彼女は友達2
1 名前:ロテ 投稿日:2005/03/31(木) 00:31
みきよし、アンリアルです。
思いっきり続きです。前スレはこちら↓

http://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/purple/1091883814/

拙い文章ですがよろしくお願い致します。
2 名前:ロテ 投稿日:2005/03/31(木) 00:35
前スレ>806の続きからです。更新途中でホントすみません。
3 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:35

「さて、行きますか」

雨の中を二人で少しばかり歩いた。ジョーイ(とドナ)の店はやや奥まった場所に入り口があり、看板は表通りから見えるもののいざ行くとなると初めての人間は少し戸惑うだろう。まさに隠れ家的な店だけど、ビスケットとジャムの評判が口コミで伝わり、今では知る人ぞ知るけっこうな有名店らしいと飯田先生は説明してくれた。

「昔うちのメイドが大好きだったんだよな、ここ」
「メイド、ですか」
「よく怒らせては、機嫌直してもらうのにジャムとビスケット買って帰ったなぁ〜」
「その人は今も働いていらっしゃるんですか?」
「いや、あたしが…昔ちょっと怪我したときに辞めちゃった。まわりは止めたんだけど」
「そうですか。今も交流が?」
「ん、まあぼちぼち」

昨年末にオヤジに会いにロンドンに来たとき、あたしは家よりもどこよりもまず真っ先にマリアのところに向かった。どうしてもちゃんと会って謝りたかったから。あの頃何度も心配をかけたり迷惑をかけたりしたことを自分の口から謝りたかったから。

「吉澤さん」
「うん?」
「どこに行くつもりですか」

マリアのことを考えていたらいつのまにか店の入り口を素通りしていた。

「悪い悪い」

店のドアを押して中に足を踏み入れようとしている飯田先生の背中に声をかけ、あたしは店の外観をあらためて見回した。昔とあまりにも変わっていないその様に、まるでタイムスリップをしたような錯覚を覚えた。顔に受ける雨の冷たさを感じながら飯田先生の後を追って店に入った。

店内では飯田先生がショーケースを指差してあれこれとジョーイに注文をしていた。ジョーイはあたしの来店に気づくと一瞬なにかを考えるような顔をして、それからぱぁっと明るい表情を見せてくれた。それにつられてあたしも笑みを返した。

4 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:36

「お客さん!久しぶりだね〜。昔はよくひいきにしてくれたのに、とんと来なくなっちまって」
「ごめんごめん。しばらくロンドンを離れてたんだ」
「そういうことかい。いや〜あんなことがあったからまさか死んじまったんじゃないかって、ドナと二人で心配してたんだよ。元気そうでなによりだ。うん」

飯田先生の背中がピクリと反応したのを目の端で捕らえながら、あたしは苦笑する。きっとまったく悪気はないのだろう。ジョーイはあたしの苦笑に気づかずに昔を懐かしむように話を続けた。

「ほら、お客さんが昔住んでいたあそこ、あのときの火事で今じゃすっかり見る影もないよ。まあ昔から壊れかけてていつ崩れてもおかしくはないと思ってたけどね。お客さんはまたロンドンに?」
「いや、今回はちょっと友人に会いにね。もうロンドンに住むことはないと思う」
「そうかぁ。そいつは残念だ。またこっちに来ることがあったら寄ってくださいよ」
「かなり繁盛してるみたいだね。あたしが来ていた頃もそこそこ客が多かったけど、今じゃすっかり有名店だってここにいる先生に教えてもらったよ」

なにも言わずにあたしたちの会話を聞いていた飯田先生を顎で指し示すと、ジョーイはびっくりするほどのオーバーアクションで両手を広げて天を仰いだ。

「なんてこった!二人が知り合いだなんて!飯田先生にはいつもひいきにしてもらってるよ。それにしても日本ってとこは行ったことがないけどこんなに美人揃いなのかい?」
「ドナが聞いたら怒りますよ」
「まあうちらみたいな美人はめったにいないよ。ね、飯田先生」
「そうですね」
「二人とも言うね〜」

ロンドンにもかわいい子がいっぱいいるけどやっぱり日本だよ。だって、日本には世界一かわいいあたしの恋人がいるんだから。あ、宇宙一だった。これだけは誰がなんと言おうと譲れない。ジョーイがいくら日本人に興味を示しても美貴は渡さないからな。

5 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:37

「アジア系は美人が多いって前々から思ってたんだけどあれはどうしてかね?」
「ジョーイ、美人なんてどこの国にもいるじゃん」
「いや、日本人や中国人の美人ってのはこう…なんていうか違うんだよ」
「ま、あたしの恋人は日本人だけどたしかにちょっとやそっとではお目にかかれない美人だよ」
「ほー。お客さんがうらやましいねぇ」

ジョーイと美人談義に花を咲かせていると、飯田先生はチラッと窓の外に目をやってからやれやれといった顔であたしたちを呆れたように見ていた。この先生だって美人やかわいい子に弱いくせに、自分だけ硬派な顔なんてしないでもらいたい。本当はまいちんの自慢を思いっきりしたいんだろ?ウザイからしないでね。

「そういえば日本人で思い出したけど…あれはいつだったかなぁ。何年か前にお客さんのことを尋ねて来た日本人がいたよ。もしかしたら中国人か韓国人かもしれないけど、あの英語はたぶん日本人だろうな」

ジョーイの思いがけない発言にあたしは一瞬言葉を失った。あたしのことを尋ねた?誰が?

「お客さんのことっていうより…あの火事の…」

そこまで言ってからジョーイは飯田先生を見て、それからあたしの顔を見て話してもいいのかという視線を送ってきた。あたしはとにかく話の続きが気になったからぶっきらぼうにジョーイに続きを促した。

「あのときのことはけっこうな火事だったのに、なぜかあんまり大きなニュースにならなくてね〜。新聞の扱いも小さかったからか、逆に興味本位でお客さんのことを聞いてくる人間はけっこういたんだよ。書きようによってはいくらでもスキャンダラスな内容になっただろうからね。三流雑誌の連中がどこから嗅ぎつけたのかよくここに来ていたよ」

当時、オヤジがいろんな方面に圧力をかけて大事にしなかったということは圭ちゃんから聞いていた。でもこの店にまでそんな輩が来ていたとは考えもしなかった。たしかにあのときはやたらうるさいパパラッチみたいなのが家のまわりをウロウロしていたとは聞いたけど。もしかしてマリアもあたしの知らないところで迷惑を被っていたのかな?今までそんなことにも頭がまわらなかった自分が迂闊でならない。

6 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:37

「そっか。迷惑かけたね」
「ふんっ。あんなカスみたいな奴らのことでお客さんが謝ることないよ。事情はよく知らないけどうちのジャムを本当に好きでいてくれる人に悪い人間はいないからね。しかもそれが美人とくれば尚更だよ」

太い眉毛を器用に動かして、ジョーイはあたしに同意を求めた。

「まあね。たしかにここのジャムを食べたらよそではもう食べれないよ」
「だろだろ?やっぱりお客さんはわかってくれると思ってたよ」
「それよりその日本人ってどんな人間だった?」
「それがびっくりすることにかわいい女の子だったんだ」
「女の子?」
「そう。お客さんのこととか、お客さんの…恋人のことをなんでもいいから教えてくれって。若く見えたけど物腰は大人みたいに落ち着いていて礼儀正しい子だったな、たしか。それに笑顔がとびっきりキュートだったね」

まったく心当たりがなかった。もしかしてなつみと付き合う以前の恋人か?でもこっちで付き合った中に日本人はいなかった。あ、一人だけ中国人がいたな、そういえば。でもそれほど深い付き合いではなかったし、第一あたしとなつみのことをジョーイのところまで尋ねに来るなんて…一体どんな理由があってそんな面倒なことをするんだ?

「まあうちで教えられることなんてお客さんが美人で、よくジャムを買ってくれていたってことくらいだから大した話はしなかったけど。後でジャーナリスト志望なのかもなってドナと話してたんだよ。とにかくキュートな子だったよ」
「へ〜そんなに可愛いならちょっと見てみたいな。ね、飯田先生」
「あなたは本当に節操がないですね。藤本さんに言いつけますよ?」
「それだけは勘弁。ていうか飯田先生、いい加減お目付け役はやめろよなー」
「そういやたしか一緒に写真を撮ったはずなんだが…はて、あれどこにやったかなぁ」
「ジョーイ!そこが一番肝心なのに。思い出してくれよ〜」

7 名前:彼女は友達 投稿日:2005/03/31(木) 00:38

横で深いため息をつく飯田先生を無視してあたしはその女の子について考えを巡らしていた。たしかにジョーイの言うようにただの興味本位で尋ねて来たジャーナリスト志望の人間という線もあるし、あたしの昔の恋人という可能性だってないわけじゃない。でもあたしはなぜか、漠然とだけどそのどれでもないような気がしてならなかった。それでもあの事故から数年経った今の今まで、そういう人間があたしの前に現れていないことを考えればきっとたいしたことではないのだろうけど。

「今度ドナに聞いてみるよ。でも本当にキュートだったなぁ」

キュートを連呼するジョーイに今度はあたしがため息をついた。そんなにかわいい子ならやっぱり見てみたいじゃん。飯田先生がうんざりしたような顔してるからもう言わないけどさ。美貴に言いつけられても困るし。だからもうそんな顔しないでさっさとビスケット買ってくれよな、飯田先生。

「今度はお客さんの恋人も連れてきてくださいよ」

ジョーイの言葉に笑いながら店を出た。飯田先生に奢ってもらったビスケットを頬張りながら雨の中をまた歩いた。何年かぶりに口にしたそのビスケットの味は、あたしを一気に昔の光景の中へと攫っていく。小降りになってきた雨を体中に受けながら同じ道を歩いていると、嫌でも思い出さずにはいられない。そして口の中に広がる甘い味覚があたしを自然とリージェンツパークへと誘った。

「飯田先生、ついでにもうちょっと寄り道して行こうか」





8 名前:ロテ 投稿日:2005/03/31(木) 00:39
2スレに跨っての更新終了。わかりにくくて本当に申し訳。
とりあえず前スレのレス返しを。

790>名無しのYさん
単純Yさんイイヨーイイヨー(失礼)。作中の圭ちゃんには随分と助けられています。まさか飯田先生がここまで関わってくることになるなんて自分で書きながらビクーリしたことは内緒です。

791>名無しのSさん
予想外イイヨーイイヨー(やっぱりな)。保田さんと飯田さんが癒してくれましたか。それはよかったです。そんなに深くなんてないっすよ(照)。

792>Johnさん
Johnさんもキタワァ:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。
Johnさん(ノД(´д`*)ヒソヒソ

793>130@緑さん
飯田先生が一気に急上昇してることに驚きを隠せない作者です。ここのよしめしの関係は自分でも面白いかもとわりと思っています。作者も含め、みんなけっこう不器用なようです。

794>こいさん
HNで初ということは前にレスしてもらったことがあるのかな?某所ではお世話になりました。ここにも飯田先生に惚れてしまった人が…しかもポワワってるwこれかも頑張ります。

795>bakaさん
いえいえあなたのハンドルのがよほど面白いかと。いろいろと語りたいこと…(なんだろう)いずれにしても楽しみにしております。

796>ニャァー。さん
保田さんに頼りっぱなしの作者です。作者の言いたいことを一番言ってもらってます。おー!飯田先生が頑張って言い直しているところに食いついてもらえたー!!ニャァー。さんこそいい人だっw
9 名前:名無しのSa 投稿日:2005/03/31(木) 09:33
新スレ、おめでとうございます!!。
かなりというかめちゃめちゃ動き出してるような気がしてならないんですが・・・。
ワクワクというかどきどきというか・・・もうどうしようっといった感じです。
キュートってキュートってキュートってキュートって(しつこい??)
10 名前:忍の者Y 投稿日:2005/03/31(木) 13:26
更新お疲れ様です。
動くんですか?気になりますね。w
私のお腹もそろそろ限界ですのでね。
更に更に楽しみになってきましたので
次回の更新もよろしくお願いします。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/31(木) 16:51
キュートな子…気になりますねぇ。
次回まで正座してまーす。
あ、それとお引っ越しお疲れ様です。
12 名前:wool 投稿日:2005/03/31(木) 21:27
更新お疲れ様&新スレおめっとーございます。
ここに来るたびに、やっぱりみきよしってイイなーと思い知らされます。これからもロテさんらしいみきよしを期待しておりますので、マイペースに頑張って下さいね。
13 名前:Johnさん 投稿日:2005/04/01(金) 18:40
だんだんお互いのレスがわけわかんなくなてる希ガス。
新スレおめです。
あいかわらずパソしんでますがよろしくです。


友達がwしか歌わない状況に微笑みつつ待ち
14 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/03(日) 20:26
▼▼▼


荷物なんてほとんどなかった。ストリートマーケットで買った古着をかき集めて畳まずにバッグに詰める。安物だし愛着があるわけでもないから無理に持っていく必要もないけれど、自分の痕跡を残していくのはみっともない気がして無理やり小さなバッグに押し込んだ。

そうしてからしんと静まり返った部屋を見渡す。なにもない。あるのはかび臭いベッドと古びたテーブル。イスもソファもクローゼットもない汚い部屋。だれもいない。いるのは甘い考えに目が眩み、その結果なにを得ることもできなかったただのガキがひとり。それでも少しの間でもなつみと一緒に住むことができたこの部屋は、この時間は、きっと愛しいあたしのスウィートホームだったはず。

せめてそうでも思ってやらなきゃ報われない。あたしも部屋も、そして…なつみも。

「さよなら」

誰もいない空間にあたしが吐いた言葉は伝えたい相手に届く前に消え落ちた。でも届かなくてよかった。

「ひとみ?」
「なつみ…」

あれほど毎日会いたいと願っていた相手が、よりによって会いたくないそのときに現れるなんて。皮肉にもほどがある。笑えない冗談みたいだった。

「出てくの?」
「うん」

期待なんてしていなかった。なつみがあたしのことをどう思っているか…そして思っていないかなんて、とっくに承知していたから。淡い期待を抱くほどあたしはもう子供ではない。ガキには違いないけど夢を見続けるほどバカではない。いろんなことを経験して、悟って、あたしはあんなに毛嫌いしていた大人ってやつになりつつあったのかもしれない。それなのに。

「どうして!」

なつみの口から出たのはあたしが予想していた言葉とはまるで正反対のものだった。

15 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/03(日) 20:27

「なんで!なんで…あたしを置いていくの?!」
「なつみ……?」
「ひとみは、ひとみはあたしのことを、ずっとあたしのそばに…」
「そのつもりだったよ。あたしはずっとなつみのそばにいた。でも…なつみは、あたしのそばにはいてくれなかった。だからあたしは」
「いやっ!やめて…それ以上言わないでっ!」
「なつみ!」
「いやーっ!!ひとみヤダ!お願いだから。やめてっ、行かないで。ここに、あたしと」
「なつみ?!」

バッグを持っていた右手を強く掴まれて、思わず顔をしかめた。その小さい体にどうしてこれほどの力があるか不思議なくらい、なつみはあたしの手首を掴んだままぐっと唇を噛み締めていた。そんななつみの姿を見て、あたしは初めて、あたしとなつみの歳はもしかしたらそれほど変わらないんじゃないかという気がした。

顔だけ見ればベビーフェイスだけど、その物腰や言動はあたしより遥かに歳を重ねてきた人間のものだったから、漠然となつみは大人だと思っていた。けれどこうしてあたしの手首を掴んで唇を震わす姿はあたしが知っているなつみとは程遠くて。あたしだけじゃない、きっと今までに誰も見たことのないなつみがそこにいた。

「ひとみが行っちゃう……」
「………」
「あたしのひとみが……あたしの……」

どうしてだろう。言われるはずのない言葉を聞いて、あたしは本来ならば淡い期待どころかけいちゃんの言うところの一発逆転を目前にしているというのに。

どうしてだろう。予想もしていなかった態度と言葉であたしに縋ろうとしている彼女がここにいるというのに。まさにあたしの願いどおりのことが起きているのに。

どうしてだろう。初めてこんなに取り乱す彼女を見て、それでもあたしが冷静でいられるのは。求められて嬉しくないはずがないのに。気持ちが冷めたわけではないのに。それどころかあたしは今だって、この瞬間だってなつみが欲しくて仕方ないというのに。



どうしてあたしは、なつみが可哀想だなんて思ってるの?



これがあたしたちの終わりなの?



