚を串刺しにすると地面に突き刺した。
アイはミキがやるのを見て、同じように串刺しにして焼き始めた。
- 195 名前:王子と魔女と猫 投稿日:2007/03/14(水) 00:53
- 「君たちはこれからどこに行くんだい?」
「どこだっていいだろ」
「君たちはどこから来たんだい?」
「どこだっていいだろ」
「君は本当に魔女なのかい?」
「どっちだっていいだろ」
「ちゃんと私の質問に答えないか!」
「なんだよ。うるせぇな!なんで答えなきゃいけないんだよ!」
「だいたいその口の利き方はなんだ。私は王子だぞ」
「戦争に負けるまではな」
「き、貴様ぁー!!」
アイは立ち上がると剣に手をやった。
しかし、ミキは動じずに焼けている魚を裏返した。
「魚裏返さないと焦げるぞ」
アイは自分の魚に目をやると、剣から手を離して座り自分の魚を裏がした。
「例え私が王子でなくてもだ。そういう口の利き方をするな」
「お前もな」
「ったく。親の顔が見てみたい」
「親なんかいねぇよ」
「そうなのか。それはすまない」
「別に」
- 196 名前:王子と魔女と猫 投稿日:2007/03/14(水) 00:54
- アイは急に大人しくなった。
数日前に目の前で父親を殺されたアイは自分だけが不幸だと思っていた。
しかし、目の前にいる魔女は親を知らない。
どちらのほうが幸せだったのだろうかとアイは考える。
アイが生まれたのは、激しい戦争の真っ只中だった。
女の子として生まれたアイだったが、兵士の指揮を落とさないために国中に男の子が生まれたと発表された。
アイは人と接するのを控えさせられ、限られた人と空間でしか生活をすることができなかった。
父親である国王も戦争中ということもあり滅多に顔を合わせることもなかった。
母親とは一緒にいると女性らしくなるという理不尽な理由で滅多に合うことが出来なかった。
アイの遊び相手といえば幼馴染のマコトだけだった。
しかし、仲がいいとはいえ夜になればマコトは両親のもとへと帰っていった。
アイはそれが妬ましくて幾度となくわがままを言ってはマコトを困らせた。
- 197 名前:王子と魔女と猫 投稿日:2007/03/14(水) 00:54
- 戦争が激しさを増す中、久しぶりに父親とアイは対面することができた。
国王はアイの目の高さまで屈むと、アイの帽子にリボンを結び、一本の剣を渡した。
そして、アイの肩に手をおくと、「強くなれ」とだけ言って去っていった。
アイは父親が結んでくれたリボンに手をやり、渡された剣を眺めた。
それからのアイは人が変ったように剣にのめり込んだ。
それに付き合わされるマコトはたまったものじゃなかったが、熱心に剣を振るアイの姿を見て安堵した。
丁度その頃にヒトミが赤ん坊のコハルを抱きかかえてシルバーランドに訪れた。
そして、ヒトミは長く続いた戦争をわずか一月で終わらせた。
アイはヒトミのその強さに感激すると、すぐさま剣を教えてもらいにヒトミの元を訊ねた。
ヒトミは快く応じると、その日から厳しい修行の日々が続いた。
時としてヒトミは父のように厳しく、母のように優しくアイに色んなことを教えた。
アイにとってヒトミは父であり、母であった。
父親との思い出も母親との思い出も思い出せるのは、ほんのわずか。
しかし、思い出があるだけまだ幸せなのかもしれない。
そして、何より思い出すのはヒトミとの思い出。
その大切なヒトミが奪われた。
- 198 名前:王子と魔女と猫 投稿日:2007/03/14(水) 00:54
- アイは突然立ち上がると、剣を抜き出して川の向こう岸を指し叫んだ。
「ゴールドランドに行ってヒトミを救う!!」
「魚焦げてるよ」
「おっとそうだ。まずは腹ごしらえだ」
アイは剣を収めて座ると、焼け焦げた魚を気にせず食べ始めた。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫だ。安心しろ。確かにこちらは魔女と猫というなんとも情けない戦力だが、私がついてる」
「いや、そうじゃなくてさ。ていうか、情けないってなんだ!」
「そう興奮するな。そんなでは上手くいくのもいかなくなるぞ」
「こいつは一体何を言ってるんだ?」
「わからないっちゃ」
「いいか、これは重大任務だ。名付けて、王子と魔女と猫のゴールドランドヒトミ救出大作戦だ!」
「長い!」
- 199 名前:パム 投稿日:2007/03/14(水) 00:55
- つづく
- 200 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/14(水) 19:29
- アホだwww
…いやいやきっと彼女(たち)は真剣
- 201 名前:ais 投稿日:2007/03/15(木) 00:25
- 王子の吹っ飛びぶりには感心するばかりですw
魔女の突っ込みもGJ!
- 202 名前:運命 投稿日:2007/03/17(土) 23:53
- 「さてと、れいにゃ行くか」
こぶしを突き上げて興奮しているアイを無視して、ミキは立ち上がった。
「どこ行くっちゃ?」
「う〜んと。まあ、せっかくだからゴールドランドに行ってみるか」
「エリ様に会うっちゃ!?」
れいにゃは大きく目を見開いてミキに言った。
ミキは喜ぶれいにゃをチラリと見ると歩き始めた。
「いや、あの世に行くつもりはないよ」
「エリ様は生きてるっちゃ!」
れいにゃは叫んでミキに言うと、ミキの後を追いかけた。
「ミキ様。エリ様は絶対生きてるっちゃよ」
「ああ、わかった。わかった」
「本当っちゃよ。れいにゃはわかるっちゃ」
「そですか」
「ミキ様!れいにゃは真剣に言ってるっちゃ!」
「うるせぇ!ていうか、何故お前が付いて来る!!」
- 203 名前:運命 投稿日:2007/03/17(土) 23:54
- ミキは勢いよく振り向くと、後を付いて来たアイに向かって指差した。
アイは突然のことに、一瞬肩をビクリさせた。
「なっ、何を言ってるんだ。王子と魔女と猫のゴールドランドヒトミ救出大作戦だぞ」
「長い、長い」
「そうか?では、王子と魔女と猫のヒトミ救出大作戦にしよう」
「魔女と猫を取れ!」
「何を言ってるんだ。ヒトミを救出するのだぞ。魔女の君が行かなくてどうする」
「どうもしねぇよ」
「ふざけるな!魔女である君ならヒトミがどれだけ魔女にとって大切な人だかわかってるだろう」
「いいや、全然」
「本気で言ってるのか?それとも知らないのか?」
- 204 名前:運命 投稿日:2007/03/17(土) 23:54
- ミキはアイを訝しげな目で見ると、アイに背を向けて歩き始めた。
アイはミキの隣まで駆け寄って話しはじめた。
「いいか、ヒトミはあのコールドブレスで大魔女ユウコ様をお守りした英雄ヒトミ様の子孫だ。魔女である君とて他人事ではないだろう」
「でも、ゆゆたんはあいつを殺せって言ってたよな」
「そうっちゃねぇ〜。なんでっちゃろ」
「おい、人の話を聞け。ヒトミ様がいなかったら、ユウコ様とてどうなっていたかわからないんだぞ。そして、私達もだ」
「何言ってんだよな。ゆゆたんを殺せる奴がいるなら殺して欲しいよな?」
「れ、れいにゃはそんなこと思ってないっちゃ」
「ずるいぞ!れいにゃ!」
「おい!いい加減にしろよ。真剣に話してるんだぞ。大体、さっきから言っているゆゆたんとは誰のことだ?ユウコ様とヒトミ様の話をしているんだぞ」
「ミキ様のお師匠さまっちゃ。ユウコ様だっちゃ」
- 205 名前:運命 投稿日:2007/03/17(土) 23:54
- 「何っ!?ほ、本当かそれは?」
アイは驚きのあまり、その場に立ち止ると、ミキのことを信じられないような目で見つめた。
「そうだよ。文句あるかよ」
ミキは驚くアイにさらりと返すと、アイを置いて先へと歩いていった。
取り残されたアイは慌ててミキに駆け寄ると、先ほどまでとは違って羨望の眼差しをミキに向けた。
「本当なのか?素晴らしい」
「何だよ。気持ち悪いな」
「ん?というか、ちょっと待て。君は師匠であるユウコ様のことをゆゆたんとはなんだ!無礼だぞ!」
「知るか!ゆゆたんがゆゆたん言えって言ったんだ」
「そ、そうなのか。ユウコ様は可愛らしい方なんだな」
「無理するな」
- 206 名前:運命 投稿日:2007/03/17(土) 23:54
- 「してない!しかし、そうか。君はユウコ様の弟子か。ふ〜ん」
アイは腕を組み、うんうん頷き始めた。
そして、ミキの前に突然飛び出すと両手を大きく広げて叫んだ。
「これは運命だ!私はヒトミに剣を教わった。そして、君はユウコ様に魔法を教わった。私達は出会うべくして出会ったんだ!」
「迷惑な奴だな」
ミキはいい加減アイに付き合えなくなり、ほうきを取り出して飛んで逃げようとした。
「おっ!さすがは魔女だ。良かった。ここからゴールドランド城までは歩いて五日はかかる。飛んだらどれくらいで着くんだ?」
アイはミキの後ろに跨ると両手をミキの腰に回した。
- 207 名前:運命 投稿日:2007/03/17(土) 23:55
- 「おーい!!」
アイの手がミキの腰に回った瞬間、ミキはすぐさまアイを突き飛ばした。
突き飛ばされたアイは尻餅をついて地面に倒れた。
「何をするんだ!」
「それはこっちの台詞だ!何、勝手に乗ってんだ!」
「これからヒトミを助けに一緒に行くんだ」
「知るか!ミキにはまったく関係ない!」
ミキはアイに怒鳴るとアイを置いて飛び出していった。
取り残されたアイは手を伸ばしてミキを引き止めようと叫んでいた。
- 208 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/17(土) 23:55
-
◇
- 209 名前:沈黙のリサ 投稿日:2007/03/17(土) 23:56
- リサの様子が変だ。
リサは今、ソファに座り熱心に本を読んでいる。
リサが熱心に本を読むこと事体おかしいが、それ以前にあの時から様子がおかしい。
あの時、ヒトミが剣をエリに渡して城に戻っていくとき、リサはヒトミの後を追って城の中に一緒に入って行った。
エリも付いていこうとしたが、リサがエリには滅多に見せない厳しい表情でに「先に帰っていろ」と言われてエリは仕方なくその場を立ち去った。
しかし、リサのことが気になってエリは城から離れた木陰でリサが戻ってくるのを待っていた。
待っていた時間は数十分程。
リサがシルバーランドの王子の首根っこを掴まえて城に出てきた。
そして、その後ろをヒトミとコハルが後ろ手に縛られ、そして、犬のように首輪をつけられてリカに引っ張られて出てきた。
城に出るやいなや、リサは「好きなところへ行け」と行ってアイを放り投げた。
エリはアイのことよりもリサが持っている物が気になった。
リサは何かをマントに包み持っていた。そして、マントは血が滲んでいた。
エリはマントの中身が人の頭だということに気付いた。そして、その頭が誰であるのかも。
エリはこのとき改めて戦争というものがどういうことなのかを知った
- 210 名前:沈黙のリサ 投稿日:2007/03/17(土) 23:56
- 多くの犠牲者を出しながらも王の首を取ったリサは一躍英雄になった。
さすがは王の血を引いているだけはあるとか、英雄ヒトミ様の生まれ変わりだととか、口々にリサのことを絶賛した。
しかし、リサはその言葉を受け流し、何か思いつめた表情でずっと黙ったままだった。
エリが話し掛けても一切聞き入れてはくれなかった。
まるで、昔に戻ったかのように。
エリはリサのために入れていたコーヒーを入れなおすために立ち上がった。
リサに近寄っても、リサは何も反応も見せず本を読むことに集中していた。
エリは静かにリサの後ろに回ると、読んでいる本を盗み見た。
それはコールドブレスだった。
- 211 名前:沈黙のリサ 投稿日:2007/03/17(土) 23:56
- 意外だった。
リサもコールドブレスは読んだことはあると言っていた。しかし、リサはエリのように感動することはなかった。
それが何故今ごろになって読んでいるのだろうか。
恐らくヒトミ様に会ったのが原因だとエリは思った。
そして、昔のように黙ってしまったのは城の中で何かが起きたからだ。
エリはコーヒーを入れながらどうやってそれを聞き出そうか悩んでいた。
ポンと本の閉じる音が聞こえてエリが後ろを振り向くと、リサはすでに立ち上がって部屋から出て行こうとしていた。
「ちょっと、ガキさん待ってよ。一体何があったの?」
- 212 名前:沈黙のリサ 投稿日:2007/03/17(土) 23:56
- エリは慌ててリサの肩を掴んで引き止めた。
リサは顔を歪めてエリを見た。
エリは慌てて肩から手を離した。
リサはシルバーランドの城から出てきたとき、肩に傷を負っていた。
それが誰に受けた傷なのかわからないが王の首を捕った時に受けた傷なのだろうとエリは思っていた。
エリの手が肩から離れた隙にリサはすぐに体を翻して扉を開けようとした。
しかし、リサが開けるよりも早くその扉は開いた。
そして、エリの父親が中に入ってきた。
リサはエリの父親を無視して部屋の外へ出て行こうとした。
しかし、エリの父親がリサの前に立ちはだかって道をふさいだ。
- 213 名前:沈黙のリサ 投稿日:2007/03/17(土) 23:57
- 「リサ殿。仮にも私は大臣ですよ。何の挨拶も無しに立ち去るのは如何なものでしょうか。それとも王の首を取って自分が王になった御積りですか?」
「父上!」
エリはリサを庇おうと、父親の間に入った。
「エリ。もう戦争は終わった。騎士なんぞ辞めて私の跡を継ぐためにちゃんと勉強をしなさい」
「私は辞めません!」
リサが部屋から出て行くのを見て、エリも続いて出て行こうと父親に肩を掴まれた。
「エリ!待て、お前に頼みたいことがある」
- 214 名前:沈黙のリサ 投稿日:2007/03/17(土) 23:57
-
◇
- 215 名前:沈黙のリサ 投稿日:2007/03/17(土) 23:57
- リサは心の中でエリに謝りながらその場を立ち去った。
まだ、あのときのことをエリに言うわけにはいかない。
いや、誰にも言ってはいけないのかもしれない。
あのとき、私は王の首を取るつもりなんてなかった。
すでに敗北していたのだから。
ただ、自分には数万の兵士を死なせた責任がある。だから、最後まで付き合わなくてはならない。
そして、エリを連れて来なかったのは死なせたくなかったから。
確実にこちらが死ぬ。
リサはそう思っていた。
- 216 名前:沈黙のリサ 投稿日:2007/03/17(土) 23:57
- 城に向かう途中、ヒトミはリサに話し掛けてきた。
「君はこれから何が起きると思っている?」
ヒトミの表情は至って普通だった。それが逆に恐ろしくもあった。
自分の妹を人質に取られて見せる表情なんかではない。
これから何が起きる?
あなたが私とリカ様を殺すのでしょう。
リサは心の中でそう思った。
しかし、ヒトミから返ってきた言葉は予想外のものだった。
「これから私は素直にあいつに捕まる。そして、君は王の首を捕る」
リサは理解できずにその場に立ち止った。
- 217 名前:沈黙のリサ 投稿日:2007/03/17(土) 23:58
- ヒトミは後ろを振り返りリサに近づいて、小声で話した。
「いいかい、決して諦めるな。それがどんな敵であろうとも。君はリヴァイアサンの中で生き残ったんだ」
ヒトミは言い終えるとすぐに前を向き歩き出した。
リサはまったく意味がわからなかった。
確かに諦めている。勝つ望みなんてこれっぽちもない。
例え敵があなたでなくても城の中には無傷の兵士達が大勢いるはずだ。
流石に王の命が危なくなれば人質を無視して攻撃するはず。
それなのに、あなたは諦めるなと言う。王を殺せと言う。
どうしてだ?
- 218 名前:沈黙のリサ 投稿日:2007/03/17(土) 23:58
- 「そういうあなたが諦めていませんか?」
リサはヒトミの背中に向かって聞いた。
ヒトミは振り返ることなく答えた。
「別に私は何も諦めていないよ。私の目的はこの国を守ることではないからね」
エリを連れてこなくて正解だった。
エリの憧れの騎士が国を守る気がまったくないことを知ったら、エリは絶望するだろう。
とはいえ、目的とは一体なんだろうか。今捕まっている子供を守ることが目的なのだろうか。
「あの子供は一体誰ですか?」
ヒトミは答えなかった。
それからは何も会話することなくリカのところまで歩いた。
- 219 名前:沈黙のリサ 投稿日:2007/03/17(土) 23:58
- リカはヒトミを見ると大きく目を見開いて歓喜の声を上げた。
狂ってる。
リサは率直にそう思った。
リカは喜びのあまりコハルから手を離してヒトミに近づき、いつの間に用意したのか手に持っていた首輪をヒトミにつけた。
おかしい。
ヒトミなら剣を持たなくても、リカを倒せるはずだ。
どうして本当に素直に捕まるのか、私達が勝っていいのか?
リサはこの異様な状況に飲み込まれそうなのを耐えるのが精一杯だった。
- 220 名前:沈黙のリサ 投稿日:2007/03/17(土) 23:58
- ヒトミはリサに目で合図を送った。
送った先はコハルだった。
コハルも自分も同じようにしろということだろうか。
リサはよくわからないままにコハルに近づいた。
コハルは立ち上がるとヒトミの方を見た。
ヒトミが頷くと、コハルは素直に自分から手を後ろに回した。
リサはコハルの手を軽く縛り、背中にそっと手を添えてヒトミのところへ連れて行った。
ヒトミは表情を変えずに目だけでリサに向かって笑った。
これが正解なのか?
リサは自分が自分でないような気がした。
ヒトミは続けて目線を王に送った。
リサはそれに従うように、王に近づいた。
何故、誰も私を止めようとしない。攻撃をしない。
- 221 名前:沈黙のリサ 投稿日:2007/03/17(土) 23:58
- リサは剣を抜かず、王が何かを言ってくるまで待った。
シルバーランド国王の目はうつろだった。
リサを見ているようで違う何かを見ているようだった。
そして、王は少し屈むとリサだけに聞こえるように囁いた。
「ゴールドランドの王よ。この国はヒトミ……」
リサは王が言い終える前に首をはねた。
リサがもっとも憎む相手に見間違えられたことにリサは激怒してすぐさま剣を抜いた。
リサの興奮は冷め止まなかった。アイの方を振り向くと鋭く睨んだ。
アイは父親が殺される瞬間を目のあたりにして動揺で手足が震えていた。
剣を握ることさえ出来ずに呆然と立ちすくんでいた。
リサはアイを無視して誰か戦える相手を探し歩いた。
しかし、誰もが殺気立つリサに怯えて目を逸らした。
- 222 名前:沈黙のリサ 投稿日:2007/03/17(土) 23:59
- 「この国には誰も国を守ろうとする奴はいないのか!」
リサは大声で叫んだ。
それに反応して、アイが大声で叫んでリサに突進してきた。
リサは振り向くと、アイの攻撃を避けることなく肩にアイの剣を受け止めた。
「情けない」
リサはそう言うと、アイの脇腹を殴り倒した。
そして、アイのマントを引きちぎり、王の首を包むとアイの首を掴んで引きずって出て行った。
リサはヒトミの横を通り過ぎるときに、ヒトミの顔を見た。
その表情は笑っていなかったが、リサには笑って見えた。
結局、勝ったのはあなただけですか。
いや、それともリカ様なのかな。
リサは歓喜するリカを呆れるように見て城を後にした。
- 223 名前:パム 投稿日:2007/03/17(土) 23:59
- つづく
- 224 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/19(月) 07:24
- うーん…ヒトミはまだまだ謎が多いですね
ガキさん…
- 225 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/20(火) 14:03
- まだまだ謎だらけですね
でも面白いからがんばってください
- 226 名前:パム 投稿日:2007/03/30(金) 02:30
- >>224
>>225
まだまだ謎だらけで行きますよ。
解明するのはいつになることやら。。。ちと心配だったりもしますが、頑張っていきますよ
- 227 名前:怪しい魔女 投稿日:2007/03/30(金) 02:30
- 老婆は週に一度、ミキが薬を持って訊ねてくるのをいつも楽しみにしていた。
今日はミキとれいにゃのためにアップルパイを焼いて待っていた。
戸を二回ノックする音が聞こえて、老婆を時計を見上げた。
いつもより早い時間に首をかしげながらも戸を開けると、老婆は慌ててその場に座り深々と頭を下げた。
「ユ、ユウコ様。ご無沙汰しております」
老婆は頭をわずかに上げ、ゆっくりと下から目の前にいる人物をもう一度確認した。
漆黒のドレスに、腕を組み、目は鋭く、頭は金髪。
間違いなくユウコの姿が目の前にあった。
老婆は一瞬ユウコと目が合うと素早く頭を下げた。
ユウコは一向に頭を上げようとしない老婆の姿に苦笑いすると、老婆に近づき、手に持っている袋を見せた。
「いつまで頭下げてるんや?しんどいやろ、薬持ってきたで」
老婆はようやく体を起こすと、目の前にある薬の袋を見つめた。
いつもミキが持ってくる薬の袋と同じ物だった。そして、次にユウコを不思議そうに見つめた。
「どうしてユウコ様が?」
ユウコは腕を組み、溜息をついた。
「まったく。ミキの奴はばあちゃんに何も言わずに行ったんか」
「どこかに行ってしまったのですか?」
「ミキとれいにゃは先週遠くに旅立った。当分はうちがばあちゃんに薬を届けることになるな」
「そうですか」
- 228 名前:怪しい魔女 投稿日:2007/03/30(金) 02:31
- 老婆が寂しそうに肩を降ろす姿を見てユウコは、先ほどから気になっていた香ばしい匂いに話題を変えた。
「なんか、ええ匂いがするな。これはアップルパイかな?」
老婆はハッとして手を叩くとユウコを中に招きいれた。
慌しく部屋を片付けてユウコを座らせると、今度はキッチンに行き、アップルパイを切り分けてユウコに差し出した。
「どうぞ。ユウコ様のお口に合うかわかりませんが」
「ばあちゃん。そんなに慌てんでもええって。体悪くするで」
「ああ、そうだ。紅茶をいれますね。紅茶でよろしいですか?」
「かまへんけど、とりあず落ち着こ」
ユウコの言葉を聞くこともなく老婆は急いでキッチンに入ってお湯を沸かし始めた。
ユウコは老婆が戻ってくるまでの間、アップルパイには手をつけず、部屋を見渡した。
部屋には老婆には似つかわしくないものばかりが乱雑に置かれていた。
それはどれもミキの物だった。
洋服やアクセサリーはもちろんのこと魔術道具まで転がっていたことにユウコは眉をしかめた。
「まったく、あいつはここに何しに来てるんや」
ユウコは立ち上がって散らばっている魔術道具を拾い上げ一つずつ確認しながら懐にしまった。
どれもユウコがあげた貴重なものばかりだった。
「魔女の娘ならこんなものいらんってか」
ユウコは自嘲気味に笑った。
- 229 名前:怪しい魔女 投稿日:2007/03/30(金) 02:31
- ふと棚に目をやると写真が一枚飾ってあった。
ユウコは手に取ってその写真を見つめた。
そこには、ユウコの膝くらいまでしか背のない幼いミキとれいにゃとユウコが写っていた。
ユウコはこの日のことをよく覚えていた。
この日、村に珍しく行商人が訪れた。
行商人は世界の名品、珍品を村の人々に見せて売っていた。
その中にカメラがあった。
行商人は旅の途中で撮った写真をミキに見せた。
初めて見る色んな世界の風景や動物にミキは興奮した。
そして、行商人は記念に一枚写真を撮ってあげると言うと、ミキは大喜びでユウコを呼びに走っていった。
写真を撮られるのが嫌いなユウコは何度もミキをあしらったがミキはそんなのお構いなしにユウコを引っ張りだして、この写真を撮った。
そして、さらにミキはユウコにこのカメラが欲しいとねだられて仕方なくユウコはミキに買ってあげた。
ミキはカメラを肌身離さず持ち歩いて、ことあるごとに写真を撮っていた。
そんな思い出のある初めて撮った写真がここにあるという事は、ミキは老婆のことを大変好いていたんだろうなとユウコは思った。
- 230 名前:怪しい魔女 投稿日:2007/03/30(金) 02:31
- 「ユウコ様。お待たせしました。ささ、どうぞ」
老婆が紅茶を持って来たところで、ユウコは写真を棚に戻し椅子に座った。
「いやぁ、まさかユウコ様が訪れて頂けるとは思ってもいなかったので、大したものがありませんが」
「そんなに気を使わなくてええって。それにしても、ミキは何も言ってなかったんやな」
「はい。ミキちゃんはいつまで?」
「さあ、どうやろな。すぐに戻ってくるかもしれんし、ずっと戻ってこないかもしれん」
「そうですか」
「この部屋はミキの物ばかりやな。ミキが大変世話になってたみたいやな」
「いえいえ、そんなことないです。世話になってるのは寧ろ私のほうです。いつもお薬を頂けて、感謝してます」
ユウコは丁寧すぎる老婆に困って、アップルパイに手を伸ばした。
香ばしい焼きたてのアップルパイは幼い頃を思い出す懐かしい味がして、これは何の味だったのだろうかとユウコは記憶を探った。
記憶を巡っている中、老婆の視線を感じてユウコは思い出すのをやめた。
「ああ、すまん。すまん」
「あっ、いえいえ。お口に合いますか?」
「美味しいよ。もう一つ貰おうかな」
ユウコは二個目を手に取って口に運んだ。老婆はまたじっとユウコを眺めていた。
- 231 名前:怪しい魔女 投稿日:2007/03/30(金) 02:32
- 「なんや?なんか付いてるか?」
「ああ、いえいえ。失礼しました。ユウコ様はいつになってもお綺麗でついつい見とれてしまいました。私が幼かった頃からユウコ様は変りませんね。
ミキちゃんも最初はお姉ちゃんだったのに、あっという間に私はミキちゃんを追い抜いて、気付けばこんなに老けてしまいました」
「それは、」
「はい。わかっております。魔女は永遠の時を生きるもの。私は人間。年をとるのは当然です。でも、やっぱり不思議です」
「そっか。そういうもんかもな」
「すみません。変なことを言ってしまって」
「別にかまへんよ。しかしな、長く生きることが幸せかと言ったらそうでもないで」
「そうですかね」
「そう。この永遠の時は永遠に受け続けなくてはいけない罰」
「罰、、、ですか?」
「ふっ。いらんこと言ってもうたな。忘れてくれ。ほな、また来週来るわ。それまでしっかり生きといてや」
「はい…」
ユウコはもう一個アップルパイを手に取ると老婆の家を出て行った。
もう何年の時を過ごしたのだろうかと、ユウコは思い巡らしてみた。
しかし、思い出す記憶の順序はあやふやで自分がいつ生まれたのかすらわからなくなってしまった。
ユウコは無数にある思い出を思い出しながら歩いて村を出て行った。
そして、森の中に入ったところで足を止めた。
- 232 名前:怪しい魔女 投稿日:2007/03/30(金) 02:32
- 「こんなところまでわざわざ何の用や?」
ユウコは振り返らずに背後にいる何者かに話し掛けた。
「にょにょにょ。さすがは大魔女ユウコだにょ。バレてしまったにょ」
ユウコは声が聞こえたところで振り返って、声の正体を見た。
上半身だけが宙に浮き、うっすらと透けて奥の風景が見える。
怪しげな魔女の姿がそこにあった。
「相変わらず耳障りな喋り方やな」
ユウコはその魔女を睨みつけて言った。
魔女はユウコの睨みに臆することなく喋りだした。
「時はすでに狂いだしてるにょ。ヒトミ様は動き出したにょ」
「わかっとる」
「女王の復活はもうじきだにょ。マキ様も動き出してるにょ」
「知っとる」
「にょにょにょ。さすがは大魔女ユウコだにょ」
- 233 名前:怪しい魔女 投稿日:2007/03/30(金) 02:32
- 薄気味悪く笑う魔女にユウコは苛立ち眉をしかめた。
「消えろ。貴様の声を聞くとイライラする」
「にょにょにょ。あのミキとか言う魔女も近いうちに全て知ってしまうにょ」
「構わん。知らせたければ知らせるがいい。貴様も女王と同じように地獄の業火を味合わせてやる」
「にょにょにょ。怖いにょぉ〜。早く消えていなくなれにょおお!!」
「ならば、こそこそせずに殺しに来いや!!」
ユウコは叫ぶと同時に魔女に強大な炎を浴びせた。
炎が消えるとそこにいた魔女の姿はなくなっていた。
「チッ。ムメの奴め、早速感づきやがったか」
ユウコは舌打ちすると、すっと姿を消した。
- 234 名前:怪しい魔女 投稿日:2007/03/30(金) 02:32
- ゴールドランド城を目指して飛び立ったミキだったが、途中で川を見つけてミキはまた釣りをし始めた。
「ミキ様。なんでまた釣りっちゃ?」
「川があったら釣り。山があったら狩り」
「さっき山があったっちゃ」
「それがどうした」
「れいにゃ、お肉食べたいちゃ」
「今そういう気分じゃない」
「お肉好きなミキ様が珍しいっちゃ」
「じゃあ、れいにゃは肉捕ってくればいいじゃん」
「う〜ん。ちゃ〜」
「なんだよ」
「今日はおばあちゃまのところに行く日だったっちゃ」
「あっ!そうだった!しまったな。今日だけ帰るか」
「お師匠様に怒られるっちゃ」
「じゃあ、黙ってろ」
れいにゃは素直に黙ってぶらぶらと辺りを歩き始めた。
上流から何やら大きな物が流れてくることにれいにゃは気付くと、れいにゃは急いでミキのところに戻って叫んだ。
- 235 名前:怪しい魔女 投稿日:2007/03/30(金) 02:32
- 「ミキ様!!向こうからどんぶらこだっちゃ!」
「黙ってろって言っただろ!」
「桃っちゃ!でっかい桃が流れてきてるっちゃ!」
れいにゃは流れてくる大きな桃を指してミキに見せた。
子供くらいの大きさの桃がゆっくりと流れてミキの方へと徐々に近づいてきている。
「う〜ん。でかいな」
「でかいっちゃ。あれならお腹一杯になるっちゃ」
「あそこまででかいと美味くないだろ」
「そうちゃろか」
「絶対そうだよ。大体、気味悪いもん」
「そうっちゃね」
桃はミキの目の前まで来るとまるで拾って欲しいかのようにミキに近づき流れることなくそこに留まった。
「う〜ん。見れば見るほど怪しい」
「怪しいっちゃ」
「早く通り過ぎないかな」
「何か止まってるようにも見えるっちゃ」
「やっぱそうだよな」
「んちゃ」
「場所変えるか」
「そうっちゃね」
- 236 名前:怪しい魔女 投稿日:2007/03/30(金) 02:33
- ミキは立ち上がると、上流の方へと歩いて桃から十分離れたところで座ると釣りを始めた。
れいにゃは桃が気になって振り返って見ると、桃は流れに逆らって上ってきていた。
れいにゃは明らかに怪しいその桃が怖くなってミキに寄り添うとビクビクしながらミキに言った。
「ミ、ミキ様。さっきの桃が上ってきてるっちゃ」
「そんなわけ………あるっ!!怪しい!!超怪しい!!」
ミキは驚き立ち上がってその桃を見たが、すぐに座って釣りを再開した。
「ミキ様、どうするっちゃ?」
「どうするっていうか。どうもしない」
「無視するちゃ?」
「うん。だって関係ないし」
「そうっちゃろか」
「そうだよ。だって桃だぜ。ミキに何の関係があるんだよ」
「確かにそうだっちゃ」
「だろ。いちいち気にしてたら面倒が増えるだけだ」
「そうっちゃね」
桃はまたミキの目の前に止まった。
そして、桃はパカッと割れると中からうっすらと人の姿が見えた。
「ミキ様。何か出てきたっちゃ」
「目を合わせるな、れいにゃ」
「わかったっちゃ」
- 237 名前:怪しい魔女 投稿日:2007/03/30(金) 02:33
- 「にょにょにょ。さすがは大魔女ユウコの弟子だにょ。慎重だにょ」
桃の中から現れたのは先ほどユウコの前に現れた魔女のムメだった。
「ミキ様、おかしな喋り方してるっちゃ」
「れいにゃも十分おかしいよ」
「れいにゃはおかしくないっちゃ」
「お前も地獄を味わうことになるにょ」
「ミキ様、地獄とか言ってるっちゃ。怖いっちゃ」
「地獄は十分ゆゆたんとこで味わったよ」
「そうっちゃね」
「さっきから何のん気にしてるにょ!私を誰だと思ってるにょ!」
「ムメたんだろ」
「そうだにょ。知ってたにょ。良かったにょ」
「ムメたんってお師匠様が言ってた魔女っちゃ?」
「この怪しさからして、間違いなくそうだろ」
「ミキ様。どうするっちゃ?」
「相手にするなってゆゆたんが言ってた」
「わかったっちゃ」
- 238 名前:怪しい魔女 投稿日:2007/03/30(金) 02:33
- 「にょにょにょ。これはほんの挨拶代わりだにょ。お前の活躍楽しみにしてるにょ」
ムメは大きな桃をミキの目の前に移動させると姿を消した。
「いらねぇ!!こんなでっかい桃いらねぇっての!」
れいにゃは背後に気配を感じて振り返ると、固まった。
「ミ、ミキ様。後ろ見るっちゃ」
「なんだよ。後ろにもたくさんあんのかよ。おっせかいな奴だな。ムメたんは」
「違うっちゃ。変なでっかい人形っちゃ」
背後には十体ほどの二メートルを超す大きな土の人形がのそのそとミキに近づいてきていた。
ミキはその人形をマジマジと見つめると大きな声を上げた。
「あ゙ー!!!」
「ミキ様!!どうするっちゃ!?」
れいにゃは怯えてミキの後ろに隠れるとミキを見上げた。
しかし、ミキは満面の笑みで土人形を見つめていた。
「ゴーレムだぁー!!すげぇ!初めて見た」
「ミキ様。近づいてくるっちゃよ」
「記念撮影するぅ〜」
- 239 名前:怪しい魔女 投稿日:2007/03/30(金) 02:33
- ミキはすかさずカバンの中を漁ると、三脚を取り出して地面に立てると次はカメラを取りだし、ゴーレムにピントを合わせた。
「う〜んと。こんな感じかな」
「それだと、あっちのゴーレム入らないっちゃ」
「全部入れる必要ないよ」
「あっちのゴーレムのほうが大きいっちゃ」
「そっかな。じゃあ、ちょっとずらして、こんな感じかな」
「いいちゃね」
「よっしゃ。撮るぞお前ら!動くなよ!」
ミキはゴーレム向かって叫ぶと、ゴーレム達は一瞬ビクリとして動きが止まった。
ミキはすかさずタイマをセットするとゴーレムの方へと走り出した。
「うりゃ。走れ、れいにゃ!」
「んちゃー」
ミキの後を追ってれいにゃも走りゴーレムの真ん中に入ると、タイミングよくシャッターが下りた。
「にひひ」
「いっぱいゴーレム写ったっちゃ」
「だな。これは中々撮れるもんじゃないぞ」
「ミキ様。凄いっちゃ」
「まあな」
ミキはカメラと三脚を片付けながら出来上がりの写真を想像して笑った。
- 240 名前:怪しい魔女 投稿日:2007/03/30(金) 02:34
- 陰でこっそりと様子を伺っていたムメがのん気なミキに苛立って姿を現した。
「お前ら何してるにょ!そこの魔女に恐怖を味合わせてやるにょ!」
「あっ、まだいたんだ。ムメたん」
「一緒に写りたかったんちゃろか」
「あっ、ごめんムメたん。言ってくれれば良かったのに」
「ムカツクにょ!さっさとやるにょ!」
ムメの自慢のゴーレムに怯えることなく、写真を撮っているミキにムメは苛立ってゴーレム達をけしかけた。
ゴーレム達はわずかに足を速めてミキに近づいて大きな手を振り上げた。
「ムメ様。怒ってるっちゃ」
「ごめんよぉ〜。でも、何枚も撮るとフィルムもったいないし」
「ムメ様。ごめんちゃ」
「さてと、れいにゃ。何か大勢いるし、これじゃ魚釣れそうにないから他行くか」
「エリ様のとこにやっと行くっちゃね?」
「だから、あの世に行くつもりはないって」
「エリ様は死んでないっちゃ!」
ゴーレムの手が降りる寸前でミキは川を越えて飛んで行ってしまった。
水に弱いゴーレムは川のギリギリのところ立ち止り、飛んでいくミキをぼうっと眺めていた。
「にょにょにょ。あの魔女、なかなかやるにょ。これから楽しみだにょ」
ムメもまたミキを眺めながらこれから起こることを想像して笑った。
- 241 名前:パム 投稿日:2007/03/30(金) 02:34
- つづく
- 242 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/31(土) 23:00
- 相変わらずのミキ様のマイペースっぷりに爆笑〜
それにしても、ゆゆたんの過去が気になる、気になる
- 243 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/01(日) 01:17
- ミキ様(;´Д`)'`ァ'`ァ
無邪気な所がぷりちーでらっしゃいます
- 244 名前:パム 投稿日:2007/04/20(金) 04:06
- >>242
>>243
ありがとうございます。
ちと間が空いてしまいました。久々の更新いきます。
- 245 名前:永遠の血 投稿日:2007/04/20(金) 04:07
- エリは嫌な役目を任されたなと肩を落としながら城の中をとぼとぼと歩いていた。
父親に反抗的な態度は取るものの、結局は逆らうことの出来ないエリは、父親に言われたことを素直に聞きリカの部屋の前までやってきた。
扉の前で深呼吸すると軽く二回ノックした。
少し間をおいてから部屋の中から声が聞こえた。
「誰だ?」
「エリです」
「入れ」
エリは静かに扉を開けると恐る恐る部屋の中に入った。
部屋の中に足を踏み入れた途端、血の匂いが鼻について足を止めた。
薄暗い部屋の中で、一ヶ所だけ煌々と火が灯されている場所に自然と目がいった。
「これは・・・」
エリが目にしたのは、無数のろうそくの中心に大きな十字架と、両脇に金色の瓶を持った女神の石像。
そして、何よりも驚いたのは、その十字架に張り付けられているヒトミの姿だった。
ヒトミは裸で、足はロープで縛られ、両手にはナイフが突き刺さっていた。
ナイフから流れる血は女神の石像が持つ金色の瓶に流れ落ちている。
そして、リカは真っ赤な液体の入ったグラスを手に、十字架の目の前に座りヒトミを眺めていた。
- 246 名前:永遠の血 投稿日:2007/04/20(金) 04:07
- 「綺麗だろ。最高級のオブジェだ」
リカが一瞬だけエリを見た。
唇は真っ赤に濡れ、目はとても人の目のようには思えないほど狂気満ち溢れていて、エリは背筋が凍った。
エリは怯えながら、もう一度ヒトミを見た。
エリと目があったヒトミの目は睨みつけるようにエリを見ていた。
エリは思わず、ヒトミから目を逸らすが、あることに気付いてマジマジとヒトミの体を眺めた。
「ヒ、ヒトミ様は女性だったのですか!?」
「見るな、スケベ」
「し、失礼」
スケベと言われたエリは慌ててヒトミを見ないように後ろに振り返った。
「何故、お前がまだここにいる。魔女のところへ行けと言ったはずだろ」
「ヒトミ!勝手に喋るな!」
リカはヒトミの視線がエリに移ったことに気を悪くして叫んで立ち上がると、ヒトミに向かって手にしていたワイングラスを投げつけた。
グラスはヒトミの体に当たり砕け、真っ赤な液体がヒトミの顔についた。
ヒトミはその液体を舌で舐めると「はいはい」と言って黙った。
- 247 名前:永遠の血 投稿日:2007/04/20(金) 04:07
- 「何の用だ」
リカは少し苛ついた感じでエリの背中に向かって言った。
エリはヒトミを見ないように下を見ながらそうっと振り返ってリカに要件を話した。
「ヒトミ様をどうするか大臣達たちが審議しておりまして、ヒトミ様とお話したいと仰っております」
「ほっとけ」
「ほっとけと言われましても…」
「そんな必要はない。ヒトミは永遠にこのままだ」
「マジで〜」
顔に流れる液体をペロペロと舐めていたヒトミはリカの言葉に不満そうに声を上げた。
「喋るなと言っているだろう!」
リカはヒトミを睨みつけながらヒトミに近寄った。
怒鳴るリカにヒトミは表情を変えずにリカを見つめた。
リカはさらにヒトミに近づくと、ヒトミの頬についている真っ赤な液体をゆっくりと舐め上げた。
「どうせ、あの老いぼれ達もヒトミの血が欲しいのだろう」
リカはそう言うと、女神の石像が持つ金色の瓶に手を入れ、ヒトミの血をすくってエリに見せた。
- 248 名前:永遠の血 投稿日:2007/04/20(金) 04:08
- 「血?」
「そうだ。この血だ。お前も欲しいか?」
「O型だよ」
リカはエリに近づき、手に付いたヒトミの血をエリの口元まで近づけた。
ヒトミの血の匂いが鼻をくすぐり、頭を揺さぶる。
これを飲めばヒトミに近づくことができるのかも知れないと脳裏をよぎった。
エリは生唾を飲み込んだ。しかし、ぐっと歯を食いしばり、固く唇を閉ざして愚かな行動に出ないように全身に力を入れてこらえた。
リカはエリが血を舐めようとしないとわかると、さっと手を引き下げて、手についた血を綺麗に舐め上げた。
そして、満足そうに椅子に座り、エリに向かってニヤリと笑った。
「これで私は不老不死だ」
「え?どういうことですか?」
「なんだエリ、知らないのか。ヒトミは不老不死なんだぞ。その不老不死の血を飲めば私も不老不死になれる」
「そんなわけ・・・」
「ないと思うか?ではなぜ百年前の生きていた奴がこの若さで生きていると思う」
「へ?この人が英雄ヒトミ様なんですか?」
「そうだ。では、このヒトミはなんだと思っていたのだ」
「孫かと」
「ふふ、こいつは無類の女好きだ。子供などいない」
エリはリカが言ったことの意味をすぐに理解することができなかった。
いや、理解することを必死に拒んだ。
目の前にいる人物が小さい頃から憧れつづけた本物の英雄であるはずがないと。
そして、その英雄が張り付けにされているなんて、エリにとって絶対にありえないことだった。
- 249 名前:永遠の血 投稿日:2007/04/20(金) 04:08
- 「ヒトミ様。嘘ですよね?」
「ああ、嘘だよ」
ヒトミはさらりとエリに答えた。
その答えを聞いてリカが激怒して、ヒトミに近寄った。
「何が嘘だ!お前はその若さで百年も生きているではないか!そして何より、この本に記されているぞ!お前が女王に殺された後、甦ったということを」
リカは以前エリにコールドブレスの日記と言っていた本をヒトミに見せた。
ヒトミはその本を少し読むと笑った。
「ははっ。それをどうして君が持っているのか知らないが、私は不老不死なんかじゃない」
「そんな見え透いた嘘を付くな!この肉体はなんだ!どうやってこの体を手に入れた。答えろ!」
リカは激しく怒鳴り、爪を立ててヒトミの胸を鷲掴みにした。
食い込んだ爪から血が流れてもなお、リカは強く握りしめてヒトミを睨んだ。
ヒトミは痛みに顔を歪めながらも、リカに睨み返した。
「私は死なないから生きているわけではない。死ねわけにはいかないから生きているんだ」
「何を訳のわからないことを言っているんだ!一緒ではないか。不死でなければ何年も生き続けるわけないであろう!」
「君みたいな人間では到底理解出来ないことだ」
「貴様!自分の立場がわかっているのか!教えろ!コハルを殺すぞ」
- 250 名前:永遠の血 投稿日:2007/04/20(金) 04:08
- コハルの名前が出た途端、ヒトミの様子が激変した。
あの時、エリがヒトミに殺されかけたときと同じように、冷酷な表情になり、凍てつく殺気が部屋全体を包んだ。
リカはあまりの恐ろしさに、手を震わせながらゆっくりと掴んでいた手を離すと、後ろに下がった。
「軽々しくそんなことを言うもんじゃない」
ヒトミはすぐに普段と変らない表情に戻すと、殺気も消えた。
しかし、間近でヒトミの殺気を味わったリカはすぐには震えが収まらず、震える体を両手で体を押さえつけていた。
エリは何がどうなっているのか理解出来なかったが、とりあえず震えるリカの傍に寄り肩に手を置こうとした瞬間、リカが高らかに笑った。
「はーはっはっは。さすがは英雄と呼ばれただけはある。凄い殺気だ。そうでなくてはな」
エリは、リカの肩に置こうとした手は宙に浮いたまま呆気に取られた。
一体この人はなんだろうかと、エリはさらに混乱していった。
リカは爪についたヒトミの血を舐めなると、椅子に座ってヒトミを見上げた。
「時間はたっぷりある。ゆっくり一緒に不老不死の秘密を調べよう」
ヒトミはリカの言葉にフッと笑うと、エリの方を見つめた。
「ところでカメちゃんは何の用で来たんだっけ?」
- 251 名前:永遠の血 投稿日:2007/04/20(金) 04:08
- エリはヒトミの声にハッとして顔上げると、まだ混乱していてすっかり自分が何の用で来たのか忘れてしまい、キョロキョロと何度もヒトミとリカの顔を見た。
「大臣達にヒトミは渡さん。帰れ」
リカの言葉にようやく思い出した、エリは落ち着きを取り戻すと、今度はじっくりと今までの話を整理した。
今ここにいるヒトミ様は英雄の孫ではなく、本物の英雄ヒトミ様。
そして、ヒトミ様は不老不死で、不老不死になりたいリカ様はヒトミ様の血を飲んで不老不死になろうとしている。
英雄の血を飲んで。
英雄?
誰が?
