あの頃歌った数え唄
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/23(金) 07:00
- *****
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/23(金) 07:00
- 一からやり直そう
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/23(金) 07:00
- 陸上部の朝は早い。
もうとっくに太陽は姿を現しているのに、どこかまだ空気が冷たい時間帯。
少しくたびれた感のあるウェアも、真新しいセーラー服の夏服のように感じられる。
ウォーミングアップでしっとりと汗がにじむまでの時間が、福田花音は一番好きだった。
アップを終えた花音は、スターティングブロックをセットしてスパイクで軽く踏む。
短距離走を始めてから何万回と繰り返してきた動作だった。
隣のレーンには誰もいない。
昨日まで一緒にトレーニングをしていた子は部活を辞めた。
興味本位で入部してきた子が数ヶ月で辞めていくというのはよくあることであり、
特にどうも思わないが、何年も一緒に練習してきた子が辞めるというのは初めての経験だった。
陸上が嫌いになったわけじゃないのに、部活を辞めるというその子の言葉は理解できなかった。
部活を辞めてゼロに戻りたいという言葉の意味がわからなかった。
積み上げたものをゼロにしたいという気持ちには最後まで同意できなかった。
花音はスタートダッシュの練習を繰り返す。ダッシュしては戻り、戻ってはダッシュする。
音も立てずゆっくりとスパイクの裏をブロックに押し付ける。そして力を込めて足を押し出す。
呼吸が乱れる。肺が焼けつくように熱くなる。そんな負荷がかかる練習ではないはずなのに。
「カンカンカン」
スタート前にスパイクで何度かブロックを蹴るのがあの子のクセだった。
試しに同じようなスタイルでスタートの姿勢を作ってみた。そして勢いよく足を弾き返す。
体が軽かった。いつもよりも上手くスタートが切れたような気がした。
決めた。しばらくはこのスタイルでやってみよう。
あの子がいなくなっても私はゼロには戻らないし、戻れない。走ることが好きだから。
花音は再び一点に集中力を高め、無人のフィールドの中で黙々とスタートダッシュを繰り返す。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/23(金) 07:00
- *****
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/24(土) 07:00
- 二位じゃダメなんでしょうか?
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/24(土) 07:00
- だいたいどの学校でも、どの子が一番美人かっていう意見は、いくつか分かれると思う。
何百人も生徒がいれば図抜けて綺麗な子なんて二、三人はいるものだし、そもそも絶対的な美なんてないし。
それに数百人の美的感覚が一致するなんてことも、まず絶対あり得ない。
でもうちの学校で一番美人なのが矢島舞美であるという意見に異を唱える人はいないと思う。
たまに「愛理が一番だよ」と言ってくれる子もいるけれど、私はちゃんとわかってますから。
その「一番」は「一番好き」とか「一番可愛い」の一番で、「一番美人」の一番ではないんだってこと。
だってそういうことを言う子は、決まってその時に舞美ちゃんの名前を出すからね。
でも私は舞美ちゃんの話題で不愉快になったりはしません。むしろテンション上がります。
わかるわかる、みたいな。そうだよねそうだよね、みたいな。
食い付いていきますよ。この手の話題が嫌いな女の子っていないと思う。
私だって一番になりたいという気持ちはある。きっと誰だってあるよね。心の中では。
でもその気持ちは「誰かに勝ちたい」とか「誰かより勝りたい」というのとはちょっと違うみたい。
私ってもっと負けず嫌いな性格だと思うんだけど。すっごい勝気な子だと自覚してるんだけど。
鈴木愛理ではなく矢島舞美がこの学校の頂点に君臨している。そっちの方がずっと自然なんですよ。
それにしても「君臨」って舞美ちゃんには似合わない言葉だー。あんなに女王様みたいな顔してるのに。
他にも「気品」とか「冷淡」とか「スタイリッシュ」とか「お淑やか」とか。あと「美人薄命」とか?
とにかく、舞美ちゃんは美人この上ないくせに、美人によくあるイメージがことごとく似合わない人。
んふふふふふ。笑ったら失礼かな。でも私はそんな舞美ちゃんが好き。
あ、そうだ。一つ思ったんですけど。
もし私と舞美ちゃんが付き合う、なんてことになっちゃったら。学校のみんな公認の仲になったら。
あははははは。もうどっちが一番とかそういうのってどうでもよくなると思いません?
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/24(土) 07:00
- *****
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/25(日) 01:55
- 途中から暴走しかけちゃう感じが愛理らしいw
淡々としているようでどこか熱い、素敵な文章だと思います
更新楽しみにしてます
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/25(日) 07:00
- 三段論法で証明します
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/25(日) 07:00
- 休み時間こそが学生の本分。チャイムが鳴ると教室は生き返る。授業が終わった途端に広がっていく喧騒。
互いが競い合うように大声でまくしたてているが、不意に教室内の声が同時に途切れる時がある。
いつもなら皆がやや恥ずかしそうな空気を作りつつ、また他愛もないお喋りに戻っていく。
だがそんな沈黙などもろともせずにマイペースを貫く人間もいて、まっとうな学生諸君に得難い娯楽を提供する。
「嗣永桃子は可愛い」
周りの微妙な空気などお構いなしで喋っているのは嗣永桃子。そして相手をしているのは夏焼雅だった。
このクラスではいつも一緒にいる二人だが、その割には仲良くしているところを見た者は少ない。
今も雅は呆れたような疲れたような顔をして桃子のことを見ているのだが、これもいつものこと。
嫌なら相手をしなければいいのにと思うのは常識人。変わった名字をした二人だが、性格も少し変わっていた。
もっとも本人達にその自覚があるかというと非常に怪しいのだが。
「可愛いは正義」
作ったような可愛らしい声で語る桃子の言葉は、クラス中にキンキンと響き渡る。
話の内容が緊密な愛の語らいだろうが下品な痴話喧嘩であろうが同じこと。
桃子は極端に裏表が激しい性格ながら人並外れて口が軽いというアクロバティックな性格をした少女だった。
種も仕掛けもない代わりに、成功することも絶対にない嗣永桃子オリジナルの奇術曲芸トーク。
それでも雅は、なぜかいつも観客席の最前列に陣取って、桃子の着地失敗の巻き添えを率先して食らうのだった。
「よって夏焼雅は悪」
投下された爆弾は今日もまた微妙に不発に終わる。不発弾の処理をするのは雅の仕事だ。
眠たそうな顔で桃子の話を聞いていた雅は、大きく目を見開き、ぐにゃりと口の端を曲げてみせた。
今まさに雅が反論せんと口を開いたところでタイミングよく鳴る授業開始のチャイム。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/25(日) 07:00
- *****
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/26(月) 07:00
- あなたで四人目です
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/26(月) 07:00
- 私が思うに、何か夢とか目標を持って計画的に学生生活を送ってる人ってすごい少数派だと思うんです。
要するに、みんな本音では「目標に向かって頑張る」ということは何か面倒なことだと思ってるんですよ。
ただ「面倒」って思うだけならまだいいんですけど、それが次には「格好悪いこと」みたいになっちゃう。
要するに「頑張るなんてダセえ」っていうことから、「頑張ってるやつってウゼえ」に変わっちゃうんです。
私、そういうのよくわかるんです。だって真野は昔から何度も何度もそういうこと言われてきましたから。
頑張ることって面倒だから格好悪いことにしたい。そうなれば自分も頑張らなくてよくなるってわけです。
そういう考えって明らかに間違ってますよね。でも間違いを指摘しても絶対にわかってもらえないんです。
いや、みんな本当はわかってるけど、わかってるからこそわからない振りをし続けているんじゃないかな。
だってわかったっていうことを認めたら、自分も頑張らなくちゃいけなくなる。頑張らないとダサくなるから。
でも面倒だし頑張りたくないからわざとわからない振りをして、頑張ってる子を格好悪い扱いするんです。
あー、真野の話、ちょっとウザいですか? 理屈っぽいですか? 回りくどいですか? 大丈夫ですか?
今の世の中ってみんなそうやって白けた振りをしているんですよ。要するに、熱くなることを避けている。
でも真野は目標に向かって頑張るって面倒だとは思いません。面倒だからこそいいんじゃないですか?
要するに、面倒せずに楽にできることや誰にでも簡単にできることなんて、そんなに面白くないんですよ。
生徒会の活動とかも、みんなすっごい嫌がるじゃないですか。生徒会に立候補とかあり得ないみたいな。
あいつ何を張り切って立候補とかしてんだよ、格好つけやがってウゼえみたいな風潮あるじゃないですか。
真面目ぶりやがって。内申点上げようとしてる。優等生ぶりやがって。要するにそう決めつけてるんです。
私はそういった声には負けません。毎年毎年先生から推薦された子が嫌々やらされるっておかしいです。
だから私、昨日欠員が発表された生徒会の補欠選に立候補します。このまま黙って見過ごせませんから。
だって、このまま先生が適当に選んだ子が嫌々推薦で選ばれるなんておかしいし不自然じゃないですか。
要するに、夢に向かって頑張ってる人が自分の意志で生徒会活動に取り組むことが自然だと思うんです。
え? そんなの関係ないですよ。会長が矢島舞美さんであろうがなかろうがそんなこと関係ないですって。
いきなりなんでそんなこと訊くんですか? やだなあもう。まるで何かの面接みたいな質問するんですね。
毎年誰も立候補しないんですから、どうせ今回も生徒会の補欠選なんて、誰も立候補してないですよね?
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/26(月) 07:00
- *****
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/26(月) 11:23
- うわどうしよう凄い好きです
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/27(火) 07:00
- 五限が始まる前に
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/27(火) 07:00
- 4限終了のチャイムが鳴ると同時に、香音ちゃんが遠くの席からやって来てぬっと首を伸ばした。
「里保ちゃん食堂いこ。はやくはやく。パッと行って先頭に並ぼう」
私が返事をする前から既に香音ちゃんは小走りのポーズ。その場で腕を振ってジタバタと足踏み。
「ああ、もう、なんでこの学校は昼休みが13時からなんだよー、遅過ぎるって。普通12時でしょ!」
昼食を前にした香音ちゃんの顔は危険なくらいシリアスなんだけど、でも笑ってるようにしか見えない。
「よーい、ドン!」一つ後ろの席の譜久村さんが合図する。体が反応。二人同時にダッシュで走りだす。
全力疾走で廊下を駆け抜ける。きっと悪目立ちしているんだろうな。まるで小学生だもん。ああ恥ずかしい。
でもそんなに言うほど嫌じゃないかもと思えるのは、隣にいるのが鈴木香音だからからかもしれない。
前の学校にいたときはこういう騒がしいタイプの子とは絶対に仲良くなれなかった。
いつも優等生タイプの大人しくて物静かで、お互い干渉しないような子と一緒にいたと思う。
香音ちゃんみたいなキャラって、間違いなく一番好きになれないタイプのはずだった。
でも東京に引っ越してきて最初に仲良くなったのがこの子だった。
一緒にいて楽しい。楽しいけど疲れる。疲れるけどパワーをもらえる。そんな矛盾した感覚がすごい不思議。
この子はちょっと特別な子なのかもしれない。広島にはこんな子はいなかった。
もっとも他のクラスメートによると「いや、福岡にもいないよ」「東京にだっていない」となるんだけど。
私達の教室は食堂からはちょっと遠い。でも香音ちゃんはそんなハンデなどもろともしない。
速足で急ぎゆく生徒達を豪快にごぼう抜きにしていき、食券売り場の先頭に滑り込む。
足はえー。これアニメとかだったら絶対に足元から土煙がわきおこってますよ。ぶわーっと。
食券売り場の横でパンを売ってるおばちゃんも笑ってる。香音ちゃんは食堂のスーパーヒーローなのだ。
香音ちゃんはお気に入りのCセットのランチが乗ったトレーを手に窓際の特等席に座り込む。
「いただきまーす」と言うときの香音ちゃんの笑顔を見るだけで既にお腹いっぱいになりそうな私です。
香音ちゃんはたくさん食べるけど食べるペースは意外と遅い。同じく食べるのが遅い私と丁度合う。
二人ほとんど同時に食べ終わると、香音ちゃんはいつも言ってる持論を繰り返し主張するのでした。
「やっぱり昼休みは12時からにするべき! 食べるもんを食べないと3限とか4限の授業も頭に入らない!」
おやおや。2限が終わった時に早弁をしていたのはどこのどなたでしたっけ?
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/27(火) 07:00
- *****
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/28(水) 07:00
- 正六角形
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/28(水) 07:00
- どの学校にも世間の常識からちょっと外れた校則が一つや二つはあるものだ。
「刃物を持ってきてはならない」というのはどうだろう。わざわざ校則に記載するようなことだろうか。
そして「ただし、鉛筆等を削るものに関しては除外する」という補則はどうだろう。必要だろうか。
99.4%の生徒がシャーペンを使っているこの学校ではもはや意味のない一文かもしれない。
だが岡井千聖のように休み時間に熱心に鉛筆を削っている生徒というのも、まだしっかりと存在していた。
「彫刻刀だとどうもキレが悪いんだよね」
正六角形の鉛筆を器用にくるくると回しながら、もう一方の手に握られた細長いナイフを擦り上げていく。
殺傷能力なんて毛ほどもないようなその小さなナイフの本来の使い道が何であるのか、中島早貴は知らない。
ただ、削られた木の皮が、ティッシュの上に鰹節のように積み重なっていくところを見るのが早貴は好きだった。
「じゃ、あたしのもお願い」「おっけー」
早貴は数本の鉛筆を千聖に渡す。千聖は早貴の鉛筆も同じようにリズミカルに削っていく。
単調に親指を動かしているだけなのに、見ていて飽きない。思わず見入ってしまう。
手品とも違う。サーカスとも違う。ダンスとも違う。単調だからこその心地よさ。
本当の意味で「見ていて飽きないもの」というのはこういうものなのかなと早貴は思う。
元々は早貴も普通にシャーペンを使っていた。鉛筆なんて小学校低学年の頃から使っていなかっただろう。
でも千聖に勧められて3Hの鉛筆を使ってみたところ、これがビックリするくらい書き易かった。
シャーペンにも3Hの芯はあるが、筆圧の問題なのか芯の太さの問題なのか、どうもバキバキと簡単に折れてしまう。
そして一度3Hの鉛筆の使い心地の良さを知ってしまうと、もうシャーペンには戻れなかった。
「名前も彫ろっか」「できるの?」「イニシャルなら」「じゃ、C.O.で」「それあたしのイニシャルじゃん」
だってあたしは千聖のものだもん。というクサイ台詞を早貴は飲み込む。
そんなことを言うキャラではないことは重々承知している。言ってもただの冗談としか受け取ってもらえない。
千聖はただ無言で笑ってる。そして鉛筆を持ちかえて、先端とは逆の方に小さくイニシャルを彫る。
手渡された鉛筆に刻まれたイニシャルは、誰がどう見ても「Z.N.」としか読めなかった。
すかさず早貴は「中島ザキって誰だよ!」叫び、半ギレの顔を作って千聖の両肩につかみかかる。
やっぱりこういうキャラの方が楽。だって昔からずっとそうだったんだもん。千聖と出会った時からずっと。
いつの間にか、心の奥底にあったはずの切ない感情は早貴の中から綺麗さっぱり消えて無くなっていた。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/28(水) 07:00
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- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/28(水) 22:26
- とてもよいです
とても好きです
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/29(木) 07:00
- 乙女の七変化
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/29(木) 07:00
- 学校に出発。
前田憂佳は基本的に一人で登校する。友達の家はみんな逆方向。でもそれでよかったのかもしれない。
朝の憂佳ははっきり言って機嫌が悪い。憂佳的ご機嫌度は10段階で1くらい。ほとんど鬼の形相だ。
気安く話しかけんじゃねーぜオーラをガンガンに放ちながら学校に到着。友達の顔を見てご機嫌度は2に上昇。
予鈴が鳴る。
前田憂佳にぬかりはない。教科書よし。宿題よし。予習よし。それでもまだご機嫌度は10段階で3くらい。
苦手な先生の授業でテンションが落ちる。悲劇のヒロインのような表情で苦難の時間を過ごす憂佳。
後ろの席の和田彩花から手紙が回ってくる。なにこの落書き。くっだらなーい。それでもご機嫌度は6に上昇。
休み時間だ。
チャイムが鳴ると意味もなく万歳ポーズを取る憂佳。目もキリッと冴えてきた。ほぼ通常モードに戻る。
通常モードの前田憂佳というのはつまり、世間一般で言うところの「絶世の美少女」程度ということになる。
誰もが憂佳に一目置いているが、彩花だけは気安く話しかけてくる。楽しい時間。ご機嫌度は9まで上昇。
授業が再開。
実は憂佳は言うほど勉強が嫌いではない。好きでもないが、その分「一生懸命頑張る」という気持ちになれる。
ストイックモードに切り替えて黒板にクールな眼差しを送る。授業中というのにご機嫌度は7をキープ。
だが先生の質問に彩花が面白回答。憂佳も思わず苦笑する。私のストイックモードを返せと心でつぶやく憂佳。
さあ放課後。
憂佳は一旦校舎を出て部室棟に移り、三階の和室ゾーンを抜けて、廊下の窓際の一角に移動する。
窓を開けると温い風がゆっくりと廊下を通り抜けていく。自分が限りなく透明な存在になったように感じる。
窓からはフィールドで汗を流している陸上部の様子がよく見える。一番好きな時間。ご機嫌度なんて測定不能。
夜が更ける。
プライベートな時間なのに、帰宅後は登校時に負けないくらいたくさんのルーチンワークが待っている。
着替えて、晩御飯を食べ、宿題をし、漫画を読み、お風呂に入り、歯を磨き、合間合間にメールを送る。
それでも自宅でくつろぐ憂佳は、油断しきった飼い猫のようにだらしない姿を晒している。ご機嫌度は8。
朝日が昇る。
いくら目覚まし時計が鳴ろうが、お母さんが起こしにこようが、眠いものは眠い。これ人生の真理。
二度寝している時のご機嫌度は10なのだが、前田憂佳は二度寝するために生まれてきたわけではないのだ。
家の外ではまだ知らぬご機嫌度測定不能の事態が待っているはず。眠い目をこすって憂佳は制服に袖を通す。
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/29(木) 07:00
- *****
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/30(金) 07:00
- 口八丁の手紙八丁
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/30(金) 07:00
- 「今日はやけに静かだね」と光井愛佳はクラスメートに言われた。
何気ない一言だったが、まるで銃で撃たれたかのように、愛佳はビクンと体を震わせた。
いつもならマシンガンのようにまくしたてるのは愛佳の方だ。口の上手さは天下一品。
独特の言葉選びで相手の弱点を的確に射抜く。愛佳は学園で口喧嘩最強を誇っていた。
そんな愛佳にも無言になる時がある。言葉が出てこない時がある。真剣になればなるほど。
だから言葉を手紙に綴った。好きな人へ伝えたい気持ち。全部手紙の上に書き出してみた。
何も考えず、考え直さずに、思いの丈を吐き出した手紙。書いてから一度も読み返していない。
渡すつもりなんてない。考えを整理したかっただけ。自分の思いを確認したかっただけ。
嘘つき。整理したい? 確認したい? だったらなんで一回も読み返さないの?
偽善者。渡すつもりがないのなら、どうして未練がましく学校まで持ってきたの?
臆病者。最初から答は出てるんじゃないの? 逃げ道が欲しいだけじゃないの?
心の中で愛佳と戦う愛佳。痛いところを突いてくる。やっぱり愛佳は口喧嘩が強い。
愛佳の席は廊下側の窓のすぐ横だった。この時間になると廊下の奥から上級生が歩いてくる。
擦りガラスの向こう側に見覚えのあるシルエット。聞こえてくる黄色い声。
再び愛佳は拳銃で撃たれたみたいに体を震わせる。今日はよく銃で撃たれる日だ。
でも銃弾なら愛佳も持っている。鞄から取りだした一通の手紙。銃弾かはたまた毒薬か。
渡さない方がいいのかな。このまま当分暖めておく? それともいっそ握りつぶしてしまう?
躊躇うことはない。この気持ちが自分にとって絶対的な真実。それは揺るぎない思い。
タイミングは今だ。真実の恋が生まれるなら、それは今この瞬間しかない気がした。
もう最悪。今年何度目の誕生日だろう。そうさ私は惚れっぽい。惚れっぽいのが悪なら悪でいい。
世紀の大悪人は手紙をスカートのポケットに突っ込んで席を立つ。
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/30(金) 07:00
- *****
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/01(土) 07:00
- 九州には帰しません
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/01(土) 07:00
- 「ここ。この部屋。あー、疲れた」
譜久村聖を部屋に招き入れると、生田衣梨奈は電気も点けずにベッドに倒れ込んだ。
「意外とひろーい」
聖は物珍しそうな顔で部屋を見回した。十畳はあるだろうか。聖の部屋より明らかに広かった。
名門を自負する中高一貫の私学には全寮制をとるところが少なくない。
衣梨奈と聖の通う学校も数年前までは全寮制だったらしいが、今は希望者のみの入寮となっていた。
九州から上京してきた衣梨奈は入寮する選択肢しかなかったが、聖は東京出身なので自宅から通っている。
広い部屋に広いベッド。壁と一体型になっている備え付けの机と本棚。こじんまりとしたユニットバス。
初めて寮の個室の様子を目にした聖には、全てが新鮮なものに感じられた。
流行りの雑誌や漫画の詰まった衣梨奈の本棚を、聖は一つ一つに歓声を上げながらチェックする。
それでも衣梨奈はベッドに顔を沈めたまま動かない。ここ数日ほど衣梨奈はずっと元気がなかった。
上京してきて半年。今が一番つらい時期じゃないかなという母の助言を聞いた聖はすぐに行動した。
一緒に買い物に行き、そして初めて衣梨奈の部屋を訪ねてみた。もっと早くそうするべきだったのだ。
本棚を探っていた聖は一通の書類を手にして硬直した。九州のとある学校の編入試験願書。
気配で察したのだろう。衣梨奈はベッドから起き上がって聖の方を向いた。
「聖。急で悪いけどー、貸してた漫画とか返してくんない? 実はあたし・・・」
聖は衣梨奈に最後まで言わせなかった。素早く言葉を遮り、いつになく強い口調で切り返す。
「借りたものは返さない主義です」
「ひどーい!」
「それは嘘だけど。借りたものは返すけど、でもね」
「もう返してよ」
「もらったものは返しません。絶対に返さないんだから」
「あげてないよ!」
「もらったよ。色々なものを」
聖は自信満々の表情でそう言うと、願書をビリビリと破り捨てた。
- 31 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/01(土) 07:00
- *****
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/02(日) 07:00
- もう十月なんですけど
- 33 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/02(日) 07:00
- 先生。みんなのプリント持ってきました。問題ありませんでした。ちゃんとみんな静かに自習してましたから。
要するに、真野恵里菜が学級委員長を務めている限り、真野のクラスに問題が起こることはないわけです。
え? すごいうるさかった? 誰ですかそんな嘘を言う人は。え? 先生が隣で授業してた? そうですか。
確かにちょっとうるさかったかもしれませんが、それは真野の声だったんです。だから何の問題もないです。
要するに、学級委員長としてクラスを仕切るためには多少の大声も必要なんです。体育の先生みたいに。
わかってますわかってます。すみません先生。ちゃんと説明するんでちょっと黙ってもらっていいですか?
先生。覚えていますかあの学園祭のときの興奮を。覚えてます? 覚えてません? どっちなんですか?
いや先生。確かに黙っていてとは言いましたけど返事くらいはしてもいいんですよ。空気読んでくださいよ。
夏休みの貴重な時間を使って準備した学園祭。部活をやってる子も最大限協力してくれたじゃないですか。
いえいえいえ。真野の仕切りが良かったからじゃないですよ。要するにクラスのみんなの力があってです。
とにかくあの夏の興奮はただものじゃなかったです。本当に、今年の夏は暑さは半端じゃなかったですよ。
電力消費が問題視される昨今。みんなクーラーもないところで汗まみれになって作業していたわけですよ。
はい? 自習の話? 今ちゃんと説明してるじゃないですか! どうしてそうやって話を交ぜ返すんですか!
怒ってないですよお。私はそんな我儘で自分勝手な子じゃありません。だって学級委員長なんですよ私は。
問題児が多い? あ! 今先生「問題児」って言いましたね! 言った! 言ったよ絶対! 聞いたもん!
許せないですね。要するにそれって夏焼さんとか嗣永さんのことですよね。絶対そうだ。そうに決まってる。
うちのクラスに問題児が多いなんていうのは先生の勝手な偏見です。え? 誰も言ってない? 嘘だあ。
今はっきりと「真野のクラスには問題児が多いから」って言ったじゃないですか! 許せないですねーもう。
問題児が多かったら学園祭でやったアイドル喫茶っていう企画だって成功しなかったって思いませんか?
ただの喫茶店じゃなくて、学級委員長の真野が歌って踊る。大成功でしたよ。要するに最高の企画でした。
あれ以来、私もあちこちで「歌って!」とか「踊って!」とか言われるようになりましたもん。大好評ですよ。
要するにうちのクラスでは完全に「夏=真野の歌」という図式が成立してるんですよ。これすごいとですよ。
夏焼さんも嗣永さんも見かけによらず良い人ですよ。自習になると決まって真野にリクエストするんですよ。
「真野ちゃんの歌が聴きたい」「真野ちゃんのダンスが見たい」ってね。なかなか言えないですよ真野には。
ええ。だから歌います。空に太陽がある限り。要するに夏の太陽が輝き続ける限り真野は歌って踊ります。
別にいいじゃないですか! ほんの数秒歌うくらい。はあ、はい。はい。ええ。わかってますわかってます。
最初から「期間限定アイドル!」っていう煽りの企画でしたから。はい。秋からは真面目に頑張りますんで。
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/02(日) 07:00
- *****
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/03(月) 07:00
- いちいち耳触りでさ
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/03(月) 07:00
- 校舎の影が長く伸びる。ここ数日、日が沈むのもかなり早くなってきた。
部活はとっくに引退していた徳永千奈美だったが、久しぶりに体育館をひょいと覗きこんでみた。
飛び切り背の高い新キャプテンを中心にして、基本的なシュート練習が行われていた。
ザッ、ザッ、ザッとバスケットボールがリングに吸い込まれる音が心地よく響いている。
アウトサイドからのシュートを得意にしていた千奈美は、何万回とこの音を聞いてきた。
調子が良かったときはボールをリリースした瞬間に入るか外れるかわかった。
入る時には、入る前から「ザッ」というネットをこする音がはっきりと聞こえたものだった。
外れるにしても、なんとなくリバウンドの方向までわかる気がしたし、その感覚に外れはなかった。
現役の頃を懐かしむにはまだ少し早い。伸ばし始めた髪だってまだ現役の頃とそう変わらない。
「千奈美、推薦決まったんだってね。おめでとう」
声をかけてきたのは須藤茉麻だった。センターを務めていた茉麻は千奈美より一回り背が高い。
千奈美と同じく部活を引退していた茉麻は、少しふっくらとしていた。それでも長身に変わりはない。
引退したからって背が縮むわけじゃないんだと思うと千奈美は妙に可笑しかった。
「バスケには全然関係ない学校だけどね」
「うちの学校からスポーツ推薦とかは無理だよ」
ザッ、ザッ、ザッ。二人が話している間にも後輩のシュートは次々とリングに吸い込まれていく。
千奈美は茉麻の方に振りかえることなく、じっとリングだけを見つめていた。
「ねえ茉麻。ハビットスポーツっていうけどさ、あれ本当だよね」
「なにをいまさら」
「抜けないんだよ。だからホントはここには来たくないのに。でも来ちゃうんだよ。抜けないから」
「そのうち消えちゃうよ。消えないでずっと残っててほしいけど」
「あたしは違うな。はやく消えてほしい」
千奈美は立ち上がってスカートの砂を払うと「消えないんだよー。何をしててもさ」とつぶやいて歩きだす。
よく喋る割に肝心なことはなかなか言わない。千奈美と付き合いの長い茉麻は無言で千奈美の後に続いた。
それでもなんとなく理解できる気がした。何万回と繰り返し聞いてきたあの音。青春を捧げたあの音。
現役を終えた今でもきっと、千奈美の耳にはあの音がこびりついて離れないのだろう。
- 37 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/03(月) 07:00
- *****
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/04(火) 07:00
- ご自由に
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/04(火) 07:00
- 1限と2限の間の休憩時間は僅か10分しかない。
それでも教室内では友達同士が集まっていくつもの人の輪を作る。
萩原舞も机の間を縫ってその中の一つに飛びこんだ。
女の子には人が寄ってくるタイプと人に寄っていくタイプがいる。
自分がどちらの人間なのか舞はよく理解していた。誰だってその二種類のどちらかだと思っていた。
鈴木愛理は自分の席に座ったまま動かない。
勉強をするでもなく、うつ伏せになって寝るでもなく、時間をもてあましている様子でもない。
何かに不自由するでもなく、ただそこにいるとしかいいようがなく、鈴木愛理はそこにいた。
時折すっと髪を整える仕草をする。その一つの仕草だけでも愛理は10分の間を持たせてしまう。
そして誰かから喋りかけられると自然に会話を広げることができる。それも愛理の得意技だった。
舞は授業中に思いついた飛びっきりのネタを披露して友人の笑いを誘う。
友達が笑うとホッとする。自分が「面白い話ができる子」であることを再確認する。
クラスの友達との会話なんて、毎日がこの再確認の繰り返しでしかなかった。
気が付くと愛理はさっきとは全然違うグループの子と喋っている。
どのグループの子とも親しく喋れる子なんて少女漫画の世界にもいない。現実味がないから。
それでも愛理は誰とでも会話するし、誰にも喋りかけられなくても特に困らない。
愛理は特別だった。何よりも自分の態度が特別だと誰にも思わせないところが特別だった。
舞は愛理に視線を送る。愛理は気安く視線を受け止めて優しい笑顔を舞に返す。
それでも愛理は舞の下にはやってこない。特に進んで話の輪には加わろうとはしない。
ひらひらと手を振って舞との視線を切ると、愛理はまた自分の世界に戻って手鏡を覗きこんだ。
どうしようもなくって。こらえきれなくって。舞は笑みをもらした。
愛理が好きだった。この愛理が好き。今のこの愛理だからこそ好きだあたしは。
まったくもって愉快で痛快で、もう笑うしかなかった。こんな女の子は他にいない。
好きで好きでたまらないけれど、自分のものにしたいなんて、一回も思ったことはなかった。
いいよいいよ愛理。こっちにきてもいいし。こなくてもいいし。どうぞあなたのご自由に。
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/04(火) 07:00
- *****
- 41 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/05(水) 07:00
- 13日の水曜日
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/05(水) 07:00
- それでは最後に連絡事項です。あ、みんなちょっと静かにしてくださーい! まだ話は終わってないんです!
し・ず・か・に・し・て! 要するにあと一つ言うことがあるんです! クラス委員さんが喋ってますよーってば。
あ、ひどい。「うるさい!」なんて言わないでくださいよ! うるさいのは真野じゃなくてみんなの方じゃないの。
わかったわかった。要するに時間をオーバーしたってのが悪かったってことね。あとちょっとで終わるから。
それで連絡事項なんですが、が、があ、がああ! 今は真野が喋ってるんですよー、こっち見てくださーい。
真野が仕切ってますよー。クラス委員ですよー。要するに皆が投票で選んだ真野恵里菜さんなんですよー。
ちがーう。むのちゃんじゃなくてまのちゃん。無能みたいに言わないで。わかっててからかってるんですか?
まのちゃんがむのちゃんっていうなら、要するにつぐながさんはとぐながさんです。思いっ切り訛ってますよ。
とにかく余計な突っ込み入れないで。あなたは三人分やかましいんだから、三人分じっとしていてください!
だからあ、みんな静かにして。座って。好き勝手に喋らないで。自由に席を立たないでー。こっちを見てー。
連絡事項ですよー。要するに、聞いておかないと後で困る話なんですよ。皆がうるさかったら聞こえないよ。
え? 先生呼んで来いって? そんなことはしません。何でも先生に頼ればいいなんて間違ってますからね。
生徒の力だけで物事を決めていく進めていくのがクラス会なんですよ。要するに、真野が思うクラス会とは…
はい、はい。わかったわかった。話が逸れたね。悪かった悪かった。今のは真野さんが悪うございましたあ。
では連絡事項です。ってうるさい! 皆どうしてそのタイミングで一斉に笑うの? ギャグじゃないんだからさ。
消化器は火を消すためにあり、冷蔵庫は冷やすためにある。そして真野は皆のクラス委員なの。わかる?
とにかくみんな真野の言うこと聞いて下さい。もー、いいかげん腹立つなー。真野だって怒るときは怒るよ?
ちがうちがう。殴ったりしないもん。だからみんな一斉に喋らないでってば! 皆わかってて喋ってるでしょ。
もう怒ったもんね。力づくで黙らせてやるから。え? だから殴らないって。そういうとこだけは聞いてるんだ。
じゃあ今から飛びっきり怖い話をします。要するに、これを聞いたらみんなは確実にシーンとなるってわけよ。
あ、それでも黙らないんだ。いいもん。勝手に話しますから。13日の金曜日っていう映画あるじゃないですか。
あれって要するに映画の話であって、作りものであって、本当のホラーではない。信じてる人はいないよね。
ジェイソンはいません。要するにあれは映画の中で俳優さんが演じてるキャラクターなの。それが真実です。
13日の金曜日だからって怖いことは何もないの。何も起こらないわけ。不吉なことなんて全然ないんですよ。
でもね。「13日の水曜日」と呼ばれる悲劇はあるんだよ。要するに13日の水曜日には必ず不幸が起こるの。
え? 聞いたことがない? 嘘だあ。有名だよ。この学校の七不思議の一つだもん。どんな話か聞きたい?
作り話じゃないですからね。これは真実です。先月13日の水曜日、真野は生徒会の補欠選に落選しました。
…やっと静かになった。ちなみに真野がこの学校に合格したのは13日の火曜日でした。では連絡事項です。
- 43 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/05(水) 07:00
- *****
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/06(木) 07:00
- 14秒のスプリンター
- 45 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/06(木) 07:00
- 夜の校舎内。廊下に設置された消火栓の赤いランプだけが光っていた。
生徒会の事務仕事を終えた清水佐紀は廊下の窓からひょいとグラウンドを覗いた。
もうグラウンドの照明も完全に落とされている。外に残っている生徒は一人もいない。
陸上部と掛け持ちで活動している頼もしい生徒会長さんも、今日はそのまま帰ったようだ。
佐紀は生徒会室の鍵をかけると、いつもよりもゆっくりと階段を下りた。
2階へ下りる階段の壁には「廊下は走らない!」と手書きの標語が貼られていた。
このポスターって、どうせ貼るなら階段じゃなくて廊下に貼るべきではと佐紀は思う。
どうもA組の学級委員はやることがずれている。「廊下は走らない」か。小学生じゃあるまいし。
走るという言葉から連想するのは、生徒会長の矢島舞美のしなやかな走りだ。
完璧とか理想的とかいう言葉からは程遠い、野生的でしなやかな舞美のフォームが佐紀は好きだった。
そういえば舞美は小学生の頃からよく廊下を走っていた。怒られても怒られても。懲りない舞美。
佐紀も昔は速かった。小学校の頃は100メートル走でも舞美と互角に競い合っていた。実は廊下でも。
お互い意地になって日が沈むまで走っていて。気がつけば真っ暗になっていて二人で泣きそうになったり。
でも佐紀は中学に入った頃から他の子に次々と抜かれていった。100メートル走のベストタイムは14秒台。
平凡もいいところ。それ以上伸びなかった。そしていつの間にか陸上そのものから心が離れていった。
職員室の前まで来たところで、いきなり背後で「ウィーン」という機械音。黄色い光が暗闇を照らす。
コピー機のランプが点灯している。どうやらFAXを受信したらしい。佐紀は乱れた息を整え直す。
誰もいない廊下で一人怖がっている自分が少し情けない。「小学生じゃあるまいし」。声に出してみる。
職員室に入り、教室の鍵を鍵掛けにぶらさげる。静かなはずだ。珍しく職員室には誰もいなかった。
この時期は進路相談で遅くまで残っている生徒や先生が多かった。佐紀も進路はまだ決めかねていた。
舞美はもうとっくに推薦で進路を決めていた。こういう時の彼女は迷いがない。単純な性格が羨ましい。
職員室を出たところで再び「ウィーン」。さっきと同じように驚いた後で、今度は苦笑が漏れた。
同じことで二度も怖がるとは。しかもこんな些細なことで。まるで小学生だと佐紀は自分に呆れた。
小学生の時も、少し大人になった今も、中身は何も変わらない。単純なのは舞美じゃなくて自分だ。
「それじゃあ、いっちょやりますか」。隣で小学生の舞美がそんなことを言ったような気がした。
そうだねちょっと思い出したよ。廊下は走るためにあるんだよね。何歳になってもそんなの関係ない。
タイムがどうとかフォームがどうとか関係ない。あの頃みたいに無我夢中で走れたら。
声に出してみる。「よーい、どん!」。鞄をぶんぶん振り回しながら小柄なスプリンターは廊下を駆け行く。
- 46 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/06(木) 07:00
- *****
- 47 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/07(金) 07:00
- 夢見る十五夜
- 48 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/07(金) 07:00
- 学校中どこの階段にも設置されている蛍光灯は、なぜか屋上へと続く最後の踊り場から先には一つもない。
足元どころか自分の手すらはっきりと見えない。ドアの隙間から僅かな光が漏れているだけだった。
和田彩花の手に握られた鍵が闇の中で微かに光る。屋上へとつながる分厚いドアはいとも簡単に開いた。
もう夜も更けたというのに屋上はかなり明るく感じられた。眩しくもないのに福田花音は軽く目を細める。
「はい、かのんちゃん。完璧!」「ちょっとあやか、声が大きい」「だいじょーぶ。誰もいないって」
屋上に上がってみたいと先に言ったのは花音の方だった。鍵を生徒会室から持ち出してきたのも花音だ。
あまり乗り気ではない彩花を階段まで引っ張ってきたのも花音。それがいつの間にやら立場が逆転していた。
このあたりの関係は昔から変わらない。彩花を振り回したくて、振り回そうとして、結局振り回される花音。
階段が暗くなるにつれて上がってきた彩花のテンションは、屋上に上がった瞬間に最高潮に達した。
完全に夏は去り、夜になると肌寒い季節になっていた。涼しいというよりも寒い。
そして夜空には寒々とした光を放つ満月が姿を現していた。光の線までもが見えるような明るさだった。
まるで作り物みたいに透き通った夜空。夜なのに空には雲一つないということがはっきりわかる。
月の光を浴びて彩花は子供のようにはしゃぎ回る。花音は慌てて彩花の後を追った。
「わー。誰もいないよ。一人占めだ。あはは。ねえ、かのんちゃん。ははははは」
彩花はひまわりの花のように笑う。一人占め、一人占め、と言ってバレリーナのように満月に手を伸ばす。
いつもの和田彩花だった。花音がずっと見つめ続けていた和田彩花そのものだった。花音は必死で彩花を追う。
ようやく追いついたところで、花音は突然彩花に抱きしめられる。コンクリートに落ちた鍵がチャリンと鳴った。
「わーい。かのんちゃん独占。こっちも一人占め。あはははは。やったやった」。心臓が止まりそうになった。
爆発しそうな花音の心を素通りして、彩花は最高にロマンチックな表情でつぶやく。
「こんな素敵な景色。好きな人と見れたら最高だよねー」。本当に心臓が止まったかもしれない。
彩花が好きな人。花音が何度聞いても絶対に教えてくれなかった。こういう時の彩花の口は岩のように堅い。
もっとも花音も絶対に教えないのだが。本人に向かってそんなことを言えるわけがなかった。
こんなに仲良くしているのに。いつも一緒にいるのに。花音の一番は彩花なのに。彩花の一番は花音じゃない。
「ねえ、ありがとね、かのんちゃん。ふふふ。やっぱり来てみてよかった!」
月に向かって笑うときより、あたしに向かって笑うときの彩花が断然綺麗だと思う。
でもきっと好きな人に向かって笑う時の方がもっともっと綺麗なんだろうな。
流れ星が流れてきたらそう願おうかな。いつか私にも彩花の最高の笑顔が見られますようにって。
花音はそんなことを夢見ながら空を見上げた。だが天に散らばる無数の星は一つも流れてくれなかった。
叶いそうな思いはなかなか叶わない。届きそうな心は手を伸ばしても届かない。あの十五夜の月のように。
- 49 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/07(金) 07:00
- *****
- 50 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/07(金) 20:44
- 流れる空気が心地よいです
好きです
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/08(土) 07:00
- 色
- 52 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/08(土) 07:00
- 譜久村聖の一つ前の席にはセーラー服がよく似合う少女がちょこんと腰かけている。
幼い風貌に似合わず、授業中の鞘師里保は傍目にもわかるほどの凛とした緊張感を保っている。
後ろから見える里保の頭はとても美しい曲線を描いている。さらさらとしている里保の髪。
漆黒。
休み時間の里保はとても大人しい。授業が終わってもしばらくの間は緊張感が残っている。
聖は声をかけようとして止まる。少し離れた席からずんずんと効果音を伴ってやってくる鈴木香音。
香音の姿を見た途端に里保のスイッチがカチリと作動。モードの切り替わった里保の声。
黄色。
聖は若干躊躇いながらも二人の会話に加わる。香音が一緒にいると里保にも喋りかけやすい。
余所行きの顔をする里保も凛々しくていいが、砕けた表情をする里保はもっと可愛い。
普段は澄ましている里保がこんなに喋るとは知らなかった。笑顔の真ん中で輝く里保の歯。
純白。
香音がしきりに里保を誘う。「一緒に早弁しようよー」「やだよ」「いいじゃん」「絶対やだ」
ぶうぶう言いながら自分の席に戻っていく香音。見送る里保は大げさにバイバイと手を振る。
くるりと振り返る里保。「譜久村さんは早弁なんかしないよね?」。艶を放つ里保の唇。
桜色。
もう休み時間も残り少ない。今日こそ言うんだ。ずっと言おうと思っていたことを。
「フクちゃんって呼んでいいよ」「ホントに? じゃあフクちゃん。フクフクフクちゃん!」
新しいおもちゃを手にした子供のように無邪気にはしゃぐ里保。染められていく聖の心。
鞘師色。
後期になって席替えをしてから里保とは近い席になった。席替えって素敵なシステムだと聖は思う。
仲良く喋れるようになって僅か数週間。実は聖はまだ里保のことをよく知らない。けど知りたい。
勇気を出して初めて彼女をお誘いしてみる。でも。「んー、日曜日は部活があるからちょっと」
色よい返事が聞けるのはまだもう少し先のこと。
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/08(土) 07:00
- *****
- 54 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/09(日) 07:00
- 否
- 55 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/09(日) 07:00
- 「ねえ千聖。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」。愛理の声はよく通る。
クラス中の視線が向けられた気がした。愛理の言動はいちいちクラスの注目を集める。
なぜか頼られるあたし。鈴木愛理は岡井千聖のことが一番好きである。
否。
愛理はクラスの誰とでも気さくに喋る子。学校の中でもかなり顔が広い子だと思う。
あたしだって人見知りはしないタイプだけど、そういうのとはちょっと違う。
愛理は自分から喋らなくても他人を引き寄せてしまう。では鈴木愛理は誰にでも心を許す子か。
否。
愛理は放っておけばずっと一人でいたりする。そういうのが平気な子。きっと一途な女の子。
もし「この人」と決めたなら、余所見なんかしないで一直線にその人に向かうんだろう。
絶対そうだよ。愛理は期待を裏切らない子。ではあたしの期待にも応えてくれるか。
否。
愛理さんは学校の人気者なのだよ。いつも側にいるあたしとの距離も近いようで遠い。
近いようでっていうのがクセもの。時折ぐっと近づいてくるから困る。そんな近くでささやくな。
「千聖ってー、恋愛したら綺麗になるタイプ? もしかして先週くらいから?とか。あは」
否。
同じ部活に入る前からずっと見てた。遠くで見ていてお姫様みたいな子だなって思ってた。
「んふふ。相手はわかんないけどさ。でもたぶん気付いてるのってあたしだけだよね。ね?」
岡井千聖は鈴木愛理のことがよくわかっている。
否。
わかったつもりでいると隙を突かれる。なにがお姫様だ。こいつってば本当によくわかんない女。
こういうときにさらっと切り返せるのが恋愛上手な大人の女性なのでしょうか。
岡井千聖は恋愛上手な大人の女性である。
否。
私はまだまだ子供だから。経験不足は否めません。
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/09(日) 07:00
- *****
- 57 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/10(月) 07:00
- 嫌
- 58 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/10(月) 07:00
- クラスのみんなは意外と憂佳ちゃんには話しかけない。微妙な距離がある気がする。
あたしは憂佳ちゃんが好きだから、いっつも真っ先に憂佳ちゃんと話しているけど。
好きな人に真っ直ぐに向かっていけない自分。
そんなの嫌。
「彩花ちゃん、聞いて聞いて」。クラスの子が話しかけてくる。すっごい嫌いな子。
決まっていつも憂佳ちゃんの悪口言うから。男関係派手だとか。先生に媚びてるとか。
あたしは真っ向から反論する。嫌われるのを嫌って一緒に陰口で盛り上がる。
そんなの嫌。
憂佳ちゃんは口下手だ。そのくせ勝気で強気でおまけに少し天然ときている。
だからクラスの女の子と衝突することも少なくない。あたしは全然気にならないけど。
だって欠点のない子なんていないし。自分のことを棚に上げて相手に完璧を求めるなんて。
そんなの嫌。
憂佳ちゃんに「天然だね」って言ったら目を丸くして「信じられない」って言われた。
あたしの方が100倍天然なんだって。「天然に天然って言われて超ショック」だって。
天然なんかじゃないよ。でも他の子みたいに計算して間合いを計って友達と喋る。
そんなの嫌。
憂佳ちゃんと話してると楽しいけど切ない。好きすぎて切ない。好きだけで満足できない。
いつだって言いたいことが言える自分でいたいのに、憂佳ちゃんには言えないことも多い。
真剣な顔で「好きです」って言ってしまった途端に壊れてしまう関係。
そんなの嫌。
もしかしたらクラスの何人かはそうやって憂佳ちゃんとの関係が壊れちゃったのかな。
いつも陰口ばっかり言ってるあの子も。可愛さ余って憎さ百倍。わかる気もする。
わかる気もするけど、あたしはそんな子にはならない。憂佳ちゃんに嫌われる。憂佳ちゃんを嫌う。
そんなの嫌。
でもしょうがないのかな。だって憂佳ちゃんってば嫌味なくらい美人なんだから。
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/10(月) 07:00
- *****
- 60 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/11(火) 07:00
- 行くなら一人でどうぞ
- 61 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/11(火) 07:00
- 一緒に勉強しようよと言ったら「勉強教えてくださいの間違いじゃないの」と中島早貴は言った。
早貴はすぐに憎まれ口を叩く。その割に本気で相手するとすぐに泣くんだよなと熊井友理奈は思う。
もっとも「友理奈の本気」がこの学校でどれだけ恐れられているのか、本人は知らない。
むしろ早貴は平気で友理奈を本気にさせる数少ない人間として一目置かれている。
そして早貴本人も、自分が皆からそんな目で見られていることにはとんと気付いていない。
早貴の相手をするのが楽しい時もあるが、試験前の友理奈は少しばかり気が立っていた。
図書館へ行くのは止めて食堂へ行くことにした。「待ってよー」と遠くで聞こえた早貴の言葉は無視する。
こんな調子では会話は弾んでも勉強ははかどらない。やっぱり最後は一人で頑張るしかない。
食堂には人がまばらに居た。追いかけてくると思った早貴は追ってこない。気分屋め。
四列に並んだ細長いテーブルを見回し、友理奈は適度に空いていて適度に人がいるゾーンに向かう。
本当は全然人がいないところがいいけれど、そこに自分がぽつんと一人でいると異様に目立つ。
それでもなるべく空いているところを選んで座ると、ほぼ同時に友理奈の前に人が座った。
すとんと置かれたトレーの上には湯気を立てているラーメンが一杯。食欲をそそる匂いがした。
「熊井ちゃん、ここいい?」「今からそれ食べるの?」「うん」「ここで?」「ここ食堂じゃん」「うーん」
菅谷梨沙子の正論の前に友理奈は沈黙した。だけど時刻は午後4時。ラーメンを食べる時間だろうか。
梨沙子とは同じクラスだから普通に話す。でも仲が良いかは微妙に微妙。全く性格が違うから。
後輩から慕われやすい友理奈。慕われても困った顔をする友理奈。細かいところを気にする体育会系の友理奈。
先輩から可愛がられる梨沙子。可愛がられるままに甘える梨沙子。細かいことなど気にしない文化系の梨沙子。
友理奈から見ても梨沙子はとらえどころのない女の子だった。どう接していいのかよくわからない。
そんな二人の横をバスケ部の後輩が通る。あからさまに「熊井先輩が女の人と一緒にいる!」という顔で。
違うんだけどなあ。でも梨沙子と二人でいるとそういう目で見られることが多いんだよなあ。
「歴史の勉強?」「うん」「テスト?」「梨沙子」「なに」「食べながら話すのやめない?」「ゴフッ」
ラーメンの汁がテーブルにこぼれた。際どい所で友理奈のノートはセーフ。梨沙子の携帯は微妙にアウトだった。
「やーん。ごめん熊井ちゃん」「あたしは大丈夫だけど」「図書館で勉強しようよ」「え」「一緒に」
梨沙子と一緒に歩く自分を想像する。背後の後輩の視線が痛い。早貴といるときはそんな目で見ないくせに。
「ごめん梨沙子。先に行ってる」「わかったあ」「後でね」「気が向いたら行く」「え?」「布巾布巾」
なんでこの子は先輩に可愛がられるんだろう。自分が慕われる理由同様、ちっとも理解できない友理奈だった。
- 62 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/11(火) 07:00
- *****
- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/12(水) 07:00
- 二重の意味で
- 64 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/12(水) 07:00
- あっ。清水佐紀さん、待って下さい。しみずさきさーん! 初めまして。A組の学級委員の真野恵里菜です。
あの清水佐紀さんですよね。要するに生徒会の副会長をやっている清水佐紀さん。はいはい。知ってます。
あれ? なんでそんな笑うんですか? 真野の顔になんかついてますか? それとも喋り方が変ですか?
