Dear my ・・・ 〜 Dark × Dark 〜
- 1 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/11/11(金) 12:59
- 前作「Dear my Princess」の続編です。
引き続きアンリアルなファンタジー。
今回の主役は 从 ´ヮ`)<れいなたい!
それでは、またまたよろしくお願いいたします。
前作「Dear my Princess」
ttp://mseek.nendo.net/flower/1073627455.html
「Dear my Princess U」
ttp://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/water/1094798822/
- 2 名前:Prologue. 投稿日:2005/11/11(金) 13:00
- ねぇ、目覚めて……
目覚めて……
目を……覚まして……
あなたの力が必要なの……。
あなたは選ばれたの……。
ううん、私があなたを選んだの……。
世界の終わりがせまってるの……。
闇が目覚めようとしている……。
だからあなたも目を覚まして。
『闇斬りの少女』……れいな……。
- 3 名前:Prologue. 投稿日:2005/11/11(金) 13:01
-
Dear my ・・・
〜 Dark × Dark 〜
- 4 名前:第1話 投稿日:2005/11/11(金) 13:02
- 〜田中れいな〜
「……んっ?」
目を開けると、そこには朝特有の淡い空気が流れていた。
まだ眠い……。
広いベッドの上にむくっと体を起こし、寝癖だらけの頭を掻く。
「……変な夢見た……」
そのことは覚えてるんだけど、どんな夢だったかは覚えていない。
思い出そうとしても、頭の中に靄がかかっているみたいに、はっきりしない。
ハロモニランドに来てもう一年近く経ったが、まだまだここに慣れないのだろうか。
それとも。
あの人がいない生活が慣れないのだろうか……。
- 5 名前:第1話 投稿日:2005/11/11(金) 13:03
- 「れーな、起きてるー!?」
そのとき、部屋の外から絵里の声が聞こえた。
続いて部屋のドアがガンッガンッと叩かれる。
そんなんされたら起きてなくても起きるっつーの……。
「起きてるよ〜……」
返事をすると、扉がガチャッと開けられた。
おかしいな、鍵はこれでもかってほどしっかりとかけてるのに……。
開いた扉から、絵里があたしの部屋に侵入してきた。
「れーな〜! 朝ご飯食べに行こうよ〜!」
「……朝からよくそんなにハイテンションとね……」
「うわっ、れーな、寝癖ひどいよ? 絵里が梳かしてあげる!」
「ん〜……」
まだ半分寝ているあたしは絵里にされるがまま。
ベッドに座っていると、絵里が勝手に櫛で髪をとかしてくれる。
なんかちょっと気持ちいいかも……。
「なおった! じゃあ朝ご飯いこ〜!!」
「お〜……」
絵里に続いてあたしも部屋を出ようとしたけど……
「あっ、れーな、そのまま特訓行こうよ!」
「あ〜、そうだね」
あたしは部屋の隅に立てかけてある木刀を手にとって、部屋を出た。
- 6 名前:第1話 投稿日:2005/11/11(金) 13:03
-
第1話 復讐のための力
- 7 名前:第1話 投稿日:2005/11/11(金) 13:04
- 「うそだっ!!」
ロマンス王国城の書庫。
時が止まったような静寂を、あたしの叫びが引き裂いた。
「ほんとだよ」
全てが終わったら、きっと飯田さんが来てくれると思ってたのに……。
あたしと絵里の前に現れたのは紺野さんで。
「ホントに、飯田さんは死んだの」
「そんなこと……信じられるかっ!!」
「あっ、田中ちゃん!」
「れーなっ!!」
まだ痛む身体でなんとか立ち上がり、書庫を飛び出す。
うそだ、うそだ、うそだっ!! そんなことあるものかっ!!
飯田さんが……誰よりも強くて、誰よりも大きい飯田さんがっ!!
死ぬ……なんて……
「っつ!!」
溢れてきた涙を拭い捨て、あたしは走り続ける。
城中を回るけど、どこにも飯田さんはいなくて。
好きだと言ってた屋上も、今は荒れ果てていて、誰の姿もなかった。
コロシアム、ダンスホール、女王様の間……。
全てを回って、最後には城の外へと飛び出した。
でもそこにも、飯田さんの姿はない……。
- 8 名前:第1話 投稿日:2005/11/11(金) 13:05
- 「飯田さん、どこにいるんですかーっ!?」
「死んだの」
背後から声が聞こえた。
紺野さんが一歩一歩近づいてくる。
その瞳は冷たく凍っていて。
「私が殺したの」
「なっ!?」
一瞬で頭に血が上った。
紺野さんが……飯田さんを殺したっ!?
でもまだかろうじて残っていた冷静な部分が反論する。
「飯田さんが……あなたなんかに負けるはずがないっ!!」
「でも、飯田さんはどこにもいなかったでしょう?」
「……っつ!!」
これ以上は自分を抑えきれなかった。
気付いた時には拳を握りしめて、地を蹴っていた。
「うわああぁぁあっ!!」
でも紺野さんの身体がすっと消える。
そして突き出した拳は空を切った。
次の瞬間には背後で風が渦巻いていた。
「なにっ!?」
いつの間に背後にっ!?
でもそんなことを考えるまもなく、私の身体は竜巻によって吹き飛ばされた。
地面に倒れると、その場に紅い魔法陣が浮かび上がる。
周囲の空気が圧縮されていく。
「ギガ・フレア!!」
そして一気に膨張、爆発した。
私の身体は木の葉のように舞い上げられ、そしてまた地面へと落下した。
- 9 名前:第1話 投稿日:2005/11/11(金) 13:06
- 「がはっ……」
地面に突っ伏す。
身体に力が入らなくて、もはや立ち上がることもできなかった。
「田中ちゃんじゃ私に勝てないよ」
なんとか顔を起こして、紺野さんの顔を見る。
見たことないような冷酷な瞳があたしを見下ろしていて。
それでも負けじと、あたしはその瞳を睨みつける。
「魔法も使えないし、剣も我流でしょ? 格闘技に至ってはまったく素人同然だし。田中ちゃんじゃ
絶対に私には勝てないよ」
「たとえ今は無理でも……いつか必ず、飯田さんの仇を取ってみせます!」
紺野さんの口許が緩んだ。
瞳もいつものような温かい瞳に戻った気がした。
でも確認するまもなく、紺野さんはくるっと後ろを向いてしまった。
「それならハロモニランドに来なさい。どうせこの国にはいられないだろうし、私はずっと
ハロモニランドにいるから。それで強くなれたら、その時は私を殺して仇を討てばいい」
ジャリッジャリッと地面を踏みしめる音がし、紺野さんの背中が遠ざかっていく。
「絶対に殺してやるっ! 紺野あさ美ーーーっ!!」
その背中にあたしは吼えた。
- 10 名前:第1話 投稿日:2005/11/11(金) 13:09
-
◇ ◇ ◇
「はあっ!!」
気合いとともに木刀を振り下ろす。
でもすぐに木刀の先に別の木刀が現れ、打ち降ろしは完全に勢いを殺されて静止する。
「ダメダメ! スピードはちょっと上がったけど、攻撃がわかりやすすぎる。目が見えりゃ、
子供だって止められるぞ」
「くっ!」
もう一度木刀を引いて振りかぶろうとしたけど、その時にはすでに目の前にあった木刀は
消えていて。
次の瞬間には腰の辺りにパンッと衝撃が走る。
「つっ!」
「田中は攻撃が大きすぎるんだ。力に頼るんじゃなくて、もっと攻撃を鋭く素早くして、
手数を増やした方がいい。もともと力だってそんなにあるわけじゃないし、体格だって
恵まれてるわけじゃない」
あたしの剣の特訓をつけてくれてるのは、王宮騎士3番隊隊長の吉澤ひとみさん。
王宮騎士内では一番の剣の使い手だ。
「や、まぁ女の子としては十分カワイイ体付きと思うけどねぇ。欲を言えばもうちょっと胸が……」
「ひ、一言余計たい、吉澤さん! 人が気にしてることを!!」
「ぬはは、いっぱしの口叩いてないで、かかってこい!」
「ぬあーっ!!」
今度は平らにかまえた木刀を突き出すけど、吉澤さんは片手に提げた木刀で軽く払う。
「ダメだね、まだ立ち回りの幅が大きすぎるし、動きも見えすぎる」
さっきと同じところに衝撃が走る。
吉澤さんの身体が一瞬にして、あたしの背後に回り込んでいた。
- 11 名前:第1話 投稿日:2005/11/11(金) 13:10
- 「くっ……」
「こんな感じにすんのさっ!」
吉澤さんの木刀が消える。
そのあとすぐにあたしの木刀の上に衝撃。
速っ! それに、重い……!
「うわっ!」
あたしはそのまま吹っ飛ばされた。
「今のはウチが木刀の上を狙ってあげたけど、真剣でしかもちゃんと狙ったら、確実に
あの世行きだぞ?」
「くぅ……」
木刀を握っている手が痺れている。片手で打ったただの突きにもかかわらず……。
さすがは吉澤さんだ。でも、あたしは負けない!
絶対に強くなるんだ! 飯田さんの仇を討つために!
ようやく痺れのとれた手で、木刀を握りしめる。
立ち上がり、吉澤さんに向かっていくけど……
- 12 名前:第1話 投稿日:2005/11/11(金) 13:11
- ブチッ!
「え゛っ?」
下の方で嫌な音が聞こえた。
ちょっと音がしたほうを見てみると……
「う゛わっ?!」
「わおっ!」
ズボンに通したベルトが切れていた。
そういや吉澤さんが集中的に攻撃してた気がする……。
てことは、もれなく……
「わわっ!」
あたしは慌ててずり落ちたズボンを引き上げたけど……
「お〜、いいねぇ、黒! 見かけによらずけっこう激しいの履いてんじゃん!」
「〜〜〜〜〜っつ!!」
殺す……ぶっ殺す!!
ズボンを押さえたまま、木刀を握りしめたけれど。
その前に吉澤さんの首筋に、ぐさりと大鎌の柄がぶち当たり、吉澤さんは悶絶して倒れた。
「よっすぃー!! オイラというものがありながら、年下にセクハラしてんじゃねぇ!!」
「や、矢口さん……いつからいたんすかぁ……」
- 13 名前:第1話 投稿日:2005/11/11(金) 13:12
-
◇ ◇ ◇
「まったく……」
ズボンを押さえながら、お城の廊下を歩いていく。
吉澤さんが矢口さんにしめられてるあいだに、あたしは替えのベルトをとりに。
けっこうお気に入りだったのに……。
吉澤さんは確かに剣の達人だけど、あのセクハラ癖はどうにかならないものか……。
「はぁ……」
自分の部屋にたどり着き、あたしは鍵を開ける。
ドアノブを回して部屋に入ろうとしたけど、その時……
「あっ、田中ちゃん!」
一番聞きたくない声が聞こえてきた。
思わずその方向を睨みつける。
そこには5番隊隊長の紺野さんがいた。
「なんか用ですか、紺野さん?」
「ううん、特には用ないけど、私も自分の部屋に用があって」
なんでか知らないけど、あたしの部屋は紺野さんの部屋の隣で。
ちなみに逆隣は絵里の部屋。
しかもそれは紺野さんがそうしたらしい。あたしの使っている部屋は本来二人部屋だというのに、
わざわざ。
まぁ、あたしとしてはベッドも部屋も広いし、ついでに紺野さんの寝首を掻きにも行きやすいってことで、
便利といえば便利なんだけど。
毎回ことあるごとに顔合わせなくちゃいけないってのはちょっといただけない……。
- 14 名前:第1話 投稿日:2005/11/11(金) 13:14
- 「……絵里は大丈夫なんですか?」
絵里は紺野さんに魔法の修行を受けている。
実力を考えれば、紺野さんはハロモニランドで一番の魔法の使い手なので魔法を教えるには
適任だ。
まぁ、もちろんあたしは思いっきり反対した。飯田さんを殺した憎い仇に教わるなんて……。
でも結局絵里は紺野さんに魔法を教わることになった。
「亀ちゃん? うん、順調に強くなってるよ」
「そうですか……」
「でもちょっと今ケガしちゃって。だから包帯とか取りに来たんだけど……」
「なにっ!?」
絵里が……ケガっ!?
あたしは思わず紺野さんに掴みかかった。
そのまま壁に紺野さんの身体を押しつける。
「絵里に何をっ!!」
「お、落ち着いて、田中ちゃん! ケガっていっても少し火傷したくらいで……」
「飯田さんだけじゃなく、絵里も……!」
紺野さんも抵抗していたけど、その抵抗が急に止んだ。
そして何かに気付いたように、急に顔をそらした。
なん……その反応?
- 15 名前:第1話 投稿日:2005/11/11(金) 13:15
- 「ぁ、あの……田中ちゃん……・」
「なんですかっ!?」
「えっと……その……ズ、ズボンが……」
「え゛っ……?」
そういやあたしは吉澤さんにベルトを切られて、それを替えるためにここまで来たのであって。
しかもようやく部屋に入る直前に、紺野さんに呼び止められたのであって。
こんなふうに、両手で紺野さんを押さえ込んだりしたら……
「うわっ!?」
一瞬で顔が熱くなる。
慌てて紺野さんから手を離し、ズボンを引き上げた。
そのあとでまた紺野さんの方に向くと、紺野さんも真っ赤になっていて。
目があったけど、紺野さんがすぐに目をそらした。
「あっ、み、見てないよ! 黒の下着なんて見てないから……」
「しっかり見てるじゃないですかあっ!!」
あたしはさっさと新しいベルトを締めるために、部屋の中に飛び込んだ。
吉澤さん、あとで覚えてろっ!!
- 16 名前:第1話 投稿日:2005/11/11(金) 13:17
-
◇ ◇ ◇
〜紺野あさ美〜
「はい、これで大丈夫!」
「あ〜、すいません……」
亀ちゃんの手当てが終わり、私はあまった包帯をしまい込んだ。
「さて、それじゃあ訓練を再開しましょう、紺野さん!」
「う、うん……」
笑顔の亀ちゃんに、私は少し戸惑ってしまう。
思えばハロモニランドに来てから亀ちゃんは私に対していたって友好的だ。
田中ちゃんにはさっきみたいに、思いっきり敵意をぶつけられているにもかかわらず。
また私もそういう方向に仕向けたにもかかわらず。
ちょっと亀ちゃんが何を考えているのかが気になった。
「あの、亀ちゃん」
「はい? なんですか?」
「亀ちゃんは、その……私のこと恨んだりしてないの?」
「えっ?……あぁ、れーなは思いっきり恨んでるみたいですねぇ」
クスッと笑って亀ちゃんはその場に腰を下ろした。
私も隣に座り込む。
「えっと、絵里はですねぇ、確かに飯田さんのことは大好きでしたけど、でも絵里の一番は
飯田さんじゃないんですよ。絵里の一番は別の人なんです」
「えっ?」
「れーなはきっと飯田さんが一番なんでしょうね。それこそ本当のお母さんみたいに
思ってたんだと思います。絵里もれーなも両親のこと知りませんから」
そう語った亀ちゃんはどこか悲しそうだった。
でもそれを振り払うように、亀ちゃんは私に笑顔を向けた。
- 17 名前:第1話 投稿日:2005/11/11(金) 13:18
- 「それに絵里は紺野さんが飯田さんを殺したって言うの、信じてませんから」
「えっ……!?」
急に話が私のことになったので、私は返すことができなかった。
「ど、どうしてそう思うの……?」
「だって、紺野さん嘘つくの下手ですもん! すぐにわかりますよぉ! わからないのは
れーなくらいです」
「うぅ……」
自覚はしてるけど、そんなにはっきり言われるとちょっと……。
やっぱりこの辺は亀ちゃんの方が年上だなぁ、って思う。
「ありがとうございます、紺野さん。絵里たちのこと考えて、あんな嘘までついてハロモニランドに
連れてきてくれたんですよね」
「いや、私はそんな……」
「絵里とれーなを騎士団に入れられるように、女王様にも掛け合ってくれたって聞きましたし」
「えっ、誰がそんなこと!?」
「塾長……じゃなくて、新垣さんが」
り、里沙ちゃ〜ん……、言わないでって言っといたのに……。
頼むから田中ちゃんには言わないでね……。
「さて、それじゃあ特訓再会しましょうか!」
「う、うん……そうだね……」
なんとなく重くなった腰を上げて。
私たちはまた特訓を再開した。
- 18 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/11/11(金) 13:22
- 今回はここまでです。
はい、相も変わらずこんな感じで進めていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
あと、続編開始に伴い、こんなものも作ってみました。
よろしければ参考なんかに使ってみてください。
「王宮書庫」
ttp://magicbox.nomaki.jp/library/index.html
- 19 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/11/11(金) 18:04
- 更新お疲れ様です。
おお〜!!続編がくるとは思っていませんでした。
前作もかなりよかったと思っていたので、とても嬉しいですね。
今作も個人的に期待しています。
次回更新も楽しみに待っています。
- 20 名前:闇への光 投稿日:2005/11/11(金) 21:42
- 更新お疲れ様です。
ほう、あの後、裏でそうなっていましたか。
これからどの様に展開していくか楽しみにしてます。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 23:53
- 更新お疲れ様ですっ。
実はサイトにこっそりお邪魔して予習復習してたり…
やっと!続編が読めるんですね〜v
楽しみに、最後まで読み続けます!
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/12(土) 00:10
- とうとう続編というか番外編?執筆ですか!待ってました!
無理せず作者さんのペースで書いていってくださいね!応援してますよ!
- 23 名前:みっくす 投稿日:2005/11/12(土) 07:47
- 更新お疲れさまです。
おお、待ちに待った続編開始だ。
今回は、どういう話になるのかな。
次回を楽しみにしています。
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/13(日) 13:09
- 初レスです。前作から拝見させていただいてたんですが…。
相変わらず面白いです。れなえりはそれなりに(?)仲良くやっているのですね。
細部まで設定や伏線が張り巡らされていてついつい惹きこまれてしまいます。
「ゲーム化したら面白いのに」とか思いながら楽しく見ています。
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/13(日) 21:43
- サイトの予告編カッケー!
これからも我々を楽しませて下さい。
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/14(月) 02:31
- 数ヶ月前、総合質問板でファンタジー系の面白い小説として前作が紹介されていて読んでファンとなりました
以来、更新情報を見るのが楽しみで終わりを楽しみつつも寂しくも感じていましたが連載を再開されて嬉しい限りです
がんばってください
ところで、紹介されてるHPのTOPに戻るとパス制になってますよね?
あの答えって何なのかわかりません
できたら教えてください♪
- 27 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 15:55
- 〜田中れいな〜
「ふぁ〜、疲れた……」
部屋に戻ったあたしは、木刀を放り投げ、ベッドの上に転がった。
結局午前中の訓練では吉澤さんには一撃も当てることができず、逆に取り替えた二本目の
ベルトも壊されかけた。
「あ〜、でももうちょっとだと思うんだよなぁ〜……」
手応えはだんだん出てきている。
実力は確実についてきてるはず。
もう少しすれば、今までされたセクハラの恨みを晴らせると思うんだけど。
あのすかした面に一撃叩き込んでやると!!
コンッコンッ!
そんな物騒なことを考えていると、部屋のドアがノックされた。
あたしの部屋を訪ねてくるのなんて、だいたいは絵里か、紺野さんか、新垣さん。
新垣さんは今は確か保田さんと特訓中なはずだから、残すは絵里か紺野さん。
どうしよう……とりあえず居留守つかっとこうか?
- 28 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 15:55
- 「れーな〜、居るんでしょ〜?」
でも外から聞こえてきたのは、紺野さんの声じゃなかった。
なんだ、絵里か……。
あたしはベッドから起きあがって、ドアを開けてやる。
「お〜、やっぱれーないた〜! 特訓終わったんだ〜!」
「絵里も終わったんだ。ケガ大丈夫と?」
「うん、ちょっと火傷しただけだから。紺野さんが大袈裟に手当てしてくれたけど」
そういいながら絵里はベッドの上にポーンとダイブする。
あたしも同じように、絵里の隣に寝っ転がる。
二つあったベッドを放り出してかわりに入れたセミダブルのベッドは、二人で寝ても
まだ余裕があった。
「れーな、さっき居留守つかおうとしたでしょ〜?」
「別に、絵里ってわかってたら使わなかったとよ」
「紺野さんだと思ったの?」
「あの人、なにかとれいなのことかまってくるんよ」
「ふ〜ん……」
そこで一瞬間が空いた。
絵里のほうを見ると、絵里もあたしのほうを見ていたようで目があった。
- 29 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 15:56
- 「そんなに紺野さんのこと嫌い?」
「大っ嫌いと!」
「はぁ〜……」
即答すると、絵里は大袈裟に溜め息をついた。
「コドモだなぁ、れーなは」
「なっ!? 絵里に言われたくなかっ!!」
でも、絵里は絶対精神年齢はあたしより下のくせに、たまにものすごく大人の目をする。
今もそんな目で、その時は絶対あたしは何も言い返せなくなる。
「本当に紺野さんのこと嫌い?」
「だから嫌いやって!」
「本当に〜?」
じーっとあたしの目を覗き込んでくる絵里。
なんとなくそれに耐えられなくて、あたしは目をそらして枕に顔を埋めた。
「あ〜あ、なんか紺野さんに嫉妬しちゃう」
「なん? 絵里はれいなに恨まれたいわけ?」
「ん〜、恨まれたくはないかなぁ」
絵里はベッドの上を移動すると、うつ伏せに寝ていたあたしの上に乗っかってきた。
「ぐえっ! 絵里、重いっ!!」
「失礼な! そんなに重くないよ!!」
「そんなこといいから、さっさとどけ!!」
「や〜!!」
"や〜!!"じゃなか!!
どれだけ可愛く言ってもあたしには効果なし!!
まったく、やっぱりあたしよりも絵里はお子様と!!
しばらく壮絶なバトルを展開して、ようやくあたしは絵里を振り落とした。
- 30 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 15:57
- 「ぶ〜、れーな冷たい」
「絵里には少し冷たいくらいが丁度いいけん」
「やさしくしてよ〜!!」
振り落とされても絵里は諦めない。
今度は正面からあたしに抱きついてくる。
「だからなんていちいちれいなに引っ付くと!?」
「だってこうしたほうがれーなの顔よく見えるんだもん!」
ムギュッとベッドの上に押しつけられる。
絵里はニコニコ顔であたしの目を覗き込んでいて。
暴れても今回は振り落とせなくて、しょうがないから諦めた。
「やっぱり絵里のほうがお子様とよ」
「どうかなぁ〜? 意外と絵里は大人なのよ? れーなも悩殺しちゃうよ〜!」
あたしの上で妙ちくりんなポーズをとる絵里。
なん? セクシーポーズのつもりなん?
「そういうポーズはもうちょっと成長してからすると」
「れーなに言われたくない! れーなの方がちっちゃいじゃん」
「なんやと!!」
どいつもこいつも!!
これからちゃんと成長するとよ!!……たぶん……。
とりあえずむかついたから、間近にあった絵里のほっぺたを思いっきり引っ張る。
- 31 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 15:58
- 「いひゃい、いひゃい……」
「お〜、よく伸びると」
「ほんとーのことなのにぃ……」
「懲りないっちゃね」
今度は引っ張ってたほっぺたをねじってみる。
さすがに絵里が涙目になってきたので、そのへんでやめてあげた。
「れーなひどいよー!!」
「当然の報いやって。ほら、また引っ張られる前にさっさとれいなの上からおりんしゃい」
ほっぺたを離してやると、絵里はすごすごとあたしの上から下りた。
つーか、絵里とふざけてるあいだにずいぶんと時間が経ってしまったみたい。
もうすぐ午後の訓練始まっちゃうじゃん!
「絵里、もう昼休み終わっちゃうとよ!」
「ホントだ! 紺野さんとこ行かなきゃ!」
「気をつけるとよ」
「大丈夫だよ〜!」
ベッドから飛び降りると、パタパタッと出口へ向かう絵里。
でも部屋から出る時に立ち止まり、くるっとあたしの方を向いた。
「れーな、明日は一緒に見回りだよね?」
「あ〜、そうやね」
「頑張ろうね〜!」
そして絵里は出ていった。
あたしもそろそろ準備しないと。
今度こそ吉澤さんぶっ飛ばしてやるけん!!
- 32 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 15:59
-
◇ ◇ ◇
翌日。
まだ早朝にもかかわらず、あたしは城の裏庭に立っていた。
今日は絵里と一緒に近隣の町の見回りだから、吉澤さんと剣の訓練ができなくて。
そういう時は朝早く起きて、一人で剣術の特訓をしている。
ま、眠いんだけど、こういうのは日々の積み重ねが大事だしね。
スッと鞘から剣を抜いて、構える。
一人の練習の時はいつも真剣を使っている。
隊から支給されたバスタードソード。
チラッと左手の中指を見る。
そこには黒い宝玉の指輪が輝いていた。
あの時、ロマンス王国で紺野さんと戦った時から、ダークブレイカーは眠ったままになっている。
何度も呼び出そうとしたが、ダークブレイカーはまったく応えてくれなかった。
もうかなりの時間が経っているので、魔力は回復したはずなのに。
同じく魔剣を使っているなっちさんや、以前使っていた女王様に訊いてみても、
わからないということで。
結局今のところは隊から支給された剣を使っている。
- 33 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 16:00
- 「ハッ!!」
目の前に敵の影を思い浮かべて剣を振るう。
なんとなくその影が吉澤さんに見えるのは気にしない。や、そのほうが気合い入るし。
もっと速く、もっと鋭く、そしてもっと強く!
吉澤さんの剣を受け流し、自分の剣を疾らせる。
でも最後は結局吉澤さんの剣があたしを穿って、影は消えた。
「ふぅ……」
パチンと剣を鞘に収める。
浮き出た汗が頬を伝って地面に落ちた。
と、その時風が一陣吹き抜けた。
裏の森から飛ばされてきた葉がヒラヒラと辺りに舞い落ちる。
あたしはもう一度剣を抜いた。
呼吸を整え、意識を高める。
ヒラリと一枚の葉が目の前を通りすぎた。
その瞬間に剣を一閃させ、また鞘に収める。
足下に真っ二つに斬れた葉が落ちた。
「わぁ、お見事!」
急に背後から声と拍手の音が聞こえた。
余韻に水を差すような、ほんわかとした声。
「なんか用ですか、紺野さん?」
あたしは振り向きもせずに言い放つ。
- 34 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 16:01
- 「ん〜、特に用はなくて、ただちょっと昨日実験室で遅くまで研究してたから。目を覚ますために
外の風にでもあたろうかと思って。あっ、そうだ、田中ちゃん! ちょっと私の研究に付き合ってくれない?」
「謹んでご遠慮します」
辻さんたちからいろいろと聞かされているので。
えぇ、そりゃいろいろと。
「ちぇっ、じゃあまたのんちゃんたちにでも頼むからいいや。それよりこんな朝早くから特訓?
えらいねぇ」
「訓練せずにあなたを殺せるとは思ってませんから」
「うん、がんばってね」
紺野さんはポテポテとあたしの側まで寄ってきて。
そして取りだしたハンカチで、また垂れてきたあたしの頬の汗をそっと拭った。
「なっ……?」
柔らかい感触が頬を撫でる。
目の前にいる紺野さんは、ニコッと笑って……
「でも、無理はしちゃダメだよ?」
それだけ言って紺野さんは帰っていった。
あたしはしばらくその場に立ちつくして、紺野さんの後ろ姿をボーっと見ていた。
そっと頬を触ると、感触が蘇ってくるような気がした。
- 35 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 16:03
-
◇ ◇ ◇
「あっ、れーな〜! 美味しそうなもの売ってるよ〜!!」
「絵里……今は一応仕事中と……」
「でもちょっとくらいデート気分を満喫してもいいじゃ〜ん!!」
「れいなは絵里とデートするほど趣味悪くないけんね」
あたしは今絵里と一緒に街の中を歩いている。
つっても絵里がほざいてるようなことでは決してなくて。
「だってぇ、見回りなんかしなくったってハロモニランドは十分平和だって!」
「それじゃつまらんと……」
今日は街の見回りの任務ということで、ゼティマから少し南にある街「ハクア」までやってきた。
たまにこうして騎士としての仕事が割り当てられているんだけど、今のハロモニランドは
十分すぎるほど平和なのであって。
実際今まで何回か見回りしたことがあったけど、あったことといえば住民が小さないざこざを
起こしてたりしたぐらい。
喧嘩両成敗ってことで、両方ぶちのめして終了……。
まぁ、そのあとで新垣さんにこっぴどく怒られたけど……。
「あ〜あ、なんか大きな事件とかないと〜?」
「れーな、不謹慎……」
だってさぁ、いくら訓練してもそれを試す機会がないんだも〜ん!!
まだ紺野さんを殺せるだけの力はないってわかってるけど、それでも自分がどれくらい
強くなったかってのは興味がある。
でもたまぁにモンスターが出没したとかで、4番隊として出動しても、あたしはいっつも
後衛押しつけられて。
絵里は魔法使いだから後衛なのはわかるけど、なんであたしまで一緒くたに後衛にされると?
あたしは剣士なんだから、後ろにいたらなにもできないじゃん!
- 36 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 16:03
- 「あ〜、ヒマだぁ〜……」
こんなんだったらまだ吉澤さんと特訓してたほうが有意義な気がする。
まぁ、あれはあれで身の危険が伴うけどね。別の意味で……。
そんなことを考えながら、街の外れまでやってきた。
なんも起こら〜ん……超ヒマたい……。
でもそんなあたしの耳に微かなざわめきが届いた。
もしかして、なんかあった!?
「れーな、嬉しそうだね?」
「そんなことなかよ?」
そう言いながらもあたしはざわめきの元まで全力疾走。
見ると街の出口に人だかりができていた。
「なんかあったと?」
「あっ、これは騎士様、いいところに!」
あたしは人だかりの中にいた一人の男を捕まえた。
「それが、南にある森でマンイーターが大量発生したようで……」
「マンイーター!?」
確か、人間を餌にする植物のモンスターだよね?
森や林に群れを成して生息し、迷い込んだ人間を食べるっていう。
「よしっ、絵里、行くよ!!」
「あっ、れ、れーなっ!?」
その場にいた人々の静止の声にも耳をかさず、
あたしは絵里を引っ張って、ハクアの森へと駆け出した。
- 37 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 16:04
-
◇ ◇ ◇
「行くよ、絵里!」
「ねぇ、やっぱり戻った方が……」
「ここまで来ちゃったんだから、もう行くしかないと!」
あたしと絵里は森の入り口までやってきた。
ぐずる絵里を背にして、あたしは剣を抜く。
せっかく特訓の成果を試す機会が巡ってきたってのに!
援軍なんて呼んじゃったら、またあたしが戦えなくなっちゃうじゃん!
「ほら、行くよっ!!」
「ま、待ってよ〜!!」
あたしが森の中へと走り出すと、結局絵里も杖を握ってついてきた。
道に沿って走っていく。
確かに気配を感じる。それもいくつもの。
「! 絵里、来るよ!」
「えぇ〜!? もう、しょうがないなぁ!!」
その瞬間、前方にマンイーターが飛び出してきた。
綺麗な花弁と対称的に、その中央には禍々しい口と牙が開いていて。
鋭い根と、棘が突き出た触手が蠢いている。
そのマンイーターが四匹。準備運動としてはまぁまぁじゃない?
チャキッとバスタードソードを構える。
- 38 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 16:05
- 「絵里、援護してね!」
「う、うん!」
ダッと地を蹴る。
背後から微かに絵里の詠唱が聞こえてくる。
なんか懐かしい。
絵里と二人で戦う時はいつもこうで、飯田さんの元にいた時はよく……
「……っつ!」
今は感傷に耽っている時じゃない。
グッと剣を握りしめる。
「ハッ!!」
剣を斜め上から振り下ろす。
マンイーターの茎が真っ二つになり、花が地に落ちて散った。
まずは一匹!
『シャアアァァアアッ!!』
別のマンイーターが触手を振り上げて襲ってきた。
剣を持ったままそっちを睨むけど。
……あれっ?
モンスターの動きって……こんなに遅かったっけ?
触手を難なくかわす。
そのかわしざまに剣を一閃。
触手が途中から斬れて宙に舞った。
- 39 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 16:05
- 「れーな、伏せてっ!!」
後ろから絵里の声が聞こえてくる。
あたしは言われたとおりに身を屈める。
「ファイア・ランス!!」
あたしの身体の上を炎の槍が飛んでいく。
マンイーターの身体に突き刺さり、火柱を上げて炎上した。
「ナイス、絵里っ!!」
「れーな、一気に行くよっ!!」
絵里が杖を掲げて魔力を集める。
熱い魔力が集まっていくけど……。
その絵里めがけて、ピキピキッと地面が割れていく。
しまった、根が……!
「絵里っ!!」
「えっ……?」
絵里の元へと駆けよる。
そしてまだ状況を理解していない絵里を抱きかかえ、跳躍した。
- 40 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 16:06
- 「れ、れーな……」
地面を割って鋭い根っこが何本も飛び出してきた。
あたしは剣を振ってそれらを斬り飛ばしていく。
「絵里、大丈夫と?」
「う、うん、ありがとう……」
着地するけど、また足下から根っこが飛び出す。
仕方ないので絵里を抱きかかえたまま、またジャンプ。
地面から突き出る根っこと、振られる触手。
「チッ、これじゃあ魔法が使えない……」
魔法を使うには精神を集中しなければならない。
でもこんな跳んだり跳ねたりを繰り返している状態じゃ……。
魔法を使わせないつもりか。
それにこれじゃいずれあたしの体力も……。
でも……
「大丈夫、ちゃんと魔法使えるよ!」
「えっ、でも……」
あたしの腕の中にいる絵里が呟く。
「ちゃんと集中できると?」
「大丈夫、れーなが側にいてくれるから」
襲ってきた触手を斬り捨てる。
- 41 名前:第1話 投稿日:2005/11/18(金) 16:07
- 「ちゃんと絵里のこと守ってくれるでしょ?」
「あったり前と! 孤児院出る時そう誓った!」
「信頼してるよ!」
それだけ言うと、絵里は杖をしっかりと握って呪文の詠唱を始めた。
しっかりと腕の中から聞こえてくる詠唱。
すごい、ちゃんと詠唱できてる……。
着地と同時にまたジャンプし、襲ってきた根を切り裂く。
すると絵里の持つ杖が紅く輝いた。
「絵里、行けそう?」
「うん、大丈夫!」
「よし、さっさと終わらせると!!」
何回目かの着地と同時に絵里を離す。
絵里が杖を掲げると同時に、地面に紅い魔法陣ができあがる。
「絵里っ!!」
「行くよ、れーな!! フレイム・ウォール!!」
魔法陣から炎柱が立ち上る。
根を、触手を、全てを炎が焼き尽くしていく。
「はあっ!!」
炎の中を走る。
剣を構える。
そして残っていたマンイーター二匹を一気に斬り飛ばした。
「よしっ、さくさくっと行くよ、絵里っ!!」
「はいはい、もう、しょうがないなぁ」
- 42 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/11/18(金) 16:15
- 今回はここまでです。
ちょっとはファンタジーらしさも出てきたでしょうか?
れなえりは動かしやすくて助かります(ぉ
>>19 春嶋浪漫 様
続編のような、続編じゃないような……。
なかなか微妙な感じの新作ですが、今回も楽しんでいただけるように頑張ります。
>>20 闇への光 様
はい、前作では書けませんでしたが、一応れなえりがハロモニランドに来た背景はこんな感じでした。
前作ともちょっとずつリンクしつつ、書いていきたいです。
>>21 名無飼育さん 様
サイトの方も役立てていただけたようで幸いです。
ようやく続編も開始できたので、また楽しんでいただけたらと思います。
>>22 名無飼育さん 様
番外編と言うには少々長すぎるような気もしますが(笑
最後まで頑張って書ききりたいと思います。
- 43 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/11/18(金) 16:26
- >>23 みっくす 様
まだストーリーはそんなに動いてませんが、少しずつ動き出すと思います。
掲載、こちらこそよろしくです。
>>24 名無飼育さん 様
れなえりはけっこうそれなりに仲良くやっているようです。
というか、ハロモニランドに来てもあんまり変わってないかも?
確かにゲームみたいな要素はあるかもしれませんね?
>>25 名無飼育さん 様
予告編も見ていただいたようで、ありがとうございます。
予告に出ていたセリフたちは本編でもいつか出てくる予定です。
>>26 名無飼育さん 様
ついに連載を再開いたしました。期待に応えられるよう頑張ります。
私のメインHPはパス制をとっています。
メールで訊いてくださればお教えしますので、お気軽にお尋ねください。
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/19(土) 00:38
- エエデエエデ
- 45 名前:みっくす 投稿日:2005/11/19(土) 07:00
- 更新おつかれさまです。
それぞれの思いが、複雑に交差していきそうな予感。
次回も楽しみにしています。
- 46 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/19(土) 22:21
- 更新お疲れ様です。
このコンビ、なんとな〜くリズムがあってるような気がしていいですね。
次回更新頑張って下さい。
- 47 名前:第1話 投稿日:2005/11/26(土) 17:47
- 〜紺野あさ美〜
私は今日も魔法の研究中。
今までに集めた資料と、それに基づいて重ねた研究を実践してみる。
といっても今日は地下の研究室じゃなくて城の庭。
今創っている魔法は、完成すれば間違いなく私の最強魔法になるわけで。
研究室壊したくないので、外での特訓。
「ふー……」
精神を集中して、魔力を増幅させる。
理論上は可能なはずなんだ……。
ロマンス王国での戦いが終わってから、ずっと研究していた魔法。
それを初めて実践に移してみる。
雷の魔力を右手に集めてみる。
すると手のひらの上に、黄色に輝く球体ができあがる。
「魔玉」と呼ばれる魔力の塊。
そのまま放てば、プラズマシュートやファイアーボルトのような、超初歩の魔法になる。
今度は地の魔力を左手に集めてみる。
同じように手のひらの上にダークブラウンに輝く地の魔玉ができあがる。
炎・水・風・雷・地。使うことのできる五つの属性。
この属性を全て統合させることができないか……。
その考えから辿り着いたのが、この魔玉を使った方法。
全ての属性の魔玉を作り上げ、それを魔法陣に組み込んで、一つの魔法へと融合させる。
- 48 名前:第1話 投稿日:2005/11/26(土) 17:49
- 魔玉はもうショートカットして作れるようになった。
ただ、手から切り離して魔力の供給を絶ったあと、魔玉がその形で保っていられるのは
ほんの数秒。
その数秒で全ての魔玉を作り上げて魔法陣に組み込まなくちゃいけない。
スッと手を左右に開く。
そして意を決して、魔玉を手から切り離す。
次の魔力を集めながら、手を上下に移動させる。
上に風の魔玉、下に水の魔玉をセットする。
正方形を描き出す、四つの魔玉。
これが最後。
両手を中央にあわせ、炎の魔力を集めようとしたけど……
「あっ……」
セットした魔玉が次々と消えていった。
今のままじゃ遅すぎる……。
もっと速くしないと、作れない。
そのあともう少しやってみたけど、結局最後まで行くことはなかった。
ま、しょうがないか……最初からできるとは思ってないし。
少しずつ時間を縮めていければ、いつかは完成するはずだから。
気長にやっていこう。
とりあえず今日の訓練はここまでにして、研究室へと帰ろうとすると……
「あっ、あさ美ちゃん、こんなとこにいたんだ!」
「あ〜、里沙ちゃん!」
里沙ちゃんに呼び止められた。
里沙ちゃんの手には投擲用のナイフが握られたままになっていて。
- 49 名前:第1話 投稿日:2005/11/26(土) 17:50
- 「里沙ちゃんも特訓?」
「うん、保田さんとね。あ〜あ、ナイフも教えてくださいなんて言うんじゃなかったぁ〜……」
「で、順調なの?」
「まぁ、ボチボチ。……って、そうじゃなくて! あさ美ちゃん、ちょっとハクアまで連れてって
くれない?」
「ハクア?」
「うん、アタシハクアって行ったことなくてさぁ」
シャドウホールは一回行ったことがあるところにしか行くことができない。
私は前に一回ハクアには行ったことあるけど……
「いいけど、でも、なんで?」
「なんかハクアの森でマンイーターが大量発生したみたいなんだよね。しかもハクアを
見回ってた亀井ちゃんと田中ッチが二人だけで先走りやがったみたいで……」
ふ〜ん、亀ちゃんと田中ちゃんか……。
里沙ちゃん、隊長大変そうだねぇ……。
少しは私の苦労がわかってくれたかな?
「わかった、それじゃあついでに手伝ってあげるよ」
「あ〜、助かるわ。さっさと戻らないと保田さんに山ほど宿題出されちゃう」
「フフッ」
呪文を唱えると、私の影が動いて魔法陣を作り出す。
魔法陣が完成すると、里沙ちゃんがその上に乗ってきた。
「それじゃ、行くよ!」
魔法陣から光と闇が溢れ出す。
「シャドウ・ホール!」
- 50 名前:第1話 投稿日:2005/11/26(土) 17:51
-
◇ ◇ ◇
〜田中れいな〜
そのあとあたしたちは順調にマンイーターを蹴散らしていって。
けっこう森の奥まで進んできた。
「はぁっ!!」
マンイーターの一匹を真っ二つに切り裂く。
「絵里、そっちは?」
「すぐ片づける!」
絵里が杖を高くかざす。
「バーニング・オーラ!!」
杖の先から炎が放たれる。
その炎がマンイーターを飲み込んだ。
「終わりっ!!」
「よっしゃ!」
これでだいたいこの辺りのマンイーターも掃討できたと思う。
なんだ、案外たいしたことないじゃん。
いや、違うか。あたしたちが強くなってるのか……。
あんな吉澤さんの特訓でもちゃんと実力がついてるんだなぁ。
ちょっと感謝かも。あんまり感謝したくないけど……。
- 51 名前:第1話 投稿日:2005/11/26(土) 17:52
- 「さて、絵里、先に進むとよ」
「うん、でもさぁ、れーな」
「なん?」
「もうけっこう奥まで来たよ? そろそろ引き返したほうがよくない?」
「でもまだマンイーターがいるかもしれんやろ?」
「そうだけどさぁ……絵里もう……」
その時、絵里の言葉を遮るように、近くの木々ががさがさとざわめいた。
ほら、言ってるそばから。
その方向に剣を向ける。
「ほら、絵里、さっさと構えると!」
「えぇ〜!?」
臨戦体勢を整える。
さぁ、来てみろ!
やがてがさがさという音が止み、木々のあいだから派手な模様の花弁が現れた。
でも……
「えっ……?」
「こ、こいつは……?」
そのマンイーターはいままで戦ったマンイーターより一回りも二回りも大きかった。
辺りを囲む木々くらいの高さがあり、それに見合った太さの触手が蠢いている。
こいつは……マンイーターの亜種、キングイーター!?
- 52 名前:第1話 投稿日:2005/11/26(土) 17:53
- 「やばっ!」
飛んできた触手をかわす。
そして気を引き締める。
こいつは今まで戦ったマンイーターとはレベルが違う。
絵里と二人で勝てるかどうか……?
「絵里、援護してね」
「む、無理〜!」
「はぁ!?」
「絵里、もう魔力が少ししか残ってないの〜!」
な、何ーっ!?
慌てて後ろの絵里のほうを見る。
「な、なんでそういうことをさっさと言わんと!!」
「さっき言おうとしたよー!!」
「あとどれくらい残ってると?」
「フレイムウォール一発くらい」
それは"ほとんど残ってない"って言うと!!
「……シャドウホールは?」
「無理」
確かに転移魔法はけっこう高等魔法だしね……。
……どうしよう?
絵里と力を合わせてもたぶんギリギリなのに、その上絵里がもうほとんど戦えないんじゃ……。
あたし一人ではさすがにちょっと厳しいだろうし……。
- 53 名前:第1話 投稿日:2005/11/26(土) 17:53
- 「しゃあない。絵里、戦ってみて倒せそうだったら倒すけど、無理そうだったら
隙を見て逃げるよ。なんとか省エネで戦って!」
「うん、やってみる」
剣を構えて、ジリジリと間合いをつめていく。
でも当然ながら相手のほうが間合いが広くて。
棘の突き出た太い触手があたしに向かってくる。
「くっ……」
触手の前に剣を差し出す。
触手はすっぱりと斬れて、その場に落ちた。
隊の支給品とはいえ、切れ味は一流。
そのまま一気に間合いを詰めようと、走るけど……
ビキッ!
正面の地面が割れた。
慌てて急停止すると、そこから無数の根が突き出した。
なんとかバックステップしてかわすけど、おかげで結局また距離が空いてしまった。
さらに、花の中央にある口が開かれ……
「!?」
なにかが口から吐き出された。
また地を蹴ってかわすと、それは背後にあった木に当たって。
木がそこから一瞬で溶け、その場に倒れた。
「溶解液っ!?」
あんなのまともにくらったら骨ごと溶けてしまいそう……。
背筋がぞっとする。
なんとか間合いを詰めないと、あの溶解液で狙い撃ちされる。
でもあの触手と根の波状攻撃では、間合いを詰めるのも容易でなくて。
となると……
- 54 名前:第1話 投稿日:2005/11/26(土) 17:54
- 「絵里、あの触手と根をなんとか焼き払える?」
「やってみる。でも……絵里はこれでラストだよ……?」
絵里が手に持った杖に魔力を集め始める。
かなり辛そうだけど、それでも今は絵里に頼るしかない。
またキングイーターの口から溶解液が吐き出される。
今度は後ろに絵里がいる。避けるわけにはいかない。
ベルトから鞘を抜き取り、鞘で弾く。
鉄拵えの鞘なのに溶解液が当たったところは溶けかけていた。
「こっちだ、化け物!!」
注意をあたしに引きつけておく必要がある。
鞘をキングイーターめがけて投げ、あたしは絵里から離れる。
キングイーターは鞘を触手で弾き、狙い通りあたしを追ってきた。
吐き出される溶解液をかわす。
触手を斬り飛ばす。
でも近づこうとすると足下から飛び出す根が邪魔をする。
「絵里、できた!?」
「うん、いくよ、れーな!!」
ジャンプして根をかわす。
その時背後にあった木を蹴って、再びキングイーターへ向かっていく。
再び根が突き出すが、その地面に紅く輝く魔法陣が広がった。
「フレイム・ウォール!!」
炎の壁がキングイーターを包みこむ。
一気に決める!!
剣を握って走るけど……
- 55 名前:第1話 投稿日:2005/11/26(土) 17:55
- ビュンッ!!
「なっ!?」
炎の壁から触手が飛び出した。
そんな……!
触手を剣で弾くと同時に、炎の壁が消えた。
キングイーターは全くの無傷で……。
まさか……植物なのに炎に耐性があるの!?
「ヤバイ……絵里っ!」
絵里の方を向くと、絵里はその場にしゃがみ込んでいた。
「絵里ッ!!」
「はぁ…はぁ……」
絵里に駆けよる。
絵里は深く呼吸をして、かなり辛そうだった。
魔力を使い果たしてしまったからだ……。
「れーな……れーなだけでも逃げて……」
「そんなことできるわけないと!」
立ち上がると、そこに触手が襲いかかってくる。
また剣で迎え撃つけど……。
今度は触手が剣に絡みついてきた。
「あっ……!?」
そのまま剣が引っ張られる。
その力に耐えられず、思わず剣を手放してしまった。
- 56 名前:第1話 投稿日:2005/11/26(土) 17:56
- ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……!
まさしく絶体絶命。もう身を守るものが何もない……。
キングイーターがジリジリと迫ってくる。
そして触手が振り上げられた。
くっ……。
絵里を守るように抱きしめて、思わず目を閉じた。
カッ!!
でもその時、微かな音が耳に届いた。
目を開けてその方向を見ると、ナイフが一本地面に刺さっていて。
キングイーターの動きがピタッと止まっていた。
「これって……?」
「よっしゃ、成功!!」
あたしたちの目の前にスタッと現れたのは……
「新垣さん!」
「じゅ、塾長……?」
「だから隊長って呼べって。それにアタシだけじゃないよ?」
「えっ……?」
動きを止めたキングイーターの下に紅い魔法陣が現れる。
強く輝くその魔法陣は、絵里の使った魔法よりもずっと強力な魔法で。
- 57 名前:第1話 投稿日:2005/11/26(土) 17:58
- 「メギド・フレイム!!」
魔法陣から灼熱の炎が溢れ出す。
熱風が辺りを包みこみ、炎が突き抜けた。
「よかった、間に合って」
「あっ……」
「お疲れ様、あさ美ちゃん」
その場に現れたもう一人は、紺野さんだった。
あたしたち、助かったんだ……。
でもホッとした瞬間、炎の向こうで影が動いた。
「!! 紺野さん、そいつは炎に耐性があると!」
「えっ?」
炎の中から飛び出る触手。
寸前で新垣さんがシールドを張って遮った。
「炎が完全に無効化されてる?」
「そうみたいです。さっき絵里の魔法もまったくダメージをあたえられませんでしたから」
「そっか、でも、それなら別の方法に切り替えるけどね」
紺野さんがマンイーターと対峙する。
新垣さんもリボンをほどき、鞭に戻した。
「触手とかは全部アタシが引き受けるから」
「うん、よろしくね、里沙ちゃん」
言ってるそばから触手が向かってくる。
新垣さんがスッと紺野さんの前に出た。
辺りを風が渦巻く。
その風が新垣さんの鞭に集まってきた。
- 58 名前:第1話 投稿日:2005/11/26(土) 17:59
- 「ウィング・セイバー!!」
新垣さんの鞭に風の刃が宿り、縦横無尽に舞った。
線が連なって面と成る。
その面に触れたものは、全て否応なしに切り裂かれた。
「あさ美ちゃん!!」
「うん!」
冷たい風が吹き抜ける。
マンイーターの下に、今度は蒼い魔法陣が広がった。
「燃やすことができないなら、全て凍らせてあげる」
魔法陣が蒼く輝く。
「クリスタル・アブソリュート!!」
冷波エネルギーが辺りを包みこんだ。
今度こそ、動くものは何もなかった。
魔法陣が消えたあと、その向こうには氷漬けになったキングイーターがあった。
スッと紺野さんが手を前に出す。
「これで、終わり」
そしてパチンと指を鳴らすと、氷にヒビが入っていき、
パキィン、と音を立てて割れ、辺りにサラサラと細雪が降った。
「大丈夫だった、田中ちゃん、亀井ちゃん?」
「あっ、はい……」
あたしはそんな紺野さんの姿から目が離せなくって。
見とれてたと気づいたのは、それから少し経ってからだった。
- 59 名前:第1話 投稿日:2005/11/26(土) 17:59
-
- 60 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/11/26(土) 18:08
- 今回はここまでです。
ようやく1章が終わりました〜。
ついでに、今日は前作の主人公さんと握手してきました。
まさに天使でした(ぇ
さて、明日は猫れいにゃだ(ぉ
>>44 名無飼育さん 様
ありがとうございますです。
これからも応援いただけるよう頑張ります。
>>45 みっくす 様
ファンタジー以外で、そんなところもうまく書いていきたいです。
難しいですが、両立できるように頑張ります。
>>46 名無飼育さん 様
なんかれなえりのコンビは勝手に動いてくれるので書きやすいです(何
これからもいろいろと暴れ回ってほしいですね〜。
- 61 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/11/27(日) 20:34
- 更新お疲れ様です。
前者の2人と後者の2人の戦い方にはまだ差がありますね。
これからの成長に期待です。
ちなみに、私はまだ前作の主人公さんと握手したことない・・・
うう〜〜〜〜いつかは・・・
次回更新も楽しみに待っています。
- 62 名前:みっくす 投稿日:2005/11/27(日) 20:59
- 更新お疲れさまです。
れいなの心の葛藤がはじまりそうな予感・・
ちなみに、おいらは前作の主人公さんとは、1度だけ握手したことあります。
もう、8年も前ですが・・・
- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/27(日) 23:50
- 更新お疲れ様です。
私は前作の主人公さんが田舎に来たコンサートになら行った事あります。
…かなり遠くで見てきました。
ねこれいにゃは見れません。ど田舎なんで。
……悲しくなってきたのでまた読み返してきます…ウゥッ
- 64 名前:第2話 投稿日:2005/12/07(水) 13:40
- 〜紺野あさ美〜
地の魔力と雷の魔力を手に集める。
魔玉ができあがったら手から切り離し、今度は一気に手を上下に展開する。
同じように水と風の魔力を集め、魔玉をセットする。
そして両手を、四つの魔玉の中央に合わせたが、その瞬間に魔玉は次々と弾けて消えた。
「あっ……」
やっぱりまだ遅い。
しかも全然その速さが変わってない……。
これはかなり長期的な研究が必要かもなぁ。
「ふぅ……」
とりあえず実践はここまでにしておこう。
あとはもうちょっとショートカットのスピードが速くなる方法はないか、もう一回調べてみよう。
そう思って、私は地下への階段に向かったけど……
「あ、あれ……?」
ふらっと目眩がした。
なんとか壁に手をついて、倒れるのはこらえる。
「そういえば……最近研究ばっかりであんまり眠ってなかったな……」
そう気づくと一気に眠くなってきた。
寝ないと魔力も回復しないし、疲れも溜まるばかり。
「うぅ……しょうがない、ちょっと眠ろう……」
そう思い直し、私は向きを変えて自分の部屋へと向かった。
- 65 名前:第2話 投稿日:2005/12/07(水) 13:41
- 「ふぁ……」
階段を上って部屋に着くと、さらに眠気が襲ってきた。
やっぱりちょっと無理しすぎたかな……。
「んっ……おやすみなさい……」
別に誰に言うわけでもないんだけど……。
私はマントも脱がずにベッドの上に倒れ込んだ。
だんだんと……意識が微睡んでいく……
ガシャーン!!
「!?」
でも突如響いた破砕音。
眠ってた意識が一気に覚醒する。
慌ててベッドから飛び起き、目を開いて状況を確認する。
部屋の窓が割れていた。
床の上に砕けたガラスが散乱していて、
そのガラスを踏んづけて立っている女の人……。
- 66 名前:第2話 投稿日:2005/12/07(水) 13:41
- 「……!?」
誰……!?
見たこともない人。
しかもここ、三階なのに……。
何者かなんてわからない。
でも私は身構えた。
たいしてその人は身構えるでもなく、部屋の中をきょろきょろと見まわしていて。
その目は最後に私に止まった。
足下から頭のてっぺんまで視線が移動し、また正面に戻ってきた。
「おっと、しまった、もう一つ隣やったか。同じような窓ばかりやったから間違えてもうた」
「えっ!?」
隣!?
隣って……田中ちゃんのこと!?
「あなたは何者!? 田中ちゃんに何の用!?」
「田中ちゃん……? へぇ、田中ちゃんって言うんや。アタシらの間では『闇斬りの少女』としか
呼んでへんかったからな」
「な…に……?」
こいつは……何者……?
戸惑ってる私を見て、そいつはニヤッと笑った。
「でも『田中ちゃん』なんて、ずいぶんと親しいみたいやな。ちょうどええわ。それなら
『田中ちゃん』をおびき出すために使わせてもらうわ!」
「なっ……!?」
- 67 名前:第2話 投稿日:2005/12/07(水) 13:42
-
第2話 ファーストキス
- 68 名前:第2話 投稿日:2005/12/07(水) 13:43
- 〜田中れいな〜
「はあっ!!」
「うおっ……」
今日もあたしは吉澤さんと剣の訓練。
握った木刀を、眼前の吉澤さんめがけて振り下ろす。
吉澤さんの片手に提げた木刀がすっと現れ、打ち降ろしを止めるけど、すぐさま木刀を
引き戻し、今度は真横に振り抜く。
「おおぅ、ここ数日でずいぶんと素速くなったね……」
「れいなだってずっとやられっぱなしじゃないとよ!!」
吉澤さんに反撃の隙を与えず、木刀を振る。
より速く、より鋭く。
そのまま押し続ける。吉澤さんがジリジリと後退していく。
「ちっ……」
あたしの木刀を弾いた吉澤さんの木刀が旋回する。
そしてそのままあたしに向かって振り下ろされてきたけど……。
今だっ!!
手にした木刀の先端を地面へと突き刺し、一気に地を蹴る。
- 69 名前:第2話 投稿日:2005/12/07(水) 13:44
- 「えっ……?」
あたしは吉澤さんの頭の上を飛び越え、吉澤さんの背後に着地した。
「はあっ!!」
「げっ!!」
そのまま身体を半回転させ、木刀を振り抜く。
吉澤さんも同じように身体の向きを変えるけど、完全に意表をつかれたぶん、反応が遅くて。
「っつ〜……」
「フフフ……」
あたしの木刀は吉澤さんの左腕にガードされて止まった。
「まさかウチに両腕を使わせるなんてねぇ……」
「真剣だったら左腕がなくなってましたねぇ。次は顔面にぶち当ててやるとよ!」
吉澤さんはしばらく打たれた左腕をプラプラと振っていたけど。
そのあとで、今度は持っていた木刀を両手で握った。
「そんじゃあ特別に、今度は両手でやってやるよ」
「どうせたいして変わらんと!」
また木刀を構えて走り出す。
吉澤さんの手前で跳躍し、大上段から体重を込めて振り下ろす。
狙うは当然ながら、あのすかした顔面。
でもその前に木刀が現れて……
- 70 名前:第2話 投稿日:2005/12/07(水) 13:44
- ギィン!!
「!?」
二本の木刀がクロスした瞬間、あたしは弾き飛ばされた。
片手の時とはまったく違う、その抵抗。そして堅さ。
「ほら、行くよ!」
今度は吉澤さんが向かってくる。
両手を添えた木刀が振り抜かれる。
慌てて木刀でガードするけど……
「なっ……?」
一瞬あとには手の中から木刀が消失していた。
しばらくしたあと、あたしの背後に、弾き飛ばされた木刀が落ちてきた。
「ま、こんなもんよ。ウチの顔面に一撃当てるなんて100年早い!」
吉澤さんが勝ち誇ったように笑う。
もしかして今までって、ものすっっっごく手加減されてたってこと?
一時は退いた怒りが、またメラメラと蘇ってきた。
「もう一回勝負たい、吉澤さん!!」
「ハハハー、かかってきやがれ!!」
- 71 名前:第2話 投稿日:2005/12/07(水) 13:46
-
◇ ◇ ◇
「さて、今日はここまでにしとこっか」
「なあっ! ズルイとよ! 勝ち逃げですか!!」
「あのなぁ、ウチは田中だけ面倒見てるわけにもいかないんだよ。3番隊だってちゃんと
指揮しなきゃなんないし、矢口さんとデートだってしなきゃならない」
「終わり終わり」というように、吉澤さんが構えを解く。
仕方ないので、あたしも木刀をおろした。
結局両手を使い出した吉澤さんにこてんぱんにされただけで終わってしまった。
うぅ……手が一本増えただけであんなに強くなるなんて詐欺たい……。
「あいたた……」
あ〜、打たれたところアザになっとる……。
よくも乙女の柔肌を……。
あぁ、もう! 絶対いつか叩きのめしてやる!!
「しっかしさぁ、田中、なんかここ数日でずいぶんとキレがよくなってきたよね」
「えっ? そうですか?」
アザをさすっていると、後ろからそんなことを言われた。
「なんか迷いがないって言うか、そんな感じがしたね」
「ふ〜ん、自分じゃよくわかりませんけど……」
「なに、もしかして守りたい女でもできたわけ? んっ? おねぇさんに訊かせてごらん?」
「……それは完全にオヤジの発言たい、吉澤さん……」
少なくとも「おねぇさん」のセリフじゃないだろ……。
- 72 名前:第2話 投稿日:2005/12/07(水) 13:48
- 「ま、冗談はおいといて、心境の変化でもあったの?」
「まぁ、ちょっと……」
「ふ〜ん……。まぁ、動きがよくなったんだからいいことだ」
あたしが言いにくそうなのを察してくれたのか、はたまた興味がないだけか。
どうにも後者っぽいんだけど、それでも吉澤さんは詳しく訊くことはなかった。
そのままパタパタと城の方へと歩いていってしまった。
とり残されたあたしも、アザになったところをさすりつつ、城に戻る。
「心境の変化、か……」
自分でもよくわからない。
確かにちょっと考えが変わったところはあったけど、それが影響を与えるとはあまり思えない。
あの時のキングイーターとの戦い。
紺野さんがキングイーターを倒したあと、あたしと絵里はまたしても新垣さんにみっちりと
説教されて。
絵里は魔力が尽きていたため新垣さんが先に連れて帰り、あたしと紺野さんは残りの
マンイーターの退治をすることになったんだけど……。
紺野さんは強かった。
あたしの手伝いなんていらないくらい。
そしてあたしが危なくなったときは、絶対に助けてくれて。
新垣さんには言わなかったけど、実はあたしも体力がもう尽きかけていた。
それでもなんとか体力を振り絞って森に残ったけど、紺野さんはそんなの見抜いてたみたいで。
あたしのために、紺野さんは一人で戦っている。
あたしは紺野さんのことを殺そうとしてるのに、紺野さんはそれをわかってて、でもそんなあたしを
気遣って、優しくしてくれる……。
それに気づいた時からあたしは紺野さんのことを嫌いではなくなった。
いや、嫌いでいることができなくなった。
飯田さんを殺したことは許せないけど、少なくとも人間的には紺野さんは嫌いでなくなった。
むしろ……
- 73 名前:第2話 投稿日:2005/12/07(水) 13:49
- 「……ってぇ!! れいなは何を考えてると!!」
ブンブンと頭を振って、考えを追い出す。
あ〜、ごちゃごちゃと考えてるうちに、いつの間にか自分の部屋の前まで帰ってきてると……。
ちょっとシャワーでも浴びて頭冷やそうかな……。
そう思って自分の部屋のドアを開けようとしたときだった。
ドンッ!!
「えっ……?」
思わず手が止まった。
隣の部屋で爆音が響いた。
隣の部屋……すなわち紺野さんの部屋。
魔法の研究でも失敗したのかな、とも思ったけど、紺野さんは自分の部屋で魔法の研究は
しないのであって。
「紺野さん? なんかあったとですか?」
紺野さんの部屋の扉を叩いてみるけど反応が返ってこない。
扉に耳を当ててみると、中から物音が聞こえてくる。
ノブに手をかけてみるけど、鍵がかかってて開かない。
なんか胸騒ぎがした。
「紺野さん、紺野さんっ!!」
今度は思い切り扉を叩いてみるけど、相変わらず反応はない。
しょうがない……。
いったん扉から離れて、廊下の端まで下がる。
「はっ!!」
そして助走をつけて、思い切り扉を蹴破った。
- 74 名前:第2話 投稿日:2005/12/07(水) 13:49
- 「紺野さんっ!」
「た、田中ちゃん!!」
部屋の中には見知らぬ女性が立っていて。
その女性が紺野さんを壁に押しつけていた。
「何者だっ!?」
手に持ったままだった木刀をその女性に向ける。
女性はあたしのことを舐め回すようにジーッと見たけど、ある一点で視線が止まった。
あたしの左手。中指にはめられたダークブレイカー。
ニッと口が弧を描いた。
「へぇ、あんたが『闇斬りの少女』か。どんな女傑かと思っとったけど、けっこう可愛いやん」
「はぁ……!?」
「まぁせっかくや、もうちょっと様子見しとこうか」
紺野さんを押さえつけてるのと逆の手があたしのほうに向けられる。
そして次の瞬間……
「なっ!?」
腕が伸びたっ!?
鋭い爪があたしめがけて飛んでくる。
- 75 名前:第2話 投稿日:2005/12/07(水) 13:50
- 「お前、何者だっ!?」
伸びてきた腕をなんとか木刀で受けとめる。
そのまま捌き、本体へ向けて斬り込む。
「へぇ〜」
紺野さんを押さえつけている腕に向かって木刀を振り下ろす。
でも直撃する前に腕はその場を離れた。
紺野さんがずるずると床にへたり込む。
「げほっ、げほっ!」
「紺野さん、大丈夫ですか!?」
「うん、ありがと……」
とりあえずは大丈夫そうなので、あたしはまた木刀を構える。
そして床を蹴った。
アイツが何者なのかはわからない。
でも、どう見ても友好的ではないようだ。
また木刀を振り下ろす。
それも右腕で受けとめられ、すぐに左手が迫ってくる。
かわそうと思ったが、今度は左手の爪が伸びた。
「ちっ!!」
慌てて木刀で弾く。
ホントに何者なんだ、こいつは……!?
普通の人間じゃあない!
- 76 名前:第2話 投稿日:2005/12/07(水) 13:51
- それでも今は戦うしかない。
こんなことなら真剣持ってきとけばよかった。
少し後悔しながら、それでも木刀を振っていく。
「くっ……」
反撃の隙を与えないように、連続攻撃を仕掛けていく。
一応全部上手くガードされているけど……。
ガードしすぎもよくないんだよね……。
握った木刀を振り上げる。
身体の全面を守っていた両腕が木刀に当てられて開く。
「しまった!」
「くらえっ!!」
身体をひねって回し蹴りを放つ。
完全にがら空きのボディに突き刺さった。
「くっ……なぁんだ、前情報だと剣技もたいしたことないって聞いてたのに、けっこうできるんやなぁ」
「あったりまえと!」
まぁ、しごかれてますから……。
つーか、いったいどこからそんな情報が……?
「田中ちゃん、どいて!!」
その時後ろで紺野さんの声が響いた。
振り向くと、回復した紺野さんが魔力を集めて立っていて。
- 77 名前:第2話 投稿日:2005/12/07(水) 13:52
- 「わわっ!!」
「バーニング・オーラ!!」
あたしが飛び退くと、炎の閃光が放たれた。
相手の女性を飲み込み、部屋の壁を突き破って、城の外へと消えていく。
「こ、紺野さん、室内なんだから少しは手加減してくださいよ!」
「あっ、ゴメン……」
こりゃケシズミになったかな、と魔法が消えてった方を向く。
でも、壁には大穴が開いてたけど、その前に一つの影が立っていて。
「なっ……」
「えっ……?」
紺野さんも驚いている。
それはそうだ。
女性の背中から生えた禍々しい翼が女性を包みこんでいた。
「凄いな、ここまで威力を集束させた魔法を使えるなんて」
バサッと翼が開いた。
あれだけの魔法が直撃したにもかかわらず、火傷一つ残ってない。
「今日は『闇斬りの少女』を確認しに来ただけやったけど、おまけに興味深い人間にも会えたわ。
まぁ、上々の成果やろ」
それだけ呟くと、女性はサッと壁の穴の前まで後退した。
「今日はもう退散するわ。またそのうち会うかも知れんけどな」
そしてその女性は穴から外へと消えていった。
あたしと紺野さんはその様子を呆然と見ていた。
- 78 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/12/07(水) 14:01
- 今回はここまでです。
ようやくネットに繋げるようになりました。
あと、ちょっと「王宮書庫」のアドレスが変わったのでお知らせです。
「王宮書庫」
ttp://www7a.biglobe.ne.jp/~magicbox/library/index.html
>>61 春嶋浪漫 様
れなえりコンビはまだまだ成長中って感じですねぇ。
でも確実に強くなってますよ。
>>62 みっくす 様
心の葛藤はちょっと始まってたり。
8年前の握手はある意味レアでうらやましいです。
>>63 名無飼育さん 様
猫れいにゃはかなり素晴らしかったです。
小説でもどっかで出そうかな?(止めとけ
- 79 名前:みっくす 投稿日:2005/12/07(水) 22:23
- 更新おつかれさまです。
おお、いきなりの急展開ですね。
で、だれなんだろう??
- 80 名前:konkon 投稿日:2005/12/08(木) 00:19
- 更新乙です!
自分は姫と握手したことがあります(遅)
またまた新キャラ登場ですね。
今後の展開に期待して待ってます♪
- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/08(木) 00:53
- ( `◇´)ノ<第二部にてついに登場したでぇ!
- 82 名前:春嶋浪漫 投稿日:2005/12/09(金) 14:20
- 更新お疲れ様です。
いよいよ話が忙しくなってきましたね。
はたして、いったい誰なんだろうか・・・さっぱりさっぱり
次回更新も楽しみに待ってます。
- 83 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:13
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 84 名前:第2話 投稿日:2005/12/14(水) 18:26
- 「はぁ……」
夜になった。
あたしはセミダブルベッドの真ん中に倒れ込んだ。
「なんか、疲れたと……」
今日はいろいろありすぎて、とにかく疲れた。
吉澤さんとの特訓もそうだけど、それよりもやっぱり紺野さんの部屋での戦いのほうが。
アイツはあたしのことを『闇斬りの少女』と言っていた。
意味がわからない……。
でも一つ思い当たるとすれば……
チラッと左手を見る。
中指に輝く漆黒の指輪。
アイツも確かこれを見てた……。
手や爪が伸びたり、翼が生えたりする謎の女性。
いったい何者……?
なにかが始まったような、そんな気がした。
大きな流れに、無理矢理組み込まされたような、そんな感じ……。
- 85 名前:第2話 投稿日:2005/12/14(水) 18:27
- 「ふぅ……」
一つ溜め息をついた。
まぁ、これ以上は考えてもどうせ答えは出そうにない。
とりあえず今日はもう寝よう。
疲れたし、明日も吉澤さんの訓練あるし。
部屋のランプを消そうと、ベッドから起きあがった。
トンットンッ!
その時、外からノックの音がした。
こんな時間にいったい誰と? まったく非常識な……。
ま、どうせ絵里かな? また一緒に寝ようとか来たんやろ……。
そう思いながら鍵を開けてやったが、そこにいたのは絵里ではなかった。
「あっ、田中ちゃん、こんな遅くにごめんね?」
「こ、紺野さんっ!?」
そこには紺野さんが立っていた。
普段見慣れてないパジャマ姿で、なぜか枕を抱えて。
「なんか用ですか? れいなもう寝るんですけど?」
なぁんか嫌な予感がする……。
そしてその予感はすぐに当たった。
- 86 名前:第2話 投稿日:2005/12/14(水) 18:28
- 「あのね、今夜一晩泊めて欲しいんだけど……」
「はあっ!?」
深夜にもかかわらず、思わず大声を出してしまった。
「な、なんでですか!?」
「ほら、私の部屋ボロボロになっちゃったし……」
いや、紺野さんが自分で壁ぶち抜いたんでしょうが……。
あっ、扉壊したのはあたしか……。
「な、なんでれいなの部屋なんですか……?」
「だってここもともとは二人部屋でしょ?」
「研究室で寝ればいいじゃないですか!? 泊まり込んだりすることもあるんでしょう?」
「私もそう思って行ったんだけど……その、愛ちゃんと里沙ちゃんが……」
紺野さんの声はだんだんとか細くなり、最後には消えてしまった。
ついでに暗い中でもわかるほど赤面して。
何の研究してるんだ、あのバカップルは……。
「というわけで、お願い! 今晩……ていうか、できれば私の部屋が修理終わるまで」
「ちょ、ちょっと待ってください、紺野さん!!」
部屋に入ってきそうな紺野さんをなんとか抑える。
「れいなは紺野さんを殺そうとしてるんですよ? 寝首掻かれても知りませんよ!?」
「大丈夫だよ。だって田中ちゃんはそんなことで私を殺しても満足しないでしょ?」
うぐっ……。
まぁたしかに、あたしは真っ正面から紺野さんを倒したいんだけど……。
- 87 名前:第2話 投稿日:2005/12/14(水) 18:29
- 「だからお願い! そのかわりこれで貸し借りはチャラってことで」
「うぅ……」
あたしは紺野さんに、ロマンス王国で絵里を助けるのを手伝ってもらったのと、キングイーター戦で
助けてもらったのとで、二つ貸しがある。
今日紺野さんを助けたことで一つは返したけど、あともう一つ……。
「はぁ……わかった、わかりましたよ……」
「ありがと、田中ちゃん!」
「そのかわり、ホントに寝首掻かれても知りませんからね!」
「はぁ〜い!」
「はぁ……」
普段は押しには弱いし消極的なのに、なんでこんなときに限って積極的なんだ……?
何度目かわからない溜め息を吐いて、あたしは扉を閉め直し、鍵をかけた。
「れいなもう寝ますからね?」
「うん、私ももう眠い」
当初の予定通り部屋のランプを消すと、辺りは暗闇に包まれた。
確かにもともと二人部屋だったけど、二つあったベッドはあたしが放り出してしまって、
今はセミダブルベッドが一つあるだけ。
なので、これは一つのベッドに二人で寝なくてはいけないのであって。
まぁ絵里が泊まりに来たときだって一緒に寝たけど、なんか紺野さんだと気分が違う。
先にベッドに入ってしまった紺野さんのとなりにあたしも遠慮がちに入り込んで、
なんであたしが遠慮しなきゃいけないと? と途中で気づいた。
- 88 名前:第2話 投稿日:2005/12/14(水) 18:30
- 「おやすみ、田中ちゃん」
「お や す み な さ い」
紺野さんに背中を向け、事務的に言い放つ。
そのまま目を瞑ったけど、さっきは寝ようとしていたにもかかわらず、なぜか目は
冴えわたっていた。
しかもなぜかちょっと気持ちが高ぶっている。というより、ドキドキしている?
そう考えて、慌ててその考えを否定した。
そうこうしているうちに、あたしの背後で微かな寝息が聞こえてきた。
よっぽど疲れていたんだろうか? いや、どうせ徹夜で魔法の研究でもしてたんやろ?
とにかく、よくこんな状況で寝れるなぁ、とあたしは身体の向きを変えて、紺野さんを
まじまじと見てしまった。
ちょっと手を伸ばせば触れる距離にいる紺野さんは、完全に無防備な姿を晒していて。
心の中で燻っていた黒い感情が、ゆっくりあたしを染めていく。
飯田さんを殺した……紺野さん……。
そっと起きあがり、手を伸ばす。
でも、首を掴んでも、紺野さんは健やかな寝息をたてていた。
このまま……少し力を加えれば……。
歯を食いしばる音が室内に消えていった。
「……はぁ……」
どれくらいそうしていただろう。
結局あたしは手を離し、ベッドに沈み込んだ。
紺野さんはまったく反応を示さなかった。
それはあたしを信頼してるのか、それともただバカなだけか……?
「紺野さん、あなたは本当にわからない人と……」
わからないと思うのは、もっと知りたいと思っているからだろうか……?
あたしは今度こそ本当に目を瞑った。
- 89 名前:第2話 投稿日:2005/12/14(水) 18:31
-
◇ ◇ ◇
「んっ……?」
その日の目覚めはやけにすっきりとしていた。
なんだかやけにあったかくって柔らかいものに包まれていた。
なんや、これ……?
触ってみると、柔らかくあたしの手を押し返して。
「ふぁっ……!」
なんか頭の上で色っぽい声が聞こえた気が……?
見上げてみると、そこには紺野さんの寝顔があって。
そういえば、昨日は紺野さんと一緒に寝たんだった、と今更思い出した。
しかもどこをどうやってこうなったのか知らないけど、あたしは紺野さんに抱きしめられていて。
てことはもしかして今触ったのって、紺野さんの……
「む、胸……?」
カーッと顔が熱くなった。
しかも寝相が悪いのか、パジャマが少しはだけて、胸元が露出していて。
普段マントとかローブとか着てるからわからないけど、紺野さんってけっこう胸が……って、
そうじゃなくて!!
- 90 名前:第2話 投稿日:2005/12/14(水) 18:32
- 「こ、紺野さん、起きてください!!」
「ん〜……?」
ついでにあたしはしっかりと抱きしめられていて、紺野さんが離してくれないと起きあがる
こともできない。
なんとか腕の中でもがいていると、最悪のタイミングで部屋の扉がノックされた。
「れーな、起きてる〜?」
相変わらずしっかりとかけた鍵を軽く無視して、絵里が室内に入ってきた。
ヤバイ……! 本能的にそう思った。
絵里はずかずかと室内を進んできたけど、ベッドの手前まで来ると、綺麗に固まった。
「な…な……なぁ……!」
「え、絵里、これはちがくて……」
口をパクパクとさせている絵里になんとか説明しようとするけど、絵里には聞こえてないようで。
「れーなの浮気者ー!!!」
聞き捨てならないことを叫んで、絵里は部屋を飛びだしていった。
ていうか、いったいいつからあたしは絵里の正妻になったと……?
- 91 名前:第2話 投稿日:2005/12/14(水) 18:33
-
◇ ◇ ◇
そのあと部屋が直るまで紺野さんはあたしの部屋に泊まり込んで(あたしは寝不足気味……)
絵里はあたしの顔を見るたびに「浮気者ー!!」と叫びまくった(三日後なんとか説明)。
で、紺野さんの部屋が元通りに直り、ようやく紺野さんは自分の部屋に戻った。
あたしは平穏な日々が戻ってきたと思ったけど……
「ふぅ、今日はここまでだねぇ……」
「はい……」
今日もあたしは吉澤さんと剣の訓練。
だんだんと両手持ちな吉澤さんとも渡り合えるようになってきた。
このぶんだと吉澤さんを叩きのめせるのも時間の問題かもしれない。
フフフ、首洗って待ってやがれ……。
「あ〜、そういやさぁ、田中に一つ訊きたいことがあるんだけど……」
タオルで汗をふいていると、吉澤さんが後ろから話しかけてきた。
この人がわざわざ確認してから質問するなんて珍しい。
「なんですか?」
「あのさぁ、田中って亀ちゃんと紺ちゃんのどっちが本命なの?」
あたしは何もないところですっ転んだ。
- 92 名前:第2話 投稿日:2005/12/14(水) 18:34
- 「な、なんですか、それは!!」
「だから、どっちがホントの恋人で、どっちが遊びなのかと……。いやぁ、田中もけっこうやるねぇ?」
「そうじゃなくて!!」
ていうかいったいどこからそんな話になってると!!
「あれ〜? 田中知らないの? 王宮騎士内じゃ『入った早々紺ちゃんを落としたプレイガール』とか、
『平気で二股三股掛ける女たらし』とか、『第二の吉澤ひとみ』とか呼ばれてること」
「それはとっても不名誉なことですね」
「いや、軽くスルーしないで欲しいんだけどね」
矢口さんがいるのに可愛い娘見つけたらすぐに手を出すヤツが何を言う……。
もともとこうだったのか、それとも矢口さんが帰ってきたことでどっかのネジが吹っ飛んだか……。
でもあたしはそんな吉澤さんと同類項扱いされてるってこと!?
「なんでそんな……」
「それは噂が流れてるからです!」
「ど、どんな噂ですか……?」
「う〜ん、ウチが聞いた話だと、紺ちゃんと同棲してるにもかかわらず毎夜亀ちゃんのところに
夜這いに入ってるとか、亀ちゃんと婚約してるにもかかわらず最近は紺ちゃんのところに
入り浸ってるとか。いや、最初は確か田中が二股掛けてるってだけだったんだけど……おかしいなぁ?」
「・・・・・・」
噂に尾びれが付いた、だけじゃない……。
背びれに胸びれに鱗まで付いてる……。
あれか……紺野さんがあたしの部屋に泊まって、ついでに絵里が「浮気者ー!!」とまき散らしたから……。
「で、どうなのさ、実際?」
「……どうもこうもありませんよ!!」
あたしはその場を走り出した。
原因を作った紺野さんに文句の一つでも言ってやらないと気が済まなかった。
- 93 名前:第2話 投稿日:2005/12/14(水) 18:37
- 「紺野さん!!」
を見つけたのは城の修練場だった。
紺野さんは5番隊の訓練をしている最中で。
あたしが紺野さんに駆けよると、訓練していた5番隊の隊員が色めき立った。
「やっぱり紺野さんが本命だったんだ」というニュアンスがまったく隠されずに発せられている。
あ〜、もうっ!!
「どうしたの、田中ちゃん? 訓練終わったの?」
「それどころじゃないです! 紺野さんのせいで大変なことになっちゃったじゃないですかぁ!!」
主にあたしの品格が。
でも紺野さんは「なんのこと?」と首を傾げた。
ダメだ……紺野さんも知らないっぽい。
こういうのって案外当事者は知らないことが多いしなぁ……。
「これだけは言っときますけど、れいなは紺野さんのことなんて、大っ嫌いですからね!!」
とにかく噂を否定しとかないと、これ以上どうなるかわからない。
幸いここにはギャラリーもいることだし、すっぱりと否定しとけばなんとか……。
でもそんなあたしの気も知らず、紺野さんはポケポケッとしてて。
「私は、田中ちゃんのこと好きだよ?」
「なっ……?」
顔が一気に熱くなった。
それと同時に、ギャラリーがよりいっそう盛り上がった。
- 94 名前:第2話 投稿日:2005/12/14(水) 18:38
- 「な、なに言ってるんですかっ!!」
「えっ? だから、私は田中ちゃんのこと……」
「わー!! 二度言うなぁ!!」
あたしは慌てて紺野さんの口を塞いだ。
いや、もちろん手でね。
ダメだ、紺野さんは……。ポケポケしてて、ふわふわしてて、なんかつかみ所がない……。
人前じゃなかったら、絶対あたしは頭を抱えて座り込んでたと思う。
「田中ちゃん、田中ちゃん」
名前を呼ばれてようやく我に帰ると、そこには5番隊副隊長の高橋さんがいた。
「イチャついてるとこ悪いんやけど……」
「い、イチャついてなんかいません!!」
「田中ちゃんがいると5番隊の訓練にならないんで、あとにしてくれん?」
「えっ?」
見ると訓練してたはずの5番隊隊員は、今やみんなあたしと紺野さんの方を、これからいったい
どうなるのか、といった好奇の視線で見ている。
こんなんでいいのか、王宮騎士……。
「というわけで、訓練に戻るで、あさ美ちゃん」
「う、うん……」
紺野さんは高橋さんにずるずる引きずられて、隊員のところへと戻っていった。
でも途中でチラッとあたしの方を向いて、
「じゃあ、またあとでね?」
「会う約束なんてしてません!!」
またその場が一気にヒートアップした。
どうしてこの人はわざわざ進んで疑われるようなことをほざくのか……。
軽く頭痛を覚えたのは、肉体的疲労が原因じゃ絶対ない。
- 95 名前:第2話 投稿日:2005/12/14(水) 18:38
-
◇ ◇ ◇
「はぁ……」
部屋に戻ってくるとあたしはそのままベッドの上に倒れ込んだ。
なんか今日もやけに疲れた……。
ぐったりと枕に顔を埋める。
『私は、田中ちゃんのこと好きだよ?』
紺野さんの言葉が蘇ってくる。
その瞬間に顔が熱くなり、胸がきゅんとする。
この感情はなんなのだろう……?
紺野さんに対する憎しみや恨みだけじゃこうはならない。
かといって……
「はぁ……いったいれいなはどうしちゃったと……?」
ベッドの上でゴロンと転がって、仰向けになった。
と、放り出した腕が何か硬いものに当たった。
「な……?」
掛け布団が丸まってるだけと思ってたのだが、何かがその下にあったようだ。
すると掛け布団の塊がもぞもぞと動いて……
- 96 名前:第2話 投稿日:2005/12/14(水) 18:41
- 「れーな〜!!」
「う゛わっ!?」
布団の下から絵里が現れて、あたしに飛びかかってきた。
あたしは心臓が飛び出るかと思った。
「え、絵里っ!? 毎度のことだけど鍵はどうしたと!?」
「えへへ、訓練で鍵を開けるオリジナルスペル編み出しちゃった!!」
真面目に強くなる気ないのか、こいつは!
今度鍵を魔法でもっと強化してもらおう……。
「つーか何しに来たと?」
「いや〜、なんかれーなの良からぬ噂が広まってるじゃん?」
絵里はあたしの上にまたがったままで話を続ける。
「絵里が『浮気者』ってわめき散らしたせいじゃん」
「うん、だからねぇ、そのことにちょっと責任感じてさぁ」
ふ〜ん、てことは絵里は噂をどうにかしようという気はあるわけだ。
どちらかというとこういうのは真っ先におもしろがってはやし立てる方なのに。
「れーなも大変でしょう? ありもしないこと広められて」
「その通りたい、紺野さんはなんか余計なこと言っちゃうし……」
「だからね!」
しかし何を考えたのか、絵里はあたしに抱きついてきた。
「え、絵里っ!?」
「きせーじじつをつくっちゃおうかなぁ、って!」
「はぁっ!?」
「ん〜、れーな〜……」
迫ってきた絵里の唇を慌ててかわす。
- 97 名前:第2話 投稿日:2005/12/14(水) 18:41
- 「な、何考えてるとね、絵里っ!!」
「だってそうすれば『根も葉もない噂』じゃなくて『真実』になるじゃん!」
「よけい困ると!!」
数分における取っ組み合いのあと、あたしは絵里をベッドから蹴り落とした。
「痛〜い!! もう、れーなのケチ!!」
「ケチとかそういう問題じゃないと!!」
大事なファーストキス絵里に奪われてたまるか!!
いや、ガラじゃないとは思うけど、少しは乙女チックでもいいじゃんか……。
ていうかキス奪われたらそのまま他にもいろいろと奪われそうな勢いやったし……。
「もう! なんでダメなの〜?」
「なんでも!!」
「じゃあ誰だったらいいのよ〜?」
「だ、誰って……そんなん知らんと……」
絵里はそこでちょっと考えたように間をおき、でもすぐに口を開いた。
「じゃあ紺野さんだったらよかった?」
「えっ、紺野さん……!?」
一瞬紺野さんのドアップが目の前に現れた気がした。
一度は退いた熱さがまた顔を襲う。
「そんなん知ら〜ん!!」
あたしはまた枕に顔を埋めた。
本当にあたしはどうしちゃったんだろう……?
- 98 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/12/14(水) 18:54
- 今回はここまでです。
一転わりとほのぼのな感じで。
ごっちんのベスト聞きながら更新しました。
あとドラマ主演決定おめでとう〜!
演技の練習はぜひともなっち相手に(マテ
>>79 みっくす 様
前回は急展開でしたが、今回はほのぼのと。
誰かはもう少し先で明らかになると思います。
>>80 konkon 様
新しくなって初めての新キャラです。
でもまだストーリーはゆっくりと進んでいく予定です。
>>81 名無飼育さん 様
新キャラでしたが、はたしてあってるでしょうか?
大阪弁キャラはまだ3人いますからねぇ。
>>82 春嶋浪漫 様
実はまだあんまり忙しくなってないかも?(ぉ
たぶん忘れたころにまた出てくると思います。
>>83 名無飼育さん 様
大変だと思いますが頑張ってください〜!
ぜひとも開催して欲しいです。
- 99 名前:みっくす 投稿日:2005/12/14(水) 21:17
- 更新おつかれさまです。
今回はほのぼのとしていて、楽しめました。
れいなの揺れ動く気持ちはどちらにいくのでしょうかね。
次回楽しみにしています。
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/15(木) 00:09
- ( `w´)ノ<第二部にてついに登場したでぇ!
- 101 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/15(木) 22:27
- 更新お疲れ様です。
どんどん声が小さくなってく川o・-・)…
想像つきますねwというか、ほんと何をやってるんでしょうね2人はw
れーなの気持ちは…
次回まで楽しみに考えておきます
- 102 名前:闇への光 投稿日:2005/12/17(土) 15:02
- お久しぶりです。
いや〜「毒をもって毒を制す」を見事に実行している
ノノ*^ー^)が笑えます。
同様に五番隊の前で从 ´ヮ`)が注意(?)に
来た人の所業(笑)をばらせば上手く逃げれたのに・・・
次回も楽しみにしています。
- 103 名前:第2話 投稿日:2005/12/21(水) 18:13
- それから数日、あたしは紺野さんとも絵里ともなるべく関わらないようにすごした。
噂もそんなに騒がれないくらいには落ち着いて、なんとかあたしは吉澤さんと同類にされずに済んだ。
「とうっ!!」
そんなわけで、今日もあたしは吉澤さんと特訓中。
だったんだけど……
「あ、いた! 田中ッチ〜! 吉澤さ〜ん!!」
背後からあたしたちを呼ぶ声が聞こえた。
剣の特訓を中断して考える。
あたしをあんな風に呼ぶのはなっちさんか、もしくは……
「新垣さん?」
後ろをふり向くと、そこには予想通り、あたしが所属する4番隊の隊長、新垣さんがいた。
でも予想外だったのは、新垣さんの後ろになぜか絵里がくっついてたこと。
「お〜、ガキさん、どうしたの?」
「いや、ちょっと田中ッチに用がありまして。田中ッチ借りますね?」
「え〜? 田中はウチのオモチャなのに……」
誰がオモチャだ、誰が!
吉澤さんの狂言綺語はとりあえずスルーして、あたしは新垣さんに向き直る。
- 104 名前:第2話 投稿日:2005/12/21(水) 18:14
- 「用ってなんですか、新垣さん?」
「うん、ちょっと一緒に来て欲しいんだけどね」
「でもれいな今特訓中なんですけど……」
新垣さんや絵里に付き合うよりは、まだ吉澤さんと訓練してたほうがいいと思う。
でもそんな思いは新垣さんの次の言葉で吹っ飛んだ。
「ん〜、一応なんか任務らしいんだけど」
任務!?
それを先に言ってくださいよ!!
「じゃあ吉澤さん、ちょっと行ってきます」
「はえぇな、オイ!」
吉澤さんに適当に挨拶して、あたしは新垣さんのあとに続いた。
- 105 名前:第2話 投稿日:2005/12/21(水) 18:15
-
◇ ◇ ◇
会議室に入ると、そこにはなっちさんと保田さんが待っていて。
まぁ、それだけなら良かったんだけど、なぜだか他にも紺野さんと高橋さんがいた。
嫌な予感……。
そしてこういうときの嫌な予感ってのは、けっこう的中率が高いんだ、あたしの場合……。
「おっ、新垣、連れてきてくれたね」
「はいっ!」
「それじゃ、今回の任務について説明するべさ」
案の定、今回の任務はここにいる5人で行うらしい。
なんでよりによって紺野さんと一緒なんだ……。
ま、聞くところによると、今回の任務は5番隊に与えられたんだけど、魔法使いだけじゃなく、
武器を持って戦える騎士も必要らしく。
そのために、もともと5番隊だった新垣さんと、(なぜか)紺野さんと仲がいいことになっている
あたしが4番隊から駆り出されたらしい(絵里はおまけみたい)。
まぁしょうがない。
おかげで任務が与えられたんだし、たまには紺野さんも役に立つと。
紺野さんのことを極力無視して、あたしは真剣になっちさんと保田さんの説明に耳を傾けた。
- 106 名前:第2話 投稿日:2005/12/21(水) 18:16
- 任務の内容は、一言で言ってしまえば盗賊団の討伐。
最近グラム王国との国境沿いにあるミノス渓谷に大規模な盗賊団が出没し、そこを通る
商人たちを襲っているという。
アップフロント大陸の南西端にあるハロモニランドは3つの国と隣接している。
東にはあたしと絵里が前にいたロマンス王国。
北には最近復興してきたネージュ王国。
そしてロマンス王国とネージュ王国の間、ハロモニランドから見て北東にあるのがグラム王国だ。
ただ、グラム王国とはわずかに国境が繋がっているだけなので、直接行くためにはミノス渓谷を
通らなければいけない。
盗賊団が獲物を狙うには格好の場所ってわけだ。
その盗賊団を一網打尽にするのが今回の任務。
「その割りにはけっこう少数なんですね」
「ま、逃げられちゃどうしようもないしね。君たちだったら大丈夫でしょう? でも罠とかもあるだろうから十分気をつけること」
「はい!」
「じゃ、後は任せたよ、紺野。健闘を祈るべさ」
そう言い残して、なっちさんと保田さんは会議室を出て行った。
どうやら今回の作戦の指揮は紺野さんが執るみたい。
- 107 名前:第2話 投稿日:2005/12/21(水) 18:17
- 「じゃあ、よろしくね、みんな」
「よろしく〜! いや〜、あさ美ちゃんたちと一緒の任務なんて久しぶりだよ〜!」
新垣さんはどっちかっていうと高橋さんと一緒なことを喜んでるらしく、高橋さんのもとへと
駆けよった。
紺野さんは次に絵里とあたしの前にやってきた。
「田中ちゃんも亀井ちゃんもよろしくね」
「よろしくお願いします!」
「・・・・・・」
「れーな!」
「……よろしく」
ぶっきらぼうにそれだけ答える。
でも紺野さんは笑って、「よろしくね、田中ちゃん」なんて言ってる。
本当に調子狂うと……。
「ほら紺野さん、そんなことよりもさっさと行きましょう」
「れーな、ダメだよ! ちゃんと役割分担を決めてから行かないと!」
「そうやよ、それに変装もしないと!」
「はっ?」
……変装?
- 108 名前:第2話 投稿日:2005/12/21(水) 18:17
-
◇ ◇ ◇
〜後藤なつみ〜
「ただいま」
「あっ、なっち、おかえり! ごくろうさま!」
部屋へと戻ると真希が出迎えてくれた。
結婚してから私と真希は一つの部屋で暮らしている。
真希がカップに紅茶を入れてくれたので、私は受け取って一口すする。
そして真希の向かい側のソファに腰掛けた。
「どうだった、紺野と田中の様子は?」
「う〜ん、まだちょっと険悪だねぇ。誤解は解けてないみたい……」
「そっかぁ。ま、その辺は紺野が上手くやってくれるか……」
真希も紅茶を一口飲んだ。
でもカップから口を離すと、急に深刻な表情になった。
- 109 名前:第2話 投稿日:2005/12/21(水) 18:18
- 「それで、例の侵入者の足取りは?」
「うん……圭ちゃんも極秘裏に探ってくれてはいるけど、まったく掴めないみたい……」
「そっか……やっぱり闇と関係があるのかな?」
「たぶん……。もうあんまり時間は残されてないかもしれないね」
「そうだね……」
真希がうつむいてしまったので、私は真希の隣に移動する。
そして真希の肩をぎゅっと抱き寄せた。
「大丈夫、真希にはなっちが付いてるっしょ?」
「うん……ありがと、なっち」
「なに言ってんだべさ!」
真希の頭を優しく撫でてあげると、ようやく真希は笑顔に戻ってくれた。
「さて、それじゃ今日もそろそろ特訓しに行こうか?」
「うん、そうだね」
今はこれくらいしかできることはないけれど。
いつか必ずこの力が役に立つときが来るはず。
ま、本当はそんなの来ないのが一番いいんだけどね。
途中の廊下の窓から外を見ると、そこには任務に向かう紺野たちの姿があった。
- 110 名前:第2話 投稿日:2005/12/21(水) 18:20
-
◇ ◇ ◇
〜田中れいな〜
というわけで。
あたしたちは紺野さんの魔法で、一気にミノス渓谷の入り口までやってきた。
「それじゃ行くよ。気を引き締めてね?」
「言われなくてもわかってます」
馬車に乗ってる紺野さんが、手綱を引きながら言った。
どうやら今回の作戦は商人に化けてミノス渓谷に入り、盗賊団が襲いかかってきたとこを
逆に捕える作戦だったらしい。
いわゆる「釣り」ってヤツね。
紺野さんは御者に変装し、手綱を引いている。
高橋さんは商人に変装して、馬車の上に乗っている。
あたしと新垣さんは護衛の兵士に変装して、二頭いる馬のちょっと前を歩いている。
騎士と言うよりも傭兵といった感じの、いつもよりもかなりラフな服装。
そして、絵里はというと……
「う〜……なんで絵里が荷物なんですかぁ〜!!」
「うるさいなぁ、荷物が喋るなや」
荷物役として、馬車の上に乗っている箱に詰められている。
「それじゃ、GO!」
絵里の抗議を軽く無視して、紺野さんは手綱をピシッと引いた。
隣に立っていた馬がゆっくりと歩き出す。
「さて、それじゃ特訓の成果を見せてもらおうか、田中ッチ」
「言われなくても見せてあげますよ!」
そして私たちはミノス渓谷に足を踏み入れた。
- 111 名前:第2話 投稿日:2005/12/21(水) 18:20
- 「へぇ〜、辺境の地やと思っとったけど、けっこう綺麗なところやなぁ〜」
馬車の上で高橋さんがそんな呑気な声を出した。
今は山道をゆっくりと登っている。
ちょっと歩いたけど、盗賊が現れる気配はない。
「全然出てこないですね?」
「うん、まだミノス渓谷に入ったばっかりだからね。襲われたらすぐ逃げ帰ることもできるでしょう?
だから私たちが逃げ帰れなそうなくらい奥に行くまではたぶん襲ってこないよ」
「なるほど」
あたしの疑問には紺野さんが丁寧に答えてくれた。
相手もこのミノス渓谷を縄張りにしてるんだから、それくらいは頭が回るか。
てことは、しばらくは景色でも眺めながらのんびりと歩いてられるってわけね。
「じゃあ絵里も喋ってていいですか?」
「荷物はダメ!」
「う〜……」
高橋さんがぴしゃりと言い放つ。
絵里は早くも箱の中で黙っていることに飽きたみたい。
- 112 名前:第2話 投稿日:2005/12/21(水) 18:21
- 新垣さんも森林浴を楽しんでるみたいだし、あたしもちょっと力を抜いて、景色なんか眺めて
歩いていく。
確かに生えている木々は、まだあまり人の手が届いてなくて、ありのまま育っている。
それがとっても雄大で綺麗だ。
微かに川のせせらぎも聞こえてきたりする。
「ねぇ里沙ちゃん、盗賊団討伐したらまた来ようや!」
「そうだねぇ、今度はお弁当持ってこよう!」
あ〜、アツイアツイ……。
日差しは木々に遮断されてあんまり届いてないはずなのになぁ……。
「あっ、じゃあ私たちも来ようか、田中ちゃん」
「はあっ!?」
紺野さんの発言に、思わずあたしは後ろをふり向いてしまった。
紺野さんは相変わらずニコニコと微笑んでて、その後ろで高橋さんがニヤニヤと笑っていた。
「な、なんでれいななんですか……」
ややフェイドアウト気味に呟いて、また前に向き直った。
あぁ、もう! やっぱり紺野さんってわけわからん!!
「ずるーい! 絵里も、絵里も!!」
「荷物が喋るなー!!」
高橋さんが箱を一回強めに蹴った。
- 113 名前:第2話 投稿日:2005/12/21(水) 18:22
-
◇ ◇ ◇
そのあともあたしたちはミノス渓谷を登っていった。
今までは何ごともなかったけど、だんだんと森が深くなるにつれて、自然と気が引き締まってくる。
「そろそろ気をつけていた方がいいかも」
「はい」
紺野さんがそういったすぐあとだった。
気配を捕えた。
前に二つ、上に一つ。
「田中ッチ……」
新垣さんも気づいたみたい。
柄に手をかけた瞬間、木々の間から殺気が飛んできた。
ヒュンッという風切り音。
「はっ!」
剣を抜いて一閃。
足下に、真っ二つに斬れた矢が一本落ちた。
「何者だ!?」
ま、わかってはいるんだけど、一応ね。
目の前の草むらから、二人の男が飛びだしてきた。
もう一つの気配は、まだ木の上で様子を窺っているらしい。
- 114 名前:第2話 投稿日:2005/12/21(水) 18:23
- 「命が惜しければ、荷物を全部置いていけ!!」
ありきたりのセリフをありがとう。
少しずつ後退し、指示を仰ぐため紺野さんの側まで寄る。
「どうしますか、紺野さん?」
盗賊に聞こえないように、小声で話しかける。
「そうだね……盗賊団がこれだけってことはないだろうし、ボスも出てきてないみたいだしね。
ほどほどに手加減して追っ払っちゃって」
「わかりました」
ま、そうするだろうと思ってたけど。
すっと剣を構えると、盗賊もナイフを抜いた。
「抵抗するなら、容赦しねーぞ!!」
こっちは容赦しなきゃいけないのか……。
そんなこと考えている間に、盗賊の一人があたしに斬りかかってきた。
- 115 名前:第2話 投稿日:2005/12/21(水) 18:24
- 「フン」
振り下ろされたナイフを軽くかわす。
盗賊はそのままナイフを振るうけど、あたしを掠ることさえしなかった。
踏み込みもメチャクチャ、太刀筋も適当だし、動きも見え見え。
当たるわけないって。
こんなのと戦うために特訓したんじゃないのに……。
さっさと終わらせようと剣を握るけど、駆け出す前に、目の前の地面に矢が生えた。
そういやもう一人いたんだっけ。
見渡してみると、けっこう地面に矢が生えてた。
今まで気づかなかったってことは危険と感じなかったってことで、てことは大した腕でもないんだな……。
「あぁ、もう!」
新垣さんのいらだった声が聞こえた。
新垣さんも最初は無視してたんだろうけど、さすがにうざったくなったのかな。
見ると、どこからかナイフを二本取り出し、見向きもしないでそのまま放った。
「ぐあっ!!」
ナイフが生い茂った葉の中に消えて少しすると、木の上から男が一人、カブトムシみたいに落ちてきた。
その男の肩にはナイフが刺さっていて。
さすが新垣さん。や、それとも保田さんの特訓が超スパルタなんだろうか……?
- 116 名前:第2話 投稿日:2005/12/21(水) 18:25
- 「おらぁ!!」
そんなことを考えていたから、一瞬戦ってた盗賊から気がそれた。
ナイフが振り下ろされていたので、慌てて剣で受けとめる。
「へへへ、油断してると死ぬぜぇ」
男のニヤニヤとした顔がカチンときた。
だからあたしも挑むように睨みつけて、笑い返す。
「油断じゃなくて、余裕だよ!」
「なにっ!?」
剣を握り、そしてひねる。
剣に力を込めると、ナイフは盗賊の手を離れ、くるくると宙を舞った。
そのまま剣の柄で、男の顔面を殴り飛ばす。
「ぐあっ!!」
盗賊は吹っ飛んで地面に倒れた。
そのすぐあとにパシーンという音が響いて、もう一人の盗賊が同じように吹っ飛ばされてきた。
「くそっ、退け、退けー!!」
三人の盗賊はそのまま走り去ってしまった。
100年早いと!
その背中に、あたしは中指を突き立てた。
「田中ちゃん、ダメだよ、お行儀が悪いよ!」
紺野さんがやんわりとあたしをたしなめた。
- 117 名前:片霧 カイト 投稿日:2005/12/21(水) 18:33
- 今回はここまでです。
ちょっとこれから2月くらいまで更新が少なくなるかもしれませんが、そしたら
「あぁ、修羅場ってるんだな……」と思ってくだされ……(苦笑
はい、なるべく更新できるように頑張ります……。
>>99 みっくす 様
バトルの間にちょっとほのぼのを挟んでみました。
でも今回はちょこっとバトルモードです。
>>100 名無飼育さん 様
はい、あっているでしょうか?
再登場はもう少し先になる予定です。
>>101 名無飼育さん 様
二人はちゃんと研究してたんですよ、えぇ(笑
でもポンちゃんはさすがに加われなかったと。
>>102 闇への光 様
亀ちゃんは若干暴走キャラです。
所業をばらすともれなくオシオキが待ってるので(笑
- 118 名前:みっくす 投稿日:2005/12/21(水) 20:37
- 更新おつかれさまです。
いよいよバトル突入ですね。
次回も楽しみにしてます。
- 119 名前:第2話 投稿日:2006/01/06(金) 13:23
- そのあともあたしたちは襲いかかってくる盗賊を蹴散らしながら渓谷を登っていって。
頂上付近にさしかかったところで、ちょっと開けた広場のような場所に出た。
いかにも危なそうなところ。
「気をつけて……来るよ」
それを裏付けるように、背後から紺野さんの声が聞こえる。
そしてその直後、その広場の四方八方から盗賊団が現れ、あたしたちを取り囲んだ。
ザッと見渡してみても結構な数がそろっている。
ここまで大きな盗賊団だったとは……ちょっと想像以上と……。
「グフフ、腕は多少たつみたいだが、それもここまでだ!」
周囲を囲んだ盗賊団を押しのけ、一人の大男がはいってきた。
いかにも『山男』といったような風格。
手には巨大なナタ……いや、ハチェットが握られている。
おそらくこいつがこの盗賊団のボスだろう……。
その時、背後で紺野さんが馬車から飛び降りた。
「紺野さん!」
「『紺野』ッ!?」
あたしは紺野さんの方を向いた。
ボスもその名前に反応し、紺野さんの方を向く。
紺野さんの手にはすでに魔力が集められていて、そこからバチバチと電流が溢れていた。
- 120 名前:第2話 投稿日:2006/01/06(金) 13:24
- 「ライトニング・プリズン!!」
黄色い魔法陣が広場の地面に広がる。
その魔法陣の円周から電流の帯が立ち上り、上空の一点で融合した。
広場一帯は電流の檻で囲まれた。
「これでもう逃げられません。大人しく捕まってください」
紺野さんが前に歩み出て、ボスに告げる。
「この魔法……まさか、あの『紺野あさ美』かっ!? てことは、お前ら……」
「そう! 王宮騎士団と!!」
剣を抜いてボスに突き付ける。
新垣さんも鞭を手に構えた。
絵里もようやく箱の中から飛び出てきて、高橋さんと一緒に後ろで構えている。
「さぁ、大人しく捕まりなさい!」
新垣さんの振り下ろした鞭が地面を叩く。
「くっ……」
ボスは一瞬たじろいだが、あたしたちの人数を確認すると顔に邪悪な笑みを浮かべた。
- 121 名前:第2話 投稿日:2006/01/06(金) 13:25
- 「王宮騎士といってもたかだか五人じゃねぇか! まとめて潰しちまえっ!!」
『うおぉ!!』
ボスの声とともに、まわりを取り囲んでいた盗賊団が一斉に殺気立った。
でも、わかってないなぁ。
人数が少ないってことは、それだけ少数精鋭ってことなのに。
「田中ッチはこっちをお願い!」
「はいっ!」
新垣さんはそう言い残して背後に回った。
武器を使っての接近戦ができるのはあたしと新垣さんだけ。
だからあたしと新垣さんが前衛を担当して、二人の間に固まった三人の魔法使いが後衛から
魔法で攻撃するという陣形。
「おらぁ!!」
あたしのほうにはまず盗賊が三人ほど一斉に向かってきた。
そのうちの一人は見覚えがあった。
確か一番最初に襲ってきたグループの一人で、新垣さんが叩きのめしたヤツだったと思う。
まったく、懲りんっちゃね……。
- 122 名前:第2話 投稿日:2006/01/06(金) 13:25
- 「はぁっ!!」
今度はもう思いっきりやっちゃってもいい。
三人の攻撃の合間を縫って、剣を真横に振り抜く。
「ぐあっ!!」
その一撃で、三人は吹っ飛び地に落ちた。
まったく、張り合いなさすぎと。
「殺ったっ!!」
三人の次は、すぐ背後でそんな声が響いた。
目だけちょっと動かしてみると、あたしの背後に大剣を振り上げた男が一人。
でも、悪いけど、全然殺ってない。気配だってバレバレだし。
少しだけ横に移動して、振り下ろされた大剣を難なくいなす。
「なっ!?」
大剣は地面を砕いて沈んだ。
武器の重さも考えずに振り回すから、そんな隙ができるんであって。
もちろんその隙を逃すつもりもなく、あたしは身体を半回転させながら、右脚を振り上げる。
ブーツのかかとが男の顔面にめり込んで、男を吹き飛ばした。
背後からも鞭を振るう高音や、爆音が響いてくる。
これならみんなのことを心配する必要もないだろう。
あたしは正面に向き直り、盗賊団のボスに剣を向ける。
- 123 名前:第2話 投稿日:2006/01/06(金) 13:26
- 「大人しく捕まってくれれば、痛い思いしなくても済むとよ?」
「小娘が、調子に乗りやがって!!」
ハチェットが振り下ろされる。
地を蹴ってかわすと、ハチェットはそのまま地面を砕いた。
さっき蹴り倒したヤツが使ってた大剣とは比べものにならないほどハチェットは軽いはずなのに、
同じくらい地面がえぐれてる。
見た目通りのパワーファイターってことか。
あれを受けとめるのはちょっとしんどいな……。
「ぶっ潰してやる!」
「やってみな!!」
また振り下ろされたハチェットを避ける。
でもやっぱり一団のボスなだけあって、そう簡単にはいかない。
振り下ろしたハチェットを、今度はそのまま振り上げてくる。
それもなんとかかわして、間合いをとる。
豪快だけど、それでいてなかなかフットワークが軽い。
そして一撃の威力がかなり大きい。
これは当たったら本当に潰れちゃうかもしれない。
ま、当たったら、だけど。
ブーツのつま先でトントンッと地面を蹴る。
- 124 名前:第2話 投稿日:2006/01/06(金) 13:27
- 「死ねっ!!」
向かってくる巨体。振り下ろされるハチェット。
それは申し分ない速さ。なんだけど……。
ハチェットが地面を砕いたときには、あたしはボスの背後に回り込んでいた。
「なっ!?」
「お前が死ねっ!!」
上半身だけ振り返ったボスめがけて、あたしは剣を突き出す。
これで片づいた!! そう思った。
バチッ!!