ヒトミ様が。
今、目の前にいる人が英雄。
エリは頭の中で自問自答をしてようやく整理が付いた瞬間、全身から冷や汗が流れ落ち、足が震えてその場にへたり込んだ。
「カメちゃんどうしたの?大丈夫?」
エリの心拍数はどんどん上昇し、息が荒くなり、極度の緊張に身動き一つ出来ずにいた。
本物が目の前にいる。憧れ続けた英雄が目の前に。信じられない。
エリはゆっくりと顔を動かし、ヒトミの顔を見た。
ヒトミは裸で十字架に張り付けられ血を流している。しかし、その表情は優しくエリを心配そうに見つめていた。
- 252 名前:永遠の血 投稿日:2007/04/20(金) 04:09
- エリは手をギュッと握り締めると、勢いよく立ち上がりリカの元に駆け寄った。
「リカ様!英雄であると知っていながら、ヒトミ様に何ということをしているのですか!」
「それがどうした。今は英雄ではなく捕虜だ。どうしようが私の勝手だ」
「何を言っているのですか!こんなこと許されませんよ」
「誰にだ?」
「誰って…み、みんなに」
「だから、誰だ?国民か?こいつは私達の兵士を大量に殺したんだ。英雄だからと言って何をやっても許されるというお前の考えの方がおかしくはないか?」
「そ、それは…」
エリはあの惨劇を思い出すと、先ほどの勢いも失せて肩を落とした。
リヴァイアサンによって殺された兵士の数は数万。
勝利したとはいえ、誰もが喜ぶことなく今なお悲しみの淵に落ちたままでいる。
そう思うと確かに許される訳はない。だからと言ってこの仕打ちはおかしい。エリはどうしたらいいのか、わからず答えを求めてヒトミを見つめた。
エリの困った表情にヒトミは微笑み返した。
「カメちゃん。私のことは気にしなくていい。それより、カメちゃんは早く魔女のところへ行くんだ」
エリはそれが答えなのかと思うと、「わかりました」と小声で答え、頭を深々と下げて部屋を出て行った。
- 253 名前:永遠の血 投稿日:2007/04/20(金) 04:09
- 部屋を出たエリは何も考えられず、ぼうっとして自分の家に戻るわけでもなく、城の中をフラフラと歩き回った。
どこへ行くと決めていたわけでもないが、自然と足はリサの部屋へと向かい、気付けは部屋の扉の前でボケっと突っ立っていた。
しばらく扉の前で立ったままだったエリだったが、ようやく自分がリサの部屋の前にいることに気付くと、せっかくだからリサに会っていこうと思い扉をノックしようと手を上げた瞬間、中から話声が聞えることに気付き手を降ろして耳を扉に近づけた。
「今回の戦争では、多くの兵士を失いました」
中から聞えてきた声はエリの父親の声だった。
エリは父親がいることに驚くとともに、扉に頭をぴったりとくっつけて、中の話を聞きつづけた。
「はい」
「聞くところによると巨大な化け物が出たとか」
「はい。リヴァイアサンというらしいです。巨大なヘビです」
「巨大なヘビですか。そいつに兵士達は食われたのですか?」
「そうです」
「そうですか。それであなたはどうしたのですか?」
「とても太刀打ちできる相手ではないですから、迂回して城に突入しようとしました」
「ほう。逃げたのですか。自分が手柄を取りたいがために兵士を見殺しにしたのですね」
「目的はシルバーランドを制圧することです。化け物退治に行ったわけではありません」
「しかし、命知らずとまで言われた部隊が逃げるとは情けなくはないですか?」
「情けないと思うなら勝手にそう思ってもらって構いませんが、命知らずだからと言って死ぬのが当り前と思わないで頂きたいですね」
「これは失礼しました。隊長であるあなたが一番長生きしていますしね」
「私は殺されなかったから生きているわけではない。私は部下を死なせるわけにいかないから生きているんだ」
エリはリサが言った言葉に息を飲んだ。
先ほどヒトミが言った言葉にあまりにも似ていたからだった。
この数日間、リサの様子がおかしくて距離があるのを感じていたが、今の言葉を聞いてさらに自分と離れていってしまっていることを感じた。
リサは自分の手の届かないところ、例えばヒトミのような存在になってしまうのではないかとエリは思った。
急に寂しくなったエリは静かにその場を立ち去った。
- 254 名前:パム 投稿日:2007/04/20(金) 04:09
- つづく
- 255 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/21(土) 14:00
- これからエリがどんな運命を辿ることになるのか楽しみです
- 256 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/24(火) 15:11
- よっすぃどうなっちゃうの
リカ様はなんか怖いし
- 257 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/25(水) 23:10
- ヒトミとリサがどうにもかっこよすぎて困るね
ズッコケ魔女道中+1も大変期待してます
- 258 名前:パム 投稿日:2007/05/11(金) 02:36
- >>255
>>256
>>257
どうもです。まだまだ先は長くなる予定ですので焦らしまくってますが、引き続きよろしくお願いします。
それでは、ズッコケ魔女道中をどうぞ。
- 259 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:37
- 陽は落ちて辺りはすっかり暗闇になった頃、ようやくミキとれいにゃはゴールドランド城城下町に着いた。
街は夕飯の時間を迎え、周り家からの美味しい匂いがミキの鼻をくすぐる。
ミキは辺りをぐるっと見渡すと、一軒のレストランに目を止めた。
「あそこで飯が食えそうだな」
「エリ様に会いに行かないっちゃ?」
「夜のお墓はちょっと…」
「エリ様は死んでないって言ってるっちゃ!」
「うっさいな!とりあえず食う」
「エリ様のところに行けばごちそう食べられるかもしれないっちゃのにぃ」
ミキはれいにゃを無視してさっさと歩いてレストランの扉を開けた。
中は大勢の客で賑わっていてどこのテーブルも一杯だった。
ミキは入口で空いている席を探し眺めていると、一人の大男がミキに近づいてきた。
「お〜。こりゃまた可愛い子猫ちゃんが紛れ込んできたな。俺たちと一緒に飲まないか」
「れいにゃ、紛れ込むな」
「多分れいにゃのことじゃないと思うっちゃ」
- 260 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:37
- 「さあ、こっち行こうか」
大男はミキの肩に手を回すと強引にミキを引き寄せて連れて行こうとした。
しかし、ミキは男の手を振り払うと睨みつけた。
「何すんだよおっさん!くせぇんだよ!」
ミキが大声で男に怒鳴ると店の中にいた客は一斉にこちらを振り向いた。
男は振り払われた手をさすりながら顔をミキに近づけた。
「お嬢ちゃん、言葉には気をつけようぜ。オレが誰だか分って言ってるのかい?」
ミキは男の口臭にたまらず鼻をつまんで、顔を背けた。
「くせぇって言ってるだろ。あっち行けよ」
男は顔を紅潮させて、怒りに体を震わせた。
辺りは騒然とし始め、大男の仲間達も席を立ってミキのところへと近づいてきた。
- 261 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:37
- 「あっ、れいにゃ。あそこ空いてるぞ」
ミキはお構いなしに辺りをキョロキョロと見渡して空いた席を見つけると、そんな輩を無視してそそくさと席に向かって歩き始めた。
しかし、大男とその仲間達はミキの行く道を塞ぎ、取り囲んだ。
仲間の一人がミキに一歩近づくと、顎で大男を指し、怖い表情を作って脅すようにミキに話し掛けた。
「お嬢ちゃん。あの男を怒らせたら酷い目に合っちゃうよ。一杯だけ付き合うくらいどうってことないだろ。ん?」
「邪魔」
ミキは男の脅しに動じずに平然と言った。
それに仲間達も切れて、大声を張り上げて怒りをあらわにした。
「おい!てめぇ、舐めた口利いてんじゃねぇぞ。オレ達は命知らずの特攻部隊だ。そこらの男どもとは訳が違うぞ!」
「あ〜。くさいよぉ〜」
「貴様!!」
大男はミキの肩を掴んでこちらに振り向かせようとした瞬間、無数の小さな稲光が大男の手から肩へと駆け上った。
大男は堪らず手を離して、大きな悲鳴をあげた。
- 262 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:38
- 「うぎゃー!なんだこいつ!」
その瞬間、仲間達も一歩下がって構えると、辺りは緊迫した空気に包まれた。
「てめぇ、何者だ!何しやがった!」
「ミキ様。大変なことになっちゃったみたいっちゃ」
「あれま」
じりじりと詰め寄る男達を目の前にしても、ミキはまるで他人事の様に平然としていた。
ミキは先ほど見つけた空席をもう一度確認すると、男達を無視して席に向かって歩きだした。
男達はミキが動き出した瞬間、脇を締めて構え直してミキの動きを伺った。
しかし、自分達とはまったく違う方向に進むミキに自分達が無視されていることに気付くと、すぐさまミキを追った。
「おい!貴様。無視してんじゃねぇ!」
男は先ほどのこともあって、ミキの肩を掴むことはせずミキの背後から怒鳴った。
ミキはあまりのしつこさに雷を落とそうかと思い、手をかざした瞬間、ミキと男達の間に何者かが割って入ってきた。
- 263 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:38
- 「やめないか!」
ミキは寸前のところで魔法を止めると割って入ってきた者を凝視した。
その者は以前どこかで会ったような気がして、ミキは思い出そうと記憶を辿ってみるも思い出せず、れいにゃを見るとれいにゃは大きく目を見開いていた。
そして、れいにゃは大きく飛び跳ねるとその者にしがみついた。
「エリ様っちゃー!!」
ミキはようやくエリということに気付くとすぐさま大声を上げた。
「出たぁーーー!!」
れいにゃはミキの大声に驚いて、ミキを見ると、ミキは慌ててカバンの中から魔法書を取り出すと勢い良くページをめくっていた。
「ミキ様。何してるっちゃ?」
「ゴーストを倒す魔法探してるんだよ。れいにゃもすぐ離れろ」
「エリ様は死んでないっちゃ!」
- 264 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:38
- エリはミキとれいにゃの会話を聞いて、そういえば自分は死ぬつもりだったんだなと思い出して苦笑いすると、座って魔法書を見てるミキに近づき、自分も腰を降ろしてミキと目線を合わせた。
「ミキ様。私は生きていますよ。幽霊なんかではありません」
「幽霊は大抵そう言うもんだ」
ミキはエリの言うことを聞かず一心不乱に魔法書を眺めていた。
エリは困ったなと思い、立ち上がって腕を組んでいると、ミキにちょっかいを出していた男達がエリに近づいて話し掛けてきた。
「エリ殿。こいつとお知り合いですか?」
「ああ。この方は私の大切な客人だ。一体何があったんだ?」
男達は大切な客人と聞くと、一瞬にして顔が青ざめて慌てて頭を下げるとあっと言う間に店を出て行ってしまった。
エリは城を出た後、家に戻る気もしなかったので店に立ち寄ったのが、店に入ったときはすでに只ならぬ雰囲気と、そしてミキがいることに気付いてすぐに止めに入っただけだった。
エリは男達の形相を不思議に思い首をかしげて、れいにゃを見た。
- 265 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:38
- 「なんでもないっちゃ」
れいにゃはそう言うとエリから離れてミキの元に近づいた。
「ミキ様。いい加減にするっちゃ」
ミキはようやく魔法書を閉じると立ち上がってエリを見た。
「よく生きてたな」
「はい、おかげさまで。これから食事ですか?でしたら、約束の御礼を致します」
エリはそう言うと店を出て行った男達が使っていったテーブルに案内した。
「おい」
ミキは先を歩くエリに向かって声をかけた。エリが振り向くと、ミキはエリが渡した紋章を投げ渡した。
「あんま、こういう恥ずかしいことすんなよ」
- 266 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:38
- そう言ってミキはエリを追い越して先に席につくとメニューをパラパラとめくり始めた。
エリは受け取った紋章の裏側を見て軽く笑い、そして、ミキを見た。
自分がこうして生きていられるのは目の前にいる魔女のお陰なんだなと思ったと同時に、ヒトミが言ったあの言葉を思い出した。
『これからカメちゃんには死ぬことが許されない旅が始まる。あの魔女のところへ行け』
死ぬことが許されない旅というのはどんな旅なのだろうか。
この魔女は私を連れて行くために生かしたのだろうか。
私が一緒に旅をする意味は何だろうか。
エリは席に座らずに、そんなことを思いながらミキを見つめていた。
一方のミキはエリにはお構いなしで、次々と注文をしていた。
一通り注文し終えると、ミキは顔を上げてエリを見た。
「何やってんの?座れば」
声を掛けられたエリは慌てて席についた。
そして、エリはいつものとだけ店員に言って注文を終えた。
- 267 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:39
- 「なあ?さっきの奴らよりお前の方が偉いのか?あいつら血相変えて逃げてったけど」
「部隊は違いますが私も一応隊長ですので。それにあの人達の隊長とは仲が良いので」
「ああ、そういうことか。お前じゃなくて、その隊長にチクられるのが怖くて逃げてったのか」
「別に大事になってはいないので報告することはしませんが、でも仰る通りかもしれませんね」
「あいつらの隊長ってのは、さぞ、でかくて臭いんだろな」
「え?いや、そんなことはありませんよ」
「本当か?あいつらの臭いお前も嗅いだだろ。お前はドブから生まれたのかよって感じだったぜ」
「ええ、まあ。しかし、あの人達は何度も戦場も駆け抜けているので色んな匂いが体に染み付いているのかもしれませんよ」
「は?意味わかんね。風呂入ってないだけじゃん」
エリは自分の体を匂ってみた。
少なからずエリも戦争で人を殺してきた。しかし、あの男達のような匂いはまったくしなかったことに安堵するとともに少し寂しくも感じた。
自分はまだまだなんだなだと。
- 268 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:39
- エリが考え事をしている間に次々と料理が運び出されくると、ミキは満面の笑みを浮かべるとフォークを手にして食べ始めた。
「いただきまーす!」
「いただきますっちゃ」
豪快に食べるミキとれいにゃをエリは眺めながらエリはミキ達がここ数日まともな食事をしていないのだろうか、あるいは何か大きな敵と戦って体力を消耗しているのだろうかと思った。
大きな敵と考えて思いつくのがあのとき現れたリヴァイアサンだった。この人達はあんな化け物と戦っているのだろうか?そして、何のために。
これから先、自分も戦うことになるのだろうかと思うとだんだん不安になってきた。
エリは考えれば考える程、疑問が増える一方なので思い切って聞いてみることにした。
「ミキ様はなぜ旅をしていらっしゃるのですか?」
「お前に言う必要はない」
「一人前の魔女になるためっちゃ」
「れいにゃ勝手に言うな!」
「ということは修行の旅ですか」
一人前になるということはまだ修行の身。いくらなんでもあんな化け物を退治するわけがないなとエリは思って少し安心した。
- 269 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:39
- 「別にそんなのじゃないよ」
「では?」
「お師匠さまからの試練をクリアすれば一人前の魔女として認められるっちゃ」
「れいにゃ!!」
「別にしゃべったっていいっちゃ!」
「なるほど。それで試練というのは?」
「うっさいな!それよりこれはなんだ?」
ミキはテーブルにある黄色果物を手に取ってエリに見せた。
「バナナです」
「バナナ?」
「はい。バナナをご存知有りませんか?」
「ああ、見たこともないな。こんなの」
- 270 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:39
- エリはミキからバナナを取ると皮を剥いて一口サイズに切り分けるとミキとれいにゃに差し出した。
ミキはフォークに刺して臭いを嗅ぎ、大丈夫そうなのを確認してから口に運んだ。
ミキが食べたのを見てれいにゃも食べてみた。
「美味しいっちゃ」
「う〜ん。まあ、まずくはないな」
「美味しいっちゃ!!」
「じゃあ、それだけ食ってろ!」
実際、ミキも美味しいと思っていたが、何故こんな美味しいものが自分の村になかったのが不思議で仕方なかった。
今度ゆゆたんにも食べさてあげようと思って、何度も頭の中でバナナバナナと連呼して忘れないようにした。
れいにゃはエリが美味しそうに食べている物が気になって仕方なかった。
今まで嗅いだことの無い不思議な香りにそそられて、エリに近づいて訊ねた。
- 271 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:40
- 「エリ様はこれは何っちゃ?」
「これはカレーですよ」
「食べてみたいっちゃ」
「おい、気をつけろよ」
「何だっちゃ?」
「はい、どうぞ」
「頂きますっちゃ」
エリはスプーンにカレーを乗せてれいにゃの口元に運んだ。
れいにゃはエリが食べているのもなので何の迷いも無く口にいれた。
すると舌にもの凄い刺激と熱さが伝わり、れいにゃは舌を出して暴れ出した。
「熱いっちゃ!辛いっちゃ!水っちゃ!水っちゃ!」
「はっはっは!言ったじゃんかよ。気をつけろって」
ミキは水を皿に入れると、れいにゃは顔ごと水につけて必死に水を飲んだ。
「熱いのはダメだったか。ごめんね」
「だ、大丈夫っちゃ」
少し涙目になりながらもれいにゃはエリにがっかりさせないために無理して笑顔を見せた。
ミキはそんなれいにゃを見て、一体こいつは何がしたいのだろうかと不思議に思った。
- 272 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:40
- 「ミキ様も食べてみるっちゃ」
「いや、いいよ。何かウンコみたいじゃん」
「ちょ、ちょっと食事中ですよ!」
エリは慌てて両手でミキの口を塞ぐように両手を振りながら辺りを見渡した。
幸いにも周りの客は気付いていないようだったが、エリはこんなことを平気で言う人は初めてで、この先が思いやれるなと思った。
ミキは自分が間違ったことを言ってるとは思ってないので、何でこいつはこんなに慌てるのが不思議でならなかったが、からかい甲斐があるなと心の中で笑った。
そして、ミキはさらにエリをからかってやろうと思った。
- 273 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:40
- 「なあ、結局お前らの国が勝ったんだってな」
「はい。そうです」
「まっ、お前は何もしてないけどな」
エリは一番気にしていたことをミキに突かれて、何も言えず顔を下に向けた。
十万の兵士のうち生きて帰れたのは三万。その中で無傷なのはリヴァイアサンが出た瞬間に怯えて逃げていった者達とエリだけだった。
だからエリは周りから自分も逃げたと思われているのだろうと気にしていた。
ミキは想像以上に落ち込むエリを見て、ちょっと言い過ぎたのかなと思った。
「まあ、でもさ、お前のように何もしないのが正解だよ」
「えっ?」
エリはミキの言葉に目を丸くして驚いてみせた。
ミキはそのエリの表情を見て、やっぱりこいつは面白いと思った。
「だってさ、リヴァイアサンだぜ。召喚獣だぜ。人間ごときが倒せる相手じゃないぜ」
- 274 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:40
- エリは悔しさに唇を噛み締めた。
確かに十万の兵士を持ってしても何もすることが出来ずにただ食われる一方だった。
けれど、そんなことを言われる筋合いはないと思った。そして何より、『人間ごとき』と言われたことが悔しかった。
魔女はそんなに偉いのか、強いのかと思うと腹立たしくなってきた。人間にだって強い人はいる。ヒトミ様のように。
ユウコ様はヒトミ様がいたから氷の女王を倒すことが出来たんだ。人間がいなかったら何も出来なかったに違いない。
エリはそう考えをまとめると、ミキに鋭く見返した。
「そんな人間ごときがユウコ様を助けたのですよ」
「は?」
ミキはなんでリヴァイアサンの話をしているのにユウコの話が出てきたのか意味がわからなかった。
- 275 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:40
- 「人間にだって強い人はいるんです。ヒトミ様のように。バカにしないで下さい」
「お前ヒトミじゃないじゃん。しかもあいつ敵だったじゃん。やっぱバカじゃん」
「私だけのことじゃなくて、あなたは人間全体をバカにしている!」
「だってバカじゃん。倒せない敵に向かっていくなんてバカじゃん」
「そんなのやってみなくてはわからないじゃないですか」
「思いっきりやられたじゃんか!何言ってんだバカ!!」
「くぅー」
エリは悔しさのあまり言葉がでなかった。
魔女とはいえ、何も知らないくせにバカ呼ばわりされて、何でこんな人に言われなくてはいけないのかエリは悔しくて堪らなかった。
- 276 名前:身の程知らず 投稿日:2007/05/11(金) 02:41
- 「あのさ、ミキが言いたいのはさ、身の程を知れってことだよ。召喚獣倒すなんて人間じゃ無理だ」
「では、あなたなら倒せるのですか?」
「よゆーよゆー」
「だったら何故あのとき倒さなかったのですか?」
「はあ?なんでミキが倒す必要があるんだよ」
「だって、多くの人が殺されていた」
「知るか!お前らが勝手にやったことだろ!」
「では、何故私を助けたりしたんですか!」
「ミキはれいにゃを助けに行ったんだ!お前が勝手にほうきに掴まったんだろ!」
「あれ?そうでしたっけ?」
「そうだよ。まったく、お前は本当にバカだな」
エリはそうだったかなと思い、首を傾げてれいにゃを見つめた。
エリに見つめられたれいにゃは照れて勢いよく顔を背けた。
その様子を見てさらにエリは首を傾げた。
おかしな人達だなと。
- 277 名前:夜空の星 投稿日:2007/05/11(金) 02:42
- リサはグラス片手に窓から夜空を眺めていた。
戦争が終わってからよく夜空を見るようになった。
夜空に浮かぶ無数の星が亡くなった兵士達の魂のように思えてリサは一つづつ星を見つめては一人づつ亡くなった兵士のこと思い出していた。
すうっと窓から涼しい風が流れて、酔いが回って熱くなった体に心地良さを感じたのも束の間、背後に只ならぬ気配を感じて素早く立ち上がると剣を引き抜いた。
「うわっ、ちょっと待ってよガキさん」
リサの背後に立っていたのはヒトミだった。
ヒトミは真っ白なコートに身を包み、両手を出してリサを制止していた。
出した両手にはナイフが刺さっていた。
リサはそのナイフを訝しげに見つめてからヒトミの顔を見た。
至って普通の表情なのがさらに不気味で剣を強く握り締めた。
「別にガキさんを殺しに来たんじゃないから安心してよ。私も何か飲みたいな」
そう言うとヒトミはソファに腰掛けた。
リサは剣を収めるとグラスを棚から取り出してヒトミの前に置いた。
- 278 名前:夜空の星 投稿日:2007/05/11(金) 02:42
- 「勝手に飲んでください」
そう言うとリサはまた窓際に座って空を見上げた。
ヒトミは不満そうな表情を浮かべながら、テーブルに置かれているボトルに手を伸ばした。
背後からコンコンと何度も音が聞えてきて、リサは何をしているのか気になって振り返った。
ヒトミがボトルを取ろうと何度も手を近づけていた。しかし、手に刺さったナイフの柄によって掴むことが出来ずにボトルは押されて少しずつ遠のいていくばかりだった。
「その手に刺さっているナイフを取ればいいんじゃないんですか?」
「う〜ん。そうなんだけどね。そしたら、また刺さないといけないじゃん。結構痛いんだよ」
「どうしてまた刺さないといけないんですかね?」
「だって、戻らないといけないし」
「どこへ?」
「リカのところへ」
「逃げてきたんじゃないんですか?」
「いや、ちょっとガキさんと話したくて抜けて出てきただけ」
「よくリカ様が許してくれましたね」
「いや、こっそり抜けてきた。ようやく寝てくれたからね」
「そうですか。それで話は何ですか?」
「その前にお酒注いで」
- 279 名前:夜空の星 投稿日:2007/05/11(金) 02:43
- リサは仕方なくヒトミに酒を注ぐと、ヒトミと向き合って座った。
ヒトミはグラスに手を伸ばすと先ほどと同じ様にナイフを柄がグラスに当たって持てずにいた。
「だから、ナイフを抜けばいいじゃないですか!」
「う〜ん。仕方ないか」
ヒトミは渋々といった感じで刺された二つのナイフを引き抜いた。
血が噴き出し床にこぼれるたのを見て、リサは立ち上がりタオルを二つ取り出してヒトミに投げ渡した。
「とりあえずこれで傷口を塞いでおいてください」
ヒトミは渡された二つのタオルのうち、一つだけ取ると手についた血を拭き取った。
そして、拭き終わるとグラスを取り酒を一気に飲んだ。
グラスを持つヒトミの手は傷一つない綺麗な手をしていた。
リサはその手を驚きの目で見つめていた。
- 280 名前:夜空の星 投稿日:2007/05/11(金) 02:43
- 「どうしたの?」
「傷はもう塞がったようですね」
「ああ、怪我の治りは早いほうなんだよ」
早いなんていうレベルじゃない。この人は人間じゃない。
リサはリヴァイアサンの中で優雅に泳ぐヒトミの姿を思い出した。
キラキラと光る海の中を優雅に泳ぐ姿は天使を彷彿させた。あの姿を見た瞬間、到底この人には敵わないと思った。
しかし、結果は私達が勝った。不思議だ。何を企んでいるのかさっぱりわからない。
「それで話とは何ですか?」
「綺麗な夜空だね」
ヒトミはグラスを持って窓際に近づいて空を見上げた。
リサは質問を無視されたことに少し苛つきながらもヒトミの隣に立ち空を見上げた。
「この無数の星は亡くなった兵士達の魂です。すべてあなたが殺した者達の魂です」
「じゃあガキさんが殺した者達の魂はどこにあるんだい?」
- 281 名前:夜空の星 投稿日:2007/05/11(金) 02:43
- リサは返す言葉がなかった。すっかり自分のことを棚に上げていた。
自分だって数え切れない程の人を殺してきた。なのに自分より多くの人を殺した人の方が悪いような言い方をしたことに恥じた。
「この中に含まれているのでしょうね」
「そっか」
「それで話って何ですか?」
「コハルはどうしてるのかなと思ってね」
「知りません」
「あれ?何で?」
「知らないものは知りません。私が面倒を見ているわけではないので」
「そっか。元気にしてるかな?」
「心配なら連れてどこか遠いところへ行って下さい」
「いいの?」
「構いません。というより、どうしてあなたが大人しくここにいるのかが疑問です」
「どうしてって捕まっちゃったから」
「あなたなら逃げれるでしょ」
「そうだけど、もう少しここにいてもいいかなと思ってね」
「そうですか。では、勝手にしてください」
「ガキさん冷たいなぁ〜」
- 282 名前:夜空の星 投稿日:2007/05/11(金) 02:43
- ヒトミはそう言うと空になったグラスに酒を注ぐためにテーブルに戻った。
リサはそのまま窓の外の景色を眺めていた。
窓の外からは城下町が一望できる。そして、その町の先には監獄所の監視灯の明かりが見える。
何気なくその明かりを見つめた。明かりはかなり遠くにあるはずなのに大きくゆらいでいるように見える。
酔いが回ったのかなと思ったリサはソファに座ろうと思って歩きだした瞬間、大きな地響きと共に部屋が大きく揺れた。
リサは足がもつれて、その場に倒れた。それと同時にヒトミは揺れなど気にせずリサを飛び越えて窓から外を見た。
ヒトミは遠くに見える巨大な男の姿をじっと見つめると、リサの方へと振り向いた。
「ごっちん捕まってたんだ」
- 283 名前:夜空の星 投稿日:2007/05/11(金) 02:44
- リサはごっちんと言う名に聞き覚えがないので首をかしげた。
そして、一体何のことかと思い、よろけながらも窓に近づき外を見た。
巨大な男は監獄所の塀を破壊して、町へと向かっているのが見えた。
「このままでは街に入ってしまう!」
リサは叫ぶとすぐさま剣を取り部屋を飛び出そうとした。しかし、ヒトミに肩を掴まれた。
「止めとけ死ぬだけだぞ」
「私は死にませんよ」
リサは掴まれた手をどかすと部屋を飛び出して行った。
ヒトミはリサが出て行く後姿をニヤリと笑って見送った後、もう一度巨大な男を見つめた。
そして、二本のナイフを取ると窓から飛び出した。
- 284 名前:パム 投稿日:2007/05/11(金) 02:44
- つづく
- 285 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/14(月) 17:13
- ここまで来てもまだヒトミの目的がつかめない
でも面白いのでがんばって下さい
- 286 名前:パム 投稿日:2007/05/18(金) 04:13
- >>285
レスありがとうございます。がんばりますYO
- 287 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:13
- 二人の看守は最下層の牢獄までやってくると、何重にもかけられている鍵を一つ一つ外していった。
そして、二人で分厚い鋼鉄の扉を押し開け中に入った。
扉を閉めると今度は内側から鍵をかけた。
中は天井、床、壁すべてに呪符が隙間無く貼り付けられていた。
そして、床には青白く光る石が三メートル間隔で置かれていた。
看守はそれらが剥がれないように慎重に歩いた。
鉄格子の手前で立ち止ると隙間から小さな紙袋を投げ入れた。
紙袋は中で寝ているごとぉーの上に落ちた。
ごとぉーは気付き目を覚ますと、紙袋を開けた。
中には小さなパンが一つだけ入っていた。
「また、これだけぽ?」
「そうだ。どうせもうじき死ぬんだ。十分だろ」
看守は嫌味な笑いを浮かべてごとぉーに言った。
「少ないぽ。ハンバーグ食べたいぽぉ〜」
「うるさい黙れ!ぽっぽっぽ喋るなと何度言ったらわかるんだ!」
「足りないぽ!足りないぽ!」
「うるさい!うるさい!さっさと食って寝ろ!」
「んぽぉー。あったま来たぽ!」
- 288 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:13
- ごとぉーは立ち上がると二人の看守を睨んだ。
しかし、看守は呪符に囲まれているのでごとぉーの睨みに怯えることはなかった。
「ふん。ここで何が出来るというんだ?」
「ごとぉーを甘く見るなぽ」
「お前これが何かわかってないのか?魔封石だぞ。お前の術は封じられているんだぞ。化け物を呼べないお前は普通の女と変らんだろう」
看守はボケットから青白く光る魔封石を取り出してごとぉーに見せた。
魔封石は半径三メートル程の領域内に起こる魔法を無効化させる力を持っている。
そして、呪符を貼ることによってその威力を増強させている。
看守達は過剰な程に張り巡らした呪符と魔封石のおかげですっかり安心しきって、ごとぉーを恐れることなく強気になっていた。
しかし、人間は召喚というのものがどういうものなのか知らなかった。魔法と同じものだと思っていた。
「お前こそ、ごとぉーのことわかってないぽ」
「ふん。好きなようにしろ。何をしようが飯はやらんぞ」
「召喚する前に一つ教えてあげるぽ」
「だから、これがあるから・・・」
「これは魔法を封じる石だぽ。召喚は魔法じゃないぽ。ごとぉーには関係ないぽ」
「何を言ってるんだ」
「死にたくなかったら逃げろぽ」
「ええ?」
- 289 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:14
- 看守はごとぉーの言ってる意味を理解出来なかったが、本能的に何かやばそうな事が起きそうな予感がして手に持っている魔封石をごとぉーに突きつけた。
石を近づけてられてもごとぉーは気にすることなく両手を上げた。
「呼ぶぽ」
「ちょ、ちょっと待て!」
「んぽぉー。んぽぉー。タイぽんぽ出て来いぽっぽぉー!!」
ごとぉーが叫んだ瞬間、地響きが鳴り激しい地震が起きた。
看守は立つことすら出来ない状態で頭を抱えて地面に這いつくばった。
地震はさらに激しさを増し、地面が真っ二つに割れた。
そして、その裂け目から巨大な手が現れると、裂け目をこじ開けるように大きく地面を引き裂いた。
「ごぉおお」と図太い声は上げてタイタンは裂け目から這い上がってきた。
タイタンが立ち上がるとその巨大さ故に天井は崩れて一気に地上に頭が突き出た。
タイタンはごとぉーを抱きかかえると、崩れた天井の穴から地上に這い上がった。
「行け行けぽっぽぉー!!」
ごとぉーの合図にタイタンはその大きな体をゆっくりと動かし、回りの物を次々を破壊しながら進んで行った。
- 290 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:14
- エリとれいにゃはすでに食事を済ませ、黙々と食べるミキの姿を黙って見ていた。
ミキはステーキの最後の一切れを口に名残惜しそうにゆっくりと口に運び入れようとしていた。
肉がゆっくりと口に近づき、エリとれいにゃは早く食べろと心の中で叫びながらじっと口に入るのを見つめていた。
しかし、後もう少しのところで、突然地響きがなり、地面が大きく揺れた。
テーブルに積み重なった皿は崩れ地面に落ちてて大きな音を立てて割れた。
しかし、それ以上に大きな声でミキの怒鳴り声が響いた。
「あ゙ーーー!!最後の一切れがぁーー!!何しやがるんだ!!」
「ミキ様。地震っちゃ!逃げるっちゃ!」
れいにゃはミキに飛びつきしがみついた。
しかし、ミキは地震などもろともせず怒りをあらわにしていた。
「誰だぁー!!誰の仕業だ!」
「ミキ様。落ち着くっちゃ。地震っちゃ。誰のせいでもないっちゃ」
「早くここから出ましょう。この中にいては危険です」
「まだ食い終わってねぇよ!」
「ミキ様!それどころじゃないっちゃ!」
「また、後でご馳走しますから、行きましょう!」
エリはミキの手を取ると無理矢理引っ張って店のへと出ようとした。
しかし、ミキが踏ん張ってその場から動こうとしなかった。
- 291 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:14
- 「どうしたんですか!早く!」
「ちょっと待てって。バナナ持ってく」
「それも後であげますから!」
「これくらいで慌てるなよ。それよか、食べ物を粗末にする奴が許せん」
「地震って言ってるっちゃ!」
「違うよ」
「んちゃ?」
まだ揺れが続く中、エリとれいにゃはミキの言葉に呆気にとられた。
ミキはバナナを手にとるとほうきに跨って、ぼけっとしているれいにゃを掴むと店の外に出て行った。
取り残されたエリも慌てて後を追いかけて、店の外に出た瞬間、タイタンの姿目に入った。
「あいつの仕業だな」
ミキは宙に浮きながら、遠くにいるタイタンを見つめていた。
「ミ、ミキ様。あの化け物何っちゃ?」
れいにゃは怖くなってカバンの中に入り込んで頭だけ出してミキに訊ねた。
「おい!なんでごっちんがここにいる!」
ミキはエリの方を振り向くとエリに怒鳴った。
化け物を見て、腰が引けていているエリに追い討ちをかけるようにミキの怒鳴り声を受けてエリは思わず尻餅をついた。
「だって、あいつは私達の仲間を殺したから…」
- 292 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:14
- ミキはエリの傍に近づくとエリの胸倉を掴み引き寄せた。
「お前らは本当にバカだな。こうなることもわからなかったのか」
「でも、確か術を封じていたはず」
「は?バッカじゃねぇのバカ!!お前らごときが封じることなんかできるわけないだろ!」
「ど、どうしましょう」
「知るかバカ!勝手に踏み潰されろ!」
ミキはエリを突き放すと高度を上げてタイタンを眺めた。
タイタンは目の前にある家や木などお構いなしに破壊しなが突き進んでいた。
街中の至るところから叫び声を上げながら逃げる人々と鎧を身にまとった兵士達が入り混じって街は混乱していた。
先ほどミキにちょっかいを出した男達も走ってこちらに向かってくると、エリの前で立ち止った。
「エリ殿。何をしておられるのですか!共にあの化け物の退治を!」
男はエリを立たせ、自分が被っていた兜をエリに被せた。
ミキはエリや男達がタイタンを倒そうとしていることに気付くとエリの所まで降りた。
「おい、やめとけって。死ぬだけだぞ」
「女は黙ってろ!死んでもこの街を守ってやる!」
「お〜。口が臭いだけに臭いこと言うねぇ〜」
「貴様……。ふん、まあいい。俺たちにまかせてお前は逃げろ」
そう言って男達はタイタンに向かって走って行った。
エリはぶかぶかの兜を手で抑えながら、困った表情でミキを見た。
- 293 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:14
- 「何だよ。お前は行かないのか?」
「ミキ様何言ってるっちゃ!エリ様、死んじゃうっちゃ!エリ様一緒に逃げるっちゃ」
「いや、私も行く。あなた達は逃げてください。関係ないですから。お礼が出来て良かったです」
エリはミキにそう告げると走り去った。
「何がお礼が出来て良かっただよ。あいつ金払ってないじゃん」
「ミキ様!!」
「なんだよ。まさか、助けろとか言うなよ」
「そうっちゃ!助けるっちゃ!」
「ふざけんな!あいつらがごっちん捕まえたのがいけないんだろ!自業自得だ!」
「何でっちゃ!何でミキ様はそうやって逃げるっちゃ〜」
れいにゃは泣きながらミキにしがみついた。
ミキはそんなれいにゃを見て溜息をついた。何でこいつはこうエリを助けようとするのだろうかと不思議でならなかった。
「あのさ、逃げるわけじゃなくて、助ける必要がないだけ」
「何でっちゃ。何でエリ様助けてくれないっちゃぁ〜」
「てか、何で助けるんだよ」
「死んじゃうっちゃぁ〜」
「それは他の奴だって同じだろ」
「もう、いいっちゃ!ミキ様に頼まないっちゃ。れいにゃが助けに行くっちゃ!」
れいにゃはカバンから飛び出すと全速力でエリを追いかけた。
ミキはれいにゃの後ろ姿を見つめて、大きく溜息をついた。
「何でこうなるかなぁ〜」
ミキは不満を漏らすとれいにゃを追いかけた。
- 294 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:15
- 「行け行けぽっぽぉー!!」
タイタンはごとぉーの声に反応して次々と建物を破壊しながら一直線に突き進んでいた。
タイタンを止めるために駆け寄った兵士達も巨大な化け物相手に手の出しようがなく、ただ、後退していくばかりであった。
そこへようやくリサが駆けつけた。
「弓隊を配置に着かせろ!ハンマーを持って来い!」
リサは兵士達に命令を下すと、自分はタイタンの目の前に立ち大きく両手を広げた。
「止まれ!」
「タイぽんぽ。踏み潰しちゃえっぽ」
タイタンは片足を上げるとリサ目掛けて力強く足を落とした。
しかし、動きの遅いタイタンの攻撃を難なくリサは避けた。
タイタンは何度となくリサを踏み潰そうと追いかけては足を振り落としていった。そのたびに地面は激しく揺れ、リサも体勢を崩すが、幸いにもタイタンは連続して攻撃することができないためにリサはすぐに体勢を立て直すことができた。
リサはただタイタンの攻撃を避けているわけではなかった。避けながらも、誰もいない広い場所へとタイタンを誘導していった。
- 295 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:15
- 「れいにゃぁ〜頑張れぇ〜。あいつはまだ先だぞぉ〜」
ミキはれいにゃに追いついても拾い上げることはせず、れいにゃの横で声をかけていた。
れいにゃはミキの言葉を無視して一心不乱にエリを追いかけている。
「れいにゃ。ミキこんなことしてる場合じゃないんだよね」
「勝手にどこでも行けばいいっちゃ!れいにゃはエリ様を助けるっちゃ!」
「あ゙ー!!もう!バカばっかりだなちくしょう!」
ミキはれいにゃを掴み取るとそのまま浮上してスピードを上げた。
「ミキ様?」
「いいか、れいにゃ。これで最後だぞ」
「ミキ様!!」
れいにゃは大喜びしてミキを顔を見上げた。
- 296 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:15
- リサの命令どおり、高台には弓隊が配置に着き、タイタンに狙い済ましてリサの号令を待っていた。
そして、巨大なハンマーを持った屈強な男達が数人タイタンの周りを囲み緊迫した空気が流れていた。
タイタンは手を大きく振り、周りにいる兵士達を襲いかかるも、動きが鈍く兵士は難なく交わした。
兵士は避けると同時にハンマーを振り降ろしてタイタンの腕を破壊するが、粉々になった岩はすぐタイタンの腕に戻り、あっと言う間に修復されていた。
タイタンに大きなダメージを与えることができず、兵士達の疲労が募るばかりだった。
リサはタイタンを倒すつもりは最初からなかった。狙いはタイタンの左肩に座り、タイタンの左手によって守られているごとぉーを仕留めるつもりでいた。
あの左手さえどかすことができれば、一斉に射撃を行ってごとぉーを倒すつもりでいた。
しかし、やっかいなのが地震だった。タイタンが動く度に大きく地面が揺れる。
タイタンが体勢を崩したときに地面が揺れれば、弓の命中率が大幅に下がる。
リサは自慢のマユゲをさすりながら何か良い方法がないかと悩んでいた。
- 297 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:15
- 「ガキさーん!」
リサが悩んでいると、背後からエリの声が聞えてきた。
振り返ると剣を片手にぶかぶかの兜を揺らしながらエリが走ってきた。
「ガキさん。状況は?どうやって倒す?」
「あまりよくない。ハンマーで破壊してもすぐに治る。そして、この地震だ。中々近寄ることができない。空でも飛べればいいが」
「飛ぶ?」
「冗談だ。真剣に考えよう」
「ガキさん。飛べますよ!空を飛べる人がいますよ!」
「カメ。いちいち話に乗らなくていい。真剣に考えよう」
「だから、空を飛べる人がいるんですって。魔女がいるんですよ!」
「魔女?」
リサは喜んで話すエリの顔を眉を潜めて見つめた。
魔女がこの世に存在することは知っている。しかし、一度も会ったことのないリサは到底エリの言うことが信じられなかった。
「協力してもらうように頼んできます」
エリはそう言うと今来た道を振り返って走り出そうとしたその瞬間、タイタンの足元に稲妻が落ちた。
爆音と爆風でタイタンも周りにいた兵士達も驚いて皆体勢を崩した。
リサもエリも体勢を崩してその場に伏せた。
- 298 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:15
- 「こらぁー!!ごっちーん!!お前のせいで最後の一切れ食えなかったんだぞ!」
「ミキ様。いきなり雷落したらみんなに当たっちゃうっちゃ」
エリはミキの声が聞えて頭を上げると空中に浮かんでいるミキの姿を見つけた。
「ガキさん。あの人が魔女のミキ様です」
リサも頭を上げてエリが指差す方向を見上げた。
確かにそこにはほうきにまたがり、いかにも魔女らしい格好をした女がいた。
リサは信じがたい気持ちでミキを見つめていたが、タイタンがどうなったか気になり振り向くと、タイタンは肩膝をつき、両手を地面に置いていた。
ごとぉーの姿がはっきり見えた。
リサはすかさず弓隊の方を向くと片手をあげて力強く振り下ろした。
「撃てぇー!!」
- 299 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:16
- エリは何事かとリサが見ている方向を見ると、一斉に矢の雨が降り注いた。
矢はタイタンの左肩にいるごとぉー目掛けて飛んでいるがその間にミキがいることにエリは気付いた。
「ミキ様!危ない!」
エリはミキに向かって大声を張り上げた。
エリの声に気付いたミキが何事かと振り向くと目前まで矢が来ていることに気付き、間一髪のところで浮上して矢を避けた。
「危ねぇな!何しやがるんだ!」
矢はミキを通りすぎ、ごとぉー目掛けて飛んでいった。ごとぉーもエリの大声に気付き矢がこちらに飛んできていることに気付くと素早くタイタンから降りて背後に回って寸前のところで矢を避けた。
「何するぽ!危ないぽ!怒ったぽ。タイぽんぽ、早くみんなやっつけちゃえっぽ!」
タイタンはごとぉーを拾い上げて立ち上がった。
それと同時にミキもエリの下に降りた。
「お前な。せっかく助けにきてやったのにどういうつもりだ!」
「違います。ミキ様を狙ったわけではありません。あの化け物を狙ったんです。そうですよね?ガキさん」
リサはエリの質問は答えずにじっとミキを見つめていた。
「ガキさん?なんだよ。ガキがこんなとこにいちゃ危ないぞ。あっち行け」
リサはマユゲをピクリと動かすとミキに近寄った。
- 300 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:16
- 「私はガキさんと呼ばれているがガキではありません。それよりも魔女、一つ聞きたい。あの女を殺せばあの化け物は消えるか?」
「あの女ってごっちんのことか?う〜ん。まあ、そうだろうな」
「やはりそうですか」
「多分な」
「何としてでもあそこからあいつを出さなくては行けませんね」
「まあ、ミキにまかせておけって」
「大丈夫なのか?」
「ああ、よゆーよゆー」
ミキはそう言うとタイタンに近くまで歩いった。
「ミキ様、本当に大丈夫っちゃ?」
「さあ?」
「エリさまぁー!!助けてっちゃぁー!!」
「えっ!?」
エリは突然れいにゃの助けを求める声を聞いて一体どういうことかと戸惑った。そして、どうするか訊ねるようにリサを見た。
「カメ。いいか、今度、矢を放ったときは大声を出すなよ」
- 301 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:16
- リサはエリに冷たくそう言うと、弓隊に準備の合図を送った。
エリは弓隊を見つめ、弓隊が狙う先へと視線を動かした。
エリが見たその先にはタイタンとタイタンへと近づくミキの姿があった。
「ガキさん。あの人は殺さないで下さい」
「あの魔女がヒトミが付いて行けと言っていた魔女か?」
「はい」
リサはじっとミキの後ろ姿を見つめた。
あいつもヒトミの仲間なのだろうとリサは思った。
ヒトミはエリまでも巻きこんで何をしようとしているのだろうか。
リサは腕を組みミキがこれから何をするのか見つめながら考えていた。
- 302 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:16
- ミキはタイタンの目の前までくるとごとぉーを見上げた。
「おい。ごっちん。お前のせいでステーキの最後の一切れ食えなかったんだぞ。どうしてくれるんだ」
ごっちんと呼ばれたごとぉーは自分のことを知っている人物が来たと思い、タイタンの指の隙間から覗きこんだ。
「お前誰だぽ。なんでごとぉーのこと気安く呼ぶぽ」
「うっせぇ!ミキの肉をどうしてくれるんだと言ってんだよ!」
「知らないぽ!ごとぉーなんてお肉すら食べてないぽ!」
「お前の飯のことなんて知るか!とにかく謝れ!」
「ごめんぽ」
ごとぉーはミキの迫力に思わず謝ってしまった。
「うん。ちゃんと謝ればいいんだよ。それとタイタン戻せ」
「なんでだぽ!いやだぽ!ごとぉーここから逃げるんだぽ」
「うるせぇ!こいつのせいで肉が落ちたんだ!早く消せ!」
「ミキ様まだお肉のこと怒ってるっちゃ?」
れいにゃはカバンから頭を出して呆れるようにミキに訊ねた。
- 303 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:16
- 「当り前だろ。食べ物を粗末にするともったいないゆゆたんお化けが出るぞ」
「それは怖いっちゃね。ちゃけど、今はそれどころじゃないっちゃ。ごとぉー様、れいにゃからもお願いっちゃ、召喚獣消してくれっちゃ」
「んぽぽ?れいにゃだぽ。元気にしてたぽ?」
「れいにゃは元気っちゃ。お願いっちゃ」
「あっ!そうだ。お前れいにゃ食おうとしただろ!」
「ごとぉーは猫食べないっぽ!さっきから生意気だぽ!」
「お前のほうが生意気だ!ミキの言うことを聞け!」
「なんで魔女ッ娘の言うことなんか聞かなくちゃいけないんだぽ!」
「魔女ッ娘言うな!いい加減にしないとぶん殴るぞ!」
ミキはそう言うとほうきにまたがってごとぉーの近くまで上がった。
「ごっちん!早くタイタン消せ!」
「んぽっ!バナナだぽ!バナナくれぽ!」
「ふざけんな!これはゆゆたんへのお土産だ!誰がお前なんかにやるか!」
「くれぽ!ミキティくれぽ!」
「ちょっと待った。ミキティってなんだ?」
「ミキだからミキティだぽ。魔女ッ娘ミキティだぽ」
「てめぇ、いい加減にしろよ!出て来い!」
「バナナくれぽ!」
「欲しかったら出てきやがれ!」
「わかったぽ」
ごとぉーはタイタンの指の隙間を潜り抜けて姿を現した。
- 304 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:17
- 「出てきたぽ。くれぽ」
「う〜ん。本当に出てきやがったな。その前にタイタン消せ」
「ミキティずるいぽ!出てきたらくれるって言ったぽ!」
「ミキティ言うな!ミキ様って呼べ!」
「ミキティくれぽ!バナナくれぽ!」
「ミキ様。あげるっちゃ。また、後で買えばいいっちゃ」
「チッ。まあ、そうだな。ほら、ごっちん。それ食ったら、さっさとタイタン消せよ」
「んぽぽ。バナナだぽ。久しぶりだぽぉ〜」
ごとぉーはバナナを受け取る嬉しそうに皮を剥き始めた。
「そうだ。写真撮らなきゃ。タイタンも中々見れるもんじゃないしな」
「ミキ様。相変わらずっちゃね」
ミキはそういうとカバンからカメラを取り出して、タイタンとバナナを食べるごとぉーにピントを合わせてシャッターを押した。
シャッターを押した瞬間、ミキはタイタンの背後にぼんやり赤く炎のようなものが見えたことに気付いた。
カメラから目を離して、直接タイタンの背後をじっと眺めると瞬く間にミキの顔が青ざめた。
「ミキ様。どうしたっちゃ?」
「来るぞ!!逃げろー!!」
「んぽぽ?何が来るぽ?」
- 305 名前:地震雷火事… 投稿日:2007/05/18(金) 04:17
- ミキは素早くカメラを仕舞うと、タイタンから離れて、エリの方へと飛んで行った。
「ミキ様。どうしたのですか?」
「おい!お前ら全員逃げろ!死ぬぞ!」
ミキはエリを掴んでほうきの後ろに乗せると飛び出そうとした。
リサはミキの言葉を聞いて、失敗したのかと思い、素早く弓を構えるとごとぉーに狙いを定めた。
「おい!ガキんちょ!何やってんだよ。こんなところにいたら殺されるぞ!」
「うるさい!何も出来なかったくせに生意気言うな!」
「違うよ!あんなのよりもっとヤバイのが来る。そんなの何の役にも立たないぞ!」
「何?」
リサは弓を引くのを止めてミキを見た。
ミキはすかさずリサを掴んでもうスピードで逃げ出した。
その様子を離れて見ていた兵士達はリサが捕まったと思い後を追いかけた。
ミキがリサも捕まえて程なくしたところ、タイタンの背後で爆音とともに巨大な火柱が立ち上った。
爆風に煽られて、ミキは自分を制御できずに回転しながら地面に叩きつけられた。
そして、ずっと高台から様子を見ていたヒトミもその巨大な火柱を喜んで見つめていた。
「やっと現れてくれましたね」
- 306 名前:パム 投稿日:2007/05/18(金) 04:17
- つづく
- 307 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/29(火) 15:09
- なんかどこかで見たことあるような二人の関係w
いろいろありましたががんばって欲しいです
- 308 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/31(木) 06:32
- パムさんが書くごっちんが可愛すぎて萌え死にそうです
- 309 名前:パム 投稿日:2007/06/19(火) 04:17
- >>307
>>308
どうもレスありがとうございます。
だいぶ空けてしまってしまいましたが、もうせっかくなのでゆゆ誕にあわせて今日の更新行きます。
- 310 名前:地震雷火事ゆゆたん 投稿日:2007/06/19(火) 04:17
- 「いてぇ〜。なんちゅう登場の仕方するんだよ」
ミキは頭をさすりながら火柱が立ち上った場所を見返した。
火柱は空を突き抜けて一瞬にして消え、辺りは不気味な黒煙が立ち上っていた。
れいにゃは恐る恐るカバンの中から出て頭だけ出すとミキを見つめた。
「ミキ様、さっきの何っちゃ?」
「何って、れいにゃわかんないのかよ」
れいにゃは立ち上る黒煙を見つめた。
その中から感じる気配を察知したれいにゃはカバンの中から飛び出した。
「お師匠さまっちゃぁー!!」
れいにゃは大喜びで飛び跳ねてユウコの姿を見るため家の屋根に駆け上った。
「ミキ様。お師匠さまっちゃよ。助けに来てくれたっちゃ」
「そうかな?なんか様子が違うような気もするけど」
風で煙が流れるとようやくユウコの姿が見えた。
ユウコは火柱が立った場所で腕を組んで仁王立ちして、タイタンを睨みつけていた。
睨まれたタイタンは、地面に膝を着いたまま立ち上がることも出来ず、巨大な体を震わせていた。
「おい。タイタンがビビってるぞ」
「さすがお師匠さまっちゃね」
- 311 名前:地震雷火事ゆゆたん 投稿日:2007/06/19(火) 04:17
- ごとぉーは間一髪のところでタイタンの手の中に戻って、火柱の業火から身を防ぐことができた。
しかし、まだ油断は出来なかった。
立ち込める黒煙の中から凄まじい魔力を放っている何者かの気配をごとぉーは感じ取っていた。
「誰だぽ?誰かいるぽ?」
ごとぉーは目を凝らして黒煙の中を見ると、うっすらと人影がこちらに向かって歩いているのが見えた。
「タイぽんぽ気をつけるぽ。誰か来るぽ」
タイタンは身構えるも、中から放たれる巨大な魔力に怯えて立ち上がることが出来なかった。
煙が風に流れて徐々にはっきりとユウコの姿を現れてきた。
ごとぉーはユウコの姿を確認すると、慌ててタイタンから転げ落ち、タイタンの腕を叩きながら大声でタイタンに命令した。
「ゆうちゃんだぽ!タイぽんぽ戻っていいぽ。お疲れっぽ!」
タイタンはごとぉーの言葉に従い、地面に沈むように姿を消した。
タイタンが消えたことを確認したごとぉーは恐る恐る振り返ると、すぐ側までユウコが来ていた。
「ごっちん!!」
「ごめんぽぉー!!」
怒鳴られたごとぉーは頭を抱え、体を丸くして怯えた。
ユウコは、頭を抱えたごとぉーの手を見て顔しかめた。
そして、ユウコは何も言わさずごとぉーが持っているバナナに火を放った。
バナナは一瞬にして黒焦げになり、ごとぉーの手から灰となって崩れ落ちた。
「んぽぽっ!!あっついぽ!ゆうちゃん何するぽ!」
「うっさい!!ごっちんがそんなもん持ってるのがあかんやろ!」
「ぽんぽんペコペコっぽ。バナナ食べたかったぽ!」
「うっさいボケ!」
「んぽぉ〜。ごとぉ〜のバナナぁ〜」
「後で好きなもの食わせてやるから帰るぞ」
「やだぽ」
ごとぉーは立ち上がると、手に付いた焦げを払いながら踵を返してユウコとは反対方向に歩きだした。
- 312 名前:地震雷火事ゆゆたん 投稿日:2007/06/19(火) 04:18
- 遠くで見ていたミキは、ユウコが躊躇なくごとぉーに火を放ったのを見て唖然としていた。
「ゆゆたん、ごっちん殺す気なのか?」
「どうっちゃろ。でも、ごとぉー様は大丈夫そうっちゃ」
「う〜ん。とりあえずミキに用があって来たわけじゃなさそうだな」
「そうっちゃね。ミキ様どうするっちゃ?お師匠様のところに行くっちゃ?」
「うん。聞きたいこともあるし」
れいにゃはミキが言うのと同時にカバンの中に飛び乗るのと、ミキもほうきにまたがりユウコの元へ飛び立った。
「ゆゆたぁ〜ん」
「お師匠さまぁ〜」
ミキはユウコの隣に下りると久しぶりにあったせいもあって自然と笑顔がこぼれた。
「ミキか、どうした?」
「どうしたって、こっちが聞きたいんですけど…」
「臭い」
「はい?」
ユウコは顔しかめてミキを睨みつけた。
ミキは何のことかわからず首を捻り、れいにゃを顔を見合わせた。
「あっ!れいにゃがさっき、うんこみたいなの食ったからですよ」
「ごめんちゃ。でも、そんなに臭くはないっちゃ」
ユウコはさらに顔しかめ後ずさると、ミキを追い払うように手を振った。
「お前らバナナ食ったやろ」
「うん、食べた。ゆゆたんも食べる?」
「アホか!!くっさいねん!!喋んな!息すんな!死ね!!」
「え?」
すると突然ミキのお尻の辺りがじりじりと燃え出した。
「うおぉー!!あちぃいい!!」
ミキは大声を上げると、お尻をはたきながら走り回った。
「喋んなって言ったやろ!!」
ユウコはさらにミキをかすめるように火の玉を放った。
「危ねっ!」
- 313 名前:地震雷火事ゆゆたん 投稿日:2007/06/19(火) 04:18
- ミキは思わず大声を出したがすぐに両手で口を抑えてユウコの方を見た。
しかし、手で抑えてもすでに声を上げていたので、さらに第二弾の火の玉が飛んできた。
ミキは全力で走って逃げると前方に見えた噴水に飛び込んだ。
ミキは口で手を抑えながら、久々の恐怖に震えた。
そして、ミキはどうして今までバナナを食べることが出来なかったのかを理解した。
「ミキティざまあみろっぽ!」
「うっせぇ!!………うゎっ!ちょ!」
ユウコが放った第三弾の火の玉は噴水を直撃して、一瞬にして水が蒸発した。
ミキは寸前のところでかわすことが出来たが、いつもとは違う桁外れの魔法に腰を抜かして、その場にへたりこんだ。
エリとリサは、突然、火柱が起こり訳もわからず呆然と眺めていたが、ミキが立て続けに攻撃されているのを見て、これは一大事だと思い、ミキの元へと駆け寄った。
「大丈夫か?」
リサは腰を抜かしているミキに手を差し伸べるが、ミキは気付かずじっとユウコの姿を見つめていた。
リサもミキが見つめるその視線を追ってユウコの姿を見つめた。
リサは、それがユウコだとは気付いてはいなかったが、先ほどのタイタンよりも遥かに強いことを肌で感じ取った。
ミキと視線を合わせるように腰を降ろして、ミキにもう一度訊ねた。
「どうした?立てるか?」
次、喋ったら殺されると思ってるミキは当然喋ろうとはしなかった。
- 314 名前:地震雷火事ゆゆたん 投稿日:2007/06/19(火) 04:18
- 「ガキさん。あの人も魔女ですよ」
エリは、リサと違って好奇心の眼差しでユウコの姿を見つめていた。
ミキとは違うその存在感に圧倒され、胸が高ぶっていた。
リサはそんなエリの姿を呆れるように溜息をついて立ち上がった。
「それは見ればわかる。問題なのは敵か味方のどちらかと言うことだ」
「ミキ様。あの人は誰ですか?」
ミキはようやく立ち上がると、エリに向かってあっちに行けと手振りで示した。
「どうしたんですか?喋れなくなったんですか?」
のん気に話すエリに苛立ったミキは、エリを無視してリサに対して同じように手振りでここから逃げるように示した。
「どうやら帰れと言いたいようだが、そういう訳には行かない。あの魔女は一体誰だ?喋れないのなら地面にでも書いてくれ」
ミキは、ほうきの柄の部分を地面に付けると大きく「ゆゆたん」と書いて、ユウコの方へと走っていった。
地面に書かれた「ゆゆたん」という文字を見て、リサとエリはお互いに首を傾げた。
- 315 名前:地震雷火事ゆゆたん 投稿日:2007/06/19(火) 04:18
- ユウコは、逃げようとするごとぉーに向かって手を伸ばすと、こちらに引き寄せるようにして手を引いた。
するとごとぉーは引っ張られるようにして引きずられながらユウコの足元まで戻ってきた。
「ゆうちゃん何の用だぽ!」
「ごっちん、長が心配しとったで、一緒に帰ろ」
「いやだぽ。ごとぉーは探し物があるんだぽ」
「なんや?」
「秘密だぽ」
ユウコとごとぉーが話しているところに恐る恐るミキは近づいていった。
それに気付いたユウコは振り返ると、キッと睨みつけた。
ミキは一瞬ビクリとして、姿勢を正して直立不動のままユウコを見つめた。
ユウコは、ミキが久しぶりにこんなにも怯える姿を見て、小さい頃のミキを思い出し、ふっと笑みをこぼれた。
そして、ユウコは袖の懐を探ると、小瓶を取り出してミキに渡した。
「それを飲め」
ミキはその小瓶をかざして中身を見た。中にはいかにも怪しげな赤色の小さな粒が入っていた。
ミキは意を決して、蓋を開けると手のひらにそれを2,3個こぼしてユウコを見た。
そして、指で1個?2個?と訊ねるとユウコは手のひらを広げて5個と返した。
ミキは顔引きつらせて、さらに瓶を振って5個出すと、とりあえず、れいにゃの口元に持っていった。
「あんたが先に飲まんか!」
ユウコに怒鳴られて、ミキはすぐさま飲み込んだ。
すると胃が燃えるように熱くなりその場に倒れこみ悶え苦しんだ。
「うぉー!!あちぃー!!」
「ミキ様!ミキ様!どうしったっちゃ!」
れいにゃはユウコに喋るなと言われているのも忘れて、ミキの周りを走りながら慌てた。
ユウコは小瓶を拾い上げると、中から一粒だけ出してれいにゃの口に放り入れた。
「んちゃ?」
- 316 名前:地震雷火事ゆゆたん 投稿日:2007/06/19(火) 04:19
- れいにゃはそのまま飲み込んでしまったが、ミキのようにはならずユウコを不思議そうに見つめた。
「これは1個しか飲んだらあかんねん」
「なんでミキ様にたくさん飲ませたっちゃ?」
「なんとなく」
れいにゃは悶え苦しむミキを見ながら、「さすがのミキ様もお師匠様には敵わないちゃね」と思った。
「うぉ〜。死ぬかと思った。で、ゆゆたんどうしたの?」
「ん?あっ、そうや。ごっちん帰るで」
「ヤダって言ってるぽ!」
「こらぁー!ごっちんの癖にゆゆたんに向かってなんて口利いてんだ!」
「魔女ッ娘は黙ってろぽ!」
「魔女ッ娘言うなって言ってるだろ!」
「ミキ、黙ってろ」
「はい」
「探し物ならミキにさせるから、ごっちんは帰ろう」
「こんな魔女ッ娘じゃ無理だぽ!」
「なんだとてめぇ!てか、なんでミキが?」
「それくらいええやん」
「よくないよぉ〜」
「とにかく、ごとぉーは探し物があるからもう行くぽ」
「わかった。長にはそう伝えておくわ。でも、連絡くらいしてやり」
「わかったぽ」
- 317 名前:地震雷火事ゆゆたん 投稿日:2007/06/19(火) 04:19
- ようやくユウコから解放されたごとぉーはユウコから離れて、一人歩き出して行った。
が、しかし、すぐにリサとエリがごとぉーの前に立ちはだかった。
「どこに行くつもりだ。逃がすわけにはいかない」
リサはごとぉーに向かって剣を突きつけ、ごとぉーの行く手を遮った。
「邪魔するなぽ!」
「おい!お前らいい加減にしろよ!」
ミキはリサがごとぉーに向けて剣を突き出したのを見て、すぐさま飛んで行って間に割って入った。
「あっ、ミキ様喋れるようになったのですね」
相変わらずのん気なことを言うエリを一瞥して、ミキは後ろにいるユウコを気にしながら、リサに剣を収めるように急かした。
「おい、ガキんちょ。悪いこと言わないから早く剣を仕舞えって」
「ガキんちょじゃないですよ。ガキさんですよ」
またしても、どうでもいいことを言うエリを、ミキは手で押しのけた。
「さっきからお前うるさいよ!あっち行けバカ!」
「ちょっと、何するんですかミキ様」
「カメは私の親友だ。手荒な真似は許さんぞ」
そう言うとリサは剣の矛先をごとぉーからミキに変えた。
ミキは向けられた剣に怯えることなく、リサを睨みつけた。
しばし睨み合いが続いたところで、ようやくユウコがミキ達のところまでやってきた。
- 318 名前:地震雷火事ゆゆたん 投稿日:2007/06/19(火) 04:19
- 「一体何の騒ぎや?」
「あっ!ゆゆたん。こいつらは単なるバカだから気にしないで」
「単なるバカにしては物騒な物持ってるな」
ユウコはミキを押しのけてリサの前へと立ちはだかった。
リサは、後退ろうとする足を踏ん張り、力強く剣を握り締めた。
ユウコはリサの強い眼差しをじっくりと見つめた後、ポンと手を叩いた。
「ああ、誰かと思えば、ゴールドランドの王やないか。久しぶりやな。それにしても、あんた老けんな」
リサはユウコの言葉を聞いた瞬間、瞳孔が大きく開き、何の迷いもなくユウコに向かって切りつけた。
しかし、ユウコに剣が当たる直前で何者かがその間に割って入り、自らの腕を犠牲にしてリサの剣を受け止めた。
そして、その次の瞬間、リサの脇腹を蹴り、突き飛ばすと、倒れるリサに飛び掛って、持っていたナイフをリサの喉元に突き刺そうとしたところで、ユウコがナイフに向かって炎を放ち一瞬にしてナイフを溶かし消した。
「うおっ!あちぃ!!」
突然現れた者はリサから離れると、熱くなった手を振って冷ました。
「ヒトミ様!」
エリは大声で驚きの声を上げると、ヒトミの元に近寄った。
「どうして、ガキさんを…」
「ん?だって、ユウコ様を切ろうとしたから」
「ユウコ様?」
エリは首を傾げながら、そのユウコの方へと振り返り、そして、またヒトミの方を見た。
そして、「えっ」とだけ発して硬直した。
- 319 名前:地震雷火事ゆゆたん 投稿日:2007/06/19(火) 04:19
- リサは蹴られた脇腹を押さえながらエリの隣まで来ると、エリの肩を押さえつけて無理矢理座らた。
そして、エリの頭を押さえつけ、自分も頭を下げた。
「知らなかったとはいえ、大変無礼を致しました」
リサはユウコに対して詫びると、剣をユウコに差し出した。
「死んでお詫び致します」
「えっ!?ガキさん!!」
エリはリサの言葉に驚き頭を上げるがすぐさまリサに押さえつけられた。
「私の命だけでどうか許して頂けますでしょうか」
「まあ、カメちゃんにはここで死んでもらっちゃ困るから、ガキさんだけで許してあげましょうか?」
ヒトミはそう言うとリサが差し出した剣を手に取った。
「死ぬはあんたのほうや」
「はい?」
「あんたら頭を上げんか。あれくらいで怒ったりせえへん。それに怒らせたのはうちの方みたいやし」
リサはゆっくりと頭を上げると、ユウコの顔を見た。
「本当に失礼しました。あいつに間違えられると自分でも制御が効かなくなってしまうんです」
「あいつ?ああ、そうなんか。違うんか」
「はい。でも、半分はあいつの血が流れてます」
「そっか。そういうことか」
「どういうことなんですかね?」
「うっさい。はよ死ねボケ」
「ええー。久しぶりに会ったのにそりゃないよユウコ様」
- 320 名前:地震雷火事ゆゆたん 投稿日:2007/06/19(火) 04:20
- ユウコはヒトミの言葉を無視してミキの方へと振り向いた。
「ミキ!!!」
「はい!」
「殺せ」
「誰を?」
「言ったやろ、ヒトミを殺せって」
「えっ?ちょっと、ユウコ様?」
ヒトミは訳がわからず、とりあえずユウコの機嫌を取ろうと近寄った。
しかし、ユウコはヒトミをキッと睨んで、ヒトミを近づけさせなかった。
「どうして生きている」
「それは死ななかったら」
「嘘付け、あのとき死んだではないか」
「そうなんですけどねぇ〜」
「まあよい。あんたはここにいてはいけない人間だ」
「私に死ねと」
「そうや」
「わかりました」
ヒトミは静かにそう言うと、リサから取った剣をミキに向け、そして、微笑んだ。
「えっ!?ちょっと待って、ミキは戦うつもりはないぞ!」
「そうか、君はユウコ様のお弟子さんだったのか」
「だからなんだよ」
「私に見間違いはなかったようだ」
「どういうこと?」
ミキは意味がわからなかったのでユウコに訊ねた。
「ヒトミの言うことをいちいち気にするな」
「そうですか。というか、ミキはお前を殺すつもりないぞ!」
「大丈夫。自分で死ぬから」
- 321 名前:地震雷火事ゆゆたん 投稿日:2007/06/19(火) 04:20
- ヒトミは剣を自分の喉元にあて、ユウコを優しく見つめた。
「私はユウコ様が死ねと仰るのならば喜んで死にますよ」
「そうか」
ユウコもヒトミを優しく見つめ返した。
ミキは見つめ合う二人を見て、一体この二人に何があったのだろうかと思った。
しかし、何があったのか考えたところでわかることはなく、ただ、なんとなく死んではいけないような気がした。
「ちょ、ちょっと待った!!」
「なんやミキ」
「おかしくないですか?」
「何が」
「だって、大体なんでこいつが死なないといけないのですか?」
「こいつはとっくに死んでるはずだからや」
「生きてますよ」
「そうや、おかしいやろ」
「はい」
「だから殺すんや」
「それもおかしいですよ」
「なんやうちに逆らうのか?」
「逆らうっていうか、そのぉ〜。別に生きてるんだからいいじゃないですか」
「よくないって言ってるやろ!アホ!!」
「アホはどっちだよぉー!生きてるんだからいいじゃんかよぉー!ゆゆたんはこいつと一緒に旅したんだろぉー!一緒に戦った仲間なんだろ。生きてたんだから喜べばいいじゃんかよぉー」
「ミキ様・・・」
涙ぐみながらユウコに訴えるミキの姿を見て、れいにゃも自然と涙がこぼれた。
その様子を見たヒトミは微笑んでユウコを見た。
- 322 名前:地震雷火事ゆゆたん 投稿日:2007/06/19(火) 04:20
- 「ユウコ様は可愛いお弟子さんを見つけたようですね」
「ああ、情けない奴や」
「ミキちゃん。お師匠様の言うことはちゃんと聞かないとダメだよ」
「うるさい!お前に言われる筋合いはない!」
「それじゃあ」
そう言ってヒトミは何のためらいもなく、喉元にあてていた剣をすうっと引き抜いた。
すぐさま大量の血が噴き出し、ヒトミはその場に倒れた。
「ゆゆたんのバカー!!」
倒れるヒトミを見て、ミキはユウコに向かって叫ぶとほうきに跨って飛び出して行った。
れいにゃもすぐさまミキに飛びついて一緒にその場から去った。
ユウコは倒れるヒトミに近づき、服に着く血を気にせずヒトミを抱きしめた。
そして、二人を優しい炎が包み込み、炎が消えると同時に二人は消えた。
- 323 名前:パム 投稿日:2007/06/19(火) 04:20
- つづく
- 324 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/19(火) 04:59
- うわわわ、なぜだ!
続き楽しみにしてます。
- 325 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/20(水) 00:37
- やっとゆゆたん登場!
バナナで爆笑してしまいました!
- 326 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/20(水) 12:17
- 「地震雷火事ゆゆたん」に爆笑しましたw
- 327 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/21(木) 13:06
- あわわわわどうなるんだこれなんでなんだ!
- 328 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/24(日) 10:27
- ホントどうなっちゃうのひとみもゆゆたんもわかんないよ
- 329 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/24(日) 10:27
- ホントどうなっちゃうのひとみもゆゆたんもわかんないよ
- 330 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/25(月) 03:27
-
頑張れ!パムさん!寝るんじゃない!起きろ!
