幽閉(飼育)
- 1 名前:ELS 投稿日:2010/05/06(木) 21:17
- BQ中心です。
カプはりしゃ中心
りしゃみや、りしゃももなど
更新は基本週に1回でいきたいです。
よろしければどうぞ。
- 2 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/06(木) 21:20
-
後ろ手に縛られた手首がきりりと痛んだ。
梨沙子はこれは運命みたいなものなんだとあきらめた。
頭上で自転車のブレーキの音がした。
あの人の残酷で無垢で美しすぎる笑顔が浮かぶ。
梨沙子は下唇をかんだ。
そして自分を卑劣な罠にかけてこの牢獄へ閉じ込めた人のことを思った。
- 3 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/06(木) 21:21
- 「ねえ梨沙子、ももの誕生日プレゼントもう買った?」
夏焼雅がわざわざ梨沙子の手をとって話しかけてくる。
梨沙子の両手に雅の柔らかくて温かい感触がすぐに伝わってくる。
雅は梨沙子と話すときはいつもこうなのだ。
会話するだけで妙に接近してきたり手を握ってきたり足を触ったり
過剰なスキンシップを求めてくる。
これが男の人だったらものすごいセクハラなのかもしれない。
でも雅にはそうされることで梨沙子は友達以上の愛情を雅に感じることができた。
- 4 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/06(木) 21:23
- 昼休みの教室は人はまばらだった。
遠くでテニスやバスケットをしている生徒の声がこだましている。
あたりは初夏の風にゆられて途切れ途切れに校庭の声が聞こえてきていた。
「まーだ。いろいろ考えてるんだけど思いつかなくて」
すねたような梨沙子のややトーンの低いハスキーな声が響いた。
子供っぽい梨沙子の風貌からすると声はOLみたいで色っぽいといつも言われる。
「あたしも。ももだったら何か可愛いものがいいと思うんだけど」
対する雅は見た目も仕草も大人っぽい。
雅と二人で歩いてるとよく姉妹みたいと言われる。
でも梨沙子はいまだに雅には気後れしてしまう。
雅に初めて会ったときは、いかにも流行に乗っているという感じの
風貌に加えて美しすぎる雅の姿に恐れ多くて近づくことすらできなかった。
- 5 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/06(木) 21:24
- 「何の相談?」
そこへ桃子が二人の会話に割って入った。
「ひみつ−」
雅が梨沙子に目配せして言った。
それを見て梨沙子もにっこりと微笑む。
梨沙子を雅と結びつけてくれたのはここにいる桃子だった。
嗣永桃子は、雅とは対照的で背も低く顔も格好も可愛らしい。
大人っぽさと子供っぽさが入り混じるアンバランスさが魅力の梨沙子ともまた違っている。
そして、雅も梨沙子も敵わないのは、桃子の人見知りしない天真爛漫な明るさだった。
- 6 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/06(木) 21:27
- 高校入学当初、人望もあって人気のある雅の周りには
桃子も含めてすぐたくさん人が集まってきた。
しかし同じ出身中学のほとんどいなかった梨沙子は
教室の中で一人ぽつんとしていることが多かった。
梨沙子は雅の周りが楽しそうなのをただうらやましそうに眺めているだけだった。
ただそのときから雅の方もずっと梨沙子を見ていたのだ。
雅は人気者のくせに人見知りで自分から積極的に話しかけることができない。
だから自分達は大きなグループを作って、わざと周囲を孤立させる。
そのせいもあって雅はいじめっ子のような怖い印象を与えることもあった。
入学当初、梨沙子にとっての雅もまさしくそうで、
あたかも梨沙子はクラスで一番の人気者に睨まれて友達を作ることすらできない状況だった。
- 7 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/06(木) 21:28
-
「りーちゃん、あたし達と一緒にお弁当食べない?」
桃子はいきなりそんな呼び方で梨沙子に話しかけてきた。
中学時代には実際にそう呼ばれていたから梨沙子はびっくりした。桃子も雅も中学時代の梨沙子は知らないはずだ。それでも桃子は動揺する梨沙子に全く気をとられる様子もなく、ただにこにこと梨沙子に笑いかけた。
「うん。いいよ・・・」
どぎまぎしながら梨沙子は答えた。
梨沙子も寂しがりやで雅同様人見知りのところがあったから、
桃子の優しそうな笑顔につい惹かれてしまったのだ。
- 8 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/06(木) 21:31
- 桃子と雅は中学時代からの親友だったから当然、
桃子と一緒に行くことは雅のグループでお昼ご飯を食べることを意味する。
完全に受身になっている梨沙子が桃子に強引に教室から外へ引っ張られていく姿は、
クラス中の同情を浴びた。
まさしくいじめっ子に目をつけられた梨沙子が呼び出されて
人目のつかないところでひどい目に逢おうとしているかのようだった。
「ねえ、りーちゃんてどこ中?」
桃子は廊下で歩きながら梨沙子に尋ねた。
「虹ヶ丘中」
ぶっきらぼうに梨沙子は答える。
「へぇ、でも虹ヶ丘の頭いい子ってみんな桜花に行くって聞いたけど」
桃子の言うとおりで虹ヶ丘ではカトリック系の私立高校である桜花学園への憧れが強い。
- 9 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/06(木) 21:32
- 学校自体がカトリック系の学校というのもあったし、
どちらかというと県立西成高は校風が自由で派手なイメージがあったけど、
そのかわりいじめ問題や繁華街へくりだして問題起こしたりする子も多い
ともっぱらの噂だ。
だから地味でも無難な高校生活を送りたい梨沙子のような人間は
みんな桜花学園を目指すのだ。
しかし、梨沙子は運の悪いことに桜花学園の試験日に大風邪をひいてしまい、
受験することができなかった。
仕方なく、梨沙子は公立の西成高等学校を進学先に選んだのだ。
だから梨沙子は桃子の質問には下をむいておし黙っている。
- 10 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/06(木) 21:34
-
「ねぇ、ねぇ何で、何でりーちゃんは桜花じゃなくて西成高?」
それでも桃子はしつこく聞いてきた。
梨沙子の手を握って無理やり顔を近づけてくる。
梨沙子は意を決したように桃子の手を振り払った。
そして顔を上げていった。
「あたし、頭悪いから。だから西成高」
梨沙子は自信満々というふうに胸を張って言った。
その言葉を聞いて周りがどう思うかを全く考えずに。
そのとき、雅が後ろをむいてくすっと笑った。
つられて梨沙子も笑った。
その時、桃子はただあっけにとられているばかりだった。
- 11 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/06(木) 21:35
- 雅を筆頭とするグループメンバーにはまず雅の親友の桃子がいた。
ほかに友理奈、佐紀、千奈美、茉麻がいてそれぞれが
もっと雅と仲良くなりたいと思っていた。
雅をめぐる熾烈な競争と言ってもいい。
そこにたとえ梨沙子が新しくメンバーの一員になっても
最初はその関係には何の影響も与えないように思えた。
寡黙で人見知りな梨沙子には雅と仲良くなるどころか桃子以外話し相手はいなさそうに見えた。
- 12 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/06(木) 21:37
- 梨沙子が雅のグループと一緒にお昼を食べるようになってから、
帰りもまたみんなで下校するようになった。
梨沙子は黙って集団の一番後ろを歩いていた。
桃子がいつもように騒がしく、雅に話しかけては場を華やかなものにしていた。
話し相手のいない梨沙子は桃子の話を聞きながらただみんなの後へついていくしかない。
校門をもう少しで通り過ぎるというところで梨沙子は傘を教室へ置き忘れてきたことに気づいた。
何だか一人孤立して気まずい雰囲気だったから
そこから逃げるのにちょうどいいと梨沙子は思った。
- 13 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/06(木) 21:39
- 「あ、あたし傘忘れてきた」
そう言って梨沙子は一人Uターンしようとした。
その瞬間だった。
「待って」
気がつくと梨沙子のちょうど後ろには
ずっと前を歩いていたはずの雅が立っていた。
「あたし、とってくるよ」
「ええ!?」
梨沙子は驚いた。
周りはもっと驚いたに違いない。
教室でもグループでもまるで女王様きどりだった雅だ。
- 14 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/06(木) 21:41
- 「あたしも忘れ物思い出した。梨沙子の傘も一緒にとってくるから梨沙子は先に帰ってなよ」
そう言うと梨沙子の反応を見る間もなく、もう雅は校舎に向かって走り出していた。
「みや!」
思わず梨沙子は雅の後姿めがけて呼びすてで呼ぶ。
雅は走りながら振り返った。
「場所、分かるの?」
梨沙子は叫んだ。
「どこー?」
大声で雅は返す。
「あたしのロッカーの中ー」
「オッケー」
それから二人はまるで昔からの友達みたいに思い切り良く手を振った。
- 15 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/06(木) 21:42
- 「雅、一人で行かせてよかったの・・・?」
しばらくして誰かがぽつりと言った。
「いいんじゃない?梨沙子なんだから」
梨沙子を振り返って桃子が言った。
みんなが妙に納得したようにうなずく。
それからこのフレーズがグループの合言葉になった。
- 16 名前:ELS 投稿日:2010/05/06(木) 21:42
- 今回の更新を終わります。
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/07(金) 00:41
- 面白そうですね
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/07(金) 23:33
- 楽しみにしてます!
- 19 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/13(木) 11:11
- 梨沙子は雅のグループにとってマスコット的存在だった。
以前は完ぺき主義の雅だったり、
雅の前でわりと我の強い性格を見せる桃子がいたりして、
ぎすぎすした空気が流れがちな雅達だった。
しかし梨沙子がいることによってみんなの雰囲気があきらかに変わった。
特に雅は、プライドの高さからか少し人を馬鹿にしたような
物言いをすることが多くあったが
梨沙子の前では全くと言っていいほどなくなった。
- 20 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/13(木) 11:12
- あるとき、英語の授業で外人の講師がきているときだった。
梨沙子が当てられてあなたは何色の服が似合うかと英語で聞かれた。
雅のクラスは雅を筆頭にして授業中でも人を笑いのネタにするようなことをいう人が多い。
いつもの教室の雰囲気だったら黒!とか真っ赤なドレスとか茶化す声があちこちから聞こえてくるはずだった。
なのにそれをいつも先導するはずの雅がいつもと様子が違う。
とっさに聞かれた梨沙子は、困ったように周りを見渡した。
- 21 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/13(木) 11:14
- 「梨沙子は何色でも似合うよね」
そのとき、雅が言った。
「うん。似合う。何でも似合う」
しばらく何でも似合うという言い合いにもならない声があちこちから上がった。
しかし困ったのは先生の方で色が決まらないと授業が進まない。
結局雅の言った、「しいて言えば白かピンク」というところに落ち着いた。
以前は、雅のグループはどちらかというと近寄りがたい、
怖いイメージさえもたれかねない印象だったが今では、柔らかくて大らかな人の集まりに変貌を遂げた。
それとともに容姿端麗で成績も優秀な雅の校内の人気も大いに上がっていた。
- 22 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/13(木) 11:16
- ただ一つ問題なのは、出会って以来梨沙子と雅は急速に距離を縮めていったが、
それと同じくらいの勢いで梨沙子は桃子とも仲がよくなっていたことだ。
桃子はとにかく異常なくらい梨沙子を可愛がっていた。
梨沙子は梨沙子で甘え上手だったから、梨沙子が桃子とも仲良くなるのにさほど時間はかからなかった。
梨沙子と桃子が楽しそうに会話しているのを雅はよく見かけた。
最初はそれほど気にはならなかったが雅は仲がよさそうに一緒にいる二人を見るたびに理由も分からずイライラした。
梨沙子が傍にいることで全ては好転しつつあったはずの雅の状況だが、
実は一番の親友である桃子との間に少しずつわだかまりのようなものがたまってきている。
雅は桃子の間に、梨沙子の取り合いという実は大きな火種が存在しているのを認めざるを得ない状況に近づきつつあった。
- 23 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/13(木) 11:17
- 梨沙子は学食へ久しぶりに雅と二人できていた。
西成高の学食は、まるで巨大なカフェレストランのようだった。
何百人も入るような壮大なホールの床は鮮やかな色の木目が一面に敷き詰められている。
そして無数の光沢のある白いテーブルと椅子が立ち並んでいる。
ホールのある一階から二階までは吹き抜けになっていて、
東側の窓は全面ガラス張りになっていた。
ちょうど窓側の席に座っていた梨沙子の横と上からは夥しくも柔らかい光が差し込んできていた。
- 24 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/13(木) 11:18
- 雅が見たときは、少しうつむきぎみにしていた梨沙子だったが昼食のパスタをもってくる雅の姿を見つけただけで、
まるではじけたようにぱっと笑顔を見せた。
自分の姿はそんなに梨沙子を明るくさせる存在なのかと雅はうれしくなる。
恥ずかしがりやの雅は表面には出すことはできないが雅にとっての梨沙子の存在もまたそうだった。
ただ雅には梨沙子が見せる絶妙な仕草は狙ってやっているのか純粋にそう思ってくれているのかは分からない。
- 25 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/13(木) 11:20
- 「みやと二人きりの昼なんてうれしいな」
梨沙子が、食器をおく雅に上目遣いで言う。
「そう?」
雅はすました顔で答えると照れ隠しに、わざと桃やっぱりこないかなと言って昼時でごった返すホールを見渡した。
この日のお昼の前の選択科目は雅と桃子と梨沙子は同じ授業をとっているので、
いつもは3人でお昼を食べているのだが、桃子は他のクラスの子に用があると言ったので今日だけは雅と梨沙子の二人でお昼になったのだ。
「最近、二人でご飯なんて食べに行ってないじゃん?」
梨沙子が言った。
「そうかな。いつも一緒にいると思うんだけど」
雅はそう言いいながらも無邪気な梨沙子を愛おしそうに見つめた。
梨沙子は「それはみんなと一緒のときじゃんと小声でぼそっと言った。
- 26 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/13(木) 11:21
-
「さ、冷めないうちに食べようよ」
雅ははにかんだように笑って言った。
梨沙子の頭上から光が舞い降りて、梨沙子の髪はチョコレートのように滑らかに見える。
光はさらに梨沙子の制服の白や柔らかな肌にも乱反射して梨沙子のまるで生クリームのような甘い美しさが一層際立った。
何故だろう。
理由はもう分かっているのに、雅は梨沙子を美しいと思うたびに心臓が高鳴る。
- 27 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/13(木) 11:26
- 「ねえ、梨沙子」
梨沙子と目があった。
名前を言えばすぐにこっちを向いてくれる。
梨沙子と目が合うその瞬間が、雅はたまらなく好きだ。
「あたしと桃、どっちの方が好き?」
雅は言った。
梨沙子の動きが一瞬、止まる。
雅はその一瞬の間さえも見逃さなかった。
「みや!だってみやのこと大好きだもん」
あまりに期待通りの答えが返ってきたから雅は思わず返す言葉を失ってしまった。
梨沙子と二人でいる時間。
この時間が永久に続けばいいのにと雅は思った。
天井から舞い降りる光がまるで二人を祝福するように照らし出した。
- 28 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/13(木) 11:27
- 桃子とのつきあいはこれからどうしたらいいんだろう。
それから漫然と桃子とのことを雅は考えるようになった。
無地の親友。絶対に失いたくない。
そんなことを思っていた矢先だった。
梨沙子と桃子が教室で二人きりになっているのを雅は偶然教室のそばのベランダから見かけた。
二人は雅の存在には全く気がついていない。
雅は梨沙子と桃子が二人のときにどんな話をしているのか知りたかった。
だからそんなつもりはないのに、ついベランダから二人の会話を盗み聞きしてしまった。
そしてあの言葉を聞いてしまったのだ。
「あたし、もものことが一番好きだよ」
それは間違いなく梨沙子の声だった。
雅の中で何かが壊れた。
雅の横をとてつもなく冷たい風が流れたような気がした。
- 29 名前:ELS 投稿日:2010/05/13(木) 11:32
- 今回の更新を終わります。
>>17
レスありがとうございます。がんばります。
>>18
レスがありがとうございます。稚拙な文章ですがよろしくお願いします。
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/14(金) 01:06
- モテモテ梨沙子だな
- 31 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/15(土) 11:50
- 次回も楽しみにしてますw
- 32 名前:ELS 投稿日:2010/05/20(木) 20:46
- >>30
レスありがとうございます。序盤はそんな感じかもしれません。
>>31
レスありがとうございます。何とか更新続けて見せます。
- 33 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/20(木) 20:48
- 梨沙子は、雅達と一緒に桃子の誕生会をしていた。
会場は家の2階にある桃子の部屋だ。
外は初夏のような軽やかな風が吹き、庭一面に植えられたスイセンの甘い匂いが入ってくる。
3月にはいっても記録的に暖かい日が続いていた。
何か季節を調節する時計が壊れてしまったような奇妙な季節だった。
二階の開け放った窓からは強い日差しを背景に満開の紅梅がまるで常夏の植物に化身したように見えた。
- 34 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/20(木) 20:50
- 梨沙子はその暖かい空気がまるで自分のものであるように心地よさそうにしていた。
世話好きの癖が抜けないのか桃子は自分が主役であるにも関わらず
みんなのぶんのケーキを切ったりジュースを配ったり忙しく立ち働いている。
梨沙子は桃子が動く様子を機嫌よさげに眺めるだけだ。
「はい、これは梨沙子の分」
桃子が差し出したケーキには真っ赤ないちごもチョコレートの家も
「誕生日おめでとうMomoko」の文字の入ったクッキーものせてあって、
まさにてんこ盛り状態だ。
遠慮もしないで受け取る梨沙子はまさに満面の笑顔だった。
- 35 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/20(木) 20:52
- 「また、ももは梨沙子に甘いんだから」
梨沙子の隣に座っている雅は半ばあきれたように言う。
「みやには言われたくないけどね」
桃子はちゃっかり梨沙子の隣に座っているみやを逆にからかうように言って
最後に自分のところへケーキを置く。
桃子のは何ものってないシンプルすぎるくらいのケーキだった。
「桃、今日は主役なんだから、座ってるだけでいいよ」
友理奈が言ったが、桃子は自分の家だから自分が動いたほうがいいと
聞く耳もたずという感じだ。
- 36 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/20(木) 20:53
- 雅は隣でケーキを食べている梨沙子にささやき声で言った。
「4月になったら今度は梨沙子の誕生会、みんな呼んでやろうね。あたしがすごいの企画するから」
そしてテーブルの下で梨沙子の赤いスカートから出ている白いひざをそっと撫でた。
梨沙子は雅を見てゆっくりとうなずいて微笑んだ。
すると雅は今度はしっかりと梨沙子のひざの上に手をおいた。
桃子は千奈美と話しているように見せかけて雅と梨沙子の一部始終を見ていた。
- 37 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/20(木) 20:54
- 梨沙子はそんなことを気にとめずにまたふと窓の外を眺めた。
さっきから心地よい風が速度をかえずに部屋の中まで流れてくる。
梨沙子は、幸せな気分に浸っていた。
高校に入ってから人見知りで友達作りの下手な自分がこんなにたくさんの友達ができるなんて
思いもよらなかった。
しかも学年で一番人気の雅がこんなにも自分の近くにいてくれる。
桃子はさっきのケーキもそうだがこれみよがしなくらいなえこひいきを梨沙子にだけしてくる。
そして千奈美、茉麻、友理奈も佐紀もみんな梨沙子にだけは特別に甘い。
例えばみんな食べ物の好みとか行きたいお店とか友達同士の平等さとかそれぞれにみんな基準をもっているのに、
梨沙子と一緒にいるときはそんな基準なんてなかったかのように梨沙子にだけあわせてしまう。
だからそれは優しいとかいうのではなく、梨沙子にだけ甘いのだ。
そしてむしろ、みんな梨沙子に甘くすることを楽しんでさえいるようだった。
- 38 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/20(木) 20:56
-
「あ、そういえば交換学生プログラムの件ってどうなった?」
ケーキを食べながら友理奈が思い出したように雅に尋ねた。
「あーあれねえ」
雅はさも面倒そうに茉麻の方を向いた。
「あれじゃないでしょ?当人を目の前にして。しっかり頼むよ。生徒会長」
茉麻が不服そうに言う。
雅は4月から西成高の生徒会長になることが決まっている。
交換学生プログラムは雅が生徒会長としての初の西成高のイベントだった。
交換学生プログラムはもともと西成高と桜花学園との交流の一環で始まったものだが、
桜花の生徒数名と西成高の生徒数名が入れ替わって高校生活を過ごすというものだ。
外国に行けるならいざしらず、隣の桜花学園では注目度は低くても仕方ない。
- 39 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/20(木) 20:57
- 「こっちから出すほうはいいんだけど。茉麻はそんなに桜花行ってみたいの?」
雅が言った。西成高から桜花へ行く生徒は早くから茉麻が内定していた。
「行ってみたいよ。結局受験しておっこっちゃったから行けなかったけど。あたしああいうカトリック系の学校に行くのが夢だったんだ」
「でも桜花って校則めちゃくちゃ厳しいらしいよ。スカート丈何センチとか毎日チェックしてるんだって」
佐紀が脅かすように言った。
「いいの。厳しくしたほうがカトリックっぽい感じがでないじゃん」
「好き好きだねえ」
感心したように千奈美が言って、梨沙子にむかって笑いかけた。
梨沙子も千奈美と顔を合わせてにっこりと笑う。
- 40 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/20(木) 20:58
- 桜花学園はキリスト教の教えを教育の基本にした新興のカトリック系の学校だった。
日本では桜花学園を始めとして21世紀の中盤頃になって信仰ブームが加熱し
宗教系の学校や企業が爆発的に増えていた。
それは21世紀の初頭に経済的な行き詰まりがあってから
精神的な疲弊をキリスト教などへの信仰で癒そうとしているのだと新聞などでさかんに言われていた。
- 41 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/20(木) 20:58
- 「ちょうど桜花行きを希望する人いなくて困ってたから助かった。でもね」
「何か大変なことでもあるの?」
「こっちへ来るっていう向こうの生徒がさあ、いろいろうるさいんだよね。ついでに生徒同士の交流イベントやろうとか。あたし苦手かも」
げんなりしたように雅が言った。
「天才雅様を困らせる人間がいるもんだね」
桃子が笑って言った。
- 42 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/20(木) 21:00
- 雅と桃子はみんなが帰ったあとの誕生会の後片付けを二人でしていた。
雅が食器を洗い、桃子が水を切って乾燥機にしまっている。
二人の間は流れる水の音と食器の音が聞こえるだけで、
両方押し黙ったまま淡々と作業をこなしていた。
このグループに梨沙子が入ってきてからも雅と桃子の親友同士という間柄は決して変わらない。
二人ともそう考えてきた。
みんなでいるときはそうでもなかったが、雅は桃子と二人きりになると
常に梨沙子の取り合いという骨肉の争いにでも発展しそうな問題を自覚せざるを得ない。
だけどさらに話しをややこしくしているのは、
雅の中には桃子に親友という間柄以上に惹かれている部分も確かにあるということだ。
その気持ちは梨沙子と出会う前に比べて全く色あせていない。
むしろ、梨沙子や自分に対して見せるようになった桃子の妖艶な笑顔が前よりももっと雅をひきつけるようになった。
- 43 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/20(木) 21:01
- それに最近桃子に言われたことがある。
「雅と梨沙子が一緒にいるのを見ると、あたし耐えられない。
ものすごく嫉妬してる自分がいるの。どっちに嫉妬してるのかは分からないけど」
まるで自分が口説かれているように感じるほど切迫したすがるような視線で桃子に見つめられた。
「だからさ。抜け駆けはやめようね。みや」
雅を頂点とするヒエラルキーの中で桃子はいつも率先して2番目に甘んじてきた。
だけど今回の件に関してだけはそんなつもりは全くないことは雅には分かりすぎるほど分かっていた。
- 44 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/20(木) 21:03
-
「例の計画のことなんだけど」
桃子が乾燥機に入れる手を止めて突然言った。
緊張感が雅の体に走った。
- 45 名前:ELS 投稿日:2010/05/20(木) 21:03
- 今回の更新を終わります。
- 46 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/21(金) 00:56
- 更新乙です
まったり待ってます
- 47 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/23(日) 05:50
- 何の計画…?
wktkしてます
- 48 名前:ELS 投稿日:2010/05/27(木) 21:13
- >>46
レスサンクスです。
マイペースに更新しますです。
>>47
レスサンクスです。
今後ともお読みいただけるとうれしいです。
- 49 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:28
- 「例の計画」、その言葉が桃子の口から出てくるとは思ってもみなかった。
なぜなら雅が思いついた忌まわしいその計画に一番反対しているのは
桃子だと雅は思っていたからだ。
「茉麻がいなくなったらやりやすくなるよね」
今度は桃子は確かにそう言った。
- 50 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:30
- 雅はその言葉が聞き違いなのではないかと頭の中で反芻した。
しかし気がついたら雅の中に梨沙子を自分の思い通りにするという
倒錯的な欲望が生まれている。
確かに桃子が協力するならあの計画に強硬に反対しているは茉麻だけになる。
茉麻さえいなくなればこの計画ははるかに実行しやすくなるのだ。
雅は短くうなずいたが、自分が考えていることの恐ろしさに桃子と目を合わせることができない。
- 51 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:31
- 「でも桜花から来るやつが邪魔してくるってことない?」
桃子はあくまで飄々と言った。
ここまで言う桃子の言葉に雅は気持ちが楽になったような気がした。
もしかしたら短いこの一瞬において雅は計画を実行をすることの覚悟ができたのかもしれなかった。
- 52 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:32
- 「それはあんまり心配いらないと思う。
宗教とか信じてる人にあたし達の邪魔なんてできないよ。きっと」
雅の言葉には桜花学園への侮蔑の感情も含まれていた。
現実主義者で理性的な雅には、どうも桜花学園の生徒のように
宗教とかを本気で信じている人の気持ちが分からない。
UFOでも幽霊でも存在しないものを本気で信じてる人間は
大抵は物事を冷静に見る力に欠けると雅は確信している。
つまり、雅が自分自身においてもっとも自信を持っている理性的な力を全く持ち合わせていないと思うのだ。
- 53 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:33
- 「でも桜花の方は生徒会長が来るんでしょ?」
「そう。向こうではシオン修道会の総長って呼ぶらしいけどね」
「しおん・・なんとか?」
桃子が怪訝な表情をした。
「桜花では生徒会をシオン修道会って言うんだって。で生徒会長やる人がシオン修道会の総長ってことらしい。
でも果たしてどれほどのものなのかな」
雅は桜花学園のことは噂には聞いていた。
- 54 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:34
- 桜花学園の教育の中心であるキリスト教は厳密に言えば旧来からあるキリスト教ではない。
21世紀の前半までキリスト教信者の大半が信じていたのは
道徳的な教えが中心のキリスト教だった。
ところが今桜花学園で教えられているキリスト教は、
中世の神学者であるトマス・アクィナスの教義の中心とした回帰主義的なキリスト教だ。
トミストと呼ばれる彼らに特徴的なのは全ての事物の根源が神から生まれるとして、
神の存在を絶対的に信じているということだ。
まるで中世ヨーロッパのカトリックを模ったような教義なのだ。
この古くも新しいキリスト教は21世紀の前半までは
所得層の低い人々の間で密かな信仰が行われてきたが、
最近になってこのネオトミズムと呼ばれた
神中心の宗教は国民全体にも大きく広がりを見せ、
第二のキリストの復活とまで言われるようになっていた。
- 55 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:35
- でもそんなのは単なるカルト宗教にすぎない。
雅の基本的な考え方はそうだった。
従来の道徳的に生きるために神を信じるのならまだ分かる。
でもいるはずもない神を最初から絶対的に信じることから始まる宗教なんて馬鹿げてる。
そんなことは近代になって一度否定されたはずだ。
それが何で今になってこんなに力を伸ばしてきているのか
雅には理由が分からない。
だったらそれがどんなものか、
今度来るシオン修道会の総長とやらが新しいキリスト教を体現しているような人間なのか。
それなら堂々と渡り合ってみようではないか。
そんな気持ちが雅にはあった。
しかし果たしてそいつが雅をも神を信じる気持ちにさせることができるだろうか。
そんな非理性的なものに自分が心を動かされることがあるだろうか。
そのようなことはそれこそ神に誓ってありえないと雅は思った。
- 56 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:36
- 「まあカルトの信者には理性のかけらもないだろうけど」
雅は言った。
「確かに頭脳でみやにかなう人間なんていないと思うけどさ。
でも知ってる?桜花からくる子ってすっごい黒髪でロングヘアの美少女なんだって。
どうする?タイプだったら」
桃子がやっと表情を崩して言った。
「とんでもない電波系じゃなきゃいいけど」
雅も茶化すように笑った。
- 57 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:37
- 桃子の家を出た千奈美と友理奈の二人は一緒に帰っていた。
梨沙子は珍しく茉麻と用があると言って二人で帰った。
きっと茉麻も交換学生イベントで梨沙子と会えなくなるのが寂しいのだろう。
もっとも雅も桃子は承諾済みの梨沙子の行動なんだろうと千奈美は思った。
「交換学生イベントのことなんだけど。知ってる?」
川原の土手を歩きながら友理奈が言った。
- 58 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:38
- 生暖かい風が二人を包む。
右側にはビルの間に沈みかけた真っ赤な太陽が見えた。
「え?」
千奈美は首をかしげた。
交換学生イベントについてはさっき桃子の家で散々話題にのぼったこと
だからいまさら何の話題があるのだろうと思った。
「いや、相手の高校、桜花から誰がくるか」
友理奈の顔が夕焼けに逆光になってやけに深刻そうな表情に見える。
「知らないけど…?」
千奈美は言った。
- 59 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:40
- 「みやから絶対梨沙子には秘密にしとけって言われてるんだけど。向こうの生徒会長がじきじきに来るんだって」
「へえ、桜花の生徒会長が茉麻と交換にやってくるんだ」
千奈美は初めて知った。
「それが生徒会長だけじゃなくてもう一人くるらしいんだけど。
その二人とも梨沙子の幼馴染で中学の同級生だったんだって。
それでとっても仲がよかったらしいんだ」
「そっか。だからみやも桃も胸中穏やかじゃないってわけだ」
千奈美はやっと合点がいった。
二人にとって梨沙子と仲がよい幼馴染が西成にやってくるのはおもしろくないに違いない。
- 60 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:41
- 「だから、あの計画ちょっと早まるかも」
友理奈が憂鬱そうに表情を変えて言った。
それを聞いて千奈美は一瞬息が詰まった。
「もしかしたら茉麻がいなくなるってことはさ。
もうみやとももを止める人間は誰もいないってことでしょ?」
友理奈が重苦しい表情で言った。
千奈美はそれを聞いて返すべき言葉を失った。
雅も桃子もあんな計画を本当に実行しようと思ってるなんて信じられなかったのだ。
夕焼けはもうビルの向こうに消えようとしているのにも関わらず
なおいっそう赤みを増して、
まるで充血した血管みたいに毒々しく残酷にも見えた。
- 61 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:43
- 連日のように雪がふり、あたりは枯れ草に白い雪が連なっている。
4月に入って3月の暖かさは嘘のように消えた。
太陽は姿を消し、毎日うす曇の天気に粉雪が降ったりやんだりが続いた。
小雪まじりの寒風が吹き付ける中、西成高の校庭の横を二人の黒髪の少女が
お互いに肩を寄せ合うようにして歩いてきている。
彼女らはしきりにあちこちを見渡しながら西成高の生徒会室のある管理棟に向かっていた。
あたりはもともとは芝生になっているところだが
雪のせいで人の通り道だけがべちゃべちゃのシャーベット状になっている。
- 62 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:44
- 「あそこ…かな?」
「多分ね」
背の高いほうの少女がもう一人を安心させるように笑った。
一見しただけで二人とも目鼻立ちの整った美少女だということが分かった。
しかし格好だけはごく普通で、制服の着こなしも無難だ。
西成高でも可愛い女子はたくさんいたがミーハーな子が多く、
かえって地味で貪くさいという印象さえうける二人の格好は
その中身の可憐さとの対比があいまってとても際立った。
しかも二人とも、田舎者のように周りをきょろきょろとしている。
- 63 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:47
- 管理棟にたどり着いたとき、背の高い少女は建物の周りを囲っている
金網のそばにゆっくりと近づいていった。
そしてひざを折って真下にある雪につけられた足跡を注意深く観察している。
もう一人の少女はその姿をただ見ていた。
しばらくすると管理棟のドアがバタンとあいた。
走って出てきたのは佐紀だ。
まるで人を探していたように周囲を見渡している。
そして二人がいることに気づいてはっと向き直った。
「矢島さんと鈴木さんですね?待ってました」
佐紀は丁寧に頭を下げて言った。
愛理が癖でせかせかと大げさなお辞儀を返す。
- 64 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:48
- 「生徒会室はこっちです」
佐紀が、建物の中を指し示す。
「こちらこそ。私が矢島舞美でこちらにいるのがが鈴木愛理です」
矢島舞美がゆっくりとうやうやしく頭を下げた。
「それと・・・今、あなたがお探しの小柄な女の子なら教室のほうに向かいましたよ」
舞美は微笑してゆったりと語りかけるように言った。
舞美の言葉遣いはまるで教会のシスターのようだ。
- 65 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/05/27(木) 21:49
- 「え?桃子に会ったんですか?」
佐紀は驚いて尋ねた。
「いいえ。私達は誰にも会ってません。そうよね?」
舞美はそばの愛理のほうを向きなおって言った。
愛理は不思議そうにうなずいた。
「どうしてそんなことが分かったんですか?」
佐紀は目を丸くしている。
「それに・・・その子は近道を使ったはずです。
だから今頃はもう教室についているはずですけど」
舞美は朗らかに笑って言った。
- 66 名前:ELS 投稿日:2010/05/27(木) 21:50
- 今回の更新を終わります。
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/28(金) 01:05
- そういやタイトルがタイトルだった!
交換で来る娘は予想どうり、ワクワクドキドキの話になってきた!
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/28(金) 21:08
- 予想どうりの娘がきたし、この後が楽しみっ!!
