人魚は泡になった
1 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/19(日) 04:17
初めてお目にかかります、ナツメと申します。
マイペースにれなえりを書かせていただきます。
時間設定は高校生くらいな感じです。
がーっと勢いで書いて詰まってまたがーっとの繰り返しになりそうなんですが、ペース配分に気を使って書いて行こうかと思います。笑
2 名前:& ◆/6L2D1MaKE 投稿日:2013/05/19(日) 04:18



          ◇


3 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/19(日) 04:20

こんな変な時期に転校してくるなんて、変だなぁと心の隅っこのほうで思った。

4 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/05/19(日) 04:30

「人魚姫って、好き?」
東京から今日転校してきた、大人しそうなその子は、会って早々そう聞いてきた。
突然聞かれたもんだから戸惑って、え、え、と連呼してしまう。
亀井さん、と言ったか、亀井さんは私の答えなんかもとから求めていなかったみたいな表情で、「絵里はきらい」と言った。

「なんで?」
れなは別に嫌いじゃないよ、とか、れなは好き、とか言おうかと思ったけれど、そんなに人魚と接点のあった人生ではなかったから、とりあえず聞くことしかできない。
「人魚姫って、最後泡になるんだよ?可哀想じゃん」
理由はすごく単純だった。小学生でも言えるような感想だ。
そんなことか、とため息でもつきたくなるくらいに、さっきの自分のなかで張りつめていたなにかがほどけるのがわかった。

「まあ、そう言われたらそうとやね」
正直どうでもよかったのもあるけれど、適当な返事で話を終わらせた。
頬杖をついて窓の外を眺める。いつもの風景となんら変わっていない。
窓の向こうの少し遠くには海が見える。その海を、亀井さんもじっと見ていた。
5 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/19(日) 04:37
「なあ」
今度はれなが聞く番。聞きたいことなんて、「なんで引っ越してきたの」くらいしかなかったけれど、亀井さんと話していたいと思ったからだ。

「亀井さん、はなんでわざわざ博多まで来たと?」
「絵里でいいよ、れいなちゃんだよね?」
「え、あ、うん、れいな、でよかよ」
「うん、れーな、れーな、れーな。あははは」

絵里は何度か、舌足らずな発音でれなの名前を呼んだ。改めて何度も言われると照れ臭い。
「あ、そうだった、そう、あー、絵里はお父さんの転勤でここに来たの、海があるって聞いて嬉しかった」
東京には海がないのか、地理が苦手だからよくわからない。けれど、海が好きなのかな、とぼんやり思う。
そして会話が途切れると、また絵里は窓の外のきらきらした海を、じっと見つめていた。
6 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/19(日) 04:45

授業中にも、ふと絵里の方を見ると必ず海を見ているものだから、れなは帰るとき、柄にもない行動をすることになる。


教室にはもうほとんど人は残っていない。数人が帰ろうとしているだけで、いつもの騒がしさもない。
「絵里」
鞄をとって肩にかけた黒髪の背中に声をかける。れなが見ている限りでは、まだ絵里はれな以外の人と話していないようで、友達は作らないのだろうかと不安になった。
れなの声に引っ張られるように振り返ってきょとんとしている絵里。れなは窓の外を指差した。
「海、行きたいっちゃろ?」
柄にもない行動、とはこのことだ。れなは友達と騒ぎながらプリクラでも撮ってマックで長時間だらだらしている方が合うはずなのに、こんなにおとなしい子と、しかも海なんぞに誘っているのだ。あしたは大雪かな、と晴れすぎたほどにまぶしい青空をちらりと見やった。

絵里はにっこり笑って頷いた。
駆け寄ってきた絵里の瞳には、少しだけ海が見えた。
7 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/19(日) 04:54
海辺はやっぱり涼しかった。
26℃や27℃をうろついている最近の暑さにやられていた頭が少しずつじわりじわりと冷やされていく感じがする。
裸足で砂浜を歩くと、ずも、ずも、と雪にも似た感触。
絵里は、と絵里を探すと、波打ち際でぱしゃぱしゃと水を踏んでいた。

「いやー、生き返るねこの冷たさ」
「いや死んでないっちゃろ絵里」
「比喩ですよ比喩、わかる?」
「わかるわ!」

れなは砂でお城を作りながら何気なく聞いた。
「絵里、友達とか作らんと?」
お城の屋根を整えながら絵里の背中に小さく叫ぶ。
絵里は海の向こう側を見つめていた。
「さみしくないよ、れーながいるから」
絵里は振り返って、れーなが友達になってくれるでしょ?と続けた。そしてまたにっこり笑った。絵里の大きな瞳にするりと吸い込まれてしまいそうで視線をそらしてしまう。

8 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/19(日) 04:59
「絵里、人魚みたいな生き方したくないなぁ」
テトラポットに座って足を乾かしながら、絵里がぼんやり呟いた。理由は聞かなくてもきっとこのまましゃべるだろうから聞かない。
「絵里は、好きな人と自分の体で悩んで結局泡になるなんてやだ、両方ほしいよ」
夕陽が絵里の頬を微かに照らしている。いまにも消えそうな瞳と声。
「そんなん、どっちか選ばんといけんて言われたら選ばんといけんとやって」
自分で言っておいて、ひどく冷たい考え方だな、と思った。絵里は腑に落ちない顔で、海の向こう側をじっと見つめていた。
9 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/19(日) 05:00



          ◇


10 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/19(日) 05:02
今回の更新はここまでです。
今回思いっきりageちゃったんで説得力がないのですが、この次からsage でお願いします。

初めてだからと言い逃れはしたくないですが、やっぱり初めてなので最初の方は甘く見てやってください…(笑)
では失礼します。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/05/26(日) 15:13
れなえりの学園ものいいですね!
期待してますー
12 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:13
こんばんは。前の更新から8日空いてしまいました。なんとなく不覚。
こんなものなのでしょうか?とりあえずそういうことにしておきます(笑)