- 331 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/27(水) 20:29
-
『一瞬』ガキさんの名前忘れてた。リサって誰?って。
ドキ、ワク、ドキ、ワク。
- 332 名前:パム 投稿日:2007/07/01(日) 05:31
- >>324-331
いつもながらまとめてレス返させて頂きます。
ここはポイントだったのでレスが多くて安心すると共に嬉しかったです。
まだまだわからないことだらけですが、引き続きよろしくお願いします。
- 333 名前:不老不死 投稿日:2007/07/01(日) 05:31
- リサは鎧を外すと、そのままベットに倒れこんだ。
体を返して仰向けになると、窓の外の夜空を見つめた。
星の中に新たに大きく輝く星が一つ増えていることに気付いた。
あれはヒトミの魂の星なのだろう。長く生きた分だけ輝きが増している。
ヒトミは一体何がしたかったのだろうか。
リサが戦争から戻って、まずしたことは『コールドブレス』を読み返すことだった。
ひょっとして、ヒトミがやり遂げていなかった何かがあったのかもしれないと、そう思った。
しかし、読み終わって、その何かを突き止めることはできなかった。
ヒトミが死んでしまった今、その答えがわかることがなくなり、リサは少し残念に思った。
- 334 名前:不老不死 投稿日:2007/07/01(日) 05:31
- リサは、なんとなくヒトミに蹴られた脇腹をさすった。
すでに痛みは消えていたが、あの時の出来事が脳裏に浮かんだ。
ヒトミのことを味方とは思っていないが、かといって敵でもないと思っていた。
しかし、あの時、ヒトミは間違いなくリサを殺すつもりだった。
『ユウコ様を切ろうとしたから』
ヒトミはそう言った。あの時、どこで見ていたか知らないが、あっという間に割って入り、ユウコを守った。
その瞬間にヒトミはリサのことを敵として見たのだろう。
しかし、皮肉なことに、自らの腕を犠牲にしてまで守った人から死ねと言われた。
ひょっとすると、ヒトミには敵はいるが、味方は誰一人としていないのかも知れない。
そう思うと、一体この人はなんのために生きていたのかすら疑問に思える。それと同時に、その運命に哀しくも感じた。
「ガキさんいる?」
ドアをゆっくりと開くと、エリの顔が覗いてきた。
リサは起き上がることはせず、そのままの体勢でエリに返事をした。
「いるよ。どうした?」
「ちょっといいかな」
- 335 名前:不老不死 投稿日:2007/07/01(日) 05:31
- エリはそうっと中に入ると、リサのベットの上に腰掛けた。
エリは何か話したそうにうじうじしながらも一向に話そうとしなかった。痺れを切らしたリサが起き上がって壁に寄りかって座るとエリの向かって話しかけた。
「カメは先ほどのヒトミ様の死をどう思う?」
リサはエリがここに来た理由はこのことだろうと思ったので率直に聞いてみた。憧れていたヒトミが目の前で死んだことは相当のショックだろう。ましてや自害なんて。
ひょっとするとエリは騎士をやめると言い出すのかもしれない。けど、その方がエリの為かも知れないと、リサはエリの返答を待ちながら思った。
エリの剣の腕は良い方だ。現に一部隊の隊長までになっている。しかし、ヒトミが死んだ事のショックを抱えながら騎士を続けるほどエリは精神的にタフじゃない。
「ねえ、ガキさんも知ってるよね。氷の女王との戦いでヒトミ様がどうして死んだか」
「知ってるよ」
「氷の女王を倒すため、ユウコ様が魔法を詠唱している間、ヒトミ様はユウコ様の盾となってユウコ様をお守りした。そして、ヒトミ様は命が尽きても尚、倒れることなくユウコ様を守った。ヒトミ様はユウコ様のためなら、いつでも命を捨てる覚悟はできるてるんですよ」
「ふふっ」
「ガキさん、何がおかしいの?」
リサは思わず笑ってしまった。
エリが思いつめた表情をしていたので、落ち込んでいるのかと思っていたリサだったが、エリはどうやら先ほどのヒトミの行動を当然のことと思っていたようだ。
リサはそれが可笑しかった。
- 336 名前:不老不死 投稿日:2007/07/01(日) 05:32
- 「カメ。あそこに氷の女王はいたか?ユウコ様を殺そうとしたの者がいたか?ヒトミ様がユウコ様のために死ぬ必要なんてなかった」
「う〜ん。あっ!ガキさんがユウコ様を殺そうとした」
「あれは関係ないでしょーが!大体、その後、私が殺されかけたんだから」
「そうだったね。ビックリしたよ。やめてよね」
「ああ、すまん」
「ねえ、ガキさんはヒトミ様が不老不死だと思う?」
「急に何だ?不死身なわけないだろう。さっき死んだではないか」
「そうだなんだけど、でも、リカ様がヒトミ様は不老不死だって」
「リカ様が?」
「うん。リカ様が…あっ」
「なんだ?」
「ここだけの話だよ」
「ああ」
「リカ様は不老不死になるためにヒトミ様の血を飲んでたんだよ。凄い怖かったよ」
「血を飲んでた?」
「うん。ヒトミ様を十字架に張り付けて、手にナイフを突き刺して、そこから流れる血を飲んでた」
リサは、何故ヒトミの両手にナイフが刺さっていたのか、これでようやく納得がいった。
しかし、リカがどうしてそのようなことをしていたのか、新たな疑問が増えた。
- 337 名前:不老不死 投稿日:2007/07/01(日) 05:32
- 「どうしてリカ様は不老不死になりたいんだ?」
「知らないよ。でもさ、誰でも年を取るのと死ぬのは嫌じゃない?」
「カメはそう思うのか?」
「普通そうじゃない?」
「そうかな。人が人として生きるには、年を取るのと死ぬことは避けて通れない」
「じゃあ、ヒトミ様は人間じゃないの?」
「そうだろう。あの戦い振り、雰囲気は人間じゃない」
「じゃあ何?魔女?」
「まあ、その類だろう」
「う〜ん。何かガキさんだけわかってる感じがしてずるい」
確かに、エリよりはわかっているのかも知れないと、リサは思った。
手に刺さったナイフを抜き取った瞬間、傷が治る人間なんていない。
人間じゃない者が何かをしようとしていた。
それはきっと人間では手に負えないことだろう。しかし、ヒトミは死んだ。終わったんだ。
リサは、もうヒトミが何をしようとしていたのかを考えるのは止めようと思い、そのままベットに横になり目を閉じた。
- 338 名前:不老不死 投稿日:2007/07/01(日) 05:32
- 「ちょっとガキさん。寝ないでよぉ〜」
「うるさい。明日から、あの化け物に破壊された個所を修復するんだ。早く寝ろ」
「は〜い。ガキさんおやすみ」
「おやすみ」
エリはしぶしぶと立ち上がると、ゆっくりと部屋の扉に向かって歩き出した。
扉に手をかけた瞬間、城中に甲高い叫び声が響いた。
エリは、リサの方を振り向くと、すでにリサは起き上がり剣を握り締めこちらに向かってきた。
エリは慌てて扉を開けると、リサはそのまま部屋を飛び出して行った。
「ガキさん。待ってよ!」
「カメ早くしろ!叫び声はリカ様だ」
- 339 名前:不老不死 投稿日:2007/07/01(日) 05:32
- ヒトミを捕まえてから数日間、眠ることを忘れ、ひたすらヒトミの血を飲み続けたリカは、エリの訪問で気が緩んで、あっという間に深い眠りに落ちた。
外でタイタンが暴れていようが起きなかったリカだったが、部屋に異様な空気が流れたのを察知して目を覚ました。
体を低くして、慎重に辺りを見渡しながら剣が置かれている場所まで移動した。
素早く剣を取ると、すぐさま抜き取り構えた。
気配は感じるが姿が見えなかった。
もう一度、部屋の隅々までゆっくりと見渡した。
煌々と灯っていた蝋燭の火が消えていることに気付いた。そして、その中心にいるはずのヒトミの姿がいなくなっていることに気付いたとき、リカは今までの慎重さを失った。
「ヒトミ!!どこに行った!」
「にょにょにょ。ヒトミ様はもうここにはいないにょ」
「貴様誰だ!!」
十字架の横に置いてあった女神の像の目がぎょろりとリカを見つめ、不気味な声を発した。
リカは驚いて、下に並べてあった蝋燭を散らばしながら床に倒れた。
震えながらも剣を女神の像に突き出すと、息を呑んだ。
石で出来ているとは思えないほど、女神の像が滑らかに動き出しリカの元に近づいた。
- 340 名前:不老不死 投稿日:2007/07/01(日) 05:33
- 「ヒトミ様は死んだにょ」
「死んだ?何を言ってる、ヒトミは不死身だ」
「にょにょにょ。そうかも知れにゃいにょねぇ〜」
「ふざけてるのか?」
「これからどうするにょ?」
「決まってる。ヒトミを捕まえに行く」
「ヒトミ様はユウコの所だにょ。どうやって捕まえるにょ?」
「ユウコ?あの大魔女ユウコ様のことか?」
「そうだにょ。ユウコの居場所はここから遠いにょ、それに手強いにょ。何万の兵士がいても無駄だにょ」
「構うものか。私はすでにヒトミの血を飲んでいる。少なからず不死に近づいているだろう」
「にょにょにょ。愚かにょ。でも、このムメが力を貸してやるにょ。ユウコを殺し、ヒトミ様を取り返してくるにょ」
「貴様の力など借りん!私一人でヒトミを捕まえる。ヒトミは私の物だ」
「人間ごときが頭に乗るにゃにょ!ムメの言うとおりにすればいいにょ!!」
「うっ、何をする」
- 341 名前:不老不死 投稿日:2007/07/01(日) 05:33
- ムメは、手を伸ばしてリカの襟首を掴むと、リカを引き寄せた。
ムメの口から気味の悪い黒い塊が吐き出された。
リカは口を固く閉ざして拒もうとしたが、次の瞬間、ムメはさらにリカを引き寄せて口付けをした。
リカは、させるがままにムメから吐き出させる黒い塊を飲み込まされ、ぐったりとその場に倒れた。
飲み込んだときは何ともなかったが、徐々に体が縛りつけられるような感覚に襲われた。
リカは力を振り絞って、抵抗するが、抵抗すればするほど痛みが走り、強く体を縛り付けられた。
ムメはそっとリカの耳元に寄り、囁いた。
「この国にある本物の魔封石を持って、ダイア帝国に行くにょ。きっとお前に力を貸してくれるにょ」
「誰が、お前の言いなりになんかなるか」
リカは目に力を込めて、ムメに抵抗した。
ムメは、リカにまだ抵抗する力が残っていたことに驚くと共に、その力に喜びの笑みを浮かべた。
そして、最後の仕上げとしてリカに向かって十字を切った。
その瞬間、リカの頭に激痛が走り、叫び声を上げた。
- 342 名前:不老不死 投稿日:2007/07/01(日) 05:33
- それから遅れること数分後。リサとエリがリカの部屋に駆け込んだ。
リカは平然とソファに座りワインを飲みながら、突然現れたリサとエリを見つめた。
「ノックもせずに勝手に入ってくるな」
「リカ様。先ほど、叫び声が聞えましたが、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。悪い夢を見たんだ。それで今は気分を落ち着かせているだけだ」
リサはリカに近づき、リカの表情を見た。
至って普通に見えるその表情だが、目の奥に何とも言えない不気味さを感じた。
「それより、私は夜が明けたらここを出る。リサ、後は任せたぞ」
「えっ?どちらにですか?」
「それは言えない。それともう二度とここには戻ってくることはないだろう」
「ちょっと待って下さい!何を言ってるのですか、あなたは次期国王です。そんな勝手なことは許されません」
「お前がいるじゃないか。お前も王家の血を継いだ立派な王族だ」
「冗談じゃない!誰が王になんかなるか!絶対にあなたを行かせはしませんよ」
「力ずくでもか?」
「力ずくでも」
- 343 名前:不老不死 投稿日:2007/07/01(日) 05:33
- 「フン」とリカは鼻で笑うと、リサの腹に手をやると、リサを軽く押した。
するとリサは腹に強烈な衝撃を受けるとともに、そのまま後ろに吹き飛ばされた。
「ガキさん!」
エリは、リサの元に駆け寄ると、リサを抱き起こした。
リサは口から血を流して、ぐったりとしていた。
「エリ。お前はどうする?」
リカの声に、はっとして振り返るとすぐそばにリカが立っていた。
エリは、意識を失っているリサをそっと床に寝かせると立ち上がってリカを強く睨みつけた。
「何故、ガキさんにこんなことするんですか」
「お前はどうするかと聞いているんだ」
「いくらリカ様とはいえ、このような勝手なことは許しません」
「そうか」
リカは、エリにも同じように手をかざした。そして、エリを押そうとした瞬間、遅れて駆けつけてきた衛兵達の部屋の扉をノックする音が聞えた。
リカは素早く手を下ろすと、扉に近づき返事をした。
「何だ?」
「リカ様の叫び声が聞えましたので参りました」
「何でもない。ただ、悪い夢を見ただけだ」
「そうですか。でも、」
「帰れ!!」
リカが強く叫ぶと、衛兵達はその場から立ちさった。
その間、エリはリサを抱きかかえリサの安否を確認していた。
リサはかろうじて息はしていたが、呼びかけてもリサは答えることはなかった。
- 344 名前:不老不死 投稿日:2007/07/01(日) 05:34
- 「エリ。あまり大声を出すな」
「どうして、このような事を」
「お前なら理解できるだろう。ヒトミのことを尊敬して止まないお前なら」
「ヒトミ様を探しに行くのですか?」
「そうだ」
「ヒトミ様は自害致しました」
「ヒトミは不老不死だと言っただろう」
「私の目の前で自害致しました」
「死んでも甦る。それが不死だ」
リカは、ゆっくりとソファに戻ると、テーブルに置いてあった本を手に取って読み始めた。
それは以前、エリにコールドブレスの日記だと言った本だった。
エリは、その本を睨みつた。
あの本の所為でリカ様がおかしくなったんだ。あの本を取り上げなければとエリは思うと、意を決して立ち上がりリカに近づこうとした。
しかし、一歩足を踏み出したところで、エリの手をリサが掴んだ。
「ガキさん!」
エリは、リサの方を振り向くと、リサは立ち上がろうとしていた。
エリは、リサに肩を貸して支えながら、リサを立ち上がらせた。
リサは、打たれた腹を手で押さえながら、リカを睨みつけた。
「せいぜい、頑張って下さい。不老不死なった暁には、私が不死になったかどうか確かめてあげますよ」
「ふっ、私は良い兄弟を持ったな」
「行こう。カメ」
リサは、リカに背を向けると、ゆっくりと部屋を出て行った。
エリは、リサを支えながらも、もう一度リカの方を振り向いた。
リカは、何食わぬ表情で本を読んでいた。
そして、日が昇ると共にリカは姿を消した。
- 345 名前:パム 投稿日:2007/07/01(日) 05:34
- つづく
- 346 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/02(月) 02:21
- うほーーー更新きてたぁぁぁ
続きが気になります
- 347 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/02(月) 15:45
- パムさん更新乙蟻です。
続きまってるにょ。
- 348 名前:パム 投稿日:2007/07/18(水) 03:14
- >>346
>>347
どうもレスありがとうございます。
それでjは、今日の更新行きます。
- 349 名前:面倒な奴 投稿日:2007/07/18(水) 03:14
- ミキは、ゴールドランド城下からがむしゃらに飛んでいき、力尽きたところで降りると、そこにテントを張り、夜を明かした。
日が昇り始め、太陽の眩しさに目を覚ましたれいにゃは、テントの中にミキがいないことに気付いた。
いつもは起こしても中々起きないミキが、すでに起きていることに不思議に思いながら、れいにゃはテントの外に出た。
外に出ると、眩しい太陽の光りと、心地良い風が流れて、れいにゃは大きく深呼吸をした。
「良い朝ちゃ」
れいにゃは、周りの景色を眺めながら、数十メートル先の丘の頂上まで、ゆっくりと登っていった。
頂上まで登ると、その反対側のすぐ下に、ミキがあぐらをかいて座っているのが見えた。
れいにゃは、そのまま歩いてミキの隣に座った。
「ミキ様。おはようっちゃ」
「おはよう」
ミキは、れいにゃの方を見ることなく、そのままの状態で返事をした。
- 350 名前:面倒な奴 投稿日:2007/07/18(水) 03:15
- 「うーん。平和だな。昨日のことが嘘のようだ」
「そうっちゃね。あんな、お師匠様見たの初めてっちゃ」
「だよな。あんな悲しくて優しいゆゆたんの表情初めて見たよ。気持ち悪い」
「気持ち悪いは余計っちゃ。でも、そうっちゃね。お師匠様、悲しそうだったっちゃ」
「別に殺さなくてもいいじゃんね」
「きっとお師匠様なりの理由があったちゃよ」
「死んだはずなのに生きてるからってか。そんなの理由になるかよ。いいじゃん、生きてるんだから」
「そうっちゃけどぉ〜」
「きっと、ゆゆたんとあいつには何かあったんだな」
「気になるっちゃね」
「いや、別に」
「そうっちゃ?」
「だってさ、もう死んじゃったもん。どうにもならんだろ」
「そうっちゃけど」
「さあて、気分変えて出発するか!」
- 351 名前:面倒な奴 投稿日:2007/07/18(水) 03:15
- ミキは、膝をポンと叩いて、立ち上がると、大きく伸びした。
れいにゃは、ミキの顔を見つめた。
一見清々しい表情をしているが、目は寂しそうだった。
それはきっと、ヒトミが死んだからではなく、ミキの知らないユウコの姿を見たことの寂しさなんだろうと、
テントの方に向かって歩いて行くミキの後ろを追いながら、れいにゃは思った。
「ミキ様。これからどうするっちゃ?」
「う〜ん。どっか適当な街か村を探すか」
「エリ様のところに戻らないっちゃ?」
「何で?」
「何でもないっちゃ」
「だったら言うな」
テントが見えてきたところで、ミキは足を止めた。
テントの中を覗き込んでいるアイがいたからだった。
ミキは、そうっと片手をあげて、アイに狙いを定めると、何も言わずに雷を放った。
- 352 名前:面倒な奴 投稿日:2007/07/18(水) 03:15
- 「うわっ!」
ミキに背を向けていたのにもかかわらず、寸前の所で気付いて横に飛んで逃げた。
「あー!!避けやがった!」
アイは、立ち上がると、ミキを見つけ怒った表情で近づいてきた。
「何で君はいつも、いきなり魔法を使うんだ!」
「お前がテントの中を覗いてるからだろ!」
「声をかければすむことだろ!当たったらどうするんだ!」
「てか、よく避けたな」
「当然だ。私を甘く見るな」
「うん。見たくないから、どっか行って」
「どっか行ってたのは君の方だろ!王子と魔女と猫のゴールドランドヒトミ救出大作戦を忘れたのか」
「まだそんなこと言ってるのか、お前は」
「当然だ。ヒトミを救い出し、シルバーランドを取り返すんだ!」
「あいつは死んだよ」
「死んでない!」
「死んだって!ミキの目の前で死んだっての」
「嘘を言うな!ヒトミが死ぬわけない!」
「嘘じゃねぇよ。首切って死んだんだよ」
「しょ、処刑されたのか?」
「ん?まあ、そんなところなのかな?」
「そうなのか。一足遅かったか」
アイは、力なくその場にしゃがみ込むと頭を抱え込んだ。
- 353 名前:面倒な奴 投稿日:2007/07/18(水) 03:15
- 落ち込むアイを、ミキは無視して、ボロボロになったテントの前に立った。
「あ〜あ、こりゃどうにもならんな」
「ミキ様、コントロール悪いっちゃ」
「ちげぇよ!あいつが避けたからだよ」
「お師匠様なら当ててたっちゃ」
「何言ってんだよ。ゆゆたんの魔法をミキだって避けてただろ」
「お師匠様はミキ様に当たらないように、ギリギリを狙ってたっちゃ」
「それを言うな」
「決めた!」
アイは、大声を上げて立ち上がった。
ミキは、何事かと振り向くと、アイはミキに向かって指をさしていた。
「私は、君と一緒に旅をしよう。そして、ヒトミのように強くなって、私の手でシルバーランドを取り返すんだ」
ミキは、何も聞かなかった素振りをして、また、テントの方を振り向くと、ボロボロになったテントを畳んでカバンの中に押し込んだ。
「まずは、旅の準備をする必要があるな。街か村を探そう。当然だが、ゴールドランド城下はダメだぞ。私のことを知らないところがいい」
アイは、ミキに向かって喋りながら、木陰に止めていた白馬を連れに向かった。
ミキは、アイを完全に無視して、ほうきを取り出して跨ると、アイを置いて飛んで行ってしまった。
しかし、アイはミキが飛んで行ってしまったことに気付かず、話を続けていた。
「確か、ここから下って川を越えたところに村があったはずだ。そこに行ってみよう。ただ、気をつけろよ。この丘を下った先は魔物の住処らしい。しかし、私がついてるから安心しろ、ちゃんと君を守ってみせる。なんせ私はヒトミのようになるんだからな。魔女を守るのは当然だ」
言い終えたところで、ようやくアイはミキがいたところに振り返った。が、しかし、すでにミキはいなく、慌てて辺りを見回した。
すでに随分先を飛んでいるミキを見つけて、アイはすぐさま馬に乗るとミキを追いかけた。
- 354 名前:面倒な奴 投稿日:2007/07/18(水) 03:16
- 「ミキ様。置いていっていいっちゃ?」
「いいに決まってるだろ。なんで一緒に行かないといけないんだよ」
「まあ、そうっちゃね」
「人に関われば、面倒が増えるだけだ。特にあいつはいるだけで面倒だ」
「そうっちゃね」
「おーい!待て!勝手に行くな!」
ミキが、声のするほうを振り向くと、馬を走らせてアイが追いかけている姿が見えた。
「しつこいな。飛ばすぞ。れいにゃ引っこんでろ」
「んちゃ」
れいにゃは、ミキに言われたとおりに、カバンの中に引っ込んだ。
すると、ミキはスピードを上げて、アイを引き離した。
アイは、ずんずん先に行くミキに追いつこうと鞭打って、馬を走らせるが一向に追い付きそうになくて、仕方なく馬を止めると、ミキに向かって大声で叫んだ。
「おーい!気をつけろ。この先は、魔物の住処だぞー!!」
- 355 名前:面倒な奴 投稿日:2007/07/18(水) 03:16
- かすかにアイの声が聞こえたミキは、一旦その場で止まると地上を見下ろした。
地上は、殺風景な平原が広がるばかりで、魔物の姿などどこにも見当たらなかった。
「あんなこと言って、ミキを引き留めようとしたって無駄だっつうの」
ミキは、アイの忠告を無視して、前に進み始めた。
れいにゃは、少し怯えながら、カバンから頭だけ出すとミキに訪ねた。
「魔物が出るって言ってたっちゃ。怖いっちゃ」
「魔物のお前が言うなよ。それにミキがいるから大丈夫だって」
「心配っちゃ」
「なんだと!本気だせばもっとスピード出せるんだぞ!」
「んちゃ?」
「なんだよ」
「戦わないっちゃ?」
「なんで?」
「逃げるっちゃ?」
「そうだよ」
「ミキ様ヘタレっちゃ!見損なったっちゃ!」
「バカ!なんで戦う必要があるんだ!」
「魔物が襲ってくるっちゃ!やらなきゃやられるちゃ!」
「バーカ。なんでもかんでも殺せばいいってもんじゃないぞ」
れいにゃは、がっかりしてそっぽを向くと、前方に巨大な鳥を見つけて、大きく目を見開いたまま固まった。
「ミキ様。前見るっちゃ」
「お前が話し掛けてるからだろ!」
「でっかい鳥っちゃ!!」
- 356 名前:面倒な奴 投稿日:2007/07/18(水) 03:16
- ミキは、れいにゃに言われて、前を見ると、巨大な鳥がクチバシを大きく開けて、間近に迫ってきた。
「でけぇー!!」
「ミキ様どうするっちゃ!」
「逃げる!れいにゃ、中に入ってろ!」
「わかったっちゃ!」
ミキは、寸前のところで鳥の下を潜り抜けるようにして交わすと、そのまま、まっすぐ猛スピードで逃げ出した。
巨大な鳥は、大きく方向転換すると、翼を大きく広げてると、ミキに目掛けて大きく羽ばたいた。
翼から突風がミキを襲った。
突風にあおられたミキは、体がぐるぐると回り、自由が利かなくなった。
そして、回りながらミキが見た空には、同じく数匹の巨大な鳥がミキに目掛けて飛んできた。
「うげぇー!!めっちゃいるじゃんかよ!もっと早く言えよ!」
「ミキ様、魔法っちゃ!」
「ヤダ。使わない」
「なんでっちゃぁー!!」
ミキは、鳥から逃げるように、地面の向かって急降下した。
そして、寸前のところで切り返すと、先ほどの進行方向とは逆に向かって飛んで行った。
アイは、あのあと、すぐにミキを追って走っていた。
そして、空に巨大な鳥が数匹見えた。ミキの姿を捉えることはできなかったが、鳥の動きが明らかに獲物を狙っている動きだったので、アイは、ミキが狙われていると思い、さらにスピードを上げて走った。
前方からミキが飛んでくるのを確認したアイは、剣を抜いてミキと一緒に戦う覚悟を決めた。
- 357 名前:面倒な奴 投稿日:2007/07/18(水) 03:16
- 「あと、よろしく!」
しかし、ミキは擦れ違い様にアイにそう言うと、アイを置いて逃げてしまった。
呆気に取られたアイは、ミキの後ろ姿を眺めていたが、鳥が迫ってくるの見て、アイも方向を変えてミキの後を追った。
「おい!逃げるな!戦え!」
アイは、背後で突かれるのを右へ左へと交わしながら馬を走らせた。
ミキは先ほどいた丘の頂上に降り、アイの姿を眺めた。
「ミキ様、アイ様食べらるちゃよ」
「この世は弱肉強食だ。あいつが弱ければ食われる。仕方ない」
「そうっちゃけど、人が食べられるの見たくないっちゃ」
「でも、助ける義理はない」
「そうっちゃけどぉ〜」
「てかさ、れいにゃは、あいつの場合は助けに行かないんだな」
「なんで、れいにゃが助けるっちゃ?」
「いや、こっちが聞いてるんだよ」
アイは、必死に鳥からの攻撃を交わしているが、遅れて飛んできた二羽の鳥が、アイの両側に回り込んで、アイは取り囲まれてしまった。
アイは、剣を振り回して、牽制するも、執拗な攻撃に遂には、バランスを崩して落馬してしまった。
「あっ!落ちた!」
「ミキ様。どうするっちゃ?本当に食べられちゃうちゃ」
「あー。面倒くせぇなぁー」
ミキは、渋々といった感じで、片手をあげるて狙いを定めると、雷を放った。
雷は一直線にアイに目掛けて飛んで行った。
- 358 名前:面倒な奴 投稿日:2007/07/18(水) 03:16
- 体制を立て直して、鳥と攻防中のアイは、背後からの危険を察知すると、寸前のところで、雷を避けた。
そして、雷は、鳥に直撃すると爆発した。
「何を考えてるんだ!」
アイは、後ろを振り向き、ミキに向かって叫んだ。
ミキは、苦笑いを浮かべながら、アイの俊敏な動きに驚きを隠せなかった。
別にミキは、アイを狙うつもりはなかったが、つい、いつもようにアイを狙ってしまっただけだった。
しかし、テントで出くわした時と同様にアイは後ろ向きで、こちらが魔法を放つことも知らないはずなのに、アイは避けた。
ミキは、得意な魔法を避けらた事に、苛立ち始めた。
「あいつ何だよ。また、ミキの魔法避けやがったぞ」
「ミキ様。どっちの味方っちゃ?」
「どっちの味方でもないよ。ちくしょう、なんだよあいつ」
納得のいかないミキは、もう一度片手を上げると、今度はしっかりとアイを狙って、雷を放った。
しかし、またしてもアイは避けた。そして、雷は鳥に命中して倒した。
「お前何なんだよ!」
「それはこっちのセリフだ!ちゃんと狙え!」
鳥と格闘するアイの動きは、そんなに早くない。距離も対して遠くない。絶対に当たるはず。
次こそは当ててやると、ミキは両手を出して、じっくりと狙いを定めた。
そして、今までよりも大きな雷をアイ目掛けて放った。
「当たれぇー!!」
ミキの声に、アイは振り向くと、目前に雷が迫ってきた。
アイは、すぐさま横に飛んで身を伏せた。
雷は、最後の一羽に当たると、大爆発を起こした。
- 359 名前:面倒な奴 投稿日:2007/07/18(水) 03:17
- 「ちくしょー!また、避けやがった!」
「ミキ様、何がしたいっちゃ?」
「れいにゃも見てただろ、あいつ、ミキの魔法を全部避けたぞ」
「そうっちゃね。ミキ様もまだまだちゃね」
「違うよ!ちくしょう、何かおかしい」
苛立ったミキは、アイの元に駆け寄った。
爆風が鳴りやみ、アイは体を起こすと、アイもミキの方へと怒りながら近づいた。
「君は、一体何を考えているんだ!コントロールもできないのか!」
「何で避けるんだよ!」
「当然だろ!なぜ私を狙う!」
「ちくしょう。何かおかしい」
「おかしいのは君の方だ。戦い方も知らないのか」
「うるせぇよ!そういう問題じゃねぇんだよ」
ミキは、腕を組んでアイを睨みつけた。
今まで村から一度も出たことのなかったミキに戦闘経験はない。
しかし、ユウコの元で修行したミキにとって、アイなど大した者ではないと思っていた。
それに、雷の魔法はかなりのスピードで飛んでいくので、人間が簡単に避けられるはずがない。
なのにアイは避けた。ミキは不思議でたまらなかった。
ミキは、おもむろにほうきを持つと、柄の方でアイの頭を狙って叩いてみた。
「イタっ!何をするんだ!」
「避けろよ!」
- 360 名前:パム 投稿日:2007/07/18(水) 03:17
- つづく
- 361 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/18(水) 10:09
- 美貴さまワロスw
- 362 名前:ais 投稿日:2007/07/18(水) 23:26
- 大笑いしましたw
このコンビいい!
- 363 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/19(木) 01:44
- この愛×美貴最強コンビ!笑ったw
- 364 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/19(木) 08:01
- 面白かった!思い出し笑いしそうでヤバイです。
- 365 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/05(日) 01:19
- ちょw最後www
- 366 名前:パム 投稿日:2007/08/08(水) 04:56
- レスありがとうございます。
また更新が空いちゃってなかなか先に進みませんけど、これからもよろしくです。
- 367 名前:別れと出発 投稿日:2007/08/08(水) 04:56
- エリは、リサを担いで部屋に連れて行くと、医者を叩き起こして、リサの治療をした。
一時は意識を戻したものの、すぐにリサは意識を失ったままだった。
ゴールドランド随一の騎士リサがいとも簡単に倒されるなんて、エリには信じられなかった。
その相手がヒトミならまだしも、リカというのが信じられなかった。
戦争を始めたころからリカの様子がおかしいことには、何となくは気づいていた。
不老不死になりたいがために、ヒトミを捕まえ、そして、血をすする。
もはや人間ではない。
エリは、あの狂気に満ちたリカの目を思い出して、身震いした。
「どうしてこんなことになってしまったんだろうね」
エリは、眠るリサに尋ねるように呟いた。
- 368 名前:別れと出発 投稿日:2007/08/08(水) 04:57
- 何もかもことの始まりは、シルバーランドとの戦争からだった。
ヒトミを捕まえて、リカはおかしくなった。
いや、違う。それ以前からだ。あの本だ。「コールドブレス」の日記を手にしてからリカ様は急変したんだ。
エリは、思い立って、立ち上がると、リサの部屋を飛び出し、リカの部屋へと向かった。
ノックすることなく、リカの部屋に入ると、先ほどとは打って変わって、リカは静かに眠っていた。
エリは、リカに気づかれないようにそうっと部屋の中を歩いて、日記を探した。
しかし、本棚や引出を探ってみても、日記を見つけることができなかった。
- 369 名前:別れと出発 投稿日:2007/08/08(水) 04:57
- エリは、諦めて帰ろうとしたとき、何かつまずいてよろけそうになった。
何があったのだろうと、足元を見ると、そこには粉々に砕けた女神の石像があった。
エリは、つい先ほどリカの部屋を訪れたときは、こんな風ではなかったはずだと不思議に思った。
そして、もう一体の方はどうだろうかと気になって、石像に近づいた。
こちらの石像は何事もなく無事で、金色の瓶を持っていた。
恐る恐る近づいて瓶の中をのぞくと、その中にはまだヒトミの血が残っていた。
顔を近づけて、においを嗅いでみると、確かに血の匂いがした。
エリは、一度、リカの方を振り向いて様子を伺った。リカはエリにまったく気づいていなく、眠っていた。
エリは、もう一度、瓶の中を覗いた。
血の匂いがエリを惑わせた。無意識にエリは、手を瓶の中に入れると、血をすくい上げた。
血のついた手を、口元に寄せると、さらに血の匂いが強くなり、エリの息が荒くなった。
頭の中は真白で、何も考えられず、ただ、目の前にある血を舐めたくなる衝動に駆られた。
エリは、手を口元に近づけて、舌を出して舐めようとしたとき、その手を何者かが止めた。
エリは、恐怖のあまり体が硬直して、そのまま固まってしまった。
- 370 名前:別れと出発 投稿日:2007/08/08(水) 04:57
- 「ヒトミ様の血を飲むなんて、いけませんわ」
その声は、エリの耳元に優しく伝わってきた。
エリは、身動きせず、目だけを動かした。
エリの手を掴んだのは、シルバーランドの占い師のカオリだった。
しかし、エリはカオリとは面識がないため、緊張状態のままカオリが次に何をするのかじっと待った。
カオリは、白いハンカチを取り出すと、エリの手についた血を拭き取り、手を放した。
そして、金色の瓶の中にそのハンカチを落とすと、白い煙をあげた後、石像ごと砕け落ちた。
砕けた瓶の中からは一滴も血が流れなかった。
カオリは、エリの前を横切って、窓の方へと向かって行った。
エリは、慌ててカオリを引き止めようとした。
- 371 名前:別れと出発 投稿日:2007/08/08(水) 04:57
- 「待って。あなたは一体誰?」
エリの声に、足を止めたが振り向くことはしなかった。
「私が誰かは気にしなくていいの。それよりも、あなたはヒトミ様から言われた運命に逆らうつもりなの?」
「運命?」
「そうよ。言われたでしょ」
「魔女のところへ行けと言ってたことですか?」
「そう。あなたはヒトミ様から魔女の騎士としての運命を託されたでしょ?」
魔女の騎士という言葉を聞いてエリの胸の鼓動が高鳴った。
幼いころから憧れていた騎士。そして、いずれは自分もヒトミのように魔女の騎士になりたいと思っていたことを思い出した。
そして、それがすでに実現していたということに、今頃になって気づいた。
が、しかし、どうして自分なのか、自分が魔女の騎士を務めることができるのか、エリは不安に思った。
「私は、本当に魔女の騎士としての資格があるのでしょうか?」
- 372 名前:別れと出発 投稿日:2007/08/08(水) 04:58
- エリの問いに、カオリは振り向いて、エリの目を凝視した。
エリは、その視線に圧倒されて身動きが取れなくなった。
エリの目の奥を覗き込むように見つめられ、エリは自分の中をすべて見られているような感覚だった。
そして、しばらく見つめられたあと、その女性カオリは、にっこりと笑った。
「幸運を」
それだけ言うと風のようにすうっと姿を消してしまった。
取り残されたエリは、あたりを見渡して探してはみたが、もうカオリの姿はどこにも見当たらなかった。
「あの人も魔女か」
エリは、そう呟くと、そうっとリカに気づかれないように部屋を出て行った。
魔女の騎士。
自分もヒトミと同じように、巨大な敵を倒すことになるのだろうか。
果たしてそれが自分にできるのだろうか。
リサの方が適任ではないのだろうか。
エリは、そんなことをずっと考えながら城の中をぐるぐると歩き回った。
- 373 名前:別れと出発 投稿日:2007/08/08(水) 04:58
- 「カメ」
自分を呼びとめる声が聞こえてエリは足を止めた。
横を見ると、そこはリサの部屋だった。
「ガキさん、起きてるの?」
エリは、そうっと部屋の中に入ると、小さな声でリサに話しかけた。
「カメがさっきからうろうろしてるから目が覚めちゃったよ」
リサは、そう言いながらベッドの脇にあるランプに明かりをつけた。
部屋がわずかに明るくなって、リサの姿が見えた。
エリは、リサが意識を取り戻したことに安心すると、一気に力が抜けてその場に座りこんだ。
「どうしたんだカメ?こっちに来て少し話をしよう」
「うん」
エリは、ゆっくりと立ち上がると、リサの横に来て、椅子に腰をおろした。
「どうした?何か悩み事でもあるのかい?」
- 374 名前:別れと出発 投稿日:2007/08/08(水) 04:58
- エリは、リサに先ほどのことを言おうかどうか迷った。
魔女を追って魔女の騎士になるということは、リサと別れることになる。
今ままで何をするにも一緒だったリサと離れ離れになることが果たして出来るのだろうと、エリは悩んだ。
「昔のカメは本当に危なっかしくて大変だったよ」
リサは、エリが言いづらそうにしていることに気遣って、話題を変えた。
しかし、エリは黙ったままだったのでリサはそのまま話し続けた。
「貴族のお坊ちゃまが敵に囲まれてさ、怯えながらやたらめったら剣を振り回してさ。私がいなかったらとっくに死んでたよ。
でもさ、カメは強くなったよ。そして、この先もっと強くなるよ」
エリは、どうしてリサが突然こんな話をし始めたのか理解できなかった。しかし、リサの言葉から伝わってくる優しさに自然と涙がこぼれた。
「だから、カメ、自信を持って行くのだ。あの魔女のところへ」
エリは、はっとして顔をあげた。
リサにすでに見透かされていることに驚いた。しかし、それ以上に、自分のことを理解していることに、エリは感激のあまり泣きながらリサに抱きついた。
- 375 名前:別れと出発 投稿日:2007/08/08(水) 04:58
- 「ガキさーん」
「ちょっと、カメ!痛いって!」
エリはリサから離れると、涙をぬぐって笑顔を見せた。
「ガキさん。エリ、行ってくるよ。どうなるのかわからないけど、ヒトミ様から頂いた剣があるから大丈夫だよね?」
「ああ」
「ガキさん、寂しくなるけど、しばらくの辛抱だよね?」
「うん」
「ガキさん、手紙書くよ」
「うん、私も書くよ」
「ガキさん、えっとぉ〜」
「行くなら、さっさと行きなさーい!!」
「は、はい!じゃあ、また後で」
エリはリサに向かって敬礼をすると、リサの部屋を飛び出して行った。そして、すぐに荷物をまとめると、馬に乗ってゴールドランド城を後にした。
「また後で、って、すぐ帰ってくるつもりなのか」
リサは、笑いながらエリを見送り終えると、眠りについた。
- 376 名前:パム 投稿日:2007/08/08(水) 04:59
- つづく
- 377 名前:捻くれ者 投稿日:2007/08/11(土) 02:45
- 訳も分からずほうきで殴られた後、「まあ、いいや」とだけ言って勝手に歩きだしたミキの後ろを、アイはついて歩いていた。
ミキが迷うことなく一直線に歩いてることに、アイは不思議に思った。
ここから一番近い村は、川を渡ったところにあるのにも関わらず、橋を通り過ぎしまった。
「なあ、君は一体どこに行こうとしているのだ」
「お前には関係ないだろう」
「関係ある。旅の仲間じゃないか」
「勝手に仲間になるなよ」
「いいじゃないか、魔女と騎士だ。何の問題もない」
「意味わかんね」
「で、どこに行くんだ?」
「知らない」
「あてもなく彷徨っているのか?」
「彷徨ってはないよ。なんとなくだよ」
「一緒ではないか」
「ミキの勘はいいんだぞ」
「勘だけで旅をするな!無謀だ」
「だったら帰れよ」
「それは嫌だ」
「わがままだな」
- 378 名前:捻くれ者 投稿日:2007/08/11(土) 02:45
- 「この川を渡った先に村がある。そこで休憩をしよう」
「えーやだぁ〜。そっち行きたくない」
「では、どこに行く。一番近い村はあそこしかないぞ」
「別に村に行く必要なんかないよ」
「あるだろう。食料も少なくなってきた。風呂にもしばらく入っていないし。まとな睡眠も出来ていない」
「ったく、これだからおぼっちゃまは困るよ」
「なんだと!君だって風呂に入りたいだろう!」
「れいにゃ入りたいっちゃ」
「そうなのか?しょうがないなぁ」
「よし!そうと決まれば行くぞ!」
アイは腕を上げて、通り過ぎた橋に向かって先頭に立って歩き出した。
その後ろ姿をミキは飽きられた様子で眺めていた。
「何故お前が先導する」
- 379 名前:捻くれ者 投稿日:2007/08/11(土) 02:45
- 朝を迎えたゴールドランドは、破壊された町の復旧作業と行方不明になった王子の捜索と慌ただしかった。
そんな多くの人々が行きかう中、カオリはゆっくりと城下の門をくぐり抜けて外に出た。
すると、背後から声をかけられた。
「カオリ」
自分の名を知ってる者がここにいるわけがないはずなのにと、不思議に思いながら振り返ると、そこにいる人物を目にした途端、カオリは慌てて有り金をすべて差し出して謝りだした。
「きゃー!!ごめんなさい!これで許してください」
「ちょいちょい待ちぃ。うちは山賊か?」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
そこには、門に寄りかかって腕を組んで立っているユウコがいた。
カオリは、ひたすら謝りばかりで、ユウコは意味がわからないといった感じで首を傾げながらカオリに近づいた。
「なんでいつもみんな最初に謝るんやろ?」
「だって、ゆうちゃん怖いもん」
「そんなことないって。ミキは謝ったりせんで」
「そりゃ、ゆうちゃんの弟子だもん。怖い者知らずだもん」
「なんやそれ」
「それで何?お金はいらないの?」
「いらんわ!借金取りやないちゅうねん」
「きゃー、ごめんなさい」
- 380 名前:捻くれ者 投稿日:2007/08/11(土) 02:45
- ユウコは意味不明なカオリの行動にがっくりと肩を落とした。
カオリはそそくさと出した金を懐にしまうと、ようやく気を落ち着かせてユウコを見た。
「どうしたの?ヒトミ様が自分のところに戻って満足なんじゃないの?」
「今はその話をする気はない。それより、ちと困ったことになってな」
「へぇ〜。ゆうちゃんが困ることねぇ」
「今、ミキが行こうとしている場所はちとヤバイ」
「ヤバイって?」
「それは言えん。とにかく、カオリが行ってミキに違う方向に行くように言ってくれ」
「自分でいいなよ。ゆうちゃんが言えば言うこと聞くでしょ」
「それはあかんて、うちが言うと怪しまれる」
「私が言うほうが怪しまれるわよ」
「そんなことないって」
「ええ、やだぁ。私あの子苦手なんだよね」
「そんなこと言わんで、この通り!な?」
ユウコは両手を合わせて、カオリに向かって頭を下げてお願いをした。
そんな姿を見て、カオリは思わず一歩引いてしまった。
- 381 名前:捻くれ者 投稿日:2007/08/11(土) 02:46
- 「ちょっと、ゆうちゃんやめてよ。頭上げてよ。大魔女ユウコ様でしょ」
「別にカオリにとって、うちはそんなたいそうなもんやないやろ。なあ、頼むって」
「わかったから。本当にやめてよ。気持ち悪いよ」
「気持ち悪いってなんや!」
「ごめんさない。怒らないでよぉ〜」
「怒ってないって」
「わかったから、どこに行かせればいいの?」
「まあ、適当に」
「適当って、そんなんじゃ困るよ」
「とにかくあの先にだけは行かせんようにな」
「あの先って村があるだけでしょ」
「だから、ヤバイのがあるって言うてるやん」
「もう。いいよ。わかったよ」
「そっか。じゃあ、頼んだ」
「ちょ、ちょっと、ゆうちゃん!そんなことしなくても行けるって!」
ユウコはカオリに向かって炎を放つと、カオリを消してしまった。
- 382 名前:捻くれ者 投稿日:2007/08/11(土) 02:46
- 今まで野宿生活などしたことのないアイにとって、城から追い出されてからの数日間はまさに地獄だった。
ようやく風呂とベッドにありつけると思うと、嬉しくなって、自然と足取り軽くなって、先を急いだ。
一方、ミキは、そんなアイなどおかまいなしにマイペースにれいにゃと話をしながら歩いていた。
そして、橋に差し掛かった所で一人の農婦がミキ達に話しかけてきた。
「旅のお方、どちらに行かれるのですか?」
しかし、ミキは話しかけらたことに気づかずにれいにゃとの話に夢中だった。
「れいにゃ、海って知ってるか?」
「知らないっちゃ。何っちゃ?」
「この先の村だ」
アイは立ち止まって、ミキに代わって農婦に応えた。
「でっかい池らしいぞ」
「どれくらい大きいっちゃ?」
「これより先に行ってはいけません」
「どういうことだ?」
「とてつもなく大きいらしいぞ」
「とてつもなくってどれくらいっちゃ?」
「とにかく行ってはいけません」
「なぜだ?私達はそこで休憩するつもりなんだ」
「とてつもなくはとてつもなくだよ。向こう側が見えないくらいだよ」
「そんなに水があるわけないっちゃ」
「まあ、ゆゆたんが言ってたことだしな。大袈裟に言ってるかもしれないな」
「それはありえるっちゃ」
- 383 名前:捻くれ者 投稿日:2007/08/11(土) 02:46
- 「そこの魔女!そっちには行ってはいけないと言ってるでしょ!」
「ん?何だ?」
ようやくミキは立ち止まると農婦の方を振り返って見た。
アイは、ミキのところまで近寄ると手を引っ張って農婦のところまで連れて行った。
「君たち、ご婦人を無視して先に行くなよ。この先には行ってはいけないらしい」
「ふ〜ん。海ってどのくらい大きい?」
「は?何の話だ?」
「なんだお前も海を知らないのか」
「海くらい知っている」
「そうです。あなた方は海に行きなさい」
「どこにあるの?」
「川沿いに歩いていけばいづれ海にたどり着きます」
「マジで!やった!」
「やったっちゃ!」
「それじゃあ、行くか」
「行くっちゃ」
そういうとミキは、また橋の向こう側へと向かって歩き出した。
アイは農婦の話が気になってまだ橋を渡ろうとはしなかった。
「ところで、村で何かあったのですか?」
「それが、村は・・・。ちょっとあなた!」
「なんだ?」
「海に行くのではないのですか?」
「うん。でも、その前に村によって風呂入る」
「おい、ご婦人が行くのはやめたほうがいいと言っているのだぞ。やめよう」
「は?なんだよ。お前が行きたいっていったじゃんかよ!」
「しかし、行ってはいけないと言われたし」
「なんだよ!さっきミキが行きたくないって言ったとき無視したじゃんかよ!」
「それは君があてもなく行こうとするからとりあえず村に寄ろうと言っただけだ」
「とにかく、村に行くって決まったんだ。れいにゃ行くぞ」
- 384 名前:捻くれ者 投稿日:2007/08/11(土) 02:46
- 「行かないでお願いだから・・・」
農婦は涙を拭うような仕草をしたので、驚いたアイは膝をついてしゃがむと、農婦の肩に優しく手を置いた。
「ど、どうしました?一体、村に何があると言うのですか?」
ミキは、農婦の突然の動作に眉をしかめると腕を組んで見下ろした。
「ていうかさ、かおたんでしょ」
「違います!」
農婦は勢いよく顔を振り上げて、ミキに向かって否定した。
「なんだ?知り合いなのか?」
「カオリ様っちゃ、れいにゃ最初からわかってたっちゃ」
「だよな」
「違うったら違うの!」
「絶対かおたんだよ。どうしたの?こんなところで」
農婦は、はあ、と一つ溜息をつくと、立ち上がりながら、その姿を変えて、元の姿のカオリへと戻った。
- 385 名前:捻くれ者 投稿日:2007/08/11(土) 02:47
- 「もう!なんで!絶対にバレないと思ったのにぃー!!」
「あっ、お前は占い師。何故こんなところにいる?」
「ぷっ。かおたん変装下手くそ」
「そんなことないわよ!アイ王子は気がつかなかったじゃない!」
「こいつはバカだから」
「わ、私だって、気付いていたさ!」
「無理するなっちゃ」
「とにかく、この先には行ってはいけないの。わかった」
「うん」
「あら、意外と素直ね。よかったわ。じゃあね」
「じゃあね」
「カオリ様。バイちゃ〜」
ミキとれいにゃは手を振ってカオリと別れるとそのまままっすぐ橋を渡り始めた。
それを見たカオリは慌てて追いかけて、ミキの肩を掴んで引き止めた。
「ちょっとぉー!!行っちゃダメって言ってるでしょ!」
「でも、こいつがどうしても行きたいって言うから」
「いや、私は!」
「えー!言ったじゃんかよ!」
「確かに言ったが、こうも強く言われたら行きにくいではないか。それにこの人は占い師だ。何か不吉なことがあるのだろう」
- 386 名前:捻くれ者 投稿日:2007/08/11(土) 02:47
- 「かおたん占いなんかやってるの?」
「いいでしょ!」
「じゃあ、ミキを占ってみて」
「なんでよ!………あっ!わかった。ミキはこの先の村には行かないわ」
「じゃあ、行ってみるか」
「ちょっとぉー!!」
「なんだよぉ〜」
「今の占い聞いたでしょ」
「うん。当たるかどうか行ってみるよ。これで行けなかったら、かおたんの占いが当たることになる」
「もう!何でこうもゆうちゃんに似て捻くれてるの!」
「そんなこと言われてもなぁ」
「お師匠様は捻くれてないっちゃよ」
「ミキもだよ」
「ミキ様は捻くれ者ちゃ」
「何言っちゃんてんだよ、れいにゃ。これくらいで捻くれてるとか言われたらミキ生きていけないよ」
- 387 名前:捻くれ者 投稿日:2007/08/11(土) 02:48
- 「だから、そっちには行かないで!」
「なんでだよぉ〜。ミキは風呂に入りたいんだよぉ〜」
「この川沿いに歩いて行けば村があるからそっちに行きなさい」
「近いの?」
「いや、かなり遠い」
「じゃあ、やっぱこの先の村に行こう」
「いい加減にしないさよミキ!ゆうちゃんが言ったんだからね!」
「なんで?」
「ヤバいのがあるんだって。何かは知らないけど」
「へぇ〜」
「わかったでしょ。ゆうちゃんが言ったのよ。行ったら怒られるわよ」
「怪しいな」
「何でよ!あなたの師匠が言ったのよ!」
「いや、ゆゆたんなら、本当にヤバい場合は黙って行かせる」
「何よそれ」
「そして、驚くミキを見て笑う」
「そうっちゃね」
「もうぉ〜。やっぱり、ミキの捻くれはゆうちゃんから受け継いでるのね」
「そうなのかな?まあいいや。かおたんバイバイ」
「カオリ様。元気でだっちゃ」
「れいにゃは捻くれちゃダメよ」
「大丈夫っちゃ。バイちゃ〜」
「おい、本当に行くのか?」
「お前は付いてこなくても一向に構わないぞ」
「行くに決まってるだろう!さあ、付いて来い!」
「だから、何故お前が先導する」
- 388 名前:パム 投稿日:2007/08/11(土) 02:48
- つづく
- 389 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/14(火) 20:59
- 続き待ってます(〇>_<
- 390 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/15(水) 09:08
- アイミキにカオリンが絡むと凄まじいカオスですねw
- 391 名前:パム 投稿日:2007/09/02(日) 05:22
- >>389
レスありがとうございます。
また、かなり間が空いてしまって待たせちゃいましたが、ようやく更新します。
>>390
レスありがとうございます。
カオリンはゆうちゃんにもミキティにも振り回される苦労人ですw
- 392 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/02(日) 05:22
- カオリと別れたミキ達は橋を渡った先にある村の入口にたどり着いた。
村は、ミキの背丈を越す程のとうもろこし畑が広がり、遠くの方に家が建っているのが見えた。
辺りには誰もいなく、村の門には割れたくす玉が飾られ、地面にはくす玉から落ちたであろう紙切れが散らばっていた。
くす玉から垂れている紙には「10万人目おめでとう!」と書かれている。
この異様な光景にミキ達は足を止めて、その垂れ下がるくす玉を見上げた。
「なんだこれ?」
「どうやら、私たちより一足先に10万人目の旅人が訪れたようだな」
「そういうことか。何だよ、かおたんに邪魔されなかったらミキが10万人目だったのにな」
「いや、私が先頭を歩いていたから、私が10万人目だったな」
「そこは譲れよ」
「なぜだ?」
「なぜって…」
村の奥の方で賑やかな声が聞こえきた。
れいにゃは耳を立てて、聞こえてきた方角へと振り向いた。
「何か騒いでるっちゃ」
「あの占い師が言っていた通り、何かあるみたいだな。行ってみよう」
「だから、お前が先頭を歩くなって」
- 393 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/02(日) 05:23
- ミキは先を歩いたアイを追い越して村の奥へと向かった。
とうもろこし畑を抜けると、家が建ち並び、さらにその奥に入ると、大きな広場があった。
広場にはたくさんの人たちが何かを取り囲むように円になっていた。
ミキは、その人たちの背後から背伸びをして中を覗き込んだ。
人だかりの中央には石像があり、その前に一人の騎士とこの村の長老らしき老人が立っていた。
長老は石像を指をさして、騎士に石像の説明をしていた。
「騎士殿も当然ご存知ではあると思いますが、この村でヒトミ様はユウコ様に忠誠を誓ったのです」
「はい。知ってます。あの、私は別にこれを見に訪れたのではなくて、」
「その昔、この村の奥に住む化け物を退治に訪れていたヒトミ様は、化け物との格闘で大怪我を負ってしまい、村で治療をしていたところにユウコ様が訪れたのです」
「はい。よく知っています。それで、あの、」
「ユウコ様はたったお一人で化け物を退治し、さらに、ヒトミ様の傷も治しました。ヒトミ様は大変感銘を受けて、ヒトミ様はユウコ様に一生付いて行くと決めたのです」
「はい。そうですね」
ミキは長老の話を聞くと、石像を見上げた。
ユウコらしき魔女と、跪くヒトミらしき騎士の姿の石像が立っていた。
「あの石像って、ゆゆたんとあいつなのか。似てないな」
「まったくだな、話もでたらめだ」
アイの声に反応して、村人が一斉にミキ達の方へと振り向いた。
そして、村人たちの間をかき分けて、長老が歩み寄ってきた。
「でたらめとは、どういうことですかね?あなたは、コールドブレスを知らないのかね?」
「勿論、知っている。ヒトミ様がユウコ様に忠誠を誓ったのはシルバーランドだ。ここではない」
「シルバーランドですか。おっほっほっほ」
- 394 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/02(日) 05:23
- 長老はシルバーランドと聞いて、嫌みったらしく笑うと、それに続いて村人たちも笑いだした。
「何が可笑しいんだ!」
アイは一歩踏み出して、村人たちに向かって怒鳴った。
村人たちはビクリと肩を震わせて、笑いやめるも、こそこそと話していた。
アイは歯を食いしばって沸き起こる怒りを押さえつけながら、村人たちを睨んだ。
遅れて村人たちの間をかき分けて騎士が、アイの目の前に現れた。
「ちょっと、どこのどなたか知りませんが…。あっ!ミキ様」
騎士は、アイの隣にいるミキを見ると大きな声をあげた。
「あ〜、なんだ。お前だったのか」
「エリ様っちゃ!どうしてここにいるっちゃ?」
れいにゃは、エリと気づくと、飛び出してエリの足元で飛び跳ねて喜びだした。
「まさか、こんなにも早くミキ様にお会いできるなんて思ってもいませんでした。やはり、これが私の運命なのですね」
エリはそう言うと、その場に跪いてミキに向かって頭を下げた。
「私はミキ様のために生きると決めました。命に代えてでもミキ様をお守り致します」
アイは、ミキとエリの間に一歩割って入ると、エリに向かって剣を突き付けた。
「貴様、何者だ。こいつに命を賭ける価値なんてないぞ」
ミキは、目の前に立つアイの頭をほうきで叩くと、肩を掴んで後ろに下げた。
「イタッ!何をするんだ!」
「こんなところで剣を抜くなバカ」
「しかし、こいつはどう見ても怪しい。君に命を捧げると言ってるのだぞ」
「だから何だよ」
「言っとくが私は君と一緒に旅はするが、命を捧げるつもりはないぞ」
「どうでもいいよ、そんなことは。おい、カメ。頭を上げろ」
- 395 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/02(日) 05:23
- エリは頭を上げるとミキを見上げた。
アイは剣を収めはしたが、いつでもエリに反撃できるように構えていた。
「ミキ様。私はヒトミ様からミキ様をお守りするように言われました。その証拠に、ヒトミ様の剣を頂きました」
エリはそう言うと、剣に手を置いた。
すると、アイも、剣をいつでも抜けるように手を添えて構えた。
エリはアイを横目で見ながら、ヒトミから貰った剣をゆっくりと引き抜き、両手でミキに差し出した。
ミキは差し出された剣をチラッと見ると、エリの頭をほうきで叩いた。
「イタッ、何をするんですか」
「だから、言ってるだろ。こんなところで、剣を抜くなって」
「そんなことよりも、これはどういうことだ!何故、貴様がヒトミの剣を持っている」
「さっき、カメが言ってたじゃんかよ」
「そんなはずはない!ヒトミは、今までこの剣を誰にも触らせることはなかったのだぞ。それが、どうしてこんな誰ともわからん奴が持っているんだ」
「私は確かにヒトミ様から頂きました」
「ふざけるな!貴様は誰だ。名を名乗れ!」
「ゴールドランドの騎士、エリと申します」
「ゴールドランドの騎士だと!やはり、貴様!」
アイは、剣を抜くとエリが持っていた剣をはじいて、エリの喉元に剣を突き付けた。
そして、ミキは、ほうきでアイの頭を叩いた。
「何だ!」
「さっきから言ってるだろ。剣を抜くなって」
「こいつはゴールドランドの騎士だ。ヒトミを処刑した後に剣を盗んだに違いない」
「違います!私は、ヒトミ様から剣を頂きました」
アイは、ミキの言うとおりに剣を収めはしたが、エリの襟首を掴んだ。
「嘘を言うな。ヒトミがゴールドランドの騎士に剣をあげるはずがない」
「本当です」
「貴様!」
アイはこぶしを上げてエリに殴りかかろうとした。
すかさず、ミキはほうきでアイの頭を叩いた。
- 396 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/02(日) 05:23
- 「痛いなもう!何だ!」
「お前、うるさいよ。邪魔だからあっち行ってて」
「ふざけるな!これは私の問題だ!」
「違うだろ。カメがミキを守るかどうかの話だろ」
「君を守る必要なんかないだろ。だから、これは私の問題だ」
「何だよそりゃ。大体、何でお前はそうやって、でしゃばるんだ」
「でしゃばってはいない。大体、君もゴールドランドの奴なんかと一緒に旅をする気なんかないだろう」
「というか、お前とも一緒に旅をするつもりはないぞ」
「こんな時に冗談はよせ」
「冗談なんか言ってねぇよ!何なんだよ、お前は!」
「ちょっと二人とも落ち着いてください」
エリは、立ち上がると、言い争うミキとアイをなだめた。
アイは、「フン」とうなるとミキに背を向けて、ミキと少し間を空けた。
「とりあえず剣を拾えよ」
ミキはエリの方を向くと、まずそう言った。
エリは、ミキに言われたとおり、剣を拾いあげ、自分の鞘に収めた。
「その剣があいつのだろうが、あいつがカメに何を言おうが、ミキと一緒に旅をするかどうか決めるのはミキだ」
「はい」
「ミキに仲間は必要ない。だから、帰れ」
「でもっ!」
「何だよ」
「魔女の旅には騎士が必要です」
「お前もこいつと同じこと言うな。それはゆゆたんとあいつのことだろ。ミキには関係ねぇよ」
「では、なぜ、あの騎士を連れているのですか?」
「あいつは勝手に付いて来てるだけだよ」
「そうなんですか?というか、あの方は一体誰なんですか?」
「バカ王子だよ」
「バカ王子?」
「バカとは何だ!無礼者!」
アイは振り向くとミキに近寄った。
- 397 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/02(日) 05:24
- 「私もゴールドランドの人間なんかと一緒に旅をする気はない。帰れ」
「だから、お前は何度言ったらわかるんだ!黙ってろよ!」
「あっ、あのう」
「何だ?」
「ひょっとして、シルバーランドの王子様ですか?」
「そうだ。今頃気づいたのか」
「えーーー!!!何でこんなところにいるですか!?殺されちゃいますよ」
シルバーランドの王子と聞いて、今まで固唾を飲んで眺めていた村人たちがざわつき始めた。
アイはしまったといった感じで、素早く剣に手を添えると構えた。