- 69 名前:ELS 投稿日:2010/06/03(木) 21:07
- >>67
レスサンクスです。期待していただいているようでうれしいです。
>>68
レスサンクスです。
がんばりますので、今後とも読んでやってくださいまし。
- 70 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:12
- そのとき、ちょうど佐紀の携帯が鳴った。
桃子という名前が愛理に聞こえた。
その後、佐紀はいぶかしむように舞美のほうを見ている。
どうやら舞美の言ったことは的中しているようだ。
「何故、その子がここを通って講義棟に向かったことが分かったんですか?」
電話の後、佐紀の問いに舞美は微笑みながら首をかしげて言った。
「嗣永桃子さんは、きっと小さくてとても可愛らしい方ですね。あなたが今電話してる様子から察しがつきました」
電話で桃子の姿が分かるはずがない。
そして佐紀は電話では桃子の名字までは言ってない。
それを聞いて佐紀はますますわけが分からなくなっているようだった。
- 71 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:15
- ともかく舞美たちは佐紀に促されて管理棟の中へと入った。
管理棟内は意外に薄暗くどこからか隙間風が服の中にしみこんでくるようで
ジンと寒気を感じる。
愛理は学食のある厚生棟はきれいで明るいのにここは、陰気で暗い感じがした。
「ねえ舞美、さっきのはどうやって分かったの?」
階段を上りながら愛理は舞美に尋ねた。
舞美は愛理のほうを向こうとはせずひたすら前ばかり見ている。
「効果があるといいんだけど」
舞美は愛理の質問には答えずにぽつりと小声で言った。
- 72 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:17
-
「矢島さんは噂どおりの人みたいね」
途中、佐紀が言った。
「どんな噂なんですか?」
愛理が尋ねた。
「とても美人で頭がよくて。でもそれだけじゃない」
さきほどの舞美の鋭さに衝撃を受けたのか佐紀は神妙な表情で言った。
「矢島さんは人の心を読むことができるって」
佐紀が挑むような目つきでこちらを見た。
その刹那、空気が止まったように愛理は感じた。
「私が西成高で噂されるなんてちょっとうれしいです」
佐紀の慎重な物言いを打ち消すように舞美が無邪気な笑顔を見せた。
- 73 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:18
- 舞美たちは、最上階にある生徒会室に案内されると
古めかしいソファのある部屋へ通された。
中央に古い燃焼タイプのストーブが置かれている。
よほど寒かったのが愛理はストーブに手をかざして両手をこすった。
「ねえ、そろそろ教えてくれてもいいでしょ?」
愛理は舞美に言った。
「教えるほどのことはないですよ」
舞美は愛理と目を合わさずにまっすぐに前を向いて言った。
- 74 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:19
- 愛理は舞美のこんな遠まわしの言い草には慣れきっていたが、
それでも何か意味ありげにうつむいている舞美をじっと見つめた。
「ほんのささやかな抵抗です」
舞美は今度は愛理をきちんと見て言った。
「抵抗って例の梨沙子に危険がどうとかっていう?」
愛理ははっとして言った。
- 75 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:20
- 舞美が答えようとしたところで正面のドアが開いた。
中から現れた美少女の姿に二人は息を呑んだ。
愛理はまるで間近では見てはいけない秘宝の人形のように思えた。
しかし舞美は躊躇することなくすくっと立ち上がって頭を下げた。
「初めまして。夏焼雅さんですね。シオン修道会の矢島舞美です。
そしてここにいるのが鈴木愛理と言います」
愛理もぺこりと頭を下げた。
「生徒会長の夏焼です」
その視線は心なしか鋭い。
- 76 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:22
- 夏焼雅の存在は桜花でも有名だった。
スタイル抜群の美少女であり、オシャレで誰からも人気があるともっぱらの噂だ。
愛理はそんな雅を有名人でも見るように羨望のまなざしで見つめた。
しかし雅はまるで値踏みでもするように二人の様子を見ていた。
一方舞美は雅をまっすぐに見つめたまま微動だにしない。
舞美も容姿端麗な神学のスペシャリストとして桜花学園を
代表する存在だったから二人が相対しているだけで
まるで雅と舞美との間に何か見えない大きな力が
ぶつかりあっているかのようだ。
- 77 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:23
- 「佐紀からさっきの話聞いたけど。それも神の預言てやつなの?」
いきなり雅の口調は挑戦的な感じだ。
「まさか。ちょっとした記号のゲームですよ」
舞美がおどけたように応えた。
「まあ。どうでもいいけど」
雅は、そう言って窓側のところへ歩いて言った。
舞美はそっと前に進んで言って窓の正面に立つ。
二人がちょうど愛理の目の前で左右両脇に向かい合った。
「あなたが矢島舞美さん」
「はい」
まるで神父にでも答えるように、はきはきと舞美は返事をした。
- 78 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:24
- 「噂じゃあなたは人が考えていることが分かるって聞くけど」
雅は言いにくそうに言った。
この人は、きっと手品師や超能力者などに対する免疫なんてないんだろうなと愛理は思った。
雅の舞美に対する態度はそんなペテン師に対しているような言い方だったのだ。
「まさか、私にはそんな力はありません。」
舞美は雅の言葉を打ち消した。
「ただ・・・」
そこで舞美は考え込むように言葉を切った。
「何かをやろうとしている人間の行動は読むことができます」
「へえ。やっぱそういう能力があるってわけ?」
まるで試すような雅の視線だった。
- 79 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:25
- 舞美は決してそんな怪しい存在ではない。
普段はさっきみたいな謎かけのようなことはしないし、
普通の人間よりよっぽど理性的な人間であることは愛理はよく知っていた。
「いいえ。でもとても簡単なことです。何か行動を起こすとき、人は最短距離を通ろうとしますから。
障害物でもない限り」
舞美はあっさりと答えた。
目だけは笑っているが口はきりっと引き締まっている。
- 80 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:27
- 「それも神学ってやつを学べばわかるようになるの?」
「さあ・・・。ただ神は決して自然に反しない。
だからあるがままの自然を見ていればいろいろなことが分かるようになります。
あたし達が信じている神のことも」
「じゃああたしも桜花に交換でいけばよかったかなあ」
そのとき、小柄な女の子が突然目の前に現れた。
「あ」
愛理は思わず声に出してしまった。
小さくて可愛らしい。
さっきの舞美の言葉がぴたりと符合する子だったのだ。
- 81 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:29
- 「嗣永桃子です」
桃子はものすごい早口で自分の名前を言って愛理達を見て笑いかけた。
愛理の見た目にはとてもひょうきんで人懐こそうに見える。
愛理は雅はきつそうで苦手だけどこの子なら友達になれそうな気がした。
しかしそんな気持ちは次の一言で吹き飛んだ。
「清教徒派、ずいぶん手こずってるんだってね。
総長みずから来て桜花は大丈夫なんですか?」
桃子はにこにこしながら尋ねた。
愛理は桃子が清教徒派を知っていることに驚いた。
- 82 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:30
-
「もともとの支持母体に裏切られるって飼い犬に手を噛まれたって感じなんですか?」
桃子は続けて言う。
「桃、あんまり言ったら失礼じゃない?」
雅の口調はいかにも本心からではない。
舞美を見ると微笑をかかえたまま口を真一文字につぐんでいる。
- 83 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:31
- 清教徒派はかつて、桜花学園で舞美が総長に上り詰めるのに
もっとも協力してくれたキリスト教の一派だった。
清教徒派と言われた学園の生徒達は、真にキリスト教に対して純粋な生徒達の集まりだった。
とりわけ物欲や我欲を極端に嫌って清貧であることを重んじている。
彼らは旧来の権威的な修道会の指導に反抗していた。
だからこそ当初は斬新ともいえる考え方をもっていた舞美をよく応援してくれていた。
しかし最近になって考え方をさらに急進的に変えてきており、
シオン修道会の最高実力者に上り詰めた舞美に対して、
元来の反抗的で過激な思想が牙をむきはじめた。
そのせいで修道会の運営にも大きく支障をきたすことがあり、
舞美の頭痛の種になっていたのだ。
- 84 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:32
- 「あたし、矢島さんのことはよく知ってるよ」
桃子は飄々とした語り口で言った。
「総長に就任してから校則とか決まりごとたくさん作って
清教徒派から反感を買ってるんでしょ?」
桃子の言葉に舞美はうなずいた。
「そうですね。うちでは校則の取り締まりは先生がやっているけど、
校則を作って先生方に直接指示しているのはシオン修道会、
つまり私たちです」
舞美が自分の胸に手をあてて言った。
- 85 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:35
- 桜花学園の生徒会組織であるシオン修道会は教師の意見に左右されずに
実質的に校則を制定している。
またそれだけではなく、教師による生徒指導の方法にまで修道会の権限は及んでいた。
修道会は服装検査の頻度や基準にいたるまで細かく教師達に指示を出している。
そして修道会の制定した生徒指導規則は全てにおいて優先され厳格に実行される。
かえって教師の方がこれは厳しすぎるではないかという意見が出るほどだった。
- 86 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:36
- 「スカート丈何センチとか、髪の色少しもそめちゃいけないとか。
制服の着方も決まってる。何で、生徒会自らそんな馬鹿な校則つくるわけ?
高校生がオシャレするのって当たり前のことじゃない?」
雅がさも不愉快そうに言った。
雅は近隣の高校からそのファッションや自慢の美貌で男子生徒の憧れになるくらいだったから
こんなに校則でがんじがらめになった高校が存在することは雅にとって気分がいいものではないに違いない。
それに桜花の生徒が全員そろって同じ服装や髪型をしているのを見て雅は理不尽に考えていた。
- 87 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:37
- 「仰るとおりですわ。でも本当に馬鹿な校則でしょうか?」
「生徒を縛り付けるのがいい校則とはいえないと思うけど」
雅は、毅然として言った。
「私は欲望を抑制するために校則を厳しくしているのです」
舞美はぽつりとつぶやくように言った。
雅はその言葉が何を意味しているのか理解できず押し黙った。
「自由は欲望を生み、欲望は人を傷つけます。
とりわけ弱い人を。だったらその校則に悪役をやらせたほうがその何倍もいい」
- 88 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:37
- 愛理は知っていた。
舞美は人間離れしたような大人びた理性的な思考をもっている。
だけど舞美はいつも弱者に優しかった。
その舞美が規則によってがんじがらめにすることだけを目的としているはずはない。
そこには絶対に何らかの強烈な意味。
守らばければならない何かがあると愛理は確信している。
- 89 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:39
- 「私たちの中には、オシャレして恋愛して、いっぱい街で遊んで
楽しい高校生活をおくる人がいるでしょう。
ただ私はそういう人ばかりではないと思っています。
友達も少なくて人間関係も苦手。ただ1日中気まずい空気にならないことだけ望んで
毎日必死に生きている人。
勉強ができなくて、先生に怒られることばかり気に病んでいる人。
私は少しでもそういう人達の力になりたいのです」
「その厳しい校則がどうやって弱い人を助けるか分かんないんだけど」
雅はそっけなく答えた。
- 90 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:39
- 舞美の穏やかな口調と柔和の表情の中にはとてつもなく強い意志を孕んでいる。
何故そんな力を舞美がもっているのか、
舞美を動かしている信仰とは、神とは何か。
それを西成高校のエリートである雅には理解できない。
とくに彼女が勝者で、強者であるかぎり決して分からないと愛理は思った。
- 91 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:40
- 「ちょっとみや、話を戻そうよ。
それでどうやって人の行動を読めるようになるわけ?
まさか上から神様が舞い降りてきて教えてくれるわけじゃないでしょ?」
桃子が話をさえぎった。
愛理は少し違和感を感じた。
何かこの子は必死な気がする。
どうも舞美を怖れているような気がした。
舞美はふっとため息をついた。
「私は、別に念力で人の心を読んでいるわけではありません。
それに神学も人の心を読むためのものでもありません」
- 92 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:43
-
「じゃああなたがやってる神学ってなんなの?」
「うーん。そうですね」
そういうと舞美は窓際まで歩いていった。
「物事には全て原因があります」
窓からは一面晴れた空がのぞいている。
日の光がまぶしいぐらいに入ってくる。
朝方あれだけ降った雪も徐々に溶け始めていた。
「雪が溶けているのは太陽が昇ったから。太陽が昇るのは地球が回転しているから。
結果には必ず原因があってその原因にも必ず原因がある。
それをずっとさかのぼって究極的な一つの原因に行きあたるとします。
それが神です。
私は神学をしているので、それに少し通じているというだけです」
舞美は振り返ってにこやかに笑った。
修道会で見せる舞美のいつもの表情だ。
雅は腕組みしたままとまっている。
桃子も一言も返せないようだった。
- 93 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/03(木) 21:44
- 「へえ・・・結構おもしろいこと言うんじゃない」
雅は言った。
「楽しいお話を聞かせてくれたお礼にこちらも、
二人が会いたがっている人に会わせてあげる」
そう言って雅が桃子に目配せした。
- 94 名前:ELS 投稿日:2010/06/03(木) 21:44
- 今回の更新を終わります。
- 95 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/04(金) 00:41
- 切れ者の火花バチバチwktk
キャラが違いすぎて新鮮ですね
- 96 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/04(金) 02:16
- 波乱の幕開け・・・!?
- 97 名前:ELS 投稿日:2010/06/10(木) 20:15
- >>95
レスサンクス。
そうですね。実際のキャラもかなり違うのでしょうね。
>>
レスサンクス。
今後ともよろしく。
- 98 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 20:52
- 「梨沙子、もう入ってきてもいいよ」
桃子に促されて梨沙子が舞美たちの前に現れた。
梨沙子は二人の姿を見て目を丸くした。
「うそ!舞ちゃんと愛理どうしたの?」
梨沙子はものすごく驚いて二人に駆け寄った。
「二人とも前から知り合いなんでしょ?」
「はい。ずっと前からの親友です」
雅の問いに舞美は笑って言った。
- 99 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 20:53
- 「でも、どうして?」
梨沙子が幼子のように二人にむしゃぶりついて言う。
「交換学生プログラム利用して来ちゃった。ちょっと職権乱用かな」
舞美がいたずらっ子のように笑った。
「りぃちゃん、元気だった?ずっと会ってなかったからさ。ちょっと心配だった」
隣にいる愛理が梨沙子を見て言った。
「全然大丈夫だよ」
梨沙子は自信ありげに言った。
「だってあたしにはみやも桃もいるし」
梨沙子はまるで自慢するように今度は雅と桃子の傍に駆け寄った。
「まあ感動の再開はまた後にして、全校集会で二人を紹介するから二人ともよろしくね」
今までの舞美との問答がまるで嘘みたいに雅が柔和な表情になって言った。
- 100 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 20:55
- 雅達と舞美と愛理は全校集会の会場である体育館に向かった。
「ところでさ。いいかげんさっきのこと教えてくれてもいいでしょ?」
途中、廊下で愛理が舞美に尋ねた。
「えっとなんでしたっけ?」
舞美がとぼけたように答える。
「もう。あのとき、小さな女の子が教室に向かったことを当てたこと」
愛理がせっつく。
あのとき、桃子が教室に梨沙子を呼びに行ったのは確かのようだ。
- 101 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 20:56
- 「いつも何か足りない。完全でないから人は記号を探すものね」
舞美は微笑で何か独り言のようにつぶやいた。
愛理は舞美のこんな遠まわしの言い草には慣れきっていたが、
それでも何か意味ありげにうつむいている舞美をじっと見つめた。
「私が見たのは足跡という名前の記号。」
舞美は廊下の窓から校庭を眺めた。
そこには白い雪の上にとけかかった小さな足跡がたくさんついている。
「管理棟から出てきた足跡は確かに教室のある講義棟に向かっていたよ」
「小さな足跡だから背が低い子だと気づいたの?」
舞美は首を横にふった。
- 102 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 20:58
- 「管理棟の横の金網、下の地面が掘られていて人が通れるようになってる。
でもかなり狭い。小さな子でないと通れないくらい。
でも足跡からするとその子は確かにあの小さな隙間をくぐっていったんだよ。」
「じゃあ何でその道が近道って分かったの?」
「私たちが管理棟に向かって歩いてきた途中の道で教室のある講義棟への矢印があったでしょ?
だけど誰も通った形跡がない。少なくとも私たちが通りかかるまでは。
もしも嗣永さんが講義棟に向かっていれば時間的に私たちとすれちがっていたはずです。
だけど私達は誰にも出会わなかった。
ということはその子は別の道、つまり近道を使ったということです」
「でも、何で管理棟からあの時出てきた子がその人を探してるって分かったの?」
「私達が到着しただけでお出迎えがあるなんてありえないでしょう。
だから飛び出してきて左右を見渡したのは恐らく誰かを追いかけてきたからでしょう。
でも生徒会室のある管理棟を出入りするような生徒なら私たちがここへ来ることになっていることは知っていた。
だからさも待ってましたという態度をとったということじゃないかな」
- 103 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 20:59
- 愛理は納得したようなしないような不思議な気分だった。
舞美が神学を応用した恐ろしく怜悧な洞察力の持ち主であることはよく分かっていた。
これで舞美がそのことを言い当てた謎は解けた。
でも分からないのは、わざわざ舞美がそんな名推理を西成高の生徒の前で披露したことだ。
舞美は自分の優秀さを人にひけらかしたりすることはもっとも嫌っているはずだった。
舞美はこれまでそんな無意味な自慢なんてしたことはない。
ということは舞美がそんなことを予想した理由は他にもあるように思えた。
- 104 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 21:00
-
「舞美の目的はたんに西成の人に自慢したかったわけじゃないでしょ?」
愛理は雅達に聞かれないように小声で言った。
「さすが愛理。そうね。だからあれはささやかな抵抗です」
舞美も周りに聞かれないようにひそひそ声で言った。
「抵抗?もしかしてりーちゃんのことと関係してる?」
愛理が舞美がここへ来る前に学園で言っていたことを思い出した。
舞美はゆっくりとうなずいた。
「梨沙子に危険が迫ってるかもしれない」
舞美が急にまじめな表情になって言った。
- 105 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 21:02
- 「そういえばこの前りーちゃん自転車を盗まれたってメールしてきたけど。
誰かがりーちゃんに危害を加えようとしてるってこと?」
舞美は静かにうなずいた。
「ええ。でもあくまで私の予感だし、誰が何をしようとしているかまでは分からない」
「舞ちゃんはあの生徒会のメンバーの誰かが怪しいって思ってるの?」
「いえ、今の段階じゃそういうわけじゃないけど。
学校を実質的に動かしているのはさっきの夏焼さんを中心にした生徒会だし、
情報の出所もあの生徒会が握っている。
だから生徒会にあたし達の力を出来るだけ誇示しておいたほうがいいって思って」
「そっか。なるほど。そうすればうちらがいるだけで梨沙子にめったなことは出来なくなるってわけか」
愛理は唸るように言った。
「まあとにかく、全ては梨沙子に聞いてみてからですね」
舞美は今度は急に慎重な顔になって言った。
- 106 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 21:03
- 全校集会が終わって舞美たちは教室へ戻ってきたが、
梨沙子の話しかける機会はなかなかなかった。
舞美たちは梨沙子の隣のクラスへ配属されていたが、
梨沙子の周りは雅のグループに囲まれて話しかけるタイミングはみつからない。
梨沙子はときおりにこやかに笑いながら周囲とおしゃべりを続けている。
「何かりーちゃん、楽しそう」
愛理がぽつりと言った。
「夏焼雅、嗣永桃子、清水佐紀、徳永千奈美、熊井友理奈、
梨沙子の周りは生徒会のメンバーばかりですね」
舞美は教室の窓から梨沙子の様子を観察して言った。
- 107 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 21:05
- 「せっかくりーちゃんと同じ高校に来て、また3人で過ごせると思ったのに」
愛理が不満そうに言う。
「仕方ないよ。梨沙子には新しい場所で新しい友達もできたみたいだし」
舞美が目を細めて言った。
「それはそうだけどこれじゃあ話そうにも話しかけられないよ」
「そうですね。仕方がないからメールでもいれておきましょう」
舞美がさらりと言った。
「ねえ、舞美が前から言ってる「梨沙子に危険が迫っている予感」ってのは一体どういうことなの?」
愛理が言った。舞美の表情がさっと変わった。
「の、ような気がするというだけです。私の取り越し苦労だと言いのですが」
舞美は何となく浮かない表情だった。
- 108 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 21:06
- 昼近くになると今度は一転して大きな太陽が顔を出し、
あたりの雪を一斉に溶かし始めた。
それは雪解けというほど生易しいものではなく、
今は4月だと言わんばかりに氷に熱湯を注ぎ込むような容赦のないものだった。
中庭の芝生は雪解け水が川のように流れ出してまるで川のようになり、
集められた水は夥しい日の光に照らされてキラキラと光った。
「お待たせ」
梨沙子はにこにこしながら舞美達に駆け寄ってきた。
「梨沙子、お昼まだなんでしょ。一緒にどうかと思って」
愛理が言った。
「あ、ごめん。昼はいつもみや達と食べてるから」
梨沙子が残念そうに後ろを振り返りつつ言う。
「分かった。じゃあ少し聞いてもいい?」
舞美が梨沙子の正面から両肩に手をおいて言った。
舞美の真剣な様子に思わず梨沙子の顔から笑みが消えた。
- 109 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 21:08
- 「この前、メールで梨沙子の自転車がなくなったって聞いたけど。あれ本当?」
「ああ、そのこと?もう忘れてた」
梨沙子はそんなことかというように緊張を解いた。
「本当だよ。でももういいんだ」
「どうして?」
愛理が尋ねた。
「みやが自転車で家まで送ってくれるから。使わなくてもよくなったし」
梨沙子がちゃっかりと言う。
「自転車、どこで盗まれたか分かる?」
舞美が言った。
「うーん。多分、学校の自転車置き場。帰ろうとしたらもうなかったから」
「犯人の心当たりは?」
さあと梨沙子は首をふった。
- 110 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 21:09
- 「でも何で?」
「梨沙子、ひょっとしたらいじめられてるんじゃないの?」
舞美は大真面目に聞いていた。
「いじめられてる?あたしが?」
梨沙子は何を言ってるのと言わんばかりだ。
舞美の表情に比して逆に梨沙子はにやにやと笑い始めた。
「あたし、いじめられてないよ。ていうか、みや達以外とあんまり話すひともいないし」
「その雅さんたちから嫌がらせを受けてるとか?」
「はぁ?ないよ。ないない」
梨沙子は笑いを通り過ぎて困惑しているようにも見える。
- 111 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 21:10
- これには愛理も舞美はどうしたのだろうと思った。さっきから梨沙子を観察してみてもいじめられている兆候は全くない。それどころか学校で一番の人気者の夏焼雅とも仲がよさそうだし、学校生活はとても充実してそうだ。
「じゃあ、最近他にものがなくなったとか、気になることはない?」
舞美はさらにしつこく尋ねる。
「ないよ。ない」
「本当に?」
舞美の質問は本当に執拗だ。
梨沙子はしょうがなく上を向いて考え出した。
- 112 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 21:12
- 「そういえば・・・代数学のノートがなくなったことがあったかな。
でもこれは見つかったんだよ。次の日、学校来たら机の中にちゃんとあって。
誰かが間違ってもってちゃっただけなのかも」
梨沙子は言いながら舞美の真意が分からず不思議な表情をしている。
「そう」
舞美は考え込むようにして応えた。
「梨沙子、ここにいたの?お昼行こうよ」
そこに雅が現れて言った。
雅は、舞美達と視線を合わせようとしない。
どうも自分たちにはあまり関わりたくないように愛理には感じられた。
愛理は気まずい雰囲気を感じて、その場を離れようとした。
- 113 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 21:13
- 「最後にもう一つ。入学したときに、
いじめっ子がいて怖いって言ってたじゃん。
その子はもう大丈夫になったの?」
舞美が少し大きな声で言った。
そのとき初めて梨沙子がまたすごく大きな声で笑った。
「全然大丈夫。だってその子、夏焼雅のことだもん」
梨沙子はさっと雅の右腕をつかんで横に並んだ。
雅は何のことを言われたのか分からずきょとんとしていた。
梨沙子はそのまま雅の手を引っ張って学食のほうへ向かって行った。
- 114 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 21:15
- 「ねえ、本当に梨沙子に危険が迫ろうとしてるの?
あたしにはそうは見えないけど」
愛理があきれたように言った。
さっきの桃子の行動を言い当てた舞美はどこに行ったのだろう。
舞美は中学のときから梨沙子を自分の妹みたいにとても可愛がっていたから
単に舞美の心配性の性格がそう思わせているだけなんじゃないかと愛理は思った。
「そうですねぇ。そうだといいけど」
「本当は梨沙子を助けるためとか言って、ただ梨沙子に会いにきただけじゃないの?」
「そ、そんなことないよ。私は、不穏な空気を確かに感じるのです」
「夏焼雅に?」
愛理がそう言うと舞美が初めて動揺したような表情を見せた。
「それが、まだよく分かりません」
「まあ、いいけど」
愛理がさきほどの雅の気取った言い方をまねした。
- 115 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/10(木) 21:15
- 太陽はすっかり頭のてっぺんまで上り、あたりは上方からくる熱い空気と
下の雪で冷やされた空気が入り混じって生ぬるささえ感じる。
雪は完全にシャーベット状になって溶けかかっていた。
その下からは濃い緑色が頭を覗かせている。
雪さえ消えればあたりは初夏の情景に一変するのではないかと錯覚を起こすほどその緑は夏の色だった。
- 116 名前:ELS 投稿日:2010/06/10(木) 21:16
- 今回の更新を終わります。
- 117 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/11(金) 00:52
- 嵐の前の・・・ですね
- 118 名前:ELS 投稿日:2010/06/17(木) 20:21
- >>117
レスサンクス。
もうしばらく嵐の前です。
- 119 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/17(木) 20:22
- 「全く、ストーブ出したと思ったらすぐしまわなきゃいけないし」
桃子は窓から外を眺めて言った。
窓からはゆっくりとそよ風のような空気が入ってきた。
よく匂いをかぐと日陰からやってきた冷たい風と日射で温められた空気が
ちょうどミルクコーヒーが溶け合うみたいにブレンドされて、
まるでオアシスに吹く風のように清涼に感じる。
「朝は雪合戦で昼からはハイキングできるね」
雅は言った。
雅はさきほど舞美達が腰掛けていたソファに崩れるように座っている。
舞美との議論が終わって力が抜けたようだ。
- 120 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/17(木) 20:23
- 「ハイキング・・・たまにはそれもいいかもね」
そう言って桃子は雅の隣にゆっくり座った。
雅は桃子が傍にいると本当に落ち着いた。
逆に梨沙子がいると胸がざわついていつまでたっても静まらない。
「単なる宗教バカじゃないみたいね。矢島舞美」
桃子は雅と顔を合わせずにまっすぐ前を向いて言う。
本当に厄介な人物が登場してきたものだと雅は思う。
しかも何が目的かは分からないが梨沙子の周辺をかぎまわっている。
- 121 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/17(木) 20:24
- 雅は天賦の切れ者から感じるような理論の敏捷さというものを
舞美から感じたわけではなかった。
同時に宗教にはまっている人が発する偏った発想や思考の癖というのも感じない。
舞美からは人間のいやらしい部分やちょっとした感情の揺れを全く感じないからかもしれない。
舞美の思考はまるで澄み切った空気のようだ。
それがあたかも混じりけのない真実であるように人の心に響く。
これまで雅が一度も会ったことのないタイプの人間であり、
舞美のもつ不思議な力をすでに認めざるを得ない状況だった。
- 122 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/17(木) 20:26
- 「で、そっちのほうは予定通りなの?」
桃子の言葉で雅は急に現実の計画に引き戻された気分になった。
「そっちって?」
「梨沙子が家出するって話し」
桃子の問いに雅はうなずいた。
「それは予定通り。茉麻がいるときだったからばれないように
授業中にノートの切れ端に書いたりして話したんだけど。
夏休み中にはやるみたいよ」
「そっか。じゃあ一応実行できるわけだ。例の計画」
桃子は横顔だけみると可愛いというより整った和風美人のようにも見えるのだが、
まっすぐ斜め上を見ている姿は横から眺めると何故だか冷たく空恐ろしくも見えた。
- 123 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/17(木) 20:27
- 「まあその前にあいつを何とかしなきゃね」
言っている人間のことは分かっている。
−矢島舞美−
今、雅の心のうちに強く燃え上がっているのは神学者としての矢島舞美の存在を完全否定してやりたいということだ。
- 124 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/17(木) 20:28
- 「神様は果たして梨沙子を守れるかな」
雅も前を向いたまま桃子と目を合わせずに言った。
何それと桃子は興味深そうに笑う。
「あいつ信じてるんだって。神様」
雅は両手を合わせて拝む格好をした。
「じゃあ天使と悪魔の戦いの始まりだね」
桃子が微笑を浮かべて言った。
「あたし、楽しみになってきた」
雅の言葉にそうだねと言って桃子はにやりと笑う。
「梨沙子は永久にうちらのものだよ」
雅は残酷な笑いを見せた。
- 125 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/17(木) 20:30
- 梨沙子は雅が誕生日にプレゼントしたアーモンド色のカチューシャと
桃子があげたシルバーグレイのブレスレットをさもうれしそうにつけていた。
「よく似合ってんじゃん」
雅は梨沙子の後ろ髪をゆっくりとなでている。
梨沙子の柔らかい髪が名残惜しそうに雅の手のひらから流れて消えていった。
- 126 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/17(木) 20:32
- 「まあ、梨沙子は何でも似合うけどね」
桃子は夏服になって露になった梨沙子の腕をとって、
まるで大事なものを扱うようにゆっくりとさすっていた。
桃子の手はブレスレットにふれるでもなく、
しきりに梨沙子の二の腕のあたりをいったりきたりしている。
一方雅はカチューシャのある髪からは離れて
今度は梨沙子の耳の後ろに手を回し、
もったいつけてなかなか梨沙子の肌から離れようとしない。
- 127 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/17(木) 20:33
- 首のあたりを思う存分、蹂躙するようにしつこくしつこく、
雅の行為は繰り返された。
しかし当の梨沙子は二人のなすがままだった。
ほうっておくと首筋からさらに肩や胸のほうまで触られたり、
二人の行為は際限なく増長していくのだが、
それでも梨沙子は二人を嫌がることは決してない。
それがさらに二人をエスカレートさせていくのだった。
- 128 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/17(木) 20:36
- その時、3人の間をふっと風が通った。
そのせいで雅達の動きが一瞬止まった。
梨沙子はその風が二人の動きを止めたように感じた。
それは山から降りてくる初夏の風のようで、
一瞬にして勢いだった樹木の精気のようなものを教室じゅうにあふれさせた。
まるで森林浴へ行ったときのような、濃厚で湿った空気が天空の光線に昇華されて、
神々しい揮発性の物質に姿を変えていくようだ。
梨沙子は思わず周囲を見渡した。
なんとなく、舞美がそこにいるような気がしたのだ。
だけどその姿はどこにもない。
- 129 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/17(木) 20:38
- 「ところで梨沙子はさ。夏休み中に家出するって本気なの?」
雅がやっと梨沙子に触るのをやめてほおずえをついて聞いた。
「本気だよ。あ、みやも桃もあまり知らないかもしれないけど、
あたし中学の頃は親と喧嘩したらしょっちゅう家出してたんだ。
おばあちゃんちに行くだけなんだけどね」
梨沙子は、さきほどの二人の行為をまるで気にしていないようでさらりと答えた。
「でもそれじゃすぐばれちゃうでしょ」
桃子も梨沙子の腕を触るのをやめて言った。
桃子の指だけが寂しそうに机の上を踊っている。
- 130 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/17(木) 20:40
- 「うん。でもだから気が向いたらいつでもあたし家出するんだよ。
今回もちょっと遅くなっただけであんなに怒られるし」
梨沙子は、この前桃子と二人で買い物に出かけて帰るのが相当遅くなってしまったのだ。
それが原因で親に外出禁止令を出されそうになっている。
「だから家出ってあたしにはそんな大げさなことじゃないの」
梨沙子は自慢げに二人に言った。
- 131 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/17(木) 20:43
- 「でもそれだったらさ、今度はみやの家使ったらいいじゃん。
みやんとこ両親とも海外行ってていないし。
家も近いし絶対ばれないし一番便利じゃん。
ね、みやはいいんでしょ?梨沙子が行っても」
桃子はみやを見て言った。
梨沙子は目を大きくして雅を見る。
「もちろん。梨沙子だったらいつでも大歓迎だよ。何かおいしいものでも作ったげるよ」
「本当?いいの?」
梨沙子が無邪気に目を輝かせた。
「大丈夫。あたしにまかせて。そのかわり、いろいろと提案があるんだけど」
雅は桃子に目配せしてから梨沙子に耳に口を近づけて内緒話をした。
梨沙子はしきりにうなずいている。
「分かった。みやの言うとおりにしてみる」
雅に対する梨沙子はいつも子供のように素直だ。
- 132 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/17(木) 20:45
- 「ねぇ、ちぃも聞いてよ」
よっぽどうれしかったのか梨沙子は、なかなか話しに加わろうとしない千奈美を呼んだ。
千奈美は一瞬強張った表情をしたが梨沙子と目があうと
すぐに笑顔になってなになにと話しにのってきた。
そのぎこちなさに雅も桃子もすぐに気づいていたが、
梨沙子は気にする様子もなく家出の計画を楽しそうに
千奈美に向かって話し始めた。
佐紀と友理奈は気まずそうに梨沙子たちのやり取りを見つめていた。
- 133 名前:ELS 投稿日:2010/06/17(木) 20:45
- 今回の更新を終わります。
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/18(金) 00:49
- これはべりとキュートの聖戦ですね
- 135 名前:ELS 投稿日:2010/06/24(木) 21:25
- >>134
レスさんくす。
そろそろ聖戦のはじまりです。
- 136 名前:幽閉 投稿日:2010/06/24(木) 21:27
- 舞美は胸に下げている十字架を手に取ると目を閉じて言った。
「父と子と精霊の御名において平安あれ」
「アーメン」
舞美にあわせて愛理が言った。
しばらく二人は目を閉じたまま祈りの儀式をした。
- 137 名前:幽閉 投稿日:2010/06/24(木) 21:27
- この祈りは特に時間が決まっているわけではない。
心を落ち着かせたい時や、休憩時間、一息いれたいときにも
神に祈りを捧げることがシオン修道会での慣わしになっている。
ただ、全学生を通じてキリスト教徒が集まっている桜花に比べて
祈りの宗教など存在しない西成に来たおかげで二人の祈りの機会は
めっきり減ってしまったように愛理は感じていた。
- 138 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:29
- 「結局、りーちゃんの身に何もなくてよかったじゃん。
あたし達が西成にいるのもあと一ヶ月とちょっとだし」
前期授業が終わり、もうすぐ夏休みに入ろうとしていた。
その夏休みが終わって9月までで交換学生プログラムも終わりを迎える。
「でももうちょっとりーちゃんと一緒の高校生活送りたかったな」
愛理が少し寂しそうに言った。
梨沙子と話す機会はあれから何度もあったが、
梨沙子は雅のグループの一員で容易にそこを抜け出すことはできない。
梨沙子のほうも積極的に雅の傍にいつもいたから
必然的に愛理や舞美と一緒にいる時間はほとんどなくなってしまう。
- 139 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:30
- 「舞ちゃんはまだりーちゃんのこと心配してるの?
もういじめられてる可能性なんて全くないんだしさあ。
いい加減梨沙子離れしようよ。」
愛理はあきれたように言った。
「でも・・・少しだけ気になることがあるんです」
「何?」
「梨沙子が盗まれたって言ってる自転車のこと」
「あー、いまだに見つからないんでしょ?」
愛理の言葉に舞美はうなずいた。
- 140 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:32
- 「梨沙子の話しからすると自転車は学校内の自転車置き場から盗まれたことになる。
だけどわざわざ自転車だけを盗むために高校に侵入する人がいる?
