黄泉がえり3
1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/11(土) 15:30
8月10日 午前10時11分24秒

「っるさいんだよ! こんなところでぐずぐずしてる場合じゃないんだよ!」
「わっ! おいっ! 吉澤ぁ!!」
コードネーム44、吉澤ひとみはウチの制止を振り切って
一目散にコードネーム07の攻撃した跡を駆けていった。

「……ふぅ」

ウチはため息ひとつついて運転してきたワゴンにもたれかかる。
どうやらコードネーム14とコードネーム07はやられたようだ。
それともやられたのは片方だけか?

「まぁどちらでもええわな。吉澤も行ったことだし」

所詮自分は『力』を持たない一般人だ。
今行われている闘いも、ただ映画を見ているような気分でしかない。
そりゃあ矢口とアイツらのどっちが勝つのかには興味があるけど、
所詮その程度だった。


ようは、『力』を持たない自分は蚊帳の外で、こうやって事の顛末を見るだけしかできないのだ。



2 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/11(土) 15:32
思えば、ここまで来るまで色々あった。

去年の1月20日、矢口真里と安倍なつみが互いの『力』をぶつけ合って死んだ。
今さっき走っていった吉澤の暗躍もあり、矢口、安倍、飯田の信頼関係は崩れ、
対立状態が続いていた。

その結末を迎えた1月20日は、皮肉にも矢口の誕生日だったそうだ。

だがその翌年、矢口真里は黄泉がえりを果たした。


つまり、生き返ったのだ。


それまでの記憶を無くして。


再会したときははっきり言って動揺した。
ただでさえ死んだと思っている人間が目の前にいたのだ。

それに、矢口が姐さんの研究所を襲ったあの日、ウチも矢口の襲撃の被害にあっていたのだから。

「はははっ あんときはさすがに死ぬかと思ったわ」

だから会ったときは狂ったように矢口に攻撃してしまった。
まぁその結果……だったのかな? 矢口は当時の記憶を取り戻した。
3 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/11(土) 15:34
それからは「あっち側」の攻撃が続いた。
コードネーム11、44、510チームの襲撃、そして今回のコードネーム07、14、44、の襲撃。

「って今日で2回か。意外に少ないのな」

もっとも、1回目の襲撃でメンバーの受けたダメージは大きかったし、その後の準備やら何やらもあった。

「ま、人事異動みたいなもんやったけどなぁ」
現在コードネーム11、市井紗耶香とコードネーム510、後藤真希は2人でチームを組み、
現在は北海道の室蘭へ行っている。

「あっちもうまくいってるとええねんけどなぁ……。予定なら今日やけれど……」

その結果として吉澤はコードネーム14、石川梨華とコードネーム07(そういえば本名は聞いたことないわ)とチームを組んで、
今日姐さんの研究所に来ている。

そして先遣したコードネーム07、14と、矢口との戦闘が始まった。


そして現在に至る。
4 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/11(土) 15:36
「ってなもんかな。でもそろそろこっちはクライマックスかな?
あいつに連絡でもいれようか」

そう思って取り出した携帯のリストからあいつの名前を見つけ、着信を入れる。
まさかあいつが「あっち側」のトップだなんて、時代の変化は怖いものだ。

『もしもし? そっちはどうなったの?』
「あ〜。まぁ、こっちはもうすぐ終わりそうやね。んでなぁ、結果なんやけど--」

そのときだった。



大気が、揺れた。

5 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/11(土) 15:43
タケと言います。

昔、この「黄泉がえり」を書いていましたが、途中で断念してしまいました。
今回改めてこの3を書くことを決めました。

稚拙な文章で申し訳ないですけれど、これからもよろしくお願いします。
6 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/11(土) 15:45
どうやら過去ログのURLが出せないみたいなので
参考までに。

黄泉がえり→月板過去ログ倉庫

黄泉がえり2→幻板過去ログ倉庫

では。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/12(日) 00:46
更新お疲れ様です。
読んでましたよ〜!復活されたんですね!嬉しいです。
続き楽しみにしてますね。
8 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/12(日) 12:47

目を開けると見慣れない天井があった。

布団からゆっくりと体を起こしてあたりを見回すと、
そこはやっぱり見慣れない風景だった。

障子に畳、襖と、これでもかと言わんばかりの和風の空間に、私は居た。

(布団……誰かに敷いてもらった?)