あっ。そんな丁寧なお詫び。すみません。もったいない。頭が低いですね清水佐紀さんは。二重の意味で。
矢島会長の推薦で副会長になったって本当ですか? へえ。目が高いですね矢島さんは。二重の意味で。
いやいやいや。身長のことを言ってるんじゃないです。要するにお二人は素敵なコンビだなって言いたくて。
やっぱりその、二人は肌が合うんですか。二重の意味で。いえいえ。決してそんなエッチな意味ではなくて。
あっ。はい。すみません。要するにですね、生徒会のことでお尋ねしたいことがあって。お話したいんです。
うちの学校の生徒会って、半期で入れ替わりなんですよね? 要するに10月に後期の選挙が行われると。
私、立候補しようかなって。この前の補欠選では落ちちゃったんですけど。たった百票差だったんですけど。
でも逆に考えればあれで真野の名前も売れたかなと。はい。そうです。要するにポジティブシンキングです。
うちのクラスの嗣永さんも夏焼さんも「もう一回立候補しようよ!」って笑顔で強くプッシュしてくれてますし。
ええ。確か清水佐紀さんは嗣永さんや夏焼さんと同じクラブなんですよね。確か演劇部。はい知ってます。
いえ。あの二人は清水佐紀さんみたいに顔が広くないんです。二重の意味で。交友関係偏ってますから。
それにあの二人は飽きっぽいんです。応援をお願いしても途中で顎を出すに決まってます。二重の意味で
はいはい。そうです。要するに清水佐紀さんに私の選挙の応援演説をお願いしたいなと。それが本題です。
えっ。やだー。私の話ってそんなに回りくどいですか? でもこれでも私は私なりに考えて喋っているんです。
要するにA組のクラス委員の経験を生かして、矢島会長の手足となって生徒会を盛り上げていきたいなと。
そのためには選挙で当選しなきゃいけないんですけど、私の周りには助けてくれる人があまりいないので。
そこで嗣永さんや夏焼さんの紹介で清水佐紀さんに私の応援をお願いしたい。要するにそういうことです。
決して遊び半分ではないんです。もし当選しても大きな顔はしないです。二重の意味で。真野は小顔ですし。
あ、清水佐紀さんも立候補。当然ですね。え。立候補するから他の候補の応援演説はできない。本当に?
やだー、そういうことは先に言ってくださいよー。要するに真野の話は全部無駄になったってことですよね?
え。じゃあ嗣永さんも夏焼さんも、その規定のことは知ってたってことですか? うそ。そんなー。ひどーい。
え。あの二人があたしのことをバカにしてる? そんなことないですよ。あの二人はいつだって真野のことを。
さっきだって居眠りしてた真野のことを起こしてくれたんですよ。あの二人に限ってあたしに悪戯するなんて。
なんでそんなことわかるんですか? 顔に書いてあるから? 二重の意味で? え? どういう意味ですか?
- 65 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/12(水) 07:00
- *****
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/13(木) 07:00
- 新潟産の美味しいお米
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/13(木) 07:00
- 光井愛佳の通う学校の部室棟には和室ゾーンと呼ばれている場所がある。
茶道部、華道部、箏曲部、そして愛佳が部長を務める書道部などの部室が固まる一角。
今年の春に数年ぶりに敷き替えられた新しい畳の匂いが微かに香るエリアだった。
書道部の部室の扉を開くと、畳と墨が入り混じったような独特の匂いがする。
慣れていない人間にとってはあまり良い匂いではないかもしれない。
だが小学校に入る前から書道を習っている愛佳にとっては、もはや生活の一部となっている匂いだ。
全く気にせずに愛佳は部屋の真ん中で大きなお弁当を広げる。見事な日の丸弁当だった。
書道部の偉大な卒業生である新垣先輩は、落ち込んでいた光井によくアドバイスしてくれた。
「失恋の傷を癒すには、死ぬまで食べるか死ぬまで寝てるか、どっちかしかないんだよ」
どっちにしろ死ぬんかい、という突っ込みは心の中にしまっておいた。確かに一理あるかも。
新垣先輩はあまり恋多き女には見えなかったが、そのアドバイスはそれなりに説得力があった。
このお弁当のお米も新垣先輩からもらったものだ。先輩曰く新潟産の美味しいお米らしい。
また失恋しましたと報告したら笑って一袋送りつけてきた。「まあ食え」ということらしい。
「新垣さんと新潟産って似てるよね」。いいえ先輩。似ていないであります。
それでもお米は美味しく頂くことにした。死ぬまで寝ているというのはどうも性に合わない。
日の丸弁当を15分ほどで片づけると、愛佳は部活の準備をしておくことにした。
今日は後輩に新しいテーマを与えなければならない。部員は愛佳を入れて三人。愛佳と後輩が二人。
だが準備は簡単ではない。二人に与える新しいテーマは愛佳を含む部員全員のテーマになる。
初心者の後輩にも上級者の自分にも合ったテーマ。何にしよう。むむむ。あっ、そうだ。
愛佳は墨汁を出して筆にしみわたらせると、半紙の上に力強く筆を走らせた。
「新米」
食べても食べてもやっぱり失恋の傷は簡単には消えない。恋愛の達人には程遠い。
自分はまだまだ恋愛の素人。人生の新米。そういうことですよね新垣さん。
書き終えた愛佳は筆を置くと、新垣先輩のありがたいお言葉に一つ付け加えることにした。
「失恋の傷を癒すには、死ぬまで食べるか死ぬまで寝てるか、死ぬまで書くかしかない」
やっぱり死ぬんかい、という突っ込みは心の中にしまっておいた。
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/13(木) 07:00
- *****
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/14(金) 07:00
- 22世紀でお会いしましょう
- 70 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/14(金) 07:00
- 嗣永桃子が所属する演劇部の部室はかなり広い。他のクラブの三倍はある広い部屋だった。
それでも文句を言う生徒はいない。一度でも足を踏み入れてみれば理由はすぐにわかる。
こんな言葉があった。「必要なものがあったら演劇部に行け」。演劇部の部室には何でもあった。
「舞台で必要な小道具だから」という名目の下、大小様々なガラクタが所狭しと転がっていた。
桃子はマーライオンの像に腰かけたまま、部長の清水佐紀に向かって台本を投げつけた。
「もー、キャプテン。なによこの本。前のと同じパターン。全然代わり映えしないじゃん」
「しょうがないじゃん。新人が一人もいないんだもん。何やったって同じになるって」
新入生が入学してからはや半年。演劇部にはいまだに新入部員がいなかった。
冷やかし半分で部室を覗く人間は結構いる。でも入部してみようとした子は一人もいない。
こんな言葉がある。「不要なものがあったら演劇部に行け」。来るものは拒まずの演劇部。
新入部員は入ってこないが、新たなゴミはどんどんと際限なく増えていく。だが部員は気にしない。
新入生に敬遠されるのも無理はない。それでも演劇部員は特に部屋を片付けようとはしなかった。
「たまにはさあ、あたしに、こう、クールでエレガントなレディの役とか回さない?」
「無理」「なんでよ」「桃に合わないから」「合うわよ! そのまんまじゃん!」
「そのまんまだったら演劇にならないじゃん」「あ、またその話?」「その話」
桃子はどんな役を演じても嗣永桃子にしかならない。それが佐紀には非常に不満だった。
何度となく二人は議論を交わしてきた。だが佐紀の演劇論と桃子の女優論はいつも噛み合わない。
「あたしはね、他人になりたいんじゃないの。あたしはいつでもあたしを演じたいの」
「それ演技じゃないよ。桃じゃない桃を演じなきゃ」「だから未来のあたしを演じるの」「未来?」
「クールでエレガントで知的なレディ。それが未来のあたし」「どさくさにまぎれて一個追加してない?」
「いいの。10年後のあたしってそんな感じじゃない?」「10年後どころか22世紀になっても無理だー」
「あ、それいい。22世紀のあたしもいいなあ」「マジで?」「キュートで無敵なアンドロイドのあたし」
SFかあ。SFって舞台装置とか小道具とか衣装に無駄にお金がかかるんだよなあ。
床に転がっていたおもちゃの光線銃を拾い上げ、ビビビビと鳴らしながら佐紀は深いため息をついた。
- 71 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/14(金) 07:00
- *****
- 72 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/15(土) 07:00
- お題は東京23区で
- 73 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/15(土) 07:00
- 「AKB48」「ももいろクローバー」「Perfume」「東京女子流」「アイドリング」「SKE48」「……」
「香音ちゃん、アウト!」「えええ。ちょっとはやいよー」「やったあ!」
2限が終わった後の休み時間。机の上には二つのお弁当が広げられていた。
生田衣梨奈は箸を伸ばして鈴木香音のお弁当から唐揚げをつまみあげる。満面の笑みで頬張る。
香音は口を尖らせる。審判役の譜久村聖にちょっとだけ強く抗議。だが香音の負けは動かない。
衣梨奈は名前の挙がった女性アイドルについて熱く語る。なぜか誇らしげな衣梨奈。無視する香音。
食い物の恨みは恐ろしい。できれば次は香音に勝たせたい。香音の好きなもの。聖は次のお題を考え出す。
「じゃあ、次はケーキの名前! どん!」
「ショートケーキ」「チーズケーキ」「モンブラン」「あんぶらん」「え?」「あんぶらん」「……」
「香音ちゃん、アウト!」「なんでー!」「なんでって」「わかんないよ」「あんぶらんって何?」
「あんぶらん」「知らない」「あんぶらんはあんぶらんだよ」「…知らない」「うそ」「…」「…」
香音のお弁当は、もはや残飯の一歩手前。衣梨奈のお弁当はまだ全くの無傷。
だが生田衣梨奈の辞書に遠慮という文字はない。残り少ないおかずを豪快に奪い取る。
控え目に抵抗する香音と、無邪気な表情で香音のお弁当を荒らしていく衣梨奈。
共に地方から東京に出てきた。すぐに馴染んだ香音となかなか馴染めなかった衣梨奈。
それでも聖という共通の友人を通じて一気に親しくなった。
二人は同じ学生寮で暮らしている。今では互いの部屋を行き来することも多い。
だが今は手加減無用の真剣勝負の時。休み時間も残り少ない。聖は慎重に最後のお題を考える。
さっきのお題は香音の好物に関するもの。その前のお題は衣梨奈の趣味に関するものだった。
最後のお題は公平なものがいい。生粋の東京人である聖は手頃な難易度のお題を考えついた。
「最後のお題はね、東京23区の名前! どん!」
「え」「げ」「では次は香音ちゃんから」「えーっと、北区」「南区」「東区」「西区」
「中区」「中央区」「んー、天皇区」「皇后区」「あー、もうずるいよ!」「はあ? 何が?」
「あたしの真似ばっかじゃん」「その前に天皇区なんてあるの?」「どうなの?」「審判審判」
得意な科目は音楽美術体育。苦手な科目は国語数学英語理科社会。仁に厚いが智に疎い。
生粋の東京人であるはずの聖は真っ赤な顔をしながら地図帳をめくっていた。
- 74 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/15(土) 07:00
- *****
- 75 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/16(日) 07:00
- 24時間守ります
- 76 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/16(日) 07:00
- はーい、そこのちびっ子。ストップストップ。止まってね。あなたよあなた。見ない顔ね。転校生?
わかるわよ。あなた、私のこと知らないでしょ。この学校で真野恵里菜を知らない子はモグリよ。
生徒会風紀委員の真野恵里菜。この学校の風紀を24時間守っているのは私よ。覚えておいて。
嘘なんてつかないわよ。ホントだもん。24時間。要するに夜寝てる間も守ってる。ホントだから。
意地になんかなってないって。え…。う。黙りなさい。だいたいあなたに話しかけたんじゃないの
私が声をかけたのはね、あなたの隣の子よ。違う違う。そっちじゃないから。要するに逆隣の子。
うるさいわねー。あなた達三人には用はないのよ。私が注意したいのはそっちのちっちゃい子。
あなた名札は? ダメよポケットに入れてちゃ。校則違反だからね。見えるところに付けなさい。
んー? 珍しい名字ね。難しい漢字。あなた名前なんていうの? そう名字よ。なんて読むの?
うるさい! だからそっちの三人は黙りなさいって言ったでしょ! どうしてそこで爆笑するのよ。
へー、あなた本当に「さらまわし」っていう名前なの? ふーん、さらまわしりほかあ。変な名前。
コラ! だから笑わないのそこの三人! なんで笑うの? ひどい。この子の友達なんでしょ?
ちょっと変な名字だからってバカにするなんて最低よ。要するにね、人間として最低ってことよ。
ああ、大丈夫よさらまわしさん。あたしがついてるから。泣かないでね。ハンカチ貸してあげる。
謝りなさい。さらまわしちゃんに。そう。そうよ。最初からそう素直に謝ればいいのよあなた達は。
あなた達はちゃんと名札付けてるわね。鈴木さんに…生田さんに…譜久村さんってあなたなの。
知ってるわよ。だって譜久村さんはエスカレーター式に上がってきたでしょ。あたしもそうだから。
だからあたしは24時間この学校の風紀を守ってるの。この学校に青春の全てを捧げているの。
え…。だから…。それはね…ちが…。ちょっと! うるさい。ちょっと待って。ちゃんと話を聞いて。
うるさい! 質問したのはそっちでしょ。人が話してるときに喋らないの。はい? だから何よ?
守ります。生徒からの要望があれば対応します。要するにそれが生徒会役員の務めなのです。
朝だろうが昼だろうが夜だろうが関係ない。この学校の風紀は真野恵里菜が24時間守ります。
明日? 明日に何かあるの? 演劇部がゲリラライブをやる? ホントに? 噂になっている?
いや、体を張って止めろって言われても。場所わかんないし。手伝う? いやいいからそんなの。
それ風紀委員に関係ないんじゃない。いや、学生の楽しみを奪うのは。いや、だから要するに。
えー。知らないもん。知らない。確かに24時間守るって言ったけど。あー、確かに言った言った。
要するに明日は定休日だ。24時間守るとは言ったけど、365日守るとは言わなかったもんねー。
- 77 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/16(日) 07:00
- *****
- 78 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/17(月) 07:00
- 出席番号25番
- 79 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/17(月) 07:00
- 「それでは出席をとります」
授業の度に先生は言うんだよね。学校にいると一日六回くらいは言われてるかも。
みんな気にしてないけどさー、あたしは結構気にする。その順番ってのが。のがのが。
だいたい「わだあやか」って言う名前は一番後ろになるんだよ。これ鉄板です。
あたし、出席番号で一番後ろ以外になったことってないもん。これすっごい損なんだよ!
「出席番号順に呼ぶので待っていなさい」
学校って何かと言うと出席番号だもんね。「相原さん」とか「青木さん」とか超うらやましい。
だって全然待たずに済むんだもん。早く呼んでくれーとか思ったことないだろね。ずるいよね。
これ花音ちゃんに言ってみたけど全然わかってもらえなかった! なぜなんだ!
「ふくだかのん」もかなり後ろの方だと思うんだけどなぁ。そういうの気にしないんだとさ。
花音ちゃんって鈍感だよね。「鈍感に鈍感って言われたくない!」って怒られたけど意味わかんない。
「出席番号順に取りにきなさい」
ほらまたこれですよ。どうせ一番最後ですよ。毎年毎年代わり映えがしないよー。
他に順番ないのかな。名前の順に変わる画期的な順番とかあったら素敵じゃない?
例えば生年月日とかどうですか? あっ誕生日が同じ日の子とかいるからややこしいかな。
体育みたいに身長の順とかどうですか? うーむ。急に伸びる子とかいるからダメかな。
成績順………は却下。なんか学校がぎすぎすしそうで嫌。いつだって楽しいのがいい。
「出席番号順に並びなさい」
はいはい。どうせ和田は一番後ろですよ。25人クラスの25番目ですよ。
ホント、和田っていう名前で得したことないんじゃないんだわ。だーわー。とほほ。
この気持ちきっと誰にもわかってもらえない。ハ行の人くらいじゃわかってもらえないの。
「彩花ちゃん、なにぶつぶつ言ってるの?」
出席番号24番のお姫様から有難いお言葉。得したことないとか言ったら怒られそう。
だって出席番号が一つ違いじゃなかったら、こんなに仲良くなれなかったかもしれないから。
一度この話をしてみようかな。前田のゆうかりん姫ならきっと同感してくれる!!
どこかの鈍感な誰かさんとは出来が違うのです。へへへっへ。やばい。超テンション上がる。
名前の順も悪くないかもって思わされちゃう。やっぱり憂佳ちゃんのパワーはすごいのだ。
- 80 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/17(月) 07:00
- *****
- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 07:00
- 付録がついてきます
- 82 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 07:00
- 校舎の体育館側に外付けにされた外階段は風の通りが良い。
休み時間は滞りなく人が流れる階段も、放課後は特定の人間の溜まり場になっている。
今も外階段にはスカートの裾を押さえながら雑談に興じる人影がちらほらと。
その中でも最上階の4階手前の踊り場は、昔から合唱部の面々の指定席となっていた。
「だから愛理がガツンと言えばみんな納得するんだって」「そうだよそうだよ」
「えー」「一応部長なんだから」「んふ。照れるー」「そこ照れるとこじゃないから」
狭い踊り場では三人の少女が膝を突き合わせていた。後輩を叱るのが苦手な鈴木愛理。
そんな部長を叱るのが大好きな副部長の岡井千聖。叱らなくても常に恐れられる萩原舞。
この三人が合唱部の頼りない首脳部。後輩はなかなか言うことを聞いてくれなかった。
「で、話は変わるんだけど」「変わるのかよ」「二人とも明日どうする? 一緒に戻る?」
愛理と舞と千聖はクラスも同じだった。部活に行くときも一緒の場合が多い。
明日の午後は課外授業の予定が入っていた。部活をしていない子はそこで現地解散となる。
部活をしている子は学校に戻る。だから舞も千聖も当然三人で学校に戻るものと思っていた。
「愛理は一回家に帰るの?」「ううん。そのまま学校戻る」「じゃあ一緒に戻ろうよ」
「明日の愛理さんにはちょっと付録がついてきますがいいですか?」「フロク?」「なにそれ」
「舞美ちゃんと一緒に帰ろうって」「うお」「会長かよ」「仲良いね」「もちろんいいよ」
生徒会長の矢島舞美と愛理は仲が良い。クラスも部活も一度も一緒になったことがないのに。
二人が一体いつどうやって仲良くなったのか舞も千聖も全くわからなかった。
だが愛理と一緒にいることが多い千聖と舞も、愛理を通じて舞美とはかなり親しくなっていた。
「よかった」「付録っていうなら愛理の方が付録だよね」「ひどーい」「どっちがだよ」
「それじゃあさあ、舞美ちゃんからガツンと言ってもらえば?」「あ、それは無理」
「なんで」「舞美ちゃんは優し過ぎるし」「なにそれ」「のろけてんの?」「違うよ!」
そうは言っても愛理は舞美の付録じゃないし、舞美も愛理の付録なんかじゃない。絶対違う。
できれば自分もそうなりたい。愛理を挟んだ両隣の少女は同時にそんなことを考えていた。
- 83 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 07:00
- *****
- 84 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/19(水) 07:00
- 担うのは君だ
- 85 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/19(水) 07:00
- 地位が人を作る。須藤茉麻の場合はまさにそうだった。
根はおっとり屋な人間なのだ。古風でしおらしい部分だってないわけではない。
だがチームのキャプテンに選ばれてからは、しっかり者の戦うリーダーに変貌した。
今だって、とっくに引退した茉麻は、律儀にも後輩の自主練に付き合っていた。
コート上で対峙するのは新チームのキャプテンとなった熊井友理奈。
この地区では抜きん出た長身を誇るビッグセンターとしてそこそこ有名な選手だ。
この夏までは茉麻とのツインタワーコンビでインサイドを支配していた。
茉麻達の代が引退し、キャプテンに選ばれ、一枚看板としての自覚をもって一人立ちする。
…とはならないところが熊井友理奈。友理奈は決して地位に作られない人間だった。
友理奈は茉麻のオフェンスに対して単調なディフェンス練習を繰り返す。
新入生のときからずっと繰り返している練習。その時から友理奈の相手は茉麻だった。
キャプテンになっても友理奈のすることは変わらない。毎日練習に出てきて、走る。声を出す。
ボールを持てば一直線にゴールを目指す。激しい肉弾戦も厭わない。戦う姿勢を示す。
どれもみんなキャプテンになる前からやっていたことだった。この自主練もそう。
「熊井ちゃん。そろそろいい?」
茉麻は練習が一段落したところで友理奈に声をかけた。体が重い。引退してから数ヶ月。
筋力の衰えは早い。今はもう友理奈の相手をするのはかなり厳しかった。
「えー、もうバテたの? もう一本いこうよー」
無邪気な笑みは新入生の頃から変わらない。キャプテンになっても威張ったところは全くない。
むしろもう少しリーダーシップを発揮してチームを引っ張ってほしいと茉麻は思う。
友理奈は何にも左右されない。地位にも。見栄にも。他人の事情にも。周囲の空気にも。
いや、若干見栄には左右されるところがあったかもしれないけれど。
このでっかい子供が。茉麻は心の中で小さく毒づく。
バスケ部の次の代が、自分の双肩にかかっていることにそろそろ気付いてほしい。
勝った相手が引退した先輩でも嬉しさを隠さない友理奈。いつまで先輩におんぶにだっこなのか。
私が今やってることをあんたが後輩にやるんだよ。あんたならどんな荷物でも背負えるでしょうが。
このでっかい子供めが。茉麻はもう一度心の中で大きく毒づいた。
- 86 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/19(水) 07:00
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- 87 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/20(木) 07:00
- ニヤニヤするのは嫌いじゃないです
- 88 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/20(木) 07:00
- 私は昔から友達が少ない。自覚しています。
みんなと話を合わせてニコニコしている。無難な会話をする。できないことではありません。
でも私に寄ってくる子の99%は友達じゃないの。ただ前田憂佳の外見が好きなだけの人達。
ちょっと仲良くなる。ベタベタしてくる。離れていく。陰口を叩く。よくあるパターンです。
私は他人の顔色を窺うのが好きじゃないんです。
ニコニコと愛想を振りまく。できないことではありません。でも好きじゃないんです。
面倒臭がってるのとはまた違うんだけどな。でも他の子には全然わかってもらえない。
「私だけは憂佳ちゃんの理解者だから」っていう子も多い。重いです。勘弁してください。
どうして私は他の子みたいにみんなと仲良くできないんだろう?
もっと普通に仲良くして、普通に会話して。そうしたいんだけど上手くいかない。
私は普通でいるつもりなんだけど。でも皆は違うの。他人のせいにしちゃダメかな?
でも皆、憂佳にはなぜか極端に優しかったり極端に厳しかったりするの。気のせいじゃないと思う。
だから私は決めました。ニコニコと愛想笑いをするのは辞める。疲れるし虚しいし楽しくないもん。
本当に笑いたいときだけ笑う。笑いたくないときは笑わない。そう決めたんです。
そういう態度をとると余計に嫌われるかもしれないけど、しょうがない。
あ、こんな話ばっかりしてると暗い子だって思われるかもしれないけど、そうでもないんですよ。
たまに気の合う子もいます。ほら、そこで喋ってる和田彩花ちゃんなんかもそうです。
彩花ちゃんの前では、笑いたくない時には笑わない自分でいられるんです。
ちょっと暗い態度を取っても彩花ちゃんは全然フツー。怒りもしないし慰めもしない。
彩花ちゃんは良い意味で鈍感なんです。一緒にいて疲れない鈍感。ま、悪い意味でも鈍感ですけど。
今だってちっちゃい女の子と喋ってるけど、彩花ちゃんはきっとその子の気持ちに気付いていない。
いいなあ。あの子。時々彩花ちゃんと喋りに来る子。陸上部で一番可愛い子。かわいいー。
見てるだけで顔がにやけちゃう。あの子の前だったら私も無理して愛想笑いしちゃうんでしょうか。
でもそんな自分は嫌いじゃないです。だって私は決めたんです。
笑いたくないときは笑わない。でも好きな人の前ではいつだって笑顔でいる。
それがどんなに気持ち悪い、ニヤニヤした笑顔であっても…ってね。
- 89 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/20(木) 07:00
- *****
- 90 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/21(金) 07:00
- フクちゃんはね
- 91 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/21(金) 07:00
- 「えりぽんは部活とかしないの?」
フクちゃんはね。ぽわーんとした女の子だけど実はすっごい行動力があるんだよ。
あたしと里保ちゃんも誘われたことある。あたし達が別の部活やってること知ってるのにね。
「掛け持ちとかどう?」って迫られた。ホント押しが強いの。見た目と全然違う性格してる。
「よし、じゃあ今日の放課後見学に行こう! 香音ちゃんもついてきてよ」
フクちゃんはね。ずっと演劇部に入りたかったんだって。でも一人じゃ恐いんだって。
積極的かと思えば消極的。わかりにくいって? ううん。そんなことない。わかりやすいよ。
演劇部には憧れの先輩がいるんだって。その先輩のこと話してる時のフクちゃんは超可愛いよ。
「えりぽんは絶対女優に向いてると思うよ。美人だし度胸あるし。性格明るいし!」
フクちゃんはね。周りの人を明るくするパワーがあるの。一番影響受けたのえりぽんじゃないかな。
ちょっと前までのえりぽんってクラスでも全然目立たなかったんだよ。馴染めてないっていうか。
でもフクちゃんと仲良くなってから別人みたいに明るくなった。ホントに女優に向いてるかもね。
「こんにちわー! すみませーん! ちょっと見学させてもらっていいですかー」
フクちゃんはね。自分でもわかってるみたいだけど超アホだよ。あたしより頭悪いし。
頭が悪いっていうか要領が悪いんだよね。エネルギッシュなのに効率は無視って感じで。
効率を無視してるからエネルギッシュなのかな? そういうとこちょっと憧れる。
「ごめん… えりぽん、香音ちゃん… 演劇部って金曜日は休みなんだって…」
フクちゃんはね。パワフルでワンダフルでアホで…それでも憎めない子なんですよ。
- 92 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/21(金) 07:00
- *****
- 93 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/22(土) 07:00
- この30cm定規が目に入らぬか
- 94 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/22(土) 07:00
- はーい、そこのお嬢さん。ストップストップ。止まってね。あなたよあなた。見ない顔ね。編入生?
わかるわよ。あなた、私のこと知らないでしょ。この学校で真野恵里菜を知らない子はモグリよ。
あなた結構訛ってるね。どっから来たの? 滋賀? ふーん。あれ? そんなに前からいるの?
なるほ。あたな光井さんっていうの。そんなに前からこの学校にいて真野の名前を知らないの?
生徒会風紀委員の真野恵里菜。要するにね、この学校の風紀を24時間守っているのは私よ。
嘘なんてつかないわよ。ホントだもん。24時間。要するに夜寝てる間も守ってる。ホントだから。
意地になんかなってないって。え…。う。黙りなさい。なんでみんなすぐに上げ足を取るのかな。
何の用?って用があるから呼びとめたのよ。屁理窟言わないでね。いやね。あなた反抗的ね。
私の目はね、どんな些細な校則違反だって見逃さないのよ。身に覚えがあるから反抗的なの?
黙りなさい! なんですかそのスカートは。丈が短い! 完全にアウト。要するに服装違反です
ほらほら。この30cm定規が目に入らぬか! 口で誤魔化そうとしてもダメだからね。止まって。
ほら測るから。デジカメで撮影もしちゃうから。要するに証拠よ証拠。あ、ずるい。今、何したの。
ちょっと! あなた今、ちょっとウエストのところいじったでしょ! あっ、あっ。スカートを。コラ!
ダメよ。風紀委員のこの私がバッチリ見たんだから! 要するに現行犯逮捕よ。言い訳無用!
あなた完全に確信犯ね。悪質だわ。ちょっと鞄貸して。持ち物チェックよ。コラ。その鞄はなに!
え。書道用具? あなたも書道部? まったく最近の書道部員は口に利き方がなってないわね。
そうよ。こないだだって、新入生で校則違反してる子がいたんだから。すんごい生意気そうな子。
四人がかりで真野に向かって反抗的な態度を取ってきたんだから。要するにあなたと同じ態度。
そうよ。後で調べたらそのうちの二人が書道部員だったんだから。校則違反してた子もそうよ。
え? 覚えてるよ。だってかなり珍しい名前だったから。校則違反してた子は、さらまわしりほ。
さらまわしりほ。さらまわし、りほ。だからー、さ、ら、ま、わ、し、り、ほ。自分でそう言ってたよ。
えー、どうしたの急に。しおらしくなっちゃって。ううん。人間素直が一番です。わかればいいの。
うん。うん。光井さんも反省してるみたいだし、素直に謝ったし、今回だけは大目に見てあげる。
うんそうね。さらまわしさんにもちゃんと言っといて。真野を甘く見てると痛い目にあうわよって。
- 95 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/22(土) 07:00
- *****
- 96 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/23(日) 07:00
- 最悪のパターン
- 97 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/23(日) 07:00
- 体育館の外壁は白いビニールシートを覆われている。普段は聞こえない重い音が響いていた。
老朽化した体育館の改修工事が急ピッチで進んでいた。日曜日は特に工事の進行が早い。
ヘルメットをかぶった作業員が我が物顔で行き交う。休日の校内には生徒はほとんどいない。
それでも部活動に勤しむ生徒達が何人か体育館の中で体を動かしていた。
普段の半分のスペースしかないフロアを占めていたのはバスケ部だった。
一際背の高い部員が審判を務める中、紅白戦形式の練習が行われているようだ。
バレー部の中島早貴はその様子を恨めしそうに眺めていた。自然と唇が尖る。
フロアは使えない。だから学校の外周をぐるりと10周。珍しく今日の練習はそれだけだった。
せっかくの日曜日にわざわざ学校に来たのに、これで終わりなんてどうも納得がいかなかった。
てっきり昼からも練習があると思っていたから、特に予定は入れていない。
友達とも約束していない。何もすることがない日曜の午後。最悪だ。これは最悪のパターンだよ。
少しおおげさに我が身の不運を嘆く早貴。だが小さな不運の後には大きな幸運が待っていた。
「あれ? 早貴じゃん。なにしてんの? もしかしてもう部活終わった?」
「千聖」「よっ」「部活?」「ううん」「?」「間違えた」「え?」「今日、部活ない日だった」
声をかけてきたのは同じクラスの岡井千聖だった。休みの日なのでかなりラフな格好をしている。
千聖の私服姿は新鮮だった。お互い部活で忙しい。一緒に休みの日に遊んだことなんて一度もなかった。
不運の後に幸運がやってくる。これってただの幸運より数倍嬉しい。ある意味最高のパターンかも。
「バッカだねー」「バカって言うなよぉ」「間違える普通?」「しょーがないじゃん」「あのねえ」
千聖の前に立つと汗まみれの自分を妙に意識してしまう。シャツがいつもより冷たく感じた。
着替えよう。そして一緒にどこかに遊びに行こう。千聖だって時間は空いてるはず。この機会に。
「あー、千聖じゃーん!」。聞き覚えのある嫌な声。早貴の浮き立った心は急速にしぼんだ。
「愛理! 何してんの」「ちょっと部室に忘れ物」「帰るとこ?」「うん。千聖も?」「うん」
「じゃあ、一緒に帰ろうか」「やった!」「やった? ところで千聖って何してたの」「秘密」
最大のチャンスで最強の恋敵がやってくる。これを最悪のパターンと呼ばずして何と呼ぶ。
「早貴も一緒に帰る?」と尋ねてくる千聖の表情。ダメ。深読みしちゃダメ。気持ちが落ちるから。
早貴は照れ笑いを浮かべて「もうちょっと走んなきゃダメだから」と言うと二人の前から姿を消した。
- 98 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/23(日) 07:00
- *****
- 99 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/23(日) 20:14
- 毎日楽しみにしてます
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/24(月) 07:00
- ミニシアター
- 101 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/24(月) 07:00
- 書道部の部室には生田衣梨奈と鞘師里保の二人しかいなかった。
窓の外からは遠く歓声のようなものが聞こえてくる。だが教室内には張り詰めた緊張感があった。
里保と衣梨奈は共に一点を見つめている。二人の瞳に映るのはこの世で最も愛おしいもの。
二人とも目を逸らすそぶりは見せなかった。邪魔するものは誰もいない。
「衣梨奈ちゃん。話ってなに?」「里保…。あのね」「衣梨奈ちゃん。やだ。近いよ」
「あたし…あたし里保のことがずっと」「え? ちょっと。え? 冗談だよね? ね?」
思いを込めて、衣梨奈はぎゅっと拳を握りしめる。今日は書道部は休みの日だった。
だが真面目な鞘師は毎日練習を欠かさない。休みの日も部室にこもって筆を持っている。
それを知っていた衣梨奈は迷わず部室にやってきた。里保に会うために。里保に見せるために。
本当の自分を。新しい自分を。里保ならきっと受け止めてくれる。ただひたすらそう信じて。
「あたし、ずっと里保のことが好きだった」「えっ」「ずっと里保だけを見ていた」「そんな…」
「里保はあたしのこと嫌い?」「嫌いじゃないけど…」「じゃあ、いい?」「え?」「動かないで」
衣梨奈は左腕で細い腰をグッと抱き寄せた。そのまますっと手櫛で髪を書き上げる。
衣梨奈の息が荒くなる。里保は沈黙を守る。室内の空気がさらに冷たさを増す。
触れれば切れそうな空気が部屋を交差していた。沈黙を破ったのは衣梨奈の方だった。
「里保ちゃん…」「…」「嫌い?」「…」「好き?」「…」「キスしていい?」「バカ」
そこで衣梨奈は手鏡から顔を上げて、里保の方を見た。里保はずっと無言で書を書いている。
一人芝居の練習をしている新米演劇部員の衣梨奈のことなど見向きもしない。
書道部の部室まで邪魔をしに来たのは衣梨奈の方なのに、衣梨奈は里保の態度が気に食わない。
衣梨奈は「どう? どう?」としきりに演技の感想をねだる。里保は筆を半紙につけたまま答えた。
「大根」
- 102 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/24(月) 07:00
- *****
- 103 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/25(火) 07:00
- 耳を澄まさなくても
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/25(火) 07:00
- 冬服の上にもう一枚羽織りたくなる季節。校舎の外階段に冷たい風が吹き抜けていく。
それでも合唱部の萩原舞と岡井千聖の練習場所は、この階段の4階の踊り場と決まっていた。
空が高い。二人の声はどこにも反響しない。ただ空へと吸い込まれていくのみ。
人通りだって全くないわけではない。ここは決して歌の練習に適した場所ではなかった。
二人は肩を並べて同じように声を出す。声質は低め。伸びそうで伸びない高音。
録音された自分の声を初めて聴いた時、「これ誰の声?」と不思議に思った。
そんな自分の声はあまり好きじゃない。でも歌うのは好き。二人の共通点は多かった。
本格的に仕上げていく前の、基礎の基礎の発声練習。他人に聞かせるものではない。
本来なら一人でする練習かもしれない。他の部員はみんな一人で声を出している。
それでも千聖と舞は二人で声を出す。出しているうちに自然に揃っていく二人の声。
舞はコンクリートの階段に置いたペットボトルに手を伸ばす。
冷え切ったミネラルウォーターが喉に心地よい。歌の時は水。水しかいらない。
千聖も舞からボトルを受け取り喉を潤す。吸い込まれた水が体を巡っていく。
血となり肉となり声となる。そんなことが想像できるくらい二人の意識は高まっている。
再び舞は声を出す。つられて千聖も声を出す。千聖の声が舞の声と混ざって交わる。
自分の声は好きじゃない。でも歌は違う。歌は好き。声がいつしか歌に変わる。
歌になってしまえば低音も高音もない。意識しない。ただただそれは歌でしかない。
でも上手く歌えたと思えることはほとんどなくて。理想はいつも果てなく遠い。
上手く歌えなくても満足してしまう時もあったり。これが自分の味だと勘違いしたり。
自己満足と自己嫌悪を繰り返して。もっと楽しい瞬間を探して。そしてまたこの踊り場に来る。
今自分の隣にいる子が楽しんでること。それが一番。自分も楽しい。それが二番。
千聖はよくわかっている。舞もよくわかっている。お互いこの時が一番楽しいってことが。
二人の歌声が笑っているから。弾んでいるから。どこまでも伸びていくから。
いつだって隣にいるから。側にいるから。そんなことは耳を澄まさなくてもわかる。
- 105 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/25(火) 07:00
- *****
- 106 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/26(水) 07:00
- 見様見真似
- 107 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/26(水) 07:00
- こんにちはー。鈴木愛理さんですよね? すみません、生徒会の真野恵里菜です。初めまして。
今年度の下期の予算のことで報告に来ました。はい。鈴木さんですよね、合唱部の部長さんの。
あっ、そうですよね。知ってます。会計は萩原さんって人ですよね。でもあの人はちょっと恐くて。
いや本当ですよ。真野が喋ってるとすごい睨むんです。「あぁん?」とか「話長いよ」とか言って。
だから、その、要するに代わりに部長の鈴木さんに。はい、はい、どうもありがとうございます!
うわー、鈴木さんって本当に優しいですね。同じ鈴木でも書道部の鈴木とはすごい違いですよ。
いえいえいえ。それはこちらの話で。いえいえ。愛理さんはそんなこと知らなくっていいんですよ。
え、じゃあ、まあ、簡単に説明しますと、要するに書道部の鈴木っていうのは新入生の鈴木です。
はい、今年、外から入った子なんですけど、要するにおてんばで、やんちゃで、聞き分けなくて。
この前も真野が生徒会活動に勤しんでるときに友達と連れ立って邪魔してくるんですよー。もー。
その時のことを簡単に話しますと、要するに真野が校則違反をしている女の子を発見した時に!
はいはい。予算ですね。そちらが申請したとおりで大丈夫です。矢島会長のオーケーも出ました。
はい。矢島さんもそう言ってました。愛理さんって矢島さんと仲が良いんですよね。羨ましいなー。
真野の理想の人ですよ、矢島さんは。私も生徒会に入ってから矢島さんの真似ばかりしてます。
生徒会の仕事もですね、矢島さんのやることを見て、それで、見よう見まねでやってるわけです。
違いますよ! 教えてもらえないんじゃないです。私はあえて、あえてやり方を聞かないんです。
やだなあ。私そんな生徒会で孤立した存在じゃないですよ。みんなと楽しくやってるんですって。
でもだからといって、なんでもかんでも手取り足取り教えてもらうのってレベル低くないですか?
見よう見まねで技術を盗むんですよ。教えてもらうよりも盗む方がしっかりと身に付くと思います。
昔の日本の職人さんたちは、そうやって伝統技能を伝承していったって、聞いたことがあります。
そういえば合唱部にもすっごい可愛い子が入りましたよね! 知ってます。結構有名人ですから。
前田さんでしたっけ? 私と同じエスカレーター組なんですよ。その線で情報が入ってくるんです。
え? 結構生意気? 頑固で意地っ張り? 意外ですね。言うこと聞かないこともあるんですか。
いや、いや。愛理さんが下手に出ることはないです。手取り足取り教える必要はないんですよ。
ですからやっぱり後輩は、見よう見まねで先輩から技術を盗んでいくべきですって。それが正解。
あ、ところでこの書類、あとはこちらで必要事項を記入するだけなんですが。はい。そうですね。
これ愛理さんは去年も同じの書いたんですよね? ちょっと書き方を教えてもらっていいですか?
