アイソパラメトリック
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/11/15(金) 20:32
- Juice=Juiceです。
宮本さんと金澤さん中心です。
- 2 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:34
- 問題
I love you.
上記の英文を日本語で表せ
- 3 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:35
- 唯一ひとつの解がない問題にはどう答えるのが適切なのだろうか。
めずらしく、だらしなくテーブルに肘をついた格好で宮本佳林は待っていた。
宿題は嫌いではない。そのせいで寝不足になるときはもちろんあれど、
提出することで評価が上がる明快さが佳林は好きだった。
一人でいるには広い、所属事務所の会議室で壁時計をちらりと見上げる。
秋に入り、冬服を着ていてもようやく暑さを感じなくなった頃だった。
会社に来るときは私服に着替えるから気温を考慮する必要はあまりなくて、
自由ではあるが不自由でもある。なにも考えなくてよい制服の価値は大きい。
子供っぽいと言われがちな佳林だが、ふわふわした服を好むのも体格と
顔立ちからするとそれが似合うからで、大人っぽい服を着るのが嫌なわけではない。
形から入るのも時には有効だと思うけれど、服装から大人になるのは難しそうだった。
テーブルに置いたプリントを指でなぞる。
国語の宿題なのに英文が印刷されたそれは目下の悩みの種だった。
授業中に聞いたエピソードは使ってはいけないから創作する必要があるのだけれど、
一度聞いたらインパクトのあるそれを超えることはきっとできない。
『日本人が愛してるなどと言うものか。月が綺麗ですねとでも言っておけ』
かの小説家がこう表したというのは嘘か誠か。他にも例は示されていたが、
佳林はこの訳を最も気に入っていた。また、至って有名なものらしいとも知り、
同じグループのメンバーのうち誰かはこれを見聞きしたことがあるかもしれないと思った。
- 4 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:36
- 広く寒々とした部屋で解答を思案していると、がちゃりとドアノブが回される音が聞こえて
背筋を伸ばした。教科書を一冊ずらしプリントの上に重ね、音がした方角に顔を向ける。
静かにドアを開け閉めした宮崎由加が、佳林を認めてふにゃりと笑った。
「佳林ちゃん、早かったね」
「うん。なんか短縮授業だった」
「あったね、そういうの。懐かしい」
部屋に入り、佳林の対面に腰掛けた由加も鞄からなにやら書籍を取り出す。
大学の教科書には統一感がない。由加の持つ本は見るたびに大きさも装丁も
ばらばらだった。
「宿題?」
テーブルの上の教科書と筆記用具を見てか、由加が尋ねる。
金曜日の宿題はいつもより少し多い。教師は他の科目の宿題量なんて考慮しないから、
集中して負担をかけられることもしょっちゅうだ。
佳林は鞄からノートを一冊出して、ひらりとざら紙を一枚だけで提示された課題の上に、
さらに重ねた。この国語の課題が質量的には最も軽くて、けれど気は重くさせる。
- 5 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:36
- 「今日はたいしたことないよ。由加ちゃんは?」
やっかいなもの以外は、授業の合間にほとんど終わらせてしまっていた。
休み時間中に勉強していると、ときどき揶揄するような声をかけられるが、
そうでもしないと睡眠時間を大いに削られるから佳林はそうせざるを得ない。
「私も、レポートあるんだよねえ」
厚い本の、付箋が貼られたページが開かれる。いかにも重そうなそれを持ち運ぶのは
骨が折れそうだ。興味があることばっかりだったらいいんだけどね、と由加は肩をすくめて
文字ばかりのページに目を落とす。
カーテンが引かれた窓の外はきっともう暗い。徐々に日が落ちるのが早くなり、
冬の訪れを感じさせた。寒くなる前に、手袋もマフラーも出してもらわなければいけない。
- 6 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:37
- 遅いな、と思った。
頬杖をついて佳林が思案していると廊下から騒がしい声がして、由加と二人して
顔を見合わせる。ドアが勢いよく開き高木紗友希がまず姿を見せ、部屋に飛び込んでくる。
「由加ちゃん! うえむーが!」
「だめだめだめ! 由加には言っちゃだめ!」
追いかけてきたのか植村あかりがすぐにやってきて、紗友希を羽交い締めするように
引き留めた。ばたばたと騒ぎ立てる二人に、由加はきょとんと首をかしげる。
「どうしたの?」と促し、紗友希が口を開くより先にあかりが答えた。
「なんでもない、なんでもないよー」
「うえむーには聞いてない」
ばっさりと切り捨てられて、あかりが判りやすくしゅんとする。
顔立ちはしっかりしているけれど、感情表現が豊かで見ていて面白い。
ふにゃりと曲がった口許は猫を連想させ、それが今は不機嫌そうに歪められていた。
そんなあかりを軽く見上げ、紗友希がにやりとする。
- 7 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:38
- 「まあ、いつものことだけど、テストの点がね……」
憤慨したようにあかりは額にしわをよせ、紗友希をにらむ。
それがまるで威嚇しているようで、やっぱり猫みたいだと佳林は思う。
「きーもこれくらいだったでしょ?」
「今はうえむーの話ですー」
やいやいと言い合う紗友希とあかりを前に由加は静かにため息をつき、
いささか真剣な表情をして二人の方に向き直る。あまり怒ることのないリーダーも
時には厳しく、というほどでもないが諫めるような声を出す。
「期末前は特訓だね」
「やだ!」
「通知表、出さなきゃだからね?」
由加に諭されて、あかりは紗友希の後ろに隠れる。
会社に通知表を見せるとき、あまりに成績がひどいと心証が悪いし、
それに勉強ができて損をすることもない、というのが由加の意見だった。
隠れたあかりを前に出すように紗友希がさらに後ろに回る。
そこをまたあかりが後ろに回って、を繰り返すうちに二人はぐるぐると回り出す。
こういうの絵本で見たなあ、と佳林は傍観を決め込む。
ぐるぐる回るうちにバターになる話だった記憶があるけれど、実際にそうなるとは
さすがにもう佳林も信じてはいない。
- 8 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:38
- そんな二人を前にして、由加は困ったような顔をしていた。
そもそもがそういった表情に見えがちなので気にならないが、それなりに
深刻に思っているのもしれない。成績を落とさないように気をつけよう、と
佳林は密かに決心する。
ばたばたと暴れる音にまぎれて、ノックが三度あった。
「なにやってんの?」
ドアからひょこりと顔をのぞかせて、金澤朋子が訝しげに二人を見る。
急いでやってきたのか髪がわずかに乱れていた。外は風が強いのかもしれない。
早くに建物に入った佳林には今の天候が判らなかった。
一般的な高校生がどれくらい学校に拘束されるものなのかは判然としなくて、
きっとこれからも身を持って経験する機会はないだろう。
佳林がごくごく普通の高校に通うことはおそらくない。
忙しくしている結果にそうなるのであれば、それは悪くない選択だ。
- 9 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:40
- 朋子の後ろから、マネージャーの声がした。
先に呼ばれた紗友希と由加が部屋から出て、あかりがほっとしたように息を吐き出す。
それを目ざとく見つけた朋子が尋ねた。
「なに、どうしたの?」
口ごもったあかりが不自然に視線をさまよわせる。
学業に関しては由加と朋子から面倒を見られることが多いから、成績のことは
知らないたくないのだろうなと思う。しかし、そのうち知れることでもある。
見かねて、代わりに佳林が答えた。
「由加ちゃんに勉強しろって言われてたんだよね」
つんと唇をとがらせてあかりが無言の抗議をする。ごめんね、と心の中で軽く両手を合わせた。
佳林の成績も大して良いわけではない。得意な科目もあるけれど数学は苦手だし、
総合すれば良くもなく悪くもなく、といったところだった。
- 10 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:41
- ふうん、とあまり興味もなさそうに朋子は瞬きをした。
そのまま佳林の斜め前の席に陣取り、淡々と鞄からプリントやノートを取り出す。
「宿題するから、邪魔しないでね、うえむー」
「なんであかりだけ?」
さらに口をとがらせて、つまらなそうにあかりが言う。釘を刺されてしまっては仕方がないと
佳林の側にやってきたけれど、「私も宿題するからね」と微笑んで見せたらさらにむくれる。
本当に差し迫っているようで、朋子はイヤフォンをしてすぐに課題とおぼしきプリントに
取りかかっていた。さすがにそこまで徹底されるとこちらとしても気後れする。
あかりが佳林に目線をやって肩をすくめた。
苦笑いを返すけれど、臆してしまうのは佳林も同じで邪魔をする気にはなれない。
朋子の意見を聞きたい宿題があった。けれどそのプリントは先ほどから隠されたままで、
表に出す機会はあるだろうかとわずかばかり憂鬱になった。
- 11 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:43
-
イヤフォンを耳から抜いた朋子が座ったまま伸びをし、そのまま背もたれに身体を
預けて目を閉じる。数枚のプリントの解答欄はすべて埋められているように見えた。
週末の分までまとめて片付けたのだろう。右手が黒鉛で少し汚れているのが判り、
それが時間の経過を感じさせた。
「終わったの?」
シャープペンシルを指に挟んで揺らしながら佳林は尋ねる。
朋子はまっすぐ座り直し、ゆっくり首を左右に倒してからうなずいた。
一度に片付けるにはしんどい量だろうな、と佳林は散らばった紙を見る。
「おかげさまで。佳林ちゃんは?」
「……もうひとつあるけど、だいたい終わった」
「んー」
ちょっと休憩、とひとり言のように口にして朋子が立ち上がる。
椅子ががたりと音を立てて、部屋に響いた。テーブルに手をつき部屋を見渡し、
疑問を覚えたのか朋子が眉根を寄せる。
「うえむーは?」
「さあ」
佳林にも朋子にも相手をしてもらえないと悟ってか、あかりはふらふらと部屋から出て
行ってしまっていた。それにも気づかないほど集中していたのか、と佳林は驚く。
朋子は顎に手を当ててなにやら思案している様子だったけれど、やがて諦めたように息をついた。
- 12 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:44
- 「携帯持って行ってるならいいか」
どうにも、あかりからはなるべく目を離さないようにと気にかけている節がある。
年長の二人はそれが顕著だ。佳林にもその気持ちは判るし、実際、あかりに対しては
なにかと世話を焼いていた。やれやれ、と呆れたように朋子が息を吐く。
「飲み物買ってくるけど、なにかいります?」
広げていた教科書の類を少し整え、佳林もテーブルに手をつきそれを支えにして立ち上がる。
宮本さんではなく佳林ちゃんと呼んでほしい、と半ば強要したおかげか名前の呼び方は
いくらか親しげになったものの、朋子の話し方にはやはり敬語がときどき混ざる。
「一緒に行く」
それが少し、不満だ。
- 13 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:45
- 一緒に廊下に出て、自販機が設置してある休憩スペースに向かう。
とうに日は暮れているというのにそれなりの人とすれ違う。まだ年齢上の都合があって
佳林はそう遅くまで仕事をすることはないが、この業界は全体的に夜型だと言っていい。
夜更かしは肌に良くない。数年後、どんな生活をしているだろうとわずかに不安になる。
自販機の他にベンチが備え付けられたスペースには誰もいなかった。
事務仕事をしている人間はコーヒーでも淹れて飲んでいるのだろう。
誰であっても、ここに集うのは気分転換の意味合いが大きい。
あたたかいものが増えたラインナップを前に、腕を組んで考える朋子はどうにも
お疲れ気味のようでいつもより口数が控えめだった。その横顔を不自然にならない程度に
眺めて、佳林も自販機に向き直る。
- 14 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:45
- 結局、二人ともココアを選んだ。佳林だけがベンチに腰掛け、朋子は立ったまま壁に背を
もたせかけてプルトップを上げる。訊きたいことがあるといつ切り出すべきか、佳林は
やけどしないよう慎重にココアをすすりながら考えた。
隠したプリントを持ってくることは適わなかったから口に出して言うしかないのだけれど、
どうにも思い切りがつかない。甘いココアで喉を潤すつもりが、かえって渇きを覚える。
沈黙は誰にも破られない。他の話題になってからでは遅いかもしれない。
わずかに咳払いをして、佳林は朋子に声をかける。
「ねえ」
首をかしげるだけで朋子は応えた。心臓が早鐘を打つのには気がつかないふりをする。
大したことではない。勉強のことで質問をすることはいつものことだから、
この話題も日常の延長だ。
- 15 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:46
- 「宿題、あとひとつあって」
「あ、もう戻ります?」
「そうじゃなくって」
首を振って否定した。部屋に戻ればあかりがいるかもしれない。
二人だけのときに訊きたかったから、このタイミングを逃したくはなかった。
不思議そうな表情を隠さない朋子から目を逸らさずに、佳林は一息に言う。
「国語なんだけど、アイラブユーを日本語に訳せって問題なの」
「……国語なのに、英語」
「うん。変わってるでしょ?」
「月が綺麗ですねっていうやつ? 確か、夏目漱石の訳がそれだよね」
朋子がそれを知っていることは意外ではなかった。やはり、わりと有名な話らしい。
説明を省けて話が早いことにいくらか安堵して、佳林は首を縦に振る。
- 16 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:47
- 「うん、そんな感じで、自分で訳を考えろって宿題」
「へー。ロマンチックだ」
「……ともだったら、なんて訳す?」
どう考えるのか、知りたかった。佳林の視線は意に介さず、思案するように宙に
目をやって朋子がうなる。缶を持った両手の指を組み、人差し指だけが動いていた。
しばらくの間の後に、首を捻りながら言う。
「……うーん、あなたのことを思うと夜も眠れない、とか?」
ベタだけどね、と照れたように笑って、ごまかすように缶に口をつける。
持てないほどに熱かったココアも今は手の中でぬるくなっていた。
朋子の答えを頭の中で反芻しながら、重ねて佳林は問う。
「……ともは、誰かのこと思って眠れないことある?」
「えー? それは、ラブって意味で?」
「そう、ラブ的な意味で」
「それはないかな。考えごとしてて寝れないときはあるけど」
昔っからそうなんだよね、と朋子は壁から背を離す。
それを見て佳林も立ち上がった。
- 17 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:48
- 朋子はいつも、なにをそこまで考えているのだろう。
以前にも尋ねたことはあったが、つまんないことだよ、と詳しくは教えてもらえなかった。
きっと本当に些細なことを考えている時間も長いのだろう。けれど朋子がどういったことに
興味を持つのか、小さなことでもいいから知りたいと佳林は思った。
「佳林ちゃんは? 訳、なにか考えた?」
「んー、難しくって。なかなか」
こちらを向いた朋子に、首を横に振って答えた。
私はあなたを愛しています、で提出したら怒られるだろうか。
そう考えながら、歩き出す朋子の横に佳林も並んだ。
- 18 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:48
-
◇ ◇
- 19 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:49
-
金曜日に出された宿題は提出までに猶予がある。
けれど国語のプリント一枚だけは解答欄を空白にしたまま土曜日を迎え、
日曜日になってしまった。提出期限は守る、と決めているのでさすがに佳林も焦る。
それに加えて、土日はとにかく時間がない。
ライブの合間に勉強道具を広げることは難しかったし、そんな余裕もなかった。
余裕がないのは他のメンバーも同じようで、開演を待つ間にも確認ごとや
リハーサルで指摘されたことを振り返ったりで各々が慌ただしい。
楽屋では、あかりが由加にもたれて歌詞カードを見ている。
紗友希がイヤフォンをして手だけで振り付けを確認している。
佳林も目だけは手元の紙に落としながら、リハーサルでしたことを頭の中でなぞっていた。
習慣のように、朋子に視線がいってしまう。いつからこうなってしまったのか佳林には
わからなかったけれど、まだこの癖が抜ける気配はない。