「あ……」
意識の覚醒とともに状況が掴めてきた。

ここは紺野ちゃんの家だ。
彼女と会って、家に呼ばれて……一緒に話をしていたときに、
倒れてしまったんだ。

(初対面なのにここまでしてもらって、悪いな……)

1人で申し訳なく思っていると、襖が開く音がして、紺野ちゃんが入ってきた。
9 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/12(日) 12:48
「よかった……目が覚めたんですね。」
「うん。ごめんね。いきなりお邪魔したうえに、急に倒れちゃって。」

……

……

「いいえ、完璧です」

何?今の間は!? 何が完璧だったの!?

思わずつっこみそうになったけれど、そういえばこの子はこんな性格だったなと思い
口には出さない。

「今、何時くらい?」

……

「そろそろお昼です。そろそろのど自慢が始まります」

好きなんだ、のど自慢……。
10 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/12(日) 12:49
「……そっか。じゃあ私もそろそろ起きようかな」

……

……

「お昼ご飯、作りましょうか?」

ちょっと間を置いて紺野ちゃんが提案してくれた。
そういえばお腹が減ってきた。
「いいの?」

……

「簡単なものなら作れます。まぁ、待っててください。
……完璧ですよ。」

大きな目が輝いたような気がした。
それよりもその間が怖いんですけど……。

そんなこんなでのどかに時間が過ぎていこうとしていた?
11 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/12(日) 12:51
-約2時間前

安倍なつみがかつて住んでいた場所を知っている人がいた。

安倍なつみは11歳まで室蘭に住んでいたと聞いている。
その当時の友達だったという人達から話を聞いて、私はだれる後藤を引っ張りながら
その場所へ向かった。

だけど、本当に彼女はいるのだろうか?

『引っ越したあと何年かしてからかなぁ……。なっちの家、取り壊されちゃったんだ』

そんな場所に、果たして彼女は黄泉がえるのだろうか?
12 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/12(日) 12:52

「いちーちゃん……」

後藤が心配そうにこっちを見てきた。
私は不安を見せないよう、いつもどおりの笑顔で言った。

「なーに、きっといるって! そんなに心配するな」


でもこのとき私は安倍なつみのことで頭がいっぱいで、
後藤が抱いていたもう1つの不安に気づいてあげられなかった。




そのことに気づいたのは……全てが終わったあとだった。
13 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/12(日) 12:53

いちーちゃんはいつも通り笑っていた?ように見せていた。
でもごとーにはわかる。本当は心配なんだろう。

 本当に安倍なつみは黄泉がえっているのか?

安倍って人の友達が言うには、安倍さんの家は取り壊されて、今は空き地になっているみたい。

(……本当にそんなところに安倍って人は黄泉がえっているかな?)

そう思ったけど、よくよく考えたらごとーは黄泉がえりっていうのを見たことがないし、
あの人に聞くまでは聞いたこともなかった。

矢口っていう人は黄泉がえったって聞いてるけど、どこでどうやって黄泉がえったんだろう?
14 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/12(日) 12:55
でもその考えはすぐに頭の片隅に消えていった。

ごとーがいちーちゃんに声を掛けたのは、安倍さんって人のことについてだけじゃなかったんだ。


何か、変な気分がしたんだ。

何か、何かが無くなっていくような、そんな嫌な気分が……。


(よっすぃ〜)

ここにはいない親友の姿を、気づかないうちに思い浮かべていた。

15 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/12(日) 12:56
午前10時11分15秒

「はぁっ はぁ、はぁ……っく」

体力を消耗し、思わず膝をつく。けど、周囲への警戒は怠らない。

『力』を打ったときの爆発で煙が目の前を覆っていて、敵対していた2人の姿が確認できていないからだ。

(……)
だけど、その2人が動いたような気配は無い。

終わったのだろうか?