念のため先生に聞いたら、西成の校内で自転車が盗まれたとう報告は
他にはほとんどないそうです。だから」
そこまで言って舞美はまた押し黙った。
「私は誰かが梨沙子の自転車だと知っていた上で盗んだと思う。
ということはその自転車が梨沙子のだと知っている人物が犯人ということになります」
「だとすると・・・やっぱりりーちゃんはこの学校内の誰かに恨まれてるってこと?」
愛理が不服そうに言った。
「いえ、そうとは限りません。何か別の目的があるのかも・・・」
そこまで言って舞美は考え込んだ。
- 141 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:33
- 西成高校は夏休みに入った。
とはいえ、授業は選択式の課外授業という名目で続けられる。
時間は午前中に授業が終わることが多くなったが、
それでも校内はいつもと変わらず生徒が行き来していた。
舞美は一人で自転車置き場にきていた。
授業のない愛理は学校には来ていない。
舞美はそこで梨沙子に教えてもらった自転車が置かれていたはずの場所で
腰をおろしてあたりを丹念に調べていた。
- 142 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:34
- 空は雲ひとつなく晴れ渡り、あたりは蝉の鳴き声がうるさく響き渡っている。
下ばかり見ていると自転車置き場の白いコンクリートから放射される熱が
もろに舞美にあたって頬や背中にはや汗を滲ませた。
舞美があまりの暑さにふと顔を上げるとそこには生徒会室のある管理棟の建物が見える。
生徒会室の前の廊下には誰もいない。
そう思った瞬間に舞美はそこにふと黒い影のようなものを見た。
さらに目をこらしてよく見ようとしたが、あいにく汗が目に滲んでよく見えなくなった。
気のせいかともう一度よく見るともはや生徒会室の廊下には誰も歩いてはいない。
そのとき、舞美の携帯が鳴った。
- 143 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:35
- 電話は愛理からだった。
「修道会が大変なの!」
愛理の口調から動揺した様子が感じ取れる。
舞美は瞬時に起こりうるあらゆる可能性を想起した。
「清教徒派?」
「うん。修道会室に清教徒派の人達が押し寄せてきてるらしいの」
悪い予感は的中した。
- 144 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:37
- 「清教徒派の人たちがお金持ちの家の子のシオン修道会の関与の禁止と修道会がもってる高価なものを売却するように迫ってきたらしいの」
「何で?」
「高価なものやお金をもつことが清貧を重んじるキリストの思想に反するって」
「ずいぶんとバカなことを考える人たちがいるものね。
お金持ちを排斥しようとする考え方自体が、自分達がすでにお金に
最大の価値を置くことを意味していることに気づかないのかしら」
舞美は自分の高校のことながらあきれて言った。
「そのせいで終業式のミサが大混乱。楽器が何個か壊されてるみたい」
「分かりました。すぐ行きます」
舞美は自転車に飛び乗ると、数ヶ月間留守にしていた母校に向かった。
- 145 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:38
- 梨沙子は課外授業が終わって机の上の荷物をまとめていた。
桃子や他のメンバーは授業がないので先にもう帰ってしまっていた。
「何か緊張するね」
傍で雅が落ち着かない様子で梨沙子をせかしている。
「もう、みやが焦ってどうすんの?家出するのはあたしなんだから」
梨沙子が笑うと雅がああそうかと向き直る。
梨沙子は雅を置いて先に歩き始める。
「ねえ、絶対梨沙子の親にはばれてないよね?他の人にも誰にも言ってないよね?」
「それ、何回聞いた?絶対ばれてないし、誰にも言ってないよ」
呆れて怒ったように梨沙子が答える。
「そっか」
安心して雅は梨沙子の隣に並んだ。
- 146 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:40
- 「もう、心配性だなあ」
梨沙子は雅の顔を覗き込んで笑った。
梨沙子は我侭を言うし、喜怒哀楽の感情は激しい性格だが、
本当の意味で雅に対して怒ったことは一度もない。
そんな梨沙子の穏やかな性格も雅が梨沙子を可愛がりたくなる要因の一つなのだが、
それは桃子にも他のメンバーにも言えることだった。
二人はそのまま自転車置き場に向かった。
そこは舞美が先ほどまでいたときと全く変わらず激しい日光があたりを照りつけていた。
「早く家でジュースでも飲もうよ」
雅は梨沙子を後ろに乗せて言った。
梨沙子はあまりの暑さに頭をくらくらさせながらうなずいた。
- 147 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:43
- 愛理が桜花学園の修道会室に到着したのは舞美に連絡をいれてからまもなくだった。
予想通り部屋は荒らされ楽器が壊されている。
「待って。まだ片付けないで」
愛理がショックを受けながらも部屋を元に戻そうとする生徒に向かって言った。
「舞美がもうすぐ来るから。片付けるのはもう少し待ってって」
「でも、犯人は清教徒派のグループで間違いないですよ。あたしはこの目ではっきり見ました」
修道会のメンバーが愛理に言った。
「私も、止めたけどもう問答無用って感じで」
状況から考えて犯人達は清教徒派であることで間違いはなさそうだった。
何より清教徒派は自分達を真のシオン修道会と銘打って過激な運動を繰り返してきたし、
それなりの動機がある。
ただ、愛理は自分がいないところでこの事件が起きたことが無念でならない。
- 148 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:44
- 「はぁ、愛理、一生の不覚・・・」
愛理は、愛理は常に一人で清教徒派の中に飛び込んで行くし、
清教徒の人間はあまり怖くないと思っていた。
集団同士で言い合いになったり、ぶつかるとたちまち過激な集団になるが、
一人で会いに行けば純粋で親切な人も多いし、
話しもよく聞いてくれる。
女の子一人相手に暴力をふるってくるような人間達ではない。
しかしそんな楽天的な愛理の性格向こう見ずな人間と注意されることもあった。
- 149 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:46
- ちょうどその頃、雅と梨沙子の二人は雅の家に到着していた。
「今日、桃この部屋来た?」
梨沙子は雅の部屋に入るなりそう言った。
「いいや。何で?」
雅はエアコンのスイッチを入れるために梨沙子に背を向けたまま言った。
「うん。何か桃の匂いがすると思ったから」
「そう」
雅は梨沙子のほうを向いた。
「まあ、座ってて。ジュースとってくるから」
「分かった」
梨沙子は素直にそう言うとベッドの上に腰掛けた。
- 150 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:47
- 梨沙子はなんとなく雅の部屋の様子が違うような気がした。
ゆっくりと部屋の中を見渡したけどどこが違うのかは分からない。
そっか。
しばらくして梨沙子はぽんと手のひらを打った。
部屋がきちんと片付けられてるだけだ。
いつもの雅の部屋は汚いというわけではなかったが、
化粧道具や服や小物が雑然と置かれている。
なのに今日は妙に整理整頓されているのだ。
桃子が来て掃除したのかといろいろ考えたが特にこれといった理由は梨沙子には思い当たらなかった。
- 151 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:48
- あの頭の切れる舞美だったら一体どんな推理をするんだろうと梨沙子はふと思った。
梨沙子と舞美と愛理の三人は小さい頃から幼馴染でよく一緒に遊んでいた。
そのときから舞美の観察眼はとても鮮やかで鋭く、
なくし物を簡単に探し当てたり誰もが見過ごすような
小さな一点に着目してそこから考えもつかない事実を導き出すことが多々あった。
- 152 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:51
- 舞美が到着したとき、修道会室は舞美の指示通り荒らされた状態のままになっていた。
愛理達がうなだれて部屋の前に立っている。
舞美は一歩部屋に入ると、部屋がむちゃくちゃにされていることへの感情など
一切ないかのように、注意深く部屋の状況を調べ始めた。
その姿はまるで探究心に満ちた科学者であり、
怒りや後悔といった感情に無縁の舞美にはいつも不思議な魅力がつきまとった。
- 153 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:52
- 「これは・・・清教徒たちが犯人ではないかもしれませんよ」
舞美は立ちすくんでいる修道会のメンバーに向かって笑いかけた。
「え!?でもあたし達はちゃんと見ました。この部屋を荒らしていったのは確かに清教徒派のメンバーです」
一人が「清教徒派」という言葉を強調して言った。
この部屋には清教徒派への憎しみが満ち満ちている。
- 154 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:53
- 「確かに清教徒派の人が部屋を荒らしたのかもしれない。
大事なことは・・・誰がしたのかではありません」
舞美はまだ微笑を崩さない。
「でも今、犯人は清教徒派じゃないって」
「不思議だと思いませんか?清教徒派が壊していった高級品はこのバイオリンだけ。
他にもフルートやクラリネットだってありますよ。
値段的にはこっちのほうが高いかもしれない。
他に壊されているのは、棚に椅子に机。
後は本が破られている。これは二束三文の品物ばかりです」
- 155 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:54
- 「舞美、何が言いたいわけ?」
愛理が不思議そうな表情をして尋ねた。
「つまり、事件の犯人達の目的は修道会室の備品を壊すこと。
清教徒派が自分達の信念や理念に基づいてやったことではないということです。
もしかしたら誰かに頼まれてやったことかもしれない。
だからこれを行う行為者は誰であっても構わない。
たまたま清教徒派の方々であっただけということです」
「でもだとしたら何の目的で?」
愛理は唖然として言った。
「それはまだ私にも分かりません」
舞美は両手をあげて飄々と言った。
- 156 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:55
- 「オレンジジュースでよかった?あとお菓子もあったから」
雅が盆にジュースとお菓子を満載して戻ってきた。
でも梨沙子しては珍しく食べ物よりも舞美のことが気にかかった。
「あの、舞ちゃんのことなんだけどさ」
梨沙子は自分が考えていることをそのまま口にする。
「何?」
「時々、探偵みたいなことするんだよね」
「ああ。そうだね」
雅は舞美がやってきた初日の名推理を思い出してうなずいた。
「でもいまいちよく分からないのが、あたしはこの学校でいじめられてるって言い出すんだよ」
「へえ」
「あたし、そんなにいじめられそうな顔してる?」
ジュースを飲みながら梨沙子は言った。
- 157 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:57
- 「んー。梨沙子をいじめるような人はいないとは思うけど」
「けど?」
「梨沙子って可愛すぎるところがあるじゃん?」
雅は真顔で言った。
「何それ」
梨沙子は噴出して笑う。
そしてジュースを一気に飲み干した。
「だから逆にいじめたくなる」
雅が梨沙子にそっと体を寄せた。
雅に慣れきっている梨沙子はそのまま動かない。
何か出来ようものならしてみろと言わんばかりだ。
- 158 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 21:58
- 「どうやって?」
梨沙子は目をぱっちりと開けて雅に尋ねた。
「こうやって」
雅は梨沙子の首に手を回すとゆっくりと顔を近づけて行く。
そしてそのまま雅と梨沙子の唇が重なった。
雅の眼前に初めて動揺した表情を見せる梨沙子がいた。
まるで超えてはいけない線を雅がいとも簡単に犯してしまったかのようだ。
雅は何だかうれしかった。
梨沙子がこんなにうろたえているのは初めて会った以来かもしれないと思った。
- 159 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 22:00
- 「あたしにこんなことしていいの?桃が黙ってないかも」
梨沙子が上ずった声で言った。
「そうかなあ?」
意地悪そうに雅は笑った。
もはや梨沙子の言葉は雅にとっては悔し紛れの台詞にしか聞こえないようだ。
雅はゆっくりともったいつけて梨沙子から目を離すと、
洋服ダンスの方を向いて目配せした。
するとがちゃりと音がして扉がひとりでに開き始めた。
びくっとして梨沙子の視線は扉に向かう。
中からは桃子が憮然とした表情で出てきた。
- 160 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 22:02
- 「桃!?来てたの?」
唖然としている梨沙子をあざ笑うかのように
桃子はすたすたと梨沙子に近づいてきた。
梨沙子は自分に何が起ころうとしているのか全くつかめないようだ。
梨沙子の真正面にきた桃子はベッドに座っている梨沙子の両肩をもつと、
そのまま後ろへ押し倒した。
桃子の不敵な笑いと梨沙子の脅えた表情が至近距離で向かい合った。
- 161 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 22:03
- 「キスだけはあたしのものだと思ってたのにね」
桃子はそう言うと今度は自分が梨沙子の唇を奪った。
雅は冷酷な表情で二人の様子を見つめている。
長いキスだった。
桃子は梨沙子の口内を蹂躙したままいっこうに引き下がる気配がない。
危険を感じた梨沙子は桃子を押しのけようとしたがうまく力が入らなかった。
桃子はこれでもかというぐらいに梨沙子の口を吸い上げている。
抵抗する梨沙子の力が弱くなるとやっと桃子は梨沙子を放した。
やっと桃子から解放されたとき、よっぽど苦しかったのか梨沙子は肩で息をした。
- 162 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/06/24(木) 22:05
- 「あたし、帰る」
梨沙子は怒った口調でそういうとベッドに手をついて立ち上がろうとした。
しかし体に力をいれようとした途端、
まるで全身から力が抜けて行くかのように、ベッドのそばに倒れこんだ。
- 163 名前:ELS 投稿日:2010/06/24(木) 22:06
- 今回の更新を終わります。
- 164 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/25(金) 00:35
- ももみや黒いなぁっ
ベリ好きだけどヨイヨ!ヨイヨー!
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/25(金) 09:06
- 続きが気になります!
- 166 名前:ELS 投稿日:2010/07/01(木) 20:51
- >>164
レスありがとうございます。
ここからは突入してしまいますが、どうかご容赦を。
>>165
レスありがとうございます。
ゆっくりですが更新させていただきます。
- 167 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 20:53
- 「もう薬が効いてきたかな」
雅は楽しそうに白い歯を見せた。
はっとなって梨沙子は雅を見つめる。
雅はにやにやと笑うだけだ。
梨沙子は、その時初めてジュースの中に薬が入れられていたことに気づいた。
そして今になって部屋が片付けられていることも全て自分をだます為の仕掛けだったことを理解した。
梨沙子の体に薬の効き目が波のように襲ってくる。
それでも梨沙子は歯を食いしばるように必死に立ち上がった。
- 168 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 20:55
- 「帰れるわけないじゃん。梨沙子にはたっぷりと痺れ薬のんでもらったからさ」
雅がテーブルを上にほおずえをついて言う。
「こわー。みや」
桃子も余裕でベッドの上に座ったまま梨沙子を追いかける様子もない。
早く逃げなきゃ。
気持ちばかり焦っても思うように体が動かない。
天井と床がぐるぐると回っているような気がした。
「梨沙子、大丈夫?」
いつもと同じ桃の声なのに今の梨沙子には優しい桃の言葉には思えない。
全てが信じられなくなりそうだった。
梨沙子がくらくらしながら部屋の真ん中まで進んだところで雅と桃子が近づいてきた。
- 169 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 20:56
- 早く家の外まで逃げないと。
朦朧としながらもそう思って梨沙子は走ろうとしたが
もはや梨沙子にはその力は残されていなかった。
さきほどよりも薬がさらに体に回ってきているようで
梨沙子は歩くだけでやっとだ。
まるでスローモーションでも見ているかのようにのろのろと動く梨沙子を
雅と桃子は楽しそうに見ている。
梨沙子は何とか床に置いてある自分のバッグを手に取ると、
もう少しでドアノブをにぎろうとした。
しかし一瞬目をつむったかと思うとそのまま床に崩れるように倒れこんでしまった。
罠にかかった可憐な獲物にむらがるように雅と桃子は傍らにやってきた。
- 170 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 20:58
- 「梨沙子」
名前を呼んで揺り動かしても梨沙子は目を開けない。
梨沙子が完全に意識を失っていることが分かると
雅は愛おしそうに梨沙子を抱き寄せた。
そして梨沙子の額に手をあててそこからゆっくりとほおを撫でている。
「何かわくわくするね」
桃子も力の抜けた梨沙子の手をとって撫でさすりながら満足そうに言った。
「じゃあさっそく作戦第二段階」
雅は梨沙子の両脇を抱え、桃子は梨沙子の両足を持った。
無残な美少女は抵抗もできないままどこへとも分からない場所へ連れ去られていった。
- 171 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 21:00
- 舞美は修道会室を荒らしていった犯人の目的を思索しながら
桜花学園の廊下を歩いていた。
犯人達の目的は一体何なのか。
単に自分達の清貧思想に基づいて金目のものを壊していったとはとても考えられない。
一人になって考えたくて修道会室を離れて普段授業を行っている
教室のあたりまできた。
夏休みだけあって廊下にも誰もいない。
ただがらんとした教室が並んでいる。
学園の中はしんと静まり窓の外からは蝉の鳴き声だけが校内に木霊していた。
- 172 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 21:01
- 普段なら荘厳なチャペルの鐘が鳴り、あちらこちらから
歌声のように聖書の文言が聞こえてくるような学校だ。
桜花学園は完全にキリスト教の学校だけあって生徒の雰囲気も
それに染まってくるのか、挨拶するときの言葉やそのときの
微妙な姿勢などがどこか異国のような雰囲気を醸し出していた。
しかし生徒が誰もいなければ全てが夏の暑さに霧散してしまって
今はただのがらんどうの高校だと舞美は感じた。
問題なのは中身なのかもしれない。
人の心も案外同じようなものでそこに宗教が関わろうとかかるまいと
破壊傾向にある人は壊すのかもしれないとも舞美は考えた。
- 173 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 21:04
- いきなり背後から舞美はどんとすさまじい力で押された。
ちょうどため息をついた後、階段を下りようと手すりをさわろうとした時だった。
考え事をしていたせいで避ける余裕もなかった。
まるで高いところから突き落とされたように舞美の体は板張りの急な階段に打ち付けられた。
続いて階段の角で背中や頭部を次々に強打する。
最後の一撃がまるでとどめをさすかのように後頭部にあたって
舞美は顔をしかめた。
それでも階段の下まで転げ落ちて体の動きが止まったことまではわかった。
必死に手をついて頭を触る。
そして舞美は頭からどろりとした液体が流れていることに気づいた。
それがまだ生暖かい血液だと分かった瞬間、すぐに視界が真っ暗になり床につっぷすようにして倒れた。
舞美を押した人物は舞美が動かなくなったことを確かめると足早にそこを立ち去った。
- 174 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 21:06
- 梨沙子はしばらく朦朧とした意識の中にいたが、
やがてどこかに座らされている感覚とともに目が覚めた。
両腕が後ろに回されていていかにも不自然な格好になっていた。
「気がついた?」
目の前に見慣れた二人がいる。
雅と桃子がベッドの向こう端に座っていた。
梨沙子はベッドからおりようとして両手が後ろに回されてぴくりとも動かないことに気づいた。
後ろを振り返ると梨沙子は後ろ手に手錠をかけられてベッドの端にある
金具にしっかりと固定されているのが見えた。
そのため、二人と向かい合って右にも左にも動けなかった。
正確には二人を見慣れているというのは過去形の話しだ。
梨沙子は自分の置かれている状況からもう二人は今までの
雅と桃子ではないのだろうなと冷静に思った。
- 175 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 21:07
- 「ここどこ?」
梨沙子は自分を落ち着かせようと言った。
ぎりぎりのところでまだ梨沙子は理性を保っていた。
「さあ・・・梨沙子がこれからずっと生活するところかな」
雅が熱もこもっていない口調で答えた。
雅は無表情で何を考えているのか梨沙子にはまったく分からない。
ただ人形のように美しい顔を梨沙子に向けている。
しかしその顔を見て梨沙子は初めて自分がとんでもない目に合わされようとしていることが
徐々に分かってきた。
- 176 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 21:08
- ふっと雅と桃子が目を合わせた。
それを合図にして二人は肉食動物が獲物との距離をはかるように
四つん這いになってそろりそろりと梨沙子に近づいてきた。
それが何を意味するのかはまだ梨沙子には分からない。
「誰か・・・助けて」
身動きができない梨沙子は左右を見渡して小さい声で言った。
右手は白い壁の前に小さな棚が置いてあるだけ。
左には鉄格子がはりめぐらされている。
それを見て梨沙子はすぐに刑務所の牢屋を連想して凍りついた。
その鉄の棒はもうここから永久に出られないのではないかという絶望感となって梨沙子を襲った。
- 177 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 21:10
- がぶりと唇を噛まれたような感触だった。
気がついたら目の前に雅がいる。
雅の舌が侵入してこようとするのを必死に抵抗して顔をそむけた。
「梨沙子、抵抗しないで。もうどうせ逃げられないんだから」
耳元で桃子の声がした。
「痛い目にあいたくないでしょ?」
いったん唇を離して雅は勝ち誇ったように言った。
そしてそっと人差し指を伸ばしてくると梨沙子のあごを上につきあげる。
そして値踏みするように梨沙子を眺めた。
思わず梨沙子の目から涙がこぼれた。
- 178 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 21:11
- 「な、何でこんなこと」
梨沙子の言葉を遮るように再び雅の唇と重なった。
雅は顔を傾けて必死に押しとどめようとする梨沙子の唇をあの手この手で
吸い続けようとしている。
長い口付けだった。
観念して梨沙子が力を抜くとこれみよがしに口内を隅々まで雅の舌がはいまわる。
それでも縛られた梨沙子はいつ終わるとも分からない雅の行為になすがままだ。
梨沙子は雅に全身を犯されているような気分になった。
そういえば、監禁される前も同じようなキスを桃子にされたことを梨沙子は今さらながら思い出した。
- 179 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 21:13
-
キスが終わった。
まるで数キロを走り続けたみたいに梨沙子は全身の体から力が抜けていることに気づいた。
顔の周りが異常に熱い。
体の変な部分だけ敏感になっていて
まるで別の生き物にでもなったみたいだ。
「可愛い。耳たぶまで赤くなっちゃって」
桃子に言われた。
梨沙子は初めてむかっときた。
こんな卑怯な手を使われてこんな理不尽なことをされてたまりにたまった
憤りをどこにぶつけていいのか分からない。
梨沙子は普段、二人には言わないようなことを思いっきりぶつけてやろうと思った。
自分はいつもの素直な梨沙子ではないことが分かれば二人も観念して解放してくれるかもしれない。
- 180 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 21:15
- 「たったこれだけのことであたしが傷ついていると思う?
やりたいならもっとやればいいのに。
意気地なし」
梨沙子はこの言葉を今、ここで二人に言ったことを後で死ぬほど後悔することになる。
さっきまでにこやかに不気味な余裕をみせていた桃子が無表情になっている。
桃子はそっと梨沙子に近づいた。
そして無造作に梨沙子の体に手を伸ばすと制服の第一ボタンと第二ボタン続けざまに外した。
はらりと梨沙子のブラウスが二手に分かれて胸元の真珠のような皮膚と
白い下着が仄かに見えた。
- 181 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/01(木) 21:17
- 「だったらさ。全部脱いでもろおっか。服」
「みや、いいよね?」
さらっとよそ事のようにそう言う桃子の言葉は冷酷だった。
「もちろん」
「あたしが桃にダメなんて言ったことないでしょ?」
それは雅が梨沙子と出会う前のまだ桃子に心惹かれていた時の雅の表情だった。
雅と桃子は自分をどうするつもりなのか。
梨沙子は血の気がひくということがどういうことか自分の体を通してはっきりと分かった。
- 182 名前:ELS 投稿日:2010/07/01(木) 21:17
-
今回の更新を終わります。
- 183 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/07/03(土) 00:22
- みやの最後の台詞でももみやの印象変わった、想像より甘めの関係だったかな?。
他のベリメンがどうゆう心理で絡むか楽しみ!
- 184 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/07/03(土) 13:33
-
残りのメンバーがどう関わってくるのか、
舞美がどうなるのかが凄く気になります!!!
- 185 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/07/03(土) 18:50
- 久しぶりに完結までみたい小説がきた。
- 186 名前:ELS 投稿日:2010/07/08(木) 21:39
- >>183
レスありがとうございます。
みやもももちょっと好きなのでそんな部分が少しでも垣間見える
かもしれんです。
>>184
レスありがとうございます。
他のメンバーの絡みは難しくて・・難しくて・・
ですが、がんばります。
>>185
レスありがとうございます。
ご期待にそえるか分かりませんが必ず完結させる予定
ですのでよろしくお願いします。
- 187 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:41
- 佐紀と友理奈と千奈美の3人は、雅に先導されて薄暗い廊下を歩いてきていた。
そこは前から雅に聞かされていたとおりの場所だった。
狭い廊下の両脇にはドアが無数に並んでいて、
ドアはことごとく廊下からかなり引っ込んで作られている。
一見するとそれらの入り口群は無限の行き先を形成して
廊下は一本であるのにも関わらず全体がまるで迷路のように見える。
ここから逃げだすにはただ一本道の廊下を走ればいい。
でも千奈美はもし自分がここへ閉じ込められたら、
恐怖心からたちまちどこかの部屋に入り込んでしまって、
出口のない袋小路に追い詰められてしまうだろうと思った。
- 188 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:41
-
千奈美は怖かった。
自分たちがしようとしていることの罪の重さと、
その欲望の犠牲になっている梨沙子が今、
どんな気持ちでいるのか。
千奈美はそれを想像するだけで恐ろしかった。
- 189 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:43
- 一番奥の部屋を雅が開けるとそこは意外にも明るい蛍光灯の光が満ちていた。
普通の住宅用の部屋のようで正面にはキッチンがあり、
隣に冷蔵庫に食器棚、真ん中にはテーブル、
とどこにでもありそうな平和なダイニングキッチンそのものだ。
しかし全員の視線はその右隣の部屋、それは鉄格子で区切られた狭い部屋で、
その狭量なスペースにはおおよそ似つかわしくないほどの大きなベッドの上に
一人の美しい少女
−梨沙子が横たえられている−
に釘付けになった。
眠っているのだろうか。
梨沙子は目は閉じて横向きになって体を縮こまらせている。
両手は後ろ手に手錠をはめられ服は大きめのTシャツを羽織っていた。
ブロンドの髪はきちんと整えられTシャツの下から見えている
梨沙子の体は健康そのもののようだ。
それだけに縛られている両手だけがよけい痛々しく見える。
- 190 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:44
- 目を元に戻すとキッチンのテーブルには一人桃子がちょこんと腰掛けている。
「一応計画通り。全部完璧だったよ」
満足げに笑う桃子はまるでどこかの国の魔道師のようだ。
「梨沙子、暴れたりしなかったの?」
友理奈が意外にも冷静に聞いた。
「薬使ったから全然。その代わりさ」
桃子が梨沙子を指差した。
「二人でやったらすぐ気絶しちゃった」
桃子の言葉を聞いて千奈美は思わず息を呑んだ。
桃子の話からすると梨沙子はきっとTシャツ1枚しか着ていないのだろう。
想像はしていたとはいえまさかこんなことまで現実になっているなんて
まだ千奈美には信じられない。
- 191 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:46
- 「ちょっと刺激強かったかな」
雅は固まったようになっているみんなの前をつかつかと歩いていって
半開きになっている鉄格子のドアを開けた。
そして横たわっている梨沙子のすぐそばにこしかけた。
梨沙子は本当に眠っているようでとてもそんな凄惨な目にあった後とは信じられなかった。
ちょっとこれやばいんじゃない?
千奈美は言おうとした。
でも言えなかったのは梨沙子がむくっと起き上がったからだ。
正確には目覚めたのではない。
気を取り戻したという感じだった。
- 192 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:47
- 梨沙子は全員を姿を認めると顔を強張らせて縛られたまま必死に
後ずさりしようとした。
千奈美の胸がキリキリと痛む。
でも自分もこの事件の加害者なのだと思い知らされた。
「残念だけど。こういうことだから」
雅は梨沙子の頭を撫でながら言った。
梨沙子はまるで信じられないといった感じで全員を見ている。
- 193 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:48
- 「みんなであたしを騙したの?」
「そうだね」
雅は梨沙子を撫でるのをやめない。
「あたしがいなくなったら大騒ぎになって、きっと警察も捜すよ。
そしたらみんな逮捕される」
梨沙子は首を横にふりながら言った。
「家に書き置きまで残してる家出少女を警察が探してくれるかな」
雅は梨沙子の両肩をもってにこやかに笑いながら言った。
「最近、多いからね。女子高生の家出って。東京だけでも毎日何十件もあるらしいよ」
桃子が雅の言葉にかぶせて言う。
- 194 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:50
- 梨沙子はきっと泣き出すと千奈美は咄嗟に思ったが、
梨沙子はうなだれるだけで声を発することもなかった。
さっきまで梨沙子は可憐なその体に相当性質の悪い悪戯をされていたに違いない。
その力さえも梨沙子には残されていなかったのだろう。
「じゃあ、順番通りで。ちぃ、明日の朝まで頼んだよ」
雅に言われて千奈美は心臓がものすごい勢いで打ち始める。
もうここから逃げ出したいと思った。
梨沙子はもう顔をあげることすらしない。
ただ、ソバージュのかかった梨沙子の美しい髪がしなだれて顔を覆っていた。
自分は一体どうしたらいいんだろう。
ぼろぼろになっている梨沙子を今夜再び弄ぶことなんて残酷なことは自分にはとてもできない。
千奈美の額には脂汗が浮かんできた。
- 195 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:51
- 「ちぃ?」
もう一度雅に呼ばれてどきっとする。
「絶対、目を離しちゃダメだよ。もう後戻りなんて出来ないんだから」
雅の言葉が千奈美の胸に突き刺さる。
雅の言うとおり、もう梨沙子の心も体も以前のように戻すことはできないだろう。
自分達はもう大きな罪を背負ってしまったのだ。
- 196 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:52
- どれくらい時間がたったのだろう。
気がつくと、みんなはもういなくなっていた。
千奈美と梨沙子の二人だけがとり残されたようにそこにいる。
あたりは蛍光灯の電気だけが煌々とついていて、
わずかな音さえしない。
梨沙子はまださっきの体勢のままだ。
自分は梨沙子に何て言われるんだろう。
鬼。
悪魔。
最低の人間。
そんな言葉だけが千奈美の脳裏に浮かんだ。
もう雅には何を言われても梨沙子を逃がすしか選択肢が残っていないのではないかと思った。
- 197 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:53
- 「う・・うう」
梨沙子が小さなうめき声のようなものをあげている。
「梨沙子!」
千奈美は咄嗟に駆け寄った。
「うぅ・・ちぃ」
はかない声で梨沙子は千奈美を見て言った。
「今、これ外してあげるからね」
そう言って雅から渡されていた手錠の鍵で外した。
確か監視役がついているときは手錠は外してもいい決まりになっている。
だけどこれは梨沙子に思う存分乱暴するのが目的の取り決めなのだと今になって分かった。
手錠が外れると梨沙子は力が抜けたようにそこに横たわった。
梨沙子の体はもう消耗しきっているようだった。
- 198 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:54
- 「梨沙子、大丈夫?」
言ってみたものの千奈美は梨沙子からまともな返事が返ってくることなんて期待していなかった。
自分は明らかに犯罪に手を染めているのだ。
それも全く恨みも罪もない純粋無垢な存在に対して。
「あたし、のどが渇いた」
しかし、梨沙子から返ってきたのは拍子抜けするくらい意外な言葉だった。
- 199 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:55
- 「ちょっと待ってて」
千奈美は開けっ放しになっている鉄格子の扉をくぐり抜けて、
隣の部屋の冷蔵庫へ走った。
千奈美はペットボトルに入っている温州みかんのオレンジジュースを
コップについで梨沙子の元に運んだ。
梨沙子はジュースを一気に飲み干した。
「ちぃ、ありがと」
そう言って梨沙子はゆっくりとベッドに腰掛けた。
- 200 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:56
- 梨沙子はのどの渇きも癒えて落ち着きを取り戻しているように見えた。
千奈美は何だか泣きそうになって目を覆った。
どうやら自分はそこまで梨沙子に憎まれているわけではない。
それが分かって千奈美は、純粋にうれしかった。
まだ今まで構築してきた梨沙子との関係は続いているのだ。
千奈美は安心したような梨沙子に申し訳ないような複雑な気持ちになった。
- 201 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:57
-
しかし千奈美はふとした時に梨沙子の視線が目の前に立っている
自分を通り越して開けっ放しになっている鉄格子の扉を見ていることに気づいた。
はっとして思わず梨沙子と扉の間に通せんぼするように立ちふさがった。
こんな状況でも千奈美は雅達との約束どおり梨沙子を逃がしちゃいけないという意識が働いている。
だけどそれ自体が人を監禁するという犯罪行為なのだと千奈美は今さらながら思った。
- 202 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:58
- 「大丈夫だよ。あたし、ちぃといる時に逃げたりはしない。
あたし、分かるんだ。みやは今もきっとどこかからあたしを監視してる」
千奈美の動きに気づいてか梨沙子は言った。
「監視?」
「うん。結構前のことなんだけど」
梨沙子は、自分の置かれている状況にも関わらずまるで教室での世間話のようにすらすらとしゃべりはじめた。
- 203 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 21:59
- 「あたし、お休みの日にみやと二人で買い物に行ってて。
その日ずっとみやと二人でいたんだよ。
普通に仲良くショッピングして映画見たりして。
あたし寄るところがあったからばいばいって別れたのね。
あたしは欲しいCDがあったからその後、ずっとCDショップにいたの。
そしたらね。
少し離れたところにCDの棚に隠れるみたいにしてみやがいたの。
明らかにじっとあたしを見てるし。
後つけられてたって思ったらあたし何か怖くなってすぐ家に帰ったんだ。
今考えたらあれは本当にみやだったんだなって思う」
- 204 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 22:00
- 雅ならやりかねないと千奈美は思った。
雅の梨沙子への執着心は周りから見ても異常なくらいだった。
桃子も何かにつけ梨沙子をつけまわしていたから、
いつか何らかの形でそれらのゆがんだ感情がたまりにたまって
梨沙子に牙をむくときがくるのではないかとは思っていた。
−だったらみんなで梨沙子を壊してしまえばいい−
雅はそう考えたのかもしれない。
そしてそれが今、完璧なまでに実現している。
- 205 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 22:01
- 千奈美は梨沙子の横に座って時計を見た。
千奈美に与えられている時間は朝6時まで。
それまでどんな風に梨沙子を慰めたらいいのかと考えると途方に暮れた。
自分自身が梨沙子を閉じ込めている当事者なのだ。
「じゃあ、もうする?」
梨沙子は下から千奈美を伺うようにして言った。
最初千奈美は梨沙子が何を言っているのか理解できなかった。
「あんまり割り当てないんでしょ?」
梨沙子はTシャツを脱ごうとまくりあげている。
予想通り梨沙子はTシャツの下は何も身に着けていなかった。
千奈美は梨沙子の言っている意味に気づいて言った。
- 206 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 22:02
- 「ちょっと待ってよ。梨沙子」
「何?先にシャワー浴びる?」
「待って。あたしは梨沙子にそんなことするために来たんじゃないよ」
みやや桃とあたしは違う。
そう言おうとしたが言えなかった。
結局は梨沙子を騙して監禁してひどい目に合わせているのは自分も同じだ。
しかも前からの話し合いに自分も同意してきたのだ。
自分もみんなも罪の大きさは同じなのだ。
いやもしかしたら自分のほうがそれ以上に重い罪を背負っているかもしれないと千奈美は思った。
- 207 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/08(木) 22:04
- 「じゃあ、どうして?」
梨沙子は目を大きく見開いて言った。
「どうしてちぃはあたしをここに閉じ込めようと思ったの?」
「あたしは・・・」
そうつぶやいたまま千奈美は頭を抱えた。
「あたしはただ・・・梨沙子にそばにいてほしかっただけ。
梨沙子と一緒の時間がもっと欲しかっただけなんだ」
声を搾り出すように千奈美は言った。
「なんだ」
梨沙子は言った。
「それなら、最初からそう言ってくれればよかったのに」
千奈美はやっと顔を上げて梨沙子の顔を見た。
「そしたらあたしはずっとちぃのそばにいたよ」
しかしその言葉に対して梨沙子の表情はずっと空虚だった。
- 208 名前:ELS 投稿日:2010/07/08(木) 22:04
-
今回の更新を終わります。
- 209 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/07/10(土) 00:46
- 更新乙です
裏切り者はでるのかな?
- 210 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/07/10(土) 22:40
- みやの監視・・・こわっ!
