Pray For The Dead
- 1 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/28(火) 21:30
- 初です。
拙い文章ですが、読んでやって下さい。
もしよければ、感想なぞ入れてくれたら嬉しいでつ。
内容はよしえりメインの一応ハードボイルドのつもりで書きます。
更新は今の所、週1,2のペースを目標に頑張ります。
よろしくどうぞ。
- 2 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/28(火) 21:32
- 〜プロローグ〜
絵里は今日も一番乗りを目指してスタジオへやってきた。
事務所が娘。の為に用意しているレッスン場である。
特別、新メンが早く来なければならない、という決まりはないが
ここ一週間程は絵里が最初に入り、簡単な部屋の掃除をしながら
先輩達の入りを待っているという図式が出来上がっていた。
(私達のデビュー曲はれいなに持っていかれちゃったけど、
私は自分なりに頑張ろう・・・前向きに・・・そう、ポジティブに)
言葉に出すのは簡単なことだ。が、それを態度で示すというのは
なかなか辛いものがある。睡眠不足が続いている絵里だが、自らの誓いを
実践してみせることで、ささやかな自信へと繋げていく。
- 3 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/28(火) 21:34
- エレベーターホールから続く廊下を曲がった所で、絵里は足を止めた。
(あれ、電気が付いてる?誰だろう、飯田さんか・・・吉澤さん・・・かな?)
木製のドアの中央部分に細くはめ込まれたガラスから明かりが漏れ、
その眩い灯は少なからず、絵里の自尊心を刺激した。
(さゆ・・・ってことはないだろう・・・れいなの可能性は・・・あるな・・・)
足音を忍ばせてドアに近づき、ゆっくりとガラス越しに中を見た。
- 4 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/28(火) 21:38
- そこには意外な人物が座っていた。こちらに背を向けているので
絵里には気付かない。絵里はこの人がなんとなく苦手だった。
元ヤンだったという噂もあり、恐ろしく気が強い。
(いつもはギリギリにやって来るのに、今日はどうしたんだろう?)
(誰か来るまで、二人きりか・・・何を話せばいいんだろう・・・?)
絵里がドアを開けるのを躊躇してると、その人が机の上のカバンから
何かを取り出すのが見えた。
(なんだろう・・・?ピルケース・・・?)
掌ほどの大きさの銀の箱がチラッと見えたが、彼女自身の体が邪魔になり
何をしてるのかはハッキリと分からない。
やがて彼女は机を撫でる様な仕草をした。埃を集めてる感じだった。
- 5 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/28(火) 21:42
- 本能が絵里に、ここから立ち去れと叫んでいた。何かヤバい、と。
もう一方で、彼女の行動を見届けなければならない、とも思っていた。
今日の彼女はどこかおかしい。後ろ姿だけだし、まだ数分間しか
見ていないので確信は出来ないが、雰囲気がいつもと違う。
動作が緩慢に見える。何より、魂が抜けている様に感じる。
鼓動が速くなっていくのを認めた絵里は、それでも努めて冷静に
これからどうすればいいのか考えていた。
(何も見なかった事にして、静かに立ち去る・・・か)
(気付かれないように、このまま見てる・・・絶対に気付かれちゃダメ・・・)
(普通にドアを開けてあいさつする・・・や、それは無い、それだけは絶対無い・・・)
寝不足で思考回路がうまく働かない。考えが無限ループになるのは、
この特殊なシチュエーションの中に突然放り込まれたこともあるんだろう。
もう半分泣きそうになって立ち竦んでいる絵里の前で、突然それは起こった。
- 6 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/28(火) 21:50
- 彼女は煙草のようなものを取り出すと、それを口にくわえたように、見えた。
その瞬間、頭を前にかがめて顔が机に付きそうなくらいになると
ズッという鼻を啜るような微かな音とともに、頭が10cm程スライドした。
「!」
絵里は突然心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥った。
(あれは煙草なんかじゃない・・・麻薬だ・・・今、ストローで鼻から吸った・・・)
小刻みに膝が震え始めていた。煙草なら絵里だって兄貴が持ってるのを、
ふざけて銜えたことが一度や二度はある。煙草を吸うものだと思っていた絵里には
今見た光景はかなりショックだった。
映画やドラマの中だけの存在だと思っていた事。
それを自分に極めて近い人間が行なったのを、まだ中学三年生の少女は
うまく咀嚼できずに居た。
(とにかく逃げよう・・・見られてはいけない・・・)
全身の毛が逆立つような混乱と恐怖の中で、本能がまた、蘇る。
スタジオの中にいる彼女、藤本美貴はその余韻を楽しむかのように
椅子に座ったまま大きく伸びをしている。
絵里は震える足で一歩、二歩と後ずさりをし、クルッと向きを変えると
全力で廊下を走った。出来るだけ早く、そして静かに。
駆け出してすぐに、今日はナイキのAIRを履いてきて正解だったと絵里は思った。
- 7 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/28(火) 22:01
- エレベーターホールの前まで来た絵里はほんの少し落ち着きを取り戻し、
その奥にある非常階段に通じる扉を勢いよく開けた。
タイミングがいいのか悪いのか、丁度その扉を向こう側から開けようとした人間がいた。
「おっ、びっくりした〜。亀井かぁ。なにやってんの?」
鉢合わせした相手の吉澤ひとみはこの程度の感想で済んだが、
絵里にしてみれば、その瞬間の恐怖で心臓が口から飛び出しそうだった。
「!〜っ」
なんとか悲鳴をあげることを堪えたが、一瞬パニックになった絵里は
右手で吉澤の口を塞ぎ、左手の人差し指を立て、自分の唇に当てた。
キョトンとした顔の吉澤が黙ると、絵里は自分より一回り以上デカい
その身体に腕を回し階段を上のフロアへと引きずって行こうとした。
「ちょ、ちょっと、おい。」
さすがに吉澤も絵里の耳元で囁く。
「何?どうしたんだよ、亀井?」
「絵里は味方?」
「は?」
「吉澤さんは、あたしの味方ですか?」
「はぁ?何言ってんの、お前?」
吉澤の声が段々大きくなるので、絵里はまた人差し指を唇にあてた。
- 8 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/28(火) 22:10
- この人は誰よりも正義感を持っている。筈だ。しかし、この人は彼女と仲がいい。
かなり正常に戻ってきた絵里は、吉澤にさっき見たことを話すべきか
迷っていた。普通なら話すだろう、ただ、この人も仲間だったら・・・。
さっき見た光景を目の前の吉澤に照らし合わせてみる。まさかね。
それはどう考えても不釣り合いな情景だった。
もしこの人がクスリをヤってるんなら、もっと痩せてて良い筈だ。
絵里は自分の感に賭けてみることにした。
「すいませんけど、屋上に付き合ってもらえます?」
「えっ?・・・う、うん、分かった・・・。」
なんなんだ?こいつはよぉ?顔が可愛いのは認めるが、訳分かんねぇぜ。
危なさではカヲリと同等か、それ以上だな、こりゃ。
鉢合わせしたくらいで、あんなにテンパリやがって。
俺に抱きついてきたり、意味不明な事言うし・・・。ったくよぉ。
はっ、屋上に付き合うってことは、俺コクられるんじゃねぇの・・・?
そおか・・・な〜るほ〜ど〜。
無言で先に階段を上る絵里の後ろを吉澤はニヤニヤしながらついていった。
もし絵里が振り返れば、絶対こいつにだけは相談しないであろう、そんな表情だった。
- 9 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/28(火) 22:19
- 屋上に着いて先に口を開いたのは吉澤だった。出来る限りの二枚目顔で切り出す。
「で、俺に話というのは?亀井クン?」
「藤本さんの事なんですけど・・・。」
「ふじもとぉ〜?なんだそりゃ?」
「真面目に聞いて下さい。あたしは吉澤さんを信頼して話すんです。」
「おぅおぅ、よきにはからえ・・・ちぇっ。」
「お願いですから、真面目に・・・」
「分かった、分かった。ふじもとがどした?」
「・・・あの人、覚醒剤やってます・・・。」
「?・・・か く せ い ざ ぇ ?」
そこからの絵里の話には、流石の能天気な吉澤も真面目に聞くしかなかった。
絵里はさっきの出来事をできるだけ詳しく、吉澤に伝えようと努力をした。
話しながらポロポロと涙が出てきた。14歳の女の子に与えた衝撃が
いかに大きなものであるか、普段の愛読書が三流週刊誌の吉澤にとって
それは計り知れないものだった。
「・・・そっか・・・。」
「・・・はい・・・。」
喋り終えた絵里は大きくふぅ、と息をついた。
- 10 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/28(火) 22:22
- 「そりゃ、でも、覚醒剤じゃないな。コークだ。コーク。」
「コーク?ってなんですか?」
「コカインだ、多分・・・。覚醒剤は普通水に溶かしてポンプでいれるんだ・・・。
お前の言う、鼻から、粘膜吸収させるのは、コカイン・・・もしくはヘロイン・・・。」
吐き捨てるように吉澤は言った。
「事は重大だ・・・。相当マズいことになってる・・・。」
覚醒剤とコカインの違いすら分からない絵里には、
何を質問していいのかさえ分からない。
「普通、コークをヤり始めた奴ってのは、耳掻き一杯分ほどの量を
スニッフィングさせるんだ・・・あ、鼻から吸うって事だ・・・。
お前が見た馬鹿はドローライン・・・をヤってる・・・かなりのベテランさんって訳だ・・・。」
「・・・。」
「覚醒剤よりはコークの方が依存症が薄いと聞くが・・・
しかしコークは、ゆっくりと・・・そして確実に・・・死んでゆく・・・。」
吉澤の顔が歪む。そして多少の落ち着きを取り戻したかに見えた絵里の目に
また、大粒の涙が溜まる。吉澤はそんな絵里の細い肩を右手で抱き寄せた。
「可哀想に。とんでもない場面に遭遇したな・・・。おめぇは一刻も早く忘れろ。
勿論、誰にも喋るんじゃねぇぞ?いいな?あとは俺がなんとかする・・・。」
「なんとかって・・・でも・・・どうやって・・・?」
「分からんが・・・とりあえず、あの馬鹿は後回しだ・・・。まずは・・・そうだな・・・
娘。の中で他にジャンキーがいないか、それとなく動いてみる・・・かな。」
「・・・。」
「分かったな、亀井?」
「吉澤さん・・・。」
「分かった、な?」
「あたしも手伝います。」
「・・・馬鹿か?下手すりゃ、今日よりも悲しい想いをしなきゃならんかも・・・」
「いいんです、覚悟は出来てます。辛い想いを吉澤さんにだけ押し付けて
あたし忘れるなんて、出来ません。あたしだって娘。の一員です。
藤本さんや、皆のことが心配です。そしてそれ以上に吉澤さんのことが心配です。
あたしじゃ足手まといにしかならないかもしれないけど、何かさせて下さい。」
それは初めて見せる絵里の顔だった。さっきまでベソをかいていたとは思えない
しっかりとした一点の曇りもない表情だった。
覚悟を決めた吉澤は答える代わりに両手で絵里を引き寄せ、きつく抱きしめた。
- 11 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/28(火) 23:04
- 今日はここまでです。
調子に乗って全部上げると来週の更新が出来なくなりそうな悪寒。
ペースを掴むまで、慎重に行かないと。
それから、プロローグもここまでです。
次回更新から第一章のスタートです。
- 12 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/31(金) 19:44
-
〜第一章〜
秋が急速に深まっていた。北側に見える山々には無数の紅葉が色づき、
空の青と絶妙なコントラストを演出する。
昨夜遅くに降った雨のせいで、足下がやや緩い。
めったにパンプスなど履かない吉澤ひとみが、ややバランスを崩しながら、
それでもようやく石の階段まで辿り着いた。
埼玉県のとある霊園。
吉澤は特別に嬉しいことや悲しいことがあった時、ここを訪れる。
以前は頻繁に来ていたのだが最近は時間があまりとれず、
今日はこの景色がひどく懐かしいものに見えた。
- 13 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/31(金) 19:46
- 黒のシックなスーツに黒いハイヒール。右手には途中で買った花束を抱えていた。
タイトなロングスカートには、バックにかなり高い位置までスリットが入っており
なだらかな階段の上り下りには、それほどの不自由さを感じない。
吉澤がここに来る時は必ず正装だった。ちゃんと化粧もする。
間違っても普段の寝巻き兼用のジャージでは来ない。
それはここに眠る人間が吉澤にとって、いかに大切な存在だったかを物語っている。
三十段ほどの階段を登りきった吉澤は、2ブロック先の目指す場所までゆっくりと歩を進めた。
そこには比較的新しい墓標が、きちんと手入れされた状態で立っていた。
友の墓前に花を手向け、薄茶のグラデーションになったサングラスをはずし傍らに置いた。
「久しぶりだね。」
ここに来れば、驚くほど素直になれる。普段好んで使う男言葉も影を潜め、
ありのままの吉澤ひとみでいられるのだ。
- 14 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/31(金) 19:49
- 「半年・・・ぶりかな?ごめんね、あまり来れなくて・・・。
今日は・・・悪い報告なんだ・・・。もう最悪なの。
うちのメンバーが・・・その・・・ドラッグに手を出したらしくて・・・。
ゴメン、久し振りなのに、こんな話で・・・。
・・・でも・・・アンタには話しておかなくちゃって・・・思ったの。
発覚すれば・・・間違いなく解散だよね・・・あたし達・・・。
マスコミに散々叩かれてさ・・・
なんとか・・・うまく収める方法ってないかな?
ドラッグやった馬鹿を助ける方法ってないかな?
あたし出来ることなら・・・モーニング娘。を続けたいよ・・・。
こんなことで終わってしまいたくないよ・・・。」
- 15 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/31(金) 19:52
- 途中からは完全に涙声になっていた。昨日、亀井絵里の前では強がってみせたが
ここでは吉澤もまた、一人の女の子だった。
暫くのあいだ同じ姿勢で語りかけていた吉澤は、最後に軽く目を閉じ、合掌した。
中指の腹で目尻を押さえ、サングラスを拾い上げる。
「本当にゴメン、近いうちまた来るよ。」
最後にそう言い残すと、あたりをうかがい、誰もいないのを確認して歩き出した。
頬にあたる風が、来た時より冷たくなった気がした。
- 16 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/31(金) 19:58
- 同じ時刻、亀井絵里は数学の授業の真っ最中だった。
ミニモニ。メンバーはTVのスタジオ収録で、朝から仕事をこなしてるが
娘。本体は午後からのリハがあるだけで、大人チームは午前中フリー、
中学生組は4時間目までは学校に出席していた。
絵里はなるべくであれば、進学したいという希望を持っていた。
せっかく高校までエスカレーター式の中学に通ってるんだし、そんなに勉強が嫌いでもない。
勿論、仕事と学業のどちらを取るかと聞かれれば、今は仕事だ。
現時点でかなりいっぱいいっぱいだが、それでも支障のない範囲で学校に通いたい。
ただ、矢口さんあたりに言わせると、今の中学生チームは恵まれているらしい。
辻加護なんていつ死んでもおかしくない状況だった、と。
あたしやさゆ、れいなの顔を見るたび、勉強してるか、と尋ねる。
- 17 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/31(金) 20:02
- でも今日だけはダメだ・・・。や、今日だけじゃなく、当分は勉強どころじゃない。
さっきから先生の言葉が、瞬時に遥か彼方へ通り過ぎてゆく。
数学はこの2〜3回出席できてなかったので、さっきから必死でノートをとろうとするのだが・・・。
どうしても昨日の事が頭から離れない。
藤本美貴がストローでコカインを吸った瞬間。
吉澤ひとみにおもいきり抱きしめられたコト。
そしてその後の、吉澤との会話・・・。
- 18 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/31(金) 20:05
- 『芸能界ってとこは、一般社会よりも遥かにドラッグが蔓延してる。
これは50の年寄りだろうが、17のガキだろうが一緒だ。年齢は関係ない。』
『はい。』
『だからキャシーマムがLSDを飲もうが、藤本美貴がコークをキメようが、なんら不思議ではない。』
『はい?』
『なんだ?』
『・・・キャシーマムがLSDを飲んでるんですかぁ?』
『バカモ〜ン!例えだ。50歳の例えが他に思いつかなかっただけだ。
キャシーマムは決してそんなことはしない。』
『じゃ、LSDって何ですかぁ?』
『飲むったって、ゴクゴク飲む訳じゃないぞ。それじゃ、即死だ。
もとは液体なんだが、細く千切った和紙とかを浸して、
その紙を飲み込む・・・。まぁ、廃人一直線のドラッグだな。』
『・・・質問なんですけど・・・。』
『さっきから色々聞いてるじゃないか?』
『や、マジ質問・・・。』
『なんだ?』
『・・・どうして、皆、それをするんですか?
犯罪なのに。廃人になっちゃうのに!死んじゃうかもしれないのに!!
まわりの人にいろんな迷惑をかけるのに!!!』
- 19 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/31(金) 20:12
- 『・・・それは俺にも分からんが・・・
うん・・・その瞬間は・・・気持ちいいからだろ・・・多分。サルと一緒だ・・・。
コークは特に・・・それが顕著に出るらしいからな・・・。
覚醒剤やマリファナだと、体質によってはダウンに効く奴も多い・・・らしい。
だけどコカインはほぼ例外なく・・・ハイを味わえる・・・という話だ・・・。』
終始茶化したような口ぶりの吉澤だったが、
絵里のマジ質問には一拍おいてから真剣な表情で答えた。
そのあと逆に、お前もやってみたいか、と聞かれた絵里は
目をギュッと瞑って、激しく首を横に振った。
肝心の、これからどうするかという話題にさしたる進展はなかった。
明日のリハのあとちょっと空けとけよ、と吉澤は力なく笑い、
あたし達は練習に戻った・・・。
- 20 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/31(金) 20:16
- そしてまた、目の前に藤本の後ろ姿が浮かんでくる。
その姿にサルがダブる。
サルがストローでコカインを吸う。
バカバカしくなった絵里はちょっと笑ってしまった。
今度は突然場面が変わり、吉澤ひとみに抱きしめられるあたし。
彼女はあたしのあごをやさしく持ち上げ、くちびるを重ね・・・
「!!!」
ナンダ、コレハ?
頭を振る。そんな事実はない。そんなこと絶対されてない。
じゃ、今のは何?もしかしてあたしの願望?
や、ありえない。第一、女同士じゃない。
いろんな事がありすぎて、軽いパニックになっただけだと自分に言い聞かせた時、
数学の時間の終了を知らせるチャイムが教室に鳴り響いた。
- 21 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/10/31(金) 20:38
- 今日はここまで。
読み返してみると、さっそく間違えてるし。
まいっか。
- 22 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/04(火) 21:39
- これは凄い。久しぶりの当たりの予感。
作者さんがんがれ。途中でなげると
- 23 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/06(木) 14:37
- 漏れの好きなネタ発見!ネタっちゅうかジャンルか
よしことえりりんも漏れの推しメンやしええ感じやな
- 24 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/07(金) 22:54
- 「こんな凄い所に住んでるんですかぁ?」
「別に凄かねぇよ。普通だろ?」
吉澤は慣れた手つきでマンションのオートロックを解除し、身体を斜めにして振り向き、
絵里に先に入れというジェスチャーで行動を促した。
口をあんぐり開けて上を向き、マンションを見渡していた絵里がそれに気付き、
パタパタと足音を立てて走り寄ってくる。
「や、凄いです〜。お家賃て、いくらするんですかぁ?」
「共益費込みで20万。」
「20万〜。すごぉ・・・。」
「最初は埼玉の実家からマジメに通ってたんだけど、なんせ不便だからな〜。
梨華ちゃんも一人で住み始めたし、俺もいっかなって。」
この日の合同リハーサルが終了したのが午後7時、
皆で食事や雑談をしてると9時を回ってしまっていた。
加えて、紺野と新垣が残って練習すると言い出したので
絵里と話をしたかった吉澤は、自分のマンションに誘った。
他の事情を知らないメンバーには、出来るかぎり秘密にして
自分達だけでまずはやってみようと吉澤が言い、絵里もそれに同意した。
- 25 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/07(金) 22:57
- 「言っとくが、メチャメチャ汚いぞ?
あとな、俺がここ借りてるのは皆知らないから、誰にも言うなよ?」
「誰も、ですか?」
「勿論、マネージャーさんとかは知ってるけど・・・部屋には入れたことない。お前が最初だ。」
お前が最初、の言葉に絵里の胸がドクンと鳴った。
授業中の妄想が蘇る。顔が少し赤くなったような気がした。
「おい、聞いてんのか?」
「・・・あっ、はい、勿論聞いてます。誰にも言いません。」
不謹慎だとは思ったが、このことで吉澤と色々な秘密を共有できて絵里は嬉しかった。
706と書かれた部屋のドアを開けて、二人は中に入る。
中は思ったより全然広かった。左右にドアがある廊下を抜けると
30畳くらいの空間があった。天井も普通よりかなり高い。
向って右側にキッチンとテーブル、中央にAV機器と応接セット、
左側にはセミダブルのベッドと巨大なタンスが二つならべてあった。
- 26 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/07(金) 22:58
- 「かっこいい部屋ですね。」
「そぉ?俺さあ、あんまり部屋がこまかく区切られてるのって好きじゃねえんだよ。
だからすっげぇ探した、この部屋。結構気に入ってんだ。」
「吉澤さんの雰囲気にピッタリです。」
嬉しそうな顔をした吉澤は適当に座れ、と言うとリモコンでテレビをつけた。
画面一杯にニュース番組が映し出される。
『次のニュースです。
今日、午後4時頃、東京奥多摩の山中で白骨化した二人の遺体が発見されました。
現在警視庁によって現場検証がおこなわれており、二人の遺体は
死後一年以上が経過したものと思われます。なお二人とも頭に拳銃で撃たれた形跡があり
警察では殺人と死体遺棄の容疑で、捜査を進める方針です・・・』
「ふ〜ん、撃たれたんだって。怖いねぇ。」
興味なさそうに吉澤はつぶやくと、何飲む?と立ち上がった。
なんでもいいです、と答えた絵里に冷蔵庫からペットボトルのお茶を出し
自分用にはコロナの栓を抜き、また同じ場所に座った。
- 27 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/07(金) 23:00
- 「で、藤本なんだけど。」
真面目な顔で向き直る。
「はい。」
絵里も吉澤の顔を見る。
「ありゃあ、絶対ヤってる、昨日今日と観察したけど、間違いねぇな。」
「そうですか・・・。」
絵里の表情が暗いものに変わる。
「今日、夏センセに動きが鈍いって、名指しで言われただろ。
で、そのあと休憩をはさんで再開すると、別人のようにキレてたろ?」
「あたしも、それ見てました。」
「休憩の時トイレ行って、キメやがったんだ。
後をつけようとしたらマコに捕まっちまって、行けなかったけど。」
テーブルの上に置いてあったコロナをつかみ一口あおる。
つられて絵里もペットボトルに手を伸ばす。
「何ですか、それ?」
「ん、コレ?コロナ。ライトビール。」
「へぇ、ちょっと、一口下さい。」
「バカ、アルコールは18歳未満は禁止だぞ。」
笑いながら絵里に差し出す。
コロナのビンを受け取った絵里は声に出して笑う。
別にビールが欲しかった訳ではない。これを飲むことで
吉澤との間接キスをしてみたかったのだ。
ドキドキしながら口をつけてみる。
「にが・・・。」
「それみろ。」
吉澤がビンを引ったくる。上を向いて豪快にガバガバと飲む。
それを見ながら絵里は昼間の妄想が、やっぱり自分の願望だったのだと認識した。
- 28 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/07(金) 23:02
- 「ごめんなさい、話の腰をおっちゃって。」
突然我に返った絵里は今度は自分から切り出す。
「他に怪しい雰囲気の人っていました?」
「それなんだけどよぉ、よくわかんねぇな、全員怪しいと言えば怪しいし
普通だと言えば普通なんだよな・・・。
ウチのメンバーって元からヘンなのが多いんだよ。お前はどう思う?」
逆に返されて、少し言葉に詰まった。
「・・・よく分かんないんですけど・・・あの、怒らないですか?」
「なんで怒るんだよ。いいから、言ってみ?」
「・・・昨日今日、と言うんじゃなくて、ここ最近ってことなんですけど・・・。」
「うん。」
「・・・辻さんが・・・何かヘンなんです・・・。」
「・・・つじぃぃぃ?」
予想外の名前が出てきて一瞬絶句したが、今度はその反動で一気に捲し立てた。
「あいつは元々が超変わってる奴なんだぞ?
ナチュラルでぶっとんでる奴なんだぞ?
喜怒哀楽が激しくて、人一倍感受性が強くて、メチャメチャ怖がりで、
それから・・・」
言いながら、吉澤は気がついた。
それって、ドラッグに落ちやすい性格の見本のようなものじゃないか?
喜怒哀楽が激しい。感受性が強い。そして怖がり・・・。
怖がりなら、手を出さないと思うかもしれないが、それは違う。
怖いからこそ、ドラッグに頼ってしまうのだ・・・。
- 29 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/07(金) 23:04
- 黙り込んでしまった吉澤に絵里は声をかけた。
「ごめんなさい、あたしの思い違いかもしれないですし・・・。」
「や、ないとは言い切れない。どこらへんがおかしいと思った?」
「・・・一言で言うと、不機嫌、なんです。・・・あたし達が入った頃の辻さんは
とにかく気を使ってくれました。凄く優しい感じだったんです。
・・・でも、ここ1ヶ月・・・2ヶ月くらいかな・・・は、なんか、怒ってる感じがして・・・。
あたし達に対してだけじゃなく、加護さんや石川さんといる時も・・・。」
「なるほどな・・・。言われてみると俺にも思い当たるフシがある。
うん、お前はよく見てるな。」
辻のあどけない笑顔が目に浮かんだ。
あいつがコカイン?
いつまでも子供だと思っていたあいつが?
変な話、藤本にドラッグというのは割と似合う。
やっていたとしても、なんら不思議はない。
しかし、辻は・・・。
はぁ、とため息を漏らした吉澤は、絵里の顔をまっすぐ見た。
「俺達がここでどうこう言ってても仕方がない。
もし辻まで本当にやってるんなら、グズグズしてられない。
直接、藤本にあたってみる。奴の鼻を折ってでも、真実を明らかにする。」
絵里が、こっくりと頷く。
- 30 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/07(金) 23:07
- 「よし、じゃあ、今日はもう遅いから、泊まっていけ。」
「!!」
「どした?」
「・・・や、あの、着替えもないですし・・・。」
「そんなの、俺の貸してやるよ、少し大きいかもしれんが。」
「・・・いいんですか・・・?」
「全然。さ、携帯だせ、お母さんに俺から言ってやる。」
突然の展開に戸惑う絵里をよそに、とびきりのよそ行きの声で電話をし始める。
この人はあたしの、この微妙な気持ちに気づいてるんだろうか?
や、気づいてるなら、帰れと言うだろう。
「よし、風呂に入れ。」
「ええっ、や、お先にどうぞ。」
「なんだよ〜、恥ずかしいのか?なんなら一緒に入るか?」
さっきまでのシリアスな吉澤さんはどこにいったんだ?
耳が赤くなったような気がして、おもわず髪をさわってしまう。
「可愛いなぁ〜。照れてやんの。じゃ、俺先入ってくるから〜。」
「・・・はい・・・。」
- 31 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/07(金) 23:09
- ドキドキしてきた。一体なんなのだろう。
吉澤さんは男っぽいけど女で、あたしも女だ。
でも、あたしは吉澤さんにキスされたいと思っている。
メンバー同士でふざけてするキスとは、また違った感情だ。
あたしはレズなんだろうか?
この先、マトモな恋愛なんて出来ないんだろうか?
う〜ん、それは困ったな・・・。
困る?本当にそうだろうか?
もし、吉澤さんがあたしを受け入れてくれるなら、
別に困らないんじゃないだろうか?
や、吉澤さんが受け入れてくれるなんて、あり得ない。
じゃ、やっぱり困る?
う〜ん・・・。
とりあえず、お茶を一口・・・。
- 32 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/07(金) 23:10
- 「え゛!!!」
顔を上げた瞬間、真っ裸の吉澤が入ってきた。
「気持ち良かった〜。お前も入ってこい。」
すっぽりとバスタオルをかぶり、頭をガシガシ拭いている。
裸を見られて恥ずかしいという素振りはまったくなさそうだ。
逆にあたしの方が死ぬほど恥ずかしい。
でも思ってたほど太い、という感じはなく、むしろ均整がとれてるように見える。
なにより、肌がメチャメチャ奇麗だった。
「は、早いんですね。」
ドギマギしながら、それだけ言うと絵里はバスルームに向かってダッシュした。
吉澤の、着替えとタオル出してあるから、と言う声も、ちゃんと聞こえてはいなかった。
風呂から上がった絵里は、吉澤のTシャツと短パンを着る。
当然、吉澤のように裸で出ていく勇気は絵里にはない。
普通の女友達だったとしても裸を見られるのは、かなり恥ずかしい。
一緒に温泉なんかに行ったとしても、タオルで完全ガードするだろう。
- 33 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/07(金) 23:13
- 「なぁ、あしたの収録何本撮りだったっけ?」
髪を乾かし部屋に入ってきた絵里に、既にベッドに転がっていた吉澤が尋ねる。
「え〜と、メインのコーナーが3本撮りで、コントは4本か5本だったと思います。」
「そっか、丸一日あんのか・・・もう寝なきゃな。」
また絵里のドキドキが始まる。
「あっ、あたしソファーで寝ますから。」
「何言ってんだよ、ベッドで一緒に寝りゃいいじゃないか。それとも俺とじゃ、嫌か?」
「全然、そんなことありません。吉澤さんのほうが嫌かなと思って。」
「嫌ならお前を部屋に呼んだり、泊まれって言ったりするかよ。」
「・・・ハイ。」
「じゃ、ホラ。」
少し身体を後ろにずらし、ポンポンとベッドを叩く。
絵里のドキドキが最高潮に達する。
「しっかし、お前、乳はショボイのに、いいケツしてるよな〜。」
「吉澤さん、まるっきりオッサンじゃないですかぁ?」
大笑いして少し緊張がほぐれた。この性格に随分助けられてると思う。
この状況で吉澤にマジになられたら、絵里は身が持たないだろう。
「電気消すぞ。じゃ、おやすみ〜。」
「おやすみなさい。」
暫くしてすぐに吉澤は寝息をたてはじめた。
リップを塗ったのか、くちびるが艶っぽく光っている。
暗闇に目が慣れてきた絵里は、目の前にある吉澤のくちびるを見つめながら
今日も眠れそうにないと感じていた。
- 34 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/07(金) 23:41
- 今日はここまでです。
>>22
こ、ころされるんですか?w
レスありがとうございます。
なげると、の後が気になりますが。遅れることはあるでしょうが、必ず完成させます。
>>23
レスありがとうございます。
そう言ってもらったのに、早速ハードボイルドじゃ無くなってます。すいません。
よしえり推しという所で今後もお付き合いください。
- 35 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/10(月) 23:12
- ※※※
藤本美貴はかなり後悔していた。
自分の部屋に一人でいると、どんどん鬱にはまっていく。
思い悩み、自分の中での困惑が時に拍車をかけ、苛立ちを募らせる。
さっき火をつけた煙草が一口も吸わないままで、半分以上が灰になり
自らの重みに耐えられなくなった先端から、緩いカーブを描いている。
煙草やアルコールはまだいい。いや、いい事は無いが、それでも
あと二年もすれば、堂々と人前でも吸える様になる。
アイドルの資質としては問われるかもしれないが、
その頃にはアイドルでもなくなっているだろう。
- 36 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/10(月) 23:14
- だが、あの正体不明の白い粉はどう考えても違う。
石川梨華にそそのかされ、自分だけならまだしも
まだ幼い辻希美や田中れいなを秘密の仲間に引き込んでしまった事。
そして最近では、その白い粉が手放せなくなっているという現実。
結局、一口も吸わなかった煙草を乱暴に灰皿に押し付け、頭を抱える。
自分はどうなってしまうのだろう?
もしバレたら、モーニング娘。はどうなってしまうんだろう?
白い粉の魔力が効いてる時は、無敵状態のエネルギーが身体の底から
満ち溢れてくるのだが、一旦その効力が消えうせると、いつもこの有り様だった。
言い表せぬ恐怖と混乱の中でまた、白い粉を吸ってしまう。
これ以上ない悪循環に、完全にはまりきっていた。
- 37 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/10(月) 23:46
- 頭を掻きむしり煙草の箱に手を伸ばしかけたとき、携帯の着信音が鳴った。
伸ばした手が、煙草ではなく携帯を拾い上げる。
液晶の表示を見ると石川からの電話だった。出ない訳にはいかない。
「・・・美貴。」
『あっ、ミキティ?あのさ、アレ、貰ってた分、今日でなくなっちゃった。
ののもまたやりたいって言ってたから、明日持ってきてくれる?』
「・・・。」
『・・・もしも〜し、ミキティ?聞こえてる?どうかした?』
「・・・うるせぇ、このバカ、もう止めにしろ!!」
電源を切って、携帯をベッドの上に叩きつける。
もう止めよう。止めなければいけない。自分も。石川も。もちろん、辻と田中も。
あいつらはまだ数回しかやってないから、そんなに難しくはない筈だ。
けど・・・、自分は本当に止められるんだろうか?
自問自答を何度も繰り返し、憔悴しきったその顔には一筋の涙が流れていた。
- 38 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/10(月) 23:49
- ※※※
翌日は朝から雨模様だった。
本格的に降る雨ではなくて、どんより曇った空から時折パラパラと落ちてくる雨が
美貴の気分を一層不快なものにさせていた。
集合時間ピッタリに楽屋に入った美貴は、
小さな声でおはようございます、と言いながら誰とも顔を合わせず、
隅のほうの誰もいないテーブルにカバンを置き、ゆっくりと椅子に腰掛けた。
早速、石川が駆け寄ってくる。
- 39 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/10(月) 23:53
- 「ミキティ、どういう事よ、昨日の電話?」
普段よりやや低めの声で、詰問調だったが、表情はそれ程でもない。
「・・・。」
「私、あれから何度もかけ直したんだからね。あのあと、電源切ってたでしょ?
なんかあったのかと思って、心配しちゃったじゃない。」
心配は別のところにしろ、と思った美貴だが、それを声には出さない。
「ちょっと疲れてたんだよね・・・。それから、アレはもう止めたほうがいい。」
小さい声で美貴は言った。
「あ〜っ、何よ、自分だけ。独り占めにする気でしょ?」
屈託なく喋る石川に猛烈に腹が立って、言い返そうとした時、
部屋のドアがノックされて、番組スタッフが入ってきた。
「それでは皆さん、収録を始めますのでスタジオに集まって下さい。」
よく通る声で、まだ若いアシスタントディレクターは言った。
- 40 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/10(月) 23:55
- 番組のデキは最悪だった。
もとより、自分から前に出ようという気があまりない美貴だが
今日はついに、最後まで一言も発言しなかった。
3本撮り、つまり3週間はこの番組において美貴はずっと無言だ。
楽しそうにゲームをするメンバー達の後ろで、凍りついたかのような表情で出演し続けた。
「はい、じゃあ、一旦休憩します。
コントに出演されるメンバーの方は16時から再開します。」
さっき楽屋に皆を呼びに来たADの声で、美貴は少し救われた気がした。
- 41 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/11(火) 00:24
- 「あ゛〜っ、3時になってようやく昼メシかよ〜。」
「さっきのゲーム、おもしろかったね〜。」
「今日の弁当、またしょうが焼きかなぁ?」
思い思いに好きなことを喋りながら、メンバー達がゾロゾロと楽屋に戻る。
そんな中で美貴に絵里が声をかけてきた。
「藤本さん、どうしたんですか?今日あまり元気がなかったみたいでしたけど?」
「や、そんな事ないよ。いつもの事じゃない。」
調子が悪いなどと言うと、必要以上に心配されると思った美貴は、努めて明るく言った。
「あの、お願いがあるんですけど、今日この収録が終わったら
ちょっと付き合ってもらえます?」
「・・・何?どしたの?」
「昨日練習した振り付けの分かんないとこがあるんで、教えてほしいんです。」
「・・・だったら、美貴じゃなくても、矢口さんとかに頼めば?」
「だめですよぉ。あたしと藤本さんでペアになって踊るとこなんですからぁ。
他の人は全然違う振りになってるじゃないですかぁ?」
「あぁ、あれね・・・。うーん、別の日とかになんないかな?」
「え〜っ、明日、朝から歌収録があるんで、出来たら今日のうちにやっときたいなぁ、なんて。」
- 42 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/11(火) 00:40
- 昨夜、吉澤と絵里で考えた美貴の誘い出し作戦である。
そこで吉澤が美貴を問い詰める、という計算だった。
「お願いです。時間そんなにとらせませんから。藤本さんが終わるまで待ってます。」
自分の言いたい事だけを言うと、パタパタと絵里は走り去っていった。
「あ、ちょ、ちょっと・・・」
これは困った事になった、と美貴は思った。
夜遅くまで収録を続けるだけでも気が狂いそうな状況の中、
終わった後に絵里とダンスの練習をしなければならない。
それはもはや、拷問に等しいものだった。
- 43 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/11(火) 00:41
- (もう一度だけ・・・)
昨日からずっと否定し続けてきた事を思い浮かべる。
そう、もう一度だけ。止めようと思って即座に皆が止められるなら
世界中で煙草を生産販売している会社は全部潰れてしまうだろう。
何もいっぺんに止めることはない。徐々にその使用量を減らし、
身体を慣らしながら、思いを完遂する。
もうそろそろ、丸一日コカインを身体に入れていない美貴は
自分に都合のいい様に理由を並べた。
同じ六期といっても、芸能界では自分の方が先輩なんだし、
ソロでいままでやってきたというプライドもある。
可愛い妹分、絵里のためになるなら仕方のない事だ、と自分に言い聞かせた。
- 44 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/11(火) 00:46
- 「吉澤さん、言ってきました。」
「よし、どうだった?」
「かなり迷惑そうな顔でしたけど、断わりはしなかったです。
待ってます、と言って走ってきちゃいました。」
「ごくろう、よくやった。」
「で、どうするんですか?」
「う〜ん、あとは、でたとこ勝負だな。うだうだ言ってきやがるとドツキまわしてやる。」
「ダメですよぉ、そんな事したら。顔とかハレたり、アザになったりしたら
吉澤さんが悪者になっちゃうじゃないですか?明日、歌撮りあるんですから。」
「そうかぁ、でもなぁ、奴があっさり認めるとはどうも思えんのだが。」
「だからと言って、殴っちゃダメです。」
「ま、そうなりそうになったら、お前が止めろ。」
暴れる吉澤を絵里が力ずくで抑えられる訳がない。
生まれたての赤ん坊に、いきなりマタドールをさせる様なものだ。
- 45 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/11(火) 00:51
- 「どう考えても無理です。それより・・・。」
「なんだ?」
「もし藤本さんが素直に認めて、謝ってきたりしたらどうなるんですか?」
「それでいいじゃないか。」
「じゃなくて、昨日吉澤さんが言ってた、その・・・コカインの出所の調査とか・・・。」
「奴の口を割らせれば出来るじゃん。」
「でも、そこから先に関しては、あたし達のする事じゃありません。
警察に言った方がいいんじゃないですか?」
「そこでケーサツに言うくらいなら、ハナから藤本を売りわたすよ。
それをしたくないから、出来る限りは自分でやりたいんだよ。」
「なら、藤本さんに二度とやらない事を誓わせて、そこで終わりにしませんか?」
「そりゃ、出来ねぇ相談だ。奴がどこからブツを買ってるか分からんが、
売人から藤本の名前が出る事だってあり得る。そうなりゃ芋づる式に事が発覚して奴は終わりだ。
それに俺自身のコトでもある訳だし。」
「吉澤さん自身のコト?」
「あ、や、なんでもない。」
- 46 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/11(火) 01:08
- 絵里はやっと気付いた。
最初にこの話をしたときから、なんかおかしいと思っていた事。
吉澤はあまりにも、詳しすぎる。ドラッグに関して。特にコカインの事に関して。
絵里の質問にも、ことごとく答えた。聞いてない事まで色々と教えてくれた。
(なんで吉澤さんはこんなに詳しいのだろう?)
吉澤がコカインに関して、嫌悪してるというのは話していてよく分かる。
まさか吉澤が常習者という訳ではないだろう。
(だったら、何故?あたしとの3年の人生の差が、知識の差になってるんだろうか?
世間の18歳は皆、このくらいの事は知ってるんだろうか?
この一連のコトが無かったとして、あたしは3年後にココまでの知識があるんだろうか?
答えは絶対にノーだ。吉澤さんはまだ、あたしの知らない何かを隠している・・・)
そう思った絵里は急に強い不安に襲われた。
- 47 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/11(火) 01:12
- 今日はここまで。
一部を変更したため、ブラウザ直打ちをやってみました。
間違えてないといいです。
- 48 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/11(火) 22:17
- タッカンのリフが聞こえてきそうなタイトルですね
>>41のセリフは上からヤグ、マコ、ののと推測しますが如何でしょう
スレ汚しスマソ
- 49 名前:48 投稿日:2003/11/11(火) 22:20
- 上げてしまった
重ね重ねスマソ
- 50 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/13(木) 21:56
- ***
「はい、OKです〜。」
「おつかれさまでした〜。」
「あ゛〜っ、やっと終わったぜぃ。」
「おつかれ〜。長かったなぁ。」
夜の9時を回って、やっと本日予定分の収録が終わった。
もっとも、先にアップしたメンバーはもうとっくに帰っている。
絵里の出番も既に終わっていたのだが、美貴を待って最後まで残っていた。
1時間ほど前に上がった吉澤は一足先に練習スタジオに向かい、二人が来るのを待っている。
- 51 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/13(木) 21:57
- 「あれ、亀井、どうしたの?こんな時間まで?」
楽屋に戻ろうとした飯田圭織に声をかけられる。
「や、あのぉ、このあと藤本さんに振り付けを教えてもらおうと思って待ってたんです。」
「ふじもと?あっそう・・・。
今日あの子ずっと心ここに在らずって感じだったから、
このあと呼び出して説教しようと思ってたんだけど・・・。
そういう事情なら、また今度にするわ。」
「すみません・・・。」
「なんでアンタが謝るのよ。じゃ、ちゃんと練習しなさいよ。
明日、完璧な亀井を期待してるから。」
「ハイ、おつかれさまです。」
「おつかれ〜。」
絵里にやさしく微笑んで、しなやかな身のこなしで飯田は歩いていった。
- 52 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/13(木) 21:59
- 着替えの済んだ美貴と二人でタクシーに乗り、スタジオへ向かう。
車の中でモジモジしていた美貴が、意を決したように振り返る。
「ゴメン、ちょっと、ウチに寄っていいかな?」
「・・・いいですけど、どうしたんですかぁ?」
「や、あの、忘れ物をして・・・。」
「今頃、忘れ物ですかぁ?」
TV局に忘れ物をしたというなら分かるが、本日の仕事が全て終了した後、家に忘れ物・・・?
怪しい、と絵里は思った。
ここからスタジオまで行くのに、美貴のマンションは多少の遠回りになるが、
まるきりの反対方向という訳ではない。
美貴にしてみれば、完全にコカインの切れたしまった状態で
こまかい言い訳を考える余裕は全く無かった。
(チッ、てめえがダンス練習に引っぱり出すから、アレが必要なんだろうが・・・)
美貴は心の中で、不審そうな絵里に悪態をついていた。
- 53 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/13(木) 22:00
- 「ちょっと待ってて、すぐ戻ってくるから。」
タクシーが指定した場所に車を止めると、美貴はマンションの中に消えていった。
(この苦しみもようやく終わりだ、あと少しの辛抱だ・・・)
ロックを解除しドアを開けた瞬間、部屋の電話が鳴った。
「くっそぉ、誰だ、こんな時間に!」
靴を脱ぐのももどかしく、部屋に入る。
コードレスの受話器を乱暴に拾い上げた。
『美貴?』
「あっ、お母さん!」
『どうしてるかと思ってね、元気かい?』
「うん、元気元気、どうしたの?」
『あんた、ちっとも連絡しないから、こちらからかけてやろうと思って。』
「あのさ、今ちょっと忙しいの。用が無いならまたにして。近いうち、必ず電話するから。」
母はまだ何か言いたそうだったが、美貴は強引に話を終わらせ受話器を置いた。
「お母さん、ゴメンよ。美貴は大バカ者だよ・・・。」
久し振りに母の声を聞き、良心の呵責に痛いほど苛まれる。
「今度美貴から電話する時は、この白い粉と完全に縁を切ってからにするよ・・・。」
美貴は暫く身体を動かすことが出来なかった。
- 54 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/13(木) 22:02
- (でも今は仕方ない。車も待ってる。)
前を見つめ自分に言い聞かせた美貴は、もう使わないと思っていた
ピルケースを掴み取り、玄関へと走る。
本当は部屋の中で吸引するつもりだったが、あまり絵里を待たせて変に思われるのも嫌なので
とりあえず、持っていく事にした。
再び美貴を乗せたタクシーは夜の街を静かに疾走し、
明かりの消えた練習スタジオのあるビルの前に滑り込む。
「ゴメン、ちょっとトイレ行って来る。スタジオ行ってて。」
我慢できず小走りになってしまった美貴を見送り、絵里は吉澤の携帯にコールする。
『おう、あんまり遅いんで寝そうになってたぜ。』
「ごめんなさい、今、藤本さんトイレに向かいました。」
『何ィ?どこだ?何階のトイレだ?』
「4階です。スタジオのある4階のトイレです。」
『ラジャー。お前も来い。』
- 55 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/13(木) 22:04
- 一番奥の個室に入り、鍵をしっかりと閉めた美貴は、
もどかしい手つきでピルケースを探り、取り出す。
適当なものが無かったので、ハードカバーの小説の上に粉をばらまき1列に整える。
専用にしている短いストローを鼻の穴にあて、逆の穴を中指で塞ぎ、ズッと一気に吸い込む。
・・・脳みその一番奥にまでハッキリ届く、稲妻にも似た快感。
さっきまでの自分とは別人の、新しく生まれ変わった藤本美貴が覚醒する。
世の中の全ての充実感を携えたかと錯覚するが如く。
もう一回、同じ行為を繰り返し、もう一方の穴からも命の息吹を吸い込んでやる。
キーンと遠くの方で音が鳴り、髪の毛の一本一本まで自在に動かせる気になってくる。
さっき母と話したあとの後悔は、既に過去のものだ。
力を蓄えた美貴はゆっくり立ち上がり、何もしてない便器に水を流す。
(さあ、亀井をシゴいてやるか・・・)
鍵をあけ、ドアを前に押した。
「!!!」
- 56 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/13(木) 22:05
- そこにいるはずの無い吉澤ひとみが、腕組みをし下を向いて立っていた。
「なっ、よ、よっすぃ、なんで、どうしたの?」
美貴の当然の問いには答えず、低い声で吉澤は言った。
「お前、鼻の下に白いモンがついてるぜぇ?」
「えっ!?」
条件反射のように鼻に手が行く。が、美貴はすぐに悟った。
(コイツは全てを知っている。その証拠にコイツはずっと下を向いたままで、
一度も美貴の顔を見ていない。普通なら鼻の下どころか、誰が出て来たかも分からない筈だ。
そうか、石川が腹いせに喋りやがったか。あのクソガキ、明日どうやって苛めてやろう)
美貴は吉澤の次の出方を伺った。
(コイツも石川の様にあの白い魔法の粉を無心するのだろうか?
この先、仲良く出来るかどうかは、全て次のお前の一言にかかってるんだぜ・・・)
コカインを満足いくまでキメたばかりの美貴に、本来のサディスティックな性格が現れる。
さあ、どうするんだ?吉澤に向かって一歩踏み出す。
「!」
吉澤一人だと思っていたトイレの中に、もう一人の姿があった。
スタジオで待ってる筈の絵里が、洗面台の前でこちらを見ている。
(・・・コイツ等二人で何をしようってんだ?)
- 57 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/13(木) 22:08
- 「・・・いつからだ?」
静かに吉澤は言った。
「お前の選択肢は2つ。そこで土下座して許しを請うか、
それとも俺にグシャグシャにノサレるか、お前が選べ。」
(そうか、やっぱりそう来たか。正義感の強いお前にピッタリだ・・・)
黙ってる美貴に、尚も言い放つ。
「まぁ、俺にノサレた後、結局は白状するハメになるんだから、
あまり無駄な事はしないほうがいいと思うが。」
相変わらず下を向いたままの、自信タップリな吉澤に、美貴はムカついてきた。
10分前の美貴なら言われるまでもなく、地べたに額を擦りつけていただろうが
残念ながら今は無敵状態だ。ここまで言われて平和的な解決は望むべくもなかった。
(ヤルならヤってやろうじゃねえか。この白ブタ。
パワーで多少劣るかもしれないが、スピードとテクニックは美貴様の方が数段上だ。
これでも北海道時代はストリートで実戦を何度も経験しているんだぜ。
奇襲をかければコイツなんざ一発だ)
- 58 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/13(木) 22:09
- 「言ってることがよく分からないんだけど?」
裏腹に笑みを浮かべながら、一歩前に出る。
吉澤が動かないのを見て、滑る様に、一気に間合いを詰めた美貴は
全身全霊を込めたパンチを繰り出す。
勝った、と思った瞬間、下を向いたままの吉澤が鋭くダッキングし間一髪でそれを躱す。
低い体勢を右足一本で堪え、反動で体重移動すると同時に腰を回転させ
ショートの右フックを美貴の左わき腹にめり込ませる。
骨と骨がぶつかる鈍い音が、タイル張りの狭いトイレに響く。
「ゲェッ!?」
一瞬、身体が浮いた美貴は、突然足が無くなってしまったかのように崩れ落ち、あたりを転げ回る。
「ゥグエエェェェェエエ」
凄まじい呻き声をあげながら、胃の中のものをそこら辺にまき散らす。
少しでも酸素を取り入れようと、口をパクパクさせるが息が吸えない。
- 59 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/13(木) 22:11
- 「言ったろ、無駄なことはするなって。」
元の腕を組んだ体勢に戻った吉澤は静かなままだった。
「まだやりたいか?」
涙と吐瀉物でグシャグシャになった顔の美貴は激しく首を振る。
「じゃ、話してくれるか?」
今度は縦に首を振るが、なにぶん息が出来ないので、手を上げて待ってくれ、の意思表示をする。
これ以上はないというくらいに口を大きく開け、
ろう人形の様に凍りついてる絵里に向かって、ニッと笑った吉澤は何も言わず
美貴が話せるようになるまで待った。
- 60 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/13(木) 22:26
- 今日はここまでです。
>>48
レスありがとうございます。
ラウドを知ってる人がココにいるのには驚きです。
セリフは自分の中では、矢口、新垣、紺野のつもりでした。
二行目はマコでもOKですが、最後のこんこんは譲れません。w
>>49
自分はsage進行をしてますが、特に理由はありません。
上げ、下げ、落ち、に関しては御自由にやってもらって結構です。
- 61 名前:名無し君 投稿日:2003/11/14(金) 02:02
- 更新キタ━━(゚∀゚)━━!!!!
よっす、強ぇぇぇ。
よっすぃカッケースレになってるようなW
- 62 名前:センリ 投稿日:2003/11/16(日) 09:49
- おもしろい!吉澤さんマジかっけぇ
- 63 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:13
- ***
1時間後、3人は美貴のマンションにいた。
吉澤のたった一発で文字通りボロボロになった美貴は、
スタジオ奥のシャワールームで身体を洗い、練習用に置いてあったジャージに着替える。
その間吉澤と絵里の二人は、美貴が汚してしまったトイレの床掃除をしながら待った。
シャワーから出て来た美貴は、両脇を吉澤と絵里に抱えられるようにして戻ってきた。
スタジオのあるビルで、タクシーの中で、この部屋に入ってきてからも
終始無言だった3人の中で、美貴が最初に重い口を開いた。
- 64 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:14
- 「で、どこから話せばいいの?」
「全てだ。」
吉澤が答える。
「まずは、どこからコカインを仕入れてるんだ?」
「仕入れるって・・・美貴は売人じゃないよ。人ぎきの悪い。」
「じゃ、アレをどうやって手に入れた?」
「間違って・・・拾った・・・。」
「拾った、だと?」
吉澤の眉が吊り上がる。
「ふざけるな!!バカも休み休み言え。ここはコロンビアじゃねぇ、日本だ。
この日本のどこにそんなもんが落ちてるんだ?」
「本当なんだから、しょうがないじゃないの。間違えたの。」
「詳しく話してみろ。」
テニスのゲームを見ているかのように美貴と吉澤を交互に見ていた絵里が
次に美貴の方を向いて止まる。
- 65 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:17
- 「・・・一年くらい前に美貴はキャンペーンで関西をまわったの。神戸、大阪、京都の順で。
あっ、勿論まだソロの時代なんだけど・・・それぞれの土地で一泊ずつとまって、
帰って来てみると、美貴のカバンがアレの入ったカバンと変わってたんだ・・・。
最後に泊まった京都のホテルでは、当然自分の服を着替えて詰め込んでる訳だから
その後、東京までのあいだに間違えて持ってきちゃったんだと思う。
「どこですり替わったか分からないのか?」
「全然分からない。で、美貴は家に帰ってから、そのカバンを二日程ほったらかしにしてて
あ、洗濯しなきゃ、と思って開けてみるとアレが出て来たんだ。」
「京都のホテルを出てからの行程は?」
「えっと・・・朝チェックアウトして・・・その日は握手会・・・だったと思う。
そう、神戸はミニステージがあって、大阪はTV出演で、京都だけ歌ってないんだ。」
「握手会の後は?」
「そのまま夕方、新幹線で帰って来た。」
「東京に着いてからは?」
「一旦、事務所に寄ってる・・・と思う。で、家に帰ってきた。」
「同じカバン?」
「そう、まったく同じ。ヴィトンのボストンバッグ。」
「今、それは?」
「待って、出してくる。」
- 66 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:20
- 美貴はリビングを出て、バッグを取りに行った。
全くあり得ない話では無い。
京都のホテルでのチェックアウト時、新幹線の中、東京についてからの移動中・・・
しかし、着替えの入ったバッグの美貴はそれほどでもないにしても、
相手のはヤバいブツが入ってる。当然、相当な注意をしていた筈だ。
どうやって間違える?吉澤の思考がそこで止まる。
「コレ。」
美貴はモノグラムのボストンバッグを持って入ってきた。
まだ脇腹を痛そうにしている。
- 67 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:23
- 中を見てみる。絵里もつられて首を伸ばし、興味深々といった表情で覗き込む。
最初にくしゃくしゃに丸めた新聞が出てくる。
それをのけると、黒い厚めのビニール袋に入ったガラスのビンが三本出て来た。
ビンを手に取った吉澤の目が光る。
1.5リットルのペットボトルぐらいの大きさだろうか、高さはそれほどでもない。
口の部分にゴムが貼り付けてあり、気密性は高いだろう。
蓋は太めの針金でバチッと留めれる、ピッタリ密着するタイプだ。
ビンの肩の所に幾何学的な模様が入っており、特徴のあるデザインになっている。
(これは・・・このビンは・・・まさか・・・)
その時絵里は吉澤の表情が変わったことに気づいた。
吉澤に想いをよせる絵里だからこそ分かった、ごく微妙な変化である。
(何、この反応は・・・吉澤さんの秘密に関係があるのかもしれない・・・)
- 68 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:25
- 「これは当時のまま、ずっと保管してたのか?」
吉澤は自らの思考を中断させて、現実に引き戻した。
「そう、クッション代わりの新聞もそのまま。もっとも中身が少し無くなってるけど。」
ビンを全部出して、3本並べてみる。一番上に乗ってたビンだけ、ほんの少し、嵩が低かった。
そのビンを開け中に指を入れる。少量の粉をすくい、手の甲に乗せ、舐めてみる。
(やっぱり、コカイン・・・。かなり純度が高いな・・・。
ひとつ1キロで3キロか・・・。混ぜ物を入れて倍の量にする・・・6キロ・・・
グラム1万5千円として、9000万・・・2万円で捌いたとして・・・末端価格で1億2千万・・・)
「吉澤さん、そんなの舐めてみて、わかるんですかぁ?」
思わず絵里が声をかける。
「ええっ、や、砂糖みたいだと思ったら舐めちゃった。苦いぜぇ〜コレ。」
咄嗟におどけてみせたが、頭は別の事を考えていた。
(1億からのブツをなくした組織はどうするんだろう?絶対に無事では済まない)
- 69 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:29
- 「で、お前のバッグには何が入ってた?」
「着替え。服と下着と、あと京都で買ったお土産。」
「他には?」
「それは美貴も随分思いだしてみたんだけど、本当にそれだけみたい。
財布や携帯やスケジュール帳とかは、いつも持ってるトートに入れておいたし。」
「歌の衣装は?」
「それはマネージャーさんとか、スタッフさんが全部。」
「お前のものと分かるような物は絶対に無いんだな?」
「と思うよ。」
「プリクラとか貼ってあったとか?」
「何に貼るのよ、そんなもん。」
「パンツにマジックで『ふじもとみき』って書いてあったとか?」
ずっと張りつめていた美貴と絵里がここに来て、初めて笑い声を上げた。
「あたしゃ、小学1年生か?」
吉澤もつられて笑う。
「よっすぃの言いたいことは分かる。美貴も最初は凄い怖かったんだけど、
もう一年以上も経つのに、なんの音沙汰も無し。
向こうだって、捜しようがないし、仕方ないと思ってるんじゃないの?」
- 70 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:31
- 美貴の言うことも、もっともである。これを持ってた組織がどれだけ大きいものか
分からないが、この状況では手も足も出せないのかもしれない。
とりあえず美貴の安全が保証されたのにホッとし、自らの追跡が途切れたことに少し落胆した。
「で、3ヶ月、半年と経つにつれて、怖さは段々と無くなっていった。
逆に美貴のカバンを返してよって気になってきた。
この世に、美貴のはいたパンツを持ってニヤニヤしてる変態オヤジが
いるかと思うと、気持ち悪くてしょうがない。」
「そりゃ、ま、気持ちは分かる。」
- 71 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:33
- 吉澤は話題を次に進める。
「で、俺の最大の疑問なんだが。」
「なに?」
「なんでコレがコカインと分かった?何故、吸引するようになったんだ?」
「それは・・・石川が・・・」
「梨華ちゃん?」
吉澤と絵里は同時に顔を見合わせる。
「あれ、石川に聞いてきたんじゃなかったの?てっきり、そう思ってたんだけど。」
「や、何で?」
「昨日の夜、またよこせって、電話があった。美貴はもう止めろって断ったんだけど
その腹いせによっすぃにチクったのかなって。」
「や、全くの初耳だ。あいつが一枚噛んでるなんて思ってもみなかった。」
「じゃ、なんで美貴がコレをやってるって分かったの?」
「あたしが見たんです。」
絵里が会話に割って入る。
「一昨日、リハーサル前にスタジオで見たんです。あたし、怖くなって
その時、鉢合わせした吉澤さんに相談したんです。」
「あぁ、あの時か・・・。」
黙ってしまった美貴に吉澤が顎をしゃくって、話の続きを催促した。
- 72 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:36
- 「美貴はコレが一目見て、ヤバいもんだって分かった。覚醒剤かなんかだろうって。
で、どうしようか凄く悩んだの。警察に言おうとも思ったけど、面倒になるのが嫌で。
その頃、ソロで段々仕事が忙しくなってきて、そんな事で話題になりたくないって。」
「う〜ん、まぁ分かるな・・・。」
「で、この春過ぎまでは怖いというのもあって、誰にも相談出来なくて、
ずっと、手をつけずにそのままにして持ってた。
その間、美貴は娘。に入ったりで、ガラリと生活が変わったの。
ある日、収録で遅くなったときに、泊まりに来た石川に話してみた。」
「いま、俺達に言った事全部か?」
「そう、ほとんど。石川は意外なことに、面白そうじゃない、と言ったんだ。」
「あのバカ・・・。ファッキン・ニガー・・・。」
「でも、その日は何もしなかった。で、数日が経って石川は一本のDVDを持ってきた。」
「DVD?」
「うん、アメリカ映画の。タイトルは忘れたけど、若いミュージシャンが
いろんな事を乗り越えて、メジャーになってくサクセスストーリー。
その中で主人公が白い粉を・・・映画の中ではスノーとかコークと言ってた・・・
鼻から吸うシーンが何回も出て来て、その度、成功に近づくの。
重要なオーディションの前とかは、当たり前のようにやってた。」
「バカ、そんなの映画の中のことじゃないか。」
「もちろん、分かってる。でも石川が、ねぇ、これじゃない?やってみようよって
しつこかったから、ついフラッと。」
「フラッとじゃねぇ、バカ野郎!」
- 73 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:42
- 吉澤は大きな声を出した。美貴にむかって、そしてここにはいない石川にむかって。
同期で娘。に入り、石川に対する思い入れは強い。
最近ではケンカをする事も多いが、根底の部分では絶大の信頼をしていたのに・・・。
「これがもし、毒物とかだったらお前ら、死んでるんだぞ!!」
「・・・うん・・・。」
「そうじゃなかったとしても、もっと強力な、例えばヘロインとか、だったりしたら
廃人になってるんだぞ!!」
叫びながら、吉澤の目尻に涙が滲む。
「・・・ごめんなさい・・・。」
あまりの吉澤の迫力に美貴が、そして絵里までもが小さく震える。
- 74 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:45
- (まったくの偶然だったって事か・・・。手に入れた方法も、やり始めた経緯も・・・
クラブの黒服や、立ちんぼの不良外人から買ってなかっただけマシか・・・
それにしても・・・何か分からない物を、好奇心だけでいとも簡単に吸い込むとは・・・
や、そうなのかもしれない、あたしだってあの事がなければ、この二人と大差ないのかも・・・)
「ゴメン、反省してる。」
俯いてしまった吉澤に美貴が声をかける。
「・・・でもやってみると、今まで経験したことの無い気持ちになって、だんだんと・・・」
固く握りしめていた拳の力を抜き、落ち着きを取り戻した吉澤があとに続ける。
「半年くらい続けてしまったって訳か・・・で、使用頻度は?」
「・・・最近は1日2〜3回やらないと、ダメだった・・・。でも、もう止めようと思って
今日は丸一日、我慢してた・・・亀井ちゃんが練習に誘わなければ・・・。」
でもやらなかった、という自信はあまり無い。
- 75 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:47
- 「一回の量は?」
「うーん、1グラムくらい・・・じゃないかな?」
(1日2グラムを半年か・・・。心を強く持てば、まだ戻ってこれるだろう・・・。
絶対に止めるんだという強靱な精神力をうえこめば、こいつはまだ救える)
吉澤は少しホッとした。
「梨華ちゃんも、同じだけやってるのか?」
「や、石川には、そんなに渡してない。最初に一緒にやってから
・・・そうだなぁ、月に4〜5回くらいだと思う。ただ問題は・・・。」
美貴がそこで言葉を切ったので吉澤は嫌な予感がした。
「ののか?」
ビックリした表情で美貴が顔を上げる。
「やっぱりか・・・亀井、お前のカンが当たってたな。」
「や、でもハズれてほしかったですけど・・・。」
「まぁな、そりゃ俺だってそうだけど・・・おい、それで全員だな?」
また美貴がうつむく。
「あと、田中ちゃんも・・・。」
「れいな!?」
絵里が素っ頓狂な声を出す。
「・・・ったく、おめぇは・・・中学二年の子にコークを与えて、どうしようってんだ?」
「ゴメン・・・でも、おとめの時に石川がその二人に喋っちゃって・・・。」
「また、あのバカか?」
腕を組み、暫く吉澤は考え込む。
「よし、分かった。あとの三人については、俺に任せろ。他に隠してる事は無いか?」
「うん、ないと思う。」
全てを吉澤に話した事で、美貴の顔が少し穏やかになった。
- 76 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:51
- 「じゃ、もう遅いし俺等は帰るよ。当然コレは預かっていく。」
ビンをカバンに詰め込み立ち上がる。
「行こうか、亀井。」
絵里はウンと頷き、吉澤のあとに続く。
「よっすぃ。」
振り向いた吉澤に美貴が声をかける。
「ごめん・・・ありがとう・・・感謝してる・・・。」
「まぁ、済んだことだ・・・。
それよりお前は今から大変だぞ?シャブほどでは無いらしいが
それでもコークが身体から抜けるまでには、時間がかかる。耐えられるか?」
「耐える、耐えてみせる・・・。あっ、これも持って帰って。」
ピルケースを取りだし、吉澤に放り投げる。
「・・・分かってるとは思うが、絶対に誰にも喋るな、約束出来るか?」
「ハイ。」
「じゃな。」
「おやすみなさい。」
最後に絵里がペコッと頭を下げ二人は出ていった。
「・・・おやすみ・・・。」
- 77 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 01:55
- 「意外な展開でしたね。」
「あぁ、さすがの俺もブッたまげた。」
「まさか、れいなが入っているとは・・・。」
「俺だって、梨華ちゃんが誘ったっていうのが結構ショックでな。」
「そうですよね。」
「お互い、バカな同期を持ってるよな。」
ハハハ、と渇いた声で吉澤は笑った。
「笑い事じゃないですよ、四期二人に六期二人なんですから。」
「そりゃそうだ。でも上の人がからんでなくて、それはホッとしたけどな。」
「もし、飯田さんとか、安倍さん、矢口さんがやってたら、どうしたんですかぁ?」
「・・・同じ事だ。悪いことは悪いと教える。」
カッコイイ、と絵里は思った。
「ビックリしたと言えば、トイレで藤本さんが殴りかかってきた時は本当にビックリしました。
あっ、吉澤さん、やられちゃったって。」
「ハハハ、お前、南極2号みたいな顔になってたもんな。」
「ちぃがぁ〜ぅ・・・? 南極2号って、なんですかぁ?」
「や、知らなきゃいい。おっ、もう12時過ぎてるじゃねぇか。
今日もウチ泊まってくか?」
「ハイ!」
絵里は吉澤の手に腕を回し、小走りに引きずって行こうとした。
- 78 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/18(火) 02:15
- 今日はここまでです。
次回の更新までちょっと(10日くらい?)開くかもしれません。
ごめんなさい。もちろん私事が片づき次第、戻ってきます。
>>61
レスありがとうございます。
男前一行スレですか?あそこは自分も何回か書き込んだことがあります。w
>>62
レスありがとうございます。
まだまだ見せ場はやってくると思いますので、これからも御贔屓にお願いします。
- 79 名前:ss.com 投稿日:2003/11/22(土) 00:15
-
ウーン、実に気になる終わり方ですね、
小走りに引きずって行こうとした。したら、どうした!?
気になって眠れん(笑)
それと、ミキティはやけに沈んだ感じの時と、やたらハイテンションな時がありますね。
まさか、現実にコーク使用してるなんて事はないだろうな…
- 80 名前:名無し君 投稿日:2003/11/27(木) 20:56
- 大佐、そろそろ10日がたつのですが、
などと言ってみる。
- 81 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/29(土) 01:49
- 【おわびとひとりごと】
おわび。
前回の更新分でコピペミスがあったので訂正させていただきます。
70と71の間と77のあとに文章が抜け落ちてました。
>>70
(気持ちは分かるが、そのオヤジはニヤニヤなんてしてないと思うぞ。
おめぇの使用済みパンツなんざ、専門店に持っていったところで、5千円とか1万円くらいのもんだろ・・・
『藤本美貴がはいた』という冠がついたとしても、ゼロが1コ増えるかどうか・・・
それに比べて相手が持っていたのは1億のカバンなんだぞ・・・ケタが違いすぎる・・・)
>>71
と続きます。そして
>>77
「わっ、なんだよ。今日はやけにハシャいでるじゃないか? 昨日はかなり恥ずかしがってたくせに。」
「へへっ、そうでしたっけ? いいんです。コマかい事は気にしないで下さい。」
両手をポケットに突っ込んで悠然と歩く吉澤に、その腕を組んでチョコチョコと早足の絵里。
後ろから見ると恋人同士のような二人の姿は、やがて銀杏並木が続く深夜の歩道に溶けていった。
になります。77の後はまだ更新してないんですが、一応ここまでが第一章になるので
次の更新の頭には入れられませんでした。ごめんなさい。お詫びして訂正します。
- 82 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/29(土) 01:50
- ひとりごと。
前回の更新の後、案内板を見てたら日スレで自分の小説がちょっとだけ話題になってた。
こんな内容にもかかわらず、わりと好意的な意見が多かったので嬉しい。
それプラス、指摘してもらった部分がかなりありがたい。
無駄な描写を書きすぎというのは全くその通りで、気をつけてはいるんだけどなかなか難しい。
名前欄は・・・知らなかった。自分のHNが話の邪魔をしてたなんて。
慌てて他のスレを見てみると、皆サブタイトルなんかをオシャレにいれてるし。
うわっ、恥ずかし〜。名前欄なのだから名前をいれるものだとばかり思ってた。
という訳で、なんか考えよう。決まるまではとりあえず_でいこうと思う。
好きだと言ってくれた496さんには悪いけど、むしろシリアスに読んでほしいし。
言葉遣いに関しては・・・もうしょうがない・・・今更キャラは変えられない。
あとはコミカルな場面で少し優しい口調にしよう。
色々とバカをさらけだしておりますが、これからもよろしくお願いします。
- 83 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/11/29(土) 01:58
- >>79
レスありがとうございます。
怒ります? 上の書き込みを見ていただけると分かると思うんですが
コピペミスで途中で終わった挙げ句、何もなかったなんて・・・本当にごめんなさい。
睡眠不足は大丈夫でしょうか? 添い寝をしてあげられないのが残念でなりません。w
>まさか、現実にコーク使用してるなんて事はないだろうな
ぶっちゃけ、コカインジャンキーの効果が切れたときというのはすぐに分かります。
焦点の合ってない目がキョロキョロと宙をさまよい、身体は小刻みに震え、落ち着きが無くなります。
体質などの個人差もありますが、どっからどう見ても立派な挙動不審者になるわけです。
ですから自分の話の中に出てくる『凍りついたかのような表情で出演し続けた。』 >>40より
というのは本当はちょっと違うんですよ。
>>80
レスありがとうございます。
実は、ややこしい仕事が立て続けにまわってきまして(罰ゲームかと思うほどの)
泣きそうになっております。年内は週一くらいのペースも危ない状況です。
何卒暖かい目で見てやって下さい。
- 84 名前:ss.com 投稿日:2003/11/29(土) 07:15
-
>怒ります?
大激怒ってウソウソ。
今後のヨシカメの関係、そして、禁断症状と戦うミキティに超期待してます。
お忙しいみたいですね。無理をなさらず頑張って下さい。
応援してます!
- 85 名前:ss.com 投稿日:2003/11/29(土) 07:18
-
すみません!sageるの忘れてました。
どうか、お許しを!
そういえば、もう一言
> >>40よりというのは本当はちょっと違うんですよ。
安心しました。
- 86 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/29(土) 18:20
- ☆ノハヽ
ノノ*^ー^)つ〃∩ ヘェーヘェーヘェー
現実にやってる人がわかるんですか
例えば芸能人でこの人怪しいって人いますか?
- 87 名前:_ 投稿日:2003/11/30(日) 23:04
-
〜第二章〜
・・・保健室・・・?
そうだ、保健室だ。
今日はインフルエンザの予防接種だったんだ。
終わった子が泣きそうになりながら、次々に保健室を出ていく。
「ねぇ、痛かった?」
誰も答えてくれない。
なんでだろ?
まぁ、いいけど。
こうゆう時、吉澤って名字は損だ。
出席番号の順番にされるので、決まって最後の方だ。
まぁ、背の高さで並ばされたとしても、一番大きい私が最後なんだろうけど。
出来れば嫌な事は、さっさと済ましてしまいたい。
あ、もう次が私の番だ。
私の前にいた子が終わった。
あれ、アンタ誰?
こんな子、ウチのクラスにいたっけ?
・・・どうでもいいや。
私はまるい椅子に座る。
ブラウスの袖をまくり上げ、腕を差し出す。
あれ、さっきまでの先生は?
目の前には、白衣を着た医者ではなく、黒いスーツの男がいた。
- 88 名前:_ 投稿日:2003/11/30(日) 23:06
- えっ、それは・・・。
スーパークラックと呼ばれる、純度95%のコカインの水溶液じゃないの?
そんなもの注射されたら死んじゃうよ。
なんで私だけソレなの?
なんか、おかしくない?
不意に強い力で押さえ付けられる。
「うわっ、やめろ!」
周りを見ると、さっきまではいなかった4〜5人の男達に囲まれている。
「やめろ!」
私の声はあっさり無視され、二の腕にゴムのチューブがまかれる。
「やめろってば!」
押さえ付けられた腕に、ゆっくりと針が刺さる。
極限の恐怖に身体が震えだす。
針の先が静脈に届いたため、注射器内の水溶液に赤いものが混じる。
暴れることも出来ず、私は呆然とその光景を見ていた。
腕のチューブが外されると一旦ピストンを引き、少量の血を吸い上げる。
スーパークラックの水溶液が完全な赤になった所で、今度はピストンが押されていく・・・
「やめろぉぉぉ〜っ!!!」
- 89 名前:_ 投稿日:2003/11/30(日) 23:09
- 気付くと、目の前には心配そうな顔をした絵里がいた。
(夢か・・・)
「大丈夫ですか?凄く魘されてましたけど・・・」
絵里は枕から頭を持ち上げ、吉澤の顔にかかった髪を優しく後ろに撫で付けていた。
大丈夫、と言いたかったけど、声に出すと泣いてしまいそうだった吉澤は、
咄嗟に絵里を引き寄せ、その小さな胸に顔をうずめた。
「ちょ、吉澤さん・・・?」
両脇を差された状態でしがみつかれた絵里の身体は全く動く事が出来ない。
吉澤が心配なのは勿論なのだが、突然こういう体勢になられるとどうしていいのか分からない。
鼓動が早くなっていくのが、自分でもハッキリ分かる。
ノーブラでTシャツ一枚の絵里が、それを吉澤に悟られるんじゃないかと思うと余計にドキドキする。
(ま、いっか、滅多に無い状況だし・・・それにしても、吉澤さんでもこんなことがあるんだ・・・)
どちらかと言うと、絵里は吉澤の強くカッコイイ所に惹かれていたが、
こういう弱々しい吉澤も悪くはない。いや、むしろ可愛い、とさえ思った。
自然と、上半身で唯一自由になる両手で、やさしく吉澤の頭を抱きしめた。
- 90 名前:_ 投稿日:2003/11/30(日) 23:12
- 吉澤の呼吸で胸があったかくなってきた。
どれくらいの時間が経ったんだろう。10分・・・? いや1時間くらい・・・?
ずっと同じ体勢でいる事が少し辛くなり始めた頃、何時?と吉澤が聞いてきた。
時計を見るため身体を捻ろうとするのだが、しがみつく吉澤の力が強く動けない。
首をさらに捻り、ようやく壁に掛かった時計を見た絵里は、7時半です、と答えた。
「そうか、もう起きなきゃ。」
と言った吉澤はようやく手を放し、そのままズズッと上に伸びあがってきた。
絵里の目の前に吉澤のアップが来た。顔が近い。
くちびるをチュウの形に突き出して2〜3センチあごを上げれば、キスできるくらいの距離だった。
「ゴメン、もう落ち着いた。」
少し照れた感じの吉澤が、何故かヒソヒソ話をする要領で言う。
「それは良かったです。」
吉澤以上に照れている絵里も、つられて小さな声で返す。
「あのさ。」
「ハイ?」
吉澤のしなやかな指が絵里の顎のあたりを優しく撫でる。
「・・・や、なんでもない。」
「なんですか、言ってくださいよ。」
「・・・。」
そのあと暫く二人はそのまま見つめ合う。吉澤の指の動きは止まらない。
「・・・ぁ・・・」
その雰囲気に耐えられなくなった絵里の口元から、小さな吐息が漏れる。
- 91 名前:_ 投稿日:2003/11/30(日) 23:14
- 「もう起きなきゃ。」
さっきのセリフを繰り返し言った吉澤は、悪戯っぽく笑い、ペロッと絵里の鼻先を舐めた。
「わっ! なにするんですかぁ、も〜。」
笑いながら抗議する絵里を尻目に、腹筋を使って勢いよく上半身を起こした。
ベッドから降りた吉澤は、絵里に背を向けジャージを脱ぎ始める。
「俺、シャワー浴びてくる。」
言いながらもどんどん脱いでいく。
「ハイ。」
「怖い夢を見たんだけど、お前が何も言わず抱きしめてくれたおかげで、すっげぇ落ち着いた。」
「・・・ハイ。」
自然と絵里の顔が笑顔になる。
絵里の目の前で全裸になった吉澤は、バスルームにむかって歩きかけ、すぐに立ち止まる。
クルッと向きを変え、今度はゆっくり絵里に近づいてくる。
「・・・ぇ・・・?」
状況が飲み込めず目を白黒させる絵里のそばにしゃがみ込んだ吉澤は、その頬にチュッとキスをし、
「サンキュ。」
と笑顔で言って立ち上がり、うぉっ、さみぃ〜、と叫びながらバスルームへ歩いていった。
キスされた頬を手で押さえ、呆然とそれを見送る。
カーテンの隙間から漏れる朝日が、吉澤の裸体を美しく浮かび上がらせる。
ベッドから身体を起こそうと思った絵里は、腰が抜けている事にそこで初めて気が付いた。
- 92 名前:_ 投稿日:2003/11/30(日) 23:16
- ***
「おはようございま〜す。」
9時半前に吉澤と絵里はCX制作のスタジオの楽屋に入った。
集合時間までまだ30分以上もあるのに、ほとんどのメンバーが顔を揃えていた。
そこにいなかったのは飯田と美貴の二人だ。
マンガを読んでいる矢口真里の隣に吉澤が座り、その向かいに絵里が腰掛けた。
「矢口さん、おはようございます。」
「おはようございます。」
「あぁ、よっすぃ、おはよう。おっ、亀井もおはよう。」
「ねぇ、カヲリンがまだ来てないなんて珍しいっすね。」
吉澤が矢口に話しかける。
「カヲ? もうとっくに来てるよ。」
マンガから顔を上げ矢口は笑顔で答える。
「あれ、姿が見えないから、まだなのかと思った。」
「さっき、チーフマネージャーに呼ばれて出ていったけど・・・会わなかった?」
「や、見てないっす。」
- 93 名前:_ 投稿日:2003/11/30(日) 23:17
- 矢口がマンガを閉じて傍らに置き、意味あり気に吉澤の顔を見る。
「ねぇねぇ、オイラ、アレだと思うんだけど。」
「アレ?」
「チーフマネージャーが現場に来るなんて、最近珍しいじゃない?」
「そう言えば、そぉっすね。」
「だから、アレ。」
「は?」
「今度はチーフマネージャーを使ってのドッキリ。
カヲが帰って来ないで、今度なっちが呼ばれたら、絶対そうだと思うんだ〜。」
嬉しそうに矢口は言った。
「もしかして、アレって、アレ?」
「そう。アレ。」
「や、それは無いと思いますよ。だってこの間、第三弾のオンエアやったばっかじゃないですか?」
「だから〜、ウチらを油断させといて、間髪入れずに、第四弾。」
「・・・今度はなんですかねぇ。」
「またテストじゃない? だって六期はテストやってないでしょ?」
「や、絶対ないっすよ。」
「賭けるか、晩メシ?」
「いいっすよ、受けて立ちましょう。」
「よ〜し、亀井、アンタが証人だからね?」
「ハイ。」
絵里が笑顔で頷いた瞬間、青い顔をした飯田が楽屋に入って来た。
「よ〜っしゃ〜、晩メシゲット〜。」
賭け成立からわずか1秒で敗れた矢口は崩れ落ち、吉澤と絵里は満面の笑みでハイタッチをする。
- 94 名前:_ 投稿日:2003/11/30(日) 23:21
- 「ちょっとみんな集まって。」
緊張した面持ちで飯田が声を張り上げ、ただならぬ雰囲気に皆が一斉に立ち上がる。
吉澤と絵里も輪に加わり、遅れて矢口が駆け寄ってくる。
「今、チーフマネージャーから聞いたんだけど、昨日の深夜に藤本が自宅の風呂場で転倒し
浴槽のへりに脇腹を打ちつけ、肋骨を2本、骨折したらしいです。」
娘。達がざわつく中、吉澤と絵里は思わず顔を見合わせる。
「藤本は自分で救急車を呼んで近くの病院に搬送され、今日早朝、東京女子医大に転院したそうです。」
ざわめきが大きくなり、うしろから矢口が、静かにしろ、と一喝し飯田に目配せする。
「え〜と、藤本の怪我が完治するまでは、当分のあいだ14人体制になります。
それで、今日の歌収録は時間をずらしてもらって、昼過ぎから行ないます。
若干フォーメーションに変更が出るため、今、夏先生がこっちに向かってくれてます。
夏先生が着き次第ここのBスタジオを借りて、振りの変更の確認をします。
で、本来の昼からの予定、各個人の取材とかラジオ収録は現在調整中なので、
あとから、それぞれ担当マネージャーに聞いて下さい。以上です。なにか質問は?」
「怪我は酷いんですか?」
たまらず吉澤が声をかける。
「や、チーフマネージャーが言うには、至って元気らしいよ。皆に悪いって言ってて。
ただ、全治4週間で、10日程度の入院が必要らしいけど。」
「お見舞いに行けますか?」
「行くのはいいけど、大勢でゾロゾロはやめてね。多くても3〜4人ずつくらいで。」
そんなに心配するな、と言いたげな表情で飯田が答えた。
「他には? 質問がなければこれで解散。あと、おとめだけ残って。」
- 95 名前:_ 投稿日:2003/11/30(日) 23:23
- おとめ組のミーティングが始まり、さくらのメンバーはそれぞれが元いた席に戻る。
「あいつ、また飲んでたんじゃないだろうな?」
矢口の問いに吉澤は、はぁ、と生返事をする。
「運動神経のいいミキティが風呂場でこけて、しかもアバラを折るなんて、おかしくない?」
尚も独り言のように、矢口は続ける。
「でも風呂場って結構危ないですよ。泡で滑ったりしますし。
藤本さんだって人間ですから、こける事だってありますよ。」
絵里が吉澤に代わって答える。
「そりゃ、まぁ、な。
けどさ、昨日カヲとも言ってたんだけど、なんかミキティって最近おかしいんだよね。」
突然ウワの空になってしまった吉澤ではなく、今度は反応してくれた絵里に話しかける。
「それは・・・そうみたいでしたけど、怪我が治ってきたら多分大丈夫なんじゃないでしょうかね。」
「なんで? なんかミキティについて知ってるの?」
「や、そんな気がしただけです。なんにも知らないですよ。」
横目でチラッと吉澤を見ながら絵里が必死に首を振る。
相変わらず、吉澤は一点を見つめたまま固まってしまっている。
- 96 名前:_ 投稿日:2003/11/30(日) 23:25
- 「そういえば、カヲから聞いたんだけど、アンタ、昨日の収録が終わってから
ミキティと一緒だったんだよね? 振りの練習とかで。」
「あ、ハイ。でもすぐに終わって帰りましたけど。」
今の吉澤に期待出来ない絵里はなんとかここは自力で凌ぐしかない。
「ふーん、練習してる時はどうだった?」
「や、普通だったと思いますけど。」
「そぉ? なんかお前もあやしいな。」
「そんな事ないですよ。なにもアヤシイとこなんかありません。」
鋭い矢口にたじろぎながらも、絵里はなんとかその追及をかわす。
「ねぇ、ヨッスィ?」
疑いの笑みを浮かべた矢口は、今度は吉澤に向き直る。
「ヨッスィってば。」
「・・・ふぁぃ?」
「何だよ、突然腑抜けみたいになって。」
「・・・や、なんでもないっす。」
「ヨッスィはなんか、ミキティの事知ってる?」
「・・・や、なにも知らないっす。」
「なんだろうね、この子は。ホントに。」
「・・・えへへ。」
矢口に向かって無理矢理笑顔をつくってみせた吉澤は、また一瞬で能面のような顔に戻る。
「本当に何も無いならいいんだけどさ、何かあったらオイラかカヲにちゃんと言ってよ?」
「・・・ふぁぃ。」
その時、マネージャーの一人が楽屋のドアを開けた。
「夏先生が到着したので、Bスタに集合〜。」
- 97 名前:_ 投稿日:2003/11/30(日) 23:30
- ***
「吉澤さん、どうしたんですか、変ですよぉ。」
歌収録の終わったメンバーが楽屋に戻る中、絵里は吉澤をつかまえた。
夏まゆみ渾身の指導の後、その甲斐あって収録は2回目のテイクでOKが出た。
元々、美貴が抜けた所はそのままに、フォーメーションの変更だけだったので
当たり前と言えばそうなのかもしれないが。
美貴とユニゾンで踊る予定だった部分は、飯田と加護のユニゾンに加えられ、
絵里は2回のテイクとも、完璧にそれを決めてみせた。
「うん、ちょっとな・・・ヘコんでるんだ・・・。」
吉澤が力なく笑う。
「なんで吉澤さんがヘコむんですか? 藤本さんのことは、あれは仕方無いですよ。」
「でも、奴のアバラを折ったのは俺だ。」
「だって、それは藤本さんが先に・・・」
「それだけじゃない。カオリンもやぐっつぁんもちゃんと気付いてた。
アイツが変だって事を。お前だって、ののがオカシイと思ってたのをあてた。俺は何も・・・」
「・・・でも、吉澤さんはちゃんと解決に向かって動いてるんですから、そっちの方が大変です。」
吉澤は下を向いたまま、少し首を振った。
美貴も辻もそして石川も、自分が仲のいい人間がドラッグに落ちている事に気付かなかったのを
相当悔やんでいる様子だった。
「でも、吉澤さんが元気になってくれないと・・・
この後、雑誌の取材ですよね? あたし待ってますから、
終わったら一緒に藤本さんのお見舞い行きましょう。ね?」
「うん・・・そうだな。」
やっと吉澤は顔を上げ、絵里に向かって少し笑ってみせた。
- 98 名前:_ 投稿日:2003/11/30(日) 23:32
- 楽屋に戻ると既にメンバーは残り少なくなっていた。
ラジオ収録やその他の仕事がある人は、もうそれぞれの仕事場に向かっていた。
「あっ、吉澤、どこ行ってたんだ?」
部屋に入った途端、マネージャーに呼び止められる。
「すいません、ちょっと、トイレ・・・」
「お前この後、雑誌の取材だったよな?
