A
- 1 名前:aa 投稿日:2012/06/09(土) 12:59
- a
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 16:30
- 「 ゲーセン 」
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 16:30
- 夕方。
仕事からの帰り道。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 16:31
- 「いてっ」
背中に雪玉があたった。
誰だよ、このバカヤロウ。
と、思うと、
「おぅい、よしこ〜!」
天からふってくる、のんきな声。
「おぅい」と、叫びかえす。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 16:32
- 「おいこら、なにすんだよー!バカ」
「ははっ」
小さな窓から身をのりだして、ヘラヘラ笑うごっちん。
まるでロミオとジュリエット。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 16:32
- まもなく、ドタドタドタ、と騒がしい音がして、ガラガラ、とドアが開いた。
「ね、よしこ。今から、ゲーセン行こうよぉー」
やや痩けてしまっていたが、あいかわらず颯爽とした、ごっちんの顔。
ジャージ姿で、ブロンドがはねてる。寝起きなのかな?
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 16:32
- 「……ええ、なんで?」
すると、きゅうにききわけのないだだっこになって、
「んー、いいじゃん。行こうよぉ、ゲーセン」
あたしの腕をつかみ、ゆさぶってくる。
「ったく、しかたねーなぁ。……んじゃ、行くか。一応みんなにも、連絡いれとくね」
ポッケからアイフォンをとりだした。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 16:33
- 到着。
約束の場所に圭ちゃんがいた。
「よ〜う、圭ちゃん」
「……ああ、アンタたち。久しぶりね。お誘いどうもありがとう?」
「いえいえ。どのみち圭ちゃんには、そのうち会えたらいいな、って思ってたから。……ま、ウソだけどね」
「ちょっと。そこはウソでも。マジ、と言いなさいよ」
「じゃ。マジのウソ、ということでよろしく」
「なによ、それ」
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 16:33
- ごっちんはしばらく、あたしと圭ちゃんの会話を観察するように聞いていたが、やがて
「……んー」
うなずいて、ゆっくり歩きだす。
「まぁ、そういうこった。ここで長々と話をするのもなんだから。いこうぜ」
そうしてごっちんに続いて、あたしたちも歩きだした。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 16:33
- 三人ならんで座って、レースゲーム。
さっそくあたしの手前を走る圭ちゃんに、バナナの皮と赤いこうらをおみまい。
すると圭ちゃんは、クルクル、と回転しながら、コースアウトしていった。
「ちょッ、痛い。なにすんのよー」
「へへッ、お先に失礼するね」
あたしはハンドルをきって、おもいきりアクセルを踏みこんだ。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 16:34
- ゆるやかなカーブをつっきる。
するとカララン、と音がして、アイテムボックスがひらいた。
中身は、あおいトゲトゲのこうら。
「よっしゃあ」
迷わずあたしは、アイテムボタンを押した。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 16:35
- そうとも知らず、ごっちんはつん、と涼しい顔。
「ぜってー、負けねーからな」
「へぇー?」と、余裕そうな表情のごっちん。
「フフ。ぬるいぞ、よしこ」
「へ?」
ごっちんは、アイテムボタンを三回押すと、あたしがしかけた爆発の中を、スルリ、と通り抜けていった。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 16:35
- 「くそっ」
またハンドルをまわして、まわして、まわして、加速する。
「……やっと、追いついたッッ」
ゴール手前。ごっちんのすぐ後ろに車をつけた。
すると「ム」と、曇るごっちんの表情。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 16:57
- 「けーちゃん、これやって」
ごっちんが指示したのは、ダンスゲーム。
「いいわよ」
ワンコインをいれる。恋レボ。当然のように上級者モードをセレクト。
「ちょっと!」
「いいから」
「いいからいいから」
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 17:14
- そうして圭ちゃんは踊りだした。まるで狂ったピエロのように。ひっしに。汗水をたらしながら。
「あれ、けっこう難しいわね」
「けーちゃんがんばれ〜」
「よっ、日本一ッ」
ひっしに踊る圭ちゃんをおいて、あたしたちは歩きだした。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 17:32
- 目の前には、クレーンゲーム。
大きなクマのぬいぐるみ。
それを物欲しそうな目で、ごっちんが、見つめる。
「欲しいの?」
「ううん、いらない」
「素直じゃないなぁ」