- 211 名前:ELS 投稿日:2010/07/15(木) 21:02
- >>209
レスありがとうございます。
裏切り者は・・・みや次第だと思いつつ書いています。。
>>210
レスありがとうございます。
少しストーカーぽくなり、すいませぬ。
- 212 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:03
- 梨沙子が監禁されて初めて迎える夜が迫っていた。
梨沙子は寝るときに千奈美の手を握ってきた。
そしてずっとそばにいてほしいと千奈美に言った。
そうでないと不安でたまらないからと繰り返し千奈美に訴えた。
「明日からもっとひどい目にあわされるかもしれない」
悲しそうにそう言う梨沙子の声がいつまでも千奈美の脳裏に残っていた。
- 213 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:04
- よほど疲れていたのか、梨沙子は千奈美の手をしっかりと握ったまま
すぐ眠りに落ちた。
鉄格子の部屋の真っ暗な天井がまるで全てを吸い込んでいく
ブラックホールのように見える。
その下を夏の夜の湿気を含んだ重い空気が二人を
とぐろを巻くように取り囲んでいるように千奈美に感じられた。
- 214 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:05
- 翌朝、千奈美は目覚ましもかけないのに正確に午前6時5分前に目が覚めた。
千奈美は昨夜とは打って変わって覚悟を決めたように冷静に行動した。
梨沙子はまだ眠っている。
梨沙子から手を放すとむくりと起き上がって隣の部屋に行くと
おもむろにキッチンの引き出しから拘束具を二つ取り出した。
そしてすやすやと眠っている梨沙子のベッドに再び向かうと
梨沙子の両手に手錠をかけた。
そして腕をぴんと張った状態でベッドの端に突き出ているパイプに固定した。
続いて梨沙子の両足にも足枷をつけてベッドの両端に固定してしまった。
これで梨沙子は体は完全に四肢を固定されて身動き一つできなくなった。
- 215 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:09
-
雅は時間通りにやってきた。
雅はポニーテ−ルに髪をまとめてトレーナーに短パンといかにも
爽やかそうな格好だった。
上機嫌でにこやかに笑いながら千奈美に目配せすると
梨沙子は眠っているのかと小声で聞いてきた。
千奈美が軽くうなずくと抜き足差し足でベッドに近づいて行く。
梨沙子はまだ目が覚めていなかった。
- 216 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:10
-
「おはよう。ハニー」
梨沙子の真横で雅が言った。
梨沙子がゆっくりと目を開けた。
「よく眠れた?」
雅は罪の意識なんて微塵も感じさせずに快活に尋ねた。
- 217 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:10
- 梨沙子は顔を引きつらせて一瞬逃げようとして体を跳ね上げたが、
手足が拘束されているためほとんど動けずにすぐに引き戻された。
梨沙子の視線はあちこちぐるぐると泳いでいたが
やがてキッチンの部屋で呆然と立ち尽くしている千奈美を見つけた。
- 218 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:11
- 「ちぃ、助けて」
それはすがるような声だった。
「お願い、このままじゃあたし・・・」
そばで美しくも残酷な野獣が舌なめずりしながら梨沙子を押さえつけている。
「ちぃ、助けてよ」
もう一度泣きそうな声が聞こえてきた。
千奈美は目をつむって顔をふった。
「ごめん。梨沙子」
千奈美は、それだけ言うと部屋から外へ出て行った。
- 219 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:12
- 約束の時間はすぎた。
また次に会うまで梨沙子は正気を保っていられるのだろうかと千奈美は思った。
思いはしたが、どうせ自分にはどうすることもできない。
ただ梨沙子が破壊されていくのを見守るしかなかった。
- 220 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:13
- 雅は梨沙子に口付けができるくらいまで顔を接近させると手を伸ばして
梨沙子の眉のあたりをそっと撫でた。
「昨日は初めてだったからしょうがなかったかな。
でもあんなに早く気絶しちゃうなんてもっとあたしを楽しませてくれなきゃ」
雅の手は梨沙子の柔らかいほおからあごのあたりに移っていった。
昨日、雅と桃子による激しい責めを受けて失神したことが信じられないくらいに
梨沙子の肌はまだ新鮮さを保っていた。
- 221 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:14
- 梨沙子は自分の体が動かせないことが分かると雅が触るにまかせて空ろな目をしている。
「ふだんはあれだけ生意気言ってたのにね」
雅は不敵な笑いを浮かべる。
梨沙子は感情を失ってしまったかのようにまっすぐに天井を見ていた。
雅は、放心状態になっている梨沙子にわざと目の前で手をふったりした。
雅を無視したところで解放してもらえるわけではない。
梨沙子は雅と目を合わせた。
- 222 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:15
- 「今回のこと計画したの。みやでしょ?」
「さあね」
「とぼけても分かる。あたしにこんなひどいことするの、みや以外にいない」
「梨沙子、昨日あんな目にあったのに意外と普通なんだね」
雅は再び笑った。
雅には梨沙子が拘束された状態でも減らず口を叩くのが愉快でたまらないらしい。
- 223 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:16
- 「そんなことどうでもいいじゃん。どうせもう逃げられないんだから」
雅が梨沙子に覆いかぶさるようにしてキスをした。
「今日はたっぷりと味あわせてあげる」
梨沙子が雅の愛撫に歯を食いしばって耐えることができたのは最初の数分間だった。
それ以上は声がもれ、力が抜けて最終的には梨沙子は泣きながら雅の拷問を受けた。
「梨沙子、自分だけが特別に誰からも守られてるなんて考えないことだね」
数時間、叫んで泣いて最高のアクメを味合わされた。
あげくに梨沙子の視界に再び映ったのは桃子の姿だった。
- 224 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:17
- 「今日は、気絶してないみたいだね」
桃子は梨沙子の体をなめるように全身を見渡すと残酷そうに笑った。
再び繰り返されようとしている暴力に梨沙子の顔が歪む。
「あたしはみやと違って優しくするよ」
桃子はにやりと笑って梨沙子に近づいてきた。
「可愛そうに。こんなに手足縛ったままやらないしね」
雅は梨沙子の四肢を固定したままだった。
雅にどこを触られても波のように襲ってくる苦痛と快感に恨めしそうに雅を見るだけだ。
- 225 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:18
-
「だって逃げられちゃったら困るじゃん。
前みたいに二人がかりでしてるんじゃないんだし」
「みやは分かってないなあ。女の子ってね。
こういうことしてる時は逃げたくても逃げられなくなるんだよ」
梨沙子は桃子の言葉を聞いていると次第に雅に感じている以上の恐怖感に包まれてきた。
- 226 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:19
- 「桃、お願い。もう許して。あたしもう桃に嘘ついたりしない。何でも桃の言うこと聞くから」
懇願するような梨沙子の声だった。
「へぇ。あたし何か梨沙子に嘘つかれてたのかな」
桃子はゆっくりと梨沙子に近づいた。
ベッドの上に馬乗りになって梨沙子を見下ろす。
「梨沙子、あたしだって、梨沙子の言うことなら何でも聞きたくなっちゃうけどさ。
でも今は許してあげなーい」
- 227 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/15(木) 21:26
- 桃子は梨沙子の髪をつまんで持ち上げると、
柔らかな感触を確かめるようにさらさらと落とした。
「みや、交代いいよね?」
桃子は雅を見て言った。雅は真顔でうなずいた。
「いいけど、梨沙子に怪我させるようなことしちゃ駄目だよ」
「そんなこと絶対しないよ」
桃子はにこやかに笑った。
- 228 名前:ELS 投稿日:2010/07/15(木) 21:26
- 今回の更新を終わります。
- 229 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/07/16(金) 00:59
- うーん やっぱり桃子が一枚上手なのか!?
- 230 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/07/19(月) 13:26
- りしゃみやとかりしゃもも好きだけど
・・・誰か助けてあげてー!w
- 231 名前:ELS 投稿日:2010/07/22(木) 19:48
- >>229 230
レスありがとうございます。
励みになります。
きっと正義が勝利することを祈りつつ・・・
更新します。
- 232 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:02
- 桃子のやり方は総じてゆっくりだった。
梨沙子が恐れていたよりも桃子は確かにずっと優しい。
雅の激しい行為に比べて桃子は、深海をゆっくりとただよっているような感触だ。
しかし梨沙子は自分の体が海の底へ次第に沈められるように犯されていくのを感じた。
というのも桃子は梨沙子に触りながら梨沙子の体の部分についていちいち特徴的なをことさらひけらかすように言う。
- 233 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:03
-
「梨沙子の体って何か飽きない」
誰に向かってしゃべっているのだろう。
あそこに小さなほくろがあるとか胸の形が右と左で少し違うとか
そんなことを自分に言っても仕方ないのに、
梨沙子は桃子が語るにまかせて桃子の愛撫に耐えながら黙って聞いていた。
桃子は梨沙子の体について気づいたことをさも雄弁に語っている。
- 234 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:05
- 最初はなんでもないと思っていたのに梨沙子は徐々に心の中で悔しいという気持ちが渦巻いてきた。
聞こえないふりができればいいのだが、桃子に自分の体を隅々まで見られることへの悔しさと
同時に桃子の愛撫が重なって被虐感がますます増幅していくのだ。
言ったとおり桃子は途中で手錠も足枷も外してくれていたが、
金縛りにあったようにベッドを飛び出して逃げ出すこともできなかった。
ただ、永久に続いていきそうな快楽の中で少しずつ梨沙子の精神は
確実に追い詰められ貶められている。
頭の中は聞いたこともない音楽で満たされて、
目の中がぐるぐると回っている。
- 235 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:06
- 最初の時、この桃子の巧みな言葉責めと雅の強引な速攻のせいで
あっという間に失神させられた。
自分は本当に捕らわれの身なんだと梨沙子は心底感じた。
きっと心も体も完全に他人に犯されているってこういうことなんだと梨沙子は思った。
- 236 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:07
- どのくらい時間がたったのだろう。
桃子の体が離れてもまだ梨沙子はベッドの上に横たわったまま少しも動くことはできない。
梨沙子は今日一日中行われている拷問のせいで異常なのどの渇きを感じていた。
「何だか名残惜しいなあ」
行為が終わった後、桃子は勝ち誇ったように言った。
そして桃子はおもむろにぐったりしている梨沙子の右腕をつかむと手錠をはめている。
続いて左手、左足。
梨沙子はまた誰かと交代してするのだろうとぼんやりと思った。
しかし、次に何が行われるにせよ何か飲まなければ脱水症状でも起こしそうだった。
- 237 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:08
- 桃子は梨沙子を縛り終えると自分だけ隣の部屋に向かうと冷蔵庫からオレンジジュースを取り出してごくごくと飲んでいる。
その様子は梨沙子から鉄格子を通してよく見えた。
「桃、あたしも喉が渇いたよ」
消え入りそうな声で梨沙子は言った。
これだけ梨沙子の体を好きに弄んだのだ。
飲み物ぐらい桃子は許してくれると思っていた。
桃子は、梨沙子の言葉を聞くとガラスのコップにジュースを注ぎ始めた。
その姿を見て梨沙子はほっとした。
そしてジュースを梨沙子の傍までもってきた。
- 238 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:09
- 梨沙子が顔を上げようとするとなんと桃子は自分でおいしそうにジュースを飲んだ。
「梨沙子にはあげなーい」
途端に梨沙子の顔が悲痛にゆがむ。
桃子は日ごろ梨沙子に何かと言いくるめられている鬱憤をはらしているようだった。
- 239 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:10
-
「だけど一つだけ方法教えてあげよっか」
桃子の顔が意地悪そうに笑った。
「口移しなら飲ませてあげていいよ」
桃子は梨沙子の体を起こしてベッドの端にすがらせた。
足枷は外されたが手錠は今度は後ろ手にしっかりとはめられた。
- 240 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:11
- 選択の余地はなかった。
桃子の顔が近づいてくる。
梨沙子は喉の渇きにまかせて桃子の唇にしゃぶりついた。
甘いオレンジの味が梨沙子の口に広がっていく。
でもこれだけの量ではとても足りない。
「待って、また飲ませてあげる」
桃子は再びコップからジュースを口に含ませる。
梨沙子は赤ん坊のように桃子に吸い付いた。
それが桃子には愉快でたまらないらしい。
桃子は微笑を浮かべながら梨沙子との行為を楽しんでいる。
喉があまりにも渇いてるからかもしれない。
桃子の口からは至高の飲み物でも湧き出ているように梨沙子は感じた。
それがまた自分自身の心とプライドを傷つけるとも知らずに。
そして最後に梨沙子は静かに泣いた。
- 241 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:13
- 夕方近くなって桃子が出て行った後、再びやってきたのは雅だった。
雅は買い物かごを下げてTシャツに短パンをはいていた。
まるで軽い散歩にでも出かけたような格好だ。
買い物袋の中には野菜やお肉や牛乳、ヨーグルトなんかも入っていて
見る限り平和そうな代物ばかりだ。
梨沙子はベッドの上でとてつもなく厳重に縛り付けられていた。
それも今度は布製の手錠ではなく、ロープを使ってありとあらゆる体の部分と
ベッドとを力任せに引き絞っている。
そのおかげでロープが梨沙子の腕首や足の付け根になどに食い込んでいる。
しかし、ちょうど梨沙子の体が怪我しないように、
屈辱だけを与えるために桃子は交代の時間を見計らって梨沙子を縛りなおしたのだ。
その時、梨沙子を縛り付ける作業をしているときの桃子の楽しそうな表情といったらなかった。
- 242 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:13
- それでも桃子に責められているよりはいいと梨沙子は思った。
桃子の逃げ道を巧みに塞ぎながら少しずつ性的興奮の中へ梨沙子へ引き込んでいく
そのやり方は、梨沙子にとって快楽の無間地獄だった。
「桃のやつ、あたしへのあてつけかな」
雅は梨沙子を見下ろすと急いで手足のロープをほどいて、
布製の手錠に交換した。
もう少しで梨沙子の皮膚は水ぶくれになっているところだった。
- 243 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:15
-
「あたし、ちょっと夕飯作るから。梨沙子はお風呂でも入ってきたら」
雅は言った。
キッチンの横にはバスルームらしきものが見える。
昨日から梨沙子は雅と桃子にベッドの上で犯され続けている。
梨沙子もシャワーでも浴びたい思っていたところだった。
「分かった。でも、手錠は外してよ。でないと入れないから」
梨沙子はほっとして言った。
「あ、そっか。ふうむ」
雅は腕組みをした。
梨沙子は何か嫌な予感がした。
雅の表情に感じるその特有な戦慄は監禁されて以来梨沙子に恐怖心を与え続けている。
- 244 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:17
-
「じゃああたしがかわりに体洗ってあげる。
そしたら手が使えなくても大丈夫でしょ?」
当然梨沙子には拒否する権利なんて与えられなかった。
熱い水滴が梨沙子の裸体に降りかかってきた。
梨沙子は後ろ手に縛られたまま雅の為すがままにされている。
こんな屈辱をいつまで味あわなければいけないんだろうと梨沙子は思った。
体を洗うという目的があるとはいえ、シャワーチェアに座らされた
梨沙子の体は石鹸の泡を刷り込むように雅の手が滑らかに滑っていた。
雅は足の付け根や胸の辺りなどを必要にしつこく、しかもゆっくりとこすり続けている。
いつ終わるともしれないいやらしい往復運動のせいで梨沙子はあまりの悔しさと恥ずかしさに顔が真っ赤になった。
生きてここを出ることができたら桃とみやには絶対に復讐してやろうと梨沙子は思った。
- 245 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:18
-
屈辱的な時間がやっと終わり、梨沙子の手錠は外された。
「桃との時間はどうだった?」
雅はドライヤーで梨沙子の髪を乾かしながら言った。
「別に」
梨沙子はうなだれたまま答えた。
「あっそ。まあいいけど」
乾いたらご飯ねと雅は梨沙子の髪をくしゃくしゃと撫でて言った。
- 246 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/22(木) 20:20
- 梨沙子につかの間の休息が訪れた。
雅が野菜を切るトントンという音が周囲の響きに溶け込んで鳴っている。
しばらくすると、ことことと煮立った鍋が音を出し始め、
食欲を掻き立てるような香ばしくて芳醇な匂いがあたりを包み始めた。
梨沙子はしばらくベッドの上で体育座りをして雅の様子を伺っていた。
雅は機嫌よさそうに料理にいそしんでいる。
そして雅から目を離してキッチンのテーブルの上を見たときに梨沙子はあるものを発見した。
それは鍵だった。
一瞬梨沙子の心臓がどきっと鳴った。
ここから逃げられるかもしれない。
- 247 名前:ELS 投稿日:2010/07/22(木) 20:20
- 少し短くてすいません。
今回の更新を終わります。
- 248 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/07/23(金) 00:42
- 続き楽しみにしてますよー
- 249 名前:ELS 投稿日:2010/07/29(木) 21:27
- >>248
レスありがとうございます。
更新させていただきます。
- 250 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:28
- 状況が変わると梨沙子の心境も一変した。
梨沙子はもう先ほど流した涙の意味も忘れて冷静になっていた。
にわかに梨沙子の頭にもたげてきたものは、
どうにかしてあの鍵を奪えばここから抜け出せるのではないかということだった。
鉄格子の扉は今は開けっ放しになっている。
問題はダイニングキッチンの方の部屋のドアだ。
それはこちらから鍵を差し込まないと開けることができないようだ。
そしておそらく、テーブルの上の鍵はそのためのものだ。
- 251 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:29
- 「ねえ」
梨沙子は思い切って雅に話しかけた。
いつも一緒にいる雅に話しかけるだけのことでこんなに緊張するのっていつ以来だろうと梨沙子は思った。
「んー?」
雅は向こうを向いたまま答える。
「あたし、喉が渇いた。冷蔵庫のオレンジジュース飲んでもいい?」
「いいよ」
このとき、雅はあっさりとOKした。
- 252 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:30
- 梨沙子は初めて鉄格子の部屋を出るとテーブルに近づいた。
心臓がばくばく鳴った。
雅を前にして自分が生きるためにこんな気持ちでこれだけ追い詰められた状況にいることなんて
数ヶ月前の自分だったら想像もできなかったと思う。
「あのさあ」
雅は突然振り返る。
びくっとして梨沙子は身構えた。
「梨沙子のために買っておいた服があるんだけど。
食事の時、着てもらってもいい?熊井ちゃんと一緒に選んだんだ」
雅は少し恥ずかしそうに言う。
「うん」
梨沙子はどぎまぎしながら答えた。
雅は梨沙子の返答を聞くとはにかんだように笑って
また向こうを向いて料理に戻った。
梨沙子は、その隙にさっと置いてあった鍵をそっと取って下着の中に隠した。
- 253 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:32
- 夕食の時間になって梨沙子は久しぶりに服を着た。
それは花柄のキャミソールに赤いミニスカートだった。
雅の趣味だなとは思ったが梨沙子も嫌いな服装ではない。
でも服を着ているというだけで、
梨沙子はなんとなく雅と対等な関係に戻ったような落ち着いた気分になった。
「こうやって梨沙子と二人きりで夕飯食べるのって久しぶりだよね」
「そうだね。で、ここってみやの家なの?」
梨沙子は探りをいれてみた。
せめてここの場所さえ分かれば逃げるヒントになるかもしれないと思った。
「さあ・・・」
雅は慌ててはぐらかした。
- 254 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:33
- 梨沙子は考えた。
もし雅の家なら梨沙子は何度も遊びに行った事があるし、
家の中もよく知っている。
だけどこんな監禁専用の部屋みたいなものは見たことがない。
ここは一体どこなんだろう。
監禁されている部屋には窓もないし、外の風景も分からない。
あの日、雅に薬を飲まされてしばらく気を失っていたためどうやって自分がここまで運ばれてきたか、
梨沙子は全く覚えていなかった。
でもきっとこの部屋を抜け出すことができたら、
外に出ることができるはずだ。
梨沙子は確信していた。
それが現時点で梨沙子が見出している唯一の希望だった。
- 255 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:34
- その間にも夕食はすすんだ。
雅の料理は牛肉を焼いたものに特製のソースのようなものがかかっていて
これがとてもおいしい。
梨沙子は、雅の様子を慎重に伺いながらナイフとフォークを動かしてそれを食べている。
「次の交代っていつ?」
何気なく梨沙子は聞いた。
「さあ・・・いつだろうね」
雅は何か慎重に言葉を選んでいるように梨沙子には思えた。
「梨沙子、あたしの料理おいしい?」
「おいしいよ。いつだってみやの作った料理は」
梨沙子は答えた。
- 256 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:35
- 雅は何も自分のことを心の底から憎んでいるわけではないらしい。
ちょっとした嫉妬心やすれ違いがこんな事件を引き起こしたのではないかと梨沙子は思った。
そしてそれは桃子だって同じだろう。
雅と梨沙子は二人で食事している。
今、二人の間を流れている空気はほんの少し前と何ら変わらないのにと梨沙子は思う。
ただ自分が監禁されているという状況だけが、
事態を恐ろしいものに変えてしまっているように梨沙子には感じられた。
- 257 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:36
- 「ねぇ、みや」
梨沙子は口をもぐもぐと動かしながら言った。
「あたし、まだみやのこと恨んだりしてないよ」
「へぇ」
雅はフォークでニンジンを突き刺して口に運んでいる。
「あんなことされたのに?」
そう言って雅は少しだけ頬を緩ませた。
雅は自分に余裕があるといつもこれだ。
「そりゃひどいことされたけどさ。今もされてるけど」
梨沙子は声のトーンを少し落としつつ言う。
- 258 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:37
- 「あたしまだみやとはやり直せるって思ってるんだ」
ふっと雅の表情が真剣なまなざしに戻った。
梨沙子はもう一押しとたたみかけた。
「だから、今日ここからあたしを逃がして。
そしたらあたし、みややみんなことは絶対誰にも言わない。
あたし一人で家出したことにするから」
言いながら梨沙子の目からは涙があふれてきた。
「それで全部終わりにするから」
雅はじっと梨沙子の言葉を聞いている。
- 259 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:38
- 「梨沙子がね」
雅がゆっくりと話し始めた。
「生きてここを出ることはないんだよ。梨沙子はずっとこの部屋で過ごすの」
信じられない雅の言葉に梨沙子は現実を疑いたくなった。
「梨沙子がここを出るときは梨沙子が死ぬとき」
雅はクスッと笑った。
「ふざけないで!」
梨沙子はすごい剣幕で雅を途中で遮った。
- 260 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:39
-
「あたし、絶対にみやを許さない。絶対、絶対に」
そう言いながら梨沙子の頬にはさっきとは全く違う意味合いの怒りと憤りの涙がつたっている。
「冗談だよ。ただ桃が梨沙子を言葉責めしてるって聞いたから。少しでも夜を楽しくしようかなってね」
雅が水の入ったワイングラスを梨沙子の目の前でふって見せた。
梨沙子は、決心がついたように食事用のナイフを右手にもって雅に向けた。
- 261 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:41
- 食事中は手錠も足枷もない。
梨沙子の体は完全に自由になっている。
今なら同級生の女の子なんて全然怖くもなんともないと梨沙子は自分に言い聞かせた。
「あたしに近づかないで!近づいてきたら刺す」
梨沙子は立ち上がって言った。
「梨沙子、さっきのは冗談だってば。ちょっと落ち着いてよ」
雅は梨沙子を何とかなだめようとする。
梨沙子はゆっくりと後ずさりしながらドアのところへ近づいていった。
そしてナイフを必死になって雅へと向けている。
- 262 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:42
-
「そんなことしたって逃げられないって」
雅はゆっくりと椅子から立ち上がった。
「来ないで!」
梨沙子は叫ぶように言った。
「手、震えてるよ」
雅は微笑を浮かべながらゆっくりと近づいてくる。
「お願い、来ないで!」
梨沙子は必死にナイフを振り回した。
それを見て一瞬だけ雅は近づいてくるのを躊躇する。
- 263 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:43
- その隙に梨沙子は下着の中からさっきの鍵を取り出した。
手が震えてうまくもてない。
がくがくと動く右手をおさえながら梨沙子は鍵穴にさしこもうとした。
雅は遠巻きにこちらを見ている。
神様、お願い。
開いて。
梨沙子は祈るような気持ちで鍵を回そうとした。
ガチ。
音はしたが期待とは裏腹に鍵は回らなかった。
ガチガチ。
梨沙子はそれでも必死に鍵を回そうとする。
ところが、鍵は絶望的な重さで動かない。
梨沙子はパニック状態になって無理やり取っ手を回そうとしたがこれもびくともしなかった。
- 264 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:44
- 「ざんねーん」
雅の声が聞こえた。
「それって、あたしの部屋の鍵だったりして。
梨沙子ってあたしに似て結構単純な性格してるよね。でもそこが大好き」
梨沙子ははっと気づいた。
あの時、雅がテーブルの上に鍵を置いていたのはわざとだったのだ。
そして梨沙子が鍵をとっていたのも全て知っていた。
「ナイフ、渡してくれる?」
雅は手を差し出した。
- 265 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:45
- 「いやっ」
梨沙子は両手をいっぱいに伸ばして雅にまっすぐナイフを向けた。
「どうするの?梨沙子はあたしを刺せる?」
雅は躊躇せずにさらに近づいてくる
「やっぱりだ。今回の仕組んだのみやでしょ?」
「どうかな」
「あたしを閉じ込めてひどい目にあわせようとけしかけたのはみやなんでしょ?」
雅は梨沙子の目の前に来ている。
ナイフは先端がすでに雅の胸の辺りに届いている。
- 266 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:46
- 「どうしたの?刺さないの。あたし、梨沙子に刺し殺されたら本望かも」
雅は梨沙子の両手の部分をつかんで自分にナイフをわざとつき立てようとした。
「だめっ」
梨沙子の手からナイフが落ちた。
自分にみやを刺せるわけないと梨沙子は思った。
たとえ何をされてもまだ雅は梨沙子にとって特別なのだ。
梨沙子は絶望感でそのまま崩れ落ちるように床にひざをついた。
- 267 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:47
- その時、がちゃと音がして突然ドアが開いた。
中から友理奈が顔を覗かせている。
梨沙子は何を思う間もなく、いきなりドアを大きく開けて友理奈を押しのけた。
そして暗い廊下を全力でかけていった。
後ろから雅が何か言っている声がしたが、そんなものには構っていられない。
ただひたすら走った。
- 268 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:49
- 廊下は薄暗く、赤いぼやっとした光が両側のついているだけで肉眼ではほとんど何も見ることが出来ない。
そのうち狭い廊下は曲がりくねって多数の分かれ道にであった。
梨沙子はもう無我夢中で進んだ。
とにかく進みさえすればどこかで外へ出られると思った。
分かれ道の先にはドアがあり、中はだだっ広い部屋がある。
しかしここも真っ暗でほとんど前が見えない。
しかし次の部屋に続くドアを見つけて梨沙子は隣の部屋まですすんだ。
しかし今度の部屋にはドアはおろか窓ひとつない。
不気味な彫像や絵画が置いてあるだけの埃っぽい部屋だ。
- 269 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:50
- どうしよう。
行き止まりだ。
梨沙子は仕方なく、引き返そうとする。
その時、梨沙子と名前を呼ぶ雅の声がした。
びくっとして思わず立ち止まった。
あの蛇のような廊下で反響するのか、雅が近くまで追ってきているのか
それともまだ遠くにいるのか全く検討がつかない。
梨沙子はただ怖かった。
しかし全身が緊張しきっているので涙は出てこない。
どうやったら雅の手から逃れることが出来るかそれだけを必死に考えようとした。
- 270 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:51
-
「梨沙子、出ておいでよ」
雅はもう近くに迫ってきているような気がした。
梨沙子はさっきの広い部屋まで戻ってきていたが、
そこに端の方に画材道具みたいなものキャンパス立てや、椅子がが一箇所に集められている。
ここなら隠れられるかもしれない。
梨沙子はゆっくりと音を立てないように雑然と置かれた物の中に入ると、身をかがめた。
椅子や立ての間から向こうがぼんやりと見える。
- 271 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:52
- 「梨沙子、どこにいるの?」
雅の声が近くでした。
どうかどうか見つかりませんように。
助けてください。
梨沙子は心の中で何度も何度も神様に祈っている。
そのうちに雅の足音が近くしだした。
「梨沙子」
雅の声が長い廊下を木霊している。
雅は何度もそう言いながら近くの通路を通ってそのままこの部屋に入ってこずに
通り過ぎたように思った。
- 272 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:54
- まだ梨沙子の心臓は聞こえるくらいバクバクと音を立てている。
梨沙子はとりあえずほっとして高まりすぎた緊張感を沈めようとした。
そうするともう一人の冷静な自分が別な思考がもたげてきた。
考えてみれば自分はどうしてこんなに雅から逃げまわらないといけないのか。
自分は監禁されてるから?
じゃあ自分を監禁してる雅って何?
自分にとって雅の存在って何だったんだろうと梨沙子は考えた。
- 273 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:55
- 一番仲がいい親友。
お姉さんみたいな存在。
自分を一番可愛がってくれていつも自分を見てくれている。
かっこよくてオシャレでうちの高校NO1の人。
そして自分が生まれて初めて好きになった人。
そうやって今まで幸せに生きてきたのに。
みや、こんなのってひどいよ。
つい言葉がそのまま口から出た。
- 274 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/07/29(木) 21:56
- 「そうかな」
突然すぐ傍で雅の声がした。
それとともにカチっと音がして梨沙子の目の前を雅の顔が浮かび上がった。
雅が懐中電灯で下から自分の顔を照らしたのだ。
雅の顔は梨沙子から数十センチも離れていない。
梨沙子は声にならない叫び声をあげた。
恐怖のあまり声が出ない。
「梨沙子。みーっけ」
雅は梨沙子の体を抱きかかえるようにして羽交い絞めにした。
- 275 名前:ELS 投稿日:2010/07/29(木) 21:57
- 今回の更新を終わります。
途中読みにくい部分ありすいません。
- 276 名前:ELS 投稿日:2010/07/29(木) 22:00
-
レス流し
- 277 名前:ELS 投稿日:2010/07/29(木) 22:00
-
レス流し
- 278 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/07/30(金) 00:47
- 救世主はまだかっ!
- 279 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/01(日) 16:38
- 作者さんにホムペ作って欲しいw
どんどんハマる
- 280 名前:ELS 投稿日:2010/08/05(木) 21:12
- >>278
レスありがとうございます。
もうそろそろです。
>>279
あら、うれしいです。
今計画中です。
- 281 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 21:53
- 「というわけでこれが梨沙子の脱走事件の顛末。まあ正確に言えば脱走未遂事件かな」
煌々とキッチンの明かりはついている。
急に呼び集められた4人の前で雅はまるでトリックを明かす
名探偵のように演説した。
隣の部屋には梨沙子が後ろ手に手錠をはめられ、
足枷をつけられてうずくまっている。
桃子だけがわずかな微笑を浮かべていたが
友理奈も佐紀も千奈美も顔をひきつらせて雅の話を聞いていた。
- 282 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 21:54
- 「今日の夜はたっぷりとお仕置きだね」
腕組みした雅は梨沙子に向かって言った。
千奈美が梨沙子の様子をよく見ているとうつむいた梨沙子の顔から
ぽたっと大きな涙がひざの上に零れ落ちたのが見えた。
- 283 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 21:55
- 「でもちょっとさあ。やりすぎじゃない?」
重苦しく押し黙っている3人の中で友理奈が一番に口を開いた。
「そう。口移しでしか飲み物をあげないとか、手を縛ったままお風呂に入らせるってさあ。
梨沙子の人格を完全に否定してるっていうか。まあそれ以前にここに閉じ込めてるってだけで人格も何もないんだけど」
佐紀がもっともらしく言う。
- 284 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 21:57
- 千奈美は梨沙子がうつむいて泣いているのを今度ははっきりと見た。
千奈美は何もいえなかった。
言う権利さえないと思った。
それだけに佐紀が言っていることには救われた気持ちになったが、
逆に言えば自分たちがしていることへの自嘲的な気持ちが、
そこにはにじみ出ているように千奈美には感じられた。
結局雅は佐紀に対して反論らしいことも言わず、
他の三人も自分達を棚に上げて雅を責めるようなこともできず、
気まずい空気だけを残して帰って行った。
今日の夜、梨沙子はまた雅と二人きりだ。
逃げようとした梨沙子が雅にどんな目に合わされるのか
千奈美は考えるだけで恐ろしくなった。
しかし自分もそれに加担している一人なのだ。
そして梨沙子を救うこともできる一人でもあった。
ただ千奈美は自責の念で自分自身を苦しめはしても、
梨沙子をそこから救出しようという気は到底おきそうになかった。
- 285 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 21:58
-
目を瞑っている。
まぶたの裏だけが赤くて頭の中は永久に思考の連鎖の中を漂っている気が舞美にはしていた。
ふうっと息を吐いたときに偶然に目が開いた。
「舞ちゃん?」
うっすらと目を開けた舞美に愛理は必死で呼びかけた。
「愛理?」
舞美は気がつくと病院のベッドの上だった。
頭と足にぐるぐる巻きに包帯が巻かれている。
- 286 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 21:59
- 「気がついたんだ。よかった」
愛理は顔をくしゃくしゃにして舞美に抱きついた。
「心配したんだよ。すごく心配だったよ」
泣き声で愛理は舞美にむしゃぶりつく。
わけもわからないまま舞美は愛理を受け止めた。
舞美はとりあえずは、手足の感覚に異常がないことを確認した。
頭の包帯は階段から落ちたときに切ったものだろう。
直感的に自分の体はしばらくたてば元通りになると思った。
- 287 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 22:01
- 「手足は軽い打撲ですぐ包帯はとれるって。頭も異常なしだけど出血がひどくて」
それから愛理は舞美が倒れていた状況について話始めた。
愛理が駆けつけたとき、舞美は階段の下で倒れていたこと。
階段の角の部分で舞美は頭を切っていて顔中血だらけだったこと。
舞美の意識がここ一週間の間戻らなかったことなどだ。
「舞美、誰かに突き落とされたんじゃないの?まさか清教徒派の人たち・・・」
愛理は大きな目を見開いて舞美を不安そうに見つめた。
- 288 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 22:02
- 舞美は、シオン修道会の部屋が清教徒派によって荒らされた事件を思い出した。
あの日、舞美は学校にかけつけて、階段から突き落とされたのだ。
舞美は目を瞑ってあのときのことを思い出した。
どくどくと流れる血、走り去っていく黒い影。
あの時確かに自分は誰かに後ろから押された。
そう答えようとして、驚くことに自分の口から全く違う言葉が出てきた。
「もしかして、梨沙子がいなくなったんじゃ」
舞美の天性の勘のようなものかもしれない。
それか舞美は無意識の間も現実世界で何が起ころうとしているか
必死に考え続けていたのかもしれなかった。
- 289 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 22:03
- 「何で分かるの?」
ぎょっとした表情で愛理が答えた。
「やっぱり・・・」
舞美はため息をついた。
舞美の脳裏に西成高に行った時、久しぶりに会うことができて
心底喜んでくれたときの梨沙子の無邪気な笑顔が浮かんだ。
舞美は唇をかみ締めた。
梨沙子を守れなかった・・・。
ふつふつと自分のふがいなさへの怒りと悔しさが立ち上ってきた。
舞美は自分のことなどはどうでもよかった。
舞美にとってただ何よりそのことがショックだったのは、
梨沙子のことはきっとそうなる予感がしていた。
なのに梨沙子をその危険から守ってあげることができなかったということだ。
それが舞美にとって一番悔しいことだった。
- 290 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 22:04
- 「でも、梨沙子は家出するって書置きを残してるみたいなの」
舞美は愛理が伝える梨沙子の失踪の状況を丹念に聞く。
愛理は、梨沙子の家で聞いてきたことを舞美に語った。
梨沙子が家出はそう珍しいことではなかったことと、
でも今回のように一週間、全く連絡をよこしてこないことはなかったことなどを舞美に説明した。
「じゃあ、梨沙子が家出するのって結構しょっちゅうなの?」
「うん。書置きだけ残して隣町のおばあちゃんの家に行ってたりとかはしてたみたい。だけど今回はそのおばあちゃんちには行ってないみたい」
「そうですか」
とにかく落ち着かなければだめだ。
舞美はうなずいて思案顔になった。
愛理はシスターのような舞美の口調がやっと戻ったように感じた。
- 291 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 22:05
- 「もしかして梨沙子、舞美を襲った清教徒派の人たちに誘拐されたってことないかな?」
愛理は口をへの字に曲げて言った。
愛理がそう言うのも一理あった。
清教徒派が修道会室の一件にしても行動をエスカレートさせてきており、
お金持ちが多い西成の生徒に言いがかりをつけたりという事件も頻発していたからだ。
だから愛理が梨沙子が何らかの被害にあったと考えてもおかしくはない。
「その可能性は低い。西成の内部に協力者がいない限り」
しかし舞美はつぶやくように言った。
それは愛理に対して答えたというよりも自分に対して真理を諭したような言い方だ。
- 292 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 22:06
- 「愛理、いきなりで悪いんだけど。梨沙子が残していった書置きを借りてきてもらえますか?