それに呼応して、エリも剣に手を添えて構えた。
「おい、やめろよ」
「ミキ様、離れてください。そいつは、シルバーランドの王子なんですよ」
「知ってるよ」
「おい、手を出すなよ。こんな奴は私一人で十分だ」
「だから、やめろって」
「シルバーランドの王子が攻め込んできたぞ」
村人は口ぐちにそう言うと、アイを取り囲み始めた。
「みなさん、危険です。下がっていてください」
エリは、一緒に戦おうとする村人たちに声をかけて制した。
ミキは、何度言っても言うことを聞かないアイとエリに呆れ返り、その場から離れた。
「おい、どこへ行く」
「もう勝手にやってろ。ミキは風呂に入る」
「こんな状況で何をのん気なことを言ってるんだ!」
- 398 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/02(日) 05:24
- ミキは、アイの言葉に振り返ることなく、村の宿に向かって行った。
しかし、すぐに村人がミキの前に立ち、行く手を遮った。
「シルバーランドの王子の仲間なら、女だろうが見逃せないぞ」
「どけよ。ミキはあいつとまったく関係ないんだよ」
「そんな嘘が通用すると思うか!さあ、こっちに来い!」
村人はミキの肩を掴むと、強く引っ張り、長老のところへ連れて行こうとした。
それを見たアイはすぐさま、ミキのところへ駆け寄り、剣を抜いて村人に突き付けた。
「離さないか、無礼者!」
遅れてエリもミキのところへ行くと、村人に向かって離すように頷いて示した。
村人は、仕方なくミキを離すことにしたが、ミキを突き放すように押して手を離したために、ミキはよろけてしまった。
乱暴にミキを離したのを見て、アイは半歩前に出て、さらに村人に剣を近づけた。
「王子ともあろうお人が、村人を切るのですか?」
エリは、アイと村人の間に入り、アイに向かって言った。
しかし、アイはエリの言葉に対して剣を下げることなくエリに言い返した。
「さっきお前は、命に代えてでもこいつを守ると言ったよな。あれは嘘だったのか?どうして、今、守ろうとしなかった」
「それは…」
エリはミキを見つめながら戸惑いの表情を浮かべた。
アイは、エリの言葉の続きを待たずに続けて言った。
「私は王子のプライドを捨てるつもりはないが、今は魔女の騎士として行動する。誰であろうが容赦しない」
今まで黙って見ていたミキは、アイの頭をほうきで叩いた。
「剣を抜くなって何度言ったらわかるんだよ」
「痛いな!いちいち叩くな!言うだけで十分だろう」
アイは、ようやく剣をおろして、鞘にしまった。
- 399 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/02(日) 05:24
- 「あのさ、ミキには魔女の騎士なんて必要ないんだよ」
「やせ我慢はよせ。魔女には騎士が不可欠だ」
「それはゆゆたんとあいつの話だろ。ミキにまったく関係ない」
「しかし、あのユウコ様でさえ騎士を必要とした。君なら、もっとたくさんの騎士が必要だろ」
「何を訳のわからんこと言ってるんだよ。ミキは化け物退治に行くんじゃない、人を探してるだけなんだよ」
「でも、一人くらい必要だろ」
「いらないって」
「もう、いいじゃないか」
「しつこいな。大体、お前らはすぐに剣を抜く、剣を抜けば争いが生まれる。ミキは争う気はない、だから騎士は必要ない。だから、帰れ」
「それが君のやり方なんだな」
「やり方っていうか。うん、まあ、そんなところだな」
「わかった。君はユウコ様ではないし、私もヒトミ様ではない。新しい魔女と騎士の関係をこれから作っていこう」
「懲りない奴だな」
「ところで、争いのきっかけは何だったけ?」
「それはあなたがシルバーランドの王子だからです」
エリが答えると、アイは「あっ」と発して、素性がバレていたことを思い出した。
「お前は必ず面倒増やすよな」
「そんなことはない」
「王子、とにかく私と一緒にゴールドランド城までご同行願います」
「ちょっと待て、私は王子なんかじゃない。な?」
「え?お前、そう言ってたじゃん」
「違う、あれは嘘だ。ということで、風呂にでも入りに行くか」
アイはその場しのぎに嘘をつくとバレる前に立ち去ろうとした。
「ミキ様、どっちなんですか?」
「どっちって言われてもな。でも、あいつが本当に王子かどうかは知らない」
「そうですか。では、誰ですか?」
「お前誰?」
ミキはエリの質問をそのままアイに向かって投げた。アイは立ち止ってしばらく考えて言った。
「私の名は、サファイアだ。どうだ良い名前だろ?」
「別に」
ミキはそう言うとアイを追い越して先に宿に入って行った。
アイは、一度、振り向いてエリを見た。信じていないようだったが、疑ってもいないようだったので、何か言われる前に立ち去ろうと思い、走って宿に入った。
- 400 名前:パム 投稿日:2007/09/02(日) 05:25
- つづく
- 401 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/03(月) 00:41
- 更新されててうれしいです!!王子とミキ様のかけあいがつぼです〃つづきたのしみにしてます。
- 402 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/03(月) 18:27
- ついに合流ですか
これからいろんな意味でどういう方向に行くのか楽しみです
- 403 名前:パム 投稿日:2007/09/09(日) 03:41
- レスありがとうございます。
自分でもやっとカメちゃん合流まで話をもってこれたなと思ってるんですが、そう簡単にはいかないのがミキ様です。
- 404 名前:パム 投稿日:2007/09/09(日) 03:42
- アイが宿に入るとミキが困った表情でアイを見てきた。
アイは何事かと、思い近寄った。
「金がない」
「は?」
「お前持ってる?」
「持ってるが、そんなにはないぞ」
「じゃあ、よろしく」
ミキはそう言うと、部屋の鍵を持って二階に上がって行った。
残されたアイは、仕方なく金を支払った。
「う〜ん。まあ仕方ないな」
部屋は日当たりはいいが、ベッドが一つ壁際に置かれているだけで、あとは何もなくとても簡素な部屋だった。
「いい部屋だっちゃ」
「猫には贅沢すぎるな」
ミキはカバンを床に置くと、窓を開けて景色を眺めた。
下にはまだ村人やエリがいて、宿の方を眺めていた。
れいにゃも窓から顔出すと、エリに向かって手を振った。
ミキとれいにゃの姿に気づいたエリは手を振り返した後、村人と一緒に別の棟に去ってしまった。
「エリ様行ったっちゃっちゃ」
「あっ!そういえば、カメが10万人目だったんだな。何か貰えたのかな」
「こんな村じゃ大した物なんて貰えないだろう」
ミキは、背後から聞こえた返答に振り返ると、そこにはベッドの上で寝ころがっているアイがいた。
- 405 名前:パム 投稿日:2007/09/09(日) 03:42
- 「おい!なんでお前いるんだ!」
「なんでって仲間ではないか」
「おいおい、ふざけんなよ。ミキは女、お前は男。わかる?」
「しかし、二つも部屋を借りられるほど金がない」
「なんだよ。やっぱ偽王子は貧乏なんだな」
「君の分も私が払ったのぞ!文句を言うなら出て行け!」
「うわぁ〜ケチくさい奴だ」
「とにかく、君をどうこうしようなんてこれっぽっちも考えてはいない。安心しろ」
「どうだか」
「あのな!私は、」
アイは、強く言い返そうとしたが、言いかけたところで、急に口をつぐむと、そっぽを向いてしまった。
そして、少しを間を開けてから、その続きを言った。
「王子だ」
「さっき嘘って言ったじゃんかよ」
「さっきのが嘘だ。本当に私はシルバーランドの王子だ。しかし、ゴールドランドを抜けるまではサファイアと呼んでくれ」
「それより、そこをどけ」
「王子に床で寝ろと言うのか!」
「今は王子じゃないんだろ。サファイアちゃん」
「ったく、風呂に入ってくる」
アイは仕方ないといった感じで立ちあがると、風呂に入るために部屋を出ようとした。
するとミキは手を伸ばしてアイを引き止めた。
「ちょっと待て、ミキが先だ」
「じゃあ、さっさと入ってこい!」
ミキはカバンから着替えを出すと、扉を開けたところで一度止まってアイを見た。
「覗くなよ」
「誰が覗くか!早く行け!」
- 406 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/09(日) 03:42
- 宿の一階にある風呂は、民家と変わらない小さな風呂だった。
しかし、大きさはどうであれ、久しぶりの風呂にミキは満足気に湯船につかった。
「ふぅ〜。やっぱ風呂はいいなぁ〜」
「ミキ様、エリ様はどうするっちゃ?」
「何を?」
「一緒に旅しないっちゃ?」
「何で?」
「エリ様が一緒の方がきっと楽しくなるっちゃ」
「そうかな?あいつ絶対バカだぜ」
「そんなことないっちゃ!失礼っちゃ!」
「冗談だよ。ムキになるなよ。それにしても魔女の騎士か、どうしてゆゆたんはあいつを選んだのかな?」
「ヒトミ様はお強いっちゃ」
「それに引き替え、バカ王子は頼りにならんな」
「だから、エリ様が必要っちゃ」
「いや、さっきも言ったけど、必要ないって、化け物退治の旅じゃないんだから」
「ちゃけど、たくさんいた方が楽しいっちゃ」
「ピクニックじゃないんだからさ、楽しければいいってもんじゃないだろ」
「ミキ様らしくないっちゃ」
「どういう意味だよ」
「楽しければそれでいいミキ様らしくないっちゃ」
「あのな、この旅はミキにとって運命を左右する重要な旅なんだぞ。足手まといになる奴を連れて行く気にはなれん」
「エリ様は足手まといにはならないっちゃよ。れいにゃが保障するっちゃ」
「れいにゃの保障なんて当てになんねぇよ」
「サファイア様は連れて行くっちゃ?」
「あいつは面倒を増やすから絶対に連れていかない。てか、誰も連れて行く気はない」
「ちゃけどぉ〜」
「何だよ!」
「エリ様だけでいいから、一緒に旅しようっちゃ」
「なんでれいにゃのわがまま聞かないといけないんだよ」
「たまにはれいにゃのわがまま聞いてくれてもいいっちゃ!」
「あ〜、うっせぇうっせぇ」
そう言うとミキは頭まで湯船につかって話を中断した。
- 407 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/09(日) 03:43
- 「ふぅ〜いい湯だった」
「気持ち良かったっちゃ」
「ああ、やっとあがったか。私も入ってこよう」
風呂からあがったミキは頭をゴシゴシと拭きながら部屋に入った。
アイは、部屋に戻ってきたミキに気づくとベッドから起き上がると、部屋から出て行った。
風呂から上がったばかりのミキは、涼むために窓を大きく開き、柵に腰をかけて広場にある石像を眺めた。
やはりどう見ても似ていないユウコとヒトミの石像をユウコにも見せてあげようと思ったミキは、ユウコから貰った水晶のネックレスを手にしようと胸元に手をやった。
しかし、そこにあるはずの水晶がなかった。
「あっ、いけね。風呂に置いてきちゃった」
そういうとミキは柵から降り、ネックレスを取りに部屋から出ようとした。
「今、サファイア様が入ってるっちゃ」
「脱衣所に置いてきただけだから」
「ミキ様スケベっちゃ」
「覗くわけないだろ!」
ミキは、部屋を出ると脱衣所にそうっと入った。
浴場から水の音が聞こえた。ミキはアイにバレないようにゆっくりとした動作で棚や床を探した。
ネックレスは浴場に入る扉の下に落ちていた。
ミキはそうっとしゃがむとネックレスを拾いあげた。
ちょうど拾い上げたところで、浴場の扉が開いたのでミキは反射的に顔を上げた。
ミキとアイの目が合い、しばらくの沈黙の後、アイが大声を上げて扉を閉めた。
「きゃあああ!!」
「うわぁあああ!すまん!正直すまんかった!!」
ミキも思わず大声を上げて、向こう側にいるアイに謝った。
「は、早く出て行け!!」
アイは扉越しに怒鳴った。ミキはネックレスを首にかけると走って二階の自分の部屋に戻った。
そして、ミキはベッドに腰を下ろすと、混乱する頭を整理するように、手を握り締め、呼吸を整えた。
れいにゃはミキの様子がおかしいこと気づくと、隣に座りミキに話しかけた。
- 408 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/09(日) 03:44
- 「ミキ様どうしたっちゃ?」
「み、見ちゃった」
男だと思っていたアイの裸がまぎれもなく女性の体だったことにミキは動揺して声が震えた。
「何をっちゃ?」
「あいつの裸」
「スケベっちゃ!ミキ様どエロっちゃ!」
「う、うるさーい!!」
ミキが大声を張り上げると同時に、アイが部屋に戻ってきた。
ミキはアイと目を合わせず俯いたまましゃべった。
「あっ、あの。べ、別に見るつもりはなかったんだよ。忘れ物を取りに行っただけなんだよ。大体お前出てくるの早いよ」
「構わん」
「そ、そうか。いや、でも、ミキのほうが構わないよ」
「別に同じ女性なんだから気にすることはないだろ」
アイはそう言うと、ミキの隣に腰かけた。隣に座られたミキはちょっと腰をずらして間を空けた。
間をあけられたことにアイは気にすることもなく話し始めた。
- 409 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/09(日) 03:44
- 「私は王子であるが、正真正銘、女だ。私が生まれたときに国民には王子が生まれたと発表して、そして、私は王子として生きることになった」
「そ、そりゃ、御苦労さまです」
「幼いころは男である意味、女である意味なんてわからなかったし、王子ということが当然のことだと思っていた。しかし、成長するにつれ、男と女の区別を理解したとき、女の私がなぜ剣を持ち、男のようにふるまわないといけないのか疑問に思ったこともある。けれど、これでいいんだ。私は女であるが、王子なんだ。それが私の運命なんだ」
「そうですか」
「だから、気にするな。女同士仲良くやっていこう」
「いやぁ〜。ミキは変態さんとは、ちょっと仲良くやっていく自信ないよ」
「変態とは何だ!」
「だって、何で女なのに男の格好してるんだよ」
「だから、それはさっき話しただろ!聞いていなかったのか!」
「聞いたよ。もういいじゃんかよ、王子じゃないんだろ、女に戻れよ」
「今さら戻れるか。それに、必ずシルバーランドは取り返すんだ」
「そうですか」
「そうだ。しかし、私が女であることは秘密にしていて欲しい。女が王子だったなんて知られたら、シルバーランドを取り戻しても国民を裏切ることになってしまう」
「やっぱお前は面倒な奴だな」
「そうだな」
ミキは、アイが言い返してくるかと思ったが、アイは寂しい表情を浮かべて俯いた。
アイ自身が何よりもこの面倒なことに解放されたいと願っていた。自分が女であるとみんなに言いたかった。しかし、それを言えばどうなるかわかっていたので言うことも出来なかった。
ミキは寂しそうな表情のアイの背中を叩き立ち上がった。
アイは、顔をゆがめて、ミキを見上げた。
「腹減ったな、飯食いに行こうぜ。サファイア」
アイはミキに笑顔を見せて立ちあがった。
- 410 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/09(日) 03:44
- ミキとアイは宿の外に出ると、石像の前にエリが立っているのが目に入った。
エリもミキの姿に気づくと走って近寄ってきた。
「おい、こっちにくるぞ。どうする?」
アイは小声でミキに言った。
「よし、今日の飯はあいつに奢らせよう」
「冗談じゃない!誰があいつと一緒に飯を食うか!」
アイが大声で言うと、それを聞いたエリは驚いて足を止めた。
ミキは、エリに手まねきすると、エリはアイに近づかないようにミキの近くに寄った。
「ミキ様、これから食事に行きませんか?」
「おっ、ミキも丁度行こうと思ってたんだよ」
「そうですか、それは良かった。では、行きましょう」
「おい」
ミキとエリが歩き出したところでアイが声をかけた。エリは振り返ってアイを見た。
「私はそいつと一緒に食事をする気はないぞ」
「そんなこと言わないで、サファイアさんも一緒に行きましょうよ」
アイは先ほどのことがあったのにこんなこと言うエリに不信感を抱いた。ひょっとするとミキに何かするかも知れないと思ったアイは仕方なく一緒に付いていくことにした。
宿の隣にある小さなレストランに入ると、中にいた客が一斉にこちらを見た。先ほどの一件で村人たちはミキ達を好ましく思っていなかったため、睨むようにミキ達を見ていた。
村人達はすぐにでもミキ達を追い出したかったが、あの後、エリが村人たちにミキのことを説明して村にいさせて貰うように頼んでいたので、村人たちは何も言うことはなかった。
エリは苦笑いを浮かべて、ミキを見たが、ミキはまったく気にすることなく席に座ってメニューを広げた。
アイはミキの隣に座り、エリはアイの真向かい席に座った。
- 411 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/09(日) 03:44
- 「なあ、カメが10万人目だったんだろ」
「はい。そうです。たまたまですけどね」
「じゃあ、金たくさんあるよな?」
「どうしてですか?」
「賞金みたいなの貰ったんじゃないの?」
「いえ、とうもろこし一年分貰っただけですよ」
「は?とうもろこし?」
「はい、この村の名産物のとうもろこし」
「なんだよ。じゃあ、あんまり食えないな」
「おい、いきなり図々しいことを言うな、戸惑っているじゃないか」
「あっ、いえ、ミキ様のおっしゃりたいことはわかってます。気になさらなくて結構です。もちろん私が御馳走しますよ」
「カメは話がわかる奴だ」
「サファイアさんも遠慮なさらずお好きなのをどうぞ」
「私は自分で払う」
アイは冷たくそう言うとメニューを広げて、所持金に見合う料理を探した。
しかし、この先のことも考えるとあまり高いのは注文できず、アイは仕方なくパンとスープだけを注文した。
「そんだけ?」
「ああ、そんなに腹は減ってないからな」
「あっそ、ミキはステーキとバナナ」
「バナナはこの村にはないんですよ」
注文を取りにきた店員は申し訳なさそうに答えた。
ミキは不満な顔で店員を睨みつけた。
「なんでだよ」
「昔はあったみたいなんですけど、ユウコ様がここを訪れたときに酷く機嫌を悪くしたようで、それ以来この村ではバナナは禁止になったんです」
「なんじゃそりゃ!そこまでするほどバナナ嫌いなのかよ」
- 412 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/09(日) 03:45
- エリも注文を終えると、程無くしてビールが運び込まれた。
三人は、何というわけでもなく乾杯をした。
エリは一口飲むとグラスを置き、アイに話しかけた。
「サファイアさんは、どこの出身の方ですか?」
アイは、飲んでる途中のグラスから口を離し、ミキを見た。ミキは一気する勢いでグビグビと飲んでいたので、そっとしておいて、再度エリの方を見た。
とはいえ、シルバーランドと言えば、また、先ほどのことになると思ったアイはなんて言おうか迷った挙句、ヒトミが良く言っていたことを思い出した。
「愛の国」
「はい?」
エリは思いがけない返答に笑って聞き返した。
「二度も言わん」
アイはエリの笑いが気に食わなく、そう吐き捨てると酒を飲んだ。
「愛の国ですか。そういえば、シルバーランドの王子の名はアイでしたよね?」
飲んでいる途中に言われたアイはむせてしまった。
「どうしたんですか?あなたは王子ではないですよね?」
「君がくだらんことを言うからだ」
「それは失礼しました」
「ぷはぁーーー!!うまいっ!もう一杯」
結局、全部飲みほしたミキはグラスを掲げて近くにいた店員におかわりを頼んだ。
- 413 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/09(日) 03:45
- 「ちなみに、これはゆゆたんの大好物だ」
「そうなんですか。ところで、サファイアさんはヒトミ様にお会いしたことがあるんですか?」
「ある。それがどうした」
「先ほどサファイアさんは、ヒトミ様の剣は誰にも触らせたことがないと言っていたので、サファイアさんはヒトミ様のことをよく知っているのかなと思いまして」
「ああ、よく知っている」
「そうですか。ヒトミ様はこの十数年、シルバーランドにいましたよね。サファイアさんもシルバーランドにいたのですか?」
「どこにいたって構わんだろ」
「まあ、そうですけどね。シルバーランドの方かなと思いまして」
「だとしたら、殺すとでも言うのか?」
「いえ、そんなつもりはないですよ。ミキ様のお連れの方ですし」
「ちなみに、ゆゆたんはトマトが大嫌いだ。冗談でもトマトを投げつたけりするなよ。ボコボコにされるぞ」
「そうなんですか。気を付けます。ところで、サファイアさんは、」
「お前、さっきから何だ!」
「えっ!?」
「言いたいことがあるのなら、はっきりと言え」
「別に、私はサファイアさんのことを知りたいだけですよ」
「ちなみに、ミキの大好物は肉だ。よく覚えておけ」
「そうなんですか。覚えておきます」
「こらぁー!!!」
「何だ。騒々しい」
「お前ら、さっきから無視しやがって!ミキの話を聞けよ」
「君がユウコ様にボコボコにされたんだろ」
「合ってるけど違うわ!」
- 414 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/09(日) 03:45
- 「ミキ様、すみません。でも、聞いてましたよ」
「うそつけ、じゃあ、ミキの大好物は何だ」
「ビールですよね?」
「違うわ!肉だ!」
「ほら、お前の大好物の肉が来たぞ。大人しく食べてろ」
「カメ。よく見て、よく覚えておけ。これがミキの大好物だ」
「はい。覚えておきます」
ミキは、やっと現れたステーキをフォークで刺すと切らずに、夢中で食べだした。
それを見てアイは思わず笑顔がこぼれた。
「フッ、子供だな」
「私たちも食べましょうか」
ミキと同じものを頼んだエリは、ステーキを細かく切ると別の皿に乗せて、れいにゃに差し出した。
「子猫ちゃんもどうぞ」
「ありがとうちゃ!」
れいにゃは、喜んで礼を言うとミキと同じように夢中で食べだした。
一方、スープとパンだけの寂しい食事のアイは、うらめしそうにステーキをちらりと見ると、そっぽを向いてパンをかじった。
エリは一切れ食べるとフォークを置いて、また、アイに話しかけてきた。
- 415 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/09(日) 03:45
- 「サファイアさん」
「今度は何だ」
「長老の話をデタラメと言っていましたよね。どういうことですかね?」
「だから、ヒトミ様がユウコ様に忠誠を誓ったのはシルバーランドだ。こんな村ではない」
「しかし、コールドブレスにはこの村で、ユウコ様とヒトミ様が初めて出会ったと書いてありますよ」
「だから、それがデタラメだと言っているんだ。どうせ、ゴールドランドの都合の良いように本を書き変えたであろう」
「書き変えたのはシルバーランドの方じゃないんですか?」
「何を言ってるんだ。シルバーランドはヒトミ様にとって第二の故郷だ。現に、孫であるヒトミがシルバーランドに訪れただろう」
「あのヒトミ様は孫なんかではありませんよ。正真正銘、ゴールドブレスの英雄ヒトミ様ですよ」
「何を言ってるんだ。生きているわけがないだろう。ヒトミ様は女王に殺された」
「そこは同じなんですね。でも、あのヒトミ様がヒトミ様なんですよ。ね、ミキ様?」
「何?」
「聞いてなかったのですか?」
「食ってるときに話しかけるな、バカ!」
「すみません」
「ヒトミ様は殺されたんだろう。では、なぜ、あのヒトミが英雄だと言う」
「ヒトミ様がおっしゃっていました。それにユウコ様も」
「ユウコ様に会ったのか?」
「はい。ゴールドランドに突然現れて、ヒトミ様に死ねと言いました」
「何を馬鹿げたことを言ってるんだ貴様は!ユウコ様がそんなこと言うわけがないだろう!」
「でも、そう仰いました。そして、ヒトミ様は自分で首を切り、亡くなりました」
「ふざけるな!!そんな嘘、誰が信じるか!」
「本当です。ミキ様もいました」
「おい、本当か?どうして止めなかった!」
- 416 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/09(日) 03:45
- 「うるさいな。ミキは止めたよ。あいつが勝手に死んだだよ」
「そんなはずはない!!ヒトミは私にこう言った!守るものがあるのなら絶対に死ぬなと、死んだら守れなくなると」
「しかし、ヒトミ様は」
「嘘だ!ヒトミがコハルを置いて死ぬわけがない!まさか貴様、幼いコハルまでも殺したのか!」
アイはテーブルを叩いて勢いよく立ちあがると、エリの襟首を掴んで引き寄せた。
「こ、殺していませんよ」
エリは苦しそうに言って、困った表情でミキを見た。
ミキは不機嫌な表情でアイとエリを見ていた。
「お前ら、飯食ってるときくらい大人しくしろよ」
「しかし、こんなことが許されると思うか!」
アイは、エリを突き飛ばすようにして手を離すと椅子に座った。
「あいつは自分で死んだよ。ミキも見た」
「どうしてだ?」
アイの目は涙が零れ落ちそうなほど、潤ませながらミキに言った。
「ミキにもわからん。ゆゆたんがあいつは死んでるはずだから生きてちゃいけないって言ってた」
「だから、死ねと、ユウコ様はそう仰ったのか?」
「そう」
「そんな」
アイは、零れた涙を腕で拭うと、銀貨を一枚テーブルに置いて、先に店を出て行ってしまった。
エリは、アイの突然の涙に何も言うことができず、店を出て行くアイの悲しい後ろ姿を見つめた。
- 417 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/09(日) 03:46
- 「カメ、御馳走さん。れいにゃ、部屋に戻るぞ」
「エリ様、御馳走様っちゃ」
呆然としているエリにミキは礼を言うと、店を出て行った。
エリは、しばらくの間アイが置いていった銀貨をじっと見つめた後、その銀貨をポケットにしまい、アイの分もエリが支払った。
店を出ると、石像の前でミキとれいにゃが話していた。
「さっきカメも同じようなことしてたな」
「そうっちゃ。だから、エリ様と一緒に旅するっちゃ」
「いいやダメだな。足手まといだ」
「そんなことないっちゃ。ミキ様お願いしますっちゃ」
「何でれいにゃはそんなにあいつと一緒にいたいんだよ」
「それは…」
答えようとしないれいにゃに、ミキは暇を持て余すように辺りを見渡した。
背後にエリの姿を見つけると、ミキは手まねきしてエリを呼び寄せた。
呼ばれたエリは駆け足でミキのもとまでやってきた。
「ミキ様、何でしょうか?」
「いや、れいにゃがどうしてもお前と一緒に旅をしたいってさ」
「本当ですか!れいにゃ、ありがとう」
エリは喜ぶと、腰をかがめて、れいにゃの頭を撫でた。
れいにゃは急に恥ずかしくなって、ミキの背後に回ってミキの足にしがみついた。
「どうしたんだ、れいにゃ?」
- 418 名前:誓いの村 投稿日:2007/09/09(日) 03:46
- 「ありがとうございます、ミキ様。私は死んででもミキ様をお守りします」
「あのさ、カメ。別にこの旅は命がけの旅じゃないんだよ」
「ですが、何が起こるかわからないのが旅です。ミキ様に助けてもらったこの命、ミキ様のためなら失っても惜しくありません」
「しつこいな!助けてやったんだから、大切に生きろバカ!」
ミキはエリに怒鳴ると、エリを置いて宿に戻ってしまった。
れいにゃは、怒鳴られて困惑するエリを心配するも、ミキを追いかけて行った。
ヒトミがユウコに忠誠を誓う石像の前で、エリのミキへ対する忠誠はもろくも崩れ去ってしまい、エリはその場で呆然と立ち尽くした。
ミキが部屋に入ると、アイがベッドに潜り込んで泣いて、布団が小刻みに揺れていた。
困ったミキは、頭をかきながら、自分がいることを気づかせようとベッドのまわりをウロウロした。
しかし、アイはミキに気づくどころか、一向に泣きやむ気配がなかった。
とりあえずミキはベッドに腰を降ろして、どうやって寝ようかと考えた。
すると、ベッドの中からアイの声が聞こえてきた。
「私は君のためには死なない。この旅が終わる最後まで生きて君を守ってみせる」
ミキは、ふっと笑顔を見せて立ち上がった。
そして、未だベッドの中で泣くアイに向かって言った。
「いいから、どけよ」
- 419 名前:パム 投稿日:2007/09/09(日) 03:46
- つづく
- 420 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/09(日) 13:00
- ミキさまハァ━━ *´Д`* ━━ン!!!!!
- 421 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/10(月) 01:39
- バナナとトマトで吹き出しました!
確かに!
- 422 名前:パム 投稿日:2007/09/26(水) 02:52
- レスありがとうございます。
では、今日のの更新です。
- 423 名前:ユウコの秘密 投稿日:2007/09/26(水) 02:52
- 結局ミキは、泣きやむ気配のないアイを壁際に押しやってベッドで寝た。
しかし、れいにゃに起こされて、目を開けたミキは自分が床にいることに気づいた。
アイに蹴落とされたことに気づいたミキは起き上がって、アイに文句をいってやろうと布団を引きはがしたが、すでにアイの姿が無かった。
「あれ?バカ王子改め泣き虫王子は?」
「サファイア様はもう下に降りて朝食食べてるっちゃ」
「何だと!ご飯はみんなで食べるってゆゆたんが言ってただろう!」
ミキは寝癖もそのままに部屋を飛び出して階段を駆け下りていった。
「おはよう。朝から元気だな」
アイはドタバタと階段を駆け下りてきたミキに向かって言った。
アイの表情は普段と変わりがなかったが、やはり泣き明かしたせいで目が充血している。
ミキは勢いよく降りてきたものの、アイの目を見て言うのをためらい、アイと向い合わせに座った。
「お前な、朝食はみんなで食べるものだぞ」
「君が起きるのが遅いのがいけないんだろう」
「それにお前、寝像悪いぞ。ベッドから落ちたじゃんかよ」
「私のベッドに勝手に寝るのがいけないんだろう」
「にゃんだとぉー!!」
ミキが立ち上がって怒鳴ったが、アイは表情ひとつ変えずに食事をしていた。
「騒がしいな。朝食は静かに食べるものだ。せっかく朝食付きにしてやったんだぞ。ありがたく食べろ」
「ったく、相変わらず腹の立つ奴だ」
ミキは座りなおすと、運ばれた朝食に手を伸ばした。
- 424 名前:ユウコの秘密 投稿日:2007/09/26(水) 02:53
- 「これからどうするんだ?」
「海に行く」
「海に行ってどうする」
「見る」
「それだけか?」
「うん。他に何かあんの?」
「いや、何もない。見るだけだな」
「何だよ。そうだよ」
「なら、いいだろう。行こう」
「なんじゃそりゃ」
「エリ様も一緒っちゃ?」
「何であいつを連れて行かなくちゃいけないんだ」
「れいにゃはミキ様に聞いてるっちゃ!」
「さあな、あいつ次第だ」
「ならエリ様も一緒っちゃ」
「おい、何故だ。あいつはゴールドランドの人間だぞ」
「そんなのミキには関係ない」
「まあ、いいだろう。どうせすぐに足手まといだとわかる」
「エリ様は足でまといじゃないっちゃ!」
「おはようございます」
れいにゃがアイを睨みつけているところにエリが入ってきた。
れいにゃは、エリに気づくと表情をすぐに変えて、笑顔で挨拶をした。
「エリ様、おはようっちゃ。昨日はよく眠れたっちゃ?」
「いえ、昨日ミキ様に言われて色々と考えてしまって眠れませんでした」
「ミキ様、エリ様に謝るっちゃよ」
「なんでミキが謝らないといけないんだよ!」
「いえ、ミキ様は悪くありませんよ。私が間違っていました。ミキ様に助けて頂いたこの命、大切にして生きていきます」
「そっか、達者でな」
「でも、ミキ様に付いて行くことは変わりませんよ」
「あっそ。好きにすれば」
「やったっちゃ!エリ様、ミキ様のお許しが出たっちゃ!」
「ありがとうございます。ミキ様の力になれるよう頑張ります」
「ところで、カメは朝食食ったのか?」
「はい、長老様のところで済ませました」
「ご飯はみんなで食べるんだよ!」
- 425 名前:ユウコの秘密 投稿日:2007/09/26(水) 02:53
- 「すみません」
エリは頭を下げてミキに謝ると、エリの目の前にアイの手が差し出された。
エリは何のことかとアイの方へと振り向いた。
「まさかゴールドランドの人間と一緒に旅をすることになるとはな。とりあえず、よろしく」
エリは、一瞬ためらったが笑顔でアイの手を強く握った。
「こちらこそ、よろしくお願いします。サファイアさん」
エリはアイと握手した後、「あっ、そうだ」と手を打った。
「サファイアさん。朝食のときに長老様からお話を聞いたんですけど、この村にはちゃんとヒトミ様とユウコ様がここで出会った証拠があるらしいですよ」
「また、その話か。どうせ勝手に作った物だろう」
「本物かどうかは見て確かめましょうよ。ミキ様も見に行きませんか?」
「ミキは海に行きたいんだけど」
アイは目を丸くして息を飲むと、何かを思い出したかのように慌ただしく立ち上がった。
「やはり、その証拠とやらを見に行こう。占い師が言ってたことも気になるしな」
「なんだよお前、優柔不断だな」
「君だって気になるだろう」
「別に」
「れいにゃは気になるっちゃ。お師匠様とヒトミ様がどうして一緒に旅したのか不思議っちゃ」
「昨日、強いからって言ってただろう。そういうことだろ。じゃあ、海に行くか」
ミキが席を立って出ていこうとするところをアイが腕を掴んで引き止めた。
「おい、ちょっと待て。そんなに急がなくても海は逃げやしない。見ていこう」
「そうちゃ。ミキ様行こうっちゃ。エリ様、案内お願いしますっちゃ。エリ様?」
れいにゃの声がまったく耳に入らないといった感じでエリはミキを見つめていた。
「エリ様どうしたっちゃ?」
「なんだよカメ気持ち悪いな」
エリはミキの声にようやく我に帰ると、今度は落着きなくおろおろし始めた。
「カメぇー!!!シャキッとしろバカ!」
「はひぃ!」
ミキが活を入れるとエリはピシッと背筋を伸ばして固まった。
そこにアイが詰め寄ってきた。
- 426 名前:ユウコの秘密 投稿日:2007/09/26(水) 02:53
- 「どうしたんだ急に。まさか嘘とか言うんじゃないだろうな」
「い、いえ。それはこっちが言いたいですよ」
「何がだ。誰も嘘なんか言ってないぞ」
「さっき、れいにゃが言ったことは本当ですか?」
「れいにゃ、嘘なんか何も言ってないっちゃ」
「でも、さっきお師匠様とヒトミ様って。お師匠様というのはユウコ様のことですよね?」
「そうっちゃ。ユウコ様はミキ様のお師匠様っちゃ」
「そうなんですかミキ様?」
「だったら何だってんだよ」
「凄い」
エリは息を飲んで直立不動のままミキをマジマジと見つめていた。
「そうでもないぞ。さあ、行こうか」
アイは硬直しているエリに言うと、先に宿を出て行った。
「おい!そうでもないって何だ!ゆゆたんの修行から生き残っただけでも十分凄いじゃんかよ!」
先に出て行ったアイを追いかけてミキも宿を出た。
残されたエリは未だに固まったままで、れいにゃはそれを心配そうに眺めていた。
遅れること数分後、ようやくエリも宿から出てきた。
ミキとアイは待ちくたびれたと行った感じで、石像の前で座ってエリを待っていた。
「何してるんだよカメ。お前がいなきゃどこかわからないだろう」
「すみません。驚きのあまり放心してしまいました」
「そんなに驚くことないだろ」
「いや、こんな奴じゃ誰もが驚くだろう」
「お前、さっきからミキのこと見下してないか?」
「今頃気づいたのか。さて、行こう。案内してくれ」
「いや、もうちょっと前から気付いてたよ」
エリは先頭に立って道を案内している間、後ろではミキとアイの小競り合いが続いていた。
エリはその小競り合いの内容を聞きながら、ユウコの弟子であるミキに対して、どうしてこんなにもアイは強く言えるのだろうかと不思議に思った。
それと同時に、こんなに仲良く話せることを羨ましく思い、まだ別れてから一日しか経っていないのにも関わらずリサに会いたくなってくるエリだった。
「なあ、カメちゃん。どこまでいくつもりだ?」
「はい?」
エリは突然、自分のことをカメちゃんと呼ばれことに驚いた。
後ろを振り向くと、アイが不満そうな顔でエリを見ていた。
- 427 名前:ユウコの秘密 投稿日:2007/09/26(水) 02:54
- 「道はあっているのか?大丈夫なのか?」
「あっ、はい。大丈夫です。多分」
「多分ってなんだ。長老からちゃんと道を聞いたのか?」
「あっ、あの。その前にですね。さっき私のことをカメちゃんって呼びましたよね?」
「それがどうした。嫌なのか?」
「あっ、いえ。違います。嬉しいです。ありがとうございます」
「別に礼を言われるようなことではないと思うが」
「でも、会って間もないのにそうやって呼んでくれるなんて嬉しいですよ」
「そういうものなのか?」
アイは不思議がりながらミキに訪ねた。
「さあね。とりあえず、ミキのことはミキ様って呼べよ」
「話が逸れたな。道はこっちで本当に大丈夫なんだなカメちゃん?」
「はい!大丈夫です。サファイアちゃん」
エリも同じように言うと、元気よく前を歩いて行った。
「サファイアちゃんはないよな」
「その前にさ、お前おもいっきり無視しただろ」
「着きました。これがそうらしいです」
ようやくエリが足を止めた所は、村の奥にある小高い丘の頂上にある大きな木だった。
「この木に何の証拠があると言うんだ?」
アイは木を見上げながら言った。
ミキはぐるっと一周回り、木に手を触れて目を閉じた。
「何だ?何か感じるのか?」
少ししてミキは木から手を離すと、首を横に振った。
「別に。とりあえず、ゆゆたんの呪いがかけられてないことはわかった」
「バカなこと言うな!まったく」
アイは怒鳴ると、今度は自分で木を見て回った。
「なあ、カメ。じいさんから聞いてるんじゃないのかよ」
「いえ、見てからのお楽しみって言われまして」
「ちっとも楽しくねぇよ!」
「おい!あったぞ!これだ!凄いぞこれは!」
ちょうどミキからは裏側のところからアイが叫んだ。
「何があったの?」
「どうして君はこんなに目立つものを見逃したんだ」
- 428 名前:ユウコの秘密 投稿日:2007/09/26(水) 02:54
- アイが指差したところには、ユウコとヒトミの名が縦に並んで刻みこまれていた。そして、その間に一本の線とその上に三角形が刻まれていた。
「ああ、見たよ。でも、これゆゆたんの字じゃないよ」
「これはヒトミの字だ。ヒトミは剣で字を書くのが上手くて、何度も見たことがあるから間違いない」
「じゃあ、サファイアちゃんもやっぱりこの村でヒトミ様がユウコ様に忠誠を誓ったこと認めますね?」
エリは満足気にアイを見て行ったが、アイはそれ以上に満足気な表情でエリを見返した。
「違うな、これは忠誠ではない」
「えっ、でも、サファイアちゃんがこれを本物だって認めたんですよ」
「違う。いいか、その前にそのサファイアちゃんてのはやめろ。アイちゃんでいい。でだ、」
「あっ、やっぱりアイ王子だったのですね」
「今はそんなことどうでもいい。これだ!これ!」
アイはユウコとヒトミの文字の間にある記号をなぞってみせた。
「それがどうしたのさ。こんな魔方陣ないぞ」
「バカじゃないのか。これを知らないのか。でも、まあ、しいて言うなら恋の魔法ってところだろうな」
「バカはお前だろ」
「うるさい!これは相合傘だ!知らんのかお前らは!」
「れいにゃ知ってるか?」
「知らないっちゃ。エリ様は知ってるっちゃ?」
「いえ、私も知りません」
「まったくダメだな君たちは。これはつまり、ユウコ様とヒトミ様が恋人だったという何よりの証拠ではないか!」
アイは興奮して、両手を広げて大声で語り始めた。
「私はコールドブレスを読んだ時、二人は愛し合っていると思っていた。そして、それが真実だったんだ。どうだ凄いだろ」
「今のお前の方がよっぽど凄いよ」
- 429 名前:ユウコの秘密 投稿日:2007/09/26(水) 02:54
- 「ともに旅をして、ともに命を賭けて戦ったのだ。恋心が芽生えても不思議ではない。ヒトミ様がユウコ様に命を捧げたのはただ忠誠を誓ったわけではなかったんだ。そこには愛があったのだ!!」
「あったのだって言われてもな」
「そうっちゃね」
「愛し合う二人。しかし、先に見えるのは苦難の道ばかり。けれども、二人は決して逃げることなく手を取り合って立ち向かう。そして、最後には辛い別れ。なんとも哀しい物語だ」
「さて、れいにゃ。記念に写真をとっておこう」
「そうっちゃね。お師匠さまビックリするっちゃ」
「が、しかーし!!」
「うおっ!なんだよ」
「それこそが愛。命を賭けて愛する人を守る。なんて素晴らしいお方だったのであろうか。ヒトミ様は」
「ほっとくか。カメ、写真を撮ってくれ」
「待て、私も一緒に写る。いい記念だ」
「なんでだよ!お前はそっちで恥ずかしい話でもしてろ」
「それはもう終わった。次は写真撮影だ。私はヒトミの方に立つから、君がユウコ様の方に立て」
「うるせぇな」
「あの、そろそろ撮ってもいいですか?」
「ちゃんとこの文字入れろよ」
「わかってますって。れいにゃもいいですか?」
「いいっちゃ!」
「ハイ、チーズ」
「だから、なんでそこでチーズが出てくるんだよ」
「そう言いますよね。アイちゃん」
「ん?ああ。それにしても素晴らしい発見だった」
アイはそう言いながら再度その文字を眺めていた。
ミキはカメラをカバンにしまうと、先ほどアイが言っていたことを思い返していた。
「ゆゆたんが恋ねぇ〜。恐ろしい魔法だ」
- 430 名前:パム 投稿日:2007/09/26(水) 02:55
- つづく
- 431 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/30(日) 06:00
- サファイアちゃんwwww噴いたwwwwwwwww
- 432 名前:パム 投稿日:2007/10/17(水) 02:00
- レスありがとうございます。
今日はちょっとだけ更新。
- 433 名前:ユウコの秘密 投稿日:2007/10/17(水) 02:00
- 暖かい陽射しが差し込むベッドの上にヒトミが眠っている。
ユウコはベッドの隣にある椅子に座り、淹れてきたばかりのコーヒーを飲みながらヒトミの顔を眺めた。
大人しくしれいば、こんなに綺麗なのに。
そう思いながらユウコは手を差し伸べて、頬を撫でた。
それに反応してか、ヒトミは寝返りをうった。
はあ、とユウコはため息をつくとコーヒーカップを宙に置き腕を組んでヒトミを眺めた。
- 434 名前:ユウコの秘密 投稿日:2007/10/17(水) 02:00
- 「ヒトミ、起きろ」
ユウコの声にヒトミは体を固めた。
「起きんか。それでうちを騙しているつもりか?」
「あれ?バレちゃった?」
ヒトミは目を開けると体を起こしてユウコと向き合った。
「死体が寝返りうつわけないやろ」
「だって、ユウコ様がいきなりそんなことするから。心の準備ってものがありますし」
「何を言ってるのか意味がわからん」
「またまたぁ〜」
ニヤけるヒトミを叱りつけるようにユウコは睨みつけると、ヒトミは黙った。
「ったく、自分で死んでおいて何で生きてるんや?」
「それはまあ、愛の力ですよ」
「どこでそんなおかしな力を手に入れたんや」
「またまたぁ〜。冗談がお上手で」
「冗談言ってるのは、あんたの方やろ」
「まっ、でもですね」
ヒトミはそう言いながら宙に浮くコーヒーに手を伸ばした。
しかし、その手をユウコは弾いた。
「イタっ。何するんですか」
「自分で淹れてこい」
- 435 名前:ユウコの秘密 投稿日:2007/10/17(水) 02:01
- ヒトミは立ち上がると迷うことなくキッチンに入り、やかんに水を入れるとユウコに向かって大声で叫んだ。
「ユウコ様、火を付けてくれませんか」
ヒトミはやかんを持ったまま待つと、やかんの下に勢いよく炎が上がった。
炎はやかん全体を包み込みヒトミの手まで包み込んだ。
「うぉー!あちちち」
炎に包まれながらもやかんからは手を離さずヒトミは持ち続けると、すぐに沸騰した。
ヒトミは熱くなった手のひらをふうふつと息を吹いて冷ましながら、コーヒーを淹れた。
「ユウコ様、加減というものをご存知ですか?」
「知っとるよ。それがどうした?」
「どうしたって。この手見てくださいよ」
ヒトミはユウコの炎に包まれた手を差し出して見せた。
しかし、炎に包まれたはずの手は赤みを帯びることもなく真白い綺麗なままだった。
「何ともないやん」
「まあ、そうなんですけどね。でも、熱いものは熱いんですよ」
ヒトミはぶつぶつと言いながらベッドに座った。
- 436 名前:ユウコの秘密 投稿日:2007/10/17(水) 02:01
- 「それで、死んだはずのあんたがどうして生きている?」
「だから…」
ヒトミはまた「愛の力」と言おうとしたが、ユウコの鋭い視線に言うのを止めて言いなおした。
「私がどうして生きているのか一番良く分かっているのはユウコ様の方ではないのですか?」
「わからんな。最近、物覚えが悪くなってな」
「さすがのユウコ様でも年には敵いませんか」
「アホか!年なんてもんはとうの昔に捨てたわ」
「ですよね」
ヒトミは寂しげにそう呟くとコーヒーを口にした。
「ごっちんがまた動きだした」
「そうですね」
「そうですねじゃあらへんやろ!あんた、懲りもせずまたごっちん使ってたやろうが!」
「あっ、バレてました?」
「当たり前やアホ。ごっちんは何かを探してるって言ってた。何か知ってるか?」
「いやぁ〜、特に何も聞いてませんよ。まあ、ごっちんのことだから新しい召喚獣でも探してるんじゃないんですか?」
「そんなに集めて何をするつもりや」
「それは知りませんよ」
「まったくどいつもこいつも勝手なことをしよって」
「そう言うユウコ様はミキちゃんに何をさせるつもりですか?」
「あんたを殺すように言った」
「ははっ、そうですか。ミキちゃんが私を」
ヒトミは笑っていた。それは殺されないという余裕の笑みではなく、寧ろそれを楽しみにしているかのような笑みだった。
ユウコはヒトミの笑顔を見て、表情を緩めた。
そして、ヒトミの持つコーヒーカップを取り上げ、宙に放り投げると、ヒトミに抱きついた。
「ヒトミ。その時が来るまで私をずっと抱きしめていて」
- 437 名前:パム 投稿日:2007/10/17(水) 02:01
- つづく
- 438 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/17(水) 06:19
- だまされたー
- 439 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/25(木) 02:24
- われわれはだまされーたー
本当に全くこの展開は予想してなかったです
ヤラレター
- 440 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/04(日) 13:37
- クソ〜〜〜〜!だーまーさーれーた〜。。
- 441 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/04(日) 14:29
- >>440
sageを覚えて下さいね。
- 442 名前:パム 投稿日:2007/11/10(土) 05:01
- レスありがとうございます。
騙されちゃいましたかぁ(・∀・)ニヤニヤ
今日は珍しく多めの更新です。
- 443 名前:海 投稿日:2007/11/10(土) 05:02
- 「でけぇー!!」
「凄いっちゃ!」
村を出たミキ達は川沿いを歩き小さな港町に着いた。
夕陽でオレンジ色に染まった海をミキとれいにゃは、その美しさと広大さに驚きの声を上げてはしゃいでいた。
「ミキ様は本当に海を見たことがなかったんですね」
「あいつは今まで外の世界を見たことがないんだろう。世間知らず過ぎる」
「そうですね」
アイとエリは少し離れた所で、その様子を笑って眺めていた。
「ちゃあああー!!」
突然れいにゃが大声で叫んで、みんながれいにゃの元に駆け寄った。
「どうしたれいにゃ」
近くにいたミキがいち早く駆け寄ると、れいにゃは舌を出して顔をしかめていた。
「しょっぱいっちゃ」
「何が?」
「海の水しょっぱいっちゃ」
「何で?」
「そんなの知らないっちゃ」
ミキは手で海の水をすくって口元に近づけた。
「ミキ様!飲んじゃダメです!」
エリの忠告は間に合わず、ミキは海の水を飲んでしまった。
「うげっ、なんじゃこりゃ、バカじゃねぇの」
「バカはお前だ。海水を飲む奴がいるか」
アイは呆れ顔でミキに近寄ると持っていた水筒をミキに渡した。
ミキは勢いよく水を飲んで口の中をゆすいで落ち着いた。
「何でしょっぱいの?」
「そんな知るか。そういうもんだ。もう十分だろう。次の町に行こう」
「もうちょっとここにいる」
「こんなところにいても仕方ないだろう。さっさとやるべきことをやったらどうだ」
「どこに行こうがミキの勝手だろう!」
「そうですよアイちゃん。この町にミキ様が探している人がいるのかも知れませんよ」
「いや、そんな感じはしないな」
「だったらさっさと次に行く場所を決めたらどうだ!」
アイは怒って海から離れてさっきまでいたところに歩いて行った。
- 444 名前:海 投稿日:2007/11/10(土) 05:02
- 「なあカメ。この海の先には何かあるの?」
「パールランドという国がありますよ」
「う〜ん。あやしいな」
アイはパールランドという言葉を聞いて足を止めた。
「まさかそこに行くとか言い出すんじゃないだろうな」
「よし、行ってみよう」
そう言うとミキはほうきに跨って宙に浮いた。
それを見てアイは慌ててミキのところまで戻り、ほうきを掴んで引き止めた。
「やめろ!何を考えてるんだ!」
「何だよ!離せよ!」
「ミキ様、ちょっと待ってください。私たちは空を飛べません」
エリもアイと一緒になってミキを止めに入った。
それで、ミキは仕方なくほうきから降りた。
「お前らは本当に足手まといだな」
「君が勝手すぎるんだ!」
「ミキが行くって決めたら行くんだよ!お前らは別に付いてこなくてもいいんだよ!」
「何の根拠があってパールランドなんかに行くんだ。あの山を越えれば大きな町がある。そこに行こう」
「お前こそ何の根拠があるんだよ!行くって言ったら行くんだよ。お前らは泳いで行け!」
「泳げるか!」
「泳げないの?」
「あっ、いや。そ、そんなことないぞ」
アイは先ほどまでの勢いを失くして、しどろもどろになった。
「何だアイちゃん泳げないから、早くこの町を出たかったんだ」
エリはからかうようにニヤニヤしながらアイに言った。
「じゃあ、カメちゃんはパールランドまで泳げるのか?」
「流石にそれは無理ですけど、船があるじゃないですか」
「冗談じゃない。誰が船なんかに乗るか!」
「船も苦手なんだ」
「そうじゃない!大体、パールランドに行く必要がないだろう」
「あるよ。ミキが決めた」
「ふざけるな!興味本位で決めるな!」
「パールランドはいい国だと聞いていますよ。それにシルバーランドとは仲が良かったですよね?」
「確かに良い国だ。しかし、私はあそこの姫が苦手だ」
「なんだそんな理由か」
「なんだとは何だ!」
「だって、アイちゃんもう王子じゃないからお姫様に会うことなんかできませんよ」
「あっ」
「ははっ。いい加減お前は王子様気分を捨てろよ」
「うるさい!私はちゃんと目的を持って行き先を決めろと言ってるんだ!」
- 445 名前:海 投稿日:2007/11/10(土) 05:02
- 「わかったよ。じゃあ、ちゃんと決めるよ」
「どうやって」
「これで」
ミキは手に持っていたほうきを宙に放り投げた。
「なんだこれは?魔法で決めるということか?」
「まあ、似たようなもんだな」
「そうか」
アイは宙に上がったほうきを眺めた。
するとほうきはアイ目掛けて落下し、アイのおでこに命中した。
「イタっ」
「お前邪魔するなよ!」
「君が誰もいないところに投げればいいだけの話だろう!」
アイにぶつかって落ちたほうきの柄は海の先を差していた。
「やっぱ海の先だな」
「では、私は船を手配してきます」
エリはそう言って、駆け足で船着場のところへ向かって行った。
「君と一緒にいるとろくな目に合わないな」
アイは赤くなったおでこをさすり、肩を落とした。
「ところでさ、船って何?」
- 446 名前:海 投稿日:2007/11/10(土) 05:03
- エリが手配した船を前にしてミキは物珍しいそうにその船を眺めていた。
「こんなので海の先まで行けるの?」
「行けますよ」
「どうやって?」
「どうって、これに乗って水の上を進んで行くんですよ」
「沈むだろ」
「沈みませんよ」
「へぇ〜、凄いね」
「ミキ様が住んでいたところには海も船もなかったんですか?」
「何だよ、悪いかよ」
「悪くはないですよ。どんなところに住んでいたのかと思いましてね」
「どんなって言われても、森の中だよ」
「そうなんですか、森からは一歩も出たことはなかったんですか?」
「そんなことはないよ」
「森の外には海はなかったんですか?」
「なんだようっせぇな!ないって言ってるだろ!さっさと行くぞ!」
ミキは怒って先に船に乗り込んでいった。
エリも後に続いて行こうとしたが、しゃがんで黙ったままでいるアイに目を向けた。
「アイちゃん行きますよ」
「わかってる」
「大丈夫ですよ。この船は何度もパールランドに行ってるらしいですから」
「わかってる」
エリが手を差し出すも、アイは俯いたまま立とうとせずじっとしたままだった。
「アイちゃん置いて行きますよ」
「やだ」
「だったら立ってくださいよ」
「立てない」
「はい?」
エリは腕を組んで困り果てて、船にいるミキを見た。
ミキは初めての船に大喜びではしゃいでいた。
はあ、と溜息をついてエリはアイの前にしゃがみ、後ろに手を伸ばした。
「アイちゃん、おんぶしてあげますから行きますよ」
アイはゆっくりとエリの背中にのしかかり、しがみついた。
エリは苦笑いを浮かべながら、アイをおんぶして船に乗りこんだ。
「お前ら何してるの?」
アイをおんぶして船に乗ってきたエリに向かってミキは言った。
「アイちゃんが立てないみたいで」
「お前はホントに役立たずだな」
「うるさい」
アイはエリにしがみついたまま弱々しく答えた。
それを見てミキは苦笑いした。
- 447 名前:海 投稿日:2007/11/10(土) 05:03
- エリは客室のベッドにアイを寝かせると甲板に戻った。
甲板ではしゃぐミキを見て、エリは思わず噴き出した。
「何がおかしいんだよ」
ミキは立ち止りエリを睨んで言った。
「すみません。ミキ様がまるで子供のようにはしゃいでいるからつい」
「だって、凄いじゃんかよ。こんなに広いんだぜ。それにこの船って奴はこんなに大きいのに沈まないしさ」
「そうですね。改めて思うと確かに凄いですね」
「バカにしてるだろ」
「いえ、そんなことありませんよ」
エリは船首に立ち、はるか彼方を眺めた。
エリも色んな国に行ったことはある。しかし、それは隣接した国ばかりで海を渡るのは初めてだった。
しかも、親友のリサと一緒ではなく会って間もない人たちと旅をするなんて、正直、不安だった。
エリは、その不安を打ち消そうと、じっと夕陽を眺め続けた。
「綺麗な夕陽っちゃん」
声に気づき、エリが振り向くと隣でれいにゃも夕陽を眺めていた。
エリはまた夕陽に視線を戻して眺めた。
「綺麗ですね」
「エリ様。ありがとうっちゃ」
れいにゃはエリに向かって頭を下げた。
「え?何がです?」
「ミキ様をお守りしてくれるんちゃろ?」
「はい、そうですよ」
「れいにゃはミキ様に何もしてあげられないっちゃ」
「そんなことないでしょう。こうして一緒にいるという事は必要だからなんですよ」
「そうっちゃろかぁ〜」
「そうですよ。私たちなんて付いて来るなって言われますからね」
「ミキ様は強情っちゃ。本当は一緒に行ってもいいのに素直に言えないっちゃ」
「そうなんですかね。それなら嬉しいですけどね。邪魔なのかとたまに思うときがあります」
「エリ様が邪魔なことなんてないっちゃ!」
「ふふっ、ありがとう」
それから、エリとれいにゃは黙ったまま夕陽が沈むまでずっとそこで夕陽を眺めていた。
辺りが真っ暗になったところで、客室に戻った。
戻ったエリとれいにゃをミキはニヤニアしながら迎えた。
- 448 名前:海 投稿日:2007/11/10(土) 05:04
- 「ひゅ〜。お熱いねぇ〜。そこの一人と一匹」
「ミキ様うるさいっちゃ!」
「別に熱くはありませんよ。むしろ涼しいですよ。日が沈んで冷え込みますからお気をつけ下さい」
「もうカメちゃんつまんな〜い」
「えっ?冗談でしたか。こういうときはどうしたらいいのでしょうかね?」
「無視すればいいっちゃ」
「なんだとれいにゃ!魚のえさにするぞ!」
「無視っちゃ」
「チッ!」
食事を終えて、みんなが寝静まった頃にミキは目を覚まして一人で部屋を出て甲板に上がった。
するとそこには、夜空を見上げるエリの姿があった。
「なんだよ。冷え込むって言ったくせに外に出てるんだな」
「ミキ様。どうなさいました?」
「別に。夜の海を見たくて」
ミキはエリの隣に立ち真っ暗闇の海を見つめた。
落ちてしまいそうな黒い海に気分が悪くなったミキはその場に寝ころがって夜空を見上げた。
エリもミキにならって寝転がった。
「辺りは真っ暗ですから星がよく見えますね」
「そうだな」
「私も死んだらあの星たちの中に入れるのでしょうか」
「は?何言ってるの?」
「死んだら星になるって小さいころ聞きました」
「ふ〜ん。そうか」
「ミキ様にあのとき助けて貰わなければ今ごろ星になってミキ様に見られていたかもしれませんね」
「何言ってんだお前は」
「感謝してます」
「礼なられいにゃ言えよ」
「れいにゃに?」
「ああ、あいつが助けろって言ったんだよ」
「そうですか。では、れいにゃにも言っておきます」
「ところでお前は、ミキが死ねと言ったら死ねるか?」
「えっ・・・」
思いがけないミキの言葉にエリは体を起こしてミキを見た。
ミキの表情は何かを思いつめた寂しい表情をしていた。
エリと目が合ったミキはすぐに表情を変えて、言い加えた。
- 449 名前:海 投稿日:2007/11/10(土) 05:04
- 「あっ、いや別に本気で言ってるわけじゃないぞ。たださ、あのときのを見てさふと思っただけだよ」
「ヒトミ様のことですか」
「ああ、あいつは簡単に死にやがった」
「凄いですね。ユウコ様に全てを捧げているのでしょう」
「それが騎士ってものなのか?」
「う〜ん。死ねと言われて死ぬのが騎士ではないと思いますが」
「じゃあ、愛なのか?」
「愛?う〜ん。どうなんでしょうか。私はそういうことにはめっぽうダメでして」
「そうなんだ」
「はい。申し訳ありません」
「別に謝ることじゃないよ」
「しかし、私はミキ様のためなら命を・・・」
「お前の命なんかいらねぇよ」
「ですが、」
「これから一緒に旅を続けたかったら、二つのことを約束しろ」
「はい。なんでしょうか?」
「ミキに命なんて賭けるな。それと剣を抜くな」
「しかし、それではミキ様をお守りすることができません」
「大丈夫だよ。この旅は人探しだ。別に化け物を倒しに行くわけじゃない」
「ですが、道中では色んな魔物に出くわす可能性が」
「心配すんなよ。そんな場所通らないよ。それにお前よりミキのほうが100倍強い」
「え?」
「さてと、もう寝ようかな」
茫然とミキの姿を眺めるエリを余所に、ミキは立ち上がると部屋に戻って行った。
一人残ったエリはもう一度、星を眺めて強くなろうと誓った。
- 450 名前:パム 投稿日:2007/11/10(土) 05:04
- つづく
- 451 名前:忘れ物 投稿日:2007/11/28(水) 05:13
- ヒトミとユウコは食卓を囲んで朝食をとっていた。
ヒトミが用意した朝食は、パンとゆでたまごとコーヒーの簡単な食事で、ユウコは不満気な表情をあらわにした。
「もうちっとなんかできんのか、あんたは」
「でも、これだけしかなかったんですよ」
「あんたがいつまでも死んだふりしてるから買いに行けんかったんや!」
「あっ、ずっと看ていて下さったんですね」
「いや、そういう訳やないけど」
