大好きだーーー
1 名前:図書 投稿日:2011/11/25(金) 19:38
はじめましての方が多いと思いますが、以前同じ名前で書かせていただいていました。
図書と申します。
愛ちゃんは卒業しましたが、愛ガキ推し。
こちらでは娘。(+OG)の短編で参ります。
相も変わらぬ駄文ですが、お付き合いいただけると嬉しいです。

T(o´皿`s)yo
2 名前:図書 投稿日:2011/11/25(金) 19:39

【気付くということ】

3 名前:図書 投稿日:2011/11/25(金) 19:39
「あれ?愛ちゃんじゃん」

今にも降り出しそうな日の午後。
少し用事があって事務所に寄り、マネージャーさんを廊下で待っていると後ろから声を掛けられた。
振り返ると柔らかく笑っている美貴ちゃんがいた。

「おぉー久しぶりやね」
「いや、この前ラジオで会ったじゃん」
「あ。ほやったか」

思わず口から出た言葉を美貴ちゃんにつつかれる。
それからしばらく話をして、今度ご飯でもと手を振る彼女に頷いた。
また手持無沙汰になったあたしはマネージャーさんが来るであろう方向を見るけど、まだ来る気配がない。
4 名前:【気付くということ】 投稿日:2011/11/25(金) 19:40
右に向けた顔を反対に戻すと、さっき見送った美貴ちゃんが少し離れた所で事務所の人と談笑していた。
こうして見ると、前よりもお腹の存在感が増した気がしなくはない。

笑い声が微かに聞こえる。
ここから見る彼女の笑顔に可愛いなと思った。
そしてそう思うのは初めてだなと思った。

彼女が可愛くないということでは、当然ない。
ただあたしの中で、美貴ちゃんと“可愛い”は結びついていなかった。
結びついていたのは“美しい”だったから。
名前の通り、“美”がとても似合うと感じてた。
5 名前:【気付くということ】 投稿日:2011/11/25(金) 19:41
まるで調律したばかりのピアノの、濁りのない高音部のような。
すごく寒い日の、あり得ないくらい澄んだ夜空の三日月みたいな。

うまく表す言葉が見つからないけど、とにかく美貴ちゃんは“可愛い”から1番遠い場所にいる人だった。
年上だからとかを抜きにしても、“美しい”以外表せない気がしてた。
あたしの中では、それが“藤本美貴”だったから。

なのに今ではその彼女に“可愛い”と感じている。
ずっと前も、結婚披露宴の時も、つい最近もそんなことはなかったのに。
やっぱり視線の先で笑う美貴ちゃんはとても“可愛い”。
6 名前:【気付くということ】 投稿日:2011/11/25(金) 19:41

「お母さんになったからなんかな…」

心の中で言うつもりが声にしてしまっていて、慌てて周囲を確認する。
単調にこぼれたはずだけれど、なぜかこの独り言は誰にも聞かれたくなかった。

幸い、近くに人影はなくてほっと息を吐く。
それなのに視線は美貴ちゃんの方へは戻せなかった。


そこでまたはじめての感情に気がついた。


目をつぶって壁に寄り掛かる。
長い呼吸が数回目を過ぎた頃、急いで来たらしい早足のマネージャーさんの足音が聞こえた。
いつの間にか時間が経ったのか、反対側に彼女の姿はなかった。
7 名前:【気付くということ】 投稿日:2011/11/25(金) 19:41
事務所から出るとザーザーと雨が降っていて、滴が打ちつける車の窓ガラスを見ながらさっきの感情を思い出す。
今は困惑も驚きも、何もなかった。
むしろもう心が穏やかなことに驚いた。

そして今になって、あの笑顔の写真を撮らなかったことを少しだけ後悔した。

「高橋、なんかいいことあったのか?」
「へ?」
「なんか嬉しそうだから…」
「あぁ、それがさっき美貴ちゃんに会って……」

少し話して、お母さんだなと感じたことを伝える。

バックミラーから見るあたしは嬉しそうらしい。
そう聞いてほっとしながら、寂しく感じた。
8 名前:【気付くということ】 投稿日:2011/11/25(金) 19:42
気付かずにいた恋は、わずか数分で過去形になった。

気付かなかった?
いや、気付こうとしていなかっただけかもしれない。
すでに過ぎた恋を外気に触れさせることなく、大事に保管していたかっただけ。

その証拠に失恋の痛みは感じていない。
感じるのは、心のパズルのpicecが1つ欠けたような喪失感。
9 名前:【気付くということ】 投稿日:2011/11/25(金) 19:42
.