それから家族の人がその書置きに気づいた時間を聞いてきてください。あと警察には?」
舞美はやっと頭が回転し始めたのか立て続けに話し始めた。
まるで舞美の頭脳に次々と仮説が生まれてきてはそれを検討する方法が抽出されてくるようだ。
「警察には捜索願をもう出してるみたい。でも家出少女の捜査って多すぎてほとんどしてくれないんだって」
「そうでしょうね」
舞美は斜め上を向いて浮かぬ顔をする。
- 293 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 22:07
- 「でも後のことはまかせて。舞ちゃんはしばらくは動けないからあたしが代わりに梨沙子を探すよ」
愛理は気負いこんで言った。
きっと胸のうちは舞美と同じなのだろう。
愛理自身も梨沙子のことが心配で西成に行くことにしたのだ。
幼馴染で姉妹のようにして育った梨沙子の失踪事件は胸に突き刺さるように痛いに違いない。
「りーちゃんて本当に家出しただけなのかな?誰かに誘拐されてるってことは」
もしも誘拐されているのだとしたら、犯人達は梨沙子に指一本触れないなんてことはないだろう。
愛理はそれを想像するだけで泣きそうになった。
- 294 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 22:08
- 「それはまだ分かりません。でも調べれば簡単に分かるような気もします。
だから今回の事件は何か変です」
舞美は憮然とした表情で答えた。
簡単に分かるからこそ犯人達は卑劣で残酷なのかもしれない。
その時、舞美は自分の思考に背筋に凍るような冷たさを感じた。
- 295 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 22:09
- 長く暗い通路の奥では梨沙子の管理が前よりももっと厳重になっていた。
まず梨沙子についている足枷は外国で凶悪犯がつけらているような
金属製の堅くて頑丈なものに変えられた。
そして足枷は監視者がいるときも常に装着されているようになった。
梨沙子の白くてほっそりとした足首にいかにも重くて分厚いそれに
つながれている様は痛々しくて見ていられないほどだ。
そして監視する人間が交代して梨沙子の傍に誰もいなくなる時間帯は
逃亡を防ぐために梨沙子は後ろ手に手錠で縛られ、目隠しまでされるようになった。
- 296 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 22:10
- 「残念だったね。逃げられなくて」
ベッドの傍らで桃子が言った。
すでに行為が終わった後で梨沙子は荒くなった息を落ち着かせるために大きく深呼吸した。
「もう、どうでもいいよ。そんなこと」
梨沙子は投げやりな調子で言った。
「それより、あたし気づいたんだ」
梨沙子の目にはずっと監獄の天井が映っていた。
そこはシルバーグレイの線が波のように入ったセメントのような材質のものだ。
梨沙子は自分の感情を押し殺したいときには、
その模様だけを無心で見ていることにしている。
- 297 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 22:11
- 「あたしを監禁しようって言い出したの、本当は桃じゃないの?」
「どうしてそう思うの?」
桃子はそっと体を梨沙子に寄せた。
「桃はみやのことがずっと好きだったんじゃないの?」
梨沙子は天井を向いたまま桃子に視線を合わせようとしない。
横からじっと桃子が梨沙子の表情を伺っていることは気配で分かった。
それは今に始まったことではなく、みやと二人で話しているときは
特に梨沙子をじっと見つめている桃子がいつもいた。
- 298 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 22:12
- その時、桃子が何を思っていたかは梨沙子には分からない。
だけど雅と桃子が普通じゃない特別な感情を通わせていることは梨沙子にも分かった。
今になって考えてみれば桃子の中の深い底知れない鬱屈した感情が今回の事件を引き起こしたと考えてもおかしくはなかった。
「だからあたしは梨沙子が邪魔だった。憎んでいた?」
桃子の言葉に梨沙子はゆっくりとうなずいた。
「ぶーだね。梨沙子」
桃子は起き上がって真上から覆いかぶさるように梨沙子を見下ろして言った。
- 299 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 22:14
- 「あたしはみやのことが好き。それは当たってる。でもあたし、梨沙子のことも好きだよ」
「じゃあ何でこんなひどいことするの?」
「何かさあ、魔が差したっていうか。あたし一度梨沙子を抱いてみたかったんだ。
みやばっかり梨沙子を独占してるなんて何か不公平じゃない?」
でももう一度どころじゃないかとそう言って桃子は無邪気に笑った。
梨沙子は雅に抱かれない日、つまり平等に二日に1度は桃子に抱かれている。
梨沙子は思わず頭がくらくらとした。
この憎めない子供っぽい笑顔を見ていると桃子は本当に悪魔でも宿っているんじゃないかと思う。
- 300 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/05(木) 22:16
-
「あたし、やっぱり殺されるのかな?」
「へ?」
梨沙子の言葉に桃子はきょとんとした表情で梨沙子を見た。
「みやがあたしは生きてここを出ることはできないって」
梨沙子は雅に言われたことをそのまま言った。
- 301 名前:ELS 投稿日:2010/08/05(木) 22:16
-
今回の更新を終わります。
- 302 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/05(木) 23:41
- 桃の考えてることが分かんない・・・
それぞれの関係性が複雑ですね。深いですw
- 303 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/06(金) 00:52
- 前から愛理は舞美を「舞ちゃん」って呼んでたっけ?
どうも「舞ちゃん」だと最年少の子をイメージしちゃって・・・
- 304 名前:ELS 投稿日:2010/08/11(水) 20:28
- >>302
レスありがとうございます。
深いとか言われるととても恐縮ですが今後とも読んでやってもらえると
うれしいです。
>>303
ご指摘ありがとうございます。
確かに「舞美ちゃん」のようですね。
なおしておきます。
- 305 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:02
- 梨沙子にとってはそのことは絵空事でも何でもなかった。
雅はその後すぐに冗談だと言ったが、監禁状態は一週間以上続いているし、
ここの迷路のような場所自体が尋常ではない。
要するに今の梨沙子を保障するものは何もなかった。
ただみんなが少しでも正気を保っていてもらうのを祈るしかない。
- 306 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:03
- 「あたし、どんな目にあわされてもいつかここを出られるって思うから生きていられる。
でも、もしそれが叶わないんだと思ったら。
いつか殺されちゃうんだとしたらすごく悲しい。
すごくつらい。本当に今からでも死んでしまいたいって思う。
あと何ヶ月かしか生きられないって言われた人はきっとこんな気分なんだろうなって思う」
「まさか」
桃子は言った。
監禁されてから初めて見る桃子の正気の表情だった。
梨沙子の正直な気持ちの吐露が、あれだけ心理的な優位を保っていた
桃子の表情を突き崩したようだった。
それを見て梨沙子は少しほっとした。
- 307 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:04
- 「みやがそんなことするわけないじゃん」
桃子が急にまじめな顔になって言った。
「うん」
桃子の勢いに押されて梨沙子はうなずいた。
そういえば梨沙子が相談事を桃子にしていたときはいつもこんな風だったかなと思った。
でも今は、梨沙子が桃子や雅に何かを相談するというのはありえない状況になった。
- 308 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:05
- 二人といる時間はこれまでとさして変わらない。
むしろここ1週間は必ずどちらかと一緒にいるような気もする。
すれ違いもないし、大喧嘩をしたわけでもない。
ただ監禁されている者と監禁している者という立場だけが
3人の関係を全く変えてしまったように梨沙子は思えた。
- 309 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:06
- 次の日の朝、桃子にかわって友理奈がやってきた。
梨沙子はキッチンの部屋に取り付けられた化粧台の前に座っていた。
後ろに友理奈が立って梨沙子の髪をとかしている。
「熊井ちゃんがそういう趣味があって助かった」
梨沙子が無邪気に笑った。
「両手縛られてることが多いからどうしても髪型とかちゃんとセットできないしね」
梨沙子は人事のようにそう言った。
「みやとか桃には頼まないの?」
友理奈は梨沙子の髪を優しく撫でながら言った。
梨沙子の髪はつるつると光沢があって監禁前と何ら変わるところはない。
- 310 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:07
-
「頼んでもいいけど」
そこまで言って梨沙子は黙ってしまった。
「二人って交代ぎりぎりの時間までしてるから」
「ああ」
そういって友理奈はそれ以上聞くのはやめた。
「梨沙子、体大丈夫なの?」
自分から聞いておいて友理奈は梨沙子をこんな目に合わせて聞けることじゃないなと自嘲的になった。
しかしそう考えると自分がこうやって梨沙子と普通に会話してること自体も少し異常だと思った。
- 311 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:08
-
「今のところは。みんなが、桃とかみやみたいなのじゃないから」
梨沙子は言った。
友理奈はやっぱり梨沙子を抱いてるのはあの二人だけなのだと少しほっとした。
「佐紀ちゃんとかちぃとは何してんの?」
「二人ともあたしには何もしないよ。佐紀ちゃんは着替えとか可愛い服とか買ってきてくれるし、
ちぃはずっと傍にいてあたしの話聞いてくれるんだ」
「そうなんだ」
「ほんと、みやと桃ってうまいこと考えたね。みんなを巻き込んであたしを監禁するなんて」
恨めしそうに梨沙子は言った。
- 312 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:10
- 「梨沙子はみやと桃のことを憎んでるよね?あたしのことも」
友理奈は聞いてみた。
本当はそんなことを聞く勇気も度胸もなかった。
でも梨沙子があまりにすらすらと会話してくれるからつい言ってしまった。
「熊井ちゃんのことは憎くなんかないよ。でもみやと桃子は」
「やっぱ許せないでしょ?」
梨沙子は一瞬黙った。
「うん。そうなんだろうけど自分でもよくわかんない。
でも一緒にいたら前みたいについしゃべっちゃうんだよね。
だって別に喧嘩したわけでもないから」
梨沙子はそう言った後、つぶやくように何か慣れるって怖いねと言った。
- 313 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:11
-
喧嘩。
そんなものを雅と桃子が梨沙子にふっかけるはずがないと友理奈は思った。
雅や桃子のことをまだ友達のレベルでどうととか考えている梨沙子は
本当に幼くて純粋なんだろうと友理奈は思う。
でも友理奈は雅達にとって梨沙子は極上の獲物なんだとはっきり感じていた。
恨んでいるとか憎んでいるの次元じゃなく、梨沙子はその欲望の犠牲になっているのだ。
- 314 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:13
- 友理奈はこんな状態になってもまだ必死に自分達を友達としてつなぎとめようと
いじらしい努力をしている梨沙子が不憫でしょうがない。
そしてこの状況から思わず目を背けたくなる。
「あたし、最初の頃は誰からも可愛がられてる梨沙子が正直うらやましかった。
でも途中から梨沙子のこと、何かかわいそうに思った」
友理奈は今まで心の中で思ってきたことを言った。
「へ?何で?」
友理奈の言葉に梨沙子が少し驚いて答えた。
監禁後は分かるにしてもその前は雅と桃子の一番のお気に入りだった梨沙子は、
自分でも何不自由なく暮らしてきたと思っていた。
- 315 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:14
- 「よく教室とかでさ、梨沙子ってものすごいセクハラ受けてたじゃん。みやと桃に」
「え?セクハラ?」
梨沙子はその意味がよくつかめないようだった。
「会話してて相槌うつだけで体触られたりしてたでしょ」
「そうだっけ?」
「こうやって足触られたり胸触られたり」
友理奈は椅子に座った状態の梨沙子の足から胸のふくらみまで
わざと手を滑らせる。
それをされて初めて梨沙子はうなずいた。
- 316 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:15
- 「みやと桃はよくやってきたね。ていうかあの二人は会えば絶対あたしのどこかに触ってた」
梨沙子は言った。
「いやだって言わなかったの?」
梨沙子は首を横にふった。
「だって友達だから。友達同士のスキンシップみたいなものかと思ってた」
「あれは絶対セクハラだよ。見ててよく分かった」
「そうなんだ・・・」
「梨沙子にうちらを拒否することなんてできないってみやも桃も分かってるから。
梨沙子は優しすぎるんだと思うよ。その優しさにうちらはつけこんだんだ」
友理奈は言った。
- 317 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:16
- 友理奈は今、梨沙子と話している自分の立場がよく分からない。
梨沙子を慰めているのでもない。
梨沙子を助けようとしているわけでもない。
何故なら、友理奈自身も今こうやって梨沙子を監禁しているのだ。
それでも梨沙子は監禁前と全く変わらずに話してくれる。
思わずその状況に眩暈がしそうだった。
ただ友理奈は雅と桃子を裏切ることだけはできなかった。
- 318 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:17
- 「そうだ。梨沙子にいいニュースがあるよ。もしかしたらここから出られるかもしれない」
友理奈が急に思いついたように言った。
「え?」
思いがけない友理奈の言葉に梨沙子は目を見開いた。
「鈴木さんていたでしょ?愛理って言うんだっけ?梨沙子の幼馴染で桜花から来た子」
うんうんと梨沙子はうなずく。
- 319 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:18
- 「矢島って子と一緒に梨沙子のこと探し回ってるみたい。
梨沙子が何でいなくなったかうちらのとこにも何度も聞きに来たし」
「本当?」
梨沙子は目を輝かせた。
友理奈は舞美の事故のことはあえてふせておいた。
幸い一命はとりとめたみたいだし、本当に事故なのかどうかも友理奈には分からない。
第一数少ない味方である幼馴染の事故は監禁されている状態の梨沙子に話すには酷すぎると思った。
- 320 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:19
- 「それでみや達は何て答えてたの?」
「うん。家出のことは聞いてたけどどこへ行ったかは知らないって答えたみたい」
「そうなんだ」
梨沙子はそう言いながら舞美は雅の嘘なんか絶対に見抜くと思った。
舞美と愛理ならきっとここの場所を探し出してくれる。
幼馴染の梨沙子はそう確信できた。
ただ、舞美が入院していて動けない状態というのは梨沙子の頭にはない。
- 321 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/11(水) 21:20
- 「もし梨沙子が救出されたら、あたし達はみんな逮捕されて梨沙子は元通りの生活がおくれるね」
友理奈は少しやけになって言った。
梨沙子はそんなことを思うぐらいなら最初からこんなことをしなければいいのにと思ったが
結局何も言わなかった。
友理奈は、しきりに謝りながらも取り決めに忠実に従って梨沙子に目隠しをし、
手を縛って部屋を出て行った。
- 322 名前:ELS 投稿日:2010/08/11(水) 21:20
-
今回の更新を終わります。
- 323 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/12(木) 00:45
- みやもも以外は微妙な立場で辛そうだね
- 324 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/14(土) 23:34
- ももの心理状態が気になる。
あと舞美ちゃんと愛理とか・・・
ん〜楽しみすぎる!
- 325 名前:ELS 投稿日:2010/08/19(木) 20:12
- >>323
レスありがとうございます。
読んでくださっていると励みになります。
>>324
レスありがとうございます。
楽しんでいただけているとはうれしいです!
今後ともよろしくお願いします!
- 326 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:38
- 「ねぇ、ちぃもう元気だしなよ」
梨沙子が立ち上がって言った。
千奈美は梨沙子のベッドのすぐそばのテーブルに座ってうつむいている。
梨沙子がいる場所はいつもの監禁場所だ。
足枷をはめられてベッドにしっかりと固定されている。
夜は連日のように雅か桃子の夜の相手をさせられて梨沙子にとって状況はなんら好転していない。
- 327 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:39
- 「監禁されてるのはあたしのほうだよ」
梨沙子は言った。
「ごめん・・・」
千奈美は下をむいたまま言った。
「ごめんね。梨沙子」
「謝ってばっかじゃん」
梨沙子はあきれたように言った。
それでも梨沙子はそっと千奈美の横に座った。
千奈美は梨沙子を見ると泣き笑いのような表情を見せた。
- 328 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:40
- 「ちぃは何も悪くないよ。あたし、ここを出られても警察にはちぃのことは絶対言わないから。
だからちぃ元気だしなよ」
梨沙子は千奈美の耳元でそっと言った。
千奈美はうぅっと嗚咽すると泣き出した。
「あ・・たしが・・みやを止められたらこんなこと・・」
泣きながら千奈美は途切れ途切れに言った。
「そんなことできるわけないじゃん」
梨沙子はそう断言した。
雅がことさら自分のことに対して他人の意見を聞くはずがない。
雅はすでに梨沙子のことを桃子との共同所有物のように思っている。
梨沙子を生かすも殺すも自由なのだ。
- 329 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:42
- 梨沙子が雅と知り合う前から雅は梨沙子を様子をじっと伺っていた。
あの視線は単に人見知りなのではなく、今のこの状態を切望した視線だったのかもしれない。
雅がもっとも残酷な方法で梨沙子を知れば知るほど、
もっと言えばベッドの中で梨沙子を知るほど
梨沙子自身も雅のことが前よりもずっと理解できるようになった。
雅の梨沙子への執着心はとてつもなくすさまじかった。
たとえ、梨沙子がここから解放されたとしても雅が梨沙子を自由にすることは
死ぬまでないと梨沙子は確信した。
桃子はそんな雅のもっとも強力な理解者だったのだ。
梨沙子がみやと桃との間で絶妙なバランスをとろうとしたのは
今になって考えたらあまりに危険すぎる行為だった。
梨沙子はまるで雅達に出会った瞬間から監禁される運命にあるようだった。
- 330 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:44
- 「そんなことできるはずないよ」
梨沙子はもう一度言った。
「とにかく、今のみやと桃には絶対逆らわないほうがいい」
梨沙子は千奈美をまじまじと見つめて言った。
「大丈夫。あの二人はあたし以外には絶対に何もしてこない。二人の邪魔さえしなければ絶対大丈夫」
「それで・・・それでも梨沙子は平気なの?」
「平気じゃないけど、でも大丈夫」
- 331 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:44
- いつか舞美と愛理が助けてくれるからと梨沙子は心の中だけで思った。
口に出さなかったのは雅にその名前を聞かれることを恐れたからだ。
梨沙子にとってはこの建物自体が雅の手足のようになって梨沙子を監視しているように感じられた。
- 332 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:45
-
----------------
- 333 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:46
- エアコンがわずかな振動を部屋に伝えている。
鉄格子の部屋はエアコンが効きすぎて布団をかぶってないと寒いくらいだ。
梨沙子のすぐ目の前で雅が目を閉じている。
すでに行為を数度終ええた上での小休止だ。
白い布団に包まれた雅は美しすぎてまるで天使のように見えた。
雅の様子はいつも変わらなかったが目じりがほんの少しだけぬれているように見えた。
- 334 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:47
- 「ねえ、みや。もう寝た?」
いつもなら行為のときに梨沙子から話しかけたりはしない。
不用意な言葉をかけるとベッドの上での雅の行為に拍車をかけることもあるからだ。
でもこのとき梨沙子が話すまで余裕ができてきたのはすでに2週間以上も
雅と桃子に毎晩同じことをされ続けたせいもあるかもしれない。
- 335 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:48
- 雅は目をぱっちりと開けた。
そしてじっと梨沙子を見つめている。
これまでの梨沙子だったら恐怖心が先立って雅から目をそらして咄嗟に離れようとしたかもしれない。
しかしそれが引き金になって梨沙子は再び終わらない責め苦を存分に味合わされることになるのだ。
しかし、今日の梨沙子は違った。
雅から片時も目を離さなかった。
その目には非難の色も恐怖心もない。
ただ雅の表情をじっと伺っていた。
- 336 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:49
- 「んーん。寝てないよ」
雅は観念したように少し笑って答えた。
「あの、みやは昼間課外授業出てるんでしょ?どうなのかなって」
梨沙子は少しどもりながら言った。
「どうって?」
「んー。学校とかどうなってんのかなって。しばらく行ってないから」
梨沙子は何かはぐらかすみたいに言ってしまった。
自分でも何が言いたかったわけでもない。
ただ今の雅と会話するのはまだ少し緊張した。
- 337 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:50
- 「心配ないよ。何も変わんないし。第一まだ夏休み中だよ」
「そっか」
梨沙子は言った。
監禁される前と何も変わらないような雅との会話だ。
梨沙子は今の自分達の関係は何なのだろうと思った。
すでに監禁されたときからはもう親友ではなくなっているのだろう。
かといって喧嘩別れした友達のようでもない。
ただ犯罪者と被害者というのも少し違う。
雅は何ら反省もしていないし、裁かれてもいないのだ。
ただ確かなのは現在進行形で梨沙子の人権を犯され続け、
雅はそれに対する罪の意識は微塵もない。
雅は一体今何を考えているのだろう。
それさえも梨沙子には分からなかった。
- 338 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:52
- 「それより、梨沙子昼間暇じゃない?夜はこうやってお相手してあげられるけどさあ」
「いいよ。昼間までされたら体がもたない」
「違うよ。そういうこと言ってるんじゃなくて。ゲームとか漫画でももってこようか?」
「うん・・・」
梨沙子は雅の部屋にあった人気の漫画を借りる約束をしたのを遠い昔の出来事のように思い出した。
もうあの頃の二人の関係には永久に戻れないんだと思ったら悲しくなった。
できれば時間を遡って雅ともっと話しがしたいと思った。
- 339 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:53
- 「そうだ。夕飯早かったからお腹すかない?夜食に釜玉うどん作ってあげようか?」
雅は急に思いついたように言った。
「うん。少しすいてるけど」
雅が珍しく立て続けにしゃべるから梨沙子は思わずうなずいてしまった。
でも何で暑い夏に釜玉うどんなんだろう。
みやって優しいけど時々変。
以前の関係だったらそんな風に思っただろうなと梨沙子は考えた。
- 340 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:54
- 雅はさっとベッドを抜け出すとさっそうとキッチンへ向かった。
梨沙子は両手は自由になっているが足枷がベッドに固定されているのでそこから動くことはできない。
「こういうときもあるかと思って買っといたの」
雅が冷蔵庫を開けてうどんの麺のはいった袋を梨沙子に見せた。
雅は慌しくガスに点火すると鍋に水をいれて火にかける。
雅の表情は心なしか楽しそうだ。
雅は料理をしているときとか作業に熱中しているときはいつも目が輝いているように見える。
前の雅と変わらないんだなと梨沙子は思った。
- 341 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:55
- 雅の姿を見ていると、今まで梨沙子の中にうずまいていた自然な本能である
早くここから脱出しないといけないという意識が次第に薄れてきた。
自分は今、雅の家に遊びに来ていて雅が梨沙子のために釜玉うどんを作ってくれている。
どうかするとそんなふうに思ってしまっている自分がいる。
まるで騙し絵を見たときのように自分の脳が錯覚を起こしている。
- 342 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:56
- 梨沙子はそんな自分に危険を感じて、足につけられた足枷を目に焼き付けて、
自分が置かれている状況をしっかりと刻み込もうとした。
しかし、足枷はずっとつけられているせいでつけられていること自体が次第に慣れてしまっている。
そうしたら自分は今、何に一番傷ついて苦しんでいるのだろうとふいに梨沙子は思った。
- 343 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:58
- 信じている友達に裏切られたから?
無理やり服を脱がされて裸にされて、ものすごい恥ずかしい思いをさせられた?
その信じていた友達は欲望のままに自分の体を弄んだ?
ほかの友達もだれも助けてくれない?
次々と思い浮かんだが、梨沙子の心はいまひとつどれにも反応しない。
多分、自分は監禁され続けたことで徐々に何かを失ってしまったのかもしれないと思った。
- 344 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 20:59
- 「ねえ、みや」
梨沙子は雅の後姿に話しかけた。
「んー?」
「もうみやはあたしの友達じゃないの?」
雅は作業している手をいったん止めた。
そして口元に微笑を浮かべながらゆっくりとこちらに向かってくる。
「そんなことないよ」
鉄格子を前にして雅は言った。
- 345 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/19(木) 21:00
- 「あたし達ってまだ終わってないと思うよ」
少し前だったら勝手な雅の勝手な言葉に怒りを覚えたかもしれない。
しかし梨沙子はなぜかほっとしていた。
自分はまだ雅を失っていないと思った。
同様にまだ桃子も千奈美も友理奈も佐紀もまだ失っていないはずだと思えた。
- 346 名前:ELS 投稿日:2010/08/19(木) 21:01
-
今回の更新を終わります。
- 347 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/19(木) 22:21
- みやも変わってきたのかなぁ・・・
楽しみすぎて1週間が長く感じます><
助けてくださいっw
- 348 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/20(金) 01:14
- まあさ出て無いよね?
まあさに今の梨沙子に対する対応を書くのはキャラ的に難しいのかな?
- 349 名前:ELS 投稿日:2010/08/26(木) 21:55
- >>347
レスありがとうございます。
うれしいお言葉、励みになりまする。
>>348
レスありがとうございます。
まあさは、最初のほうだけ少し登場してますが
その後は確かに登場させてないですね。
- 350 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:13
- 舞美は病院のベッドからずっと外の景色を見ていた。
ただ考えていることはただ一つ。
梨沙子の失踪事件についてだ。
舞美の意識が戻ってから一度だけ警察の事情聴取があった。
しかし舞美は自分は誰からも押されていない、
自分が勝手に足を滑らせて階段を転がり落ちたと嘘の証言をした。
- 351 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:14
- 「あたしの事件は今回の事件の本質じゃない」
舞美は意識が戻ってから繰り返し自分にそう言い聞かせていた。
自分の身の上に起こったことにあまりに意識を傾けすぎると
それ以外のことに全くの盲目となってしまう。
突き落とされて悔しいなんて被害者意識なんてさっさと投げ捨ててしまう。
これは極度に理性を重んじる舞美の信仰のようなものだ。
- 352 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:15
- そしてもしかしたら自分の事件と梨沙子の事件はつながっているかもしれないという予感が
舞美をさらに慎重にしていた。
だからこそ捜査の入り口を間違えて自分が誰かに突き落とされたと言って
警察や周囲の人間がそこに集中してしまったら事件の本当の本質、
つまり梨沙子の失踪事件はきっと解決しないと舞美は考えていた。逆を言えば単純に梨沙子の事件だけを丹念に追っていけば犯人を簡単に割り出せるという確信も舞美はもっていた。
- 353 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:16
- ただ舞美はひどく落胆させたのは、全身の打撲が思ったよりもひどく、
歩けるようになるまでまだしばらく時間がかかるということだ。
舞美の鋭い感覚と思考能力は出来事が起こった現場でこそ最もよく発揮される。
病院のベッドで悶々と考えていたのでは、ただ結論の出ない思考の堂々巡りを繰り返してしまう。
そのことが一番よく分かっている人間なだけに舞美の焦りは次第につのっていった。
「この足さえ動くようになれば・・・」
舞美が恨めしそうに腕や足に巻かれた包帯を見つめていた。
いくら梨沙子のことだけを考えようとしても、
自然と舞美を階段から突き落としたあの黒い影のことを思い出してしまう。
- 354 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:17
- あの影は一体誰なんだろう。
まさか清教徒派・・・?
確かにそう考えれば納得できる部分はある。
修道会に反発している清教徒派が自分を階段から突き落とし
梨沙子をそそのかして連れ去ったという一連のストーリーが浮かんだ。
しかし舞美は即座に頭を横に数回ふった。
出来すぎてる。
ちょうどそのとき舞美の思考をさえぎるようにちょうどタイミングよく愛理が入ってきた。
- 355 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:18
- 舞美は愛理の姿を見て救われたように感じた。
愛理の表情は舞美よりもずっと明るかったのだ。
「舞美、頼まれたこと調べてきた。家族の人が梨沙子の書置きに気づいたのは夕方になってから。
そのときはもう梨沙子はいなかったって。それからね、結構すごいことまで分かったんだよ」
愛理はそう言ってさっそく持ってきた書類を舞美の前で広げて見せた。
それは梨沙子が家出する一週間前からの梨沙子の携帯電話の通話とメールの記録だった。
- 356 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:19
- 「舞美の言ったとおり警察に言って相談してみたら電話会社に連絡いれてくれたよ。
本当に調べられるなんて思ってなかった」
愛理はうれしそうに言った。
「まあ警察は自分では捜査したくないんでしょうね。家出少女の捜索なんか」
言いながらも舞美は食い入るように書類を見ていた。
そこには舞美の真剣な表情とは真逆の絵文字も入ったおよそ能天気なメールがならんでいた。
- 357 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:20
- 梨沙子は自分のすぐ隣にお気に入りの熊のぬいぐるみをもってきて
ピースサインをした写真を雅におやすみメールとして送っていた。
「梨沙子って結構メール魔だね。相手から返信もまだなのに、写メ送ったり」
愛理は梨沙子の様子を思い浮かべるように言った。
梨沙子は雅と桃子を中心としてたくさんのメールのやり取りをしていた。
このときは確かに梨沙子は無事に楽しく毎日を過ごしてメールも送っていたのだ。
愛理は優しそうな笑顔で梨沙子のメールを見ていたが、
その姿はどことなくもの悲しげだった。
愛理はまるで梨沙子が元気でいたという事実だけでも
確認することによって自分自身を慰めているようにも見えた。
- 358 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:21
- そして梨沙子のメールは家出する日を境にぷっつりと途絶えている。
「梨沙子、家出することについて全然メールしてないね」
舞美は梨沙子が発信したメールの記録を見て言った。
「夏焼さん達は梨沙子から家出することは聞いてたんでしょ?
これだけ夏焼さんや嗣永さんとメールしてて直前まで全く家出するって話題がないのも変じゃない?」
舞美は愛理を見て言った。
「そう言われてみれば・・・」
愛理はもう一度メールの内容を見返した。
確かにどこにも家出することなんて書かれていない。
- 359 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:22
- 「もしかして知らなかったのかな?梨沙子の家出のこと」
「うーん」
舞美は頭を抱え込んだ。
「知ってて知らないふり。は、よくある。だけど知らないのに知ってるふりなんて
ありえないんじゃないかな。この手の問題について」
これには事件の重大なヒントがある。
あたりをつけた舞美は少しだけ笑顔になった。
- 360 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:25
- 「考えられることは二つ。梨沙子があえてその話題にふれないように周囲の人に頼んでいたか、
もしくは梨沙子の周囲の人間がそういうふうに梨沙子に頼んでいたかどちらか」
「何のために?」
「それも考えられるのは二つ。梨沙子が自分自身の居場所を知られたくなかったか、
梨沙子の周囲の人間が梨沙子の居場所を知られたくなかったか」
「うーん」
愛理が口をへの字に曲げて考え込んだ。
- 361 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:26
- 「でもいずれにせよ梨沙子も、その周りも人にしても相当用意周到に
今回の家出の計画を練ってたみたい。とにかくもっとよく調べてみないと」
舞美は愛理をまっすぐに見つめて言った。
まるで舞美の視線は自分が全てをお見通しだと思えるくらいに自信に満ちていた。
- 362 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:27
- 梨沙子は監禁室でキャンバスに向かっていた。
空の色を描こうと水色をふででそっと撫でた。
すると真新しい新鮮な青が梨沙子の目に飛び込んできた。
梨沙子はそんなふうに感じたのはきっと長い間空を見ていないからだと思った。
「それ、みやが買ってきたの?」
千奈美がキッチンでお茶をいれながら言った。
「うん。漫画も全部読んじゃったし、することなくって。
みやが画材屋で油絵セット買ってきてくれたんだ」
梨沙子がほのかに微笑を浮かべた。
- 363 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:28
- 千奈美はお茶を梨沙子の傍のテーブルの上においた。
梨沙子はすぐに白いティーカップを口にはこんだ。
千奈美は少しあっけにとられた。
梨沙子が絵を描くのが好きだというのは確かに雅から聞いたことはあった。
しかし、今そんなことをしている場合なのかと千奈美は自分勝手な心配をしてしまっていた。
それでも梨沙子はお茶を一口のむとその後は夢中になって青を描いている。
それは、果物かごの背景に窓があって、そこから晴れた空が覗いているという構図だった。
もちろん実際の梨沙子がいる部屋には窓などない。
- 364 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:29
- 「静物画ばっかりじゃつまんないから、次はももがモデルになってくれるって」
梨沙子は機嫌よさそうに言った。
「桃は可愛く描かないと怒るからなあ」
これが、普通の状況だったら何も感じずに梨沙子の言葉を聞いたと千奈美は思う。
でもこの異常な環境では、梨沙子のその表情は気でもふれてしまったと思えるくらい自然だった。
「そう・・・なんだ」
千奈美はどう答えていいか分からないらしく相槌をうった。
- 365 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:29
- 絵を描いている梨沙子からは囚われの身となった悲壮感というものが不思議なほど消えている。
ブロンドの髪はまるではやりの美容院に行ってきたばかりのように滑らかに光沢を放ち、
薄いピンク色のキャミソールは胸元に上品なレースがついて妙に艶かしい。
ただ足元に視線を移すと場違いなほどさびついた金属の分厚い足枷が化け物のように梨沙子を拘束していた。
- 366 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:31
- 「あの、みやから借りて読んでた漫画のことなんだけどさ。
すごいいじめで有名になった漫画があるじゃん?」
梨沙子は筆を動かしながら流暢にしゃべっていた。
「ああ、これ?」
千奈美はベッドの横に置いてある漫画を手に取った。
確かドラマ化されて、あまりのひどいいじめの描写にPTAから苦情がきたような漫画だ。
「そう。それって主人公がいじめの標的になって教科書隠されたり、上履きも隠されたり、
机に落書きされたり、あと・・・トイレに無理やり連れ込まれてモップで頭洗われたりするんだけどさ」
梨沙子はまくしたてるように早口で言った。
- 367 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:32
- 「うん・・・」
千奈美は梨沙子の表情を伺いながら聞いていた。
「あたしが今されてることとどっちがひどいのかな」
梨沙子はさらりと言った。
千奈美は何も答えることができなかった。
今、梨沙子がされてること以上のひどいことがあるんだろうかと千奈美は思う。
だけど梨沙子にそう言ったところでとても気がすむとも思えないし、
だからといって千奈美自身も梨沙子を逃がす勇気はない。
雅や桃子のように梨沙子を好き放題に陵辱したいとも思えない。
千奈美はもう自分を残酷な人間として達観した気分になっていた。
- 368 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:34
- 「あの漫画の子はね。ものすごく傷ついて苦しんでた。
学校に行こうとしたら体が拒絶反応を起こして途中の花壇で吐いちゃうくらい」
梨沙子は平然と言っている。
怒っているのか悲しんでいるのか表情からは全く分からない。
「梨沙子はどのくらい傷ついているの?」
千奈美は勇気を出して聞いてみた。
「それがわかんないの。漫画読みながらあたしは、どのくらい傷ついているんだろうってずっと考えてた。
みやや桃と一緒にいるとき、どのくらい傷つけられているんだろうって。
でもそんなの測る機械なんてないから結局よく分かんないの」
- 369 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:35
- 梨沙子は言いながら平然と筆をすすめている。
千奈美はとにかく自分は梨沙子の傍にいることに決めた。
やがて梨沙子が描く青空ははっとするくらい美しく仕上がっていた。
- 370 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:36
- その日の雅は予定の時間より早くやってきた。
両手にはめいいっぱいの買い物袋をかかえている。
雅は千奈美と目をあわすとなにげなく「梨沙子は」と聞いた。
千奈美と雅は同時に芸術家ふうにイーゼルに向かっている梨沙子を見た。
梨沙子は振り返ると絵を見ろと言わんばかりに完成間近の絵を指差した。
雅はさっそくキッチンテーブルの上に袋を置くと梨沙子がいる牢獄の部屋にはいってきた。
- 371 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:37
- 「うまく描けてるじゃん。やっぱ梨沙子って絵うまいんだね。
こんだけ描ける人ってめったにいないんじゃない」
雅の言葉に梨沙子は機嫌をよくして朗らかに笑った。
「みやは買い物?」
「うん。そうなんだけどもう一度行かなきゃなの」
「何で?」
「牛乳買い忘れた」
雅が舌を出して笑った。
- 372 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:38
- 「あ、それだったらついでにあれも買ってきてよ」
「あれって?」
「あの、あたしがいつも夜食べるやつ」
梨沙子の言葉に雅が一瞬上を向いた。
「ああ。あの、牛乳プリンみたいなやつ?」
「そうそう」
「分かった。他には?」
「今のとこない・・・かな」
梨沙子は言った。
- 373 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:40
- 雅と梨沙子の会話があまりにも自然すぎて千奈美は頭の中が交錯する糸のようにこんがらがってきた。
雅が出て行くと梨沙子は再び筆をとって絵にむかった。
「雅と梨沙子って最近ああいう感じなの?」
「ああいうって?」
「何ていうか。こんな状況で普通にしゃべるの?」
「あー。あたしがもう逃げないって分かってるから安心してるんじゃない?