「そんなこといって、じつはよしこが欲しいんじゃ」
「ええ、まさか」
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 17:42
- 「言って。あたしがとってやんよ」
「んー、いい」
「遠慮しないで。さぁ、どれがいい?」
するとごっちんは、とても嬉しそうな顔をして、
あっちのモンハンフィギュアとって。
と、小声で言った。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 19:00
- ウィーン、とアームが動いて、カシャリ、ととじた。
BGMがなる。
が、
「あれ?おっかしいな」
捕らえたのは空気。
「店員さあん、店員さあん」
ごっちんは遠くにむかって、叫んだ。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/17(日) 23:26
- フィギュアを再配置してもらった。
ウィーン、コトリ。
「や」
落ちる。
「おめでとう」
そののちごっちんの腕が、あまりにご活躍されるものだから、
店員さんはしまいに、めそめそと泣きだしてしまった。
「わーい」
ふにゃふにゃ、と笑うごっちんの腕には、大量の箱。
「よかったな」
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/18(月) 14:32
- するとごっちんは、ほっぺたをゆるめて
「よしこ、へたっぴ」
クスリ、笑った。
クスリ、笑いかえす。
「うるへー」
「フフッ」
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/18(月) 15:10
- >>17
○
>するとごっちんは、パァッと花が咲いたような顔になって、
×
>するとごっちんは、とても嬉しそうな顔をして、
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/18(月) 15:21
- >>16
○
>「そんなこといって、じつはよしこが欲しいんでしょ?」
×
>「そんなこといって、じつはよしこが欲しいんじゃ」
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/18(月) 17:59
- >>20
○
>するとごっちんは、さらにほっぺをゆるめて、
×
>するとごっちんは、ほっぺたをゆるめて
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/18(月) 20:21
- 戻ると、人だかり。
「ちょ、圭ちゃん。まだやってたの」
あたしたちはそれを、避けて、かきわけて、
「あいされたいね、きっと〜」
去った。
ごっちんはフンフン、と鼻歌を、歌いはじめていた。
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/21(木) 22:41
- 「あ」
立ちどまった。
「なに?」
川に潜む五匹のワニ。
と、
使い古されて、ボロくなったハンマー。
しかしごっちんは、ハンマーを手にとって、
「これ、なついね」
愛おしそうになでた。
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/21(木) 22:56
- 「あー。昔よくやったなー」
「でしょ?」
「でもあたしんとこは、サメだった」
「サメ?」
「そう」
「へえ」
「興味なさそうだね」
「まあね」
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/21(木) 23:26
- ハンマーは、ワニの前でふりあげられて。
ピコッ。
あたしの頭の上に、落とされた。
ニヤリ、笑うごっちん。
あたしは顔をしかめた。
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/22(金) 01:59
- 「あ」
そうしてごっちんはまた、
なにか興味を惹かれるものを見つけたのか、
タッタッタッ、と駆けだしていった。
しかし今日のごっちん、超元気だなぁ。
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/26(火) 23:08
- いやあさ、もちろん。
あたしも久々に、ごっちんと遊べて、超嬉しいし。
楽しそうなごっちんの顔を見るのも、すげえ楽しいし。
ごっちんがそういう子なんだってのも、よく、知ってるし。
けれど。
なんつーかその、もっとルック・アット・ミー、
あたしを見てよ!みたいな、ね。
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/26(火) 23:09
- そのうち向こうから、歌うような声で、
「よしこぉー!こっち、こっちぃー」
呼びかけてくる。
おおきく手をふりながら。
「わーかった、わーかった。今、行くよ」
笑って、ちいさな背中を追いかけながら、
そんなことを、思った。
- 31 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/26(火) 23:12
- 赤いヤツと青いヤツが、「なんとかだドン!」とか、
喋るゲームの前で待ってる、ワンピースの彼女。
あまったるいアニメ声で、
「おそぉいッ」
拗ねた子供みたいに、ほっぺを、ぷくっ、とふくらませる。
「やー、わりいわりい」
「もうッ。人を呼びだしておいて、放置プレイとか、ひどいじゃなぁい。そうよね、ごっちん?」
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/26(火) 23:28