教えてよ、なつみ。
どうしてなつみはあたしを求めてるのか。
あたしはなつみを置いていけないのか。



16 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/03(日) 20:29

「なつみ……」

あたしの手首を掴んだままがっくりと首を落として俯いたままのなつみを呼んだ。彼女からの返答はなく、かわりに掴まれた手首がさらにぎゅっと締まってあたしは声にならない苦痛を漏らす。いつまでこうしているのか、どうしたらいいのか途方に暮れて窓を打ちつけている激しい雨音に耳を傾けていた。

「もういい…」
「え?」

久しぶりになつみの声を聞いた気がした。喉の奥から搾り出したような、掠れた酒焼けをした声。舞台の上であんなに通っていた声は見る影もない。あんなに澄んで、どこまでも響いていた声がいつのまに。覇気のない瞳はどす黒く、すべてを見透かすような強い眼差しは影も形もない。一体いつから?それもこれもあたしと出会ってから?あたしはなにを見てきた?なつみのなにを。

なつみはあたしを、あたしはなつみを、もう二度とは戻れない舞台上から引き降ろして、お互いになすすべもなく深い海の底へと堕ちていった。それでも一緒にいたいと思うのは自分勝手で傲慢な、歪んだあたしの愛情なのか。こうすることでしか表現できなかった稚拙な愛。なつみはあたしを愛してるの?

「もう…ひとみなんか、どっかに行っちゃえ…行っちゃえ!出てけ!!」
「なつみ!なつみ!」
「イヤ!触るなっ…イヤだってば!出てけ!出て行かないならあたしが出る!」

しっかりと掴んでいた手首を離し、なつみはあたしの脇の下をすり抜けてドアに向かった。その勢いに圧されて一瞬追いかける足が出遅れた。すぐさま体勢を立て直して駆ける。ドアの外に出たとき焦げたような臭いがしたけど無視してなつみを追った。屋上に向かう階段を脱兎のごとく上るなつみの背中を目に留めて、反射的に体が動いた。なにかを考える余裕などなかった。

ユニオンジャックをデフォルメしたような歪な形の落書きを横目に屋上に抜ける長い階段を上りきると、漆黒の闇の中にはっきりとなつみの姿が見えた。そしてその背後には赤々と燃える炎。容赦なく降りそそぐ冷たい雨などものともしない息苦しい熱。どうして?いつのまにこんなことに?なつみはどうして笑っているの?

17 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/03(日) 20:30

「なっ、なんで?!」
「ほら見てよ、ひとみ。こんな闇の中でもあたしは輝いている」
「なつみ?!」
「あたしの一人舞台よ!みんながあたしを見ているわ!!」
「なつみ!」

名前を叫びながら一歩一歩彼女との距離を詰めた。なつみはフェンスも柵もなにもない屋上で軽やかに踊っていて、熱気といつのまにかモクモクと立ち上った煙に遮られながらもそんななつみにあたしは近づく。ふと下を見ると何人かが動く影。そして男たちの怒号が聞こえた。まさか、という嫌な思いがよぎったけれどそんなことを考えてももう遅い。危なっかしく動きまわるなつみにだけ神経を集中した。

「ふふっ。あのフランス野郎…あたしがヤラせなかったからって」
「は?どういう…」
「ひとみ逃げなくていいの?今ならまだ外梯子で下に降りられるわよ」
「なつみは?」
「あたしはステージの最中よ。主役が逃げ出すわけにはいかないわ」

あたしは煙を吸い込み少し咳き込んだ。なつみはまるでそんなことに動じず、優雅なステップを踏んで聞いたことのないメロディを口ずさむ。この切羽詰った状況だというのに屋上はまさに彼女の言葉どおり、一人舞台だった。あたしが初めて彼女を見て、一瞬で心を奪われたときのように彼女は舞台上で踊っていた。

18 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/03(日) 20:31

「見て、ひとみ。あたしを照らすライトを」

炎は勢いを増して今にもあたしたちに圧し掛かりそうだった。逃げなければと思いつつ、彼女から目が離せない。死というものが迫ってきていることは漠然と感じていた。ただ現実感はなかった。こうしてまた彼女が笑い、歌い、あたしを見つめていることが夢のようで。

「最高にハイな気分よ。どんなクスリだってセックスだってこんな気分にはなれないわ!」
「なつみ…綺麗だよ…」

踊り狂う彼女に目を奪われて、心を鷲掴みにされて、なにも聞こえなかった。無音の世界にあたしとなつみの二人きり。あたしがずっと望んでいた世界がここにあった。誰にも邪魔されない、あたしとなつみ以外の人間なんて目に入らない二人きりの静かな世界が。

「あはははっ。ねぇ、ひとみ」
「なに?なつみ」
「こっちに来て。もっとあたしを見て」

柵もフェンスもなにもない屋上の縁でなつみはゆらゆらと舞いながらあたしを誘う。一歩間違えればなにも見えない地上に真っ逆さまという危うげな場所で、それでもなつみは踊る。この炎の中ではそんなことも些細な状態に過ぎない。

ターンを決めてあたしの鼻先でピタリと止まったなつみが笑う。

「一緒に死のうか?」





19 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/03(日) 20:31
△△△


渋る飯田先生の背中を押して、あたしたちは雨の中をまた歩いた。寒かったけど冬の澄んだ空気は気持ちが良かった。これからあたしがしなければいけないことを考えたら足がすくむけど、何度も訪れたこの公園に寄ることで勇気をもらえるような気がしたのかもしれない。

この期に及んでも尚、あたしは嫌で嫌で仕方ないらしい。飯田先生がついてきてくれると言ったとき、これであの場所に行けると思った。確かめることができると。でもそれは甘い考えだった。誰がいようとなにも変わらない。すべてはあたしの気持ちひとつで決まるなんてこと、始めからわかっていたのに。

「こんな寒い中をあなたも物好きですね」
「あたしが言う立場じゃないけど飯田先生も相当だよ」
「それもそうですね」

こんな姿、美貴が見たらどう思うだろう。雨の中を決して仲がいいとは言えない二人があてもなくトボトボと歩いている。手にはビスケットを持って。楽しい話をしてるわけでもなく、ただ淡々と歩いているこの姿を。美貴はきっと笑うだろうな。それか泣いてしまうかもしれない。根拠なんてないけどなんとなくそう思う。美貴を泣かしてしまうかもと。でもまず間違いなく嫉妬するなんてことはないだろうからその点は安心だ。後ろを振り返って同じように歩いてくる飯田先生の顔を見ながらまたビスケットを齧った。

「吉澤さん」
「んー?」
「ほら、あそこ。手招きしている人が見えませんか?」
「んんー?見えない。あたし目、悪いんだよね」
「…ああ、やっぱり。どう見てもあれは私たちに向かって手招きしてますよ。行ってみます?」
「えぇ〜。怪しいからやめとこうよ。どんな人?」
「黒人の、恰幅のいい紳士…いや、婦人かな。コートを着込んでいるのでよくわからないのですが…」

それを聞いてあたしは弾かれたように駆け出していた。ビスケットを口に放り込んでむしゃむしゃと勢いよく飲み込む。後ろで「えっ?」と驚いた声をあげる飯田先生を置いて目指す人物に一直線。飯田先生の呆気に取られたような顔がたやすく想像できた。

20 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/03(日) 20:32

「マリア!」

顔に満面の笑みを浮かべた彼女がそこにいた。両手を大きく広げてあたしを迎え入れてくれる。まるであたしがここに来ることがわかっていたかのように、どっしりと待ち構えて。しわだらけの顔には深い年輪が刻まれているけれど、あの頃と変わらないマリアの笑顔はあたしをいつでも安心させる。

「お嬢様はいくつになっても変わりませんね…」
「それ、この前も言ってた」

昨年末に渡英した際、久しぶりにマリアと再会したときもやっぱりこうして抱きしめてくれた。でもどうしてだろう。あのときよりも今のほうがよっぽど嬉しい。嬉しすぎて視界がぼやける。顔をマリアのコートにグリグリと埋めて懐かしい匂いをかいだ。あの頃の匂いがした。

「ほら。涙をお拭きになってください」
「泣いてなんかねーっつの」

マリアが差し出したハンカチを勢いよく掴んで目許を素早く拭いた。ゆっくりとこちらに向かってくる飯田先生に見られないように。いつまでも子ども扱いするマリアに少し不満げな表情を見せると、ハンカチを受け取りながら彼女は意味深なウインクをひとつした。

「なんでこんなところにいるんだよ」
「あらまあ。お嬢様こそ私のお気に入りの場所にどうして?」
「さあね。マリアに会えるかもって思ったからじゃないよ。残念ながら」
「ええ。そうでしょうとも。私はなんとなくですがお嬢様に会えるような気がしてましたよ」
「マジで?!」
「嘘です」

してやったりといった顔のマリアが頬を染めて指を鳴らした。あたしが引っかかったのがよほど嬉しいらしい。その場で軽くステップを踏んで年甲斐もなくジャンプしている。くっそー。なんだよー。昔はあたしがからかう立場だったのに。本当は、ほんの少しだけマリアに会えるんじゃないかって期待してたことは、悔しいから言わないでおこう。

21 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/03(日) 20:32

「ロンドンには例の件でいらっしゃったのですか?」
「いやあれは年末にオヤジに会って事足りたから。今回は別件」
「別件と申しますと…」

少し躊躇した。ひとつ息を吐いてからいつのまにか霧状になった雨空を見上げる。再びマリアの顔に視線を戻すとなぜだか彼女はすべてを悟りきったような穏やかな表情をしていた。年の功なのか、それともあたしの考えてることなんて昔からお見通しなのか。そういういろんな要件を抜きにしてもマリアは昔から勘が良かった。だからオヤジにも気に入られたんだろうな。

「あの、事故のことですか…?」

事故、とマリアは言った。少し間があったのは言葉を選んだためだろうか。ワカゾーのあたしにはそのへんを見抜くことはできない。ただ、事故と言われても困った顔をしなかった自分はそれだけで上出来だろう。彼女の言葉を無理に否定することはない。彼女にとっては、あれは事故だったんだから。

「そう。あれ以来会ってなかったから……ちゃんと、するために会いにきたんだ」
「では…お気持ちの整理がついたのですね」
「まさか」

軽く笑って否定した。マリアの表情は変わらない。相変わらずあたしを優しく見つめている。

「整理をつけにきたんだよ」
「お嬢様ならきっと大丈夫でしょう」
「そう思う?」
「ええ、もちろん。お嬢様のことならなんでもお見通しです。あなたなら大丈夫ですよ……ヒトミ。私はヒトミのことを本当の娘のように思ってきました。もちろん今でもその思いは変わっていません。いつだって、どこにいたってあなたの幸せを願っているのですよ。同じ空の下で」
「ありがとう」

頬にキスをして固く抱きしめた。あたしだってマリアのことをオフクロみたいに思っているよ。恥ずかしいから言わないけどさ、いつか絶対言うからそのときまでもう少し待っていてよ。あたしが今よりももっと大人になるまで。ちゃんと面と向かって言えるようになるまでね。

22 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/03(日) 20:33

「あたし、本当は怖くてたまらないんだ。考えただけで足がすくみそうになる」
「おやおや。あんなに怖いもの知らずだったお嬢様が情けないことを」

手の甲を口許に押し当ててマリアは軽く笑った。そしてすっと真剣な顔になり、逞しい腕であたしの頭を抱いて自分の胸の中にすっぽりと収めた。マリアの心臓の音が微かに聴こえて、あたしは自然と耳をすませていた。

「過去の過ちを埋めるために現在があるのです。あなたは素晴らしい女性です。過去を悔いることがあったとしてもなにも恥じることはありません。私の大切な娘ですから…あなたを誇りに思っていますよ、ヒトミ。……神のご加護を」

ありがとう。あたしは再びマリアの匂いをかいだ。心地よくて懐かしい匂い。あの真っ白な清潔なシーツに包まれながら爽やかな朝を迎えて、お喋りをしながら紅茶を飲んだ時間。憎まれ口を叩いて怒らせたり、勝手に家を抜け出して心配をかけたり。いろんな時間を共有してきた記憶が、匂いとともに蘇る。

しばらく抱きついていたら気持ちよすぎて寝そうになった。危ない危ない。こんな状態で寝たらマリアになにを言われるかわからない。またからかいのタネができたと大喜びするだろう。少しだけ名残惜しかったけど、マリアの言葉を胸にそっと体を離した。彼女はやっぱり優しく微笑んでいた。

「お嬢様が気持ちの整理をつけようとなさるのはあの方のためですか?」
「あの方?」

マリアの視線をゆっくりと追う。その先には手にビスケットの袋を持ったまま所在無さげに立ち尽くす飯田先生がいた。

「あ、忘れてた」

あたしたちのなんとも言えない雰囲気を察してか、それとも話に入るのを面倒と思ったのか、気を使って少し離れたところにいる飯田先生は霧の中でやけに綺麗に見えた。なにか声をかけるとかしてくれればよかったのに。それか車に戻ってるとか。あんなところでただ突っ立ったまま待っていた飯田先生に少し悪い気がした。

23 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/03(日) 20:33

「お嬢様の大切な方ですか?霧でよく見えませんが綺麗なお方ですね」
「ちっがーーーう!!違うから!全然、まったく大違い!勘違い!そんな関係じゃないっつの!」

すごい剣幕で否定するあたしにマリアは目を剥いて驚いていた。

「そんなに必死にならなくても…」

いや、だってさ。冗談じゃないよ。あたしがここまで苦しんでまわり道してもがいて頑張ってきたのが飯田先生のためだなんて、勘違いでも思われたくない。それは飯田先生がどうこうって言うんじゃないけどあたしの大切な人はこの世でたったひとり、たったひとりのかけがえのない人だから。マリアにはいつかちゃんと紹介したい。胸を張って一緒に会いに行くよ。

「お嬢様の言いたいことはよーくわかりましたよ」
「ホントにわかってんのかよ…」
「では、あの方は?」

少しきょとんとした顔でこちらを見ている飯田先生。なんの因果でこんなところにいるんだか。ここに至るまでの経緯とかを抜きにしても、ビスケットの袋を持って立ち尽くす姿を見ていたら少し笑えた。

「彼女は…あたしの友達だよ」
「そうですか。お嬢様の…」
「兼ドライバー、かな」
「まあ、お嬢様ったら」

マリアはどこか嬉しそうに飯田先生を見つめていた。

再会を約束してその場でマリアと別れ、飯田先生のもとへ歩み寄る。口を開きかけてから思い直して、ビスケットの袋を指差した。渡された袋からビスケットを取り出して齧る。食べながらあたしたちは来た道を引き返し、今度こそ目的地へと向けてミニを走らせた。運転はもちろん飯田先生の役目だった。

24 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/03(日) 20:34

「どこに向かうのか聞いてもいいですか?」

公園墓地の名前を告げると飯田先生は怪訝な表情を隠さなかった。

「聞かない約束、破ってしまいました」
「もうそれは無効でいいよ。なにも言わないってのも飯田先生に悪い気がしてたし」
「ではあとひとつだけ。吉澤さんはなにを確かめにロンドンに来たのですか?」

広い通りに出てミニのスピードが上がった。徐々に雨足が強まりガラス面に打ちつける雨粒が斜めに走る。街灯のない寂しげな直線をあっという間に駆け抜けて、いくつかのゆるやかなカーブが過ぎ、その入り口に差し掛かる門を通り抜けた頃、あたしはようやく口を開くことができた。雨の音がやたら耳についていた。

「なつみが……昔、あたしが愛した人がどこにいるのかを確かめに」



ずっと考えていた。ずっとずっと考えていた。
あの夜、落下する速度を体全体で感じながら。
なにも見えなくなった瞬間から今までずっと。


ずっと考えていた。ずっとずっと…。





なつみは本当に、あのとき死んでしまったのだろうか。





25 名前:ロテ 投稿日:2005/04/03(日) 20:35
更新終了。レス返しを。

9>名無しのSaさん
実は作者もどうしようといった感じです。新スレまで追ってきてくれてサンクス。SなのかSaなのかはっきりし(ry

10>忍の者Yさん
お腹の具合はいかがなものでしょう。もうちょっと、かもしれません。限界まで頑張ってくださいw

11>名無飼育さん
新スレまで追ってきてくれてサンクスです。足を崩してお待ちくださいw

12>woolさん
こちらまで来てくれてサンクスです。みきよし色が最近ちょっと薄いことに作者自身がヤキモキしてるのですがこれからも頑張ります。

13>Johnさん
いつもいろんなことしながら待っていてくれてサンクス。あ、やっぱりJohnさんもわけわかんなくなてますか。もうちょっとお互いわかりやすいレスを(ry
26 名前:ニャァー。 投稿日:2005/04/03(日) 21:59

更新お疲れ様です!!そして遅れてしまいましたが
新スレおめでとうございますデス!!!(゚∀゚)v

前レスですが。。
>ニャァー。さんこそいい人だっw
だ、駄目です!!そんな事言っちゃっっ!!
調子に乗って踊りますよ…w( ´ Д `)
吉澤さんと飯田さんやはりいいコンビですね…w
そして飯田さんようやく言いなれてきた模様w