だってこの部屋から出ても分かんないもん。あんな迷路みたいなとこ。
あたしって本当に完璧に誘拐されたんだね。もう絶望的だね」
梨沙子が軽い感じでそう言って千奈美を見つめた。
- 374 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/08/26(木) 22:41
- 「どうせ誰も助けてくれないしね」
梨沙子の目が一瞬猫のように光った気がした。
千奈美はそれを見て心なしか震えがきた。
- 375 名前:ELS 投稿日:2010/08/26(木) 22:41
-
今回の更新を終わります。
- 376 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/27(金) 00:52
- 舞美!早く助けてあげて〜
- 377 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/09/01(水) 00:15
- やばい・・・
なんか梨沙子はこのままでも
いい気がしてきた。。。
これって洗脳?w
- 378 名前:ELS 投稿日:2010/09/02(木) 20:19
- >>376,377
レスありがとうございます。
稚拙な文章で恥ずかしいこともありますが、
どうもありがとうございます。
調子に乗って次回作をそろそろ考えています。。
- 379 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 20:48
- 「夏焼」
雅の家は古めかしい字体でそう表札がかかっていた。
見るからにお金持ちそうな豪邸だ。
それでも愛理は意を決して中へ踏み込んだ。
門の前にあったチャイムを鳴らすと雅がすぐに出てきた。
用件を話すと雅は意外にもすぐに家を中へ入れてくれた。
「梨沙子のことで鈴木さんもいろいろと調べてくれてありがとう」
玄関先で雅は、焦燥したような顔で言った。
- 380 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 20:49
-
雅はこの前とは打って変わって何かとてもしおらしくなってしまっている。
梨沙子がいなくなったことが相当ショックだったように思えて、
愛理は再び梨沙子失踪事件の犯人の見当がつかなくなった。
- 381 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 20:50
- 入院していて動けない舞美に代わって、愛理はこの1週間
雅のグループメンバーをずっと尾行している。
誰かが梨沙子の失踪に関わっているならば絶対に梨沙子のいる場所に行くことが予想されたからだ。
しかし愛理は尾行している間、誰一人それらしき場所には行っていない。
わずかに雅の家による人がいたぐらいだ。
ただそれ自身は全く不自然なことではない。
ただ単に帰りがけに寄っただけとか、メンバーの集まり場になっているだけかもしれない。
だったら自分の目で雅の家に梨沙子がいるのか確かめてやろうと愛理は思った。
- 382 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 20:51
- 舞美からは雅の家を探せとまでは言われてはいなかったが、
こういうときには愛理は決まって思い切った行動にでた。
「あれから梨沙子からは何か連絡はありませんか?」
雅は首を横にふった。
「こうやってみんな心配してるんだから連絡があったらすぐに電話するつもりでいるんだけど」
雅が困惑したように言った。
- 383 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 20:52
- 「ごめんね。あたしがもっと梨沙子をよく見ていたら良かったんだけど。
本当に梨沙子どこ行っちゃったんだろう」
雅が肩を落として言った。
その姿を見ていると愛理は自分が雅を疑って追求しているのが何だか申し訳なくなる。
雅の後に続いて愛理は家の中に入った。
よく掃除されてピカピカの廊下、明るい日差しが入っているリビング。
そこからは広い緑の庭が見えた。
「あの、ごめんなさい。お手洗い借りてもいいですか?」
愛理は言った。
「どうぞ」
愛理はリビングの左手にあるトイレに案内された。
- 384 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 20:53
- その間にも愛理はすばやく周囲の部屋をチェックする。
どの部屋も扉が開いていて中を見ることができた。
愛理はトイレの中に入ると頭の中で家の構造を確認した。
もう一階には梨沙子はいない。
後は2階、
それも雅の部屋が一番可能性が高い。
- 385 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 20:53
- 「梨沙子が家出する前にここに来ていたってことはないですか?」
トイレから出てくると愛理はリビングにいた雅に話しかけた。
もしかしたら雅は梨沙子のことは何も知らないかもしれない。
でもこのまま手ぶらでは帰れない。
愛理は梨沙子の痕跡を何としてでも見つけようと必死になった。
「家出する何日か前は確かきてたと思うけど」
雅は首を横にふった。
「そのときは、夏焼さんの部屋に?」
雅はうなずいた。
- 386 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 20:54
- 「部屋を見たらダメですか?」
「いいよ。今ちょっと散らかってるけど」
雅の家の階段は少し急だった。
明るい木目の入った板がらせん状につらなり、新鮮な木の香りが漂っている。
梨沙子が最後にこの階段を通ったとき一体何を考えていたんだろうと愛理は思った。
家庭の事情や友達関係で人には言えない悩みも抱えていたのかもしれない。
でも勝手にいなくなるというのはどう考えても梨沙子の意思ではないように思えた。
ちょっとした家出の計画はあったにせよ梨沙子は普通に楽しい夏休みを送ろうとしていた。
でも何かの瞬間、梨沙子は日常の生活から引き離されてしまったのかもしれない。
- 387 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 20:56
-
「ここがあたしの部屋」
雅はドアを開けて言った。
「ねえ、どこにも梨沙子はいないでしょ?」
その言葉を聞いて愛理ははっとなった。
「違うんです。あたしは別に夏焼さんを疑ってるわけじゃなくて」
「いいって。あたしは梨沙子の親友だもん。梨沙子をかくまってるって思われても当然でしょ?」
雅は目を大きくあけて愛理に言った。
愛理は雅の言い方に何か違和感を感じた。
妙に疑われ慣れした言い方いうか、
この人は絶対に何かを知っているというような予感がした。
- 388 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 20:57
- 「せっかくだから部屋全部見ていきなよ。そのほうがあたしも疑われなくてすむし」
雅はまるで全然気にしていないと言わんばかりだ。
愛理は雅の家の全ての部屋を見せてもらった。
それこそお風呂場も寝室も全てだ。
中には壁の中に隠し部屋のようになっている広い衣装室があったが、
どこにも梨沙子はいなかった。
こんなとき、舞美だったらどんな推理をするだろう。
やっぱり雅は無関係なのだろうか。
一通り、部屋を見終わった愛理はリビングに雅とともに戻ってきた。
- 389 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 20:58
-
「あたしはてっきりおばあちゃんの家にでも行くのかと思ってたんだけど」
雅はお茶をいれてくれていた。
愛理はしばらく考え込んでいたが、ふと頭を上げると愛理が座っているソファからは
雅の家の広大な庭が見えた。
思わず寝転びたくなるような青々とした芝生が一面に敷き詰められていて、
動物の形に刈り込まれた柘植の木がところどころ均等に植えられていた。
庭園と言ってもおかしくないような庭にスレート製の倉庫だけが右端にぽつんと存在している。
- 390 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 20:59
- 「きれいな庭・・・」
愛理はふとつぶやくように言った。
もしあの倉庫さえなければ庭全体がまるで一つの芸術品のように輝きを増していただろう。
「うちとは大違い」
愛理は自分の家の庭を思い出して言った。
そこは愛理の父と母がこぞって好きなものを植えるものだから
草花も木も雑然として好き放題に伸びて何かだらしなくなっている。
「うちは業者に頼んでるから。パパもママもほとんどあまり家にいないしね」
雅は言った。
- 391 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 21:00
- 成果なしか。愛理は心のうちに思った。
結局雅の家に思い切って飛び込んできたものの逆に雅の家に
何も梨沙子の手がかりがなかったことによって
梨沙子からは遠くはなれてしまったような気がする。
舞美が聞いてもきっとがっかりするだろうと愛理は思った。
「もう・・・りーちゃん、どこ行っちゃったんだよ」
愛理は雅の家を出ると空を眺めてため息をついた。
愛理の脳裏にはありし日の梨沙子の笑顔だけが浮かんでいた。
- 392 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 21:01
- 千奈美は不思議に思いながら暗い廊下を歩いていた。
突然雅から梨沙子の監禁部屋にきてみてとメールがあったのだ。
梨沙子とは昨日の午後一緒に過ごしたばかりだ。
だから梨沙子の監視役という当番はまだ先のはずだった。
雅に限って梨沙子を放っておいて当番を代わってほしいなんて言うはずはない。
だったら自分に何の用があるのだろうか。
もしかしたら梨沙子の身に何か異変があったのではないか。
また脱走しようとして雅や桃子に今まで以上のひどい目にあわされているのかもしれない。
梨沙子だってこれ以上の陵辱を受けたら自殺してしまうかもしれない。
千奈美の思考は嫌な方へとばかり想像がふくらんだ。
- 393 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 21:02
- 通路は両脇に備え付けられたランプの形をした蛍光灯の明かりによってやっと地面が見えるくらいだ。
ゆっくりと歩きながらだったらまだ行く先は分かるが、
もしここを走り抜けようとしたらたちまち方向が分からなくなってしまうだろう。
梨沙子が何度逃げようとしてもこの忌まわしい通路がその度に梨沙子を捕らえて離さないだろう。
そして梨沙子は再び屈辱の世界に引き戻されるのだ。
千奈美は自分達が行っているおぞましい行為に吐き気がした。
- 394 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 21:03
- ドアの前に立ってみると何やら中が騒々しい。
それが笑ったり叫んだり、何か女子高生でいっぱいのファーストフードの前にでも立っているみたいだ。
何の騒ぎかと思って千奈美が部屋に入ってみると、
中には梨沙子、雅、桃子、佐紀、友理奈と全員そろっていた。
全員テレビに釘付けになって寝転がってゲームをしているようだ。
- 395 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 21:04
- 「あ、ちぃ来たよ。桃、一人追加して」
千奈美の姿を認めると梨沙子が桃子に言った。
「オッケー」
桃子は、完全に寝そべった状態でコントローラを操作した。
見るからにリラックスした格好だ。
この部屋に千奈美が危惧したような切羽詰った危険さは微塵もなかった。
「次、みやの番だよ。5が出たらブーだよ。絶対」
梨沙子がはしゃぎながら言う。
「そんな都合よく出ないよ」
雅が梨沙子を軽く小突いた。
- 396 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 21:05
- 「何・・・やってんの?」
千奈美は唖然として言った。
「ゲーム。最初は梨沙子と二人でやってたんだけど。
みんなでやったほうが盛り上がるの」
雅が興奮した顔で言った。
どうやらみんながやっているのはスゴロク方式のRPGのようだ。
メンバーがマス目を進んでいってサイコロで出た数字によっていろんなイベントが起こるらしい。
「げ、5だ」
雅がサイコロを振って絶句した。
「やったー。あたしのホテルへ一泊。毎度あり〜」
- 397 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 21:06
- ものすごく久しぶりに梨沙子の笑い声を聞いたような気がする。
それも監禁が継続した状態でそれが聞けるとは千奈美は思いもよらなかった。
みんな笑ったり叫んだりこんなに騒いでるのはきっと梨沙子の誕生会以来だ。
- 398 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 21:07
-
「ちぃも入りなよ」
言われて千奈美もしぶしぶゲームに参加していたが、
サイコロを回してお金が入ったり損したりいろんなイベントが起こって
次第にのめりこんでしまい感覚が麻痺してきた。
千奈美はふと梨沙子の足元を見た。
そこにはこれまでと全く同じ図太い足枷が梨沙子の細い足首にしっかりとはめられている。
それを見て千奈美は再び現実に引き戻されたような気分になった。
しかしその場はひょっとしたら誰もその存在に気づいていないのではないかと千奈美は思った。
- 399 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 21:08
- 梨沙子はとても楽しそうに笑っている。
しかしその笑顔はまるで等しくみんなと同じ立場でゲームに参加しているように
錯覚した笑顔のように千奈美は思えた。
今、この部屋では梨沙子とそれ以外の人間とは違う。
自分達は今、ゲームをやめて家に帰ることもできる。
しかし梨沙子にはそれは絶対に叶わないのだ。
梨沙子にはそれが分かっているのだろうか。
それとも分かった上で笑ってるんだろうか。
- 400 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 21:09
- 千奈美は梨沙子の笑顔がとてもはかなく、今にも消えそうなものにも思えてきた。
きっと夜には、体中を拘束され裸にされてベッドに寝かされるに違いない。
千奈美は自分の体の中に密かにそれを想像して快感を感じようとする危険な心の動きに気づいた。
そして慌ててそれを打ち消した。
- 401 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/02(木) 21:10
-
「まぁもいたらよかったのにね」
誰かがぽつりと言った。
「ママ、元気かな」
梨沙子が言った。
「元気だよ。きっと」
雅が明るく応えた。
そういえば茉麻がいないからという理由でこの夏にみんなでキャンプに行こうという
計画が中止になったことを思い出した。
しきりに行きたいと言ってたのは確か雅で梨沙子は疲れるからみんなでゲームでもしてたほうがいいって言ってたっけ。
今となっては誰の希望通りになったのか訳がわからないと千奈美は思った。
- 402 名前:ELS 投稿日:2010/09/02(木) 21:11
-
今回の更新を終わります。
- 403 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/09/05(日) 22:53
- 周りのみんなも・・・
壊れそう。
- 404 名前:ELS 投稿日:2010/09/09(木) 20:31
- >>403
レスサンクス。
そろそろ舞美&愛理の登場が増えてきます。
- 405 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:32
- けたたましい蝉の鳴き声が辺り中を充満させていた。
日の光は燦爛とあらゆるものを照らし目を瞑っていないと
その光の全てを受け止めきれないぐらいだ。
まるで虹色の毒気でも含んでいるような熱線はアスファルトから反射してきて
人のあらゆる思考力を奪うかのようだった。
ただの住宅街とはいえ、そんな過酷な環境の中を
舞美は愛理に体を支えてもらいながら歩いていた。
- 406 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:33
- 「病院抜け出して本当によかったの?」
愛理が心配そうに尋ねる。
「平気。というかこれも神のお導きです」
舞美が悠々と答えた。
久々に外の空気を吸って表情は満足そうだ。
とはいえ額には汗が滲み、まだ治りきってない体にはかなり酷なようだ。
「梨沙子の部屋はもうおじさんとおばさんがかなり調べてて
行き先が分かるようなものは何もなかったって」
愛理が舞美の体を支えながら心配そうに言った。
- 407 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:34
- 「そう。でも愛理の話しからすると私は何か分かるんじゃないかって」
愛理は舞美に雅の家でなんの証拠も見つけられなかったことを報告したが、
落胆すると思っていた舞美の反応は意外なものだった。
「もう少しだよ。愛理。あとちょっとで梨沙子の居場所が分かるかもしれない」
舞美は力強い眼差しで愛理に言った。
その後、愛理は舞美の病院からの脱走を手伝わされたのだった。
- 408 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:35
- 絶対安静を命じられている舞美が病院を抜け出して炎天下の中、
外を歩き続けるのは無謀というものに違いない。
しかし、舞美の目はまるで全ての謎が解けたように確信に満ちていた。
そしてまるで人を安心させるような舞美の柔和な表情を見ていると
愛理は何だか協力さぜるを得なかった。
それに愛理の中でも一分でも早く、梨沙子に会いたい気持ちが強くなっていた。
梨沙子の家につくと、梨沙子のお母さんが出迎えてくれた。
愛理や舞美は小学校のときから梨沙子の家に遊びに来ていたから
舞美がもう一度梨沙子の部屋を調べてみたいと言ったら快く応じてくれた。
- 409 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:37
- 梨沙子の部屋に入ると、もあっとした空気が愛理達を包んだ。
愛理はすぐに冷房をつけにリモコンのスイッチをつけに走ったが、
舞美はすぐに梨沙子の勉強机に並んでいる教科書やノートを注意深く見始めた。
舞美の様子を横目に見ながら愛理は閉めっぱなしになっているカーテンを開けた。
窓からは家の前の道路が見える。梨沙子と一緒に中学校に通っていたとき、
なかなか出てこない梨沙子をその道路からこの部屋の窓を眺めていたものだった。
寝坊の梨沙子はここからよく顔を出しておはようと愛理に言った。
いつしかその役割は愛理から雅達に移って行ったのだろう。
- 410 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:38
- 「代数学、解析学、有機反応学・・・」
舞美は置いてあるテキストの名前をいちいち口にだして呪文のように唱えている。
そして舞美は自分のバッグから西成高のカリキュラムを取り出して机の上に広げた。
「おかしい」
舞美は言った。
それは、ただ疑問に思っているという意味ではなくて何か新しいことでも発見したような口調だった。
「何か分かったの?」
期待する愛理の表情に答えるように舞美はうなずいた。
- 411 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:39
- 「西成高の課外授業は全部で11科目あるんだけど」
舞美は夏休みの課外授業のカリキュラムを指差して言った。
そこにはすでに番号がふられていて、最後の無機化学のところにJと印がつけられている。
「そのうち8科目しか教科書がない」
舞美が言った。
「中世思想学、近代文学、社会学の教科書がない」
まるで舞美はそのことを予想でもしていたかのようにすらすらとしゃべっている。
- 412 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:40
- 「学校においたままとか」
愛理は言った。
「かもしれない。でも確実に言えるのはこの3つの科目は、
梨沙子が失踪した日に受けていた課外授業だよ」
「え?」
予想もしていなかったことに愛理は驚いた。
舞美は課外授業の時間割を指差した。
間違いなく、この3つの授業が見事に1、2、3限と並んでいる。
そしてこの日は舞美が階段から落ちて大怪我をした日でもあった。
でも舞美はそのことについては何も言わなかった。
- 413 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:41
- 「梨沙子は、この日課外授業に出ていたことは間違いない。
証言もとれてるよね?」
愛理はうなずいた。
梨沙子がこの日、学校で昼まで授業を受けて帰宅後に行方不明になった。
そこまでは愛理もクラスメートに確認していたことだった。
「その日の授業の科目だけ学校に置いて帰るなんて偶然にしてはできすぎているし。
家に帰ったあとになって、もう用済みのはずの教科書をもってでかけるはずはない」
舞美はあごに手をやって言った。
- 414 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:42
- 「梨沙子は失踪した日、学校に行ったまま家に戻ってきてないよ」
「え?でも書置きが?」
「それは朝、梨沙子が家を出るときに置いていったんだと思う。
ただ梨沙子が学校から帰る姿が目撃されているから家に戻ったんだと思い込んでいただけで」
「じゃあ梨沙子はどこに寄ったんだろう」
「それは、多分友達の家かな」
愛理の表情がにわかに緊張してくるのが分かる。
- 415 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:43
- 「じゃあやっぱり夏焼さんのグループの誰かが」
愛理の言葉に舞美は人差し指を上に向けてうなずいた。
そして舞美は今度は並んでいるノートの方を丹念に見始めた。
代数学のノートを見つけると注意深く手に取った。
舞美は1ページずつ、慎重に穴があくほど目を近づけてみている。
愛理には最初、このノートが何を意味しているか分からなかった。
「このノート、梨沙子が1日だけなくなったって言ってたの」
- 416 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:44
- 舞美はノートから目を離さずに言った。
最初の10ページくらいは授業のノートらしく数字や黒板を移したものらしい
鉛筆の字が並んでいたが、その後は空白の白いページが延々と続いた。
それでも舞美は何も書かれていないページまでゆっくりと目を通して言った。
そして舞美の目はあるページで止まった。
「やっぱり私の思ったとおりだったかもしれない」
舞美はぽつりと言った。
- 417 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:45
- 愛理が見てもそれは何の変哲もないただの白いページにすぎない。
舞美はおもむろにそばにあったペンケースから鉛筆を取り出すと
それを斜めに寝かせてノートのはじを塗り絵でもするようにこすりはじめた。
何もないと思われたノートに次第に文字が浮かび上がってきた。
いえでの日きまった?
7/22授業おわったらすぐみやんちにいく
OK
愛理は思わず息を呑んだ。
- 418 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:47
- それは、代数学の授業中、隣同士の雅と梨沙子の書いたものに違いない。
7月22日は間違いなく梨沙子が失踪した、
そして舞美が階段で大怪我をした忘れられない1日であった。
「少なくとも雅は嘘をいってる。雅は家出した日は自分の家には寄ってないと証言していたはずですから」
舞美はにっこりと微笑んで言った。
ノートの内容が発覚するのを恐れた雅は書かれたページを抜き取るために
梨沙子からノートを1日だけ持ち去ったのだ。
しかし、書いたページの裏にはしっかりシャーペンの跡が残っていて
その内容が今ここにあぶりだされている。
- 419 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:48
- 「行こう、舞美」
愛理はすぐに部屋を出て行こうとした。
もう間違いない。
夏焼雅は梨沙子の居場所を知っている。
「ちょっと待って。これだけじゃ足りないの」
舞美はくぐもった声で言った。
何だか舞美の様子がおかしい。
めまいでもしているかのように額に手をあてている。
「確かに雅は梨沙子の居場所は知っている。でもまだこれだけの証拠じゃ
雅が梨沙子を誘拐したのかは分からない・・・」
舞美はそう言うとそのまま崩れるように倒れてしまった。
- 420 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:49
-
「舞美!」
舞美の額に巻いてある包帯から真っ赤な血が滲んでいた。
愛理は咄嗟に舞美を助け起こした。
「愛理、この部屋にある証拠だけじゃ事件性があるかどうかは分からないんだ。
梨沙子が雅に協力してもらって家出してるだけで、雅を問い詰めてもしらをきられたら終わりだし、
警察も動いてくれない」
愛理の腕の中で舞美が搾り出すような声で言った。
- 421 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:50
- 「そんなことより、舞美、血が」
「大丈夫」
そうは言ったが舞美は目をつむって苦しそうだった。
そして床に手をついて自分の力で床から起き上がろうとしたところで
再び倒れてしまった。
「舞美、やっぱ無理だったんじゃないの?」
悲痛な声をあげて愛理が舞美の首筋のところを支えた。
舞美から血の匂いが立ち上っているように感じた。
愛理は、それが死に司られた危険な匂いのような気がした。
- 422 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:52
- 「舞美、早く病院、戻ろう」
「でもこれじゃまだ梨沙子を助けられないんだよ」
舞美は首をふった。連れて行こうとする愛理の手を引き戻そうとする。
舞美の姿は珍しく駄々っ子のように見えた。
「分かった」
愛理は真顔になって舞美に言った。
「あたしはどうしたら梨沙子を助けられる?」
愛理は舞美がこれ以上梨沙子の捜索を続けることは不可能だと思った。
- 423 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:53
- 「私がこれから雅の家に行って・・・」
舞美は再び最後の力を振り絞るようにして起き上がろうとする。
「だから舞美は病院戻ってて。梨沙子はあたしが絶対に助けるから」
愛理は舞美を制止して強い口調で言った。
「どうしたら梨沙子を取り戻せるの?」
愛理の思いが通じたのか、舞美はゆっくり話し始めた。
- 424 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/09(木) 20:54
- 「梨沙子が無理やり連れ去られたことさえ証明できたら梨沙子を助けられる」
舞美は必死に搾り出すように言った。
「そのためにはどうしたらいいの?」
「一つだけ方法がある。まだ見つかってない誘拐の証拠があってそれを見つけられれば」
「それは何?」
「それは・・・」
言おうとしたその瞬間、舞美の体の力がなくなっていくのが愛理の腕の中ではっきりと感じられた
- 425 名前:ELS 投稿日:2010/09/09(木) 20:54
-
今回の更新を終わります。
- 426 名前:名無し飼育さん 投稿日:2010/09/10(金) 01:33
- 舞美!
- 427 名前:ELS 投稿日:2010/09/16(木) 13:07
- >>426
レスサンクス。
- 428 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:08
- 頭上で砂が流れるような濁音がひっきりなしに聞こえている。
「これ、雨の音?」
梨沙子は油絵の具をキャンバスの上に滑らかに走らせながら雅に聞いた。
「うん。すごい強いみたい」
雅は梨沙子のすぐそばのテーブルで本を読んでいる。
騒々しいのは天井だけで室内は恐ろしいほどの静けさを保っていた。
体を動かさないでいると、途端に人のはく息の音まで聞こえてきそうだ。
梨沙子はわざと左足を動かしてみた。
- 429 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:09
- チャリ
足枷についた鎖がこすれて小鳥の産声のような音がした。
そしてそのすぐ先には雅がいる。距離は10cm離れているかいないかぐらいなのに
梨沙子は時折、ここには自分ひとりしかいないのではないかと錯覚した。
「今晩ずっと降るのかな」
「うん」
雅もまたそう思っているのかもしれない。
- 430 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:10
- 梨沙子に構うでもなく淡々と本を読み梨沙子の傍にいる。
そしてたまにある梨沙子からの問いかけには短く、
かといって突き放すでもない返答をする。
しばらく雨の音を聞きながら時間がたった。
絵は過半完成した。
梨沙子が今描いているのは友理奈が差し入れに持ってきてくれた葡萄の房だった。
それが白いお皿にのっているだけというしごくシンプルな静物画だ。
桃子を描いているまだ途中の絵もあるのだが、それは今白い布をかけたままにしてある。
- 431 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:11
- 梨沙子が絵を描いているときは、次々頭の中でアイディアが沸いてきて
退屈することはあまりなかったが、今日は雨の音に麻痺させられているように何も浮かばなかった。
ただ色をのせるという作業的な楽しさがあるだけで、
それも次第に飽きてくる。
「今日は早めに寝よっか」
初めて雅がはっきりと梨沙子を見て言った。
「うん・・・」
梨沙子が答えたときにはすでに睡魔が襲ってきていた。
- 432 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:12
-
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舞美と一緒に梨沙子の家に行ったときはからりと晴れてうだるような暑さだったのに、
夕方から降り始めた雷雨は次第に勢いを増していた。
愛理は強い雨の中レインコートから水滴を落としながら自転車を飛ばしていた。
時々、雨水が目に入って前が見えなくなる。
それでも構わず愛理は無心にペダルをこいだ。
目指すは雅の家だ。
- 433 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:13
- 舞美はあの後、意識を失って救急車で病院に担ぎ込まれた。
幸い軽い貧血を起こしただけで開いた傷口も大したことはなかった。
しかし処置が終わって愛理がそばにかけつけたときでも、
舞美は朦朧としているようでまともな会話はすることはできなかった。
でも舞美から最後に受け取ったメッセージがあった。
それは、救急車で病院に向かっている間に舞美が握り締めていたものだ。
舞美が気を失う直前、愛理が家の人を呼んでいる間に書いたものだろう。
そこには「みやび 警72−48」と読むのがやっとな走り書きがしてあった。
- 434 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:13
- これはきっと自分に渡すために書いた舞美からのメッセージに違いないと愛理は思った。
ただ、それが何を意味しているかはよく分からない。
「みやび」というのは夏焼雅のことで間違いないだろう。
でも「警72-48」というのは謎だ。
警は警察の意味だとしても、数字については何を意味するのかは分からない。
- 435 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:14
- 愛理はとにかく、雅の家にもう一度行ってみようと思った。
例え舞美のように現場で鮮やかな推理を働かせることはできないにしても、
梨沙子についてのほんの少しの痕跡さえあれば自慢の行動力で
きっと梨沙子を救い出すことができる。
そうやって自分を言い聞かせた。
病院の外へ出たときはもう真っ暗でしかも夕方から降り始めた雨がいよいよ勢いを増していた。
- 436 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:15
- 愛理はやっとのことで雅の家の前までたどりついた。
横から殴りつける豪雨のせいで体中水浸しだ。
それでも雅の家を見上げると2階部分だけ明かりがついていた。
恐らく雅がいるのだろう。
どうしよう。
愛理は雅の家まではきたもののこれからどうしてよいか分からない。
雅を呼べばまた中へは入れてくれるだろう。
でも前に話した以上の情報をしゃべってくれることはないだろう。
- 437 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:16
- 代数学の落書きのことを話しても舞美の言うとおり
知らないと言われたらそれまでだ。
雅が梨沙子を無理やり連れ去ったという証拠は何もないのだ。
それに雅の家については前に全ての部屋を見せてもらっている。
愛理はどうしてよいか分からず、家の前をうろうろしながら庭を眺めた。
2階部分から漏れる蛍光灯の光が降り注ぐ大雨にあたって
庭全体が白く霧がかかっているように見えた。
そして愛理はもやの中に浮かび上がっている四角い構造物の存在に気づいた。
- 438 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:17
- しばらく目をこらしてやっと愛理はそれが雅の家の庭にあった物置小屋であることがわかった。
梨沙子を長い期間監禁しておくほどのスペースはないにしても人一人ぐらいは入れそうなスペースはありそうだ。
愛理はそっと門扉を開けて中に入った。
雅に悟られないように建物のぎりぎり下を通って庭の奥まで侵入する。
- 439 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:17
- 近くまでくるとそれは何の変哲もないスレート屋根の物置小屋だと分かった。
こんなところに梨沙子がいるはずがない。
愛理がため息をつこうとしたその時、何の予兆もなく轟音が鳴り響いた。
雷だということはすぐに分かったが愛理は怖くなっておもむろに物置小屋のドアをスライドさせてあけた。
鍵はかかってなかったが中は真っ暗で何も見えない。
何か庭木の道具みたいなものが雑然と置かれているようだ。
- 440 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:27
- 今度は辺り中が真っ白に光った。
そしてはっきりと愛理はピンクの自転車を見た。
愛理は思わず息をのんだ。愛理の中で確信に近いひらめきがあった。
「梨沙子の自転車」
- 441 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:28
- 愛理は、数ヶ月前に梨沙子の自転車が何者かに盗まれたことを思い出した。
携帯電話の光で自転車に何か書いてないか丹念に見てみた。
そして自転車の前輪を見たときにはっきりと見覚えのある数字に出会って愛理は仰天した。
「警72−48」
舞美が握っていたメモ書きと全く同じだ。
- 442 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:29
- 「雅の家に盗まれた梨沙子の自転車がある。防犯登録番号は警72−48」
舞美の短いメモに隠された意味はこういうことに違いない。
多分舞美は愛理にこの自転車を探してほしかったのだろう。
梨沙子から移動手段を奪って連れ去りやすくするために雅は梨沙子の自転車を盗んだに違いない。
そして、新しいのを買わなくても送り迎えは自分がしてあげるとたくみに梨沙子を騙したのだ。
これで雅が梨沙子を誘拐した決定的な証拠ができた。
- 443 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:30
- 愛理は念のため自転車を携帯のカメラにおさめると、舞美に送信した。
これで雅はもうどうやったってこの動かぬ証拠を隠すことはできない。
とりあえず、一刻も早く警察にいって梨沙子を捜索してもらおう。
愛理は倉庫から出ようとしたとき足元から奇妙な光が漏れていることに気づいた。
- 444 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:31
- その光を見たとき、愛理は舞美が自分に乗り移ったのではないかと思った。
愛理は思わず地面すれすれまで顔を近づけた。
それは床にあいたわずかな隙間からこぼれるように見えている。
「そうだったんだ」
確信に近い愛理のつぶやきだった。
「りーちゃんはここの地下に監禁されてる」
- 445 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:31
-
レス流し
- 446 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/16(木) 13:32
-
レス流し
- 447 名前:ELS 投稿日:2010/09/16(木) 13:32
-
今回の更新を終わります。
- 448 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/09/16(木) 23:04
- 初めまして、更新お疲れさまです。
こんな素晴らしい小説を読ませていただいてありがとうございます!