慣性の法則に従うかのような、逆らうことのできない感覚に初めは戸惑っていたが、
今では呼吸をするように自然なことになっていた。
いつもなら朋子は真剣すぎるほどに準備をしている。
それが今はソファに腰掛け、ぼんやりしているように見えた。
佳林はその隣に向かい、接触しないくらいの位置に座ってそっと顔をのぞき込む。
- 20 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:50
- 「……寝不足?」
「んー、ちょっとだけね」
化粧をする前、というのもあるかもしれないが、あまり顔色が良くないように見えた。
学校の課題は済ませていたはずなのにと思ったけれど、他にもたくさんすべきことは
あるのだろう。佳林は自分の太ももを手のひらで叩く。その音に気を引かれたのか、
朋子が佳林を見る。
「とも、カモン!」
「いやいやいや」
ゆっくりと眠ることは無理でも、横になって休むくらいのことはすべきだと思った。
佳林の言わんとすることを察したのか、朋子が苦笑で返す。わざとらしくむくれて見せると
困ったような表情に変わり、仕方ないな、とでも言いたげに朋子は口許を緩ませた。
「……じゃ、ちょっとだけお借りします」
おじゃましまーす、とおどけて、ごろんと佳林の膝に頭をあずける。
目が閉じられる気配を感じた。
まだ確認したいことはあったのに頭に入るだろうか、と佳林は危うさを覚える。
- 21 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:51
-
埋められない解答欄のことを考えた。
なにの反対が無関心なんだっけ、と急に頭に浮かび、愛だったなと思い出す。
では、私はあなたに関心がある、で愛してるの意になるのだろうか。
関心だけでは好悪の区別がつかない。愛は憎しみと紙一重だというのは、本当かもしれなかった。
愛も憎しみも、強い感情で佳林にはまだよく判らない。それでも嫌いなものはあった。
努力で手に入らないものが嫌いだ。それを生まれながらに持っている人はもっと嫌いだった。
初めに会ったときはなんとも思わなかったけれど、同じグループになってからは
意識せざるを得なくなった朋子のことを考える。朋子は、身長も声もなにもかも、
佳林が持っていないもののすべてを手中に収めているように見えた。
ずるいと思ったし、だから嫌いで気になって仕方がなくて、目を離せない。
- 22 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:51
-
結局、大した時間が経たないうちに朋子は身体を起こし、伸びをする。
目を閉じていただけで眠ってはいなかったのだろう。
やっぱり真面目だな、と佳林は内心でつぶやき、まだ少しぼんやりしている
朋子の額に手のひらをあてた。
「元気出ました。ありがと」
さりげなく佳林の手を外しながら朋子が笑う。
気を遣わせてばかりだと思って、それが悔しくて身体を揺らして肩に肩をぶつける。
なにするんですか、と口では非難しながら朋子は楽しそうに佳林の頭を撫でた。
子供扱いしないでほしいとは言えずに、されるがままに目を閉じる。
朋子がなにを考えているのか、佳林はいつも判らない。
由加のように歳が近ければ、紗友希のように思ったことを口に出せれば、
あかりのように素直に甘えられれば、もっと心を開いてもらえるのだろうか。
そう考えて、どうにも無理そうだと佳林は落胆した。
- 23 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:52
-
◇ ◇
- 24 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:53
-
車窓から外を眺める。スモークが貼られたガラス越しに見る景色は少し薄暗かった。
佳林はシートに身体を沈めて、膝にかけた上着を引き寄せる。運転手を除けば車内には
二人だけだった。隣に座る由加を見るとスマートフォンをいじっていて、佳林の視線を
感じたのか顔を上げて首をかしげた。
「今日、なんか静かだね」
「大人になろうと思って」
いきなりだね、と笑い、由加はわずかに身体を跳ねさせる。
佳林にもかすかに振動が伝わった。地面の凹凸で揺れるよりも、ずっと心地よい。
考えるような間があってからじっと目を見つめられ、佳林も同じように返す。
「結構、大人な方だと思うよ。仕事のときは」
「……仕事のときだけ?」
「そうだね」
むう、と口をとがらせる。「そういう仕草が子供っぽい」と指摘されて手で隠した。
無意識の行動が大人っぽくないことには少しだけ自覚がある。
- 25 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:54
- 「私からすれば、若いのがうらやましいけどなあ」
「由加ちゃんにも中学生のときはあったでしょ?」
「それはそうだけど」
もっと歳を重ねれば、三つや四つの年の差なんて気にならなくなると知っていた。
けれど中学生と高校生の間には大きな隔たりがある。大学生とではなおさらのはずだったが、
由加はその壁をあまり感じさせない。でもそれは、気遣いが上手いだけなのかもしれなかった。
それはそれで、気遣われなければならない立場にあるということだから、愉快ではない。
「大丈夫だよ、うえむーよりは大人だから」
「……比べる相手がなあ」
むすりとしていると、由加が薄く微笑む。
頭を撫でながら言われても説得力にかけるし、あかりより中身が幼いと言われたら
それには強く反論したい。あれほどには甘えん坊ではないはずだと佳林は思った。
車体が傾き、地下の駐車場に滑り込む。外の景色が見えなくなり、コンクリートの壁が
周囲に広がる。暗くなった車内で不満げな顔を隠せずにいると、察したのか由加が
くすくすと笑った。
- 26 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:55
-
二人でのテレビ収録を終えてまた車に乗り込み、来た道を逆行するように事務所に戻る。
道中、眠りを誘うような揺れに身体をあずけていたら意識が飛んでしまっていた。
目的地に到着して、佳林は由加に揺り起こされる。移動中に眠ることはあまりなかったのに、
この頃は眠気を感じて、あらがえない。
マネージャーに先導されて廊下を歩き、連れて行かれた先にはたくさんのパネルが
用意されていた。佳林と由加以外の三人はすでに終えたらしいサイン書きの仕事が
二人にはまだ残っていて、まだまだ帰れそうにはない。事前に聞かされていたとはいえ、
いざ目の前にするとなかなかに受け入れがたかった。
椅子に腰掛け、ペンを手に取りキャップを外す。
興味がない人にとってはただのインク汚れだろうな、と考えながら丁寧に描くように
サインを書き連ねる。単調な作業に、また意識が飛びそうになる。
ペン先を見続けているうちに提出した宿題のことを思い出した。
結局、自分なりの答えは見つけられずに、それでも期限は守った。
いつまでも手許に残しておくわけにはいかないと判ってはいたけれど、
やはり心残りを感じているのか、ふとした瞬間に考えてしまう。
- 27 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:56
- 「佳林ちゃん」
由加の声に、はっと顔を上げる。
サインを書く手が止まっていたことに気がついて、自分のことながら呆れた。
あとどれくらいだろうかと考えていると、気遣うように由加が言う。
「疲れた? ちょっと休んだら?」
「ううん。大丈夫。ぼーっとしてただけ」
首を横に振ってペンを握り直す。目の前の作業に集中しようと気を取り直していると、
相変わらずの困った顔で由加が言葉を続けた。
「大人になるのも大事かもしれないけど。元気な佳林ちゃんが一番だよ」
「……ありがとう」
おっとりしているけれど、由加が周囲をよく見ていることを佳林は知っている。
頭を振って雑念を追い払う。せめて仕事のときにはしっかりしなくてはと反省して、
また手を動かし始めた。
- 28 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:57
-
どれほど時間が経ったのか。
休憩も挟まずに作業したおかげか、予定されていた時間通りに終えることができて
ほっと息をついた。疲れた手をぶらぶらと揺らしていると、同じように大量のサインを
書いた由加がテーブルに突っ伏す。
「疲れたあ」
そうだねえ、と佳林も相槌を返して、手を開いたり閉じたりして関節の動きを確かめる。
伸びていた由加もしばらくすると立ち上がって、マネージャーを呼びに部屋から出た。
佳林が行っても良かったけれど、リーダーはそれを制した。役割と責任を感じているのか、
当初の印象とはうらはらに由加はかなりしっかりしている。
マネージャーにサインのチェックを受け、翌日のスケジュールを確認した。
解散を告げられ時計を確認すると、すっかり夜と言っていい時刻になっている。
由加がいない間に確認したメールによると道路では事故による渋滞が起きていているようで、
予定の通りに迎えが来ることは期待できなかった。
どうしたものかと考えていると、由加が佳林に向き直る。
- 29 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:57
- 「佳林ちゃんお迎え待ち?」
「もう着くって、連絡あった」
うなずいて、嘘をついた。
迎えが遅れる、と言ったらきっと由加は一緒に待っていてくれる。
それは嬉しいけれど毎回となるとさすがに申し訳ない。
んー、と少し思案した様子で由加は動きを止めた。
佳林が目だけで促すと、鞄を肩にかけ片手を軽く上げる。
「じゃあ、先に帰るね」
「うん。お疲れさま」
また明日、と手を振って見送った。
後ろ姿がドアの向こうに見えなくなってから、静かに嘆息する。
一人になっても、これといってすることはない。ありていに言って退屈だった。
ブログでも書けばいいのだけれど、なんとなく気が進まずに背もたれに身体を
預けて天を仰ぐ。
- 30 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:58
- 瞼を下ろしぼんやりしているとノックが三度あって、びくりと身体が震える。
部屋には佳林しかいないのに訪ねてくる人がいるとは思えなかった。
きちんと座り直しながら、誰だろうかと怪訝に思っていると朋子が顔をのぞかせる。
「ほんとにいた」
そう言って朋子はそのまま部屋にすべりこんで、さっきまで由加が座っていた佳林の
対面に腰掛けた。瞬きをした後、佳林は驚きをそのまま口にする。
「ともこそ。いたんだ」
「そう、実は、いたんですよ」
両肘をテーブルについて指を組み、悪戯が成功した子供のように朋子が笑う。
佳林も両腕を投げ出し身構えていた力を抜いた。
不意打ちにあう、とはこういうことだと思った。
心持ち、責めるような口調にもなる。
「誰かと思って、びっくりした」
「さっき由加ちゃんとすれ違ったもんで」
すぐに迎えが来る、と嘘をついたばかりだからバツが悪い。由加には黙っていてくれと
頼むか逡巡していると、こちらをじっと見ている朋子の視線が気になった。
- 31 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 20:59
- 「……なに?」
「ん、別に」
佳林ちゃんの真似、と小さく言って、それに被せるようにすぐに言葉が継がれる。
「そういえばこないだの宿題。結局なんて書いて出したんですか?」
「……えー」
その話題には触れられたくなかった。
興味津々といった様子の朋子に、目をすがめて拒絶を示す。
それを意に介す風もなく身体を前に乗り出され、佳林は少しだけ身を引く。
「教えてくださいよ。手伝ったんだから」
「ナイショ」
なんでえ、とおおげさに不満そうに朋子が頬を膨らませた。
どうせ大して興味もないくせにと卑屈になる。
こちらは、あれから寝不足気味だというのに。
教えてよと繰り返す朋子に、佳林もムキになって言い返す。
- 32 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 21:00
- 「いいじゃん。別になんでも」
「じゃ、私に訊かないで最初からてきとーに書けばいいじゃん」
「……それは、そうだけど」
朋子の考えを知りたかっただけなのだとは言えない。
心の内をさらすようで、それだけは知られてはいけないことのように気がとがめる。
しかし、どうすべきか質問しておいてどうしたのかは答えないなんて、
こんな態度しか取れない自分が心の底から嫌になる。
性格も服のように取り替えがきけばいいのに、人間は不便だ。
生まれてからもう何年も経つのに、まだ上手く感情をコントロールできないなんて
欠陥品なのかもしれない、とすら思う。
「……ごめん。手伝ってもらったのに」
「いやいや。無理に言わないでいいですよ」
こちらこそすみません、と朋子が頭を下げ、佳林は首を横に振った。
自分でもスイッチがわからなくて困る。泣きそうになっているのを自覚して、
焦って目許を押さえた。
- 33 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 21:00
- なぜ涙が出るのか判らない。嬉しくもないし悲しくもなかった。
がたりと音がして、けれど顔を上げることができない。
よいしょ、とわざとらしい声を出して朋子が佳林の隣に来る。
頭を抱え込まれ、されるがままに佳林は身体を預けて強く目を閉じた。
落ち着かせるように背中を優しく叩かれて、それに合わせて呼吸を整えようと努力し、
こんなことをされるのは久しぶりだと思った。
温かい手を感じても、それでもなお満たされない。人はどこまで欲深くなれるのだろうと
ほとほと嫌になり、八つ当たりをするように佳林は悪態をつく。
「……なに、急に」
「いやー、別に?」
飄々と応えた朋子には余裕がある。
一度くらい取り乱させてみたいけれど、おそらくそれは叶わない願いだ。
きっと佳林がなにをしてもなにを言っても、仕方ないなと朋子は笑うだろう。
それがどうしようもなく、悔しい。
- 34 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 21:01
- 落ち着いたころを見計らってか、ゆっくりと身体を離された。
残念だなんて思わない。気持ちを嘘で塗り固めて抵抗はしない。
冷静になってみれば先ほどまでの行為が恥ずかしいことこの上なかった。
うつむいて、どんな顔をすればいいのか迷う。
「膝、使います?」
顔をのぞきこまれ、とっさにはかけられた言葉の意味が判らずに佳林が
きょとんとしていると、悪意のかけらも感じられない笑みを朋子は浮かべた。
- 35 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 21:02
- 「こないだ借りたので、返します」
借りだと認識されていたのかと思うと心外だ。
与えられる気はないと拒絶されているようにすら感じる。
黙って返されていてはそれを認めることになると、意地になって佳林はそっぽを向く。
「……いい」
「えー?」
非難するように声を上げた朋子に指先で肩をつつかれる。
それを手で振り払うと、そちらを見なくても不満げな顔をしているのが判った。
「なに。今日、素直じゃないですね」
「普通だし」
「ふーん」
そう言って立ち上がった朋子を、さすがに佳林も見上げる。
天井の蛍光灯がまぶしく目に刺さった。逆光に目を細め、さっきとは違い
邪気を含んだ笑みをたたえた朋子を見る。
「じゃ、帰りますね?」
- 36 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 21:03
- 「うん、お疲れさま。また明日」
「……嘘ですよ」
表情を変えない佳林が面白くなかったのか、つまらなそうに言って
立ち上がったときの勢いをそのままに朋子はまた椅子に戻る。
素っ気なくしたのが気に障ったのかと、慌てて佳林は言い繕った。
「え、いや、帰らなきゃなら無理していなくていいからね?」
「私もお迎え待ちなんだな、これが」
先に妹のお迎えに行っちゃったみたいでねー、とお姉さんの顔をした朋子が
ふざけて愚痴った。一人っ子の佳林にはその愚痴すらうらやましいのだけれど、
今更そう言ったところできょうだいが増えるわけでもない。
きょうだいも才能も運も、すべてを持っている朋子が嫌いだとあらためて思う。
だからこんなに気になってしまうのだ。寝不足にもなるはずだった。
佳林を困らせておいて余裕の表情なのも気にくわなくて、なにからなにまで疎ましい。
- 37 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 21:04
- 内心でぐじぐじ考えながら黙っていた。
考えれば考えるほど、もう口もききたくないと思った。
けれど、ひょいと顔をのぞき込まれればそちらを見てしまうし、
目を合わせられることを快いとすら思う。
「……まだまだお迎え、来ませんか?」
瞬きをして、メールも着信もないのを確認してうなずきを返す。
ふむ、と腕を組み朋子は考え込む様子を見せた。
佳林がそれをじっと見ていると、優しく微笑んで立ち上がる。
「ちょっと外に行きません?」
手を差し出され、「行くってもう決めてるんでしょ?」と佳林は口をとがらせた。