アレ、スチール取材からペーパー取材に変更になったから。」
「ホントですか? やったぁ。」
吉澤の顔が明るくなる。
スチール取材とは、対談形式が主でその模様を写真に収められる。
当然スタイリストからヘアメイクが入り、雑誌の取材にしてはかなり大掛かりなものになる。
下手をすれば5〜6時間とか、インタヴュアーがハズレだと丸一日が吹っ飛ぶ。
対して、吉澤が喜んだペーパー取材とは、アンケート用紙を貰って
自分の自由な時間にそれをうめて、提出すればそれで終了する。
雑誌に載せる写真は、事務所が持つ宣材のポジを借りてレイアウトされるが
それは取材される側のタレントの知った事では無い。
とにかく今、吉澤にとってポッカリと時間があいたという事である。
「感謝しろよ、本来まだまだ仕事が続くのに、この敏腕マネージャー様のおかげで半日オフだ。
これが質問用紙だ。明後日までに返してくれればいいって。」
「ハイ、ありがとうございます〜。」
3枚のレポート紙を拝むようにして、吉澤は受け取った。
- 99 名前:_ 投稿日:2003/11/30(日) 23:36
- 「じゃ、おつかれさまです。行こうか、亀井。」
「ハイ。」
さっきまでヘコんでいた吉澤は急に元気を取り戻し、スキップでもしそうな勢いで廊下を歩く。
絵里はちょっと首を傾げながら、それでも笑顔で吉澤と並んで歩いた。
ロビーに出た所で、そこには泣きそうな顔の道重さゆみが立っていた。
「えり・・・」
「どうしたの、さゆ?」
「れいなに藤本さんのお見舞い一緒に行こうって言ったら、
ウチは一人で行くけんさゆとは一緒に行けん、って言われた。えり、一緒に行って。」
絵里は思わず吉澤の顔を見る。
「いいよ、シゲさん。俺も一緒だけどいいか?」
吉澤が絵里に代わって答える。
「ハイ。」
途端にさゆみは可愛さ100%の笑顔になった。
3人はタクシーに乗り、病院に向かう。
助手席にさゆみ、後部座席に吉澤と絵里が座る。
「いいんですか? さゆを一緒に連れていって。聞かれたくない話もあるんじゃないですか?」
さゆみに聞こえないように出来るだけ小さな声で話しかける。
「まぁ、いいじゃん、しょうがない。今日は普通にお見舞いだ。」
「ハイ。」
- 100 名前:_ 投稿日:2003/11/30(日) 23:40
- 「えり、何か言った?」
さゆみが振り返る。
「ううん、さゆとれいなは藤本さんを取りあってるって言ってたの。ライバルなんだよね。アンタ達。」
「あっ、えりのバカ。吉澤さんにそんなこと言って。」
「へぇ、アイツの事好きなんだ? でもよぉ、アイツの本命はあややなんじゃないのか?」
ニヤニヤしながら吉澤が身を乗り出す。
「あっ、吉澤さん、それ、さゆの前では禁句・・・」
「いいの。あたしは2号さんで。で、れいなが3号さん。」
上を向いて吉澤は爆笑する。
「ダメダメ、シゲさん、2号さんでいいなんて言っちゃあ。あややからブン取って本妻にならなきゃ。」
笑われた事でさゆみは頬をちょっと膨らまし、そうですよね、と自分に言い聞かせる。
「で、お前は? ライバルには加わらないの?」
ようやく笑いが収まった吉澤は絵里の方を向く。
「えっ、あたしは・・・藤本さん、ちょっとコワいです。」
「へぇ〜、おもしろいね、アンタ達って。」
「そういえば、えりって最近吉澤さんにベッタリだよね? 好きなんじゃないの?」
絵里にバラされたさゆみが反撃に出る。
「あっ、バカ・・・」
思わず絵里が俯く。
「あれ、図星だった?」
(もう、さゆのバカ。本人の目の前で言わなくても・・・)
チラッと吉澤を見上げると、その顔は相変わらずオッサンのようにニヤニヤしていた。
- 101 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/12/01(月) 00:13
- 今日はここまでです。
やっと100レスかぁ。先は長い。
>>84
レスありがとうございます。
ありがたいお言葉、感謝します。頑張ります。
>>85
前も書きましたが全然平気です。気にしないで下さい。
それより安心してもらって良かったです。
>>86
レスありがとうございます。
へヴィなコークジャンキーは見れば100%分かりますよ。
でもそんなのは芸能界にはいないですね。
芸能界といえども、コカインが実際に蔓延してるとは思えないです。
アシッドやMMなどのサイケデリックをヤってる奴は多いでしょうけど。
- 102 名前:ss.com 投稿日:2003/12/01(月) 01:42
-
お待ちしておりました…ハイ。(ミキティ風にW)
更新、お疲れさまです。
6期メンの微妙な関係まで暴露されて、ますます目が放せなくなります。
頑張って下さい。
- 103 名前:名無し君 投稿日:2003/12/02(火) 14:37
- 忙しいとは思えないほどの大量更新乙です。
第二章の書き出し、大佐コワレタ━━━━━川o・∀・)━━━━━!!!!
のかと思いましたよ。よっすぃの夢だったんですね。
それにしてもドラッグ詳しいですね。まさか大佐自身がジャン(ry (w
- 104 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/18(木) 22:55
- 待ってます
- 105 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/20(土) 17:36
- 忙しいでしょうが近況など書き込んでくれると嬉しいです。
コレ今一番楽しみにしてる作品なのでよろしくお願いします。
- 106 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 07:57
- ***
「うわっ、広いトコだなぁ。」
「人もムチャムチャ多いですね。」
「あっ、あそこで聞いてみませんか?」
タクシーを降り建物の中に入った三人は、滅多に来ることの無いその雰囲気に圧倒されていた。
時折ロビーを横切る白衣を着たナースの姿がなければ、病院とは思えないと感じる程である。
「よし、亀井、ちょっくら聞いてこい。」
「ラジャー。行ってまいります。」
ちょっとふざけた感じで、大げさに敬礼のポーズをした絵里が、
まるでホテルのフロントの様な、受付を兼ねている案内所にむかって歩いていった。
その間も辺りを見渡している吉澤とさゆみは落ち着きが無い。
「ふ〜ん、思ってたより年齢層が低そうだな。もっと年寄りばっかいるのかと思ってた。」
「ホントですね。あたし大学病院って来るの初めてなんですよ。」
「俺も。・・・なんかさ、スゲェ場違いな感じしねぇ?」
「しますします。ココに入った時から、それ、言おうと思ってました。」
さゆみはブンブン首を振って頷く。吉澤はなんとなく、飯田の言った、
大勢でゾロゾロはやめてね、の意味が分かったような気がした。
「この病棟の最上階だそうです。」
戻ってきた絵里が言う。
「あそこのエレベーターで行くらしいですよ。」
「よし、レッツゴー。」
三人は広いロビーを抜けエレベーターに乗る。消毒液のような病院特有の匂いがした。
- 107 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:01
- 「この中も凄い広いよね。何人乗りなんだろう?」
「これはベッドをそのまま運べるようにちゃんと造られてるの。」
「へぇ、えりって物知りなんだね。」
「ハハハ、シゲさん、それくらい知っとけよ。」
吉澤が二人の会話に割って入る。
「でもよ、奴が最上階なんて、ちょっとエラそうじゃないか?」
「なんでですか?」
「なんでって、そりゃホテルでも何でも、最上階というのはVIPが泊まるトコじゃないか。」
「そう言えばそうですね。」
「あたしが東京でママと住んでるマンション、最上階なんです。」
「じゃ、シゲさんもVIPなんだ。」
得意げな顔をしたさゆみに、吉澤と絵里が笑顔になる。
そんな話をしているうちにエレベーターが着き、涼しげな音をたて扉が開いた。
ロビーとはまるで違う静かな雰囲気の廊下を、一つ一つの表札を確認しながら歩き、
『藤本美貴様』と書かれたドアの前に立つ。
吉澤がノックしようとすると、絵里が突然さゆみの腕を引っ張った。
「さゆ、ちょっとトイレ行きたいから、ついてきて。」
「え〜っ、何、ここまで来て。もっと早く言えばいいのに。」
ドアを開けると美貴に会える所まできて、水を差されたさゆみは頬を膨らませて抗議する。
「ゴメンゴメン、ねっ、行こ。」
絵里はそれをあっさり受け流し、さゆみの手を握って引っ張っていこうとする。
さゆみに気付かれないように振り返り、吉澤にむかって軽くウインクし、今来た廊下を戻っていった。
- 108 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:03
- 「あれ、一人? なんか話し声が聞こえたんだけど。」
美貴は思ったよりも元気そうだった。その表情に吉澤は少しホッとする。
「や、シゲさんが一緒なんだけど、今、亀井が気を使ってトイレに連れていってくれた。
来る時のタクシーの中でもそうだったんだけど、あいつはスゲェ気が利く。
とりあえず俺達を二人にしてくれたんだと思う。」
「うん、あのコ、そうゆうトコあるもんね。・・・どしたの、そんな顔して?」
美貴は吉澤の俯き気味の表情に気付く。
「・・・ん、ゴメン・・・。」
「やだ、なんでよっすぃが謝るの? 悪いのは全部美貴なんだから。」
「・・・でも・・・骨折してたなんて・・・。」
「いいの、よっすぃにはホント感謝してるんだから。骨折だって、本当にコケたと思っててよ。」
「・・・うん、わかった。」
「それに頭に血が上って、キレて向かっていったのは美貴の方なんだし。」
「そりゃ、まぁ・・・。」
「そんな顔似合わないよ。それよりよっすぃには悪いんだけど、
美貴にとっては、骨折してたのは、むしろありがたいくらいで。」
「ありがたい? 何でよ?」
「うん、・・・止めると決心したんだけど、普通にモーニング娘。の活動をしながらだと
ちょっと自信が無かったの。昨日もそうだったんだけど、禁断症状ってヤツ?
かなり辛かったんだ・・・入院してれば、辛くなった時にはベッドに蹲ってればいいんだから、
普通の生活をしながらより、よっぽど楽。」
「ふぅん、なるほど。」
「まだ半日だけど、入院生活って結構いいよ。好きな時にたっぷり眠れるし。」
「・・・まだ半日だからそう思うんだよ。一週間も続いてみろ、逆にしんどいぞ。」
「そう? いいと思うんだけど。あっ、でも煙草をおおっぴらに吸えないのが嫌かも。」
「いい機会じゃないか、ついでに止めてしまえ。」
「そうだなぁ、でももう既にトイレで一本吸った。」
二人は笑い声をあげ、その後暫し沈黙する。
- 109 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:04
- 「よしこ。」
「何だよ、改まって。」
「ゴメンね。色々と。」
「いいよ、もう。」
「ううん、ちゃんと謝っておきたかったの。」
「じゃ、俺もゴメン。」
「なんでよ?」
「色々と。気付いてあげられなかった事も含めて。」
「・・・ありがと。・・・それと・・・」
「なに?」
「・・・大切な事。」
「だから、何?」
「・・・美貴が退院したら・・・あの白い粉を身体から完全に抜いて・・・ここを出たら・・・
また、前みたいに、仲良くしてくれる?」
少し不安そうな顔で、途切れ途切れに美貴が尋ねる。
「当たり前じゃないか、それはこっちのセリフだよ。」
吉澤は大げさに美貴を抱きしめようとする。勿論、左の脇腹には気を使って。
「よかったぁ、ありがとう。」
「早く退院しろよ、待ってるから。」
「うん。」
そのままの体勢でポンポンと肩のあたりを叩いてから、身体を離す。
美貴の、そして吉澤の表情が完全に明るいものとなり、和やかなムードが漂う。
- 110 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:06
- 「そういえば、亀井ちゃんとシゲさん、遅くない?」
「あ、そう言えば。それよりシゲで思い出した。アイツ、お前の事好きなんだって。」
「知ってるよ。もう何回もキスされたし。」
「マジ?」
美貴が驚くだろうと思って言ったのに、意外な反応をされて逆に吉澤の方が驚いてしまった。
「マジマジ。あのコ顔に似合わず結構積極的でさぁ、こないだなんか美貴の胸さわろうとするんだもん。」
「へぇ〜。あのシゲが・・・それはスゲェ。」
「美貴も別に嫌じゃないし今はいいんだけど、もっとエスカレートしてきた時どうしようかと思って。」
「ハハハ、イクとこまでイッちゃえ。」
「また、無責任な事言って。」
「だって、今、嫌じゃないって言ったじゃん。」
「う〜ん、ぶっちゃけ、美貴が舐めて貰うのはアリでも、相手を美貴が舐めるというのはナシ・・・かな?」
「あ、分かるような気がする。でもそれはワガママってもんじゃないか?」
「やっぱり? じゃ、よしこがさ、亀井ちゃんとそうなったら?」
「なんでそこで亀井が出てくるんだよ?」
「アンタ、気付いてないの? あのコ、絶対よしこの事好きだって。」
「・・・チッ、鋭いな。」
「なんだ、分かってんじゃない。ね、もうどうにかなっちゃってるの?」
「なんにも。」
無理に眉を吊り上げ、下唇を突き出すような仕草をした吉澤に、美貴がおもわず微笑む。
「あやしい〜。じゃ、どうするのよ?」
「う〜ん、・・・亀井ならアリかな。」
「さすが! 男前よしこの本領発揮じゃない。」
- 111 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:08
- 「バカ、俺はいいんだよ。オメェだよ、問題は。田中も好きだって言ってたぞ? あややはどうすんだ?」
「亜弥ちゃんとは、そんなんじゃない。美貴の中ではアンタと一緒で、親友。」
「へぇ〜?」
吉澤は薄く笑い、疑いの眼差しを美貴にむける。
「ホントだってば。皆が勝手にそう思ってるみたいだから、あえて何も言わないだけ。」
「勝手に勘違いしてろと?」
「そう。いい意味でのスケープゴートって感じ? それはお互いに。」
「そうなんだ。知らなかった。」
「内緒だよ。それより問題は、田中ちゃん。」
「ヤられちまったか?」
今度は何故か痛そうな顔をする。コロコロ変わる吉澤の表情が楽しい。
「バカ。あのコはそんな事はしない。でもある意味、彼女の方が凄いかも。」
「どんなふうに?」
「う〜ん、精神的な繋がりを求めてるっていうのかなぁ。美貴のすることは何でも真似したがるし
いちいち美貴の言う事を気にしてるみたいなんだよねぇ。」
「いいじゃんか、シゲとは身体で繋がり、田中とは精神で繋がる・・・か。」
「また、好き勝手な事言わないでよ。それで、田中ちゃんもアレを・・・」
「なるほど、藤本さんがヤってるなら、これはヤバい事なんだろうけど、アタシもヤるか・・・」
突然、吉澤が真面目な顔になる。
「・・・そう。石川が誘っただけじゃヤらなかったと思う。問題じゃない? それって。」
「つまり、後輩の手本となるべき真面目な生活をしろ、と。」
「は? そうじゃなくて、や、それはそうなんだけど、違うんだってば。」
「何が?」
「なにって・・・例えば、シゲさんだったら美貴がやってても、それが悪い事だと分かれば
自分はやらないと思う。いくら好きだと言っても、それが普通でしょ?」
「うーん、まぁ、そうだな。」
吉澤が腕組みをした時、部屋のドアがノックされた。
- 112 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:09
- 「藤本さん、大丈夫ですか?」
入ってくるなり、さゆみが駆け寄ってくる。吉澤はさゆみに譲るため、ベッド脇の席を立つ。
「大丈夫だよ。皆大げさなんだから。」
美貴は笑顔でさゆみを迎える。
「藤本さん、皆でお花とシュークリーム買って来たんですけど、食べれます?」
絵里が吉澤の傍に立ち、申し訳なさそうに会話に割って入る。
「うん、ありがとう。ゴメンね、気を使わせて。」
美貴はさっき吉澤の言った意味も込めて、感謝の気持ちを伝える。
絵里は優しく微笑むと、先にお花生けますね、と言って空いてる花瓶を持ち水を入れにいった。
「凄いお部屋ですね。」
さっきまで吉澤の座っていた特等席にさゆみは腰掛け、キョロキョロしながら言う。
「でしょ。美貴は別に大部屋でもよかったんだけど、マネージャーさんがね、用意してくれて。」
「モーニング娘。がタコ部屋ってわけにはいかねぇもんなぁ。」
吉澤が笑いながら口を挟む。
「そうかぁ。骨折ってやっぱり痛いんですか?」
さゆみが心配そうな表情で覗き込む。
「昨日は息をするのも辛かったんだけど、鎮痛剤を打ってもらって一晩寝たらかなり楽になった。
大笑いしたり、動いたりすると痛いんだけど、じっとしてる分にはもう大丈夫。」
「飯田さんが10日くらい入院するって言ってたんですけど、復帰はどれくらいで出来るんですか?」
「うーん、完全復帰は一ヶ月くらいかかると思う。踊らなくても、歌うのって結構力使うから。」
「一ヶ月か・・・長いですね。」
「ま、皆には迷惑掛けるけど一ヶ月なんてあっという間だよ。」
美貴は笑顔をつくり、さゆみに向かってうなずいてみせる。
いつの間にか、さゆみは美貴の手を握りしめている。
- 113 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:11
- 「肋骨って大変なんですね。あたし骨折った事ないからよく分かんないんですけど、
普通にお話したりって大丈夫なんですか?」
「全然。でも、深く息を吸い込むと、ちょっと痛いかも。」
花を生けおわった絵里が窓際のサイドテーブルに花瓶を置き、
シュークリームを小皿にのせ美貴とさゆみに配る。そのあと吉澤の隣に行き、寄り添うように座る。
「ありがとう。凄く奇麗なお花。」
「でしょ、吉澤さんたらねぇ、鉢植えの花を買おうとするんですよ。もーなんか言ってやって下さい。」
絵里の言葉にプッと吹き出した美貴は、脇腹の痛みに顔が少し歪む。
「あ、ごめんなさい。そういうつもりで言ったんじゃないんですけど。」
「大丈夫、大丈夫。突然笑うと、ちょっとくるんだよねぇ。」
「もー、えりのバカ。今、藤本さん笑うと痛いって言ってたでしょ?」
「ゴメン。」
さゆみの美貴の手を握る両手に力が篭もる。
「藤本さん、あたしが痛みを和らげるおまじないをしてあげますから、ちょっと目を瞑って下さい。」
「えっ?」
「いいですから。」
おとなしく言われた通りに美貴は目を閉じる。
薄くくちびるを舐めたさゆみは頭を下げ、お辞儀をするような体勢で美貴にチュッとキスをした。
吉澤と絵里が見てる前で美貴にキスをしたさゆみは、
自らの行動によって火がついてしまい、もう止まらない。潤んだ瞳で、
「もっかい・・・」
と小さな声で言うと、今度は両手で美貴の顔を挟むようにして覆い被さった。
- 114 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:12
- 傍で見てて、舌を絡めてるのがハッキリ分かるくらいの濃厚なキスを始める。
美貴も慣れたもので、少し顎を上げるようにして、さゆみに応えている。
「うわっ、シゲさん、やるぅ〜。」
吉澤が小さな声で言い、絵里と顔を見合わせる。
絵里は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしながらも、つい吉澤のくちびるに目がいってしまう。
かなりの時間、二人の世界に浸ったさゆみは、ようやく顔を上げる。
紅潮した頬に自分の掌をあて、吉澤と絵里の方を振り向く。
「えへ。」
目が強烈に潤んでいるため、照れ笑いをしてなければ、
今にも泣き出しそうな顔だと表現しても、間違ってはいないだろう。
美貴は目を閉じたままで、さゆみとのキスの余韻を楽しんでいるように見える。
「参った。なんか、色々と気を回してたのがバカみたいじゃん?」
吉澤は半分拗ねたように、でも大半は面白がっているように言った。
「えへへ。あ〜でも、やっぱり恥ずかしい。」
身体を大げさに揺らしながら、さゆみは美貴に向き直った。
「藤本さん、おまじない効きました?」
「うん、効いたよ。また痛くなったら電話するから、速攻で飛んできて美貴にキスしてよ?」
「ハイ。もちろんです。」
- 115 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:15
- 再び二人の世界に入ってしまったさゆみと美貴に背を向けるようにしながら小声で吉澤が喋りだす。
「あ〜ぁ、なんだコリャ。このバカ二人、俺達をダシにして愛の確認をしやがったぞ?」
「いいじゃないですか。幸せそうなんだし。」
絵里はまだ顔が真っ赤だが、満面の笑みだった。
「・・・ったく、俺達をなんだと思ってやがるんだ、コイツ等は?」
いくら小声で喋っているとはいえ、あまりにも距離が近いので二人に聞こえない訳がない。
吉澤も当然本気で言ってる訳ではないのだが、つい口調が恨めしそうになってしまう。
「・・・これ食って帰るか。」
「・・・そうですね。」
かなり大きめのシュークリームを手に取り、吉澤は口一杯に頬張った。
ムニュッと端から生クリームが零れ、絵里はおもわず人差し指ですくい取り、それを舐める。
普段なら絶対しないだろうが、さゆみの行動によって少なからずテンションが上がっているため
絵里にとっては、ごく自然にそれが出来た。本音を言えば直接吉澤の頬を舐めたかったのだが
さすがにここでは、それは止めておいた。
「あっ、一番いいトコ取ったな。」
吉澤は絵里の手首を掴み、そのままの形になっている人差し指を、深く口に含んだ。
既にキスを終え、それを見ていた美貴とさゆみは笑顔で見つめあい、
またゆっくりとお互いのくちびるを求めあった。
- 116 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:17
- ***
「やってらんねぇな、オメェ等。」
笑顔で茶化すように吉澤はさゆみに言った。
「へへ。ごめんなさい。」
「そう、かなり凄かったもん。あたし、まともに直視出来なかったし。」
絵里はまだ少し顔が赤い。
「嘘〜。やっぱり?」
もっと照れてるのかと思ったさゆみは、意外な程堂々と答える。
病院からの帰り道を、さゆみを真ん中にして並んで三人は歩いた。
「お前はもっと居ればよかったんだよ。折角俺達が気を利かせたのに。」
「だって、居るのは藤本さんと一緒だからいいけど、帰りが一人になっちゃうじゃないですか。」
「・・・別にいいじゃねぇか。余韻を噛みしめながら帰れば。」
「一人じゃ帰れないです・・・怖いじゃないですか。」
「バカ、あんなキスぶっこいておきながら。都合の悪いトコだけ子供だな。」
「だって、キスするのと一人で帰るのは別物ですよ。」
「どれくらいの時間居た? 一時間くらいか。その内の55分はお前等、キスしてたろ?」
「そんなにしてませんよ。50分くらいです。」
さゆみが真面目な顔で言ったので、吉澤と絵里は爆笑する。
「シュークリームも食べないで。さゆ、あのお店の、好きだったのにねぇ。」
「あっ、ホントだ。シュークリーム食べてない。」
泣きそうな表情になり、天然を連発で炸裂させるさゆみは、
美貴でなくとも受け入れたくなる程、可愛らしかった。
- 117 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:20
- 「吉澤さんはこれから、どうするんですか?」
「う〜ん、時間も早いし、久し振りに埼玉に帰る。たまには家でメシ食わないと。」
「・・・そうですか。」
「うん、それだと、コレが便利なんだよな。」
丁度、地下鉄の乗り場の所で、指を差した。
「じゃ、また明日。」
吉澤はヒラヒラと手を振りながら、階段を下りていった。
「おつかれさまです。」
「おつかれさまでした。」
「おつかれ〜。」
「久し振りに埼玉に帰るってどういう事? ってゆうか、吉澤さんてずっと埼玉なんじゃないの?」
吉澤を見送った後、さゆみが不思議そうな顔で絵里に尋ねた。
「え、あ、なんでだろうね? よく分かんない。」
「あっ、えり、なんかあやしい。もしかして、ずっとえりん家泊まってたとか?」
「バカじゃないの? あたし、一人暮らししてる訳でもないのに。」
吉澤が東京にマンションを借りてる事は口止めされているため、
たとえさゆみが相手でも喋る訳にはいかない。
「ま、いいや。えりはこれからどうするの?」
「特になにもない。」
「じゃ、えりん家、行っていい?」
「いいよ。ってか、あたしもさゆに聞きたい事出来たし。」
「よし、決定〜。レッツゴー。」
- 118 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:23
- ***
「東京の電車って凄いよね。あたしホントに死にそうだったもん。」
「今日は時間が丁度ラッシュ時だったからね。」
「えりって、毎日あんな混んでる電車乗ってるの?」
「うん、このくらいの時間ならあんな感じ。でも、今日はさすがにちょっとキツかったかも。」
「満員電車フェチのえりがキツいんじゃ、あたしなんて乗る資格ないね。美貌の敵だわ。」
「ちょっと、何それ。それにあたしは満員電車フェチじゃなくて、狭いトコが好きなだけ。」
絵里の部屋。吉澤と別れた二人は殺人的ラッシュの電車を乗り継ぎ帰って来た。
絵里は勉強机の椅子に、さゆみは絵里のベッドに座っている。
「でさぁ、さゆ、いつから藤本さんとあんな事になってたの。」
「う〜ん、おとめの最初の時かな? なんか、ささいな事だったんだけど、凄い優しくされて、
あっ、あたしはこの人が好きだ、って思ったの。」
「で?」
「おしまい。」
絵里は椅子から転げ落ちそうになる。
「おしまいな訳ないでしょ? そっからどうなったのよ?」
「え〜っ、ある日、リハの時、二人きりになったの。
で、藤本さんの顔をみてたら、思わず無意識のうちにキスしてたの。」
「げっ、さゆから?」
「もちろん。」
さゆみは得意げに胸を張る。
「で、どうなったの?」
「藤本さんは最初、ビックリしてたみたい。でもすぐにニッコリ笑ってくれた。」
- 119 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:25
- 「その間、なんか会話は?」
「ない。一切無言。で、あたしは藤本さんの笑顔をみて、またキスしたくなって・・・」
「・・・したくなって?」
「何回も何回も、キスした。」
「・・・すご。全部で何回くらい?」
「う〜ん、20回くらい?」
「・・・。」
絵里の目の前に吉澤の顔が写り、照れてしまって絶句した。
「や、もっと多かったかも?」
「・・・それも、全部、無意識で?」
「バカ。無意識でキスしたのは最初の一回だけ。あとはちゃんと意識あったよ。」
「・・・マジ? ・・・その間藤本さんは?」
「あたしにされるがまま。」
「・・・マジでぇ?」
絵里の声が1オクターブ高くなる。
「うん。で、あたしのキスは、ただくちびるを藤本さんのくちびるに押し当てるだけだったの。
そしたら、藤本さんが、ホントのキスっていうのはこうするんだよ、って・・・」
「・・・。」
「やだぁ。えり、なんか怖いよ。」
思わず真剣になって身を乗り出してた絵里は一つ咳払いをした。
「・・・ゴメンゴメン。で?」
「あたしを抱きしめて・・・今度は藤本さんからキスしてくれた。舌が入って来たときは
死ぬ程ビックリしたんだけど、なんか、頭がクラクラするくらい気持ち良くなって。」
「・・・うん。」
「今度はあたしも舌を入れてみた。そしたら、藤本さんがうまくリードしてくれて
絡めあわせてくれた。感動して、ちょっと泣きそうになった。」
- 120 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:28
- 「で?」
「今に至る。」
「またはしょる〜。」
「今度はホントにおしまい。これ以上ないもん。」
「それが、いつの話?」
「う〜んと、2ヶ月くらい前?」
「そっから、何回くらいキスした?」
「もう、数えきれない。」
「マジ?」
「えり、声おっきいよ。」
「ゴメン。そんなの全然知らなかった。」
「藤本さんて、クールだからね。」
「それだけ?」
「えっ?」
「藤本さんとは、キスだけ?」
「そう。あ、あと、何回か胸さわった事ある。」
「・・・どっちが?」
「もちろん、あたしが。」
「・・・マジで? ジカに?」
「・・・服の中に手を入れたけど、さわったのはブラの上から。」
「やるねぇ、さゆ。」
「凄く柔らかくて、気持ち良かったよ。」
「ふぅん、いいなぁ。」
- 121 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:30
- 「はい、終わり。今度はえりの番。」
「・・・なに、あたしの番って?」
「吉澤さんとどうなってるのか、ちゃんと言ってもらうからね。」
「あっ、そろそろ寝なきゃ。じゃ、おやすみ〜。」
絵里は立ち上がり、ベッドに潜り込もうとする。
「ズルい、えり。あたしも恥ずかしいのにちゃんと言ったんだから、絵里にも白状してもらう。」
さゆみは布団を剥ぎ取り、絵里の脇腹の辺りをくすぐる。
「わ〜っ、ゴメンゴメン。言う言う。白状しますぅ。」
「じゃ、ホラ、ちゃんと座って。」
素直に絵里はさゆみの横に座る。ベッドの上で二人で壁にもたれ、足には布団を掛ける。
「別にさゆみたいに喋る事ないんだけどなぁ。」
「いいの。まずは、いつから吉澤さんのコト、好きになったの?」
「おとつい。」
「マジ?」
「うん、前から、ずっと好きではあったんだけど、キスしたいみたいな感情が生まれたのは一昨日。」
「で?」
「おしまい。」
「・・・シバくぞ?」
さゆみの真似をしただけなのに、思いがけない反応をされた絵里は爆笑してしまった。
「なによぅ。さゆだって言ったじゃん。」
「だって真剣なんだってば。えりの恋を応援したいし。」
「うん、ありがと。ホント言うとさっきのさゆの話、凄いうらやましい。
さゆの性格っていいなぁって。あたしにはとても真似出来ない。」
「どんなとこが?」
「純粋で、真っすぐで。どんな事に対しても、嘘がつけなくて、行動力があって。」
「・・・なんか、バカだと言われてるような気がするんだけど。」
- 122 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:32
- 「ハッキリ言ってしまえば紙一重なんだと思う。でもさゆは、紙一枚分、コンマ何ミリで
こっち側なんだから、それは皆に愛される性格なの。好きよ、さゆ。」
絵里が真面目な顔で言うので、さゆみはおもいきり照れてしまった。
「・・・バ・・・えりのす、好きな人は吉澤さんでしょ?」
「あれ、照れてんだ? 藤本さんとあんなディープキスしても、堂々としてたのに。」
さゆみは真っ赤になって下を向いてしまった。
「・・・で、吉澤さんとキスした?」
「ううん。この2日チャンスはいくらでもあったのに。あっ、裸の吉澤さんにほっぺにキスされた。」
「・・・ は だ か の よ し ざ わ さ ん ! ?」
「どうしたの? さゆこそ怖いよ。」
「何それ? 裸って真っ裸? えりも裸? どういう状況だったの?」
「吉澤さんは真っ裸。あたしは吉澤さんのTシャツを着て。
で、吉澤さんはお風呂に入る直前。だから真っ裸。」
「ちょ、ちょっと、あたしの事うらやましいとか言って、えりの方が全然うらやましい。
それ、詳しく教えてよ。」
首を絞める勢いのさゆみに、絵里は笑いながら説明していった。
言ってはいけない部分は、絵里なりにうまく誤魔化しながら、それでも
この2日の出来事、特に絵里の感情の部分は、ほとんどさゆみに証してしまった。
- 123 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:35
- ***
吉澤は埼玉に帰って来てたが、自分の家がある駅をひとつ乗り過ごし、
隣町で電車を降りた。ここから徒歩にしておよそ15分、
目指す場所までに、突然大きなマンションが建ってたりして面食らってしまう。
彼女の墓参りは一昨日しているが、生家を訪れるのは実に一年ぶりとなる。
彼女の母は、吉澤が姿を見せると涙腺が弱くなるので、出来れば会いたくなかったが
今日はどうしても確かめたい事があったので、やむを得ずここまでやって来た。
同じ様な家が建ち並ぶ住宅街に入っても、迷うことなく吉澤は一軒の家の前に着いた。
チャイムを鳴らすと暫くして一人の女性が出て来た。
歳は当然、吉澤の母と同年代なのだが、頭は見事な白髪だった。
「あら、ひとみちゃんじゃないの。いらっしゃい。さぁ、上がって。」
「こんばんわ。御無沙汰してます。」
挨拶もそこそこに、すぐにリビングに通される。
「どうしたの、今日は?」
「いえ、突然お邪魔してすいません。」
「会うのは久し振りよねぇ。私は毎日の様にテレビでひとみちゃんを見てるから、
そんなに懐かしい感じはしないんだけど。そういえば、一昨日だったかしら、
あの子に逢いに来てくれたんでしょ? いつもありがとうね。」
- 124 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:38
- 「えっ、なんで、あたしだって分かったんですか?」
「そりゃあ、分かるわよ。私は毎日、あの子のお墓まで散歩するのが日課なんだから。
豪華な薔薇の花束が手向けてあると、ひとみちゃんが来てくれたんだ、って。」
「そうでしたか・・・」
「今日は家の方に来てくれたんだから、あの子に線香をあげてやってくれる?」
「勿論です。今日はそのために来たんですから。」
吉澤は隣の和室に入り、立派な仏壇の前に正座する。
4年間、歳をとってない爽やかな笑顔の親友と目があう。
線香に火をつけてそれを立て、目を閉じて合掌する。
(一昨日報告したことなんだけど、上手くいきそうな感じなんだ・・・
コカインやったバカとは、ちょっと色々あったけど、仲直り出来た・・・
アイツは救えると思う。や、あたしが救うんじゃなくて彼女自身で
立ち直ってくると思うよ・・・これもアンタに相談したお陰かな・・・
それともう一つ、アンタの敵討ちにつながるかもしれない物が
偶然にも見つかった・・・今日はそれの確認をさせてもらいに来たんだ・・・
でもあまり期待はしないでね・・・途切れてる可能性の方が大きいみたいだから・・・)
- 125 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:41
- リビングに戻った吉澤は、彼女の母に声をかける。
「あの、お願いがあるんですけど。」
「どうしたの? 何でも遠慮なく言ってちょうだい。」
「彼女の部屋って、当時のままなんですか?」
「そうね、多少入れ替わってるかもしれないけど、そのままに近い状態かな。」
「すいませんけど、何も聞かずに、部屋を見せて貰えませんか?」
「えぇ、いいですよ。私はここに居ますから好きなだけ見ていいよ。」
「ありがとうございます。」
礼を言って吉澤は2階に上がっていった。
ドアを開け中に入る。
電気を付けると、なんとも言えない懐かしい気分になった。
4〜5年前は毎日ここに来てたような気がする。
好きな男の子の話をしたり、将来の夢を語り合ったり。
ここでいろんな事を二人で話した。一緒に徹夜で試験勉強もした。
しかし、この部屋の主は、もうとっくにいない。
そんな事を考えていると、自然と目に涙がたまる。
堪えきれなくなった感情が一気に溢れ出す。
その場に崩れ落ちるようにしゃがみ込み、声を上げて吉澤は泣いた。
- 126 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:44
- 彼女が死んだと聞かされた時でも、こんなには泣かなかったんじゃないだろうか。
久し振りに大泣きした吉澤は、たまには泣くのもいいと思うくらい感情を爆発させた。
マスカラをつけてなくて良かったと思えるくらいにまで回復すると
ハンカチで涙を拭い、ゆっくり立ち上がり、目指すものを探し始めた。
机の引き出し。整理タンス。クローゼットの中。
中身の位置を出来るだけ変えないように、慎重に一つずつ見ていく。
それは、クローゼットに入ってた段ボールの中にあった。
ガラスのビン。特徴のある幾何学的な模様。
美貴が間違えて持ってきたボストンバッグに入ってた、ガラスのビン。
一見すると、同じもののように見える。
それでも吉澤は携帯を取りだし、ビンを撮影し始めた。
撮り終わった画像を確認して満足そうに頷くと、もとの位置へビンを戻す。
部屋を元通りにして、机の上に飾られてある彼女の写真にウインクをする。
最終チェックをして、最後に部屋の電気を消し、じゃあ、と声をかけた。
「すいませんでした。ありがとうございました。」
下に降りた吉澤は彼女の母に礼を言う。
「探し物は見つかったのかしら?」
「はい。お陰様で。」
「そう、それは良かった。」
もう一度礼を言って、吉澤は彼女の家を後にする。
彼女の母は、暫く会わない間に随分と強くなったような気がした。
- 127 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:46
- ***
「えり、もう寝た?」
「うん。」
「起きてるじゃない。」
さゆみは絵里の家で一緒に夕食をとり、そのまま泊まる事になった。
まだ時間がそれ程遅くなかったので、帰ろうと思えば帰れたが
食事の後も二人でダラダラと話し込み、結局11時を回ってしまっていた。
吉澤の家のセミダブルのベッドは二人でも広く、寝心地が良かったが
絵里のシングルベッドに二人で寝ると、やはり少し窮屈だった。
「どうしたの?」
「ねぇ。」
「なによ?」
「さっき、あたしの事好きだって言ってくれたでしょ?」
「うん、好きよ。さゆ。」
「あたしも、えりの事好き。」
「それはどうも。」
「えり。」
「なに?」
「キスしていい?」
「は?」
さゆみは素早く絵里に覆い被さると、返事を待たずにキスをした。
勿論美貴に教えてもらった、ディープキスである。
- 128 名前:_ 投稿日:2003/12/23(火) 08:48
- 「ちょっと、えり。」
「なによ?」
「えりもちゃんと、舌絡めてきてよ。もっかいするからね。」
一回目は無理矢理されて素っ気無かった絵里も、二回目はさゆみの言う通りに舌を絡めあわせた。
「どう?」
「どうって、なにが?」
「頭クラクラした?」
「う〜ん、別に。」
「なにそれ。あたしの事好きじゃないの?」
「好きよ。ホントに。」
「じゃなんでクラクラしないの?」
「知らないよ、そんな事。」
「じゃ、えりは、あたしが藤本さんとキスするのどう思う?」
「う〜ん、別に。」
「あたしは、えりと吉澤さん、キスして欲しくない。」
「は?」
「えりは、あたしとだけ、キスしてて。」
「アンタ、さっき応援してくれるって。」
「さっきはさっき、今は今。」
「じゃ、藤本さんは? 例えばれいなが藤本さんとディープキスしたら?」
「それは、もっといや。」
「・・・。」
「藤本さんと、えりは、ずっとあたしだけのもの。」
そろそろ眠くなってきた頭で、絵里はこれはまずい事になった、とボンヤリ考えていた。
- 129 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2003/12/23(火) 10:11
- 今日はここまでです。
眠い。もう2日完徹状態でし。
>>102
レスありがとうございます。
やっと更新出来ました・・・ハイ。(ミキティ風のパクりw)
いつもありがとうございます。頑張ります。
>>103
レスありがとうございます。
壊れかけですが、まだまだ大丈夫です。
>まさか大佐自身がジャン(ry
そんなわけな(ry(w
>>104
レスありがとうございます。
お待たせしてすみません。
出来る限り頑張りますので、これからもよろしくお願いします。
>>105
レスありがとうございます。
現在の状況ですが、もう終わってないといけない仕事がやっと半分
というトコでしょうか。出来れば年内もう一回更新したいです。
最高の褒め言葉をありがとうございます。
- 130 名前:ss.com 投稿日:2003/12/23(火) 19:06
- 更新、お疲れさまです!
やたらホンワカムードの6期3人と、シリアスな吉沢さんの対比がお見事!
大佐の文章力と構成力にますますハマりました。
お仕事も大変みたいですが、体調を壊さない様に、でも、更新、待ってます。
- 131 名前:山田雅樹 投稿日:2003/12/24(水) 16:11
- ぬわ〜 よしこの過去に何があったのか加護しく知りたい。
今すぐ読めるなら500円くらいなら余裕で払うがw
>>130 俺も思った。しかし対比といえば
从*・ 。.・)<えへ。 と 从*・ 。.・)<・・・シバくぞ? だろ。
- 132 名前:名無し君 投稿日:2003/12/25(木) 03:32
- 更新キ…(-_-)キ(_- )キ!(- )キッ!( )キタ( o)キタ!( o・∀)キタ!!( o・∀・o )キタ━━━!!!
さすが大佐、えりりん聖誕祭に更新とは。それもかなり大量に。乙です。
リアル道重はあまり好きじゃないんだけど、このスレのせいでさゆヲタになりそう。
- 133 名前:達吉 投稿日:2003/12/26(金) 18:36
- 最初から一気に読ませていただきました。
かなり良いですね!
道重おもろいなぁ〜w(笑)
次回の更新も期待してます。
頑張ってください!
- 134 名前:捨てペンギン 投稿日:2003/12/26(金) 19:13
- 吉澤さんがかっこいいです
その調子で他のメンバーも助けてあげてください
がんばれ、よっすぃー
- 135 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/26(金) 21:31
- いまさらですがよっすぃ〜のパンチでアバラ折れるなんて
凄いっすね。
- 136 名前:_ 投稿日:2004/01/06(火) 09:24
- ***
東京、西新宿。
青梅街道からすぐの路地を入った所にある雑居ビル。
3階までは寂れた感じのバーや飲食店がテナントとして入っているが、
4階から上は正体不明の、かなり怪しい雰囲気の看板が目立つ。
深夜もかなり遅い時間だというのに、8階立てのその窓にはいくつかの明かりがついている。
その中の最上階の一室にはスーツを着込んだ二人の男が話をしていた。
「一昨日・・・ですか、奥多摩の鳩ノ巣で二人の白骨死体が発見されたそうですね?」
「・・・はい・・・申し訳ありません。」
「こっちでは、かなり話題になったそうじゃないですか?」
「・・・そう・・・ですね、一昨日の夜のニュースはそればかりでした・・・」
「あなたは、また私に恥をかかせる積もりですか?」
「滅相もない、今回の事は・・・」
「今回の事は?」
「・・・いえ・・・」
お前が持ってる実行部隊がやった事じゃないのかよ、という言葉を寸前の所で飲み込んだ。
「なんでもキノコ狩りに来た近所の住人が発見したらしいじゃないですか?」
「・・・そのようです・・・」
「困りますね、後始末くらいはキッチリやってもらわないと。」
「・・・はい、しかし・・・」
「しかし、なんですか?」
「・・・死体が発見されたからといって、この件と我々を結びつけるものは一切ありません。」
日本の警察がどんなに優秀でも、死体の身元すら割り出す事は出来ません。」
「そんな事はあたりまえでしょ?」
- 137 名前:_ 投稿日:2004/01/06(火) 09:25
- 白いスーツの男は冷たく言い放ち、木箱から最高級ハバナシガーを取り出した。
鼻と唇の間に挟むようにして、じっくりと香りを楽しむ。
やがて机の引き出しからパンチカットを取り出し、慣れた手つきで先端を切り落とす。
ブーツの踵の側面でマッチを擦り、1本が6000円もするモンテクリストに火をつけた。
普通の煙草と違い、手巻のプレミアムシガーは火をつけるまでにかなりの時間が掛かる。
充分に炙ったそれを口に銜え、ゆっくりと回しながら吸い込む。
部屋の中一杯に、キューバ産の葉巻の強烈な匂いが充満した。
「アニベルサリオのNo1はもうやめたんですか?」
話題を変えるチャンスだ、と思った黒いスーツの男は、媚びた笑いを作りながら尋ねた。
「えぇ、ダビドフは好きだったんですけどね。本国にいるとなかなか手に入らないんですよ。
私はあなたのように、ずっと日本に居るわけではないので、今はもっぱらコレですね。
慣れるとモンテクリストもいいもんですよ。これはどこに居ても手に入れ易いし。」
「キューバン・ダビドフなんか、いくら日本でも、もう絶対に手に入りませんよ。
私が言ってるのは、ドミニカン・アニベルサリオなんですが。」
「・・・そんな事より。」
黒いスーツの男の目論見はあっさりと外れ、強引に話題が引き戻された。
「例の件は一年以上も経って、まだ何の手掛かりも掴めないのですか?」
(またその話になるのか・・・それだって、お前の部下がミスしたんじゃないか・・・
本来なら、コメカミをハジかれて、埋められるべきなのは、お前なんじゃないのか・・・)
保騨圭は目の前の沢裕中を正面から見据えた。
しかし・・・言葉には出せない。保には、この男が必要だった。
- 138 名前:_ 投稿日:2004/01/06(火) 09:26
- ***
黒いスーツの男、保騨圭は中国籍を持つ28歳。非合法ビジネスを生業としている。
いわゆる華僑である保は、本国で独自のネットワークを持ち、
この日本でのコカインビジネスを展開させていた。
アメリカのマフィアを経由せずに、コロンビアから直接コカインを
仕入れる事が出来るようになるまでは、並大抵の苦労では無かった。
保が初めてコカインをスニッフィングしたのがアメリカ留学中の19歳の時。
そこでコカインの流通の仕組みを知り、興味を覚えた。
ラティーノやイタリアンから仕入れるのは、アメリカ国内にいる限り難しい事ではない。
しかしそれではコストが高くつき、質も悪い。ビジネスとしての旨みは少ない。
ならばどうするか? 答えは簡単だった。原産地へ行き、直接ブツを売買する。
英語は勿論の事、スペイン語にも多少自信があった保は大学を辞め、南米へ飛んだ。
しかしコロンビアという国はそんなに甘い所ではなかった。
何回か現金で買い付けをすれば、信用が生まれ、スムーズな取引が出来るようになる筈だ、
と思っていた保だが、首都ボゴタに着いたその日にあっさりとその考えは打ち砕かれた。
空港を一歩出たところで、殺されそうになったのである。
コロンビアにおけるコカインの流通事情は、メディジンとカリの二つのマフィアが仕切っている。
覚悟を決めた保は、その一つ、カリのカルテルにどうにかこうにか潜入し、
認めて貰うまでに3年、さらに取引を許される様になるまで、プラス1年半の時間を費やした。
- 139 名前:_ 投稿日:2004/01/06(火) 09:27
- 一回の取引が20〜30キロという少額の個人取引が許される。
これがどれだけ特異な事であるかを知ったのは、つい最近である。
とにかく最大の難関をクリアした保は、自分の持つネットワークをフルに活用し
今度はコカインを日本へ非合法輸入する事に着手した。
いくらコカインを手に入れても、それを日本に運び込まなければなんの意味もない。
しかし周りを海に囲まれたこの島国は、病的なまでにそのガードが固い。
日本という国は、ドラッグを持ち込まれるのは何としても阻止したい。
が、うまく持ち込めたとして、例えそれが発覚したところでたいした罪にはならない。
所持だけで、しかも初犯であるならば、100%の確率で執行猶予がつく。
不思議な国だ、と保は思う。
対して、マレーシアあたりだと、持ち込むのは意外と簡単だ。
しかし見つかってしまうと、こちらは100%死刑が待っている。
初犯だろうが外国人だろうが、関係ない。ここでの麻薬所持は大罪なのだ。
そこで保は一番安全と思われる、船を使う事にした。
ブツを積み込んだコンテナ船がバランキージャを発ち、一ヶ月間太平洋を航行する。
アジア圏に船が入ってくると、一旦中国でそれを受け取り、陸路北朝鮮に運ぶ。
そこからは沖取りと呼ばれる方法で日本に仕入れる。
他の国とは次元の違う日本の税関チェックをくぐり抜け、
日本海上で漁船同士のアプローチによる受け渡しを行なう、と。
これが保の考えたプランだった。
- 140 名前:_ 投稿日:2004/01/06(火) 09:28
- だが、保が人と金を使って出来るのは、北朝鮮からブツを積んだ漁船を出す所までだった。
一番肝心の、日本から出す、受け取る側の漁船の手配が出来ない。
そしてもうひとつ、最大のネックになってる事とは・・・勿論、ジャパニーズマフィアだ。
日本でこのビジネスを展開させるのに、ヤクザを避けては通れない。
本国にはそれなりのコネクションを持つ保だが、日本のヤクザに対しては、
全くと言っていい程、ツテがなかった。
現在日本で大暴れをしている、いわゆる東北グループと呼ばれるチャイニーズマフィアとは
一線を画す保だが、日本のヤクザにとってみれば同じ事だ。
同じ中国人というだけで、あらゆる方法で攻撃を仕掛けてくる。
そこで紹介してもらったのが、、目の前にいる
保の悩みであった二つの事項をクリア出来る人間、沢裕中である。
台湾籍を持つこの男は35歳で、真剣に日本全土を自分のシマにしようと考えていた。
わずか9人の兵隊を連れ、日本での活動を始めた沢は、瞬く間に、
ある組織を切り崩し、自分の傘下に置くといった荒技を平然とやってのけた。
既にここ東京でも、地元のヤクザから上納金を巻き上げている。
言葉使いや物腰は柔らかで丁寧だが、一旦キレるとその凶暴ぶりは凄まじい。
自己中心的な性格にプラスして、都合の悪い事は全てにおいて責任転嫁させる。
最初はパートナーとして満足してた保も、次第に嫌気がさしてくるのにそう時間はかからなかった。
- 141 名前:_ 投稿日:2004/01/06(火) 09:29
- ***
「・・・それは・・・現在も引き続いて、調査を行なっています。」
やっとの思いで、保はそう沢に答えた。
「そうですか・・・それでは、いい報告を期待しています。
もし、この後も芳しい結果が出ないようなら、対象になってる人間を一人ずつ、
日本全国にローラー作戦をかけてでも捜してもらいますよ。」
「・・・分かりました。」
そんな事は絶対に不可能だ、と思いながらも保は頷いてみせた。
「じゃ、私は帰ります。」
沢は立ち上がり、白いパナマハットを手に取る。保もつられるように立ち上がり、
部屋を出ていく沢の後ろ姿に軽くお辞儀をし、無言で見送った。
(・・・なんてこった・・・結局、俺が無くなったコカインの弁償をしなければならないのか・・・)
釈然としない様子で暫し腕を組み、そのまま立ち尽くす。
(確かに沖取りのルート変更を提案したのは俺だが、実際にブツを無くしたのは沢の二人の部下だ。
何故、俺がこの件の調査をしたり、1億もの金を出さなければならないんだ・・・)
保はさっきまで座っていたソファーに、どっかりと腰を下ろした。
当初、沖取りによってブツを仕入れるのは、新潟県の糸魚川の漁港だった。
しかし、北朝鮮による日本人拉致被害の影響で、新潟から福井にかけての湾岸警備が強化され
搬入窓口の変更を余儀なくされたのが約一年前である。
確立されたオペレーションに手を入れる事を嫌う沢を説得し、
兵庫県城崎の漁船の一つを買収したのが、去年の九月。
初めての場所だと言う事で、実験的に3キロのコカインを沖取りに流してみた。
海の上での受け取りは成功したにもかかわらず、城崎漁港から東京まで運ぶ過程の中で
3キロのコカインは女物の着替えに変わってしまっていた。
- 142 名前:_ 投稿日:2004/01/06(火) 09:30
- 実際にそれを行なったのが、平充家と市耶紗のふたりである。
二人とも沢が台湾から連れてきた人間で、沢はそれなりに可愛がっていた筈なのに、
この失態を晒した平と市を許しはしなかった。
最初、二人で共謀してコカインを横取りしたと考えた沢は、個別に何度も事情聴取を行なった。
事実を言ってるらしき事が分かると気絶するまで二人を殴り、一人ずつ頭にクッションを押し付け、
自分の拳銃、STIエッジ5.1を取り出すと、いとも簡単にトリガーを引いてしまった。
完全にキレてしまった沢は、今度は黙ってそれを見ていた保に噛み付いた。
お前が沖取りルートの変更を言い出さなければ、こんな事にはならなかった、と。
そして何故か、白骨死体で二人が発見された事までも自分の所為にされている。
沢の部下に死体の始末を言いつけたのは、確かに自分なのだが。
保は怒りを通り越し、完全に呆れてしまった。
そもそもこれを発案し、危険を冒してコカインビジネスを始めたのは自分だ。
沢は元々自分のボディガードだった筈なのに、今では奴がこのビジネスを仕切っている。
当然コロンビアでのブツの搬出に沢はノータッチだが、沖取り以降のオペレーションは
沢の仕事だと言ってしまっても過言ではない。
立場的に沢とは、自分と同等かそれ以下だと思っているが、それは保一人の考えであって
沢からしてみれば、その態度や物言いを思うと完全に自分を見下していた。
「あの男には何を言っても無駄だ・・・。」
今回の事にケリがつけば一旦日本でのビジネスを仕舞い、アメリカに行こうと保は考えていた。
- 143 名前:_ 投稿日:2004/01/06(火) 09:31
- ***
「今日の時化は凄かったな。」
「そうだな。この悪天候の中で無事にブツを受け取れてホッとしたよ。」
2002年9月27日、午後6時30分。
兵庫県城崎郡の漁港。
冬はカニ漁で、また温泉街としても有名なこの場所に、
平と市の二人を乗せた漁船が日本海沖から帰って来た。
北朝鮮からの沖取りのルートが変わった為に、二人は沢の命令を受けた。
普通こういう事は下っ端の人間の仕事なのだが、受け渡しポイントの設定をするために
沖取りのエキスパートである平と市に声がかかった。
目標になる物がある訳では無い。電柱が立っててそれに番地が書かれている訳でも無い。
海の上なのだ。
コンパスとカンだけが頼りの世界で、あらかじめ決められた場所に船を誘導する。
この日、日本列島を縦断した台風の影響で海は荒れ狂い、
それでもその中でブツを積んだ船を見つけ出し、接触しなければならない。
予定を二時間ほどオーバーしたが、二人はキッチリその結果を果たした。
「今から京都に行っても、もう新幹線はないぞ。」
「今日中に東京に帰れないのか?」
「そういう事だ。温泉にでも浸かって、ゆっくりしようじゃないか。」
「そうしたいところだが、まずはボスに連絡だ。」
妙に生真面目な平が携帯で沢にコールする。
- 144 名前:_ 投稿日:2004/01/06(火) 09:32
- 「残念だが、温泉はまた今度だ。」
「ボス、なんて言ってた?」
「沖取りの成功には喜んでくれたが、今日の内に帰れる所まで帰ってこいって。」
「・・・チッ、マジか?」
「京都までなら、まだ電車あるだろ?」
「・・・あると思うが・・・別にいいじゃないか、ブツはちゃんと持ってるんだし、
どっちみち、東京に帰るのは明日だ。3時間や4時間の差なんて、どうって事ないだろ?」
一日中海の上で波に揺られ、さらに今度は京都まで電車に揺られる。
苦行とも言えるその行為に、市は全身で不快感を表した。
「・・・仕方ない。ボスの命令は絶対だ。悪いが、時刻表を見て京都までの電車を調べてくれ。
今日中に京都に入り、明日の昼にはこれを持って東京に帰る。我々の休暇はその後だ。」
「・・・チッ、真面目だな、アンタは。・・・ハイハイ、分かりました。」
組織内における二人の格は同等なのだが、年上の平に市は逆らえない。
市はそれでも恨めしそうに時刻表を調べ始めた。
「・・・今からだと、これしかないな・・・。京都着は22時58分か・・・。」
城崎駅から山陰本線と嵯峨野線を経由して京都駅まで約3時間半。
電車の出発まで二人は、駅近くのレストランで簡単な夕食をとり、時間を潰した。
電車に乗ってからも、ほとんど無言の二人だったが、
途中で3回の乗り継ぎをするために、ぐっすりと眠る訳にはいかない。
定刻を5分程オーバーした電車が京都に到着したのが23時を少し回った頃。
疲れ果てた二人がホテルにチェックインすると、すぐに泥のように眠ってしまった。
- 145 名前:_ 投稿日:2004/01/06(火) 09:33
- 翌朝、ホテルのフロント。
まだ早い時間だというのに、チェックアウトをする客でそこは混みあっていた。
ホテルの社員が3人で対応してるのだが、列になって人が並んでいる。
そこに平と市の二人も、部屋の清算をするべくやって来た。
市が列の最後尾に並び、平はコカインの入ったバッグを持って、ソファーに向かう。
フロントの前には、幅の広いベンチ型ソファーが3台、設置されている。
フロント側からも、ロビー側からも座る事の出来る大きめのサイズである。
一番端の隅には、帽子を目深に被った女性がフロントに背を向け、ロビーの方を向いて座っていた。
逆側の端は一組の家族連れが一台のソファーを独占している。
平は真ん中のソファーにフロント側から腰掛け、バッグを足下に置いた。
平が煙草に火を付けた時、帽子を被った若い女性が立ち上がり、
フロントに並んでいる大柄な女性に声をかけた。
「トイレ行ってくるから、ちょっと荷物見てて。」
声をかけられた女性は、首だけ振り返って彼女のバッグを確認し、頷いた。
「平さん、ちょっと。」
順番が回ってきてホテルの人間と言葉を交わしていた市が振り返り、平に向かって手招きする。
「俺のカード、使用限度額いっぱいで、ダメらしい。持ち合わせないっすか?」
「しょうがない奴だな。」
尻のポケットから財布を取り出しながら、平はゆっくりと立ち上がった。
- 146 名前:_ 投稿日:2004/01/06(火) 09:34
- マサルは退屈だった。
さっきから母はフロントの前に陣取り、ホテルの係の人とずっと話をしている。
父は隣に座っているのだが、半年前に生まれた自分の弟を抱いて、ずっと彼に掛かりきりになっている。
2歳下の妹は、持っているぬいぐるみに語りかけ、完全に自分の世界に入ってしまっている。
キョロキョロと何を探すでもなく、辺りを見渡していたマサルの目がある一点で止まる。
「ねぇねぇ、パパ、あのカバンとあのおじちゃんのカバン、同じカバンだよ。」
5歳のマサル少年は、他人同士が同じバッグを持っている事に興味をそそられた。
父の耳元で囁くように、自分の見つけた事件を得意げに報告する。
ろくにそっちの方を見ない父が、あぁホントだね、と言いながら弟のヨダレを拭いている。
父に相手をしてもらえないのは、なんとなく分かっていた。
それでも急にテンションの上がったマサルは、寝転ぶようにしていたソファーから起き上がり、
注意深く同じバッグを見比べていた。
その時、バッグの持ち主である男性が立ち上がり、フロントへ歩いていく。
もう一方のバッグは、ソファーの影に隠れるようにして置いてあり、持ち主はいない。
一瞬、マサルの頭にいつもの悪戯心がもちあがった。
見つかれば素直に謝ろう。
パパに気付かれないように、おじちゃんに気付かれないように。
音も立てず、わずか数秒でマサルは二つのバッグを入れ替えて置いた。
中身がなにで、自分の悪戯がこの後どんな状況を引き起こすか、知る由もなく。
唯、いつものと違って、スケールの大きな悪戯にマサルは心臓が飛び出そうになる程、ドキドキしていた。
「ボク、どうしたの?」
放心状態だったマサルに、トイレから帰ってきたもう一つのバッグの持ち主が声をかける。
「えっ、なんでもない。」
泣きそうになるくらいドキドキしていたが、マサルは振り返り声の主を見上げた。
眩しい程、キレイなお姉さんがそこに立っていた。
- 147 名前:_ 投稿日:2004/01/06(火) 09:35
- ***
保は立ち上がり、マホガニー製の重厚な本棚の前に行き、一冊のファイルを手にした。
黄色いビニールで出来た表紙を開くと、北京語で書かれているレポートが挟まれていた。
もう記憶してしまう程に熟読した報告書に、もう一度目を通してみる。
『平充家と市耶紗が持って帰って来たバッグの中身について』
白い無地のセーター
青いマオカラー風の長袖シャツ
赤地でディズニーのキャラクラーがプリントされた長袖のTシャツ
紺色でブランドロゴがプリントされた半袖のTシャツ
ピンクのチェックのキャミソール
オレンジの花柄のハイネックタンクトップ
白いタイトなミニスカート
スネーク柄のフェイクレザーのローライズパンツ
濃紺で太ももの辺りがウォッシュ加工されたGパン
下着は全部で5組 全てが上下セット物
ベージュのスタンダードなブラとパンツ(ブラのストラップは透明なビニール製に交換されている)
ベージュで総レースのブラとパンツ(パンツはローライズ仕様)
ブルーで総レースのブラとパンツ(ブラは3/4カップ)
以上3組が使用済み
ピンクで前面に白のレースで模様が入ったブラとパンツ
黒のブラとパンツ(ブラは3/4カップで、パンツはローライズ仕様)
以上2組は未使用(洗濯済み)
使用済みのパンスト1点(ベージュ)
使用済みの網タイツ1点(黒)
新品のパンスト(ベージュ)
黒の幅広ベルト
ゴールドのチェーンベルト
フェイスタオル2枚
アディダスの黒のジャージ上下
京都名産の和菓子と煎餅(土産物)
- 148 名前:_ 投稿日:2004/01/06(火) 09:35
- 以上がバッグに収められていた全てである。
白セーターと長袖シャツに付いていた、抜け落ちた毛髪3本を採取した。
これと使用済みの下着に付着していた体液より血液型が判明。
ABO式はA型。Rh式は陽性(D抗原)。Mn式はMM型。Lewis式はLe(a+b-)型。
その他の血液型分類はサンプルが少ないため、確認されず。
尚、前記サンプルよりDNA鑑定については塩基配列を抽出済み。
おそらく標的本人のものと思われる指紋についても採取済み。
服のサイズより、標的の推定身長は150〜160センチと予測される。
推定体重は38〜48キロ。ブラのサイズがアンダー65のCカップなので
日本人女性として、極めて一般的な体型であると言える。
推定年齢は16〜26歳と予測する。幅を広く持たせたのは
持ち物の90%が有名ブランド品であるため(下着は5点とも高級品)
上を高めに見積もっているが、おそらくはハイティーンと思われる。
京都の土産物を持っていたため、京都以外に在住する日本人女性と推測する。
黒の下着が東京青山のランジェリーブティックでのみ販売されている物であるため
東京在住か、その近辺に通う人間である可能性が高い。
標的は京都を含めた土地に3泊の旅行をしていた途中であったと思われる。・・・・・・
- 149 名前:_ 投稿日:2004/01/06(火) 09:36
- そこまで読んだ保は、顔を上げファイルを閉じた。
結局なにも分からないのと同じ事だ。
ターゲットは、血液型も体型も年齢も、全てが標準でありきたりである。
この広い日本から、いや、東京に絞ったとしても、どうやって捜せと言うのだ。
保はファイルをテーブルの上に放り投げ、ラッキーストライクを銜えた。
このバッグを開けて、白いセーターやミニスカートが出て来た時の、
平と市の呆けたような表情が忘れられない。
お互いにゆっくりと顔を見合わせ、また視線をバッグに戻す。
何か言いたげで、結局何も言わなかった二人の様子は
笑ってしまう程に、コミカルなものであった。
その二人が今は白骨化した死体となって発見された。
さっきは沢に見栄を切った保だが、自分の危険度はどれくらいなのだろうと考え込む。
平と市の二人は正式なルートで日本に来ていない。
つまり、不法入国である。絶対に身元が割れる筈はない。
借りに身元が割れたとしても、あの二人と自分を結びつけるものは何もない。
じゃあ、死体を埋めた沢の部下はどうか?
もし何かあって、奴等がパクられるとどうなる?
まさか自分達から死体遺棄を喋る事はないと思うが、絶対に無いとも言い切れない。
そこで俺の名前が出れば・・・
多少の疑心暗鬼に捕らわれ始めている保の目は鈍い光を放ち、虚無を彷徨っていた。
- 150 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/01/06(火) 10:30
- 今日はここまでです。
実は今回の更新分、メチャメチャ悩みました。
本来、一週間前にupするつもりだったんですけど変更に変更を重ね、今日になってしまいました。
娘。達が出て来ない更新なんていいんだろうか?と思って、これの5倍くらいあったテキストを削り倒し
ようやく先に進む事が出来ました。無理矢理もあるので意味の通じてない箇所があれば、ごめんなさい。
そこは雰囲気で読んで下さい。
それと、その作業で苦しんでいた時に、わるいこえりのスレに『ARMED AND READY』という
短編を書いてみました。作品自体は完全な駄作なんですが、ショートストーリーの難しさ、
一人称で書く事の煩わしさを学んで、やってみて良かったと思います。
物語は自分の青春時代を思い出しながら、けっこう楽しく書きましたが。
もし時間のある方がいれば、読んでやって下さい。
- 151 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/01/06(火) 11:42
- >>130
レスありがとうございます。
いつも力になるレスを頂き、本当に感謝です。
対比の部分は自分でもちょっと意識して書いたので、褒めてもらえて嬉しいです。
今回の更新はこんな感じですが、これからもよろしくお願いします。
>>131
レスありがとうございます。
そのHN・・・もしかして48さんですか? フルネームを漢字で知ってる人がいるなんて・・・
確か、ラウドではMASAKI表記でしたよね? という事はEZO時代か・・・懐かすぃ・・・
よしこの過去は一応クライマックスに用意しているので、マターリお待ち下さい。
>>132
レスありがとうございます。
どんどん、さゆヲタになって下さい。歓迎します。(w
毎回の色々なキタ━━━AAを見るのをとても楽しみにしています。
- 152 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/01/06(火) 11:44
- >>133
レスありがとうございます。
今回の更新はストーリーの展開上、説明チックでしたが
次回からはまた天然シゲさんや、新しくチャミののが出て来ます。
御期待下さい。
>>134
レスありがとうございます。
まさにこれからその展開に突入します。
しかし他のメンバーはミキティの様に一筋縄ではいかないかもしれません。
これからのよしこの活躍を見守って下さい。
>>135
レスありがとうございます。
この時だけは、いつもしている10キロのパワーリストを外していた・・・
という事でどうでしょうか?(w
まだまだよしこは暴れまくります。
- 153 名前:ss.com 投稿日:2004/01/06(火) 22:52
- アッチャー! 作品冒頭でヨッスイーのマンションで何気なく流れてたニュース
がここに繋がりましたか!
いやはや、バッグのすり変わりが年輪も行かぬ子供のイタズラとは!!
ますます、裾野が広がって来て、どっぷりとハマってしまいました。
でも、悪役4人の名前、最高のアナグラムです。思わず笑ってしないなした。
期待しています!!!
- 154 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/07(水) 19:05
- >>153
ネタバレ…
- 155 名前:ss.com 投稿日:2004/01/07(水) 21:05
- >>154
申し訳ありませんでした。
つい、興奮してしまって。作者様、読者の皆様、本当に申し訳ありません。
以後、十分注意します。
- 156 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/07(水) 22:58
- で、ここで2chブラウザを進めるのがきまりw
というわけで、ネタバレ嫌な人は使用を推。
>>155
めちゃくちゃエロもの書いてる方ですよねw
なにげにちょこちょこ読んだりしてます。
これからもがんばってくださいー。ほんで注意してね。
- 157 名前:山田雅樹 投稿日:2004/01/08(木) 01:14
- コラコラ大佐のスレで何をやってるんだお前たちわ。
しかしネタバレしてしまう気持ちも分からんでもない。
俺だって読みながら叫んでしまいそうになったぞ。
大佐いよいよ本領発揮だなw 実に話がよく練られている。
削られてしまった部分を含めた完全版も出来れば読んでみたい。
ちなみに俺は48ではない。今までずっとROMってはいたが。
それとラウドに入ったときはまだまだ山田雅樹でクレジットされていたぞ。
- 158 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/09(金) 10:51
- ミキティがCカップ???
Aじゃないのって?あってもBでしょ?
重さんが柔らかだと触ってたのはパッ(ry
『ARMED AND READY』面白かったよ!
大佐ってホントにヘヴィメタ好きなんだね
- 159 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/09(金) 22:35
- 凄い展開になってきた…
これから先どうなるのか怖い…
ところでスレ違いは重々承知の上お尋ねしたい。
わるいこえりのスレってどこですか?
全板見てまわったけど見つかりません…短編読みたいです…
- 160 名前:オシエンジャア 投稿日:2004/01/09(金) 22:43
- 名無し読者さん、えりのなら月版にありますよ。
- 161 名前:159 投稿日:2004/01/10(土) 00:02
- オシエンジャア様、素早い対応有難うございます。
月にいって読んできました。聖誕祭スレのことだったんですね。
作者様、読者の皆様、スレ汚し失礼いたしました。
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/15(木) 15:55
- >>157
誰?
- 163 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/16(金) 01:48
- 狼の娘。小説でも語ってみるかスレで話題になってたので検索かけてたどりつきました。
いや〜いいですねぇえり吉。
さゆ美貴も激しさに比べるとまだまだこれからというのにひかれます。
あとやたらと正義漢なよっすぃ〜が彼女の好きなキャラアンパンマンぽい。
そういえば大佐は某「空」の某ヤクザ小説では吉澤さんがシャブ中の役だなんてことご存じないですよね
- 164 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/19(月) 22:49
- まだかなまだかな〜
- 165 名前:名無しさん 投稿日:2004/02/03(火) 23:49
- 面白かったです。イタな回と萌えな回のギャップが凄いですね。
どっちも好きです。しかし、娘。ヲタって色んな趣向の人がひるんだな〜と
思った。続き楽しみに待ってます。頑張ってください。
- 166 名前:_ 投稿日:2004/02/07(土) 01:12
-
〜第三章〜
「で、ミキティのお見舞い行った?」
「・・・行ったけど・・・安倍さんと真里っぺが一緒だったから・・・話出来てないんだよね・・・」
「なんだよ、それ。じゃ、ずっとアレ貰えないままじゃんか。」
「ゴメン、もうちょっと待って。なんとかするから。」
「なんとかって、どうすんだよ?」
「・・・今日・・・はもう無理か・・・明日にでも、一人で病院行って、ミキティに話してみる。
それでまたダメだったら、別の考えがあるから。」
「・・・別の考えって?」
「今は秘密。とにかく、明日の夜まで待って。ね、お願い。」
「・・・その考えってさぁ、ヤバくないの?」
「ヤバい? 何が?」
「・・・バカかよ! ・・・あ〜も〜やってらんねぇ・・・」
辻希美は捨て台詞を残し、ドアを乱暴に開けてリハーサル室を出ていった。
今日から三日間、娘。達は新曲のレコーディングが予定されている。
いつものように年上のメンバーから一人ずつブースに入り、歌録りをしていく。
その間他のメンバーは、宣材用のスチール撮影、リハーサル、発声練習などをして自分の番に備える。
普段なら、もう四期全員が終わっててもいいくらいの時間だ。
しかし今日は妙に進行が遅い。飯田がブースから出てくるまでにも、かなり時間が掛かったが
いつもレコーディング時間の短い矢口が、入ったきりなかなか出て来ない。
リハーサル室の窓から見える景色が、完全に夜のものになっていた。
(・・・ったく、最近ののって怒りっぽいんだから・・・アレを一番ヤりたいのは私の方なんだよね・・・
ってゆうか、誰が誘ってあげたと思ってんのよ・・・あの子ちょっと態度でかすぎだよ・・・)
部屋に一人取り残された石川梨華は、ふぅ、と短い溜め息を漏らした。
- 167 名前:_ 投稿日:2004/02/07(土) 01:14
- 地下にあるシューティングスタジオ。
ここには、飯田圭織、吉澤ひとみ、加護亜依、紺野あさ美、亀井絵里、の五人がスタンバイをしている。
現在は加護が白ホリゾントの前に立ち、スチール撮影を行なっている。
カメラマンがシャッターを切るたびにストロボが白く光り、
ジェネレーターがチャージされる『ピピピピ』という音が規則正しく鳴り響く。
「あと、石川さん達の事、どうするんですか?」
「そうだな、なるべく早いうちにカタつけないとな。」
「あたし・・・れいなが心配で・・・」
「そりゃ、俺だって心配してるさ。けど元栓は閉めた訳だし、大丈夫だって。」
「そうだといいんですけど・・・」
「それからな・・・」
「何二人でコソコソやってんの?」
読書に飽きた飯田が、意味深な笑みを浮かべ吉澤と絵里の二人に近づく。
「えっ、や、あの・・・」
「いえ、矢口さん遅いねって二人で話してたんです。」
後ろから突然声をかけられて動揺する吉澤に代わり、絵里が淀みなく答える。
「やぐち? ・・・まだ矢口がレコーディングやってんの?」
「ハイ。さっきあたしトイレに行ったんですけど、ブース覗いてみたら矢口さんでした。」
「遅くない? まぁ、あたしも今日は人の事あんま言えないんだけど・・・ちょっと見てくるわ。」
飯田は壁に掛かった時計を見上げながら、スタジオを出ていった。
- 168 名前:_ 投稿日:2004/02/07(土) 01:16
- 「いや〜、お前って、ホント気が利くよな。危なかったよ。」
「それはいいんですけど、さっき何言いかけたんですか?」
「さっき? 俺なんか言ったっけ?」
「それからな・・・って、飯田さんが話しかけてくる前に、確かに・・・」
「・・・忘れた。何だっけ? ま、忘れたって事は大した話じゃなかったんだろう。
思い出した時にまた言うよ。」
「もう。」
顔は笑っていた絵里だが、吉澤の言いかけた内容が胸に引っ掛かった。
(多分、重要な話だ。吉澤さんも忘れた訳ではない、と思う。何故言ってくれないんだろう?
今はまだ話す時期じゃないって事? それとも確証のない話だから? う〜ん、分からない・・・)
「はい、OKです〜。」
「どーも、ありがとございましたぁ。」
予定されていた3ロールの撮影が終わった加護が、深々とカメラマンにお辞儀をして
「次、あさ美ちゃん〜。」
と叫びながら吉澤達の方へダッシュしてきた。
名前を呼ばれた紺野は、先程からスタジオの隅で一心不乱にマンガを読んでいたが
名残惜しそうに立ち上がり、ハイ、と返事をした。
通常、娘。達の撮影方法は二人一組になって行われる。
一人が撮影してる間、もう一人はフィッテングとヘアメイクで準備する。
ひとつの衣装で3ロールずつを4〜5パターンから、多いときは10着以上もの衣装を着替える。
今日の撮影はレコーディングと平行してやってるために、衣装は3着だったが
それでも一人9ロール、300カット以上のシューティングである。
吉澤とペアを組んでいた加護の撮影が終わり、残すは紺野と絵里のペアだけとなった。
- 169 名前:_ 投稿日:2004/02/07(土) 01:17
- 「なぁ、よっちゃん、亀井ちゃんと何話してたん? なんか最近ごっつ親密やん。」
「分かる〜? 一生懸命亀井を口説いてたんだよ。」
必要以上に茶化した感じで吉澤は加護に答える。
話題にされた絵里はフィッテングのために席を立ち、今はいない。
「何ふざけてんねん。よっちゃん、ちょっと変やで? や、よっちゃんだけやなくて
最近、変な奴が多いんちゃうか? ウチら。」
「変て? 例えば誰?」
突然真面目になった吉澤が加護の顔を覗き込む。
「よっちゃんに、石川、藤本、あとのんもかなりおかしい。亀井ちゃんと田中ちゃんも変やけど、
あの子らは入ってきた時から変わってるから、ここでは言わんとく。
あと、やぐっさんもここんとこオカシイんちゃうか? 今日かって、まだ立て篭もってんねやろ?」
加護に何を言われても表情に変化を見せないつもりだった吉澤だが、さすがに目を見開いた。
(コイツも鋭いな・・・しかし・・・やぐっつぁん・・・? 何故? なんか関係あるのか・・・?)
「なんでやぐっつぁんがおかしいんだ? どこらへんがオカシイ?」
「・・・ふぅ〜ん・・・やぐっさんにだけ反応するっちゅう事は、その他の奴らは変やと認めてんねんな?
それで、よっちゃんはそいつらが変になった理由も知ってる、っちゅう事でええんか?」
「!」
「なんや、図星か。ほな聞こか。言うてみぃ。」
「・・・なんで・・・変だと思った? ・・・そいつら・・・」
「あれ? 質問してんのはウチなんやけどな?」
「・・・。」
「はよゲロしてまえや。楽なるで? ん?」
「・・・今は・・・言えない・・・悪いようにはしないから・・・ここは・・・見逃してくれ・・・」
「・・・そうか・・・まぁええわ。ウチは基本的によっちゃん信頼してるから。」
数秒前の無表情な顔とは打って変わって、天使のような笑顔で加護は言った。
- 170 名前:_ 投稿日:2004/02/07(土) 01:19
- 「なんか、腹減ったな。控室行ったら弁当届いてんのんちゃう?」
「そうだな、俺らのレコーディングはまだみたいだし、先にメシ行くか。」
「残念ながら、今日は弁当ありません。」
スタジオに入ってくるなり、飯田が吉澤と加護に伝える。
「えっ、なんで? メシ抜きで働かされるんか? なんの罰やねん?」
「別に罰じゃないよ。今日はもう上がり。」
飯田の後ろに隠れていた形の矢口がひよっこり顔を出し、加護に答える。
「あつ、やぐっさん。今日はどないしたん?」
「いやぁ、面目ない。ゴメンね、時間食っちゃって。」
「いや、ええねんけど、やぐっさんがここまでてこずってんの、初めてやん? ごっつ気になって。」
「なんか、色んな事考えちゃって、ダメだね。オイラ。」
「で、ホンマに今日は終わり?」
「そう。今は石川がやってるけど、その先は今日はなし。明日よっすぃから。」
今度は飯田が会話に加わる。
「上で練習してた子達も殆ど帰ったと思う。なんかのんちゃんは石川を待ってるみたいだけど。」
(梨華ちゃんとのの・・・? なんか怪しいな・・・)
帰り仕度を始めた三人を余所に、吉澤はどうするべきなのか判断がつかなかった。
「よっすぃ、何してんの? 一緒にご飯食べに行こ。」
「・・・や、亀井を・・・亀井と紺野、待ってます。先行ってて下さい。」
飯田に声をかけられ一瞬迷ったが今日はやめとこう、と吉澤は思った。
「そう。じゃ行くね。おつかれ〜。」
「おつかれっス。」
- 171 名前:_ 投稿日:2004/02/07(土) 01:20
- ***
入院して四日目、美貴は凄まじい禁断症状と戦っていた。
耐性を生じやすいドラッグで、比較的その症状が楽な部類に入るコカインだが、
それでも身体から抜くのには並大抵の事ではない。
現在流通しているドラッグの中で、禁断症状のきつい順番をつけるならば
最強は間違いなくヘロインだろう。これにドップリと落ちてしまった奴はもう死ぬしかない。
体質がどうとかの問題ではない。100%生きて帰っては来れない。
次に覚醒剤である。エックスもここに含まれる。
意外に思うかもしれないが、次にランクされるのはアルコール、つまり酒である。
現在、殆どの国で合法とされているアルコールだが、実は立派なドラッグなのだ。
拡大解釈をすれば、それこそ煙草(ニコチン)だって、コーヒー(カフェイン)だってその中に含まれる。
そしてコカインはその次、という事になる。
ハードなアル中とコカインジャンキーでは、アル中の方がずっと立ち直りにくい。
専門の病院に入院し、カウンセラーを付け、中にはベッドに縛りつけられる患者も少なくない。
精神的依存症は勿論の事、身体的依存症も伴うのがアルコール中毒なのである。
対してコカインジャンキーに身体的依存症はあまりみられない。
ここで言う身体的依存症とは、服用を中止することによって熱が出たり関節などが痛む事で
身体が震える事とは違う。要するに気分的にヘコんだり、イライラするだけの事だ。
- 172 名前:_ 投稿日:2004/02/07(土) 01:21
- それでも美貴は三日間で目の周りが窪み、頬はそげ落ちてしまった。
長い時間を同じ姿勢でいられないので、横になっている時は常に寝返りを打ち、
それすらしんどい時はベッドの上で体育座りをしたりと、落ち着きが無い。
適度に空調がきいているのに、手足は小刻みに震え脂汗が身体全体に流れる。
何よりもそれが不快で、一層気分が滅入る。
汗を拭こうと、身体を起こし着ていた病院の浴衣を脱ぎ、腹に巻かれたコルセットを外す。
タオルを手に取った時、ふと、ドアの向こうに美貴は人影を感じた。
面会時間はとっくに過ぎてるし、看護婦の見回りの時間でもない。
「誰? 誰かいるの?」
恐る恐るドアの向こうに声をかける。上半身裸の美貴は掛け布団を引っ張り、胸を隠す仕草をした。
「・・・田中ですけど・・・」
「田中ちゃん? どうしたの? どうぞ。」
ゆっくりとドアが開き、田中れいなが申し訳なさそうに入ってくる。
「どした、こんな時間に?」
「いえ、ごめんなさい。」
「今ちょっと身体拭こうと思ってたんだよね。裸なの。」
「あっ、じゃあ、私にさせて下さい。」
れいなは洗面台で洗面器に水を張って戻ってくる。タオルを浸し固く絞って美貴の後ろに回った。
「背中、拭きますね。」
優しく丁寧な手つきだった。タオルのヒヤリとした感触が心地よく、
さっきまでの不快感が嘘のようだった。
「ありがと。すごく気持ちいい。」
少し照れた子供のような笑顔でれいなは頷いた。
背中が終わって腕を持ち上げ、脇の辺りを拭いた所でもう一度タオルを水に浸す。
- 173 名前:_ 投稿日:2004/02/07(土) 01:22
- 「・・・前も・・・いいですか?」
タオルを絞りながら遠慮気味に聞く。
「うん、じゃあ、お願い。」
「折れてるの、どこでしたっけ?」
頬を赤く染めながられいなが美貴の前に立つ。
「このへん。この辺りはいいよ。」
左の脇腹あたりにてのひらを当てながら美貴が答える。
「分かりました。じゃ、ちょっと顔上げてください。」
首から肩の辺りを優しくマッサージするような調子で拭いていく。
胸を、一瞬躊躇したれいなだったが、さらに優しく撫でるように拭いた。
「ぁん、それじゃ、くすぐったいよ。」
「あっ、ごめんなさい。」
これがさゆみだったら、間違いなくキスをしてくる所だ。いや、この状況じゃ
絶対にキスだけじゃ済まないだろう、そんな事を考えながら美貴は尋ねた。
「それで、どうしたの、今日は?」
「・・・なんか・・・藤本さんの顔が見たくて・・・」
「そう。で、顔みてどう?」
「・・・なんか、藤本さん、やつれてる感じで・・・」
「ハハハ。正解。コカインのせいで。アンタも、もう絶対にヤっちゃダメだよ?」
「コカイン?」
それまで手を動かしながら話していたれいなが止まり、首を傾げた。
「あの白い粉よ。前に石川と辻ちゃんとで何回かヤったでしょ?」
「・・・あ・・・あれって・・・コカイン・・・だったんですか・・・」
れいなにそう言われた瞬間、美貴の身体に電流が走ったような気がした。
- 174 名前:_ 投稿日:2004/02/07(土) 01:24
- (そう言われればそうだ。美貴は何故、今アレをコカインと呼んだ?
・・・それは・・・よしこが言ったからだ・・・よしこは美貴の部屋でアレを舐めて、こう言った。
『何故これがコカインと分かった』と。そう断言した・・・間違いない・・・
・・・つまり、よしこは・・・コカインの味を知ってた事になる・・・?
なんであの時・・・気付かなかったんだろう・・・よしこが・・・まさか・・・常習者・・・?)
「・・・じもとさん、ふじもとさん。」
「えっ、あぁ、ゴメン。」
「どうしたんですか、突然?」
「や。ちょっと、考え事・・・」
(味方であり、今一番の美貴の理解者だと思ってたのに・・・
・・・そう言えばコロンビアじゃないのに落ちてるのが変とかどうとか、
これが身体から抜けるのは時間が掛かるとか・・・いろんな事を知ってた・・・
・・・よしこが怪しい・・・? ・・・あいつ、まさか・・・
・・・いや、待てよ、美貴に向かって怒鳴ってみせたのは・・・あれは絶対に本気だった・・・
演技なんかじゃない、本気で叱ってくれた・・・これはどういう事?・・・分からなくなってきた・・・)
れいなに身体を拭いてもらって、少しはリフレッシュしたとはいえ
禁断症状の真っ只中にいる美貴が、考え事をすることによって、
また、どうしようもない虚脱感と身体の震えに陥ってしまった。
「藤本さん、どうしたんですか?」
青白い顔で目の焦点が合わなくなった美貴を見て、れいなはナースコールを探す。
枕の下で見つけたそれを押そうと思った瞬間、美貴に手首を掴まれた。
「・・・バカ・・・禁断症状がバレるじゃない・・・」
本当はもうとっくに、医者には何らかの薬物中毒である事はバレてるのかも知れない。
しかし、それでもこの現状を医者や看護婦に診られる訳にはいかなかった。
「手を握ってて・・・」
「ハイ。」
とりあえず、れいなは美貴をベッドに寝かせ、肩まで布団を掛ける。
細かく震える手を取り、両手で強く握りしめた。
- 175 名前:_ 投稿日:2004/02/07(土) 01:26
- 時折苦しそうに呻き声を上げる美貴だが、暫くの時間が経ち、ようやく呼吸が整い始めてきた。
れいなは美貴の額に浮かぶ汗を、絞ったタオルで丁寧に拭き取る。
時計を見ると、もうすぐ2時になろうとしていた。
帰るタイミングを失ったれいなは、覚悟を決め朝までここにいようと思っていた。
「・・・ずっと、いてくれたの・・・」
「あっ、気がつきました? よかった、ちょっと顔色がよくなってます。」
「・・・ゴメンね、迷惑かけて・・・少し眠ってしまったみたい・・・」
「私も、ウトウトしてましたから、お互い様です。」
「もう、電車ないね・・・毛布貰ってきてあげるから、ソファーで横になったら?」
「私は大丈夫ですよ、若いんだし。それより、気分どうですか?」
「うん・・・だいぶマシになった。ありがとう。」
「それにしても・・・怖いんですね、コカインって。」
「・・・そう・・・だね。・・・美貴は身をもって感じてるよ。」
「やっぱり、アレですか、風呂でこけたのも、禁断症状で?」
「ハハハ、違うよ。それは嘘。」
「嘘? じゃなんで肋骨なんか骨折したんですか?」
「よしこ怒りの鉄拳。」
「吉澤さん?」
「アンタにはホントの事言うけど、美貴がコカインをヤってるのが、
よしこと亀井ちゃんにバレて、対決したの。美貴は絶対に勝てると思って
よしこにむかっていったんだけど、あっさりやられちゃった。アイツはマジで強い。
美貴もケンカには自信あったのに、まるで歯が立たなかったよ。」
「よしざわ・・・さん・・・」
笑いながら話す美貴にあわせて、れいなも表面上は笑顔で対応していたが
その目の奥に狂気の光りが宿った事を、美貴は気付かなかった。
- 176 名前:_ 投稿日:2004/02/07(土) 01:27
- ***
机に突っ伏して熟睡していた絵里は、スカートのポケットに入れていた
携帯によって目を覚ました。着信があり、バイブが作動したのである。
顔を上げ目を擦る。辺りを見渡して、ようやく今が数学の授業中であった事を思い出す。
一番後ろで、かつドアに近い所に座っている絵里は、音を立てずに教室を抜け出した。
携帯の液晶を確認してみると、美貴からのコールだった。
「はい、亀井です。」
『ごめん、美貴。今、大丈夫?』
「授業中ですけど、全然OKです。どうしたんですか?」
『・・・今日の予定ってどうなってるの?』
「今日は昼まで学校で、そのあとはレコーディングですけど・・・?」
『悪いんだけど、時間とれるかな? 話があるの。』
「・・・分かりました。どうせ早退しますから学校を早く出て、そっちに寄ります。」
『ホントにゴメンね。じゃ、後で。』
(藤本さんがあたしに話って何だろう・・・?
こんな時間に電話かけてくるくらいだから、大切な話に違いない・・・
でも内容がこの一連の事だとすると、あたしじゃなく吉澤さんに話す筈だ・・・
と、いう事は全然関係のない話・・・?)
廊下で一人、絵里は考え込む。
腕の時計を見ると11時前だった。スタジオには2時までに入ればいい。
教室のドアを開けた絵里は、早退します、とだけ言いカバンを手に取った。
- 177 名前:_ 投稿日:2004/02/07(土) 01:30
- 昨日の進行が予想以上に遅れたために、レコーディングは1日追加され合計4日の予定になった。
今は吉澤か辻が歌録りをやっている時間だ。多分今日中に五期が全員終わる事はない。
そう考えると、絵里の出番は明日以降という事になる。
今日は発声練習とリハーサルか、と思いながら絵里は病院へと急いだ。
途中電車の乗り継ぎなどがうまくいったために、1時間掛からずに到着できた。
病院のエントランスからロビーに入った所で、絵里は足を止めた。
前に、見覚えのある後ろ姿があったからだ。細身の身体にセミロングの黒髪。
間違いない、あの人だ。突然早くなる鼓動。
(問題はあの人もあたしと同じように、藤本さんに呼び出されたのか、
それとも偶然重なってしまったか? 前者なら問題はない、
あたしから声をかけてもいい。でももし後者だったら・・・?)
絵里は決心し、距離を置いて後をつけた。
わざと違うエレベーターに乗り、美貴の部屋を目指す。
最上階に着くと、エレベーターホールから身を乗り出し廊下を注意深く見た。
丁度、美貴の部屋のドアが閉まるところだった。
足音を立てないように美貴の部屋へ近づく。
なんとなく絵里はこの事件のきっかけになった、あの日のことを思い出していた。
- 178 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/02/07(土) 01:46
- 今日はここまでです。
久し振りの更新で一発目を焦って下げ忘れた・・・。
なので今日は開き直って上げ進行にしてみました・・・。
>>153
レスありがとうございます。
ちゃんと読んでくれてるなぁと嬉しくなります。
悪役の名前は最初、王とか陳とかだったんですけど、それじゃつまらないので
物語に出て来ない卒メンの名前を使ってみました。結構ハマってると思ってます(w
>>154-156
これがネタバレなんですか・・・
まだ書かれていない内容を予想して先に書くのがネタバレだと思ってました。
これくらいなら作者的には全然OKなんですけどね・・・
読んでくれる人も読者レスを先に読む人はあまりいないだろうし・・・
何はともあれ、レスを流して頂いてありがとうございます。
ss.comさんって作者さんだったんですね。今まで知りませんでした。
申し訳ないです。作品読ませていただきました。
メチャメチャツボです。続編期待してます。
- 179 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/02/07(土) 02:00
- >>157
レスありがとうございます。
余計な事を書きすぎてしまったみたいですが、
草稿の段階で落とした部分はもう存在してません。
今読んでいただいてるのが完全版、と御理解下さい。
>それとラウドに入ったときはまだまだ山田雅樹でクレジットされていたぞ。
その通りでした。自分の記憶違いでした。
>>158
レスありがとうございます。
それはそうだと思うんですが・・・詰め物をしてでもCカップ、
という事にしといて下さい(w
あの駄作を読んでいただいて本当にありがとうございます。
>>159
レスありがとうございます。
物語はまだまだこれからです。末長くお付き合い下さい。
あと、説明が足りなくて申し訳ありません。
>>160
レスありがとうございます。
御親切にありがとうございます。
出来れば感想なんかも書いていただくと、もっと嬉しかったりします。
- 180 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/02/07(土) 02:19
- >>161
わざわざ探して読んでいただいて、ありがとうございます。
>>162
ラウドネスというバンドの三代目ボーカルの事です。
>>163
レスありがとうございます。
狼ですか・・・なんか最近貰えるレスが多くなった理由がようやく分かりました。
自分もそのスレ見たかったんですがもう落ちてますよね・・・?