さて、初めてレスがついて浮かれているナツメです。
今回の更新の後にお返事したいと思います。

今回の更新は少し長い、かな?
気長にお付き合いください。
では、今回の更新です。
13 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:13



          ◇


14 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:14

初めての席替えがあった。

もうその時には絵里とすっかり仲良しになっていて、一緒に帰るのは二人の日課だった。
けれど絵里は、やっぱりれな以外の人の前では大人しいいじめられっ子みたいな雰囲気を醸し出す。
どっちが、ほんとうの絵里なんだろう。席替えのくじを引きながら、頭のどこかでそんなことを考えていた。

幸か不幸か、れなと絵里は隣になった。
一番後ろの窓際。最高の席だ。誰もが学生の時に求めるもの第7位ぐらいに上がりそうなこの場所。
海が良く見える。授業中に磯の香りがするのは涼しげで気持ちいいけど、お弁当を食べる時磯の香りがしたら毎日のり弁を食べている気分になりそうだ。

15 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:15

授業中、絵里がずっとれなの方を見てきた。
そんなに見つめられたられいなちゃん恥ずかしい、なんて心の中で呟く。
けれど、れなが真実に気付いたのは、3時限目のとき。
16 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:16
「なあ、れなそんなに見つめられたら恥ずかしいっちゃけど」
小さな声で絵里に言うと、絵里は「はぁ?」と言わんばかりの瞳を向けてくる。
今までのあの憂いのある瞳はどこへ。

「はぁ?なんで絵里がれーななんか見るの」
ノートを取る手を止めた絵里が、れなをじぃっと怪訝そうに見つめる。
そしてれなは会話をやめ、絵里の目線を思い出す。
そんな目線の先にあるのは、この私田中れいな。のはずだ。
他に何かある?自分に聞く。れなは絵里の目線を真似してみる。

視線は窓の向こうへと向けられる。窓の向こうにあるもの。
17 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:17

「絵里…海見とったと?」
ゆっくり振り返ると、今にも笑いそうな絵里。
「れ、れーな、も、もしかして、絵里が、れーなのこと、み、見てるって思ってた、の」
言葉の節々に笑いが見え隠れする。
爆笑しそうな絵里に、あわててれなが大きな声で反論。

「別に、そんなこと思ってなかと!」

思わず立ち上がる。自分でも顔が熱くなっていくのが解った。
絵里は笑いそうだった表情から変わり、ぽかんと口を開けてれいなを見ていた。

そしてこめかみに走る痛み。
「痛っ…」
痛むこめかみを押さえてふと我に返ると、クラス皆がれなの方を向いていた。
机に目を向けると転がっているチョーク。
「授業中なんですけど」
クスクス笑っている先生が目に映る。
あぁ、今の授業は現国。チョークを飛ばすことで有名な藤本先生だ。タイミングの悪さったらない。
「あ、すいません」
へこへことお辞儀をしながら席に座ると、クラスメイトも先生も、もちろん絵里もくすくす笑っている。

へにゃへにゃと机にすがると、もう一発チョークが飛んできた。

「背骨入れろ」

つむじを押さえるれなを見て、絵里はやっぱり笑っていた。

18 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:18



          ◇



19 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:18

一緒に帰ろう、と、今日は絵里から誘いがあった。

一週間くらい人魚の話はしていなかったのだけれど、今日は久しぶりに人魚の話をした。
「ねえ、れーながもし人魚だったら、王子様殺して生きていく?それとも殺せなくて泡になる?」
絵里がれなの方は見ずに呟いた。

「……わからん、けど、好きな人殺したくはない、けど、愛してもらえんなら、あー、えー、わからん……」
「あはは、答え出てないよ」
絵里が笑う。れな以外には見せない笑顔だ。

「絵里だったらどうする?」
絵里は深く考え込んだ。3分くらい考えて、「わからん」とれなの真似をする。
「なんそれ」とれなが笑うと、絵里はうへへ、と独特の笑い方で笑った。

20 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:20

「話変わるっちゃけど、なんで絵里はれな以外の人と話さんと?」

絵里はまた「わからん」とれなのまねをして、
「れーな以外の人とは、なんか話せないの、怖くて」と苦笑いを顔に貼り付けた。

しかしほんとうに、絵里がれな以外の人と話しているのを見たことが無い。
れなが無いだけなのかもしれないけど、授業中以外に声を出すことが滅多にない気がする。

でも、それが少し嬉しい自分も居る。
これが、独占欲、ってやつなのだろうか。
海沿いを歩きながら海風に吹かれて、れなはぼんやりとそんな事を考えていた。

21 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:20




これじゃあ、まるで―――――。




22 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:21

その先は、とてもじゃないけど考えられなかった。

23 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:21



          ◇



24 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:22

絵里があまりに人魚の話をしてくるもんだから、れなはらしくもなく図書館に足を運んだ。

「人魚姫ってどこにありますか」
なんて受付の綺麗なお姉さんに聞いたら、中学生向けの人魚姫の本を持ってきた。
高校生向けのありますか、なんて聞けなかったから、仕方なく中学生向けのやつを借りた。

土曜日の昼間からなにをしているんだろう。電車に揺られながら、鞄の中で眠っている、『中学生向けの』人魚姫をちらりと見やった。

表紙の可愛らしい人魚と目が合って、小さくため息をついて鞄を抱えた。
25 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:23

家に帰ってから真っ先に中学生向けのそれを読んだ。
声を失って、王子様には愛してもらえず、人間にもなれず、人魚にも戻れず、残酷で切ない話だと思った。

「ていうかまず声失いたくないっちゃん」

れならしい、小学生みたいな感想だ。

その人魚姫を読み終えた5時ごろ、絵里から電話が入った。
26 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:27