動かないつもりでいたけれど腕を取られて、やや強引に立ち上がらせられる。
本気で抵抗すれば解放してもらえるだろうが、そうはしなかった。
拗ねていただけなのはきっとばれている。
初めから佳林には断る理由はなかった。
それを見透かされているように感じて、敵わないなと思う。
「涼しくなってきたし、気持ちいいですよ。きっと」
「うん」
今度は素直に返事をする。満足したように朋子は笑った。
- 38 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 21:05
-
外に出ると、澄んだ空気が周囲に満ちていた。
ひんやりした夜風が肌をなで、心地よさを感じる。
並んで歩いて、示し合わせたわけでもないのに小さな公園に向かう道すがらに顔を上げると、
明るいビルの窓が目に入る。そして、そびえる建物の隙間を縫って空があった。
「あー、暗いですね」
「夜だもん」
「……ほんと、なんか今日、ひねくれてません?」
「いつも通りだよ」
だったらいいけど、と夜空を仰いで朋子が言う。
- 39 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 21:06
- ほどなくすると公園に出て、いくつかある遊具のうちブランコに佳林は腰掛ける。
朋子は立ったまま支柱に背中を預けていた。いつかと同じだな、と佳林は記憶をたどって、
ココアを飲みながら緊張していたときだと深く追想するまでもなく思い出す。
「ねえ、とも」
呼びかけると、空を見上げていた朋子がこちらに顔を向けた。
月明かりがない夜は不安になるほど静かで、街灯とビルの窓から漏れる明かりだけが
二人を照らして影をつくる。
交わった視線は外れずに、絡まってしまいそうだと佳林は思った。
もっといろんな表情を知りたいのに、澄ました顔をした朋子が嫌いでたまらない。
息を止めて、吐き出すときに言葉も漏れる。
- 40 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 21:06
- 「月がきれいだね」
愛なんて感情は判らない。どんな高説も知ったことではない。
ただ、そう思ったから言っただけだ。
「そうだねえ」
朋子はそう返して天を仰ぐ。
見えるはずもない月を探しているのかもしれない。
きっと、今夜は新月なのだろう。間が悪いやつだ、と思う。
矛盾しているはずの佳林の言葉にもあっさりとしか返されず、それがやはり悔しかった。
朋子はわずかにも心を乱した様子もなく、「星もないね」とつまらないことを言う。
気づかれないように、佳林は嘆息した。
朋子から目を逸らし暗い夜空を見上げるけれど、相変わらず特別なものはなにも見えない。
次に満月になるのはいつなのだろう。
小学校で満ち欠けの周期を習った気もするが、もう忘れてしまった。
佳林がブランコから立ち上がると、朋子も支柱から背を離した。
墨色の空をもう一度見て、やはり習慣のように朋子に視線が吸い寄せられる。
- 41 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 21:09
- 月の重力のことを考えた。遠くにあるはずなのに、地球の潮の満ち引きに影響を
与えるくらいその力は強いらしい。見えない力はどこにでもあって、それは意志で
逆らえるものではない。そう判っていても、反抗期の佳林には納得がいかなかった。
「戻りましょうか」
返事をせずにそっぽを向くと、ひねくれりんですねえ、なんてふざけて言う朋子に
手を差し出される。意地でも握るものかと思ったら捕まえられ、諦めた。
佳林を子供扱いするから、大人は嫌いだ。
早く対等になりたいと願うけれど、流れ星すら見えない夜にできることはなにもない。
手を引かれ仕方なく歩き出し、足下の石を蹴飛ばそうとして空振りする。
息を漏らすように朋子が笑ったから、見上げてにらんだ。
余裕の表情で夜空を仰ぐ横顔なんて見たくないのに、目を奪われる。
それがどうしようもなく悔しくて、佳林は強く手を握り返した。
- 42 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 21:09
-
- 43 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 21:09
-
- 44 名前:うそつきライアー 投稿日:2013/11/15(金) 21:09
-
- 45 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/11/18(月) 00:46
- いいもの読んだ。
- 46 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/11/25(月) 00:06
- 思わずため息(もちろんいい意味の)
続きめっちゃ読みたいです
- 47 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/12/14(土) 21:03
- 先に注意書き。
植村さんが宮本さんのことを「りんか」と呼んでいるのは現実に即しています。
なので、書き間違いではありません。あーりーません。
- 48 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:05
-
- 49 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:06
-
閉まりかけたドアに滑り込む。駆け込み乗車はご遠慮ください、と聞き慣れたアナウンスが
耳に痛かった。中距離走の後のように苦しくて仕方がなくて、佳林はあかりと一緒になって咳き込む。
車窓の外でホームが流れていく。新幹線は風を切り、瞬く間にスピードを上げた。
あかりと顔を見合わせて安心の笑みを浮かべ、薄暗い通路から席を指定されている
最後尾の車両へと、息を切らしたままでキャリーケースを引く。
自動で開いた扉の向こうがまぶしい。座席からひょこりと顔をのぞかせた由加が見えて
ほっとして、けれど叱られるだろうなと思うと憂鬱になった。
「どうしたの。電話も出ないし」
手に持ったスマートフォンを揺らして由加が言う。佳林もあかりも何十件と着信履歴を
抱えているはずで、言い訳のしようもなかった。遠方へ移動するときの新幹線は時間厳守で、
他の現場でも遅刻が許されないのは一緒だけれど、長距離の行程だとさらに容赦ない。
新幹線は待ってはくれないし、もし乗り遅れればその後のスケジュールにも支障がでる。
それはわかりきっていた。今までにも遅れたことはないし、これほどまでにも余裕がない
到着になったこともなかった。連絡もなしに遅刻寸前になったことは謝るしかなくて、
佳林は頭を下げ、一緒になってあかりも頭を垂れた。
「ごめんなさい」
双子のように、練習したわけでもないのに声が揃う。後ろからあかりに抱きつかれ、
いつも以上に熱く感じた。まだ息は整わない。佳林が言葉を継げずに黙っていると、
背中越しにあかりが庇うように言う。
- 50 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:08
- 「りんかは悪くないの」
佳林としては、肯定も否定もしかねて沈黙を続けた。事前に待ち合わせて駅まで行こうと
提案したのは佳林で、待ち合わせ場所に現れなかったのはあかりだった。わざとの遅刻では
ないからそう非難できないし、それを見越せなかった佳林にも責任はある。
的外れの場所にいたあかりを迎えに行って、予定のルートを変更した。ぎりぎりの
到着になるのは見込んでいて、不測の事態が起きたにしてはうまくやれたと佳林は思う。
集合場所である駅まで急いでいるときに着信があったのには気づいていた。
そのときにはもう、なかば駆け足になっていたから通話を受ける時間すら惜しく、
結果として間に合いはしたものの由加の表情は渋い。
「怒ってるんじゃないの。心配するでしょ?」
なかなか来ないし連絡つかないし、と由加が続ける。見えなくてもあかりがしゅんと
しているのがわかった。叱られるポイントはひとつではないらしい。佳林だって誰かが
集合に間に合わなければ気がかりに思うだろうから、由加の言いたいことは理解できた。
「事故にあったとか誘拐されたとかね」
紗友希も顔をのぞかせて由加を援護する。連絡が取れないとなれば現実的に起こる可能性が
低いことすら考慮しなければいけなくなるのだと、いまさらに気づく。
- 51 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:09
- 「まあまあ。とりあえず座ったら?」
佳林とあかりが肩を落としていると、いなすように朋子が言う。メモ帳をちぎったような
一枚の紙をひらひらと振って、二人に示した。後でマネージャーにも説教されるな、と思いつつ
佳林はうなずき、身体をひねって背中にくっついたままのあかりの頭を撫でてやる。
スタッフの一人がキャリーケースを網棚に上げた。それにも頭を下げ、朋子が差し出した紙を
受け取る。あみだくじのうち三本はすでに選ばれて、残る選択肢は二つになっていた。
じゃんけんをして、勝ったあかりから線を選ぶ。網をたどるように指先が紙上をなぞり、
三人席の中央を引き当てた。
線の先を確認するまでもなく佳林の席は決まり、二人掛けの奥を目指して紗友希の前を通る。
窓際では半端に開いたカーテンの隙間から日光が差し込んでいた。腰を下ろすとようやく
人心地がついて、長く息を吐き背もたれに身体を預ける。
隣の紗友希が、前座席の背に付いたテーブルを引き下げる。それを見るふりをして通路を
挟んだ席を見遣った。
窓際の由加は静かに本を読んでいて、さっそくあかりはそれにちょっかいを出している。
通路側の朋子はイヤフォンをして、なにをするでもなく天井を眺めていた。
紗友希にならって、佳林もテーブルを引き下ろす。
宿題がなくとも次の試験に向けて早めに準備するに越したことはない。
鞄から教科書に参考書、ルーズリーフの束を取り出し、もう一度だけ通路側の座席を見た。
隣の席になる確率をどう計算すればいいのか、佳林はまだ知らない。
- 52 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:09
-
- 53 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:10
- 小一時間もすれば集中力も切れてくる。シャープペンシルの動きも止まりがちになり、
応用問題に差しかかったところですっかりペン先も沈黙してしまう。
苦手な数学はつい避けがちになり、成績も当然芳しくはない。
足を引っ張っている、もとい伸びしろの大きい科目を重点的に勉強するといいと
由加からはアドバイスされていたけれど、やる気が出ないのはそういう科目でもある。
横を見ると、紗友希は眠そうにぼんやりとしていた。
「ねえ、これわかる?」
肩を叩いて声をかける。佳林の手元をのぞき込んだ紗友希は顔をしかめた。
色よい返事があるとは初めからあまり思っていなくて、それは予想通りだった。
「わかると思う?」
由加かともに訊きなよ、と投げ出して通路の向こうに紗友希が声をかける。
音楽を聴いているのかそれに気づかない様子の朋子の肩をつついて、イヤフォンを外させた。
「佳林が数学、訊きたいってよ」
そんなことは言っていない。けれど佳林がさえぎる前に、「席、代わる?」と朋子が提案し、
紗友希もうなずく。もう少しきれいに書けばよかった。そう悔いても遅くて、隣にやってきた
朋子に促されルーズリーフを差し出すと、それを片手に取られる。
- 54 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:13
- 「けっこう解けてるじゃないですか」
「……前にも教えてもらったから」
教科書の中でも、公式の近くで問われているような基本的な問題ならいくぶんか解けていた。
それだけでも佳林からすれば大きな進歩だったけれど、ページ数が後ろになるにつれて現れる
章末問題だかの応用になるとまったく歯が立たない。
由加も朋子も数学はわりあいに得意なようで、空き時間に声をかければいつでも面倒を
見てくれた。やる気があるから教え甲斐があるとも言われて、おだてられているなと
思いつつも嬉しかったし、理解度に合わせて教えてもらえることがありがたかった。
それにも関わらず、あまり出来が良い生徒ではないことを佳林は自覚している。
目の前で解説してもらってもすんなりとは頭に入ってこなくて、そのうち見放されるのではと
不安になることが度々あった。
新たなルーズリーフを朋子に渡す。佳林が途中まで解答していた問題をそのまま書き写し、
さらさらと数式が紡がれる様子を見ていると感嘆の息しか漏れない。佳林が尊敬のまなざしを
向けている間に朋子はあっさりと答えを導き出し、シャープペンシルを赤いボールペンに持ち替えた。
朋子にとってはなんという問題でもないのだろう。なぜ出来ないのかがわからないと、
それくらいのことはきっと思われているはずに違いないと佳林は案じ、そして時間を奪って
しまっていることを申し訳なく思った。
- 55 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:14
- 「ごめんね。とももすることあるよね?」
「いや、今回あんまなにも持ってきてなくて。寝るか音楽聴くかだから、いいですよ」
なんでもないように返事をして朋子は顔を上げる。ボールペンを持っていない方の手が
佳林の顔に伸ばされ、思わず片目をつぶった。
「ん、前髪」
走ってきたから乱れていたのか、指先で髪を梳かれる。おとなしくされるがままにしていると、
その手の向こうで朋子が口を開いたのがわかった。
「由加ちゃんも言ってたけど。走って転んだりしたら危ないし、心配なわけですよ」
髪が乱れているのも急いでいたせいで、心配をかけた原因もそこにある。佳林は申し訳なくなって
小さく目を伏せた。車内のアナウンスにかき消されないように出した声は、隣の席にだけ届く。
「……わかってる」
「佳林ちゃんは特に。なんかふらふらしてるし」
「してないよ」
雨の日に足を滑らせて怪我をする、という前科があったからあまり強くは言い返せない。
捻挫だと思っていたら骨折で、大いに迷惑をかけたことはもちろん忘れていなかった。
今回は仕方なかったですけどね、と指先で額を押されて、佳林はむっとして唇を引き結ぶ。
小さな子供をあしらうように扱われることが度々あって、それに不満を覚えるのは
いつものことだった。今日の失態はほどんどあかりのせいなのにと、心の中だけで思う。
- 56 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:16
- 「どこまでわかります?」
ルーズリーフに視線を移して朋子はさらりと話題を変える。赤いペン先は問題を指し示していた。
佳林はそこから途中式と解答までを目でたどり、ゆっくりと頭を横に振る。
「……全然わからない」
問題の横に赤字で公式が書かれる。対応しているのを示すように波線や丸が書き足され
佳林はそれを凝視するけれど、やはり複雑にしか見えなくて思考が詰まった。
普通に中学校に通って、普通に高校に通っているというのを差し引いたとしても
朋子は勉強が得意な方だろうと佳林は思う。
そんなにできないよ、と謙遜することの大概は人並み以上の成果を出している印象が
強くて、遺伝なのか後天的なものなのかは知らないけれど、やはり妬ましい。
どう教えるべきかを考えあぐねているような表情をしている朋子に、佳林は言う。
「ともはすごいね」
「……なにが?」
疑問そうに言い返された。めずらしくペン回しをして朋子は視線をルーズリーフから
逸らさない。いつもより心持ち声が低く、それが機嫌が悪そうにも聞こえて少し怯む。
「なんでもできるから」
「なんでもはできませんよ」
返答はそっけない。赤ペンの尾端でルーズリーフを叩き、朋子が言う。
「これとかも公式にあてはめるだけですよ。
難しく考えないで、サクッとその通りにやればいいんです」
宮本さんはいろいろ考えすぎです、と呆れたように言われて、内容とは関係ない部分に
佳林はつっかかる。
- 57 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:17
- 「宮本さんって呼ばないで」
「はいはい」
適当に返事をして朋子が解説を始める。質問を挟んで流れを止めても、その都度やさしく
言いかえられる。なんでもはできなくても数学はできるのだからうらやましい。
粘り強い指導のもと、なんとか一問を理解し終えて佳林は安堵のため息をついた。
間を置かずに朋子が章末問題からひとつ数式を書き写して、ルーズリーフを佳林の前に置く。
諭すように、赤ペンを手の中でいじりながら朋子は言う。
「数学もね、特別な能力なんていらないんです。
試験で点をとるくらいなら真面目に努力すれば充分に足ります」
横顔を見つめた。相変わらず、朋子は佳林の視線を意に介さない。少しくらい数学の問題を
解けるようになってもそれは変わらなかった。ついつい数学や理科を勉強してしまうのはそれが
朋子の得意科目だからで、わかりやすく教えてもらえるからという以外に他意はない。
ないはずだ、と佳林は思う。素直な性格ではないことは自覚していた。
「そうかな」
「そうですよ」
遅れて返答すると、軽くうなずいてそのまま朋子は高校受験用の参考書を手に取り、