もう、この空白は同じpieceじゃ直せない。
もう、同じ場所には戻せない。

あたしが恋した魔女は
もうどこにも…………、いないのだから。


.
10 名前:【気付くということ】 投稿日:2011/11/25(金) 19:43
【おわり。】

愛→美貴
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/30(水) 09:36
そういう恋もいいですねえ…
ミキティの変化わかります
Renoirなお話もすごく好きで追っかけてました
おかえりなさい!
12 名前:【キックオフ】 投稿日:2011/12/03(土) 23:24


アンリアル
吉澤ひとみ 石川梨華
13 名前:【キックオフ】 投稿日:2011/12/03(土) 23:24
駅から歩いて約20分。
ようやく見えた自宅の窓を、今日もよく頑張りましたと首を回しながら見上げる。
するとカーテンが閉められ、灯りがついていた。

そういえば、恋人が仕事を終えたらこちらに帰って来ると連絡があったのだった。


「マジかよ………」


ため息は白く重い。
恋人に会いたくないわけではない。
まるで冷蔵庫のように冷えた部屋に帰宅するよりも、暖められた明るい部屋に帰りたい。
それにきっと腹の虫を急かす、良いにおいもするだろう。

ただそれとこれとは話が別で、左手に持つ綺麗にラッピングされた包みが問題だった。
14 名前:& ◆T16R9shRxc 投稿日:2011/12/03(土) 23:24
帰り仕度をしている時に後輩の女の子から渡された、この包みの中はチョコレートケーキらしい。


『好きな人に渡したくて練習したんですけどぉ、作り過ぎちゃったので貰ってくれませんか?』


こんなに立派に包んで、1人だけに渡しておいて。
“吉澤さんへ”なんて丸みのある字で書かれたハートのカードなんて入れてあって。
意味がわからないほど、鈍感でなければ自覚がないわけでもない。

可愛い子だった、悪い気はしない。
しかしタイミングが悪い。

どんな嫌味を言われるかを考えると、いつもよりもエレベーター待ちの時間が苦痛で仕方なかった。
15 名前:【キックオフ】 投稿日:2011/12/03(土) 23:25
鍵を取り出し、ドアを開ける。
するとキッチンからひょっこりと顔を出す、もう長い付き合いの石川梨華。


「あ、おかえり」
「おー」
「………………はぁ」


手に持った包みを見た恋人は大袈裟に息を吐いて、目を細めてから何を言わずにキッチンに引っ込んだ。
これが可愛いヤキモチや嫉妬なら、抱きしめて機嫌でも取ってやろう。

でも、そうはいかないのがアイツで。
呆れたような顔で不機嫌をアピールしつつ、長い時間チクチクと嫌味を口にしてくる。
ネガティブ街道まっしぐらな頃よりはマシでも、ややこしいのには変わりない。
16 名前:【キックオフ】 投稿日:2011/12/03(土) 23:25
とりあえず部屋着に着替えて、手と喉の汚れを洗い流す。
リビングへ戻ると食卓には美味しそうな夕食と、あの包みを前に腕を組んで座るアイツ。

今日はロールキャベツらしい。
うまそうなのに、美味しくいただけそうにない。


「相変わらずおモテになるのね」
「別にそんなんじゃねーし」
「クリスマスには少し早いと思ったけど?」
「だから作り過ぎたからって…」

「いいけどね、別に」


席についた途端に始まる小言。
はっきり言って“いい”って顔をしていない。
どうやって機嫌を直させるようか考えながら、無言で夕食を終えた。
17 名前:【キックオフ】 投稿日:2011/12/03(土) 23:26
食べ終えた食器を水に浸しながら、なかなか戻らない態度に面倒くさいと思いながら何とかしようと考えている自分もいる。

しかし今日はいつもに増して機嫌が悪い。
眉間のシワが2割増しって感じだ。

本日何度目かのため息が出かけた時、背中に柔らかな衝撃があった。


「ねぇ、明日の朝早いの?」
「…別にないけど」
「ふーん」
「…なんだよ」
「あたし明日休みなの」
「…あーそう」

「今日泊まってくから、ね」


そう耳元で言うと、腰に回された腕に力が入った気がした。
しかしひ弱過ぎて圧迫感はあまり感じない。
18 名前:【キックオフ】 投稿日:2011/12/03(土) 23:27
数秒で離されたはずなのに背中の感触は毎秒強くなっていくようで、シンクに手をついて身体の力を抜いた。

長い付き合いだからって、自分と同じ形だからって、何も感じないなんてことはない。
意図的に押し付けられた柔らかな感触は、そうそう簡単に流せるものではなくて。

項垂れたまま首を横に向けると、つい数秒前まで不機嫌だったとは思えないほどご機嫌なキモイ歩き方で脱衣所へ消えるところだった。


「マジでエロい女…」


19 名前:【キックオフ】 投稿日:2011/12/03(土) 23:27
アイツは知らないだろう。
食器が沈むシンクの前で、こんなことを呟かれているなんて。

でもアイツは知っているだろう。
誘惑に負けて、洗いかけの食器を置き去りにして追い掛けてくるのを。
そして冷蔵庫に入れられなかったチョコレートケーキは、部屋に放置され少し溶けて歪んでしまうことを。

簡単に負けを認めるのは癪だから、今日は目一杯いじめてやろうか……。
なんてすでに負けていることに気付かないフリをして、脱衣所との距離を縮めた。


浴槽にいるアイツは勝者な笑みで見上げてくるだろう。
確かに先制点は決められた。
しかしここから巻き返して逆転勝ちする方が勝負は面白いもんだ。

当然、勝ちは譲らない。
20 名前:【キックオフ】 投稿日:2011/12/03(土) 23:28
【おわり。】
21 名前:図書 投稿日:2011/12/03(土) 23:33
>11:名無飼育さん 様

レスありがとうございますt(o´∀`s)yo
以前のお話も読んで下さっていたなんて、感激です。
探り探り書いていくつもりですのでよろしくお願いします。
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/04(日) 14:58
これは良いいしよし

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