「もしもし?れーな?今日人魚姫借りたでしょ」

絵里の声は、「ぜんぶお見通しだぞ」と言わんばかりの声だった。
「借りた、けどどうかしたと?てかなんで知っとーと」
ちょうど読み終えたばかりの人魚姫のページをぱらぱら開きながら聞いた。
携帯の向こうで絵里がふふんと鼻を鳴らした。

「カオリさんが言ってたの」
「カオリさん?」

誰だよ、と心でつっこみを入れると、絵里は「しかも、借りたの中学生向けなんだって?」と笑ってくる。
携帯越しでも、向こうで絵里がくすくす笑っているのが想像できた。

ちくしょう明後日覚えとけ、と少し乱暴に人魚姫を閉じた。

「図書館の、あのー、背が高くて髪が長くてくるくるしてて、目が大きくてー、えっとー、あとはー」
絵里の出すヒントを元に思い出す。
「あ」
れなは無意識に声が出た。

受付のあの綺麗な人か。

目の前の本をやわらかい笑顔ですすめてきた、瞳の中に宇宙がありそうなあの美人。
27 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:28

「絵里、なん?あの人と知り合い?」
「カオリさん、うちに住んでるんだよ。お母さんの妹」
いいだかおりさん、と絵里が教えてくれた。

絵里の話によれば、いつものごとく絵里がカオリさんとやらに人魚の話をすると、
「そういえば今日人魚姫借りてった子いたなぁ、小さくて、かわいいのにヤンキーみたいな中学生ぐらいの子」
とカオリさんが漏らしたらしい。小さくてかわいいヤンキーといえばれなが思い浮かんだようで、クラス写真のれなを見せたところ、
「そうそうこの子、って、絵里ちゃんと同級生なの?」
とつながったようだ。絵里がちゃんと高校生と教えてあげたらしく、そこは褒めてあげたい。

28 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:29

「カオリさんめっちゃ笑ってた、不機嫌そうだったのはそのせいだったんだねって」

小馬鹿にされたようで癪に障る。けれど、絵里ならなんとなく許せた。
「絵里」
くすくす笑っていた絵里は笑うのをやめて、「ん?」と返す。
「あした空いとる?」
絵里は「え、うん」とわけのわかっていなさそうな声を返してきた。
れなが誘うのを恥ずかしがって言葉に困っていると、絵里はなにかに気付いて、
「そうかそうか、田中さんは絵里とデートがしたいんだね、しょーがないなあ、お姉さんがいっしょに遊んであげよう」
と受話器越しにしたり顔。見えたわけでもないけど、すごーく、すごーく容易に想像できた。

「……10時に、海のいつものとこで待っとる」

いつものとこ、というのは、絵里とれなが学校帰りに遊びに海へ行くと、いつも腰かけるところだ。テトラポットが積まれているところで、いつもそこに座ってアイスでも食べながら駄弁る。
絵里はその「いつものとこ」をすぐに理解し、「うん、わかった」と電話を切った。

29 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:31

「いつものとこ」という、ふたりだけにしか通じない響きに、少しだけ、ほんの少しだけ口元が綻びかけた。

絵里はどんな服を着てくるだろう。
お姫様みたいなフリフリ?れなみたいに真っ黒?
女の子らしいナチュラル?まさかジャージ?
はたまた全身タイツ?まさか制服?

いろんな絵里を想像してみる。どれも似合う気がする。
全身タイツも似合っちゃうあたりが絵里らしいといえば絵里らしい。

「待ったー?」なんて言いながら歩いてくるオレンジ色の全身タイツの絵里を想像したら、妙にリアルで頭を振った。

れなは明日着て行く服をどうしようどうしようと悩み、お気に入りの服総選挙なんて開催してみたりして、クローゼットから服を引っ張り出してみたりしながら、結局はいつもの服になった。
30 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:31



          ◇


31 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:32

絵里は待ち合わせの時刻から15分遅れて来た。

「絵里、何かあったと?事故とか?」
ちょっと心配していたれなが絵里にそう聞くと、絵里はなんでもない顔で、
「え?ううん別に?」と言ってきょとんとした顔を向けた。

なるほど、たちの悪い遅刻魔ってやつですか。

待ち合わせ10分前に来た自分が馬鹿らしかった。

32 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:33

絵里が着てきたのは、気の抜けるようなゆるい猫の絵が書かれたTシャツに、薄い生地のオレンジのチェックの上着に、短パン。
コンビニ行ってきますくらいの服装だ。まあ、れなもそうなんだけど。

「れいな般若みたいな私服だね」
「よく言われる」
「褒めてないけどね」
「よく言われる」

じゃあ行こっか、と絵里が歩き出した。
どこに向かっているのか行くと、わかんないと絵里は笑った。

適当にふらふら歩いていると、クレープのお店が見えてきて、絵里はれなを引っ張ってお店に入った。
掴まれた手首が、じわりと熱を持つのがわかる。
こんなことでさえ意識するなんて、らしくない。
クレープの甘い匂いに、気恥ずかしい気持ちをくるめて投げ捨てた。
33 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:38

れなは生クリームとチョコレートのクレープを頼んだ。
絵里は生クリームとイチゴとチョコレートという贅沢なものにしたくせに、
「ねえお姉さんいっぱい、いっぱいがいい」なんて小学生みたいに言う。

お姉さんは爆笑しながら溢れそうなほどクリームとチョコレートをかけてくれた。
イチゴは個数が決まっているらしい。絵里は嬉しそうにクレープをほおばった。

頬についているクリームを指摘するべきか、おしゃれにさっと指で取るべきか迷った。
どぎまぎしながらクリームを飲み込んでいると、お姉さんが「キミついてる」と爆笑した。
ありがたいような悔しいような気持ちで、残りのひとかけを口に押し込んだ。