ぱらぱらとめくる。あとは自力で解いてみろ、ということらしい。佳林はシャープペンシルを
手にしてから朋子を見る。気づいているのかいないのか、視線は紙面から逸らされない。
- 58 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:17
-
◇ ◇
- 59 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:18
- レッスン室の扉を開く。黄色いTシャツの海、と佳林は思った。研修生の集まりとなると
いつもそうで、黄色の生地に黒字で名字がプリントされたシャツは目を引く。佳林たち
五人だけがそれぞれ違う色を与えられ、その集まりは海の中で色とりどりの島のように
なっていた。今はまだ三色で少し寂しいそこに、まっすぐ佳林は向かう。
よく磨かれた床がレッスンシューズの底と擦れて高い音を鳴らす。振り向いて壁一面の鏡を見て、
紫にも慣れたな、と思った。そのまま物思いにふけっているとひょいひょいと緑が近づいて来るのが
見えて、思わず笑みがこぼれる。後ろから佳林の腰に手を回し、抱きかかえるようにしてあかりは言う。
「だーれだ?」
「うえむー」
見えてるよ、と鏡を指さして笑い、もたれるように佳林は背中を預けた。そのまま支えられていると
すんすんとあかりが鼻を鳴らす。その息がくすぐったくて身をよじると、耳元でささやかれた。
「なんかいい匂いするね」
照れくさくてさらに身をよじるけれど、あかりは腕を緩めない。由加こっちきて、とあかりが
後ろに向かって呼びかける。座っていたピンクが立ち上がりこちらまでやってくるのを佳林は
鏡越しに見た。
あかりが佳林を差し出す。すっごくいい匂いだからかいでみて、と唐突に言われた由加も
佳林の首元に顔を寄せる。
「あ、ほんとだ」
同意が得られて嬉しかったのか、あかりは満面の笑みを浮かべた。そのまま黄色の前にも
連行されて同じことを繰り返され、さすがに恥ずかしい。普段はそういったことをしない紗友希も
うなずき、よりいっそう、あかりは得意げだ。
- 60 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:20
- 赤がいなくて良かった、とひそかに安堵した。同じようにされたら平常心でいられる自信がない。
扉が開かれるわずかな金属音がしてそちらに気を取られる。振り返ると遅れてやってきた朋子が
迷いなくこちらに向かってきていて、あかりがぱっと顔を輝かせた。
「とも! 匂ってみて!」
腰に腕を回されたままで差し出される。突然のことに驚いたのか、朋子はあかりと佳林を
交互に見て目を瞬かせた。気恥ずかしくて直視できずに佳林はうつむく。無邪気にあかりは
佳林の肩に顎を載せてはやくはやく、と期待に満ちた声で促す。うんざりしたように、朋子は
ため息をひとつ漏らした。
「は? なんで?」
「いい匂いするから!」
「そんな変態みたいなことやってんの?」
抗議するようにあかりが口をとがらせると、離してあげなさい、とすれ違いざまに朋子が
あかりの肩を叩く。少しだけ残念に思い、そう感じたことに佳林はわずかばかり動揺する。
「こんなにいい匂いなのにねー」
そのままあかりに身体を揺らされて佳林は苦笑いを返す。
離れた場所で柔軟を始めた朋子を視界におさめ、あかりの腕を軽く握った。
- 61 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:20
-
- 62 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:21
- レッスンが始まるとそれまでとは空気が変わる。柔軟と声出し、映像で渡されていた
振り付けを合わせて、今日は実際にマイクを持って歌うところまで。間違いを指摘され
修正を加えられ、完成度を高める段階になっていた。集中していると、時間はあっという間に
過ぎてしまう。
休憩を挟む頃には汗で髪が乱れていた。前髪を指でつまむと湿った感触があって、
喉も渇いていた。佳林はタオルと水分を求めて荷物を置いている部屋の隅へと、腕で額を
拭いながら向かう。すぐ前に朋子の背中があって、追いつこうと心持ち早足になった。
なにもないところでよく転ぶ。紗友希にはそう言われていたけれど、このところは
そういうこともなかった。だから、油断していたのかもしれない。
歩き方が悪いのか、きっと癖になっている。ずるりと足が滑るような感覚があって、
まずい、と思ったときには遅かった。普段ならすぐに体勢を立て直せるのに、散々
踊った後だったせいか力が入らずにそのまま床に転ぶ。
一瞬で周囲が静まりかえった。
たまたま骨折に繋がったことがあるだけで、紗友希の言う通り転ぶのはよくあることだった。
注目を集めてしまったことが恥ずかしくて顔が熱くなる。足よりも、転んだときに床についた
手のひらの方が痛かった。
「大丈夫?」
慌てたような足音の後で、すぐ横に赤いシャツがかがみ込む。佳林が立ち上がろうと
床についた手に力を込めると、それより強い力で肩を押さえ込まれた。顔を上げると
朋子が眉間に皺を寄せていて、佳林は安心させようとへらへら笑って声をかける。
- 63 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:24
- 「平気。ごめん」
目の前の厳しい表情は変わらない。肩にかけられた手を外そうとして、
それが出来なかった。ぺたりと床に座り込んだままで身動きが取れずに戸惑ってしまう。
「足、見せてください」
「大丈夫だって」
有無を言わせぬ口調に佳林も強く言い返すけれど朋子の表情は変わらない。
これは怒っているのだなと察せられた。怖い目を向けられて思いがけず不安になる。
了承を得られることもなくジャージの裾をめくられ、白い足首が蛍光灯の下に
さらされた。血液がさっと集まってくるのがわかるくらいに、頬が熱くなる。
「や、ほんとに」
「そんなこと言って、また」
冷たい手が足に触れた。痛みなんかないのにそこが妙に疼く。転んだくらいで大げさだと
反論しようとしたところで、近寄ってきたもうひとつの足音がすぐそばで止まった。
「さわがない、さわがない。みんなびっくりしてるでしょ?」
たしなめるように由加が朋子の肩に手をかける。しかめ面のままで朋子が顔を上げるけれど、
由加はそれを気にした風もなくそのまましゃがみ込む。じっと佳林の足首を眺めて、ひょいと
頭を上げる。
「痛い?」
佳林もようやく足に意識が向かった。強がりではなく痛みはなくて、ゆっくりと曲げ伸ばししても
それは変わらない。首を横に振って否定を示すと、由加は安心したように笑みを浮かべた。
- 64 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:25
- 「痛くなったら無理しないで、すぐに言ってね」
「……わかった」
佳林がうなずくと、由加はぽんぽんと朋子の頭を叩いて立ち上がる。朋子がそうされるのは
めずらしく、本人も不本意そうに下唇を噛んでいた。
「一応、マネージャーさんに報告するからね」
そう告げて由加はレッスン室から出て行ってしまう。佳林は立ち上がり、お騒がせしました、と
周囲に頭を下げた。複雑そうな表情をした朋子も一緒になって頭を下げて、最後に佳林に礼をする。
「すみません」
「ううん、ありがとう」
バツが悪そうな顔をした朋子の頭に背伸びして手を載せた。にこりともせず黙りこんで、
落ち込んだように目が伏せられる。背後に駆け足の音が聞こえた。佳林がそちらに注意を
向ける前に、後ろからがばりとあかりが抱きついてきて朋子と二人してよろめく。
「痛かったらおんぶしてあげるからね?」
「ありがと。でもそれだと、うえむーが潰れちゃうよ」
「へーき。りんか、軽そうだし」
そのまま肩に顎を載せられて、落ちてきた髪が首に触れた。
あかりの腕は佳林を飛び越して朋子の背中にまで回され、挟まれて息が苦しくなる。
すりすりと頭を寄せられてくすぐったい。佳林が笑っていると朋子もようやく頬を緩ませた。
ぎゅうと、後ろから身体を押しつけられ身動きひとつ取れなくなる。
- 65 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:25
- 「なーんでみんなくっついてるの」
横から紗友希もやってきて、めずらしく身体を寄せてきた。「由加もいたら良かったのに」と
不服そうにあかりが言う。その無邪気さに空気が和み、内心で佳林はあかりに感謝する。
団子状態が苦しかったのか、そろそろ離して、と朋子があかりの頭をはたく。それに
反抗するように腕に力が込められ息苦しさが増す。流れに任せて佳林も朋子の背中に
腕を回し、そのまま赤いシャツの肩口に頬を預ける。
「ああ、本当に」
頭上から降ってきた声は諦めまじりだった。事態の収束を待つ佳林の首筋に、
あかりのものではない髪が触れた。一拍置いて、耳元で朋子の声が響く。
「いい匂いするね」
胸の苦しさが増して、佳林は目をつぶった。誰に向けられた言葉なのかはわからないから、
返事はしない。ただ顔が熱くなって、あかりが腕を離す前になんとかしなくてはと思うと
やっかいだった。
ようやく解放されたときには鏡を見るまでもなく頬が真っ赤で、朋子がにやにやと笑いながら、
冷たい手でそこに触れた。
- 66 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:26
-
◇ ◇
- 67 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:28
- バスから降りると冷たい風が頬に吹き付ける。座ったままで眠ってはいたけれど寝起きの
爽快感は薄く、むしろ安らかな睡眠の途中で起こされたようで気分が悪い。
キャリーケースを引き荷物を抱えて駐車場からホテルへ向かい、エレベーターに乗り込む。
ボタンの前には朋子が立ち階数表示を眺めていて、その後ろで佳林も存分にその背中を眺める。
重力に逆らうように、ワイヤーで吊られたカゴは上昇を続けた。
ツインの部屋の鍵はひとつだけで佳林の手元にはない。もう夜中にも近いからか
廊下の明るさは乏しかった。他の宿泊客はきっともう寝静まっているから、足音を
立てないようにと自然に歩調は緩む。静けさの中、窓の外で木々がざわめくのだけが聞こえた。
佳林がついてきているかを確認するように朋子が一度振り返る。
そのまま無言でちゃらちゃらと鍵を鳴らし、部屋番号を確かめた。
ようやく部屋にたどり着いた安堵で息が漏れる。どちらのベッドを使うかを決めて、
佳林はそのまま倒れ込んだ。もう眠ってしまいたくて、目を閉じる。
「お風呂、先にどうぞ」
返事をしないでいてもその先に言葉は続けられない。佳林は枕に顎を載せる。
「ともからいいよ」
「や、私お風呂の後、時間かからないので」
寝ちゃう前に入っちゃいな、と少し遠くから聞こえた。
言い合うのも面倒だと思って、佳林は腕立て伏せをするように身体を起こす。
視線を動かすと、キャリーケースを床に広げて、その傍らに朋子はしゃがみ込んでいた。
佳林は床に足を下ろす。
シャワーを浴びたらこの眠気が飛んでしまいそうで、もったいないなと思った。
- 68 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:28
-
- 69 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:30
-
「おまたせ」
予想通り、すっかり目は冴えてしまった。濡れた髪のままで部屋に戻ると、ベッドに横に
なっていた朋子が身を起こして伸びをする。気だるげに立ち上がり、言い置くように唇を開いた。
「寝るなら、電気消してていいですからね」
そのまま佳林と入れ替わりに浴室に向かうかと思ったら、すれ違うところで立ち止まって
じっと見つめられる。なにごとかと思っていると急に肩のあたりに顔を寄せられ、硬直するように
佳林も足を止めた。乾いた声を、それと気取られないように出す。
「え、なに?」
「いや、いい匂いだなと思って。というか今日、シャンプー忘れたんですよ」
そこに込められた意に気づかないほど佳林も鈍感ではない。がっかりしたような嬉しいような、
とりあえず頼られている、ということには喜んでおくことにした。
「……使う?」
「良かったら貸してほしいです」
朋子が恭しく手のひらを上にして佳林に向ける。
一式を入浴セットから取り出し、そこに載せてやると朋子は微笑んだ。
「いつかなにかでお返ししますね」
「いいよ、別に」
まあそう言わずに、と朋子はこわれものを扱うかのように、手の中のものを見つめる。
なにを使っているのかとシャンプーの銘柄を尋ねられ、佳林が答えると朋子はひとつ
うなずきを返し、そのまますんなりと浴室に消えた。
ドアの開閉音だけが静かな部屋に響く。
後ろ姿を見送った佳林は左手で首筋をさすった。
レッスン室ではあんなに拒んでいたのに、こんなところでやられるとは不意打ちだ。
まったくもって朋子の考えていることが佳林にはわからない。
- 70 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:32
- 小顔テープだのなんだのと、いつもなら寝るときにもべたべたと顔に貼り付けている。
その姿は妖怪のようだ、と紗友希に例えられた。時間も手間もかかる作業に対して、
美容に対する意識が高いと言われるのは褒め言葉として受け取っているけれど、妖怪と
表現されるのはさすがに嬉しくはない。
だから、いつもより手を抜いた。そのせいで時間が余ってシャワーの音がかすかに
聞こえるのすら気になる。
掛け布団をめくっただけのベッドの上で目を閉じると、ひんやりとしたシーツが
火照った頬を冷やしてくれる。気を紛らわせるように寝返りを打っているとドアが
開く音がして、身をよじって壁側に顔を向けた。
「寝ちゃった?」
「……起きてる」
控えめにかけられた声に返事をして身体を起こす。佳林がベッドに腰掛ける姿勢になると、
ありがとうございました、とシャンプーの類が返された。
それを手の中で転がして、下から朋子を見上げる。
濡れた髪が照明を受けてきれいだと思ったけれど口には出せない。
バスタオルを肩にかけた朋子が自分の髪を手に取って顔に寄せ、首をひねる。
「おんなじ匂いかな。よくわかんない」
いい匂いの正体はシャンプーじゃないのかあ、と残念そうに言って髪を離した。
視線は佳林に移され、疑問を覚えたように朋子は自分の頬を撫でる。
「今日、いいんですか。顔」
「いい」
妖怪みたいだと思われたくないから、とは口に出さない。
朋子も早々に興味を失ったのかそれ以上は追求されることもなかった。
理由を知ってほしいような、知られては困るような、ややこしい感情が胸にうずまく。
- 71 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:33
- 佳林がシャンプーをベッドの上に置くと、両手を差し出されて、意図がわからず
きょとんとしてしまう。互いに無言のままで、そのまま両の手を取られた。
とつぜんの行動に佳林が困惑していると朋子が先に口を開く。
「手、大丈夫でした?」
「なにが?」
手がどうかしたのか、思い返しても心当たりはなかった。シャワーの後だからか
触れている部分があたたかい。佳林が疑問符を浮かべていると困ったように朋子は微笑する。
「この前、転んだとき。床についてたから」
「……意外と過保護だね」
呆れて言い返すとむっとしたような表情で朋子は黙り込んだ。佳林が取り繕う間もなく
ぱっと手は離され、朋子はそのまま向かいのベッドに腰を下ろす。怒らせたかと動揺していると、
突き放す口調で厳しい目を向けられる。
「じゃ、心配させないでください」
佳林は眉間に皺を寄せた。何度も叱られてはあまり良い気分にはならない。
前回の怪我以来、気をつけて生活しているのは朋子も知っているはずなのに、
反応が過剰すぎるのではないか。
仏頂面になった佳林を目を止め、気まずそうに朋子は表情を変えた。
そうじゃなくて、と悩んだように間を置き、言い訳する口調になる。
「心配してるのは私の勝手なんで。今のナシ」
情けない声音の後で、頭を下げられた。
想定外の反応に佳林も焦って、顔を上げない朋子になんと言葉をかけるべきか迷う。
- 72 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:35
- 黙っていたら、この姿勢のまま朝になってしまうのではないか。そう危惧して佳林は腰を上げる。
数歩進んで朋子の足元にしゃがみ込み、膝に手を置いた。それでも顔を上げないから軽く叩いてやる。
やはりかける言葉は見つからなくて、そのままぺしぺしと手のひらをぶつける。そのしつこさに
負けたのか、苦笑して朋子が顔を上げた。上目遣いにかがんでいると、指先で額を弾かれる。
そこを手で押さえて非難する眼差しを返すと、いつもの調子に戻った朋子が軽口を叩く。
「心配っていうか。ふらふらしてるから、気になるんですよ」
「してないよお」
頬をふくらませて見せると笑って頭を撫でられた。
朋子はそのまま佳林の手を取り立ち上がらせ、ベッドに入るよう促す。
文句のひとつも言いたかったけれど、これ以上この話題を長引かせるのも嫌で素直に従う。
それに、もうずいぶんと遅い時間なのは事実だった。
出会ったころとは、佳林も朋子も変わってしまった。それぞれが大きく変化したというよりは