- 108 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/26(水) 07:00
- *****
- 109 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/27(木) 07:00
- 見事に見頃
- 110 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/27(木) 07:00
- 「見事なもんだね」
筆を置いた菅谷梨沙子が少し落ち着くのを待って、夏焼雅は優しく声をかけた。
立て掛けられた横長のキャンパス。大胆にうねる曲線。デフォルメされた人間たち。
梨沙子の書く人物像は縦横の比がかなりおかしい。だがそれが彼女独特の個性になっていた。
「みや」「暇だから来てみた」「また掛け持ちのお誘い?」「いや、桃じゃないし」「そっか」
「まだ桃に誘われてんの?」「うん。いっつも絵を描くの邪魔してばっか」「桃らしいけどね」
雅と嗣永桃子の所属する演劇部は、雅達の下の学年の部員が極端に少ない。
二人とは小学生時代から親しい梨沙子は、桃子から頻繁に入部の勧誘を受けていた。
それでも梨沙子は首を縦に振らない。なぜなら彼女はこの学校唯一の美術部員だったから。
そんな梨沙子を誘う桃子はどうかしてると雅は思う。しかも決まって絵を描いている時に。
梨沙子の絵が好きなのはわかるが、勧誘のタイミングとしては最悪。何をするにせよ桃子は間が悪い。
「もう桃もここに来なくなるかもよ」「えっ?」「新入部員が二人入ったし」「えー!? うっそー」
梨沙子の表情がガラリと変わる。何だかんだ言ってこの子は桃子に構ってほしいのだ。
ランドセルを背負っていた頃からずっと彼女は年上の桃子の背中にくっついていた。
それでも最近の梨沙子は桃子に冷たい。いつだって桃子は自分の側にいて当然と思っているのかも。
そんな二人を見ていると、付き合いの長い雅はどうしてもちょっかいをかけたくなる。
くっつくもよし、離れるもよし。お互い意識し合ってムキになる二人の姿をずっと見ていたかった。
「どんな子?」「一人は変な子」「演劇部はみんな変じゃん」「もう一人は桃の追っかけ」「うそ!」
「ホント」「そんな子いないでしょ」「すぐばれる嘘はつかないよ」「みやは嘘が上手いもんね」
「マジで桃にぞっこんなのよその子」「悪趣味ー」「しかも思いっ切り態度に出すし」「きもーい」
嘘のような本当のような。あえて微妙なニュアンスを匂わせて雅は梨沙子を煽る。
梨沙子の頬が紅潮する。怒った表情も可愛い。中身はお子様だが見た目は見事な年頃の少女だ。
つんと澄まして絵を描いているときよりも、本気で不機嫌になっている今の方が絶対可愛い。
まさに梨沙子は今が見頃。こんな機会を知らずに逃すなんて、嗣永桃子はやっぱり間が悪い。
- 111 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/27(木) 07:00
- *****
- 112 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/27(木) 21:13
- 最高です
- 113 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/28(金) 07:00
- 36℃の微熱
- 114 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/28(金) 07:00
- 「もしかして失恋でもしたのかな?」
最近の彩花はやけに恋愛の話が好きだ。なんだかとっても和田彩花っぽくない。
小学生になる前からずっと一緒にいるからかな。幼い頃の彩花のイメージが抜けない。
あれ? ということは彩花から見たあたしも昔のイメージが抜けていないのかな。
やだな。昔のあたしってあんまり好きじゃない。彩花には今のあたしを見て欲しい。
「花音ちゃん知ってる? この学校に昔からある言い伝えみたいなの。ほら、あれ。」
「恋愛成就のジンクスってやつ?」「恋愛上手?」「バナナを皮ごとってやつでしょ」
「そうそう!」「知ってるけどさー、ホントにやった人がいるとか聞いたことないよ」
もしかして、だから今日の彩花はこんなにたくさんバナナを持ってきたの?
まさかね。部活終わりの栄養補給ってだけだよね。定番だもん。バナナは。
陸上部でも持ってきてる子いるし。バレー部でもきっと流行ってるに違いない。
だって。その子の恋愛のことにそんな真剣になってるって。そんなの絶対あり得ない。
「とにかく今日の憂佳ちゃんは元気なくって」「そんな日もあるんじゃないの?」
「ちょっと熱っぽい感じ」「あたしも熱っぽーい」「そっちは知らない」「ちょっと」
「バナナ一本あげればよかったかな」「そうだよ。バナナで元気づけてあげればよかったのに」
「バナナで?」「ちょんまげ。とか言って」「バカ。そんなこと今どき小学生でもしないって」
彩花と恋愛の話をするのと熱っぽくなるというのは本当。確かに体が熱くなる。
平熱なのに微熱な感じ。恋には体温計では計れない熱っていうのがあるのかもしれない。
でも彩花はデリカシーとか普通にないから。今もむしゃむしゃバナナを頬張ってる。
「でもその子にそのバナナのジンクス教えてあげたら?」「えー、絶対イヤ」
「なんで? その子の恋愛が叶ってほしくないの?」「うーん」「友達なんでしょ?」
「でも。いくらジンクスでもー。皮ごとバナナを食べる憂佳ちゃんは想像できない」
そのゆうかちゃんっていう子のことがそんなに気になるのかな。その子の恋愛が。
振られればいいって思ってるのかな。彩花は優しいからそんなこと思わないのかな。
あたしは彩花みたいに優しくないから。彩花の思いが叶わなければいいのにって思うよ。
それにしても彩花は本当にデリカシーがない。微熱なあたしに見向きもせずにずっと食べてる。
ハードな部活が終わった後でよくそんなに食べられるね。そのバナナ、四本目だよ。
- 115 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/28(金) 07:00
- *****
- 116 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/29(土) 07:00
- 37℃の憂鬱
- 117 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/29(土) 07:00
- 「もしかして失恋でもしたのかな?」
もう。この子ってば、いっつもこんなこと言ってばっかり。
そりゃ年頃の乙女としては恋愛話に気が行くのは当然のことですけれど。
たしなみでございますけど。それにしても愛理はすぐにこっち方面に話が行くよね。
「バカ。ただの風邪だよ」「えー、でも千聖ホントに元気ないよ」
「元気はある」「ほう」「熱もある」「あるんだ!」「大したことないよ」
今日は朝から喉がいがらっぽい。こりゃ部活は休みかなラッキーとか軽く思ってたけど。
どうも本格的に風邪を引いちゃいそうな感じ。保健室で計ったら軽く熱もあったから。
そんなことを話していると、愛理は自分の鞄をごそごそと探り始めた。
愛理の鞄はたまに変なものが飛び出してくる。まるでうちの演劇部の部室みたいだ。
「はい、これ食べて」「えっ」「えっ、じゃないよ。風邪の時の定番中の定番でしょ」
「なんかちょっと黒いんですけど」「うん。昨日食べるの忘れてた」「おい!」
「皮ごと食べると恋愛も叶うって言うし」「なにそれ」「そういうジンクスがあるんだよ」
「嘘くさい」「ホントだよ」「やったことあるの?」「まっさかー。やるわけないじゃん」
「おい!」「だから千聖ちょっと実験台になってよ」「実験台って! どんな扱いだよ!」
そうは言っても愛理が取りだしたバナナは適度に食べごろって感じだった。
バナナって腐っちゃう前が一番甘くて美味しいよね。今ならまだ十分食べられそう。
でも普通、学校にバナナ一房持ってくるか? どうなってるんだよ愛理の鞄の中は。
「あー、びっくりした。千聖マジで怒るんだもん。バナナ投げつけられるかと思った」
「あのね。怒ってないよ。バナナ投げるとかあり得ないし。ゴリラじゃないんだからさ」
「ホント? じゃあ、本当に一本あげるから。まだ腐ってない。ちょっと待ってね」
やっぱりこの子のやることはよくわからない。みんな、この子の外見にだまされてる。
愛理が「よくわからない子」だっていうことを学校の皆はもっと理解するべきだと思う。
ホントわかんないよ。今もこの子はバナナを一本あたしの頭の上に乗せて言うんだ。
「ちょんまげ!」
- 118 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/29(土) 07:00
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- 119 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/30(日) 07:00
- 38℃の逆上
- 120 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/30(日) 07:00
- 「もしかして失恋でもしたのかな?」
里保ちゃんはどこかウキウキしているように見えた。
部活が休みになったからって喜ぶような性格の子じゃないし。
普段は鬼のように厳しい光井さんが風邪ひいたからって喜ぶ子でもない。
もしかして本当に恋愛の話が好きなのかな? ちょっと意外。
「はい、香音ちゃん。お見舞いの品」「そんなの買ってきたの?」「うん。一応ね」
里保ちゃんはすごいしっかりした子。あたしと同じ歳とはとても思えない。
だって部活の先輩が風邪ひいたからって普通お見舞いに行く? 行かないよね。
それなのに里保ちゃんはちゃんとお見舞いの品まで持ってきてる。
同じ学生寮に住んでる先輩の部屋。しょっちゅう行き来してるのに、毎回改まった挨拶するし。
「光井さん、これお見舞いの品です」「マジか。大げさやねん」「ただのバナナですよ」
「鞘師はホンマしっかりしてるわ。なあ?」「なんでそこであたしを見るんですかー」
「お見舞いの品は?」「里保ちゃんとあたし、二人からのお見舞いです」「便乗したんや」
相変わらず口が悪い。書道部の光井と言えば泣く子も黙る口喧嘩クイーンだもんね。
でもそんな光井先輩は恋多き女としても有名。振られて寝込むことも多いという噂。
だから里保ちゃんの推測もまんざらでもないっていうか、ほぼ間違いないと思ってた。
でも光井さんは里保ちゃんのストレートな質問をあっさりと否定した。
「違うよ。失恋したからって寝込まへん。ただの風邪や」「ホントですか?」「あのな」
「バナナ、皮ごとどうですか?」「あれか。あんなジンクス信じてるアホがどこにおるねん」
「面白いなって」「余計熱が上がるわ」「熱あるんですか」「38℃あるねん。疲れさせんな」
こういう時の里保ちゃんはマジで押しが強い。恐いものとかないのかな。
根性あるなー。いやもしかしてちょっと根性悪い子なのかな? 二重人格とか?
あたしは光井先輩に向かって恋愛話なんて振れないですよ。どうしたもんでしょうか。
ここはちょっと間をとった方がいいのかな。あたしは先輩にもう一回バナナをお勧めする。
「先輩、まだあるんで遠慮なく食べてください」「もう食べたって」「まだ三本も残ってます」
「一本で十分。どこの乙女が四本も食べるねん。象か」「象は失恋なんてしないですもんね」
失言でした。まさか図星? 光井先輩は真っ赤な顔をしてバナナを投げつけてきた。
二人は一目散に部屋から退散。里保ちゃんのこと言えません。あたしも十分根性が悪いです。
- 121 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/30(日) 07:00
- *****
- 122 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/31(月) 07:00
- 三重苦
- 123 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/31(月) 07:00
- え? 目つきが悪い? 何でそんなこと言うんですか! いくら先生でもその言い方は失礼です!
もう、思いやりっていうものがないんですか先生には。今日の真野はちょっと調子が悪いんです。
頭が痛くて喉が痛くて熱っぽくてお腹が痛くて。要するに失恋したんですよ。見ればわかるでしょ?
えー? わっかんないかな。先生鈍い。ていうか皆鈍いです。要するに真野のことわかってない。
真野って調子悪いといつも「機嫌悪いの?」とか言われるんですよ。「何恐い目してるの?」とか。
まあ、真野に一目置いてるっていうのはわかるんですけど。そんなにオーラ出しちゃってるかな?
だから本当に頭も喉もお腹も痛いんですって。要するに三重苦です三重苦。トリプルプレーです。
え、それは三重殺? 何ですかそれ。どうでもいいですよ。先生ってすぐに話が横に逸れますね。
早退はしません。ホントに体調は悪いんですけど、風邪とか新型インフルエンザじゃないですし。
はい。真野も生徒会の風紀委員として新型インフルエンザ情報はちゃんと収集しているんですよ。
いえ。それは風紀委員の仕事です。豚インフルエンザとか鳥インフルエンザとか。把握してます。
保健委員の仕事は主に流行が発生した後の処置ですね。未然に防ぐのが風紀委員の仕事です。
要するに予防措置に関する仕事をしてるわけです。ええ。今は主に情報収集を実施しています。
ええ完璧です。この学校で真野くらいウィキペディアを使いこなせてる生徒はいないと思いますよ。
でもウィキペディアにも失恋を癒す方法は載ってないんです。ふふ。ちょっと詩人っぽいですか?
要するにインターネット社会も完璧ではないんです。大事なのは人と人との触れ合いなんですよ。
ネット社会に偏ってしまって、人間同士の触れ合いが少なくなる。真野はそれを懸念しています。
あ、はいはい。鍵ですね。鍵でしたね。ちゃんと締めてきました。はい、ここに置いておきますね。
えっ。そんなことないですよ。ちゃんと管理してます。屋上の鍵は特に厳重に管理してますから。
真野がこの生徒会にいる限り、無断で持ち出しなんてあり得ませんよ。逆ギレしないでください。
いや、絶対根に持ってるでしょ。真野に反論されたこと。こっちが正論だからって怒ってるんだ。
じゃあなんでそんな苦々しい顔してるんですか。まるでバナナの皮でも食べた時みたいな顔して。
え? ああ、あれメチャクチャ苦いですよ。苦くて不味くて、要するに食べるもんじゃないですね。
いや、ホントにそれで喉もお腹も痛いんですよね。なんかまだ皮が残ってるみたいな感じがして。
そんなの真野の勝手じゃないですか! 普通そんなこと聞きます? 先生デリカシーがなさ過ぎ。
信じられない。セクハラですよ。もし真野が裁判所に駆けこんだら、先生下手したら首ですよ首。
先生ってあれですね。鈍い、セクハラ、話が長いの三重苦ですね。そこは直した方がいいですよ。
- 124 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/31(月) 07:00
- *****
- 125 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/01(火) 07:00
- 嫉妬
- 126 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/01(火) 07:00
- 体育館の外壁は真新しいベージュに塗装されている。長かった改修工事はようやく終わった。
器具などの搬入口となる横長の大扉の横にも、真新しい冷水機が三台ほど置かれていた。
体育館の中からはバレー部の掛け声が聞こえる。だがフロアの半分ほどは空いていた。
バスケ部のキャプテンの熊井友理奈は、冷水機の横で体を小さくして座り込んでいた。
「熊井ちゃん、また辞めるって言ってる子がいるんだって」「三人いっぺんに」「あらら」
練習をきつくしたら部員から不平がこぼれた。逆にゆるめたら今度はダラダラとする。
注意するとふてくされる。下手に誉めると付け上がる。新チームはそんなことの繰り返し。
深刻な相談をしているというのに、徳永千奈美はニコニコと笑っていた。
千奈美はこの夏で引退していたが、前チームでは一応副キャプテンを務めていた。
チームをまとめる難しさはわかっているはず。だから友理奈も彼女に相談したのだが。
「笑わないでよ」「茉麻みたいにはいかないってか」「…そういう言われ方するのが一番嫌」
「熊井ちゃん、茉麻に結構あおられたんでしょ」「あおられた?」「チームを締めろって」
「『あんたがもっとしっかりしなきゃダメじゃん』って言われて…」「やっぱりね」
「だからしっかりしたら…」「なるほど」「だってキャプテンの言うことに間違いないし」
前チームの主将の須藤茉麻は確かにしっかりした人間だった。今でも後輩からの信望が厚い。
下の代の子の面倒をよくみていた。ちょっとしたアドバイスなども、いつも的確だった。
だがそんな茉麻も友理奈のことになるとやや判断が曇る。というのが千奈美の須藤茉麻評。
茉麻はなぜか友理奈には過大な期待を抱いており、時折無理な仕事を振ったりしてしまう。
もうちょっとのんびりやるくらいで丁度いいのにね。というのが千奈美の熊井友理奈評。
「熊井ちゃんは加減ができない子だからなあ」「そんなことありません」「怒ると超恐いし」
「怒って恐くない子なんていません」「そうそう。そんな感じで理屈っぽいし」「ええー」
実は裏ではもう話はついていた。引退しても部活ネットワークは卒業まで健在。
茉麻の命を受けて千奈美が部員をまとめ、そして最後は茉麻の方から小生意気な後輩を一喝。
辞めると言ってた子も明日から戻って友理奈にきちんと謝ることになっていた。
「熊井ちゃんはもっとしっかりしなきゃ」とか言ってる茉麻が実は一番友理奈に甘い。
「とにかく今日一日悩みなよ」「えー」「悩むだけ悩んだらきっと答が出るよ」「うーん」
それにしても新旧キャプテンの信頼関係は強い。普通あそこまでお互い意識し合わないよね。
ここまで絆が強いとちょっと妬けちゃうね。というのが千奈美の須藤&熊井コンビ評。
- 127 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/01(火) 07:00
- *****
- 128 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/02(水) 07:00
- 良い子じゃないです
- 129 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/02(水) 07:00
- 本校舎の東側に立っている部室棟。そこには文化系のクラブの部室がほぼ全て入っている。
数少ない例外の一つが合唱部。合唱部の部室は本校舎四階にある音楽室と音楽準備室だった。
そんなわけで合唱部の部員がわざわざ部室棟に入ってくることはほとんどない。
前田憂佳が自主練習の場所に部室棟の一角を選んだのは、そういう理由からだった。
「ハイ、ゆうかちゃん。いつもここで練習してるんだね」
絶対来ないと思っていた人間からかけられた声。憂佳はパイプ椅子から飛び上がった。
バサバサと楽譜が何枚も床に落ちる。顔を真っ赤にして床にしゃがみこむ憂佳。
合唱部部長の鈴木愛理は一緒になって憂佳の楽譜を拾い上げる。
「ちゃんと練習してます」「え?」「さぼったりしてません」「あ、いや、見回りじゃないよ」
「でも」「ちょっと演劇部の友達と作戦会議」「はい?」「さぼってるのはあたしの方かな?」
合唱部の練習は伝統的に部員の自主性が重んじられていた。どこでどれだけ練習をしようが自由。
だからさぼる人間も普通にいた。そして「あの子はさぼってる」と勝手に思い込んでいる人間も。
ここ最近の合唱部の雰囲気はあまり良くない。「あいつさぼっている」。憂佳も標的にされていた。
部員の間では音楽室で全員揃ってちゃんと練習すべきだという意見が強まっていた。
「部長はさぼったりしません」「え?」「歌を聴けばわかります」「おー。すごいこと言うねー」
「練習してない人はあんな風に歌えません」「ありがと。でもそんなことよりね」「はい」
「見張ったりしないよ」「え?」「全体練習にする気もないし」「え?」「自主練でいいじゃん」
愛理はにっこり笑うと憂佳の頭を優しく撫でた。良い子良い子。実は憂佳はこれがあまり好きではない。
小さな頃から何度も大人に頭を撫でられてきたが、他の子からのやっかみの対象にしかならなかった。
でもこの部長に撫でられると、なぜか素直に嬉しいと思えた。もっと撫でてほしいと感じた。
思っていることを伝えたい。だが口をついて出てくるのは心とは裏腹な言葉ばかりだった。
「憂佳ちゃんは言われなくてもやる子だし」「あたしそんな良い子じゃないです」「素直じゃないねー」
「知ってます。皆が裏で何て言ってるか」「あたしも知ってるよ」「えっ」「みんな好き勝手言ってるけど」
「はい」「怒ったりする気はないよ」「えー!」「ごめんね憂佳ちゃん」「いえ、あの」「歌で見返そうよ」
「でも!」「無理じゃないよ。だってあたしら合唱部だし」「はい」「ふふん。そういうの、燃えない?」
部長なのに。全然良い子じゃない。でもこんな人になりたい。憂佳は心から素直にそう思った。
- 130 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/02(水) 07:00
- *****
- 131 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/03(木) 07:00
- 死にたくねえし
- 132 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/03(木) 07:00
- 体育館の改修が終わってからこっち、バレー部の練習は異常に厳しくなった。
どうも隣のフロアのバスケ部と張り合っているクサイ。和田彩花はそう睨んでいた。
主将の中島早貴は練習中もチラチラとバスケ部の方を見ている。声出しも異常にデカイ。
傍で見ていてわかるほど、早貴は明らかにバスケ部の主将のことを意識してた。
「おら、ダーワー! 余所見してんじゃねえ!」「ハイ!」「返事だけだなお前は!」「ハイ!」
余所見してるのはキャプテンの方じゃないですか。残念ながら後輩はそんなことを言えない立場。
早貴はこの秋から新キャプテンになったばかり。昔から恐い先輩だったが今はそれ以上だ。
チームの大エースである彩花にも全く遠慮はない。むしろより厳しく接されているように感じる。
先週まで全然元気がなかったのが嘘みたいだ。そういえばバスケ部も先週は休みだった。偶然だろうか。
友達に聞いたところバスケ部は部員間でちょっと揉めていたらしい。辞めるとか辞めないとか。
「バスケ部のキャプテンも情けねーよなー。デカイだけで後輩になめられっぱなしでさー」
早貴は結構口が悪い。そしてバスケ部のキャプテンには異常に辛い。激辛。喧嘩も頻繁らしい。
彩花も一度だけ二人のマジ喧嘩を見たことがある。見ているだけで死にそうなほど恐かった。
でもバスケ部が休みの間は早貴も大人しかった。張り合う相手がいないとやる気も出ないのだろうか。
そろそろ部活も終わりの時間。早く終われ。彩花が痛切に願っているとバスケ部の主将がやってきた。
「早貴。そろそろ電気落とすけど」「あん? もう終わり?」「時間なんだよ」「まだ早いだろ」
バスケ部キャプテンの熊井友理奈は学校一の長身だ。そして切れ長の細い目。眼力が尋常ではない。
そんな友理奈が早貴と言い争いをすると、特撮映画の怪獣大戦争になる。アンギャアア。フギャアアア。
「バレー部は終わらないの?」「あと20本」「後輩死にそうになってるけど」「死にやしないよ」
死にそうです。彩花は心の中でつぶやく。そして友理奈のことを心から全力で応援する。
やっちゃってください。お願いします。この人ちょっとおかしいんです。ガツンと一発凹ませてください。
彩花の願いは見事にバスケ部のキャプテンまで届いた。勢い余ってバレー部のキャプテンにも届いた。
「そんなんじゃ後輩ついてこないよ」「ふふん。バスケ部じゃあるまいし」「あぁん?」「事実だろ?」
小学生のような取っ組み合いの喧嘩が始まった。お互い少しも遠慮していないところが恐い。
たちまちバスケ部とバレー部の部員が全員集まって止めに入る。まるでプロ野球の乱闘シーン。
巻き添えを食いたくない彩花は、この隙にと一人離れてチューチューとスポーツドリンクを吸っていた。
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/03(木) 07:00
- *****
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/04(金) 07:00
- しみずさきさーん
- 135 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/04(金) 07:00
- 生徒会に所属していると別のクラスや別の学年の生徒と接する機会が多い。
清水佐紀も生徒会で活動をするようになって二年が経った。
「一度も親しく喋ったことがないけど顔と名前は知ってる子」が随分と増えた気がする。
それでもそういった子にいきなり話しかけられると、やはり初対面と同じように緊張する。
「しみずさきさーん」
この呼び方。嫌な予感。嫌な子というほどでもないが、面倒臭い子が来たという感触。
佐紀のことを「しみずさき」と呼ぶ子は一人しかいない。生徒会きっての問題児の子だ。
だが振り向いた先に立っていたのは、佐紀が予想していた子ではなかった。
小さい体から発散される弾むような躍動感。二つ結びにしたおさげ髪。可愛い子だった。
「えーっと、あの」「すみません。陸上部の福田と言います」「あー、舞美んとこの」
「これ、矢島主将に渡して頂きたいんですけど…」「そっか。今日はこっちに来る日だったね」
「生徒会室に行ったんですけど矢島さん居なくて」「舞美はあっちこっち行ってるから」
生徒会会長の矢島舞美は陸上部の主将でもある。一日おきに掛け持ちで活動している。
この学校は複数の活動を掛け持ちすることに寛容だ。推奨している雰囲気すらある。
佐紀は小柄な少女の名札を覗きこむ。「福田花音」。知っている名前だった。
確か舞美が「今うちで一番頑張ってる子」とか言ってた子だ。短距離走の子だったかもしれない。
「ちょっとビックリした」「え?」「『しみずさき』ってフルネームで呼ばれたから」
「すみません! つい」「つい?」「あ、知ってる人がいつもそう言ってたので」「え?」
実はその呼ばれ方は好きではない。普通に呼んで欲しい。佐紀がそう言うと花音は大げさに謝った。
いいよいいよと慌ててフォローする佐紀。でも次からは止めてねと言うと花音は笑顔で頷いた。
そこから話が少し広がる。花音は生徒会のことも少しは知っているようだった
佐紀は花音のことを知っている。そして花音も佐紀のことを知っている。
だが親しく話したことは一度もない関係。年上と年下。先輩と後輩。なんとも微妙な関係。
新鮮な人間関係。佐紀としてはもう少しだけこの舞美の後輩と話をしてみたかった。
部活のこと。陸上部での舞美のこと。短距離走のこと。聞いてみたいことはたくさんある。
この子と仲良くなれたら、自分の居場所が一つ増えるかもしれない。なぜかそんなことを思った。
だがその時、二人の遥か彼方、廊下の端の方から生徒会の問題児の声が聞こえてきた。
「しみずさきさーん、すみませーん、ちょっといいですか?」
- 136 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/04(金) 07:00
- *****
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/05(土) 07:00
- 始終失敗女
- 138 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/05(土) 07:00
- しみずさきさーん、すみませーん、ちょっといいですか? あれ? 花音ちゃんじゃん。なにしてんの?
何それ? 矢島さんに渡すの? 矢島さんだったら今ちょっと調理実習室の方で仕事してるんだけど。
そう、それでしみずさきさん! あのですね、要するに…え? なによ花音ちゃん。話なら後にしてよ。
だから、今は急いでるの。しみずさきさんと話がしたいの。要するに花音ちゃんと話してる暇はないの。
え? はい。彼女とは友人なんですよ。真野と花音ちゃんは同じように下から上がってきたんですよ。
そうです。要するにエスカレーター組ですね。真野の方が一年上なんですけど。その当時はですね…
はあ? 友達じゃないとか言わないでよー。感じ悪いねー。下では一緒に学園祭とかやったじゃーん。
えー!? 真野は足なんか引っ張ってないよ。なにそれ。始終失敗ばっかとか言わないでよ。何それ。
真野の辞書に失敗という文字はありません。あの学園祭は大成功でした。知りません。知らないです。
あの企画はダーワーが潰したんじゃん! みんな犬とか猫だったのに、なんであの子はあんなものを。
とにかく真野はきちんと覚えてますからね。あの恨みは一生忘れませんから。悪いのは全部ダーワー。
しみずさきさん。この子の言うこと真に受けないでください。私の悪口ばっかり言う困った子なんです。
なになに? さっきから何を言ってるの? しみずさきさんはしみずさきさんだよ。そういう名前じゃん。
そうですよね。「清水佐紀」さんですよね? ええ。え? 「しみずさん」って呼んだ方がいいんですか?
それならそうと遠慮なく言って下さいよー。みんな真野に対してはいつもそうやって遠慮するんですよ。
そんなにオーラ出しちゃってますかね。真野はそこまで大物じゃないと思うんですけど。え? なによ?
だからこれも失敗じゃないって。始終失敗女とか言うなバカ。バカ。バーカ。なによー。喧嘩売ってる?
あ、はい。すみません。しみずさきさんも最初からそう言ってもらえれば。え? 何回も言った? うそ。
すみませんすみません。これからは絶対しみずさきさんとは呼びません。はい。「清水さん」、ですね。
それでしみずさきさん。あ、清水さん。あのですね。あ? だから花音ちゃん。うるさいって。細かいよ。
誰だって言い間違えくらいするじゃん。ちょっとくらいの失敗でグダグダ言わないでよぉ。しつこいなあ。
そんなんだから陸上部の豆タンクとか言われるんだよ。言ってるよ。要するに、真野の周りでは全員。
バレバレとか言われても。真野が言い出したんじゃないよ。他の子が言い出したんだって。本当だよ。
何よ。言葉のセンスが古い? え、何が? 豆タンクが? うそ。真野じゃないよ。センス古くないって!
だから始終失敗女とか言わないで。今のも失敗じゃないし。ばれてないし。一人で盛り上がらないでよ。
え? はいはい。すみませんしみずさきさん。清水さん。そうそう。急ぎの話でした。ええ。調理室です。
すみません。真野が蛇口をひねったらボキッと。今、矢島さんがずぶ濡れで対応を。急いでください!
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/05(土) 07:00
- *****
- 140 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/06(日) 07:00
- しごかれてみたい
- 141 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/06(日) 07:00
- 「おはよう、憂佳ちゃん」
おはよう、と言葉を返そうとして前田憂佳は軽く眉をひそめた。
声をかけてきた和田彩花の動きがおかしい。油の切れたロボットのようなぎこちない動き。
彩花は「よっこらせ」と年寄りじみたことを言いながら大儀そうに椅子に座った。
「どこか痛いの?」「屈辱ですよ」「怪我?」「筋肉痛」「なーんだ」「なーんだじゃなーい!」
「バレー部で?」「うん」「怪我とは違うの?」「筋肉痛」「湿布貼れば?」「は? 絶対イヤ」
彩花がバレーを始めたのは昨日今日のことではない。小学校に入学した時からずっとだ。
毎日練習している身としては筋肉痛は屈辱らしい。まだ怪我の方がましだと彩花は言う。
湿布も嫌だ。臭いがきつい。だいたい筋肉痛で湿布を貼るなんてあり得ない。オバサンクサイ。
ずっと文化系のクラブに所属している憂佳には彩花の言うことがよく理解できない。
「なんでまた急に」「最近練習きついんですよ」「彩花ちゃんってエースって聞いたけど」
「恥ずかしながら」「それなのに筋肉痛?」「うっ。憂佳ちゃん、きついねー」「だってー」
「下級生エースだからね。逆にしごかれるの」「いじめ?」「違う違う。期待の裏返しです」
天狗になるな。調子に乗るな。ちょっと上手いからって。才能があるとか勘違いするな。
下級生エースとまではいかないが、合唱部の中でも歌唱力が上の方の憂佳もよく言われる。
でも期待の裏返しなんて思ったことは一度もなかった。単なる嫌味としか受け取らなかった。
だってそんなことを言う人は、いつも決まって憂佳より努力していなかったから。
「バレー部のキャプテンってどんな人?」「鬼」「バレーは上手いの?」「もちろん」
「彩花ちゃんとどっちが上手い?」「ポジション違うし」「うーん」「何が言いたいの?」
「言ったら彩花ちゃん怒りそう」「怒るかも」「わ。以心伝心」「全然わかんないけどね」
そういえば憂佳は上から説教されたことはあっても、実際にしごかれた経験はなかった。
歌の練習に関しても人から意見されたことはほとんどない。避けていたのかもしれない。
きっと彩花は上の人間との衝突からも逃げないのだろう。筋肉痛はその勲章みたいなもの。
「期待の裏返し…」「格好良過ぎ?」「あたしも期待されてみたい」「えー。きついだけだよ」
チャイムが鳴る。先生が教室に入ってきていつものように授業が始まる。何事もない日常。
ちょっと格好良過ぎるバレー部のエースは、授業の間ずっと熟睡していた。
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/06(日) 07:00
- *****
- 143 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/07(月) 07:00
- 四六時中
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/07(月) 07:00
- あ、ちょっと待って。そこのあなた。そこの猫背のあなたよ。はい。あなたですあなた。お久しぶり。
えーっ! 真野のこと覚えてないの? 生徒会風紀委員の真野恵里菜。つい先月も注意したわ。
この学校の風紀を四六時中守っているのはこの私。要するにね、要するに…え? 思い出した?
何を今更。嘘でしょ。完全に嘘ね。あなた今、ちょっと思い出した振りしたでしょ。酷いわねホント。
私はあなたのことを忘れてないわよ。演劇部の譜久村聖さん。今年入ったエスカレータ組の子。
書道部じゃなくて演劇部に入部したのね。今の「思い出した振り」も演劇部仕込みの演技かしら?
あなた、嗣永さんに随分なついてるらしいじゃないの。四六時中くっついてるって聞いたんだけど。
わからない振りしてもダメよ! 演劇部の情報だったら四六時中、私のところに入ってくるのよ。
要するに、私は四六時中、嗣永桃子さん一人をロックオンして学校各所から情報収集してるの。
嗣永さんに憧れるのはわかるわよ。あの人はこの世界の「可愛い」の象徴的な存在ですからね。
でもあの人を愛する資格があるのは、四六時中あの人のことを見つめて、思っている人だけよ。
恥ずかしながらこの真野恵里菜、四六時中嗣永桃子さんのことを思ってます。本当に四六時中。
あなたみたいに上辺だけ四六時中ひっついてる子はダメ。要するに気持ちがこもってないのよ。
あの人はプロなのよ。プロの「可愛い」なのよ。だからこっちだって四六時中プロにならないとね。
プロよ、プロ。わかるかしら。四六時中嗣永さんを見つめる、嗣永ウォッチャーのプロ中のプロよ。
あなたはダメ。あなたみたいなパッと見が優等生な子が一番ダメなのよ。要するに見かけ倒しね。
あなたみたいな見た目優等生タイプがね、案外おバカさんで、裏ではヤンキー気性で気分屋で。
ちょっと叩かれたくらいで、すぐに鬱っぽくなって落ち込んだり。かまってちゃん気質だったりして。
わかるわー。あなた絶対そういうタイプでしょ。真野には自分のことのようによくわかるんだから。
要するにね、あなたには集中力がない。四六時中一人の人を愛し続ける忍耐力がないってこと。
わかった? 四六時中愛せない人に嗣永さんは無理。真野の言ってることが理解できたかしら?
なによ。難しそうな顔をして。あなた反抗的ね。え? 何よ。聞きたいことがあるんだったらどうぞ。
怒ったりしないわよ。これでも真野は生徒会員なのよ? 絶対に下級生をバカにしたりしないわ。
そんな恐がらなくてもいいわよ。真野は優しいから。怒らないしバカにしたりしないから。絶対に。
え、なに? ……は? 『しろくじちゅう』の意味がわからない? えー、うそー! 信じられない!
それじゃ、今まで真野が話していたことは何だったの? もしかして全然理解していなかったの?
あなたバカじゃないの? わからないんだったらそんなこと最初に聞いてよ! バカじゃないの?
- 145 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/07(月) 07:00
- *****
- 146 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 07:00
- お題は47都道府県で
- 147 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 07:00
- 日が沈んでから校舎内の一角はにわかに活気を放ち始める。
文化系のクラブの部活動はかなり夜遅くまで続く。これからが本番と言わんばかりに。
学校から徒歩5分の位置にある学生寮で生活している生徒は特に夜が遅い。
部員全員が寮生である書道部は、特に夜が遅いことで知られていた。
「それは違うと思います」「違うのはお前の方や」
部室に三人の人影。この学校の生徒数は少ない。書道部の部員はその三人だけだった。
光井愛佳派と鞘師里保派。たった三人の書道部は大きく二つの派閥に分かれていた。
もう一人の部員である鈴木香音はその時の気分でコロコロと態度を変える。
普段は特に仲が悪い三人ではない。光井は面倒見がいい方だし、鞘師も先輩は立てる。
だから香音も心置きなくふらふらと二人の間を行き来することができた。
だがこと書道のことになると二人とも目つきが変わる。二人とも書道歴は非常に長い。
しかも書のジャンルや作風が全然違うときている。揉めると長い。果てしなく長い。
書道経験がまだ半年にも満たない香音は、しばしば話題についていけなくなるのだった。
「納得できません」「ほな多数決で決めよか」「香音ちゃんも入れてですか?」「当り前や」
「香音ちゃんには無理です。理解できませんって」「え、ひどーい」「それもそうやな」
「マジっすか」「じゃあ、また例の勝負でどうですか」「お前も好きやな」「止めます?」
「いつでも相手したるわ」「じゃ、香音ちゃん、お題をお願い」「え、ちょっと待ってよ」
香音は頭を抱えた。変なお題を出すと後で文句を言われる。二人とも口は達者だ。
そして負けず嫌いな性格をした二人。とばっちりが来ることは避けたい。
必死で考え込んだ香音は無難なお題を一つ思い出す。これなら完璧に無難だと思った。
二人の得意科目が社会、それも地理が得点源だということは全く知らなかった。
「じゃあ、お題はね、47都道府県の名前! どん!」
「広島」「滋賀」「岡山」「京都」「鳥取」「大阪」「島根」「兵庫」「山口」「愛知」
「愛媛」「岐阜」「香川「石川「福岡「富山「佐賀「長野「宮崎「新潟「岐阜」
「鹿児し「とうきょ「沖な「北海「神奈が「青も「山「山「福「福
「熊「いわ「あきた「徳「なが「千「奈「み「さい「高「おおいた
よくわからない。とにかく全然わからないが、どうも地雷を踏んだっぽい。しかも特大の。
野生動物並の危機察知能力を持つ香音はそっと部屋を抜け出るのだった。
- 148 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 07:00
- *****
- 149 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/09(水) 07:00
- しわ寄せがね
- 150 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/09(水) 07:00
- 体育館の裏はほのかに薄暗い。背の高い木々が手入れもされないまま伸び盛っていた。
人目を忍んで行動するには格好の場所。だがこの学校には隠れてタバコを吸うような生徒はいない。
この場所を使うのはもっぱら、愛を告白する時か、先輩が後輩をしめる時に限られていた。
授業を終えた中島早貴は体育館に向かっていた。体育館裏から飛びだしてきた少女が三人。
チラッと見えただけだが、三人とも泣いていることがはっきりとわかった。
ここを呼び出し場所に使う生徒は多いが、一度に三人も泣かせるやつはあまりいない。
早貴は足の赴くまま角を曲がる。コンクリートの石段の上には案の定、知ってる顔がいた。
「よ、女泣かせ」「早貴。見てたの」「見てたよ。舞ちゃんが可愛い子を振るところ」「バーカ」
「合唱部の後輩?」「先月までいた子」「辞めた子に今更説教?」「悪い?」「何かあったの?」
「辞めてもさ、うちの可愛い後輩にしつこくちょっかいかけてくるからさ」「わ。暗い話だね…」
早貴は萩原舞の隣に腰掛ける。バレー部の活動が始まるまでは、まだ30分近くある。
いつもは一直線に体育館に向かう早貴だが、たまには一息ついて話すのも良いかと思った。
舞とは今も同じクラスだし、なんだかんだと古い付き合いだ。
クラスではあまり喋らないが、部活の時間になるとなぜか気楽に話すことができた。
お互い、クラスではあまり居心地の良い場所が作れていないからだろうか。
そしてそんな自分を割り切って冷めた目で見ているところも、共通していたかもしれない。
「早貴は良いキャプテンだよね」「なによ急に」「結構本気で言ってる」「マジかよ」
「うちの部長は頼りなくて」「愛理か」「後輩にめちゃくちゃ甘い」「そんな感じする」
「そのしわ寄せが全部こっちに回ってくんだよ」「しわ寄せね」「損な役回りだよ。マジで」
「…」「どう思う?」「え?」「愛理のこと」「別に」「叱れない部長」「しょうがないじゃん」
「意外」「え?」「早貴は愛理のこともっときつい目で見てるのかと思ってた」「そんな…」
顔に出てたか。確かにあたしは「誰からも好かれる子」ってのと相性が悪いけどさ。
でも本気で嫌いな子って逆に悪口とか言えないんだよ。だって負け惜しみみたいじゃんか。
嫌いだからって吠えたら負けなんだよ。好かれない子には好かれない子の意地があんだよ。
しわ寄せが来たとしても、そういうしわは自分で伸ばして畳んで丸めこまないとダメなんだよ。
「あー、もー、だるい。うちの後輩、まとめて早貴とか熊井ちゃんとかに説教してもらおうかな」
「熊井ちゃん? ダメダメ! あんな加減知らずの馬鹿力。後輩がみんな殺されるっつーの!」
なぜか早貴の口からは、熊井友理奈に対する悪口はすらすらと出てくるのだった。
- 151 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/09(水) 07:00
- *****
- 152 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/10(木) 07:00
- 四苦八苦
- 153 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/10(木) 07:00
- あたし、よく勘違いされるんだけど、誰とでも話せるタイプじゃないよ。
確かに人より友達は多いかもしんない。けど、友達になれなかった子はもっと多いから。
色んな子と話したり遊んだりするのが好きだけど、実はそういうのって長く続かない。
結局、気が付くと気に入った子とばっかり遊んでる。そんなことの繰り返し。
「聖ちゃん、声が小さいよ。もっと声を張って」「ハイ、先輩」「もう一回ね」「ハイ」
今日は珍しく桃は学校休み。いつも無駄に元気だけどね。突然電池が切れたりするからあの子。
そうそう。みんなによく聞かれる。「雅ちゃんはどうしていつも嗣永さんといるの?」
もう理由を考えるのも疲れた。だって物心ついた頃からずっと一緒にいるし。ねえ。
桃の魅力なんて知らないよ。でもさ。桃とつるむのやめるとして、他に誰がいるっての?
「聖ちゃん、感情が薄いの。もっと気持ちを込めて」「ハイ、先輩」「声は大きく」「ハイ」
「生田」「はい」「帰っていいよ」「すみません。次は真面目バージョンでいきます」
ああ見えて桃はかなりモテる。あの性格でモテるんだよ。笑っちゃうよね。
もっと笑っちゃうこと言っちゃおうか。桃ってああ見えて超純情だよ。純の情。はい爆笑。
本当だって。この夏焼雅、すぐにばれる嘘は言いません。桃と話せばすぐにわかるから。
漫画のキャラみたいに純情なの。演技? まさか。桃に演技なんてできるわけないじゃん。
「聖ちゃん、元気ないね。桃がいないからとか?」「ハイ」「ごめんね雅で」「ハイ」
「え?」「いえ」「…」「すみません」「生田」「ハイ」「休憩。ジュース三本買ってきて」
「わかりました。いかにも買ってきた…っていう演技でいいですか?」「いいですか、じゃねえよ」
演劇部はみんな変なやつばっかりって梨沙子が言ってたけど、反論できない。
基本の演技を教えるだけなのに。どうしてあたしはこんなにも四苦八苦しなきゃいけないんだか。
桃がいないと露骨に手を抜く譜久村聖。手抜きはしないけどもっと大事な何かが抜けてる生田衣梨奈。
こういうふてぶてしい後輩と比べると桃が可愛く見えるよ。あの嗣永桃子がですよ。…ったくもう。
ちなみにこの夏焼雅は全然純情ではございません。すぐにばれる嘘はつかない主義です。
純情じゃないから四苦八苦するの。桃みたいに素直に熱血できたら演劇部も楽しいんだけどね。
でもあたしには無理。だから四苦八苦……え? 二人とも炭酸が苦手? あのね、生田衣梨奈さん。
それじゃあ、この生ぬるいリアルゴールド三本は、いったい、誰が、飲むんでしょうか?
- 154 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/10(木) 07:00
- *****
- 155 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/11(金) 07:00
- フィフティ・フィフティ
- 156 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/11(金) 07:00
- 逃げれば追う。追いかければ逃げる。走る。走る。果てまで走る。どこまでも追いかけて。
走ることが日常の陸上部の生活。キツイと感じたことは何度かあるが、飽きたことは一度もない。
福田花音にとって100メートルという距離は短い。だが中長距離に転向しようとは思わなかった。
まだ行ける。もっと行ける。その物足りなさ。その満たされない気持ち。走りに対する飢え。
マラソンを限界まで走り込んだ時にはそういった気持ちは得られなかった。
腰にチューブを巻き付けて短距離ダッシュを繰り返す。強度の高いトレーニング。
怪我をしないように慎重に負荷をかける。筋肉が張ってきたことが手に取るようにわかる。
「練習熱心だね」「すごい集中力だね」。そうよく言われた。集中力? 実はよくわからない。
走っている時に無心になれることは少ない。極限まで緊張する公式戦の時くらいかもしれない。
むしろ普段以上に色々なことを考えた。自分はどこまでいけるのか。どこまで速くなれるのか。
そこそこ速いという自覚はある。もう少し速くなれそうな手応えもある。でもその先が見えなかった。
その先にあるもの。「あなたの限界は12秒フラットです」。そんな事実を突き付けられることが恐かった。
陸上と関係ないことも考えてしまう。彩花も今頃体育館で練習しているのだろうか。
バレー部は新体制になって練習が厳しくなったと聞いた。最近ちっとも遊んでくれないし。
でも鍛えられるのはいいことだと思う。花音は練習している彩花の姿を見るのが好きだった。
無駄をそぎ落とし。最高の運動性能を求め。たどり着く機能美。磨きあげられる和田彩花。
ふと振り返ると投擲の練習ネットの横に清水佐紀の姿があった。矢島主将と笑顔で話をしている。
花音に気付くと佐紀は軽く手を振った。生徒会関係で、清水先輩には最近なにかとお世話になっている。
先輩が主将のことが好きなのは見ていてわかる。でも先輩は不思議なくらい慌てない。求めない。
「人間関係にはね、完全なフィフティ・フィフティなんてないんだよ。たとえ両思いになってもね」
そんなことを言う女の子を花音は初めて見た。でも清水先輩に冷めたところは全くない。
シーソーゲームを楽しんでいるような、そんな斜に構えた風もない。あくまでも自然だった。
なぜだろう。肩の力が抜けた気がした。ずっと背負っていた荷物が軽くなった気がした。
彩花とはそこそこ上手くいってるという自覚がある。もう少し仲良くなれそうな手応えもある。
でもその先が見えなかった。その果てに何があるのか、直視することが恐かった。でも今は恐くない。
やっぱり自分は走るのが好き。そして彩花が好き。ずっとずっと飢えている。
ずっと好きでいたいからフィフティ・フィフティの関係は求めない。あたしはあたし。福田花音。
視界の隅に清水先輩の笑顔が流れる。一瞬しか見えなかったけど素敵な笑顔だった。
- 157 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/11(金) 07:00
- *****
- 158 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/12(土) 07:00
- 合意しました
- 159 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/12(土) 07:00
- スッと伸ばした背筋から立ち上がる気迫。良い筆の使い手は姿勢が美しい。
姿勢が美しいから字が綺麗なのではない。綺麗な字を書くために正しい姿勢が必要なのだ。
それを体で知っている者の書は乱れない。わかる者にしかわからない繊細な境地がそこにあった。
息を止めたまま、道重さゆみは筆を置いた。「好きだな君が」。書き上げられた一枚の書。
腕の運びはゆるやかなのに、描かれた筆致は豪胆。鞘師里保はため息をついた。
なぜこの言葉を選んだのかはわからなかったが、技術の高さは嫌というほどわかった。
「どう?」「すごく綺麗です」「やだ照れる」「その筆が」「こら」「冗談です」「やあね」
「でも本当にすごいです。その筆も」「ものの良さはわかってもらえた?」「十分過ぎます」
机の上には真新しい筆が十本近く置かれていた。書道用具は消耗品でも意外と高価だ。
そんなわけで書道部では時々、不定期に卒業生からの寄贈品を受け取っていた。
さゆみもそんな卒業生の一人。現役の時は全国規模のコンクールで入選したこともあったとか。
「ふふふ。じゃ、この筆置いてくね」「ありがとうございます」「でも交換条件ありよ」「えっ」
「里保ちゃんが書いた書が一枚ほしいな」「あ、そんなことですか。勿論」「じゃ、同じ文言で」
里保は筆を借りて半紙に向き合う。経験の長い里保にはその筆がいかに高価なのかがよくわかる。
半端な書は渡せない。先輩が納得できるだけの作品を書かなければならない。自然と筆に力がこもる。
「好きだな君が」。ひらがなのつながりが難しかったが、持てる技術を全て込めて書いた。
「あら上手」「ありがとうございます」「もう1ダース、筆あげよっか」「そんな! 悪いです」
「ふふふ。里保ちゃんがデートしてくれたらあげる」「いえ、遠慮します」「どう? 愛佳」
「行かせます」「光井せんぱーい」「じゃあ、お互い合意したってことで?」「はい。合意しました」
本気で嫌がる里保。この筆は一万や二万じゃ買えない。1ダースももらうなんて贅沢過ぎる。
さゆみはそんな強情な里保のことをニコニコしながら見ていた。部長の愛佳は里保を説得にかかる。
だがさゆみはあっさりとデートを諦めた。その代わり一つの交換条件を里保に提案する。
「じゃあ、全国大会で大賞に選ばれたら寄贈するってことでどう?」「えっ。大賞って…」
「わたしの時もね、確かに全国で入選したけど、入選しただけなのよね。入選って何百作もあるのよ」
「そんなにたくさん…」「うん。でも大賞に選ばれるのは十作に満たない。そこが本当の全国の頂点」
「頂点」「そう。日本で最高の作品。あなたもそこを目指しなさい。この筆はそのために使うの」
刺すような笑顔。デートに誘った時よりも道重先輩の表情は数倍殺気に満ちていた。
里保はこくりと頷いて筆を受け取ると、愛佳と共に「合意しました」と返答した。
- 160 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/12(土) 07:00
- *****
- 161 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/13(日) 07:00
- ご自由に
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/13(日) 07:00
- ふう。やっと帰ってくれたかな。困った人。部活の会計は全部舞ちゃんに任せてるのに。
毎回毎回あたしに報告されても二度手間だし。生徒会ならそれくらいわかりそうなのにね。
だいたいね、あの変てこな子に限らず、みんなは舞ちゃんのこと恐がり過ぎなんですよ。
萩原舞くらい優しい子はなかなかいないと思うよ? 後輩の面倒見だってすごいいいし。
あの子が怒るのはね、相手が本当に悪いことをした時だけ。それはこの鈴木愛理が保障します。
そもそも舞ちゃんに対して「偉そう」っていう批判は当てはまらないんだよ。
だってあの子、実際に「偉い」んだもん。それをわかっていない子の多いこと多いこと。
みんな謙虚とか控え目とかが好きだよね。偉い人が偉そうにしてたらなぜか怒るし。
わかるんですよ。だってあたしもそういうことをよく言われるもん。結構多いんですよ。
可愛い子が可愛くしてたらやけに怒る人っているよね。あれはなんなんでしょうか。
可愛くないより可愛い方がいいと思うんだけどなあ。周りが和むと思うんだけどなあ。
そんないちゃもんを付ける人に、舞ちゃんはすっごい手厳しい。もう容赦なしですよ。
偉いよね。わたしは怒れない。自分の正しさに自信が持てないから。でも舞ちゃんは怒る。
合唱部の役員だから偉いんじゃないよ。自分の偉さに気後れしていないところが偉いんだよ。
だから他の部の部長さんや副部長さんは皆、舞ちゃんのこと認めてるよ。わかる人にはわかるんだ。
え? なんでそんな頼れる舞ちゃんが会計で、頼りないわたしが部長かって?