続きはどうなるのかな.. 気になる!これからの展開は想像しにくいですね(笑)
- 449 名前:ELS 投稿日:2010/09/22(水) 21:05
- >>448
レスどうもありがとうございます。
そこまでお褒めの言葉をいただけるとは思いませんでしたので
うれしい限りです。
今後ともおつきあいくださいませ。
- 450 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:32
- 部屋は電気は消されてすでに真っ暗だった。
梨沙子は頭まで布団をすっぽりかぶって鼻からすっと息を吸った。
この布団は雅が今日交換してくれたから香ばしい日光の匂いがした。
部屋は冷房がきいて暑くはない。
夜は効き過ぎて寒いときすらある。
しかし、梨沙子のベッドには常に誰かがいた。
それは雅か桃子のどちらかだったが、誰かと一緒に寝るということには
梨沙子はもう慣れっこになっていた。
- 451 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:33
- 考えてみれば梨沙子はこの部屋に閉じ込められてから一ヶ月間、
自分ひとりという状況が全くなくなっていた。
監視という役割で必ず誰かが梨沙子の傍にいた。
普通なら一ヶ月も監禁されていたら、頭も体もおかしくなってくるに違いないのに、
今自分の心の中を冷静に見てみてあまり普段と違うことは思い当たらない。
逆にそうじゃない自分のほうが変に思えるくらいだ。
- 452 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:34
- 「ねえ、みや起きてる?」
梨沙子は背を向けている雅に言った。
「んー」
雅はくるりと向きをかえると、梨沙子の顔面間近まで顔を近づけて
「何?」と言った。
梨沙子は一方の足を鎖でつながれているため、
そんな真似はできない。
- 453 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:35
- 「あたしを監禁しようって計画したのは誰?みやなの?」
「ふーん」
雅は気の抜けた返事をした。
「もういい加減、教えてよ」
梨沙子は雅にずりよった。
こんなふうに梨沙子のほうから雅に体を近づけていったのは初めてのような気がした。
「知ってどうすんの?」
「そりゃ知りたいよ。誰があたしをこんな目にあわせようと思ったのか」
「言ったら梨沙子、傷つくと思うなあ」
雅はまるで人事のように言った。
- 454 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:37
- 「もう十分傷ついてるよ」
梨沙子はなるべく深刻な表情を作って雅を見つめた。
すると雅の左手がそろそろっと近づいてきて梨沙子の右手を包んだ。
寝てるときに梨沙子の手を握ってくるのはいつもの合図だ。
「そっか。じゃああたし捕まったら当分刑務所だね」
そう言って雅は布団に深くもぐりこんだ。
今日の合図は2度目だった。
「じゃあ今のうちに十分楽しんどかないと」
梨沙子の体にむしゃぶりつくようにして雅は覆いかぶさってきた。
「またするの?」
どうせ逃げることはできない。
あきらめ顔で梨沙子はため息をついた。
- 455 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:38
- 雅の唇がいきなり梨沙子のそれと重なった。
同時に雅は梨沙子に馬乗りになると両腕の付け根の部分をがっちりと押さえつけた。
梨沙子は身動き一つすることができない。
こうすると梨沙子はそのうち抵抗する気をなくしておとなしくなる。
雅は梨沙子のベッドの上での性質も知り尽くしていた。
右へ左へ逃げようとする梨沙子の顔を弄ぶように雅はくっついたまま追いかける。
梨沙子は窒息しそうになってたまらず鼻から息を吸うと胸いっぱいに
雅の匂いが入り込んできた。
出会ったばかりの頃、この雅から漂うシトラスミントの髪の香りは梨沙子にとって憧れだった。
- 456 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:39
- 「みんなで計画したんだ。生意気な梨沙子懲らしめてやるって。みんなやる気まんまんだったよ」
さんざん長い口付けを楽しんだ後、雅は言った。
「嘘つき」
梨沙子の言葉に雅は満足そうににっと笑った。
そして愛おしそうに梨沙子の髪をなでる。
今放った言葉も雅を睨みつけている梨沙子の表情も何もかも些細な抵抗にすぎなかった。
- 457 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:39
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天井は激しい雨が叩きつけていた。
愛理は注意深く床を携帯の光で照らしていった。
床には案の定ふたようなものが確かにあった。
ここから下が秘密の地下室になっているに違いない。
そしてきっとその先に梨沙子がいる。
もう豪雨の中の暗闇にいるという恐怖心は愛理から消えていた。
- 458 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:40
- 警察には舞美の意識が戻ったらすぐ通報してくれるだろう。
今愛理の気持ちのあるのは大切な友達を助けることだけだった。
愛理がふたの取っ手をゆっくりと引っ張ると案の定そこには人がすっぽり入れるほどの大きな穴が姿を現した。
中は薄暗くて先は見えない。
それでも覚悟を決めたように愛理は穴の中へすべりこむように入っていった。
- 459 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:41
- 穴は洗面所の洗面所の排水パイプのように途中で水平に折れ曲がっていた。
穴の中をさらに進んでいくとそこから先にまた扉らしきものがあった。
そこは手を押すと簡単に開いた。
そこから外を見て愛理は驚いた。
穴の外はまるで地下の下水道のように広い空間だった。
- 460 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:42
- 両脇にはオレンジ色のランプが両脇についている。
ランプの光に周囲の壁がやっと分かるぐらいに照らされて、
それが火に照らされた岩のように見える。
まるで中世の伝説のドワーフでも住んでいそうな現実離れした空間がそこに広がっていた。
その場所こそが、舞美が異常なほど警戒し、もっとも危惧していた
梨沙子へ忍び寄る悪魔の住処であり、不可解な梨沙子失踪事件の源であることは
最早疑う余地もなかった。
- 461 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:42
- 「りーちゃんを探さないと」
愛理は左右どっちへ行ったらいいかわからずとりあえずは左に向かった。
するとすぐに扉にぶつかってしまった。
回転式のドアのようで船についている舵輪のようなものが扉についている。
愛理はそれを動かそうとハンドルを握ろうとしてはっとなった。
「これ、扉じゃない」
薄暗くてよく見えなかったが、それはドアを描いた絵だった。
精巧に起伏をうまくつけて描かれているため遠めにみるとドアがあるようにしか見えない。
- 462 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:43
- 「そっか。これはダミーの出口だ」
本当の出口は愛理が通ってきたあの目立たない横の穴なのだ。
人を監禁するには少し手が懲りすぎている。
梨沙子がここに閉じ込められているとしたら、何か怪しい人体実験でもされているのではないかと
愛理はいてもたってもいられなくなった。
- 463 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:44
- 愛理は今度は逆方向に向かって走った。
あたりは暗かったが数メートル先までは何とか見える。
途中で左右にドアが現れ始めた。
一つ一つ開けて調べてみようと思ったが、はるか数十メートルさきの正面に
わずかな光が漏れている突き当たりのドアが見えた。
りーちゃん・・・
そこに梨沙子がいる。
愛理は梨沙子の気配を確かにそこから感じた。
あるいは梨沙子が必死に助けを求めている思いが愛理に伝わってきたのかもしれない。
- 464 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:45
- 愛理は音をたてないようにドアまで進むとそのドアがトンネルの行き止まりのようだった。
耳を澄まして中の様子を伺ってみたが何も聞こえない。
愛理は恐る恐るドアをあけた。
ドアは音もなく簡単に開いた。
中は意外と明るい部屋だった。
「りーちゃん!」
愛理は思わず叫んだ。
右手の開けっ放しになった鉄格子の部屋にベッドの上で梨沙子が座らされている。
- 465 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:46
- 口には猿轡のようなものを噛まされ、両手は後ろに縛られている。
足からは頑丈な鎖でつながれていた。
愛理は思わずものすごい勢いで梨沙子の元へかけよった。
梨沙子は助けにきてくれた喜びというより、必死に顔を左右にふっている。
最初は梨沙子がしている意味が分からなかったが、
愛理はさっと後ろから忍び寄ってくる影に気づいたときには時すでに遅しだった。
- 466 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/22(水) 21:47
- 「バチッ」
人の顔のようなものを見たのと同時に何かで電流のようなものを肩から流された音がした。
ドサッ。
愛理はその場に崩れ落ちた。
その前で梨沙子が目に涙を浮かべている。
雅はスタンガンを悠々とふりあげてしてやったりと梨沙子に見せ付けた。
手を縛られたまま必死に愛理のそばに寄ろうとする梨沙子を雅は肩をもって制止した。
「大丈夫。気絶しただけだから」
雅は梨沙子を前にして悪魔のように笑った。
- 467 名前:ELS 投稿日:2010/09/22(水) 21:48
-
今回の更新を終わります。
そろそろエンディングに近づきつつあります。
- 468 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/09/23(木) 23:37
- 愛理もりーちゃんみたいに
みや達に襲われないか心配><
エンディングが早くみたいような
まだ終わって欲しくないような
複雑ですww
- 469 名前:ELS 投稿日:2010/09/30(木) 20:29
- >>468
レスありがとうございます。
読みにくい部分が多々あったと思いますが、ここまで読んで
いただいてどうもありがとうございます。
あと少しがんばります。
- 470 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 20:47
- ガクンと頭が垂れ下がったような感触があって愛理は意識が戻った。
はっと顔をあげて思わず隣を見ると梨沙子の姿がある。
最初で見たときと同じ、後ろ手に縛られ、足を鎖でつながれた無残な梨沙子の姿だった。
そして愛理もベッドの上で梨沙子と全く同じ格好に拘束されていた。
ただ唯一違うのは二人とも猿轡まではされていない。
- 471 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 20:48
- 「愛理、大丈夫?」
梨沙子の心配そうな表情がまず愛理の目に映った。
「うん。あたしは大丈夫」
言ってから愛理は少しほっとしていた。
梨沙子の縛られている部分はさすがに痛々しかったが、
梨沙子にやつれた様子はない。
着ている服も乱れてはいないし、髪もきちんとしている。
前髪のところはちゃんとピンでとめられているし、
先端の方に向かって緩やかにカールさせている。
顔は薄く化粧をしているようでもあったが肌に張りが合って、
愛理の記憶に寸分違わぬ美しさを湛えていた。
ひどい拷問を受けているわけではないらしい。
- 472 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 20:49
- 「愛理、助けにきてくれたんだね」
梨沙子は弱弱しく笑った。
「うん。でも助けだせなくてごめん」
愛理が申し訳なさそうに眉をへの字に曲げると梨沙子はぶんぶん顔を横にふった。
「でも一人でここまできたの?」
梨沙子の問いに愛理はばつが悪そうにうなずいた。
それを見て梨沙子の表情が少し緩んだ。
「愛理、変わってないなあ。向こう見ずなところとか」
「ごめん」
何度も謝る愛理に梨沙子はまた首を横にふった。
- 473 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 20:52
- 「あたし、うれしいよ。愛理はやっぱり助けにきてくれた」
梨沙子は無理やり顔に笑みを浮かべると言った。
「あたし、もう誰も助けにきてくれないと思ってた」
言いながら梨沙子は目にいっぱいの涙を浮かべて表情は次第に歪んできた。
「りーちゃん、大丈夫。もうすぐ舞美ちゃん達が助けにきてくれるから」
愛理は梨沙子を勇気付けるように言った。
「うん」
梨沙子がぼたぼたっと涙をこぼした。
そのまま下を向いてうつむいてしまった。
- 474 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 20:53
-
「もう大丈夫だよ」
愛理はそう言ったが梨沙子は顔を上げようとしない。
「りーちゃん?」
梨沙子の体は小刻みに震えているようだった。
愛理は、すぐにでも梨沙子を抱きしめてあげたかった。
しかし両手を縛られているせいでそれはできない。
せめて少しでも体をそばに寄せて安心させてあげるしかない。
「りーちゃん?大丈夫?」
呼んでも愛理の目に映るのは梨沙子の後ろ髪だけだ。
- 475 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 20:54
- 「どうしたの?」
かがんで見ると梨沙子は目を瞑って泣いていた。
「愛理・・・あたし怖いよ・・・もうすぐみや、戻ってくる」
梨沙子はしゃくり上げながら言った。
そういえば、愛理を背後から襲ったはずの雅の姿は見えない。
隣のキッチンの部屋を含めてここには二人だけだ。
梨沙子は強く瞑っていた目を開いた。
目は充血して真っ赤だ。
「りーちゃん、ここで何があったの?」
愛理は思わず尋ねた。
「愛理・・・」
梨沙子は搾り出すような低い声で言った。
「あたし、みやとももにレイプされた」
- 476 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 20:55
- そして梨沙子は再び泣き始めた。
それを聞いて愛理は一瞬目を閉じた。
梨沙子をどう慰めてよいのかも愛理には分からない。
「りーちゃん、大丈夫だからね。すぐ舞美が助けにくるから」
その言葉を必死に繰り返した。
それでも泣いている梨沙子を見ているといたたまれない気持ちになってくる。
「もっと早く助けにこれたらよかったんだね」
愛理はまるで自分を責めるように言った。
- 477 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 20:58
- 梨沙子はしばらくの間すすり泣いていた。
考えてみれば梨沙子が失踪してからもう一ヶ月以上になる。
それまで梨沙子はこの狭い空間に監禁され続けていたのだ。
普通だったらとっくに頭がおかしくなって当然だろう。
「そうだ。これ見て」
愛理はわざと梨沙子の気をそらすように言った。
そして顔をしかめながら後ろにポケットに手を伸ばした。
後ろ手に縛られているため、かなり無理をすれば何とかポケットの位置まで手が届いた。
「この番号、記憶ない?」
愛理は、ポケットの中から舞美から受け取ったメモを取り出した。
梨沙子は、愛理の後ろに回りこんで目を近づけてみた。
- 478 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 20:59
- 「これ、あたしの自転車の防犯番号」
梨沙子は言った。
「間違いない?」
「うん。警察に盗難届けだしたときにこの確か番号、書いたもん」
「やっぱり」
愛理は、この番号の自転車を雅の家の倉庫でみつけたことと、
それをすでに舞美にメールしたことを伝えた。
しかし、この後二人だけでいられる時間はあまりなかった。
- 479 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 20:59
- 足音が聞こえる。
相手は複数いるようだった。
愛理は最悪の事態を覚悟した。
それでも梨沙子だけは絶対守りたいと心に誓った。
ドアはあっけなく開いて雅を先頭に何人も入ってくる。
一様に無表情で冷酷な顔でこちらを見ていた。
どうやらこちらの味方ではなさそうだと愛理は思った。
桃子に千奈美、友理奈、佐紀、みんないた。
- 480 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 21:00
- 雅はこちらを見ると一瞬にこりと笑ったような気がした。
梨沙子が怖いと言った気持ちがよく分かった。
こんな場面で笑えるなんて愛理はその心理が理解できない。
やはり、梨沙子はこんな異常な人たちに痛めつけられていたのだと愛理は悲痛な気持ちになった。
「梨沙子、今愛理から聞いたこと全部話してもらおうかな」
雅はつかつかと近づきながら言った。
他のメンバーが腕を組んでじっとこちらを見守っている。
- 481 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 21:01
- 梨沙子は体をのけぞらせて震えている。
愛理はすぐに梨沙子の前に立ちはだかって梨沙子を守りたかった。
しかし、両手が縛られているせいでなかなか動くことができない。
そうこする間にも雅は梨沙子の前に立った。
梨沙子が横を向いて愛理を見た。
愛理に危害が加わることを怖れてか梨沙子は何も言わない。
それでも目で助けてと必死に訴えているのは愛理に痛いほどよく分かる。
- 482 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 21:02
- 「待って」
愛理はベッドから縛られたまま崩れ落ちた。
雅の足元まで芋虫のように床を張って雅を見上げた。
「お願いだからこれ以上りーちゃんに乱暴しないで!」
愛理は首を真上に上げて雅に訴えかけた。
雅は一瞬だけ愛理と目を合わせたが無視して梨沙子の体に手を伸ばした。
雅が身動きできない梨沙子の体を抱きかかえようとした瞬間、
愛理は体を必死に伸ばして雅の足に噛み付いた。
「イタッ」
雅は咄嗟に愛理を蹴り飛ばした。
愛理は吹き飛ばされてベッドに体を打ち付けられた。
- 483 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 21:03
- 「愛理!」
梨沙子は駆け寄ろうとしたが雅にがっちりと体を捕まれている。
「りーちゃん連れて行くならあたしを代わりにして。そのかわり、もうりーちゃんには何もしないで」
愛理はひるむことなく雅を睨みつけて言った。
「お願いだから」
愛理の目には涙が滲んだ。
しかし、次の瞬間愛理の目に信じられない光景が飛び込んできた。
- 484 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 21:04
- 桃子がいきなり梨沙子の背後から現れると梨沙子に光るものを突きつけたのだ。
刃はそのまま梨沙子の顔に近づいていった。
木でも切れるのではないかというぐらいのごつい本格的なサバイバルナイフだ。
それがか弱く柔らかそうな梨沙子の顔のあたりをゆっくりと移動している。
梨沙子は放心状態になっているのか、呆然としたまま桃子の為すがままになっている。
- 485 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 21:05
- 「やめて!」
愛理は首を振りながら金切り声をあげた。
愛理はこの状況に愕然とした。
もっといえば、梨沙子がこれまで置かれてきた状況を思って絶望的な気分になった。
この人たちは、梨沙子の友達だったはずなのに。
なのに、今桃子は梨沙子に平然と凶器を突きつけている。
散々傷ついてきた梨沙子をもっと痛めつけようとしている。
愛理は梨沙子の気持ちを考えたら胸が張り裂けそうだった。
- 486 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 21:06
- 「りーちゃんがあんた達に何したって言うの?何でこんなひどいことができるの?」
「それはねえ・・・」
雅がゆっくりと愛理に近づいてきた。
「みや、愛理には絶対手を出さないで。あたし、みやと一緒に行くから」
後ろから聞こえる梨沙子の声に雅は動きを制止された。
「分かってる」
雅は意外にも素直に言った。
- 487 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 21:07
- 「あなたは自分の危険を顧みず一人で大切な友達を助けにきた。
逆にさ。同じように長い時間をかけて完璧な計画を練って、
大切な友達を徹底的に立ち直れないぐらい傷つけてやる人間だっているってことじゃない?」
雅が笑った。
「残念だったね。梨沙子は連れて行くよ。最後にたっぷり可愛がってあげなきゃ。
今までも散々してやったけど」
桃子はナイフを折りたたむとわざわざ愛理の耳元でささやいた。
- 488 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/09/30(木) 21:08
- それを聞いた愛理がびくっとして桃子を見た。
愛理の涙をいっぱいにためた瞳がさらに大きくなった。
梨沙子が連れて行かれる後姿が見える。
梨沙子が一度だけこちらを振り返った。
不安と悲しみでいっぱいの顔だった。
その表情を見て、愛理は思い出していた。
進学先の高校が別れ別れになって、
梨沙子と最後にお別れをするときの表情だった。
あのときと同じ顔をまた見なきゃいけないことが愛理は悔しかった。
そして泣きながら唇を噛んだ。
- 489 名前:ELS 投稿日:2010/09/30(木) 21:09
-
今回の更新を終わります。
- 490 名前:名無し飼育さん 投稿日:2010/10/01(金) 01:00
- 続き待ってますとしか言えない
来週が待ち遠しい!
- 491 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/10/02(土) 11:19
- 最後まで読みたい。
けど、終わって欲しくない!
- 492 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/10/06(水) 14:16
- まだかなまだかな♪
- 493 名前:ELS 投稿日:2010/10/07(木) 09:43
- >>490
レスありがとうございます。
楽しみにしていただいてどうもありがとうございます。
今後もおつきあいください。
>>491
レスありがとうございます。
あともう少しになりますがよろしくお願いします。
>>492
レスありがとうございます。
更新します!
- 494 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:02
- 梨沙子はこれまで入ったことのない薄暗い部屋に連れて行かれた。
床においてある丸いボールのような蛍光灯が辺りを照らしているが
かなり薄暗い。
左端にベッドが置かれていて、四隅には手錠のような拘束具がつながっている。
無数の手が梨沙子の体に伸びてきた。
最初の手はブラウスの一番上のボタンと最後にスカートのホックのところで止まった。
抵抗するのは無駄だと分かっていたから、梨沙子は為すがままでいようと目を瞑った。
梨沙子はあっという間に全ての衣服を脱がされてしまった。
そしてベッドに寝かされて四肢を固定された。
かえるの解剖のような屈辱的な格好だ。
そこまで作業を終えると雅以外の全員は機械的に部屋から出て行った。
- 495 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:04
- 「ごめんね。こうでもしないと梨沙子が言うこと聞いてくれないでしょ?」
雅がわざと優しそうな笑顔で梨沙子を見下ろした。
「あたしは、ずっとみやのことが好きだった。だからあたしはもともとみやのものだったんだよ。
あたしが欲しければいつでもあたしはみやのものになった。なのに何で・・・」
「梨沙子はあたしを裏切って桃子とも付き合おうとしていた」
雅が言った。
顔の表情から感情が消えているように見えた。
梨沙子は顔を横にふった。
- 496 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:05
- 「あたし、知ってたよ。みやとももが付き合ってることぐらい」
雅は梨沙子に言われた瞬間、はじかれたように目線を外した。
「みやにとって桃は一番大切な人。あたしが二人に出会う前からそうだったんでしょ?
だからあたしは桃の言うことにも逆らえなかった。
誘われたら何度だってデートしたし、キスもしたよ。
だってそうじゃん。桃に逆らったらあたしは、みやと一緒にいることもできなくなるから」
「もう遅いよ」
雅はベッドの下にかがんだかと思うと先ほどの大きなサバイバルナイフを掲げた。
梨沙子はそれを見てもぴくりとも動かなかった。
「それであたしを殺すの?」
「それは・・・梨沙子次第かな」
- 497 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:06
-
--------------
- 498 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:07
- どれくらい時間がたっただろうか。
薄暗い部屋の中で愛理はひたすら待った。
途中、何度も自分が助けにきたせいで梨沙子が殺されるんじゃないかという恐怖に包まれた。
自分のせいで梨沙子が死んでしまったら・・・考えるだけでも耐えられない。
- 499 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:09
- 無二の親友だと言っておきながら高校生活に忙しさからつい梨沙子からのメールに返信しなかったり、
梨沙子の存在が過去になりかけていた時期もあった。
そして今になって中学の頃の梨沙子との楽しい思い出が蘇ってきて、
激しい後悔が襲ってくる。
梨沙子は自分にとって今も変わらずにとても大切な存在だ。
愛理は再び嗚咽して泣き出した。
そして泣いて泣いて泣き疲れると少し落ち着いてくる。
- 500 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:10
- あの連中だって梨沙子を傷つけるだけが目的なら殺すまではしないだろう。
でも究極的に梨沙子を傷つけようとするならそれは梨沙子の死を意味するのではないか。
いったん落ち着いた気持ちも再び悪いほうに考えは向かう。
舞美はメールに気づけばすぐに警察に手配してくれるだろう。
そうすれば梨沙子は助かる。
助けが一秒でも早く来てほしい。
愛理は梨沙子を助けてと必死に神様に祈った。
- 501 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:10
- ぎぎ、小さくこすれる音がして突然ドアが開いた。
黒い人影が数名入ってくるの見える。
電気は点けられない。
愛理はもしかしたら警察かもしれないと思った。
そのままじっと身構えて凝視し続けた。
薄暗がりでよく見えないが、愛理のいる牢の方に
ゆっくりゆっくり向かっている。
動きは遅く、何かをひきずっているような音が聞こえる。
心臓の音がばくばくと外にでも聞こえるのではないかというぐらい打っている。
- 502 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:12
- 相手が数メートル先、牢の出入り口まで来たときに愛理ははっきり見えた。
警察ではない。
「りーちゃん?」
梨沙子が雅と桃子に抱きかかえられている。
梨沙子の手足はぐにゃりと曲がり、力は全く入っていないようだ。
「りーちゃんに何したの?」
愛理は思わず感情のままに大声をはり上げた。
「そんなに騒がないでよ」
雅が迷惑そうに言った。
- 503 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:14
- 「梨沙子って細いのに結構重いね」
桃子は梨沙子の左半身を体全体で支えているような格好だ。
「身長、伸びたんじゃない?」
「たった一ヶ月で?」
おどけたように言うと二人はベッドに梨沙子をどさっとおろした。
梨沙子はそのまぴくりとも動かない。
梨沙子はフリルのついたワンピースのようなものを着せられていたが、
手足はしっかりと手錠で拘束されている。
- 504 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:15
- 「りーちゃん?」
すぐに愛理は梨沙子に向かって呼びかけた。
そのときの顔にあたった感触で梨沙子の体が全身べったりと濡れていることに気づいた。
愛理の体に沸々と怒りがこみ上げてきた。
「許せない。りーちゃんにこんなひどいことするなんて。絶対に、絶対許せない」
愛理はそう叫んだ。
しかし雅と桃子は愛理を無視してすぐに部屋から出て行った。
「りーちゃん?」
しかし、梨沙子は愛理の呼びかけにぴくりとも反応しない。
愛理の瞳にまた涙がたまってきた。
必死に顔を横に振って自分の考えていることを打ち消そうとする。
- 505 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:17
- 「りーちゃん、目を覚まして。お願い、死なないで!」
愛理は梨沙子にかぶさって泣き始めた。
そうしないと梨沙子の体がどんどん冷たくなっていきそうだった。
「りーちゃん、死んじゃやだよ」
暗がりでよく見えなかったが梨沙子は目を閉じたまま、
愛理の声には答えてくれない。
もっと早く助けに来れていたら。
さっき雅に見つからないように梨沙子を救出できていたら。
自分ひとりで梨沙子を助けようなんて馬鹿なことを考えなければ。
いろんな後悔が涙の渦になって愛理の目から零れ落ちる。
愛理は、梨沙子の胸の辺りに顔をうずめて泣いた。
梨沙子の匂いはまだ十分すぎるほど残っている。
- 506 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:19
- その時、愛理は顔から伝わってくるわずかな鼓動に気づいた。
「りーちゃん?」
それは間違いなく梨沙子の心臓の鼓動だ。
愛理は必死で梨沙子の体を揺すってみた。
愛理の願いが通じたように梨沙子の手が動いた。
「もう、愛理大げさだよ」
そして梨沙子はぱっちりと目をあけた。
「あたしは平気」
そう言って軽々と起き上がると梨沙子は笑顔を見せた。
愛理はほっとしたのか力が抜けたようにベッドの上で倒れこんだ。
- 507 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:20
- 「よかった・・・」
愛理は全力で走った後のように肩で大きく息を吸った。
あまりに安心したせいで今まで我慢していた涙がまたあふれてくる。
上を向いたまま愛理は目から涙が流れるにまかせてゆっくりと深呼吸をした。
「ごめん・・・ね」
それからしばらくして梨沙子が愛理を見下ろして言った。
「え?」
「いや、いろいろと心配かけちゃって」
愛理は起き上がると微笑んで静かに顔を横にふった。
- 508 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:21
- 「でももうすぐ助けはくるみたいね」
梨沙子は言った。
「雅、何か言ってたの?」
梨沙子は首を横にふった。
「いつもより乱暴だったから。あれの仕方が。
みやってどんなにいらついててもあたしにだけは絶対そんな素振り見せない人だから」
梨沙子は何でもないことのようにさらっと言った。
- 509 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:24
- 「ってあたしってこんなひどいことされてるのにまだみやのこと友達だって思ってるみたい」
梨沙子は自分をあざけるように笑った。
梨沙子は可愛がられることにしか慣れてないくせに、
その反対の逆境にも何か強い力を秘めているようだった。
愛理は梨沙子の強さに安心させられるような気がした。
「りーちゃんてさ。不思議な子だよね。わがままで弱そうなのに何故だか包容力があるっていうか」
「それほめてんの?」
梨沙子はまた笑った。
- 510 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:26
- 「あたしね。高校受験の時、3人で桜花学園行こうって決めてたのに
りーちゃんが風邪ひいちゃって桜花の試験受けにこれなかったでしょ?
あのとき、正直りーちゃんにものすごく腹が立った。
何でこんな大事なときに風邪ひくのって。
あの時りーちゃんが風邪さえひいてなければまた3人で一緒にいれたのにってそう思った。
きっと一番つらいのりーちゃんだったのにね。
あたし本当に自分のことしか考えてなかった」
愛理は淡々と話し始めた。
- 511 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:28
- 「桜花に入って入学式のとき、ほら桜花学園って入学シーズンのときの桜の花がすごいじゃん。
その花の中で舞美が本当はりーちゃんが一番この桜楽しみにしてただろうねって言ってくれて。
そのときあたしやっと気づいたんだ。
何て自分は思いやりのないことしてたんだって。
でもりーちゃんあたしのこと全然怒ってなくて。
愛理ごめんねってずっと言ってた。
あたし自分が許せなくて。
だからあたし決めたんだ。
今度は絶対にりーちゃんの味方になってりーちゃんを必ず助けるって」
「愛理、ありがとう。あたしは愛理に助けられたよ。もう十分だよ」
「りーちゃん?」
愛理は梨沙子の言い方に何か不吉なものを感じた。
- 512 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:29
- 「りーちゃん、ここから出たらまた一緒にいれるよね?」
「うん。あたしはいつでも愛理のそばにいるよ。だからもう心配しないで」
その時、ドアの外に足音が聞こえだした。
「みや達だ。愛理、みやに余計なこと言っちゃだめだよ。ここで待ってたら舞美達がきっと助けてくれるから」
やけに大人びた梨沙子の言い方だった。
- 513 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:30
- 「りーちゃんは?」
「あたしは・・・きっとまたみや達に連れて行かれると思う」
「だめだよ。りーちゃんも一緒に」
愛理は目を瞑って強く首を横にふった。
「大丈夫。ここから出たら一緒にたくさん遊ぼうよ。あたしはずっと愛理と一緒だよ」
「りーちゃん・・・」
言いながら愛理は大粒の涙をこぼした。
- 514 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:31
- 「もう愛理は泣き虫だな」
梨沙子が言ったとき勢いよくドアが開いた。
「悪いけどあんまり時間がないんだ。そこにいる誰かさんのおかげでね」
雅が愛理を睨みつけて言った。
「・・・あたしはどうなってもいいから。りーちゃんだけは」
声も絶え絶えに愛理は言った。
雅は、その言葉を聞くとにっと笑って猛然と愛理に近づいてきた。
そして、愛理の耳元で言った。
- 515 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/07(木) 10:32
-
「終わった?梨沙子との最後のお別れは」
もう愛理は梨沙子も雅も見る力はなかった。
一度だけ鼻をすすると静かにベッドに倒れこんだ。
梨沙子が生きている最後の姿を見ることに耐え切れなかったのだろう。
「梨沙子、行くよ」
雅は梨沙子の体を抱きかかえた。桃子もそれを手伝う。
「みんなも急いで。もう警察が地下に入ってきてる」
集団は梨沙子だけをさらってあたりは静寂だけが残った。
- 516 名前:ELS 投稿日:2010/10/07(木) 10:33
-
今回の更新を終わります。
あとまだもう少し続きそうです。
- 517 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/10/07(木) 17:55
- あばばば....
どうなっちゃうんですか??
- 518 名前:名無し飼育さん 投稿日:2010/10/08(金) 01:10
- ひっぱりますねー
りーちゃんが早く助かって欲しいけど、話はまだ終わって欲しくない
また最初から読み直してきます
- 519 名前:ELS 投稿日:2010/10/14(木) 20:09
- >>517
レスありがとうございます。
ラストなのでそろそろ一気にいきます。
>>518
レスありがとうございます。
読み直していただけるとはうれしい限りです。
いろんなあらが見つかりそうで怖いですが。。
- 520 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:29
- 「こっちです。急いで下さい」
舞美が珍しく早い口調で言った。
「君、ここに来たことがあるの?」
「いえ、でも空気の流れで大体分かりますから」
舞美は、人差し指をなめては空気の感触を確かめている。
「それに部屋がたくさんあって迷路のように見えるだけで道は一本ですよ」
舞美は警察を先導して走りながら言った。
しかし、首の周りやひざ小僧のあたりは何重にも包帯がまかれていて
それが痛々しく見える。
- 521 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:30
- 「お願い。間に合って」
舞美は呪文のようにそう心に念じ続けた。
神は敵にも味方にも平等だ。
ならば自分の力の優越性を信じるしかない。
舞美は一番奥のドアをに手をかけた。
そして思い切りよくドアを開けた。
「愛理!」
開いて右側にある牢の中で愛理が縛られた上、猿轡をはめられている。
「愛理!梨沙子は?」
舞美は愛理の猿轡を外しながら言った。
「連れて行かれた。舞美がくる少し前」
「遅かった」
舞美は顔をしかめた。
- 522 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:32
- 「探そう。他にも抜け道があるはずだ」
後ろから舞美に同行していた若い警察官の声が聞こえた。
「いいえ、すぐここを出ましょう。彼らの行き先は分かっています。この家の屋上です」
舞美はすぐ上を指差した。
「地下に潜った者は、次は上に上るしかありません」
その時、警察に無線らしき連絡が入った。
「しかし家の中には誰もいないらしいぞ。この地下迷路、
一体どこにつながってるんだ。でも急がないと・・・」
若い警官は苛立ちを募らせて言った。
- 523 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:33
- 警察でもこういう誘拐事件で犯人が追い詰められたら
被害者の身の安全に危険が及ぶ可能性が高いことは分かっているらしい。
ほったらかしにしてたくせに。
舞美は言ってやりたかったが梨沙子のことを考えぐっとこらえた。
「いいえ、彼らはやはり屋上です。家の中にいる捜査員は外にある非常階段は見ましたか?」
舞美は若い警察官を睨みつけるようにして言った。
「ひ、非常階段は見たか?」
舞美の気迫に押されて無線をよじると警察官は言った。
- 524 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:34
- 「まだ見ていません」
「すぐに向かえ、場所は」
彼は言いながら舞美の顔を見つめる。
「家の一番南側です。非常階段の入り口があるはずです」
彼はそのとおりを伝えた。
「とにかく、急ぎましょう。愛理を頼みます」
舞美は再び先頭に立って部屋を出た。
その瞬間、痛めた右足に激痛が走った。
しかし、舞美は何食わぬ表情で長い廊下をひた走りに走った。
- 525 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:36
-
「非常階段で犯人らしき、複数名を発見。被害者もいる模様」
後ろから無線機から流れてくる声が聞こえた。
「聞こえたか?何で君にはそんなことが分かるんだ?」
「家の中から地下室につながっているなら、わざわざ物置小屋から入り口なんて作りませんよ。
でも逃げ道も絶対に作らなきゃいけない。だとしたらもう一つの出口は外にある非常階段しかありません」
舞美は自分の推理を簡潔に述べた。
- 526 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:37
- しかし、今はそれが当たっていようといまいとどうでもいい。
犯人達が変な気を起こす前に取り押さえなければならない。
舞美の頭の中はそれでいっぱいだった。
外に出ると雨はすでにやんでいた。
あたりには生暖かい風がびゅうびゅう吹いている。
白い非常階段は無数の懐中電灯の光線が空に向かってめくらめっぽうに浴びせかけている。
犯人は全員女性。
うち一人は刃物をもっている模様。
人質に危害が加えられないよう各員、慎重に対応するように。
無線が繰り返し、この言葉を流した。
- 527 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:39
- 「犯人達は私が説得します。そのほうが彼らを刺激しないかもしれない」
舞美は言った。
急いで非常階段をのぼる。
雅達はすでに屋上に達しようとしていた。
舞美は警察とともに建物の南側に回り込むと非常階段の上り口が見えた。
先頭をきって駆けつけた舞美の目の前にはコンクリートに出入り口のようなハッチがあった。
「多分、地下との第二の出入り口これです。ここも調べておいてください」
舞美はおもむろに手をかけるとふたは簡単にあいた。
どうやら物置小屋の出入り口と同じもののようだった。
- 528 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:39
- さあ、急がないと。
階段をあがろうとする舞美に再び激痛が走った。
顔をしかめながら、必死で歯を食いしばる。
思わず下に手をついてしまった舞美は再び上を向くとはうようにして上り始めた。
雨は降っていなかったが、湿度のこもった生暖かい風が吹き荒れ、
舞美の頭上では雲間から時折月の姿が見える。
そのたびに月光は、建物全体を青白く艶かしく浮き上がらせていた。
- 529 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:41
- 舞美が屋上に到達したとき、すでに警察官も何人かいたが、
梨沙子が人質にとられているため一歩も動けないようだった。
「遅いよ、矢島舞美さん」
まるで待っていたかのような桃子の声だった。
犯人達は、非常階段から対角線上の一番奥にいた。
後ろ手に縛られた梨沙子を中心にして左右に桃子と雅、
後ろに友理奈、千奈美、佐紀がいた。
直接梨沙子の頬にナイフを突きつけているのは桃子だ。
- 530 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:42
- 梨沙子がやっと手に届く距離にいる。
梨沙子!そう言って舞美が近づこうとする。
「それ以上近づいたら梨沙子の命はないよ」
桃子が平然と言った。
しかし梨沙子はパニックになったり脅えている様子はない。
ただ放心状態で固まっているようだ。
このままじゃ梨沙子の精神状態があぶない。
舞美は下唇をかんだ。
一ヶ月以上も監禁されていた上に、今こうやって凶器を突きつけられて脅されている。
普通の女の子だったらすでに一生癒えないほどの心の傷を負っているだろう。
- 531 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:43
- 「夏焼さん、あなたには梨沙子を傷つけることなんて絶対にできないはずです」
舞美は一歩前に出て言った。
「そうかな。試してみる?」
雅はにやりと笑った。
桃子が首筋にナイフをあてた。
梨沙子は相変わらず表情を失ったままだ。
舞美はこれ以上は近づけないと判断した。
犯人達に心理的に追い詰められた様子が見られないのを舞美は不気味に感じた。
- 532 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:44
- 「分かりました。これ以上近づきません。そちらの要求は何ですか?」
「要求は、要求はねえ」
桃子が首をふって考えるふりをしているようだ。
「うーん。急に言われても思いつかない」
「とにかくそのナイフを梨沙子に突きつけるのをやめてください」
いつもは冷静な舞美が懇願するような声を出した。
- 533 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:44
- 「いいよ。でもその前にねぇ」
桃子はナイフを持ち替えた。その瞬間だった。
「やめてっ!」
舞美が声を張り上げたのも遅かった。
桃子は持ち替えたナイフで梨沙子の左胸を思い切り突き刺した。
- 534 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:46
-
--------------------------------------------------
まるで長い時間が流れたみたいだった。
舞美は、ひざをがくんと折れてその場に倒れこんだ。
時間が止まったように感じる。
警察も駆け出したと思ったがまだ雅達のところまで達していない。舞美は初めて理性を失った。そして自分が大事にしていたものを失ったように感じた。
- 535 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:47
- 「はい。残念でした」
カチャ。
プラスティックのような音がして桃子がナイフを梨沙子の胸から離した。
梨沙子の服には傷どころか皺さえも入っていない。
「これ、よくできたおもちゃなんだけど」
桃子はそのまま手のひらにナイフを突き刺したり戻したりを繰り返した。
そのたびにナイフの刃と思われた部分は引っ込んだり出てきたりする。
その瞬間、舞美を先頭に警察全員がとびかかった。
- 536 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:48
- 雅達はすぐに全く抵抗することなしに取り押さえられた。
舞美は足をひきずりながらその場に座り込んだ梨沙子を抱きしめた。
「ごめん。梨沙子。今まで助けられなくて。本当にごめん」
舞美は謝りながら梨沙子をひたすら抱きしめた。
怖くてとても梨沙子の表情を見ることができない。
舞美はナイフを突きつけられている梨沙子は全くの無表情だったことを見ていた。
もしひどい監禁生活のせいで梨沙子がもし感情というものを失ってしまっていたとしたら。
それを考えることが舞美には恐怖だった。
怖れるという感情を常に抑えてきた舞美が初めて怖いと感じた。
- 537 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:50
- 「舞美ちゃん?」
梨沙子の声が耳元でする。
「舞美ちゃん、あたしなら大丈夫」
梨沙子は舞美の目の前で笑って見せた。
「愛理は?」
「大丈夫。あたしが地下室にいたところを見つけたから」
「よかった・・・」
梨沙子は体中から力が抜けたように大きなため息をついた。
- 538 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:51
- 「ごめんね。梨沙子。こんなはずじゃなかったのに」
舞美の言葉に梨沙子は首を横にふった。
「ずっと信じてたよ。舞美と愛理が助けにきてくれるって。信じててよかった」
梨沙子は笑顔でそう言った。
「星がきれい。久しぶりに外に出た」
そう言って梨沙子は上を見上げた。
雲は跡形もなく消え去って空には満開の星が瞬いている。
しかしそのすぐ前を連れて行かれようとしている黒い集団が梨沙子の前で立ち止まった。
- 539 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:52
- 「梨沙子」
雅が振り返って言った。
「これであたしから逃げられたなんて思わないでね」
雅が不気味な笑みを浮かべた。
思わず怒りのあまり舞美は立ち上がろうとした。
それを梨沙子が引っ張って押しとどめる。
不思議に思って梨沙子を見ると怖がる様子もなく、
雅をただずっと見つめている。
舞美は胸につけた十字架をぎゅっと握り締めた。
やりきれない思いを振り払ってこれで全て解決なのだと思おうとした。
誘拐犯のメンバーは全員屋上から非常階段を降りて連行されて行った。
- 540 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/14(木) 20:56
-
風は生めかしさが幾分とれて、さらさらと二人の間を流れている。
その時、ちょうど雲間から月光がさしこんで二人を照らしだした。
透き通るような神聖な光だった。
舞美はそれを見上げて思わず手を合わせた。
- 541 名前:ELS 投稿日:2010/10/14(木) 20:57
-
今回の更新を終わります。
あとまだもう少し続きます。
- 542 名前:ELS 投稿日:2010/10/14(木) 20:58
-
レス流し
- 543 名前:ELS 投稿日:2010/10/14(木) 20:58
-
レス流し
- 544 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/10/15(金) 00:42
- ちょっと雅の逆襲に期待してみる
- 545 名前:名無し飼育さん 投稿日:2010/10/21(木) 02:03
- この物語がどこに着地するのか期待と不安がまぜこぜです
- 546 名前:ELS 投稿日:2010/10/21(木) 20:57
- >>544
レスありがとうございます。
期待にこたえられるか分かりませんががんばります。
>>545
レスありがとうございます。
もう話は着陸態勢には入ってはいるのですが、なかなか降り立つ
ところが見つかりません。。。
あとしばらくよろしくお願いします。
- 547 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 20:58
- 「結局、雅は事件のこと全部認めたの?」
病院に向かって歩きながら愛理は横を向いて舞美に尋ねた。
事件が終わった後、梨沙子はそれからしばらく療養のために病院に入院することになっていた。
「はい。事件を計画したのはやはり雅と桃子の二人。
自転車を盗んだのも梨沙子を自分の家に連れ込みやすくするために事前にやったみたい。
あのピンクの自転車はとても目立ちやすいですからね」
舞美は解説者のように悠々と説明した。
舞美もあの入院しながら試行錯誤していたときと比べると随分と穏やかな表情になっている。
- 548 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 21:00
- 「そういえば舞美は、りーちゃんの家で倒れたとき、りーちゃんの自転車の防犯登録番号をあたしに渡したでしょ?