- 「んーん、そーかも?」
「かも、って、どっちなのよぉ」
「じゃあ、そだね」
「えぇ〜。なによ、それ」
「ハハッ、投げやりだなあ」
「ていうか、そもそも投げっぱなしなのは、よっすぃでしょ?わたしを」
「ええッ?!」
と、顔をしかめてしまったあたしに、カラカラ笑いながら、
コツリ、と小突く、梨華ちゃん。
- 33 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/26(火) 23:37
- 三人で、近隣のカラオケへ。
フロントで、受付をしてもらう。
「あたし、学生でぇす!」
「それ無理だからね!苦しい、苦しい」
すると黙っていたごっちんが、にゅーっ、と横から、顔をだして、
「あたし中学ん時の、学生証持ってるから、貸そーか?」
聞いてくる。
「ちょッ。いつのだよ、それ」
「なんでそんなの、持ってるの?」
「んーなんか、バッグに入れっぱになってた」
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/26(火) 23:54
- そしてニヤつきながら、
「つーかおねえさん、可愛いねえ」
フロントのおねえさん(まいちん似)の手をとるあたし、
を、
無情にもひっぺがして、
「ほらッ、よっすぃ行くわよ」
ズルズル、と引きずっていこうとする、梨華ちゃん。
に、
「ヤッ、いいぞ〜」
ばかうけする、ごっちん。
「ちょッ、梨華ちゃん。冗談だってば!」
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/26(火) 23:56
- 先頭の梨華ちゃんが、急いたようにドアを開ける。
「ねえねえ。なんか部屋、超、広くない?」
そこは、三人で使うには広すぎる、大部屋。
が、
「キスから始まる夜は、熱くぅ〜」
「「ビコーズ・アイ・ラブ・ユー〜」」
あたしたちは、エアギターでセッションなう。
「ちょっとぉ!二人とも、聞いてるの?!」
「んあ?」
「うん、聞いてるよ?」
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/03/02(土) 16:15
- >>24
○
ダンスゲームに戻ると、人だかり。
「ちょ、圭ちゃん。まだやってたの」
あたしたちはそれを、避けて、かきわけて、
「愛されたいね〜きっと〜」
去った。
曲にあわせて、ごっちんも鼻歌を歌いはじめていた。
- 37 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/03/02(土) 16:16
- 予約されている曲を、確認。
「次の曲、誰?」
すると梨華ちゃんが、あたしの横にしゃがみこんで、
「なんの曲?」
覗きこんでくる。
うへへ。
「ホコリの街だか、都市だか、なんとか」
「それたぶん、わたし!」
「じゃあさ、次の曲は?」
「わたし!」
あたしは顔をしかめた。
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/04/09(火) 17:57
- おわり。
いつかリテイクします。
- 39 名前:【 オレンジロード 】 投稿日:2013/04/09(火) 18:01
- ――その場を通り過ぎてしまおうか。
と、一度考えた。
彼女は子犬のように自分を見あげ、主を求めていたのだ。
相変わらずあざとい女だ、とカラス色の女は思った。
そして、相変わらずそのあざとさが好けない自分がいて――
でも、反面あざとさに弱い自分もいて――おもわずため息がこぼれた。
ヘルメットを脱いだ。
腰までのばした黒髪が四月の風になびく。
そして、バイクを止めて、土手をゆっくりと降りていく。
- 40 名前:_ 投稿日:2013/04/09(火) 18:07
- *
夕暮れの閑散とした波止場。
ひとつ。
小さな影がいた。
……ほらね。
ビンゴだ。
のんびりと歩いて、隣に腰をおろした。
やがて影はふたつになった。
小さいのと大きいの。
「カオリ、今、素通りしようとしてたでしょ」
と、小さいほうは冗談めく。
そして、カラカラと笑った。
「なっちはさ、ずっとここで待っていたのに――」
「嘘つき。さっき来たばっかりでしょう?」
と、大きいほう――圭織が訝しげな顔で問うと
「ばれたか」
と、小さいほう――なつみは答え、ペロッと舌をだした。
そこに悪びれる様子はない。
ちっとも。
- 41 名前:_ 投稿日:2013/04/09(火) 18:10
- やれやれ……困ったものだ。
「やっぱりね……」
と、圭織は深いため息をつくと、おおきな目を細めた。
そして、水平線をぼんやりと眺める。
「……なんでもね、わかるんだよ。なっちのことは……」
もうすっかり諦めたように言った。
綺麗な日没だ。
海原から空にかけて、鮮やかなオレンジのグラデーションがかかっていた。
この美しい情景を絵画におさめたい、と思った。
けれども、今、手元にあるのは折れたクロッキーと、
消しゴムと、メモ帳だけで、その願望は叶わなかった。
ぼんやりと霞みながら沈んでいく太陽を眺める。
いつ以来だろう。
こんな平和な風景。
もう随分見ていなかった。
“この二人”で。
なつみもなにか思うところがあったのだろう。
しみじみとつぶやく。
「……なっちもね、わかるよ。カオリのこと」
- 42 名前:_ 投稿日:2013/04/09(火) 18:18
- どきりとした。
動揺を察されただろうか。
……いや、そうだろうな。
焦燥する自分の顔を見て、なつみはヘラヘラと笑っていたのだから。
そしてでも急に真顔になって言った。
「なんで。圭織はさ。あの子に――!あの子に――!