本当吉澤さんはいい人達に囲まれてますねv
過去は何でしょう〜こう…やっぱり胸が痛くなるデス…。。
次回も頑張って下さいv長レスすみませんでした!!!!
27 名前:名無しのS 投稿日:2005/04/04(月) 10:38
毎度毎度、ほんとに夢中にさせてくれるお方ですよ・・・。いや。マジに。
もうどうしましょう。胸が一杯で!!
呼吸がくるしいっっっ。
次を〜〜〜〜〜っっっ!!(禁断の言葉が出てしまった・・・。)
28 名前:忍の者Y 投稿日:2005/04/04(月) 10:56
更新お疲れ様でした。
あわわ・・・自分の中で勝手に大ドンデンだったりして・・・
これはもう一度読み直す必要がありますね。
本当は完結したら読み直そうと思ってたんですが
その前にマッタリと読み直しますか。w
次回の更新を楽しみにお待ちしてます。
29 名前:130@緑 投稿日:2005/04/05(火) 18:57
遅れ馳せながら新スレおめでとうございます。
またもやお気に入りの人登場で嬉しいです。(この人好きなんですよ)
とても温かい気持ちになれました、ハイ。
ちょっと意外な話の動き方にドキがムネムネです。
(そうかそうかこう来たか・・・う〜ん、伏線あったもんな・・・)
次回もまったりお待ちしてます。
30 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/10(日) 18:09
▼▼▼


いろんな色があった。煌々と輝く星。燃え盛る炎。素肌に突き刺さる空気が痛いほどの中に吐き出される白い息。そしてそれよりももっとずっと白い自分の手と、なにもかもを覆いつくす闇。その闇よりも深くて底知れない色を持つなつみの瞳。それらすべてに降りかかる雨だけはなんの色も持っていなかった。だれもかれも平等にふりそそぐ雨があたしたちの代わりに泣いていた。

「好きよ、ひとみ」

あたしとなつみ、二人以外は誰もいない薄汚れた建物の狭い屋上の縁に立つ。体は離れたまま、でも唇が触れるくらいの距離でなつみに囁かれて眩暈がした。あたしはやっぱりまだこんなにもなつみのことが好きで、なつみの一言にこれでもかと心が揺れ動く。この人を置いてなんて行けるわけがなかったんだ。この人の行く先に一緒に行きたい。

「あたしも大好きだよ」

めきめきと高くて鈍い金属音が鳴り響いた。建物全体が悲鳴を上げているよう。炎はもうそこまで迫っていた。あちこちからサイレンの音も聞こえている。街の灯りはいつもと変わらずぼんやりしていた。

「ねぇ、抱きしめて。強く…抱きしめて」

なつみの腰あたりに置いていた両腕をそっと背中に滑らしてゆっくりと引き寄せた。柔らかさや温かさをじっくりと確かめるように徐々に力を込める。今まで数えきれないほど何回も抱きしめてきたのに、なつみはまるで初めてそうされるかのようにあたしの腕の中で震えていた。震えながらあたしの背中に手をまわし、慈しむように何度も同じ場所を撫でていた。

「お願い…もっと、もっと強く抱いて」
「好きだよ…」

ただ抱きしめた。なつみを抱きしめていた。このために、この瞬間のためだけにあたしは、あたしたちは生まれてきたんじゃないかと思えるほどに心が満たされていた。こんなにも愛しい。愛しい人を抱きしめることがこんなにも神聖だなんて。自分の存在がひどくちっぽけなものに思えて抱きしめる腕に力を込めた。なつみともう二度と離れたくはなかった。

ガシャンと今までで一番大きな音がした。なにかが崩壊するような消滅するような悲しくて恐ろしい音だった。炎が生み出す煙とは違う粉塵を吸い込みむせた。目に入り涙が出た。口の中がカラカラに乾いていて、噛むとジャリっという嫌な音がした。終わりのときが迫っているのがわかった。

31 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/10(日) 18:10

「今の音…」
「うん?」
「外梯子が落ちたのかも」
「そっか…そうかもね」
「もう逃げられないね」
「なつみは逃げたかった?」
「ううん。そんなことどうでもいい」
「そうだね。一緒に死のう」

あたしの、まるで休日にどこかに誘うような口ぶりで放つ死という響きになつみはただ笑って頷く。頷いてからまた少し困ったように笑ったのはなぜだろう。まるで現実感がないその笑顔に癒され、絆されて、またゆっくりとなつみの体を抱きしめた。自分となつみの体の境界線がわからなくなるほどに隙間を許さず抱きしめる。密着した部分はまわりの熱気とはまた違った温かみを持っていた。

「ひとみは夜が似合うって、初めて見たときから思っていた」
「いきなりどうしたの?」
「こうして闇の中に浮かんでいるとあらためて思うの。なにも見えない闇の中でひとみの存在だけがはっきりと分かる。白い肌と澄んだ瞳がそう思わせたのかもね…」
「なつみ?」
「ひとみはいつも輝いている。だから眩しくて目が開けられないの。でも舞台の上の女優たちのような下品な輝きじゃないわ。そんなひとみが羨ましい。どこまでも純粋な……。ね、ひとみ?」
「……なに?」
「あたしはひとみの顔が好きよ。この綺麗な顔が。でも汚したかったの。あたしの手で汚れるのが見たかった。汚れたら捨ててしまうつもりだった。……でも」
「でも?」
「ううん、いいの。もうそれは……」

いいのよ。

32 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/10(日) 18:10

掠れた声でそう言いながらなつみは目を閉じてあたしの胸に顔を埋めた。なにがもういいというのか聞く気にはならなかった。なつみがそう言うのなら、もういいんだろう。遥か遠くテムズ川の方向に目をやった。真っ暗な闇が見えるだけ。ちらちらと薄ぼんやり光る街の灯りの中には、今こうしてあたしのように好きな人と抱き合っている人たちがいるだろうか。あたしのように愛する人の髪にキスを落としているだろうか。その人たちとあたしたちはなにが違うというのだろう。

なにが違っていたのだろう。ただ、人を好きになっただけだというのに。なにが。

「愛してるよ」

愛を囁くのには若すぎたのかもしれないあたしは、それでも幸せだった。

「なつみは?あたしのこと愛してる?」

背中を撫でていた手がとまる。あたしの背骨に沿って滑らかに降りてきた指がなぜか目の前に翳された。目を閉じると頬に手を添えられて顔全体の形を確かめるように指が動いた。ぷにぷにと頬を引っ張ったりこめかみから目の下、鼻、唇にかけてのラインをゆっくりと触れたり。惜しむように撫でまわした後になつみは再びあたしを抱きしめた。

「なつみ?」

今までで一番力強く抱きしめられた。きっとなつみの精一杯の力で。降りしきる雨で髪も服もずぶ濡れだったけど温かかった。初めてなつみに抱きしめられてドキドキしたあの頃よりも少し余裕ができた今、心の中は穏やかだった。ダウンジャケットの下に着ているTシャツはなつみの涙で濡れていた。

「ごめんね………」

それは鎖骨の下あたりに顔を埋めたなつみのくぐもった声が聴こえたと思った瞬間だった。

「え?」

あたしの声は声になっていたのだろうか。

軽い衝撃。なにがなんだかわからないままなつみが遠ざかる。一瞬の浮遊感。
突き飛ばされたとわかるのに時間はかからなかった。ゆっくりと落ちていく。
スローモーションかあるいはコマ送りのように視界を占める空の面積が広くなる。
必死に手を伸ばしたダウンジャケットの裾の向こうに見えるなつみの姿。

33 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/10(日) 18:11



どうして。



伸ばした手の行方はどことも知れない世界。
あたしとなつみとお腹の子供と築くはずだったスウィートホーム。
甘い夢物語に溺れても、せめて最後のときは一緒にと。
肉体が滅びてもそれでもなつみはあたしを支配して。
きっとあたしは永遠に囚われの身。それがあたしの…望んだ結末。

それなのに、どうして。

指の隙間から見えたなつみが優しく微笑み、そして唇を動かした。





ア イ シ テ ル





刹那、なつみは炎に飲まれ、あたしは体全体に強い衝撃を受けた。
嫌な音がして今までに味わったことのない苦痛が体を襲い、視界がぐにゃりと歪む。

土の匂いと微かな甘い香りがしたような気がした。





ブラックアウト





34 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/10(日) 18:12
△△△


日が落ちて辺りはすっかり薄暗くなっていた。鬱蒼と立ち並ぶ木々の間にある外灯が、申し訳なさそうに自身のまわりだけをほのかに照らしている。きょろきょろと首を振りながら舗装された小道をゆっくりと歩いた。なにしろ初めての場所だ。なにがどこにあるかなんてさっぱりわからない。飯田先生と二人、肩を並べて道幅いっぱいに歩く。この狭い道を数年前のあの日、圭ちゃんはどういう気持ちで歩いたのだろうか。一体どういう顔をして。

「傘持ってくればよかったな」

止みそうだった雨がまたポツポツと降ってきていた。

「これくらいならまたすぐに上がるんじゃないですか」
「そうだね」

広い敷地に綺麗に張り巡らされた芝生が雨に濡れて光っていた。その上を一歩一歩確かめるようにして踏み進む。立ち並ぶ墓標を前にして息を漏らした。ため息とは違う、畏敬の意が込められたあたしの声に隣に立つ飯田先生も無言で同意する。

「やっぱり飯田先生についてきてもらってよかったな」

コートのポケットに両手を突っ込んだまま、飯田先生はあたしの顔を見た。

「これだけの墓の中から目当てのもの探すなんて、ひとりじゃいつ終わるんだか」
「どこにあるのかわからないんですか?」
「だって初めて来たから」
「で、私に手伝えと」
「当ったり前じゃん。せっかくいるんだから一緒に探してよ」
「それは構いませんが……」

ポケットから手を出して長い髪をかきあげ、一瞬目を伏せてから飯田先生は意を決したように口を開いた。

「教えてください。吉澤さんがかつて愛したという人は、ここにいるのですか?」

前髪を伝った水滴が目に入った。手で擦ってからあらためて飯田先生越しに目の前にずらっと並んだ墓を見る。壮観だった。雨に濡れて光る石が外灯の灯りを反射して微妙な色合いを醸し出し、この墓地という異質な空間をよりいっそう引き立てているかのようだった。そしてそこに佇む飯田先生。巻き込んでしまったことを、今さらながら申し訳ないと思った。

35 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/10(日) 18:13

「ここにいるって聞いた。あのときあたしは確かめもしないで日本に帰ったから…」

怖かった。確かめるのが怖くてあたしは逃げ出した。なつみの死を聞いても頑なに信じようとはしなかった。受け入れることを拒絶した。圭ちゃんの話も警官の説明もなにひとつ耳に入らず、理解しようとしなかった。瞼の裏に焼きついた落下する間際のなつみの顔。それだけがあたしの世界では唯一の真実だった。

「なさけねぇ…」

なつみが優しく微笑んでいたことだけが。あたしの中では真実だった。

「では探しましょう」

あたしの呟きが聞こえなかったのか、あるいは聞こえないフリでもしてくれたのか飯田先生はことさらなんでもないような口調で促した。なつみの名を告げるとつかつかと一番近くにあった墓に近寄り、刻まれている文字を確認する。

「しらみつぶしに探すしかないですね」
「………」

事務的に次々と名前を確認する飯田先生の傍らで、あたしも探さなければと思いつつも足がさっぱり動いてくれなかった。「次、次」と声が聞こえてきそうなほど、飯田先生は流れ作業をひとりでこなしているというのに。肝心のあたしは馬鹿みたいに突っ立ってボーっと眺めているだけだった。

ぼんやりとだけど外灯もついてるし綺麗に整備された公園だから墓地といっても特別に不気味だったり気味が悪かったりするわけではない。現に飯田先生はなんの躊躇もなく足を踏み入れて尚且つ抵抗なく墓石をまじまじと眺めては名前を探す作業に没頭している。

ただ、あたしは怖かった。物言わぬ墓たちが、ではない。

「吉澤さん?」

最後のとき、愛する人に拒絶され奈落の底へ突き落とされた記憶が蘇ることが、ではない。

「吉澤さん……」

36 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/10(日) 18:13

さっぱりと動かなかった足が前に進む。あたしの意思とはまるで無関係に、でもゆっくりと進んでいた。フラフラと引き寄せられるように墓の間を縫うように進み、怪訝な顔をしている飯田先生の横を通り抜けて。外灯の届かないある一角に向けて歩いていた。なにかに誘われるようにそろそろと動き出したあたしの後を、飯田先生はなにも言わずについてきていた。

そして止まる。

影になったその場所でしばらく立ち尽くした。なにも見えない。外灯の光は届かない。ふと視界の右隅からポツンと小さな円が浮かび上がってるのが見えた。飯田先生のペンライトだとわかった。妙に用意がいいなぁと感心していると、その円はあたしの足元で機械的な動きをしてから見えなかった先を照らしてくれた。

円が、文字をなぞる。

いつのまにか横に飯田先生が立っていた。無言で何度も何度も文字をなぞっていた。あたしはそれをぼんやりと眺め、ひとつ深いため息をつくと急に膝から力が抜けた。その場に崩れ落ちるように倒れこんだら濡れた芝が口の中に入った。

「吉澤さん、泣いてるんですか…?」


あたしが恐れていたのは確かめること。
なつみの死を確かめるのが怖かった。
なつみの死を受け入れることが、怖かった。


心のどこかでなつみはまだ生きていると思いたかった。信じたかった。あの夜、あたしを屋上から突き落としたなつみ。炎に飲まれる間際、優しく微笑んでいたあの顔がずっと脳裏に焼きついていた。あたしが生き残ってなつみが死ぬわけがない。なつみはあたしに一緒に死のうと言ってくれた。あたしはなつみと永遠に一緒にいられると…。そんななつみがあたしを置いて逝ってしまうわけがない。あたしはなつみに最後の最後までも突き放されたの……?信じたくなんてなかった。嘘に決まってる。みんなであたしを騙してるんだ。

「嘘だ…」

だってなつみは言ってくれた。好きだと。あたしのことが好きだと言ってくれた。アイシテルと、落下するあたしに向けて放った言葉はなんだったの?お別れの言葉にしては悲しすぎるよ、なつみ。どうしてあたしを…突き落としたの?なつみは知っていたの?あの下が柔らかい土に覆われた花壇だということを。どうしてあたしを…。

37 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/10(日) 18:14

「嘘だーーーーーーーーーっ!!!!」

目の前に刻まれた文字はかつて愛した人の名前。あたしが命をかけて心の底から愛を囁いたその人の名前。信じたくなくて、確かめたくなくて、弱いあたしは今の今まで逃げていた。現実から、なつみから、なつみを愛した自分から…。なつみ以上に愛する人ができてしまったことへの罪悪感を抱えながら。

「なんで…なんでだよっ。なつみはどうしてっ」

両手で芝を掻きむしった。爪の間に土が入り込み、痛みが走る。額を地面に擦りつけ、許しを請うようにあたしは泣いていた。激しい雨がいくら洗い流してもあたしの顔や頭や手は泥にまみれていた。なつみの墓標の前にひれ伏し声の限り叫んでいた。叫んで、責めて、怒鳴って、力いっぱい拳を地面に叩きつけ、また泣いた。

「ごめん…。ごめんね。なつみ…ごめんなさい…」

なつみの死を恐れる反面あたしは心のどこかでなつみの生をも恐れていた。なつみが生きていても、もうあたしはなつみの傍にはいられない。あれほど全身で愛を訴えていた相手だけれど、自分はもうあの頃の自分ではない。あの頃、なつみが世界のすべてだったあたしでは、もうなくなっていたから。

愛と死を囁きあったあのときの自分はなんだった?なつみがいて、あたしがいてそれがすべてだったあの頃をまるで否定するように、あたしは美貴を愛するようになっていた。それが死んでしまったなつみへの裏切りのような気がして、自分がたまらなく嫌だった。のうのうと生き残ったこの身が憎いとさえ思った。

38 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/10(日) 18:15

「でもあたしは…それでもあたしは…美貴を、もうどうしようもないほど美貴を…」

愛してしまっている。

そう、なつみの死を受け入れられない反対側で、あたしはなつみの死を望んでいた。すっかり心変わりしてしまった自分がなつみと向き合える勇気などありはしなかった。反吐がでるほど汚い自分。過去に囚われ、過去を裏切り、過去を否定していた自分。あたしはたしかになつみを愛していたのに。なつみだけを愛していたのに…。どうしようもなく美貴に惹かれてしまったんだ。

かつてあたしはなつみとともに死にたいと思った。でも今は…。

「あたしは美貴と…美貴と、生きていく。これから先の人生を美貴と…」

美貴と生きたい。決して離れることなく最後のときまで一緒にいたい。

「だから、ごめん…ごめんね、なつみ…あたしを…こんなあたしを…」





生かしてくれて、ありがとう。そして、さよなら。





体も、心もぐちゃぐちゃだった。雨が打ちつけ、風は吹き荒び、外灯はいつのまにか消えていた。泥と涙にまみれながらようやくあたしは別れを告げることができたのだろうか。なつみに、過去に、そして…弱かった自分に。



39 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/10(日) 18:15

あたしが覚えているのはそこまでだ。次に気づいたときにはどこかわからない白い部屋にいて、ベッドに寝かされていた。頭はハンマーでガンガン殴られているかのように痛み、手足はピクリとも動かなかった。顔や体が熱くてたまらなかった。瞼が重く、視界がいつもの半分もなかった。喉がカラカラ渇いて水分を欲していた。眼球だけを動かして左右に目をやると、見慣れた顔がそこにあってホッとした。

「気がつかれましたか?」

声は出なかった。目線だけで頷く。

「まだ熱が高いので動くのは無理でしょう。喉は渇いていますか?」

そろそろと水を飲ませてもらい、ついでになにかよくわからない薬を飲まされた。

「お嬢様は、まったく無茶をなさいますね」

マリアの顔は呆れていて、あたしはまた迷惑をかけたことが申し訳なかった。

「もう三日も目を覚まさずに寝込んでいたのですよ」

マジで?!三日も?