二人の関係が違うものになっていた。良く言えば遠慮がなくなったということで、それは佳林の
望むところであったけれど、こうも過剰に保護者のように振る舞われるのは期待とは違っている。
嫌いだと思うのにも疲れてきた。朋子の言動に一喜一憂するのにもそろそろ飽きたかった。
けれど望むようには変われなくて、頭を抱えたくなる。
今夜も、眠れそうになかった。
- 73 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:35
-
- 74 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:36
- しばらくすると照明が落とされる。
寝る前の挨拶を交わして、暗くなった部屋で佳林は天井を眺めた。
隣のベッドは静かで寝息さえも聞こえなくて、眠くはなかったけれど佳林も目を閉じる。
羊を数えるおまじないは、眠りのスリープと羊のシープという響きが似ているから効果が
あるのだと聞いた話を思い出す。つまり、日本語では意味がない。つらつらとそんなことを
考えているうちに、さらに眠気は遠ざかる。
そのうち羊を数えるにも飽き、もどかしくて寝返りを打つとシーツが擦れる音すらうるさかった。
ごろごろと転がるのを繰り返すうちにも夜は更ける。諦めて目を開き、ベッドから身体を乗り出して
枕元のデジタル時計を確認するとすっかり真夜中で呆れてしまって、やれやれと頭の中でつぶやく。
「眠れませんか?」
暗闇から響いた声に、びくりと震える。隣のベッドのスプリングが軋む音がして、
どことなく視線も感じる。起こしてしまったかと思ったけれど、声ははっきりしていて
寝起きというわけでもなさそうだった。そして、眠れないかと問われれば肯定を返すほかない。
「寝れない」
目が暗闇に慣れる。それでも、矯正されていない視力ではいつもよりすべてがぼやけて見えた。
視界の中で白いシーツがわずかに揺れて乾いた音を立てる。
- 75 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:39
- 「怖い夢でも見た?」
的外れだと思った。最後に怖い夢を見たのはいつだったろうと考えたら、思い出せないほど
過去のことだった。朋子は黙って佳林の返事を待っている。眠れない理由をごまかすように
佳林はうなずくけれど、それが朋子に見えたかどうかはわからない。
明かりが落ちた部屋は暗く静かで、今度は佳林が黙っている番だった。眠れていないのは
一緒なのではないかと気づいたけれど、佳林がそれを指摘する前に朋子が申し出る。
「こっち来ます?」
「……なんで」
魅力的な誘いと思わなくもない。
しかし、それでは今よりも眠れなくなりそうな気がした。
佳林がすんなりとは受け入れそうもない提案をして困らせるのが目的なのか、意地の悪さを感じて、
嫌いだったことを思い出した。子供扱いされるのは大嫌いだった。
「いや、一人じゃ怖いかなと思って」
「……そんな子供じゃない」
予想通りのからかいに唇を尖らせると、薄い笑声が聞こえた。
年の差はたったの三つなのに、それ以上の差をつけられているようで不満を覚える。
一人で眠るようになって何年も経っていて、これもまた、最後に誰かと一緒にベッドに
入ったのがいつだったかを思い出せない。
- 76 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:41
- 「そーですか。残念。今なら背中とんとんするのがつくのに」
どうせ眠れないのなら一緒だ。
だったら退屈しない方が良いし、一人でシーツを暖めるのにはもう飽き飽きしていた。
佳林が素直に従うとは思っていないだろうから、困らせてやろうと身体を起こして枕を抱える。
黙ったままで滑り込むように隣のベッドに足を入れると、掛け布団を持ち上げて迎えた朋子が
くすくすと笑い、場所を譲るように身体をずらしてささやく。
「子供じゃないんでしょ?」
「……だめなら戻る」
「そんなこと言わないですよ」
落ちちゃいますよ、と腕を引かれ、縁から落ちないように身を寄せる。驚いた様子もなく
受け入れられ、困惑したのは佳林の方だった。いまさら戻るのも面倒だということにして
胸元に顔を近づけると、髪が頬に触れてくすぐったい。約束通りに背中に手が回され、
優しく背を叩かれる。
もっと緊張してしまうかと思っていた。あたたかさと柔らかさが不思議なくらいに安心感を
誘って、すぐにでも眠りに落ちそうになる。それに逆らうようにもぞもぞ動いて、眠たげに
している朋子に目を遣った。視線が合い、まじまじと至近距離で見つめられる。
気恥ずかしさに目を逸らすと、小さく笑いを漏らされた。不満を示すために狭いベッドの中で
ぐいと身体を押す。佳林が起きている間は眠るつもりもなさそうだった。転んだときといい、
最近の朋子は佳林に対して厳しいのか優しいのかわからない。
- 77 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:42
- 年下の先輩なんて面倒なだけだろうというのは佳林もうすうす察していて、だからこそ壁を
取り除きたくて、けれど朋子にはそれも鬱陶しく思われているに違いなかった。
優しくしてもらえるのは佳林が先輩で、子供だからで、それがなければ表向きの優しささえ
向けられなくても仕方がないはずだった。敵対心、とは言わないまでも、佳林ははっきりと
朋子に対して嫉妬心を持っていて、表立って言ったことこそないけれどそれが隠せているとは
思っていなかった。
好意には好意を、敵意には敵意を。人は自分を映す鏡だ。その道理に沿えば、嫌うことが
どう返ってくるかなどわかりきっている。今から方向転換しようにも、過去を振り返れば
佳林には後悔しかない。嫌っておいて嫌われたくないと、どの口が言えるだろう。
ときに優しさは罪悪だ。期待してそれが叶わないのが怖かった。
いつもいつも待望されているようで、なのに選ばれなかったことを思い出す。
オーディションでもなんでもそうだ。佳林が選ばれると思っていたよ、と言われるのにも
うんざりしていた。結果が伴わなければ、努力なんて意味がない。
- 78 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:42
- 努力で数学ができるようになっても、才能には結局は適わないのだ。才のある人に
同じだけ励まれたら、結末なんて見えている。それはまるでエンドロールまで
たどり着くまでもなく、最後のシーンが目に浮かぶ映画のようだ。
背中を叩くリズムは変わらない。寝かしつけるのにも慣れているのだろうなと思った。
うとうととしながらも、頭はまだ眠りに落ちるのを拒否するように考えが止まらない。
一緒の布団で眠れるということは、嫌われていないという証明になるだろうか。
その願望を確かめたくて、言葉を選ぼうとして諦める。どう転んでも、眠りの間際の
戯れ言として扱われるに違いなかった。
迷わず迎え入れてくれたのだから、今はそう嫌悪されていないのだと信じたい。
だから、ひとつだけ言葉を漏らす。
- 79 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:43
- 「嫌われてると思ってた」
「はあ?」
佳林の告白に朋子が素っ頓狂な声を上げた。少し身を引かれ、近すぎる位置から
顔を合わせられる距離になる。咄嗟に目を上げると朋子は渋い顔をしていた。
「ちょっと待って、どのへんが?」
「え、全部?」
「いやいやいや、意味がわからない」
全力で否定される。面と向かって嫌いとは言えないだろうけれど、はぐらかされると思っていた。
想定外の強い反論に佳林もおののき、しかし指折り数えるように根拠を言って重ねる。
「だってさっきも怒ってたし。それに私、面倒くさいでしょ?」
「まあ、今ね、壮絶にめんどいこと言ってるとは思うけどね」
今度は肯定されて、それはそれで落ち込む。
佳林の変化を見て取ったのか、朋子は慌ててごまかすように早口で言う。
「あ、でも過去形? 今は嫌われてないと思ってる?」
「やっぱり嫌いなんだ……」
「めんどくさっ」
ぎゅうと抱きしめられて、耳元で大きなため息をつかれているのを感じる。
面倒だと言いつつ突き放されはしないから、佳林はそれをどう受け取ったものかと考えた。
問いただす前に、腕に込められていた力が緩む。表情をうかがおうとして、それは遮られた。
- 80 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:45
- 「つまんないこと言ってないで早く寝なさい」
手のひらでそっと目隠しをされる。背中を叩くのが再開されて、すっかり目は冴えてしまって
いたのにそれでまた眠気がやってくるのだから不思議だった。
「怒ってないし、面倒でもないよ」
遠回しに答えをもらえたのだと解釈した。
とりあえず、ものすごく嫌われているということはないらしく、それだけで安心する。
多くを望みすぎてはいけない。今はこの関係で満足しておこうと佳林は思う。
どうもつまらないことを言ってしまったようなので、謝罪の言葉を口にした。
薄く笑って、朋子は会話を打ち切るように言う。
「お話タイムはおしまい。今夜はもう寝ましょうね」
身体はあたたまり、眠りはすぐそばまでやって来ている。
せっかく穏やかに過ごせそうだったのに、余計な一言で空気を乱してしまったことを後悔した。
話すのは終わりだと言われたけれど、最後にひとつだけ知りたくて佳林は口を開く。
「また、眠れなかったら。一緒に寝てくれる?」
「……良い子にしてたらね」
朋子が小さくあくびを漏らす。それがうつったように眠気に襲われてまぶたが落ちてくる。
ベッドから落ちないように、佳林はもう少しだけ近寄った。
- 81 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:45
-
◇ ◇
- 82 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:48
- 通学鞄から一枚だけ抜き出してきたプリントを持って、佳林は会議室のドアを開ける。
近くにいた由加が仕事の資料から目を上げて微笑む。それに反応を返して、佳林の目は
朋子を探した。
「うえむー。重い」
部屋の奥で椅子を並べてあかりが眠っている。頭は隣に座っている朋子の膝に預けられていて、
その光景に穏当な気持ちではいられない。せっかく良い気分で来たのに、台無しだと思った。
「おいこら。寝たふりするな」
あかりはどうやら起きているらしい。ぐらぐらと身体を揺らされても退く様子はなく、
不自然にしがみついてあかりはそれに逆らう。あかりの持つ、なにをしても許されるという
雰囲気がうらやましかった。
朋子に見せるのは後にして、まずは由加に持ってきたプリントを掲げてみせる。
じゃじゃーん、と効果音をつけ、顔は自然と得意げになってしまう。
いつもならバツばかりの数学の小テストが、今回は赤丸ばかりだった。
「おっ。すごいすごい」
ぱちぱちと由加は小さく拍手をする。
言うまでもなく、由加と朋子が教えてくれたおかげだったから佳林は感謝を込めて言う。
「由加ちゃんのおかげだよ」
喜びをそのままに抱きついて表現する。
えらいね、と由加は受け止めて佳林の頭を撫でた。
ちらりと横目で奥を見ても、朋子はあかりから解放される様子もなかったから、そのまま由加と
他愛もないことを話す。長くまとまりのない佳林の話でも、由加はないがしろにはしない。
- 83 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:50
- にこにこと聞いてくれていた由加が、スタッフに呼ばれて席を外す。
残念に思ってそれを見送り、ドアが閉まってから部屋の奥に目を遣った。
朋子からべしべしと頭を叩かれても、あかりはその膝から頭を上げない。
佳林はプリントを持ったままで立ち上がる。お礼を言いたい相手は由加だけではなかった。
「うえむーばっかりずるい」
くっついている二人の近くにまで行き、見下ろして佳林が言うと朋子が顔を上げる。
ぺしりともう一度あかりの頭を叩いてから、朋子はなぜか口を尖らせた。
「佳林ちゃんだって、いつも由加ちゃんにひっついてるじゃん」
「そんなことないし。時々だし」
動揺してしまって、しどろもどろになる。二人の言い合いを気にした様子もなくあかりは
朋子の腰に腕を巻き付けてくつろいでいた。
ちょっかいを出してはやり返して、そうやってじゃれている二人を見ると無性に腹が立つ。
朋子から佳林にいたずらを仕掛けてきたり、からかったりしてくることはほとんどなくて、
どちらが良いのかというのは別にして、あかりとは扱いの差を感じる。
ひとつだけわかるのは、明らかにあかりの方が朋子にべたべたしていることだった。
誰にでもくっついていくから気にする必要はないのかもしれなかったけれど、やはり面白くはない。
うらやましくて真似をしたくなって、だから佳林は口を開く。
- 84 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:51
- 「私だってたまにはとものこと独占したい」
「それは膝に乗りたいと。こないだは嫌って言ったくせに」
へー、と挑戦的に見上げられて、むっとする。思わぬ反撃に言葉が詰まった。そういえば
膝は返されていない。いらないとは言ったものの、あかりを見ていると返してもらっても
いいかなと思った。
「……嫌とは言ってない」
弱く言い返すと、意外そうに朋子が瞬きをして目を細めてにやりと笑う。劣勢だと思ったところで
あかりがひょこりと頭を上げた。二人を交互に見上げて、不思議そうに問う。
「いつのまにそんなことしてたん?」
「起きてるんじゃん。ほら、どいて」
「えーやだー」
あかりの質問には答えずに朋子が今までよりも強めに頭を叩く。いい音がして、あかりは
そこを手で押さえて抗議の眼差しを朋子に向けた。
「交代」
その抗議を却下するように朋子は言う。不満げに頬をふくらませたあかりはひょいと
立ち上がって、会議室に戻ってきていた由加を目ざとく見つける。
- 85 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:54
- 「いいもーん、由加に甘えるもーん」
拗ねて言うのがかわいらしくて、佳林は笑いを漏らす。視界の隅で由加がそっと腰を上げ
逃げようとしているのが見えた。それをあかりが追いかけ、大変だなあ、と朋子がつぶやく。
遠くを見ていた目が、立ったままの佳林に向けられ笑いを含んだ口許が動いた。
「来ないんですか?」
朋子は自分の膝を叩いて言う。由加には平気で抱きつけるし、あかりと顔を近づけるのにも抵抗はない。
紗友希にくっつくと嫌がられるからそれはしない。鼓動が速まって苦しくなって、寿命が縮まる思いを
するのに慣れきれなくて、朋子に触れるのにだけは気後れする。
だから、少しだけ椅子を寄せた。
「……これでいい」
横並びに座って、控えめに身体を近づけた。呆れた表情を向けられたのは見なかったふりをする。
気を取り直したように、朋子は佳林の手元をのぞき込んで指さした。
「さっき。由加ちゃんになに見せてたの?」
本来の目的を思い出して、佳林はプリントを表に向ける。ちょうど新幹線の中で教えて
もらったところが出題範囲だった。だからこそ良い点が取れたのは明白で、それは朋子にも
伝わるはずだった。
「これ。ともが教えてくれたとこだったからできた」
「佳林ちゃんが頑張ったからですよ」
最初からできるってわかってましたよ、と得意そうに朋子が言う。満足げに佳林の頭を撫でて、
これから撮影なのに髪を乱される。振り払うのも悪いから。そう思ってされるがままに身を任せた。
上手くあかりをまいたのか由加が一人で戻ってくる。息切れするほど激しい追いかけっこを
しているのは、他人事なら面白い。だんだんと逃げる技術が向上しているのがわかるけれど、
逃げるから追いかけられるのだと指摘する気はなかった。由加とあかりがいなければ、朋子を
独占できる確率が増すという解は数式なしでも導き出せる。
- 86 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:55
-
- 87 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:55
-
ばらばらに仕事をしているうちに席順も変わってくる。ドアの近くで由加と朋子が
談笑していて、それをテーブルに肘をついてつまらなく眺めた。
佳林の横では紗友希がスマートフォンをいじっている。相手をしてもらえなくて
退屈だけれど、腰を上げる気にはならない。ある程度の節度も大事だと佳林は知っていた。
そのまま視線を二人に向けていると、由加がこちらに顔を向ける。
「飲み物買いに行くけど、行く?」
ちょこんと首をかしげ、尋ねられる。「行かなーい」と紗友希が気の抜けた返事をして、
佳林も喉は渇いていなかったから頭を横に振った。
連れだってドアから出て行く二つの背中を見送る。相変わらず紗友希は佳林に
構ってくれそうもなくて、あかりもいないから一人で時間を潰すしかない。
退屈だから仕方がないのだと理由付けをして、平静を装いゆっくりと立ち上がり、
紗友希に断りを入れる。
「私も行ってくる」
はいはい、と軽く返された。紗友希とはグループの結成前から長く一緒にいたから気が楽で、
誰とでもこういう関係を結べれば良いのにと思う。