そんなの決まってるじゃん。舞ちゃんが推薦してくれたからだよ。愛理が部長をやるべきだって。
あたし、新入生の時から色々と目立ってたから、部内で私を嫌ってる人も多かったんだよね。
でもだからこそ部長になるべきって言われた。上手い子が端っこでこそこそするのは不自然だって。
うん。確かにあたしは全然部長っぽくない。でも舞ちゃんはよく言うんだ。「ご自由に」って。
あたしが自由に歌っていることが何よりも合唱部のためになるって言ってくれたんだ。
歌が上手いことは悪いことじゃない。上手い子が堂々としてることは悪いことじゃないってね。
あの時の説得は忘れられないなあ。わたしは泣き虫じゃないんだけどね。あの言葉は堪えました。
だから私は部長っぽくなろうとは思わない。歌が上手い子が好き勝手してても叱らない。
それが舞ちゃんの言うところの「自由」だって思うから。うん。私も全く同意見。
だから合唱部はこれからもずっと、自由な雰囲気を持ち続けていられればいいなって思うんだ。
- 163 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/13(日) 07:00
- *****
- 164 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/14(月) 07:00
- 誤算と運命
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/14(月) 07:00
- お昼休みの時は雲一つない綺麗な秋空だった。だが秋の天気は変わりやすい。
午後の授業開始と共にしとしとと降り出した雨。放課後には完全に本降りになっていた。
前田憂佳は何も考えずにいつものようにいつもの場所で歌の練習を始めた。
三階の窓からは陸上部の練習風景が見える…はずだった。雨が降っていなければ。
憂佳は5分ほど雨を眺めてようやく気付いた。なんという誤算。今日は陸上部は休みか。
雨脚の強さは変わらない。風も強まってきたようだ。グラウンドには人っ子一人いない。
廊下を移動し、逆方向の窓から中庭の様子を見てみる。華やかに開いた色とりどりの傘。
あちこちから沸き上がってきた傘の流れは、どれもみな校門の外へと向かっていく。
憂佳は小さな頃からずっと合唱部に所属していた。生粋の文化系クラブ部員。
運動部の部活動の様子などほとんどわからない。想像することも難しかった。
雨が降れば練習内容も変わる。そんなわかりきったことも計算できなかった。
憂佳は親友の和田彩花のことを思う。彼女は部活が休みになるとは言ってなかった。
バレー部は体育館で練習するから関係ないのだろうか。陸上部は体育館を使わないのか。
雨の時だけ借りるとか。憂佳は陸上部と一緒に練習する彩花の姿を想像する。
そういえば彩花は陸上部のあの女の子と親しかった。小学校以前からの幼馴染とか。
その子について聞きたいことは山ほどあった。でも名前くらいしか聞けなかった。
それ以上聞くことが恐かった。物心つく前から一緒にいる親友。割り込めるわけがない。
雨はますます強くなる。天井や窓を叩く音が強まる。人の気配をかき消すような強さ。
だから憂佳は直前まで気付かなかった。部室棟の階段を上り下りするいくつもの足音に。
憂佳は練習場所を変えようと階段に向かう。降りようとする憂佳。上ろうとしている足音。
雨はさらに強くなる。階段手前の曲がり角。憂佳は猛烈な勢いで走ってきた足音と激突した。
「わ!」「きゃ!!」
憂佳は文化系クラブ部員。だから知らなかった。想像もしなかった。
陸上部は、雨の日は屋内の階段を何往復も上り下りしてトレーニングすることを。
階段を全力疾走するなんて。非常識すぎ。怒りに燃えた目を向ける憂佳。その視線の先には。
「ご、ごめんなさい…」
毎日窓から見ていたあの女の子の姿。彩花の親友。名前だけは知っている。…福田花音。
- 166 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/14(月) 07:00
- *****
- 167 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/15(火) 07:00
- 御用件をどうぞ
- 168 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/15(火) 07:00
- はい、どうぞ。開いてますよ。鍵はかかってないです。いつでも生徒の訪問をうけられるようにね。
要するに、この生徒会室はいつだってオープンになっているってわけです。オープンマインドよ。
何かしら。うわ。あなた大きいね。身長何メートル? ねえ、身長何メートルってば? 教えてよ。
あ、何もそんな露骨に恐い顔しなくても。本気で怒りました? すみません。ホント、すみません。
それで御用件は何ですか? 私ですか? 生徒会役員の真野恵里菜ですけど。本当ですって。
だから本物の生徒会役員ですって。それで御用件は何なんですか? は? 風紀委員ですけど。
担当ですか? いやー、でもあなたの要件を言ってもらわないと対応もできないじゃないですか。
要するにミスマッチって言いたいわけですか? はい。あ、もしかしてあなたバスケ部員ですか?
やっぱりね。だって背が高いもん。絶対バスケ部かバレー部だと思いましたよ。鋭い指摘でしょ?
本当に背が高いですよね。身長何メートルですか? 2メートル? 要するにその身長の高さが
はい。はい。はい。え? 要するに何が言いたいんですか? だから、あなたは誰なんですか?
はい。バスケ部のキャプテンの熊井さん。はい。ええっと。熊井友理奈さんですね。確認します。
何をそんなに怒ってるんですか? そんな喧嘩腰じゃ会話にならないです。落ち着いてください。
だから要件ですよ。御用件をどうぞ。はい。なるほど。部の運営費のことで。はい。予算のことで。
いえ。そんな細かいことはどうでもいいんです。金額の確認ですか? それとも変更なんですか?
はい、はい、はい、はい、なるほど。えーっと、要するにですね、あなたの話は全然わかりません。
だから何が言いたいんですか? あなたの御用件だけを簡単に言ってもらえればいいんですよ。
いや、だから、それはどっちでもいいじゃないですか。さっきから何を言ってるんですかあなたは。
だから予算は予算なんですって! 真野の権限じゃそんなことはできないんですよ。当然でしょ。
違います違います。正確に言うとですね、いえ、いえ、あの、真野の話を聞いてもらえませんか?
だから要するにですね。はい? なんで「要するに」って言っちゃダメなんですか! ひどいです。
別にいいじゃないですか。なにを言おうが真野の自由ですよ。だ、か、ら、要するにですね…え?
あなた本当に身も蓋もないことを言う人ですね。そんな細かいことにこだわってどうするんですか。
そんなことより要件を早く言ってくださいよ。要件ですよ要件。話が無駄に長いなあ、熊井さんは。
喧嘩なんて売ってないですよ! 真野は超平和主義者なんです。いつ喧嘩を売ったっていうの?
わかんないなあ。なんでそんなイライラしてるんですか。もういいですよ。要件を言ってくださいよ。
だから簡単に言ってくださいよ。部活の予算ですか? え? 体育館の補修工事の予算の件?
ごめんなさいね。真野は風紀委員と部活予算の担当なんです。設備工事の担当は隣の人です。
- 169 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/15(火) 07:00
- *****
- 170 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/16(水) 07:00
- 午後の麦茶
- 171 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/16(水) 07:00
- 日が沈もうとする直前。美術室の窓からは秋の西日の鋭いオレンジが差し込んでいた。
逆光を浴びながらキャンバスに向かう一人の少女。机の上には乱雑に散らばる無数の絵の具。
少女の髪は西日を浴びて薄茶色に輝く。それ自体が一枚の絵のような情景だった。
これで油絵独特の臭いさえなければ最高に落ち着く場所なのにと須藤茉麻は思った。
絵を描いているのはこの学校唯一の美術部員の菅谷梨沙子。
茉麻は梨沙子から少し離れたところに腰かけ、ノートと参考書を開いていた。
試験前とあって図書室は満員。食堂も人の流れが多くて落ち着かない。
この美術室には滅多に人が来ない。密かに茉麻が気に入っている隠れ家的な勉強場所だった。
梨沙子は持っていた筆を瓶に突っ込むと大きく一つ背伸びをした。
急に集中力が途切れたことがわかる。茉麻は小さな魔法瓶を手にして梨沙子に歩み寄る。
「邪魔した?」「ううん。全然」「はい、麦茶」「ありがと」「休憩?」「今日はもういいや」
茉麻は梨沙子の後ろの席に座り、二つのコップに麦茶を注ぐ。
梨沙子は猫が舐めるように少しずつお茶を飲む。茉麻も合わせるようにゆっくりと口をつける。
いつもの麦茶。でもこんな何気ない一服が茉麻にはとても新鮮なものに感じられた。
この夏にバスケ部を引退してから茉麻はやや暇を持て余していた。急に居場所を見失った。
学生生活のほぼ全てを部活に費やしていたから、放課後の時間をどう過ごせばいいのかわからない。
バスケを取ったら何も残らない。現役だった頃はそれが誇りだったかもしれない。
だが引退した今では、それがとても寂しいことに感じられてならなかった。
また暇を見つけて体育館にでも行こうかな。熊井ちゃんの相手しに。そんなことを考えてしまう。
「ここは静かでいいね」「最近は静かだね」「一人で寂しくない?」「寂しい時もあるかなー」
茉麻も小学生の頃は絵画教室に通っていた。その頃からずば抜けて上手かったのが梨沙子。
まだ九九も言えないような幼い少女が、大人びた絵を描くことに茉麻は衝撃を受けたものだった。
小学生の頃から甘えん坊だった梨沙子。今は自分がその梨沙子に甘えている。逆転するデジャヴュ。
「じゃあ、また来てもいい?」「いつでもいいよ」「次はお菓子も持ってくるわ」「やった!」
秋の日は沈むのが早い。外はもう暗かった。喜ぶ梨沙子の笑顔を見ながら茉麻は麦茶を飲み干す。
バスケ部のキャプテンとして練習に明け暮れていた頃とは、ほんの少し違う味がしたような気がした。
- 172 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/16(水) 07:00
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- 173 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/17(木) 07:00
- ゴロゴロ雷
- 174 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/17(木) 07:00
- 梅雨は過ぎた。台風シーズンも去った。それなのに最近は連日の雨。雨。雨。
特に今日は空模様が一際重い。放課後になったばかりなのに校舎内は真夜中のようだった。
部活棟の中も暗い。午後一番に大雨・洪水・暴風雨警報が出されていたからだろうか。
明かりの点いた部屋は少なく、和室ゾーンの辺りも人の気配がほとんど感じられなかった。
「他の部員は?」「警報が出たから帰った」「香音ちゃんは帰らないの?」「聖ちゃんは?」
「なんとなく帰り損ねちゃった」「もう少し小雨になったら帰ろうか?」「うん」「嵐だね」
「雷もゴロゴロ鳴ってる。恐くない?」「恐くない。香音は風の子、雷の子」「語呂悪いね」
演劇部の譜久村聖と書道部の鈴木香音。二人の活動拠点は近い。部室は同じ建物にある。
そして演劇部も書道部も比較的部員の拘束がゆるいクラブだった。
聖はこうやって暇を見つけては書道部の部室に来て、香音とお喋りすることが多かった。
「演劇部はどう?」「楽しい!」「じゃなくて。演技は上達した?」「全然…」「ダメじゃん」
「香音ちゃんの方こそ、書道部どう?」「楽しい!」「じゃなくて」「全然…」「ダメじゃん」
聖はつい最近演劇部に入部したばかり。香音もこの学校に来てから書道を始めた初心者。
二人とも他の経験者についていくのが精一杯だった。それでも香音は前向きな気持ちを失わない。
香音は自分の筆を持つとたっぷりと墨汁を付けた。だが字を書くでもなく筆を弄んでいる。
「じゃあ、今日は書道部も休みだし、二人で演技の練習しようよ!」「え? 書道の練習は?」
聖の質問には一切答えずに香音は筆を自分の鼻の下に付けた。真一文字に筆を引く。
鼻の下にちょび髭のようなものが描かれる。コントのような髭は香音の顔に妙に似合っていた。
「怪しい魔法使いみたい」と聖が思ったら、香音は本当に「ふふふ。黒魔術師カノンだ!」と叫んだ。
「面白ーい! どういうストーリー?」「いや、そこは適当に。アドリブで」「え。難しいよ」
外は小雨になるどころかますます大荒れの天気となっていく。風が強い。木々がしなる音が聞こえる。
本当に怪しい黒魔術師が登場しそうな雰囲気だった。空一面が白く光る。周囲の景色が点滅する。
「これは天罰じゃ! 落ちろ雷、どーん!」。遅れて音が来る。床が震えるほどの大きな雷だった。
「きゃあああー。死ぬ!」。聖は妙に色っぽく倒れ込んだ。無表情だ。死んだ振りをしてるらしい。
聖のわざとらしい台詞を聞いた香音は「コント?」と思ったが聖の目は真剣そのものだ。
「どう? どう? 聖の演技どうだった?」とつぶらな瞳で問い掛けてくる。
香音は風の子、優しい子。嘘をつくのは大嫌いな性格だったけれども。でも。でもでもでも。
さすがに仲の良い親友に向かって「大根」とは言えなかった。
- 175 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/17(木) 07:00
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- 176 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/18(金) 07:00
- 稲光
- 177 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/18(金) 07:00
- 梅雨は過ぎた。台風シーズンも去った。それなのに最近は連日の雨。雨。雨。
特に今日は空模様が一際重い。放課後になったばかりなのに、校舎内は真夜中のようだった。
部活棟の中も暗い。午後一番に大雨・洪水・暴風雨警報が出されていたからだろうか。
明かりの点いた部屋は少なく、和室ゾーンの辺りも人の気配もほとんど感じられなかった。
「他の部員は?」「警報が出たから帰った」「花音ちゃんは帰らないの?」「憂佳ちゃんは?」
「なんとなく帰り損ねちゃった」「もう少し小雨になったら帰ろうか?」「うん」「嵐だね」
「雷もゴロゴロ鳴ってる。恐くない?」「恐くない。花音は風の子、雷の子」「語呂悪いね」
合唱部の前田憂佳と陸上部の福田花音。二人の活動拠点は遠い。互いの部室はほとんど別世界。
だが雨が降った時だけ陸上部はこの部室棟にやってくる。室内トレーニングをするために。
だから今日も憂佳は何も考えずに真っ直ぐにこの場所にやってきた。警報なんてお構いなしに。
そして花音も帰宅前にこの場所にやってきた。なんとなく憂佳が待っているような気がしたから。
「彩花ちゃんは?」「熱血部活中」「体育館系は関係ないの?」「バレー部以外はみんな帰った」
「えー?」「バレー部だけは『警報が出てる最中に帰宅するのは危ない』ってさ」「すごい理屈ー」
「あそこのキャプテンえぐいよ」「陸上部のキャプテンは?」「人格者」「ほう」「生徒会長だし」
つい最近まで二人は全く面識がなかった。雨の日に偶然この場所で出会って親しくなった二人。
まだお互いのことはよく知らない。名前を呼び合うことすらちょっと恥ずかしくて変な感じだった。
数少ない話題の一つが、共通の友人であるバレー部の和田彩花ネタ。このネタは鉄板だった。
話がどんどん広がっていく最中にも雨音は高まっていく。雨脚が弱まりそうな気配は全くない。
「すごい雨」「これ帰れないっぽいね」「バレー部のキャプテンさん、案外正解かも」「うん」
空一面が白く光る。周囲の景色が点滅する。遅れて音が来る。床が震えるほどの大きな雷だった。
花音と憂佳は二人同時にビクンと体を震わせる。一秒後に無言で見つめあって苦笑い。
本当に雷の子かどうかはわからないが、確かに花音は稲光を見ても恐がる様子はなかった。
「花音ちゃん? あの子意外とダメっ子だよ。ビビりだし。すぐ泣くし」。彩花ちゃんの嘘つき。
そういえば彩花はこんなことも言っていた。「特に高い場所とか暗い場所とかは全然ダメな子」
恐がる花音。泣き出す花音。慰める憂佳。暗闇で抱き合う二人。いつまでも帰れない二人。
「恐い…恐い」「大丈夫。憂佳がついてる」。制服越しに伝わる花音の熱。永遠に退かない熱。
「雷落ちて、停電にならないかな」と思いながら、憂佳はどこまでも妄想を膨らませていた。
- 178 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/18(金) 07:00
- *****
- 179 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 07:00
- 逸話
- 180 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 07:00
- はい、どうぞ。開いてますよ。鍵はかかってないです。いつでも生徒の訪問をうけられるようにね。
要するに、この生徒会室はいつだってオープンになっているってわけです。オープンマインドよ。
あら、ダーワー。よく来たわね。え、なによ。あんたが小さい頃からみんなはそう呼んでるじゃん。
要するに、今更「和田彩花さーん」なんて気持ち悪くて呼べないってわけよ。そうよね、ダーワー。
とにかく、この真野恵里菜の呼び出しに、よくぞ応じました。逃げなかった勇気は誉めてあげる。
あら、生意気。言うわねー。この真野恵里菜が生徒会の風紀委員であると知ってのことかしら?
もう昔の私じゃないわよ。軽く見ないでね。逆らったら容赦しませんから、バレー部のエースさん。
要するにね……え? なによ? 要件? その前にね、ちょっと一言いいかしら? 要するにね、
もー、なによ! 本当にせっかちねー。要件要件、うるさいわよ。あなたは要件村の村人なの?
わかったわよ。言うわよ。バレー部の件よ。あなた達、先日、無許可で遅くまで練習してたでしょ。
そうよ。要するに、大雨で警報が出てた時に帰宅指示を無視して練習をしていた。これは問題よ。
え? やーよ。バレー部のキャプテンって超恐いもん。だからダーワーに伝えるわ。生徒会から…
はい? ええ、知ってますって。中島さんでしょ? 有名人だもん。色々な逸話を残してる人よね。
ええ、下級生から火の球スパイクを顔面にぶつけられて体育館一面に鼻血を撒き散らしたとか。
あと、下級生の火の球ジャンピングサーブを後頭部にぶつけられて白眼をむいて失神したとか。
他には下級生と二人一組で手押し車をやっていて、頭から体育館の壁を突き抜けていったとか。
色々と聞いたけど、でも要するにこれって中島さんの逸話じゃなくてダーワーの逸話じゃないの?
ああ、あとこんな話も聞いたわ。カバンの中におもちゃの蜘蛛を入れられて絶叫したっていう話。
ふん。おもちゃの蜘蛛ね。天下のダーワーもこっちに上がってきてからは大人しくなったものね。
昔のあなただったら本物のタランチュラを入れてたんじゃないの? あの時の学園祭みたいに。
本当に学校中がパニックになってた。忘れたとは言わせませんから。あれこそ逸話中の逸話よ。
なんでよ! あんたがあの企画を潰したんじゃん! なんであたしの失敗になるの? 要するに…
え? どうしたの急に。あー、そっちの話してたんだよね。いきなり話をかえるから驚くじゃないの。
とにかく学校から帰宅指示が出たら素直に従いなさい。コラ。ダメよ。そういう時は素直に謝るの。
どうしてわざわざ大雨警報が出てる時に遅くまで練習したりするの。常識じゃ考えられないことよ。
あなた、もしかして新しい逸話を一つ作ろうとしてたんじゃないの? 昔の学園祭の時みたいに。
だから、なんで、あの話が真野の逸話になるのよ。ダーワーも花音ちゃんみたいなこと言うのね。
ただのペット自慢企画にタランチュラなんて持ってきたダーワーが悪いんだよ。普通持ってくる?
持って来なけりゃ何もなかった話じゃん! あたしだって逃がしたくて逃がしたんじゃないわよ!
- 181 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 07:00
- *****
- 182 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/20(日) 07:00
- ご苦労様でした
- 183 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/20(日) 07:00
- 放課後を告げるチャイムが鳴る。学校の景色が変わり、生徒達も俄かに色彩を取り戻す。
だがバレー部の中島早貴が扉を開けた時、体育館は別世界のような透明の静寂に包まれていた。
授業が終わってから部活が始まるまで30分ほど時間がある。どこの部活でもそれは同じ。
その間に生徒は掃除をしたり、雑談をしたり。しばしの休息を取るのが普通だった。
だが早貴は、授業が終わると寄り道をせずに真っ直ぐ体育館にやってくる。
誰よりも早く来て、誰よりも遅くまで練習する。それが早貴なりのキャプテンシーだった。
練習着はよれよれだが、シューズはしっかりと手入れしている。これがたった一つの早貴の武器。
軽くジャンプする。次はサイドステップ。膝のバネを確かめるようにリズミカルに。
柔軟体操もせずに、いきなりマックスで動きだしてしまうのが、昔からの早貴の悪いクセだった。
準備運動もそこそこに早貴はケージの中のボールに手を伸ばす。音もなく奥の扉が開いた。
目と目が合う。「あっ」「お」。制服の上からでもわかる鍛え上げられた肉体。見覚えのある顔。
早貴の目の前にいたのはバスケ部の前チームのキャプテンだった。何ヶ月か前に引退していたはず。
体育館で部活生活を送っている人間で、この須藤茉麻のことを知らない人間などいない。
そしてきっと茉麻も、体育館で部活してる人間のことは全員知っていただろう。まさに体育館の主。
「ゴメン。邪魔した?」「久しぶりっす」「まあ、ちょっとね」「また熊井ちゃんの相手とか?」
軽く苦笑いする茉麻。全て見通されている。まるで昔の自分みたいな子。少し眩しくて羨ましい。
「はあ…。引退した人間がいつまでもうろうろしてたらやりにくいよね?」「…お疲れ様っす」
やりにくいよね?という茉麻の問い掛けに、早貴は肯定も否定もしない。
体育会系の組織にどっぷりと浸かった人間にだけわかるニュアンスがそこにあった。
茉麻は改めて早貴の顔をまじまじと見る。昔の自分とは違う。きっとこの子の方がもっと強い。
「まあ、疲れてはいないんだけどね」「さすが。熊井ちゃんの相手して疲れないとは」「あはは」
体育館に差し込む光がほんの少し遮られる。二人は後ろを振り返った。
擦りガラス越しに見えた背の高いシルエット。誰が見てもわかる、学校一わかりやすいシルエット。
「熊井ちゃん。丸わかり」「あはは。やっぱり今日は帰るわ」「はい」「見つからないうちにね」
茉麻は手にしていたバッシュを強引に鞄の中に押し込んだ。らしくない乱暴さ。
なんとなく早貴は、もうこの主が体育館には二度と帰ってこないような気がした。
自然と背筋が伸びる。理屈ではない何かが早貴の心と体を引き締める。改めて挨拶を一つ。
「お疲れさ……。ご苦労様でした」
茉麻の目が優しさを帯びる。戦う主将の目ではなかった。ため息を一つ。そして優しい愚痴を一つ。
「ふう…。うん。いいね。疲れてはいないけど、まあ……苦労はいっぱいしたかな」
熊井友理奈がフロアに入ってくると同時に、茉麻はするりと扉の向こうに消えた。
- 184 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/20(日) 07:00
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- 185 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/21(月) 07:00
- ムッとする二人
- 186 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/21(月) 07:00
- 金曜日の放課後。広い図書館の真ん中には手持無沙汰な二人の人影。微妙な距離と空気と温度。
全クラス持ち回りで回ってくる図書館の掃除当番。年間平均でたった3回しか当たらない仕事。
とっておきの貧乏くじを引いた嗣永桃子と徳永千奈美は、面倒臭そうな顔で人を待っていた。
「ねえ、桃」「なによ」「まだ?」「知らないわよ」「いつ帰ってくるんだよ」「知らないって」
桃子と千奈美はもう一人の掃除当番がやってくるのを待っていた。
図書館は四階。掃除用具は一階の校舎裏。しんどい仕事から巧みに逃げるのは上手い二人。
もう一人の当番の子はクラスで一番真面目な子。二人に押し付けられて掃除用具を取りに行った。
取りに行かせたはいいが、この組み合わせで二人っきりというのもかなり微妙だった。
仲は全然よくない。だが付き合いは長かったりする。初めて会ったのは幼稚園入園の時。
それから今の今まで桃子と千奈美はずっと同じクラスだった。
10回以上のクラス替えがあったが、違うクラスになったことは一度もない。
それなのに同じ仲良しグループになったことは一度もないという、何とも微妙な仲だった。
「桃、携帯で呼んでよ」「やーよ」「何で」「番号知らない」「何で」「そんな仲良しじゃないし」
桃子はムッとした。だいたい、千奈美にいまさら「桃」なんて呼ばれる筋合いはない。
確かに幼稚園の頃は誰もがみんな「桃」と呼んでいた。だがそれは昔の話。今は違うのだ。
「桃」と呼んでいいのは本当に仲が良い友達だけ。そうじゃない子はちゃんと「嗣永さん」と呼ぶ。
千奈美は一体いつまで幼稚園の頃の習慣を引っ張っているのだろうか? そんな仲じゃないのに。
「時間もったいないしちょっと勉強してていい?」「勉強! 熱でもあるの?」「試験前じゃん」
「やーね。格好つけて」「何でそうなんの?」「千奈美ってそんな真面目キャラじゃないじゃん」
千奈美はムッとした。真面目なキャラじゃないって、それはいつの話なのだろうか?
こっちだって普通に勉強するし恋愛もする。そんなことをいちいち桃に言われたくなかった。
もうこっちはとっくに大人になっているのだ。いつまでも演劇ごっこしてるお子様とは違う。
一体いつまで幼稚園や小学生の頃のキャラを引っ張るのだろうか。鬱陶しいことこの上なかった。
ムッとする桃子。ムッとする千奈美。もう掃除とかどうでもよかった。サボって帰ろうか。
二人とも同時に席を立つ。その時ちょうど三人目の掃除当番が掃除機を抱えて戻ってきた。
「はい! 生徒会室から特別に掃除機持ってきたよー! 真野恵里菜御用達の超高性能掃除機!
これなら不器用な桃ちゃんも不真面目な千奈美ちゃんも、あっという間に掃除が終わるから!」
- 187 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/21(月) 07:00
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- 188 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/22(火) 07:00
- 無意味ではない
- 189 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/22(火) 07:00
- 無造作に生田衣梨奈は扉を引いた。金曜日は演劇部は休み。部室の中には誰もいない。
無駄足ではない。ちゃんとわかっていて衣梨奈は部室にやってきていた。
無計画ではなかった。衣梨奈はこの休みを利用して、一人きりで練習をするつもりだった。
無条件で休みは潰した。友達は遊んでいるが、自分は練習する。誰に言われなくとも。
無機質なガラクタが部屋中に転がっている。これが演劇部の部室。居心地の良い場所だった。
無所属だったのが遠い昔の話に思える。今の衣梨奈はれっきとした演劇部員だった。
無愛想だとずっと言われていた。演劇を始める前。いや、今の友達と知り合う前の話だ。
無表情で素っ気ない性格だと言われていた。笑うのが苦手で、泣くのが苦手で、話すのが苦手で。
無神経だと思われていたかもしれない。決してそんなつもりはなかったのだが。
無鉄砲なところもあったし、そういった行動の理由を他人に説明することが苦手だったから。
無駄口を叩くようになったのは演劇を始めてからかもしれない。それが今は楽しい。
無尽蔵に言葉が溢れてくる。伝えたいこと、表現したいことが多過ぎて、逆にそれが苦しいくらい。
無遠慮で無礼講をよしとする演劇部の雰囲気も衣梨奈に合っていた。叱られても全然辛くない。
無秩序なように思えても、やる時にはきっちりやるところも格好良いなと思った。
無気力だった衣梨奈の生活は一変した。今は常に演技のことが頭にある。少しでも上手くなりたい。
無邪気に演技ごっこをしているだけではダメだと、最近ようやく気付いた。
無関心でいてはダメだ。演技に関する情報を集めて。コツコツと勉強する。今日の練習もその一つ。
無関係だった「勉強する」という言葉。今はすっかり馴染んだ。好きなことなら苦痛ではない。
無意識のうちに衣梨奈は同級生の譜久村聖の演技をなぞる。同学年の子には負けたくない。
無頓着な性格をしている聖だが、演技のスキルは衣梨奈より少し上だ。目標としては丁度良い。
無責任な先輩は二人の拙い演技力を茶化すが、そんなことは気にしない。反論もしない。
無意味ではない。絶対に練習の成果は出る。結果は急がなくていい。最後に勝てばいいのだ。
無期限の勝負だ。この世界は青春の全てを賭ける価値がある。いつかあたしが主役を演じる。
無限大の可能性が自分にはある。衣梨奈は一心にそう信じて一人で黙々と練習を続ける。
- 190 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/22(火) 07:00
- *****
- 191 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/23(水) 07:00
- ろくに寝てない
- 192 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/23(水) 07:00
- 「ろくに寝てないんだよ」「そんなに悩んでるの?」「いや、試験勉強とかもあってね」
机に突っ伏していた岡井千聖が顔を上げた。目に隈はできていなかったが、どことなく瞼が重い。
いつも元気な千聖。彼女が疲れた表情を見せるのは珍しい。試験勉強のせいとは思えなかった。
菅谷梨沙子は描きかけの絵もそのままに筆を置いた。広い美術室には二人しかいない。
梨沙子はたった一人の美術部員。指導する教師も先輩もいない。いつもマイペースで描いていた。
「千聖」「ここはいいね。落ち着く」「え?」「誰も来ないし」「そうでもないんだよ」「えっ?」
梨沙子はため息をつきながら笑った。この部屋に来る子はみんな同じことを言う。
落ち着く。静かだ。誰もいない。誰も邪魔しない。別世界とか楽園とか言う子もいた。
決してそんなことはないのに。楽園なんかではないのに。そして結構頻繁にお客さんも来るのだ。
「愛理のこと信頼してないの?」「してるよ!」「桃のことは?」「してない」「やっぱり」
降って湧いたような話だった。千聖は合唱部の副部長。部内のことは一通り把握しているつもり。
というか自分が実質的な部長だと思っていた。部長の鈴木愛理は部の運営にはあまり積極的ではない。
歌は上手いが、他の雑事は千聖達にお任せなのだ。だからその愛理から突然提案された時は驚いた。
「今度さあ、演劇部とコラボしてミュージカルをやりたいなーって思ってるんだけど、どう?」
その場にいた会計の萩原舞も驚いていた。唖然呆然。反論する暇もなく愛理に押し切られてしまった。
「ろくに相談もせずにだよ?」「だからその提案が相談だったんじゃないの?」「あ…。そっか」
「千聖と舞は反対するの?」「いや、もうなんか計画が走り出しちゃってるし」「あらららら」
「演劇部にしてやられたっていう感じでさ…」「そこまで悪く言わなくてもいいんじゃない?」
千聖は体を反って大きくあくびをした。眠いというのは本当だろう。かなり疲れているようだ。
そんな疲れた千聖のことを見ていると、梨沙子は思わず安心させてあげたくなる。
「でも桃はそんな悪い人じゃないよ」「良い噂を聞かないよ」「あー、色々言われてるねー」
「あれって全部でまかせ?」「いや、ほとんど全部ホント」「マジかよ!」「うん」「頭痛い…」
千聖は演劇部のことはあまり知らない。だから演劇部に知り合いの多い梨沙子に聞きに来た。
嗣永桃子。夏焼雅。清水佐紀。そういった演劇部首脳陣の人となりについて尋ねる。
梨沙子は嘘やお世辞を言う子ではない。帰ってきた答は千聖にとって芳しいものではなかった。
「大丈夫。上手くいくって」「梨沙子はそう思う?」「うん。桃がからむと絶対に面白くなるから」
「じゃあ梨沙子のとこにも依頼が来たら受ける?」「依頼?」「舞台に使う絵を描いてって」
実際に演劇部からそんな案が出ていると千聖は言った。梨沙子は即答した。ろくに考えもせずに。
「ヤだ。桃の面倒事に巻き込まれるのは、お断り」
- 193 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/23(水) 07:00
- *****
- 194 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 07:00
- ロミオは誰だ
- 195 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 07:00
- 演劇部の部室に転がっているガラクタの山。萩原舞は物珍しそうな顔で部屋を見渡す。
噂というものはたいてい大きな尾ひれがつくものだが、この部屋の乱雑さは噂以上だった。
なぜか大きな柱が何本も立っている。その奥の壁には巨大な額縁がかかっているみたいだ。
これまた巨大な筆跡で何か書いてあるのだが、柱が邪魔して「演技」しか読めなかった。
とりあえず座れそうな場所を探す。指先でつつつとベンチをなぞる。埃はついていなかった。
「適当に座っていいよ」「あ、はい」「緊張しなくていいよ」「でも夏焼さんと会うの初めてですし」
「タメでいいよ」「え?」「愛理もあたしや桃とはタメ口だし」「えー」「友達だし。気遣い無用」
「でもー」「演劇部はそういうの緩いの。伝統的に」「へー」「後輩も口の利き方、知らないしねえ」
「教えてやれよ」「えっ」「タメ口タメ口」「ふふっ。舞ちゃんって面白いね。よかった。合いそう」
舞の所属する合唱部は既に代替わりしているが、演劇部はまだ上級生が引退していない。
演劇部の予算を取り仕切っている夏焼雅は舞よりも年上だったが、偉ぶったところは全くない。
むしろ舞に対してかなりフランクな態度を取った。なぜなら雅にとって舞は戦友となる人間だから。
これから始まる戦いにおいて、合唱部の一番重要な同盟相手は萩原舞。雅はそう認識していた。
「舞ちゃんが合唱部の予算を見てるんだよね」「うん。で、演劇部の予算は」「あたしが見てる」
「清水さんじゃないんだ」「佐紀ちゃん、でいいよ」「佐紀ちゃん」「あたしは雅ちゃん、でいい」
「雅ちゃんが今回の企画を考えたの?」「まさか」「じゃあやっぱり…」「桃と愛理」「だよねえ」
演劇部は毎年クリスマス公演を開催していた。その公演を最後に上級生は引退する。
一方の合唱部は秋の文化祭が終わると上級生は引退。年末には大きなイベントはなかった。
ところが今年は「演劇部と合唱部のコラボでミュージカルを」という企画が唐突に持ち上がった。
一口にコラボと言っても、学校の予算でやる以上、ちゃんとした計画書を学校に提出する必要がある。
どうもこの企画を考えた嗣永桃子と鈴木愛理は、そういったことを全く考えていない節がある。
「お互い気苦労が絶えないね」「まー、うちの愛理は嗣永サンよりはしっかりしてると思うけど」
「桃、でいいよ」「嗣永サンって変な噂ばっかりあるけどさ、実際どうなの?」「桃、でいいよ」
「嗣永サン変人だよね」「桃、でいいよ」「うちの部員は嗣永サンに全然良い印象持ってないよ」
「…あたしも嗣永さんには良い印象は持っていません」「ふはははっ。雅ちゃんも面白い人だね」
一しきり笑ったあと、二人は再び暗い表情に戻ってため息をついた。
今更引き返せない。もう既に桃子と愛理が連名で学校側に要望書を出してしまっていた。
ご丁寧なことに台本も既にできていた。本番の一ヶ月も前に本が上がるなんて異例の事態だった。
雅が台本を渡すと舞の表情がさらに暗くなる。タイトルを見ただけで中身が容易に想像できた。
主役は当然あの人。相手役は誰がやるのだろう。本のタイトルにはこう書いてあった。
『ロミオとモモエット』
- 196 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 07:00
- *****
- 197 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/25(金) 07:00
- ロクヨンで
- 198 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/25(金) 07:00
- 窓は閉め切ってある。だがそこからの眺めは見ているだけでも寒い。外は風が強そうだった。
部室棟の三階の廊下の突き当たり。お気に入りの場所で、前田憂佳は一人で歌の練習をしていた。
合唱部の部室である音楽室は最近騒がしい。なんでも年末に演劇部と合同でミュージカルをやるとか。
最初その話を聞いた時は、演劇部のバックコーラスでもやるのだろうと軽く考えていた。
「合唱部の部員にも出演してもらいまーす。歌だけじゃなくて台詞もいっぱいあるからね」
部長の鈴木愛理の言葉に合唱部は騒然となった。演劇経験があるものなど一人もいない。
前代未聞の事態かと思いきや、数年前にも一度、合唱部でミュージカルをやったことがあるらしい。
愛理はご丁寧にも当時の卒業生を連れてきて、指導してもらうことにしていた。
「センパイには歌も演技も見てもらいます。上手そうな子に良い役を当ててもらうからね」
部員達は死にそうな顔をしていた。演技なんて恥ずかしくてできるわけない。絶対に無理だ。
ただでさえ最近の合唱部は雰囲気が良くなかったのに。下手をすれば合唱部はバラバラになる。
憂佳はそう思ったが、愛理はいつになく楽しそうだった。この人はいつも何を考えているのかよくわからない。
「愛理ちゃーん……と思うたら違う子やん。あれ? でも合唱部の子やんね?」
声をかけられて憂佳は振り向いた。ばっちりメイクを決めた目つきの鋭い女がそこにいた。
小柄だが迫力がある。先日から指導に来ている合唱部の卒業生だ。名前は確か田中とかいったはず。
「はい。前田です」「あー、そっかそっか。ゆうかちゃんね」「え?」「前田のゆうかちゃん」「はい」
「愛理ちゃんが場所取られたって言うとった子や!」「え?」「ここ、ええ場所やろ?」「え、はい」
「昔はれいなもようここで練習しとったんよ」「へー」「卒業する時に愛理ちゃんにこの場所教えて」
「えっ」「愛理ちゃんもしばらくはここで一人で練習してたって言っとった」「ホントですか?」
初耳だった。愛理はいつも、副部長の岡井千聖と会計の萩原舞の三人で練習しているイメージがある。
昔の愛理。新入生だった頃の鈴木愛理。急に興味が湧いてきた。今とは全然違っていたのだろうか。
だが憂佳はいつだって一番聞きたいことが聞けない。なぜか話を逸らしてしまう。直らない性格。
「先輩はこのミュージカル上手くいくと思います?」「んー、ロクヨンで」「あ、意外と低いと…」
「上手くいかんっちゃろね」「え!」「でもゆうかちゃんはそんなこと考えんでもよかよか」「はあ」
「好きな歌を歌う。それだけっちゃろ」「でも」「好きやったら成功も失敗も関係ないんよ。ね」
怪訝な顔をする憂佳を無視して、田中は手にしていた台本を広げて勝手に歌い出した。
ついさっきまで憂佳が練習していた曲。簡単そうに見えて難しい曲。田中は鼻歌のように軽く歌う。
田中は明らかに本気で歌っていなかった。それなのに田中の歌に圧倒される憂佳。
だがそんな憂佳など眼中にもなく。田中は自分に酔いながら自由気ままにいつまでも歌っていた。
- 199 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/25(金) 07:00
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- 200 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/26(土) 07:00
- 無言の勝負
- 201 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/26(土) 07:00
- 書道部の部室は半分だけが畳敷きになっていた。もう半分は普通の教室に近い。
だが半分だけでも和室になっている部室というのは、書道部にしては珍しい方かもしれない。
たった部屋半分しかない広さだけれど、そこは光井愛佳にとって特別な場所だった。
境界線をまたいで畳に足を踏み入れると、そこはもう、書のことしか存在しえない世界が広がる。
正座をして姿勢を正している愛佳。名は体なり。そして体もまた名なり。
美しい姿勢でなければ美しい文字は書けない。背筋を伸ばして筆の軌道をイメージする。
愛佳は深呼吸して腹筋に力を入れる。書に腕力はいらないが気力胆力は必要だ。
半紙に筆を置く。躊躇は敵。迷いは悪。雑念は邪念。だが無我の境地にはまだまだ遠い。
ピリッと足の裏に電気が走る。それを意識するだけで微かに筆が乱れてくる。
どれだけ慣れたとしても正座はきつい。一時間もすると足が痺れてくる。集中力も持続しない。
確かに技術は大切だ。基本は大事だ。経験も大事。だがやっぱり一番大事なのは集中力。
だから正座して書くのは一時間のみ。一時間だけ集中してじっくりと書くのが愛佳の日課だった。
納得できるものが書けなくても一時間で切り上げる。そして改めて椅子に座って再び書く。
次は違うアプローチで書に向かう。書いて書いて書きなぐる。集中力より勢い重視。
この練習方法が最善なのかどうかはわからない。わからないけど愛佳は無我夢中で半紙に向かう。
たった二人の後輩は、修行僧のような愛佳の姿を見て何を思うのだろうか。部屋には愛佳一人。
鞘師里保と鈴木香音は、今日は最近掛け持ちを始めたクラブの方に顔を出している。
この学校は部活を掛け持ちしている生徒が多い。学校側がそれを奨励している向きもある。
だから書道初心者の香音が掛け持ちするのは理解できる。良い気分転換にもなるだろう。
だが上級者の里保までもが他の部活を始めたことは、愛佳には全く理解できなかった。
つい先日に「この世界の頂点を目指す」と先輩と約束したことは忘れてしまったのだろうか。
他と掛け持ちしながら成功できるほど、書道の世界は甘くないと愛佳は思う。
一途にこの道に生涯を捧げてなお、届かない領域がある。それが芸術の世界ではないだろうか。
フラフラと他のことをして遊んでいる子に芯の通った書が書けるとは思えなかった。
それでも愛佳は里保の姿勢を咎めたりはしない。説教も議論も必要ない。
語るまでもないこと。「書は人なり」。全ての答は半紙の上に描かれるはず。
里保だってそれがわかっているからこそ、愛佳に何の相談もなく掛け持ちを決めたのだろう。
そうだ。この筆で勝負だ。二人の書いた作品のみが、二人の書に対する姿勢を物語る。
コンクールの日は近い。きっと年末には結論が出るだろう。
- 202 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/26(土) 07:00
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- 203 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/27(日) 07:00
- ろくろ首みたい
- 204 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/27(日) 07:00
- 「くまいちょー、久しぶりー」「ももち」「コラ。学校ではつぐながさんと呼びなさい」「なんでよー」
「年上なのよ」「小学校の頃からそう呼んでるじゃん」「昔のことを言うのはよくない」「変なの」
「ところでくまいちょー」「あ、そっちは学校でもくまいちょーって呼ぶんだ」「じゃあ、ユリーネ」
「やっぱりくまいちょーでいい」「面倒臭い子ねー」「ももちに言われたくありません」「なんでよ」
「なんでってどういうことよ」「なんで言われたくないかちゃんと言ってくれないとわかりません」
「だって小学校三年の時もあたしから借りた色鉛筆は返さなかったししかもその時の言い訳が」
「あ、やっぱり言わなくていいよ」「面倒臭い子だなー」「くまいちょーに言われなくありません」
「ところで何の用?」「ねえ知ってる? 毎年クリスマスに演劇部がやってる」「クリスマス公演」
「そう! くまいちょー、それに出演しない?」「え、あたし演劇部じゃないし」「別にいいじゃん」
「演技するの?」「当り前じゃん!」「絶対嫌だ」「なんでー、小学校の時一緒にやってたじゃん」
「昔のことを言うのはよくない」「変なの」「だってあれ演劇じゃないし」「演劇クラブだったじゃん」
「いっぱい恥ずかしい思いしたんだから」「うんうん。あった。良い思い出だよ」「あ、感じ悪い」
「とにかくまたくまいちょーと一緒にお芝居がしたいの!」「それって部活の掛け持ちの誘い?」
「ううん。純粋に友情出演のお誘い」「演劇部に所属してくださいとか」「そういう話じゃないの」
「あーあ、なーんだ」「じゃ、掛け持ちする?」「絶対嫌」「言うと思った。絶対そう言うと思ったー」
「うわ。その言い方面倒臭い」「それも言うと思いましたー」「嘘」「みやと違って嘘つきませんー」
「みやは嘘つかないよ」「嘘つきだよ。みやはわかりにくい嘘ばっか言うの」「ももち鈍いもんね」
「ロミオとモモエットっていうのよ」「ダッサいタイトル」「考えたのは清水佐紀さんでございます」
「なかなかいいタイトルだよね」「ももが主役。で、王子様役を探してるの」「みやでいいじゃん」
「いつもいつもそれじゃ、代わり映えがしないの!」「我儘言うなー」「こだわりたいんですぅー」
「新人が二人、入ったって聞いたけど」「ダメ。大根が二本」「大根が二本?」「うん」「…」「…」
「ふふふ。大根が二本……」「どこ見てるのよ」「別に」「あのー、本気で怒っていいですか?」
「他に候補者はいないの?」「舞美に断られた」「えーっ、ちょっと意外」「断りそうにないのに」
「そんなにももちのこと嫌なんだ」「違います。去年も飛び入りで出たし、二番煎じになるって」
「じゃ、同じ生徒会のあの子は。真野ちゃん」「くまいちょーが出てくれたらギャラは弾みます」
「ももちのお金の話って信用できないから」「本当に払うと思ったの?」「払ってくれないの?」
「とにかく、ももと釣り合う王子様役が必要なの」「演劇部の劇なんでしょ? 外部からって変」
「正確に言うと演劇部と合唱部のコラボね」「合唱部。じゃ、愛理がいるじゃん」「…それは嫌」
「え、なんで?」「だってみんな『愛理と桃だったら愛理がお姫様だよね』って言うんだもん!」
「それでいいじゃん。ロミオとアイリエット」「なんでそうなるの! これは演劇部の劇なのよ!」
「とにかく断ります」「あたし待ってるから」「なにを」「くまいちょーが良い返事してくれるまで」
「待たないでいいよ」「待ちます。待つんですー」「そんなことしても無駄だって言ってるじゃん」
「ももは首を長ーくして待ってますから」「だから」「ろくろ首みたいに長ーーくして待ってます」
「無駄って言ってる…」「…」「どこ見てるのよ」「別に」「あのー、本気で怒っていいですか?」
- 205 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/27(日) 07:00
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- 206 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/28(月) 07:00
- 虚しい努力じゃないもん
- 207 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/28(月) 07:00
- コラ! そこの女子生徒! 撮ったからね。証拠写真撮りましたからね。要するに現行犯逮捕よ。
逃げないの! 止まりなさい! そっちは行き止まりになってるから。虚しい抵抗はやめることね。
観念するのよ。生徒会は風紀委員の真野恵里菜。どんな些細な悪事だって見逃さないんだから。
あなた昨日の全校集会で何を聞いていたの? 野良猫に餌付けしちゃダメって言われたでしょ!