「元気になったら飯田先生にお礼を言うんですよ?」

眉間にしわを寄せて、なんでだ?という表情を作る。

「ぐったりしたお嬢様を抱えてうちの病院に飛び込んでこられたのですよ。ご自分も雨や泥ですっかり体が冷えていたというのに…。そのときのお嬢様は血の気のない顔をして叩いてもなんの反応もありませんでした」

オイオイ。叩くなよ。

「飯田先生が私の働いてる病院に来たのは偶然でしょうけど、私がこうしてお嬢様の看病をしているのは神様が気を利かせてくれたのかもしれませんね…」

神様がどんな気を利かせたってんだよ。

「とにかくここまで回復して安心しました。一時は肺炎を起こしかけていたのですから。安静にしてゆっくり寝てくださいね。ちなみに飯田先生はピンピンして診療に励んでいるようですよ」

へーへー。どうせあたしは弱っちいよ。タフな飯田先生にくらべたら情けないですよ。

「それでは、ゆっくり休んでください。私はずっとここにいますから…」

マリアの手があたしの頭を撫でて前髪を梳いてくれた。その温かくて大きな手にまたホッとしたあたしは、それからすぐに深い眠りに落ちていった。夢の中では美貴が楽しそうに笑っていた。





40 名前:ロテ 投稿日:2005/04/10(日) 18:17
更新終了。明日の0時またぎにまた更新します。
レス返しを。

26>ニャァー。さん
いつもありがとうございます。ようやくここまで来ました。今後ともお付き合いのほどよろしくです。長文レスも短文レスもなんだって歓迎しますよ。いい人たちに囲まれて吉は幸せですw

27>名無しのSさん
こちらこそ毎度毎度レスありがとうございます。なんとかここまで辿りつくことがでしました。次を投下しますので息してくださいw

28>忍の者Yさん
いつも励ましのお言葉をありがとうございます。Yさんの予想、今度聞かせてくださいw自分も完結したらマッタリと読み直そうかと思ってます。目もあてられないほど恥ずかしいかもしれませんが(ニガワラ

29>130@緑さん
いえいえ遅れてなんてないです。追ってきてくださってありがとうございます。こんな暗い話なのであの人の登場でちょっとでも温かい気持ちになってもらえて嬉しいです。今後ともよろしくお願いします。
41 名前:忍の者Y 投稿日:2005/04/10(日) 21:34
更新お疲れ様でした。
いやはや、お恥ずかしい・・・
大ドンデンじゃなかったですよ・・・
前回の一言に勝手に釣られてただけです。
入りますから、大きい穴を掘ってください。
明日、更新されるんですね。
楽しみにお待ちしてます。
42 名前:忍の者Saku 投稿日:2005/04/10(日) 23:24
うわ〜ん・・・・・。ホンキで泣いてしまいました・・・。
はあっっ・・・。どうしてくれるんですか・・ロテさん・・・。
今日は何も語りません。明日を待ってます。
43 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/11(月) 22:07
更新お疲れ様です。
いつもイギリスの景色が浮かんで妙に私の中ではリアルで
今日は、いままでになくドキドキしながら読みました。
そうか、そういうことだったのかぁと。はぁぁぁ。
すごい展開だ・・・。
44 名前:ニャァー。 投稿日:2005/04/11(月) 22:21

更新お疲れ様です!!
もう涙がポロポロと…
えー…言葉で表すのがとても
難しいのですが…
ロテさんの小説にすごく吸い込まれてしまう
感覚がたまらなく好きですvまだまだ大変でしょうが
頑張って下さいねっv

45 名前:ロテ 投稿日:2005/04/11(月) 23:48
更新します
46 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:49
△△△


マリアの言葉どおり一週間以上安静に過ごしていたあたしは体調が完璧に回復し、晴れて自由の身となった。入院生活がどれほど退屈だったかは語る気にもなれない。久々に戻ったホテルの部屋はまるで我が家のように懐かしかった。支配人のオッサンからのメッセージカードには回復を祝う言葉が並べられていた。

飯田先生やまいちんには電話で無事に退院したことを伝えた。迎えに行くつもりだったというまいちんには少しばかり怒られてしまった。飯田先生はいつものようにそっけなく「よかったですね」とだけ言っていた。あたしもとくに言うことはなかったから「その節はどうも」と同じようにそっけなく返しておいた。公園墓地でのことにはお互い触れなかった。

パソコンを開くのも随分と久しぶりだった。考えてみたら飯田先生とまいちんと3人で飲んだ夜以来、あたしはホテルに帰っていなかった。あの甘ったるい新婚夫婦みたいな部屋で一晩を明かし、その足でいろいろなところに行った挙句、入院までしてしまった。自分の無茶さ加減にはマリアじゃなくとも呆れる。


47 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:49

美貴からのメールはなかった。あの最後のメールからもう2週間以上が経っていた。その間あたしはなにも連絡を入れていないし、向こうからも来なかった。嫌な予感がムクムクと沸いて出る。まさかとは思うけど愛想を尽かされてしまったのだろうか。ちょっとどころじゃなくブルーになって受信トレイをしばらく無言で眺めていた。


とりあえず帰ろう。日本に。美貴のもとに。


そう決めてからは慌しかった。飛行機のチケットを予約し、マリアや飯田先生に帰国することを連絡した。退院したばかりなのにとやっぱりまいちんにはこっぴどく怒られてしまった。その怒りの裏にはもっと飲みに行きたかったという意味が含まれていたと思う。マリアには美貴を紹介する約束をさせられたけど、もしかしたらもしかするとあたしは振られたかもしれない…とポロッと口にしたらまた振り向いてもらえるように頑張ればいいと言われた。なるほど、まったくその通りだ。

飯田先生はあたしが帰国する日時を伝えるとなぜか少し動揺していた。でもすぐにいつものそっけない彼女に戻って空港まで送りますとありがたいことを言ってくれた。そういえば来たときもこの人に迎えてもらったんだよなぁと、あの日のことを思い出して少し笑った。飯田先生とまさかこんなに仲良く…じゃなかった、微妙に仲良くなるなんて。ホント、人生なにがどう転ぶかわからないものだ。

48 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:50

帰国する前日、あたしは再び公園墓地を訪れた。今度はひとりでちゃんと地面を踏みしめて歩いた。なつみの好きな花なんてあたしは知らなかったから、とりあえず適当に白っぽいものを中心に見繕ってもらった。白はなつみが好きだった色のような気がして。とても墓に供えるためだけのものとは思えないその豪華な花束を抱えてあたしは歩いた。どこに持っていくにしても女優に渡す花束は豪華なほうがいいだろうと勝手なことを思いながら。

「やっぱりなつみには太陽の下は似合わないよね」

苦笑まじりにあたしはその木陰の下の墓前で呟いた。来る前に買った煙草に火を点けてひと息吸った。冗談みたいに豪華な花束の脇に添えてから、あたしはくるりと背を向けた。そのまま軽く手を振って、もと来た道を歩いた。晴れていてとても気持ちがいい日だった。

ホテルに帰ってから美貴にメールをした。あたしの想いは美貴に届くだろうか。



49 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:50

「3時のフライトには間に合いますよ」
「いや、だから3時じゃなくて2時だっつの」
「2時でしたか」
「そうそう。何度も言ったよね?だからもうそろそろ出ないとマズイかなって思うんだけど」

送るという申し出を今さら断るのは悪いような気がしたから、飯田先生が少し遅れると電話をしてきてもあたしはなるべく柔らかい言葉で急ぐように促した。やっぱり飯田先生にはいろいろとお世話になったことだし、ちょっとやそっとの遅れでキレるのは大人としてもどうかと思うわけで。

「大丈夫ですよ。今から行きますから」
「軽っ」
「吉澤さんは部屋で待っていてください」
「はいはい」

この人がこういう口調をするときは有無を言わずそうしろということだと、この英国滞在中にいやってほどわかった。丁寧な口調のくせにマイペースで物腰は柔らかいくせに強引なこの人にはなにかと世話になったな。まいちんのことよろしくと別れ際にでも言っておくか。どうせ「言われなくともわかっています」とか「今さらそんなこと言うなんて吉澤さん馬鹿ですか」とかが返ってくるのは目に見えてるけど。

あたしは一刻も早く日本に帰りたかった。とにかく美貴に会って謝りたい。とりあえず謝って、あたしを見捨てないでほしいと懇願して、みっともなくても泣きついて謝ろう。ずっと放っておいてごめん、心配かけてごめん、と。美貴に振られるなんて考えたくもないけど、事実そんな予感がひしひしと…メールの届かないパソコンから伝わってくる。まいったなぁ。いや、まいったどころじゃない。ちょっと考えただけで胸が痛くなる。涙が出る。とにかく、早く美貴に会いたい。

50 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:51

部屋のチャイムが鳴り、ようやく到着した飯田先生を出迎えた。長い髪をさらさらとなびかせて颯爽とドアの前に立っているこの人を見ていたら、うじうじ悩んでいる自分がひどくカッコ悪く思えた。くそっ。なんでこの人はいつもこんなに自信ありげなんだ。

「おっせーよ」

ぶっきらぼうに言い放ってからあたしはコートを着ようと後ろを向いた。



「遅くて悪かったなー」



え?懐かしいその声に、一瞬体が固まった。
スローモーションのようにゆっくりと振り向くと、そこにいたはずの飯田先生はいなかった。








「来ちゃった」








51 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:52

代わりに、ずっと心で描いていた美貴の笑顔がそこにあった。

「よっちゃんに会いたくて、来ちゃったよ」

笑う美貴の顔が涙で滲んで歪んだ。ちゃんと見たいのに、あたしの涙が邪魔をする。

「あたしのこと忘れちゃった?なんか言ってよ、よっちゃん」

言葉が出ない。
涙が伝う頬が熱くて。
美貴の声が震えていて。



あたしは両手を広げた。



52 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:53

「美貴っ」

飛び込んできた美貴をしっかりと受け止めた。こんなに涙でビチョビチョな顔で、足とかもフラフラしてるへタレなあたしだったけど美貴を抱きしめる腕だけは解かなかった。どこからか湧いてきた力で精一杯に抱きしめた。美貴の匂いだ。美貴の感触だ。

「美貴、美貴、美貴、美貴、美貴…」
「うん。うん、よっちゃん。あたしだよ。あたしはここにいるよ?」
「美貴に、ずっと会いたくて…ずっと、ずっと…」
「あたしも、だよ。よっちゃんがいなくて…どうにかなりそうで」
「ごめんな。美貴ごめん。あたしバカでごめん」
「バカなよっちゃんが好き…」

美貴が好きで、美貴が愛しくて、我慢できずにあたしはそっとキスをした。震えていたかもしれないそのキスは、今までで一番照れくさくて気持ちよくて。あたしは美貴がいなきゃ一歩も立っていられないんだと、このとき強く思っていた。そして美貴はあたしと同じようにしっかりと抱きついてきてくれて、よりあたしを求めてくれて。

「ん…あぁ…よっちゃん」

どちらからともなく舌を絡め、あたしたちはお互いを欲した。



53 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:53

急ぐでもなく急かすでもなく服を脱いで、脱がした。美貴のコートやスカートやセーターをそのへんにポンポン放り投げる間さえも体を離したくなかった。唇を舐め合った。乱暴にならないようにベッドに押し倒して舌を貪る。これでもかというほど唾液を垂れ流してもキスを止めない。このまま一生こうしていてもいいくらいに気持ちがいい美貴とのキス。勢い余って唇が切れても、その傷さえ愛しい。無機質な鉄の味に生の鼓動を感じた。

あたしの首に両手をまわしておねだりするように求める美貴。あぁ、なんて可愛いんだ。美貴がこんなにもあたしを求めてくれている。それだけであたしは絶頂に達しそうな勢いで、美貴の舌を吸って喉の奥まで吸い取るほどに深く口づける。甘い甘い美貴とのキス。もうたまらない。美貴が愛しい。美貴が恋しい。美貴が欲しい。

「あぁんっ。や、やめないでっ…」

唇を離すと名残惜しそうな声をあげる美貴。そして軽く睨むその瞳に、あたしはまた釘付けになる。美貴のこの顔が好き。あたしを求めて切ない声をあげる美貴。首筋に舌を這わせると途端に色っぽい声に変わる。美貴の体のすみずみまで、あたしは知っているよ。美貴がどうしてほしいかなんて手に取るようにわかってる。でもね、今日は自分を抑えられそうにないよ。あたしの好きにしていいかな?美貴の体をあたしで満たしていいかな?あたしの心にはもう美貴しかいないんだ。美貴以外に入る余地がないよ。あたしさえも。

54 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:54

「ごめ…あたしの好きにさせて」
「はぁっ…あぁん……よっちゃんの、好きにして…」

剥ぎ取ったブラの下から現れた形のいい胸に吸いつく。両手で揉んで柔らかさを堪能する。すでにピンと固く尖ったそこを抓むと美貴の喘ぐ声。耳に心地よくて何度も何度も吸いついた。舐めても舐めても足りるなんてことはない。甘くて美味しい美貴の胸にあたしは乳飲み子のように口をつける。美貴が痛いかもしれないと思っても加減なんてできなかった。揉みしだく手は一瞬たりとも止まらず、乳首が真っ赤になっても抓み、舐めて、噛んで、また吸いついた。

あたしの頭をかき抱いて美貴はそれでも答えてくれる。痛くないわけがないのに。もっとしてほしいと懇願してあたしの髪にその細い指を絡めては、苦痛と嬌声の入り混じった声をあげている。こんなに我を忘れて無我夢中でなにもかもをあたしに委ねている美貴は初めてだった。あたしのいつもよりも乱暴で身勝手な愛撫をこんなにも受け入れて、乱れてくれている美貴。愛しさと興奮が混在した性欲の高まりは留まらない。

「いやっ、いやぁぁぁぁぁーっ」

ちゅぱっちゅぱっ

ピクピクと真っ直ぐに上を向いたままの乳首から音を立ててようやく口を離す。軽くイッたらしい美貴は少し放心していて、でもあたしは手や口の動きを緩めることなんてできない。美貴の髪を撫でて唇に軽くキスをしてからすっかりグチョグチョに濡れきった美貴のショーツに手をかけた。体を休めるヒマなんて与えない。心を落ち着かせる時間も惜しいほどに美貴が欲しくてたまらなかった。

55 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:54

「愛してる……」

濡れそぼったそこに始めはそっと唇をつけた。途端に甲高い声をあげて、跳ねる体を必死にこらえようとする美貴。可愛くて愛しくて唇をつけた先から舐めあげる。舌でそこらじゅうを舐めまわして、跳ねのけようとする腰をガッチリと両手で固定した。すっかり無くなるほどじゅるじゅるじゅるじゅると吸い上げても後から後から溢れてくる。あたしの喉は渇くということを知らない。唇を噛み締めて必死で快感に耐えていた美貴はついに堪えきれずに盛大な叫び声をあげた。

「いや、いやぁぁん…あぁぁぁぁぁぁぁーっ!」

美貴がイッてもあたしの舌は止まらない。舌先でピンクの突起をくりくりと舐めまわしたりじわじわと締めつけるそこに舌を抜き差しする。美貴は止むことのない快楽に頭を振り、体をくねらせ抵抗するように、そして受け入れるようにあたしに身を委ねたまま。そんな美貴の顔を間近で見たくてあたしは体を起こしてのしかかった。両足の間に体を割り込ませて同じタイミングで指を入れる。

「はぁんっ…あぁん…いやあぁぁ…」

何本入ったのかわからないくらいあたしの指と美貴は同化していた。一体となって体を揺さぶる。美貴の顔が見たかった。ううん、ホントは違う。美貴にあたしを見てもらいたかった。あたしだけを見つめて囁いてほしい。あたしと同じように感じてほしい。