クレープ屋を出るとすぐに、絵里はプリクラを撮りに行こうと、こんどはゲーセンへれなを引っ張った。

何の音だか解らないくらい騒がしいから、会話をするのにも一苦労だった。
絵里が満足するまで何度も何度もプリクラを撮って、光で目が痛くなったあたりでゲーセンを出た。
プリクラを満足そうに眺める絵里は何度も人にぶつかりかける。
絵里の手にしっかり握られたプリクラには、四角く区切られた空間に、れなと絵里。
にやけそうになるのを堪えて、「絵里ぶつかる」と絵里の手を引いた。

そんなことを繰り返し、気付けば周りはオレンジ色に染まっていた。ぐるりと街を一周して、いつもの砂浜に戻ってきた。
34 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:39

砂を踏むたび、ずも、ずも、と砂に足が埋もれてくすぐったい。

「ねえ、れーな見て、超きれー」

夕陽を指さして絵里が振り向いた。逆光でオレンジ色に染まる頬。
れなが夕陽に目をやると、絵里も夕陽に向き直った。ほんとにきれい、と時折絵里が呟いて、れながうんとだけ答える。
そんな些細な時間なのだけれど、あったかくて、落ちついて、すこしドキドキする。

こういうのって、もしかして。頭の中で出来上がりかけたパズルをひっくり返してばらばらにした。

パズルが完成して出来上がる絵がこわくて、知りたくなくて。
けれど、そのパズルの完成図はもう頭の中でだいたい解ってしまっている。

馬鹿らしい葛藤だった。自分でも解る。
パズルの残り一つのピースを宝箱にしっかりしまうみたいにして、れなはきつく目をつむった。

35 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:41

夕陽に向かって手を伸ばす絵里に手を伸ばした。
そして絵里が振り返ったので、はじかれるように手をひっこめる。

「帰ろっか」

そう言って絵里は手のひらを差し出してきた。
どうすればいいのか迷って固まっていると、「もー、ばかぁ」とけたけた笑いながられなの手を取って歩き始める絵里。

手のひらから伝わる温度が、やけに冷たいと感じたのは、海の冷たい風に吹かれすぎたせいなのか、れなが熱くなっているからなのか。

答えはとっくに解っているけど、解らないふりをした。
海の香りと絵里の香りがして、くすぐったかった。

36 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:43

絵里が少しだけ振り向いて海を見た。
夕陽と海の境界線をあの黒い瞳でじっと見て、それからふわりと笑ってれなを見つめる。

大きい瞳とばちっと目が合って、引きこまれそうになって目をそらしてしまった。

絵里が寂しそうな顔をしているのが見なくても解ったから、代わりに少しだけ強く手を握ったら、
絵里のひんやりした手が、同じように少しだけ強く握った。


37 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:43



          ◇



38 名前:ナツメ 投稿日:2013/05/27(月) 21:45
これで今回の更新は終わりです。
では初めてついたレスにどきどきしながら返信をば。(ひとつですが。笑)

>>11
ありがとうございます!
れなえりといえば学園ものというイメージがなんとなくあって!(笑)
というか、初レスなのですごく浮かれています。宜しくお願い致します。

ふう、何と返そうかにやにやしながら考えていました。笑
というかえりりんとクレープといえば、アレですよね。笑
39 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/06/01(土) 21:03
いい雰囲気ですねぇ
40 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 16:48
お久しぶりです、ナツメです。
というほどでもないかな?w

さてさて、またひとつレスがついて浮かれ野郎になっております。
こちらも、更新後にお返事をば。

今回の更新ですが、断言します。


長いです。
では、今回の更新です。
41 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 16:49



         ◇



42 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 16:50

今年は、もう梅雨入りした。

例年よりかなり早いですねえ、とテレビの中でお姉さんが話していたのを、
れなはトーストをかじりながら聞いていた。

「れいな、傘忘れんようにね」

ママがキッチンから声をかけてきて、れなはがくんと頷いた。
トーストを飲み込んで立ち上がる。
自分の部屋に入ると、無音の部屋に雨の音が鮮明に響いた。
これは酷そうだなあ、とブラウスのボタンを留めながらカーテンの向こうをぼんやり見つめた。

43 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 16:50

制服に着替えると、やっぱり少し気が変わる。
なんというか、背筋が伸びるというか。
全身鏡の前で姿勢を正してリボンを締め、笑う練習なんてしちゃってみる。
恥ずかしくなって鞄を掴み、一回に降りるとママがまた傘のことを言ってきて、
鞄に折りたたみ傘を入れたのも忘れて玄関先の傘を持って出てしまった。

44 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 16:51

どどどどど、と銃声にも似た雨の音が傘に打ちつけられて、
一日中やみそうにないなあ、と灰色の空をちらりと見上げた。
せっかく整えてきた髪がうねるのを、ふてくされながらなんども引っ張って直した。
けれど、そんな努力もむなしく、好き勝手な方向にうねる髪。
朝からテンションが下がる。だから雨は嫌いだ。

45 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 16:52

学校に着いて門をくぐると、絵里とはち合わせた。
「おはよ、れーな」
黒目がちな瞳をれなに向けて、絵里はにっこり笑った。
オレンジ色の傘を大事そうに握りしめる細い指には、雨が少しだけついていた。
おはよう、と挨拶を返して、どちらからともなく並んで歩いた。

靴箱に着いて傘を閉じ、ぱたぱたと震わせる。雨粒が足に当たって冷たい。
上靴に履き替えるときに、靴下が濡れていることにようやく気付いて、
濡れて張りつく靴下と足を滑り込ませた。
濡れた靴下で履いた靴で歩くと、泥団子を飲み込んだような気持ち悪さが付きまとった。