>某「空」の某ヤクザ小説では吉澤さんがシャブ中の役だなんてことご存じないですよね
全く知りませんでしたが、気になったので探してみました。
時間がなかったのでナナメ読みしかしてなくて申し訳ないのですが
先方とはプロット自体もアプローチの仕方も違うので問題はない、と思いますが。
>>164
レスありがとうございます。
お待たせして申し訳ありません。
これからもゆっくりとお付き合い下さい。
>>165
レスありがとうございます。
後半になるとイタな回が増えてくると思うので出来れば前半で萌えな回を、と思うのですが・・・
なかなか難しいです。ハイ。
これからもよろしくお願いします。
- 181 名前:捨てペンギン 投稿日:2004/02/07(土) 11:39
- 更新、お疲れ様です
ネタバレになるので、感想はメール欄に
- 182 名前:名無し君 投稿日:2004/02/08(日) 11:17
- 1ヶ月振りキタァ(゚∀゚)ァァ( ゚∀)アァ( ゚)ァア( )ァァ(` )アア(Д` )ァア(*´Д`)アァン
ズゴボン聖誕祭の更新乙です。そのズゴボンのキャラが最高です。なんでそんなにエラそうなんだ?w
>>181 あの人は普通にあの人じゃないの。166の会話から。違うのかな。
- 183 名前:ss.com 投稿日:2004/02/09(月) 05:40
- >>178
お気遣い頂きまして…。153の事があったんでしばらくROM専でいようかと思ったんですが、
暖かいお言葉に甘えて出て来ちゃいました。
藤本さん、大変そうですね。ミキサユとはひと味違ったミキレナの雰囲気、いいですね。
何かに気付いた藤本さんの次の行動、そして、謎の人物…。ますます、期待大です!
私のスレにも来ていただいた様で…。大佐の様な深みのある作品は書けないので、
お恥ずかしいかぎりです。
それでは、また。
- 184 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/10(火) 20:16
- やた〜更新されてる
なんか忙しいとかでフェイドアウトの雰囲気ありありだったから嬉しいよ〜
これからもがんがって続けてください
- 185 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/12(木) 20:56
- 前回更新で全体像がおぼろげに見えた…と思ったんだが…
深いな……考えが甘かったようだ
大佐、これはかなりの長編になると思ってていいのか?
- 186 名前:_ 投稿日:2004/02/17(火) 22:13
- ***
「お疲れさまです。これどうぞ。」
さゆみは、レコーディングが終わりブースから出て来た吉澤に声を掛けた。
手にはペットボトルのお茶を持っていて、それを差し出す。
「おっ、気が利くじゃねぇか。サンキュー。」
「あの、吉澤さん、話があるんですけど・・・」
二人の横を通り抜け、辻が不機嫌そうな顔で吉澤と入れ替わりにブースに入る。
吉澤はさゆみから貰ったお茶をゴクゴク飲みながら、横目で見送った。
「話? 俺に?」
「はい。」
「あれ? ってゆうか、今日お前らのボイトレ、夕方からじゃなかったっけ?」
「五期と六期は2時入りなんですけど、学校早退してきました。」
「まだ12時前じゃないか。イカンな、学校サボっちゃあ。」
笑いながら吉澤はさゆみをたしなめる。
「それだけ大切な話なんですよ。」
「ふーん、じゃ、聞こうか。」
二人は誰もいないリハーサル室に場所を移した。
「で、何?」
「吉澤さん、えりのコト、どう思ってるんですか?」
「は? なんだよ、突然。」
「ですから、えりのコトです。好きなんですか?」
「・・・それが学校をサボってまで、俺に聞きたかった大切な話?」
「そうです。ちゃんと答えて下さい。」
「亀井に聞いてくれって頼まれたのか?」
「違います。あたし自身の問題です。」
- 187 名前:_ 投稿日:2004/02/17(火) 22:14
- 「・・・なぁ、よく分からんのだが・・・」
「ハイ?」
「俺が亀井をどう思ってるか、なんでシゲさんに関係があるんだ?」
「聞きたいですか?」
「・・・当然だろ? 意図が分からなきゃ、答えようがないし。」
「えへん、実はあたしもえりのコト、好きなんです。」
最初、意味が分からない、といった表情で暫く固まっていた吉澤が次第に笑顔になり、
遂には笑い声をあげて、爆笑し始めた。
「何がそんなにおかしいんですか?」
「・・・いや、おめぇだけは・・・ホントに読めん性格してるな・・・」
「・・・えりには、すごく純粋だって言われたんですけど。」
「や、その純粋さが読めない・・・ってか、藤本はもういいのか? あんな凄ぇキスかましてたのに。」
「何を言ってるんですか。勿論藤本さんのコトも大好きですよ。」
笑いながら喋っていた吉澤だが、さゆみのその一言に、今度は頭を抱えてしまった。
「ってコトは・・・おめぇは田中とはまだライバル関係が続いてて、俺が亀井を好きだと言えば
俺もおめぇのライバルになる、そう言いたい訳だな?」
「その通りです。」
「・・・。」
「どうしたんですか? 突然黙り込んで。」
「・・・や、こういう場合、どうしたもんかと思ってね・・・
説教かますのがいいのか、冷たく突き放すのがいいのか・・・」
「突き放さないで下さいよ。それなら説教の方がまだマシです。」
「・・・シゲさん、いくつになった?」
「14ですけど・・・」
「14か・・・」
吉澤は自分の14歳の頃の事を思い出し、少し憂鬱そうに顔をしかめた。
- 188 名前:_ 投稿日:2004/02/17(火) 22:14
- 「多分、アレだ。」
「・・・アレってなんですか?」
「おめぇは勘違いをしてるんだよ。」
「勘違い、ですか?」
「そう。14〜5歳くらいって、よくあるんだよ。恋に恋してるってヤツ?
ホントに好きなのが誰だか分からなくなって、相手が誰でもいいからとりあえず恋がしたい・・・」
「勘違いなんかじゃありませんよ。あたしは藤本さんとえりが好きです。」
「言い切りやがったな、このヤロー。こないだ三人で病院に行った時は、
藤本オンリーみたいな事言ってたじゃねぇか。」
「そう、あの時は確かにそうでしたけど、あの日の夜、えりの家に泊まって
夜遅くまでいろんな話をして、えりも好きになったんです。」
吉澤は下を向いて首を振った。
「だから、それが勘違いだって言ってるんだよ。ひとを好きになるってのはなぁ、
そんな簡単なもんじゃねぇぞ。それに本当にそんなに惚れっぽかったら、この先大変な事になるぞ?」
「・・・。」
「一目惚れっていうのは確かにあると俺も思う。初めて逢った人にビリビリくるような感じ?
それは認める。けど、そうなったら、前に好きだった奴よりもそっちに比重が大きくなるもんだ。」
「・・・。」
「まして、おめぇの場合はずっと友情の関係だった相手が突然、恋愛対象になってるし。
これがまず有り得ねぇ。しかも同じくらい二人とも好きだというのは、もっと有り得ねぇ。」
「・・・。」
「言ってる事が分かるか? つまりおめぇは恋するって事に勘違いしてるんだよ。
百歩譲ってだな、藤本より亀井の方が好きになって乗り換えるというなら、まだ分からんでもない。
しかし、藤本は好き、亀井も好きになりましたじゃ、おかしいとは思わんか?」
「・・・吉澤さん・・・」
「おめぇは人生経験が未熟だから、目の前にいる身近な人間を
好きだって思い込んでるだけなんだよ。どうだ、分かったか?」
向かい合って座っていた二人だったが、突然さゆみが立ち上がり、吉澤の隣に座り直した。
- 189 名前:_ 投稿日:2004/02/17(火) 22:15
- 「・・・キスしていいですか?」
「は?」
一瞬のうちに、さゆみの右手は吉澤の太股内側の付け根に近いところに置かれ、
左手は背中に回っている。そして目を閉じたさゆみの顔がゆっくり近づいてくる。
「うわっ! ちょ、ちょっと、待て!」
吉澤は慌てて両手でさゆみの肩を掴み、上体を後ろに反らした。
「・・・キスしたい・・・」
「なんで? ちょっと、落ち着け。なんで今の話の流れで、そうなるのかせつめ・・・」
説明しろ、と言いたかった吉澤だが、さゆみのくちびるによって塞がれ最後が途切れた。
「意味が分からん。」
さゆみから解放された吉澤が真面目な顔で呟く。
「あたしにはちゃんと意味があります。」
「ったりめーだ。意味なくキスするバカがいるか。言ってみろ。」
「あたし、吉澤さん、好きです。」
「・・・はぁ・・・?」
「だから、好きですってば。」
「・・・おめぇの脳味噌の中に海馬っちゅうヤツは搭載されてるのか?
それとも、グルタミン酸が異常に不足してるとか?」
「そっちの方が全然意味が分かりません。」
「記憶力がゼロかって言ってんだよ。俺のさっきの力説を聞いてたのか?」
「勿論です。ちゃんと聞いて、理解もしてますよ。」
「じゃ、なんで、それで突然俺を好きになるんだよ? どう考えてもおかしいだろうが?」
「・・・吉澤さんって、よく見ると凄い美人ですよね。」
吉澤の言葉をあっさり無視して、さゆみはまた顔を近づける。
「よく見なくても美人なんだよ。これでも昔は天才的美少女って言われ・・・
違う、そんな事はどうでもいい。なんなんだ、おめぇは一体?」
「あたし? 天才的に可愛い道重さゆみですよ。」
- 190 名前:_ 投稿日:2004/02/17(火) 22:16
- ***
絵里は美貴の病室の前で、中の様子を窺っていた。
話し声が微かに聞こえるのだが、話の内容までは分からない。
さてどうしたものか、と意味もなく絵里は辺りを見回す。
美貴の病室から10メートル程奥に行った所で、廊下は三叉路になっている。
その角にはナースステーションが見える。今は昼時だからか看護婦の姿は少ない。
絵里はフラフラとそちらに向かって歩いていった。
カウンターからすぐの所に置いてあった聴診器を見て、絵里は閃いた。
「ちょっと、コレ借りますね・・・」
1メートル先の人間にも聞こえないような小さな声で呟き、美貴の病室に戻る。
辺りの人の気配に注意を払い、ドキドキしながら装着し、スコープをドアにそっと当ててみる。
驚くほど鮮明に中の会話が聞こえてきた。
『だから、もう止めとけって。』
『こんなに頼んでもダメ?』
『絶対にダメ。美貴のこの5日間の惨状を見せてやりたかったよ。』
『今はそれ程でもなさそうじゃん?』
『ようやく、今、抜けつつあるんだってば。またいつ症状が出るか分からないし。』
『多分ミキティは一気にやりすぎたんだよ。少しずつやれば大丈夫だって。』
『アレの怖さを知らないからそんな事が言えるんだ。』
『どうしても・・・ダメ?』
『ダメ。絶対に。』
『分かったわ。じゃ帰る。お大事に。』
そこまで聞いた絵里は聴診器を耳から外し、全速力でドアから離れた。
- 191 名前:_ 投稿日:2004/02/17(火) 22:17
- 病室に入った絵里は、美貴のそのやつれた表情に息を飲んだ。
「藤本さん、身体、大丈夫なんですか?」
「大丈夫、これでも随分マシになったんだよ。昨日おとついなんて、もっと悲惨だったと思う。
昨日の夜は田中ちゃんが居てくれて、凄く助かったけど。」
「れいな、来てたんですか?」
「うん、突然やって来て。朝まで看病してくれた。」
「へぇー・・・でも・・・目の下のクマが凄いです。」
「そぉ? でも今日は朝メシも殆ど食べれたし、最悪の状況は脱してる筈。」
美貴は心配する絵里に笑顔で答える。
「ならいいんですけど・・・」
「それより亀井ちゃん、今、石川と会わなかった?」
「・・・来てたの知ってたので・・・意識的に避けました。」
「そっか・・・タイミング良すぎると思った。やっぱアンタは気が利くねぇ。」
「・・・と、いう事は・・・やっぱり藤本さんが呼んだんじゃなかったんですね?」
「うん、またコカインをよこせって言いに来たみたい。」
絵里は一瞬、どうしようかと迷ったが、素直に言うことにした。
「・・・スイマセン。それ、立ち聞きしてました・・・」
「なるほど、それでそんな物持ってたんだ。」
理由を悟った美貴は、高らかに笑いながら言った。
絵里の両手には、しっかりと聴診器が握りしめられていたからである。
「あっ、ホントだ。コレ無意識に持って来ちゃった。」
「アンタ、たまに大ボケかますよね。そのままパクって帰っちゃダメだよ。
後でちゃんと返しときなさいよ。」
「ハイ・・・」
絵里は頬を赤らめ、少し下を向いた。
- 192 名前:_ 投稿日:2004/02/17(火) 22:17
- 「そんな事より。」
美貴が真面目な顔に戻る。
「ハイ。」
「今日わざわざ来てもらったのは・・・よっすぃの事なんだけど・・・」
「吉澤さん?」
やっぱり、と言う顔で絵里は美貴の次の言葉を待った。
「・・・亀井ちゃん、これはアンタを信頼して話すんだからね? いい?」
「・・・ハイ。」
「よしこってさ・・・なんか怪しくない?」
覚悟をしていた絵里だったが、いきなり核心を突かれて言葉に詰まった。
「あいつ・・・美貴も昨日気付いたんだけど・・・なんか、やたらと詳しくない? ・・・コカインについて。」
「・・・ハイ・・・あたしも・・・思ってました・・・」
「・・・やっぱりそうか・・・」
「・・・。」
「まさかとは思ったんだけど、よしこも常習者の可能性ってないの?」
「それは・・・分かりませんが・・・あたしは吉澤さん、信じてます。」
「ま、そりゃ、美貴もそうだけど・・・亀井ちゃんは、なんで怪しいと思った?」
「・・・同じです。詳しすぎます。普通の人が知らないような事を色々教えてくれました。」
「そっか・・・で、アンタがよしこを信じてる、って言うのは・・・好きだから?」
絵里の小さな肩がピクッと反応する。
「・・・そう・・・です。あたし吉澤さんのコト、好きです。でもそれだけで信じてる訳じゃないです。」
「やたらと詳しいのに、それ以上にコカインに嫌悪感を持ってるって部分?」
「・・・その通りです・・・もしかすると・・・過去に一度や二度の経験があるのかもしれません。
でも、今は絶対にやってないと思ってます。」
「なるほどね。そのあたりが正解かもしれないな。」
- 193 名前:_ 投稿日:2004/02/17(火) 22:18
- 「でも・・・」
「でも、どした?」
「吉澤さんって、変な週刊誌とかよく読んでるじゃないですか。中年の男の人が読むような。
あんな雑誌って、よく暴力団関係の記事や、覚醒剤とかクスリ関係の特集なんかがあって・・・
それで吉澤さんその方面に興味があって、詳しいって事も考えられませんか?」
「あぁ、あのちょっとヤラしい、週刊なんとかってヤツ?
でも、アイツが興味あるのはそのエロページじゃないの?
こないだもコンビニで必死になって袋とじのグラビアを見ようとしてたよ。」
「・・・あの人って、一体何者なんでしょうね?」
絵里の言い方が妙におかしかったので、美貴は吹き出してしまった。
「オッサンじゃないの? 可愛い顔したオッサン。」
「そうですね。その考えはピッタリ一緒です。」
二人で一頻り笑った後、絵里が先に真顔に戻った。
「実は吉澤さんと、この一連のコトを話してる時、何か言いかけて止める事がよくあるんです。
あたしの事を信用してないのか、まだそれを話す時期じゃないのか、よく分かりませんけど。」
「ふぅーん、そっか。でも亀井ちゃんの事を信用してないっていうのは無いと思うよ。」
「そうだといいんですけど・・・」
「多分だけど、亀井ちゃんに気を使ってるんじゃないかな?」
「気を使う?」
「例えばコレを言ったとしても、どうにか出来るもんじゃないと。
それなら、言わずに亀井ちゃんの負担を少しでも軽くしようとしてるのかも。
や、でも分からないな・・・話す時期じゃないってのもあるかもしれない。」
「・・・だからあたし、吉澤さんからちゃんと話してくれるまで、聞かないようにしよう、
って思ってるんです。藤本さんも気になるでしょうけど、暫く待って貰えませんか?」
「うん、分かった。よしこの事は亀井ちゃんに任せる。」
微笑みながら美貴は頷いた。
- 194 名前:_ 投稿日:2004/02/17(火) 22:19
- 「あと、石川さんの事なんですけど・・・」
「石川?」
「さっき立ち聞きした範囲では、コカインを吉澤さんに渡した、って言ってないですよね?」
「うん。よしこと亀井ちゃんがこの件を知ってるって事すら、言ってない。」
「それはやっぱり、吉澤さんが怪しいと思ってたからですか?
吉澤さんがこの事を知ってるって分かったら、石川さんの態度も変わるんじゃないんですか?」
「うーん、そうかもしれない。でも、上手く言えないんだけど、石川って変なトコがあって
美貴の口から、よっすぃにバレた、って言ったら話がややこしくなるんじゃないかって思ったの。」
「なるほど。」
「それが証拠に、田中ちゃんには言ったよ。よしこと亀井ちゃんにバレたって。」
「れいなに?」
「うん、昨日の晩。」
「そうですか・・・」
「何、なんかマズかった?」
「や、れいなだって相当変わってますよ? 石川さんには負けるかもしれないですけど。」
「・・・そうだった。そう言えばそうだよね。昨日はもう意識朦朧としてたので、
深く考えずにポロッと言っちゃったよ。」
「バレたって事だけですか? 言ったのは。」
「・・・え〜と、や、美貴のこの骨折はよしこにやられたって言ったかも・・・」
「マジですか?」
「・・・ヤバい?」
「う〜ん、どうなんでしょう? 考え過ぎかもしれないですけど・・・」
「ゴメン。悪いんだけどさ、田中ちゃんの行動、気に留めておいてくんない?
杞憂に終わればそれはそれでいいし。」
「分かりました。それとなく見ときます。」
絵里は美貴を心配させないように、笑顔をつくってみせた。
- 195 名前:_ 投稿日:2004/02/17(火) 22:19
- ***
「あぁ、もう疲れた。声が出ない。」
「何言ってんの、まこっちゃん、明日歌録りだよ?」
「だって、今日私までまわってくると思って、いっぱい練習しちゃった。」
「今日だって辻さん、長かったもんね・・・昨日は矢口さん、凄い時間掛かってたし。」
「どしたんだろうね。ってか豆、アンタそんな事言ってると、明日夜中までやらすよ?」
「いや〜。それだけは許して〜。」
結局、今日のレコーディングは高橋愛まで終わった。
遅れている予定を取り戻せていないままなのだが、スタッフ達に焦りの色は見られない。
他の全員の歌録りを終えたところで、美貴が退院してレコーディングしなければ
次の作業に進めないため、その時間の余裕がたっぷりとあるからだ。
厳しいのは制作スタッフではなく、娘。を含めた現場サイドである事は言うまでもない。
「この後どうする? なんか食べに行こっか?」
「う〜ん、また太るしなぁ。でもお腹減ったしぃ。」
「これだけエネルギー使ってるんだから、ちょっとくらいならいいんじゃない?」
「そうだね。どこ行く?」
リハーサルを終えた小川麻琴と新垣里沙が控室でくつろいでいると、れいながドアを開け顔を出した。
「すいません、お疲れのところ。吉澤さん見ませんでした?」
「あれ、さっき廊下で矢口さんと話してたけど、居なかった?」
マコトが立ち上がりながら、廊下の方を振り向き気配を伺う。
「あっ、じゃあ、捜してみます。」
そう言って、一旦ドアを閉めようとしてれいなの動きが止まり、もう一度顔を出す。
「じゃ、えり見ませんでした?」
「亀井ちゃんは多分、ダンススタジオの方じゃないかな?」
「分かりました。どうもスミマセン。」
- 196 名前:_ 投稿日:2004/02/17(火) 22:20
- れいながドアを閉めたわずか数十秒後、今度は絵里が入ってきた。
「すいません、吉澤さん、どこ行ったか知りませんか?」
「あれ、亀井ちゃんも吉澤さん? っつうか、さっき、田中ちゃんが捜してたよ?」
「れいなが? なんて言ってました?」
「最初に吉澤さん知らないかって聞いて、そのあとえり見なかったって。」
「どうも、ありがとうございます。」
マコトの説明が終わるか終わらないかの所で、絵里は足早に控室を飛びだしていた。
「なんだろ、あれ。」
「吉澤さん、モテモテじゃないの。」
「今度はシゲさんが来たりして。」
新垣がそう言った瞬間ドアが開き、さゆみが入ってきた。
「ビンゴ!!」
「は?」
「吉澤さん捜してんの?」
「いえ、えり、来なかったかなと思って。」
「亀井ちゃん? 今いたけど。」
「どこ行きました?」
「何、アンタ達、かくれんぼでもしてんの?」
「は?」
「や、いいんだけどね。亀井ちゃんなら今出ていったトコだから、すぐ見つかると思うよ。」
「どうも。」
「・・・何やってんだろう、あの子ら。最近みんな変だよねぇ。」
「ま、変なのは最近だけじゃないけどね。」
「そうそう、皆変わってるよ。」
「てか、何食べに行く?」
「えっとねぇ・・・」
少し心配そうな表情を見せた二人の興味は、急速に食べ物の話に移ってしまっていた。
- 197 名前:_ 投稿日:2004/02/17(火) 22:21
- 「あっ、えり。」
さゆみは階段の踊り場で絵里をつかまえた。
普段は皆エレベーターを利用するので、ここはあまり人が来ない。
「さゆ。吉澤さん見なかった?」
「見たよ。さっき、れいなに手紙渡してくれって頼まれて、渡したばかり。」
「れいなに手紙? どこで?」
「ロビーで。」
「ありがとう。」
行こうとする絵里の手首を、さゆみが咄嗟に掴む。
「なに?」
「えり、話があるの。」
「なによ? 今度じゃダメ?」
「ダメ。今。」
「なに?」
「えり、キスさせて。」
「何言ってんのよ。あたし、忙しいの。」
絵里は手を振りほどこうとする。
「吉澤さんと、間接キスしたくないの?」
その言葉に一瞬絵里の動きが止まり、ゆっくりとさゆみの顔を見た。
「何それ? どういう事? 吉澤さんとキスしたの?」
「うん。」
「・・・最低。あたしの気持ち知ってて。さゆ、軽蔑する。」
「違うの。だから話を聞いてってば。」
「聞きたくないんだけど・・・」
「いいから・・・」
背を向ける絵里の肩を掴んださゆみは強引にこちらを向かせ、そのまま抱き締めた。
- 198 名前:_ 投稿日:2004/02/17(火) 22:21
- 「あたしね、今日吉澤さんの気持ち、確認したの。」
「吉澤さんの気持ち?」
「そう。えりのコト、どう思ってるのか。」
「なんでそんな勝手な事するのよ。」
「そりゃ、えりのコトが好きだから。」
「・・・で?」
「吉澤さん、言葉に出しては言わなかったけど、えりのコト、すっごく好きだと思う。
あたしね、吉澤さんがいつもの様にふざけたりしたら絶対諦めなかった。」
「・・・」
さゆみは絵里を抱き締めたまま話を続ける。
「あたし、えりが好き。勿論藤本さんも好きだけど。
でも吉澤さん、そういうあたしをキチンと説教してくれたの。」
「説教?」
「そう。最初はあたしの惚れっぽい性格について、色々言ってたんだけど
最後の方は、えりは俺の女だからお前は手を出すんじゃねぇ、っていう雰囲気だった。」
「・・・ホントに?」
「うん、少なくとも、あたしにはそう聞こえた。」
「で、なんでキスしたの?」
「なんかさ、あの人いつもふざけてるのに、今日は凄く真剣だったの。
それを見て、あっ、なんかカッコイイなぁって。」
「・・・カッコイイよ。決まってんじゃない。てか、アンタ、吉澤さんにも惚れた?」
「惚れた。」
「・・・バカ。」
「違う。惚れたから、吉澤さんにもえりにも幸せになってほしい。
もうえりの邪魔はしない。今度こそ真面目に応援する。
だから、最後にキスさせて・・・」
さゆみは絵里の髪に、目尻に、頬に、そしてくちびるにキスをする。
絵里もさゆみの背中に手を回し、充分にその行為に応えた。
- 199 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/02/17(火) 23:20
- 今日はここまでです。
なんか今回の更新は会話文ばっかりで読み辛いですかね・・・
それと前回更新の最後で、分かりにくい表現をしてしまいました。
177の『前に』というのは『以前に』ではなくて『前方に』という意味で書いたんです。
なので『あの人』は182さんが正解です。
シークレットにしたのは、ただ最後の一文を書きたかっただけで他意はありません。
読者の皆さんを混乱させてしまいました。
そんなつもりは全く無かったんですけど、自分の描写力不足を痛感しております。
重ねてお詫びいたします。
- 200 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/02/17(火) 23:21
- >>181
レスありがとうございます。
いつも読んでいただいて本当に感謝です。
今回、矢口の話まで進まなかったので、その辺はもう暫くお待ち下さい。
なんか申し訳ないですね。これからもよろしくお願いします。
>>182
レスありがとうございます。
加護誕生日の更新は全然意識してませんでした。
本来もっと早く更新する予定だったのに、色々やっている内に日が変わってしまったのです。
加護キャラは一応狙いです。自分の中では裏ボスという設定なので。ってゆうか、
@ノハ@
( ‘д‘)<誰がズゴックやねん!!!
- 201 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/02/17(火) 23:23
- >>183
レスありがとうございます。
全然問題ありません。どんどん書き込んで下さい。
ss.comさんが来てくれないと、妙に寂しい気がします。
いつも励ましの言葉をいただいて本当に力になります。
また、そちらにも伺います。よろしくお願いします。
>>184
レスありがとうございます。
申し訳ないです。前回は色々と変更する事が多かったので。
仕事の方は一応都合がつきましたので、またバリバリ更新していく予定です。
これからもよろしくお願いします。
>>185
レスありがとうございます。
いえ、その考えで多分あってると思いますよ。勿論色々な展開はありますが。
現在の予定では、そんな長編にはならないだろうと思うんですが。
海にスレをたてた者の義務として500KBは超えるでしょうけど
パート2とかはないと思います。このスレで決着をつけます。
- 202 名前:名無し君 投稿日:2004/02/17(火) 23:39
- リアルタイム更新キタ━━━━( T▽(○=(‘д‘)=○)▽T )━━━━!!!!
乙&蟻。
初めて追っかけてる作品をリアルタイム更新で読んだのでうれすぃ〜。
『あの人』が当ったのもうれすぃ〜。
- 203 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/18(水) 00:41
- はじめまして。非常に面白いので全部読ませていただきました。
道重のキャラは凄いですね。積極的だけど何も考えていないのか(w
個人的に亀井が好きなのでたくさん登場していて嬉しいです。
これからも頑張ってください。
- 204 名前:捨てペンギン 投稿日:2004/02/18(水) 10:42
- 重さんの行動がおもしろいですね
続き期待です
>>199
すみません、深読みしすぎでした
- 205 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/19(木) 03:27
- 更新乙です
シゲさん可愛いとこあるじゃないですか。少し見直したよ。
それよりもやたらとれいなが気になるんですが…
- 206 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/22(日) 13:58
- 小ネタがいい感じなのか微妙なのか…(ニガワラ
コンビニで週刊誌の袋とじを見るなんてオレでもしない(w
できればよっちゃんだけでもシリアス路線がいいかななんて。
- 207 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/22(日) 18:32
- いいと思うけど >小ネタ 南極2号とかw
吉だってシリアスばっかじゃしんどいだろうし。
俺は小ネタどんどん入れてほしい派だな。
- 208 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:44
- ***
「遅せぇな・・・」
吉澤はれいなに呼び出された場所で、20分近く待っていた。
今日のリハーサルが終わった後、さゆみに渡された手紙をもう一度広げてみる。
『藤本さんの事で話がある。8時半に下記の場所で待つ。田中』
その短い文章の下には、今吉澤がれいなを待っている場所の地図が書かれていた。
川沿いで、頭上に高速道路が通るこの場所に、吉澤は何回か来たことがある。
繁華街からすぐの所なのに人気が少なく、夜ともなれば一層それは顕著に現れる。
絵里と一緒の時に、ここは人が居ないのでたまに六期の三人で振りの練習してるんです、と
連れてきてもらったのが最初で、何故か吉澤はここを気に入り、ストレス発散の場に利用している。
イライラする事があれば、ここに来て叫ぶ。
多少騒いでも、すぐ傍の幹線道路と首都高の騒音によって掻き消されるためだ。
ベンチこそ置かれてないが街灯が点いており、不自由さはさほど感じない。
近所に民家があれば子供達がサッカーをしていてもなんら不思議はない場所だった。
「・・・寒いな・・・こんな事なら、やぐっつあんの方に行っとけばよかった・・・」
吉澤はさゆみから、れいなの手紙を渡されたすぐ後に、矢口からも誘いを受けていた。
話があるんでこの間の賭けで負けた晩メシ奢らせてよ、と。
かなり迷ったが矢口には明日にしてもらい、藤本の話、というこっちを選択した。
吉澤はジャケットの襟を立て、肩をすくめた。時計はもうすぐ9時になろうとしている。
少しでも暖をとろうと手を擦り合わせるようにし、その手をポケットに突っ込む。
温かい缶コーヒーを買うために自販機を探そうと振り返った瞬間、れいなの姿が見えた。
- 209 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:45
- 大股ではあったが、特に急ぐフリも見せずに真っ直ぐこちらに向かって歩いてくる。
街灯のライトがその姿を浮かび上がらせる。れいなの肩には金属バットが担がれていた。
「何、野球でもするのか? 俺ボールもグローブも持ってないんだけど。」
その意味を充分に理解していた吉澤だったが、ワザと茶化して言う。
れいなは無言のまま、吉澤の3メートル手前で止まった。
「つうか、遅せぇよ、お前。人を呼び出しといて。
お前、ここに30分近く立っててみろ、どれだけ寒いか。」
「・・・アンタが藤本さんを骨折さしよったんか?」
「いきなりアンタ呼ばわりかよ・・・まぁ、別に何でもいいが。」
無表情で吉澤の言葉を無視したれいなに、吉澤は苦笑いを浮かべる。
「藤本さんの仇ば取らしてもらうけんね。」
れいなはバットを上段に構え、間合いを詰めようとする。
「コラコラ、おめぇ、本気で俺に勝てると思ってんのか? 確実に藤本の二の舞になるぞ?」
吉澤は笑顔で、小さい子供を諭すように言う。
「じゃかましぃぃ! やけん、コレ持っとろうが!」
「へっ、そんなバット一本でどうしようってんだ? おめぇが俺と対等にやりたいんだったら
せめてチャカでもどっかで仕入れてから来い。」
その言葉を言い終えるよりも先に、れいなが大きく足を踏みだし、フルスイングした。
吉澤は手をポケットに突っ込んだまま、余裕をもってスウェーで躱す。
れいなはややバランスを崩しながら、それでも踏ん張り、今度は逆向きにバットを振る。
それが逃げ遅れた吉澤のマフラーの端に当たり、パシッ、と乾いた音を立てたが
口元には、相変わらず余裕の笑みが浮かんでいた。
- 210 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:46
- 数分間、同じ光景が繰り返された。
真剣にバットを振り続けるれいなと、まるで遊んでいるかの様な吉澤。
いかに吉澤と言えども、もし当たれば絶対に無事では済まない。
しかし、マフラーや肩から下げているバッグの角には、たまに掠ったりするが、
吉澤自身は完全にれいなの動きを見切っているため、それ以外バットは空を切り続ける。
右に左にフットワークを使いながら、しなやかに、そして確実に躱し続けた。
何回目かにれいながバランスを崩した時は、既に息が上がり肩で呼吸をしていた。
バットを杖代わりにして、暫く動きが止まる。
「どうした? もう終わりか?」
全く乱れのない吉澤が涼しい顔で尋ねる。
「体力ねぇなぁ、おめぇ。肩貸してやろうか?」
「・・・うじゃんしかぁ!!」
前かがみになった吉澤に、れいなは一呼吸置いてバットを振り上げた。
吉澤は、予想してました、とばかりにバックステップであっさりよける。
また、れいなの猛攻が始まった。今度はフェイントを入れてみたり、動きに強弱をつけている。
上下にも打ち分ける。しかし結果は同じだった。何度やっても吉澤の身体には掠らす事も出来ない。
吉澤はとことん付きあうつもりだったが、次第に面倒くさくなっていた。
相手がバットなのでパーリングで払う訳にはいかないし、身体だけでよける事に飽き始めていた。
れいなは額に汗を浮かべ、息を切らしながらだったが、
バットを振り回しながら向かって来るのは、暫く収まりそうにない。
イチかバチか。距離を詰めたら一撃で仕留めないと、次の攻撃をもらってしまう。
覚悟を決めた吉澤は、それまでオーソドックスに構えていたのをサウスポースタイルに変えた。
次の一振りを躱した瞬間、間合いを詰め懐に潜り込むと、身体はそのまま残して
ジャブ気味に、右手でスナップを利かせた掌底をれいなの顔面に叩き込んだ。
- 211 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:46
- カウンターでモロに食らったれいなは鼻血を吹き上げながら、
スローモーションの様に真っ直ぐ後ろに吹っ飛ぶ。
手から落ちたバットが派手な音を立て転がっていった。
「あれ、手加減したつもりなんだけどな・・・おい、大丈夫か?」
吉澤はバットを拾い上げ、ゆっくりとれいなに近づく。
れいなは大の字になり、目に涙を一杯浮かべてたが、大声で泣き出さないのは流石だった。
「頭、打ってねぇか?」
胸が大きく波打つ以外は全く動かないれいなを見て、心配になった吉澤が声を掛ける。
「・・・藤本さんが負けたのが・・・よく分かりました・・・」
「ってか、標準語になってんじゃん。博多弁はどした?」
「・・・キレた時は自然に出るんです。今は吉澤さんの一発を貰って、目が覚めました・・・」
「ようやくアンタから吉澤さんに昇格か・・・」
「・・・すいませんでした・・・」
れいなの目から涙がポロポロと流れる。
吉澤はバックからポケットティッシュを取り出し、れいなに渡す。
れいなは、ありがとうございます、と小さな声で言うと一枚抜き出し涙を拭う。
鼻血も拭け、と言った吉澤はれいなの隣に、よっこらしょ、と仰向けに寝そべった。
石畳の上は冷たかったが、動いて身体が温もってるため意外と寒さは感じない。
「そんなに藤本が好きか?」
「・・・ハイ。」
「それを別にどうこう言う気はないが、方向は間違ってるぞ?」
「・・・方向、ですか?」
「本当に藤本の事が好きなら、ヤツの真似ばっかりするんじゃなくて、
悪い事はちゃんと拒否するなり注意するなりしなくちゃ。」
バットで殴りかかる、という非礼を責める訳でもなく、
逆に自分をたしなめてくれた吉澤の言葉に、れいなはまた大粒の涙を零した。
- 212 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:47
- 「当然アレが悪い事だって分かってたんだろ?」
「・・・ハイ・・・」
「まぁ、難しいけどな。」
吉澤は優しい口調で続ける。
「お前にとっちゃ、ヤツは先輩な訳だし言いにくいのは分かる。
けどそれでヤツがケーサツにパクられたりしたら、もっと嫌だろ?」
「・・・ハ・・・イ・・・」
唇を震わせながら、れいなは涙を堪えようとするのだがそれは止まらない。
手の中で、丸めたティッシュの数が段々と増えていった。
「例えばそれもだ。」
吉澤はれいなの着ていたN-3Bのポケットを指で突いた。
「ヤツが吸うからだと思うんだけど、お前に煙草はまだ早い。」
「・・・なんで・・・知ってるんですか・・・?」
れいなはポケットから美貴と同じブランドの煙草を取り出しながら聞いた。
「さっき、お前がバテて、バットを杖代わりにした時にチラッと見えた。よこせ。」
れいなは信じられないといった表情で目を丸くした。
この人には心底かなわない、と思いながらパーラメントの箱を吉澤に渡した。
吉澤は一本抜き出し、火を付け深々と吸い込んだ。
3,4秒息を止め、ゆっくりと煙を吐き出す。
風が殆ど無い、べた凪の闇に紫煙がゆるやかに溶けていった。
「・・・吉澤さん、煙草吸うんですか?」
「や・・・極たまに。こんなもの、常に吸いたいとは思わない。」
「・・・そうですよね・・・私もそうです・・・全然いいと思いませんでした・・・煙草も・・・
あの白い粉も・・・でも・・・藤本さんが気持ちよさそうにやってるのを見ると・・・」
そこまで言ったれいなは、激しく嗚咽した。
「それが間違ってるとは思わんか?」
- 213 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:48
- 「・・・今は・・・思います・・・けど・・・けど・・・その時は・・・藤本さんについていこうと・・・必死で・・・」
「分かった分かった。もう泣くな。な?」
吉澤は先に上半身を起こし、両手を顔にあてて泣きじゃくるれいなの手を取る。
「起きれるか? いつまでもこんな所に寝転がってると、マジで風邪引くぞ。
おめぇはまだレコーディング終わってないんだから。」
手に力を入れ、れいなの身体を引っ張り起こす。
「大丈夫か? 鼻、見せてみろ。」
鼻血は既に止まっていた。そんなに腫れてもいないようだ。
タイミングが良すぎて偶然カウンター気味になってしまったが、体重を乗せた掌底ではなく
手だけで打ったのが幸いした。もしこれが吉澤のフルパワーで放ったパンチだったら
美貴のアバラに続き、れいなの鼻まで折ってしまっていたところだった。
「とりあえず心配ないな・・・頭は?」
「・・・コケた時に、ちょっと打ちましたけど・・・全然平気です・・・」
「そうか、じゃこっちで座ってろ。なんか温かい飲み物買ってきてやる。」
吉澤はれいなを植え込みになっている段差の上に座らせた時、
絵里が車道を横切って、小走りにやって来るのが見えた。
「吉澤さん!」
「お〜、亀井か。丁度良かった。コイツ見ててやってくれ。お前もコーヒーでいいか?」
吉澤は暢気にそう言い、全く状況を理解していない絵里にバットを預け、
さっき見つけた自販機に向かって歩いていった。
「れいな! どうしたの、一体?」
絵里はれいなに駆け寄る。
「・・・えり、私、大変な事しちゃったよ・・・」
れいなは絵里の顔を見て気が緩んだのか、しがみつきながら声を上げて泣き始めた。
- 214 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:49
- 絵里はれいなの肩を抱き、暫く泣き止むのを待って尋ねた。
「大変な事って? 吉澤さんと何があったの?」
「・・・吉澤さんを呼び出して・・・バットで・・・殴りかかった・・・」
「マジで!? あっ、もしかしてコレ?」
絵里は手渡されたバットを目の前に掲げる。れいなはコクリと頷いた。
絵里には大体の内容が読めてきた。
昼間の美貴との会話。さゆみに託けたという手紙。そして現在の状況。
さっきの吉澤の態度は美貴とやりあった後の雰囲気に似てる。
そして、れいなの鼻の穴には血が染みたティッシュが詰め込まれている。
それだけで充分だったが、どうしても聞かずにはいられない。
「それで?」
「・・・軽くいなされて、最後にブッ飛ばされた・・・」
当然の結果だ。美貴の骨折シーンを目の当たりにした絵里は素直にそう思った。
と同時に、それを防ぐ事が出来なかった事が悔やまれる。
最初から自分がここに居たからといって、特に何も変わらなかっただろう。
しかし、ここに来るまでに何らかの方法はあった筈だ。
美貴からも、れいなの行動をケアしてくれと頼まれていたのに。
さゆみとキスをしていて、出遅れた自分を絵里は罵った。
「そっか・・・でも吉澤さんは分かってくれてるよ、れいなの気持ち。」
「・・・ま、分からん事もないが。」
「わっ! びっくりしたぁ。」
いつの間にか戻って来てた吉澤がニヤリと笑い、れいなと絵里に缶コーヒーを渡す。
「さすが人通りの少ない所の自販機は売れてないねぇ。相当熱くなってるぞ、コレ。」
「ありがとうございます。」
二人は手を上着の袖の中に入れ、貰ったコーヒーを両手で転がす。
「で、お前はどうしたんだ? まさか偶然じゃないんだろ?」
吉澤は絵里の隣に腰を下ろした。
- 215 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:49
- 「あっ、えっと、さゆが・・・」
「シゲ?」
「・・・ハイ・・・さゆが、れいなの手紙を吉澤さんに渡したって言ってたので、なんか不安になって・・・」
「捜しに来た、という事か。」
「ハイ。もしかするとココじゃないかなって。」
絵里は昼間、美貴に会った事は内緒にしておいた。別に喋っても良かったのだが
美貴に呼び出された目的が吉澤の話だったので、とりあえず伏せておいた。
「ふーん、そっか。」
吉澤は両手で熱い缶コーヒーを玩び、それ以上聞こうとはしなかった。
「田中、ちょっとは落ち着いたか?」
暫く間を置いて、今度はれいなに語りかける。
「・・・はい、少し・・・」
「お前にはまだ聞かなきゃいけない事があるんだが。」
「・・・大丈夫です。」
絵里を真ん中にして一列に三人は並んでいるのだが、吉澤は直接れいなの隣に座るより
こっちの方がいいと思っていた。れいなは絵里と仲がいいし、
詰問調になってしまった時は、絵里がいい感じのクッションになると思っていたからである。
「何回くらいヤった?」
回りくどい質問を挟まず、直接核心部分に迫るのはいつもの事だ。
「え? えっと・・・」
「心配しなくても、コイツは全部知ってるから。」
言いながら吉澤は絵里を軽く肘でつつく。
「私は・・・10回くらいです。」
「藤本と梨華ちゃんとのので?」
「・・・はい・・・」
「梨華ちゃんが最初お前達を誘ったってヤツが言ってたんだけど?」
吉澤は美貴の知らなかった部分を、れいなから徹底的に聞き出すつもりだった。
- 216 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:50
- 「・・・はい・・・そうです。」
「そこら辺をちょっと詳しく話してくれるか?」
「・・・その頃の私は、結構ギリギリの状態だったんです。
加入直後のいきなりのセンター扱いに関しては、何も分からずに勢いだけで乗り切ったんですけど、
おとめ組でもそれは同じ感じだったので、もうプレッシャーが凄かったんです。
売れなかったら私のせいだ、みたいに考えてしまって、もういっぱいいっぱいでした。
・・・それで石川さんや辻さんに相談に乗ってもらってたんです。
ある日石川さんが、いいモノ手に入れたから田中ちゃんもおいでよ、って誘ってくれたんです。」
そこでれいなは一息入れた。手に持ってる缶コーヒーを開け、一口啜る。
絵里はれいなの話を聞きながら、心中かなり複雑だった。
同期で一つ年下のれいながそんな事を考えていたなんて全然知らなかった。
勿論自分にもプレッシャーはあったし、精神的に辛い時期もあった。
しかし、それはあくまでも自分一人の事で、娘。全体の責任など考えた事もなかった。
否、考えてはいるのだが、自分がそれを背負いこんでしまう事はなかっただろう。
少なくともCDの売り上げについてなんて、れいなの様な覚悟は持っていなかった。
「なるほど、それで?」
「藤本さんのマンションに行きました。私と石川さんと辻さんで。
積極的に誘ってくれる石川さんに対して、藤本さんはやりたいならやれって感じでした。
辻さんも私も最初は怖がってたんですけど、やり始めた二人を見て大丈夫そうだ、って事で・・・」
「お前はさっき、全然いいと思わなかった、って言ったな?」
「はい・・・粉を吸った時は鼻の奥が痛くて、むず痒くて・・・
で、のどに落ちてきた粉が凄く苦かったです。その後は吐き気と眩暈で大変でした。」
「ののは? あいつも初めてだったんだろ?」
「辻さんは最初から良かったんだと思います。もの凄いハイテンションになってました。」
「お前は二回目以降も同じだったのか?」
「や、吐き気はそんなにありませんでした。ただ、なんか身体が宙に浮いたような・・・
なんて言うんだろ? とにかく奇妙な感じで、とても気持ち良いとは思えませんでした。」
コカインが当たらない奴がいるのか、という表情で吉澤は頷いた。
- 217 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:51
- ドラッグ(向精神物質)と一口に言っても色々な種類が存在する。
まずは、アッパー(興奮剤)とダウナー(抑制剤)の二つに大きく分けられる。
サイケデリック(幻覚剤)は一応アッパーに属するが、別物という考え方も多い。
アッパーはコカイン、シャブ(覚醒剤)、X(エクスタシー)等で
ダウナーはヘロインやハルシオン(睡眠剤)そしてアルコール類である。
サイケはアシッド(LSD)、MM(マジックマッシュルーム)、あとは麻酔薬などが挙げられる。
その効果というのは、千差万別である。
一つのドラッグでも、それこそ100人いれば100通りの効き方があると思って間違いない。
自分がハイになったからといって、人もそうなるとは絶対に言い切れないのだ。
勿論自分自身もそうである。使用回数やその頻度によって感じ方は変わってくる。
例えばヘロインがいい例だ。これは最初の数回は誰もが地獄の苦しみでのたうち回る。
やり続けているうちに、それがある時からスッと気持ち良くなる瞬間に変わる。
それが5回目なのか10回目なのか、あるいは永遠に当たらない奴も沢山いるんだろう。
当たれば、それはつまり人間としては終わってしまった事を意味するが
ヘロインが一番最初から当たる奴というのは滅多にいない。
対して、アッパーはかなり最初から当たりを引ける確率が高い。
特にコカインは脳の中枢神経に直接アッパー作用を齎すため、その中でも特に顕著に表れる。
体質によっては最初の1,2回は吐き気などで苦しむ奴もいるが、それはすぐに解消されるだろう。
例えばクサ(マリファナ)やアシッドでバッドに効いた奴でも、コカインはハイにトリップ出来る。
コカインが日本で高級品と呼ばれるその訳は、原産地の問題により絶対数が少ない事も勿論含まれるが
実はこっちの理由が大きな要因を占めていると考えられる。
つまり、れいなの様にコカインで覚醒作用や陶酔感を得られないというのは、かなり珍しい。
- 218 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:51
- 「気持ちよくないモノでも、好きな人がヤってるから自分もヤる・・・か。
どうよ? この心理?」
自問自答をするように呟いた吉澤は、最後に絵里に話を振った。
「・・・分かるような・・・気がします・・・あたしにそんな勇気はないですけど・・・気持ちだけなら・・・」
絵里は言葉を選びながら答える。れいなに気を使った、というよりは
実際その好きな人が隣にいる為に自然とそうなってしまった。
「・・・そっか、やっぱ、そうかもな。」
そこで三人は自然と押し黙ってしまった。暫くして、吉澤がまたれいなに尋ねる。
「で、梨華ちゃんとののなんだが。」
「はい?」
「藤本からの供給がストップしてそろそろ一週間になる。あの二人は今どんな感じなんだ?」
現在の吉澤の最大の懸念事である。ここ最近はさくらとおとめに別れての仕事が多く
特に今はレコーディングの真っ最中であるため、二人とは顔をあわす時間も少なかった。
「・・・二人とも・・・焦ってる感じです・・・特に辻さんは・・・かなり不機嫌みたいです・・・」
「やっぱりか・・・なにか目立ったアクションは?」
「石川さんは何回か病院に行ってるみたいなんですけど、詳しい事はよく分かりません。」
「ののは?」
「辻さんは石川さんが頼りって感じで・・・特に自分で動くというのは無いんじゃないでしょうか?」
「そうか、分かった。」
吉澤は缶コーヒーを開けると一気に飲み干し、立ち上がるとれいなと正対した。
「お前は今日の事を含め、すべて忘れろ。いいな?」
れいなは吉澤を見上げる。
「・・・許して・・・もらえるんですか・・・?」
「まぁ、亀井が、分かるような気がする、って言ったから許してやる。
コイツが、理解できない、って言ってたらお前も暫く入院暮らしをしてもらう積もりだったが。
感謝しろ、コイツに。」
ニヤリと吉澤が笑う。
「や・・・あの・・・バットで殴りかかった事も・・・?」
「なんだ、そんな事気にしてたのか? 俺としては結構楽しかったんだが・・・
ま、忘れろ、と言った筈だ。忘れてしまえば最初から無かったも同じ事だ。違うか?」
「・・・はい・・・すいませんでした・・・」
れいなは深々と頭を下げる。絵里はその背中をポンポンと叩きながら吉澤に向かって微笑んだ。
- 219 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:52
- ***
翌日のレコーディングは、前二日に比べると割とスムーズに進行した。
絵里までの歌録りが終わり、最終日にはさゆみとれいなと全体のコーラスを残すのみとなった。
午後7時を回ったところで娘。達は缶詰め状態だったスタジオから解放される。
「おつかれ。」
「おつかれさまです。」
「どうだった?」
「あーっ、やっぱり緊張しました。レコーディングって何回やっても慣れません。」
「ま、変に慣れるよりはそっちの方がいいよ。ねっ、よっすぃ。」
「そっすね。」
「さぁ、ハラ減ったろ? メシ食いに行くぞ。」
「え、でも本当にあたしも一緒に行っていいんですか?」
「何言ってんだよ。亀井はあの賭けの証人なんだから。
オイラがよっすぃにちゃんとメシ奢ったところを確認してくれないと。」
「ハイ。じゃ御馳走になります。」
絵里の上がりを待って、矢口と吉澤の三人で食事に行くことになった。
吉澤は、矢口が昨日話があると言ってたので、二人で行くものだとばかり思っていたが
証人を連れて行ってちゃんと奢ったところを見てもらう、と矢口は言い張った。
という事は、内密の話では無い。
吉澤は多少肩透かしにあったような、それでいて随分気が楽になったような、奇妙な感じだった。
矢口が連れてきたのは恵比寿にあるアジアンダイニングで、最近かなり贔屓にしてるらしい。
ここは個室も用意されていて騒ぎたいときも話をしたいときも重宝するんだ、と矢口が説明する。
「ぐわぁーっ、オシャレな店。」
「凄く高そうですね。」
「ココ、メチャメチャ旨いんだぜぃ。」
三人は個室に通され、矢口と吉澤が向かいあって座り、当然の様に絵里は吉澤の隣に座る。
- 220 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:53
- 「いらっしゃいませ。御注文を伺います。」
「オイラは・・・とりあえず生。」
「俺コロナ。」
「あたしはウーロン茶で。」
「矢口様、この間お見えになった時は切れておりましたが、今日は森伊蔵、入ってますよ。」
顔見知りらしい店員が笑顔でさらりと勧める。
「マジ? じゃそれも。あとミネと氷も。料理は適当にガバッと。お任せします。」
「ありがとうございます。」
店員が行こうとすると、吉澤が叫ぶ。
「すいません、トニックウォーター追加。」
「もりいぞう、って何ですか?」
「鹿児島の芋焼酎。凄ェ旨いんだ、コレが。けど亀井はあと5年待ってね。」
矢口は笑顔で絵里に答える。
「3年じゃないんですかぁ? 吉澤さん、まだ18ですよ。」
「ハハハ、こーゆー奴を真似しちゃダメ。オイラだってハタチになるまで全然飲まなかったんだから。」
「嘘ばっかり。やぐっつぁん、ガバガバ飲んでたじゃないっすか。」
三人で笑いながらとりとめのない話をしているうちに、飲み物や料理が運ばれてきて
あっという間に食卓が賑やかになった。
「いただきまーす。」
矢口は飲みながらつまむ、といった感じだが飲めない絵里は食べるしかない。
コレおいしー、などといちいち感動しながら次々に皿を空にしていく。
吉澤は自分のコロナを一瞬で飲み干し、グラスに氷と森伊蔵を注ぎトニックウォーターで埋めた。
「わっ、このバカ。森伊蔵をトニックウォーターで割りやがった。」
「なんで? 旨いっすよ。」
「バカ、勿体無いじゃん。香りも何もかも台無しじゃん。それならウォッカとか頼めよ。」
酒ならなんでも同じと言う吉澤と、酒はそれぞれの飲み方があると主張する矢口が
言い合いをする中で、絵里は一人、黙々とナシゴレンをかき込んでいた。
- 221 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:54
- 「あー、お腹一杯。」
「食った食った。旨かったぁー。」
存分に飲んで食べた三人が一息ついた後、それまで笑顔だった矢口が急に真面目な顔になった。
「話があるんだけど。」
「はい? 何すか?」
吉澤はまどろんだ様な表情で答える。
「石川の事なんだけど・・・」
「・・・梨華・・・ちゃん・・・?」
結局、コロナとチンタオを2本づつと森伊蔵トニックを5杯飲んで、
いい感じで酔いが回っていた吉澤は、石川の名前が出て、一気に醒める。
「梨華ちゃんが、どうしたんですか?」
「うーん、言いにくいんだけど・・・絶対にオフレコって事で。亀井もいい?」
「・・・ハイ。」
「・・・。」
「誰にも・・・カヲにも言ってないんだけどさ、最近石川が六本木のクラブに出没してるらしい。」
「六本木のクラブ?」
「そう、これは確かな情報なんだ。オイラの友達が見たって。
で、そのクラブっていうのが、あんまりよくない噂があるんだよね・・・」
「いつの話ですか?」
「友達が見たって言うのはミキティが入院した日。で、三日前には稲葉のあっちゃんに見られてるんだ。」
「あっちゃん?」
「そう。で、おとついは・・・辻ちゃんも一緒のところを見られてる。」
「マジっすか?」
吉澤と絵里は顔を見合わせる。
「あっちゃんは、石川と辻ちゃんには気付かれていないらしい。オイラにコソッと教えてくれたんだ。」
「そう・・・っすか・・・」
「ねぇ、よっすぃ、亀井、何が起きてるの?
藤本は変になって骨折して入院しちゃうし、石川と辻は夜な夜なクラブで遊んでるっていうし。
知ってる事があったらオイラに教えて欲しいんだけど。」
- 222 名前:_ 投稿日:2004/02/26(木) 23:55
- 吉澤は困った顔で、真っ直ぐ矢口を見た。
「やぐっつぁんが最近、ってゆうか、レコーディングの時おかしかったのは、それが原因っすね?」
「うん、なんか、色々変なふうに考えちゃってさ・・・最初、友達に聞いた時は・・・
・・・大した事じゃないって思ってたんだ・・・そりゃ、石川だって遊びたいだろうって。
それが、あっちゃんに偶然その話を聞いて、これは、ヤバい、と。
誰かに相談したかったんだけど、カヲやなっちじゃ、話が大きくなりすぎて
余計ややこしくなりそうだし、それで・・・」
「なるほど、この間・・・CXのスタジオで、何か知ってるふうな感じだった、
アタシと亀井に白羽の矢が立った、って事ですね。」
「正解。特に亀井は、絶対何かを隠してるって感じだったもん。」
その言葉に絵里は真っ赤になって俯く。
「もう2,3質問させて下さい。ののと一緒だった時は、誰がクラブで見たんですか?」
「それもあっちゃん。偶然前の日に石川を見かけて、まさかと思いながら次の日も行ったら
今度は辻もいてビックリしたって言ってた。」
「あっちゃんはやぐっつぁん以外には、誰にも喋ってないんですかね?」
「と思う。オイラも念押しして口止めしたから。」
「あと、そのクラブって、どんな噂があるんですか?」
「・・・聞いた話なんだけど、前に派手なケンカがあって、店長以下何人かが傷害でもっていかれたんだって。
芸能人の客も多いらしいんだけど、小さいもめ事はしょっちゅうやってるって友達が言ってた。」
「ふぅん・・・なるほどねぇ・・・」
「何だよ、自分ばっかり。言えよ。」
「やぐっつぁん。」
吉澤はきちんと座り直し、矢口に向かって頭を下げた。もう1ミリも酔ってはいない。
「確かにアタシとコイツはやぐっつぁんの知らない事を知ってます。それは認めます。
実は今、その件について、解決にむけて密かに動いてます。一応、大元は押さえました。
残りは後少しです。もし良ければ、終わりまでアタシと亀井に任せてもらえないでしょうか。
必ず解決します。そして、その時に全てを話します。
今は黙って、このヨシザワを信用してもらえないでしょうか?」
一気にそこまで喋った吉澤は顔を上げ、矢口を見た。絵里も頭を下げる。
矢口はケントメンソールに火を付け、好きにしろ、とだけ言った。
- 223 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/02/27(金) 00:02
- 今日はここまでです。
遂に2ちゃんねるブラウザを導入しました。
マカー用。になかなか飼育のURLを入れれなかったんですよね。
情けない事に。けど、これで一気に便利になりました。
- 224 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 00:04
- 生まれて初めてリアルタイム更新を体験できて
幸せでした!更新お疲れ様です!!
- 225 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/02/27(金) 00:30
- >>202
レスありがとうございます。
いつも読んでいただいて感謝です。
リアルタイムで当たったなんてこちらとしても嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
>>203
レスありがとうございます。
はじめまして。ようこそおいで頂きました。
この話は一応、えりが表のキーパーソンと言った所でしょうか。
これからも活躍すると思いますのでよろしくお願いします。
>>204
レスありがとうございます。
やっと、ですが前回気になられてた部分を解決しました。
今回ヤグのエピソードを落としたらいかんと、必死でした(w
>すみません、深読みしすぎでした
いえいえ、謝るのはこっちの方です。紛らわしい表現しか出来なくて本当にごめんなさい。
これに懲りず、これからもよろしくお願いします。
- 226 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/02/27(金) 00:34
- >>205
レスありがとうございます。
今回は気になられてた、れいなの話中心です。
れいな好きの人にはちょっとツラかったかもしれませんが、
どうだったでしょうか? また感想など書いてくれたら嬉しいです。
>>206
レスありがとうございます。
小ネタ、という感じでは書いてないんですけどね(w
一応、話の流れで。特に用意してました!って事ではないです。
よしこのシリアス路線は考えておきます。ってか最初は全編その予定だったんですが・・・
>>207
レスありがとうございます。
南極2号は恥ずかしいので持ち出さないで下さい(w
いろいろな意見があって、嬉しい悲鳴です。
なるべく皆さんの御期待に添えるように頑張っていきます。
>>224
レスありがとうございます。
即レスをいれて頂き、こちらが幸せです。
これからも頑張って更新しますのでよろしくお願いします。
- 227 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/27(金) 00:58
- 更新お疲れです。
矢口の口から「とりあえず生」と言ってるのを想像すると笑ってしまいました。
役柄がどの人もぴったりと合っていて読みやすいです。
これからも頑張ってください。
- 228 名前:名無し君 投稿日:2004/02/27(金) 02:23
- 美貴様聖誕祭 キタ━━━ヽ(ヽ(゚ヽ(゚∀ヽ(゚∀゚ヽ(゚∀゚)ノ゚∀゚)ノ∀゚)ノ゚)ノ)ノ━━━!!!
今日は意識して無かったとは言わせないぜ大佐。
絶対来ると思って張ってたのにオカシイと思ってたんだぃ。
寝る前にチェックしといて本当にヨカタ。とりあえず生。じゃなくてとりあえず乙。
- 229 名前:捨てペンギン 投稿日:2004/02/27(金) 04:05
- 今回のやぐとれいなの話、ホッとしました
よっすぃーガンバレ!!
- 230 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/27(金) 23:11
- 一難去ってまた一難か…大変ですね…
しかし新しい登場人物に期待です。
森伊蔵トニックについては…ノーコメントで(笑
- 231 名前:ss.com 投稿日:2004/02/28(土) 06:23
- あらら、ちょっとPCから離れてたら大量更新!お疲れ様でした。
6期メンの当事者の二人、目撃者の亀井ちゃんと、何も知らずに絡むシゲさんの
行動のギャップはお見事の一語です。
それにしても、思いつめたれいなをするりとかわして目覚めさせたよっすいー。
チョーかっけー!ますます先が楽しみです。
- 232 名前:名無し読者 投稿日:2004/02/29(日) 19:52
- ストーリーがおもしろいのは当然ですが
所々に出てくるドラッグの情報に超興味があります。
これらは実際の話なんですか?
- 233 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:17
-
***
「吉澤さん、起きて下さい。もう7時回りましたよ。」
「・・・ぅう・・・ぅん・・・zzZ・・・」
「吉澤さん、コーヒー入りましたよ! 吉澤さんってば!」
「・・・」
絵里は朝食の用意をしながら吉澤に語りかける。
食パンを2枚トースターに突っ込んでから、起きてくる気配のない吉澤のもとに歩み寄る。
「よ し ざ わ さ ん !」
耳元で呼んでも反応がないので、わざと体重を乗せてベッドに座る。
スプリングの効いたベッドで絵里が2,3回バウンドすると、吉澤は微かに呻き声を漏らす。
起きて下さい、と言いながら肩を掴んで揺すると、ようやく薄目を開けた。
「・・・なんじ?」
「もう7時半ですよ。」
本当はまだ7時5分くらいなのだが、絵里は少しサバを読んで答える。
「・・・うーん・・・あたまいたい・・・」
「もりにぞぉの飲み過ぎですよ。熱いコーヒー淹れましたから、ね。」
絵里がベッドから立ち上がろうとすると、後ろから突然吉澤が腰のあたりに抱きついた。
「わっ!」
そのままバランスを崩し、ベッドに倒れ込む。絵里のプリーツスカートが派手に捲れ上がった。
「ちょ、ちょっと、吉澤さん!」
焦る絵里を尻目に、吉澤は抱きついたまま、足も絡めようとする。
「ぅう〜ん、えりちゃん、せくすぃ〜。」
「もう、何言ってるんですか! まだ酔っ払ってるんですか?」
「いいじゃん、ちょっとくらい。」
「よくないですよ。あたし、学校あるんですから。吉澤さんだって、
・・・今日、稲葉さんに会いに・・・行くって言ってたじゃ・・・ないですかぁ。」
絵里の抗議は、吉澤に脇腹や太股をくすぐられて後半は笑いながらになってしまい、まるで説得力がない。
「だから、ちょっとだけ。あと5分だけ・・・」
再び目を閉じた吉澤がそう言った時、トースターのタイマーが、チン、と鳴った。
- 234 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:18
-
絵里が吉澤のマンションに泊まるのは3回目だが、最初の時と違ってお互いに慣れてきた二人は
かなりじゃれ合う様になっていた。絵里が強烈に意識してるため、キスこそしてないが
身体を触ったりするのはもう当たり前の事で、特に昨日の夜は酔った吉澤が絵里の風呂を覗いたり
ベッドでは眠りかけた絵里をくすぐったりと、大暴れをしている。
しかし絵里もただドキドキしながらやられるだけでなく、多少の反撃が出来るようになっていた。
「ダメです。遅刻します。パンも焼けたみたいですし。」
絵里はさっきの仕返しとばかり、吉澤のジャージの中に手を入れ背中をジカに触る。
「わっ、冷たぁ!」
それまで抱き締めていた絵里をようやく解放した吉澤は、大きく伸びをし、仕方なく上半身を起こした。
「う゛ーっ、マジで頭痛い。あれくらいの酒で。俺もトシだなぁ。」
「・・・一体、いくつなんですか、吉澤さん。本当は45のオッサンなんでしょ?」
「なかなか言うようになったじゃねぇか。」
振り返った吉澤が、ニヤリと笑う。
「・・・」
「どうした?」
「吉澤さん・・・ハニワみたいな顔になって・・・ますよ。」
「うっせえ! 飲んだ次の日は目が腫れるんだよ!」
恥ずかしがりながら、両手で浮腫んだ顔を覆う。
その仕草だけを見ると、45のオッサンというのは言い過ぎなのかもしれない。
「それにその髪形・・・」
絵里は笑いを堪えながら、髪をちゃんと乾かさずに寝てしまって吉澤の爆発した頭を指摘する。
「・・・とりあえず、顔洗ってくる。・・・それから亀井。」
「・・・ハイ?」
吉澤の口調が突然険しくなったので、調子に乗って色々言った事を怒られるのかと、絵里は少し焦る。
「もりにぞぉ、じゃなくて、森伊蔵、だ。覚えとけ。」
「・・・ハイ。」
思わず吹き出してしまった絵里を残して、吉澤は洗面所へと消えていった。
- 235 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:19
-
(もうちょっと時間があったらなぁ・・・)
まだ吉澤の温もりが残るベッドで、絵里は一人ゴロゴロしてみる。
一応朝食の用意は出来ているのであとは吉澤待ちだ。
あの調子だと多分シャワーも浴びるだろう。どんなに早くても10分やそこらは掛かる筈だ。
そう思いながら絵里は吉澤の枕を抱き締め、顔を埋めた。
(吉澤さんの匂いだ・・・吉澤さん・・・好き・・・大好きです・・・)
枕を吉澤の顔に見立て、キスをしてみる。もう一回。好きと呟いて、さらにもう一回。
(・・・あたしってば・・・何やってるんだろう・・・今度こそ・・・枕じゃなくて・・・本人に直接・・・)
絵里は自分に言い聞かせ、ようやくベッドから立ち上がった。
さっき予想した通り、ピッタリ10分後に吉澤が裸のままバスルームから出て来た。
「おいおい、どうなってるんだよ。」
「何がですか?」
「さっき7時半って言ってたのに、それから歯磨いてシャワー浴びて、今7時20分か?」
まだもう少し寝れたのに、という不満そうな言い方だったが、表情は笑顔だ。
「・・・いいじゃないですか。ゆっくりゴハン食べれるんですし。それより早く何か着て下さい。」
ここでの吉澤の裸はもはや当たり前となっていたが、それでも目のやり場に困る事には違いない。
「ハイハイ、分かりました。」
下唇を突きだし、部屋の奥のタンスの方に向かって歩いていく。
こういう時の吉澤は本当に小さい子供の様だ。
そんな一面を含めた全てが好きなのだ、と絵里は後姿に見とれながら思った。
「お前は学校、何時まで?」
ようやく服を着た吉澤が食卓につく。
「今日はスタジオ3時入りなんで、5時間目が微妙なんですけど。」
「じゃ、昼で出て来いよ。どっかで落ち合って、一緒にスタジオ行かねぇ?」
「ハイ。・・・ってゆうか、吉澤さんは間に合うんですか? 横浜行くんでしょ?」
「まっ、どうにかなるだろ。」
吉澤はバターをたっぷり塗ったトーストを頬張りながら答えた。
- 236 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:20
-
今日はレコーディングの最終日。
さゆみとれいなだけ朝10時入りで、その他は全員3時入りになっている。
普段なら中学生組は学校を優先するため、夕方からのレコーディングになっている事が多いが
進行が遅れてしまった今回に限ってはそうも言ってられない。
昨日録り終えた絵里だけが学校に行く、という珍しいパターンになっていた。
そして、いつもなら稲葉貴子もコーラスで娘。のレコーディングに参加するのだが、
今回は事情が違っていた。明日が初日となる松浦亜弥のコンサートツアーに
サポートメンバーとして同行するため、メロン記念日と一緒に横浜入りをしている。
午後からそのゲネプロが始まるために、稲葉に会って話を聞きたい吉澤は午前中が勝負になる。
「普通なら稲葉さん・・・レコーディングに来てくれるんですけどね。」
「まぁ、あの人だって忙しいんだよ。」
「吉澤さんと一緒にやってるラジオの収録が、今日なら良かったのに。」
「そりゃそうだが・・・ま、物は考えようだ。もしあややのコンサートが昨日から始まっててみろ。
今日あっちゃんに会ってとんぼ返りなんて不可能だったかもよ。」
「さすが吉澤さん、プラス思考ですね。」
絵里だって当然そういう考え方をしたいのだが、今はそれによって吉澤との時間を
奪われてしまったとの思いのほうが強かった。
「それよりさ・・・」
「ハイ?」
「昨日、やぐっつぁん、怒ってなかった?」
「怒ってはなかったと思いますけど。」
「そぉ? ってか、やぐっつぁんも人が悪いよな。今日はもう真剣な話はない、
みたいな雰囲気だったのに、突然アレだもん。」
「そうですよね。でもあたし、あの時矢口さんには全部話しちゃうのかなって、ドキドキしてました。」
「一瞬、迷ったんだけどな。でも言ってしまうと色々厄介な事になると思ったんだ。」
「・・・でも解決した後には話すんでしょ?」
「や。多分言わない。」
「えーっ、だって、その時全てを話すって・・・」
「だってそうでも言わないと、あの場は収まりがつかなかっただろ?」
- 237 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:20
-
「それはそうですけど・・・」
不安がる絵里の気持ちを知ってか知らずか、吉澤は笑みを絶やさない。
「実はあいぼんにも、同じような事を言われたんだ。アイツも鋭いぜぇ。ビックリした。」
「加護さんも?」
「おぅ。なんとかそっちもシラを切ったけど。当然ヤツにも言うつもりはない。」
「・・・で、どうするんですか?」
「とにかく、全力を挙げて解決する。で、やぐっつぁんとあいぼんには悪いが
後で適当な話をでっち上げてそれを報告する。辻褄を合わせるのが面倒になるかもしれんが。」
「・・・。」
「それじゃ、ダメか?」
「・・・や・・・あたしは吉澤さん信頼してますんで、吉澤さんのやりたいようにやって下さい。
あたしが出来る所はフォローしますから。」
絵里は不安を振り払い、笑顔で答えた。紛れもない絵里の本心だった。
吉澤はニッコリ笑い、サンキュ、と言って残りのコーヒーを飲み干した。
食事を終えた二人は慌ただしく出かける準備をする。
「じゃあ、すいませんけど、あたし先に出ます。」
「おぅ。」
絵里はパタパタと廊下を小走りに急ぐ。見送る吉澤がゆっくり後に続く。
玄関の手前で絵里がスリッパを脱いだ時、突然後ろから吉澤に抱き締められた。
「ちょ・・・ちょっと、吉澤さん?」
吉澤の掌が絵里の小さな胸を優しく包み込む。昨日の夜の冗談とは違うその雰囲気に
絵里の脈拍が一気に上昇し、自分でもはっきり分かる程、顔が紅潮する。
「なぁ、さっき、ベッドで・・・」
「・・・ハ・・・ハイ?」
「今日学校サボれ、って言ってたら、どうした?」
耳元で、と言うよりは、耳にピッタリくちびるを押し当てて、吉澤が囁く。
いきなりの展開に絵里は気を失いそうになり、思わず声が掠れる。
「・・・も・・・ちろん・・・サボります・・・学校なんか行くより・・・吉澤さんと・・・一緒にいたい・・・
でも・・・吉澤さんには・・・今日大切な用事があるから・・・」
- 238 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:21
-
そこまで言うのが精一杯だった。
それ以上言うと涙が出そうになったので、自然と言葉が途切れた。
自分の気持ちを誤魔化せなくなっている絵里には、駆け引きなどという物は無縁だった。
しかし正直にありのままを話す事により多少気分が楽になったのも、また事実である。
「そっか、分かった。」
吉澤は微笑み、そのまま絵里の耳に、噛むようにキスをした。
軽く目を閉じて、ほんのわずかな時間、その愛撫に陶酔する絵里。
硬直していた身体が、芯から熱くなってくるのを感じて吐息が漏れる。
(・・・好き・・・)
言葉に出して言ったのか、胸の中だけで呟いたのかは曖昧だったが、
その想いが吉澤に届いたというのは間違いなかった。
「よし、じゃあ行ってこい。」
手を放した吉澤は自らの照れ隠しに、絵里のお尻をペロッと撫でる。
「ひゃっ! もーぉ、吉澤さんのエッチ!」
振り向いた絵里は吉澤を叩く真似をして、無意識にその顔に見とれる。
抱きついてキスをしたかったが、死ぬ思いで我慢した。
もしそれをしてしまうと、もう今からは絶対学校に行かなくなると思ったし
肝心なのはキスそのものよりも、その意志の疎通だ。それが確認出来ただけでも絵里は幸せだった。
「行ってきます。」
元気に靴を突っかけ、ドアを押した。
「気をつけてな。昼過ぎ電話する。」
「ハイ。」
満面の笑みで絵里はひらひらと手を振った。
- 239 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:22
-
絵里を送り出した20分後、身支度を終えた吉澤も家を出る。
気温はかなり低そうだが、今日も雲一つない青空が広がっていた。
腫れている目を隠すためのお気に入りのサングラスが、本来の目的でその効果を遺憾なく発揮する。
ここから目的地までは一旦東京に出て新幹線に乗るのが一番早いが、そこまで焦ってる訳でもない。
私鉄とJRを乗り継いだ吉澤は、小一時間かけて新横浜のコンサート会場に到着した。
当然バックステージパスなど持っていなかったが、関係者出入口をあっさり顔パスで通過する。
「あれ、吉澤。どうしたんだ?」
バッタリ出会った事務所のスタッフに声を掛けられる。
「あっ、おはようございます。ちょっと、あややの偵察に。」
「なにが偵察だ。モーニングは今レコーディングやってんじゃないのか?」
「や、そろそろ終わりです。ところで稲葉さん見ませんでした?」
「稲葉はステージかアリーナにいるんじゃないか?」
「どうも。」
軽く会釈して行こうとする吉澤に、邪魔すんなよ、と声が飛ぶ。
稲葉貴子はアリーナ席の真ん中に一人で座っていた。
近づいてくる吉澤に気付くと、ニッと笑い右手を挙げる。
「どしたん? なんや昨日の電話、ごっつ真剣な感じやったやん?」
「え、そうでした? すいませんね、時間とらせて。」
吉澤は稲葉の隣に座る。キャパシティが1万3千人のアリーナに二人っきり、というのは爽快な気分だった。
ステージ上では照明のスタッフが作業をしているが、当然話し声など届く訳がない。
いつ誰が入ってくるか分からない楽屋なんかより、内密の話をするには打って付けの場所だった。
「いやいや、全然かめへんよ。ご覧の通りステージが完成するまで暇やし。ところで、話って何?」
「あのですね。やぐっつぁんから聞いたんですけど、梨華ちゃんをクラブで見かけたって。」
「へぇー・・・アンタは信頼されてるんやなぁ。」
「は?」
「矢口の野郎、あれだけウチに口止めしおったくせに、自分はよっすぃに喋ってるがな、と思て。」
「や、成り行きですよ。話の流れで。」
吉澤は笑いながら手を振る。必要な情報は欲しいが、こっちの事情を漏らす訳にはいかない。
- 240 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:23
-
「ま、ええねんけどな。で、どっから聞きたいん?」
「なるべく詳しく。出来れば稲葉さんが見た事全部。」
稲葉は、ふーん、という表情で薄く笑い、静かに喋りはじめた。
「・・・えっと、最初は・・・四日前か。ウチのよう行く店やねんけどな。
ツレと二人で踊ってたんやけど、なんか妙に場違いな女の子が一人で入ってくんのが見えてん。」
「一人で?」
「そう。メチャメチャ目立ってたわ。あの独特の雰囲気やもん、分かるやろ?」
「はぁ。」
「一応自分では変装してる積もりやったんやろな、メガネとズラで。」
「ズラァ!?」
石川のカツラというと、例のピンクの髪の印象が強い吉澤は、思わず大きな声を出した。
「や、ズラって今の子は言わへんのか。なんやったっけ・・・」
「ウィッグ?」
「それそれ! とにかくそのウィッグもサングラスも全く意味なしって感じで、バレバレやったけどな。」
「モーニング娘。の石川梨華、だと?」
「せやねん。周りにもチラホラ気付いてる奴おったし。で、そのままVIPルームに消えていきよった。」
「VIPルーム? 一人で?」
「そう。で、こっからは矢口にも言うてない話なんやけど・・・聞きたい?」
「・・・もちろん・・・」
真剣な表情で吉澤はゴクリと唾を飲み込む。
「言うてもええんやけど、その前に一個聞かせてくれる?」
「・・・なんですか?」
「石川の事、好きなん?」
「はぁ?」
「石川が心配で聞きに来たんやろ? どや、お姉さんに言うてみ。」
成る程、さっきの何か言いたげな表情の意味がやっと分かった。稲葉は勘違いをしている。
吉澤は石川に特別な、恋愛感情みたいなものは持っていない。しかし、これは吉澤に好都合だった。
- 241 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:24
-
自らのレコーディング中に、わざわざこの話を聞きに来る事の意味を、
どう説明しようか悩んでいたのも事実である。
特に聞かれなければ普通にスルーしようと思っていたが、詮索された時の答えを吉澤は用意してなかった。
以前、美貴が亜弥について言ってた、いい意味でのスケープゴート、という言葉を思い出した。
「絶対に、誰にも言いませんか?」
「あったりまえやんか。これでもウチは口堅いねんで。」
「実はそうなんですよね。梨華ちゃん、好きなんです。やぐっつぁんにその話聞いて、もう心配で。」
「せやろー。ウチのカンも中々のもんやな。・・・けど・・・」
「けど、どうしたんですか?」
突然曇る稲葉の表情に、吉澤は別の意味で心配になった。
「こっからはアンタには辛い話になるかも分からへんけど・・・ええか?」
やけに勿体ぶった稲葉の言い回しが気になる。
「・・・ハイ。」
「石川な、そこの店長となんやごっつええ感じやねんて。
ツレが一緒やった、って言うたやろ? そのツレが店の子と仲良くて、聞きに行かしてん。
ほな、その店の子が言うには、石川さん、店長とデキてるかもしれへん、て。」
「マジっすか!?」
予想してなかった稲葉の言葉に、吉澤は考え込んでしまった。
「ここ最近、一週間くらいは毎日のように通てるって。」
「・・・その店長ってパクられた人でしょ?」
「パクられたぁ?」
「やぐっつぁんが言ってたんです。前に店でケンカがあって、何人かが傷害でパクられたって。」
「あぁ、その事か。そう言えば、なんか聞いた事あるわ。
でもそこの店長ってしょっちゅう入れ変わってるから、それは別の奴ちゃうかな?」
「今の店長はキレイな体だと?」
「や、知らんで。前科があるかなんて。そんなに詳しないもん。」
稲葉は首と手を同時に振りながら答えた。
- 242 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:25
-
「どんな人なんですかね? 知ってる限り教えてもらえませんか?」
「うーん、歳は25くらいかな。まぁまぁオトコマエなんやけど、ヒョロヒョロで頼りない感じかなぁ。
背は180前後で、いっつも、ピッタリしたオールバックやな・・・ウチは絶対ええと思わへん。」
「ヒゲが生えてるとか?」
「そう。なんで知ってるん? そういや、髭面やわ。」
「ふぅん。」
「あんま心配してなさそうやな? なにその余裕の表情?」
ニヤリと笑った吉澤に稲葉は怪訝そうな顔で尋ねる。
「あ、や、心配してますよ。で、その日はそれからどうなったんですか?」
「その日? どこまで喋ったっけ? あぁそうそう、VIPルームに消えた、やな。
それから30分くらいかなぁ。すぐに帰りよったで。一回もフロアに降りんと。」
「なるほどね。」
「それでや。気になったウチは次の日も行ってみたんや。
なんやったら説教の一つでもカマしたろかいな、と。そしたらなんと。」
「ののが一緒に来た。」
「御名答。こりゃお姉さん、ビックリしたがな。まぁ、石川はええやん? もう19なんやろ?
クラブ通いしてたって、まぁええ。けど辻ちゃんはアカンでぇ。当然酒飲めるトコなんやし。」
「そおっすよね・・・」
「んで、また二人はVIPルームへ入りよってん。その日は1時間くらいおったかな?
やっぱり踊らんと、帰ってもうた。」
「二人がVIPルームで何をしてたとかって分かりませんよね?」
吉澤の問いに稲葉は無言で頷く。
「じゃ、稲葉さんはそのVIPルームって入った事ありますか?」
「あの子らと同じ部屋は入った事ないなぁ。そこって、ダンスフロアは地下になってんねん。
で、ドカーンと吹き抜けになってて、一階部分が所謂VIPルームで、それがグルッと一周してて、
真ん中にDJブースがあるんやけど、部屋は全部で20くらいある筈やから。」
クラブなど一度も行った事のない吉澤は、必死で内部の構造を頭に叩き込んでいた。
- 243 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:26
-
「ちなみに中はどうなってるんですか?」
「それぞれ違うんやけど・・・一番多いパターンは豪華な応接セットがガーンと置いてある。
広い部屋やと、中に専用のバーカウンターがあって、スツールもバーッと何個かあるんやけど
当然ソファーも置いてる、みたいな。まぁそこは大人数用やな。
・・・あと・・・言いにくいんやけど・・・ベッドが置いてある部屋もあるって・・・」
「へぇーっ。それは凄ぇ。」
「・・・勿論、石川が入った部屋はちゃうで。部屋は空いてる限り客が選べる様になってんねんけど。」
吉澤を安心させるため、必死に稲葉は説明を補う。
「や、気にしてません。もし梨華ちゃんがその店長とホントにどうにかなってたとしても、
まさか店の中でそんな事しないでしょ?」
「そりゃ、まぁ。」
「ヤル気なら、ソファーでも、それこそトイレでも出来ますし。」
吉澤は稲葉に向かってニッと笑ってみせた。
「・・・よっすぃ、強いな。や、それだけ石川を信用してるんやな。うん、ええこっちゃ。」
大げさに頷く稲葉に吉澤は質問を続ける。
「あと、梨華ちゃんは二日とも同じ部屋だったんですか?」
「・・・言われてみれば・・・うん、確かにそうや、同じ部屋やった。」
「なるほど。」
「・・・なんや、さっきから質問の意図が全然分からへんねんけど。」
「そうですかね? や、大丈夫です。」
「何が大丈夫やねん。」
思わず突っ込んだ稲葉だったが、吉澤の穏やかな表情に変化はない。
「最後にもう一つ。その店って、さっきもちょっと言ったんですけど、
あまり良くない噂があるって事、知ってました?」
「ケンカの話? アンタに言われて思い出したけど、ウチが聞いたのはそれくらいやなぁ。
良くない噂って言われても、特別なんかピンとけぇへんのやけど。」
「そうですか。でもこれからそのクラブ、行かないほうがいいですよ。」
- 244 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:27
-
「待って、全然分かれへん。」
「ヨシザワも。なんとなくって事で。」
「はぁ?」
稲葉が縋る様な目をした時、ステージ上に松浦亜弥がマイクチェックのため、ジャージ姿で現れた。
「あっ、吉澤さーん!」
こちらに向かって両手を大きく振る。
「どうしたんですかぁ、今日は?」
「激励に来たんだよ。ツアー頑張れよ!」
吉澤も手を振り返す。
「ありがとぉございますぅ!」
どこからそのテンションが湧いて出てくるのか、不思議なくらいいつも彼女は元気だ。
「すいません、稲葉さん、最終チェック始めますので、お願いします!」
今度は吉澤の隣で腕を組んで座っている稲葉に声を掛ける。
ゆっくり立ち上がった稲葉は、ちょっと待って、と大声で叫ぶと吉澤を見下ろした。
「行かんほうがええんやな? それはウチだけ? ツレも?」
「友達も行かないほうがいいと、や、行ってはいけません。」
「コイツ、理由も言わんと、断言しよったで?」
「ハハハ、なんとなく、なんですけど。」
吉澤も立ち上がり、二人でステージに向かって歩き始める。
「今とは言わんけど、いつかその訳を話してくれるんやろな?」
「その訳も何も、なんとなくですってば。」
同じ言葉を吉澤は微笑みながら繰り返す。
「このヤロー。さっきの話も嘘やな?」
「さっきの話?」
「石川が好き、っちゅうヤツやがな。今日わざわざ何を聞きに来たんや? それくらいええやろ?」
「じゃ、絶対に内緒って事で。」
「おぅ、勿論。」
「この件について、ヨシザワはやぐっつぁんの一任を受けて動いてます。
目的は梨華ちゃんの目を覚まさせる事。それだけです。じゃ、ツアー頑張って下さい。」
「はぁ?」
ステージ上の亜弥に手を振り、返す刀で稲葉のお尻を撫でた吉澤はニヤリと笑い、出口に向かって歩き出した。
- 245 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:27
-
4時間目の終了を知らせるチャイムが鳴るのと同時に、絵里の携帯が作動する。
液晶を確認すると、数学の教科書を机の中に突っ込みながら電話を受ける。
「ハイ、亀井です。」
『出れるか?』
「ハイ。」
『今、校門の前にいるから。』
「ラジャー! 速攻で降ります。」
隣の席の子に、早退するから担任に言っといて、と託けた絵里は次の瞬間には廊下を全速力で走っていた。
「凄ぇ。電話して30秒も経ってねぇのに。」
吉澤の待つタクシーに乗り込んだ絵里は大きく息を吸い、呼吸を整えた。
「偉いですか?」
少し甘えた感じの絵里が、吉澤に寄り添う。
「うんうん、偉いぞ。御褒美に昼メシ奢ってやる。何がいい?」
吉澤は絵里の頭をクシャクシャに撫でながら言う。
「えーっと、じゃあ、パスタ。」
「OK。イタ飯ね。でもその前にちょっと、お前の家に寄る。」
「あたしの家に? え、でも、多分凄い勢いで散らかってると思うし・・・」
「バカ。俺が寄るんじゃねぇよ。お前だよ。着替えに帰るんだ。」
「着替え? あたし、下着の替え、あと2組カバンに入ってますけど・・・」
どうしても妄想が先走る絵里は、タクシーの運転手に聞かれないように吉澤の耳元で囁く。
「ちっげぇよ、バカ。」
吉澤は大声で笑い、絵里に軽くデコピンをカマす。
「は?」
「服を着替えるの。制服じゃマズいんだよ。訳は後で説明してやるから、
お前が持ってる一番オトナっぽい服に着替えて来い。」
「オトナっぽい服、ですか?」
それがやっと自分の勘違いだと分かり、照れて頬を赤らめた絵里は今度は首を傾げる。
そういえば、吉澤の服装が朝着てた物と変わっている。つまりそれは一度家に帰って着替えた事を意味する。
(終わった後、どこかに行くんだ。でも、こんなにオシャレしてどこへ行くんだろう?)