56 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:55

「美貴、目あけて…」
「あぁんっ…うん、よっちゃ…」
「美貴、あたしを…」

見つめあった瞬間、なぜだか美貴と初めて会ったときの情景が頭に浮かんだ。あのとき誰が予想できただろう。誰が気づくことができた?なつみよりも自分自身よりも大切で愛しくてかけがえのない人に、自分が出会えたなんてこと。あたし自身でさえすぐには気づくことができなかったその感情。どうして人は人をこれほど求めることができるのだろう。こんなにも愛しく思える人に出会えるなんて。

指の動きをいっそう速めて美貴の瞳をじっと覗き込んだ。あたしの首にしがみついて喘ぐ美貴。快楽に身を任せて、それでもあたしの瞳を見続けている。涙が溜まったその瞳に映るのはあたし。他の誰でもないあたし。美貴の中にいる自分。あたしの中にいる美貴。二人がひとつになった瞬間だった。

「あぁっ…あんっ…いやぁ…」
「美貴……」
「やぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!」

ひとつに溶け合ったあたしたちはそのままお互いをきつく抱きしめていた。意識を失ったらしい美貴はそれでもあたしの体をしっかりと抱きしめて離さない。そんな美貴がやっぱり可愛くて額にそっとキスをした。何度も何度もキスをした。いくらしたって満足できない。ずっとずっとキスをしていた。そしていつしか抱きしめ合ったままあたしも意識を失った。





57 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:56

「うわぁ…」
「ん?」
「すごい、なんか、自分が恥ずかしいかも…」
「なんでさー」
「だってあんなに…なる、なんて…」
「すっげ可愛かったよ」
「バカ」

いつのまにか目を覚ましていた。見ると美貴があたしの髪をそっと撫でていてくれて、「可愛い」を連呼するあたしを軽く叩いてから照れくさいのかシーツを頭からかぶってしまった。可愛いから可愛いって言ってるのになぁ。さっきみたいなエッチはそうそう何度もできるもんじゃない。せっかくだからいっぱい言わせてよ。

「美貴がすっげ可愛くてあたしも何度もイッちゃったよ?」
「そーいうこと言うかなぁ…」
「だってマジであのときの美貴はすっげ…」
「あー!もうっ。わかったから!恥ずかしいからそんなに言わないでよ…」

うわっ。やべぇ。なんだこの可愛さは。初めてエッチしたときよりも、初めてキスしたときよりももしかして恥ずかしいの?これ以上あたしの心臓を打ち抜かないでくれよー。美貴はどれだけあたしを虜にすれば気が済むんだ?

「なに言ってんの」
「え〜。だってさぁ」
「あたしのが、絶対よっちゃんに…夢中なんだからね!」

美貴とのキスはどうしてこうも気持ちがいいんだろう。甘い言葉のせいだけじゃない。唇を寄せるタイミングや指を絡める時間までもがすっかり自然になっていて。この心地よさに溺れてますます美貴から離れられない。離れたくなんてない。絶対に。

58 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:56

「美貴にいっぱい紹介したい人がいるんだ」

マリアに頑張った甲斐があったと報告したい。
まいちんにオイラを射止めた相当マジで本気やっべーくらいすごい彼女だと驚かせたい。
ジョーイにあたしの恋人は宇宙一美人だろと自慢したい。



そしてなつみにも。



あなたのおかげで美貴に出会えたよ、と。

いろんな人、いろんなことに感謝したい。ツライときにあたしを支えてくれた人。応援してときに叱ってくれた人。心配ばかりかけて、それでも見捨てないでくれた人。さりげない優しさで助けてくれた人。皆にあたしは感謝する。今日という日まで生きてこられたことを、心から幸福に思う。そして隣でニッコリと笑う愛しい人に誓う。





あなたを一生愛します。





59 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:57

「よっちゃん」
「うん?」
「あのね…」

耳もとで嬉しそうに囁いた美貴の言葉にあたしの顔はだらしなく綻ぶ。

「そういうことはちゃんと目を見て言ってほしいなぁ」
「ちょ、ちょっと今は照れくさいんだもん。いつもは言ってるじゃん」
「今、今。オイラは今まさに聞きたいんだよ?藤本くん」

ベッドの上で抱き合いながら可愛い恋人にキスをする。鼻先を擦りあわせて笑いながらまたキスをした。

「えーと、コホン。じゃあ言います」
「やった!待ってました!!」
「うっるさい。大人しく聞け」
「ふぇーい」
「愛してるよ、よっちゃん」

聞きたかった言葉を耳にしてあたしはやっぱりだらしないニヤケ顔。そこにすかさず美貴が突っ込む。久しぶりのこの空気がこの上なく幸せだった。美貴に振られたかもと昨日まで思い込んでいた自分に教えてあげたい。あたしはこんなにも幸せなんだぞ、グジグジメソメソ落ち込んでないでかっこよく美貴を迎えろよって。

「そういえば美貴にメールを送ったんだけど、もちろん読んでないよな」
「うん。日本発つときバタバタしてたから読んでない」
「そっか」
「なんて書いたの?」
「いや…えっと…」
「いいから言え」
「いふぁいいふぁい。美貴ひゃんまじでいふぁいから」

ほっぺをぐいーんと引っ張る美貴はやっぱり楽しそうで心なしか生き生きしている。

60 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:57

「いいもん。どうせ帰ったら読めるから」
「ちょっと恥ずかしいから、できれば読まずに消去してほしいんだよなー」
「そんなことするわけないじゃん」
「だよなー。読むよなー。うーん、まあいっか。読んでいいよ」
「なんか楽しみかもー。帰ったらまず始めにメール読もうっと」
「あのさ、今さらだけど来てくれてありがとう」
「……仕事忙しかったけどなんとか頑張って休みもらったんだ。会いたかったから」

言いながら真っ赤になる美貴を見ていたら急にいいことを思いついた。

「そうだ!あのさ、温泉行かない?」
「温泉?」
「そう。日本に帰ったら温泉行こーぜ」
「いいね〜。温泉行きたい」

ちょっと早咲きの桜なんか見ながら美貴と二人、ゆっくり温泉につかってビール飲んで美味しいもの食って。色っぽい浴衣姿の美貴に欲情なんてしちゃって。そんな光景が目に浮かんできた。想像していたことが、もうすぐ実現する。遠い未来の実現不可能だと思っていたあたしの夢。


美貴とあたしと温泉に行くんだ。
温泉だけじゃない、いろんなところに行くんだ。
そしてずっとずっと一緒にいるんだ。
いつまでも愛してるよ、美貴。


ヘタレなあたしをこれからもどうぞよろしく。






61 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:58




62 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:58


藤本美貴 様



なにから話していいのか、言いたいことがありすぎてちょっと困ってます。もしかして、オイラは振られちゃったのかな?そんなことナイって信じてるけどやっぱり不安です。って不安に思ってるのは美貴も一緒だよな。元はといえば不安の元凶はあたしにあるんだし。ごめんな。本当にごめん。

美貴を愛してるのにどうしてかな。どうしてうまく愛せないんだろう。簡単なことにどうして気づかなかったんだろう。あたしは美貴を愛してて、美貴はあたしを愛してくれていて。それだけのことなのに。こんな遠くロンドンまで来てようやくその答えにたどり着いたあたしはやっぱりバカだよ。バカなあたしが好きだって美貴は言ってくれるけど、あたしはあんまり…というか全然好きじゃないよ。バカはもうこりごりだ。

昔のあたしはひとつのことに囚われすぎてまわりも自分も、相手さえも見えてなかった。見ていなかった。今のあたしとそう大差ないのが悲しいところだ。でも美貴と会ってあたしは変わった気がする。まさに運命だったよ。美貴を初めて見たときのことは今でもよく覚えてる。たぶんあのときから、あたしはどこかで美貴に心奪われることを予感していたのかもしれない。なんて言ったらまた調子がいいって言われるかな。

63 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:59

でもこんなにも愛することができる人と巡り合えるなんて、本当に思ってもみなかった。いろんなことがあったけど、それもすべて美貴に出会うために必要なことだったんだって考えれば少しは過去の自分も報われるよな。なんかそんな気がするよ。あの頃は大人になんてなりたくないっていつも思ってた。バカだよなー。大人とか子供とかそんなことにこだわること自体がバカだよな。ましてや死のうとしていた自分はあまりにも大バカだ。

今は美貴のためだったらあたしはなににだってなれる。なんでもできるよ。美貴に会うためにあたしはあのとき死ななかったんだ。美貴に会うためにあたしは生まれてきたんだ。素直にそう思えるから。生まれてきて起こったすべてのことが、美貴を愛するために起こるべくして起こったことなんだって思えるんだ。

そう、あたしは美貴を愛するために生まれてきたんだよ。

約束したよね?美貴の笑顔のためにって。
呆れられても怒られても、あたしは美貴を愛してるよ。

だからあたしは帰る。美貴のもとへ。


ロンドンより愛をこめて


吉澤ひとみ







64 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:59



65 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/11(月) 23:59



66 名前:彼女は友達 投稿日:2005/04/12(火) 00:00


<彼女は友達 ロンドン編 了>

67 名前:ロテ 投稿日:2005/04/12(火) 00:00
よっちゃんの長い旅がようやく終わりました。

今はただ安堵感があるのみです。正直なところ、色々としんどい思いをしましたがそのたびに皆さんのあたたかい言葉の数々に励まされました。こうして終わらせることができたのはレスをくださった方々のおかげです。そして拙い話に最後までお付き合いくださった全員に心から御礼を申し上げます。本当にありがとう。

この『彼女は友達』は当初の予定ではロンドン編で完結させるつもりでした。伏線と言うほどのものではないのですが、消化しきれなかったエピソードを次に持ち越すため、また性懲りもなくダラダラと続きます。まだ続くのかよと呆れながら今後もお付き合いいただければ幸いです。

次回以降の更新については全く目処が立っていません。構想はありますが文章にするのはちょっと休んでからにしたいなと勝手なことを思っています。ひょっとしたら季節をいくつか通り過ぎてしまうかもしれません。忘れた頃に戻ってきますのでマターリお待ちください。


最後に一言。よっすぃ〜20歳の誕生日おめでとう。

それではみなさん『再び大学編』でお会いしましょう。
68 名前:ロテ 投稿日:2005/04/12(火) 00:01
レス返しを。

41>忍の者Yさん
毎回のレス本当に励みになりました。ありがとう。いつもいつも痛い想いをさせてすみません。これからもよろしくですw

42>忍の者Sakuさん
泣いてくれたなんてこっちが泣きそうですよ。ありがとう。それにいつもレスをつけてくれて本当にありがとう。これからもひとつよろしくw

43>名無飼育さん
ドキドキしてくれてどうもありがとうございます。情景描写は難しいと思っているのでリアルだと感じてもらえて本当に嬉しいです。今後もよろしくお願いしますw

44>ニャァー。さん
ずっと追ってきていただいて、本当に感謝の言葉が見つかりません。いつもニャァー。さんのレスに励まされました。ありがとう。これからもよろしくw
69 名前:baka 投稿日:2005/04/12(火) 00:07
すごい!!0時にきっちり『おめでとう』してる!!

ひとまず、おつかれさま。。
70 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/04/12(火) 00:17
他にもっといい言葉があるのかもしれませんが、「面白い」しか浮かびません。
空にお引越しされた時、長編を期待してしまいました。
大学編(再)も楽しみにしています。
おつかれさまでした。

吉澤さんおめでとう。
71 名前:祝福するひと 投稿日:2005/04/12(火) 00:28
幸せをつかんだ吉澤さん、おめでとう!!

そして、よっすぃ〜、20歳のお誕生日、おめでとう!!
72 名前:D 投稿日:2005/04/12(火) 12:03
はじめまして。吉澤さんのお誕生日に素敵な贈り物を有難う御座いました。
いつまでも待っていますので、ゆっくり休んで下さい。
ロンドン編無事完結おつかれさまでした。
73 名前:ニャァー。 投稿日:2005/04/12(火) 13:58
 
吉澤さん誕生日おめでとうデスv

更新そしてロンドン編完結お疲れ様です!!
期待をはるかに超えてしまうロテさんを
すごく尊敬しております!
とてもよかったですv二人の愛見守らせていただきました!!w

これからも二人の愛と優しい人々vそしてロテさんを
見守って行きたいと思いますのでw
こちらこそよろしくデスv
74 名前:忍の者Y 投稿日:2005/04/12(火) 16:12
更新お疲れ様です。
次回更新は未定との事ですが、これならお待ち出来ますよ。
ただ中毒性があるんで、待てない時は催促しに行きますね。
マッタリお休みくださいませ。

オタオメ更新アッパレでした!w
75 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/12(火) 21:29
いやぁー歓喜で満ちあふれている読者ですw
実際に二人の間で誕生日時事があればいいんですけどねー。
次回までマターリ待たせて頂きます。
76 名前:nanashi- 投稿日:2005/04/12(火) 21:56
(・∀・)イイ!!!!!!
今後も楽しみにしてますYO!
77 名前:こい 投稿日:2005/04/12(火) 23:21
更新お疲れ様です。そしてロンドン編完結おめでとうございます。
何から言って良いのか、とりあえず素晴らしかった。本当に素晴らしい。
ロテさん最高だよロテさん…!!
次回更新もすっごく楽しみに待ってます。

それから、よっちゃん20歳おめでとう!!
78 名前:Johnさん 投稿日:2005/04/13(水) 12:04
くぁwせdrftgyふじこlp;@:「



んがー!!(反省無し)
79 名前:130@緑 投稿日:2005/04/14(木) 00:20
ロンドン編完結、おめでとうございます。お疲れ様でした。
途中で画面が涙で滲みつつ、興奮しつつ、しかと読ませていただきました。
自分の中で文句なくvery best of best!マジ最高です。
ゆっくり休んで下さい。そしてこれからも心かき乱される日々を楽しみにしております。
最後によっちぃおたおめ!
80 名前:名無しのSaku 投稿日:2005/04/14(木) 06:18
完結、本当にお疲れ様でした。
最後の怒涛の更新ラッシュで一気にヒートアップしてました。
もう、満足としかいいようがないです。
最終2話分の内容といい、描写といい、読んでるこちらが力負けしないように
気合を入れて読みました。
すごいですよ・・・鷲掴みです・・。
こんなすばらしい作品を読ませていただいて、本当にありがとうございました。
充電期間をほんとに気兼ねなくゆっくりとってくださいねw
81 名前:夜鷹 投稿日:2005/04/19(火) 14:43
ロンドン編完結、おめでとうございます。そしてお疲れ様です!
初めから何回も読み直しちゃいました!!!
こんなイイ作品に出会えてサイコーっす!ありがとうございました。
次回もマターリと待たせてもらいます。
ロテさん、ゆっくり休んでください。

82 名前:梨華chanに無我夢中♪ 投稿日:2005/04/22(金) 18:38
おぉ!!
久しぶりに感動作品
を読みましたわ!
すごい!
これはすごいです!!
83 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/04/22(金) 19:50
↑上げないで
84 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/24(日) 03:58
一気に最後まで読ませていただきました。
とても大好きな世界です。
続きを楽しみにしています。
最高です。
85 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/15(日) 21:26
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/23(月) 23:52

87 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/25(水) 00:46
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/03(金) 13:03
待 っ て ま す
89 名前:よっちぃ 投稿日:2005/06/11(土) 01:08
ロテさんの作品大好きです(*´∀`)ずっと待ってます!頑張ってください!
90 名前:ロテ 投稿日:2005/06/21(火) 22:54
お久しぶりです。作者です。
皆さんのレスに感謝しまくりの作者です。
ひとつひとつに熱いレスが返せなくて申し訳ないですが、
これらの感想を励みにこれからも頑張ります。
本当にありがとう。

本日は保全代わりの番外編その1をお送りします。
その1の主役は保田先生、その2の主役はみきよしです。
肝心の本編に入るのはまだもう少し先になりますが(スマン)
とりあえず今回の番外編を楽しんでいただけたらこれ幸いです。
91 名前:ロンドンからの二通の手紙 投稿日:2005/06/21(火) 22:55
 
 
 
 
圭ちゃんを足踏みさせていることにもし少しでも
あたしのバカな所業が関係しているとしたら、ごめんなさい
 
 
 
 
92 名前:ロンドンからの二通の手紙 投稿日:2005/06/21(火) 22:56

約一週間ぶりに我が家に帰宅すると郵便物の山があたしを出迎えてくれた。指導している院生とともに参加した学会そのものは退屈な一日目、そこそこ収穫のあった二日目と無事に終了し、帰りの新幹線の中で報告書をまとめていたそのときに訃報が飛び込んできた。恩師でもあり院生の曽祖父にあたる人物だった。新幹線を途中下車し、その足で院生の生家に向かった。