追いかけるように廊下に出てエレベーターに乗り込み、二人がいるであろう階数のボタンを
連打する。気が急いていても速度は変わらない。緩慢に移り変わるデジタル表示がもどかしかった。
- 88 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:56
-
誰ともすれ違わずに休憩スペースに着く。佳林が声をかける前に由加がこちらに気がついて、
機先を制するようににこりと笑みを浮かべる。どうやら会話を打ち切らせてしまったようで、
けれど、やたらに踏み込めそうな雰囲気でもなかった。
二人が意味深に目配せを交わしたのを見逃さない。佳林は不審に思って眉を寄せるけれど
ほんわりと笑った由加にごまかされるように、声を挟む余地を奪われる。
「先に戻ってるね」
不機嫌そうな視線を朋子は由加に投げた。困ったように笑って、そのまま由加は佳林とすれ違う。
なにか相談事でもあったのだろうか。この様子だと悩んでいる側は朋子のような気がするけれど、
それなら由加が笑って置いていくわけもない。そう考え直していると、猫背気味の朋子が気乗り
しないように立ち上がる。
「なに話してたの?」
「ただの雑談ですよ」
それにしては穏やかでなかったし、否定されればさらに疑念が募った。
佳林が来たせいで話を続けられなくなったのだろうかと思うと不安になる。
居住まいを正して、問いかける目を朋子に向けた。
「私の話?」
「違うって」
笑って首を振り、考えすぎだと朋子が指摘する。悪癖はなかなか直らない。
こういうところが他人にとっては面倒くさいのだろうなとは理解できるけれど、
理解したからといってすぐに行動に反映されるわけでもなかった。また考えに
没入しそうになってうつむきかけると肩を叩かれ、朋子が指さした方に目を向ける。
- 89 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 21:58
- 「なにか飲みません? こないだのお礼にごちそうしますよ」
「いいってば」
「まあそう言わずに」
シャンプーくらいどうでもいいのに、コインを投入口に差し入れ、朋子が佳林を急かした。
こうなると頑固だろうから、おとなしく奢られることにしてあたたかいお茶を選ぶ。
がこんと音を立てて受け取り口に落ちてきたそれを手渡され、礼を言って蓋をひねる。
ホテルでは眠気に勝てずに訊きそびれたことがあった。蒸し返せば面倒だと思われるかもしれないと、
いささかの懸念はある。けれど、今後の傾向と対策のためにどうしても知りたかった。
ほどよくあたたかいお茶で、渇いていない喉を潤す。眼前の朋子に一挙一動を確かめられている
ようで居心地が悪い。佳林がいつもしていることを返されているのか、そんなわけもないのに
目が不自然に泳いでしまう。
湿らせた唇が渇き、ステージに上がる前のように緊張する。
声がざらつきそうになって、それを抑えるのに苦労した。
「……ともが思う良い子って、どんなの?」
薄く笑って、朋子は視線を落とす。
つまらない質問だと一蹴されることもなく、しかし、即答されもしなかった。
はっきりした定義があるとも思えなかったけれど、佳林は息を止めてひそやかに待つ。
遅刻しない、転ばない、心配をかけない。
条件だけならいくらでも思い浮かぶのに、どれも不正解な気がしてならなかった。
- 90 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 22:01
- 朋子が顔を上げて、視線を揺らすこともなく佳林に向ける。
それをまっすぐに見返すと、楽しそうに声が漏らされた。
「ふらふらしないこと、かな?」
疑問形で返される。
ヒントをくれそうな雰囲気もなくて、漠然とした言葉に不満が募った。
近頃の朋子はそればかり言う。自覚がないから打つ手もなかったし、どの指摘も
要領を得なくて、佳林にわからせる気はないように思えた。
ふらふらするなとは、どういう意味なのかを考える。
体幹を鍛えでもすればいいのだろうか。それならそうと言ってほしかった。
なにか他にバランスを取るための訓練をすべきなのかと思い悩み、視線は宙をさまよう。
佳林の反応を愉しむようにくすくすと朋子が笑い、その意地の悪さに腹が立つ。
数学や理科のように丁寧に教えるつもりはないようだった。公式さえも示されず、
どんな参考書でも解法が見つかるとは思えない。
そろそろ会議室に戻るべきだと、壁に掛けられた時計が告げていた。
からかいをまともに受け取っている時間はないし、そんな心の余裕もない。
- 91 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 22:02
- 踵を返して背を向けると、慌てて追いかけてくる気配があった。
佳林が目を逸らせば後ろから片手を取られ、仕方なく顔を上げる。
横に並んだ朋子が悪戯っぽい表情を浮かべて、おどけた口調で言う。
「転ばないように、ね」
握った手を上げて示され、見上げる角度は距離が近いせいで大きくなる。
わざとらしく佳林がため息を漏らしてみせると、愉快そうに朋子は笑った。
子供扱いは変わらずに、ますますひどくなっていくから気に入らない。
手を振りほどこうとしたら、痛いくらいの力で握り返された。
横顔でもわかるくらいの勝ち誇った笑みを、朋子は隠そうともしない。
不満の視線を向けてもさらりと流され、佳林は繋いだ手をわざと揺らした。
眠れない夜はきっとまた来る。
それを待ち遠しく思ってしまうのはなぜなのか、佳林は考えたくなかった。
- 92 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 22:02
-
- 93 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 22:02
-
- 94 名前:グッドナイト、スイートハーツ 投稿日:2013/12/14(土) 22:02
-
- 95 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/12/14(土) 22:03
- レスありがとうございます。
>>45
そう言ってもらえますと、私としても書いてアップして良かったなあと思います。
嬉しい限りです。嬉しい限りです。
レスをいただいたときの日記のテンションがすごいヤバイことになっております。
>>46
今回のも良い意味で気にとめていただけたら嬉しい限りです。嬉しい限りです。
続きましたが長さがすごいヤバイ。
そしてこのレスをいただいたときも日記のテンションがさ乱れております。
- 96 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/12/14(土) 22:04
- スレタイの略称はアイパラとかアメトクとかで。
ノリ・ 。・リ<次回に続くよ!
- 97 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/12/15(日) 02:29
- 愛想とかではなくアイソ面白いです!
JJ全員への愛情を感じます。
だーいしの登場を心待ちにしております。
- 98 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/12/15(日) 23:23
- ちゃんさんの面倒な女っぷりとか、かなともさんのつかませない感じとか、
すごくうまくでてるなぁと思いました。
面白くて、すごい!ヤバイ!です。
- 99 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/12/16(月) 00:04
- 作者さん、他にも何か書かれていますか?
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/12/25(水) 08:03
- 面白いです!メンバー愛を感じます。
続きが読みたくなります。
- 101 名前:名無飼育さん 投稿日:2014/01/16(木) 21:37
- J=Jの話が読めるの幸せです。
どの場面もメンバーの姿が思い描けるようで、とても面白いです。
次回更新楽しみにお待ちしてます。
- 102 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:16
-
- 103 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:17
- 秋は徐々に深まる。紙コップの中の飲み物が冷めていくのが早くなり、ぬるいココアは底に
甘さがたまってしまう。朋子は自販機の低い唸りを聞きながら緩やかにそれを横に振る。
名前を呼ばれて顔を上げると、由加がこちらを見ていた。対面のベンチに腰掛けているの
は由加だけで、そもそも二人の他にひとけがない。じっと見つめられているのが不思議で
首をかしげてみせたら由加は途端に笑顔になって、その胡散臭さに朋子は嫌な予感がした。
「佳林ちゃん、すっごいとものこと見てるよね」
由加の口調は有無を言わせないもので、確信に満ちている。いつかは指摘されるだろうと
予想していたからか思ったよりも動揺しなかった。周囲の変化に敏感なのはリーダーとし
ての美点ではあるけれど、今の朋子にとってはうざったい。
紙コップを揺らしていた手を止める。悪い笑みを浮かべた由加はいつもの穏やかさからは
ほど遠くて、朋子は警戒を強めながらも気の抜けたふうを装った。
「そう?」
とぼけてみせると由加はきょとんとする。少しだけ顔をしかめて、疑うように朋子に問う。
「気付いてないの?」
「由加ちゃんの勘違いじゃない?」
返答が早口になって朋子は内心で舌打ちする。やはり多少は焦っていて、柄でもないから
それを表に出したくはなかった。視線を宙に向け、考え込む風情を見せてから朋子は言う。
「それか、由加ちゃんのこと見てたか」
先程までの話をしているのなら、由加と朋子は揃って佳林からは離れた場所にいた。
けれど会議室はそう広いわけでもないから、当然のように佳林の目はどちらにも届く。
見られていたのだとしても朋子はここで取り合う気はなかった。下手にいろいろと言えば
藪蛇になりかねないから、嘘ではない言葉でごまかす。
「あの子、人がなに話してるかとか気にするタイプだし」
見てたならそれ気にしてたんじゃないの、と付け足す。
自分の話をされているのではないかと佳林は過剰に気にするきらいがあるのは本当だ。
その考えは年相応とも言えるけれど、全体を見通せばバランスが悪くも感じられる。
佳林は平均的な中学生より大人びていて、それなのにときどき妙に子供っぽい。
- 104 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:19
- 大人びているのは小さい頃からの習い性となっているのだろう。大人に囲まれて働いてい
るうちに自然と振る舞いも矯正され、それなりに厳しそうな家庭に育っているからその影
響もあるのかもしれない。
子供らしさは、求められているものを敏感に察しているからだ。期待される通りに子供ぶ
る、というのは歪んでいるし、自然なものではない。傍目には器用な子に見えても、年齢
に似つかわしい経験が少ない分を埋めることなく時が進めば、次第に違和感も出てくる。
聞き分けが良い子としっかり者は手がかからない。優等生であることを求められ、それに
従ううちにどれくらい甘えてもいいのか頼ってもいいのか、他人との距離の取り方が下手
になる。
朋子も距離がわからない。由加が相手でも、どこまで心を許していいのか未だに測りかね
ていた。けれどそれを表情に出さないくらいには器用だし、しっかりしてもいる。
由加の指摘は朋子にとって立ち入られたくないところだった。だから勘違いだと突っぱね
るし、この話題を続ける気もない。由加もそれを悟ったのか深く追求することもなく、軽
い相槌を打つにとどまった。
「そうかなあ」
由加の声は朋子よりも数段とぼけているようで、そこには疑いの色が含まれている。
今度は朋子が眉をひそめ、けれど蒸し返しはしない。そして話題は変わるかと思いきや
近いところに移っただけだった。
「ともは、佳林ちゃんに関しては心配性だよね」
「まあ、骨折されたら困るし」
ひそめた眉はそのままで、朋子は由加の言葉にうなずいた。佳林がメジャーデビュー前に
転んで足を怪我して、本人だけでなく周囲も含めて困らなかったといえば嘘になる。怪我
を責めはしないけれど、今後は気をつけてほしいと思うのは人情だ。
朋子は佳林に同情している。似ている部分があるから憐れんだ。出来の良い子は放って
いてもしっかりやるし、時には人の面倒までみる。それが当然だなんて損な役回りだ。
佳林は頼りになる先輩で、同時に三つも年下の中学生でもある。経験が長いから皆の手本
になるようにとレコーディングの順番を先頭に置かれたり、撮影も佳林から始められたり、
それが続けばプレッシャーがかからないわけがない。
あまりに不憫で気の毒だ。だから朋子は佳林に優しくするし、心配する。
いつ手を差し伸べればいいかを知るために視線を向けるし、目も離さない。
- 105 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:20
- 朋子はコップの中身を飲み干して、立ち上がりゴミ箱に投げ捨てる。由加に背を向けたの
は拒絶の意味も込めていた。けれど、振り返れば由加は疑っていたような顔から一転して
また笑みを浮かべていて、朋子も再度、薄ら寒いものを感じる。
「……なに?」
軽くにらみつけながらまたベンチに腰を落ち着ける。朋子とは対照的に、由加は飄々として
なにやら楽しそうにすら見えた。
「気をつけないと、私以外にもばれちゃうよ?」
「なにが」
「言ってもいいの?」
「ダメ」
考えもせずに即答する。由加はどこまで察しているのだろう。朋子が佳林を心配している
ことは事実で、その感情は不自然なものではないはずだ。あからさまになりすぎないよう
佳林に視線を向けているつもりだったけれど、それにはどれほど気付かれているのか。
朋子からの視線も心配も、悟られたところでなんの問題もない。あるとすれば、そこに
含まれた意味を知られたときだ。そしてそれを朋子から由加に教えてやるつもりはない。
それは、存在してはいけないものだから。
不意に由加がにこりと笑う。その目は朋子には向いていない。ぱたぱたと軽い足音が
誰のものか、わかってしまうのだから嫌になる。
「先に戻ってるね」
由加は立ち上がって朋子を見下ろす。置いていくつもりかと非難の視線を投げれば由加は
困ったように笑って、それでも待ってはくれないのだから意地が悪い。
腹の探り合いじみた会話をした後で顔を合わせるのは気が引けた。重い腰を上げれば佳林
がそばに立っていて、朋子は表情を取り繕う。
「なに話してたの?」
「ただの雑談ですよ」
問いには無難な答えを返し、朋子はため息をつきたいのを我慢した。
不安げな顔をした佳林は、どうせまたつまらないことを考えている。
考え込みやすい性格は朋子も同じだった。
佳林がどう過ごしているか、なにを思っているのかを知りたいのはいつものことだ。
それこそ、夜も眠れないくらいには佳林のことを考えてばかりいる。
- 106 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:20
-
◆ ◆
- 107 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:21
- 取材待ちの楽屋はいつもより静かだった。わずかに眠気を感じながら、朋子はテーブルに
肘をついて鏡の前の佳林とあかりを眺める。真剣な面持ちで向かい合った二人の距離は近
く、目をつぶったあかりの顔を佳林がのぞき込んでいた。
「動いちゃだめだよ」
互いに髪型をつくってやることはしばしばあったけれど、メイクを施すまでのことはめず
らしい。あかりもおとなしく従って、佳林は慎重にそのまぶたに色をのせていく。
「あれ、楽しいのかねえ」
そう言う紗友希も、朋子の隣で同じようにだらりと二人を見守っていた。
「どうなんでしょ」
一緒に鏡をのぞき込む佳林とあかりは楽しそうだ。それを見ていると、頬杖をついたまま
で背筋が曲がってくる。退屈で、つまらない。眉間に皺が寄るのは視力が悪いせいだとい
うことにした。
グループ結成当初のことを思い出す。佳林とあかりは同学年なのにキャリアの差が大きく、
傍目にもぎこちなかった。佳林がしきりに話しかける様子は見ていたけれど、今ほど親し
げになるにはもっと時間がかかるだろうと朋子は思っていた。
あかりが相手だから上手くいくのだろうか。佳林のあかりに対する態度は表面だけを取り
繕っているようには見えなくて、朋子に向けられていたものとは質が違った。
質の違いは年齢差がある故の気後れだったのか、それ以外の理由だったのか。
予想はついていたけれど、朋子は気付いていないふりをしていた。
「佳林ちゃんって」
「ん?」
名前を出して、しかしなにを言おうとしたのかわからなくなる。朋子と佳林が一緒に過ごす
時間が増えて、まだ一年も経っていない。今まで佳林はどうやって人と関わってきたのかを
朋子は知らなかったし、知りたかった。例えば誰かを嫌ったり羨んだり妬んだり、そういう
ことはあったのだろうか。
紗友希に尋ねるかを迷う。佳林と紗友希の付き合いは長いから、訊けば過去のことを話し
てくれるかもしれない。けれど急にそんな質問をするのは不審に思われそうで躊躇われて、