“自分は7日間だけしか記憶を持てない”だなんて、嘘ついたの?」
まるで重い罪を咎めるように。
「本当は全て記憶しているくせに……!忘れられないくせに……!」
追及してくる。
「――ねえ、教えてよッ!」
思わず圭織は黙りこんでしまう。
反論しようがなかった。
何故そのことを……!
と、苦虫を潰したような顔になっていた。
「……本当にズルイ女だね」
残念そうになつみは言った。
圭織の答えに呆れ果てたのだろう。
裏切られたのだろう。
「……イモ女に言われたくないね」
圭織は吐き捨てるように言った。
なんてヤツだ、と思いながら。
でも罪悪感も今更感じながら。
- 43 名前:_ 投稿日:2013/04/09(火) 18:27
- 「でもさ、ほ〜ら――」
と、なつみは圭織の肩に頭を寄せる。
ぎゅっ、と密着した。
そして圭織の顔をまじまじと見つめると
「――なっちのことは覚えてくれてる」
と、とても嬉しそうに言った。
圭織はため息をつく。
そして、おもいきりなつみを振りきった。
「……いや、できればカオリはさあー。なっちのこと忘れたいんだけどなぁー」
「忘れられないくらい、なっちを好きなくせにさ」
「さあ、どうだろうね……」
「まー、でもさ。べつになっちはさ。カオリのことなんかどうでもいいんだけどねー」
「あっそ。勝手にすれば?」
言い放つ。
なつみに冷めた視線を送る。
けれどもなつみはまだ笑顔のまま圭織を見ていた。
圭織はすくっと立ちあがった。
耐えきれなかったからだ。
眩しかったからだ。
そうして彼女ひとりをおいて歩きだした。
- 44 名前:_ 投稿日:2013/04/09(火) 18:30
- *
気がつくと先程の土手に戻っていた。
自分の愛車。
まだローンは払い終わってないのに、もうすでに傷がついていた。
すべてあいつのせいだ。
そう思った。
そう思いたかった。
……というより、他に考えようがないのだ。
でも、その傷は愛しくも感じられた。
なぜだろう?
とっても――愛おしい。
そっと触れる。
バカだ。
ああ、カオリ。
バカだよ。
愛すべき、……バカ。
キスをした。
- 45 名前:_ 投稿日:2013/04/09(火) 18:42
- そして何度も何度も撫でていると、なつみが息を切らしながら追ってきた。
……遅い。
……遅いよ。
……遅すぎる!