教え子たちが数多く駆けつける賑やかな通夜と葬儀だった。先生もきっと喜んでおられることだろうと、懐かしい仲間たちと酒を飲み、研究に携わる多くの方と貴重な意見を交わすことができた。それは数日前に参加した学会よりもよほど実のあるものだった。先生の最後の指導だったのかもしれないな、と都合のよい解釈をして再び新幹線に乗り込んだのが学会の三日後。書きかけの報告書にはなんとも言えない空虚さがあった。

郵便物をデスクの上に投げ出したらいくつか床に散らばったが、気にせずベッドに横になった。コンタクト外さなきゃなー、化粧落とさなきゃなー、なんて思いつつも否応なく降りてくる瞼の重みには逆らえなかった。もそもそと上着を脱いでエビのように体を丸めた。明日は休みだ。たまった洗濯物を片付けて、ほこりの目立つキャビネットを拭いて…頭の中で予定を組み立てているうちに心地よい眠気が訪れた。

93 名前:ロンドンからの二通の手紙 投稿日:2005/06/21(火) 22:56



夢の中であたしはロンドンにいた。



初めて彼を見たのはいくつの頃だったろう。まだ二十歳にも満たない大学生のときだった気がする。今は吸っていない煙草をいきがって吹かしていた時期だ。ひとみの母親は一見冷たく感じる美しい容貌とは裏腹に、天真爛漫で子供のような人だった。いい歳をして悪戯っ子のようなところがあり、一緒にいて世話を焼かされるのはいつもあたしだった。そんな彼女がひとみを産んだ後に人が変わったようにおしとやかに、そしてしっかりとした大人に変貌したのを見て母は強しだな、と思ったのを覚えている。

彼女が彼と結婚することを、あたしは自分の父親から聞いた。その数日後、彼女たちの婚約発表の席で彼を初めて見た。硬質な喋り方と声だと思った。何を考えているのかわからない難しい表情で、隣で朗らかに笑うひとみの母親とはまったく対照的に、口許を堅く結んで隙を見せることはなかった。そこには政略結婚だからといって眉をひそめるような人間はいなかった。それが当然のこととして受け止められていた時代だ。今はその風潮も薄れてきたと聞くがそれはべつに自由恋愛が解禁したとかいうわけではなく、単に企業同士の結びつきに血というものが色濃く反映されなくなったからだろう。

彼、ひとみの父親は婚約発表の席で一度も笑顔を見せなかった。

94 名前:ロンドンからの二通の手紙 投稿日:2005/06/21(火) 22:57

夢の中のあたしはロンドンの吉澤家でマリアのいれた紅茶を飲んでいた。ひとみがなつみと暮らすことを決め、家を出たばかりの頃の風景だった。気丈に振る舞いつつも祈りの言葉を口にするマリアの手は震えていて、あたしはぼんやりとなつみのことを考えていた。なつみとひとみ、二人のことを。どうやったらひとみがこの家に戻ってくるのか、何を言えばなつみはひとみを解放してくれるのか。無理だと分かってはいたけれど、考えることでひとみが戻ってくるような気がしていた。

『おかえりなさいませ』

ひとみの父親が帰ってきた。

『ひとみは?』
『………』

マリアは無言で首を振った。

『そうか』
『心配じゃないんですか?』

表情ひとつ変えずに眼鏡の縁を中指で押し上げた彼を見ていたら思わず声が出た。

『あの子は私に心配されたくはないだろう』
『なぜそんなことを…』
『そういう子だ』
『あなたはあのときも…ひとみの母親が死ぬときもそうだった』
『………』
『なぜ自分をそこまで押し殺すのですか?本当はあなただって…』



95 名前:ロンドンからの二通の手紙 投稿日:2005/06/21(火) 22:57

突然目が覚めた。真っ暗な中で視界の片隅にぼんやりと小さな光が浮かんでいた。まだ少し覚醒しない頭を無理やり起こして音の鳴るほうへ少しずつ移動した。こんな時間にメールだなんて、人の迷惑を考えろ。悪態をつきながら時計を確認すると夜中の1時過ぎだった。帰宅したときにはたしか日付が変わっていたから…30分ほど眠っていた計算になる。郵便物に足を滑らせて床に膝をしたたか打ちつけた。涙目になりながらメールを開いてすぐに閉じた。アヤカからだった。

散乱した郵便物を集めて再びデスクの上に置いた。なんとなく目についた一枚を手に取りそのままキッチンに向かう。冷蔵庫から出したミネラルウォーターを飲みながら封書の中身を確認した。ひとみからの手紙だった。短い文章を何度も目で追ううちにミネラルウォーターは空になった。

「足踏みねぇ…」

考えているうちにまた眠気に襲われた。コンタクトを外し、化粧を落として今度はちゃんと寝る態勢を整えた。一週間ぶりのベッドの柔らかさを堪能するまもなく、あたしは再び夢の中へと落ちていった。



96 名前:ロンドンからの二通の手紙 投稿日:2005/06/21(火) 22:58

明らかに、ベッドや枕とは違う柔らかさを感じた。あったかくていい匂いがする。この柔らかさの正体にはなんとなく見当がついていたからそのままでいた。この心地よさをもう少し味わっていたかったから。


ごめんなさい


ひとみからの短い手紙の一文が頭をよぎった。ひとみが何をどう考えて謝ろうと思ったのか気持ちは分かるが筋違いだ。あの子は勘違いをしている。あたしに謝るようなことじゃないのに。

「起きてるんでしょ?ケイちゃん」
「まあね」
「出張お疲れ様。それに先生のことも…」
「うん」
「ねぇ、怒らないの?」
「なにに?」
「あたしがここに潜り込むといつも『ゲストルームで寝ろ!』って言うじゃない」
「あー、うん、そうね」
「今日はいいの?」
「今日はいい」
「そう」
「そう」

アヤカに抱きしめられながらあたしはまた眠りに落ちかける。うとうとと夢と現実を行き来しつつ、まどろみの中へ。どうしてひとみは突然あんな手紙をよこしてきたのだろう。見当違いな謝罪をするくらいなら、昔マリアとあたしにさんざん心配をかけたことを謝られるほうがまだ納得がいく。もちろんひとみは何度も謝ったし反省の言葉も口にしていたけれど今さら謝っても過去は変わらない。むしろ今のひとみ自身がしっかりしていればそれだけであたしは満足だ。だから謝る必要なんて実際のところはないけれど、それでもあたしが足踏みしているなんて思われるよりは数段マシだ。

97 名前:ロンドンからの二通の手紙 投稿日:2005/06/21(火) 22:59

手紙のことを考えていたらいつのまにか眠気が失せていた。休日の朝寝をもっと楽しみたかったが仕方ない。洗濯に掃除、それに溜まっている仕事もある。時間は有効に使わなければあっという間に夜が来る。そして明日の朝にはまた指導者として、研究者として、医療に従事する者の顔をして出勤しなければならない。自分が好きで選んだ道だけどさすがに歳とともに体力の衰えを感じるようになった。時間は待ってはくれない。

首にまわされた両手を解こうとしたとき寝息に気づいた。あたしの眠気がそっちにいったか。鼻をくすぐる香水の匂いに惑わされたわけじゃないけどその細い腰を抱き寄せて、また目を閉じた。まあいい。もう少しだけダラダラとしていよう。

ロンドンにいるひとみのことを考えた。無茶をして入院したということをまさか飯田先生から教えられるなんて、ありえない事態に届いたメールを何度も見返した。ロンドンであの二人に何があったのだろう。ひとみが元来持っている人を惹きつける力がまさかあの出世人間にまで影響を及ぼしたのだろうか。ひとみに振り回される飯田先生を想像してアヤカと二人で笑ったけれど、案外逆かもしれないなとメールで淡々と語られるひとみの入院状況を読んでそう思った。それにしても律儀な人だな、飯田先生は。

98 名前:ロンドンからの二通の手紙 投稿日:2005/06/21(火) 23:00

マリアからの電話でひとみが気持ちの整理をしたらしいことは聞いていた。でも本人に会うまではまだ安心できないというのが本音だった。もうあんなひどい思いをひとみにしてほしくはない。あたしとブレンダ、そしてひとみとなつみ。あたしたちがいたあの秋の終わりは、今もあたしの中で壊れた時計のように時を刻むのを拒んでいる。



『あたしは女優よ。大女優になってあいつらを見返してやるの』
『このポスターみたいにブレンダの顔が街を飾る日がいつかやって来るわ』
『そうね…遠くない将来、絶対に来るわ。このライトの下にいるのはあたしよ』



あたしがプレゼントしたポスターを、ブレンダはかなり気に入ったらしく行為が終わるとよく眺めてはそんな会話を交わした。今思えばとんだ茶番だ。そのときすでにブレンダはあたしより、女優よりクスリを選んでいたのだから。

ブレンダが去って、ポスターの色も褪せてきた頃なつみはあたしに言った。


『ブレンダが見ていたのは幻想に過ぎないと思う?』


あたしはそのとき何て答えただろう。数年たった今でも思い出せないままだ。でももし今なつみが生きて、あたしに同じ問いかけをしたらこう答える。

『幻想でも見えていただけマシよ』

なつみには何も見えていなかったんだから。

99 名前:ロンドンからの二通の手紙 投稿日:2005/06/21(火) 23:00

「ケイちゃん…」
「あ、起きたんだ」
「どうしたの?」
「なにが…?」
「ケイちゃん、泣いてるよ」
「あくびよ。あくび。ふわぁぁ〜。さてと、シャワー浴びて洗濯でもしようかな」

シャワーから出て帰ってきたままの状態で放っておいた鞄の荷解きをした。中から出てくるのは疲れた出張の名残ばかり。土産のひとつでも買ってくればよかったかなと思いつつ、休日に人の家のベッドでゴロゴロしているセクシーな友人の背中を見た。まあいい。今さら土産がどうのと騒ぐ歳でも仲でもない。

荷物を片付けてデスクの上の郵便物を整理することに取り掛かった。仕事関係のものがほとんどだ。論文雑誌に目を通すのは苦痛じゃないけれど、こういう郵便物を要るものと要らないものに選り分けるのは面倒で仕方ない。全部まとめて研究室に持っていって若い子にでもやらせればよかった。そんな後悔をしながらいい加減に判別していると、ふと見覚えのある封筒が目に留まった。昨日見たひとみからの手紙と同じ封筒だった。裏には同じくひとみの名前があった。

ペーパーナイフを使って封を開けてから、まさかとは思ったけど昨日の手紙を探した。あれが夢だった可能性もあながち否定はできない。たしか昨日は読み終わってから…どこに置いたんだっけ?水を飲みながら苦笑したことは覚えている。やはり夢ではない。キッチンに行こうと立ち上がり、ベッド脇のサイドテーブルをなにげなく見たらそこにあった。丁寧に畳まれてきちんと封筒に収まっている。

「読んだ?」

眠る後姿にそっと話しかけてみた。返事はなかった。


100 名前:ロンドンからの二通の手紙 投稿日:2005/06/21(火) 23:01

『ヒトミと寝たの』
『…まったく、仕方ない子ねぇ』
『それだけ?』
『それだけって?』
『あたしロンドンクリニックに行くの』
『理事長から聞いたわ。ひとみにはもう言ったの?』
『言わなかったらあたしと寝なかったんじゃないかしら』
『本当、仕方のない子…』
『あたしが誘ったのよ』
『違う。あたしが言ったのはアンタのことよ、アヤカ』
『…ケイちゃんはなんとも思わないの?!あたしがヒトミと寝たこと』
『だから言ってるじゃない。仕方ないって』
『ケイちゃんにとってあたしは何?』
『いい友人。古い仲間。尊敬すべき立派な歯科医だし可愛い後輩』
『そうじゃなくって!そうじゃなくて…』


ひとみがロンドンで何を感じ、何を思い、何を考えてどんな答えを出したのか、あたしには分からないけどあの子なりに悟って移した行動に意味がないわけがない。ただ、あたしに見出せないだけで。ひとみがアヤカと寝たことに責任を感じるのはやはり筋違いで、あたしはそんなことを気にしているわけではない。そもそも踏み出すとか踏み出さないとか、そんな選択肢すらなかった。

二通目の手紙には、近況を知らせる短い文章とマリアとのツーショット写真が入っていた。病院のベッドの上で無邪気に笑うひとみの顔を見たらすべてが終わったのだと感じた。相変わらず慈愛に満ちているマリアの笑顔とあの頃あたしが守りたかったひとみの笑顔がそこにあった。

何の変哲も無いその手紙の文脈からしてどうやらこちらが一通目のようだった。二通目のあの短い一文だけが添えられた手紙はひとみが退院した後に書かれたものなのだろう。日付から判断するに藤本がロンドンに向かった日だ。

あたしは足踏みなんてしていない。
踏み出すことさえ、できないのだから。


101 名前:ロンドンからの二通の手紙 投稿日:2005/06/21(火) 23:02


『向こうに行ったらブロンドに染めようかな』
『アヤカには似合わないわよ』
『そう言うと思った』


アヤカは笑ってロンドンに旅立ち、そして戻ってきたときも同じように笑っていた。あたしのまわりにある笑顔はどれもこれもあたしに生きるエネルギーを与えてくれる。生きることに力を貸してくれる。あたしを支えてくれる。それだけであたしは満足だ。生きてさえいればなんだってできるんだから。

半焼したアパートの中でなぜかほぼ原型を留めていた古びたポスターの裏には、あたしからブレンダへのくすぐったくなるような愛の言葉が書き添えられていた。どうせなら燃え尽きてくれたほうがよかったのに。中途半端に残された、行き場を失った感情を封印して、あたしは自らの手でポスターを燃やした。数年後、それがなつみの形見でもあったことに気づき少しだけ悔やむことになるとは思いもせずに。

ひとみが区切りをつけた今、自らポスターを燃やしたときのようにあたしもケリをつけなければならないのだろう。あたしだけが時計の針を動かせないでいる。そんな状態はもう終わりにしよう。

102 名前:ロンドンからの二通の手紙 投稿日:2005/06/21(火) 23:03

「ねぇ、アヤカ」

寝ているのか寝た振りをしているのかは分からない。構わずに続ける。

「ブロンドに染めたら似合うんじゃないかな?」

あたしは足踏みをしていた。子供みたいに地団駄を踏んでいたのかもしれない。



『けいちゃんってブロンド好きでしょ?』



朝帰りの疲れた笑顔であたしに問いかけたひとみ。
そうよ、あたしは昔からブロンドに弱い。アンタの母さんと同じ髪の色にね。

「ホントに似合うと思う?」
「う〜ん…あんまり」
「ちょっと〜。どっちなのよ〜」
「アヤカは今のままがいいよ」

そうしてあたしはようやく一歩を踏み出した。あの日からの第一歩を。




103 名前:ロンドンからの二通の手紙 投稿日:2005/06/21(火) 23:03
 
 
<ロンドンからの二通の手紙 了>
 
 
 
104 名前:ロテ 投稿日:2005/06/21(火) 23:05
更新終了。
近日中には番外編その2を更新したいと思います。
それから保全の必要があるときは自分でしますので保全のみのレスはしないで下さい。
読者による保全レスは意味がないということなので。
保全レスに見せかけた催促レスでしたらむしろストレートにどうぞw

なにはともあれ、これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
105 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/21(火) 23:34
キタ・・・・・お疲れ様です
言葉が出ないくらい浸っちゃってます
106 名前:saku 投稿日:2005/06/22(水) 01:02
あ〜・・・読めて幸せです・・・。
カノトモの脇役の方々、どの人も人格の描写が際立っていて
すごいなって常々思っていたのですが
この人は別格ですね。ほんとに幸せになってほしい。
もう一遍も楽しみにしてます。
(これだけ読み応えのあるお話ですから、どうぞ作者さんのペースで。
まったりとお待ちしてます。)
107 名前:名無しJ 投稿日:2005/06/22(水) 08:48
更新乙です。
けいちゃん…深いなぁ
108 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/28(火) 18:29
ある日ロテさんのサイトに流れ着きここまで追いかけてきました。
情景が流れるように浮かぶ文章がとても好きです。
更新楽しみに待っています。
109 名前:ロテ 投稿日:2005/07/02(土) 23:56
番外編その2
久方ぶりのみきよしです。
110 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/02(土) 23:58

ふわふわとして気持ちいい。

「よく飲んだねー。気持ちいいでしょ、今」

柔らかい声が耳をくすぐる。

「ったく、かわいい顔しちゃって」
「ん〜。なんか、すっごく、気持ちいー。気分サイコー!」
「藤本くんが気持ちいいとオイラもサイコー!!」
「きゃぁっ!ちょ、よっちゃんどこ触って、もう…ばかぁ」

アルコールがまわって重くなってきたまぶたを頑張って持ち上げると、えへへと子供みたいに笑うよっちゃんが見えた。かわいー。

「よっちゃぁん。ちゅーして?」
「はいはい。喜んで」

ちゅっと唇に落ちてきたいつもの温度。火照った頭と体に気持ちいいサラサラした唇。

「もっと、もっと」
「もっと欲しいの?美貴ちゃん」
「うん。もっとほしー」
「酔っぱらってるでしょ?」
「酔っぱらってるもん!」
「ん〜。正直でよろしい。ではでは…いただきまグァガ!!」

ちょっと待った、と言おうとして手を突き出したらよっちゃんの顔面にヒット!酔ってるからあんまりわかんないけど、すごくありえない角度で曲がったよね、首…。大丈夫かな?