46 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 16:52



          ◇



47 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 16:54

窓から見える世界は、灰色だった。

分厚い雲が立ち込め、太陽をすっぽり隠してしまっている。
青い空に青い海、ほのかな磯の香りと、微かに聞こえる波が打ちつける音なんてものは、
今日のこの四角く区切られた世界の向こうには存在しない。
雲が覆った真っ暗な空、暴れまわる海に荒れ狂う波の音には、少し不安になった。


しかも、今日の絵里はいつも以上に、心ここにあらず、だった。

48 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 16:55

「れーな、今日海行きたい」

授業中にこっそり話しかけてきた絵里の顔は、焦ったような表情だった。
それに、れななんて見ずに膿だけを見つめている。
大好きな海が荒れていると、やっぱり不安になるのだろうか。

「いや、今日この天気やけん無理とよ」
とれなが言うと、絵里は唇を尖らせ、海の無い一日なんて、と呟いて頬づえをついた。
シャーペンを握った絵里は、ノートの隅に怪物を描き始めた。
拗ねてしまった絵里の機嫌をどうにかとろうと、なんのアニメの怪物なのかと聞いてみた。
れなの言葉に絵里は眉間にしわをよせて、「ネコなんですけど」と言ったきり、顔をそらしてれなのほうを見なかった。

いや、こればっかりは、れなが悪いです。

49 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 16:57



          ◇


50 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 16:59

絵里はお弁当を食べる時も、ちっともれなの方は向かず、れなの肩の向こうの海だけを見つめていた。
そしてときどき卵焼きを口に放り込んでいる。
れながじっと絵里を見るからはたと目が合って、れなが何か言おうとする前に、
絵里はれなのお弁当の卵焼きを横取りして頬張ってしまった。

「ちょ、それれなの!」
れながきゃいきゃい反抗しても、絵里はふいとよそを向いたままでお弁当をしまい、
時々酷く咳込んだ。体調でも崩したのか、どこか顔も赤い気がした。

51 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 16:59



          ◇


52 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:01

絵里は午後の授業が始まる少し前に、倒れてしまった。

移動教室だからと絵里を誘おうとしたけど、絵里がふいと顔をそらしたから、
れなも少しふて腐れてすたすた教室を出ようとした。
そのとき、金属がぶつかる派手な音がして、引っ張られるようにれなは振り向いた。

ざわつく教室のたくさんの人たちが作る輪の真ん中で、
絵里は倒れて苦しそうに呼吸をしていた。

生徒の誰かが先生を呼んで、保健室に絵里が運ばれていくのをれなは呆然と見ていた。
53 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:02

授業が終わってすぐ、れなは保健室へと走っていた。
乱暴に扉を開けると、藤本先生、絵里、保険医の先生で楽しそうに談笑していて、
れなは少し腹が立った。心配させやがって、このやろう。
絵里までぱたぱた歩いた。

「あ、れーな」
絵里は口角の上がった口でふにゃりと笑って、
「れーなコワイ顔になってる、笑え笑え」とれなの頬をゆるく引っ張った。
「もう大丈夫と?」
話しにくい口できくと、
「もう大丈夫と」
とれなの真似をしてそう答え、うへへ、と笑った絵里。

「亀ちゃん貧血持ちなんだって、田中がちゃんと管理してあげないと」
藤本先生がにやにや笑った。
「なんで私が?」と反抗しようとしたけど、絵里がふてくされかねないので言わない。
藤本先生が絵里の手とれなの手をとって握手させ、「なかなおり」と笑った。
絵里はぴいぴい怒っているけど、そんなのはスルー。

54 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:02

「教室帰らんと、授業始まるけん」
繋いだままの手を引き、絵里を立ち上がらせる。
よろけながらも絵里は立ち上がり、にっと笑った。

55 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:04

保健室を出て手を離そうとすると、絵里がきゅっと手を握ったので離せなかった。
「こうしてちゃ、だめ?」
答えなんてわかってるけど、みたいな笑顔を向けてくる絵里に、少しぶっきらぼうに「好きにすればよかと」と顔をそらす。
絵里は嬉しそうに笑って「田中さん顔赤いですけど」とれなの頬をつんつんつついた。

廊下がいつまでも終わらなかったらいいのに、と階段を一段ずつ登った。
教室の前まで来て、絵里の手がするりと離れる。

教室に入ってもしばらくは、その手の行き場を探していた。

56 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:04



          ◇


57 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:06

あれだけ不機嫌だった絵里も、帰りにはすっかり機嫌は戻っていた。
藤本先生がおだてたおかげなのだろう。ありがたや暇人。

ざあざあと降り続く雨に肩を落とし、靴を履き替えて傘をとる。
絵里が隣に居ないので振り返ると、絵里は傘立てを見たまま固まっていた。
「絵里?どうしたと?」
絵里は頼りなく眉をふにゃふにゃ下げている。そして目には星がきらりと光る。
「ちょ、絵里、なんで泣いとう」
何度も顔を覗きこみ、また機嫌をとろうとするれなに、絵里はとうとう泣きだした。

58 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:06
「傘が無いの」

涙を止めた絵里が言った。
お気に入りのオレンジの傘が取られたかなにかで無くなったらしい。
絵里はつんと唇を尖らせた。

59 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:09

れなの水色の猫の傘に雨が降る。

そこでれなは、ようやく鞄の中の折り畳み傘を思い出す。
オレンジ色の傘は、まだ鞄の中で眠っている。
オレンジ色の傘を差し出すべきか、この傘に絵里を入れるべきか。
れなは、この傘でふたりで帰りたかった。

けれど、頭の中でオレンジ色の傘がくるくる回る。

しょんぼり俯いたままの絵里に、れなは動けなかった。
このどろりとした沈黙に、ミサイルでも落ちてくればいいのにと馬鹿らしいことを考え、
わがままな考えを振りはらって鞄からオレンジ色の傘を出した。