でも、ボスのハチェットを握ったのと逆の手が急に光った。
そしてそこから電流が空気中に拡散する。
魔法っ!? しまった……てっきり使えないとばっかり……。
「ライトニング・パルサー!!」
「くあっ!!」
放たれた電流があたしの体を蝕む。
そしてあたしは地面に倒れた。
- 125 名前:第2話 投稿日:2006/01/06(金) 13:28
- 「グフフ、口ほどにもない」
「くっ……」
なんとか痺れる身体を持ち上げると、そこにはボスの巨体があって。
右手にはハチェットがしっかりと握りしめられていて、左手にはまた新たに魔力が集められていた。
「今度こそ、ちゃんと死ねぇっ!!」
「うわっ!」
地面を転がって、放たれた電撃をかわす。
そして立ち上がるけど、まだちょっと身体が痺れていて剣が思うように握れない。
魔法も大したレベルじゃないけど、一応使えるのか……。
だとしたら魔法をかわしながら斬り込むしかない。
ちょっとやっかいだなぁ……。
「おのれ、ちょこまかと!」
今度はボスの身体の前に、黄色く光る魔法陣が浮かび上がった。
「ライトニング・ボルテックス!」
そして魔法陣から放たれる無数の雷刃。
これだけの雷刃……かわしきれるかな……?
でも、いざかわそうとした瞬間、あたしの前に障壁が浮かび上がった。
その障壁が、ボスが放った魔法を全て弾いた。
- 126 名前:第2話 投稿日:2006/01/06(金) 13:29
- 「えっ?」
「なにぃっ!?」
さらに、ボスの足下に魔法陣が広がって。
「アース・シャフト!!」
「ギャアアァアッ!!」
突き出た石の槍がボスの四肢を貫いた。
この魔法は……もしかして……
「今だよ、田中ちゃん!!」
「よけいなことを……」
でも今は一応任務の途中だし、まぁ、チャンスはチャンスなわけで。
あたしは大地を蹴り、上空で剣を上段に握りしめて。
大地に舞い戻ると同時に、ボスに向かって剣を思い切り振り下ろした。
「ガアアッ!!」
ズゥンという音を立てて、ボスは仰向けに倒れた。
ま、ちょっとは手加減しといたから、死んじゃいないだろう。
「よかった、田中ちゃん、無事で!」
倒れたボスの向こうから紺野さんがパタパタと駆けよってきた。
見渡すと他の盗賊もみんな伸びていて。
今回の任務は無事に完了したみたい。
でも、紺野さんがよけいなことをしたおかげで、あたしはまた一つ、紺野さんに借りができてしまった……。
- 127 名前:第2話 投稿日:2006/01/06(金) 13:30
-
◇ ◇ ◇
「ねぇ、紺野さん〜!」
「え〜? でも田中ちゃんにしてほしい事なんて、今は特にないよ〜」
ちょっと前を歩く紺野さんをあたしは追いかける。
ミノス渓谷を下る坂道。
川のせせらぎがだんだんと大きくなってきている。
盗賊団を叩きのめしたあと、紺野さんが水晶で保田さんに連絡を取って。
そして捕えた盗賊をシャドウホールで強制送還した。
あとは残党がいないかどうか確かめながら、来たルートとは別のルートでミノス渓谷を下れば、
任務は終了となる。
「紺野さんっ!」
「う〜ん……あっ、じゃあ今度魔法の実験台に……」
「それ以外で」
「じゃあまた田中ちゃんの部屋に泊まりに……」
「それも却下で」
「う〜ん……」
高橋さんと新垣さんは馬車を引く馬の背中に仲良く乗っていて。
絵里はなぜかまた箱詰めにされている。
いや、もう商人に化ける必要もないと思うんですけどね……?
そしてあたしと紺野さんはというと……
- 128 名前:第2話 投稿日:2006/01/06(金) 13:32
- 「だから、紺野さんに借りを作ったままじゃ気持ち悪いんですよ!」
「でも……田中ちゃんにしてほしい事っていってもすぐには思いつかないよ〜……」
「何か考えてください!」
この前は借りを帳消しにする代わりに紺野さんを部屋に泊めて大変なことになった(危うく吉澤さん二号に
されるところだった……)。
なので今回はさっさと借りを返しておくに限る。
馬車の前を歩く紺野さんの後ろに、あたしはぴったりとくっつく。
「二人とも仲良いねぇ〜」
「良くないです!!」
そんなやり取りを繰り広げながら、あたしたちは崖道地帯にさしかかった。
「あっ、愛ちゃん! 下の方に川が流れてるよ!!」
「ホントだぁ! 今度のデートでは川にも行こうね!!」
あ〜、相変わらずおアツイですこと……。
そう思いながら、あたしもちょっと下を覗いてみる。
確かにあたしたちが歩いている道の下は流れの激しい川になっていた。
「あ〜ん、絵里にも見せてよ〜!!」
絵里の叫びは全員無視で。
あたしたちは崖道をのんびりと歩いていく。
「まったく、そもそも紺野さんがよけいなことしなければ、借りなんか増えなかったのに!」
「でも、そうじゃなきゃ田中ちゃんが……」
「なんとかなってました!! 紺野さんになんか助けてもらわなくたって、もうれいなは一人前です!!」
「でも、まだちょっと危なっかしいからなぁ〜」
「なぁっ!?」
紺野さんは困ったように笑って、また歩いていく。
あたしもいろいろ文句を言いながらあとに続く。
そしてあたしたちは崖道の中程にまでさしかかったけど……。
- 129 名前:第2話 投稿日:2006/01/06(金) 13:32
- 「……!?」
「うわっ!?」
急に前を歩く紺野さんが立ち止まった。
思わずあたしは背中にぶつかってしまう。
「ちょ、紺野さん! 急に立ち止まらないでください!」
鼻の頭を押さえながら一歩下がってまた文句を言う。
でも紺野さんは真剣な顔で振り返って。
「ダメッ!! 離れて、田中ちゃん!!」
「えっ!?……わっ!!」
不意に紺野さんに突き飛ばされて、あたしは後ろにしりもちをついた。
「な、なにするとっ!?」
思わず拳を握りしめながら立ち上がるけど。
それと同時に、紺野さんの足下に紅い魔法陣が広がった。
えっ……!?
『罠とかもあるだろうから十分気をつけること』
まるで走馬燈みたいに、保田さんの言葉が思い出される。
まさか……自動発動式のトラップ!?
「紺野さ……!!」
あたしの方を向いた紺野さんが、ニコッと微笑った。
- 130 名前:第2話 投稿日:2006/01/06(金) 13:34
- ドンッ!!
爆音が響いた。
伸ばした手の向こうで崖道が消失した。
「紺野さんっ!!」
「「あさ美ちゃんっ!!」」
「えっ!? なになに、なにが起こったの〜!?」
思わず駆けよる。
バラバラと落下していく瓦礫に混じって、紺野さんの身体が落ちていくのが見えた。
あたしを突き飛ばしたのは、あたしを助けるため……?
いち早く魔力の異状でトラップに気づいて……。
紺野さんだけだったら逃げることだってできたはずなのに……。
それなのに……
「ふ…ざけんなぁ!!」
「あっ、田中ッチぃ!!」
考える前に身体が動いていた。
新垣さんの声がどんどん遠ざかっていく。
あたしは迷わず飛んでいた。
いつもいつも紺野さんは自分を進んで犠牲にして。
あたしはいっつもそんな紺野さんに助けられる。
ふざけるな! こんなんで死なれてたまるか! 紺野さんはあたしが殺すんだ!!
絶対に助け出して、それで一発ぶん殴ってやる!!
重力に流されていたあたしの身体を、数多の水が包みこんだ。
- 131 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/01/06(金) 13:42
- 新年明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
>>118 みっくす 様
新年一発目は思いっ切りバトルでした。
今年もこんな調子でいきたいと思います。
- 132 名前:みっくす 投稿日:2006/01/06(金) 22:59
- 更新おつかれさまです。
バトル全開ですね。
それにしても、続きがすごく気になる。
どうなちゃうのだろう。
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 00:56
- 更新お疲れ様です。
一体どうなるんでしょうか。
続き楽しみに待ってます。
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/08(日) 01:10
- (0―0ヽ)ノ<第二部にてついに登場したでぇ!
- 135 名前:第2話 投稿日:2006/01/14(土) 14:42
- 「ぷあっ!!」
なんとか水面から顔を出して息を吸う。
水量がかなり多かったおかげでなんとかケガはしないで済んだけど、そのぶん流れが激しく、
あたしの身体はどんどん流されていく。
でもそんなことは構ってられない。
早いところ紺野さんを見つけないと!!
「紺野さんっ!」
息を思いっきり吸い込んで、また水中に潜る。
視界はけっこうあるが、それでも紺野さんは見つからない。
ということはやっぱり流されたのだろう。
あたしは激流に乗り、さらに泳ぎ出す。
幸か不幸か、腰に差していた剣は水面にぶつかった衝撃で吹っ飛んでしまった。
そして今日は傭兵のような扮装なぶん、いつもよりも軽装なわけで。
おかげで服を着たままでも、なんとか沈むことなく泳げる。
それでもさすがにかなりキツイ。
流れが激しく、思うように動けない。
そんな状態で、水草や岩などをかわしつつ進んで行かなくてはならない。
- 136 名前:第2話 投稿日:2006/01/14(土) 14:43
- 「ぷはっ! はぁ、はぁ……」
さすがに息が続かなくて、いったん水から顔を出す。
「うわっ!」
でも顔を出したすぐ後ろから、巨大な流木が迫ってきた。
慌ててもう一度水に潜る。
流木はあたしの頭の先を掠めて、先へ流れていった。
「ゲホッ、ゲホッ!!」
もう一度顔を出すと思い切り咽せてしまった。
でもこうしてる間にも紺野さんは……。
意を決して、もう一度水中へと飛び込む。
目をしっかりと開いて、冷たい水をかいて前に進んでいく。
紺野さん……!
その甲斐あって、ある程度泳いだところで、なんとか水中にゆらゆら漂う紺野さんの姿を捕えた。
流れにまったく逆らってないところを見ると、気絶しているのかもしれない。
見つけた!!
スピードを上げる。
手を思い切り伸ばして、ようやく紺野さんの服を掴んだ。
- 137 名前:第2話 投稿日:2006/01/14(土) 14:44
- 「ぷはっ!!」
紺野さんを抱きかかえ、なんとか水面に引きずり出す。
やっぱり紺野さんは気を失っているようで、あたしの腕の中でぐったりとしている。
「紺野さん、紺野さんっ!!」
身体を揺さぶったり、頬をぺしぺしと叩いたりしても紺野さんはいっこうに気づく様子はない。
さらに悪いことに、あたしたちの顔はかなり接近しているにもかかわらず、紺野さんの呼吸が聞こえてこない。
息、してない……。
早くなんとかしないと、紺野さんが死んじゃう!!
「くっ……」
辺りを見渡してみる。
岸に上がってしまえばいいんだろうけど、川の流域面積はけっこう広く、おまけに流れも速い。
紺野さんを抱えながら、なんとか川を斜めに渡ってみるけど、気を抜くとあっという間に
水中に引きずり込まれてしまう。
まずい……。
もたもたしてたら間に合わない……。
それにこの状態は、かなり体力の消耗が激しい……。
「紺野さんっ!!」
紺野さんが気が付いてくれれば、魔法で一気に脱出できる。
心の中で謝りつつ、さっきより強めに叩いてみるけど、それでも紺野さんは目覚めてくれない。
ダメだ……あたしは魔法が使えないし……。
あたしじゃ……どうすることもできないと……?
- 138 名前:第2話 投稿日:2006/01/14(土) 14:44
- 「魔法……そうだっ!!」
諦めるのはまだ早い。まだ手段はある。
紺野さんを右手でかかえ直し、水の中から左手を出す。
中指に輝く、漆黒の指輪。
魔剣・ダークブレイカー。
これを使えば、あたしも魔法が……。
「ダークブレイカーっ!!」
もはやそれしか手は残されていない。
あたしは何度もしたように、ダークブレイカーに呼びかける。
でもやっぱりダークブレイカーは何も応えてくれない……。
「お願いだから……」
体力はすでに限界。
それでもあたしは左腕を持ち上げ続ける。
お願い、ダークブレイカー……。
あたしは、紺野さんを……助けたいの!
でもあたしの力だけじゃ、紺野さんを助けられない。
だから……
「力を貸して、ダークブレイカー!!」
紺野さんを、助けるために!!
- 139 名前:第2話 投稿日:2006/01/14(土) 14:45
- 闇が溢れた。
漆黒の闇が辺りを包みこんだ。
闇はしばらくあたしの周囲を漂い、やがて一つに集束してくる。
剣の形に。
「ダークブレイカー!!」
必死に手を伸ばして、ダークブレイカーの柄を掴む。
しばらくの間使ってなかったのに、ダークブレイカーはしっくりと手に収まった。
力を剣に送っていくと、それに呼応するように宝玉が淡く輝く。
ありがとう……。
「カラミティ・ウォール!!」
剣を振り下ろすと、溢れた闇があたしたちの周囲を取り囲む。
そして一瞬の間をおいて、闇の障壁が立ち上った。
辺り一帯の水を全て吹き飛ばす。
足が川底についた。
今だっ!!
足に残っている全ての力を込め、紺野さんを抱きかかえたまま、思い切り川底を蹴って飛んだ。
- 140 名前:第2話 投稿日:2006/01/14(土) 14:46
- 「うわっ!!」
あたしと紺野さんはゴロゴロと川岸に転がった。
川は何ごともなかったかのように、荒く流れていく。
なんとか助かったんだ……。
手はしっかりとダークブレイカーを握りしめていた。
「ありがとね、ダークブレイカー」
それに応えるように、ダークブレイカーの宝玉が一瞬光った。
そのあと、すぐにダークブレイカーは闇に溶け、左手の中指に還っていった。
でも、今までとは違って、ちゃんとそこにいてくれるような感じ。
呼べばちゃんと応えてくれるような、そんな感じが指輪から伝わってきていた。
「ヤバッ! そうだ、紺野さんっ!!」
川から無事生還できた安堵感で一瞬忘れていたけど、まだ紺野さんは生還できてないんだ!
慌てて紺野さんに駆けよる。
「紺野さんっ、紺野さんっ!!」
紺野さんはまだ気を失ったまま。
耳をそっと紺野さんの口に近づけてみるけど、呼吸している音は聞こえない。
ヤバイ! こういうときってどうするんだっけ……!?
そ、そうだ……確か、人口呼吸を……
- 141 名前:第2話 投稿日:2006/01/14(土) 14:47
- 「えっ……じんこうこきゅう……?」
そこまで考えてようやく気づいた。
人口呼吸ってことは、いわゆるマウストゥマウスってことで……。
マウストゥマウスってことは、いわゆる……
「キ、ス……!?」
ボッと顔が熱くなったけど、ブンブンと頭を振ってよけいな考えを追い出す。
そんなこと考えてる場合じゃない、今は一刻を争うと!!
これは人命救助なんだから! ノーカン、ノーカン!!
心臓のドキドキは聞こえないふり。
紺野さんの側に座り込み、気道を確保する。
そしてたっぷり息を吸い込んで……・
「んっ……」
柔らかい……。
どうしても一番最初にそう思ってしまった。
「……ふぅ」
ゆっくりと息を送っていく。
あたしの息が尽きると、唇を離して、また耳を寄せる。
まだ息は戻ってない。
もう一度息を吸い込み、紺野さんに口付ける。
- 142 名前:第2話 投稿日:2006/01/14(土) 14:48
- 「……んっ……」
あたしの下にある紺野さんの身体がピクッと動いた気がした。
慌てて唇を離すと……
「げほっ、げほっ!!」
紺野さんが勢いよく水を吐き出した。
あたしはその様子を呆然と見ていた。
ずっと閉じられていた紺野さんの瞳がゆっくり開く。
そして開かれた瞳にあたしが映った。
「田中…ちゃん……?」
「紺野さん……」
助け出して一発殴ってやると心に決めていたのに。
どういうわけか、出たのは拳じゃなくて。
水滴とは違う、もっと温かい雫が頬を伝った。
「えっ、田中ちゃん?」
紺野さんが驚いたような表情をした。
でもその表情も、滲んでよく見えなかった。
- 143 名前:第2話 投稿日:2006/01/14(土) 14:49
- 「……紺野さんっ!!」
「わっ!?」
あたしは思いきり紺野さんの胸に飛び込んだ。
「た、田中ちゃん……!?」
「紺野さん、紺野さんっ! ひっく……よかった……よかったぁ!!」
最初は困ったように身体を硬直させいてた紺野さんも、やがてあたしをゆっくりと抱きしめてくれた。
あんなに長い間水に浸かっていたにもかかわらず、紺野さんの身体はほんのりと温かかった。
「田中ちゃん……ごめんね、ありがとう……」
「うわああぁ!!」
たくさんの感情がこぼれ落ちるなか、あたしは唐突に気づいてしまった。
正確には、必死に気づくまいとしていた感情に、気づかないでいることができなくなってしまった。
ちょっと抜けてて、いつもオロオロしてて、お節介焼きで、でもとても強くてすごく優しい。
そしてあたしの一番大切な人を殺した憎き仇でもあるはずなのに……
あたしは、紺野さんのことを……
こんなにも好きになってしまってたんだ……。
- 144 名前:第2話 投稿日:2006/01/14(土) 14:49
-
- 145 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/01/14(土) 15:04
- ちょっと短めですが今回はここまでです。
これでようやく第2話が終了。
そろそろいろいろと動き出すと思います。
……が、実生活のほうもそろそろ本格的な修羅場に突入(ぉ
な、なるべく更新できるように頑張ります……(汗
>>132 みっくす 様
これでバトルも一応一区切りです。
スリリングな展開が続きましたが、最後はこんな感じになりました。
>>133 名無飼育さん 様
一応こんな感じになりました。
ちょっとは主人公っぽくなってきた気がします。
>>134 名無飼育さん 様
や、確かちゃんと『女の人』って書いたはずなので。
寺田さんじゃあないですねぇ。
- 146 名前:みっくす 投稿日:2006/01/15(日) 02:12
- 更新おつかれさまです。
気持ちに気づき、力も戻りで、
これからいろいろ敵さんも動き出しそうな感じですね。
次回も楽しみにしています。
- 147 名前:第3話 投稿日:2006/01/30(月) 13:08
- 〜田中れいな〜
「田中ちゃん、私も田中ちゃんのこと好きだよ」
「ほ、本当ですかっ!?」
「うん。ずっと、ずっと好きだったんだから」
「紺野さん……んっ……」
ほのかに甘い香りが鼻先に止まる。
紺野さんの香り。
唇が微かに触れ合い、そして重なる。
とろけるように甘いキス。癖になりそう……。
「んっ……はっ……」
でもそれも長くは続かなかった。
唇は触れ合ったまま、あたしの身体に少しずつ力が加わり、あたしはその場に倒されてしまった。
「えっ? こ、紺野さんっ!?」
「フフッ」
普段と変わらない笑みのはずなのに、今日はなんだか妖しく見えた。
紺野さんはあたしの腰の辺りにまたがり、そしておもむろに上着を脱ぎ始めた。
- 148 名前:第3話 投稿日:2006/01/30(月) 13:09
- 「えっ、ちょ、紺野さん! 何してるんですかっ!?」
「え〜? だって、好きな者同士が愛し合うのは当然のことでしょ?」
「そ、それはそうですけど……」
まだ心の準備が……。
あっという間に下着だけの姿になってしまった紺野さんは、今度はあたしの上着に手をかける。
「あっ、やっ……」
為す術もないまま、あたしの上着は脱がされていって。
紺野さんと同じように下着だけの姿にされると、紺野さんはそっとあたしの首筋に唇を寄せた。
「んっ!」
「緊張してるんだね。でも大丈夫だよ」
紺野さんが上体を起こす。
「私が優しく教えてあげるから……」
そして下着がぽとりと落ちた。
- 149 名前:第3話 投稿日:2006/01/30(月) 13:09
-
第3話 振り下ろせない剣
- 150 名前:第3話 投稿日:2006/01/30(月) 13:10
- 「のわぁっ!!?」
あたしは飛び起きた。
そこはあたしの部屋のベッドの中だった。
ちなみにパジャマはちゃんと着ている。
「ゆ…め……!?」
よかったような、残念なような……。
あたしはもう一度ベッドにバタッと倒れた。
あの日から……ミノス渓谷に任務で出かけた日から……
どうにも夢見が……良いのか悪いのか……。
毎晩のように紺野さんが夢に出てきて、そしてなぜかあたしに迫ってくる……。
「そういうの望んでるんかなぁ……」
声に出してしまってから慌てて首を振って考えを追い出す。
違う……違う、違うっ!!
あたしは紺野さんを憎まなくちゃいけないのに!
紺野さんは飯田さんを殺した人なのに……
「どうして……こんなにも好きになっちゃったと……?」
苦しくて、苦しくて、涙が零れた。
- 151 名前:第3話 投稿日:2006/01/30(月) 13:11
- 「れーな、れーな〜!!」
その時部屋の扉が無遠慮に叩かれた。
ヤバッ! 絵里だ!!
慌てて涙を拭うと、絵里は鍵を開けてこれまた無遠慮に侵入してきた。
あっ、鍵を強化してもらうの忘れてた……。
「あっ、れーな今まで寝てたの? もうお昼過ぎだよ!」
「いいじゃん非番の日くらい……。絵里も今日は非番やろ?」
「そうだよ! せっかくの非番なんだからしっかりと遊ばないと!」
「ホントに元気とね……」
絵里のおかげで涙も引っ込んでしまった。
ベッドの上に起きあがって、うーんと伸びをする。
「そうだれーな! 午前中に城下町に行ったらねぇ!」
「お〜……」
「新しい友達ができたんだよ! すっごく可愛いの!!」
「あ〜そ〜……」
「れーなヤキモチ妬いた? ヤキモチ妬いた!?」
「全然……」
絵里の戯言に適当に相づちを打ちながら、あたしは服を着替える。
「む〜、ちょっとくらいは妬いてよ〜!」
「無理……」
「そんなに紺野さんがいいの?」
「はあっ!?」
でもそんな絵里のセリフに、あたしは思わず手を止めて、絵里のほうを振り返ってしまった。
- 152 名前:第3話 投稿日:2006/01/30(月) 13:11
- 「な、なに言うとね、絵里……」
落ち着け……とにかく落ち着け!
「え〜? だってれーな、紺野さんのこと好きでしょ?」
少しも飾ることなく、絵里はストレートに訊いてくる。
今までだったらすぐに「大っ嫌いと!」って返してたんだけど、気持ちに気付いてしまった以上、
どうしても即答できなくて。
「そ、そんなことなかよ……」
「ほんとう?」
「ほ、本当……」
「む〜……あやしい……」
絵里がジーッとあたしの顔を覗き込んでくる。
あたしもなんとか目をそらさずに、絵里の顔を覗き返す。
「じゃあさ……」
それでこの話は終わりにしてくれると思ったんだけど……
「絵里と紺野さんがモンスターに襲われています!」
「はぁっ!?」
「さて、れーなはどっちを助けますか?」
絵里は今度はよくわからない例え話をしてきた。
- 153 名前:第3話 投稿日:2006/01/30(月) 13:12
- 「な、なんね、それは?」
「いいから答えて!!」
「うぅ……」
絵里の勢いに押されて、渋々あたしは状況を考えてみる。
そして出した結論は……
「絵里を助けると」
「本当っ!?」
「だって紺野さんなられいなが助けんでもモンスターくらい倒せると」
「……そうじゃなくてぇ……」
一瞬絵里は顔を輝かせたけど、すぐに肩を落とした。
なんね、あたしなんか間違っとう?
「そうじゃなくて!! れーなは絵里と紺野さんのどっちが大切なの!?」
「ど、どっちって……」
絵里は本当に子供のころからずっと一緒で、一番長い時間と想い出を共有してきた。
大切な一番の親友だ。
紺野さんは……ちょっとまだ気持ちがはっきりと整理できてないけど……。
でも、それでも大切な人だ。
- 154 名前:第3話 投稿日:2006/01/30(月) 13:13
- 「二人とも大切とよ?」
「それじゃダメ! どっちか選んで!!」
「そ、そんなの選べないと……」
「いつかはきっと選ぶことになるんだよ!」
絵里の顔はいつの間にかかなり真剣になっていた。
いつもの絵里からは考えられないくらいしっかりとした目があたしを見つめている。
「絵里はれーなが一番なんだよ……?」
「えっ……?」
「絵里は……れーなが……」
でも絵里の言葉はそこで止まった。
声を絞り出すように下を向いて、でも言葉は声にはならなかった。
そして、ようやく口に出した言葉は……
「れーなのバカー!!」
「えぇっ!?」
それだけ叫んで、絵里はあたしの部屋を飛びだしてしまった。
あたしは室内にぽつんと一人とり残されて、呆然としていた。
最近の絵里はわけわからんと……。
- 155 名前:第3話 投稿日:2006/01/30(月) 13:14
-
◇ ◇ ◇
絵里が部屋を飛びだしていってしまったあと、あたしは軽めに昼食(朝食兼ねる)をとってから
城の裏庭に出た。
今日は寝坊したため、まだ訓練をしていなかった。
吉澤さんは今は勤務中なので、今日は自主練。
でも最近は自主練で、ちょっと剣術以外のことを練習している。
「ダークブレイカー!」
左手を掲げて呼びかければ、指輪から闇が溢れる。
そして剣の形をつくって、あたしの手に収まる。
「よしっ!」
今特訓しているのは闇魔法。
ダークブレイカーを使えばあたしも闇魔法を使うことができる。
魔法の構築から発動まで全部魔剣がやってくれるから、あたしは意志を魔剣に
送ればいいだけなんだけど、それでも持ち主のレベルによっては当然使えない
魔法もあるわけで。
だから自分もちゃんと鍛えなくちゃならない。
そして魔剣はオリジナルスペルも作ることができる。
魔法のイメージとエフェクトをなるべく正確に魔剣に送れば、その通りの魔法を
創り出してくれる。
それも当然ある程度のレベルは必要になるんだけど、今のあたしならたぶんできるはず。
- 156 名前:第3話 投稿日:2006/01/30(月) 13:15
- 魔剣を身体の前で構える。
今創っているのは、対魔法使い用の闇召喚魔法。
ダークブレイカーが暗く輝く。
「デス・バタフライ!!」
ダークブレイカーを覆った魔力から黒い蝶が一頭二頭と生み出される。
蝶はヒラヒラとあたしのまわりを漂い、数を増していく。
やがて周囲が黒い蝶で包みこまれた。
「行けっ!!」
一本の木に狙いを定めて剣を振り下ろすと、あたしのまわりを飛んでいた蝶はいっせいに
その木に向かって飛んでいく。
まるで一枚の黒いヴェールのように。
その木を黒い蝶が包みこんだ。
そして青々と葉を茂らせていた木は、一瞬にして枯れ果てた。
魔力を、体力を、生命力を、全ての力を刈り取る黒死蝶。
「よしっ、完璧!!」
でも……。
剣を降ろして、ふと思ってしまう。
今、あたしはなんのために強くなろうとしているんだろう……?
- 157 名前:第3話 投稿日:2006/01/30(月) 13:16
- 今までは飯田さんの仇をとるために、紺野さんを殺すために強くなった。
でも自分の気持ちに気づいてしまった今、あたしはきっと紺野さんを殺すことはできない……。
いくら憎もうと思っても、どうしても紺野さんを好きな気持ちは隠れてくれない。
かといって、ハロモニランドの平和のために戦えるほど、あたしはまだハロモニランドに
馴染んではいない……。
ただがむしゃらに突っ走ってきた道は、どうしようもない袋小路だった。
「はぁ……」
そんなことを考えていたら、どうにも訓練するような気分じゃなくなってしまった。
始めたばっかりだけど今日は止めとこうか……。
せっかくの非番だし……そろそろ絵里も機嫌なおしたころだろうから、誘ってどっか
遊びにでも行こう。
城に帰ろうと振り返ると、ちょうどあたしの視界に一つの人影が割り込んできた。
「あっ……」
胸がキュンッと高鳴った。
鼓動が少し速くなる。
- 158 名前:第3話 投稿日:2006/01/30(月) 13:17
- 「コ、紺野さんっ……!?」
ついでに声も少し裏返った。
な、なんでこんなところに……!?
朝変な夢見たおかげで、ちょっと顔があわせづらい……。
ま、紺野さんはそんなこともなく、いつも通りのほほんとしてるんだろうけど……。
「どうしたんですか、紺野さん?」
でも少し近づいたところで足が止まった。
なんかおかしい。
いつもの紺野さんの雰囲気とどこかが違う……。
「……見つけた」
「えっ?」
紺野さんの口がニヤッと笑った。
「『闇斬りの少女』!」
「!?」
- 159 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/01/30(月) 13:21
- 今回はここまでです。
まだいろいろと忙しいのですが、気分転換とリハビリを兼ねてちょっと更新。
さっさとペースを戻せるように頑張ります。
>>146 みっくす 様
はい、ようやくいろいろと動き出します。
そしてれいなの葛藤も本格化(ぇ
- 160 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/02(木) 00:10
- 川o・ー・)・・・
- 161 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/03(金) 19:40
- heike
- 162 名前:みっくす 投稿日:2006/02/05(日) 11:36
- 更新おつかれさまです。
敵さん動きだしたのかな。
気になる終わりかただなぁ。
次回も楽しみにしています。
- 163 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/05(日) 18:57
- がんばってください
- 164 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:30
- 〜紺野あさ美〜
「紺野さん、紺野さ〜ん!」
「ん〜?」
私を呼ぶ声がする。
聞き取りづらいけど、聞き覚えのある声。
「紺野さん、起きてくださいってば!」
今度はちょっと声が近くなった。
この声って、え〜と……
「さっさと起きないと、キスしちゃいますよ!」
あれっ?
この声って……田中ちゃん……?
「んっ……?」
目を開けるとそこは自室のベッドの上だった。
眩しい光が窓から差し込んでいる。
あれっ? 夢……?
ていうかどっからどこまでが夢?
とりあえず今は起きてるみたいだけど……。
「ふぁ〜あ……」
どうやら今日はだいぶ寝坊しちゃったみたい。
もうお昼過ぎだ。
昨日もずいぶん遅くまで研究しちゃったからなぁ……。
- 165 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:31
- 顔を洗い、癖毛をなおす。
そして服を着替えてマントを羽織ると、自室を出た
あくびを噛み殺しながら、城の廊下を歩いていく。
目指すは地下室。私の実験室。
今日は誰か実験台が舞い込んでくれるかなぁ……?
「あれっ?」
地下に下りる階段に差し掛かったところで足が止まった。
階段の途中に見たこともない女の子が立っていたから。
「あの……あなたは……?」
その子はゆっくりと私の方を向いた。
くりっとした瞳が私を捕える。
「えーと、一応ココは一般人は立ち入り禁止なんだけど……」
騎士には見えないし、見覚えもない。
最近新しく騎士が入ったという話も聞いてない。
じゃああとは城下町の子が迷い込んだとか……?
「あっ、迷子になったんなら、私が城の入り口まで連れてってあげるから……」
するとその子はニコッと笑った。
そして……
「あなた、強い魔力を持ってるね?」
「えっ!?」
- 166 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:32
-
◇ ◇ ◇
〜後藤なつみ〜
「なっち〜、なっちぃ〜!」
「もう! 真希、邪魔しないで!」
「だってぇ、することないんだもん!」
机に向かって書類に目を走らせる私に、真希はゴロゴロとじゃれついてくる。
最初は私の髪をいじったりしてるだけだったけど、次第にエスカレートしてきて、
うなじにキスしたり、耳を舐めたり……。
ハロモニランド城の一室。私と真希の部屋。
あたしの机の上には片づけなければならない書類がまだ山のように積まれている。
「じゃあなっちのぶん手伝ってよ」
「ごとー、自分のぶんは終わらせたも〜ん!」
実は真希はけっこう仕事ができる。
それこそ、たぶん私よりも手際がいい。
そういうことはちゃんと女王様が教育していたようで、おかげでこういうパターンに
陥ることもしばしば。
「ひゃん! ちょっと、真希、ホントにやめてって!」
「だって、なっちが相手してくれないんだもん」
「だからなっちはまだお仕事が終わってないんだべさ」
「ごとーがあとで手伝ってあげるからぁ!」
「それなら今手伝ってよ!」
「今はそ〜ゆ〜気分じゃない〜」
「じゃあどういう気分なのよ?」って訊こうとしたら、強引に顔だけ後ろに向けられて、
そのまま口を塞がれた。
真希の舌が絡みついてくる。
ちょっと……まだお昼だってのに"そ〜ゆ〜気分"なわけ!?
- 167 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:33
- 「ま、真希、ダメだべ! まだお昼っしょ!!」
「え〜? いいじゃ〜ん!!」
「もう! なっちは真希をこんなえっちなコに育てた覚えはないべさ!!」
「ちゃんと新婚初夜まではガマンしたでしょ〜! その時もう一生分のガマンは
使い切っちゃった〜!」
「ひゃあ! だから耳はやめて!!」
しばらくのあいだそのままで攻防戦。
でも、結婚する前も結婚したあとも、私は真希に勝ったことなんてほとんどないのであって……。
「ねぇ、なっちぃ……」
「うぅ……」
上目遣い(ついでに少し目を潤ませて)で見つめてくる真希に、私は簡単に陥落してしまう。
甘いってことは自分でもよくわかってるんだけど、もうこればっかりはしょうがないみたい……。
書類の上にペンを置く。
「じゃあさ、真希……」
「んあっ?」
「部屋の鍵、閉めてきて……」
私が意図したことがわかったのだろう。
真希はピョンと私から離れて、一目散に扉まで駆けていった。
やれやれ……。
私も椅子を立って、ベッドまで移動する。
- 168 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:34
- 言ってもないのに、真希はわざわざ部屋の窓にカーテンを敷いて。
私はそんな真希を見ながら、上着を脱いだんだけど……
「んあ〜! ダメー!!」
「へっ? うわっ!!」
飛びついてきた真希を支えきれずに、私はベッドの上に倒れ込んだ。
真希が私の上に覆い被さる。
「ごとーが脱がせてあげる!!」
「やっ、ちょっと……」
ブラウスのボタンが一つ一つ外されていく。
胸元がスースーするけど、でも体はだんだんと火照ってきて。
「真希、自分で脱げるべさ……」
「ごとーが脱がせたいの!」
すぐにブラウスのボタンは全部外されてしまって。
そのままばっとはだけさせられた。
「あっ……」
「んふっ! なっち、綺麗だよ……」
「んぅっ!」
はだけた胸元に真希が唇を落とす。
そして真希の手が私の胸を下着の上から撫でた。
- 169 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:35
- 「あっ、真希……」
「なっち、これもとっちゃおうか?」
「……ぅん……」
真希の手が私の背中側にまわる。
背中をゆっくりと撫でながら、ホックを探す。
「あはっ、みっけ!」
そしてようやくホックに辿り着いた。
ドキドキが増してくる。
でも、その時……
ドオォォォン!!!
「えっ?」
「んあっ!?」
辺りに爆音が響いた。
それもすぐ近くから。方角的には城の裏手。
私と真希はそろって動きを止めた。
「なに、今の……?」
「わからない。けど……」
似ている……。
今溢れた波動は、あの時の波動に……。
一年前、死闘を繰り広げた、闇魔法に。
- 170 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:36
- 「闇……?」
「っぽかったねぇ……」
やっぱり真希も同じように感じ取ったらしい。
ついに始まってしまったのだろうか……?
とにかく、確かめなくちゃならない。
「真希、行くよ!」
「え〜!?」
「"え〜!?"じゃないべさ!」
本気で残念そうな顔をしている真希を尻目に、私は脱がされかけたブラウスのボタンを閉める。
「う〜……」
「"う〜"じゃないべさ! 一大事なんだよ!!」
そして上着を羽織って、ベッドから立ち上がった。
「ほら、真希、行くよ!」
「んあー! もう、なっちとごとーの秘め事邪魔したヤツ血祭にあげてやるー!!」
物騒なことを叫ぶと、真希は一目散に私の横を通りすぎて、部屋から飛びだしていった。
ただ通りすぎるときに「今夜覚悟しててね?」と言い残してたけど……。
これってタイミングが良かったんだか、悪かったんだか……。
一抹の不安を抱えながら、私も真希を追いかけた。
- 171 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:38
-
◇ ◇ ◇
〜田中れいな〜
「なっ……?」
鋭く尖った氷柱が地面に突き刺さった。
反射的にかわしたが、今まであたしがいた位置に的確に。
もしかわせなかったら、痛いじゃ済まなかっただろう。
「こ、紺野さん……?」
剣を構えてはみたものの、どうしていいかわからない。
だってあたしの目の前に立っているのも、あたしに向けて氷柱を放ったのも
紺野さんなのだから。
「紺野さん! いったいどうしたんですか!?」
今まであたしからケンカをふっかけたことは多々あったけど、紺野さんからふっかけられた
ことは一度もない。
しかもいきなり本気で殺しに来るなんて……。
「『闇斬りの少女』……」
でも紺野さんはあたしの声なんか聞こえていないように、また魔力の塊を作り出す。
- 172 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:38
- 「バーニング・オーラ!!」
放たれる業火。
あたしもダークブレイカーに力を送る。
「サタン・ブラスター!!」
溢れた闇の波動が炎とぶつかった。
辺りに衝撃波を散らしながら相殺する。
「はぁ、はぁ……」
おかしい……。
こんな紺野さんは今まで見たことがない。
それに紺野さんの瞳……光が宿っていない。
まさか……
「操られてる……?」
誰に、かまではわからない。
でもあたしのことを『闇斬りの少女』と言ってるところを見ると、この前紺野さんを襲ったヤツか、
その仲間。
そうとしか考えられない。
「まさかこんな形で紺野さんと戦うことになるなんて……」
紺野さんとは戦ってみたかったけれど、こんな形でじゃない。
でも紺野さんをこのままにしておくわけにもいかないから、あたしが戦うしかない。
てことは紺野さんを傷つけずに動きを封じなくちゃいけないわけか……。
- 173 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:39
- 先に紺野さんが動いた。
魔力を集めながら距離を詰めてくる。
そして魔力が黄色に光る魔法陣を描き出した。
「ライトニング・ボルテックス!!」
「うわっ!!」
魔法陣表面から放たれる雷刃。
操られているせいか、魔法に手加減がない。
でも攻撃は単調なので、かわすのにはそんなに苦労しない。
雷刃をかわしながら、紺野さんに近づいていく。
まずはなんとか至近距離まで近づいて……
あとは魔法を使えないように取り押さえてしまえば……。
「はっ!」
牽制程度に剣を振るう。
紺野さんは背後に飛んでかわしたが、それは読めてる。
一気に地を蹴って紺野さんの懐に飛び込む。
「くっ……」
紺野さんの右手がバチッと光った。
撃たせない!
握った拳を手のひらに叩き込む。
集まった魔力が一気に拡散した。
- 174 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:40
- こんな至近距離じゃ魔法は使えない。
あとはこの距離を保ちつつ、なんとか取り押さえてしまえば……。
でも、その考えは甘すぎた。
「フフッ……」
「えっ!?」
あたしの足下に緑色の魔法陣が浮かび上がった。
当然ながら紺野さんの足元にも魔法陣は及んでいたけど……
「スパイラル・サイクロン!!」
「うわっ!!」
吹き出した竜巻にあたしは弾き飛ばされた。
そのまま背後にあった木に背中をぶつける。
「つっ……」
竜巻が止み、中から紺野さんが出てきた。
いたるところに細かな傷が付いている。
くっ……まさかこんなふうに魔法を使ってくるなんて……。
あたしを倒せれば、紺野さんはどうなったって知ったこっちゃないってことか……!
怒りが込み上げてくる。
紺野さんを睨みつける。正確には、紺野さんを操っているヤツを。
どこの誰かも、なんの目的があるかもわからないけど、こんな卑怯な手を使ってくるなんて許せない!!
- 175 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:41
- 「やるしかないか……」
ダークブレイカーをかまえる。
取り押さえるのはちょっと無理っぽい。下手をすれば紺野さんが傷ついてしまう。
それなら別の方法で行動不能にするしかない。
まだ人間相手には試したことないから、上手くいくかちょっと自信がないけど……
「デス・バタフライ!!」
「むっ?」
ダークブレイカーから溢れる闇色の蝶があたしの周囲を舞い踊る。
上手くいって!
「紺野さんの魔力を刈り取れ!!」
ダークブレイカーを紺野さんに向けると、蝶はいっせいに紺野さんに向かって飛んだ。
魔力を全て奪ってしまえば、もう戦うことはできないでしょ!
「バーニング・オーラ!」
紺野さんから放たれる炎。
なんとか蝶を誘導して炎をかわすが、それでも数頭は炎にのまれて消滅してしまった。
でもこれだけいれば十分。
炎をかわした蝶が紺野さんに群がる。
- 176 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:41
- 「うわっ!!」
魔法を作らせる隙は与えさせない。
一気に魔力を奪い去ってやる!
「くっ……」
いくら手で振り払っても、魔力で作った蝶は魔力を吸い尽くすまで離れない。
そのうち紺野さんがガクッと崩れ落ちた。
もう少しだ、もう少しで紺野さんを助けることができる!
でも、もがいていた紺野さんの動きが急に止まった。
それと同時に一瞬辺りの空気が紺野さんに吸い込まれたような感じがした。
ドオォォォン!!!
「うわあっ!!」
そして一気に膨張して弾けた。
溢れた波動が蝶を飲み込んでかき消した。
まさか……この波動は……
「闇魔法……!?」
なんで紺野さんが闇魔法を!?
でもそんなことを考えている余裕はなかった。
蝶の檻から解放された紺野さんは、すぐに新しい魔力を集め始めて。
その魔力からも闇の波動が溢れている。
- 177 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:42
- 「サタン・ブラスター!」
「うわっ……!」
なんとかダークブレイカーで受けとめる。
紺野さんが使った魔法は、正真正銘の闇魔法。
「くっ、ダーク・オーラ!」
「オーバーライト=ダーク・オーラ!!」
紺野さんが闇魔法を使える以上、魔法を使ってもかき消されてしまう。
魔法での戦いじゃ分が悪い。
それなら接近戦でやるしかないんだけど……
「カラミティ・ウォール!!」
行く手を塞ぐ闇の障壁。
ダークブレイカーで切り裂くが、障壁の向こうで待ちかまえていたように、紺野さんが魔力を
集めて立っていた。
「ゴッド・ブレス!!」
「うわっ!!」
放たれた風の渦が、あたしの身体を吹き飛ばす。
なんとか体勢を立て直すが、そのころには紺野さんは新しい魔法を完成させていた。
紺野さんの腕が光り輝いている。
ときどきその光がバチッと爆ぜる。
腕に集束している数多の雷。
そのまま紺野さんが地を蹴った。
「サンダー・ブレード!!」
振り下ろされる雷。
なんとかかわすが、地面に当たった瞬間、雷の剣は一気に破裂して放電した。
- 178 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:43
- 「うわっ!!」
溢れた雷刃が身体に突き刺さる。
電撃が体を蝕んでいく。
あたしは地面に倒れこんだ。
「ちっ……くしょ……」
このままじゃいつまでたっても紺野さんに近づけない。
ダメージだけが蓄積されていくだけ。
それなら、いっそのこと……
「ふっ……これで貸し1個はチャラだよね……?」
痺れの残る身体に鞭を打って、なんとか立ち上がる。
そしてまた地を蹴った。
「まったく、無駄だってことがまだわからないの?」
目の前に溢れる闇の障壁。
でも今度はスピードは落とさない。
腕とダークブレイカーで身体をガードし、そのまま闇の障壁に突っこんだ。
「なっ!?」
「うおおぉぉおおっ!!」
腕がバチバチと痛む。
それでも一歩も退かずに闇にぶつかる。
そして闇の障壁を突き抜けた。
- 179 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:44
- 「くっ……バーニング・オーラ!」
「うざったい!!」
ダークブレイカーで炎を防ぎつつ、前に前に進んでいく。
さすがに全てを防ぎきることはできないけど、紺野さんを元に戻せるんならいくらでも
体張ってやる!
「うわぁっ!!」
「あっ!!」
振り抜いたダークブレイカーが紺野さんの腕を掠めた。
紺野さんが後ろに倒れると同時に、炎が止む。
今だっ!!
一気に駆けより、剣を振り上げる。が……
「くっ……」
その先がどうしても振り下ろせなかった。
あたしは紺野さんの前でピタッと止まった。
「どうしたの? 振り下ろさないの?」
自分でもわかっている。
でも紺野さんの目を見てしまうと、どうしても手が動かない。
- 180 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:45
- 「そう。以外と優しいのね」
スッと紺野さんが手をかざした。
わかっているのに……
「バーン・エクスプロージョン!」
「うわあっ!!」
轟音とともに炎が破裂した。
あたしの身体は木の葉みたいに宙を舞い、やがて地面に叩きつけられた。
「うっ……くっ……」
「まだ生きてるんだ。魔法に対してけっこう抵抗力があるみたいだね? その剣のおかげかな?」
ゆっくりと紺野さんが近づいてくる。
意識はしっかりとあるものの、身体はちょっと動かすだけでも激痛が走る。
紺野さんが私の前に立った。
「紺野さん……」
「これでもう私を止められるものはいないわ」
魔力が急激に集まる。
あたしは身動きがとれない。
殺られる……!!
でも闇が放たれる直前に、辺り一面が輝いた。
「えっ……?」
「くっ!」
紺野さんが飛び退く。
あたしの下には白く輝く魔法陣が広がっていて、周囲を光の壁が覆っていた。
この魔法は……
- 181 名前:第3話 投稿日:2006/02/07(火) 19:46
- 「田中ッチ、大丈夫!?」
「なっちさん……」
光の剣をかまえたなっちさんが、紺野さんと相対していた。
そして、もう一人……
「うわ〜、痛そう。ちょっと待っててね」
「姫様……」
ハロモニランド王女の真希様が、倒れたままだったあたしを抱え起こした。
詠唱が進むに従って、姫様の手が淡く輝き、光の塊ができていく。
「キュア・ライト!」
その光の塊があたしの身体に押し当てられると、瞬く間に光はあたしを包みこんだ。
そして体の痛みが和らいでいく。
光が止んだときには、もう身体はどこも痛くなかった。
それでも立ち上がろうとすると、まだ身体が思うように動かない。
傷は治ったけど、体力は回復してないみたい。
「ごめんね? あとでちゃんと回復してあげるから」
「あっ、ありがとうございます。でも……」
「大丈夫! 後はごとーとなっちに任せて!」
姫様はそっとあたしの頭を撫でると、そのままなっちさんのとなりに並んだ。
- 182 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/02/07(火) 19:51
- 今回はここまでです。
前作主人公カップルもちょっとは活躍(?)を。
ごっちんの早期回復を祈って。
>>160 名無飼育さん 様
从;´ヮ`)<……
>>161 名無飼育さん 様
はたして誰でしょうか?
次に出てくるのはもうちょっと先になります。
>>162 みっくす 様
そろそろいろいろと動き出します。
今回のバトルはもうちょっと続きます。
>>163 名無飼育さん 様
ありがとうございます。
期待に応えられるよう努力します。
- 183 名前:みっくす 投稿日:2006/02/07(火) 22:18
- 更新おつかれさまです。
おお、バトル全開ですね。
さて、前作主人公カップルはどういう戦いを見せてくれるのかな?
次回も楽しみにしています。
- 184 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/08(水) 00:33
- 从#~∀~#从<うちは?
- 185 名前:第3話 投稿日:2006/02/14(火) 14:45
- 〜後藤なつみ〜
エクスカリバーをかまえて、紺野と対峙する。
少しすると田中ッチを回復し終わった真希も私のとなりに並んだ。
紺野から溢れてくる闇のオーラ。
闇魔法で操られてる……?
いや、この感じはそれだけじゃない……。
「なっち、紺野は……?」
「わからない……。でも闇魔法で操られてるって感じじゃない。なんていうか、
飯田圭織と同じような状態だと思う」
「ごとーもそう思った。てことは、やっぱり……」
「うん。闇に魅入られてる」
一年前のあの戦いが終わったあと、私と真希は闇魔法について調べた。
そして闇魔法に対抗する特訓もしてきた。
その全てはこういう時のために。
「でも、できるかな?」
「やるしかないっしょ!」
「うん、そうだね」
エクスカリバーに力を送り込むと、刀身が淡く輝く。
真希も魔力を集め始めた。
- 186 名前:第3話 投稿日:2006/02/14(火) 14:45
- 「エクスカリバーか。探す手間が省けたわ」
紺野もかまえる。
闇が強さを増す。
私も負けないように光を灯し続ける。
そして紺野が先に動いた。
「ブラッディ・レアー!!」
暗い紅の魔法陣が足下に広がる。
早い……!
でも発動する直前に、なんとか魔法陣にエクスカリバーを突き立てる。
「ディスペル・ライト!!」
白金の魔法陣が闇の魔法陣を飲み込む。
そして二つの魔法陣は同時に消滅した。
「さすがは光の魔剣・エクスカリバーね。それじゃあこれはどうかしら?」
今度現れたのは黄色に輝く魔法陣。
また切り裂こうと思ったが、走り出す直前、背後にも別の黄色の魔法陣が新たに二つ現れた。
魔法陣の多重発動!?
そんな高等技法も身につけていたなんて……。
- 187 名前:第3話 投稿日:2006/02/14(火) 14:46
- 「ライトニング・ボルテックス!!」
私たちを取り囲んだ三つの魔法陣から雷刃が溢れ出す。
一気に三つの魔法陣を消すことはできない……。
「なっち!」
「真希!!」
一瞬真希と視線を交わす。
そして私たちの魔力を合成する。
「「オーロラ・カーテン!!」」
私たちのまわりを光のバリアが取り囲む。
放たれた雷刃をバリアが全て防いだ。
「ふぅん、なかなかやりますねぇ」
「そっちこそ」
もともと強い紺野の魔法が闇によってさらに威力を増している。
それがなくても、おそらく紺野は今現在の世界最強の魔法使い。
まともに戦っても勝てるかどうか……。
「なっち、大丈夫?」
「うん、平気。でもやっぱり紺野が相手ってのはキツイね……」
「ごとーがなんとか魔法を押さえるから、なっちはそのあいだに近づいて!」
真希が光を集め出す。
真希の力は信頼しているけど……
- 188 名前:第3話 投稿日:2006/02/14(火) 14:47
- 「真希、くれぐれも無茶だけはしちゃダメだよ?」
「うん、わかってる」
光魔法は使いすぎると命に関わる。
真希の魔力はこの一年で飛躍的に上がったけど、それでも真希はけっこう無理をしちゃう
性格だからちょっと心配。
「なっち、行くよ?」
「……うん……」
でもこうなったらあとは真希を信じるしかない。
私は私の役目をちゃんと果たす。
真希の手に集められた光の塊が輝き、弾けた。
「グロリアス・ヴァルキュリア!!」
「なにっ!?」
弾けた光が形を成して飛んでいく。
剣を携えた戦乙女。それが9体。
光の召喚魔法。
私も魔法に紛れて、紺野との距離を縮めていく。
「くっ! サタン・スラッシュ!」
紺野から放たれた闇の真空派が3体のヴァルキュリアを切り裂いたけど、それでもまだ
6体残っている。
6体のヴァルキュリアが光の剣を掲げ、いっせいに紺野に斬りかかった。
「つっ……」
紺野もうまく6体のヴァルキュリアを捌いていくが、さすがに少しずつダメージが刻まれていく。
それでもその中で闇が膨れあがっていってるのがわかる。
- 189 名前:第3話 投稿日:2006/02/14(火) 14:48
- 「うざったいわ!」
膨れあがった闇が一瞬で魔法陣に変わる。
「デモンズ・ストーム!!」
紺野の足下に広がった魔法陣から漆黒の竜巻が巻き上がる。
紺野の周囲を吹き荒れながら、ヴァルキュリアを飲み込みかき消した。
こんな強力な闇魔法まで使えるなんて……。
でも、竜巻が止んだときにはもう真希も新しい魔法を作り終えていた。
真希の前に光り輝く魔法陣が広がっている。
その魔法陣に七色の光が灯る。
「プリズミック・レイザー!!」
七色の光球から放たれる七色の閃光。
それが一点で交わり、一つの閃光となって紺野へと向かっていく。
でも、あれほどの闇魔法を放ったにもかかわらず、すでに紺野も新たな闇の魔法陣を
完成させていた。
「ジェノサイド・エクストリーム!!」
魔法陣から放たれる闇の波動。
光と闇がぶつかり合った。
- 190 名前:第3話 投稿日:2006/02/14(火) 14:48
- 「うわっ!」
「くっ……」
二つの力はほぼ互角。
互いに拮抗しぶつかり合っている。
二人とも魔法に意識を集中してるけど、その隙に私は紺野の背後に回り込んだ。
「なっち!」
「なっ……!?」
紺野が魔法を止めて振り返った。
真希も魔法を止め、一気に近づいてくる。
私は光を蓄えておいたエクスカリバーをかまえ……
「しまった……!」
「くらえ!!」
エクスカリバーを突き出し、紺野を貫いた。
「あっ!!」
遠くで田中ッチの悲鳴が聞こえた。
でも、悪いけど今は気にしていられない。
魔法に全神経を集中する。
- 191 名前:第3話 投稿日:2006/02/14(火) 14:50
- 「くっ……まさか、この魔法は……」
「紺野を、大切な仲間を好きにはさせないわ!」
「なっち!」
真希が紺野の背後に立った。
そして光の魔力をエクスカリバーに送る。
紺野を光が包みこんだ。
その光を結界へと組み立てていく。
闇を封じる封魔結界。
それをエクスカリバーを通して紺野の内なる闇へ張る。
それは私にしかできない。
光の魔剣・エクスカリバーを扱える私しか。
「なっち、こっちは大丈夫だよ!」
「うん、わかった!」
「おのれ……!!」
私の光と真希の光。
二つの光がぶつかり合い、混ざり合い、高め合う。
いける……!
「セイファート・シール!!」
光が紺野の中に吸い込まれていく。
紺野の中の闇がだんだんと小さくなり、やがて消えた。
正確には光に覆われて、感じられなくなった。
「ふぅ、よかった……」
封印が完了したのを見届け、私はエクスカリバーを紺野の身体から抜く。
魔法は成功したから紺野に傷はない。
でも剣を抜いたとたん、紺野の身体はふらっと崩れた。
「あっ、紺野!」
倒れる直前で真希が紺野を抱きとめる。
どうやら気絶しただけみたい。
- 192 名前:第3話 投稿日:2006/02/14(火) 14:50
- 「紺野さん!!」
私たちのもとに田中ちゃんが駆けよってきた。
走れる程度には体力も回復したようだ。
「姫様、紺野さんは!?」
「んっ、大丈夫、気絶しただけだから。闇もちゃんとなっちが封印してくれたし」
「そうですか、よかったぁ……」
気絶したままの紺野を真希が田中ッチに任せる。
田中ッチは紺野を抱きしめ、そのまま横に寝かせた。
真希はその様子を微笑ましそうに見ていたけど、その時、今度は真希の身体が
ふらっと揺らいだ。
「あっ、真希!!」
慌てて真希を抱きとめる。
そのまま地面に座り込んだ。
真希は私の胸の中で荒く呼吸をしている。
「真希、大丈夫!?」
「うん……少し疲れただけだから……」
「もう、無理しちゃダメっしょ!?」
「へへ、なっちがちゅ〜してくれたら元気になるかも」
「あとでいっぱいしてあげるから」
「約束だよ、なっち〜!」
そんなことを言って甘えてくる真希。
けっこう大丈夫そうで一安心。
- 193 名前:第3話 投稿日:2006/02/14(火) 14:51
- 「んっ……」
「あっ、紺野さん!」
田中ッチの声が響いた。
どうやら紺野が気づいたみたい。
真希が起きあがって、田中ッチと紺野のところへ向かう。
私も真希に続いた。
「紺野さん、大丈夫ですか!?」
「あっ……田中ちゃん……? それに姫様と、なっちさんも……」
紺野は少し虚ろな目をしていて、それでもその場に起きあがった。
田中ッチがそっと身体を支えている。
「私は……なんでこんなところに……?」
「……覚えてないんだべか?」
「たしか、実験室に行こうとしてて……そうだ、途中で女の子に会って……」
「女の子……?」
でも続きを聞こうとしたけど、突然紺野が目を見開いた。
「そうだ……そのあと……私が田中ちゃんや姫様を……」
「紺野さんっ!」
紺野の身体が小刻みに震える。
どうやら記憶はちゃんと残っているみたい……。
田中ッチが紺野をギュッと抱きしめている。
- 194 名前:第3話 投稿日:2006/02/14(火) 14:52
- 「田中ちゃん、ゴメン……ゴメン……」
「紺野さん、れいなはちゃんと無事ですから」
「でも、でも……」
しばらくのあいだ紺野は田中ッチに抱きついて、泣いていて。
田中ッチはなにも言わずに紺野を抱きしめていた。
そして紺野が取り合えす落ち着きを取り戻したみたいなので、話を戻す。
「紺野、意識はちゃんとあったのかい?」
「はい……・でも自分の意識とは関係なく身体が動いていて……。私、いったい
どうなってしまったんですか!?」
「それは……」
チラッと真希と目を合わせる。
こうなってしまった以上、話しておくべきなのだろう。
田中ッチにも関わりのある話だし。
真希もコクッと頷いた。
「実はね……」
意を決して二人に話そうとした、その時……
- 195 名前:第3話 投稿日:2006/02/14(火) 14:52
- 『それは私が話しましょう』
「えっ!?」
急に声が聞こえた。
誰の声とも知れない声。
みんなして辺りを見回しているところを見ると、みんな聞こえたらしい。
「あっ!」
次の声は田中ッチの声だった。
田中ッチの左手にはめられた指輪が急に光を放った。
宝玉が溶け、闇が溢れる。
闇は剣の形を形成して、宙に止まった。
「うそっ、何で!?」
田中ッチが慌てふためいている。
まさか……今のは田中ッチが自分でダークブレイカーを出したんじゃないの!?
「じゃあまさか……今の声は……」
ダークブレイカー!?
- 196 名前:第3話 投稿日:2006/02/14(火) 14:53
-
- 197 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/02/14(火) 14:56
- 今回はここまでです!
ようやく卒論が終わったー!!!(ぉ
そんな勢いでの更新でした。
>>183 みっくす 様
今回は前作主人公カップルの戦いでした。
頼れるお姉さんになったような感じです。
>>184 名無飼育さん 様
裕ちゃんは相変わらず隠居中です。
出番は……ないかも……?(ぇ
- 198 名前:みっくす 投稿日:2006/02/14(火) 21:38
- 更新おつかれさまです。
二人ともかなりのパワーUPで、息もぴったりですね。
面白い展開になってきましたね。
次回も楽しみにしてます。
- 199 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/15(水) 00:25
- ( ;`◇´;)<社長が逃げてもうた・・・
- 200 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/16(木) 00:04
- >>199 いちいちうぜえよ
- 201 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/16(木) 07:09
- >>200
ドンマイ!
- 202 名前:第4話 投稿日:2006/02/25(土) 13:19
- 〜田中れいな〜
『それは私が話しましょう』
「えっ!?」
急に聞こえた声。
それは誰だかわからない声だったけど、どこかで聞いたような声でもあった。
そして次の瞬間、急にダークブレイカーが輝いた。
「あっ!」
ダークブレイカーはあたしの意志とは関係なく、剣の形を形成していく。
「うそっ、何で!?」
今まであたしの意志無しで剣になったことなんて一度もない。
でもつい先日まで、ダークブレイカーを剣にしようとしてもならなかった。
それなら逆のことが起こることも……。
「じゃあまさか……今の声は……」
なっちさんが呟いた。
そうだ、さっきの声!
まさか……
『はい……私、ダークブレイカーです』
け、剣が喋った!?
- 203 名前:第4話 投稿日:2006/02/25(土) 13:21
- 「……魔剣って喋るんですか……?」
おそるおそるなっちさんに問いかける。
「いや……少なくともエクスカリバーは喋ったことないけど……」
「お母さんもそんなこと言ってなかったし……」
「私も聞いたことがありません……」
なっちさんに続き、姫様、紺野さんも次々に答える。
『こうしてみなさんと会話ができるのは、魔剣の中でも私だけです』
でも答えは他ならぬダークブレイカー自身が教えてくれた。
こっちの話もちゃんと聞こえてるんだ……。
「ねぇ……」
『はい?』
ダークブレイカーに話しかけてみる。
ダークブレイカーは普通に返した。
さすがにちょっと驚いたけど、それでも今まで一緒に戦ってきてくれた、あたしの
パートナーだし。
怖がったりするのは失礼というもの。
「あなたは全部知ってるの? 今回の紺野さんのことだけじゃなくて、最近起こってる
いろんなことも……」
『はい。れいなにはぜひとも聞いてもらいたい』
「わかった、聞かせて」
『はい……』
なんとなく、避けて通れない気がした。
紺野さんもなっちさんも姫様もダークブレイカーの話に耳を傾けている。
- 204 名前:第4話 投稿日:2006/02/25(土) 13:22
- 『まず、紺野さん。あなたは闇に魅入られています』
「闇に……魅入られる……?」
『闇の欠片があなたの中に入り込んでいるのです。これを『闇に魅入られる』といいます』
「「闇の欠片?」」
あたしと紺野さんの声が思わずハモった。
『はい。闇に魅入られると肉体どころか魂までも闇に囚われます。今回のことも闇の欠片に
身体が一時的に乗っ取られたのです。今のところは光の封印によって押さえ込まれてますので、
封印がある限り乗っ取られることはないでしょう。紺野さんは闇の欠片の影響で闇魔法を
使うことができると思いますが、闇魔法は絶対使わないでください。闇魔法を使えば光の封印は
崩壊し、魂が闇に侵されていきます』
「ちょ、ちょっと待って! 話が全然わかんないんだけど!!」
なんか話が飛躍しすぎてる。
もしかしてあたしだけ、とも思ったけど、紺野さんもよくわからないような顔してたので一安心。
紺野さんがわからないんじゃ、あたしにはもっと無理と。
『そうですね、順を追って説明しましょう。みなさんは光と闇の始まりの物語はご存じですか?』
「そんなの知らんと」
「「あっ!」」
紺野さんとなっちさんが同時に叫んで顔を見合わせた。
- 205 名前:第4話 投稿日:2006/02/25(土) 13:23
- 「もしかして、あの時の……?」
「多分そうだと思いますけど……」
二人には思い当たる節があるらしい。
「真希は、知ってるの?」
「お母さんからちょっと聞いたことがある」
姫様も知ってるらしい。
あれ? てことは今度こそもしかしなくてもわからないのあたしだけ……?
なんかおもしろくなか……。
「なんでみなさん知ってるんですか……?」
あっ、なんか声がかなり不機嫌な声になってる……。
「あ〜、え〜と……紺野、田中ッチに教えてあげてくれる?」
『そうですね。私も現代にどのように伝わっているか興味があるので、よければ話して
いただけますか?』
「あっ、はい。え〜と……」
そして紺野さんがポツポツと話し始めた。
光と闇にまつわる、太古の悲恋話。
- 206 名前:第4話 投稿日:2006/02/25(土) 13:24
- 「そんなことが……あったんですか……」
さすがにこれしか言えなかった。
「なっちは前に偶然紺野に聞いたんだ」
「ごとーがお母さんに聞いたのもほとんど同じ内容だったよ」
「私が知ってるのはこれくらいですけど……」
紺野さんがダークブレイカーの方を向く。
ダークブレイカーは紺野さんが話しているあいだ一言も喋らなかったけど……
『やはり……そうですか……』
ようやくそれだけ、納得したような口調で呟いた。
「やはりって……どういうことですか……?」
『この物語はどこか変だと思いませんか?』
変……?
って言われてもすぐには思いつかないんだけど……・。
「あっ……そういえば……」
でも紺野さんは何かを思い立ったらしい。
「この物語って、光と闇が目覚めるまではけっこう詳しく伝わってるのに、そのあとは
かなり端折られてますよね?」
「言われてみれば……」
『そう、その通りです』
確かに闇魔法が目覚めたあとは、大戦が勃発した、闇魔法が封印された、とかなり
端折って伝えられている。
『これはおそらく話が伝わるあいだにだんだん抜け落ちていってしまったのでしょう。
劇的だった前半部分にスポットが当てられて、後半部分は結果のみが伝わってしまった。
歴史の流れの上ではよくあることです』
そこでダークブレイカーは一度話を切った。
でも少ししてまた続けはじめた。
『話しましょう。起こったことを。忘れられてしまった歴史の闇を。そして私、ダークブレイカーが
作られたわけを……』
- 207 名前:第4話 投稿日:2006/02/25(土) 13:25
-
第4話 けじめ
- 208 名前:第4話 投稿日:2006/02/25(土) 13:26
- 闇の力が目覚めたあと、『アカビア』は一瞬のうちに闇に覆い尽くされました。
そして瞬く間に廃墟と化してしまったのです。
愛する人を亡くした悲しみが
闇の力を暴走させたのです。
解き放たれた闇は「アカビア」を滅ぼしただけでは治まりませんでした。
世界の全てを巻き込み、吹き荒れ、全てを破壊しようとしたのです。
そして長きに渡る戦いが幕を開けました。
この戦いは「聖魔大戦」と呼ばれました。
闇の力は絶大でした。
最初のうちは戦いなどではなく、一方的な虐殺でした。
圧倒的な闇の力の前に、人々は為す術なく死んでいきました。
このとき、実に世界の約半分が闇によって滅ぼされました。
しかし、闇と戦い続けるあいだに、人々の力は強くなっていきました。
そして聖魔大戦が始まってから20年ほど経ったとき、ついに希望の光が表れました。
光・炎・水・風・雷・地。それぞれの属性を極めた6人の勇者達。
光の勇者、レム。
炎の勇者、イフリート。
水の勇者、ウンディーネ。
風の勇者、シルフ。
雷の勇者、ラムウ。
地の勇者、ノーム。
- 209 名前:第4話 投稿日:2006/02/25(土) 13:27
- 彼らは自分の全ての力を込めた剣を作り上げました。
それが、『魔剣』。
彼らは魔剣を手に、闇に戦いを挑みました。
彼らと闇との戦いは、さらに10年にも及びました。
己を鍛え、魔剣を鍛えてもなお、闇を滅ぼすことはできませんでした。
とはいえ、闇も相当なダメージを追っていました。
勇者達は6本の魔剣の力を合わせて空間を切り裂き、闇を空間の狭間へ封印することに
成功しました。
こうして闇は地上から消えました。
一時的ですが、平和が戻ったのです。
長かった聖魔大戦がようやく終わりを告げた瞬間でした。
しかし闇が滅びたわけではありません。
勇者達は最後の力を振り絞り、7本目の魔剣を作りました。
6本の魔剣の力全てと、闇がこの世に残した、闇自身の力を込めた魔剣は、
唯一闇を滅ぼす力を宿しました。
それが『闇斬りの魔剣・ダークブレイカー』なのです。
- 210 名前:第4話 投稿日:2006/02/25(土) 13:28
-
◇ ◇ ◇
『今、封印は綻び、闇が再び動き出しました。そう遠くない未来に封印は完全に破られ、
闇が復活するでしょう。そうなれば世界は今度こそ滅びます。それを防ぐためには、
闇が完全に力を取り戻す前に、この世界に散らばっている全ての魔剣を集め、
封印を解いて闇を斬るしかありません……』
「・・・・・・」
何も言葉を発することができないまま、あたしはその場に凍り付いた。
「それって……まさか……」
紺野さんがおそるおそるといった感じで、あたしのほうを見た。
姫様となっちさんもあたしの方を向く。
あたしは無意識に一歩後ろに後退った。
嘘って言って……。
祈るような気持ちでダークブレイカーを見つめるけど……
『そうです……れいな、世界を救えるのはあなたしかいません』
「そんなっ!!」
あたしは思わず叫んでいた。
- 211 名前:第4話 投稿日:2006/02/25(土) 13:29
- 「れいなには……そんな力なんてないっ!! だいたいなんでれいながっ!!」
『れいなならできると私が確信しました。だからあの時私はれいなを選んだのです。
れいな、あなたならできます。いえ、あなたしかできないのです』
「できない! できるわけないっ!!」
そんなこと言わないで……!
そんな目であたしを見ないで……!!
身体は震え、どんどん後退っていく。
「っつ!!」
「あっ、田中ちゃん!!」
気が付いたときには、身体は後ろを向いていた。
あたしはその場から逃げ出した。
そのまま城内に突っ込み、階段を駆け上って自分の部屋に飛び込んだ。
宝玉の戻ってない指輪を指から外し、床にたたきつけた。
そしてそのあとはベッドに突っ伏した。
何も聞きたくない……
何も見たくない……
何も考えたくない……
ただただ身体が震えて。
なぜか涙が止めどなく零れた……。
- 212 名前:第4話 投稿日:2006/02/25(土) 13:30
-
◇ ◇ ◇
「んっ……?」
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたみたい。
目を開けると部屋の中が真っ赤に染まっていた。
世界を血に染める夕暮れ時。
どうせならこのまま寝てしまおうと思ってもう一度目を閉じたとき、何かがサラッと
あたしの髪を撫でた。
「えっ!?」
驚いてガバッと体を起こすと、そこにいたのは……
「あっ、ゴメン、起こしちゃった?」
「こ、紺野さん……?」
紺野さんがあたしのとなりに腰掛けていた。
あたしは紺野さんに背中を向ける。
起きたとたん、また震えが襲ってきた。
「ごめん、部屋の鍵空いてたから……」
また紺野さんがあたしの髪を撫でるけど……
- 213 名前:第4話 投稿日:2006/02/25(土) 13:31
- 「触らないでくださいっ!」
あたしはその手を振り払った。
紺野さんから離れるように、ベッドの端による。
「見ないで……ください……!」
震えを隠すように、必死に自分で自分を抱きしめる。
弱いあたしを、情けないあたしを
一番愛しい
一番憎い
紺野さんにだけは見られたくなかった。
「お願いだから……出てってください……」
紺野さんはしばらくなにも言わなかったけど、少ししてベッドを立つのが気配でわかった。
でも、その気配は部屋から消えるのではなく……
「田中ちゃん……」
「!!」
背中に感じる、柔らかくて温かい体温。
前にまわされた腕がギュッとあたしを閉じこめる。
優しい空気があたしを包みこむ。
- 214 名前:第4話 投稿日:2006/02/25(土) 13:33
- 「こ、紺野さん……!?」
一瞬だけ全てを忘れてた。
紺野さんの温かさに、優しさに、全てを委ねていた。
でも、それは一瞬の出来事。
すぐに全てを思い出す。
「は、離れてください!」
腕の中でもがくけど、紺野さんは離してくれない。
それどころか、さらにきつく抱きしめてきて……
「田中ちゃん……辛いよね?」
「えっ……?」
「急に世界を救えなんて言われてもさ、そんなの重すぎるよね?」
胸が締めつけられるのを感じた。
紺野さんはまるで自分のことのように語る。
「だから……田中ちゃんは来ることないよ」
「えっ?」
それって……
「もしこのまま本当に世界が滅びちゃっても、誰も田中ちゃんのこと責めたりなんてしない」
「まさか、紺野さんは……」
「私は……自分の身体の問題だから。闇が目覚めちゃったら、この光の封印も
役に立たないんだって。私の身体が闇に使われて、また田中ちゃんや他の人々を
傷つけちゃうのは耐えられない……」
振り返って見た紺野さんの瞳は、決意に溢れていて。
眩しくて、あたしは見ていられなかった。
- 215 名前:第4話 投稿日:2006/02/25(土) 13:34
- 「それに、もしかしたらダークブレイカーを使わなくても、闇を倒せるかもしれないし」
「でも……」
「ごめんね、田中ちゃん。田中ちゃんにはずっとハロモニランドにいるって言ったのに、
破ることになっちゃって」
「そんなこと……」
思わずあたしは紺野さんに抱きついた。
紺野さんはなにも言わず、優しく受けとめてくれて。
あったかくて、柔らかくて。でも、こんなに近くにいるのに、すごく遠く感じた。
「いつ……行くんですか……?」
「準備が整いしだいすぐにでも。誰にも知られないうちにね……」
「そんな……」
紺野さんは優しくあたしの頭を撫でたあと、ゆっくりと立ち上がった。
「そうだ、田中ちゃん」
「はい?」
「これ、落ちてた」
紺野さんがあたしの手に乗せたもの。
それは闇色の宝玉が付いた、捨てたはずのダークブレイカー。
「それじゃ、そろそろ戻るね。バイバイ、田中ちゃん」
「あっ……」
紺野さんはゆっくりと扉に歩いていく。
あたしはその後ろ姿を呼び止めることができなかった。
- 216 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/02/25(土) 13:41
- 今回はここまでです。水板になりました!
ちょっとした説明パートです(苦笑
光と闇の物語は「Dear my Princess」の「Interlude 3」を参照してください。
>>198 みっくす 様
二人とも強くなりました!
一応見せ場もできましたし。
そろそろ本格的にいろいろと動き出すと思います。
- 217 名前:みっくす 投稿日:2006/02/25(土) 21:26
- 更新おつかれさまです。
なんか、すごい展開になってきましたね。
さあ、れいなはどうするのでしょうかねぇ。
愛しい人を守ることはできるかのかな。
次回も楽しみにしています。
- 218 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/27(月) 02:41
- …この展開、何となく亀も闇に堕ちそうな予感
- 219 名前:第4話 投稿日:2006/03/06(月) 12:30
- 次の日、あたしは一日休みをもらった。
そして自分の部屋に閉じこもった。
ベッドの上に寝ころび、それでも目はしっかりと開いて、いろいろ考えた。
闇のこと……
ダークブレイカーのこと……
紺野さんのこと……
ダークブレイカーは指にはめてない。鏡台の上に置いてある。
あたしが考えているあいだ、ダークブレイカーはなにも言ってこなかった。
そして日も暮れかけた頃。
あたしは一つの結論を出した。
一日中寝っ転がってたベッドから飛び起きる。
「……お腹減った……」
思えば今日何も食べてなかった。
でも何よりも先に、あたしは鏡台へと歩み寄る。
そしてダークブレイカーを指にはめた。
「ダークブレイカー……」
『はい?』
話しかければちゃんと応えてくれる。
どうやら指輪のままでも話すことはできるらしい。
「れいな決めたんやけん。聞いてくれる?」
『えぇ、もちろん』
そしてあたしはダークブレイカーに思いを全て伝えた。
- 220 名前:第4話 投稿日:2006/03/06(月) 12:30
- 『そうですか……それがれいなの答えなのですね?』
「うん」
話し終わったあと、ダークブレイカーは静かに呟いた。
『後悔はないですか?』
「うん。でもその前に一つだけやらなきゃいけないことがあるけん。協力してくれる?」
『えぇ、私はれいなのパートナーですから』
「ありがと」
それっきりダークブレイカーはまた黙り込んだ。
でも、伝えたいことは全て伝えた。
ふぅ、とあたしは一つ息をつく。
チラッと窓の外を見る。
辺りはゆっくりと暗くなってる途中。
さすがにまだちょっと早いかな?
「あ〜、お腹減った……」
とりあえず……まずは何か食べようかな……?
- 221 名前:第4話 投稿日:2006/03/06(月) 12:31
-
◇ ◇ ◇
夕食を食べ一息つくと、もう夜もかなり更けていた。
ここまで遅ければもう大丈夫だろう。
それに紺野さんももう戻っているはず。
あたしは決意を胸に、そっと部屋を抜け出した。
向かったのはとなりの部屋。紺野さんの部屋。
軽く二回、扉をノックする。
「はぁ〜い?」
やっぱり紺野さんはもう帰ってきていたらしい。
しばらくして、部屋の扉がガチャッと開く。
「あっ、田中ちゃん、どうしたの?」
紺野さんが笑顔を見せる。
でもあたしはその笑顔を睨みつける。
「紺野さん、ちょっと顔貸してくれませんか?」
「えっ……?」
それだけ言って、くるっと背中を向ける。
そして暗い廊下を歩き出す。
紺野さんは少し戸惑ってたみたいだけど、ちゃんと付いてきているのがわかった。
- 222 名前:第4話 投稿日:2006/03/06(月) 12:33
- あたしが向かったのは城の修練場。
思った通り、こんな時間では修練場に誰もいなかった。
たいまつに火を灯し、辺りを明るくする。
そしてたいまつの炎に囲まれた修練場の中で、あたしは紺野さんと向かい合う。
「田中ちゃん、こんなところで何するの?」
でもあたしは紺野さんの質問には答えず、すっと左手をかざす。
炎の灯りの中に、濃い闇が生まれる。
宙に現れるダークブレイカー。
あたしはダークブレイカーを握り、紺野さんに突き付けた。
「紺野あさ美、あなたに……決闘を申し込む」
「えっ……?」
「あなたは飯田さんを殺した憎い仇。そしてれいなはあなたを殺すために今まで剣を学んできた」
「田中ちゃん……」
紺野さんが悲しそうな目をした。
それでもあたしは紺野さんを睨み続ける。
揺らいじゃダメ……。
少しでも揺らいだら、きっと一気に決意が崩れてしまうから……。
- 223 名前:第4話 投稿日:2006/03/06(月) 12:34
- 「でも、田中ちゃん……田中ちゃんの腕じゃ、まだ私には勝てないよ?」
「そんなのやってみなくちゃわかりません。それにもう時間もあまりないじゃないですか?」
「そうだけど……でも……」
「じゃあこんなのはどうですか? もし今日負けたら、それで仇討ちは諦めます。もうあなたを
仇として狙ったりしません」
「本気なの……?」
「えぇ、それくらいの決意で、れいなは臨んでるんです。それでも受けてもらえませんか?」
紺野さんはゆっくりと目を閉じた。
でも、次に目を開けたときには、いつもの優しい目は微塵も残ってなかった。
「わかった……」
紺野さんの身体から鋭い闘気が溢れ出す。
取り囲んだ炎が揺れる。
身体にビリビリと伝わってくる、紺野さんの気迫。
でもそれが、とても心地良く感じる。
「ありがとうございます、紺野さん」
声は届いたかどうかわからないけど。
あたしはダークブレイカーをかまえ、全ての力を送り込む。
それと、ダークブレイカーも……
あたしのこんな復讐に、力を貸してくれてありがとう……。
「行きます……」
「うん……」
そして、あたしは思いきって地面を蹴った。
- 224 名前:第4話 投稿日:2006/03/06(月) 12:35
-
◇ ◇ ◇
「んっ……?」
目を開けると、そこにあったのは綺麗な満月と満天の星空。
初めて外へ出て見たときと同じ夜空。
「あっ、よかった、気がついた?」
「紺野……さん……?」
視界に入ってきた紺野さんはニッコリと笑っていて。
ついでに、頭の下がなんか柔らかくて。
あれ? もしかしてこの状況って……ひざまくらってヤツですか!?
「わわっ……っつ!!」
慌てて起きあがろうとしたが、その瞬間に身体に激痛が走った。
結局また紺野さんの膝の上に戻って
そしてようやく気づいた。
「そっか……れいなは、負けたんですね……」
「うん、私の勝ち!」
紺野さんは嬉しそうに、またニッコリと笑った。
- 225 名前:第4話 投稿日:2006/03/06(月) 12:36
- 「れいなどのくらい落ちてました……?」
「う〜ん、でもほんの数分だよ?」
「そうですか。あ〜あ、結局敵わなかったかぁ……」
「でも田中ちゃん、強くなってるよ。一年前に比べると見違えるくらい。今回は私もけっこう
本気だったし」
「そうですか……」
そう言われると素直に嬉しかった。
気づけばたいまつの炎も燃え尽きていて、今は月明かりだけが修練場を照らしている。
そんなにも長い間、紺野さんと打ち合えたんだなぁ……。
「仇討ち、諦めてくれるんだよね?」
「はい、そういう約束ですからね……」
悔しくないと言えば嘘になる。
でも悔しいと言うよりも、今はなんかすっきりとした感じがした。
仇は討てなかったのに……何でだろう……?
「紺野さん、一つ聞いていいですか?」
「んっ、なぁに?」
「飯田さん、どんな最期でした……?」
「うん……」
紺野さんの顔が少し曇った。
でもあたしは聞かなくちゃいけない気がした。
全てときちんと向かい合うために……。
- 226 名前:第4話 投稿日:2006/03/06(月) 12:37
- 「上手く説明できるかどうかわからないし、ちょっと長くなっちゃうかもしれないけど、いいかな?」
「はい、お願いします……」
そして紺野さんはぽつりぽつりと話し始めた。
一年前のロマンス王国城での、あたしと戦ったあとの出来事を。
いつの間にか涙が溢れてきてたけど、流しっぱなしにしておいた。
「もしかしたら闇に操られてたのかもしれないし、あるいは本当に飯田さん自身の行動だったかも
しれないけど、それでも光に飲み込まれる最期の時は安らかな顔してたよ……」
「そう……ですか……」
流れっぱなしだった涙を拭う。
「やっぱり……『紺野さんが殺した』って言うのは嘘だったんですね?」
「全部が全部嘘ってわけじゃないけどね」
「どうしてあんな嘘を? れいなに恨まれてまで」
なんとなくはわかっているけど。
それでも紺野さんの口から聞きたかった。
「うん……あの時の田中ちゃんの姿が、幼かった頃の自分とかぶったから、かな?」
「えっ……?」
でも紺野さんの答えは、予想していた答えとはずいぶんと違った。
「私も小さかった頃、家族を失って独りになって、でもそんな私を救ってくれたのが飯田さんだった。
あの時の私に似てたから。だからどうしても助けたかったけど、私は飯田さんみたいに器用じゃないから。
結局あんな形になっちゃった。復讐心でも人は生きていけるし、それにもし恨むんだったらその対象は
私だけで十分……。でも、必要なかったかもしれないね? 田中ちゃんは強いから……」
「そんなこと、ないです……」
今だからわかるけど、あの時は確かに紺野さんの存在に救われていた。
もしあの時紺野さんがああしてくれなかったら、あたしは今どこでどうしてるか想像もつかない。
- 227 名前:第4話 投稿日:2006/03/06(月) 12:38
- 「そうだ、私も一つ聞いていい?」
「なんですか?」
「うん……」
紺野さんは一瞬言いづらそうに口ごもったけど、すぐにあたしの方に向き直った。
「田中ちゃん、もしかして今日、最初から負けるつもりだったんじゃないの?」
「・・・・・・」
ちょっとビックリして、一瞬答えに詰まった。
「いえ、少なくとも最初から負けるつもりはなかったですよ。でも死んでも勝ちたいって
ことでもなくて、勝っても負けても悔いが残らなければそれでいいかな、って。戦ってる最中は
本当に殺すつもりで戦ってましたし」
「どうして? 田中ちゃんは絶対にもっと強くなるよ? 私だって多分そう簡単には勝てないくらい
強くなって、そしたら仇が討てるかもしれないのに」
「いいんです。いくら強くなっても、もうれいなは紺野さんのことを憎い仇としては見れませんから。
今日だってずいぶんと無理してましたし」
「えっ?」
なんだかずいぶん簡単に言葉が出てしまった。
普段だったら慌てふためくところなんだけど、なんだか今日はちょっとだけいろんなモノが違っていて。
そっと、紺野さんの膝から体を起こす。
とりあえず痛みはもうなかった。
紺野さんの瞳を真っ直ぐ見つめる。
- 228 名前:第4話 投稿日:2006/03/06(月) 12:39
- 「紺野さん、れいなは紺野さんのことが好きです」
「えっ?」
そっと紺野さんに近づいて、紺野さんを抱きしめる。
抱きつく、じゃなくて、抱きしめる。
紺野さんをあたしの腕の中に閉じこめる。
これだけやればいくら鈍感な紺野さんでも分かるやろうとよ。
「た、田中ちゃん……」
思った通り、紺野さんは腕の中で困ったような声を出した。
あたしは紺野さんを解放して、また正面から向かい合い、言葉を続ける。
「だから、れいなも行きます」
「えっ……?」
「本当にれいなの力で、ダークブレイカーで闇を倒すことができるなら、れいなも一緒に行きます。
世界を救うためとか、そういうんやなくて、ただ紺野さんを助けたいから」
まだ固まっている紺野さんに、あたしはニコッと笑ってみせる。
「紺野さんを助けるついでなら、世界でもなんでも救ってあげます」
- 229 名前:第4話 投稿日:2006/03/06(月) 12:40
- 紺野さんはまだしばらくポーッとしてたけど、やがてクスッと笑った。
「なんか、田中ちゃんらしい」
「そうですかねぇ?」
「うん。あっ……でも……」
笑ったと思ったら、今度はちょっと困ったような表情になって、わずかに目をそらした。
「その……田中ちゃんの気持ちは嬉しいんだけど……えっと、私はまだ誰を好きとかは……
わからなくて……。あっ、田中ちゃんのことは好きだよ? でもその『好き』が
田中ちゃんの『好き』と一緒かどうかは……わからないの……」
「あ〜……そうですか……」
やっぱりちょっと残念……。
そりゃ、即効でフラれるよりはマシだけどさ……。
なんとも言えない、微妙な答え。
まぁ、予想通りといえば予想通りなんだけどね……。
「ま、今はそれでいいです。少なくとも嫌われてるわけではないってことはわかったんで。
これからはいっぱい二人の時間が作れそうですし」
「えっ……と?」
「いつか絶対れいなのものにしてみせるけんね!」
「わっ!?」
なぜか今夜は言うつもりのなかった言葉が、自然に口から零れだし
それに伴って、身体もスムーズに動き回る。
あたしはまた紺野さんを抱き寄せて、
気づいたときには唇を重ねていた。
「!! た、田中ちゃん……!!」
「今日はありがとうございました。おやすみなさい、紺野さん」
もう普通に動いても痛みを感じないくらいには回復しているみたい。
あたしは暗闇の中でもわかるくらい顔を赤くした紺野さんを残し、足早に修練場を去っていった。
城内に戻り、自分の部屋に辿り着いて……
セミダブルベッドに倒れ込んだ瞬間、顔から火がでた。
あたしはいったい何してると!?
その夜は一睡もできなかった……。
- 230 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/03/06(月) 12:45
- 今回はここまでです。
ようやく関係が前進した……かな?
いいかげん、ストーリーも動き出す予定です。
>>217 みっくす 様
れいなは結局こうなりました。
愛しい人を守れるかはこれからのれいな次第ってことで。
>>218 名無飼育さん 様
あっ、それもいいかも(激マテ
考えてみます〜!(ぉ
- 231 名前:konkon 投稿日:2006/03/06(月) 20:14
- れいにゃキャワッっすねw
紺ちゃんをライバル視しているあの子はどうなることやら・・・
次回も楽しみに待ってます。
- 232 名前:みっくす 投稿日:2006/03/06(月) 22:23
- 更新おつかれさまです。
おお、やっと心の中をはきだしましたね。
れいなが、愛しい人と想われる日は、いつになるのでしょうかね。
次回も楽しみにしています。
- 233 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 00:37
- すっごくイイですね!!今後がとっても楽しみです。
- 234 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/12(日) 17:11
- おうえんしてmすぅ
- 235 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/14(火) 00:44
- こんんお!すき
- 236 名前:第4話 投稿日:2006/03/14(火) 14:06
- 結局そのあと、あたしたちの関係に劇的な変化はなかった。
かといって、まったく何も変わらなかったというわけでもなくて。
その、微小な変化というのが……
「あっ、れいな」
「なんですか、ポンちゃん?」
あたしのことを「れいな」と呼んでくれるようになった。
だからあたしも「ポンちゃん」と呼ぶことにした。
ま、それ以外ではほとんど変化は見られないんだけどね……。
あたしのほうも、以前みたくポンちゃんに突っかかることはなくなったけど、すぐに
思いっ切りじゃれつくようなこともできんし……。
良くも悪くも、ほぼ現状維持みたいな状態です……。
で、あたしを呼び止めたポンちゃんは、辺りに人がいないことを確認し、そっとあたしの
ほうに近づいてきた。
その上さらに、口をあたしの耳元に寄せてくる。
胸が一回ドキッと高鳴った。
- 237 名前:第4話 投稿日:2006/03/14(火) 14:07
- 「その……準備できた?」
「は、はいっ!」
無意識って怖いと……。
なんとか自分を抑えながら、ポンちゃんに答える。
「じゃあ明日出発でいいかな?」
「れいなは大丈夫ですよ?」
「わかった、じゃあ明日にしよう。頑張ろうね、れいな!」
「はいっ!」
それだけ言って、ポンちゃんは廊下を戻っていった。
いよいよ明日か……。
なんかちょっと不思議な気分。
そこまで長くいたわけでもないのに、なんだかもの悲しくなってくる。
いろいろあったけど、やっぱりハロモニランドでの生活はとても楽しいものだった
んだなぁ……。
- 238 名前:第4話 投稿日:2006/03/14(火) 14:08
-
◇ ◇ ◇
そして翌朝。旅立ちの日。
かなり頑張って目を覚ました、まだ少し薄暗い早朝。
窓の外は濃い霧が漂っていた。
部屋の外に出ると、丁度同じタイミングで、ポンちゃんも部屋から出てきた。
足音を殺して、ポンちゃんに駆けよる。
「おはようございます、ポンちゃん」
「おはよう、れいな。いよいよだねぇ」
「そうですね、行きましょう!」
「うん!」
二人並んで歩き出す。
まだ誰もいない城内を通り抜け、見張りの兵士をやり過ごして庭に出る。
そしてミルク色の霧に紛れて城門を駆け抜けた。
このハロモニランド城ともお別れか……。
せめて最後にもう一度だけ見るために、振り返ろうとしたが、それよりわずかに早く……
- 239 名前:第4話 投稿日:2006/03/14(火) 14:09
- 「それで、また絵里は置いてけぼり?」
「えっ!?」
振り返って目にしたのはハロモニランド城ではなく、城門の横にもたれかかってる
絵里の姿だった。
しかもローブを着込んで、杖まで持っている。
「絵里……なんで……?」
「れーなのことなんてお見通しだよ! 何年一緒にいると思ってるの?」
絵里はそのまま、硬直してしまったあたしとポンちゃんの元に歩み寄ってくる。
「それに言ったでしょ? 今度絵里を置いてったら許さない、って! だから絵里も一緒に行く!!」
「なっ!? ダメだよ、絵里! 危険な旅なんだよ!!」
「危険な旅だからこそ、絵里たちが助けてあげるの!」
「絵里……たち……?」
その時気づいた。
絵里以外にも、この場所に微かな人の気配があることに。
その気配が霧の隙間から、あたしたちの前に現れた。
「あっ……」
それで、すっかり固まったままだったポンちゃんがようやく口を開いた。
- 240 名前:第4話 投稿日:2006/03/14(火) 14:10
- 「まったくぅ、あさ美ちゃんも田中ッチもちょっと酷いんじゃない? なにも言わずに
行くなんて」
「そうやで! だからあたしたちもついてくことにしたんや!!」
「ののとあいぼんも一緒に行くのれす!」
「ちゃんと矢口さんから許可はもらったで〜!!」
「愛ちゃん、里沙ちゃん……のんちゃんにあいぼんも……」
最初は二人だけで行くつもりだったんだけど、なんかずいぶんと仲間が増えた。
たぶんみんな言っても聞かないだろうし、確かに二人でできるのかちょっと不安だったし。
でもこの仲間なら、なんかできるような気がする。
みんな……ありがとね。
「みんな、準備は整ったみたいだね?」
「えっ?」
その時また別の声が響いた。
新しい人の気配が霧の中から現れる。
「あっ……姫様……」
現れたのは姫様やなっちさん、保田さんなど、王宮騎士団の主要メンバーが
全員そろっていた。
おそらくわざわざ見送りに来てくれたのだろう。それはとっても嬉しいんだけど……
なんていうか……あたしたち二人はここまでバレバレだったのか……。
そう思うと、なんかちょっと悲しくもあった……。
- 241 名前:第4話 投稿日:2006/03/14(火) 14:10
- 「あさ美ちゃん、ごめんねぇ〜! あたしも行きたかったんだけどさぁ〜!」
「まこっちゃん……でもまこっちゃんは1番隊があるし……」
「う〜……松浦さん帰ってきてくれないかなぁ……」
「お前ら、ちゃんと田中を助けてやるんだぞ!」
「わかってるのれす、矢口さん!」
「まかせといてや!」
「あと、あんまり食べ過ぎないこと!!」
「「・・・・・・」」
「そこも返事しろよ!!」
「新垣、私はまだ教えてないことがいっぱい残ってるんだからね?」
「はい、保田さん!」
「ちゃんと帰ってくること。いいわね?」
「わかってます!」
「わかってるんならよし。行って来い!」
みんながみんな別れを惜しんでいる。
そんななか、なぜかあたしのところにはこの人が……
「おぅ、バカ弟子!」
「れいなの師匠は飯田さんだけと!」
ていうか、誰がバカだ、吉澤さん!
「まったく、可愛げがないなぁ」
「あなたに可愛げ見せてもムダになるだけと」
「まぁ、帰ってくる頃にはもうちょっと可愛くなってろよ? 心も体も。そうすりゃ一回くらいは
相手してや……」
ゴッ!!
言い終わる前に吉澤さんは大鎌に薙ぎ払われて吹っ飛んだ。
最後の最後まで……まったく……。
- 242 名前:第4話 投稿日:2006/03/14(火) 14:12
- そして別れの儀式も一通り済んだころ。
姫様となっちさんがそっと前に歩み出た。
「ほら、田中ッチ、これが必要なんでしょ?」
「あっ」
なっちさんが左手の薬指から指輪を抜き取る。
光の魔剣・エクスカリバー。
闇の封印を解くための鍵の一つ。
なっちさんから指輪を受け取り、左手の人差し指にはめた。
「でもね、田中ッチ、この指輪はなっちと真希にとってはとっても大切な指輪なの」
「はいっ?」
でもなっちさんはあたしの顔を覗き込んでそんなことを言ってくる。
だから渡せないとか? それはちょっと困るんですけど……。
「だから、貸すだけだからね? ちゃんと返しに来るんだよ?」
あぁ……そういうことか……。
「はい、必ず返しに来ます!」
「よろしい!」
なっちさんは満足そうに笑って、一回あたしの頭を撫でてくれた。
そしてなっちさんの次は、姫様があたしの前にやってきた。
- 243 名前:第4話 投稿日:2006/03/14(火) 14:13
- 「それと、これも持っていきなよ」
「えっ、これは?」
姫様の手のひらの上には、別の光り輝く指輪が乗っていた。
「ん〜とね、お母さんにもらったんだけど……『テストクリスタル』って言うものらしくて……。
なんか魔剣を作る段階で作られた、魔力を封じ込めた試作品の水晶なんだって。だいたいは
失敗作として捨てられちゃったらしいんだけど、一個だけ残ってたみたい。魔剣と違って魔力には
上限があるから、魔力が切れたら壊れちゃうけど、でも回復魔法も使えるから旅には役立つと思うよ」
「あ、ありがとうございます、姫様!」
「いやいや、どうせ持っててもごとーは使わないからさぁ。そうだなぁ、じゃあ亀ちゃんあたりに
渡しとこうか。なんか一番ケガとかしそうだから」
「う〜、そんなことない……と思いますけど……」
あんまり強く否定しないところを見ると、ちょっぴり自覚があるらしい……。
絵里は姫様から指輪を受け取って、あたしと同じように左手の人差し指に通した。
「さて、それじゃ、月並みなことしか言えないけど、頑張るべさ」
「ハロモニランドは私たちでちゃんと守るから。心配しなくていいわよ」
「はいっ!」
言葉の一つ一つが胸に染みこんでくる。
目頭がじわっと熱くなってきたけど、ここはぐっとガマン。
ハロモニランドに来てよかった、と今心から思った。
- 244 名前:第4話 投稿日:2006/03/14(火) 14:13
- 「れーな、行こう!」
「れいな」
「うんっ!」
仲間が呼んでいる。
もう時間だ。
行かなくちゃ。
見送りにでてきてくれた姫様や、騎士団のみんなに。
そして今まですごした城に。
深く、頭を下げる。
いろいろと、ありがとうございました。
そして……
「行って来ます!!」
あたしは振り返って駆け出した。
先にいる仲間たちの元へ。
ちょうど朝日が昇り、漂っていた霧をかき消した。
今、あたしたちの旅が始まった。
- 245 名前:第4話 投稿日:2006/03/14(火) 14:13
-
- 246 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/03/14(火) 14:23
- 今回はここまでです。
ようやくストーリーが進み始めました。
一応ここまでで序章というべきところが終了ですねぇ。
これからはこのメンバーが中心となっていく予定です。
>>231 konkon 様
はい、もう無理してツッパってるところがれいなの魅力だと思います(ぇ
あのコは今までちょっとおとなしめでしたが(?)これからは暴走してくかも?
>>232 みっくす 様
ようやくれいなも素直になれたってことで。
でも想いが届くのはいつの日か……(マテ
>>233 名無飼育さん 様
>>234 名無飼育さん 様
ありがとうございます。
期待に応えられるよう頑張りたいと思います。
>>235 名無飼育さん 様
从*´ヮ`)<れ、れいなもポンちゃんのこと好いとぉ!
川*・-・)ノ<ポッ
- 247 名前:みっくす 投稿日:2006/03/14(火) 16:56
- いよいよ始まりましたね。
どんな旅になるのか、楽しみです。
次回を心待ちにしています。
- 248 名前:春嶋浪漫 投稿日:2006/03/14(火) 18:41
- 更新お疲れ様です。
いよいよ楽しい???旅の始まりですね。
なんか、旅に出るメンバーを見る限りそんな感じがするのですが(笑)
次回更新も楽しみに待っています。
↑てか、前回感想よりかなり間があるなぁ〜と反省m(__)m
- 249 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/18(土) 11:54
- がんばてくださいお
- 250 名前:第5話 投稿日:2006/03/22(水) 12:45
- 〜田中れいな〜
「ふぁ〜、まさかまたここに来ることになるとはねぇ……」
「本当ですねぇ」
生い茂った木々の葉のあいだから光が差し込んでいる。
遠くに川のせせらぎが聞こえる。
ここは前に任務できた「ミノス渓谷」。
「そういやあの時はあさ美ちゃんが崖から落ちて大変やったなぁ〜」
「そんなことあったのれすか?」
「そうそう! しかも田中ッチがあとを追って飛び込んじゃってさぁ。まぁ、無事助け出せたから
良かったけどねぇ」
「そ、そんなこともありましたねぇ……」
思えばあの時からポンちゃんのことを意識しはじめたわけであって……
ついでに、人口呼吸とはいえ、初めてキスしちゃったわけで……
どうしてもそのことを思い出してしまい、顔が熱くなってしまう……。
なぜあたしたちがまたここを訪れたか。
それは数時間前にさかのぼる……。
- 251 名前:第5話 投稿日:2006/03/22(水) 12:46
-
第5話 闇の使徒
- 252 名前:第5話 投稿日:2006/03/22(水) 12:47
- 意気揚々とハロモニランド城を出たあたしたちは、まず城下町や近くの街で旅の準備を整えて。
そしていよいよ本格的に出発しようとしたんだけど……
「そういやさぁ、他の魔剣ってどこにあるの?」
「えっ……?」
新垣さんのさりげない呟きで、いきなり足が止まった。
「え〜っと……?」
そういえば……どこだろう……?
なっちさんや姫様からも何も聞いてないし……。
「ポンちゃん、なんか知ってますか……?」
「ん〜……さすがにある場所までは……」
物知りなポンちゃんも困り顔になっている。
まさか……どこにあるかわからない魔剣を求めて世界中飛び回らなきゃならないと……!?
しかもあと5本も……。
全部集まる前に闇が復活しちゃうんじゃ……。
『心配には及びませんよ』
その時あたりに声が響いた。
左手中指から闇が辺り一面に溢れ、剣の形に成る。
- 253 名前:第5話 投稿日:2006/03/22(水) 12:48
- 「ダークブレイカー……?」
『れいな、私をかざしてみてください』
「えっ……?」
『そうすれば進むべき道は開けるでしょう』
チラッとポンちゃんの方を向くと、ポンちゃんもあたしのほうを見て小さく頷いた。
意を決して宙に浮いているダークブレイカーの柄を握り、そのまま天にかざす。
と、宝玉が光り輝き、その光が刀身に伝わって……
「うわっ!!」
剣の先から光が放たれた。
5つに分かれた、5色の光。
それぞれ別方向に向かい、空の彼方に消えていっている。
「こ、これは……?」
『私は全ての魔剣の力を集めて作られた魔剣。なので私は他の魔剣と引き合うのです。
この光の先に魔剣はあります』
「へぇ〜……」
改めて放たれた光を追ってみる。
5色の光のうち紅、蒼、緑の光は多少ばらけているものの、だいたい北東の空へと
向かっている。
まぁ、ハロモニランドがアップフロント大陸の南西端に位置してるんだから、
アップフロント大陸にあればそうなるだろう。
でも、それとは別に、黄色とダークブラウンの光は南東の空を差している。
これって……どういうこと?
まさかアップフロントとは別の大陸に……?
- 254 名前:第5話 投稿日:2006/03/22(水) 12:49
- 「ねぇ、れーな、この光って色だけじゃなくて、なんか色の濃さも違くない?」
「えっ?」
絵里に言われてもう一度見てみると、確かに。
それぞれの色の濃さが、少しずつ違っている。
「これって、もしかして……」
『そうです。私と魔剣は近くにあればあるほど強く引き合うのです。ですから色が濃いものほど
近くにあるということです』
「やっぱり……」
ということは……
見た感じ紅が一番濃い……。
緑と蒼はほとんど変わらないけど、どっちかっていうと緑の方が濃いかも。
黄色とダークブラウンはかなり薄いから、やっぱり他の大陸かも……。
これはずいぶんと長い旅になるかもしれない。
ま、覚悟はしてたけどね。
「それじゃあ、近いところから行きましょうか!」
「そうやなぁ、じゃあまずは炎の魔剣やな」
「紅い光はほぼ北東だねぇ」
「てことは……」
- 255 名前:第5話 投稿日:2006/03/22(水) 12:50
-
◇ ◇ ◇
というわけで……。
あたしたちはハロモニランドの北東に位置する国、「グラム王国」へと入るため、
ミノス渓谷を進んでいる。
以前の任務で盗賊団をぶちのめしておいてよかったかも。
もし盗賊団が残っていたら、よけいな時間食っちゃうところだったろうなぁ。
「あ〜、そういえば結局デートでこれんかったなぁ、里沙ちゃん」
「そうだねぇ、忙しかったからねぇ」
それはもういいと……。
オバカップルは無視して、あたしたちは先を急ぐ。
ミノス渓谷の頂上までは紺野さんの魔法で一気に来れたけど、ここから先は楽はできない。
グラム王国へ向かって、渓谷を下っていく。
あたしとしては、とっとと渓谷を抜けて、グラム王国へと入っちゃいたいところなんだけど……
「れーな〜、疲れたぁ〜……」
「絵里……体力なさすぎ……」
後ろを歩いていた絵里があたしにしなだれかかってきた。
あ〜、もう! うざったい!
- 256 名前:第5話 投稿日:2006/03/22(水) 12:51
- 「休憩しよ〜? もしくはおんぶして〜!」
「つーか早すぎると! この前任務で来たばっかりやろ?」
「あの時絵里は箱詰めにされてたも〜ん!」
「あぁ、そうだったね……」
「まぁまぁ、れいな、けっこう歩いたし少し休もう?」
「そうだよ田中ッチ、みんながみんな田中ッチみたく体力有り余ってるわけじゃないんだから」
「うぅ……」
ポンちゃんと新垣さんに言われちゃどうしようもない。
確かにもうけっこう歩いてきたし。
ここいらでいったん休憩ということになった。
あたしも近くにあった木の根本に座り込む。
つーか新垣さん、休憩するんですよね? なに高橋さんつれて茂みの奥に
入ってくんですか?
むしろそっちが目的だったんじゃ……?
「おっ、愛ちゃんとガキさんが妖しい行動してるのれす!」
「よっしゃ、尾行や尾行!!」
辻さんと加護さんもまだまだ元気らしく消えた新垣さんたちのあとを追っていった。
みんな十分元気じゃん……。
そう思ったとき、なぜだかどっと疲れた。
「れーな〜……」
「望み通り休憩になったんだから、もう離れると!」
「や〜!」
そしてあたしにひっついてる絵里は、いっこうに離れる気配がない。
- 257 名前:第5話 投稿日:2006/03/22(水) 12:52
- 「あ〜、もう! 本当に離れろ!」
「や〜! だって離れたらまたれーなに置いてかれるかもしれないじゃん!」
「うっ……もしかして根に持ってると……?」
「べ つ に」
根に持っているらしい。相当根に持っているらしい。
仕方ないからあたしは絵里を引き離すのをやめる。
すると絵里はここぞとばかりにあたしにしがみついてきた。
あ〜、暑苦しい……。
「……今だけとよ?」
「うん!」
ぐったりと木にもたれかかる。
と、あたしの背後から、なにか強烈な、殺気のようなものが放たれた気がした。
な、なん……?
ばっと背後を振り向いてみたけど、そこには同じように木にもたれかかっている
ポンちゃんしかいなかった。
あれっ……気のせいかなぁ……?
するとポンちゃんもこっちを向いて、ちょうど目があった。
「れいなと亀ちゃんって、本当に仲がいいんだねぇ〜」
「はい、仲良いんですよ〜!」
「いや、全然そんなことないですから!!」
お願いですから変に誤解しないでください!
あたしが好きなのはポンちゃんと。
でもポンちゃんはたいして気にしている風でもなく、また正面を向いてボーっと
しはじめた。
それはそれでちょっと寂しいような……フクザツ……。
だけど……さっきの言葉にはなんかちょっと棘があったような……?
理由のわからない寒気がした。
- 258 名前:第5話 投稿日:2006/03/22(水) 12:54
-
◇ ◇ ◇
そして旅に出て1日目の日が暮れた。
あたしたちはというと、まだミノス渓谷の中にいたりする……。
というのも、どこかへ消えた新垣さんと高橋さんがなかなか戻ってこなかったり(本気で
デート楽しんでんじゃない!)
それをつけていた辻さんと加護さんが、途中で迷子になったりして(あたしよりも
年上ですよね……?)
そんなこんなで、ミノス渓谷を出る前に日が暮れてしまった。
出足絶不調……。
「まさか初日から野宿とはなぁ……」
遊歩道の途中にあった少し開けた場所で、あたしはテントを組み立てながらひとりごちる。
ちなみにあたしと絵里はテントの組み立てが割り当てられた仕事。辻さん加護さん高橋さんは
食料の調達に行っていて、紺野さんと新垣さんは辺りに結界を張っている。
このテントは新垣さんが持ってきたらしい。なんかよくわからないけど、魔法で別の空間に
しまってあったんだって。
「れーな、こんな感じでいいんじゃない?」
「そうやね」
あたしと絵里の二人だけで、なんとか三個のテントを張り終わった。
それとほぼ同時に紺野さんたちや、高橋さんたちも続々と戻ってきた。
- 259 名前:第5話 投稿日:2006/03/22(水) 12:55
- 「ポンちゃん、結界は張れましたか?」
「うん、並大抵のモンスターは入って来れないよ。のんちゃん、夕飯は?」
「ちゃんと魚取ってきたのれす」
「わぁ、おいしそう!」
辻さんたちは川で取ってきたと思われる魚をたくさん持っていた。
あたしは魚より肉の方が好きなんやけど……まぁ贅沢言ってられないか。
ポンちゃんはさっそく落ち葉や木の枝を集めて、魔法で炎を起こしている。
食べ物絡むと行動がスムーズやねぇ……。
そしてあたしたちは紺野さんの起こした炎を囲んで遅めの夕食をとった。
ちょっと多すぎと思われた魚だけど、辻さん加護さん、そしてポンちゃんを中心として、
全て食べきってしまった。
「さてと、それじゃあ夜も遅いし、もうテントに入ろうか? 火が消えたら冷えるだろうしね」
新垣さんが場を仕切る。
確かに、火もそろそろ消えかけてるけど……問題は、テント割り。
「あたしは里沙ちゃんと一緒や〜!」
「まぁ、そうなるだろうねぇ」
この二人は当然一緒のテントになるだろうし……
「じゃあのんもあいぼんと一緒れす!」
「よっしゃ〜、遊ぶで〜!!」
この二人も一緒。てことは……
- 260 名前:第5話 投稿日:2006/03/22(水) 12:56
- 「それじゃあそっちはそっちで仲良くやってね。おやすみ〜!」
やっぱり……。
あたしたちを置き去りにして、新垣さん高橋さんペアと、辻さん加護さんペアは、さっさと
自分たちのテントに入っていってしまった。
「う〜ん、三人だとけっこうギリギリかなぁ?」
紺野さんは特に気にせず、あまったテントに入っていった。
でもあたしは……どうしても足が進まない。
だってだって! 狭い密室にポンちゃんと一緒だなんて!
意識するなってのが無理だって!!