丁度その時、タイミング良くタクシーが絵里の家の前で止まった。
- 246 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:28
-
淡い奇麗なトープのムートンコートの下には、白いタートルネックのセーター。
濃緑のラムスキンのミニスカートに、黒のロングブーツを合わせたファッションで出て来るのに
さほど時間は掛からなかった。オトナっぽい、と限定されていたので選択肢が少なかったのかもしれない。
「よーし、合格。95点。」
満足そうな吉澤が笑顔で頷くと、再び絵里を乗せたタクシーが走り出した。
「良かったぁ。」
「このスカート、凄ぇ奇麗な色じゃん。光が当たらないと黒だし、当たれば緑か。
角度によってはコートの色と同系色にも見えるし。」
「えへへ。この前買って、今日初めて着るんです。いいでしょ?」
「うん、いいよ。またいつものパーカーとホットパンツの組み合わせかと思ったもん。」
「や、あたしもそろそろオトナっぽい服も着なきゃなって。ところでマイナスの5点はどこですか?」
「パンストがな・・・折角服がキマってるのになんか勿体無い。」
吉澤は何の変哲もない肌色のストッキングを指摘して、絵里の太股をペチペチ叩く。
「・・・なるほど。膝までのブーツだからいいかなと思ってました。」
「ダメダメ。スカートが短いんだから、パンストもお洒落にしなきゃ。
よし、メシ食ったら後で買いに行こう。」
「ええーっ、レコーディングもあるのに、そんな派手にするんですか?」
「バカだなぁ。終わってから履き替えればいいじゃん。あっ、運転手さんそこら辺でいいです。」
六本木ヒルズを左手に見ながら麻布十番に入った所で吉澤は車を止めた。
「パスタと言えばココが結構旨いんだよ。」
吉澤は目の前に見えてきたイタリアンレストランを指差した。
ウィークディの昼間だというのに、この辺りはいつも人通りが多い。
すれ違う人を避けるように、絵里は吉澤の左腕に両手を絡め、寄り添って歩く。
目一杯お洒落をして、好きな人と腕を組んで歩いている事が、絵里はとても幸せだった。
店に入り注文にかなり迷った二人は、結局吉澤がカルボナーラ、絵里はタラコバターをオーダーし
別にスップリとサラダを一つずつ頼み、二人で分ける事にした。
- 247 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:29
-
「で、稲葉さんに会って、どうでした。」
絵里が水を軽く口に含んでから切り出す。
「横浜まで、わざわざ行った甲斐があったよ。」
吉澤はニヤリと笑う。
「あたし、タクシーの中でずっと考えてたんですよ。何故オトナっぽい服なんだろうと。
もしかして、今日レコーディングが終わったら、例のクラブに行く積もりですか?」
「流石えりちゃん、冴えてるねぇ。大正解。」
「・・・やっぱり。あたしまだ中学生なんですけど、入れて貰えるんですかね?」
「だからその服なんじゃないか。大丈夫、ののが入ってるんだ。アイツよりはお前の方が
パッと見、遥かに大人っぽい。」
「そんなもんですかねぇ。それで、どんな作戦なんですか?」
「作戦もへったくれも無い。今日も奴等は必ずクラブに行く。その後を付けるだけだ。」
「・・・マジですか?」
「だって、俺、場所知らねぇもん。」
思わず絶句する絵里に対して、笑みを絶やさない吉澤は2回3回と大きく頷いた。
「じゃここで、鋭いえりちゃんに問題です。石川梨華は何をしにクラブに行ってるんでしょうか?」
突然吉澤がクイズの司会者の様な口調で喋り始めた。
次に絵里が質問しようと思っていた事を、逆に聞かれてしまって少し焦る。
昨日この話を聞いた時から、不思議に思っていた事だった。暫らく絵里は真剣に考える。
「・・・藤本さんからコカインを貰えなくなって・・・憂さ晴らし?」
「ブー。残念、東京都の亀井絵里さん、ワンポイントダウンです。」
完全になり切ってる吉澤が、嬉しそうに言う。
「・・・ちょっと待って下さい・・・辻さんも一緒だった、というのは何か関係ありますか?」
「関係大あり。今の答え、途中まで正解かと思って、ビックリしたよ。」
「途中まで正解?」
椅子にもたれた絵里が腕を組んで考え込んだ時、料理が運ばれてきた。
「よし、一旦休憩。メシ食おうぜ。」
「ハイ。いただきます。」
- 248 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:29
-
「おいしー。やっばい、コレ、メチャメチャおいしいです。」
「うん、俺のも旨い。」
「さゆに自慢しよっと。アンタが必死で歌録りしてる時に大好物のタラコスパを食べてたって。」
「ワハハハハー。東京都の亀井絵里さん、性格が悪くなってきております。」
吉澤は机をバシバシ叩きながら笑う。
「・・・フルネームで連呼しないで下さいよ。恥ずかしいじゃないですか。」
「俺等の会話なんて誰も聞いちゃいねぇよ。それより、ちょっと換えっこしねぇ?」
「ハイ。あたしもソレ食べたいなぁって思ってたんです。」
二人は皿を交換し、お互いのパスタを堪能する。
「ヒント下さい。」
吉澤のカルボナーラを満足げに平らげた絵里は唐突に切り出した。
「へ?」
口一杯にライスコロッケを頬張っていた吉澤が顔を上げる。
「へ、じゃないですよ。石川さんは何のためにクラブへ行くのか。ヒント下さい。」
掌を絵里に向け、ちょっと待てのポーズをしながら、吉澤は水を一口含んだ。
「実は俺も昨日やぐっつぁんに聞いた時点では、ハッキリ分からなかった。
今日稲葉のあっちゃんに会って確信したんだ。じゃ、ヒントその1。」
「ハイ。」
「ヤツはヤツなりに変装して、クラブに行ってる。」
「・・・変装?」
「ヒントその2。ヤツは店長と凄く仲がいいらしい。」
「・・・」
「ヒントその3。そこの店長というのは、コロコロ入れ替わってるらしい。
で、何代目か知らんが、今の店長というのは痩せてて髭を生やしてる。」
「はぁ? そんなのがヒントになるんですか?」
真剣に聞いてた絵里が眉をひそめ、首を傾げた。
「普通そういう商売の人間というのは、小ギレイにしとくもんだと思うんだ。でも、あえて、ヒゲ。」
「・・・全く分かりません。」
「じゃ最後に大きなヒントをやろう。昨日やぐっつぁんが言ってただろ、店で大きなケンカがあったって。
客同士のもめ事なら分かるが、実際は店の人間がパクられてる。これはどう考えてもおかしいだろ?」
「・・・それはなんとなく分かります。何故お店の人がケンカをしたんだろうって。」
- 249 名前:_ 投稿日:2004/03/09(火) 23:31
-
「だろ? やぐっつぁんは、傷害でパクられた、って言ってたが多分違う。」
「・・・え・・・ちょっと待って下さい・・・多分違う・・・?」
「直接の逮捕の理由は本当に傷害なのかもしれん。だがおそらく・・・」
「え? 待って。え? 本当ですか?」
絵里の思考が段々と纏まり始め、やがて一本の線に繋がり、その瞬間ビクッと身体が動いた。
「・・・本当に頭良いなぁ、おめぇ。」
絵里が気付いた事を悟り、吉澤は感心したように腕を組んだ。
「マジですか?」
「東京都の亀井絵里さん、おそらくそれが正解です。」
パチパチと吉澤は拍手をする。
「・・・何を暢気に言ってるんですか。あたしの思ってる事が正解なら、凄くヤバいんじゃないですか?」
「確かに。でも、まだ間に合うかもしれん。」
「と言うのは?」
「ヤツが毎日のように店に通ってるってトコだ。ここに俺は一縷の望みを託す。」
「・・・な・・・るほど。」
絵里が大きく頷く。
「もう既にゲームオーバーになってるか、9回裏のツーアウトかは・・・」
「分かりました。今日石川さん達が必ず行く、って言ったのが。それが願望でもある訳ですね?」
「その通り。」
「もし、今日行かなければ・・・もうゲームオーバーになってる可能性が高い・・・」
「ピーンポーン。」
「・・・さっき、吉澤さんが場所知らないって言った時、あたし、ホントにガッカリしました。
なんで稲葉さんに聞いてこなかったんだろうって。やっとそれが分かりました。」
「そう。分かって貰えて嬉しいよ。クラブの場所は聞かなかったけど、
店の中がどうなってるかは、ちゃんと聞いてある。」
「・・・さすが吉澤さん、あたしが惚れただけの事はあります。」
「あれ? 随分上の立場で物を言ってるじゃないか?」
吉澤は少し頬を赤くして、テーブルの下で絵里を軽く蹴る。
絵里は今の一言を、全て冗談に取られませんように、と思いながら笑った。
- 250 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/03/09(火) 23:35
- 今日はここまでです。
・・・相変わらず会話分が多くて鬱。
読みにくいかもしれませんが、許して下さい。
- 251 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/03/10(水) 00:17
- >>227
レスありがとうございます。
こちらも即レスを頂き、感謝しています。
以前に無茶キャラというのを指摘された事があって、ずっと気になってたんです。
そんな事言われたの初めてなので、とても嬉しいです。
>>228
レスありがとうございます。
その通りです。加護誕生日の時に言われて、今度はじゃあ、美貴誕で
と密かに思ってました。御応え出来て良かったです。
今回のAAは結構好きなパターンです(w
>>229
レスありがとうございます。
ホッとして頂いて何よりです。期待を裏切っちゃ悪いなと。
この後、前編のヤマ場がやってくる予定です。
よすこの活躍を期待してて下さい。
- 252 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/03/10(水) 00:20
- >>230
レスありがとうございます。
まさにその通りですね。今回は難が去らすに、増えただけになってしまいましたが。
アラ、森伊蔵トニック、ホントに旨いですよ。邪道というのは百も承知で。
もし焼酎が苦手な人は騙されたと思って(ry (w
>>231
レスありがとうございます。
毎度どうも。お褒めの言葉をありがとうございます。
れいな vs よすこのシーンは何回も書き換えした苦労の場面だったので・・・感無量です。
お忙しいみたいですが、無理をなさらないよう。
>>232
レスありがとうございます。
実際の話・・・というのはどうなんでしょうか?
情報が事実かどうかという事なら、嘘は書いてない積もりです。
ただ、ストーリーの都合上、辻褄を合わせるために操作は多少しています。
ま、小説ですから。肩の力を抜いて、お付き合い頂ければよろしいかと。
- 253 名前:捨てペンギン 投稿日:2004/03/10(水) 00:33
- なるほど、毎日という事が望ですね
亀井さんの大人な服装と、吉澤宅でのかわいい仕草...見てみたい
- 254 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/10(水) 01:13
- 更新乙です。それにしても石川と辻は悪い子ですね(笑)
面白い展開になってきました。
大変でしょうけど頑張ってください。
- 255 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/10(水) 22:44
- 段々とえりりんが成長してるのがよくわかります。
大佐タソは主人公が吉澤のつもりで書いてるんでしょうけど
私はえりりん主人公説を信じて読ませてもらってます。
これからも頑張ってください。
- 256 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/12(金) 00:28
- 大量更新乙です。
大佐が何故会話文を嫌がってるのかわかりませんが
読み辛いというのはまったくないですよ。
説明文で書かれるよりは吉澤と亀井の会話にしてくれたほうが
ずっと入っていきやすいと思うんですがね。
それでは次回更新を楽しみに期待してます。
- 257 名前:山田雅樹 投稿日:2004/03/13(土) 14:53
- ダメだ。完結してから一気に読もうと思ってここには来ないようにしてたんだが
続きが気になって仕方が無い。誘惑に負けてここまで夢中になって読んでしまった。
今は後悔と充実感が半々。今度こそ完結まで読まない。それまでインドの山奥にでも篭るか。
- 258 名前:_ 投稿日:2004/03/24(水) 00:17
-
〜第四章〜
予定を一日追加した娘。の新曲のレコーディングが、ようやく終了した。
さゆみとれいなのソロの歌録りの後、3時から始まったコーラス録りは、
おとめ、さくら、美貴を除く全員、の順で3回に分けて行われ
あとは現在入院中である美貴のボーカル録りを残すのみとなった。
レコーディングの後は、普段通りプロデューサーであるつんくを交えた全体ミーティングが始まり、
いつにないダメ出しと檄が飛んだ。今回の美貴の怪我やレコーディングの不調を重く見たつんくは
最近の娘。達の気の緩みや生活態度についてまでも、たっぷり1時間に亙って説諭し続けた。
五期や六期のメンバーにとっては初めて見るその厳しい表情に、緊張し通しに成らざるを得ない。
特にれいなは全ての言葉が自分に向けられたものと思い込み、顔を強張らせ真剣に聞き入る。
最後につんくは、これからも気合い入れて頑張れ、と言い残し部屋をあとにした。
「今のつんくさんの言葉が全てだと思います。
明日は久し振りのお休みになりますが、各自責任をもって行動するように。以上です。」
後を受けた飯田は短い言葉で締めた。皆がそれぞれに、お疲れさまです、と言い合い
長かったミーティングが終わる。時刻は午後8時になろうとしていた。
通常ならレコーディングが跳ねた後やコンサートツアーの楽日には、
打ち上げと称してみんなで食事に行くのだが、今回に関しては誰もそれを言い出さない。
「このあと、どうする?」
矢口が小さな声で飯田に尋ねる。
「今日は無しで。今はそんな気分じゃないし、ミキが帰ってきてからにしない?」
「うん、オイラもそう思う。じゃ、藤本の復帰の時に盛大にやろうか。」
「OK。じゃ、皆に言うね。」
帰り仕度を始めたメンバーに飯田がその旨を伝える。誰もが一様に納得の表情を見せ、頷いた。
- 259 名前:_ 投稿日:2004/03/24(水) 00:18
-
「さゆ。」
先に部屋を出たさゆみを追い掛けたれいなは、廊下を曲がった所で声を掛けた。
「れいな、どうしたの?」
振り返ったさゆみはれいなを待って、肩を並べて歩き始める。
「うん・・・ゴメンね。」
「えっ、何が? なんか謝ってもらうような事あったっけ?」
「や・・・その・・・日々反省って事で。」
「はぁ? 全然分からない。なにそれ?」
「ホラ、こないだ、藤本さんのお見舞い誘ってくれたのに・・・冷たい言い方しちゃったでしょ?」
「・・・あぁ、そんな事気にしてたの? ってゆうかあたし、完璧に忘れちゃってたよ。」
「実は私も忘れてたんだけど、突然思い出したんだ。悪かったなって。」
「いいよ、そんな事。ホントに気にしてないから。」
さゆみは笑いながら両手を胸の前でクロスさせる様に振った。
「でさ・・・今から行かん?」
「えっ、藤本さんのお見舞いに?」
「そう。なんかマズい?」
「・・・だってもう8時だよ? とっくに面会時間終わってるよ。」
「それが大丈夫なんだ。受付で名前書いて申請すれば入れてくれるけん。」
「なんでそんな事知ってんの?」
「3日前も夜遅くに行ったもん。ね、行こ。」
「や、行きたいけど・・・終わったらママに電話して、迎えに来てもらう事になってるんだ。」
「その後なんか予定あるん?」
「ううん。ただ迎えに来てもらうだけ。」
「・・・さゆ、過保護に育ってるよね。」
「何よ。日々反省の人がそんな言い方していいの?」
思わぬさゆみの反撃に、れいなは口に手を当て小さく笑った。
「もう電話した?」
「まだ。今しようと思ってたトコ。」
「じゃ、ママには病院に迎えに来てもらえばいいじゃない。ここからだと結構近いし。」
「あっ、れいな頭いい。そうする。」
急にテンションの上がったさゆみは、慌ててカバンを探り携帯を取り出した。
- 260 名前:_ 投稿日:2004/03/24(水) 00:19
-
直ぐに繋がった電話でさゆみは母と喋り始める。
なんとか母を説き伏せ、1時間後に病院まで来てもらうという事で話がまとまり
さゆみは上機嫌で携帯を折り畳んだ。もう後は帰って寝るだけ、と思っていたところに
突然美貴に会えるとなれば、さっきまで苦戦していた新曲を鼻歌で歌い出しそうな気分になる。
実際さゆみは、入院当日に吉澤と絵里の三人で行ったきりなので、美貴に会いたくて仕方がなかった。
自らが忙しいのは当然として病院の面会時間というのが実に中途半端なので、行きたくても行けなかったのだ。
夜に行ってもいいなんて、そんな裏技がある事を、今れいなに聞かされるまで全く知らなかった。
「ホラ、何やってんの? 早く行くよ。」
さゆみはれいなの背中を押しながら言う。
「さゆ、その前に一つだけ確認しときたいんやけど・・・」
「何よ。あたし1時間しかないんだからね。せめて歩きながら話して。」
二人はスタジオの玄関を抜け、外に出る。
「さゆは、藤本さんのコトどう思ってんの?」
「今更聞く? 好きに決まってんじゃない。」
「そっか・・・実は私もなんだ。」
「知ってるよ。もうずっと前から。」
いつも利用する近くのタクシー乗り場にやって来た二人は、列の一番先頭の車に乗り込む。
ここは、人は並んでるのに車は一向にやってこない、という事もたまにあるのだが、
今日は珍しく、車が10台程止まっていた。風が冷たかったので待たずに乗れたのは幸運だった。
「困ったねぇ。」
れいなは病院の名前を運転手に告げた後、ボソッと呟いた。
「困ったと思うから困るんだよ。困ってないと思えば、問題ない。」
「何それ? なんやの、その余裕?」
「全然余裕じゃないけどね。でも考え方を少し変える事にしたの。」
「考え方を? どうゆう風に?」
興味津々といった表情でれいなはさゆみの顔を覗き込む。
「あたし達が二人で藤本さんを取り合おうとすれば摩擦も生じるし、絶対にうまくいかないと思う。
藤本さんもどっちかを選ぶなんて事は、多分しないだろうし。だから、言葉は悪いんだけど
あたしとれいなで、藤本さんをうまく共有出来ればいいなって。」
- 261 名前:_ 投稿日:2004/03/24(水) 00:19
-
「・・・驚いた。どしたの、さゆ?」
さゆみの言葉に、れいなは目を丸くする。
「何が?」
「なんか・・・解脱しちゃってるねぇ。新しい宗教でも始めた?」
「バカ。」
「だって、さゆがそんなオトナな発言をするとは思わんやったもん。」
「まぁ、宗教と言えば宗教なのかも。吉澤教ってヤツ?」
「・・・吉澤さん?」
「うん。あたしね、つい最近、吉澤さんに説教食らったの。それで色々と考える様になったんだ。
前までのあたしならきっと、れいなに対決を挑んでたかも。もしくは藤本さんにどっちを選ぶか迫ってみたり。
でも、それだと、どういう結果になっても、必ずわだかまりが残る。それは嫌だなって思ったの。」
「・・・降参だ・・・」
前のめりになってたれいなは、ドサッと音を立てシートにもたれ掛かった。
「え?」
「完敗。さゆにも、吉澤さんにも。」
上を向いて窓の外を流れる景色に目をやりながら、れいなは呟いた。
さゆみに対して、というよりは、吉澤の懐の深さにれいなは感動すら覚えた。
さゆみがどういう事情で吉澤に説教を食らったのかは知らないが、それは自分も同じだ。
バット片手に吉澤に向かっていき、玉砕した。そしてその後で優しく諭された。
それがあったからこそ深く反省し、さゆみと決着をつけるためにお見舞いに行こうと誘ったのに。
だが吉澤の影響力が、さゆみをも変えてしまったため、結局自分一人が空回りしていた事になる。
妙に清々しい気分になったれいなは、大声で笑いだしたい衝動に駆られた。
「・・・降参ってコトは、もしかして藤本さんはあたしのモノ?」
「バカ。んな訳無いじゃない。藤本さんを共有するって事に賛成してあげる。」
れいなは何かが吹っ切れた様な、満面の笑みでさゆみに振り返った。
- 262 名前:_ 投稿日:2004/03/24(水) 00:20
-
「チェッ。なぁんだ。一瞬ぬか喜びして損した。」
「ハハハ。さゆ、アンタ吉澤教にハマってるんやったら藤本さんやめて吉澤さんに乗り換えたら?」
「ダメ。吉澤さんにはえりがいるから。」
「・・・えり? マジ?」
「知らなかったの? あの二人結構いい感じなんだ。
吉澤さんのコトも勿論好きなんだけど、あたしえりの邪魔はしたくない。」
さゆみは誇らしげに胸を張った。
「言われてみれば・・・そっかー。なるほどねぇ。
ってゆうか、さゆのその言い方やと、吉澤さんもそうなんやろうけど、えりも好きだって聞こえるよ。」
「だって、えりのコト好きだもん。」
ストレートなさゆみにれいなは苦笑いを浮かべる。
「・・・アンタねぇ、なんか節操がなかと。」
「あるよ。あたしはえりと藤本さんと吉澤さんが好きだってゆう節操。」
「・・・だから、それを節操がないって・・・・・・あっ!」
「何よ、突然大きな声出して。」
「さゆ、今、えりの名前が一番最初やった!」
「そうだっけ? だからって別にその順番通りに好きって訳でもないし。たまたまだってば。」
「・・・くそぉ、なんでこんないい加減なヤツと藤本さんを共有せんといかんと?」
れいなは遂に声を上げて笑い始めた。
「れいなはそうゆうの、無いの?」
「なか。私は藤本さん一筋やけん。そりゃ確かにえりも吉澤さんも好いとうよ。
けどえりは親友って感じやし、吉澤さんに関しては好きっちゅうか、もう尊敬やね。
当然二人とも、藤本さんに対する感情とは別モンばい。」
「・・・れいな、さっきからチョコチョコ出てたけど・・・またベタベタになってるよ?」
「ハハハ。良か良か。ウチが自然とこの言葉使いになるんは、アンタの前だけやけん。」
れいなが上を向いて豪快に笑った時、タクシーがゆっくりと病院の前に滑り込んだ。
- 263 名前:_ 投稿日:2004/03/24(水) 00:20
-
***
皆が帰った後のミーティングルームで、石川は一人悩んでいた。
椅子に浅く腰掛け、身体を前に倒し、机に突っ伏した姿勢で目を閉じて蹲っている。
時折、意味もなく重心移動をさせて椅子の後ろの脚を浮かせてみたりする。
ギリギリのところでバランスを保ち、また勢いを付け、派手な音を立てて元に戻る。
部屋の隅には壁にもたれて立っている辻が、腕組みをしたまま、そんな石川をじっと見ていた。
「どうすんだよ? 今日もう行かないなら、帰るけど?」
「・・・待って・・・もう少し・・・」
辻が苛ついているのは口調で分かる。しかし石川は目を閉じたまま静かに答えた。
本来なら今日のレコーディングが終わった後、辻と一緒に六本木のクラブに繰り出し、
予てよりの打ち合わせ通りに、例のモノを盗み出すという予定だった。
石川自身は綿密に計画を立てており、完璧なその内容に成功すると信じきっていたが
実際そのプランというのは穴だらけで、尋常な精神状態ならとても実行に移せる代物では無かった。
失敗するという事は、即ち自分の未来とモーニング娘。の終焉を意味するのだが
今の石川にそこまで冷静になって考える余裕は全く無い。
ただ、あの白い粉が欲しい。そしてそのチャンスがある。それだけが石川の頭の中を支配していた。
そんな石川をギリギリのところで悩ませているのが、先程の全体ミーティングでのつんくの言葉だった。
仕事に対する心構えを説いている時には、さほど深くは考えなかったが、
話が娘。達の私生活の内容になって、一人の些細な振る舞いが全体に迷惑をかける事にもなる、
と言われ、石川は少なからず衝撃を受けた。
特別自分が名指しで言われた訳では無いのだが、その時つんくと目が合ってしまったために
今日のこれからの計画を見透かされた様な気になっているのだった。
「・・・ねぇ、のの。」
「何?」
「さっきの、つんくさんの言葉、どう思う?」
「どうって?」
「ホラ・・・だから・・・」
「アレくらいでビビったんなら、やめとけば?」
「でも・・・そうゆう訳には・・・それだと・・・手に入らないままだよ?」
「元々この話には無理があると思ってたんだよね。二人でミキティとこ行って、土下座した方が堅いんじゃない?」
辻は帽子を被り直し、また腕組みをして静かにそう言った。
- 264 名前:_ 投稿日:2004/03/24(水) 00:21
-
「ミキティは、多分無理。ってゆうか、もう、絶対無理。欲しいなら、やるしか無い。」
下を向いて小さく首を振った石川は、言い終わって真っ直ぐ辻を見据えた。
「やる気あんの?」
辻も挑むような視線を返す。暫くの間二人は厳しい表情で見つめ合った。
「・・・よし、やろう。」
石川は目は真剣なまま、口元で微かに笑みを浮かべた。
それは全くの偶然から生まれた計画だった。
吉澤が読み終えた週刊誌を楽屋で拾った石川は、その中の麻薬の特集記事を興味を持って読んだ。
現在の東京で、手に入れる事の出来る麻薬の種類とその方法、1グラムあたりの値段等の内容で
新宿や上野、あるいは六本木などで若者を中心とした取引が行われていると書かれていた。
勿論、眉唾ものの記事だったし、仮にちゃんとした取材に基づいた文章だったとしても
その時は美貴から貰う事が出来ていたので、それは石川にとっては他人事でしかなかった。
日本では、欧米諸国のようにストリートで見ず知らずの者同士で簡単に取引されている訳では無い。
ドラッグを欲しいと思っても、最初は何かしらの犯罪組織との繋がりがなければ諦めた方がいい。
知り合いの知り合いとかでもいい。どんな小さなものでもいいから、取り合えずはコネを作る事だ。
シンナーやトルエン、あるいはハルシオン等は別にして、シャブやヘロイン、コカインといった
ハードドラッグは、平たく言えば全くの一見さんには絶対に売ってはくれない。
自分のささやかな将来と引き換えに、一旦そのネットワークの中に入ってしまったとしても
もしその組織が当局の摘発にあってしまったら、代わりの入手ルートを見つけるのは容易な事ではない。
今日はいつもの定食屋が休みだから、あっちのラーメン屋でメシを食おう、というのとは訳が違う。
今では美貴が頑なにその後の提供を拒否しているために、
コカインの味を知ってしまった石川と辻にとって、即座にそれは死活問題となってしまった。
使用量が少なかったために禁断症状が出るまでには至ってないが、それでも精神的にかなり削られている。
石川が中学の時の友達にクラブへ誘われたのはそんな時だった。
- 265 名前:_ 投稿日:2004/03/24(水) 00:22
-
モーニング娘。に入って芸能活動を始めてみると、あまりのその忙しさに
地元の友人に会って遊ぶというのは殆ど不可能な事だった。普通にタレントになった訳じゃない、
既に出来上がっていた、国民的とも呼ばれるグループに突然入ってしまったのだ。
特に石川の時の四期というのは、娘。が爆発的な人気を博した後だっただけに、
殺人的なスケジュールに追われ、プライベートな時間など一切無い状態だった。
それ故、中学の時の仲が良かった友人とも電話をする暇さえなく、次第に遠い間柄になってしまっていた。
美貴が入院した日、仕事の予定が変更になり石川は夕方の早い時間からオフになった。
なんとなくそのまま帰るのが勿体無くて、表参道でブラブラとウインドゥショッピングを楽しんでいた。
偶然入ったショップの店員がその中学時代の友人で、再会を懐かしみお互いの近況を報告しあう。
そのまま彼女の上がりを待って二人は食事に行き、そこで石川は六本木のクラブへ誘われた。
初めて体験するその雰囲気に、石川は酔いしれた。
久し振りに羽目を外してはしゃぎ、カクテルを飲んで踊り狂った。
周りにモーニング娘。の石川梨華だと気付かれようが、そんな事は関係ない。
体力の限界までフロアに居続け、友人にちょっと休憩すると言い残し、上階にある自分達の席へと戻った。
新しいカクテルをオーダーした石川は、何の気なしに辺りを見渡した。
最初は豪華なインテリアを見ていたのだが、ここの正面にあるコインロッカーに自然と目がいった。
その奥に人影があり、それは入店した時に紹介された店長と二十歳前後の若い女性だった。
人目を避けるように話をしている二人に興味が湧いた石川は、
ひょっとするとラブシーンが見れるかもしれないと思い、静かにソファーに身を沈める。
だが予想に反して、次の光景は石川の度肝を抜くものだった。
女が数枚の一万円札を店長に渡すと、その手には小さなビニール袋に入った白い粉が握らされた。
「!!」
慌てて身体をフロアの方に向け、意味もなくスカートの裾を直してみたりする。
遠くで、しかも一瞬の出来事だったけど、自分の目に石川は自信を持っていた。
間違いない、あれは私が欲しいと思ってる物だ。そう確信すると無意識のうちに口元に笑みが浮かんだ。
- 266 名前:_ 投稿日:2004/03/24(水) 00:24
-
久々の友人との再会はビッグな置き土産を残してくれた。
とは言うものの、自分でお金を払ってそれを手に入れる訳にはいかない。
それが犯罪行為である事くらい百も承知だ。しかも自分は名前の売れたアイドルである。
ここでブツを買った後、もし店長が捕まってしまえば芋づる式に発覚して
自分以下、娘。の輝かしい未来は一瞬にして終わってしまうかもしれない。
出来れば美貴から貰い続けるのがベターだが、一応の保険としてこれを何とかする方法を石川は模索した。
次の日から足しげく、石川はクラブに通い詰める。
接客には勿論店長を指名し、席はロッカー脇の同じ場所をキープし続けた。
三日も連続で顔を出すと店長とはかなり親しくなり、暇な時には石川の隣に座った彼が、
ソファーで煙草を吸いながら雑談する事も珍しくなくなっていた。
五日目には酔ったふりをした石川が、店長に撓垂れかかるという荒技も披露して見せた。
結局、一週間通って4回のブツの受け渡しを目撃した石川は、かなりの情報を掴む事が出来た。
ブツのやり取りをするのは店長だけである事。ある程度のストックが69番のロッカーの中に眠っている事。
その鍵は2つ以上あって、1つは店長がいつも肌身離さず持ち歩いている事などである。
これだけの短期間で、しかも相手に悟られないように調べるのは骨が折れたが、そんな事は言ってられない。
もしかすると自分はアイドルよりスパイの方が向いてるんじゃないかと思うくらいの仕事ぶりだったが
実際には辻まで引っ張り込んでしまっているため、絶対にミスは許されなかった。
- 267 名前:_ 投稿日:2004/03/24(水) 00:25
-
「のの、もう一回確認するよ。」
「本当にやるんだな? 知らないぞ、どうなっても。」
「どうなってもいいなんて思わないで。絶対に成功させるしかないのよ。」
「・・・分かった。」
「まず、店に入ったらいつもの場所に座る。
もしその部屋が空いてなかったら今日は適当に踊って、計画は後日に持ち越し。」
「OK。ロッカーが唯一視界に入る席だから、そこを取られてると見られるかもしれない、でしょ?」
「その通り。じゃ次ね。そこに陣取った私達の所に店長がやって来る。そしたら?」
「梨華ちゃんがヤツを誘惑してる間に、のんがヤツのグラスに薬を入れる。」
「完璧。」
親指を立て、それを辻に向けた石川は満足そうな笑顔で頷いた。
その薬というのは、以前石川が不眠症で悩んでいた時に病院に通い
処方してもらった紛れもない正真正銘の合法ドラッグである。
一日に一錠しか飲むことを許されなかった非常に強い薬、という説明を石川は受けている。
実際それを飲んだ時は、不眠症だったのが嘘のように朝まで気持ちよく眠れた。
その後不眠症は治って服用しなくなり、残っていた二錠分を擦って粉状にしたものだった。
- 268 名前:_ 投稿日:2004/03/24(水) 00:25
-
「そのあと、本当にのんがロッカーに行くの?」
辻は一瞬、怖がりな一面を見せた。強がってはいてもやはり16才の女の子である。
「ののが嫌なら私が行くよ。どっちかが店長を見張り、
もう一方がポケットからキーを出して、ロッカーのブツをパクりに行く。」
「や、やっぱり店長と二人になるのが嫌だから、のんが行く。」
「二人になるって言ったって、相手は眠ってるんだから大丈夫だよ。」
石川は優しく言った。この計画にはどうしても辻が必要であるために
ここでヘソを曲げられては元も子もない。
「・・・ちょっと考えとく。向こうに着くまでに決めるよ。」
少しバツの悪そうな表情で辻は答えた。
「じゃ、あとは・・・こんなもんかな? なにか質問ある?」
「質問自体、何を質問していいのか分かんない。」
さっきまで虚勢を張っていた辻だが、精神的に脆く一旦弱い部分を覗かせてしまうと
歯止めが利かなくなり、いつもの甘えん坊が顔を出す。
相手が気を許した人間であればある程、それは顕著に表れる。
「大丈夫、のの?」
「うん。」
「あと分かってるとは思うけど、店長が不在だとか、他の店員が入ってくるとか
少しでもイレギュラーがあった場合は全て計画中止。いいわね?」
「分かったよ。」
こっくりと辻が頷く。
「じゃ、行こうか?」
「OK。」
机をバンと叩いた反動で勢いよく立ち上がった石川は大股で辻の元に歩み寄った。
- 269 名前:_ 投稿日:2004/03/24(水) 00:26
-
***
「おぉぉ、寒いな。」
風が吹くたびに吉澤は背中を丸め、絵里にすり寄って寒さを凌いでいた。
「吉澤さんて、結構寒がりですよね。」
「何? おめぇは寒くねぇのか?」
「や、寒いですけど、我慢できない程じゃないです。」
「マギで? あっ、俺もうダメだ。呂律も回らなくなってきてる。」
「吉澤さんに風邪引かれたら困るんで・・・じゃあ・・・」
絵里は吉澤のコートのボタンを外し、真正面から手を回し入れ、ピッタリ抱きついた。
吉澤のコートの中にスッポリと入ってしまった絵里は、少し力を込めて背中を擦る。
「最初ちょっと冷たいかもしれませんが、次第に温かくなってきますよ。」
「や、もう既にさっきより全然マシだ。すっげぇいい感じ。あったけぇ。」
「良かったぁ。でも二人が出てくるところを見逃さないで下さいね。」
「うん、分かった。」
吉澤はコートのポケットに突っ込んだままの手を絵里の背中に回し、より身体が密着するよう体勢を整えた。
スタジオのあるビルのエントランスが見える場所で、二人は石川と辻が出てくるのを待っていた。
ここは隣の建物との隙間になる所で歩道からは死角になっており、尾行を始めるには都合が良くても、
周辺の地形が複雑なために、ビル風が容赦なく吹きつけるので長い時間待つのは不向きだった。
「それにしても・・・遅いですね。」
「そうだな、もう30分くらいか。」
「・・・既にゲームオーバーになってる、って事は無いですよね?」
「それはない。ただ、雨天順延になった可能性はあるな。」
「雨天順延?」
「そう。さっきのつんくさんの説教で、あのバカ二人も少し反省したのかも。」
「行くかどうか、今迷ってる?」
「多分な。もしかすると日を改めて、かもしれない。」
「なるほど。」
待ってる間、絵里は吉澤の肩に頭をもたせかけ、白い首筋を見つめていた。
以前さゆみが言ってた、藤本さんの顔を見てたら無意識のうちにキスをしていた、
という話を思い出し、さゆのその気持ち良く分かるよ、と呟いた。
- 270 名前:_ 投稿日:2004/03/24(水) 00:27
-
「へ? 何か言った?」
「は? いえ、吉澤さんにくっついてたら段々と暖かくなってきました。」
「俺もあったかい。この間なんか、一人で田中を待ってる時、すんげぇさむ・・・」
吉澤の言葉が途切れたので、絵里はその瞬間、後ろを振り返った。
「来た。」
「来ましたね。」
「おーっ、二人とも気合いの入った顔してる。あれは間違いなく行くぞ。」
「待った甲斐があったじゃないですか。」
辻はハンチング型の帽子を斜めにして被り、いつものイメージからはかなり遠い雰囲気になっている。
普通に髪を下ろしただけで元々の美人顔が一層際立ち、実年齢よりもかなり上に見える。
石川は稲葉が言ってた通り、ロングの殆ど金髪に近いウィッグをつけている。
メガネは細めの黒いセルフレームで、何かチグハグな印象だった。
「ののってこうやって見ると結構イケてるな。
・・・それにしても・・・あのバカのセンス・・・ククク・・・あぁ、大声で笑いたい。」
「ダメですよ、聞こえるじゃないですか。」
「分かってるよ。俺等も行くぞ。」
「ハイ。」
今まで抱きついていた絵里が身体を離した途端、急に強い風が吹き抜けた。
ぬおっ、さむっ、と言った吉澤は慌ててコートのボタンを留めた。
石川と辻は、先程さゆみとれいなが使ったタクシー乗り場まで歩き、車に乗り込んだ。
その後を慎重に付けていた吉澤と絵里は二人に気付かれないよう、絶妙のタイミングで次の車に乗る。
「前の車の後付けて下さい。六本木方面なんですけど。」
吉澤は二人がクラブに行くものと断定して、運転手に行き先を告げる。
こういう場合ただ付けろ、と言えば不審がられる事もある、というのをよく心得ていた。
「お友達ですかな?」
モーニング娘。など、多分知らない世代であろう初老の運転手は
ルームミラー越しにニッコリ笑い、車をスタートさせた。
- 271 名前:_ 投稿日:2004/03/24(水) 00:27
-
「なんか凄いドキドキしてきました。」
絵里は不安げな表情で吉澤に語りかける。
「まぁな。けど安心しろ。ドキドキしてるのはお前だけじゃねぇ。
俺だって死にそうになるくらい緊張してるんだ。」
「・・・吉澤さんでも、そんな事があるんですか?」
「でも、とはなんだ。俺みたいな華奢でか弱い女の子に向かって。」
その言葉に絵里は太股を叩きながら大爆笑する。
「華奢でか弱い女の子は、俺とは言いません。」
つられて吉澤も大声で笑う。自然と絵里の緊張も和らいだ。
「それにしても、今日動いてくれて良かったですね。」
「何でよ?」
「さっきも吉澤さん言ってましたけど、
つんくさんの説教を雨に例えるなら、もう少しで試合が流れるところだったんですよ。
もしそうなったら再試合がいつ組まれるか、分からなかったじゃないですか。」
「なるほど。明日の休みにこっそり動かれると、後付けようが無かったのか。」
「その通りです。」
「うわ、そこまで全然考えてなかった。」
「とにもかくにも、9回裏のツーアウトから試合再開です。逆転のホームラン打てますか?」
「打つ。どんな事があっても必ず打たなくちゃ、俺達は終わりだからな。」
「メチャメチャ気合い入ってますね。デッドボールになって乱闘しないで下さいよ。」
絵里の言い回しに今度は吉澤が爆笑した。
「お客さん、前の車、止まりましたよ。」
運転手の声に、笑っていた二人は急に真顔になり前方を見つめる。
丁度、辻が車から降りたところで、料金を払ってるらしい石川が少し遅れて出て来た。
「どうもありがとう。」
吉澤はタクシー代を運転手に渡すと、二人が歩き出したのを確認してから絵里と共に車を降りた。
20メートル程歩いた石川と辻の二人は『DD』という看板の出ている建物の中へ入っていく。
それは、見た感じ何の変哲もない普通のビルだった。
もっと派手なネオンがチカチカしている外観をイメージしてた吉澤は少し拍子抜けしたが
一度大きく息を吸い込むとドアに手をかけ、絵里に向かって、行くぞ、と言った。
- 272 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/03/24(水) 00:36
- 今日はここまでです。
きのう何年か振りにゴルフに行って、悲惨な状態です。
寝違えて首は回らんし、死ぬ程全身筋肉痛でキーボードを叩くのも辛い・・・
- 273 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/03/24(水) 00:37
- >>253
レスありがとうございます。
そうなんですよ。後先考えずに一回するよりも意志の疎通というのを
重視してみました。自分でも常にこうありたいと思ってますw
えりりんの大人な服装と可愛い仕草は、自分が一番見たいです。
いつもどうも。大変励みになります。
>>254
レスありがとうございます。
念のために言っときますけど、自分は石川も辻も大好きです。
特に髪を下ろしたののだったら、ご飯3杯は軽くいけます。
これからまだまだ色んな展開を用意してますので、またよろしくお願いします。
>>255
レスありがとうございます。
えりりんの成長はまだまだ途中の段階です。これからも末長くお付き合い下さい。
えりりん主人公説、大いに結構です。決して間違っていません。
これからもよろしくお願いします。
- 274 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/03/24(水) 00:39
- >>256
レスありがとうございます。
別に会話文を嫌がってる訳ではないのですが、ただ、読みにくいかなと。
自分はマカーなんですけど、この間かちゅで見る機会があって、うわっ読みづれぇ、と思ったんですよ。
自分が等幅フォントの表示に慣れきってるだけなんですかね。
そう言ってもらえると非常に嬉しいです。これから会話文もどんどん多用します。
>>257
レスありがとうございます。
そんな事言わずに。確かに更新は遅いですがちょくちょく見てやって下さい。
でもその気持ちも分からないでもないのですが。
複雑ですね。でもインドの山奥に篭もったら、どうやって完結した事を知るんでしょう・・・
- 275 名前:捨てペンギン 投稿日:2004/03/24(水) 03:04
- これほど吉澤さんに期待した事も、つんくが素晴らしいと思った事は今までありません
がんばれよっすぃー!!
- 276 名前:名無し 投稿日:2004/03/24(水) 18:56
- まったく凄いことを考え付くもんだな…
- 277 名前:名無し君 投稿日:2004/03/25(木) 00:47
- 豪華版キタ━━━━━━ヽ(≧∇≦)ノ━━━━━━!!!!!
更新Z。今回すごいね。さゆれなから始まってりかのの、そして吉亀。
そこに美貴様がいないのがチョト悲しいけど次週は期待していいのかな。
- 278 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/25(木) 02:07
- 更新乙です。
色々なメンバーが登場してきて、しかも上手く絡み合っている。
凄いですね。見習いたいです(小説書いてるわけじゃないけど)
個人的に柴田も好きなのでクラブの店員役ででも出してくれたら嬉しいです(笑)
なんて無茶な注文してしまいました。すみません。
応援してますんでこれからも頑張ってください。
- 279 名前:プリン 投稿日:2004/03/28(日) 15:01
- 更新お疲れ様です!
はじめまして。ROMっていたのですが、レスしちゃいますw
すごく面白い!
えりよしいいなぁ〜wなぁ〜w
特に甘くもなく・・・切なくもなく・・・いい感じですw(何
次回の更新待ってます!
頑張ってくださいね。
楽しみだなぁ〜♪
- 280 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/30(火) 21:47
- 続き、気になる〜。
メチャクチャいいとこで終わってますね。
次回更新楽しみに待ってます。
- 281 名前:_ 投稿日:2004/04/12(月) 23:57
-
***
ドアを開けた二人は思わず顔を見合わせた。
ベッドに横になっているものだとばかり思っていた美貴が、こちらに背を向けて、
ゴルフのスイングの真似事をしていたからだ。カーテンを全開にし、窓ガラスを鏡代わりにして
トップの位置やらインパクトの瞬間、それにフォロースルーなどを細かくチェックしている。
その動き自体、非常にゆっくりとしたものだったが、身体を捻じる運動をしている事が驚きだった。
「藤本さん、大丈夫なんですか?」
さゆみとれいながユニゾンで美貴に声を掛ける。
「お待たせしました。ミキティ、遂に復活。」
ゆっくり振り返った美貴は、ニヤリと笑いながら答えた。
その言葉にれいなが先に走って美貴に飛びついた。一瞬遅れてさゆみがその後ろから抱きつく。
「コラコラ、復活と言っても・・・ちょっとは手加減してよね、アンタ達。」
そう言いながらも美貴は顔をクシャクシャにして喜び、二人を抱き留める。
部屋のドアをノックしたときに、この間とは比べ物にならない美貴の元気な声が返ってきて
れいなは内心ホッとしていたのだが、これ程復調しているとは思っていなかった。
もし美貴が前回と変わらない状況であれば、さゆみを連れて来たのを後悔する事になるかもしれない、と
タクシーの中で気付いたので、れいなにとって二重の嬉しさがあった。
「良かったです。」
目を少し潤ませながら、れいなは美貴に抱きついたまま囁く。
「おう。明日の退院決まったし。」
「マジですか? おめでとうございます。」
「すごぉい。予定より早いんじゃないですか?」
「まぁ、こんなもんじゃないかな。美貴的にはもう少し早く退院出来ると思ってたんだけど。
ってゆうか、とりあえず座ろ。ね?」
右側にれいな、左側にさゆみが抱きついたままの状態になっていたので
美貴は二人をソファーに座らせ、自分はベッドに腰掛けた。
- 282 名前:_ 投稿日:2004/04/12(月) 23:58
-
「もう痛みはないんですか?」
さっき病院内の自販機で買ったジュースを美貴に差し出しながら、さゆみが尋ねる。
「うん、ほとんど痛くないね。ヒビが入ったりだとか、変な折れ方してると長引くらしいんだけど
美貴の場合はスパッとキレイに折れてたから、そっちの方が治るのが早いんだって。」
勝ち名乗りをうける力士の様に、手刀を切って美貴はソフトパックのオレンジジュースを受け取った。
「じゃ、娘。に復帰出来るのはいつ頃ですか?」
代わって今度はれいなが聞く。
「そんなに掛からないんじゃないかな。当初、一カ月くらいってお医者さんが言ってたんだけど
明日からリハビリ始めて、そこそこ腹筋が鍛えられたら美貴はもう全然OK。声も問題なく出せるし。」
「さっすが藤本さん。ダンスも出来るんですか?」
「へへ、さっきの見てたでしょ? 今の段階で、ある程度伸ばしたり捻じったり出来るから多分大丈夫。」
「やるぅ。凄いですよね。驚異の回復力。」
れいなの言葉に笑顔で頷きながら、美貴は貰ったジュースにストローを突き立て、一口ゴクリと飲んだ。
「で、どうしたの? 二人揃って。」
「や、普通にお見舞いですよ。藤本さんに会いたくて。」
「そうなんだ? マネージャーさんに退院の事聞いてきたのなら、随分早いなと思ったんだけど。」
「退院って、ついさっき決まったんですか?」
「んな訳無いじゃない。朝にはもう言われてたんだけど、昼寝しちゃっててさ、
色々やってるうちに言うの忘れてて、一時間くらい前にやっと退院報告の電話をしたの。」
ペロッと舌を出し、いたずらっ子の様に美貴は笑った。
「ハハハ、有り得ないですよ。そんな事言ってると、復帰したら地獄のレコーディングが待ってますよ〜。」
「地獄? なんでよ? 美貴も新曲のMD貰って、ずっと聞きながら歌ってたから結構自信あるよ?」
小首をかしげた美貴は、さゆみに向き直る。
「それが今回は皆、凄い苦労したんですよ。特に矢口さん、石川さん、辻さん、それにれいなも。」
「アンタかって時間掛かってたやん?」
得意げに話すさゆみに、思わずれいなが突っ込んだ。
- 283 名前:_ 投稿日:2004/04/12(月) 23:58
-
「あたしは今回に限らず、ずっとそうだからいいの。」
「コラコラ、それって自慢する事じゃないでしょ?」
今度は本家が笑いながら、何も知らないさゆみに突っ込む。
そのあと一瞬れいなを見た美貴は、少しだけ眉を吊り上げ視線をそらした。
さゆみの言った、矢口を除く他の三人の調子が悪かったのは、自分にも重大な責任がある。
それを充分に理解していたため、まともにれいなの顔を直視することが出来なかった。
ようやくコカインの禁断症状も抜けかけたと、浮かれていた自分を戒めた美貴は
心の中でれいなと、そしてここにはいない石川と辻に向かって深く詫びた。
「どうかしましたか?」
美貴の胸中を察したれいなは、努めて明るい表情で尋ねる。
「や、なんでもない。入院生活も今夜限りと思うと、なんか切ないな、って。」
「あ、ちょっと精神的に、なまってるんじゃないですか?」
「昼も夜もずっと寝てたからね。でもその生活も今日で終わり。気持ち入れ替えなきゃ。」
笑顔の戻った美貴は、力を込め、しっかりとした口調で言った。
「でも藤本さん、一週間のいい休養になったんじゃないですか?」
さゆみが羨ましそうな表情で語りかける。
「そうだね。また明日からは死にそうに忙しい日々が始まる。お祭りのような毎日が。
その場所に戻れるんだ・・・この入院してた充電期間を美貴は一生忘れないよ。」
ほんの少し遠い目をした美貴は、入院期間どころではない、この半年間の出来事を思い浮かべていた。
間違えて持ってきたバッグの事を石川に相談した夜。その後二人で見たアメリカ映画。
初めてのスニッフィング。コカインのアッパー作用による体験した事のない強烈な覚醒と高揚感。
世界の全てが自分の手に落ちたという錯覚。不安定な精神状態。倦怠感と凄まじい後悔の念。
そして吉澤との一戦。骨折なんかより遥かに苦しんだ禁断症状という名の地獄。
色々な事を考えながら、しかし半年前よりも美貴は確実に一歩前進できた、と思っている。
そう思える事こそが、コカインという白い悪魔との完全なる決別だった。
- 284 名前:_ 投稿日:2004/04/12(月) 23:59
-
「藤本さん、大丈夫ですか?」
れいなが美貴の目の前で掌をヒラヒラと振る。
「あ? あぁ。大丈夫。ゴメン、ちょっと考え事してた。」
美貴は笑顔で答える。
「もう、心配させないで下さいよ。じゃ私ちょっとトイレ行ってきます。」
立ち上がったれいなは、わざとさゆみにぶつかってから部屋を出ていった。
「・・・れいな・・・凄いオトナになった・・・」
美貴と二人きりになった部屋で、さゆみがポツリと呟く。
「なんでよ? トイレが近いのがオトナなの? アンタにぶつかる事がオトナなの?」
突然脈略のない事を言い出したさゆみに、その意味が分からない美貴はコロコロと笑った。
「もう、違いますよ。実はあたし、今日あまり時間無いんです。もうすぐママが迎えに来るんです。
それを知ってるれいなは、あたしに藤本さんと二人きりになれるようにしてくれたんですよ。
自分はあたしが帰った後、藤本さんと二人になる時間がある。それを思って気を使ってくれたんです。」
「・・・へぇ〜。」
感心したように、美貴は普段より1オクターブ高い声で唸った。
「なんか凄いね、アンタ達って。やる方もやる方だし、それに瞬時に気付くっていうのもまた凄い。」
「同盟組んだんです。あたしとれいなで。それより折角のれいなの好意を無駄には出来ないっと。」
ソファーを立ち上がったさゆみは美貴の隣に座り、手からジュースを取り上げサイドテーブルに置いた。
「何? 同盟って何よ?」
真面目な顔で聞こうとした美貴のくちびるは、一瞬にして塞がれた。
さゆみは美貴にキスをしながら、ゆっくりとそのままベッドに押し倒す。
足もベッドに持ち上げ、完全に美貴の身体を寝かせたさゆみは、そこで一旦くちびるを離した。
「この一週間、凄く会いたかったです。そして・・・キスしたかったです。」
さゆみは左の肘をベッドに付いた状態で美貴に覆い被さり、右手は美貴の胸の上に乗せ、潤んだ瞳で囁く。
「それはいいんだけど・・・同盟って何?」
「藤本さんは気にしないで下さい。迷惑は掛けませんから。」
さゆみはまたゆっくり顔を近づけると、舌を出し、美貴のくちびるをなぞる様に舐めた。
- 285 名前:_ 投稿日:2004/04/12(月) 23:59
-
「・・・オレンジの味がする。」
「そりゃそうだよ。ついさっきまでアンタから貰ったジュース飲んでたじゃん。」
「・・・藤本さんの突っ込みって、なんかムードないですね。」
「ムードのあるツッコミって、どんなツッコミだよ。」
美貴は堪え切れずに、声に出して笑った。
「ホラまた。こういう場面の雰囲気ってもんがあるでしょ?」
「あぁ、ゴメン。もうツッコミません。」
その言葉に頷いたさゆみは、またくちびるを重ね合わせた。
「お願いがあるんです。」
「何?」
「お願いっていうより、あたしの希望なんですよね。」
「ってゆうか、キスするか喋るか、どっちかにしてくんない? なんか変な感じなんだけど。」
「あたし、コレ、好きなんです。」
「まぁいいや。で、何?」
「胸さわってもいいですか?」
「さわってんじゃん! さっきから、ずっと。」
吹き出しそうになるのを寸前のところで堪えた美貴は、くちびるを離して言った。
突っ込むなと言っておきながら、そう仕向けているのはオマエの方だろ、と美貴は心の中でもう一度突っ込む。
「じゃなくて、ジカに。」
自分で言っておきながら、そんな事はもうどうでもいいといった感じで、
さゆみは返事を待たずに美貴のトレーナーをたくし上げようとする。
「ちょ、ちょっと待って。」
美貴はアディダスのトレーナー1枚で、その下に何も着けていなかったので、咄嗟にさゆみの手を握った。
「・・・あたしとじゃ、ヤですか?」
上気した顔でさゆみが聞く。その目は真剣そのものだった。
「違うの。いくら気を使ってるからと言っても、田中ちゃんはトイレに行ってるだけでしょ?
そろそろ帰ってくるんじゃないの?」
「・・・そう言えばそうだ・・・」
小さな声で呟いたさゆみは、脱がす事を諦め、トレーナーの中にそっと手を忍ばせた。
- 286 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:00
-
濃厚なキスをしながらも、美貴の口からは喘ぎ声が微かに漏れる。
さゆみの右手は胸を愛撫し続け、左手は美貴の両手を頭の上で掴み、抵抗する事を許さない。
病院の狭いベッドの上で、しかも相手は5つ年下の可愛い女の子に攻められる、という特殊な状況の中
美貴は次第に女として感じ始めていた。時折美貴の身体がビクッと小刻みに震え、呼吸は荒くなる。
「気持ちいい?」
さゆみは手の動きを止めることなく、美貴に挑むように問い掛ける。
「・・・うん・・・でも・・・生理前だから・・・強くされると・・・ちょっと痛いかも・・・」
「痛い?」
「・・・や・・・でも・・・気持ちいいよ・・・」
「じゃ、優しくしてあげる。」
「・・・うん・・・」
「・・・藤本さん。」
「・・・何?」
「二人きりの時は・・・ミキって呼んでもいい?」
「・・・いいよ・・・」
「じゃあたしの事、さゆみって呼んで。」
「・・・分かった・・・」
美貴は目を閉じたまま、少し顎を引いた。
「好きよ・・・ミキ・・・」
さゆみの手は美貴の胸を離れ、脇腹を静かになぞりながら段々と下に降りてくる。
へその辺りで一頻り指がなめらかに踊ったかと思うと、おもむろに美貴のジャージの中に手を入れた。
美貴は少し身体を捩っただけで、それ以上の抵抗をしなかった。
さっきまでは、まだ頭の片隅で冷静な部分も残していた美貴だが、僅かながら理性が解けていく。
足の力を抜き、膝を少し緩める。さゆみはそれを敏感に感じ取り、一気に美貴の下着の中に指を伸ばした。
『くちづけてーそっとくちづけてーだきしめてーギュッとだきしめてー』
その瞬間、突然美貴の曲が流れ始める。舌打ちをしたさゆみの動きが止まった。
- 287 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:00
-
「何? 何コレ?」
正気に戻った美貴は目を白黒させながら、身体を起こしかける。
「・・・ママだ・・・」
さゆみは一回チュッと美貴にキスをすると、ベッドを降りていき自分のカバンを手に取った。
携帯を取り出すと、驚くような山口弁丸出しで母と喋り始める。
分かった、と最後に言ったさゆみは携帯を折り畳み、もう一度美貴の側にやって来た。
「ママが下に着いたから、もう行かなきゃダメなんです。」
「ってゆうか、着信、それかよ。」
美貴は笑いながら、泣きそうになってるさゆみの頭を撫でながら言った。
「ハイ、あたしこの曲好きなんです。」
何故か恥ずかしそうに身体をくねらせながら、さゆみは照れ笑いを一瞬浮かべる。
「それより、折角いいところだったのに・・・」
「ホントだよ。美貴のこの火照ったカラダ、どうしてくれんのよ?」
「じゃ、ママ待たしときますから、藤本さんの満足するところまで・・・」
「バカ。」
ブッと吹き出した美貴は、人差し指でさゆみのおでこを軽く突いた。
「ってか、二人の時はミキって呼ぶんじゃなかったのかよ? もう藤本さんになってんじゃん。」
「あっ、ホントだ。」
声に出して笑った美貴は、今度は自分からさゆみにキスをした。
「明日の予定は?」
「・・・お仕事がオフなんで、特にないですけど・・・?」
「じゃウチに来る?」
「いいんですか?」
さゆみの顔がパッと明るくなる。
この流れで次の日にさゆみを家に呼ぶ事が、どういう意味を持つのか理解して美貴は誘った。
「いいよ。おいで。」
「やったぁ! ありがとうございます。」
「昼過ぎにでも電話するよ。あまりお母さん待たせると悪いから、今日はもう行きな。」
「ハイ!」
元気にさゆみはカバンを肩にかけ、ドアに向かって歩く。
「・・・ミキの鼻にかかったような甘い声、可愛かったぜぃ。」
振り返ったさゆみはそう言って照れたように笑い、最後に投げキッスをして部屋を出ていった。
- 288 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:01
-
***
店の中は非現実的な異様な光景が広がっていた。
目の前に得体のしれないグロテスクなオブジェが飾られ、その奥には滝が流れている。
全体的に暗い間接照明の中で、時折ストロボ光が発火して、視神経の柔らかな錯覚を演出する。
壁側には奇抜なデザインのチェアーが一列に備え付けられていたが、座っている人間は一人もいなかった。
「すっげー。何じゃこりゃ。」
「なんか怖い雰囲気ですよね。」
吉澤と絵里は感心したように、中央に置かれたオブジェに見入る。
コネクティングドアの前にいた店員が、笑顔を浮かべながら二人に近づいてきた。
「いらっしゃいませ。えっと、石川様と辻様がお見えですが、御一緒でよろしいですか?」
当然吉澤と絵里の顔を知ってる店員は、ごく普通の質問をする。
「あぁ、あいつら来てんの? 普段はウチらそんなに仲良しって訳じゃないんだよね。
空いてるんだったら、別の部屋をお願いしたいんだけど。」
とぼけた顔で吉澤はシラを切った。
「承知しました。どうぞこちらへ。」
「なかなか女優じゃないですか。」
絵里が吉澤の脇をつつきながら、耳元で囁く。
吉澤はVサインを見せて、へへっ、と短く笑い、二人は店員の後に続いた。
店員がコネクティングドアを開けると、大音量のユーロビートが鳴り響く。
ニュアンス的に最先端のクラブというよりは、一昔前のディスコ、と呼んだほうが近いのかもしれない。
入ってすぐにフロントが見える。一般人ならここで入場料を払い、ドリンクチケットを買ったりするが
有名芸能人である吉澤と絵里はVIP扱いのため、フリーパスだった。
下のフロアーへ降りる幅広の階段の先を真っ直ぐ進むと、外観からは想像出来ない程の巨大な空間が広がる。
一階部分だけしか見えなかった時はそんなに広さを感じなかったが、
地下フロアからの吹き抜けを目の当たりにすると、それは壮観だった。
- 289 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:01
-
「この階の個室は全てVIPルームになっております。勿論一般のお客様は入れません。
今見ていただいて、カーテンの開いている部屋ならどこでもお取りできますが。」
振り返った店員が愛想笑いを浮かべながら説明する。
「石川と辻はどこ入ったんですか? さっきはああ言ったけど、後で気が向いたら顔出してみようかな。」
吉澤は目を凝らしながら、それぞれの部屋を注意深く見ていく。
「お二人の部屋はここから左手の一つ目です。そこのコインロッカーのすぐ隣なんですが。」
「なるほど。じゃ、ウチらはこっちがいいな。」
その部屋の二人のシルエットを確認した吉澤は、逆側の部屋を指差した。
吉澤は稲葉からVIPルームの説明を受けて、カラオケボックスのような形のものを想像していたのだが、
実際にはドアも何もなく、廊下とは薄いカーテンで仕切られただけである。
部屋の中と外ではライティングに差をつけていて、中を覗かれない仕組みになっている。
ただ、中で何をやっているかは分からなくとも、人影ぐらいは認識できる範囲の照明差だった。
部屋に入った吉澤と絵里は、暫し石川達の事を忘れ、興味津々といった感じで辺りを見渡す。
「へぇー、すげぇな。こうゆうのをアールデコ調って言うのか?」
まさに見事な、美術品と言っても過言ではないインテリアに吉澤が驚く。
「高いんでしょうね、コレって。VIPルームの装飾だけでいくら掛かってるんですかね?」
口元に人差し指をあてた絵里が目を丸くして、美しい彫刻が施されたサイドボードを覗き込む。
「そうだな、1部屋に1千万ってトコか。部屋は20あるから、全部で2億。」
「マジですか?」
「店でドラッグを流してるんだから、それくらいは何でもない。
当然裏帳簿になるだろうけど、金額的には1年や2年で楽に償却するんだよ。
逆を言えば、それだけ金を掛けてるから、店長がパクられたとしても、
次々にトカゲの尻尾切りをしていって、店は潰させない、って感じかな。」
「・・・すごぉい、吉澤さんって。」
「そう? なんか照れるな。とりあえず座ろうぜ。」
「ハイ。」
ドカッと音を立て吉澤がソファーに腰を下ろす。その隣にピッタリ寄り添って絵里が座った。
- 290 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:03
-
「ようこそいらっしゃいませ。店長の戸田と申します。」
カーテンを開けた男は、笑顔を浮かべ、大袈裟に両手を広げたポーズでそう名乗った。
稲葉の言ってた通り、やたらとタテに長い体型で、着ているタキシードが脇の辺りでだぶついている。
キレイな栗色の髪はワックスで丁寧に後ろに撫で付けていて、立派な口髭がかなり目立つ。
のっぺりとした、そこそこ整った顔をしているが、完全に目がイっている。
吉澤は一発でこの男がジャンキーである事を見抜き、自分の推理が正しかった事を再確認した。
「えっと、梨華さんの紹介という事でよろしいんですか?」
「や、さっきもドア番のお兄さんに言ったんだけど、一応奴等とは別。ここに来たのはたまたま。」
「これは失礼いたしました。モーニング娘。の方が続けてお見えになるんで、つい。」
戸田はいちいち身振り手振りが大きく、全く板に付いていないその行為が吉澤を苛立たせる。
付け加えて、さっきのボーイが石川を様付けで呼んだのに対し、
この男は妙に馴れ馴れしい言い方をしたので、それが余計に癪に障った。
「ウチらが来てる事を、あいつらに黙っといて欲しいんだけどね。」
「承知いたしました。いやぁ、それにしてもまたモーニングの方と知り合いになれて光栄です。」
戸田は完全に自分のペースで喋り、向かいのソファーに座ろうとする。
「戸田君。」
「は?」
「誰が座っていいって言ったんだよ? 知り合いだ? ふざけてんじゃねぇぞ、お前。」
ゴンタ目をした吉澤が凄む。
「はぁ・・・すいません・・・」
中腰の体勢で固まっていた戸田は、一つ咳払いをし、真っ直ぐに立った。
- 291 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:03
-
「おめぇが石川と辻にどんな接客してるのか知らんが、俺はあいつらとは違うんだよ!」
「・・・はい。」
「俺達、のどが乾いてんだ。この店は飲み物のオーダーも聞かないのか?」
「は、はい。では早速、どうぞ。」
「コロナ!」
「・・・大変申し訳ないのですが、当店ではコロナ、おいてないんですけど・・・」
「コロナが無い!? てめぇ、このテーブルひっくり返すぞ!」
「吉澤さん。」
それまで黙って見ていた絵里が、さすがに青い顔をして、吉澤の袖を引っ張った。
「チッ、しょうがねぇな。ハイネケン。」
「あたしはコーラ下さい。」
「ハイネケンとコーラ。分かりました。お待ち下さい。」
肩を落として部屋を出ていく戸田の後ろ姿に、吉澤は中指を突き立てた。
「吉澤さん、気持ちは分かりますけど、もうちょっと抑えて下さい。」
心配そうな顔をした絵里が、吉澤の手を握る。
「バカ、おめぇはなんも分かっちゃいねぇな。」
コロコロと笑った吉澤は、その絵里の手をもう片方の手でペシペシ叩く。
「と言うと?」
「お前が軽薄な男だったとして、古女房と若くて新しい女、どっちがいい?」
- 292 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:04
-
「・・・なるほど、石川さん達が古女房で、私達が新しい女・・・」
「正解。頭のいいヤツと喋るのは楽しいねぇ。あいつらがどうゆう風に動くのか分からんが
あのオッサンがここに張り付いたとしたら、計画を実行しないかもしれないだろ?
梨華ちゃん達には動いてもらわないと。で、言い逃れの出来ない寸前の所で俺達が阻止する。」
「つまり、吉澤さんはわざと怒ったふりをして、店長を石川さん達の方に行かせたんですよね。
凄い演技力だなぁ。あたしも見習わなきゃ。」
「や、でも半分以上はマジでムカついてた。」
あっさりと吉澤がぶっちゃけたので、絵里は思わず爆笑した。
「でしょ? 自分の好きなビールが無いからテーブルひっくり返すなんて、ヤクザじゃないんですから。」
その言葉に吉澤も手を叩きながら笑う。二人で一頻り笑った後、別のボーイが飲み物を持ってきた。
「お待たせしました。ハイネケンとコーラです。おつまみなどは如何でしょう?」
「いらない。」
にべもない吉澤の態度にも負けず、グラスを置いたボーイは笑顔を崩さない。
「えっと、じゃあ、VIPルームの説明は聞いてますか?」
「VIPルームの説明?」
「はい。御用の時はテーブル下のボタンを押していただくと、店員が参ります。
あと、女性お二人なので必要ないかもしれませんが、もし店員に入ってこられたくない時は
表のカーテンに付いてるリボンをバツ印の形にして下さい。ボタンで簡単に留められます。」
「へぇ。そうやって、中でエッチをするって事?」
「そうハッキリと言われますと・・・まぁ、間違ってはいませんが。」
「じゃあ、バツにしたままで、ボタンを押すとどうなるの?」
「その場合、バツ印が優先されます。つまりよっぽどの事がない限り店員は入ってきません。」
「そうなんだ。じゃお兄さん、出ていくときにバツにして行って。」
意味あり気に笑った吉澤は、若いボーイを挑発するかのように絵里を抱き締めた。
- 293 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:05
-
「梨華ちゃん、なんか怖くなってきた。」
「じゃ、帰る? もうアレ、いらないのね?」
「なんで怒ってんだよ。そうゆう言い方、嫌い。」
「・・・ゴメン。少し気が立ってるの。本当は私も怖いのよ。」
「うん、のんもゴメン。・・・ねぇ、コレってホントに成功するの?」
「ののはアレ、欲しい?」
「欲しいんだけど・・・もうよく分からなくなってきた。」
「ダメ。そんな中途半端な気持ちじゃ。絶対に欲しいって思ったら必ず成功するから。分かった?」
「・・・うん。」
いつもの部屋を陣取った石川と辻だが、二人の精神状態は揺れに揺れていた。
計画の指揮をとる石川でさえも、危険だという思いと、コカインをスニッフィングした時の
恍惚感が交互に甦り、頭の中はもうパンク寸前になっていた。
異様なまでに目は充血し、いくら水分を補給しても、のどの渇きが癒される事は無かった。
「あっ、来る。店長がこっちに来るよ。」
震えた声で石川は言った。振り返った辻も廊下を歩く戸田の姿を認める。
「のの、やるよ。薬の準備はいい?」
「うん。」
辻は深呼吸をして自らの頬を両手で張った。一度気合いを入れさえすれば、
こういう状況の中では、実は石川よりも遥かに辻の方が度胸が据わる。
「こんばんは。お邪魔していいかな?」
カーテンを開けた戸田はワインのボトルを掲げて見せた。
「どっ、どうぞ、こんな所で良ければ。」
ぎこちない笑みを浮かべた石川が変な対応の仕方をする。片目を瞑った辻が小さく首を振った。
「ハハハ、梨華さん、面白いねぇ。コレ差し入れ。僕の奢りです。」
気にせず戸田はボトルをテーブルに置き、石川の隣に座った。
新しい獲物にフラれた格好の戸田も、今は石川を口説く事に必死になっていて、余裕は全く感じられない。
二人の様子がおかしい事など、小指の先ほども気付いていなかった。
- 294 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:06
-
「なんですか、今のは?」
頬を赤く染めて照れ笑いをした絵里が、吉澤を叩く真似をする。
「や、だってあの店員、早く追い返したかったからさ。」
「それは分かってましたけど・・・あの人、どう思ったんでしょうね?」
「どう思われようが構わないよ。あんな奴、もう二度と会わないんだし。」
「それは、まぁそうですけど・・・あっ、吉澤さん!」
会話の途中でふと前方を見た絵里が、突然大きな声を出して、吉澤を揺すった。
「何だよ、ビックリするじゃないか。」
吉澤は顔を上げ、一度絵里を見てから、その視線の方向を追った。
「石川さん達の部屋、人影が三人になってませんか?」
「ホントだ。でもよく見えねぇな。望遠鏡とか持ってない?」
「・・・持ってるわけないでしょ、そんなもん。ねぇ、マジでどうするんですか?」
思わず身を乗り出す絵里に対し、腕を組んだ吉澤は静かにソファーにもたれ掛かった。
「おそらくは、まだ大丈夫だ。」
「やけに落ち着いてますね。何か秘策でもあるって事ですか?」
「全然。ただ、ようやく第一段階って感じがするんだよ。」
「第一段階?」
「うん。じゃ、俺の考えを言おうか。」
吉澤はハイネケンの缶を手に取ると、グラスに注がず一気に呷った。
「あのバカは、何かのきっかけで、ここでドラッグが取引きされている事を知った。
藤本からブツを貰えなくなった奴は、戸田に近づいて、少しでも情報を仕入れる努力をしたんだ。
アイツがその気になれば、相手が普通の男なら楽勝だろ。しかもターゲットはジャンキーなんだし。」
「あの店長がジャンキー? 何で分かったんですか?」
「ヒゲだよ。コカインの常習者はまず、鼻の粘膜をヤられる。藤本だってよく鼻血を出してただろ?
あれがもう少し悪化すれば、常に膿のような鼻汁が、鼻孔に溜まった状態になるんだよ。
それを隠すために、男なら99パーセント髭を伸ばす。ま、あとは顔を見りゃ大体分かるけど。」
「へぇ〜っ。昼間のヒントの意味が、今やっと分かりました。」
ナゼソンナニクワシイノ? その言葉をグッと飲み込んだ絵里は無理に笑顔を作ってみせた。
- 295 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:06
-
「で、情報を手に入れたヤツは、必ず何かしらアクションを起こす筈だ。
もしかするとそれはまだ不十分で、今も情報を集めてる途中かもしれんが、その可能性は低い。」
「と言うのは?」
「さっきスタジオを出て来た時の奴の顔を見てさ、あっ、こりゃ今日やるな、って。」
残りのビールを飲み干した吉澤は、パキパキと音を立て缶を握り潰す。
「具体的にどうするんでしょう?」
「そこだよ問題は。俺もずっと考えてるんだけど、どうやってブツを手に入れるかなんだよな。
奴もそこまでバカじゃないし、普通に貰ったりってゆうのは絶対ない。
ただ、ヒントがあの部屋にあるのは確かなんだよ。」
「あの部屋?」
「うん。稲葉のあっちゃんが見た時は、奴は二日とも同じ部屋で篭もってたらしいんだ。
おそらく、今いる部屋だ。あの裏に事務所があるとか、そうゆう事なんじゃないかな。」
「なるほどね。あの中を見てみないと分からない、か。・・・吉澤さん、強行突破しませんか?」
「今はダメだ。とぼけられて終わりだろう。一回痛い目にあわさないと、ほとぼりが冷めたら必ずまた行く。」
「そっかぁ、難しいですね。ギリギリのところっていうのが。」
「とにかく奴等が動いたら俺達も行くぞ。目を離すなよ。」
「ハイ。」
絵里はグラスを持ち上げ、コーラを一口を飲んだ。
表に流れる音楽が、ベースとドラムのリズムパターンだけになった。
ここに座ってるとそれ程でもないが、下のフロアにいる人間には腹に響くような重低音だろう。
DJのMCが始まり、サンプリングされたリズムにスクラッチが混じりだす。
一頻りそのプレイが続いたあとに、今度は質のいいトランスが流れ始めた。
- 296 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:08
-
三人の中で、一番落ち着いているのが辻、という変なテンションの部屋の中では
徐々に酔いの回り始めた戸田と石川が、壮絶な駆け引きを繰り広げていた。
戸田にしてみれば、石川が連日店に通ってくるのは、自分に気があるからだ、と信じていたので
今日こそは、店の外で会う約束を取り付けたかった。本音は携帯の番号を聞き出したいのだが、
昨日聞いたときもあっさりはね返されているので、あまりしつこくは出来ない。
国民的アイドルグループ、モーニング娘。の、今や看板になった女を落とす、
それだけが戸田の頭の中を支配していた。
対する石川はなんとか20秒間、戸田を自分の方に引き付ける事だけを考えていた。
辻が戸田のワイングラスに薬を入れ、かき混ぜるその時間。最悪なら15秒、いや10秒でもいい。
戸田の座る位置は最初から計算してあったので、完全に自分の方を向いてしまえば
辻に背中を見せる状態にある。しかし落ち着きの無いこの男は、一瞬たりとも同じ姿勢でいない。
とにかく動作が大きく、首もよく振る。辻に気を使っているのか、やたらとそっちの方向を見たりもする。
石川が女の魅力を使えば、つまり戸田の顔を見つめた後、目を閉じて顎を上げたり、
戸田の手を取って、自分の胸や太股にあてがえば、20秒くらいは簡単な話だ。
しかし、あの白い粉は欲しいが、この男とキスしたり身体を触らせるような事は絶対にしたくない。
それをするくらいなら死んだほうがマシだ、と石川は思っていた。
- 297 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:08
-
「・・・でさぁ、バカでしょ、そいつ。」
戸田の声に我に返った石川は、話の内容が全く分からないので、適当な相づちを打つ。
酒に弱い石川は、なるべく飲まないようにしていたが、かなり顔が火照っているのを認めた。
ボトルの中身はもう残り少なくなっている。辻は辛抱強く、石川からのサインが出るのを待っている。
なんとかしなければいけない。一計を案じた石川は無理矢理話題を変えた。
「そんなことよりさ、昨日私の電話番号聞いてきたけど、今日は聞かないね。もういいの?」
「えっ、教えてくれるの?」
戸田の目がギラつく。
「約束を守ってくれたら。」
石川は小悪魔のような微笑みで上目遣いに戸田を見た。
これで首を横に振る男がいるなら、そいつは確実にホモだと断言できるくらいの完璧な仕草だった。
「も、勿論守るさ。どんな事だって。」
「じゃ、いい? 携帯のメモリーに入れたり、紙に書いちゃダメ。
戸田さん自身が記憶するんだったら教えてあげる。」
そう言った石川は、フフッ、と殊更高い声で笑った。
「分かった。覚えればいいんだな? いいよ、どうぞ。」
「ゼロキューゼロのぉ〜。」
そこまでを必要以上にゆっくり言った石川は、後の8桁は適当な数字を猛スピードで捲し立てた。
「えっ、もう一回。最後よく聞こえなかった。頼む、もう一回。」
手を合わせた戸田が、指を一本立てて頭を下げる。
「じゃ今度はゆっくり言ってあげる。目を閉じて両手で顔を覆えば覚えやすくなるって、誰かが言ってた。」
- 298 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:09
-
会話を聞いていた辻は、そろそろ出番だと心の準備をしていたが、
戸田があっさりと石川の策略に嵌まり、素直にその通りに従ったので
小さくガッツポーズをして、ポケットに入ってる紙に包まれた薬を取りだした。
ここまで緊張の連続でかなり長かったが、石川とアイコンタクトをし、グラスに薬を注ぐ。
慎重にマドラーでかき混ぜると、それは思っていたよりも早く溶けていった。
石川が続ける無意味な数字はまだ6桁目で、辻は楽々と自分の仕事をやり遂げた。
「で、最後が5。」
「5ね。よし、覚えたぞ。完全に覚えた。ありがとう。」
顔を上げた戸田は、勝ち誇ったような笑顔を見せた。
「え〜っ、ホントに覚えちゃったのぉ? 困ったなぁ。じゃコレでも飲んで忘れて。」
石川は睡眠薬の入ったワインを戸田に渡す。
そのオーバーアクションに肩の荷が下りた辻が、思わず吹き出しそうになる。
「梨華さんはこの状況じゃ覚えられないだろうと、タカをくくってたんだろうけど、
これでも僕は結構、記憶力がいいんだよ。酒なんて関係ないよ。絶対に忘れないね。」
そう嘯いた戸田は半分以上残っていたグラスを一気に空けた。
途端に石川と辻の顔が緩む。あとは薬が効くのを待つだけだ。
二人は暫し、意味のない数字を必死で覚えた戸田と、意味のない会話を続ける。
新たにグラスを満たした戸田に変化が見えたのは、僅か10分後の事だった。
- 299 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:09
-
急に呂律が回らなくなった戸田は、何度か頭を振り、苦しそうに顔を歪める。
「あれ、なんだろ。なんかおか・・・し・・・い・・・」
そう言った後、頭がガクッと前に垂れると、ゆっくりと石川の方に身体が傾いてきた。
その瞬間戸田の顔を見た石川が、短い悲鳴をあげながら飛び退く。
完全に意識を無くした戸田が、さっきまで石川の座っていた場所にドサッと音を立てて倒れ込んだ。
「やった?」
立ち竦んだままの石川に小さい声で辻が尋ねる。
石川が固まったままの状態なので辻は立ち上がり、戸田を覗き込む。
「もしもし?」
肩を掴んで揺らしてみるが、戸田は全く反応しなかった。
辻はかなり力を込めて戸田の頬にビンタを入れてみたが、ピクリとも動かない。
「やった〜! 梨華ちゃん、成功じゃん!」
辻は石川に振り返り、満面の笑みを浮かべる。
「のんがあれだけ叩いて起きなかったから、成功だよ。」
はしゃぐ辻を見つめながら、石川の表情は硬いままだった。
「梨華ちゃん、どうかした?」
「や、倒れてくる時の顔見ちゃったの。少し白目剥いて、気持ち悪かったから・・・」
「なんだよ、怖がりだなぁ、もう。」
笑顔の戻った辻は戸田の上着のポケットを探る。
「あったよ、梨華ちゃん。コレ?」
すぐに目指す物を見つけた辻は、69番のタグが付いているキーを取り出した。石川は無言で頷く。
「じゃ、のんが行って、ササッと持ってくるよ。梨華ちゃんはここにいて。」
「うん。ゴメンね、のの。」
「任しとけって。」
「周りに気をつけて。絶対に誰にも見られちゃダメだよ?」
「分かってるよ。」
辻はキーを握りしめ、笑顔で石川にウインクすると、素早く部屋を出ていった。
- 300 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:10
-
辻はコインロッカーの前で、辺りに人がいないのを確認すると、今度は天井を見上げた。
石川が一週間通って、ロッカーに監視カメラがない事は調査済みだ、と言っていたが
自分の目でも一度確かめておきたかった。
グルッと見渡して報告通りの結果に満足した辻は、努めて普通に歩き、中に入っていった。
こういう時、焦って急いだりするよりも、普通に行動したほうがいい事を辻はよく分かっていた。
もし急に人が入ってきても、絶対パニクらない。そう自分に言い聞かせ、69番のロッカーの前に立った。
ゴクリと固唾を飲み込み、鍵穴にキーを差し込もうと手を伸ばした瞬間、後ろから手首を掴まれた。
「!!!」
心臓が止まったかと思う程の恐怖が辻の全身を包み込む。いや実際に、何秒かは絶対に止まってる筈だ。
ガクガクと身体が震え始め、目の前が真っ白になった辻は、身体が硬直し、振り返る事が出来なかった。
「何やってんだ、お前。」
聞き覚えのある声に、一瞬ここがどこだか分からなくなる程の衝撃を受ける。
ゆっくりと後ろを向くと、鬼の形相をした吉澤が立っていた。
「・・・よっ・・・ちゃん・・・」
「来い。」
手首を掴まれたままで、強い力で引っ張られる。震えた足がいうことを聞かず、よろけそうになる。
それを吉澤に引っ張り起こしてもらい、最後は引きずられるようにロッカーを出た。
「・・・かめい・・・ちゃん・・・」
ロッカーの出入口には、絵里が腕組みをして立っていた。
何が何だか分からないまま両側を吉澤と絵里に挟まれた辻だが、計画が失敗した事だけは理解出来た。
そのまま三人で部屋に入る。石川はすでにカーテン越しに吉澤と絵里を見ていたので、
辻のような驚きは見せなかった。呆けたように立ち尽くしているだけだった。
「亀井、悪いが表のリボンをバツ印にしてきてくれ。」
「ハイ。」
素早い行動を見せた絵里が、あっという間に戻ってきて、吉澤の隣に立った。
- 301 名前:_ 投稿日:2004/04/13(火) 00:10
-
「さてと。」
腕組みをした吉澤が低い声で切り出す。
「一応、お前らにも聞いてやろう。
そこで土下座してこの状況を説明するか、それとも俺にギタギタにシバかれるか、お前らが選べ。
ちなみに藤本は後者を選択して、現在入院暮しをしている。」
「!!」
すでにポロポロと涙を見せていた辻は全てを悟り、魂が抜けたような動きで崩れ落ちた。
「・・・ミキティの骨折って・・・よっすぃが・・・やったの?」
ポカンと口を開け、目の焦点があっていないような表情の石川が呟いた。
「お前らの質問はあとだ。土下座しないんなら、お前も藤本と同じ道を行くか?」
吉澤が拳を握り、振りかぶった姿勢を見せると、石川もヘナヘナとその場に座り込んだ。
「じゃ、聞かせてもらおうか。このオッサンはなんでこんな事になってるんだ?」
ソファーで横になっている戸田を見ながら、吉澤は聞いた。
「くすりを・・・のませた・・・」
「薬? 薬って何だ?」
「よっすぃ、覚えてるかな? 前に私、不眠症だって言ってた事あったでしょ?
その時病院で貰った睡眠薬。擂り鉢で擂って、粉状にしたのをワインに混ぜて飲ませたの。」
石川の説明に吉澤の目の色が変わった。
「睡眠薬ってどんなやつだ? もしかして青い楕円形のやつか?」
「そう。」
「バカ野郎! ハルシオンじゃねぇか!」
吉澤はあわてて戸田に駆け寄る。
「何よ、大きい声出して。ちゃんと病院で貰った薬だから大丈夫だよ。」
「バカ! このクソバカ! おめぇがそんなにバカだとは思わなかった。
そのミンザイはなぁ、ちゃんと決まりを守って飲むのは安全だが、
酒と一緒に飲ませたりしたら呼吸困難になって、ヘタすりゃ、死ぬぞ!
くそっ、まだハルシオンを処方しているバカ病院があったのかよ! 亀井、手伝え!」
「ハ、ハイ。」
横向きになっている戸田を仰向けにした吉澤と絵里は、足を高くしてソファーに乗せる。
「どれくらいの量だ? 飲んでから何分くらい経った?」
吉澤は戸田のボウタイをむしり取り、ドレスシャツの一番上のボタンを引きちぎった。
矢継ぎ早の吉澤の質問もすでに聞こえていない顔面蒼白の石川と辻は、ただ呆然とその光景を見つめていた。
- 302 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/04/13(火) 00:11
- ( `.∀´)<300! 300!
- 303 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/04/13(火) 00:13
- 今日はここまでです。
あれ、なんか計算間違いしてた。302に300!って・・・_| ̄|○
なかなか話が進まない・・・みきさゆのシーンを何回も書き直して、結局中途半端に_| ̄|○
出来れば吉澤聖誕祭に前半部分を終わらせたかったなぁ。
- 304 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/04/13(火) 00:15
- >>275
レスありがとうございます。
いつもお世話になっております。
今日はちょっと嫌な所で終わってますが、期待を持ち続けていただければ嬉しく思います。
これからもどうぞよろしく。
>>276
レスありがとうございます。
それは褒め言葉と理解していいんですよね?
それとも呆れ返ってるんでしょうか?
出来ればこれからも呼んでいただきたく思っております。
>>277
レスありがとうございます。
もしかして美貴様ヲタでしたか? 今回は少し美貴様登場しました。
気に入ってもらえるか、心配ですが。
いつもどうも、ホントに感謝してます。
- 305 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/04/13(火) 00:19
- >>278
レスありがとうございます。
柴田って・・・直人? や、嘘です。ごめんなさい。
えっと、一応リアル設定でやっているもので・・・
すいません、リクにはお応えできませんでしたが、店長さんの名前が・・・_| ̄|○
これからもよろしくお願いします。
>>279
レスありがとうございます。
とても嬉しいです。どんどんレスしてやって下さい。
これからも色々と絡みがありますんで、読んでいただければ・・・
是非これからもよろしくお願いします。
>>280
レスありがとうございます。
今回もまた・・・_| ̄|○
すいません、こんな状態ばっかりで。
これに懲りず、これからもどうぞよろしく。
- 306 名前:捨てペンギン 投稿日:2004/04/13(火) 00:37
- 嫌なところなんてとんでもないです
(あ、でも続きが早く見たくなるっていう意味では嫌かも)
これからも吉澤さんを応援し続けます
がんばれよっすぃー
- 307 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/13(火) 01:10
- 更新乙です。柴田をリクエストした者です(笑)
無理いってしまってゴメンなさい。
店の内装とかの説明も凄いですね。想像できます。
クラブとかよく通われているんですか?
亀井ちゃんのこれからの頑張りも期待したいです。
- 308 名前:名無し君 投稿日:2004/04/13(火) 01:12
- よっす聖誕祭&美貴様復活 キタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n0^〜^)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆
大量更新Z。今回も待っててヨカタよ。マジで。しかし大佐、よっす聖誕祭の更新は最初の5レスだけなんだけど(w
そうです。ワタシが美貴様ヲタです。基本はDDなんスけど。苦手だったさゆも大佐のせいでハマって今じゃさゆヲタ。
>>302爆ワラタ。しかもマジボケらしくもう一回ワラタ。しかしストーリーはドエライ事になってますな。なんかヤなヨカーン。
- 309 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/14(水) 00:11
- 青い楕円形のやつって、思いっきりマジじゃないですか。
コカイン云々は解りませんが、自分の知ってる事が出てくると
一気に全ての事柄にリアリティーを感じてしまいます。
私は5年位前に病院でハルシオンを出してもらいました。
去年行った時は、もう違うカプセルに変わっていたので
私の行ってる病院はバカ病院じゃなかったってことですね。
あとは大佐にヒゲが生えているのか、真剣に心配になってきました。
- 310 名前:ss.com 投稿日:2004/04/14(水) 17:54
- 大量更新、お疲れさまです!そして300突破、おめでとうございます。
いよいよクライマックスに差し掛かって来ましたね。
それにしても、石川さん、かなり策士だし、吉沢さんはあいかわらずカッケー
し、藤本さんの周囲はますますホンワカしてゆくし、各場面の展開のメリハリ
が利いてて、夢中にさせられます。
それにしても、シゲさんの着メロの選曲がまた…。
先の展開がますます楽しみです。
- 311 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/15(木) 13:47
- それで、美貴帝はよく鼻をかむのか・・・
- 312 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/03(月) 02:59
- ho
- 313 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/03(月) 03:02
- あげちった。スマソ。
- 314 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/11(火) 22:02
- 大佐殿、そろそろ一ケ月になりますが如何お過ごしですか?