ユウコはヒトミから目をそらすと、ちょっと照れくさそうにしてパンをかじった。
「ユウコ様?ユウコ様?」
ヒトミはユウコに呼びかけるが、ユウコは一向にヒトミのほうを見ようとはしなかった。
ヒトミは体を伸ばしてユウコの顔を覗き込むようにすると、もう一度呼びかけた。
すると、ユウコはキッと睨み返したので、ヒトミは慌てて体を戻した。
「何や」
「あの、お願いがあるんですけど、これ食べたらゴールドランドに連れて行ってくれませんか?」
「何でや」
「忘れ物を取りに行きたいんですよ」
「ああ、わかった」
- 452 名前:忘れ物 投稿日:2007/11/28(水) 05:14
- 「ついでに買い物もしましょうか」
「そうやな」
「これから二人の新婚生活が始まるわけですから、色々と必要な物もありますしね」
「あっ、そうや。新婚で思い出した」
「例えばダブルベッドとか。別にあれでもいいんですけどね。ただ、ユウコ様は激しいから、ベッドから落っこちちゃうんで」
「うっさい!!激しいのはあんたの方やろ!って、そういうことやなくて」
「まあ、昨日は百年ぶりでしたからね。百年分の愛が、昨日は溢れ出ましたよね。お互い」
「だから、それはええって!ゴールドランドに行ったらパールランドに行くで」
「ああ、そうでしたね、私としたことがうっかりしてました。結婚指輪ですね。あれ?でも、真珠でいいんですか?ダイヤじゃなくて」
「ダイヤなんか手に入らんやろ。って、せやからそうやなくて、聞けや!人の話を!」
「すみません。ダイヤは必ず手に入れときますよ」
「勝手にしろ。でだ、パールランドのお姫さんが中々結婚せぇへんくて真珠王がうちに泣きついてきよった」
「ええー!!ちょっと、今の話聞いてましたか?これから二人の新婚生活が始まるってのにもう離婚ですか。あんまりです」
「聞いてないのはあんたのほうやろ。何でうちが姫と結婚せないかんねん」
「じゃあ、私が姫と結婚するんですか?」
「なんでそうなるんや!誰があんたを結婚させるか!あんたはうちの!」
「はい?うちの?」
「何でもないアホ。ええから、黙って聞け。今、パールランドは復活祭で、色んなところから名高い貴族達が集まっててな、そいつらと姫を見合いさせてるらしんやけど、姫がいまいち乗り気やないらしくてな」
「ああ、そこに私が行って女の落とし方を教えればいいんですね」
「まあ、それでも構わんけどな。というか、あんたが教えられるのか?」
「甘く見てもらっちゃ困りますよ。落とした女の数は星の数ほどいますよ」
「ほう、そりゃ立派なことやな」
- 453 名前:忘れ物 投稿日:2007/11/28(水) 05:14
- 「あっ、いや、すべてユウコ様に会う前のことですよ。今はユウコ様一筋です」
「どうでもええねん、そんなことは。とにかく、今から惚れ薬を作るからそれを姫に飲ませればええ」
「ああ、ユウコ様が私に飲ませたものですね」
「そんなことしてへんわ!」
「あれ、そうだったかな?。でも、飲んだら最初に見た人を好きになっちゃうんじゃないんですか?いいんですか?」
「は?誰がそんなこと言った」
「だって、普通」
「何がどう普通なんや?そんな惚れ薬あんのか知らんけど。とにかくこれは惚れ薬って言っても、誰でも構わず好きになるってもんやない。後押しするだけ薬や。恋を薬で簡単に解決させるなんてつまらんやろ」
「そうですね。振り向いてくれなくて追いかけて、邪険され、ときには殴られ、ときには燃やされ、そうやって愛を育むものですからね」
「言ってる意味がまったくわからん」
「まあいいです。とにかく姫に飲ませてきます。それにしても久しぶりだな。元気にしてるかな」
「会ったことあるんか?」
「ええ、アヤヤがまだ小さい頃にアイ王子のお供で一緒に遊びに行ったことがあります」
「ほう、それも星の数に入ってるのか?」
「何言ってるんですか。その頃は5歳とかですよ。いくら何でも手を出しませんよ。まあ、でも、あれから十年以上も経ってますから、今は綺麗な大人の女性になってるでしょうね。会うのが楽しみですね」
ヒトミは大人になったアヤヤの姿を想像してニヤけながら、コーヒーを口元に運んでいった。
ユウコの眉間にシワが寄せると同時にヒトミが持っているカップの取っ手が折れ、コーヒーがヒトミの足にこぼれた。
「うおぉおお!!あちぃいい!!」
- 454 名前:忘れ物 投稿日:2007/11/28(水) 05:14
- リカから受けた傷がまだ癒えず、リサは寝たきりの生活をしていた。
朝になって目を覚ましても、起き上がることもできず、介護の者が現れるまでぼうっと窓の外を眺めていた。
ボッと小さな音が聞こえて、リサは部屋の中へと目を移した。
そして、消えていたはずのろうそくの火が点いていることに気づいた。
確か消えていたはずだったのにと不思議に思うが、起き上がれることもできないので、じっとその火を見つめた。
ろうそくの火は揺れながら大きさを増していった。
そして、火はやがてろうそくの火とは思えないほど大きく炎のように燃え上がると一瞬にして消えた。
しかし、そこに現れた人物を見てリサは息を飲んだ。
突然、リサの部屋にユウコとヒトミの姿が現れた。
ユウコとヒトミは、リサがいることに気付いていないのか、それとも気にしていないだけなのか、リサの存在を無視して部屋中をウロウロとしていた。
ユウコはソファを見つけると、そこに腰を下ろした。しかし、ヒトミは座らずにまだ部屋の中をウロウロとして何かを探していた。
リサはヒトミの行動を見ながら何て言おうか考えていた。
ヒトミは戸棚を漁ると、一本の酒のビンを取り出した。
「ユウコ様、これはかなり良いやつですよ。貰っていきましょうか」
「忘れ物ってそれか?」
「違いますよ。これはついでです」
「あの、勝手に人の物盗らないでください」
ここでようやくリサはヒトミに声をかけた。
「おおっ!!ガキさん。驚かさないでよ」
リサはヒトミと目を合わせたが、すぐにユウコに視線を移した。
「ユウコ様、怪我をしていますので寝たままで失礼します」
「かまへんよ。それよりどうした?」
ユウコは立ち上がるとリサのところに近寄った。そして、布団をはがすとリサの怪我を見た。
リサの体には何重にも包帯が巻かれてあった。
ユウコは包帯の上に手を置き、円を描くようにしてリサの体をさすった。
するとユウコが触っている箇所が急激に熱を帯びて、リサは思わず唸り声をあげた。
しかし、次の瞬間には体が軽くなったような感じがしてリサはゆっくりと体を起こしてみた。
リサは不思議そうにユウコを見つめた。
- 455 名前:忘れ物 投稿日:2007/11/28(水) 05:14
- 「ユウコ様、一体何を?」
「怪我を治した」
リサははっとして、腹を強く押さえてみた。痛みが感じられなかった。
リサは頭を深く下げユウコに礼を述べた。
「別に大したことしてないから、そんなことせんでええって。それよりも、その怪我を負わせた奴が気になる」
「リカ様です」
「リカ?ここの王子やんか。人間やろ?あんたのその傷は魔力によるものや。こうして生きてるだけでも大したもんや」
「そういうことでしたか。だから、一向に治る気配がなかったのですね」
「本当にリカにやられたのか?」
「はい。リカ様は何かに獲り憑かれているようでした
それを聞いてユウコは眉をしかめた。
「獲り憑かれている?今、リカはどうしている」
「それが、数日前に姿を消しました。それと、この国にある魔封石がなくなりました。恐らくリカ様が持ち出したと思います」
「魔封石か。そんなの持ってたら魔力使えんやん」
「確かにそうですね。では、他の者が持ち出したのでしょうか。しかし、あれがある場所は王家の血筋の者しか入れないんですよ」
「じゃあ、ガキさんが持ち出したんじゃないの?」
「私は、ずっとここで寝てました。って、ちょっと!勝手に飲まないで下さいよ!それ物凄く貴重なんですから!」
リサはベッドから降りてヒトミが持っている酒を奪い取って、減った中身を見て肩を落とした。
「これはカメが無事帰ってきたときに一緒に飲もうと思ってたんですよ。大体、幽霊が酒を飲んでもしょうがないでしょうが」
「幽霊?誰が?」
「あなたが」
「ガキさん、そいつは幽霊やない。しぶとく生きておった」
「生きてた?」
リサはすうっと視線を下げて、ヒトミの足元を見た。確かに足があるのを確認した。でも、実際に幽霊を見たことがないので幽霊に足ないのか本当のところは分からず、ヒトミの体をパシパシ叩いた。
- 456 名前:忘れ物 投稿日:2007/11/28(水) 05:14
- 「ちょっとガキさん何だよ」
「本当に生きてるんですか?」
「そうだよ。大体、死んでなんかないもん」
「この人も魔力を持っているのですか?」
リサはユウコの顔を見て尋ねた。しかし、ユウコよりも先にヒトミが答えた。
「ガキさん違うよ。魔の力じゃなくて愛の力だよ」
リサは真顔でヒトミに向き合った。
「死んでもバカは治らないんですね」
「おおっ。ガキさん言うねぇ〜」
「それで、愛の力で生き返ったヒトミ様は何をしに来たのでしょうか?」
「ガキさん、バカにしてるでしょ」
「してません。それで何の御用でしょうか?」
「う〜ん。まあいいか。コハルを返してもらいにきた」
「コハルですか、わかりました。行きましょう」
「えらくあっさり返してくれるんだね」
「ええ、ここに置いておく必要もありませんからね」
リサは簡単に身支度を整えて、部屋の扉を開けた。
ヒトミはリサについて部屋の出口まで行くと立ち止まってユウコのほうを見た。
「ユウコ様は行かないんですか?」
「何でうちまで行かなあかねん。さっさと行ってこい」
「はい。では、くれぐれも大人しくしていて下さいね」
「それはあんたのほうやろ!さっさと行ってこい!」
「はい!ガキさん行くよ!」
ヒトミはリサを引っ張って走って部屋を飛び出した。
城の中を走っていると遠くに衛兵の姿が見えて、リサはヒトミの腕を掴んで物陰へと引っ張った。
「ヒトミ様、あなたはついこの間まで捕虜だったんですから、見つからないようにしてください」
「ああ、そうだったね。ところで、コハルはどこにいるの?」
「牢獄です。まずは城から出ましょう」
「牢獄?」
- 457 名前:忘れ物 投稿日:2007/11/28(水) 05:15
- リサは城の隠し通路を使って、城の外へと出た。
その間ヒトミはリサの後ろを黙ってついてきて、リサは先ほどまでと違うヒトミの雰囲気が気になった。
「ヒトミ様、どうしたのですか?」
「どうしてコハルが牢獄なんかにいる。私は大事にしろと言ったはずだ。約束を破ったらどういうことになるのかわかっているのか?」
ヒトミは、先ほどまでのおちゃらけた雰囲気はかけらもなく、鋭くリサを見つめ誰も寄せ付けないほどの殺気を放っていた。
リサは周りを気にして、陰に隠れるように一歩下がった。
「そう言われても、私が入れたわけではありませんので」
「そんな言い訳が通用するとでも思ってるのか。万が一のことがあったら真っ先に死ぬのはお前だぞ」
「そうですね。とりあえず、もうちょっと隅っこ歩きましょう。目立ちます」
リサは、ヒトミが怒っているのを肌で感じ取っていた。しかし、恐怖は感じられなかったので、大して気にすることなくヒトミを物陰に引き寄せた。
「ガキさん、今の話聞いてた?」
「聞いていました。私が全て責任を負いますよ。ですから、殺すのは私だけにして下さい」
リサはそう言って、先を歩き始めた。
ヒトミはリサの後ろ姿を見ながらフッと笑い、殺気を消した。
「ガキさん、冗談だよ。怒った?」
「怒っていません。本当の気持ちを言ったまでです。私の命で許してもらえるのなら構いません」
「あっそ。まあ、コハルのことだから元気にしてると思うけどね」
先を歩くリサは立ち止まり、振り返った。
「気になっていたのですが、コハルは一体何者なのでしょうか?ここに来てから一切食事を拒んでいるそうです。元気とは言い難いですが、それでも衰える気配はないらしいです」
「コハルは食べ物にうるさいからね」
「そういうことを聞いているのではありません。人間なのでしょうか?」
「こっちかい?」
- 458 名前:忘れ物 投稿日:2007/11/28(水) 05:15
- ヒトミはリサの質問に答えずに牢獄の奥に入っていった。
タイタンによって破壊された牢獄の修復はまだ済んでいなく、ところどころに瓦礫が転がり、ヒトミたちの行く手を阻んだ。
脱走しにくくするために迷路のように作られている通路に加えて瓦礫によって道が塞がれている箇所がいくつもあり、二人は何度も同じ道を行き返した。
そして、迷っていることを認めたリサは壁に寄りかかりうなだれた。
「ヒトミ様、すみません。迷ってしまいました」
「あっ、やっぱり?」
「下へ続く道は塞がれているのかもしれませんね」
そういうと、リサは近くの瓦礫の山を指さした。
ヒトミは瓦礫の山の全体を眺めるとリサに近寄った。
「ガキさん、剣貸して」
リサは言われるがままに剣をヒトミに貸した。
ヒトミは剣を構えると瓦礫の中でも大きな岩を目掛けて剣を振り下ろした。
すると岩は綺麗に真っ二つに割れると同時に瓦礫が崩れ、道が開けた。
「さあ、行こう」
ヒトミはそう言うと、リサに剣を返して奥へと進んでいった。
リサは受け取った剣をまじまじと見つめた。この剣に岩をも切り裂くほどの強靭な力が秘められているようにはとても思えない。
リサは改めてヒトミの力を実感した。
その後も、ヒトミは瓦礫のを切り裂き道を進んでいった。
そして、ようやく辿り着いたかと思ったところで、また、瓦礫が道を塞いでいた。
「ここの奥にコハルがいるはずです」
「そっか、じゃあガキさんよろしく」
「何を?」
- 459 名前:忘れ物 投稿日:2007/11/28(水) 05:15
- リサはヒトミが瓦礫を切り裂くのかと思いきや、剣を受けとろうともせず腕を組んだままだった。
「今まで私がやっていたのを見ていただろ。ガキさんもやってみろよ」
「無理ですよ。岩を切るなんてできませんよ」
「やってないのに、できないなんて言うなよ」
「しかし、もし、やって剣が折れたらどうします?行けなくなってしまいますよ」
「そのときは、ガキさんがダッシュで新しい剣を持ってくればいいじゃん」
「いやですよ。やってください」
「ヤダ。疲れた」
「何言ってるんですか、これで最後なんですよ」
「ヤダ。ヤダぁ〜」
「もう、わがまま言わないで下さいよ」
「いいからやれよ」
「どうなっても知りませんよ」
「ガキさんならできるよ」
リサはため息をつくと仕方なく剣を抜いて瓦礫の山の前に立った。
そして、この中で大きな岩を探し、それに向かって構えた。しかし、どう考えても切れるとは思えず何度も構えを変えたりして、一向に剣を振り下ろそうとはしなかった。
- 460 名前:忘れ物 投稿日:2007/11/28(水) 05:15
- 「ガキさん、構えはどうでもいいんだよ。気持ちの問題だよ」
「どういう気持ちですか?」
「切るぞ!って気持ち」
「とてもそんな気持ちは持てませんよ」
「じゃあ、岩を豆腐と思うんだ」
「どう見ても岩です」
「見るんじゃいよ。思うんだよ!」
「無茶言わないで下さい!私はあなたのようにバカじゃないんですからね」
「あっ!師匠に向かって何て口の利き方するんだよ」
「勝手に師匠にならないで下さい。迷惑です」
「おっ、言ったな。せっかくヒトミ剣流極意その1を授けてやろうと思ったのに」
「思いつきで適当なこと言わないで下さい。さあ、早く岩を切ってください」
「何だよ、せっかく教えてやろうと思ってさっきまで手本見せてたのに」
ヒトミはそう言うとリサから剣を奪って、さらっと剣を振り岩を切り裂いた。
「ほら、間単に切れたでしょ。ちなみ今はジャガイモと思って切った。ジャガイモみたいでしょ、この岩」
リサはジャガイモのように真っ二つに綺麗に切れた岩の断面を見つめた。
そして、ちょっとだけジャガイモかなと思うと剣を振り下ろしてみた。
剣は岩に当たり金属音を鳴らし、その衝撃がリサの手に伝わってリサは剣を落とした。
「ガキさん、何やってるの。置いてくよ」
やっぱり無理じゃないかとリサは思い、剣を拾ってヒトミの後を追いかけた。
- 461 名前:忘れ物 投稿日:2007/11/28(水) 05:16
- 瓦礫の山を潜り抜けると、鋼鉄の巨大な扉があった。
ヒトミは鋼鉄の扉の押して開けようとしたが微動だにしなかった。
「ガキさん、今度はこんにゃくと思えば切れる」
ヒトミは剣を受け取ろうとリサに手を差し出した。しかし、リサはヒトミを無視して通り過ぎ、扉の前に行くと鍵を取り出して扉を開けた。
「扉は鍵があれば開きます。覚えておいてください」
「知ってるよ!あるなら先に言えよ!」
中に入ると、そこは王室のような豪華な家具や装飾品が置かれてあった。
意外な光景にヒトミは驚いて、部屋の中を見渡した。
「あれま、立派だね」
「ここは牢獄ではなく王の隠れ家ですから」
「何だ、ガキさんそういうことは先に言ってよ。もう、心配して損したよ」
「いや、私もここに来るのは初めてですから実際にどうなってるのかは知りませんでした」
「あっそ」
リサは部屋の奥に入り、寝室と思われる扉を開けて中を覗き込んだ。
コハルはベッドで眠っている様子だった。
リサは静かに近寄ると、コハルの肩を揺らして声をかけた。
「コハル。ヒトミ様が迎えにいらしたぞ」
コハルは、ヒトミという言葉を聞いて目を覚ました。
そして、リサの後ろにいるヒトミの姿を見つけると、起き上がってリサを跳ね除けてヒトミに抱きついた。
「お姉さま!!」
- 462 名前:忘れ物 投稿日:2007/11/28(水) 05:16
- ヒトミはコハルをしっかりと抱きしめて頭を撫でると、体を離してコハルの顔を見た。
コハルはヒトミの再会に喜び、嬉し涙を流していた。
ヒトミはコハルの頬を優しく手で包んで涙を拭った。
「コハル、すまなかったね。こんなところにずっと閉じ込めちゃって」
「ううん。お姉さまが無事でコハルは嬉しいです」
コハルに突き飛ばされたリサは、その二人の様子を微笑ましく眺めていたが、コハルが言った言葉が引っ掛かっていた。
「お姉さまというは誰のことでしょうか?」
「私だよ、コハルは私の妹だ」
「いえ、そうではなくて、ヒトミ様は女性なのですか?」
「そうだよ。何言ってるの」
「そうだったんですか、てっきり男性かと」
「まあ、よく間違えられるけどね。それに男としていたほうが便利なことも多いし」
「まあ、そうですね」
「さてと、コハル。行こうか」
「はい」
ヒトミはコハルに手を握り、牢獄の外へと出て行った。
- 463 名前:忘れ物 投稿日:2007/11/28(水) 05:16
- リサの部屋に戻るとユウコが退屈そうにしていた。
ヒトミはユウコの表情を伺いながら近づいた。
「ただいま戻りました」
「おかえりってなんやその娘」
「妹です」
「嘘つけ!そんなわけないやろ!」
「お姉さまこの人は?」
コハルはユウコの怒鳴り声に驚いて、ヒトミに抱きつき顔を見上げて訪ねた。
ヒトミは抱きついているコハルを優しく離して、ユウコの方に向き合わせた。
「ユウコ様だよ。知ってるでしょ。ちゃんとご挨拶を」
「はい。妹のコハルです。はじめまして」
「どうも、ユウコです。はじめまして」
「ユウコ様、もうちょっと優しく言ってあげてくださいよ。コハル怖がってるじゃないですか」
「で、誰なんやこいつ?」
「ですから妹ですって」
ユウコはコハルを射抜くようにして見つめ、何者かを探った。
そして、ユウコはコハルが何者かわかると呆れた顔をしてヒトミを見た。
ヒトミはそれにただ笑い返すだけだった。
「まあ、そういうことにしといてやる」
ユウコはそう言って立ち上がるとコハルの頭を撫でた。
コハルは肩をビクっと震わせて驚いたが、ユウコに笑顔で返した。
「それじゃあ、帰りましょうか」
「ちゃうやろ!パールランドに行くんや!」
「あっ、そうだった。ガキさん行くよ」
「何で私も行かなくてはいけないのですか?」
「だって、今、パールランドではお祭りやってるでしょ」
「お祭り!?コハル行きたーい!」
「ヒトミ、遊びに行くんやないで」
「いいじゃないですか。コハルも久しぶりに外に出られたんだし、遊びましょうよ」
「う〜ん。まあ、たまにはええか」
「やった!じゃあ、ガキさん準備して」
「いや、私はやることがありますので」
「なんやヒトミの誘いを断るんか?」
「えっ?いや、わかりましたよ」
リサは嫌な予感を胸に抱きながら、出かける準備をした。
- 464 名前:パム 投稿日:2007/11/28(水) 05:17
- つづく
- 465 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/29(木) 00:17
- 久々すぎて小春の存在を忘れていました・・・
- 466 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/29(木) 00:19
- この人が嫌な予感と言うとこっちはワクワクしてきますw
- 467 名前:パム 投稿日:2007/12/31(月) 15:44
- レスありがとうございます。
一か月も空いてしまいましたが、なんとか今年中に更新間に合いました。
- 468 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:45
- 祭りで賑わう人々の歓声が耳に入る度に、アヤはため息をついた。
せっかくのお祭りだと言うのに自分は城の外に出してもらえず、着たくもないドレスを着せされ、会いたくもない男たちに次から次へと会わされていた。
アヤの父であるパールランド王は、アヤが年頃にも関わらず未だに剣を持ち男のように振舞っていることに心配して、各方面からアヤに見合う男性を選別してアヤに見合いをさせていた。
先ほど見合いをした男性は、容姿や家柄も申し分ないが気に入らなかった。
その男性がというよりも、父が勝手に相手を選んでいることにアヤは気に入らず、適当に受け流していた。
そして、今は、次の男性が来るのをイライラしなが待っていた。
「ねえ、次の人はまだなの?」
アヤは、傍らに立つアヤの見張り役のビンに向かって尋ねた。
「確かに遅いですね」
「もう終わったのかな?」
「いえ、あと三十名ほどいると聞いています」
「三十!?バカじゃないの」
「姫様、もうしばらくのご辛抱です」
「三十人も相手してたら、お祭り終わっちゃうじゃない」
「復活祭はあと二日あります。明日はお見合いの予定はないですから、ゆっくりと楽しめます」
「今日も楽しみたいの!早く次の奴連れてきて、ていうか全員帰らせて」
「せっかく来ていただいているのに帰ってもらうことなんかできません」
「とにかく、連れてきてよ」
「もうしばらくのお待ちを」
「あなたが行って呼んできなさいよ」
「私は姫様の傍にいなくてはいけません」
「ちょっとドアから顔出して様子見るくらい出来るでしょ」
「わかりました。決して逃げないで下さいよ」
「早く!」
- 469 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:45
- ビンは、アヤを気にしながら扉をゆっくりと開けると、顔だけを出して部屋の外を見た。
一直線に伸びる左右の廊下には誰一人としていなかったので、ビンは扉を閉め、アヤの方へと振り返った。
「姫様、まだ、、、姫様!?」
先ほどまで確かにそこに座っていたはずのアヤの姿がなくなっていた。
ビンは先ほどまで揺れていなかったカーテンが揺れていることに気づくと、急いで窓のところまで行き、顔を出して外を見た。
窓の下にはアヤが着ていたドレスが脱ぎ捨てられていた。そして、まだ遠くないことろで、アヤが器用に城を飛び降りている姿が見えた。
ビンは、窓枠を思いっきり叩き悔しさをあらわにした。その後、すぐにビンの相棒であるカンを呼びアヤの捜索に街を出た。
アヤは軽やかに城から飛び降りると、門には向かわず城の脇の、道とも呼べない狭い所を通り抜けて行った。
大きな岩が行く道を阻めているところでアヤは立ち止まると、首に掛けているピンクパールを外し、岩にあるちょうど同じ大きさのくぼみにそれをはめ込んだ。
すると岩は滑らかに後ろに下がり、その下に階段が現れた。アヤは、ピンクパールを外すとすぐに下に掛け下り、頭上を見上げて岩が閉まるのを確認した。
岩が閉まると辺りは真っ暗闇に変わり、アヤは昨晩のうちに用意しておいたランプを拾い上げ明かりを灯した。
地下通路は迷路のように複雑に道が分かれているがアヤは慣れたもので迷いもなく進んでいった。
およそ三十分ほど歩いたところで上へと続く階段が見えた。アヤは階段を上ると、天井にある扉に耳を近づけた。
一人分の足音が聞こえる。そして、トントンと叩く音とグツグツと何かを煮込んでいる音が聞こえた。
そうかもう昼時かとアヤは思うと同時に、今、そこにいる人物が誰だか想像がつき安心して扉を開けて外に出た。
- 470 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:46
- 「また脱走ですか」
背後から声をかけられたが、すでに誰がいるのかわかっているので驚くこともなく笑顔で振り返って見せた。
「サユちゃん、脱走じゃないっていつも言ってるでしょ」
サユちゃんと呼ばれた人物は、城からアヤが通ってきた隠し通路の出口となっているパールランド大聖堂で暮らす司祭の孫のサユミという。
サユミは、エプロン姿でちょうど昼食の準備をしている最中だった。
アヤはグツグツと鳴っている鍋のふたを取り中を覗き込んだ。
「あっ、シチューだ。サユちゃんにしては上出来じゃない?」
「姫様の分はないですよ」
サユミは、アヤの相手をする気はまったくない感じで冷たくそう言った。
アヤも気にすることなく、厨房の奥にある戸棚の一番下の扉を開けた。
この戸棚にはアヤの脱走用の荷物が隠し置いてある。アヤはそこからお金と護身用の短剣を取り出して扉を閉めた。
アヤはお金と短剣を懐に仕舞いながら、料理をするサユミのそばに近寄り覗き込んだ。
「サユちゃんていつ見ても可愛いね」
「そんな当たり前のこと言っても何も出ませんよ」
「そうじゃなくてさ、今年でいくつになったっけ?」
- 471 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:46
- サユミは料理の手を止めると、アヤをきつく睨んだ。
「レディーにそういうこと聞くもんじゃありませんよ」
「でもさ、サユちゃんは私がこんなに小さかった頃から全然変わってないよ。私が子供の頃の世話役なんて今じゃ小じわどころの騒ぎじゃないよ」
「姫様、私をそこらの女と一緒にしないで下さい。世界一可愛いんですから」
「ああ、そうだったね。それで、世界一可愛いサユちゃんにお願いがあるんだけど」
「おじい様にはちゃんと報告しますよ」
「お願い!黙っててよ。こうしてる間にもビンとカンが探し回ってるはずなんだから」
「黙っててもすぐに見つかるんですから、さっさと行った方がよろしいんじゃないんですか。世界で二番目に可愛いお姫様」
「ちょっと何よそれ」
「さあ、どいたどいた。私は姫様と違って忙しいんですからね」
「わかったよ。サユちゃんもお祭り行くでしょ。十三時に噴水の所で待ち合わせしよ」
「はい、わかりました。それまでに捕まらなければ行きます」
「まったく。私を誰だと思ってるのさ」
「こんな所にいるはずのない、この国のお姫様です」
「わかったよ。早く行けばいいんでしょ。それじゃあね、また後で」
アヤはサユミに手を振って別れると裏口から出て行った。
サユミは出来た料理を運びテーブルに並べた。
そこへちょうど息を切らせたビンとカンがやってきた。
「サユミちゃん。姫様はどこに行きました?」
「いつものように裏口から逃げて行きましたよ」
「ありがとう」とビンは言うと、厨房の中に駆け込みんで「姫様」と叫んで裏口から出て行った。
ビンとカンに後に続いて、白い髭をたくわえた恰幅の良い老人が杖をつき、右足を引きずりながら、ゆっくりと入ってきた。
サユミは駆け寄って、手を取るとテーブルの前まで連れ添った。
- 472 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:46
- 「また、姫様は逃げてきたのか」
「はい。おじい様」
サユミは料理を並べながら、返事を返した。
「最近、お見合いをしていると聞いていたが、姫様はどれもお気に召さなかったのかな」
「あんな姫様じゃ、向こうが気にいらなかったんじゃないんですか」
「ははっ、これこれそういうことを言うもんじゃない」
司祭は、深い皺をさらに深くして笑った。
サユミはその司祭の皺を見て、どうして自分だけ年を取らないのだろうかと、改めて思った。
「サユミ、どうした?座りなさい、頂きましょう」
サユミも椅子に腰を掛けると、司祭の合図に祈りを捧げて二人で昼食を始めた。
「おじい様、これの片づけが済んだらお祭りに行ってもいいですか?」
「ああ、構わないよ。姫様のお相手をしてあげなさい」
「はい。姫様と十三時に噴水で待ち合わせてます」
「ははっ、もう約束済みか。それではビンとカンがまた尋ねに来たらそう伝えておけばいいのかな」
「はい。お願いします」
サユミは笑顔で返したが、司祭の表情は突然曇った。
司祭はスプーンをテーブルに置くと神妙な面持ちでサユミを見た。
「サユミ、くれぐれも気をつけるように。今年はこの地に神が降り立って一千年目を迎える大変めでたい日ではあるが、何やら不穏な風を感じる」
「不穏な風ですか」
「ああ、年寄りの気苦労に過ぎればいいのだがな」
「姫様がいればどんな奴だって大丈夫ですよ」
サユミは笑顔を作って、司祭の心配を和らげようとした。
司祭はまだ何かを言いたそうにしていたが、笑顔を作った。
実際、剣の腕に長けているアヤなら大抵の人間が相手司祭も心配することはなかった。
相手が人間なら。司祭は、その言葉を出さずにシチューを飲み込んだ。
- 473 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:47
- 「おおーー!!すんげぇ人!邪魔、どいつもこいつも邪魔!そして、お前は足手まとい!」
昼前にようやくパールランドに着いたミキ達は、船から掛け下りるも人々で溢れ返る港で身動きがとれなくなっていた。
そして、エリにおぶられて船から降りたアイの表情は酷く、重度の船酔いをしていた。
「そいつ、いらないから海に捨てちゃえよ」
「ミキ様、そんな酷い事言わないで下さいよ」
エリは背中に乗るアイを気遣いながら言った。
しかし、エリも実際困っていた。せっかくのお祭りだと言うのにアイがこんなでは楽しめるものも楽しめはしない。
エリの気持ちを読み取ったのか、アイはか細い声を出して、エリの耳元で囁いた。
「カメちゃん、降ろしてくれ」
「えっ?いいんですか?」
エリは戸惑いながらもすんなりとアイを地面に下ろした。
アイはちょっとは躊躇ってくれよと思いはしたが、それどころでもなくぐったりとその場に倒れた。
「駄目だなこりゃ」
ミキは地面に倒れるアイをほうきでつつきながら言った。
いつもなら文句を言うはずのアイもさすがに反撃する力もなく後で仕返ししてやると思うのが精一杯だった。
「どうしましょうか。さすがにここに置いて行くわけにも行きませんよね」
「仕方ない」
ミキはそう言うと、カバンから小さな赤い粒の入った小瓶を取り出した。
「この間、ゆゆたんから貰った薬だ。これで楽になるだろ」
ミキは瓶から五粒出して、アイの口に入れようとしたが、その手を止め、さらに三粒出して、アイの口の中に放りこんだ。
アイは、ミキのされるがままに合計八粒を飲み込んだ。
すると急に胃が熱く燃えるような感覚に襲われ、飛び上がって大声で叫んだ。
- 474 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:47
- 「うぎゃあーー!何だこれは!貴様、何をした!」
「おっ、予想に反して生き返った」
ミキは、腹を押えて悶えるアイを笑って眺めた。
エリは、アイに驚くとともに、慌てて持っていた水筒を開けるとアイに渡した。
アイはすぐさま水筒の水を飲み干すと、まだ、燃える胃に苦しみながら笑っているミキを睨みつけた。
「何だよ。せっかく治してあげたんだから礼を言えよ」
アイは、足を踏ん張って立ち上がるとミキを脇を通り過ぎる際に小さく「ありがとう」と言った。
「おい!聞こえなかったぞ。ちゃんと、はっきりと言えよ!」
人を掻き分けながら先を勝手に進んでいくアイを、ミキ達も追いかけて、祭りで賑わう人ごみの中に紛れ込んでいった。
- 475 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:47
- そして、もう一組。ミキ達よりも僅かに早くこのパールランドの地に炎と共に姿を現した。
ユウコ達が現れた場所は、中央の広場の一番人が賑わっている場所だった。
周りにいた人々は突然の炎に悲鳴を上げたが、堂々と人々の前で両手を挙げて見せたヒトミの姿に、人々はちょうど近くでやっている魔術ショーの一貫だと勘違いして、すぐにそれは歓声へと変わった。
その拍手に戸惑うリサはユウコに助けを求める表情を見せた。ユウコは未だにはしゃぐヒトミの背中を引っ張りそそくさと、その場から離れた。
「ちょっと、ユウコ様。離して下さいよ。それとも、もう一生離さないって感じですか?」
ユウコは、ヒトミの言葉にすぐさま手を離した。
「アホか!何であんな目立つようなことすんねん!」
「いやいや、そもそも目立つような所に出た原因はユウコ様ですよ」
「ほっとけばええねん」
「そういうわけにはいかないよね。コハル?」
ヒトミに同意を求められたコハルはヒトミの声が聞こえていない感じで、じっとひとつの出店を見つめていた。
ヒトミもコハルの視線を追って、その出店を見た。
その出店には、三段の棚があり、そこにぬいぐるみやお菓子が並べてあった。
そして、子供たちが小さな弓と先が丸まっている矢で、その景品を狙って矢を放っていた。
「コハルもあれやりたいの?」
ヒトミはコハルの顔を覗き込んで優しく訪ねた。するとコハルは、大きく頷き、棚の一番上にある大きなクマのぬいぐるみを指差した。
「お姉さま、コハルあのぬいぐるみ欲しい」
ヒトミはコハルが指さしたクマのぬいぐるみを見て、苦笑いを浮かべた。そのぬいぐるみはどう見ても客寄せ用で、とてもおもちゃの弓矢で落とせるような物ではなかった。
- 476 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:48
- 「コハル、あれはちょっと無理じゃないかな。その下にある、ぬいぐるみなら取ってあげるよ」
「ヤダ、ヤダ。コハル、あのクマさんじゃなきゃヤダぁー!!」
コハルは駄々をこねて大声で叫んだ。
ヒトミは困って、ユウコの顔を見ると、ユウコはコハルのわがままに機嫌を損ねていて険しい表情をしていたので、すぐにリサを見た。
が、リサは目が合うとそっぽを向いた。ヒトミは仕方ないといった感じで溜息をつくと、肩を落としながらその店に向かっていった。
ヒトミは、店主からおもちゃの弓と矢を五本貰うと一本目を構えて力強く放った。
放たれた矢は見事にクマのぬいぐるみに命中するもビクともしなかった。
「お姉さま、しかっり!」
しっかりと言われても弓矢がしっかりしてないからどうにもならないよとヒトミは思いながらも、コハルには何も言い返せずに二本目を放った。
当然ながら、二本目も当たってもビクともしなかった。店主がニヤニヤと笑っている顔が憎たらしくて、ヒトミは最後の一本はあのオヤジを狙ってやると内心思いつつも、さてどうしようかと悩んだ。
「あのクマは無理じゃないんですかね」
「アホはほっといて他へ行こうか、ガキさん」
ユウコは、そう言うと向きを変えて歩き出した。リサはヒトミを呼びに行こうか、ユウコの後を追いかけるべきか悩んでいる間に、ヒトミが三本目の矢を放った。
すると、今度の矢は力強くクマを押し倒し、ヒトミとコハルはおおはしゃぎした。
リサは驚いて少し先に行っているユウコを見た。わずかに見えたユウコの横顔が笑っているのが見えて、リサもアホは放っておこうと、ユウコの後を追った。
- 477 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:49
- サユミは洗い終えた食器を棚に戻したところで時計を見た。アヤとの約束の時間の十五分前になっていて、慌ててエプロンを外すと、二階の自室に戻り素早く着替えて部屋を飛び出した。
外に出ると、行き交う大勢の人々の中を掻き分けて噴水のある広場へと目指した。
噴水広場には、アヤとサユミと同じ様にここを待ち合わせにしている人が多いのか、時計を見たり、きょろきょろと辺りを見渡している人で溢れていた。
サユミも同じように辺りを見渡すが、アヤの姿は見えなかった。
腕時計で時間を確認すると、約束の五分前になっていた。サユミは人を掻き分けながら噴水の周りをぐるりと一周したが、アヤはまだ来ていないようだった。
噴水を一周しただけであったが、あまりの人の多さに疲れてしまったサユミはちょうど空いたベンチに座ろうと急いで走った。
しかし、あと一歩のところでサユミよりも先にアイが座った。
「はあ、疲れた」
勝手に先を歩いたアイは、てっきりミキ逹もちゃんと後を付いてきているのかと思い、振り返るとミキもエリの姿も見えなくなっていた。
アイは色々とミキがいそうな場所を探し回ったが結局、ミキもエリも見つけることなく、疲れ切ってようやく空いたベンチに座ったところだった。
アイは疲れて、頭を抱え込むようにしているために、目の前にいるサユミの存在に気がついていなかった。
しかし、サユミは顔は見えなくともアイが被っているリボンのついた帽子でアイであることに気付いた。
「アイ様ですよね?」
アイは、声をかけられて顔をあげるとサユミの顔を見た。しばし沈黙の間を置いて、サユミであることに気付いたアイは驚いて立ち上がった。
「サユ!久しぶりだね」
「ご無沙汰しております」
サユミは、アイに丁寧にお辞儀をした。
- 478 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:49
- 「司祭様はお元気ですか?」
「おじい様は元気でいらっしゃいますよ」
「そうか、後で挨拶に行くよ。ところで、一人なのかい?」
「いいえ、姫様とここで待ち合わせしてます。アイ様もよろしければ一緒に遊びませんか?」
「えっ?アヤちゃんがここに来るのか。そっか、では」
アイはそう言うと、サユミに手を振ってそそくさとその場を離れようとした。
サユミは慌ててアイを追いかけて捕まえた。
「ちょっとアイ様、どちらに行かれるのですか。姫様に会っていかないのですか?」
「ああ、すまん。今は人を探しているでゆっくりしてられないんだ。では」
アイは、また同じようにサユミから逃げようとしたが、サユミはアイの服をしっかりと掴んで逃がさなかった。
「アイ様、それなら私も一緒に探しますよ。どのようなお方ですか?」
「いいや、お気持ちだけで結構。では」
「アイ様」
「ちょっとサユ、離してくれないか」
「だって、久し振りにアイ様にお会いしたのに、アイ様冷たすぎます」
「申し訳ない、一刻も早く見つけないと大変なことになるんだ。それと、くれぐれもアヤちゃんには私に会ったと言うことは言わないでおくれ。では」
アイは、サユミの手を振りほどくと顔を伏せて一目散にその場から離れていった。
サユミは、残念そうにアイが見えなくなるまで、その後ろ姿を見つめていた。
アイが見えなくなったところで、サユミは空いたベンチに戻って行った。
しかし、また、あと一歩のところで今度はエリに座られてしまった。
- 479 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:49
- 「はあ、ミキ様どこに行っちゃったんだろう」
探し疲れたエリはぐったりとして溜息を洩らした。
そんなエリの姿を見て、サユミは先ほどのアイの姿を思い出し、ひょっとしてアイが探していたのはこの人ではないのだろうかと思い、エリに声をかけた。
「あの、すみません。ひょっとしてアイ様をお探しでしょうか?」
「えっ?」
エリは、驚き顔をあげてサユミの顔を見た。
「違いますか?」
「はい。そうです。今、どこにいるのかご存知ですか?」
「あちらの方に走って行きました」
サユミは、アイが逃げて行った方を指差した。
それを見てエリは立ち上がり、その先をじっと見つめると目の前を横切るリサの姿を見つけて声を上げた。
「ガキさーん!!」
エリは、リサに気づいてもらおうと、両手をあげ、飛び跳ねた。
リサは、エリの声に気づき立ち止まると、きょろきょろあたりを見渡して、エリを見つけると驚いた表情をしながら近寄った。
「カメじゃないか、どうした」
「ガキさんこそどうしたの?ていうか、ガキさんビール飲むっけ?」
エリは、リサが手に持っているビールを見て訪ねた。
リサは慌ててビールを後ろに隠した。
- 480 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:49
-
「ちょっとガキさん、別に隠すことないじゃん」
「なんでもないから、それより、、、あっ、サユみん」
「ご無沙汰しております。リサ様」
サユミもリサの姿を見つけて駆け寄ったところでリサも気づき声をかけた。
サユミのことを知らないエリは、この人誰?と言った感じでリサの見た。
「司祭様の孫娘のサユミさんだ。こっちは私と同じゴールドランドの騎士のカメです」
「はじめまして、サユミと申します」
「はじめまして、エリです」
リサに紹介された二人はお互いに挨拶を交わした。
「エリ?あれ、さっきリサ様、カメ様とおっしゃいませんでしたか?」
「あっ、カメはあだ名だ。ついうっかり言ってしまった。こいつの本当の名はエリです」
「もう、ガキさん。しかっりしてよね」
「あんたに言われたくないよ。ところで、サユみんは一人なのかい?」
「いえ、ここで姫様と待ち合わせします。姫様を見かけませんでしたか?」
「アヤちゃんがここに来るの?」
「はい」
「そっか、じゃあ、ごきげよう。カメも元気でな」
リサは、そう言うと手にしているビールをこぼさないように慎重にしながらも走り去って行った。
「ガキさん、どうしたんだろう?」
「もう、アイ様といい、リサ様といい。何で姫様が来るって知ると逃げるのかしら」
エリとサユミは同じように走って遠のいていくリサの後ろ姿を見つめながら言った。
「あっ、そうだ。アイちゃんは向こうに行ったんですよね?ありがとうサユミさん」
エリはサユミに軽くお辞儀をすると、アイが行った方へと走って行った。
サユミはエリの後姿を見つめながら、なぜゴールドランドの騎士がアイを探しているのか不思議に思った。
- 481 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:50
- 一人になったサユミは、先ほどのベンチを見た。
また、ちょうど人が立ち上がり席が空いた。サユミは今度こそは逃さないと、ベンチに向かって走った。
しかし、また、あと一歩のところでミキとれいにゃに先を越されてしまった。
「ああ、疲れた。ったく、人多すぎるんだよ。これじゃ、カメも船酔い王子も見つかんねぇよ」
「エリ様、どこ行ったっちゃろ」
「猫が喋った!」
れいにゃが喋ったことに、サユミは思わず声を出して驚いた。その声に気付いたミキとれいにゃはサユミの顔を見た。
「何?」
「今、その猫が喋りましたよね?」
「いいや」
「えっ、でも、さっき」
サユミは屈むとれいにゃの顔をまじまじと見つめた。
- 482 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:50
- 「ミキ様、どうすればいいっちゃ?」
「気にするな」
「ほら、やっぱ今、喋った」
「喋ってないよ」
「喋りましたよ。子猫ちゃん、お名前は?」
「れいにゃっちゃ」
「ほら、今、れいにゃちゃんって言いましたよ」
「そんなことよりさ、カメと船酔い王子知らない?」
「どうしてれいにゃちゃんが喋れるのか教えてくれたら、教えてあげます」
「そんじゃいいや」
「ちょっとぉー」
「何だよ。どうせ知らないんだろ」
「知ってますよ。カメと王子と言うのは、エリ様とアイ様のことでしょ?」
「エリとアイ?違うよ、カメと船酔い王子だよ」
「ミキ様、エリ様がカメで、アイ様が船酔い王子のことっちゃ」
「あっ、そんな名前だったっけ」
「そうっちゃ、覚えてなかったっちゃ?」
「覚える必要ないじゃん」
「ね、知ってるでしょ。だから、れいにゃちゃんがどうして喋るのか教えて」
「てかさ、よくよく考えてみたら探す必要なんてないよな」
「そんなことないっちゃ!エリ様だけでも見つけるっちゃ」
「何でカメだけなんだよ」
「何ででもっちゃ」
「教えてよぉー」
「教えてって言われても、喋るもんは喋るんだよ」
「どこに住んでるの?他にも喋る猫ちゃんはいるの?」
「あっ!!ガキんちょガキさんだ!おーい!」
- 483 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:50
- ミキは、サユミの言葉を無視して、ちょうと目の前をリサがたこ焼きを持って横切ったのを見つけて、ミキはリサを呼びとめた。
呼ばれたリサは、振り返りミキの姿を見つけて、ちょっと怒りながら近づいてきた。
「ガキんちょは余計です。こんなところにいたんですね。カメには会いましたか?」
「それが、どっか行っちゃんだよ」
「ふーん、ということは一度は会っているのですね。それは良かった。では」
「おい!ガキんちょガキさん待てよ」
リサがその場を離れるよりも早く、ミキはリサの服を掴んで引き止めた。
「だから、ガキんちょはやめて下さい」
「ねぇ、その手に持ってるの何?」
「たこ焼きです。あげませんよ」
「何だよ!くれって言う前に言うなよ!くれ!」
「ヤダ!」
「このガキんちょめ。寄こせ!」
ミキがリサの服から手を離して、たこ焼きに手を伸ばした隙にリサは素早く交わして、逃げるようにしてその場を立ち去った。
「おい!ガキんちょ!くれたっていいじゃねぇかよ!」
ミキも、リサを追いかけて走って行った。
れいにゃもミキの後を追いかけて行ってしまった。
一体、あの人とあの猫はなんだったのだろうとサユミは首を傾げて思いながらも、ようやく空いたベンチに座った。
そして、腕時計を見ると、すでに約束の時間から十五分が過ぎていた。
「おかしいな。姫様が時間に遅れるなんてことないのに」
サユミは、回りを見渡してアヤを探してみた。しかし、アヤの姿は見えなかったのでサユミは、ぼうっと行き交う人々を眺めながらアヤの到着を待った。
その間、何度もリサが食べ物や飲み物を持ち走っている姿を見かけて、サユミはリサが一体何をしているのだろうかと不思議に思った。
- 484 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:51
- 一方、その頃、アヤはサユミとの待ち合わせの時間をすっかり忘れて輪投げに夢中になっていた。
目当ての人形に狙いを定めて、ひゅうっと飛んだ輪は人形をかすめて地面に落ちた。
「あー、もう惜しい!」
アヤは、最後の一個となった輪に祈りをこめて、再度、人形に狙いを定めるように何度も素振りをした。
人形に輪がかかりそうなイメージができてきて、アヤは意を決して輪を投げようとした。
「姫様、ようやく見つけましたよ」
ビンに声をかけられたせいで、手元が狂い輪はあらぬ方向に飛んでいってしまった。
「あー!!邪魔しないでよ!」
「あっ、申し訳ありません」
ビンは、変なところに飛んで行った輪を見て、アヤを怒らせてしまったと平謝りをした。
「ははっ、姫様は意外とこういうのは苦手なんですね。ほいっと」
申し訳なくしているビンの隣でカンは落ちていた輪を拾うと、いとも簡単にアヤが狙っていた人形に輪をかけることができた。
カンは、さらにアヤを怒らせたことに気付かずに自慢気な表情でアヤを見た。
すっかり怒ったアヤは、ビンとカンを押しのけて、すたすたと歩いて行った。
ビンは、調子に乗っているカンを睨みつけると、急いでアヤの後を追った。
- 485 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:51
- 「姫様、城に戻りましょう。陛下がお待ちです」
「こんな所で姫って呼ばないで」
「あっ、そうですね。アヤ様、戻りましょう」
「いや」
「わがまま言わないで下さい」
「わがままなのはパパの方でしょ」
「まっ、とにかく戻りましょう」
ビンはアヤの腕を掴んで、歩くアヤを引き止めた。
「離してよ!!」
アヤが大声を出すと、周りにいた人々が一斉にこちらを向いた。
周りの人々の視線を一斉に浴びたビンとカンだったが、周りのことなど気にせずアヤを引っ張って連れて帰ろうとした。
アヤは嫌がり叫ぶが、周りの人々は、屈強なビンとカンを止めようとする者は誰もいなかった。
「キャー!誰か助けてー」
「アヤ様、お静かにして下さい」
「助けてーー!」
- 486 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:51
- 「その手を離せ」
アヤの腕を引っ張るビンの前にエリが立ちはだかった。
ビンはエリに気を取られて、アヤを掴む腕が緩むとアヤはすかさず抜け出てエリの背後に回った。
「この人達、私を誘拐しようとしたの。助けて」
「アヤ様、何を仰っているのですか!」
ビンは、アヤを再度掴もうと手を伸ばしたが、エリが防いだ。
「大人しく立ち去れ」
「あなたは勘違いしている。私どもはアヤ様を連れ戻しに来ただけであって、誘拐するわけではない」
「そんなの嘘だよ。助けて」
「アヤ様、いい加減にしてください。関係のない人を巻き込まないで下さい」
「あっ!こいつさっき私にイタズラしたの、こいつやっつけてよ」
アヤは、先ほどの輪投げのお返しとばかりにカンに向かって言った。
「アヤ様、何を言ってるのですか!」
「こんな可愛い子にイタズラするなんて、恥ずかしくないのか!」
アヤは、可愛いと言われて照れてエリの背中を思いっきり叩いた。
「可愛いって、やだぁ〜もう」
「イタッ」
- 487 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:51
- 「ああ、わかった。相手してやるから、かかってこい」
カンは腕まくりをして、こぶしを握り構えた。
「カン辞めろ。この人は関係ない」
「こんなところで、無駄に時間をつぶしてもしょうがないだろ」
カンは一歩前に出て、エリを睨みつけて威圧した。
エリは、アヤを庇うように両手を広げて足を踏ん張った。
アヤは、カンが喧嘩早いことをすっかり忘れていたことに、今頃になってエリを巻き込んでしまったことに申し訳なく思ったが、城に戻りたくもないので、ここはエリに頑張ってもらうことにした。
「やっつけちゃってよ」
「えっ?あ、はい」
エリは、とりあえず構えだけはしたが、正直言って困っていた。
こんなところで喧嘩をしたら、絶対にミキに怒られる。
エリは、戦うよりもアヤを連れて逃げようと思い、アヤの手を取って逃げ出した。
- 488 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:52
- 「あーーー!!カメみっけ!」
「エリさまぁ〜」
しかし、逃げようと走りだしたところで、目の前にミキが突然現れた。
エリは、後ろを見ると、すぐにビンとカンが追いついて来ていた。
「あっ、ミキ様。逃げましょう」
「何で?」
エリは、すぐに走りだした。
追いかけていたビンは、ミキを押しのけて倒してしまった。
「いってぇな!!」
ミキの怒鳴り声に、エリは振り向いた。
ビンとカンが迫ってくる背後で、ミキが倒れている姿見えた。
「何してるの、逃げないの?」
アヤはエリの手を引っ張り逃げようとしたが、エリはアヤから手を離してミキのところへと走って行った。
「ミキ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけないだろ。誰だよ、突き飛ばした奴」
- 489 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:52
- 取り残されたアヤは、ビンとカンに呆気なく捕まった。
しかし、ビンがアヤを連れて帰ろうとしても、アヤは動かずミキを心配しているエリを見ていた。
エリを騙してはいたが誘拐されようとしている自分を放ってミキの方へに行ったエリに対して、アヤは腹立たしくなってきた。
アヤは、掴まれている腕を振り払い、エリの所まで行くと、エリの肩を掴んで自分の方へと向けた。
「ちょっと、転んだ人なんかよりも私のことを助けなさいよ」
「あっ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわよ。捕まっちゃったんだからね」
「あれ?捕まったようには見えませんけど?」
エリは不思議そうに、アヤの後ろでじっとしているビンとカンを見て言った。
そして、ミキも自分を突き飛ばしたビンを見つけると、ほうきを取り出してビンを一発殴った。
「てめえ、何しやがるんだよ!」
ふいをつかれたビンはなすがままに、さらに続くミキの攻撃を受け続けることになった。
「おい、お前やめろ」
「お前もか!」
カンが助けに入るが、逆にミキの反撃を食らい、ビンと一緒に叩かれ続けた。
「ミキ様、もう十分っちゃ。やりすぎっちゃ」
やりすぎなミキを見て、れいにゃはミキの背中に飛びついてミキを止めに入った。そして、続けてエリも止めに入りミキの腕を掴んで止めた。
「ミキ様、やりすぎですよ」
「お前もか!」
ミキの怒りは収まらず、止めに入ったエリまでも殴り倒した。
「ちょっとミキ様、やめてください」
「うるせぇ!だいたいお前がどっか行ってるからこうなったんだ」
「ちょっと、あなたやめなさいよ」
今度は、アヤがミキの手を止めた。
「お前もか!」
すると、ミキはアヤを見るやいなや、掴まれていない方の手にほうきを持ちかえて、アヤを殴った。
「いたーい!」
- 490 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:53
- 叩かれたアヤの声に、すぐさま反応したビンはアヤを庇いにミキの目の前に立った。そして、カンは隠し持っていた短剣を引き抜きミキの首筋に突き付けた。
「おい、お前いい加減にしろよ。死にたいのか」
エリもすぐさま剣を抜こうとしたが、エリの行動を見たカンがさらに短剣をミキに近づけた。
エリは成す術もなく、剣に手を置いたままじっとした。
「カメ、こいつら何だよ」
「誘拐犯です」
「そういうことは先に言えよ!」
「早くそいつ殺しちゃいなさい!」
エリの背後から声が聞こえて、エリが振り向くとアヤがカンに向かって言っていた。
「ちょっと、いくら叩かれたとはいえ、こいつらはあなたを誘拐しようとしてる人ですよ」
「だいたい、あなたも何でこんな奴助けようとして、私をちゃんと助けないの!」
「えっ、いや、それは」
エリは困って、アヤとミキの顔を交互に見た。
「ちょっと、はっきりしなさいよ。どっちを助けるの?」
「ええっ?どっちとかって、そんな。でも、今はミキ様を」
「カン!殺しちゃいなさい!」
「だそうだ。怒らせた相手が悪かったな」
カンは、実際には殺すつもりはないが、先ほどの仕返しとばかりに剣をさらに近づけてミキを怖がらせようとした。
しかし、次の瞬間、ミキよりもカンの方が恐怖を感じることになった。
「剣を捨てろ」
背後から声と同時に一本の剣がカンの首筋に伸びてきた。
- 491 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:53
- 「まったくどこに行ってるのかと思えば、こんな騒ぎを起こして、何をやってるんだ君は」
「剣を抜くなって言ってるだろ」
「こんな状況で何を言ってるんだ!助けてやらないぞ」
「お前に助けられるくらいなら死んだ方がマシだ」
「あっ!アイちゃんだ!」
アヤは、誰が現れたのかとミキの周りをぐるりと回ると、アイの姿を見つけて叫んだ。
「ん?、、、あっ!アヤちゃん!てことは、何だカンじゃないか。それにビンも」
アイは、剣を突き出していた相手がカンだと気づくと、剣をカンから離して鞘に収めた。
「こいつはアイ様のお知り合いの方ですか?」
カンは、少しミキから剣を離すとアイに尋ねた。
「そうだ。こいつが悪いのが百も承知だが、許してやってくれないか。私からも謝る。許してくれ」
アイは、そう言ってカンに向かって頭を下げた。
アイに頭を下げられたカンは慌てて剣を離して、アイの肩を掴んで頭を上げさせた。
「アイ様、おやめ下さい。知らなかったとはいえ、お連れの方に大変失礼しました」
「いや、いいんだ。ほら、何をしている君も謝れ」
「何で、ミキが謝らないといけないんだよ!」
「謝りなさいよ!アイちゃん、こいつね、私の頭をほうきで殴ったのよ!」
「君は何を考えてるんだ!アヤちゃんはこの国の姫様だぞ!」
「別に誰だろうがミキには関係ないよ」
「あのなっ!」
- 492 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:53
- 「え?え?ちょっと、あのぁ〜」
アイとミキが言い合っている間にエリが割り込んできた。
「どうしたカメちゃん」
「この子は姫様なんですか?」
「そうだ。知らなかったのか」
「ええっ!!ちょっとアイちゃん一大事ですよ!こいつら、お姫様を誘拐しようとしてるんですよ!」
「落ち着けカメちゃん。ビンとカンは、アヤちゃんの側近だ。誘拐しようとしているのではなく、逃げたアヤちゃんを連れ戻しに来ただけろ。いつものことだ。そうだよね、アヤちゃん?」
「だって、せっかくのお祭りなのにお城に閉じ込められてたのよ」
「お姫様だったんだ」
エリは、驚きのあまり、それだけ言うと口をぽかんとしたまま、アヤを見た。
「とにかく、そういうことだ。君はちゃんとアヤちゃんに謝れ。そして、アヤちゃんはカメちゃんに謝れ」
「何で私が謝らないといけないのよ」
「どうせ、カメちゃんに誘拐されるとか言ったんでしょ!」
「う、うん。ごめんね、カメちゃん」
アヤは、アイのあまりの剣幕さに押されて素直にエリに謝った。
しかし、未だに呆然としているエリにはアヤの声は届いていないようだった。
「カメちゃんどうしたの?」
アヤは、エリの目の前で手を振るが、反応はなかった。
- 493 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:53
- 「カメ、しゃっきとしろ!」
するとミキがほうきでエリの尻を叩いた。
「イタッ!あっ、はい。すみません」
「まったく、お前はすぐ気が抜けるな」
「ちょっと!カメちゃんになんてことするのよ!」
「何だよ!」
「早く私とカメちゃんに謝りなさい」
「何で謝らないといけないんだよ。その前にあのおっさんが謝れよ!」
「えっ?ああ、先ほどは失礼しました」
突然、ミキに指されたビンは、はっとして、とにかく騒ぎを収めるためにも素直に謝った。
「最後は、あなただけだよ」
「すまんかった。よし、行くぞ」
ミキは、さらっと言うとすぐに踵を返して歩き出した。
「あっ、ミキ様」
エリは、アヤに一礼するとすぐにミキの後を追いかけた。
- 494 名前:パールランド復活祭 投稿日:2007/12/31(月) 15:54
- 「ちょっと、待ちなさいよ!」
アヤは、ミキの後を追いかけようとしたがアイに掴まれた。
「アヤちゃん。あれで許してやってくれ。あれでも、あいつにしては珍しいことなんだ」
「何よそれ。カメちゃんにだって謝ってないじゃないよ」
「それは、後で謝らせるから、これでもうお終い。じゃあね」
そして、アイもアヤから手を離すと、ミキの後を追いかけようとしたが、逆にアヤがアイの手を掴んだ。
「ちょっと、アヤちゃん。もう許してやってくれ」
「ダメ。アイちゃんは人質」
「何でだ!」
結局、アヤに捕まったアイはミキを追いかけることができず、アイはアヤと一緒に城に連れて行かれることとなってしまった。
そして、サユミはというと、アヤが来るのをずっと噴水の前で待っていた。
「あっ、またガキさん横切った」
- 495 名前:パム 投稿日:2007/12/31(月) 15:55
- つづく
- 496 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/01(火) 12:27
- あけましておめでとうございます
相変わらず笑わせてもらってますwww
- 497 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/01(火) 13:29
- あけましておめでとうございます
ああw 久々のカオスがたまりませんw