「お、折れたかと思った…。あんだよー!ちゅうは?ちゅうぅぅぅ!!」
「うん。ちゅーね、してほしいの。でもね、普通のちゅーはイヤ!」
「イヤ!って言いながらオイラにちゅうしてるんですけど…藤本くん」
「だからこういうのじゃなくて、もっと、こうちゃんと…」
「ばっかだなぁ。今さらなーに言っちゃってんの。美貴を満足させることができるのは誰?」
「よっちゃん」
「はい、正解。酔っぱらった美貴もかわいいよ…」

静かに舞い降りてきた冷たい唇の感触。
電気が走ったかのように頭の後ろがビリビリとした。
体の中のアルコールが瞬時に消えていくような錯覚。



一生醒めることのないこの恋に、あたしはきっと溺れたまま。





111 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/02(土) 23:59

「だーから!ごめんって」
「………」
「そりゃあたしだって二人きりがよかったよ?」
「………」
「よっちゃんと二人きりでのんびりゆったりって」
「だよなー。ホントなら美貴と二人でのんびりゆったりして、もちろん夜は…グフフ」
「エロい妄想するなっ」
「いいじゃーん、妄想くらい。ま、妄想だけじゃなくてもちろん現実も…」
「ちょ、ちょっと、よっちゃん?んっ…」

足を組んで、ちょっとふて腐れたふうに腕組みもして。見るからに機嫌が悪いですよって顔をしていたのに、なぜか突然迫って来た唇を、あたしは避けることなく受け入れてしまった。冷たいそれが触れて、生温かい舌がチロチロとくすぐる。反射的にシャツの袖を掴んで、そんなことあるはずがないんだけどよっちゃんがこのまま逃げないようにと捕獲する。あたしから二度と離れていかないようにと、極彩色の派手なシャツを掴む。シャツなんか掴むのは、心もとないことだとわかっているのに。

「んっはんっ…」
「ふぅ〜。まだまだ足りなかった?」
「バカ」
「バカだもーん」
「あ、開き直った。なにその言い方」
「いやいや。だってホントのことだもんね」
「なにが?よっちゃんがバカってこと?」
「それと、美貴が物足りない顔してるってこと」

112 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/02(土) 23:59

ニヤっと笑うよっちゃんは無視。少し火照った顔を手のひらで仰いでクールを装う。なんでもない素振りで窓の外の景色なんかを見ちゃったり。高速道路から見える景色なんてなにも面白いことはないけれど。ふと気づくと、窓に映るよっちゃんが得意の流し目であたしの首筋あたりを舐めるように見ていた。あ、これやばいかも。物足りないのはどっちよ。

「美貴…」
「ちょ、まっ、ほんっとダメだから!ダメだって!よっちゃ、はぁんっ」
「セクシーな首筋が悪い。あたしを誘う美貴が悪い。ゆえにあたしは悪くない」
「なにその無茶苦茶な…やぁんっ」

あっという間に押し倒されて、いつもの如くあたしの弱い場所をピンポイントで攻めるよっちゃんに口では抵抗するものの…体に力が入らない。旅行前の買い物でよっちゃんが選んでくれた、これでもかっていうくらいミニのスカートにするすると手が侵入してきて太ももを撫でられる。これはやばい。これはまずい。二人きりだったらこのままよっちゃんの手と唇になすがままなんだけど…。

113 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:00

「ちょーっと!ちょっとちょっと!お二人さん?!」
「なによなによ!さっきから黙って聞いてればイチャイチャイチャイチャしちゃってぇーっ!」

眠そうな間延びした声と甲高い声があたしたちの、じゃなかったよっちゃんの動きを見事に静止させた。しぶしぶ体を起こしてからあたしのめくれたスカートを直してくれるよっちゃん。こんなところも好きだなぁ。続きがしたいと思ったことは内緒にしておこう。ちょっと残念だけどさすがに他人がいるところでことに及ぶのは恥ずかしいというか常識的にどうかと思うわけで。

「チェッ。ごとーは黙って運転してろよな…」
「あ゛?よしこなんか言った?!」
「石川さんの声が耳にキーンてきた。なんかトンネル入ったときみたい…」
「ひどーい。藤本さんひどーい」

ひどいのはどっちだ。ギャーギャーワーワー、女子高生みたいに騒ぎまくるいい大人三人を横目で見つつ、どうしてこんなことになったのか、ちょうど一週間前に行われたよっちゃんの帰国祝いの席でのことを思い出した。





114 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:00

「なにこのメンツ…」

よっちゃんは主役だからもちろんいい。あたしはよっちゃんの恋人なんだからこれも当然。保田先生はいろいろと迷惑や心配をかけたから納得。木村先生は保田先生のオマケ?よっちゃんにベタベタ触らなければまあ許す。後藤さんや石川さんは同期だし、一応仲良しだし、あたしがロンドンに行っちゃったときは仕事面でフォローしてくれたからいてもよし。と、ここまでは予想の範囲内なんだけど。

「女ばっかじゃん」

庶務課や人事課や総務課や学生課や、え?なんで衛生士さんたちまでいるの?あんたたち誰だよ。よっちゃんが所属している入試課の面々じゃなくてなんの関わりもない衛生士さんたちがどうしてここに…。どこから嗅ぎつけたのか知らないけど若さで押し切ってくるあいつらは要注意だ。なんて目を光らせていたら要注意人物は意外なところにいた。

「よっすぃおかえりー。よっすぃがいないからさー、オイラ寂しかったよ」
「はは。矢口さん元気でした?」
「元気じゃなかったよー」
「え?な、なんで…」
「よっすぃがいなかったからに決まってるじゃーん!」
「あたしが毎日庶務に顔出せば寂しくないですよね?」
「げ、藤本は来なくていいよ…」

まったく。小さいから見えなかったよ。油断も隙もないな、あの人は。

115 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:01

「吉澤さーん、私も寂しかったですぅ」
「よっすぃーこっち来て〜」
「会いたかったわよ、ヒトミ」

あたしがいる前でよくもまあ堂々と。若いって凄いね。あたしの眼光も多勢に無勢。いちいち睨みつけるのも疲れるくらい次から次へと女が寄ってくる。恋人がモテるのは誇らしいけど厄介なことこの上ない。ていうか最後の台詞は木村先生だよね?どさくさに紛れてなにやってるんですか。保田先生が苦笑しているのはあたしに対して?黙って見てないでなんとか言ってくださいよ。それにしても両腕を女の子たちに絡みとられてニヤニヤニタニタするこのエロ魔人ときたら。

「まあまあ、今日くらいはいいじゃん。お祝いなんだから」
「そうそう、皆よっちゃんが帰ってきてくれて嬉しいんだよ」
「それはわかるけど…」

後藤さんと石川さんに慰められながらビールを煽った。向こうのテーブルでは女の子たちと楽しそうに話をしているよっちゃんが見える。手を叩いたり肩を竦めたり、すごく楽しそう。あの笑顔を取り戻してほしくてロンドンに送り出した。そしてよっちゃんは戻ってきてくれた。あたしの好きなあの笑顔を携えて。ガマンしきれずに迎えに行っちゃったあたしには、また違った顔を見せてくれる。とくにベッドでは、いろんな顔を…。

116 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:02

「あーあ、またダラシナイ顔してるよ、この人」
「そういえば最近よっちゃんを見る藤本さんの視線がエッチすぎだって噂、よく聞くよね…」
「うっそ?マジで?!」
「マジマジ。藤本さん欲求不満なんじゃないの?」
「えー!よっちゃんが帰ってきて毎日やりまくりだと思ってたのに、そうでもないの?」
「やりまくりって…」

石川さんって顔に似合わずけっこう下品だね…。

「欲求不満なんかじゃありませんっ」
「ホントかなぁ」
「ホントです!」
「そういえば週末どっか行くんだってね。さっきよしこがチラっと言ってたけど」
「あ、うん。温泉にね」
「えー!!いいなぁ温泉。いいなぁ〜私も行きたーい!」
「温泉いいよねぇ。ごとーも行きたいなぁ」

胸の前で手を組んで上目遣いをしないでもらえます?石川さん。それする相手間違ってるでしょ。どう考えてもあたしにはキショいとしか映らないので。あと後藤さんも。そんな恨めしそうな目で見ない!ちょっと怖いよ。マジで。

117 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:02

「…なによ」
「行きたい」
「は?」
「私たちも連れてって」
「はあ?!」

なにバカなこと言っちゃってるの?この人たちは。

「温泉!温泉!温泉!」
「いや、普通に無理」
「ははーん、藤本さんやっぱ欲求不満なんだ」
「なんでよ」

話を戻すな!温泉と関係ないでしょー。

「だって欲求不満だからよしこと二人で行きたいんでしょ?」
「あ、そっかぁ。やりまくるのね?!」

いや、だから石川さん下品…。

「ちっがうに決まってるでしょ!欲求不満なんかじゃなーい!!」
「じゃあ連れてってよ」
「そうよ連れてきなさいよ」
「どういう理屈だよ!」
「欲求不満!欲求不満!欲求不満!」
「エロティ!エロティ!エロティ!」

な、殴りたい。久々に殺意を覚えたかも。

「エーロティ!エーロティ!エーロティ!」
「わ、わかった。わかったから。黙らないと殴るよ?」
「(やったね!よしこのおごりで温泉だー)」
「(温泉でお肌ツルツルになったらますます美人になっちゃう〜)」

ごめんね、よっちゃん。なぜかこんなことになっちゃったよ。しかもよっちゃんのおごりらしいよ。
はぁ〜。とりあえず一発くらい殴ってもいいよね?二発にしとく?だめ?





118 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:03

「藤本さんほんっとに殴るんだもん。ごとーびっくりだよ」
「ほんとよねー。冗談が通じないんだから」
「いやいや、キミらはまだマシだよ。藤本くんのかかと落としはマジで死にかけるから」

運転手兼ナビゲーターとしてあたしたちラブラブカップルの旅行に無理やりついてきたこの二人はとりあえず放っておくとして、よっちゃん?あたしがいつかかと落としなんてしたのよ。それともなんですか。それはやってほしいってフリなの?

「後藤さーん、次のサービスエリアに寄ってね」
「なんで?休憩したばっかじゃん」
「よっちゃんがかかと落とししてほしいみたいだから」
「すごーい。かかと落とし見たーい」
「ふ、藤本くん冗談きついっす。あと石川さんは黙ってて」

運転席で爆笑する後藤さんに、唇を尖らしてプリプリする石川さん。それから怖々と首を振り、あたしの機嫌を伺うように覗き込んでくる大きな瞳。三者三様のリアクションが面白くて思わず笑った。前の二人に見えないように素早く唇を奪うと、きょとんした後にたちまち頬がぱぁっと明るくなった。なんかこういうのってすごく楽しい。二人きりもいいけど気心しれた仲間と旅行するのもたまにはいいかもね。


119 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:03

「こちらでございます」

仲居さんに案内されて、あたしとよっちゃん、後藤さんと石川さんというペアに分かれて部屋に入った。当然といえば当然な組分けだけど真新しい畳の匂いや、部屋から見える鬱蒼とした緑の海、どこからか聞こえてくる水音やなんかになぜかドキドキした。いかにも、なシチュエーションを作り出しているそういうものすべてに。

「やっと二人きりになれたね」
「ぷっ。古いドラマの台詞みたい」
「笑うなよー。ロマンティックじゃないなぁ」

言いながら窓辺に立つあたしを後ろからそっと抱きしめるよっちゃん。その手に手を重ねてしばらくそのままでいた。鮮やかな新緑に目を奪われていると重ねていた手が解かれて、よっちゃんが窓の外を指差した。

「ほら、あそこ」
「ん?なに?」
「ちっさい川が流れてる。水音の正体はあれだね」
「ほんとだ」
「行ってみよっか?」
「うーん…」
「いや?」

肩に顎を乗っけてあたしの耳もとでそっと囁くよっちゃんに、少し恥ずかしかったけど告げる。

「せっかく二人きりになれたんだから、もうちょっとイチャイチャしてからがいい…」

皆でワイワイ騒ぐのも楽しい。けどやっぱり二人きりのこの空間には敵わない。落ち着いていて、あったかくて気持ちいい。そしてとろけるように甘いこの時間。好きな人とのこの至福のときを、たっぷり堪能したいじゃない?ね、よっちゃんもそう思うでしょ?

120 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:05

なにも言わずにゆっくりと降りてきた唇は肯定の証。じゃれ合うように時折笑いながらキスをした。お互いの体をまさぐり、全身が徐々に熱を帯びていく。よろけてイスに腰を落としたよっちゃんの上に向かい合って跨ると、だらしなく緩みきったその顔がめくり上がったスカートに視線を落とした。

「よっちゃんってミニスカート好きだよね〜」
「だって美貴にすごく似合うんだもん。綺麗な足だからさ、ホント、すごくいい…」

剥きだしの太ももをゆるゆると撫でまわすよっちゃんの手はまるで魔法のよう。少し触れられただけで電流が走ったようにゾクゾクしたものが背中を走る。荒くなる息を飲み込むように唇を貪られてますます苦しくなる。苦しいけど気持ちいい。大げさな言い方だけどこの人があたしの生死を握っているかのようで、やっぱりゾクゾクする。荒々しいキスのあとは一転して優しいキス。コワレモノを扱うかのようなそのふわりふわりと舞い落ちる唇に翻弄されて高まる熱は止め処ない。

「あぁんっ…よっちゃぁん…」
「美貴をもっと感じさせて?あたしを感じて?」
「いつも、いつも感じてるよぉ…感じないわけが、ない、じゃ…あぁんっ」
「ふはは。ミキチィのお尻サイコー」
「もうっ…感じるなってほうが無理だよ」

髪に埋めた指先をそっと降ろして両手で端正な顔を包み込む。よっちゃんのイタズラな手は相変わらずあたしの両足を撫でまわして、それからすっと片手が服の中に差し込まれたと思ったら背中を滑る。あたしが瞼にキスをすると嬉しそうにくしゃっと笑ってから犬のように鼻先を鎖骨に押しつけた。キャミの肩ひもを口で下ろすよっちゃんはもう嫌らしい表情で、さっきまでとはまるで別人。

「痕、つけちゃダメだよ…」
「それはつけろってことだよね?」
「ちがっ…もう、バカぁ」

鋭い痛みとともに襲いくる快感の波。
よっちゃん越しに見える色鮮やかな新緑に抱かれているような、そんな錯覚を覚えていた。



121 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:05

望みどおりたっぷりとイチャイチャしたあたしたちはせっかく山奥の静かな場所に来ているのだからと、散歩に出かけることにした。そう、今回の旅先はそこらの賑やかな温泉宿ではなく、ご近所さんなんて存在しない山奥の奥のほうにある隠れ家的宿。どんなにイチャイチャベタベタしても誰に見咎められることもない。あるのは山と川と美味しい空気。あ、それからもちろん温泉も。美人の湯として名高いこのあたりの温泉は知る人ぞ知る名湯だ。

「すっきりした顔しちゃってー」

あたしたちよりひと足早く温泉に入ってきたらしいほかほか顔の後藤さんに声をかけられた。

「たっぷり気持ちいいことしたってわけね?」
「後藤さん、エロオヤジじゃないんだから…。でもそっちこそ気持ちよさそうじゃん」
「えへへー。さすが美人の湯と言われるだけあるよね。ここの温泉気持ちいいよ〜」

ふにゃっとした笑顔で浴衣の袖をまくって見せてくれた後藤さんの腕はたしかにツッルツルで、長い髪をアップにしたうなじなんかはあたしから見ても色気たっぷりで…ってちょっと待て!はっとして隣を振り向くと予想どおりデレっとした顔でみっともなく鼻の下を伸ばしたカッコ悪いよっちゃんがいた。

「ほうほう。気持ちいいんだ」
「うん。最高。よしこたちも入ってくれば?」
「後藤さんは?もう入らないの?」
「ちょっとのぼせちゃったから少し休憩したらまた入るつもり。あ、石川さんはまだいたよ」
「おーっ!それはオイシ…じゃなかった、よし、藤本くん先に温泉行こうか?」
「死にたいならね」

にっこり笑いながらほっぺを抓り上げてやった。

「あーあ、バカだねーよしこ」
「じゃ、あたしたちは散歩に行くから。後藤さんまたあとでね〜」
「ほーい。いってらっしゃーい」

122 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:06

まったくバカなんだから。イチチと涙目になりながらあたしの後ろを追いかけてくるバカを、くるっと振り返って睨みつける。もちろん本気じゃなくてポーズだけど、ここで甘い顔なんてしたらさっきのあたしたちのイチャイチャがまるで茶番みたいに思えてくる。浮かれてるのはあたしだけ?嬉しくて楽しくて仕方ないのはあたしだけなの?