待っていると日が暮れる、と思った。
「…………荷物はどうしたの?」
なつみは息をととのえながら言った。
全力で走ったのは子供の時以来なのだろう。
顔まで夕日色に染まっている。
「もう次行くホテルに送った」
「後ろ乗せてよ。嫌だって言っても乗るんだからね」
圭織は無言でバイクに跨ると、なつみにヘルメットを渡した。
返事代わりに。
すぐに圭織の背中に重みがのしかかった。
「まあいいけどさー、ベッドひとつしかないよー」
と、声をかけると
「カオリが床で寝ればいいっしょー!」
と、背後からのんきな声が投げかかってくる。
「なんでカオリが客のアンタに譲らないといけないのさ……」
「お客様は神様、なっちは天使だべさ」
「ふざけんな」
とんとんとん。
足を三度地面について鳴らした。
そしてバイクを走らせた。
オレンジ色のシーサイドの中で。
スピードをあげるたび、背中にかかる重圧は増していく。
ハンドルをきると、そのままバイクは街へつき抜けていった。
- 46 名前:_ 投稿日:2013/04/09(火) 18:44
- *
――はい、カットォ!
パン、と監督が手を叩いた。
途端、プツンと緊張がほどけた。
ざわざわと現場に活気が戻ってくる。
なつみは、いつのまにか圭織の背中から手をはずしていた。
お腹をかかえていた。
ギリギリまで堪えていた。
――が、
キャルキャルキャルキャル……
と、ついに笑いだした。
「カオリ、棒読みすぎ!」
そしてさらに笑う。
手を叩く。
もうとまらない。
「うっさいなあ……」
圭織はふてくされたようにつぶやいた。
- 47 名前:_ 投稿日:2013/04/09(火) 18:45
- おわり。
- 48 名前:【 わたしをゲーセンに連れてって 】 投稿日:2013/04/18(木) 18:15
- 夕方。
仕事からの帰り道。
「 いてっ 」
背中に雪玉があたった。
誰だよ、このバカヤロウ。
と、思うと
「 おぅい、よしこ〜! 」
天からふってくる、のんきな声。
「 おぅい 」と、あたしは叫びかえす。
「 おいこら、なにすんだよー!バカ 」
「 ははっ 」
小さな窓から身をのりだして、ヘラヘラと笑うごっちん。
まるでロミオとジュリエット。
まもなく、ドタドタドタと騒がしい音がして、
ガラガラとドアが開いた。
「 ね、よしこ。今から、ゲーセン行こうよぉー 」
やや痩けてしまっていたが、あいかわらず颯爽としたごっちんの顔。
ジャージ姿で、ブロンドがはねてる。
寝起きなのかな?
- 49 名前:_ 投稿日:2013/04/18(木) 18:18
- 「 ……ええー、なんで? 」
「 んー、いいじゃん。行こうよぉ、ゲーセン 」
ごっちんはきゅうにききわけのないだだっこになって、
あたしの腕をつかんで、ゆさぶってくる。
「 ったく、しかたねーなぁ。
……んじゃ、行くか。いちおう圭ちゃんにも、連絡いれとくね 」
あたしはポッケからアイフォーンをとりだした。
到着。
約束の場所に圭ちゃんがいた。
「 よ〜う、圭ちゃん 」
「 ……ああ、アンタたち。
久しぶりね。お誘いどうもありがとう? 」
「 いえいえ。どのみち圭ちゃんには、
そのうち会えたらいいな、って思ってたから。
……ま、ウソだけどね 」
「 ちょっと。そこはウソでも。マジ、と言いなさいよ 」
「 じゃ。マジのウソ、ということでよろしく 」
「 なによ、それ 」
ごっちんはしばらく、あたしと圭ちゃんの会話を観察するように
聞いていたけれど、やがてんーとうなずいて、ゆっくりと歩きだす。
「 まぁ、そういうこった。
ここで長々と話をするのもなんだから。いこうぜ 」