あれは何で?何であたしがりーちゃんの自転車をみつけるって分かったの?」
愛理が舞美に尋ねた。
「あれは・・・」
愛理の言葉に舞美は自嘲気味に首を横にふった。
「愛理が梨沙子の自転車を見つけるって分かってたわけじゃないんです。
でもあの自転車はどうしても見つけなきゃいけなかった。
だからあのとき、愛理に託すことに決めたの。
だって自転車泥棒の犯人が夏焼雅だってことを証明しないかぎり、
梨沙子は誘拐されたんじゃなくて、ただ友達と家出ごっこしてるだけって思われちゃうでしょ?」
- 549 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 21:01
- 「そっか。それで警察の人連れてこれたんだ」
「まあね。被害届が出てる自転車が見つかって、それに女子高生の誘拐事件もからんでたら警察も動かないわけには行かないしね」
「あの自転車、もし見つけられなかったら今頃どうなってるんだろ」
「梨沙子は助からなかったかも。でも、愛理ならきっと見つけると思ってた。
まさか、敵のアジトまで潜入しちゃうとは思わなかったけど」
舞美は微笑みながら言った。
- 550 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 21:03
- 梨沙子が入ることになった病棟は、悲惨な事故にあったり犯罪の被害者となって
PTSDなどの後遺症に苦しむ人を専門的に治療する施設だった。
しかし梨沙子に落ち込んでいる様子はなく、舞美達が行くと屈託のない笑顔を見せてくれた。
それでも二人とも梨沙子が無理をしているように思えてならない。
一ヶ月以上もあの暗い地下室に監禁されて、しかも体まで弄ばれた梨沙子の心と体は
ぼろぼろになるまで痛みつけられたに違いない。
- 551 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 21:04
- 梨沙子が負っている回復不可能なほど深い傷は、今は空元気に隠されているだけなのかもしれない。
それが何かの拍子に絶望的なほどの真っ暗な闇で梨沙子を覆ってしまうのではないか。
舞美と愛理はそれがいつくるのか、いつも怖れていた。
それでも梨沙子の笑顔にまた会えるとほっとしてその日その日を過ごしていた。
- 552 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 21:05
- 梨沙子が入院してからしばらくたってもその緊張と安堵はあきれるほど同じパターンを繰り返した。
びくびくしながら二人がいつ行ってもいつも梨沙子は元気だった。
それどころか、毎日よく笑うし、よく食べる。
むしろ以前よりも明るくなっているぐらいだ。
そして病院での入念な検査の結果、梨沙子はPTSDはおろか
トラウマの痕跡さえ見つからなかった。
結局、梨沙子の精神状態は全くの普通でどこにも異常はなかったのだ。
それを聞いたとき、愛理と舞美は安心と脱力のあまり、
二人して病院の床に座り込んだ。
- 553 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 21:07
-
---------------------------------------
「お見舞い用にラッピングしてください」
愛理は色とりどりの花をお店の店員に渡した。
花束は黄色と白色が程よく調和して日差しを浴びると柔らかい感じがした。
花束を受け取ると、愛理は舞美と並んで病院に向かった。
「お見舞いっていうより、退院祝いかな」
愛理が明るく言った。
昨日、梨沙子から待望の退院が決まったと連絡がきていた。
「そうだね」
「てことは梨沙子の病院行くの。今日が最後かな」
愛理は言った。
- 554 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 21:08
- 「でも退院のとき付き添うでしょ。だからあともう一回かな」
「そっか。でもそういうのっていいね」
何がいいのか分からなかったが舞美は笑ってうなずいた。
梨沙子の退院が決まってうれしい愛理の気持ちがそのまま直に伝わってきた気がした。
- 555 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 21:09
- 病院までの道のりは木造の家が連なっていた。
家々の塀の下に小さな桔梗が植えてある。
切れ目のある花の薄い群青色がひっそりと静かな住宅地に溶け込んでいた。
近くには愛理達が通う桜花学園があり、通学路にもなっている。
繁華街が近い西成高校と違って落ち着いた雰囲気のある町並みを愛理達はとても気に入っていた。
「それで・・・結局雅達が事件を起こした動機は何なの?
りーちゃんがあの二人に恨みを買ってたなんて信じられないけど」
愛理が舞美に尋ねた。
- 556 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 21:10
- シオン修道会は地域で高校生が巻き込まれた事件では自治組織として
警察と積極的に関わっている。
舞美はシオン修道会の代表として警察にも顔がきいた。
「それが結局うやむやに終わってしまって。
友達への独占欲とかって警察では処理されたけど私はそれだけじゃないような気がするんです」
「それだけじゃないって?」
「だって、独占欲だけで普通友達を監禁したりしますか?」
「しない」
愛理は即答した。
- 557 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 21:12
- 「それに雅が最後に梨沙子に言った言葉が気にかかって」
そう舞美が言ったとき、愛理は不安そうな顔を向けた。
「雅、警察に連れて行かれる前にこれであたしから逃げられたなんて思うなって梨沙子に言ったんです」
それを聞いて愛理は思いっきり唇をかみ締めた。
「許せない。りーちゃんは何も悪くないのに。
もう絶対りーちゃんには指一本だって触らせない」
愛理は自分の感情を押し殺すように言った。
- 558 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 21:13
- 「でも雅への取調べはそれ以上出来なくなりました」
「何で?」
「もう釈放されちゃったから」
「そんな!」
愛理は唇をかみ締めて顔を左右にふった。
「何でりーちゃんにあんなひどいことしてて釈放なの?」
「それが・・・梨沙子が訴えを取り下げたらしいんです」
「ええ!」
愛理は目を大きくして驚いた。
- 559 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 21:16
- 「多分、梨沙子の両親は雅の会社に勤めてるらしいから。
そういうのもあるかもしれません」
愛理は雅の家はすごく大きな会社を経営しているという噂だけは聞いたことはあった。
しかしそんなことで梨沙子の心がさらに踏みにじられるのは納得できない。
「修道会の力で何とかならないの?今でもりーちゃんは入院してるんだよ。
その原因を作ったやつらがもう普通の生活してるなんて!」
「私だって納得いきません。でもこればかりは修道会の力じゃどうにもなりません」
そう言って舞美は前を向いた。
- 560 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 21:17
- 「それに梨沙子だってそっとしてほしいのかもしれません。
だって被害を訴えるとしたら今まで高校生活を一緒に過ごしてきた友達を告訴することになるんですから」
愛理の脳裏に雅達と楽しそうにしている梨沙子の姿が思い出された。
梨沙子がもう同じ状況で笑っていることがないと思うと愛理は梨沙子が可愛そうで何だか泣けてきた。
「でもこのままじゃ何かりーちゃんがかわいそう。
やっぱり傷ついてるよ。いくら元気でどこにも異常がないって言っても信頼してた友達に裏切られたわけだし」
愛理がそう言うと舞美もそのまま黙りこくってしまった。
- 561 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/21(木) 21:18
- コンクリートの溝の側溝の部分に思わず立ち止まってしまいそうなぐらい
大きな手のひらぐらいありそうな青い桔梗の花があった。
あたりには土はおろか水さえもからからに乾ききっている。
その横には細い葉を従えた白い百合の花が逆境をものともせずに咲いている。
舞美はふと聖書にあるヨブという人の話を思い出した。
ヨブは神から家族を奪われ、あらゆる災難を与えられ不幸のどん底に落とされても神への信仰を失わなかった。
それが道端の花に重なって見えた。
今、見せてくれている梨沙子の笑顔もはかないものではなく、
たくましく決して失われることのないものであることを必死に祈った。
- 562 名前:ELS 投稿日:2010/10/21(木) 21:23
-
少し短いですが今回の更新を終わります。
- 563 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:37
- 「昨日の夜はよく眠れましたか?」
「はい」
「何かの拍子に不安やパニック状態になるようなことは?」
「ありません」
「一度も?」
「はい」
「夜、監禁されている頃の夢を見たりすることは?」
「ないです」
- 564 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:38
- 「普段、日常生活で困るようなことはないですか?」
「特に・・・ないです。でも・・」
「でも?」
「早く退院したいなとかは思いますけど。あ、あとおいしいラーメンが食べたいです」
「梨沙子ちゃん」
その担当女医は言った。
梨沙子は自分はもう高校生なのにそんな呼び方するのかと何だかおかしかった。
- 565 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:39
- 「あなたはとってもいい状態だからすぐに退院できると思うわ。
でもね。あなたはとっても怖い目にあったの。だから絶対に無理しちゃダメ。
普段の生活に戻ったとき、こんなのいつもの自分じゃないと思ってもそれはあなたのせいじゃないんだから。
悩んでないですぐ病院に相談して」
「はい」
梨沙子は出来るだけ笑顔を作って答えた。
つられて女医はにこりと笑った。
「今日は検査もないから一日ゆっくり休んで。何もなければ明日は退院できると思うから。
今日は天気もいいから気分転換に散歩もいいわよ」
女医は、窓のカーテンを開けて言った。
そしてドアのところまで行くと梨沙子に向かって手を振る。
恥ずかしかったが梨沙子も手を振り返した。
- 566 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:40
- 「なんかあの先生めんどくさいな・・・」
梨沙子は天井を見上げてつぶやいた。
この病院での生活は梨沙子にとって退屈きわまりなかった。
担当の先生はいくら否定しても同じ質問ばかりしてくるし、
眠れないときやパニック状態のときに飲んでくださいと何種類もの薬をくれたが、
梨沙子は何の症状もなかったから1錠も飲んでいない。
かえって飲んでしまったら病人扱いされて入院が長引きそうに思えた。
だからやっと退院することが決まってほっとしていた。
- 567 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:41
- しばらくして愛理と舞美が約束の時間通り病室へ到着した。
梨沙子は二人の顔を見て初めて安心しきった笑顔を見せた。
「梨沙子。どう?気分は?」
舞美が梨沙子に優しそうに笑いかけて言った。
「まあまあかな。退院も決まったし」
梨沙子はベッドを少しだけ起こしている。
「一人で夜寝るのが久しぶりだったから。最初はなれなかったけど」
愛理にはそれが何を意味するのか理解できず一瞬当惑したようだった。
- 568 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:42
- 「あたし、夜は毎日抱き枕にされてたんだ」
梨沙子は何でもないことのように言った。
「ひどいこと・・・するよね」
愛理は思わずぽつりと言った。
「先生から検査結果聞いてきた」
舞美が梨沙子の傍に座って言った。
- 569 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:43
- 「不治の病とか言われた?」
梨沙子は朗らかな表情で言った。
「りーちゃん、そんな言葉よく出てくるね」
愛理はもってきた花束を花瓶に入れながらあきれたように言う。
「精神状態は至って良好。特に異常な兆候もないからPTSDの心配もないだろうって」
舞美はベッドの傍の椅子に腰掛けて言った。
- 570 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:44
- 「何?P・・とか」
「PTSD、監禁中の恐怖体験を思い出して夜、眠れなくなったり
日常生活に支障をきたしたりすること。要するにトラウマになるってことかな」
舞美は梨沙子に向かって出来るだけ優しく言った。
愛理は口をへの字に曲げて心配そうに梨沙子を見ている。
「あたし・・・別に怖くなかったな。悔しいと思ったことはあったけど」
梨沙子は舞美達の話を聞きながら少し雅のことを思い出した。
- 571 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:45
- 梨沙子の脳裏には「私からは逃げられない」と言った雅の言葉が
今でも刻み込まれたかのようにずしりと残っている。
雅はきっと梨沙子を怖がらせようとして言ったに違いない。
でも梨沙子は雅のことを今でも全く怖いとは思えなかった。
梨沙子は雅の考えていることはものすごく単純に思えていた。
- 572 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:46
- いつまでたっても雅は梨沙子を子ども扱いして支配しようとする。
雅は最初からずっとそうだった。
梨沙子は梨沙子で雅に惹かれて近づいて行ったのにそれを雅は全く分かっていない。
今度のこともいくら監禁されたからって雅を怖いなんて思わない。
何をしようとも雅は雅だ。
雅は梨沙子を監禁する前から何も変わっていない。
それこそ、元々雅はそういうことをやりかねない人だったと梨沙子は思う。
梨沙子はそれを全て分かっていてなお雅のグループと一緒にいることを選んだのだ。
- 573 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:47
- 「ナイフで脅されたりして怖くなかったの?」
舞美が不思議そうに尋ねた。
「実はあれ、偽物だって最初から教えられてたんだ。
それらしく振舞うように言われてはいたけど」
「そっか。それで梨沙子はあんなに冷静だったんだ。
あたし梨沙子がどうかしちゃったのかと思った」
舞美があたまをかきながら笑った。
「おかげで梨沙子に後遺症が残らなかったんならいいけど」
愛理がそう言って病室の窓のところまで歩いて行った。
- 574 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:48
- 「でも、あたしはやっぱり許せないな」
愛理がぽつりと言った。
窓からは整地された中庭に家々が立ち並び、さらにその向こうに鬱蒼とした森が見える。
森の向こうには西成高校があり、それが自然に出来た結界のように桜花学園と西成高校を隔てている。
「あたし、花瓶の水やりかえてくるね」
愛理が花瓶と花を持って病室を出て行った。
- 575 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:49
- 梨沙子は愛理の後姿を見送った後、ふと舞美の方を向いた。
舞美は何かまだ話す事があるような浮かない表情をしていた。
「もしかして、あたしがみや達への訴えも取り下げちゃったことも知ってるの?」
「もちろん」
舞美は微笑を浮かべて言った。
「やっぱ怒ってるよね?」
「まさか」
顔を伺うようにして心配そうに言う梨沙子に舞美は笑って答えた。
- 576 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:51
- 「怒ってないよ」
ほっとした梨沙子の表情が舞美の瞳に映る。
「でもそのおかげで雅達、みんな釈放されちゃったよ。本当によかったの?」
舞美は梨沙子が傷つかないように出来るだけ優しく言った。
「そう」
梨沙子は舞美からは目をそらして窓の方角を眺めた。
「あたし、今でもどうしてもみんなを憎むことなんてできないんだ」
舞美は梨沙子の言葉をしっかりと受け止めるようにゆっくりとうなずいた。
「うん。梨沙子らしいと思うよ」
- 577 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:51
- 「ちぃはあたしをずっとかばってくれたし、熊井ちゃんは、毎日あたしの髪をセットしてくれたんだよ。
佐紀ちゃんはご飯作ってくれたりお洋服持ってきてくれたし」
梨沙子は舞美を納得させようとしてか少し興奮気味に言った。
「梨沙子の言いたいこと分かるよ。私もあの3人は梨沙子の言うとおり悪い人じゃないと思う」
舞美がそう言うと梨沙子は安心したような顔になった。
「でも、雅と桃子はどうなの?」
思わず舞美の口から出た言葉で梨沙子は一瞬で固まってしまった。
舞美はまずかったかなと梨沙子を見て言った。
でもこれを聞かなければ何も始まらないような気がした。
- 578 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:53
- 「梨沙子は一番仲がよかったあの二人に裏切られたんじゃないの?」
梨沙子はうつむいて白い布団をじっと見ている。
「一番信頼してる人達に騙されて欲望のはけ口にされて本当は傷ついてるんじゃないの?」
それでも梨沙子はまだ下を見たままだ。
「我慢しなくていいんだよ」
梨沙子の顔の表情が強張っているのが、横からでも分かった。
舞美は梨沙子を泣かせてしまったかもしれないと思った。
「梨沙子、あたしこれでも梨沙子の力に」
「舞美、あたし大丈夫」
舞美を静止して言った梨沙子は、屋上で助け起こしたときと同じ表情だった。
- 579 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:54
- 「あたし、確かにみやと桃にひどいことされた。でもね。
舞美だから言うけどあたしは監禁されてたときのほうが楽だって思ったこともあったんだ」
梨沙子から出てきた意外な言葉に舞美は目をむいた。
「みやと桃ってね、三人でいるとずっとあたしのことばっかり見てるの。
だからあたし、正直二人との距離のとり方が分かんなかった。
それで遊びに行くときは絶対どちらかと二人で出かけてた。
でもそうしたらますますひどくなっちゃって。
みやと一緒にいたら桃が、桃といるときはみやがどこかであたしをじっと見てるの。
怒ってるんでもなくて冷たいんでもない。
ただずっとあたしを観察してるって感じ。
でもその後話しても全然普通で。
だからあたし、ずっと悩んでた。
二人が何考えてるのか分からなかったから」
- 580 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:55
- 「そうだったんだ」
舞美は気づけなかった。
梨沙子に危険が迫っているような感覚はあっても楽しそうにおしゃべりしてる梨沙子の様子しか目に入らなくて、
考えてみればそのすぐ傍に危険は常に存在していたのだ。
「でもね。監禁されてからはその悩みがなくなったんだ」
梨沙子ははっきりとした口調で言った。
「あたしはずっととらわれの身だったわけでしょ。
だからどんなにいやらしいことされても無理やりHさせられても
あたしの意志なんて全然関係ない。
二人への態度とか距離感、考える必要がなくって。
逆にすごく楽だった。
だから途中から別に何されてもいいやって思った」
- 581 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:56
- 「それで、警察には何もされてないって言ったの?」
舞美の質問に梨沙子はうなずいた。
「でも、愛理と舞美が助けにきてくれたときは本当にうれしかったよ。
ずっと信じてた甲斐があったなあってすごく思った。
これだけは嘘ついてないよ」
梨沙子が無邪気に笑った。
それは穢れのない真っ白な笑顔だった。
舞美は梨沙子を心底美しいと感じた。
雅は、梨沙子の体を傷物にできても梨沙子の心までは傷物にはできなかったのだと思った。
舞美が梨沙子の頭をゆっくりと撫でた。
- 582 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:57
- 「それより梨沙子に報告があるんだ」
舞美は立ち上がって窓のカーテンを全開に開けた。
まぶしいほどの陽光が部屋の中に注ぎ込んでくる。
「ほら。こっちに白と茶色の建物が見えるでしょ」
舞美が指し示す方角にはチャペルや教会が備わった西洋式の建物群からなる桜花学園だった。
「退院したら、梨沙子が通う学校だよ」
「え?」
梨沙子は意味が分からないでいる。
- 583 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:58
- 「あたしって職権乱用得意だから。修道会の力でさ」
舞美は振り返って言った。
舞美の姿は後ろの陽光に照らされてまるで天使のように映った。
「梨沙子の桜花への編入、勝手に決めちゃった」
舞美が舌を出して微笑んだ。
「あたしって桜花に入れるの?」
「そう。転校生扱いでね」
その時、愛理が戻ってきた。
手には真黄色に燃えるように輝いている鮮やかな花々を抱えている
- 584 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/10/28(木) 21:59
- 「愛理、遅いよ」
すぐに梨沙子が口を尖らせて言った。
「ごめんごめん。洗面所すごい遠いんだね。迷っちゃった。で、何の話してたの?」
「超重要な話!」
梨沙子がそう言った後白い歯を見せて笑った。
- 585 名前:ELS 投稿日:2010/10/28(木) 21:59
-
今回の更新を終わります。
次回が最終回になります。
- 586 名前:名無し飼育さん 投稿日:2010/10/29(金) 00:27
- とうとう終わってしまうんですね……
- 587 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/10/29(金) 00:45
- いよいよラストですか
平穏に終わるのかな?
- 588 名前:名無し飼育さん 投稿日:2010/10/30(土) 23:12
- 次でラストか、淋しいなぁー。
- 589 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:18
- 「梨沙子、喜んでくれてよかったね」
愛理は病院のほうを振り返りながら梨沙子の転校について言った。
真っ白な病院は二人がしばらく通いつめたところだったが、
それも明日の梨沙子の退院で終わりとなる。
「愛理はすごい心配してたもんね。梨沙子のこと」
舞美はしみじみと言った。
- 590 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:20
- そのまま二人は元来た道を並んで歩いた。
愛理は梨沙子と一緒の高校生活を楽しみにしていて、
梨沙子の修道着を選んであげないといけないとか
最初に修道会室を案内しようという話をきらきらとした表情で話した。
舞美はそれをにっこりとうなずきながら聞いている。
途中のケヤキ並木にさしかかると、蝉の音があまりにかしましく
思わず二人は無言になった。
舞美は二人で交換学生プログラムで西成高校を初めて訪れた日のことを思い出していた。
あの日は全てが雪に埋め尽くされた静寂な日だった。
- 591 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:21
- 舞美は今でも自問自答している。
自分が行くことによって果たして梨沙子を守ることができたのだろうか。
舞美には簡単にはそうは思えない。
責めて愛理の笑顔を見ながら梨沙子もこれからの高校生活を笑ってすごしてくれればいいと思った。
「雅達、今頃何考えてんだろうね。りーちゃんはいまだに病院にいるのに。謝りにも来ないし」
「来ないほうがいいと思ってるのかも」
舞美は上の方を向きながら淡々と答えた。
「まあ来たところで絶対梨沙子にはもう近づけさせないし。あいつらりーちゃんにあんなにひどいことして。
絶対に絶対に許せない」
愛理は少し声を大きくして言った。
- 592 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:22
- その時、あれだけ鳴いていた蝉が一斉に泣き止んだ。
その瞬間、山から駆け下りてきたような強い風が後ろから勢いよく流れた。
舞美はその風を目をつむって受け止めた。
その風はざわざわとした自分の心の中を再現しているように感じられた。
「愛理の気持ち、すごくよく分かるよ。あたしもそう思う。
でも梨沙子が退院したらもうこの事件のことを話すのはやめよう」
「そんなこと」
しばらく愛理は黙りこくって歩いた。
「分かってるよ」
そして小さな声でぽつりと言った。
- 593 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:23
- 「でもあともう一つだけ舞美に聞きたいことがあるんだ」
愛理は舞美を見つめて言った。
「舞美自身のこと」
愛理の人のよさそうな目が一瞬だけ鋭く光った。
こんな視線を愛理が舞美に送ってくるのは初めてのことだった。
愛理と舞美は向かい合って立ち止まった。
「舞美は、梨沙子が誘拐された日誰かに階段から突き落とされた。
あれは事故なんかじゃない。そうでしょ?」
再び鳴き始めた蝉の声がまるでリングの上にいるような二人を包む。
- 594 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:24
- 「あれは、もういいの。済んだことだし」
舞美はわざと愛理から顔をそらした。
「そういうことだけカッコよく自分だけで終わらせないでよ。
どんなに心配したと思ってんの?」
愛理が突然表情を変えると強い口調で言った。
あまりの剣幕に舞美は顔からさっと血がひいていくような感覚になった。
心を見透かされて怒られてる。
舞美はまるで自分は悪戯を先生に見抜かれた小学生みたいだなと思った。
それでもその強い口調からは愛理の温かい愛情がこれでもかというぐらい感じられた。
- 595 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:25
- 「ごめんなさい」
舞美はそう言って頭を下げた。
そしてゆっくりと視線を愛理に戻すと愛理のほうが急にそわそわとしだした。
「もういいよ。じゃ、なくてあたしは舞美を責めようとしたんじゃないんだけどなあ。
ああ、あたし何言ってるんだろ」
愛理は視線をそらして歩き始めた。
その言葉だけで舞美には愛理が言いたいことが分かりすぎるくらいよく分かった。
- 596 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:26
- 「千奈美から聞いたの?」
舞美がそう尋ねると愛理はゆっくりとうなずいた。
「最初千奈美から直接聞いたとき、ほんとびっくりした。
千奈美が舞美を階段から突き落とした犯人だったなんて」
愛理は梨沙子が解放されてから数日後、突然千奈美に呼び出された。
そして舞美の事件について自分がやったことを話した。
全て雅が考えた計画だったと千奈美は言った。
梨沙子を拉致するにあたって一番厄介な舞美を消しておこうと思ったらしい。
- 597 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:27
-
「あたしが聞いたときは警察に自首する直前だったみたいだけど。
それからもういちど千奈美から連絡があってさ。
舞美が頑として被害届を出さなかったから結局そのまま帰ってきたって」
舞美は愛理の言葉を目を閉じて聞いていた。
「そっか。それで愛理に本当のことを言ったんですね」
舞美は深くうなずいて言った。
「あたしのところへ来たとき、あの子はもう十分に罰を受けてました」
「でも・・・舞美は全身打撲で・・」
「ごめんなさい。愛理には本当に心配かけたし。
でも私はあの子からは罰するに値する邪悪さは感じませんでした。
だから警察に被害届を出す必要もありません」
毅然と舞美は言った。
愛理は舞美がこんな言い方をする時はてこでも自分の意見を変えないことをよく知っている。
- 598 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:28
- 「このこと梨沙子には?」
「言ってません。雅が仕組んだこと、分かったら梨沙子も傷つくから」
「じゃあ、あの時修道会室の備品が壊されたのも?」
舞美はうなずいた。
「おそらく、雅が私をおびきよせるために対立する清教徒派をけしかけてやったのでしょう」
舞美は淡々と言った。
「やっぱり。そうじゃないかと思ってた」
愛理は憤慨して言った。
- 599 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:29
- あたりは人影はまばらだった。
歩道の両端にひしと並んだ樹木からの蝉声はいよいよ激しさを増して響き渡っていた。
まぶしいほどだった陽光は木々に遮られて愛理の顔に斑点を作っている。
「ただ、私にはまだ気がかりなことがまだ一つだけあるんです」
舞美は数歩先に進んでから振り返って言った。
「何?」
「梨沙子のこと」
愛理は首をかしげた。
梨沙子のことについては事件の後遺症を含めてもう散々舞美とは話してきた。
もうこれ以上に何が気になるというのだろう。
- 600 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:31
- 「雅はもし、あのまま監禁場所が見つからなかったら梨沙子をどうするつもりだったんでしょう。
もしかしたら彼女はいずれあの場所が見つかって捕まることまで想定していたかもしれない」
「え?どういうこと?」
愛理の表情が一転して不安になった。
「夏焼雅は梨沙子の体に何か元には戻せない不可逆的な変化を刻み付けるのが目的だったのかもしれない。
それは体の純潔とかそういうものではなく」
「何なの?その変化って?」
「多分、それは人の心に関係するものだと思います。
感情を麻痺させたり価値観や感覚をおかしくさせるもの。
そうでないと梨沙子の心に後遺症は残ってない説明がつかないのです」
- 601 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:32
- 「でも、今のりーちゃんだって明るくて優しくて思いやりもちゃんとあって。
前と全然変わんないよ。何かが変わっているようには思えないけど」
「それは私もそう思います」
でも、梨沙子の心には何かの仕掛けが施されているに違いない。
でも舞美はそのことを愛理に言うのははばかられた。
もう愛理には梨沙子のことにせよ自分のことにせよ心配はかけたくない
- 602 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:32
- 舞美は、ゆっくりと頭上を見上げた。
空からはケヤキの葉の隙間から幾重にも光線が重なって降りてきている。
舞美は自分の体を浄化するようにゆっくりと手を広げた。
愛理は舞美が一瞬どこか遠くへ行ってしまっているような感じがしてただ舞美を見つめるしかなかった。
「今度こそ私の力で何とかしないと」
舞美はつぶやくように言った。
- 603 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:33
- もし、舞美が梨沙子の自転車にたどり着いて監禁場所も特定して
梨沙子の救出することまで雅の計算のうちに入っているとしたら。さらに、もし梨沙子を桜花学園に編入させることまでも雅の考えの内のことであったら。舞美は今でも単に雅の手のひらで転がされているだけなのかもしれない。だとしたら今、梨沙子の心の中にはきっと雅の作戦の一つがすでに埋め込まれているのだろう。
舞美は、近い未来で自分に襲いかかろうとしている漆黒の姿をした悪魔を体全体で感じた。
それは一瞬ごとに膨張し、無限に膨れ上がりこれまで出会ったことのないような
すさまじい巨悪の力に変化していくのかもしれない。
自分はそれを全身全霊で受け止めることになるだろう。
ただ、今のこのときだけは少しでも長い平安が舞美は欲しいと思った。
- 604 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:34
-
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翌日、梨沙子は退院の予定時間よりもだいぶ早く自分一人で退院の手続きを終えてしまっていた。
荷物をまとめるころになっても誰も梨沙子の病室には入ってこない。
梨沙子は長袖のパーカーを羽織ると颯爽と病室を出た。
家族の人は?心配する看護婦さん達を尻目に早く帰って驚かせてみようって思ってと梨沙子は無邪気な笑顔を大人に向けた。
- 605 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:35
- 病院の玄関で梨沙子は久しぶりに直射日光を浴びて思わず顔をよけた。
左手にもっている携帯電話の画面が光が反射して見えにくい。
それでも梨沙子は器用に電話帳をスクロールさせて目的の人物の番号を表示させた。
歩きながら呼び出し音を聞く。
もしもし。
一瞬にして強張ったような恐怖の入り混じった声を聞いた。
梨沙子はそれが少しうれしかった。
「もも?」
優しく包むような声で言う。
- 606 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:36
- 「元気にしてる?あたし、今日やっと退院したよ」
桃子はずっと黙ったままだ。
「あたし、ずっと桃の絵描いてたでしょ?実はまだあの絵、完成してないんだ。
家に置きっぱなしなんだけどね」
「・・・そう・・・なんだ」
やっと桃子の応答が戻ってきた。
「もも、モデルやってくれるよね?完成するまで」
「うん・・」
半ば強引な口調の梨沙子に桃子はぽつりと答えた。
- 607 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:37
- 病院の前の横断歩道の信号が青に変わった。
かごめかごめの音楽がなって、携帯を耳につけたまま梨沙子は再び歩き始める。
「早く、ももに会いたいな」
「あたしも梨沙子に会いたいよ」
やっといつもの桃の話し方に近づいてきたと梨沙子は思った。
もう頃合だろう。
「あの、桃にもう一つお願いがあるんだけど」
「何?梨沙子のお願いって」
少し桃子の口調が明るくなってきている。
やっぱりこの人は変わらない。
無意識のうちに梨沙子を付け回し、
ことあるごとに梨沙子の全てに関わろうとするこの人の習性。
- 608 名前:幽閉(飼育) 投稿日:2010/11/04(木) 20:38
- 「みやを閉じ込めてさ。飼育してやろうと思うんだけど」
桃子の動きが固まった。
電話を通してだったが梨沙子にはそう確信できた。
「協力してくれるよね?もちろん」
梨沙子は言った。
信号を通った先はもうケヤキ並木だ。
高くそびえる木々は上空からの熱射を防いでわずかに残ったひんやりとした
朝の空気を必死に守っているようだ。
梨沙子の通る場所は真夏と言うのに軽やかな風が流れた。
まるで神の祝福を受けたかのように。
- 609 名前:ELS 投稿日:2010/11/04(木) 20:42
-
以上で幽閉(飼育)完結です。
年初から書き始めた小説でしたが、完結したときにはもう
今年も終わりに近づいてるんですね。
今まで読んだいただいた皆様。
レスを下さった皆様に感謝です。
今後は、年明けにはなると思いますが、この話の続編とか全然別のりしゃあいりを構想していたり。
どうなるか分かりませんがまた戻ってこようと思います。
- 610 名前:ELS 投稿日:2010/11/04(木) 20:46
- >>586
レスありがとうございます。
こんな小説ですがそのように言っていただけるとうれしい限りでした。
>>587
レスありがとうございました。
最終回は少し未来への希望?もこめて書きました。
>>588
レスありがとうございます。
鬼畜な小説ですが、そう言って頂けると名残惜しい感じもして不思議ですね。
また小説でお会いすることがあればよろしくお願いします。
- 611 名前:ELS 投稿日:2010/11/04(木) 20:47
-
レス流し
- 612 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/04(木) 22:59
- 完結お疲れ様でした。
最初からど〜なるかとずっと思って読んでました。毎週の更新楽しみでしたが、また次回があるのを待ってます。
おもしろかったです。
- 613 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/05(金) 23:28
- 大好きなお話でした。
完結ありがとうござます!
- 614 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/06(土) 00:03
- すごい面白かったです
最後もどうなるんだろうと思ってましたけど感動しました
- 615 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/06(土) 23:05
- 設定がすごい好きでした!!!
またすばらしい小説を読ませてください!!
- 616 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/01/29(土) 18:53
- 最低だな話も作者も
- 617 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/03/08(火) 23:05
- 完結お疲れ様でした
お話が始まった当初から読ませていただいていましたが毎更新とても面白かったです
また作者様の作品をお目にかかれるよう祈っています
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