「わ〜い、れーなと一緒だ〜!!」
ま、絵里も一緒なんだけどね……。
よかったような、邪魔なような……。
いろんな思いを交錯させながら、あたしはテントの中に入っていく。
テントの中には、布団が三組置かれていた。
テントを張ったときにはなかったから、たぶん新垣さんがいつの間にか出したんだろう。
寝袋じゃなくてよかったぁ。狭いところが好きな絵里なら寝袋も好きそうやけど、あたしは
あれあんまり好きじゃなか。
とりあえず布団を並べて敷いていく。
「れいなも亀ちゃんも、すぐに寝る?」
「そ、そうですね、明日も早いでしょうし……」
「絵里もう眠〜い……」
絵里は目をこすっていかにも眠そうだけど、あたしははたして眠れるだろうか……。
明日は睡眠不足かもしれないなぁ……。
- 261 名前:第5話 投稿日:2006/03/22(水) 12:57
- 「それにしても……やっぱり三人だとギリギリだねぇ……」
「そうですねぇ……」
布団が敷き終わって改めてテントの中を見渡すと、布団三枚でほとんどのスペースが
埋め尽くされていた。
「これじゃ三人川の字で寝るのでいっぱいいっぱいですね。四人は無理ですねぇ」
「川……?」
「ってことは……」
「?」
というわけで。
布団の位置は、紺野さん、あたし、絵里の順になった。
どうせ一番ちっちゃいですよ……。
「それじゃ、おやすみ。明日も頑張ろうね!」
「ふぁ〜い……。おやすみなさい……」
絵里の眠そうな返事を受けて、紺野さんがランプを消した。
辺りが暗闇と静寂に覆われる。
やばい……ドキドキしてきた……。
こんなん絶対眠れん……。
でもそんなあたしをよそに、5分もすると左側から健やかな寝息が聞こえてきた。
絵里……寝るの早すぎ……。
ホント体力ないっちゃね……。
- 262 名前:第5話 投稿日:2006/03/22(水) 12:58
- そういやポンちゃんはもう寝たんだろうか?
体ごとポンちゃんの方に向いてみると、ポンちゃんもあたしのほうに身体を向けて
目を瞑っていた。
なんかよけいドキドキしてきた……。
と、ポンちゃんの目が急にパチッと開いた。
「れいな、まだ起きてる?」
小さな声でポンちゃんが囁く。
「は、はい、起きてますけど……」
あたしも絵里が起きちゃわないように、小声で返す。
「前にも一緒に寝たことあったよね?」
「あ〜、ありましたねぇ……」
なんかいろいろと大変な思いをした記憶が……。
「あの時はけっこうすぐに寝られたんだけどさ」
「そういえばすぐに寝てましたね」
あの時はまだあたしは復讐心満々だったのに。
よく寝れるなぁ、と感心したっけ。
- 263 名前:第5話 投稿日:2006/03/22(水) 12:59
- 「今日は……すぐには寝られないかも」
「えっ?」
「なんかちょっと、ドキドキしてる……」
「えっ……そ、それって……」
「で、でも明日も早いんだからちゃんと寝なきゃね。おやすみ、れいな」
「あっ、ちょっと……」
それだけ早口でまくし立てると、ポンちゃんは寝返りをうって、あたしに背中を
向けてしまった。
さっきの言葉って……どういう意味……?
まさか、同じようにあたしのこと意識してるってこと!?
あたしに背中を向けてしまったのも照れ隠し?
これって……もしかしてけっこう脈あるのかもしれない……。
ま、それはそれで嬉しいことなんだけど……。
ポンちゃんの不意打ち発言で、あたしのドキドキはもはや最高潮で……。
明日は絶対睡眠不足だな……。
- 264 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/03/22(水) 13:12
- 今回はここまでです。
スポフェス行ったら亀ちゃんが意外と運動神経良くてどうしましょう?(ぇ
いや、もうどうにもできないんですがね……。
とりあえずここでの亀ちゃんはこんな感じで……(汗
>>247 みっくす 様
とうとう始まってしまいました。
今のところはのんびりですが、ちゃんとストーリーは進んでいきますので。
>>248 春嶋浪漫 様
そんな楽しい旅でもナイデスヨ?(説得力無
けっこうみんなキャラが立ってるので、書きやすくていい感じです。
>>249 名無飼育さん 様
从*`ヮ´)<が、がんばると! いろいろ……
川o・-・)ノ<れいな?
- 265 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/23(木) 01:15
- 从 `,_っ´)<せっくる!せっくる!
・-・)…
- 266 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/23(木) 20:45
- きゃー!!ちょっとドキドキですねぇ。。
れいな、がんば!
- 267 名前:第5話 投稿日:2006/03/28(火) 14:11
- そして翌日。
案の定、昨日はかなり遅くまで眠ることができなくて。
明け方近くなってようやく眠れたけど、それも昇ってきた太陽によってすぐに起こされた。
「ん〜……?」
目をこすってみると、明るくなってきたテントの天井が目にうつって。
まだ寝ていたいんだけど、そうも言ってらんない。
なんとか体を起こそうとしたんだけど、それはできなかった。
なにかがあたしの右半身にひっついていたから……。
ハロモニランドでの出来事が思い出される。
まさか、また……?
おそるおそる右側を向いてみると……。
うわっ!!
出かかった声をなんとか飲み込む。
隣の布団で寝ていたはずのポンちゃんが、なぜかあたしの布団まで移動してきて、
あたしにしがみついていた。
しかもまたなんか服が乱れてるし……。
- 268 名前:第5話 投稿日:2006/03/28(火) 14:12
- 「ちょ、ぽ、ポンちゃん、起きてください〜!」
絵里を起こさないように、小声で叫ぶ。
絵里に見られたら、また余計なことをまくし立てられかねない。
ポンちゃんの身体を揺すると、ポンちゃんがうっすらと目を開けた。
「ん〜……?」
「よかった……。ポンちゃん、とりあえず離れてください!」
あたしの理性が残ってるうちに!
でもポンちゃんはそんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、さらに身体をすり寄せてきた。
「ちょ、ちょっと!」
「おやすみ〜……」
寝ぼけてる〜!?
ていうかちょっと、ホントにヤバイ……。
もしかして誘ってる? 誘われてますか、あたし……?
ま、そんなことあるわけないんやけど……。
いろんなことをガマンしながら、あたしは紺野さんの腕の中からなんとか抜け出す。
そしてテントの外へはい出た。
眠気と煩悩を吹き飛ばすように、太陽の光を全身で浴びていると、隣のテントから
新垣さんが出てきた。
- 269 名前:第5話 投稿日:2006/03/28(火) 14:13
- 「新垣さん、おはようございます」
「おはよう田中ッチ。眠そうだねぇ〜?」
「新垣さんこそ、睡眠不足なんじゃないんですか?」
「あ〜、昨日寝たの遅かったからなぁ……」
えぇ、そうでしょうね……。
あたしがなんとか寝ようと頑張ってたとき、隣のテントから鞭の音やら高笑いやらが
聞こえてきてましたから……。
「つーか新垣さん、こっちのテントまで聞こえてきてましたよ!?」
「あ〜、そうなの? 愛ちゃんの口はちゃんと塞いだんだけどなぁ。けっこう響くんだねぇ。
次からはちゃんと防音結界張るわ」
「・・・・・・」
自粛するとか手加減するとかいう選択肢はないんだ……。
高橋さんも大変だなぁ。まぁ、それがいいんだろうけど……。
「で、その高橋さんは?」
「まだ寝てる。でもまぁ、出発するようならすぐに叩き起こすから」
「や、普通に起こしてくれれば……」
「そう?」
昨日散々叩いたんだろうし……。
朝っぱらからアブノーマルな世界作らんといてください……。
- 270 名前:第5話 投稿日:2006/03/28(火) 14:14
- 「れーな〜、もう起きたの〜?」
「れいな、けっこう早起きだねぇ……」
そうこうしているうちに、絵里とポンちゃんも起き出してきた。
そしてもう一つのテントからも……
「ふぁ〜、良く寝たのれす」
「みんな起きるの早いなぁ〜」
辻さんと加護さんがそろって出てきた。
てことはあと起きてないのは高橋さんだけなのであって……。
「さて、それじゃ愛ちゃん起こしてくるか〜」
「あっ、れいなも行きます」
新垣さんがテントに向かう。
なのでアタシも新垣さんのあとを追った。
「なに、見学希望? 田中ッチも興味あるの?」
「ち が い ま す !」
朝から余計なこと始めないように見張りに行くんです、まったく!
新垣さんたちのテントの中に入ると……うわ……。
何やらアヤしげなものがそこら辺に散乱している。
そして布団のうえには高橋さんが気持ちよさそうに寝ていた。
幸いパジャマはちゃんと着ていたけど、襟元から覗くのは……首輪……?
- 271 名前:第5話 投稿日:2006/03/28(火) 14:15
- 「ほら、愛ちゃ〜ん! もう朝なんだから起きてー!」
あたしが見張ってるので、新垣さんは普通に高橋さんを起こしにかかる。
新垣さんの手が高橋さんの頬をぺちぺちと軽く叩くけど……
「う〜ん、里沙ちゃ〜ん……スパンキングはやめてや〜……」
ビシッ!!
「きゃんっ!!」
結局は新垣さんが近くに落ちてた鞭を拾って、高橋さんを文字通り叩き起こした。
チェーンリボンじゃないところを見ると、どうやら専用の鞭らしい……。
「よ〜し、それじゃあみんな起きたし、テントとか片づけて出発しようか!」
「り、里沙ちゃん……もっと……」
背後に伴っている、恍惚の表情をした高橋さんは見えないフリで、あたしは新垣さんたちの
テントをあとにした。
このメンバーで本当に大丈夫なんだろうか……?
出発二日目にして、早くも頭痛がした。
- 272 名前:第5話 投稿日:2006/03/28(火) 14:16
-
◇ ◇ ◇
だけど、そのあとは大したトラブルもなく、旅は順調に進んだ。
ミノス渓谷の終わりにあった関所でも、あたしたちはほぼ顔パスで通ることができた。
どうやら姫様やなっちさんが事前に手を回しておいてくれたらしい。
そのおかげで、あたしたちは難なくグラム王国へと入ることができた。
そして、あたしたちはグラム王国の王都「バルムンク」までやってきた。
ダークブレイカーから放たれている紅い光は、ほぼ真東を指すようになった。
光の濃度もだんだんと濃くなってきている。ということは、だんだんと炎の魔剣に
近づいているということで。
なので、次はグラム王国の東に位置する「ロガフィエル王国」を目指すことにした。
「それならさっさと向かいましょうよ?」
「ところがそうはいかないんだよねぇ〜」
急かすあたしを新垣さんが引き留める。
「どうしてですか?」
「国境を越えるには通行証が必要なんだよ。グラム王国に入るときには姫様たちのおかげで
顔パスだったけど、さすがにこれ以上は無理だろうしね。だから王様に謁見して通行証を
発行してもらわないといけない」
「え〜?」
「ま、仕方ないよ。とりあえずはお城に行こう」
というわけで、あたしたちはグラム城へと向かったんだけど……
- 273 名前:第5話 投稿日:2006/03/28(火) 14:17
- 『え〜!?』
今度はあたしたち全員の叫びがグラム城内に響いた。
「も、もうちょっと早くはできないんですか……?」
「申し訳ありません。ただいま国王は多忙を極めておりまして……」
グラム城の受付。
そこで言われたことは、国王への謁見は早くても1週間後になるということ……。
これにはさすがの新垣さんも難しい顔をしていた。
「里沙ちゃん、どうする……?」
「う〜ん……といっても、こればっかりはおとなしく待つしかないよねぇ……」
そんなわけで、あたしたちは1週間もバルムンクに滞在することになってしまった。
城を出たあたしたちは、とりあえず滞在中の拠点にするため、宿屋へと入った。
「あ〜、退屈と〜……」
そして、そのまま三日が過ぎた。
一日目と二日目はバルムンクや近くの街を見てまわったりもしたんだけど、それももう飽きた。
こんなに時間があるんならポンちゃんとデートでもしたいところなんだけど、残念ながら
ポンちゃんは新垣さんと高橋さんを引き連れて図書館へと行ってしまって。
やることがないので、昼食を食べ終わったあたしは部屋のベッドの上に寝っ転がる。
- 274 名前:第5話 投稿日:2006/03/28(火) 14:18
- 「田中ちゃん、食べてすぐに寝ると馬になるのれすよ?」
「馬だっけ……?」
違う動物だったような気がするけど……まぁいいか。
つーか辻さんには言われたくないんやけど……。
今だってベッドの上でお菓子食べてるし……。
ちなみに宿屋は四人部屋を二部屋とり、あたしの部屋はあたしの他に辻さん、加護さんと絵里。
ポンちゃんと新垣さんと高橋さんが隣の部屋。
おかげであたしは毎日快眠なんだけど、ちょっと寂しい気も。
ついでに、加護さんと絵里は今は買い物に行っていていない。
「あ〜、なんか事件とか起きないと〜?」
「不謹慎れすねぇ」
絵里にも同じこと言われた記憶があるなぁ……。
辻さんは相変わらずお菓子を頬張っていたんだけど、何を思ったのか、急にお菓子の
袋をしまった。
そしてベッドを下りて、あたしのベッドまで歩み寄ってくる。
なん……?
- 275 名前:第5話 投稿日:2006/03/28(火) 14:19
- 「田中ちゃん、そんなにヒマなら一緒に特訓しないれすか?」
「え〜? れいな特訓はもう午前中にしましたよ?」
「ののはまだやってないのれす。だからせっかくだから一緒にやるのれす」
「う〜ん……」
辻さんと特訓かぁ……。
まぁ、悪くはないんだけど……。
でも、あんまり気分が乗らないなぁ……。
するとあたしの顔を覗き込んでいる辻さんがニヤッと笑った。
「はは〜ん、さては負けるのが怖いのれすね?」
カチン。
いや、挑発だってのはわかってるんだけどね。
負けず嫌いなあたしとしては、こんなふうに言われるとどうしても……
「やぁってやろうじゃんか! 表出な!!」
「お〜、似合うセリフれすねぇ」
というわけであたしたちは訓練用の木刀と木槍を持って、宿屋の庭に出た。
- 276 名前:第5話 投稿日:2006/03/28(火) 14:20
- 「考えてみれば、田中ちゃんとこうやって手合わせするなんて久しぶりれすねぇ?」
「そうですね、ロマンス王国で戦ったとき以来ですね」
木刀をかまえて辻さんと向かい合う。
辻さんも同じように木槍をかまえている。
「あの時田中ちゃんはこてんぱんにやられてましたねぇ?」
「それは紺野さんにです。辻さんとはわりと互角だったじゃないですか」
ジリジリと距離を詰めていく。
それに伴って辺りの空気も張りつめていく。
間合いの一歩手前まで距離を詰める。
もう言葉を交わす必要もないだろう。
辻さんか……相手にとって不足はない。
あたしはもう一歩を踏み出した。
「はっ!!」
そのあとで一気に加速。
一瞬で辻さんの背後に回り込む。
「むっ!?」
そしてまだ半身しか振り向いていない辻さんに向かっていく。
手にした木刀を振り抜く。
「くっ!」
辻さんの身体が吹っ飛んで地に落ちた。
繰り出した三撃のうち、二撃は槍でガードされたけど、なんとか一撃は的確に決まった。
- 277 名前:第5話 投稿日:2006/03/28(火) 14:21
- 「つ〜……なるほど、以前と比べると速さが格段と早くなってるのれすね?」
「あのあと飯田さんや吉澤さんに鍛えられて強くなってるんです。同じだと思ってると
痛い目みるとよ!」
また辻さんに向かっていく。
木刀を振り下ろすけど、その前に木槍が差し出される。
木と木の爆ぜる音が響く。
「ちっ!」
辻さんは見かけによらずかなりのパワーファイター。
押し合いになったらまず敵わない。
だからすぐに剣を引っ込め、今度は水平にかまえて突き出す。
でも辻さんはそれも木槍で上手く払った。
さらにその逆方向から、鋭い回し蹴りが迫ってくる。
そうだ……辻さんは格闘技も……。
剣は槍で押さえられているので、あたしは腕で回し蹴りをガードする。
反撃に移ろうとしたが、その時急に木刀にかかっていた木槍の重みが消えた。
「えっ!?」
カランと木槍が落ちる。
その時には、あたしよりもさらに小さい体が懐に潜り込んでいて。
「うわっ!?」
あたりがぐるんと一回転して、あたしは宙に投げ出されていた。
なんとか体勢を整えて、着地する。
「ののだって矢口さんに鍛えられたのれす。あの時のののとは違いますよ?」
「上等だ……」
もう一度辻さんに向かっていく。
槍をかわし、剣を振り上げ。
または剣を突き出し、拳を受けとめ。
時間が経つのも忘れて、辻さんと打ち合っていた。
- 278 名前:第5話 投稿日:2006/03/28(火) 14:21
- 「二人とも、何してんねん?」
「わ〜、二人ともすごい汗……」
「えっ……?」
「おっ……?」
気づくと辺りはもうすっかりと夕暮れ時だった。
あたしたちは、帰ってきたらしい加護さんとポンちゃんの声でようやく動きを止めた。
他の面々もみんなそろっていて、同じようにあたしたちを見ている。
「れーな、まさか今日ずっと辻さんと特訓してたの?」
「まぁ、そんなところ……」
絵里に適当に答えながら汗を拭う。
ほんとに、ポンちゃんが言うように、いつの間にかあたしたちは汗だくになっていて。
「そろそろ夕食だけど、その前に二人はお風呂入ってきちゃいなよ」
「あ、は〜い」
「そうするのれす」
新垣さんの提案に、あたしたちはおとなしく従って、浴場へと向かった。
結局決着がつかなかったので、今回は引き分けということになった。
- 279 名前:第5話 投稿日:2006/03/28(火) 14:23
-
◇ ◇ ◇
「ふぁ〜、疲れたのれす」
浴場はまだ早い時間ということもあってか、誰の姿もなかった。
しっかりと汗を流して、辻さんの隣に入る。
「いや〜、しかし田中ちゃんも強くなったのれすねぇ」
「辻さんだって、かなり強くなってるじゃないですか」
今回は本当に思いも寄らない打ち合いができた。
吉澤さん相手の時のように、格上の人の胸を借りるのもいいけど、こうやって切迫した
レベルの人と思い切り打ち合うのもまたいい稽古になる。
「機会があったらまたするのれす」
「もちろんです! その時はれいなが勝ちますからね!」
「負けないれすよ!」
向き合って笑いあう。
なんか辻さんとはいいライバルになれそうだなぁ。
そう思いながらゆったりと全身を伸ばした。
と、辻さんがあたしのほうを見ているのに気づいた。
「ちょ、辻さん、どこ見てんですか……?」
辻さんはあたしの胸の辺りを凝視していて……。
「こっちはののの方が勝ってますねぇ」
カッティーン!!
「何言ってんですか! れいなの方がありますよ!! 大平原のくせに!!」
「田中ちゃんらってまな板じゃないれすか!! しかもまだ生えてな……」
「それ以上言うなーーーっ!!!」
なんか、別のことでもいいライバルになりそう……。
- 280 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/03/28(火) 14:25
- 今回はここまでです。
なんというか、こんなキャラにしちゃってごめんなさい(ぇ
いや、誰とは言いませんがね……。
>>265 名無飼育さん 様
れいな残念、お預けでした。
へたれいなですから〜!(マテ
>>266 名無飼育さん 様
れいな頑張りきれませんでした。
いや、ある意味理性フル動員で頑張りましたが(笑
- 281 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/29(水) 15:31
- れいなはボーボーたい!
- 282 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/30(木) 00:06
- セックル!スパンキング!
- 283 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/30(木) 22:45
- 鞭って読めなかった変換したらヒーそれかい!
愛ちゃんのキャラは冒険の役に立つんでしょうか
- 284 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/31(金) 00:44
- 川
*’ー’)=3
- 285 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/31(金) 02:08
- とりあえず闇をみつけたら、垣さんに押し込んじゃって、
この二人だけにしておけばすべて丸く収まるんじゃなかろうか。
念のため、亀ちゃんのテストクリスタルを愛ちゃんに持たせれば...
川;o・-・) 完璧です。
- 286 名前:第5話 投稿日:2006/04/04(火) 14:18
- そして夜になった。
お風呂に入って夕飯を食べたら、一気に睡魔が襲ってきて。
まぁ、今日は一日特訓してたしなぁ……。
「ん〜……」
なんとかベッドまで辿り着いて倒れ込むと、早くももう限界。
今夜は気持ちよく眠れそう。
あたしはすぐに夢の世界へと旅立っていった。
んだけど……。
「れーな、れーな!!」
「ん〜……?」
夢の世界を冒険してる途中で、あたしは強制的に現実世界へと帰還させられた。
なんとか目を開けてみると、そこには絵里の顔。
ついでに、明らかに睡眠時間が足りてないとわかるほど、まぶたが重い。
「絵里……なんの用と……?」
これで大した用じゃなかったらまず殴る!
でもそんなあたしの考えとは裏腹に、絵里の顔は真剣そのもので。
- 287 名前:第5話 投稿日:2006/04/04(火) 14:19
- 「れーな起きて! 大変なことになったの!」
「なにがどう大変なの……?」
「とにかく来て!」
絵里はあたしの手を取って、ベッドから立たせた。
そしてそのまま窓のところまで引っ張っていった。
「見て!」
渋々窓の外を見てみると……
「えっ……?」
さすがのあたしも眠気が吹っ飛んだ。
バルムンクの街のいたるところから火の手が上がっている。
または崩れている建物もある。
「なに……これ……?」
「わからないけど、何者かに攻撃を受けてるみたい」
「それは見ればわかると」
まさか戦争でも始まったのだろうか……?
いや、グラム王国がどこかと戦争してるなんて聞いてないし、一気に王都まで攻め込まれる
なんてこともないだろう。
てことはモンスターの群れでも入り込んだんだろうか?
- 288 名前:第5話 投稿日:2006/04/04(火) 14:21
- 「みんな、起きてる!?」
その時、隣の部屋にいたポンちゃんたちが部屋に飛び込んできた。
みんなしっかりとローブを纏っている。
あたしはもう目が覚めたけど……
「もう食べられないのれす……」
「のの、いい加減に起きてやー!!」
辻さんはまだ夢の中。
加護さんがなんとか起こそうとしてるけど、起きる気配はない。
「かーちゃん、アタシに任せて!」
「任せるわ〜」
加護さんは新垣さんにバトンタッチ。
新垣さんはどこからか鞭を取りだして……
ビシッ!!
「ぴぎゃっ!!」
これにはさすがの辻さんも飛び起きた。
「ガキさん痛いのれす! ののは愛ちゃんみたいに叩かれて喜ぶ趣味は持って
ないのれす!!」
「いいからちゃっちゃと着替えた着替えた」
「なんかあったのれすか?」
「モンスターが襲ってきたみたい」
「えーっ!?」
辻さんは飛び起きて窓の外を確認すると、急いで着替えはじめた。
ちなみにあたしは着替える前に眠っちゃったから、着替える必要はなし。
- 289 名前:第5話 投稿日:2006/04/04(火) 14:22
- 「ポンちゃん、モンスター退治に行くの?」
「うん。ここの騎士団だけじゃ対処できてないみたいだから」
「でも王都の騎士団ですよね? それが対処できないほど強いモンスターなんて
この辺にいましたっけ?」
「そう、それが引っ掛かるの……」
そうこうしているうちに辻さんも戦闘服に着替え終わったようだ。
手にはしっかりと三つ又の槍が握られている。
「よし、それじゃ役割分担をするよ!」
ポンちゃんが場を仕切る。
いつもののほほんとした紺野さんと違い、こういうときはとても凛々しい。
「私と里沙ちゃんは街に結界を張りに行く」
「わかった」
「愛ちゃんは城の守りを手伝ってあげて」
「OK!」
「のんちゃん、あいぼんとれいな、亀ちゃんは街に入ったモンスターの退治をお願い。
あと民間人の救助も」
「任せるのれす!」
「わかりました!」
「それじゃ、行くよ、みんな!」
『はい!』
- 290 名前:第5話 投稿日:2006/04/04(火) 14:23
- いっせいに部屋から駆け出す。
あたしも駆け出そうとしたけど。
不意に手を掴まれて、足は止まった。
振り向くと、あたしの手を掴んでいたのはポンちゃんで。
「れいな、気をつけてね……」
「えっ……?」
思わずドキッとしてしまったけど、すぐに笑顔を返す。
そしてあたしもポンちゃんの手をしっかりと握る。
「ポンちゃんも、気をつけて!」
「うん!」
手を離すと、ポンちゃんと新垣さん、高橋さんは、風の翼を作って窓から飛び去っていった。
それを見届けて、あたしも部屋を駆け出す。
「れーな、早くー!!」
待っていてくれた絵里の隣に並ぶ。
漆黒の指輪を闇の剣に戻して。
夜の戦場へと飛び出した。
- 291 名前:第5話 投稿日:2006/04/04(火) 14:25
-
◇ ◇ ◇
「うわ……」
外は想像以上に凄惨だった。
建物は崩れ、騎士と思われる人が倒れている。
そして町中で暴れ回っている……
「れーな、あれって……」
「"ライカンスロープ"ってヤツだね」
人間のように二足歩行する狼のモンスター、ライカンスロープ。
さらに、ライカンスロープだけじゃなく……
『グルアァァァアッ!!』
「うわっ!」
空から降ってきたモンスターの攻撃をかわす。
目の前に降り立ったのは忘れもしない……。
幼かったころ、孤児院を抜け出してすぐに死闘を繰り広げたモンスター……。
「グリフォン……」
ダークブレイカーをかまえる。
とりあえず目の前にいるのはグリフォンが一匹に、ライカンスロープが三匹。
あたしたちに気づいて、様子を窺っている。
- 292 名前:第5話 投稿日:2006/04/04(火) 14:26
- 「れーな、グリフォンもライカンスロープもこの辺に生息しているモンスターじゃないよね?」
「うん。でも実際いるんだからしょうがない。絵里……」
「大丈夫、ちゃんと援護するから」
「頼りにしてるとよ!」
ダークブレイカーを振り上げて走り出す。
同時に敵も動いた。
まずグリフォンが羽根を羽ばたかせて上空に舞い上がり、そしてライカンスロープが
いっせいに向かってくる。
剣では攻撃が届かないグリフォンは後回し。もしくは絵里に任せる。
あたしは向かってくるライカンスロープと対峙する。
「パラライズ・ボルト!!」
その時上空でバチッと大気が爆ぜる音が響いた。
続いて背後にドッと何かが落ちてきた。
「れーな、グリフォンはとりあえず痺れさせといたから! まずはライカンスロープから狙って!」
「わかった!」
さすが絵里もわかってる。
これで上空の心配なく、ライカンスロープと戦える。
先頭で向かってくるライカンスロープめがけて、ダークブレイカーを振り下ろしたが……
- 293 名前:第5話 投稿日:2006/04/04(火) 14:27
- ダークブレイカーは空を切った。
一瞬でライカンスロープが消えた。
狼だけあって、やっぱり動きがすばやい。
さらに二匹目のライカンスロープが襲いかかってくる。
鋭い爪をなんとかかわす。
でもわずかに避けきれなかったようで、頬がチリッと痛んだ。
そのまま剣を振るうが、またライカンスロープは消えて。
「ちっ……」
いつの間にか、三匹のライカンスロープに取り囲まれていた。
狼って群れで狩りをするんだっけ!?
三匹のライカンスロープが、三方向からいっせいに向かってくる。
仕方ない……。
一瞬のうちにダークブレイカーに力を伝わらせる。
「デモンズ・ストーム!!」
ライカンスロープの爪が届く刹那、周囲に暗黒の竜巻を発生させ、ライカンスロープを
三匹まとめて弾き飛ばす。
そのまままずは絵里の方に吹っ飛んだライカンスロープを倒そうと思ったが、絵里が
魔力を集めていたので方向転換。
一番近くに落ちたライカンスロープに駆けよる。
「はあっ!!」
そしてライカンスロープが起きあがった瞬間を切り裂いた。
「セイバー・ジャベリンズ!!」
絵里の方も片づいたみたい。
残るライカンスロープは一匹。
- 294 名前:第5話 投稿日:2006/04/04(火) 14:28
- 「絵里、残り一匹も片づけるよ!」
「うん!」
ダークブレイカーをライカンスロープに向ける。
残り一匹になったライカンスロープは怖じ気づいたように二歩三歩後退ったけど、
急に止まって上空を向き……
『アオォォォォォン!!』
「うわっ!?」
大きく吼えた。
その鳴き声は空に昇って消えていって。
しまった……仲間への合図か!
「絵里!」
「うん!!」
ライカンスロープの足下に蒼い魔法陣が広がる。
ライカンスロープはその魔法陣から逃げようとしたけど……
「ウォーター・ストリングス!!」
その前に魔法陣から水の触手が現れ、ライカンスロープをがんじがらめに縛った。
あたしは動きを封じ込められたライカンスロープへと向かっていく。
「はぁっ!!」
そしてその胴体を斬り裂いた。
水の触手が消えても、ライカンスロープは動くことはなかった。
- 295 名前:第5話 投稿日:2006/04/04(火) 14:29
- 「ふぅ……なんとか倒したけど、おそらく仲間が来るだろうな……」
「今のうちにちょっと移動しておいたほうがよくない?」
「そうやね。でもせっかくだからトラップでも仕掛けておいて……」
しかしその時、痺れて倒れていたグリフォンが羽ばたき、また宙に舞い上がった。
「なっ!? もう回復したと!?」
「あっ、ごめん、れーな。あの魔法まだあんまり慣れてなくて……ちょっと効き目が
弱かったのかも……」
絵里のレベルのせいか……。
でもなんにせよ、ここを移動することはできなくなってしまった。
『グルアァァァアッ!!』
「おっと!」
上空から滑空してきたグリフォンの爪をかわす。
グリフォンはまたすぐに空へと昇っていった。
これじゃあ剣は届かない。
それなら……
「ダークネス・ビット!!」
闇の魔玉を連続して上空に放つ。
でもグリフォンはひらひらと魔玉をかわしていく。
ちっ……なかなかすばやいとね!
- 296 名前:第5話 投稿日:2006/04/04(火) 14:30
- 「れーな、絵里に任せて!」
絵里があたしのそばに駆けよってくる。
絵里の杖には魔力が集まっていて。
「でも大丈夫と? さっきと同じ手はくわんっちゃろ?」
「大丈夫!」
辺り一面に緑の魔法陣が広がる。
「フォール・エアフロー!!」
「うわっ!?」
そして魔法陣内に突風が吹いた。
ただし横ではなく縦に。魔法陣に吸い込まれるように、空から大地へ。
強力な下降気流がグリフォンを襲った。
「ナイス、絵里!!」
ダークブレイカーをきつく握る。
そして落ちてくるグリフォンを睨みつける。
「グリフォンの弱点はちゃんと知ってるとよ?」
天に向かって突き出した剣は、的確にグリフォンの急所を貫いた。
- 297 名前:第5話 投稿日:2006/04/04(火) 14:31
- 「ふぅ……」
一回剣を振って血払いをする。
「さてと、それじゃさっさと移動するとよ、絵里」
「うん。あっ、でもその前に」
絵里の手があたしのほうに伸びてきた。
指先が頬に触れたので、あたしは慌てて後退る。
「な、なんね、絵里!?」
「れーなケガしてるよ?」
ケガ……?
あっ、そういえばほっぺたちょっと切ったっけ……。
「こんなのかすり傷とよ。ほっとけば治るけん」
「ダメ! 跡が残っちゃったら大変だもん!」
有無を言わさぬ様子で、絵里の手があたしの頬に触れた。
なんかちょっと恥ずかしい……。
そのうち、絵里の指にはめられた指輪が淡く輝いて……
「キュア・ライト!」
触れられていたところがふわっと温かくなった気がした。
絵里が手を離すと、そこはもう痛みは少しも残ってなかった。
- 298 名前:第5話 投稿日:2006/04/04(火) 14:32
- 「はい、治った〜!」
「あ、ありがと」
「わ、れーなめずらしく素直だ!」
「うるさい!」
って、そんなことしてる場合じゃなくて……
「絵里、いいかげんここから離れるとよ!」
「あっ、そうだった!」
とにかく援軍が来る前にここから離れておこうと、絵里と一緒に走り出したけど……
「残念やけど、逃げるのがちょっと遅かったなぁ」
空から声が降ってきた。
聞き覚えのある声。
思わず立ち止まり、絵里と一緒に振り向く。
あたしたちの眼前に、一人の女性が舞い降りた。
「えっ、えっ……!?」
絵里が驚愕に目を見開いている。
それもそのはずだろう。
目の前の女性は背中に羽根をはやしているのだから。
「やっぱりこの街にいたか、『闇斬りの少女』」
間違いない、こいつは……
ハロモニランド城で紺野さんを襲ったヤツだ!
- 299 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/04/04(火) 14:42
- 今回はここまでです。
バトルスタートです。
>>281 名無飼育さん 様
从;`ヮ´)<れいなはボーボーたい!!
(;´D`)<・・・・・・
>>282 名無飼育さん 様
川*´ー`)=3<んふーっ!!
>>283 名無飼育さん 様
はい、「ムチ」です。
役に立つかもしれませんし、立たないかもしれませんが、たぶん立たないでしょう(笑
>>284 名無飼育さん 様
_, ,_
( ・e・)<何よ!?
>>285 名無飼育さん 様
(;・e・)<いや、無理ですから……。
闇は好き勝手に押し込めるようなものではないので。
- 300 名前:みっくす 投稿日:2006/04/04(火) 21:24
- おっ、いよいよ対峙ですね。
戦闘は、二人ともレベルがかなりあがってるみたいですね。
次回も楽しみにしています。
- 301 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:05
- 「お前は、あの時の!」
「久しぶりやな『闇斬りの少女』。いや、『田中』ちゃんやったかな?」
バサッと羽根が一回羽ばたく。
爪が鋭く尖って伸びた。
「れ、れーな、あれって魔法じゃ……ないよね……?」
「違う! アイツは人間じゃないと!」
「失礼やな、これでもあんたらと同じ、れっきとした人間やで?」
目の前の女性がこっちを見てニヤッと笑った。
「ま、"元"やけどな。今は人間を越えた存在になったんや」
「お前は何者だ!?」
ダークブレイカーを向けて叫んだ。
「まぁ、それを知らずに殺されるんも不憫やな。アタシは稲葉貴子。闇の力を授かった、
いわば『闇の使徒』や。とりあえず封印の鍵であるエクスカリバーをもらいに来た。
それと『闇斬りの少女』の命もな?」
闇の使徒……。
おそらくは闇に魅入られてるのだろう。
- 302 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:06
- 「てことは、このモンスターもお前が!?」
「そうや。この街に『闇斬りの少女』が滞在してることは掴んだから、ちょっと
あぶり出すためにな」
稲葉貴子の前方の空間が歪み、漆黒の穴になった。
あれは飯田さんに見せてもらったことがある……。
闇魔法、ダーク・サークル……。
「さて、おしゃべりはここまでや。とりあえず、さっさと死んでくれるか?」
「誰が!」
稲葉貴子がかまえる。
あたしも臨戦体勢を整える。
背後で絵里も慌ててかまえたのがわかった。
おそらく今までの話を理解しようとして、でも理解しきれないうちに戦いが始まりそうに
なったから、とりあえずかまえた、って感じだろう……。
「絵里、相手は闇魔法も使うとよ」
「うん、そこだけはわかった」
「あと、アイツの羽根は頑丈で、前にポンちゃんの魔法でも傷一つ負わなかったから……」
「わかった、気をつける」
とりあえずそこだけ理解しとけば今はOK。
あたしは稲葉貴子に向かって駆け出す。
稲葉貴子も動いた。
いつぞやハロモニランドで戦ったときのように、右手の爪が伸びて迫ってくる。
- 303 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:07
- 「ちっ!」
迫ってきた爪に合わせて剣を振るう。
なんとか全て弾いたけど、今度はタイミングをずらして左手の爪が迫ってきた。
慌てて振り抜いた剣を戻し、剣の腹で爪を防ぐ。
「れーな、そこどいてー!!」
その時背後から絵里の声が聞こえた。
言われた通り横に飛び退くと……
「コールド・バスター!!」
真横を冷派エネルギーが通りすぎていって、稲葉貴子を直撃した。
「ふん、効かんなぁ」
でも魔法が消えたあとには、翼に包まれた稲葉貴子が無傷で立っていた。
「その変な能力も、闇の力と?」
「そうや。モンスターを喰ったんよ。そしてその能力を自分のものにした。人間を越えた
っちゅうこっちゃ」
「化物め……」
「この力を見てもそんな口が叩けるかな?」
一瞬で足下に闇の魔法陣が広がった。
しかも、絵里の足下にまで届くほどの巨大な魔法陣。
ヤバイ、絵里は闇魔法に対応できない!
- 304 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:07
- 「絵里っ!!」
絵里のところまで急いで駆けよる。
そして絵里に飛びつき、そのまま転がって魔法陣から飛び出た。
「キラー・エッジ!!」
振り向くと魔法陣から鋭く尖った暗黒の刃が無数に飛びだしていた。
この魔法、あたしはまだ使えないレベルの魔法だ……。
稲葉貴子はかなり上級の闇魔法を使いこなしている……。
「そうら、まだまだ行くで!!」
今度は稲葉貴子の前方に魔法陣ができあがる。
「ジェノサイド・エクストリーム!!」
そして魔法陣から放たれる闇の波動。
「カラミティ・ウォール!!」
闇の障壁を張って直撃は防ぐけど、それでも威力がビリビリと伝わってくる。
そう長くは保たない……。
- 305 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:08
- 「絵里!」
「な、なに!?」
「なんとかして!!」
「な、なんとかってっ!?」
なんとかはなんとかと!
えーと、えーと……あっ!
「ディスペルライト使えるやろ、指輪で!!」
「あっ、そうだ! やってみる!」
絵里はすっかり忘れていたらしい。
絵里が指輪をかざすと、宝玉が光り輝き、そして闇の中に光の魔法陣ができあがった。
「なにっ!?」
「ディスペル・ライト!!」
闇の魔法陣が光にかき消されていく。
かかっていた闇の重圧も、きれいさっぱりと消えた。
今度はこっちの番とよ!
ダークブレイカーに力を送り、魔法を形成していく。
- 306 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:09
- 「ちっ……やっかいな魔法も使えるんやな……。ま、そんならまずはあんたから
始末させてもらうわ!」
稲葉貴子が絵里に向かって走り出す。
そうはさせんと!
あたしは絵里の前に立ちはだかる。
「あんたは後回し言うてるやろ!」
爪が伸びるが、ダークブレイカーで斬り捨てる。
そして剣を横に薙ぐ。
稲葉貴子もまた爪を伸ばして応戦してくるが、あたしは互角以上に斬り結んでいく。
むしろあたしのほうが押している。
思えばハロモニランドで戦ったときでも、接近戦では引けを取らなかったんだ。
魔法さえ使わせなければあたしのほうが上と!
「はあっ!!」
「ちっ、うざったいわ!」
剣を振り下ろすが、稲葉貴子の身体はそこになかった。
翼が風を巻き起こす。
上空を見上げると、そこに稲葉貴子の姿があった。
でも、空を飛んでいるときなら……
「空を飛んでるときは、翼で防御はできないでしょ!!」
背後で絵里の声が響いた。
いつの間にか、空には雷雲が漂っていて。
そして空が一瞬輝く。
- 307 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:10
- 「サンダー・ストーム!!」
「ぐあぁぁああっ!!」
雷雲から幾筋もの雷が降り注いだ。
翼で防御もできなければ、逃げ場もない。
絵里の魔法は稲葉貴子に全て直撃し、稲葉貴子は真っ逆さまに地面へと落ちた。
これでもう動けないだろうと、稲葉貴子に近づいたけど……
「くっ……やってくれたなぁ……」
それでも稲葉貴子は立ち上がった。
おそらく雷に耐性のあるモンスターの能力でも取り込んでいたのだろう。
ちっ、しぶといな……。
「まさかここまでやるとは……ちょっと甘く見すぎてたわ……」
「なっ……?」
稲葉貴子の傷がみるみる回復していく。
それもモンスターの能力か!?
「だったら回復しきる前に、一撃で仕留めてやる!!」
ダークブレイカーを振り下ろすが、また稲葉貴子の姿が消えた。
上空か、と天を睨むが、今度はどこにも稲葉貴子の姿はない。
どこに!? 辺りを見渡してようやく気づいた。
地面に空いた漆黒の穴。
しまった、今度はダークサークルで……
- 308 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:11
- 「絵里っ!!」
「きゃあっ!!」
悲鳴が響いたのと振り返ったのはほとんど同時だった。
「さすがはあの飯田圭織の弟子やな。舐めてかかったらあかんかった」
「うぅ……」
稲葉貴子が絵里を羽交い締めにしていた。
「貴様ッ!!」
「フフ、一ついいこと教えたる。闇の力で取り込んだモンスターの能力はな、最初の一体が
一番強く残るんや。ま、"ベース"になるっちゅうこっちゃな。そのベースの上に新たに
取り込んだ能力が重ねられていくんや」
ニヤッと笑った稲葉貴子の口からは鋭く尖った二本の歯が見えた。
「あたしのベースは……"ヴァンパイア"や」
「うあっ!!」
「絵里っ!!」
稲葉貴子が絵里の首筋に噛みついた。
尖った二本の歯が絵里の肌を貫く。
「絵里を離せッ!!」
「おっと!」
剣を振るうが、稲葉貴子はまた消えた。
稲葉貴子から離れた絵里が倒れそうになったのを慌てて抱きとめる。
- 309 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:12
- 「絵里っ! 絵里、大丈夫!?」
「れーな……身体が……動かない……」
「えっ!?」
「ハハハ! 真祖のヴァンパイアに噛まれたら即吸血鬼化するところやけどな。
ま、あたしのはせいぜい身体が麻痺する程度や」
稲葉貴子の言うとおり、絵里の身体は硬直しきっている。
でも光の指輪を使えば、回復することができるはず。
絵里の指から指輪を抜こうとしたけど……
「ついでにいうと、ヴァンパイアは血を飲むとパワーアップするんやで?」
速いっ!
一瞬のうちに稲葉貴子の身体がすぐ側まで迫っていた。
剣をかまえる前に、稲葉貴子の拳が襲いかかってきた。
「うわっ!!」
なんとかガードしたが、衝撃はガードを突き抜けた。
絵里の側から弾き飛ばされる。
「それに今は夜、ヴァンパイアが一番力を発揮できるときや。あんたに勝ち目はあらへんで!!」
稲葉貴子が上空に飛び上がった。
そしてそこから滑空して向かってくる。
上空からの攻撃には慣れてない。
なんとかかわすが、爪が掠ったようで、髪が少し千切れ飛んだ。
- 310 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:13
- 「サタン・ブラスター!」
再び舞い上がった稲葉貴子に対して魔法を放つ。
でも稲葉貴子も同種の魔法を放ち、簡単に相殺されてしまった。
ちっ、使えたか……。
稲葉貴子がまた滑空してくる。
逃げてるばかりじゃラチがあかない。
あたしは剣をかまえ、真っ向から向かい合ったけど……
「フン!」
稲葉貴子との距離はまだあるのに、拳が眼前まで迫ってきていた。
しまった、こいつは爪だけじゃなくて、腕も……!
「甘いで!」
「がっ!!」
ガードする間もなく、拳が腹部にめり込んだ。
ぼき、と言う嫌な音がした。
吹き飛ばされたあたしに、さらに稲葉貴子が迫ってくる。
「これで終わりや!」
圧縮された闇が暴発した。
「デビル・インフェルノ!!」
「うわぁああっ!!」
破裂した闇に当てられ、あたしは弾き飛ばされた。
為す術なく地面に落下する。
- 311 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:14
- 身体のいたるところに激痛が走る。
それでもあたしはまだ死ぬわけにはいかない……。
それに、勝ち目はまだある。
ダークブレイカーを地面に突き立て、なんとか体を支えて立ち上がる。
「まだ生きてるとはな。それならもう一発お見舞いしたる」
稲葉貴子が手を前に突き出すが……
「な、なに……?」
魔法は発動しなかった。
それどころか、魔力すら集まっていない。
あたしはニヤッと微笑った。
「もうそんな大魔法使えんとよ」
「な、なんやと!?」
「気づかなかったと? 魔力がだんだんと削り取られていってたの」
すっと手を横に伸ばすと、「それ」はあたしの手に群がってきた。
その時ちょうど絵里が呼んだ雷雲が晴れ、月の光が注いだ。
でも、突き出したあたしの腕はまだ黒く曇ったまま。
「ち、蝶……!?」
「デス・バタフライ! れいなが創り出した闇召喚魔法と! これであんたの魔力を
全部削り取ったとよ!!」
「くっ……」
- 312 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:15
- これでもう魔法は使えない。
それならあとは直接攻撃を仕掛けてくるしかない。
接近戦だったらあたしのほうが有利だったんだけど、ちょっとダメージ食らい
すぎちゃったからなぁ……。
次の稲葉貴子の攻撃の瞬間が、あたしにとってのラストチャンス。
攻撃を捌き、稲葉貴子を仕留められなければ、もうあとはない……。
「魔法なんか使わんでも、瀕死なあんたにとどめくらい刺せるわ!!」
稲葉貴子が上空に飛び上がった。
ダークブレイカーを地面から引き抜き、両手にかまえる。
集中……。
神経を研ぎ澄まし、稲葉貴子のみに集中する。
「死ねっ!!」
稲葉貴子が空を駆ける。
そして爪の伸びた右手が襲いかかってきた。
でも同じ手はもう食わない。
ダークブレイカーを振り抜き、腕を斬り飛ばす。
「おのれっ!!」
「はあっ!!」
あたしも稲葉貴子に向かって走り出す。
稲葉貴子も今度は左手の爪を鋭く尖らせた。
突き降ろされる五爪の爪。
あたしも渾身の力を込めたダークブレイカーを振り上げた。
「闇斬り!!!」
- 313 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:16
- ザッ!
「くぅ……」
さすがにそれが限界だった。
膝が折れ、あたしは地面に崩れ落ちる。
右頬が痛い。
せっかく絵里がなおしてくれたけど、どうやらまたちょっと切られちゃったみたい。
「あっ、そうだ、絵里……」
なんとか立ち上がり、どうやら折れているっぽいあばらを押さえながら、絵里の元へと
歩いていく。
でも途中で足が止まった。
稲葉貴子の身体は崩れて灰になってしまっていた。
そういやヴァンパイアは灰になって死ぬと聞いたな……。
人間を捨てた者の末路、か……。
少しだけその場で立ち止まり、でもまた歩き出す。
- 314 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:16
- 「絵里、大丈夫と?」
「あっ、れーな……」
「ちょっと待っとれ」
絵里の指から指輪を外す。
えーっと、魔剣と同じ要領でいいんよね?
指輪を持つ指にそっと力を込めると、指輪が輝き、辺りに光の魔法陣が浮かび上がった。
「フェアリー・ヒーリング!」
魔法陣から放たれた光がキラキラと降り注ぐ。
そして温かい光が身体を包みこむ。
痛みがだんだんと和らいでいく。
「れーな……」
絵里の身体の痺れも回復したのだろう。
やがて何ごともなかったかのように、むくっと体を起こした。
そのころにはあたしも完全に回復していて。
魔法陣がすぅっと消えた。
あたしは指輪を絵里に差し出す。
- 315 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:17
- 「ほい、返すと」
「うん。でもれーな、強くなったね」
「まだまだとよ」
その時、東の空が少しずつ明るくなってきていることに気がついた。
そっか、もう夜明けが近いんだ。
長かったような、短かったような、とにかく大変な夜だった。
って……もしかしてあたしほとんど丸一日訓練だか戦闘だかしてない……?
そう気づいたとき、一気に疲れと睡魔が襲ってきた。
「絵里……」
「れ、れーな、どうしたの!?」
「さすがにもう限界……。ちょっと膝かして……」
「ぇえっ!?」
絵里の膝の上に倒れ込むと同時にまぶたが下がりきった。
「ちょっとー! こんなところで寝ないでよー!!」
絵里の叫びはそれ以上聞こえてこなかった。
- 316 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:18
-
◇ ◇ ◇
次に目を覚ましたとき、あたしは宿屋のベッドの中にいた。
何故か隣には絵里が添い寝してたけど……。
「なんで絵里が一緒に寝てると……?」
「いや〜、膝枕だけじゃ物足りないかなぁって思って、添い寝もしてあげたの!」
「間に合ってるとよ……」
で、そのあとあたしたち一行は、バルムンクを守った功績をたたえられ、グラム国王への
謁見を許された。
国王から直接感謝の言葉をもらい、一緒にロガフィエル王国への通行証ももらえた。
「さて、次はロガフィエル王国だねぇ」
「そうですね〜」
ポンちゃんが通行証を眺めながら呟く。
あたしは今一度紅い光が差す方向を確かめた。
「あっ、それとね、ちょっと大臣さんから聞いたんだけど、ロガフィエル王国の東にそびえる
トラキア山脈の中には普通の人は踏み込むことができない聖域があるんだって」
「えっ?」
思わずポンちゃんの顔を見る。
「じゃあ、もしかしてそこに……」
「うん、炎の王国があるのかもしれない」
その日はもう遅かったので、最後にもう一泊し、翌日あたしたちはバルムンクを立った。
目指すはロガフィエル王国。
そして……炎の王国。
- 317 名前:第5話 投稿日:2006/04/13(木) 18:18
-
- 318 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/04/13(木) 18:23
- 今回はここまでです。
前回に引き続き、バトルでした。
れなえり、特にれいなの成長ぶりなんかを感じていただければ幸いです。
>>300 みっくす 様
はい、ようやく再登場でした。
二人ともちゃんと強くなってます!
- 319 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/15(土) 23:21
- 川
*’ー’)
- 320 名前:第6話 投稿日:2006/04/25(火) 14:46
- 〜田中れいな〜
トラキア山脈。
アップフロント大陸のほぼ中央を走り、アップフロント大陸を東西に分ける山脈。
険しい山々が連なっており、ちょっとやそっとで踏破することは到底不可能。
今でこそさまざまな転移魔法が編み出され、山を登ることなく向こう側に行くことが
可能になったけど、それがなかったころは通行は不可能と言われていた。
グラム王国を出たあたしたちは、ロガフィエル王国を横断し、とうとうトラキア山脈の
麓までやってきた。
ダークブレイカーから放たれる紅い光はもうかなり濃くなっていて、トラキア山脈の中を
指している。
間違いない、このトラキア山脈の中に
炎の王国が……炎の魔剣がある。
- 321 名前:第6話 投稿日:2006/04/25(火) 14:46
-
第6話 未来を照らす炎
- 322 名前:第6話 投稿日:2006/04/25(火) 14:47
- 「しっかし、高い山れすねぇ〜……」
辻さんが山を見上げてそんな感想を口にした。
しかしそれはおそらくみんな心の中で思っていることだろう。
それをあえて口にしないのは、もう一つ考えていることがあるからで。
これ、登るの……?
目の前にそびえる山はピクニック気分で登れるような山では決してなく、切り立った
崖などが目立つかなり険しい山。
さすがに登りたくない。ていうか登れない……。
でも炎の王国はこの中なんだよなぁ……。
「ポンちゃん、これ登るとですか……?」
おそるおそるポンちゃんに聞いてみる。
登るなんて言われたら、まず絵里はすぐに脱落するだろうなぁ……。
「さすがにこれは登れないねぇ。そんな時間も体力もないし……」
見るとポンちゃんは魔力を集めていた。
周囲の風が吸収されていく。
「エンゼル・フェザー!」
そして集まった風は紺野さんの背中へと宿り、羽根の形を形成した。
そっか、飛んでっちゃえば楽だし時間もかからんと!
- 323 名前:第6話 投稿日:2006/04/25(火) 14:48
- 「一応私がちょっと偵察してくる。炎の王国らしきものがあるかどうか」
「あさ美ちゃん、アタシも行こうか?」
「ううん、里沙ちゃんはここにいて。この辺けっこう強いモンスターもいるみたいだから」
「ん、了解」
「あっ、れいなは一緒に来て欲しいんだけど」
「えっ? あっ、はい」
ま、ダークブレイカーの力も必要だしね。
ポンちゃんはあたしの後ろに回り込むと、あたしの背中にも羽根を形成した。
「それじゃ、ちょっと行ってくるから」
思い返せば、旅に出てからポンちゃんと二人っきりになるのなんて初めてじゃない?
うわ〜、ちょっとしたデート気分と!
あたしは不謹慎にもそんなことを考えてたんだけど……
「あ、ずるーい! 絵里も行きますー!!」
おジャマ虫の余計な一言で、その考えは見事に砕け散った。
「紺野さん、抜け駆けはさせませんからね!」
「ぬ、抜け駆けって……? でも亀ちゃん、エンゼルフェザーは私まだ教えてないし……」
「飯田さんからちゃんと教わってます!」
そうだっけ……?
でも絵里が呪文を唱えると、絵里の背中にも風の翼ができあがった。
- 324 名前:第6話 投稿日:2006/04/25(火) 14:50
- 「よかった、できた。最近使ってなかったけど……」
なんか今すっごく不吉な呟きが聞こえたような……。
でも絵里は自信満々といった様子で紺野さんと向かい合っている。
「どうですか? これで文句ないでしょう?」
「わ、わかった、それじゃ三人で行こう」
あ〜、ポンちゃんがもうちょっと押しに強かったらなぁ……。
ま、そんなポンちゃんはポンちゃんじゃない気もしないでもないけど……。
「それじゃ、いってきま〜す!」
同行を許された絵里は上機嫌で、真っ先に飛び立っていった。
ポンちゃんも同じように、優雅に飛び立っていく。
あたしも二人に続き、軽く地を蹴って空へと舞い上がったけど……
「わっ? わわわっ!?」
羽根が上手くコントロールできない!?
自分の意志とは無関係に羽根が動いてしまい、真っ直ぐ飛ぶことさえできない。
ヤバイ、このままじゃ間違いなく堕ちるっ!!
「あっ、れいな!」
でもその時、前を飛んでいたポンちゃんが上空でループを描き、あたしのとなりに
並んで手を引いてくれた。
ポンちゃんのリードであたしはようやく真っ直ぐ飛ぶことができた。
- 325 名前:第6話 投稿日:2006/04/25(火) 14:51
- 「ごめん、れいなは初めてなんだよね? これってちょっとコツがいってさ」
「そ、そうなんですか……」
「うん。慣れるまではちゃんと手繋いでてあげるから」
「あっ、はい……」
ちょっと恥ずかしいんだけど、ちょっと嬉しい。
左手に感じるポンちゃんのぬくもり。
ずっと慣れないままでいようかなぁ……。
そんなことを考えていたら、何故か右手にも別のぬくもりが加わった。
「紺野さん、ずるいですー! 絵里がれーなをエスコートしますー!!」
「か、亀ちゃん、危ないよ!」
「え、絵里! 離しんしゃい!!」
「や〜!!」
"や〜!!"じゃなか!!
あたしの右手には絵里が取り付き、ぐいぐいと引っ張る。
ていうか手が痛いし! しかもメチャクチャ揺れるし!!
「私のほうが安全だよ! れいなに羽根をつけたのは私だし」
「れーなのことは絵里が一番わかってるんですー!!」
どっちでもいいから引っ張り合いはやめてー!!
- 326 名前:第6話 投稿日:2006/04/25(火) 14:52
- で、結局……
「それじゃあ本人に決めてもらおう!」ってことになったので、あたしは迷わずポンちゃんを選んだ。
や、魔法のことだったらやっぱりポンちゃんの方が安心だしね。
それに絵里のあんな不吉なセリフ聞いちゃったら、ちょっと命預けるのは危険そうだし。
だから絵里、そんなに睨まんで……。
そしてしばらく辺りを飛んでみたんだけど、それらしきものは気配すら見つからなかった。
ただただ山が広がっているばかり。
そのころにはあたしもけっこう羽根の操作に慣れたので、名残惜しいけどポンちゃんの
手を離し、一人で飛んでいた。
「見つからないねぇ、れーな」
「うん、そうだね。ポンちゃん、そっちはありましたか?」
「ううん、山ばっかり……」
もしかして単なる噂だったのかなぁ……?
でも紅い光はこの方向を指してたし、色もけっこう濃かったし。
「ちょっともう一度ダークブレイカーで確認してみますか?」
「うん、それがいいかも」
ダークブレイカーを指輪から剣に戻す。
そして天にかざしてみたけど……
- 327 名前:第6話 投稿日:2006/04/25(火) 14:53
- あれっ……?
いつもは五本の光が出るのに、今回は紅い光一本だけしか出なかった。
しかもいつもよりも強く輝く紅い光が山の一点を指していて……
ゴゴゴゴゴッ……
「わっ!?」
紅い光が指した点に穴が開けた。
山に開いたトンネル。
紅い光はそのトンネルに吸い込まれるように、そこを指している。
「これって、もしかして……」
「あの先にあるんだよ、炎の魔剣が!!」
「『普通の人は踏み込むことができない聖域』ってこういうことだったんだ……」
とにかく道は開けた。
あたしたちはいったん新垣さんたちが待機しているところまで戻り、今度は全員
風の羽根をつけて、トンネルの前までやってきた。
「よし、それじゃ行くよ!」
「よっしゃー、先行くで、あさ美ちゃん!」
「お先ー!」
「わわっ、待ってよ愛ちゃん、里沙ちゃん!」
ポンちゃんが仕切ってたんだけど、高橋さんと新垣さんがポンちゃんを追い越して、
トンネルの中へと進んで行ってしまった。
慌ててポンちゃんもあとを追い、あたしたちもそれに続く。
トンネルはわりと長く、出口は見えない。
でも中にはいたるところに篝火が焚かれていて、内部を照らしている。
ようやく目が慣れはじめたころ、篝火とは違う光が見えてきた。
だんだんと近づいてくる白い光。
トンネルの終点。
その光の向こうには炎の王国が!
期待半分緊張半分で、あたしは白い光をくぐった。
- 328 名前:第6話 投稿日:2006/04/25(火) 14:54
- 「わぁ……」
そこは王国と言うよりも、小さな里だった。
眼下に広がる周囲を山に囲まれた森。その森を一部くりぬいたように、炎の王国はあった。
まわりは背の高い木で作られた塀で囲まれており、その中に同じく木造の家が建っている。
そしてまだ昼にもかかわらず、いたるところで篝火が焚かれていた。
「ポンちゃん、行ってみましょう! 空からなら簡単に入れると!」
「あっ、だめだよ、れいな!」
急かすあたしをポンちゃんが止める。
「なんでですか?」
「ちゃんと結界も張ってあるから」
「そんなの解除するか、消しちゃえば……」
「別に私たちは戦争仕掛けに来たんじゃないんだから。正面から堂々と行こう?」
「はぁい……」
ポンちゃんの言ってることは間違いなく正論なので、あたしはおとなしく従った。
ポンちゃんに先導されて、あたしたちはゆっくりと降りていく。
あたしには全然わかんないんだけど、ポンちゃんにはどこからどこまで結界が
張られてるのか完璧にわかってるみたい。
降りていくに従って、塀のあいだに門があることがわかった。
どうやらそこが開閉して出入りをするみたい。
ポンちゃんはそこへ向かって降りていく。
でももう少し降りると、今度は別のものが見えてきた。
その門の前に誰かがいる……。
- 329 名前:第6話 投稿日:2006/04/25(火) 14:56
- やがてあたしたちの足が完全に地面についた。
その瞬間に背中の羽根が消える。
あたしたちは門の正面へと降り立った。
門の前にいた人と対峙する。
その人は女性だった。
髪が比較的長くて、たぶん保田さんと同じくらいの年齢。
ここにいるってことは、炎の王国の関係者だろう。
「あのっ、私たちは……」
ポンちゃんが次の言葉を発する前に、その女性が口を開いた。
「『闇斬りの少女』田中れいなさんと、ハロモニランド王宮騎士団の方々ですね?」
「えっ?」
一瞬会ったことあったっけ? なんて思ってしまった。
でもそれはすぐに否定された。
まだ自己紹介もしてないのに……
「なんで知ってると?」
訪ねるとその女性は優雅に微笑んだ。
「あなた方が来ることは見えていましたから」
「見えていた」……?
「ようこそ、炎の王国『邪馬』へ。私は邪馬の女王、前田有紀でございます」
その女性の指には、真紅の宝玉の指輪が輝いていた。
- 330 名前:第6話 投稿日:2006/04/25(火) 14:57
-
◇ ◇ ◇
「どうぞ」
「あっ、どうも……」
あのあとあたしたちは前田さんに先導され、邪馬の中へと入っていった。
そして一番奥にある家へと案内された。
家と言うよりは屋敷と言ったほうがあっているかもしれない。
それくらい他の家よりも大きく、また威厳があった。
あたしたちは奥の部屋に通され、そして前田さんが「お茶」を出してくれたんだけど……
えっと……。
目の前にはお椀に入った、真緑な液体。
どう見ても紅茶じゃなかよね……?
あたしよりも先に出されたポンちゃんたちはしっかりと飲み干してたから、とりあえずは
飲めるものなんだろう。
意を決して口を付けてみたが……
「!! 苦っ!!」
思わず叫んで口を離してしまった瞬間に、横に座った新垣さんからの肘鉄が脇腹に突き刺さった。
新垣さんが思いっ切り睨んできているところを見ると、どうやら全部飲まなくちゃいけないらしい……。
あたしは覚悟を決めて一気に口に含み、味わうことなく胃まで落とした。
あたしのあとに座っていた絵里や辻さん、加護さんも同じように飲んでいた。
- 331 名前:第6話 投稿日:2006/04/25(火) 14:59
- 「どうでしたか、お味のほうは?」
「結構なお点前でした」
「飲めるもんじゃありませんでした」と口から飛び出る前に、ポンちゃんが答えていた。
まぁ、そんなこと言い出そうもんなら二発目の肘鉄が脇腹を抉っていただろうけど。
「ところで前田さん、どうして私たちのことを知っていらしたのですか?」
そして話は先ほどのことへと進んでいった。
「それはあなたたちが来ることが見えていたからです」
「『見えていた』ってどういう……?」
「そうですね、どこから話せばいいのか……」
前田さんはそこでちょっと間を置き、姿勢を伸ばした。
あたしはちょっと痺れてきた足を動かして、痺れを紛らわせる。
「遙か昔に魔剣を作り、闇を封じた六人の勇者は、その属性の魔法を極めていただけでなく、
特殊な能力を持っていたと言われています。そしてその特殊な能力は、勇者達の末裔にも
受け継がれているのです」
「特殊な能力……?」
「光の勇者、レムの末裔である光の民は、人の傷を癒すという能力があったでしょう? もっとも
光の民はその能力を魔法という形に昇華させたようですが」
あっ……。
姫様や女王様の顔が頭に浮かんだ。
- 332 名前:第6話 投稿日:2006/04/25(火) 15:00
- 「そして炎の勇者、イフリートの末裔である私たち炎の民も特殊な能力があるのです。
炎は灯火、先を照らすもの。私たちは未来を見ることができるのです」
「そんなことが……?」
「えぇ。ですからあなた方がこの地を訪れることも見えていました」
あたりが静寂を支配した。
未来を見ることができるなんて、そんなすぐには信じることができない。
でも、前田さんが嘘を言っているようにはまったく見えなかった。
もし本当に未来を見ることができるなら……
「それなら、れいなたちの旅は成功するとですか? 闇を倒すことができるとですか!?」
あたしは思わず訊いてしまっていた。
前田さんはすっと目を閉じたが、やがてゆっくりとまた目を開いた。
「申し訳ありませんが、結末は見ることができません。未来を見ることができるといっても
制限はあるのです。そして私はもうあまり未来を見ることができない」
「そうですか……」
「ですが、私に見ることができる範囲ならば……」
前田さんはそう前置きしてまた目を閉じた。
そして目を開けたあと、続けた。
「そう遠くない未来、あなた方は頼りになる仲間と再会するでしょう」
仲間? 再会……?
再会ってことは、一回会ってるってことだよね?
「それって、いったい……」
「誰ですか?」という言葉は、前田さんの「さて……」という言葉にかき消された。
辺りの空気が変わっていくのがわかる。
- 333 名前:第6話 投稿日:2006/04/25(火) 15:01
- 「そろそろ本題に入りましょうか。あなた方がこの邪馬を訪れた目的はこれですね?」
すっとかざされた手には指輪が輝いていた。
「そうです。目覚めつつある闇を倒すためにも、れいなは全ての魔剣を集めなければ
ならないのです。どうか炎の魔剣をれいなにください!」
もともと言葉を飾るなんてあたしは苦手だから、ストレートに言葉を放つ。
前田さんはまたすっと目を閉じた。おそらくは未来をかいま見ているのだろう。
そのあいだにあたしもこのあとの展開を思い描いてみた。
渡してもらえればなにも問題ないけど、もし答えが「NO」だった場合、あたしは
どうすればいいのだろう……?
しばらくして前田さんが目を開けた。
「ダークブレイカーが選んだあなたなら、この炎の魔剣を託すのに何ら異存はありません」
「本当ですか!?」
「ただし!」
キッと前田さんの目が鋭く尖った。
それは初めて見る表情だった。
そして前田さんの指にはめられた指輪の宝玉が突如燃えた。
いや、違う……炎に戻っていってるんだ。
前田さんが立ち上がり、炎に手をかざす。
すると炎は形を形成しつつ、徐々に消えていった。
それは紛れもなく剣の形。
「今ある未来がまやかしでないと、私に示してください。未来は可能性。私の見ることのできる
未来とて、一つの可能性に過ぎない。良くもなれば悪くなることもあります」
ヒュン、と音がした。
あたしの眼前には剣の切っ先が突き付けられていた。
それは吉澤さんの使っている「帝月」と同じタイプの剣。カタナと呼ばれる剣。
「あなたたちがそれを証明することができれば、この炎の魔剣『緋炎』を託しましょう」
- 334 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/04/25(火) 15:08
- 今回はここまでです。不定期になってしまって申し訳……。
新展開です。炎の王国は全体的に和のイメージ。
>>319 名無飼育さん 様
愛ちゃん今回は出番無しです……(ぉ
SM以外目立たなくてごめんなさい(笑
- 335 名前:みっくす 投稿日:2006/04/25(火) 15:34
- 更新おつかれさまです。
おっ、1本目が登場ですね。
またまた、激しいバトルの予感。
次回更新、楽しみにしています。
- 336 名前:第6話 投稿日:2006/05/03(水) 12:20
- アップフロント大陸の北東の端には「魔境」と呼ばれる場所がある。
そこは多数の凶悪なモンスターが群れを成して生息している場所。
そのため近くの国や町に住む人々はモンスターに怯えながらの生活を強いられていた。
しかしある時、そこに一人の英雄が現れる。
その英雄は真白い大鎌を持ち、名だたる凶悪なモンスターを次々と退治していった。
人々は歓喜した。「白い鎌の英雄」が現れた、と。
その英雄は賞金稼ぎのハンターだった。
危険度Sを超えるようなモンスターが次々と英雄に倒されていった。
そのたびに人々は歓喜に酔いしれた。それ故に気づかなかった。
魔物が倒されていくペースがだんだんと早くなっていっていることに。
「白い鎌の英雄」はある時を境にピタリとその存在を消した。
しかし人々は落胆することも、再び恐怖に怯えることもなかった。
なぜなら時を同じくして魔境近くの町が次々と滅ぼされ、そこに住む人のほとんどが
惨殺されたから。
命からがらで生き延びた人は言った。
「赫い鎌の悪魔」を見た、と。
血に溺れた英雄。
間もなく英雄は危険度SSSの賞金首になった。狙う側から狙われる側へ。
その首に懸けられたのは、アップフロント大陸最高額の10億R。
賞金目当てに何人ものハンターが英雄を探し、また戦いを挑んだが、生きて帰った
ものはいない。
その英雄の名は……
- 337 名前:第6話 投稿日:2006/05/03(水) 12:22
-
◇ ◇ ◇
〜矢口真里〜
「ふぁ〜あ……」
オイラは柱に寄っかかって、一つ大きなあくびをした。
今日の仕事はハロモニランド城の門番。
でも今ハロモニランドはいたって平和なわけで、門番はかなり退屈。
おまけに今日はポカポカ陽気なので、どうしても眠くなっちゃう。
それでも寝ないで起きているのは、門番の他にもう一つ仕事があるから。
実は今日、近くの町から姫様に謁見をしたいという来客があるので、それを待っている。
到着したら城内までエスコートして欲しいとなっちに頼まれたのだ。
その来客というのは小さな女の子とその母親で、戦争中に離ればなれになってしまった
父親がロマンス王国にいることがわかったので、会いに行くためにロマンス王国への
通行証が欲しいとのこと。
姫様はもちろんその願いを快諾し、たまってた仕事を片づけて今日会うことにしたらしい。
そんなことを聞かされると、やっぱりちょっと胸が痛む。
あの時どんなことをしても戦争が起こるのを止めていれば、その家族が引き離されるような
ことも起こらなかっただろうな……。
こんなことで罪滅ぼしになるとは思わなかったけど、でもオイラは今日来る親子連れの
エスコートを承った。
懐から懐中時計を取りだして時間を確認する。
約束の時間にはまだなってない。
オイラは懐中時計をしまって、大きく伸びをした。
そういえば、辻と加護は元気でやってるかな?
あいつらが田中ちゃんたちと一緒に旅に出てから、もうけっこう経った。
グラム王国は無事に出たという連絡は届いたけど、そのあとは音沙汰がない。
でもまぁ、相変わらず元気でやってるんだろうな。
食べ過ぎたりしてなきゃいいけど……。
- 338 名前:第6話 投稿日:2006/05/03(水) 12:23
- その時ふと人の気配を感じて顔を上げる。
約束より早く着いたのかな、と思ったけど、それは違った。
視線の先にいたのは親子連れではなく、頭からすっぽりとフードをかぶった、いかにも
妖しいヤツ。
そいつがハロモニランド城の城門に向かって歩いてきている。
なんだ……?
でも次の瞬間、そいつはオイラの視界から消えていて。
「えっ……?」
オイラの横を、フードをかぶったヤツがすり抜けていった。
いつの間に……? いや、それよりも……
慌ててクレセントムーンを掴み、そいつがガーデンへと踏み込む直前で進路を遮る。
そいつはおとなしくオイラの横で静止した。
「ハロモニランド城に何の用?」
「いやぁ、ちょっと人を探してまして。それでここにいるって聞いたんで会いに来たんですよ。
受付までだったら一般人でも入れますよね?」
声の感じからすると、どうやら女性らしい。
そのわりには厳つい体付きしてるけど、とりあえず敵意のようなものは感じられない。
そいつは2、3歩下がって、オイラの前にやってきた。
「入れるけど、だからといって誰でもノーチェックで通すわけにはいかない。とりあえず
そのフードを取ってみてくれない?」
「いや、それはちょっと……。実はこれでも結構な有名人なんでね。下手に騒がれたりしちゃ
迷惑なんで」
「じゃあ悪いけど中に入れるわけにはいかないな。でもあんたの探し人がここにいるかくらいは
オイラでもわかるかもしれない。いったい誰を探してんの?」
そう訊いてみると、そいつのフードから覗く口が弧を描いた。
その瞬間、オイラは背中に寒気を感じた。
- 339 名前:第6話 投稿日:2006/05/03(水) 12:24
- 「『闇斬りの少女』」
「えっ……?」
「あぁ、確か『田中れいな』って名前でしたね」
田中ちゃんのことを知っている!?
なっちから聞いた話を思い出す。
ハロモニランド城を襲った侵入者。田中ちゃんを捜していた。翼が生え、
腕や爪が伸びる人間。田中ちゃんのことを『闇斬りの少女』と呼んでいた。
まさか、こいつは……!!
「そんなヤツ、ここにはいないね」
動揺はなんとか隠して、とりあえずとぼけてみる。
「そうか……行き違いになっちゃったか……」
でもこいつは確かな確証があってここに来たようだ。
やっぱりこいつは以前の侵入者と同じ仲間で。
しかも、田中ちゃんを狙っている。
「それじゃ、お邪魔しました〜!」
「待てっ!!」
そいつはクルッと背を向け、立ち去ろうとしたので、オイラはクレセントムーンで
そいつを止めた。
ちょうど大鎌の刃と柄のあいだにそいつを挟み込むような形。
このまま柄を引けば、そいつの身体は真っ二つに切り裂かれるだろう。
- 340 名前:第6話 投稿日:2006/05/03(水) 12:25
- 「田中ちゃんに何の用だ? 返答しだいでは今この場でお前を斬り捨てる!」
「へぇ〜、なぁんだ、やっぱり知ってんじゃん」
溢れ出す敵意と殺気。
それらに身体が反応し、背中がゾクッとする。
ヤバイ、こいつは……もしかしたら飯田圭織クラスかもしれない……!
こいつを田中ちゃんたちに近づけたらいけない! ここで始末しないと!!
直感でそう思い、大鎌を思い切り引っ張った……はずだった。
でも大鎌はピクリとも動かなかった。
「くっ……!」
いつの間にかそいつが大鎌の柄を掴んでいた。
片手だけ。それだけなのに、大鎌を押すことも引くこともできない。
辻ほどの力はないけど、それでもこの大鎌を自由自在に操れるくらいの筋力はあるのに!
「ハッハーッ!!」
「うわっ!?」
その時急に引っ張ってるのとは逆の方向に力が働いた。
視界が急速に回転する。
オイラは宙に投げ出されていた。
「それじゃあ、『闇斬りの少女』の居場所を教えてもらおうか!!」
「ちっ!」
大鎌の加重をコントロールして、なんとか空中で体勢を立て直す。
でもその時には、目の前にフードがあった。
- 341 名前:第6話 投稿日:2006/05/03(水) 12:25
- 「ハーッ!!」
「がっ!!」
慌てて防御をしたけど、そいつの繰り出した拳はガードをいともたやすく突き抜け、
オイラを吹き飛ばした。
そのまま地面に叩きつけられる。
オイラが堕ちた周囲は、衝撃で小さく抉れていた。
一応受け身は取ったから、なんとか骨は折れてない。まだ戦える。
でもこいつは……かなりヤバイ。
気を抜いたらその瞬間に間違いなく殺られる。
「おとなしく居場所を言えば、命だけは助けてやらなくもないよ〜?」
「誰が! あんたこそ、何者でなんの目的があるか、全て喋ってもらう!」
「知りたきゃ、力ずくで口を割らせることだね!」
「最初からそのつもりだ!」
ほぼ同時に地を蹴った。
力が強いだけでなく、スピードもかなり速い。
それでもなんとかちゃんと視覚で捕えることはできた。
間合いはオイラのほうが圧倒的に広い。
刃の間合いに入ってきた瞬間に大鎌を振るう。
「そんな大振り効かないね!」
そいつは地面に伏せ、大鎌をかわした。
そして一気に距離を詰めてくる。
大振りしたあとの隙を狙うつもりだろう。
でもオイラにはその手は通用しない。
大鎌に抗うことなく身を任せ、回転する。
- 342 名前:第6話 投稿日:2006/05/03(水) 12:26
- 「はぁっ!!」
「むっ!?」
そして遠心力の乗った鎌を、今度は斜め上から振り下ろした。
目の前まで迫っていたフードが一瞬で消え、そのあとを大鎌の切っ先が追いかけた。
「危ない危ない、そんな小さな身体でけっこうその武器を使いこなしてるみたいじゃない?」
「ふんっ」
残念ながら仕留めることはできなかったみたいだけど……
「目的は聞かせてもらうよ。それで少しは喋りやすくなったでしょ?」
「えっ?」
そいつの纏っていたフードがバサッと切れた。
布の破片が足下に落ちていく。
そいつは最初驚いた顔をしていたけど、やがて口許が不気味に歪んだ。
「あ〜あ、大騒ぎになっちゃっても知らないよ?」
体を覆っていた布が次々と剥がれていく。
下から現れた身体は、やはり女だけどかなりガッチリとした体格。
そしてとうとう顔を覆っていたフードが足下に落ちた。
- 343 名前:第6話 投稿日:2006/05/03(水) 12:27
- 「なっ……」
確かにそいつは「有名人」だった。
いや、おそらくこいつのことを知らない人のほうが少ないだろう。
オイラも顔は見たことあった。手配書で。
そして、オイラと同じく大鎌を使うということでも、こいつのことを知っていた。
アップフロント大陸最高額、10億Rの賞金首。
危険度・SSS。
十数の町を滅ぼし、何百人もの人を殺した、真っ赤に血塗られた大鎌を振るう殺人鬼。
「お前は……ソン・ソニン……!!」
「ね、有名人でしょう?」
ソニンがニヤッと笑った。
ヤバイ、まさかこんな奴が出てくるなんて……。
こいつはなんとしてもここで片づけないと……。田中ちゃんたちに会わせてはいけない。
こんな奴に襲われたら、紺野以外は全滅してもおかしくない……。
「さてさて、それじゃ正体もばれちゃったことだし、素手で殺り合うにはちょっと大変そうだし……
使わせてもらおうか?」
ソニンが手をかざすと空間が歪んだ。
そこから突き出した金属の棒を掴み、思い切り引き抜く。
現れたのは婉曲した真紅の刃。何百人もの血にまみれた三日月。
「これがアタシのエモノ、クリムゾンムーンさ。あんたの大鎌とどっちが強いかな?」
ソニンは片手で楽々と大鎌を振り抜いた。
- 344 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/05/03(水) 12:30
- 今回はここまでです。
え〜、卒業だそうですが、放棄だけは絶対にしませんので。
これからもよろしくお願いしますです。
>>335 みっくす 様
ようやく一本目です。先は長いです……。
ですがそれはもうちょっとあとで。
今回は別サイドのお話でした。
- 345 名前:春嶋浪漫 投稿日:2006/05/03(水) 15:51
- 更新お疲れ様です。
別サイドでもやはり動き出しだしましたね。
しかも、狂的で強敵・・・
卒業は残念ですが華やかしい未来まで応援していたい存在です。
次回更新も楽しみに待っています。
- 346 名前:みっくす 投稿日:2006/05/04(木) 04:46
- 更新おつかれさまです。
こっち側でも、いろいろありそうですね。
やっぱり、総出演になりそうかな。
次回も楽しみにしています。
- 347 名前:第6話 投稿日:2006/05/11(木) 14:20
- 「それじゃあいくよ、チビ女!」
「誰がチビだ、このマッチョ女!!」
ソニンが振り下ろした大鎌の刃と、オイラが振り上げた大鎌の刃が交差した。
そのまま押し合うけど、力じゃどう足掻いても分が悪すぎる。
だからすぐに鎌をいなし、ソニンの背後に回り込む。
ソニンはまだ振り返っていない。もらった!
「ハッ!!」
「なにっ!?」
だが振り下ろした鎌の先には、大鎌の柄が待っていて。
刃はソニンの背中に届く前に、柄によって止められた。
いつの間に大鎌を……?
ソニンが大鎌をその場に残し、ターンして振り向いた。
「悪いけど、大鎌の扱いはアタシもけっこう上手いんだよ?」
そのまま柄が押され、オイラの大鎌が弾かれる。
そして間を置かずにすぐソニンの大鎌が迫ってきた。
なんとかかわして刃をやり過ごす。
- 348 名前:第6話 投稿日:2006/05/11(木) 14:21
- 「甘いんだよ!」
でもソニンの大鎌はすぐに軌道をかえて、オイラに襲いかかってきた。
ギリギリで大鎌を合わせて防御するが、力に負けて弾かれた。
「ぐはっ……!」
こいつは……オイラみたいに大鎌の加重を利用して大鎌を操ってるんじゃなく、
完全に力だけで操ってるんだ……。
だからオイラがショートソードを使うみたいに、大鎌を自由自在に振り回せる……。
どんなパワーだよ、いったい……。
「ハッハーッ!!」
天に向かっていたソニンの大鎌が一気に地へと振り下ろされる。
慌ててかわしたが、ソニンの大鎌は勢いを止めることなく、地面を砕いてようやく止まった。
大鎌だけじゃ勝ち目はない。
実はあんまり得意じゃないんだけど……。
大鎌をなんとか片手で持ち、空いた手に魔力を集める。
「ライトニング・パルサー!!」
「むっ!?」
足下に向かってはなった雷撃を、ソニンは飛んでかわした。
でも最初から狙いはそれだ!
新しく魔力を集め、魔法陣を組み立てる。
そしてソニンが着地した瞬間に魔法陣を発動させた。
- 349 名前:第6話 投稿日:2006/05/11(木) 14:22
- 「バーン・ノヴァ!!」
「ぐあっ!」
魔法陣から吹き出した炎がソニンを飲み込んだ。
これなら多少は……。
でも炎の中の影が動くと、溢れていた炎はたちまちかき消された。
「こんな炎じゃアタシには効かないよ」
炎の中から現れたソニンは、服こそ多少焦げてはいるものの、身体はほとんどが無傷。
やっぱりこんなんじゃこいつには通用しないか……。
でも強力なヤツは詠唱に時間がかかるし……。
「さて、それじゃ今度はこっちから行くよ!」
ソニンの手に闇が宿った。
こいつ、闇魔法を……!
「まぁ安心しな。実はアタシも魔法はあんまり得意じゃないんでね。それに魔法で殺しても
味気なくてつまんないからさ」
それでも魔力はかなり集まっている。
そして集まった魔力が闇の魔法陣を作り出した。
- 350 名前:第6話 投稿日:2006/05/11(木) 14:22
- 「サバト・テンタクル!!」
「なっ!?」
魔法陣から溢れたのは無数の闇の触手。
それがいっせいにオイラに向かってくる。
「ちっ!!」
大鎌で斬り飛ばすが数が多すぎる!
一回で切れる数にも限界がある。
何回か大鎌を振り抜いたが、ついにその腕に触手が巻き付いた。
「しまった!」
動きが鈍った。
その瞬間に他の触手も絡みついてくる。
両手両足が完全に動きを封じられた。
「ハッハッハッ! お似合いだね!!」
ソニンが向かってくる。
オイラは逃げることもガードすることもできなくて。
腹部にソニンの拳が突き刺さった。
「ぐあっ!!」
「ハッハーッ!!」
繰り出される拳の雨が全身を穿っていく。
しかも一撃の威力が重い。
視界が霞んでくる。
その時ようやくオイラを縛ってた触手が消えたが、その瞬間に大鎌の柄が腹部にめり込み、
オイラは吹っ飛ばされた。
- 351 名前:第6話 投稿日:2006/05/11(木) 14:23
- 「がっ……!」
城門を越え、城のガーデンの中まで吹っ飛ばされて、オイラは落ちた。
ソニンは悠々と城門をくぐり抜け、城の中に侵入してくる。
「そろそろ『闇斬りの少女』の居場所を吐く気になったかい?」
「誰がッ! 第一、田中ちゃんに何をする気だ!」
「殺人鬼の『用事』がそう何個もあると思う?」
やっぱりこいつを野放しにしておくわけにはいかない!
オイラがここで仕留めないと!!
大鎌で体を支えて、なんとか立ち上がった。
その時だった。
ジャリッ……
微かな音がソニンの向こう側で聞こえた。
そして城門の影から覗き込んだ、女性と女の子の姿。
しまった、もう約束の時間に……!!
音に気づいたソニンが後ろを向いた。
「逃げろーーーッ!!!」
「ハッハーッ!!」
オイラが叫ぶ前にソニンが駆け出していた。
- 352 名前:第6話 投稿日:2006/05/11(木) 14:24
- 血の雨が降った。
最初は小雨。続いて本降り。
止んだあとには紅い水溜まりができていて。
「アッハッハッ! ハッハッハッハッハーッ!!!」
赤い雫を浴びたソニンが真ん中で笑っていた。
「キサマ……!」
気づいたら口の端が切れていた。
それくらい強く歯を食いしばっていた。
「なんの力も持っていない子供までっ!!」
「ハァ? なんか勘違いしてるんじゃない?」
振られた大鎌は赤く濡れていて。
ソニンがくるっとオイラの方に向き直った。
「アタシは戦うのが好きなんじゃない、殺すのが好きなんだよ!!」
「お前だけは絶対許さない! オイラが……倒すッ!!」
さっきまでは立つのがやっとだったのに、気づいたら駆け出していた。
もう痛みは感じなかった。
痛みを感じるだけの心の余裕が残されていなかった。
心はソニンへの怒りで満たされている。
- 353 名前:第6話 投稿日:2006/05/11(木) 14:25
- 「はあっ!!」
「ハハッ!!」
大鎌を振り下ろす。
ソニンはバックステップして鎌をかわしたが、オイラもすぐに地を蹴って、
逃げるソニンを追いかける。
大鎌を真横に振り抜くが、今度は赤い刃によって止められた。
「よく立ったと褒めてやりたいところだけど、アタシの拳のダメージはそんな生易しい
もんじゃないよ。鋭さがずいぶんと落ちてるね」
「くっ……!」
そんなのは言われなくてもわかってる。
痛みは感じないけど、思考と身体の動作に若干のズレがある。
「そんなんじゃあ、アタシは許されちゃうよ〜?」
ソニンはオイラの攻撃をことごとくかわし、あるいは捌いていく。
これ以上はまずい……身体のほうがもたない……。
身体が警告を発してくるけど、オイラは鎌を振り続ける。
殺されたあの親子の苦しみを。
守れなかった自分の未熟さを。
全て、このクレセントムーンに乗せて……
- 354 名前:第6話 投稿日:2006/05/11(木) 14:25
- 「くらえっ!!」
「ぬっ!?」
振り抜いた鎌はソニンの大鎌のガードをかいくぐって。
「ぐっ!?」
慌ててバックステップしたソニンの身体を捕えた。
掠った程度だったけど、ソニンの身体に赤い線が走った。
いける! このままソニンを倒す!
「チッ……」
ソニンが忌々しげに呟いた。
「情報を得るために生かしておいてやってたけど気が変わったわ。……殺す!!」
「えっ!?」
次の瞬間、目の前にいたはずのソニンが消えた。
どこに……!?
気配を探ろうとした瞬間、背中に衝撃が走った。
「がっ!?」
抗いきれず、そのまま地面に倒れる。
大鎌が手から零れた。
すぐにまた背中に衝撃。
意識が飛びかけたけど、なんとか取り戻す。
顔だけ動かしてみたけど……。
バカな……!?
そこにはソニンがオイラを踏んづけて立っていた。
- 355 名前:第6話 投稿日:2006/05/11(木) 14:26
- 「まぁ、考えてみればわざわざあんたに訊かなくても、女王サマやお姫さまに訊けば
いいことだしね」
そんな……。
オイラは全力で戦ってたっていうのに、こいつは全然手を抜いていたっていうのか!?
「でもまぁ、最後にもう一度だけ訊いとこうか? 『闇斬りの少女』の居場所を正直に言えば、
命だけは助けてやる」
「ぐあっ!」
背中にさらなる加重が加わる。
こんな奴にはなおさら田中ちゃんたちの居場所を教えるわけにはいかない。
「むっ!?」
しかしその時どういうわけか、背中にかかっていた加重が消えた。
そして近づいてくる一つの気配。
この気配は……。
「ウチの矢口さんに何してんだー!!!」
「よっすぃー!!」
振り下ろされた帝月が大鎌の刃と交差した。
よっすぃーはさらにカタナを振るい、ソニンを攻める。
「ヤグチ、大丈夫!?」
「なっち……?」
体を起こすと、そこにはなっちと姫様がいて。
姫様の手から光が溢れ、オイラの身体に染みこんでいく。
痛みが徐々に和らいでいく。
- 356 名前:第6話 投稿日:2006/05/11(木) 14:27
- 「よかった、間に合って!」
「ありがとうございます、姫様」
立ち上がるとなっちたちの後ろには、圭ちゃんと麻琴もいて。
ナイフと弓を構えてソニンを狙っていた。
「麻琴、行くよ!!」
「はいっ!!」
ナイフと矢がいっせいに放たれる。
それと同時によっすぃーがソニンの前から飛び退いた。
「チッ!!」
ソニンは大鎌を身体の前で回転させ、全てのナイフと矢を弾き落としたけど……。
「プリズミック・レイザー!!」
そこを姫様の光魔法が襲った。
逃げ遅れたソニンが弾き飛ばされる。
でもこれで倒せたとは思えない。
クレセントムーンを拾い上げてかまえると、隣でなっちも剣をかまえた。
- 357 名前:第6話 投稿日:2006/05/11(木) 14:27
- 「これはこれは、お姫さまと王宮騎士団が勢揃いか」
「ソン・ソニン、お前の行ってきた凶行の数々も今日が最後だ!!」
やはりソニンは魔法に耐えきったようだ。
光の中から現れたソニンに姫様が対峙する。
姫様を守るようにオイラとなっちとよっすぃーが立ち、圭ちゃんと麻琴はまた後ろから
ソニンを狙っている。
ソニンも赤い大鎌をかまえたけど……
「ちっ! これはさすがに分が悪いね。せっかくだけど逃げさせてもらうわ!」
そう言うやいなや、ソニンの背中から翼が生え、ソニンは空へと飛び上がった。
「なっ!? 待てっ!!」
麻琴が矢を放つ。
圭ちゃんもナイフを投げるけど、ソニンを捕えることはできなくて。
「ハッハーッ!! ま、『闇斬りの少女』はじわじわとあぶり出して見つけてやるさ!」
そう言い残して、ソニンはあっという間に空の彼方へと消えていってしまった。
- 358 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/05/11(木) 14:33
- 今回はここまでです。
紺ちゃん19才おめでとう!!
ま、今回出てきてませんが……(ぉ
>>345 春嶋浪漫 様
久々のハロモニランドでした。
そして新たな敵も登場。いろいろと掻き乱してくれそうです。
>>346 みっくす 様
ディアプリ〜D×Dを通しては、ほぼオールキャストになる予定です。
あっ、でもキッズ以外で……。
次回はちゃんと主人公が出てくる予定。
- 359 名前:みっくす 投稿日:2006/05/11(木) 23:00
- 更新おつかれさまです。
敵は、かなり強いですね。
みんながんばれ。
- 360 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:30
- 〜田中れいな〜
前田さんに案内されて、あたしたちは屋敷の裏手へと回った。
するとそこには大きな闘場があった。
周囲は全て猛る炎に囲まれている、炎の闘場。
前田さんが緋炎を持って、闘場の中に歩を進める。
前田さんと戦うのは嫌だけど、おそらくこれは避けては通れない道、一つの試練なのだろう。
あたしが闇を倒せるか否か。それを確かめるための。
ダークブレイカーを剣の形にし、右手に握る。
「さぁ、こちらに来て下さい。れいなと……」
チラッと前田さんの視線が動いた。
「そして、紺野さん。あなたも」
「「えっ?」」
ポンちゃんとあたしの声がかぶった。
てっきりタイマンだと思ってたけど……。
「私も……?」
「れいなに緋炎をお渡しするのと同時に、あなたにもお渡ししたいものがあるのです。
もっとも、受け取ってもらえるかは分かりませんが」
ポンちゃんは少しのあいだ戸惑ってたけど、やがて意を決したように一歩踏み出した。
あたしも同じように、炎の闘場へと入っていく。
- 361 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:31
- 「れーな、頑張ってー!!」
「あさ美ちゃん、負けんなー!!」
他のみんなは闘場の外から応援してくれる。
あたしたちを見守ってくれている。
それだけで力が湧いてくるような気がした。
「行こう、れいな」
「ハイッ!」
ポンちゃんと並んで、闘場の中央に向かう。
ポンちゃんが一緒というのは心強いんだけど、実はポンちゃんと組んで戦ったことなんて、
ほとんどなくて。
急造のタッグで、はたして前田さんに敵うのだろうか……?
それがちょっと気がかりだった。
「それでは、始めましょう」
前田さんが緋炎をかまえる。
刀身から炎が溢れた。
あたしもダークブレイカーをかまえる。
周囲を囲む炎がいっそう強く燃え上がった。
「行きますっ!!」
あたしはダークブレイカーを振り上げて床を蹴った。
まずは前田さんがどのくらいのレベルなのかを見極めないと。
振り下ろしたダークブレイカーを前田さんの緋炎が受けとめた。
- 362 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:32
- その瞬間感じる前田さんの闘気。
よく「身を切られる」とか「背筋が凍る」とか例えられるけど、前田さんの闘気は違う。
皮膚が焦げ付くような、身体が中から焼けるような。
灼熱の炎のような闘気。
前田さんがダークブレイカーを捌く。
そしてそのまま緋炎を振るう。
カタナの威力、鋭さはよく知ってる。吉澤さんに見せてもらったことがあるから。
下手に食らえば一生もののキズをも負いかねない。
なんとかダークブレイカーで受けとめていく。
何度も剣を交えるたびに、前田さんの強さがなんとなく分かってくる。
おそらく前田さんの剣レベルは、吉澤さんより少し下くらいだろう。
といっても今のあたりよりはずっと上だけど。
でも前田さんは魔法を使える。それは気をつけておかないと。
「ハッ!!」
ダークブレイカーを突き出す。
前田さんは横に飛んでかわしたけど、すぐにダークブレイカーを横に薙ぎ、追撃する。
縦にかまえられた緋炎で受けとめられるが、その瞬間に一気に加速。
前田さんの背後に回り込む。
「ふむ」
ダークブレイカーを振り下ろしたけど、そこに前田さんはいなかった。
すぐに気配で前田さんを追う。
あたしの頭上を飛び越し、背後に回ったんだ!
振り向きざまにダークブレイカーを振るが、また緋炎に受けとめられた。
- 363 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:33
- 「なかなかの素速さ、それに鋭さですね。しかも型がちゃんとしている。よほど良い師に
指導を受けたのですね」
「・・・・・・」
いや、そんなに「良い師」じゃないんですけどね……。
主にセクハラ癖とか、セクハラ癖とか、セクハラ癖とか。
まぁ、剣の腕は確かだけれども……。
「れいな、離れて!!」
その時後ろから紺野さんの声が聞こえた。
前みたいにまたバーニングオーラかな? と思ったけど。
次の瞬間、足下には紅い魔法陣が広がっていた。
そっちかっ!!
「メギド・フレイム!!」
魔法陣から炎が溢れ出す直前で、あたしは魔法の範囲から飛びだした。
溢れた炎は前田さんを包みこんで、天高く昇っていった。
やっぱり紺野さんとのコンビだと、いまいち呼吸が合わない。
絵里とだったら、絵里がどんな攻撃をするのかがなんとなく分かったりするんだけど。
「やった?」
魔法陣から溢れる炎を見つめる。
ポンちゃんのことだからおそらく殺さないように手加減はしてるだろうけど、それでもかなりの
勢いの炎。
これだけの炎が直撃すれば、いくら前田さんでも……。
でもその時、炎の中で何かが動いた。
- 364 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:35
- 次の瞬間、溢れていた炎がかき消された。
いや、斬り裂かれたと言ったほうがいいかもしれない。
炎が消えた場所には前田さんが無傷で立っていた。
「そんな……」
「炎の民はみんな炎に対して耐性があります。この程度の火炎では傷一つ負えさせられません」
メギドフレイムは炎系魔法の中でもかなり上級の魔法。
しかもポンちゃんは炎系魔法が得意なのであって。
それでもダメージを与えられないなんて……。
「見せてあげましょう、真の炎を」
前田さんの手に魔力が集まる。
ヤバイ! あたしは慌てて床を蹴った。
魔法を止めるため、前田さんに向かっていく。
「あっ、れいな、ダメッ!!」
紺野さんの声が聞こえたときには、あたしは前田さんに向かってダークブレイカーを
振り下ろしていた。
右手に提げた緋炎が持ち上がり、打ち降ろしを受けとめた。
そのまま緋炎が旋回し、ダークブレイカーが捌かれる。
しまった……!
「戦いの中で焦りは禁物ですよ。余計な力が加わり、攻撃を単純なものにする」
そして振られた緋炎が脇腹を薙ぎ払った。
- 365 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:36
- 「がっ!」
「峰打ちです。耐えきってみなさい」
吹き飛ばされたあたしに、さらに追討ちがかかる。
「バーニング・オーラ!」
「うわああぁぁあっ!!」
灼熱の炎があたしを飲み込む。
以前紺野さんの同じ魔法を食らったことがあるけど、威力が違う!
「れいな!! コールド・バスター!!」
紺野さんの放った冷気が炎を相殺していく。
炎が消えて、ようやくあたしは床に落ちた。
「れいな、大丈夫!?」
「なんとか……」
立ち上がろうとするが、すぐには身体がうまく動かなかった。
さらには視界の隅で前田さんが駆け出す。
- 366 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:37
- 「くっ、させない!」
ポンちゃんが詠唱しながらあたしの前に立った。
形成されていく魔法陣。蒼。水系魔法。
炎に有効な水。確かにそれはあってるけど……。
「メイル・シュトローム!」
魔法陣から数多の水が溢れ、渦となって前田さんに襲いかかる。
メギドフレイムは無防備で受けた前田さんも、今度は立ち止まってかまえた。
緋炎が炎を纏う。炎の闘気が密度を増していく。
「破ッ!!」
水の渦を振り抜かれた緋炎が斬り裂いた。
その斬られた場所から水の渦は次々に消えていく。
違う、一瞬で蒸発させられたんだ……!
「炎に対して水というのは正しいですが、あなたの水魔法は炎魔法に比べてレベルが低い。
私ほどのレベルになれば、苦手な属性とはいえ生半可な威力では通用しません」
「うぅ……」
いくら得意の属性が封じられてるとはいえ、まさかポンちゃんが魔法戦で劣勢なんて……。
これが前田さんの、いや、魔剣を守る王の強さなんだ。
- 367 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:37
- 「れいな、このままじゃ勝てない……」
「うん……」
わかってる。
今必要なのは、個人個人の強さじゃない。
その力を合わせること。あたしとポンちゃんのコンビネーション。
相手のことを思い、考え、そして信頼するその心。
「ポンちゃん、れいなが隙をつくります。だから止めはお願いします」
「でも、れいな一人じゃ危ないよ!」
「いいかげんれいなを信じてください! れいなのことを認めてください! れいなは強くなりました。
それはポンちゃんが一番知ってるはずです!」
ポンちゃんの目を見つめる。
もうポンちゃんに守られてるだけじゃ嫌なんだ。
あなたと並んで戦いたい。
だから!!
「……わかった」
しばらくして、ポンちゃんが微笑んだ。
「そうだね、れいなの強さは私が一番知ってるね。れいなのこと信じるから。一緒に戦おう!」
「はいっ!」
ポンちゃんの前に立ち、ダークブレイカーをかまえる。
ポンちゃんは背後で呪文を詠唱し始めた。
- 368 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:38
- 「作戦は決まったようですね?」
前田さんがかまえる。
あたしはもう一度前田さんに向かっていく。
不思議だね……ポンちゃんが「信じる」って言ってくれただけで……
こんなにも力が湧いてくる!
「はあっ!!」
ダークブレイカーを振り下ろす。緋炎が受けとめる。
そのままお互い剣を引いて、また振るう。
金属音が断続的に鳴り響く。
「素晴らしいです、私の剣についてくるとは」
「ポンちゃんが信じてくれた! れいなはもう絶対に負けんと!」
「それでは、これはどうでしょう?」
緋炎を持つ手とは逆の手に炎が圧縮されていく。
あたしも振られた緋炎を弾き返し、ダークブレイカーに力を送る。
「バーン・エクスプロージョン!」
「デビル・インフェルノ!!」
炎と闇がぶつかり合った。
周囲を揺るがす大爆発。
- 369 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:38
- 「なっ!?」
あたりを粉塵が包みこむ。
その中をあたしは駆ける。
狙うは炎の闘気。
「甘いですね……そこです!!」
前田さんも気を読んだのだろう。緋炎が突き出される。
でもその前にあたしは床を蹴っていた。
前田さんがしたように、前田さんの頭上を飛び越して背後に着地する。
ちょうど粉塵が晴れて、見えたのは前田さんのがら空きな背中。
「サタン・ブラスター!!」
ダークブレイカーから魔法を放つ。
前田さんもなんとか身体を向け、炎を纏った緋炎で魔法を受けとめた。
「惜しかったですね、絶好のチャンスだったのに」
「いや、これでいいとよ!」
「えっ……!?」
前田さんの向こう側。
二つの紅い魔法陣を展開しているポンちゃんが見えた。
前田さんも気付き、慌てて後ろを見た。
- 370 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:40
- 「しまった……!」
「ポンちゃん!!」
「れいな!!」
魔法を止めて飛び退く。
魔法陣が紅く輝いた。
「ドラゴニック・ファイアー!!!」
炎の竜が二匹、前田さんへと翔ていく。
魔法陣の多重発動。しかもポンちゃんの最強魔法、ドラゴニックファイアー。
あたしを信じて、ちゃんと作ってくれてたんだ。
炎の竜が前田さんを飲み込んだ。
ゆっくりとポンちゃんの隣に移動する。
これで倒せなかったらもう打つ手がない。ポンちゃんもおそらく魔力が尽きかけてるだろうし。
いくらなんでも、これなら……。
でもその時、炎の中で影が動いた。
「まさか……」
そして炎の竜が二匹とも真っ二つに斬られた。
そこに佇む一つの影。
マジで……!?
二匹の竜が消えたあとから、前田さんが現れた。
でも……
- 371 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:40
- 「くっ……」
「っ!?」
ダークブレイカーをかまえる前に、前田さんがその場に崩れた。
緋炎を床に突き立て、なんとか体を支えている。
「まさか炎魔法で私にダメージを与えるとは……。さすがですね、紺野さん。そしてれいなも、
見事に私に隙を作らせた。その強さ、しかと見せてもらいました」
前田さんがゆっくりと立ち上がった。
手にあった緋炎が炎になり、そして指輪へと戻っていく。
前田さんは指輪を指から引き抜いた。
「いいでしょう、れいな。この緋炎、あなたに託しましょう」
「本当ですか!?」
「はい。そしてこの世界の未来も同時にあなたに託します。どうか闇の未来を切り開いてください」
前田さんが歩み寄ってくる。
そしてあたしの手の上に、そっと炎の指輪を乗せた。
前田さんの思いを、指輪とともにギュッと握りしめる。
そして指輪を左手の小指に通した。
- 372 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:41
- 「それと、紺野さん」
「あっ、はい」
前田さんは次にポンちゃんの方を向いた。
「あなたにも受け取ってもらいたいものがあります。戦ってみて、あなたなら使いこなせると
確信しました」
「えっ? 使いこなせる、って……?」
前田さんはもう一度あたしたちと距離をとって向き合った。
「極魔法というものをご存じですか?」
「極魔法?」
「その属性における最強の魔法を極魔法と呼んでいます。光属性で言えば、ハートリバースが
極魔法にあたります。その属性を真に極めた者だけが使える魔法で、この邪馬でも炎の極魔法が
緋炎とともに伝わってきました。いえ、正しく言えば、極魔法を使いこなせた者が緋炎を託され、
王となってきたのです」
闘場を取り囲んでいた炎が急に激しく燃え上がった。
そして前田さんの両手に炎の魔力が集中していく。
まさか……
- 373 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:42
- 「戦ってみてわかりました。紺野さん、あなたの炎魔法はおそらくこの邪馬にいる炎の民の
誰よりも強い。これからの訓練によっては私にも匹敵するでしょう。ですからこの極魔法も
使いこなせると思います」
集められた魔力の塊が形を変えていく。
まさか、召喚魔法なの?
しかもドラゴニックファイアーよりも強力な……?
「お見せしましょう、これが最強の炎の型」
あたりの温度が急激に上昇していくのがわかる。
それは炎を纏った巨大な鳥。いや、鳳凰。
「極魔法、ゴッド・フェニックス!!」
紅蓮の鳳凰が翔ていく。
灼熱の旋風と、炎のアーチを残し、空の彼方へと消えていった。
あたしたちは一歩も動けなかった。
なんていうか……ケタが違う……。
「このゴッドフェニックスをお教えしましょう。それに他の皆様の稽古も一通りつけて
さしあげます。そのあいだはどうぞこの邪馬でおくつろぎください」
にっこり微笑んだ前田さんが闘場から出ていって、ようやくあたしとポンちゃんは
その場にへたり込んだ。
- 374 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:43
-
◇ ◇ ◇
それからしばらくのあいだ、あたしたちは邪馬に留まった。
前田さんをはじめとする炎の民のみなさんは、あたしや辻さんの稽古の相手に
なってくれたり、絵里たちに魔法を教えてくれたりと、とてもよくしてくれた。
ポンちゃんも、前田さんに極魔法を教わっていた。
前田さんの話によると、やっぱりポンちゃんはかなり筋がいいとのこと。
そして、だいたい一週間が経過したころ。
あたしたちはまた闘場に集まっていた。
ポンちゃんが前に立っている。
あたしたちは前田さんと一緒にポンちゃんを見つめている。
炎の魔力がポンちゃんの手に集まっていく。
「はああっ!!」
真っ赤に燃える光球が変形していく。
炎を撒き散らす翼が生え、頭が突き出て、かぎ爪が形成される。
まるで命を持っているように、灼熱の翼が一回バサッと羽ばたいた。
「ゴッド・フェニックス!!」
ポンちゃんが魔法を放つ。
鳳凰はポンちゃんの手から飛び立ち、大空へと翔ていった。
- 375 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:44
- 「お見事です、紺野さん。私の魔法と比べても遜色ない。よくぞこの短期間で極魔法を
身につけました」
「はい」
「もはや私が教えられることは何もありません。どうかその力でみんなを守ってあげてください」
「はい、ありがとうございました!」
紺野さんへと歩み寄る。
邪馬はみんないい人ばっかりで、とてもよくしてくれた。
居心地がすごくよかったけど、あたしたちは旅を続けなくてはいけない。
「旅立つのですね?」
「はい。前田さんは他の魔剣がどこにあるかご存じですか?」
「この邪馬と同じような王国があり、その王が持っていると思いますが、場所までは
わかりません。ダークブレイカーの光はどの方向を指しているのですか?」
「緑は北東、蒼はほぼ真東です。どちらかというと緑の方が濃いんですけど」
「そうですか。では邪馬から見て北東に位置するヴァルランドの王都まで送りましょう。
ついてきてください」
「えっ……?」
前田さんが闘場から出ていく。
送るって……どうやって?
ポンちゃんと顔を見合わせながらも、とりあえずは前田さんの後に付いていく。
前田さんは少し歩き、一つの建物の前にやってきた。
頑丈そうな扉に前田さんが手をかざすと、そこに魔法陣が浮かび上がり、扉は
ひとりでに開いた。
- 376 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:45
- 「こちらです」
前田さんに促されて中へと入る。
すると、その中には魔法陣があった。
紅く輝く魔法陣が何個か床に描かれている。
「これは……?」
「炎を使った転送魔法陣です。アップフロント大陸ならだいたいどんな場所へも行くことが
できます。これでヴァルランドまでお送りしましょう」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
「いいのですよ。さぁ、魔法陣の上に乗ってください」
言われたとおりあたしたちは魔法陣の上に移動した。
前田さんが呪文を唱えると、魔法陣が光を放っていく。
そのとき、邪馬ですごした思い出が蘇ってきた。
となりを見ると、ポンちゃんもちょっと瞳が潤んでいた。
「前田さん! 闇を倒したら絶対にまた来ますから!!」
「はい……お待ちしています。その時はまたお茶をご馳走しましょう」
「や、それはちょっと……」
前田さんが礼儀正しく頭を下げた。
私たちも同じように、前田さんに向かって頭を下げる。
そして魔法陣から炎が溢れ出し、あたしたちを包みこんでいった。
- 377 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:46
-
◇ ◇ ◇
〜前田有紀〜
魔法陣から炎が溢れる。
れいなたちを包みこみ、炎が消えたあとには何も残っていなかった。
今頃はヴァルランドの王都に到着しているだろう。
『闇を倒したら絶対にまた来ますから!!』
れいなの言葉がまだ耳に残っている。
「女王様」
「前田様……」
ふと後ろを振り返ると、そこには炎の民のみんなが集まっていた。
みな一様に険しいような、悲しいような顔をしている。
おそらくみんなも私と同じ未来が見えているのだ。
「えぇ、わかっています……」
もう一度れいなたちが消えていった魔法陣を見つめる。
「この魔法陣だけは残しておくわけにはいきません」
手に魔力を集める。
「魔法陣を……破壊します」
- 378 名前:第6話 投稿日:2006/05/20(土) 12:46
-
- 379 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/05/20(土) 12:50
- 今回はここまでです。
「邪馬」編終了。次回からはまた新展開です。
バトルばっかりになってしまったので、今度はカップリングもちょこちょこっと入れたいなぁ……。
>>359 みっくす 様
敵はかなり強大です。
ぶつかるのはもうちょっとみんながレベルアップしてからですかねぇ。
- 380 名前:みっくす 投稿日:2006/05/20(土) 23:57
- 更新おつかれさまです。
相手を信じるということは、互いに命を預けるのと同じことだと思う。
力が漲るのは必然なことかな。
まだまだ強くなりそうなコンビですね。
- 381 名前:第7話 投稿日:2006/05/30(火) 15:37
- 〜田中れいな〜
前田さんにヴァルランドの王都「アロンダイト」まで送ってもらったあたしたちは、
とりあえず情報収集を始めた。
魔剣のことや、風の王国、水の王国のこと。
でもやっぱりというかなんというか、あんまり成果が上がらなかった。
「大した情報もなかったですし、とりあえずは緑の光の方向へ少しでも進みますか?」
「そうだね。ここから北東ってことはグニパルンド王国かぁ」
あたしたちは泊まってる宿屋の食堂でこれからの行き先について話しあう。
「てことはまた通行証をもらわないといけないのれすか?」
「うん。王様に謁見しに行かないと」
「それじゃあさっさと行くとよ!」
あたしはさっそく椅子から立ち上がりかけたんだけど……
「ちょっと待った!!」
それよりも早く新垣さんと高橋さんが立ち上がった。
その勢いに押されてあたしは椅子に逆戻り。
「なんですか、塾長?」
「だから隊長って……じゃなくて、その前に一つみんなに言わなきゃいけないことが
あるんだけど」
新垣さんがテーブルについているみんなを見渡す。
なんかずいぶんと真剣な雰囲気だな……。
- 382 名前:第7話 投稿日:2006/05/30(火) 15:38
- で、そんな新垣さんの口から発せられた言葉は……
「路銀が底をつきそうです」
……は?