あたしたちも、ごっちんに続いて歩きだした。
- 50 名前:_ 投稿日:2013/04/18(木) 18:22
- 三人ならんで座って、レースゲーム。
あたしはさっそく手前を走る圭ちゃんに、
バナナの皮と赤いこうらをおみまい。
圭ちゃんは、クルクルと回転しながら、コースアウトしていく。
「 ちょッ、痛い。なにすんのよー 」
「 へへッ、お先に失礼するね! 」
あたしはハンドルをきって、おもいきりアクセルを踏みこんだ。
そして、ゆるやかなカーブをつっきる。
カラランと音がして、アイテムボックスがひらいた。
中身は、あおいトゲトゲのこうら。
「 よっしゃあ! 」
迷わずあたしは、アイテムボタンを押した。
そうとも知らず、ごっちんはつんと涼しい顔。
「 ぜってー、負けねーからな 」
「へぇー?」
と、余裕そうな表情のごっちん。
「 フフ。ぬるいぞ、よしこ 」
「 へ? 」
ごっちんは、アイテムボタンを三回押して、
あたしがしかけた爆発の中を、スルリと通り抜けていった。
「 くそっ 」
あたしはまたハンドルを
まわして、まわして、まわして、加速する。
ゴール手前。
「 ……やっと、追いついたッッ 」
そして、やっとごっちんのすぐ後ろに車をつけた。
すると「ム」と、曇るごっちんの表情。
- 51 名前:_ 投稿日:2013/04/18(木) 18:24
- 「 けーちゃん、これやって 」
ごっちんが指示したのは、ダンスゲーム。
「 いいわよ 」
あたしはワンコインをいれる。
恋レボ。
そして、当然のように上級者モードをセレクト。
「 ちょっと! 」
「 いいから 」
「 いいからいいから 」
圭ちゃんは踊りだした。
まるで狂ったピエロのように。
ひっしに。
汗水をたらしながら。
「 あれ、けっこう難しいわね 」
「 けーちゃんがんばれ〜 」
「 よっ、日本一ッ 」
ひっしに踊る圭ちゃんをおいて、あたしたちは歩きだした。
目の前には、クレーンゲーム。
なかには大きなクマのぬいぐるみ。
それを物欲しそうな目で、ごっちんが見つめてる。
「 欲しいの? 」
「 ううん、いらない 」
「 素直じゃないなぁ 」
「 そんなこといって、じつはよしこが欲しいんでしょ? 」
「 ええ、まさか 」
「 言って。あたしがとってやんよ 」
「 んー、いい 」
「 遠慮しないで。さぁ、どれがいい? 」
するとごっちんは、パァッと花が咲いたような顔になって、
あっちのモンハンフィギュアとって。
と、小声で言った。
- 52 名前:_ 投稿日:2013/04/18(木) 18:34
- 「 あ 」
と、突然ごっちんは立ちどまった。
「 なに? 」
目の前には、大きな川に潜む五匹のワニ。
と、
使い古されて、ボロくなったハンマー。
ごっちんは、ハンマーを手にとって、愛おしそうになでる。
「 これ、なついね 」
と。
「 あー。昔よくやったなー 」
「 でしょ? 」
「 でもあたしんとこは、サメだった 」
「 サメ? 」
「 そう 」
「 へえ 」
「 興味なさそうだね 」
「 まあね 」
ハンマーは、ワニの前でふりあげられて、
ピコッ、
あたしの頭の上に、落とされた。
ニヤニヤと笑うごっちん。
あたしは顔をしかめた。
「 あ 」
ごっちんはまた、タッタッタッと駆けだしていった。
ゲーセンの出口に辿りついた。
その時、ガラガラガラとフロアにメダルの音が響く。
「 やべえ。耳が死ぬ 」
「 そう 」
「 冷たいね 」
「 そう? 」
「 うん 」
「 そっか 」
「 うん 」
「 フフッ 」
「 ハハッ 」
- 53 名前:_ 投稿日:2013/04/18(木) 18:38