「絵里、これでいいなら」

絵里は、ゆっくり顔を上げた。
60 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:11

絵里に伸ばした手に、雨が降ってきて冷たい。
はっと顔を上げた絵里は、動揺したようにれなの顔と傘を交互に見ている。

「気に入らんなら、捨てて」
無理矢理絵里に傘を押し付けた。
絵里が傘を握ったから、れなはようやく傘から手を離す。
ブラウスから腕に雨がしみて冷たかったけど、
ありがとう、なんて笑う絵里にそんな冷たさは忘れていた。

海沿いを歩きながら、傘のせいでいつもより少し遠い距離がもどかしい。
手を伸ばせば届く距離なのに、海を見つめる絵里の横顔はどこか遠かった。

一緒に入ろう、なんて、言えなかった。

絵里をぼんやり見つめるれなに気付いた絵里は、れなを見つめてやわらかく微笑んだ。

61 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:12

次の日の朝、絵里は嬉しそうに駆け寄ってきた。

絵里の笑顔に比例するみたいに、今日は太陽が照りつける晴天だ。
昨日は、れなが見たリアルな夢だったのかと思わせるくらいの青空。

駆け寄ってきた絵里は、鞄からオレンジ色の傘を引っ張り出した。
「昨日は、ありがとう」
片八重歯を覗かせて笑う絵里に、きのうは夢じゃなかったんだと頭のどこかで思った。

62 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:13

傘を受け取らないれなに、絵里は首を傾げる。
「それ、あげるけん。絵里オレンジ好いとうやろ」
れなの言葉に、はじめは固まっていた絵里も、意味を理解すると
「ほんと?」とか「いいの?」とか繰り返し、れなはそのたびに頷いた。

それがしばらく続いて、絵里は傘をぎゅっと抱きしめた。
「ありがと、絵里ね、オレンジ、大好きなの、ほんとありがとう」
嬉しそうに傘をしまって、絵里はにこにこしていた。

傘にすら嫉妬してしまう自分が、逆に笑えた。

63 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:13



          ◇



64 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:13

帰る時、今日はれなから海に行こうと誘った。
絵里は首がとれそうなほど頷いて、青く澄んだ空と海をじっと見つめた。
今日の海は、昨日の雨もあっていつもよりは波が高いけれど、気にするほどじゃない。
靴を脱いで波打ち際に走る絵里に続いてれなも絵里の方に走った。

水を踏んだり石を投げてみたりして、満足するまで楽しんで、
またいつものテトラポットに腰かけて水平線の向こう側をふたりで見つめた。

65 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:15

「ねえ、れーな」
「なん?」
「れーなはさ、前、絵里に友達作んないのかって言ったじゃん?」

れなは、あの暑い汗ばんだ日に引っ張り戻される。
べたつく足を海につける絵里にれなが聞いた言葉だ。

「言った、けどそれがどうしたと?」
「絶対れーな、絵里はれーな以外と話してないって思ってるでしょ」

水平線の向こう側を突き刺していた絵里の視線は、れなに向けられる。
口角がゆるりと上がって、黒目の大きい瞳がやわからく細まる。
れなが曖昧に頷くと、やっぱり、と絵里が言う。

66 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:16

「でもさあ」

風になびく髪を耳に掛けながら、絵里が続ける。

「れーなも、絵里以外と話してないよね」
小悪魔みたいに甘い声で、絵里は薄く笑っている。
得意げにじっとれなを見つめて。
でも、思い返してみればそんな気もする。
絵里以外と話していないのは、れなの方だったのだ。

「ま、でも、絵里にはれーながいてれーなには絵里が居るからねえ」

67 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:17

またあの夕方みたいに笑った絵里が、足元のなにかに気付いてそれを拾い上げた。

「なんだろう、これ」

太陽にかざすと、それはオレンジ色にきらりと光った。
薄くて、丸と四角のあいだみたいな形をした、一センチ四方くらいのそれ。
絵里もれなも首をひねる。

「……わかんないね」
と言って、絵里はそれを海に流した。
海に流れて行くそれを、絵里はじっと見つめていた。

68 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:17



          ◇


69 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:17

足が乾いてから海から上がり、家が近くなったころ、絵里がぽつりと話した。

「貧血なんて嘘だよ、絵里」

れながぽかんと絵里を見つめていると、絵里は子供みたいにあはは、と笑った。
「あんなタイミングで倒れて貧血です以外言える?言えないでしょ!貧血じゃないなら病気じゃないかってなるじゃん、絵里丈夫なのに」
けらけらと笑う絵里は、道端の小さな石ころをつま先で蹴った。
溝に落ちて、小さな水の音がした。

70 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:18

「知りたい?」

いたずらっぽく笑った絵里の言葉の続きは聞けなかった。家に着いたからだ。
ドアを開く前に「なんてね」と笑った絵里の瞳は、一晩中頭から離れなかった。

絵里の些細な言葉に、仕草に、不安になって、嬉しくなって、焦って、ほんとうに自分らしくない。
解り切っているこの感情にふたをするみたいにふとんを被ってきつく目を瞑った。
けれど、頭に浮かぶのはあの笑顔だけ。



こんなに朝が遠い夜は初めてだった。


71 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:18



          ◇


72 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/02(日) 17:24
いやあ長くなりました、今回の更新はここまでです。
では、1つですかお返事を。

>>39
いい雰囲気と言っていただけるとありがたいです!
わりと雰囲気重視で書いているので!w

さて今回もなんとお返事しようか迷いましたw
えりりんが倒れたわけはまだまだ判明しません…!w
ちなみにミキティ先生がよく出てくるのは、昔、私が藤亀ヲタだったためですw
余談ですが、ガキカメも書こうかなあと思っている作者です。
では、失礼します。
73 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/14(金) 23:09
すみません、前回の更新から二週間くらい空いてしまいました。
少しばたばたしていたため、更新出来ず申し訳ないです。
書いているのは書いているので、この土日どちらかで更新しようと思います。

では失礼します。
74 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/06/16(日) 00:33
素敵な小説を見つけてしまった!
亀井さんのつかめない感じ、いいですねえw
更新楽しみにしてます!
75 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/06/16(日) 14:32
田中さんのピュアさが良いですね
亀井さんに思いが伝わるといいなぁ…
76 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:10
すっかり遅くなりました。ギリギリ日曜日です、こんばんは。
ふたつもレスがついてまたまた浮かれ野郎です。

今回の更新でガキさん登場です。盛大なネタバレです。
若干重要人物になる、かも?