朋子は別の話題を口にする。
- 108 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:22
- 「どうしてあんなに楽屋を散らかすんでしょうか……」
「あー。紗友希からも言っとく」
ともがいっつも片付けてるもんねえ、と紗友希が呆れたように言った。遠目に見てもメイク
道具が散乱している。初めはしっかりしているばかりだった佳林の子供らしさが近頃は出て
いて、その自然な立ち振る舞いを朋子は喜んでいる。
佳林はずっと気負っていた。経験が長くて先輩だからと張り切って空回って、仲良くしな
ければいけないから仕方ないと透けて見える態度で朋子に接して、本当は関わりたくもな
いくせに敬語は使うなと、宮本さんと呼ぶなと無理を言う。そうやって肩肘張っていたの
が薄れたのなら嬉しかった。
ディスプレイの向こう側にいて、大した興味を持っていなくとも名前が目に入る。
かつての朋子にとって佳林はそういう位置にいて、同じ側にまわっても距離が遠いのには
変わりがなかった。それでも目が届く範囲にいるのだから、当然のように気になった。
裏ではどういう声で話し方で、どう過ごしているのか。
好奇心に逆らえず、レッスン室で楽屋で、朋子は佳林を見ていた。
今もその習慣は抜けない。変わったのは視線がときどき交わるようになったことくらいで、
佳林はきっと、それを偶然だと思っている。
- 109 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:23
- 「楽しそうだね」
ぼんやり考え込んでいた朋子の背中に重みがかかる。気を抜いていたせいでまともに上体
を潰され、息が苦しかった。佳林とあかりに向けていた視線を斜め上に向け、朋子は文句
をつける。
「……由加ちゃん、重いんだけど」
「ええー?」
朋子の頭上で、由加が不満げな声を上げる。楽しそう、という台詞が指しているのは佳林
とあかりのことだ。由加を押しのけようともがいていると視界の中で佳林が立ち上がって、
ちょこちょことこちらへやって来るのが見える。
「なにしてるのー?」
「んー? ともで遊んでるの」
まさに遊ばれていて、朋子が言い返す前に重みが二人分に増す。紗友希は面白がって写真
を撮ろうとするし、あかりがきらきらした目で向かってきて嫌な予感しかしない。
「重いってば」
無理矢理に上半身を起こし、二人を振り落とす。三人目になるのが叶わなかったからか、
あかりはつまらなそうに口を尖らせた。
座っていたら、またいつ遊ばれるかわからない。どこかに逃げようと朋子が立ち上がると、
すぐそばの佳林に見上げられる。不躾なまでにはっきりとした視線を向けられれば、無視
するわけにもいかなかった。
「どうかした?」
問いかけると、佳林は拗ねたように言う。
- 110 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:25
- 「最近、私と遊んでくれないよね」
「えぇ?」
唇を尖らせる佳林は実際以上に幼く見えた。いじらしく朋子の服の裾を引いてくる仕草も
かわいらしくて、思わず頭を撫でてやる。由加があかりに捕まって部屋から出て行くのを
視界の端に留めながら、朋子は苦笑してみせた。
「そんなことないでしょ」
「そんなことある」
佳林は不平がましく頬を膨らませる。遠慮なく甘えることを覚えつつあるようで、それは
やはり嬉しかった。
年上の後輩に寄りかかることを佳林はしなかったし、そもそも朋子の存在を面白く思って
いなかっただろう。言われなくともそれくらいの想像はついた。隠しているつもりでも佳林の
言動の端々から察せられるものはあって、けれど責められるわけもない。
懐いていた先輩は研修生から抜けていき、後輩には先を越され、言葉を交わしたこともない
ほどの後輩と同じグループになる。これでひねくれない方がどうかしている。
それでも佳林は健気だったし、嫌いな相手にも親切にするくらいには人間が出来ていた。
それがかわいそうでかわいくて、朋子が佳林に抱く歪んだ気持ちは今も変わらない。
だから、ただの同情だ。寂しそうにしている子供をあやすように優しくして、拗ねるのが
かわいいから時々そっけなくする。その扱いは不満に思われているようだったけれど、
朋子としてはいろいろと一人で抱え込みがちな佳林の負担を減らしたかったし、誰かを
頼ることを覚えてほしかった。
そうでもないと、あまりにかわいそうだから。
- 111 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:27
- 頭を撫でていた手をつかまれる。不服げな顔をされるのはいつものことで、それがかわい
いから茶化してしまう。臆せず甘えてくるようになったのは計算通りだ。けれどここまで
懐かれるとは思っていなくて、それは誤算だった。
手を離すタイミングをつかみかねる。近頃、佳林と関わり合いになるのを避けているのは
由加の視線があるからだった。いろいろと勘ぐられて面白がられるのは愉快でない。
だから由加がいないときくらい構ってやりたいけれど、そうもいかない。
手は取られたままで朋子が悩んでいると、つまらなそうな声を投げかけられた。
「紗友希の前でいちゃつかないでくれる?」
「いちゃついてないよ!」
佳林の反応は早すぎて、意識しているのがありありとわかる。手を離されたのが不満なのと
冷やかすのが楽しいから、朋子もつい意地悪をしたくなった。強めに佳林の腕を引いて
抱き留めれば抵抗されて、それをおかしく思いながら朋子は紗友希に言う。
「うらやましいですか?」
べつにぃ、と答えた紗友希は実際に大した興味もなさそうだった。佳林は朋子の腕の中で
暴れていて、しかし本気で抜け出す気はなさそうだからそのままにしておく。
妙に近づいてこない時期もあったけれど、この頃はなにかと理由をつけて追いかけてくる
ことが多くなっていた。それが健気で不器用でいじらしいから、朋子はついつい佳林で遊
んでしまう。
またしても、離れるタイミングがつかめない。形ばかりの抵抗を振りほどくのはもったい
なかった。ずっとこのままでも良かったけれど紗友希の目もあるし、いつ由加とあかりが
戻ってくるかもわからない。名残惜しく思いつつ、朋子は身体を引いて佳林を見下ろした。
「あっち、片付けましょう」
鏡の前は散らかされたままだ。朋子がそちらを指せば、佳林は不満げながらもうなずく。
先を歩けば渋々とついてくるから、その表情がかわいくて笑いが漏れる。
優しくするのは同情しているからだ。
それ以外の理由を朋子は知らないし、誰にも知られたくない。
- 112 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:27
-
◆ ◆
- 113 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:28
- ライブハウスツアーも終盤に差しかかっていた。長距離のバス移動にも慣れてはきたけれど、
やはり地方から地方へと夜のうちに移るのはつらいものがある。
移動中にコンビニに寄るのはいつものことで今日も例に漏れなかった。夜風が冷たかった
せいかバスに乗り込んだときには目が冴えていて、おそらく寝たふりをしている佳林にも
冷静に話しかけてしまう。
「そこ、私の席なんですけど」
人数に対し大型バスの席数には余裕があった。窓側と通路側、二つの座席を一人で使うこ
とができたから朋子も当然そうしていて、佳林もそのはずだ。
通路をふさいでしまわないように片側に寄っていると、朋子の横を由加が意味深な笑みを
浮かべながら通る。それには一瞥で返して、人通りがなくなる頃合いを見計らった。
「宮本さん、起きて」
耳元で、わざと名字で呼びかける。まぶたを持ち上げた佳林はいたずらを仕掛けた側なの
に不機嫌そうで、朋子は軽く笑ってしまう。
「まあいいや。佳林ちゃんの席、使うから」
「……隣、座ればいいじゃん」
通路を奥に進もうとしたら上着の裾を引っ張られて、今度は苦笑が漏れた。
朋子は振り返ってその手を払う。
「最初っから一緒に座りたいって言えばいいのに」
一緒に座りたい、と小さな声で復唱され、朋子は佳林を窓際の席に追いやる。点呼の後で
バスのエンジンがかかり緩やかに発進して、どうしたものかと朋子は思案した。後方の座
席では賑やかに騒いでいるメンバーもいるし、眠っている面々も少なくない。
騒ぐか眠るか、バスの中でできることは限られている。車酔いをするから文字を読むのは
難しいし、揺れがあるから細かい作業にも向かない。
- 114 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:28
- 黙っている佳林に目を遣る。視線を逸らさないでいたら、佳林は言い訳がましく口を開く。
「ともが最近、話してくれないから」
「そんなことないと思うけど」
「そんなことある」
このやりとりをするのは初めてではなかった。あまりに懐いてくるから、優しくして甘え
させることに同情以外の意味を見いだしそうになる。これ以上に情が移れば互いのために
ならないと朋子は思う。
だから深入りしそうになるのを自制したくて距離を置いていたのだけれど、避けすぎるの
は逆効果のようだった。朋子はそれを反省して、佳林のリクエストに応えようと努める。
「なんか話すことある?」
「……とも、ときどきひどいよね」
朋子の質問が気に入らないようで佳林は声を尖らせた。後ろの席からは笑い声が聞こえる。
それにかき消されないように、けれど佳林には届くように朋子は優しく言う。
「そんなことないよ?」
宥めるために頭を撫でてやる。すでに髪は乱れているから気にならないのか手を払われる
ことはなかった。ぽんぽんと二度叩いて手を離せば、佳林は複雑そうに口を開く。
「話すこと、なんでもあるじゃん」
そう言うわりには、まともな会話が始まりそうにもない。言葉を待たれているようだった
けれどそれには構わず、サイドの髪を耳にかけてやったり戻したり、意味もなく触れると
佳林はくすぐったそうに目を細めた。その瞳を見つめたままで、朋子は水を向けてやる。
「例えば?」
なんでもあると言いながら、佳林は悩んだように間を置く。きっと意地の悪い顔になって
いるのだろうなと思いつつ朋子は静かに返答を待つ。ようやくなにかを考えついたのか佳
林は顔を上げたけれど、続けられた声は歯切れが悪かった。
- 115 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:29
- 「猫の話とか」
「うちの子が一番カワイイ。終了」
「ひどっ」
そういう反応をするからからかいたくなる。怒られそうだからそれは黙っておいた。
確かに端から見れば、二人の仕事以外での共通点といえば猫好きなことくらいだろう。
朋子は他にも思いつくけれど、わざわざ佳林に言ってやるつもりもない。年齢に似合わず
しっかりしていても、そのとき褒めそやされるだけで得することなどなかった。そう伝え
たところで佳林が変わるとは思わない。
境遇は違えど自分と同じルートを辿ろうとしている佳林を見ていると不条理さを感じた。
だれも違う道を通れとは言わない。その方が周りは楽だから。手のかからない子は放って
おいても大丈夫だから。
予想がつくから、手を差し伸べたくなった。過去の自分に重ね合わせれば情が湧くのも仕
方ない。大人だねという言葉は子供に向けられるもので、それは自由を奪うためのものだ。
そっけなくしすぎると佳林は落ち込んでしまう。乱してしまった髪を撫でつけてやり、
ここらが引き際かなと思いつつも朋子は意地悪く言う。
「じゃあ、なんか面白い話してよ」
「……無理だと思ってるでしょ」
期待通りに反応してくれるから思わず笑みが漏れた。懐かれているのを自覚してから、
朋子は佳林で遊ぶのが愉しくてたまらない。趣味が悪いことはわかっている。
大事にしたいような嗜虐心を刺激されるような、相反する感情が湧いてそれを抑えきれな
いなんて、気持ちが悪い。そんなものを三つも年下の中学生に抱くなんて、間違っている。
佳林の話は長くてつまらない。朋子はそれを知っている。
仏頂面をした佳林がかわいくて、からかいたくなるのは相変わらずだ。
「無理だとか思ってないよ」
笑っていると肩をぶつけられる。朋子がやり返すと佳林ももたれかかってきて、それを
心地良いと思ってしまうのは、勘違いでしかない。
- 116 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:31
-
- 117 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:31
- バスの揺れで目が覚めた。
佳林の精一杯の面白い話を聞いているうちに寝てしまっていたようで、身体の節々が痛い。
いつの間にか朋子の膝には佳林の頭が預けられていた。のぞき込めば目は閉じられていて、
起こしてしまわないように、朋子は指先でそっと佳林の前髪を梳く。
そこに特別な意味はない。白い頬に触れようとして、それはやめた。
寝静まったバスの車内で朋子はため息をつく。行き場を失った指先を引っ込め、座席のリ
クライニングを倒しておけば良かったと思った。
照明は抑えられている。目を横に向ければ車窓にはカーテンが引かれていて、それを捲れ
ば外の景色を確かめられるのはわかっていた。手を伸ばせば身体が動いてしまうから、佳
林を起こしてしまわないために朋子はそれをしなかった。
今夜は月が昇っているのだろうか。一人で見ても意味がないから買い物に出たときには
確認しなかった。カーテンのせいで空は見えない。佳林は眠っているから月がどうあれ
朋子には関係がない。一緒に見ていてこそ、あの台詞には意味がある。
もう一度だけ指先で佳林の前髪に触れた。なにか夢でも見ているのか少しだけ身じろぎさ
れて、それでもくすぐったがる様子はない。
佳林はいつも明るく振る舞って悩みを表には出さない。なのにときどき不安げにするから
心配になった。子供らしく騒いでいるときも大人ぶって澄ましているときも、佳林がなに
を考えているのかを知りたいのに朋子は訊けないでいる。
なんでもできるねと佳林は朋子に言った。悪気なく投げられる台詞には慣れていたはずな
のに、佳林に言われると苛立ってしまうのだから朋子も大人げない。
生まれつきに万能で優等だと思われるのは似たり寄ったりのはずだし、朋子から見れば佳
林の方がよほど優れていた。それなのに佳林は劣等の意識が強すぎるから焦れったい。
器用な人間だと扱われるのは朋子も佳林も似ている。褒められるのが嬉しくて幼さを馬鹿
にしていたのに今となっては誰にも上手く甘えることができない。朋子はもう諦めていた。
佳林はなにも気付いていない。
そのまま大人になるのはかわいそうだから、朋子は佳林に優しくする。
それ以上の理由は、持ってはいけない。
- 118 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:32
-
◆ ◆
- 119 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:32
- シングルかツインか、ホテルの部屋割りはたいていこの二種類に分けられる。一人部屋は
快適だ。そして薄暗く静かな室内では、少しの音でもよく響く。
着信を告げる振動音はうるさいくらいで、朋子はベッドの中で顔をしかめた。まだ外が
暗いことはカーテンを開けなくてもわかったし、もう夜半も過ぎているのだから気付か
なかったとでも言えばすむだろう。
無視できなかったのは予感がしたからだ。だるさを感じつつ身体を起こして通話を受け
れば、聞き慣れた声が不安げに尋ねてくる。
「……起きてる?」
潜められた声は同室の誰かに気を遣っているのだろう。佳林から電話をかけてくるのは
めずらしく、しかも真夜中にというのは過去にも例がなかった。
「起きてたけど」
嘘ではない。あくびが出そうになるのを堪えるくらいには眠かったけれど、だんだんと目も
覚めてきた。佳林は電話の向こうで黙っている。朋子がなにも言わないでいると、恐る恐る
といった調子で佳林は言う。
「……今から行ってもいい?」
佳林と同室なのは紗友希だっただろうか。由加だったら断っていたかもしれない。
初めから答えはひとつなのに言い訳じみたことを考えて、朋子はベッドから抜け出す。
「迎え行くから、待ってて」
部屋から出るなと言いつけた。
過保護と誹られるのはこういうところで、しかし心配なのだから仕方ない。
- 120 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:32
- オートロックに閉め出されないよう鍵を持ち出させ、一人の部屋に迎え入れる。明るくす
れば目が冴えてしまいそうだったから枕元のライトだけを点け、朋子はベッドを手で示す。
「座ったら?」
用件はうっすらと予想がついた。佳林はおずおずと腰を落ち着け、立ったままの朋子を
見上げる。その表情は不安げで頼りなかった。
「私、良い子にしてた?」
眠れないなら一緒に寝てやると、条件付きで佳林に約束したことを朋子も忘れてはいない。
ふらふらせずに良い子にしていれば、と朋子は言ったけれど、おそらく佳林には意味が通
じていなかった。
「いや全然」
朋子は首を横に振る。どうせ転ぶなとか、そう解釈されているのだろうと思った。他の誰
かにふらふらするなと言えない朋子が悪いのはわかっている。そう望むことが許される関
係ではないから、朋子はそれ以上のことを佳林には言えなかった。