路銀? 路銀ってお金のこと?
お金は確か新垣さんと高橋さんがまとめて管理してたけど。
「まったくダメれすねぇ。しっかり管理してくらさい」
「そうやそうや。計画性が皆無やなぁ〜」
「主にお前ら(+あさ美ちゃん)の食費が原因だーっ!!!」
新垣さんが思い切りテーブルを叩いた。
あっ、隣でポンちゃんが小さくなってる……。ちなみにその前には皿の山。
ポンちゃんもかなりの量食べるからなぁ……。
「とにかくこのままじゃご飯も食べられなくなるから」
「それは嫌や!」
「嫌なのれす!!」
加護さんと辻さんが同時に叫ぶ。
食べ物が絡むと真剣だなぁ……。
まぁ、あたしだって飢え死になんて御免なんだけど。
- 383 名前:第7話 投稿日:2006/05/30(火) 15:39
- 「それならとにかくなんとかしてお金を稼がないと」
「じゃあ……賞金首でも仕留めれば手っ取り早いやん!」
「誰かハンターズ・ライセンス持ってるわけ?」
賞金首を狙う職業であるハンターになるにはライセンスが必要。
別に賞金首を捕まえればライセンスを持ってなくても賞金をもらうことはできるけど、
賞金首の出没場所や能力といった情報はライセンスを持ったハンターしか得ることはできない。
ちなみにハロモニランドでは騎士とハンターの兼業は禁止されているので、ハロモニランドの
騎士であるあたしたちは当然ながらライセンスなんて持っていない。
「それじゃああとは地道に働くしかないのれすか?」
「でもそんな時間ありませんよね?」
「そういうこと。だから……これよ!」
新垣さんが何かをテーブルの上に叩きつけた。
それは一枚の紙だった。
みんなで覗き込んでみると、そこには大きな字でこう書かれていた。
『ヴァルランド武闘大会!?』
「そ。どうやら明日このアロンダイトで開かれるみたいなんだよねぇ」
そういや街の中歩いててもやけに武装した人を見かけたなぁ。
その人たちも武闘大会の参加者ってことか。
「わぁ、優勝賞金200万Rだって! ご馳走食べ放題だねぇ!」
「や、あさ美ちゃん、それやって路銀がなくなったんだからね? ちゃんとわかってる!?」
あたしはもう一度チラシに目を通す。
開催場所や参加条件をチェックしていくけど、その中で気になった条件があった。
- 384 名前:第7話 投稿日:2006/05/30(火) 15:40
- 「あの、新垣さん?」
「ん?」
「参加条件に『二人一組であること』ってのがあるんですけど……?」
「あぁ、この武闘大会は例年タッグマッチなんだよ」
タッグマッチか……。ということは……
「それならののとあいぼんに任せるのれす!」
「そやそや! ウチらのコンビネーションは無敵やで!」
「どうかな!? アタシと愛ちゃんのコンビネーションもなかなかだよ!」
「里沙ちゃんと一緒に頑張るがし!」
やっぱりこうなるでしょうねぇ……。
てことは、あたしは……?
そこまで考えたとき、ポンちゃんと絵里があたしをジーッと見つめていることに気付いた。
「れいな」
「れーな」
「「一緒に出よう?」」
「えっとぉ……」
タッグを組むとしたら普通は戦士タイプと魔法使いタイプで組むのが定石。
あたしは戦士タイプで、ポンちゃんと絵里は魔法使いタイプだから、必然的にあたしが
どっちかと組むことに。
そして、組まなかった方はもう人がいないため、参加できない。
- 385 名前:第7話 投稿日:2006/05/30(火) 15:40
- どうしよう……?
魔法の力を考えれば極魔法を覚えたポンちゃんの方が絵里より確実に強い。
でもポンちゃんとのコンビネーションはまだちょっと不安があるんだよね……。
逆に絵里とならコンビネーションはほぼ完璧。
う〜ん……
「絵里のほうがれーなとは息が合ってるんだから、絵里が出ます!」
「でもお金が無くなっちゃったのは私の責任が大きいから私が出た方が……」
「う〜、それなら絵里にだって責任はありますよ〜!!」
普通こういうのって責任のなすりつけ合いするんじゃなかと?
責任のかぶり合いになってるし……。
「じゃ、じゃあれいなに決めてもらえば……」
「ダメです! れーなは紺野さんのこと大好きだから紺野さんを選ぶに決まってます!!」
「なっ、絵里! なに言っとうと!?」
絵里の発言に思わず割って入るけど、二人は構わず討論を続けている。
あ〜もぅ、どっちでもいいからさっさと決めちゃって……。
「う〜、こうなったら仕方ないです。文句なしでいきますよ!」
「えっ……?」
「せーの、じゃ〜んけ〜ん……!!」
「えっ、えっ!?」
「ぽんっ!!」
- 386 名前:第7話 投稿日:2006/05/30(火) 15:41
-
第7話 糸と屍
- 387 名前:第7話 投稿日:2006/05/30(火) 15:41
- そして翌日、あたしたちは武闘大会に参加するため、コロシアムまでやってきた。
さすが王国規模の武闘大会。厳つい猛者がその辺をうろうろしている。
あたしたちもコロシアムの入り口で参加登録をする。
「れーな、がんばろーね!!」
「はいはい」
絵里と一緒に用紙に記入する。
続いて新垣さん高橋さんペア、辻さん加護さんペアも参加登録を済ませた。
「それじゃあ行ってきますね、ポンちゃん」
「うん……」
あたしは大会に出られないポンちゃんに話しかけたけど、ポンちゃんはじゃんけんで
絵里に負けたときからちょっと沈み気味。
うーん、ちょっと調子狂うなぁ……。
「ポンちゃん、大丈夫ですって! 軽く優勝してきますから、安心して任せてください!
その……ポンちゃんが見守っていてくれれば、れいなは絶対負けませんから!」
「れいな……そうだね、絶対見てるから、頑張ってね」
「はい!」
ポンちゃんはようやく微笑んで、そっとあたしの髪を撫でてくれた。
ちょと嬉しい……力が湧いてくる気がする。
でもその時背後から腕が伸びてきて、あたしの耳を思いっ切りつまんだ。
- 388 名前:第7話 投稿日:2006/05/30(火) 15:42
- 「いたたたたっ!!」
「もう、れーな! あとがつかえてるんだからさっさと行くよ! こんなところで
二人の世界作らないで!!」
「つ、作ってないと! 絵里、痛いんやから離しんしゃい!!」
こうしてあたしは絵里に引きずられて入り口の中に入っていった。
なんとか途中で絵里の手を振りほどき、お返しに絵里のほっぺたを思いっ切り引っぱる。
「う〜……」
「・・・・・・」
「いひゃいよ、れーな〜……」
「まぁ、こんなもんで許してやると」
思いっ切り引っぱりながら手を離すと、絵里は涙目になって頬をさすっていた。
とりあえず気は晴れたので、あたしはどんどん通路を奥へと進んでいく。
絵里も後ろをピョコピョコと付いてきた。
やがて通路の出口に差し掛かったけど、そこには係のお姉さんが蓋に穴の空いた箱を
持って待っていた。
「ようこそ、ヴァルランド武闘大会へ。この中からくじを一つお引きください」
「なんね、これは?」
「予選の組み分けになります。詳しいことはプログラムをご覧ください」
「ふ〜ん」
穴に手を突っこんで中をあさる。
どうやら小さな球が大量に入っているらしい。
その中から一つを掴み、取りだした。
- 389 名前:第7話 投稿日:2006/05/30(火) 15:43
- 「……"G"だ……」
「では予選は4試合目になります。それまでに準備を整えておいてください」
「は〜い!」
コロシアムの中に進んでいく。
途中でもう一人係のお姉さんがいて、プログラムを渡してくれた。
「あ〜、ようやく来たか!」
「遅いれすよ、二人とも!」
プログラムを見ようとしたけど、その前に聞き慣れた声が聞こえてきたので、
そっちに視線を向ける。
入り口からちょっとずれたところに新垣さんたちが待っていてくれた。
「新垣さん、予選は何組でしたか?」
「A。一番最初だよ……」
「ののたちはFなのれす。田中ちゃんたちは?」
「れいなたちはGでした」
「ふ〜ん、てことは上手い具合にばらけたわけだ。予選でもかち合わないし、
一回戦でもぶつからない」
新垣さんが開いたプログラムを覗き込む。
そこにはトーナメント表が書いてあり、右から左にA〜Hのアルファベットが並べられていた。
予選はどうやら8グループに分かれてのバトルロイヤルで、それに勝ち残ったペアが
本戦のトーナメントに進めるようだ。
- 390 名前:第7話 投稿日:2006/05/30(火) 15:44
- 「田中ちゃん、準決勝で勝負れすよ!」
「負けませんからね!」
「じゃあアタシたちは決勝で待ってるから!」
そうこうしているうちに簡単なオープニングセレモニーが行われ、そのあとはすぐ予選になった。
ヴァルランドのコロシアムはロマンス王国にあったコロシアムよりも大きく、中央には二つの
四角いリングが設置されている。
てことは試合は2グループずつ行われるってことか……。
「さて、それじゃ愛ちゃん、行くよ!」
「うん!」
新垣さんたちはAグループなので第一試合。
鞭を手にし、リングの上へと向かっていく。
あたしたちも応援のため、Aグループのリングの近くに移動する。
リングの上では選手が集まり、審判の人から説明を受けていた。
結構な人数が審判の人を囲んでいる。
「試合開始と同時にいっせいに戦ってもらい、ギブアップ、リングアウト、気絶したものは
失格になる。最後まで残った者のいるペアが本戦に進むことができる」
審判の説明が聞こえてくる。
なるほど、あくまで二人とも出場しないとダメなのか……。
代表一名が戦うんだったら絵里に任せて、魔法による無差別攻撃でさっさと決めてもらおうと
思ったんだけど、それやっちゃったらあたしまで巻き込まれるな……。
どうやら辻さんも同じことを考えていたようで、急遽加護さんと何やら相談している。
考えることはみんな同じか……。
考えているあいだに審判がリングから降り、選手がリング上に散った。
どうやら予選が始まるみたい。
- 391 名前:第7話 投稿日:2006/05/30(火) 15:45
- 新垣さんと高橋さんはいったいどうやって戦うんだろう?
緊迫した空気が溢れ出してきているリング上を見つめる。
「それでは予選A、B組……はじめっ!!」
カァン!!
ゴングが高らかになった。
一瞬そっちに視線を移し、すぐにリングに視線を戻した。
その時には……
バシバシバシッ!!
リングの上を鞭が縦横無尽に暴れ回っていた。
鞭の爆ぜる音と、時折悲鳴が聞こえてくる。
鞭の嵐が止んだあと、リングの上に立っていたのは新垣さん"だけ"だった。
「そ、そこまで! 勝者、新垣・高橋ペア!!」
ゴングが今度は二回鳴った。
ちなみにもう一つのリングでは激闘がまだ続いている。
- 392 名前:第7話 投稿日:2006/05/30(火) 15:45
- 「や〜、案外楽勝だったわ」
カラッとした笑顔で新垣さんがリングを降りてくる。
え〜と……いろいろとツッコみたいところがあるんですが……。
「に、新垣さん、高橋さんはいいとですか……?」
「愛ちゃん?」
新垣さんは本気で今気付いた、みたいな表情をした。
でもすぐに笑顔に戻る。
「大丈夫だよ! だって愛ちゃん打たれ強いから!」
「り、里沙ちゃん、もっとぉ……」
いつの間にそこにいたのか、恍惚とした表情の高橋さんが新垣さんの足に絡みついた。
新垣さんは「うざっ!」とか言って、高橋さんを足蹴にしている。
や〜、打たれ強いって言うか、なんていうか……。
とりあえず新垣さんたちの戦いは全然参考にならなかった。
- 393 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/05/30(火) 15:49
- 今回はここまでです。
新しい展開が始まります。
でもって、なんかやけに反響があったので、またやってみました(笑
>>380 みっくす 様
2人ともまだまだ強くなる途中です。
今回は分かれちゃいましたが、また書いてみたいです。
- 394 名前:みっくす 投稿日:2006/06/03(土) 20:44
- 更新おつかれさまです。
いろいろな戦いが、みれそうですね。
次回更新楽しみにしています。
- 395 名前:第7話 投稿日:2006/06/10(土) 17:12
- Bグループの予選がけっこう長引いてるらしく、ついでにあたしはGグループで四試合目なので、
ウォーミングアップと探険を兼ねて、コロシアムの中を適当に回ってみることにした。
ときどきジョギングもし、体を温めていく。
それにしても大きなコロシアムとねぇ……。
今あたしが走っているのは観客席最上部の外側、つまりコロシアムの円周上にあたり、
二つのリングを見下ろせる。
リングの上では激闘が繰り広げられている。
まだ二試合目? それとももう三試合目かな?
でもよそ見をして走っていたのがいけなかった。
ドンッ!!
「うわっ!?」
「おっと!」
身体が傾く。
どうやら誰かに思い切りぶつかってしまったみたい。
反射的に手をついたからなんとかケガはなかった。
「あ〜、すいませ〜ん……」
「いえいえ、それよりキミこそ大丈夫?」
見上げるとそこには優しそうな女性の顔。
けっこう軽装だけど、もしかしたら大会の参加者かも。
とりあえず相手にも被害はなかったようで一安心。
- 396 名前:第7話 投稿日:2006/06/10(土) 17:13
- 「はい、大丈夫です」
「そっか、よかった」
そっと差し出される手。
好意に甘えて手を握ると、あたしの手を引っぱって立たせてくれた。
でも立ち上がったあとも、引っぱる力は変わらなくて……
「えっ!?」
あたしはなぜかその女性に抱きしめられていた。
え? えっ? ぇえっ!?
女性があたしの顔を覗き込む。
「ふ〜ん、キミすっごく可愛いね?」
「ちょ、ちょっと!?」
「ねぇ、名前なんて言うの? どっから来たの? 年いくつ? ていうか今夜空いてない?」
顔がどんどん迫ってくる。
なに、このナンパ女は!?
待って、待って待って! あたしにはポンちゃんという心に決めた人が!!
ていうか、なんか誰かを彷彿とさせるような……。
- 397 名前:第7話 投稿日:2006/06/10(土) 17:15
- 「絵 梨 香 ちゃ ん ……」
でもその声によってナンパ女の動きはピタッと止まった。
声はナンパ女の向こう側から聞こえてきて。
ナンパ女が身体を離し、ぎこちない動きで後ろをふり向く。
あたしも視線を追ってみると……
「ゆ、唯ちゃん……」
「何やってるんかなぁ……?」
「こ、これはその……」
そこには女性がもう一人立っていた。
心なしか笑顔の背後にメデューサの影が見える。
これは目を合わせない方が良いな……。
ナンパ女を一人残し、あたしはおそるおそるその場をあとにした。
「絵梨香ちゃぁんっ!!!」
「わーっ!!!」
なにやら物騒な物音と悲鳴が聞こえてきたけど無視ムシ。
う〜ん、しかしやっぱり誰かを彷彿とさせるような……。
あんまり思い出したくない人が浮かんだので、あたしは考えることをやめてリングの
方へと帰っていった。
- 398 名前:第7話 投稿日:2006/06/10(土) 17:17
-
◇ ◇ ◇
「あっ、れーなようやく帰ってきた!」
選手の控えスペースまで帰ってくると、絵里が慌てて駆けよってきた。
そのとなりにいた辻さんがあたしにピースサインを向ける。
リングのほうを見てみると、片方はまだ選手が戦っていたけど、もう片方には誰もいなかった。
てことはどうやら今は三試合目で、辻さんたちは無事に予選を通過したらしい。
「もうすぐ始まるよ、れーな! もう、いったいどこ行ってたの?」
「ごめんごめん、なんか変なのに捕まっとって!」
そのときコングが高らかに二回鳴り響いた。
どうやらEグループも決着がついたようだ。
ということはこの次は四試合目。
「よし、行くとよ、絵里!」
「うん!」
「頑張れ、田中ッチ! あと亀も!!」
「がんばるのれす!」
背中に声援を受けつつ、あたしたちはリングへと進んでいく。
リングの中央で他の参加者と一緒に円を作り、審判から説明を聞く。
でもあたしはもうルールは聞いていたので、その間に参加者をザッと見渡してみた。
ガタイのいいのからすばしっこそうなのまで、いろいろいる。
人数はだいたい20人ちょっと。やっぱり戦士タイプと魔法使いタイプのペアが多い。
これは一人一人倒していくのはめんどくさそうやね。
- 399 名前:第7話 投稿日:2006/06/10(土) 17:17
- そんなことを考えているうちにルールの説明は終わった。
審判がリングをさり、それぞれがリングの上に散らばる。
あたしも絵里の手を引っぱり、急いで四角いリングの角まで下がった。
絵里を後ろに立たせ、あたしは絵里を庇うように立ってダークブレイカーをかまえる。
「れーな、角でいいの!? リングから落ちたら失格だよ!?」
「角なら後ろから攻撃されることはないやろ。正面だけ気にしとけばいいと」
「あっ、そうか!」
「絵里、れいなが守ってるから、リング上の全員を一発で失格させられるような魔法つくっといて」
「えっ、でもれーなは?」
「れいなは発動直前に逃げるから。絵里さえ残ってればトーナメント進めるやろ」
「そっか! うん、わかった!」
とりあえずそれがベストの戦術だと思う。
セコイゆーな、賢い言え!
そのときゴングが高らかに鳴り響いた。
瞬時に絵里は背後で呪文の詠唱を始めるけど、なぜか詠唱はすぐに止まった。
「? 絵里?」
絵里の手がそっとあたしの背中に触れる。
「マテリアル・アーマー!」
そしてあたしの身体が淡い光りで包まれた。
物理防御力を向上させる、防御魔法。
- 400 名前:第7話 投稿日:2006/06/10(土) 17:18
- 「れーな、ちゃんと守ってね?」
「任せんしゃい!」
絵里はまた詠唱に入った。
あたしはリング上に意識を向ける。
そこここでバトルが始まっている。魔法が飛び交い、刃がぶつかり合う。
そんな中あたしのほうにも鎧を纏った男が斧を振り上げて襲いかかってきた。
振り下ろされた斧を剣で受けとめる。
なかなかの実力の持ち主みたい。
でも闇魔法を使うほどではないと思う。
闇魔法はやっぱり目立つので、なるべくなら使いたくない。
目の前の相手に意識を集中しつつも、他に回す意識も少し残しておく。
今回はバトルロイヤル。1対1の戦いではない。
下手に一人にだけに意識を集中してしまうと……
ドォン!!
「がっ!?」
突如、目の前の男の背中で爆発が起こった。
誰かが放った魔法が命中したらしい。
男の意識が一瞬背後にそれる。
- 401 名前:第7話 投稿日:2006/06/10(土) 17:19
- チャンス!
斧を剣で抑えたまま、男の足を払う。
「なっ!?」
そして男がバランスを崩したところを、ダークブレイカーの峰で思い切り薙ぎ払う。
男はそのままゴロゴロとリングから転げ落ちていった。
一丁上がり! でも気を抜いてはいられない。
今度は別々の方向から火球と矢が同時に飛んできた。
ダークブレイカーにほんのわずか闇を纏わせる。
そして火球をダークブレイカーで砕く。
矢は寸前に素手で弾いた。マテリアルアーマーのおかげで、大したダメージはなかった。
ついでに今度は誰かに吹き飛ばされたらしい男があたしのほうに飛んできたので、
そのまま殴り飛ばしてリングの外に叩き出した。
「はぁっ!!」
次の相手は槍を構えた男。
突き出された槍をダークブレイカーで受けとめる。
むっ……さっきのヤツよりもできるな……。
辻さんほどではないけど、スピードとパワーを兼ね備えている。
さらにそれでも全力ではないようで、背後を気にする余裕もあるようだ。
ちょっと倒すのには時間がかかりそうやね……。
- 402 名前:第7話 投稿日:2006/06/10(土) 17:19
- でもその時、背後の詠唱が止んだ。
そして「れーな」と囁く声が耳に届く。
絵里が魔法を完成させたみたい。
「よしっ!!」
受けとめていた槍を弾き、身体を回転させて足を振り上げる。
回し蹴りが男のボディに突き刺さった。
男が後退した隙に、あたしはリングを飛び降りた。
絵里が魔法陣を展開する。蒼く輝く巨大な魔法陣。
「行けーっ、絵里っ!!」
「ノア・フラッド!!」
魔法陣から溢れ出した数多の水が、激流となってリングを浸す。
「うわぁっ!!」
「きゃあっ!」
そしてリング上で戦っていた全ての選手を押し流してしまった。
水が止まったとき、リングの上には絵里一人が立っていた。
ゴングが二回鳴り響いた。
「勝者、田中・亀井ペア!」
「よくやったと、絵里!」
「れーなのおかげだよぉ!」
こうしてあたしたちも無事に本戦トーナメント進出を果たした。
- 403 名前:第7話 投稿日:2006/06/10(土) 17:20
-
◇ ◇ ◇
「いやいや、お疲れ〜! そんでもっておめでとう!」
「ありがとうございます、新垣さん!」
リングを降りて新垣さんたちの元へと向かう。
どうやらHグループの予選も終了したようで、今リングでは本戦のための整備が行われている。
あたしたちは見事に全ペア本戦進出。
これは賞金も見えてきたって感じ!
「30分後に1回戦開始だってさ。1回戦も二試合ずつやるみたいだから、アタシと愛ちゃんは
最初だね」
「それならウチらと田中ちゃんたちはあとやな。そや、入ってきたところのそばに
トーナメント表が張り出されてたで!」
「そうですか。なら時間もありそうですし、ちょっと見てきますね」
どうせ見ても知らん人だろうけど、一応ね。
絵里に一緒に行くか訊いたけど、絵里はちょっと休むとのことなので、一人で行くことにした。
- 404 名前:第7話 投稿日:2006/06/10(土) 17:21
- コロシアムの入り口までやってくると、加護さんの言ったとおりトーナメント表が
張り出されていた。
Gと書かれた下には、しっかりあたしと絵里の名前が書き込まれている。
その向かい側、1回戦の対戦相手であるHの下には……
H − 三好絵梨香・岡田唯
……んっ?
どっかで聞いたような名前……。
どこだったかなぁ……?
思い出そうとしてみたけど、それは「あっ、れいな!」という愛しい人の声で強制終了された。
「ポンちゃん!」
「れいな、予選突破おめでとう!」
「見とってくれたとですか!」
「当たり前だよ! れいな、強くなったねぇ」
にっこりと微笑むポンちゃん。
あ〜、癒される……。予選での疲れも吹っ飛ぶと!
「でも本戦は予選以上にキツイだろうから気を付けてね?」
「大丈夫と! れいなが優勝して、ポンちゃんにご馳走いっぱい食べさせてあげますから!」
「ほ、ほどほどでいいから……。またお金無くなっちゃったら困るし……」
「そしたらまた別の武闘大会で優勝すればいいとよ!」
あたしは時間も忘れてポンちゃんと話し込んでいたんだけど……。
- 405 名前:第7話 投稿日:2006/06/10(土) 17:22
- 「あれ〜、残念、相手いたの?」
背後から乱入してきた聞き覚えのある声。
思わず振り向くと、そこには……
「やっ!」
「げっ!!」
さっきのナンパ女がすぐ後ろに立っていた。
い、いつの間に!? 気配なんて全然しなかったし!
つーかここにいるってことは、こいつもやっぱり大会参加者!?
「そうだよねぇ、こんなに可愛けりゃ彼女の一人や二人くらいいるかぁ」
「ぽ、ポンちゃんは彼女じゃ……」
「ま、あんまり関係ないけどね! どう、たまには別の果実も食べてみない? ていうかむしろ
食べられてみない?」
「うわっ、ちょっと!!」
またあたしは一瞬のうちに抱きしめられてしまった。
ち、ちょっと! ポンちゃんの目の前でなんてことを!!
腕の中でジタバタもがくけど、案外力が強くて抜け出せない。
- 406 名前:第7話 投稿日:2006/06/10(土) 17:23
- 「ねぇ、今夜ちょっと付き合ってよ。人生観変わるような体験させてあげる!」
「お、お断りします!」
「ん〜、照れなくてもいいのに」
照れてないっ!!
でもその時急に後ろに引っぱられ、おかげであたしは魔の腕の中から解放された。
あたしを引っぱったのはどうやらポンちゃんのようで、ポンちゃんはあたしの腕を抱きしめ、
無言でナンパ女を睨みつける。
あれっ? もしかしてポンちゃんヤキモチ妬いてくれたと?
なんだかちょっと嬉しいかも……。
それなのにこのナンパ女ときたら……
「おっ、よく見るとこっちのコも美味しそうだねぇ」
「ちょ、ちょっと! ポンちゃんに手を出したらただじゃおかんと!!」
「あはっ、怒ったところも可愛い!」
「〜〜〜っ!!」
あ〜、なんかどっかのエロ師匠の方がまだマシな気がしてきた……。
あたしの剣の師匠である吉澤さんもかなりナンパだけど、こいつみたいに
手当たり次第じゃなくて、けっこうタイプにうるさかったからなぁ……。
吉澤さんのタイプは小柄で気が強くて……まぁ、典型的なロリコンなんだけど……。
んっ? ちょっと待て、じゃあそれにあたしが含まれてたってことはどういうことだ……?
- 407 名前:第7話 投稿日:2006/06/10(土) 17:24
- そんなことを考えてたら、ナンパ女の背後から、何やら不穏な空気が漂ってきた。
どうやらナンパ女に怒ってるのはあたしだけじゃないようで……
「絵 梨 香 ちゃ ぁ ん !!」
「!!」
ナンパ女の動きが、石になったみたいに固まる。
そこにはさっきと同じ、ナイスバディな女性が立っていた。
「どこ行ったかと思ったら、ま た ナ ン パ !?」
「ゆ、唯ちゃん、これはいろいろ深い訳が……。たまにはこう未発達な娘も食べてみたく
なるわけで……。ていうか本戦前なんだから仲間割れはやめようよ……?」
なんか今大変失礼なことを言われたような。って……
本戦? しかも「絵梨香」と「唯」?!
ま、まさか……
「まさかHの『三好絵梨香』と『岡田唯』って!!」
「あぁ、そう、アタシたちだよ! よろしくね、れいなちゃん!」
- 408 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/06/10(土) 17:28
- 今回はここまでです。
こんなキャラにしちゃってごめんなさい・2(ぉ
次回から1回戦開始です。
>>394 みっくす 様
今回はとりあえず予選をサラッと。
次回からは本戦なので、もうちょっと濃くなっていくと思います。
- 409 名前:みっくす 投稿日:2006/06/10(土) 20:26
- 更新おつかれさまです。
新たな敵?登場ですかね。
今後、どう絡んでいくのか楽しみにしています。
- 410 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/11(日) 18:48
- やあ、この方々が相手ですか
次がすごく楽しみです
- 411 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:18
- 「それではただいまより、決勝トーナメント1回戦を開始します!!」
コロシアム内に、拡声魔法を使ったアナウンスが響き渡る。
コロシアムの中がいっせいにヒートアップする。
そして第一試合、第二試合の出場者がそれぞれのリングに向かっていく。
「よしっ、行ってくるか!」
「いくやよ〜!」
新垣さんがチェーンリボンを振るいながらリングへ登る。
高橋さんもそのあとに続いた。
「塾長ー! 高橋さーん! 頑張ってください〜!!」
「頑張るのれす!!」
応援にも振り返らず、軽く手を振る様は余裕が漂っている。
新垣さんたちが登ったリングには男が二人待ちかまえていた。
二人とも剣を持っているということは、戦士タイプ二人のペアなのだろう。
「試合は時間無制限の一本勝負。戦闘不能、ギブアップか、ダウン、リングアウトの10カウントで
失格となります。二人とも失格となった時点で負けとなります」
予選とはルールが違うのか……。
新垣さんたちはどう戦うのだろうか?
- 412 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:19
- リング上の四人がそれぞれかまえる。
新垣さんたちは、新垣さんが前に、高橋さんが後ろに。
相手の男たちは二人並んでかまえた。
空気が変わっていく。張りつめていく。
「それでは、試合……開始!!」
ゴングが鳴り響いた。
その瞬間に金属の鞭が放たれる。
でも相手も予選を勝ち抜いてきた腕前だ。
片方の男が前に出て、剣を横にかまえる。
そして新垣さんの鞭を刀身に巻き付けて封じた。
もう一人の男が剣をかまえて走り出す。
「チッ!」
新垣さんが舌打ちをして、手首を返した。
すると剣に巻き付いていた鞭は、まるで意志を持っているように解けて、新垣さんのもとへと
戻ってくる。
それより一瞬速く、男が間合いを詰め切ったが……
「フレイム・ウォール!!」
新垣さんと男の間に炎の壁が立ちふさがった。
男が慌ててバックステップする。新垣さんも距離をとった。
最初から息もつかせぬ攻防戦。
でも……これは新垣さんたち、ちょっとヤバイのでは……?
- 413 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:20
- 新垣さんが一番得意なのは補助系魔法と鞭やナイフを組合わせた、中距離での戦い。
もちろん接近戦もできるけど、相手が接近戦を得意とする二人だとさすがに分が悪いだろう。
相手もそれはわかってるだろうから、おそらく二人がかりで新垣さんを最初に潰しにくる。
密着しちゃえば強力な魔法も、味方を巻き込む危険があるから使えないし。
どうするんですか、新垣さん……?
「やれやれ、これはちょっと真っ正面からぶつかるのはキツイなぁ……」
「そうやね、里沙ちゃん」
新垣さんたちもそれはわかっているようだ。
それでも新垣さんの顔にはまだ余裕が感じられた。
「仕方ないね、あんまり1回戦から本気出したくなかったけど」
その時炎の壁が消えた。
瞬時にまた新垣さんが鞭を振るう。
「貴様の鞭は見切ったわぁ!!」
また男が剣で受けとめたけど……
その時、剣と繋がれた鞭を閃光が走った。
「スパーク・ウィップ!!」
「ぐあぁあっ!!」
鞭から剣に、剣から男の身体に電流が流れる。
男はそのままリングに膝をついた。
- 414 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:21
- 「おのれぇ!!」
もう一人の男が新垣さんに向かって走る。
新垣さんも鞭を戻し、ナイフを左手にかまえて男と向き合ったけど……
「はあっ!!」
「くっ……」
振られる剣をなんとかナイフで弾いていく新垣さん。
やっぱり接近戦では相手の方が動きがいい。
新垣さんも距離をとろうとしてるけど、相手がそれを許さなくて。
あんなに密着していたら、高橋さんも援護できないだろうし……。
「甘いわぁ!!」
「しまった!!」
その時、男の振り上げた剣がナイフを弾き飛ばした。
剣が上空で旋回し、今度はそのまま突き降ろされる。
そして新垣さんの右肩を貫いた。
「新垣さん!!」
思わず声を張り上げ、リングに駆けよった。
でも、新垣さんの顔は笑っていて……
次の瞬間、その笑顔が崩れて溶けた。
- 415 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:22
- 「えっ……?」
「なっ!?」
あれは……アクアドール!?
いつの間に!? しかもアクアドールに気配が残されてたし。
崩れたアクアドールの後ろには、高橋さんが魔力を蓄えて待っていた。
「いらっしゃ〜い!」
集まった魔力が渦を巻く。
「ゴッド・ブレス!!」
「があっ!!」
油断していた男に竜巻が命中し、男をリングの外まで吹き飛ばした。
さらに、消えた新垣さんはいつの間にかようやく立ち上がった男の正面に現れていて。
バシバシバシッ!!!
鞭が瞬き、その男も場外に弾き飛ばした。
「1、2……」
リングアウトになったので、審判がカウントを始める。
でも、今の攻撃じゃまだ浅い。
場外にはしたけど、立ち上がれないほどではないはず。
しかし、男たちはなかなか立ち上がらない。
- 416 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:22
- 「あれっ?」
「くっ……身体が動かねぇ!」
見てみると、倒れている男たちの影にナイフが突き刺さっていた。
すごい……あれも全然気がつかなかったと……。
ちょっとあたしは新垣さんの力を見くびっていたみたい。
苦手なタイプであれ、そこらのヤツに負けるような人じゃないんだ。
さすがあたしたちの隊長たい!!
「……9、10!! 勝負あり! 新垣・高橋ペアの準決勝進出です!!」
ゴングが二回鳴り響いた。
そしてコロシアムが歓声に包まれた。
- 417 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:24
-
◇ ◇ ◇
第一、第二試合が終わったあとのリングの整備が済むと、すぐに第三、第四試合に移る。
新垣さんたちは無事に準決勝に進んだので、今度はあたしたちの番。
辻さんとコツンと拳を合わせ、あたしたちはそれぞれのリングへと上がっていく。
あたしと絵里が上がったリングに待ちかまえていたのは、さっき出会った二人組。
岡田唯と三好エロカ……じゃなくて絵梨香。
リングの中央で二人と向かい合う。
三好絵梨香は特に目立った武器を持っていない。手甲をはめてるだけだから、
格闘家だろうか……?
「ねぇねぇ、アタシたちが勝ったら一日デートしてくれない? もちろん夜まで
フルコースで!」
あぁ、できるなら今すぐにでもぶん殴りたい!
でもその思いは岡田唯が代弁してくれた。
持っていた杖で三好絵梨香の後頭部を思いっ切り殴り飛ばした。
杖を持ってるってことは、魔法使いタイプか……。
「ゆ、唯ちゃん、試合前なんだからやめてって……」
「その言葉、そっくり返すで!」
そんなことを言いながら、三好絵梨香と岡田唯はあたしたちから離れていく。
あたしもリングの中央から離れ、三好絵梨香たちと距離を置く。
- 418 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:24
- 「れーな、絶対勝とうね!」
「もちろんとよ、絵里!」
「デートなんて絶対にさせないんだから!!」
「え、絵里……?」
まぁ、理由はわからないけど、絵里もやる気になってくれたからいいか……?
ダークブレイカーを握りしめてかまえる。
向こうもかまえる。
「それでは、第三試合、第四試合、開始!!」
カァン!!
ゴングが高らかになった。
その瞬間に集束する魔力。
「ファイアー・ボルト!」
「うわっ!?」
岡田唯の杖から火玉が放たれた。
火玉はあたしの足下で破裂した。
その火玉に一瞬気をそらした隙に
三好絵梨香の姿が消えていた。
- 419 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:25
- 「なっ!?」
「はぁ〜い!!」
そして三好絵梨香はあたしの目の前に現れた。
速いっ!?
三好絵梨香の手があたしに向かってくる。
あたしは衝撃を覚悟したけど……
むにっ!
どういうわけか、衝撃は襲いかかってこなかった。
そのかわり、胸の辺りに不愉快な感触。
これは……?
「う〜ん、着やせするタイプってわけでもないのか……。これからの成長に
期待かなぁ……?」
ぶちっ!
あたしの中の何かが切れた。
「殺すッ!!」
「うわぁっ!?」
あたしはダークブレイカーを思いっ切り振り抜いた。
三好絵梨香はうまくかわして、最初の位置へと戻った。
チッ、惜しい……。
- 420 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:26
- 「危ないなぁ! 当たってたら死んでたって!」
「殺すつもりだったんだから、死んでくれてけっこうです!」
「ずるい! ずる〜い! 絵里…も゛っ!?」
「酷いよねぇ、唯ちゃん、あんなこと言って」
「一回死ねばもうちょっとまともな性格で生まれ変わってくれるかなぁ?」
「唯ちゃ〜ん……」
どさくさに紛れてあたしに飛びかかってきた絵里には顔面に左ストレート。
あんまりふざけてるとまとめて潰すとよ?
「仕方ないなぁ、それじゃあ本気で行こうか。いろいろするのはKOしてからにしよう!」
「絵梨香ちゃんシメるのも終わってからにするわ」
「絵里、ふざけてないで本気でいくとよ!」
「う、うん、そうだね! デート阻止しないと!!」
いったん仕切りなおし。
またしてもお互いに向かい合う。
空気が研ぎ澄まされていく。さっきまでとは違う。
でもまた岡田唯の杖に魔力が集中するのがわかる。
「! 絵里!」
「うん!」
絵里もまた杖に魔力を集める。
でも岡田唯の方が先に魔法を完成させた。
- 421 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:27
- 「バーニング・オーラ!!」
岡田唯の杖から炎が放たれる。
でも絵里も一瞬の遅れで魔法を完成させた。
「コールド・バスター!!」
炎と冷気がぶつかり合って互いに互いを消しあう。
あたりが蒸気に包まれる。
その蒸気の中から、一つの気配がこっちに向かってくる。
「はあっ!!」
その気配に向かってダークブレイカーを振るう。
でもダークブレイカーは気配に届く前に止められた。
そこに現れたのは三好絵梨香。
手甲から鉤爪が飛び出し、ダークブレイカーを受けとめている。
「へぇ、いっちょ前に気配読めるんだ。強いコは好きよ!」
「誰でもいいんだろ、お前は!」
「失礼な! 可愛いコ限定だよ!」
「威張るな、変態!!」
ダークブレイカーを振るうが、ことごとく鉤爪に止められる。
しかも完全にダークブレイカーの斬撃が受け流されている。
速い! それに上手い……!
- 422 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:28
- 「フフッ!」
「このっ!!」
振り抜いたダークブレイカーは空を切った。
ダークブレイカーをかわした三好絵梨香の拳が間髪入れずに襲いかかってくる。
「くっ!」
なんとかかわしたが、頬がチリッと痛んだ。たぶん鉤爪の切っ先が掠ったのだろう。
反撃しようとしたが、その前に三好絵梨香の追撃が襲いかかってくる。
身体が半回転し、そこから長い脚が放たれた。
「がっ!!」
ガードが間に合わず、腹部にクリーンヒット。
吹き飛ばされたが、なんとか体勢を立て直す。
さらに拳を握って向かってくる三好絵梨香。
あたしはなんとかダークブレイカーを握りなおし、突き出された拳の先に刃を置く。
「ちっ!」
三好絵梨香はなんとか拳を止め、バックステップして距離をとった。
チャンスだ!
あたしはダークブレイカーをかまえて、三好絵梨香を追いかけるが……
- 423 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:28
- 「唯ちゃん!」
「まかせとけー!」
突如あたしの足下に黄色い魔法陣が浮かび上がった。
しまった、罠かっ!?
「ライジング・サンダー!!」
魔法陣から立ち上った雷刃に、今度はあたしがバックステップするハメになった。
でもわずかに足が逃げ遅れ、雷刃が突き刺さった。
「くあっ!?」
思わず後ろにしりもちをつく。
右脚がちょっと痺れてる……。
審判のカウントが始まったので、なんとかダークブレイカーで体を支えつつ立ち上がる。
つーか絵里は何やっとうと!?
後ろを振り返ってみると……
「れーな、たすけて〜!!」
蒼い魔法陣から生えた水の触手によってがんじがらめに絡め取られていた。
こいつは……!
ダークブレイカーで水の触手を切り捨てる。
- 424 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:29
- 「ふあ〜、助かったよ、れーな……」
「絵里! 真面目にやってると!?」
「やってるよ! だってれーなのデートがかかってるんだよ!?」
その理由はよくわからないけど、とりあえず真面目にはやってるらしい。
真面目にやってあの結果か……。どうやら魔法のレベルは絵里より岡田唯の方が上のようだ。
ついでに三好絵梨香もかなり手強いし……。
「よし、絵里、フォーメーションを変えるとよ!」
「ふぉーめーしょん?」
向こうに聞こえないように小声で絵里に話しかけると、絵里も同じように返した。
「れいなが岡田唯を倒す。だから絵里はその間三好絵梨香を魔法で抑えてて。
岡田唯に近づけさせないように」
「なかなか難しいことをサラッと言うね……」
「できる、絵里?」
そういうと絵里はニコッと笑う。
「まかせといてよ!」
「頼りにしてるとよ!」
その時足下に紅い魔法陣が広がった。
慌てて絵里と一緒に魔法陣の上から飛び退く。
- 425 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:30
- 「バーン・ノヴァ!!」
魔法陣から炎が溢れる。
なんとか無事にかわしたが、そのころにはまた三好絵梨香が向かってきていた。
突き出された鉤爪をダークブレイカーで弾く。
「プラズマ・シュート!!」
岡田唯も追い討ちをかけてくる。
チラッと見ると、絵里は魔力を集めているみたい。
迫ってくる魔玉をかわし、絵里に向かいそうなのはダークブレイカーで砕く。
次は三好絵梨香が迫ってきたので、またダークブレイカーで爪を受けとめる。
「どうしたの、防戦一方じゃん?」
「生憎あんたの相手はれいなじゃないとよ!」
「何っ?」
「はぁっ!!」
振り抜いたダークブレイカーが鉤爪で止められるが、それによって三好絵梨香の
身体が後退する。
さらにあたしは追い討ちをかけ、三好絵梨香との距離を広げる。
- 426 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:30
- 「絵里っ!」
「うんっ!!」
絵里が杖を高く掲げると、黄色い魔法陣が三好絵梨香の足下に広がった。
「絵梨香ちゃん、逃げて!!」
「逃がさないわ! ライトニング・プリズン!!」
魔法陣の円周から現れた電流の帯が三好絵梨香を閉じこめた。
かなりの魔力が集まっているらしく、帯からはバチバチと放電が起こっている。
これなら三好絵梨香もそう簡単には突破できないはず。
あたしはダークブレイカーを握りしめ、岡田唯めがけて一気に駆け出す。
「唯ちゃん!!」
「行かせないっ!!」
絵里が杖をかまえると、雷の檻がまばゆく光った。
その間に岡田唯を倒す!
「くっ! アイシクル・エッジ!!」
ナイフのように研ぎ澄まされた氷が魔法陣から吐き出され、襲いかかってくる。
その一つ一つを見極めてかわし、あるいはダークブレイカーで粉砕して突進する。
- 427 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:32
- 「アース・シャフト!!」
今度はリングの表面から石の槍が突き出す。
あたしの進路を塞ぐように。かつ、あたしを貫くように。
足が止まりそうになるが、あたしはそのまま走り続ける。
腕や脚に痛みが走るけど気にしない。
目の前をさえぎる石柱を一撃で砕く。
もう少しで岡田唯が間合いに入る!
「くっ……!」
「させないと!!」
振り抜いたダークブレイカーが、岡田唯の手から杖を弾き飛ばした。
「あっ!」
「とった!!」
魔法はもう間に合わない。
逃げる隙もない。完全に捕えた。
あたしはダークブレイカーを振り下ろす。
もちろん当てる気はさらさら無くて、最初から寸止めしようと思ってたんだけど……
「唯ちゃんっ!!」
「あっ! れーな!!」
「えっ!?」
絵里の叫び声と同時に、岡田唯の前に三好絵梨香の身体が割って入ってきて、
岡田唯を抱きしめる。
ライトニングプリズンを突破してきたと!?
寸止めするつもりだったけど、そんなふうにあいだに割って入られると……!
- 428 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:33
- 「くあっ!!」
「絵梨香ちゃん!!」
なんとか抑えたけど、やっぱり無傷とはいかなかった。
それでも背中にかすり傷一つで済んだのは奇跡的というか、悪運が強いというか……。
とりあえずあたしは倒れた三好絵梨香にダークブレイカーを突き付ける。
ダークブレイカーでの傷はかすり傷だけど、ライトニングプリズンを強行突破したときの
ダメージはそんな生易しいものじゃないだろう。
「れいなたちの勝ちとよ!」
「イタタ〜……。ま、しょうがないか……」
ゴングが二回鳴り響いて、審判があたしたちの勝ちを宣言した。
あたしはそっとダークブレイカーを引く。
「れーな、やったね! 一回戦突破だよ!!」
「そうやね、賞金も見えてきたと」
「これでれーなは絵里とデートだね!!」
「あぁ、そうやね、200年後くらいにしてあげると」
「え〜!? そんなあとだったら絵里すっごいおばあちゃんになっちゃうじゃん!!」
いやそこは人として死んどけよ……。
心の中で絵里に突っこみつつ、チラッと三好絵梨香たちのほうを見てみると……
「え、絵梨香ちゃん、大丈夫ッ!?」
「な、なんとか大丈夫、かすり傷だよ……」
「ていうか……アホッ!! ライトニングプリズンを強行突破するなんて、何考えてんねん!!」
「だ、だって……唯ちゃんが危ないって思ったら、いてもたってもいられなくなって……」
「……もぅ……」
ま、あっちもなんとか丸く治まったみたいだし。
そのうちまたすぐに乱れそうだけど……。
とりあえず今までのお返しはできたし。ちょっと物足りない気もするけど許してやると。
あたしと絵里は並んでリングを降りた。
- 429 名前:第7話 投稿日:2006/06/21(水) 14:34
- 「や〜や〜、おめでとう、アンドお疲れ様〜!」
すると辻さんと加護さんが拍手で迎えてくれた。
どうやら二人の試合はもう終わっていたらしい。
「加護さんたちはどうだったんすか?」
「あ〜、楽勝やったで〜!」
「準決勝で勝負れす!!」
「負けませんよ!!」
そういや二試合ずつやるってことはあたしたちはすぐに準決勝?
でも辻さんに聞くと、準決勝からは一試合ずつやるらしい。
あたしたちは後。まずは新垣さんたちの試合とのこと。
新垣さんの方を見ると、鞭の素振りをしていた。
チェーンリボンがビュンビュンと空を切っていく。
その横でうっとりと新垣さん(+鞭)を見つめている高橋さんは見えないことにしておく。
「それではただいまから準決勝第一試合を始めます!!」
コロシアム内にアナウンスが響いた。
その声に誘われるように、新垣さんと高橋さんがリングへと向かっていく。
これで新垣さんたちが勝てば、賞金ゲットは確実になる!
がんばれ〜、新垣さん、高橋さん!!
- 430 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/06/21(水) 14:40
- 今回はここまでです。
トーナメント一回戦です。
エロカ、こんな感じでいいのかなぁ?(笑
>>409 みっくす 様
从;´ヮ`)<あんまり絡みたくないと……
だそうです(笑
勝負は終わりましたが、もうちょっと出てくる予定です。
>>410 名無飼育さん 様
相手の割には、けっこうまともな戦いになりました。
もうちょっとセクハラギリギリな戦いにしてもよかったかも(マテ
- 431 名前:774 投稿日:2006/06/21(水) 18:00
- もしかしてあの2人も登場とか・・・
という期待しつつ次回を楽しみにしてます
更新お疲れ様でした
- 432 名前:第7話 投稿日:2006/06/29(木) 16:26
- 〜新垣里沙〜
「よし、行くよ、愛ちゃん!」
「うん、がんばるで!!」
愛ちゃんといっしょにリングへと進んでいく。
この試合に勝てば、そのあとアタシたちの誰が優勝しようとも賞金は手にはいる。
それで目的は達成できる。まぁもっとも、優勝を譲る気はさらさら無いんだけど。
係の人に誘導されてリングの上へと登る。
しかしなぜか今回の相手は、同じリングではなく向こうのリングの上にいた。
あれっ? こっちであってるんだよね?
愛ちゃんと顔を見合わせ、首を傾げる。
「それでは、準決勝にふさわしいリングの登場です!!」
しかし、アナウンスが響いたと同時に、リングの周囲に魔法陣が浮かび上がった。
- 433 名前:第7話 投稿日:2006/06/29(木) 16:27
- 「えっ!?」
「うわっ!!」
コロシアム全体がビリビリと振動する。
魔法陣から地面がだんだんと盛り上がってくる。
リングの両サイドとアタシたちの正面。二つのリングのあいだ。
振動が止み、魔法陣が消えると、二つあったリングは一つの巨大なリングに
組み込まれていた。
へぇ、なかなかの演出じゃん。
審判がリング上に上がってきたので、アタシたちは新しくできたリングの中央に向かう。
アタシたちの対戦相手も同じようにリング中央までやってきた。
審判員が再度ルールの説明をしているが、アタシは対戦相手を観察する。
確か相手は「みうな」と「あさみ」と言ったはず。
アタシの正面にいる背の高い方がみうな。特に武器は持ってないが、手には
ガントレットがはめられている。
格闘家か、もしくは魔法使いタイプだろう。
そしてもう一人のちっこいのがあさみ。手には大きな剣が握られている。
二人とも準決勝まで進んできたとあって、かなりの強さを感じる。
それでも負けるわけにはいかないんだけど。
「それでは準決勝第一試合……開始っ!!」
ゴングが鳴り、試合が始まる。
その瞬間膨れあがる魔力。みうなが魔力を集めている。
そしてリング上にダークブラウンに輝く魔法陣が広がった。
この規模の魔法をこの一瞬で!?
- 434 名前:第7話 投稿日:2006/06/29(木) 16:28
- 「アース・シャフト!!」
「愛ちゃん、避けて!!」
魔法陣から巨大な石柱が突き出す。
石柱は魔法陣内の至るところから突き出し、アタシたちの周囲を取り囲んだ。
「行くわよ!!」
石柱の間を縫ってあさみが向かってくる。
振り下ろされた剣をナイフで受けとめる。
けっこう力が強いな……。まともにぶつかったら力負けする……。
「里沙ちゃん!!」
その時背後から愛ちゃんの声が聞こえた。
受けとめていた剣を受け流し、あさみの前から飛び退く。
「ヴォルテック・ブラスト!!」
圧縮された雷があさみに襲いかかる。
あさみが飛び退いてみうなのそばに戻った。
逃がさないっ!!
アタシは鞭を振り上げ、あさみを追いかける。
みうなのそばに戻ったあさみはかまえるでもなくただ優雅に佇んでいて。
なんだ……? 攻撃を誘ってる!?
ゾクッと寒気がして、スピードを落とす。
- 435 名前:第7話 投稿日:2006/06/29(木) 16:29
- 「っつ!!」
その瞬間頬に痛みが走った。
立ち止まって頬を触ると、ぬるっとした感触。
指を見てみると紅く染まっていた。
切れてる? なんで……っ!?
「フフッ」
みうなの笑い声が聞こえてきた。
慌てて後退し、周囲を確認する。
空間の中心にアタシの血がまとわり、滴っている。
そこにうっすらと見える、空間を斬り裂く細い細い線。
糸!? いや、鋼線か……。
よく見るとアースシャフトでてきた石柱に何本もの鋼線が絡みついていた。
「糸に気がつくなんて、なかなか鋭いわね」
みうなの手から銀色の糸が放たれる。
この糸がみうなの武器か!
なんとかかわしたが、その拍子に今度は腕に痛みが走った。
こんなところにまで糸が!?
みうなの放った糸は背後にあった石柱に絡みつく。
- 436 名前:第7話 投稿日:2006/06/29(木) 16:30
- 「こんな糸……!」
ナイフを振りかぶって糸を切り捨てようとしたけど、その前にみうながビィンと糸を弾いた。
弾いた振動は衝撃となって糸を伝い、石柱を斬り裂いた。
石柱だった岩の塊が頭上から降り注ぐ。
「くっ! ホールド・プロテクション!!」
なんとかシールドを張って岩を弾いたが、岩は弾かれて落下するまでにさらに
細かくなっていた。
もうこんなところにまで糸が浸食している!? いつの間に……。
愛ちゃんのほうを見てみると、愛ちゃんも身動きが取れなくなっている。
「ウィング・セイバー!!」
鞭に風を纏わせ、糸を斬り裂く。
そして愛ちゃんのところまで道を拓く。
「愛ちゃん、大丈夫!?」
「うん、なんとか。でも……」
今やリング上の至るところに糸が張られている。
それはまさに糸の檻。鋼鉄の蜘蛛の巣。
このままじゃすぐに捕まってしまう……!
- 437 名前:第7話 投稿日:2006/06/29(木) 16:30
- 「とりあえずこの糸の檻を突破して、みうなを叩くよ! 愛ちゃんはあの石柱を狙って
破壊して!」
「石柱を?」
「そう。あれさえなければ糸を張ることはできない」
「わかった!」
魔力を集め、そっと愛ちゃんの身体に押しつける。
「マテリアル・アーマー!」
愛ちゃんの身体が淡い光りで包まれる。
これで少しは物理攻撃を軽減できる。
自分にもマテリアルアーマーを使用し、また鞭に風を込める。
「行くよ、愛ちゃん!!」
「うん!!」
愛ちゃんが詠唱を始め、アタシは駆け出す。
鞭を振るって糸を斬り裂いていくが、さすがに全部を切ることはできない。
腕や脚に細かな痛みが広がる。
「スパイラル・サイクロン!!」
その時石柱の一本が竜巻に包まれた。
竜巻の中で、石柱がそこに張られた糸もろともバラバラに砕かれる。
糸の密度がわずかに減った。
よし、今のうちに……
- 438 名前:第7話 投稿日:2006/06/29(木) 16:31
- 「そうはさせないわよ!」
その時上から声が降ってきた。
見上げるとそこには剣を振りかぶったあさみの姿。
着地と同時に振り下ろされた剣をなんとかナイフで受けとめる。
「この糸の城からは決して抜け出せない。みうなには近づけさせないわ!」
「さぁ、それはどうかな?」
鞭を振るうが、バックステップでかわされる。
ちっこいおかげで動きがすばしっこい。
しかもこの張り巡らされた糸も上手くかわしているのか、傷一つ追ってない。
また向かってきて振られた剣をかわしたが、今度は二の腕辺りに痛みが走る。
さらにその時、背後で雷光が瞬いた。
「!! 愛ちゃん!」
「だ、大丈夫や……」
後ろをふり向くと愛ちゃんが座り込んで脚を押さえていた。
雷から逃げ遅れたのか、糸にやられたのか。
でも愛ちゃんが手を突き出すと、一角の石柱が炎に包まれてバラバラに砕け散った。
- 439 名前:第7話 投稿日:2006/06/29(木) 16:32
- これはこいつに手間取ってる時間はない。さっさとみうなを潰さないと!
あさみがまた襲いかかってくる。
鞭を振り回しつつ狙いを定める。
狙いは剣を握りしめている右手!!
あさみが剣を振り上げた瞬間、アタシは鞭を放つ。
「うっ!?」
鞭は的確に右手に辺り、あさみが剣を取り落とした。
アタシはその剣を拾い、溜めておいた地の魔力を剣に宿す。
「シャドウ・バインド!!」
そして思い切りあさみの影に突き立てた。
あさみの動きがピタッと止まる。
「なっ、動けない!?」
アタシはあさみの横を通り抜け、みうなへと向かう。
ウィングセイバーで糸を斬り裂きつつ、糸の中を突き進む。
「ふぅん、あーさを封じるなんてなかなかやるわね」
「これで終わりだ!!」
あと少しでみうなが間合いに入る。
アタシは思いきり鞭を振り下ろしたけど……
- 440 名前:第7話 投稿日:2006/06/29(木) 16:32
- 「えっ……?」
その糸は切れなかった。
鞭が触れた瞬間、糸が鞭にまとわりついて離れない。
鋼線じゃない!? まさか、粘着性の糸……!?
「かかったわね!!」
「しまった!」
みうなの手から放たれた粘着性の糸が身体に絡みつく。
もがけばもがくほど巻き付いてくる!!
さらに背後からも粘着性の糸が襲いかかってきて、アタシは石柱に磔にされてしまった。
「里沙ちゃん!」
「愛ちゃん、逃げて!!」
「うわっ!!」
それも遅かったみたい。
愛ちゃんにも無数の糸が襲いかかり、アタシと同じように石柱に磔にされた。
「あはは! まるで蜘蛛の巣にかかった蝶ね!」
みうなはさらに糸を放ち、その糸がリングに突き刺さった剣に巻き付いて、剣を
あさみの影から引っこ抜いた。
- 441 名前:第7話 投稿日:2006/06/29(木) 16:33
- 「ごめんごめん、ちょっと油断しちゃった」
「あーさ、油断しすぎよ」
あさみが剣を手にして、みうなの隣に戻る。
「でも確かに思ったよりも手こずったわ。さすが『闇斬りの少女』の仲間といった
ところかしら?」
「えっ!?」
「何っ!?」
『闇斬りの少女』だと……!?
「まさか、お前たちは!!」
「そういうこと。稲葉さんの仇は討たせてもらうわ」
みうなが手をかざすと闇色の魔法陣が広がった。
間違いない。こいつらは……『闇の使徒』だ!!
「まずはあなたたちよ。すぐに『闇斬りの少女』も送ってあげるわ」
「くっ……!」
闇が膨れあがる。
そして一気に暴発し、アタシたちを取り込んだ。
- 442 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/06/29(木) 16:37
- 今回はここまでです。
新たな敵が出てきて、ヴァルランド編もクライマックスです。
>>431 774 様
新しく登場したのはこの二人でした。
合っていたでしょうか?
- 443 名前:774 投稿日:2006/06/29(木) 22:58
- うむ予想はしていてもヤッパリ当たるものではないですネェ・・・
今回も楽しく読ませていただきました
続きを楽しみにしてますね
- 444 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:38
- 〜田中れいな〜
石柱に磔にされた新垣さんと高橋さん。
そしてリング上に闇の魔法陣が広がる。
まさか、こいつらは……!
「塾長!!」
「新垣さん、高橋さんっ!!」
轟音とともに闇の閃光が溢れて新垣さんたちを飲み込んだ。
闇の魔法陣が消えたあとには、新垣さんと高橋さんが倒れていて。
そして対戦相手だった「みうな」と「あさみ」があたしのほうを見ていた。
「まずは二人。そして次はあなたよ、『闇斬りの少女』」
「やっぱりお前らは……!!」
「そう。闇の使徒の一人、みうな」
「そしてアタシはみうなのパートナー、あさみよ」
「さぁ、遊びは終わりだ!!」
みうなの手から銀の糸が放たれる。
縦横無尽に。コロシアムの至るところに糸が張られる。
「ぐあっ!!」
「きゃあっ!!」
観客席の方から悲鳴が上がる。
こいつら、コロシアムの全てを巻き込む気か!!
- 445 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:38
- 「ちっ! 絵里、新垣さんたちの回復を!」
「わかった!!」
絵里が糸を気にしながらも、新垣さんたちの元へと駆けよる。
「あいぼん、紺ちゃんに連絡するのれす!」
「よっしゃ!」
辻さんの命で加護さんが水晶を取りだし、通信を始める。
あたしと辻さんは顔を見合わせうなずき合う。
そしてみうなに向かって駆け出した。
「サタン・スラッシュ!!」
闇の刃を放ち、糸を斬り裂く。
でも切ったそばから新しい糸が張られる。
「っつ!!」
背後で辻さんが呻いた。
槍は「切る」のには向いてない。
なんとかあたしが道を切り開かないと。
ダークブレイカーに力を送り、魔法陣を展開する。
広がる魔法陣は闇色ではなく、ダークレッド。
- 446 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:39
- 「ブラッディ・レアー!!」
魔法陣から突き出た血色の刃が張られた糸を引きちぎる。
辻さんがあたしの横をすり抜けてみうなに向かっていく。
でもその前にあさみが立ちふさがった。
「ここは通さないわよ!」
「邪魔れす!!」
槍と剣がぶつかり合う。
あたしは2人の横を通り越し、みうなに斬りかかる。
みうなはガントレットでダークブレイカーを受けとめた。
「へぇ、なかなかやるねぇ」
ダークブレイカーが捌かれる。
そして鋼線があたしめがけて放たれる。
なんとかかわしてまたダークブレイカーを上段にかまえるが、そのころにはみうなの前に
無数の糸が張られていた。
くっ……!
ダークブレイカーを振り下ろして糸を斬り裂いたが、みうなには届かず、隙だらけのあたしに
魔力が集まった手が突き付けられた。
「ゴッド・ブレス!!」
「うわっ!!」
圧縮された竜巻が直撃し、身体が吹き飛ぶ。
地面に落ちたときには、身体にいくつかの傷ができていた。
このくらいで済んだのは幸いかもしれない。ブラッディレアーで糸を切っておいてよかった。
- 447 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:40
- 「田中ちゃん、大丈夫れすか!?」
辻さんが駆けよってくる。
そのあとをあさみが追いかけてきたが……
「ティフォン・ストーム!!」
突風が吹き荒れ、あさみを吹き飛ばした。
ポンちゃんに通信していた加護さんがあたしたちと合流する。
「加護さん、ポンちゃんは?」
「観客の避難の手伝いとかやってもらってるわ。人数が人数やからけっこう時間
かかりそうやな」
「そうですか」
絵里のほうをチラッと見るが、新垣さんたちはかなり酷くやられたらしく、あっちもまだ
時間はかかりそう。
それならとりあえずはこの三人であいつらを抑えなくちゃならないようだ。
「それじゃあ、まずはあんたたち三人を片づけてあげるわ!」
みうなが手を振ると、辺りに糸が撒き散らされる。
鋼線と、粘着性の糸。
よーく見ないと違いがわからない……。
- 448 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:41
- 「そういう武器かと思ってたけど、その糸はモンスターの能力とね?」
「そうよ。アトラクナクアという蜘蛛神を食べたの。鋼線は糸を魔法で硬質化しているのよ」
「なるほど、自由自在に操れるわけだ……」
いつの間にかあたしたちはまた無数の糸に囲まれていた。
このコロシアムのような周囲を囲まれた空間に、この糸の能力は非常に相性がいいと言える。
まさに巨大な蜘蛛の巣。
捕まってしまえば勝ち目はない。
「辻さん、加護さん、まずはなんとかみうなを倒してこの糸をどうにかしましょう」
「そうれすね」
「加護も同意見や」
「よし、行きますよ!」
ダークブレイカーに力を注ぐ。
そして集まった魔力を地面に叩きつけた。
「デビル・インフェルノ!!」
爆発が起き、その爆風で糸が千切れ飛ぶ。
そしてあたしと辻さんは並んで駆け出す。
でもその前にはまたあさみが立ちふさがった。
振り下ろされた剣をダークブレイカーで受けとめる。
この糸の城の中でこんなにもすばやく、しかも傷一つ追わないで動けるなんて!
稲葉貴子のような自然治癒能力か? それとも別の……?
- 449 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:41
- 「はあっ!!」
辻さんの槍が旋回してあさみを襲う。
あさみは槍をかわしたが、そこをあたしが斬りかかる。
でもあたしの眼前に糸が一本走り、それであたしは急ブレーキを余儀なくされた。
そこにあさみの剣が向かってくる。
なんとか防御したが、あたしは弾き飛ばされた。
「のの、離れて!!」
その時背後から加護さんの声が聞こえた。
辻さんが一目散にあさみの前から飛び退いた瞬間、火球が脇を通り抜けていった。
「バーン・エクスプロージョン!!」
炎の圧縮体があさみを巻き込み炸裂した。
やったか……?
でも土煙の中からはあさみが悠然と現れた。
バカな……確かに直撃したのに!?
「そんな、無傷やて!?」
「それならののが倒してやるのれす!!」
辻さんが槍を振りかぶったが、その槍に糸が絡みついて動きを封じた。
その糸は遥か遠くのみうなの手とつながっていて。
- 450 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:42
- 「なっ!?」
「フフッ、捕まえた!」
みうなが糸を弾く。
衝撃が糸を走り、つながっていた辻さんの槍を輪切りにした。
「ちっ!!」
辻さんが槍の残骸を投げ捨て、拳を握りしめてあさみへと向かっていく。
突き出された剣をかわし、ストレートを叩き込む。
動く度に身体に傷が刻まれるけど、辻さんは気にしないようにしたのか、
かまわず拳を繰り出している。
嵐のような拳は確実に何発かはあさみに突き刺さってる。
でもあさみは苦悶の表情一つ浮かべない。
辻さんもその違和感に気付いてるらしく厳しい表情をしている。
振られた剣をジャンプしてかわしたと同時にあさみの肩を蹴り、その反動で辻さんは
間合いを開けた。
「アイツおかしいのれす……。もしかして愛ちゃんと同じ人種れすか?」
「それは違うと思いますけど……」
「けどこれじゃ埒があかんわ。れいな、加護とののであさみを抑えるから、その間に
みうなを倒して!」
「わかりました!」
また辻さんがあさみへと向かっていく。
そしてそのあとを氷の刃が追いかけた。
辻さんと加護さんがあさみを抑えてるあいだに、あたしはみうなへと向かう。
糸を斬り裂き進んでいくが、すぐに粘着性の糸によってダークブレイカーが絡み取られる。
- 451 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:44
- 「くっ……!」
ダークブレイカーの刃に闇を走らせ、糸を消滅させる。
「なるほど、どうやらその剣は絡みとっても無駄なようね」
「その通りと!!」
ダークブレイカーを振り抜くが、みうなは跳躍してかわした。
そしてそのまま上空で静止する。
いや、自分が張った糸の上に立っているのだ。
その姿はまさに蜘蛛そのもの。
「ちっ! サタン・スラッシュ!!」
「おっと!」
みうなの乗っている糸を狙って闇の刃を放ったが、みうなは直前で別の糸へと移動したようだ。
上空から鋼線が放たれる。
なんとか今回は無傷でかわせたが、鋼線は地面に突き刺さった。
とにかくまずはみうなを落とさないと切りかかることもできない。
サタンスラッシュじゃかわされる。それなら……
「これならどうだ! デモンズ・ストーム!!」
「わわっ!?」
暗黒の竜巻が周囲を渦巻く。
みうなの周囲の糸を全て引きちぎり、みうなの足場をなくした。
みうなが落ちてくる。あたしはそこを狙ってダークブレイカーをかまえたけど、
「そうはいかないわ!」
みうなの手からまた糸が生み出される。
糸は別の糸と絡み合い、みうなはその糸を伝って落下場所を変えた。
糸を辿り辿って、あたしの背後へと降り立つ。
- 452 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:45
- 「しまった!」
振り向きざまにダークブレイカーを振るうが、刃は束ねられた粘着性の糸によって止まった。
闇を纏わせる前に、糸がダークブレイカーからあたしの身体へと伝ってくる。
さらに四方八方から糸が身体に絡みついてくる。
「くあっ!!」
糸でがんじがらめにされた身体は全然思うように動かせない。
さらにみうなが指をクイッと動かすと、腕がギリギリと極められて。
その痛みにあたしは思わずダークブレイカーを手放してしまった。
ダークブレイカーがカランと地面に落ちる。
「アハハ、いいわね、その姿。お似合いよ」
「くっ!」
「反抗的な目ね。でももう睨むだけしかできないけど。これで終わりよ、『闇斬りの少女』」
あたしの身体に巻き付いた糸とつながってない右手があたしに突き付けられる。
集められる闇の魔力。
力を込めるが、糸に縛られた身体はまったく動かない。
くっ、ここまでなの……!?
まだあたしはなにもできてない。
ポンちゃんだって救えてないのに!!
「じゃあね」
いやだ! まだ死にたくない! まだ死ねない!!
でも闇の魔法が放たれる瞬間、あたしの鼻先をふわっと懐かしい香りが掠めた。
あたしとみうなのあいだに影が割り込む。
そしてあたしの身体を縛っていた糸が斬り裂かれた。
- 453 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:46
- 「何っ!?」
「はあっ!!」
さらにみうなに向かって剣が振られる。
みうなは飛び退いて剣閃をかわした。
綺麗に装飾された細身の剣が輝く。
この剣、この後ろ姿、そしてこの声。
もしかして……
「ミキねぇ……?」
「久しぶりだね、れいな。間に合ってよかったよ」
振り向いた顔は間違いなくミキねぇ、あたしがロマンス王国でお世話になった藤本美貴さん。
ミキねぇはダークブレイカーを拾って、あたしに手渡してくれた。
「どうしてここに……?」
「ちょっと旅の途中で立ち寄ってたんだよね。ホントは亜弥ちゃんとこの大会に出るつもりだったんだけど、
ちょっと間に合わなかった。あっ、亜弥ちゃんは紺野ちゃんの方を手伝ってるから」
あたしはボーっと前田さんの言葉を思い出していた。
「頼りになる仲間と再会する」ってミキねぇたちのことだったんだ……。
「ま、募る話はあとにして、まずは蜘蛛退治といきますか」
「はいっ!」
ダークブレイカーをかまえ直す。
ミキねぇも剣をかまえた。
- 454 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:47
- 「ミキが道を切り開くから。れいなはアイツだけを狙って」
「わかりました!」
「それじゃ、行くよ!!」
ミキねぇが駆け出す。
剣を振るたびに、糸が千切られ、道ができていく。
鋼線も、粘着性の糸も関係ない。全てが開けていく。
ミキねぇの剣はロマンス王国で見たときよりも強く、そして疾くなっていた。
「ちっ!!」
みうなが糸を織って面を作り出す。
でもそれもミキねぇの一閃によって切り捨てられた。
ミキねぇがみうなの脇をすり抜ける。
みうなの腕や脚に赤い線が走った。
「うあっ!!」
みうなが崩れ落ちる。
この隙は逃さない!!
あたしはみうなに駆けよりつつ、ダークブレイカーを振りかぶった。
でも……
「れいな、あさみが行ったで!!」
「えっ!?」
加護さんの声と同時に、あさみが目の前に立ちはだかった。
- 455 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:49
- 「みうなはやらせない!」
「くっ!!」
あさみが剣を立て、ダークブレイカーを防ごうとかまえる。
あたしはもうダークブレイカーを振っている。
間に合うか……?
あさみが剣をかまえ終わる直前に、ダークブレイカーがあさみの剣をすり抜けた。
「はっ!!」
短い吐息とともに、ダークブレイカーを振り抜く。
ダークブレイカーがあさみの首を跳ね飛ばした。
順番は狂ったけど、まずは一人!
「さぁ、次はあんたとよ!」
みうなにダークブレイカーを突き付ける。
けど、みうなは薄く笑っていて。
「「残念だけど、それはできないね?」」
「えっ……!?」
二つの声が重なった。
一つはみうなの声。もう一つはあたしの足下から聞こえてきて。
思わずそっちを向くと、あさみの首がみうなと同じように薄く笑っていた。
「なっ!?……っつ!!」
「れいなっ!!」
そっちに気を取られている隙に、左肩に激痛が走った。
見るとあさみの剣があたしの肩を貫いていた。
ミキねぇが慌てて戻ってきて、倒れかけたあたしを支えてくれる。
あさみの身体はゆっくりと屈むと、首を拾い上げ、もとあった場所に戻した。
- 456 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:50
- 「さすがにおどろいたみたいね。アタシはリビングデッド。そう簡単には死なないわよ。
あっ、もう死んでるのか」
くっ……そういうことか……。
糸を気にせず動き回れたのも、辻さんの攻撃が全く効いてなかったのも。
リビングデッド……生ける屍。痛覚なんてないんだ。
「れーな、大丈夫!?」
その時背後から絵里の声が聞こえてきた。
振り向くとそこには絵里と、無事回復した新垣さん、高橋さんの姿も。
絵里が肩の傷に触れ、回復魔法をかける。
「さっきはよくもやってくれたわね。たっぷりお礼しなきゃいけないわ」
新垣さんが鞭で地面を叩く。
高橋さんも詠唱を始め、ミキねぇも剣をかまえた。
「やれやれ、まさかあのダメージで仕留められなかったなんて。ずいぶんとしぶといわね」
「それに予期せぬ助っ人も現れたみたいだし」
「仕方ないわね」
みうなが手を振ると、闇の魔法陣が浮かび上がった。
思わず身構えるけど、闇の魔法陣は歪み、空間に漆黒の穴を開けた。
あれは、ダークサークル!?
「逃げる気かっ!!」
「えぇ、ちょっと予定外のことが起こりすぎちゃったからね。出直すことにするわ」
「逃がすか!!」
ミキねぇと新垣さんが走り出す。
でもそれも糸によって止められた。
みうなとあさみの身体が穴の中に吸い込まれていく。
「それじゃあね、『闇斬りの少女』。また会いましょ。その時こそ息の根を止めてあげる」
みうなの言葉を残して闇の穴は閉じた。
あれほど張り巡らされていた糸もきれいに消えていた。
「ちっ!」
新垣さんが悔しそうに舌打ちした。
- 457 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:51
- 「れいな〜!!」
「たん〜!!」
その時、声とともにこちらに走ってくる人影を見つけた。
この声はポンちゃん。あと松浦さんだ。
ポンちゃんはあたしのところに、松浦さんはミキねぇのところにそれぞれ駆けよってきた。
「れいな、大丈夫……?」
「はい、たいしたことないです。ポンちゃんこそケガとかないですか?」
「うん。観客の方も最小下の被害で防げたと思う。松浦さんや、三好さんたちも手伝ってくれたしね」
「えっ、三好さん……?」
「え゛っ!? 三好……!?」
「はぁ〜い! 呼んだ、れいな!?」
「ぅわっ!?」
「「「あっ!!」」」
突然どこからか現れたエロカがあたしに背後から抱きついてきた。
ていうか痛い、痛い! まだ肩の傷完治してないと!!
絵里とポンちゃんと岡田さんが一緒になってエロカを引き剥がしにかかってる。
って、あれ? なんかさっきエロカの名前に誰かもう一人反応しなかった?
辺りを見回してみると、さっきまで松浦さんとイチャついてたミキねぇがきれいに固まっていた。
「あれぇ〜? 藤本さんじゃないですか、久しぶりですねぇ!」
「ひ、久しぶり……」
エロカもそれに気付き、あたしの背後からミキねぇの前に移動した。
二人は知り合いと?
それにしてはミキねぇの表情がずいぶんと引きつってるような気がするけど……。
- 458 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:52
- 「たん、この人とはいったいどういう関係……?」
松浦さんがミキねぇの腕に抱きついたまま、ミキねぇを睨んで詰問する。
「いや、絵梨香とは以前の旅でちょっと知り合っただけで……」
ミキねぇがしどろもどろに答えるけど……
「肉体関係です!」
「わぁーーーっ!!!」
答え終わる前に、エロカの言葉を遮ることになった。
といっても一足遅く、エロカの言葉は丸聞こえで。
あ〜……ミキねぇ、食べられたとね……。
「・・・・・・」
「あ、亜弥ちゃん……?」
「たん、ちょっと二人でお話ししようか♪」
「ま、待って、亜弥ちゃん!! ミキはいやいや仕方なく……!」
極上の笑顔になった松浦さんに、ミキねぇはどこかへとひっぱっられていってしまった。
「絵梨香ちゃん、私もちょっと話があるわ」
「ゆ、唯ちゃ〜ん!? いや、あれは若気の至りで……」
「若気の至りが多すぎるわ!!」
そしてこっちでも。
同じようにエロカが岡田さんに引きずられていた。
ま、何はともあれ、平和が戻ってよかったと……。
- 459 名前:第7話 投稿日:2006/07/10(月) 16:52
-
- 460 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/07/10(月) 17:00
- これで7話のヴァルランド編が終了です。
新たな敵と仲間が登場しましたが、いかがでしょうか?
次はちょっとしたInterludeが入る予定です。
>>443 774 様
今回もまた新(?)キャラ登場。
もしかして予想されたのはこっちでしたか?
- 461 名前:774 投稿日:2006/07/10(月) 19:32
- まさしくこちらの方でございます。
ついに出てきましたかぁ
今後の展開に期待しながら…
- 462 名前:konkon 投稿日:2006/07/10(月) 22:39
- みきねぇカッケェ!
けどオチ扱いw
- 463 名前:みっくす 投稿日:2006/07/11(火) 07:36
- どうやら、仲間が四人?増え、メンバーが揃ったようですね。
今後の、展開が楽しみです。
- 464 名前:Interlude 投稿日:2006/07/20(木) 14:51
- みうなとあさみを撃退したあと、あたしたちは街を守ったことへの褒美という名目で、無事目的の
賞金を王様よりもらうことができた。
その時一緒にグニパルンド王国への通行証ももらい、次はグニパルンド王国を目指すことになった。
ミキねぇと松浦さんはあたしたちの旅に同行してくれることになった。
どのルートでも最終的に目的地にたどり着ければいいから、少しの寄り道くらいかまわない、
ということ。
ついでにグニパルンド王国からヴァルランドへと来ていたという、エロカと岡田さんも
途中まで一緒について来ることになった……。
- 465 名前:Interlude 投稿日:2006/07/20(木) 14:52
-
◇ ◇ ◇
「ふぅ……」
あたしはダークブレイカーを降ろし、深く息を吐いた。
グニパルンド王国に入って三日目の朝。
昨日は結局街にたどり着けなかったので、野宿することになった。
今日もおそらくは一日移動になるので、そういうときあたしは出発する前に早く起きて
訓練している。
「こんなもんかな……?」
タオルで汗を拭い、ダークブレイカーを指輪に戻す。
そして自分のテントに戻ったけど……
「あれっ?」
テントはもぬけの殻だった。
訓練に行く前はポンちゃんも絵里も寝てたんだけど……。
「まぁ、同じように訓練してるのかなぁ……?」
そういうふうに結論づけて、あたしは布団の上に座り込む。
そしてもう一度念入りに汗を拭った。
ハロモニランドよりもかなり北に位置するグニパルンド王国はずいぶんと気温が違うけど、
さすがに訓練のあとには汗だくになってた。
と、その時、テントの入り口がわずかに開いて……
- 466 名前:Interlude 投稿日:2006/07/20(木) 14:53
- 「あっ、れいな」
「ポンちゃん!」
そこからポンちゃんがテントの中に入ってきた。
「おはよう、れいな。剣の特訓?」
「はい、そうです! ポンちゃんも特訓ですか?」
「うん。ずっと研究してる魔法があるんだけど、なかなか上手くいかなくてさぁ。ちょっと
行き詰まってるの……」
ポンちゃんはきょろきょろとテントの中を見まわしながら、あたしのほうに近寄ってくる。
「亀ちゃんは……?」
「さぁ〜、絵里も特訓してるんじゃないですかねぇ?」
「そっか。まぁ、ちょうどいいかな?」
「えっ、それってどういう……?」
ポンちゃんの言葉の意図が掴めきれなくてポンちゃんのほうを見ると、いつの間にかポンちゃんは
あたしの目の前まで迫ってて。
えっ、えっ……!?
あたしは思わず後退ってしまったけど、ポンちゃんは同じように距離を詰め、あたしの手を捕まえた。
「ぽ、ポンちゃん!?」
「れいな、せっかく二人っきりなんだから、ちょっとだけいい?」
「ぇえっ!?」
ポンちゃんが顔を近づけてくる。
えぇえ、これって、まさか……!?
こんな積極的なポンちゃん見たことないんですけど……。
胸がありえないほど高鳴ってるのがわかる。
- 467 名前:Interlude 投稿日:2006/07/20(木) 14:55
- 「れいな……」
ポンちゃんの言葉が甘く耳に届く。
手がそっと背中に回される。
甘い声、ほのかな香り、柔らかな体温に酔わされて。
まるで魔法にかかったみたいに、身体が動かない。
……って、あれ? なんかホントに身体が動かないんやけど……?
「ぽ、ポンちゃ……んっ!?」
辺りを見渡してみると、なぜだかあたしの身体が水の触手でがんじがらめに縛られていた。
ま、まさかポンちゃんって新垣さんと同じ性癖の持ち主と!?
いや、あたしは高橋さんみたいな趣味はないんやけど……。
「あの、ポンちゃん……これは……?」
おそるおそるポンちゃんに効いてみると、ポンちゃんはにっこり笑って……
「あのね、私最近実験をしてなかったからさぁ。だから今日はぜひれいなに
実験台になって欲しくて!」
「じ、実験台っ!?」
「うん♪」
そういやハロモニランドで辻さんたちに散々聞かされたような記憶がある。
ポンちゃんのマッドウィザードぶりと、地下室の話……。
「嫌ー! 離してーっ!!」
「えーと、じゃあまずは変身魔法からいこうかな? 前に吉澤さんにかけたときは
失敗しちゃったけど、今ならきっと成功すると思うし」
「根拠ないとー!!」
「えっとね、人を動物に変える魔法なんだけど、れいなだったら何が似合うかなぁ?」
「ぽ、ポンちゃん、人の話聞くと!!」
「あっ、猫とかいいかなぁ? それじゃ、いくよ!」
「ま、待ってーっ!!」
「アニマル・フォーゼ!!」
そしてあたしを紫色の霧が包みこんだ。
- 468 名前:Interlude 投稿日:2006/07/20(木) 14:55
-
Interlude パニック・マジック U
- 469 名前:Interlude 投稿日:2006/07/20(木) 14:56
- 「んっ……?」
しばらくして霧が晴れてきた。
とりあえず見えてきたのはポンちゃんの顔。どうやら頭身は変わってないらしい。
「あれ〜? おかしいなぁ、また失敗しちゃったかなぁ?」
失敗? よ、よかった……。
安心しているあいだに、どうやら霧は完全に晴れたみたい。
「あっ……」
「えっ?」
でもその時、ポンちゃんが、あんぐり、と言うのがぴったりな表情で固まった。
ポンちゃんの視線はあたしの頭に向かっていて。
それとともに感じる、身体の違和感。
なにかが……増えてる……。
水の触手も消えたので、あたしは頭に手をやってみる。
髪のあいだに存在する、髪とはまったく違う物体。
な、なに……!?
慌てて手鏡を覗き込んでみると……
「なぁっ!?」
あたしの髪のあいだで、
猫耳がピコピコと動いていた。
- 470 名前:Interlude 投稿日:2006/07/20(木) 14:56
- 「な、なんですか、これわーっ!!」
ポンちゃんの方を向くと、ポンちゃんはうっとりとした表情であたしを見ていた。
「ぽ、ポンちゃん……?」
「れいな……可愛い……」
「えっ……?」
「かわいいーっ!!」
「わぁっ!?」
そして急にポンちゃんがあたしに飛びついてきた。
支えきれずに、あたしは布団の上に倒れ込む。
ていうかこの状況、あたし押し倒されてる……!?
「可愛い! 失敗しちゃったけど、これだったらいいかなぁ?」
「いや、よくないですって!!」
「これって本物の耳なの?」
ポンちゃんがそっとあたしの新しい耳に手を伸ばす。
そして耳を優しく撫でたけど……
「あっ!」
その瞬間ぞくりとした快感が突き抜け、肩が跳ねた。
それと同時に自分でも信じられないくらい色っぽい声が出てしまった。
ポンちゃんはビックリしたみたいに一度手を引っ込めたけど、すぐまたあたしの猫耳を撫でた。
- 471 名前:Interlude 投稿日:2006/07/20(木) 14:57
- 「あんっ! ぽ、ポンちゃん、それやめて……」
「可愛い、ホントに可愛いよ〜!」
「あっ、ダメッ!!」
どうやらあたしの猫耳はポンちゃんの琴線に触れてしまったようだ。
ポンちゃんが断続的に与える刺激に、あたしはポンちゃんの下から逃げることもできずに悶える。
このままでは、いろいろとヤバイ……。
しかしその時、そのヤバさに拍車をかける人物がテントの中に侵入してきた。
「ただいま、れーな〜! って、何やってるんですかーっ!!!」
テントに入ってきた絵里はあたしたちの状況を見るやいなや、一瞬のうちに
ポンちゃんを引き剥がした。
あぁ、絵里、今だけはありがとう。
でもなんであたしは絵里に抱きしめられてると……?
「あ〜……」
ポンちゃんが名残惜しそうに呟く。
絵里はそんなポンちゃんを威嚇するように睨んでいる。
「もぅ、れーな! いったい絵里がいないあいだに何があった……の?」
「いや、とにかくいろいろなことが……」
絵里がくるっとあたしの方を向いた。
でもあたしは絵里に抱きしめられていて、ついでにあたしは絵里よりも身長が低くて。
- 472 名前:Interlude 投稿日:2006/07/20(木) 14:58
- 「え、絵里……?」
「な、な、なぁっ!?」
絵里の目にはきっとあたしの頭に生えた猫耳が映ってるだろう。
「え、絵里、これはその、ポンちゃんの魔法で……」
「可愛いーっ!!」
「ぐえっ!!」
絵里の抱きしめが一気に強くなった。
ていうか苦しい、苦しいっ!!
あぁっ、耳に頬すり寄せるな! まだ刺激になれてないと!!
「あ〜、亀ちゃん、ずるい〜!!」
「うわっ!?」
さらにはポンちゃんも絵里とは逆側にしがみつてきて。
あんっ、ポンちゃん、息吹きかけないで!!
ていうか胸が押しつけられて……!
「あ〜、もうっ!!」
「あっ!」
「れーなっ!!」
ここにいるのはとにかく危ない!!
あたしはなんとか二人を引き剥がし、テントの外へ飛び出した。
- 473 名前:Interlude 投稿日:2006/07/20(木) 14:59
-
◇ ◇ ◇
「れいな〜?」
「れーな〜!!」
あたしを捜し回っているポンちゃんと絵里を隠れてやり過ごす。
大変なことになった。どうしよう、これ……。
頭を触ってみるが、そこにはしっかりと猫耳の感触。
ポンちゃんか絵里に解いてもらうのが一番手っ取り早いんだけど、今の状態じゃ無理そう……。
あっ、でもポンちゃんと一緒に魔法の研究をしていた新垣さんや高橋さんだったら、解除魔法を
知ってるかも。
あたしはポンちゃんたちに見つからないように、なんとか新垣さんたちのテントへと向かう。
「新垣さん、いますか!?」
「んっ、田中ッチ?」
「お邪魔します!」
テントの中に入ると、新垣さんはしっかりと起きていた。
逆に高橋さんは今起きたみたい。布団の上に起きあがって目をこすっている。
つーかまた首輪がついてるし……。今度は鎖がつながってるし……。鞭とか散乱してるし……。
夜聞こえないってことは、ちゃんと防音結界張ってるんだなぁ……。
「た、田中ッチ、その耳どうしたの……?」
「えっ、耳?」
新垣さんはさっそくあたしの異常に気付いてくれたようだ。
そりゃまったく隠してないしね……。
高橋さんもあたしの顔を直視する。
無意識に猫耳がピコピコと動いた。
- 474 名前:Interlude 投稿日:2006/07/20(木) 15:00
- 「実はポンちゃんにつけられまし……」
「可愛いーっ!!」
「て」を言う前に、高橋さんがあたしに飛びついてきた。
今日何回目だろう、なんて、あたしの冷静な部分が考えている。
なんとか倒れずに済んだけど、高橋さんは気にせず頬をすり寄せてきて。
「うわぁ、ちょっと! に、新垣さん、助けてください〜!!!」
「あぁ、そうね」
新垣さんは落ちてる鞭を拾うと、迷うことなく高橋さんに向かって振り下ろした。
「きゃんっ!!」
鞭はどうやら高橋さんのおしりに命中したらしく、高橋さんが悲鳴とも嬌声ともとれる声を上げて
その場に倒れた。
いや、いいですけどね、本人たちが幸せなら……。
とりあえず高橋さんから解放されて、あたしは一息つくけど……
「ふ〜ん、でも確かに可愛いなぁ〜」
「に、新垣さん……?」
今度は新垣さんがあたしに近寄ってきた。
とりあえずその鞭は手放して欲しいんですけど……。
- 475 名前:Interlude 投稿日:2006/07/20(木) 15:00
- 「ねぇ田中ちゃん、そのままの格好でアタシのペットにならない? ちゃんと調教してあげるから」
「全力でお断りします……」
だからあたしには高橋さんみたいな趣味はないんだってー!!
ていうか新垣さん、目がかなりマジなんですけど……。
「残念だなぁ。ま、気が変わったらいつでも言ってね」
「変わらないと思いますけど……」
「里沙ちゃ〜ん……あたしがいるのに……」
「はいはい、愛ちゃんが一番だから」
「んふっ!」
あ〜、もう……あたしがいるのに二人の世界作っちゃって……。
新垣さんが高橋さんの服に手をかけたので、そこは慌てて止める。
「あの、新垣さん、これなんとかなりません?」
「あ〜、アタシはちょっと解除できないわ」
「高橋さんは?」
「あたしは攻撃魔法専門やから」
「そうですか……」
邪魔しちゃ悪い&巻き込まれたくないので、あたしはテントをあとにすることにした。
つーかほどほどにしといてくださいね。今日も移動なんですから……。
- 476 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/07/20(木) 15:04
- 今回はここまでです。
宣言通りのInterludeはちょっとしたモテれな風味(ぉ
こんなネタですが、次回に続いちゃったりします(笑
で、おまけとして。
思いつきでこんな企画を始めてみちゃいました。
気軽にポチッと投票していただければ幸いです。
「Dear my Princess」人気投票!
ttp://vote2.ziyu.net/html/kaitok.html
- 477 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/07/20(木) 15:08
- >>461 774 様
期待の人物でよかったです。
これからちょこちょこっと絡んでくると想います。
>>462 konkon 様
ミキねぇ、登場はかっこよかったんですけどねぇ。
ごめんなさい、オチ扱いでした(笑
>>463 みっくす 様
仲間も増えて、また旅が続きます。
今回のInterludeでも、出てきてない人は後半に!
- 478 名前:みっくす 投稿日:2006/07/20(木) 18:38
- 更新おつかれさまです。
結構いい感じ?の展開で
次回も期待しています。
- 479 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/21(金) 07:59
- 愛垣の絡みでバンザイ!
しかし高橋さん、んふーっ!=3
でしか今のところ目立ってない気が・・・。
- 480 名前:Interlude 投稿日:2006/07/30(日) 13:36
- さて、どうしよう……?
あたしはポンちゃんや絵里から逃げながら考える。
ちなみにあたしの頭には猫耳が生えたまま。
考えた作戦としては、絵里から指輪を奪ってディスペルライトを使えばいいわけだ。
なので、とりあえずは絵里を強襲する方向で。
そんなことを考えながら歩いていると……
「あれ、田中ちゃん?」
「こんなとこでなにしてんねん?」
辻さんと加護さんに遭遇した。
どうやら二人も特訓していたらしい。
あたしは今までの経験からか、反射的に猫耳を隠そうとしたけど……
「おっ、なんれすか、この猫耳は?」
「ははぁん、さてはこんこんの実験台にされたんやな!」
「うわっ!?」
一瞬早く二人に羽交い締めにされた。
「あ〜、れいなも一回くらい犠牲になっといた方がええで」
「か、加護さん、くすぐらないでください〜!!」
「まぁ、野良犬に噛まれたと思うのれす」
「痛い痛い痛い!! 辻さん、引っぱらないでください!!」
辻さんと加護さんは散々あたしを弄ったあと、ようやく解放してくれた。
- 481 名前:Interlude 投稿日:2006/07/30(日) 13:37
- 「さて、気も済んだしそろそろ訓練再開するか〜」
「そうれすね。早く新しい槍に慣れないといけないのれす」
「うぅ……」
つ、疲れた……。この二人を相手にするのは本当に体力使うと……。
「あっ、そうだ、ポンちゃんと絵里見ませんでしたか?」
それでもなんとか呼び止めて情報収集。
でも二人は見てないとのこと。
あたしはまた訓練に向かう二人を見送った。
それじゃあポンちゃんに見つからないように絵里を見つけないと。
さっそく行動を開始しようとしたんだけど、その時……
「グッモーニン、れいな!!」
「!?」
「今日もとっても可愛いねぇ〜!」
ゾクッと背筋に寒気が走ったと思ったら、あたしは背中から抱きしめられた。
この声は……エロカ!!
ジタバタ暴れるが、エロカはこんなんでもいっぱしの格闘家。あたしなんか簡単に
押さえ込んでしまう。
- 482 名前:Interlude 投稿日:2006/07/30(日) 13:38
- 「ん〜、この耳はなにかな?」
「〜〜〜!!」
エロカがちょっと猫耳に指を触れた。
なんとか声が出るのはガマンしたけど、身体は一瞬ビクッと反応してしまって。
当然ながら、それを見逃すエロカじゃなくて。
「あはっ! たまにはこういうプレイもいいかもね〜!」
「ひゃうっ!!」
今度は耳を口に含んできた。
これにはさすがに声が零れてしまう。
「あ〜ん、可愛い声〜! お姉さんドキドキしちゃう〜!!」
「はうっ! ちょ、やめて!!」
「敏感なんだねぇ〜。じゃあこっちはどうかな?」
「おわっ! そっちはシャレにならんと!!」
「大丈夫、ちゃんと優しくしてあげ……」
でもエロカの悪戯は「ゴキッ」という鈍い音とともに幕を閉じた。
ついでに背中からもエロカの感触が離れる。
後ろを振り返ってみると、エロカが地面に倒れて悶絶していた。
そしてその向こうには杖をフルスイングしたあとのような格好で岡田さんが立っていた。
- 483 名前:Interlude 投稿日:2006/07/30(日) 13:39
- 「ごめんなぁ、田中ちゃん。ウチの絵梨香ちゃんが」
「いえ、じゅうぶん制裁は受けたようなので、もういいです……」
エロカはまだ首筋を押さえてのたうち回ってる。
遠慮ないな、岡田さんは……。まぁ、エロカ限定だけど……。
「……でも」
「えっ?」
気がつくと、岡田さんがあたしの目の前にいて……
「ほんまに可愛いなぁ!」
「!?」
あたしはギュ〜と抱きしめられた。
うわ、柔らかっ!!……じゃなくて……!
「あ〜、うちへつれて帰りたいわ〜!」
「ん〜、ん〜!!」
苦しい、苦しい! 息できないって!!
ジタバタと暴れて、なんとか岡田さんの胸の中から抜け出す。
あ〜、柔らかかった。じゃなくて、苦しかった……。
……羨ましくなんかないと……。
- 484 名前:Interlude 投稿日:2006/07/30(日) 13:40
- 「れいな〜?」
げっ!?
この声はポンちゃんの声!?
しかも近づいてきてるし!
「やばっ!!」
「あ、ちょっと!」
あたしは声とは逆の方向に逃げ出す。
つかまったら何されるかわかったもんじゃない!
紺野さんにつかまる前に、なんとかして絵里を締め上げないと!!
「れいな〜?」
「れいな〜!」
ポンちゃんの声は諦めずにまだあたしを追ってくる。
しかももう一つの声はエロカだ! 復活しやがった!!
ポンちゃんとは逆方向から迫ってくるエロカの声。
ヤバイ、挟まれた! どっちにも逃げられない!
「えぇい、しょうがない!!」
あたしは近くにあったテントの中に飛び込んだ。
テントの外をポンちゃんとエロカの声がかけていく。
よかった……なんとかやり過ごした……。
安心してようやくテントの中を見てみると……
- 485 名前:Interlude 投稿日:2006/07/30(日) 13:42
- 「た、田中ちゃん……?」
「何してんの、こんなところで?」
どうやらここは松浦さんとミキねぇのテントだったらしい。
急にテントに飛び込んできたあたしに驚いたようで、二人して珍しい生き物でも見ているように、
あたしを見ている。
いや、今のあたしは十分珍しい生き物なんだけど……。
「どしたの、その耳?」
「いや、それがポンちゃんの実験台にされまして……」
「ふぅ〜ん……」
あたしの猫耳を見ていたミキねぇの瞳が爛々と光った。
あっ、なんかすっごく嫌な予感……。
テントを飛び出そうとしたけど、その前にあたしの背後には松浦さんが回っていて。
「「かわいい〜!!」」
「ぎゃっ!!」
背後からは松浦さんに、正面からはミキねぇに抱きしめられた。
「わ〜、すごく可愛い! ペットにしたい〜!!」
「ま、松浦さん、くすぐったい、くすぐったい!!」
「へぇ〜、あっ、もしかしてしっぽも生えてる?」
「わーっ!! 脱がすな、ミキねぇ!!」
なんとかミキねぇを突き飛ばし、松浦さんの腕から抜け出して、あたしはテントを飛び出す。
ここもやっぱり獣の檻と!!
でもテントを飛び出した瞬間、なにかにぶつかった。
- 486 名前:Interlude 投稿日:2006/07/30(日) 13:43
- 「でっ!?」
「あっ!」
こ、この声は……。
おそるおそる顔を上げてみると、そこにいたのは……
「ぽ、ポンちゃん……?」
「やっと捕まえた〜!!」
「ぅわっ!?」
紺野さんにばふっと抱きしめられる。
その瞬間、顔がカーッと熱を持つ。
岡田さんほどじゃないけど、それでも豊満な……って、そうじゃなくて!!
に、逃げないと……!
身体に力を込めようとしたけど、その前にあたしの身体は動けなくなった。
見るとまた水の触手があたしを縛り上げている。
「ぽ、ポンちゃん、魔法は反則と!!」
「だってこうでもしないとれいな逃げちゃうでしょ?」
「わ〜! ちょっと、ポンちゃん!!」
縛られたまま、あたしは結局自分のテントに連れ込まれた。
「ん〜、ホントに可愛い!!」
「ポンちゃん、これほどくと!!」
「あっ、でもさっきみきちゃんが面白いこと言ってたよね?」
「ポンちゃん、れいなの話聞くと!……って、え゛っ!?」
ポンちゃんは笑顔で魔力を集め始める。
ミキねぇが言ってたことって……まさか!?
- 487 名前:Interlude 投稿日:2006/07/30(日) 13:44
- 「しっぽもつけたらもっと可愛くなるかなぁ?」
「やっぱりーっ!?」
ジタバタ暴れるけど、水の触手はまったく解けなくて。
「それ! アニマル・フォーゼ!!」
「いやー!!」
あたしは再度紫の霧に包まれた。
そしてその霧がだんだんと晴れてきたんだけど……
あれ? なんか身体が重いような……?
自分の身体を見てみると、体中から白と黒の毛が生えていて。
これって……まさか、ぱ、パンダ!?
「あれ〜? 失敗しちゃったかなぁ?」
ポンちゃんがまた魔力を集める。
「アニマル・フォーゼ!」
そしてあたしはまた紫の霧に包まれたけど、霧が消えた頃には頭身が低くなっていた。
「あれ〜!?」
- 488 名前:Interlude 投稿日:2006/07/30(日) 13:45
-
◇ ◇ ◇
で。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
十数回のアニマルフォーゼの結果、あたしはようやく普通の人間に戻ることができた。
た、助かった……あのまま一生戻れないのかと思った……。
「う〜、ごめんね、れいな……」
ポンちゃんが申し訳なさそうに謝るけど、さすがにあたしはポンちゃんを睨みつける。
「ポンちゃん、酷いと!! 一生戻れないかと思ったと!!」
「ご、ごめんね、なんかハイになってて、魔法うまくコントロールできなくて……」
「なんとか戻れたからいいものの、ちょっと酷すぎるとよ!」
「ホントにごめん。お詫びにれいなの言うことなんでも聞くから」
「えっ……!?」
い、今なんでも言うこと聞くって言った!?
一瞬のうちにあぁんなことやこぉんなことが思い浮かび、慌てて頭の中から追い出す。
そ、そんなのできんと! まだ早いと!
でも、せっかくのチャンスだし……
- 489 名前:Interlude 投稿日:2006/07/30(日) 13:47
- 「ホントになんでも言うこと聞いてくれるんですか……?」
「えっ、うん。私にできることなら……」
「じゃあ……キスしてください」
「ぇえっ!?」
とたんにポンちゃんの顔が赤くなる。
後退りかけたポンちゃんを、今度はあたしが捕まえる。
だってせっかくのチャンスだし。それにまだ人口呼吸も含めて二回しかキスしてないし。
しかも両方ともあたしから。
ちょうどテントの中で二人きりだから、そこまで恥ずかしくもないし。
あたしはポンちゃんに詰めより、そっと身体を抱きしめる。
「あっ、ほ、ホントにするの……?」
「ポンちゃんはなんでも言うこと聞くって言ったじゃないですかぁ」
「そ、そうだけど……」
いまや完全に形勢逆転
真っ赤になってオロオロしているポンちゃんにそっと顔を近づける。
あ〜、可愛いと〜!
「だから、ポンちゃん、早く……」
「うぅ……」
自分から言ったことだけど、あたしもちょっと顔が熱い。
胸もすっごくドキドキしてる。
それでもあたしはポンちゃんの目の前で瞳を閉じる。
ポンちゃんはしばらく戸惑ってたみたいだけど、やがてそっとあたしの頬を包みこんだ。
だんだんとポンちゃんの吐息が近づいてくる。ドキドキが高まっていく。
そしてポンちゃんの唇が優しく触れた。
……ほっぺに。
- 490 名前:Interlude 投稿日:2006/07/30(日) 13:48
- 「なぁ!? ポンちゃん、なんでほっぺたと!?」
「キスはキスだよ! ちゃんとしたでしょ!?」
「こんなの納得できんっちゃ! ちゃんと口にキスするとよ!!」
その時、急にテントの入り口が開いた。
誰っ!?
そこに立っていたのはエロカと絵里で……。
「フフッ、れいな、キスしたいんだったらアタシがた〜くさんしてあげるよ〜! いろんなところに!!」
「ダメです〜! 絵里がするんです〜!!」
「うわっ!?」
エロカと絵里があたしに飛びついてくる。
そしてあたしは押さえ込まれてしまった。
「じゃあまずはご要望通りに口から〜!」
「ちょ、ちょっと!!」
本気で口を近づけてくるエロカ。
ついでに絵里も同じように迫ってくるし。
いやー、助けてー!!
でもエロカの唇が触れる瞬間に、あたしは手を引かれてエロカと絵里の魔の手から解放された。
あたしの手を掴んでいたのはポンちゃんで、ポンちゃんはあたしの腕をつかみ、無言でエロカと絵里を睨みつける。
だけど、その目があたしのほうを向けられて……。
- 491 名前:Interlude 投稿日:2006/07/30(日) 13:49
- 「えっ、ポンちゃ……んっ!?」
手を掴んでたポンちゃんの手が頬に添えられ、一瞬で唇が重ねられた。
えっ、えっ!?
何が起きたかわからないあたしは目を閉じることもできなくて。
「おぉっ!」
「あーーーっ!!!」
エロカと絵里も声もまったく聞こえず、ただただポンちゃんの唇の柔らかさが
感覚を支配していた。
「ふぅ……」
やがてゆっくりと唇が離れる。
でも目があった瞬間、ポンちゃんはゆでだこみたいに真っ赤になった。
「あ、あれっ!? 私……!?」
真っ赤な顔でおたおたと辺りを見回すポンちゃん。
でもまたあたしと目が合うと、動きが止まり、さらにもう一段階顔が赤くなって……。
「あ、頭冷やしてくるーっ!!」
「あっ、ポンちゃん!?」
ポンちゃんは一目散にテントを飛び出して行ってしまった。
唇に触ってみると、まだポンちゃんの唇の感触がほのかに残っていた。
なんか朝から猫耳つけられたり、動物にされたりと散々だったけど……
ま、いいかな……?
- 492 名前:Interlude 投稿日:2006/07/30(日) 13:49
-
- 493 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/07/30(日) 13:58
- 今回はここまでです。猫耳モテれな後半。
ハロモニ見たらちょうど猫耳れいなでタイミングピッタリ!(ぇ
で、紺ちゃん卒業おめでとうございます!
でもここはまだまだ続けていくつもりです。
そして、「Dear my Princess」人気投票締め切りました。
みなさんたくさんの投票ありがとうございました!
ガキさんが以外に人気でちょっとビックリ。
そんなわけで、次回はたかりさInterludeの予定です(何
>>478 みっくす 様
このInterludeはモテれな気味の展開になりました。
でも最終的にはやっぱり紺ちゃんが!
>>479 名無飼育さん 様
え〜と、ソンナコトナイデスヨ?
まぁ、本人が幸せそうだからそれで(マテ
- 494 名前:みっくす 投稿日:2006/07/30(日) 14:20
- 更新おつかれさまです。
久し振りにリアルタイム遭遇でした。
いやー、これで公認も近い?
一気にたたみ掛けれ、れいなって感じですかね。
- 495 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/01(火) 18:52
- 2回おっきして3回ヌキヌキしたぽ
- 496 名前:Interlude U 投稿日:2006/08/09(水) 16:02
- 〜 高橋愛 〜
「ほらっ、愛ちゃんっ!!」
「はぁん!」
容赦なく振り下ろされた鞭が背中を叩く。
痛みがじわじわと快感に変わり、身体が震える。
「もっとおしりを高く上げるのよ!」
「あぁ……」
今度は背中が踏みつけられる。
そしてそのまま鞭が何度も浴びせられる。
「ぁうっ! 里沙ちゃん……もっと……」
「ん〜? それがものを頼む態度〜?」
首輪につながった鎖がグイッと引っぱられて、あたしは里沙ちゃんと向かい合う。
里沙ちゃんの瞳は爛々と輝いていて。
- 497 名前:Interlude U 投稿日:2006/08/09(水) 16:03
- 「ほら、ちゃんとおねだりしてみなさい?」
「お、お願いします、ご主人様……もっとあたしをいたぶってください……」
「んふっ、いいコだねぇ、愛ちゃんは」
そのまま強引に唇を奪われる。
口内を掻き回され、そして唇が離れた。
「それじゃ、今度は仰向けに寝なさい。たっぷり可愛がってあげるから」
「はい……」
言われたとおり、仰向けに寝転がる。
縄で縛られたあたしの身体を、里沙ちゃんが恍惚とした表情で見下ろす。
でもその時、ふと思った。
あたしと里沙ちゃんって、いつからこうなったんだっけ……?
- 498 名前:Interlude U 投稿日:2006/08/09(水) 16:03
-
Interlude U Mの黙示録
- 499 名前:Interlude U 投稿日:2006/08/09(水) 16:04
- 「・・・・・・」
「・・・・・・」
ハロモニランドの里沙ちゃんの部屋。
あたしたちはソファに並んで座っている。
ロマンス王国に囚われていた里沙ちゃんたちを助け出した数日後。
里沙ちゃんに呼ばれて、あたしは里沙ちゃんの部屋を訪れた。
でも、2、3話をした後はずっと静寂が部屋を支配していて。
味もよくわからない紅茶を無言ですすっている。
『愛ちゃん、ずっと好きだった……』
どうしても思い出してしまう、あの言葉。
極限の状況で言われたから、あの時は深く考えることができなかったけど……。
今、改めて考えてみると……。
こ、告白よね、やっぱり……。
里沙ちゃんのことは……そりゃ嫌いじゃない。
むしろいっつも一緒に行動してるし、王宮騎士の中じゃ一番仲良いけど……。
恋愛感情があるかどうかといわれると、ちょっとわからない……。
- 500 名前:Interlude U 投稿日:2006/08/09(水) 16:04
- でも、告白されても全然嫌な気は起こらなかった。
むしろ、ちょっと嬉しかったくらい……。
ロマンス王国から助け出そうと必死になったのも、一番助け出したかったのはきっと里沙ちゃんだし。
なにより、こうして二人でいるだけで胸がドキドキと高鳴ってるのは……。
やっぱり、あたしも里沙ちゃんのことが……好き?
「愛ちゃん……」
「ひゃいっ!?」
その時急に里沙ちゃんに呼ばれ、あたしは返事が裏返った。
里沙ちゃんの方を向くと、里沙ちゃんもあたしのほうを見ていて目があった。
「その、この前のことなんだけど……」
「う、うん……」
『この前』はきっと告白のことを指してるんだろう。
里沙ちゃんは頬を染めて俯いていたけど、やがてしっかりと顔を上げた。
- 501 名前:Interlude U 投稿日:2006/08/09(水) 16:05
- 「あの時はいろいろ大変な状況だったから……もう一回ちゃんと言うね」
「えっ?」
あたしの手がギュッと握られた。
里沙ちゃんが距離を詰めてくる。
「愛ちゃんのこと、好きだよ。友達としてとかじゃなくて、本気で。ずっと、ずっと、好き……」
「り、里沙ちゃん……」
真剣な告白に、思わずカーッと顔が熱くなる。
握られた手がじんわりと汗ばんでくる。
里沙ちゃんがこんなにも真剣にあたしのことを思ってくれてたなんて……。
「で、そのぉ……」
でも里沙ちゃんはまたすぐ俯いてしまった。
心なしか、里沙ちゃんの手も汗ばんてくる。
「愛ちゃんは……?」
「うぇっ!? えーと……」
正直、どう答えていいかわからない。
でも、里沙ちゃんは真剣に想いを伝えてくれたんだし、だからあたしも心を真っ直ぐ伝えれば、
きっと伝わるはず……。
- 502 名前:Interlude U 投稿日:2006/08/09(水) 16:06
- 「あの、あたしはまだ自分の気持ちが上手くまとまってないんやけど……」
「そう……」
「あっ、でもね、里沙ちゃんといるとなんか胸がドキドキするの。今もすっごくドキドキしてるし……
さっき告白されたときなんか一番ドキドキした。だから、これがきっとあたしの『好き』なのかなぁ、って……」
「えっ、それじゃ……・」
俯いてた里沙ちゃんがパッと顔を上げる。
ちょっと照れるけど、あたしもしっかりと里沙ちゃんと向き合って……
「えっと、あたしも里沙ちゃんのことが好きです……」
「じゃあ……付き合ってくれる?」
「うん……」
しっかり頷くと、里沙ちゃんはようやく笑ってくれた。
恋人となった里沙ちゃんの笑顔は誰よりもまぶしかった。
- 503 名前:Interlude U 投稿日:2006/08/09(水) 16:07
- 「でも、付き合うってなにしたらいいの、里沙ちゃん?」
「えっ? そうだなぁ、え〜と……」
しばらく中を仰いで考え込んでいた里沙ちゃんの顔がポッと赤くなった。
そして頬を染めたまま、あたしとの距離を少し詰める。
「その……キス…とか……?」
「キ、ス!?」
あたしの顔もたぶん一瞬で赤くなったと思う。
里沙ちゃんがまたちょっと距離を詰めてくる。
思わずちょっと後退ってしまうが、でも、キスくらい恋人同士なら普通にしてることだし。
そ、それに遅かれ早かれすることになるんだし……。
覚悟を決めて、目を閉じる。
「愛ちゃん……」
里沙ちゃんの手がそっと頬に添えられる。
そして唇がゆっくりと触れ合った。
- 504 名前:Interlude U 投稿日:2006/08/09(水) 16:07
- 「んっ……」
里沙ちゃんの唇、柔らかい……。
でも、十分感じるひまもなく、里沙ちゃんはパッと離れた。
離れた後の里沙ちゃんの顔はさっき以上に真っ赤で。
でもきっとあたしも同じくらい真っ赤っか。
照れ隠しなのか、里沙ちゃんがギュッとあたしに抱きついてきた。
「愛ちゃん、好き……」
「里沙ちゃん、あたしもやよ……」
あたしも里沙ちゃんの背中にそっと腕をまわす。
「こんな日が来るなんて、夢にも思わなかった……」
「うん……」
里沙ちゃんがそっと身体を離す。
そして、真っ正面から向かい合って……。
- 505 名前:Interlude U 投稿日:2006/08/09(水) 16:09
- 「愛ちゃん……ずっとずっと……虐めたかった」
「うん、あたしも……えっ?」
あれっ、ちょっと待って……? 今里沙ちゃんなんて言った?