では今回の更新です。
77 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:11



          ◇



78 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:11
からから晴れた日が続いた6月は、あっという間に折り返しに近くなっていた。
6月が終わってしまえば、7月になって夏休みを迎え、
夏休みが走り去ると、もう9月になり、あっという間に木々は丸裸になっていく。
うねる髪を面倒だからとゴムで結んだれいなは、
ベッドに沈みこんで、さああ、と鳴り止まない雨の音を遠く聞きながら、365日間の足の早さを感じていた。
79 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:12



          ◇



80 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:13
目が覚めて、時計を見ると、デジタル時計が無表情で表示していたのは7:59という数字。
すぐには理解できなかったその数字かられいなを引っ張り戻したのは、リビングから聞こえてくるテレビの
「8時になりました!」というアナウンサーの声だ。

すぐに飛び起きて顔と歯を洗い、整える暇なんてなかった髪の毛は仕方なくポニーテールにした。
そして家を飛び出すと、雨はあがっていたものの雨の気配は残っていて、
もわっ、と蒸し暑い空気がまわりをうろついていた。
81 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:14
自転車に飛び乗って学校に向かうと、案外早く着くもので、遅刻する時刻にはあと10分もあった。
のんびり教室に入ると、絵里が真っ先にれいなに気付く。

ひらひらと手を振る絵里に手を振り返す。
鞄を机の横にかけて椅子に座ると、髪型の変化に気付いた絵里がじっとれいなを見つめた。

「れーなが髪結ぶって珍しいね」
さらさらの黒髪が絵里の肩から一束はらりと落ちる。
「髪うねっとったけん、仕方なく結んできたとよ」
はあ、と溜め息をついたれいなの髪に、絵里が手を伸ばして細くて長い指でそっと触れた。
耳に少しだけ触れた指先はひんやりしていた。

まとめた髪に指を通した絵里が、にっと笑う。

「かわいいね」

それだけ言って一限目の授業の用意をし始めた絵里に対して、れいなは動けずに固まっていた。
顔が熱くなっていくのがわかって、心臓も大きく動く。絵里に聞こえたらどうしよう。
どぎまぎしながられいなもノートやらを引っ張り出して、ぐだりと机にうなだれた。
82 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:15
二時限目は、この暑い日に太陽に笑われながらの体育だった。

汗だくになったクラスメイト。
もう誰のかわからないくらい制汗剤やらのにおいが混じって気分が悪くなりそうだ。
絵里はべたつく前髪を何度も何度も直していた。

けれど、どんなに暑くても、グラウンドに出たらいっそう海の香りがして爽やかな気分になる。
海のすぐそばにある学校だから、波の音もしっかりと聞こえる。

「グラウンドだとやっぱ違うっちゃねー」
「浜辺にいるみたいだもんねえ」

べたつく髪の毛も、海のなかに居るみたいだから、少し平気に思えた。

「でも、髪ぱりぱりになるよね」
クラスメイトの一人が言った。彼女の長い髪は軋んでいるみたいだった。
絵里は前髪を直しながら、
「前髪とかね。もう頑張ってるのに」と答えた。
それが、れいな以外の人と話すはじめての人だったかもしれない。


少しだけ、その人に嫉妬した。

83 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:16


「田中さんも亀井さんも毎日一緒にいるよね」
その人は、絵里とれいなを交互に見ながら、不思議そうに首をかしげた。

「絵里、れいな以外と話したことなかったの」
あはは、と照れ臭そうに笑った絵里に、その人はオーバーアクションで返した。まるで昭和だ。

「あら、ごめんなさいねお邪魔だった?」
悪戯っぽく笑われた。絵里はぶんぶん首を振った。
「そんなことない!あ、えっと、ごめん絵里名前…」
仔犬みたいに申し訳なさそうにその人を見つめた絵里に、その人は首を横に振る。
「全然大丈夫だよ?あたし新垣里沙。亀井絵里ちゃんと田中れいなちゃんだったよね」

そう言って少し考えたニイガキさんは、考えがまとまったのか、うん、と頷いて
「田中っちとカメでいっかあ」とわらった。
苗字とるのかよ、とつっこみそうになったのを押さえて、
苗字とられたから苗字とりかえす、ということで「ガキさん」とあだ名をつけた。しかしガキさんはすっかり気に入ってしまい、結局れいなの敗けです。

ガキさんは、受験するときに神奈川からここに来たらしい。
神奈川の話をしてくれたけど、いろんな物が抜け落ちすぎてまったくわからなかった。
多分この人も、さほど頭がよくない部類なのだと思う。類は友を呼んだ。
84 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:16
ガキさんがパンを、れいながおにぎりを口に詰め込み終わると、
絵里はまだお弁当を食べていた。おにぎりの中身がなかったからと落ち込んでいたけど、デザートがあったことで機嫌はすっかりなおっていた。