「そんな顔するなって」
「誰のせいよ」
「美貴のその顔はあたしをいつだって欲情させるんだから」

ふわりと抱きしめられて思わず辺りを見回した。そうだ、ここは山奥の奥。一歩旅館を出ればあるのは山と川と…ってそんなことはどうでもいい!今この人なんて言ったの?さっきしたばかりなのにもう欲情って。そんなこと考えながらもしっかりと背中に回っているあたしの手は素直だ。抱きしめられる力に負けないくらい強く、強く抱きしめた。

「よっちゃんは、いつもいつもバカばっかり」
「バカやるのは美貴がいるからだよ」
「そんなことであたしの愛情…量ってほしくない」
「ごもっとも」
「ホントにわかってるー?次はないかもしれないんだからね」
「善処します」
「…からかってるでしょ?」
「ご名答」
「コラァーーーーー!!」
「うわぁ!ちょっとしたジョークだよ〜。藤本くん、走ったら危ないよ〜」
「じゃあオマエがまず止まれーー!!」

123 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:07

自然って素晴らしい。

普段だったら絶対バカバカしくてやらない子供みたいな追いかけっこも、この山や川に囲まれた中では体がうずうずして(変な意味じゃなくて!)走り出したい衝動に駆られる。笑いながら走るから息が切れて肺が痛いけど、そういうことすら楽しくて楽しくて仕方なかった。

「ふぅ〜。あ、ここ座れるよ〜」
「…はぁ……う、ん」
「ほら、早く〜。よっちゃん体力ないな〜」
「ロ、ロンドンで、体、なまっちゃった、かも…」
「なわけないでしょっ!元からひ弱なんだから。ほら、ここ座って」
「へ、へーい」
ゼェゼェ言いながら情けない顔をしてちょこんと岩の上に座ったよっちゃんの上に遠慮なく腰掛ける。まだ肩で息をしているよっちゃんは本気でちょっと、体力ないよ。まさかさっきのエッチで体力消耗した?

「どーせオイラは体力ないですよー」
「拗ねないの」

振り向いてぷっくりした頬をぐりぐりと押したり引っ張ったりした。
この感触やっぱ好きだなぁ。よっちゃんだなぁって実感する。

「ほっぺで判断するなよ」
「だって〜。気持ちいいんだもん」
「んじゃ、あたしも…」
「だーめ。こんなところでやめてよねー」
「いいじゃーん。ケツくらい触らせろよー」
「ケツとか言うな!」

124 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:08

見るからに綺麗な水が流れる川辺で、あたしたちときたら。
交わす会話が笑っちゃうくらいいつもと一緒。
もうちょっとこの雄大な自然にふさわしい話題はないものですかね。

「なんだそれ」
「ないかなぁ」
「それって、楽しいのかなぁ?」
「あたしと一緒なら楽しいでしょ?」
「もっちろん!美貴ちゃんと一緒ならなんでも楽しいー!やっほー!」

よっちゃんのアホな声がこだまする。
山に跳ね返ってはこなかったけど、あたしの心にはちゃんと届いているからね。

「今度は桜の季節に来よう」
「これ、もしかして全部桜?」

よく見ると目に入る範囲全て桜の木のようだった。

「そう。すっごく綺麗だよ」

この辺り一面の新緑がすべてピンクに染まるんだ…。
たぶん今度は桜に抱かれているかのような錯覚を覚えるのだろう。
そんな想像をしていたら、よっちゃんがふっと笑って言った。

「ここらの山がね、ちょうど今の美貴のほっぺみたいに可愛らしいピンク一色になるんだよ」

そう言われたあたしのほっぺはよりいっそうピンク色に染まった、と思う。



125 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:08

「おいっすぃー!ちょっとこれ何?牛?牛だよね?」
「う、うん。藤本さんこっちも食べる?」
「よかったらあたしのもどうぞ…」
「いいの?マジで?何牛?これ何牛?」
「藤本くん…ご飯食べさせてないわけじゃないんだからさ」
「マジで激ウマなんだけどこれ。あれか、近くに牧場あったよね?あそこかな?」
「このお魚美味しいね〜」
「キノコもすごい肉厚だよ〜」
「よっちゃん!食べないの?美貴食べちゃうよ?いいの?食べちゃったよ?」
「………まあ、たっぷり堪能してください」

散歩から帰ってすぐよっちゃんと温泉に入った。中途半端な時間だったからか、あたしたちの他には誰もいない開放的な岩風呂でやっぱり子供みたいにお湯をかけ合って遊んでしまった。潜水から浮上しようとしてきたよっちゃんの頭を沈めては、おでこをピシャピシャ叩かれた。

「こらぁ!みきぃー!!」
「キャー!」

お互い裸なんだからちょっとはそういう雰囲気になってもおかしくはないはずなのに。

「ゴボゴボゴボ…ぷっはー!死ぬ、美貴ちゃん、息、酸素、ぷりーず!」
「ぶははははっ!」

よっちゃんが「おっきいお風呂って楽しいよなー」と目をキラキラさせて言うからついあたしも調子に乗ってしまった。手で作る水鉄砲は誰にも負けない。水上のゴル○13と呼ばれた腕が鳴るってもの。そんなこんなでちっとも色っぽいことなんて起きずに、遊ぶだけ遊んでグッタリして出てきてしまった。

たっぷり遊んだ後の食事は美味しい。いや、遊んでなくてもこの豪華な食事を前にしたら誰だって箸を伸ばす。温泉に入ってお肌つるつる。美味しい食事に可愛い恋人。友人との楽しい会話。あー、幸せ。これが幸せってもんでしょう。

126 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:09

「ほい、藤本くん」
「ありがと」

ついでもらったビールをグビグビと飲む。そうだ、この幸せもあったんだ。

「じゃあよっちゃんも」
「さんきゅう」

同じようにものすごい勢いで飲み干すよっちゃん。「くぅ〜、たまらん」と嬉しそう。
こんなちっちゃいコップじゃあっという間だよね。普段ジョッキだもんね。

「この二人と同じペースでは飲めないね」
「次元が違うから無理無理」
「あ〜、もう一本終わっちゃった。あと十本くらい追加しとこうか?」
「そだね。後藤さんたちも飲むでしょ?」

そんなこんなで気づけばけっこうな量のビール瓶が散らばっていて、それらをボーリングのピンに見立てた後藤さんときゃっきゃと笑いながらそれに向かって転がっていく石川さん、という図。転がる先を間違えてよっちゃんに突っ込んだ石川さんを睨むものの、さすがに飲みすぎたせいか目に力が入らない。「ざーんねーん!ガーターだねぇグヘヘ」なんて言いながら嬉しそうに石川さんを抱きとめたよっちゃんに初めてかかと落としをした。かかとどころか全身で落ちたのはやっぱり酔っていたせいかもしれない。

と、ここまでは覚えている。



127 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:11

「あれ?ごとーさんたちは?」
「部屋に戻ったよ」

片手にビールの入ったグラスを持ったよっちゃんが窓辺に立ってこっちを見ていた。

「なんでそんなところにいるのよー」

こっちに来てよ。いつも隣にいてよ。あたしが手を伸ばしたら届くところにいてよ。
よっちゃんに触れていないとどうにかなっちゃうよ…あたしはもう、一人になりたくないよ。

「幸せをかみしめていた。幸せ、だよね?」
「ここに来て」

グラスを持ったままニヤニヤ顔のよっちゃんが近づいてくる。
膝の下あたりを蹴って一人にするなとかなんとか叫んだ。

「一人になんてしないよ。いつも美貴のそばにいるから」
「バカ。よっちゃん口ばっかり」
「ホントだよ。美貴が嫌がったってそばにいるから」
「もう二度と置いてかない?」
「置いてかない」
「もう、あんな思いは…したくないよぉ」
「泣かないで、美貴…」

抱きしめられた力強さに身をまかせて、涙で濡れた鎖骨を舐めた。
なんで涙なんて。今さら泣くなんて。

「よしよし、不安にさせちゃったね」
「むー。子ども扱いするなー!」
「あわわ。藤本くん、暴れるなって」

中途半端に立ちかけた足がもつれてその場にグデーンと倒れこんだ。
あれ?いつのまに布団が。おもいっきり吸い込んだらお日様の匂いがした。

「あー、これよっちゃんの匂いだ」

口の中で呟いてからゴロンと仰向けになった。

128 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:11

「よく飲んだねー。気持ちいいでしょ、今」

柔らかい声が耳をくすぐる。

「ったく、かわいい顔しちゃって」
「ん〜。なんか、すっごく、気持ちいー。気分サイコー!」
「藤本くんが気持ちいいとオイラもサイコー!!」
「きゃぁっ!ちょ、よっちゃんどこ触って、もう…ばかぁ」

アルコールがまわって重くなってきたまぶたを頑張って持ち上げると、えへへと子供みたいに笑うよっちゃんが見えた。かわいー。

「よっちゃぁん。ちゅーして?」
「はいはい。喜んで」

ちゅっと唇に落ちてきたいつもの温度。火照った頭と体に気持ちいいサラサラした唇。
いっぱい、いっぱいちゅーをして、アルコールのせいではない気持ちよさに浸る。
徐々に深くなっていくキスであたしの心は満たされた。

酔い冷ましというには刺激的すぎるキス。
体の芯から手足まで、痺れて動かない。動かせない。

「いつも、いつでもキスしていい?」

いつでもいいに決まってるじゃない。いつだって、したい。片時も離れたくないんだから。
じっと見つめていたら、あたしの思いが通じたのか何度も何度もキスされた。
よっちゃんに抱かれながら、囁かれながら、果てしない海の底に堕ちていく。



一生醒めることのないこの恋に、一緒に溺れていようね、よっちゃん。






129 名前:酔い冷ましのキス 投稿日:2005/07/03(日) 00:12
 
 
<酔い冷ましのキス 了>
 
 
 
130 名前:ロテ 投稿日:2005/07/03(日) 00:12
レス返しを。

105>名無飼育さん
来ました。浸ってくれてありがとうございます。
またしばらく来れませんが待っていてくれたら嬉しいです。

106>sakuさん
どうもどうも。呼んでもらえてこちらこそ幸せです。
脇役にも焦点を当てたかったものですから。
保田先生にあたたかいお言葉ありがとう。

107>名無しJさん
レスどうもです。
いやいや、じょんさんのスレほど深くはありませんよw

108>名無飼育さん
サイトからいらしてくれたのですかー。
あっちでもこっちでもどうぞよろしくお願いします。
楽しみに待っていてくれる方々のためにこれからも頑張ります。


次こそは番外ではなくきっと本編で。
マターリ待っていてください。ノシ
131 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/03(日) 01:39
はわー・・・・圧巻です

あ、更新乙です
これ言うの忘れるくらいすげぇーっす
132 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/03(日) 16:29
感 無 量……
133 名前:S 投稿日:2005/07/03(日) 17:22
すごい・・・最高です・・・・!
これまでに何があろうと、この先に何があろうとここを読めば生きていけるくらいの
甘甘な二人・・・痺れました。
この4人の関係、大好きですっっ!!
いつか本編でこの4人にまた会えるのを楽しみにしています。
134 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/03(日) 22:11
更新乙です〜。こっちではお初ですYO・・・w
甘い雰囲気の2人が戻ってきてくれて、嬉しいでっす。
本編もゆっくりまったり待っとります。
135 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 19:43
更新お疲れ様でした。
久々にみきよしを堪能しましたよ。
やっぱりいいですね〜
何気にリクして良かった!
本編もマッタリお待ちしてます〜
136 名前:nanashiJ 投稿日:2005/07/10(日) 09:35
折角ななしにしてるのにw
甘くて美貴さん可愛すぎ!!てゆーかエロ?
エロなの?爽やかで純愛ぽいエロw
いや、おなかいっぱいです。
137 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/25(月) 22:54
もうここのよしみきないと生きてけません(w

ってことで更新待ってます
138 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/26(火) 18:46
↑に同じ(w
ロテさんの書くみきよし好きです!!
更新マターリ待ってます。
139 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/28(木) 09:22
↑にまた同じww
この小説でみきよしに目覚めました!
交信待ってます!!
140 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/06(土) 19:18
みきよしサイコーです!更新待ってます!
141 名前:ある日の名無しさん 投稿日:2005/08/18(木) 17:22
久しぶりにこういうの見た。
この甘々ミキティとエロよっちゃん大好きだから
これからも貴重みきよし頑張って書いてね〜!
次回更新が楽しみ☆
142 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/09(金) 17:56
待ってます!!みきよしがこの小説で大好きになりました!!
143 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/11(火) 20:34
更新ずっと待ってます。
144 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/21(金) 19:05
ずっと待ってます
145 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/19(土) 00:36
まってます
146 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/19(土) 02:28
あげないで下さい。
落としときます。
147 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:20
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
148 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/25(日) 20:11
『直感2〜逃がした魚は大きいぞ〜』のミキティ部分。
"♪友達 恋人 同僚"のところを聞いて、「あ〜、これだわ」
と思いもう一度覘きにきました。
ああ、歌詞がリフレインする…(笑
149 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/10(火) 00:38
まってまぁ〜っす
150 名前:NANAc 投稿日:2006/01/20(金) 21:48
甘いですね!
前、いっきに読んだんですがまたいっきに読んでしまいました^^
ホントにおもしろいです!
更新まってます!
151 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/25(水) 15:18
心の底から待ってます。
好きすぎでバカみたいなくらい大好きです。
152 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/12(日) 20:26
まってまぁっす!
153 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/13(月) 00:30
ろてさん生存報告を!
154 名前:ロテ 投稿日:2006/02/13(月) 02:14
作者です。保全します。
長くお待たせしてしまってすみません。続きは必ず書きます。
155 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/20(月) 16:27
ロテさんお久しぶりです。
続きを待ってます。
156 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/03(金) 01:38
いつまでも待ちます!
157 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/07(金) 12:39
お待ちしております!
158 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/23(日) 21:56
待ってます!!
159 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/05/16(火) 16:36
待ってます
160 名前:ななし 投稿日:2006/05/23(火) 11:33
待ってます
161 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/10(土) 22:01
まってまぁっす!
162 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/02(日) 02:19
まってます
163 名前:rero 投稿日:2006/07/10(月) 17:19
我も待ってます
164 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/10(月) 22:02
ageんなし・・・
更新されたかと思た↓↓
165 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/01(火) 03:45
まってます。
166 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 02:03
初めて読みました。先日の夕方から一気に。
心から感動しました。
167 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 02:30
ageんなよ。
更新待ってる人はたくさんいんだから。
168 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/13(日) 11:22
オチ
169 名前:ろて 投稿日:2006/08/14(月) 00:29
保全します。
いろいろすみません。
170 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/15(火) 22:42
まってますw
171 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/03(日) 07:29
待ってます
172 名前:rero 投稿日:2006/10/08(日) 20:26
読みたい
173 名前:けん 投稿日:2006/10/21(土) 10:55
続き読みたいよ。
174 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/21(土) 21:22
待ってます
175 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/22(日) 17:50
ロテさん!!!みんな待ってます!!!がんばってください!!!
176 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/22(日) 22:07
177 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/22(日) 23:47
上げないで………………
178 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/23(月) 18:42
待ってます
179 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/29(水) 02:52
待ってます
180 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/02(土) 08:02
待ってます
181 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/20(水) 19:58
それでも待ちます
182 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/05(月) 14:04
大丈夫、ろてさんは必ずまたやって来る…と信じたいorz
183 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/18(金) 03:14
いや まだまだ
184 名前:668 投稿日:2007/07/19(木) 19:39
2年越しでもまだ待つ
185 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/27(金) 16:39
もうムリだね諦めようぜ!
186 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/27(金) 23:23
わたしはあきらめない
187 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/29(日) 02:52
わたしもあきらめない
あきらめたらそこで試合終(ry

ということで保全します
188 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/30(月) 16:31
ロテさーん首をなが〜くして待ってますYO
189 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/15(月) 20:55
私の首も伸びてます
190 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/29(月) 00:12
諦めるものか
191 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/29(月) 03:16
192 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/24(土) 16:47
待ってます!
193 名前:作者 投稿日:2008/01/12(土) 00:17
保全します
194 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/14(月) 08:15
生存報告キタ――!!

ホントまじで待ってます

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