憂えるような顔をするから、つい優しくしてしまうのだ。
良い子にしていたとは思わないけれど朋子は助け船を出してやる。
「怖い夢でも見た?」
佳林がうなずくから、朋子は肩をすくめてみせた。選択肢はひとつしかないのに白々しい
やりとりをしなければ朋子は佳林を受け入れることができない。大義名分がなければ一緒
に眠ることなど許されない。
- 121 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:33
- 「しょうがないですね」
追い払うように手を振り、佳林をベッドの壁際に寄せてから朋子はマットレスに片膝をつく。
布団を掛けてやっていたら寝転んだ佳林に見上げられ、その視線を受け止めて朋子は言う。
「……こういうの、他の人にしたらダメだよ」
この欲の正体を朋子は知りたくなかった。寒くないようにと心配してシーツを整えてやる
のにも特別な理由はない。誰にだってそうする。けれど佳林が他の誰かにそうされるのは
我慢ならない。
「やっぱり、迷惑だよね」
「そういう」
意味じゃない、と続けかける。それならばどういう意味合いなのか、説明できそうにもな
かった。本当に煩わしければ通話を受けてすらいないのに、佳林はまたつまらないことを
気にしている。だから思わず語調が強くなってしまったけれど、不安にさせたいわけでは
なかったから朋子は意識して気を落ち着けた。
「……そういう心配はしなくていいの」
できるだけ柔らかい声で言えば佳林も少しは安心したようで、朋子もほっとする。乱れて
いない前髪を直してやるふりで間を置いた。
「私はダメだったらダメっていうから」
くすぐったそうにする佳林は幼い。頼ることを覚え始めて、その気持ちは朋子にしか向い
ていないようだった。それは佳林のためにならないとわかっているのに、誰かにこの立場
を譲る気にはなれない。
- 122 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:34
- ダメじゃないよ、と繰り返す。心配事があるなら伝えてくれるほうが余程良い。
「だからなんでも言いなさい」
いつも一人で考え込みすぎ、と額を指先で押してやる。そうすれば不満顔になって、子供
扱いを嫌がっているのが透けて見えた。それには気付かなかったふりをして、朋子は佳林
に念を押す。
「高木さんが起きるまでには戻らなきゃですよ」
「……わかってるもん」
拗ねたような表情がかわいかった。朋子がベッドに腰掛けて髪を撫でてやると、佳林は
つまらなそうに唇を尖らせ、不平を訴えるように言う。
「また、子供みたいに」
中学生と高校生において、三つの年の差は絶対的だ。数年が経てば気にならなくなるのか
もしれなかったけれど、今の時点では無視できないほどに違いがある。
月が綺麗だと言っておいて一緒のベッドに入りたがる佳林は無防備で無自覚で、
そこにつけ込みたくなるのを抑えるくらいには朋子は理知的で理性的だ。
「……大人扱いしてほしい?」
間違っている。同情が劣情に変わるのは許されない。笑ってごまかす余裕もないくらいで、
頭を撫でていた手を白い頬に移した。薄暗い中でうなずく佳林は朋子がなにを考えている
のかをきっと知らない。だから、子供扱いすることしかできなかった。
「三年経ったら考えてあげる」
最大限の譲歩をしたのに、長いよと佳林は非難するように言う。三年後に一緒にいられる
かもわからないから、約束はできない。大人扱いしてやろうという気持ちも変わってしまうかも
しれないから、誓えもしなかった。
- 123 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:36
- 「……寝ないの?」
いつまでもベッドに入る様子がない朋子を不思議に思ったのか、佳林が言う。ずっと起き
ているわけにもいかないのはわかっていた。そもそも佳林が電話をかけてこなければもう
眠っていたはずなのに、そう尋ねられる謂われはない。
「……寝るよ」
返事にはため息がまざった。
枕元の明かりはそのままに朋子もベッドにもぐりこむ。向かい合えば、少し距離を残して
いるせいで互いの顔がよく見えた。佳林に不満げに袖を引かれ、朋子は瞬きで返す。
「もっとこっち来てよ」
ベッドの縁から落ちるほど離れているわけではない。早く眠ろうとしているのに佳林が邪魔
ばかりしてくるから、そろそろ目を開けているのも億劫になってきていた。
「動くのめんどい」
あくびをかみ殺しながら返事をすると、佳林は頬を膨らませる。近くにいれば佳林のことを
考えも心配もしなくていいから安心できて、いつものように眠れない夜を過ごさずにすみそ
うだった。だからどうしようもなく眠気を覚えているのは本当だ。ふてくされる佳林を朋子が
構わずにいると、物足りなさそうな声が聞こえた。
「とも、今日は優しくない」
「……今から部屋戻る?」
優しくないと言われたから、意地悪に返してやる。葛藤しているのか佳林は黙りこんで
俯いてしまって、その顎を指で持ち上げてやれば拗ねたように目を逸らされた。
「……ヤダ。戻らない」
優しくないって言ったの嘘、と佳林はつぶやき、朋子の指を外させる。ようやく眠るかと
思ったらまた袖を引かれ、うんざりしながら視線を合わせた。
- 124 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:36
- 「……眠いんですけど」
話していたいとは思うけれど、明日も公演は控えている。ただでさえ寝不足気味なのだから
夜更かしが過ぎるのは避けたかった。佳林が真剣な表情をしているから、まぶたが落ちそう
になるのをなんとか堪えていたけれど、続けられた言葉のせいで起きている気もなくなってしまう。
「国語の宿題」
「寝ていい?」
かぶせ気味に言ってしまう。それはこの話題を意識しているからに他ならなかった。
佳林は数学と理科ばかり質問にくる。それは朋子の得意科目だからで、それ以外の意味は
ないはずだった。国語の宿題を訊かれたことは一度しかなかったから朋子も忘れてはいな
いし、夜の公園で月が綺麗だと言われたことも覚えている。
見えないものを綺麗だと言う佳林の強引さを思い出した。ここで聞いたら後戻りできなく
なりそうで怖かった。佳林の言葉は遠回りで朋子に逃げ道を残していたけれど、それがい
つまで続くかはわからない。
「まだ寝たらダメ」
ぐいぐい袖を引く佳林は、もはやムキになっている。話の続きは聞きたくなかったけれど
朋子は渋々と折れてやった。どう答えを出したのかを知りたくて尋ねたこともあって、
そのときの佳林は頑なに教えてくれなかった。
なにか心境の変化があったのかもしれない。朋子は気軽に聞いてはいけないことだと思う
ようになっていた。けれど耳をふさぐわけにもいかないから、せめてそっけなく突き放す。
「なに、答え? 教えてくれるの?」
佳林はうなずいて、真っ直ぐな視線を朋子に向ける。視力が悪いせいでよく見えやしない
のに緊張した空気は伝わってきて、もう引き返せないところにまで来てしまったと思った。
宿題の答えなんて今までにも何度も聞いてきたのに、やけに鼓動が速まる。
なにを言われても受け流すつもりでいたけれど、佳林なりの解答は知りたかった。
二人きりの静かな部屋には物音ひとつない。
佳林の声が、張り詰めた空気をとかすように朋子に届く。
- 125 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:37
- 「……もっと、とものこと知りたい」
その感情には覚えがある。単純な言葉はやけに美しく響いて耳に残る。
名前を呼ばれてしまってはどうしようもなかった。
けれど佳林の解答は普遍的に使えるものではない。まさかこれで提出したわけではないだ
ろうから、朋子は冷静なふりをして気のない声で言い返した。
「それ、私にしか使えないじゃん」
「……ともだけだから、間違ってない」
朋子の反応が面白くなかったのか、佳林は拗ねたように顔を逸らす。それが愉快でかわい
くて、笑いそうになるのを抑えなければいけなかった。頬に手を添えてこちらを向かせる
と途端に緊張した面持ちになって、それがやはりかわいいから朋子は意地悪く言ってやる。
「知りたいんだ?」
わずかに顔を強ばらせたままで佳林はうなずいた。知りたいから視線を向けて追いかけて、
この一言で今までの行動にもすべて説明がつく。支配欲に近いその感情を朋子も佳林に対
して持っていた。それが美しいものではないことはわかっている。
だからあやふやなままで置いておきたかったのに、佳林は易々とふたを開ける。流してし
まおうにも黙っていては許してくれそうになかったから、朋子は真面目な表情をつくって
佳林の目をのぞき込んだ。
「……今、なに考えてるか教えてあげようか」
恐れているような期待に満ちているような、佳林が複雑そうな顔をするからついに笑いを
漏らしてしまう。大人扱いをしたくなったけれど、無警戒な子供につけいるのは褒められ
たことではないから朋子はまだ教えない。
「眠いなあって思ってるよ」
ちょっと優しくすれば嬉しそうで、からかえば不満そうで、いろいろな表情を知っていく
のが楽しかった。けれどまだそう思っていることは教えないつもりでいる。
- 126 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:39
- 「……そんなのばっかり」
佳林はますます拗ねて身体を縮こまらせた。その表情が悲しそうにすら見えて、さすがに
いじめすぎたかと申し訳なくなった。だから今度は朋子から佳林の袖を引いてやる。
「嘘だって。おいで」
意固地になったのか佳林が動かないから、仕方なく朋子から距離を詰めた。嫌がる素振り
をされても気にせず身体を寄せてやれば不満そうに押し返してきて、その弱い力に笑って
しまう。近づくほどあたたかくて心地良くて、子供は体温が高いから尚更に良かった。
ただの同情だけで優しくして心配する。それが嘘なのはわかっている。
佳林を特別に気にかけるための言い訳がほしかっただけで、すべては後付けの理由だ。
初めからずっと知りたかった。
それこそ視線が合わなかった頃から朋子はそう思っていて、佳林がそれに気付いていなさ
そうなのもわかっていた。それでも良かったのに、懐いてくるようになったから戸惑った。
この感情をどう扱ったらいいのか朋子はわからない。距離を縮めるタイミングもつかめず、
ただ気にかけて優しくして心配することしかできないのがもどかしかった。
少しだけ身を引いて薄暗い中で佳林の顔をのぞき込む。
視線を外してくるのがかわいいから、つい意地の悪い性格が出てしまう。
柔らかそうな頬に人差し指を伸ばして触れれば、くすぐったそうに身をよじられた。
指をつかんで離そうとしてくるから仕方なく引っ込めてやると、佳林は息を漏らすように笑う。
- 127 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:41
- それを不満に思って朋子が顔をしかめると、今度は佳林が指を伸ばしてきた。仕返しとばかりに
頬をなぞられるのがこそばゆかったから、その手を捕まえて逃がさないように指を絡めてやる。
振りほどかれるかと思ったらおとなしくされるがままで、今夜の佳林はやけに素直だった。
「……いつもは嫌がるくせに」
そう言った途端に離そうとするから、朋子は愉しくなって笑いながら手に力を込める。
寒くないように繋いだ手は布団の中に仕舞い込んで、佳林が抵抗を諦めるのを待った。
にやついてしまうのを抑えられないでいたら目を逸らされ、朋子は小さく名前を呼ぶ。
拗ねたようにしながら身体を寄せてくるのが、子供みたいでかわいかった。
だから知りたいと伝えるにはまだ早い。今は近くにいてくれればそれでよかった。
大人よりも子供の方があたたかくて柔らかいから、それはそれで悪くない。
もっと佳林のことを知りたいと思う。
それを言わないかわりに手を繋いでいることを、朋子はまだ教えてやらない。
- 128 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:41
-
- 129 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:42
-
- 130 名前:愛について語るときに我々の語ること 投稿日:2014/02/12(水) 21:42
-
- 131 名前:名無飼育さん 投稿日:2014/02/12(水) 21:43
- レスありがとうございます。
>>97
面白いと言っていただけて嬉しい限りです。
今回は登場しませんでしたが、だーちゃんのブログに上がっていた金澤さんとの
ツーショット写真がとても良いので、別の機会があったら書きたいですね。だーとも。
>>98
面白いと言っていただけて、嬉しい限りです。とても嬉しい限りです。いただいた
レスの一行目の文章で、もやもや考えていたことをまとめてもらえた気がしました。
うまくでてると思っていただけたのなら、こんなに長々と書いたことも報われます。
>>99
名無しにするとか自意識過剰でかっこわるい。ので、貼るつもりなかったんですけど。
夢板 君曜日 ttp://m-seek.net/test/read.cgi/dream/1197802255/
>>100
面白いと言っていただけて嬉しい限りです。嬉しい限りです。ご期待に添えているかは
かなり不安ですが読んでいただけたでしょうか。楽しんでもらえてたら嬉しいです。
メンバーみんな全部ひっくるめてラブ!
>>101
幸せに思っていただけるなら嬉しい限りです。嬉しい限りです。金澤さんが宮本さんに敬語
を使っていたのが遠い過去のことのようで、数年後に読んだら違和感がすごいやばそう。
面白い、という言葉はめっっっちゃ嬉しいです。本当に嬉しすぎてすごいヤバイんです。
- 132 名前:名無飼育さん 投稿日:2014/02/12(水) 21:45
- 蛇足。
このお話は「ナルチカ2013秋 Berryz工房×Juice=Juice」が行われていた頃のイメージです。
時期的には、Juice=Juiceの結成から半年ちょっと、メジャーデビュー直後くらいでしょうか。
あと、嬉しい限りですを二回重ねるのは植村さんがブログでやってたんです。やってたんです。
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2014/02/12(水) 21:45
- このスレは今回で更新終了です。
読んでくださって本当にありがとうございました。
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2014/02/12(水) 21:46
-
- 135 名前:名無飼育さん 投稿日:2014/02/12(水) 21:46
-
- 136 名前:名無飼育さん 投稿日:2014/02/12(水) 21:46
-
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2014/02/14(金) 08:53
- 余韻に浸りたくて、ここに感想を書き込むのをためらってしまいますが…すごく好きです。
いつまでも読んでいたかった。
金澤さんが何を思ってたのか、少しずつ(でも全てではなく)見えていくのが、
佳林ちゃんの心もうまく焦らされながら明らかになっていったのがとても心地よかったです。
- 138 名前:名無飼育さん 投稿日:2014/02/14(金) 16:59
- そうきたか!と唸ることしきりでした。ここのお話が大好きでした。
また別のどこかで、お目に掛かれるのを待ってます
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2014/02/14(金) 21:51
- 金澤さんの視線を通して伝わる佳林ちゃんのかわいさが胸にグっときました。
経歴がばらばらのJuice=Juiceのみんなの距離感が文章から伝わってきて
読んでる間中、読み終えてから思い出してもジーンとしたりくすぐったかったりとても楽しかったです。
- 140 名前:名無飼育さん 投稿日:2014/02/16(日) 09:19
- 本当にいいものを読ませていただきました。
益々Juice=Juiceが好きになりました。
終わってしまったのが残念です。
ありがとうございました。
- 141 名前:ななし 投稿日:2014/05/04(日) 17:27
- 一夜漬けで全文読ませていただきました。
とても良いお話でした。
登場人物の複雑な感情を丁寧に表現されていて、ぐっとしました!
終わってしまったのは寂しいですが、ありがとうございました。
ともかりんがどんどん増えていくことを願っています。
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2015/05/03(日) 00:59
- 更新お疲れ様です
ポンコツ構成員や謎のれいれいルー大柴口調に笑いましたが続きを読みたくなります
ぜひ続編を…
- 143 名前:名無飼育さん 投稿日:2015/08/06(木) 22:27
- 硬質な文体に切ない物語がともかりんすぎて最高でした!
今までこの作品に気づかなかった自分を殴ってやりたいです。
いつかどこかでまたこの2人に会えることを祈ってます。
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