名札を見せなさい。生田? メモしとくから。えっと、要するに生島ヒロシの生に田中義剛の田ね。
あれ? 生田衣梨奈? あなた、演劇部の子ね? 覚えてるわ。譜久村さんと一緒にいた子だ。
噂で聞いたわ。あなたクリスマス公演の主役を狙ってるらしいじゃない。新人のくせに生意気ね。
無理無理。あなたみたいに塩分が高そうな顔した子に嗣永さんの相手役なんて務まらないわよ。
ほら、嘘泣き。完全に嘘泣きじゃない。それね、泣いてるというより笑ってるようにしか見えない。
あの面倒見の良い夏焼さんが匙を投げるわけね。無理ないわ…早! あなた立ち直り早過ぎ!
そんなふてくされてもダメです。甘えてもダメです。逆ギレしてもダメだっての。土下座もダメです。
本当に次から次へと色々やるわね。でもダメ。絶対許さない。わたしはちゃんと見てたんだから。
ただ餌付けするだけじゃなくて宙に投げてたよね? 要するにあなたその猫を虐待してたでしょ。
え? 芸を仕込んでた? 嘘おっしゃい! 芸って何よ! え? ハンドスプリング? なにそれ?
あー、前方宙返りみたいなやつね。そんなのこの子猫にできるわけないじゃん。やっぱり虐待よ。
なんでそんな芸を教えてたの? え? 絶対に言えない? 命にかけても絶対に言えないって?
あなた自分の立場がわかってる? あなたはこの真野恵里菜の眼前で校則違反を犯したのよ。
要するにわたしの匙加減一つであなたは停学になる…劇に出す? この猫を? どういうこと?
えー、そんな理由でこの子猫を餌付けしてたの? そして虐待? この子猫が可哀相じゃない!
だから絶対に無理だって。そんな虚しい努力をしてどうなるの? あら虚しいっていっちゃダメ?
この子猫が宙返りできるようになる可能性なんて、あなたが演劇部で主役になる可能性以下よ。
要するにゼロよゼロ。だから虚しい努力を虚しい努力と言って何が悪いの。虐待は止めなさい。
あなたが主役になる可能性がゼロとは言わないわ。努力するのはいいことよ。でも猫はダメよ。
だいたい、ハンドスプリングなんてできるようになったからってどうなるの? そんなに凄いこと?
あ、また逆ギレ。え、虚しい努力じゃない? 証明する? 別にいいけどどうやって証明するの?
え? ここで? 危ない危ない! 下はコンクリートだって! 怪我でもされたら真野の責任に…
わ!! ……。これがハンドスプリング。初めて見たわ。生田さん、一言言わせてもらっていい?
風紀委員として一言。生田さん、校則違反です! 校則では下着は白と決められているんです!
- 208 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/28(月) 07:00
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- 209 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/29(火) 07:00
- ヨーロッパよりも
- 210 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/29(火) 07:00
- あれっ。こんな時間に先客がいるなんて。すっごい珍しい。今日はちょっと失敗したかな。
だいたいいつも、部活が始まるまでの30分って医務室に誰もいない時間帯なんだよね。
だって練習する前だから。怪我する人とかいないわけだし。いつも誰もいないんだけどなあ。
「あ、ダーワーじゃん」「ちゅーっす」「ちょっとー。バレー部のサイボーグが医務室に何の用?」
「サイボーグじゃないっす。それは中島さん」「早貴ちゃんが? サンドバッグの間違いじゃないの」
「はあ。じゃ、本当のサイボーグは矢島さん?」「あれはターミネーター」「うわあ…」「で、何?」
ちょっとビックリ。医務室にいたのはバスケ部の徳永先輩。結構前に引退してたので久しぶりだ。
そういえば先輩ってずっと膝が悪かったんだよね。いつもオレンジのサポーターしてたもん。
徳永先輩ってメチャクチャ体が細いから。でもビックリするくらい凄いスピードしてるんだよね。
あの細い足であんなに速く動くから怪我が多いのかな? あたしも他人事じゃないんだなあ…。
「いや、実はサボリで」「堂々と言うなバカ! なんだよ。本当は何しに来たんだよ」「えっと」
「隠すようなこと?」「中島さんには内緒にしてくれます?」「あはははは。いいよ、黙ってる」
「実は…」「実は?」「筋肉痛なんです」「ははははは! ウケル! 和田彩花が筋肉痛って!」
「笑い過ぎっす…」「すごいギャグセンス。ヨーロッパでも通用する!」「なんでヨーロッパ?」
笑いながらも徳永先輩はずっと膝を揉んでいる。膝は一度痛めると完治しないって言うけど…。
引退して運動を止めても痛むほどなのかなあ。徳永さんといえばいつも笑顔の人だけど。
今もニコニコ笑っているけど。でも体から出てるオーラはすっごい恐い。ヤバイ予感がします。
「いや、マジな話、ヨーロッパでも通用すると思ってるんだよ」「そんなギャグセンスないです」
「違うよ。バレー選手としてだよ」「えっ」「期待されてんだよ」「まあ、確かにそうですけど」
「バーカ。外から見てるとよくわかるの」「頑張ってます」「頑張り過ぎんなよって話」「え?」
実は同じバレー部の先輩よりも他の部の先輩の方が話しやすい。変に気を遣わなくていいし。
自分で言うのもなんだけど、あたしって他の部の先輩に可愛がられやすい感じだしー。
でも。だからと言って隙を見せたつもりはないんだけど。甘えたつもりはないんだけどなあ。
「今日は練習休め。早貴ちゃんにはあたしがチクるから。そんな膝で張り切って練習すんなバカ」
ばれちゃってた。やばい泣きそう。ちょっと徳永先輩の顔が直視できないです。
泣くなダーワー。お前はそんなキャラじゃないでしょ? バレー部のスーパーエース様なんだから。
そうだ。確かにスーパーエースのあたしの力は、ヨーロッパでもアメリカでも通用すると思うけど…。
でもこの学校の体育館は、ヨーロッパよりもずっと広い世界みたいです。
- 211 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/29(火) 07:00
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- 212 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/30(水) 07:00
- 無垢な心で
- 213 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/30(水) 07:00
- いつもは油絵具の独特の臭いが漂っている放課後の美術室も、今日は空気が軽かった。
珍しく水彩画の筆をとっている菅谷梨沙子。筆洗に筆を突っ込みジャバジャバと雑に洗う。
白い筆洗の容器。何種類もの絵具が混ざった水はひどく濁った濃緑色をしている。
その色を見ていると、なぜか小学生の頃の絵画教室を思い出してしまう梨沙子だった。
椅子に腰かけた梨沙子の斜向かいには小柄な女の子が一人。ニッコニコの無垢な笑顔。
少女もまた一枚の水彩画を描いていた。筆を持った可憐な少女。表題は「菅谷梨沙子」。
一通り描き上げた人物画を前にして、鈴木香音は無垢な笑顔をさらに崩した。
「センパイできましたー」「はやーい」「センパイはどうです?」「まだ半分も描けてないよ」
梨沙子が描いているのもまた、筆をもった可憐な少女。表題は「鈴木香音」。
眉毛。目。鼻。口。耳。各パーツの配置や大きさが、大胆かつ豪快にデフォルメされていた。
それでも福笑いのような出来損ないの顔には見えない。異様な迫力で何かを訴えかけてくる。
「すごいすごいすごいすごいすごいすっごーい!」「すごい言い過ぎ」「言い足りないっす!」
香音の誉め言葉に梨沙子は苦笑いした。書道部員の香音が美術部との掛け持ちを始めて一週間。
お世辞を言うような子ではないことはわかっている。いや、お世辞かもしれないが気にならない。
お世辞の裏側にある見え透いた計算さえ、どこか無垢で無邪気。鈴木香音はそんな子だった。
「すごいっす」「ありがと」「あたしのは全然ダメだー」「そんなことないよ」「そうですか?」
「うん。変に小さくまとまっていないところがいい。そういう絵は好きだよ」「やったあ!」
「ホント悪くないよ」「どう描けばもっと上手くなります?」「うーん。香音ちゃんの場合は…」
梨沙子はどことなく余所行きの声で香音に指導する。そんな行為が梨沙子には新鮮だった。
親しい友人の前では、何の飾りもなく、何の気遣いもなく喋るのが菅谷梨沙子。
だが香音の前ではお姉さんな梨沙子になってしまう。どうも取り繕った自分を作ってしまう。
でもそんな他人行儀な自分も意外と悪くない。香音の前ではなぜかそう思ってしまうのだった。
香音は無垢な少女。梨沙子の観察眼は正しかった。真っ直ぐな言葉を梨沙子に送ってくる。
「ねえ、菅谷さん」「ん?」「なんで美術部って一人しか部員がいないんですか?」「えっ」
「うちの書道部だって全然人気がない部ですけど、一応三人も部員がいますよ」「…うん」
「美術部だったらもっと人気があってもいいと思うんだけどなあ」「…」「不思議ですね?」
学校の誰もが知っていること。だから誰も聞いてこないこと。梨沙子はずっとそう思っていた。
それでも時間は巡る。卒業、入学、代替わりを繰り返し。そしてまた時間は巡る。巡っていた。
そんな単純な事に気付かないなんて。そうか。やっぱりあたしはずっと一人だったんだ。
香音の無垢な言葉によって、梨沙子は初めて冷徹な真実を突きつけられた気がした。
- 214 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/30(水) 07:00
- *****
- 215 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/01(木) 07:00
- 馴れ馴れしいヤツ
- 216 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/01(木) 07:00
- パルテノン神殿?の柱みたいなの?が五本。等身大?のパンダ?の着ぐるみ?が四着。
内臓?がむき出しになってるみたい?なコピー機?が二台。骨だけ?の傘?がなぜか山積み。
それよりあの巨大な額縁は何?「人生」? 筆で何か書いてるけど柱が邪魔して全然読めない。
そこまで見回して、萩原舞は演劇部の部室にあるものを把握することを諦めた。
ガラクタが驚くほど乱雑に散らばっている。右から左まで。上から下まで。手前から奥まで。
それでもこの部屋は落ち着く。合唱部の部室である音楽室よりずっと落ち着く。
最近の合唱部の雰囲気はすこぶる悪い。演劇部との合同練習の後は特に酷かった。
「もしかして愛理は、演劇部を仮想敵とすることで、合唱部の一致団結を狙っているんじゃ?」
舞がそんな深読みをしてしまうほど、合唱部の部員は皆、演劇部の人間を嫌っていた。
「愛理とか桃がそんなこと考えるわけないじゃん」「それはわかってるんだけどね、佐紀ちゃん」
「舞ちゃんと千聖くらいなのかな? 愛理の案に乗ってるのは」「まあね」「あとは全員反対」
「いや、他のみんなもね、ミュージカルをやること自体は面白いって思ってるはずなんだよ」
「企画の進め方が拙かったのかな」「それもあるけど」「他には?」「演劇部員の人間性とか」
合唱部には真面目な人間が多かった。真面目すぎて人間的な余裕が少ない人間が多い。
その一方で演劇部には自由な人間が多かった。基本的に他人の言うことは聞かない。
唯一まともなのが部長の清水佐紀。それが合唱部員全員の一致した認識だったかもしれない。
舞もこうやって佐紀と一対一で話しこむ機会が増えた。それはそれで楽しい時間なのだが。
「そんなに変かな」「変だよ。みんな変。特にあいつ。あいつは馴れ馴れしい」「えりぽん?」
「そうそう。その『えりぽん』っていう呼び方からして馴れ馴れしいじゃん?」「そうかなー?」
「合唱部の皆はドン引きしてる」「へー」「演劇部は嗣永サンで慣れてるかもしれないけどさ」
合唱部と演劇部が合同で開催するミュージカル。もう開催日も決定して公式に発表されていた。
あとは演劇として仕上げていくだけなのだが、それが一向に進まない。
「歌と演技の適性を見てから決める」という名目の下、配役すら完全に決められていない。
「まあ、そのうちその馴れ馴れしさにも慣れるよ」「慣れないよ! そんな無責任なことを」
「無責任かな? だって合唱部の人は、馴れ馴れしい人間が大好きじゃん」「は? 何で?」
「うーん。馴れ馴れしいというか、人懐っこい子が好きなわけじゃん」「えー、そうかなー」
「ほら、あそこにいる人。なかなかの馴れ馴れしさじゃない?」「ああ…。ヤツは確かに…」
視線の先には練習中の部員の姿。なぜか完全に演劇部の中に馴染んでいる合唱部員が約一名。
確かに、あの馴れ馴れしさはある意味生田以上。場合によっては学校一になるかもしれない。
演劇部の譜久村聖と生田衣梨奈を前にして、くねくねとした奇妙なダンスを踊っている変なヤツ。
合唱部の部長の鈴木愛理は、ガラクタの山の脇で能天気な歌と演技を披露していた。
- 217 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/01(木) 07:00
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- 218 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/02(金) 07:00
- ないものねだりを続ける力
- 219 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/02(金) 07:00
- ふかふかの絨毯に、小さな穴がたくさん開いた壁と天井。他の教室とは異なる部屋構え。
防音設備? それとも音響設備? とにかく音楽室の雰囲気は独特なものがあった。
好みが分かれる景色かもしれない。だが鞘師里保は一瞬にしてこの部屋が好きになっていた。
「鞘師さんこっちこっち」「はい」「一緒に練習しよ」「はい」「みんなでね」「はい」
音楽室には合唱部の部員が10名ほどいた。里保が所属している書道部よりかなり多い。
だがこれでも全員ではないらしい。他の場所で自主練している部員も数名いると聞いた。
書道部との掛け持ちを始めて一週間ほど。里保はあっという間に合唱部の雰囲気に馴染んだ。
部員は皆、真面目で誠実な人ばかり。里保の友達に多いタイプ。気が合う人が多かった。
書道部の鈴木香音と一緒にいると退屈しない。書道部部長の光井愛佳との会話もスリリングだ。
だが時々ちょっと疲れることも確か。自然の流れに沿う自分本来のペースとは少し違う。
初めはそれが新鮮だったが、慣れてくるともっと落ち着いて活動したいと思うようになった。
部活の掛け持ち先に合唱部を選んだのは正解だった。規律正しい団体行動がとても心地よい。
「すごい」「里保ちゃん上手い」「掛け持ちなんてもったいないよ」「こっちメインでどう?」
誉められると嬉しい。可愛がられると心地よい。必要とされると自尊心が満たされる。
だが里保が合唱部に来た目的はそんなことではない。自分本来の居場所はここではない。でも。
書道部の雰囲気が疲れる。合唱部の雰囲気が落ち着く。でも。ないものねだりの繰り返し。
そして今も、たった一週間で合唱部のまとまった雰囲気に物足りなさを感じ始めている。
あれも嫌。これも嫌。だが里保は決して妥協しない。嫌なものは嫌だと、とことん貫く。
自分の好きな道だけを選ぶ。自己中心的とか自分勝手とか言われようが自分のやり方は変えない。
我儘な自分を優等生の仮面で隠すことには慣れている。八方美人な行動だって手慣れたもの。
目的がはっきりしているなら、手段はどうだっていい。上手くやってみせる自信はあった。
先輩との約束は一時たりとも忘れたことはない。半端をしていては全国の頂点など望めない。
里保は音楽室にいない部員の数を数える。自主練をしている部員の名前を思い出す。
一週間も一緒にいれば、直接言葉で聞かなくても、誰が一番歌が上手いかは空気でわかる。
目指すなら頂点。それはどこでも同じはず。里保は一番真面目そうな部員に尋ねた。
「すみません。部長の鈴木さんって、いつもどこで練習してるんですか?」
- 220 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/02(金) 07:00
- *****
- 221 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/03(土) 07:00
- 何もない部屋
- 222 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/03(土) 07:00
- 日が沈むのが徐々に早くなっていた。放課後のまだ早い時間なのに美術室には電灯がついている。
それでも部屋が妙に暗い。須藤茉麻は天井を見上げる。切れている蛍光灯は一つもなかった。
部屋には菅谷梨沙子が一人。いつもと同じ景色のはずなのに部屋が異様に暗く、そして広く感じる。
なぜだろう。「人が住まない家は傷むのが早い」。そんな言葉を思い出してしまった。
梨沙子は絵を描くでもなく、粘土をこねるでもなく、ただじっと椅子に座っていた。
頭頂部の髪が変な方向に乱れている。眠るでもなく起きるでもなく焦点が合っていない瞳。
茉麻は何か見てはいけないものを見てしまったような気がした。だが目は逸らさない。
「梨沙子」「ん」「どうしたの?」「今日はお休み」「そっか。もう帰る?」「んーん」
梨沙子は同意とも拒否ともとれる曖昧な返事をした。明らかに元気がない。
久しぶりに新入部員が入ったと聞いたのだが、その子と上手くいかなかったのだろうか。
茉麻は昔の美術部のことをチラッと思い出す。下手はことは聞けないなと思った。
「梨沙子」「ん」「一緒に帰ろ」「いいの?」「え?」「一緒でいいの?」「何言ってんのよ」
「香音ちゃんに聞かれたの」「カノンちゃん?」「新しく入った子」「ああ、噂で聞いたけど」
「なんで美術部は一人しか部員がいなんですかって」「え」「あたし、何も答えられなかった」
茉麻も何も答えられなかった。噂でしか知らない。昔、美術部で大きな揉め事があったこと。
一方的に悪者にされた梨沙子は、部を追い出されそうになったが、断固として辞めなかった。
罵倒されようが無視されようが妨害されようが、絵を描くことは止めなかった。
嫌がらせはどんどんとエスカレートしていき、ついに外部の人間の知るところとなった。
最終的には学校側が介入し、20人近くいた部員は梨沙子を残して全員辞めさせられた。
「梨沙子」「忘れたと思ってたんだけどなあ」「忘れていいよ」「ずっと一人だったんだ」
「一人じゃないよ」「この部屋、何もないんだ。あたし一人」「梨沙子には絵があるじゃん」
「絵は好きだけど」「うん」「虚しいなあって」「え」「あたし、絵を取ったら何も残らない」
「この部屋には何もない」という梨沙子の言葉が、茉麻に冷たく突き刺さった。
バスケを取ったら何も残らない、という茉麻の嘆きとは明らかに深さが違う言葉だった。
茉麻と梨沙子は住む世界が違う。梨沙子の心中など半分も理解してあげられない。
わかることは一つだけ。梨沙子の闇を、茉麻は照らしてあげることはできない。
泣くでもなく叫ぶでもなく、何もない部屋を前にして、ただただ途方に暮れている梨沙子。
そんな梨沙子に茉麻ができることは、ただ無言でぎゅっと抱きしめてあげることだけだった。
- 223 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/03(土) 07:00
- *****
- 224 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/04(日) 07:00
- 並じゃない
- 225 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/04(日) 07:00
- 「早貴ちゃん」「話しかけないで」「危ないって」「大丈夫っ」「いや、全然大丈夫じゃないから」
岡井千聖は、はらはらした面持ちで中島早貴の手元を見つめる。ここまで不器用だとは思わなかった。
削り飛ばされた鉛筆の削りカスは右に左にと派手に飛び散っている。明らかに力の入れ過ぎ。
言えば言うほど意地になるのはわかっている。変え難い早貴の性格。よく知っている。
それでも見るに見かねた千聖は、ついに早貴の手からナイフを取り上げた。危ないったらありゃしない。
「やっと上手くなってきたのにー」「なにが?」「鉛筆削り」「いや、鉛筆なくなっちゃうから」
「あ、ホントだ」「もう…。並の不器用さじゃないね」「不器用じゃないよ!」「はいはい」
休み時間に鉛筆を削るのは千聖の日課の一つ。早貴も自分の鉛筆を削ってもらっている。
たまには自分がと早貴もやってみたのだが。手先が不器用な早貴には難しかったようだ。
千聖と早貴は床にしゃがみこんで削りカスを集める。木屑は驚くほど遠くまで飛んでいた。
「ごめんね」「いいけど別に」「いつも削ってもらって悪いと思ってさー」「いいよそんなの」
「あたしだって気遣いくらいはするわけよ?」「へー」「なにその目」「じゃ、これいいかな?」
「何これ?」「クリスマス公演のチケット」「演劇部の?」「そう」「二枚あるけど…これって」
「誰か誘って見に来てよ」「千聖は?」「あたしは出演」「え?」「今年は合唱部も出るんだよ」
演劇部のクリスマス公演に今年は合唱部も出るらしい。そのチケットをさばくのも千聖の仕事だった。
千聖からのデートのお誘いかと思った早貴は肩を落とす。冷静に考えればそんなことあるわけないのに。
でも二、三秒だけでも夢が見られて嬉しかった。千聖と二人のクリスマス。考えたこともなかった。
それにどうせこのお誘いは断らなければならない。断る辛さよりは誘われない辛さの方がいいのかも。
「悪いけどその日、試合なんだ」「え、そうなの」「ガチ公式戦」「もう日程が決まってるんだね」
「トーナメントだからわかんないけど」「年末もずーっと試合?」「クリスマスが決勝戦の予定」
「…勝ってね。応援には行けないけど応援してる」「あたしも見に行けないけど応援してるから」
急に真顔になる千聖。気安い友達の気遣いが重い。気遣いなんて鉛筆削るくらいで丁度いいのに。
それでも早貴は「負けたら見に行けるから」という冗談を飲み込んだ。言って良い冗談ではない。
絶対的なエースを擁する今年のチームなら本気で優勝が狙える。今はバレー部全員がそう思っている。
だからこそあんなにも厳しい練習についてきているのだ。好きな子の前でも言える冗談ではない。
「絶対勝つよ。今年のチームは並じゃないから」
千聖よりもさらに真面目な顔で、早貴は重い言葉を返した。
- 226 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/04(日) 07:00
- *****
- 227 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/05(月) 07:00
- なし
- 228 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/05(月) 07:00
- 「彩花ちゃん、クリスマス、暇?」
無邪気に問い掛けてくる前田憂佳の笑顔。こちらも負けずに無邪気に答えようとする和田彩花。
「あー、その日は試合で」と普通に答えようとしてふと気付く。んっ? クリスマスの予定? んっ?
こう見えて和田彩花はかなりもてる。クリスマスのお誘いを受けたことも一度や二度ではない。
いやでもここ教室だし。休み時間だし。みんな普通にいるし。普通はこういうのって誰もいない場所で。
「クリスマス公演のチケットが二枚あるんだけど」「ハイ…」「花音ちゃんとどう?」「ええっ!?」
「私、この劇に出演するんだ」「ほえ」「よかったら彩花ちゃんに見てもらいたいなって」「ふうん」
魂が抜けた。幸せの絶頂から地獄のどん底へ。人生はジェットコースターではない。そんな甘くない。
これはバンジージャンプだ。しかも足首にロープがついている保障は全くない。彩花はそう思った。
しかしどうしてよりにもよって福田花音なのだろう? 花音と二人のクリスマスなんて悪い冗談だ。
でも花音は誘ったら100%来るだろう。ヤツは来る。なぜか彩花はそのことだけは確信できるのだった。
「予定あるの?」
この時ほど「なし!」と答えたかったことはない。たとえ花音と一緒でもいい。見に行きたかった。
クリスマスに舞台の上で歌う憂佳。これ以上見たいものがあるかと言えば、ない。まったくない。
だが予定はある。試合があるのだ。バレー部のエースとしては嘘で答えるわけにはいかなかった。
「その日は試合…」「えー、うっそー!」「嘘じゃないよ!」「クリスマスに試合するの? 何で?」
「いや、知らないっす…」「そんな先の予定まで決まってるの?」「公式戦だから」「ずっと試合?」
「トーナメントだけどね。勝ち進んでいけばクリスマスが決勝戦」「わ。クリスマス決戦」「うん…」
憂佳は軽く落ち込んでいた。なぜか申し訳ない気持ちになった彩花は、軽い冗談を飛ばす。
「大丈夫。途中で負けたら見に行けるから」「ホント!」「ははは。負けたら行くね。絶対に」
こんなこと言ってたら中島主将に張り倒さるかもしれないが、今は憂佳の笑顔が見たかった。
だが普段から彩花の部活には妙に厳しい憂佳は、こんな時にも強烈に意地悪な質問をしてくるのだった。
「で、彩花ちゃん。今年のバレー部って本当に弱いの? 決勝戦までに負ける予定はあるの?」
恋より部活というわけではない。どっちが大事とかそんなことは考えたことがない。
今も考えないし、これからも考えない。自分の直感と本能に素直に従って彩花は反射的に答える。
「なし! 最後まで負ける予定なんて全然なし。今年のチームは並じゃないから」
- 229 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/05(月) 07:00
- *****
- 230 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/06(火) 07:00
- 名古屋名花
- 231 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/06(火) 07:00
- 一時間の昼休みも後半戦突入の時間帯。教室の中に残っている生徒は半分くらいだった。
休む子。遊ぶ子。そしてまだ食べる子。食事を終えた生徒達は思い思いに自由な時間を過ごす。
譜久村聖と鈴木香音が向き合う机の上には紅茶の入った水筒。そして山盛りのお菓子。
片や聖の手作りクッキー。片や香音が実家から送ってもらった名古屋銘菓のしるこサンド。
二人は代わる代わるお皿に手を伸ばすが、減っていくのは聖のクッキーばかりだった。
「フクちゃんって意外と器用だよね」「そんなことないよー」「みずきのくっきー!」「え?」
「略してミズクーッキ!」「ふふふ」「いや、ホント器用だって。その絵もすっごい上手いよ」
広げたノートにはアニメ絵のイラスト。聖が描いた可愛らしい女の子のイラストが数点。
最近美術部に入って絵を始めた香音より遥かに上手い。輪郭の線なども妙にこなれている。
細かい体の動きはないが、衣装や背景はばっちり。中世のお姫様のような豪華絢爛な衣装だ。
だが隣に立っている王子様らしき人物像の顔は空白。まだ何も描かれていなかった。
「クリスマス公演のキャスト、まだ決まってないの?」「そうなの」「もう一ヶ月もないじゃん」
「今週中に決まるって」「間に合うの?」「うん。王子様役以外はもう決まってるようなもんだし」
「じゃ、そのパンフも今週完成だね」「うん」「で、えりぽんは?」「秘密の特訓してる」「え?」
「さっきね、『部室で秘密の特訓してるから! 絶対来ないでね! 絶対だよ!』って言ってた」
「…」「…」「じゃ、行くのはやめよう」「邪魔しちゃ悪いもんね」「えりぽんのためだよね」
聖はお皿に残っているしるこサンドを一つつまむ。味は薄いがこれはこれで美味しい。
逆にこれくらいの薄味の方が、飽きがこなくてクセになるのかもしれない。
よくよく味わってみると、さすが名古屋銘菓と呼ばれているだけのことはある。
いつの間にか虜になっている聖。無意識のうちに二つ目三つ目四つ目とつまんでいく。
「里保ちゃんは?」「部室で秘密じゃない特訓中」「頑張るね」「最近すごいよ。圧倒される」
「書道コンクールがあるんでしょ?」「今週末に出品」「香音ちゃんも出すの?」「もっちろん」
「美術部は勉強になった?」「うん! 菅谷さんの筆使いは別次元。すっごい勉強になった」
香音は書道部と美術部を掛け持ちしている。美術の筆使いが書道の上達に役立つのかどうか。
聖にはわからないが、香音には感じる物があったらしい。これが彼女なりの勉強法なのだろう。
ずっと二人の側にいる聖にはわかる。香音が里保にどんな思いを抱いているのか。
熱い対抗意識。それは自分が演劇部の先輩に対しては持ち得ない感情だった。香音が少し羨ましい。
「じゃ、コンクールで里保ちゃんにも勝てる?」「ふふん。勝負はやってみないとわかんないよ?」
濃厚なドヤ顔を披露する香音。濃い。濃過ぎる。だがこれはこれで笑っちゃうほど可愛い。
しるこサンドと真逆の濃い味なのに、飽きがこなくてクセになる。虜になる。それが鈴木香音。
名古屋って奥が深いなあと思いながら、聖は五つ目のしるこサンドに手を伸ばす。
- 232 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/06(火) 07:00
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- 233 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/07(水) 07:00
- 南無三
- 234 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/07(水) 07:00
- えっ? 真野のことですか? はい、今は暇ですよ。あら夏焼さんじゃないですか。珍しいですね。
話があるなら大歓迎ですけど…。恵里菜って呼んでくれていいですよ。あら、そんな照れなくても。
でもなんであたしのこと「ナムさん」って呼ぶんですか? 最近クラスの皆がそう呼ぶんですよね。
なんでも嗣永さんが流行らしたらしいんですけど。あの人も私にナムさんナムさん言うんですよ。
今まで通り「真野ちゃん」でいいと思うんだけどなあ…。まあ、ニックネームは嬉しいですけどね!
だってニックネームっていうのは要するに…。え、あ、はい。話があって来た。わかってますって。
えーっ!! いじめてないですよ! 演劇部の部員なんていじめてないですって。何ですか急に。
こう見えても真野は生徒会の役員なんです。学校の風紀を守る風紀委員なんです。要するに…
え? 譜久村さん? 知ってますよ。下から上がってきた子ですね。何回か話したことあります。
あ。あー、ああ。確かにそんなことありましたね。あちゃー。やっちゃった。あはは。すみません。
はいはい。確かにあの時はちょっと口がすべりまして。思いっ切り「バカ」って言っちゃいました。
いや、でもちょっと言い訳するわけじゃないですけど、言い訳するのは人間として最低ですけど、
人間一度くらいは過ちを犯すものじゃないですか。要するに過ちを繰り返さな…え? まだある?
そんなバカな! いくらなんでも真野はそんな性格の悪い女じゃ! はい? 生田さんに。…あ。
あ、やばーい。言っちゃったかも。あっちゃー。失敗失敗。ふふふ。確かにそんなこと言いました。
いや、あれは生田さんが悪くて。真野の方から注意しているうちについつい熱くなりすぎちゃって。
思いっ切り「虚しい努力」とか言っちゃいました。確かに言い過ぎでしたね。ごめんなさい。えへ。
でもいじめじゃないですよ。後輩を思ってのことで。後輩だからこそ真野もあんなに熱い指導を…
え? 後輩だけじゃない? いや、それはない。さすがにそれはないです。夏焼さんといえども。
え。清水佐紀さんが。なんで清水佐紀さんが怒るんですか。真野は何も悪いことしてないですし
あ。清水さん。そうです、清水さんですね。はいはいはい。言われました言われました。何回か。
あっちゃー。失敗しちゃった。しみずさきさんって呼んじゃまずいんでしたね。言っちゃいました。
えー? まだある? 今度は誰ですか? 夏焼さん? 嗣永さん? 演劇部全員? 合唱部も?
え!? ロミオ役のことまだ言っちゃダメだったんですか! てっきり公表されていたものと!!
はい、前田憂佳ちゃんだって言っちゃったのは真野です。はい。真野が言いふらしちゃいました。
生徒会以外にはギリギリまで伏せる予定だったんですかー。ごめんなさーい。失敗しちゃったぁ。
あれ、夏焼さん? どうして急に黙っちゃったんですか? 大丈夫ですか? 頭痛いんですか?
真野はちゃんと話を聞いてますけど。どうしてさっきから「ナムさんナムさん」言ってるんですか?