- 498 名前:橘 投稿日:2008/01/06(日) 10:51
- 初めましてじゃないと思いますが、作者さん更新待ってましたョ。
ミキティたちの冒険を楽しみにしていました。
これからも読んでいくので、頑張って下さい。
- 499 名前:パム 投稿日:2008/02/07(木) 04:27
- 遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
ゆっくりな更新ですが、今年もよろしくお願いします。
- 500 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:28
- 「こういうことだったのか」
リサは、数往復目にして、ようやく自分が誘われた理由を理解した。
ヒトミとコハルが射的で遊んでるのを放っておいて先を歩いたユウコは、人ゴミを嫌って街外れにある公園に向かって行った。
そこまではまだ良かった。ユウコと二人きりで緊張はしたが、特に何も言われるわけでもなくただ公園で遊ぶ子供たちを眺めているだけで良かった。
しかし、問題は遅れて後からやって来たこいつだ。
「ガキさん遅いよ。あと、コハルがかき氷食べたいって」
「もう、まとめて言って下さいよ。もう他にはないですか?」
「えっとね、じゃあ、他に何があるか見てきて」
「だったら一緒に行きましょうよ」
「ユウコ様を置いて行くわけには行かないよ」
「わかりましたよ。じゃあ、適当に買ってきます」
そして、リサはまた街の中へと走って行く。
「ユウコ様がいなかったら、あいつの言うことなんか聞かないのに」
リサは、悔しさのあまり口に出して言った。そのあと、すぐに仕舞ったと思い後ろを振り返るが、もうずいぶんと離れていたので、ほっと胸を撫で下ろすと、また走りだした。
- 501 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:28
- 「次期国王をパシリに使うなんて、あんたも偉くなったもんやな」
ユウコは、リサが持ってきた新しいビールを一気に飲み干した後、言った。
ヒトミは、「あなたがそうやってすぐに飲むからですよ」などとは言えずに空になったたくさんの空き瓶を見て苦笑いを浮かべた。
「聞いてんのかっ!」
「はい。聞いてますよ。えっと、えっ?ガキさん、次期国王なんですか?」
「アホか。当たり前やろ、次期国王だったはずのリカが失踪したんやから、おのずとガキさんになるやろ」
「へぇ、そうなんだ。皮肉ですね」
「運命なんてそんなもんやろ」
ユウコは空き瓶を一つ手に取ると、軽く振った。
すると、瓶の底からビールが湧き出てあっという間に瓶一杯にビールが溜まると、ユウコはそれを飲み始めた。
ごくごくと飲むユウコの姿を見て、ヒトミはリサの運命を哀れんだ。
「ガキさんは苦労するために生れて来たんですかね」
「そうかもしれんな」
そこへ何も知らないリサが手にたくさんの食べ物持ってやってきた。
ユウコの鼻がピクッと動くと、眉間に深い皺が寄ってヒトミは嫌な予感がした。
「はい。かき氷です。それと、適当にいろいろと買ってきました」
「うん、ガキさんお疲れ。今すぐ、全速力で逃げて」
「何でですか!もう、行きませんよ。はい、これチョコバナナです」
「うん。私が悪かった。今すぐ、それ持って逃げて」
「何でですか!せっかく買ってきたのに!」
「ガキさん早く!」
- 502 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:29
- 「死ね」
闇の淵から出てきたような低い声と同時にリサが手にしていたチョコバナナが業火に包まれた。
「うぉー!!あつーい!!」
リサは突然の炎に慌てふためき、辺りを走りまわった。
そんなリサの姿を見て、ヒトミはまたリサの運命を哀れんだ。
バナナは塵一つ残さず消え去ったが、幸いにもリサは軽傷で済んだ。
それは、ユウコがちゃんとバナナだけを狙っただけではあるが、そんなことを知らないリサにとっては、怖くてユウコに近づけないままでいた。
未だ怯えるリサの元にヒトミは近寄り、背中をさすろうと手を伸ばしたがリサに払いのけられた。
「嫌いなものがあるなら先に行ってくださいよ」
「でも、人類が生きるためには知っておくべき当然のことだよ」
「そんなの聞いたことありませんよ。まったく」
リサは、火傷した手を振り冷ますと、ユウコの前に行き、跪いて失礼を詫びた。
しかし、ユウコは、リサを無視をすると横を通り過ぎて、そのまま公園の外へと出て行った。
ユウコが横切った瞬間、今まで感じたことのない恐怖にリサは呼吸すら出来なくなる程、緊張した。
そこへ、ヒトミが背後から近づくとリサの肩を抱き、顔を近付けてユウコには聞こえないように小声でリサに話しかけた。
「ガキさん、ユウコ様はかなり怒ってるよ。どうする?」
「ど、どうするって、どうしたらいいんでしょうか?」
「知らない」
「えっ?」
「じゃあ、私はユウコ様の後を追いかけるから、ガキさんも早く来いよ」
そう言ってヒトミは、未だ硬直したままのリサを置いてユウコの後を追いかけて行った。
残されたリサは、追いかけるか、走って逃げるか迷ったが、どうせ逃げたところですぐに捕まると思うと、覚悟を決めてユウコの後を追った。
- 503 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:29
- ユウコは、大勢の人々が行き交う中を避けることなく真っ直ぐに突き進んでいった。
後ろで見ているリサは、目の錯覚なのかと疑うくらい、誰もユウコの邪魔をすることもなく行き交っていた。
追いついても、すぐにユウコとの距離が広がり、まともに一緒に歩くことがで出来ずにいた。
ようやくユウコに追いついたとき、ユウコが中央広場に設営してある本部テントの前で立ち止まっていた。
リサは、ユウコが眺めている看板の文字を声に出して読み上げた。
「剣術大会受付所?」
「ガキさん、あれを持ってきた罰や。出ろ」
ユウコは受付所にある出場者名簿を指差した。
「えー!ちょっと待って下さい。私はこういうのには出ないと決めています」
リサは、慌ててユウコの前に立って訴えた。
命を晒して戦ってきたリサの戦い方は自分にとっても敵にとっても無事で済まないことをリサ自身が良く知っていた。
試合とはいえ剣を使う以上相手を殺しかねない。リサはその思いがあって今までこういった試合には参加しなかった。
しかし、どんなにリサの意思が固くても、ユウコには敵わない。
リサの懇願をユウコはまったく聞かず、リサの代わりに登録者名簿にリサの名を記した。
名簿にリサの名が記されたのを見て、受付の者が驚きの目でユウコを見た。
リサはがっくりを肩を落として、来るんじゃなかったと後悔した。
ユウコはリサの肩を叩くと、また、一人で勝手に先を進んでいった。
リサは、溜息をついてとぼとぼとユウコの後ろをついて歩いた。
- 504 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:29
- 「ガキさん、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ガキさんに、ヒトミ剣流極意その2を授けてあげるから」
リサは、隣でニヤけているヒトミをちらっと見て、何も言わずにユウコの後を追いかけた。
「ちょっと、ガキさん聞いてる?その2だよ2」
「どうせ、思いつきで言ってるだけですよね。それに大丈夫ですよ。勝つ自信はあります」
「おっ!言うね。アヤヤはかなり手強いよ」
「アヤちゃんが出るんですか、苦手なんですよね。あの姫は」
「ははっ、王子と同じこと言ってる」
「王子?ああ、シルバーランドの王子ですね」
「うん。王子は今、何してるんだろうね」
「知りませんよ」
「ガキさんが放り投げたくせに冷たいな」
「それよりも私はコハルがどこにいったのか心配ですけどね」
「あれ?コハルぅーーー!!」
「シルバーランドの王子か、本当にどうしてるんだろう」
リサは、コハルを探しに走り出したヒトミを見送った後、すぐユウコの後を追いかけた。
- 505 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:30
- 城内の一室にある練習場では、剣の交わる音が鳴り響いていた。
ビンは時間を気にしながら、アヤとアイの試合をじっと見つめていた。
アヤは素早く何度も剣をアイに打ち込んでいるが、アイはそれをただ受け止めるだけで、アヤに攻撃をしかけることはしなかった。
何度、攻撃を繰り返してもアイが反撃してこないことに、徐々に苛立ってきたアヤは、渾身の力を込めてアイの剣をはじいた。
アイの手から離れた剣は飛んで壁に突き刺さった。そして、アヤは無防備になったアイの喉元にアヤは剣を突き付けたところで、試合は終了した。
「ちょっと、アイちゃん真面目にやってよね」
アヤは、物足りないと言った感じで不貞腐れてアイに向かって言った。
アイは、アヤの言葉を無視して、流れる汗を手で拭うと、壁に突き刺さっている剣を引き抜いて鞘に収めた。
「アイちゃん聞いてるの!明日、試合なんだからちゃんと練習しないと負けちゃうじゃない」
「大丈夫だよ。アヤちゃんに勝てる奴なんて、そういないよ」
「アイちゃんがいるじゃない」
「私は出ないぞ」
「何言ってるのアイちゃん。もう出場登録したよ」
「誰の!?」
「アイちゃんしかいないじゃん」
「何でそうやっていつも勝手なことをするんだ!私は出ないぞ」
「ダメ!ちょっとは骨のある奴が出てくれないと困るの」
「そんなの私の知ったことではない。だいたい、アヤちゃんはもういい加減、剣を持つのをやめて女性らしくしらたどうだ。ビンから聞いたぞ、お見合いをしてるんだってな。良い機会じゃないか、いい人を見つけて結婚したらどうだ」
「そのセリフ、そのままアイちゃんに返すよ」
「私は結婚するつもりなんかないぞ」
「結婚もそうだし、アイちゃんも女らしくしたら?」
「今さら女に戻れるか」
アイは、強く言い放つと練習場から出ようとした。そこへ丁度、慌てた様子でカンが飛び込んできて危うくアイとぶつかりそうになった。
「どうした、カン。そんなに慌てて」
「アイ様、失礼しました。ビックニュースです!」
カンは興奮冷め止まずといった感じで息を荒げながら言った。
- 506 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:30
- 「どうしたの?」
アヤは、カンの話を聞くために近寄った。カンは、大きく深呼吸をして自分を落ち着けてから話し出した。
「今、大会の受付所から連絡がありまして、なんと、ゴールドランドの命知らずの、あのリサ様が出場登録をしたそうです」
「本当に!?」
アヤは、リサの名を聞いて喜びの声をあげた。それもそのはず、アヤはリサと一度戦ってみたくて毎年この大会に参加してもらうようにお願いをしていた。
しかし、リサはいつも参加しないと断り続けていて、今年も断られていた。
「本当みたいですよ。係の者が、リサ様を実際に見たと言っていました。それとヒトミ様も一緒にいたようです」
「ヒーちゃんも出るのっ!?」
「いえ、ヒトミ様は出ないようです。一緒にいた女性が出るなと言ったようです」
「一緒にいた女性って誰よ」
「そこまでは聞いていませんでした」
「まあ、いいわ。さすがにヒーちゃんが出るって知ったら誰も出ないもんね」
アヤは、満足そうな笑みを浮かべるとアイを見た。アイは、思いつめた深刻な表情でアヤを見返すと、踵を返して練習場の中央へと戻って行った。
「アイちゃん、どうしたの?」
アイは、剣を抜き刃を見つめ、ほころびがないかじっくりと確認し始めた。
突然、殺気立ったアイに、アヤはリサが出場すると浮かれていた自分の無神経さを反省した。
パールランドは中立国で、ゴールドランドともシルバーランドとも交流があった。アヤにしてみれば、リサもアイも友達でどちらとも仲が良かった。
しかし、アイとリサとの間はそうではない。敵同士。しかも、つい最近、戦争が終わったばかり。そして、その戦争でアイの父であるシルバーランド国王を殺害したのがリサ。
アイとリサの間には、単純に敵同士というだけで済まされない、さらに深い溝がある。
- 507 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:30
- 「アヤちゃん。何をしている。早く続きをやろう」
アイは、復讐に満ちた目をして、アヤに剣先を向けてきた。
今まで見たことのない、アイの姿にアヤは怖くなって、一歩後ろに引いた。
アヤを庇う様にして、ビンが一歩前に出てきた。
「アイ様、明日の大会は、我々人間がここまで強くなったということを神様に見せるためのもの、復讐のために行うものではありません」
アイはビンを数秒睨んだ後、剣を収めた。
アヤは、アイがビンの言うことを素直に聞いたことに、少し不思議に思ったが、とりあえず落ちつていくれたことに胸を撫で下ろした。
とはいえ、試合に出れば先ほどの様に復讐に満ちて殺気立つのかもしれにないと思ったアヤは、カンに命じた。
「カン、アイちゃんとガキさんの出場は取り消しておいて」
「アヤちゃんは、どうしてあいつの味方をする」
カンはすぐにその場を離れようとしたとき、アイがアヤに向かって言ったので、カンは足を止めてアイとアヤを見た。
アヤが戸惑っている。
ビンもカンも、アヤにとってアイとリサのどちらとも大切な友人であることを知っている。アヤがどちらかの味方をしていうるのではなく、お互いのことを思っているからこそ、戦わせたくないということも。
アイとリサが、一度でもアヤと一緒に会って入ればこういうことにはならかったのかも知れないとカンは思った。
「アヤちゃんがあいつとも交流があることは私だって知っている。しかし、あいつは、幼いコハルを人質に取り、私の父上だけでなくヒトミも殺したのだぞ」
「何言ってるのアイちゃん」
「本当だ。ヒトミは死んだ。アヤちゃんだって私と同じ気持ちのはずだ。ヒトミを殺した奴を許しておけるのか」
「嘘だ。だって、ヒーちゃんを見たって…」
「見間違えたんだろう。だいたい、捕虜になってるのに外に連れ出すわけないだろう」
アヤは、全身の力が抜けて、がっくりと地面をひざを付けた。
- 508 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:30
- 「アヤちゃん。あいつは、この世界を救った英雄の血を絶ったんだ。神の前で懺悔させるべきだ」
「ダメだよ!」
アヤは、涙を流して叫んだ。
「アイちゃん、ガキさんと戦っちゃダメだよ」
「どうしてだ!負けた方が悪だと言うのか!」
「違う。そうじゃないよ。アイちゃんじゃ、ガキさんに勝てないよ」
「何を言うか!ヒトミに剣を教えて貰った私が負けるはずがない」
「だったら、何でおじさまが殺される前にガキさんを止めなかったの!何でヒーちゃんを助けなかったの!」
「それは、」
アイは続けて何かを言おうとしたが、寸前で口を閉ざして、顔を背けた。
「何も言い返せないでしょ。アイちゃんだって無理なことくらいわかってるでしょ」
アイは何も言い返さず、こぶしを握りしめ、悔しさに顔を歪めた。
「カン、早く行ってきて。それとガキさんに会ったら帰るように伝えておいて」
「かしこまりました」
カンは、アイとアヤに一礼すると、外へと駈け出して行った。
「アイちゃん、私の部屋に行って少し落ち着こう」
アヤは、アイの肩にそっと手を回した。しかし、アイはその手から逃れて、一人先に外へと出て行った。
ビンが追いかけようと駈け出したところをアヤに引きとめられた。
「ビン、さっきアイちゃんと一緒にいた人たちを連れて来て。あの人たちもきっとガキさんを狙ってるだろうから」
「わかりました」
- 509 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:31
- ミキ達は、お祭りのメインストリートに並んでいる出店を一軒一軒除いては、初めてみる食べ物を片っ端から買っていった。
ミキもエリも両手一杯に食べ物を持ち、食べ歩いていた。
「チョコバナナ美味いな。何でゆゆたん嫌いなんだろう」
「お師匠様に見つかったら怒られるっちゃ」
「こんなところに、ゆゆたんいるわけないだろう。人が大勢いるところ嫌いなんだから」
「まあ、そうっちゃね。れいにゃも食べたいっちゃ」
「ダメ、ゆゆたんに怒られるぞ」
「何でっちゃ!お師匠様はいないって、さっき言ったっちゃ」
「いやっ、いるかもしれないし」
「じゃあ、ミキ様怒られるっちゃ」
「そこは大丈夫だよ」
「何でっちゃ?ずるいっちゃ!食べたいっちゃ!」
「うっせぇな!もう一個買えばいいだろう」
「あ、あのぉ〜。ミキ様」
「何?れいにゃが、これ食べたいって言うから買ってきて」
「それがですね。もうお金が、」
「ないとか言わせないぞ」
「ないです」
「言うなよ!なんとかしろよ」
「なんとかって言われても、買いすぎなんですよ」
「もっと早く言えよ。どうすんだよ、明日から」
「そうですよね」
「そうですよね。じゃ、ねぇよ」
「ミキ様はお金持ってないんですか?」
「あるわけないじゃん」
「やっぱり」
「どうすんだよカメ」
「働いて稼ぐしかないですね」
「れいにゃ我慢するっちゃ。エリ様、無理しなくていいっちゃ」
「でも、やっぱり働かないと」
「頑張れよ、カメ」
「私だけですか?」
「何で?」
「何でって、、あっ」
- 510 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:31
- 歩きながら話していると、丁度、明日行われる剣術大会の受付所の前まで来ていて、エリはそこに立て掛けられている看板に目が止まった。
看板には大きく『剣術大会』の文字と一緒に、『優勝賞金 金貨100枚』の文字が書かれてあった。
「ミキ様。これ、優勝したら金貨100枚もらえますよ」
「カメじゃ無理だろ」
「そうですよね」
「そんなことないっちゃ!エリ様なら優勝できるっちゃ!」
「無茶言うなよれいにゃ、カメより強い奴なんてそこら辺にいくらでもいるぞ」
「そこはミキ様が何とかすればいいっちゃ」
「何とかって何だよ!」
「ズルはいけませんよ」
「ズルって何だよ」
「ですから、あれですよね。ミキ様が魔法を使って私を勝たせるというか、そういうことですよね、れいにゃ?」
「そうっちゃ。ミキ様がエリ様を勝たせるっちゃ」
「なるほど、それなら楽勝だな」
「ですからズルはいけませんって」
「カメ!お前は強い!死んでも強い!」
「そんなぁ」
「ほら、早く受付してこいよ」
エリは、不甲斐ない自分に落胆する以上に、ミキが言った『死んでも強い』という言葉の方がショックでならなかった。
肩を落としながらとぼとぼと受付所に行き、すでに書かれてある出場者の名前を見て、エリは固まった。
「カメ、登録終わったか?」
「ミキ様、無理ですよ」
「ミキがいるから大丈夫だよ」
「ガキさんが出るんですよ。無理ですよ」
「どこにガキんちょガキさんの名前があるんだよ」
「ここです。このリサ・ニイガキって書いてあるのがガキさんです」
「へぇ〜、だからガキさんなのか」
「はい。ちなみに私は、エリ・カメイだから、カメです」
「聞いてないよ」
「そうですよね」
- 511 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:32
- 「あの、先ほどリサ様の出場は取り消されました」
リサのことを気にかけていたエリとミキを見て、受付係の者がそう言うと同時に、リサの名前に二重線を引いて消した。
「そうなんですか?何故ですか?」
「事情はわかりませんけど、上から取り消すように言われました」
「やっぱガキんちょクラスになると、賞金簡単に持ってかれるからダメになったんじゃねぇの」
「そうかもしれませんね」
「他にさ、こいつより強そうな奴っていんの?」
ミキは、エリを指さして、受付係に尋ねた。受付係は、エリの顔を首を傾げて返答に困っていた。
「ミキ様、この人は私がどれくらい出来るか知りませんから、聞いても無駄ですよ」
「そっか。じゃあ、優勝候補って誰?」
「まあ、リサ様がいなくなった今は、姫様かビン様かと」
「誰だ?」
「さっきお会いした女の子が姫様ですよ。で、ビン様というのは、ミキ様にぶつかった人ですよ」
「あいつらか、カメを使ってミキがぶん殴ってやる!」
「だから、ダメですって」
「いいんだよ。早く名前書けよ」
「もう、後でどうなっても知りませんよ」
「大丈夫。貰うもん貰ったら逃げるから」
仕方なくエリは、出場者名簿に名前を書こうとすると、もう一人の名前を見つけた。
「あっ、アイちゃんも出ますよ」
「誰だよ、アイちゃんって」
「えっ?一緒にいたじゃないですか」
「ああ、アホ王子か。あいつも出るのか」
「私は出なくてもいいですよね?」
「あいつじゃ無理だろ。まあ、お前も無理だけど」
「アイ様も出場取り消しになりました」
「あっそ、別にどうでもいいよ」
「で、私はやっぱり出るんですか?」
「出るんだよ。早くしろよ」
「はい」
エリは、仕方なく出場者名簿に名前を書くと受付係から出場者番号の札を受け取った。
「それでは、明日の十時にここに集合してください」
「ところで、ガキんちょガキさんの字、どっかで見たことあるんだけど」
受付を終えると、その場を後にしたミキだったが、どうも何か引っかかる感じがしてならなかった。
- 512 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:32
- ヒトミとコハルを待つために、ユウコは噴水のベンチに座った。
未だ、緊張が解けないリサは、ユウコから少し離れたところで立っていたが、すぐにユウコに隣に座るように言われて、硬直したままユウコの隣に座った。
リサは、早く時が過ぎればいいとこれほど思ったことはなかった
「立派な物、建てよったなぁ」
噴水前にある広場の中央には、神が降り立った千年目を記念して巨大な神の石像が建てられた。
リサはユウコの言葉を遅れて聞きとると、顔を上げて一緒に石像を見上げた。
神の石像は、全世界を見渡してるかのように遠くを見つめ、そして、人々を包み込むように大きく手を広げている。
リサは、母と引き離されたとき、自分の運命を呪った。そして、自分だけにどうしてこんな運命を与えるのかと神も呪った。
こうして見上げても神と目が合うことができないこの石像を見ると、やはり自分だけは除け者にされているのだと思った。
「神は、何のために人間を作ったのでしょうか」
リサは、自分が生まれてきたことの意味を問うためにユウコに尋ねた。
- 513 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:33
- 「神さんは別に人間だけを作ってる訳やないで」
「他に何を?」
「神さんが作ってるのは魂。生きる者すべてに宿る魂を作ってるだけ、そこからその魂がどう変わるかは神さんでもわからんこと」
「そうですか。というか、神さんって、まるで近所のおじさんみたいな呼び方ですね」
「まあ、実際、近所やし」
「ええっ!!?」
「びっくりした?」
「はい。そりゃもう。神様って本当にいるんですね」
「ああ、おるおる。一人娘が中々帰ってこなくて、毎日オロオロしてるおっさんがな」
「おっさんって、なんか人間みたいですね」
「まあ、あんま変わらんよ」
「では、なぜ神様は魂を作っているのでしょうか」
「知らんよ。趣味なんちゃうの」
「趣味ですか…」
「そう。気まぐれに作っては、壊し、また作っては壊す」
「何で壊すんですか?」
「そう何個も上出来な物は作れんやろ」
「ああ、では、私は失敗作なんですかね」
「まあ、そう悲観するなや。言ったやろ、魂がどうなるかは神さんでもわからんって」
「でも、失敗とわかったら壊すんですよね」
「ガキさんの魂はまだ壊れてないやろ。失敗作やないってことやんか」
「でも、」
「うっさいのう。完成品の方がつらい生き方しとるで」
「えっ?それはどういうことですか?」
「死なないってことや。ひたすら生き続けさせれらる。死ぬよりも辛いとは思わんか?」
「それは、まさかヒトミ様のことですか?」
「あいつが完成品に見えるか?」
「見えません」
「せやろ。あいつは最高の失敗作や」
「そうかもしれませんね」
「ははっ、言うねぇガキさん」
「あっ、失礼しました」
「ええって、実際そうやし。それにしてもあいつ遅いな」
リサは、ヒトミを探して遠く眺めるユウコの横顔見た。
なにくわぬ表情をしているユウコではあるが、リサには返ってユウコが嘘を付いているか、あるいは何かを隠しているのだろうと感じた。
最高の失敗作と言ったヒトミの魂。それは神が壊すことすら放棄したほどの魂か、それとも、もはや神の手には負えない程に変わってしまった魂なのだろうか。
そして、完成品の魂の人生とは一体どういう人生なのだろうかと、リサは自分の運命以上にこの二つの魂の運命が気になりだした。
- 514 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:33
- ヒトミを待っている間に、カンがリサを見つけて、駆け寄ってきた。
「リサ様、見つかって良かった」
カンは、ずいぶん走りまわったのか、息を切らせて膝に手をついて疲れた様子だった。
リサは、そんなカンに気遣って立ち上がると、自分が座っていた所にカンを座らせた。
「すみません。リサ様」
「カンさん、どうかしたんですか?」
「それがですね。せっかくリサ様が明日の大会に出場して下さるのに、こんなこと言いたくはなかったのですが、リサ様の出場は取り消さしてもらいました」
「なんでやねん!」
リサがカンに聞き返すよりも先にユウコが聞き返した。
「えっ?というか、あなたは」
「このお方は、」
「ガキさん余計なことは言わんでええ。なんでガキさんの出場を取り消した」
ユウコの迫力に、カンはオロオロとして、ユウコとリサの顔を交互に見た。
「カンさん。どうしてですか?」
「それが、今、シルバーランドのアイ王子様がいらしゃっていまして、つまり」
「ああ、そういうことか。と、言うわけで私は出れなくなったみたいです」
「あっそ。まあ、ええよ」
「そうですか。ありがとうございます。カンさん、了解しました。明日は、客席で楽しませて頂きますよ」
「いや、それが、あともう一つお願いが」
「何ですか?」
「アイ様と会うようなことがあったら、アイ様はおそらくその場で切りかかりにいかんばかりの勢いでして、つまり、その、リサ様にはここを離れて頂きたいのです」
「そうですか。どうしましょうか」
「それはあかん」
- 515 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:33
- 「でも、この大事な復活祭の最中に仇討などやられても困りますので」
「知らんよそんなの、王子をどっかに連れてけばええ話やろ」
「それは、それでやっているので、リサ様も同様に離れて頂きたいのです」
「それはできん」
「何故ですか!あなた、わかっているのですか。リサ様とアイ様が戦うということは、単なる仇討で済まされる問題ではないんですよ」
「知るかボケ!あんたらのわがまま一個聞いたんやから十分やろ!どっか行け、汗臭いねん」
「なんだ貴様!さっきから偉そうに!」
カンは、ユウコに掴みかからんばかりに怒り震えて立ち上がった。リサは、素早くその間に入ってカンを止めた。
「カンやめろ!大人しく帰ってくれ、私が気をつける。迷惑をかけるようなことはしないから」
「リサ様はいいのです。問題はそいつの態度です。許せん」
カンは、リサを押して、ユウコを掴もうと手を伸ばした。リサは、ぐっとこらえると同時に、剣に手を置いた。
「カン、帰れ。さもないと、今ここで私がお前を切ることになる」
「えっ、リサ様」
カンは、ユウコを掴んでちょっと脅かすだけのつもりで、それ以上、どうこうするつもりもなかった。
しかし、リサの目は、真剣そのものだった。このあと、さらに続けてユウコを掴むようなことをすれば、カンの腕を切り落とすくらいのことをしそうな目をリサはしていた。
カンは、リサの突然の行動に驚き、脅えて、力が抜けた。リサはすぐにカンを押し払うと剣から手を離した。
「早く行け」
よろつくカンに、リサは強く言い放った。
「失礼します」
カンは、頭を下げると、最後にユウコの顔を記憶するようにじっくりと見た後、走って行った。
- 516 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:34
- リサは、やれやれと言った感じでベンチに腰を降ろした。
「ユウコ様、素性を伏せるなら態度も伏せておいてください」
「そら、すまんかったな。じゃあ、行こうか」
「え?どこへですか?」
「あそこ」
ユウコが指差したのは、お面を売っているお店だった。
店には、動物の可愛らしいお面から魔獣のような怖いお面まで数多く揃ってあった。
「ガキさん、どれがいい?」
「え?いや、別に、どれって言われても、いらないですけど」
「どれや!さっさと決めんか!」
「は、はい。じゃあ、これを…」
ユウコの勢いに押され、リサは目の前にあったリスのお面を指差した。
「これまた、可愛いらしいの選んだな」
「ダメですか?」
「別にええよ。おっさん、これくれ」
ユウコは、お金を払って、リサが選んだリスのお面を受け取ると、それをリサに渡した。
「ほな、次はあっち」
そして、また、ユウコは別の場所へと歩きだした。
リサは、一体何をするつもりなのだろうかと、不安になりながらユウコの後をついて歩いた。
ユウコは、先ほど行ったばかりの大会受付所の少し手前で足を止めた。
「ガキさん、ちょっとそのお面被っとき」
「はい」
リサは言われるがままに、お面を被った。
するとユウコは、受付所に歩いて行き、何やら書くとすぐに戻ってきた。
「ニイガキ仮面って名前で登録したから」
「はい?どういうことですか?」
「ガキさんで出るわけにはいかんのなら、変装するしかないやろ」
「これ被って出るんですか?」
「丁度良いハンデやろ」
「でも、バレたらどうするんですか」
「大丈夫。うちがはずれんように魔法かけたから」
「え?今ですか?」
「そうや」
「ちょっとぉー!!」
リサは、お面に手をかけて強く引っ張ったが、お面はまるで皮膚のようにぺったりとくっついてリサの顔から離れなくなった。
リサは、諦めるとガックリと肩を落とした。
そして、取り消したとカンから聞いた時、どうしてユウコがあっさりと素直に言うことを聞いたのか理解した。
- 517 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:34
- お金がなくなったミキ達は何も買うことも出来ずにウロウロと街の中を歩いていた。
「カメ、本当に金ないのか?」
「あるにはありますけど」
そう言って出したお金は、銅貨三枚だけだった。
「これだけ?」
「はい」
「これで今日、泊まれるの?」
「無理でしょうね。それ以前に、復活祭ですからどこも満室だと思いますよ」
「何考えてんだよ!じゃあ、どうすんだよ!」
「だって、ミキ様があんなにあれこれ買うから」
「その前に止めろよ。使いすぎは良くないって止めろよ!」
「だって」
「だって、じゃないよ。まったく」
「ああ、いたいた」
ミキがエリを怒っているところに、ビンは数人の兵士とともにやってきた。
「あっ!お前何しに来たんだ!」
ミキは、すぐさま、ほうきを取り出して、ビンに殴りかかろうとした。
- 518 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:34
- 「ちょっと、待って下さい。いきなりなんですか、あなたは」
「お前の方こそ何だよ!こんなに大勢連れて来て、仕返しに来たのか!」
「違います。私は、姫様からあなた方を城に連れて来るように頼まれたのです」
「何で、城に行かないといけないんだよ。さっきのはお前らが悪いんだろ」
「先ほどのことは関係ありません。アイ様のことです」
「アイって誰だよ」
「ミキ様、アイちゃんですよ。王子の」
「ああ、あいつか。で、そいつがどうした?」
「ここで、仇打ちをやってもらっては困ります」
「は?仇打ち?誰が」
「あなた方です」
「誰をだよ」
「リサ様です」
「リサって誰だよ」
「ガキさんのことですよね?」
「そうです。ゴールドランドのリサ様です」
「何でミキがガキんちょを殺さなきゃいけないんだよ!」
「ん?あなた方はアイ様と共に、シルバーランド王の仇を討つためにリサ様を追ってきたのではないのですか?」
「あっ、そうだった」
「やはりそうでしたか」
「いえ、違います。そういうことじゃなくて」
「ん?よく見るとあなたは、ゴールドランドの方ですね。どうしてアイ様と共に行動しているのですか?」
「あの、私は、たまたまと言うか、ね、ミキ様?」
「ていうか、ミキは誰とも一緒に行動してるつもりはないけど」
「ミキ様、もうそれは言わないで下さいよ」
「ちょっと話がわからないのですが」
「それはこっちのセリフだよ!」
「うーん。とにかく、細かい話は城に戻ってから伺うことにしましょう」
「行かないつうの」
「力づくでも行ってもらいます。これは、姫様のためでもありますので」
「やっぱり、やるのか。この野郎」
「ミキ様、落ち着いて下さい。城に行けば泊めて貰えるかもしれませんよ」
「ん?そうなの?」
「まあ、落ち着くまでは城内にいてもらうことになると思います」
「飯は?」
「出るとは思います」
「じゃあ、行くか」
ミキは、すんなりとほうきを降ろした。
ビンは、このままミキを連れて行っていいのだろうかと、思いながらもミキ達を城に案内した。
- 519 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:35
- そして、噴水前では、まだサユミがアヤのことを待ち続けていた。
「姫様、遅いなぁ」
サユミは、近くで売っていたポップコーンを食べながら、行き交う人々の中からアヤの姿を探していた。
サユミは、ビンやカンにアヤの居場所を教えはしたが、実際のところアヤが捕まるとは思っていなかった。
そうやって、ビンやカンに教えてあげてないと、アヤは簡単に逃げきってしまい、それはそれでアヤは、だらしない奴らだと不満をこぼす。
けれど、今まで、アヤが捕まったことがないのは、ビンやカンのおかげだったりもする。結局は、誰もがアヤの遊びに付き合っているに過ぎなかった。
でも、アヤはそんなことは知らない。だから、追いかけられるスリルを楽しみながらも、逃げきって好きなことをする。好きなことをするときはいつもサユミが一緒だった。
だから、今日も時間どおりにアヤが来るとサユミは思っていた。けれど、来ないのはビンとカンが国王の命令でアヤにはしっかりと見合いをしてもらわないといけないので、本気でアヤを城に戻すつもりだったことをサユミは知らなかった。
だから、サユミはいつまでも待ち続ける。アヤが捕まることなどないと信じ切っているから。
暇を持てあましているサユミは、ポップコーンの箱に手を伸ばした。しかし、いくら探っても一粒も掴むことができなくて、箱の中をのぞいた。
空っぽだった。
あれ?と思って、ひっくり返してゆすっても、何も落ちてこない。
下に落ちたのかと思って地面を見ても、落ちていない。辺りを見ても落ちていない。が、しかし、もぐもぐと口を動かして隣に座っている女の子が目についた。
- 520 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:35
- 「ねえ、あなた、私のポップコーン食べたでしょ」
「うん」
女の子は、何の悪気もなく元気よく答えた。
サユミは、あまりの素直さに頭を抱えた。
「あのね、人の物を勝手に取るのは泥棒だよ」
「コハル、泥棒じゃないもん」
「コハルちゃんって言うのね。コハルちゃん、このポップコーンは私の物なの、コハルちゃんのじゃないでしょ」
「うん」
「はあ」
コハルがわかっているのかわかってないのか、そのあまりの無邪気さに、サユミはまた頭を抱えた。
「コハルちゃんのじゃないのに、なんで勝手に食べたの?」
「うぇーん!お姉さまぁ〜」
突然、コハルは泣きだした。
しかし、サユミは動じない。今までもこういう子供を見てきたから。もっと言えば、アヤに付き合わされているので、こういった不条理なことには慣れている。
「泣いても無駄よ。謝りなさい」
「お姉さまぁ〜」
「もう」
コハルは、泣くばかりだった。
サユミは、これは、コハルが呼ぶお姉さまとやらが現れるまで待った方がいいと思い、泣くコハルを放っておいて、アヤとコハルの姉を待った。
- 521 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/02/07(木) 04:35
- 「コハルぅーーー!!!」
コハルの姉は思ったよりもずいぶん早く現れた。
コハルが泣き止むと、声が聞こえた方へと振り向いた。そして、サユミも振り向いた。
人を掻き分けがら、徐々に近づいて来る人物を見つけたサユミは、その姿を確認すると勢いよく立ちあがった。
「ヒトミ様!!」
サユミは、ヒトミに気づいて貰おうと、両手を大きく振った。ヒトミもそれに気づき、また、隣にコハルの姿を見つけるとすぐに駆け寄ってきた。
「お姉さまぁ〜」
コハルは、ヒトミに飛び付くとがっちりとヒトミを抱きしめた。
「もう、コハル、勝手にどっかいっちゃダメじゃないか」
「ごめんなさい」
コハルは、泣きながらも安心しきった様子でヒトミに笑顔返した。
「はい。感動の再会はここまで」
サユミは、そう言ってヒトミからコハルを引き離した。
「やあ、サユ。久しぶりだね。コハルの面倒見ててくれたんだ。ありがとうね」
「はい。もうバッチリ見てましたよ。ポップコーン美味しかったね、コハルちゃん」
「うーん。お姉さま、コハル、この人に泥…」
「あっ!ヒトミ様、これからどこに行きます?サユミも一緒に連れて行って下さい」
サユミは、コハルの口を塞いで後ろに追いやると、ヒトミの腕を組んだ。
「どこって言うか。サユはいいの?誰かと待ち合わせてたりとかしてたんじゃないの?」
「いいんです。姫様、二時間待っても来ないんだもん」
「そっか、アヤヤは急な用事でも出来たのかな」
「きっとそうですよ。行きましょう」
「うーん、でも、その前にユウコ様の所に戻らないと」
「大丈夫ですって、子供じゃないんですから」
「いやっ、でも」
サユミは、ヒトミの腕を無理矢理引っ張って連れだした。
コハルも、慌てて追いかけて、ヒトミの空いている反対側の腕を取った。すると、サユミがヒトミの背後からコハルをキツク睨んで、コハルは身震いをした。
「コハル、どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
- 522 名前:パム 投稿日:2008/02/07(木) 04:36
- つづく
- 523 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/03(木) 11:31
- 待ってますよ〜。
- 524 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/03(木) 13:01
- 今ようやく追いつきました
ガキさんほんとに強いんだな…
この先の展開が心配だけど、正直波乱にwktkしていたりします
ほんと読んでて楽しい
- 525 名前:パム 投稿日:2008/07/22(火) 03:54
- ずいぶんお待たせしまして、すみません。というか、待ってて頂いてありがとうごます。
ちょこっとだけですけど、久々の更新です。
- 526 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/07/22(火) 03:55
- 城に連れてこられたミキ達は、アヤの部屋に通された。
部屋の中央にあるソファに座っていたアイは、ちらりとミキを見ると、すぐに目を反らして不機嫌そうにしていた。
ミキは、そんなアイの態度に目もくれず部屋中を見渡した。
「おっ、すげぇ。まるでお姫様の部屋みたいだ」
「みたいじゃなくて、私は姫なの!」
呑気なことを言うミキに苛立って、アヤはミキの腕を掴んでアイの隣に座らせた。
そして、アヤはミキ達の向いに座った。
「何だよ。姫ならちっとはお淑やかにしろよ」
「黙って!あなた達に話があるんだから」
話があると聞いてミキはすぐにアイのことだろうと思いアイの方を見た。
「お前はいつも面倒を起こすよな」
アイはミキと目を合わさずそっぽを向いて黙っていた。
「おい、何か言えよ」
「アイちゃんはね、ガキさんを殺そうとしてるの」
アイの代わりにアヤが答えた。
- 527 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/07/22(火) 03:55
- 「は?何で?」
「あなた、何も知らないでアイちゃんと一緒にいたの?」
「別に一緒にいたくているんじゃねぇよ。こいつが勝手に付いてくるんだよ」
「何であなたみたいな人にアイちゃんが付いて行くのよ。バカじゃないの」
「バカはどっちだ!お前だ!」
「何、その口の利き方!頭きた」
アヤは怒ると、ミキに飛びかかってほっぺたをつねった。
「何すんだよ」
「謝りなさい」
「誰が謝るかバーカ」
「こいつぅ〜」
アヤはさらに力を込めて、ひねりあげた。
「イテェなこの野郎」
ミキも、手を伸ばしてアヤのほっぺたをつねった。
「離しなさいよ」
「お前が離したら離してやる」
「あなたが先に離しなさいよ」
「誰が離すか」
ミキは抓ったほっぺたを横に引っ張った。
「姫様やめて下さい」
今まで、部屋の片隅で見ていたエリが、アヤの肩を掴んでミキから引き離そうとした。
アヤは、また自分ではなくミキを助けようとしたことに怒って、横目でエリを睨みつけた。
睨まれたエリは、アヤから目を反らしてアイを見たが、アイはまったくをこちらに関心がなく、見ていなかった。
- 528 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/07/22(火) 03:55
- 「う〜ん。困りましたね」
と、エリは、ずっと黙って見ているビンに同意を求めた。
「姫様が怒っているときは、収まるまで放っておくのが一番です」
ビンは、ニッコリと笑ってエリに言った。
「そうなんですか?でも、ミキ様が」
「たまにはミキ様も痛い目に合った方がいいちゃ」
エリは、声が聞こえた方に振り向くと、れいにゃはソファで丸くなってのん気にミキを見ていた。
そういうものなのかなと、エリは少々納得はいかないまま、自分もソファに座ってミキとアヤを見守った。
「お前、いい加減にしろよ」
「謝りなさい」
「バーカ」
「もう!許さない!」
そう言うと、アヤは顔を横に思いっきり振って、ミキの手を外すと、ミキの腕に噛みついた。
「イテェー!なんだこいつ!」
ミキは、アヤの頭を掴んで引き離そうとしたが、アヤはガッチリと噛みついていて離れない。
引っ張ってもダメなので、今度はアヤの脇をくすぐり始めた。
しかし、アヤは笑いをこらえようとしてさらに力がこもった。
「やめろ!千切れる!」
- 529 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/07/22(火) 03:55
- 歯が食い込む痛みを感じてミキもさすがにこれ以上は危ないと思い、指を二本立てると、思い切りアヤのお尻に突き刺した。
「ギャアー!」
アヤはたまらず大声を上げてミキから離れた。
ようやく解放されたミキは、アヤに噛まれた腕を見ると、くっきりとアヤの歯型が残り、少し血が滲んでいた。
「うわっ、血が出てるじゃん」
「何するのよ!」
アヤはお尻を押さえながら言った。
「それはこっちのセリフだ!これ見ろよ。血が出てるじゃんかよ!」
「そんなのツバつければ治るでしょ」
「すでにめっちゃついてるって!」
「もう、信じらんない。普通、こんなことする?」
「それはお前の方だろ」
「もう許さないからね」
「知るかバーカ」
まったく反省していないミキにアヤは、また掴みかかろうとしたがそこをビンに取り押さえられた。
「姫様、もうこのくらいにしましょう。客人がお待ちです」
「ビン!離しなさい!」
「皆様、夕食の時間まで、ここでゆっくりしていて下さい」
そう言ってビンは暴れるアヤを抱えてて部屋を出ていってしまった。
「まったくなんだよあの姫は」
ミキは、エリの隣に座ると、アヤに噛まれた腕をさすった。
すると、またたく間にアヤの歯型の跡は消えた。
それを見ていたエリは目を丸くしてミキを見た。
- 530 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/07/22(火) 03:55
- 「なんだよ」
「傷が消えましたよ?」
「消したじゃなくて、治したんだよ」
「どうやって?」
「はあ?本気で言ってるのかお前は。ミキを誰だと思ってんだよ」
「あっ、そう言えば魔女でしたね」
「魔女でしたね。じゃねぇよ。何言ってんだよおまえは」
「ミキ様ってあまり魔法使わないから、うっかり忘れてました」
「まあ、いいけどな別に」
「さっきもどうして魔法使わなかったんですか?魔法使えば簡単にアヤ様から離れることが出来たのではないのですか?」
「うるせぇな。いいじゃねぇかよ。いつ魔法使おうが!」
「そうですけど・・・」
「けど、何だよ」
「ミキ様の魔法を見てみたいです」
「さっき傷治したの見たじゃん」
「いや、もっと魔法らしいのを」
「なんだよ魔法らしいのって!さっきのだって立派な魔法だバカ!」
「すみません」
「おっと、そうだった。よし、カメに凄い魔法を見せてやろう」
「本当ですか?やった!アイちゃん、ミキ様が凄い魔法を見せてくれるそうですよ」
大喜びのエリは、つまらなそうにしているアイに向かって言ったが、アイは見向きもせず立ち上がった。
「私はいい。ちょっと出て行く」
「えっ?どこ行くの?」
アイは、エリの言葉を無視して部屋を出て行ってしまった。
アイが出て行った部屋の扉を呆然と見つめているエリに、ミキは何も言わずにエリの髪の毛を引っ張った。
- 531 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/07/22(火) 03:56
- 「イタッ!何するんですか!」
「魔法を見せるって言ったじゃんかよ。あんな奴ほとっけって」
「けど、アイちゃん何か思いつめているようでしたよ」
「知らないよそんなの。でだ、後は…、これが丁度良いかな」
ミキはそう言うと近くにあったクッションを取り、カバンからハサミを取り出すと切り刻み始めた。
「ちょっと!ミキ様何やってるんですか!」
「うるさいな!集中してんだよ!邪魔すんな!」
「でも、それアヤ様のですよ」
「知るか」
ミキは、クッションから取り出した綿を丸めると、それに布を巻きつけて紐でグルグル巻きにして、棒状の物を作った。
そして、さらに小さいのを4つと丸い物を作ると、それをくっつけて人形を作った。
その奇妙な人形にエリの髪の毛を押し込み、テーブルの上に置いた。
「よし、出来た」
「ミキ様、これって人形ですか?」
「どう見ても人形だろ。わかりきったことを聞くなよ」
「あ、あの、呪いとか、そういうのは見たくないんですけど」
「違うよバーカ。これからが本番なんだから、しょうもないこと言うなよ」
「すみません」
- 532 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/07/22(火) 03:56
- 「ミキ様、その魔法は使っちゃダメってお師匠様が言ってったっちゃ」
「教えといて使っちゃダメなわけないだろ」
「ミキ様が使うとろくなことがないからダメって言ってったっちゃ」
「うるせぇ!今から集中するから黙ってろ!」
「エリ様逃げた方が良いっちゃ」
「えっ?ホントですか?何が起きるんですか?」
「だから、黙ってろ!ネコとカメ!」
ミキは大きく深呼吸をした後、両手を人形の上にかざした。
するとミキの指先から金色の糸が伸び、それが人形の手足に結びついた。
そして、ミキはゆっくりと両手を挙げると、引っ張られるようにして、人形とエリが立ちあがった。
「あれれ?体が勝手に」
突然、自分の意思に反して、エリの体が動き出した。
「成功したっちゃね」
「当たり前だろ。よし、じゃあ、明日の本番に向けて練習するか」
「あの、ミキ様、これは一体?」
「じゃあ、右手挙げて」
ミキは右の人さし指をクイッと引き上げると、人形の右手が上がり、そして、エリの右手も上がった。
「ちょ、ちょっと、ミキ様。まさか、これって私を操ってるんですか?」
「そうっちゃ、エリ様はミキ様の言う通りにしか動かないっちゃ」
「凄いですね」
「感心してる場合じゃないっちゃ」
- 533 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/07/22(火) 03:57
- 「次は、左手」
「あっ!また、勝手に上がった」
「そして、両手を左右に動かして、ウリャ、ヲイ!ウリャ、ヲイ!ウリャ、ヲイ!」
「わっ、ちょっと、ミキ様。あまり早いのはっ!」
「ウリャ、ヲイ!ウリャ、ヲイ!ウリャ、ヲイ!」
「ちょっとミキ様!やめて下さい!」
エリが叫んでもミキは大喜びで一向に止めようとしない。
困り果てたれいにゃは、人形を口で咥えてミキの指先から繋がっている糸を引き抜いた。
「あっ!れいにゃ!何すんだよ!」
「エリ様が困ってるっちゃ!」
「魔法見せろって言ったのはカメだろ」
「やっぱりミキ様はこの魔法使っちゃダメちゃ」
「れいにゃのくせに偉そうなこと言うな返せ!」
「ダメっちゃ!」
「ミキ様、ありがとうございました。なかなか楽しかったですよ」
若干疲れ気味のエリだったが、奇妙な体験に素直に嬉しい様子だった。
「ほれ見ろ。返せよれいにゃ」
「ダメっちゃ」
「でも、もういいですよ。十分です」
「何言ってんだよカメ。明日が本番だろ」
「明日?」
「そうだよ。これを使って、ミキがお前を優勝させる」
「えっと、明日の剣術大会のことですか?」
「そうだよ。他に何があるんだよ」
「ええっ!ちょっとやめて下さいよ。死んじゃいますよ」
「大丈夫、死んでも動くから」
「え?」
ミキの言葉に、エリは返す言葉もなかった。
- 534 名前:パム 投稿日:2008/07/22(火) 03:57
- つづく
- 535 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/23(水) 07:01
- ミキ様、『ウリャ、ヲイ!』てww
- 536 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/23(水) 19:35
- アンデッドこわいよおおおお
- 537 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/09/30(火) 18:48
- 一人、部屋を出て行ったアイはこっそりと城を抜け出していた。
アイは、賑やかな祭りには一切目をくれず、人ごみの中を走り抜けると、最初に見つけた洋品店に入った。
店内を一周してから、アイは腕を組んで悩んだ。
何も考えず入ってしまったこの洋品店は、女物しか置いていなかった。
店を変えることにしたアイは足を一歩踏み出したところで、背後から店主に声をかけられた。
「彼女へのプレゼントですか?それとも…」
アイは、店主の方に振り返ると一瞬硬直した。
それもそのはず、店主は亜麻色の長い髪に可愛いらしいワンピースを着た女性ではあるが、アイの身長よりも遥かに高く、体格もがっちりとしていて、とても女性とは思えない風格だった。
しかし、店主の手つきは優しく女性らしかった。
赤ん坊を抱きかかえるようにそうっと掛けれているワンピースを取り、アイに見せた。
「こういう可愛いのを送れば彼女もきっと喜びますよ」
「いや。そういうわけではない」
「やっぱりそうよね。ここでは恥ずかしがらなくてもいいですよ」
そう言って、店主はアイの背中に手をまわして、店の奥に連れて行った。
アイは、店主の力強さに押され、外からは見えない奥の部屋に連れて行かれた。
その部屋には、店に並んでいた服よりも大きめの、それこそ店主に似合うサイズの服やカツラが並んであった。
「な、なんだここは」
アイは一歩下がって身じろぐと、店主はさらに背中を押し、大きな鏡の前に連れて行った。
「お客さんは、顔立ちも体つきも女らしいから、そこらの女よりもずっと可愛くなりますよ」
そう言って店主は、心躍っているのか、大きな体を揺らして並んである服からアイに似合いそうな服を選び始めた。
- 538 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/09/30(火) 18:49
- 「女らしいか…」
アイは、自分が映る鏡を見つめながら言った。
男として育てられても、女というのは隠しきれないものなのだろうか。
ならば、皆は知ってて知らぬつもりをしているのだろうか。
アイは、今まで何とも思っていなかったことに疑問も持ち始めた。
もし、皆が女であるとわかって知らぬふりをしていたのならば、隠す必要もなかったのではないのだろうか。
もし、私が女と言っても誰も驚かないのではないのだろうか。
「何ブツブツ言ってるの。今から女に生まれ変わるんだから、そんな険しい顔しちゃダメ。笑顔、笑顔」
店主は、数点の衣装を持ってくると、次々とアイにあてて見せた。
「うーん。どれも似合うから、困っちゃうわね」
「なんでもいいぞ」
「なんでもいいのが一番困るのよ」
店主は、腕を組んで悩みながら店の中を見渡した。
そして、大きく手を叩くと、一着のワンピースを持ってきた。
「やっぱ、女の子はピンクよね」
そう言って、店主はピンクのワンピースをアイにあて、鏡を見ると大きな声で喜びだした。
「いやー、もう可愛い!!これだったら、お姫様よりも可愛いわよ」
「アヤちゃんよりも?」
「そうよ。アヤ様より、あなたは可愛くなるわ。今から準備するから、それに着替えておいて頂戴」
店主は、エンジンがかかったのかキビキビと動き、部屋の外へと出て行った。
- 539 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/09/30(火) 18:49
- アイはあてがわれた服を持ち、鏡の自分の姿を見た。
姫として育てられていたら自分はこんな姿をしていたのだろうか。
鏡に映る自分の姿が自分ではない別人のように見えて、不思議な感じがした。
店主が出て行ったことを確認すると、アイは服を脱ぎ、初めてワンピースを着た。
「まるで別人のようだな」
「いいえ、生まれ変わるのはこれからよ」
店主は、メイク道具を運びいれると、アイをイスに座らせた。
アイは店主にされるがままになっていた。
そして、数分後、店主の歓喜の叫び声とともに、アイも変身した自分の姿を見た。
「な、なんだこれは」
「お気に召さない?この国一番の美女に仕立てあげたのよ」
「あ、いや。あまりの変貌に驚いただけだ」
「そうね。私もビックリ。これなら、誰もあなたとは思わないわ」
「私とは思わない?」
「そりゃそうよ。男がこんな可愛い子になるなんて思いもしないわよ」
「そうか。誰も気づかないか。なら、丁度いいか」
いささか自分の姿に不安を感じつつあったアイも、誰にも気づかれないとわかると、そのつっかえも消えて自分の姿を眺めた。
「確かに女に見えるな」
「でしょ。素晴らしいわ。やはり今日は復活祭だけあって、生まれ変わる日なのね」
「それは違う気がするが」
「もうそんな言葉使いしたらダメ。今のあなたは女なのよ。いい?」
「ああ、わかった。あっ、いや。わ、わかりましたわよ?」
「うーん、ちょっと変だけど、可愛いから問題ない」
「そう?ありがとう」
「イイ!!今の笑顔とっても素敵!私が男だったら惚れてたわ。まあ、男だけどね」
「は?男?」
耳を疑ったアイは、自分の周りを歩く店主を怪しげに見つめた。
- 540 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/09/30(火) 18:49
- 「うーん。これでもいいけど、何か物足りないわね」
「さ、さっき男と…」
「あっ!そうだわ。わかった!」
店主は大声を出すと、自分の髪の毛を掴み取った。
綺麗な長い亜麻色の髪の毛は、その形を残したまま綺麗に店主の頭から離れ、艶やかな店主の頭が出てきた。
「ハ、ハゲ?」
「ハゲじゃないわよ。カツラを被るために剃ってるの。そんなことよりも、これは絶対あなたに似合うわよ」
店主は、自分のカツラをアイに被せると、胸に手をあてて、今にも泣き出しそうな喜びの表情を見せた。
「素晴らしい!!完璧だわ。見てごらんなさい。これなら姫なんて猿よ」
「まあ、これなら完璧だな」
「でしょ。今日はなんて素晴らしい日なのかしら、神に感謝ね」
「そ、そうだな。いや、そうですね」
「そう。あとは言葉使いに注意してね」
「わかりました。で、おいくらですか?」
「サービスしちゃう。こんなに可愛く女装できたのは初めてだわ。いつもは小汚いオヤジばっかりだからね」
「そうなのか?しかし、少しは…」
「ほら、また、言葉使い」
「あら、ごめんなさい」
「そう、その調子よ。さあ、お行きなさい!」
アイは店主に背中を押され、店を飛び出した。
店主に手を振られ、遠慮気味に振り返すと、すぐに人気のないところまで逃げ出した。
「変な店だったな。しかし、確かに女性の格好なら誰も私だと気づかれまい」
アイは、窓に映る自分の姿を確認すると、目的の場所を目指した。
- 541 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/09/30(火) 18:50
- 「さすがにどこも満室でした」
リサはユウコに頼まれて、今晩泊まるホテルを探しに回っていた。
しかし、世界各国から訪れるお祭りだけあって、どこのホテルも満室だった。
「そんなのは最初からわかってる。なんとかせえって言ったやろ」
「こんなお面被ってじゃ誰も相手してくれませんよ」
「じゃあ、どないすんねん。野宿せえ言うんか?」
「お面を外してくれたら…」
「まあ、ええか。あとでヒトミに任せるか。ガキさん、ビール」
「ええっ!?」
リサはひた走る。
生まれてこのかた父親だけを恨んできたが、この日初めて別の人間を恨んだ。
「まったく、あの人は一体どこで何をしてるんだ。なんで、私がユウコ様の面倒見ないといけないんだ」
怒りにまかせて走るリサは、丁度、横を通り過ぎる女性に気づかず、避けることができないまま衝突してしまった。
「キャッ」とか細い声を出して転んだのは女装したアイだった。
しかし、リサはアイとは気づかずに、アイを抱き起した。
「すみません。夢中で走っていたので」
「大丈夫です。って、リスぅうう!!?」
「これはお面です。驚かしてすみません」
「いいえ、大丈夫です。とってもお似合いですわよ」
「そ、そうですか?」
「あっ、いや、その、変な意味じゃなくて。とっても可愛いですわよ。おほほほ」
「はあ、それはどうも」
「あっ、いけない。行かなくちゃ。それでは失礼します。おほほほ」
ぎこちない笑いをして、アイは走り去って行った。
- 542 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/09/30(火) 18:50
- 「おかしな娘だな。でも、」
「可愛い娘やったな」
「そうですね。って、ええっ!?いつの間にっ!」
リサは、背後からの声に振り向くとユウコが立っていた。
「まさかガキさんがナンパするような子やとは思ってもいなかったわ」
「ナンパじゃないですよ。ぶつかって倒してしまったから…」
「そんなおかしな言い訳せんでもええって、お祭りなんやからかまへんよ」
「ですから、違いますって」
「もうビールはええから、あの娘のところへ行ってもええで。何なら今日は帰ってこなくてもええで」
「違いますって!すぐにビール買ってきますよ」
「ビールはええって。なんか面白そうなことが始まりそうやし」
「始めるつもりはないですよ」
「さあ、それはどうかな」
ユウコが厭らしい笑みを浮かべると同時に、遠くからアイの声が聞こえた。
すぐさまリサは振り返ると、アイはまた転んでいた。
そして、アイの前に立ちふさがる男がアイを掴んで怒鳴っていた。
「大変なことになったでガキさん。助けにいかんと」
リサは、ユウコの仕業かと疑いの目で見た。
「何、ボケっとしとる。ニイガキ仮面の出番やで!」
「そのネーミングはちょっと…」
「あー!早く行かんとあの娘、犯されるで!」
「えっ!?」
リサはもう一度振り返って見ると、アイが男に掴まれていた。