- あたしたちはゲーセンから去った。
「 ねえ、ごっちん。これからどうする? 」
「 キャンプしたい 」
「 じゃあ山に行こう 」
「 いいねいいね 」
ぶおんぶおんとスポーツカーを走らせた。
まっすぐに海へ。
海。
あたしたちは生まれたままの姿になっていた。
目の前には、あたし。
大きな瞳がせつなくうるんでる。
それを物欲しそうな目で、ごっちんが、見つめてる。
「 欲しいの? 」
「 ううん、いらない 」
「 素直じゃないなぁ 」
「 そんなこといって、じつはよしこが欲しいんでしょ? 」
「 ええ、まさか 」
「 ……うん、欲しいよ! 」
「 そう思った!」
ふたりは笑いながら手を絡ませて、情熱的にキスをして、
海にすいと潜りこむ。
海のなか。
「 ……ん。よしこ、すき…… 」
「 ……うん、あたしも。……愛してるよ、ごっちん 」
そうして深くもつれあいながら、
海へ、深く深くゆっくりとしずんでいきます。
もっとも深い海の底。
そこでふたりはとても美しい一輪の花になりました。
だぁれもいなくなった水面。
いつまでもいつまでも泡がしずかにぶくぶくとたてておりました。
- 54 名前:_ 投稿日:2013/04/18(木) 18:39
- めでたしめでたし。
- 55 名前:_ 投稿日:2013/04/19(金) 02:43
- >>51と>>52の間
ウィーンとアームが動いて、カシャリととじた。
BGMがなる。
が、
「 あれ?おっかしいな 」
捕らえたのは空気。
「 店員さあん、店員さあん 」
ごっちんは遠くにむかって、叫んでいた。
フィギュアを再配置してもらった。
ウィーン、コトリ。
「 や 」
落ちる。
「 おめでとう 」
そののちごっちんの腕が、あまりにご活躍されるものだから、
店員さんはしまいに、めそめそと泣きだしてしまった。
「 わーい 」
ふにゃふにゃ、と笑うごっちんの腕には、大量の箱。
「 よかったな 」
ごっちんは、さらにほっぺをゆるめて、クスリと笑った。
「 よしこ、へたっぴ 」
「 うるへー 」
「 フフッ 」
戻ると、人だかり。
「 ちょッ、圭ちゃん。まだやってたの 」
あたしたちはそれを、避けて、かきわけて、
「 あいされたいね、きっと〜♪ 」
去った。
ごっちんは曲にあわせてフンフンと鼻歌を、歌いはじめていた。
- 56 名前:_ 投稿日:2013/05/01(水) 15:20
- 【 こどもにもどるってかんたん 】
よしこと別れて待ち合わせ場所に向かうと、
そこでみーよは、待ちくたびれたようにショーウィンドウに体をあずけていた。
拗ねたように携帯のディスプレイと睨めっこをしている
彼女に“ おぅい ”と、かるく手をふって、声をかける。
「 お待たせ、みーよ 」
「 遅いですよ、保田さん!何分待たせるんですか。
電話何度も何度もかけたのに、ちっとも出てくれませんし…… 」
「やー、ごめんごめん。さっきそこで偶然、よしこに会っちゃって。
それからついつい話しこんで―― 」
「 ――“ つい ”? 」
「 ……ごめん 」
みーよは一瞬、不機嫌そうに眉間にしわを寄せてしまったけれど、
すぐにいつものにっこり笑顔に戻った。
そして、手持ちの手提げ袋を渡してくる。
「 はい、北海道土産です 」
「 わあ……ありがと 」
では、さっそく……。
袋の中を覗きこんでみた。
……む。
海産物やお酒、銘菓なんかが入ってる。
美味しそう。
が、しかし。
貰ったのはいいけれど、一体これをどう調理すればいいのだろう?
てか、このキャラメル、たしか近所のスーパーでも売ってなかったっけ?