- 235 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/07(水) 07:00
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- 236 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/08(木) 07:00
- 七七で返します
- 237 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/08(木) 07:00
- 「おほほほほ。いい! 最高! さゆの筆! フゥー! 相変わらずいいねー!」
椅子に浅く腰かけ、足を微妙に広げながら、新垣先輩は半紙の上にかな文字を書いていく。
先輩の書く平仮名はいつ見ても美しいけど、姿勢は全然美しくない。後輩の見本にはならんな。
しかしなんでこんな落ち着きのない姿勢でこんな綺麗な書が書けるんやろ。ホンマ不思議や。
「書は人なり」とはよう言うたもんや。新垣さんは卒業しても全然変わってへん。
この学校におった頃と全然変わってないわ。書道の方も、辞めた割には衰えてへんやん。
まあ、確かに後輩の見本にはならんけど。今日は鞘師も鈴木もおらん日やから丁度ええやろ。
新垣さんは説教好きやからな。あの二人を見たら絶対に一時間くらいは説教カマすやろ。
「で、みっつぃーよ。コンクールに出した作品の出来はどうだった? 自信アリってとこ?」
「はい。今できる100%は出せたと思います」「自信満々の顔じゃん。結果はいつ出るのよ?」
「ま、クリスマスの前には」「ふーん。後輩はどうだったの? 今は二人いるんでしょ?」
「一人は初心者で」「まだまだ?」「はい全然」「もう一人は?」「これが凄いんですわ」
本人が目の前におったらこんなこと絶対言わへんけどな。だってなんか口惜しいやん。
ずっと合唱部で遊んでるかと思ってたけど。この一ヶ月の最後の追い込みは凄かったわ。
なんなんやろな。あたしはずっと書道しかやってなかったのに。この差はなんなんやろう。
生まれ持った才能? いや、そんなん認めるんやったら書道やめるわ。人生つまらんわ。
「ふふふ。後輩に抜かれるのはきっついよー」「ちょっと変なこと言わないでくださいよ!」
「あたしも最後はさゆに抜かれたからさー」「でも、お二人は書のジャンルが違いますやん」
「ジャンルって?」「書の形式が全然…」「バカ。それはあんたがそう思ってるだけでしょ」
「でも」「そんな人間様の事情なんて関係ない。そんなことは書の道とは何の関係もなーい!」
これ以上話してもわからん! とでも言いたげに、新垣先輩は再び筆を取った。
すらすらとかな文字を書いていく。新垣先輩の十八番は短歌。31文字の歌世界を書き上げる。
すっごい崩したかな文字を書くけれど、それなりに書道歴が長いあたしにも一応読める。
「こうはいに ぬかれておもう むねのうち」。安っぽい。けど今のあたしには堪える文や。
先輩は五・七・五のところで止めて、筆をあたしに渡す。はい。書けというなら書きましょう。
「ぬかれたのなら ぬきかえすだけ」
- 238 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/08(木) 07:00
- *****
- 239 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/09(金) 07:00
- 悩みのない空
- 240 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/09(金) 07:00
- クリスマスまで二週間と少し。校内は既に冬休みのことばかり考えている雰囲気が漂っている。
閑散としたグラウンド。期末試験が近いこともあって運動部は休みに入っている。
外階段の四階から見る景色も、すっかり休み前モードに入っていた。
鈴木愛理と鞘師里保は身を寄せ合って寒さをしのぐ。二人の他には誰もいなかった。
「すみません、部長」「えへへ。部長って言われるとまるで部長みたいだね」「今日までです」
「はい?」「あたし、書道部に戻ろうと思います」「ほう」「短い間でしたけど…すみません」
「歌が嫌いになったようには見えないけど」「好きです」「書道はもっと好きなんだ」「はい」
里保が言うように短い期間だった。愛理と里保はこの場所で一緒に歌の練習をしていた。
この場所を使っていた千聖と舞は、二人に気を遣って練習場所を変えたらしい。
「上手くなりたい」と思っている子は多いが、個人的に練習してくれと言われたのは初めて。
愛理は戸惑いながらも自分の持っている技術を惜しみなく里保に伝えた。
「里保ちゃんね、お世辞抜きで歌が上手いと思うよ」「ありがとうございます」「続けない?」
熱心に教えたからといって、誰もが上手く歌えるわけではない。里保には間違いなく才能があった。
愛理は説得にかかる。だが里保の意志は固かった。もともと自分の我儘で始めた部活の掛け持ち。
だから辞める時も自分の我儘で辞めさせて欲しい。叱られるのは覚悟の上の決断のようだった。
愛理はくどくどと説得するのはやめた。口調をゆるめて別の方向から里保の意志を探る。
「うーん。書道の気分転換のために始めたのかなって思ってたけど、違うのかな?」
「気分転換じゃないです。歌も真面目にやってました。ホントに本気でやってました」
「歌と書道の二刀流ってこと?」「いえ。全部書道のためです。ヒントを探してたんです」
「ヒント?」「全然別のジャンルの人が、どうやって一流を目指してるのか知りたくて…」
愛理は天を仰いだ。自分だって上手くなりたいと悩んだことは一度や二度ではない。
里保のやり方が正解かどうかはわからない。だがその乱暴なまでの意志の強さが眩しかった。
他人に嫌われるのを厭わず。自分の我儘を突き通し。それでもなお、新しい道を切り開く意志。
あはは。なんだ。それってあたしがクリスマス公演でやりたかったことじゃんか。
「なるほど。それであたしの歌は里保ちゃんの役に立った?」「はい。感謝してもしきれないです」
「じゃあさ、一つだけ恩返ししてよ」「えっ」「せめてクリスマス公演までは続けてくれないかな」
「こんな中途半端な気持ちで?」「中途半端じゃなく真剣で。鞘師里保の真剣を見せてください」
「でも」「あたしだって、別ジャンルの人がどうやって一流を目指してるのか、知りたいんだよ?」
愛理の最後の言葉で里保は吹っ切れたようだった。悩み一つない透き通った瞳で愛理と向き合う。
「わかりました。愛理さんに教えてもらったもの、全部出してやりきります。歌い切ります」
借りてきた猫だと思っていたのに。まさか飼い犬に手を噛まれるようなことになろうとは。
こいつは最高だね。愛理は再び天を仰ぐ。空が高い。抜けるように高い。どこまでも。どこまでも。
果てない空に向かって愛理はあははと笑った。きっと最高のクリスマスになる。そう確信しながら。
- 241 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/09(金) 07:00
- *****
- 242 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/10(土) 07:00
- 泣く泣くお願い
- 243 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/10(土) 07:00
- 仲の良い友達。その友達の友達とは必ずしも気が合うとは限らない。これよくある話だよね。
でも中にはピタリと気が合う子がいたりする。私の場合、夏焼雅なんかがまさにそのピタリの子。
彼女が横にいると雑然とした演劇部の部室も少し落ち着く。話をしてて疲れないし。でもね。
「茉麻じゃーん! 珍しい。何しに来たの? ロミオ役ならもう決まっちゃったよーん」
あ、来た来た。この子なんかはまさに「友達の友達だけど気が合わない子」の筆頭格の嗣永桃子。
だから本気でこの子の相手をするなら、それなりに準備が必要。でも準備するのって嫌いじゃない。
あたしは隣の雅に目で合図する。雅も結構悪い子だから、こういう悪戯は嫌いじゃない。むしろノリノリ。
いつもはそういう部分が油断ならないなって思うんだけど、味方にしたらこんな頼もしい子はいないよ。
「そうそうロミオ役のこと」「まさか茉麻が立候補?」「違うって。でも外から募集してたんでしょ」
「募集っていうかー」「熊井ちゃんも誘われたって」「うんまあ」「で、梨沙子は誘ったの?」「え」
「誘われなかったって言ってたけど」「だってー、舞台用の絵を書いてってお願いしたら断られたしー」
「桃が直接頼んだの?」「え?」「直接梨沙子にお願いしたの」「ううん。そういうわけじゃないけど」
雅が大げさに「やれやれ」といった表情を作る。あたしも負けずに「ダメだこりゃ」という顔をする。
桃は一人だけ訳がわからないといった感じで戸惑っている。でも本気で戸惑うのはこれからだよ。
あたしはバトンを雅に渡す。嗣永桃子を踊らせるのなら夏焼雅の右に出るものはいないからね。
「そりゃ梨沙子も泣くわ」「は!?」「あんた最近美術室にも行ってないでしょ」「忙しいのよ」
「サラリーマンのおっさんみたいなことを…」「公演の準備があるのはみやも知ってるでしょ?」
「聖ちゃんとは、いつもいちゃいちゃしてるくせにねえ」「はあ? なにそれ。バッカじゃないの」
「梨沙子はそう思ってるみたいよ」「なんでそうなるのよ!」「あたしが教えたから」「は?」
梨沙子は最近、絵を描くのを辞めてしまった。後輩も放ったらかしにしてずっとふさぎこんでいる。
絵をとったらからって梨沙子に何も残らないとは思わないよ。梨沙子は梨沙子だからね。
でも梨沙子自身はそれに気付いてないんだ。誰かが気付かせてあげなきゃダメなんだ。
でもね。口惜しいけれど、それはあたしの役目じゃない。あたしにできるのは若干の根回しだけ。
熊井ちゃんと雅に話を通して、嘘の舞台を作るのがあたしの仕事。舞台で踊るのは嗣永桃子の仕事だよ。
「しかも梨沙子を誘わずに熊井ちゃんを誘うとはねー」「なにそれ。だから意味わかんないって」
「梨沙子ね。焦ってるんだろね。聖とか熊井ちゃんとかに取られそうって」「ちょっとちょっと」
「で、熊井ちゃんと梨沙子ね、ちょっと喧嘩みたいになってるのよ」「は?」「桃の取り合いで」
あー、顔が真っ赤だ。なるほど。雅の言うところの「桃は意外と純情」ってこういうことか。
それにしても雅は煽るねえ。「桃のせいで梨沙子が大怪我するかもよ」って。そこまで言うか。
大げさだなあ。でも「嘘は大げさな方がばれない」っていうのが嘘の上手い雅さんのお言葉ですから。
あ。走って行った。本当に雅の予想した通りだ。うん。予定通りだ。熊井ちゃんも話を合わせるでしょう。
ホントはこんなこと桃にお願いしたくないけど。でもね。頼むよ熱血少女。梨沙子のことをよろしくね。
- 244 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/10(土) 07:00
- *****
- 245 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 07:00
- 晴れの日なのに
- 246 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 07:00
- 節電のためだろうか。部室棟の廊下は暗い。だから好き好んで廊下に居ついている子はいない。
部屋の中からはざわざわと人の気配がするが、廊下にいる前田憂佳に気を止める者は誰もいない。
だから憂佳はこの場所が好きだった。ずっとここで歌い続けられればいいなと思っていた。
憂佳は窓からぼんやりとグラウンドを眺める。いつも見ているお気に入りの子はまだいない。
最近はいつもここで「雨が降ればいいな」と思っていた。雨になればあの子に会えるから。
でも今は降らないで欲しいと切に願っている。今は誰にも会いたくない。話したくない。
誰とも心を交わさずに静かに消えていけたらどんなに楽だろう。そんなことばかり考えていた。
今日で終わりにしよう。今日こそ部長に言おう。雨が降る前に。今そう決めた。それなのになぜ。
「憂佳ちゃん。来ちゃった。へへへ。サボリじゃないよ」
この世に神様はいない。いつも願っている願いは絶対に叶えてくれないのに。
それなのに、今だけはダメっていう最悪のタイミングでこの子をここに連れてくる。
こんなに良い天気なのに。こんなに晴れた日なのに。どうして福田花音はここにいるのだろう。
花音はかいてもいない汗を拭く。休憩中だからねと聞いてもいないのにサボリの言い訳をする。
「おめでとう。公演の主役に選ばれたんだってね。すごい。すごいすごい。みんな噂してるもん」
憂佳はにっこりと微笑む。いつもの笑顔。ここ数ヶ月の演技の練習も無駄ではなかったなと思う。
それまでは何の重圧もなかったのに、主役に決まった途端、不安に押しつぶされそうになった。
逃げ出したかった。辞めたかった。「なんであの子が主演?」と悪い噂ばかりが耳に入った。
「あの子すごい可愛いよね」と校内では悪い評判よりも良い評判の方が圧倒的に多かった。
それでも憂佳の心には悪い噂しか届かない。暗い心には暗い言葉しか響かない。
歌には自信があった。演技だって下手じゃないと思う。ビジュアルだって負けてない。
でもきっと今の自分には欠けているものがある。だからこそ、こんなにも不安でこんなにも怖い。
そんな憂佳の暗闇を吹き飛ばすかのように、花音はキラキラと眩しい瞳で語りかけてくる。
何も疑っていない。何も迷っていない。体育会系の子によくいるタイプ。羨ましい気質。
「あたし、公演の前に合唱部を辞めるんだ」
その一言が言えなかった。いつもの自分なら言えたはずなのに。誰に気遣いすることもなく。
「あたし、絶対見に行くから。頑張ってね憂佳ちゃん。最っ高に格好良いとこ見せてよ!」
花音の無邪気な言葉に、憂佳は最高の笑顔で頷く。いつだって笑顔でいると決めたから。
でもその笑顔が演技なのか本心なのか。それももう、憂佳自身にもわからなくなっていた。
- 247 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 07:00
- *****
- 248 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/12(月) 07:00
- 敗軍の兵、将を語る
- 249 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/12(月) 07:00
- 椅子に深く腰掛けて背筋を伸ばす。鈴木香音は勢いよく筆を走らせる。踊らせる。
香音の意志を乗せて筆は滑らかに踊る。調子は良かった。生田衣梨奈が後ろで騒いでいなければ。
「ねえねえ香音ちゃん」「今練習中」「練習頑張るね!」「いや、だから邪魔しないでよー」
こういう時、鞘師里保は凄いなと思う。たとえ衣梨奈が後ろで騒いでいても、里保なら乱れない。
衣梨奈が側にいても乱れない。これってある意味究極の集中力じゃないのと香音は思う。
その里保と部長の光井愛佳は今日はいない。書道部の部室には香音と衣梨奈の二人しかいなかった。
「邪魔しに来たんじゃないわよ」「じゃ、何しにきたんだよ」「やあねえ。今日が発表でしょ」
「何が」「コンクールの結果」「昨日だよ」「あれ? そうなの? それでどうだったの?」
他人の話は聞かないくせに余計なことは全部知っている。そして耳も早いが口も速い。
それが生田衣梨奈。初心者とはいえ、今や完全にこの学校の演劇部員の気質を受け継いでいた。
確かに書道コンクールの結果発表は昨日の夕方だ。香音がその結果を知ったのは今日の朝。
そして今日はずっと筆を持っている。書き倒している。今年の無念を来年リベンジするために。
「あたし? 落選したよ」「あら」「えりぽんこそどうなの。ここんとこずっと騒いでたけど」
「何のこと?」「クリスマス公演のロミオ役?」「あー、あれね。うん。選ばれなかった…」
「…」「…」「はあ…」「ふう…」「なんか冴えないねー」「うん、二人ともね。冴えない」
主役に選ばれたのは合唱部の前田憂佳とかいう子だった。香音も廊下で一、二度見たことがある。
驚くほどの美人だった。衣梨奈も黙っていればかなりの美人だが、あの子には勝てなかったのか。
それにしてもこの学校には「驚くほどの」という枕詞を持つ人間が多い。書道部にも演劇部にも。
だからこの学校は好きだ。いつだって退屈しないし、刺激には困らない。香音はそう思う。
だが衣梨奈は香音のようには考えない。なぜなら、刺激とは受けるものではなく与えるものだから。
「相手役が嗣永さんってのが悪かったのよ」「え、なんで?」「あたしとキャラがかぶるの」
「えー」「あたしがロミオ役だと嗣永さんを食っちゃうのよね」「うわ。えりぽん言うねー」
「まーでも他の役をもらったし」「そこで頑張ると」「ふふふ」「えりぽん?」「期待してて」
「何その顔。気持ち悪いんだけど」「ただじゃ終わらないから!」「え? まあ、頑張って…」
キャラがかぶるという発想は香音にはなかった。自分は里保とは違う。全然違う。
だからこそあんなにも仲良くできるのだ。書道だって一緒だ。自分は自分。他人とは違う。
それが鈴木香音。初心者とはいえ、今や完全にこの学校の書道部員の気質を受け継いでいた。
「で、里保はどこ?」「部長と一緒に校長室」「何で?」「入選の報告だって」「すごーい」
すごい。香音も里保にそう言った。だが当の里保は結果を聞いてもニコリともしなかった。
上を目指している人はやっぱり凄い。どこが凄いのか、今の自分にはそれすらもわからない。
だから今は練習するしかない。とりあえず衣梨奈が横にいても普通に書けるようにする。
極めてレベルの高い目標を自分に架して、再び香音は筆を走らせる。
- 250 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/12(月) 07:00
- *****
- 251 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/13(火) 07:00
- ハニカミ王女じゃないから
- 252 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/13(火) 07:00
- 舞ちゃんは太っ腹で気風が良くて親分肌。皆が持ってるイメージは確かに間違ってません。
でもあたしは知ってます。舞ちゃんは本当はすっごい細かい気遣いをする人なんだよ。
「愛理ー。ホントに憂佳ちゃんでよかったの? 大丈夫?」「なんで? 完璧じゃん」
「実力は全然問題ないけどさ。みんなてっきり愛理が主役やるのかと思ってたから」
「絶対あたしがやるよりインパクトあるよ」「あるけどさ。憂佳ちゃん、大丈夫?」
さすが萩原舞。合唱部の表番長。みんなお見通しですね。確かにそこが最大の不安要素。
演劇部のクリスマス公演といえば、この学校ではかなり大きなイベントなんだよね。
そこに合唱部が突然横から参加して、しかも一番下っ端の前田憂佳が主役に大抜擢。
そりゃプレッシャーかかるよね。周りでゴチャゴチャといちゃもん付けてる人も多いし。
最近の憂佳ちゃんの塞ぎ込みようは半端じゃない。そりゃ不安にもなるってもんでしょう。
だから本当は本番まで配役を伏せておく予定だったんだけどなあ。失敗したなあ。
「あれ下手したら主役を降りるとか言いかねないよ」「合唱部も辞めるとか言ったりして」
「ちょっと! シャレになんないよそれ」「シャレで言ってません」「余計悪いじゃん」
「あたし、どうするつもりもないよ」「あたしにやれと?」「そんなことは言いません」
憂佳ちゃんはね、「主役おめでとう!」と言われて楚々とはにかむようなお嬢様じゃないの。
見栄とか虚栄心とかに溺れて、ほわほわ〜と浮かれちゃうような甘い子じゃないのよ。
そんな見た目だけのハニカミ王女だったら、あたしは憂佳ちゃんに主役を任せたりしません。
自分が主役をやりますよ。だってあたしこそハニカミ王女だもん。おほほほほ。ほわほわ〜。
「ふーん。まあ、愛理がそれでいいって言うんならもういいよ。ご自由に」「ありがとうね」
「でも最悪の場合、憂佳ちゃんが抜けたら愛理が代役やってよ」「台詞は一応全部覚えてます」
「…本気かよ」「あたしはいつだって本気だよ?」「そう見えないからタチが悪いんだよなー」
「失礼な」「ねえ、何でそこまで憂佳ちゃんに賭けるの?」「別にそういうわけじゃないって」
あたしは憂佳ちゃん一人に全てを押し付けてるわけじゃないよ。適材適所。それだけだって。
別に憂佳ちゃんに賭けてるわけじゃない。あたしだって遊びで部活やってるわけじゃないです。
面白半分で誰かに何かを託したりしない。特に歌には。あたしは歌に青春賭けてますから。
今一番輝いてる子を一番輝けるステージに上げる。それが芸術に対する誠意だって思うんだよ。
舞ちゃんがあたしを部長に推してくれたように。あたしは憂佳ちゃんを主役に推しただけ。
そう説明したら舞ちゃんは鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔をした。自分のことって見えないよね。
「つまり舞ちゃんは凄いってこと」「何でそうなるの」「あたしの人生の師匠だから」「バカ」
「バカじゃないもーん」「つまり最高の劇になるか、最低の大失敗に終わるか。中間はないのね」
「その通り! それが全て! さすが舞ちゃん! やっぱりわかってる!」「おだてんなって」
いくらおだてても舞ちゃんはハニカミ笑いをしたりしない。渋い顔。大人だなあ。大物だなあ。
もし舞ちゃんがはにかんだとしたら、ハニカミ王女じゃなくってハニカミ皇太后だね。
- 253 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/13(火) 07:00
- *****
- 254 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/14(水) 07:00
- 御破算
- 255 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/14(水) 07:00
- 消毒液か治療薬か。病院に漂う独特の匂い。徳永千奈美はこの匂いを嗅ぐと憂鬱になる。
いつもお世話になっているいきつけの病院。だが何回行ってもこの匂いにはなれない。
千奈美はエレベーターで五階に上がる。病室に入るとなぜか逆に薬品の匂いは感じなくなった。
大部屋で寝ている入院患者の平均年齢は高い。その中に一人、際立って幼い顔をした子がいた。
「よう、ダーワー」「あれ。徳永さん来てくれたんですか」「もう落ち着いた?」「ちょっとは」
「手術はいつなの?」「もう腫れも引いたんで。明日やろうかって言われました」「明日かー」
ベッドに横になっていた和田彩花は上半身だけ起こす。下半身には薄い布団がかかっている。
怪我をしたという右の膝は、分厚い包帯でグルグル巻きに固定されていて、全く見えない。
彩花が体育館で怪我をしたのは三日ほど前。倒れた瞬間に重傷とわかるような大きな怪我だった。
バスケ部OGの千奈美の耳にもすぐにその話が入ってきた。今はみんなその噂ばかりしている。
一応、普段通りに練習をしているが、彩花を失ったバレー部はお通夜のような雰囲気になっていた。
「まさかあたしよりデカイ怪我するとは思わなかったよ」「すみません」「何で謝るのさー」
「だって、ちゃんと先輩の言うこと聞いてれば」「でも、ダーワーはできると思ったんだろ?」
「…でもやっちゃいました」「大会前なんだって?」「はい」「あたしでもやるよ。それなら」
千奈美はお見舞いの品として持ってきたお菓子をベッドの横の小さな机の上に置いた。
机の上の一輪差しには綺麗な花が飾られていた。よく見れば窓際にも大きな花瓶に花が。
少しセンスの違う花と器。なんとなく違う人間が持ってきた花のような気がした。
バレー部にそんな気の利いた女の子らしい女の子がいただろうか。ちょっと記憶になかった。
「綺麗な花じゃん」「あ、クラスの友達が持ってきてくれて」「愛されてるなあ」「ええまあ」
「うちとか茉麻は部活一直線だったからさあ。クラスにはあんまり仲良い子いないんだよね」
「あたしだって一人くらいしかいないですけど」「こっちの花は?」「そっちは陸上部の子が」
彩花はこの学校のバレー部では突出した選手だ。そういう選手は他の運動部にも名が知られる。
顔が広い彩花のことだ。怪我した直後はあちこちからたくさんお見舞いが来たのだろう。
怪我をした直後はあまりお見舞いに来てほしくないものだが。かつての千奈美もそうだった。
「大丈夫? お見舞いウザくない?」「ははは…」「あたしん時は止めてほしかったけどなあ」
「あ、実はかなり派手な喧嘩を一つ」「わかるわかる。『今はほっといてよ!』ってなるよね」
「今は落ち着きましたけど」「うん。でも怪我した直後って気持ちの整理がついてないから」
「一人になりたいですよね」「慰めを受け入れる余裕も全然なくて」「全部が敵に見えました」
彩花は喧嘩の内容を思い出そうとするが、上手く思い出せない。あの時は本当にきつかったから。
言っちゃいけない言葉もたくさん言ったような気がする。仲直りには時間がかかるだろう。
怪我して御破算。大会も御破算。クリスマスも御破算。それだけで済めばいいけれど。
もし膝が完治しなかったら。もしバレーができなくなったら。「御破算」で済むのだろうか。
そろばんのように簡単に人生がリセットできるとは、彩花にはどうしても考えられなかった。
- 256 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/14(水) 07:00
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- 257 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/15(木) 07:00
- 走れ桃子
- 258 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/15(木) 07:00
- 嗣永桃子は部室棟の階段を全力疾走していた。演劇部の部室は四階。美術室は一階。
弾む胸。乱れる息。いつもはのんびりと上り下りしている階段が、今はやけに長く感じる。
美術室の扉が近づいてくる。部屋が暗い。電気がついてない。誰もいないのだろうか。
桃子は乱暴に扉を引く。部屋に飛び込もうとして扉のレールにつまずく。派手にこけた。
「わ! ちょっと! わ! なに!? なになになに!?」「いたたたた…」
暗い部屋の中で立ち上がる人影が一つ。机の間で右往左往しているように見えた。
桃子は立ち上がって部屋の電気をつけた。泣きそうなほど膝が痛かったがとりあえず我慢する。
部屋には棒立ちになっている菅谷梨沙子一人しかいなかった。部屋がやけに広く感じられた。
「梨沙子! 大丈夫?」「はい?」「怪我はない?」「いや、桃の方こそ怪我してない?」
「くくく、熊井ちょーは?」「熊井ちゃん?」「いないの?」「この部屋には来てないけど」
「あたし、梨沙子が好きだから!」「え?」「一番好きだから!」「はあ、まあ、ありがとう」
桃子はありったけの気持ちを込めて叫んだが、梨沙子の反応はあっさりとしたものだった。
焦る桃子は、聞かれもしないのにクリスマス公演の配役のことについてペラペラと喋った。
この演劇がいかに崇高なものなのかとか。だから公私混同なんて絶対にできないのだとか。
主役を前田憂佳に決めたのは鈴木愛理だから、悪いのは全部あのくねくね八重歯河童なのだとか。
「ふーん」「ふーんって…。それが原因でしょ?」「原因?」「最近落ち込んでるって茉麻が」
「ははは。落ち込んでたね。うん。すっごい落ち込んでた」「でももう大丈夫だよ」「え?」
「梨沙子には桃がついてるから。いつでも桃がついてるから!」「ははは。ありがと。嬉しい」
「あのね、公演、見て欲しい」「え?」「絶対梨沙子元気になるから」「はあ」「絶対元気に」
「うん。元気は分けて欲しいかな」「あたしそのために生まれたの。そのために生きてるの!」
「いや、あの、そこまで真剣になられても」「えっ?」「困るっていうか」「あれ?」「ん?」
「それで熊井ちょーは?」「え? そういえば桃はさっきから何を言ってるの?」「えーっ?」
桃子は聞かれるままに全て答えた。熊井友理奈と菅谷梨沙子が言い争いをしていると。
桃子の取り合いをしていると。そんな風に夏焼雅が言っていたと。ありのままに答えた。
梨沙子はじっと考え込んでいた。そしてため息を一つ。桃子に同情を寄せるように言った。
「桃もよく知ってるよね」「何を?」「雅ちゃんのこと」「うん。隅から隅まで」「上手いよね」
「何が?」「雅ちゃんって、本当に嘘が上手いよね」「えっ」「演技するために生まれてきた女」
「まあ。演技は異常に上手いけど」「そういうことじゃないの?」「え?」「だからそういうこと」
桃子の顔がみるみると赤くなる。言われてみれば、確かにおかしなことが多過ぎる。
冷静に考えれば誰でもわかることなのに。そこで冷静に考えさせないのが夏焼雅の魔術な話術。
騙された。また騙された。これで人生何度目だろう。しかし今度という今度は許せない。
怒りに身を任せた熱血少女は、降りてきた時と同じく全力疾走で階段を駆け上がって行った。
- 259 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/15(木) 07:00
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- 260 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/16(金) 07:00
- 歯ごたえプリーズ
- 261 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/16(金) 07:00
- あれ? 生田さん? またあなたなの? 何やってるのよ。もうとっくに帰宅時間は過ぎてるのよ。
早く電気を消して帰りなさい。部活の時間は校則で決まってるの。要するにあなた、校則違反よ。
あら。あなた今日はしおらしいわね。何か歯ごたえがないというか。そんな素直な子だったっけ?
もしかして何か企んでないでしょうね? うん? 挙動不審よあなた。こんな時間に何してるのよ。
クリスマス公演の練習? あー、台本見せてもらったわよ。脚本っていうの? 全部書いてる本。
え? ズルじゃないわよ。生徒会には事前に回ってくるのよ。内容をチェックしないとダメだから。
生徒会をなめないでね。真野恵里菜をなめないでね。舞台で使う小道具とかは全部調べるのよ。
本当よ。例えば、クラッカーを一つ使うだけでも事前に消防署に届けが必要なのよ。火薬だから。
あら? 顔色が変わったわね。あなた、まさか舞台でこっそり何かやるつもりじゃないでしょうね?
ダメよ! アドリブとかは絶対ダメ! いい? 真野はちゃんと注意しましたからね。覚えといて。
念押ししたからね。何かあっても真野の責任じゃないから。絶対ダメよ。絶対に、絶対にダメよ!
あ、そういえばあなた、ロミオ役は前田さんに決まったみたいね。残念だったわね、選ばれなくて。
嫌味じゃないわよ。だってしょうがないじゃん。前田さんって超可愛いし。いかにも主役って顔だし。
まあ、この前「虚しい努力」って言ったことは謝るわ。あれは真野が悪かったです。ごめんなさい。
あら。悪いと思った時は素直に謝る。意地を張ったり言い訳したりしない。それが真野恵里菜よ。
でもあなた、夏焼さんにチクったのはどうかと思うわ。あたし、あの人からすっごい怒られたのよ。
大体、あれはあなたのためを思ってアドバイスした一言だったのよ? それが伝わらなかった?
要するにね、ごく一部の言葉だけをみて、揚げ足を取るなんていかがなものかと思いますけど?
要するにね、あなたは「鍛え」が足りないのよ。鍛練が、苦労が、経験が絶対的に足りてないの。
だからあなたの演技は歯ごたえがないの。味がないの。主役に選ばれなかったのも当然なのよ。
その点、真野は苦労を積んでますから、弱い人とか陰で努力してる人とかの気持ちがわかるの。
あなたとか譜久村さんとかのはね、努力とは言いません。ただ自分のためだけの、自己満足よ。
夏焼さんや清水さんは、あなた達が演技の練習してる間にも、公演の準備に追われているのよ。
要するに公演ってのは、舞台の上だけじゃないの。裏で支える人がいないと成立しないものなの。
嗣永さん? あの人は別格。スターだから。あの人はまた全然違うのよ。陰の努力なんて不要よ。
あなたもスターを目指すなら、練習じゃなくて舞台の本番で示しなさい。歯ごたえのある演技でね。
とにかく今日は遅いから帰りなさい。練習熱心なのは良いし、難しい演技ってはのわかるけどね。
あなたの役は人間じゃないし、生き物ですらないから難しいでしょうが、やりきってみせることね。
- 262 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/16(金) 07:00
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- 263 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/17(土) 07:00
- 張ろうよ意地を
- 264 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/17(土) 07:00
- 試験期間中は全ての部活が休みになる。文化系も体育会系も基本的には全て休みだ。
だが例外的に活動しているクラブもいくつかある。公式戦の大会があるバレー部。
そして試験直後にクリスマス公演を行う演劇部と合唱部がそうだった。
今も演劇部と合唱部は、体育館のステージを貸し切って最後の追い込みを行っていた。
ようやく配役も完全に決まった。公演まではあと一週間ほど。ここからが勝負どころだ。
当然ながら歌は圧倒的に合唱部が上手い。そして演技では演劇部が圧倒的に上手い。
お互い、得意分野では譲らない。両者の意地と意地が舞台の上でぶつかっていた。
「愛理。憂佳ちゃん、吹っ切れたみたいだね」「うん。なんかガラっと変わったね」
「これも全部愛理の計算通り?」「まさか」「でもみんなはそう思ってるみたいよ」
「あたしの計算なんて当てにしないでよー」「あたしはしてない」「あ、舞ちゃん酷い」
「愛理の計算は、いつも一番大事なところで狂うもん」「よくご存じで」「あのねえ」
舞台の上では主役を張る二人、嗣永桃子と前田憂佳がバチバチとやり合っていた。
嗣永桃子と言えば他人に厳しく自分に甘いことで有名。だから他人の演技にも異常に厳しい。
それでも憂佳は一歩も引かない。意地っ張りなのは元からだが、なぜか最近特にすごい。
確かに憂佳は吹っ切れていた。周りから何を言われようとも、もう気にしない。
泣きごとはもう十分。愚痴なら友達に山ほど聞いてもらった。だからもう言わないと決めた。
自分は主役だ。誰が何と言おうと恵まれている。だからこそ、人の倍、頑張る。
彩花にできたことが自分にできないわけがない。愚痴った時に彩花に言われた言葉。
お見舞いに行った時に言われた言葉。あれはきっと彩花の本音。絶対に忘れちゃいけない。
「知らないよ! そんなの。何それ。我儘過ぎるよ。もういい加減にしてってば!
憂佳ちゃん、前に言ってなかったっけ? 『あたしも期待されてみたい』って。
それでいざ期待されたら文句だけ言って逃げ出すの? なにそれ。信じられない。
主役やりたくてもやれない子だっているんだよ! 嫌々やるくらいなら譲りなよ!
勝手だよ。無責任過ぎるよ! 辞めたいんなら、さっさと辞めちゃえばいいんだ!」
辞めろと言われると、なぜか逆に辞めたくなくなるから不思議だ。
憂佳だって合唱部でずっと遊んでいたわけじゃない。プライドがある。意地もある。
彩花と仲直りするまでは時間がかかるかもしれないけど、公演には絶対来てもらおう。
そして見てもらうんだ。前田憂佳の意地を。絶対に見せなきゃいけない。
もし見せられなかったら、その時は本当に一生仲直りできないかもしれない。
それに比べれば主役の重責など軽い。憂佳は桃子相手に噛みつくように演技を続ける。
- 265 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/17(土) 07:00
- *****
- 266 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/18(日) 07:00
- 話になんない
- 267 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/18(日) 07:00
- 二学期もあと一週間ほどで終わる。学校は既に期末試験期間に突入していた。
定期試験独特の緊張感。そして授業も部活もなく、午前中だけで終わるという開放感。
試験そのものは嫌いだけど、熊井友理奈はこの独特の雰囲気は結構好きだった。
友理奈の所属するバスケ部も今は試験休み。体育館はバレー部が独占している。
今まさに公式戦の最中にあるバレー部は、試験期間中も特別に活動を許されていた。
既に先週末から大会が始まっていて、一回戦二回戦三回戦と難なく三連勝したと聞いた。
だがバレー部の雰囲気はあまり良くない。キャプテンの中島早貴の表情も冴えなかった。
「昼御飯一緒にどう?」「バスケ部は休みでしょ」「昼から図書館で勉強しよっかなーと」
早貴は特に何も言わなかった。いつもと違って会話にまったく生気がない。
別にいいのかと思って友理奈は早貴と一緒に食堂へ行った。食事中も早貴は静かだった。
いつも部活の話ばっかりする早貴だが、今日は全く話さない。明らかに避けていた。
だが友理奈は気を遣ったりしない。気を遣うくらいなら最初から誘ったりしない。
「彩花ちゃんの怪我、全治六ヶ月なんだって?」「…」「夏には間に合う感じ?」「…」
「でもチームは勝ってるじゃん」「相手が弱いんだよ」「優勝まであと二つ?」「三つ」
「次の相手も弱いの?」「化け物軍団」「強いんだ」「人間じゃない。身体能力が半端ない」
「でも勝つんでしょ」「え…」「勝つんだよね?」「まあ…」「優勝目指すんでしょ?」
早貴は言葉を濁す。いつもの彼女からすればあり得ないくらい弱気な姿勢だった。
だがこれくらいは想定内。友理奈は鞄を探って手作りのチケットを二枚取り出した。
合唱部の岡井千聖に頼まれたものだ。「一発、熊井ちゃんから活を入れてあげて」と。
千聖は時々バリバリの体育会系みたいなことを言う。そして早貴のことをよく見ている。
「これ。クリスマス公演のチケットなんだけど」「ああ。千聖にも誘われたけど…」
「もしバレー部が負けたら一緒に見に行かない?」「いいよ。負けたら見に行こっか」
「へ? 本当に?」「誘っといて何それ」「負けたらって言ってるんだけど」「うん」
「…彩花ちゃんがいなけりゃ勝てないって?」「は? 何言ってんの? 意味わかんない」
「最初っから気持ちで負けてるって言ってんだよ、このヘタレ!」「誰がヘタレだコラァ!」
友理奈もバスケ部のキャプテンだ。気持ちだけで勝てるなんて甘いことは考えていない。
だが格下のチームが気持ちで負けているようではお話にならない。それくらいはわかる。
試合の前から気持ちで負けている。そんな試合は惨めな結果にしか終わらない。
「下級生が一人怪我しただけでゲームセット? いったい何人の部員を率いてんだよ!」
「ただの下級生じゃねえんだよ!」「はあ? 彩花ちゃんがいなきゃ、靴の紐も結べないとか?」
「…上等だよ」「今年は絶対優勝するって言ったの早貴じゃん。今更、泣きごと言うつもり?」
「くっ…」「嘘つき」「…」「臆病者」「…」「このヘタレ!」「うっせえ! わかったよ!」
早貴は友理奈からチケットを奪い取ると、べそをかきながらビリビリと破り捨てた。
- 268 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/18(日) 07:00
- *****
- 269 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 07:00
- 疾風のように
- 270 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 07:00
- 快晴の土曜日。お昼少し前の時間。福田花音は疾風のように駆けながら病院に入る。
花音がお目当ての病室に入ると、既にベッドの周りは綺麗に片づけられていた。
この部屋ではいつもパジャマだった和田彩花も、今は地味な私服に着替えていた。
「ハイ、彩花。今日退院なんだよね?」「花音ちゃん。部活は?」「試験休みだよ」
「試験は金曜日で終わりじゃなかったっけ」「うん。でもこの土日まで休みなんだよ」
「ぬるい部活だねー」「これが普通だよ! 鬼のバレー部と比べないでくれる?」
彩花は手にしていた松葉杖を置き、ベッドに腰かけた。花音もその隣に座る。
いつもなら冬でもミニスカートが多い彩花。だが今はかなり緩めのパンツを履いていた。
膝の手術は問題なく成功したと聞いたが、彩花はまだかなり動き難そうだった。
「調子どう?」「あー、もー、思ってたより手術がすごい大変で」「手術の話はさておき」
「さておくんだ」「前田憂佳ちゃんからの伝言です」「えっ!」「手術の話を先にする?」
「それはさておき」「さておくんだ」「憂佳ちゃんと会ったの?」「喧嘩したんだってね」
「それは…」「もう泣きごとは言いません。舞台を見てください。お願いします…ってさ」
伝言を伝えながら花音は、憂佳からもらった二枚のチケットをひらひらさせてみせた。
「…行けないよ」「喧嘩したから?」「違う。その日は試合が」「彩花出られないじゃん」
「でもあたしバレー部だもん」「…」「だからバレー部の試合に行かなきゃ。怪我は関係ない」
そう言いながらも彩花の眉毛がハの字に歪んだのを、花音は見逃さなかった。
昔からよく出るクセ。彩花が本心を偽って強がっているときに顔に出るクセだった。
花音はお願いに来た時の憂佳の顔を思い出す。今にも泣きだしそうな顔。
そんなに彩花に来てもらいたいのだろうか。喧嘩してもなお。そんなに彩花のことを
花音の心は千々に乱れる。醜いもの。美しいもの。信じるもの。信じられないもの。
彩花への思いから生まれた全てのものが、花音の心を疾風のように駆け抜けていった。
「…クリスマス公演の話題はさておき」「…さておくんだ」「あたしなりに勉強してきた」
花音は持っていたカバンを広げた。重そうな本が何冊も。全てリハビリ関係の本だった。
「これ…」「陸上部にも膝やった人が何人かいてね」「花音ちゃん」「教えてもらった」
「ありがとう」「絶対治るから」「でも」「絶対に彩花の膝は元に戻るから。絶対に」
「…」「元に戻すだけじゃない。もっともっと強くなる。もっと凄い彩花になれるから」
花音もわかっていた。「絶対治る」なんて気休めは、本当は絶対言っちゃいけないこと。
そんな保障がどこにもないということは、スポーツをやってる人間なら誰でもわかる。
でも言わずにはいられなかった。自分の言葉に酔って、逃げて、すがりつきたかった。
隣の子に抱きついておいおいと泣いているのは、なぜか怪我人ではない花音の方だった。
- 271 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 07:00
- *****
- 272 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/20(火) 07:00
- 厄払いが必要
- 273 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/20(火) 07:00
- 「演劇部クリスマス特別公演 ミュージカル『ロミオとモモエット』」
光井愛佳は極太の筆で一気に書き切った。漢字とカタカナのバランスはほぼ完ぺき。
唯一のひらがなの「と」の右側が少し浮ついたのは御愛嬌。愛佳の悪いクセの一つだった。
パチパチパチ。それでも横で見ていた道重さゆみは、愛佳の書に一応満足して拍手を送った。
「さすが愛佳。これだけ上手かったら、そりゃ演劇部から看板を頼まれるってもんよね」
「ていうか嗣永サン、いっつも何やかんや言うてあたしに頼みごとしてくるんですわー」
「去年は演劇部の標語を書いたって聞いたけど」「はい。嗣永さんらに代替わりした時に」
「好きなんだ」「断ったんですけどね」「へー。断りきれなかったんだ」「しつこくて」
「言い負かせばいいじゃん。口喧嘩強いんだし」「嗣永サンとは口喧嘩にもならんのですわ」
ふーん。さゆみは大して気のない返事をする。そして愛佳も今日はどことなく大人しい。
部室には二人しかいなかった。鈴木香音もいないし、さゆみのお目当ての鞘師里保もいない。
せっかく卒業生がコンクールの入選祝いの寄贈品を持ってきたのに。ややご機嫌斜めなさゆみ。
「りほりほはー?」「掛け持ちやってる合唱部の方ですわ」「今日は来ないの?」「はい」
「香音ちゃんは?」「買い食いがバレて停部中です」「わー、あの校則ってまだあったんだ」
「はい。演劇部にはこき使われるし、後輩はいないし。厄日ですわ」「もう一つ」「はい?」
「コンクールには落選」「きついこと言いますねえ…」「厄払いが必要ね」「ホンマですわ」
この学校には世間の常識からちょっと外れた校則が一つ二つと残っていた。
刃物は持ってきちゃダメだけど鉛筆を削るためのものならオーケーとか。
買い食いがバレても停学にはならないけど、なぜか三日ほど部活動を停止させられるとか。
そういうわけで香音は、学校には来ているが、部活の方は大手を振ってサボっている。
「大喜びしてましたわ」「なんか香音ちゃんらしいね。そういうの」「アホですわ、あいつ」
「クセになったりして?」「二回目からは停学ですから。あいつもそこまでアホやないです」
「で、りほりほはこのミュージカルに出るんだってね」「はい。その線からも頼まれたんで」
「看板は断れなかったと」「はあ」「でもあたしも見てみたいなー、このミュージカル」
「部外者には公開せえへんらしいです」「ある意味、りほりほの書いた書より見たいわー」
「えー、鞘師の書ならともかく、演技とか歌なんか見ても…」「え? 本気で思ってる?」
さゆみの言わんとすることを悟り、愛佳は口を尖らせた。さゆみは部活の掛け持ちに賛成だ。
里保や香音の掛け持ちのことを相談したことがあったが「やらせなさい」の一言で終わった。
自分は一途に書道に取り組んでいる。でも入選したのは部活を掛け持ちしてる里保の方。
書道だけに専念した自分はあっけなく落選。そんな鬱屈を愛佳は思いっ切り顔に出す。
そうね。この子には本当に厄払いが必要なのね。さゆみは優しく、ゆっくりと愛佳を諭した。
「愛佳。『書は人なり』よ。舞台の上のりほりほのことを、よーく見ておくのよ」
- 274 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/20(火) 07:00
- *****
- 275 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/21(水) 07:00
- 急騰ですね
- 276 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/21(水) 07:00
- 運動部のキャプテンっていうと、無条件で真面目なヤツって思われるかもしれない。
うちの代のキャプテンも真面目。何が真面目って部活を離れたところでも真面目なんだよ。
部活を離れても「運動部のキャプテン」っていう看板で偉そうにするヤツとかいるけどさ。
うちの茉麻は違うの。むしろ「キャプテンの名を汚さぬように」って考えるタイプ。
あたしは副キャプだったけどさあ。あんなに真面目じゃなかったよ。そして今もね。
進路が決まったら遊びたいし。試験が終わったら羽根を伸ばしたいって思う。
そんなわけで試験後には空いてて静かな図書館へ寝に来たんだけど、いたよ。茉麻が。
なんで勉強してんだよ。試験終わったのに。それに茉麻、推薦で進路決まったんだよね?
「茉麻。合格したんだってね。おめでとう」「挨拶遅いよ? 決まったのは昨日なのにねえ」
他の子にこんなこと言われたらちょっと嫌味だけど。茉麻だったら何とも思わないかな。
さすがに茉麻も嬉しそうだ。進路が決まるのって嬉しいよね。自分が認められたっていうか。
その茉麻は急にきょろきょろと周りを見回した。何してんのよ。あたし達二人しかいないのに。
「何を見てるの?」「いや、他に誰かいないかと思って」「誰か探してるの?」「違う違う」
「はい?」「図書館で喋っちゃダメじゃん」「そんな真面目な」「一応、確認しとかないと」
「誰も怒らないよ」「この間、風紀委員の子にめっちゃ怒られた」「すごい子もいるんだね」
うちのキャプテンを怒るなんてすごいね。それはともかく茉麻は喋り好き。止まらない子。
今もっともホットな話題は熊井ちゃんのことらしい。ていうかまたですか? お熱いねえ。
あ、例のね。はいはい。一週間くらい前のことね。食堂で。あたしもその噂は聞いたけどさ。
えーっと。エースが怪我して凹んでたバレー部のキャプテンに一喝かましたんだっけ?
「そこで熊井ちゃん、『いったい何人の部員を率いてんだよ!』って」「ははは。怖えー」
「どう思う? リーダーにしか言えない台詞じゃない?」「まあね」「早貴ちゃんは沈黙」
「そりゃ言い返せないっしょ」「チームなのよ。個人じゃないのよ、部活っていうのは!」
「だよね」「熊井ちゃんはわかってるのよ。チームの窮地にリーダーが何をすべきなのか」
こりゃ驚いた。茉麻が熊井ちゃんのことをこんなに誉めるのって初めてじゃないの?
今更ながら茉麻の中で熊井株が急騰中みたいですね。ホント今更だけど。
現役の頃にこれだけ上手くおだてられれば、熊井ちゃんももっと伸びたと思うけどなあ。
まあ、あれ以上伸びたら別の意味で困るっていう話もありますけど。おほほほほ。
それにしても茉麻、嬉しそうだね。熊井ちゃんが一人前になって嬉しいのはわかるけどさ。
自分の進路が決まったことよりも喜ぶっていうのは、どうかと思いますよ、元キャプテン。
- 277 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/21(水) 07:00
- *****
- 278 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/22(木) 07:00
- 悔いは残すな
- 279 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/22(木) 07:00
- 「ういっす」「千聖。通知簿どうだった?」「聞くなそんなこと」「終業式の日のお約束じゃん」
「じゃ、舞ちゃんはどうなの」「…もうミュージカルを頑張るしかないね」「現実逃避?」
「観客のみんなにも忘れさせてあげようよ」「通知簿のことを?」「スケールが小さいなあ…」
「ヤバイ。もう今週末だよ」「ヤバイのは最初から」「慰めになってないし」「慰めてません」
「あ、千聖。看板あがってきてたから」「光井ちゃんに頼んでたやつ?」「そう。良い出来」
「あの子、口も達者だけど、言うだけのことはやる子だから」「なかなかやらないけどねー」
「今回も断られるかと思ったけど」「嗣永サンに丸めこまれてたね」「あはは。あれは笑った」
「口喧嘩クイーンがだらしない」「口喧嘩なら無敵だけど」「嗣永サンのは口喧嘩じゃないし」
「でも鞘師ちゃんが出演するのも大きかったみたい」「へー。仲悪そうだけどね、あの二人」
「そういや舞ちゃん。鞘師ちゃん今日は書道部だって」「律儀だね。最後の追い込みなのにさ」
「でも鞘師効果は抜群だったじゃん」「まあね」「何だろね。みんなあの子には文句言わない」
「愛理とは違うタイプだけど」「あの子がいたおかげでさ、部員の雰囲気もかなり和んだよ」
「そういや皆、合同練習のこと言わなくなったね」「あいつサボってるとかも言わなくなった」
「鞘師ちゃんは一日おきしか練習しないしね」「それであれだけ上手いんだから嫌になるよ」
「千聖」「何? 急に真面目な顔して」「これって全部愛理の計算なのかな?」「まっさかー」
「だって演劇部もさ、鞘師ちゃんが来ると引き締まるじゃん」「えりぽんとかフクちゃんとか」
「鞘師ちゃんがいるだけで猛烈に対抗意識燃やしちゃうもんね」「あれはすごいなって思う」
「下手な演技にも迫力出るってもんよ」「あー、それは雅ちゃんも認めていた」「そうだよね」
「でも愛理はそんな計算とかしない」「そうだけどさ」「きっともっと大きなこと考えてるよ」
「あるいは…」「あるいは?」「何も考えていない」「やっぱりそうだよね」「うーん。多分」
「でも本当にさ。ここまでやったら悔いは残らないよね」「何よ舞ちゃん。急に思い出モード?」
「うん。もう思い出モードでもいいよ。だって合唱部がここまでできるとは思ってなかったもん」
「変わったかな?」「憂佳ちゃんを見てみなよ」「あの子は変わったね。ビックリするくらいに」
「鞘師ちゃんも凄いけどさ。憂佳ちゃんが入部した時のインパクトの方がずっと凄かったじゃん」
「うん。あれは凄かった」「あの頃のことを思い出したよ」「良い意味で?」「良くも悪くも」
「田中さん、今日で最後だって」「舞ちゃん、意外となついてたね」「だって面白いんだもん」
「最初は怖い人かと思ったけど」「あの顔だからね」「合唱部のみんな、ちゃんとついてきてた」
「あれだけ歌が上手ければね」「あの憂佳ちゃんが『しごいてください』とか言うんだもんね」
「あれはビビった」「舞ちゃんもビビったか」「あれで皆認めたよね」「憂佳ちゃんの主役をね」
「田中れいな様々ですよ」「田中さんを呼んだのも愛理なんだよね」「…」「…」「まさかね」
「千聖。もう空が暗いよ。そろそろ帰ろう」「もう大丈夫?」「何が?」「練習しないでいい?」
「十分やったじゃん」「悔いは残らない?」「残らない」「じゃあ、帰りますか」「あ」「何よ」
「何でもない」「気になるって」「歌に悔いは残らないけど」「けど」「通知簿には悔いが残る」
- 280 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/22(木) 07:00
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- 281 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/23(金) 07:00
- 急に言われても
- 282 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/23(金) 07:00
- 体育館の裏に呼び出したことなら何度もある。愛の告白ではなく後輩を叱るためだったが。
だが逆に呼び出されるなんていうことは、中島早貴にとっては初めての経験だった。
最近よく見る顔がそこで待っていた。確か陸上部の子だ。和田彩花と一番仲が良い子。
「福田花音ってあんたのことだっけ?」「はい」「うちの彩花の友達なんだ?」「はい」
「最近よく二人でリハビリしてるけど」「はい」「要件ってのも彩花のこと?」「はい」
たとえ後輩でも、余所の部の子と喋る時はそれなりに気を遣う。頭ごなしには喋れない。
自分の家の子は簡単に叱れるけど、余所の家の子はそうはいかない。それと同じ理屈だ。
それにこの子はずっと彩花のリハビリを手伝ってくれている。きちんと敬意は払うべきだろう。
早貴はじっと花音を見つめる。花音もまた異様に緊張していることが見て取れた。
「あの、その、バレー部、準決勝進出おめでとうございます!」「はあ…。ありがとう」
「土曜日が準決勝と決勝ですよね?」「午前中に準決。昼一から三決があってその後が決勝」
「あの…」「応援にでも来んの?」「彩花はどうするんですか?」「そりゃ一緒に行くだろ」
「学校に残ってリハビリってわけにはいきませんか?」「は? そんなこと急に言われても…」
「あの…」「うん?」「…」「クリスマス公演にでも誘うつもり?」「あっ!」「ふーん…」
後輩の友人関係など早貴は興味がない。だが有名人の彩花の噂は色々と耳に入ってくる。
誰それと仲が良いとか。誰それと喧嘩したとか。誰それに好かれてるとか。あれやこれやと。
そんな本当か嘘かわからないようなくだらない噂なんて、早貴はどうでもよかった。
ただし今は、目の前にいるこの花音とかいう女の子の必死な顔が気になった。
「彩花が好きなの?」「えっ」「いや、聞き方が悪かった。彩花に優しくしてあげたい?」
「あの…」「彩花に優しくしたり、彩花に優しくされたり。そんな関係でいたい?」「…はい」
「気持ちはわかるけどさ、優しくするっていうのは、相手に媚びを売ることじゃないよ」「えっ」
「たとえ自分のためにならなくても、相手のことを思って振舞う。それが本当の優しさだと思う」
花音はうつむいた。見抜かれている。彩花に気に入られようとしている自分のことを。
それでもどうしても彩花に公演を見てほしかった。前田憂佳の姿を見てあげてほしかった。
このまま意地を張ってしまったら。もしかしたら二人は二度と仲直りできないかもしれない。
二人が仲直りした結果、自分がどうなるのか。たとえそれがわかっていても仲直りしてほしかった。
「自分のためじゃないんです」「は? 好かれるために彩花を誘うんでしょ?」「違うんです」
「本当かよ」「本当です! 確かに公演に誘いたいです。でも好かれるためじゃないんです」
「理屈がわかんないんだけど」「彩花が好きなのはわたしじゃないんです」「じゃ、なんで?」
「でも、好かれない子には、好かれない子の意地があるんです」「!…」「お願いします…」
早貴にはまだ細かいことは理解できなかった。だが花音が嘘を言ってないことはわかった。
ここは一思案だ。彩花が応援席にいれば、それだけでチームが勇気づけられるかとも思っていた。
だがよく考えればそれも癪に障る話だ。ここまで来たら完全にエース抜きで優勝したい。
それに彩花は早貴のことを軽く見てる節がある。ここらで一発きつい説教をしておくのも悪くない。
「わかったよ。帰りに二人で買い食いでもしてきな。学校にはあたしからチクっておくからよ」
- 283 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/23(金) 07:00
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- 284 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/24(土) 07:00
- 汲み取ってあげる
- 285 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/24(土) 07:00
- 学校の正門へとつながる大通り。休みに入ったためか学生の人通りは少ない。
今日は昼から登校なのでそこそこ温かい。それでも譜久村聖は制服の上にコートを羽織っている。
紺色のロングコート。金のボタンがささやかな自己主張。校則の範囲で許されるお洒落。
寒いとか関係ない。聖は好きなコートが自由に着られるこの季節が大好きだった。
校門の前では生田衣梨奈が待っていた。地方出身の衣梨奈はここから5分ほどの学生寮に住んでいる。
時間ギリギリまで布団に入っていられるわけだ。朝に弱い聖はそれが少し羨ましい。
衣梨奈は薄いベージュのコートを羽織っていた。なんだかとっても高そうなコートだった。
「おはようえりぽん」「おはよう聖。とうとう今日だね」「うん。もうすぐ開演しちゃうよー」
「14時開演だよね」「うん」「まだ一時間以上あるけど」「打ち合わせしてたらあっという間だよ」
「あれ。聖、ちょっと弱気?」「ちょっとどころじゃないよ!」「大丈夫。絶対成功するから」
「うん。ありがと。なんか今日のえりぽんは優しいね」「だって聖、緊張してるんでしょ?」
「わ。わかる?」「勿論。友人として、そこは汲み取ってあげないと」「おおー、優しい!」
聖は衣梨奈の首に抱きつくと、自分のお腹を二度三度と衣梨奈の腰にぶつけた。
過剰なスキンシップ。いつもなら冗談でやることだけど、今日の聖は冗談抜きで緊張していた。
演劇部に入って初めての舞台。初めての本番。それがクリスマス公演という大舞台だった。
緊張するなという方が無理だ。それでも同じく初舞台の衣梨奈に緊張した様子は見られない。
「えりぽんは緊張しないの?」「してるしてる」「そうは見えない」「上手く誤魔化してんの」
二人は一旦、演劇部の部室に向かった。舞台となる体育館へ行くのは最後の最後だ。
演劇部では一番下っ端の二人には直前まで細々とした準備があった。早く来たのもそのため。
だが二人が部室へ入ると、既に嗣永桃子も夏焼雅も清水佐紀も準備を始めていた。
「おはようございまーす」「やっと来た!」「え? まだ時間ありますよね」「全然ないよ」
「二人とも早く準備して。急で悪いけど変更するシーンがあって。説明するから」「えー?」
「早く早く。合唱部を待たせちゃ悪いでしょ」「ああ。多分まだ大丈夫ですよ」「なんで?」
先輩に言われてバタバタと準備を始める聖。だが衣梨奈は悠々とコートを脱いで椅子に座った。
あまりの余裕っぷりに聖も怪訝な表情をする。合唱部を待たせるのは確かに拙い。急がねば。
「えりぽん、急いでよ」「大丈夫。待たされるのは合唱部じゃなくてこっちなんだから」「え?」
「やっぱりさー、友達の気持ちは汲み取ってあげないと拙いわけじゃん?」「何を言ってるの?」
「疲れが溜まってる時は、やりたいことをやらせてあげるっていうかー」「ちょっと生田!」
「いつもみたいにボコスカ殴ったら悪いじゃん。本番に響きそうだし」「何してんの! 早く!」
桃子が怒鳴ろうが、佐紀が焦ろうが、雅が睨みつけようが、衣梨奈は全く動じない。
自前のコーヒーカップに熱いお茶を注ぎ、ゆっくりと味わう。その時、佐紀の携帯が鳴った。
佐紀の周りに皆が集まる。少し話して佐紀は携帯を切り、バッと衣梨奈の方に振りかえる。
それを見て衣梨奈は、寮の隣の部屋で暮らしている友人について悠然とコメントした。
「里保ちゃんなら部屋で爆睡してますよ。いつもああなんで。電話くらいじゃ絶対起きないですよ」
- 286 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/24(土) 07:00
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- 287 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 07:00
- くよくよしている暇はない
- 288 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 07:00
- 朝日が目にしみる。なんで太陽はこんなにも明るいんだろう。ねえ。どういう理屈だよまったく。
とにかく眩しいんだよ。大勝負に破れた次の日は、とにかく朝日が目にしみるよ。泣くに泣けねえ。
そしてこんな時に限って、今一番会いたくない子に会うんだ。もう最悪のパターンには飽きたよ。
「早貴! 今日も部活あるの?」「あるよ。今日も明日も明後日も」「昨日は惜しかったんだってね」
「負けは負けだし」「応援、行けなくてごめんね」「いいよ。そっちだって公演があったんだから」
千聖に慰められるとマジで泣きそうになる。でもヤだ。バレーのことだけは慰められたくない。
話を合わせるのもしんどい。でも文化系の子ってそういうのわかってくれないんだよなあ。
熊井ちゃんも決勝戦の応援に来てくれてたけどさ、うちらが負けたら一言も声をかけずに帰ったよ。
文化系の子ってそういうの見たら「冷たい」って思うのかな。全然違うんだけどなあ。
「大会の次の日も練習?」「くよくよしてる暇はないの」「すごい」「そっちこそ休みじゃないの?」
「うん? 今日は朝から片付けだよ」「片付け?」「セットとか小道具とか。いっぱい使ったから」
「そっか。見たかったな」「あー、細かいトラブルはあったけど、大成功だったよ!」「よかったね」
そう、くよくよしている暇はない。負けた後こそ大事。後輩にはそう言ったけどね。実際きついよ。
クリスマス公演は成功したんだ。彩花はどうしたんだろ。結局福田と二人で行ったって聞いたけど。
まあ、試合の話題よりは公演の話題の方が楽。今は本当に慰められたくないんだ。特に千聖には。
千聖には世界で一番……と思ってたら違った。世界一慰められたくないヤツがあそこにいた。
「あ、愛理ー! こっちこっち」「千聖、おはよー。あら。早貴ちゃんも一緒?」「ちゅーっす」
「ははは。ちゅーっす」「公演成功したんだってね。よかったじゃん」「うん! やってよかった」
「ふーん」「聞いたよ。バレー部は準優勝だってね。すごいじゃん!」「すごくないよ。負けたし」
せっかくこっちが公演の話題振ってるのに。本当はこいつとは話すのも嫌なのにさ。
わざわざ無理して別の話題を振ったんだよ? それなのになんでまた負けた試合のことを。
隣に千聖がいるときは嫌な子になりたくないのに。本当にヤだ。本当にこいつとは気が合わない。
「でも県大会で準優勝なんて、うちの学校が始まって以来じゃない?」「だから負けたんだって」
「準優勝でもすごいじゃん。すごくないの? ゴメンあたしそういうのよくわかんないんだけど…」
やっぱりこいつは世界で一番嫌いだ。よくわかんないくせに一番言われたくないことを言うし。
まったく本当に、負けてくよくよしてる暇なんてないね。こうなったら後輩ビシバシしごいてやる。
だってさ、にっくき恋敵にこんな言葉で煽られたらさ。もうやってやるしかないじゃん。
「…二位じゃダメなんでしょうか?」
- 289 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/25(日) 07:00
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- 290 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/26(月) 07:00
- 食いついていけ
- 291 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/26(月) 07:00
- 「よっす! ゆうかりん、元気?」
小さい頃から「怪しい人に声をかけられても答えちゃいけません」とよく言われたものだ。
不自然に大きなサングラスをかけたこの怪しい女を見たら、母親はどう思うだろう。
前田憂佳は突然目の前に現れた合唱部OGの田中れいなを見て、ふとそんなことを思った。
「これから学校行くの?」「はい。今日は片付けがあるので」「公演の歌、よかったよ」
「え?」「クリスマス公演の歌」「え、でも部外者の人は」「実はれいなは忍者なんよ」
「こっそり見てたんですか?」「だってれいなが来るって言ったらゆうかりん緊張するやん」
「来るって言われなくても緊張してました」「うっそー。堂々としとった」「開き直りです」
「開き直れたのはね、稽古であそこまで必死にれいなに食いついてきたからやと思うよ」
歌には自信があったが、演技には最後まで自信が持てなかった。それでも最後は開き直れた。
その境地に達することができたのは、この先輩がみっちりとしごいてくれたからかもしれない。
田中れいなに嗣永桃子。色んな人に食いついていったような気がする。本当に無我夢中だった。
なぜだろう。なぜ、今までそうやって合唱部の先輩に食いついていけなかったんだろう。
「先輩」「なんね」「先輩、言いましたよね。この公演はロクヨンで失敗するかもって」
「そんなん覚えとったんか」「あれ、どういう意味ですか?」「歌は一人でも歌えるけどね」
「あ」「ミュージカルは一人じゃできんとよ」「えっ、そんな…」「簡単なこと?」「はあ」
「まあ、すっごい簡単なことなんやけどね、でも言われんかったら気付かんもんよ」「…」
簡単なこと。気付かないこと。確かに田中の言う通りだと憂佳は思った。心から実感できた。
でもあの時だったら、答を教えてもらってもおそらく実感できなかったに違いない。
むしろむきになって田中の言うことを否定していただろう。世界中が敵に思えたあの時なら。
だから田中はあの時は答を教えてくれなかったのだろうか。そこまで考えて。あえて。
「れいなも愛理ちゃんもね。入部した最初の頃はあの場所でずっと一人で歌ってた」「…」
「でもれいなにも愛理ちゃんにもね、そこから引っ張り上げてくれた人がいたんよ」「…」
「で、ゆうかりんにもいるんじゃなかと?」「はい」「いるんよね?」「はい。います」
「うん。れいなもいると思っとったよ。40%くらいはね」「ありがとうござい…!」「え?」
憂佳は強気で勝気な性格をしていた。お世話になった先輩には涙は見せたくない。
後ろで何かを叫んでいる田中を置き去りにして憂佳は走り出す。
学校は冬休みだけど、きっとバレー部も陸上部も練習してるはず。だって体育会系だもん。
今度はこちらから会いに行こう。会ったら何を言おう。何を話そう。公演の感想でも尋ねる?