えーと、あたしの耳がおかしくないなら……「虐めたかった」?
「あの、里沙ちゃん?」
「んっ?」
「気のせいかな? 今『虐めたかった』って聞こえたんだけど……?」
「気のせいじゃないよ。だってそう言ったんだもん」
「えっ……?」
いつの間にか、里沙ちゃんの手には麻縄が握られていて。
えっ、えっ!?
今度こそ本気で後退ったけど、そのころには麻縄がシュルシュルと舞っていた。
「うわっ!?」
そして次の瞬間には、あたしは麻縄で縛られていた。
それもただ縛られただけじゃなくて、なんかとっても複雑に(『亀甲縛り』という縛り方だと
あとで聞いた)。
そのままあたしはゴロンとソファの上に転がる。
- 506 名前:Interlude U 投稿日:2006/08/09(水) 16:10
- 「あ〜、やっぱり縛られてる愛ちゃんはステキだわ。さすがアタシが見込んだだけのことは
あるねぇ」
里沙ちゃんはそんなあたしをうっとりとした表情で見下ろしている。
しかもどこから持ってきたのか、手には黒光りする鞭が握られていて……。
「り、里沙ちゃん……それ、なに……?」
「愛ちゃん用に特注したの。最初はちょっと痛いかもしれないけど、すぐ快感にかわるから!」
今や邪な笑みを浮かべた里沙ちゃんが、両手で一回鞭をビンッと張る。
「大丈夫、愛ちゃん絶対素質あるから! 開花するまではちゃんとアタシが調教してあげるね!」
「い、いやぁぁああーーーっ!」
「ほらほら、逃げない。どうせ逃げられないんだから!」
ニヤッと笑った里沙ちゃんがあたしの前に立ちはだかる。
そしてそのまま迷いなく鞭を振り下ろした。
「はぁんっ!!」
- 507 名前:Interlude U 投稿日:2006/08/09(水) 16:11
-
◇ ◇ ◇
「う〜ん……」
思い出してみれば、最初っからこんなんだったなぁ……。
あたしも里沙ちゃんが言ったように、すぐに目覚めちゃったし……。
「ん〜、愛ちゃん、どうしたの……?」
その時、隣で寝ていた里沙ちゃんがもぞもぞと動いた。
どうやら微睡んでたところを起こしてしまったみたい。
「あっ、なんでもないやよ」
「そう? ほら、明日も早いんだからもう寝なきゃ……」
「うん……」
あたしのことを抱きしめて、また里沙ちゃんは目を閉じた。
肌と肌とが触れ合い、里沙ちゃんに叩かれた跡がじんわりと疼く。
行為が終われば、里沙ちゃんはいつもの優しい里沙ちゃんに戻る。
そのギャップがまたあたしを虜にする。
「おやすみ、里沙ちゃん……」
「ん……」
あたしも里沙ちゃんに抱きついて、目を閉じた。
こうしてまたあたしは里沙ちゃんに溺れていく……。
- 508 名前:Interlude U 投稿日:2006/08/09(水) 16:11
-
- 509 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/08/09(水) 16:17
- 今回はここまでです。
人気投票でなにやらガキさんが人気高かったので、急遽挟んでみました、たかりさ外伝。
時期的にはディアプリの第11話のあとあたりです。
内容はかなりギリギリ……。
ちなみにタイトルは「マ○の黙示録」と読んでください(爆
>>494 みっくす 様
リアルタイムありがとうございました。
公認にはまだちょっとかかりますかねぇ?
がんばれ、れいな!
- 510 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/10(木) 23:18
- 3回おっきして4回ヌキヌキしたぽ!
暑い日が続きますが作者さんがんばってくださいね
次回更新待ってます
- 511 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/11(金) 22:11
- たかりさ。
甘めと思わせといて、やはりな展開へ。
そろそろ本編に話が戻りますかね?
楽しみにしてます。
- 512 名前:みっくす 投稿日:2006/08/17(木) 23:59
- 更新お疲れさまです。
なんか、たかりさも良い感じですね。
次回からは、本編再開かな。
楽しみにしてます。
- 513 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 02:09
- この二人のからみ、待ってました〜
本編での活躍も期待してます、頑張ってください!
- 514 名前:第8話 投稿日:2006/08/20(日) 13:56
- 〜前田有紀〜
そっと瞳を閉じる。
そして垣間見える未来を辿っていく。
でもそれはすぐにプツッと途切れた。
未来が見えなくなっている。
未来を見ることができるといっても制限はある。
炎は灯火、先を照らすもの。しかし、炎が消えてしまっては先を照らすことはできない。
炎の民が見ることのできる最後の未来は、自分の最期。
「前田様……」
側近の女性の声で、私は目を開ける。
「えぇ、わかっています」
そしてその場に立ち上がる。
耳を澄ますと外から聞こえてくる爆音と悲鳴。
「あなたはお逃げなさい」
「そんな! 前田様こそ、あたしがなんとか持ちこたえているあいだに逃げてください!」
「民を見捨てて逃げることなどできません」
「だったらあたしだって! 前田様をおいて逃げるなんてできません!!」
その時ふすまに線が走った。
破られたふすまから覗く、深紅の刃。
二人でかまえるカタナの前に、赤い大鎌を携えた殺人鬼が現れた。
ソン・ソニン。世界最高額の賞金首。
- 515 名前:第8話 投稿日:2006/08/20(日) 13:56
- 「おじゃましま〜す、ブッ殺しに来ました〜♪」
「おのれ! 女王様の間に血の臭いを撒き散らして入ってくるとは!!」
「あっ、待ちなさい!!」
床を踏みならす音がソニンへ向かう。
そして二刀のカタナが振り下ろされたが、ソニンはやすやすと大鎌で受けとめた。
「ハッ! 弱いね!!」
赤い三日月が廻る。
カタナを砕き、そして肉を貫いた。
「がはっ……!」
鮮血が舞った。
くっ……!
歯を食いしばり、ソニンを睨む。
「ソン・ソニンですね?」
「炎の国の女王様がアタシの名前を知ってるなんて、光栄だね?」
「あなたの悪名を知らぬ者などおりません」
「けっこうなことだ。さて、それじゃさっそくで悪いけど、炎の魔剣をもらおうか?」
「もうここにはありません。託すべき人に託してあります」
「ちっ、またニアミスか……!」
ソニンは忌々しげに舌打ちをした。
でもすぐに血に飢えた目が私を睨む。
- 516 名前:第8話 投稿日:2006/08/20(日) 13:57
- 「仕方ないね。それじゃあちょっと、憂さを晴らさせてもらおうか!!」
「愚かな! 私とて邪馬の女王! そうやすやすとはやられません!!」
魔力を限界まで集めていく。
魔力は炎に。そして炎は鳳凰となっていく。
でもその鳳凰を前にしても、ソニンの邪悪な笑みは揺らがない。
未来はもう見えない。
れいな、後は頼みましたよ……。
「死ねっ!!」
ソニンが大鎌を持って疾走する。
灼熱の鳳凰が私の手の上で一回羽ばたいた。
「ゴッド・フェニックス!!!」
- 517 名前:第8話 投稿日:2006/08/20(日) 13:57
-
第8話 聖櫃
- 518 名前:第8話 投稿日:2006/08/20(日) 13:58
- 〜田中れいな〜
グニパルンド王国に入ってすぐの猫耳騒動が集結して数日後、あたしたちはグニパルンド王国の
王都「ダインスレフ」まで到達した。
ダークブレイカーから放たれる緑色の光はもうかなり濃くなっている。
きっとこの国の近くに風の王国があるはず。
でも、近づくにつれて気になることも一つ。
緑色の光、やけに上を指してるんだよね……。
風の王国……嫌な予感がするなぁ……。
「しかし、やけに木や森が多い国だねぇ〜」
絵里のセリフに思わずあたりを見渡してみる。
確かに王都の中でも街路樹をよく目にする。
ここまで来るあいだにも森や林をよく通ったし。
「それはそうよ。グニパルンドってのは『険峻の森』って意味だしね。グニパルンドの木は
良質で各国に輸出されてるんだよん!」
そう解説してくれたのはエロカ。そういやグニパルンドの出身だったっけ。
絵里はエロカに抱きつかれて迷惑そうにしてる。
- 519 名前:第8話 投稿日:2006/08/20(日) 13:59
- 「じゃあとりあえずここを拠点にして風の王国を探しましょうか」
「うん、そうだね」
そう提案すると紺野さんが笑顔で答えてくれた。
他のみんなも異論はなさそう。
「じゃあミキたちは通行証をもらってきとくよ」
「あっ、ありがとうございます! どのくらいかかりますかね?」
「いや〜、すぐだと思うよ……。コネがあるし……」
「コネ?」
嫌そうな目をしているミキねぇの視線を追うと、そこにはエロカが。
えっ、グニパルンド出身ってだけじゃないの……?
「まさか偉い知り合いでもいると?」
「いや、アタシ自身が偉いの」
「エロイの間違いじゃなくて?」
「いやいや、だって王女だから!」
はい……? 今なんて言いました……?
王女!? 痴女じゃなくて!?
また藤本さんを見ると藤本さんは遠い目をしていた。
今度は岡田さんの方を見てみると、岡田さんは複雑な顔をしてたけど否定はしない。
- 520 名前:第8話 投稿日:2006/08/20(日) 14:00
- 「というわけでれいな、通行証の代金はカラダで払ってもらおうか!」
「なっ、離れんしゃい、エロカ!!」
「藤本さんはもう堪能したし! まぁ、もう一回藤本さんでもいいんだけどね!」
そういうことか! そういう手口でミキねぇ食ったとね!
ミキねぇのほうをチラッと見ると、古傷を抉られたミキねぇは見てわかるくらい沈んでいた。
「ほられいな、お城案内してあげるよ! まずはアタシの部屋ね!!」
「れ、れいなは風の王国を探しに行くと!!」
「大丈夫、ちゃんとサービスしてくれれば一回で許してあげ……」
でもその時、鈍い音とともにエロカの身体が沈んだ。
後ろを向くと、そこには頭を押さえてうずくまってるエロカと、振り下ろしたままの杖を
握っている岡田さんの姿。
「ごめんなぁ、絵梨香ちゃんが」
「もしかして岡田さんお城で働いてるとですか?」
「そうやねん。初仕事で絵梨香ちゃんの付き人になっちゃったんよ」
「……ご愁傷様です」
「いや、でもけっこう楽しんでんねんけどな」
岡田さんは屈むと、エロカの後襟をグイッと掴んだ。
- 521 名前:第8話 投稿日:2006/08/20(日) 14:00
- 「それじゃ藤本さんと松浦さんはお城に案内します〜」
「あっ、はい」
「お願いします」
「田中ちゃんたちは魔剣探しがんばってな。私たちはここまでやけど、遠くから応援してるで」
「は、はい、ありがとうございます」
「ほんなら〜!」
「ちょ、ちょっと唯ちゃん、首苦しいってばっ!!」
岡田さんは一礼すると、そのままエロカを引きずって行ってしまった。
ミキねぇと松浦さんも岡田さんに続く。
なんか、けっこういい人だったな……。せっかくなんだからもうちょっと話せばよかったかも。
またグニパルンドに来る機会があったら訪ねてみよう。エロカはいらないけど。
「れいな、行こう!」
「あっ、はい!」
その時背後からポンちゃんの声が聞こえた。
振り返るとみんなはもう出発の準備を整えていた。
「それじゃ、風の王国を探しに行きましょう!」
「うん!」
一つの別れを通りすぎて。
あたしたちはまた前に進み出した。
- 522 名前:第8話 投稿日:2006/08/20(日) 14:01
-
◇ ◇ ◇
「ダインスレフ」を出発してから数時間後。
緑の光を追ってあたしたちはまた密林の中に入り込んでいた。
常緑樹の森林らしく、この寒さの中でも青々とした葉を茂らせている。
「田中ッチ、こっちの方向であってるの?」
新垣さんが木のあいだをすり抜けつつ訊いてくる。
「う〜ん、それが……」
あたしはもう一度ダークブレイカーをかざしてみる。
ダークブレイカーから放たれた深緑の光は木のあいだを突き抜け、空を指している。
正確には青空の下に停滞した、巨大な雲の塊を。
「何回やってもあの雲を指すんですよね……」
「う〜ん、てことはまさか風の王国はあの雲の中にあるってこと……?」
「たぶん……」
空に浮かんでいる、雲の中の王国、か。
確かに風の王国のイメージには合ってるんだけど、問題はそこにどう行けばいいのか。
「エンゼルフェザーで飛んでいけませんかね?」
「いや〜、雲の中に突入するのはさすがに無理だろ……」
「じゃあどうしますか?」
「う〜ん、とりあえずもうちょっと近づいてみよう……」
結局良い案も思いつかないまま、あたしたちはそのまま進むことにした。
もうちょっと近づけば、何か起こるかもしれないしね。
でもその「何か」はわりとすぐに起こった。
- 523 名前:第8話 投稿日:2006/08/20(日) 14:02
- 「うわっ!?」
「きゃっ!」
突如あたしたちの間を突風が駆け抜けていった。
突風はすぐに止んだが、止んだときには目の前に一人の女性が立っていた。
思わず身構えるが、たいして女性はかまえることもなく、じっとあたしたちを見つめている。
「翼を持たない者たちがこの地に何の用?」
その女性が口を開いた。
よく通る澄んだ声。
「あの、私たちは風の王国に用があって……」
あたしたちを代表して、先頭にいたポンちゃんが答える。
その答えに、女性はピクッと顔をしかめた。
「王国の存在を知っているとはただ者ではないみたいだね。でも、それだけでは王国に
入れるわけにはいかないなぁ」
「どうしてですか!?」
「アタシたちの掟なのよ。『導き』がないものは何人たりとも王国には入れない。物理的に不可能なの」
女性はすっと雲の塊を指さした。
あたしたちも女性の指の先を追う。
- 524 名前:第8話 投稿日:2006/08/20(日) 14:03
- 「風の王国『エル・クラウド』はあの雲の中にあるの。でも、たとえ空が飛べても周りを覆った
雲の結界によって中に入ることはできない。『エル・クラウド』で生まれた風の民のみが
魔法によって『エル・クラウド』の中に入ることができるの」
「そんな、じゃあどうすればいいんですか……?」
「『導き』を得るのよ。アタシたち風の民は自由奔放なヤツが多くてね、いつも世界中を飛び回ってるの。
その風の民を見つけ、信用を得られれば、その人が『エル・クラウド』に導いてくれるでしょ」
ずいぶん簡単に言ってくれるけど、それってかなり難しいことだよね……?
見た感じ、風の民といっても何ら普通の人と変わらないし……。
「あの、風の民の手がかりとかってないんですか……?」
同じことを思ったのだろう、今度は高橋さんが詰問する。
「ん〜、ないこともない」
女性はそれだけ言い、ゆっくりと目を閉じた。
次の瞬間……
『えっ!?』
バサッ、と風が生じた。
女性の背中から、真っ白な翼が生えていた。
しかも女性の身体がわずかに浮いている。
- 525 名前:第8話 投稿日:2006/08/20(日) 14:04
- 「風の勇者、シルフは生まれつき翼を持った人間だったんだって。そしてその能力は末裔である
アタシたち風の民にも受け継がれている。この翼が目印よ。風の民を見つけて、信用を得てみなさい」
「でも、それならあなたがあたしたちを導いてくれれば!」
「アタシはただの見張りだから。それにアタシはまだ君たちを信用していないし」
「でもっ……!」
あたしは思わず前に進み出ていた。
「れいなたちはすっごく急いでるんです! 闇を倒すために、すべての魔剣を集めなくては
いけないんです! だからお願いです!!」
指にはめた指輪を見せると、女性の目つきが変わった。
難しそうな顔で指輪を見つめている。
「なるほど……風のうわさで聞いたけど、闇が目覚めつつあるっていうのは本当だったんだ……」
「なら!」
道が開けるかも、と思ったけど、その希望はすぐに砕かれた。
「でも、残念だけど掟は絶対なのよ。どんな理由があろうと曲げるわけにはいかない。ついでに、
君たちの目的が風の魔剣なら、今『エル・クラウド』に行ったところでなんの意味もないよ」
「えっ? でも、魔剣は『エル・クラウド』にあるんですよね?」
魔剣と引き合うダークブレイカーが指していたんだし。
女性は頷くが、さらに続ける。
- 526 名前:第8話 投稿日:2006/08/20(日) 14:04
- 「あることはあるんだけどねぇ、魔剣は王以外の者が触るのは許されない。でもってその王は
今不在なの……」
「えっ?」
「王は誰よりも自由奔放な方でね、数年前にふらっと出ていったきり一度も戻ってきていない……」
『えーっ!?』
あたしたちは思わず叫んだ。
女性が苦々しげに喋ってるところを見ると、どうやら風の民も困っているらしい。
どんな王様なんだか……。なんかかなり不安なんですけど……。
「そういうわけでね、どうせなら王を見つけて信用を得てちょうだい。そうすれば王も
戻ってきてくれて、アタシたちも助かるから」
「はぁ……」
「じゃ、健闘を祈る!」
「えっ!? あっ、ちょっと!」
呼び止める間もなく、女性は翼を羽ばたかせると、風に包まれ消えてしまった。
せめて王の特徴とか、名前とか!
翼を持っているって言ったってしまえるみたいだし、それじゃ手がかりがないのと変わらないじゃん!!
また女性が降りてきてくれる様子もないので、結局あたしたちは一度「ダインスレフ」に戻ることにした。
- 527 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/08/20(日) 14:15
- 今回はここまでです。
ようやく本編再開!
>>510 名無飼育さん 様
ありがとうございます!
応援に応えられるよう頑張っていきます!
>>511 名無飼育さん 様
たかりさはもうこんな感じが基本になってきてしまいました(苦笑
でもちゃんとした(?)たかりさが書けてよかったです。
>>512 みっくす 様
たかりさも良い感じです。少なくとも本人たちは(笑
そしてようやく本編も再開です。
>>513 名無飼育さん 様
急遽挟んでみましたが、期待に応えられてよかったです。
本編でもSM以外で活躍させないと……(ぇ
- 528 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:45
- 「ダインスレフ」に戻ったあたしたちは、いろいろな意味で無事に入国証を入手した
ミキねぇ&松浦さんと合流した。
その日はもう遅かったので、あたしたちは宿屋に場所を移動し、その一室に集まった。
そしてテーブルを囲み、ミキねぇたちに報告をした。
暖炉で揺れている炎が部屋を暖めていて、ときどき薪の爆ぜる音が響く。
「ミキねぇは旅の途中に風の民と知り合ったとかないですか?」
「いや〜、さすがにないなぁ……」
「そうですか……」
まぁ、そこまで期待してたわけでもないですけど……。
てことはやっぱり地道に探していくしかないと……? しかも大した手がかりもないままで……。
「え〜と、どうしましょう、ポンちゃん……?」
「う〜ん……」
ポンちゃんも難しい顔をして悩んでいる。
他のみんなも一様に考え込んでいるけど……
「なぁ、それなら先に水の王国に行っちゃったほうがええんちゃう?」
真っ先にアイディアを出したのは加護さんだった。
- 529 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:47
- 「あぁ、そのほうがいいかもね。あてもなく風の民を捜し回るよりは、風の民を捜しながら
水の王国に向かった方が」
ミキねぇも加護さんの案に賛成する。
確かに水の王国もアップフロントにあるみたいだし、その方が効率的かも。
「れいな、蒼い光はどっちを指してるの?」
「あっ、はい、ここからだいたい南東の方向です」
「南東……てことは『フェンサリル帝国』か」
ミキねぇは広げた通行証の中から一枚を選んでテーブルの上に置いた。
「『フェンサリル帝国』ってどんなところですか?」
新垣さんがテーブルの上にアップフロントの地図を広げながらミキねぇに訊ねる。
あたしは新垣さんが広げた地図を覗き込んだ。
『グニパルンド王国』の南東に位置する『フェンサリル帝国』はアップフロントでは一番東に
位置する国だ。
海に面した国で、北は魔境、南は砂漠が広がっている。
「魔境に隣接しているだけあって、けっこう軍事力のある国だよ。独自の騎士団を抱えているし、
魔法なんかも発達している。人口もけっこう多いから、風の民がいる可能性も高いんじゃないかな?」
「なるほど……」
ミキねぇの解説を聞いて新垣さんは地図を見つめたが、結論が出たらしく、地図をたたんで
ポンちゃんに向き直った。
- 530 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:47
- 「じゃあとりあえず『フェンサリル帝国』に入って、風の民を捜しつつ水の王国に向かうって
ことでいいかな、あさ美ちゃん?」
「うん、いいと思う」
「みんなもそれでいい?」
異論はなかった。
あたしも新垣さんに向かって頷く。
「松浦さんたちもいいですか?」
「うん。松浦たちはどこでもついてくよ〜」
「それに水の王国だったら海を越える方法が見つかるかもしれないしね」
ミキねぇたちも賛成ということで、これからの方針は決まった。
会議も一段落したところで窓の外を見てみると、もうかなり闇も深くなっていた。
「それじゃ、もうそろそろ休みましょうか。明日も早いですし」
「うん、そうだね」
椅子から立ち上がると、他のみんなも続いて立ち上がった。
今日は絵里と同室。まぁ、可もなく不可もなくといったところ。
部屋から出るために一歩踏み出したとき、それは起こった。
突然部屋の中が明るく、そして暑くなった。
- 531 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:48
- 「えっ!?」
思わず光源の方に顔を向ける。みんなも同じように動きを止め、一点を見つめた。
薪を燃やしていた炎が急激に膨張して、暖炉から溢れている。
なっ、なんだ!?
思わずダークブレイカーを剣に戻し、膨張した炎に向けてかまえる。
みんなも身構えるけど、ただ一人、ポンちゃんだけはじっと炎を見つめてて。
「これは……」
「ポンちゃん、わかるとですか?」
「うん、炎を使った通信魔法だよ……」
「通信魔法?」
その時、膨張した炎の表面が揺らめいた。
そして鏡面のように、そこに映像を映し出した。
炎の中に一人の女性が浮かび上がる。
かなりがっしりとした体付きの女性。手には矢口さんと同じような大鎌が握られていた。
『へぇ、こんな魔法もあるなんて、さすがは炎の王国!』
炎を伝って声が流れてくる。
そして炎の中の女性の、肉食動物のように鋭く、それでいていくつもの闇を混ぜ合わせたかのように
漆黒の瞳がキッとあたしを捕えた。
その瞬間、背中にゾクッと寒気が走った。
- 532 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:49
- 『闇の魔剣を持ってるってことは、あんたが『闇斬りの少女』かい。初めまして、アタシは闇の使徒の一人、
ソン・ソニンだ。お前を殺す名だ、よ〜く覚えとけよ?』
「なっ!? ソン・ソニンだと!?」
ミキねぇの叫び声が聞こえた。
でもあたしはソニンから目をそらすことができなかった。
目だけじゃない。腕も、身体も、まるで金縛りにあったように動かせない。
「れ、れーな……」
でも、あたしの腕に絵里がしがみついてきて、あたしはようやく身体を動かすことができた。
身体が自分の身体じゃないみたいに重かった。嫌な汗が全身から噴き出ていた。
「なに……?」
「あそこ……あの映ってる場所って……」
「えっ……?」
絵里の体は小さく震えていた。
もう一度炎を見ると、炎の中の景色には見覚えがあった。
炎の中に映っている炎。あれは……
「まさか……!!」
『ようやく気付いたみたいじゃん。そう、ここは邪馬だよ』
炎に映る範囲が広がった。
ソニンの全身が、そして背景が映る。
そこはまさしくあたしたちが旅中の一時を過ごした炎の王国『邪馬』。
- 533 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:50
- 『いや〜、炎の魔剣を取りに来たんだけどさぁ、お前が持ってっちゃったあとだったから。
ちょっとまぁ……』
ソニンがニヤッと笑って、足下にあったモノを蹴り飛ばした。
そこにモノがあったことに気付いてなかった。それほどソニンから意識を離すことができなかった。
ゴロンと仰向けになったそれに、あたしたちは絶句して釘付けになった。
「前田、さん……」
『皆殺しにしちゃった♪』
炎に映ったのは生気を失った前田さんの顔。
身体がガタガタと震え、涙が零れた。
また行くって、約束したのに……。
『転送魔法陣が使えりゃ今すぐにでも殺しに行くんだけどね、残念ながら壊されてたからさぁ』
転送魔法陣が壊されてた!?
まさか前田さん、こうなることがわかってたんじゃ……?
『まぁいいや、じわじわと追いつめてってやるよ。楽しみに待ってるんだな、
ハッハッハッハッハーッ!!!』
前田さんの遺体を踏みつけ、
高笑いを残してソニンは消えた。
膨張していた炎は泡のように弾けて消えた。
あたしたちはその場に凍り付いて動くことができなかった。
- 534 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:51
-
◇ ◇ ◇
そのあとはしばらく誰も何も喋らなかった。
時間が経ったあと、ミキねぇがソニンのことを少し話して、あとはそのまま解散になった。
あたしは部屋のベッドの中でミキねぇの話を思い出す。
ソン・ソニン。
数え切れないほどの人を殺し、いくつもの街を滅ぼした殺人快楽主義者。
アップフロント最高額、10億Rの賞金首。危険度SSS。
その賞金目当てに何人ものハンターがソニンに挑んだけど、生きて帰ったものは
いないという。
そんなヤツがあたしを追ってくる……。
前田さんを殺したヤツが……。
前田さんの仇は討ちたい。でも……勝てるんだろうか……?
ソニンを見たときに感じた震えがまた蘇ってくる。
「れーな、起きてる……?」
その時、隣のベッドから絵里の声が聞こえた。
- 535 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:52
- 「起きてるよ……なんか眠れなくて……」
「絵里も。ねぇ、一緒に寝ていい?」
「……うん」
絵里が枕を持ってあたしのベッドにくる。
入りやすいようにスペースを開けてあげると、絵里はそのスペースに潜り込んだ。
「れーな……」
「うん……?」
「前田さん、いい人だったよねぇ?」
「うん……」
絵里の声は震えている。
そして抱きついてきた絵里の身体も震えていた。
「滞在したのは少しの間だったけどさぁ、本当にいい人だったよねぇ……」
「うん、そうだね……」
邪馬にいた間、前田さんはポンちゃんに魔法を教える合間にあたしにも剣を教えてくれた。
前田さんだけじゃない、炎の民のみんながとてもよくしてくれた。
- 536 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:52
- 「うっ、くっ……!」
絵里の押し殺した鳴き声が聞こえてくる。
あたしもまた涙が込み上げてくる。
そっと絵里の身体を抱きしめた。
「れーな、絶対仇討とうね!」
「うん、わかってる。でも、今はきっと勝てない……」
実力差は歴然としている。
今ソニンに挑んでも殺されるだけだろう。
もっと強くならなくちゃいけない。
「絵里、もっと強くなるから!」
「れいなだって、絶対強くなってやる」
しばらくしたあと、絵里は泣き疲れて寝てしまった。
あたしも涙を拭い、絵里を抱きしめたまま目を閉じた。
前田さんを、炎の民をそっと偲んで、今夜は眠ろう……。
- 537 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:53
-
◇ ◇ ◇
翌日、あたしたちは出立の準備を整え、宿屋前に集まった。
まずは王都を出て、『フェンサリル帝国』との国境を目指す。
ソニンも追ってきているし、この前倒しきれなかったみうなとあさみもいる。
のんびりとはしてられない。
「それじゃ、さっそく出発しましょう!」
「あっ、ちょっと待って、れいな」
でもミキねぇがあたしを呼び止めた。
「どうしたんですか、ミキねぇ?」
「出かける前にちょっと寄っときたいところがあって。一緒に来て欲しいんだけど」
「どこですか、それ?」
「ギルド」
「ギルド?」
「そう。ソニンの情報を把握しとこうと思ってね」
ギルドとはハンターが仕事を請け負ったり、賞金首の情報を得たりする場所。
ソニンは賞金首なので、ギルドに行けば確かな情報はあるだろう。
こういう大きな街にはだいたいギルドはあるものなんだけど、ギルドに入るためには
ハンターズ・ライセンスが必要になるわけで。
- 538 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:54
- 「でも、れいなたち誰もハンターズ・ライセンスは持ってませんよ?」
「大丈夫、ミキが持ってるから。誰か一人が持ってれば一緒に入ることはできるし」
チャラッと手から下げられた鎖にはハンターズ・ライセンスのカード。
そうか、ミキねぇは騎士じゃないからハンターズ・ライセンスも取れるんだ。
ミキねぇの先導であたしたちは裏路地へと入っていく。
薄暗い路地に立っている一つの店。
ミキねぇはためらいもせずそこに入っていった。
あたしたちもミキねぇに続く。
中には剣や槍といった武器を持ったハンターと思われる人が何人かいた。
ギルドに入ってきたあたしたちに殺気のこもった目を向けるが、ミキねぇの顔を見ると
慌てて目をそらす。
そこに漂う尊敬と畏怖の念。
そんなところからミキねぇの実力を知ることができる。
でも、そういうことを知らないヤツも当然いるわけで……。
「ここは女子供が来ることろじゃないぜ〜?」
にやけた笑いを顔に貼り付けた一人のハンターがちょっかいをかけてきた。
しかもよりによって先頭にいたミキねぇに。
ミキねぇが魔女みたいな目でそのハンターを睨む。
そして次の瞬間には、
- 539 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:55
- ドンッ!!
轟音とともにミキねぇとハンターが消えていた。
音がした方に視線を動かすと、消えたミキねぇがハンターを壁に押しつけていた。
「試してみる?」
ニヤッと笑ったミキねぇがいつの間にか抜いていた剣をハンターに突き付ける。
ハンターは対照的に青い顔。
ミキねぇがパッと手を離すと、ハンターはずるずるとその場にへたり込んだ。
「ふん!」
ミキねぇが剣を収め、あたしたちのところへと戻ってくる。
それにしてもやっぱりミキねぇはしばらく見ないうちにかなり速くなっている。
「待たせたね。それじゃ、行こうか」
ミキねぇはそのまま格子で仕切られたカウンターまで歩いていく。
「ハ〜イ、マスター、久しぶり〜!」
そしてマスターに話しかけた。
どうやら二人は知り合いらしい。
- 540 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:55
- 「おぉ、久しぶりだね、藤本。王女サマに食べられたとき以来かな?」
「それを思い出させないで……」
藤本さんがぐったりとカウンターに沈んだ。
でもすぐに起きあがり、マスターに向き直る。
「それで、今日はちょっと情報が欲しいんだけど」
「ふぅん、今度の獲物はどいつだい?」
「ソン・ソニン」
「!」
マスターの動きが止まった。
いや、マスターだけじゃない。ギルド内のすべてのハンターの動きが凍り付いている。
「あんたが20億に目がくらんだようには見えないが……悪いことは言わない、やめときな」
「ミキだってわざわざソニンを狙う気なんてないよ。ハンターはしょせん腰掛けだし。でも向こうに
狙われちゃったんだからしょうがないでしょ」
「向こうに? ふ〜ん、いったい何をやらかしたわけ?」
「何もしてないって。まぁ、ちょっと訳ありなのよ」
マスターはしばらくあたしたちを見渡したけど、やがて立ち上がると、部屋の奥から一つの
ファイルを持ってきた。
またミキねぇの前に座り、パラパラとファイルをめくる。
- 541 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:56
- 「ソニンに関する情報だが、そんなに多くはない」
「まぁ、そうだろうね」
「あぁ、対峙した者のほとんどが殺されているんだからな。なかなか集まらない」
またマスターがファイルをめくる。
「ソニンはもともと凄腕のハンターだった。だが、いつからか手配犯以外にも無差別に人を殺すようになり、
はれて今度は賞金首だ。獲物は深紅の大鎌、クリムゾンムーン。超重武器だが、ソニンは片手で
自由自在に振り回す。魔法はほとんど使わない。が、最近になって未知の魔法を使うという
情報があった」
「闇魔法だ……」
「ほぅ。それは新たな情報だな」
マスターがペンを取り、ファイルに何かを書き記した。
「ソニンの最新情報としては……つい先日、ハロモニランドで目撃されている」
「「ハロモニランドでっ!?」」
ポンちゃんと辻さんが思わずカウンターに飛びついた。
あたしたちも思わず前のめりになる。
マスターはチラッとあたしたちを見たが、またファイルをめくりながら続ける。
「民間人が何人か犠牲になったようだが、王宮騎士が撃退したようだ。さすがのソニンも
ハロモニランドの王宮騎士を相手にはしなかったらしい」
撃退した……。
よかった、とりあえずみんなは無事なんだ……。
- 542 名前:第8話 投稿日:2006/08/31(木) 15:57
- 「ソニンの情報としてはそんなところだな」
「そう……ありがと」
藤本さんはそのままカウンターをあとにする。
あたしたちも藤本さんに続いて、ギルドを出た。
大通りに出たところであたしたちは立ち止まり、円になって向き合った。
「とりあえず、ギルドでのソニンの情報はこんな感じだったけど……」
「強敵ってことはわかりましたね……」
みんなが静まりかえる。
今度は松浦さんがポンちゃんに尋ねる。
「ハロモニランドから邪馬まではどのくらいかかったの?」
「ソニンが昨日邪馬に着いたと考えると……ソニンの倍はかかってますね……」
「そっか、てことはソニンの方がだいぶ足が速いのね」
「それならなるべく早くここも立った方がいいですよね?」
「そうだね。すぐにでも出発しよう!」
みんな円を崩して荷物を持ち上げる。
そして大通りを街の出口へと向かって歩いていく。
今はまだ敵わない。
でも絶対に強くなって、いつか必ず仇を討つ!
きっとみんなそう心に誓って、あたしたちはまた旅に出た。
- 543 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/08/31(木) 16:01
- 今回はここまでです。
ちょこっとれなえり(ぉ でもってちょこっとミキティ活躍(ぇ
ま、こういうのも入れておかないと……。
でもって遅ればせながら、まこっちゃん卒業おめでとうです。
小説内ではとにかく影が薄いですが……。
- 544 名前:みっくす 投稿日:2006/08/31(木) 18:03
- 更新おつかれさまです。
さあ、宿敵も御一行に姿を見せましたね。
今後の展開がきになるところ。
次回も楽しみにしています。
- 545 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/01(金) 16:27
- 通りがかりの読者です
がんばってください
がんばります
- 546 名前:第8話 投稿日:2006/09/10(日) 14:37
- 『フェンサリル帝国』に入ったあたしたちは、まずは帝都を目指した。
そして帝都で風の民を捜したけれども、成果は上がらなかった。
そのあとは蒼い光を追って『フェンサリル帝国』内を進んでいった。
蒼い光はかなり濃くなっているが、相変わらず東の方を指している。
東へつながる道は、魔境に近い北側のルートか、砂漠に近い南側のルートの二つが
あったが、あたしたちは手強いモンスターとの余分な戦闘で時間をロスすることを嫌い、
南側のルートを選んだ。
その道すがら。
あたしは新垣さんから借りた地図を眺めつつ、先行くミキねぇに疑問を投げかける。
「ミキねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」
「ん〜、なぁに?」
「この『フェンサリル帝国』の南には砂漠が広がってるじゃないですか」
「あ〜、『赤礫砂漠』ね。それが?」
「砂漠って、海沿いにはなかなかできないものじゃないんですか?」
地図を見ても砂漠の南はすぐ海になっている。
砂漠って内陸とかにできるもんだよね?
- 547 名前:第8話 投稿日:2006/09/10(日) 14:38
- 「あぁ、昔はね砂漠の南にはもっと大陸が続いていたそうだよ。この南は半島になってたらしい」
「えっ、そうなんですか?」
今やあたしだけじゃなく、絵里や辻さんたちもミキねぇの話に耳を傾けている。
ミキねぇは一旦間を置いて、また話し始める。
「その砂漠の中にね、『アカビア』があったと言われている」
「『アカビア』……」
あたしは思わず立ち止まってしまった。
『アカビア』……。光と闇の始まりの場所……。
そんなところまであたしたちは旅をしてきたんだ……。
「でも、闇が目覚めたときに『アカビア』は半島ごと消滅して、今に至る、らしいよ。『赤礫砂漠』って
いうのも『アカビア』の伝説になぞらえてつけられたんだって」
「・・・・・・」
なんとなくあたしはその場から動けなかった。
でもこの場にずっと立ち止まってるわけにも行かず、なんとか無理矢理歩き出す。
手にしたダークブレイカーがちょっと重くなった気がした。
「れいな、蒼い光はどっち指してる?」
「あっ、はい。……えっと、まだ東です」
「う〜ん、このままだともう少しで海に出ちゃうけどなぁ……」
- 548 名前:第8話 投稿日:2006/09/10(日) 14:39
-
◇ ◇ ◇
で。
あたしたちは蒼い光に導かれるまま歩き続け、とうとう海に出てしまった。
砂浜を歩きつつ、ダークブレイカーをかざしてみる。
蒼い光は真っ直ぐ海へと吸い込まれていった。
海を見つめてあたしたちは呆然と立ちつくす。
このことからわかることは、つまり……
水の王国は海の中にあるってこと……。
空の上の次は海の中か……。そりゃ、イメージはピッタリだけど……。
「ど、どうしましょう、ポンちゃん……?」
「どうしようか……?」
「この海の中から探さなあかんのかなぁ……?」
とりあえずみんなで固まって話しあう。
空の上より、海の中の方が何倍も大変だ。
また水の民を捜してこいとか言わないよね……?
- 549 名前:第8話 投稿日:2006/09/10(日) 14:40
- 「あの〜?」
その時、あたしの背後から声が聞こえた。
思わず振り向くと、そこに一人の女性が立っていた。
って、えっ? あたしの背後って海なのに!?
いったいこの人はどこから!?
「えっ……?」
ポンちゃんの驚いた声が聞こえた。
でもポンちゃんの方を確認する前に、新垣さんがちょっと前に出て女性と向き合う。
「あの、あなたは……?」
でもその女性は新垣さんの質問には答えず、ジーッとあたしたちのことを見渡す。
その視線があたしで止まった。
「その指輪……もしかしてあなたが田中れいなちゃん?」
「そうですけど……なんでれいなのことを?」
「そう、あなたが」
女性はあたしを見つめたままニコッと笑った。
「あっ、自己紹介がまだだったね。私は柴田あゆみ。水の民の一人よ」
「えっ!?」
「水の民!?」
予期せぬ水の民の出現に、あたしたちは思わず柴田さんに詰め寄る。
「ど、どうしてれいなたちのことを!?」
「少し前に前田様から通信呪文での連絡があったのよ。お互い国の場所こそ教えてなかったけど、
連絡は取れるようにしてたの。闇の魔剣を持った『田中れいな』に魔剣と未来を託した、水の国を訪ねたら
面倒を見てやって欲しい、とおっしゃってたわ」
「前田さんが……」
思わずまた涙が零れそうになる。
最後の最後まであたしたちのことを案じてくれた前田さん……。
- 550 名前:第8話 投稿日:2006/09/10(日) 14:41
- 「じゃあ、あの……!」
「あっ、ちょっとまって」
柴田さんがあたしの言葉を遮る。
「続きは柴田の国で話そう」
「えっ?」
「案内するよ、水の王国『スコティア』へ」
柴田さんが呪文の詠唱を始める。
すると、あたしたちは大きな泡の中に包まれた。
「こ、これは!?」
「この泡は水の中でも酸素だけを取り込んでくれるの。『スコティア』は海底にあって、
普通の人では入れないからね」
「じゃあ、柴田さんは?」
「柴田は、というより水の民は特別なの」
柴田さんはそのまま一歩二歩と海の中へと入っていく。
そして海の中へともぐってしまった。
なかなか水面に出てこない。
少し心配になった頃、突然なにかが海中から飛び出た。
それは間違いなく柴田さんだった。
ただ、下半身には脚ではなく、魚の尾鰭がついていた。
- 551 名前:第8話 投稿日:2006/09/10(日) 14:41
- 人魚……?
そのあまりの美しさに、思わず釘付けになる。
飛び上がった柴田さんはまた海に潜り、今度は頭だけ出して、手をかざした。
その手に引き寄せられるように、あたしたちが入った泡が海の中へと進んでいく。
柴田さんの言うように、泡の中に海水は一滴すら入ってこない。
「水の勇者、ウンディーネはマーメイドの血を引いていたの。その末裔である水の民もね。
だから水の中でも呼吸できるし、自由に泳ぐこともできるわ」
「すごい…ですね……」
「それじゃ、案内するからね」
柴田さんがまた海に潜る。
すると、そのあとを追うように泡もゆっくりと動き出す。
だんだんと遠ざかっていく陸地。
しばらく沖に進むと、急に海が深くなった。
泡が完全に海の中へと沈み込む。
「わぁ……」
思わず溜め息が零れてしまった。
真っ青な光が降り注ぐ海の中はとても神秘的で、その中を色とりどりの魚が泳ぎ回っている。
その中を優雅に泳いでいく柴田さんは本当に美しくて。
見たこともない景色にあたしは夢中になる。
- 552 名前:第8話 投稿日:2006/09/10(日) 14:42
- 「たん、すごいよ、あっち見て!!」
「ほんとだぁ〜!」
「あいぼん、あの魚大きいのれす!」
「本当や、おいしそうやなぁ〜!」
ミキねぇたちまではしゃいでいる。
辻さんたちなんて言わずもがな。
「すごい綺麗ですね、ポンちゃん!」
あたしも隣のポンちゃんに話しかけるけど。
あれっ? ポンちゃんはずっと前を向いたまま反応しない。
「ポンちゃん、どうかしたとですか?」
「あっ、れいな……ううん、なんでもない……」
袖を引っぱってようやくポンちゃんは気付いたけど、でもどこか上の空。
どうしたんだろう?
でも、そうこうしているうちにあたしたちは海底近くまで潜っていて。
そして海底に作られた『国』が見えてきた。
その国の周りには、柴田さんと同じような人魚たちが優雅に泳いでいる。おそらく柴田さんと
同じ水の民だろう。
- 553 名前:第8話 投稿日:2006/09/10(日) 14:43
- 海底に降り立つと、柴田さんの尾鰭が脚へと戻った。
そして歩いて水の王国へと近づいていくと、あるところまで近づいたところで、急に水が途切れた。
その瞬間、あたしたちを包んでいた泡がパチンと弾ける。
そこにはしっかりと空気が満たされていた。
「『スコティア』の周囲は結界を張ってあるのよ。その結界が空気だけを取り込んでくれるわ」
「へぇ〜、すごいですね!」
「さぁ、もうちょっとよ」
歩きながら上を見上げてみる。
太陽の光が遥か上方で微かに揺らめいていた。
しばらく歩き、あたしたちは一つの建物の中に入った。
巻き貝を模したような、特徴的な建物。
その一室に入り、みんなでテーブルを囲む。
「さて、それじゃ話してくれない? 今、世界で何が起きてるのか。そしてなぜ
この『スコティア』に来たのか」
「はい……」
そしてあたしたちは柴田さんに今までの冒険の一部始終を話した。
柴田さんはだんだんと厳しい顔になっていった。
- 554 名前:第8話 投稿日:2006/09/10(日) 14:44
- 「闇か……にわかには信じがたいけど、前田様が魔剣を託したということは本当のこと
なんだろうね……」
「はい。それで、水の魔剣は……?」
「あぁ……」
柴田さんは言いにくそうに口をつぐんだけど、やがて口を開いた。
「ここにあることはある。でも、今手元にはない」
「えっ、柴田さんが持ってるんじゃないんですか!?」
「残念ながら柴田は王じゃないの。ただの代理よ」
てっきり柴田さんが水の王だと思ってた……。
確かに指輪はしてなかったけど。
他のみんなも驚いているみたい。
「手元にないって、どこにあるんですか?」
「うーん、どこから話せばいいのか……」
柴田さんはさらに厳しい顔つきになった。
でもぽつぽつと話を続ける。
「実は今『スコティア』には正式に王位を継承した者がいない……」
「えっ、いないって!?」
まさか今度は人魚になれる人を捜してこいとか言わないですよね……?
- 555 名前:第8話 投稿日:2006/09/10(日) 14:45
- 「事の発端は先王が亡くなったとき。柴田がまだ生まれる前のことだから詳しくは知らないけど、
その王の子たちが王位継承の証である魔剣を巡って争ったらしいの。争ったと言っても凄惨な……
殺し合いだったらしい」
「!!」
あたしたちは言葉を失った。
そんな……血のつながった兄弟同士で殺し合いを……!?
「最後に生き残ったのは皮肉にも争いを嫌っていた一番年下の娘だった。でも心身共に大きな
傷を負ったその子は王になることはなく、魔剣を自分の血で封印して『スコティア』を出て行ってしまった……」
「なら……その人を捜し出さないと魔剣は……?」
「いや、その人は既に亡くなっているらしい……」
じゃあ……魔剣は手に入らないってこと……!?
しかし柴田さんはそのまま続ける。
「でも、その人には『スコティア』を離れたあとに出逢った人との間に子供がいるらしい。その子なら、
もしかしたら封印をとけるかも。柴田たち水の民も必死にその子を捜しているんだけど、どうやら
あんまり同じ場所に留まっていないみたいで。アップフロントのだいたい半分は捜し終わったけど、
まだ見つけられてないわ……」
やっぱり捜さないとダメなのか……。
風の王と水の王……見つかるかな……?
「それで、その子の特徴とかは? 同じように人魚になれるんですか?」
「う〜ん、水の民以外の人との間にできた子供だからもう人魚にはなれないと思う。でも水系魔法しか
使えないのは変わらないはずだよ。あっ、でもその子の母親は水より氷の方を好んで使ってたらしいから、
その子もそうかも」
「う〜……」
相変わらずめぼしい情報が少ない……。
水系魔法しか使えなくて、しかも氷の方をよく使って、アップフロントを転々と……
……あれっ? なんかどっかで聞いたことあるような……?
- 556 名前:第8話 投稿日:2006/09/10(日) 14:46
- 「うーん……」
唸り声に気付いてとなりを向くと、ミキねぇが何やら考え込んでいた。
「ミキねぇ、どうしたんですか?」
「いや、なんかどっかで聞いたような話だな、と思って……」
「ミキねぇもですか!?」
「えっ、れいなも!?」
思わず顔を見合わせる。
また考え込んで……
「「……あっ!!」」
思い出した!
水系魔法しか使えなくて、
しかも氷をよく使ってて、
いろんな街を転々としてきたって言ってて、
黒くて、キショくて、
「「ロマンス王国だ!!」」
- 557 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/09/10(日) 14:53
- 今回はここまでです。
またまた新キャラ登場。今まで出てきてなかったしね。
人魚とか似合いそうじゃない? じゃない!?(ぉ
次回はちょっと懐かしの舞台へ。
>>544 みっくす 様
今回はこんな感じに。
そういや最近バトルシーンが少ないかも?
もう少ししたらバトルも入る予定です!
>>545 名無飼育さん 様
がんばります
がんばってください
- 558 名前:みっくす 投稿日:2006/09/10(日) 17:35
- 更新おつかれさまです。
おお、あの娘が再登場しそうですね。
次回も楽しみにしています。
- 559 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/11(月) 10:28
- ( ^▽^)<するよ!
- 560 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/12(火) 00:10
- 通りがかった読者です
応援してください
応援します
- 561 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:28
- 「それじゃ、行くよ?」
「はい!」
「シャドウ・ホール!」
足下に広がる影の魔法陣から光と闇が溢れ出し、あたしたちを包みこんでいく。
光と闇が消えたとき、あたしたちはまったく違う場所に瞬間移動していた。
ここは……確か「ロガフィエル王国」の都市だ。
あたしたちは今シャドウホールを使って、旅してきた道のりを一気に逆走している。
目的地は「ロマンス王国」。あたしや絵里、ミキねぇが以前暮らしていた場所。
そこに水の王の血を継いでいる人がいるかもしれない。
「はぁ……はぁ……」
「ポンちゃん、大丈夫ですか……?」
「うん……でもさすがにこの人数で、しかも連発はキツイね……」
シャドウホールは移動できる距離の制限があるから、長い距離を移動するには何回も魔法を
使わないといけないのであって。
さすがのポンちゃんもきつそう……。
「あさ美ちゃん、あとはアタシがやるよ。ここまでくればアタシの魔力でもなんとか届くから」
「うん、お願い、里沙ちゃん……」
今度はポンちゃんに変わって、新垣さんが魔法を組み立てていく。
あたしたちの影がまた魔法陣の形を描き出す。
- 562 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:29
- 「シャドウ・ホール!」
そしてアタシたちはまた光と闇に飲み込まれていった。
光と闇が消えていくにつれて、感じてくる慣れ親しんだ空気。
あっ、「ロマンス王国」に着いたんだ……。
目を開けるとそこにはきっと、あたしたちが暮らしていたお城が……って、あれ?
なんかやけに薄暗いような……?
そっと上を見上げてみると……
『ガアアァァァアアッ!!』
「うわぁあっ!?」
なんと、あたしの目の前には、あたしの数倍はあるドラゴンが立っていた。
いや、前だけじゃない。横も後ろも、ドラゴンに囲まれてる!?
な、なんでドラゴンが!? 「ロマンス王国」じゃなかったの!?
牙の生えそろった大口があたしたちに向かってくる、けど……
「Wait! Stop!!」
声が聞こえたかと思うと、ドラゴンの動きがピタッと止まった。
あれっ、この声って……
「いったいどうしたの、いきなり? えっ、侵入者?」
そしてドラゴンをかき分けて、あたしたちの前にやってきたのは……
- 563 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:32
- 「Oh〜! れいなじゃない! 絵里やミキティも久しぶりネ〜!」
「あ、アヤカさん……」
ロマンス王国の騎士でドラゴンテイマーのアヤカさんだった。
そういえばロマンス王国にはアヤカさんの操るドラゴンがいっぱいいたんだっけ。
食べられるかと思った……。
「ダメよ〜、お客さんなんだから食べたりしちゃ!」
アヤカさんがサッと手を上げると、あたしたちを取り囲んでいたドラゴンがいっせいに離れていった。
でも、なんでこんな数のドラゴンをロマンス王国城の庭に?
いつもは森の中にいるはずなのに……。
「アヤカさん、こんなにたくさんのドラゴンそろえてどうしたんですか?」
「あっ、ちょっと今からみんなと一緒に里帰りなのよ」
「里帰り、ですか?」
「そう。故郷の方がややこしい事態になっててね、ちょっと帰らなくちゃいけなくなったの。
ところで、れいなはいったいどうしたの? みんな引き連れて」
「あっ!」
そこであたしはやっとロマンス王国へ来た目的を思い出した。
「アヤカさん、今石川さんいますか!?」
「梨華ちゃん? 城にはいると思うけど、どこにいるかまではわからないなぁ。今日は朝から
里帰りの準備してたから。まいちゃんなら知ってるんじゃない?」
「そうですか、ありがとうございます」
「いえいえ〜! じゃあワタシはそろそろ帰らないと。それじゃね、れいな。他のみなさんもSee You〜!」
アヤカさんは一匹のドラゴンの背に飛び乗った。
その瞬間、ドラゴンがいっせいに翼を羽ばたかせる。
- 564 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:33
- 「うわっ!」
「きゃっ!」
荒れ狂う風の中、アヤカさんを乗せたドラゴンたちはいっせいに飛び立って行ってしまった。
「さてと、それじゃ行こうか、れいな?」
「あっ、はい!」
ミキねぇに促され、あたしたちはようやくロマンス王国城へと入っていく。
するとそこでまた見知った人と出会った。
「あれ、みっきー? どうしたの、そんな大所帯で?」
「あっ、まいちゃん!」
そこにいたのは里田まいさん。ロマンス王国の騎士団長だ。
「ちょうどよかった、まいちゃん、梨華ちゃんいる?」
「梨華ちゃん?」
里田さんはちょっと考えてから……
「今日は非番だから、たぶん自分の部屋にいると思うけど?」
「部屋……」
あたしはミキねぇが微妙に嫌な顔をしたのを見逃さなかった。
もっとも、たぶんあたしも微妙に嫌な顔をしてるんだろうけど。
- 565 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:35
- 「れいな、呼んできて……」
「嫌ですよ! ミキねぇ行ってください! 仲良かったじゃないですか!」
「ミキはあの部屋にだけは行きたくない!」
「れいなだって行きたくないです!!」
あたしとミキねぇはその場で言い争う。
だって……だってあの部屋は……
「もう、れーな! 居場所がわかったんだからさっさと行こう!」
「え、絵里!? 待ちんしゃい、あの部屋だけは……!」
「え〜、ステキな部屋じゃない!」
どこがっ!?
でもあたしはさっさと進む絵里に引っぱられて、どんどん廊下を進んでいく。
そしてミキねぇも……
「たん! 場所知ってるなら早く案内してよ!」
「ま、待って亜弥ちゃん! ミキ、あの部屋行くと頭が痛くなって……!」
「なに訳わかんないこと言ってるの!!」
松浦さんに引っぱられて魔の領域へと進んでいく。
廊下を進み、階段を上がって、何度か訪れた(もとい、連れ込まれた)部屋の前へと辿り着いた。
いや、辿り着いてしまった。
- 566 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:39
- 「石川さ〜ん、いますか〜?」
絵里が扉をノックする。
『えっ、その声、もしかして絵里!?』
扉の向こうから聞こえるのは間違いなく石川さんの声で。
身構える間もなく、部屋の扉が開かれた。
その瞬間、ピンクの光が目を刺した。
「久しぶりだねぇ〜、絵里! あっ、れいなに美貴ちゃんも!」
どこもかしこも真っピンクな部屋から現れたのは、まさしくロマンス王国騎士の石川梨華さん。
あたしとミキねぇは早くも目をそらした。
この部屋初体験の人たちも、反応は綺麗に分かれた。
新垣さんみたいに露骨に顔をしかめる人もいれば、目を輝かせる人もいて……。
「すごい! 可愛い部屋ですね!!」
「あら、あなたも分かってくれるの、紺野ちゃん!」
嗚呼、ポンちゃん……あなただけは違っていて欲しかった……。
「すご〜い、ステキ〜!!」
「亜弥ちゃんまで……」
とりあえずあたしたちは「遠慮しないで入って!」という石川さんの誘いを丁重に断り、
なんとか応接室まで石川さんを引っぱってきた。
そしてあたしたちがロマンス王国を訪ねたわけと、水の王国について石川さんに話した。
- 567 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:41
-
◇ ◇ ◇
「え〜!? わ、私が水の王国の女王っ!?」
私たちの話を聞き終わらないうちに石川さんが叫んだ。
まぁ、あんな話聞かされたら誰だって驚くだろうけど……。
「梨華ちゃんのお母さんはどんな人だったの?」
「どんなって……普通のお父さんとお母さんだったよ。でも魔法を使ったところは見たことないなぁ……」
「じゃああえて使わないようにしてたんだろうね。梨華ちゃんは魔法使えたんでしょ?」
「うん、水系魔法だけなら……」
たしか水系魔法は物心ついたときから最高レベルで使えたって言ってたっけ。
それだけでもかなりの可能性だと思う。
「とにかく一度ミキたちと一緒に『スコティア』まで来て欲しいんだよね」
「・・・・・・」
石川さんはしばらく難しい顔で考え込んでいたけど、やがてしっかりと頷いた。
「ありがと。じゃあさっそくだけど出発の準備してくれる?」
「うん!」
あたしたちは応接室を出る。
石川さんはいったん別れたけど、すぐ準備を整えて戻ってきた。
そしてあとは里田さんに話をしに行ったんだけど……
「う〜ん……」
話を聞いた里田さんは険しい表情で黙り込んでしまった。
- 568 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:42
- 「梨華ちゃん借りてっちゃダメ、まいちゃん?」
「いや、別に梨華ちゃんを持ってくのは全然いいんだけど……」
「まいちゃん、ヒドいっ!!」
石川さんの抗議は軽く無視して、里田さんが続ける。
「ほら、今アヤカも里帰りしちゃってて、さらに梨華ちゃんまでいなくなっちゃうと、ちょっと戦力的に
辛いのよね。まだ国内外ともに安定してるとは言い難いし」
「あっ、そうか」
「梨華ちゃんつれてく代わりに誰か残ってくれるとありがたいんだけど……」
里田さんはチラッとミキねぇを見るけど……
「えっ、できればミキ水の王国には行きたいんだけど……。海を渡るヒントがあるかもしれないし」
「そっか、残念……」
里田さんはまた険しい表情で黙り込む。
里田さんの言うことも分かるんだけど、あたしだって残るわけにはいかないし……。
さて、どうしよう……?
「それならののたちが残るのれす!」
「えっ!?」
でも、そんなときに飛び出してきたのは一番後ろで話を聞いていた辻さんと加護さんだった。
思わずみんな二人に注目する。
- 569 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:43
- 「でも、いいの?」
「梨華ちゃんが帰ってくるまでロマンス王国で騎士してればいいんやろ? 簡単や!」
「安心して行ってくるのれす」
「あぁ、この二人なら私も力は知ってるから申し分ないわ」
そういや里田さんは辻さん加護さんと戦ったことあったっけ。
紺野さんと新垣さんが辻さんたちと話しあってるけど、どうやら辻さんたちに任せることに
なったみたい。
一時の別れを惜しんでいる。
「田中ちゃん、がんばるのれすよ!」
「はい、任せてください!!」
「それじゃ、行こうか、梨華ちゃん」
「うん」
あたしたちは石川さんと一緒にロマンス王国城を出ようとしたけど……
「あっ、ちょっと待って!」
里田さんがあたしたちを呼び止めた。
立ち止まって振り向くと、里田さんはポンちゃんの前にやってきて。
今度はいったい何……?
「紺野ちゃんって、魔法得意だよね?」
「はぁ、一応」
「ちょっと見てもらいたいものがあるんだけど」
- 570 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:44
-
◇ ◇ ◇
「里田さん、ここに何があるんですか?」
「ん〜、それが分からないから紺野ちゃんに見てもらいたいんだよね」
「はぁ、そうですか……」
里田さんに連れられてあたしたちが来たのは、ロマンス王国城の地下牢。
そういやポンちゃんと戦ってボロ負けしたなぁ、とかいろいろと思い出す。
里田さんはさらに地下牢の奥まで進んでいく。
「ここなんだけどね」
地下牢の最奥。
そこには巨大な石の扉があった。
ロマンス王国には結構なあいだいたけど、こんなところに扉があるなんて知らなかった。
そっと触ってみると、扉に魔法陣が浮かび上がり、扉はびくともしない。
「こんな扉あったんですね……。中に何があるんですか?」
「知らない」
里田さんに訊いてみると、里田さんは一言で答えてくれた。
「ていうか私もこんなところに扉があったなんて知らなかったのよね。さらに城にいる誰に聞いても
知ってる人はいなかったのよ」
「えっ……?」
ミキねぇを見てみるけど、どうやらミキねぇも知らないみたい。
絵里を見ても、絵里は横に首を振る。
てことはやっぱり、誰も知らない扉……?
- 571 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:45
- 「開けてみようにもかなり強力な結界で厳重に封じられてるし、城の地下だから無理矢理
壊すわけにもいかないし、だからちょっと紺野ちゃんに見てほしいんだけど」
「あっ、はい、わかりました」
ポンちゃんは一歩前に出て扉の前に立つ。
そしてそっと手を伸ばすと、扉に魔法陣が浮かび上がった。
ポンちゃんが真剣な顔つきで何かを呟いている。
「どう、解けそう?」
「はい、なんとか……」
険しい表情でポンちゃんは結界に両手を添える。
詠唱をしていくと、だんだんと扉の魔法陣が薄くなっていく。
そしてついに浮かんでいた魔法陣が弾けて消えた。
「ふぅ……」
ポンちゃんが息をつき、汗を拭う。
どうやら本当に強力な結界だったみたい。
「なんとか解けました……」
「すごいね、ありがと!」
里田さんが扉に触れる。
今度は扉がわずかに動いたが、ガチャッという音とともにすぐに止まった。
- 572 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:46
- 「物理的な鍵もかかってるのか……」
鍵穴らしきものは扉には見あたらないけど、おそらくどこかに隠されているんだろう。
でも、鍵穴を見つけたって、肝心の鍵がないわけで。
「う〜ん、相当厳重だなぁ……」
結局開けられないのかな? あたしも少し興味が湧いてきたんだけど……。
思わず隣にいた絵里と顔を見合わせたんだけど、あっ、ちょっと待って……。
「絵里! たしか鍵開ける魔法使えたよね!!」
「あっ、そうだった!」
それで散々あたしの部屋に侵入したんだから!
今度は絵里が前に出て、扉に相対する。
詠唱が始まり、扉の前に白い魔法陣が浮かび上がった。
「アンチ・ロック!!」
魔法陣がすぅっと扉に吸い込まれていくと、ガチャッという音が扉から聞こえた。
里田さんが扉に手をかけると、今度こそ扉は抵抗なく開いた。
ひんやりとした空気が溢れ出してくる。
あたしたちはみんなで現れた部屋の中へと進んでいった。
- 573 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:47
- その部屋は非常に整った石の部屋だった。
床には蒼白い魔法陣が広がり、暗い部屋を淡く照らしている。
そして、その魔法陣の上に安置されていたのは……
「棺……?」
人が丁度収まるくらいの白く清らかな石の匣。
その神聖な雰囲気は、「聖櫃」と呼ぶのがふさわしい気がする。
「なに、これ……?」
里田さんがおそるおそる棺に手を伸ばすが、触れる前にまた魔法陣が里田さんの手を遮った。
ポンちゃんが進んで前に出る。
そして棺に手を伸ばしたけど……
「・・・・・・」
ポンちゃんは無言のまま手を引っ込めた。
浮かび上がっていた魔法陣が消える。
「どうしたの、紺野ちゃん?」
「これは……無理ですね……」
「ポンちゃんでもですか?」
「うん。扉にかけられてたものとは比較にならないくらい強力な結界だよ。ていうかたぶん
外からは開けられないようにしてあるんじゃないかな」
「えっ、てことは……」
「つまり、内側からしか開けられないってことだと思う」
内側って、つまり棺の中から……!?
いったい何が入ってるんだろう……?
今やすっごく気になるけど、残念ながら確かめるすべはない。
みんな一様に黙っていたけど……
- 574 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:47
- 「とりあえず、害はないのかな?」
里田さんがポンちゃんに問いかけた。
「はい、そういうものは感じません」
「そっか、それならまぁ、いいかな……?」
ポンちゃんにも無理というので、里田さんはおとなしく諦めたようだ。
気にはなるけど、それでもここで時間を費やしているわけにはいかない。
「あっ、悪かったね、引き止めちゃって」
「いえ。石川さん借りますね」
「あ〜、どうぞ持ってっちゃって」
あたしたちは地下牢を後にし、今度こそ城から出る。
「それじゃ、まいちゃん、ちょっと行ってくるね」
「ハイハ〜イ。ま、梨華ちゃんでもいないとちょっとは寂しいんだからさ。なるべく早く戻ってきてね」
「わかってるわよ!」
そして石川さんを連れて、また一気に『スコティア』へと戻った。
- 575 名前:第8話 投稿日:2006/09/22(金) 10:47
-
- 576 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/09/22(金) 10:57
- 今回はここまでです。
梨華ちゃんの部屋ネタはどうしてもやってみたかった!(何
8話は珍しくあまりバトルがなかったですねぇ。
次回はバトルもあるはずです。
>>558 みっくす 様
再登場しましたね。あの娘以外にも懐かしの面々が。
いろいろと関わってくる予定です。
>>559 名無飼育さん 様
( ^▽^)<しないよ!
嘘です、しました(笑
>>560 名無飼育さん 様
応援します
応援してください
- 577 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/23(土) 23:58
- エエデ
- 578 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/09(月) 22:36
- 更新お疲れさまでしたー
今後の石川さんに期待です。
- 579 名前:第9話 投稿日:2006/10/21(土) 11:48
- 〜田中れいな〜
「・・・・・・」
「・・・・・・」
スコティアへと戻ってくると、さっそく石川さんと柴田さんが対面した。
巻き貝のような建物内の一室で二人は向き合って座っている。
あたしたちも一応その場にいるのは許されたけど、なんていうか、気まずいというか
重苦しいというか、そんな空気が漂っている。
そりゃ柴田さんだって今まで王の代理をしてきた人だから、いきなり「この人が王です!」
なんて紹介されても、すぐには受け入れられないだろうけど……。
「あの、あなたが本当に王の血を継いでいるの……?」
沈黙を破ったのは柴田さんだった。
おずおずと石川さんに切り出す。
「わからない……お母さんからは何も聞かされてなかったから。魔法は水系魔法しか
使えないけど、でも人魚にはなれないし……」
「そうなの……」
「でも、だからこそ私はここに来たの。私がいったい何者なのかをはっきりさせるために!」
「・・・・・・」
柴田さんはまた黙って、じっと石川さんを見つめた。
石川さんも目をそらさず、柴田さんを見つめ返す。
でもしばらくして、柴田さんが視線を外し、フッと笑った。
「わかったわ。柴田はあなたのこと信じてみることにする」
「本当!?」
「えぇ。行きましょう、魔剣が封印されている神殿へ」
- 580 名前:第9話 投稿日:2006/10/21(土) 11:48
-
第9話 水のレクイエム
- 581 名前:第9話 投稿日:2006/10/21(土) 11:49
- 建物から出た柴田さんと石川さんは、そのままスコティアを覆う結界の前に向かった。
あたしたちも二人のあとを追う。
結界の前で柴田さんは呪文を唱え、石川さんの周りを泡で覆った。
「魔剣が封印されている水の神殿はここから少し離れたところにあるわ。そこまでは
柴田が案内する」
「あっ、ありがとう」
「ちょっと時間かかると思うから、れいなちゃんたちはその間スコティアの中でも見てまわっててね」
「わかりました!」
そういうと柴田さんはすっと結界を抜けて、海の中へと進んでいった。
すぐに脚が尾鰭に変わり、海の中を優雅に泳ぐ。
そして石川さんの入った泡も柴田さんを追って海の中へと出ていく。
二人の姿はあっという間に海の中に消えていった。
さてと、それじゃあ二人が帰ってくるまで、お言葉に甘えてスコティア内を見学させて
もらおうかな。
でも、せっかくだし……。
あたしは絵里に気付かれないように、こっそりとポンちゃんに近づく。
「ポンちゃん、あの、もしよければスコティア内一緒に見てまわりません? その、
二人で……」
そして勇気を出してポンちゃんに小声で囁く。
でも、ポンちゃんはなんか上の空で。
じっと柴田さんたちが出ていった方を見つめている。
- 582 名前:第9話 投稿日:2006/10/21(土) 11:49
- 「? ポンちゃん?」
「えっ、あっ、れいな!?」
ポンちゃんのマントを引っぱって、ようやくポンちゃんは気付いてくれた。
慌てた様子であたしのほうを見る。
「ポンちゃん、なんか元気ないですね? もしかしてシャドウホールの連発で疲れちゃいましたか?」
「あっ……うん、そうかも……。ちょっと休んでようかな……」
「そうですか……」
残念ながらデートはお預けらしい……。
まぁ、疲れてるんじゃしょうがない。それじゃ、絵里でも誘ってスコティア探険に行こうか。
ズンッ!!
その時、急にスコティア全体が揺れた。
「えっ!?」
「なにこれ、地震!?」
でも地震みたく、大地が揺れてるのとはなんか感じが違う気がする。
さらにまたズンッズンッと、断続的にスコティアが揺れる。
まるでスコティア全体がなにかに揺さぶられているように。
- 583 名前:第9話 投稿日:2006/10/21(土) 11:50
- 「これは!」
「ポンちゃん、わかるとですか?」
「うん……。たぶん誰かがスコティアに張ってある結界を強行突破しようとしてるんだと思う」
「えぇっ!?」
「こっちよ!」
ポンちゃんが走り出す。
柴田さんたちが出ていったのとはちょうど反対の方向。
あたしたちもポンちゃんのあとに続く。
「あさ美ちゃん、ちょっと待って!」
新垣さんの静止の声も聞かず、ポンちゃんは走り続ける。
その時、ひときわ大きな揺れがスコティアを襲った。
「!! 突破された!」
「えっ!?」
さらに紺野さんの走る速さが速くなる。
あたしたちもなんとか紺野さんについていき、ようやく結界が確認できるところまでたどり着いた。
そこには何人もの水の民が集まっていた。
結界にあたしでも見える穴が開いている。
集まった水の民が、海の水が入ってこないようになんとか結界を支えつつ、修復を図っている。
そして修復作業に回っていない水の民は一様に剣や槍を持って武装していた。
どうやら結界を破った侵入者がいるらしい。
あたしたちもその場へと向かう。
- 584 名前:第9話 投稿日:2006/10/21(土) 11:51
- 「あ〜もぅ、あんたらみたいな雑魚は後回しだよ!」
近づくにつれ、なぜだか身体が震えてきた。
強烈な気配が放つ、まったく押さえようとしない殺意と殺気。
これは、まさか……!
集まっている水の民をかき分け、前へ出る。
その侵入者は深い黒の瞳をしていた。
女には見えない、ガッチリとした体付きをしていた。
手には深紅の大鎌を持っていた。
黒い目があたしの方を向く。
「お前は……ソン・ソニン!!」
「『闇斬りの少女』、見ぃ〜つけた!」
ダークブレイカーを剣に戻し、ソニンに突き付ける。
こいつだ……・! 前田さんを、炎の民のみんなを殺したのは!!
ミキねぇと松浦さんも剣を抜く。
ポンちゃんたちも魔法をかまえた。
でもその時、あたしたちの前に一人の男性が割って入った。
水の民の一人みたい。手にした剣をソニンに突き付ける。
- 585 名前:第9話 投稿日:2006/10/21(土) 11:51
- 「貴様、なんの目的でこの地に来た!? それに結界の外には衛兵がいたはず! どうやってここまで!」
「ちょっとね、水の魔剣をもらいに来たのよ。でも衛兵なんていたかしら、記憶にないなぁ?」
そこまで言って、ソニンはニヤッと邪悪に笑った。
「ゴミを斬った記憶はあるんだけどねぇ〜!」
ソニンの大鎌はわずかに海の水とは違う、紅い水で濡れていた。
「貴様ーーーっ!!」
目の前から男性の背中が消えた。
次の瞬間にはソニンに剣が襲いかかっていた。
でもソニンは笑ったまま、大鎌の柄で剣を受けとめた。
「ハッ! よくもこの程度の力でアタシに挑めたもんだ!!」
大鎌が旋回し、剣を砕く。
その一瞬後には大鎌の刃が男性の身体を貫いていた。
あの大鎌を片手で完全に扱うなんて!
ギルドで聞いてはいたけど、まさか本当とは……。
命を失った身体が、刃から滑って落ちた。
「ハッハッハーッ!! わざわざ死に急がなくても、あとでじっくりと殺してやるってのに!!」
心底楽しそうにソニンが笑った。
そのままソニンがあたしの方を向く。
- 586 名前:第9話 投稿日:2006/10/21(土) 11:52
- 「さて、主役を待たせちゃいけないね。ちゃんとこうして会うのは初めてだな、『闇斬りの少女』。
アタシはソン・ソニン」
「・・・・・・」
「さっそくだけど、あんたが集めた魔剣をもらおうか? それがないと闇が復活できないんだよ」
「誰が貴様なんかに!!」
「まぁ、そうだろうね。じゃあ仕方ない。殺してからいただくことにするよ!」
ソニンが血に濡れた大鎌をかまえる。
あたしもダークブレイカーを握りなおした。
「ソニン、貴様だけは絶対許さない!!」
「アッハッハ! 前にもそんな台詞を吐いたヤツがいたよ。ま、ボコボコにしてやったけどね」
ソニンが大口を開けて笑う。
でも次の瞬間には、その場にソニンはいなかった。
「えっ……?」
思わずまばたきを一回。
目を開けたとき、ソニンはあたしの目の前にいた。
嘘!? 残像すら……
「こんなふうになぁ!!」
「がっ!!」
ガードするより前に、腹部に衝撃。
身体が真後ろに吹っ飛び、地面に落ちる。
- 587 名前:第9話 投稿日:2006/10/21(土) 11:52
- 「げほっ!!」
「れーなっ!!」
全身の骨がバラバラになりそうなソニンの拳。
絵里が慌てて駆けよってくる。
「ハッ、あんたも大口叩く割には全然実力が備わってないね!!」
ソニンが鎌を振り上げて向かってくる。
起きあがろうとしたけど、身体が悲鳴をあげた。
深紅の大鎌が迫ってくる。
でもその前に、二本の剣が割り込んだ。
キィン!!
金属音とともに、大鎌の刃が止まった。
ミキねぇと松浦さんの剣が大鎌の刃を受けとめている。
「くっ……!」
でも二人がかりでも辛そうだ。
武器そのものの重さに差があるし、さらに力の差もある。
二人とは対照的にソニンはまだまだ余裕があるようで。
「邪魔だーっ!!」
「うわっ!!」
大鎌に力を加え、ミキねぇたちを吹き飛ばした。
再び大鎌が振り上げられるが、今度は大鎌の柄に鞭が巻き付いた。
- 588 名前:第9話 投稿日:2006/10/21(土) 11:53
- 「何っ?」
「捕えた! 今よ、愛ちゃん!!」
「うんっ!」
新垣さんが大鎌とつながった鞭を引っぱる。
そして高橋さんがソニンに向かって魔法をかまえたけど……
「ハッ! 甘えぇっ!!」
「うわっ!?」
ソニンは鞭が巻き付いたままの大鎌を強引に振り抜いた。
鞭を持ったままの新垣さんの身体が浮き上がる。
「ハッハーッ!!」
「きゃっ!!」
そして振られた新垣さんの身体はそのまま高橋さんに激突した。
二人が折り重なるように倒れる。
ソニンがまたあたしのほうを見たけど、その時ソニンの足下に黄色い魔法陣が浮かび上がった。
これは、ポンちゃん!
「エレクトリック・ランス!!」
「ちっ!!」
魔法陣から雷で作られた槍が無数に飛び出す。
さすがのソニンも後退して魔法をかわした。
あたしもようやく回復が完了し、その場に立ち上がる。
他のみんなも続々と立ち上がってきた。
- 589 名前:第9話 投稿日:2006/10/21(土) 11:53
- 「チッ、あの強さはヤバイね。さすがは最高額の賞金首ってことか……」
ミキねぇが苦々しげに呟く。
そして剣を握りなおした。
「受けに回ったら間違いなく殺されるね。こっちから攻めて一気に倒そう」
松浦さんも剣をかまえる。
ミキねぇとアイコンタクトを交わすと、いっせいに地面を蹴ってソニンに向かっていった。
あたしと新垣さんもあとに続こうとしたけど。
「ミキと亜弥ちゃん以外はソニンの間合いに近づくな!」
「遠距離攻撃で応戦するのよ!!」
ミキねぇと松浦さんの声で足が止まる。
そのまま向かっていったミキねぇと松浦さんの剣を、ソニンは大鎌で捌いていく。
完璧なコンビネーションで、鋭く速い剣撃。
それでもソニンは捕えられない。
確かに、今のあたしの実力ではあの攻撃に混ざることはできない……。
新垣さんもそう思ったのか、鞭をしまいナイフを取りだした。
あたしもダークブレイカーに力を送り込む。
新垣さんがナイフを振りかぶった。
- 590 名前:第9話 投稿日:2006/10/21(土) 11:54
- 「ニードル・シャワー!!」
あたしも魔法を放つ。
「サタン・スラッシュ!!」
闇の刃と水を湛えたナイフがソニンに向かっていく。
ミキねぇと松浦さんがソニンの前から飛び退いた。
「ハッ!」
でもソニンはその全てを大鎌で払う。
闇の刃を砕き、水のナイフを弾く。
これでも捕えられないのか……。
「いくよ、愛ちゃん、亀ちゃん!」
「うん!」
「はいっ!!」
しかしその時、集められた魔力がソニンの足下に魔法陣を描いた。
三人分の合成された魔力。
「ちっ!」
紅い魔法陣が強く輝く。
「「「メギド・フレイム!!!」」」
逃げる時間はない。
溢れ出した高熱の炎がソニンを包みこんだ。
完全に捕えた。しかも強力な炎魔法。
これなら、ソニンも……。
- 591 名前:第9話 投稿日:2006/10/21(土) 11:55
- でも炎の中で闇が膨れあがる気配がした。
まさか、この炎でまだ生きてる!?
ダークブレイカーをかまえる前に闇が暴発した。
「効かねぇなぁ!!」
「うわぁぁあっ!!」
「きゃあっ!!」
闇が炎を掻き消し、あたしたちは吹き飛ばされた。
ソニンは炎が消えた場所に悠然と立っていて。
そんな……魔法にも耐性があるなんて……。
ソニンもなにかのモンスターの力を? いや、違う……きっとソニン自身の強さだ……。
「さて、これでまずは一人だっ!!」
ソニンが大鎌を振り上げる。
狙われたのは一番近くにいた……絵里だ!!
「絵里っ!!」
立ち上がろうとしたが、今からじゃ間に合わない!
「あっ! う、ウィンド・スフィア!!」
絵里も必死の抵抗で魔法を放つけど、ソニンは素手で風の塊を砕いた。
「無駄だよ! 死ねっ!!」
「亀ちゃん!」
「絵里ーっ!!」
「亀っ!!」
紅い刃が振り下ろされた。
そして刃と同じ色をした雫が飛び散った。
- 592 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/10/21(土) 12:01
- ようやく更新できました。今回はここまでです。
修羅場も乗り越えたので、また更新再開です。
まぁ、更新頻度は少し遅くなってしまうかもしれませんが、これからも応援よろしくお願いします。
>>577 名無飼育さん 様
ありがとうございます。
頑張ります。
>>578 名無飼育さん 様
石川さん、次はメインで出てくる予定です。
楽しみに待っていただけると幸いです。
そして、休んでるあいだに前作の「Dear my Princess」にちょっとした展開がありました(多謝
詳しくは「王宮書庫」で。
「王宮書庫」
ttp://www7a.biglobe.ne.jp/~magicbox/library/index.html
- 593 名前:みっくす 投稿日:2006/10/21(土) 12:06
- 更新おつかれさまです。
久しぶりにリアルタイム更新♪
急な展開に!?
続きがきになるぅ。
- 594 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/23(月) 01:07
- 通りがかりのファンです
応援してください
応援します
- 595 名前:第9話 投稿日:2006/11/09(木) 16:21
- 〜石川梨華〜
私は今泡に包まれ、海の中を進んでいる。
先ほど案内された「スコティア」よりもどうやらもっと深いところへと向かっているらしい。
先導してくれているのは柴田さん。人魚の尾鰭が水を掻いて海の底へと潜っていく。
美貴ちゃんやれいなたちがロマンス王国に来て、私を水の国の王だと告げた。
にわかには信じられなかったけど、すぐ否定することもできなかった。
否定するにはあまりに符号が多すぎたから。
その一つが私の水の力。
今までなぜ自分がこんなにも水の魔法を使えるのか、逆に水以外の魔法は使えないのか
わからなかった。
お父さんもお母さんも何も教えてくれないうちに死んじゃったし。
でもまさかお母さんが女王様だったなんて……。
そして今私は水の魔剣が封印されている神殿へと向かっている。
お母さんが封印したといわれる魔剣を手に入れるために。
それもあるけど、もう一つ。
自分が何者なのかを知るために。
その時、やっと海底が見えてきた。
柴田さんが海底に降り立つと、尾鰭が一瞬で足に戻った。
そのまま柴田さんの口がパクパクと動く。
声は聞こえないけど、魔法の詠唱をしているんだと思う。
柴田さんの両手のあいだに小さな気泡ができ、その気泡が一気に膨れあがった。
「わっ!?」
その瞬間、私を包んでいた泡が弾けた。
海底に立つと、そこには空気が充満していた。
- 596 名前:第9話 投稿日:2006/11/09(木) 16:22
- 「ここいら一帯に結界を張ったわ。スコティアを覆ってる結界と同じものだから、これで空気だけを
取り入れてくれるよ」
「あっ、ありがとう、柴田さん……」
「んっ、柴ちゃんでいいよ、梨華ちゃん」
「うん……柴ちゃん」
柴ちゃんはニコッと笑った。
でもすぐに視線を動かす。
私も柴ちゃんの視線を追う。
そこにあったのは聖なる空気を秘めた神殿。そして大きな水晶がはめ込まれた、頑丈そうな石の扉。
「ここが、水の神殿……?」
「うん。水の民にとっては聖なる場所として崇められてる」
「でも、ここってどうやって入るの……?」
ためしに扉を押してみるけど、扉はびくともしない。
「この扉は血で封印されているの。だからその封印が解けないと入れないわ」
今度は扉の水晶に手をかざしてい見ると、水晶が淡く光った。
これがスイッチなのかな?
血で封印された。ってことは……
私は小さな氷を作り出し、それを指先に刺した。
- 597 名前:第9話 投稿日:2006/11/09(木) 16:22
- 「つっ!」
指先にじんわりと血が滲む。
これで扉が開く方がいいのか、それとも開かない方がいいのか……。
わからないまま、私は指先を水晶にこすりつけた。
「わっ!?」
突如、水晶が今度は強く輝いた。
その光は真っ直ぐ縦に伸び、地響きとともに扉が真っ二つに開いた。
「開いた……」
「すごい……」
私と柴ちゃんはしばらく呆然としていた。
でも急に柴ちゃんが私のほうを見て、微笑んだ。
「やっぱり梨華ちゃんは水の王の血を継承しているのね」
「そうみたいね。よかった、これで魔剣を手に入れられる」
「頑張ってね、梨華ちゃん」
「えっ、一緒に行かないの?」
扉も無事に開いたんだし、それなら一緒に行った方が……。
でも柴ちゃんは静かに首を横に振った。
「もともとこの神殿は王族以外は足を踏み入れることが許されていないのよ。その王族にしたって、
ここは王位、つまり魔剣を継承する儀式の時にしか使わなかった。だからこその聖域なの」
「そうなんだ……」
「柴田はここで待ってるから」
「わかった」
意を決して、神殿の中に踏み込む。
すると扉がまた地響きを立てて閉じた。
もう後戻りはできないってことか……。
私は一歩一歩神殿の中心へと進んでいく。
- 598 名前:第9話 投稿日:2006/11/09(木) 16:23
- 神殿の中は細い通路が伸びていた。
蒼い光が淡く輝いている。
どこまで続いているんだろう?
そう思った矢先、通路は途切れ、開けた場所に出た。
「あれっ?」
もう中心についた?
いや、まだ全然進んでないし。いくらなんでも早すぎる。
ざっとその部屋を見渡してみる。
その部屋は石に囲まれた四角い部屋だった。
でもその部屋の周囲に水路が掘られていて、水が溜まっていた。
さらに、部屋の中央も四角く区切られていて、その中にも水が溜まっている。
そして真正面に、さらに奥へと続く通路があった。
なんだろう、この部屋は……?
ゆっくりと部屋の中を進んでいくけど、中心近くまで進んだ瞬間、突然部屋の中央から
水柱が上がった。
「えっ!?」
さらに部屋の周囲からももう二本水柱が上がる。
何っ!?
上がった水柱はまた水の中に戻ったけど、水柱が消えたあと、そこには水が人の形をして
立っていた。
スライム!? いや、というよりこれは水のゴーレムか……?
三体のゴーレムが中央に集まる。
そしてゴーレムの腕にあたる部分が伸びた。
あるものは鞭のように。あるものは剣のように。
- 599 名前:第9話 投稿日:2006/11/09(木) 16:24
- 「そうか……ここのガーディアンってわけね……」
柴ちゃんがこの神殿は王位継承のために使われるって言ってたっけ。
どうやらこれはその継承者の力を試す試練みたい。
これをクリアしないと、魔剣は手に入らなそうね。
私も腕に氷を作り、研ぎ澄まして刃とする。
ガーディアンが動いた。
水でできた腕が鞭のようにしなり、私のほうへと襲いかかってくる。
「ふんっ!」
三方向から放たれる水の鞭をなんとかかわしていく。
そして氷の刃を振りかぶる。
まず狙うのは右側のガーディアン。
伸ばされた腕をかわし、すぐに氷の刃で切り捨てる。
「はぁっ!」
さらに腕を切り飛ばしつつ、ガーディアンの懐へと潜り込む。
そしてそのままガーディアンを真っ二つに切り裂いた。
まずは一体。
すぐに二体目のガーディアンに向かおうと振り向いたけど……
「えっ?」
二つに切り裂いたガーディアンの身体がうねうねと蠢いた。
そして切り裂いたところがくっつくと、まるで何ごともなかったかのように、また人の形を作り出した。
そんな、再生した……?
さらに、今までいたはずのもう二体のガーディアンが今はいない。
どこに……!?
その時、背後に何かが動く気配を捕えた。
- 600 名前:第9話 投稿日:2006/11/09(木) 16:24
- 「しまった、いつの間に!?」
背後にはガーディアンが腕を剣状にして立っていた。
慌てて魔法を組み立てる。
蒼い魔法陣が広がった。
「アイシクル・エッジ!!」
魔法陣から氷の刃が放たれ、ガーディアンを突き刺す。
でも、それだけだった。
氷の刃はガーディアンの体内に取り込まれ、やがて溶けてガーディアンの一部となった。
こんなんじゃ効かない。
振り下ろされた水の剣をかわし、私はなんとか距離をとる。
相手は水の塊。
斬っても刺しても効果はない。
それなら……。
私は腕を掲げ、呪文を詠唱する。
周囲の水を集め、凍らせていく。
幸いここには水がたくさんあるから不自由ない。
上空に巨大な氷の塊が作られていく。
「斬るのも刺すのもダメなら、まとめて潰してあげるわ!!」
掲げた手を振り下ろす。
それと一緒に、氷の塊がガーディアンへと向かっていく。
- 601 名前:第9話 投稿日:2006/11/09(木) 16:25
- 「アイス・マウンテン!!」
ガーディアンの二体は逃げたが、一体は逃げ遅れた。
氷の塊が激突し、辺りに飛沫が飛び散った。
これなら!
でも、飛び散った飛沫がわずかに動いた。
まさか!?
飛沫は一箇所に集まり、だんだんと大きくなっていく。
そして人の形を取り戻した。
そんな……これでも倒せないなんて……。
襲いかかってくる水の鞭をかわす。
でもときおり避けきれず、腕や脚に痛みが走る。
水は水圧を極限まで上げれば、鉄も寸断する鋭さになる。
なので肌なんかには簡単に傷を付ける。
斬っても刺しても潰してもガーディアンは倒せない。
それなら、あとは……。
方法はある、けど……今の私のレベルでできるだろうか……?
でも、やるしかない。
腕に作った氷の刃を解き、両手に魔力を集める。
魔力の塊から溢れ出す冷気。
私の周りを包みこみ、だんだんと部屋の中へと充満していく。
ピキピキッと、凍てつく音。
部屋の周囲にある水路の水がわずかに凍る。
まだだ、もっと……!
冷気を部屋中に放出していく。
ガーディアンの表面がわずかに固まる。
それでも動き、腕を剣に変えて襲いかかってくる。
集められた魔力は冷気となり、やがて部屋をブリザードが覆う。
全て止まれ! 全て、凍てこごれ!!
「ディープ・フリーズ!!」
- 602 名前:第9話 投稿日:2006/11/09(木) 16:26
- ブリザードが止んだあと、部屋の中で動くものは私だけだった。
まるで時まで凍ったように、水路の水も、三体のガーディアンもすべて凍り付いている。
軽く指で弾くと、凍り付いたガーディアンはバラバラに砕け、もう動くことはなかった。
「ふぅ、上手くいってよかった」
そして私は凍った部屋を通り抜け、さらに奥へと進んでいく。
また細い通路を通り、奥へ奥へ。
しばらく歩いたところで、また部屋に出た。
「ここは……」
その部屋は先ほどの部屋とはまったく違っていた。
先ほどの四角い部屋に対して、今度の部屋は丸い部屋。
天井は高く、丸く凹んだガラスがはめ込まれている。
そこからは海の中が見え、海の水の向こうに太陽が揺らめいている。
天井から差し込んだ光が部屋を全体的に蒼く染め上げている。
そして部屋を囲むようにガラス管が立っていて、その中には水が流れていた。
その部屋の中央に置かれた台座。
そこに透き通った刃を持つ剣が刺さっていた。
- 603 名前:第9話 投稿日:2006/11/09(木) 16:27
- 「あれが……水の魔剣……?」
魔剣に吸い寄せられるように、私は思わず一歩踏み出す。
するとその瞬間、どこからともなく部屋の中からいくつもの光が現れた。
光は夜光虫のように部屋の中を漂い、やがて私の正面に集まった。
集まった光がゆっくりと形を作っていく。
光が作った形に私は見覚えがあった。
「お母さん……?」
それは私が幼い頃になくしてしまった形。
でも今もずっと覚えている面影。
お母さんは優しく、でも少し悲しそうに笑った。
『梨華……とうとうここに来てしまったのね……』
「うん、来たよ……。お母さんが封印した魔剣を手に入れるために……」
涙がこぼれ落ちそうになる。
でも私はなんとか我慢する。
『ここで待っていれば会えると思ってた。でも、できればあなたにはここに来て欲しくなかった……』
「お母さん……」
『強い力は争いを呼ぶわ。そして争いは悲劇しか生まない……』
それは私だって分かってる。
私だって強い力を持っていたおかげで迫害されてきたんだから。
子供のころはよくお母さんに泣きついていたっけ。
「でもね、お母さん、争いを鎮めるためにも力が必要なんだよ。私は悪しき力を打ち破る力を
求めにここに来たの」
『梨華……』
「それに魔剣を託すコは、きっとその力で世界を救ってくれる。私はそう信じているの。だから、
魔剣はもらっていくね……」
そっと一歩を踏み出す。
そしてお母さんの横をすり抜けた。
- 604 名前:第9話 投稿日:2006/11/09(木) 16:28
- 『梨華』
でもお母さんに呼び止められて足が止まる。
振り返ると、お母さんも同じように振り返っていて。
お母さんは私の記憶にも残っている、最高の笑顔をしていた。
『虐められて泣き帰ってきてた子が、すっかり大きくなったわね。それに、強くなった。安心したわ』
「お母さん……」
そのままお母さんは笑顔を残してまたゆっくりと光に戻っていく。
光は部屋を漂い、そしてフッと消えてしまった。
お母さん……幽霊でも幻覚でも、もう一度会えてよかった……。
ゆっくりと部屋の中央まで進み、剣と向かい合う。
闇の目覚めが迫っている。
その復活を阻止し、闇を倒すにはあなたの力が必要なの。
私の想いが届いたなら、私を認めてくれるなら、あなたの力を貸して。
水の魔剣・ミストルティン!!
ギュッと柄を握る。
すると掴んだ柄から力が流れ込んでくる。
認めてくれたのね……。
私は台座からミストルティンを引き抜いた。
まるで水を固めたような、透き通った刃。
それは私が見た中で一番美しい剣だった。
- 605 名前:第9話 投稿日:2006/11/09(木) 16:29
-
◇ ◇ ◇
「あっ、梨華ちゃん!」
神殿を出ると、そこには柴ちゃんがちゃんと待ってくれていた。
私の姿を確認して、すぐに駆けよってくる。
「お待たせ、柴ちゃん!」
「梨華ちゃん、魔剣は!?」
「ちゃんと手に入れたよ、ほらっ!」
柴ちゃんの前に左手を出す。
中指には蒼い宝玉を持った指輪が輝いていた。
「へぇ〜、指輪になるんだ〜!」
柴ちゃんはしばらく指輪をまじまじと眺めていた。
「でも、これで梨華ちゃんがスコティアの真の女王になったんだねぇ」
「えっ? あっ、そうか……」
そういや魔剣は王の証でもあるんだっけ。
「でも私は人の上に立つような人間じゃないよ」
「えっ? でも魔剣を……」
「どうせこの魔剣はれいなに渡しちゃうんだし。それに私、『ロマンス王国』に帰らなくちゃ
いけないんだよね」
私を受け入れてくれた場所。
そして私の帰りを待ってる人がいる場所……。
- 606 名前:第9話 投稿日:2006/11/09(木) 16:30
- 「だからスコティアは今まで通り柴ちゃんが治めて。新しい女王として」
柴ちゃんは驚いたように私を見つめていたけど。
やがて大袈裟な溜め息を一つついた。
「あ〜あ、せっかく重責から解放されると思ったのにぃ〜!」
「フフッ、ごめんね?」
「まぁ、いいけどさぁ〜!」
そのわざとらしいセリフがおかしくって、私は思わず笑ってしまった。
柴ちゃんもつられて笑い、しばらく私たちはその場で笑いあっていた。
柴ちゃんだったらきっと私よりももっと上手くスコティアをまとめられる。
私はなぜかそう確信していた。
「さてと、それじゃ戻ろうか」
「うん、そうだね。早くれいなに魔剣あげないと」
柴ちゃんが呪文を詠唱し、泡を作り出す。
でもその時、視界の片隅に何かが飛び込んできた。
あれは……人魚?
「柴ちゃん、誰か来たみたいだけど?」
「えっ?」
柴ちゃんが振り返る。
そのころにはもうしっかりと確認できる距離まで水の民は迫っていて。
「どうしたんだろう……?」
水の民は一直線に結界の中に飛び込んだ。
尾鰭が一瞬で足に変わる。
そして私はようやく気付いた。
その水の民の腕から血が零れていることに。
- 607 名前:第9話 投稿日:2006/11/09(木) 16:30
- 「ちょ、どうしたの?」
「柴田様、大変です……スコティアが襲われました!」
「何っ!? 一体誰に!?」
「敵は……おそらく、ソン・ソニンです!」
「!!」
ソン・ソニン!?
それってまさか、あの賞金首の?
「わかった、柴田はすぐに戻る! あなたは少し休んでから来なさい。行くよ、梨華ちゃん!」
「うん!」
柴ちゃんは泡を作ると、すぐに私を包みこんだ。
そして海の中に飛び出すと、全速力で泳ぎ出す。
私を包んだ泡も柴ちゃんに引っぱられて、海の中を進んでいった。
- 608 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/11/09(木) 16:34
- 今回はここまでです。
梨華ちゃん編です。でもって更新が不定期になってしまって申し訳……。
水の神殿の内部はAFODのPVをイメージしてください(ぉ
>>みっくす 様
リアルタイムありがとうございます。
今回はちょっと外れて、梨華ちゃん&水の魔剣編です。
次回はちゃんとスコティアに戻りますので。
- 609 名前:みっくす 投稿日:2006/11/09(木) 19:04
- 更新おつかれさまです。
梨華ちゃん、レベルUPしたようで。
次回のスコティア楽しみにしてます。
- 610 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/10(金) 01:48
- eeyo
- 611 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:35
- 〜田中れいな〜
「あ、あっ……」
絵里が信じられないというような目で一部始終を見ていた。
「そんな……」
あたしは立ち上がろうとしたけど、上手く足に力が入らず、またその場にしりもちをついた。
「ヒャッハッハッハ! アッハッハッハッハーッ!!」
ソニンの高笑いが響いていた。
「に……」
「里沙ちゃんっ!!」
誰よりも早く、高橋さんが立ち上がってかけ出した。
絵里をかばい、そしてソニンの大鎌に貫かれた新垣さんのもとへ。
「まず一人目!」
「がっ……!」
さらに紅く染まった鎌が引き抜かれる。
それと同時に、かろうじて立っていた新垣さんの身体が崩れ落ちた。
傷口から鮮血がゆるゆると零れ出す。
- 612 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:35
- あたしは夢を見ているような錯覚に陥っていた。
これは夢だ……悪夢だ……。
だって、あの新垣さんが……。
「あっ、あぁっ……」
絵里もきっと同じような気分なのだろう。
目を見開き、今起こっていることを現実としてとられられていないみたい。
「里沙ちゃん、里沙ちゃん!!」
高橋さんだけが必死に新垣さんの身体を揺さぶっている。
「ハッハッハー!!」
殺人鬼が笑う。とても愉しそうに。
夢なら……早く覚めて欲しい……。
「お前もバカだな! そんな雑魚をかばって自分が刺されるなんてなぁ!!」
「だ…まれ……!」
しかしその時、倒れた新垣さんが動いた。
震える手を地面につき、体を起こしてソニンを睨む。
傷口からはまだ血が溢れているが、それでも感じる新垣さんの気迫に圧倒される。
- 613 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:36
- 「お前…なんかに……亀は、アタシの部下は侮辱させない……!」
立ち上がった新垣さんの手に鞭が現れる。
「アタシは隊長だぞ……。アタシの部下は……アタシの命を懸けても守る!!」
振られた鞭が隙をついてソニンの腕に絡みつく。
「ウィング・セイバー!!」
そして鞭を風が走った。
「ギ、ヤアアァァァアアッ!!」
ソニンの腕が消失した。
ソニンの絶叫が響く。
千切れ飛んだ腕は血を撒き散らしながら地面に落ちた。
「ごふっ……!」
でもその直後、新垣さんも血を吐いてまた倒れた。
「里沙ちゃん!」
「隊長!!」
高橋さんと絵里が新垣さんのもとに寄る。
そして溢れる光。きっと絵里が回復魔法をかけているんだろう。
でも、そこに突き付けられる紅い刃。
- 614 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:37
- 「キサマ……!」
ソニンが残った片方の腕だけで大鎌を持ち、血走った目で新垣さんを見下ろす。
「死に損ないの分際で……! 二度と動けないようにブッ殺してやる!!」
片手だけでソニンは鎌を振り上げる。
高橋さんが新垣さんをかばうように立ちはだかったけど、高橋さんは丸腰だ。
このままじゃ高橋さんまでやられてしまう。
震える足に無理矢理力を込めて、あたしはようやく立ち上がった。
そしてダークブレイカーを握りしめ、走り出す。
でもソニンはもうすでに鎌を振り上げていた。
ダメだ、間に合わないっ!!
紅い大鎌が振り下ろされる。
でも刃が高橋さんに届く前に、蒼く透き通った剣が割り込んだ。
キィン!!
高らかに鳴り響く金属音。
地面に描かれた水のゲートが閉じていく。
「チッ、キサマはっ!?」
「石川さん!!」
間一髪のタイミングで現れてくれたのは石川さんだった。
石川さんが手にしている剣は、もしかして……!
- 615 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:38
- 「はぁっ!!」
石川さんが大鎌を捌き、剣を振り抜く。
水を固めたような刀身。やっぱりあれは……水の魔剣!
「私がソニンを抑えるわ! そのうちに回復を!!」
「わかりました! 絵里っ!!」
「う、うんっ!!」
絵里の指にはめられた指輪が強く輝く。
新垣さんは絵里と高橋さんに任せておいて、あたしは……。
石川さんの方を見る。
石川さんが優勢に見えるが、ソニンは片手だけで鎌を操り、石川さんの攻撃をすべて
いなしていた。
援護した方がいいんじゃないだろうか……?
ソニンは危険すぎる。倒せるときに倒しておいた方がいい。
ダークブレイカーをかまえて走り出そうとしたけど……・
「あっ、待って! 梨華ちゃんの援護は柴田がするわ!」
背後から聞こえてきた声に止められた。
振り向くとそこにいたのは柴田さんで。
「田中ちゃんはあっちを助けてあげて!」
「えっ!?」
柴田さんが指さしたほうを見ると、ポンちゃんとミキねぇ、松浦さんがそれぞれ倒れていた。
おそらくソニンの闇魔法を至近距離で食らって気絶したのだろう。
- 616 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:39
- 「お願いね!」
「わかりました!!」
柴田さんが魔力を集めながら、石川さんとソニンが戦っているところに割り込んでいく。
ソニンのほうは柴田さんに任せ、あたしはひとまずポンちゃんのそばまで駆けより、
倒れたままのポンちゃんを抱き起こした。
「ポンちゃん、ポンちゃん!!」
頬を軽く叩くと、ポンちゃんはゆっくりと目を開けた。
「あっ、れいな……?」
「ポンちゃん、大丈夫ですか!?」
「う、ん……なんとか……外傷はないみたい……」
「そうですか、よかった……」
ホッと胸を撫で下ろす。
ポンちゃんは虚ろな目をしていたけど、急に目を見開き、ガバッと体を起こした。
「れいな、ソニンは!?」
「今は石川さんが抑えてくれてます。それより、新垣さんが……」
「えっ、里沙ちゃんが?」
ちょっと新垣さんたちのほうを見る。
回復の光が光っているということは、まだ回復しきってはないみたい。
今度はミキねぇたちのほうを見たけど、どうやら松浦さんが自力で目覚めたらしく、
ミキねぇを起こしにかかっている。
ミキねぇたちは大丈夫そうなので、あたしとポンちゃんはとりあえず新垣さんたちの
もとへと戻ろうとしたけど。
- 617 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:39
- 「うわっ!」
でもその時、背後で悲鳴が響いた。
反射的にそっちを見ると、柴田さんが倒れていて。
「柴田さん!」
「大丈夫、かすり傷……」
柴田さんの腕からは血が零れている。
「アッハッハ、殺り損ねたか!」
「柴ちゃん!」
ソニンが大鎌を振り、血を飛ばす。
ソニンの前に石川さんが立ちはだかる。
「よくも柴ちゃんを! 許さないわ!!」
「ハッ! そのセリフは聞き飽、き……?」
ゾクッと寒気がした。
な、なんだ……?
体感温度が急激に下がっている。
ソニンも異変に気付いたようで、険しい目で辺りを窺う。
「ミストルティン!!」
石川さんが剣をかざす。
剣に飾られた宝玉が蒼く輝き、やがて刀身に光が伝わっていく。
そして刀身から溢れた冷気が辺りを包みこむ。
- 618 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:40
- 「これは……」
柴田さんが石川さんを見て呟く。
やがて辺りに無数の氷の粒が作られていく。
氷の粒は次第に大きくなり、無数の氷の槍となっていく。
凄まじい冷気と氷がソニンに向かう。
「くらえ! 極魔法、ダイヤモンド・ダスト!!」
無数の氷の槍がいっせいに放たれた。
これが水の極魔法……。
その威力はゴッドフェニックスにも引けを取ってない。
「くっ!!」
ソニンも鎌で氷を砕くけど、数が違いすぎる。
大鎌で、しかも片手で砕けるような数じゃない。
避け損ねた氷の槍がソニンの足を貫いた。
「ぐあっ!?」
ソニンの体勢が崩れた。
その隙に残った氷の槍がいっせいにソニンに襲いかかる。
確実に捕えた。はずだった……
- 619 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:41
- 氷の槍がソニンを貫く前に、ソニンの前方の空間が歪んだ。
歪みは闇色の穴となり、時空を歪める。
その穴から腕が出てきて……
ゴゥッ!!
闇が放たれた。それも膨大な。
闇は辺りを走り抜け、一瞬で氷の槍をすべて粉砕した。
この闇の量……飯田さんのカイゼルクロイツにも匹敵する……!
「バカな!」
柴田さんが叫んだ。
「スコティアの結界を無視して、空間をつなげるなんて!」
「えっ?」
「スコティアには水の民以外はスコティア内に入れない結界も張ってあるの。ソニンに
破壊されたけど、それは水の民みんなで完全に修復した。それをソニンのように
無理矢理破壊するんじゃなく、完全に無視するなんて……!」
つまりは……もしかしたらソニン以上の敵……!?
闇の穴がしぼんでいく。
消滅したあと、そこには一人の女性が立っていた。
漆黒のローブを纏った身体からは、禍々しいほどの闇が溢れている。
- 620 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:41
- 「チッ! 平家みちよ……」
ソニンが忌々しそうにその女性を睨む。
『平家みちよ』と呼ばれた女性はゆっくりとソニンと向き合った。
「確か、こちらの大陸はみうなとあさみに任せたはずやけど?」
「鉄クズやドラゴン斬ってるより、人斬ってたほうが愉しいんだよ!」
「それで片腕なくしてるんやから、世話ないな」
「くっ……」
ソニンと対等に話しているところを見ると、平家みちよは少なくともソニンレベルの力の持ち主。
しかも話の内容からして、闇の使徒のリーダー格のようだ。
平家みちよはチラッとあたしたちを見渡した。
そのあとで腕をかまえると、また闇の穴を作り出した。
「いったん引き上げるで。このままここで戦うのはさすがに分が悪いわ」
「チッ、わかったよ……」
ソニンは渋々といった表情で、くるっと闇の穴の方を向いた。
追いかけていって前田さんの仇を討ちたいところだったが、こっちだって人数は多いが、傷負いだ。
新垣さんとミキねぇはまだ戦闘不能だし、ポンちゃんもシャドウホールの連発で魔力が尽きかけている。
ソニンと、ソニンと同等の敵を相手にして無事に済むとは思わない。
悔しいけど、そのまま行かせるしかなかった。
- 621 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:42
- 「待てっ!!」
でも一人だけ、去ろうとしているソニンを呼び止めた。
この声は……高橋さん!?
「よくも里沙ちゃんを!!」
高橋さんが魔力を集めながら、ソニンたちに駆けよる。
ソニンが鎌を持ち上げかけたけど、それを平家みちよが制したように見えた。
その瞬間、膨れあがる闇。
「! ダメッ、愛ちゃん!!」
傍らでポンちゃんが叫んだときには、雷を圧縮した剣がソニンたちに向かって
振り下ろされていた。
それを平家みちよは受けとめた。
受けとめた手から闇が溢れ出し、闇は雷の剣を浸食していく。
そして雷の剣を完全に掻き消した。
「ふんっ、あたしに挑むには全然レベルが足りんなぁ」
平家みちよの手が高橋さんの身体に触れる。
その瞬間、闇が暴発した。
「デビルズ・ペイン!」
「うわっ!!」
「高橋さん!」
高橋さんが吹き飛ばされ、地面に落ちた。
それでもなんとか起きあがり、平家みちよを睨みつける。
- 622 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:43
- 「ほぅ、即死しなかったか。魔法耐性はそれなりにあるみたいやな」
平家みちよが残酷な笑みを浮かべる。
そのころにはソニンは闇の穴の中に消えていて。
平家みちよも悠々と闇の穴の中に進んでいき、そのあとすぐに闇の穴は閉じた。
逃げられた……か……。
「愛ちゃん、大丈夫!?」
「あさ美ちゃん……うん、なんとか……」
高橋さんはどうやら大丈夫みたい。
立ち上がり、またすぐ新垣さんのもとへと戻っていく。
柴田さんは石川さんが、ミキねぇは松浦さんがそれぞれ介抱している。
あとは新垣さんか……。そろそろ回復終わったかな?
あたしもポンちゃんと一緒に新垣さんの元へと向かったけど……
「絵里、新垣さんの回復は終わ……?」
「あっ、れーな!」
「えっ……?」
絵里が涙目であたしのほうを見た。
あたしはてっきりあと少しで回復が終わると思っていたんだけど、新垣さんの傷はまだ
まったくふさがってなく、血が零れ続けている。
- 623 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:44
- 「ちょ、絵里! なんで回復してないと!?」
「ちゃんとしてるよ! でも……傷がふさがらないの!!」
絵里が震える声で反論する。
確かに、絵里の手からは光が溢れて、新垣さんに降り注いでいる。
でも、それだけだ。傷はまったく治らない。
どうして……?