いろいろと考えこんでいると、
みーよは、「 大丈夫です!料理があんまり得意じゃない保田さんのために、
わたしがなにかしら作ってあげますよ 」と、わたしに笑いかけてくれた。
「 こう見えて、わたし。昔から両親の手伝いしてたんですからね 」
「 知ってた。ありがとう。期待してる 」
「 ふふ、ありがとうございます 」
「 みーよのことすごく頼りにしてるよ 」と、わたしが言うと、
「 はい! 」と、みーよは、とても嬉しそうににっこりと笑った。
おわり。
- 57 名前:_ 投稿日:2013/05/01(水) 15:25
- >>56
×手持ちの手提げ袋
○手提げ袋
- 58 名前:_ 投稿日:2013/05/01(水) 16:33
- 【 結婚4714 】
カタン、コトン、カタン、コトン―― 。
電車の中。
……ハァー。元同僚に連れられて、旅行に来たのはいいけどぉー。
車内は、カップルや家族連れで、溢れかえっていた。
でもまあ、なんとなく。
予想もついてたんだけどね。
気分転換に。
と、思って、窓の外を眺めた。
景色はゆったりと流れていく。
新調したばかりのスーツケースを引きずりながら
東京駅を出発して、都内から出て、テーマパークのすぐ横をとおり抜けて、
えんえんと畑が広がるのどかなところへ。
……でもね。
今回の目的地に着くまでには、
なんとあと、” 二時間近く ”もあるみたいなの。
電車はあれからずっと畑の中を走っていた。
“ 特急 ”って名前がついてるくせに、妙にのんびりと走る電車。
それがいっそうわたしを憂欝にさせてしまう。
- 59 名前:_ 投稿日:2013/05/01(水) 18:19
-
が、
「 はぁー。極楽、極楽 」
わたしの隣の席の元同僚は、手足を“ う〜ん ”と、のばしはじめた。
リラックスした彼女の顔には、お洒落なサングラスがかけられていて、
それがまた絶妙に似あっていたりして、ちょっぴりムカツク。
「 ……ねえ、保田さん。いいえ、ケメちゃん 」
神妙な顔つきでわたしは言う。
「 ……おー、走ってる走ってる…… 」
ケメちゃんは、まるで電車の速度にぴったりと合わせたかのようにのんびりと言った。
しかも、わたしのことなんかまるで眼中にないみたいで、
狭い車内を走りまわっている無邪気な子供たちをずっと愛おしそうに見ていた。
「 ねえ、ちょっとぉ! 」
わたしはほんのすこしだけ声を荒げた。
「 おお、こけた 」
「 ねえ、聞いてるのぉ?!? 」
「 あー、また走りだした。……しっかし、元気だなー 」
「 ケメちゃぁんっっ!! 」
「 ……うん、どした。梨華ちゃん? 」と、やっとサングラスをはずしてくれた
ケメちゃんの顔は、予想外にキョトンとしていた。
- 60 名前:_ 投稿日:2013/05/01(水) 18:26
-
「 ねえ、ケメちゃん……なんで……! 」
「 うん 」
「 なんでっ……! 」
「 うん 」
一拍おいて、それからわたしは、「 ……なんで、……なんでなんでなんでっ!
わたしをここに連れてきたのよぉ! 」と、悲痛な思いを叫んだ。
が、残念ながらその思いは届かなかったのか。
ケメちゃんはとぼけたようにのんきに喋りだす。
「 ん?いやあ、ちょっとした気分転換になったらいいかな。って、思ってさ 」
わたしはうう、とケメちゃんのことを睨みつけた。
「 ……なによ、それ。わたしを慰めてるつもり? 」
「 ま。に、なればいいかなあ〜。……みたいなねー 」
「 な、馬鹿にしてるの?ちいっとも、慰めなんかになってなぁーいっ 」
「 ……ちょっと、梨華ちゃん。落ちついて。スゥー、ゆっくり息をすって。
んで、ハァー、はいて。また深呼吸して―― 」
幼い子供を諭すような調子でわたしをなだめながら、
ケメちゃんはサングラスをそっと窓際に置いた。
( なによ……もうっ。人をバカにして……ッ )
それでちょっとカチンときちゃって……。
- 61 名前:_ 投稿日:2013/05/01(水) 18:36
-
……でも、そうね。
今日のわたしは気が狂っていたのかも?
……それに車内もなんだか蒸し暑かったし。
とにかく、今にも頭が沸騰しそうだったのよ。
着てきたスプリングコートをぽいと脱ぎすてながら、わたしは吠えた。
「 落ちつけるわけないでしょぉっ! 」
「 ……わかった、わかったからさ………… 」
が、咆哮する。
「 そうよそうよ!むしろ開いた傷口に、
直接塩をぬりたくってるくらいなんだからあっ!! 」
しばしの沈黙。
その後真っ先に口を開いたのはケメちゃんだった。
ケメちゃんは両手をあわせながら、
「 …………やー、悪い。わたしが悪かったよ。ごめんごめん 」
「 ……ううー 」
と、それにまた涙目で睨みをきかせるわたし。
でもね。
八つ当たりだってわかってる。
( ……ごめんね、ケメちゃん………… )
そう、わたしは年度末、何年も勤めていた旅行会社をクビになってしまった。
いわゆる、“ 契約社員切り ”ってやつね。
- 62 名前:_ 投稿日:2013/05/01(水) 18:38
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