いや、でもその前に、自分の方から何か言わなきゃいけないことがあるような気がする。
今はその『何か』が何かわからないし実感できないけど、きっと実感できる日が来るのだろう。
次は誰かに言われる前に自分で気付こう。絶対に。心に堅く誓って憂佳は全力疾走で街を駆ける。
- 292 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/26(月) 07:00
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- 293 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/27(火) 07:00
- 黒く描いたその先に
- 294 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/27(火) 07:00
- クリスマス公演が終わると同時に、鞘師里保は合唱部を退部した。
合唱部の部員全員から可愛がられていた里保。退部に際してはかなり嫌味も言われた。
可愛さ余って憎さ百倍だろうか。公演という美味しい舞台だけを味わったからだろうか。
だがそんな雑音も光井愛佳が全て一掃した。口喧嘩で愛佳に勝てる人間はこの学校にはいない。
里保の真似というわけではないが、鈴木香音も美術部を退部した。
誰にも嫌味は言われなかった。何の雑音もなかった。愛佳も何もフォローしなかった。空が青かった。
たった一人の美術部員である菅谷梨沙子は「またいつでも来てね」と無垢な笑顔で手を振った。
こうして書道部には、光井愛佳と鞘師里保と鈴木香音の、完全な三人体制が戻った。
これが本来の姿のはずなのに、なぜか愛佳は少しくすぐったいような変な気持ちがした。
部活の掛け持ちについて「やらせなさい」と言った道重さゆみの考えが、今なら少しわかる気がした。
何だかんだ言って、愛佳はクリスマス公演を二人で見た。恋人とではなく、香音と二人で。
「ロミオとモモエット」という演題だったから、まさかSFスペースファンタジーだとは思わなかった。
愛佳が期待していた甘い恋愛シーンはほとんどなかった。清水佐紀の台本にはいつも騙される。
人間だけではなく、猫が出てきたりロボットが出てきたりと、本当にシュールな演劇だった。
だが内容は濃かった。あのレーザーガンでの銃撃戦は演劇部の歴史に残る熱演では、とすら思った。
そして里保の歌も凄かった。歌だけでなく、ダンスや演技まであるとは思わなかった。
どこまでも伸びあがる歌声。躍動感に溢れるダンス。とてもあの鞘師里保とは思えなかった。
いや。「書は人なり」。道重の言った通りだ。まさにその通りだったかもしれない。
里保の歌やダンスは、黒く描かれた里保の書の軌跡そのものだった。
「あんな風に歌えるなんて」「あんな風に踊れるなんて」「あんな風に演じるなんて」
全てそれらは「こんな風に書けるものなのか」という里保の書に通じていたように思えた。
悔しい。里保の歌を聴いてなぜかそう思った。里保の書を見て悔しいと思ったように。
そして愛佳は今日も里保と香音と机を並べて書に向かう。
悔しいという気持ちがある限り、自分はもっと上手くなれる。そう信じて筆を持つ。
新垣に言った言葉は忘れていない。「ぬかれたのなら ぬきかえすだけ」
ミュージカルがなんじゃい。絵画がなんじゃい。あたしはあたし。光井愛佳じゃ。
力を込めて筆をひねる。ひらがなを書くときはどうしても右側が浮つく。ふわふわと。
書は人なりか。また恋愛でもしてみようかな、と思う浮気な光井愛佳であった。
- 295 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/27(火) 07:00
- *****
- 296 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/28(水) 07:00
- 苦難の時間は終わらない
- 297 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/28(水) 07:00
- クリスマス公演が終わって数日。演劇部の部室もようやく落ち着きを取り戻した。
いくつかの資材は部室に戻ってきた。そしていくつかの資材は役目を終えて廃棄された。
今回の公演では随分たくさんの資材をセットに使った。久しぶりに部屋がすっきりとしていた。
「おはよう」「おはよう、佐紀ちゃん」「あれ? 雅一人? 他の子は?」「みんな休みみたい」
年末を迎えつつあるこの季節、演劇部や他の部でも「自由練習」という名の休みに入っていた。
人気の少ない雰囲気。我が家のような勝手知ったる部室。何をしても許される自由な時間。
最上級生だけが味わえる心地よい時間。だが雅と佐紀には、そういった時間はもう残されていなかった。
「はあ。これで部活も引退かー」「生徒会の方は?」「そっちは卒業まで続くけどね」「いいな」
「でも実質的には下の代と代替わりだよ」「うちらも来週で代替わり?」「うん…。そうなるね」
「じゃ、この看板も下ろしますか?」「これね、どうしよう。本当は下ろすべきなんだろうけど」
部室の壁には大きな額縁がかかっていた。雅や佐紀達の代になった時に掲げた看板。
嗣永桃子が半ば無理矢理に書道部の光井愛佳に書かせた一筆の書。桃子の考えた言葉。
桃子達の代は、ずっとこの言葉を部のポリシーとして掲げて部活を続けていた。
だがその看板も桃子達の代の引退と共にお役御免の時が来ていた。
「一応、桃に聞いた方がいいんじゃない?」「桃ね、風邪引いて倒れてる」「あらららら」
「あの子は突然電池が切れるから」「ホント、桃ってロボットみたいなところあるよね」
「あの役は良かった。機械っぽかった」「猫の群れが乱入してきたときは素に戻ってたけどね」
「あれは生田が悪い。あのバカ、あんな仕込み隠して」「みんなは演出だと思ったみたいだけど」
二人はひとしきりクリスマス公演のミュージカルの思い出について語り合った。
たった数日前のことなのに、なんだかもう古い歴史の中の出来事のように思えてならなかった。
あの嗣永桃子ともう演劇ができなくなる。何だかそれが清水佐紀にとっては嘘みたいに感じられた。
だが夏焼雅はそんなセンチメンタルな感情は湧いてこなかった。腐っていても続くのが腐れ縁。
「雅はいいね」「何が?」「だって卒業しても進路が同じじゃん。桃と」「そうね。また同じだよ」
「幸せな時間は終わらない、と」「苦難の時間が続くんだって」「演劇も?」「続けるだろうねえ」
「二人で?」「一人じゃ無理だし」「じゃ、この看板も持っていけば?」「こんなデカイのを?」
壁一面に広がっている大きな書を雅は指差した。そこに書かれている嗣永桃子の人生訓。
確かにこの言葉は雅も好きだった。クリスマス公演の時も、何度この言葉を思い返しただろう。
でもこの看板は置いていこう。卒業後も未練がましく持ち続けるようなものじゃない。
きっとこの言葉は、この学校の中だけで、このあたしたちの代にだけ通用する魔法の言葉なんだ。
もう魔法は解けた。いや、解けてないけど。でも。かかった瞬間に消えて忘れ去られるから魔法なんだ。
雅はそう思うことにした。終わったんだ。その時突然、雅は初めてセンチメンタルな気持ちになった。
噛み締めるようにして、雅はもう一度、嗣永桃子が好きな言葉を心の中で読み上げた。
演技で人の気持ちを明るくできるようになりたい。
きっと人生にくじけてる人が、いっぱいいると思うから。
- 298 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/28(水) 07:00
- *****
- 299 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 07:00
- 口惜しいけれど
- 300 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 07:00
- コラ! 待ちなさい! あなた譜久村さんでしょ。譜久村聖さん。逃げても無駄よ。逃がさないわ。
校外だからって油断したわね。真野はいつもあなたを見てるから。学校をさぼってどこに行く気?
あら。休みだなんて関係ないわ。あなた演劇部でしょう。要するに部活はどうしたのっていう話よ。
自由練習? ダメよ。そんな言い訳しても。あなたそんなことを言ってこの週末もさぼる気なの?
今週末はこの真野恵里菜が生徒会で初めて企画した来年度入学生の学校見学会があるのよ!
あなたもエレベーター組ならわかるでしょ。エレベーター組の子はもう推薦入学が決まってるのよ。
要するにそういったエレベーター組の子に学校の中を見せてあげようっていう素敵な企画なのよ。
は? 今週末は大みそか? あら、そうだったの。だからみんな反対したのかな。別にいいけど。
とにかく! 真野恵里菜初主催企画なのよ! 失敗は許されません。あたなも絶対参加しなさい。
いいわね。うん。そうそう。じゃあ確かに約束したからね! 必ず大晦日は学校に来るってことで。
え? 生徒会の代替わり? 何それ。どこのバカが誰がそんなバカなことを言っていたんですか。
清水佐紀さんが。へー。いいわ。今のは聞かなかったことにしてあげる。あなたも黙ってるのよ。
あらあなた反抗的ね。まるで和田彩花みたい。あの子も真野の一つ下だけど…。え? なによ?
あ、ダーワーは真野の二つ下ね。はいはい。知ってます知ってます。知っててあえて言ったのよ。
あんたやるわね。あたし、実はあなた達演劇部のことは買っているのよ。嗣永さんだけじゃなくて。
本当だってば。特にあの子。生田衣梨奈だっけ。伊達に「えりな」は名乗ってないわよねって話よ。
口惜しいけれど、今回は真野の負け。えりなさんにはそう伝えてくれるかな。うん、真野の完敗よ。
あのミュージカルは最高だった。あの猫の大群の乱入シーンとか圧巻でハリウッドみたいだった。
しかもその猫が一斉にハンドスプリングするんだもん。驚いた。そりゃ、観客も沸くっていうものよ。
譜久村さんの演技も悪くなかったわ。でも前田憂佳ちゃんに比べたら負けてたかもしれないわね。
憂佳ちゃんとさらまわしちゃんの銃撃戦のシーンは本当に凄かった。あれがベスト・オブ・ベスト。
さらまわしちゃんに守られる譜久村さんのお姫様役もなかなか可愛かったわよ。認めてあげます。
でもあなた、死ぬ演技が下手。論外よ。自分で「死ぬー」って言っちゃう役者なんて初めて見たわ。
あなたとさらまわしちゃんが悪役として生きないと、憂佳ちゃんと嗣永さんのキャラも立たないの。
あらなにそれ。真野は演劇のことだったらちょっとうるさいわよ。演技のことには詳しいんだから。
要するにね、真野は嗣永さんのファンなの。あの人は人生これ演技ですから。詳しくもなるわよ。
とにかくね、あなたの演技は全然ダメ。残念ながら生田衣梨奈さんの足元にも及ばなかったわ。
もう一度言うけど、今回のミュージカルのMVPは生田衣梨奈ね。きっと全校生徒が認めると思う。
彼女の演じた「レーザービーム」の役は凄かった。口惜しいけれどあれはきっと歴史に残るわね。
- 301 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/29(木) 07:00
- *****
- 302 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 07:00
- 窮屈な関係
- 303 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 07:00
- 2011年最後の金曜日。体育会系のクラブはこの日の練習が最後というパターンが多かった。
数少ない例外がバレー部。鬼の主将率いるこのクラブは大晦日の日も夕方まで練習があった。
一方、福田花音が所属する陸上部も今日が最後の練習。しかも午前中だけで上がりだった。
そんなわけで花音は、午後からはバレー部の和田彩花の練習につきあっていた。
「だいぶ良くなったよ」「まだまだ。まだ早いって」「もう走れるんじゃないの?」「ダメ!」
膝を怪我した彩花はずっと一人でリハビリを続けていた。生まれつきのマイペース派の彩花。
すぐに無理をしようとする彩花。そんな彼女にブレーキをかけるのが花音の仕事だった。
もう。この子には休もうとか立ち止まろうとかいう発想がないのかな? 呆れるやら尊敬するやら。
「彩花って練習好きだよね」「ただのリハビリじゃん」「でも毎日じゃん」「毎日は当然でしょ」
「バレー部ってもしかして正月も練習?」「ううん。三が日は休み」「えー! 意外!」「でしょ」
「絶対練習だと思った」「三が日は休みなんだよ」「へえ」「それ以外は休みなしだけどね」「げ」
怪我した直後は精神的に不安定だった彩花も最近は落ち着きを取り戻していた。
特にクリスマス公演を見た後は、憑き物が落ちたかのように表情に明るさが戻った。
次の日に「憂佳ちゃんとは仲直りした?」と聞いたら、彩花は「えへへへ」と笑って答えなかった。
何か良いことがあったらしい。だが絶対言わないだろう。こういうときの彩花は岩のように口が堅い。
そういう花音も、クリスマス公演の後に花音と憂佳の間に何があったかは言わない。
彩花のことは好きだけど。好きだからこそ言えないこともある。だから多分、一生言わない。
互いに秘密を抱える彩花と花音。彩花と憂佳。憂佳と花音。そして花音と彩花。
一方通行ではない、これまでとは少しだけ違う関係。三すくみで動けない、窮屈な関係。
決してフィフティ・フィフティにはなれない関係だったが、今の花音にはそれで十分だった。
不思議と心が軽かった。軽くなって初めて気付いた。今までずっと重い荷物を背負っていたことに。
クリスマス公演を見て憑き物が落ちたのは、もしかしたら花音の方かもしれない。
とにかく今は心が軽かった。あの演劇のレーザービームのように自由に飛び回れるような気がした。
好きなことを好きなようにやる。やりたいことをやる。言いたいことを言う。好きな人を好きでいる。
簡単そうに見えて難しいこと。でも難しそうに見えて簡単なこと。だから彩花を誘ってみる。
「でも大晦日の練習は夕方までなんでしょ」「そうだよ」「その後は空いてるじゃん」「まあね」
「じゃ、一緒に初詣に行こうよ!」「え、夜中とかに行くやつ?」「0時だよ。夜中じゃないじゃん」
「げ。眠いよー。去年もそんなこと言ってさ、結局花音ちゃんの方が帰りに一人で寝てたじゃーん」
「そうだよ」「威張るな!」「去年も今年も来年も再来年も。ずっとそうなの」「げ。お断りします!」
もたれかかってくる花音の体をぐいと押しのけ、彩花は思いっ切り眉毛をハの字に歪ませた。
- 304 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/30(金) 07:00
- *****
- 305 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/31(土) 07:00
- 百代の過客
- 306 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/31(土) 07:00
- 今年の大晦日は大いに騒々しい。妙に幼い生徒達があちらこちらで大きな声を上げていた。
制服のデザインは全く同じ。ただし襟に入ったラインの色が違う。
同じ系列の学校から、来年ここに上がってくる生徒。俗に言う「エスカレーター組」の子。
大晦日など全く関係なく、今日はそういった生徒達の学校見学の日になっていた。
「なんでわざわざ大晦日にこんなイベントをするのよー。昼間っから。面倒だなあ」
美術室の窓からぼんやりと校庭を眺めながら、菅谷梨沙子はそんなことをつらつらと思った。
たった一人の美術部員である梨沙子は、あくびをしながら油絵を描いていた。
学校見学は、同時に部活動の見学も兼ねていた。あちこちで部員が駆り出されている。
やる気満々で競い合うようにして激しく勧誘合戦をしているバレー部とバスケ部。
最初っからサボリを決め込んで誰一人学校に来ていない演劇部。
対応の仕方は皆バラバラだったが、大晦日ということもあって学校も大目に見ているようだった。
梨沙子は特に勧誘に熱心ではなかった。鈴木香音が辞めて再び一人になった梨沙子。
だが今はそんなことは気にならなかった。一人だけど一人じゃない。そう教えてくれた人がいた。
一人でうずくまっていた暗い闇。そこから引っ張り上げてくれる人がいた。だからそれで十分。
それでも一人が寂しいと思うこともある。あのクリスマス公演を見た後は特にそう思った。
心が熱くなり、温かくなると同時に「どうして私はあそこにいないんだろう?」と感じさせられた。
部活の掛け持ちをしたいわけではない。自分の力であんな世界を描きたい。そう強く思ったのだ。
でも今はまだ無理だ。何が無理かはわからないが、まだスタートは切れない。もう少しだけ…
「こんにちは! ここ美術部ですよね? 見学いいですか!」
柔らかい顔をした幼い少女がそこにいた。梨沙子の心の扉がカチリと音を立てて開く。
ふにゃっとした笑顔の少女は、さらにおどおどとしたもう一人の少女の手を引いて部屋に入ってきた。
二人は梨沙子の絵を見ながらわーわーと歓声を上げる。久しぶりに梨沙子の心に満ちる温かい感情。
またこうやって皆で部活ができたら。一緒に楽しみながら絵が描けたら。もう一度。あの頃のように。
「あたし、工藤遥っていいます! 春からはこの子と一緒に美術部に入りたいでーす!」
春からは。そうだ。『一からやり直そう』。この学校のどこからか、そんな歌声が聞こえたような気がした。
- 307 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/31(土) 07:00
- *****
- 308 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/31(土) 07:00
-
あ の 頃 歌 っ た 数 え 唄
完
- 309 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/31(土) 07:00
- *****
- 310 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/31(土) 07:00
- special thanks to
ののケン
JST clock
はと宗
navy
- 311 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/31(土) 07:00
- ご愛読ありがとうございました。
- 312 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2011/12/31(土) 07:01
- この物語はこれにて完結です。
お付き合いいただいた読者の皆さんありがとうございました。
思うところがあって、完結まではレス返し等は控えていました。
愛想が悪くてすみませんでした。
物語に関する感想などがあれば、このスレに直接書いてもらえると嬉しいです。
- 313 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/31(土) 08:59
- 完結おめでとうございます。
前半は一話一話の更新に笑い泣きでしたが
物語が一つに収束していく後半は続きが早く読みたい
という気持ちでした。
毎日の楽しみを本当にありがとうございました。
そして本当にお疲れ様でした。
- 314 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/02(月) 22:55
- 毎日読んでました。
まだよくわからない9期がわかったようになれた。
楽しかったです。ありがとうございました。
- 315 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/02(月) 23:35
- 完結お疲れ様です。タイトルを見るのがいつも楽しみでした。
真野ちゃんの回はある意味ストーリーテラーみたいになってて興味深かったです(^_^
- 316 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/03(火) 17:54
- 毎日このスレ覗くのが習慣だったのに終わると思うと寂しい…。
- 317 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/03(火) 20:24
- >>313
感想ありがとうございます。
前半と後半でちょっと雰囲気が違ってしまったかなと思ったんですが
両方とも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
- 318 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/03(火) 20:25
- >>314
毎日読んでいただいてありがとうございます。
私もこの小説を書いて9期のことがさらに好きになったような気がします。
小説を書いたり読んだりすることで印象が変わるってことありますよね。
この小説を読んで、良い意味で変わってもらえたなら嬉しいです。
- 319 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/03(火) 20:26
- >>315
ありがとうございます。若干疲れましたw
タイトルを考えるのはそれなりに頭をつかったので疲れましたw
でも一番疲れたのは真野ちゃんのパートを書くことでしたw
いやでも真野ちゃんは良い子ですよいやマジで。
- 320 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/03(火) 20:27
- >>316
毎日見ていただいてありがとうございまいした。
書く方も一つの習慣みたいになっていたんですが、読者さんもそうだったんでしょうか。
終わるのが寂しいっていうのは最高の褒め言葉だと受け取っておきます。
ありがとうございました。
- 321 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/05(木) 17:36
- 完結お疲れ様でした。
毎日、本当に楽しみにしていました。
たくさん笑いました。
切なくなったり、愛しくなったり
やっぱりハローは良いなぁと思わせていただきました。
素適なお話をありがとうございました。
- 322 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/06(金) 20:11
- >>321
毎日見ていただいてありがとうございました。
ハローは良いですね。書けば書くほど好きになります。
読めば読むほど好きになってもらえたらすっごい嬉しいです。
- 323 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/17(火) 21:29
- >物語に関する感想などがあれば、このスレに直接書いてもらえると嬉しいです。
と、ありましたので感想を書かせて頂きます。容量を沢山使ってしまうことを先にお詫び申し上げます。ごめんなサイ。
001「一からやり直そう」(福田花音・小川紗季)
福田さんのストイックさ、というのを想像したことがなかったので早朝黙々とスタートダッシュの練習をする姿が新鮮に思えました。ずっと無音で文字を追っていたのですが。「カンカンカン」から急に音が想像できて印象的でした。読み終えた文章までの音までが蘇ってくるような感じでした。
002「二位じゃダメなんでしょうか?」(鈴木愛理・矢島舞美)
鈴木愛理っぽい!!!ギャフンと思ったタイトルです。そして文章中も自信たっぷりと思わせるあいりんがあいりんぽくてこの鈴木愛理好きです。
>たまに「愛理が一番だよ」と言ってくれる子もいるけれど
この褒め言葉に謙遜しないところとか。
>それにしても「君臨」って舞美ちゃんには似合わない言葉だー。
上記に続く矢島舞美の印象を説明する語り口とかちょっと得意げな感じが鈴木愛理っぽくていいなぁ。
003「三段論法で証明します」(嗣永桃子・夏焼雅)
理由はこれといって分かんないけど一緒にいたりする、友達ってそういうもんだよねという気がします。
>不発弾の処理をするのは雅の仕事
妙に義務感を持ってそうなところがとっても雅さんらしいなと思いました。一緒にいる理由がよく分からなくても。腐れ縁だとしても。まぁ好きだから一緒にいるんだろうけど。みやももに通じる「好き」って感覚がいいんです!!!
004「あなたで四人目です」(真野恵里菜)
論理的な真野ちゃんが登場しました。見事にソロ活動でした。11行目の
>大丈夫ですか?
で、畳み掛けられた時は笑っちゃいました。
005「五限が始まる前に」(鞘師里保・鈴木香音)
ごめんなさい。4ブロック目の最後の行。
>香音ちゃんは食堂のスーパーヒーローなのだ。
声出して笑っちゃいました。そう思っているりほりほが絶妙に幼くてかわいらしいです。
006「正六角形」(中島早貴・岡井千聖)
2ブロック目の最後の行。
>ただ、削られた木の皮が、ティッシュの上に鰹節のように積み重なっていくところを見るのが早貴は好きだった。
なっきぃはヘンなものが好きそうだなと思いました。
そして、3Hの鉛筆の感触を知りたくなりました。
007「乙女の七変化」(前田憂佳・和田彩花)
ゆうかりんの日常っていうだけで魅力的なんですけど。和田彩花という女の子が一体何者なのか気になってしまう、ゆうかりんの描写でした。
008「口八丁の手紙八丁」(光井愛佳)
今まで光井さんがどんな人なのかあまり想像したことがありませんでした。久住小春が卒業するコンサートで、久住小春に向けての餞のコメントが一番光井愛佳っぽいなぁという印象でした。気持ちを素直に言葉にできる久住さんが羨ましかったっていう。なんかそんなことを思い出しました。
009「九州には帰しません」(譜久村聖・生田衣梨奈)
フクちゃんが自分勝手で面白かったです。鞘師ちゃんと香音ちゃんといい、えりぽんとフクちゃんといい。モーニング娘。9期メンバーの力関係に徐々に興味を持ち始めました。
010「もう十月なんですけど」(真野恵里菜)
すごいソロ活動です。ここで、真野ちゃんとももちと雅さんが同じクラスなんだなっていうことが分かりました。でも、真野ちゃんはソロ活動でした。どこで、真野ちゃんがスレッド全体の物語に交わってくるのか楽しみです。
- 324 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/17(火) 21:30
-
011「いちいち耳障りでさ」(徳永千奈美・須藤茉麻)
最後にまとめているのが茉麻だとして、きれいにまとめてるなぁ千奈美のクセにと通して読み終えた時は腑に落ちなかったのですが。読み終えてからタイトルに戻ってみると徳永千奈美っぽいなと、なんとなく納得できました。
012「ご自由に」(萩原舞・鈴木愛理)
珍しい組み合わせだ。と、12話目にして気がついたので1話ごとに主な登場人物名をタイトルの横に添えることにしました。
℃-uteって、もし鈴木愛理がいなければ萩原舞がエースになったのでしょうか。でも、鈴木愛理がいなければ℃-uteは結成されたか分からないですもんね。
このお話、面白いなぁ。まいまいが鈴木愛理を意識しまくっているところが面白いなぁ。そしてそれをおくびにも出さない感じが面白いなぁ。このスレッドの中でのあいりんがまいまいの気持ちに気がついているのか気がついていないのか、気になりますね。
013「13日の水曜日」(真野恵里菜)
9行目の
>あなたは三人分やかましいんだから、三人分じっとしていてください!
ももちに対しての注意なんですけど。腹の底では真野ちゃんが思ってそうだなぁって。頷いてしまいました。一人語りの真野ちゃんになんだか性別を超えた印象を受けます。なんででしょう。女の子っぽいワケでもなく、男の子っぽいワケでもない。この一人称の語り口。オチの所為かな。
014「14秒のスプリンター」(清水佐紀・矢島舞美)
ベリキューリーダーの登場で、しかもキャプテン目線のお話です。つい、ハローチャンネルvol.5「リーダー論」を読み返してしまいました。100m走では、キャプテンのタイムは伸びなかったけどさ。でも、これからの進路なんて、何が起こるか分かんないゼ!って。実際、舞美もキャプテンも20歳ですからね。若いです。これからどうなるかなんて、分かりません。
015「夢見る十五夜」(和田彩花・福田花音)
これは、2011年12月にスマイレージのオリジナルメンバー(和田、前田、福田)が富士急ハイランドで遊んだことについての予言ですね。すごい観察眼だ。
ゆうかりん目線にしろ、福田さん目線にしろ。彩ちょが奔放に振る舞っている姿が微笑ましいです。階段を上るごとに彩ちょのテンションが上がっていく様子まで想像してしまいました。いやぁかわいいなぁ。
016「色」(譜久村聖・鞘師里保)
せっかく「色」という壮大なタイトルなのに。4ブロック目最初の行。
>香音がしきりに里保を誘う。「一緒に早弁しようよー」「やだよ」「いいじゃん」「絶対やだ」
ごめんなさい。笑ってしまいました。面白いよ香音ちゃん!!!
色とかどうでもいいよ、とか思い早まっちゃった。素敵なオチよりも、香音ちゃんの言動が印象に残ってしまいました。
017「否」(岡井千聖・鈴木愛理)
鈴木愛理のずるさと、岡井ちゃんの人の好さに頷けます。岡井ちゃんの発言は大体まともです。もし「否」、「否」と自問自答していても違和感がないと思います。あいりんの方が突拍子無い発言をするイメージです。4ブロック目の
>「千聖ってー、恋愛したら綺麗になるタイプ? もしかして先週くらいから?とか。あは」
や、次のブロックの
>「んふふ。相手はわかんないけどさ。でもたぶん気付いてるのってあたしだけだよね。ね?」
とか。突拍子無く言いそうです。
018「嫌」(和田彩花・前田憂佳)
3ブロック目の彩ちょが語るゆうかりんの説明で、どうして彩ちょはゆうかりんと衝突しないのかな。と思ったんです。すると、最後に書いてありました。ゆうかりんにケンカを売ったり買ったりするクラスメイトと、彩ちょとでは比較できない美意識の差があるからなのでしょう。
019「行くなら一人でどうぞ」(熊井友理奈・中島早貴・菅谷梨沙子)
2ブロック目の最後の行。
>やっぱり最後は一人で頑張るしかない。
熊井ちゃんからそんな言葉が出てくるんだ、という新鮮さを覚えると同時に説得力もある言葉でした。
いや、梨沙子が登場してからのちぐはぐ感がまた説得力のあるちぐはぐ感で不思議です。梨沙子の横柄な感じかなぁ。
020「二重の意味で」(真野恵里菜)
真野ちゃんは真野ちゃんの物語を自分で語っているので、スレッド全体の物語とは交わらないのでしょうか。
しかし、このスレッドの登場人物はみんなそれぞれやりたい放題の印象なので、真野ちゃんだけ物語と交わってこないのが、20話目では不思議な感じがします。
- 325 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/17(火) 21:31
-
021「新潟産の美味しいお米」(光井愛佳)
光井さんの先輩がガキさんというところにときめきました。高橋愛でなく、新垣里沙というところがツボでした。
022「22世紀でお会いしましょう」(嗣永桃子・清水佐紀)
雅さんといい、キャプテンといい、どうしてももちに付き合っちゃうんでしょうか。嗣永桃子のどこかにも、かわい気があるんでしょう。この話でいうと。6ブロック目の
>「いいの。10年後のあたしってそんな感じじゃない?」「10年後どころか22世紀になっても無理だー」
>「あ、それいい。22世紀のあたしもいいなあ」「マジで?」「キュートで無敵なアンドロイドのあたし」
ノリが良いところ、、、か、な。この1レス内でももちのかわいい部分を探しましたがキャプテンの方が健気でかわいく思えました。脚本書いてきて、ダメ出しされてるのに、SFはお金がかかるんだよなぁなんて、具体的に思案しているところとかかわいかったです。キャプテンは苦労がたえないですね。
023「お題は東京23区で」(譜久村聖・生田衣梨奈・鈴木香音)
あんぶらんって何?
あんぶらん、あんぶらん……フランスの地名ですか!!!!!愛知県だから、小倉サンドのようなケーキなのかと思いましたけど。なんだろう、あんぶらん……。
一生懸命なフクちゃんがかわいいです。顔を真っ赤にしている様子がすぐに思い浮かびました。しかし、香音ちゃんの負けっぷりの描写が見事です。香音ちゃんのお弁当が残飯の一歩手前って悲しい!切ない!!
024「24時間守ります」(真野恵里菜)
マノペースが守られていることがすごい。鈴木、生田、譜久村の三人にちゃちゃ入れられてもマノペースを守っている。とりあえず見ない顔の4人を足止めして注意をする真野ちゃん。名前を確認して、言いたいこと言う真野ちゃん。でも、自分に都合の悪い要望にうんとは言わない。これはマノペース。
025「出席番号25番」(和田彩花・前田憂佳)
>ハ行の人くらいじゃわかってもらえないの。
というところが、彩ちょっぽいなぁと思いました。福田さんを軽々しく扱っているところも面白いです。
026「付録がついてきます」(中島早貴・鈴木愛理・岡井千聖)
℃-uteの話がやたら面白いスレッドです。それだけ℃-uteメンバーのキャラクターに可能性があるのと。現℃-ute内において緊張した(もしくはしていた)関係性があるのと。そして、作者さんの言葉の遣い方の所為です。「付録」って!!これは面白い。
027「担うのは君だ」(須藤茉麻・熊井友理奈)
>「えー、もうバテたの? もう一本いこうよー」
甘える熊井ちゃんがかわいかったので満足です。
028「ニヤニヤするのは嫌いじゃないです」(前田憂佳・和田彩花)
ゆうかりんはムッツリスケベって、どこかで聞いたことがあるようなないような。そんなお話だった、と私は思った。
029「フクちゃんはね」(譜久村聖・鈴木香音)
冷静な香音ちゃんの一面を読むことができて得した気分になったお話でした。食堂のスーパーヒーローの冷静な部分です。一歩踏み込んで香音ちゃんの内面を知るような実に興味深いお話でした。
030「この30cm定規が目に入らぬか」(真野恵里菜)
真野ちゃんの登場です。このスレッド内で真野ちゃんの登場をちょっとだけ、まだかまだかと待ってしまっている自分が憎いです。
真野ちゃんのソロ活動に寂しさが伴わないのは、真野ちゃんの性格が由縁してるワケですね。気の強さ。
- 326 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/17(火) 21:31
-
031「最悪のパターン」(中島早貴・岡井千聖)
強がりのなっきぃがかわいいです。
最後の行の、なっきぃがとくにかわいかったです。
032「ミニシアター」(生田衣梨奈・鞘師里保)
オチをつけてくれる鞘師ちゃんがいるから、えりぽんのKY加減が生きるのかしら。ももちがやらかした後始末を義務感にかられ付き合う雅さん、の関係と比較すると。鞘師ちゃんとえりぽんには長い間一緒に過ごしたからこその、というような印象はありませんが。最後の一言でばっさり切る鞘師ちゃんの切れ味のするどさはピカいちに伝わってきました。
033「耳を澄まさなくても」(萩原舞・岡井千聖)
なんてひねくれたタイトルだ!と、初めは思いました。しかし、30行に満たない本文を読み終えて。なんだよちくしょう!とタイトルに惚れ惚れしてしまいました。
岡井ちゃんとまいまいの女子高生ライフなんて、遠い昔のこと。と思っていたけどそれは勘違い。現役でしたね。スクールライフ、的な印象の少ないお二人でした。
本当に、℃-uteが面白いスレッドですね。合唱部の℃-uteっていう設定も面白いです。あいりん、まいまい、岡井ちゃんが合唱部。なっきぃはバレー部。矢島舞美は陸上部と生徒会。歌が上手いもんね、あいりん、まいまい、岡井ちゃん。
034「見様見真似」(真野恵里菜)
真野ちゃんの一人語りのこの設定をこんな使い方するんだ!!!!と、驚きました。物語に交わってないようで、こんなところでゆうかりんを登場させるだなんて……。なるほどー
035「見事に見頃」(夏焼雅・菅谷梨沙子)
何このりしゃみや。萌えたわ。
大胆なカップリング要素(下品な表現ですみません)はありませんが。ももちを利用して、梨沙子をかわいがる雅さんって。妄想掻き立てられまくりです。何このりしゃみや。萌える。
036「36℃の微熱」(和田彩花・福田花音)
くだらないよ!!!!ううう。でも彩ちょと福田さんが遣り取りしてるかと思うと微笑ましく思えるから不思議ですね。アイドルマジックですか。っていうか、タイトルがくさくないですか?クサイというか。少女マンガみたいです。福田さんが少女マンガの主人公みたいになってました。まさかの!!!って。なにがまさかなのかよく分かりませんが。作者さんと少女マンガセオリーと、福田さんと少女マンガの主人公が自分の中であまりマッチしてなかったようです。
037「37℃の憂鬱」(岡井千聖・鈴木愛理)
こんな「よく分からない子」鈴木愛理の表現ありなのかよ!!!と、思いました、私。最後の一言なんですけどね。ギャフンです。
038「38℃の逆上」(鈴木香音・鞘師里保)
体温シリーズが3つ続きました。
しかも、内容がひどい。(胸糞悪いという意味でなく)
バナナと少女の組み合わせが気に入っただけだったのでしょうか。私は、こういう話が大好きなので気分が面白くなっちゃいました。
039「三重苦」(真野恵里菜)
15行目あたりの
>ふふ。ちょっと詩人っぽいですか?
に、笑ってしまいました。我慢してたのに。笑いの沸点を高く維持してやろうって気構えていたのに。ああ!くそう。面白いなぁー真野ちゃん。ああ、悔しい。
040「嫉妬」(熊井友理奈・徳永千奈美)
とっくまの底抜けの明るさって貴重な日本の財産だと思います。
>「だってキャプテンの言うことに間違いないし」
だって、とか言っちゃってる熊井ちゃんがめっちゃかわいいです。
- 327 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/17(火) 21:31
-
041「良い子じゃないです」(前田憂佳・鈴木愛理)
現実世界だと同学年のお二人ですが。これはどういうことでしょうか。ゆうかりんよりもあいりんの方が年が上なのかしら。
前田憂佳鈴木愛理の二人は、タカハシスターズでした。
キャラクターはまったく通じる部分がないように思っておりましたが。本物志向というか、
あいりんが言う
>「歌で見返そうよ」
という言葉に鼓舞されるゆうかりん。
実力本位、という部分が似ているお二人なのかもしれないなぁとか思いました。
042「死にたくねえし」(和田彩花・中島早貴・熊井友理奈)
このタイトル恰好良い!