だとしたら矢口は……

「ははっ いまさらだよね。どっちにしたって矢口はなっちを……」

そのときだった。


慟哭とともに、大気が揺れた。
16 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/12(日) 12:58
「くっ!」

反射的に矢口は前方に『力』を打ち出す。
お互い打ち出した『力』は不可視だけど、矢口の目の前で、空気が捩れたように歪んで爆発したのがわかった。
咄嗟に身構え爆風に耐える。

激しい大気の揺れに呼応するように煙が周囲に霧散する。


そして、そこから獣のように向かってくる人物がいた。


「あなたは……!」





もう一度、大気が揺れた。
17 名前:タケ 投稿日:2008/10/12(日) 13:04
更新終了です。

今回は生き返った人とそれを追う人たちの話、
そして闘う矢口さんの話でした。

>>7名無飼育さん
ありがとうございます!
読んでくれていた人がいるとは……嬉しい限りです。
これからも頑張りますっ!!

では。
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/12(日) 13:32
矢口が氏ね
19 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/14(火) 00:47
午前10時10分43秒

閃光と爆発が一斉に飛んできて、私は「何か」と一緒に後方まで吹き飛ばされた。

ぶつかってきた「何か」の衝撃を受け止めきれず、
さらに背中が地面にぶつかり、新たな衝撃が走る。

「げほっ がはっ!」
わき腹に激痛が走る。肋骨あたりがもっていかれたのだろうか。
そう考えながら、立とうとした。

けど、私の上に「何か」が乗っていて起きられなかった。

そしてその「何か」を見て、一瞬時間が止まった。






「石川……さん?」

私の上には、ぼろぼろになった石川さんがもたれかかっていた。
20 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/14(火) 00:50

石川さんを地面に横たわらせて、肩を揺する。

「石川さん、石川さんっ! なんで……どうして!」

何が起きたのか、私は直感的に理解していた。


さっきの矢口真里の攻撃を、私は直接くらっていなかった。
ダメージは吹き飛んだときに受けた衝撃だけだったのだ。


つまり、石川さんは


「なんで私を庇ったんですか!?」



私の代わりに矢口真里の『力』の直撃を受けたのだ。

「なんで?」

「え、へへ……なんでだろう、ね?」
「!」
石川さんが弱々しく笑っていた。
21 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/14(火) 00:52
石川さんの『力』……それは石川さんを中心に防御フィールドを展開する絶対防御。
石川さんが身に危険を感じたときに「自動的に」発動する鉄壁の守り--だったのに……。

なぜ今回に限って発動しなかったのか……?



「なんで……『力』が?」
「たぶん、れいなちゃんが……ケガしちゃうと思ったから……かな?」
「!?」
私は絶句した。

石川さんの防御フィールドは360度に展開する。それに触れたものは衝撃と共に吹き飛ばされる。
その範囲内にいた私は、おそらくさっき以上のダメージを受けていただろう。

「私の……『力』で……れいなちゃんがケガしちゃったら……いやだもん。
だから私は……あなたを、自分の「力」で守りたい……そう思ったの……」


私を守るため?
そのために、自分の『力』の発動を抑え込んだというのか?
22 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/14(火) 00:53

『石川さんは私が守りますから』

そう言ったのは自分だった。なのに、「私が」石川さんに守られた。

それが……こんなことって……!!


「私ね、よっすぃーが好きだったの。……すごくかっこよくてね、
私に無いもの……たくさんもってたから……。
でもね……れいなちゃん……。私、れいなちゃんも……同じくらい、大好き」

そう言うと石川さんはにっこり笑って目を閉じた。


「……いしかわさん?」



石川さんは動かなかった。



二度と、動かなかった。
23 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/14(火) 00:56

「あ、あ……っうわあああぁぁぁぁぁっ!!」
再び動き出した世界を、空気を、私の腕が、『力』が切り裂いた。

そして石川さんを殺した彼女に向かった。
精一杯の殺意を込めて、駆けた。


前に、吉澤さんと手合わせしたとき私は怒りに身を任せて戦う吉澤さんを愚かだと思った。
「あの時」の私なら、きっと今の私も愚かだと言うのだろう。


それでも……

「あなたは……!」

矢口真里。

もう命令なんて知らない。もう、どうでもいい。

抑えきれない怒りを、両手に爆発させた。

「あなただけは……」

許せない。

「くらえええっ!!」


大気が、揺れた。
24 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/14(火) 00:58


「あなたは……!」
(14って子とは、違う方……)