「里沙ちゃん!!」
ポンちゃんが新垣さんを呼ぶ。
ポンちゃんの声もわずかに震えている。
新垣さんは虚ろな目でポンちゃんのほうを見た。
「亀ちゃん、かして!」
「は、はいっ!」
ポンちゃんが絵里から指輪を奪い取る。
自分の指にはめて、手を新垣さんの上にかざす。
同じように光が新垣さんに降り注ぐが、やっぱり傷はふさがらない……。
「そんな……」
光が止んだ。
ポンちゃんの手が力なく落ちる。
「ポンちゃん、何でですか!? なんで傷が!?」
「光の回復魔法は、人間の自然治癒力を促進させて傷を治すの……。でも…
里沙ちゃんは……もう、治癒力が……」
ポンちゃんの目から涙が零れる。
それって……どういうこと……?
新垣さんは、もう……助からないってこと……?
- 624 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:45
- 「そんな、里沙ちゃん!!」
「隊長!!」
高橋さんと絵里が新垣さんに泣きつく。
あたしも一度はしっかりと込めたはずの力が足から抜け、その場に崩れ落ちた。
隣のポンちゃんを見ると、ポンちゃんは下を向き、必死に涙を堪えようとしている。
でもその目からは涙が零れ、地面を濡らしていた。
じゃあやっぱり……新垣さんは……
あたしの目からも涙が零れた。
「隊長、隊長!!」
絵里の呼びかけに、新垣さんがゆっくりと視線を絵里のほうに動かす。
そして唇がわずかに震えた。
「亀……やっと隊長って……呼んでくれたな……」
「隊長、なんで絵里なんか、かばったんですかぁ……!」
「だから、さっきも言ったでしょ……。あたしは…隊長だから……。隊長は部下が危ないときは、
何がなんでも…守るものよ……」
「でもっ!」
「亀も…部下ができたらきっとわかるよ……」
絵里が泣き崩れる。
新垣さんは、今度は高橋さんの方を向いた。
- 625 名前:第9話 投稿日:2006/12/02(土) 15:46
- 「愛ちゃん……」
「里沙、ちゃん……」
新垣さんが手を地面について、なんとか体を起こした。
あたしとポンちゃんが止める前に、新垣さんはそのまま高橋さんの胸に飛び込んだ。
高橋さんも新垣さんをギュッと受けとめる。
「愛ちゃん、ごめん……」
「謝んないで!」
「ごめん……もう一緒にいられない……」
「謝んないでよ! 謝るなんて、里沙ちゃんらしくない……!」
高橋さんの目から零れた涙が新垣さんに降り注ぐ。
「イヤだ! 里沙ちゃんと離れるなんて、絶対にイヤッ!!」
「ごめん、ごめ、ん……」
「あさ美ちゃん! お願いだから、回復魔法を!」
「ダメ…だ…よ……無駄遣い…しちゃ……」
新垣さんが咳き込んだ。
わずかに血が零れる。
「あ…い……ちゃ……」
血に濡れた唇から溢れる音は、もう言葉にはならなくて。
それはきっと最後の力。
新垣さんの腕が高橋さんを抱きしめ、そのまま強引に唇が重なった。
きつくしめられていた腕がゆっくりとほどける。
唇が離れる。
そして新垣さんの身体がずり落ちた。
キスするために閉じた瞳は、もう光を見ることはなかった。
「里沙ちゃん! 里沙ちゃぁぁあんっ!!!」
青い青い静寂の中で、高橋さんの悲鳴だけが響いていた。
- 626 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/12/02(土) 15:52
- 今回はここまでです。
はい、ごめんなさい。本当にごめんなさい。
とりあえず1ヶ月くらい放置していてごめんなさい……。
これからはもうちょっと更新できるように頑張ります。
最初の更新ペースに戻せるのはいつの日か……。
>>609 みっくす 様
梨華ちゃんはかなりレベルアップしています。
もうちょっとバトルも書ければよかったんですけどね……。
>>610 名無飼育さん 様
ありがとうございます。
もうちょっとスムーズに更新できるように頑張りたいです。
- 627 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/02(土) 16:55
- あああああああああ……orz
- 628 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/02(土) 23:12
- 更新お疲れ様です。
この様な展開になるとは・・・
orz
- 629 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/03(日) 01:00
- アッー!
アッー!
四つん這いになれば別の展開にしていただけるんですね?orz
- 630 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/03(日) 13:21
- orz
- 631 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/03(日) 15:57
- のぉぉぉぉぉぉ・・・・・・
誰か助けて・・・orz
- 632 名前:みっくす 投稿日:2006/12/03(日) 23:32
- ・・・・・・・・・・・・・・・orz
- 633 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/04(月) 00:06
- しゃぶれよ orz
- 634 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/05(火) 02:22
- orz
- 635 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/06(水) 23:08
- ウッ・・・ドピュッ!
作者さんがんばってください
- 636 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/20(水) 16:54
- がんばってください!
しゃぶってください!
- 637 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/24(日) 04:16
- もう・・・終わりなのかな
- 638 名前:第9話 投稿日:2006/12/28(木) 14:30
- あたしたちは今泡の中に入り、海の中を進んでいる。
先導するのは柴田さんと、他数人の水の民。
泡の中にはあたしとポンちゃん、絵里、高橋さん、それにミキねぇと松浦さん、石川さん、
そしてロマンス王国から駆けつけてくれた辻さんと加護さん。
高橋さんはその腕に、清められた白い布で巻かれた新垣さんの亡骸を抱えていた。
柴田さんたち水の民も同じように、みなソニンに殺された仲間の遺体を抱えている。
そしてスコティアからかなり進んだところで、あたしたちは止まった。
下を見てみると、そこはかなり深い海溝になっていた。底は黒くなっているだけで、
見ることができない。
ここは「人魚の墓場」と言われている場所らしい。水の民が死んだ場合、ここに水葬するのが
スコティアの決まりなのだそうだ。
今回は特別に新垣さんも一緒に弔ってもらえることになった。
水の民が一人、また一人と抱えた亡骸を「人魚の墓場」に弔っていく。
腕から離れた亡骸は、布の中に入れられた重石によって、深い海溝へと沈んでいく。
重傷者は多数いたものの、死者がこれだけで済んだのは不幸中の幸いだったかも知れない。
最後に柴田さんがゆっくりと抱えていた亡骸を水の中に離した。
亡骸はゆっくりと沈んでいく。深い群青に抱かれ、溶けていく白。
- 639 名前:第9話 投稿日:2006/12/28(木) 14:31
- そしてチラッと柴田さんがアタシたちのほうを見た。
それを受けて高橋さんがゆっくりと一歩前に出る。
でも、高橋さんの目からまた涙が零れた。
「愛ちゃん……」
「うん……大丈夫……」
ポンちゃんが高橋さんの肩を抱く。
高橋さんはまた一歩前に進み、泡の膜の手前に立った。
高橋さんが腕を伸ばす。
高橋さんの腕と、新垣さんの亡骸だけが泡の膜をすり抜け、海の中へと出た。
そして高橋さんはそっと新垣さんの亡骸から手を離した。
ゆっくりと沈み始める新垣さんの亡骸。
「あぁっ……!」
高橋さんがその場に崩れ落ちた。
零れる涙を拭おうともせず、目を見開いて海の底を見つめている。
その手にはナイフが握られていた。
新垣さんが愛用していたナイフ。新垣さんの形見。
新垣さんの亡骸はゆっくりゆっくり沈んでいき、とうとう見えなくなった。
「里沙ちゃん……」
その時、どこからともなく歌が聞こえてきた。
見ると柴田さんと始めとする水の民が、目を瞑り歌を歌っている。
優しく静かで、でも悲しいメロディー。
海の中にいてもしっかりと聞こえてくる、人魚のレクイエム。
あたしたちもそっと目を閉じた。
新垣さん、どうか安らかに……。
- 640 名前:第9話 投稿日:2006/12/28(木) 14:32
-
◇ ◇ ◇
スコティアに戻ったあたしたちは、ひとまず巻き貝の建物の会議室に集合した。
でも、全員というわけにはいかなくて。
絵里はまだ涙が止まらず、部屋に閉じこもってしまった。
高橋さんも少し一人になりたいとのことで、気持ちを察してそっとしておくことにした。
なので、今ここには二人を除いた七人と、それに柴田さんが丸いテーブルを囲んでいる。
「さて、それじゃこれからのことなんだけど……」
一人だけ立ち上がったポンちゃんが、テーブルについたみんなの顔を見渡しながら言う。
あたしたちの旅は今まではほとんどポンちゃんと新垣さんが中心となって行動を決定してきた。
それはつまりこれからはポンちゃんが主にあたしたちを引っぱっていくことになる。
ポンちゃんはきりっと引き締まった顔で、みんなの視線に向き合ってる。
「柴田さん、風の民に知り合いとかはいませんか?」
「あれっ、まだ風の魔剣は手に入れてなかったの?」
ポンちゃんの問いかけに、柴田さんは意外そうに答えた。
そういえばそのことは話してなかったかも……。
柴田さんは少し黙って考え込んでいたみたいだけど、すぐに顔を上げて答えた。
「残念だけど、ちょっとわからないなぁ。当然ながら、スコティアにはいないよ」
「そうですか……」
「とりあえず、風の王様を探しながら『エル・クラウド』まで戻ってみた方が
いいんじゃない?」
柴田さんの問いに今度はポンちゃんが考え込む。
でも答えはすぐに出たらしく、顔を上げてまたあたしたちを見渡した。
- 641 名前:第9話 投稿日:2006/12/28(木) 14:33
- 「じゃあ、『スコティア』に来たときとは違うルートで、風の民を捜しながら『エル・クラウド』に
戻るってことでいいかな?」
異論を唱える人はいなかった。
次にポンちゃんは石川さんの方を見た。
「それで、石川さんはどうしますか?」
「私はロマンス王国に戻るわ。まいちゃんとも約束してるし、それに『スコティア』は
柴ちゃんに任せたから」
石川さんが柴田さんの方を向く。
柴田さんも目を合わせて、ニコッと微笑んだ。
そして石川さんが椅子から立ち上がり、あたしのところへとやってきた。
「れいな」
「は、はいっ!?」
思わずあたしも立ち上がって石川さんと向かい合う。
石川さんは自分の指にはめられた、蒼い宝玉の指輪を外した。
そしてあたしの手の上にそっと乗せた。
「水の魔剣、ミストルティン。れいなに託すね。辛いことがあっても負けないでね」
「はい!」
石川さんはそっと一回あたしの頭を撫でると、また自分の席へと戻っていった。
受け取った指輪を見てみる。すごく綺麗に澄んだ、アクアブルーの宝玉。
少し考えてから、あたしは右手の中指に指輪を通した。
- 642 名前:第9話 投稿日:2006/12/28(木) 14:34
- 「それじゃ、今日はもう休もうか」
これからの方針が決まったところで、ポンちゃんが場を治める。
ゆっくりとその場に結ばれた緊張が解かれていく。
あたしもう〜んとその場で伸びをする。
新垣さんの死は確かに辛いけど、それでもあたしたちは止まっているわけにはいかない。
まだ敵もいるし、魔剣だってまだ半分。
今はしっかりと前を向いて進んでいかないと。
だって、ここで立ち止まってしまったら、本当に新垣さんの犠牲が意味のないものに
なってしまうから……。
たぶんみんなもそんな気持ちなんだろう。
真剣にこれからのことについて話しあっている。
チラッとポンちゃんのほうを見る。
ポンちゃんもミキねぇと話し合っていた。
ポンちゃんは新垣さんとかなり仲が良かったにもかかわらず、もう立ち直ったのか、
しっかりとリーダーとしてあたしたちをまとめている。
強いんだなぁ、ポンちゃん……。
あたしはまだ頭ではわかっていても、気持ちの整理がついていない状態なのに……。
ほら、今だってまた涙が零れそうになる……。
あたしは涙を見られたくなくて、一足先に部屋を出た。
そういえば、絵里は大丈夫かな? 一人にしちゃったけど……。
とりあえずあたしは絵里の部屋へと向かうことにした。
- 643 名前:第9話 投稿日:2006/12/28(木) 14:35
-
◇ ◇ ◇
「絵里、大丈夫……?」
絵里の部屋に入ると、ベッドの中からすすり泣く声が聞こえてきていた。
掛け布団が盛り上がっている。
ベッドまで歩み寄り、枕元に腰掛ける。
枕は絵里の涙でぐっしょりと濡れていた。
「絵里……」
「れーな〜!!」
絵里が布団から這い出てくる。
そしてあたしに飛びついてきた。
あたしの服の胸元がわずかに滲む。
「絵里のせいで……隊長が、隊長がーっ!!」
「絵里……絵里のせいじゃないとよ……」
絵里の身体をゆっくりと、だけどきつく抱きしめる。
震える身体を、しっかりと。
- 644 名前:第9話 投稿日:2006/12/28(木) 14:36
- 「新垣さんはきっと、隊長っていう立場に誇りを持っていて……それできっと隊長の責務を
必死に果たそうとしていたとよ……」
「うん……」
「絵里のせいじゃない……。もちろん、新垣さんのせいでもない……。全部、ソニンのせいと……」
絵里を抱きしめる手に力が籠もってしまうのがわかる。
炎の民の人たちを、前田さんを、そして新垣さんを……ソニンは殺した……。
「ソニンだけは絶対に倒す。今はまだ無理だし、この先も敵うかどうかわからないけど、でも、
みんなでなら……」
「うん……!」
絵里の「うん」はさっきより少しばかり力強くなっていた。
でもそれだけ言うと、絵里の身体はずるずると力が抜けていった。
こいつ、寝やがった……。
まぁ、泣き疲れたってことにしておこうか……。
とりあえず絵里を元の布団の中に押し込む。
そしてあたしは絵里の部屋をあとにすることにした。
- 645 名前:第9話 投稿日:2006/12/28(木) 14:37
-
◇ ◇ ◇
〜紺野あさ美〜
話し合いが終わり、これから進む道も決まった。
会議はお開きになり、一人、また一人と会議室から退出していく。
「じゃね、紺ちゃん、お先に」
「あっ、はい」
美貴ちゃんと松浦さんがそろって会議室をあとにする。
そして残っているのは私と、この建物の管理者でもある柴田さんだけに。
「えと、柴田さん、ここはどうすればいいですか?」
「あ〜、柴田がやっておくから」
「そうですか、ではお願いします」
部屋の片づけは柴田さんに任せて、私は建物を出た。
今後の方針は無事に決まった。
今までは里沙ちゃんがそういうのは取り仕切っていたけど、これからは私がしなければ
ならない。
しっかりしないと……しっかりしないと!
そう自分に言い聞かせる。
- 646 名前:第9話 投稿日:2006/12/28(木) 14:38
- さて、これからどうしようか。
自分の部屋に戻る前に、愛ちゃんの様子見ておいた方がいいかな?
でも、愛ちゃん、一人にして欲しいって言ってたし……。
「紺ちゃん!」
その時、急に背後から呼び止められた。
反射的に振り向くと、そこには後を追ってきたのであろう柴田さんの姿があった。
やっぱり、柴田さんを見ると、ドキッとしてしまう。
わかっている、違うってことは……。
でも、あなたは、あまりにも……
「なんですか、柴田さん?」
平静を装い、私は柴田さんに問いかける。
柴田さんは「うん……」と歯切れの悪い返事をしたけど、しばらくした後、じっと私のほうを見つめた。
その瞳はとても深い色をしていて。
「その……大丈夫? ちょっと気になって……」
「えっ?」
一瞬わからなかったけど、柴田さんはきっと里沙ちゃんのことを言ってるんだとわかった。
- 647 名前:第9話 投稿日:2006/12/28(木) 14:39
- 「私は大丈夫です。それより、愛ちゃんや亀ちゃんの方が……」
「そうかな?」
「えっ……?」
柴田さんは深い瞳で私を見つめたまま、一歩距離をつめた。
ドキッと心の奥が鳴る。
「柴田は、紺ちゃんもあんまり大丈夫じゃないように見える」
「・・・・・・」
「リーダーだから、がんばらなくちゃって思うのは大切だけどさ」
柴田さんの手が一回私の髪を優しく撫でた。
「あんまり無理しない方がいいよ?」
柴田さんの言葉は、柴田さんの優しさは、じんわりと心の奥底に染みこんでいって。
私が掛けた鍵をいとも簡単に解いた。
- 648 名前:第9話 投稿日:2006/12/28(木) 14:39
- 「うっ……!」
堪えていたものが一気に溢れ出すように、涙がこぼれ落ちた。
「なんで……柴田さんには……わかっちゃうんですか……?」
「ん〜、なんとなく。紺ちゃん見てたら気付いちゃった」
柴田さんはもう一歩私との距離をつめて。
震える私の身体をそっと抱きしめてくれた。
「泣きたいときや、辛いときは、泣いてもいいんだよ?」
その一言で、さらに涙がこぼれ落ちた。
私は柴田さんにしがみついた。
やっぱり……似ている……。
最初に会ったときから面影を感じていたけど、それだけじゃない。
いつも私のことを気にかけてくれていた。
大きな愛で包みこんでくれていた。
- 649 名前:第9話 投稿日:2006/12/28(木) 14:40
- 「お姉ちゃん……」
「えっ?」
「似てるんです……柴田さんは……死んでしまった私のお姉ちゃんに……」
「そう……だったの……」
柴田さんの私を抱きしめる力が少し強くなった。
お姉ちゃんにもこんなふうに抱きしめられたことがあった。
私の手にも力が籠もる。
「強くなるって……決めたのに……」
フラッシュバックするのは、あの雪の日。
目の前でお姉ちゃんを、家族を亡くしたあの日。
もうあんな事は起こさせないと、今まで努力してきたのに……!
「私は…また……守れなかった……!!」
悔しくて、
悲しくて、
こぼれ落ちる涙を、柴田さんはなにも言わずに受けとめてくれた。
それはまるで本当のお姉ちゃんみたいに……。
- 650 名前:第9話 投稿日:2006/12/28(木) 14:40
-
- 651 名前:片霧 カイト 投稿日:2006/12/28(木) 14:49
- 今回はここまでです。
本当に遅くなって申し訳……。ようやく9話終了です。
そして、たくさんのレスありがとうございました。
ある程度は覚悟&予想してたのですが、想像以上でした。
ガキさんがまさかこれまで人気が出ることもまた想像以上で、おかげでこの展開はかなり悩みましたが、
展開を変えるわけにもいかず、そのままで強行しました。
物語をしっかりとまとめることを餞にしたいと思います。
というわけで、今回はまとめて返レスを。
今年はキリもいいことで、一応今回が最後の更新になりそうです。
みなさん、よいお年を!
- 652 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/30(土) 01:34
- アッー!
アッー!
四つん這いになれば別の展開にしていただけるんですね?orz
来年もよろしくおねがいします
- 653 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/31(日) 18:21
- 泣いちゃったー!
泣いちゃったー!!
今年最後の涙かしらー!?
更新乙です、良いお年を!!
泣いちゃったー!ガキさぁあああああああん!!
- 654 名前:Interlude V 投稿日:2007/01/23(火) 13:57
- 〜田中れいな〜
「さて、それじゃ私は一足先に帰るね。みんな、頑張ってね」
「はい、いろいろとありがとうございました!」
石川さんの手からこぼれ落ちた水が、地面に魔法陣を描き出す。
その魔法陣が蒼く輝くと、石川さんの身体は水のゲートに吸い込まれて消えていった。
ロマンス王国へと帰っていった石川さん。
もらった指輪は右手の中指で蒼く輝いている。
「それじゃ、私たちも出発しましょう」
「はいっ!」
ポンちゃんがあたしたちを見渡して言う。
あたしたちは柴田さんに海岸まで送ってもらい、そしてこれから風の王を探しつつ、
またエル・クラウドに戻ることになる。
今度はここまで来たときと違うルート、魔境に近いルートを通ることになる。
モンスターの襲撃もあるかもしれない。気を引き締めないと。
「柴田さん、いろいろお世話になりました」
ポンちゃんが柴田さんに向かってペコッと頭を下げると、柴田さんはにっこり微笑んだ。
「いいのよ。それにまだもう一つお世話することが残ってるから、お礼はそのあとにね」
「えっ? お世話することって……?」
「とりあえず風の魔剣を手に入れたら、もう一度スコティアにいらっしゃい。残りの魔剣がある、
もう一つの大陸まで送ってあげるから」
もう一つの大陸……。
やっぱり他の魔剣は別の大陸にあるんだ……。
「わかりました、それじゃ、風の魔剣を手に入れたあと、また来ます!」
「うん、それじゃ、またね!」
柴田さんに一時の別れの挨拶をし、あたしたちはまたエル・クラウドに向けて進み始めた。
- 655 名前:Interlude V 投稿日:2007/01/23(火) 13:58
-
Interlude V 白い時の中で
- 656 名前:Interlude V 投稿日:2007/01/23(火) 13:59
- スコティアを立ったあたしたちは、来たときとは異なるルートでエル・クラウドを目指した。
途中の街や、すれ違った旅人たちから情報を集めながら進んだけど、風の民のことを知ってる人は
何人かいたが、風の民を見つけることはできなかった。
スコティアを出てからしばらくはパーティの空気も若干沈んでいたが、最近はようやく空気も
明るくなってきていた。
高橋さんもみんなでいるときは普通に笑うようになってきていた。
でも、たまにふらっとみんなの輪から外れると、一人で新垣さんのナイフを見つめ、
物思いに耽っていることがあった。
大切な人を亡くす気持ちはあたしもよくわかる。
あたしは高橋さんに何の言葉もかけてあげられなかった。
そして結局あたしたちは大した成果も上げることができないまま、国境を越え、
再びグニパルンド王国に戻ってきた。
グニパルンド王国は相変わらず森が多く、林道を歩いてる途中で、今日は日が暮れてしまった。
「う〜、もう辺りが見えないなぁ……」
ポンちゃんが魔法で明かりを灯す。
それでようやく周囲の状況が見えるほど、辺りは闇に包まれてしまった。
- 657 名前:Interlude V 投稿日:2007/01/23(火) 14:00
- 「今日はこの辺で野宿やなぁ……」
加護さんも明かりを灯しながら、ポンちゃんに答える。
確かにけっこう森が深いし、ちょっと歩いたところで街に着く気はしない。
「最近野宿ばっかりだよ〜……」
絵里も文句を言いながら、同じように明かりを灯した。
愚痴っててもしょうがないので、あたしたちは野宿できそうな場所を探すことにした。
しばらく森の中を歩くと、開けた広場のような場所が見つかり、今日はそこに
キャンプをはることにした。
「それじゃ、私は周囲に結界を張ってくるね」
「あっ、あたしも手伝うで」
キャンプをはるのも慣れたもので、だんだんと役割が決まってきた。
ポンちゃんと高橋さんは周囲に結界を張る係。
「亀、ちゃんと持ってや〜!!」
「う〜、重い〜……」
絵里と加護さんはテントを張る係。
でもってあたしと辻さん、それに松浦さんとミキねぇはというと……。
- 658 名前:Interlude V 投稿日:2007/01/23(火) 14:00
- 「それじゃ、行こっか、亜弥ちゃん」
「たん、暗闇で変なことしちゃイヤよ?」
「はっ? なに言ってんの?」
主に薪や食料を調達してくる係。
だいたい二人一組で行動するんだけど、松浦さんとミキねぇはいつもあんな感じで
一緒に行動しているので、あたしは辻さんと組むことに。
ミキねぇたちが持っているたいまつの炎が揺らめきながら森の中へと消えていく。
「さて、それじゃののたちも行くのれす」
「はい、行きましょう」
あたしたちもたいまつを片手に、森の中へと入っていく。
落ちてる薪を拾い集めつつ、たまに木になっている果物なんかをもいでいく。
そしてしばらく森の中を進んでいると……
「……んっ?」
なにか、変な匂いが鼻に届いた。
クンクンと匂いを嗅いでみる。どこからか出ていると言うよりは、辺りに微かに
充満しているような匂い。
なんだろう、この変な匂いは……?
どうやら辻さんも気付いたみたいで……
- 659 名前:Interlude V 投稿日:2007/01/23(火) 14:01
- 「田中ちゃん……」
辻さんは失礼にもあたしのほうをジト目で見てきた。
「なっ、なんですか、その目は! れいなじゃないですよ!!」
思わずたいまつを投げつけてやりたくなったけど、ここはガマンガマン。
でも、一体何の匂いだろう……?
有毒ガスとかだったら、キャンプの場所を変えなきゃいけないし。
匂いが漂ってくる方向にゆっくりと進んでいく。
辻さんもあたしの後ろをピッタリとついてきた。って、カナリアか、あたしは!?
進むに連れてだんだんと強くなってくる匂い。
とりあえず身体に異常はないけど……って、あれ?
この匂いって……もしかして……。
そして茂みを抜けると、あたしたちはようやく匂いの元へと辿り着いた。
そこは真っ白に煙っていて、ふんわりとした温かさに包まれていた。
「お〜!!」
あたしと辻さんは思わず顔を見合わせた。
辻さんの顔はキラキラと輝いていて、きっとあたしも同じ顔をしていると思う。
「「温泉!!」」
- 660 名前:Interlude V 投稿日:2007/01/23(火) 14:02
-
◇ ◇ ◇
「温泉っ!?」
薪拾いもそこそこにキャンプに帰り、温泉のことを話すと、みんな一様に顔を輝かせた。
そりゃ、あたしたちだって年頃の女の子ですから。
こんな旅をしてるんだからある程度覚悟はしてるけど、それでもやっぱり汗や匂いは
気になるところ。
しかも最近は野宿ばっかりだし、水浴びできるような気温でもなかったから、
温泉はまさに渡りに船で。
「さっそく入りに行くのれす! あいぼん、タオル出してー!!」
辻さんが加護さんのもとに駆けよると、加護さんは空間を開いて全員分のタオルや
着替えを取り出した。
ミキねぇやポンちゃんもウキウキとした表情で加護さんからタオルを受け取っている。
あたしも同じようにタオルを受け取ったけど、あれっ、タオルが一つ余ってる?
辺りを見渡してみるとただ一人、高橋さんだけがタオルを受け取らずに一人立っていた。
「あれっ、高橋さん、行かないとですか?」
「愛ちゃんも一緒に行こうよ!」
「ん〜、あたしはあとで入るわ」
ポンちゃんと一緒に高橋さんを説得しようとしたけど、高橋さんは首を横に振った。
- 661 名前:Interlude V 投稿日:2007/01/23(火) 14:03
- 「え〜、なんでですかぁ?」
「えっと、その……」
問いつめると、高橋さんは少し顔をそらしながら呟いた。
「えっと……まだ少し、跡とか残ってるから……」
「「・・・・・・」」
恥ずかしそうに、そして少し寂しそうに、だけどかなり嬉しそうに呟く高橋さんを見て、
あたしとポンちゃんはなにも言えなかった……。
跡……跡ねぇ……。ま、深く考えるのはよそう……。たぶんあたしの知らない世界の話だ……。
って、ちょっと待って、温泉ってことは……。
「れいなもあとで入ると……」
「えぇ〜!? なんで〜!?」
そう言うと絵里が一目散に飛びついてきた。
「一緒に入ろうよ、れーな〜! 一緒に入った方が楽しいって!!」
「絵里、離れんしゃい!!」
だってだって、温泉ってことは当然ながら裸ってことで……。
あたしはなんとか絵里を振りほどこうとしたけど、その時さらにもう一つ、あたしに
まとわりつくモノが増えた。
振り向くとそこにはニヤケ顔の辻さんがひっついていて……。
- 662 名前:Interlude V 投稿日:2007/01/23(火) 14:04
- 「ははぁん、さては生えてないのを見られるのが恥ずかしいんれすね?」
「ち、違っ!!」
「ぇえっ!? れーな、まだ生えてないの!?」
「声が大きい!!」
確かにそれもあるけど、一番の問題はそこじゃなくて……。
みんなで温泉に入るってことはポンちゃんの裸が……。
そんなん絶対心臓がもたんと……。
「というわけで、れいなもあとで入ります」
「ふっふっふ、そんなことはさせないのれす!」
さっさとその場から離れようとしたけど、その前にあたしは辻さんに羽交い締めにされた。
「な、なにすると!?」
辻さんはこう見えてすごい力持ちなので、本気で羽交い締めされると振りほどくことはできない。
「亀ちゃん、手伝うのれす!」
「は〜い!!」
「うわーっ!!」
そしてそのままあたしは二人に温泉まで強制連行されてしまった。
高橋さんが「行ってらっしゃ〜い」と優雅に手を振って見送ってくれた。
- 663 名前:Interlude V 投稿日:2007/01/23(火) 14:06
-
◇ ◇ ◇
「ほら、早く脱ぐのれす!」
「ちょ、ちょっと、本気でやめてください!」
「亀ちゃん、ののが押さえてるからズボン脱がせるのれす」
「は〜い! れーな、大人しくしててね」
「え、絵里、やめんしゃい!!」
「お〜! 吉澤さんの言ってたとおり、見かけによらず激しい下着!」
「吉澤さん……帰ったら殺す……!」
「亀ちゃん、それも早く取っちゃうのれす!」
「うふふ! れーな、覚悟〜!!」
「わーっ!! ホントにダメーっ!!」
「……おぉ〜!! ホントだ、可愛い〜っ!!」
「相変わらずつるつるのぺたぺたなのれす」
「つるつる言うな! ぺたぺた言うな!!」
そんなわけで。
あたしは辻さんと絵里にひん剥かれて、温泉に放り込まれた。
つーか誰か助けてくださいよ……。ミキねぇなんか悶絶するくらい大笑いしてたし……。
みんな薄情な……。
とりあえず絵里は温泉に沈めてやったけど、辻さんはどうしてくれよう……?
そんな考えもしばらく温泉につかっていると、どうでもよくなってきてしまった。
お湯の中で思いっ切り身体を伸ばす。
あ〜、気持ちいぃ〜……。
- 664 名前:Interlude V 投稿日:2007/01/23(火) 14:07
- 「れーな、気持ちいいねぇ〜!」
「本当。毎日入りたいと〜」
「でもこんな隅っこにいないで、みんなのところにおいでよ〜!」
「いや、れいなはここでいいと……」
だって、みんなってことはもれなくポンちゃんも一緒じゃん……。
そんなところに飛び込んだら、一体どうなることやら……。
みんなが集まっているところからは、なにやら楽しげな声が聞こえてきて……
「おぉ、実はこんこんけっこう大きいんやなぁ!」
「あ、あんまり見ないで……」
「羨ましいのれす。ののに少し分けてほしいのれす」
「あっ! 触っちゃダメッ!!」
「たんもあれくらいあればなぁ〜」
「ほっといて……」
楽しげって言うか……妖しげ?
ていうか、何してると!?
「田中ちゃん〜! 田中ちゃんもこっち来て見てみるのれす! 紺ちゃん以外と胸あるのれす!」
「れ、れいなはいいです!!」
お節介にもあたしを呼んだ辻さんに、あたしは背中越しに答えた
行けるか! 見れるか!!
とりあえずあたしは悶々とした妄想を振り切るために、しばらくは外の景色に集中してたけど……
- 665 名前:Interlude V 投稿日:2007/01/23(火) 14:08
- 「田中ちゃ〜ん!」
また背中に辻さんの声が届いた。
でもさっきと違って、呼びかけたあとは言葉がなかなか続かなくて。
なんだろう……?
気になってちょっと振り返ってみると、呼びかけてきた辻さんと、なぜかポンちゃんが
みんな集まっていた場所より少しあたしのほうに近づいてきていて。
目があった辻さんがニヤッと笑ったのがわかった。
「これが見たかったのれすねぇ〜!!」
「キ、キャーーーっ!?」
「わぁっ!?」
で、辻さんがいきなりポンちゃんをお湯の中から引き上げた。
てことはつまり、振り返っていたあたしには丸見えなわけで。
慌てて後ろを向いた頃には、ポンちゃんの裸はすっかり目に焼き付いてしまっていた。
「の〜ん〜ちゃ〜ん〜……!!」
「わわっ!? ほら、田中ちゃんへのサービスなのれす!」
「問答無用! ウォーター・ストリングス!!」
「ぐえっ! ギ、ギブギブ!!」
辻さんは背後でポンちゃんに締め上げられているみたいだが、あたしは確認せずに
もう上がることにした。
温泉から出たときちょっとクラッとしたのは、のぼせたのか、それとも……。
あ〜、ヤバイ、ちょっと風にでもあたってよう……。
- 666 名前:片霧 カイト 投稿日:2007/01/23(火) 14:15
- 今回はここまでです。あけましておめでとうございます(遅すぎ
え〜、もうちょっとまともなペースで更新できるように頑張ります……。
でもって今回はこんな感じに。
最近バチバチしてるのが多かったので、たまにはこういうベタでゆる〜い感じのもいいかなぁ、と。
>>652 名無飼育さん 様
今年もよろしくお願いいたします。
そこまで展開は変わらないかもしれませんが……(ぉ
>>653 名無飼育さん 様
泣いていただけるとは思ってもいませんでした。ありがとうございます。
ガキさんも報われるようなストーリーにしていきたいと思っています。
- 667 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/01(木) 23:51
- なごませていただきました。
彼女に元気が取り戻せますように・・
応援しています。
- 668 名前:Interlude V 投稿日:2007/02/14(水) 14:38
- 翌朝、あたしはいつも通り、みんなが起きる前に起きだし、特訓をしていた。
気を集中しながらダークブレイカーを振るう。
ヒュンッヒュンッと刃が風を切っていく。
最後にそのままダークブレイカーに意識を集中し、刃に闇を集める。
「サタン・スラッシュ!!」
放たれた闇の刃が、目の前にあった大岩を真っ二つに切り裂いた。
「ふぅ……」
汗を拭い、ダークブレイカーを指輪に戻す。
気付けばもう空も白ばんできている。そろそろ終わりにしよう。
ていうかまた休憩も入れずぶっ続けで訓練してしまった。
頬に汗が一滴流れた。
あ〜、ヤバイ、服も汗でびしょびしょだ。さっさと帰って着替えよう……。
そう思って足早にキャンプに戻り、自分のテントに入ったけど……。
絵里はまだぐっすりと寝ている。
他の人も起き出してきた人はいないみたい。
つまり出発にはまだちょっと時間がありそう。
ということは……
- 669 名前:Interlude V 投稿日:2007/02/14(水) 14:41
- 「もう一回温泉に入ってこようかな?」
汗もかいたことだし。
みんな寝てるから、今回はゆっくりと入れるだろうし。
そうと決まればあたしはタオルと着替えを持ち、またテントからはい出した。
少し歩けば、すぐに温泉にたどり着く。
「♪〜♪〜♪〜」
そしてあたしは鼻歌なんかを歌いながら、次々と汗に濡れた服を脱いでいく。
朝の温泉は朝靄と湯気が立ちこめていて、乳白色に曇っていた。
それがなかなか幻想的。
昨日ポンちゃんが張った結界もまだ残っているみたいなので、覗かれる心配もモンスターに
襲われる心配もないし。
服を脱ぎ終わったあたしは、温泉に飛び込んだ。
「ふぁ〜……」
ゆったりと身体を伸ばす。やっぱり気持ちいい〜……。
それに今回は一人だからゆっくり入っていられるし。
そう思っていたんだけど、その直後、近くでパシャッと水音がした。
- 670 名前:Interlude V 投稿日:2007/02/14(水) 14:42
- 「えっ?」
「だぁれ?」
そして聞こえてくる声。近づいてくる水音。
やがて靄の中にうっすらと影が現れる。
先客がいたのか……。全然気付かなかった。
まぁ、あたしたちの貸し切りっていうわけでもないしね。
あれっ、でも確かポンちゃんの結界が……?
考えているうちに、靄の中から現れたのは……
「あっ、れいな……?」
「ポ……ンちゃん……?」
その結界を張った張本人だった。
見上げた視線がポンちゃんの視線とぶつかる。
てことは張った結界が残ってた訳じゃなくて、ポンちゃんが新しく張ったのか……。
あたしたちは不意の遭遇のあまり、しばらくそのまま固まっていたんだけど……
- 671 名前:Interlude V 投稿日:2007/02/14(水) 14:43
- 「っ!!」
急にポンちゃんが動き、前を手で隠すとそのまま肩までお湯の中に沈んだ。
それと同時にあたしもようやく気付き、慌てて視線を外す。
ま、また見てしまった……。
「えっと、れいなはいつもの特訓……?」
「あっ、はい、そうです。ポンちゃんは研究ですか……?」
「う、うん、なかなか上手くいかなくて……ちょっと気分転換に温泉入りに来たの……」
お互いあさっての方向を向きながら、ぎこちなく会話を続ける。
でも今回はどうやら二人っきりみたいだから、離れて入ってるのも不自然で。
かといって向き合って入るのは恥ずかしくて。
結局最終的に背中合わせという形に落ち着いた。
それでも背中にはポンちゃんの肌の感触がしっかりとある。
どうかこのドキドキがポンちゃんに伝わりませんように……。
「ポンちゃんの研究ってどんなことしてるんですか?」
「えっと、オリジナルの魔法を作ってるんだけどね。理論上は可能なはずなんだけど、
実践するとこれがなかなか難しくて」
「えっ、ポンちゃんの魔法の腕でもですか?」
「うん、今までにないタイプの魔法だからねぇ」
そこまで言うと、背後のポンちゃんが動いた。
「ふぁ……」という、小さなあくびが聞こえてくる。
それって、まさか……
「ポンちゃん、まさか昨日寝てないんじゃ……!?」
「アハハ……なんか寝るタイミング逃しちゃって……」
「大丈夫ですか!? 無理しちゃダメじゃないですか!」
「大丈夫だよ、無理なんかしてないし」
その言葉からは明らかに無理を隠しているのがわかる。
だってあたしはあの時から、ずっとポンちゃんのことを気にしていたんだから。
あの時、スコティアでポンちゃんと柴田さんが抱き合ってるのを見てしまったときから。
- 672 名前:Interlude V 投稿日:2007/02/14(水) 14:44
-
◇ ◇ ◇
絵里の部屋から出て自分の部屋へと帰る途中、あたしはその場面に出くわしてしまった。
柴田さんに抱きつき、泣いているポンちゃん。
そんなポンちゃんを優しく抱きしめている柴田さん。
えっ……?
あたしは思わずその場に硬直してしまった。
「私は…また……守れなかった……!!」
ポンちゃんの悲鳴が響く。
それであたしはようやく気付いた。
ポンちゃんは立ち直ったんじゃなく、ただ無理をして気丈に振る舞っていただけ
だったんだって。
そんなことにも気付けなかった自分に腹が立った。
そして、それをすぐに見抜いてしまった柴田さんに軽い嫉妬も覚えた。
これからはもっとちゃんとポンちゃんのことを見ていよう。
そしてこれからは、あたしがポンちゃんを……
- 673 名前:Interlude V 投稿日:2007/02/14(水) 14:45
-
◇ ◇ ◇
あたしはポンちゃんから背中を離し、くるっとポンちゃんの方を向く。
そしてポンちゃんを強引にあたしの方に向けた。
「あっ、れいな……?」
「ポンちゃん、やっぱり無理してますよね?」
「そんなこと……」
「ポンちゃん、一人で何でもかんでも抱え込まないでください。もうちょっとれいなたちのことを
頼ったっていいんです」
ポンちゃんの目を見つめて続ける。
ポンちゃんは少し目をそらした。
「新垣さんが死んだのだって、ポンちゃんのせいじゃないです。れいなだって、肝心な時に
なにもできなかった。だからポンちゃんが一人で抱え込む必要はないんです」
「・・・・・・」
「れいなはまだまだだから、ポンちゃんを守るとかは言えませんけど、でも支えるくらいなら
できると思いますよ。だからもっと頼ってくれていいんです!」
「れいな……ありがとう……」
ポンちゃんの顔がふわっと軽くなった。
次の瞬間にはポンちゃんがゆっくりとあたしのほうにもたれかかってきて。
わ、わっ……!?
ポンちゃんの頭がコツンとあたしの肩に被さった。
- 674 名前:Interlude V 投稿日:2007/02/14(水) 14:46
- 「本当に、ちょっと頼っちゃうかもしれない」
「の、望むところです……!」
あっ、ちょっと声が裏返った……。
だって、考えてみれば今お互いに裸だし……!!
こんなふうに密着しちゃったら肌が触れ合って!!
そのまま硬直していたら、ポンちゃんはさらにあたしに体重をあずけてくる。
ちょ、ちょっと待って……!!
「ぽ、ポンちゃん、できればそろそろ離れて欲しいんですけど……」
あたしに理性が残っているうちに!
でもポンちゃんは返事もせずに、あたしにもたれかかったまま。
ちょ、これは本当にいろいろとヤバイ……!
「ぽ、ポンちゃん!!」
あたしはなんとかポンちゃんの肩を押さえて、ポンちゃんを離したけど……
「う〜……」
「ポンちゃんっ!?」
ポンちゃんは真っ赤な顔をして、目を回していた。
まさか……のぼせてる!?
そういやポンちゃんあたしが入る前から入ってたし……。
「わーっ!! ポンちゃん、しっかりーっ!!」
あたしはポンちゃんを抱え、なんとか温泉の外へと引っ張り出した。
まさかこんな形でさっそく頼られるとは思わなかった……。
- 675 名前:Interlude V 投稿日:2007/02/14(水) 14:46
-
- 676 名前:片霧 カイト 投稿日:2007/02/14(水) 14:53
- 短いですけど、今回はここまでです。
Interlude完結編。れなこんです、れなこん。最近あんまりなかったので。
次回からはまた物語が始まります。
>>667 名無飼育さん 様
なごんでいただけたようで何よりです。
こんな感じのほのぼのストーリーもちょこちょこっと挟んでいければなぁと思います。
- 677 名前:名無しさん 投稿日:2007/02/18(日) 16:35
- ある中学校に、一人の少女と、三人の少年がいた。ある日、一人の少女が歌を神殿で歌っていた。そこへ、三人の少年がやって来た。その三人の少年は、火、雷、地の王だったのだ。その三人の王は、その歌を聞いていた。その少女の歌う歌には、癒しの力があるようだった。聞いていると、とても癒されるのだった。歌がうたい終ると、三人の少年は一斉に拍手をした。その時、その三人は何処か懐かしい思いを感じた。これが、四人目の王との出会いだった。
- 678 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/19(月) 00:10
- >>677
なんじゃこら?
- 679 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:27
- 〜田中れいな〜
「う〜……」
「疲れた〜……」
スコティアから風の王を捜しながらエル・クラウドまで戻る。
魔境に近いルートを通り、温泉で休んだりしながら、グニパルンド王国に入り、また
王都「ダインスレフ」に着いた。
そう、風の民をまったく見つけられないまま……。
なので、今は「ダインスレフ」を中心として、近辺で情報収集、風の民の捜索を行っている。
エル・クラウドに近いここならば成果も上がるだろうと思ったけど……。
「紺ちゃん、もう三日れすよ……」
「あちこち飛び回ってへとへとや〜……」
「う〜ん……」
今のところ、まったく成果は上がっていなかった……。
- 680 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:27
-
第10話 竜の翼、風の翼
- 681 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:28
- 「これだけ捜して見つからないってことはやっぱりこの辺にはいないのかなぁ?」
「自由に飛び回ってるってことはわざわざエル・クラウドの近くにいないんじゃない?」
松浦さんや絵里もぐったりしながら意見を述べる。
「集めた情報も噂話の域を越えないしなぁ〜……」
高橋さんも集めた情報のメモをパラパラめくりながら続けた。
「う〜ん……」
ポンちゃんは唸りながら難しい顔をしている。
まさかここまで難航するとは思ってなかったのだろう。
「ちょっと方針を変える必要があるね……」
ポンちゃんが難しそうに呟いた。
その呟きで、しばらく室内は沈黙に包まれた。けど……
- 682 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:28
- 「ねぇ、それならいっそのこともう一度エル・クラウドに行ってみない?」
「えっ……?」
松浦さんの言葉に、みんながいっせいに注目した。
「ほら、風の民にも会ったんでしょう? また出てきてくれるかもしれないし、そしたら
頼んでエル・クラウドの中に入れてもらうとか、風の民や風の王の情報をもらうとか
できるんじゃない?」
「えっ、さすがに無理じゃない……?」
「・・・・・・」
松浦さんの提案に、ミキねぇはすぐに可能性を否定したけど、ポンちゃんは少し
考え込んで。
「こうしていてもラチが明かないですし、その可能性にかけてみましょう」
というわけで、あたしたちは明日もう一度エル・クラウドに向かってみることになった。
風の王の情報、得られればいいけど……。
- 683 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:30
-
◇ ◇ ◇
そして翌日。
あたしたちはエル・クラウドを目指して森の中を歩いている。
正確には、エル・クラウドの下に位置する森を目指して。
エル・クラウドは空に浮かぶ巨大な雲の中。あたしたちは入ることすらできない。
「う〜、見えるところにあるんだけどなぁ……」
視線をあげると、そこには巨大な雲の塊が停滞している。
すぐ見えるところにあるのに手が届かない。
それがなんとももどかしい。
「飛んでいけないですかねぇ、ポンちゃん?」
「れいな……さすがに無理だよ。結界も張ってあるって言ってたし」
「あ〜、やっぱりそうですよねぇ……」
近道はできないってわけか……。
そんな話をしながら、あたしはポンちゃんと並んで森の中を歩いていたんだけど……。
「れいな、れいな!」
そんなあたしの逆隣りに、先頭を歩いていたはずのミキねぇがいつの間にか並んでいた。
む、せっかくポンちゃんと話してるんですから邪魔しないでくださいよ!
絵里は前で高橋さんと話していて、珍しく邪魔してこないのに。
適当に松浦さんとイチャついていてください!
と言うわけにもいかないので、一応「なんですか?」と答える。
- 684 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:31
- 「れいな、この前エル・クラウドに行った時風の民に会ってるんだよね?」
「はい、ちょっとだけですけどね。名前すら聞いてないですし。藤本さんたちはその時
通行証を取りに行ってくれてたんでしたっけ」
うん、そうだ、確かエロカに食べられるのを覚悟で。
結局無事に戻ってきたみたいだけど。
「うん。それでさぁ、その会った人ってどんな人だった?」
「どんなって、本当に普通の人と変わらないですってば。翼を持ってるみたいですけど、
しまうこともできるらしいですし」
前に説明したと思ったけど……?
でも藤本さんは、「いや、そういうことじゃなくて」と返してきた。
「例えば髪の長さとか、背の高さとか、そういうのは?」
「はぁ……?」
なんでそんなことを、とも思ったが、とりあえず思い出してみる。
「えっと、髪はけっこう長くて、明るいブラウンでしたかねぇ? 背は女性にしては
高い方だと思いますよ」
「ふーん……」
「あとは……瞳が濃いグリーンで、すっごくスタイルがよくて……」
「・・・・・・」
「ミキねぇ?……痛っ!」
急に黙ってしまったミキねぇの方を向いた直後、いきなりなにかにぶつかって、
あたしは立ち止まった。
よそ見して歩くもんじゃないな……。木にでもぶつかったのか? でも木にしては
柔らかかったような……。
前に向き直ると、そこにあったのは木でもなんでもなく、絵里の背中だった。
- 685 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:31
- 「絵里、急に止まるな!」
「違う〜! なんか急に身体が動かなくなっちゃったの〜!」
「はぁ……!?」
絵里はやけに必死な声で弁解した。
なに言ってると? と思いながら絵里の背中を押してみると……あれ、本当に動かない……?
気がつくと前を歩いていた松浦さんや辻さん……というよりは、あたしとポンちゃんとミキねぇ以外は
みんなピッタリと動きが止まっていた。
「みんな、どうしたの!?」
「わかんないのれす! 歩いてたらだんだん身体が重くなっていって、まったく動けなくなったのれす!」
辻さんが力を込めているようだけど、身体はまったく動かない。
いったい何が起こったと……?
あたしはとりあえず絵里の背中から手を離したけど……。
「んっ……?」
手に変な違和感を覚えた。
ベッタリとした感触が手に残っている。
パッと見なにもついていないが、目をこらすと見えてくる。
手にまとわりついていたそれは、キラキラとした白くて細い幾重もの……糸。
- 686 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:32
- 「糸!?」
稲妻が体の中を走った。
その直後周囲に現れた闇の気配。
たぶん一瞬でも遅れてたらアウトだっただろう。
あたしはダークブレイカーを剣に戻し、襲いかかってきた闇の塊を粉々に砕いた。
「なっ、闇!?」
動けるポンちゃんとミキねぇも慌ててかまえる。
ミキねぇは剣を抜き、ポンちゃんは魔力を集め始める。
「フフッ、惜しかったわ、気付くのがもうちょっと遅かったら今ので決まっていたのに」
聞き覚えのある声とともに、木々のあいだからスーッと降りてきたのは……。
「みうなっ!!」
「覚えててくれたみたいね」
忘れるものか!
蜘蛛神の力を手に入れ、糸を自在に操る、闇の使徒の一人、みうな。
- 687 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:33
- 「みんなに何をした!?」
「別に何もしてないわ。みうなは巣を張って待ってただけ。それにまんまと自分から
引っ掛かったんでしょう?」
ふわっとみうなが手を振ると、そこから細かい糸が無数に吹き出した。
「この糸は一本一本だと弱いけれど、何本も集まれば大型のドラゴンだって身動き一つ
取れなくなるわ。みうなはこの糸を木と木のあいだに張り巡らしていた。あなたたちは
森の入り口からここまで気付かないうちに糸をたぐり寄せてきたのよ。ま、上手く後ろを
歩いていたおかげで、掛からなかった人もいるみたいだけど」
みうながまたふわっと手を振る。
すると、今度は……
「うわっ!!」
「キャッ!?」
「えっ?」
背後から悲鳴が聞こえた。
振り返ると、さっきまで動けず固まっていた絵里たちの姿がなくなっていて。
辺りを見渡して、ようやく上を向いた時に絵里たちの姿を見つけた。
木と木の間に張られた巨大な蜘蛛の巣。そこに絵里たちは引っ掛かっていた。
- 688 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:34
- 「何をする気だ!?」
「安心して、まだ何もしないわ」
みうなを睨みつけるが、みうなは優雅に笑って返す。
「蜘蛛は獲物の身動きが取れなくなってから食べるのよ。まずはまだ動けるあなたたちを
捕えてあげる」
「舐められたものだね、そう簡単にいくかな?」
ミキねぇが剣を振りかぶる。
「れいな、行くよ!」
「はいっ!」
あたしもミキねぇといっしょにみうなに向かって走り出そうとした。
「まって、二人とも!」
でも、ポンちゃんの声であたしたちは踏みとどまった。
ポンちゃんはあたしたちの後ろで魔法を構築していて。
「ウィング・セイバー!!」
あたしとミキねぇのあいだを風の刃が走っていき、みうなへと向かっていった。
風の刃が通りすぎたところから、ブチブチッと何かが千切れるような音がする。
よく見てみると、千切れた糸が木に絡まって揺らめいていた。
- 689 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:35
- 「ちっ!」
みうなは舌打ちとともに、風の刃に闇をぶつけて相殺した。
まさか、こんなところにも糸が!?
あのままみうなに向かって行ってたら、あたしとミキねぇも捕まっていた……。
「危なかった……」
「ありがとう、ポンちゃん!」
「これでこの辺にはもう糸は張ってないはずだよ!」
「よしっ!」
ミキねぇが走り出す。
あたしもミキねぇのあとに続いたけど……
「! うわっ!?」
「れいな!?」
急になにかに足を取られ、あたしはその場に倒れ込んだ。
木の根にでもつまずいたか……?
そう思って足のほうを見たけど、そこにあったのは木の根なんかではなく。
地面から突き出た腕が、あたしの足首を掴んでいた。
- 690 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:37
- 「なっ!?」
「アタシを忘れないでもらいたいなぁ」
地面が割れていく。
そこから這い出てきたのは……
「あさみ!?」
「なんだ、覚えてるじゃない」
あさみが完全に地面から這い出る。
あたしは足首を掴まれたまま、その場に宙づりにされた。
な、なんて力だ……!
あさみの手の剣がギラリと光る。
「れいなっ!!」
でも次の瞬間には、ミキねぇの剣が旋回し、あさみの腕を切り飛ばしていた。
あたしは落ちる前に、ミキねぇに抱えられ、あさみから距離をとる。
「あ〜あ、腕が切れちゃった……」
でもそう言ってる傍から、あさみの腕がどんどん再生していく。
やがて何もなかったかのように、切ったところから腕が生えた。
そうだ、あさみはリビングデッド。
首を切り飛ばしても死ななかったんだから、腕を切られたくらいどうってことないはず。
- 691 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:37
- 「ミキねぇ、どうしますか?」
「まったく、やっかいな相手だね……。でも見たかぎりあさみは瞬時に再生できるって訳では
ないみたいだから……まずあさみを行動不能にして、そのあいだにみうなを叩こう」
「了解!」
あたしはあさみに向かって飛びだした。
ミキねぇもあたしのあとに続いた。と思ったら、次の瞬間にはあたしの前を走っていた。
やっぱりミキねぇは速いと。
置いて行かれないように、あたしもミキねぇの後を追う。
あさみの手には大剣が一本。
それで二本の剣を受けきるのは相当厳しいはず。
タイミングをあわせ、ミキねぇと同時にあさみに斬りかかる。
でも、あさみは大剣から手を離し……
「なっ……!?」
あさみはあたしたちの剣を素手で受けとめた。
刃が手のひらに食い込む。
それでもかまわずしっかりと剣を握りしめる。
「つかまえたぁ!」
「チッ!」
ミキねぇが左手にナイフを取り出す。
あたしはダークブレイカーに闇を纏わせる。
でも次の瞬間、あさみの身体を貫いて、みうなの鋼線があたしとミキねぇに襲いかかってきた。
- 692 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:38
- 「うわっ!?」
なんとか身体をひねってあたしもミキねぇも串刺しは免れたけど、身体にいくつか
痛みが走った。
そのままミキねぇはナイフであさみの右腕を切り裂いた。
「サタン・ブラスター!!」
あたしはあさみにダークブレイカーを掴まれたまま魔法を発動し、あさみの左腕を
粉々に吹き飛ばした。
あたしとミキねぇはなんとかあさみから逃れ、体勢を立て直す。
「もう、みうな! やるならやるって言ってよ! 痛くはないけどビックリするんだから!」
「言っちゃったら相手にだってわかっちゃうじゃん」
両手を壊されたというのにあさみは平然としている。
その両手にしたって、みうなと喋っているあいだに再生してしまった。
リビングデッドか……なんてやりづらい相手だ……。
「二人とも、どいて!」
その時背後からポンちゃんの声が聞こえた。
振り返ってみると、ポンちゃんは魔力を集めかまえていて。
- 693 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:39
- 「フン、魔法なんてアタシには効かな……」
「それはどうかな?」
ポンちゃんがニヤッと笑うと同時に、集めた魔力が急激に燃え上がった。
あさみの顔が驚きに変わる。
「バーニング・オーラ!!」
「くっ!」
高熱の閃光が走っていく。
剣を平然と受けてきたあさみも、今回は慌てて飛び退いた。
でも全てをかわしきることはできなかったらしく、右腕が炎に飲み込まれ焼滅した。
「アンデッドなら炎に弱いはずよ! 再生する前に全て焼き尽くしてあげるわ!」
「ちょ、ポンちゃん、森の中で火はマズイですって! 下手に燃え広がったりしたら
れいなたちや、それに捕えられてる絵里たちも」
「大丈夫、この辺一体に水の結界を張ったから。森の木や草は燃える心配はないよ」
「えっ?」
見てみると、確かに足下に蒼い魔法陣がうっすらと広がっていた。
そして先ほどのバーニングオーラでも、森の木や草は何一つ燃えた様子はない。
さすがポンちゃん、ちゃんと考えてるとね。
- 694 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:39
- 「くっ、なかなか博識ね……。でも、この程度の炎ではアタシを焼き尽くすことはできないわよ」
右腕が焼失したというのに、あさみはまだ余裕があるようで、笑顔を浮かべていた。
その右腕もすでに再生が始まっている。
やっぱり一発で全てを焼き尽くさないとダメか……。
ポンちゃんもわかったようで、また魔力を集めている。
「それなら、もっと強烈な炎にするまでよ!」
集まる魔力に呼応して、あさみの足下に紅い魔法陣が広がる。
「メギド……」
でも魔法が完成する直前に、ポンちゃんの足下にも魔法陣が広がった。
血色の魔法陣。あの魔法は……ブラッディ・レアー!
「ポンちゃん!!」
「なっ!?」
あたしは慌てて走り、ポンちゃんの身体に飛びついた。
ポンちゃんとあたしの身体が傾き、二人して地面に倒れ込む。
その瞬間、魔法陣から赤黒い無数の刃が突き出した。
なんとか刃はかわしたけど、ポンちゃんの作っていた魔法は中断されてしまい、
発動することはできなかった。
- 695 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:40
- 「フフ、それをみうながさせると思う?」
「くっ……!」
「あーさ、今よ!」
みうなの放った魔法をかわして安心しているヒマはなかった。
倒れたあたしたちに向かって、あさみが襲いかかってきた。
やばい、早く体勢を……!
「れいな! 紺ちゃん!!」
あさみが振り下ろした剣は、ミキねぇの剣によって止められた。
そのままミキねぇはあさみの剣を捌き、さらにあさみに向かって斬り込んだけど……。
「無駄だって言ってるのに」
あさみは避ける素振りすら見せず、ミキねぇの剣を受けた。
剣が腹部にめり込むが、顔色一つ変えない。
「ちっ!」
あさみが剣を振るう前に、ミキねぇの周囲の大気がブワッと渦巻いた。
風が圧縮され、ミキねぇの手に集まる。
- 696 名前:第10話 投稿日:2007/03/15(木) 15:41
- 「ゴッド・ブレス!!」
「うわっ!?」
圧縮された竜巻があさみに命中し、あさみは風圧に負けて後退した。
なんとか距離が空き、仕切り直しになる。
しかしまずい……これは隙がない……。完璧なコンビネーションだ……。
みうなを倒そうとすればあさみが妨害し、あさみを倒そうとすればみうなが妨害する。
となると……
「ここは厳しいけど、戦力を分散させて二人をまとめて叩くしか策はないみたいね……」
やっぱり、ポンちゃんも同じことを考えていたみたい。
個別撃破が難しいなら、もうまとめて倒すしかない。
「私と美貴ちゃんであさみを抑える。倒せそうなら倒すけど、それはやっぱり難しいと思う。
そのあいだにれいなはみうなを倒して。そのあとみんなであさみを倒す」
「えっ、れいなですか……?」
「ミキの剣じゃみうなの糸に太刀打ちできない。ダークブレイカーなら糸に絡められても
闇で対抗できるでしょ?」
「なるほど、わかりました」
ずいぶんと責任重大だけど……。
でもあたしにしかできないこと。
「れいな、頼んだよ。信頼してるから」
「ポンちゃん、任せてください!」
ポンちゃんの手をしっかり握る。
そしてダークブレイカーを掴んで立ち上がった。
辺りの糸の密度がいつの間にか増していた。おそらくみうながまた張り巡らしたのだろう。
「ウィング・セイバー!」
「サタン・スラッシュ!」
風の刃と闇の刃が張られた糸を切り裂く。
その千切れた糸の間をミキねぇがあさみ目掛けて走っていく。
ポンちゃんもミキねぇをサポートするため、また魔力を集めている。
あさみは二人に任せ、あたしはみうなを倒す!
あたしもダークブレイカーをかまえ、みうな向かって走り出した。
- 697 名前:片霧 カイト 投稿日:2007/03/15(木) 15:45
- 今回はここまでです。1ヶ月ほど放置してしまって申し訳……。
とりあえずボチボチと再開していきますです。
そんなわけで、今回はメインストーリーで久しぶりのバトルを。
これはもうちょっと続きます。
- 698 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/15(木) 16:10
- おおぅ、ドッキリ展開
- 699 名前:第10話 投稿日:2007/04/01(日) 02:24
- 「はぁっ!!」
「くっ……」
ミキねぇの剣とあさみの剣が交差する。
あさみの剣は大剣。ミキねぇの細身の剣で受けとめきるのは明らかにパワー不足。
ミキねぇもわかっているようで、すぐにあさみの剣を受け流し、そのままあさみを斬りつける。
でもあさみの傷はすぐに治った。
「そんな攻撃効かないって、何度やったらわかるわけ?」
「フン、それならこれでどうだ!」
「!?」
ミキねぇの剣閃が下がった。
あさみの足が斬り飛ばされる。
「うわっ!?」
左足を失ったあさみの身体が地面に倒れた。
間髪入れずミキねぇは剣を逆手に持ち直し、あさみの身体を貫く。
ミキねぇの剣はあさみを地面に縫いつけた。
ミキねぇがあさみから離れると同時に、あさみの下の地面に紅い魔法陣が浮かび上がる。
「メギド・フレイム!!」
そして魔法陣から激しい炎が立ち上った。
ミキねぇとポンちゃんのコンビネーション攻撃。
仕留めたか……?
- 700 名前:第10話 投稿日:2007/04/01(日) 02:25
- 「危ない、危ない」
「なっ!?」
でもあさみは魔法陣の外で悠然と立ち上る炎を見ていた。
バカな、あの状態からどうやって……!?
よく見てみると、あさみの足下にわずかに闇の穴が残っていた。
みうなのほうを見ると、みうなはニヤッと笑ってみせる。
そうか……みうながダークサークルであさみを魔法陣の外へ飛ばしたのか!
「ちっ!」
ミキねぇは地面に突き刺さったままだった剣を握ると、またあさみへと向かっていく。
あたしも糸を切りつつ、みうなへと向かっていく。
だが、いかんせん張られている糸が多すぎる……。
さらに糸は本当に細く鋭いので、集中していないと簡単に見落とし、肌を切り裂く。
おかげでなかなか思うように進めない。
「このぉ!!」
糸を切り裂くために振り下ろしたダークブレイカーに、みうなの糸が絡みついた。
糸はみうなの手から伸びていて、そのままダークブレイカーを奪おうと力が加わる。
「はっ!!」
あたしは刃に闇を纏わせ、糸を消滅させる。
- 701 名前:第10話 投稿日:2007/04/01(日) 02:25
- 「ふぅん、やっぱりその剣に糸は通用しないか……」
「あったりまえと!!」
「それじゃあ、これはどうかな?」
またみうなの手から糸が放たれた。
でもその糸はあたしを大きく外して。
「? どこ狙ってると!?」
「フフン、これでいいんだよ!」
「えっ?」
糸が放たれたほうを見てみると、糸は周囲の木に絡みついていて。
もう一度みうなに向き直ると、みうなは糸をビィンと弾いた。
その衝撃は糸を伝い、絡みついていた木を輪切りにして。
「! うわっ!!」
切られた木があたしに向かって倒れてきた。
なんとかかわしたが、木はまだまだあたしに襲いかかってくる。
「あはは! 潰れちゃえ!!」
「くっ……!」
まずい、このままじゃ……。
体力も尽きるし、さらにみうなへのルートも木に遮られてしまう。
対抗するためには……まとめて吹き飛ばす!!
ダークブレイカーに意識を集中させる。
- 702 名前:第10話 投稿日:2007/04/01(日) 02:26
- 「カラミティ・ウォール!!」
ダークブレイカーに集まった闇が、あたしの足下に魔法陣を描き出した。
が、すぐにそれとは別の魔法陣が、あたしの魔法陣の上に重なる。
「なっ!?」
「そうくると思っていたわ! オーバーライト=カラミティ・ウォール!!」
二つの魔法陣が重なり合い、相殺し合い、消滅した。
そして頭上からみうなに切られた大木が降ってくる。
「うわっ!!」
慌てて横に飛び退き、下敷きは免れたが、さらに振ってくる木の量は増す。
このままじゃ体力が削り取られるだけだ。
「アハハッ、木ならまだまだたくさんあるわよ!」
やばい、こんな大量の木、魔法を使わないと弾ききれない。
でも生半可な魔法じゃ、みうなに相殺されてしまう。
なら方法はただ一つ。
みうなの持つ力以上の魔法を引き出すしかない。
ダークブレイカーをきつく握りしめる。
魔剣の中には無限の力が眠っている。
その力を使えるか、使えないかは持ち主の力による。
自分の力以上の力は扱うことができない。
自分の力と自分の想いをダークブレイカーに注いでいく。
あたしを信じてあさみを抑えてくれているポンちゃんとミキねぇのため。
そしてみうなに囚われている絵里たちを助けるため。
あいつを倒す、力を貸して!!
- 703 名前:第10話 投稿日:2007/04/01(日) 02:27
- ダークブレイカーの宝玉が輝いた。
闇が一気に膨れあがる。
「むっ!?」
「くらえっ!!」
闇が凝縮されたダークブレイカーをあたしは振り抜いた。
その瞬間、闇が炸裂した。
「ジェノサイド・エクストリーム!!」
放たれた闇の波動は降り注ぐ木々を飲み込み、糸を消滅させた。
それでも勢いは衰えず、みうなへと襲いかかる。
「くっ、まさかこんな魔法を!?」
みうなが慌てて手に繋がった糸を切り離し、横に飛ぶ。
闇の波動はギリギリでみうなを掠めて消えていった。
でも、そのあいだにあたしは地を蹴っていて。
「何っ!? いつの間に!」
「はぁっ!!」
ダークブレイカーを逆手に握り、みうな目掛けて突き降ろす。
横に飛んだあとだというのに、さらにみうなはそこからすぐバックステップして、剣先をかわした。
でも、それも予測通り。
ダークブレイカーが地面に突き刺さった瞬間、集めていた魔力が地面に魔法陣を描き出した。
みうなの足元にも及ぶ巨大な魔法陣。
- 704 名前:第10話 投稿日:2007/04/01(日) 02:27
- 「! しまった!!」
「キラー・エッジ!!」
魔法陣から鋭い暗黒の刃が無数に飛びだす。
みうなはさすがに今回は避けきれず、防御に徹したけど、刃はみうなをズタズタに切り裂いていき。
「つっ!!」
刃の一本がみうなの足を貫いた。
みうなの身体が崩れ落ちる。
チャンスだ! この好機は逃さない!!
地面からダークブレイカーを引き抜き、みうなへと走る。
みうなの足の傷は徐々に治りかけていたが、完治する前にあたしはみうなへと辿り着いた。
「くっ!!」
振り下ろした剣は腕につけたガントレットで止められた。
でも完全に接近することができた。
「この距離ならお得意の糸は使えないやろ!!」
「ちっ!!」
みうなはなんとか距離をとろうとするが、まだ足の傷は治りきっていない。
ここで仕留める!!
そうすればあとはポンちゃんがあさみを倒せばいいだけと!
ダークブレイカーを振っていく。
掠ることはあってもなかなかクリーンヒットしない。
でもみうなに一切の反撃と回避は許していない。
このまま押しきる!!
- 705 名前:第10話 投稿日:2007/04/01(日) 02:28
- 「フフッ……」
でもその時、みうなが不敵に笑った。
振り下ろしたダークブレイカーがガントレットに止められる。
「何が面白いと!?」
「いや、まさかここまでやるとは思ってなかったからさ。ヴァルランドで戦った時から
そんなに立ってもいないはずなのに、ずいぶんと強くなったね」
ダークブレイカーが弾かれる。
そしてそのままみうなは後方に跳躍して立ち上がった。
ちっ、足は回復したか……。
でもまだ糸を使えるような距離は生まれていない。
このまま逃がさなければ……!
あたしは再びみうなへと向かっていく。
「でもみうなだって、あの時のままじゃないよ!」
「えっ……?」
眼前に迫ったみうなの身体がわずかに浮かび上がった。
糸を使ったのか、とも思ったけど、そんな動作はなかった。
なにを……?
そしてみうなの身体が変化した。
背中から生えた翼。
その翼は稲葉貴子が持っていたヴァンパイアの翼のような禍々しい翼ではなく、強く鋭い整った翼で。
- 706 名前:第10話 投稿日:2007/04/01(日) 02:29
- 「くらえっ! みうなの新しい力を!!」
「うわっ!?」
みうなの翼が羽ばたいた瞬間、辺りの風が唸った。
急に突風が吹き荒れ、その突風はあたしの身体を直撃して。
「がっ!!」
一気にみうなの姿が小さくなり、ようやくあたしは一本の木に激突して止まった。
思わず木の根本に崩れ落ちる。
「れいな!」
「れいな!!」
ミキねぇとポンちゃんが駆けよってきて助け起こしてくれる。
でもそんなあたしたちにまた風が束となって襲いかかってきた。
「くっ、なに、急にこの風は!?」
「! あの翼はっ!!」
風の攻撃に耐えていると、急にポンちゃんがなにかに気付いたように叫んだ。
その瞬間、風は嘘のように消えて。
「フフッ、気付いたみたいね。みうなの新しい力はこの翼よ。風を操るドラゴン、リンドブルムの翼。
この大陸最強のモンスターの力よ。さすがに力を手に入れるのは骨だったけどね」
リンドブルム……。
確か魔境の最奥に生息していると言われる、伝説のドラゴンだ。
雲よりも高く飛ぶ強靱な翼で、風を自在に操ると言われている。
まさかそんなモンスターの力を手に入れたなんて……!
- 707 名前:第10話 投稿日:2007/04/01(日) 02:30
- 「おかげでみうなは風を支配できるようになったわ! くらえっ!!」
「うわっ!!」
みうなの翼が羽ばたくと、また風が渦巻いた。
吹き続ける突風に、あたしたちは固まって耐えるしかない。
これじゃ攻撃どころか、防御すら……!
「あさみ、今よ! 始末しちゃって!!」
「了解!!」
みうなの言葉に、足下から返事が聞こえた。
足元を見た瞬間、地面が割れ、そこから剣をかまえたあさみが飛び出してきた。
風の影響を受けない地中を!?
飛び上がったあさみの剣が鈍く光った。
「これで終わりよ!!」
やばい、避けられない……! その前に、動けない!!
このままじゃ殺られる!! そう思った時……
あたしの前に、すっと背中が現れて。
ギィン!!
「なっ……!?」
あさみは弾かれ、地面に着地した。
あたしの目の前にはミキねぇが立っていた。
「バカなっ!? この風の中、なんで動ける!?」
まだみうなの起こした風は収まっていない。
現にあたしとポンちゃんはまったく動けない状況だって言うのに。
ミキねぇはまるで風などまったく吹いていないかのように、優雅に剣をかまえている。
「こんなので風の支配だって? 笑わせるね!」
ミキねぇはかまえていた剣を鞘に収めた。
そして戸惑っているみうなとあさみを尻目に、ゆっくりと左手を天にかざす。
「本物の風の支配ってヤツを、見せてやる!!」
- 708 名前:第10話 投稿日:2007/04/01(日) 02:30
- 急に空の彼方から緑色の光が風を切り裂き侵入してきた。
その光は一直線に、ミキねぇのかざした左手に止まって。
発光が止んだ時、ミキねぇの左手には今まで着けていなかった指輪が現れていた。
エメラルドのような、緑色の宝玉が輝く指輪。って……まさかっ!?
それはすぐに確信に変わった。
ミキねぇの背中からも翼が生えた。
それは柔らかくてきめ細やかな、純白の羽根。
じゃあまさかミキねぇは……風の民?
いや……風の…王……?
- 709 名前:片霧 カイト 投稿日:2007/04/01(日) 02:35
- 今回はここまでです。なんとか今はこのくらいのペースで更新……できればなぁ(願望
でもって、ようやく登場。むしろ判明でした。
一応前作から振り返っても風魔法しか使ってない……はず……(ぇ
>>698 名無飼育さん 様
はい、けっこう大変な展開でしたねぇ。
でも今回のほうがもっと大変かも(ぉ
- 710 名前:みっくす 投稿日:2007/04/01(日) 21:13
- 予想しなかった展開。
そんな伏線が張ってあったのか。
- 711 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/03(火) 10:18
- おおおおおお
- 712 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/12(木) 22:12
- おおおおおお
想像も出来ない展開で続きが楽しみです
- 713 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:27
- 「出でよ! 風の魔剣、ストームセイバー!!」
ミキねぇの左手に輝く深緑の宝玉がリングから外れ、空中に浮かび上がる。
宝玉がひときわ明るく輝くと、宝玉に吸い寄せられるように暴風が巻き起こった。
宝玉が風を吸い込んでいる!?
宝玉の周りを風が渦巻く。
渦巻きながら、風はゆっくりと凝縮されていった。
そして辺りの風が止んだ頃、風は剣の形となっていた。
ミキねぇがその剣をしっかりと握る。
あれが風の魔剣、ストームセイバー……。
真っ直ぐで細い剣身は、ミキねぇがいつも使っていた剣とどこか似ていた。
「くっ!!」
みうなが翼を羽ばたかせる。
また周囲に嵐が巻き起こる。
「うわっ!?」
あたしとポンちゃんはまた強風にあおられたけど……
「ふんっ!」
ミキねぇは平然と、ストームセイバーを振り抜いた。
その瞬間嵐は切り裂かれ、何ごともなかったかのように収まった。
- 714 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:28
- 「こんな風、ミキには通用しない」
「うっ……」
みうなとあさみがたじろいだのが確かに見えた。
あたしとポンちゃんは風が収まったので、ようやくミキねぇの元に歩み寄る。
「ミキねぇ……」
聞きたいことは山ほどあるんだけど、なにから聞いたらいいのかわからない。
ミキねぇもそれを察したようで、ニコッと笑っただけでまた前を向いた。
「いろいろ言いたいことはあるんだろうけど、まずは敵を片づけてからね」
「あっ、はいっ!」
そうだ、まだみうなとあさみを倒したわけじゃない。
ミキねぇの圧倒的な力があるにしても、相手はかなりのくせ者だ。まだ別の力を
隠し持っているかもしれない。
油断はできない。まずはみうなとあさみを倒すことに集中しなきゃ!
「くらえっ!」
みうなの翼がまた羽ばたき、辺りの風がざわめく。
でもミキねぇは、今度は発動すら許さなかった。
ストームセイバーの一振りで、風は沈黙した。
- 715 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:29
- 「そんな! 風の竜であるリンドブルムの力なのに!?」
「こんなのミキの前では涼風も同然だよ」
「くっ……!」
風が効かないとわかったみうなは、今度は手から糸を発する。
でも今度はミキねぇの翼が羽ばたいた。
翼から生じた風は鋭い真空波となり、みうなの糸をズタズタに切り刻む。
「みうなっ!!」
あさみが剣を握り、みうなの元に駆けつけようとしたけど……
「ここから先は行かせないと!!」
あたしはあさみの進路を遮った。
振り下ろしたダークブレイカーはあさみの剣で受けとめられる。
「くっ、どけっ!!」
「どかないと! ミキねぇの風ではあんたは倒せんからね!」
「そう! だから今度は私たちがあなたを足止めする番よ!」
あさみの前から飛び退くと、あたしの背後から飛んできた炎の槍があさみに突き刺さった。
- 716 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:29
- 「ぐあっ!!」
さらにポンちゃんは追撃の魔法をすでに作っていて。
あさみの足下に蒼い魔法時が広がる。
「クリスタル・アブソリュート!!」
「なっ!?」
冷たい風が吹き荒れる。
見るとあさみの足が地面に氷で固められていた。
なるほど、これなら動くことはできない……。
「ふんっ、甘いわよ!」
「げっ!?」
と思ったが、あさみは戸惑うことなく持っていた剣で自分の足をぶった切った。
そのため前のめりに倒れ込んだが、切った足はさっそく再生して、あっという間に元通りになり、
その場にまた立ち止まる。
やっぱりリビングデッドを足止めするのは厳しい……。
「ミキねぇ!」
「わかってる! 一気に決めるよ!!」
翼の羽ばたきに合わせ、ミキねぇの身体がわずかに浮かぶ。
そしてミキねぇは宙を滑るようにしてみうなへと向かっていった。
- 717 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:30
- 「うわっ!!」
次の瞬間にはみうなの身体にいくつもの傷ができていた。
みうながその場に崩れ落ちる。
ミキねぇはみうなの背後に移動していて。
すごい……まったく見えなかった……。
「全力で行くわ! これで決めるよ!!」
ミキねぇがストームセイバーを高く掲げる。
すると急にストームセイバーに向かって風が吹いた。
周囲の風を全て集めている!?
これは……もしかして……
「極魔法、エアリエル・テンペスト!!!」
集められた風が解放され、一気に暴発した。
風は辺りを吹き荒れた後、みうなとあさみに向かっていく。
「うわっ!?」
「なにこれっ!?」
そしてみうなとあさみの周囲を取り囲んだ。
風の束が渦になり、みうなとあさみを縛り付ける。
- 718 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:31
- 「エアリエルテンペストは、周囲の風を完全に支配する魔法。リビングデッドだろうが
なんだろうが指一本動かせはしないわ! 紺ちゃん、今よ!!」
「はいっ!!」
ポンちゃんの両手が真っ赤に燃え上がる。
魔力は炎となり、炎は翼となって辺りに熱を撒き散らす。
これは……前田さんから受け継いだ……極魔法……
「ゴッド・フェニックス!!!」
紅蓮の鳳凰が灼熱の風を纏いながら嵐の中を翔ていく。
「くっ、うわああぁぁああっ!!」
「があああぁぁぁああっ!!」
そしてみうなとあさみを飲み込んだ。
風と炎、二つの極魔法。
さすがにこれを食らったらひとたまりもなかったようだ。
鳳凰が去ったあと、みうなとあさみは完全に消滅していた。
- 719 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:32
- 「やりましたね!!」
「うん!」
みうなが辺りに張っていた糸が消えていく。
すると……
「きゃあああぁぁぁあっ!!」
上空から複数の悲鳴が聞こえてきた。
そういや絵里たちは遥か上空でみうなの糸に捕まっていたのであって。
みうなの糸が消えたということは、もれなく……落下してくる!!
「やばっ!!」
しかもまとめて落下してくるもんだから、さすがに受けとめきれない。
ていうか正直一人だけだったとしても、受けとめきれるか自信がない。
このままじゃ、地面に激突!?
「アッパー・エアフロー!!」
でもその時、ミキねぇの声と同時に強烈な上昇気流が周囲に巻き起こった。
その上昇気流のおかげで落下速度にブレーキが掛かり、絵里たちはみんな無事に
地面に降り立った。
「ふあ〜、ようやく助かった〜!」
「よかったとね、絵里」
他のみんなも全員無事に救出されたようで一安心。
「さてと、それじゃあ……」
風が収まると、ミキねぇがみんなの中心へとあゆみ出た。
背中の翼がバサッと羽ばたく。
「ミキの国に案内しようか」
- 720 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:34
-
◇ ◇ ◇
「着いたわ、ここよ」
「うわっ……」
思わず感嘆の声が漏れた。
ミキねぇの魔法でやってきたのは、雲の中。
風の王国、エル・クラウド。
そこは辺り一面白、いや、雲に覆われた世界だった。
「ここはエル・クラウドの入り口みたいなものかな。居住区はもうちょっと上の層になるから」
そういってミキねぇは先頭に立って歩き出す。
あたしたちもミキねぇのあとを追うが、やっぱりちょっと歩きづらい。
それはきっとこの雲の地面のせい。
確かな感触はあるんだけど、それでもやっぱり土の地面よりも弾力があり、慣れないと
なんかちょっと変な感じ。
「ねぇ、れーな」
「んっ?」
歩いていると、となりに並んだ絵里が話しかけてきた。
「藤本さんが風の王だって知ってた?」
「まさか。松浦さんだって知らなかったんだし」
そう、ミキねぇは松浦さんにすら風の王だってことを教えていなかった。
なので今松浦さんはちょっとご機嫌ナナメ。
最後尾を歩きながら、先頭のミキねぇを睨みっぱなし。
- 721 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:34
- 「ていうかミキねぇ、なんで最初にエル・クラウドに来た時教えてくれなかったんですか!!」
「うんっ?」
とりあえずあたしは前を歩くミキねぇに聞きたかったことをぶつけてみる。
ミキねぇは一度後ろを振り返ったけど、また前を向いて歩きながら答えた。
「だって水の王国に行ってみたかったんだもん」
「はぁ?」
「風の王国の掟で、風の民だって知られたら国に帰らなくちゃいけないんだよね」
「自由気ままなヤツが多いから、そのぶん掟が多いのよ〜」とミキねぇは締めくくった。
その「自由気ままなヤツ」の筆頭がなにを言う……。
「でも空飛べるんだったら、空飛んで違う大陸に行けばいいじゃないですか?」
「それがそううまくもいかないんだなぁ」
ミキねぇの背中にある翼が一回バサッと羽ばたいた。
- 722 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:36
- 「ミキたち風の民が持ってる翼はドラゴンが持っている翼みたいに長時間飛べるような翼じゃ
ないんだよね。海を越えるなんて絶対ムリ。しかも水鳥の翼とも違うから、海の上ではすぐ
重くなっちゃうのよ。そのぶん速さと風を操る能力は右に出るものはいないけど」
「ふ〜ん……」
「まぁ、要するに、下手に手を伸ばせば届きそうだから、よけいに憧れちゃうものなのよ」
「・・・・・・」
遠くを見つめるミキねぇの瞳は綺麗に輝いていて。
そんな様子を見ていると、「まぁ、いいか」と思えてきちゃう。とりあえずエル・クラウドにも
到着したんだし。
と、その時雲の影から一人の少女がぴょこっと顔を出した。
「あれっ?」
「あっ!!」
その子はミキねぇを確認すると、一瞬驚いたけどすぐに笑顔になって。
「藤本様、帰ってきたんですね!!」
完全に雲の影から出たその子の背中には、ミキねぇと同じ翼があった。
白ばっかりだからよくわからなかったけど、どうやらこの辺りが居住区の入り口付近のようだ。
その子に続くように、ぞろぞろと風の民が集まってくる。
- 723 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:37
- 「みんな、ただいま!!」
ミキねぇがみんなに挨拶すると、小さな歓声が上がった。
最初に出てきた娘なんてミキねぇに飛びついている。
「おかえりなさい、藤本様〜!」
「うん、ただいま」
歓声はしばらく収まらなかった。
案外人望あるんだなぁ、ミキねぇ。
歓声が収まると、ミキねぇは抱きついたままの女の子に話しかけた。
「そういやさ、マキちゃんは?」
「えっと、この騒ぎだからそのうち駆けつけると思いますよ」
「ん、そっか」
すると今までずっと最後尾で睨んでいた松浦さんが、急に前に出てきて。
「たん〜、"マキちゃん"ってだぁれ〜?」
ものすごい笑顔でミキねぇに詰め寄った。
ミキねぇの口から出てきた名前に何かを感じ取ったらしい。
- 724 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:38
- 「あ、え、えっと……マキちゃんは早乙女マキって言って、ミキの補佐官みたいなものかな……?
れいなたちは会ったことあるよね?」
ミキねぇがさりげなく視線を松浦さんからあたしにシフトしならが答える。
えっと、会ったことあるって?……というと、もしかして最初にエル・クラウドを訪れた時に
出てきてくれたあの人かな?
そう思った時、集まった風の民の後ろから聞き覚えのある声が響いてきた。
「なんなの、この騒ぎは?」
「あっ、来たみたいですよ!」
女の子がミキねぇから離れる。
それと同時に集まった風の民が左右に分かれて。
「あっ、マキちゃん!」
「えっ……ミキちゃん……?」
その向こうにいたのは、やっぱりあの時の女の人。
早乙女さんはミキちゃんの顔を見て、しばらく驚いていたけど。
そのうち体が小さく震えだして。
「ミキちゃん!!」
風の民の間を、ミキねぇに向かって走り出した。
ミキねぇもゆっくりと腕を広げて、早乙女さんを迎える。
感動の再会ってヤツか……。
そんなふうに思ってたんだけど……
- 725 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:38
- 「今までどこ行ってたんだぁーーーっ!!!」
「むがっ!?」
早乙女さんの右ストレートがミキねぇの顔面を撃ち抜いた。
でもってそのまま吹っ飛ぶミキねぇ。
おぉ、ナイスパンチ。
って、あれ? 感動の再会は……?
「い、いきなりなにすんのよ、マキちゃん! ていうかいくらなんでもグーは酷いでしょ!
せめてパーにして!!」
「うるさい!!」
そのまま早乙女さんはミキねぇの胸ぐらを掴んで無理矢理起こす。
「アタシがどんなに大変だったかミキちゃんにわかる? いきなりミキちゃんがなんにも言わずに
いなくなって、アタシはエル・クラウドをまとめなくちゃいけなくなって」
「え、えーと……」
なにも言わずに旅に出たのか、ミキねぇは……。
そりゃあ殴られても仕方ないなぁ……。
ミキねぇは早乙女さんに睨まれて、顔を引きつらせている。
でも、そんなミキねぇの頬に雫が一つ落ちた。
- 726 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:39
- 「えっ……?」
「うっ……くっ……」
涙に濡れた瞳で、それでも早乙女さんはミキねぇを睨みつける。
「アタシがどれだけ……心配したか……わかる……?」
「マキちゃん……」
殴られるより泣かれる方がミキねぇは応えたみたい。
早乙女さんを抱きしめ、「心配かけてごめん……」と囁いた。
早乙女さんもミキねぇに抱きつき、ミキねぇの胸に顔を埋めて泣きじゃくる。
なんだ、やればできるんじゃん。
と、なかなか感動的な場面だったんだけど。
なんか、隣りから、強烈な、殺気が……。
そっちを向いてみると、あ〜らやっぱり松浦さん……。
松浦さんはあたしたちを押しのけて、ミキねぇの前に立ちはだかる。
「たん〜!」
「あ、亜弥ちゃん……?」
松浦さんの顔はさっき以上の凄まじい笑顔。その笑顔が逆に怖い。
ミキねぇの顔がまた引きつる。
ミキねぇに抱きついていた早乙女さんも身体を離し、後ろを向いて松浦さんを確認する。
- 727 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:40
- 「ミキちゃん、誰この人?」
「えっと、亜弥ちゃんはミキの旅を手伝ってくれて……」
ミキねぇの説明がおわる前に、松浦さんが割り込む。
「みきたんの恋人の松浦亜弥で〜す!」
「こ、恋人っ!?」
「えっ!? いつの間にミキたち恋人になったの!?」
わざわざ「恋人」を強調した松浦さんの言葉に早乙女さんが目を見開く。
そしてそのままミキねぇに向き直り……
「ミキちゃんの浮気者ーーーっ!!!」
「むごっ!?」
今度はミキねぇのリクエスト通り、強烈な平手打ちがミキねぇの頬を張り飛ばした。
パァン! といい音が辺りに響く。
- 728 名前:第10話 投稿日:2007/04/17(火) 12:41
- 「アタシというフィアンセがありながら、いきなり外に愛人作るなんて!!」
「ふぃ、フィアンセっ!?」
「いや、フィアンセって言ったって、親同士の軽い口約束みたいなもんだし……」
今度は松浦さんが飛び上がる。
へぇ〜、エル・クラウドでも同性同士で結婚できるんだぁ。
「ていうか誰が愛人だぁ!!」
「あんたしかいないでしょうが!!」
早乙女さんと松浦さんが互いに威嚇し合う。
そのあいだをなんとかミキねぇが抜けて、あたしたちの前に戻ってきた。
叩かれた左頬をしっかりと押さえながら。
「まぁ、とりあえずここはミキの国だから。好きなだけ滞在していって。あんまり
落ち着かないかもしれないけど……」
「たぶん落ち着かないのはミキねぇだけだと思いますけど……」
でもとりあえず今日はもう戦いの疲れでヘトヘトだったので、ミキねぇの言葉に甘え、
エル・クラウドにお世話になることにした。
- 729 名前:片霧 カイト 投稿日:2007/04/17(火) 12:51
- 今回はここまでです。とりあえずバトル終了。
でもってどこかで見たような新キャラも(笑
いや、ここまで長いストーリーになるとどうしても人が足りなくなっちゃうんですよ、えぇ。
まぁ、そんなのは建前で、本音はごまみきが書きたか(銃声
進むに連れてこんなキャラがまた出てくるかもです(何
>>710 みっくす 様
はい、実は張ってあったんです、奇跡的に(笑
途中からは計算でしたけど、最初は本当に偶然でした。
>>711 名無飼育さん 様
驚いていただけたようで何よりです(笑
>>712 名無飼育さん 様
けっこうばれてたかなぁ、と思ってたんですが、案外ばれてなかったようで。
ちょっと一安心でした。
- 730 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/17(火) 13:47
- こんなところで婚約者とは!w
- 731 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/18(水) 04:14
- イイヨー(・∀・)イイヨー
- 732 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:44
- 「おぉ〜!」
部屋に入った絵里が歓声を上げる。
続いて部屋に入ったあたしも目を丸くする。
松浦さんと早乙女さんの威嚇が一段落したあと、ミキねぇは早乙女さんに連れ去られてしまった。
仕事が溜まっているらしい。それはそれは溜まっているらしい。
そしてあたしたちはそれぞれ木でできたコテージに通された。ちなみにあたしは絵里と一緒。
普通の木造の家と変わらない作りと内装。
でも唯一違って、部屋に入って真っ先に目に飛び込んできたのは……雲でできたベッド。
「わ〜い!!」
絵里が思いっ切り雲のベッドにダイブする。
「わ〜、すっごいフカフカ〜!! れーなもおいでよ〜!!」
言われるまでもない。
あたしも絵里に続いて、雲のベッドに飛び込んだ。
「はぁ〜……」
思わず溜め息が漏れる。
それはどんな干したての布団よりもフカフカで、この疲れた身体では目を瞑ったら
1分ももたないだろう。
「あっ、れーなもう寝るの? じゃあ絵里がいっしょに添い寝してあげっ……!?」
絵里があたしのベッドに這い上がる前に蹴り落とす。
今は絵里の冗談に付き合ってる体力残ってないとよ。
あたしはそのまま雲でできた掛け布団に潜り込み、すぐに意識を失った。
- 733 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:45
-
◇ ◇ ◇
「ふぁ……」
昨日は雲のベッドに倒れ込むとすぐに寝てしまったため、その反動か今日はやけに早く
目が覚めた。
う〜ん、と身体を伸ばす。絶妙なフカフカさだったベッドのおかげで体力は完全回復。
でもさすがにまだ朝早いらしく、となりの絵里は熟睡中。
それなら特訓でもしてようか……。
あたしはベッドから降り、コテージを抜け出した。
外へ出てダークブレイカーをかまえる。
そして、まずは素振りから始めたんだけど……
「ハァ…ハァ……あれ……?」
たいして特訓してもいないのにもう息が切れてる?
おかしい……しっかり寝て体力も満タンだっていうのに……。
「な、何で……?」
思わず首を傾げると……
「あはは、それはね、ここは高度が高いから空気が薄いんだよ。だから慣れないとちょっとの
運動でも息が切れるわけ」
後ろから掛けられた声。
この声は……
- 734 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:46
- 「ミキねぇ?」
「おはよ、れいな。早いねぇ〜!」
振り返るとそこにいたのはやっぱりミキねぇだった。
「ミキねぇだって早いじゃないですか」
「いや、ミキはどっちかって言うと遅いのかな……?」
「ふわぁ〜あ」と大きなあくびをするミキねぇ。
その様子はやけに眠そうで。
「もしかしてミキねぇ、寝てないとですか?」
「うん、まぁ……マキちゃんが寝かせてくれなくて……」
「えっ……!?」
その言葉に思わずあらぬ想像をしてしまい、顔が熱く火照る。
そりゃまぁ、婚約者同士が久々に会えばそういうことだって……あぅあぅ……。
ミキねぇもあたしの反応に気付いたようで、慌てて手をブンブンと振る。
「ち、違うッ!! 一晩中仕事から解放してくれなかっただけで、れいなが想像してるようなことは
してない!!」
「あっ、そ、そうですよね!!」
「そりゃ確かに途中で押し倒されかけたけど、なんとか抵抗したから!!」
「い、いや、そこまで聞いてないですから……!!」
朝に不釣り合いな会話を繰り広げたあたしたちはお互いにゼーハーと息を切らす。
ミキねぇがゴホンと咳払いをして、なんとか場を元に戻す。
- 735 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:46
- 「まぁいいや、れいなに話があったんだよね。丁度よかった。ちょっと付き合ってくれない?」
「あっ、はい、いいですけど」
差し出されたミキねぇの手を何気なく掴む。
すると突然ミキねぇの背中から真っ白な翼が生えて。
「えっ……?」
「よし、行くよっ!!」
「うわーっ!?」
そして身体が浮かび上がった。
雲の大地から飛び立ち、雲に囲まれた空を飛んでいく。
雲の街を見下ろしていると、目の前にそびえ立つ雲のタワーが見えてきた。
「ミキねぇ、あの雲の塔は?」
「あぁ、あれは塔じゃないよ、雲の樹。エル・クラウドの中央に立っていて、この雲に囲まれた国の中で、
唯一雲の外に出てるんだよ。行ってみる?」
「はいっ!」
ミキねぇはニコッと笑ってスピードを上げた。
雲の樹が目の前に迫ってくる。
- 736 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:48
- 「それじゃ、行くよ!」
あたしたちが雲の樹の根本まで近づくと、ミキねぇは翼の向きをかえ一気に上昇しだした。
エル・クラウドは外から見たかぎりではただの積乱雲に見えるが、その雲は実は外壁みたいなものでしかない。
その中身はいくつかの層に分かれているらしく、居住区はその一番上の層にある。
そして、上は雲で覆われていない。つまりはコップみたいな構造。
なので一番上の層にある居住区からはちゃんと空が見える。
雲の壁に囲まれた空は、思い出したくないけど、孤児院で見上げていた空にちょっと似ていた。
ちなみにその空はいつも快晴とのこと。そりゃそうだ。
そうこうしているうちに雲の樹のてっぺんが見えてくる。
そしてあたしたちはとうとう雲の外壁を越える高さまで上った。
「じゃ〜ん!!」
「うわ……」
思わず言葉を失った。
眼下に広がる白い雲の海。そして頭上に広がる青い遙かな空。
白と青の境界の世界に今あたしたちは存在している。
そして白い海の果てに見えるのは……緑の地上。
「すごい……」
「でしょ? ミキのお気に入りのスポットなんだ!」
「はぁ〜……」
あたしは雲の樹の枝に降ろされた。
ミキねぇもあたしの隣りに腰掛ける。
あたしはしばらくの間景色に目を奪われていたけど……
- 737 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:51
- 「昨日もちょっと言ったけど……」
「えっ?」
ミキねぇがポツリと呟いた。
その台詞であたしは現実に戻ってくる。
「エル・クラウドの掟でね、風の民だってことが知られた者はエル・クラウドに戻らなくちゃならない」
「はい……」
なんとなくわかってた。
ミキねぇは風の民で、しかもその王様で。
「だから……悪いけどミキがつき合えるのはここまで」
「そう……ですよね……」
「なんか亜弥ちゃんも残る気満々みたいだし……」
「あぁ、やっぱり……」
まぁ、ミキねぇ一人残していく松浦さんじゃないよな……。
「だから、ミキはここまで。最後までつき合えなくてごめんね」
「いえ、そんな、今まで助けてくれてありがとうございました」
ミキねぇは左手の中指にはめていた、緑色の宝玉を持つ指輪を外した。
そしてそれをあたしの右手に乗せる。
「この世界、頼んだよ」
「はい……」
ミキねぇの思いが詰まった指輪をギュッと握りしめる。
そして右手人差し指に指輪を通した。
これで残すはあと二つ……。
- 738 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:52
- その時、冷たい風が吹き抜けた。
その風があたしの身体を冷やして……
「はくしゅんっ!!」
「あっ、寒い? そういやここかなり高いからね」
「いえ、大丈……」
ミキねぇの背中から白い翼が生えた。
そしてあっという間にあたしを包みこんだ。
「うわっ、ちょ、ミキねぇ!?」
「あったかいでしょ? 羽毛100%よ」
「いや、そういうことじゃなくて……」
ギューッと抱きしめられて、身体よりも顔があったかく、むしろ熱くなる。
無意識なのかな? 無意識なんだろうな……。こんなふうにされて松浦さんも早乙女さんも
きっと好きになっちゃったんだろうな……。
いや、あたしはポンちゃんという心に決めた人がいるから大丈夫ですけどね。
その時、雲の海の彼方からまぶしく輝く太陽が昇ってきた。
太陽の光に照らされ、白い海がキラキラと輝く。
「さて、そろそろ戻ろっか。みんなも起きてくるだろうし」
「そうですね」
あたしたちはまた手を繋ぎ、雲の樹を下っていった。
雲の樹もまた光を浴びてキラキラとまぶしかった。
- 739 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:53
-
◇ ◇ ◇
「というわけで、ミキと亜弥ちゃんはエル・クラウドに残るから」
「あっ、そうなんですか……」
「ごめんねぇ、でもみきたんが浮気しないかちゃんと見張ってないといけないから」
「・・・・・・」
その後、みんな集まった会議の席で、改めてミキねぇと松浦さんはみんなに別れの旨を告げた。
「れいな、魔剣はもらったの?」
「あっ、はい、さっき」
隣のポンちゃんに、指にはめた指輪を見せる。
「そっか、じゃああと残り二本だねぇ」
「それなんですけど……」
ダークブレイカーを剣に戻してかざす。
放たれた二本の光は薄く、遙か彼方を目指している。
やっぱりこれは……
「別の大陸……ですかねぇ……」
「うん、たぶんね。ミキも地と雷の魔剣に関しては聞いたこともないんだ」
風の王であり、アップフロント大陸中を放浪していたミキねぇが知らないということは、
アップフロント大陸には本当にないんだろう。
- 740 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:54
- 「じゃあ別の大陸に渡らないといけないんですね」
「れいな、確かスコティアを立つ時柴田さんが……」
「そういえば、別の大陸まで送ってくれるとか言ってましたね……」
「水の民は水中を自由に泳げるからねぇ、別の大陸まで泳ぐこともできるんでしょう」
「羨ましいなぁ」とミキねぇは呟いた。
とりあえずあたしたちの進むべき道はまたスコティアへと戻ることに決まった。
「まったく……ミキねぇがさっさと魔剣を渡してくれれば、こんなに時間もかからなかったのに……」
「あっはっは、ごめんごめん、お詫びにスコティアまではちゃんと送るから」
「えっ、エル・クラウドにも転送用の魔法陣とかあるとですか?」
「残念だけど魔法じゃないよ。それにスコティアには魔法じゃ入れないし」
じゃあ何? と聞こうとしたけど、その前に部屋の扉が開いた。
そこから顔を覗かせたのは早乙女さんで。
松浦さんの目つきが一瞬で鋭くなった。
「ミキちゃん、用意できたよ」
「ありがと、マキちゃん。それじゃみんな、ついてきて!」
ミキねぇは椅子から立ち上がると、さっさと部屋を出て行ってしまう。
あたしたちはいったいどこに行くのかもわからず、顔を見合わせながらもミキねぇについていく。
雲の建物を出て、街を通り抜け、街の外れまで辿り着くと、そこで待っていたのは……。
- 741 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:54
- 『ブルルルル……!!』
「う、わぁっ!!」
あたしたちはそれぞれ感嘆の声を上げた。
そこにいたのは真っ白な馬が六頭。
でもそれぞれの背中には、同じように純白の羽根が突き出していた。
ペガサスだ……! すごい、初めて見た!!
「ミキねぇ、これ全部飼ってるんですか?」
「飼ってるって言うより共存してるって言った方がいいかもね。なんかいつの間にかここが
気に入っちゃったみたいで」
ミキねぇがペガサスを撫でる。
するとペガサスは気持ちよさそうに鼻を鳴らした。
「さ、どれでも好きなのに乗って。スコティアくらいまでだったら簡単に飛んでいけるから」
「わーい、ののはこれにするのれす!」
「加護はこれやーっ!」
真っ先に辻さんと加護さんが、それぞれペガサスの背中に飛び乗った。
「じゃあ、あたしはこのコに。あさ美ちゃんは?」
「それじゃあ……このコにしようかな」
続いて高橋さんとポンちゃんも優雅にペガサスの背中にのった。
「うぅ〜……大丈夫かなぁ……?」
絵里はおっかなびっくりといった感じで、なんとかペガサスに乗る。
あたしも背中に飛び乗り、しっかりと手綱を握りしめた。
- 742 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:55
- 「さて、それじゃ、行くよ!」
ミキねぇがなにやら呪文を詠唱し始める。
すると、エル・クラウドの周りを覆う雲の一部にポッカリとした穴が開いた。
その瞬間、その穴に向かってペガサスたちがいっせいに走り出した。
「わわっ!?」
「振り落とされんなよ〜!」
「ミキねぇ、本当にありがとうございました!!」
なんとか振り向き、ミキねぇにお礼を言う。
ミキねぇは何も言わず、ただ笑顔で手を振っていた。松浦さんや早乙女さんもいっしょに。
そしてあたしたちは雲を突っ切り、空の中へと飛び出していった。
「うわ〜、気持ちいい〜!!」
ペガサスは空を駆け抜けるように飛んでいく。
足下にはグニパルンドの広大な森林が広がっている。
でもその森もだんだんと少なくなってくる。おそらくフェンサリルへと入ったのだろう。
エル・クラウドはもう他の雲に紛れてどれかわからなくなってしまっていた。
わずかな時間の、優雅な空の旅。
まぁ、どこからか絵里の絶叫が聞こえてこなかったらもっとよかったんだけど……。
それも眼前に海が見えてきたことによって終わりを告げる。
ペガサスたちが高度を落としていく。
そしてペガサスたちが目指す海岸には、マーメイドが一人待っててくれていた。
- 743 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:57
-
◇ ◇ ◇
「おかえり。ミキティから魔剣ちゃんともらえたみたいね」
柴田さんは一言目でそんなことを言ってよこした。
あたしは柴田さんを軽く睨みつける。
「柴田さん、ミキねぇが風の王だってこと知ってましたね?」
「まぁね、会ったことはなかったけど名前くらいは。だから柴田はてっきり風の魔剣を
もらったあと、一緒にスコティアまで来たのかと思ったよ」
「だったら教えてくれたっていいじゃないですか!」
「いやまぁ、ミキティにもなんか事情があったんだろうし。それに結局ちゃんと魔剣は
手に入ったじゃない?」
まぁ、結果的にはそうだけど、教えてくれればそれまでの過程がかなり楽になったはずなんですけどね。
もうちょっと文句を言いたかったけど、柴田さんが「それより」と話題を変えたので、
とりあえず文句は心の中にしまった。
「残りの地と雷の魔剣はもう一つの大陸にある。その大陸までは柴田が送っていくけど、
一度向こうに着けばそう簡単には帰ってこられなくなるよ。やり残したこととか、
思い残したことはない?」
柴田さんが覚悟を確かめるように、あたしたちの顔を見渡す。
- 744 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:57
- 「ないです」
最初にポンちゃんがはっきりとした口調で言い切った。
「れいなもないです!」
「絵里も!」
「加護もないで!」
「ののもれす!」
みんなもポンちゃんに続いて覚悟を決める。
でも、ただ一人、高橋さんの声だけ続かない。
高橋さんの方を見てみると、高橋さんはただひたすらじっと海を見つめていた。
新垣さんが眠る海を……。
「愛ちゃん……」
そっとポンちゃんが高橋さんの肩に手を乗せる。
それで高橋さんはようやく我に帰った。
「うん、大丈夫。時間もないんやし、早く行こう!」
「わかった」
ポンちゃんはくるっと柴田さんに向き直る。
「連れて行ってください、柴田さん」
「OK!」
柴田さんが魔法の詠唱を始める。
するとあたしたちは巨大な泡に包まれた。
そのまま柴田さんが海に飛び込むと、脚が魚のヒレに変わる。
あたしたちを包んだ泡が柴田さんに引き寄せられるように海の中へと進んでいった。
- 745 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:58
- 「ちょっと潜るわよ」
柴田さんの声が泡の中に響いてくる。
その声の通り前を行く柴田さんはどんどん海の底へと潜っていく。
スコティアとはまったく違う方向。水面が遠くなっていく。
そしてどれくらい潜っただろうか。
「! うわっ!?」
急にスピードが上がった。
陸地がどんどんと離れていく。
「海流を捕えたわ。ちょっとスピード上がるわよ」
また柴田さんの声が響く。
海の中の景色が流れていく。視界を横切っていくきれいな色の魚に目を奪われる。
たまに大型のアクアドラゴンがいたりするけど……。
でもアクアドラゴンが現れるってことは、もうかなり陸地から離れたってことだ。
空の旅の次は海中の旅。
ゆっくりと楽しんでいたんだけど、急にあたしたちを包む泡は浮上を始め、海流から外れた。
「あれ、どうしたんですか、柴田さん?」
「中間地点に着いたのよ」
「中間地点?」
前を向くと、そこは辺り一面無数の泡が立ち上っていた。
泡が視界を多い、先を見ることができない。
何……ここは……?
- 746 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:59
- 「ちょっと見てみる?」
そういって柴田さんはさらに浮上していった。
あたしたちを包む泡も柴田さんに続き、だんだんと水面が近づいてくる。
そしてようやく頭が水の外へと出ると……
「うわっ……」
あたしたちは一様に言葉を失った。
ゴオォォッという音が耳をつんざく。
そこにあったのは遥か空まで吹き上げる水流。それが遙か彼方まで連なっている。
言うなれば水流の壁。まさか海の真ん中にこんなものがあったなんて……。
「ここは『世界の裂け目』って呼ばれていてね、この水の壁が二つの大陸を完全に分けているのよ」
なるほど、こんなものがあるんじゃ、ミキねぇが何年かかっても夢が実現できないのも頷ける。
こんなものに耐えられる船なんてそう簡単には作れないだろう。
「観賞は済んだかしら? それじゃ、行くわよ」
柴田さんが魔法を詠唱する。
それと同時に水の壁に蒼い魔法陣が浮かび上がる。
その魔法陣がいっそう蒼く輝くと、その部分だけ、まるで何もなかったかのように、
ポッカリと水の壁に穴が開いた。
「すごいですねぇ……」
「まぁね、これでも水の民、水の支配者ですから」
柴田さんはあたしたちが入った泡を引き連れて、悠々と水の壁をくぐり抜けていく。
そして完全に通り抜けると、その穴はあっという間にふさがった。
「さて、これであと半分よ。さすがにもうこんなのはないから、ゆっくりと海中散歩を楽しんでて」
そういって柴田さんはまた海に潜っていく。もちろんあたしたちも。
しばらく潜るとまた海流を捕えたようで、スピードが上がった。
もう少し……この海流の先には、まだ見ぬ新しい大陸があるんだ……。
- 747 名前:第10話 投稿日:2007/05/04(金) 16:59
-
- 748 名前:片霧 カイト 投稿日:2007/05/04(金) 17:14
- 今回はここまでです。
ようやく10話が終わり、三本目の魔剣も手に入れ、れいなたちもアップフロント大陸を旅立ちました。
そういった意味で、けっこう節目な感じです。
距離的にはようやく半分。ストーリーは半分……越えた☆カナ?
>>730 名無飼育さん 様
婚約者……出しちゃいました(笑
はい、やりたい放題でもうしわけ……。
>>731 名無飼育さん 様
どうもです。
これからもやりたい放題で行きます!!(反省なし
- 749 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:20
- 〜藤本美貴〜
「ミキちゃん、ミキちゃん、まきね〜、おおきくなったらミキちゃんのおよめさんになる!」
「え〜、ダメだよ〜、みきがマキちゃんのおよめさんになるの!」
「まきがなるのー!」
「みき!」
「まき!」
「みきなの! もう、マキちゃんなんてきらい!」
「ふぇ!?」
「あ、あれ、マキちゃん……?」
「ふぇぇぇええええ……!」
「わっ!? ま、マキちゃん、なかないでよ!」
「だって、だって……ミキちゃんがマキのこと、きらいって……」
「う、うそだよ! マキちゃんをきらいなわけないでしょ?」
「じゃあ……すき!?」
「すきだよ! だいすき!」
「まきもミキちゃんのことだいすきー!」
- 750 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:21
-
◇ ◇ ◇
「ミキちゃん、起きて〜!!」
「う〜ん……」
目をうっすらと開けるとそこにはマキちゃんの顔があった。
なんか夢を見てた気がしたけど、一瞬で忘れた。
「もうちょっと寝かして……」
「ダメ! 仕事が溜まってるんだから!!」
「む〜……」
マキちゃんの声から逃れるようにアタシは雲の掛け布団を頭からかぶる。
でもその布団もすぐに引っぺがされた。
「もう! ミキちゃんはエル・クラウドの女王なんだよ! 今日はグニパルンドの王様に挨拶に
行くんだから!」
「なりたくてなったわけじゃない〜!」
「そんな言い訳は通用しない!」
「とにかくもうちょっと寝るーっ!!」
アタシはなんとか掛け布団を取り戻し、マキちゃんに背中を向ける。
マキちゃんはアタシに聞こえるように、大袈裟に溜め息をつくと、アタシの耳元に唇をよせ……
「さっさと起きないと……襲うよ?」
背中に一筋いやな汗が流れた。
それと同時にアタシは飛び起きる。
マキちゃんが満足そうに笑った。
「あっ、なんだ、冗談……?」
「さぁ、それはどうかな?」
「えっ……?」
とりあえず……起きてよかった。
マキちゃんは起き抜けのアタシに余所行きの服を放り投げてきた。
「じゃあそれに着替えてね。あっ、着替えさせてあげようか?」
「いや、いいって!」
「ちぇ〜。それじゃ、あとで」
そう言ってマキちゃんはアタシの部屋を出て行った。
今度はアタシが大袈裟な溜め息をついた。
アタシがエル・クラウドの女王になって三日目の朝。
アタシは左指に光る指輪を睨みつけた。
- 751 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:21
-
Interlude W そよ風に寄り添って
- 752 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:22
- 「はぁ〜……」
エル・クラウドに帰ってきたアタシはぐったりと雲でできたソファに倒れ込んだ。
「おつかれさま、ミキちゃん」
マキちゃんが紅茶の入ったティーカップをテーブルに置く。
アタシはのろのろと起きあがって、紅茶を一口すすった。
別にグニパルンド王との会談に問題があったわけじゃない。
グニパルンドとエル・クラウドはいたって友好的な関係だ。
事実今日会ったグニパルンド王も新しく女王となったアタシに友好的に接してくれた。
「自分にも同じくらいの娘がいる」とのことだ。その国王の娘「三好絵梨香」という名前になぜか
悪寒が走ったのは気のせいとしておく。むしろしておきたい。
つまり何がそんなに疲れたかというと、アタシはああいう堅苦しい場が苦手なのだ。
「ほら、ミキちゃん、次はこの書類に目を通しておいて」
休憩も束の間、マキちゃんはどこからか持ってきた書類の山をテーブルの上に乗せる。
アタシはまたソファに倒れ込んだ。
「めんどくさい〜……」
「そんなこと言わないの。ミキちゃん女王なんだよ!」
「だから、なりたくてなったわけじゃないって〜……」
「でも引き継いだんでしょ?」
「引き継いだんじゃないの! 押し付けられたの!」
- 753 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:23
- 三日前、エル・クラウドの国王だったアタシのお父さんは、王の証である
風の魔剣「ストームセイバー」を残し、お母さんと一緒にエル・クラウドを飛び出してしまった。
今はどこかを悠々と旅しているはず。
アタシが熟睡中の犯行だった。
よってアタシは朝起きたらエル・クラウドの女王になってたというわけで。
両親が旅立つ直前にマキちゃんにアタシの補佐を頼んでいたらしく、マキちゃんは
アタシの補佐官として働いてくれている。
つーかその前にまず出ていく両親を止めてよ!!