- 315 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/17(月) 09:30
- 保全
- 316 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/22(土) 20:39
- そ、そろそろ更新が欲しいかも・・・
- 317 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/29(土) 23:46
- 大佐、お元気ですか・・・
- 318 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/30(日) 19:45
- まさかとは思うけど逮捕されてたりしてないよね…
- 319 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/03(木) 04:12
- た、大佐…待ってます(;´Д`)
- 320 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/04(金) 20:37
- この作者は放棄はしないと思ってたが、そうでもなかったようだ
- 321 名前:_ 投稿日:2004/06/05(土) 22:39
-
***
「どこ行ってたのよ、心配するじゃない?」
「すいません、一階のロビーで少し考え事してました。」
さゆみが帰った後、暫くしてれいなは美貴の病室に戻ってきた。
美貴は腰掛けていたベッドから立ち上がり、れいなにソファーを勧め、自分もその隣に座り直した。
「もう、トイレ行くだなんて言って。やっぱり、アレ? シゲさんに気を使って?」
「最初はそのつもりだったんですけど、ミキさんの顔見てたら、吉澤さんの言葉を思い出して。」
「よしこの言葉?」
「ハイ。・・・私・・・あのぉ・・・怒りませんか?」
「・・・どした?」
俯き加減のれいなの横顔に、美貴の表情が少し曇る。
「・・・。」
「何よ? 怒らないから、言ってみ?」
「私・・・ミキさんのカタキをとるために、吉澤さんに対決を挑んだんです。」
「まさか。」
信じられない、という思いと、やっぱり、という思いが美貴の胸の中で交錯する。
「本当です。吉澤さんに向かって、バットを振り回しました。」
「バ、バット?」
美貴は呆気にとられたように、暫し固まる。
「・・・ハイ。」
「で・・・どうなった?」
「ブッ飛ばされました。」
ニッとれいなは笑顔を見せた。
先程までは心底申し訳なさそうな表情だったが、その一言に悲壮感は感じられなかった。
「・・・そう・・・なんて言うか・・・とりあえず良かったね、怪我が無くて。」
「凄い手加減してくれたんです、吉澤さん。
間合いを詰める時の一瞬だけ本気って感じだったんですけど、その時は私、殺されるかと思いました。」
美貴は笑っちゃいけないと思いながらも、その場面を想像して段々と口元が緩む。
そんな美貴の表情を敏感に感じ取ったれいなが、先に声をあげて笑い始めた。つられた美貴も笑いだす。
- 322 名前:_ 投稿日:2004/06/05(土) 22:40
-
「・・・凄いだろ、アイツ。」
「ハイ。マジで凄かったです。」
「アイツならプライドとかに出ても、そこそこ勝てるような気がするんだよね。」
重苦しかった雰囲気は、二人で爆笑したことによって一掃されてしまった。
「で、思い出したよしこの言葉って言うのは?」
「好きな人がやってるからといって何でも真似するんじゃなくて、
悪い事は拒否するなり注意するなり、もう少ししっかりしろって。」
「そう、アイツらしい。」
美貴は少し微笑んでから右手を後ろに回し、れいなの細い肩をそっと抱き締めた。
れいなは遠慮気味に体重を美貴に預け、頭を肩にもたせかける。
「美貴も悪いと思ってるよ。ホント、ゴメン。」
「いえ・・・別に強制された訳でもないですし。それは私自身の問題です。
私・・・背伸びし過ぎてました。なんか必要以上に肩肘張って。
吉澤さんに説教食らってようやく気付いたんです。もっと自分に素直になってみようって。」
「そう。いい事だ。」
「これからはミキさんが何か悪い事してたら、容赦なくビシビシ注意します。」
「ハハハ。頼むよ。美貴も怒られないようにちゃんとしなきゃ。」
その言葉を噛み締めるように、美貴は自分に言い聞かせた。
「それにしても・・・良かった、ミキさんが元気になって。」
「そっか、この前来てくれた時は悲惨な状態だったもんね。」
「禁断症状はもう大丈夫ですか?」
「うん、ようやく抜けたんじゃないかな。今にして思えばあの日が底だったような気がする。
なんかさ、骨折じゃなくて禁断症状のために入院してた感じなんだよね。」
「って事は、それも吉澤さんに感謝、ですね?」
「ホントそう。いくら感謝してもしたりないよ。もうヤツに足を向けて寝られないって。」
美貴はニッコリ笑って、れいなの肩を抱く手に少し力を込めた。
- 323 名前:_ 投稿日:2004/06/05(土) 22:41
-
***
「答えろ! このワインは、ほとんどコイツが飲んだのか?」
放心状態の石川に吉澤が詰め寄る。
石川も辻も事の重大さに気付き、唇を震わせながら固まってしまったままになっていた。
「どれくらいの量を飲んだんだ?」
吉澤は石川の胸ぐらを両手で掴み、強い調子で尋ねる。
まるで手応えのない石川の様子に、吉澤は力任せに右手でその頬を張り飛ばす。
バチーンという物凄い音に、辻の身体がビクッと反応する。
「おい! しっかりしろ!」
「・・・く・・・薬は2錠・・・でも・・・擂り鉢に残ったロスの分を考えると・・・実質1錠ちょっと・・・だと思う・・・」
吉澤の叫ぶような問い掛けにようやく石川が答える。
「酒は?」
「・・・私は3杯目・・・ののが1杯貰って・・・あとは店長が・・・」
「くっ、もう殆どボトル空いてるじゃないか。亀井、水貰ってきてくれ!」
その言葉に絵里が即座に反応するものだとばかり思っていたが、絵里は動かなかった。
聞こえてない筈はない、と思いながら吉澤が絵里を振り返る。
「亀井、どした? 水を・・・」
「・・・よ、吉澤さん・・・この人・・・息してません・・・」
血の気の失せた顔で絵里が呟く。
「何ィ!?」
吉澤は石川を突き飛ばし、戸田の元へもう一度駆け寄った。
最後は膝でスライディングするようにしてたどり着く。即座に身体を屈め、耳を口元と胸に交互にあてた。
「・・・本当だ・・・マズイぞ・・・心肺停止状態じゃないか・・・」
背中に冷たいものが流れる。自らの意志に関係なく、身体は小刻みに震えだす。
一瞬で手足の末端部分は氷のように冷たくなっていった。
それと反比例するように顔は紅潮し、玉のような汗が額に浮き出る。
吉澤は両手を握りあわせ、それで戸田の心臓の辺りに2回3回と大きく打ちつけた。
- 324 名前:_ 投稿日:2004/06/05(土) 22:41
-
まるで悪い夢を見てるかのような表情で、石川は微動だにしない。
辻は両手で自らの耳を塞ぎ、震えながら顔を上げる事すら出来ないでいた。
必死で蘇生を行なっている吉澤を、絵里もただ呆然と見つめている。
「くそっ、人工呼吸ってどうやるんだっけ?」
ためらう事なく、吉澤はマウストゥマウスで戸田に息を送り込む。
その光景を見た石川は、脳天をハンマーで叩き割られたような衝撃を受ける。
つい先程、自らの欲望の為に、この男とキスをする自分を想像してみた。
一瞬でその想いは打ち消され、それをするくらいなら死んだほうがマシだとさえ思った。
そして今、吉澤の行動を目の当たりにし、石川は心の底から自分を恥じた。
涙がポロポロと溢れてきて、目の前の吉澤の姿がぼやける。
吉澤が救おうとしてるのは、この男ではない。私達なのだ。
そう思った瞬間、石川は強い意志をもって立ち上がった。涙は止めどなく流れているが、
しっかりとした足取りで吉澤と戸田の元へ歩み寄る。
「よっすぃ、どいて。私が代わる。」
石川は吉澤を押し退け、その位置に自分がしゃがみ込んだ。
「そんなやり方じゃダメ。私、小学校の頃ガールスカウトやってたから。」
低い声で呟いた石川は、左手で戸田の下顎を持ち上げ、右手は額を押し込み、気道を確保した。
唇が閉じたままの状態だったので、指をこじ入れ口を開かす。
大きく息を吸い込むと、右手で鼻をつまみ、ピッタリと口をあわせた。
ゆっくりと息を吹き込みながら、視線を戸田の胸にやり肺に空気が入り込むのを確認する。
さほどの抵抗なく胸は膨らむのだが、循環のサインが認められない。
- 325 名前:_ 投稿日:2004/06/05(土) 22:42
-
「よっすぃ、心臓マッサージ、お願い。」
「あっ、あぁ。どうすれば?」
「ソファーの上じゃ身体が沈み込むから、まずは床に寝かせよう。のの、亀井ちゃん、手伝って。」
さっきまでとは別人のような石川の言動に、吉澤は多少の安堵感を覚える。
せぇの、の掛け声で、四人がかりで戸田の身体をそっと床に降ろす。
「じゃ、よっすぃ、馬乗りになって。そう。肘を伸ばして。両手を重ねて鳩尾の上辺りを押し込むの。
膝立ちして、お尻の方に体重を掛けないでね。テンポはこれくらいで。」
石川はパンパンパン、と手を打ってみせた。
「分かった。」
「私が2回息を吹き込むから、その後すぐ、よっすぃは20回圧迫して。」
「OK。」
ゆっくりと、かつ規則正しく石川が人工呼吸を行なう。間髪入れずに吉澤が心臓マッサージを繰り返す。
二人の見事なコンビネーションで心肺蘇生法の3セット目を終えた時、石川が吉澤の手首を握った。
「・・・循環が出てきた。後は私だけでいい。」
「あぁ。」
吉澤は戸田の元を離れ、額の汗を拭う。
固く手を握りあって見守っている辻と絵里の肩に手を乗せ、少し微笑んで見せた。
「大丈夫なの?」
堪え切れずに辻が震えた声で尋ねる。
吉澤は辻を安心させるように、目を閉じて大きく頷いた。
「あっ、あたし、水貰ってきます。」
絵里が思い出したように立ち上がる。
「ワリィ。頼むな。」
吉澤が軽くウインクすると、絵里はスルリとカーテンを抜け部屋を出ていった。
- 326 名前:_ 投稿日:2004/06/05(土) 22:43
-
その後一人で黙々と人工呼吸を続けていた石川の動きがふと止まった。
「・・・よっすぃ・・・自発呼吸が戻った・・・」
「マジで? 脈は?」
「ちゃんとふれてる。意識はまだないみたいだけど。」
「・・・よかったぁ・・・呼吸が戻って脈がふれてれば、今は意識なんてどうでもいい。」
吉澤は力が抜けたように、その場に大の字に倒れ込んだ。
石川も涙を拭う事なく吉澤の隣に横になる。辻が泣き笑いをしながら二人の間に割って入り、寝転がった。
「ちょ、ちょっと、どうしたんですか?」
片手に2本づつ、計4本のミネラルウォーターを持って帰ってきた絵里が驚きの声を上げる。
「あれ、亀井じゃないか。お前、どこ行ってたんだ?」
「・・・踏んづけますよ。」
吉澤のふざけた調子を見て即座に戸田が助かった事を悟り、絵里は笑顔で憎まれ口を叩く。
その言葉に四人で一斉に笑った。
「ハハハ。スマン。もう大丈夫だ。」
「もう、ビックリするじゃないですか。三人で寝そべって。一瞬ダメだったのかと思いましたよ。」
「ま、やっと9回の裏に起死回生の同点ホームランってトコかな。」
「あれ、同点止まりなんですか? 逆転は?」
「それはこれから。このバカ二人を懲らしめて、それでようやく俺達の勝ちだ。」
独特の言い回しをした吉澤がニヤリと笑う。
「あぁ、もうなんでもいいから、とりあえず亀井ちゃん、それちょうだい。私、のどカラカラで。」
うんざりした表情を見せた石川が上半身を起こす。
「のんも。」
「ちょっとアンタ、何もしてないじゃない。」
「何もしてなくても、のど渇くんだよ。」
「コラコラ、バカ二人でケンカをするな。」
吉澤が石川と辻に割って入る。
「ハイハイ。丁度4本だし、じゃあ吉澤さんも。」
絵里はミネラルウォーターのビンをそれぞれに配る。
「よし、じゃあ乾杯!」
四人でビンを高々と掲げる。皆かなりのどが渇いていたらしく、全員が一気にそれを飲み干した。
- 327 名前:_ 投稿日:2004/06/05(土) 22:44
-
一息ついた後、吉澤がおもむろに立ち上がり、戸田の手首を取った。
「うん、ちゃんと脈はある。呼吸も・・・してるようだし、とっとと帰るか。」
「いいの? このままほったらかしにして?」
ようやく落ち着きを取り戻した辻が、不安そうな顔で尋ねる。
「だってハルシオンをワインで飲んでるんだぜ? 起きるのを待ってたらいつになるか分からないぞ。」
「でも・・・また呼吸が止まったりはしないの?」
今度は石川が、普段より2オクターブは低い声で囁くように聞く。
「俺の知ったこっちゃねぇ。」
「何よ、その言い草! アンタはそうかもしれないけど、私達にとっちゃ一大事なんだよ?」
「バーカ。自業自得だ。」
「ちょっと! 何よそれ!」
「まぁまぁ。」
石川がソファーから腰を浮かしかける所を、絵里が余裕を持って制す。
「吉澤さんがこんな言い方をするのは、大丈夫っていう保証があるんだと思いますよ。ねっ、吉澤さん?」
絵里の言葉に、吉澤は少し驚いたような表情を見せたが、すぐにニッコリと笑った。
「へぇー。お前もなかなか成長してるな。」
「そりゃそうですよ。」
絵里は得意げに胸をはった。
「何でよ?」
「は?」
「だから何で大丈夫だって言い切れるのよ?」
イライラした様子の石川がなおも吉澤に食い下がる。
「てめぇ、何か強気だな? 一体誰のせいでこんな事になったと思ってるんだ?」
「・・・悪いと思ってるわよ。」
「それが悪いと思ってる奴の態度?」
興味なさそうに、吉澤は自分の爪を見ながら冷たく言い放った。
- 328 名前:_ 投稿日:2004/06/05(土) 22:45
-
一瞬ムッとした顔をした石川だが、すぐにその表情は消える。
考えてみれば、いや、考えるまでもなく、何もかもが吉澤の言う通りだ。
暫く押し黙った石川は、突然ゼンマイ仕掛けの人形のように勢いよく立ち上がった。
ピンと背筋を伸ばした状態から、吉澤と絵里の方に向かって深々と頭を下げる。
「・・・ごめんなさい。よっすぃの言う通り。全て私の責任です。本当に悪いと思ってます。」
お辞儀をしたままの体勢でゆっくりと石川は詫びた。身体が柔らかいため、顔が膝に付きそうになっている。
頭を上げた石川は辻に向き直り、同じように頭を下げた。
「ごめんなさい。ののにはいくら謝っても謝り足りないよね。
二つも犯罪行為に引きずり込んでしまって。本当に・・・」
「ううん。のんもゴメンなさい。」
石川の謝罪を途中で遮った辻はまた涙を見せていた。そのまま吉澤と絵里の方を向き頭を下げる。
「ごめんなさい。反省してますから助けて下さい。」
「もういいよ。分かったから二人とも座れ。」
優しい笑顔に戻った吉澤は満足そうに頷いた。隣で絵里も少し涙ぐんで、鼻をすする。
「で、なんだっけ?」
「もう、人が真剣に謝ってるのに。何でこのままにして大丈夫なのかって事でしょ?」
ソファーに座った石川がすぐにいつもの調子を取り戻す。
「あぁ、そうだ。簡単な事だよ。」
吉澤は自信タップリの笑顔を崩さない。
「簡単な事?」
「俺達が帰る時には当然、店の人間に一声掛けるよな? 店長がウチ等の部屋でグウグウ寝てますよって。」
「それで?」
「それで充分なのさ。そいつが店長を起こしに行ったとき、コイツが生きてれば何ら問題はない。」
足を組んだ吉澤は、ブーツの尖ったつま先を戸田の顔に向ける。
「そんな乱暴な。」
「全然乱暴じゃないよ。それでOK。」
「よく分かんないんだけど?」
当事者の石川としては、そんな説明では納得できないとばかりに首を傾げた。
- 329 名前:_ 投稿日:2004/06/05(土) 22:46
-
「つまり、こういう事なんですよ。」
絵里が会話に割って入る。
「私達が帰った後、この人が死んでるのが発見されれば、そりゃ大問題です。警察もすぐにやって来るでしょう。
けど実際この人は生きてる訳だし、それが第三者によって確認されると、もうその時点で安全圏なんですよ。」
「店の人が生きてるのを確認した後で死んだら?」
「問題ないです。」
絵里もまた自信満々に吉澤と同じ言葉を使った。
「そこがよく分からない。解剖とかされちゃって、胃の中から睡眠薬が発見されたら?」
「もの凄く大量に発見されると分かりませんが、実際に出てくるのは1錠ちょっとの分量ですよ?
常識の範囲内じゃないですか。毒物とかならまた違ってきますが、睡眠薬なら全然大丈夫です。」
「それに。」
絵里の説明を満足そうに聞いていた吉澤が後に続く。
「解剖の前には、まず血液検査をするもんだ。・・・そこでコカインの陽性反応が出る、と。」
「・・・マジで?」
「この糜爛した鼻を見てみろ。専門家なら一発で見抜く。」
「つまり・・・どういう事?」
「ジャンキーの体内から多少のミンザイが出てきたって、どうって事ない。」
「・・・そんなもんなのかな?」
「もっと言えば、一度呼吸困難に陥って、それを持ち直せば死ぬ確率は非常に低い。
今度コイツが死ぬとしたら、死因は別の所にあると考えたほうが正しいんだ。」
「な・・・るほど。コカインとお酒が原因で呼吸困難に陥って、それで死んじゃう事も?」
目をキョロキョロさせながら考えていた石川は、ようやく明るい表情を見せた。
「正解。」
コックリと吉澤が頷く。
「で、まだコイツが目を覚ますまでココにいたいか?」
「いえ、納得いたしました。もしヨシザワさんとカメイさんが宜しければ、
ワタクシもそろそろ帰りたいと思うのですが。」
妙にかしこまった言い方をして石川はフフッと笑い、勢いを付けて立ち上がった。
- 330 名前:_ 投稿日:2004/06/05(土) 22:47
-
「ののはさっきの説明、いまいち分かってないみたいだね。」
「ハハハ。おめぇだって怪しいもんだ。ホントにちゃんと分かってんのか?」
「勿論よ。理解してるから出てきたんじゃない。そうじゃないと怖すぎて、まだ粘ってるかも。」
クラブ『DD』を出た四人は真夜中の六本木を歩いていた。
帰るときに戸田の件をフロントで説明すると、それは大変迷惑をかけました、と、
こっちが恐縮するくらいに謝罪され、チャージ代やドリンク代を全て無料にしてくれた。
その後、特に何も起こらず、すんなり店を出て来れたのは吉澤の言った通りだった。
辻と絵里が何やら楽しそうに話しながら手をつないで先を行き、
その5メートルくらい後を吉澤と石川が肩を並べて歩く。
近くのタクシー乗り場はかなりの人が並んでたので敬遠した。
来るときは強かった風も少しおさまったみたいで、歩いているとそんなに寒くはない。
道すがら、石川は今日までの経緯を詳しく説明し、吉澤はその間殆ど無言で聞いていた。
さっきの店での出来事を一通り喋った後で、不意に石川が黙り込んだ。
「どした?」
「ん・・・よっすぃ・・・ゴメンね。」
「もう分かったって。何回謝ったら気が済むんだよ。」
「うん・・・明日お休みだし、ミキティと田中ちゃんにも、ちゃんと謝りに行こうと思うの。」
「そりゃいい事だ。それが大切なんだよ。」
「・・・そうだね。」
「人は誰でも過ちを犯す。問題はその後だ。どう気付いて、どう反省するか。
同じ事を繰り返すバカは救いようがないが、俺は梨華ちゃんがそうじゃないって事を信じてる。」
「うん。ありがと。絶対によっすぃの期待は裏切らない。」
「ならもういいよ。忘れろ。」
「分かった。」
吉澤と石川が和やかなムードになったその直後、前を歩いていた辻が突然叫び声を上げた。
- 331 名前:_ 投稿日:2004/06/05(土) 22:47
-
「辻さん、どうしたんですか?」
驚いた絵里が声を掛け、吉澤と石川も小走りに近寄ってくる。
「何? どうした?」
「・・・。」
「のの?」
「・・・持ってきちゃった・・・」
「は? 何を?」
ポケットからゆっくり出した辻の右手には、69と書かれたタグの付いたキーが握られていた。
「アンタ、まさか・・・」
石川が震えた声を搾り出す。
「・・・明日にでも一人で行くつもりだったんじゃないでしょうね?」
「んな訳ないじゃん! そんな怖い事出来ないよ!」
辻は首を振りながら叫ぶように答える。
「・・・石川さん、辻さんの言う通りですよ。」
やや低めの声で絵里が辻を擁護する。
「亀井ちゃん、分かってくれる? のん、ホントにそんな事しないよ。」
「分かります。本当にその気だったんなら、今ここでキーを持ってるって言う必要はないですし。」
「・・・そう言えば・・・そうだ。」
石川が小さい声で呟く。吉澤も2回3回と大きく頷いた。
「そうなの。あの時よっちゃんに手を掴まれて、もう何が何だか分からなくなって
今気付いたらポケットの中に・・・あぁ、どうしよう。」
「とりあえず。」
吉澤が一歩前に出る。
「キーは俺が預かる。ってゆうか、そんなに心配する事でもないと思うんだが。」
「なんで? さっきも説明したでしょ? これはただのロッカーのキーじゃないんだよ?」
妙な落ち着きを見せた吉澤に石川が不思議そうに尋ねる。
「ったく、おめぇら、ホントにバカだな。亀井、説明してやれ。」
「えっ?」
一瞬詰まった絵里だが、コホンと一つ咳払いをし、顔を上げた。
- 332 名前:_ 投稿日:2004/06/05(土) 22:49
-
「キーが無くなって、当然店長はその中身を心配します。中のものが盗まれてなければ、
ただ、キーを紛失しただけの事で、それをどこで無くしたのかも分からない、って事ですよね?」
「正解。」
「げっ、亀井ちゃん、あったまいいー。」
「そうか。言われてみるとそうかも。」
辻も石川も驚きの表情で絵里を見た。
「おめぇ等がバカなだけじゃねぇか。
ひとつ付け加えるならば、ハルシオンと酒を一緒に飲んで心配なのは呼吸困難だけじゃない。
実は健忘症の方がよっぽど酷いんだよ。神様がおめぇ等に味方するなら、奴は何も覚えちゃいない。」
「マジで? 何もって、どれくらい?」
「詳しくは分からんが、1日や2日くらいの事は楽に忘れてるんじゃないかな。」
「もしそうだとすれば、それほどありがたい事はないんだけど。」
石川は両手の指を絡めあわせて握った。
「まっ、その辺は神のみぞ知るってトコだ。奴の記憶がなくなりますように、って祈ってろ。」
ニカッと吉澤は笑顔を見せる。
「あっ、空のタクシーが一台来ましたよ。」
振り返った絵里が車を止めた。
「おめぇらは、どうする? 一緒に乗って帰るか?」
先に絵里を乗せた吉澤は振り返って石川に尋ねる。
「ここからだとウチまで遠いけど、歩けない距離じゃない。反省のため歩いて帰るよ。ののはウチに泊める。」
「そっか、分かった。二人になってまた悪さの相談なんかするなよ?」
「あっ、信用してないの? もう絶対にそんな事しません。」
「ハハハ、冗談だ。じゃな。」
大袈裟に笑った吉澤はゆっくりと車に乗り込む。
「おやすみなさい。」
絵里が車の中から身を屈めるようにして二人に手を振った。
- 333 名前:_ 投稿日:2004/06/05(土) 22:51
-
「・・・浮かない顔ですね? あたし的には無事円満に解決した、と思ってるんですけど、
吉澤さんは違うんですか?」
タクシーに乗った絵里の第一声がその言葉だった。
一瞬戸惑いの表情を見せた吉澤だが、すぐに笑顔を取り戻す。
「や、そんな事ないよ。ちょっと疲れただけ。」
吉澤は手の中で辻から受け取ったロッカーのキーを玩ぶ。
その仕草に何かを隠してると直感した絵里は、どうしても聞かずにはいられなかった。
「どこが引っ掛かってるんですか? 石川さんと辻さんはもう大丈夫ですよ。
さっきの帰り道、辻さんの雰囲気が完全に以前の感じに戻ってました。」
「そんな心配はしてないよ。俺も信じてるさ。」
「・・・と、いう事は・・・」
「・・・なに?」
「いえ、何でもないです。」
「何だよ、言えよ。」
「怒りませんか?」
「なんで怒るんだよ? いいから言えよ。」
「ここから先にまだ続きがある。そしてそれは娘。達には関係のない、吉澤さんの個人的な事ですね?」
「・・・」
吉澤は大きな瞳をさらに大きくして暫し固まる。咄嗟に言葉が出て来なかった。
「もし仮にそうだとしたら、あたしも最後まで付きあいますよ。乗り掛かった船、ですから。」
絵里はニッと笑って見せた。
吉澤の沈黙が結果的に絵里を確信させる。
吉澤は少し考えた後で、カバンから携帯を取り出し、操作をしてから無言で絵里に差し出した。
「こ、これは・・・」
液晶に映し出された画像を覗き込んで、絵里も言葉をなくす。
「・・・ど・・・どこでコレを撮ったんですか?」
「今は・・・今は勘弁してくれ。近いうち必ず話す。」
「分かりました。もう言いません。」
「しかし・・・お前・・・すげぇ頼りになるな・・・これ程頭がいいとは思わなかった。」
「ハハ。これからはもっと絵里を頼ってください。」
まだ終わってはいない。そう自分に言い聞かせた絵里は、真っ直ぐ前を見つめた。
- 334 名前:_ 投稿日:2004/06/05(土) 22:52
-
Pray For The Dead / 第一部・了
- 335 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/06/05(土) 22:55
- 今日はここまでです。
誠に申し訳ありません。
かなりの時間が掛かりましたが、ようやく物語の半分が終わりました。
前半部分のクライマックスにきて、納得のいく文章が書けずに
スランプだと思っていた所、体調を崩して寝込んでしまいました。
結石が出来てるらしいです。どうって事はないのですが、コレがメチャメチャ痛い。
今は手術をするかどうか迷ってる段階です。
必ず書き上げますのでどうか、最後までお付き合い下さい。
- 336 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/06/05(土) 23:00
- ちなみに、1〜4章が第一部。次回5章から8章までが第二部、の予定です。
- 337 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/06/05(土) 23:02
- >>306
レスありがとうございます。
ホントにいつも感謝してます。
前半ラストは少しえりりんに華を持たせましたが、後半はまたよっすが暴れ回ります。
中々続きをお見せ出来なくて申し訳ないです。これに懲りずにこれからもよろしくお願いします。
>>307
レスありがとうございます。
クラブはその昔、学生の頃は毎週のように行ってました・・・。遠い昔の事です・・・w
ちなみにこの『DD』の内装とかは、自分が通ってた店を思い出しながら参考にして書きました。
未だにあのオブジェは何だったんだろう、と思う事があります。
今回のえりりん、どうだったでしょうか? また感想など頂けると嬉しいです。
>>308
レスありがとうございます。
そうだった。前回はよっす聖誕祭だったんですね・・・。かなり時間が経ってしまいました・・・。
302はお恥ずかしい限りです。ちゃんと計算してた筈なんですけど・・・
また、ヤスに言わせてるのがなんともこっぱずかしいです。
出来ればこれからもキターのAAをよろしくお願いします。
- 338 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/06/05(土) 23:06
- >>309
レスありがとうございます。
念のために言っておきますが、ハルシオンは用量用法を守って飲めば安全な睡眠薬です。
病院で処方しなくなったのは闇取引にまわるためで、危険な薬ではない、と自分は認識してます。
ヒゲは・・・生えてます。でも鼻汁はたらしてませんw
>>310
レスありがとうございます。
御無沙汰しておりますw やっと、前半のクライマックスを更新しました。
一時期、自分の着メロも物語のシゲさんと同じだった事があります。今はまた変わってますが。
ss.comさんも頑張って下さい。アレ、密かに期待してます。
>>311
レスありがとうございます。
そうなんです。この物語のプロットは美貴様ありきで考えられています。
手前ミソですが、現実の美貴様に違和感を感じさせず、キャラ設定出来たことでかなり満足してます。
これからもどうぞよろしく。
>>312
保全ありがとうございます。
>>313
わざわざすみません。どうもありがとうございます。
>>314
レスありがとうございます。
申し訳ありません。詳しくは335を見て下さい。まだお腹は痛いですが、復活しました。
- 339 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/06/05(土) 23:09
- >>315
保全ありがとうございます。
>>316
レスありがとうございます。
本当にごめんなさい。ようやく更新しました。
>>317
レスありがとうございます。
ハイ、と答えられないのが辛いですが、これからも頑張ります。
>>318
レスありがとうございます。
されてません!w こうやって更新したのが何よりの証拠です。
>>319
レスありがとうございます。
・・・お待たせしました。ホント、申し訳ないです。( `.∀´)
>>320
レスありがとうございます。
心よりお詫びします。突き放されてしまいましたか?
でも放棄はしません。時間は掛かるかもしれませんが必ず完成させます。
>>読者の皆様
これからもよろしくお願いします。
- 340 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/06/06(日) 00:17
- 待っててよかったです。
これからも気長に待っていますので
早く元気になって物語を完成させてください。
- 341 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/06(日) 00:36
- うーん、、待ってて良かった!
- 342 名前:捨てペンギン 投稿日:2004/06/06(日) 01:12
- よっすぃー、亀井さん、作者様お疲れ様でした
まずは、お体を大切にしてください
それから 続きを期待です
素晴らしい作品ありがとうございます
- 343 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/06(日) 01:55
- 待ってました、毎日待ってました。
ほんと待ってた甲斐がありました。
でも大佐の体調が心配です。お言葉を信じてこれからもついて行きますので、
あまり無理はされないでくださいね。
- 344 名前:プリン 投稿日:2004/06/06(日) 15:02
- 更新お疲れ様です!!!
待ってました!
皆さんも言っていますが、待ってて良かったです!
いや、本当に作者様の体調が心配ですね…
でも、回復してからでもいいので頑張ってください。
いつまでも待ちますからっ!!
無理だけはしないようにしてくださいね(w
素晴らしい作品に出会えてよかったです。
- 345 名前:307です 投稿日:2004/06/07(月) 22:52
- 更新お疲れ様でした!
第1部終了ですか。あらためて壮大なスケールですね。
続きが気になります。他のメンバーが出てきたりとかするんでしょうか?
絵里りんは頭良すぎですね(笑
実際こんなにハキハキ喋れない感じですが想像すると違和感がない気もします。
次作からの活躍も期待したいですね。
本当にお疲れ様でした。体調にはお気をつけて。
- 346 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/08(火) 01:48
- 待っててよかった・゚・(ノД`)・゚・
第一部終了ってことで次からはよっすぃの過去とか明かされるんでしょうか。
何か暗い過去を抱えるよっすぃと、それでも信じてついていく亀井たん。
この二人、すごく好きです。
大佐の体調が早く良くなるように祈りながら待ってます。
- 347 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/08(火) 23:34
- 更新乙です。
いい感じで不良娘。達の更生をした吉子と亀子。
二人に心からの拍手を送りたいです。
この後の展開も非常に楽しみにしています。
それにしても大佐、結石が出来たんですか?
自分も経験あります。痛いですよね?
「ウラジロガシ」って漢方薬が効くみたいですよ。
あと「お酢」も。最近黒酢やらりんご酢など飲む専用のお酢が
たくさんありますので、もしまだなら試してみてください。
早く良くなって続きをガシガシ書いて下さい。
- 348 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/05(月) 10:35
- 短編コンペに参加するくらいの暇と元気があるならこっちを(ry
面白かったからいいけど、大佐のだけ異様に浮いてた気がする(w
まぁ、カムアウ最後の言葉を信じて待ってますよ←近日更新
- 349 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/05(月) 17:37
- 大佐、ナイスでした!面白かったです。
自分も参加しましたがなかなか難しい・・・。って俺のことはどうでもいい
- 350 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/11(日) 20:57
- 大佐の短編はどこで読めるのでせうか?
- 351 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/11(日) 21:23
- >>350
http://mseek.nendo.net/event/messe05/1087661483.html
少しは自分で調べr(ry
- 352 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/12(月) 01:34
- >351
どうもありがとうございました
- 353 名前:_ 投稿日:2004/07/14(水) 06:30
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〜第五章〜
立川と昭島の市境辺りで散々迷い、ようやく16号線に辿り着いた保騨圭は、
八王子インターから中央自動車道に乗り込んだ。
心身共に憔悴しきっている保だが、それでも気を引き締めるために、
セレクターレバーをマニュアルモードに入れ、乱暴にアクセルを踏み込む。
まだ2速に入れたばかりのわずか数秒で既に速度は100km/hを超え、尚も暴力的な加速は続く。
前方とタコメーターを交互に見ながら、レッドゾーンギリギリの所でシフトアップを行う。
上半身はシートにめり込むくらい押さえ付けられ、凄まじいGを感じながら、
ステアリングに添えた左手の親指でロッカースイッチを叩いていく。
6速に入れてもまだ加速しようとする450馬力のターボパワーが唸りを上げる。
V8/4.5リッターのハイスペックエンジンは、2.5tという並はずれてデカい車重をものともしない。
300までの表示があるスピードメーターを見ると、270の少し手前でようやく針が落ち着く。
当然リミッターはカットしてあるため、実測でも250km/hは楽に出ているだろう。
100キロ前後で走っているトラックなどは、まるで止まっているかの様に、瞬時に後方へと消え去っていく。
時刻は深夜3時前。
おそらく一日の内で最も交通量の少ない時間帯だろうが、それでも車が全く無い訳ではない。
右車線をタラタラ走ってる車には容赦なくパッシングを浴びせ、左のレーンへと追いやる。
それ以前に、気付いた車は自ら左に寄って道を譲るのだが、たまにそのままの車線を動かない車もいる。
その場合には、あっという間に迫る車間距離をギリギリまで引き付け、巧みにステアリングを切って躱す。
一瞬左車線に出て、追い抜きざま元の右レーンに戻る。
普通に走っているドライバーにとっては迷惑この上ない行為ではあるが、
保の卓越したドライビングテクニックと、愛車カイエンターボの見事なポテンシャルによって成り立っていた。
- 354 名前:_ 投稿日:2004/07/14(水) 06:34
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この一年間、保は失ったバッグの追跡調査にかなりの時間を割いてきた。
飽きやすい性格の保が一人でやっているオペレーションなら、もうとっくに諦めていただろう。
残されたバッグから足がつく可能性があるのなら話は別だが、それは現実的ではない。
精製されたばかりの純度の高いコカイン3キロというのは、日本で捌けば末端価格1億円を遙かに超えるが、
保はコロンビアのカリから直接買い付けている為、仕入れ値というのはわずか200万円に満たない。
一切合切の煩わしさを考えれば、捨ててしまっていい金額である。
しかし、ビジネスパートナーである沢裕中はそれを許さなかった。
手掛かりが全く無いのであれば言わなかったかもしれないが、たった一つだけ試すに値する糸口があった。
取り違えたバッグに残された黒の下着が、青山のショップでのみ販売されているという事実。
現在ではこの店も大阪の心斎橋に支店を構え、インターネット販売にも乗り出しているが、
当時、この完全オリジナルブランドの下着が買えるのは世界中で青山だけであった。
中国からの報告書が届いた後、保はまず、客を装い店に行ってみた。
妻へのプレゼントという名目で、なるべく控えめなデザインの下着を購入する。
勿論保に妻などいないが、組織内に女性エージェントを持っていないため仕方なかった。
そこで保は、店のシステムである「お客様カード」の存在を知った。
新規の客には住所、氏名、年齢、そして身体のサイズなどを書かせている。
店員に聞いてみると、保の様にプレゼント用として買いに来た客以外は殆ど書いていると言う。
扱う商品が値段の張る高級品であるが故、顧客管理は徹底しているのであろう。
キャンペーンやバーゲンなどの他、客の誕生日などにはダイレクトメールを送り、リピーターを確保する。
この青山にある『Trilogy』というランジェリーショップは、優良店の典型といえる基本的戦略を実践していた。
- 355 名前:_ 投稿日:2004/07/14(水) 06:36
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その三日後の深夜、保はピッキング技術を駆使して店に忍び込んだ。
裏口に回り、一切の物音を立てず、鍵穴と格闘した時間はわずかに十数秒である。
これが貴金属店とかなら話は別だが、金目の物を置いてないショップは警備も甘く、
保にとってそれは朝飯前でしかなかった。
何より保にとってラッキーだったのは、全ての個人情報が店のパソコンにインプットされていた事だ。
保は楽々と、店がオープンしてからの14年間のデータ約900件分をCD-ROMに焼き付ける。
これが一昔前なら大変な作業だ。一枚一枚のカードを確認しながら、該当する分だけを抜き出し、
並べて撮影する。時間を湯水の用に使い、下手をすれば何日も通わなくてはならない。
実際保はコロンビア時代にそれを経験した事があるが、考えただけでもウンザリする。
念のため、マイクロフィルムのカメラも持ってきていたが、使わなかった事を文明の利器に感謝した。
一切の痕跡を残さず『Trilogy』の客名簿を手に入れた保は、小一時間ほどで店を後にする。
新宿の自宅に帰りつき、今度はデータの選別に没頭した。
最初に、ブラのサイズがアンダー65のCカップの人間をピックアップする。
「お客様カード」に血液型は書かれていない為、全ての情報の中で、これだけが確定事項である。
その他の身長や体重、年齢といった要素は報告書では当然「推測」でしかない。
半分くらいになるかも、といった保の淡い期待は見事に外れ、この作業では300人程しか削れなかった。
いくら日本人として一般的な体型とはいえ、これは多すぎる。
本来BカップやAカップの人間も見栄を張ってこのサイズを買っていくのだろうか、と思えるほどだ。
とにかく600人の個別調査というのは有り得ない。
仕方なく報告書の調査内容を信頼し、身長と年齢を当てはめ、残りの候補者を篩にかける。
地道な作業を続けた保は、朝までかかってその候補を145人に絞り込んだ。
- 356 名前:_ 投稿日:2004/07/14(水) 06:38
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そこまで絞ったからには、後はシロかクロの決着をつけるしかない。
つまり、血液型かDNA鑑定、もしくは指紋採取をして目指すターゲットかどうかを判別していく。
145人全員に何らかの形で接触し、根気よく一人ずつ減らしていくのだ。
最初は気の遠くなるような作業だと思っていたが、やってみると案外苦痛に感じなかった。
住所が分かっているのだから、一人暮らしの女に関しては留守中に部屋に忍び込む。
そこで確実に指紋が採れる、無くなっても気付かれない物を一つ貰ってくる。
なかなか留守のタイミングが合わないときは、女が夜中に出したゴミを持ち帰った事もある。
サンプルが10〜15個溜まると本国の調査機関に送り、その回答が一週間で帰ってくるという仕組みだ。
対象が好みの女だった場合は、ナンパをして、とりあえず自分のモノにしてしまう。
ルックスも悪くない保は、他の男とは格段に違う財力を存分に見せつけ、簡単に獲物を落としていく。
まずは血液型を尋ね、A型以外を答えた女は適当な理由を付けて、その場を後にする。
A型の女だけ相手にして、行為の後で塩基配列を抽出できるサンプルを悟られずに手に入れるのは、
実に容易い事だった。
実家で家族と同居、というパターンですら、さほど苦にはならなかった。
通常より時間はかかったが、女が一人の時に尾行をしたりして、
半分楽しんでいるかのようにチャンスを窺い、目的を果たしていった。
殆どの住所が関東近郊で、一番遠かったのは群馬県の高崎だったが、その時は旅行気分で臨んだ。
厄介だったのは、行方不明者である。
引っ越しをした者でも、店との関係が続いていればデータに住所変更が記されてあったが、
7人の女の居所が分からなくなっていた。
程なくその内の5人は保の努力により新居を割り出したが、残りの2人はかなりの難関だった。
住民票で記されている場所に本人が住んでいないと、追跡するのはかなり困難である。
しかしそれでも、保は持てるネットワークをフル稼働して、昨日最後の一人の居所を突き止めた。
- 357 名前:_ 投稿日:2004/07/14(水) 06:41
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結局、今まで一年間かけて調査してきた144人は全てシロと判明した。
そして最後の一人は、住所を調べるだけで一ヶ月もの時間を要したという事で、
否が応にも保の期待は高まったが、その思いは先程呆気なく打ち砕かれてしまった。
立川のマンションで本人を見た保は、瞬時にこれは違う、との印象を持った。
その女はどう見ても、身体が大きすぎる。
店の「お客様カード」には身長160センチと書かれてあったが、恐らくもっと背は高かった。
体重も50キロ以上はありそうな雰囲気で、報告書のターゲット像からはかなり逸脱している。
念のために血液型くらいは分かるであろうサンプルは採取してきたが、
彼女がターゲットである可能性は限りなく低いと思っている。
(終わった・・・俺の一年間の努力も無駄だったな・・・
・・・という事は・・・あの下着はプレゼントされた物だったのか・・・とにかくこれ以上はもう捜しようがない・・・
沢がまだしつこく言ってくるなら・・・奴に1億円を叩きつけて・・・俺はアメリカに行こう・・・)
保は少しアクセルを緩め、煙草を取り出すため、胸の内ポケットに手を伸ばす。
車はさっき調布インターを過ぎた所で、八王子からのドライブはあっという間だった。
(チッ、煙草が切れてやがる・・・ついてない時はこんなもんだ・・・高井戸で降りて買いに行くか・・・)
このまま走り続けると4号新宿線に入れるが、ここで甲州街道に降りてもさほど問題はない。
時間も時間だし、地道の交通量も少ない。自宅までの距離も高井戸まで来れば、あと僅かだ。
保は高速を降りた後、すぐ近くにあったコンビニの前にカイエンを止めた。
- 358 名前:_ 投稿日:2004/07/14(水) 06:43
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何故かコンビニに来ると、用もないのにまず雑誌のコーナーに足が向かう。
別に時間も気にしていない保は、面白そうな週刊誌を何冊かパラパラと捲って見る。
特別興味があった訳ではないが、その雑誌を手にして中を開いた時、あるページで保の動きが止まった。
暫し、信じられないような表情で食い入るように見る。
自分の記憶を辿った保は、身体の中から熱い物が込み上げてくる感覚に陥った。
(・・・ま・・・まさか・・・)
どれくらいの間、そのページを眺めていただろう。
突然思い出したようにその雑誌を握りしめたまま、大股でレジに向かう。
カウンターに雑誌を置き、ズボンのポケットから一万円札を取り出すと、そのまま叩きつけ店を後にする。
店員の「お客さん、お釣り!」と叫ぶ声も耳に入らない。
煙草を買い忘れたと気付いたのは、カイエンに乗り込んで200メートルくらい走ってからだった。
保は車を運転しながら携帯を取り出すと、腕のデイトナを一度見てから電話をかける。
思った通り、5回目のコール音の後で電話は繋がった。
「保です。今、いいですか?」
『・・・なんですか、こんな時間に?』
電話の相手、沢裕中の口調は不機嫌そうなものでは無かった。
「すいません、今どちらに?」
『今は赤坂の店ですけど。』
「至急、会って見せたい物があるんですが。」
『見せたい物? 何ですかね? じゃ、もうすぐここを出ますから西新宿の事務所で会いましょう。』
「お願いします。」
『では後ほど。』
携帯を折り畳んだ保は、口元に薄く笑みを浮かべる。その後で煙草を買うべく、コンビニを探し始めた。
- 359 名前:_ 投稿日:2004/07/14(水) 06:46
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「わざわざ、こんな時間にすみません。」
「いえ、別にいいですよ。眠ってたんだったら、話は別ですけど。」
笑顔の沢が事務所に到着したのは、保が着いてから30分後の事だった。
沢はドッカリとソファーに腰を下ろし、ゼロハリのアタッシュケースから木箱を取り出す。
「先日、神戸に行って来まして。いい買い物ができましたよ。」
「もしかして、それはキューバン・ダビドフですか?」
「流石ですね。その通りです。」
「へぇ、そんな物がまだ残ってたんですね。もの凄い年代物じゃないですか。」
ダビドフは1988年にキューバからドミニカに移ったため、
最後にキューバで生産された物だとしても、15年モノの葉巻である。
「そう。今夜はコイツを銜えて赤坂の店で一杯やってたとこです。なので機嫌はいいですよ。
それより、何ですかね、見せたいモノって?」
「じゃ、もっと機嫌良くなって貰いましょうか。とりあえず、これを見て下さい。」
保はさっきコンビニで一万円払って買った雑誌を沢の目の前に置いた。
「何ですか、これが見せたいモノ? あまりいい趣味とは言えませんね。」
そう言いながらも沢の頬が少し緩む。雑誌のタイトルは『お宝エクリプス』と書かれてあった。
いわゆる、タレントやレースクイーンなどの盗撮がメインとなっている本で、最近はこの手の雑誌が妙に多い。
沢が最初のページを捲ると、TV局の女子アナの写真が重なるようにしてレイアウトされていた。
テレビで見て知ってる顔もたくさんある。ノースリーブの脇からブラジャーが見えている写真や、
酷いのになると、ミニスカートで椅子に座る股間をアップにしたカットなども多数あった。
「こんなモノを見せられる為に、私は呼び出されたのですか?」
10ページ程眺めていた沢が、保に視線を送る。その表情はあまり機嫌がいいとは言えなかった。
「何も言わず、先へ進んで下さい。記事は読まなくて結構ですから、写真だけを。」
保は笑顔で、自信タップリにそう言い放った。
- 360 名前:_ 投稿日:2004/07/14(水) 06:50
- 保は笑顔で、自信タップリにそう言い放った。 7
5分くらい沢はページを捲り続け、中程にきた所でふと手を止めた。
保がコンビニで見たときに動きが止まった、同じ箇所だ。
沢も反応したんだから、間違いない。保はそう確信して自然と笑顔が広がる。
そのページには『総力特集 モーニング娘。のプライベートアルバム』のタイトルが付けられていた。
最初に藤本美貴の写真が4枚掲載されている。
一番大きな写真は、胸に大きく白文字でDKNYと書かれた紺色のTシャツで写っている。
代わって、左下の写真はオレンジの花柄のタンクトップを着ている。
それは非常に鮮やかな色彩で、一度見ると強く印象に残るデザインである。
その写真は全身が写っていて、ボトムスはスネーク柄のローライズパンツだった。
写真の隣に『ミキティはおヘソがチラリ』と書かれていて、
不機嫌そうな表情とふざけたコピーが妙にアンバランスだった。
「・・・よく見つけましたね、これを。すいませんが、例のファイルを持ってきて貰えますか?」
「やっぱり、そう思いますよね。」
保は勢いよく立ち上がり、本棚から黄色い表紙のファイルを抜き出し沢の前に置く。
報告書の最後に、バッグに入っていた全ての衣類や品物の写真が一点一点貼り付けられていた。
沢はそこから3枚の写真を剥がし、雑誌のページに重ねて並べていく。
「これが・・・これで・・・うーん・・・どうやらこれは当たりの可能性が高いですかね。」
「私がここに着いてからすぐ、エージェントに問い合わせてみました。
藤本美貴の血液型はA型です。身長155センチ、1985年生まれで当時の年齢が17歳。
体重は公表されてませんが、おそらくこの報告書の範囲内でしょう。つまり、」
「今の所、全て当てはまってる、という事ですね?」
「その通りです。」
興奮を隠しきれない勢いで保が頷く。
- 361 名前:_ 投稿日:2004/07/14(水) 06:55
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「もうすぐエージェントに依頼した調査の回答があるでしょう。それで99%決まりです。」
「何を?」
「あの沖取りの日とその次の日の、モーニング娘。のスケジュールを聞きました。
売れっ子アイドルですから詳しい記録が残ってる筈です。もしそれが平と市のルートにリンクすれば。」
「成る程。相変わらず仕事が速いですね。」
沢は笑顔でマッチを擦り、お気に入りのダビドフに火を付ける。
「実は例の青山の下着屋なんですが、今日で全ての可能性が途切れました。
途方に暮れていた所、偶然あの雑誌を見つけて、地獄から天国みたいなもんですね。」
「百何人とか言ってましたっけ? 全員に調査を?」
「はい。最後の一人の居所をなかなか突き止められなかったんですが、ようやく。」
「そうですか、お疲れ様でした。もっと早くに雑誌の方を見つけてたら良かったんでしょうが。」
珍しく大きな声で沢は笑った。
保にしても沢から「お疲れ様」などと言って貰ったのは初めてだったので、何か奇妙な感じだった。
「しかしターゲットがアイドルなら納得ですよ。高級品を色々とプレゼントされてるんでしょうね。」
保もラッキーストライクに火を付け、深々と吸い込む。
いつも吸い慣れてる筈なのに、今日の煙草はどこか違う味がした様な気がした。
その後二人で雑談してると、保より先に沢の携帯が鳴る。
失礼、と言った沢は立ち上がって電話を受けた。部屋の隅の方に歩いていきながら話す。
短いやり取りの後、沢は急に険しい表情になり、電話を切った。
「あまりいい事ばかりは続かないようです。
私の方はちょっとしたトラブルを抱えてしまいました。申し訳ないが、今日は失礼します。
それから、そのアイドルに関しては全てあなたに任せます。
私はコークが回収出来れば何も言いません。後は煮るなり焼くなり、好きにして下さい。
暫く日本を離れるかもしれませんが、私の部下は勝手に使って貰って結構です。」
沢は自分の言いたいことだけを言うと、コートを手にかけ、部屋を出て行った。
- 362 名前:_ 投稿日:2004/07/14(水) 06:58
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「結局、良くも悪くも、奴のペースって訳か。」
一人になった部屋で保は天井を見上げ呟く。自分もそろそろ帰ろうかと思った時、携帯が鳴った。
「はい、保。」
『先程依頼された調査回答が出ました。』
「ご苦労。で?」
『モーニング娘。の2002年9月27、28日のスケジュールですが。』
「うん。」
『27日の朝からテレビ収録のために、全員で北海道に行ってます。使用した飛行機はJALの1015便で・・・』
「ちょ、ちょっと待ってくれ。朝から北海道?」
意外な結果に、思わず立ち上がり、自然と声が大きくなる。
『はい。羽田発は10時ジャスト、千歳には11時40分に到着しています。』
「帰りは?」
保の心拍数が少し高くなる。
『東京に帰ってきたのは28日の夜です。羽田着が19時15分です。』
「嘘だ!」
反射的に保は叫ぶ。
平と市は27日の夕方に城崎の漁港に帰って来たはずだ。
28日の昼にはあの女物のバッグを持って東京の沢のアジトに居た。
『・・・そう言われましても・・・』
「・・・いや、済まない。・・・で、全員と言うのは確実なのか?」
『確実です。モーニング娘。全員で北海道に行ってます。』
電話の向こうのエージェントは事務的な口調で即答した。
保が最も信頼する調査機関だ。ここに何回頼ったか分からないが、今まで間違った情報は一度もなかった。
「・・・分かった。どうもありがとう。」
最後は泣きそうな声で、保は電話を切った。
(突然降り注いだ光は幻だったのか・・・三着の服や血液型の合致は偶然だったというのか・・・)
全ての力が抜けた保は、ソファーにゆっくりと崩れ落ちた。
双六をやっていて「ふりだしに戻る」のマスに止まった時って
こんな感じだったっけ、と何故か突然、子供の頃の記憶が蘇ってきた。
- 363 名前:_ 投稿日:2004/07/14(水) 07:04
- 今日はここまでです。
さゆ誕、間に合わなかったどころか・・・もう朝になっちまったぜ_| ̄|○
しかも、これっぽっちも娘。が出てこない・・・_| ̄|○
さらにもう一つ、360の一行目は無視して下さい・・・_| ̄|○
URLまで貼られているみたいなので、知ってる方もいるかと思いますが、企画に初挑戦してみました。
あの話はそろそろ寝ようと思っていた時に、突然プロットを思い付きました。
自分の中でストーリーが繋がった時には、既にもの凄いハイテンションで、一気にうpしてしまいました。
その後、テンションは下がらず、何故か古いレスポールを引っ張り出してきて、
深夜だというのにCommunication Breakdownのリフをずっと弾いてました。
メチャメチャ久し振りにギターを触ったんだけど、指がちゃんと覚えていたのは驚きでした。
読んでくれた方や票を入れてくれた方、どうもありがとう。それに感想を書いてくれた方には本当に感謝です。
- 364 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/07/14(水) 07:07
- >>340
レスありがとうございます。
これからも、気長によろしくお願いします。
いつになるか分かりませんが、完成は約束します。
>>341
レスありがとうございます。
これからもそう言ってもらえるよう、少しずつでも先に進みます。
頑張って書きますので、よろしくお願いします。
>>342
レスありがとうございます。
こちらこそ、なんとお礼を言って良いか。
捨てペンギンさんのレスはいつも本当に力になってます。
これから物語はまだまだ長いですが、よろしくお願いします。
>>343
レスありがとうございます。
体調は前回とあまり変わってませんが、とりあえず大丈夫です。
お気遣い頂き、嬉しい限りです。これからもどうぞよろしく。
- 365 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/07/14(水) 07:09
- >>344
レスありがとうございます。
丁寧なお言葉を頂き、恐縮です。
まぁ結石自体、たいした病気じゃないらしいので、大丈夫です。
これからもよろしくお願いします。
>>345
レスありがとうございます。
他のメンバーは・・・とりあえず、某3期メンバーが重要なチョイ役で出てきます(w
えりりんって、最近のキャメイのキャラとか見てると、
そのポテンシャルは計り知れないものがあると思ってます。
次の更新にはさらにパワーアップしたえりりんに期待してください。
>>346
レスありがとうございます。
まだまだ時間はかかるでしょうけど、よしこの過去はキッチリ明かしますよ。
これからも続けて、好きだ、と言って貰えるように努力します。
>>347
レスありがとうございます。
自分は「ウワウルシ」というのを飲んでました。あまりにマズいので、最近は全然(ry
「お酢」は初耳でした。早速リンゴ酢を買ってきてガシガシ飲んでます。
貴重な情報を頂き、本当に感謝です。
- 366 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/07/14(水) 07:10
- >>348
レスありがとうございます。
企画のは全部で30分も掛かってないです。あっちを書いてる時も常に(ry
すいません、やっと更新しました。一週間なので一応、近日中ですよね?
>>349
レスありがとうございます。
参加されたんですか?何番?何番?(w
今回の企画は全体的に凄く面白かったと思います。
>>350
レスありがとうございます。
返レスが遅いため、もう解決されてるでしょうが >>351
>>351
レスありがとうございます。
ご親切にどうも。
>>352
読んでいただけたのでせうか?
出来れば感想なども・・・
- 367 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/14(水) 11:09
- 更新お疲れ様です。いつも楽しみにしております。
>立川と昭島の市境辺りで散々迷い、ようやく16号線に辿り着いた
いきなり地元付近が出てきてびっくりしましたw
大佐は多摩の方なんでしょうか。僕も16号に出るのに迷ったことありますw
- 368 名前:349 投稿日:2004/07/14(水) 18:47
- 更新乙です。
大佐から聞かれるとはありがたや、勢いでマジレスをw
ここと主役二人が全く同じキャストの奴です、話はふざけてますが。
スレも見ていただきたいな〜なんて・・・すみません、贅沢言い過ぎました。
- 369 名前:山田雅樹 投稿日:2004/07/14(水) 22:24
- トリロジーにエクリプスか。やってくれるな大佐w
その小ネタが分かるのは俺以外に何人いると思ってるんだ?w
って事はクラブ『DD』というのはダブルディーラーだったのか?
二つの短編はこれでもかというくらいの直球だしな。
そう考えるとまた楽しみが増えたよ。あ、あと高崎もw
- 370 名前:捨てペンギン 投稿日:2004/07/16(金) 01:11
- まずは、御回復おめでとうございます
そうなんですよね、実速とメーターは超高速になると10kmは平気でずれるんですよね
でも、よく御存知ですよね
今回は吉澤さんの過去がわかるのでしょうか?
続きを楽しみにしています
- 371 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/16(金) 20:21
- 更新お疲れ様です。
ついに動き出しましたね!
この後の展開がどうなってしまうのか、、心配でたまりません。。
- 372 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/16(金) 20:23
- うわぁぁぁあ、ageてしまった!
申し訳ありません!!!本当にごめんなさい。。
- 373 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/17(土) 02:43
- 大佐 一人一人にレスを返すのがつらくなったらしなくてもいいからね
今はレス返すの楽しいのかもしれないから「何言ってるんだコイツ?」とか思うかもしれないけど
レス返すのが苦痛になって止めた奴結構いるから
あんまり律儀に返してるからちょっと気になって
- 374 名前:345 投稿日:2004/08/01(日) 12:17
- 久しぶりに来たら更新されていたのでしっかりと読ませて
頂きました。お体は大丈夫でしょうか?乙です。
これから色々な展開がありそうですね。
最近えりさゆのコンビが好きなので絡みを期待しています。
- 375 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:26
-
***
「・・・吉澤さん、電話鳴ってますよ・・・」
「・・・ん・・・」
「ん、じゃなくて。早く出ないと。」
「・・・」
「よ し ざ わ さ ん !」
「・・・うーん・・・代わりに出て・・・」
「そんな訳にはいきませんよ。早く起きてください。」
「・・・ったく・・・折角の休みだっていうのに・・・朝っぱらから・・・どこのバカだ・・・」
後ろから肩を揺すられ一頻り文句を並べた吉澤は、目を擦りながらゆっくりと寝返りをうつ。
向かい合った目の前の絵里に少し微笑みかけて、大きく伸びをした。
「何時? ちぇっ、まだ9時半じゃないか。今日は昼まで寝ようと思ってたのに。」
鳴り止まない電話に一瞥をくれると、ようやく上半身を起こす。
エアコンのスイッチを入れてから、モソモソとベッドを抜け出し、コードレスの受話器を拾い上げた。
不機嫌そのものの低い小さな声で、はい、と呟いた後、すぐに口調が親しげなものに変わる。
どうやら電話をかけてきたのは母親らしい。
忘れてた、とか、久し振りの休みなのに、といった言葉が吉澤の口から出るのを
絵里は布団にくるまったまま聞いていた。
電話が長くなりそうなので、ベッドから降りてフリースを羽織り、湯を沸かすためキッチンに向かう。
二人分のココアを入れ、自分のカップは少し砂糖を多くして甘めに作る。
大きい方のマグカップを吉澤の前に置くと、絵里はダイニングテーブルに座り、
熱いココアを啜りながら電話が終わるのを待った。
- 376 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:28
-
「お母さんからだったんですか?」
電話を切って受話器をベッドに放り投げる吉澤に絵里が尋ねる。
「そう。」
絵里が入れてくれたココアのカップを持ち、一口飲みながら立ち上がった吉澤は絵里の向かいに座る。
「今日はお前と二人でゴロゴロしようと思ってたんだけど、ちょっと家に帰ってくる。」
「何かあったんですか?」
「や、たいした事じゃないんだけど、前に用事を言われてたのをコロッと忘れててさ。
頼むから今日中になんとかしてくれって。」
「そう・・・ですか。それじゃ仕方ないですね。」
少し残念そうに絵里が俯く。
「・・・悪ィな。・・・お前はどうする?」
元々、今日の休みは吉澤と一緒に過ごすつもりでいたので、他の予定など全くない。
少し考えた絵里は遠慮気味に顔を上げた。
「あの・・・もし吉澤さんが良ければ、ですけど。」
「うん。何?」
「よくここに泊めてもらってるし、お礼の意味も込めて、掃除をしようかなぁって。」
「・・・ホントに?」
吉澤が驚きの表情を見せる。
「ダメですか?」
「や、全然ダメじゃないよ。寧ろ大歓迎なんだけど、折角の久し振りの休みに俺の部屋の掃除なんて・・・
おめぇはホントにそれでいいのか?」
「もちろんです。吉澤さんが帰ってくるまでにピカピカにしときますよ。」
「マジで? それは凄ぇ助かる。そういえば、もう長いこと掃除機かけてない。」
二人はココアを飲みながら暫しの間、大声で笑った。
- 377 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:28
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簡単な朝食をとり、身支度を終えた吉澤を絵里は玄関まで見送る。
「じゃ、ホントにゴメン。遅くても夕方には帰ってくるよ。」
「気にしないで下さい。好きでやるんですし。それよりお母さんのお手伝い、ちゃんとするんですよ?」
「なんだよ、偉そうに。」
一緒に居られない事と、掃除をしてもらう事の二重の意味で申し訳なく思っていた吉澤は
絵里の言い回しによって随分と救われ、ハハハ、と笑い声を上げる。
挨拶代わりになっている恒例の尻撫でを今日は少し長めに行い、軽く手を振ってから出かけて行った。
吉澤の部屋で一人になった絵里は、とりあえずベッドに直行し、布団に潜り込む。
いくら部屋が広いといっても、時間は充分にあるし焦る事はない。
暫くの間ゴロゴロと寝返りをして、ベッドの端から端までを何回か往復する。
話し相手がいなくなると、どうしてもいろんな事を思い出し、考えてしまう。
あの日、スタジオで見た美貴の後ろ姿。
そこから始まったこの事件は、絵里の想像を遙かに超えて意外な展開をみせている。
昨夜は本当に、ギリギリのところで石川と辻を救えた。
それ自体は非常に喜ばしい事なのだが、絵里の頭の中は吉澤のことで一杯だった。
帰りの車の中で見せて貰った携帯の画面には、ガラスのビンが写っていた。
美貴が取り違えたバッグに入っていたビンと、一見する限り同じ形状のものだ。
普通に考えると、吉澤とそのコカインディーリングの組織とは何らかの形で繋がっていることになる。
吉澤の過去に何があったのか、どうしても知りたいと思う気持ちと、
逆に知ってしまうのが怖い、という複雑な心理状態に陥っていた。
その後夜食に食べた旨いと評判のラーメンは、全く味がしなかった程だ。
- 378 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:30
-
(そういえば、晩ごはんどうするんだろう? 夕方に帰ってくるって事は食べてこないんだよね・・・
あたしが作ろうかな・・・掃除をして料理を作って・・・なんか奥さんみたいだ・・・よし、こうしちゃいられない)
いくら考えても答えなんか出せる訳がない。それならば、今は頭を空にして一生懸命掃除をしよう。
絵里はそう自分に言い聞かせて、勢いよくベッドから立ち上がった。
人の家を掃除するという事は、やってみると意外に難しい。
乱雑に置かれている物の中で、絵里にとってはゴミ同然の雑誌などでも、簡単に捨てる訳にはいかない。
当たり前のことだが、何がいらない物で、どれが大切な物なのかの区別をつけるのはかなり難しい。
とりあえず、空き瓶や空き缶などを捨てるところから始めて、小物や雑誌に関しては整理するにとどめた。
一通り拭き掃除をして家具などの埃を落とした後、掃除機をかけ、フローリングの床を雑巾で丁寧に拭いていく。
途中適当に休憩を挟みながら、それでも昼過ぎには部屋の中の雑巾がけを全て終えた。
満足そうな表情で部屋を見渡した絵里はそこで一旦掃除を打ち切り、今度は夕食の買い出しに行く。
冷蔵庫に満足な食材が入ってない事は一昨日の夜から承知しているので、近くのスーパーに出かけた。
今晩の献立をシチューに決め、必要な肉や野菜を買い揃える。
最後にフランスパンを買った絵里は、僅か30分程で部屋に帰ってきた。
(あとは・・・料理の下ごしらえをして・・・窓拭きと水回りか・・・まだ結構あるな・・・)
じゃがいもの皮を剥き適当な大きさに切ったところで、鍋を探すためにシンク下の扉を開けた。
最初に目についた鍋はどう考えても大きすぎる。その場にしゃがんだ絵里は、戸棚の奥を覗き込んだ。
(なんだろう・・・写真立て・・・?)
そこにはサービスサイズの写真が入るくらいの、小さなフォトフレームが裏向きにして置かれていた。
常識で考えると、そんなものを仕舞っておく場所ではない。鍋やらフライパン等を入れる所だ。
特別な意味があるとは思わずにそれを手に取った絵里は、表にひっくり返してみた。
- 379 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:31
-
絵里の思考が一瞬停止し、その分を取り戻すかのように突然フル回転を始める。
その写真には二人の女の子が写っていた。一人は間違いなく若かりし頃の吉澤だ。
隣で吉澤に肩を組まれ、爽やかな笑顔でvサインをしているのは、後藤真希そっくりの少女だった。
体育祭の途中に撮られたスナップだろうか、二人ともゼッケンの付いた体操服を着ている。
後ろにそれらしきロケーションが確認できる。場所はおそらく吉澤の出身中学のグラウンドだろう。
(何故この写真がこんな所に置いてあったんだろう・・・?
・・・しかし・・・この人・・・後藤さんによく似ている・・・本人だろうか・・・?)
絵里がこの彼女を後藤本人と思わない理由はただ一つ、吉澤よりも若干ではあるがこの子の方が背が高い。
それくらい顔は酷似している。現実ではおそらく吉澤の方が後藤よりも5〜6センチ高い筈だ。
写真はミディアムショット、つまり上半身しか写ってないが、この状況で彼女だけ厚底を履いているとか、
何かの上に乗っているというのは考えにくい。同条件、と見るのが自然だろう。
いろんな事を考えながら写真立てを元の位置に戻そうとした時、不意に裏蓋が大きくスライドした。
ストッパーのネジが緩んでいたのだろうか、慌てた絵里が手を止めると、
慣性で本体部分が滑っていき、完全に外れて落ちてしまった。
露わになった写真の裏面を見た絵里は、また考え込んでしまう。
そこには青いインクで『1999.5.21 with MAKI』と書かれていた。
(・・・ウィズ・・・マキ・・・やっぱり後藤さんなのか・・・この頃の吉澤さんって背が低かったんだ・・・
でも何故これを隠す必要がある・・・? 見られて困る写真じゃないし、普通に飾っておけばいいのに・・・)
裏蓋を元に戻してゆっくりと立ち上がった絵里は、じゃがいもを見て思い出し、また手頃な鍋を探し始めた。
- 380 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:32
-
シチューの仕込みは完璧に終え、後はコトコト煮込むだけだ。
ごはんよりもパンが好きな吉澤のために、輪切りにしたフランスパンでカナッペを作る。
サラダは吉澤が帰ってきてからでいい。一通り夕食の準備は出来たので、また掃除の続きに取り掛かる。
窓拭きはまず大雑把に汚れを落とし、あとから繊維の細かいクロスで二度拭きをする。
するとまるでガラスが嵌ってないかのような透明感が蘇ってきた。
トイレはそんなに汚れてなかったので、大して時間は掛からなかった。
最後に洗面所を綺麗にして、ようやく掃除を終える。
埃まみれになって少し汗もかいたので、絵里はシャワーを浴びる事にした。
ついでにバスルームも掃除すれば一石二鳥だ。グッドアイディアに鼻歌を歌いながら服を脱ぎ始めた。
時間を掛けてシャワーを浴び、風呂場の掃除を終えた絵里は、素肌にバスタオルを巻いて出てきた。
4時少し前になっていたが、吉澤はまだ帰ってきていない。猛烈に喉の渇きを覚えた絵里は冷蔵庫を開ける。
(しまった・・・お茶買ってくるの忘れた・・・ビールしかないや・・・ま、いいか・・・一本頂きます・・・)
コロナを取り出した絵里は一口飲んでみる。前ほどの苦みは感じられず、一気に飲み干してしまった。
喉の渇きは治まったが、すぐに顔が熱くなり、目が回り始めてきた。
「・・・ダメだ・・・酔った・・・やっぱりビールはビールだ・・・」
服を着る余裕も無いまま、バスタオル一枚の絵里はベッドに倒れ込む。
吉澤から電話があると困るので、自分の携帯は枕元に持って行った。
目を閉じると、意識全体が心臓になったかのような錯覚でバクバクと音を立てる。
酔いが醒めるまでの少しの時間、横になってるつもりだったのに、
最近緊張し通しだった事や日頃の寝不足も手伝って、すぐに絵里は眠りに落ちてしまった。
- 381 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:32
-
「・・・ただいま・・・」
当初の予定よりもかなり遅くなった吉澤が帰ってきたのは6時半だった。
ドアを開けると部屋の中は真っ暗で、気配が全く感じられない。
しかし玄関には絵里の靴があるので、何も言わずに帰ってしまったという事はないだろう。
首をひねりながら明かりを付けた吉澤は、目を丸くする。
朝の状態から考えると、本当に同じ部屋かと思うくらい綺麗になっていた。
床の隅の方にはうっすらと埃が積もっていたのに、絵里の言葉通り今はピカピカに輝いている。
嬉しくなって色んな所を見て回る。鍋の中身も覗いた。
一本だけコロナの空き瓶がキッチンに残っていたのが不思議だったが、
他は文句の付けようがない完璧な仕事ぶりであった。
すぐにでも絵里に感謝の気持ちを伝えたいのだが、どうやら当の本人は眠っているようだ。
規則正しい寝息をたてていた絵里が大きく寝返りをうつ。肩から背中にかけての素肌がチラッと見えた。
(・・・あれ・・・コイツ・・・裸・・・?)
恥ずかしがり屋の絵里が裸で寝てるなんて珍しい。吉澤は羽毛布団を少しだけ捲ってみる。
素っ裸の足下にバスタオルが丸まった状態で落ちているのを見て、大体の想像はついた。
(酔い潰れて寝てしまったか・・・たかが一本のコロナで・・・まだ子供だな・・・)
優しく微笑んだ吉澤はその場で自分も素っ裸になり、電気を消してゆっくりとベッドに潜り込んだ。
- 382 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:33
-
目が覚めた絵里が今の状況を把握するのに、かなりの時間がかかってしまった。
頭が重く、脳が考える事を拒否してるような感じだった。顔も随分と浮腫んでる気がする。
(・・・そうか・・・ビール飲んで・・・眠ってしまったんだ・・・)
携帯の時計は丁度9時になろうとしていた。
ベッドに入ったのが確か4時頃だったので、5時間も眠っていたことになる。
そのとき身体に巻いていたバスタオルは既にどこかにいってしまっていた。
そして、眠る前と違う所がもう一つ。裸の吉澤が隣で軽くイビキをかいている。
二人とも同じ方を向いて、後ろから抱きしめられている状態なので顔は確認出来ないが
目の前の白いしなやかな腕が、吉澤である事を証明している。
裸同士で触れ合う肌の感触が、これ以上無いくらい気持ちいい。
すべすべで、しっとりとしていて、何とも形容し難い柔らかさに感動し、
肌理の細かいセルロイドのような吉澤の素肌を身体全体で堪能する。
「・・・吉澤さん?」
軽く呼びかけてみても全く反応がないので、後ろから伸びてきている腕にくちびるをそっと押し当てる。
テンションが妙に上がって次の行動に移ろうとした時、絵里の携帯が鳴った。
素早く手を伸ばし液晶を確認すると、さゆみからのコールだった。
吉澤を起こさないよう、出来るだけ小さい声で電話に出る。
- 383 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:34
-
「どうしたの?」
『えり、今いい?』
「いいよ。あまり大きな声は出せない状況だけど。」
『・・・偶然ね。あたしも同じ状況なの。』
そんな時に電話を掛けてくるな、と突っ込みたかったが口には出さない。
「で、どうしたのよ?」
『今の、この気持ちをどうしても誰かに伝えたくて。それにはえりがピッタリなの。』
弾んでる感じなのに、声の大きさを抑えて喋っているので、それが変にくすぐったい。
「ふーん。で、何?」
『へへ。今あたし、マッパなの。そしてあたしの隣にはマッパのミキさんがグウグウ眠ってるの。』
「!」
『えり、どうかした?』
「・・・マジで? あたしと全く同じじゃない・・・」
思わず大きな声が出そうになるのをグッと我慢する。
『は? えりの隣にもマッパのミキさんが寝てるって言うの?』
「バカ。藤本さん、何人いるのよ。そんな訳ないでしょ?」
『全く同じって?』
「・・・あたしも今マッパで、隣にはマッパの吉澤さんがグウグウ寝てる。」
『マジで!?』
静かな会話の中で突然声が大きくなり、絵里は慌てて携帯を耳から離す。
どうやらさゆみの方はこの展開に我慢しきれなかったらしい。
「さゆ、声おっきいよ。藤本さん、起きるよ?」
『・・・ゴメン。でも凄い偶然。・・・何か、あたし達の接点って運命的なモノを感じるよね。』
(・・・接点? ・・・なんだろう・・・つい最近、この言葉を頭の中で探してた気がする・・・)
- 384 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:34
-
さゆみとの会話中に、突然絵里の思考は別の次元に吹っ飛ぶ。
この感じなら霧が晴れるように思い付く事の方が多いのだが、さっき飲んだビールがそれを阻んでいるらしい。
もどかしい思いを堪えながら、必死に脳の中の色々な引き出しを開けてみるが、欲しい答えは入っていない。
電話の向こうからの呼びかけに、なかなか戻ってくる事が出来ないでいた。
『・・・もし。えり? もしもーし。どうしたの?』
「あ? あぁ、ゴメン。なんか電波の状態が悪いみたい。」
『もう。とかなんとか言いながら、吉澤さんとの余韻を楽しんでたんじゃないの?』
「余韻?」
『あたしなんて、もう痺れっぱなし。分かるでしょ? 身体全部がバクバクいって。』
「あぁ、さゆもビールの一気飲み?」
『は? ビール? えり、何言ってんの?』
「えっ、違うの? じゃ何でバクバクいってんのよ?」
『・・・ミキさんとのエッチに決まってるじゃない。えり、大丈夫?』
「エッチ!」
その部分だけ一層小声になったさゆみに対して、今度は絵里が叫ぶような大声を出してしまった。
「したの?」
『したよ。もちろん。ミキさん、すっごく可愛いの。えりもしたんでしょ?』
「・・・してない。」
『何でよ? マッパなんでしょ? 吉澤さんもマッパで寝てるんでしょ? 何やってんの?』
「だって、さっき起きたとこだもん。ってゆうか、アンタこそどうなってるのよ。いつの間に?」
『へへ。昨日ちょっとそういう雰囲気になって、今日ミキさんの部屋に招待されたの。』
「ふぅーん。ってか、アンタいつから藤本さんのコト、美貴さんって呼んでるのよ?」
『つい最近だと思う。れいながそう呼んでるのを聞いて、負けてられないって。
でもエッチの時はミキさんのコト、ミキって呼ぶよ。』
「マジで!?」
『えり、声おっきいよ。吉澤さん、起きるよ?』
ついさっき自分が言ったフレーズを、そっくりそのままさゆみに返されてしまう。
かなり興奮してる絵里の頭から、あれ程気になっていた『接点』というキーワードが
現時点では完全に消え失せていた。
- 385 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:36
-
「で? で? どうだったの?」
『何が?』
「エッチって、どんな感じだった?」
『そりゃ、もう、死んでもいいと思うくらい、気持ちいいの。』
「へぇーっ、いいなぁ。・・・アレ? ってゆうか。」
『何?』
「さゆ、さっき美貴さんの部屋って言わなかった?」
『言ったよ。』
「藤本さん、病院じゃないの?」
『あ、まだ皆、知らないんだ。ミキさんは今朝退院して、家にいるよ。
リハビリが順調に行けば、十日後くらいには復帰してレコーディングするんだって。
本格合流は二週間後って言ってたの。』
「そっか、良かったね。」
『リハビリは完璧なの。さっきまでのミキさんを見れば、明日にでも復帰出来ると思う。』
「ハハハ。スケベさゆ。」
『うるさい。あっ、ミキさんが起きた。じゃ、えりも頑張って。また明日。』
「あっ、うん。おやすみ。」
もっと色々話を聞きたかったのに、電話は突然切れてしまった。
目覚めた美貴とまたするのだろうか。眠ってる相手の腕にキスをしたくらいで浮かれてる場合じゃない。
さゆみに先を越されて悔しいとは思わないが、正直羨ましいというのはあった。
吉澤の気配に変化はない。折角のこの状況なので絵里はまず、向かい合う事を目標にする。
起こさないように神経を使い、ゆっくりと少しずつ、動いていく。
吉澤の右手が自分の肩に被さってる状態なので、大きく姿勢を変える事が出来ない。
仰向けになるまで約5分、完全に身体が吉澤の方を向くのに、さらに3分くらいの時間が掛かった。
- 386 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:37
-
約10センチ。何度もこのくらいの距離で吉澤の顔を眺めているが、今日はやけにドキドキする。
先程のさゆみとの電話が、絵里の心理状態を微妙に変えているのは明らかだ。
絵里は少し頭を持ち上げてから、吉澤のくちびるに狙いを定め、首を伸ばす。
愛してる、と呟いた後、ゆっくりと顔を近づける。しかし、キスをする寸前、
くちびるに触れるか触れないかのギリギリの所で思い直し、頬にキスする場所を変更する。
自分からキスをする、という行為によって完全に絵里に火がついてしまい、
鼻とか耳にキスの雨を降らせる。額や瞼にもくちびるを押しつけ、髪は口に含むようにしてキスする。
吉澤の状態に変化がないのをいい事に、首筋や肩、とにかく自分の顔が届く範囲には全て口づけをした。
少しずつ、絵里は身体を下にずらしていく。
胸にキスをしたいが、今のままの体勢では届かない。
しかし、ずっと無理な姿勢が続いたので、下になってる右手が痺れてきてしまった。
そこで絵里の動きが暫く止まる。
「続きは?」
目を閉じたままの吉澤が、突然語りかけてきた。
その瞬間、絵里は心臓が口から飛び出しそうな感じがして、目の前が真っ白になる。
「・・・お、起きてたんですか?」
恐る恐る、掠れた声で聞く。
「うん。気持ちよかった。」
「・・・ど、どこら辺から・・・起きてたんですか?」
つい、どもり口調になってしまう。
吉澤が起きそうになった時は、自分が寝たふりをしようと思ってたのに、完全に不意をつかれた形だ。
「どこら辺だろう? あっ、あんたいつから藤本さんの事美貴さんって呼んでるの、のあたり。」
「そ・・・そんな前から!?」
「ハハハ。スマン。でもさ、何でくちびるにはキスしてくれないんだ? 待ってたのに。」
「だって・・・眠ってる正体不明の人にキスするって、なんかズルいじゃないですか。
それに・・・想い出はちゃんと共有したいし・・・」
「じゃ、共有しよう。」
ニッコリと笑った吉澤は素早く絵里に覆い被さり、濃厚なキスを始めた。
- 387 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:38
-
待ち焦がれた、吉澤とのキスは文字通り夢心地だった。
全てを忘れられ、さっきのさゆみではないが、本当に死んでもいいと思えるくらい幸せだった。
感動した絵里の目尻から一筋の涙が流れる。
「泣くなよ。キスくらいで。」
「・・・だって・・・嬉しくて・・・」
「あ、そうそう。掃除、どうもありがとう。ビックリした。俺の部屋じゃないみたい。」
「良かったです。喜んで貰えて。」
「で、このままキスとか、その先を続けててもいいんだけど。」
吉澤はそう言いながら絵里の小さな胸に手をあてる。吉澤に胸を揉まれたりした事は何回もあるが、
それは全部服の上からで、直接触られるのは初めてだったので、絵里の身体に少し力が入る。
「はい?」
「先に豚汁、食おうぜ。」
「豚汁?」
「あれ、作ってくれたんじゃないの? あの鍋の中身。」
「豚汁じゃなくて、シチューですよ! そんな事言うなら食べさせてあげない。」
「ハハハ。嘘、冗談です。ゴメンなさい。俺、腹減って。」
「分かりましたよ。温めるから、少し待って下さい。」
絵里はベッドから出ようとして、ふと思い出したように動きが止まる。
「どした?」
「・・・あたし、マッパなんです・・・」
「知ってるよ。帰ってきた時、布団捲ってじっくり隅々まで見たし。」
「マジですか?」
「うん。いいじゃないか、別に。愛し合ってる者同士。減るもんじゃないし。」
その言葉が妙に心に響き、絵里の殻が少し溶ける。
「や、いいんですけど。寒いじゃないですか。」
照れ笑いを浮かべ、自分から吉澤にキスした絵里は真っ裸のまま、ベッドを降りていった。
- 388 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:40
-
「どうですか?」
絵里特製のシチューを一口食べた吉澤に、不安そうな表情で尋ねる。
勿論今は二人ともちゃんと服を着て、食卓についている。
「・・・旨い・・・のか? いや、旨い。ん? ってゆうか。」
「・・・ヤバい?」
「うーん・・・コレ、味見した?」
「まだです。」
絵里は慌ててスプーンを持ち、一口啜ってみる。
「ゲッ、なんだ、コリャ。」
「ってゆうか、味付けした?」
「味付けって?」
「そりゃ、塩とか、コショウとか。」
「・・・全然。」
「それだ。」
苦笑いの吉澤はパチン、と指を鳴らす。
「すいません、あと5分待って下さい。やり直します。」
やけくそ気味の笑い声を上げた絵里は、テーブルをバン、と叩き反動で勢いよく立ち上がった。
「ところでさ、明日の特番なんだけど。」
調味料を並べ、必死に鍋と格闘している絵里の背中に語りかける。
「はい?」
「予定聞いた? ランスルー終わってから本番まで、なんであんなに時間空いてるんだろう。
それならランスルーをもっと遅く始めればいいのに。」
そうすれば自分達の集合時間も遅くなり、朝ゆっくり出来るのに、と言いたげだった。
「飯田さんが言ってました。某共演者の都合らしいですよ。」
「某共演者? 誰だ、そのバカは?」
「や、そこまで聞いてません。多分、飯田さんも知らないんじゃないですか?」
「ふーん。ま、いっか。明日はごっちんも出演するし、ゆっくり会うの久し振りだもんな。」
(後藤真希! ・・・そうか、思い出した!)
ずっと霧の中でもがいていたような絵里の思考回路は、後藤の名前を聞いた瞬間、正常な作動をしはじめた。
- 389 名前:_ 投稿日:2004/08/19(木) 03:41
-
(吉澤さんと後藤さんの接点って何だ? モーニング娘。じゃないか。
吉澤さんが娘。に入ったのが・・・2000年の春・・・これは絶対間違いない。・・・と、いう事は・・・
あの写真の裏に書いてあった99年5月というのは、まだ二人の接点は無い事になる・・・
二人は以前から知り合いだった? や、そんな話は聞いた事がない。
つまり、あの写真の人は・・・後藤さんによく似た別人だ・・・)
「ぁん。」
いつの間にかピッタリ後ろに立っていた吉澤に突然胸を揉まれ、絵里は持っていたお玉を落としそうになる。
「どした? ボーッとして。いくら呼んでも全然反応しないし。」
「や、ゴメンなさい。・・・あ、シチュー、出来ました。今度こそ完璧です。」
「そりゃ良かった。もう腹減って死にそうなんだよね。」
ウワの空になっていた絵里を特別気にする様子も無く、吉澤はおとなしくテーブルに戻る。
絵里は写真の事を聞くべきどうかを迷いながら、シチュー皿を吉澤の前に置く。
「うん、旨い!」
一口食べた吉澤がとびきりの笑顔になる。
もの凄い勢いで食べ始める吉澤を、絵里は複雑な笑顔で見つめていた。
(この部屋に来るのはあたしだけだ。他のメンバーは吉澤さんがここを借りてるって事すら知らない・・・
写真でもなんでも好きに飾ればいい筈だ。そして、あたしは今、吉澤さんと多くの秘密を共有している。
そのあたしに見られたくなくて隠してるっていう事は・・・やはり写真の事は聞くべきではない・・・)
「お願いがあります。」
食事を終え、くつろぐ吉澤に真剣な表情で絵里が囁く。
「おう、なんでも。お前にはお礼をしなきゃバチがあたる。」
「・・・」
「何、どした?」
「・・・抱いてほしい。」
全てを忘れて頭を空にしたい絵里は、目を潤ませながら吉澤を押し倒し、激しくくちびるを求めた。
- 390 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/08/19(木) 03:47
- 今日はここまでです。
遂に、結石破砕手術を受けました。心配してくれた方、どうもありがとう。
とりあえず健康面での不安が無くなったので、これからは更新ペースを上げていきたいです。
今は完全に月1ペースになってますが、遅くとも月に2〜3回は更新出来るよう頑張ります。
- 391 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/08/19(木) 03:51
- >>367
レスありがとうございます。
残念ながら、自分が住んでるのは関西です。立川で迷った事があるというのは事実ですが。
地元の方でも迷った事があると聞いて少しほっとしました。なにしろ自分は強烈な方向音痴なので。
これからもよろしくお願いします。
>>368
レスありがとうございます。
マジですか?あの精力的な活動をしてる方?
金の作品は読んでました。面白かったです。他はまだ読めてませんが時間をみつけて、必ず。
個人的には他の場所で書いてるという作品を読んでみたいのですが。
>>369
レスありがとうございます。
お久しぶりで。インドはどうでしたか?すいません、完結はまだまだ先のようです(w
初めて『DD』を見た時、頭に浮かんだのはドンドッケンですね。ダブルディーラーじゃないです(w
今回の更新はネタを入れる所が無かったのですが、また読んで頂きたく。
- 392 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/08/19(木) 03:53
- >>370
レスありがとうございます。
ようやく完全な回復を致しました。あの病気って痛い時と普通の時の差がありすぎるんですよ。
ご心配をかけました。どうもすいません。
吉澤の過去はもすこし先になりますので、これからもお付き合いのほどを。
>>371
レスありがとうございます。
この人達が動くのはそんなに頻繁ではないのですが。
自分の中ではジェットコースターの展開を目指してますが(w なにぶん更新が遅いため、
スピード感が全然ないですよね。頑張って書いていきたいと思います。
>>372
全然問題ありません。
申し訳ないのですが、あがってた時の状態を知らないので。
今はまたいい感じの位置にいます(w
- 393 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/08/19(木) 03:57
- >>373
レスありがとうございます。
言われてる事はよく分かりますし、返レスが苦手な作者がいるという事も勿論理解出来ます。
でも自分の場合は好きでやってるので、ご心配には及びません。
不規則な更新ですけど必ず完結させますので、最後まで見ててください。
>>374
レスありがとうございます。
やっと大丈夫になりました(w ご心配頂き、感謝です。
自分もえりさゆ大好きです。まぁ自分の場合は好きなCPは他にも色々あるのですが(w
今回はそれぞれ別カプで、電話での会話だけですが、またドンドン絡んでいきます。
- 394 名前:349 投稿日:2004/08/19(木) 21:33
- 読んでいてくださったとは・・・物凄く嬉しいですね。
読んでいただければすごく嬉しいですけど、無理に読まなくてもいいですよ?
本当に時間に余裕があるときにでもどうぞ。
羊のは今日ちょうど過去ログでHTML化されたものが小説総合スレッドに
貼って頂いたのでこれも時間があったら、どうぞ。
長々と失礼しました。
- 395 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/19(木) 21:58
- うぉーー!!!
再開まってました!
- 396 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/20(金) 01:01
- ぬをぉおぉ〜!やったのか?やっちまったのか?えりもバクバクいってるのかぁぁぁ!
すいません、取り乱しました。
いろんな所にいろんな仕掛けがしてあって、つい何回も読んでしまいます。
これからはペースアップされるとの事。期待してますが、無理せず頑張ってください。
- 397 名前:プリン 投稿日:2004/08/21(土) 13:31
- 更新お疲れ様です!!
待ってましたよ♪
手術無事に終わったんですか。よかったよかった。
キャメイー!!!!!
つ、ついにぃぃぃー。(ヲイ
続きが激しく気になりますね(w
無理せず、マイペースに頑張ってくださいねー。
- 398 名前:名無し野郎 投稿日:2004/08/22(日) 09:54
- 更新乙&体調復活オメ!