「れーな、今日海行こうよ」

じりりと照る太陽に目をやる。絶好の海日和ってやつだろう。
「昨日雨やったけん波が大きいかも知れんちゃけ制服濡れんとよかとやね」
こくんと絵里が頷いた。

「海?」
ガキさんがまた不思議そうに尋ねる。
「海。学校ある日はほぼ毎日行ってるの絵里たち。ない日は絵里ひとりで行ってる」
「絵里ばり海好いとうけん付き合わされとうよ、れなは」
「うそつけ、行きたいくせに」

れいなたちの会話を聞きながら、ガキさんは爆笑していた。漫才を見ているみたいらしい。

「ガキさんも行こうよ」
ガキさんが頷いて、絵里は海をじっと見た。あの憂いのある瞳だ。
85 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:17
海の音が聞こえる。耳にするりと入ってくる。
思いがけず近くで磯の香りがする。鼻をつんと抜けて舞う。

好いとうよ、と言えば楽になるのかなぁ、と、溜め息が出る。
どうしたの?と聞いてくる絵里になんでもないと言った。
なんでもなくない事をなんでもないと言ってしまうのはどうしてなのだろう。
あなたのことで悩んでいるのよなんて言えたらどれだけ楽か自分でも解っているのに、
喉のすぐそこになにかがつかえて言えない。人間おもしろく出来ているものだ。

はやく海に行きたい。

足の裏で夏の暑さを感じながら、始業チャイムが学校中で響いた。
86 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:17



          ◇



87 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:18
夕日がきれいな日だ。

いつかみたいな夕陽に照らされて、絵里はスポットライトの下に立っているみたいだった。

「絵里」

何気なく名前を呼ぶ。振り返った絵里は、やっぱりきれいな顔をしていた。
「またいつか遊びに行こう」
れいながなにかを言う前に、絵里がそう言った。
頷くと、絵里は、どこに行こうか、とか早速目的地を考えているらしい。

「絵里たちどこでも行けそうだね」
「行けるっちゃん」
「大親友って感じじゃん」
「もう一個大つけといた方がよかよ」
「大大親友だ」

もう少し近づけたら、親友から、もっと複雑で繊細な関係になれるのかな、と、海に足をつけた絵里を見つめた。
しんゆう、だいしんゆう、だいだいしんゆう。
絵里の声を頭のなかで何度も反復させる。
嬉しいのに悲しいなんて言う気持ちは、生まれて初めてだった。

ガキさんは「ほんとに仲良いんだねぇ」と笑っていた。
私が一方的に好きなんです、と言いたくなった。
絵里とれいなには、大きく違いがある。絵里も、れいなを好きなのは好きなのだろう。
けれど、違う。絵里とれいなの気持ちは、少しだけ大きく、違う。

貝殻を集めている絵里の背中は、いつになく儚げだった。
88 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:18
絵里はその日の帰り、ガキさんにいつもの質問をした。
「もしガキさんが人魚だったら、王子様殺せる?」
ガキさんはそんな質問をしてきた絵里をぽかんと見つめて、ゆるりと首を傾げた。
「殺せないなぁ、やっぱあたしも泡になると思うなぁ」
絵里はつまらなさそうに俯いた。
誰だってそう答えるからだ。「わからない」「殺せない」という単語を、絵里は何度聞いてきたのだろう。

「カメはなんでそんなに人魚の話するの?」
こんどはガキさんが尋ねた。絵里の深い海の色をした瞳は、長いまつげで隠れてしまう。絵里は遠い海をぼんやり見つめていた。

「わかんない」

絵里が消えそうな声で言ったその言葉は、波の音でかき消されてしまった。

89 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:18
ガキさんとばいばいして、家に着くころ、絵里がぽつりと話した。

「絵里、れーながいてくれてよかったって思うの」

口元をゆるく上げて笑った絵里の瞳には、いつかみたいに海が見えた。
れいなが何も言えないでいると、絵里は少しだけ目を伏せた。

「れーな、もし絵里が居なくなったら探してね?王子様みたいに」

くすくす子供みたいに絵里が笑う。れいなはからかわれていると解って、「気が向いたら」と言ってくすくす笑った。
絵里がドアに手をかけて振り返り、空いている手をひらひら振った。れいなもそれに答える。
「もし、れなが居なくなったら探してね、王子様みたいに」
絵里が扉の向こうに消える前そう言うと、「気が向いたらね」と明るい声が帰ってきた。
90 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:27



          ◇


91 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:33
>>74
ありがとうございます。
亀井さんの不思議感好きなんです!w
今回の更新でさらにわけわかんなくなったと思うのですが、
後々解明されるのでお楽しみに!w

>>75
田中さんは純粋な感じで書いてます。ピュアかわいいですピュア。
亀井さんに思いを伝えるのか、伝えないのか、
これから楽しみにしていただけたら嬉しいです。


いやあ今回もなんとお返事しようか悩みました。
見てくださっている方がいることが励みです!w
では、失礼します。
92 名前:ナツメ 投稿日:2013/06/16(日) 22:36
お返事の最初の部分にひとこと加えるのを忘れていました。
もうボケが始まったのでしょうかこの先不安です。
加えようと思っていた見苦しい言い訳です。

これで今回の更新は終わりです。
最後の◇を更新しようとしたらパソコンが固まって強制終了してしまいましたw
そのためお返事まで少し時間があいてしまった!

では、お返事を。

ではでは、本当に失礼します。
93 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/06/17(月) 21:29
作者さまは土日で更新が多いのでちらりと覗いてみたら更新されてた!
ガキさんがどんな風におはなしに絡んでくるのか楽しみですw
そしてえりりんはなんで人魚にそんなにこだわるんだろう…
94 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/06/19(水) 18:15
プラトニックですごくいいですね。
学生ならではの純粋さがたまりません
95 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/06/20(木) 17:15
亀井さんと田中さん、どうなるのかすごくわくわくします。
亀井さんの一言一言に、田中さんと一緒に私まで惑わされていますw
96 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/06/20(木) 17:16
すいません、あげてしまいました…汗

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