「でもミキちゃんはちゃんと資格もあるじゃん」
「そりゃ極魔法は使えるようになったけどさぁ……。女王なんかになったら気軽に外に
出れないじゃん……」
「もう十分いろんな所に行ったじゃん。ハロモニランドとか、ロマンス王国とか」
「まだ足りない〜!」
「と・に・か・く! 今日中にこの書類に目を通しておいてね!」
「わかった……あとでやるから、とにかく今は休ませて〜!」
アタシはソファから飛び降りると、一目散に家を飛び出した。
マキちゃんの静止の声も聞かず、アタシは翼を広げて地面を蹴る。
そしてどんどん空へと向かって飛んでいく。
目指すのは雲の樹。その一番てっぺん。
視界が開け、雲の壁の切れ目から無限の空が現れる。
アタシは雲の枝に腰掛けた。今日も気持ちのいい風が流れている。
- 754 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:24
- 彼方に見える陸地と、遙かなる、海。
無限に見える海。でもその向こうにはまったく違う世界が広がっている。
いつからか、夢見てた。
いつからか、目指してた。
きっかけはなんだっただろう? 確か、まだ小さい時にお母さんに聞かされた御伽話
だったような気がする。
遙かなる海を越えた先には新しい世界が広がっている。
それが子供心に強烈に焼き付いた。
だから子供のころからエル・クラウドを抜け出して、いろいろなところに冒険しに行った。
最初は特に海の近くの町を中心に。
一番気に入ったのはハロモニランドのハチャマという街だ。
すごく海がキレイだった。なのでかなり長い間その街に居着いてしまった。
そのあいだに友達ができたりもした。ハチャマに住んでいる亜弥ちゃんという女の子。
今ごろどうしているだろう?
とにかく、アタシはここに留まってるわけにはいかない。
まだアタシは夢に辿り着いていないのだから。
「ふぁ〜あ……」
枝の上で大きく伸びをする。
するとなにやら下の方が騒がしくなってきた。
思わずそっちを見ると、樹の根本にマキちゃんがいた。
そのマキちゃんを小さな子供や、大人が囲んでいた。
アタシを呼びに来たところを捕まった。こんな感じだろうか?
子供たちがマキちゃんに手を振りながら去っていく。マキちゃんも手を振って子供たちを見送る。
大人たちはマキちゃんに頭を下げている。マキちゃんも困ったように笑いながら頭を下げる。
マキちゃんは風の民の人望も厚いし、仕事だってちゃんとできる。立派に人の上に立てる素質がある。
マキちゃんの方が女王にふさわしいと思うんだけどなぁ……。
- 755 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:25
- ようやく解放されたマキちゃんが顔を上げ、アタシと目があった。
マキちゃんの背中から翼が生える。
マキちゃんの翼が羽ばたくと、雲の樹をぐんぐんと上り、あっという間にアタシの目の前にやってきた。
「やっぱりここにいた〜!」
「なによ〜! まだ帰らないよ〜!」
「え〜? もう、しょうがないなぁ」
マキちゃんは溜め息を吐くと、アタシのとなりに腰を下ろした。
背中の翼がパッと消える。
「あれっ? 呼びに来たんじゃないの?」
「ううん、アタシも休憩しに来たの」
「なんだぁ……」
身構えて損した……。
そんなことを考えていると、隣りに並んだマキちゃんがそっとアタシに寄り添ってきた。
「ちょ、何、いきなり!?」
「いいじゃぁん、フィアンセなんだから!」
「フィアンセって……だからそれは親同士が昔勝手に決めたことで……」
それもうやむやのままアタシの両親は旅立っちゃったし……。
マキちゃんの両親はもう数年前にどっか行ったっきり。
腕まで絡めてきたマキちゃんからなんとか逃れようとすると、不意にマキちゃんと目があった。
- 756 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:26
- 「ミキちゃんは、そんなにアタシと結婚するの、イヤ?」
「えっ……?」
思わず動きが止まる。
その隙にマキちゃんはアタシの身体を捕まえた。
背中にマキちゃんの手が回り、顔が接近する。
「そんなに、アタシと結婚するの、イヤかな……?」
マキちゃんの瞳は不安に揺れていて。
アタシは思わず目をそらしてしまった。
「だって、親が勝手に決めたんだよ? マキちゃんはイヤじゃないの?」
「そりゃね、これが好きでもない人とだったらイヤだけど……」
そっとマキちゃんの手がアタシの頬に触れると、そのまま強引にそらした顔を元に戻された。
マキちゃんの瞳はもう揺れてなく、真剣な色を湛えていて。
「ミキちゃんなら、構わない」
「えっと……」
これって……
つまり……
愛の告白……?
- 757 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:26
- 「ミキちゃんは……いや?」
えっと、そりゃ確かに反抗してるけど、それは親が決めたことに従うのがイヤなのであって。
だからマキちゃんと結婚することに関しては別に……イヤじゃない……。
「ねぇ、ミキちゃん……」
「えっと、ミキは……」
でもその時、ズンッ、という轟音とともに、エル・クラウドが揺れた。
「うわっ!?」
枝から落ちそうになったけど、なんとかマキちゃんが支えてくれた。
体勢をなおして、音がしたほうを見てみると、そこには雲を突き破って侵入してきた
三首のワイバーンがいた。
たまにこのエル・クラウドを普通の雲と間違えて突っ込んでくるモンスターがいる。
大抵は結界で弾かれるんだけど、ドラゴンみたいな強いモンスターだと、結界を
突き破るヤツもいて。
そういったモンスターはだいたいがその時の衝撃で錯乱しているから、けっこう大変。
今回のワイバーンも例に漏れず、首を振り回して暴れ回っている。
「ちっ、めんどくさいヤツが……。マキちゃん、行くよ、援護して!」
「うんっ!」
枝を飛び降りる。
翼を生やし、そのままドラゴンへと滑空していく。
- 758 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:27
- 「ストームセイバー!!」
指輪が風を吸収し、剣の形に成る。
ストームセイバーをかまえ、さらにスピードを上げてワイバーンへと向かっていく。
アタシのとなりにマキちゃんも並んだ。
マキちゃんの手には愛用の弓が現れていた。
「きゃああああっ!」
その時悲鳴が聞こえた。
ワイバーンの前にへたり込んでいる女の子。どうやら逃げ遅れたらしい。
ワイバーンの腕が振り上げられる。
「マキちゃん!」
「うん、まかせて!」
滑空姿勢のまま、マキちゃんが弓を引き絞る。
不安定な姿勢だけど、マキちゃんが放った矢は的確に振り下ろそうとしたワイバーンの
腕を弾いた。
ワイバーンの三つの首がいっせいにこちらを向く。
その隙に女の子は立ち上がって逃げていった。
『ガアアアァァアアッ!!』
ワイバーンの首の一つから無数の氷塊が吐き出された。
ストームセイバーで切り裂くが、氷塊はまだ無数に乱れ飛んでいて。
- 759 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:28
- 「ミキちゃん!」
迫ってきた氷塊のいくつかは、後ろから飛んできたマキちゃんの矢に射抜かれた。
その間にアタシは魔法を構築する。
「ソニック・スラッシュ!!」
放たれたのは幾刃もの真空波。
真空波が氷塊とぶつかり合い、次々に相殺していく。
氷塊は全て相殺したが、今度は別の首がアタシたちを睨んで。
『ガアアアァァアアッ!!』
「うわっ!?」
今度吐き出されたのは灼熱の炎。
さすがに炎相手では部が悪い。風は炎を強めちゃうし。
なんとか寸前でかわす。マキちゃんもかわした。
そのまま空を滑り、ワイバーンへと斬りかかる。
「はぁっ!!」
『ガアアッ!!』
風の魔剣でもさすがにワイバーンの鱗を切り裂くことはできなかった。
完全に弾かれるわけではないが、うっすらとした傷が鱗に入る程度。
くっ、やっぱりワイバーンの皮膚を切り裂くのは厳しいか……。
それなら……!
宝玉から溢れる風を剣に纏わせていく。
振り下ろされたワイバーンの腕をかわし、
- 760 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:28
- 「これならどうだ!!」
風を纏ったストームセイバーを振り抜く。
今度は抵抗を感じなかった。
刃がワイバーンの鱗を裂き、肉を切る。
『ギャアアアッ!!』
ワイバーンが吼える。
そして今度は雷撃が吐き出された。
「うわわっ!?」
慌てて翼を羽ばたかせ、空に逃げる。
でもそれを先読みしたように、逃げた先にはもう一つの首が待っていた。
「ぐっ!!」
鞭のようにしなった首がアタシを弾き飛ばす。
「ミキちゃん!!」
アタシは地面に激突する寸前でマキちゃんに抱きとめられた。
「ありがと、マキちゃん」
「ミキちゃん、大丈夫!?」
「大丈夫、ちゃんとガードしたから」
マキちゃんから離れ、しっかりとストームセイバーを握る。
マキちゃんも弓に矢を番えた。
- 761 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:29
- 「ミキちゃん、ドラゴン相手に長期戦になると分が悪い。アタシが引きつけるからその隙に
一撃で決めて」
「わかった!」
マキちゃんとアイコンタクトを交わす。
そしてアタシは飛び上がり、ワイバーンへと向かっていく。
そのアタシを追い越して、マキちゃんの放った矢がワイバーンへと飛んでいった。
『グルルル……』
ワイバーンもしっかりと二つの首がマキちゃんを、もう一つの首がアタシを捕えている。
でもアタシを向いていた首に、今度は竜巻がぶち当たった。
「こっちだよ!!」
マキちゃんが矢を放つ。
矢は風でコントロールされ、複雑な軌跡を描きながら、けれど正確にワイバーンへと飛んでいく。
マキちゃんがワイバーンの意識を引きつけてくれている間に、アタシは風をストームセイバーに
蓄えながら、ワイバーンへと接近する。
そしてワイバーンの懐へと潜り込むことに成功した。
『グル!?』
ワイバーンが気付き、首がアタシに向く。
でもその時にはすでにアタシは魔法を解放していた。
「遅いよ! エアリエル・テンペスト!!」
圧縮された風が一気に暴発し、周囲に嵐が巻き起こる。
解放された嵐はワイバーンに直撃し、ワイバーンの巨体をものともせず吹き飛ばした。
ズゥン、とワイバーンが倒れた。
- 762 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:30
- 「よし、トドメ!!」
そのままアタシはストームセイバーをかまえたけど……
「まって、ミキちゃん!」
あたしの前にマキちゃんが立ちはだかった。
「ちょ、どうしたの、マキちゃん!?」
「何も殺すことないよ。ワイバーンだって害意があって侵入してきたわけじゃないんだし」
「そうだけど、でも……!」
そうこうしているうちにワイバーンが起きあがった。
その巨体にマキちゃんは無防備に近づいていく。
「マキちゃん!」
「大丈夫だって!」
でもその言葉とは裏腹に、ワイバーンは腕を振り上げ……
「!!」
ワイバーンの腕がマキちゃんめがけて振り下ろされた。
マキちゃんはなんとかかわすが、爪が掠めたようで、肩口が裂ける。
- 763 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:30
- 「マキちゃんっ!!」
「つっ……大丈夫、だから……」
傷ついた肩を押さえながらも、マキちゃんはワイバーンに歩み寄る。
そのマキちゃんにワイバーンは牙を剥いた。
アタシは慌ててストームセイバーに風を集めたけど。
その時、優しい風が吹き抜けた。
「お願い、もうここで暴れないで!」
『グル……?』
その風に乗ったマキちゃんの言葉に、ワイバーンの動きが止まる。
「アタシたちはもう傷つきたくないし、傷つけたくないの!」
『・・・・・・』
「ここはあなたのいる世界じゃないの。だからもう、あなたの世界に戻って……」
マキちゃんもワイバーンも動かなかった。
でも次第にワイバーンの口が閉じられていき。
やがてワイバーンはくるっとアタシたちに背を向けた。
そのまま自分が開けた穴まで歩いていき、白い雲の世界から、青い空へと飛び出ていった。
アタシは夢を見ているような気分だった。
まさかアタシたち風の民がドラゴンと心を通わせることができるなんて……。
でもその時、目の前のマキちゃんの身体がゆっくりと傾いだ。
「! マキちゃん!」
慌てて駆けより、マキちゃんの身体を抱きとめる。
マキちゃんの肩は血に染まっていた。
「あはは、怖かった〜……」
「まったく、無茶して……」
- 764 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:31
-
◇ ◇ ◇
「じゃあ、ちょっと染みるよ?」
「うん……っつ!」
そのあとアタシはケガの治療のため、マキちゃんを自分の部屋まで連れてきた。
ベッドにマキちゃんを座らせ、傷跡を消毒し、丁寧に包帯を巻いていく。
「けっこう深かったね。ちょっと跡残るかも」
「えぇ〜!?」
「しょうがないじゃない、自業自得よ」
「むぅ……」
しっかりと包帯を巻き、止める。
これで治療は終了。
アタシはようやく一つ息をついた。
「まったく、あんまりヒヤヒヤさせないでよ……」
「うん、でも上手くいってよかった」
「こんな傷まで作って……。あんなことしないで倒しちゃえばよかったのに……」
「でも倒さなくて済むなら、そのほうがいいじゃん」
また優しい風が吹いたような気がした。
強い風を生み出すことは簡単でも、こんな優しい風を生み出すのはなかなかできない。
マキちゃんは他の風の民とはどこか違う。
風の民が自由気ままに好きなところを吹き抜ける突風だとしたら。
マキちゃんはいつも決まったところを優しく撫でていく、そよ風。
- 765 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:32
- 「ねぇ、そういえばマキちゃんってさ、ほとんどエル・クラウドから出たことないよね?」
「ん〜、考えてみればそうだねぇ〜」
「マキちゃんはさ、どこか行ってみたいとか、そういうのはないの?」
「んあ?」
思わず疑問が口に出てしまった。
マキちゃんは一瞬キョトンとしたけど、すぐに笑顔になって。
「ないよ。アタシは今のままで十分」
「何で〜? こんな雲の中にいたって面白くないじゃん?」
「そんなことないよ、だって、ミキちゃんがいるじゃない?」
「えっ……?」
そんな答えは予想してなくて、思わずアタシはマキちゃんの方を向く。
マキちゃんはいつの間にかアタシとの距離をつめていて。
そっと、アタシの身体に抱きついてきた。
「ま、マキちゃん!?」
「好きな人が傍にいてくれる。たまにふらっと出て行っちゃうけど、ちゃんと戻ってきてくれる。
だからアタシはここにいるよ」
「・・・・・・」
今度こそ本当の、愛の告白だった。
嬉しいというか、ちょっとくすぐったい。
「ミキちゃん、大好き……」
マキちゃんの体重がかかってきて、アタシはベッドの上に倒される。
見上げるマキちゃんはすごくキレイだった。
ゆっくりとマキちゃんの顔が近づいてくる。
まるでアタシに逃げる時間を与えてくれるように、ゆっくりと。
でもアタシは逃げずに目を閉じた。
初めてのキスは甘くて優しい味がした。
いつも自分勝手で、自由気ままな、こんなアタシを
本気で好きになってくれて、ありがとう……。
- 766 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:33
-
◇ ◇ ◇
翌朝。
かなり早い時間にアタシは目を覚ました。
隣で寝ているマキちゃんはまだ起きる気配がない。
そっとベッドを抜け出し、アタシはさっさと服を着替える。
マキちゃんがいれば、きっとエル・クラウドはうまくまとまる。
アタシ以上にしっかりとまとめてくれる。
だから少しの間だけ、頼っちゃっていいかな……?
寝ているマキちゃんの手にそっと指輪を握らせる。
今回の旅で別の大陸に行く方法を見つけて。
そしたら必ず迎えに来るから。
家を出て、翼を広げる。
そして一気に大地を蹴った。
優しいそよ風が、そっと背中を押してくれた……気がした……。
- 767 名前:Interlude W 投稿日:2007/05/18(金) 19:33
-
- 768 名前:片霧 カイト 投稿日:2007/05/18(金) 19:40
- 今回はここまでです。
はい、宣言通りのやりたい放題です(激マテ
今回はごま(?)みきの過去エピソードということで、時間軸で言えばディアプリのずっと前になります。
もしかしたらまたあやみきごまのアフターストーリーなんかも書くかもしれません。
えぇ、時間と余力とネタがあれば(ぉ あんまり期待せずにお待ちください。
で、キリもいいところで、ちょっとばかりお休みをください(ぇ
いや、実世界でちょっと地獄が目前に迫っているので……。
そっちを片づけてから、また再開したいと思います。
1ヶ月くらいお待ちくだされ……。
- 769 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:42
- 〜田中れいな〜
「世界の裂け目」を越えて、どれくらい海の中を進んだだろう。
やがてだんだんと進むスピードが落ちてきた。
海底もだんだんと浅くなってきている。
もしかして、陸地が近い……?
「もうすぐ着くわよ」
柴田さんの声が泡の中に響く。
そして柴田さんの言うとおり、海底はもう足下にまで迫っており、そしてすぐにあたしたちを
包んだ泡が海面へと頭を出した。
前を泳いでいた柴田さんが立ち上がる。ヒレはすぐに脚に変わった。
目の前に広がるのはひとけのない海岸。
歩いている柴田さんに引っぱられるように、あたしたちを包んだ泡も進んでいく。
そして完全に砂浜に上がると、泡はパチンと弾けて消えた。
「さぁ、着いたわ。ここがもう一つの大陸『ダウンフロント』よ」
「ここが……」
「ダウンフロント……」
みんな一様に声を失った。
パッと見たところ、アップフロントとたいして変わらない。
本当にここが新しい大陸なのだろうか。
でも、試しにダークブレイカーをかざしてみると、そこから発せられている光は確実に
濃くなっていた。
- 770 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:44
- 「本当に来たんだ……」
「疑り深いね。まぁ、しょうがないか。柴田も一番最初に来た時はそんな感じだったし」
それだけ言うと、柴田さんはくるっと踵を返した。
「さてと、それじゃ柴田はここまでね」
「えっ!?」
みんな驚いて柴田さんを見つめる。
てっきり柴田さんが案内してくれると思ってたんだけど……。
「すぐに帰っちゃうんですか……?」
ポンちゃんが少し寂しそうな声で柴田さんに訪ねる。
柴田さんも少し寂しそうな表情をしたけど、すぐに頷いた。
「うん。ちょっとね、こっちの水は身体に合わないんだよね……」
「水……?」
そういえば、こっちの海はアップフロントの海に比べて少し濁っているような感じがする。
「それにスコティアでの仕事もあるしね。一応女王だから」
「あっ、そうですよね……」
「うん、だから柴田はもう帰るよ」
柴田さんが優しくポンちゃんの頭を撫でる。
ちょっと心がモヤモヤしたけど、ガマンガマン……。
- 771 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:44
- 「全部片づいたらまた遊びに来てね」
「はい、絶対行きます」
「待ってるからね」
あたしたちの間を抜け、柴田さんはまた海の前に立つ。
そして一度だけふり返った。
「それじゃ、月並みな言葉しか言えないけど、頑張ってね!」
『はい!』
みんなの返事に満足したように笑うと、柴田さんは海の中へと飛び込んでいった。
脚がヒレに変わり、あっという間に姿が見えなくなる。
「行きましょう、ポンちゃん」
「うん」
柴田さんを見送り、あたしたちはダウンフロント大陸での一歩目を踏み出した。
- 772 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:45
-
第11話 魔学と科学
- 773 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:45
- 〜コハル〜
部屋の扉を開け、そっと外の様子を窺う。
さすがに部屋の前に兵士を配置されてはいないけど、廊下の先にはしっかりと二人の
兵士が待ちかまえていた。
こっちはダメ……。
あたしはまたそっと扉を閉める。
次にあたしは窓を開けてみる。
二回にあるあたしの部屋からは庭を一望できるけど、そこにもしっかりと兵士が
見回りをしている。
前に一回カーテン使って抜け出したことあったからなぁ……。
こっちもダメ……。
あたしは窓を閉める。
「う〜ん……」
チラッと時計を見る。
このまま抜け出す方法を考えていたら、約束の時間に遅れちゃう!
しょうがない……あんまり使いたくないんだけど、最終手段!
もう一度慎重に部屋の外を窺う。
人の気配なし。一応扉に鍵をかける。そして窓にはカーテンも敷いた。
準備はオッケー。
あたしは必死に暗記したフレーズを口にした。
- 774 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:46
-
◇ ◇ ◇
「コハル、遅〜い!!」
ようやく待ち合わせ場所の公園に着くと、そこにはもうみんな集まっていた。
その中からミヤビちゃんが代表してあたしに文句を言ってくる。
「ごめ〜ん、見張りが厳しくなっちゃって……」
「一体なにやらかしたのよ……って、まさか、アレ使ったんじゃ!?」
「だ、だって遅れそうだったから……」
とたんにミヤビちゃんの顔が険しくなる。
「ダメじゃない! 誰かに見つかったらどうすんの!?」
「で、でも、ちゃんと注意したし、誰にも見られてないよ!」
「それでも滅多なことでもなきゃアレは使っちゃダメでしょ! 特にコハルは立場が……!」
「まぁまぁ、ミヤビちゃん、もうそのくらいでいいじゃない?」
ヒートアップしていったミヤビちゃんはそこでようやく止まった。
止めてくれたのはサキちゃん。あたしたちの中でリーダー的な存在だ。
- 775 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:47
- 「結果的に誰にも見つからなかったんだし、コハルちゃんだってちゃんと時間に間に合ったんだし」
「そうだけど、でも……!」
「それにあんまり時間もないんだしね。遊ぶ時間なくなっちゃうよ?」
「・・・・・・」
さすがのミヤビちゃんもサキちゃんには敵わない。
まだまだ言い足りないという表情ながらも口を閉じる。
すると今度は今までずっと傍観に徹していた二人が口を開く。
「ようやくミヤビの長話が終わったねぇ〜?」
「今日は短い方だったネェ〜?」
二人で顔を見合わせキャッキャと笑いあうのはモモコちゃんとマーサちゃん。
当然ミヤビちゃんが二人を睨みつける。
「誰の話が長話だってぇ〜?」
「さて、だぁれだろうネェ〜?」
ミヤビちゃんがモモコちゃんと言い合ってる間に、つつつっとマーサちゃんがアタシの
方に寄ってくる。
「あんなこと言ってるけどねぇ、ミヤビちゃんすっごく心配してたんだよ、本当は〜!」
「マーサ! よけいなことは言わなくていい!!」
そんな様子を見てにっこりと笑っていたサキちゃんが、今度はアタシに向き直る。
- 776 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:48
- 「それで、コハルちゃんはどれくらいなら大丈夫そう?」
「う〜ん、暗くなるまでに戻れば大丈夫だと思う。一応夕食の時間まで部屋で勉強してる
ってことになってるから」
「そう、じゃあ早く行かないとね。ミヤビちゃんもそろそろいいかな?」
「な、なんでアタシだけなのよ!?」
ミヤビちゃんの抗議をサキちゃんは軽く受け流す。
「それじゃあそろそろ街に出かけましょう」
「は〜い!!」
「わ〜い!」
モモコちゃんとマーサちゃんがいっせいに駆け出す。
アタシも二人に続こうとしたけど……
「ちょっと待ちなさい、コハル!」
ミヤビちゃんに手を掴まれ止められた。
何ごとかと振り返ると、ミヤビちゃんは自分がかぶっていた帽子を脱ぎ、そのままアタシの
頭に強引にかぶせた。
「??」
「あんたは顔が知られてるんだから! 多少の変装でもしないとあっという間に街は
大パニックよ! そうなったらすぐに連れ戻されるわよ!」
「そっか。ありがと、ミヤビちゃん!」
「お、お礼なんていいわよ。それよりさっさと行くわよ! 少ししか遊べないんでしょう?」
掴んだままの手をミヤビちゃんが引っぱり、あたしたちは公園を飛び出した。
みんなといる時だけ、あたしは全て忘れることができる。
嫌なことも。辛いことも。
あたしたちが抱えている秘密のことも。
そしてあたしが皇女だということも。
- 777 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:49
-
◇ ◇ ◇
物心ついた時から、あたしは皇女だった。
母はあたしを産んですぐに亡くなってしまったらしい。
だから帝位を継げるのはあたしだけ。おかげであたしは幼少時代からずっとお城の中で
勉強する毎日だった。
一般的な学問から、政治学、帝王学まで。
それが当たり前だと思っていた。
でもそれは当たり前じゃなかった。
そのことに気付かせてくれたのはミヤビちゃんだった。
ミヤビちゃんとの出会いはお城で行われたパーティでのこと。
ミヤビちゃんは小貴族の娘で、そのパーティには親に連れられてきていた。
一人でつまらなそうにしていたあたしに声をかけてくれた。
「あなたもしかして、コハル皇女?」
「えっ……うん……」
いきなり話しかけられてあたしは戸惑った。
見た感じあたしと同じくらいの女の子。
思えば同い年の子と話す機会なんて今までほとんどなかった。
「ふ〜ん……」
女の子はジーッと舐め回すようにあたしを見る。
あたしはおずおずと戸惑っていたけど……。
- 778 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:50
- 「なぁんだ、案外コドモなのねぇ〜」
「なっ!?」
いきなりコドモ呼ばわりされて、さすがにカチンと来た。
ていうかそんなに年かわらないじゃん!
「コハル子供じゃないもん!」
「そういうところが子供だって言うのよ!」
女の子は勝ち誇ったように笑った。
でもすぐに笑いを収めると、そっとあたしに顔を近づけてきて。
「ね、退屈してるんならさ、外に遊びに行かない?」
「えっ?」
「ここにいたってつまらないし。ねっ、行こう!」
「わっ!?」
あたしの意見なんかまったく聞かずに、女の子はあたしの手を取って走り出す。
いけないと思う気持ちがある反面、少しワクワクしている自分もいた。
「ねぇ……!」
「ミヤビ」
「えっ?」
「アタシはミヤビって言うの。よろしくね、コハル!」
「あっ、うん、ミヤビちゃん!」
ミヤビちゃんに手を引かれ、あたしたちはパーティ会場を抜け出した。
衛兵の目もなんとかやり過ごし、あたしは初めて護衛も何もなしで城の外に飛び出した。
たまに街に出向くことはある。でも、今日は見慣れたはずの城下町がまったく
違う街のように見えた。
「ミヤビちゃん、どこ行くの?」
「アタシの友達のところ! コハル連れてったらみんな驚くよ〜!!」
- 779 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:51
- はたしてその通りになった。
初めてみんなに会った時は、モモコちゃんやマーサちゃんはもちろん、サキちゃんまでも
目を見開いて驚いていた。
でも、それも一瞬のこと。
そのあとあたしたちはすぐに打ち解けた。
あたしに初めて友達ができた瞬間だった。
それからというもの、あたしはしばしばお城を抜け出すようになった。
お城を抜け出しミヤビちゃんたちと遊ぶようになった。
それから少ししたあとだった。みんなから「秘密」を打ち明けられたのは。
ビックリした。でも嬉しかった。みんなあたしと同じだったから。
あたしも同じように「秘密」を打ち明けるとみんなは初めて会った時とは比べものに
ならないほど驚いていたっけ……。
- 780 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:51
-
◇ ◇ ◇
「サキ、今日はどこにいくの〜?」
「そうねぇ、マーサちゃんはどこに行きたい?」
ミヤビちゃんの問いをサキちゃんはマーサちゃんに渡す。
「新しい服買いたいネェ〜!」
「あっ、私も〜!」
マーサちゃんの提案にモモコちゃんも賛成する。
「コハルちゃんは?」
「コハルも買い物でいいよ〜!」
あたしも賛成する。
本当は、あたしはみんなと一緒ならどこだっていい。
「じゃあ今日はみんなで買い物に行こう〜!」
「「「「は〜い!!」」」」
というわけで今日はみんなで買い物に行くことに決まった。
公園から商店街へとみんなで移動する。
そしていろいろな店へと入っていく。
- 781 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:52
- 「コハル初めて会った時はこんな服着てたわよねぇ〜」
「え〜、ミヤビちゃんだってこんな服着てたじゃない!」
ミヤビちゃんがヒラヒラなドレスを突き出す。
あたしも負けじとフリフリなドレスを突き出した。
「あはは、似合わな〜い!」
「あのねぇ! アタシだって貴族の娘なんだからねぇ!」
一軒目の店でひとしきり買い物を楽しみ、店を出た。
次はどの店に行こうかと辺りを見渡す。
「あのお店なんてどうかしら?」
サキちゃんが一軒のお店を指さした。
ショーウィンドウには可愛らしい服やバッグなどが並んでいる。
「「「「賛成〜!」」」」
マーサちゃんとモモコちゃんがいっせいに走り出す。
あたしも二人に続こうとして……
- 782 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:52
- 『ギャアッ!!』
足が止まった。
空から聞こえた、不気味な嘶き。
辺りがざわめきに包まれる。
何、今の……?
空に振り返り、そして見た。
黒いドラゴンが一匹、空の彼方から迫ってくるのを。
「なっ、あれは!」
「まさか、竜の谷から!?」
ドラゴンを見て固まっていたあたしの腕が急に引っぱられた。
振り返ると、ミヤビちゃんがあたしの腕を掴んでいて。
「何してんのコハル、逃げるわよ!!」
「あっ、うん!!」
ミヤビちゃんに手を引かれ、あたしたちはドラゴンから逃げようと商店街を走る。
でも空を飛んでいるドラゴンの方が明らかに速くて、どんどん距離が縮まっていく。
やばい、追いつかれちゃう!!
- 783 名前:第11話 投稿日:2007/06/15(金) 12:53
- 「そこの子たち、横に飛び退いて!!」
でもその時、あたしたちに向かって声が飛んできた。
その声がした方向には、黒い剣を持った、あたしたちよりも少し年上そうな少女がいて。
言われるがままに横に飛び退くと同時に、少女は闇色の剣を振るった。
その剣から、同じ色をした刃が生まれ、ドラゴンに向かって飛んでいった。
ドラゴンの片翼が切り裂かれ、ドラゴンは地に堕ちる。
片翼を失ってもなおドラゴンは立ち上がり、少女を睨む。
そして少女目掛けて走り出した。が……
その直後、少女の後ろからもう一人の少女が飛び出した。
その少女は最初の少女よりももうちょっと年上で。
その少女の前には紅く輝く陣ができあがっていた。
あれは、まさか……。
陣から炎が溢れ出す。
炎は竜の形となり、ドラゴンを迎え撃った。
ドラゴンを炎が包みこみ、やがてドラゴンは倒れた。
あたしたちはその様子をただ呆然と見つめていた。
- 784 名前:片霧 カイト 投稿日:2007/06/15(金) 13:01
- 今回はここまでです。
無事に復帰いたしました。そして新大陸で新章開始です。
ついでに早くも新キャラ登場。
今回はまだいろいろと謎が多いですが、徐々に明らかになっていきます。
ちなみに、Berryzのキャラは適当です。
だってよく知らないんだもの……(ぉ
- 785 名前:みっくす 投稿日:2007/06/15(金) 20:23
- 更新おつかれさまです。
ここで登場ですね。
今後の展開がたのしみぃ。
あと、ふたりのコンビネーションは最高のようで。
- 786 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:38
- 〜田中れいな〜
とりあえず新しい大陸に着いたはいいけど、一体ここはどこなんだ?
辺りを見渡してみても、あるのは寂れた海岸のみ。
ここはあたしたちのまったく知らない土地、ダウンフロント。
こんなことなら柴田さんにもう少し話聞いておけばよかった。
「とりあえず情報を集めないと身動き取れないね……」
「そうですね、柴田さんも何も教えてくれなかったですし」
「ののはお腹減ったのれす」
「お昼ご飯まだ食べてないで〜」
いろいろと意見が出たところで、これからとる行動はというと……
「それじゃ、まずは街を目指そう」
「そうですね!」
ダークブレイカーを出して光の方向を確認する。
黄色い光はほぼ真南。ブラウンの光はやや南東の方向。どちらかといえばブラウンの方が
光が濃い。
「ふ〜ん、じゃあまずは地の魔剣かなぁ、れーな?」
「そうやね。近いところから行った方が」
「じゃあここから南東に向かうということで。街を見つけ次第そこに入ろう!」
『賛成〜!』
ポンちゃんがみんなの意見をまとめ、これからの方向性を決定した。
そしてあたしたちは海岸を出て歩き出した。
- 787 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:38
- 「でも、見たかぎりアップフロントとたいして変わらないよねぇ〜?」
絵里が先頭を歩きながらそんなことを呟く。
確かにそんなに変わった様子はない。このくらいの荒野ならアップフロントにもあった。
でも、眼前には見渡す限り荒野が続いている。
アップフロントより緑は少ない気がする。
「あっ、なんか見えてきましたよ〜!」
しばらく歩いたあと、また先頭を歩いている絵里が歓声を上げた。
確かに視線の先には防壁に囲まれた街があった。
その中央にそびえる豪華な城。どうやら城下町らしい。
「ちょうどいいや、あそこで情報収集しよう!」
「食料調達もするのれす!!」
「地元料理食べ放題や〜!」
「あっ、待って、私も行く〜!!」
走り出す辻さん、加護さん、ポンちゃんの食いしん坊三人組。
前に食べ過ぎてお金使い果たしたことまったく懲りてないな……。
とりあえずあたしと絵里、そして高橋さんも置いていかれないように三人に続いた。
- 788 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:40
-
◇ ◇ ◇
「おぉ……」
街の中に入ると、アップフロントとたいして変わらないという感想は変更を余儀なくされた。
見たこともない街並みにしばし呆然とする。
まず家からして違う。
アップフロントの家は主に木や石で作られているのに対し、ここの家はほとんどが石、
そして鉄を使って作られている。
その家が道を挟み、等間隔で隣接して建っている。
道にしてもしっかりと石で舗装されており、そこを馬車とは違う、見たこともない
乗り物が走っている。
「なんか……全然違いますね……」
「本当……」
あたしたちは見たこともない街並みにただただ目を丸くしていた。
「そんなことより飯なのれすー!!」
「食べ尽くすで〜!!」
約二名除く……。
「あっ、のんちゃん、加護ちゃん、私の分もちゃんと買ってきてね!!」
プラス一名……。
まぁ、一緒に走り出さなかっただけポンちゃんはマシか……。
- 789 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:42
- 「さて、それじゃ食料調達は任せて」
「任せて大丈夫ですか……?」
「私たちは情報収集に行こうか」
ポンちゃんはきょろきょろと街を見渡しながら歩いていく。
しばらくして、目的の店を見つけたようで、一軒のお店に入っていった。
あたしたちもポンちゃんに続く。そこは本屋だった。
「ポンちゃん、本屋でどうするんですか?」
「うん、地図を手に入れようと思ってね」
「地図?」
「そう。ここがどこなのか。そしてこれからどこへ向かうのかわからないとしょうがないじゃない」
「なるほど」
やっぱりポンちゃんは頭良いと〜。
しばらく店の中を歩いたあと、あたしたちは目的の、ダウンフロントの地図を見つけた。
店の人のところに持っていく。
そういやお金は!? と心配したけど、アップフロントのお金はこっちでも問題なく使えた。
「ここはこの地図でいうとだいたいどの辺りなんですか?」
買うついでにポンちゃんがさりげなく店の人に聞いてみる。
店の人は地図を眺めたあと、一点を指さし現在位置を教えてくれた。
「スィアンス帝国」の帝都、「イングラム」。ここがあたしたちの今いる場所か……。
とりあえずそれだけ確認し、あたしたちは店を出た。
- 790 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:42
- 「ポンちゃん、ここから南東方向はどこですか?」
「『ココナッツバレイ』って書いてあるね。でもそれ以上はちょっと……」
「そこが地の王国なんかなぁ?」
「わからないけど、行ってみる価値はありそうだね」
そのあとはバラバラに分かれ、それぞれ情報収集に向かった。
いろいろな人に聞き込みをしたけど、よくわからない単語が出てきて、なかなか話が掴めない。
「キカイ」とか、「カガク」とか。アップフロントでは聞いたことない言葉だ。
「ココナッツバレイ」についても聞いてみたけど、なぜかその話題に関してはみんな一様に
口が堅かった。
もうちょっと調べようと思ったけど、みんなと待ち合わせの時間がきてしまったので、
とりあえず得られた情報をまとめつつ、あたしは待ち合わせ場所である街の中央へと向かった。
- 791 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:44
-
◇ ◇ ◇
「う〜ん、だいたい情報は集まったけど……」
「どれもそんなに変わりませんねぇ……」
街の中央にある広場に集まり、みんなで集めた情報をまとめる。
そのころにはたっぷりと食料を買い込んだ辻さんと加護さんも合流した。
でもみんなが集めてきた情報は似たり寄ったりで、そんなにまとめる必要もなかった。
「ポンちゃんも『キカイ』とか『カガク』とかはわかりませんか?」
「うん、私もちょっと聞いたことない……」
「他にはなんかありませんでしたか?」
「そうだなぁ、『魔女』とかいう言葉がけっこう出てきたかも……」
『魔女』……? そういえばあたしも何回か聞いたかも……。
でも意味はやっぱりわからない。悪い魔法使いでもいるんかなぁ……?
「今日はこのくらいかな。明日もうちょっと情報収集して、次はこの『ココナッツバレイ』って
ところに向かってみよう」
「そうやなぁ、そろそろ日も暮れかけてきたし、泊まるところも探さんと」
「今日は買ってきた食料でパーティーなのれす!」
「ダウンフロント上陸パーティーや〜!」
「ただ食べたいだけじゃないですか……」
とりあえず今日の情報収集は終わりにして、泊まるところを探しに行くため、
広場をあとにしようとしたんだけど……
- 792 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:45
- 「あっ、みんな、ちょっと待って〜!」
絵里があたしたちを呼び止めた。
「どうしたと、絵里?」
「絵里ちょっと気になったんだけど……」
絵里が辺りをきょろきょろと見渡しながら続ける。
なん? あたしも辺りを見渡してみる。
「絵里たちの格好って、ちょっとここじゃ浮いてない?」
「えっ?」
そういえば……。
あたしたちの着ている服と、辺りを行き交う人たちの服装は明らかに違う。
この辺はさすがに文化の違いなのだろう。
辺りを見渡してみて、ようやく行き交う人たちがちらちらとあたしたちのことを
見ていることにも気付いた。
どうやらアップフロントの服はここではかなり珍しい……というか、場違いらしい。
「あんまり目立つのは望むところじゃないねぇ」
「泊まるところを見つける前に、こっちの服も見つけておいた方がいいかもね」
「たしか洋服専門の商店街もあったで」
加護さんが広場から通じる道のうち、一つを指さした。
そこには確かに煌びやかな店が軒をそろえている。
- 793 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:47
- 「じゃあ服をそろえに行こうか」
『賛成〜!』
そしてあたしたちは商店街に足を踏み入れた。
目的はこの大陸に合う服を見つけることなんだけど……。
まぁ、あたしたちだって、年頃の女の子ですから。
買い物、特に洋服の買い物がそうすんなりと終わるわけもなく。
「れーな〜、これ着てみてよ〜!」
「お〜……って、なんこの猫耳は!?」
「可愛いよ〜、絶対!」
「いやいや、もう前ので懲りたと……」
わいわいキャイキャイとはしゃぎながら、一軒目の店をあとにする。
服はけっこう買えたけど、せっかくのショッピングなんだから、もうちょっと楽しみたい。
みんなも同じ気持ちみたいで、きょろきょろと次のお店を探している。終わりにする
つもりはさらさらないらしい。
あたしも辺りのお店を見渡す。
「あっ、次はあそこに行こうや〜!」
「なかなか良さそうなのれす!」
どうやら辻さんと加護さんがお店を見つけたらしい。
みんなして二人に着いていくと、そこは……
「って! ここランジェリーショップじゃないですか! 下着は関係ないでしょ!!」
あたしは一目散に回れ右をしようとしたけど、そこを辻さんと加護さんに取り押さえられた。
「まぁまぁ、旅は何が起こるかわからないのれす」
「勝負下着の一枚や二枚持ってたほうがいいで〜!」
「どういう意味ですか、それは!!」
「そうですね! 何が起こるかわかりませんものね!!」
「え、絵里っ!?」
というわけで。
あたしは辻さんと加護さん+絵里に引きずられてランジェリーショップに連れ込まれてしまった。
- 794 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:48
- 「ねぇ、れーな! これどう? 興奮する?」
「あ〜、するんじゃなかと……?」
「れーなは? れーなは!?」
「なんでれいなが基準なん……?」
ランジェリーショップに入った、もとい連れ込まれたあたしは絵里に絡まれ、早くもぐったり。
つーかなんでわざわざあたしに感想聞くん? どうせならあたしだって見てまわりたいのに……。
せっかく他のお客さんもいない貸し切り状態だし。
あたしはなんとか腕に絡まっている絵里の腕を振りほどく。
「田中ちゃん、ちょっとこっち来るのれす」
ようやく絵里から解放されたら、今度は辻さんに捕まった。
「今度はなんですか……」
「田中ちゃんにも感想聞きたいのれす」
「だから、なんでれいななんですか……」
辻さんは強引にあたしの背中を押し、試着室の前まで連れてきた。
三つ並んだ試着室のうち、右端の試着室だけカーテンが掛かっている。
「あいぼん、連れてきたのれす。準備いいれすか?」
「OKや〜!」
辻さんがその試着室に声をかけると、中から加護さんの声が聞こえた。
なんでれいなが加護さんの下着採点しなきゃならんと……。
- 795 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:49
- 「田中ちゃん、ちゃんと見とくのれすよ?」
「あ〜、はいはい……」
「あいぼ〜ん!」
辻さんが声をかけると、閉まっていたカーテンが一気に開いて……。
「じゃ〜ん!」
「!?」
あたしはてっきり下着姿の加護さんが出てくるものとばかり思ってたんだけど……。
出てきたのは下着姿の……ポンちゃんで……。
加護さんはその後ろで小悪魔みたいな笑みを浮かべていた。
ちなみにポンちゃんがつけてたのは、黒のかなりセクシーな下着。
あたしの心臓が一気にペースを上げたのがわかった。
「えっと、どうかな、れいな……?」
「い、いや、その…どうと言われても……」
目のやり場に困るっていうか、なんていうか……。
あたしは慌ててポンちゃんから視線を外し、ついでに辻さんを睨みつける。
辻さんも加護さんと同じように小悪魔のように笑っていて……。
- 796 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:49
- 「紺ちゃん、次はこれ着てみるのれす!」
「わーっ! 辻さん、それスケスケじゃないですか!!!」
辻さんがポンちゃんに渡しそうになった下着を慌てて奪い取る。
こ、こんなのポンちゃんが着たら……!
「じゃあこんこん、こっちのにしよか〜!」
「わーっ!! 加護さん、なんですかその紐はっ!!!」
加護さんがポンちゃんに渡しかけた下着も慌てて奪い取る。
こ、こんなのポンちゃんが着たら……!!
「なんやえらい楽しそうやの〜! あっ、あさ美ちゃん、こんなのもあるで〜!」
「わーっ!!! 高橋さん、どこから持ってきたんですか、その穴あきはっ!!!」
どこからかやってきた高橋さんが渡しかけた下着も以下同文。
こ、こんなのポンちゃんが……ダメだ、ポンちゃんはこんなの着ちゃいけない!
ていうか、あたしも想像しちゃいけない!!
「ねぇ、れいな、どれがいいと思う?」
「どれもダメです! ていうか、これ買うつもりですか、ポンちゃん!?」
あ〜、なんかツッコみ疲れたと……。
- 797 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:50
-
◇ ◇ ◇
その少しあと、結局あたしは何も買わずにランジェリーショップを出た。
絵里はなんか買ったみたい。そしてポンちゃんも……。
はい、何を買ったのかすごく気になります……。
「今度こそまともな店に行きましょうね!」
「む、そんなこと言うなら田中ちゃんが決めるのれす」
「ん〜、そうですねぇ……」
「あんまり毒々しいのは勘弁れすよ?」
「鬼とか髑髏とかばっかりの店はやめてや〜!」
「なっ! れいなだってそんなのばっかり着てるわけじゃないですよ!!」
先頭を歩きつつ、商店街に並ぶ店を見ていく。
う〜ん、いざ決めるとなると迷うなぁ……。
あっ、あの服なんかポンちゃん似合うかも〜!
そんなことを考えながら商店街を歩いていくと、
商店街の遥か先、悲鳴のようなものが聞こえた気がした。
「!? 今悲鳴みたいなの聞こえませんでした!?」
「えっ?」
後ろを振り返ってみんなに確認してみるが、みんなはキョトンとしている。
空耳か、と一瞬思ったが、悲鳴に伝染するように、商店街の先からざわめきが広がってくる。
そのころには後ろにいたみんなも異変に気付いたようで、緊迫した空気が立ちこめる。
- 798 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:52
- 「いったい、何が……?」
「あっ、あれっ!!」
一番最初に気付いたのは高橋さんだった。
高橋さんが空に伸ばした指の先を見ると、赤く染まり始めた空に黒い一点の異物。
その異物はだんだんと大きくなってきている。もとい、こちらに近づいてきている。
次第とはっきり見えてくる、それは……
「ドラゴン!?」
ダークブレイカーを指輪から剣に戻す。
そのころには辺りはパニック寸前になっていた。
ドラゴンは真っ直ぐこの商店街に向かってきている。
「ちっ!!」
あたしはドラゴンから逃げてくる人たちの流れに逆行し、ドラゴンへと向かって走り出す。
みんなもいっせいにあたしのあとに続いた。
ドラゴンは高度を落とし、逃げまどう人たちを狙っている。
間に合えっ!
ダークブレイカーに闇を集める。
- 799 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:54
- そしてようやくドラゴンが射程距離に入った頃には、ドラゴンはすぐ前を逃げる女の子たちの
グループに、今にも襲いかかりそうだった。
まずい、躊躇している暇はない!
「そこの子たち、横に飛び退いて!!」
ドラゴンから逃げる女の子たちに叫ぶ。
女の子たちはあたしの声が届いたらしく、言われたとおりいっせいに横に飛び退いた。
それを確認した瞬間、あたしはダークブレイカーを振り抜いた。
「サタン・スラッシュ!!」
闇色の刃がドラゴン目掛けて飛んでいく。
ほとんど狙いをつけずに放った一撃だったが、かろうじてドラゴンの片翼を捉え、
ドラゴンを地に落とした。
でも、まだドラゴンは倒していない。
その証拠に、ドラゴンは体を起こした。
そして今度はあたしを狙って向かってきた。
ちっ、懲りないとね。それならもう一発!!
でもあたしが闇を集めるより先に、あたしの前にポンちゃんが躍り出て……
「ドラゴニック・ファイアー!!」
展開した魔法陣から溢れ出た炎の竜が、ドラゴンを飲み込んで飛んでいった。
黒こげになったドラゴンは断末魔の悲鳴をあげ、その場に倒れ込んだ。
- 800 名前:第11話 投稿日:2007/07/01(日) 14:55
- 「ふぅ、間に合ってよかった……」
「さすがポンちゃんと!」
「それより、襲われてた子たちは無事?」
「あっ、そうだ!」
うまく逃げたみたいだから無事だとは思うけど、一応確認しておこう。
そう思い、あたしは女の子たちが飛び込んだ、店の軒先まで進む。
女の子たちは軒先に身を寄せ合って固まっていた。
「無事だったと?」
「あ、あ、ああ……」
どうやらドラゴンに襲われたことのショックと恐怖で舌が回らないみたい。
と、最初は思ったが、どうも違和感を感じる。
なんでこの子たちはこんなにもあたしを見ていると?
これじゃまるでドラゴンじゃなく、あたしに恐怖しているみたい……。
そういえばまわりに集まってきている人たちも。
ざわめきの中にわずかに混じる、恐怖や畏怖。
何かが……おかしい……。そう思った時。
ざわめきの中、ひときわ大きな叫び声が上がった。
「魔女だッ!!」
- 801 名前:片霧 カイト 投稿日:2007/07/01(日) 15:04
- 今回はここまでです。
主人公登場ですが、なぜか今回はコメディタッチ。
まぁ、たまにはこう言うのもいいかなってことで。
えぇ、ページ埋めのためでは決してナイデスヨ?(ぉ
次回はちゃんとストーリーも進むはずです。
>>785 みっくす 様
はい、ようやく登場です。
今後はストーリーにけっこう関わってくることになります。
- 802 名前:第11話 投稿日:2007/07/20(金) 16:40
- 「魔女だッ!! 魔女がいたぞっ!!!」
「早く、兵はまだかっ!!」
な、なんだ、これは……?
集まってきた人たちはあたしたちを取り囲み、騒いでいる。
その中に漂う恐怖。向けられる敵意。そして繰り返される『魔女』というフレーズ。
どういうことだ、いったい……?
「あ、あの……」
「ひっ!!」
ポンちゃんが話しかけようと一歩前に出ると、取り囲んでいた人々は弾かれたように後退した。
そうこうしているうちに、取り囲んでいた人々の一角が割れ、そこから青い制服を着た一隊が
あたしたちの前に現れた。
それを合図としたように、取り囲んでいた人々が一斉に散会する。
「もう逃げられないぞ、魔女ども! 大人しく投降しろ!」
一隊の中央にいた、隊長らしき男が叫ぶ。
それと同時に、後ろにかまえる隊員が一斉に手を水平に持ち上げた。
その手には一様に、黒光りする小さな箱のようなものが握られていて。
なん、あれは……?
- 803 名前:第11話 投稿日:2007/07/20(金) 16:41
- 「待ってください、私たちは……!」
「近寄るな! 武器を捨て、両手を上げろ!!」
隊長も同じように小さな箱を取りだし、かまえる。
どうしよう……従うべきか、抗うべきか……。
まだダウンフロントに着いたばかりだから、なるべく事を荒立てたくはない。
それに闇の使徒でもなさそうだし、無用な争いは避けたい。
でも、従ってもいい結果にはちょっとなりそうにない……。
「さっさと両手を上げろ! さもなければ、撃つ!!」
撃つって、何を? まさか、魔法!?
やっぱり戦わなければならないのか……。
無意識にダークブレイカーをかまえようとしたけど……。
ドンッ!!
「つっ!!」
その前に爆音が響いた。
続いて頬に鋭い痛みが走り、思わずよろけてその場に崩れた。
「れいなっ!!」
頬を触ってみると、ぬるっとした感触がした。
指先は紅く染まっていた。切れてる……!
でも、一隊のほうを見ても、誰も動いた様子はない。呪文の詠唱もなかった。変わったことは、
隊長の持っている箱の先からゆらゆら煙が上がってたことくらい。
- 804 名前:第11話 投稿日:2007/07/20(金) 16:42
- 「次は当てる! 大人しくするんだ!! 抵抗すれば容赦なく射殺する!!」
「くっ、やるしかないか……!」
理由もなく攻撃されて黙っているほど、あたしは大人でも腰抜けでもない。
ダークブレイカーに闇を集める。
でもその時、今まで銅像のように突っ立っていた後ろの兵が一斉に手をあたしの方に向けた。
「ちっ! かまわん、撃てッ!!」
隊長の号令とともに、爆音が連続する。
またさっきの攻撃か!!
「れいな! ホールド・プロテクション!!」
その刹那にポンちゃんがシールドを展開した。
物理攻撃を遮断するシールド。一瞬で、さっきの攻撃は魔法ではないと見切り、
対物理攻撃用のシールドを選択したのだろう。
ポンちゃんのその選択は大正解で、ギンギンッとシールドに何かがぶつかり、弾かれた。
弾かれて地面に落ちたのは……小さな鉛の球。こんなものを放ったっていうと……!?
「ひるむな、撃て、撃つんだっ!!」
「くっ……ヤバイ……!」
爆音が連続し、それに伴ってポンちゃんのシールドにヒビが入ってくる。
- 805 名前:第11話 投稿日:2007/07/20(金) 16:43
- 「あわわわ、絵里も手伝います!!」
「加護もや!!」
絵里と加護さんがポンちゃんに加勢するけど、それでもそこまで長くはもたなそう。
それなら……!
「れいな、あさ美ちゃんたちが持ちこたえてる間に倒すで!!」
「はいっ!!」
高橋さんが魔法を形成する。あたしもダークブレイカーに闇を集める。
「しまった! 総員退避!!」
「遅いっ!!」
爆音が止み、一隊が逃げようとする。
あたしはとりあえず威嚇のつもりで魔法を放とうとしたけど……
『ギャアッ!!!』
空から聞こえてきた嘶きによってそれは止められた。
空を見上げると、そこにはまたドラゴンが、今度は三匹も!
しかもそのドラゴンの群れは明らかにあたしたちに向かってきていて。
「くっ、竜の谷から来たドラゴンだ! 総員撃ち落とせ!!」
逃げようとしていた一隊が、今度は空に向かって腕を伸ばす。
でもそんなのはまったく気にせず、ドラゴンたちはあたしたちに向かって突っ込んでくる。
ポンちゃんたちじゃ間に合わない! あたしと高橋さんは一隊に放とうとしていた魔法の
標的を空に変える。
「サタン・ブラスター!!」
「バーニング・オーラ!!」
でもドラゴンたちはあたしたちの攻撃を軽くかわし、スピードを落とすことなく突進してきた。
ダークブレイカーをかまえるけど、ドラゴンのスピードの方が速い! あれは確かドラゴンの中でも
最速を誇る、風竜・リンドブルム!
これはヤバイ……やられる……!!
激突の瞬間、あたしは思わず目を閉じた……。
- 806 名前:第11話 投稿日:2007/07/20(金) 16:44
- 「……あれ?」
でも、いつまでたってもなんの衝撃も襲ってこなかった。
代わりに気持ちのいい風が、あたしの顔を撫でる。
おそるおそる目を開けてみると……
「えっ!?」
さっきまであたしが立っていた地面が、今は遥か遠くに見えた。
ど、どういうこと!?
慌てて辺りを見渡してみると、すぐ後ろに襲いかかってきたドラゴンがいた。
つまり、あたしはドラゴンの腕に引っかけられて、空を飛んでいたというわけで。
「い、いやーっ!! れいな食べてもおいしくないと!!」
あたしは一気に錯乱状態に陥り、ジタバタと暴れる。
「Wow! Stop、れいな! 動くと危ないよ!」
「えっ?」
でもそれも背後、もとい上から聞こえてきた、聞き覚えのある声で治まった。
もう一度ゆっくりと振り返ってみる。
ドラゴンの背に乗っていた女の人が、ゴーグルを外し、あたしに顔を向けた。
その人は……
「な、なんでアヤカさんがここに!?」
「Hello、れいな! 久しぶりですねぇ〜」
にっこり笑ったアヤカさんが、ピンッと手綱を引っぱる。
すると、あたしを捕まえているドラゴンの腕がピクッと動いて……。
- 807 名前:第11話 投稿日:2007/07/20(金) 16:45
- 「へっ!? う、うわぁぁああっ!?」
あたしの身体をポーンと上空に放り投げた。
当然ながら放り投げられたあとは、そのまま落下していくんであって……。
「わぁあああっ!!」
「All right! All right!!」
でも落下していく途中にドラゴンの背が現れ、あたしは無事アヤカさんの背後に着地した。
「あ、アヤカさん……もっと丁寧に扱ってください……」
「Sorry!」
寿命が10年くらい縮まったと……。
見るとポンちゃんたちも他のドラゴンの背に乗っていて、ほっと一安心。
すると、いくつもの疑問が湧いてきて。
「でもアヤカさんはどうしてここにいるんですか? それに……」
「Wait! 聞きたいことは山ほどあるでしょうけど、ここで話し込むのはちょっと大変だから、
とりあえず一番重要なことだけ伝えておくわ」
そう言われたら黙るしかない。
あたしはアヤカさんの次の言葉を待ったけど……。
- 808 名前:第11話 投稿日:2007/07/20(金) 16:46
- 『ガァアッ!!』
「キャーーーっ!!」
それは遠くに聞こえた咆吼と悲鳴で遮られた。
アヤカさんが険しい顔で、振り返る。あたしもアヤカさんの視線を追う。
そこはあたしたちがさっきまで居たところ。
黒こげになったドラゴンはまだ力尽きておらず、女の子たちに向かって牙を剥いていた。
「Shit!!」
「わわっ!?」
あたしとアヤカさんが乗ったドラゴンが急に向きを変える。
そして地上のドラゴン目掛けて一直線に滑空を始めた。
「れいな! しっかり捕まってて!!」
言われなくてもあたしは振り落とされないようにアヤカさんの腰にしがみつく。
アヤカさんがそのまま手を伸ばすと、そこにある空間が歪んだ。
空間の歪みの中から戻ってきたアヤカさんの手には、兵士が持っていたような
黒い箱が握られていた。
でも兵士が持っていたものと比べると、大きく、そして長い。
アヤカさんはそれをかまえると、すぐに爆音が響いた。
が、それだけ。地上のドラゴンにはまったく変化は見られない。
「チッ!!」
アヤカさんは舌打ちとともに、箱を放り捨てる。
そしてまた空間の歪みの中に手を伸ばした。
今度取り出したのは、アヤカさん愛用のギロチンアックス。
ドラゴンの滑空速度が更に上がった。
「わ、わ、わ、わっ!」
「間に合えっ!!」
振り落とされないようにアヤカさんにしがみつきながらも、なんとか前を見る。
ドラゴンはすでに牙の生えそろった大口を開き、女の子たちに襲いかかろうとしている。
スピードはあるけど、あたしたちはまだ遥か空の上。
このままじゃ……間に合わない……。
- 809 名前:第11話 投稿日:2007/07/20(金) 16:46
- 「コハル様!!」
でもその時、キィンという空気を切り裂く音が聞こえた。
そしてその音とともに、ドラゴンの首が宙に跳ねた。
あたしたちの乗っていたドラゴンが急停止する。
倒れたドラゴンの前に、剣を持った一人の女性が現れていた。
剣を一振りし、血を払ってから腰の鞘に収める。
なんの変哲もない剣。それでドラゴンを一刀両断にしたのだから、その剣の腕は
相当なものということがわかる。
「ヒトミ!!」
「お怪我はございませんか、コハル様?」
ドラゴンに襲われかけていた少女が、ガバッとその女性に抱きついた。
恐怖に歪んでいた顔は、今や満面の笑顔へと変わっていた。
「ふぅ〜、よかった……」
あたしの前でアヤカさんが盛大に息を吐いた。
と、地上にいる、ヒトミと呼ばれた女性がこちらをチラッと見た。
感情が読みとれない無表情。敵意は感じない。でも、好意もまた同じ。
「さて、あとはあちらさんがなんとかしてくれるでしょう。戻るわよ、れいな」
「あっ、はい」
アヤカさんは手綱を引っぱり、ドラゴンの向きを変える。
そして今度は適度な速さで、待機していた二匹のドラゴンのもとへと戻っていった。
- 810 名前:第11話 投稿日:2007/07/20(金) 16:47
- 「れーな、どうなったの!?」
ドラゴンと一緒に待っていた絵里が開口一番で尋ねてくる。
「無事だったとよ。あっちの騎士みたいな人が助けてたけん」
「そっか、よかったぁ〜……」
絵里たちはいっせいに胸を撫で下ろした。
「さてさて、話が途中になっちゃったわね」
アヤカさんがそう場を仕切りなおす。
あたしたちはアヤカさんの次の言葉に集中した。
アヤカさんはコホンと一つ息を整え……
「これからみんなを『ココナッツバレイ』へ連れて行くわ。私のふるさとであり、
そしてみんなが目指している地の王国である、『ココナッツバレイ』へ」
- 811 名前:第11話 投稿日:2007/07/20(金) 16:48
-
◇ ◇ ◇
〜コハル〜
「コハル様、外出するのであれば、せめて私には一声かけてください。そうすれば脱走の
手伝いくらいはいたします」
「うん、ヒトミには話しておくべきだったね。ゴメン」
あのあとあたしはヒトミに連れられ、すぐさま城に戻った。
しかしこれだけの騒ぎになってしまったのだ。もう父の耳にも届いてしまっているだろう。
これからまた脱走するのが難しくなるなぁ……。
「もしかしたら本当にヒトミに手伝ってもらうかもしれない」
「お任せください。私はコハル様の騎士なのですから」
ヒトミがにっこりと微笑む。だから私も笑顔を返した。
そう、ヒトミはあたしのナイト。スィアンス帝国に従属する兵士ではなく、あたしただ一人の
ためだけの騎士。
役職は『皇女付騎士』。よってあたしが物心ついた時から、常に傍にはヒトミが居てくれた。
そしていつもあたしを守ってくれた。
一度なぜあたしにこんなに尽くしてくれるのか訊いたことがある。
するとヒトミは遠くを見つめるような目で語ってくれた。
『あなたの母上に私は大きな恩があります。でもそれを返すことができなかった。
だからあなたを守ることで恩返しをしたいのです』
ヒトミはこの技術が発達した中で、いまだに剣を使っている。
だかそれでもこの国にいるどんな兵士よりも強い。
あたしはヒトミを全面的に信頼している。
今度はちゃんとヒトミに話してから出かけることにしよう。
- 812 名前:第11話 投稿日:2007/07/20(金) 16:49
- 「さてと、それじゃあお父様に怒られにいきますか」
深紅の絨毯が敷かれた廊下を歩いていく。
でもその足はすぐに止まった。
それは目の前に一つの人影が現れたから。
「おやこんなところにいましたか、コハル様。捜したのですよ?」
ヒトミが無言であたしの前に出る。
その顔は固く整えられていた。
「何の用だ、ナイロン?」
「あなたに用はないのですよ。下がりなさい」
「貴様に命令されるいわれはない。私に命令できるのはコハル様だけだ」
「ではコハル様、この無礼者を下がらせてください」
あたしは無言でナイロンを睨みつけることを返事とする。
ナイロンはやれやれというように肩をすくめた。
スィアンス帝国軍務卿、ナイロン。
スィアンス帝国が持つ兵や兵器を自由に操ることができる権限を持つ。
女性でありながらこの地位まで上り詰めたのは、ナイロンが史上初だといわれている。
普段は参謀のような立場で、皇帝である父に助言を施している。
でもあたしはどうもこいつが好きになれない。
忠実なようでいても、どこかに蛇のような狡猾さが見え隠れする。
ナイロンもナイロンで、あたしに嫌われていることなんてまったく気にしてないように接してくる。
「皇帝がおよびですよ。すぐに部屋へと来るように、とのことです」
「言われなくても、今から行くところです」
「そうですか、それは失礼をいたしました」
恭しく頭を下げ、ナイロンは背中を向ける。
そして廊下を歩いていくが、途中で立ち止まり、振り向いた。
「あぁ、そうそう、今日コハル様の警備を『サボっていた』兵士には全員罰を与えました。
ですのでもう安心ですよ、コハル様」
それだけ言い、ナイロンはまた廊下を歩いていった。
あたしは拳を力いっぱい握りしめていた。
- 813 名前:片霧 カイト 投稿日:2007/07/20(金) 16:54
- 今回はここまでです。
またやっちゃいました(マテ
再登場あり、新キャラありと、だんだん広がっていく予定です。
- 814 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/20(金) 23:52
- 更新ありがとうございます。
いつもワクワクしながら読ませて頂いております。
新キャラさん、大歓迎です★
- 815 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:33
- 〜田中れいな〜
「さて、もうすぐ着くわよ〜!」
あたしたちは今やすっかり暗くなってしまった空の中を、ドラゴンの背に乗って飛んでいる。
目指すは『スィアンス帝国』の南東に位置する『ココナッツバレイ』。アヤカさんの故郷であり、
あたしたちが目指していた地の王国。
しかしまさか、アヤカさんが地の民だったなんて……。
でもまぁ、たしかに思い当たる節は多々あるっていうか……。
アヤカさんは地属性の魔法しか使えないし、ドラゴンと意思の疎通ができるし。
「そろそろ降りるわ」
山脈を一つ越えたところで、ドラゴンは下降を始めた。
辺りはまだ山に囲まれている。
その山と山の間をドラゴンは飛んでいく。
その山の中に、いくつもの気配が隠れていた。
注意してみてみると、闇の中に鋭く輝く眼光が見て取れる。
あれってもしかして……。
そうこうしているうちに、あたしたちが乗っていたドラゴンは地面に着地した。
続いてポンちゃんたちが乗っていた、他の二匹のドラゴンも同じように着地する。
「Thank you very much!」
アヤカさんがここまで運んでくれたドラゴンたちを労るように撫でる。
ドラゴンたちは嬉しそうに喉を鳴らすと、また空へと飛び立っていった。
- 816 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:34
- 「ここからは歩いていくわ。居住区はもうすぐよ」
アヤカさんがランタンに火を灯す。
辺りがぼうっと明るくなった。
「この灯りにちゃんと着いてきてね。はぐれるととっても危険だから」
「危険って、どういうことですか……?」
「ん〜、簡単に言うと、侵入者と間違えられてここのGuardianに襲われるかもしれない
ってこと。ワタシといればそんなことないけどねぇ〜」
「・・・・・・」
みんな無言でアヤカさんとの距離をつめた。
ここのガーディアンとは、さっきから辺りに潜んでいる強烈な気配のことで、おそらくドラゴンだ。
きっとドラゴンと意思の疎通をできるのが地の民に備わっている能力で、地の民はドラゴンと
共存しているのだろう。
辺りの気配はどんどんと増えていっている。きっとよそ者であるあたしたちを警戒しているんだ。
こんな数のドラゴンに襲われでもしたら……考えただけで背筋が凍る。
「じゃあ、ちゃんと着いてきてねぇ〜!」
『は、はいっ!!』
その返事は今までした返事の中で、きっと一番良い返事だったと思う。
- 817 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:45
-
◇ ◇ ◇
「さて、着いたわ、ここよ〜!」
そこは高い山々に囲まれた谷の中にある空間だった。
石で作られた建物が並び、その中央にはひときわ目を引く宮殿が建っていた。
「あの宮殿に女王様がいるわ。でもさすがに今日はもう遅いから、明日案内するわね。
募る話もその時に」
「あっ、ありがとうございます」
「今日はそこに泊まって。外から来た客人のための宿泊施設だから。今は誰もいないから
好きに使っていいよ〜」
「はい!」
「それじゃまた明日。今日はゆっくり休んでね〜!」
鍵の束を放り投げて、アヤカさんは去っていった。
あたしたちは宿泊施設へと入っていく。
- 818 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:46
- 「おぉ、部屋がいっぱいあるのれす」
「これなら一人一部屋使えそうやなぁ〜!」
みんなあたしの手から鍵を一つずつとり、それぞれの部屋へと入っていく。
あたしも部屋の中へと入る。
質素だが整えられた部屋と、大きなベッド。
あたしはそのベッドに倒れ込んだ。
今日はいろいろあって疲れた……。
ペガサスに乗って空を翔け、泡に包まれて海の中を移動し、よくわからない武器と戦って、
今は地の王国……。
考えなきゃいけないことはいろいろあったけど、あたしの身体はそれを拒否した。
いいや、明日になったらアヤカさんが話してくれるだろうし。今日はもう寝よう……。
あたしはそのまま羽毛布団に潜り込んだ。
- 819 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:47
-
◇ ◇ ◇
そして翌朝。
目が覚めると、なぜかとなりに絵里が寝ていた。
こいつ、また鍵開けて忍び込んできやがったな!
もう驚かないけど、抱きつかれててうざったいので、とりあえずベッドから蹴り落とす。
「ふぎゃっ!?」
すると絵里は潰されたカエルみたいな声を上げて目を覚ました。
「れーなひどいよ〜!」
「勝手に人の部屋入ってきたヤツがなに言うと?」
「起こすならもっと優しく起こしてよ! 例えばおはようのチューとか!」
「誰がそんなことするか! ほら、今日はここの女王様に会いに行くんだからさっさと起きると!」
そう言いつつあたしもベッドから這い出る。
そういえば昨日はそのまま眠っちゃったなぁ〜……。
着替えるために服を脱ぎ、昨日買った新しい服を着る。
「よし! それじゃみんな起こしに行こうか。絵里も行くと?」
そして絵里の方を向くと、絵里はなぜかそっぽを向いていた。
「? 絵里、どうしたと?」
「……れーなってさぁ、ときどきすごく無防備だよね……」
「はぁ?」
「いや、こっちの話。絵里も着替えてくるね……」
そのまま絵里はふらふらっと部屋から出て行ってしまった。
変な絵里……。
- 820 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:49
-
◇ ◇ ◇
「さて、ここよ」
その後、あたしたちはアヤカさんに連れられ、『竜王の宮殿』に通された。
長い廊下を進んでいくと、石でできた大きな扉に突き当たった。
「ここが『帝竜の間』。女王様はここにいるわ」
アヤカさんが石の扉を開ける。
そこには赤い絨毯が伸びていて、その先には玉座が待っていた。
そこに座っていた人がすっと立ち上がる。
「Welcome to ココナッツバレイ! My name is ミカ! Nice to meet you〜!」
「な、な……?」
「ミカ、わざわざ竜言語使わないで、普通に挨拶してよ……」
「ふふ。初めまして、みなさん。ココナッツバレイ女王、ミカです」
ミカ様がすっと頭を下げる。
その指にはブラウンの宝玉を持った指輪が輝いている。
あたしたちも慌てて頭を下げた。
「さて、みなさんはダウンフロントに来たばかりと言うことで、まだわからないことだらけでしょう。
会談の席を設けてますから、そちらへ参りましょう」
優雅な動作でミカ様が歩いていく。
そのあとをアヤカさんが付き従っていく。
すごく落ち着きのある大人の女性だなぁ〜。
でも……あたしの前を通りすぎた時に思う。
もしかしてあたしよりも……小さい?
- 821 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:50
- 「さぁ、ここよ」
『帝竜の間』から移動し、別の部屋へと入る。
そこは会議室のようなところで、机が円形に並べられていた。
アヤカさんが一つの椅子に着く。
あたしたちも同じように着席すると、ちょうどアヤカさんが紅茶を運んできた。
「あっ、手伝います!」
「絵里も!」
「Thank you〜!」
絵里と一緒にアヤカさんを手伝い、みんなに紅茶が行き渡る。
そしてあたしたちもまた着席した。
「さて、話すことはいろいろありますけど、まずは何から話しましょうか……?」
「とりあえずこのダウンフロントの歴史から話した方がいいんじゃない?」
「Oh! そうね、それがいいわね!」
にっこりとミカ様がアヤカさんに微笑む。
アヤカさんはその微笑みを引き継いで、あたしたちに向き直った。
- 822 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:51
- 「じゃあワタシから話すわね、このダウンフロントの歴史を。みんなもちょっと見たと思うけど、
かなりアップフロントと違うでしょ?」
「はい、それはもう……」
「今からだいたい100年前くらいかなぁ。このダウンフロントではね、魔法使いが生まれなくなったのよ」
出だしから、なんかとんでもない内容だったけど。
アヤカさんはダウンフロントの歴史を語り始めた。
「理由はまだ解明できてないわ。遺伝子の突然変異説が有力だけど、確証はない。とにかく、
この地の王国と、雷の王国『デインジャー』を除いて、ダウンフロントのほぼ全域でいっせいに
魔法使いが生まれなくなってしまった」
誰も、何も音を立てない。
みんなアヤカさんの話に聞き入っていた。
「各国ともとても焦ったわ。何しろ魔法は強力な武力の一つ。それが失われるということは、
武力の相当な弱体化ということになる。その時はまだ大陸全域で起こっているということは、
どの国も知らないからね。自分の国だけが魔法使いが生まれなくなり、弱くなったと思い込んで
たのよ。だから魔法を失った人々は、魔法に変わる新しい力を求めた。それが『科学』の力。
短い間に各国の技術力は格段に進歩したわ」
そこまで話してアヤカさんはいったん話を切り上げた。
そして手がいったんテーブルの下に沈むと、戻ってきた時には黒光りする小さな箱を持っていた。
その箱をゴトとテーブルの上に置く。
「それは……」
見覚えがある。
昨日スィアンス帝国の兵士が持っていた、未知の武器だ。
- 823 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:52
- 「これは『銃』って言ってね。これも科学が生み出したものよ。引き金を引くと銃身内で火薬が爆発し、
そのエネルギーで鉛の弾を飛ばす。撃ち出された弾は矢なんかよりも速い速度で飛んでいき、
急所に当たればそれだけで致命傷よ」
みんながみんな、テーブルに置かれた銃を見る。
まるで恐ろしいものを見るように。
「人一人殺すのに動作はこれだけ。それには魔力も訓練も必要ないわ。科学が作り出した、
新しい兵器よ……」
アヤカさんが伸ばした人差し指をクイッと曲げた。
それだけ。
それだけで、人が死ぬかもしれない。
「悪魔の兵器ね……」
高橋さんが呟いた。
それはきっとみんなが同じように思っていることだと思う。
「まぁ、ワタシも銃はあんまり好きじゃないけどね。でも魔法を失った人たちは他国の侵略という
恐怖に怯え、その力を手にしてしまったのよ。あとはもう転がり落ちるように、より強力な、
より人を殺せる兵器を開発していった」
アヤカさんが銃を手に取り、しまう。
- 824 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:53
- 「話をダウンフロントの歴史に戻しましょう。魔法使いが生まれなくなり、科学が発達して、だいたい
50年くらい経った時、今度は急に魔法使いが生まれだした」
てことはだいたい今から50年前くらいか……。
「なら、よかったんじゃないのれすか?」
辻さんが問いかける。
でもアヤカさんは小さく首を振った。
「人々は失われた魔法の復活を喜ぶよりも、むしろ恐れたわ。もう政治の大部分は魔法使いじゃない
人間の手で行われていた。そんなときに、生まれ持って自分たちよりも強い力を持った人間が現れた。
人々は恐れたのよ。せっかく自分たちが0から築き上げたものを、魔法の力で奪われるんじゃないかって」
「・・・・・・」
「だから人々は別の力で魔法使いを弾圧した。今まで築いた『権力』ってヤツでね。魔法使いを『魔女』と呼び、
『魔女狩り』を制度化した。魔法使いは例外なく処刑されることになった」
なるほど、昨日スィアンス帝国であたしたちが襲われたのはそういう理由なのか。
まさか魔法を使っただけで殺されるなんて……アップフロントでは考えられない……。
「その時の魔法使いの誕生は一時的だったけどね、その後何年かの間隔で、
魔法使いが生まれる時期が周期的に現れるようになったと言われている。
捕まった魔法使いの年齢にかなりの偏りがあるのよ。それからそんな説が
導き出されたの。その『魔法使いが生まれる時期』と、『その時生まれた魔法使い』は
まとめて『スペシャルジェネレーション』と呼ばれているわ」
どうやらダウンフロントにはかなり込み入った事情があるようだ。
これからそう簡単に魔法を使うことはできないな……。
- 825 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:55
- 「そこでワタシたちは『魔女狩り』が施行されてから、裏で魔法使いを保護し始めたの。
保護した魔法使いはワタシたちがアップフロントに移住させる。その受け入れ先として
名乗りを上げてくれたのがロマンス王国よ。だからワタシは仲介人としてそれからずっと
ロマンス王国で働いていたの」
「そうだったんですか……」
「一応これロマンス王国の最高機密で、女王様以下ほんの数人しか知らないことだから。
言いふらしたりしないでね」
「それはもちろん……」
だから異国人のアヤカさんがロマンス王国で働いているのか。
あたしはそれで納得したけど、隣のポンちゃんが変な顔をした。
「あの、アヤカさん……」
「What?」
「ちょっと気になったんですけど、それってどれくらい前から始められたんですか?」
「え〜と、『魔女狩り』が施行されてからだから……40年くらい前かな?」
あれ……?
「じゃあアヤカさんは40年も前からロマンス王国にいるんですか……?」
「うん? それがどうか……あぁ! そういやまだ言ってなかったっけ」
アヤカさんは謎が解けたように、ニコッと笑った。
「地の民はね、ドラゴンと意思の疎通ができるのともう一つ、普通の人より寿命がずっと長いのよ」
「えっ……?」
「身体にドラゴンの血が混じってるらしくてね。ワタシは今年で126才になるわ」
『ぇえええっ!!?』
あたしたちは奇声を上げて思わず立ち上がった。
そんなあたしたちをよそに、アヤカさんはミカ様の方を向く。
「ミカは何歳だっけ?」
「さぁ、ちょっと覚えてないわ。200才までは数えてたんだけど……」
あたしたちは直立不動のまま固まってしまった。
今まで聞いたダウンフロントの歴史よりも、そのことが一番衝撃的だった。
- 826 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:55
-
◇ ◇ ◇
〜コハル〜
「ふぅ〜……」
広げた紙の上にぐったりと突っ伏す。
あ〜、全然勉強に手がつかない……。
ペンを放り出し、あたしはベッドに倒れ込む。
昨日はミヤビちゃんたちと一緒に街に出て。
ドラゴンに襲われて。
そこを助けてもらった。
見知らぬ人。
見たこともないような強力な魔法を使っていた。
しかもこの『魔女狩り』が制度化されたスィアンス帝国で。
もう一度会ってみたい。
助けてもらったお礼もちゃんと言えなかったし。
それに、あの人たちなら、迷走を続けるスィアンス帝国を変えてくれるかもしれない。
あの人たちはドラゴンに連れられていった。
ということは、今はきっと『ココナッツバレイ』にいるだろう。
『ココナッツバレイ』か……。
さすがにそこまで行ったことはないけど、国境付近までなら行ったことがある。
でも……さすがに一人で行くのは危険すぎる。それに約束もしたし。
あたしは部屋を抜け出した。
- 827 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:56
- 「コハル様、どちらへ?」
「ちょっとヒトミの部屋へ」
部屋からの脱走がばれてしまい、あたしの警備、という名の監視はより強固になった。
このように部屋の前にもナイロンの息のかかった兵士が配備されている。
まぁ、ヒトミは『皇女付騎士』だし、部屋もすぐ近くだから、会いに行くくらいは問題ないけど。
「ヒトミ〜?」
『はい、どうぞお入りください』
ノックをして名前を呼ぶと、すぐにヒトミが答えてくれた。
扉を開け、部屋の中へと入っていく。
ヒトミの部屋はいつ来ても綺麗に整理されている。
「どうしたのですか、コハル様?」
「うん、ちょっとヒトミに話したいことがあって……」
「・・・・・・」
それだけでヒトミは何かを察したのだろう。
あたしの後ろにまわると扉に鍵をかけた。
そしてあたしを部屋の奥まで誘導する。
窓際に置かれたガラスのテーブルに二人でついた。
「また城を抜け出すつもりですか?」
「あはは〜、バレバレか……」
「止めはしませんが、今度は私もついていきますよ?」
「うん。そのためにここに来たんだから」
「? どういうことですか?」
「うん……その前に、昨日会ったことを全部話しておくね」
ヒトミが首を傾げた。
あたしは昨日あったことを全てヒトミに話した。
- 828 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:57
- 「そんなことがあったとは……」
話したあと、ヒトミは悲壮な表情で俯いていた。
「申し訳ありません。私がもっと早くついていれば……」
「そんなことないわ。もともとはコハルがヒトミに言ってから外出しなかったのが悪いんだし……。
そんなことより、その時助けてくれた人は魔法を使っていたの」
「なっ!? まさか、魔女がそんな……」
「魔女って言わないで!!」
あたしは思わず叫んでしまった。
ヒトミも「しまった」という表情で俯く。
「申し訳ありません、コハル様。失言でした……」
「ううん、コハルの方こそゴメン、叫んじゃって。それより……」
なんとか冷静さを取り戻し、話を続ける。
「その人たちはあまりこの辺では見ない服を着てたし、『魔女狩り』のことも知らなかったみたいだし、
もしかしたらもう一つの大陸から来たんじゃないかって思って」
「まさか、そんなことは……。我が国の最先端技術を持った軍用艦でもあの『世界の裂け目』を
越えることはできなかったですし……」
「でも魔法の力だったら? 魔法の力だったらあの激流の壁も越えられるのかもしれない。
魔法にはまだコハルたちも知らない力があるのかもしれない」
「そうかもしれませんが……。コハル様、いったい何をなさろうとしてるのですか……?」
「うん……」
あたしは一度言葉を切った。
ここから先を言ってしまってもいいものか……。
でもそのために来たんだから……。
あたしは意を決してもう一度口を開く。
- 829 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:58
- 「もう一度あの人たちに会いに行きたいの」
「なっ!? そんなこと……!」
「あの人たちの力はきっとこのスィアンス帝国を変えてくれると思うの!」
ヒトミが諫めるようにあたしを睨む。
ヒトミがこんな厳しい顔をするのは、いつもあたしのことを思ってくれている時だ。
でも今回はあたしも引き下がるわけにはいかない。
このまま何もしなかったら、スィアンス帝国はどんどんおかしくなっていく気がするから。
あたしもヒトミの目を真っ正面から捉える。
「ふぅ……」
しばらくしたあと、ヒトミが先に目をそらした。
「会いに行くと言っても、場所はわかっているのですか?」
「ドラゴンに乗って去って行ったから、きっと『ココナッツバレイ』にいると思う。さすがに中に
入ったことはないけど、国境付近までは行ったことあるから、すぐに行けるよ。それに、
上手くいけば今後のことについて向こうの女王とも話せるかもしれないし」
そう言うとヒトミはまた一つ溜め息をついた。
「……もし少しでも危険だと感じたら、すぐに戻りますよ。それが条件です」
「うんっ! ありがとう、ヒトミ!!」
あたしは思わずヒトミに飛びついた。
ヒトミは困ったように硬直していたけど、やがてあたしをそっと離すと、剣をとり、腰に差した。
- 830 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:59
- 「行くなら早く済ませた方がいいでしょう。あまり遅くなると不信がられます」
「うん」
高ぶった気持ちを落ち着ける。
そして記憶していたフレーズを口ずさむ。
詠唱とともに、あたしの足下に伸びていた影が、まるで意志を持ったかのようにその形を変えていく。
そう、あたしも『スペシャルジェネレーション』だ。
生まれつき持っていた能力。
知っているのは同じ『スペシャルジェネレーション』のミヤビちゃんたちと、ヒトミだけ。
お父様ですら知らない、あたしの秘密。
何度か打ち明けようと思ったことはある。
でも結局できなかった。
怖かったんだ。もしかしたらお父様はあたしですら無慈悲に断罪するかもしれないと
思ってしまった……。
でも、いつまでもこのままじゃいけない。
お父様とちゃんと向き合うためにも。
スィアンス帝国のためにも。
まずはあたしが動き出さないと!
「ヒトミ、できたわ、乗って!」
「はい!」
あたしの影が魔法陣を描き出す。
合図とともに、ヒトミが魔法陣に飛び乗った。
「シャドウ・ホール!」
そしてあたしたちを光と闇が包みこんだ。
- 831 名前:第11話 投稿日:2007/09/07(金) 22:59
-
- 832 名前:片霧 カイト 投稿日:2007/09/07(金) 23:06
- 今回はここまでです。
いわゆる説明パート。
なかなか思うようにまとまらず、おかげで更新できませんでした。申し訳……。
もうちょっとスムーズに更新できるように頑張ります。
実は11話のタイトルは「魔学と科学」にするか、「スペシャルジェネレーション」にするか本気で迷いました(何
>>814 名無飼育さん 様
大変遅れて申し訳……。
また新キャラ登場ってことで許してください(ぉ
- 833 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/07(金) 23:39
- アヤカさんの言葉から今回のお話を読む時の
テーマ曲が決まってしまいましたw
更新お疲れ様っス★
- 834 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/13(木) 02:01
- 更新お疲れさまです
少しずつ歴史が明らかになってきましたね
新たな大陸での冒険、今後とも楽しみです
- 835 名前:遊 投稿日:2007/09/18(火) 23:15
- 前に過去ログ倉庫で拝見し、最近ここを見つけました。
前回では飯田さんとの戦いで、ワクワクドキドキ、そして涙しました
今回も素晴らしく、愛ガキが大好きなんですが…ガキさんが亡くなった時のれいな達…
本当に涙がジワーとしてボロボロ出ました
愛ちゃんの心境がとても悲しく伝わってきます
今回は新しい物語で、新しい事ばかりですが、楽しみにしております
長くなってすいませんでした
- 836 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:43
-
第12話 機械仕掛けの陰謀劇
- 837 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:44
- 〜田中れいな〜
「さて、ちょっと話がそれたわね」
アヤカさんの衝撃発表によって硬直していたあたしたちは、それでようやく復活できた。
姿勢を正し、アヤカさんの話に耳を傾ける。
「話を戻すけど、その後はダウンフロントのほとんどの国で『魔女狩り』が施行され、ダウンフロントは
ほぼ魔法使い討伐という形で統一されたのよ。その例外がここ『ココナッツバレイ』と、雷の王国
『デインジャー』ってわけね」
「そこまで『魔女狩り』は進んでるんですか……」
「そうね。で、そう言った国は例外の国が目障り……というか脅威らしくてね。『デインジャー』は
地理的に手を出しづらいからって、まずは『ココナッツバレイ』にちょっかいをかけてきたのよ。主に
隣国の『スィアンス帝国』がね」
「だからアヤカさんは急遽帰国したんですね?」
「そういうこと」
そこでアヤカさんは一度話を切り、紅茶を飲んだ。
でもカップを置くと、すぐに話を再開する。
「まぁ、『スィアンス帝国』が『ココナッツバレイ』にこだわるには、それだけの理由じゃ
ないんだけどね……」
「そうなんですか?」
「えぇ。『スィアンス帝国』と『ココナッツバレイ』のあいだにはちょっとした軋轢があってね。
正確に言えば、『スィアンス帝国』の皇帝と『ココナッツバレイ』のあいだ、になるんだけど」
アヤカさんは大きく息を吐いた。
- 838 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:45
- 「今から……これも50年くらい前か。ある地の民がね、駆け落ちしたのよ。相手は当時の『スィアンス帝国』
第二皇子。帝位継承権はないけど、れっきとした皇族でね。その人はその時すでに子供を身籠もっていた。
その子供が今の皇帝よ」
「・・・・・・」
「ただ、その当時の『ココナッツバレイ』は掟が厳しくてね。異種族間の結婚や、『ココナッツバレイ』からの
脱走なんて許されなかった。それで、脱走した地の民の捕縛命令が出てね。その過程で、ワタシたちは
誤って第二皇子を殺してしまった」
「そんな……」
「当然国家間の問題になったんだけど、当時の『スィアンス帝国』はまだ技術力も大したことなくてね。
戦力はワタシたちの足元にも及ばなかった。それに帝位を継げる人もいたし、渋々だろうけど納得し、
その問題は一応の解決を見た」
誰も、何も言葉を発しなかった。
アヤカさんはなおも続ける。
「でもその当時から、現皇帝の中には『ココナッツバレイ』への恨みが棲んでたんでしょうね。
どうやって皇帝まで上り詰めたのかは知らないけど、とにかく皇帝の座につき、技術力を磨き上げ、
『ココナッツバレイ』への侵攻の機会を虎視眈々と窺っている。今回の戦いには、きっと皇帝の
私怨というのもあるんだろうね」
あたしはチラッとミカ様を見た。
そんな物騒なことをしそうな人には見えないんだけど……。もしかして実はかなり怖いとか……?
あたしの視線に気付いたのだろう。アヤカさんが慌ててフォローする。
「あっ、その当時はミカじゃなくて別の人が女王だったんだからね。自分にも他人にも厳しい人でさ。
強引なやり方がたたって、最後には自分の愛竜に食べられちゃった」
「あっ、そうだったんですか……」
「私は30年くらい前に女王になったのですよ。ですのでまだまだ女王としては未熟ですわ」
ミカ様がにこやかに微笑みながら続ける。
あ〜、やっぱりミカ様は見た目通りの方みたいでちょっと安心。
しかし30年でまだまだ未熟って……やっぱりどこか時間感覚が違うなぁ……。
- 839 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:46
- 「というわけで、ここのところちょっと情勢が危ないわけよ。何かがあれば一触即発ね。だからワタシたちは
その『何か』、大義名分を与えないようにしてる」
「大義名分……ですか……?」
「そう。魔法使いがいる、だけじゃ他国に攻め込む理由としては弱いのよ。国の政策に他国が口出しするわけには
いかないしね」
「なるほど……」
「今回のも危なかったわ。れいなたちがいてくれたおかげでなんとか死傷者は出さずに済んだからよかったけどね。
もし出てたら間違いなく今ごろ全面戦争よ」
昨日のドラゴンのことか。
あれって野生のドラゴンが暴走したんだとばっかり思ってたけど、ココナッツバレイのドラゴンだったんだ……?
だとしたら、なんであんな事に……?
「昨日のドラゴンって、ここのドラゴンだったんですか?」
みんなも同じように思ってたみたいで、ポンちゃんが代表してアヤカさんに聞いた。
アヤカさんは苦い顔をして答えた。
「あのドラゴンはね、闇に魅入られてしまったのよ……」
「闇!?」
ここへきて関わってきた……闇。
「最近闇が濃くなってきててね、ドラゴンたちの中に影響を受けて暴走する竜が出てきている。
ココナッツバレイには闇は届きづらいはずなのに……」
それだけ闇の目覚めが近いってことなのか……。
早くしないと……今度は人間にも影響を与えるようになってしまう。
- 840 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:47
- 「さて、とりあえず、ダウンフロントの歴史と現状はこんなところかしらね、ミカ?」
「こんなところでいいと思うわ。お疲れ様」
ミカ様はアヤカさんをねぎらうと、すっと視線をあたしに向けた。
穏やかだった表情が、一瞬で真剣なものになる。
「聞いての通り、今ココナッツバレイはとても危ない状況なの。だから申し訳ないけど、今すぐこの魔剣を
渡すわけにはいかないわ」
「そうですか……」
「代わりといってはなんだけど、先に雷の王国『デインジャー』まで送るわ。雷の魔剣を先に
手に入れてはいかがかしら?」
あたしはチラッとポンちゃんのほうを見た。
ポンちゃんは少し考え込んだあと、にっこりと笑って頷いた。
他の人を見てみても、特に反対らしい表情は浮かべていない。
どうやら方針は決まったようだ。
「よろしくお願いします、ミカ様」
「All right! 向こうとの交渉にちょっと時間がかかるから、そのあいだはココナッツバレイで
ゆっくりしていってね」
「はい! ありがとうございます!」
「それでは……そうね、ココナッツバレイの中を案内しましょうか」
そう言ってミカ様はすっと席を立った。
アヤカさんもミカ様に付き従う。
あたしたちもミカ様に誘われるように、宮殿の外へと進み出た。
- 841 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:48
-
◇ ◇ ◇
「うわ〜……!」
あたしたちは思わず言葉を失った。
ココナッツバレイの居住区から少し入ると、そこはドラゴンの世界だった。
切り立った山々、そのあいだを流れる滝と川。
その中をよく見かけるような竜から、本でしか見たことないような竜王種まで、ありとあらゆる
竜が舞っていた。
「あれは炎の竜王種、ルブルムドラゴン! それに水の竜王種のリヴァイアサンまで!」
「あっちには雷の竜王種、ライディーンもおるで!」
「地の竜王種、ジャバウォックもなのれす!」
辻さんや加護さんたちもはしゃいでいる。
あたしももちろん興味津々で。
これだけのドラゴンを一度に見る機会なんてそうそうあるものじゃない。
「すごいですねぇ! こんなにたくさんのドラゴンがいるなんて!」
「フフッ、こんなもんで驚いてもらっちゃ困るよ! ね、ミカ!」
「そうね!」
目を丸くしているあたしたちを尻目に、アヤカさんとミカ様は微笑みあう。
なん? まだ何かあると?
「そこに行くにはちょっと遠いから、ね」
アヤカさんがすっと手を上げると、近くにいたドラゴンが集まってきた。
そのうちの一匹にミカ様がまたがる。どうやら移動用のドラゴンらしい。
あたしたちもそれぞれドラゴンにまたがる。
- 842 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:48
- 「それじゃあ、Let's go!」
八匹のドラゴンが舞い上がる。
そして様々なドラゴンが遊泳している渓谷を飛んでいく。
こうしてみてみると、本当にいろいろなドラゴンがいる。
すっごく綺麗なドラゴンから、強そうなドラゴンまで。
しばらくドラゴンの鑑賞会を楽しんでいると、だんだん高度が上がってきているのに気付いた。
そして目の前に迫っている、高くそびえ立った山。
「もう少しで着くわよ〜!」
やっぱりあの山に向かっているみたい。
そして、近づくにつれ、空気がゆったりと柔らかくなってきているような気がする。
ドラゴンたちは山を一気に登りきった。
「うわっ!?」
頂上に降り立った瞬間、突然現れたまばゆい光に目が眩む。
それでもなんとか目を開けると、そこには一匹の巨大なドラゴンがいた。
白銀の鱗は鏡のように綺麗で、光を放っているようだ。
翼は力強く、爪や牙は鋭い。それなのにそこに存在する空気はとても温かだった。
普通のドラゴンではないということが一目でわかる。
このドラゴンは、いったい……?
- 843 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:49
- 「このドラゴンは、天界竜・バハムート。世界でたった一匹しかいない種族で、このココナッツバレイの
守り神よ。代々王と共にココナッツバレイを守ってきたドラゴンでね、身体から発せられる光の波動が
ココナッツバレイを包みこみ、闇から守っているのよ」
「でも最近は闇の力が強まっていてね、このコの力だけじゃ完全にはもう防げなくなってきてるわ……」
悲しげな表情で、ミカ様がバハムートの額を撫でる。
するとバハムートも悲しそうな声で「グルル……」と啼いた。
「フフッ、I'm all right. Don't worry」
そのあとミカ様が何ごとかを囁いたけど、あたしにはよく分からなかった。
聞こえなかったというわけではなく、言葉が理解できなかった。
ミカ様やアヤカさんにときどき出てくる独特の言語。
「アヤカさん、ミカ様はなんて言ったんですか?」
ポンちゃんがアヤカさんに問いかける。
「あぁ、『大丈夫だよ、心配ないよ』って言ったのよ。あれは竜言語って言ってね、ドラゴンと
意思疎通するために使われていた言葉よ。まぁ、最近はドラゴンも普通の言葉で伝わるように
なってきたから、あんまり使わなくなっちゃったけどね」
「そうだったんですか」
なるほど、ドラゴンと会話するための言語だったのか。
てことはあたしもその竜言語を覚えたらドラゴンと意思疎通ができるのかなぁ……?
- 844 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:50
- 『キーッ、キーッ!』
「んっ?」
その時、小さな鳴き声が聞こえてきた。
その方向を見てみると、鳥くらいのサイズのドラゴンがこちらに向かって飛んできていた。
アヤカさんがそっと手を伸ばすと、そのドラゴンがその手に降りる。
「わぁ! 可愛いドラゴンですねぇ! 仔竜ですか?」
「いや、これでも成竜なんだ。プッチドラゴンっていう種族でね。身体は小さいから戦闘力は
ないけど、そのかわり動きがすばやいから、諜報活動や、情報伝達に活躍してくれてるのよ」
プッチドラゴンはアヤカさんの腕を伝い、アヤカさんの肩まで上る。
そしてアヤカさんの耳許でまたキーキーと鳴く。
「……えっ?」
アヤカさんの顔がすっと険しくなった。
そのままミカ様のそばにより、何ごとか耳打ちをする。
するとミカ様の顔も同じように険しくなった。
- 845 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:51
- 「あの、アヤカさん、何かあったんですか……?」
「うん……なんかココナッツバレイの入り口に見知らぬ人間が来てるらしいのよ」
「えっ? それって侵入者!?」
「いや、二人だけだし、正面から来たみたいだし、もしかしたら使者かもしれない。ミカ!」
「えぇ、行きましょう。私たちが行くから、それまで危害を加えないように伝えてちょうだい」
『キーッ!』
プッチドラゴンは返事の代わりに一鳴きすると、アヤカさんの肩から飛び立った。
その瞬間、すぐに姿が見えなくなる。
うわ、本当に速い……。
「それでは、私たちも行きましょう」
「うん。レイナたちも一緒に来て」
「あっ、はい!」
ミカ様とアヤカさんが、ここまで運んでくれたドラゴンにまたまたがる。
あたしたちも続いた。
「See you、バハムート!」
『グルッ!』
バハムートの鳴き声と同時にドラゴンたちが上昇する。
そしてあたしたちはココナッツバレイの入り口へと急行した。
- 846 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:52
-
◇ ◇ ◇
そこはたくさんのドラゴンと、地の民で溢れていた。
「Sorry! ちょっと通して!」
それらの中を突っ切って、なんとか一番前に出る。
するとそこには、こちらに向かって剣を構えている女剣士と……
「あっ、あなたは!」
その背に守られている、昨日助けた少女の一人がいた。
アヤカさんが辺りを取り囲んでいるドラゴンと地の民を下がらせる。
それと同時に、女剣士、確か……ヒトミさんも剣を鞘に収めた。
その背後から少女がトトトッと出てくる。
「あの時ドラゴンから助けてくれた方ですよね?」
「うん、無事でよかったと」
「本当にありがとうございました。おかげでみんな助かりました」
「いや〜、なんか逆に魔法で怖がらせちゃったみたいで……」
「そんなことないです。確かに少し驚きましたけど、助けてもらわなかったらコハルは今
ここにいませんでした。それなのにあの時はお礼もできずに……」
「気にしなくていいとよ。えっと、コハルちゃん?」
「はい、コハルともうします」
「そっか、あたしは田中れいなっていうと!」
すぐに意気投合したあたしたちは、そのまま話し込んでいたんだけど。
そしたらいきなり背後から頭を思いっ切り押さえつけられた。
- 847 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:53
- 「ふぎゃっ!? 誰と!?」
後ろを向いてみると、あたしの頭を押さえていたのはアヤカさんで……。
「アヤカさん、何するとですか……?」
「バカッ! 頭が高い! 相手は誰だと思ってんだ!」
「だ、誰って……?」
「スィアンス帝国の皇女、コハル様だよ!」
「えっ……?」
あたしは頭を押さえられたまま、前を向いた。
皇女ってことは……もしかして……。
現皇帝の……娘?
「えぇえええっ!? 本当に!?」
「はい、一応……」
この後あたしは照れ笑いするコハルちゃ……コハル様に平謝りするハメになった……。
- 848 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:54
-
◇ ◇ ◇
「ところで、本日はいったいどういったご用件ですか?」
あたしの平謝りが一通り済んだ後、ミカ様がすっとコハル様の前に進み出た。
コハル様もすっと表情を整えて返す。
「はい。先日言い忘れたお礼を言いに来たのと、もう一つ、今後の両国についての
話し合いに来ました」
「なるほど、わかりました。それでは、会談の席を設けましょう」
ミカ様が何人かの地の民に指示を出す。
指示を受けた地の民はそっとココナッツバレイへの道を戻っていった。
指示が済んだ後で、またミカ様が向き直る。
「そちらの参加者は二人でよろしいですね?」
「はい」
「では、こちらももう一人同席させます」
ミカ様がすっとアヤカさんのほうを見た。
あ〜、やっぱりこういう時はアヤカさんが同席するんだなぁ。
なんて思っていたけど、ミカ様は次にあたしのほうを見て……。
- 849 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:54
- 「れいな」
「はいっ!?」
名前を呼んだきり、またミカ様はコハル様と向き合う。
「こちらは彼女を同席させます。彼女は地の民ではありませんが、信用に足る仲間です。
それにそちらと多少なりとも面識もあるようですし」
「お気遣い感謝します」
えぇえぇえっ!? あたしですか!?
しかもなんか二人とも話進めてるし!
「あ、アヤカさん! れいななんか同席していいとですか!?」
「んっ、適役だと思うけど?」
「でも、アヤカさんの方が……」
「ミカとしては、きっとなるべく両者の立場を対等にしたいんだよ」
たぶんあたしは今顔中に疑問符を浮かべているに違いない。
だって向こうはコハル様と、その側近のヒトミさんなんだから、こっちもミカ様とアヤカさんで
釣り合うんじゃ……?
するとアヤカさんがもうちょっと詳しい解説を付け足してくれた。
- 850 名前:第12話 投稿日:2007/10/02(火) 20:55
- 「会合の場所は必然的にココナッツバレイ内になるからね。いわば、ワタシたちにとってここは
Homeなわけさ。だからこっちの条件が悪いくらいで釣り合うんだよ。ミカもそう考えて、
なるべく第三者に近い味方のレイナを選んだんだろうね」
「な、なるほど……」
「それに、レイナが同席すればそっちも情報が得られるでしょ? ワタシはあとでミカに
聞けばいいんだし」
そっか……そこまで考えて……。
さすが女王様だなぁ、ミカ様は……。
「というわけで、出席してくれる?」
「はい、もちろん!」
「れいな、頑張ってね」
「はい、行ってきます、ポンちゃん」
「れーな、無礼のないようにね」
「絵里にだけは言われたくないと……」
というわけで、あたしはスィアンス帝国とココナッツバレイの代表者による会合に
出席することになった。
コハル様とヒトミさんを連れ、あたしたちはココナッツバレイに戻っていく。
この時、ここにいる誰もが夢にも思っていなかった。
この接触が見られていたなんて……。
- 851 名前:片霧 カイト 投稿日:2007/10/02(火) 21:03
- 今回はここまでです。説明パート後半にして、12話の始まり。
タイトルは「機械仕掛けのマスカレード」と読んでください。
不穏なタイトルと不穏な終わり方で、そろそろストーリーも動き出します。
>>833 名無飼育さん 様
実はどうしても使いたかったネタでした(笑
最初はそのためにBerryz全員出すつもりだったんですが、書き分けできないので半減……。
>>834 名無飼育さん 様
今回の更新分で説明パートはだいたい終了です。
そろそろストーリーのスピードも上げていきたいです。
>>835 遊 様
丁寧な感想ありがとうございます。
さすがにそろそろまとめて読むには大変な量になってきましたね(汗
今作は前作とはまた違ったファンタジーになっていますが、それでも楽しんでいただければ幸いです。
- 852 名前:第12話 投稿日:2007/11/09(金) 14:17
- 『竜王の宮殿』の応接室は、あたしたちが先ほど話しあっていた会議室と比べると
ちょっと小さくて、ちょっと豪奢な作りだった。
中央に置かれたテーブルを挟んでミカ様とコハル様が向かい合わせに座り、
あたしとヒトミさんはそれぞれ後ろに控える。
「まず最初に説明しておきますが、今『竜王の宮殿』の中にはこの四人しかいません。
入り口に兵は置いていますが、建物全体を囲むように結界も張ってもらっています」
「了解しました」
結界はポンちゃんが外から張ったもので、ポンちゃんでないと解くことはできない。
これもミカ様なりの気遣いだろう。
ホームであるココナッツバレイの中に、できるだけ対等な空間を作り出した。
「ではまず、情報交換からしましょうか」
「そうですね」
ゆっくりとした流れで会談が始まる。
「まず最初に伝えておきたいのは、私たちココナッツバレイはスィアンス帝国と争うつもりも、
侵攻するつもりもないということです」
「はい、それは理解しています」
「ですが魔法使いが殺されているのを見過ごすこともできません。そのため地の民が
スィアンス帝国や、他の周辺国に入り込み、魔法使いの保護を行っています」
「……そうだったのですか……」
これにはさすがにコハル様も黙り込む。
下手をしたら国際問題にもなりかねない内容だ。
少し考え込んだあと、コハル様が口を開いた。
- 853 名前:第12話 投稿日:2007/11/09(金) 14:18
- 「現状を考えればご助力感謝いたします。ですが最終的には力を借りなくてもちゃんと
自立した国にしたいですね、魔法使いの問題も含めて」
しっかりしてるなぁ、と思った。
あたしよりも年下なのに、国なんていうものを背負う覚悟を持っている。
「それでは、こちらからの情報になります」
「はい」
今度はコハル様が口を開く。
あたしも一言一句聞き逃さないよう、しっかりと耳を傾けた。
「現在のスィアンス帝国では、ココナッツバレイへ侵攻の空気が日に日に高まっています」
「そうですか……」
「勘違いしないでいただきたいのは、国民がそう望んでいるというわけではないということです。
国民は戦争なんて望んではいません。それを軍と……皇帝が煽っているのです」
スィアンス帝国の皇帝といえば、自分のお父さんだろう。
それをコハル様は真っ向から糾弾した。
コハル様の強い意志がうかがえる。
「コハルはなんとか現状を変えたいのです。魔法使いだからという理由だけで弾圧したり、
他国を侵略するなんて間違っています。ですが、残念ながらコハルにはまだそれを
変えるだけの力がありません。ですのでココナッツバレイの女王であるミカ様の力を
貸していただきたいのです」
コハル様が頭を下げる。
それを受けてミカ様も深く頷いた。
「わかりました。公にバックアップすることはできませんが、可能な限り力を尽くしましょう」
「ありがとうございます!」
「では、もう少し具体的な話に移りましょうか。まずは、この緊迫した状況をどうするか」
- 854 名前:第12話 投稿日:2007/11/09(金) 14:20
- そのあとも二人の議論は続いた。
内容は両国のこれからの関係や、『魔女狩り』への対応についてなど。
そしてどれくらい立っただろう。
コハル様と話していたミカ様が、ふと顔を上げた。
「どうしたのですか、ミカ様?」
「いえ……少し、外が騒がしくなったような……」
えっ?
意識を外に集中してみる。
でもそんなことをせずとも、異変はすぐに訪れた。
「えっ……?」
『竜王の宮殿』を覆っていた結界が突如解けた。
「宮殿内に人の気配が……!」
ヒトミさんが鞘に収まった剣に手をかける。
あたしも同じように、ダークブレイカーを指輪から剣に戻す。けど……
今の結界の解け方は、無理矢理破られたというよりはむしろ、普通に解除されたような感じだった。
ということは、きっとポンちゃんが解いたのであって……。
外で何かが起こり、その報告のために宮殿内に入ったのではないだろうか……?