それを見たリサはすぐに走り出した。
「なんだ急に抱きついたりして、俺と遊びたいのかい?」
「ふざけるな!貴様が急にぶつかってきたのではないか!」
「口の悪い娘だな。しっかり躾けてやらんといかんな」
厭らしい表情で笑う男の言葉を聞いて、リサは怒りが込み上げると同時に、後ろをゆっくりと歩くユウコを振り返り見た。
「やっぱりユウコ様の仕業だったのですね」
「ほれ、早くせんと」
「ったく、もう!」
- 543 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/09/30(火) 18:50
- アイは男に掴まれている手をひねり上げようと掴んだところで、リサの声が聞こえて動きを止めた。
「その手を離せ!」
リサの言葉に素直に従ったのはアイだけだった。
男は、アイを自分の方に引き寄せ、リサの顔を見て大声で笑った。
「あははは。なんでリスがこんなところにいるんだ。森に帰ってどんぐりでも食ってろ」
「離せと言っているんだ」
リサは、剣を手に添えて男を威嚇した。
しかし、リスのお面ではその迫力も男には伝わらず、男はさらに笑った。
それが、リサの癇に障り、頭にきたリサは一歩踏み出してこぶしを握り締めた。
「はあ?やるってのかい。リスちゃん?」
「早くその娘を離せ。さもないとタダでは済まないぞ」
「リスちゃん、言うねぇ」
リサは構えるとジワリと男との間合いを詰めた。
「いやぁ〜ん。助けてぇ〜」
「え?」
なんとも間の悪いところで、アイが言ったので不意を突かれたリサは男の動きに気づくのに遅れてしまった。
男は、アイを掴んだままリサの顔面を殴った。
殴られたリサは飛ばされて、ユウコの足元に倒れた。
「ニイガキ仮面しっかりせんか」
「しかっりしてましたよ。あの間の悪い声が入るまでは」
まったくと言ってリサは立ち上がった。
- 544 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/09/30(火) 18:51
- 「お前はそこのババアとよろしくやってろ」
一発でリサを倒した男は調子に乗ってリサを挑発した。
リサは、すぐにユウコの気配が変わったのを察知して、ユウコの表情を見た。
眉が少しピクリと動いたことに気づくとリサは慌てて、大声をあげた。
「貴様、死にたいのか!」
「はあ?」
アイを連れてどこか行こうとしていた男は振り返り、リサに詰め寄った。
「もう一度言ってみろ」
「早くその娘を置いて逃げろ。死ぬぞ」
「はあ?やれるもんなら………」
男の言葉をさえぎるようにリサのこぶしが男の顔面にヒットした。
倒れた男にリサは躊躇することなく殴り続けた。
男は無抵抗のまま、リサのこぶしを受け続けた。
「もういいでしょ!」
リサは殴り続けながら、ユウコに向かって叫んだ。
するとリサは殴るのをぴたりと止めた。
解放された男はすぐに走って逃げて行った。
そして、リサはアイを自分のところに引き寄せた。
「すみません。大丈夫ですか?」
「はい。ありがとうございます」
アイは、リサに引き寄せられたことを嫌がらずに少し照れて答えた。
- 545 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/09/30(火) 18:51
- 「さあ、ニイガキ仮面。締めの勝利のセリフ」
「え?勝利のセリフ?」
「当たり前やろ。きちんと締めないかんって」
「えっ?えっと・・・やったー!!えっ、いや、なんですかこれ?」
「こっちが聞きたいわ。明日までにちゃんと考えとけよ」
「はあ」
損な役回りばかりだなと肩を落とすリサに、アイがリサの手を取った。
「リスさん。ありがとう」
そう言ってアイは、そそくさとリサから離れて走って行ってしまった。
「はあ、やっぱ変な子だ」
「なんか脈がありそうやなガキさん」
「そんなわけないじゃないですか。こんなリスお面被ってる人間相手するわけないですよ」
「あっ、やっぱガキさんその気があるんやん」
「いいえ!断じて違います」
「まっ、お面外した方が無理そうやけどな」
「どういう意味ですかそれ?」
「それ言ったらこれからの楽しみなくなるやんけ」
ユウコはあの娘がアイだということに最初から気付いていた。
そして、リサにその気があることに気づくと、この先のことが面白くてたまらなかった。
豪快に笑うユウコを尻目に、リサはユウコに気づかれないように、アイに握られた手をそっと撫でた。
- 546 名前:パム 投稿日:2008/09/30(火) 18:51
- つづく
- 547 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/03(金) 16:04
- 純情(?)な二人がそんなところで出会うとは
ワクテカかつガクブルです
- 548 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:33
- 「ふ〜。とんだ目にあった」
リサと別れたアイは、目的の場所である大会登録所の前までやってきたところで一息ついたが、受付のカウンターを覗くと、係の女性が片づけを始めていたので、アイは急いで受付に駆け込んだ。
「すみません。明日の試合に出場します」
「あなたが?」
「はい」
係の女性は、アイを上から下へと舐めるようにして見たあと、ふっと笑って、登録名簿を閉じた。
「ちょっと」
アイは閉じられた名簿を手で押さえて、片付けられるのを止めた。
「明日の大会は、各国から名のある騎士が出場するんですよ。遊びじゃないんですよ」
「そんなことはわかっている。だから、出るんだ」
「うーん」
女性は、可愛らしいアイの姿に不釣り合いな勇ましい言葉使いに首をかしげて怪しんだ。
「本当にあなたが出るの?」
「そうだ。だから、早く」
「やめておいた方がいいわよ」
「勝手に決め付けるな!貸せ!」
「あっ、ちょっと」
- 549 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:34
- アイは、手で押さえていた名簿を掴んで開くと、出場する選手の名前を目で追った。
自分の名前が二重線で消されていた。はあ、とため息をついてさらに下へと読み進んでいくと、次にはリサの名前が消されているのを見つけて、目がとまった。
「リサも取り消されたのか」
「ええ、私も楽しみにしていたんですけどね。上から取り消すように言われて」
「アヤちゃんの仕業か」
「はい?」
「いや、何でもない。やはりビンもカンも出るのか、ん?カメちゃんも出るんだ」
「あの。もう返してくれませんか?」
「ちょっと待て。ニイガキ仮面…。確か、さっきの人がそういう風に呼ばれていいたような」
「ああ、その人ね。リスのお面被った変な人よ。迫力のある女性に無理矢理、出場させられてる感じだったけど」
「迫力のある女性?ああ、あの人か。そうか、リスさんも出るんだ」
「で、どうするの?」
「出るに決まっているだろう。ここに名前を書けばいいんだな」
「ええ、そうよ」
アイは、一番下の空欄に「サファイア」と書いた。
受付の女性は、名簿の名前を確認して、番号札をアイに渡した。
「明日、10時に集合して頂戴。怖くなったら遠慮せずに棄権していいのよ」
「誰がするか!まったく」
アイは怒鳴ってペンを机に叩きつると受付所をあとにした。
そして、元の服に着替えると急いで城へと戻って行った。
- 550 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:34
- アイは、急いでアヤの部屋に戻ると、部屋には、ソファの上で寝ているミキとれいにゃしかいなく、エリの姿が見えなかった。
アイは、ミキが枕代わりにしているクッションを引き抜いた。ミキの頭ががくんと落ちてミキはアイを睨みつけた。
「何すんだよ」
「カメちゃんはどこに行った?」
「知らねえよ」
「エリ様はトイレに行ったちゃ」
「ふーん、そうか」
「お前の方こそどこに行ってたんだよ」
「どこだって構わないだろう」
「まあな」
ミキはクッションを頭に敷きなおして、また、眠り始めた。
アイは、眠るミキを気にせず語り始めた。
「君も知っての通り、私の父、シルバーランド国王はあのリサに殺された。あいつは私の国を奪い、父の命を奪い、そして私には殺すこともせず何もせずただ国から放りだすという屈辱を受けた。あいつだけは絶対に許さない。私を生かしておいたことを後悔させてやる。明日、あいつは必ず試合に出てくるはずだ。アヤちゃんがどうしようが、あいつなら下手な小細工を使って出場してくるはずだ。私は観衆の目の前で仇を討つ、ゴールドランドよりシルバーランドの方が強いんだとみんなに知らしめるんだ。おそらく明日で君との旅は終わることになるだろう。君はわがまま放題で無茶苦茶な奴だったが、楽しかった。王子では経験できないことを少しではあったが経験もできた。しかしだな、これだけは言っておく、いつまでもそのわがままが通用すると思うなよ。いくらユウコ様の弟子だからって許されると思うなよ。おい、聞いているのか」
- 551 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:34
- ミキは少しだけ目を開けてアイを見た。
間近で真剣な表情をしているアイに溜息をついてミキは体を起こした。
「あのさ、ミキはミキのやりたいようにやるんだよ。誰の指図も受けない。わがままだろうが、ゆゆたん弟子であろうがなかろうが、ミキはミキだ」
「その考えがダメだと言っているんだ!いいか、君は世間を知らな過ぎる。思う通りに物事が進まないことは山ほどある。時には人に頭を下げて頼むことだって必要だ。我慢することだって必要だ。君にはそのすべてが欠けている」
「うるせえな。何だよ急に説教して」
「心配して言ってるんだ」
「ああ、それはどうも」
「なんだその口の利き方は!」
「うるせぇよ!お前は明日のことだけ考えてろ!絶対にガキさんに負けるぞ」
「そんなことはない」
「その自信がどこから来るのか不思議だよ」
「絶対に負けられないんだ」
「そういう問題じゃないだろ。お前とガキさんじゃゆゆたんとれいにゃほどの差があるつってんだよ」
「そんなことはない!私を見くびるな!」
「ああ、そうですか。まあ、勝手にやってくれ。死んだら骨は海に流してやるよ」
「それだけはやめろ!ったく、君と話すと本当疲れる」
「それはこっちのセリフだよ」
「もういい。ところで、カメちゃんはどうした」
「トイレに行ったってさっき言ったちゃ」
「いつまで入ってるんだ?おーい、カメちゃん。どうした?具合悪いのか?」
アイは部屋の奥の扉の前まで行き、扉をノックして言った。
- 552 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:34
- 「アイ様何してるっちゃ?そこにエリ様はいないっちゃよ」
「ここがトイレだぞ。ここにいないのか?」
「そこトイレなんちゃ」
「そうだ。ん?カメちゃんはどこまで行ったんだ?」
「知らないっちゃ。外出て行ったっちゃよ」
「本当か?ここから出たらトイレを探すのに苦労するぞ」
「本当っちゃ?」
「ああ、カメちゃん大丈夫かな」
アイは心配してミキと目を合わせたが、ミキは何にも気にしていない様子でまた寝転がった。
「まあ、カメちゃんも子供じゃないんだから、わからなかったら誰かに聞くか何かしてるだろう」
「そうっちゃね」
- 553 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:35
- 「あー、もう〜。どこにもないよぉ〜」
アヤの部屋を出てから30分が過ぎてもエリは未だにトイレを見つけることが出来ずに城内をさ迷っていた。
すでに限界間近の状態で歩くことすらままならなくなっているエリは子供のように半べその状態でゆっくりと漏らさないようにトイレを探して歩いていた。
いくら歩いても同じような回廊が続く中、突然大声が聞こえてエリは驚きのあまり少し漏らしてしまった。
「うわぁ〜、もう最悪だ」
エリはそれ以上出さないように股間を抑えて蹲った。
しかし、立て続けに大声が聞こえた部屋の扉が勢いよく開き、エリは死に物狂いで堪えた。
部屋から出てきたのはアヤだった。エリは、こんな姿を見られたくなくて背を向けようとしたが体が思うように動かずあっさりとアヤに気づかれて肩を叩かれた。その拍子でまたちょっとだけ漏れて、エリは俯いてアヤと顔を合わせないようとしなかった。
「カメちゃん。こんなとこで何してるの?」
「いや、何でもないです。気になさらず先に行ってください」
「顔色悪いよ。大丈夫?」
「大丈夫です。もともとこんな顔なんですよ。アハハ」
「凄い汗かいてるし、とても大丈夫そうには見えないよ」
「ホント、何でもないんです」
「ホントに?」
アヤはしゃがんでエリの顔を覗き込んだ。エリは我慢のあまり血の気も引いてあぶら汗をかいていた。
「やっぱ大丈夫じゃないよ。立てる?」
「大丈夫ですから、早く行ってください」
「うーん、頑固だなぁ」
- 554 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:35
- アヤが困っているところにアヤを追いかけてきたビンがやってきた。
「姫様、お戻り下さい」
「今はそれどころじゃないの。カメちゃんが大変なの」
ビンはうずくまるエリを見下ろして、尋常じゃない状態に気づくとアヤと同じようにしゃがんでエリの顔を覗き込んだ。
「どうしたのですか?どこか具合が悪いのですか?」
エリはもうどうにもならないと諦めをつけて、思いきってビンに言うことにした。
「あ、あの、ちょっと、まあ、その、悪いと言えば悪くて」
「ちょっと、カメちゃん。何で私には大丈夫って言ってたのにビンにはそういう風に言うの?」
「え?いや、別に。あっ、でもビンさんの方が」
「ちょっと何それ!私は頼りないっていうの?」
「そうじゃなくて、いや、ああ、もうダメだ」
「えっ?何が?」
「あっ、わかりました。カメさん立てますか?」
ビンは、最初エリが腹を押さえているのかと思っていたが、よく見るとさらに下の方を押さえていることに気づき、そして、アヤに言いづらそうにしていることで、エリがトイレを我慢していることに気づいた。
ビンは、エリの手をとりゆっくりと立ち上がらせた。
「走れますか?」
「はい、多少は」
「急ぎましょう」
ビンはエリの手を引いて走った。エリは手を引っ張られながらぎこちなく走った。
すぐ近くの部屋に入り、ビンはエリをトイレに投げ入れた。
後を追って来たアヤはエリがトイレに入ったのを見て、呆れた顔をした。
- 555 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:35
- 「はあ、すっきりした」
晴れ晴れとした表情でトイレから出てきたエリはアヤの顔を見てすぐに赤面して顔を俯いた。
我慢の限界からようやく解放されたことで、つい先ほどまでのことをすっかり忘れていたのだ。
そんなエリを見てアヤは大笑いした。
「にゃはは、カメちゃん可愛い」
アヤはエリの肩を叩きながら笑い続けた。
エリは恥ずかしくてとてもアヤの顔を見れずにいた。
「トイレに行きたかったのなら、そう言えばいいのに」
「そんな、言えませんよ」
「恥ずかしがっちゃって、可愛いなぁカメちゃんは」
「やめて下さいよ」
「にゃはは、カメちゃん子供みたい」
アヤは笑って、そのまま部屋を出ようとしたところをビンに掴まれた。
「姫様。まだ終わっておりません。戻りましょう」
「もう充分でしょ。ロクなのいないじゃない」
「では、どういう方がよろしいのですか?」
「いつも言ってるじゃん。私より強くて、格好よくて、頭良くて、面白い人って」
「そんな人いません」
「ヒーちゃんがいるじゃない」
「ヒトミ様は女性です」
「じゃあ、ダメだね。カメちゃん行こう」
「えっ?でも」
「行くの!」
「はい」
アヤはエリの手を取り、ビンを置いて部屋を出て行った。しかし、ビンも後を追ってついていた。
- 556 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:35
- 「姫様。わがまま言ってばかりいますと、出来るものも出来なくなってしまいますよ」
「出来なくてもいいもん」
「よくありません。姫様しかいないんですよ。世継をちゃんと産んでいただかないと」
「別にいいじゃん。ビンが王様やれば」
「姫様!」
ビンが怒鳴り声にエリは肩を震わせた。アヤは慣れているようで怯えもせず、むしろビンを睨み返した。
「何?じゃあ、あいつらの中で王にふさわしい人がいた?ねぇ、どうなの?」
「それは、、、姫様がお決めになることですから」
「でしょ。だから、いないって言ってるじゃん。強くて、格好よくて、頭良くて、面白い人。そういう人がふさわしいと思うの」
「わかりました。もう一度探してみます」
「いないんじゃなかったの?」
「あっ!アイちゃんだ」
「何?」
エリは思いついたように突然声を上げた。
- 557 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:36
- 「アイちゃんですよ。強くて、格好よくて、頭良くて、面白いかどうかは微妙ですけど。何よりシルバーランドの王子ですから、姫様にふさわしい人ですよ」
「カメちゃん本気で言ってるの?」
「もちろんです。どうですか?」
「アイちゃんと結婚してどうやって子供産むの?」
「えっ?ど、ど、どうやって、それは、その、つまり、あれですよ。あの、、、」
「にゃはは、カメちゃんまた顔真っ赤だよ」
「だって、姫様が」
「そういう意味で言ったんじゃないんだけどね。カメちゃんは知らないんだ。まあ、そうだよね」
「はい?何がですか?」
「なんでもない。さあ、行こう。もうじき夕食の時間だよ」
「あっ、アイちゃんはシルバーランドの世継だからですか?でも、シルバーランドはもうないですし」
「はい。この話はもうお終い」
「じゃあ、ガキさんはどうです?頭がちょっとあれですけど、他はいけると思いますよ。それに二男ですし」
「お終いって言ったでしょ!それに何でカメちゃんは自分はどうです?って言わないの!」
「えっ?いや、私なんて、そんな」
「お祭りのとき、カメちゃんが私を一所懸命守ってくれたのは格好よかったのになあ。それに頭も良さそうだし、面白いし、後は強いかどうかだけだよね」
「ええっ?あの、私はそんな、ダメですよ」
「何それ。私は嫌ってこと?」
「いえいえ、そんな滅相もない。私なんて者がアヤ様となんて。ねえ?」
「カメさんのお父上は確か大臣をなさっていますよね?十分に姫様にふさわしいかと思いますが」
エリは同意を求めようとビンを見た。しかし、エリの思いとは裏腹にビンはにっこりと笑って、アヤに言った。
- 558 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:36
- 「あっ、えっ、ちょっとビンさん」
「ふーん。そうなんだ。じゃあ、後は私より強いかどうかだけね。明日の大会出るしょ?」
「出ますけど…」
「よし、そこでカメちゃんを見極めよう」
「えっ、なんでそんな話になるんですか?他にもっといい人いますよ」
「だから、カメちゃんに決める権利はないの!わかった?」
「はい」
「よし、じゃあ、ご飯食べに行きましょ」
アヤはエリと腕を組み、エリを引っ張るようにして歩いて行った。
ビンはもう追いかけることもせず遠ざかる二人を見ていた。
「理想と現実は違うものだな」
ビンはクスリと笑って、残されたアヤの結婚候補者に頭を下げに行った。
- 559 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:36
- 「なあ、踏み込みが甘いんじゃねぇの」
「うるさい!君にそんなことを言われる筋合いはない」
エリの帰りを待っている間、アイはアヤの広い部屋の中で剣の練習をしていた。
それを眺めているミキはアイに茶々を入れていた。
「でもさ、そんなへっぴり腰じゃ避ける気にもならないよ。ちっと肩にでも受けて、お前が動けないところをバサッと切ればお前死ぬぞ」
「し、知った風なことを言うな!!」
ミキが言われたことが実際に起きていたことだけに、アイは剣を投げつけて大きな声で怒鳴った。
アイは、あのときのリサとの事を思い出し唇を噛みしめた。
「あれ?まさか図星だった?まあ、見ればわかるってもんだけどな」
「うるさい」
「お前のために言ってやってんだぞ」
「うるさい!ただの魔女が剣の何を知っていると言うんだ!黙ってろ!」
「なんだとこの野郎!お前なんて魔法使わなくたって倒せるわ!」
「うるさーい!!」
部屋の扉が開くと同時にアヤは騒々しい二人に向かって叫んだ。
アイは振り返ってアヤを見たが、ミキはその隙を見逃さず背後からほうきでアイの頭を殴った。
- 560 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:36
- 「イタっ!貴様、卑怯だぞ!」
「隙を見せたお前が悪い」
「なんだと、いくら女でも容赦しないぞ!」
「うるさいって言ってるでしょ!」
アヤはアイに近づき、アイの持っている剣を奪うと鞘に収めた。
また、アイがアヤに気を取られると、ミキはまたアイの頭を殴った。
「いい加減にしろよ!」
「だから、お前は弱いんだよ」
「君が卑怯なだけだ!」
「ちょっと、あなた止めなさいよ」
「お前にミキを止める権利はない!」
「ご飯あげないわよ」
「じゃあ止めるか。早く飯行こうぜ!」
ミキは、ほうきをしまうと真っ先に部屋を飛び出したので、エリはすぐに後を追いかけて行った。
それを見たアヤは、眉をピクリとさせるとすぐにエリを追いかけた。
「おい、ちょっと待ってくれ!」
残されたアイは、乱れた髪を整えるとみんなの後を追って走った。
- 561 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:36
- 「おー!!すげぇ!!」
夕食の場所に入るとミキは、目前に広がる豪華な料理に大声を上げた。
ミキは一目散に走り、空いている席に座ったが、しかし、すぐにアイがミキのところに行くとミキの耳を引っ張って席を立たせた。
「何すんだよ!」
「何考えてるんだ!よりにもよって、国王陛下の席に座る奴がいるかバカ!」
「だって、ここが一番豪華じゃん」
「当たり前だろ。私たちはこっちだ」
「ここがいい!」
「本当にこれだけは我慢してくれ。夕食が食べれないどころか、殺されるぞ」
「死んでもいいからこれ食べたい!」
「わがままを言うなって、さっき言ったばかりだろう!」
「ははっ、アイ殿。心配しておったが、元気そうでなによりだな」
アイの背後から、低くたくましい声が聞こえてアイはミキを怒鳴るのをやめて振り向いた。
目の前に、パールランド王がいることに気づくとアイはすぐさま跪いた。
- 562 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:36
- 「お久しぶりです。陛下」
国王はしゃがみアイの肩に手をかけてると、アイを立たせた。
そして、わが子を見るような優しい目をして、アイの顔をじっくりと見つめた。
「生きていると聞いてはいたが、実際どうなっているかと心配でならなかったがこうして元気な姿を見れて良かった」
「なんとかやっています」
「誰、このおっさん」
ミキの横槍にアイは怒鳴りたいのをぐっと我慢して、ミキを肩を掴み振り向かせて小声で話した。
「この国の国王様だ。絶対に無礼なことをするなよと言う前からするなよ」
「なんだ国王か」
「なんだじゃないだろう。夕飯が食べればくなるぞ」
「それはまずいな」
「じゃあ、余計なことを言うな、するな。いいな?」
「うん。で、ミキの席は?」
「後にしてくれ」
「なんだよ!早く食わせろよ!」
「だったら、あっち行け!」
アイはミキの背中を押して、エリやアヤがいる方へと追いやった。
- 563 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:37
- 「ははっ、元気な娘さんだな」
「失礼しました」
「パパ」
アヤは、アイと国王の会話を割って入ってきた。そして、アイの腕を掴むと自分の方へと引き寄せた。
「みんなお腹空いてるの。長々と話さないでくれる」
「アヤ、ビンから聞いたぞ。途中で逃げ出したそうじゃないか」
「ああ、うるさい。うるさい。アイちゃん、早くあっち行ってみんなで食べましょ」
アヤは、国王を無視してアイを引っ張って席に連れて行ってしまった。
国王は苦笑いを浮かべて、自分の席に着いた。
アイとアヤが席についたときにはすでにミキは食事を始めていた。初めてのお城の食事にミキはむさぼるようにして食べていた。
その隣にいるエリは、散らかるミキの食器を甲斐甲斐しく片付けている。
「ちょっとミキ様。もう少し落ち着いて食べましょうよ」
「めっちゃ冷静だって」
「どこが冷静ですか。まったくもう、ご飯おかわりですか?」
「うん!あと、スープも」
エリは空いた食器を取ると、給仕を呼んでおかわりを頼んだ。
「カメちゃん、何やってるの?人の世話ばっかりやって、まだ何も食べてないじゃん」
「はは、そうなんですよね」
エリは困り顔で笑ったが、その笑みは全然困ったようではなくむしろ嬉しそうにアヤには見えて、アヤはいらっとした。
- 564 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:37
- 「あいつの世話なんて焼かなくていいから、カメちゃんも食べなさい!」
「はい、頂きます」
「カメ、ビール」
「はい。ビール、おかわり下さい」
「カメちゃん!!」
「すみません」
アイは、アヤが何でこうもエリに突っかかっているのか気にはなったが、とりあえず自分に降りかからないので安心して食事をし始めた。
「アイ殿。お仲間を紹介しては頂けませんかな」
離れた席から国王がアイに話しかけてきた。
アイは、紹介していなかったことに気づくと、すぐに席を立って、国王に向かって一礼した。
「失礼しました。私の向かいにいるのがエリです。ゴールドランドの騎士です」
「はい。あっ、あの、エリです」
「やだー、カメちゃん緊張しちゃって可愛い」
「イタッ」
アヤは緊張してガチガチになっているエリのお尻を叩いた。
「アヤ、失礼だぞ。それにしてもゴールドランドの騎士とは、アイ殿どういうことですかな?」
「それは、この次に紹介する者に関係があるので」
「では、そちらの元気な娘さんは?」
「はい。私の斜め向かいに座っているミキという者です。一見単なる無礼者ですが、実はこう見えても大魔女ユウコ様のお弟子様でして、私とエリは神の導きによりこの者と一緒に旅をしているのです。これからも多分に無礼をするかと思いますが、お許しを」
「神さんじゃなくて、ゆゆたんに言われて旅してるだけなんだけど」
「黙って食ってろ!」
- 565 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:37
- 「嘘でしょ!」
アヤは、ミキがユウコの弟子であることを知って大声を上げた。
「なんで、こんなのがユウコ様の弟子になれたの?」
「さあな、それは私にもわからない」
「本当は嘘ついて、アイちゃんやカメちゃん騙してるんでしょ」
「ひょっとするとそうかもしれないな」
「ミキ様はお師匠様の弟子っちゃ!」
「猫ちゃんは喋らなくていいの!」
「怖いお姫様っちゃね」
「ねえ、ちょっと聞いてるの?本当にユウコ様の弟子なの?」
「さあ、どうだろうね」
「ほら、アイちゃん。嘘ついてるよこいつ」
「おい、どっちだ?」
「どっちだっていいだろう!お前らに全然関係ないじゃん」
「証拠見せなさいよ」
「は?」
「魔女なら魔法使いなさいよ。ユウコ様の弟子なら凄い魔法できるでしょ」
「誰がやるかバーカ」
「ほら、やっぱり嘘だ」
「はいはい嘘ですよ」
「もう!なんなのこいつ!」
「アヤ!無礼だぞ!」
- 566 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:37
- アヤがテーブルを叩いて席を立った瞬間に国王がアヤを怒鳴り付けた。
そして、国王がミキのところに赴いたので、ミキ以外の全員に緊張が走った。
「ユウコ様から以前伺ったことがあります。生意気で元気なミキという名のお弟子様がいるということを。あなたがユウコ様のお弟子様のミキ様なのですね」
「まあな」
「お目に掛かれて光栄です。ミキ様、今日ここにこられた理由はあの件のことですね?」
「は?何が?」
「私も取り越し苦労をしてしまったようですな。ははっ」
「何?」
「おっとこれ以上、ここで話しては不味いですな。ははっ、では、よろしく頼みますよ。魔女ミキ様」
国王は、一方的に話すと機嫌よく席に戻って行ってしまった。
アヤを含めてその場にいた全員が国王のミキに対する態度に驚きを隠せず呆然としていた。
「何だ?あのおっさん」
ミキはあっけらかんとして、アイに尋ねた。
- 567 名前:パールランド復活祭 投稿日:2008/12/12(金) 04:38
- 「おい、何をやらかすつもりだ」
「知らねえよ。それより、これ食べないの?」
「食べる!人のを勝手に取るな!」
アヤは、アイやエリがなんでこんな生意気なミキのことを嫌がりもせずに一緒にいるか理解はできたが、自分がいつも一番だったアヤに取って、自分よりもミキの方が優先されることに正直ショックを隠しきれずにいた。そして、何より、ミキの隣で嫌がりもせずミキの世話をしているエリのことが気に入らなかった。
「ミキ様。私のどうぞ」
「おっ!さすがカメだ」
エリは自分のステーキをミキに渡すと、ミキはそれを喜んで受け取った。
「バカじゃないの!」
それを見たアヤは急に腹立たしくなって、ナイフをテーブルに叩きつけると、席を立って一人部屋を出て行ってしまった。
「なんだあいつ」
「余計なことはするなとあれほど言っただろう」
「何にもしてねぇよ!」
- 568 名前:パム 投稿日:2008/12/12(金) 04:38
- つづく
- 569 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/04(土) 00:52
- 次回更新を楽しみに待ってます
- 570 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/12(日) 03:08
- 思わず読み返してしまいました
まだまだ待ってます
- 571 名前:パム 投稿日:2009/07/29(水) 03:02
- 間が空きすぎてホントすみません。
- 572 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:03
- 食事を終えたミキ達は、アヤの部屋とは別の階にある客室に案内された。
ミキは、ベッドの上に寝転がると満腹になったお腹をさすりながらうとうとし始めていた。
エリはミキに話しかけたかったが、寝むたそうなミキに声をかけていいのかどうか迷い、ミキの周りをうろうろと落ち着きなくしていた。
「何だよカメ。鬱陶しいな」
「すみません。あの、アイちゃんはどこに行ったのかなと思って」
「そんなの知らないよ。あいつのことなんかほっとけよ。どうせ、あいつとは明日でさよならなんだからさ」
「そうなんですか?」
エリは、ミキの言葉に驚き、足を止めた。
「そう言ってたぜ。ガキんちょ殺すらしいよ。そんなの無理だろうけどさ」
「そうなんですか。。。」
複雑な気持ちのエリは、肩を落としてベッドに座った。
「ミキ様、私はどうすればいいですか?」
「帰れば」
「えっ?何でですか?」
「だって、邪魔だもん」
「やっぱそうですか」
エリはさらに肩を落とした。そんなエリの姿を見て、ミキはため息をついた。
「あのさ、お前らミキと全然関係ないんじゃん。なのになんでミキがお前らの都合に付き合わされないといけないんだよ。こっちはやることあんだよ」
「すみません」
「わかったなら寝ろ。そして、明日の朝にでも帰れ」
「でも、明日の大会に出て、賞金取らないと」
「お前じゃ無理だろ。あいつも」
「じゃあ、お金はどうするんですか?」
「どうにでもなるだろ」
「そうですか」
エリは、ぼそりと寂しそうに言うとベッドに倒れ、天井を見つめた。
- 573 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:03
- 「ミキ様、私がこうして騎士になれたのはガキさんのおかげなんですよ。ガキさんが私を助けてくれて、そして、色んなこと教えてくれて、さすがにガキさんほどではないですか、それでも少しは強くなりましたし、一部隊の隊長を任されるほどにまでなったんですよ」
「何?自慢?」
「違いますよ。ガキさんは私にとって大切な友人なんです」
「あっそ」
「でも、アイちゃんも大切な友人なんです」
「あっそ」
「はっきり言って、アイちゃんじゃガキさんを殺すなんて無理です。逆にアイちゃんが殺されてしまいます。そんなの嫌だし、ガキさんがアイちゃんを殺すところなんて見たくないです」
「見なきゃいいじゃん」
「そういうことじゃなくて、二人には戦って欲しくないんです」
「そんなのミキに言われてもな。あいつにそう言えばいいじゃん」
「言ったところで、アイちゃんが聞き入れてくれるはずがないです」
「じゃあ、言わなければいいじゃん」
「はい。そうしてます」
「で、何?」
「何がですか?」
「何がですかじゃねぇよ。何でミキにそんなこと話すんだよ。関係ねぇじゃん」
「本当にそう思っていますか?」
「当たり前じゃん。ガキんちょもあいつも生きていようが死んでいようが、まったくミキには関係ない」
「そういうのって寂しくないですか?」
「何が?意味わかんねぇなお前。何だよ、お前が何をしたいんだよ」
「二人を止めたいです」
「だったらそうすりゃいいじゃん。わざわざミキに話すことないじゃん」
「でも、私じゃ無理ですよ」
「何?それって、ミキに何とかしろって言ってんの?」
「いえ、別にそういうわけじゃ」
「何だよ鬱陶しいな。何もできねぇんだったら、諦めろ、黙ってろ」
「すみません」
- 574 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:03
- エリは、ミキの言う通りそれから黙ってしまった。
ミキは、せっかく美味しい御馳走をお腹一杯食べて、あとは気持ちよく眠るだけのはずだったのに、エリの優柔不断な態度に頭に血が昇って、眠る気にもならなくなってしまった。
「あー、もー、こんちくしょー!寝れねぇじゃねぇか」
「ミキ様?」
「お前は何、のん気に寝てんだよ!やめて欲しかったら、そう言えばいいじゃん。言うだけじゃん。言ってこいよ」
「でも」
「行けよ!!」
ミキはエリの肩を掴んで起こし、お尻を蹴って突き飛ばした。
エリはよろけたあと、ミキの方を振り返ったが腕組みをして睨んでいたので、エリは仕方なく部屋から出て行った。
部屋を出たエリは、城内を一しきり廻った後、庭園に出た。
そこで、ようやくアイの姿を見つけた。アイは、剣の稽古の最中だった。
目前にリサがいるかのように、憎しみと怒りを込めてアイは力強く剣を奮っていた。
そんなアイの姿を見て、エリは戸惑った。エリが想像していた以上にアイのリサに対する憎しみが強いことをエリは感じて、アイに声をかけられずにいた。
見なかったふりをしてこの場から離れてしまおうかと引き返そうとしたとき、逆にアイから声を掛けられてしまった。
「カメちゃんどうした?」
「あっ、アイちゃん」
エリは、今気づいたというような演技をして笑ってアイに近づいて行ったが、内心はどうやって話しを切り出そうか焦っていた。
「アイちゃんが戻って来ないから心配しましたよ」
「探していたのか?あついにはここにいると言ったはずだったけどな」
「えっ?そうなんですか?何も聞いてないですよ」
「あいつに言った私が間違っていたな。心配させて済まない。けど、私はまだもう少しここで一人でいたいんだ」
「そうですか」
「ああ、だからカメちゃんはもう戻っていいよ」
- 575 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:03
- アイは、エリに背を向けて、エリから離れた。
エリはこのまま帰っちゃおうかなと頭によぎったけれども、アイの思い詰めた雰囲気に、どうしたらいいのかわからず、ただその場でアイの後ろ姿を見ていた。
アイは、剣を抜いて稽古を続けた。
アイの剣捌きはリサとは違っていた。リサのように叩き斬るような豪快さはなく、まるでダンスをしているかのような美しさがあった。
エリは惚れ惚れしてアイの剣捌きに見惚れると同時に、アイがリサに勝つのは絶対に無理だということも実感した。
あんなに軽やかな剣ではリサに簡単に弾かれて、あっと言う間にアイは斬り捨てられてしまう。
エリは、こぶしを握り締めて決心すると、アイに近づいて行った。
「アイちゃん、やめましょうよ」
アイの背後からエリは言うと、アイは動きを止めて振り返った。
「何をだ?」
「ガキさんに復讐するなんてやめしょうよ」
「それを言うために私を探しに来たのか?」
「ええ、まあ」
「帰ってくれないか。一人でいたいと先ほども言っただろ」
「でも、今のアイちゃんじゃ」
「無理だと言いたいのか?まったく、どいつもこいつも同じことばかり言って、私の気持ちなんてわかっちゃいない」
「わかりますよ。でも、アイちゃんが死んじゃったら嫌だから」
- 576 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:04
- エリは寂しさにアイと目をそらすと、エリの目の前にアイが剣を突き出した。
はっ、としてエリはアイを見ると、アイの表情は険しく怒っていた。
「よくそんなことが言えるな、つい数週間前まで私を殺そうとしていたくせに」
「そんなことは」
「ないのか?そんな訳ないだろう。もう帰ってあいつの相手でもしていろ」
「も、もし、アイちゃんがガキさんに勝ったら、その後はどうするのつもりなの?」
「国を取り返す。もともとそういうつもりだ。あいつを殺すことだけが目的ではない」
「一人でですか?」
「仲間はいる。大勢の兵士が生き残っている。みんなも私と同じ気持ちだ」
「そうですか。そうですよね」
「さあ、帰ってくれないか。これ以上、敵に話すつもりはない」
「敵?私のことですか?」
「もちろんだ。なんだ?カメちゃんは国を裏切って私と共に戦うとでも言うのか?」
「それは・・・」
「だろう。カメちゃんは私の敵だ。こうやって今は友のように話しているが、敵であることには変わりない」
アイの冷たい言葉にエリは肩を落として、何も言えなかった。
初めてアイと会ったときは、自分もアイのことを敵だと思って警戒していた。けれど、すぐに打ち解けることができたので、すっかりそのことを忘れていた。
どうやっても、この溝を埋めることはできない。自分は何もしてあげることができないのだと、エリは自分の無力さに落胆した。
「カメちゃんはあいつのことだけ心配していればいい。あいつは世間知らずだ。この先、幾度となく無駄に大変な目に会うだろう。その時、助けることができるのはカメちゃんだけなんだぞ。頼んだぞ」
アイは、そうエリに告げた後、エリの肩に手を置いて、去って行った。
肩に置かれた手は先ほどの冷たい言葉とは違って優しく温かみがあった。それだけに、アイとはこの先一緒に旅をすることはないと感じてエリは去り行くアイの後ろ姿を見ていた。
- 577 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:04
- 「あれ?カメは?」
部屋に戻ってきたアイに向けてミキが訪ねた。
アイは剣を置くとソファに倒れ込んでミキの言葉を無視した。
「おい、カメはどうしたと聞いているんだ」
「知らん」
「なんだよ、あいつまた迷子になったのかよ。どうしようもないな」
「そうだな」
「お前もだけどな」
「うるさい」
「あのさ、本気でガキんちょ倒そうと思ってんの?」
「君には関係のないことだろう」
「まあね。でもさ、負けるとわかって戦うバカいないぜ」
「まだ決まったわけじゃないだろう」
「誰だってわかるよ」
「うるさいな。もう寝るから黙ってくれないか」
「そんなとこで寝るの?」
「どこだっていいだろう。君も寝たらどうだ」
「それがすっかり目が冴えちゃって」
「だったら酒でも飲んで寝ろ」
「おっ、そうだな。じゃあ、ちょっと付き合えよ」
「冗談じゃない。私はもう寝ると言っただろう」
「いいじゃんかよ。ちょっとだよ」
「ったく」
アイは起き上がて、棚にあったワインとグラスを取りだして注いだ。
一つをミキに渡して、アイはソファに座るとミキを見た。
- 578 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:04
- 「なあ、カメちゃんのことをどう思う?」
「は?何だよ急に」
「カメちゃんは君の助けになっているか?」
「なるわけないだろう」
「ははっ、そうだよな」
「何だよ。もう酔っぱらってるのかよ」
「それだけが気がかりだ」
「あのさ、死ぬつもりなの?」
「そんなつもりはない。でも、どちらせよ明日で君とはお別れだ」
「まあ、それはそれでいいんだけどさ。死んだら終わりだぜ」
「やらなくちゃいけないことなんだ」
「あっそ勝手にすれば」
「私は勝手にする。けど、君は勝手なことをするな」
「なんだよ命令すんなよ」
「心配だ。先ほどのアヤちゃんや国王に対する無礼。私がいなかったら君はとっくに殺されていたぞ」
「そんな訳ないだろう」
「ある。それに、ユウコ様の名がどの国でも通用すると思うなよ」
「思っちゃいねぇよ。お前らが勝手に名前だしてんだろ」
アイはミキの言葉を無視して、席を立つとベランダに出て、夜空を見続けていた。
しばらくの間、アイは何も言わずにじっとしていたので、しびれを切らしたミキはアイのいるところに行って、一緒に空を見上げた。
「そういやさ、カメが言ってたけど死んだら星になるんだってな」
「そんなのは迷信だ」
アイはぶっきらぼうに返すと、まだ黙った。
- 579 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:04
- 「でもさ、死んだらどうなっちゃうんだろうね」
「死んだら終わりだ。さっき君が言ってたじゃないか」
「まあ、そうだけどさ。天国とか地獄とかあるっていうじゃん」
「私はきっと地獄に堕ちるだろうな。民を守ってやれなかったのだから」
「まっ、ミキはゆゆたんの元で生き地獄を味わったから、地獄に行ってもどうってことないけどな」
「魔女も死ぬのか?」
「うーん。死ぬっていうか元に戻るっていうか。まあ、そんな感じだな」
「意味がわからん。元に戻るってどういうことだ?」
「あっ、でも、普通に死ぬ奴もいるぞ」
「そんなのは聞いてない。元に戻るってどういう意味だと聞いているんだ」
「まっ、簡単に言うと生まれ変わるってことだよ」
「氷の女王も生まれ変わると言うのか?」
「そりゃね」
と言って、ミキはグラスの中にある氷を揺らしてみせた。
「氷があるってことは、氷の女王はいるってことだよ」
「そういうことなのか?それでいいのか?」
「いいだろそりゃ。氷なくなったら、あっついもんしか食えなくなっちまうぞ」
「そういうこじゃないだろう!また氷の女王の脅威に脅かされるというのか?」
「知らねぇよそんなの」
「ったく、君は肝心なところがいつもダメだな。とても重要なことだぞ。氷の女王は間違いなく復讐してくる」
「お前にみたいにか」
「私と比べものにならないだろ。全世界に復讐してくるんだ」
「でも、ゆゆたんがいるから大丈夫だろ」
「まあ、それはそうだが、みんな無事ってわけにもいかないだろう」
「そこは多少諦めろよ」
「諦められるか!死んでもいい人間なんて誰もいないんだぞ!」
「だったら、ガキんちょ殺すのもやめろよ」
「それは別だ」
「勝手だな」
「君に言われたくない」
- 580 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:05
- アイはそっぽを向いて、また空を見上げた。
死んでもいい人なんて誰もいないとは良く自分が言えたものだと、アイは苦笑いをした。
実際には死んで欲しい人がいるものだ。どうしても人は人を憎んでもしまう。大切な人を失ったり、守るために。
それはどちらにも言えることで、お互いに理由があって、その理由のために戦って、傷つけてしまう。
何年経っても人は同じことを繰り返してしまう。
リサが死んだらエリが悲しむだろう。そして、悲しむエリの姿を見たら自分も悲しむだろう。アイはなんとなくそう思った。
けれど、これは別だ。リサを倒さなくてはならない。今も多くの人が国王を失ったことを悲しんでいるに違いない。
この悲しみを背負ってアイはリサを倒さなくてはならない。
もう一度、平和な国に戻すために。
「よし!」
アイは、拳を握りしめて今一度決意を固めた。
「どうしたんだよ」
「先ほどの言葉は撤回しよう」
「何が?」
「だから、死んでもいい人間なんて誰もいないということだ」
「いや、撤回する必要ないだろ。ミキもそう思うよ」
「いいやダメだ。リサは死ななくてはならない。あいつが生きている限り、人の悲しみが消えることはない」
「は?」
「リサが死んだら、カメちゃんは悲しむだろう。そのときは君がしっかり慰めてやるんだぞ」
「は?何言ってんのお前。結局、悲しみが消えてないじゃん」
「それは仕方のないことだ」
「お前はわかってないな」
「何がだ」
「お前が言ってることはつまり次はカメがお前に復讐するってことになるぞ」
「もし、そうなったときは仕方がない。カメちゃんも結局は敵なんだからな」
「結局、繰り返すだけじゃん。いつまで経っても殺しあうばかりじゃん」
「そんなことはわかってる。しかし、あいつさえいなくなれば平和になる」
「そんなことねぇよ。カメが死んだらきっとれいにゃが黙ってないぞ。多分」
「だったら、残念だがれいにゃも」
「そしたらミキが黙っていないぞ」
「じゃあ、君も殺す」
「おい、無茶苦茶だな」
「私には守るものがあるんだ!君とは違うんだ。死ぬわけにはいかないだ!」
「じゃあ、ミキが死んだらゆゆたんが黙っていないぞ!」
「それは卑怯だぞ!」
「何がだ!」
- 581 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:05
- ミキは、話にならないと舌打ちしてを部屋に戻るとベッドに潜り込んだ。
どうしてアイはわかってくれないのか、殺すことしか考えられないのか、ミキは悔しかった。
魔女であるミキにとって死は無縁のものではあるが、それが返って怖かった。
ミキは今まで多くの人の死を見送っていた。
幼い頃から仲良しだった村人達が何人も自分の傍から消えてしまった。
そして、それが永遠に続くと考えると怖かった。
だから、ミキは好戦的なユウコの弟子にも関わらず争うことを嫌った。
そして、面倒なことに首を突っ込むこともしたがらなかった。
面倒をみるということは、最後を看取るということに繋がることをミキは学んでいた。
だからミキは、面倒を見るのは、アップルパイを焼いてくれるおばあちゃんを最後にしようと決めていた。
それなのに、バカな奴二人の面倒をみる羽目になってしまった。
どうしたらアイに戦うことを辞めさせることができるのか、ミキは考えた。
けれど、考えるよりも先に眠ってしまった。
アイは、眠れないと言ってたミキがあっさりと眠ってしまったことに少し笑った。
「ちゃんとわかってるつもりなんだ。でも、仕方のないことなんだ。結局は」
アイは、眠るミキに向かって言うと、自分のベッドの中に潜った。
しかし、すぐに体を起して辺りを見渡した。
「そういえば、カメちゃんがまだ戻ってこないな」
思わず口に出して言ったものの、ミキは眠ったままであったし、何よりも心配するほどのことでもないので、アイも寝ることにした。
- 582 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:05
- 「もしもしカメちゃん。カメちゃん」
どうも、もやもやとした晴れない気分のアヤは、気晴らしに庭園を散歩しようと出かけると、そこに立ちながら眠るエリの姿があった。
こんなところで立ったまま寝ているエリの姿が可笑しくてアヤはじっと眺めていた。
けれど、いつになっても目が覚める気配が感じられなかったので、アヤはエリに声をかけた。
アヤの声に気付いたエリは目を開けると、間近にアヤの顔があって、思わずのけ反って尻もちをついてしまった。
「ちょっと、カメちゃん。そんなに驚くことないじゃん」
「ど、どうしたんですか姫様」
「そりゃ、こっちが聞きたいよ。立ったまま寝ちゃってどうしたのカメちゃん?」
「えっ?私、寝てました?」
「にゃはは、ホント、カメちゃんって面白いね。寝てたよ、ぐっすりと」
「ホントですか。はは」
エリは、照れ笑いをしながら、起き上った。
そして、辺りを見渡すとアイがいないことに気付いた。
「あれ?アイちゃんは?」
「ここにはいないよ」
「あっ、もう帰っちゃったんだ。それじゃあ、私も部屋に戻ります。おやすみなさい」
エリは、アヤに頭を下げて、部屋に戻ろうとすると、アヤに肩を掴まれた。
「ちょっと、カメちゃん。待った」
「えっ?どうしました」
「私、まだ眠くない」
「そうですか。夜更かしはお肌に良くありませんよ」
「それがどうしたの?」
「あっ、いえ、別に姫様のお肌が良くないって訳ではないですよ」
「ちがーう!全然違う!」
「はい?何がですか?」
「もう、カメちゃんってホント、わかってないよね」
「ん?」
「ん?じゃなくてよ。私は眠くないの。カメちゃんはどうするの?」
「私は眠いので部屋に戻って寝ます。おやすみなさい」
「ちがーう!違うでしょ!私の相手をするの!」
「あっ、あー、なるほど」
「ったく、カメちゃん大丈夫?」
「いえ、結構眠いです」
「そういうこと言ってるんじゃないの!」
「すみません」
エリは、アヤの勢いに押されて謝ってしまったものの、アヤが何を言ってるのまったく理解できずにいた。
- 583 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:05
- 「まっ、とりあえず…、ちょっとカメちゃん!」
「はい?」
「今、寝てたでしょ」
「いえ、寝てませんよ」
「そっ、ならいいけど」
アヤは、その場に座って夜空を見上げた。
エリは、突然のアヤの行動をぼうっと見下ろしていた。
「何見てんのよ。違うでしょ。座りなさいよ」
「あっ、はい」
エリは、言われるがままにアヤの隣に座り、空を見上げた。
つい先日、船の上でミキと夜空を見たことを思い出した。
「死んだら星になるっていいますよね?」
「違う。今、そういう話をする雰囲気じゃない」
「すみません」
一体、今はどんな雰囲気なんだろうかと思えば、気まずい雰囲気だ。
エリは、このどうしようもない気まずい雰囲気にただじっと黙って耐えた。
「ちょっと、カメちゃん。何か話しなさいよ。寝ちゃダメだよ」
「あっ、はい。えっと、アイちゃんはホントにガキさんと戦うつもりなんですかね?」
「違う」
「はあ」
エリは、アヤが一体何を考えているのかわからず、ただ、ため息を漏らすばかりだった。
「ねぇ、カメちゃん。まさか、私と一緒じゃつまらないの?」
「はい、あっ、いえ、そんなことありませんよ!」
「もういい!」
アヤはふてくされて、その場に寝転がった。
エリは、頭を掻きながら、アヤの態度に困り果てた。
- 584 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:06
- 「何してんの。寝なさいよ」
「あっ!はい、おやすみなさい」
まさか、ここにきて、睡眠の許可が出るとは思っていなかったエリは喜んで立ち上がるとアヤに頭を下げた。
「違う!誰がホントに寝ていいって言ったのよ!私と同じようにしないって言ってるの」
「ああ、そうですか」
エリは、またため息をついて寝転がると、とても気持ちよくてすぐにでも寝てしまいそうだった。
「寝ちゃダメだよ」
「はい」
「カメちゃんは、ガキさんと友達なんだよね?」
「はい。親友です」
「アイちゃんとは?」
「まだ親友とまではいかないですけど、でも、友達です。仲間です」
「ふーん、あの魔女は何なの?」
「ミキ様です。ユウコ様のお弟子様ですよ」
「そんなことは知ってる。そうじゃなくて、どういう奴なの?」
「うーん。無茶苦茶で、わがままで、自分勝手な人です」
「なんでそんな奴と一緒に旅をするの?」
「ミキ様は今、一人前の魔女になるための旅をしているんです」
「何でカメちゃんが一緒に旅をする必要があるのかを聞いてるの」
「あっ、えっと、ヒトミ様に言われて」
「ひーちゃんが言ったの?何で?」
「ひ、ひーちゃん?違いますよ姫様。ヒトミ様です」
「だからひーちゃんじゃない」
「あっ、いや。その、姫様。いくら姫様とはいえ、ヒトミ様のことをひーちゃんというのは失礼かと」
「ひーちゃんはひーちゃんなの!そんなことどうでもいいの!」
「いや、でも」
「うるさい!で、何でひーちゃんが言ったの?」
「よくわかりません。あの、やっぱりひーちゃんと言うのは・・・」
「しつこいなぁ。私が小さい頃にひーちゃんと会ったの。その頃はひーちゃんがひーちゃんだってことは知らずに呼んでたし、ひーちゃんだって別に何も言わなかったんだからいいじゃない」
「でも、ヒトミ様は、あの英雄ですよ。孫とかじゃなくて、本物の英雄ですよ。ダメですよ」
- 585 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:06
- 「そんなの知ってる。これ以上しつこいと怒るよ」
「すみません。あれ?」
「何よ」
「姫様は知ってました?」
「だから、何よ」
「ヒトミ様が本物の英雄だってこと」
「知ってるわよ。当たり前じゃない」
「あれ?おかしいな?驚きません普通」
「もう、しつこいな何よ。まとめて言いなさいよ」
「えっと、つまり、ヒトミ様が本物の英雄ってことはですよ…」
「100年もあの若さで生きてるってことが不思議じゃないかって言いたいの?」
「はい、そうです」
「別にどうでもいいもん。ひーちゃんはひーちゃんだから」
「そういうもんですか」
「しつこい!」
「すみません」
エリは、なぜヒトミが100年以上も生きていることを不思議に思わないのか、不思議でアヤの顔をじっと見つめていた。
エリの視線に気づいたアヤは、エリの方を向いて、エリを睨みつけた。
「何よ」
「何でもありません」
「はっきり言いないさい!」
「あっ、あの、100年も生きてるのって不思議じゃありませんか?」
「別に」
「そうですかね」
「あのね。司祭様がひーちゃんは生き神様だって、死ぬとか年をとるとかそういう次元の人じゃないって」
「生き神様ですか、なんか気持ち悪いですね」
「ちょっと何よそれ!怒るわよ!」
「す、すみません。でも、不老不死っていうことですかね。やっぱり」
「違う。全然違う」
「うーん、わからないな」
「だから、もういいのこの話は。もっと別の話をしないさいよ」
「うーん、神様か。じゃあ、ユウコ様も?」
「カメちゃん!」
「すみません」
- 586 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:07
- 「ったく、そんな話じゃなくて、もっとこうロマンチックな話をしてよ」
「そういうのは無理です」
「すぐに否定しないの!何かあるでしょ!」
「だって、うーん」
「だから、例えば、、、何かあるでしょ!」
「あっ、そうだ!」
「何?」
「お見合いどうでした?いい人見つかりましたか?」
「ぜっ、全然違う!ちっともロマンチックじゃない」
「でも、その先にロマンチックが待ち受けてるじゃないですか」
「意味分かんない」
「でも、結婚か。私はまだそんなこと全然考えていませんけどね」
「何で?」
突然、アヤはエリの方を見た。
アヤの目つきが変わって真剣で、エリは思わずを身を引いた。
- 587 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:07
- 「何で、カメちゃんがそんなこと言えるの?」
「えっ?何でって。まだ、早いかなって」
「いくつ?」
「えっと、二十歳です。ガキさんと一緒です」
「十分、結婚できる年じゃない」
「そうですけど、なんていうか。まだ、そういう気にはなれないっていうか」
「ねぇ、目の前にこんなに可愛いお姫様がいるのに、そういう気にはなれないって言ってるの?」
「えっ、いや、違いますよ!そんな、私が姫様となんて、そんな気にもならないですよ」
「だから、それがおかしいって言ってるの!」
「そうですか?」
「当たり前じゃない!私は姫よ。姫と結婚したがらない男なんて男じゃない!」
「でも、姫様とは」
「どういう意味?私のこと嫌いって言ってるの?」
「違いますよ!そういう意味じゃなくて、もちろん姫様は十分可愛いですよ。性格がちょっとあれですけど」
「一言余計」
「すみません。でも、可愛いですよ。ホントに。そりゃ、男だったら誰だってって思いますけど…」
「ほらっ!だったら、ほらっ!」
「いや、私には無理ですよ」
「何で?私の何がいけないって言うの?」
「姫様がいけないっていうか、姫様だからいけないのかな?」
「ふーん、じゃあ、私が姫じゃなかったら、カメちゃんは私と結婚する?」
「えっ?姫じゃなくなったらですか?そしたら、姫様は何になるんですか?」
「今はそんなことどうでもいいでしょ。さあ、どうする?」
「でも、私はミキ様と旅をしないといけないので、結婚はまだ先ですね」
「じゃあ、旅が終わったら私と結婚する?」
「その時になってみないとわからないですね」
- 588 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:07
- 「ほら結局、みんなは私が姫だから結婚したいだけなんでしょ。私がただの女だったら誰も相手にしないんでしょ」
「そんなことないですよ。姫様はとても魅力的な人ですよ」
「姫様って言ってる時点で信用できない」
「だって、結局は姫様は姫様なんだから仕方ないじゃないですか」
「何それ。私はそういうことを言いたいんじゃないの!姫という器だけを見ないで、その中にある私を見て欲しいの!」
「ん?よく意味がわからないです」
「もういい。カメちゃんはバカだからわかんないんだよ」
「すみません」
「もういい!もういい!誰も私の気持ちなんてわからないんだから!」
「あっ、姫様、落ち着いてください」
「うるさい!カメちゃんは黙ってなさい」
「はい」
「もういい。明日、最初に会った人と結婚する」
「ダメですよ!そんな投げやりになっちゃ」
「黙ってなさいって言ったでしょ」
「すみません」
アヤは「もういい、もういい」とぶつぶつ言ってふてくされ始めた。
困ったエリは、どうしたらいいのかわからなかったので、結婚というものを考えてみた。
考えてみたけど想像つかなったので、そのまま眠った。
- 589 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:07
- 「カメちゃん!今、眠ってたでしょ!」
「あっ、いえ。起きてます起きてます」
「もう信じらんない。私がこんなに落ち込んでるのに、よく平気で眠れるよね」
「落ち込んでるんですか?」
「見ればわかるじゃない!」
「そういう風には見えないですけど」
「もうダメだ。カメちゃんにはホントがっかりだよ」
「すみません」
「はあーあ、カメちゃんは他の人とは違うと思ったのにな。ただのバカなだけだったんだね」
「すみません」
「何ですぐにそうやって謝るのかな。なんで怒らないのかな。私が姫だから?ねえ?」
「はい」
「もういい!あの魔女のほうがよっぽどマシだよ」
「すみません」
エリがまた謝ったことで、アヤは腹を立て体を起こして、エリを掴むとエリの頬を引っ叩いて、何も言わずに行ってしまった。
エリは、叩かれた頬をさすって、どうしてそんなに怒っているのかまったく理解できなかった。
しかし、それよりもようやくアヤから解放されたことに安堵して、エリはそのまま倒れてようやく眠ることができた。
- 590 名前:眠れない夜 投稿日:2009/07/29(水) 03:08
- つづく
- 591 名前:パム 投稿日:2009/07/29(水) 03:12
- あげ忘れてたw
- 592 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/29(水) 07:07
- うおおおおお待ってました!