壮大な展開になってキタ!亀井(*´Д`)ハーン
次もがんばれ
- 399 名前:345 投稿日:2004/08/26(木) 01:24
- 更新乙です。
別の意味でえりさゆの絡みがありましたねw
道重の「マッパ」という発言と絵里りんの「抱いて欲しい」という発言を
想像したらこっちもバクバクしました。
謎が深まるばかりですがこれからの展開に期待してます。
あせらずゆっくり頑張ってください。
- 400 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/31(火) 06:17
- >>180-200 >>280-300
- 401 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/09/09(木) 19:26
- 【おわび】
もうしわけあ
- 402 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/09/09(木) 19:32
- 申し訳ありません。
HDあぼーんのため、少し時間を下さい。
>>390で更新ペースを上げると書いておきながら一回も果たせませんでした。
次回更新はかなり先になるかもしれませんが、必ず戻ってきます。
- 403 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/10(金) 01:33
- マジですか…非常に残念ですけど続きが読めるならいくらでも待ちますよ
スレの整理終わったばかりだししばらくは倉庫送りもないと思います
必ず帰ってきてください…いつまでもお待ちしてます
- 404 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/10(金) 03:54
- _| ̄|○
待ってます・・・
- 405 名前:名無し読者 投稿日:2004/10/16(土) 00:49
- 保全
- 406 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/19(火) 15:17
- 作者さんの納得のいくものが書けることを祈ってます
時間がかかっても待っているので、生存報告だけでもお願いします
- 407 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/19(火) 16:47
- ↑企画でカムアウが
- 408 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/25(月) 17:47
- え、それってどういう意味ですか?>>407
- 409 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/25(月) 19:03
- >>408 企画に出てて、生存報告がカムアウであった
- 410 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/25(月) 23:39
- ↑大佐は以前にも企画参加されてるから別人でしょ
- 411 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/26(火) 16:24
- http://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/imp/1080059929/401
はい。
スレ汚しだしこれ以上は書かないけど。
- 412 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/10/26(火) 20:11
- とりあえず放置はしないのなよかった
- 413 名前:_ 投稿日:2004/11/03(水) 00:36
-
***
柔らかな朝の光が、カーテンの隙間から部屋の中程まで真っ直ぐに伸びてきている。
最近電池を入れ替えたばかりの目覚まし時計が、午前9時を示して正確に鳴り始めた。
キッチンに立ち昨日のシチューの残りを温めていた吉澤が、それを聞いてベッドの方を振り返る。
ぐっすり眠っている絵里は、目覚ましのアラームに全く反応しない。
コンロの火を止めた吉澤はベッドに歩み寄り、絵里の寝ているすぐ側に勢いを付けて飛び乗った。
「起きろー。」
「・・・」
「亀井、9時だぞ。」
「・・・」
大きな声での呼び掛けにも微動だにしないので、吉澤は掛け布団と毛布をバサッと捲る。
真っ裸で眠っている絵里の上半身が露わになって、うぅーん、と声を漏らすが、それでも起きる気配はない。
毛布を引っ張ると同時に身体をエビ状に丸め、ズリズリと下がっていく。
「おい、もう9時回ってるぞ。」
吉澤は絵里の背後から手を回し、胸を弄る。
中指の先でリズミカルにつつくと、その度に、ぁん、と艶めかしく喘ぐ。
「遅刻するぞ。」
「・・・うーん。」
「起きたか?」
薄く目を開けた絵里がこっくり頷き、吉澤の首に両腕を絡め引き寄せた。
「・・・ちゅう。」
「は?」
「・・・チュウしてくれなきゃ、起きないもん。」
「この野郎、甘えやがって。」
そう言いながらも吉澤は笑顔で絵里のリクエストに応える。
最初、チュッと短くキスをした後、暫くの間二人は深く舌を絡め合わせた。
「・・・きもちいい。」
エヘヘ、と笑った絵里は、少しはにかんだような吉澤の表情を見て、自分も頬を真っ赤に染めた。
脳が少しずつ覚醒してくると、昨夜の出来事を段々と思い出し、嬉しさと恥ずかしさが微妙に混じり始める。
照れ隠しのため咄嗟に吉澤に抱き付くと、また身体の芯から熱いものが込み上げる感覚に陥った。
- 414 名前:_ 投稿日:2004/11/03(水) 00:37
-
「おはようございます。」
「おはよう。やっと目が覚めたか?」
「はい。吉澤さん、今日は早いんですね。」
「ハハハ。そうだな。いつも俺が起こされてたもんな。」
「髪の毛もちゃんとなってる。」
「だって、もうシャワー浴びたし。」
吉澤は絵里に添い寝する体勢で、しなやかな指先は絵里の髪を撫で続ける。
「え? もしかして眠れなかったんですか?」
「誰かが、激しいから。」
「・・・あっ、あたし?」
その言葉の意味を理解したまた絵里は、また耳まで真っ赤にして両手で顔を覆う。
「なんか、興奮しちゃって細かい所までよく覚えてないんですけど、あたし、そんなに凄かったんですか?」
「覚えてないの? あんなにメチャメチャに乱れてたのに。」
「・・・マジですか?」
「ダメ、と、もっと、を交互に200回くらい繰り返してた。」
「・・・」
「お陰で一睡もしてない。」
「え、ウソ? ごめんなさい。」
絵里の手を合わせる仕草に、吉澤は笑い声を上げる。
「冗談だよ。ちゃんと眠った。」
「もぉーっ。」
爆笑する吉澤の肩や腕を、絵里はペシペシ叩く。
「乱れてた、ってゆうのは本当っぽいから、マジで吉澤さん、寝られなかったのかと思いました。」
「ハハハ。熟睡すると却って早く目が覚めるもんだ。それに夕方も眠ったし。睡眠たっぷり。」
「良かった。」
「お前もシャワー浴びてこい。メシの用意しとくから。」
「はい。すいません。」
絵里は全裸のままベッドを抜け出し、バスルームへ向かう。
吉澤との初体験は本当に刺激的で、心の底から幸せな気持ちになれたが、
一旦起き上がってしまうと、また現実の日常が待っている。
ずっと吉澤の腕の中で抱かれていたいと絵里が思ったとしても、それは不思議な事ではなかった。
- 415 名前:_ 投稿日:2004/11/03(水) 00:38
-
***
年末が近くなってきて、各テレビ局も段々と特別番組を編成する時期に入りつつある。
勿論歌番組も例外ではない。通常1時間のプログラムが今日は3時間の豪華版で生放送される。
今回はここにモーニング娘。と後藤真希がブッキングされ、現在ランスルーの真っ最中であった。
この番組は生放送であるが故に、他とは違ってリハーサルには特に力を入れている。
先程からインカムを付けたフロアディレクターが大声で指示を出し、ADが忙しそうに走り回っていた。
プログラム自体は本番と同条件で進行されるが、リハに出演者が全員集まる事はない。
自分達の出番だけ参加をすればそれでいい。段取りとトークの内容を打合せ、持ち歌を本番同様に歌う。
オケのサイズは当然決まっているので、大物と呼ばれるアーティストになるとダミーを立てる事もあるが、
娘。達のような大人数のグループにはカット割りの問題がある為、本人参加が必須となっている。
「はい、モーニング娘。さん、OKです。お疲れ様です。」
「ありがとうございました。本番もよろしくお願いします。」
この番組のためだけにアレンジされたスペシャルメドレーを歌い終わり、娘。達はゾロゾロと楽屋に戻る。
「何時? まだ2時過ぎじゃん。矢口、ミーティングどうする?」
列の一番後ろを歩く飯田が、廊下の時計を見上げながら独り言のように呟く。
「どうしよう? いつも通りランスルーの反省会だけでもしよっか?」
すぐ前にいた矢口が振り返り、歩調を飯田に合わせる。
「でもいつもだったら、反省会終わって一息ついた後、さぁ本番、って感じで
気合いも入るんだけど、5時間も空いてるとダレちゃわないかな?」
「そりゃオイラもそう思うけど・・・仕方ないじゃん。とりあえず反省会やって、本番前にもう一回シメれば。」
「うーん、2回もやるの面倒くさいなぁ・・・」
「カヲ、そゆコト言わないの。」
「はーい。」
肩をすぼめ、口をへの字にして笑った飯田は矢口に続いて、最後に楽屋に入っていった。
- 416 名前:_ 投稿日:2004/11/03(水) 00:39
-
「・・・じゃ、そうゆう事で。なにか質問は?」
「あの、本番までこの控室を出ちゃいけない、ってさっき言ってたけど、
ごっちんの楽屋に行くくらいはいいっすよね?」
「大勢でドタドタ行く事は許しません。それなら寧ろ後藤をこっちに呼んで下さい。以上。」
娘。達の恒例になっているランスルーの反省会は、最後に吉澤の質問で幕を閉じた。
飯田にしても、この連中が行儀良くここに5時間も座っているとはハナから思っていない。
それでも最初に甘い顔を見せると歯止めが利かなくなる事もまたよく知っていた。
それぞれが思い思いにくつろぎ、本番までの時間を潰す。
読書組は飯田、矢口、石川、高橋の4人。雑談組は吉澤と絵里、新垣とさゆみとれいなの2つのグループ。
いきなり弁当を食べ始めたのが辻、紺野、小川の3人。
安倍は年明けの卒業を控えて色々と忙しく、リハ終了と同時に別の仕事に出かけてしまっている。
そんな中、一人で考え事をしてた加護がおもむろに立ち上がり、吉澤と絵里に近寄る。
「よっちゃん、ちょっとええかな? 話があるんやけど。」
「・・・どした、怖い顔して?」
「ちょっと付きおうてぇや。悪いな、亀井ちゃん。」
何か言いたそうにチラッと絵里の顔を見た吉澤だったが、加護に腕を引っ張られそのまま静かに部屋を出て行く。
一人になった絵里は、暫く考えた後で二人の後を追うように控室を出た。
加護と吉澤の二人は階段を下りて右に曲がっていく。どうやらスタジオの裏手に行くみたいだ。
それを見届けると絵里は階段を上がっていった。自分達の控室があるフロアの二階上まで来て廊下を進む。
『後藤真希様』と書かれた控室の前に立ち、中の気配を窺う。
ノックをしようか迷ってると、突然ドアが開き後藤が顔を出した。
「おーっ、亀井。何、ビックリするじゃん。」
「あっ、おはようございます。」
「おはよ。何、どしたの? 一人?」
「は、はい。後藤さん、どこか行かれるんですか?」
「や、そこの自販機まで。コーヒー買いに行こうと思って。アンタも飲む?」
「は、はい。」
ニッと笑ったジャージ姿の後藤は、スリッパをぺたぺた鳴らしながら自販機に向かって歩いていった。
- 417 名前:_ 投稿日:2004/11/03(水) 00:40
-
「何、話って?」
「・・・のんが・・・」
「辻?」
「そう。のんがマトモになっとる。」
「・・・」
加護と吉澤の二人は、大道具倉庫の裏にある中庭にいた。
リハが終わればスタッフで一杯になる場所だが、それまでにはまだ30分以上もある。
ランスルーは今も続いていて、その間は誰一人として足を踏み入れる事はない。
「今朝ののん見てビックリしたで。一昨日までとは別人やがな。」
「・・・そ、そうか?」
「石川もや。さっきチラッと喋ったけど、奴も最近のトゲトゲしさが消えとる。」
「・・・で?」
「聞かせてくれへんかな? 奴等に何があったん?」
「・・・知らない、と言えばどうする?」
「アレ、おかしな事言うやんか。こないだ喋った時は確か、今は言えない、やったんちゃうかったっけ?」
無表情の加護は腕組みをしたまま体勢を崩さない。
普段の幼稚園児のような可愛らしさは全く見せず、関西弁の迫力も相当なモノである。
吉澤はこのスイッチの切り替わった加護が苦手だった。
思いつきで何か下手な事を喋って、後で辻褄が合わなくなってしまったら余計泥沼にはまるだけだ。
「・・・ひとつだけ聞かせてくれ。お前はそれを知って、どうする積もりなんだ?」
「どうもせぇへん。」
「・・・は?」
「あいつ等が正しい方に向かってるんやったらウチは何もせぇへんよ。
ただ何が起こってるのか知っときたいだけで。」
「・・・」
「多分、よっちゃんはそのために、ごっつい努力をしてるんやと思う。
けどな、納得いけへん所がふたつみっつあんねん。」
ゆっくりと側のベンチに腰を下ろした加護は、この場所に来てから初めて薄く微笑んだ。
- 418 名前:_ 投稿日:2004/11/03(水) 00:41
-
「納得いかない所・・・例えば?」
「何かを抱えてる、という意味では、やぐっさんがいっこも変わってへん。」
「!」
「田中ちゃんが輝きだしたのに対して、亀井ちゃんがどんどん老けていってる。」
「・・・亀井が?」
「あくまでもウチの感、やけど。」
「・・・」
「そこで、ひとつの仮説を立ててみる事にした。」
「ほう、面白そうだな。」
吉澤は加護の正面に回り込み、地べたに胡座をかいて向かい合った。
「状況を繋ぎ合わせてみるとやな・・・藤本と石川とのんと田中ちゃんで、何か悪さを企んだ。
どんな内容かは分からへんけど、そのリーダーは多分藤本やと思う。
それに気付いたよっちゃんと亀井ちゃんが、二人だけで連中の目を覚まさせた。」
「・・・」
「やぐっさんも何か気付きかけて、よっちゃんに相談したんやけど、こないだのウチと同じ目に遭わせた。
で、藤本はよっちゃんにシバかれて結果骨折したんやと思う。これはかなり自信あんねん。
最後、残りの三人を教育する時に、もしくは全体的に、よっちゃんは亀井ちゃんに負担を掛けすぎた。」
「・・・」
「こうゆうキャストではめ込んだストーリーが、一番しっくりくるんやけど・・・」
そこまで喋った加護は、突然上を向いて笑い始めた。
テレビ用に使うハイトーンの笑い声ではなく、低い声の本気笑いだった。
「な、何、突然?」
「や、よっちゃんの顔・・・」
「俺の顔が、何だよ?」
呼吸も満足に出来ない程、加護は腹を抱えて爆笑している。暫くの間、涙を流しながら笑い続けた。
- 419 名前:_ 投稿日:2004/11/03(水) 00:42
-
「はぁーっ、よっちゃんって可愛いな。」
「・・・意味が分からん。」
「や、ウチの言う事にいちいち反応して、よっちゃんの表情が変わるんやもん。
そんなビックリした顔してたら、答え貰わんでも、ウチの仮説が間違うてない事の証明になるやんか。」
加護はまだ笑いながら、目を見開いた吉澤の表情を真似してみせる。
「・・・そんな顔してたか?」
首を横に振りながら吉澤も照れたように笑う。
「嘘やとおもうんやったら、ウチの言うた事、いっこずつ答え合わせしてみよか?」
「や・・・俺の負けだ。参った。」
「ふぅーん、やけに素直になったな? で、奴等の悪巧みが何やったか、っちゅうのは教えてくれへんの?」
「知らない方がいいと思うんだが。」
「・・・ほぉ、そんなにヤバい事なん?」
「あいぼん。」
真面目な表情に戻った吉澤は体勢を変え、固いコンクリートの上にきちんと正座をした。
「何や、突然改まって?」
「あいぼん、さっき言ったよな? 奴等が正しい方に向かってるならウチは何もせぇへんって。
お前も奴等に制裁を加えるというなら話は別だが、今はもう済んだ話になってるんだ。
確かにあいつ等は間違いを犯したが、ちゃんとそれに気付き、それぞれに反省もしている。
奴等の為にも、そこは聞かないでやって欲しいんだけど。」
「・・・分かった。やっぱりよっちゃんに任せて正解やったな。もう何も言わへんわ。」
加護は穏やかな表情でベンチの背もたれに身体を預け、空を見上げた。
「で、亀井に負担を掛けすぎたってトコなんだけど・・・」
吉澤はホッとした顔を見せてから、ゆっくりと立ち上がり、加護の隣に座り直して足を組んだ。
「うん?」
「ホントにそう思う?」
「実際の所、どうなん?」
「や、あまり・・・そんな積もりは無かったんだけど、お前にそう言われてみると・・・
確かにあいつには重荷になってたのかもな。」
「ま、そう思うんやったら、これから少しフォローしたりぃや。」
コロコロと笑いながら加護は右手の甲で吉澤の肩をはたく。古典的な漫才師が突っ込む時のそれと同じ仕種だった。
- 420 名前:_ 投稿日:2004/11/03(水) 00:42
-
「ヘックション!」
「・・・何、風邪? 気を付けなよ。」
「や、ごめんなさい。」
「まぁ、あがって。って言ってもアタシの家じゃないんだけど。」
紙コップのコーヒーをふたつ買った後藤は、自分の楽屋に絵里を招き入れた。
「お邪魔しまーす。わぁ、畳だ。でも随分狭いんですね。」
「そう、アタシもソロになった時、最初はビックリしたね。一人用の楽屋ってこんなに狭いのかぁって。」
「娘。の楽屋はどこ行っても結構広いですもんね。」
「多いからね、人数が。たまに会議室みたいな所に入れられる事ってあるでしょ?」
「あります、あります。」
暫し二人は熱いコーヒーを啜りながら雑談を楽しむ。
「で、今日はどしたの? 会いに来てくれるのは嬉しいんだけど、何かあったのかって思っちゃう。」
「や、あのぉ・・・」
チャンスがあれば後藤と二人で話をしてみたいと思っていた絵里だが、
実際そうなってしまうと妙に緊張してしまい、うまく話を切り出せないでいた。
「込み入った話?」
「や、あのぉ、出来ればここだけの話、って事にしてもらえると有り難いんですけど・・・」
「言ってみ。」
「・・・吉澤さん・・・なんですけど・・・」
「よっすぃ?」
「はい。後藤さんが、吉澤さんと知り合ったのっていつですか?」
テーブルに両肘を乗せて頬杖を付いていた後藤が、それを聞いた途端、ガクッと力が抜ける。
「何か、思わせ振りな感じだったのに、随分バカみたいな質問なんだけど?」
「やっぱり?」
「どういう事? そんなの、よっすぃ達がモーニングに入って来た時に決まってんじゃん。」
「やっぱり。」
「え、意味が分かんないんだけど。何その質問?」
後藤は困ったような曖昧な笑顔で、コーヒーを一口ゴクリと飲んだ。
- 421 名前:_ 投稿日:2004/11/03(水) 00:43
-
「や、その確認をしたかったんです。四期が加入する前から吉澤さんと友達だった訳ではないんですね?」
「・・・うん。アタシが初めてよっすぃに会った時って、確かテレビでも放送されたと思うんだけど。」
「あ、あたしも見てました。それ。」
「・・・で?」
「や、もう終わりです。コーヒーご馳走様でした。」
絵里は笑顔で立ち上がろうとする。
「コラコラ。」
「は?」
「アンタは確認できてスッキリして良かったのかもしれないけど、
突然訳の分からない質問をされたアタシの立場ってもんはどうなるのよ?」
「・・・ごめんなさい。」
「や、別に怒ってる訳じゃなくて。」
「はい。」
「その質問の意図するところを喋ってもらわないと、帰さないよ。」
後藤の口調はいつもより少しキツめの感じだったが、表情は柔らかな笑顔だった。
「・・・え、えっと・・・」
絵里はどこまで話していいのか、咄嗟に判断出来なかった。
なんとかこの場を切り抜ける方法を模索していると、後藤の方から助け船を出してくれた。
「アタシが不思議に思ったのは、何故アンタがこの疑問を持ったのか、では無くて、
何故この質問をよっすぃにしなかったのか、ってところなの。」
「!」
「だってそうでしょ?
わざわざアタシの所に来るより、何かの雑談の時にサラッとよっすぃに聞けばいいじゃん?
ごとーとはモーニング以前から知り合いだったの、って。違う?」
「・・・その通りです。」
「でもアンタはアタシに聞きに来た。ってことは、考えられる理由はたったひとつ。」
「・・・」
絵里は後藤の顔を見つめながら、自分が太刀打ち出来るような相手じゃない、とボンヤリ思い始めていた。
- 422 名前:_ 投稿日:2004/11/03(水) 00:45
-
「簡単な事じゃん。」
後藤はニッコリ笑ってテーブルの隅に積まれていた弁当を一つ手に取った。
「アンタも食べる?」
「や、あたしは楽屋に帰れば自分のがありますから。」
「もう辻加護に食べられてるかもしれないよ? ま、後で欲しくなったら遠慮せずに言って。」
そう言いながら後藤は弁当の蓋を開けた。
あっという間にひとつ食べ終わり、当たり前の様に二つ目に手を伸ばす。
「ところで、よっすぃってさ、」
「はい?」
「なんか、秘密のベールに包まれてるって感じしない?」
「・・・はい。」
「アタシなんかは結構開けっぴろげなんだけど、あのこの場合、絶対踏み込ませない領域があるってゆうか。」
「・・・思います。」
「ふーん、そっか。やっぱ思うよなぁ。」
何かを考えてるようだけど、後藤の箸は止まらない。既に弁当は三つ目に突入している。
「後藤さん、何か知ってるんですか?」
「アンタはどこまで知ってんの?」
後藤の言い回しに何か引っ掛かるものを感じた絵里は、自分の感に賭けてみる事にした。
「・・・偶然なんですけど、写真を見たんです。そこには吉澤さんと、後藤さんにそっくりな人が写ってました。
で、その写真の裏には1999年5月21日の日付に、with MAKI、って書いてあったんです。」
「なーるほどねぇ。ようやく質問の意図が分かったよ。最初から言ってくれたらいいのに。」
「・・・すいません。」
「で、アンタがそれを見たって事をよっすぃは知らないから、直接聞けなかった?」
「・・・はい。その通りです。」
迷ってるような表情の後藤は、ついに四つ目の弁当を自分の方に引き寄せる。
「・・・亀井。」
「はい。」
「今からアタシは独り言を喋ると思うんだけど、絶対誰にも言わないって約束出来るなら、
その内容を偶然立ち聞きしたって事にしてもいいよ。」
「や、約束します。」
絵里は両掌を合わせ、後藤に向かって頭を下げた。
- 423 名前:_ 投稿日:2004/11/03(水) 00:46
-
「あれは・・・よっすぃがプッチに入った頃だったかな、なんか急に仲良くなった時期があってさ。
地方のコンサートが終わった後に、ホテルで寝ぼけたよっすぃが、アタシの事をシミズって呼んだんだ。
その時は大して気にならなかったんだけど、数日後に軽い気持ちで、シミズって誰、って聞いたら
そんな名前の知り合いはいない、そんな事は言ってない、の一点張りで。何かおかしいなって。
アタシ的には、そんなに根掘り葉掘り聞くつもりじゃなかったから、地元の友達、くらいに答えてくれれば、
多分それで終わってたと思うんだよね。」
「うん、よく分かります。」
「で、よっすぃがウチに泊まりに来た時、メチャメチャに飲ませたんだよ。
二人でボトル一本空けたんだけど、よっすぃがもうベロベロになっちゃって。ベロベロのゲロゲロ。
回り始めてからは、そこでもまたアタシをシミズって呼んでさ。何回も。」
「後藤さんは酔ってなかったんですか?」
「アタシ、結構強いよ。酔わないって事はないけど、記憶無くしたりってのは一回もない。
よっすぃも弱くはないけど、アタシと飲み比べをすると、大人と子供って感じ。」
「すごぉ。」
「それでさ、潰れたよっすぃを問い詰めたのよ。今アタシの事、シミズって呼んだだろって。
そしたらようやくアタシによく似たシミズマキって名前の親友がいた事を認めたんだけど・・・」
「親友が・・・いた・・・? 何で過去形なんですか?」
「亡くなったらしいんだ・・・それも不幸な亡くなり方をしたらしくて。」
「・・・事故とか?」
「殺された・・・って言ってた。」
「・・・」
「・・・」
「そう・・・ですか。」
「・・・とにかく、酔ってるし泣き出すし、その後は何言ってるのか、よく分からなくなったんだけど、
その子が亡くなってから、バレーボールを辞めて、男っぽく振る舞うようになった、って事らしい。」
- 424 名前:_ 投稿日:2004/11/03(水) 00:47
-
「そうですか・・・」
「それが何故なのかは、言ってくれなかったけど。
とにかく彼女の死がその後のよっすぃに、もの凄い影響を及ぼしてるんだと思う。」
「・・・」
「これがアタシの知ってる、吉澤ひとみの全て。」
「・・・ありがとうございました。」
重い空気が流れる中で、絵里は今までの吉澤の行動や発言を思い起こしていた。
絵里の推理をパズルに例えるなら、さっきまでは簡単な枠の部分だけしか出来てなかったのに、
衝撃的な後藤の告白を聞いて、一気に真ん中まで埋まっていくような気になっていた。
完成するには、まだピースの数が圧倒的に足りてないが、それは自分で作った物を代用する事も可能だ。
断片的に繋がっていた一部を含めると、そのパズルにどんな絵が描かれているのか、うっすらと想像出来た。
「聞いていい?」
「はい、何でしょう?」
「そのシミズって子なんだけど、そんなにアタシに似てた?」
「パッと見た時は、マジで後藤さんだと思いました。それくらい似てます。」
「そっか。」
「・・・後藤さんは・・・写真、見てないんですか?」
「うん。実はその時、よっすぃ、写真持ってたみたいなんだよね。
アタシも、同じ顔と名前を持つその子に、凄い興味あったんだけど、
亡くなったって言うのを聞いて、なんか見せてくれって言えなくなっちゃって。」
「・・・分かります。」
「亀井。」
「はい?」
「・・・ごめんね。」
「何で後藤さんが謝るんですか? 聞きたがったのはあたしなのに。」
「や、何か凄く重たかったんだ、この話をアタシ一人で抱えてるのが。
だけどペラペラ喋る訳にいかないし、困ってたんだけど、アンタが聞いてくれて、少し楽になった。」
「そう・・・だったんですか。」
「や、少しじゃないな、だいぶ楽になった。」
「後藤さん。」
「ん?」
「娘。の楽屋来ませんか? みんな後藤さんに会いたがってるし、まだ時間たっぷりありますよね?」
「・・・よし、行こっか。アンタ達の弁当、全部食べてやる。」
後藤は立ち上がりながら、この日初めて声を出して笑った。
- 425 名前:_ 投稿日:2004/11/03(水) 00:49
-
「フォロー、ってゆうか俺的にはちゃんとしてる積もりなんだけど。」
「なら、努力が足らんのちゃうか?」
加護はニヤリと笑って、吉澤の脇腹を肘でつついた。
「マジで? なぁ、今日の亀井も同じ感じだったか? 今日も老けてた?」
「・・・何それ、もしかして昨日、カイてもうたん?」
「!」
チラッと吉澤の顔を横目で見た加護は、立ち上がりながらまた大爆笑を始める。
「なんや、冗談で言うたのに。また図星やん。」
「・・・」
加護が折れた事で随分二人の雰囲気が良くなってただけに、今度は相当長い間笑い転げた。
「は、腹痛い。よっちゃん、ホンマに、アホやろ?」
「・・・」
「もうええ加減生きてきとんねんから、そろそろポーカーフェイスって言葉、覚えや。あと学習って言葉も。
あーっ、でっかい金賭けてよっちゃんと麻雀とかしたいわー。よっちゃん、即死するやろな。」
「・・・何、お前麻雀するの?」
「全然知らん。」
「なんだ、ソリャ。」
「その図星食ろてビックリした時に、すぐ表情に出すのやめろ、言うてんねん。」
笑いながらの加護の忠告に、吉澤はきまり悪そうな顔ではあったが素直にコクッと頷いた。
「で、質問の答えは?」
「何やったっけ?」
「亀井だよ。今日も老けてたかって。」
「あぁ、今日は朝からのんと石川に注目しとったから、正直亀井ちゃんの事、ちゃんと見てへん。」
「・・・この野郎・・・」
加護にやられっぱなしの吉澤は、ただ苦笑いをするしかなかった。
「それでも、一昨日まではマジで疲れた感じやったから。」
「分かった、俺も気を付ける。」
「・・・そぉか、やってもうたか。」
「言うなよ、誰にも。」
「分かってるって。」
片目を小さく瞑った加護は、いたずらっ子のように笑った。
- 426 名前:_ 投稿日:2004/11/03(水) 00:53
-
「それとさ、こうなったらひとつ、あいぼんさんにお願いがあるんだけど。」
「何やの?」
「やぐっつぁんの事、頼めるかな?」
「・・・それはちょっと、虫が良すぎるんちゃうか?」
「やっぱり?」
「ってゆうか、やぐっさんとは、どうゆう話になってんねん?」
「や、お前の言った通り。あの人も梨華ちゃん達がおかしい事に気付いて、
俺と亀井が相談を受けたんだけど、今は勘弁してくれ、みたいな。」
「で、どうして欲しいん?」
「全てを語る事なく、お前が納得してくれたみたいに、やぐっつぁんも。」
「・・・交換条件は?」
「何でもお前の好きな物を奢る。」
「・・・しゃーないなぁ、よっちゃんは。ホンマにもう。」
暫し真剣な顔に戻っていた加護が、フッと全身の力を抜き満面の笑みを見せた。
「じゃ、交渉成立って事で。ごっちんの所にでも遊びに行くか?」
「うん。行こ、行こ。」
二人は大道具倉庫の脇から階段を上がり、後藤の楽屋に向かう。
長い廊下の中程に『後藤真希様』と書かれたドアを発見した。
「ごっちーん。」
吉澤がノックするが、反応はない。ドアを開けると中はもぬけの殻だった。
「いないな。マネージャーさんもいない。鍵も掛けないで不用心だな。」
「うわっ、四つも弁当食うてる。さすがやな。」
「という事は、今頃どこかで昼寝の最中か。」
「や、昼寝やったらここですりゃええやん。ウチ等んとこ来てんちゃう?」
「そうか、帰ろうぜ。」
吉澤と加護は今来た廊下を戻っていく。
「ぼん。」
「ん?」
「お前、一個だけ間違ってる。」
「何?」
「リーダーはどっちかっつーと、梨華ちゃん。」
「・・・ホンマに?」
「で、きっかけを作ったのが、美貴ちゃんさん。」
「へーっ、そうなん? ま、どっちでもええわ。今となっては。」
「そっか。」
楽屋に着きドアを開けると後藤の顔が見える。箸を持った右手を二人に振って、どこ行ってたの、と微笑んだ。
- 427 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/11/03(水) 01:01
- 今日はここまでです。
>>402の後、ようやくプロットを書き直しました。
遅れに遅れまして、読んでくれてる方々には、本当に申し訳なく・・・。
- 428 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/11/03(水) 01:10
- >>394
レスありがとうございます。
未だに全部は読めてなくて申し訳ないのですが、自分は空の作品が一番好きかなぁ。
それにしても凄いと思います。スラスラ書ける秘訣とか聞いてみたいです。
>>395
レスありがとうございます。
すいません、再開したと思ったらまたすぐこの有様です。
ゆるーい感じで覗いて貰えればいいな、と思っています。
>>396
レスありがとうございます。
バクバクいってた、のだと思います。その辺りの描写は苦手なのでそれぞれで妄想して頂ければ、と。
ペースアップどころか死ぬ程ダウンしてますね・・・ごめんなさい。
>>397
レスありがとうございます。
いつもどうも。本当に感謝してます。続きというのは・・・亀吉の絡みですか?
興醒めになってしまうといけませんので・・・(w これくらいで勘弁してください(w
- 429 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/11/03(水) 01:11
- >>398
レスありがとうございます。
今回は新たな展開がありませんでしたが、次回はまた少し動き出す・・・予定です。
ま、予定は未定って事で(w ごゆるりとお待ち頂ければ・・・。
>>399
レスありがとうございます。
すいません・・・今回さゆが全く出てないですね・・・。この話を書く上でさゆだけは細かいキャラ設定をせず
自由に動かしているので自分でも寂しい限りです(w 次回は多分えりさゆもあるかと・・・。
>>403
レスありがとうございます。
申し訳ないです。とりあえず帰ってきました。もしこのスレが落ちても新スレ立てて続行します。
そうならないようにちゃんと更新しろって話ですが・・・(w
>>404
レスありがとうございます。
お待たせして、本当に申し訳ありません。
>>405
保全ありがとうございます。
- 430 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/11/03(水) 01:13
- >>406
レスありがとうございます。
申し訳ないです。なんとか生きてます。
>>407-409
レスありがとうございます。
自スレも更新してないのに企画に出てごめんなさい。
>>410
レスありがとうございます。
すいません、本人です。
>>411
レスありがとうございます。
まさにそれです。自分が書きました。
>>412
レスありがとうございます。
長らくお待たせしておりますが、この話はまだまだ続きます。
申し訳ありません。
- 431 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 01:36
- 待ってた!ありがとう!
- 432 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 02:34
- 復活おめでとうございました
爽やかなアイボンさん素敵でした
- 433 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 16:19
- 復活おめでとうございます!これからも大佐のペースで頑張って下さい!
- 434 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 21:43
- 更新ヤッター!!
- 435 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 22:55
- 更新ありがとうございます。
あいぼんさんがいいっすね。
これからもじっくりと完結に
向けて頑張って下さい。
楽しみに待ってます。
- 436 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 00:17
- 面白い!普通に面白いです!
- 437 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 11:48
- 待ってた俺は勝ち組だな
まだまだ続き期待してます!
- 438 名前:349 投稿日:2004/11/04(木) 17:35
- 更新お疲れ様です、そして復活オメデトウございます。
今後の展開がどうなっていくのか、ドキドキしながら待ってます。
スラスラ書く秘訣ですか・・・。自分は暇(ry なので。
それに時間をかけても大佐のようにいいものを書けるのならその方がいいと思います。
- 439 名前:名無し野郎 投稿日:2004/11/05(金) 21:37
- キタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!!!!!!!!!
マジで後の展開気になるわ
- 440 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 06:22
- 意味ないけど
ほ
- 441 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/26(日) 21:23
- 待ってます
- 442 名前:名無し§ 投稿日:2004/12/27(月) 17:36
- 今日一気に読みました。
最初は、吉澤さんが俺と言ってたのは
自分的には、ん?と思ったんですが
そういう理由があったんですね。なら全然OKです(謎
色々大変だと思いますが、
これからも作者さんのペースで頑張って下さい。
- 443 名前:_ 投稿日:2004/12/29(水) 23:28
-
***
午後七時、赤坂のホテル。
この近辺に限らず、今の時期はどこへ行っても渋滞で、人はどこから溢れ出てくるのかと思う程多い。
下界の喧騒を嘲笑するかのように、38階のスイートルームではサティのノクターンが静かに流れていた。
ローブを羽織った保騨圭がバスルームから出てきて、ベッドで煙草を燻らせている女に声を掛ける。
「お前もシャワー浴びてこい。メシ食いに行こう。」
「・・・ん、もう少し、ゆっくりしたいな。食事はルームサービス頼もうよ。」
全裸のままベッドから立ち上がった女は、両手を突き上げ大きく伸びをする。
「分かった。オーダーしとくから、ゆっくり風呂入ってこいよ。」
「サンキュ。じゃ、私はサラダに・・・ロブスターとキャビアをお願いね。」
女は甘えるように保にキスを求めてから、美しい身のこなしでパウダールームへと消えていった。
失ったコカインの追跡調査がきっかけで付き合いだしたアヤとは、もう半年以上続いている。
肌が合う、と言えばいいのだろうか、その時に数人の女と関係を持ったが、現在も会っているのはこの女だけだ。
銀座の高級クラブのNo,1ホステスだけあって、ルックスも完璧で立ち振る舞いも実にスマートだった。
勿論、保はアヤに対して偽名を使い、仕事は貿易会社の経営をしているという事で通している。
名前に関しては仕方ないが、職業は嘘を言ってない。扱う商品がリーガルかイリーガルかの違いだけである。
保はルームサービスの電話をした後、テレビのスイッチを入れる。
リモコンで適当にザッピングを繰り返し、歌番組のチャンネルで手を止めた。
丁度オープニングが始まったところで、出演者が紹介されている中にモーニング娘。を見つけたからだ。
煙草を取ろうとして手を伸ばしかけた保の動きが止まり、画面を凝視する。
(何故北海道なんだ・・・せめて東京にいてくれれば可能性はゼロではないのに・・・)
- 444 名前:_ 投稿日:2004/12/29(水) 23:30
-
沢はターゲットが藤本美貴である事を確信したまま、現在台湾に一時帰国をしている。
トラブルが発生したと言っていたが、どんな内容で、どの程度の規模なのか、保は知らされていない。
あれ以来連絡を取っていないが、今度会った時に、人違いでした、ではあまりにも面目が無さ過ぎる。
暫く経ってラッキーストライクに火を付けた保は、深いため息と共に煙を吐き出した。
料理とシャンパンが部屋に運ばれてすぐに、頭にバスタオルを巻いたアヤが出てきた。
ドンペリの栓を開けようとする保の向かいに、当たり前のように全裸で座る。
「・・・普通、そのタオルは身体に巻くもんじゃないのかね?」
「ごめんなさい。お湯に浸かり過ぎちゃって、暑いの。汗が引いたらバスローブを着るから、許して。」
両手でパタパタと顔の辺りを扇ぎながら、屈託なく笑う。
「それに、ちゃんと服を着るんだったら、外に食べに行った方がいいでしょ?
こういう自由さが、ルームサービスをしてもらったメリットじゃない? ・・・あれ、ってゆうか。」
「どうした?」
「珍しいのね、食前酒にシャンパンだなんて。あなた、いつもはウォッカとか飲んでなかった?」
「フリースが無かったんだよ。それにこれならお前も飲めると思って。」
「へぇ、一種のバーターって訳ね。」
「バーターは意味が違うだろ。代替なんだから。」
知ったか振りをしたアヤを笑った保の脳に、突然閃くものがあった。
(・・・俺は今までずっと、弁償額は一億だと思い込んでいたが・・・随分マヌケな話じゃないか・・・
そう、ブツで弁償すればいいんだ・・・カリからの仕入れ値はグラム600円・・・3キロでたった180万・・・
・・・沢はコークが回収出来ればいいと言ってたから・・・もし仮に藤本美貴がターゲットじゃなかったとしても、
次回のコンテナ船に3キロを別口で積んで貰えれば、それを回収分として沢に渡し、一件落着だ・・・)
- 445 名前:_ 投稿日:2004/12/29(水) 23:31
-
「どうしたの? 突然ボーッとして。私にも注いでよ。」
「あ? あぁ。すまん。」
口元が緩むのを堪えながら、保はアヤのグラスに琥珀色のドンペリを満たしてやる。
この前ねだられて買ってやったバックの値段とほぼ同額の出費で済むなら安いもんだ、とほくそ笑んだ。
「何よ、ちょっと間違えただけでしょ? そんなにニヤニヤしなくてもいいじゃない。」
少しふてくされてみせたアヤは、照れ笑いを浮かべる。
「違うんだ、思い出した事があって。」
「私といる時に、他の女の事考えてたの?」
「そうじゃない、仕事の話さ。女はお前だけだよ。」
肩が軽くなったのを自覚した保はシャンパングラスを持ち上げ、アヤのグラスに合わせる。
チン、と涼しい音を鳴らした後、一気にグラスを空けた。
『続いては、モーニング娘。でぇす。』
『よろしくお願いしまーす。』
テレビのボリュームは絞ってあったが、娘。の登場に、保は条件反射の様に振り向いてしまう。
ついさっき、ターゲットが人違いだったとしても大した事ではない、という結論に達したばかりだが、
あの雑誌で美貴を見て、服装やその他の偶然を考えると、どうしても無関係であるとは思えなかった。
『おっ、矢口、髪切った?』
『や、切ってませんよぉ。ハハハ。前の時は多分、エクステ付けてました。』
インタビューの間、カメラは一人ずつのアップをゆっくりとパーンしていく。
保は食事中の手を止めてテレビに見入ったが、目指す顔を探し出せないでいた。
お世辞にも噛み合ってるとは言えないトークが終わると、画面は昔のVTRを映し始める。
- 446 名前:_ 投稿日:2004/12/29(水) 23:33
-
「へぇ、あなた、モー娘。のファンだったの?」
保の真剣な表情に、アヤが驚いたような顔で尋ねる。
「ファン、という訳じゃないが・・・最近ちょっと気になってるんだ。」
「意外ね。誰が好きなの?」
「・・・藤本美貴が見あたらないんだが。」
「ミキティのファン? 確かこの間、骨折したって記者会見やってたから、まだ無理なんじゃないの?」
「骨折? 何で?」
「自宅のバスルームで転倒した・・・んじゃなかったかしら。多分だけど。」
「詳しいんだな。」
「そりゃ職業柄、昼間はワイドショーばっかり見てるし。」
「お前の店の客層に、こいつ等のファンがいるとは思えないんだが。」
「バカね、年配のお客さんだって皆モー娘。くらい知ってるわよ。
50くらいの半ハゲの部長クラスが、チャーミー、とか言ってるんだから。」
「ふぅん。ってゆうか、さっきからのVTRにも全然出てこないじゃないか。」
「ミキティ? そりゃそうよ。順番なんだから。これは五期加入後ってスーパーが出てるじゃないの。」
「・・・どういう事だ?」
娘。が登場して以来、ずっと首をねじ曲げてテレビを見ながら喋っていた保が、暫く振りにアヤの方を向く。
「何よ、ファンのくせにそんな事も知らないの? ミキティは六期だからもう少し待ちなさいよ。」
「六期!? 藤本美貴は六期なのか? 六期の加入時期っていつか分かるか?」
「・・・どうしたの、そんなに興奮して? ホラ、あなたの好きなミキティ、出たわよ。」
アヤの言葉に、保はまたテレビの方を振り向く。
シャボン玉を歌う娘。達の映像が流れ、初めて見た動く藤本美貴を目に焼き付ける。
VTRのコーナーが終わると、現在療養中の美貴の話題に触れ、昨日退院して順調に回復してる事や、
二週間後の年内復帰を目指して、リハビリに励んでいる事などを飯田が伝えている。
最後は、メンバーが一言ずつカメラに向かって美貴にメッセージを送る演出で締められた。
- 447 名前:_ 投稿日:2004/12/29(水) 23:34
-
「・・・で、六期が加入したのっていつなんだ?」
「本格合流っていつなんだろう・・・確か・・・五月くらいかな・・・もしかすると六月だったかも・・・」
「今年の?」
「もちろん。あなた、本当にファンなの?」
「だから違うって。それより、加入が去年って事はない?」
「それはないと思う。だって発表されたのが、今年の始めだったもん。」
「という事は、去年の秋は一般人だった訳だな?」
「・・・あなた、典型的な俄かファンじゃない。ミキティは去年の秋、ソロだったでしょ。」
「ソロ? ソロ歌手だったのがモーニング娘。に加入したのか?」
「うん。誰でも知ってる事よ。」
「・・・悪いがちょっと電話してくる。」
テレビではモーニング娘。がスペシャルメドレーを歌っていたが、美貴がいないのなら別に興味はない。
訝しげな表情をみせるアヤをダイニングに残し、携帯を手に取った保は隣のベッドルームへ行く。
一般人の足取りを追うのは不可能に近いが、芸能人だったなら記録が残っているかもしれない。
モーニング娘。が脱退と加入を繰り返してるグループだという事は保も知っていたが、
何となく、美貴は古参メンバー、という思い違いをしていて、それを疑う事をしなかった。
いつもの調査機関に電話をかけ、エージェントに繋がると、北京語で手短にリクエストを伝える。
「保だ。調査を頼みたい。藤本美貴の2002年9月27、28日のスケジュールって調べられるか?」
『藤本?』
「モーニング娘。の藤本美貴だ。」
『分かりました。10分程お待ち下さい。折り返します。』
「悪いが急いでるんだ。大雑把なものでいいから。」
『ではこのままお待ち下さい。調べながら、分かり次第お伝えします。』
「よろしく頼む。」
保は携帯を耳に当てたまま、気分が高揚していくのを全身で感じていた。
(・・・もし28日の昼頃東京にいる事が確認されたら、あの二人との接触も有り得ない話ではない・・・
とりあえずモーニング娘。とは別行動であってくれ・・・)
電話の向こうから、カタカタとキーボードを叩く音が微かに聞こえ、祈りにも似た思いで報告を待つ。
- 448 名前:_ 投稿日:2004/12/29(水) 23:35
-
『・・・お待たせしました。まず2002年9月27日ですが。』
「うん。」
『藤本美貴は大阪にいますね。16時から毎日放送のテレビ番組に生出演しています。』
「大阪!?」
『はい。その前後の詳しい足取りが今すぐには分かりませんが・・・ちょっと待って下さい・・・
20時35分には京都グローバルホテルに、本名でチェックインしてます・・・』
「京都グローバルホテル! チェックアウトは?」
『・・・そうですね、チェックアウトは・・・翌28日の8時16分になっています。』
「ありがとう。それだけ分かれば、もう充分だ。あとは彼女の現住所を調べておいてくれ。」
繋がった。やはりターゲットは藤本美貴だった。
京都グローバルホテルは平と市の泊まったホテルで、二人と同じ時間帯にチェックアウトしている。
分かってみると実に簡単な仕組みだった。からくり、という程大袈裟なものでも無かったが、
前回の調査報告も、自分の考えも、間違ってはいない。ただ知らなかっただけの事だ。
保は着ていたバスローブを脱ぐと、手早く身支度をして、ベッドルームのドアを開けた。
「ど、どうしたのよ、その格好?」
「悪いが、急用が出来た。今日は失礼する。」
「ちょ、ちょっと、何でよ? 今夜は同伴してくれるって言ってたじゃない。」
「大事な仕事なんだ。この埋め合わせは必ずさせて貰う。」
「今から一人で出勤すると、どんなに急いで行っても遅刻なのよ? 私、今月のノルマ、ピンチなんだから。
せめて店まで一緒に行ってよ。すぐ帰っていいから。」
「すまん。何なら店の一軒や二軒、お前に持たせてやってもいい。今日は勘弁してくれ。」
「・・・何でミキティの話から、大事な仕事の話に繋がるのよ?」
「関係ない。それと、この部屋は精算を済ませとくから、泊まりたいなら泊まっていってもいいぞ。」
保は自分の言いたい事だけを言うと、アタッシュケースを拾い上げ踵を返す。
薄く笑った保の目には、もう美貴の顔しか見えていない。
それは丁度、ハンターが待ち焦がれた獲物をスコープの真ん中で捕らえている感じにそっくりだった。
- 449 名前:_ 投稿日:2004/12/29(水) 23:36
-
***
「お先に失礼します。」
「お疲れ様でしたぁ。」
番組はまだ続いていたが、9時またぎのCMに入った所で、子供チームは上がりになる。
残る飯田、安倍、矢口、石川、吉澤のお姉さんチームにそれぞれが挨拶をして、
番組スタッフの拍手に送られ、色々な方向にペコペコと頭を下げながらスタジオを後にした。
「えり、このあと吉澤さんと約束あるの?」
「ううん、ないよ。・・・そう言えば、さゆとちゃんと話するの、今日初めてだね。」
「だってえり、ずっと吉澤さんと一緒だし、突然いなくなったと思ったら後藤さんと帰ってくるんだもん。」
「あ、うん。トイレ行ったら廊下でばったり会っちゃって。」
「ふーん。ところで、今日えりん家泊まりに行っていい?」
「いいよ。ってゆうか、今日は藤本さんトコ、行かなくていいの?」
「・・・だって、今日はれいなの日だから。えり、ちょっとベビーオイル取って。」
楽屋に戻った年少組は、各自メイクを落とし、着替えを済ませる。
もう既に帰ったメンバーもいる中、入念にクレンジングで顔を拭いていたさゆみが、ようやく洗顔を終えた。
衣装を脱ぎかけていた絵里が首を傾げながら、ベビーオイルと新しいコットンを渡してやる。
「れいなの日? 何それ?」
「一日交替なの。昨日はあたしがミキさんを独占したから、今日はれいなの日なの。」
「・・・へぇー・・・」
「れいな、凄い勢いで着替えて帰っていったでしょ?」
「うん、そう言えば。」
「ミキさんトコ行ったんだと思う。」
「じゃ、また明日がさゆの日? もし藤本さんに予定があって、会えないって言われたら?」
「それは仕方ないの。あたしの番は一回飛ばし。それはあたしが都合悪くても同じ事。」
「・・・なるほど。アンタ達もなかなかやるねぇ。」
「あたしとれいなで決めたの。」
「ふぅーん。ってゆうか、昨日藤本さんトコ泊まったんでしょ? 二日も家に帰らなくていいの?」
「そうなんだけど、えりの話も聞きたいじゃない。あの電話の後、どうなったのか。」
「えへへ。教えなーい。」
「あっズルい、えり。言わないと寝かさないからね。」
着替えの途中だったさゆみが、少し頬を膨らませて絵里を叩く真似をする。
絵里は甲高い笑い声を上げながら、スルリとその攻撃をかわした。
- 450 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/12/29(水) 23:39
- 今日はここまでです。
時間がかかった割には、保全程度の更新で申し訳ないです。
今年は色々な事がありましたが、お陰様でなんとかここまで続けてこれました。
来年、出来るだけ早く完結を目指します。
皆様、良いお年をお迎え下さい。
- 451 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/12/29(水) 23:41
- >>431
レスありがとうございます。
お礼を言うのはこちらの方です。待って頂いて本当に感謝です。
>>432
レスありがとうございます。
ぼんさんは出番が少ないので、書く時は結構気合い入ってます。
>>433
レスありがとうございます。
最近のペースだとやっぱり遅すぎるので、少しでも早く更新できるよう頑張ります。
>>434
レスありがとうございます。
来年はその言葉をもっと短い間隔で頂けるよう書いていきます。
- 452 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/12/29(水) 23:42
- >>435
レスありがとうございます。
そういう風に言われると本当に嬉しくなります。感謝感激です。
>>436
レスありがとうございます。
有り難い!普通に有り難いです!
>>437
レスありがとうございます。
この話が続くかどうかで友達と賭けでもしてたんでしょうか?
もしそうなら、完結する、に賭け続けて下さい。絶対に損はさせません。
>>438
レスありがとうございます。
>自分は暇(ry なので。 じゃ、全然答えになってない・・・と思います(w
やっと追いついたと思ったらまた凄い引き離されてるので、これからじっくり読ませて貰います。
- 453 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2004/12/29(水) 23:43
- >>439
レスありがとうございます。
次回の六章からまた少し話が進む予定です。
お待たせしておりますが、どうか最後までお付き合い下さい。
>>440
レスありがとうございます。
保全って、システム的に意味はないのかもしれませんが、ちゃんと自分の力になってます。
>>441
レスありがとうございます。
本当に申し訳ないです。来年はちゃんと・・・(ry
>>442
レスありがとうございます。
吉澤の過去は、いずれ本人の口からちゃんと語らせる予定になってます。
そう言って貰えると嬉しく思います。
- 454 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/30(木) 02:01
- 行進乙です。
遂に知ってしまいましたね。こうなると分かっていたんですが
それにしても伏線の張り方が見事です。
ドキドキしながら次の交信を待ってます。
大佐もよいお年を!
- 455 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/30(木) 18:06
- 乙です!
興奮のあまりネタバレしそうになったのであまり言えませんが、
こっからどうなるのか楽しみです。
え、答えになってないすか・・・。
自分は密度の薄い文章を書いているからじゃないでしょうか?内容がないというか。
あと単純にタイプが速いので。
- 456 名前:名無し 投稿日:2005/01/15(土) 18:52
- 更新おつかれさまです。
全然、予想もしていない展開でした。これからも期待しています。
この物語はえりりんがかわいくて大好きです。
- 457 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:03
-
〜第六章〜
その日は、久し振りの雨が朝早くから降り続いていた。
ねずみ色の分厚い雲が明度を遮断し、行き場を失った日光は殆ど地上まで届かない。
既に午前9時半を回っているにも関わらず、有り得ない程の薄暗さが不気味な雰囲気を醸し出している。
ただその分、この時期にしてはかなり高めの気温で、昨日までの底冷えするような感覚は薄れていた。
車の中でラッキーストライクに火を付けた保は、シートのリクライニングを少し倒す。
それに併せて左手を伸ばし、ルームミラーの角度を微妙に調整する。
鏡の向こうに映っているマンションのエントランスからタイミング良く一人の中年男が出てきて、
それが丁度いい目標になった。
場所は、昨夜エージェントに問い合わせた、美貴の住んでいるマンションの前である。
赤坂のホテルを出た保の行動は素早かった。一度自宅に帰って着替えを済ませ、その後車を調達しに行った。
今乗っているのはトヨタの古いミニバンで、沢の息がかかった地元のヤクザに借りた車である。
盗難車に偽造の品川ナンバーを付け、ご丁寧に車検証まで本物そっくりに作ってあったので、
検問や多少の交通違反で止められたとしても何ら問題はない。もし危ない状況に陥れば捨ててしまっても構わない。
これから先の展開がどう転ぶか分からないので、念には念を入れ、そういう便利なアシが欲しかった。
車を手に入れると必要な道具を積み込み、その日のうちにここに辿り着いた。
美貴の住むこのマンションは、保にとって絶好のロケーションだった。
外廊下ではあるけれど道路からは死角になっている点と、オートロックだという事。
オートロックを嫌がるのは、訪問販売の営業マンや犯罪者予備軍といった人種くらいである。
保のような人間にとってオートロックは寧ろ歓迎すべきものだ。
キーが無いからマンションの敷地内に入れない、という事は絶対にない。
逆に一旦中に入ってしまえば人目につかなくなり、住人、もしくは知り合いのような顔が出来る。
とにかく、ある目的を持った犯罪者にとって嫌なのは第三者に目撃される事であり、
オートロック付きのマンションはその可能性を著しく低下させる。
- 458 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:05
-
加えて大きな道路からは少し奥に入っていて、人通りが少ない。
クランク状になっている前面道路は幅が広いのに対して直線が短い。
違法駐車している車が何台かあって、長い時間止めていてもあまり不審に思われない。
保は深夜にこの付近を少し走らせてみて、大体の地理も頭に叩き込んでいた。
その後仮眠をとった保は、目覚めてから約三時間、辛抱強くマンションから出てくる人間をチェックしていた。
もうすぐ10時になろうとしていたが、ターゲットは現れない。
当然車のエンジンは切ったままであるが、この天候も保の味方だった。
12月にしては暖かく、ヒーターを入れずに毛布一枚で眠れたし、何より雨が降ると人は傘をさす。
その点でも、有事の時には、傘で視界の狭くなった通行人に目撃されるリスクは相当少なくなる。
煙草を灰皿に押しつけ、すっかり冷たくなった缶コーヒーを一口飲む。
ミラーに視線を戻した時、エントランスに人影が見えた。
このマンションを監視してから初めて出てくる若い女だったので、咄嗟に振り返った保は自分の目で確認する。
(・・・あれは・・・違うな・・・いや待てよ・・・見たことあるぞ・・・確かあの子もモーニング娘。だ・・・)
傘を肩に担ぐように持ったその少女は、こちらに向かってゆっくり歩いてくる。
逆方向に歩いていけば幹線道路に出るが、こっちに来るという事は恐らく駅に向かう事を意味する。
ウインドーには薄いアンバー系のスモークが貼られているので、中を覗かれる事はない。
少女が車の横を通り過ぎる間、保は記憶を辿る。
(名前は・・・田中・・・そう、田中れいなだ・・・藤本の部屋に泊まってたのか・・・
・・・という事は・・・ヤツは今、確実に部屋にいる・・・)
帽子やメガネといった変装グッズを着けていないれいなは、テレビで見るよりも随分と幼い印象を受ける。
大きめのリュック型のカバンがランドセルに思えて、小学生のような雰囲気だった。
その後ろ姿を見送りながら、保は腕を組んでこれからどうするか悩んでいた。
出来ればあまり無茶な展開には持ち込みたくない。
とりあえず美貴が部屋を空ければ、その間に忍び込みコークを回収する。それが一番現実的な考え方だ。
- 459 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:09
-
問題は部屋にブツが無かった時である。
実はこちらの方が遙かに確率は高いと思われるが、オプションは色々と用意してある。
結局出たとこ勝負になるだろう、という結論に達し、保の眉間に浮かぶ皺がほんの少し深くなった。
れいながマンションを出て行ってから約一時間後、少し雨が小降りになった頃、
全く動きがなくなっていたエントランスに人の気配があった。
保が首だけ振り返って見ると、大きなカバンを抱え帽子を目深に被った女が出て来る。
窓についた雨粒が微妙に光の屈折を変え、その姿が滲んでいたので、キーをアクセサリーの位置に回し
一回だけ、リアワイパーを動かし水滴を拭き取る。
女が傘をさす前に鬱陶しそうに空を見上げた一瞬、その横顔が見えた。
(ビンゴ! ・・・あれは間違いなく藤本美貴だ・・・)
エントランスを出た美貴は、こちらに背を向けて幹線道路の方に真っ直ぐに歩いていった。
周囲の無彩色の風景に対して、美貴の持った真っ赤な傘が鮮やかに映えている。
出かけるなら駅方面に行くはず、と思っていた保は、舌打ちをしながらエンジンを掛ける。
大きめのスポーツバッグを肩から提げているので、ちょっとそこまで、という事はないだろう。
すぐの三叉路に頭から突っ込んで、素早く切り返し車をUターンさせる。
路地から大きな道路に出た美貴は、歩道があるにもかかわらず車道の脇を歩いていた。
赤い傘が目印になり、それを少し追い越した所で保は車を止める。
しきりに後ろを振り返っていた美貴は暫くしてすぐに一台のタクシーを止め乗り込んだ。
それを見送った保は、一回りして美貴のマンションに戻る。
どこに行くんだろうという興味もあったし、尾行する事も充分に可能だったが、部屋の捜索を優先させるためだ。
- 460 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:11
-
先程の場所に戻った時、丁度クリーニング店のロゴが入ったワンボックスがエントランスに横付けされた。
一人の若い男が大きな袋を抱えてマンションの中に入っていく。
サングラスを掛けながらニヤリと笑った保は、タイミングを計り車を降りる。
キーケースをポケットから取り出しながらエントランスに近づくと、先程のクリーニング屋が出て来る。
こうなればオートロックは自動ドアと同じだ。
きっちり計算された鉢合わせなのだが、当然それを相手に気付かれる事はない。
眠そうな顔をしている彼の記憶に、自分の印象が残る可能性も皆無だろう。
男に軽く会釈した保は苦もなくマンションに入っていった。
最初にしなければならないのは、鍵の形状を見極める事だ。
美貴の部屋がある六階に上がる前に、最初に目に付いた101号室のドアに近づき覗き込む。
キーは新しいマンションらしく、カバ社製のディンプル錠だった。
ピッキングに強いリバーシブルのタイプだが、保に開けられない事は無い。
普通のディスクシリンダーやピンタンブラーのキーなどは専用工具を使えば、4〜5秒で開く。
本物のキーを差し込んで開けるのと時間的にはさほど変わらない。
何が違うかというと、キーを回すのは片手で出来るが、ピッキングするのは両手を使う所ぐらいだろうか。
しかし、現在の分譲マンションなどで主流になりつつあるディンプル錠はそう簡単にはいかない。
どんなに訓練を積んだ者でも、数秒では絶対に解錠出来ない。
ただ、その形状の仕組みさえ分かっていれば、時間は掛かるが理屈では開けられる。
要は技術だけではなくて、組み合わせの問題が絡んでくる。
まぐれで当たれば数分、下手をすれば一時間以上は楽に掛かるという代物だった。
保はエレベーターに乗り、その間に必要な工具を確認する。
六階に着くと、深呼吸をしてから腕時計を見る。
今日はいつものデイトナではなく、サブマリーナを着けていた。
ベゼルを回して長針に合わせると、美貴の部屋である604号室に向かって歩いていった。
- 461 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:13
-
ドアの前にしゃがみ込んだ保は、目標タイムを20分に設定してピッキングを始める。
美貴がタクシーに乗って行った事を考えると、最低でも一時間くらいは帰ってこないと予想されるが、
鍵を開けるだけでその時間を浪費してしまうと、部屋に入って探す時間がなくなってしまう。
目的は鍵を開ける事では無くて、コークの回収だ。美貴が夜まで帰ってこないという保証はどこにもない。
微妙な感覚を必要とするため、昨夜からずっとしている薄い皮の手袋を左手だけ脱ぐ。
あまり人が出入りするような時間帯では無いので、思ったよりも集中する事が出来た。
604号室は角部屋になっていて、保が注意を払うのは一方向だけでいい。
加えてこのマンションはプライバシーに気を遣った設計らしく、外から見られる事はない。
目標タイムを少し超えてしまったが、ガチャッという重い音と共に、鍵は見事に開いた。
部屋の中は驚く程にシンプルだった。
年頃の女の子の部屋にありがちな、ぬいぐるみや過度の装飾は一切見られない。
黒を基調にしたモノトーンのインテリアで統一され、美貴の性格を少し窺い知る事が出来た。
間取りは2LDKで、入って左右に部屋が一つずつ、真ん中にバスとトイレがあり奥がリビングになっている。
とにかく物が少ない。10畳ほどのリビングにはテレビとソファーしか置いてないし、寝室にはベッドしかない。
単身赴任をしている中年男性の部屋の方がまだマシ、と思えるくらいに、
機能的と呼ぶにはあまりにも徹底しすぎている。
そのため、寝室の向かいの部屋は物置状態と言うか、部屋自体がウォークインクローゼットになっていた。
特にそこは時間を掛けて探したが、ブツは出てこなかった。コークどころかボストンバッグも見当たらない。
美貴が所有していたヴィトンは、白のマルチカラーのエピと、小さなショルダーバッグだけだった。
念のためシステムキッチンの戸棚や冷蔵庫、下駄箱の中なども全て覗いたが、結局徒労に終わった。
- 462 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:14
-
痕跡は一切残していないので、普通の人間なら留守の間に侵入者があったとは考えもしないだろう。
それでも名残惜しそうに細心の注意を払いながら部屋を出た保には、もう一つ仕事が残っていた。
今度は工具を使って鍵を掛ける、逆ピッキングだ。
キーの種類によってはそれが簡単な物もあるが、このタイプは開ける時と同じだけの労力を要する。
危険だと判断すれば最悪開けっ放しにして帰ってもよかったが、出来るだけ形跡を無くしたかった。
腕のダイバーズウォッチを見ると12時10分を指していた。
ベゼルはあと5分で丁度一周、つまり55分経っている事になる。
もう美貴が帰ってきてもおかしくはない時間に突入している。
開ける時よりもさらに全身の感覚を研ぎ澄まし、一層集中をして鍵穴に挑む。
ドアをロックできたのは、さらに一時間後の事だった。こうなればベゼルを回した意味などあまり無い。
保は深いため息を吐きながら手袋を着け、ドアノブを引いて確認してみる。
途中で何回も気配を感じて手を止めたが、このフロアに上がってくる人間は一人もいなかった。
車に戻った保は、どっと疲れを感じる。
結局美貴は帰ってこないままだったし、マンション内では最初のクリーニング屋以外、誰にも会わなかった。
それはそれで幸運な事なのだが、その代わりにコークの回収も出来ていない。
煙草を一本吸った後、猛烈に空腹を覚えた保は、エンジンを掛け近くのコンビニへと車を走らせた。
身体はアルコールを欲していたが、やめておいた。
サンドイッチとホットの缶コーヒーを買った保は、車を回し元の場所に駐車させる。
ここまではある程度予測できた展開だ。問題は、これからどうするか。
一番安全で効率のいい方法を考えながらサンドイッチを頬張る。
その時、前方に赤い物が揺れるのを視界の隅にとらえた。
- 463 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:15
-
(藤本の傘だ! ・・・電車で帰って来やがった・・・)
保は瞬時に前後を振り返る。
人の気配は無い。午前中は止まっていた車もいつの間にかなくなっていて、道路上には保の車だけだった。
食べかけのサンドイッチを助手席に叩きつけると、その足下に置いてあったバッグからスプレー缶を取り出す。
エンジンを掛け、美貴に向かってゆっくりと車をスタートさせた。
身長が155センチというのはデータとして知っていたが、目の前の美貴は凄く小さく感じた。
しかし、他の女の子とは何か圧倒的に違うオーラを放っている。
俗っぽい言い方をすれば、目深に帽子を被った状態でも、いい女であるというのは一目で分かる。
保は最徐行しながらタイミングを計り、美貴とすれ違った直後にブレーキを踏み、車を降りる。
「あの、すいません、道を聞きたいんですけど。」
出来るだけ気の弱そうな声を演出しながら、背中に回した右手はスプレーの安全装置を解除する。
相手は芸能人で、しかもトップアイドルだ。無視される事も充分予想できたが、美貴は立ち止まった。
「あたし、あんまり詳しくないかも。」
振り返るその瞬間、保は持っているスプレーを美貴の顔に吹き付けた。
- 464 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:16
-
「やっ!」
全くの無防備だった美貴は短い悲鳴を上げながら、それでも身体を捻らせ持ってた傘で防御しようとする。
小さいスプレー缶なので噴射する時間はマックスで10秒程度しかない内容量だったが、
それでも半分くらいは美貴の顔に掛けた感触があった。
辺りをほのかに甘い香りが漂うが、保はなるべく吸い込まないように顔を背ける。
「何すんだよ!」
恐怖と怒りの入り交じった表情で振り返った美貴が、叫びながら傘の先端で突くように攻撃を仕掛ける。
保がそれを軽くいなすと、美貴の膝がガクッと沈んだ。そのまま操り人形のようにゆっくりと崩れ落ちていく。
素早く美貴の身体を支えた保は、スライドドアを開けリアシートに押し込む。
傘を拾い上げ、畳むのももどかしく自らも車に乗り込み、速やかにその場を離れた。
最初に声を掛けてから、その間僅かに20秒程度。白昼のアイドル誘拐劇は、一人の目撃者も許さなかった。
本来ならそこで手を縛ったりなどの、身体の自由を奪う事をしたかったのだが、
美貴に叫ばれてしまったために、一刻も早く場所を移動する必要があった。
このまま駅に向かうと人通りが多くなるが、先程のようにUターンさせるのは嫌だったので、
大きく迂回するルートを選んで幹線道路に出る。
信号待ちで保は振り返り、美貴の状態を確認する。半開きの目は何も見ていない。
完全に気を失っている感じではなくて、意識朦朧としていると言った方が近いのかもしれない。
これでは抵抗したり叫んだり出来ないはずだ、と思っていると、突然美貴が嘔吐した。
保は慌てて美貴の顔を横に向かせる。ガムテープで口を塞いでなくて良かった。
もしタオルなどで猿轡をしてると、吐瀉物が気管に詰まって窒息してた可能性も充分にある。
(待てよ・・・目覚める時に気分が悪くなって吐くヤツは見たことあるが・・・この状態で普通吐くか?
・・・もしかすると・・・こいつは俺達からかっぱらったコークを舐めてやがるのか・・・?)
もしそうなら問い詰めた時、海に捨てた、などという言い訳は通用しなくなる。
全額に近い回収が出来て、ひょっとするとボーナスが付くかもしれないと思った保は、唇の端で薄く微笑んだ。
- 465 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:17
-
***
絵里は数学の授業中、必死に睡魔と戦っていた。
五時間目まで学校にいるのは久し振りなので、ちゃんと勉強しようと思ってるのだが、
昨夜泊まりに来たさゆみと朝方まで話をしていたため眠くてしょうがない。
四時間目の体育で少し復活したが、身体を動かしたあと給食を食べたのでもう限界だった。
先生の説明する公式が怪しげな呪文のように聞こえ、電池の切れかかってる絵里の気力をさらに奪っていく。
今日はスタジオに4時集合で、この間レコーディングした新曲の振り付けが始まる。
夜遅くなる事は容易に想像できたので、少し寝て体力を蓄えろ、などと絵里の中の悪魔が囁く。
既にうとうとしかけていた絵里は、携帯の着信によって現実に引き戻された。
そっと教室を抜け出しながら、ポケットから携帯を取り出す。
液晶を見ると、電話を掛けてきたのはさゆみだった。廊下に出たところで通話ボタンを押す。
「何やってんのよ、さゆだって今、授業中でしょ?」
『ゴメン、えり、真面目に学校行ってたんだ。』
「アンタ、学校サボったの?」
『うん。ちょっと話があるの。』
「朝まで喋りっぱなしだったじゃない!」
自然と大きくなった絵里の声が静かな廊下に響き、忍び足で教室の前から離れる。
『違うの。ミキさんのコトなの。』
「藤本さんが、どうしたのよ?」
『連絡がとれないの。』
「・・・どういう事? ちゃんと説明して。」
美貴の名前を出されて、絵里は突然真面目な顔になった。窓ガラス越しに雨の校庭をじっと見つめ続ける。
『今日からダンスの練習が始まるじゃない? きっと夜遅くなるでしょ?
だから昼のうちに短い時間でもいいからミキさんに会いたかったの。今日はさゆみの日だから。』
「知ってるよ。昨日聞いたじゃない。」
『電話しても出ないの。』
「そりゃ、出れない時もあるよ。ずっと電話番してる訳じゃないんだから。」
『それは分かってるんだけど、さっきれいなに電話したの。』
「・・・なんでそこでれいなが出て来るのよ?」
一向に要領を得ないさゆみの説明に、絵里は少し苛立ち始めていた。
- 466 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:19
-
『れいな、昨日ミキさんトコ泊まって、今朝10時前に家を出たらしいの。』
「・・・で?」
『今日はミキさん、ジムに行って泳ぐって言ってた。』
「そりゃ、リハビリ中なんだから、別に不思議じゃないでしょ? 今もプールなんじゃないの?」
『ミキさんの行ってるジムって、事務所が法人契約してる高級な所でしょ?
あそこって、フロントに携帯を預けておけば、プールにいても、お風呂にいても、
電話がかかってきたら、ちゃんとその都度、係の人が教えてくれるようになってるの。』
「だから、藤本さんは後で電話しようと思ってるんじゃないの?」
『違う、れいなが言うには、午前中ジムに行って、昼過ぎには帰って、吉澤さんとご飯に行くって。』
「・・・吉澤さんと?」
『そうみたい。』
「ご飯行ってないの?」
『だからそれを聞いて欲しいの。』
「・・・なるほど、大体話は分かった。あとでかけ直すね。」
『うん、お願い。』
美貴に連絡がとれないと聞いて絵里は嫌な予感がしたが、今の話では、たださゆみが騒いでるだけのようだ。
吉澤と約束してるなら、どのみち今日は会えないじゃないか、と電話を切った後で思う。
それでも、自分の不安を無くすために絵里は吉澤の携帯にコールする。電話はすぐに繋がった。
『おう、どした?』
「絵里ですけど、吉澤さん、今どこですか?」
『今? 家にいるよ。』
「家? 誰の?」
『自分ちに決まってんじゃん。何で俺が知らないおっさんの家にいるんだよ。』
電話の向こうでゲラゲラと吉澤は笑った。特別変わった様子はない。
「・・・藤本さんも一緒に?」
『や、俺一人。何で?』
「あれ? 今日のお昼、藤本さんと約束してませんでした?」
『・・・何で知ってんの?』
「さゆに聞いたんです。ってゆうか、さゆはれいなから聞いたみたいなんですけど。
さゆ、藤本さんに連絡とれないって心配してました。」
『・・・ふぅん。』
「ふぅん、じゃないですよ。藤本さんと会ったんですか?」
『や、実は俺もヤツと連絡できてない。』
「マジですか!?」
絵里の叫ぶような声と同時に、五時間目の終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。
- 467 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:21
-
『何だよ、でかい声出して。そんなに心配する事じゃねぇよ。』
「ってゆうか、藤本さんとはどういう約束になってたんですか?」
『や、昨日番組終わった後、電話かかってきてさ。ヤツが退院したらメシ行こうって前から言ってたんだよ。』
「それで?」
『今日の予定聞かれて、朝はフットサルの練習で夕方からダンスレッスンだって言ったら、
じゃ昼飯行こうって事になって。』
「それで?」
休み時間になって、さっきまで絵里一人だった廊下はすぐに騒がしくなった。
教室に戻り自分のカバンを肩に掛けた絵里は、隣の席の子に手を振って下駄箱へ向かう。
『自分も午前中ジムに行くから、終わったら電話するって。』
「それが、かかってきてないんですね?」
『うん。』
「吉澤さんからは電話してないんですか?」
『したよ。コール音が鳴ってそのまま留守電になったから、腹減ったから先にメシ食うぞ、って入れた。』
「そうですか・・・」
『一体何をそんなに心配してるんだ? ヤツがドタキャンかますなんて、珍しくないぞ。』
「そこなんですよ。あたしも前一回ドタキャンされましたけど、その時はちゃんと電話貰いました。
連絡がとれないっていうのがなんか不安なんですよ。」
『・・・突然ジムなんか行くから、熱でも出したんじゃないの? 疲れて寝てんだろ、多分。』
「そうだといいんですけど・・・」
『シゲにも心配するなって言っとけ。』
「分かりました。」
『じゃな、後で。』
「はい、すいませんでした。」
吉澤は絵里を安心させるために、電話ではずっと気を遣ってくれていた。
そのことが分からない絵里じゃない。しかし吉澤の優しさが逆に絵里を不安にさせる。
今さゆみに電話をすれば、その気持ちが余計に伝わってしまうかもしれない。
雨が降り続く通学路を駅に向かいながら、絵里はなかなか電話できないでいた。
- 468 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:23
-
三時ちょうどに絵里はスタジオに到着する。
集合の一時間前だというのに、すでに飯田と安倍が来ていて、二人で雑談をしていた。
「おはようございます。」
「おっ、亀井、早いねー。気合い入ってんじゃん。」
「亀ちゃん、おはよ。まだ一時間前だよ。もっとゆっくり来てもいいのに。」
「や、電車の乗り継ぎが結構上手くいったんです。ってゆうか、お二人とも早いですね。」
「ウチらは、ホラ、取材があったから、そのままここで待機。」
「なるほど。お疲れ様です。」
「アレ? ってゆうか、あんまり元気ない?」
「・・・や、そんな事ないですよぅ。今日は数学の授業があったんで、それで少し眠いんだと思います。」
飯田の鋭い突っ込みに返事がワンテンポ遅れたが、うまく誤魔化す事が出来た。
結局さゆみへの電話は、吉澤の言ったセリフをそのままなぞって伝えた。
絵里自身は努めて普通に喋ったつもりだったが、さゆみがどう感じたかは分からない。
自分でもどうしてこんなに不安なのか不思議だった。
案外吉澤の言った、疲れて寝てる、というのが正解なのかもしれない。
無理矢理にでも絵里はそう思う事にした。
三人で暫く話していると、矢口と石川がやって来て、あっという間に場が賑やかになる。
その後、さゆみが姿を見せた。テンションは普段と変わらない。
ドアを開けるなり、大きな声でおはよーございまーす、と叫ぶと真っ直ぐ絵里の元に向かってきた。
「えり、ちょっとトイレついてきて。」
「うん。」
さゆみはカバンを机に置くと、そのまま絵里の腕を引っ張る。
スタジオを出ると、さゆみは笑顔で絵里にウインクした。
「ごめんね、心配掛けて。」
「藤本さんから連絡あったの?」
「うん。ついさっき、メールが来た。」
「・・・良かったぁ。何て書いてあったの?」
「少し熱っぽいので寝てた、って。」
「そっか。じゃ今日は会えないね。」
「どっちみち、無理だと思ってたの。あたし的には何かあったんじゃないかと心配してたから良かった。」
- 469 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:25
-
絵里もホッと胸をなで下ろす。
急に肩が軽くなったような気がして、そのままトイレでさゆみと話し込んだ。
スタジオに戻った時には、殆どのメンバーが顔を揃えていた。
ただ、吉澤の姿が見えない。いつも時間には厳しく、集合の30分前には来てる筈なのに。
4時5分前になって夏まゆみが現れると、スタジオ内が一気に緊張感に包まれる。
夏は屈伸運動をしながら、娘。達の人数を数えていた。
「あれ、一人足りないなぁ。」
独り言のように夏が呟いた時、集合時間ピッタリになって吉澤が入ってきた。
「すいません、遅くなりました。」
「吉澤、あたしより遅く来るなんて、いい度胸してるじゃん。」
ニヤリと笑った夏は所定の位置に着く。
「えーっと、じゃあ、全員そろったみたいなので、新曲の振り付けを始めます。
安倍のラストシングルなので、みんな、気合い入れて頑張るように。それでは、よろしく。」
「よろしくお願いします。」
この時の吉澤の様子がおかしい事に、絵里以外の何人が気付いただろうか。
あきらかに雰囲気が異なり、普段の陽気な吉澤ではなかった。
何か、氣のようなものを身体全体から発散させている感じがして、
絵里の目には、吉澤が青白い炎に包まれているようにも見えた。
ただ、吉澤の登場と同時にダンスレッスンが始まってしまったため、話しかける事が出来ない。
それ以前に、新曲の振り付けは非常にレベルの高いもので、別の事を考える余裕は全くなかった。
夏は表現力重視と言っていたが、ステップも手の動きも複雑で難しい。
ユニゾンパートが少ないので、人の動きを見ながら踊る事も出来ない。
当然、誰にも頼らず、自分に与えられた振りは自分で覚えないといけない。
極めつけは難解なフォーメーションだ。
ポジション移動のきっかけとなるリズムが裏拍を基調にしているので、
倍のカウントを刻まなければならないため、タイミングを取るだけでも全員が四苦八苦していた。
- 470 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:27
-
レッスンは6時半を回ったところで一旦打ち切り、夕食休憩になった。
それぞれが汗をぬぐいながら、ぐったりとその場に腰を下ろす。
絵里は、得体の知れないオーラを放ち続ける吉澤にそっと近づく。
「どうかしたんですか?」
「・・・ヤバい事になったぞ・・・」
吉澤は険しい顔のまま、拳を握りしめる。
「ヤバい? 何がですか? さゆは藤本さんからメールが来たって言ってましたよ。」
「・・・俺にも来た。」
「藤本さんから?」
「うん。」
「なら良かったじゃないですか。何がヤバいんですか?」
「正確に言うと、ヤツの携帯からメールが来た。」
「・・・は?」
「意味が分からないのなら、お前は首を突っ込むな。」
こんな吉澤を見るのは初めてだった。
美貴と対決した時や、石川と辻を追ってクラブに乗り込んだ時など、吉澤の『恐い』顔は何度も見てきたが、
今日の威圧感はそのどれとも違っていた。吉澤の中に眠る本能が覚醒したといっても過言ではない。
しかし絵里も成長していた。少し前なら尻込みして何も言えなくなってしまうところだが、
気合いを入れた絵里は吉澤の手を取り、外に引っ張り出した。
無言で廊下を進み、誰もいないエレベーターホールの前まで来て振り返った。
「つまり、別の人間が藤本さんになりすまして吉澤さんとさゆにメールを送った、って事でいいんですか?」
ピクリと眉をつり上げた吉澤が頷く。
「それが何を意味するか分かってるのか?」
「・・・藤本さんは・・・何者かに拉致された・・・」
一層小声になった絵里に対して、吉澤は驚嘆の眼差しを向ける。
「おそらく、そんなところだ。」
「・・・どうするつもりですか?」
「全ては憶測だ。とりあえずは静観する。」
「マジですか!?」
今まで吉澤の言動に間違いはなかったが、その意見だけは賛成できかね、絵里は大きな声を出した。
- 471 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:29
-
「何で?」
「憶測でも何でも、これは警察に相談するべきです。」
「ダメだ。」
「さっきの意味が分かったんだから、あたしも首を突っ込みます。」
「絶対にダメだ。」
「何故ですか? 何故警察がダメなのか、理由をちゃんと教えて下さい。」
「理由もクソもない。俺がダメだと言ったらダメだ。」
暫く二人は見つめ合ったまま無言になる。先に絵里の方が視線を切った。
「納得できません。あたし、今から警察に行ってきます。」
振り返り、階段に向かおうとする絵里の腕を、吉澤が強い力で掴む。
「頼むから・・・少し時間をくれ・・・」
絵里は吉澤の顔を見上げる。暗く冷たい瞳だったが、その奥にはしっかりとした意志を持っていた。
「少しってどれくらいですか?」
「・・・ヤツが復帰するまでの二週間。」
「それは無理です。それに完全合流は二週間後ですけど、9日後には藤本さんのレコーディングが始まります。」
「じゃあ、その間。」
「仮にあたしが黙ってたとしても、さゆとかれいなとか、他の人が絶対に気付きます。」
「気付かせなければいいんだな?」
「そんな事、絶対に出来ません。あの二人は毎日必ず交互に連絡を取るんですから。」
「お前が黙ってるリミットは?」
「1日です。」
「譲歩しろ。」
いつの間にか、イニシアティブは完全に絵里が握っていた。腕組みをした絵里は少し考える。
「・・・吉澤さんの考えてる事を全て話して下さい。あたしが納得できれば、3日待ちます。」
「一週間。」
「ダメです。」
「じゃあ、あいだを取って、5日だな。」
「そんな、ズルイですよ。もし吉澤さんがさっき一ヶ月って言ったら、
あいだを取って二週間になっちゃうじゃないですか。」
絵里の当然の抗議に、予測してなかったのか、吉澤はクスッと笑った。今日初めて見る笑顔だった。
- 472 名前:_ 投稿日:2005/01/27(木) 00:45
- 今日はここまでです。
空と海の容量が1メガになった・・・というのを案内板で見ました。
これってこれから立てるスレだけなんでしょうか、それとも今あるスレも容量増えてるんですか?
バカですいません、大切な事なんで誰か知ってる人、教えて下さい・・・。
- 473 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2005/01/27(木) 00:49
- >>454
レスありがとうございます。
知ってしまいました。そして今回ヤってしまいました。
ようやく少し動いたって感じですが、これからもどうぞよろしく。
>>455
レスありがとうございます。
またご謙遜を。密度濃いですよ。ワクワクしながら読ませて貰ってます。
完結されたみたいですね。おめでとうございます。これから行ってきます。
>>456
レスありがとうございます。
今回の予想はどうだったのでしょうか?また聞かせてください。
これからは可愛いだけじゃなく、強いえりりんもお見せしたいと思います。
- 474 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/27(木) 01:26
- 毎日チェックしていた甲斐がありました、更新乙です。
読みながらドキドキしっぱなしでした。
このスレも1MBになってるはずですよ。
- 475 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/27(木) 13:27
- うわぁぁ
大佐って絶対カタギの人じゃないよね…
(一応誉め言葉)
- 476 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/27(木) 20:24
- よっすぃーの活躍に期待してます
- 477 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/28(金) 00:28
- 更新きてた!!相変わらず読ませる展開だなぁ・・
>>475
私も同感・・w
- 478 名前:konkon 投稿日:2005/01/28(金) 09:34
- 初レスです。
よっすぃと亀ちゃんの関係にすごく惹かれます。
特に亀ちゃんの冴えた頭脳が好きですね。
これからもがんばってください。
- 479 名前:名無し§ 投稿日:2005/02/27(日) 13:31
- 更新お疲れ様です(遅
よっすぃ、口論弱w
ますます続きを期待させる展開っすね!
スレの整理もしばらく無いので焦らずマイペースで頑張ってください!
大佐の作品が読めるんならいつまでも待ちますんで!
P.S.南極2号って何ですか?(爆
- 480 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/30(水) 14:01
- 一気に読まさせて頂きました。 興味深い内容に惹かれ、具体的にも書かれている為読みやすいというのもあります。 次回更新まったりと待たせて頂きます。
- 481 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/29(金) 21:17
- 『待ってる』と一言だけ
- 482 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/03(火) 12:15
- 『無理しないでね』と付け加えて
- 483 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 02:52
-
***
夕方に一旦上がりかけた雨は、日が暮れてからみぞれ交じりの雪に変わった。
昨夜から随分と高かった気温も急激に下がり、身を突き刺すような寒さが戻ってきた。
暗闇の中で目を覚ました美貴は、枕元にあるはずの目覚まし時計を掴もうとして手を伸ばす。
しかし、その指先に触れる物は何もなかった。何度か空振りを繰り返した後で、ようやく違和感に気付く。
ゆっくりと頭を持ち上げ周囲を窺う。暗くてよく見えないが、自分の部屋でない事だけは確かだった。
湿っぽさが淀む空気の中で、目が慣れるのを待ちながら美貴は記憶を辿る。
ここはどこなのか、何故自分はこんな所で寝ていたのか、すぐには理解できない。
思い出そうとすると頭の芯に鈍い痛みが走り、胃の辺りがムカムカしてきて吐きそうになった。
喉の渇きが激しく、首の辺りを掻きむしりたい衝動に駆られるので、暫くは静かに呼吸を整える。
掛け布団をはねのけると途端に冷気が襲ってくるが、
吐き気を沈めてくれそうな気がして、今の美貴にはこの寒さが心地良かった。
手を広げ大の字になって数分間同じ体勢を維持した後、立ち上がろうとして美貴は愕然とする。
左の足首に、足枷が嵌っていた。
編み上げのワークブーツを履いたまま寝ていたので、目覚めた時は気付かなかったが、
自分の目で確認した後はそれが急に重く感じられた。さらに視線はその先に延びる鋼鉄の鎖を追う。
それがきっかけとなり、徐々に美貴の意識も覚醒し始める。
(そうだ・・・ジムから帰ってきて・・・家の近くで男に道を聞かれた・・・顔に何か吹き付けられて・・・
そっから先は・・・全く記憶がない・・・もしかして美貴は・・・誘拐された・・・?)
思考がそこまで辿り着くと、また急に吐き気を催す。
苦い物が込み上げてくるが口の中はカラカラで、喉が張り付いたような状態だった。
ふと涙が零れそうになるが、美貴はこの現在の状況に絶望している訳ではない。
不覚を取った事に対する自分への怒りであって、その辺りの感覚は普通の女の子とは格段に違う。
- 484 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 02:54
-
時間の経過と共に視界が利くようになってきたので、美貴は立ち上がり部屋の観察を始める。
広さはそれ程でもないが、天井がかなり高い。床も壁もコンクリート張りで、倉庫のような雰囲気だった。
天井からすぐの所に、嵌め殺しになってる細い窓が壁一面に付いている。
しかし美貴が自由の身だったとしても、到底届く高さではない。
部屋の中央辺りに事務用の机と椅子が置いてあって、そこに美貴の着ていたコートが掛けられていた。
椅子の向こう側には赤い傘とスポーツバックも見える。
が、自分の足首に繋がっている鎖は、部屋の隅に剥き出しになっている鉄パイプに続いている。
その長さは3メートル程で、美貴は机の置かれている所まで行く事が出来ない。
おまけに太さも重量も相当ゴツい。美貴の力でどうにか出来る代物では絶対になかった。
ドアの近くには背もたれの壊れた椅子やガラクタなどが散乱しているのだが、
この部屋の中で唯一新品の物が、さっきまで美貴の寝ていた布団だった。
シーツも毛布も真新しい。つまりそれは自分の為に用意されたという事を意味する。
布団は直接コンクリートの上に敷くのではなくて、間に数枚の段ボールを挟んであった。
こうする事によって熱が逃げにくくなり、防寒対策として、または寝心地という点でもかなり気が利いている。
(・・・相手は、決定的に頭のオカシイ奴じゃなさそうだ・・・
無傷でココを抜け出せる可能性が少し出てきたかもしれない・・・)
美貴はジャラジャラと鎖を引きずりながら歩き回り、自分の行ける範囲を確認する。
半円の頂点部分に指輪で傷を付け、コンクリートの床に自分にしか分からないバミリを残した。
寒くなってきたので毛布を肩から羽織り、布団の上に胡座をかく。
自分が動きを止めると、全く音が無くなって、耳が痛くなる程に静かだった。
これからの起こりうる状況をシミュレートしていると、遠くに車のエンジン音が聞こえてくる。
突然静寂を破ったその音はすぐに近づいてきて、丁度窓の向こうで止まった。
さぁ、何があるんだ? 楽しみと言えば語弊があるが、少なくとも美貴は決して恐れてはいなかった。
- 485 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 02:57
-
「おっ、気が付いてましたか?」
台車を押しながら部屋に入ってきた男は、緊張感をぶち壊す程、気さくに語りかけてきた。
やはり単なるサイコなのか。まともな会話を期待する方が間違ってるのか。
美貴は少し憂鬱になるが、研ぎ澄まされた五感はドアが開いた時に、仄かに潮の香りを嗅いだ。
ここは山の中だとばかり思っていたが、案外海の近くなのかもしれない。
「誰だ、てめぇは?」
「あなたに道を尋ねた者ですよ。気分はどうですか、藤本美貴さん?」
名前を呼ばれて、美貴はピクリと眉をつり上げる。
「・・・気分がいい訳ないだろ? 取り敢えず、これをどうにかして」
言いながら美貴は左足を少し持ち上げ、引っ張られたチェーンが後方でジャラッと音を立てる。
「足枷に関しては、誠に申し訳ない。もう暫く辛抱して下さい」
男は台車から昔懐かしいダルマ型のストーブを降ろし、マッチで火を付けた。
「それに・・・頭痛と吐き気が止まらないんだけど。顔に吹き付けたアレは何?」
「濃縮された亜酸化窒素です。大丈夫、心配いりません」
「何、亜酸化窒素って?」
美貴は怒りで爆発寸前になっていたが、ここでブチキレた所で事態は好転しない。
取り敢えず会話を続ける事によって、相手の考えや性格を読み取りながらチャンスを待っていた。
「通常は外科手術の時の全身麻酔に使われるガスです。吐き気もすぐ治まると思います。
屋外でアレを使うのは初めてだったので、かなり顔の近くにかけてしまいました」
男は美貴のコートを机の上に置き直し、椅子にドッカリと座る。
ストーブを降ろした台車には大きめの段ボール箱が乗っていて、そこからコンビニの袋を取り出した。
「それより、お腹減ってませんか? 色々買ってきたんで、よかったらどうぞ」
「・・・食欲はないけど、喉が死にそうに渇いてる」
「じゃ、これを」
立ち上がった男は歩み寄り、袋ごと美貴に向かって放り投げた。
美貴のテリトリーには入らず、先程付けたバミリの50センチくらい手前で引き返したのだ。
- 486 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 02:58
-
(コイツは緊張感なさそうに見えて、かなり手強いぞ・・・普通なら手渡しするだろう・・・
・・・美貴に着けたチェーンの長さをキッチリ把握してて、もの凄い用心をしている・・・)
美貴は袋からペットボトルのお茶を取り出し、男をマジマジと見つめながら一気に飲み干した。
「・・・ところで」
「はい?」
「アンタの目的は何? 美貴ん家、貧乏だから身代金なんて一銭も出ないよ」
「私は身代金目当てでこんな事をした訳ではありません」
男は笑い声を上げながら椅子を揺らした。手を擦り合わせながら、ストーブに翳す。
「・・・じゃ、何だよ?」
「当ててみて下さい」
「お前、ふざけてんじゃねぇぞ!」
美貴は立ち上がりながら羽織っていた毛布を叩きつける。
「まぁ、そう怒らずに。全く見当が付かない訳じゃないでしょ?」
対照的に男は静かなままだった。上着の内ポケットから煙草を取り出し火を付ける。
「・・・一個あるけど、言いたくない」
「何ですか、是非聞かせて下さい」
男の催促に、美貴は立ったまま腕を組み、一呼吸置いた。
「・・・アンタは、あたしが藤本美貴だと知って、誘拐した・・・」
「その通りです」
「・・・前に映画で観たんだけど、気に入った女を拉致して、自分の元に置いて飼育するという話・・・」
美貴がそこまで喋った時、男は手を叩きながら爆笑し始めた。
「私も観ました、それ。しかし、残念ながらハズレです」
笑われた事に美貴はかなりムカついたが、十中八九当たってると思っていた答えをハズレと言われて困惑する。
「・・・本当に・・・ハズレ?」
「そりゃそうでしょう。もしそれが正解だとして、あなたは私におとなしく調教されますか?」
「・・・絶対に・・・ない」
「それに私は、女に不自由してませんよ」
煙を吐きながら笑い続ける男に、美貴の沸点は限界に達する。自尊心を傷つけられたような気がした。
「ガタガタ言ってんじゃねぇぞ! 金が目的じゃないんなら、結局は身体が目的だろ!?