「くらえええっ!!」
加速をつけるために左手を後ろに向けて『力』を放出「しながら」こちらに向かってきた。
そして『力』が凝縮されているだろう、右手が矢口に伸びてくる。

(こんなに『力』を使い続けたら自分の体が……まさか、捨て身!?)


一瞬の思考が反応を遅らせた。



 目の前に手があった

 『力』が込められた、右手が

 私の頭を--

(あ……死んだ)
そう直感的に思った。


(直感するのはこっちの仕事だよ。「矢口」)

(え?)

声が聞こえた。
25 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/14(火) 00:59
午前10時11分26秒

(何が起きた?)

気がつくと、仰向けに倒れていた。

(……負けたのかな)

矢口真里は目の前だった。
後は『力』を爆発させるだけでよかったはずだった。

なのに……。


視界がぼやけていて目を擦ろうとしたら、体の感覚がなかった。

(あぁ……終わりか)
あの一撃が私の全てだったんだ。
今の私には、もう何も残っていなかった。




(石川、さん……)

石川さんを想うと、胸が締め付けられて、痛かった。
結局、あなたに抱いていた感情はなんだったのでしょうか?

(私は……あなたが……)



意識が霞んで……消えた。
26 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/14(火) 01:01
声が聞こえた瞬間、体が勝手に動いた。

刹那の動きで右手をすり抜け、その流れで相手の懐に潜り込んで、
右手でありったけの『力』をぶつけた。


「今のは……『矢口』?」

(理性は「矢口」、本能は『矢口』の担当だよ。「矢口」)

私の心の片割れが答えた。


(「矢口」はあの瞬間、『死にたくない』って思ったんだ。それに反応して『矢口』が動いたってわけ)

死にたくないと思った? そんな、まさか。

死ぬ覚悟はしていたつもりだったのに。
もう裕ちゃんにも、カオリにも会うつもりはなかった。

なのに……私は-


(……「矢口」、あんたはまだ生きないといけないよ。カオリや中澤のためにも。今の2人のためにも。
ついでに……『矢口』のためにも……)


「え? 『矢口』?」
(時間だよ……。『統合』の)
27 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/10/14(火) 01:05
『統合』
矢口の精神は、昔起きた出来事がきっかけで「矢口」と『矢口』の2つに別れてしまった。
それからは「矢口」が理性を、『矢口』が本能を主に請け負うようになった。
だから理性である「矢口」はと矢口の体の『主導権』を握るようになって、理性を失うと『矢口』が『主導権』を握るようになっていた。

けれど、黄泉がえりを経てお互いを理解し合えたとき、2人の矢口は『統合』を果たそうとしていたんだ。
その過程の中で「矢口」は『矢口』の能力であった『力』を使うことができるようになり、
『矢口』は短い時間だけど『主導権』を「矢口」から借りることができていた。

(だけど……それも今日でおしまい。
『矢口』は本来の矢口である「矢口」と『統合』して、元の矢口に戻るんだ。)

「そんな……」
自然と涙がこぼれた。

この涙は「矢口」の? それとも……。

(今まで迷惑をかけたけど、最後は楽しかった。カオリの隣にもいられたし、それに……前にも言っただろ?)