普通な彩ちょが面白かったです。鬼のキャプテン(中島)にも学校一の長身(熊井)にも、臆することない彩ちょの様子が面白いです。
実際、エッグメンとベリキューメンの力関係はよく分からないのですが。敬意を表しながらも自分は自分って感じの彩ちょに魅力を感じます。
043「しみずさきさーん」(清水佐紀・福田花音)
タイトルだけを読んで、真野ちゃんが出てくるのかな、と思っていたのですが。そんなに重要な役割を担っていませんでした。真野ちゃんはこのスレッドの物語と交わらない交わらないと思っていたのに。もはや主人公ぐらいの勢いで印象に残っています。なんだこりゃ
キャプテン(清水佐紀)の
>「舞美はあっちこっち行ってるから」
発言に笑ってしまいました。ばたついている矢島舞美がすぐに思い浮かぶ。
キャプテンの先輩面って珍しいなって思うんです。リーダー面とか、年上面をあまり見かけないイメージです。Berryz工房のグループ性なのでしょうか。なっきぃが先輩面してるのはすぐに思い浮かぶんですけどね。
なので、福田さんに対してこう、遠慮がちでも和やかな空気の中会話している、という場面が新鮮でした。
044「始終失敗女」(真野恵里菜)
我慢したんです。でも24行目辺りで笑っちゃいました。こんなの真野ちゃんじゃない!!と、思いこもうとしても。面白いんだもん。真野ちゃんも悪くない。作者さんの所為なんですけどね。便乗した自分も悪いです。8:2ぐらいで責任分割。
045「しごかれてみたい」(前田憂佳・和田彩花)
純粋さがゆうかりんっぽいなって思いました。
彩ちょの言葉を鵜呑みにしているところとか。「あたしも期待されてみたい」と発言しちゃうところとか。
046「四六時中」(真野恵里菜)
真野登場の間隔せまいっ。
ほんとに!!!!ごめんなさい。声出して笑っちゃいました。
12行目あたりの、恥ずかしながら、で声が出た。笑いを堪えられませんでした。
047「お題は47都道府県で」(光井愛佳・鞘師里保・鈴木香音)
なんで、千奈美なんだ(この1レスを読めば分かる謎)。
書道部部室の影に千奈美が隠れていたのでしょうか。しかし、隠れていてもなんか不思議じゃないところが千奈美の不思議です。
経験者同士の間にいても、空気を壊さない香音ちゃんの人の好さが伝わってきて面白かったです。
048「しわ寄せがね」(中島早貴・萩原舞)
エッグメンより年が下のまいまいが恰好良く見えて素敵です。
でも、恰好良くたって悩んだり迷ったり困ったりしているわけですから。まいまいが恰好良く見えるのと同じようには、恰好良く見えない熊井ちゃんと中島キャプテン。自虐ネタを体得できるかどうかで恰好良さが決まるのでしょうか。まいまいが興味深いです。
049「四苦八苦」(夏焼雅・譜久村聖・生田衣梨奈)
超珍しい組み合わせです。だって、雅さんが人見知りでBerryz工房は怖いオーラ出してるから。雅さんとエッグメン以下の絡みをあまりお見かけしないのですが。
直感ですけど、雅さんは生田のこと嫌いじゃない、はず。
雅さんが語るももちっていうのが。心に響きます。雅さんが語る梨沙子、よりも心に響きます。茉麻が語る梨沙子ぐらい心に響きます。千奈美が語るももち、はあまり心に響くという感じではないです。冷静な嗣永桃子評になる気がします。
050「フィフティ・フィフティ」(福田花音・和田彩花)
ストイックな福田さん再び。50話(?)目の折り返し地点。
ちょっと哲学的な言葉がキャプテン(清水佐紀)の口から出てまいりました。難しいこと言うなぁ。恋する乙女は哲学者より雄弁になる。か、どうかは分かりませんけど。先輩の自然体の魅力に影響される後輩っていうのがよかったです。キャプテンの意図しないところで、誰かが救われているだ、なんて。とても素敵なお話です。
- 328 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/17(火) 21:32
-
051「合意しました」(道重さゆみ・鞘師里保)
ここまで、作者さんがこらえて待ってくれた組み合わせです。
これは、あれですか。タイトル。家政婦のなんちゃらの影響でしょうか。どうなんでしょうか。
1ブロック目の描写と道重さんが書いた「好きだな君が」のギャップが素敵です。
道重さんの本気加減を見事に文章にしたびっくりする1レスでした。道重さんはかわいいだけじゃない。トップを目指せと本気で思っている人なのだと思います。モーニング娘。に入って来たからには責任持ってトップを目指せる人材に育てます、だなんて一言も口にしてないのに。そんな気迫を感じさせる大物になってしまった道重さん。何が彼女を変えたのでしょうか。
道重さんは鞘師ちゃんのことを、ホントに好きなのかしら。ホントに好きだからどうにかなってもらいたいという愛情表現。なのかしら。成長して欲しい、親心?でも、嫌われ役は光井さんなんですよね。道重さんはずるいんだな。
052「ご自由に」(鈴木愛理)
腹が据わっている、というまいまいのお話を、あいりんが一人語りでお話されておりました。この話、とっても印象に残っております。こんなこと、あいりんが考えてたらスゲー!!って。もっと自分勝手な人なのかと、あいりんについて解釈しておりましたし。まいまいがあいりんについてどんな人だと思っているとか、あいりんがまいまいについてどんな人だと思っているかを考えたことがありませんでした。この話はとてもびっくりしました。
053「誤算と運命」(前田憂佳・福田花音)
恰好良いタイトル!
ゆうかりんの健気さがかわいいですね。健気さがとても似合います。でも、相手が福田さんっていうのが。どうして?と気になってしまいます。
いやしかしながら、こんな典型的な少女マンガみたいなシチュエーションをこうも自然に文字にできるのがすごいなぁ、と思いました。様になる文字運びがいいなぁ。でも、主人公がゆうかりんだからいいのか。彩ちょだと、こうスムーズには動いてくれなさそうですね。
054「ご用件をどうぞ」(真野恵里菜)
ごめんなさい。熊井ちゃんが何をどう言っていたのか言葉が気になって気になって。ああああ気になる!!!!イライラしてるのが、真野ちゃんなのか熊井ちゃんなのか。それとも二人の側にいるどなたかなのか。
この二人の会話(真野ちゃんのお話)を読んでいてイラっとしました。ギャフン。
055「午後の麦茶」(菅谷梨沙子・須藤茉麻)
なんということのない梨沙子と茉麻の会話の描写なのですが。最後まで読むと。午後の麦茶だな、って思いました。麦茶が飲みたくなる。
新しい居場所を探すような、まだバスケ部に心を残しているような茉麻と、寂しいとか言いながら居場所を探す気持ちのなさそうな梨沙子の会話のすれ違いというかかみ合っているようでどこかから回りしているような不思議な状況が面白いです。
056「ゴロゴロ雷」(鈴木香音・譜久村聖)
鼻の下に墨で一文字を書いちゃう香音ちゃんに好感を抱きまくりです。スゲーな。なかなかできることじゃないよな。
自覚している以上に大根役者なフクちゃんを見て見たい。香音ちゃんになって9期を見て見たいですねー。元気な香音ちゃんがめっちゃかわいいお話でした。
057「稲光」(前田憂佳・福田花音)
57話(?)目にしてやっと気付いた。花音と香音のお話だったなんて!!!いい動きしてると思ったよ。花音と香音がー。花音と香音のお話ではないかもしれませんが。対比されていて面白かったです。
そして、むっつりすけべなゆうかりんが遺憾なく発揮されておりました。むっつりすけべもさることながら、二人の口で語られる彩ちょが生き生きしていていいなぁ。あ、今回はバレー部のキャプテンだった。彩ちょじゃないじゃんって思ったのですけど。でも彩ちょが生き生き部活をしている様子が眼に浮かぶようでした。
058「逸話」(真野恵里菜)
ああああ、始終失敗女!!!!始終失敗女ってすごいタイトルですね。
一回外れてまた戻ってくるのにまだるっこしさを感じない真野ちゃんの語り口。いや、まだるっこしさを感じたくて読んでるのかもしれません。途中で放り出されてどこ行くんだろうって思ったらまた戻り。
この、中島キャプテンの描写が3行続いてどこいくんだろうって思ったら、ぽーんって放り出されて、ダーワーの武勇伝に飛んで結局1行目の真野ちゃん「はい、どうぞ。」に戻ってるんです。なんだこれはー。
- 329 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/17(火) 21:33
-
059「ご苦労様でした」(中島早貴・須藤茉麻)
また、珍しい組み合わせ!難しいですよね。なっきぃと茉麻が会話している様子が全然想像つきません。茉麻の包容力を感じられるお話でした。梨沙子と美術室で会話していたり、熊井ちゃんがキャプテンになってから揉めて退部しようとした二人を諌めたり。中島キャプテンのゴリゴリ感や熊井キャプテンのバリバリ感とは全然違う須藤キャプテン像を想像していたのに。その中島キャプテンに敬意を表されるくらい、茉麻の包容力がものを言わせているんじゃなかろうか、と想像しておりました。
060「ムッとする二人」(嗣永桃子・徳永千奈美)
二人のはなしかと思ったら、最後に三人目が現れました。これは、矢島生徒会長なのだろうか。
6ブロック目の2行目
>こっちだって普通に勉強するし恋愛もする。
ここに頷きました。そりゃあそうだよなー。普通に勉強も恋愛もするよなー。
061「無意味ではない」(生田衣梨奈)
26個の「無」から始まる語句が出てきました。初めから26個用意していたのでしょうか。大喜利みたいですねー。
062「ろくに寝てない」(岡井千聖・菅谷梨沙子)
梨沙子の部屋。誰もが訪れてみたい部屋。そこへやって来た岡井ちゃん。自分の気持ちを言葉にしながら岡井ちゃんが自分で自分の気持ちを整理しているみたいでした。梨沙子は手助けするでもなく。言いたいこと言ってるように見えます。
063「ロミオは誰だ」(夏焼雅・萩原舞)
最後の一行で、ホントにロミオは誰だよって考えちゃいました。ちょっとコレ。見たくないけど、見て見たい。
参謀らしくない参謀ぶりの雅さんが何故か恰好良く見えました。ももちとの対比でしょうか。変わってる子あいりんと変人ももちが妙に浮き上がってくる会話でした。それに付き合い後始末をこなしているまいまいと雅さんの二人が恰好良く見えたのかもしれません。他人には分かり難い信頼関係が雅さんとまいまいを恰好良く見せているのでしょう。多分。
これ、同盟相手っていうのが恰好良いなー。
064「ロクヨンで」(前田憂佳・田中れいな)
おおおおおおおお。熱い組み合わせ!!!!!!
ゆうかりんと田中れいなの間に見え隠れする鈴木愛理っていうのも胸熱です。タカハシスターズなのに。
最後の行
>だがそんな憂佳など眼中にもなく。田中は自分に酔いながら自由気ままにいつまでも歌っていた。
素敵な文章だなって思いました。自由きままにいつまでも歌っている田中れいなの様子がとっても魅力的なんです。田中れいなの歌で酔いしれたいですね。
065「無言の勝負」(光井愛佳)
まさに!タイトル通りの内容でした。
こちらまで黙ってしまった。
勝手にモー娘。に置き換えてしまって楽しんじゃっているのですが。
8期VS9期。各期ごとの意志の対決って魅力的ですね。
3期、7期はソロでしたけれど。8期もまた微妙な期です。オーディション合格者は1人だったのに。後から2名追加されしかも異国の文化を持ってきた、という。ストレートに同期を表現できません。例え一人でも8期。2007年藤本脱退〜2010年亀井ジュンジュンリンリン卒業までを支えた一人の光井愛佳が9期とどう対決していくのかが、今後面白いです。目が離せません、モー娘。面白いなぁ。スレッドの感想に戻ろう。
066「ろくろ首みたい」(嗣永桃子・熊井友理奈)
どんな例えだよ。このタイトル!!こういうの、好きなんです。困った趣味だな、自分。
カギカッコの中の会話だけで進んでいくのですが。どっちがももちでどっちが熊井ちゃんなのかなんとなく分かるんですけど。読んでいくとどっちがどっちでもあんまり関係ないのかな、と思えてきた不思議。ももちも、熊井ちゃんも。どちらも面倒くさいということが伝わってきました。
067「虚しい努力じゃないもん」(真野恵里菜)
また、ひねったタイトルですー。じゃ、なんなのかって気になるじゃん。虚しい努力じゃない努力。そもそもそれが努力なのか……。
- 330 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/17(火) 21:33
-
067「虚しい努力じゃないもん」(真野恵里菜)
また、ひねったタイトルですー。じゃ、なんなのかって気になるじゃん。虚しい努力じゃない努力。そもそもそれが努力なのか……。
もう。ちょっと!!!!内容を理解するより。タイトルと真野風紀委員という組み合わせで笑っちゃったじゃん。あーぁ。悔し過ぎる。この真野ちゃんが好き過ぎる。面白いんだもーん。
もう!!!!5行目の生島のくだりで噴出しちゃった。これは。笑いの沸点の低さがー。あーぁ。悔し過ぎる。
そして、タイトルと生田衣梨奈の組み合わせでも笑ってしまいました。
068「ヨーロッパよりも」(和田彩花・徳永千奈美)
また珍しい組み合わせです。おおお。おおおおおお。
ああ、夜が明けそう。(Berryz工房)
弱音を吐けない彩ちょがこんなところにいたなんで。娘。小説メルヘンの酔いがすっかり醒めてしまいました。
069「無垢な心で」(菅谷梨沙子・鈴木香音)
おおおお考えもつかない組み合わせ!!梨沙子の高2と香音ちゃんの中1では。4歳違いなんですね。微妙な差ですね。
微妙な差を間に挟んで会話をしている二人を想像するのはこちらが初めての経験ですから。面白いです。勢いの差が歴然としているところが面白いです。もちろん香音ちゃんの勢いがすごい。
070「馴れ馴れしいヤツ」(萩原舞・清水佐紀)
このお二人は仲良し二人組みです。おおお。
結局はあいりんのよく分からない子像に深みが増していくのですが。理解されにくいけど、単純なヤツなのかもしれません。
まいまいが頑張ってる感じが好きです。あいりんの為に頑張ってるワケではないけど。合唱部の為に頑張ってるのかな。どちらも、でしょうか。そういう身を粉にしてなんとかしようとしているまいまいが恰好良いです。
- 331 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/17(火) 21:34
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071「ないものねだりを続ける力」(鞘師里保)
鞘師ちゃんの目力を想像してしまった力強い文章だと思いました。彼女の内面を地の文章で表されているのですが、最後の一文に籠もっている鞘師ちゃんのブレの無さに上手く共感させられました。
072「何もない部屋」(須藤茉麻・菅谷梨沙子)
梨沙子の部屋。これは69話目の「無垢な心で」を受けた話なのですね。梨沙子が所属している美術部の昔の秘密が臭うお話でした。『あの頃歌った数え唄』というタイトルからか、ゲキハロ『サンクユーベリーベリー』を思い出したお話でした。(あの子が歌ってるのを見たんだ。略して「あのこ歌」)違う世界に住んでいるとしても、信頼し合っている様子が"学子"と"葉子"の二人と似ているなぁと思ったからでしょう。りしゃみやや、くまぁずとは違う何かで結ばれた二人の関係が非常に興味深いと思います。
073「並じゃない」(中島早貴・岡井千聖)
これは、6話話目の「正六角形」を受けたお話でした。
>急に真顔になる千聖。気安い友達の気遣いが重い。気遣いなんて鉛筆削るくらいで丁度いいのに。
最後の方なのですが、ここでどうして気遣いが嬉しいじゃなくて重いのかなぁと思ったのです。重く感じたのは、次の行とその次の行で伝わってくる中島キャプテンの試合にかける本気度の所為でしょうか。本気で優勝しようと思っているから、嬉しいよりも重いと感じた。どうだろう。それにしても、なっきぃがちっさーにほの字とか。くすぐられる要素がちりばめられております。なっきぃかわいい!!!
074「なし」(和田彩花・前田憂佳)
彩ちょがかわいいです。ゆうかりんと会話できて嬉しい!というような様子が眼前に浮かぶようです。それと、中島キャプテンの下、とりたてて打算もなく彩ちょは部活に打ち込んでいるのだろうなぁと想像できて微笑ましいです。
>こんなこと言ってたら中島主将に張り倒さるかもしれないが、
ここで、張り倒す時の中島キャプテンの様子がまた眼前に浮かんできました。超怖ぇよ!
幼馴染の福田さんに対して、彩ちょの扱いも腐れ縁って感じが出ていて微笑ましいです。とにかくかわいい!!
075「名古屋名花」(譜久村聖・鈴木香音)
おおお。これは、ユーストリー娘。を思い出しました。絵ブログコーナーというのがあって、フクちゃん、絵が上手だったよなぁという感じです。
しるこサンドとアイドル比較、対比していいの!!!?ちょっとびっくりしました。思わず。
- 332 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/17(火) 21:34
- 076「南無三」(真野恵里菜)
これは、46話と67話を受けて、雅さんが登場しました。もう一度、46話を読み直しましたが、やっぱり46話の「恥ずかしながら」で笑っちゃった。
24、25行目あたりで声出して笑っちゃいまいした。ギャフン
全然真野ちゃんがヘコたれていないところに面白いなぁと思ってしまいます。付き合う雅さんやら、清水佐紀さんやらが、大変なのでしょうが。まったく懲りない人って外から見ている分には楽しいです。
077「七七で返します」(新垣里沙・光井愛佳)
オチが恰好良かったです。
保田圭ちゃん→石川梨華ちゃん→ガキさん
という説教好きキャラの系譜でよろしいでしょうか。
光井さん視点でしかも関西弁で地の文が書かれているのに、すらすら読むことができてすごいなぁ。
そして、短歌の五・七・五の部分をガキさんが筆をとり、あとの七・七を光井さんに書けと筆を渡され素直に筆を受け取る光井さんがかわいいです。
078「悩みのない空」(鈴木愛理・鞘師里保)
前に、何かでハロプロの中でライバルは誰ですか?の質問に鞘師ちゃんが鈴木愛理って答えていて、あいりんは確か雅さんって答えていた気がします。その後、鞘師ちゃんは10期の石田さんの名前を挙げていました。鞘師ちゃんは日々成長しているんだなぁ。
書道部にガキさん、さゆ、光井愛佳、鈴木香音、鞘師里保。
合唱部に、れいな、鈴木愛理、岡井千聖、萩原舞。
モーニング娘。と℃-uteが反映されているんですね。
その中で℃-uteに刺激を受ける鞘師里保っていうのが面白い視点だなぁと思いました。やはり、℃-uteは歌唱力が高いですし、ダンスもレベルが高いグループだと思うので鞘師ちゃんがもし、テレビやWEBや、メディアで単にちやほやされたい女の子ではなくく。アイドルをしたい女の子だったら、℃-uteってすごい刺激を受けるグループなんだろうな。とまで想像してしまいました。そんな鈴木愛理と鞘師里保の関係。
℃-uteには無い、モーニング娘。の歴史というか15年という時間の中で受け継いできたものを鞘師ちゃんが掴んでみたいと思っているとファンとしては嬉しいです。小説の感想に戻ります。
おおおおお!!!!
あいりんの懐の広さというか偉大さを知ったお話でした。年下でも、新人でも関係なくきちんと向き合ってくれる人ってすごいと思います。
あれですよね、あいりんはド○ゴンボール(少年誌)に喩えるとサ○ヤ人なんですよね。戦闘民族の血が騒ぎ、敵が強ければ強いほどオラわくわくすっぞ、みたいな。
079「泣く泣くお願い」(須藤茉麻・夏焼雅・嗣永桃子)
梨沙子のためならっっ。なりふりかまわない茉麻が痛々しい、ような。痛々しいというか、たくましいというか、心配しているしなんとかしてあげたいっていう親心に近い思いが伝わってきました。
会話文も含めて5ブロック目の最後。声出して笑ったー!Buono!のやりとりを見ていても思います。同意です。ももちが勝手に踊っているように見えて雅さんが無意識かもしれないけど、手のひらで転がしているように見えるんです。
雅さんに転がされ、部室を出て行ったももち。その後の茉麻に涙が出ちゃう。茉麻ぁぁぁっっっーーーーー!!
茉麻を抱き締めたい。抱き締めたいのか抱かれたいのか。もう、めちゃくちゃにして!!!
はい。言い過ぎましたけれども。胸が痛いよ。
- 333 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/17(火) 21:34
-
080「晴れの日なのに」(前田憂佳・福田花音)
憂いを帯びる美少女の横顔、なんて設定が似合い過ぎるゆうかりん。
美少女をきちんと美少女っぽく最後まで書ける作者さんに脱帽です。(時々は真野ちゃんにも美味しい思いをさせてあげて欲しいです)
081「敗軍の兵、将を語る」(鈴木香音・生田衣梨奈)
タイトルはどういう意味なんだろうなぁと調べてみたら「敗軍の将は兵を語らず」ということわざが出てきました。もじったみたいです。ほほうほうほう。
私の中の食堂のスーパーヒーロー(5話「五限が始まる前に」より)がえりぽんを前にすると勢いを感じるどころかおしとやかにさえ見える不思議。でも、集中して書道をしようとしている描写なのだから当たり前でした。
女子高生は会話が命だとして。スレッド通して会話のテンポが滑らかだなぁと思います。
>「邪魔しに来たんじゃないわよ」「じゃ、何しにきたんだよ」
とか、
>「何その顔。気持ち悪いんだけど」
とかが"女子高生"っぽく思えていいなぁと感じました。
082「ハニカミ王女じゃないから」(鈴木愛理・萩原舞)
このスレッドのこの鈴木愛理・萩原舞の組み合わせが特に印象に残ります。信頼関係の一端が垣間見えるのですが、梨沙子と茉麻、中島キャプテンと熊井ちゃん、みやもも、などなどキッズの珠玉の組み合わせの中で、鈴木愛理・萩原舞の組み合わせが面白いです。合唱部をまいまいが支えているように、℃-uteが今の形で存在しているのは何なのかと考えると、鈴木愛理と萩原舞の信頼関係が要だったのか、などと大袈裟に考えてしまうくらい影響を受けてしまいました。
でも、絶対ハニカまないまいまいを愛理視点で見ることができてとっても萌えられる良いお話でした。まいまいかわいい!!
083「御破算」(徳永千奈美・和田彩花)
面倒みの良い千奈美なんて千奈美っぽくない!とか言いたくなったのですが。
>「大丈夫? お見舞いウザくない?」
と口にしてしまう千奈美がなんとも千奈美っぽかったです。こういう時はももちって千奈美のお見舞いに来なさそうだなぁとかはやまった妄想をしてしまいましたが。
084「走れ桃子」(嗣永桃子・菅谷梨沙子)
>「あたしそのために生まれたの。そのために生きてるの!」
幼い頃の嗣永さんの名インタビュー記事ですよね。人生に挫けている人のためにっていう。
すべてをまるごと面白がっているような雅さんが思い浮かんできました。西遊記の三蔵法師のような。誰が傷付こうが泣こうがそれも全部面白い、というような。お節介の感傷好きとは逆の印象が雅さんに対して残りました。
085「歯ごたえプリーズ」(真野恵里菜)
真野ちゃんが喋りすぎてえりぽんが見えない。ちゃちゃ入れが少ないですねー。最後の一行の為に真野ちゃんが言葉を重ねまくったって印象です。
- 334 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/17(火) 21:35
- 086「張ろうよ意地を」(前田憂佳・和田彩花)
命掛けて舞台に立つももちと友達と仲直りをする手段のゆうかりんと、二人の温度差が面白いですね。
でも、タイトルはもうちょっとなんか他にあったのではなかろう……「やむ得ず退散」とか。「野郎ども目にモノ見せてやれ」とか。ダメだな。もっと恰好良いタイトル出なかったな。こちら意地を張れません。
087「話になんない」(熊井友理奈・中島早貴)
バック・トゥ・ザ・フューチャーを思い出しました。主役のマーティ・マクフライが「腰抜け」って挑発されると頭に血が昇ってしまうという設定。
見て見たいです。熊井ちゃんとなっきぃの罵りあいを見て見たい。
088「疾風のように」(福田花音・和田彩花)
うそーーーーー!!!!乙女チックな福田さんの様子に笑えなかったです。マジできゅんとしました。6ブロック目で胸が痛くなりました。やっべぇ。相乗効果(?)でスマイレージがすきになつちゃうよ。こんなに乙女チックな福田さんがしっくりするだなんて!うそみたい。
089「厄払いが必要」(光井愛佳・道重さゆみ)
>「香音ちゃんは?」「買い食いがバレて停部中です」
ちょっと!!!!ワロタ
あーぁ、さゆみたいな美人でちょっと怖いけど優しい先輩にさとされたーい!!と、思わせる説得力がある1レスでした。その瞬間でしか書けない1レスでもあるのかな、と思いました。モーニング娘。に在籍する8期、9期、そしてさゆ。チームの中で応援し応える関係っていいなって思います。
090「急騰ですね」(徳永千奈美・須藤茉麻)
これは微笑ましいです。
まったく話に出てきませんけど。茉麻が現役キャプテンの頃、熊井ちゃんにきつく当たり。口尖らせて拗ねたり、口への字にしてしゅんとしたりする熊井ちゃんを想像してかわいいなって思いました。かわいいな!
- 335 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/17(火) 21:35
- 091「悔いは残すな」(萩原舞・岡井千聖)
「」の会話だけでどんどん話が進んでいきました。
>「でも鞘師ちゃんが出演するのも大きかったみたい」「へー。仲悪そうだけどね、あの二人」
鞘師ちゃんと光井さんが仲悪そうっていうのは頷けました。
>「千聖」「何? 急に真面目な顔して」「これって全部愛理の計算なのかな?」「まっさかー」
まいまいがこういうことを岡井ちゃんに言うのがかわいいっ。まいまいがかわいいっっ。アイツ(鈴木愛理)はなんなのかっていうのを掴めていないけど平常心をあいりんに対して装っているまいまいが健気でかわいいです。装っているワケではないのかもだけど。あいりんの前でまいまいがちょっと恰好付けていたらかわいいなーと思いました。
092「急に言われても」(中島早貴・福田花音)
一人乙女チックな福田さんが妙にマッチしていて面白い。真野ちゃんの外回りで食い込んでくる面白さと、浮いている乙女チックな福田さんすら包容するこのスレッド。それだけ異色さがある、ということなのかもしれません。
最後の一行で笑っちゃったよ。もう。
これは、コメディなのでしょうか。謎だ。この、浮いた福田さんの乙女チック加減。うーん。私がひねくれた性格なのか。いや。でも、これは、福田さんの恋する乙女モードはなんだか浮いている気がする。真野ちゃんの一人語りも浮いている気がする。じゃあ誰が沈んでいるのか。このスレッドの主人公は誰だ?鈴木香音、福田花音。うーん。難しい。
093「汲み取ってあげる」(譜久村聖・生田衣梨奈)
なんだこの萌え。嘘だろー。うーん。うーん。うーん。
ありがとう!ありがとう!!譜久村聖!!!
文章の中に出てきた怒られ怒鳴られ睨みつけられるえりぽんを映像とかで見て見たい。
094「くよくよしている暇はない」(中島早貴・岡井千聖・鈴木愛理)
つんく♂Pの作る詞みたいなタイトルですね。
3年○組金八先生を思い出してしまう登校風景でした。
中島キャプテンより、岡井ちゃんより、鈴木愛理の様子をすぐに思い浮かべられるのはなぜかしら。嫌じゃないけど気に障る感じが伝わってきました。あいりんに対するざらざら感。嫉妬してるんでしょうね。私までなんであいりんに嫉妬してるのか。あいりんがとっても魅力的だから?
095「食いついていけ」(前田憂佳・田中れいな)
「ロミオとモモエット」がどんな内容だったのかめっちゃ知りたくなった1レスでした。
ゆうかりんのさわやかさにはしっくりきたので。主役はゆうかりんっていうことにします、便宜上。いいのか、勝手に。
096「黒く描いたその先に」(光井愛佳)
少しだけ、「ロミオとモモエット」の内容が垣間見えました!!!台本は清水さきさーんが書いたようです。清水画伯が歌劇を書くとそうなるんだろうな、という印象で「ロミオとモモエット」を理解したところです。
3ブロック目がいかにも青春の部活動って感じがしてさわやかでよかったです。爽やか・・・鞘師ちゃんが主役?んん?
097「苦難の時間は終わらない」(夏焼雅・清水佐紀)
ももちがいない場所で、キャプテンと雅さんが彼女についてお話しているというのが新鮮でした。なんか、二人の時にももちなど話題にも上らなさそうなイメージです。
>確かにこの言葉は雅も好きだった。クリスマス公演の時も、何度この言葉を思い返しただろう。
ここで、実際のみやももと被る部分がございました。雅さんがどこかでももちに勝てないと思っている部分というか。敬意を払っている部分が現れている気がしました。
098「口惜しいけれど」(真野恵里菜)
最後まで笑ってしまいました。
>しかもその猫が一斉に
から笑いが止まりませんでした。もう口惜しいけれど、と思ったのは私の方です。すみませんでした。完敗です。
ちゃちゃ入れられる真野ちゃんが面白かったです。
099「窮屈な関係」(福田花音・和田彩花)
いちゃいちゃしてんじゃねーよ!!
と、悪態をついたところで。
すてきな萌えをありがとう。ありがとう!!福田花音。
窮屈な関係なのに、相手を疑っていないところが純粋だなぁと思いました。自分の気持ちも疑ってないように見えるし。読んでいて胸が苦しくなりました。汚れちまった自分のかなしみ。
最後の彩ちょは、本心で「げ。」なのか、冗談で「お断りします!」なのかどっちなのかが分かりませんでした。そういうところがいいよね!!窮屈な関係がいいよねー。どっちなんだよ、みたいな。不均衡なのに彼女達内で調和が保たれているその関係が萌えだ。
- 336 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/17(火) 21:36
- 100「百代の過客」(菅谷梨沙子)
月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人也。
どうして最後が梨沙子だったのかな、と考えまして。
するとなぜ梨沙子が一人だったのかなという風に思いました。
真野ちゃんは別格としても。
このスレッドの物語でこんなに一人でいた登場人物は梨沙子だけでした。ももちが梨沙子の部屋をぶち破って来たり茉麻がお節介焼いたりしても。動かなかったですねー。どういう印象からこちらの梨沙子が出来上がってきたのか興味深いところです。
この物語の菅谷梨沙子が自分の過去をどう整理していくのかは見所満載だと思いました。しかも、ももちも茉麻も卒業した後のお話になりますからね。勝手に物語の未来を想像して楽しくなってしまいました。
100個のタイトルの中で、「死にたくねえし」が一番恰好良かったタイトルかなと思いました。
意外だけど好感度の上がる組み合わせが鈴木愛理・萩原舞の二人でした。
福田花音と鈴木香音、二人の躍動感は頑張ったで賞に値すると思います。
長くなってしまいましたが。こちらで感想は以上です。
- 337 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:34
- >>323-336
丁寧な感想ありがとうございます!
このスレに直接書き込んでいただいて全然かまいません。長文の感想も本当に嬉しいです。
私も小説の感想を書くのは好きですが、こんな丁寧な感想は書いたことないかもしれません。
こちらも長くなってしまいますが、感想の感想を簡単に書かせていただきたいと思います。
しかしこれ、すごい濃い感想ですね。この作品を書いてよかったです。
- 338 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:34
- >>323
>鈴木愛理っぽい!!!ギャフンと思ったタイトルです。
>そして文章中も自信たっぷりと思わせるあいりんがあいりんぽくてこの鈴木愛理好きです。
この愛理さんのキャラは癖があるかなあと思っていたので好きと言ってもらえて嬉しいです。
キャラって突っ込んで書こうとすると「リアルと乖離してるかな?」ってなりますし。
>論理的な真野ちゃんが登場しました。見事にソロ活動でした。
この真野ちゃんも同様に気に入っていただいて嬉しいです。
このキャラこそまさに「リアルと乖離してる」ですけど、
これはこれで小説としてアリな範囲じゃないのかなって、作者はそう思っております。
- 339 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:34
- >>324
>読み終えてからタイトルに戻ってみると徳永千奈美っぽいなと、なんとなく納得できました。
徳永さんの徳永さんらしさって文章にするの難しかったです。
なので今作の徳永さんに関してはちょっと踏み込みが浅かったかも。
それでもらしさが伝わっていたなら本当に嬉しいです。
>これは、2011年12月にスマイレージのオリジナルメンバー(和田、前田、福田)が
>富士急ハイランドで遊んだことについての予言ですね。すごい観察眼だ。
えー、なんすかそれ。それ知らないっす。
なんかそんな素敵な企画があったんでしょうか。動画で見てみたいなあ。
>素敵なオチよりも、香音ちゃんの言動が印象に残ってしまいました。
あなたは鈴木香音大好きっ子ですね。認定しますいやマジで。
今回の感想を読んでいて一番ギャップの大きさを感じたのは香音ちゃんに対する高評価でした。
作者としては「もうちょっと活躍させてあげたかったなあ」と思うキャラだったんですが。
でもすっごく気に入ってもらえて嬉しかったです。
- 340 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:34
- >>325
>光井さんの先輩がガキさんというところにときめきました。
>高橋愛でなく、新垣里沙というところがツボでした。
そこを感じてもらえて嬉しかったです。
ちょっと驚きましたけど、同じように感じる人っているもんですね。
>あんぶらんって何?
愛知県だから、小倉サンドのようなケーキなのかもしれません・・・・・。
すみません。作者も全く何も調べないでフィーリングだけで書きました。
たまにそういうこともします。
>福田さんを軽々しく扱っているところも面白いです。
私の中では福田さんってスマのいじられキャラだと思うのですがどうでしょうか。
後輩が加入してその座が揺らいでいることに危機感を覚えているのは私だけでしょうか。
どっちにしても和田さんと福田さんというのは想像力を刺激されるコンビです。
- 341 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:34
- >>326
>本当に、℃-uteが面白いスレッドですね。合唱部の℃-uteっていう設定も面白いです。
ありがとうございます。
本当はモベキマス入り乱れて他のグループの子とからませるのが良いのかもしれませんが。
でもやっぱりキュートはキュートメンといるときが一番可愛らしいような気がします。
スマメンもそうですよね。ベリはどうだろう。娘はどうでしょうか。考えると止まらなくなります。
>何このりしゃみや。萌えたわ。
うっそー。本当ですか。その褒め言葉嬉しいですわ。
私はこういうカップリング的な文章を書くのが少し苦手でして。
苦手というか書いていて非常に照れます。「これでいいの? 本当にこれでいいの?」って。
いつも書きながらそんなことを考えております。
>バナナと少女の組み合わせが気に入っただけだったのでしょうか。
まさにその通りです。なんなんでしょうかね。説明するのが難しいのですが。
このアイデアを思い付いたときはノリノリで書いておりました。
かなりテンション高かったですね。小説を書いているとたまにそういうことがあって困ります。
- 342 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:35
- >>327
>現実世界だと同学年のお二人ですが。これはどういうことでしょうか。
>ゆうかりんよりもあいりんの方が年が上なのかしら。
ネタばらし的なことになってしまいますが(何をいまさら)、そういう設定です。
ていうかモベキマスメンは年齢学年が結構離れてますので難しいですよね。
今作ではあえて学年とかはなるべく具体的に書かないようにしておりました。
「先輩」「後輩」という二つの関係だけで読んでいただけると嬉しいです。学園ものって難しいね。
>このタイトル恰好良い!
ありがとうございます。今作はタイトルにも結構頭を使いました・・・・・。
この短い言葉から今作の和田彩花のキャラを、そこはかとなく感じとっていただければ幸いです。
>真野登場の間隔せまいっ。
本当にねえ。真野さんは飛び道具だからあまり乱用したくなかったんですが。
「逆に三話連続くらいで真野ちゃんを畳み掛けたらどうか?」とかいう危ない発想が浮かんだりもしました。
やらなくてよかったです。しかしこの真野ちゃん人気ありますね。ひねって書いてよかったです本当に。
>雅さんが語るももちっていうのが。心に響きます。
そうなんですが、飼育の小説ではさんざん繰り返し登場してる二人なので・・・・・。
この二人に濃い語りをさせることは大変勇気のいることなのですよ。
特に私のように初期からベリキューを追っていなかった人間にとっては。
ベリのことがずっと好きな人にとって説得力のある二人だったかどうかは自信がないです。
- 343 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:35
- >>328
>ここまで、作者さんがこらえて待ってくれた組み合わせです。
こらえていたというか、あまりにも王道的すぎる組み合わせなので、書こうかどうか迷いました。
多分、今のモーニング娘。の中で一番王道というか熱いのがこの二人のような気がします。
そういうのって逆に小説で使いにくかったりするんですが、とりあえず一回書いてみたかったのです。
光井さんについても言及していただいてありがとうございます。
一応作者もそういう意図をもって登場させたので、感想で触れてもらえるとすっごい嬉しいです。
>いやしかしながら、こんな典型的な少女マンガみたいなシチュエーションを
>こうも自然に文字にできるのがすごいなぁ、と思いました。
うわあ。言われて気づきました。たしかにこれ、もんのすごいベタなシチュエーションですね。
もんのすごいというか・・・・・これ以上ないくらいというか・・・・・ベタ過ぎる・・・・・。
実は書いていたときはそんなことは「全く」考えていませんでした。
勢いというのは恐ろしいですね。改めて読んでみて破格のベタさに若干赤面しております。
>ごめんなさい。熊井ちゃんが何をどう言っていたのか言葉が気になって気になって。
>ああああ気になる!!!!
ごめんなさい。いや本当にごめんなさい。
読み手をいらいらさせるように意図して書いた文章なんですが、その通りいらいらさせてしまったようで。
熊井ちゃんが何を言っているかは読者の方で自由に想像していただければ嬉しいです。
きっと私の想像とあなたの想像では大きく違っているのではないかなと思われます。
- 344 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:35
- >>329
>また、珍しい組み合わせ!難しいですよね。なっきぃと茉麻が会話している様子が全然想像つきません。
はい。実は作者にも全然想像がつかなかったです。
今作ではそういうレアな組み合わせもいくつか書いてみよう!と思ってトライしております。
ガチガチのリアル設定だったらそういう組み合わせで書くのって難しいんですが、
「学園もの」の「部活設定」とかがあると、なんとか書けるのかなあって感じでした。
>二人のはなしかと思ったら、最後に三人目が現れました。これは、矢島生徒会長なのだろうか。
この三人目はですね、作者的には真野ちゃんのつもりで書きました。
よく考えたら変ですかね。真野ちゃんがソロ活動以外のところに顔を出すのは。
もしかしたらこのシーンだけだったかもしれません。
>他人には分かり難い信頼関係が雅さんとまいまいを恰好良く見せているのでしょう。多分。
そうですそうです。私が書きたかったのはまさにそんな感じです。
ていうかこの感想を読んで初めて気づきました。私が書きたかったのはそれなんですねきっと。
ベリにはベリの、キュートにはキュートの信頼関係があるのだと思います。
それって絶対外側からはわからない部分があると思うんですよね。そういう部分に私はすごい惹かれます。
>ゆうかりんと田中れいなの間に見え隠れする鈴木愛理っていうのも胸熱です。タカハシスターズなのに。
いわゆる「エースメンの系譜」ってやつですね。私はそういうのが好きなんです。
重いものを背負ってる子が好きなんですね。エースって重いと思います。
>ももちも、熊井ちゃんも。どちらも面倒くさいということが伝わってきました。
ありがとうございます。
それがこのお話の全てでございます。
- 345 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:35
- >>330
>もう!!!!5行目の生島のくだりで噴出しちゃった。これは。
>笑いの沸点の低さがー。あーぁ。悔し過ぎる。
ありがとうございます。生島冥利に尽きるとはこのことでしょうか。
いやこれは結構真面目に言うんですけど、笑いの沸点は低い方がいいですよ絶対に。
妙に笑いの沸点が高くて「これはダメ」とか言う人いますけどあんまり意味ないと思います。
私自身も、もっと沸点が低くなればいいなーと思っております。
>勢いの差が歴然としているところが面白いです。もちろん香音ちゃんの勢いがすごい。
おっと。このお話は菅谷さんメインで書いたんですが、香音さんに目がいきまいたか。
香音さんの勢いは意識して書いたものではなかったんですが。
確かに読み返してみると菅谷さんとの温度差はかなり大きいですね。
そうかあ。菅谷さんもそういう意味で大人なメンバーになったわけですね。なんだか感慨深いですわ。
>まいまいが頑張ってる感じが好きです。あいりんの為に頑張ってるワケではないけど。
>合唱部の為に頑張ってるのかな。どちらも、でしょうか。
これねえ。どっちなのかなあ。私も見ていてよくわからないです。
萩原さんの愛理さんへの思いって、熱い部分と屈折した部分があると思うんですが、
今作ではあえて熱い部分だけを書いてみたつもりです。
- 346 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:36
- >>331
>りしゃみやや、くまぁずとは違う何かで結ばれた二人の関係が非常に興味深いと思います。
そうですよね。絶対に何かが違いますよね。
実は書いていて一番難しかったのがこの二人、菅谷さんと須藤さんでした。
「変なこと書き過ぎかなあ」と作者は思っていたんですが気に入っていただいたようで嬉しいです。
>中島キャプテンの下、とりたてて打算もなく彩ちょは部活に打ち込んでいるのだろうなぁと想像できて微笑ましいです。
和田さんは、私の中では基本的にノーテンキなキャラクターです。
そういう部分が微笑ましくて私も好きです。
ちなみにこの感想を読んで、私も張り倒す時の中島キャプテンの様子が眼前に浮かびました。
超怖ぇよ!!
>しるこサンドとアイドル比較、対比していいの!!!?ちょっとびっくりしました。思わず。
これはもう、自信をもって断言できます。
対比してよいのです!
なぜこんなに自信をもって断言できるかというと、実際にしるこサンドを食べたことがあるからです。
美味しいですよ。ぜひ一度お試しください。
- 347 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:36
- >>332
>保田圭ちゃん→石川梨華ちゃん→ガキさん
>という説教好きキャラの系譜でよろしいでしょうか。
よろしいかと思います。
説教好きキャラは好きです。
使いすぎないように注意しながら小説を書いておりますいやマジで。
>℃-uteに刺激を受ける鞘師里保っていうのが面白い視点だなぁと思いました。
今の鞘師さんが教えを乞うのなら、鈴木愛理一択しかないと思ったのですがどうでしょうか。
本当はもっとちゃんと師弟関係みたいなものを書きたかったのですが。
そういう美味しい部分をさらっと流すのが今作の一つの流れみたいになってしまいました。
>あれですよね、あいりんはド○ゴンボール(少年誌)に喩えるとサ○ヤ人なんですよね。
>戦闘民族の血が騒ぎ、敵が強ければ強いほどオラわくわくすっぞ、みたいな。
その通りです。
燃える愛理さんが好きです。
そういう部分ってなかなか見ることができないので、こうやって小説に書いてみたりするわけです。
>ももちが勝手に踊っているように見えて雅さんが無意識かもしれないけど、
>手のひらで転がしているように見えるんです。
まさに。
まあ、これは私の願望でもあるんですけれど。
嗣永さんにはいつまでも夏焼さんに弄ばれる嗣永さんでいてほしいです。
- 348 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:36
- >>333
>美少女をきちんと美少女っぽく最後まで書ける作者さんに脱帽です。
>(時々は真野ちゃんにも美味しい思いをさせてあげて欲しいです)
あ、忘れてた。
真野ちゃんにも美味しいパートをあげるつもりだったんですが・・・・・
でもまあ、真野ちゃんはこのキャラを貫いたのでそれでよしとします。
ゆうかりんは書くの難しいです。美少女過ぎますよねあの子。
>タイトルはどういう意味なんだろうなぁと調べてみたら「敗軍の将は兵を語らず」ということわざが出てきました。
>もじったみたいです。ほほうほうほう。
もじってみました。
タイトルに突っ込まれると冷たい汗が出てくるところが多いです(汗
えりぽんは強い子だと思いますよ。個人的には香音ちゃんよりもえりぽんの方が強いと思います。
>最後の一行の為に真野ちゃんが言葉を重ねまくったって印象です。
ばれてる。
- 349 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:36
- >>334
>「野郎ども目にモノ見せてやれ」とか。
こっちのタイトルの方がよかったですねいやマジで。
私は業の深いハロヲタなので、86と言われるともう「はろー」しか思い浮かばないのですよ。
「やろうども」はいいですね。そこに発想がいかなかったことが悔やまれます。
>バック・トゥ・ザ・フューチャーを思い出しました。
>主役のマーティ・マクフライが「腰抜け」って挑発されると頭に血が昇ってしまうという設定。
この喩えに爆笑しました。その映画見ました。結構記憶に残ってます。
どうもありがとうございます。しかしすごい喩えだ。
>その瞬間でしか書けない1レスでもあるのかな、と思いました。
これねえ。ありがたい感想ですねえ。
いや、本当に、この一行こそがこの小説のメインテーマといいますか。
小説のタイトルにある「あの頃」というのはそういう意味です。
きっと数年後に読み返してみたら、全然違うお話のように見えてくるのだと思います。
- 350 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:36
- >>335
>なんだこの萌え。嘘だろー。うーん。うーん。うーん。
>ありがとう!ありがとう!!譜久村聖!!!
そっちかい!
いや、別にそっちでもいいんですけど。
一つの小説を読んで感じることって本当に人それぞれだなって思いました。
>ゆうかりんのさわやかさにはしっくりきたので
>主役はゆうかりんっていうことにします、便宜上。いいのか、勝手に。
良いと思います。
誰が主役かっていうのは読者さんが自由に決めればいいと思います。
私は各キャラに思い入れがあり過ぎるので・・・・主役は選べないですね
>いちゃいちゃしてんじゃねーよ!!
ありがとうございます。
CP小説を書くのが苦手な私が、こんな感想をもらえる日が来るとは思いませんでした。
スマメンは本当に見ていて純真だなあって思います。
本当に一途に一生懸命に生きてるんだなって思います。
だから彼女たちを使うと、他のハロメンの時とは違う雰囲気の小説になってしまうんですよね。
- 351 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/18(水) 19:37
- >>336
>この物語の菅谷梨沙子が自分の過去をどう整理していくのかは見所満載だと思いました。
>しかも、ももちも茉麻も卒業した後のお話になりますからね。
>勝手に物語の未来を想像して楽しくなってしまいました。
はい、ありがとうございました。
この物語はそうやって未来へと続いていけばいいなあと思っています。
そしてその未来を語るのに相応しいのが、他の誰でもなく菅谷さんだったのかなと。
娘。の9期の未来も楽しみは楽しみなんですけどね。
でもまあ、色々な過去を経て、そして未来へ向かうということを考えれば菅谷さんかなと。
というわけで長々と感想の感想を書いてしまいました。
こんな感想はもらったことがなかったのですっごい驚きましたし嬉しかったです。
長いから驚いたというよりは、色々とかゆいところに手が届く感想だったので驚いたっていう感じです。
じっくり読んでいただいて本当にどうもありがとうございました。
- 352 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/20(金) 23:04
- キャラが立っててとても面白かったです。
人間関係のもどかしさ、面倒くささが共感できますね。
そんな中、真野さんwwwwww
もうね、タイトルだけで笑えます。最高です。
ベリキューの内で、矢島さんがほとんど出てこなかったのは
少し残念でした。
いやー、本当に面白かったです。感謝。
- 353 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/01/21(土) 19:19
- >>352
感想ありがとうございます。真野さんすごい人気ですね。
クセのあるキャラだったんですけど、結構気に入ってもらえて驚きました。
矢島さんは雰囲気だけのキャラだったんで出番は少なかったです。
それぞれの登場人物なりに存在感を出したつもりなので、楽しんでもらえれば嬉しいです
- 354 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/25(土) 22:12
- ハロプロメンバーへの部活の割り当て方がベストマッチしてますね。
部長鈴木愛理、エース和田彩花、演劇部嗣永桃子あたりが特にかっこよかったです。
数学女子よりも、この作品をドラマで見たいですよ。
- 355 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2012/02/26(日) 22:38
- >>354
感想ありがとうございます。
部活の割り当ては考えていて楽しかったです。
ホントにこんな学校があればいいな、とか想像しながらですね
数学女子学園はそれなりに好きです。あれはあれでコミカルで素敵だと思います
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