能書きコイてないで、ヤる事さっさとヤって、早く美貴を帰してくれよ!!」
美貴はセーターとTシャツを脱ぎ捨て、ブラジャーだけの姿になった。さらにGパンのボタンを一つ外す。
ストーブで多少部屋が暖まっていたとはいえ、あまりの寒さに眩暈がしそうになった。
- 487 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 03:00
-
ここからバミった位置までは、まだ少し距離がある。
男が誘いに乗って美貴に近づいてきたら、左足を大きく踏み込んで股間にブーツのつま先をめり込ませてやる。
それが原因で男の生殖機能がバカになったとしても美貴の知った事ではない。
「さっさとしろよ! 寒いんだよ!!」
さらにもう一つ、Gパンのボタンを外す。寒さと恥ずかしさで、上半身全体に鳥肌が立つ。
調子に乗って上は脱いでしまったものの、Gパンを下ろす訳にはいかない。
足枷が嵌っているため完全には脱げないし、膝の辺りに脱ぎかけのGパンがあれば、当然蹴る事が出来なくなる。
美貴は両手の親指を下着に掛けて少し下に引っ張ってみたりと、挑発を繰り返す。
「折角ですが、お断りします」
「何だと!?」
「確かにあなたは魅力的なのですが、それ以上に物凄い殺気を感じます。
勿体ない話ですが、私も噛みちぎられたくないので。どうぞ、無理をせず服を着て下さい」
「・・・けっ、この腰抜けが!」
口では強がってみたものの、内心美貴はホッとする。Tシャツとセーターを着て毛布を肩から羽織った。
「じゃあ、あなたを攫った目的を言いましょうか」
男は二本目の煙草に火を付けた。イライラが募る美貴は思わず一本くれ、と言いそうになる。
「何だよ?」
「一言で言えば、メンツのためです」
「・・・メンツ?」
「そう」
ゆっくりと煙を吐き出した男は立ち上がり、先程の段ボールに手を突っ込む。
何が出て来るのかと思ったら、モノグラムのボストンバッグだった。咄嗟には意味が分からなかった。
「何それ? 何が入ってるの?」
「分かりませんか? あなたの物ですよ」
男は美貴に向かってボストンバッグを放り投げる。
両手で、というか、身体全体でバッグをキャッチした瞬間、全てを思い出した美貴の目の前が真っ白になった。
- 488 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 03:01
-
「・・・こ、これ・・・は・・・も、もしかして・・・」
突然震えだした手でバッグのファスナーを開ける。
思った通り、中からは見覚えのある自分の服や下着が出てきた。
御丁寧に京都で買った土産物まで、そのままの状態で入っていた。
「迷惑を掛けましたね。あなたのカバンは今返した訳だから、私のカバンを返して下さい」
「・・・な、何で・・・これが美貴のだと・・・分かったの?」
「色々あるんですよ。それより、私のカバンは? あなたが持ってるんでしょ?」
「・・・」
ガチガチと細かく奥歯が鳴り始めたのは、決して寒さのせいだけではなかった。
さっきまで美貴は、この男の事を、自分のことが好きなサイコなヲタクだと本気で信じていた。
だからこそ強気な態度もとれたし、もし殴り合いになれば片足でも互角以上にやりあえると思っていた。
しかし、アレの持ち主だったのなら話は別だ。
当然ヤバい組織とかが関係してるんだろうし、今はこの男一人しかいなくても絶対に単独犯ではない。
仮に何らかの方法でこの場を凌いだとしても、この先数え切れない程のヤクザに狙われる事になる。
「どうかしましたか?」
「・・・や・・・何でも・・・」
だからと言って、吉澤を売り渡すような事は絶対に出来ない。
仲間で、親友で、この件では自分を更生させてくれた、ある意味命の恩人だ。
それにここで吉澤の名前を出したからといって、自分が助かる保証はどこにもない。
「もう一度聞きますが、私のカバンはどこにあるんですか?」
「・・・部屋に・・・」
「部屋? 誰の部屋ですか?」
「勿論美貴の部屋に。絶対に誰にも言わないから、取りに行かせて。必ずカバンは返す」
「それは出来ない相談ですね。私がそんなにバカに見えますか?」
「や、そんな事ない。絶対に約束は守るから」
「あなたの部屋の、どこにあるんですか?」
「物置に使ってる部屋の・・・言っても分からないと思うけど・・・」
「物置部屋? 玄関入って右手の? 寝室の向かいですよね?」
頭を抱えて下を向いていた美貴が、その言葉に驚いた表情で男を見上げた。
- 489 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 03:02
-
「・・・何で・・・知ってるの・・・」
「無断で申し訳ないのですが、あなたの部屋は隅から隅まで捜索してます。カバンは出てきませんでした」
「・・・いつ?」
「今日の午前中です。あなたがタクシーに乗って出かけていった間」
「・・・どうやって入ったの?」
「ピッキング、という言葉を聞いた事がありますか? 鍵なんか無くても私はどこにでも侵入できます」
お手上げだ。美貴は不覚にも笑い出してしまった。
「・・・お願いがあるんだけど」
「聞ける事と聞けない事がありますが、取り敢えず言ってみて下さい」
「煙草一本ちょうだい」
「アイドルで未成年なのに煙草吸うんですか? まぁいいでしょう。カバンの在処を教えてくれる事を願って」
苦笑いを見せた男は、美貴に向かって歩きながらラッキーストライクを一本くわえ、火を付けてから差し出した。
当然美貴のテリトリーに入ってきて手渡しをしたのだが、美貴に先程までの反抗心は残っていなかった。
「ありがと」
素直に煙草を受け取り、深々と吸い込む。
久し振りにニコチンを身体に入れたので、一口目は指の先までピリピリと痺れ、
治まっていた吐き気が少し復活したかに思えたが、二口目からは懐かしい感じの心地よさが蘇ってきた。
「で、私の質問は繰り返される訳ですが」
「何だっけ?」
「何だっけはないでしょう。カバンですよ。どこにあるんですか?」
「・・・それを言うと、美貴は殺される?」
「どうしましょうか。実はこの後の事をまだ考えてないんです」
「・・・へぇ・・・」
「何ですか?」
「や、普通なら、教えてくれたら絶対に殺さない、って言うもんじゃないの?」
「でも、そう言って、本当に殺さないつもりだったとしても、どうなるか分からないでしょ?
結局殺してしまったら、嘘を言った事になりますから」
「相当偏屈な正直者なんだ」
「必死なんですよ。信用してくれたら、カバンの在処を教えてもらえると思って」
この部屋に入ってきた時から一向に変わらない男の口調と態度を見て、すでに美貴は半分以上信用していた。
- 490 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 03:03
-
「アンタは下っ端なの?」
「は?」
「アレが回収出来ないと、アンタも組織の人に殺されるの?」
「組織?」
男は両手を広げてゲラゲラと笑い出した。
「何よ」
「テレビの見過ぎですよ。それにこれは私のビジネスです。私がカバンを取り戻す事に拘っているのは、
さっきも言った通りメンツに関わる事であって、私が誰かに殺される事はありません」
「・・・マジで?」
「そうですよ」
真面目な顔で頷く男を見ながら、美貴は短くなった煙草をコンクリートの床に押しつけ、暫く考える。
「・・・ねぇ」
「教えてくれますか?」
「トイレに行きたい」
「残念ながら、ここにトイレはありません。そこでしてください」
溜息をつきながら立ち上がった男は部屋の隅に行き、ガラクタの中からバケツを拾い上げ美貴の近くに置いた。
「冗談じゃないんだって。ホントにしたいの」
「私の方も冗談ではありません。本当にトイレはありません」
「犬や猫じゃないんだから、こんなとこで出来るかよ」
「さっきは私の前で勢いよく脱いでくれたじゃないですか。やろうと思えば出来ますよ」
「ソレとコレは話が違うんだって。お願いだから鎖を外して」
「それは出来ません」
「カバンの在処を教えると言っても?」
「・・・その情報が本物だという証拠はどこにあるんですか?」
今まで美貴の質問に淀みなく答えてきた男の返事が初めて一拍遅れ、その反応に美貴は満足した。
難攻不落と思っていた男の微妙な変化を目の当たりにして、最悪だった精神状態が少し回復する。
現在は極僅かな綻びかもしれないが、一度空いた穴から常に水を流し続ければ、それは必ず大きな穴になる。
とにかく今は全知全能を振り絞って、ここを切り抜ける方法を考えるべきだ。
「それは美貴を信用してもらうしかないね」
「・・・やっぱりダメです。足枷を外すのは、私がカバンを手に入れてからです」
男は首を振りながら、自分に言い聞かせるように呟いた。
- 491 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 03:05
-
「ケチ」
「そういう問題ではありません」
「困ったねぇ」
「だから、そのバケツにして下さい。終わるまで私は外に出てますから」
「や、そうじゃなくて」
「何ですか?」
「や、美貴はアンタの事を信用してるのに、悲しいかな美貴は信用されてない」
「あなたと私では立場が違います」
「立場ねぇ」
美貴はさっき貰ったコンビニの袋を覗き込み、おにぎりを取り出した。
「トイレはどうしたんですか?」
「ギリまで我慢する」
「そんな物食べると、余計喉が渇きますよ」
「ってゆうかさぁ」
「・・・何ですか?」
明らかに男は苛つき始めている。かなり前からそうだったのかもしれないが、
とにかく柳に風と、美貴の攻撃を受け流してきた素振りはもう見られない。
美貴はパリパリと海苔の香ばしい音を立てながら、三口でおにぎりを食べ終わる。
「アンタってさ、人間としては最高だけど、ヤクザとしては最低の部類に入るよね」
「私はヤクザではありません。まぁ、あなた達から見れば同じようなものかもしれませんが。
それにしても、あなたにダメ出しされるとは思ってもみませんでした」
男は力のない笑い声を上げる。
「ハッキリ言おう。美貴は当然カバンの在処を知ってるし、アンタにそれを返したいとも思ってる。
けど、その在処は絶対に喋らない」
「・・・話が矛盾してませんか?」
「そぉ?」
「返したいと思ってるのに在処を喋らないというのは、明らかに矛盾してますよ」
「美貴に一時間ちょうだい。必ず持って帰ってくる」
「だから、その話はさっき断った筈です」
「でもそれ以外に解決法はないよ」
「力尽くで聞き出すってのもありますよ」
「いいよ。やってみな。たとえ殺されても絶対に言わない」
「そう言う人に限って、いざ拷問が始まったらすぐに口を割ると相場は決まってますが」
「グダグダ言ってねぇで、やれよ」
- 492 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 03:06
-
「・・・私の思い違いかもしれませんが」
「何?」
「あなたは、さっきから私をどうにかして怒らせようとしてませんか?」
「だから、何?」
「それが、あなたのどういう得になるかが分からないのですが」
「損も得もねぇんだよ。アンタは絶対に美貴を殺せない」
「・・・何故、言い切れるんですか?」
「自分で言ったんだろ? 美貴のガラをパクった理由は金でもセックスでもなく、メンツだって。
カバンを取り返す前に美貴を殺すという事は、自分で自分のメンツを殺す事になるんじゃないのか?」
「なるほど。見事な屁理屈です」
言葉とは裏腹に、男の横顔が一瞬歪んだのを美貴は見逃さなかった。
流れは確実に美貴に向いているが、このまますんなり寄り切れるとは思っていない。
勝負事は全て押しと引きが重要で、誰に教わった訳ではないのに、美貴はその辺りのテクニックに長けていた。
ずっと押しが続いたので、次は引く一手だと思った美貴は、普段より少し鼻に掛けた甘い声を出す。
「ね、もう一本煙草ちょうだい」
「・・・あなたは、不思議な人ですね」
男は箱ごと美貴に向かって投げつけ、美貴が両手でキャッチすると間髪入れずにライターを放り投げる。
「サンキュ」
美貴は一本抜き出して慣れた手つきで火を付け、煙草の箱とライターを男に差し出した。
「暫く、持ってていいですよ」
一瞬腰を浮かしかけたが、面倒くさそうに座り直す。
「ねぇ」
「・・・何ですか?」
「この状況で美貴を縛り付けてる理由って何? この足枷を外してくれたら、そこまで煙草返しに行けるのに」
「用心するに超した事はありません」
「や、そりゃ、アンタが出かけてる時は分かるよ。今は別にいいじゃん。本気で美貴に負けると思ってんの?」
「そんな事はありませんが」
短く笑い声を上げた時、男の携帯が鳴った。失礼、と言って立ち上がり、男は部屋を出て行った。
(くそ、もう少しだったのに・・・)
部屋に一人取り残された美貴は、紫煙と共に、ドッと疲労感を吐きだした。
- 493 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 03:09
-
「はい、保」
『福だ』
電話の相手は、沢の組織のナンバー2である福日明だった。
保とは同い年で結構馬が合い、プライベートでも会ったりする間柄だ。
ただ、最近はかなりの部分で沢に仕事を任され、日本と台湾を往復する多忙な日々が続いていた。
「おう、久し振りだな。日本に来てるのか?」
『ああ、今着いた。実はお前に聞きたい事があるんだが』
「どうした?」
『今回のブツの搬入なんだが、ウチのボスから何か変更があったって聞いてないか?』
「変更? いや、何も。どういう事だ?」
『昨日の朝、一日遅れで大連にコンテナ船が着いた。そこまでは確認できてるんだ。
しかし今日、北朝鮮チームからブツが入ってきてないと連絡があった』
「何だって!?」
『台北からボスに連絡しても全然繋がらないし、それで急遽東京に出てきたんだ』
「ちょっと待て! どういう事だ!? 沢さんは今、台湾にいるんじゃないのか?」
『俺はそんな話は聞いてない。ボスはずっと東京の筈だ。なんでお前はボスが台湾だと思ったんだ?』
「・・・トラブルが発生したとかで・・・いや、待てよ・・・日本を離れるかもしれない、と言っただけか・・・」
『その話、詳しく聞かせろ』
「三日前か・・・俺が沢さんと一緒にいる時、沢さんに電話がかかってきて、トラブルが発生したと言ってた。
俺は電話の相手はお前だと思ってたんだ」
『初耳だ』
「で、沢さんは暫く日本を離れるかもしれないから後はよろしく、みたいな事を言ってたので、
俺はてっきり台湾に帰ったものだと勘違いしてた」
『他には?』
「その時はそれで終わりだ。それ以来連絡は取ってない」
『そうか・・・』
「それよりも、コークだ! 一体どうなってるんだ!」
『俺にもさっぱり分からん。大連からチョンジンまでの間で、車ごと行方不明になった、って事だけだ』
「35キロのコークだぞ! 15億だぞ! 行方不明になったで済むか!!」
『とにかく、今どこだ? 会えるか?』
「川崎にいる」
『川崎? じゃ俺を拾ってくれ』
「お前は成田じゃないのか?」
『羽田だ。関空経由しかチケットが取れなかったんだ』
「分かった。近くまで行ったら電話する」
- 494 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 03:11
-
再び部屋に入ってきた男は、先程とは別人のように不機嫌だった。
椅子には座らず真っ直ぐ美貴のいる方に歩いてきて、目の前に仁王立ちした。
「悪いんですが、用事が出来ました。今日は失礼します」
「ちょ、ちょっと、美貴はどうなるの?」
「あなたはさっき解決法として、自分がカバンを取りに行くしかない、と言いましたよね」
「うん」
「その提案はどう考えても却下です。一晩ゆっくり考えて別の解決法を見つけ出して下さい」
「マ、マジで? ここで?」
「勿論です」
「・・・足枷は? このまま?」
「当たり前です。明日の朝には帰ってきますので、辛抱して下さい」
男は無表情のまま、ドアに向かって歩き出す。
「あ、ちょ、ちょっと」
「何ですか?」
「・・・今何時?」
「9時15分です。それじゃ」
「ちょ、待ってってば」
「・・・何ですか?」
「美貴の腕時計どこやったの? 時間が分からないと辛いな」
「・・・腕時計? 私は知りません。私はあなたのコートを脱がせただけです」
「えーっ、絶対してたって。ジム出る時、ちゃんとしたもん」
「本当に私は知りません。時間が分からないと言うなら、私のを持ってて下さい」
ドアのノブに手を掛けていた男は腕時計を外し、引き返して美貴に渡す。
「わっ、凄ぇ。ロレックスだ」
「それでは」
「時計がないとアンタも困るんじゃないの? あっ、美貴の携帯は? 携帯があれば時間分かるから」
「・・・そんな手に引っ掛かると思ったんですか? 本当に勘弁して下さい」
「ちぇっ、ダメか・・・ね、ストーブもうちょっとこっちに持ってきてよ」
美貴のリクエストに、男は黙って応じた。不機嫌さが増していくのが手に取るように分かる。
「あ、それと、そのカバンからポーチ取ってほしいな」
スポーツバックからポーチを取り出し、中身を確認して美貴に放り投げる。
「他には?」
「や、もうない」
「念のため言っておきますが、いくら騒いでもここには誰も来ません。あまり無駄なことはしないように」
相当苛ついていたが、男は最後までキレる事なく部屋を出て行った。
静寂の戻った部屋で美貴は大きな溜息をつき、ゆっくりと煙草に火を付けた。
- 495 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 03:14
-
***
濃いめのコーヒーを入れた絵里は両手にマグカップを持ち、リビングテーブルに向かう。
いつもなら、見てなくても点けっぱなしになってるテレビが、今日は沈黙したままだった。
ソファーで丸太のように寝転がっていた吉澤は、上半身を起こしてコーヒーを受け取る。
決して怒ってる訳ではないのだが、普段より口数は圧倒的に少ない。
「お風呂、どうします? 入るなら沸かしますけど」
「ん・・・スタジオでシャワー浴びたから、今日はもういいや。お前は?」
「じゃ、あたしもいいです」
ダンスレッスンが終わった後、二人は真っ直ぐ吉澤のマンションに帰ってきた。
現在も居残り練習をするメンバーがいる中で、この展開を予想していた絵里は必死に振りを覚え
吉澤と一緒にスタジオを後にする事が出来た。
休憩中のエレベーターホールでの密談は、その後現れた高橋と新垣によって中断されたままになっていて
帰り道も終始無言だった吉澤が、熱いコーヒーを一口啜って続きを切り出す。
「それよりさ・・・お前は一週間黙ってるって事でよかったんだっけ?」
「えーっ、あたしは三日って言ったんですよ。吉澤さんが一週間って言って、その後間を取って五日だって」
「あれ、そうだっけ?」
「でも、三日って言うのも、あたしが納得できれば、って条件付きですよ」
「じゃ、何か質問してみろ」
「・・・まず・・・何でメールを偽物と見破ったんですか? さゆは全然そんな素振りなかったですよ」
「俺もお前からの電話がなかったら、全く気付いてないと思う」
吉澤は立ち上がり自分のカバンを取りに行く。中から携帯を取り出し、受信ボックスを開けて絵里に渡す。
『少し熱があるみたいでずっと寝てた ごめんね』
短いその一文を絵里は何度も読み直す。どこにも不審な箇所は見受けられなかった。
「シンプルで、いかにも藤本さんらしいメールじゃないですか?」
「だろ? 実は、俺がそのメールを受け取ったのは、奴のマンションの前だったんだ」
「行ってたんですか?」
「ああ。あまりにもお前の迫力が凄くてな」
「・・・それでスタジオに来たのが集合時間ピッタリだったんですね」
吉澤は少し微笑んでゆっくりと頷き、両手でマグカップを持った。
- 496 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 03:17
-
「奴のマンションに行って、オートロックのチャイムを鳴らした瞬間にメールが来たんだ。
奴が部屋にいるなら、普通は開けてくれる筈だろ? カメラが付いてるんだし、俺だって分かる訳だから。
部屋番号間違えてるのかと思って、ちゃんと確認して、その後何回かチャイムを鳴らしたけど
全く反応ないし、電話も家と携帯の両方にかけてみたんだけど、出なかった」
「なるほど」
「なんとなく釈然としないままだったんだけど、時間も迫ってるし、俺は駅に向かったんだ。そしたらそこで」
「・・・どうしたんですか?」
絵里は固唾を飲み込む。
「なにか光る物が落ちてると思って、拾い上げたら、これだった」
吉澤は着ていたジャージのポケットから、ブレスレット型の腕時計を取り出した。
「!」
「見覚えあるか?」
「・・・ふ、藤本さんのお気に入りの時計じゃないですか?」
「そう。これで流石に俺もオカシイと思ったんだ。いくら熱があっても、道で時計を落とせば気付くだろうし
それ以前に、普通に歩いてて、腕時計が外れて落ちるなんてちょっと考えづらいだろ?」
「・・・そこまで分かってるなら・・・」
「うん?」
「そこまで分かってるなら、何故警察に言っちゃいけないんですか? これは絶対にヤバいですよ!」
コーヒーを飲み干した吉澤は立ち上がり、腕を組んでゆっくり歩き始めた。
五歩くらい行くとクルッと向きを変え、同じ所を何度も往復する。熟考する時などによく見せる行動だった。
- 497 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 03:19
-
「極まれに、メールを送ってから相手に届くまでに時間がかかる時がある。センターが混んでいるとかで。
そのメールは、実はずっと前に送信されたもので、俺の携帯に届いた時には、奴は爆睡してたもかのしれん」
「・・・可能性は・・・ゼロではないですけど」
「時計だってそうだ。ジムで着替えた後、面倒くさくなって、腕に嵌めずポケットに入れておいた。
歩きながらハンカチか何かを取り出そうとして、その時に落としてしまった」
「・・・そうであって欲しいと思いますけど・・・」
「つまり、この程度の事では、警察は絶対に動かない。もっと大きな物証がないと」
「動かなかったとしても、取り敢えず話を聞いてもらうだけでもいいじゃないですか」
「ホントにそう思う?」
「は?」
「俺は、トラウマになってるのかもしれない」
吉澤は絵里の隣に座り、その細い肩に腕を回した。
「・・・トラウマ・・・?」
「まぁ、それは置いといて。とにかく俺は、物証はないにしても、奴が何者かに拉致されたと思ってる」
「・・・同感です」
「けど、奴が、そこら辺のヲタクにヤられるとは、どうしても思えないんだ」
「と言うのは?」
「アイツは、マジで強いぞ。おとなしく拉致られるようなタマじゃない。
普通の男が相手なら、どんな不意打ちを喰らっても、やり返せるだけの資質を持っている」
「・・・けど、吉澤さんにはあっさり負けちゃったじゃないですか」
「あの時は奴が油断してたからな。逆に俺は全神経を集中してた。その違いだけだ。
もし最初から俺がファイティングポーズをとってたら、奴もそれなりに警戒しただろうから、
あんな結果にはなってない筈だ。もう一回奴とやって勝てる自信はあまりない」
再び立ち上がった吉澤は、またウロウロとソファーの前を歩き回る。
- 498 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 03:22
-
「・・・ふぅん・・・吉澤さんがそう言うなら、そうなんでしょうけど」
「チャラ男みたいな奴が、仮にナイフを持ってたとしても、アイツのガラをパクるなんて考えられない。
しかし奴は拉致られた。誰にも気付かれずに、そんな芸当が出来るのは、その道のプロだ」
「藤本さんのコトを買い被り過ぎてませんか? いくらケンカが強いといっても、普通の女の子ですよ」
「買い被りはあるかもしれない。けど、奴は決して普通じゃないぞ。今回の事は、絶対に素人の仕業ではない」
「・・・誘拐の・・・プロ?」
「つまり、その筋の人間・・・ヤクザって事だ」
「ヤクザ!?」
「ああ。他の可能性も色々考えてみたんだが、どうもしっくりこないんだ。
最初は車に撥ねられたんだと思った。事故を起こした奴が車に乗せていって、どこかに捨てる・・・
でも時計の落ちてた辺りには、そんな痕跡は一切無かった。いくら雨が降ってるからといっても」
「・・・」
「通り魔的な犯行はもっと考えにくい。頭のオカシイ奴が後ろからバットで殴りかかったとして、
騒ぎにならない訳がない。いくら人通りが少ない道とは言え、東京のど真ん中だ」
「それは・・・そうですけど・・・」
「どう考えても、これは計算され尽くした誘拐劇だ」
「・・・」
絵里は歩き回る吉澤を目で追いながら、思いを巡らす。
「例えば、さっきお前が藤本さんらしいと言った、そのメールもそうだ。
俺もそう思ったし、実際シゲは見抜けてないんだろ?
敵はおそらく、アイツを攫った後で携帯の着信を確認し、登録されてる相手にはメールを返してるんだ。
それも送信ボックスをじっくり観察して、アイツがどういう文章を書いているのか研究してる」
「ヲタクと呼ばれる人達って、神経質そうで、そのくらいの事はするんじゃないですか?」
「確かに。だが、そんな奴がアイツに近づいていくと、一撃でブチのめされる」
「あ、そっか」
「こんなに巧妙で用心深い工作が出来て、尚かつアイツを拉致れるという所に、物凄い不気味さを感じる」
「なるほど」
- 499 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 03:24
-
「で、ヤクザが奴のガラをパクる理由なんだけど・・・」
「・・・身代金、ですか?」
「違うな。金だけが目的なら、もっと効率のいい標的はゴマンといる」
「・・・」
「強姦目的もあるかもしれないが、そんなものは所詮二の次だ。それだけの目的でプロが危険を冒す訳がない」
「・・・も、もしかして・・・」
絵里の視線がテーブル上の一点で固まった。暫くそのまま、何も見てないような表情になる。
「そうなんだ、遂に奴等は辿り着いた」
吉澤も足を止め、右手の親指の爪を噛む。僅かな時間、静寂が訪れた。
「でも、一年以上も経って、どうやって?」
「それは分からない。それこそ、俺達の想像以上の情報網が連中にはあるんだろう」
「・・・でも・・・もし、そうなら・・・」
「なおさら、警察に、か?」
「その通りです」
動きを止め見つめ合っていた二人は、先に吉澤が視線を切った。一呼吸置いて、静かに喋り始める。
「・・・以前に俺は、同じような状況を経験した事がある。親友が誘拐されたんだ。
当然その娘の母親は、警察に連絡した。しかし、その娘は、無惨な死体で発見された・・・
今でも俺は、警察の初動捜査のミスだったと思ってるんだ・・・」
(・・・シミズマキ!)
絞り出すような吉澤の告白に、絵里の頭には後藤との会話が蘇ってきた。
その後、途切れていた思考は繋がり始め、絡まっていた部分は緩やかに解けてくる。
先程から全然中身の減っていないマグマップを握りしめたまま、絵里はある確信をする。
- 500 名前:_ 投稿日:2005/05/07(土) 03:27
-
「・・・それが・・・さっきのトラウマって事ですね・・・」
「ああ」
「この先、どうしようと考えてるんですか?」
「俺の推測が正しいのなら、連中は俺に接触してくる筈だ。今コカインを持ってるのは俺なんだから。
責任は全部俺が取るから、アイツの生命力を信じて、俺に連絡がくるまで待ってくれないか?」
「・・・一つだけ聞かせて下さい」
「何?」
「その亡くなったお友達と、藤本さんを誘拐したのは、同一犯だと思ってるんですか?」
「!」
吉澤のくちびるが、みるみるうちに白くなる。
「同一犯だと思っているなら、答えはノーです。危険すぎます。
吉澤さんが盲目的に敵討ちに走ってしまったら、藤本さんも失いかねません。
もし、これがあたしの思い過ごしであるんなら、あたしは全力でサポートします」
「・・・ど、同一犯だと・・・お、思ってない・・・」
「ホントに? ならOKです。三日と言わず、一週間黙ってます」
絵里は肝心な部分をぼかしたまま吉澤にプレッシャーを掛け、胸中でチラッと舌を出した。
「・・・な、なんで、そんなふうに思った?」
「あれ、何か動揺してませんか?」
「ど、動揺なんて、す、する訳ないじゃん」
「そうですか。あたしが何でそう思ったかっていうのは、吉澤さんが全てを話してくれた時に言います」
「・・・この野郎・・・」
顔面蒼白だった吉澤は、僅かな時間で立て直し、薄く笑みを見せる。
この先も、迷った時には必ずコイツの頭脳が必要になる。絵里、頼りにしてるぜ、と心の中で呟いた。
- 501 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2005/05/07(土) 03:29
- ( `.∀´)<ごひゃーく!!!
- 502 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2005/05/07(土) 03:30
- 今日はここまでです。
すいません、また更新が遅れてしまいました。
容量が増えた事によって、落とそうと思っていたエピソードを書けるな・・・
と思っていたら、こんなに時間が経っていたのです。
プライベートでもゲロが出そうなくらい忙しいし、暫くはこんな感じかもしれません・・・
- 503 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2005/05/07(土) 03:32
- >>474
レスありがとうございます。
セカンドシーズンキタ━━━( 〇 ^ 〜 ^ 〇 )━━━━!!!!!!!!!!
しかも物凄い勢いで。自分が次更新した時にはレス数負けている悪寒・・・
自分もまたドキドキしてもらえるように、しっかり頑張ります・・・
>>475
レスありがとうございます。
カタギって自分の中では毎朝決まった時間に働きに行く人、というイメージがあるので
そういう意味ではカタギではありません。
がしかし、その筋の人達から見れば、完全にコッチ側ですよ。ホントに勘弁して下さいw
>>476
レスありがとうございます。
よっすぃはこの先大変な事になるかもしれません。
これからも見守ってて下さい。
期待に添えるよう頑張ります。
- 504 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2005/05/07(土) 03:37
- >>477
レスありがとうございます。
あなたもですか!w
例えば、物凄い超能力系の小説を書く作者に、超能力がある訳でもないでしょう?
それと同じで、自分も普通の一般人です。よっしゃ、ウマい事言うたったw
>>478
レスありがとうございます。
今回もラストに亀ちゃんの冴えた頭脳が炸裂しましたが、いかがだったでしょうか?
この時期初レスを貰えると凄く励みになります。
これからもどうぞよろしく。
>>479
レスありがとうございます。
ありがたい言葉を頂きマイペースでやってると、こんな体たらくになってしまいました。
南極2号と言うのは・・・ぶっちゃけ昔のダッチ○イフですねw
空気を入れるタイプの奴で、膨らますとずっと大口を開けたままになってます。
その昔、南極越冬隊が基地に持って行った事からこの名前が付いたと言われてますw
- 505 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2005/05/07(土) 03:38
- >>480
レスありがとうございます。
これだけの量を一気に読んで頂けるとは、嬉しい限りです。
是非ともそのまま通りすぎずに、これからもお付き合い下さい。
>>481
レスありがとうございます。
『申し訳ない』と一言だけ。
>>482
レスありがとうございます。
『有り難き幸せ』と付け加えて。
- 506 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/07(土) 09:13
- 最高です!!!
続き気になるー。
毎日チェックしてるんです。
更新までの間、読み返して待っています。
- 507 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/07(土) 12:53
- 更新待ってました!
今後もよっすぃーの活躍に期待しています
- 508 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 00:52
- きましたね〜!って感じですw
亀ちゃんの頭脳が素晴らしい。
よっすぃに負けないくらいすごいですね。
けど、ある意味一番すごいのは藤本さんかも・・・。
がんばってください!次も待ってます!
- 509 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/08(日) 14:34
- 更新お疲れ様です!待ってました、心から。
次回も期待しつつまったり待ってるんで頑張ってください。
>>500ヤスオメ!
- 510 名前:ショウタロウ 投稿日:2005/05/08(日) 20:37
- 乙です。やっぱり楽しい。
なんかワクワクします
- 511 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/09(月) 00:09
- 更新お疲れ様です、お帰りなさい(なんか違
うわドキドキしますね、ぼやけていた視界の一部が少し明るくなりましたし。
次回も期待してます、でも自分のペースで無理はなさらずにがんばってください。
- 512 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/13(金) 23:36
- 更新お疲れさまです。 結構確信に近付きつつありますね。 でもこの後の行動が全然読めません。 次回更新待ってます。 ・・・作者様のような表現思考が豊だったら、書きたい話もスラスラ書けるのに・・・(ポツリ
- 513 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/14(土) 09:49
- 更新乙です。
ヤバッ!!めっちゃおもろいっす!!
次回更新待ってます。
- 514 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 22:44
-
***
この時期に降る雨は、意外と長くは続かない。
昨日関東地方全域を覆っていた雨雲は、大陸からの高気圧によってあっさりと太平洋に押し出されていく。
西高東低と呼ばれる気圧配置が強まって上空には寒気が流れ込み、いよいよ季節は冬本番を迎える。
凍えるような寒さの中、憂鬱な気分で美貴は目を覚ました。
普段から決して寝起きは良くないが、今朝のそれは人生最悪と言っても過言ではない。
事態は何も変わらず、ただ時間だけが過ぎていく事に美貴は苛立っていた。
ボリボリと後頭部の辺りを掻きながら起き上がると、朝日の差し込む窓を見つめながら暫く頭の中を整理する。
美貴が煙草をくわえ火を付けようとした時、唐突にドアが開き男が入ってくる。
あまり体調が優れず感覚も鈍っていたため、全く気配を感じとる事が出来なかった。
火のついたライターを右手に握りしめたまま、美貴の動きが一瞬止まる。
「遅くなりましたね、申し訳ない」
男の言葉に美貴はチラッとサブマリーナを見る。時間は10時半を少しまわっていた。
そのままゆっくりと煙草に火を付け、カチッと小気味いい音を立ててライターの蓋を閉じる。
「・・・や、美貴も今起きたとこだから」
「この状況で眠ってたんですか? 私が言うのもなんですが、あなたは本当にいい度胸してますね」
「まぁね。それだけが取り柄みたいなもんだし」
「ところで、何か必要な物があれば買ってきますけど。食べたいものとかありますか?」
「・・・焼肉。特上のカルビとロース」
美貴が真面目な顔で答えたので、男は笑い声を上げた。
「それは無理ですね。コンビニとかで売ってる物にして下さい」
「じゃ適当に。あと、座布団買ってきて」
「座布団?」
「昨夜から始まっちゃって。夜用のスーパーロングお願い」
「・・・ああ、そういう意味ですか」
「あと煙草と」
「・・・煙草? 昨日渡した分は? 半分以上残ってたでしょう?」
「もうない。これが最後の一本だから」
美貴は煙草を持った右手を少し挙げて見せた。
- 515 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 22:45
-
「・・・同じ物でいいですか?」
「や、折角買ってきてくれるんだったらパーラメントがいいな」
「他には?」
「ティッシュを箱で。上等のヤツを」
「分かりました。ちょっと待ってて下さい」
ドアの方に振り返ろうとした男の目線が、部屋の一番隅に置かれていたバケツでふと止まった。
バケツの上にはダンボールが一枚、蓋の代わりにして乗せられている。
「あのバケツ使ったんですか? じゃついでに中身を捨ててきます」
「やめて!」
バケツに向かって歩き出そうとする男の一歩目を、美貴の甲高い声が鋭く制す。
「・・・何故? あれが一杯になったらこの先困るでしょう?」
「美貴が自分で捨てるからいい。ってゆうか、中見たら殺す。マジでブッ殺す」
「鎖で繋がれてるあなたがどうやって捨てに行くんですか?
その足枷を外すのは私がカバンを手に入れてからだって昨日言ったでしょう?」
「・・・なんとかする」
「どうやって? 今すぐカバンの在処を教えてくれますか?」
美貴は下を向いたまま、力なく首を左右に振る。
「・・・じゃ、バケツも買ってきて」
「それはいいですけど、理由を教えて下さい。何故そんなに拘ってるんですか?」
「・・・恥ずかしい・・・から」
「それだけ? あなたも相当変わってますね。ってゆうか、今あなたの置かれてる立場をもう少し認識して下さいよ」
男はそう言い残し、不思議そうな表情で部屋を出て行った。
昨日のファーストコンタクトは、やや美貴の優勢で終わった筈だ。少なくとも美貴はそう信じている。
しかし、こんな所で自分の弱点が邪魔をするとは思ってもみなかった。
確かに美貴の羞恥心は、他の人に比べると少し変わった方角を向いている。
自分でトイレットペーパーを買えない程、こっちの系統には弱い。
男に生理用品を買ってきてくれと頼むのも、美貴にとっては一大事だったのだ。
勝負事、特に交渉事に関しては『いかに相手より精神的に余裕を持って望めるか』という点が重要だ。
このロストポイントを挽回し、自分が優位に立つというのは容易な事ではない。
美貴は今後の戦略を練る代わりに大きく深呼吸をし、コンディションの回復に努める。
- 516 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 22:47
-
30分程経って、男は両手に大きなビニール袋を提げて戻ってきた。
「近くのコンビニはバケツを置いてなくてね。ホームセンターまで行ってきましたよ」
「悪いね」
美貴は貰ったビニール袋を覗き込み、パーラメントとホットの缶コーヒーを取り出す。
「ちなみに、コーヒーには利尿作用がありますから。
あまり飲み過ぎると、また恥ずかしい思いをする事になりますよ」
男は唇の端で薄く笑い、椅子にドッカリと腰掛ける。
「・・・知ってるよ、んな事くらい」
美貴は大見得を切って、缶コーヒーを一口飲む。
ここで男のペースに乗せられてしまうと、取り戻す事がさらに難しくなってしまう。
「ところで、いい解決法は見つかりましたか?」
「・・・多分」
「じゃ、聞かせて貰いましょうか」
「その前に・・・」
「何ですか?」
「少しお喋りしない?」
美貴の突然の提案に、僅かな時間、男は考えてるように見えた。
しかし濃いめのサングラスが邪魔になって、その表情を読み取る事は出来ない。
「あなたと話すのは楽しいので乗りたいところなんですけどね、あまりゆっくりもしてられないんです」
「そっか、じゃダメだね」
「ってゆうか・・・」
「何?」
「・・・もし私があなたの立場だったら、少しでも早くこの状況から脱出したいと思う筈です。
長引けば長引く程、肉体的にも精神的にも消耗するだろうし、雑談をする意図が分からないのですが」
「や、美貴もその通りだと思うよ」
「じゃ、何故?」
「ぶっちゃけ、長引いて困るのは美貴だけじゃないと思ってるから」
「私は別に困りませんよ。一年三ヶ月も待ったんですから、ここでの一週間やそこらはなんでもありません」
「や、そうじゃなくて」
美貴は男の顔を見つめたままクリームパンを取り出し、一口大きく頬張る。
- 517 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 22:48
-
「・・・他に何が?」
「美貴は引き籠もりのプーじゃないんだよ? 今は怪我で休んでるけど、仕事もしてるし仲間もいる。
実は昨日も約束があったんだけど、連絡が取れなくて不審に思った奴等が警察に連絡してるかもしれない」
「何を言うのかと思ったら、そんな事ですか」
「そんな事?」
「約束をしてたのは道重さゆみさん? それとも吉澤ひとみさん?」
「なっ・・・」
「当然あなたの携帯はチェックしてますよ。そして昨日あなたに電話してきた二人にはメールを返しておきました。
なので二、三日は連絡が取れなくても大丈夫だと思いますよ」
「・・・な、何てメールしたの?」
「少し熱があって寝てた、って」
「・・・」
食べかけのクリームパンを右手に持ったまま、美貴は暫し固まる。
認めたくはないが、美貴の中で本能が白旗を振っていた。
「まだ何かありますか?」
「・・・美貴がここに監禁されてる間、美貴にかかってきた電話に全部対応するつもり?」
「いや、もうしません。あまり頻繁にメールを送ってボロが出ると困りますから。所詮は一時凌ぎです」
「・・・」
「それに」
「何?」
「もし本当に警察が動き出すような事になれば、容赦なくあなたを殺します」
「・・・マジ?」
「この場合の優先順位というのが私の中にあって、一番大切なのは勿論、身の安全です。
いくら金やメンツがあっても、パクられたらそれで終わりですから。
自分の身に危険が迫れば、証拠になるものを全て抹殺して、私は一目散に逃げ出します」
「・・・」
下を向いてしまった美貴は、残りのクリームパンをゆっくりと口の中に押し込んだ。
「さて、これくらいにしておきましょうか。で、そろそろ解決法を聞かせて貰えませんか?」
「・・・忘れた」
「困った人ですね。じゃ明日までに思い出しといて下さい。何時になるか分かりませんが、顔出しますんで」
男は苦笑いを浮かべながら立ち上った。踵を返し、そのまま部屋を出て行く。
一人になった美貴はコーヒーを飲み干し、言葉にならない叫び声を上げながらドアに向かって缶を投げつける。
コンクリートの床の上で跳ね返ったそれは、驚く程大きな音を響き渡らせた。
- 518 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 22:50
-
***
絵里が仕事以外で学校を休むのは久し振りの事だった。
一応学校に間に合う時間には起きたのだが、とても行く気にはならなかったし、
なにより吉澤の様子が少しおかしいので、動こうにも動けなかったのだ。
二人は朝昼兼用の食事を宅配のピザで済ませ、ダイニングテーブルで向かい合って座っていた。
「ね、吉澤さん・・・何か気になる事があるなら言って下さいよ」
「・・・ん・・・どうしたもんかと思ってね・・・」
「何がですか?」
「足りない分」
「は?」
吉澤は意を決したように立ち上がり、クローゼットに保管してあったボストンバッグを取り出してきた。
「寝る前からずっと考えてたんだが」
そう言いながら吉澤は、バッグから三本のビンを出してテーブルの上に並べる。
「はい?」
「この間、なんとなく中身を量ったんだ。あのバカ共がどれくらいヤったのか気になって」
「はい」
「この一番上に乗ってたビンが962グラムで、こっちの二つはなんと、ビッタリ1000グラムだった」
「なるほど。本来それにも、ピッタリ1000グラムが入ってた筈だと」
「そう。40グラム足りないからと言って、ミキが殺されるとかは思わないけど、強請のネタにはなる。
出来れば3キロきっちり返したいが、いくら考えても、どの方法がベストなのか分からない」
「どの方法? いくつか候補があるんですか?」
「三つほど」
「聞かせて下さい」
絵里は反射的に身を乗り出して、吉澤の言葉を待った。
「一つ目は、中身を三本均等にして、素知らぬ顔で持って行く」
「はい」
「二つ目、何かを40グラム混ぜて、3キロピッタリにする。例えば砂糖・・・グラニュー糖とか」
「なるほど」
「三つ目は・・・あのクラブのロッカーから本物をパクってくる・・・」
「・・・」
「お前はどれがいいと思う?」
「えーっ、ちょっと待って下さい」
背もたれに身体を預けた絵里は、難しい顔をして腕を組んだ。
- 519 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 22:51
-
「ココアでも飲むか」
吉澤は立ち上がり、冷蔵庫から牛乳を取り出し火に掛ける。
「・・・後々の事を考えれば・・・三番がいいと思うんですけど・・・」
「ほぉ」
「相手は、メール工作の件から考えても、かなり神経質っぽい気がします。
まさかバッグを手に入れた瞬間に中身を量る事はしないと思いますけど、一番は有り得ません」
「同感だ」
「バレなければ・・・二番が簡単だし、いいと思うんです。
ただ、3000グラムの中の40グラムの紛い物ってどうなんですかね? 味とか効能がそんなに変わりますか?」
「そこなんだよ、問題は」
何故か嬉しそうな顔をした吉澤は、牛乳が噴きこぼれる寸前にコンロの火を止める。
ココアを二人分作り、スプーンでグルグルとかき混ぜながらマグカップを一つ絵里に渡す。
「あ、ありがとうございます」
「夜中お前が寝てる間に実験したんだ」
「実験? なんかゴソゴソやってるなとは思ってたんですけど」
「300ミリリットルのコーラに4ミリリットルの醤油を入れて飲んでみた」
ココアを啜っていた絵里は、おもわず噴き出しそうになる。
「・・・どうでした?」
「メチャメチャまずい。飲めたもんじゃねぇ」
「そりゃそうでしょう。ってゆうか、何故醤油なんですか?」
「だって、色が似てるから」
「だからって。それに醤油は飲み物じゃないし」
「や、色々試そうと思ったんだよ」
「他に何やったんですか?」
「その後色々失敗して、最後、焼酎に水で試してみた。勿論同じ分量で」
「なるほど。それは結構マトモっぽい。で、どうでした?」
「これがやっぱり違うんだ。クセのある焼酎に無味無臭の水。でも、たかが4mlとは言え微妙に印象が違う」
「ふぅーん・・・という事は、グラニュー糖じゃなく何を混ぜても、分かる人には分かると?」
「ホントに微妙なんだけど。分かる可能性もある、ってとこかな」
吉澤は両手を少し広げて肩をすくめ、アメリカンコメディに出て来るようなポーズを取った。
- 520 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 22:53
-
「・・・じゃ、やっぱり安全に藤本さんを取り戻す事を考えれば、本物が必要って感じなんですかね?」
「それはそうなんだけど・・・」
「危険がいっぱい?」
「危険どころの話じゃない。ヘタすりゃ自殺行為だ」
同じポーズを繰り返した吉澤は、口をへの字に曲げて静かに首を振った。
「パクりに行って・・・もし失敗するとどうなるんですかね?」
「・・・おそらく・・・運が良ければ、言葉の通じない所に連れて行かれて、延々と犯され続けるって感じかな」
「運が良くてそれですか!?」
「ヤクザってのはそんなもんだ」
「運が悪ければ?」
「そりゃ、勿論アレだ。セメントの靴を履かされて、東京湾で寒中水泳だろう」
「マジですか?」
「ま、俺達は可愛いから多分運の良い方に回されるだろうな。無下に殺される事はないと思う」
「・・・」
絵里はマグカップを握りしめたまま暫く固まり、思い出したように一口飲んだ。
「怖くなった?」
「はい。ぶっちゃけ運が良ければ説教で終わり、悪ければモーニング娘。脱退くらいかなと思ってました」
「それ、コンビニでガムの万引きじゃねぇか」
手を叩きながら吉澤は上を向いて豪快に笑う。
そんなに笑わなくても、と思いつつ絵里は吉澤の笑顔が見れて少し嬉しくなった。
「要は、確率の問題なんです」
「うん?」
「クラブからパクりだせる確率が完全にゼロパーセントなら、砂糖でも小麦粉でも混ぜるべきです。
けどロッカーのキーはあるんだし、少しでも可能性があると吉澤さんが思ってるのなら、賭けてみませんか?」
「・・・可能性は・・・現時点では限りなくゼロに近い・・・」
「そうかなぁ」
「いいか、よく聞けよ。あの店長は大切なキーを無くしたんだ。普通ならセキュリティに気を遣うだろ?
ストックしておく場所を変えたかもしれないし、コインロッカーに防犯カメラを付けたかもしれない。
とにかく情報が少なすぎるのに時間がない。誘拐犯から今すぐにでも連絡があるかもしれないんだからな。
もしヤるなら今夜しかない。そして最大のマイナス要因は、あの店長に俺は良く思われていない」
一気に捲し立て、吉澤はゴクリとココアを飲み干す。その表情は真剣そのものだった。
- 521 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 22:54
-
「・・・石川さん、ですか?」
「その通り。この計画は、俺達二人じゃ無理だ。どう考えても梨華ちゃんが必要になってくる。
けどアイツを仲間に引き込むためには、ミキの件を説明しなければならない」
吉澤は目を閉じて、眉間に少し皺を作った。
「マズい?」
「元々アイツにも責任はある訳だし、仲間にするのは別に問題はない。
ただ俺が欲しいのは平常心の梨華ちゃんであって、大根役者の梨華ちゃんは一銭もいらない。
ってゆうか、かえって足手纏いになってしまうかもしれない」
「藤本さんが拉致されたって言ったら、石川さんはオカシクなるって事ですか?」
「別にプレッシャーに弱いという事ではなくて、アイツはお嬢様気質というか、変に浮世離れした所があってな。
ヤクザだとか、拉致されたとか、そういう世界を頭では理解出来ても、本能が認めないと言うか」
「うん・・・何となく分かります」
同期でお互いを知り尽くす、吉澤ならではの言い回しだった。
絵里は石川の顔を思い浮かべながら相づちを打つ。
「それなりに責任も感じるだろうし、ガチガチに緊張した状態では戦力にならない」
「・・・もし平常心の石川さんが味方に付けば、成功率はどれくらいになりますか?」
「うーん・・・セキュリティをいじって無くて、店があの日のままの状態だったら・・・半々ってとこかな」
「半々!? なら勝負しましょうよ!」
「ただ連れて行くだけじゃダメなんだぞ。ちゃんと計画を理解させて、台本通りに動いて貰わないと」
「藤本さんが拉致されたとか、そういうキナ臭い事を言わなければいいんですよね?
じゃ、あたしがその台本書きますよ」
「・・・例えば?」
「・・・うーん・・・」
「考えてねぇのかよ! 妙に自信満々だったから何か策があるのかと思った」
吉澤はガックリと頭を垂れる。
「や、夜までに何とかします」
「・・・分かってるとは思うが、決定権は俺だ。お前と梨華ちゃんと俺の人生がかかってるんだ。
さっきの失敗した時の代償例は、決して大袈裟に言った訳じゃないぞ。
お前の書いた脚本に、少しでも甘い部分があればOKは出せないが、それでもいいんなら」
「勿論です。あたしも死にたくないんで、審査は出来るだけ厳しくして下さい」
- 522 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 22:56
-
「・・・じゃ、確認しよう。
今日のダンスレッスンが終わるまでに、誘拐犯から連絡がなければ、取り敢えず三人でクラブに行く。
もし連絡があった場合は、当然そっちが優先されるので、クラブの話は全てキャンセルだ。
それとお前の脚本がNGだった場合は、何か40グラム分の混ぜ物を入れて待機しよう」
「はい。混ぜ物を何にするか決めるのは、吉澤さんの担当で」
「OK。それからクラブに行った場合なんだけど、前回と少しでも店の状態が変わってるとか、
お前の脚本からちょっとでもストーリーがずれた場合は、その場で強制的に中止する。
もし引き返せない所まで踏み込んでからのイレギュラーがあった場合は、全て俺の指示に従って貰う」
「はい」
「お前が脚本を書き上げるタイムリミットは、ダンスレッスンの夕食休憩が始まるまでだ。
それ以上遅くなったら、梨華ちゃんに伝える時間がなくなるし、その時点で混ぜ物作戦にチェンジする」
「分かりました」
絵里がコックリと頷いた時、携帯が鳴った。絵里はすいません、と言って立ち上がり電話を受ける。
「はい、もしもし」
『えり? ゴメン、今授業中?』
電話はれいなからだった。絵里はその言葉に、ふと壁の時計を見上げる。11時半になっていた。
「や、今日ちょっと学校休んだ」
『どしたん? 体調でも悪いん?』
「や、そういう訳じゃないけど。れいなは?」
『ウチもサボった。ちゅうかお願い事があるっちゃけど』
「どした?」
『吉澤さんに電話してくれん?』
「吉澤さんに?」
絵里はおもわず、ここにいるよ、と言いかけて、すんでのところで止めた。
クルッと吉澤の方を向いて携帯を指さし『れいなから』と口の動きで伝える。
それを見た吉澤は、咄嗟に両腕でバツ印を作った。
- 523 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 22:57
-
『や、ミキさんに連絡が取れんけん、吉澤さんに聞いたら分かるかな、と思て』
「どうゆう事よ?」
絵里にはこのあとの会話が手に取るように想像出来たが、当然シラを切った。
『携帯が繋がらん。三回くらい掛けてみたんやけど』
「マジで?」
『ジムに行ってんのかなと思て、電話してみたんやけど来てないっちゅうし、さゆに聞いても知らん言うし』
「家の電話は?」
『繋がらん。ね、悪いんやけど、吉澤さんに聞いてみてくれん?』
「それはいいけど、自分で電話すればいいのに」
『なんか、恥ずかしいっちゃろ?』
「分かった。後で折り返すね」
『ゴメンね』
絵里は携帯を畳みながら、ダイニングテーブルに戻る。
「れいなも、藤本さんに連絡が取れないって言ってました。昨日のさゆと一緒です」
「そっか、そっちの心配もあったんだ。ってか何でヤツらは、ミキに連絡取れないと俺を頼るんだろう?」
「ってか何で二人とも、吉澤さんの前にあたしを挟むんだろう?」
「知らねぇよ。ってゆうか、マジでどうしよう?」
「・・・もう待ったなしですよ。藤本さんに連絡が取れない理由を考えないと、話が一気に広がります」
「それは困る。何か適当に考えてくれ」
「えーっ、あたしはクラブ作戦の脚本担当だから、吉澤さん考えて下さいよ。
昨日は確か、気付かせなければいいんだな、とか言ってたじゃないですか」
「そんな事言ったっけ?」
「うわ、ズルい。絶対ズルいですよ・・・あれ? ってゆうか」
「何? 何か思いついた?」
「や、吉澤さん、昨日マンションの前で偽メールが来た後にも携帯に電話したって言ってましたよね?」
「うん」
「その後メールは来てないですよね?」
「うん」
「誘拐犯はさっきのれいなの電話にもメールを返すんでしょうか?」
「分からん。俺誘拐犯じゃないもん」
「・・・もしかしたら、何とかなるかも」
絵里は携帯を広げ、着信履歴かられいなにコールバックする。
- 524 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 23:03
-
「あ、れいな? 絵里だけど」
『ゴメンね。どうやった?』
「や、吉澤さんに電話してるんだけど、全然繋がらないの」
『マジで? 吉澤さんも連絡とれんと?』
「うん。それで聞きたいんだけど、藤本さんの携帯にかけた時、呼び出し音は鳴ってた?」
『や、すぐに留守電の案内になりよっと』
「・・・何か入れた?」
『うん。ミキさん会いたいよぉ、って一回だけ』
「ふぅん。吉澤さんの携帯もコール音なしで、すぐ留守電になるんだよね」
『・・・二人でどっか電波の届かん所に行っとるっちゃろか?』
「あ、そうかもしれない。とにかく吉澤さんにはスタジオで会える訳だから、その時に聞いてみるけど」
『そやね。ウチもちょっと待ってみるけん、なんか分かったら電話くれん?』
「うん、勿論。れいなも藤本さんから連絡あったら知らせて」
『分かった』
「じゃね、また後で」
『ばい』
- 525 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 23:04
-
不信感一杯の眼差しでやり取りを聞いていた吉澤は、絵里が電話を切ると同時にテーブルの下で足を蹴る。
「どういう事だよ?」
「や、多分これでイケる筈なんですけど。れいながかけてくると困るんで、今すぐ携帯の電源切って下さい。
分かってると思いますけど、今日はスタジオ着くまで電源入れちゃダメですよ」
「・・・何で?」
「何でって、あたしが嘘つきになっちゃうじゃないですか」
「ちっげぇよ、何で俺まで繋がらない事になってるんだよ?」
「や、普通に時間稼ぎですよ。携帯の電源が入ってないと、いくら電話しても着信履歴は残らない。
つまり、れいなが留守電残してなかったら必要なかったんですけどね」
吉澤が腕を組んだまま動かないので、絵里は身体を伸ばして吉澤の携帯を手に取り、勝手に電源を切った。
「あ゙!」
「どした?」
「ヤバい。電源切ってたら、誘拐犯から連絡があっても分からないところだった」
絵里は慌てて電源を入れ直す。
「・・・おめぇ・・・頼むぞ、ホントに」
「吉澤さんだって一瞬気付かなかったくせに。とりあえず、れいなからの電話は出ないで下さいよ」
「・・・全く分からん。ま、分からんが、ここはお前に任す。もしこれで失敗したら・・・延々と犯し続けてやる」
「ウヘヘヘ。それって運がいいんですよね。寒中水泳じゃなくて良かった」
少し頬を赤らめて、無邪気に絵里は笑い声を上げる。
苦笑いを浮かべた吉澤は、本当にコイツは事の重大さが分かっているのか、と少し不安になった。
- 526 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 23:05
-
***
川崎の倉庫を出た後で、保は早めの昼食を済ませた。
昨夜の福との会話以来、鉄のかたまりを飲み込んだような感覚になっていて、
全く食欲は無かったが、それでも無理矢理にうどんを流し込んだ。
五ヶ月に一度、コロンビアのカリから送られてくるコカイン35キロが、搬送途中で消えてしまっている。
福の報告とは別に、自分でも裏を取ってみたのだが、確かに北朝鮮までブツは届いていなかった。
当然その時点で追跡調査を依頼したが、かなりの時間が掛かるとの事で、保には手も足も出せない。
沢にも依然連絡は取れないままで、まさに八方塞がりの状態だった。
藤本美貴を拉致してまで、3キロのコカインを回収する事に必死になっている自分が馬鹿みたいだった。
今度は、その10倍以上のブツが行方不明になっているのである。
美貴の件など、もうどうでもよくなってきて、一瞬放置しようとさえ思ったが、
もしこのまま定期搬入のブツが出てこなかった場合は、たった3キロでも重要になってくると思い直し、
何が何でも回収しなければ、と決意を新たにする。
保は借りたままになっていたトヨタを返しに行った後、自分のカイエンで新宿の自宅に辿り着いた。
マンションの地下駐車場に車を止め、エレベーターホールに向かおうとして一瞬足を止める。
エレベーターホールの出入り口に、二人の男が立っていた。
妙に目つきの鋭い二人組は、保に気付くと、こちらに向かってゆっくりと歩み寄ってくる。
(何だ・・・何者だ・・・ヤクザか?)
保は二人組が近づく僅かな時間、脳をフル回転させる。
真っ直ぐ向かって来るその足取りは確かなもので、自分に用事があるという事は明らかだった。
この辺りのシマは沢の知り合いが仕切っているが、だからと言って、絶対に安全を確約するものではない。
逃げることも選択の一つだったが、既にもう進路は塞がれている。
抜け目ないその身のこなしを見て、ようやく保は気付いた。
(・・・違う・・・コイツ等はヤクザなんかじゃない・・・コイツ等は・・・)
- 527 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 23:06
-
「保騨圭さんですね?」
二人のうち、年配の方が声を掛けてきて、保の考えが確信に変わる。
年配とは言ってもおそらく保と同世代か少し下で、もう一人がやけに若い。
「おたくは?」
聞くまでもなかったが、保は流れでそう口にした。
男はゆっくりと上着の内ポケットに手を突っ込み、身分証明を取り出した。
太い紐がダラッと付いた顔写真付きの黒い手帳。そして金色の旭日章マーク。
それを見た保は、やっぱり、というのと、何故、という思いが半々に交錯する。
美貴の拉致の件なら、どう考えても自分に辿り着くのは早すぎる。
平と市の死体遺棄、あるいはコカインの密輸そのものか、それとも他の微罪の件か、全く見当が付かなかった。
取り敢えず、この二人の事をヤクザと勘違いして逃げ出さなかっただけでも良しとしなければならない。
「私は警視庁捜査四課の三好と言います。そちらは大阪府警の岡田刑事」
(・・・四課? ・・・マル暴が何故?)
一口に警察と言っても本部は色々な部署に分かれ、当然どこに配属されるかで仕事の内容は変わってくる。
刑法犯の捜査を扱うのが刑事部で、警視庁では一課から四課まで分かれている。
殺人などの強行(凶悪犯)を担当する捜査一課。詐欺や横領といった知能犯を扱う捜査二課。
現行犯を基本とする窃盗や軽犯罪など多岐に渡る捜査三課。
そして、通称マル暴と呼ばれる、暴力団を担当するのが捜査四課である。
つまり、誘拐や死体遺棄が発覚したのなら一課の担当だし、不法侵入などといった捜査は三課の仕事だ。
コカインの密輸が対象になっているのなら、生活安全部という別の部署の捜査官が出て来る筈である。
保は日本のヤクザとは直接の関わりがなく、何故四課の訪問を受けたのか不思議で仕方なかった。
「警察の方が、私に何の用ですか?」
極めて冷静に、保は当然の疑問をぶつけてみた。
身に覚えのある犯罪者は皆このセリフを言うのかもしれないが、意図が分からなければ対処のしようがない。
- 528 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 23:07
-
「伺いたい事があるんですが・・・どこか落ち着いた場所で話せませんかね?」
三好は笑顔ではぐらかす。
このパターンなら仮に何らかの捜査対象になっていても、確信の無い段階だと保は踏んだ。
令状が出ていれば回りくどい事をせず真っ先に広げる筈だし、任意同行に類するものならば言い方が違う。
「このマンションの隣の一階が喫茶店になってるんですが、そこでいいですか?」
単なる事情聴取なら、いくら受けても構わない。保は若干の余裕を感じた。
「結構です。案内して下さい」
「じゃ、こちらへ」
保と三好は並んで歩き出し、駐車場から直接通りへ出る階段に向かう。
岡田と紹介された男は、保の斜め後ろを付いてくる。一言も発しないこの男が不気味と言えば不気味だ。
大阪府警というのがまず不思議だったし、ヤクザ顔負けの危険な雰囲気を醸し出している。
ラグビーとか柔道をやってるようなゴツい身体で、胸の筋肉が凄まじい。
コイツにもし殴られれば絶対に無事では済まないと思いながら、保は喫茶店のドアを開ける。
「今日は良い天気になりましたけど、寒いですねぇ」
正午の少し前という時間だったので、店はガラガラだった。
一番奥の広いテーブルを三人で占領して、三好が切り出す。
「・・・はぁ」
二人の狙いが分からないので、迂闊に喋ることは出来ない。
普通の世間話をしながら必要な情報をいつの間にか仕入れるというのは、警察の常套手段だ。
保は表情を崩すことなく、頷くだけにとどめる。
「まぁ、そう硬くならずに。ところで保さんは、どういったお仕事をされてるんですか?」
「・・・雑貨などの輸入を。単なるバイヤーです」
「ほう、儲かるんでしょうね。我々なんてどれだけ働いても、ポルシェなんて夢のまた夢ですよ」
仕事の話をするという事は、やはりコカインの密輸に関係しているのか。
それならば四課というのが解せない。これも先程のように単なる世間話なのか。
保は真意を測りかね、ゆっくりとラッキーストライクを一本抜きだして火を付けた。
- 529 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 23:09
-
「それが、私に聞きたい事?」
「いや、そういう訳じゃありません」
三好は笑って手を振った。砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーを一口飲む。
「話があるなら、本題に入ってくれませんか? 私もそれ程暇じゃ無いですから」
保と三好はコーヒーを注文したのだが、岡田は大きな体を丸めて、フルーツパフェを食べている。
一言も喋らず、まるで二人の会話など興味がないような態度で、それが余計保を苛立たせる。
「これは失礼しました。それじゃお伺いします」
「何ですか?」
「沢裕中という人物を知ってますね?
あ、もしかすると、保さんの前では偽名を使っているかもしれません。この男なんですが」
三好はポケットから一枚の写真を取り出す。そこに写っているのは間違いなく沢だった。
いきなり盲点を突かれて、一瞬保はパニックに陥る。
自分に関する事だけを考えすぎていて、沢の事まで気が回らなかった。
保が通常の精神状態であれば、四課と言われただけで、沢の顔が浮かんだかもしれない。
「この人がどうかしたんですか?」
「この男を知ってますね?」
「・・・何故、私に聞くんですか?」
「いや、質問に答えて下さい。この男を知ってますね?」
「・・・はい」
保は時間を稼ぎながら考えをまとめる。こういう場合は、つまらない嘘を言わない事が重要だ。
一度嘘を言えば、それを隠すためにまた新たな嘘を重ねなければならなくなる。
当然相手はそれなりの裏を取って自分の所に来てる訳だし、知らないと言って逃げ切れるとは思えなかった。
「どういった御関係ですか?」
「・・・以前に、一緒に仕事をした事があります」
「仕事? どんな仕事ですか?」
「確か・・・台湾で買い付けをした時に、色々とお世話になりました」
嘘を言うなら絶対に相手に分からない所で。吐いてしまった嘘に関しては責任を持って必ず覚える。
保は煙草を灰皿に押しつけ、神経を集中して三好との会話に臨んだ。
- 530 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 23:11
-
「日本で会った事は?」
「・・・それ以来、何回か会ってると思います」
「最後に会ったのはいつですか?」
「・・・よく覚えてないですね」
「いや、一週間前とか、一ヶ月前とか、一年前とか、その程度で結構ですから」
「わりと最近・・・その中だと、一週間前が一番近いと思います」
「この男の居場所を知ってますか?」
話が核心に入ってきたと保は思った。おそらく沢はヤクザと揉めたのだろう。
あの時言っていたトラブルとは、これを指していると思って間違いない。
という事は、完全に自分は捜査対象から外れた所で話をしていると思われる。
少し肩が軽くなると、今度は沢にどんな嫌疑がかかっているのか知りたくなった。
「知りませんね」
「今までどうやって連絡を取ってたのですか? 何回か会ってるんでしょう?」
「彼の店が赤坂にあるんですけど、私の方からそこに飲みに行ったんです。勿論連絡先の交換もしてますが」
「彼の店?」
三好は初耳だという顔をした。本気なのか演技をしてるのか保には分からなかった。
「そろそろ教えて貰えませんか? 彼は何をしたんですか?」
「その前に。彼の店というのを詳しく聞きたいですね」
「246から南に降りる一通・・・何でしたっけ? 一ツ木通り? に入ってすぐのビルだったと思います。
店の名前はカシミール。ごく普通のラウンジですよ」
保の言葉に三好は手帳を広げ、細かく書き留めた。先程の表情はどうやら本気だったようだ。
「そのラウンジを沢が経営してるんですか?」
「詳しい事は分かりませんが、私の店だ、と彼が言ってたので、多分そうでしょう」
「他に何か知ってる事があれば、教えてほしいのですが」
「そう言われても・・・さほど親しい訳ではないですけど、あまり彼の不利になるような事だったら・・・」
「不利もクソもあるかぁ、ボケェ」
フルーツパフェを食べ終えて、手持ち無沙汰にしていた岡田が突然会話に割り込んできた。
- 531 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 23:14
-
「は?」
「そのダボはタチの悪い台湾マフィアなんじゃ。眠たい事言うとったら、オドレもブチ込んだるど」
「岡田君、保さんには協力して頂いてるんだ。そういう言い方をするもんじゃない」
三好は岡田を制してから保の顔を見つめる。
「彼の失礼はお詫びしますが、私も気持ちは同じなんです。
実はその沢裕中という男のせいで、近々大きな戦争が起こるかもしれません」
「・・・戦争?」
「沢は東京で、ある暴力団を支配下に置いています。そして半年位前から、関西にケンカを売り始めました。
あ、ご存じ無いかもしれませんが、関西というのは我が国最大の広域暴力団の事です」
「せやけど関西はそんなに甘ないんや。あのダボ、一瞬でヘコまされよった」
三好の説明に続いて岡田が後を受けた。自分の管轄を荒らされた事が、相当腹に据えかねる様子だった。
「しかし・・・それなら大きな戦争なんて起こらないのでは?」
「ヤクザの世界は、ケンカに負けたらそれで終わり、というものではありません。
必ず無意味な報復が繰り返されるんです。そして厄介な事に、沢はその責任を東京に擦り付けたんです」
「・・・」
保は話を聞いていて、いかにも沢らしい話だと思った。つい大きく頷きかけて、慌てて咳払いをして誤魔化す。
- 532 名前:_ 投稿日:2005/07/10(日) 23:15
-
「東京にしてみれば、堪ったものではありません。すぐに手打ちを持ち掛けました。
しかし関西の要求に応えられるだけの体力は、今の東京にはないというのが実情です」
「ヤクザの世界も不況って事ですか?」
「その通りです。そこで東京は一致団結して、騒ぎを起こした張本人に支払わせる積もりだったんですが、
この二、三日、沢との連絡が途絶えたそうです」
「ほう」
「このままだと沢は日本全国で的に掛けられ、関西が東京に乗り込んでくる事になります。
我々としては、何としてもそれは避けなければならない」
「・・・ちなみに、手打ち金というのはいくらくらいなんですか?」
「どうなんでしょうね。少なくとも10億は下らないと思いますよ。1億や2億じゃない事は確実です」
「・・・」
先程から保は、ずっと違う事を考えていた。嫌な予感というものは不思議とよく当たるものだ。
「ところで・・・最後にもう一度聞きますが、本当に沢の居場所は知らないんですね?」
「誓って知りません」
「分かりました。何かあれば連絡して下さい。お時間を取らせて申し訳ありませんでした」
三好は立ち上がって礼をし、何か言いたそうな岡田を促して出ていった。
保は二人を見送り大きな溜息をつく。こめかみの辺りから粘度の高い汗が一筋流れた。
- 533 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2005/07/10(日) 23:19
- 今日はここまでです。
また二ヶ月も空いてしまった。なんかひたすら申し訳ないです。
以前は容量を気にしながら書いてましたが、その不安が無くなった分かなり気楽になってます。
1メガって素晴らしい。
- 534 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2005/07/10(日) 23:21
- >>506
レスありがとうございます。
毎日だなんて勿体ない。思い出した時くらいに覗いてもらえれば・・・
そんなふうに言って頂けると物凄く嬉しいです。
>>507
レスありがとうございます。
そう言えば、最近あまりよっすぃーが活躍してませんね・・・
首を長くして待って頂けると、よっすぃー活躍のシーンが出て来る・・・筈です。
>>508
レスありがとうございます。
今回亀は頭脳というよりも、天然色を全面に押し出してみましたw
なんとか頑張っておりますので、これからもお付き合い下さい。
- 535 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2005/07/10(日) 23:25
- >>509
レスありがとうございます。
お待たせしました、申し訳ないです。
あまりにまったりしすぎてますが、よろしくお願いします、心から。
>>510
レスありがとうございます。
もしかしてお初の方でしょうか?
こんな緩いスレに来て頂き、ありがとうございます。
>>511
レスありがとうございます。
ただいま、と返すにはあまりに時間が経ちすぎてしまいました・・・
や、もう時間の問題です←メールへの返レスw
- 536 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2005/07/10(日) 23:26
- >>512
レスありがとうございます。
もしかして作者さんなんですか? 自分の思考なんてグダグダが標準装備ですから。
一度でいいからスラスラ書いてみたいですw
>>513
レスありがとうございます。
めっちゃうれしいっす!!
少しでも更新速度を上げれるよう頑張ります。
- 537 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/07/11(月) 12:07
- 更新キテターーーーーーー
どんどん惹き込まれていきます
これからどうなってくのか気になるー
作者さんがんばってください!
- 538 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/12(火) 00:58
- 自分なら案2ですが...ここのよっすぃーは本当にかっこいいですね
- 539 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/14(木) 02:12
- 更新乙です!
またまた面白くなってきてワクワクドキドキがとまりません。
ホント1メガって素晴らしい。
- 540 名前:ショウタロウ 投稿日:2005/07/18(月) 00:06
- はい、前回レスが初です。
初めからずっと見てはいたんですが。
では乙です。ワクワクしまくりで待ってます。
- 541 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/18(木) 12:13
- 更新お疲れさまです。 かなり遅く感想を・・・(汗 ドキドキワクワクで読まさせて頂いてます。 功防戦の結末がかなり気になります。 次回更新待ってます。 はい、なりたての青二才ですが、ぜひお立寄りくだされば幸いです。 名前は異なっておりますが。
- 542 名前:北海行き 投稿日:2005/08/21(日) 21:28
- お疲れ様です。
全部読めました 面白かったんです
始めたころから、もう二年近くなりましたね
娘。カプたちもいろいろ変わってましたが、こうして読めると懐かしい限りです
それでは次のを楽しんで待ってます
- 543 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/28(水) 00:24
- 待ってます
- 544 名前:初心者 投稿日:2005/10/24(月) 18:03
- おもしろいです
続き待ってます
- 545 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/13(日) 23:40
- すっごいおもしろいです
がんばってください
- 546 名前:名無飼育 投稿日:2005/12/03(土) 18:05
- 昨日の夜中に見つけて休憩挟みつつ読みました。
あまり読まないタイプの内容でしたが食わず嫌いでした。
いや、大佐さんの作品だったからかも。
更新待ってます。
- 547 名前:名無飼育 投稿日:2005/12/05(月) 02:37
- 数日前に狼でこの作品の存在を教えてもらった吉おたですが中島らもの今夜、すべてのバーでと同じぐらいポワンポワン大佐のPray For The Deadはすごいと思った
- 548 名前:モウリ 投稿日:2005/12/05(月) 22:42
- はじめまして。モウリです
最近モー娘。(よっすぃ〜)最ブーム到来しました。
続き早くみたいっす!!!
待ってます!!
- 549 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:22
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 550 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/25(日) 11:52
- マターリ待ってます
- 551 名前:_ 投稿日:2005/12/31(土) 14:16
-
***
「梨華ちゃん、話があるんだけど」
「・・・どしたの、怖い顔して?」
「や、ちょっと」
スタジオのあるビルのエントランスで石川を待ち伏せていた吉澤は、そのまま一階の喫茶店に誘う。
石川が予想より早く来たお陰で、集合時間までにはまだ30分以上ある。必要な話を伝えるには充分だった。
辺りに人のいない一番端の席を陣取った後、それでも石川は左右を見渡し、小声で切り出す。
「・・・何よ? あれ以来ちゃんと真面目にやってるんだからね。よっすぃに叱られるような事なんてしてないよ」
「違う違う、そんな事は見てれば分かるさ」
「じゃ何、話って? アンタが真面目な顔すると怖いんだって」
「そりゃ真面目な顔にもなるよ。ちょっとヤバいかもしれないんだから」
「何? 勿体振らないで早く言ってよ」
「実はさ・・・」
少し身をかがめ、声のトーンを落とした吉澤は、運ばれてきたオレンジのフレッシュジュースを一口飲む。
「さっき、ここに来る途中で、背の高い男を見かけたんだ」
「背の高い男? 何それ?」
「ホラ、何て言ったっけ、例のクラブの店長」
「・・・マジで? ・・・戸田さん?」
「そう、それ。梨華ちゃんは見なかった?」
「・・・私は・・・気付かなかったけど・・・」
石川はホットコーヒーにミルクを入れ、スプーンでグルグル掻き回す。
記憶を辿っているのか、その間暫し目が泳ぐ。
「戸田だったと断言は出来ないんだけど、ヒョロッとした感じの後ろ姿がよく似てた」
「・・・もしその人が戸田さんだったとして・・・どういう事なんだろう?」
「あれ以来、連絡は?」
「ないよ! ある訳ないじゃない。もう二度と会う事はないって思ってたんだから」
「梨華ちゃん、あの時、嘘の携帯番号教えたって言ってたよな? もしヤツがそれを憶えていて電話したとしたら・・・」
「マジで!?」
突然石川が大きな声を出し、慌てて口に手をあてる。
- 552 名前:_ 投稿日:2005/12/31(土) 14:17
-
「騙されたと知ったヤツが、ストーカーじみた事をしたとしても何ら不思議はない」
「嘘!?」
「ここら辺に居た、と言う事は、目的は梨華ちゃん、と考えるのが普通だ」
「・・・健忘症の話はどうなったの?」
「や、それはそういう可能性があると言っただけで、全部が全部忘れるって訳じゃないさ」
「・・・そりゃそうだよね・・・って事は、私はこの三日間、ずっとあの男に付け回されてたのかな?」
不安そうな表情の石川は、相変わらずスプーンを回し続けている。コーヒーは未だ一口も飲んでいない。
「何かそんな気配感じた?」
「や、全く。私、そういうのって結構鋭いと思うんだけど」
「って事は、そうじゃないかもしれない」
「・・・と言うのは?」
「あの時、不覚にもヤツは眠ってしまった。 ただその失礼を詫びたいだけなのかも」
「なるほど」
「どっちにしても、あんなヤツにウロウロされたくないだろ?」
「当然よ。ねぇ、どうしたらいいと思う?」
「そりゃ、こっちから乗り込んでいって、本人に直接確認するしかない」
「マジで!? また行くの? あのクラブに?」
「放っておくと面倒な事になるかもしれん。マスコミなんかに気付かれてみろ、最悪だぞ」
「・・・うん・・・そうだよね」
石川は伏し目がちにコックリと頷く。
予想通りの展開になってきて吉澤はここぞとばかり一気に畳み掛ける。
「で、今夜の予定は?」
「・・・特にない」
「じゃ、決まりだな。ダンスレッスンが終わった後、行くぞ」
「マジ? あそこに行くの、ちょっと怖いかも」
「大丈夫。俺がビシッと言ってやるから」
「・・・なんか・・・悪いね、またよっすぃに迷惑かけて」
「いいってことよ」
とりあえず第一段階は成功だ。
吉澤は石川を誘い出せた事に満足し、一気にオレンジジュースを飲み干す。
ふと窓の外に目をやると、タイミング良くさゆみとれいなが歩いて来るのが見えたので、
結局最後までコーヒーに口を付けなかった石川を促し、吉澤は席を立った。
- 553 名前:_ 投稿日:2005/12/31(土) 14:18
-
「よぉ」
「あっ、吉澤さん! どうかされてたんですか?」
「・・・どうかって? 何が?」
「携帯に電話したんですけど、ずっと出なかったから」
喫茶店を出た所で、丁度エントランスから入ってきた二人と向かい合う。
さゆみとれいなは、二人の先輩への挨拶もそこそこに、心配そうな顔で尋ねてくる。
吉澤は待ってましたとばかりに、バッグから携帯を取り出した。
「マジで? あっ、ホントだ。マナーモードにしたままだったから気がつかなかった。ワリィな」
「そうだったんですか、心配しましたよ」
「何、おめぇ等二人で五回も電話してきてるじゃないか。何かあったのか?」
「や、藤本さんに連絡が取れないので、吉澤さんに聞いたら分かるかなと思ったんです」
そのまま会話を続けながら四人はエレベーターホールに向かい、一人蚊帳の外だった石川が振り返る。
「そう言えば、私もミキティに電話したんだけど出なかった。連絡が取れれば会いたいなと思ってたんだけど」
「あぁ、ミキね。アイツ、バカだから」
「吉澤さん、何か知ってるんですか!?」
「うん。一応マネージャーさんとカヲリンには連絡入れたんだけど、おめぇ等にも電話してやれば良かったな」
「何? 何ですか?」
エレベーターの中で真剣な表情の三人に見つめられ、吉澤は僅かな時間頭の中を整理する。
「アイツ、今実家に帰ってる」
「・・・実家って・・・滝川?」
首を傾げた石川が、抑揚のないトーンで尋ねる。
「そう」
「ちょ、ちょっと、どういう事ですか?」
今度はさゆみとれいながユニゾンで吉澤に詰め寄った瞬間、四階に到着したエレベーターの扉が開いた。
真っ先に降りた吉澤はクルッとターンを決め、目の前に設置されてるベンチに腰掛ける。
「や、そんなに大騒ぎする程の事じゃないよ。
最近親にも会ってなかったから、リハビリを兼ねて帰ってくるんだって。今朝電話があった」
「そんな事全然言ってませんでしたよ」
「何故吉澤さんだけ?」
「でも携帯が繋がらないのはおかしくなくない?」
予想外の吉澤の言葉に、れいな、さゆみ、そして石川が、それぞれ自分の想いを同時に口にする。
- 554 名前:_ 投稿日:2005/12/31(土) 14:24
-
「だからおめぇ等、落ち着けって。なんでも今朝起きて突然思い付いたらしいんだ。
バカの代名詞のような言葉に猪突猛進ってのがあるだろ。
で、さらにバカなのは、羽田に着いて北海道行きのチケットを買ってから、
マネージャーさんとかに電話しようとしたらしいんだけど、そこで初めて携帯を家に忘れたことに気付いた」
「・・・マジっすか」
「流石にあの自由人も、誰にも連絡しないで行くのは気が引けたらしいんだよ。
携帯が無ければ事務所の電話番号すら憶えてなくて、一瞬諦めようかと思ったところ、
ひとつだけ頭の中に電話番号らしき数字の羅列が浮かんできたんだって」
「・・・それがアンタの携帯って訳?」
「そうらしい。俺に繋がった事でヤツはテンションが上がって、行ってくるからあとはよろしくね、みたいな」
「でもそれって、あまりにも無茶過ぎない? 携帯も持ってないなんて、もし緊急の連絡とかどうするの?」
途中からさゆみとれいなは聞く側に回り、自然と石川が二人の代弁をする形になった。
- 555 名前:_ 投稿日:2005/12/31(土) 14:24
-
「ま、いいんじゃないの。ヤツは今オフみたいなもんだから、好きにすれば」
「・・・いつ帰ってくるって?」
「聞いてない。いくらなんでもレコーディングには帰ってくるだろ」
「そんなの、当たり前じゃない。マネージャーさんは何て言ってたの? アンタ電話したんでしょ?」
「しょうがないなって感じで笑ってた。でもカヲリンは今の梨華ちゃんと同じ反応だったから、
帰ってきたらそれなりに説教だろうな。あの感じだと正座で五時間コースくらいな勢いだった」
「ふーん。なら私がどうこう言う事じゃないわね。後はカヲタンに任せるとして・・・アンタ達はもういいの?」
石川は渋々納得したらしく、さゆみとれいなに話を振った。
「という事は、ミキさんが帰ってくるまで、連絡のとりようがないって事ですよね・・・」
「それは仕方ないけど、なんかミキさんが吉澤さんの携帯しか憶えてなかったっていうのがちょっと切ない」
二人が愚痴るのを吉澤は腕組みをしたまま聞く。
「いいか、おめぇ等、俺は一応ヤツの擁護派なんだ。マネージャーさんにも言ったんだけど、
ヤツの実家に電話とかするんじゃねぇぞ。文句があるなら帰ってきてから本人に直接好きなだけ言え。
久し振りの家族水入らずの団欒を邪魔する権利はおめぇ等に無い筈だ」
「・・・分かりました」
ここが一番重要なポイントだっただけに、吉澤は少しゴンタ目を作って凄んで見せる。
その迫力ある表情とセリフに、さゆみとれいなは素直に頷いた。
- 556 名前:_ 投稿日:2005/12/31(土) 14:26
-
***
目の前に広がる雄大なパノラマは素晴しいの一言だった。
空気が澄み切っているこの時期、より遠くまでの視界が利いて特にその美しい景色に拍車を掛ける。
保も長い間新宿を拠点にしてやってきたが、この角度から都庁を見るのは初めての事だった。
暫く窓の外を眺めていてようやく満足したのか、側のソファーにゆっくりと腰掛けた。
「このホテルに来たのは初めてだが、いい部屋じゃないか」
「なんせ高層階だからな。これでもこのホテルでは下の方のランクらしいぞ」
磨き抜かれたバカラのオールドファッショングラスにバーボンを注ぎ、その一つを保に手渡しした福が答える。
「そうなのか? じゃ今度ここの一番いい部屋に泊まってみるか」
保はラッキーストライクに火を付け、受け取ったワイルドターキーを一口含む。
「・・・で、話というのは? 何か進展があったのか?」
福はバドワイザーをチェイサー代わりにして、バーボンをストレートで喉に流し込んでいる。
保としては、気持ちの整理をつけるためもう少し雑談をしていたかったのだが、突然本題を迫られてしまった。
煙を吐いた後で短い咳払いをし、意を決したように福の顔を正面から見つめた。
「進展はない。お前の方はどうなんだ?」
「さっぱりだ。北朝鮮チームから何度も、指示をくれ、と電話がかかってくる。
コークを乗せた車は行方不明のままだし、相変わらずボスにも連絡が取れない」
苦々しい顔を見せた福は一気にバーボンを煽り、空になったグラスにまた茶褐色の液体を乱暴に注ぐ。
「チョンジンにいる連中は引き上げさせて構わない」
保の明確な言葉に、一瞬福の動きが止まる。
- 557 名前:_ 投稿日:2005/12/31(土) 14:27
-
「・・・何故だ?」
保はすぐには答えず、煙草を灰皿に押し付けゆっくりと立ち上がる。
また窓の外に目をやり、僅かな間新宿の夜景を眺めていた。
「お前が相手だから細かい駆け引きは無しだ。もし俺が沢の反目に回ったらどうする?」
手を後ろに組んだ体勢で、視線は外に向けたまま静かに保はそう口にした。
「・・・どういう事だ? 意味が分からない」
「お前も俺の敵になるのか、それとも沢を切って俺と組むか、聞かせて欲しい」
「だから、ちゃんと説明しろ」
大きな溜息をついた保は再びソファーに座り、バーボンで口を湿らせてから昼間の出来事を喋り始める。
マル暴の訪問を受けた事。そしてその刑事との会話の内容。
自分の推測の部分は後回しにして、出来るだけ詳しく事実だけを淡々と話した。
それを聞いた福の態度にも興味があったからである。
「・・・つまりお前は、ボスが35キロのコークをかっぱらって、それを手打ち金にすると思ってるのか?」
ワイルドターキーとバドワイザーを交互に飲みながら一言も発さずに聞いていた福は、
保が喋り終わると険しい顔で絞り出すように反応する。それはまさに保の期待していた内容だった。
- 558 名前:_ 投稿日:2005/12/31(土) 14:27
-
「そう考えれば、全ての辻褄が合う」
「・・・しかし・・・」
「行方不明になった車は三人が交代で運転している。三人とも組織を裏切ればどういう事になるのか、
嫌と言う程認識してる筈だ。しかもその内の一人は最近子供が出来たそうじゃないか」
「・・・その通りだ」
「連中が示し合わせてコークを横取りしたとは考えづらい。仮に15億以上ものコークを奪ったとしても、
奴等三人だけでは金に換える術を持っていない」
「それは俺もずっと考えてた」
「窓には防弾ガラスが嵌っている車で、三人ともハジキを携帯してる。襲撃された可能性もゼロに近い」
「・・・ハジキどころか、あの車にはAK74も積んである」
「そんな車を誰が止める事が出来るんだ? 冷静に考えて、一人しかいないだろう?」
「確かに、お前の言う通りかもしれん」
福は立ち上がり、冷蔵庫から二本目のバドワイザーを取り出した。
「・・・力を貸してくれ。このままでは引き下がれない」
「35キロのコークを更に奪い返すと言うのか?」
「そんなんじゃない。もうコークなんてどうでもいい。俺は沢と決着をつける」
「・・・マジか?」
「本気だ」
「・・・悪いが、今すぐには返事出来ない。少し考えさせてくれ」
目頭の間を摘む仕種をした福は、持ってきたばかりの冷たいバドワイザーを一気に飲み干した。
- 559 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2005/12/31(土) 14:34
- 今日はここまでです。
すいません、とりあえず生きてます。
今のところ逮捕もされてません。
続ける意志は勿論ありますので
今年最後に少しだけでも更新しておきます。
- 560 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2005/12/31(土) 14:36
- >>537
レスありがとうございます。
何とか期待に添えられるよう頑張りたいと思います。
>>538
レスありがとうございます。
自分も迷う事無く2番です。ぶっちゃけ3キロ中の40グラムの紛い物なんて絶対に分かる訳ないです。
>>539
レスありがとうございます。
お前が言うな、と突っ込まれそうですが、お元気にしてらっしゃるでしょうか?
>>540
レスありがとうございます。
こんな感じでよければ、またレスを頂きたいものです。
>>541
レスありがとうございます。
出来ればその異なった名前というのを教えて頂きたく・・・
- 561 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2005/12/31(土) 14:37
- >>542
レスありがとうございます。
物語の中ではまだ2003年なんですよね・・・ひたすら申し訳ない限りです。
>>543
レスありがとうございます。
お待たせして申し訳ないです。
>>544
レスありがとうございます。
やっと続きを書きました。また読んでやって下さい。
>>545
レスありがとうございます。
そう言って頂けると励みになります。
- 562 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2005/12/31(土) 14:39
- >>546
レスありがとうございます。
えっと、どこかでお会いしましたでしょうか? 励みになるお言葉、感謝します。
>>547
レスありがとうございます。
自分もあの小説大好きなので凄く嬉しいです。たまに小島容と自分がダブる時があったりするのは秘密です。
>>548
レスありがとうございます。
初めまして。よっすぃブーム大歓迎です。少しでも期待に添えれるよう頑張ります。
>>549
ご苦労様です。
>>550
レスありがとうございます。
お気遣い頂きありがとうございます。
- 563 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/01(日) 02:38
- おおついに更新キタ!
お待ちしておりましたぁ〜
今日はなんだか良い気分です
- 564 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/01(日) 16:35
- 更新乙です。
次もまってます
- 565 名前:モウリ 投稿日:2006/01/05(木) 11:28
- 続きまってます^^
- 566 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/01(水) 23:24
- 待ってます。
- 567 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/03(金) 01:33
- 続き待ってます。
- 568 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/23(木) 01:12
- 待ってます!!