カメちゃんとアヤちゃん可愛いw
- 593 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/29(水) 19:36
- うひょおおきたー
この二人おもしろいww
- 594 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/31(金) 02:20
- みんなに責められるカメちゃんかわいいw
頑固者たちそれぞれの思いも入り乱れてますね
どういうことになるのかワクテカです
- 595 名前:パム 投稿日:2009/08/19(水) 03:26
- レスありがとうございます。
のんびり更新ですが、これからもよろしくです。
- 596 名前:激動の朝 投稿日:2009/08/19(水) 03:26
- 「エリ様もアイ様もどこにもいないっちゃね」
「そんなの知ったこっちゃねぇよ」
久しぶりにふかふかのベッドで気持ちの良い目覚めで朝を迎えたミキだった。
しかし、昨夜のことを知らずにぐっすりと眠っていたれいにゃは、エリとアイの姿が見えないことに慌てて、気持ちのいい目覚めもそこそこにミキはれいにゃにエリとアイ探しに朝から付き合わされることとなった。
ミキも、まさか本当にいなくなるとは思ってもいなかったので少し動揺はしたが、それをれいにゃに悟られないようにして一緒にれいにゃと探し歩いた。
「アイ様がいなくなるのはわかるっちゃけど、エリ様までいなくなるのはおかしいっちゃ」
「帰ったんだろう。もうこの辺にして、ご飯食べに行こうぜ」
「まだ探してないところあるっちゃ」
「こんな広い場所、どこまで探すつもりだよ!」
「見つかるまでっちゃ!」
「じゃあ、一人で探せ!」
「ミキ様が人探しの魔法使えないから苦労するっちゃ」
「そんな魔法ねぇよ!」
「最初からできないと思ったら何もできないっちゃ」
「何を偉そうに言ってんだよ」
「お師匠様が言ってたっちゃ」
「ゆゆたんがそんなまともなこと言うわけないだろう」
「言ったっちゃ」
「言ってねぇよ」
「言ったっちゃ」
「言ってねぇよ」
「言ったっちゃ」
「うるせぇバカ」
「バカって言ったほうがバカっちゃ」
ミキは黙ったままれいにゃを見下ろした。
「どうしたっちゃ?」
「別に」
- 597 名前:激動の朝 投稿日:2009/08/19(水) 03:26
- ミキはそう言うと一人先に歩いて行った。
「怒ったっちゃ?」
れいにゃはミキの周りを回りながら申し訳なさそうに見つめていた。
「ミキ様、ごめんちゃ」
しかし、ミキはれいにゃを無視して歩いて行く。
本気でミキを怒らせてしまったと思ったれいにゃは、執拗にミキの足元にひっついて謝り続けた。
「ミキ様、許してっちゃ。れいにゃが悪かったっちゃ」
「よし、この辺でいいだろう」
「許してくれるっちゃ?」
ミキは、庭先で足を止めるとれいにゃを抱きかかえた。
「いや。とっても良い魔法を思いついた」
「さすがミキ様だっちゃ!」
喜ぶれいにゃとは裏腹にミキは無表情のまま、れいにゃを大きく振りかぶり、そして、投げた。
「何するっちゃー!!」
- 598 名前:激動の朝 投稿日:2009/08/19(水) 03:27
- 庭園の垣根に突き刺さったれいにゃを見て、スッキリとしたミキは大笑いをしながられいにゃのところへと行った。
れいにゃを引っ張りだそうと尻尾を掴み引っ張ったがれいにゃは踏ん張って出てこようとしなかった。
「おい、何、意地張ってんだよ」
「ミキ様!エリ様がいるっちゃ!凄いっちゃ!さすがミキ様だっちゃ!」
「マジで?」
ミキがれいにゃの尻尾を離すと、れいにゃは垣根の向こう側へと潜り込んで行った。
ミキは、ひょいっと軽く垣根を飛び越えると、エリは仰向けで気持ちよさそうに眠っていた。
「何で、こいつはここで寝てるんだ?」
「気持ち良さそうっちゃ」
「せっかくベッドあるのに、ここに来てまで野宿することないだろう」
「エリ様は自然体な人っちゃ」
「バカなだけだろ」
「ん?あっ、ミキ様、れいにゃおはようございます」
ミキとれいにゃの声に目覚めたエリは、ミキの姿を見つけると起き上って挨拶をした。
「おはようございますじゃねぇよ。なんでこんなとこで寝てるんだよ」
「凄く眠たかったので」
「部屋に戻るくらいのことをしろよ。子供かお前は」
「それさえもできなかったので」
「意味わかんね」
「とにかくエリ様が見つかって良かったっちゃ。朝ごはん食べに行くっちゃ」
「そうだな。お前らのおかげで無駄な体力使って腹ペコだよ」
- 599 名前:激動の朝 投稿日:2009/08/19(水) 03:27
- ミキ達が城の中に戻ろうとしたとき、アヤがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「やあ、おはよう。朝から元気だなお前は」
アヤはミキの挨拶を無視して素通りするとエリの前で立ち止まった。
「カメちゃん、おはよう!」
「おい、おはようと言ったら、おはようございますだろう!」
怒鳴るミキを無視してアヤはエリに向けて笑顔を見せた。
「姫様、おはようございます」
「私が今日最初に会ったのはカメちゃんなんだよ。この意味わかるよね?」
「私が今日最初に会ったのはミキ様ですよ」
「カメちゃんはどうでもいいの!」
「れいにゃの方が先に会ったっちゃ」
「子猫ちゃんは黙ってて!」
「怖いっちゃね」
「カメちゃん。昨日の話覚えてないの?」
「えっと、何でしたっけ?」
エリは首を傾げてミキを見た。
「何だよ」
「ミキ様なら知ってるかなと思って」
「知るかバーカ」
「カメちゃん!ボケっとしないの。ちゃんとこっち向きなさい」
「あっ、はい」
「もう一度聞くよ。私が昨日言ったこと覚えてるでしょ?」
「うーん。何でしたっけ?」
「だから、こっち見んなバカ」
- 600 名前:激動の朝 投稿日:2009/08/19(水) 03:27
- 「カメちゃん。どこ向いてるの!そっちには誰もいないでしょ!」
「えっ?いや、ミキ様がいますよ」
「いない。そんな人いない」
「いや、いるよ。ちゃんとここに」
「姫様、朝からおかしいっちゃ」
「子猫ちゃんは黙ってるの!」
「ミキ様、れいにゃのことはちゃんと見えてるみたいっちゃね」
「実はミキ、透明になる魔法を使っているのだよ」
「れいにゃ、ミキ様ちゃんと見えてるっちゃ」
「いいカメちゃん。これで最後だよ。昨日、私が、最初に会った人とどうするって言ったか覚えてないとは言わせないよ」
「あっ、、、」
エリはようやく昨日の話を思い出して理解すると、困惑してミキの顔を見た。
「透明なんだから、見んなっての」
「どうしましょう」
「話しかけるなバカ」
「昨日、姫様が明日最初に会った人と結婚するって言ったんですよ」
「それがどうした」
「どうやら、最初に会ったのが私みたいなんです」
「そんなの知るか!今、ミキは透明なんだよ!」
「カメちゃん!誰と話してるの!私と話をするの!」
「はい、すみません。あの、昨日のあれはあれですよね?」
「あれって何よ。言っとくけど、カメちゃんには万に一つも断る権利はないからね」
「何でですか?」
「私が姫だからよ!」
アヤは、エリに顔を近づけて言うと、エリの頬にキスをして走って去ってしまった。
エリはあまりに突然の出来事に、キスされた頬に手を触れたまま茫然とした。
- 601 名前:激動の朝 投稿日:2009/08/19(水) 03:28
- 「チューした!今、チューしたぞ!」
エリの隣でミキは大声をあげて、れいにゃを見た。
れいにゃもエリと同じように口を開けて茫然としていた。
「おい、お前ら大丈夫か?」
ミキは、硬直したエリとれいにゃの目の前で手を振ったりしたが、どちらも微動だにしなかった。
「あの、透明になったってのは嘘なんだけど」
「いや〜、さすがユウコ様の惚れ薬は良く効くね」
「誰だ!」
突如、背後から声が聞こえて、ミキはすかさず振りむき様に雷を放った。
「ちょっと、いきなり魔法なんて酷いんじゃない。ミキちゃん」
ミキが放った雷をひらりと避けて、にっこりと笑顔を見せたのはヒトミだった。
「あっ!避けやがった!」
「凄いでしょ。あのお転婆なアヤヤが一夜にして恋する乙女だよ」
「ったく、どいつもこいつもミキの魔法を避けやがって」
「半分残ってるけど、ミキちゃんも飲んでみる?」
「チクショー、この野郎!」
「わっ!ちょっと!何でよ!」
「あっ、また避けやがった!」
「とはいえ、まさかカメちゃんになるとは予想外だったよ」
「うーん。おかしい。もうちょっと強烈な奴でいってみるか」
「あの、ミキちゃん聞いてる?」
「これでも食らいやがれコンチクショー!!」
- 602 名前:激動の朝 投稿日:2009/08/19(水) 23:37
- ミキは両手いっぱいに魔力を貯めて大きな雷の弾を作りヒトミにめがけて放った。
迫りくる大きな雷を目の前にしてもヒトミは、表情ひとつ変えずに、それを受け止めるつもりか避けようともしなかった。
そして、雷はヒトミの直前に迫ると音もなく一瞬にして消え去ってしまった。
突然の出来事に唖然とするミキだったが、背後で異常な殺気を感じて振り返った。
「誰だー!!嘘です!」
いつものように振り向きざまに雷を放とうとしたミキだったが、寸前のところで、背後にいた人物に気付き魔法を止めた。
「おはようさん」
「ゆゆたん!何でいるんだよ!」
「おはようと言ったら、おはようございますやろうが!」
ユウコは、ミキの頭を引っ叩いた。
「おはようございます」
ミキは叩かれた頭を撫でながらユウコに挨拶した。
ユウコは、頷いて受け取ると、へらへらと笑っているヒトミを見て、小さい火の弾を放った。
ミキの雷とは違ってさほどスピードもない小さいな火の弾であったが、ヒトミのおでこに命中した。
「うわっち!何で私まで!」
「何だよお前!あれくらい避けろよ!」
怒鳴るミキに、ユウコは何も言わずもう一度頭を叩いた。
「もうイテーな、何だよ一体」
ミキは叩かれた頭をさすりながらユウコを見た。
「あんたには関係のないことや」
「じゃあ、ミキのいないとこでやれよ!ていうか、さらに誰だ!」
- 603 名前:激動の朝 投稿日:2009/08/19(水) 23:38
- 垣根の隅で身を潜めていた人物に気付いたミキは、そこにめがけて雷を放った。
その人物は雷を避けることができず、その場で爆発した。
「やった!やっと命中したよ、ゆゆたん」
「アホか」
「何で?」
「よく見ろや」
ユウコが腕を振るを風が吹き、爆煙を吹き消した。
そこにようやく現れた人物は、剣を構えたリスだった。
「ぬわっ!リスお化けだよ、ゆゆたん。殺しちゃってよ」
「ちゃうわ、あれはニイガキ仮面や」
「何それ?」
「ちょっと、いきなり何するんですか!」
ニイガキ仮面ことリサは、ミキの雷を剣で弾いて傷一つなく無事だった。
リサは剣を納めると、ユウコの元に歩いて行った。
「まったく、見せたいものってこんなしょうもない雷だったんですか?」
「しょうもないってなんだ!このリス!」
「リスじゃないです!人間です!」
「うわぁ〜、リスが喋ったよ。怖いよ〜、ゆゆたん」
ミキは甘えるふりをしてユウコの背後に回った。
「うるさい!中途半端な魔法使いよって」
ユウコはミキの頭を叩いて怒った。
「いや、だって本気だしたらさ、リスが可哀そうじゃん」
「何が本気だか、あんな魔法なら無防備でもなんともないですよ」
「うるせぇ!リスは山に帰れ!」
「好きでこんな格好しているんじゃなーい!」
- 604 名前:激動の朝 投稿日:2009/08/19(水) 23:38
- 「騒がしい。黙れ」
ユウコが一喝すると、ミキは萎縮して黙った。
「さて、帰るか」
ユウコは、ミキに背を向けると、炎を身にまとって一瞬にしてその場から消えてしまった。
「あっ、ゆゆたん!」
ミキは手を伸ばしてユウコを引きとめようとしたが、すでに遅かった。
そして、ミキは取り残されたヒトミとリサを見つめた。
「お前らは一緒に帰らないの?」
「あー!ちょっとユウコ様!」
リサは、置いてけぼりにされてしまったことに気付くと、慌てて城の外に向かって走りだした。
「ミキちゃん、これあげるよ。じゃあね」
ヒトミは惚れ薬のビンをミキに投げ渡して、手を振ると、リサの後に続いて走って行った。
「何だったんだ一体」
ミキは、受け取ったビンの中身を眺めながら呟いた。
- 605 名前:激動の朝 投稿日:2009/08/19(水) 23:38
- 「あー、リスさん待ってぇ〜」
「ん?まだ続くのか」
遅れて現れたきたのは、変装したアイだった。
「あ〜、行っちゃった。どうして引きとめてくれなかったのよ」
「え、いや、ていうか、お前…」
「リスさんは何をしにここへ?」
「知らない。お前こそどうした」
「はあ、せっかく昨日のお礼言おうと思って走ってきたのに」
「おい、答えろよ。なんだその格好は」
「ちょっとのど乾いた。それ頂戴」
「あっ!おい!それ…」
アイは、ミキが持っていた惚れ薬を奪うとミキが止める間もなく一気に飲み干してしまった。
「あー、美味しい。何これ?」
「知らん。聞きたいのはこっちの方だ。ついにおかしくなったのかお前」
「あっ!」
アイは、ようやく変装した姿でミキの前にいることに気付いた。
「あのさ、まあ、お前は女だから別に良いっちゃあ良いんだけどさ、でも、なんか気持ち悪いよ」
「私はアイじゃありませんのよ。オホホ」
「大丈夫かお前」
「私は、サファイア。そうサファイアよ!」
「納得のいくように説明しろ!」
「それでは、ごきげんよう」
アイは、ミキに手を振った後、猛ダッシュでその場から逃げていった。
「誰一人としてまともな奴がいないな」
ぽつんと取り残されたミキは、一人呟くと、未だ固まったままのエリを蹴飛ばし、れいにゃをかばんに押し込むと、朝食に向かった。
- 606 名前:激動の朝 投稿日:2009/08/19(水) 23:39
- エリは、落ち着きなく食事の席につくと、じっと俯いたまま顔をあげなかった。
隣にアヤが座ると、エリはビクリと体を強張らせて、椅子を持ち上げてアヤから少し離れた。
すぐにアヤは自分の椅子を動かしてエリにひっついた。
するとまたエリは逃げる。ひっつくアヤ。
逃げるエリ、追いかけるアヤ。
「お前ら何やってんだよ」
「ミキ様、助けてください」
「何をどう助けたらいいのかわからないんだけど」
「あっ、そうだ。あなた」
アヤは立ちあがってミキを見下ろして言った。
「おっ、ようやくミキに気付いたか」
「ご飯食べたら、荷物まとめてさっさとここ出て行ってよね。邪魔だから」
「言われなくても出て行くよ。何を偉そうに言ってんだまったく」
ミキは、朝から理不尽な出来事続きで気が収まらず、パンを掴み取っては一心不乱に被りついて気を晴らし始めた。
「カメちゃんは、ずっとここにいるんだよ」
「えっ?何でですか?」
「当たり前じゃない」
「私もミキ様と行きますよ」
- 607 名前:激動の朝 投稿日:2009/08/19(水) 23:39
- エリがミキの名を口に出したことにカチンときたアヤは、ミルクの入ったコップをミキに投げつけた。
「こんなミルクまみれの女のどこがいいのよ!」
「お前がやったんだろうが!」
負けじとミキは、熱いコーヒーを手に取ってアヤに投げつけるふりを見せた。
「何よ。やれるもんならやってみなさいよ。私はこの国の姫よ。私に無礼なことしたら命なんかないわよ」
「それがどうした、このバカたれが!」
ミキは何の迷いもなく、熱いコーヒーを投げた。
「危ない!」
エリは、咄嗟にアヤを突き飛ばして、ミキが投げた熱いコーヒーを被った。
「ちょっと!カメちゃんになんてことするのよ!」
「勝手にカメが被ったんだろうが!」
「私は大丈夫ですから、みなさん落ち着いてください」
エリは、熱いのを我慢して、ミキとアヤの間に割って入った。
「カメちゃんはそこで大人しくご飯食べてなさい!」
アヤは、エリに怒鳴って躾けると、近くで黙って見ていたビンに向かって行った。
「もう許さないからね!ビン!剣を持ってきなさい!」
しかし、ビンは、ミキとアヤの様子を微笑ましく見ているだけで、動こうとはしなかった。
「何やってるのよ。早くしなさい!」
「姫様、ここには剣はありませんよ」
「もういい!」
アヤは、ぷいっと振り帰ると、テーブルに置いてあるナイフを手に取った。
- 608 名前:激動の朝 投稿日:2009/08/19(水) 23:40
- 「おい、姫さん落ち着けよ」
ミキは、激昂するアヤとは違って、すでに座ってスープを飲んでいた。
アヤはミキに近付くとナイフをミキに突き付けた。
「ユウコ様の弟子だからって調子に乗ってるんじゃないよ。あんたなんかね、私が一声あげれば、この首が飛ぶのよ」
「ミキも一声あげれば、この城なんて吹き飛ぶぞ」
ミキとアヤが睨み合いをしていると、エリがアヤの手を握った。
「姫様、もうこのくらいにしてください。これ以上、度が過ぎると怒りますよ」
エリは、ゆっくりとアヤの手からナイフを引き取ってテーブルに置いた。
「やだぁ〜、カメちゃんたら、突然、手繋いだりしちゃって。寂しかったんだね。一緒にご飯食べようね」
アヤは、急に態度を変えて、エリの手を握り返すと、エリを連れてイスに座った。
「いや、別にそういう意味じゃないですよ」
「いいからいいから、カメちゃん。何食べる?」
「あっ、もう十分食べました。ごちそうさまでした」
「ダメ!はい、あーん」
アヤは、リンゴを一切れをフォークに刺して、エリの口元へと運んだ。
エリは困惑して、ミキを見た。
「何だよ」
「カメちゃん!」
「はい!」
エリは仕方なくリンゴを頬張った。
「美味しい?」
「はい」
「じゃあ、次は…」
「あっ、あの。そういえばアイちゃんは?」
エリは、なんとかこの状況から逃れたくて話題を出したが、ミキは遠い目をして呟いた。
「カメ、あいつはもういないんだよ」
- 609 名前:パム 投稿日:2009/08/19(水) 23:41
- つづく
- 610 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/10/06(火) 22:28
- エリ様が愛しすぎる
- 611 名前:パム 投稿日:2010/03/06(土) 03:03
- お久しぶりです。
- 612 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/06(土) 03:04
- 闘技場の客席には早くも大勢の人々が詰み寄せていた。
その中をサユミは飲み物と食べ物を両手いっぱいに抱えて人ゴミをかき分けていた。
「もー、なんで私がこんなことしなくちゃいけないの」
結局、泊まる場所を見つけることができなかったユウコ達は、サユミが住む礼拝堂に泊めてもらった。
そして、一緒に剣術大会を見に行くことになったが、ヒトミもリサも姿はなく、わがままなユウコとコハルの面倒を見る羽目になってしまった。
「おまたせしました」
サユミはちょっと不貞腐れて、ユウコに手渡してからサユミはユウコとコハルの間に座った。
「えらい遅かったな」
「カキ氷溶けてるぅー」
せっかく苦労して持ってきたのにお礼の一つも言わず、文句ばかり言う二人に頭にきたサユミは二人を無視して、闘技場を見下ろした。
すでに第一試合はカンの勝利で終わっていたらしく、今は、次の試合までの繋ぎとして、闘技場では踊り子たちが踊っていた。
コハルはその踊りが気に入ったらしく、一緒に踊ってはしゃいでいる。
「コハルちゃん。後ろの人が見えないから座ろうね」
「イエーイ!フゥー」
「フーじゃないでしょ。座りなさい」
サユミは、コハルの後ろに座る険しい顔した人に平謝りしながら、コハルを押さえつけて無理矢理座らせた。
「まったく、ヒトミ様はどこに行っちゃったんですかね?」
「知らん」
「はあ」
「あー!!リスさんだぁー!」
ついさっき叱りつけて座らせたというのに、コハルは立ちあがって大声をあげた。
サユミは、コハルの服をひっぱり座らせた。
「リスさんですよ。サユミさん」
コハルは、リスのお面を被ったニイガキ仮面ことリサをえらく気に入った様子で、リサの登場に大喜びしていた。
「リスさんじゃないでしょ。リサ様でしょ」
「ちゃうわ。ニイガキ仮面や」
「はいはい、そうでしたね」
「はいは一回で十分や」
サユミはユウコの言葉に言い返しはしなかったが、黙って頬を膨らませて、闘技場を見下ろした。
サユミの視線がリサを捕えると、丁度リサは、闘技場の選手登場口を見て手を振っていた。
サユミはリサが手を振る方向に視線を移すと、そこには女性が一人立って、リサと同じように手を振っていた。
もう一度、リサに視線を戻すと、リサは小さくガッツポーズを取り、その女性に背を向けて、闘技場の中央に歩いて行った。
あの女性は誰だろうかと気にはなったが、ユウコに聞くと怒られそうなので、サユミは黙っていることにした。
- 613 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/06(土) 03:04
- リサは、この大会が始まる前までは、適当にやってわざと負けてすぐに終わらせてしまうつもりでいた。
しかし、いざ、会場に入ると、昨日会った亜麻色の髪の乙女に出く合わした。
その彼女はリサを見つけると、突然、大声をあげてリサの前に駆け寄ってくると、リサの両手を取り、昨日の御礼とともに今日の試合の激励を受けた。
そんなことをされてしまったら、みっともない姿を見せるわけにはいかない。
リサは、その瞬間に今日の大会は絶対に優勝すると心に誓い、闘技場に向かって行った。
今まで、戦いに出るときに女性に見送って貰うことなんて一度もなかったリサは、この初めての経験の心地良さを感じた。
誰かのために戦うというもの悪くはないなと。
そして、対戦相手は、昨日アイを襲った奴だった。尚更、負けるわけにはいかない。
「よし」
闘技場の中央に立つと、リサは小さく気合いを入れた。
リサの対戦相手も昨日のリスだと知って昨日のお返しとばかりに俄然、やる気になっていて、気合い十分だった。
鼻息荒く、試合開始の合図を今か今かと待っている。
「一秒やな」
「はい?」
ユウコがぼそりと言った言葉をサユミは聞き返した。
「ニイガキ仮面ならあんな奴一秒で十分やろ」
「そうですね。何せ、あの命知らずのリサ様ですもんね」
「ちゃう、ニイガキ仮面や」
「んもー」
サユミは何故ユウコがそこにこだわるのか理解できなかった。
あの変なお面を被った人はリサだとみんな知れば、みんなはもっと興奮してこの試合の見るに違いないのに、現実には変なお面の所為で、失笑とヤジが飛び交うだけだった。
しかし、それも試合の開始後、すぐに歓声と拍手に変わった。
客席のヤジに気を取られていたサユミはその決定的瞬間を見逃してしまった。
サユミがリサの姿を見たときには、すでにリサは剣を納めているときだった。
相手の方はというと、片膝をつき、兜が割れ、頭から流れる血を押さえていた。
「もう終わっちゃったんですか?」
「なんや、見てなかったんか。まあ、見るほどのもんでもないけどな」
サユミはがっかりして、ため息を漏らした。
闘技場から選手登場口に戻るリサは、登場口で待ち構えていたアイに向かって拳をあげて見せていた。
アイも両手をあげて大喜びしていた。
「あの二人、いい感じになってきたな。今日は、面白いことになりそうや」
ユウコは、あ互い素性を知らないリサとアイの関係が深まりつつあることを笑って見ていた。
「さて、次はちゃんと見ますよ。ビン様の登場ですからね」
サユミは、今度こそは見逃さないと闘技場だけを一心に見つめていた。
「次は退屈そうやな。お人形さん、ビール買ってきて」
「お断りします。それに次は、ビン様ですよ。パールランドきっての騎士です。絶対、凄い試合になります」
「イケメンか?」
「イケメンです」
「なら、じっくり見るか」
「ずっとそうしてて下さい」
- 614 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/06(土) 03:04
- 「うわぁ〜、あの変な人、物凄く強いですよ。やっぱり出たくないなぁ」
選手登場口付近にある選手控室から先ほどの試合を見ていたエリは、自分とのレベルの違いに愕然としていた。
「何言ってるのカメちゃん。カメちゃんはこの大会で優勝するんだよ」
「なっ、何言ってるんですか。そんなことできるわけないじゃなないですか。姫様も見ましたよね?あのリスの強さを」
「別にあんなの相手が弱すぎただけだよ」
「そんなことないですよ。見えました?あのリスの動き?私には見えませんでしたよ」
「それはカメちゃんが私ばっかり見てるからだよ」
「いえ、姫様は見てませんよ」
「見なさいよ」
エリは、何でだ?と首を傾げていると、そこに次の試合に出るビンが寄ってきた。
「姫様、行って参ります」
「うん。しっかりやるんだよ。今日の大会は私の運命がかかってるんだから」
ビンはアヤに軽く頭を下げると、エリに向かってニッコリと笑った。
エリは、ビンの笑みに釣られて笑い返して、「頑張ってください」と声をかけた。
二人を後にしたビンは、心の中でエリに対して「本当に頑張っていいんですかね?」と訪ねた。
今日のこの大会は、すべてアヤに仕組まれていた。
エリにはできるだけ弱そうな相手があたるように組ませ、強そうな相手は全てビンとカンが一手に引き受ける。
そして、準決勝でビンかカンがエリと対戦する手はずになっている。そして、そこではわざとエリに負ける。
そして、決勝戦では、アヤとエリが戦い、アヤが負ける。そして、アヤよりも強くて優勝したエリをアヤの婚約者として国王陛下に認めさせるという筋書きをアヤは、昨夜、練り上げていた。
ビンは、アヤの相手がエリであることに賛成だったので、アヤの提案をすんなりと受けた。
ずっと男勝りで、結婚に興味を示さなかったアヤがエリと出会ったことによって、一晩にして変貌したことは運命の何者でもない。
これでようやく肩の荷が降りて、さらに平和な国が訪れることを期待していた。
- 615 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/06(土) 03:05
- 「あっ、あのぉ〜。あなたも次の試合ですよね?」
エリは、隣に座る顔中に包帯をグルグル巻きにした人物に恐る恐る声をかけた。
「おYO?マジで?」
「はい。えっと、確か、覆面戦士さんですよね?」
「違うYO。正義の覆面戦士ですYO」
「はい、出番ですよ」
「お晩ですYO?」
「出番です!早く行かないと棄権になっちゃいますよ」
「それはイカンですYO!行って参るですYO!」
「はい。頑張ってください」
包帯をグルグル巻きにした人物は、目も包帯で覆い隠していて、何も見えていない様子で、辺りを探るようにしておぼつかない足取りで歩いていた。
それを見かねたエリは、覆面戦士の手を取って登場口まで案内して行った。
「ここから先が闘技場です。まっすぐ歩けば大丈夫です」
「カメちゃん、ありがとうですYO」
「えっ?ああ、どうも。本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫ですYO。行ってくるYO〜」
「行ってらっしゃ〜い」
覆面戦士はエリの言われた通りまっすぐ歩いて行った。
エリは、どうして自分の名を知っているのだろうかと不思議に思いながら手を振って見送った。
そして、控室に戻ろうかと振り返ると、ニイガキ仮面が腕を組んで仁王立ちしていた。
エリは怖くて、目を合わせないように静かに横を通り過ぎて行った。
ニイガキ仮面もエリには目もくれず、覆面戦士をじっと睨みつけていた。
「いやぁ〜、怖かったぁ〜」
慌てて控室に戻ったエリは、開口一番に言うと疲れ切った感じで椅子に座った。
「どうしたのカメちゃん」
「そこであのリスにばったりとあっちゃったんですよ。腕を組んで鋭い目つきで立ってて、怖かったぁ〜。絶対にあんな化け物、相手できないですよ」
「本当?カメちゃんになんてことするの!私がとっちめてやる!」
「姫様でも無理ですよ。あの目つきと異様なオーラは何人のも人を食い殺してる目ですよ」
「やだぁ〜、カメちゃんたら私のこと心配してるのね」
「いえ、別にそういう意味じゃないですけど」
「どういう意味よ?」
「いえ、何も・・・」
- 616 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/06(土) 03:05
- 「ユウコ様、どうです?ビン様は、なかなかのイケメンですよね?」
「チッ」
ユウコは、まあまずまずかなとビンのことを見ていたが、そこに覆面戦士が登場してくると舌打ちをした。
それをサユミは、ビンのことが気に入らなかったと勘違いした。
「お気に召さないですか?格好いいと思うんですけどね」
「あー、台無しや。あのバカのおかげで台無しや」
「何がですか?」
「なんでもあらへん。お人形さん、ビール買ってきて」
「お断りします。次の試合は絶対に見るんですから」
「こんなアホな試合、見ても無駄や」
ユウコの言葉通り、ビンと覆面戦士の試合はなんとも間抜けな結末で覆面戦士の勝利で終わった。
目が見えない覆面戦士はやたらめったら剣を振り回していた。
ビンは変な相手に当たってしまったなと、ため息をつき、すぐに終わらせようとした。
しかし、適当に振り回される剣をビンは思うように交わすことが出来ず、防戦するばかりだった。
しばらく間抜けな攻防の末、決着は覆面戦士が躓いて、ビンに頭突きをしてビンが気を失ったことで決着がついた。
ビンはそのまま担架で運ばれ、覆面戦士は頭をさすりながらその場でうずくまっていた。
そこへ駈け出してきたのは、ニイガキ仮面だった。
ニイガキ仮面の登場に、客席からはどよめきの声があがった。
しかし、ニイガキ仮面は、覆面戦士の首根っこを掴むと引きずって連れ帰って行った。
「リサ様とあの変な人はお知り合いなんですかね?」
「知るかボケ」
ユウコの苛立ちにサユミは怯えて肩をすくめた。
隣に座るコハルはというと、ぐっすりと眠っていて、サユミは誰とも会話せずじっとうつむいたまま今日の日が早く終わることを願った。
- 617 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/06(土) 03:05
- ニイガキ仮面は、アヤとは違う別の誰もいない控室に覆面戦士を連れ込んで、放り投げた。
「あんた、一体何してるんですか!」
そして、ニイガキ仮面ことリサは、覆面戦士に向かって怒鳴った。
「痛いYO。頭痛いYO〜」
「ふざけないで下さい!みんな真剣にやってるんですよ!しかも、あのビンさんに対してあんな戦いするなんて失礼じゃないですか!」
「ビンは格好つけ過ぎるんだYO」
「そんなことないですよ!何言ってるんですか」
「ビンは女の子からキャーキャー言われて調子に乗ってるんですYO」
「調子に乗ってるのはあんたの方だ!」
「ガキさんだって、可愛い子ちゃんに『頑張って〜』なんて言われてちゃってさズルイYO」
「なっ、何言ってるんですか!と、とにかく、あなたは大人しく帰ってください」
「ヤダヤダヤダYO〜」
「あのぉ〜」
地団駄を踏む覆面戦士にリサはため息をついていると背後の扉が開いて、そこから女装をしたアイが顔の覗かせた。
「あっ!ど、どどど、どうしたんですか?」
「ニイガキ仮面落ち着けYO」
「うるさいな」
「あのっ!」
アイはリサに駆け寄るとリサの両手を取った。
「おYO?チューすんの?チュー」
「次、私の試合なんです。応援して下さいね」
「はい!もちろん!危なくなったら、この私が助けに行きます」
「反則ですYO」
「そ、それじゃあ。行ってきます!」
「頑張って下さい!」
アイは笑顔で返すと走って控室から飛び出していった。
リサはアイに握られた手をじっと見つめていると、嫌な視線を感じた。
「何ですか?」
「このムッツリドスケベ変態仮面が」
「何言ってんだー!!もう、あなたとはこれ以上付き合ってられないです!ここで失礼します。大人しく帰ってくださいよ」
リサは、怒って覆面戦士を置いて控室を出て瞬間、アヤのけたたましい怒鳴り声に驚き身をすくめた。
リサは、そっとアヤのいる控え室を覗いてみると、腕を組んで立っているアヤと正座をして、申し訳なさそうにしているビンの姿があった。
- 618 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/06(土) 03:05
- 「ビーーーン!!!何やってるの!」
「面目ありません」
「もう、信じらんない。私の計画潰す気?」
「面目ありません」
ビンはただひたすら謝ることしかできずにいた。
そこで、いたたまれなくなったエリが間に入ってアヤをなだめようとした。
「姫様。ビンさんは頑張りましたよ。ちょっと運が悪かっただけですよ」
「頑張ればいいってもんじゃないの!運が悪ければいいってもんじゃないの!勝たなくっちゃダメなの!」
「そんなに怒らなくても」
「カメちゃん、何言ってるの!これがどういうことかわかってるの!」
「まっ、まあ、その。あれですよね?パールランドきっての騎士のビンさんが一回戦で負けてしまうというのは、軍の指揮が落ちるというか、そんな感じですよね?」
「ちがーう!!!カメちゃんは黙ってて!ビン!作戦Bに変更よ」
「はい。かしこまりました」
ビンは、頭を深く下げると肩を落として、控室を出て行った。
その後ろ姿に、エリはどう声をかけてよいのかもわからず、ただ見つめることしかできなかった。
ビンは、控室を出るとリサに出くわした。もちろん、リスのお面を被っているのでリサであることにビンはわからず、軽く会釈をするだけで、リサの横を通り過ぎて行った。
リサはビンの落ち込みようが気になり、ビンに向かって声をかけた。
ビンは、まさか声をかけられるものとは思ってもいなかったので、驚いてリサの方を振り向いた。
「そんなに落ち込むことはないですよ。相手が悪かった。あいつに勝てる奴はいない」
ビンはリサの言葉に頭を下げるだけで、何も言わずにその場を去って行った。
その姿を見て、リサはますますあの覆面戦士の行動に腹を立て、眉をしかめた。
しかし、次のアイの試合開始の号令を聞くと、リサはすぐに切り替えて、登場口まで駈け出して行った。
「サファイアって言うんだ」
選手紹介で、ようやく名前を知ったリサは心に刻み込むように何度も名前を繰り返し、両手を握って無事に試合が終わることを祈った。
サファイアことアイは、一度、選手登場口を見て、リサが見ていることを確認した。
笑顔で手を振ったが、リサは必死に祈っていてこちらに気付くことはなかった。そんなリサの姿をアイは愛おしく思った。
アイの相手は、アイよりも格下ではあったが、女装に慣れないアイは苦戦を強いられた。
危うい場面になるたびに、リサは助け出したい思いになりながらも必死に堪えて、祈り続けた。
そして、その二人の姿を上から面白そうにユウコは眺めていた。
- 619 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/06(土) 03:06
- 「愛ってええなぁー」
「恥ずかしいからやめてください」
突然のユウコの叫びをサユミは冷たくあしらった。
「お人形さんは冷たいな。この二人は大注目やで。復讐と愛が混ざり合い、互いに求め合ったときに訪れる真実!いやーん、もー、想像するだけで、笑いが止まらん」
口を大きく空けて大声で笑うユウコの姿にサユミはため息をつくだけだった。
しかし、サユミも必死に祈るリサの姿を微笑ましく思った。
サユミもそっと手を合わせて、正体の知れないアイの無事を祈った。
「あかん、ここであの子が負けるわけにはいかん」
祈りも届かず、アイの身に危険が及んだ瞬間、隣のユウコがぼそりと呟き、アイの相手に向けて指をはじいた。
すると、相手の動きが鈍り、アイは間一髪のところで避けるとすかさず切り返して、辛くも勝利することができた。
勝利の瞬間、サユミは目を大きく見開いてユウコを見た。
「ズルしましたよね?」
「知らん」
「絶対、今、魔法使いましたよね?」
「知らんって言うてるやろーボケー」
「もー、こんな人がユウコ様だったなんて信じらんない」
サユミは、頬を膨らませてぷいっとそっぽ向いた。
隣のコハルは寝てるし、ヒトミはいない。今日は来なければ良かったとつくづく後悔した。
アイは勝利に喜んで、リサの所に飛び込んだ。
突然、アイに抱きつかれたリサは、どうすることもできず、体が硬直したまま、突っ立っているだけだった。
そんな二人の姿を見ていたアヤは、自分も同じことをしようと心に決めて、剣を取った。
「カメちゃん、私行ってくるから、そこで応援してるんだよ」
アヤは、リサ達がいる登場口を指さして言った。
「え?ここの方がよく見えますよ」
アヤの思惑など知らないエリは、素直に答えた。
「あっちで応援するの!」
アヤは、大声で怒鳴りつけて控室を出ると、未だに抱き合ったままのリサ達にわざと体をぶつけて、闘技場に出て行った。
この国の姫の登場に会場は一気に盛り上がりを見せた。
- 620 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/06(土) 03:06
- 「んちゃ?」
特別観覧室で気持ちよく寝ていたれいにゃは、会場の大きな歓声に目を覚ました。
辺りを見渡して、ミキを探すと、ミキは椅子からくずれ落ちて、気持ち良さそうに眠っていた。
「ミキ様、起きてっちゃ。姫様が出てきたっちゃ」
れいにゃがミキに近付いて、起そうとしてもミキは一向に起きる気配はなく、すやすやと眠っている。
そこへ、扉をノックする音が聞こえてきて、れいにゃはビクリと体を震わせると、素早くミキの背後に回って隠れた。
「ミキ様、失礼します。ビンです。入ってもよろしいでしょうか」
部屋の外からビンの声が聞こえた。
れいにゃは、ビンの声に安心して、扉に近付いた。
「入ってもいいちゃよ」
「失礼します」
ビンは、扉を開けると、すぐに床に眠るミキの姿を捕えた。
そして、そのあと、自分の足元にいるれいにゃに気付いた。
「ミキ様は、お休みのようですね」
「そうちゃ、寝てるっちゃ」
「起しても大丈夫でしょうか?」
「起きないっちゃよ」
「起きて頂かないと困るのですが」
「れいにゃも困るっちゃ。もうじきエリ様の試合が始まるっちゃ」
「はい、そうです。それまでには起きて頂かないと」
腕を組み悩むビンとれいにゃ。
そうこうしているうちに会場からはどっと歓声が湧き起った。
アヤが見事に勝利を決めたようだった。
次の試合はエリが登場する。
急がなくては。
そう思ったビンとれいにゃは、ミキの体を揺さぶって起そうとした。
- 621 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/06(土) 03:06
- 「ぐがー!何だよ。うるせぇな!」
「ミキ様、おはようっちゃ」
「おはようございます。ミキ様」
「おはよう。そして、おやすみ」
「あっ!ミキ様、ねちゃダメっちゃ!」
「もー、なんだよ。ミキちゃん眠い〜」
「ミキ様の力を是非貸して頂きたく参りました」
「やなこった」
ビンが丁寧に言うも、ミキは寝がえりをして目を閉じた。
「ミキ様、起きるっちゃ!」
れいにゃは最後の手段とばかりにミキの足に噛みついた。
「いてぇーな!この野郎!」
ミキはすぐにれいにゃを掴み取って投げ飛ばした。
れいにゃは、慣れたもので、空中で身をひるがえして無事に着地した。
「やっと起きたっちゃ」
「ったく、なんだってんだよ」
「ミキ様、今日の大会は何としてもエリ殿に優勝して頂きたいのです」
「あいつじゃ無理だよ」
「そこを魔女のミキ様のお力添えで何とか」
ビンは片膝をついてミキに頭を下げた。
「えー、それってズルじゃん。いいの?そんなことしちゃって」
「本当はよくありませんが、姫様のためです。もちろん、タダとはいいません。ミキ様が満足のいくお礼をさせて頂きます」
「えっ?本当?」
「はい」
「御馳走とかたくさんくれるんの?」
「はい。ミキ様のお望みとあれば」
「お金もいっぱいくれるの?」
「はい。もちろんです」
「えー、どうしようっかなぁ〜」
「ミキ様、やるっちゃ。お金ないっちゃ」
「だが断る!」
- 622 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/06(土) 03:06
- 「えっ?」
ビンを驚きのあまり目を見開いてミキを見た。
ミキは立ちあがって大きく伸びをするとカバンを持って部屋から出ようとしていた。
「え?あっ、ちょっとお待ちくださいミキ様。どちらへ?」
「出発する。行くぞれいにゃ」
「ミキ様、なんでっちゃ?エリ様を優勝させてお金貰うっちゃ」
「いらねぇよ」
「どうしてですか?やはりズルをするのは嫌ですか」
「そうじゃねぇよ。あいつのためってのが気に食わん」
「これは姫様のためだけではありません。国民のためでもあるのです。どうかご協力を」
ビンはもう一度深く頭を下げた。
ミキはビンがどうしてそこまでするのか意味がわからなかった。
もとよりエリを優勝させるという意味がまったくわからなかった。
「こういうお考えでは如何ですか?」
名案を思いたビンは、頭をあげて立ち上がった。
「姫様に貸しを作ったという風に思って頂けてはどうすか?姫様に貸しを作るなんて、そうそう出来ることではないですよ。姫様が何か申しても、この貸しは大きな貸しです。姫様は何も言えません」
ビンは、後でアヤに何を言われてもいい覚悟でミキを説得させようとした。
「うーん。貸しね。うーん、いいねぇ〜」
ミキはニヤリと笑うと、カバンを放り投げて、席まで移動すると試合場を見下ろした。
すでにアヤの勝利で終了した試合場では、アヤが片手をあげて観客に向かってアピールしていた。
「このミキ様がいればどんな相手だろうが負けはしない!」
ミキはアヤに向けて拳を突き出して、声高らかに笑った。
そして、ビンは、アヤに何て説明をしようか悩んでいた。
- 623 名前:パム 投稿日:2010/03/06(土) 03:07
- つづく
- 624 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/06(土) 10:25
- おおー更新が!ずっと待っておりました
苦労人ニイガキ仮面に幸あれw
- 625 名前:624 投稿日:2010/03/06(土) 10:29
- すみませんsage忘れてしまいましたorz
- 626 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/08(月) 19:12
- 更新ありがとうございます!いや〜イイ展開!続きが楽しみです
しかし、久しぶりに最初から読み返したんですけど、謎の人物多すぎw
まだまだ先は長そうですね。ゆっくりまったり待ってます
- 627 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/29(月) 02:31
- 一方、見事勝利を収めたアヤはというと、先ほどのアイのようにエリのもとへと飛び込もうとしたのだったが、選手出入り口にはエリの姿はなく、リサとアイしかいなかった。
笑顔で走りよってくるアヤの姿にリサとアイは身の危険を感じて後づ去った。
アヤもリサとアイしかいないことに気付くと、直前で止まり不機嫌な表情でリサを睨んだ。
「何であなた達しかいないのよ」
リサは、そんなことを言われる筋合いもないので、アヤを無視した。
アイは、アヤにばれたくない一心で口をつぐんでリサの背後に隠れた。
リサはアイが自分の後ろに隠れたことを、アイがアヤのことを怖がっていると勘違いして、リサはアイを庇おうと一歩前に乗り出しアヤを威圧した。
しかし、アヤはそれくらいで怯えたりはしない。それどころではないのだ。そして、さらに言えば、リサとアイがまるで恋人のようにいちゃいちゃしているように見えて余計に腹が立っている。
「カメちゃんは?」
リサは、アヤから何を言われるのかと内心ビクビクしていたのだが、思いもよらない人物の名前が出てきて、一瞬、何のことか理解できずにいた。
アヤはそれを無視されたと思って、さらに腹立たしくなる一方だった。
すると、アヤは、リサのお面のリスの耳を引っ張り、耳元で大声で叫んだ。
「カメちゃんはって聞いてんの!!」
「うわっ!」
リサは、二重に驚いた。
一つは、アヤの行動。そして、もう一つは単なるお面のはずの耳が本物の耳になっていることに。
リサの頭に嫌な予感がよぎる。まさか、本当にリスになってしまったのではないかと。
もう、リサはアヤの質問に答える気もなく、その予感で頭がいっぱいになった。
リサのあまりの落ち込みように心配したアイは「大丈夫?」と肩に手をかけた。
- 628 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/29(月) 02:32
- 「早く答えなさいよ!」
アイはアヤの問いには答えずに睨み返した。
「何よ。田舎の小娘が私に歯向かう気なの?」
アイは、何も言わず、視線をリサに戻すと、優しくリサの背中を撫でた。
その光景がアヤをさらに苛立たせた。
アヤはアイの手を掴んで立たせると、アイを睨みつけた。
アイも負けじとアヤを睨み返す。
「何よ」
先に口を開いたのはアヤだった。
「何やよ」
負けじとアイは言い返す。
「あんたが何なのよ」
「あんたこそ何やの」
「田舎の小娘の分際で、この私に向かってなんて口利いてるの!」
ブチっと音が聞こえる程にぶち切れたのがわかるくらい、アヤの表情が激変した。
そこでようやく怒り任せに動いていたアイも、目の前にいるのがアヤであることを再認識して、我に帰った。
が、しかし、すでに遅い。
「あっ、いや、まあまあ。とりあえず落ち着こうアヤちゃん」
「はあ!?」
我に帰ったけど、帰りすぎたアイは、自分が変装していることを忘れて、普段と変わらないアヤと接するような口調で話してしまった。
それに気付いたのはアヤの方で、本来ならアヤちゃんなど馴れ馴れしく言われて怒るところだったが、すぐに察知したアヤは冷静さを取り戻して、アイに向かって笑みを見せた。
アイはその笑みにぞっとして、ようやく自分が今、変装していたことを思い出した。
が、しかし、すでに遅い。
「まっ、そうね。せっかくのお祭りでケンカなんかしちゃダメだよね。サファイアちゃん」
アヤはアイの肩に手をまわし、ウィンクをすると、そのままアイを自分の控室へと連れて行った。
- 629 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/29(月) 02:32
- 「カン、ちょっと出て行って貰えないかしら」
控室に入るなり、アヤはカンを部屋から追い出した。
そして、二人きりになった途端、アヤは大声で笑い出した。
「あーはっはっはっ!アイちゃん可愛い」
「うわっ!ちょ、ちょっと、アヤちゃん!そんな大きい声で言わないでよ」
アイは恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、アヤの口を押さえようとした。
「いやぁ〜。やっぱアイちゃんも女の子だったんだね」
アヤは、嬉しそうにアイの顔をマジマジと見つめた。
そして、アイが照れれば照れるほど、アヤは可笑しくて仕方がなかった。
「にひひひ、な〜んで、アイちゃんはそんな格好をしているのかなぁ〜」
アヤは、ゆっくりとアイの周りを回りながら言った。
「だ、だって、変装でもしないと出れないじゃないか」
「な〜んで、女の子の格好をする必要があるのかなぁ〜」
「こっ、これは、たまたまだ。たまたま入った店がそういう店だっただけだ」
「たまたまねぇ〜。ふ〜ん」
「私のことは放っておいてくれ」
「ガキさんが出ないの知ってるはずなのに、なんで出てるんだろうねぇ〜」
「出ると思ったんだ。あいつも変装してくると思ったんだ」
「ガキさんはそういうアホなことはしないよぉ〜」
「そんなこと知らない」
「本当にガキさんが出ると思ったのぉ〜」
「当然だ。何を言ってるんだ」
「本当は、あのリスが出るからじゃないのぉ〜」
「ち、違う!」
「もー、照れちゃって可愛い」
アヤは初めて見るアイの乙女心がとても嬉しかった。
そして、自分と同じように恋心を抱いていることに、幼馴染の縁をしみじみと感じて、ちょっと涙が潤んだ。
「ど、どうしたんだ。アヤちゃん?」
しかし、アイはアヤのようには感じていない。むしろ、アヤの涙目に嫌な予感を感じずにはいられなかった。
- 630 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/29(月) 02:32
- 「アイちゃん!ここは恋する乙女同士協力しようじゃない」
アヤはアイの肩を抱き寄せて、顔近づけると、小さな声で言った。
「なっ!わ、私は別に、こ、こ、こ、こここここ」
「ううん、もう何も言わなくても大丈夫。別にリスだってアイちゃんが好きだって言うなら応援するよ」
「だから、違うって!」
「さっ、冗談はさておいて、本題はここからよ」
アヤはアイの肩を軽く叩いて、アイの前に向きなおした。
「今日の大会はカメちゃんを優勝させるの」
「カメちゃんを?それは無理だ」
「無理とか言わないの!絶対に優勝させるの!」
「そんなこと私に言われても、どうにもできない」
「できるわよ。アイちゃんは、次の試合はあのリスと戦うの」
「なんでだ!これはトーナメント戦だろ。次の試合は違う相手だ!」
「そんなのどうにでもなるよ。あのリスもアイちゃんなら手加減するから、余裕で勝てるわよ」
「冗談じゃない」
「ふ〜ん。そっか」
「な、なんだ」
「アイちゃんがシルバーランドの王子だなんてリスが知ったら、尻尾を巻いて山に帰るだろうねぇ〜」
「なっ!卑怯だぞ!」
「別にぃ〜。変装してる方が悪いんじゃん」
「ったく、でも、仮にリスさんと当たっても勝たして貰えるかなんてわからないぞ」
「大丈夫よ。わかってないなぁ〜。アイちゃんは」
「しかし、私がリスさんに勝ったところで、他にも強い奴はいるぞ」
「そこは私とカンが頑張るよ。ビンはまったく使えなかったけどね」
「そういうことか」
「ビンとカンだけでなんとかなると思ったんだけどね。まったく、ビンの奴ときたらだらしない」
「まあ、運が悪かったんだろう」
「まっ、でも、念のためもう一つ作戦があるから大丈夫よ」
「何だ?」
「あの魔女にも手伝って貰うの」
「あいつか?」
「うん。タダでご飯あげたんだからそれくらいはして貰わなくっちゃ」
「あいつに期待しても無駄だと思うけどな」
「まっ、私もあんまり期待してないけどね。ビンが負けた以上、打てる手はすべて打つの」
- 631 名前:剣術大会 投稿日:2010/03/29(月) 02:32
- 「ところで、どうしてカメちゃんを優勝させたいんだ?」
「は?」
「カメちゃんが優勝して、アヤちゃんに何の得があるんだ?アヤちゃんが優勝すればいいじゃないか」
「本気で言ってるの?」
「何だ?」
「カメちゃんが優勝したら、カメちゃんが一番強いってことでしょ」
「でも、それは嘘なんだろ」
「この際、嘘でもいいの。強くて、家柄も良い、申し分ないじゃない」
「何がだ」
「はあ、ダメだこりゃ」
「意味がわからない。ちゃんと説明してくれ。協力するにもできやしない」
「ねえ、今までの話の流れでわからないの?」
「ん?」
「やっぱ、男を演じ過ぎた所為で、乙女心が錆びちゃったのね」
「くだらないことを言ってないで、ちゃんと説明してくれ」
「もう!カメちゃんは私と結婚するの!」
「ダメだ」
「何でよ!!!私もアイちゃんに協力するよ。幼馴染じゃない、協力してよ」
「そんな嘘では騙されない。何を企んでいるんだ?幼馴染と言うなら、包み隠さず教えてくれ」
「ああ、本格的にダメだ」
「いい加減にしろよ」
「それはこっちのセリフよ!」
- 632 名前:パム 投稿日:2010/03/29(月) 02:33
- つづく
- 633 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/29(月) 13:24
- アイちゃんにぶいw
- 634 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/31(水) 20:24
- 待ってましたあああああおかえりなさい
エリ様かわいいよエリ様
- 635 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/06(火) 02:08
- アイとアヤがそんなやりとりをしている間に、エリの試合が始まろうとしていた。
大観衆の中に出たエリは緊張のあまり足が震えて思うようにまっすぐ歩けないほどであった。
そんなエリの姿にミキは笑いが止まらなかった。
「腹イテぇー。なんだよあのカメの動きは」
「ミキ様、失礼っちゃ」
「あー、こりゃダメだな」
「そう言わずになんとかエリ殿を勝たせ下さい」
エリの実力を知らないビンではあったが、一部隊の隊長を務めているエリのことだからと、ビンはさほど心配はしていなかったのだが、まさかこんなにも緊張するような人だとは思ってもいなく、ビンはまたアヤに怒られると不安になった。
「よし、れいにゃ。例の物を出せ」
「はいっちゃ」
ミキの命令にれいにゃはミキのカバンの中に入って昨日作った人形を咥えてミキに渡した。
「これは一体?」
「まあ、見てろよ」
ミキはテーブルの上に人形を置くと、目を閉じて集中した。
両手を人形の上にがざすと、指から金色の糸が伸び、その糸が人形の手足に結びついた。
ミキは目を開けて人形に息を吹きかけると、人形はすくっと立ち上がって、エリと同じようにぎこちない動きをその場で始めた。
ビンは初めてみる異様な光景に固唾を飲んで見つめていた。
エリの対戦相手は、素性のわからない老戦士だった。
その老戦士は、ひげを蓄えた痩せこけた老人で、左足は昔受けた古傷なのか足を引きずっていた。
この相手なら勝てそうだとエリは少し緊張がほぐれた。
そして、この組み合わせは当然、エリに弱そうな相手が当たるようにアヤが仕組んでいたことだった。
しかし、エリやアヤの思いとは裏腹に選手登場口でエリの試合を見守っていたリサはこの老戦士に見覚えのあるような気がしてならなかった。
- 636 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/06(火) 02:08
- 「あの顔どこかで見たことがあるな」
「あいつは傭兵のボトルだYO」
いつの間にかリサの隣に立っていた覆面戦士が返した。
あっ、と声を出してリサは思い出した。
伸びきった髭とやせ過ぎた体で以前の面影が薄れていたが、あの眼光は確かに、その昔、各国を戦い回り金のためなら何でもやることで有名な傭兵のボトルだった。
「厄介な相手にあたってしまったな」
「変態仮面はあのじいさんと戦ったことあるの?」
「変態仮面が誰のことだかわかりませんが、私は一度だけあります」
「どうだったYO?」
「一言で言えば、やはり厄介という言葉に尽きますね。まるで、あなたみたいです」
「意味がわかりませんYO」
「本気で戦おうとしない。かといって抜け目がなく、ズル賢い。純粋なカメは簡単に騙されてしまう」
「で、変態仮面は勝ったの?」
「変態仮面が誰のことだかわかりませんが、勝ちましたよ。してやられましたけどね」
「どういうこと?」
「まあ、いいじゃないですか。とにかく邪魔ですからあっち行ってて下さい」
「何だYO!正義の覆面戦士だって見たいんですYO!」
「もう、うるさいな」
- 637 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/06(火) 02:09
- リサが言うようにボトルは試合が始まったというのに戦う気配を見せなかった。
左足を引きづりながら、エリに近付いてくると、懇願するような目してエリに訴えかけてきた。
「孫が病気になってしまって、手術をしないといけないのだ。どうしても金が必要なんだよ」
ボトルの言葉にエリは困惑して、剣を抜くにも抜けずにいた。
「若いの、何もこんなことで金を稼がなくても十分働けるだろう。ここはどうかひとつ、このおいぼれに情けを、」
しかし、エリは、ボトルが話している途中で、突然、エリがボトルを殴った。
「あっ!ごめんなさい」
後ろに倒れたボトルは、予想外の出来事に目を丸くしてエリを見つめていた。
しかし、それでも尚、エリの攻撃は続いた。
「小僧!なんと卑怯な!」
「ごめんなさい。体が勝手に!」
容赦のないエリの攻撃はもちろんエリ自身が行っているのではなく、ボトルの言葉など聞こえないミキは無防備に近付いてきたボトルに対して、ここぞとばかりにボトルに対して殴りかかっていた。
「エリ様、強いちゃ!」
「ミキがやってんだよ!」
ミキは器用に両手の指を動かすと、人形が生きているかのように動き、そして、人形の動きに合わせてエリも動いていた。
ビンはようやくミキが何をしているのか、理解した。
「剣は使わないのですか?」
「あぶねぇじゃん」
「しかし、剣を使わないと失格になりますよ」
「えっ、そうなの?」
「はい。一応、剣術大会ですので」
「先に言えよ!」
- 638 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/06(火) 02:09
- ミキは人形を操り、エリの剣を引き抜いて構えてみせた。
ボトルも立ち上がると、先ほどまでのような弱弱しい老人ではなく、鋭い傭兵の目を見せた。
そして、ボトルは、エリが手にしている剣に目をやると、驚きとともに笑みを見せた。
「小僧、その剣は本物か?」
「はい。本物の剣ですよ」
「そうじゃない。英雄の剣だろう。それは」
「はい。あの、頂いた・・・あっ!ごめんなんさい!」
今度はエリが言い終える前にボトルに切りかかった。
ボトルは老人とは思えぬ身のこなしで剣を交わすと怒りをあらわにした。
「貴様!それでも騎士かっ!」
「ごめんなさい。勝手に動いちゃうんですよ!」
「フン。剣に操られているのか。流石は英雄の剣だけはあるな」
ボトルは、両手で剣を持ち構えを整えた。
ボトルの立ち姿は、先ほどのまでの弱弱しい老人ではなく、戦場に立つ一人の兵士のように気迫に満ちていた。
エリは、ボトルの気迫に押されるようにして一歩後ずさった。
エリは、自分が今、ミキに操られていることをわかっていた。
本気を出したボトルに対してこのまま操られながら戦って、本当に大丈夫なのだろうかと不安だった。
かと言って、自分の力でボトルを倒すにしても、かなり厳しい戦いになるだろうと予感していた。
「ところでさ、どうやったら勝ちなの?」
「相手が降参するか、一太刀入れることができれば勝ちです」
「殺したら?」
「負けです」
「負けなの?なんだよ、面倒くせぇな」
「これは試合ですので」
「じゃあ、剣持たせるなよなぁ」
ミキは面倒臭そうに指を動かして、人形を動かした。
互いの間合いや空気をまったく無視したエリの動きをボトルは見逃さなかった。
エリの不自然な動きで出来た隙にボトルは素早く剣を突き出した。
「うわっ!あぶねぇ!」
ミキは咄嗟に人形を引っ張りあげると、それに同調してエリも一緒に空中に舞い上がった。
ジャンプしたわけでもなく、突然、エリの体が浮き上がったことに観衆は一斉にして驚きの声をあげた。
空中に舞いがったエリは、そのまま落ちて、地面に叩きつけられた。
観客よりも一番驚いたのエリ自身であり、強烈な背中のダメージに痛みを堪えながらエリは立ち上がった。
- 639 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/06(火) 02:09
- ボトルは、地面に落ちたエリに対して追い打ちをかけることができたが、ボトルは慎重だった。
一度、剣を構え直し、エリが立ち上がってもその場から動こうとはしなかった。
「あのさ、これってさ、剣投げて当たっても勝ち?」
「ええ、まあ。でも、それは返って不利になるだけですよ」
「もう面倒くせぇんだよ」
そう言うと、ミキは指を動かして、エリの剣をボトルめがけて投げ飛ばした。
一直線に、ずれることなくボトルの眉間に目がけて飛んできた剣をボトルはあっさりと弾いた。
「あれ?」
「ミキ様!何てことをするんですか!これでどうやってエリ殿は戦えというのをですか!」
「何だよ。そうカッカすんなって」
「何か策でもあるんですか」
「ん?何もないよ」
「ちょっと!」
- 640 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/06(火) 02:10
- エリの訳の分らぬ行動にボトルは、尚更、慎重に成らざるを得なかった。
のどから手が出るほど欲しい英雄の剣がすぐ目の前に落ちているが、ボトルは何かの罠かと思い、グッと堪えて、その剣から距離を取った。
「ごめんなさ〜い」
まさか剣を投げるなんて思いもしなかったエリは、ボトルに当たらなかったことに安堵して、落ちた剣を拾いに走った。
何事もなくエリは剣を拾い上げ、そして、ボトルの前に立ち、構えた。
エリの行動をボトルはまったく読めずにいた。
今まで会ったことのない奇妙な相手にボトルは気味の悪さを感じた。
ミキが操っているためエリの戦い方は誰が見てもど素人であるが、ボトルを迷わせたのはエリが手にしている英雄の剣だった。
こんなど素人が英雄の剣を持てるはずがない。こいつは本気を出していないとボトルは思わざるを得なかった。
こういう厄介な相手は、相手のペースにさせてしまっては勝ち目がない。さっさとケリをつけてしまおうとボトルは思った。
ボトルは剣を地面に当て、地面を削るようにして振り上げた。
ボトルの剣によって巻きあがった砂がエリの目に入り、エリは咄嗟に目をつぶり、手で覆い隠した。
その瞬間を狙ってボトルはエリに切りかかった。
しかし、エリは目を手で擦りながらも持っている剣でボトルの剣を受け止めた。
それはもちろんミキが操っているから出来たことだったが、ボトルはやはりエリが只物ではないと思った。
剣を止められてもボトルはすぐに剣を振り、攻撃をやめなかった。
しかし、それをエリはおかしな動きで剣で受け止めていった。
「うわっ、じいさん。本気出しやがった」
ミキも負けじと人形を操り、必死にボトルを剣を受けとめていた。
「めっちゃ鬱陶しいなこのじいさん」
しつこい攻撃にミキは苛立ち、左足でボトルの腹を蹴り飛ばして距離を開けた。
そして、すかさず剣を振りおろした。
しかし、ボトルとの距離が離れすぎていたので、振り降ろした剣は空を切り、地面を叩いただけであった。
そのように誰もが見えた。
しかし、一陣の風がボトルの体を突き抜け、ボトルの剣は真っ二つに折れ、鎧も切り裂かれて、ボトルは血を噴き出しながら、さらに後方に飛ばされた。
- 641 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/06(火) 02:10
- 「倒したっちゃぁあああ!!エリ様強いっちゃ!!」
エリの勝利に大はしゃぎで喜ぶれいにゃの傍らには何が起きたのかよくわかっていない二人が茫然としてエリを見下ろしていた。
「ミキ様。まさか魔法を?」
「ん?あっ、うんうん。そうそう魔法。これが魔法。どうだ凄いだろ」
「それはいけませんよ。剣で勝って頂かないと」
「いいじゃん別に、誰も気付きはしないよ」
あははと笑いながら、ミキはビンから離れた。
魔法じゃないからいいじゃんというのは言わずに、大はしゃぎするれいにゃの頭を殴り黙らせた。
- 642 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/06(火) 02:10
- 「あの、大丈夫ですか?」
エリは、すぐにボトルのところに駆け寄り、ボトルを抱き起した。
「やはり、英雄の剣の力は偉大だな。貴様には惜しいくらいだ」
そう言い残してボトルは、エリの手から離れて一人で去っていった。
選手登場口で見ていた覆面戦士とニイガキ仮面の前でボトルは立ち止まった。
「あの剣は手強いぞ」
それだけを言ってボトルは二人の間を通り会場を出て行った。
「カメちゃん凄いYO」
「あなたの剣が凄いだけでしょうが。それよりも何だあの戦い方は!」
リサは、滅茶苦茶なエリの戦い方に憤りを感じていた。
疲れ切った様子でのんびりと歩くエリを睨みつけて、リサはエリを待ち受けていた。
エリは、ニイガキ仮面に睨まれていることに気付くと、怖くなって、目を合わせないようにそうっと端を歩いて通り過ぎようとした。
「ちょっと待て」
リサは、通り過ぎるエリを呼びとめた。
エリは肩をビクリと震わせて、恐る恐るニイガキ仮面の方を見た。
リスのお面で表情は至って無表情ではあるが、その雰囲気からして怒っていることは十分に感じ取れた。
「なんだ今の戦い方は!それでもゴールドランドの騎士か!恥を知れ!」
リサは厳しくエリに向かって怒鳴り声をあげた。
エリは、ミキに操られていたなんてことは言えず、ただ下を向いて申し訳なさそうにしていた。
「おい、聞いているのか?あの戦い方はなんだと言ってるんだ。あんな無様な戦いで勝利したと、、、うぉっと」
「カメちゃ〜ん」
リサの説教にアヤが間を割って入り、リサを突き飛ばして、エリを抱きしめた。
- 643 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/06(火) 02:10
- 「カメちゃん強い!凄いじゃん!」
「運が良かっただけですよ」
「運も実力のうちよ」
「あ、あの、ちょっと離して貰えませんか」
「やだカメちゃんたら、照れちゃって可愛い」
そう言ってアヤはさらにエリを強く抱きしめた。
「カメちゃん。アヤヤのおっぱいが当たってるYO」
そんな様子で、もうこれ以上はエリと話せないと思ったリサは、収まらない怒りをニヤニヤする覆面戦士にぶつけるように覆面戦士の耳を引っ張りあげ、近くにいたアイにも気付かずにその場から去って行った。
そして、リサとすれ違い様に、次の試合の選手が通り過ぎて行った。
全身を白い鎧で覆い、異様な気配を漂わせていた。
覆面戦士は足を止めて、振り返った。
リサも振り返りはしたが、その異様な雰囲気よりもその選手が纏っている鎧に目が行った。
「あれはダイア帝国の鎧だ。何故、ダイア帝国の騎士がいるんだ?」
「知らないですYO」
「別に、あなたに聞いてませんよ」
- 644 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/06(火) 02:11
- ダイア帝国は、その昔、世界の三分の一を占めるほどの強大な国でだった。
しかし、一千年ほど前に起きた世界中を巻き込んだ戦争により、北の彼方に追いやられてしまうことになった。
それでも、国の規模は世界一のままには変わりなく、幾多にも及ぶ侵略戦争を長きにわたって繰り広げていた。
しかし、その戦争も氷の女王によるコールドブレスで終結を余儀なくされてしまった。
国の80%が未だに雪と氷で覆い尽くされたままとなり、ダイア帝国の力は一挙に衰えてしまった。
そして、この時を境に、ダイア帝国は、徹底した鎖国を行い他国への侵略も交流を一切行わなくなった。
ここぞとばかりにダイア帝国に攻め込む国もあったが、今まで生きて帰ってこれたのはたった一人だけで、いつしか人々は呪われた国と呼ぶようになった。
そんな国の騎士が堂々と自国の鎧を纏って現れたことに、誰もが驚きと恐怖を感じずにはいられなかった。
客席からはどよめきの声が上がり、ダイア帝国の騎士を罵倒する声も少なくはなかった。
それは次第にエスカレートしていき、暴動が起こりそうな雰囲気であった。
しかし、ダイア帝国の騎士は、闘技場の中央に立ったまま微動だにせず、対戦相手が現れるのを待っていた。
「アヤちゃん、いいのか?ダイア帝国の人間を出場させて」
ダイア帝国の噂を耳にしたことのあるアイは心配して、アヤに訊ねた。
「別に大丈夫よ。なんたってこっちにはカメちゃんがいるんだもん。ね?カメちゃん」
「え?何で私が?」
「ふざけている場合ではないぞ。ダイア帝国は陰湿で残虐で何を考えているのかわからない国だ」
「それは誤解ですよ。サファイアさん」
覆面戦士を控室に閉じ込めて戻ってきたリサは、アイとアヤの会話に割って入ってきた。
ダイア帝国のことを忌み嫌う人が多い中、リサだけは違っていた。
仮面を被っているので、リサの表情を見ることはできないが、リサは懐かしむようにダイア帝国の鎧を見つめていた。
- 645 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/06(火) 02:11
- 「そうやよ。アヤちゃん誤解やよ」
「私、何も言ってないよ」
「ダイア帝国の皇帝はとてもお優しいお方です。皆さんが思っているほどダイア帝国の人は悪い人ではありませんよ」
「えっ?リスさんは皇帝に会ったことがあるんですか?」
「ええ、一度だけ」
「凄いやよ!カメちゃんなんかより、リスさんの方が凄いやよ!」
「ちょっと何よそれ。カメちゃんだって、会ったことあるよね?」
「私はないですよ。会ったことがあるのはガキさんですよ」
エリは迂闊にもリサの名を出してしまい、その場の空気が張りつめた。
アイは今は素性を隠しているので、何も言わずに押し黙った。
リサは自分の正体がバレたのかと一瞬ヒヤリとして、目を反らした。
そして、アイの正体を知っているアヤは、エリの口を手でふさぎ、エリの耳元で囁いた。
「カメちゃん。ガキさんの話はタブーだよ」
「えっ?何でですか?ガキさんは、唯一、ダイア帝国との戦争から生きて帰ってきたんですよ」
事情を何も知らないエリは、自慢げに話したが、余計に重い空気が漂った。
アイやアヤは、もしかしてと思いリサの方を見つめ、視線を感じたリサは取りつくろうようにして嘘を言った。
「私は、色んな国を旅しているんです。そのときにたまたま皇帝をお目にかかることができたんです」
しかし、アヤの疑心は深まる一方だった。
疑うような目をして、リサを下から覗き込んだ。
「本当?ダイア帝国の皇帝は国民にすら姿を見せないって噂よ」
「それは噂ですからね」
「そうやよ。噂やよ」
「こんなリスに皇帝が会うと思う?」
「珍しいから皇帝も出てきたんやよ」
「サファイアちゃん、それは違うと思う」
「いや、そうかも知れませんね」
リサは、ははっと笑って、何とか誤魔化すことが出来たと胸をなでおろした。
しかし、勘のいいアヤだけは疑念の目をリサに向けたままだった。
- 646 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/06(火) 02:11
- 「い、いやだ!オレはあんな奴と戦いたくない!」
突如、背後から叫び声が聞こえてきて、アヤ達が振り返ると、次の試合に出場する騎士がパールランドの騎士ともめていた。
どうやら、相手がダイア帝国の騎士と知ったその騎士は恐れて出場を辞退しようとしているようだった。
すでに足は震え、怯えているようだった。
それに気付いたアヤは、騎士のところへと歩み寄って行った。
そして、リサも念のためとアヤの後をついて行った。
「どうしたの?」
アヤはパールランドの騎士に訊ねた。
姫が現れたことにより、パールランドの騎士はまず敬礼をして、事情をアヤに説明した。
やはり、その騎士はダイア帝国の騎士に怯えて、出たくないと言いだしたようだった。
「戦いで真っ先に死ぬ奴は怯えている奴だ。弱い奴から死ぬ。今、ここでそれを克服しなければ、戦場で真っ先に命を落とすぞ」
リサは、騎士に覇気を取り戻させようと、厳しく言った。
「何を言ってるんだ。あの国は全員が命知らずのリサと言わるほど、残虐な奴らなんだぞ。恐怖を感じない方がバカだ」
当然ではあるが、この騎士は、まさか目の前にその命知らずのリサがいることなど知らずに言った。
その言葉に少なからずショックを受けたリサは、自分の名誉のためにもなんとかして、この騎士に落ち着きを取り戻そうとした。
「あのリサとて人間だ。私たちと同じ人間だ。それにこれは試合だ」
「お前は人間じゃないじゃないかぁー!」
「あっ…」
もうリサは何も言えないと思い、アヤに託すように一歩後ろに下がった。
「まっ、仕方ないね。失格」
と、きっぱりと切り捨てたアヤは、さっさとエリのところに戻ろうと騎士に背中を向けた。
しかし、恐怖に怯え、出てたくないと喚いていた騎士は混乱していて、きっぱりと自分のこと切り捨てたアヤに対して突如怒り出した。
「オレはお前の遊び道具じゃねぇんだよ!」
その騎士は、取り押さえていたパールランドの騎士の腕を振り切り、アヤに掴みかかろうとした。
アヤは突然の出来事に、剣を抜こうと手にかけたが動作がわずかに遅れた。しかし、その瞬間、アヤの肩を掠めるようにして、騎士ののど元へとリサの剣先が突き出された。
リサのその素早い動きと気迫に圧倒された騎士は腰が砕けて倒れた。
「言っただろう。お前みたいな奴が真っ先に死ぬと」
- 647 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/06(火) 02:11
- リサは剣をしまうと、その場から立ち去った。
アヤはリサを追いかけると横について、小声で話しかけてきた。
「さすがガキさん。頼りになるね。カメちゃんにも少しは見習って欲しいよ」
「何の仰っているのですか。私はあんな残虐な奴ではありませんよ」
「ふふっ。まあ、そういうことにしといてあげよう」
アヤは立ち止まって、先に歩くをリサの背後を見つめながら、間違いなくこのリスはリサであること確信した。
「それにしても困ったことになったなぁ」
そして、確信したことによって、アヤは悩んだ。
リスに思いを寄せているサファイア。
リサに憎しみを抱いているアイ。
もし、アイがリサの正体を知ったら絶望するだろう。
愛と憎しみを同じ人間に対して抱いるアイをどうしたら救ってやれるのだろうかとアヤは悩んだ。
「うーん。あとで、ユウコ様に相談してみよう」
そして、アヤは一番重要なことを知らない。この愛憎劇を作った張本人がユウコであることを。
- 648 名前:パム 投稿日:2010/04/06(火) 02:12
- つづく
- 649 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/06(火) 14:36
- 姫様勘が良いというか頭の回転が良いというか才能ですな
- 650 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/07(水) 00:16
- いやあ、盛り上がりますなあw
- 651 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/07(水) 20:49
- wktk
- 652 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 19:10
- ここのガキさんかっこよすぎるだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!
- 653 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/20(火) 01:29
- 第一回戦の試合がすべて終了した。
次の第二回戦の組み合わせは抽選で決め直すと、突然アヤが発表した。
そんなこと何も知らされていなかった観客からはどよめきの声が上がり、騒がしくなったが、アヤはそんなこと一切気にせず、すぐに控室に戻ると次の組み合わせを決めた紙をビンのところへと渡すように命じた。
アヤからの伝言を受け取ったビンはその内容を読むとすぐにミキの元へと駆け寄った。
「ミキ様、第二回戦の組み合わせが決まりました。これから行われる抽選では、この組み合わせになるようにしてください」
「は?何言ってんの?」
「抽選は箱の中にある番号のかかれたボールを取ります。それをミキ様の魔法で、この組み合わせになるようにして頂きたいのです」
「はあ?何でいちいちそんな面倒なことしなくちゃいけないんだよ。これに決まったって言えばいいじゃん」
「それでは、怪しまれてしまいます」
「ったく、あの姫は何考えてんだよ」
ミキは渋々、その紙を受け取り、その組み合わせの内容を見た。
アヤが決めた第二回戦の組み合わせは、以下のようになっていた。
@カン×正義の覆面戦士
Aニイガキ仮面×サファイア
Bアヤ×ダイア帝国騎士
Cカメちゃん
「あれ?カメの対戦相手いないじゃん」
「はい。姫様が仰るにはラッキーボーイだそうです」
「何がラッキーボーイだバカ!ただのズルじゃねぇかよ!」
「まあ、そうですね」
「何考えてんだよあの姫は」
「とにかくこれでよろしくお願いします。できますよね?」
「できるけど、なんつうか、本当にいいの?」
「是非」
「やっぱ、こういうズルはいけないんじゃない」
「姫様のためです」
「でもさ、」
「エリ殿が優勝すればわかります」
「何か、嫌な感じだなぁ」
「もうじき始まりますから、お願いしますよ」
そう言ってビンは、ミキをせかすように背中を押した。
ミキはやる気なさそうに歩いていって、闘技場を見下ろした。
もうすぐ始まろうとしている抽選の周りに選手たちが集まっていた。
- 654 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/20(火) 01:29
- 「まずはカンが引きます。一番のボールをお願いします」
「はいはい」
ミキは、まったくやる気がないまま、ぼうっと見ているだけだった。
すでにカンが箱の中に手を入れてしまったので、ビンは慌てだした。
「ミキ様?やっておられますか?もう大丈夫ですか?」
「うっせぇな。とっくにやってるよ」
ビンにしてみれば、魔法を使うときは何かしらの動作や呪文があると思っているが、ミキにしてみたらこれくらいの魔法は造作もないことだった。
そして、カンはアヤの思惑通りにカンが一番のボールを引き当てた。
「おおっ素晴らしい。次は、ニイガキ仮面です。三番でお願いします」
「はいよ」
次も指示通りに五番を引き当てて、ビンは本当に魔法を使っているんだと実感し、また、ミキのことを見直した。
「それでは次は、正義の覆面戦士です。二番でお願いします」
「はいよ」
もうビンはすっかりミキのことを信じ切って覆面戦士が引き当てたボールが何番であるかを確認しようとはしなかった。
しかし、覆面戦士が番号を言った瞬間に、観客が騒ぎ出した。
それは、早々と対戦相手が決まったからであった。
覆面戦士は五番でなく、四番を引き当てた。つまり、第二回戦ではニイガキ仮面と当たることになった。
「ちょっと!ミキ様、これは一体どういうことですか!さっきまでのはまぐれだったんですか!」
「うっせな!邪魔が入ったんだよ!誰だよチクショー」
「邪魔ってどういうことですか?」
「知るかよ。ったく、なんでこんなことを邪魔する奴がいんだよ」
- 655 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/20(火) 01:31
- 「あっ、とにかく次です。次は、サファイアですので、えっと、本当はニイガキ仮面だったのですが、とりあえず五番で」
「ぜってぇ、次はミキが勝ってやる!」
ミキは、身を乗り出して、抽選箱を睨みつけていた。
ビンも固唾を飲んで、サファイアが引くボールを見守っていた。
「よっしゃ!どうだこの野郎!」
ミキはガッツボースをして喜んだ。
サファイアの手には確かに、五番のボールがあった。
「その調子でがんばりましょう。次は姫様です。六番お願いします!」
しかし、アヤは二番のボールを引いた。
カンと対戦することになったアヤは闘技場からビンを鋭い目つきで睨みつけた。
「ちょっとミキ様!なんてことしてるんですか!身内でやりあったら台無しじゃないですか!」
「うるせぇ!ごちゃごちゃ言うな!」
ミキはちゃんと魔法を使ってアヤに六番のボールを持たせたはずだった。しかし、引き上げてみるとそのボールは二番に変わっていた。
こんな簡単な魔法をミキが失敗するはずもなく、かと言って邪魔が入ったからといって、ミキならそれを蹴散らすことくらいできるはずだった。
ミキ自身も何が起きているのかよくわからず、ただわかっているのは、他の誰かがミキの邪魔をしていることだった。
「次が最後ですよ。エリ殿にはラッキーボーイの七番を引き当て下さいよ」
「うっせぇ!うっせぇ!」
エリが箱の中に手を入れた。
ミキは集中して、エリに七番のボールを掴ませた。
エリが掴んでからもミキは集中を切らせず、ボールが箱の中から出るまで魔法をかけたままだった。
「ああ、なんということを…」
しかし、エリが引き当てたボールを見たビンはその場に崩れ落ちた。
エリは、六番のボールを引き、サファイアと対戦することになってしまった。
「邪魔奴した誰だ!出て来い!ぶん殴ってやる!!」
「ミキ様、落ち着くっちゃ」
「お前かッ!」
そして、誰が邪魔をしたのかわからないミキは周りに当たり散らしていた。
- 656 名前:剣術大会 投稿日:2010/04/20(火) 01:31
- 「これでちっとは面白くなるやろ」
「ズルしましたよね?」
「ズルちゃうわ!これはプロデュースやねん」
ユウコはミキの魔法をまったく気にすることなく、自分の思い通りの組み合わせにして満足していた。
- 657 名前:パム 投稿日:2010/04/20(火) 01:32
- つづく
- 658 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/20(火) 22:20
- たしかにユウコ様
面白くなりそうですw
- 659 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/07(土) 12:32
- 続き楽しみにしてます!
- 660 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/29(水) 19:21
- のんびりまったり待ってます
- 661 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/03/06(日) 22:37
- 待ちますYO
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