そうこう考えているうちに、気配はすぐ扉の向こうまでやってきて。
扉が二度荒々しくノックされると、返事も待たずに開いた。
応接室に飛び込んできたのは、アヤカさんとポンちゃんで。
- 855 名前:第12話 投稿日:2007/11/09(金) 14:20
- 「アヤカ? 一体どうしたというの?」
「ミカッ! 大変なことになった……!」
アヤカさんはそこで息を整え……
「スィアンス帝国が、ココナッツバレイに向けて軍を動かした!」
「なんですって!?」
「そんなっ!!」
アヤカさんの報告を受け、ミカ様とコハル様がそろって立ち上がった。
あたしも思わずポンちゃんのほうを見る。
でもポンちゃんは悲しそうな顔で頷くだけだった。
「そんな……どうしてそのようなことを……?」
「アヤカ、確認はしたの? まだなのなら今すぐクラヴォエンスアイで確認を!」
「いや、確認はすでに行っている」
「ならすぐに記録を!」
「しかし……」
そこでアヤカさんはチラッとコハル様たちのほうを見た。
一瞬コハル様たちを疑っているのかと危惧したが……。
アヤカさんの目は疑っているというよりは、むしろ気を使っているような、そんな目をしていて。
「アヤカ? 一刻も早く状況を把握しなくては手が打てないのよ!?」
「……わかった」
アヤカさんは懐から水晶球をとりだし、ミカ様たちが座っていたテーブルの中央に置いた。
みんなしてその水晶球を覗き込む。
「リプレイ!」
アヤカさんが短く呪文を唱えると、水晶球の中に映像が流れ始めた。
- 856 名前:第12話 投稿日:2007/11/09(金) 14:22
-
◇ ◇ ◇
「なんだとっ!?」
そこはおそらくあるお城の謁見の間。
長く続くレッドカーペットの終端、そこに置かれた玉座から男が叫び声とともに立ち上がった。
おそらくこの人がスィアンス帝国の皇帝だろう。
「それは本当なのか!?」
「はい。ココナッツバレイに潜入させた密偵からの、確かな情報です」
皇帝は目の前に跪く女性に対して声を荒げる。
かたやその女性は落ち着き払った声で、淡々と報告を続けた。
「『皇女付騎士』であったヒトミがコハル様を攫い、ココナッツバレイへ入った、と」
「くっ……!」
皇帝が苦痛に満ちた声を絞り出して後ろを向く。
女性はその場に立ち上がり、さらに続けた。
「こうなってしまっては、ヒトミはもともとココナッツバレイの間者であった、と言うことでしょうね。
もともとあの者はどこの者とも知れない。それを今は亡き皇妃様の一存で騎士に任命されたと
聞きましたが?」
「その通りだ。だがコハルが絶対の信頼を置いていたからそのままにしてきた。それを裏切るとはっ!!」
「ご安心ください。すでに軍の編成は完了しております。すぐにでもココナッツバレイへ進軍を開始できます」
- 857 名前:第12話 投稿日:2007/11/09(金) 14:22
- 皇帝がもう一度女性の方を向いた。
「頼んだぞ、ナイロン。必ずやコハルを取り戻してくれ!」
「御意。それでは私は準備に取りかかります」
ナイロンと呼ばれた女性がくるっと体を反転させ、カーペットの上を歩いていく。
映像はそのナイロンを追っていく。
ナイロンは謁見の間を出て、そのまま廊下を進んでいく。
その途中、すっと影のように、一人の兵士がナイロンの背後にピッタリと並んだ。
「準備は整っているか?」
ナイロンは振り返ることもなく、そのまま兵士に問いかける。
「問題なく終了しております。すぐにでも出発できます」
「首尾は伝えてあるだろうな?」
「はっ!」
兵士はさらにナイロンとの距離をつめた。
「コハル様を見つけ次第暗殺せよとの旨、問題なく伝わっております」
「結構」
今まで無表情だったナイロンの顔に笑みが浮かぶ。
「これで大義名分はより確実なものとなる。加えて皇家の跡取りも消すことができる。
全て私の思うように回っている! ハハハハハッ!!」
水晶球からナイロンの高笑いが響いた。
- 858 名前:第12話 投稿日:2007/11/09(金) 14:23
-
◇ ◇ ◇
ダァン!!
突如応接室内に轟音が響いた。
その方向を見ると、ヒトミさんがテーブルに拳を叩きつけていた。
「おのれナイロンめ! まさか裏でそんなことを画策していようとは!!」
そのまま今すぐにでもナイロンを斬りに行きそうなくらいヒトミさんは怒りに燃えていた。
でもそれができないのは、隣で頭を抱え震えている主君がいるからだろう。
「そんな……コハルのせいで、戦争が……」
「いえ、密偵を入らせてしまった我々の落ち度です。ココナッツバレイの警備を
過信しすぎました……」
ミカ様も苦い顔で呟く。
「待ってください! これにはまだ続きがあるのです!」
それらを全て、アヤカさんが引き戻した。
- 859 名前:第12話 投稿日:2007/11/09(金) 14:24
- 「続き?」
「はい、見てください」
みんなでもう一度水晶球を覗き込む。
水晶球は相変わらず、廊下を歩いているナイロンを映していたけど……。
そのナイロンの歩みが突如止まった。
そしてナイロンが視線だけをチラッとこちらに向ける。
『チッ!』
小さな舌打ちとともに、映像はそこで切れた。
「「えっ?」」
声を上げたのはミカ様とポンちゃんだった。
二人そろって怪訝そうな顔をしている。
「どうかしたとですか、ポンちゃん?」
「魔法が……切られた……」
「えっ?」
「クラヴォエンスアイは遠くのものを見る魔法でね、でもその対象が見られてると気付けば、
抵抗することができるの。その時は術者と対象とのあいだでの攻防になるんだけど……」
「じゃあそれで術者が負けちゃったって事ですか?」
「そういうこと。でも……それには魔法が使えることが絶対条件。そもそも魔法が使えなかったら
見られていることにさえ気付けないはずだもの!」
「じゃあ……」
魔法が使えない人にクラヴォエンスアイは妨害できない。
でもナイロンはそれをやってのけた。
ということは……。
- 860 名前:第12話 投稿日:2007/11/09(金) 14:25
- 「ナイロンも……スペシャルジェネレーション!?」
あたしの言葉をコハル様が引き継ぎ、結論を出した。
「でもなぜスペシャルジェネレーションのナイロンが……」
「魔法使いを弾圧から解放するため、とかではなさそうね……」
「なんにしろ、対策を打たなければなりません。アヤカ!」
「わかってる、すぐみんな連れてくるから!」
アヤカさんが部屋を飛び出す。
そのあとはココナッツバレイの主要メンバーが集められ、緊急の会議が行われた。
さすがに地の民以外は参加することができず、『竜王の宮殿』の外で会議が終わるのを待っていた。
同じように外で待っているコハル様をチラッと見る。
コハル様はハラハラとした表情で、じっと宮殿を見つめていた。
会議の進みようによってはココナッツバレイとスィアンス帝国の全面対決になることもあり得る。
やはり気が気でないのだろう。
- 861 名前:第12話 投稿日:2007/11/09(金) 14:26
- 会議は予想以上に長引き、ようやく宮殿から人が出てきたのは始まってから
二時間以上も経ってからだった。
あたしたちはちょうど宮殿から出てきたアヤカさんを捕まえる。
「アヤカさん、会議はどうなったとですか!?」
「うん、それを今から報告するから、ついてきて」
アヤカさんは踵を返し、再び宮殿の中へ。
あたしたちもアヤカさんに続く。
そして先ほどミカ様とコハル様が会談で使用した応接室に入った。
そこにはミカ様が待っていた。
テーブルを囲むようにソファに座る。
それを見計らって、アヤカさんが会議のことを話し出した。
「とりあえず今の会議では、スィアンス帝国の侵攻に対して、ココナッツバレイは国境沿いで
迎え討つという『防衛』という方向でまとまったわ。スィアンス帝国を返り討ちにしようという
意見も出たけど、それはミカが許さなかった」
コハル様の顔に少し安堵の表情が浮かぶ。
とりあえずこれで全面対決は免れたわけだ。
アヤカさんはテーブルの上に地図を広げ、さらに続ける。
「スィアンス帝国からココナッツバレイに入る道は南北に一つずつ。おそらくそこから
スィアンス帝国は侵攻してくると考えられる。だからそこに部隊を置くことになった」
「でもそれではスィアンス帝国が諦めるか、ココナッツバレイが陥落しない限り、
際限なく戦いが続くのではありませんか?」
ポンちゃんの意見にアヤカさんが頷く。
- 862 名前:第12話 投稿日:2007/11/09(金) 14:27
- 「そう。だからこの防衛隊はスィアンス帝国軍の目を引きつける囮なの」
「囮!?」
「国境線の戦いにスィアンス帝国の目が向いているうちに、別働隊が帝都に潜入し、
皇帝を説得して攻撃命令を取り下げさせる! ドラゴンの翼を借りて、空から一気にね!」
なるほど、それなら無駄な血が流れる前に戦争を終結させることもできるかもしれない。
と、今まで説明をアヤカさんに任せていたミカ様が、すっと身を乗り出した。
「帝都には私自ら潜入します。そして……」
そこでミカ様はチラッとコハル様を見た。
「コハル様、あなたも一緒に」
コハル様ははっきりと頷く。
「はい、もちろんです。必ずお父様を説得してみせます」
その目にははっきりとした決意が宿っていた。
満足したようにミカ様は微笑み、そして今度はあたしたちに視線を動かす。
「そういうわけで、ごめんなさい。雷の王国と悠長に交渉している余裕がなくなってしまったわ……」
「いえ、そんなこと! それより、れいなたちにも手伝えることはありませんか?」
「……確かに今は人員が足りてないのですが……いいのですか? れいなたちにも
れいなたちの旅があるのでしょう?」
「もちろんです! ねっ、ポンちゃん!」
ポンちゃんの方を向くと、ポンちゃんも笑顔で頷いた。
他のみんなにも反対意見はないようだ。
- 863 名前:第12話 投稿日:2007/11/09(金) 14:28
- 「ありがとうございます、みなさん……」
こうしてあたしたちもミカ様の作戦に協力することになった。
そのあとの話し合いで、あたしたちの役割も決まった。
まず、ミカ様、コハル様、そしてヒトミさんと一緒にスィアンス帝国帝都へと潜入するのが
辻さんと加護さん。
……正直かなり不安な人選だけど、本人たちのやる気に押しきられた。
まぁ、確かにすばしっこいし、小回り効くし、潜入にはうってつけ……か?
そしてあたしとポンちゃんと高橋さんは、南国境線沿いの防衛部隊の援護をすることになった。
北に比べ、南のほうが道が緩やかで、さらに広い。
おそらく一番激戦になるところだろう。
で、絵里はというと……。
『何で!? 何で絵里は留守番なの!?』
『留守番じゃないと。救急部隊っていうちゃんとした部隊とよ』
『それってココナッツバレイに残って、怪我して戻ってきた人たちの治療するだけじゃん!
絵里も前線で戦いたい〜!』
『しょうがなかやん。絵里は回復魔法が使えるんだし』
『だったら光の指輪渡すかられいなが残ってよ!』
『それに絵里法医術も使えるでしょ? 飯田さんに習ってたんだし』
『うぅ〜……そうだけど〜……』
そんなやりとりの末、絵里は(渋々)救急部隊を手伝うことになった。
- 864 名前:片霧 カイト 投稿日:2007/11/09(金) 14:33
- 今回はここまでです。
ダメだ……どうしてもナイロンにまこっちゃんの顔がはまってくれない……(ぉ
∬;´▽`)<!?
現状でも80%くらいオリジナルですが、もう100%オリジナルにしてしまおうか……?
- 865 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 20:27
- 作者様の悩みはまこっちゃんの人柄のせいですね(笑)
更新ありがとうございま〜す。
- 866 名前:第12話 投稿日:2008/01/14(月) 14:03
- 「始まったわ……」
水晶球を覗き込んでいたアヤカさんが呟いた。
あたしたちもアヤカさんの持つ水晶球を覗く。
そこに映されているのは、どうやら南の国境沿いに作られた砦のようだ。
砦の壁面に次々と弾が当たり、炸裂している。
画面が移動し、今度はスィアンス帝国の戦車部隊を移す。
備え付けられた砲台が次々と火を吹いていた。
「アヤカさん……これ大丈夫なんですか……?」
「魔法で強化してあるから、そう簡単には壊れないわ。持ちこたえているあいだにドラゴンたちが
空から戦車を破壊してくれるわよ」
アヤカさんが水晶球の映像を消す。
そしてスカイドラゴンにまたがったミカ様に歩み寄った。
スカイドラゴンは風竜の一種。
スピードはそんなに出ないが、一番空高く上昇できる種族だ。
まさに今回の作戦にはうってつけのドラゴン。
他のスカイドラゴンには、それぞれコハル様とヒトミさん、辻さんと加護さんが乗っている。
「ミカ、国境線で戦闘が開始したわ」
「そう。それなら私たちもそろそろ出発するわ。アヤカ、指揮は任せたわよ」
「えぇ、任せておいて」
ミカ様がピシッと手綱を引く。
スカイドラゴンの羽根が羽ばたき、疾風とともに上空に昇っていった。
「それじゃあ行ってくるのれす!」
「大船に乗ったつもりで待っててや〜!」
「のんちゃん、加護ちゃん、気をつけてね!」
「コハル様とヒトミさんも! お願いしますね!」
「ハイ、頑張ります!」
辻さんとヒトミさんもそれぞれドラゴンの手綱を引く。
初めてでもしっかりとドラゴンに意志は伝わったようで、ドラゴンは無事に飛び立っていった。
- 867 名前:第12話 投稿日:2008/01/14(月) 14:03
- 「さて、それじゃあ私たちも行くわよ」
「うん」
「はい!」
ミカ様たちを見送り、あたしたちも前線へと向かう。
敵に魔法使いがいることがわかったので、今のココナッツバレイは結界が強化されていて、
あらゆる移動系魔法が使用不能になっている。
そのためあたしたちもすぐに前線へと向かわなければいけない。
「う〜、やっぱり絵里も行きたいよ〜!」
「だめやって」
絵里がすがりついてくる。
でも今回絵里は救急部隊の手伝いなので、連れて行くわけにはいかない。
今も次々と新しい怪我人が運び込まれている。
「れーな、ちゃんと帰ってきてよ? 約束だからね」
「わかってると。必ずみんなで戻ってくるとよ」
一時の別れを惜しむように、絵里がギューッと抱きついてくる。
優しく絵里の背中を撫でてあげると、ようやく絵里は解放してくれた。
「よしっ! 行きましょう、ポンちゃん、高橋さん!」
「うんっ!」
「おうっ!」
絵里とアヤカさんの見送りを受け、あたしたちは前線に向かって出発した。
- 868 名前:第12話 投稿日:2008/01/14(月) 14:05
-
◇ ◇ ◇
「あっ!」
「んっ、どうしましたか、ポンちゃん?」
前線へと急いでいる途中、急にポンちゃんが声を上げた。
ポンちゃんのほうを見てみると、ポンちゃんのマントから淡い光りが零れていた。
ポンちゃんはマントから光り輝いている水晶球を取り出す。
「加護ちゃんだ」
どうやら加護さんから水晶による通信が入ったらしい。
ポンちゃんが通信を繋ぐと、水晶球に加護さんの顔が映し出された。
『おぅ、こんこん、そっちはどんな感じや?』
「こっちは今前線に向かっているところだよ」
『そうか。こっちは今帝都上空や。そんでな、帝都からどうやらスィアンス帝国軍の第二陣が
出発したみたいや。これでほとんどの部隊が出払ったと思う』
「そっか……わかった、ありがと」
どうやら増援部隊が向かっているとのことらしい。
これはけっこう大変な戦いになるかも。
『こっちは第二陣の様子を見つつ、今から帝都に潜入するところや。これからはちょっと
連絡できんと思う』
「わかった、気をつけてね!」
『そっちもな!』
そこで通信は切れた。
向こうは順調に進んでいるようだ。
- 869 名前:第12話 投稿日:2008/01/14(月) 14:05
- 「さて、それじゃ私たちも頑張らないとね」
「そうやな」
「行きましょう!」
そしてあたしたちはまた前線に向かって走り出した。
山と山のあいだの道を走り続け、ようやく前線の砦が見えてきた。が……
「なんか……やけに静かじゃありませんか……?」
「そうだね……」
アヤカさんの水晶で見た時は、戦車の放つ砲弾や魔法が飛び交い、ドラゴンが戦っていたのに。
今は不気味なくらいの静寂に包まれていた。
まるで戦いなんか終わってしまったかのように。
「もうスィアンス帝国軍やっつけちゃったんですかね……?」
「まさか。ココナッツバレイはあくまで防戦の方針でしょ? そんなことは……」
妙な違和感に囚われながら砦の中に飛び込む。
砦の中も変わらず音という音が失われていた。
- 870 名前:第12話 投稿日:2008/01/14(月) 14:06
- 「どうなってんだ?」
「とりあえず進んでみよう……」
薄暗い砦の中を進んでいく。
あ〜、あたしこういうのあんまり得意じゃないと……。
なんとか二人と離れず歩いていると、足下でピチャッと音がした。
「んっ、水?」
思わず足下に視線を落とす。
でもそこにあった液体は、純水のような無色透明ではなく。
黒みを帯びた赤色をしていた。
独特の匂いが鼻につく。
「なっ、血!?」
思わず後退ってポンちゃんにしがみつく。
見ると物陰から人の手が覗いていた。
そこから血がゆるゆると流れてきている。
「まさかっ!?」
ポンちゃんが駆け出す。あたしたちもついていく。
物陰には男の人が倒れていて。
ポンちゃんが身体に触り、顔が苦痛に耐えるように歪んだ。
- 871 名前:第12話 投稿日:2008/01/14(月) 14:07
- 「どうなってんの? まさか、スィアンス帝国軍がここを突破したって事!?」
「いや、それはない。それならどこかで私たちと鉢合わせていたはずだし」
ポンちゃんの言うとおりだ。
あたしたちが走ってきたのは一本道だったし。
「とにかく、何かが起きたんだ。いったん外に出てみよう!」
この『外』とはもちろん砦の向こう側のこと。普通だったらスィアンス帝国軍との戦争が
繰り広げられている戦場。
あたしたちは急いで出口を探したけど。
出口を見つける前に、防壁に空いた大きな穴を発見した。
「戦車が壊したんかな……?」
「いや、結界まで完全に粉砕されてる。戦車の砲弾にここまでの威力があるとは
思えないよ……」
「とりあえず出てみましょう!」
念のため、ダークブレイカーを剣に戻す。
そして穴をくぐり、外へと飛び出した。
暗いところからいきなり明るいところに出たので、思わず目が眩む。
だんだんと目が慣れてくると、そこには。
青い空とは不釣り合いの、地獄が存在していた。
- 872 名前:第12話 投稿日:2008/01/14(月) 14:08
- ドラゴンの死骸、戦車の残骸、人間の遺骸。
開けた空間はそれらによって埋め尽くされていた。
「こ、これは……」
声が出ない。足が震える。
いったい何が起こればこのような惨状になるのだろうか。
吐き気が喉元まで沸き上がってくるが、なんとか堪える。
「いったい何が起こったの……?」
「相討ちになったとかいうんやないよな……」
ポンちゃんたちもこの惨状に放心していたけど……。
ようやく現実に帰ってきた感覚が、微かな金属音を捉える。
それは鋼と鋼がぶつかり合うような、戦いの音。
「これは!?」
「まだ誰かが戦っているんか!?」
辺りを見渡すが、動く影はない。
耳を澄まして方向を確かめる。
聞こえてくる方向は……上!
空を睨む。
太陽の光がまばゆくて思わず目を細めるが、それても砦の防壁の上で鬩ぎ合う
二つの人影をとらえた。
- 873 名前:第12話 投稿日:2008/01/14(月) 14:09
- 「あっ、あそこです!」
指を指すとポンちゃんと高橋さんもいっせいに視線を向ける。
二つの影がぶつかっては離れ、またぶつかっていく。
そのたびに金属音が鳴る。
だが幾度目かの交差のあと、二つの影はピタッと動きを止めた。
片方の影がグラッと傾く。
その影はそのまま防壁の上から堕ちた。
「うわっ!?」
ドサッという音とともに、地面に紅いアートができあがる。
あたしはもう一度防壁の上を睨む。
残った影も防壁の上からこちらを見下ろしていた。
「アッハッハ、やっぱり人間を斬るのが一番楽しいわ! ドラゴンや鉄クズ相手じゃ
味わえないよ、こんな快楽!!」
体の中がザワザワとざわめく。
あたしはアイツを知っている……。
あの声。そして何より手に持っている特徴的な武器。
アイツは……。
- 874 名前:第12話 投稿日:2008/01/14(月) 14:09
- その時、隣で空気が弾けた。
ハッとしてとなりを向くと、高橋さんの身体から魔力が溢れていて。
「ソニンーーーッ!!!」
「うわっ!?」
溢れた魔力は稲妻となって、人影に襲いかかった。
人影は稲妻を避けるため、防壁から飛び降り。
そのまま、手に持った血色の大鎌を振りかぶった。
「ハッハーッ!!」
着地と同時に鎌が振り下ろされる。
それぞれバックステップして刃をかわすと、大鎌はそのまま地面を砕き、辺りが粉塵に包まれた。
その粉塵の中からゆっくりと出てきたのは、もはや間違えようがない。
「何だ、お前たちか。こんなところで会うとは都合がいいや!」
ソン・ソニン。
殺人快楽主義者で、闇の使徒の一員。
そして……
- 875 名前:第12話 投稿日:2008/01/14(月) 14:10
- 「あぁ、本当に都合がいいわ。この時をどれほど待ったことか。里沙ちゃんの仇、とらせてもらうで!!」
高橋さんがソニンを睨みつける。
そこにはいつもの高橋さんの表情はなかった。
だがソニンも同じようにこちらを睨み返してくる。
「それはアタシだって同じだ。あの時切り落とされた左腕が疼くんだよ。お前らを殺せってな!」
ソニンは新垣さんが切り落としたはずの左腕を突き出した。
その腕は明らかに人間の腕ではなく、グロテスクな骨が何本も肉を破って突き出していた。
「モンスターを取り込んで、再生させたのか」
「その通りさ。必要最低限の能力以外は取り込まない主義なんだけどね。片腕じゃ満足に
殺戮もできなくてさ」
ソニンはそういってくるりと辺りを見渡す。
「両腕ならこの通りよ」
「なぜこの人たちを!? お前にこの戦いは関係ないはず!」
「別に意味なんてない。たまたま見つけたから皆殺しにしただけよ。どうせ戦って死ぬんだから、
アタシが殺したって同じじゃないか」
ダークブレイカーを握る手に、思わず力が籠もる。
高橋さんとポンちゃんの手にも魔力が宿った。
- 876 名前:第12話 投稿日:2008/01/14(月) 14:11
- 「お前は絶対に許さん!」
「何度言っても無理だって」
ソニンも大鎌をかまえる。
その次の瞬間には、ソニンの姿が消えていた。
「ちっ!」
わずかに残った気配を辿る。
行き着いたのは……上だ!
そう判断した時にはすでにダークブレイカーを振り上げていた。
ダークブレイカーの黒い刃と、大鎌の紅い刃が交差する。
「へぇ、なかなかやるじゃない」
「当たり前と! あの時とは違うけん!」
とはいえ、いつまでも受けとめているにはさすがにパワーが違いすぎる。
ダークブレイカーの刃を反らせ、大鎌をやり過ごす。
「うおっ?」
いなされた大鎌の刃が地面にめり込む。
その隙を逃さず、あたしはダークブレイカーを振り抜いた。
でも一瞬速くソニンは大鎌を引き抜き、そのまま柄の部分で攻撃を受けとめる。
そしてバックステップしていったん距離をあけたが、それを予期していたように、
着地したソニンの足下に魔法陣が浮かび上がった。
- 877 名前:第12話 投稿日:2008/01/14(月) 14:11
- 「ちっ!」
「クリスタル・アブソリュート!!」
ポンちゃんの声とともに、魔法陣から冷気が溢れ、凍り付く。
ソニンはバックステップした直後にもかかわらず、今度は横に転がり魔法をかわす。
なんていう身体能力だ……。
でも、ようやく体勢を起こしたソニンに、背後から高橋さんが襲いかかった。
「くらえーーーっ!!」
高橋さんの腕には強烈な光の剣ができていて、バチバチと放電していた。
振り返ったソニンに向かって剣を振り下ろす。
「サンダー・ブレード!!」
圧縮された雷が暴発する。
時間差による三人での連続攻撃。
辺りがまばゆい閃光に包まれた。
- 878 名前:片霧 カイト 投稿日:2008/01/14(月) 14:19
- 今回はここまでです。長々休んでて申し訳……。
もうちょっと更新できるようになりたいです……。
でもってストーリー的にはようやくバトルに突入です。
最近あまりなかったので、ちょっと書き方忘れてたり(ぉ
>>865 名無飼育さん 様
感想ありがとうございます。
えぇ、まさしくその通りです。
あのアホっぽ……ゲフンゲフン、つかみ所のない性格がどうにもナイロンに合ってくれないんですよねぇ……。
- 879 名前:みっくす 投稿日:2008/01/14(月) 18:52
- 更新お疲れ様です。
お待ちしてましたよ。
読み応えのあるバトルになりそうな予感。
- 880 名前:第12話 投稿日:2008/02/11(月) 16:55
- 高橋さんは相当量の魔力を込めていたらしく、放電は未だ止まず、バチバチと閃光を
解き放っている。
あたしはなんとか目を細め、放電の中心点を見つめる。
あのタイミングでは避けようがないはず。それにあれだけの雷撃を食らえば、
死ななくてもしばらく身体は動かせないだろう。
「やった……?」
思わず呟きが零れた。
「残念、やってない」
でもその呟きに答える声が背後からした。
ゾクッと背筋が寒くなる。
「ポンちゃんっ!!」
次の行動は頭で考えたというより、身体が勝手に反応した。
隣のポンちゃんの身体に飛びつき、二人で転げながらその場を離れる。
鋭い風切り音とともに、あたしたちがいた場所に三日月形の刃が突き刺さった。
「ハハッ、けっこう危なかったよ。思わず全速力出しちゃったじゃないか」
見れば高橋さんがいる場所から今ソニンがいる場所まで、半円形に地面が抉れていた。
あの一瞬であの距離を移動したっていうのか……。
高橋さんが悔しそうにソニンを睨んでいる。
- 881 名前:第12話 投稿日:2008/02/11(月) 16:56
- 「しかしまさかここまでやるとは思わなかったわ。仕方ないね、それじゃあ、ちょっと本気で
ぶっ殺すとしようか」
ソニンがトントンとブーツのつま先で地面を蹴る。
来るか……?
身構えた瞬間、視界にいたソニンの姿が消えていた。
「がっ!!」
「えっ?」
そして次の瞬間には、隣にいたはずのポンちゃんの身体が遥か後方に吹き飛んでいた。
そのポンちゃんのいたところ、寒気がするくらいの至近距離にソニンが並んでいて。
全然、見えなかった……。
「死ぬ気で抵抗しなきゃすぐに死ぬよ?」
「き、貴様っ!」
慌ててダークブレイカーを振るうが、それはソニンに止められた。
大鎌の刃でも、柄でもなく、素手、しかも片手で。
「なっ!?」
さらに力を込めるが、ダークブレイカーはピクリとも動かない。
そんな……片手で刃を掴んでるだけなのに!
- 882 名前:第12話 投稿日:2008/02/11(月) 16:56
- 「これで終わり?」
「うわっ!?」
あたしが加えてる力とは逆向きの力が働き、あたしは宙に投げ飛ばされた。
ちっ、なんとか体制を整え……。
「だったらとりあえず、死んどけ!」
「なあっ!?」
またしても真横から聞こえた声。
宙に投げ飛ばされたあたしの横に、投げ飛ばした張本人であるソニンがピッタリと並んでいて。
ソニンの両拳が頭の上で組まれる。
「ハッハーッ!!」
「!!」
叩き落とされた拳によって、あたしが吹っ飛ぶ方向は真下に強制変更された。
悲鳴すら口から零れない。
体を襲った衝撃によって、ただあたしは落下して行くのみ。
「れいなっ!!」
そのあたしの身体を柔らかいものが包んだ。
直後にまた衝撃。身体の下から地面の割れる音がする。
でもその衝撃は、覚悟していた衝撃よりもずっと軽く……。
- 883 名前:第12話 投稿日:2008/02/11(月) 16:57
- 「くっ、うっ……?」
「れ、れいな……無事……?」
「えっ、ポンちゃん!?」
あたしの下からポンちゃんの声がした。
クラクラする頭をなんとか働かせて起きあがり、状況を確認する。
どうやらポンちゃんが身を挺してあたしを守ってくれたみたい。
「ポンちゃん! ポンちゃんこそ無事ですか!?」
「うん、なんと…か……」
そうはいうものの、ポンちゃんの顔は苦痛に歪んでいる。
あたしのことを庇って……!
「おのれ、ソニン!!」
地を蹴り、空に漂うソニンへと向かっていく。
「ハッハー! まだ実力差がわからないか!!」
大きく翼を広げたソニンが構える。
そこに向かってダークブレイカーを振り下ろすが、すでにその場にソニンはいなかった。
その直後、背後で風がざわめく。
くっ……やっぱり空中じゃ分が悪すぎる……!
「いい加減に、死ね!!」
視界の端で赤い刃がギラリと光った。
- 884 名前:第12話 投稿日:2008/02/11(月) 16:58
- 「フォール・エアフロー!!」
「くっ!?」
でも次の瞬間、辺りを強烈な下降気流が襲った。
風に当てられたソニンは、バランスを崩し落下していく。
あたしも下降気流に巻き込まれたけど、なんとか無事に着地できた。
「だいじょぶやったか、れいな!?」
「高橋さん、助かりました……」
地上では高橋さんが発動させた魔法を解除していた。
あたしは体制を整え、ダークブレイカーを握りなおす。
視線の先ではソニンもゆっくりと起きあがっていた。
「チッ、まだだれも死んでないのか、つまらないねぇ」
「当たり前と! そう簡単に殺られたりしないと!!」
「何を言ってる。人間なんてすぐに死ぬものさ。ここにいる奴らみたいにね」
ソニンがようやく立ち上がった。
血に飢えた瞳がキッと研ぎ澄まされる。
「お前たちもさっさと死ねよ」
- 885 名前:第12話 投稿日:2008/02/11(月) 16:58
- その声が聞こえたのと、ソニンが眼前に現れたのはたぶん同時だっただろう。
三日月形に開いた口から、ギラついた歯が見える。
さっきよりも数段速いソニンの動き。
ようやく脳が事態を把握した頃にはソニンの歪な魔物の手のひらが、視界いっぱいに
広がっていた。
「があっ!!」
頭蓋骨を握りつぶしそうな力が顔全体にかけられる。
身体が宙に浮くのがわかる。
ソニンはあたしを掴んだままでも勢いを落とすことなく、戦場を駆け抜け。
「沈め!」
そのままの勢いを全部乗せて、あたしの身体は大地に叩きつけられた。
「がッ……!!」
周囲の地面が抉れる。
衝撃がじわじわと体内に広がっていき、機能を殺していく。
なんとか意識は失わなかったが、身体は衝撃によって指一本すら動かせない。
まさか……こんなに差があるなんて……。
- 886 名前:第12話 投稿日:2008/02/11(月) 16:59
- 「ようやく身の程ってものがわかったかい? それじゃあそろそろ死んどくんだな!」
ソニンが大鎌を振り上げる。
太陽光を反射して、大鎌の刃が紅く閃く。
「れいなっ!!」
でも、今まさに大鎌が振り下ろされようとした瞬間、高橋さんの声とともに、
ソニンの背中で爆発が起こった。
ソニンはわずかに体勢を崩したがすぐ持ち直し、血走った目で背後を睨みつける。
「ちっ、毎回毎回邪魔して。どうやら先に死にたいみたいだねぇ……」
視線だけじゃなく、ソニンの身体がゆっくりと後ろを向く。
ヤバイ……高橋さんを狙うつもりだ!
今まともに動けるのは高橋さんだけ。でも高橋さんは魔法専門だから、接近を許したら
勝ち目はない。そして全力のソニンなら、近づくこともたやすいだろう。
なんとしてもソニンを止めないと!
動け……動け、あたしの身体!!
必死に自分の身体に命令を送り続ける。
なんとか身体の感覚も回復し始めている。
右手がしっかりとダークブレイカーを握った。
ダークブレイカーを地面に突き立て、なんとか身体を起こしかける。
でもその時、視界にあったソニンの姿が一瞬で消えた。
- 887 名前:第12話 投稿日:2008/02/11(月) 17:00
- 「!! 高橋さんっ!!」
身体に残っている全ての力を起きあがる動作につぎ込む。
ダークブレイカーで身体を支え、なんとか身体を完全に起こした。
でもその時には、ソニンの姿は遙か彼方にあって。
高橋さんの身体が、ソニンの拳に吹き飛ばされていた。
「高橋さ……っ!」
走り出そうとしたが、まだ足が上手く動いてくれなくて。
あたしは前のめりに地面に倒れ込んだ。
その間にもソニンの追撃は続いていて。
吹き飛ばした高橋さんの身体を空中でつかみ、そのまま地面へと投げ飛ばした。
「ぐあっ!!」
視線の数メートル先の地面に高橋さんが墜落した。
それを追ってすぐにソニンが舞い降りる。
そして起きあがろうとした高橋さんの胸を踏みつけた。
「がはっ!」
「ハッハーッ! 大人しくしてるんだな! せっかく真っ先に殺してやるんだから」
ソニンが大鎌を持ち上げる。
その間にチラッとあたしのほうを見た。
「お前も大人しくしてろよ。まぁ、なにもできやしないだろうけど。お仲間の殺しのショーを
特等席で味わうんだね!」
「くそっ!!」
なんとかもう一度起きあがろうとするけれど、まったく足に力が入らない。
動いて……動いてよ!!
また見てるだけなんて……そんなの……!
「動けーーーーーっ!!!」
もはや気合だけ。
それだけであたしは立ち上がった。
同じように高橋さんもソニンを睨みつけ、抵抗するように腕が動いた。
でもそんなあたしたちをあざ笑うように、紅い大鎌が思い切り振り下ろされた。
「高橋さんっ!!」
- 888 名前:第12話 投稿日:2008/02/11(月) 17:01
- 「なっ……!?」
一瞬静寂に包まれた戦場。
次に声を発したのはあたしでも、高橋さんでもなく、ソニンだった。
その声にはわけがわからないといった疑問の響きが含まれていた。
そしてソニンの目は大きく見開かれている。
ソニンが振り下ろした大鎌は、高橋さんの身体の数センチ手前でピッタリと
止まっていた。だけではなく。
ソニンの身体全身が、まるで石になったかのようにその動きを止めていた。
高橋さんがソニンの足の下から転がり出る。
そしてゆっくりと起きあがった。
「ふぅ……今日が晴れててよかったわ」
「えっ……?」
高橋さんの小さな呟きに、あたしはハッと気付いた。
そして視線を高橋さんから地面へと落とす。
そこには一本のナイフが地面に突き刺さっていた。
ソニンの影を貫いて。
- 889 名前:第12話 投稿日:2008/02/11(月) 17:02
- 「シャドウ・バインド……?」
「そ。ちょっとだけな、教えてもらってたんでの。まぁ、あたしはナイフを標的に当てる
技術なんてないし、これ一つしか使えないけどね」
一瞬だけ高橋さんが懐かしそうに、そして寂しそうに目を細めた。
でもその目はすぐに強く鋭く尖って、ソニンを睨みつける。
そして高橋さんの両手が光り始めた。
「ソン・ソニン、裁きの時やざ」
「くっ……」
ソニンの口から苦しそうな声が零れた。が……。
「ククッ……」
それはすぐに笑い声に変わった。
思わず高橋さんが身構える。
「こんなもので、アタシを押さえられると思ってんのか!?」
ソニンの全身に力が籠もるのが、遠くから見ていてもわかった。
それに呼応するように、地面に刺さったナイフがグラグラと振動する。
まさか、無理矢理シャドウバインドを引き抜くつもりか!?
- 890 名前:第12話 投稿日:2008/02/11(月) 17:02
- 「ちっ!」
高橋さんが慌てて魔法の構築を進める。
だが魔法が完成する前にナイフがソニンの影から外れ、ピンと宙に弾かれた。
「ハッハーッ!! 死ねっ!!」
一瞬で持ち上げられた大鎌が、間髪入れずに振り下ろされる。
あまりに急なことだったので、あたしはまったく反応ができなかった。
高橋さんは魔法が間に合わないと判断したらしく、魔法の詠唱をキャンセルすると、
跳ね上がったナイフに手を伸ばした。
「そんなチャチなナイフで受けとめられるか! まとめてぶった斬ってやる!!」
そして今度こそ、ソニンの渾身の力を込めた大鎌が振り下ろされた。
キィン、と、金属と金属がぶつかり合う高音が戦場を切り裂いた。
- 891 名前:第12話 投稿日:2008/02/11(月) 17:02
- 「バ、バカな……」
ソニンの目が再び見開かれた。
大鎌の重量とソニンの渾身の力。
その二つが合わさった一撃を受けてもナイフは折れなかった。
大鎌の刃を押さえ、高橋さんを守っていた。
「バカな!! そんなチャチなナイフでなぜ受けとめられる!?」
「折れんよ。このナイフは絶対に折れん。このナイフは里沙ちゃんの想いが込められた、
あたしと里沙ちゃんの絆なんやからの!!」
ナイフが後ろに引かれる。
全力が込められた大鎌は勢い余って、そのまま地面にめり込んだ。
そして無防備に開いたソニンの懐に、高橋さんが飛び込んだ。
「里沙ちゃんの仇やざ! ソニンーーーっ!!!」
- 892 名前:片霧 カイト 投稿日:2008/02/11(月) 17:07
- 今回はここまでです。
この戦いも次回でクライマックスです。
>>879 みっくす 様
実はけっこう久しぶりのバトルでしたね。
なんとかかんとか書ききることができそうです。
- 893 名前:みっくす 投稿日:2008/02/11(月) 18:48
- おお、久しぶりにキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!!という感じ。
いいとこで、つづくですね。
次回、楽しみにまってます。
- 894 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:34
- 〜高橋愛〜
『あの〜、すいません』
『んっ?』
『もしかして、5番隊の人ですか?』
『そ、そうだけど……』
その日は温かい斜陽が降り注いでいた。
あたしが騎士になってようやく1年が経った早春。
初めて逢った時は、まだ幼さの残る顔立ちで、左右で髪を結んでいたっけ。
『やっぱり! あっ、あたしは今日から5番隊に配属になった新垣里沙です。よろしくね!』
そこで場面はゆっくり変わる。
歪み、乱れて、廻っていく。
あさ美ちゃんと出会って……よく三人で行動するようになって……戦いが始まって……。
あっ、これはあの日だ。
あたしと里沙ちゃんが、恋人になった、あたしたちの記念日……。
- 895 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:35
- 『あの〜、愛ちゃん……?』
『・・・・・・』
『えっと、もしかして怒ってる……?』
『もしかしなくても怒ってる……』
あたしはベッドに倒れたまま、里沙ちゃんに背中を向けて、毛布をかぶる。
背後で里沙ちゃんが慌ててるのがわかった。
『で、でも愛ちゃんだって最後のほうは気持ちよさそうだったし……!』
『それを言うなーーーっ!!』
でも思わず振り返って叫んでしまった。
そして一度口を開いてしまうとそう簡単には止められなくて。
『ていうかなんでいきなりあんなアブノーマルなの!? 初めてやったのに!!』
『で、でもアタシ的にはあれがふつー……』
『それに! こんなにいっぱい跡つけて! 明日どうすればええの!?』
『あぅ、ごめんね……。あっ、そうだ! 姫様の光魔法で治してもらえば……』
『できるか、ほんなこと!!』
そこまで一気に叫ぶと、さすがの里沙ちゃんもシュンとうなだれてしまった。
それはいつもと変わらない里沙ちゃんで。さっきまでの里沙ちゃんとは大違い。
ま、このくらいでいいか。その……気持ちよかったのは本当なんだし……。
力を抜いてベッドに沈み込むと、そっと里沙ちゃんの肌に抱きつく。
『里沙ちゃん……』
『んっ……?』
『ちゃんと責任とってな?』
『……うん!』
そこでまた場面が廻る。
戦いは終わり、束の間の平和が訪れる。
でもそれはまたすぐに崩れた。
あさ美ちゃんが闇に魅入られて……。
- 896 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:35
- 『ねぇ、里沙ちゃん……』
『んっ?』
向かい合って座ったテーブルの前。
あたしは思いきって里沙ちゃんに切り出してみた。
『なんか最近あさ美ちゃんおかしくない?』
『あ〜、愛ちゃんも感じてたんだ……』
てことはやっぱり里沙ちゃんも同じことを考えていたらしい。
『どうせあさ美ちゃんのことだからさ、自分だけでどうにかしようとか考えてるんだろうけど……』
『里沙ちゃん、ほんなこと許せるんか?』
『ううん、絶対許さない』
『じゃあ同じやな!』
また、廻る。
初めて世界に飛び出し。
いろいろなところを回って。
これはその合間の一時。
- 897 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:36
- カンッ!
設置された木の的のど真ん中にナイフが突き刺さる。
その瞬間、的は一瞬で炎に包まれた。
『お〜、すごいなぁ、里沙ちゃん』
『まだまだ、保田さんに比べたら全然だよ。スピード・フェザーとライトニング・ニードルは
まだ使えないし』
『でもすごいじゃん、ほんな特技が使えるなんて』
『別に特別じゃないよ。練習すれば愛ちゃんだってすぐに使えるって』
黒こげになった的から、里沙ちゃんはナイフを抜き取る。
『よかったら愛ちゃんもちょっとやってみる?』
巡る、巡る、思い出たち。
それは里沙ちゃんといた記憶ばかり。
あたしの思い出には、いっつも隣りに里沙ちゃんがいてくれた。
あ〜、でも、走馬燈はまだちょっと早いかな……。
- 898 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:37
-
◇ ◇ ◇
「ぐ…あっ……」
両の手に染みこむ感触。
それはとても良い感触とは言えないけど。
でもしっかりとした、確実な感触。
あたしが両手で握ったナイフはソニンの左胸に深々と突き刺さっていた。
「がはっ!」
ソニンの口から血が吐き出される。
それを合図にあたしはナイフを引き抜く。
ソニンは血を零しながら2、3歩後退した。
「『必要最低限の能力以外は取り込まない主義』やったか? それなら人間の急所も
そのまんまでしょ?」
ソニンの身体がグラッと傾く。
そして地面の上に仰向けで倒れ込んだ。
あたしはナイフに付いた血を綺麗に拭いながら、ソニンに近づく。
- 899 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:37
- 「い、痛い……いやだ、死にたくない……!」
ナイフを握る手に力が籠もる。
できればもっと惨たらしく殺してやりたいけど……。
でもきっと里沙ちゃんはそんなこと望んでないと思う。
だからあたしは空いている左手に魔力を集める。
魔力は集まると勢いよく燃え上がって。
あたしはそれをソニンの上に落とした。
「ぁあぁあああぁあっ……!!」
ソニンの断末魔を飲み込んで火柱が上がる。
血の紅に染まった殺人鬼が、炎の赤に包まれて消えていく。
終わったよ……里沙ちゃん……。
- 900 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:38
- 「高橋さん……!」
呼ばれた方を向くと、れいながよろよろと立ち上がっていた。
ダークブレイカーで体を支えながら、あたしのほうへと歩み寄ってくる。
「やったんですね……」
「うん。ギリギリだったがの」
「愛ちゃん……」
見るとあさ美ちゃんもなんとか立ち上がれるくらいには回復したみたい。
二人とも無事でよかった……。
三人で集まり、辺りを見渡す。
ソニンを倒したとはいえ、被害はあまりにも大きい……。
「これからどうしますか?」
「う〜ん、さすがに三人でここを守るには無理があるなぁ……」
あたしたちだってもうボロボロだ。
しかも加護ちゃんの情報だと、スィアンス帝国からは増援部隊が向かってきているみたいだし。
- 901 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:38
- 「あさ美ちゃん、スィアンス帝国の部隊は?」
「たぶんもうけっこう近くまで来ちゃってるだろうね……」
「じゃあこっちも増援を頼んでみたら?」
「そうしたいのは山々なんだけど……」
あさ美ちゃんが苦い顔でマントから水晶球を取り出す。
その水晶球は無惨にも真っ二つに割れていた。
おそらく戦いの最中に割れてしまったのだろう。
「あ〜、これじゃ使えないなぁ……」
「うん……。この前線基地は落ちちゃうだろうけど、いったん戻ったほうがよさそうだね」
「そうだね」
れいなの方に視線を向ける。
れいなも異論はなさそうだ。
「よし、それじゃ急いでアヤカさんたちのところまで戻るよ。れいな、走れる……?」
「大丈夫です!」
れいなが力強く頷く。
それを見るとあさ美ちゃんは砦に向かって走り出した。
あたしとれいなもあさ美ちゃんの背中に続く。
- 902 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:39
- ソニンが開けたであろう穴から砦内部へと入り。
砦の中を突っ切って。
砦の裏口からココナッツバレイの中心部へと向かう道に出ようとして。
ドクンッ!!
あっ……。
胸が鋭く痛んだ。
踏み出した足が固まる。
体が大きく傾いた。
タイムリミット……。
ダメ……このままじゃあさ美ちゃんやれいなに気付かれちゃう……!
でもあたしの身体はまったく言うことを聞いてくれなくて。
視界が大きく旋回し、あたしはその場に崩れた。
「高橋さんっ!?」
「愛ちゃん!?」
- 903 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:39
-
◇ ◇ ◇
〜田中れいな〜
砦を飛び出そうとした時、ドサッと言う音が耳に入った。
なんだろうと何気なく振り返ってみると、隣で併走していた高橋さんの姿が消えていて。
その高橋さんが、音がしたところに倒れ込んでいた。
「高橋さんっ!?」
思わず叫んでしまった。
それで前を走っていたポンちゃんも異変に気付いたみたい。
「愛ちゃん!?」
足を止め、駆け戻ってくる。
「愛ちゃん! どうしたの、愛ちゃん!?」
ポンちゃんが高橋さんを抱え起こして必死に呼びかける。
閉じられていた高橋さんの瞼が開いた。
焦点の合ってない瞳に、ゆっくりと光が点る。
- 904 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:40
- 「愛ちゃん! 一体どうしたの!?」
「えーと?……あ〜……」
高橋さんはようやく状況を理解したみたい。
深く一度息を吐いた。
「何でもないやよ……」
「・・・・・・」
でもポンちゃんはそのまま高橋さんをじっと見ている。
高橋さんは諦めたように、もう一度息を吐いた。
「と言っても、信じてくれそうにないね……」
「高橋さん、ソニンにやられた傷が痛むとですか?」
「いや、れいなたちに比べたら軽い傷だよ」
「じゃあソニンになにかされたの、愛ちゃん!?」
「……ソニンにじゃない……」
それだけ言うと、高橋さんはゆっくりと上着のボタンを外し始めた。
半分くらいボタンを外して、上着をはだけさせる。
「嘘……」
「・・・・・・」
あたしたちは絶句した。
高橋さんの胸に刻まれた漆黒の魔法陣。
それはまさしく闇の呪の刻印。
- 905 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:41
- 「何で!? いつ、どこで、誰に!?」
「『スコティア』で平家みちよに喰らった「デビルズ・ペイン」や。あれ、呪やったんやざ。
生命をゆっくりと蝕んでいく死の呪……」
「嘘! だって前に見た時は、そんな魔法陣……!」
「『スコティア』のあとからはお風呂とかも一緒に入ってなかったしね……」
ポンちゃんの涙が高橋さんの頬に落ちる。
あたしは魔法についてはあまり詳しくない。ダークブレイカーじゃ呪は使えないし。
でも、ポンちゃんと高橋さんの話を聞くかぎり……。
高橋さんは……高橋さんも……
「そんなこと、させない!」
ポンちゃんが高橋さんを一度離すと、両手を構え魔力を集め始めた。
集められた魔力がだんだんと黒ずんでいく。
「ポンちゃん、何するとですか!?」
「今の私だったら闇魔法が使える! だったらオーバーライトで呪も……!」
「ダメや!」
でもそれを止めたのは高橋さんだった。
起きあがった高橋さんの手がポンちゃんの腕を掴み、その拍子に魔力は霧散してしまった。
- 906 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:43
- 「闇魔法は使っちゃダメや! せっかく姫様達が張ってくれた光の結界が消えてしまう!」
「でも、そうじゃなきゃ愛ちゃんが!」
「またあさ美ちゃんが暴走したら、今度はれいながあさ美ちゃんを斬らなきゃいけないんだよ!!」
「あっ……」
あたしたちは黙り込んでしまった。
そしてさらに追討ちをかけるように、遥か遠くから低い轟音が聞こえてくる。
まさか、スィアンス帝国の増援部隊か!?
「高橋さん、とにかく一度戻りましょう! 絵里のところまで戻れば、光の指輪を使って……」
「それも不可能やざ。一回試してみようと思ったけど、あの指輪に残っている魔力じゃ足りんみたいでの」
「でも!」
「それに残念ながら、もう限界みたい。ソニン戦で残ってた生命全部使っちゃったみたいでの……」
「でも……!!」
あたしの目からも涙が一筋こぼれ落ちた。
頭では高橋さんはまだ助かると信じているけど。
心までは誤魔化しきれないことの証明……。
- 907 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:44
- 「体力ももう空っぽや。でも、里沙ちゃんの仇も取れたし、十分やざ。だからあさ美ちゃんたち
だけで逃げてくれ」
「そんなこと……できるわけないじゃない!!」
ポンちゃんが高橋さんに泣きつく。
高橋さんはゆっくりとポンちゃんを抱きしめた。
「やっぱりあさ美ちゃんは優しいの。そういう優しいところ、大好きやったよ……」
そのまま高橋さんはチラッとあたしのほうを見た。
「れいな、あさ美ちゃんのこと、ちゃんと守ってあげてな」
「えっ、あの……」
返事をする前に、高橋さんは目を伏せてしまった。
そして……
「キャッ!!」
「あっ、ポンちゃん!」
抱きついていたポンちゃんを高橋さんが強引に突き飛ばした。
倒れそうになったポンちゃんをあたしは反射的に受けとめ。
そして、もう一度高橋さんの方を見て……
「里沙ちゃん、今行くやよ……」
突き飛ばすために伸ばしたのとは反対の手が、キラッと光った。
「!! 高橋さ……っ!!」
叫びは鮮血に飲み込まれた。
高橋さんの身体がゆっくりと倒れ込む。
手から血染めのナイフが転げ落ちた。
- 908 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:45
- 「嫌…嫌ああぁあああっ!! 愛ちゃん、愛ちゃんっ!!!」
ポンちゃんが高橋さんに泣きつく様子をあたしは呆然と見ていた。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、何も考えられなくなる。
意識が暗く、遠くなっていく。
でも意識を手放す直前で、遠くから響く重低音が耳に届いた。
ギリギリでなんとか意識を強く持つ。
そうだ、敵の部隊が迫ってきてるんだ。
高橋さんはあたしたちを逃がすために犠牲になったのに……。
ここであたしたちまでやられたら、それこそ無意味なものになってしまう……。
足に力を込めて、立ち上がる。
ぎりぎりと内臓が痛む。最悪の気分だ……。
それでもなんとかあたしはポンちゃんの腕を掴む。
「ポンちゃん、立ってください! 逃げるんです!」
「嫌ぁっ! 嫌だ、愛ちゃんが……!!」
「ポンちゃん!!」
ポンちゃんはもはや半分錯乱状態になっている。
強引にポンちゃんを引っぱり、その場から駆け出す。
残酷かもしれない。でもこれが高橋さんに報いる唯一の方法だと信じて……。
「愛ちゃん、愛ちゃぁんっ!!」
叫び続けるポンちゃんを引っぱって、あたしはココナッツバレイの中心部へと向かう道を走る。
確かここは一本道だったはずだ。都合がいい。
だって一本道ならいくら視界が滲んでいても、迷うことはないだろうから……。
- 909 名前:第12話 投稿日:2008/03/08(土) 16:45
-
- 910 名前:片霧 カイト 投稿日:2008/03/08(土) 16:53
- 今回はここまでです。
そして12話も終了。ココナッツバレイ編もそろそろクライマックスへ。
はい、もういろいろと申し訳ない……(ぉ
>>893 みっくす 様
バトルは本当に久しぶりでしたねぇ。
中途半端な切り方でしたが、こうなりましたというか、こうなっちゃいましたというか……(汗
- 911 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/14(金) 13:12
- 。・゚・(ノД`)・゚・。
- 912 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/06(日) 11:02
- orz
- 913 名前:第13話 投稿日:2008/04/20(日) 21:48
- 〜田中れいな〜
あたしたちとポンちゃんはなんとかココナッツバレイの中心部へと戻ってきた。
とりあえずアヤカさんに報告しないといけないので、あたしはアヤカさんを捜す。
そこでは至るところで傷ついた人や竜が手当てを受けていた。
そんな中で、あたしはようやくアヤカさんを見つけた。
「アヤカさん!」
「あっ、れいな!」
アヤカさんは傷だらけのあたしたちを見つけて駆けよってくる。
「よかった、無事だったのね!」
「えぇ、なんとか……」
と答えていいのだろうか……。
チラッと後ろのポンちゃんを見るけど、ポンちゃんはずっと俯いたまま。
「砦の方はどうなったの?」
「それが……ソニンの襲撃を受けて、れいなたちが着いた時にはほとんど壊滅していました……」
「そう……」
「今はきっとスィアンス帝国の増援部隊に制圧されていると思います……。
力になれずすいませんでした……」
「そんなことないわ。れいなたちが無事に帰ってきてくれただけでもよかったわ」
口ではそう言いつつも、アヤカさんは悲しそうに目を伏せた。
地の民だってたくさんの人が死んだ。
アヤカさんも今は同じ気持ちなのだろう……。
- 914 名前:第13話 投稿日:2008/04/20(日) 21:50
- 「れいな!」
「えっ?」
そんなアヤカさんの後ろから、ミカ様が姿を現わした。
あれっ、ミカ様は確かスィアンス帝国の帝都に侵入してたはずじゃ……?
ミカ様もあたしたちのほうに駆けよってくるが、急にその身体がふらっと揺らいだ。
「ミカっ!!」
アヤカさんが寸前のところで抱きとめる。
どうやらミカ様もどこか負傷しているみたい。
「れいな、聞いてほしいことがあります」
「あっ、はい!」
それでもミカ様はそのまま続ける。
「まず、スィアンス帝国とはなんとか和平が成立しました。今は帝都でコハル様とヒトミさんが
国民や軍をまとめているでしょう」
「そ、そうだったんですか!?」
「えぇ。増援部隊にも撤退命令が出されているはずです」
よかった……。
どうやら全面戦争に発展することなく、無事終結したみたい。
- 915 名前:第13話 投稿日:2008/04/20(日) 21:51
- 「ですが……」
ミカ様の顔がわずかに陰った時……
「れーなーっ!!!」
聞き慣れた叫び声が割って入ってきた。
その方向を見ると、絵里が全速力で走ってきていて。
そのままの勢いであたしに抱きついてきた。
ぐえっ! いたたたたっ!!
痛みを堪えながらもなんとか絵里を受けとめる。
「え、絵里っ!」
「よかった!! れいなたちは無事だったんだね!!」
「あっ……」
一言文句でも言ってやろうと思ったけど、絵里の今にも泣きそうな顔を見ると
何も言うことができなかった。
伝えなきゃいけないことがある。
ポンちゃんに伝えさせるのはさすがに酷だから、これは辛くてもあたしがしなきゃいけないこと。
「絵里、落ち着いて聞いて……」
「えっ……?」
そしてあたしは起こったこと全てを絵里に話した。
- 916 名前:第13話 投稿日:2008/04/20(日) 21:52
- 「そん…な……」
絵里はドサッとその場に崩れ落ちた。
瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「何で……どうして……!?」
「絵里……」
あたしも止まった涙がまた零れそうになる。
背後ではポンちゃんが鼻をすする音がした。
「どうして…みんないなくなっちゃうの!?」
「えっ?」
でも零れそうになった涙は絵里の言葉で止まった。
何かが心に引っ掛かった。
『みんな』って、どういうこと……?
胸の鼓動が不規則に速くなる。
「絵里、どういうこと!? 他にもなんかあったと!?」
「うぅうう…うぅぅ……」
絵里は泣くだけで答えてくれなかった。
でも絵里の目に残る、今流してる涙とは別の涙の跡が答えている。
何かがあった……。
あたしたちの知らないところで……。
反射的にアヤカさんたちのほうを見て、気付いた。
スィアンス帝国に向かったミカ様はここにいる。
コハル様とヒトミさんは帝都で国民や軍をまとめているって言ってた。
じゃあ……
辻さんと、加護さんは……?
- 917 名前:第13話 投稿日:2008/04/20(日) 21:52
-
第13話 ずっといっしょ
- 918 名前:第13話 投稿日:2008/04/20(日) 21:53
- 〜辻希美〜
「Ummm、さすがにこれ以上は減らないかな……?」
水晶球を通して地上の様子を窺っていたミカ様が零す。
私たちは今スカイドラゴンに乗ってイングラムの遥か上空に潜んでいる。
そのイングラムではココナッツバレイに向けての増援部隊が出発したところ。
私の背後であいぼんが紺ちゃんに報告を行っている。
「よし、そろそろこちらも行動を開始するわよ!」
「はいっ!」
ミカ様の合図とともに、スカイドラゴンが滑空を始める。
地表近くまで来た時にミカ様がスカイドラゴンの背から飛び降りる。
私とあいぼんも同じように続く。ヒトミさんもコハル様を抱きかかえて飛び降りた。
私たちを降ろしたスカイドラゴンはまた上空へと戻っていく。
「何だ、今の竜は!?」
降り立ったのは城の中庭。
さすがにこれ以上は気付かれずに侵入することは不可能だろう。
城の中から出てきた兵士がいっせいに銃を構える。
おそらくナイロンの息のかかった部下なのだろう。コハル様がいてもお構いなしの様子。
私たちも武器を構えるけど……。
「ここで無駄な時間を使いたくはない。私がまとめて片づけるわ!」
ミカ様がすっと一歩前に歩み出た。
そして手をかざす。
指輪の宝玉が光り輝いた。
- 919 名前:第13話 投稿日:2008/04/20(日) 21:54
- 「Come on! 地の魔剣・デュランダル!!」
リングから宝玉が放たれ、そのまま地面に吸い込まれていく。
すると地面はまるで水面のように波打ち、そしてそこから一塊の石柱が突き出した。
その石柱に罅が入り、砕けていく。
そしてその中から巨大な刃のついた剣が現れた。
「ひるむな、撃てっ!!」
隊長らしき人が号令を下す。
それと同時にたくさんの銃声が鳴り響くが……
「グラビティ・フィールド!!」
私たちの前方に魔法陣が現れ、重力結界が発動する。
結界内に飛び込んだ銃弾には数倍の重力が加えられ、私たちに届く前に地面に落ちた。
さらにミカ様はデュランダルを地面に突き立てる。
それを支点として大小様々な石の礫が上空に舞い上がった。
「ダスト・コメット!!」
その礫が兵士たちに勢いよく降り注ぐ。
石の弾幕に兵士たちは逃げる場所もなく、次々と倒されていく。
舞い上がった石の礫が尽きる頃には、そこにいた兵士たちは一人残らず伸びていた。
- 920 名前:第13話 投稿日:2008/04/20(日) 21:55
- 「OK! 突入するわよ!!」
「はい!」
「案内します!」
ヒトミさんを先頭に、城の中へと進んでいく。
城の中にも少なくない数の兵士が残っていたけど、そのほとんどをヒトミさんとミカ様が倒してしまった。
そして私たちはどんどん奥へと進んでいく。
階段を上り、廊下を駆け、一つの大きな扉の前でヒトミさんが止まった。
「ここが皇帝の間です。おそらく皇帝はここにいます」
「そうですか……」
私たちの目的は皇帝を説得し、攻撃命令を取り下げさせること。
そうすればこの戦争は全面衝突することなく終結する。
そして、その役目を受け持つのは……。
「お願いします、コハル様……」
「うん……」
コハル様が一歩前に進み出る。
そして扉に手をかけ、ゆっくりと押し開けた。
- 921 名前:第13話 投稿日:2008/04/20(日) 21:56
- 「お父様!!」
私たちもコハル様に続いて部屋の中へと入る。
部屋の中央に敷かれたレッドカーペットの先、置かれた玉座に座っていた皇帝が立ち上がった。
「コハル!? 無事だったのか、コハル!!」
皇帝は一瞬安心した表情になったが、すぐ険しい表情に戻る。
そして懐から銃を取り出すと、迷わずヒトミさんに向けた。
「ヒトミ! 貴様、この裏切り者めが!!」
「待って、お父様! ヒトミは裏切ってなんかないわ!!」
でもコハル様がすぐに皇帝とヒトミさんのあいだに割って入った。
銃を向けられても一歩も引かない。
皇帝に真っ直ぐ立ち向かう。
「お父様、今すぐ軍の攻撃命令を取り消して! コハルは見ての通り無事よ!
ココナッツバレイに攫われてなんかいない! 戦争をする意味なんてないわ!!」
「理由は、ある! 奴らは魔女だ!! 弾圧されるべきなのだ!!」
「だからと言って他国へ侵略する理由にはならないわ! それに魔法使いだからというだけで
弾圧されるのも間違ってる!!」
「この大陸にはもう魔法の力は必要ないのだ!! 魔法の力は危険なのだよ!!」
「そんなことない! 現にコハルは魔法の力に命を助けてもらったわ!!」
「コハルにはまだわからんのだ、魔法というものが!」
「わかっているわ、誰よりも!!」
そこでコハル様は言葉を一度切った。
そして次に聞こえてきたのは、呪文の詠唱。
詠唱と呼応するように、コハル様の前方に魔法陣が浮かび上がる。
発動する直前までコハル様は詠唱を進め、発動直前で中断した。
魔法陣も跡形なく消え去る。
- 922 名前:第13話 投稿日:2008/04/20(日) 21:58
- 「バカな……」
「お父様、コハルもスペシャル・ジェネレーション……魔法使いです」
皇帝は驚愕に目を見開いた。
「ココナッツバレイで過去に起こったことも聞きました。悲しい事件で、恨む気持ちもわかりますが、
でもその恨みをココナッツバレイや魔法使い全てに向けるのは間違ってます! そして、その復讐に
関係ない人を巻き込むのも!!」
「・・・・・・」
「魔法使いだからといって憎まないで! 迫害しないで!! 昔は魔法を使える人と使えない人が
いても共存できていたはず! 今だってきっとできるわ!! 魔法使いだからといって、悪しき野望を
持っているわけじゃない!! それはお父様だってわかっているはず!!」
「コハル……」
「コハルだって魔法使いだし……お父様のお母様も、魔法使いだったんでしょ?」
「……!!」
「それでもまだ憎いなら、その思いはすべてコハルに向けてもらって構わない!」
コハル様は向けられたままの銃に真っ向から立ち向かう。
一歩も引かず、銃口越しに皇帝の目をしっかり見つめて。
皇帝はしばらくそのまま動かなかったが、やがて銃を下げ、深く玉座に腰掛けた。
- 923 名前:第13話 投稿日:2008/04/20(日) 21:59
- 「コハルは……いつの間にか強くなったな……」
「えっ……?」
「その魔法はおそらく隔世遺伝なのだろうな。似ているよ、母に……。遠い昔、
母に叱られたことを思い出した……」
「お父様……」
「攻撃命令は取り消す。魔女狩りの制度も、廃止の方向で調整していこう」
「本当ですか!?」
皇帝はしっかりと頷いてくれた。
私は思わず隣のあいぼんと顔を見合わせて喜ぶ。
これで全面衝突は回避できるんだ! ついでに魔女狩りの制度も廃止になるかもしれない。
ミカ様もわずかに安堵の表情を浮かべていたけど……。
「ヒトミ、ナイロンをここに呼んでくれ」
「あっ……!」
皇帝が発したその名前に、私たちのあいだで緊張が走った。
ココナッツバレイで覗いた水晶の映像がプレイバックする。
そうだ、そのことをまだ言ってない……!
「お父様、ナイロンは……!」
コハル様も慌てて皇帝にそのことを告げようとしたが……。
- 924 名前:第13話 投稿日:2008/04/20(日) 21:59
- 「私なら呼びに行かずとも、すでに来ていますよ、皇帝陛下」
皇帝の間の中に、女性の声が響いた。
「がっ……!?」
そしてその声に続き、くぐもった悲鳴も。
その声のほう、即ち、皇帝のほうを見る。
玉座に座った皇帝の胸から腕が生えていた。
違う! 腕が皇帝の胸を貫いたのだ。だってその腕は真っ赤に濡れている……。
「お父様!」
「残念ですよ、陛下。あなたはもうちょっと利用価値のある人だと思っていたのに」
腕が抜かれるに従い、ゆっくりと玉座の影から人影が現れる。
それは間違いなく、水晶越しに見たスィアンス帝国の軍務卿、ナイロン。
「がっ…あっ……!」
皇帝が玉座から転げ落ちるように倒れた。
「お父様っ!!」
コハル様が倒れた皇帝に駆けよる。
「コハ…ル……」
「お父様、しっかりしてっ!!」
「………を……む…」
何と言ったのかは聞き取れなかった。
ただ、その言葉を最後に皇帝の身体から全ての力が抜けたのは、遠目でもわかった。
- 925 名前:第13話 投稿日:2008/04/20(日) 22:00
- 「嫌ぁぁああああっ!!」
コハル様の絶叫が響く。
でもそんなことはお構いなしと言うように、ナイロンが血塗られた手を、今度はコハル様に向けた。
「ナイロンッ!!」
その瞬間、弾かれたように、ヒトミさんの身体が消えた。
私も一瞬の遅れの後に飛び出す。
ヒトミさんの剣がナイロンに振り下ろされる。
ナイロンはシールドを張って防いだが、すぐに私も攻撃に加わり、握った槍を突き出す。
ナイロンはバックステップして攻撃をかわし、私たちと距離をとった。
そして余裕たっぷりに、私たちを見渡す。
「やれやれ、どうやらずいぶんと予定が狂ってしまった……」
「貴様、何が目的だ!? スィアンス帝国を乗っ取るつもりか!?」
「こんな国に興味はない。私の目的は、地の魔剣を手に入れること」
「なんだと!?」
地の魔剣!?
まさか、ナイロンの正体は!
「もっとスマートに目的を達成させるつもりだったんだが、こうなっては仕方ない」
ナイロンの身体から溢れ出す、黒い魔力。
間違いない! こいつは……闇の使徒だ!!
- 926 名前:片霧 カイト 投稿日:2008/04/20(日) 22:13
- 今回はここまでです。
え〜っと、え〜っと……。
とりあえず今回は12話の別サイドのお話です。
>>911 名無飼育さん 様
>>912 名無飼育さん 様
はい、もういろいろとすいませんでした。
ちょっと鬱展開中ですが、これからちゃんとまとめていきたいです。
- 927 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/20(火) 18:06
- 一気に読ませて頂きました!
しっかり作りこまれたストーリーと世界観が素敵すぎです。
続き待ってます!
- 928 名前:第13話 投稿日:2008/05/24(土) 17:27
- 溢れ出る闇の魔力がいくつもの魔玉を作り出す。
魔玉はどんどん研ぎ澄まされ、薄く鋭く尖っていく。
魔法に疎い私でも感じる凄まじい魔力。
「力ずく……といきたいけど、さすがにこのメンツを一度に相手にするのは大変なのでね」
「くっ!!」
槍を構えて飛び出そうとしたけど、ナイロンの方が速かった。
「ブラインド・ブレイド!!」
形作られた闇の刃が縦横無尽に走り抜ける。
あわててあいぼんを守るために身を翻す。
ヒトミさんもコハル様をかばったけど。
「えっ!?」
闇の刃は私たちを掠めることもなく走っていった。
外した……?
でもそう思った瞬間、足下がグラッと揺れた。
- 929 名前:第13話 投稿日:2008/05/24(土) 17:28
- 「な、なにっ!?」
「フフッ、今のでこの城をバラバラに切り裂いたわ。間もなく跡形もなく崩壊するでしょう」
「なんですって!?」
「下敷きになりたくなければ一刻も早く逃げることね。ま、城に残っている人を見捨てることが
できれば、だけど」
ナイロンの足下が黒く歪む。
あれは闇の転送魔法、ダーク・サークル!
「このっ!!」
「まずは他の魔剣を手に入れてくることにするわ。そのあと残骸の下から地の魔剣を
回収させてもらうわね」
突き出した槍は空しく空を切った。
逃げたかっ!!
その時、さらに大きく足下がぐらついた。
「うわわっ! まずい、本当に崩れるのれす!! ののたちも早く逃げないと!!」
「城の者たちを見捨てて逃げることはできません!!」
「でもっ!」
足下がどんどんバラバラに割れ始めている。
このままじゃ本当にみんな下敷きになる!
でもその時、私たちを魔力の渦が飲み込んだ。
- 930 名前:第13話 投稿日:2008/05/24(土) 17:29
- 「えっ?」
発信源を見てみると、そこにはミカ様がいた。
ミカ様から溢れた魔力が巨大な魔法陣を作り上げる。
その魔法陣は私たちどころかこの部屋、いやもしかしたらこの城をも包んでいるようで。
「極魔法、ジオ・グラビティ!!」
魔法陣の表面が淡く輝くとともに、足下の揺れが収まった。
でも城が元通りになったというわけではなく、完全に切り裂かれたまま。
それでも城は元の形を維持している。
「これは……ミカ様?」
「ジオグラビティは魔法陣内の物体にかかる重力を完全にcontrolする結界魔法です。
今、城の破片のみ、重力から解放しています」
だから城が崩れないのか。
しかし……こんな大規模な範囲でそんな緻密なコントロールを可能にするなんて……。
「私が城を支えているうちに早く避難を!!」
「わ、わかりました!!」
私たちは弾かれたように部屋から飛び出した。
城はところどころに裂け目があるだけで、あとは何ら変わりない。
「城に残っている人たちの救助には私が行く。お前たちはコハル様を安全なところへ」
「わかったのれす!」
確かに私とあいぼんは城の内部をほとんど知らない。
だからここはヒトミさんに任せるのが賢明だろう。
- 931 名前:第13話 投稿日:2008/05/24(土) 17:29
- 「ヒトミ、頼みましたよ!」
「お任せください!」
そしてヒトミさんと別れる。
私たちの使命はまずコハル様を安全な場所までお連れすること。
そしてもう一つ、ナイロンを止めること。
「コハル様、失礼するのれす」
「キャッ!?」
隣を走るコハル様を抱きかかえる。
そして一気に走るスピードを上げる。
とりあえずこの城の中は安全とは言えない。
まずは城から抜け出さないと。
「あいぼん、やるのれす!」
「よっしゃ!」
あいぼんの手から火球が放たれる。
火球はそのまま正面の窓を粉々に吹き飛ばした。
「えっ、えっ!?」
私たちはそのまま窓を乗り越え、外に飛び出した。
そしてコハル様を抱きかかえたまま、城の中庭に着地する。
少しあとに背後で風が渦巻き、あいぼんも着地に成功したことを知らせる。
「コハル様、大丈夫れすか?」
「は、はい……すごいですね……」
コハル様も無事なようなので、私たちはまた駆け出す。
城の付近も安全とは言い難い。
とりあえず城の中庭を突っ切る。けど……
安全な場所なんて……どこにあるの……?
- 932 名前:第13話 投稿日:2008/05/24(土) 17:30
- 「う〜ん、ココナッツバレイまで戻るしかないのれすか……?」
「でも転移魔法は使えないで……」
考えながらも城の門を飛び出した。
その時……
「!! のの、危ない!!」
「へっ? うわっ!!」
急に火球が飛んできた。
あわててかわし、体勢を整える。
でもすぐに第二撃、さらには雷や氷までも飛んでくる。
「わわわっ!?」
魔法!?
なんで魔法が!?
まさか、ナイロンの他にも闇の使徒が!?
「コハルを離せ!!」
最後に特大の火球が飛んできたけど……
「アンチ・シールド!!」
あいぼんがシールドを張って魔法を反らせた。
体勢を整え、改めて襲撃者を確認すると、そこには四人の少女がいた。
コハル様と同じくらいの年齢だろう。みな一様に手に魔力を集めている。
この子たちって、確か……。
最初にコハル様をドラゴンから助けた時、一緒にいた子たちじゃ……。
「ミヤビちゃん! 違うの、辻さんと加護さんはコハルを助けてくれたの!!」
「へっ!?」
コハル様が私の腕から飛び降りる。
やっぱりコハル様の友達だったか。
コハル様の説明によって、ようやくみんな魔法を解除してくれた。
「あいぼん」
「あぁ、安全な場所、案外簡単に見つかったなぁ」
- 933 名前:第13話 投稿日:2008/05/24(土) 17:31
- コハル様のことはきっとこの子たちが守ってくれるだろう。
魔法使いが四人。それにコハル様も魔法が使えるし、そこらの兵隊には負けないだろう。
「コハル様」
「はい」
「ののたちはナイロンを追いかけるのれす」
「はい、どうかこの悲劇をここで止めてください」
「コハル様は安全なところへと避難を」
「大丈夫! コハルのことはアタシたちが守るから!!」
コハル様をまかせ、私たちは駆け出す。
ナイロンはどこに行ったのだろう?
あいつは『他の魔剣を手に入れてくる』と言っていた。
他の魔剣は田中ちゃんが持っている。
そしてその田中ちゃんは国境線にいるはず。
そこに向かったのか、あるいは……。
「どう思うのれすか、あいぼん?」
「あいつがあの状況であれ、わざわざ自分の手の内を明かすとは思えないで」
「同感れす。となるとナイロンの本当の目的は……」
「最初から地の魔剣を狙うつもりや! だからわざと加護たちを遠ざけようとしたんや!」
だとしたら、ナイロンはどこに?
城の様子がわかって、なおかつ城の崩壊に巻き込まれないところ……。
あいぼんと背中合わせになり、辺りを見渡す。
ナイロンのいる場所は……。
「「あそこだ!!」」
城の裏手に広がる小高い丘。
そこなら城を見下ろすことができるし、すぐに城へと向かうこともできる。
「あいぼん、行くのれす!」
「よっしゃ!!」
あいぼんが私の手を握って呪文の詠唱を始める。
影が魔法陣の形になっていく。
「シャドウ・ホール!!」
- 934 名前:第13話 投稿日:2008/05/24(土) 17:32
-
◇ ◇ ◇
イングラムを見渡せる小高い丘の上。
そこには一つの背中が今にも崩れそうな城を見ていた。
「ふぅん、なかなかしぶといなぁ」
「こんなところで高みの見物なんて、ずいぶんと余裕れすね?」
「おや?」
くるっと振り向いたのは間違いなくナイロンで。
私はナイロンに槍を突き付ける。
「まさか気付かれるとは思わなかったわ。意外と鋭いじゃない」
「意外とは余計や!」
「でもたった二人で来るなんて、賢くはないみたいだね」
ナイロンの前方の空間が歪む。
そこから長い棒が突き出した。
おそらくナイロンの武器だろう。私と同じ槍使いか……?
ナイロンが棒を掴み引き抜く。
「なっ、その武器は……!?」
「同じ槍だと思った?」
形状は槍に近いが、唯一の違いは先端に付いている斧の刃と鉤爪。
ハルバードと呼ばれる武器。
数あるポール・ウェポンの中でも最も優れていると言われている万能武器だ。
- 935 名前:第13話 投稿日:2008/05/24(土) 17:33
- 「さて、それじゃあ城が崩壊するまでの時間つぶしに遊んであげるわ。かかってきなさい」
「なめるな!!」
槍を握って駆け出す。
そしてそのまま真っ直ぐナイロンに向かって突き出す。
「ふん、単純だね」
でも槍がナイロンに届く前に、振られたハルバードによって弾かれた。
さらにそのままハルバードが突き出される。
「くっ!」
なんとか突きをかわす。
そうか、ハルバードは斬ることだけじゃなく突くこともでき、さらに……
「甘いっ!」
突いたハルバードが今度は引かれる。
背後から鉤爪が襲いかかってくる。
こんな攻撃もあるのか!
思い切りしゃがみ込み、攻撃をかわす。
頭の上をハルバードが通りすぎていった。
その形状から繰り出される多彩な攻撃。
これがハルバードが万能武器と呼ばれる所以だ。
- 936 名前:第13話 投稿日:2008/05/24(土) 17:34
- 「のの!!」
背後からあいぼんの援護が飛んでくる。
放たれた氷柱をナイロンはハルバードを回転させて弾いた。
その隙に私は体勢を立て直す。
「距離をとれば安全だと思わないでね!」
でもナイロンの前方の空間が黒く歪む。
そこから闇色の棘が無数に突き出した。
「ブラック・ニードル!」
「くっ、アンチ・シールド!!」
あいぼんがシールドを展開して棘を防ぐ。
使いこなすのが難しいと言われるハルバードをあれだけ使いこなし、魔法も操るナイロン。
これは……厳しい戦いになりそうだ。
「のの、大丈夫か?」
「大丈夫れす。それよりあいつ、かなり強いれすよ」
「わかってるわ。でもいつも通り、力を合わせて戦うだけや!」
「そうれすね!」
一度あいぼんと拳をぶつけ合わせ、私はまたナイロンに向かっていく。
突き出した槍はハルバードに止められた。
でも今度はすぐに槍を引き戻し、連続して突きを繰り出していく。
- 937 名前:第13話 投稿日:2008/05/24(土) 17:35
- 「なるほど、お前が私を押さえておいて、その間にあの娘が大魔法を紡いで攻撃
しようってことか」
チラッと私の肩越しにあいぼんを見てナイロンが囁く。
「シンプルな……というよりは単純な連携だね。そんな作戦じゃ私は倒せないよ」
「くっ!」
攻撃の合間を縫って振られたハルバードを、私はたまらず槍で受けとめる。
その攻撃の重さに身体がよろめいた瞬間、ナイロンが横を通りすぎていった。
そして真っ直ぐあいぼんへと向かう。
「まずはお前から潰してあげるわ!」
ナイロンがハルバードを振り上げるけど。
あいぼんがニヤッと笑った瞬間、あいぼんの前方の地面に魔法陣が浮かび上がった。
「なにっ!?」
あいぼんが前もって仕掛けていたトラップが炸裂する。
「ガイア・クラッシュ!!」
「うわっ!」
地面が爆発し、ナイロンが砂煙に包まれる。
「甘かったな! 悪いけど加護とのののコンビネーションは」
「そんな簡単なものじゃないのれす!」
ナイロンが怯んだ隙に、私は一瞬でナイロンの背後まで詰め寄る。
- 938 名前:第13話 投稿日:2008/05/24(土) 17:35
- 「くらえっ!」
「くぅ……!」
突き出した槍はハルバードで止められたが、私はそのまま槍でハルバードを押さえ、
ナイロンの懐に潜り込む。
そして真っ直ぐな正拳をナイロンのボディに叩き込んだ。
「ぐあっ!」
ナイロンの身体が宙に吹っ飛ぶ。
その無防備な身体にあいぼんの追撃が襲いかかる。
「ゴッド・ブレス!!」
圧縮された竜巻がさらにナイロンを上空に押し上げる。
そう、私が飛び上がって待っている空へ、絶妙のタイミングで。
「堕ちろっ!!」
飛んできたナイロンを空から蹴り落とす。
ナイロンはそのまま真っ直ぐ墜落していった。
地面に激突し、また砂煙が舞い上がる。
- 939 名前:第13話 投稿日:2008/05/24(土) 17:36
- 「くっ……やってくれるね……」
「ののはあいぼんのことを誰よりも理解してるし」
「加護はのののことを誰よりも理解してる」
「あんまり舐めてかかると、もっと痛い目見るのれすよ」
「面白い……お前たちのその顔が絶望に染まるのをすごく見てみたくなったわ……」
ゆっくりとナイロンが立ち上がる。
やっぱりこれでノックアウトとはいかないか。
ナイロンの身体から黒い魔力が溢れる。
溢れた魔力は収束し、鋭い刃となっていく。
まずい、あの魔法は……!
「ブラインド・ブレイド!!」
「くっ!」
無差別に放たれる闇の刃をなんとかかわす。
あいぼんはまたシールドを展開し、防いでいる。
その間にも別の魔法を構築しているのがわかる。
「よしっ!」
魔法をかわしながら、私は前に進んでいく。
真っ直ぐ、ナイロンの間合いへと。
- 940 名前:第13話 投稿日:2008/05/24(土) 17:36
- 「ちっ、ちょこまかと!」
魔法が止まり、ハルバードが突き出される。
それを槍でいなし、私はまたナイロンの懐に飛び込む。
こんな近距離じゃポール・ウェポンは使えない。そして、ナイロンはそんなに
格闘技は得意じゃないはず。
私も槍を使いづらいけど、このまま間合いを詰めて掻き乱せば!
「はっ!!」
「くっ、うざったい!」
放った拳はガードされたが、ナイロンがハルバードを引き戻す頃には、私はナイロンの
背後に回り込んでいた。
そのままナイロンの足をはらう。
ナイロンの身体がぐらりと傾く。
「潰れろ!」
「くっ!」
体勢を崩したナイロンに向かって拳を振り下ろす。
拳はまた防がれたが、そのまま力で押しきり、再度ナイロンを地面に叩きつける。
「キサマッ!」
トドメにはまだ浅い。
でもナイロンがよろよろと立ち上がった瞬間、ナイロンの足下に紅い魔法陣が展開された。
今度はオーソドックスに私が時間稼ぎ。
私は魔法に巻き込まれないように、魔法陣の上から飛び退く。
ナイロンが弾かれたように背後を睨んだ。
「あいぼん、行けーっ!!」
「これで終わりや! ギガ・フレア!!」
ドンッ!!!
丘の上に爆音が木霊した。
- 941 名前:片霧 カイト 投稿日:2008/05/24(土) 17:41
- 今回はここまでです。
いいや、もう、ナイロンオリキャラで……(マテ
>>927 名無飼育さん 様
感想ありがとうございます。
そろそろ最初から読むにはキツイ分量になってきましたが……(汗
さすがにそろそろ収束に向かわせたいので、それまでおつきあいいただければ幸いです。
- 942 名前:みゃー017 投稿日:2008/06/15(日) 17:56
- 初めまして、一日でDear my Princessからここまで全部一気に読みました♪w
スリル満点で先を読みたくなる様な書き方、その場にいるかの様に描かれる戦場、そしてたまに入るエロ?シーン、
本当にこの世界に吸い込まれてく様な気がしました!
そして…何と言っても推しであるれいなが主人公と言う(笑
続きを楽しみにしています!!
- 943 名前:第13話 投稿日:2008/06/28(土) 01:24
- 炸裂した爆音に、ドサッと、人の倒れる音が続く。
展開されていた魔法陣がスーッと消えていく。
「やれやれ、けっこう危なかったよ」
私は何が起こったのかわからなかった。
わかったのは、あいぼんの魔法が中断されたことと。
そのあいぼんが、倒れたこと。
「あいぼんっ!!」
しっかりと地面に立っているナイロンを睨む。
こいつ、いったい何をしたんだ!?
魔法を使った形跡はない。そもそも魔法を詠唱している時間もなかったはずだ。
だとしたら、どうやって!?
「あっ……」
ナイロンが真っ直ぐ持ち上げた手の先から、細い紫煙が立ち上っていた。
あれは、まさか……!?
私の視線に気付いたナイロンが、そのまま手を私の方に向ける。
その手に握られていたのは……銃!!
- 944 名前:第13話 投稿日:2008/06/28(土) 01:24
- 「そんなに驚くこともないでしょう? ここはダウン・フロントなのよ」
そうだ……しっかりとアヤカさんに説明は聞いていたのに……。
そのことを忘れていた。そこまで考えが回らなかった。
「あいぼんーっ!!」
あいぼんの身体は地面にうずくまったまま、ビクビクと震えている。
まずい……どこに当たったのかわからないけど、場所によっては命に関わるって……。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。すぐに後を追わせてあげるから」
あいぼんの元に向かおうとしたけど、ナイロンが引き金に指をかけたことで急停止を
せざるをえなくなる。
わずかな指の動きに続き、また爆発音が響く。
「くっ!!」
何とか弾が撃ち出されるタイミングと、銃口の角度を捉えて弾をかわす。
直撃はしなかったけど、それでもギリギリだったようで、髪が数本千切れ飛んだ。
- 945 名前:第13話 投稿日:2008/06/28(土) 01:25
- 「銃だけじゃないよ!」
さらに、ナイロンがハルバードを振り上げて襲いかかってくる。
銃はもう手に持っていない。おそらく袖かどこかにしまって、すぐ取り出せるように
してあるのだろう。
なんとか槍で受け止めるけど、それで動きを止めてしまうとすぐまたナイロンの手に
銃が現れる。
「うわっ!!」
身体をひねって何とか弾をかわす。
でもさらに……
「サタン・ブラスター!!」
「くあぁっ!!」
魔法まで。
多種多様な連続攻撃を、私はなんとかかわすのが精一杯。
- 946 名前:第13話 投稿日:2008/06/28(土) 01:26
- 「ほらほら、さっきまでの勢いはどうしたの?」
振り下ろされるハルバードを槍でガードする。
「二人合わせてようやく一人前。魔法も使えないチビ騎士が」
撃ち出された弾丸を槍の柄ではじく。
「私に勝てるとでも思ってるの!?」
放たれる闇の魔玉をなんとかかわす。
「あなたもさっさと後を追ってあげなさい」
「うるさい、黙れっ!!」
突き出した槍はハルバードでいなされる。
そのままハルバードが旋回して襲いかかってきたので、私はなんとか動く方向を
切り替え、ハルバードをかわした。が……。
「かかったわね!」
「何っ!?」
私の足下に暗く輝く魔法陣が現れた。
詠唱なんてしてなかった。つまりあらかじめ仕掛けられていた、トラップ!!
- 947 名前:第13話 投稿日:2008/06/28(土) 01:26
- 「さっき引っ掛けてくれたお返しよ! キラー・エッジ!!」
「くっ!!」
魔法陣から無数の刃が飛び出す。
二回連続で急な方向転換を試みるが、さすがに二回目は身体が追いつかなかった。
「くあっ!!」
直撃こそ避けられたが、逃げ遅れた脚に痛みが走った。
そのまま地面に転がる。
見るとすっぱりと腿が切れ、血が零れている。
よりにもよって、脚なんて!!
「これでちょこまか逃げ回れないわね」
ナイロンがハルバードを構え、じりじりと間合いを詰めてくる。
私もなんとか立ち上がるが、そのとき……。
- 948 名前:第13話 投稿日:2008/06/28(土) 01:27
- ドオオォォォォオン!!
「えっ!?」
辺りに轟音が響き、お互い動きを止めた。
示し合わせたかのように、同時に音のした方を向く。
視線の先では、今までそびえていたはずの城が崩壊して、砂煙を巻き上げていた。
「フフッ……」
ナイロンの顔に邪な笑みが浮かぶ。
「とうとう崩れたわね。地の王は力尽きてくたばったか、それともなんとか全員を逃がしきれたか。
どちらにしてももう戦う力は残ってないでしょう」
そのままナイロンが私の方を向く。
「ならもうあなた達にかまっている暇はないわ。さっさと殺して、次に行かないと」
「くっ!」
痛みを訴える脚に無理矢理力を込め、私は槍を構える。
戦わなきゃ、こいつを倒さなきゃ、殺される。
私たちだけじゃなく、他の多くの人々も。
- 949 名前:第13話 投稿日:2008/06/28(土) 01:28
- 「死ねっ!!」
突進してきたナイロンのハルバードを槍で受け止める。
重い攻撃が脚に響く。これは耐えきれない……。
それならばとハルバードを受け流し、そのままナイロンの背後に回り込む。
「甘いね!!」
でもナイロンはそれを読んでいたようで、振り向きざまにハルバードを一閃。
あわてて槍で受け止めるが、その勢いに押されて私は吹き飛ぶ。
まずい、距離を開けると銃が……!!
予想通りナイロンが銃を手にし、私めがけて引き金を引く。
ギリギリでかわすが、この脚で銃弾をかわし続けるのは厳しい。
なんとかまた距離を詰めるために、ナイロンに向かっていく。
「はあっ!!」
槍を突き出すが、それはハルバードで受け止められる。
でもそれは予想通り。
痛みをこらえ、私は脚を振り上げる。
「くらえっ!!」
「ぐっ!?」
ガードの開いた脇腹に回し蹴りがめり込む。
ナイロンの身体がよろめく。
- 950 名前:第13話 投稿日:2008/06/28(土) 01:29
- 「ふっ、怪我した脚でよくやるね」
「えっ!?」
でも倒れる前に、ナイロンのハルバードが動いた。
私の軸足にハルバードの鉤爪が引っかかり……。
「きゃっ!!」
そのまま引かれた。
よって、軸を失った私の身体はナイロンと一緒に地面に倒れ込んで……。
まずい、早く立ち上がらないと……。
地面を踏みしめ、力を込めた脚に……
ダァンッ!!
「!! うわああぁぁあっ!!」
激痛が走り、私は再び地面に倒れた。
そのままなんとかナイロンの方をにらむ。
ナイロンの手に持った銃が紫煙を立ち上らせていた。
- 951 名前:第13話 投稿日:2008/06/28(土) 01:29
- 「両脚を潰した。もう本当に逃げられないわ。これで終わりよ!!」
私の前に立ち上がったナイロンがハルバードを突き下ろす。
ガードするために身体を反転させ、槍を構えたけど……。
ハルバードは槍のガードをすり抜け……。
「がっ……!!」
い、痛……!
口の中に鉄の味が広がる。
ナイロンのハルバードが腹部に突き刺さったのだと、数秒かかって理解した。
「ふふっ、所詮虫けらは二人揃ったところで虫けらに変わりはないのよ」
血の味が口内にあふれる。
手が痺れて、感覚が遠くなる。
でも……。
「あなたも、あなたの相棒のように、惨めに死ぬことね」
「だ…まれ……」
「!?」
負けられない……。
こんなヤツには負けられない……。
ここで私が倒れたら……全部が無駄になっちゃう……。
- 952 名前:第13話 投稿日:2008/06/28(土) 01:30
- 「あああぁぁああああっ!!」
力を振り絞り、その力を末端までみなぎらせ。
手に持った槍を強く掴みなおし、ナイロンに向けて突き出す。
「ぐあっ!!」
槍はナイロンの左肩を貫いた。
ナイロンの血が槍を伝う。
「くっ、おのれ……死に損ないが、無駄な抵抗を……」
「無駄じゃないのれす……。確かに致命傷は与えられなかったけど……これでいいのれす……」
「何?」
「ののの役目は、魔法の完成まで……敵を引きつけること……。それがののとあいぼんの
コンビネーションの形なのれすよ」
「なんだと!?」
「あいぼぉんっ!!」
私の叫びと同時に、私たちの足下にダークブラウンの魔法陣が輝いた。
ナイロンが思わず後ろを振り返る。
きっとナイロンの瞳には地面に這い蹲りながらも必至で魔法を唱えているあいぼんの
姿が映っているはず。
「貴様……まだ、生きて……」
ナイロンが驚愕に動きを止めている隙に、私は自分の身体からハルバードを引き抜く。
そして槍を手放し、魔法陣の外に転がり出た。
- 953 名前:第13話 投稿日:2008/06/28(土) 01:31
- あいぼん……わかってたよ。あいぼんが必死に大魔法を組み立てていたこと。
私を信じて、魔法を作っておいてくれたんだよね……。
だから私も頑張ったよ……。
ナイロンをなんとかあいぼんの射程範囲まで誘導して、あいぼんのこと気づかれないように、
気を引きつけて……。
あいぼんの信頼に応えられるように……。私もあいぼんを信じて……。
もうちょっとスマートにできればよかったけど、これが私の限界だったみたい……。
「行っけーっ、あいぼん!!」
「デス・イーター!!」
魔法陣がひときわ強く輝く。
その魔法陣が二つに裂けると同時に、魔法陣の円周上から無数の牙が飛び出し、
ナイロンに突き刺さる。
「ぐあああぁぁああっ!!」
ナイロンの身体が牙に切り裂かれ、魔法陣に吸い込まれて、いや、喰われていく。
「くっ、おのれ……私の計画が……こんな…ところで……!」
伸ばしていたナイロンの腕を飲み込んで、魔法陣は消滅した。
- 954 名前:第13話 投稿日:2008/06/28(土) 01:32
- 勝った……。
それが理解できた瞬間、私は地面に倒れ込んだ。
なんだか凄くまぶたが重い。脚の感覚が薄い。
でも……私はまだ倒れるわけにはいかない……!
「あい…ぼん……」
無事な両腕を使い、身体を引きずって前に進む。
同じように地面に突っ伏しているあいぼんのもとへ。
普段だったら一瞬で詰められるような距離が、今日は遠い。
でも私は手を伸ばし続ける。
「のの……」
あいぼんも必至に手を伸ばす。
無限とも錯覚しそうな距離を進み、ようやく伸ばした手があいぼんの手に重なった。
あいぼんもぎゅっと手を握り返してくる。
その瞬間、全身から力が抜け、私は再度地面に倒れ込んだ。
「のの……やったなぁ……」
「うん、やったのれす……」
示し合わせたように同じタイミングで、一緒に身体を返す。
眩しいくらい一面の蒼が目の中に降ってくる。
繋いだままの手が、もう一度きゅっと握られた。
- 955 名前:第13話 投稿日:2008/06/28(土) 01:33
- 「のの……初めて会ったときのこと覚えてるか……?」
「当たり前れす。王宮騎士団の入団試験の時れすよね。魔法が使えないののと、
魔法しか使えないあいぼん。二人で組んで試験を突破したれすね」
「ほんま、懐かしいなぁ……。最後の試験終わって、合格決まって……そん時も
こんなふうに二人で寝っ転がったなぁ……」
繋いだ手を通してあいぼんの呼吸が伝わり、私の呼吸と重なっていく。
まるでこのまま一つに溶け合ってしまうように。
「思えばあれから、ずっと一緒やったなぁ。一緒に2番隊、矢口さんの下に配属になって……」
「そうれすね」
「お互いカレシの一人も作らんと、色気のない青春やったわぁ……」
「れすねぇ……」
「でも……」
手がぎゅっと、力強く握られる。
「ののに会えたから……それだけで十分や……」
「ののもれすよ」
私もあいぼんの手をぎゅっと握り返す。
あぁ……なんだかすごく眠い……。
ぽかぽか陽気が気持ちいいからかなぁ……?
- 956 名前:第13話 投稿日:2008/06/28(土) 01:33
- 「あい…ぼん……?」
「・・・・・・」
呼びかけてもあいぼんは答えてくれなかった。
どうやら先に眠ってしまったらしい。
置いてくなんて酷いのれす……。
でも、すぐに追いつくから……。
夢の中へでも、どこへでも追いかけていくから……。
だからちゃんと待ってるのれすよ……。
過去も、現在も、未来も。
いままでも、今も、そしてこれからも……。
ずっと、いっしょに……。
- 957 名前:片霧 カイト 投稿日:2008/06/28(土) 01:41
- 今回はここまでです。
いろいろあったココナッツバレイ編、そして13話も次回で最後です。
それでおそらくスレのお引っ越しかなぁ……?
残すは大きく分けて展開が3つほど。さすがに水にたてるほどの残量ではないので、夢か幻になるかと。
>>みゃー017 様
ディアプリからとは……本当にありがとうございます!
いい加減量が量なだけに大変だったと思います。
デモエロシーンイレタッケカナァー?(ぉ
- 958 名前:みっくす 投稿日:2008/06/29(日) 02:10
- 更新おつかれさまです。
うーー、こういう展開になりましたか。
- 959 名前:第13話 投稿日:2008/08/25(月) 22:09
- 〜田中れいな〜
それは見晴らしの良い、小高い丘の上にあった。
命を終えた竜や地の民が眠るココナッツバレイの墓地。
赤い夕陽に照らされて、十字の影が長く伸びている。
今日、そこに新たに多くの十字碑が建てられた。
鎮魂の鐘の音が鳴り響くなか、地の民が思い思いの墓前に並び、深い祈りを捧げている。
あたしたちも一つの十字碑の前に並び、目を閉じる。
そこには高橋さんが眠っている。
あたしたちを前に進ませるために、自ら犠牲になった高橋さん……。
どうか……安らかに……。
「ひっく……ひっく……」
祈りを捧げていると、隣から押し殺した鳴き声が聞こえてきた。
あたしはそっと、隣の絵里の肩を抱き寄せた。
- 960 名前:第13話 投稿日:2008/08/25(月) 22:10
-
◇ ◇ ◇
「絵里、落ち着いた?」
「うん……ごめん……」
結局絵里はココナッツバレイの宿泊施設に戻ってくるまで泣きやまず、部屋で慰めてようやく
涙が止まった。
抱きついていたあたしの身体から、ゆっくり絵里が離れる。
「ごめんね……れーなは我慢してるのに、絵里だけ泣いちゃって……」
「かまわないとよ。むしろ今のうちに泣いておいた方がいいと」
「そうだね……これからは、泣く余裕もなくなっちゃうかもだしね……」
「うん……」
今回の戦いでは高橋さんが亡くなっただけでなく、辻さんと加護さんも戦線を離脱した。
ミカ様から聞いた話によると、重傷を負って倒れていた二人を、駆けつけたヒトミさんが
発見したらしい。
二人はすぐさま「病院」と言うところに送られ、なんとか一命は取り留めたものの、
未だに意識が戻らない。
そしてたとえ意識が戻ったとしても、すぐに旅に復帰するのは不可能とのこと。
つまり、これから先は三人で旅を続けなければいけない。
残すところはあと少しだが、目的地に近づけば近づくほど、敵の妨害も強くなることが
予想される。
正直あたしだって不安でたまらないくらいだ……。
でも、あたしたちは……。
それでも前に進まなきゃならない……。
- 961 名前:第13話 投稿日:2008/08/25(月) 22:11
- 「れーな……」
「んっ?」
絵里の言葉に振り向く。
絵里は赤い目を擦りながらも、もうしっかりと顔を上げていた。
「絵里はもう大丈夫だから……紺野さんのところに行ってあげて……」
「……うん……」
ポンちゃんは結局今日の葬儀にも出席しなかった。
それどころか、昨日ココナッツバレイに戻ってきてからずっと部屋に閉じこもり、
一歩も外に出ていない。
「じゃあ……ごめん、行くね……」
「うん……れーな、お願いね」
「わかってる」
絵里に促され、あたしは絵里の部屋をあとにする。
あたしの部屋の前を通り越し、あたしはポンちゃんの部屋に通じる扉の前へ。
控えめに軽くドアを二回ノックする。
「ポンちゃん……れいなです……」
中からの反応はない。
でも中にいるのは明白なわけで、悪いと思いつつ、あたしはドアを開ける。
陽はもうかなり落ちていて、辺りは薄暗くなっていたけど、部屋の灯りはまったく
灯ってなかった。
薄暗闇の中、ポンちゃんは一人でベッドに座り、俯いていた。
- 962 名前:第13話 投稿日:2008/08/25(月) 22:12
- 「ポンちゃん……」
呼びかけてもまだ反応はない。
あたしは暗い部屋の中を進み、ポンちゃんの隣に腰掛ける。
そこでようやくポンちゃんも反応を示してくれた。
あたしのことを確認するように、ゆっくりと顔を持ち上げる。
その顔には涙の跡が滲んでいた。
「あの……ポンちゃん……大丈夫…です…か……?」
こんなことしか言えない自分にちょっと嫌気がさしたけど。
それでもポンちゃんは小さく反応した。
小さく、首を横に振った。
「ダメ…だよ……」
「えっ、ポンちゃん……?」
「ダメだよ……私…また……守れなかった……」
涙の跡の上を、新しい雫が伝っていく。
ポンちゃんはそのまま両手で顔を覆った。
「強くなるって決めたのに……みんな守るって決めたのに……また…また、また……」
「ぽ、ポンちゃん!?」
思わず伸ばした手が触れたポンちゃんの身体は、大きくガタガタと震えていた。
「里沙ちゃん、愛ちゃん、のんちゃん、加護ちゃん……みんな、私のせいで……」
「そんな! ポンちゃんのせいじゃないですよ!!」
「いや……もう嫌ぁっ!! みんな……みんな、いなくなっちゃう!!」
「ポンちゃん!!」
ポンちゃんはさらに自分の殻に閉じこもるように、頭を抱えてうずくまる。
伸ばした手はポンちゃんに振り払われた。
- 963 名前:第13話 投稿日:2008/08/25(月) 22:12
- 「みんな……消えてく……。みんな……いなくなる……!」
そのままポンちゃんはつぶやき続ける。
軽い錯乱状態に陥っているのだろう。
このままじゃ本当にポンちゃんが狂ってしまう!
「ポンちゃん!」
とにかくこのままじゃ声も届かない。
なんとかポンちゃんを正気に戻すために、あたしはポンちゃんの手を解こうとする。
「いやっ……いやぁっ!!」
ポンちゃんは必死の抵抗で、あたしの手をふりほどこうとする。
実はポンちゃんも案外力が強くて、なかなかうまくいかない。
でも、一応あたしは体術のほうが専門だから。
暴れるポンちゃんをベッドに押し倒し、その身体にまたがる。
そして腕をベッドに押さえつけ、なんとか動きを封じた。
「いやっ、離して!! れいなだって、そのうち……!!」
「れいなは消えませんっ!」
「嘘っ!」
「嘘じゃないっ!!」
反射的に叫んでいた。
ポンちゃんの身体がびくっと一瞬固まる。
あたしはゆっくりとポンちゃんに顔を近づけ、正面からポンちゃんの目を見据える。
失うことを何より恐れる、そのおびえた瞳をいつもの優しい瞳に戻してくれるように。
- 964 名前:第13話 投稿日:2008/08/25(月) 22:13
- 「れいなはポンちゃんが好きです。だから一緒にいます。ポンちゃんの前からいなくなって、
悲しませることは絶対しません!
「・・・・・・」
「その……ポンちゃんが望んでくれるなら、一生だって……」
「れいな……」
ポンちゃんの強ばった身体から、ゆっくりと力が抜けていく。
でも、錯乱状態からは回復したものの、まだポンちゃんの身体は小刻みに震え、瞳からは
涙がこぼれ続けている。
あたしはさらに身体を密着させ、ポンちゃんを抱きしめた。
あたしが悩んだとき、苦しかったときに抱きしめてくれたポンちゃんと同じように。傷ついた心を
癒してくれたように。
「れいな……!」
すがりつくように、ポンちゃんの腕が背中に回る。
そしてきつく、あたしの身体を締め付ける。
離れないように。離さないように。
「本当に、一緒にいてくれる……?」
「はい、約束します」
「絶対だよ……? れいなまでいなくなったら……私、もう……」
「一緒にいます。れいなが……ポンちゃんのこと守りますから」
ポンちゃんの、あたしを抱きしめる力がさらに強くなる。
「ごめんね、れいな……もう少しだけ、このままで、いさせて……」
「はい……」
じんわりと服の胸元が濡れてくる。
抱きしめている身体の震えが大きくなる。
「う、わああぁぁぁああっ!!」
ポンちゃんはしばらくの間泣き続けた。
ポンちゃんの苦しみが、痛みが、少しでも安らげばいいと。
あたしはポンちゃんを抱きしめ続けていた。
- 965 名前:第13話 投稿日:2008/08/25(月) 22:14
-
◇ ◇ ◇
「落ち着きましたか、ポンちゃん?」
「うん……ありがと……」
ひとしきり泣いたあと、ポンちゃんはなんとか泣きやんだ。
涙の跡はまだ残っていたけど、その顔には少しだけど微笑みも戻ってきていた。
あたしも抱きしめる力を少し弱める。
「れいなは……強いね」
「えっ、そんなことないですよ。ポンちゃんに比べたら、れいななんかまだ……」
「ううん、強いよ。こんな状況でもちゃんと一人で立ち上がって、さらに他の人だって
支えちゃうんだから」
ポンちゃんに至近距離からそんなことを言われ、あたしは二の句が告げられなくなる。
好きな人に、そんな風に認めてもらえたら、それは誰だって嬉しいわけで。
顔がちょっと火照るのを感じた。
そういや、力を弱めたとはいえ、まだ抱きしめたままだし。
あたしはなるべく自然に、ゆっくりと体を離す。
「えっと、ポンちゃん、もう大丈夫ですか?」
「うん。心配かけてごめんね……」
「それじゃ、今日はゆっくり休んでください。昨日まともに寝てないでしょ、ポンちゃん?」
ま、それはあたしもなんだけど。
ベッドから起きあがり、腰を浮かせる。
部屋から立ち去ろうとして、あたしは腕を捕まれ、足が止まった。
振り返ると、ベッドの上に起きあがったポンちゃんが、まだ涙が残る瞳であたしを見ていた。
- 966 名前:第13話 投稿日:2008/08/25(月) 22:15
- 「行っちゃうの……れいな……?」
「えっ、だって……」
「一緒にいてくれるって言ったのに……」
いや、確かに言ったけど……そういう意味じゃなくて……。
でもこんないつもと違うポンちゃんを放っておくのもちょっと心配な気がする。
あたしと一緒にいることで、ポンちゃんが少しでも気持ちが癒されるなら……。
「服着替えたら、戻ってきますから……」
そういうとポンちゃんは安心したように笑い、手を離してくれた。
あたしはいったん自分の部屋に戻ると、ポンちゃんの涙で濡れた服を脱ぎ、新しい服に袖を通す。
……一応下着も替えたほうが……いやいや、何考えてるんだ、あたしはっ!!
とりあえず枕だけ抱えて、急いで部屋を出る。
逆隣りの絵里の部屋をちょっと窺ってみたけど、どうやら絵里はもう寝てしまったみたい。
ポンちゃんの部屋へと移動し、一応軽くノックをしてから中にはいる。
と……。
「すぅー……」
ポンちゃんはベッドの上に横たわったまま、小さな寝息を立てていた。
この短時間で……。まぁ、それだけ疲れていたってことかな。
あたしは扉に鍵をかけると、部屋の灯りを落としていく。
そしてポンちゃんを起こさないようにまっすぐ寝かせると、身体の上に毛布を掛けた。
「失礼しまーす……」
持ってきた枕を並べ、あたしも毛布の中に潜り込む。
せめて今日はゆっくりと休んでください、ポンちゃん。
枕元に残る灯りを消しながら、あたしは胸の中で祈った。
- 967 名前:第13話 投稿日:2008/08/25(月) 22:16
-
◇ ◇ ◇
翌朝。
ゆっくりと目を覚ますと、そこにはポンちゃんの安らかな寝顔があった。
目はちょっと腫れているけど、顔色はよさそう。
「んっ……?」
あたしが目を覚ましたのにつられたのか、軽いうめきとともにポンちゃんの身体がもぞもぞと動く。
そしてゆっくりとポンちゃんの瞳が持ち上がった。
あたしたちの視線がぶつかり合う。
「あっ……れいな、おはよう……」
「おはようございます、ポンちゃん。ゆっくり眠れましたか?」
「うん。こんなに安心して眠れたのは久しぶり」
と、毛布の中にあったあたしの手になにかが触れた。
きっとポンちゃんの手だ。
「きっと、れいなが一緒にいてくれたからだね」
にっこりと笑ったポンちゃんの笑顔は、部屋に入り込んだ朝日を浴びてきらきらと輝いて見えて。
あたしは顔が熱を帯びるのを感じた。
「れいな、昨日はありがとね」
「いや……れいな特別なことはしてないですよ」
「私はもう大丈夫だから……行こう!」
毛布の中で、あたしの手がきゅっと握られる。
その指にはめた指輪ごと、ポンちゃんの手に包み込まれる。
「最後の魔剣のある、雷の王国へ」
「はい!」
ベッドから起きあがり、出立の準備を整えるため、いったん自分の部屋に戻る。
と、部屋に入ったとたん、すぐに部屋の扉が開け放たれた。
- 968 名前:第13話 投稿日:2008/08/25(月) 22:16
- 「れーな、起きてる〜!?」
元気いっぱいに飛び込んできたのは、言わずもがな、絵里で。
どうやら絵里もいつもの調子を取り戻したらしい。
「ちゃんと起きてるとよ、絵里。それより勝手に入ってくるなって、何回言えば……」
「あれ〜、珍しく早起きだね、れーな。ベッドメイキングもしてあるし……」
「あ、えっと、それは……」
使ってないだけなんだけどね。
まぁ、そんなことはさすがに言えないけど。
というわけで、絵里にも事情を説明し、あたしたちは出立の準備を整えた。
そして三人でアヤカさんのもとを訪れた。
「れいな、もう大丈夫なの?」
「はい、大丈夫です。それで……」
ポンちゃんと絵里と目を合わせ、意思を確認する。
二人ともしっかりとした目つきで、小さくうなずいてくれた。
今はただ、前に進むのみ。
「れいなたちを、雷の王国に連れて行ってください!」
- 969 名前:第13話 投稿日:2008/08/25(月) 22:16
-
- 970 名前:片霧 カイト 投稿日:2008/08/25(月) 22:21
- 今回はここまでです。遅くなって申し訳orz
いろいろあった13話、そしてココナッツバレイ編も終了です。
でもってこのスレッドもそろそろ限界なので、次からは新しいスレに引っ越し予定です。
さすがにもう一枚水を埋める量は残ってないので、夢か幻のどちらかになると思います。
>>958 みっくす 様
とりあえずこんな展開で終わりました。
良いのか悪いのかはおいといて、次からは新しいストーリーです。
- 971 名前:みゃー017 投稿日:2008/08/26(火) 00:41
- おぉ、続きが!w更新お疲れ様です。そして、人数がまた減っちゃいましたか。
…でもその分今後はれいなのワンマンショーならぬワンヲマンショーになる可能性もあるってことでしょうか?(笑
夢と幻、今後はそちらをチェックしておきます。頑張って下さい!
- 972 名前:片霧 カイト 投稿日:2008/10/12(日) 17:44
- まずは返レスです
>>971 みゃー017 様
はい、また減ってしまいました……。
その分れいなには頑張ってもらわないとですね。
そして宣言通り、新しいスレに引っ越しです。
今度は夢版にて書かせていただきます。
そちらでまた会えることを祈りつつ。
「Dear my ・・・ 〜 Dark × Dark 〜 U」
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/dream/1223800847/
ログ一覧へ
Converted by dat2html.pl v0.2