- 569 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:42
-
〜第七章〜
「・・・またこの気持ち悪いオブジェを見る事になるとは思わなかったな」
「ホントですよね。見れば見る程ヘンテコですもん」
「私知ってるよ。これ、蠍をイメージしてるんだって」
「サソリですか!?」
「そう。これが胴体部分で、こっちからこう、ハサミになってるの」
「ふーん、そう言われればサソリに見えない事もないけど・・・死ぬ程どうでもいい」
「何よ、折角教えてあげたのに」
クラブ『DD』に乗り込んだ三人は、ロビーの中央に置かれたオブジェの前で無駄話に花を咲かせる。
いつもならコネクティングドアの前に店員が立っているのだが、今日に限ってこの空間に誰もいなかった。
そのまま普通に通り過ぎて店内に入っても良かったのだが、吉澤自身まだ僅かに迷いがあった。
ドア番の店員が扉を開けてくれれば流れでそのまま突入出来たかもしれないが、
一旦ロビーで立ち止まってしまうと、決心するにはかなりのエネルギーを必要とする。
絵里の書いた脚本というのは、吉澤が全く想像していなかった内容だった。
石川を誘い出すアプローチに始まり、ロッカーからブツを盗み出す方法まで、読んだ瞬間に面白い、と感じた。
それ故、即座にOKを出してしまったのだが、一旦落ち着いてみると100パーセント完璧とは言い辛い。
ダンスレッスンの間、何度も頭の中でシミュレーションを繰り返したが、明確な答えは未だに出ていなかった。
すんなりと石川をこの場所に連れて来れたのもそうだが、一つ一つの事柄は理に適っている。
当然石川にもこの後重大な任務が与えられる予定になっているが、石川は美貴の件を知らないまま話は進む。
そういう部分では絵里のスマートさも評価出来るが、計画全体を通して考えれば疑問符が付かない事もない。
「でも、そんな事知ってるなんて、石川さん流石ですよね」
「他にもあるよ。えり、ちょっとその滝の前に立ってみて」
「や、何ですか? 怖いじゃないですか」
「大丈夫だって。今このピカピカ光ってる照明あるじゃない? あそこに人が立つと光らなくなるの」
絵里と石川のやりとりを聞いていた吉澤がその場所に立つと、本当にストロボ光の発火が止まった。
- 570 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:43
-
「ね?」
「・・・だから?」
「や、それだけなんだけど」
「凄ーい。これこそ死ぬ程どうでもいい事じゃないですかぁ」
あまりにくだらない情報を得意気に話す石川に、絵里は無邪気に手を叩いて爆笑する。
そんな屈託のない絵里の表情を眺めながら、吉澤の心境は複雑だった。
今から行われるミッションを目前に控え、絵里が平常心でいられる理由。
それは別に、自分の書いた脚本に自信を持ってるからではない。
心底吉澤を信頼しきってるからこそ、楽しそうに笑う事が出来ているのだ。
「アンタ達が喜んでくれるだろうと思って言ってるのに。もっと他にも色々知ってる事あるんだから」
「例えば?」
「今フロントには店員が一人しかいない筈」
「・・・何故そんな事が分かる?」
石川は突然種類の違う知識を披露し、さっきまで会話に集中出来てなかった吉澤が真顔に戻る。
「今日はドアマンが居ないでしょ? それでもこのロビーはあのカメラでちゃんとモニターされてんの。
お客さんが入ってくると誰かが出迎えに行かなきゃならないんだけど、フロントを空にする訳にはいかない。
だからウチ等がずっとここにいて誰も出てこないって事は、一人しかいないからなの」
「へぇー、初めてマトモな事言ったじゃん」
「当然よ。この店の事なら詳しいんだって。特にセキュリティー関係なんて、そこら辺の店員より知ってるよ」
「石川さん、凄ーい。早く入って確認してみましょうよ」
「よし、行こうぜ」
美貴の現状を憂い、絵里の期待を背負う自分が、迷ってなどいられない。
結局石川のネタに背中を押された形にはなったが、吉澤はドアを勢いよく開ける。
いきなり垂れ流される大音量のユーロビートと、微かにドライアイススモークを焚いたような匂い。
その瞬間に関しては、前回来た時と何も変わっていないような気がした。
- 571 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:44
-
「こんばんわ。忙しそうじゃない」
石川は親しげな口調でフロントのカウンターに肘をつき満面の笑みを見せる。
笑顔の理由は、フロントにいた女性店員が顔見知りだったという理由もあるが、
先程の自分の発言が正しかった事を、吉澤と絵里に証明出来たのが嬉しかったのだ。
「いらっしゃいませ。お迎えに行けず、申し訳ありません」
対照的に店員は恐縮した表情で、深々と頭を下げた。
「いいのよ、そんな事。この二人もじっくりあのオブジェを観察出来たみたいだし」
「すいません、そう言って頂けると」
「でも珍しいのね、ドアマンが居なくて、フロントもあなた一人だなんて」
「・・・えぇ、ちょっと、この二、三日バタバタしてまして・・・」
「どうかしたの?」
「いえ・・・何でもないです。それより、今日はどちらのお部屋になさいますか?
いつもご利用されていたお部屋でしたら空いておりますが」
「あ、じゃあ、それでお願いします」
石川が答えるよりも先に、吉澤が突然会話に割って入り、強引に部屋を決める。
呆気にとられる石川を残して、吉澤は絵里の背中に手を回しVIPルームの方へ歩き出す。
「ちょっと、よっすぃ」
「ん? 何?」
「他の部屋にしようよ」
「何で? 別にいいだろ。面倒くさいし」
「だって、あの部屋を取る理由はもう無いんだし、折角だから他の部屋も見てみたいじゃん」
小走りで二人に追いついた石川が、少し脹れっ面で抗議する。
「店員さんも覚えててくれたんだし。梨華ちゃんといえばあの部屋だって」
「でも何か、あの部屋に入ると、色々とヤな事を思い出しそうで怖いんだけど」
吉澤と絵里の立場から考えると、ロッカー横の部屋を陣取るのは必須条件なのだが、
今夜の計画の全貌を知らされていない石川にしてみれば、至極当たり前の意見だった。
「分かるけどさ。そういうのを含めて乗り越えていかないと、人間が成長しないぞ」
「もう、何訳の分かんない事言ってんのよ」
渋る石川を適当にあしらいながら、吉澤は注意深く周囲を窺う。
- 572 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:45
-
この間来た時に比べて、客の入りは多いとは言えない。
VIPルームのカーテンも圧倒的に開いている方が多いし、下のフロアで踊っている人間も疎らな感じがした。
ただそれだけの事なのに、吉澤は不思議な違和感を覚える。
それが恐怖心からくるものなのか、単に神経が高ぶっているだけなのか、見当がつかなかった。
「あっ、あたし、ちょっとこのカバンをコインロッカーに預けてきます」
部屋の手前まで来て、絵里が唐突に叫ぶ。
「何でよ? 部屋に置いときゃいいじゃん」
石川が即座に反応する。
「や、今日あたし、大金を持ってるんで」
「幾ら?」
「一万円くらい」
「バッカじゃないの? 私なんて、アンタの10倍以上は持ってるわよ」
「凄ーい。石川さんたら、お金持ち!」
「梨華ちゃん、そんな事より」
吉澤は絵里に早く行け、と目で合図を送り、石川の注意を自分に引き付けた。
絵里はペロッと舌を出して微笑み、小走りでロッカーに向かう。
「何か感じないか?」
「・・・何かって、何?」
「や、言葉では上手く説明出来ないんだけど、例えば店のシステムが前回と変わってるような」
「システム?」
少し首を傾げた石川は、腕を組み考え込むような仕種を見せる。
コインロッカースペースに入った絵里は、天井をさりげなく見渡しながら69番の箱を探す。
前回見た景色から特別変わった様子はなく、目の届く範囲に防犯カメラらしきものは確認できない。
二カ所ある出入り口の手前から入った列には、40番台までしか無かった。
絵里はゆっくりと奥の通路を歩いて隣の列に回り込み、次のシマで69番を発見する。
殆どのロッカーには鍵がぶら下がっていて、使用可能のサインが表示されているが、そこに鍵は付いていなかった。
勿論それだけで確定する事は出来ないが、ストック場所が変わっていない可能性を残している。
鍵穴は傷が付いてたりして、まわりと比べてみても使用頻度の多さが刻み込まれ、鍵を丸ごと交換した形跡はない。
薄く笑った絵里は、そのすぐ真下にある70番のロッカーに自分のカバンを押し込んで鍵を閉めた。
- 573 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:46
-
「・・・よく分からない。そもそもシステムってどういう意味よ?」
「だから俺にもハッキリ分からないんだけど・・・ホラ、さっきフロントのお姉さんが、バタバタしてるって」
「あぁ、言ってたねぇ。でもそれは、単に忙しいんじゃないの?」
「・・・忙しそうに見えるか? この状況が」
吉澤は後ろを振り返り、もう一度地下のダンスフロアを見下ろした。
石川との会話によって、さっきから抱いていた違和感の正体が朧気ながら形になっていく。
「そう言われれば、今日はお客さん少ないね」
「だろ? この店の規模で考えると、とても忙しいとは思えない。なのにドアマンは居なくて、フロントは一人」
「・・・つまりよっすぃは、ここの勤務シフトが変わったとでも言いたいの?」
「うん。なんとなくだけど、そんな気がする」
「でも、それが何の意味を持つの? そんなに重要な事?」
「分からん。さっぱり分からん」
「お待たせしましたぁ」
吉澤と石川の会話が途切れた時、ロッカーから絵里が戻ってきて、三人は部屋に入る。
石川に気付かれないように絵里は吉澤に親指を立ててみせ、第一段階のチェック終了の合図を送る。
吉澤は硬い表情でそれを受け止め、静かに頷いた。
「・・・どうかしたんですか?」
吉澤の隣に座った絵里が小さな声で尋ねる。
「分からんが、何か嫌な予感がする」
「じゃ、計画は中止ですか?」
「・・・や、現時点では続行の予定だが、暫く様子を見よう」
「石川さんにしてもらうチェックはどうします?」
「今はダメだ。俺が合図を出した時に、その話題に持っていってくれ」
「分かりました」
絵里がコックリ頷くと、カーテンの向こうから、失礼します、と声が聞こえた。
「いらっしゃいませ。ご注文があればお伺いします」
オーダーを取りに来たのは、前回吉澤と絵里にVIPルームの説明をしてくれたボーイだった。
このあいだ飲み物を持ってきた時は、カーテン越しに失礼します、などとは言わなかった。
リボンをバツ印にしてる訳では無いので、何も言わず入って来ても別に不思議な事ではない。
またしても吉澤は得体の知れない違和感に遭遇し、微かに首を傾げた。
- 574 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:47
-
「私は、ロゼのワインを下さい」
早速石川が注文を出す。
「ご希望の銘柄があれば、お聞きしますけど」
「・・・いえ、特には」
「じゃあ、ハウスワインでよろしいですか?」
「はい、お願いします・・・よっすぃ、何ボーッとしてんのよ? 注文しないの?」
オーダーし終わった石川は、ボーイの顔を見つめたままの吉澤に話を振る。
「あ、じゃあコーラ二つ。吉澤さんもコーラでいいですよね?」
吉澤が黙ったままなので、絵里が機転を利かし二人分をオーダーする。吉澤はただ頷くだけだった。
「ロゼのハウスワイン一つと、コーラ二つですね。ご注文は以上でよろしいですか?」
「はい、お願いします」
愛想笑いの石川が頷き、ボーイは一礼して部屋を出て行く。その後石川は吉澤に向き直った。
「珍しいのね、アンタがこういう所でコーラだなんて。ってゆうか、さっきから変よ。どうしたの?」
「や、今の店員の態度も、この前とは全然違う。亀井、気付かなかったか?」
「そう言われてみれば・・・何か今日は、凄く行儀がいいと言うか、ピシッとしてましたね」
「そうなんだ。前見た時は、黒服を貰ったばかりのアンちゃん、って感じだったのに、
今日は一端のボーイだ。たった三日やそこらで、こんなに変わるもんなのか?」
「だから、それがどうしたって言うのよ?」
「おそらく・・・その答えは、もうじき出るだろう」
吉澤が渋い表情で答えた時、先程のボーイが飲み物を持って来る。
同じ様に、失礼します、とカーテンの外で断りを入れてから部屋に入ってきた。
「後で店長さん呼んでもらえる? 手が空いたらでいいんで」
テーブルにグラスを並べるボーイに、吉澤が話しかける。
「・・・何か至らない点がありましたでしょうか?」
「や、そうじゃなくて。個人的な事なんだけど」
「分かりました」
ボーイは一礼して部屋を出ようとした後、ふと思い出したように振り返る。
「もしかして、店長と言うのは戸田の事を仰ってるんですか?」
「・・・そうだけど」
「戸田は先日、店を辞めましたが」
- 575 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:48
-
思いがけないボーイの一言に、三人は顔を見合わす。一番驚いた顔を見せたのは、誰あろう、吉澤だった。
「・・・マジっすか?」
「はい。あまりに突然の事だったので、私もビックリしてるんです」
「誰か、そこら辺の詳しい事情を知ってる人は、いる?」
「・・・聞いて参りますので、少々お時間頂けますか?」
「えぇ。お願いします」
ボーイが出ていった後、三人は示し合わせたかの様に、腕を組んでソファーの背もたれに身体を預ける。
「驚いたね」
最初に口を開いたのは石川だった。先程までとは打って変わって険しい顔をしている。
「あぁ。俺がさっきからずっと言ってただろ」
「何言ってんの。アンタが一番ビックリした顔してたじゃんよぉ」
「や、何かが変わったとは思ってたけど、まさかあの男が店を辞めてたとは」
「どう思う? 店を辞めたのは私をストーキングするため?」
「や、違うな。多分だけど、あの男は自分から辞めたんじゃなくて、クビになったんだ」
「マジで?」
「分からん。けど、クビになる理由はある」
「・・・ってコトは・・・? あぁ、何か緊張してきた。ちょっとトイレ行ってくる」
石川はそう言い残し、慌ただしく部屋を出て行く。
「・・・計画は中止、ですね?」
絵里は独り言の様に呟いた後で、コーラを口に含む。
「・・・そうだな。折角お前が頑張って、あの脚本を書いたのにな」
「そんな事は別にどうでもいいんです。ぶっちゃけ、今はホッとしてるくらいですから。ただ・・・」
「こればっかりはしょうがない。40グラムの砂糖を混ぜて、後は運を天に任せよう」
「・・・」
「俺達がここで無理をして、もし失敗したら、誰がミキを助けに行くんだ? それこそ本末転倒じゃないか」
「・・・ハイ」
「俺達はただ指をくわえて誘拐犯からの連絡を待っていたんじゃない。出来る限りの努力はしたんだ。
結果はこんな形で終わってしまったが、もっと胸を張っていいと思う」
「・・・そうですよね。その通りだと思います」
少し俯き加減だった絵里は、吉澤の言葉に笑顔を取り戻した。
- 576 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:49
-
「計画は中止。これは決定だ。この後はもう飲んで踊って、少しでも息抜きしよう」
「ハイ」
「じゃ、このコーラはお前にやる」
そう言いながら吉澤はテーブル下のボタンを押す。
今度は別の店員が姿を見せたが、先程のボーイに負けず劣らず礼儀正しい。
店長が替わった新体制というのは、よほど教育が行き届いていると見える。
「すいません、追加オーダーいいですか?」
「どうぞ」
「コロナ・・・は無いんだっけ・・・ジンを普通の炭酸とトニックウォーターの半々で割ったヤツ・・・って出来ます?」
「勿論お作りします。ご希望のジンの銘柄はございますか?」
「ボンベイサファイヤ。ちょっと濃いめで」
「分かりました。お待ち下さい」
「ちょっと、吉澤さん、飲むのはいいですけど、まだ石川さんのフォローもあるんですからね」
絵里が吉澤の袖を引っ張りながら、小声で窘める。
「分かってるって。そんな事実は無かったって、ヤツを安心させりゃいいんだろ」
店員が下がるのと、ほぼ入れ違いに、石川がトイレから戻ってきた。
「何、今のが新しい店長?」
席に着くなり、興味津々といった表情で尋ねてくる。
「違うよ。あれはただの店員。飲み物をオーダーしたんだ」
「やっぱり。アンタが大人しくコーラなんて飲む訳がないと思ってたの。どうせまた変なビール頼んだんでしょ?」
「や、この店はコロナおいてないんだよ。ってか、自分だってワイン飲んでるくせに」
「私はいいのよ。少し緊張をほぐすためにも、飲まなきゃやってられないわよ」
「で、その事なんだけど・・・」
吉澤が説明しかけた時、オーダーしたカクテルが運ばれてきた。話を中断して、早速一口飲む。
「相当濃いな。確かに濃いめって言ったけど、これはちょっと濃すぎない?」
「申し訳ございません、作り直して来ましょうか?」
「や、そこまでしなくても、トニックウォーター追加で一本持ってきて」
「かしこまりました」
- 577 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:51
-
「どんなの? ちょっと頂戴」
店員が部屋を出て行くと、あっという間に話題は吉澤の頼んだカクテルに移ってしまう。
石川が面白がってそのグラスを持ち上げ、一口飲んでみる。
「うひょーっ、何コレ!?」
素っ頓狂な声を張り上げ、慌てて絵里のコーラを飲んで口直しをする。
「あたしも、あたしも!」
絵里までもが石川のリアクションに触発されてグラスを手に取る。まさに怖いもの見たさの心境だ。
「お前はちょっとだけにしとけよ。ぶっ倒れるぞ」
吉澤の忠告にコクリと頷き、慎重にグラスを傾ける。
「・・・うぇーっ、コレ、理科の実験、理科の実験」
飲むと言うよりは舐めただけに見えたのだが、絵里も手足をバタバタさせて大騒ぎする。
「アンタ、よくそんなの飲んでられるわね」
「まぁね。も少し氷が溶けてくれば、いい感じになると思う」
「でもちょっと炭酸に惹かれる。このワイン美味しくないんだもん。私も炭酸系がいいなぁ」
「じゃ、シャンパンでも頼めば?」
「だって銘柄とか聞かれても分かんないじゃん」
「どんなのがいい? 俺が言ってやるよ」
「甘めで飲みやすいヤツ。フルーティな感じの」
その時絶妙のタイミングで、店員が吉澤のオーダーしたトニックウォーターを持ってきた。
「ねぇ、シャンパンって、どんな銘柄があるの?」
吉澤は手渡しで貰ったビンを、そのまま一口ゴクリと飲む。
「特別なヴィンテージになると難しいかもしれませんが、定番ブランドですと、かなりの品を揃えております」
笑顔の店員は自信満々に答える。
「ヴーヴクリコのホワイトラベルは?」
「勿論ございます。お持ち致しますか?」
「うん、お願い。悪いね、何度も」
「何か変な名前。ホントに美味しいの、ソレ?」
「甘めって、これしか思い付かなかった。プリティウーマンでジュリアロバーツが風呂で飲んでたヤツ」
「へぇーっ・・・じゃ、高いんじゃないの?」
「十万以上持ってる人なら、余裕で払えるって」
自分のグラスにトニックウォーターを少し注ぎ足しながら、大きな声で笑った。
- 578 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:52
-
計画が中止になった事で肩の荷を降ろした吉澤は、普段よりハイペースで飲んでいる。
石川が残したワインも空けてしまったし、その後運ばれてきたヴーヴクリコも当然のように貰っていた。
濃いと言っていた自分のカクテルは、もう三分の一も残っていない。
少し酔いの回ってきた頭で、吉澤は何とか石川の不安を取り除く努力を続けていた。
「・・・だからさ、俺の見間違いだったんだよ」
「本当にそうならいいんだけどね」
勿論、戸田に似た男など吉澤は見ていない。全ては石川を誘い出すために絵里が考えた事だ。
今となっては、全部嘘でした、と計画の内容を白状してしまってもいいのだが、
美貴の件が石川の負担になる事に変わりはない。知らせないで済むのならそれがいいに決まっている。
「俺も多分、神経が過敏になってたんだよ。大丈夫だって、そんなに心配するな」
「・・・うん」
「もしヤツがマジで現れたら、その時は俺がキッチリとシバいてやるから」
「でも、そんな事言ったって、二十四時間ずっと一緒に居てくれる訳じゃないでしょ?
夜中とかに、突然私のマンションに来たらどうするの? 窓ガラスぶち破って」
「ぜってぇ無ぇって、そんな事!」
吉澤は飲みかけのカクテルを噴き出しそうになりながら叫ぶ。
「まぁ、それは冗談として、もう一つ、気になる事があるの」
対照的に突然声のトーンを落とした石川は、シャンパンクーラーからヴーヴクリコのボトルを抜き出す。
先に吉澤のグラスに注いでから自分のグラスを満たし、その後で絵里の顔を見てアンタも飲む、と尋ねる。
絵里は少し肩をすぼめて、首を横に振った。
「何、気になる事って?」
吉澤は満たされたグラスを一気に半分くらい空ける。
「・・・これ、ホントに美味しいね。凄く飲みやすい」
すぐには答えず、独り言のように呟いた石川は、負けじとシャンパンを勢いよく呷る。
「それはいいから、何だよ?」
「さっき・・・言ってたでしょ、クビになったかもしれないって。それって、やっぱり私の所為なのかな?」
「・・・それは・・・そうかもしれないな」
思い詰めた表情の石川を見て、吉澤も少し俯く。
暫くの間重い空気が流れ、DJのスクラッチプレイの音が少し大きくなったような気がした。
- 579 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:53
-
「でもそれで、何で二人ともヘコむんですか? 別に石川さんが気にする事じゃないでしょ?」
ずっと黙って話を聞いていた絵里だけは普段通りだった。笑みさえ浮かべながら会話に入ってくる。
「アンタ、分かってないわね。私があんな事をしなければ、あの人はクビにならなかった筈よ」
「そうでしょうね、多分」
「人一人の運命を変えてるのよ。責任感じるのは当たり前じゃないの」
「分かってないのは石川さんじゃないですか」
自信タップリの絵里は、笑顔のまま即座に否定する。
「はぁ?」
「例えば、真面目にコツコツやってる人を奈落に突き落としたのなら、そりゃヘコんで正解です。
けど、クビになった相手はジャンキーで、ここはコカインを売ってる店じゃないですか。犯罪ですよ?
そこから抜けれたって事は、むしろ石川さんは、あの人を救ってあげたって感じに思えるんですけど」
「・・・へぇー」
石川は驚嘆の眼差しを絵里に向ける。
「違いますか?」
してやったりの表情で、絵里はエヘヘ、と笑う。
「や、アンタの言う通り。そっか、私は人助けをしたんだ」
途端に石川の顔に生気が戻る。ネガティブ石川からポジティブ石川への立ち直りは実に早い。
「まぁ、決して褒められる事じゃないけどな。結果的にはそうなったってだけで」
厳しい口調ではあったが、吉澤も納得の笑顔を浮かべながら頷く。
「そうよね。分かってる。でもえりの考え方のお陰で、そこは随分と楽になった。ありがとう」
石川は絵里に向かって丁寧に頭を下げる。絵里は手をひらひらさせながらもう一度、エヘヘと笑った。
場が和やかになった時、カーテンの向こうに人影を見つけた吉澤が顔を上げる。
つられて絵里も吉澤の視線の先を追った。それに気付いた石川が後ろを振り向く。
黒いタキシードの男は失礼します、と断ってからカーテンをゆっくりと開けた。
「いらっしゃいませ。このたび、新しく店長になりました木村と申します」
部屋に入ってきた男は、滑舌のいい、よく通る声で自己紹介をし、深々と頭を下げる。
三人は緊張の面持ちで軽く会釈をし、男を迎え入れた。
- 580 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:54
-
「なんでも、戸田の事について、お知りになりたいそうで」
「えぇ」
吉澤は鋭い視線で木村を観察する。前店長の戸田と違って、背は低い。
自分と同じくらいか、もしかするとそれ以下かもしれないが、肩幅は広くガッチリとした体型だ。
しっかりとした顔つきで、ドラッグに溺れている感じはしない。勿論髭も綺麗に剃っている。
外見は何から何まで戸田とは正反対の印象だが、ここの店長になったという事は、
必ず裏の仕事、つまりブツのディーリングを引き継いでいる筈だ。
戸田がストック先であるロッカーのキーを無くすという前代未聞の不祥事を犯しているので、
新しいディーラーにはドラッグをやらない素面の人間を採用したのかもしれない。
「戸田には店を辞めてもらいました」
「何故? それはクビって事?」
一切の感情を表に出さず、能面のような表情で吉澤が尋ねる。
「はい。彼は営業面では優秀だったのですが、勤務態度が悪く、特に接客面で色々と苦情も多かったものですから」
「なるほど。この前はウチ等の部屋でグウグウ眠るしね」
かなり酔いが回ってきている吉澤は、しれっと話を合わす。
営業面というのが表向きの事なのか、コカインを沢山捌いていたのかは分からない。
おそらく両方の意味が含まれているのだろう。
「誠に申し訳ありませんでした。彼が辞めさせられた直接の原因は、そこが大きいかと・・・」
掌をピッタリ太腿の側面に付けた状態で木村は頭を下げる。
「まぁ別にいいんだけどね。タダにしてもらったし」
危うく吉澤は、ロッカーのキーを無くしたからじゃないの、と突っ込みそうになる。
「いえ、私からもお詫びといたしまして、本日のお会計もサービスさせて頂きます」
「マジで? じゃヴーヴクリコもう一本」
「吉澤さん」
今まで木村との応対を吉澤一人に任せていたが、流石に絵里が突っ込む。
石川もハラハラした顔で吉澤を見つめている。
「いいじゃねぇか、折角奢ってくれるって言ってるんだし。ねぇ、木村君」
「はい。お任せ下さい」
木村はテーブルに近寄ってきてボタンを押す。
すぐに店員がやって来て二言三言告げると、暫くしてその店員はドンペリニヨンのロゼを持って現れた。
いくら酒に疎い絵里でもその名前は知っている、通称ピンドンと呼ばれる高級シャンパンである。
- 581 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:55
-
「へーっ、太っ腹」
吉澤は驚いた表情でソファーにもたれ、ゆっくりと足を組む。
「こちらを持ちまして、お詫びに代えさせて下さい」
「これ、何年?」
「こちらは、95年モノになります」
「折角なんだけどさ、ウチのお姫様は甘めのシャンパンしか飲めないから、コイツは無理だと思うぜぇ」
既にコルクワイヤーを緩め、もう少しで栓が抜けるという所で吉澤が呟き、一瞬木村の手が止まる。
石川は大袈裟に、よっすぃ、と口を動かす。声は出ていないが、叫びたい気持ちなのだろう。
吉澤の隣で真っ直ぐ前を向いた絵里は、何もない空間を見つめている。他人の振りをしてるようだった。
瓶内での二次発酵により発生した炭酸ガスが狭いボトルの中で耐えきれなくなり、
栓を押し上げ、ボン、と派手な音を立てコルクが飛んでいった。木村の手を伝って中身も少し零れ出る。
「承知しました。後程ヴーヴクリコのドゥミセックをお持ち致します」
ガックリと肩を落とした木村が、力なく言う。
「なんか、悪いねぇ」
吉澤がニヤける。
ジュースのようなスパークリングワインとは違い、殆どのシャンパンは辛口に造られている。
甘口辛口を決めるのは、ドザージュという甘いリキュールを加える量によって変わり、
栓を開けてしまったピンドンはブリュット、つまり辛口にカテゴライズされる。
それに対して、滅多に見られない甘口シャンパンの代表格が、
吉澤の選んだヴーヴクリコのホワイトラベルであり、ドゥミセックと表示される。
「す、すいません。この娘、酔ってるんです。折角の御厚意ですから、それ頂きます。ヴーヴクリコは結構です」
やっとの思いで石川が口を挟む。
「いえ、こちらのお客様はヴーヴクリコと仰ったのに、私が勝手にこれを持ってきたんです。
ヴーヴクリコはちゃんとお持ちします。これも開けてしまったので良かったらお召し上がり下さい」
「そう? じゃ貰おうかな」
吉澤は立ち上がり、部屋に備え付けられているキャビネットから勝手にシャンパングラスを取り出す。
「アンタ、いい加減にしなさいよ」
木村が部屋を出て行った後で、石川が睨み付ける。
しかし吉澤はくちびるを尖らせ、何処吹く風と聞き流す。
- 582 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:57
-
「いいじゃん、別に」
「良くないわよ。この店に借りなんて作りたくないじゃない。まったく、遠慮という言葉を知らないんだから」
「借りなんかじゃないよ。迷惑料だって、あのオッサンも言ってたじゃんか。素直に貰っとけばいいんだよ」
呆れ顔の石川を相手にせず、ドンペリを一気飲みした吉澤は絵里に向き直る。
「お前も飲め。少しくらいならいいだろ? こんな高級品滅多に飲めるもんじゃねぇぞ」
「へぇ。コレって幾らくらいするんですかね?」
「どうなんだろうな。こういう所で飲んだ事がないから分からないけど・・・30万くらいじゃね?」
平然と吉澤は言ってのける。
「マジですか!? これ一本が!?」
「高い店で飲めばもっとするぞ。普通にデパートとか専門店で買えば4〜5万くらいなんだろうけど。
年式によっても変わってくるだろうし、正直見当がつかん」
「凄ーい」
絵里は注いで貰ったドンペリを興味津々に眺め、ゆっくりと一口飲む。
「どう?」
「・・・うーん、大人の味って言うか、高級な感じですね」
口元をへの字に曲げた絵里を見て、吉澤は豪快に笑う。
「ハッキリ言えよ、美味しくないって。どう、梨華ちゃんも意地張らずに」
「・・・そこまで言うなら飲んであげてもいいけど?」
先程まで吉澤を非難していた石川も興味があったのか、待ってましたとばかりにグラスを差し出す。
その時ヴーヴクリコを持った木村が再び、失礼します、と部屋に入ってきた。
「お待たせしました。ヴーヴクリコのドゥミセックです」
「いえ、ホントに結構です。これ頂いてますから」
石川がグラスを持って振り返る。恐縮しているのか何度もペコペコと頭を下げる。
「あまり気になさらずに。もし飲めなかったら残して頂いて構いませんよ」
木村は営業用スマイルを浮かべ、ヴーヴクリコのキャップシールを剥がす。
慣れた手つきながら慎重にコルクワイヤーを緩め、今度は音を立てずにコルクを抜く事が出来た。
通常ソムリエなどが、シャンパンの栓を抜く時に音を立てるのは下品とされ、当然失格行為なのである。
「ところでさ、戸田君の事なんだけど」
シャンパンクーラーを用意する木村に吉澤が問いかける。
- 583 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:58
-
「はい?」
「彼がクビになったのっていつ?」
「一昨々日ですか、ここで眠ってしまった次の日ですね」
「今、彼はどうしてるの?」
「・・・そこまではちょっと。私はあまり面識がなかったものですから」
「ふーん」
「皆様は、戸田と親しかったんでしょうか?」
「ってゆうかさ、向こうが勝手に勘違いして、ウチ等としては少し迷惑してたんだよね」
「そうですか、それは大変申し訳ありませんでした」
木村はペコリと頭を下げる。クラブの店長と言うよりは、ベテランのホテルマンのようだった。
「ま、それをアンタに言ってもしょうがないよね。こんなに色々奢って貰ったんだし」
「戸田に直接会って話しますか?」
少し考えていた木村は、意外な事を言い出した。
「は?」
三人はそれぞれお互いの顔を見合わす。
「彼は今日、事務所に残っている私物を取りに来る事になってるんです。
八時の約束だったんですが、今になってもまだ来ていないので確約は出来ませんが」
吉澤は反射的に腕の時計を見る。時刻は既に十時を回っていた。
「来れば会わせてくれるの?」
「私としてはあまり気乗りは致しませんが、どうしても、と仰るなら」
再び三人はアイコンタクトを交わす。吉澤の顔を見た石川が小さく頷いた。
「じゃ、お願いします。彼には言っておきたい事があるんで」
吉澤自身も戸田と会う事に気持ちは進まなかったが、石川の手前断る訳にはいかない。
「それでは、皆様もお時間がおありでしょうから、十一時まで、とさせて頂いて宜しいですか?
その時間になっても彼が現れなければ、その仰りたい事を私が言付かる、というので如何でしょう?」
「えぇ。それで構いません」
「かしこまりました」
木村は大袈裟に一礼して部屋を出て行く。
それぞれの思惑を胸に抱えた三人は、同時にフルート型のシャンパングラスに手を伸ばした。
- 584 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 22:59
-
***
「あーっ、何でさゆの部屋におるんやろ」
「嫌なら帰ればいいじゃない」
「や、せやのうて、今日はれいなの日やったけん、ホンマやったら今頃はミキさんの部屋におる筈なんやけど」
さゆみの部屋。
ダンスレッスンの後、泊まりに来たれいなが、何度目か分からない大きな溜息をつく。
炬燵に向かい合って座っている二人は元気が無く、会話もあまり弾まない。
「そんな事言ったって、あたしも昨日ミキさんに会えてないんだからね。れいなは昨日の朝まで一緒だったでしょ」
「確かに」
「あたしの方がミキさんに会ってない時間が遙かに長いんだよ?」
「ま、そりゃそうやけど、最初にこの話を決めた時、ジャンケンに勝ったさゆが先取ったからやん。
休みの日やったけん、ずっとミキさんトコおったんやろ? ウチなんか仕事の後でバリ時間短かったわ」
「・・・お互い、切ないって事ね」
さゆみはポテトチップの袋を抱え、ウサギが餌を食べる時のように小さくポリポリとかじる。
「ってゆうか、さっきからずっと思てたんやけど、こういう状況やったら普通それはこの上に置かん?」
「あ、食べたい? だったら言ってくれればいいのに」
炬燵の上に置いたさゆみは大きく袋を破る。
「あーぁ、今日はおもろいテレビもないしなぁ」
ようやくポテトチップに在り付いたれいなは、一枚口に放り込み、リモコンでザッピングを繰り返す。
最後にニュースのチャンネルで手を止めたが、暫く眺めた後、興味なさそうに電源をオフにした。
「・・・声だけでもいいから聞きたいな」
さゆみがボソッと呟く。
「あかんて。こういう時、声聞いたら絶対会いたなるけん」
「でも聞きたい。れいな、電話番号知らないの?」
「実家の電話番号なんて誰も知らんちゃろ。マネージャーさんに聞かんと」
「れいな電話して聞いてよ」
「アホか。そんなんしたら吉澤さんに怒られるけん、ウチはようせん」
「・・・吉澤さんといえば・・・」
「うん?」
「何か今日の吉澤さん変じゃなかった?」
- 585 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 23:01
-
「・・・よう分からん。どこら辺が?」
れいなは暫く思い出そうと天井を見つめていたが、小さく首を振った。
「や、あたしもハッキリとは言えないんだけど、何か普段と違ったような気がする」
「せやけど、あの人ヘラヘラしてたり、突然厳しかったり、色んな顔持っとるし」
「そうだね」
「・・・」
「・・・」
「話、終わってもうとるやん! そうだね、の後に続く言葉は!?」
急にテンションの上がったれいなが突っ込む。
「や、それで終わり」
「何じゃ、ソリャ。変なんはさゆの方やん」
「だって、そういう言い方されると、もう何も言えなくなっちゃうんだもん」
その言葉に、れいなはガックリと力が抜ける。
「・・・暇やな。何かないと?」
「今日のダンスレッスンのビデオでも見て復習する?」
「勘弁して。とてもそんな気分にならんちゃ」
「・・・何で吉澤さんはあんな言い方したんだろうね」
先程からさゆみは、心ここに在らず、といった感じで会話も長続きしない。
それが普段のさゆみだといえば別に不思議はないのだが、何かを深刻に考えているようにも見える。
話題は常に飛びまくり、付き合わされるれいなは堪ったものではない。
「またそれ? 久し振りの家族の団欒を邪魔するなって言うとっとろうが?」
「別に電話するくらいはいいと思わない?」
「知らん」
「もしれいなが久し振りに博多に帰ったとして、あたしやえりから電話がかかってきたら鬱陶しい?」
「・・・ウチは、そうは思わんかも」
「でしょ? 田舎に帰ったからといって、皆と喋りたくない訳じゃないと思うんだけど」
「それはそうやけど、吉澤さんには吉澤さんの考えがあるやろうし、一概には言えんっちゃろ」
「や、きっと別の理由があるんだよ」
さゆみは遂に見つけたという表情でれいなを見た。
- 586 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 23:02
-
「別の理由?」
「電話されると困る理由が、他にあるんだよ、きっと」
「・・・それは何?」
「そこまでは分からないけど」
「・・・さゆの話って肝心な部分がいっつも分からんやん」
「今度の休みっていつだっけ?」
「は?」
「今度の休みに、行ってみない?」
「・・・何処に?」
「北海道。ミキさんの実家」
「マジでぇ!?」
「行けばきっと、その答えが見つかると思うの」
「今度の休みいうたら・・・四日後やけど、そんな事したら吉澤さんに怒られるっちゃろ?」
「吉澤さんが怖いなら、れいなは大人しくしてなさいよ。あたし決めた。
この四日間でミキさんと連絡が取れなかったら、一人ででも滝川に行く」
「・・・無茶苦茶やん。夜遅なったら、スタジオから家まで一人で帰れんさゆが、
とてもじゃないけど北海道なんて一人で行けるとは思えんっちゃけど」
「愛の力は偉大なの。ホントは明日にでも飛んでいきたいんだけど、あそこって日帰り出来るような所じゃないし」
「・・・実家の場所分かると?」
「多分なんとかなると思う。電話番号は聞いてないけど、住所は前に聞いた事があるの」
「よ、よーし、そげんこつやったら、ウチも付いて行ったるっちゃ」
「あれ? 吉澤さんが怖いんじゃないの?」
「か、関係なか。さゆを一人で滝川に行かす事の方が、よっぽど怖かろうもん」
「じゃ決まりね。頼りにしてるよ、れいな」
そう言ってれいなの手を握ったさゆみは、立ち上がりベッドに移動する。
「何、突然?」
「もう寝るの。おやすみ」
「寝るって、まだ11時前やで?」
「だって最近睡眠不足で眠たいんだもん。れいなも早く寝なさいよ」
溜息をつきながら立ち上がったれいなは、部屋の電気を消し、ベッドにモソモソと潜り込む。
ちょっと詰めてよ、と声をかけ、後ろからさゆみを抱きしめるようにして横になった。
- 587 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 23:04
-
***
身体中に響く、派手なリズムのジャングルが流れるダンスフロア。
凄まじい程のベース音に、吹き飛ばされてしまうような錯覚を受ける。
フロア全体に漂うドライアイススモークの匂いと、目が眩む程のライティング。
決して誇張ではなく、揺れているかの如き異空間は、脳内を強烈に刺激し眩暈を誘う。
戸田を待つ間、地下のフロアに降りてきた三人は、ビートにあわせて身体を動かす。
吉澤と絵里は初体験ながら、そこは流石にモーニング娘。として色々なレッスンを受けてきただけあって
かなり様になっている。絵里などは、今日覚えた振り付けを確認しながらステップを刻んでいる。
最初は人の少なかった巨大な空間も、時間が経つごとに増え始め、今では結構な数の人間が踊っていた。
一階のVIPルームからは死角になっていた止まり木のコーナーや、その奥にあるボックス席も半分程埋まっている。
しかし皆それぞれが自分の事に夢中なのか、或いは芸能人など見慣れているのか、
モーニング娘。だと言って吉澤達の顔を指す人は一人も居なかった。
次第にベース音がサンプリングされ始め、DJが英語のMCを被せてくる。
明らかに東洋人の顔をしているのに、そのネイティブな発音が妙な感じである。
それでもブースを見上げる客達は、見事なスクラッチプレイに歓声を上げた。
こっちに向かって歩いてくる木村に、最初に気付いたのは絵里だった。
吉澤の肩を叩き、指で合図をして知らせる。この場所では何か言っても絶対相手には伝わらない。
余程耳元で叫ばない限りは、暴力のような音楽に掻き消されてしまう。
吉澤がそちらの方を見ると、木村は軽く会釈をして、どうぞ、と合図を送る。
腕の時計を見ると11時5分前だった。吉澤は石川と絵里に行くぞ、と叫び、自らにも気合いを入れる。
赤い緋毛氈の敷かれた幅広の階段を上がり、一階部分に辿り着いた所で木村が振り返る。
「お部屋でお待ちになってて下さい。戸田を連れて参ります」
「お願いします」
吉澤が頷くと、木村はフロントへ入り、その奥の扉へ消えていった。
- 588 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 23:05
-
部屋に戻った三人は、一言も会話を交わさず、それぞれが喉を潤す。
カーテン越しに歩いてくる戸田を見つけた吉澤が、二人にアイコンタクトを送る。
グラスを持つ手を止めた絵里と、振り返った石川は、同時に息を呑む。
先導する木村よりも頭一つ大きい戸田の姿は、四日前とは別人のようだった。
キッチリとオールバックに櫛が入れられていた髪の毛はボサボサで、前髪が顔を覆っている。
栗色の綺麗なイメージだったのに黒い部分が斑になり、見るからに汚い。
元々が細身の身体ではあったが、まさに貧相という言葉がピッタリで、
見様によっては、病院を抜け出した重病人、と言っても過言ではなかった。
「失礼します」
部屋に入ってきた二人は、深々と頭を下げる。
石川は、まともに戸田の顔を見る事が出来なかった。
下を向いたままで、全てを吉澤に託すのみである。
「申し訳ないのですが、私も同席させて貰って宜しいでしょうか?」
遠慮がちに木村が尋ねる。戸田を一人にして、余計な事を喋られたら困るという意味なのだろう。
「勿論。どうぞ」
吉澤がソファーを勧めるが、二人は断って、立ったままだった。
「この間は、本当にすいませんでした」
戸田が小さな声で詫びを入れる。自信家だった素振りは微塵も見られない。
口を開けた時、前歯が一本無くなっているのに吉澤は気付いた。
前髪が鼻の辺りまで顔を隠しているが、右目の瞼に絆創膏が貼ってある。
おそらく、ロッカーのキーを無くした事で、店の上層部にヤキを入れられた跡だろう。
戸田は必死に平静を保とうとしているが、時折目が泳ぎ、身体が細かく震えた。
顔面神経痛の患者のように顔の筋肉を動かす様子は、コカインジャンキーの禁断症状特有のものだった。
「信じて貰えないかもしれませんが、実は、あの時の記憶が全く無いんです」
「へぇ、何故?」
「飲み過ぎた所為だと思うんですが。で、聞きたかったんですけど、僕、何か言ってなかったでしょうか?」
「何かって?」
「いえ、何か失礼な事とか・・・」
「どうだろう? 梨華ちゃんは何か聞いた?」
記憶が無いと聞いて、少し表情の和らいだ石川に話を振る。
- 589 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 23:07
-
「や、普通にお話してただけだと思いますけど」
「そうですか・・・」
「で、どこら辺から覚えてないの?」
吉澤が飄々と会話を続ける。
「・・・吉澤さんと亀井さんが来られた事は何となく覚えてるんですが、梨華さんが一人で来られたのか、
辻さんと一緒だったのか、そこら辺から既に曖昧なんです」
「じゃ、私との会話の内容なんかも全然覚えてないの?」
心中でガッツポーズを出した石川が、ダメ押しの確認を取る。
「すいません、全く。後で店の人間に聞いて、僕はなんて事をしてしまったんだろうと反省しました」
「一つ聞きたいんだけど、今日の三時頃って、何処で何してた?」
「・・・家で寝てました。ってゆうか、この三日間は外出してません」
予想通りの答えを貰って、吉澤は満足だった。
「ホラ、梨華ちゃん、やっぱり俺の見間違いだったんだ」
コクリと頷いた石川が、完全に普段の顔を取り戻す。自分達で蒔いた種を、綺麗に刈り取った瞬間だった。
「・・・それって、どういう事でしょうか?」
戸田が不思議がるのも無理はない。
吉澤は、ありもしなかった事を簡単に説明してやり、自分達に付き纏うな、と通告した。
「・・・分かりました」
石川に少しは未練があったのか、戸田の声は震えていた。
「じゃもういいよ。それが言いたかっただけだから。悪かったね、わざわざ来て貰って」
吉澤がそう言うと、木村と戸田の二人は、再び深くお辞儀をして部屋を出て行った。
「・・・良かったぁ」
力の抜けた石川がソファーにドサッともたれる。
「ゴメンな、俺の見間違いで色々振り回して」
「や、そうじゃないの。アンタの言ってた通り、あの男が健忘症になってた事が、良かったなって」
「うん。俺もそう思う」
「じゃ、皆で乾杯でもしますか?」
突然絵里がグラスを持って立ち上がる。
「そうよね。シャンパンだってまだこんなに残ってるし。今日はとことん飲もう」
石川が賛同し、吉澤も立たせて、三人はグラスを合わせた。
- 590 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 23:08
-
その後、ドンペリとヴーヴクリコを飲みながら、三人は暫し雑談を楽しむ。
絵里がボケて、石川が突っ込み、吉澤が大声で笑う。
短い時間ではあったが、酒の勢いも手伝って、皆で大騒ぎをした。
飲めない筈の絵里もその雰囲気に圧倒され、気付いた時にはヴーヴクリコをおかわりする程だった。
「・・・あの男なんだけど・・・」
ふと会話が途切れた時、すっかり出来上がった吉澤が、ボソッと呟く。
「何?」
「あいつが、今日店に来た理由は、私物の整理なんかじゃない。コカインを買いに来たんだ」
「マジで?」
「あぁ。今まではディーラーとして自由にヤれる立場だったのが、末端の一消費者に成り下がっただけだ」
「ふぅん。もう私にとっちゃ、関係ない話だけど」
「・・・そうだな。俺もこの店と関わった一切合切を忘れよう」
「じゃ、そろそろ帰りますか」
丁度日付が変わった頃、石川の一言で場はお開きになった。
三人は立ち上がり、身支度をしながら部屋を出る。
吉澤は強かに酔っていた。マフラーを巻こうとした時によろめいてしまって、絵里の肩を借りる。
大丈夫ですか、の声に目を閉じ無言で頷いた。
「あたし、ちょっとトイレに行ってきます」
「じゃあ、お前のカバン取ってきといてやるよ。鍵出せ」
「すいません。じゃお願いします」
絵里はポケットから70番のキーを取り出すと、そのままトイレに向かった。
「よっすぃ、あれ見て」
先に部屋を出て、通路から地下のフロアを眺めていた石川が振り返る。
「どした?」
「あの男、まだ居るよ」
吉澤は欄干に掴まり、石川の視線の先を追う。そこには戸田が女と向かい合いになって踊っていた。
さっきのしょぼくれた感じとは打って変わって、元気なその姿を見た時、吉澤の脳に閃くものがあった。
「ふーん、ナンパしてんのかな」
「知らない。どうでもいいもん。・・・あれ、えりは?」
「あ、今トイレに行った。俺、ロッカーからアイツのカバン取ってくる」
そう言い残した吉澤は、皮の手袋を着けながらコインロッカーに向かった。
- 591 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 23:09
-
店を出た三人は、大通りですぐにタクシーを捕まえる事が出来た。
車に乗ってすぐ、吉澤は酔い潰れたようになって、目を閉じたまま動かない。
そんな吉澤を気遣って、車内では自然と無言になった。
先に家が近い石川を送ったのだが、その時も吉澤に変化は見られない。
石川がウチに泊めようか、と言ってくれたが絵里は断り、自分が責任持って送ると言い張った。
車を降りる時石川は、アンタがそれを部屋まで運ぶのは大変よ、と笑いながら一万円を置いていった。
吉澤のマンションに向かって走り出した車の中で、絵里は石川の申し出を素直に受けていればよかったと後悔する。
二人でなら何とか吉澤を両側から支えて、部屋まで連れて行けたかもしれない。
果たして自分一人で、眠りこける吉澤を担ぐ事が出来るのだろうかと不安になった。
見慣れた景色が近づいてきた頃、絵里は吉澤の肩を叩いて呼び掛けるが、反応はない。
しかし、マンションに到着し、石川に貰ったお金で絵里が精算をしていると、
突然吉澤が目を覚まし、しっかりした足取りで車から降りた。
「眠ってなかったんですか!?」
後からタクシーを降りた絵里が、驚きの表情で声をかける。
吉澤は答える代わりに絵里の手を握ると、そのまま引っ張るようにしてマンションに入っていく。
「ちょ、ちょっと、どうしたんですか?」
再び絵里が尋ねるが、吉澤はエレベーターの中も終始無言で、それを七階で降りると大股で廊下を進む。
明らかに正常ではない吉澤の行動に、絵里はただ首を捻るばかりだった。
自分の部屋の前に着くと素早く玄関を開け、先に絵里を中に押し込む。
続いて自分も中に入り、後ろ手にドアを閉め鍵をかける。
暗闇の狭い玄関で二人が重なるように立ち、それでもブーツを脱ごうとする絵里を、後ろから強い力で抱きしめた。
「ちょ、吉澤さ・・・」
そのまま強引にこちらを向かせた吉澤は、後頭部あたりの髪を鷲掴みにして顎を持ち上げ、
激しく絵里のくちびるを求める。
酔っているから、では説明の付かない長く情熱的なキスだった。
吉澤は貪るように絵里の舌を吸い続け、上から体重をかけるようにして廊下に押し倒す。
- 592 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 23:10
-
驚きの連続でパニックになっていた絵里だが、一切抵抗はしなかった。
意味は分からないままだが、自らも吉澤の腰に手を回し、夢中で舌を絡め合わせる。
適度の熱をもった吉澤の舌が、自分の体温と重なり、溶けて無くなるような気がした。
暫くの時間が経ち、ようやく落ち着いた吉澤が絵里を解放した。
くちびるを離した吉澤が、寒いな、と呟いた事で正気に戻ったと絵里は悟る。
「・・・一体、どうしたんですか?」
目を閉じたまま余韻を楽しむように、絵里が小声で尋ねる。
「や、もの凄く怖かったから。まだドキドキが止まらないくらい」
吉澤は絵里のブーツを脱がしてやると、立ち上がり廊下の電気を付けた。
長い時間暗闇にいて、しかも目を瞑っていたので、明かりがやけにまぶしい。
「怖かった? 何がですか?」
薄目を開けた絵里が、少し頭を持ち上げる。
「カバンの中を見てみ」
その一言でピンと来た絵里は、慌ててカバンを開ける。
中からは小さなビニール袋に入った白い粉が山のように出てきた。
ようやく身体を起こした絵里は、吉澤を追いかけて部屋に入る。
「どういう事ですか、これは!?」
「酔ってたから」
「・・・本当にそれだけの理由ですか?」
凄い剣幕だった絵里が、呆れたような表情に変わる。
「や、色んな偶然が重なって、その全てがプラスに作用したんだと思う。
お前はトイレに行ってて知らなかったろうけど、俺達が帰る時、戸田は地下のフロアで踊ってたんだよ」
「・・・それで?」
「それでって、それだけ言えば、あの脚本を書いたお前にならすぐに分かるだろ?」
「つまり、結末だけは一緒だったって事ですね」
「正解。やっぱ分かってるじゃんか」
「・・・」
コートをソファーの上に放り投げベッドに寝転ぶ吉澤を、絵里は仁王立ちで見つめていた。
「で、何でさっきから怒ってるの?」
キスの時はウットリしてたのに、カバンを開けてから豹変した絵里の態度が、吉澤には分からない。
- 593 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 23:11
-
「・・・ズルいですよ。あたしに何の相談もなく。
あたしも、戸田さんが店に来ると知った時、計画復活のチャンスだと思ってたんですよ。
でも、俺達が失敗したら誰がミキを助けに行くんだ、っていう吉澤さんの言葉を思い出して我慢してたんです。
それなのに、見張りも立てずに一人でやるなんて・・・失敗してたら、どうする積もりだったんですか!?」
「ゴメン。だから戸田が残ってるのを見て、突然思い付いたんだよ」
もし、あのまま戸田が帰ってしまっていたら、絶対に手出しは出来なかっただろう。
店側から見ると、戸田がロッカーのキーを無くしたと嘘を付いて、未だに戸田自身が持っているとも考えられる。
戸田が帰った後には、ブツが盗まれてないか、それなりのチェックが入るはずだ。
相当数のブツが消えているのは紛れもない事実なのだから、どこかで必ず辻褄を合わせなければならない。
なので、戸田より自分達が先に店を出るという、その時間差がカギだったと吉澤は思っている。
自分達だけが全ての真相を知っているからこそ出来た、マジックのようなスチールである。
「少しでも甘ければ実行出来ないって言ってたくせに、大甘じゃないですか」
両手を腰にあてた体勢を崩さず、鋭い目をして吉澤を見つめる。
絵里にしてみれば、運命を共に誓った相手に、置いてけぼりを喰わされた意味も多分に含んでいる。
「だから、ゴメンって」
「・・・まぁ、成功したから良かったようなものの」
「機嫌直してよ。ホラ、おいで」
吉澤は身体を奥にずらし、ベッドをポンポンと叩いた。
「・・・バカ」
暫く口を尖らしていた絵里だが、吉澤の優しい笑顔を見ると、おもむろに服を脱ぎ始めた。
絵里もまた相当酔っていたし、先程のキスで完全に火がついていた事もあった。
吉澤の見てる前で全裸になった絵里は、空けてくれたスペースの布団に潜り込む。
暫くはシーツの冷たさに縮こまっていたが、自分から吉澤の首に腕を回し、キスを求める。
再び濃厚なくちづけを交わしながら吉澤も服を脱ぎ始め、全裸になると素早く布団に入り絵里の素肌に密着した。
- 594 名前:_ 投稿日:2006/03/23(木) 23:13
-
「わっ、冷たぁ」
折角自分の体温で布団が少し温まっていたのに、背中から氷のような身体を押し付けられ絵里は悲鳴を上げる。
「でもこの冷たさがメチャメチャ気持ちいい」
吉澤は悪びれる事なく、後ろから絵里の髪の毛を優しく撫でる。
当分の間、二人は頭近くまで掛け布団の中に埋もれ、ピッタリと身体を重ね合った。
「・・・でも、これで大手を振って、取引に臨めますね」
「あぁ。あのバカが余計な事を喋ってない限りは」
「まさか自分から、ちょっと摘み食いしました、とは言わないでしょう?」
「と思うんだけどな。分からんぞ、アイツの事だから」
「無いですよ、絶対」
「・・・それにしても、マジで怖かった。今こうしてお前と抱き合って、ようやく落ち着いてきた」
「だって、タクシー降りてから、部屋でキスされるまで、凄かったですもん」
「自分では割と簡単に出来ると思ってたんだよ。でも69番のロッカー空ける時なんて、ドキドキして、
もう手も足も震えまくり。あれを殆どシラフでやろうとしたののは、いい度胸してるよ」
「頭真っ白になって、証拠とか残してないでしょうね?」
「多分ね」
「多分じゃ困りますよ」
絵里は大きく体勢を変え、向かい合う形になる。
「コラ、動くな。寒いんだから。大丈夫だって」
「ホントに?」
「ちゃんと手袋はしたし、辺りも確認した。扉を開ける時のトラップも無かったし」
「ま、信用しておきましょう。そこら辺は」
絵里の右手は、いつの間にか吉澤の胸を愛撫していた。
薬指の腹で敏感な部分を弾くようにするたび、吉澤の身体がピクッと反応する。
「何故、上からの立場なのかが分からないんだけど」
絵里の言い回しに少し笑った吉澤は、お返しとばかり、絵里の股間に手を伸ばす。
「・・・すっげぇ、濡れてる」
「・・・もう・・・バカ・・・そんなにハッキリ言わなくても・・・恥ずかしいじゃないですかぁ・・・」
頬を真っ赤に染めた絵里は、吉澤の耳朶を噛むようにしながら、掠れた声で喘ぐ。
吉澤は絵里の手を取ると、ゆっくりと自分の股間に導き、同じ状態である事を知らせる。
はにかんだ笑顔の二人は目が合った瞬間、どちらからともなく、また深く長いキスを始めた。
- 595 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2006/03/23(木) 23:16
- 今日はここまでです。
やっと少しだけ進みました。
待っててくれた方には本当に申し訳なく思ってます。
- 596 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2006/03/23(木) 23:21
- >>563
レスありがとうございます。
>>564
レスありがとうございます。
>>565
レスありがとうございます。
>>566
レスありがとうございます。
>>567
レスありがとうございます。
>>568
レスありがとうございます。
- 597 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/24(金) 01:05
- いよいよですね。次回も楽しみです
- 598 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/24(金) 03:00
- ときめきを感じました
- 599 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/25(土) 14:05
- 理科の実験ワロス
- 600 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/25(土) 15:04
- 更新お疲れ様です。ドキドキです。
- 601 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/03(月) 19:08
- 更新お疲れ様です
続きまってます
- 602 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/07(金) 11:54
- 面白いです。
- 603 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/21(金) 00:37
- 楽しみにしてます。
- 604 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/05/08(月) 18:21
- あげたいけど…待ってます。
- 605 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/12(金) 08:37
- 相変わらずドキドキさせられる展開です。
- 606 名前:_ 投稿日:2006/05/19(金) 23:25
-
***
夢なのか、それが現実だったのか、理解するのにかなりの時間がかかってしまった。
極めて浅い眠りの中。
今日の時間割りが分からなくて、教科書を適当にカバンに詰める。
学校に行ってみると一時間目は体育で、体操服は昨日洗濯に出したままだった。
体操服を忘れたと言って見学すればいいものを、何故か自分だけ下着姿で体育の授業に参加している。
今日に限って、安物のヘソが隠れるような白いパンツを穿いてきてしまった事に後悔する。
男子生徒が校庭をグルグル走りながら、自分を見て笑っているような気がした。
それが現実の事かもしれないと錯覚したのは、あまりにもリアルに思い出せたからだ。
普通に考えてみればおかしな事だらけだが、ここに居る間、もう何回も同じ夢を見たような気がする。
ハッと正気に戻っては辺りを見渡し、またウトウトと幻想の世界に陥ってしまう。
時計を見てそれが六時だった場合、外は真っ暗で、朝と夜の区別すらつかなくなってきている。
美貴がここに監禁されて、既に四日目に突入していた。
片足を鎖に繋がれ、あまりにもする事が無いというのは、想像以上のストレスを感じる。
唯一の話し相手は自分を誘拐した張本人で、一日に一回必ずやって来るが、長くても15分位しか居ない。
昨日は美貴が生理痛で苦しんでいたため、鎮痛剤を買ってきてくれただけで、すぐに帰ってしまった。
コンビニのおにぎりなどは与えてくれているが、昨日から全く食欲がない。
無理にでも食べなければ、と思うばかりで、実際は水分を少し取っているだけだった。
ゆっくりと身体を起こした美貴は、ミネラルウォーターを一口含み、うがいをする。
歯ブラシは与えてもらってないため、もう三日間も歯を磨いていない。
当然風呂にも入ってないので、髪の毛がべたつき、美貴の不快指数を一段と引き上げる。
パーラメントに火を付けるが、口の中が気持ち悪くて、一口吸っただけで消してしまった。
煙草を与えてくれるなら、歯ブラシやドライシャンプーを買って来てくれても良さそうなものだが、
そこら辺は何故かあっさりと無視されている。
美貴は当初、一週間くらいは余裕で耐えられる積もりだったが、限界が近い事を肌で感じ始めていた。
- 607 名前:_ 投稿日:2006/05/19(金) 23:27
-
窓の向こうが綺麗なオレンジ色に染まった頃、外に車のエンジン音が聞こえてくる。
もうお馴染みになった、男の登場シーンだ。
ドアを開けた男は、初めてここに来た時と同じく台車を押している。
その上には、美貴の見た事の無い、メーター類が並んだ機械が乗っていた。
「どうですか、気分は?」
「・・・最悪」
「まだお腹の痛いのは直りませんか?」
「や、それは楽になった。薬を買ってきてくれたお陰で」
「それは良かった。相当辛そうでしたもんね」
「・・・薬なんか買って来ずに、早く殺してくれって感じ」
「それはまた、何で?」
男は笑いながら、食料の入ったコンビニの袋を美貴に渡し、いつのも椅子に腰掛ける。
「ぶっちゃけ、辛いのは辛いんだけど、美貴がカバンの在処を言う事はないから、絶対に」
「それは困りましたねぇ。ちなみに、何が一番辛いですか?」
言葉とは裏腹に、男は笑顔のままで、本当に困った感じは一切無い。
「・・・頭が死にそうに痒い。つうか、風呂に入りたい。や、一つだけ叶えてくれるなら、まず歯を磨きたい」
言いながら美貴は、下を向いてボリボリと頭を掻く。
頭皮が削れているのではと思うくらいの尋常ではないフケが落ちる。
僅かながらに残っていた羞恥心ですらも、今はあまり感じなくなってきている。
それよりも、男が腰を落ち着けて煙草に火を付けた事が、美貴は少し嬉しかった。
瞬時に、今日は時間に余裕がある、と悟ったからだ。
昨日は昼過ぎにやって来て、しかも殆ど会話をしていない。
この状況で、丸一日以上放置されると、無性に話がしたくなるものなのだ。
例えその相手が、憎むべき誘拐犯だとしても。今の美貴には、待ち焦がれた恋人が来たような錯覚がある。
人間とは、何と悲しい寂しがり屋の動物であるか、痛い程に実感していた。
「あなたの願いを聞いてあげたいのは山々なんですが、立場上、全部と言う訳にはいかないもんで」
「心底、今が冬で良かったと思うよ。寒いのは苦手だけど、夏にこんな事されてたら、きっと発狂してる」
「分かりますよ。寒いのは身体を動かせば何とかなりますけど、暑いのは地獄でしょうね」
- 608 名前:_ 投稿日:2006/05/19(金) 23:28
-
「もう既に、自分の体臭が気になってきてるし。パッと振り向いた時なんか、髪の臭いが有り得ない」
言ってしまってから、美貴は少し照れ笑いを浮かべる。
「じゃ早くカバンの在処を喋って、自分の家に帰って、思う存分風呂に入って下さいよ」
「や、ここまで来たら、美貴にも意地があるから」
美貴は髪の毛を掻き上げながら、ニッと笑う。それが痩せ我慢である事くらい、お互い承知の上だ。
「一昨日でしたか、いい解決法を見つけたと言って、後になって、忘れたって言ってましたよね。
それはまだ思い出せませんか?」
「・・・別に忘れた訳じゃなかったんだけど、それって美貴の最後の切り札だから」
「ほう、聞かせてもらえませんか?」
男は組んでいた足を外し、身を乗り出した。
決心した美貴は大きく息を吸い込み、最後の力を振り絞って立ち上がる。
「・・・美貴と勝負してくんない? もし美貴が勝ったら、何も言わずカバンを取りに行かせて」
「一体、何の勝負ですか?」
「勿論殴り合い。ってゆうか、何でもアリの」
「あなたは、そんなに可愛い顔をしてるのに、余程そういうのが好きなんですね」
男は笑いながらはぐらかす。
「どっち? やってくれるの? くれないの?」
「うーん、凄く面白そうなんですけど、それは乗れませんね」
「何故? そんなにケンカに自信ないの?」
上半身を捻り、屈伸運動をしながら美貴は続ける。完全に臨戦態勢に入っていた。
「別にそういう訳ではありませんが、それは勝ち負けの基準が曖昧になります。
お互いが本当に納得いく形で勝ち負けが決められるのであれば、乗ってもいいんですが」
「簡単な事じゃん。どっちかが参ったすれば、それで終わり」
「本当にそうですか?」
「どういう意味?」
「鼻や顎が折れようが、もしくは完全に関節が決まった状態でも、あなたは負けてないと言い張りませんか?」
「続けられる状態なら、折れてようが勿論続けさせてもらうけど」
「ほらね。最後はボロボロになっても、口だけは、まだ終わってないとか言うでしょ」
「・・・なんだかんだ言って、結局逃げてるのはアンタの方じゃん。試合放棄って事で美貴の勝ちにするよ」
「審判がいないんだから、あなたの性格だと、最後は命のやり取りになりますよ?」
男は困った表情で美貴を見る。聞き分けのない駄々っ子をあやすような口調だった。
- 609 名前:_ 投稿日:2006/05/19(金) 23:29
-
「当然そのつもりなんだけど」
「私が勝ったら、どうするんですか?」
「アンタの好きにして」
「・・・本当に何でもアリですか?」
「勿論。何ならハンデとして、美貴は足枷をつけたままでもいいよ」
半分は自信から出た言葉だが、残りの半分は破れかぶれという気持ちだった。
「じゃ、私はこれを使わせてもらいます」
大きく溜息をついた男は、コートのポケットから黒い塊を取り出した。
スチール製の机に、ゴトリと重い音を響かせて置く。
「何それ? なんか金属っぽいけど、それで殴る積もり?」
美貴の位置からは、それが何であるのか、よく見えなかった。
もし、少しでもディテールが分かれば、そんな馬鹿な質問はしなかっただろう。
「そんな古典的な事はしませんよ。これはグロック26。ナリは小さくとも、れっきとした9ミリ弾です」
美貴に見えるように、もう一度それを手に取った男は、真面目な顔で言った。
「・・・ほ、本物?」
「当たり前じゃないですか。小学生じゃないんだから、水鉄砲なんかで遊びませんよ。
アメリカのシークレットサーヴィスなどが携帯するピストルです」
「・・・流石に、幾ら何でも、それはズルくないか? こんなかよわい女の子に向かって」
「かよわい女の子が、この状況の中、殴り合いで命のやり取りをしようなんて言いますか?」
「・・・美貴の言う何でもアリっつうのは、ヒジだとか、頭突きだとか、急所攻撃の事なんだけど」
「あなたは何か勘違いをしてますね。今からやろうと言ってるのは、総合格闘技の試合じゃないんですよ?」
「・・・そりゃ・・・そうだけど・・・」
美貴は下を向いてしまい、その後に続ける言葉が出てこなくなった。
「何故、ボクシングなんかの格闘技が、体重別に細かい階級に分かれているか知ってますか?」
暫く経って、男は突然脈略のない事を言い出す。
「・・・そりゃ、身体が大きい方が有利だから」
「その通りです。勿論、チャンピオンを沢山つくって、多くの興行をやりたいという意味もあるんですが、
選手側から考えると、出来るだけ同じサイズの人間とやりたいじゃないですか。
ボクシングの軽い階級なんかは、ほぼ2キロくらいの間隔でクラス分けされてるんですよ」
- 610 名前:_ 投稿日:2006/05/19(金) 23:30
-
「・・・それが何?」
「まだ分からないんですか? あなたと私では、身長で20センチ以上、体重ではおそらく30キロくらいの
差があるんですよ。いかにあなたがケンカに強くても、どうにかなるものじゃ無いでしょう?」
美貴は男の言葉を聞きながら、自然とあの日の事を思い出していた。
吉澤とやり合った、スタジオのトイレ。あの時は完敗だったが、
もし吉澤が自分と同じサイズか、小さければ、あのボディブローの一撃は耐えられたのかもしれない。
そんな事を少し考えて、フッと笑ってしまった。
「・・・そうかもね・・・」
「何がおかしいんですか?」
「や、ゴメン、思い出し笑い。そう言えば、そんな事もあったなって」
「私も決して弱くは無いです。ハジキなど出さなくても、殴り合いであなたに負ける事は絶対にありません。
しかし、あなたのような美しい人を傷つけたく無いというのが私の本音です」
「・・・分かったよ。美貴の負けだ。仕方ない」
冷静になってみると、吉澤に勝てなかった自分が、その吉澤より遙かに大きい男に勝てる訳がない。
ふぅーっと息を吐き出した美貴は、笑顔で布団の上に大の字になった。
「じゃ、カバンの在処を教えて下さい」
「それは教えられないな」
「・・・約束が違うじゃないですか?」
「や、全然違わない」
「今、美貴の負けだって言ったでしょ?」
「言ったよ、負けもちゃんと認めるし」
「・・・意味がよく分かりませんが」
「美貴が負けたら好きにしていい、とは言ったけど、カバンの在処を教える、とは言ってない。
そのチャカで撃つなり、セックスするなり、ご自由にどうぞ。当然奇襲なんかは考えてないから」
「・・・あなたも、相当しぶといですね。段々あなたの事が好きになってきましたよ」
最初ポカーンと口を開けていたが、男は遂に声を上げて笑い始める。
「ヤるのはいいけど、惚れるのは勘弁してよね。身が持たなくなっちゃう。これでも結構モテるんだから」
覚悟を決めた美貴も、釣られて大声で笑い出した。
- 611 名前:_ 投稿日:2006/05/19(金) 23:32
-
「あなたがそういう積もりなら、私も奥の手を出さないといけませんね」
一頻り笑った後で、男は急に真面目な顔に戻る。
ラッキーストライクに火を付け、旨そうに煙を吸い込む。
「あれ、ヤらないの?」
「取り敢えず、遠慮しておきましょう」
「風呂入ってないし、生理中だっていう、アレで?」
「そういう訳ではありませんが」
男は苦笑いを浮かべる。
「チャカで撃つのは?」
「それは現時点で絶対に無いです」
「ふーん、折角好きにしていいって言ってんのに」
「だから、私も最後の切り札を出すんですよ」
「アンタの切り札って、そのチャカじゃ無いの?」
「これは単なる虚仮威しです。私は今日、どうしてもカバンの在処を聞き出さなければなりません」
「・・・何?」
「好きにしていいって言うんで、注射を一本させて貰います」
男は煙草を左手に持ち替えると、上着の内ポケットから、ペンケースのようなものを取り出す。
パチンと大きな音を立てて留め金を外すと、中の小さな茶色いアンプルを摘み、美貴に振って見せた。
「・・・ち、注射?」
「PCPと言う薬です。フェンサイクリジン。通称エンジェルダスト」
「・・・も、もし良ければ、それを打つ前に、どんな薬なのか、説明して欲しいなぁ、なんて」
男の事務的な口調に、美貴の体温が一気に上がる。
「ハジキで撃たれるのは平気なのに、何か分からないものを注射されるのは、怖いですか?」
「・・・苦しまずに殺してくれるなら、それでもいいけど、後々妙な事になるのはちょっとヤでしょ」
「なるほど。私も出来れば打ちたく無いですから、勿論説明はしますよ」
男はそこで一旦区切ると、難しい顔で黙ったまま紫煙を燻らせる。
沈黙に耐えきれず、美貴もパーラメントに手を伸ばす。
初日に貰ったデュポンのアンティークを握りしめ、男が100円ライターを使っているのに
自分がこれを持ってていいのだろうか、とそんな事を漠然と考えていた。
- 612 名前:_ 投稿日:2006/05/19(金) 23:34
-
「これは、自白剤です」
短くなった煙草を床に落とし、ブーツのつま先で踏みつけながら、静かに男は言った。
「・・・う、嘘だぁ!?」
大体の予想はついていたが、本当にその言葉を聞いて、美貴は思わず大きな声を出す。
「本当です」
「自白剤なんて、テレビとか映画の話でしょ? そんなもの、存在しないもん」
「存在しますよ。ちゃんとここにあるじゃないですか」
男は机の上のアンプルを顎でしゃくる。
「アンタの作戦が分かったよ。そう言うと、美貴が怖くなって喋ると思ってんでしょ?」
「まぁ、それも半分くらいありますが、これは本当に自白剤なんですよ」
「信じないね。ホントにそうなら、もう打ってると思うもん」
「打てば、私は確実にカバンの在処を知る事が出来ますが、あなたは廃人同然になるんですよ」
その言葉に、美貴は暫く考える。
おそらく廃人になるというのは本当なのだろう。コカインを扱ってる人間なのだから、
何か強力なドラッグを手に入れる事など簡単な話だ。自白剤という言葉で脅せば、諦める格好の口実になる。
しかし、どうしても吉澤の名前を出すことは出来ない。理屈ではなく、美貴の最後のプライドだった。
もし本当に自白剤だったとして、意識が無いところで喋ってしまったのなら、自分を許せるだろう。
廃人になって自殺も出来ず、周りに迷惑をかけ続けるだけの人生になったとしても、仕方のない事だと思った。
「いいよ」
見栄を張りたい場面だったが、思わず声が掠れる。
美貴が頷いた事で、男は溜息をつく。どこまで強情なんだろうと呆れていた。
「勿論、自白剤として、そこら辺の薬局とかに売ってる訳ではありません。
多くは麻酔薬を代用にするんです。具体的に言うと、これを静脈注射をした後、ECTを行います」
「・・・何、ECTって?」
「脳に電流刺激を与えるのです。精神科の治療だと2ミリアンペア程度の電流ですが
その5〜10倍を流す事によって、あなたの意思に関係なく、知ってる事なら何でも喋ってしまうんです」
台車に歩み寄った男は、機械を持ち上げ机の上に置く。
「・・・それが電流を流す機械?」
男が部屋に入ってきた時から気になっていた事がクリアになったが、当然気は晴れなかった。
- 613 名前:_ 投稿日:2006/05/19(金) 23:36
-
「その通り。心臓の弱い人なら、何かを聞く前に、これだけで死ぬかもしれません。
あ、あと、電極を頭に貼り付けるので、邪魔になる髪の毛を剃る事になります」
「えぇーっ、それはちょっと、ヤかも」
「あなたは、好きにしてくれ、と言った筈ですよ」
「・・・そうだけど・・・何とか、剃らずに出来ないもんなの?」
「全部を剃る訳じゃないです。こめかみから耳の上にかけて、5センチ四方くらい」
「マジで!? そっちの方が絶対にヤだ!」
「・・・あなたは本当に変わってますね。感心しますよ」
「だって、耳の上5センチ剃られて、しかも廃人になるんだよ!? それで生き続けなきゃならないんだよ!?
悪いんだけど、ちょっと考えさせてくんない?」
美貴は髪の毛に関して、並々ならぬコンプレックスを抱いている。
別に時間稼ぎの積もりでは無くて、真剣に悩む時間が欲しかった。
「ちょっとと言うのは、どれくらいの時間ですか?」
一旦は美貴の言動に呆れ果て、感情を捨てて話を進めていた男が、また急にそのリアクションに興味が出てくる。
髪の毛を剃られたところで、時間が経てば再び生えてくるものだし、何より廃人になるのを覚悟してるのなら
どんな髪型でもいいじゃないか、と思うのが普通なのだが、美貴の思考は常人の域を果てしなく超えている。
「や、ちょっと。10分か、そこら辺」
あれだけ頑なに死をも覚悟していた人間が、何故5センチの髪の毛でここまで悩めるのか、男は不思議だった。
「・・・提案があるのですが」
「何?」
「私の話を聞いて、自白剤があると分かれば、カバンの在処を喋って貰えませんか?」
「・・・意味が分からない」
「あなたの事が本当に好きになってきましたよ。
さっきまでは有無を言わせずPCPを打つ積もりだったんですが、最後のチャンスを与えようと思って」
「チャンス? 貰えるものなら、何でも頂戴」
「じゃ、約束して下さい。今から私が自白剤の存在を証明しますから、それに納得出来ればカバンの在処を喋ると」
「・・・本当にそんな事が出来るの?」
「勿論です」
男は自信満々に頷く。美貴は未だに、自白剤について半信半疑だ。
それを確信させる事によって、逃げ道を無くしてやればいい。
最初から、男の目的は美貴に危害を加える事ではない。カバンを取り戻せば、それで済むのだ。
- 614 名前:_ 投稿日:2006/05/19(金) 23:38
-
男は再び煙草に火を付けてから、大きく咳払いをする。
美貴はコンビニの袋から缶コーヒーを一本取り出し、男に向かって投げた。
地面スレスレの所を左手でナイスキャッチした男は、少し微笑んでから缶を空け、一口ゴクリと飲んだ。
「さっきも言ったように、自白剤としてのみ存在するものはありません。
麻酔薬や睡眠薬を代用するのですが、それなら何でもいい、というものでもないのです。
例えば、あなたを拉致する時に使った亜酸化窒素も麻酔薬ですが、自白剤には適しません。
通常使われるのは、塩酸ケタミン、ペントタールナトリウム、そしてこのPCPです」
「詳しいんだね」
美貴もパーラメントに火を付け、ペットボトルのお茶を飲む。
「元々このPCPも、全身麻酔薬だったのですが、幻覚などの様々な弊害が出てきて、使用禁止になりました。
獣医用の麻酔薬にさえ使えない程の、桁違いのパワーなのです。各国の諜報機関が自白剤に使うのは、
ペントタールナトリウムの方が多いでしょうけど、コイツとは比べものになりません」
「各国の諜報機関!?」
「イスラエルのモサド、アメリカのCIA、ロシアのKGB、自白剤は色んな所で日常的に使われてます」
「・・・KGBって、ソビエト崩壊で解体したんじゃなかったっけ?」
美貴は知識を披露する。何とか男の発言を否定してみたかった。
「よく知ってますね。四つの機関に分かれて、暫くはFSBという呼び名だったのですが、復活しましたよ」
「・・・へぇ」
「一番分かりやすい事例としては・・・アメリカが悪の中枢と斬って捨てた、中東の元大統領なんですが」
「・・・うん?」
「何故彼は拘束されたんでしょう?」
「・・・何故って・・・米軍が必死になって探したんじゃないの?」
「じゃ、何故彼がティクリート近郊に潜んでると分かったのでしょう?」
「・・・」
「当然先に拘束された彼の側近が、CIAの取り調べに落ちたんですが、その人も普通の拷問では口を割りませんよ」
「・・・そこで、自白剤が使われたって事?」
「勿論。大統領の潜伏先を知ってる人間ですから、かなりの訓練を受けてるし、忠誠心も相当なものだったでしょう」
「・・・」
「反論出来ないという事は、自白剤の存在を理解してもらえましたか?」
「や、今の話は分かったけど、遠い外国の出来事でしょ? 何か、いまいち実感が湧いてこない」
- 615 名前:_ 投稿日:2006/05/19(金) 23:40
-
「勿論、日本の警察でも使われてますよ」
「・・・それは無いでしょ、いくらなんでも」
「何故、そう思うんですか? あなたの知っている事だけが、この世の全てでは無いんですから」
男は短くなった煙草を消したと思ったら、すぐに次の新しい一本を取り出す。
「例えば?」
「刑事警察は法遵守がありますけど、公安警察にそんな物はありません。
日本の国益を守るという、自分達が秩序なんですから。言ってみれば、公安が他国の諜報機関みたいなものです」
「公安ってたまに聞くんだけど、実在してるのかさえ知らないもん」
「確かに、あまり一般には知られてませんね。あなたの言う通りです」
「それって、余計話が飛躍してるように思うんだけど」
「でも、先程と同じような事例が、この日本にもあるじゃないですか」
くちびるの端で、男はニッと笑う。
「・・・何?」
「例の、カルト教団ですよ。地下鉄で毒物を撒き散らした」
「当然知ってるけど、それが何?」
「同じ事ですよ。何故グルは逮捕されたんですか?」
「それは日本の警察が優秀だから逮捕出来たんでしょ? 自白剤は関係ないと思うな」
「本当にそうですか?」
「・・・と思ってたんだけど」
「グルは山梨の教団施設で逮捕されてます。そこには所轄署が令状を取って何度も踏み込んでるんですよ。
それなのにグルどころか、グルが潜んでいた中二階の小部屋さえ発見出来なかったんです」
「・・・」
「所轄署だけで捜査をやっていたら、きっと一生グルを見つけられなかったでしょう。
そこで公安の出番です。所轄署には逆立ちしても出来ない捜査方法が、公安には出来るんです」
「まさか・・・」
「聞いた話なんですが、グルの居場所を知っていたのは、彼の家族以外だと、正大師の二人だけで、
半端じゃないマインドコントロールをされてたんですよ。あなたが警察ならどうやって聞き出しますか?」
「・・・」
「尋問の時、ちょっと暴力をふるっただけでニュースになるようなこの国で、
様々な難事件が解決してるのを、不思議に思った事はないですか?」
「・・・アンタは何者なの?」
「私はカバンを取り違えられた、ドジな男ですよ」
男は缶コーヒーを飲み干し、声を上げて笑った。
- 616 名前:_ 投稿日:2006/05/19(金) 23:43
-
この季節、夕焼けのオレンジが窓を染める時間は、あまりにも短い。
既に日は暮れ、電灯というものが無いこの部屋で、ストーブの火だけが唯一の明かりだった。
しかし、その石油も残り少なくなってきて、目盛りの先がエンプティを示すEの文字に掛かってきている。
それはまるで、意地を張っていた美貴の心の中を表しているようだった。
「日本やアメリカで使われている自白剤は、おそらくペントタールナトリウムです。
なかなか口を割らずに電流を強く流され、廃人になってしまう奴も居るんでしょうが、確率は低い筈です。
しかし、私が持っているPCPで自白させると、その殆どの人間が社会復帰は出来ないでしょう」
「・・・」
流石に美貴は何も言えなかった。男の言ってる事は概ね辻褄が合っている。
それがイコール事実だとは簡単に思えないが、反論が一切出来ないため、嘘だとも言い切れない。
「ところで、何故あなたが、そんなに強情なのか考えてみたんですけど、
カバンの在処を喋る事によって、大切な人に迷惑が掛かると思ってるんですよね?」
「・・・」
突然別方向から攻められて、美貴の鼓動が早くなる。
「私の調査では、あなたにステディな関係の男はいないし、家族は北海道で頻繁に会えない。
すると、考えられるのはモーニング娘。のメンバーぐらいしか残らないんですよ」
「・・・」
「その中でも、年の近い石川梨華、吉澤ひとみ、もしくは仲が良いと言われてる松浦亜弥。
あくまでも私の感ですが、ここら辺にカバンを託している気がするんです」
「・・・」
もう限界だった。名前を出された事によって、しかもその中に正解が含まれているので
細く張られていた美貴のプライドも音を立てて切れてしまった。その瞬間、涙が溢れてくる。
「どうしますか? 自らカバンの在処を喋るか、PCPを打たれて廃人になるか、私はどっちでもいいですよ」
「・・・分かったよ。喋る。喋るから、一つだけ約束してくんない?」
「何ですか?」
「美貴はどうなっても構わないなら、その人には危害を加えないで」
「勿論。妙な事をせず、黙ってカバンを返してくれれば何もしませんよ」
「・・・信じていいのね?」
「魅力的なあなたに指一本触れなかった事で、それは証明出来てると思うのですが」
男は安堵の溜息を漏らし、真一文字に結んだ口元だけで微笑んだ。
- 617 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2006/05/19(金) 23:47
- 今日はここまでです。
これからちょっと忙しくなるので保全代わりの更新をしてみました。
なるべく早く仕事を片づけて、また戻ってきます。
- 618 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2006/05/20(土) 00:07
- >>597
レスありがとうございます。
少しずつではありますが、前に進んでる感じがしてきました。
>>598
レスありがとうございます。
こういう場面は結構苦手なので、そう言ってもらえると嬉しいですw
>>599
レスありがとうございます。
自分も初めてジンを飲んだ時、同じ事を叫んだような気がしますw
>>600
レスありがとうございます。
書いてるこっちも綱渡りの連続にドキドキしていますw
>>601
レスありがとうございます。
なかなかサラッと流れて行きませんが、お付き合いの程をよろしく。
- 619 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2006/05/20(土) 00:07
- >>602
レスありがとうございます。
そのストレートな一言がやる気を引き起こしてくれます。
>>603
レスありがとうございます。
完結まではまだもう少しかかりますので、その気持ちを持ち続けて下さいw
>>604
レスありがとうございます。
申し訳ないです。なんとか頑張って書けるように努力します。
>>605
レスありがとうございます。
まだまだ展開は二転三転する筈なので、ゆったりとお待ち下さい。
- 620 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/20(土) 03:46
- 更新ありがとうございます。
続きを楽しみにしていて、よかったです。
マジですぎょい。
- 621 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/20(土) 14:34
- うーん、面白い!
ところでこの二人がお似合いに見えてきたんですけどどうしましょう…
- 622 名前:通りすがり 投稿日:2006/06/11(日) 11:58
- 面白いです。待ってます。
- 623 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 13:59
- まってます。
- 624 名前:通りすがり 投稿日:2006/07/05(水) 22:58
- まだ待ってます。
- 625 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/07/07(金) 09:45
- いいすねえ〜
- 626 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/07/07(金) 09:47
- すいませんあげてしまった
- 627 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/07(金) 18:06
- 作者さんの更新があるまで落としておきます。
- 628 名前:通りすがり 投稿日:2006/07/22(土) 00:02
- 待ってます
- 629 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/06(日) 22:23
- まってます。
- 630 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/03(日) 07:26
- 待ってます。
- 631 名前:通りすがり 投稿日:2006/09/24(日) 02:15
- 待ってます
- 632 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/12(木) 10:25
- よ
- 633 名前:通りすがり 投稿日:2006/10/20(金) 14:13
- まだ待ってます
- 634 名前:一気に読んだ 投稿日:2006/11/14(火) 00:33
- いつまでも待ってます
- 635 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/10(日) 06:02
- 待ってますよ。
- 636 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/17(日) 21:06
- 同じく。しかし大佐の御心のままに。
- 637 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/14(日) 22:38
- おけおめです。
年が越えても待ってます。
- 638 名前:名無し 投稿日:2007/03/18(日) 21:20
- 待ってます
- 639 名前:定期通りすがり 投稿日:2007/03/22(木) 10:44
- いつまででもお待ちしてます^^
- 640 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 11:24
- ほ
- 641 名前:名無し 投稿日:2007/08/25(土) 01:48
- もう続きは読めないのかな
楽しみに待ってますよぉ〜
- 642 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/09/30(日) 07:31
- 待ってます。ずっと待ってます。
- 643 名前:名無し 投稿日:2007/11/02(金) 16:20
- まちます
- 644 名前:名無し 投稿日:2007/11/11(日) 10:13
- 失礼は承知でアゲます。皆さん、大佐ゴメンナサイ。
けれど大佐に本当に続きを待っている人間がいるということを知ってほしいのです。
見てないかもしれませんが…。
せめて生存報告。ダメならダメで打ちきりを宣言してください。
お願い致します。
- 645 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/13(火) 00:38
- >644
謝れば何しても良いことにはならないでしょ?
このスレの更新を待っている人は他にも居るの。
あなたの身勝手で、他の人を戸惑わせるのは止めて欲しい。
分かったら、2度とageないでください。
>作者様
スレ汚し大変申し訳ございません
更新される事を、いつまでもお待ちしてます。
- 646 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/16(金) 23:42
- ここが止まった後も某個人サイトの企画に参加してるから生存はしてるでしょ
むしろそっちに出てこなくなった時こそが本当の危機だと思われますYO
- 647 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/17(土) 05:07
- そうですね。
飼育でもこうやって待ち焦がれている人が
いる事もわかってほしいですね。ポアンポアン大佐殿〜
- 648 名前:Cosmo 投稿日:2007/12/09(日) 23:48
- <Text>
- 649 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/10(月) 00:14
- 大人しく待ちましょう
- 650 名前:ポワンポワン大佐 投稿日:2008/01/12(土) 21:50
- 作者です
長い間放ったらかして恐縮ですが保全します
必ず最後まで書き上げますのでスレ残して下さい
何卒よろしくお願いします
- 651 名前:名無し飼育 投稿日:2008/01/17(木) 05:11
- 保全ありがとうございます。ずっと待ってます。
- 652 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/06(水) 11:11
- いつまでも待っています。
- 653 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/10(火) 01:33
- 続きが気になります・・・。
- 654 名前:名無し飼育 投稿日:2008/08/07(木) 03:13
- 待っとるぜ
- 655 名前:名無し飼育 投稿日:2008/09/25(木) 08:01
- 待ってる!
- 656 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/07(水) 02:15
- そろそろ一年・・・
- 657 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/04(水) 03:15
- 久々に読み返しました
続きが待ち遠しいです
- 658 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/14(木) 02:12
- 待ってるのはいいんだけど、
更新予定って本当にあるのかな?
- 659 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/10/19(月) 15:21
- 待っていたいけど・・・
飼育が亡くなる方が先っぽい。
- 660 名前:ochi 投稿日:2009/10/19(月) 15:21
- ごめんなさい
- 661 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/10/20(火) 00:41
- とりあえず
- 662 名前:sage 投稿日:2010/03/27(土) 05:57
- 一応…ね
- 663 名前:間違えた 投稿日:2010/03/27(土) 05:58
- ごめんなさい
- 664 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/27(土) 19:23
-
- 665 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/05/22(日) 20:51
- まだ待っていると言ってみる
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