一拍置いてから、『矢口』は言った。





(-心は、一緒だってさ)

その言葉を最後に『矢口』の意識は、矢口の中に消えていった。
28 名前:タケ 投稿日:2008/10/14(火) 01:11
更新終了です。

ついにここまで書いてしまった(汗
小説とはいえ、やはり人の「死」を書くってのは何だが変な気分がします。
まぁそれこそいまさらですが。

「あっち側」の陣営もトップの人、平家さん、吉澤さん、市井さん、後藤さん
と、数が減ってきましたね。

そろそろ安倍さんと遭遇させたいです。

では。おやすみなさい。
29 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/15(水) 03:24
更新お疲れ様です。
あぁぁぁ…マジですか。
死はやはり辛いですね。
続き、楽しみにしてます。
30 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/11/16(日) 01:46
テレビからメロディーが流れ出す。
中学生と言えなくもない、幼い顔立ちのかわいい高校生の2人組みが
昔流行ったアイドルの曲を歌い出していた。

「むっ! おいしい!!」

「言ったじゃないですか。完璧だって」

紺野ちゃんにしては珍しく、間髪いれずに返事をしてきた。


そんなに自信があったのか……。

でも確かにおいしい。


「そりゃあもちろん。市販なんですから完璧です!」


市販かい!


思わずがくっとうなだれてしまった。
つい突っ込みを入れてしまいそうだったけれど、よく考えなくてもそうだろうなと思い、
開けかけた口にカレーを含める。
31 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/11/16(日) 01:47
「あ。でも、野菜とか切ったのは紺野ちゃんだよね?
ナスとか入ってていいよね〜。夏って感じで! 
それに食べやすく切ってあるし、ご飯だってカレーに合う固さだし、
ホントに料理上手なんだね〜」

……

……

……

「……ありがとうございます」

紺野ちゃんはおそらく今までで最も長い間を空けてポツリとつぶやいた。

(もしかして照れてたりするのかな?)

意外な表情が見れてちょっと楽しい。案外かわいいところがあるんだなぁ……。

……

……

「そんなにじろじろ見ないでくださいよ。恥ずかしいです」

そう言ってテレビに目線を移した紺野ちゃんの頬は、赤く染まっていた。
32 名前:黄泉がえり3 投稿日:2008/11/16(日) 01:48
(なんか、平和だな……なんのために黄泉がえったのか忘れるくらいに……)


紺野ちゃんに言われたことを思い出す。


『今からでも遅くはない!!』

始めは矢口を止めるため、この手で矢口を殺めるために黄泉がえった。

『そう言ったのはあなたでしょ?
あなたは今 もう壊れた と言いましたよね。
ならさっきあなたが言った方法でまた作り直せば良いじゃないですか!』


でもそれ以外の道を、紺野ちゃんは見つけて、教えてくれた。

(そうだ。私は矢口に会わなくてはいけない。)

黄泉がえった時と同じ目的を、違う理由で、果たさないといけない。



「わぁ」

感嘆の声ともに、満点を告げる鐘が鳴りった。
33 名前:タケ 投稿日:2008/11/16(日) 01:51
短いですが更新終了です。

忙しさにかまけてて気がついたら1ヶ月も放置プレイorz
もう少ししたら暇人になりそうなのでそろそろネタの構築を……!

>>29名無飼育さん
感想ありがとうございます。
死の描写というのは中々難しいです(滝汗)。
これも日々精進ですね〜。



では、おやすみなさい。
34 名前:黄泉がえり3 投稿日:2009/02/23(月) 03:00

ざざっ

音声から一瞬ノイズと共に、唐突にみっちゃんからの連絡が切れた。

『おそらくこっちの負けやね』

(えらく他人事ね、みっちゃん。
あくまで中立ってことかしら?
そんなにいい子ちゃんでいたいのかしらね?)

「……ったく、ままならないものね!」
心で皮肉り、軽く舌打ち、携帯を乱暴にテーブルに投げ捨て椅子に座る。

カップに残ったコーヒーを一気に飲み干して、一応心を落ち着かせる。
そして、考える。
これからどうするべきかを。
35 名前:黄泉がえり3 投稿日:2009/02/23(月) 03:01
(今から裕ちゃんのトコ行くにしても時間がかかりすぎるわね……)

それに、今から行ったとして、果たして状況が変わるかどうか……。


(11と510の連絡を待つか……いや)

そもそも不確定要素の多い任務だ。それに期待するようではもう終わりだ。
もちろん上手くいけばこれ以上ない駒が手に入るが……。



(ま、ここは謙虚にいくしかないわね)

撤退させよう。


11と510の連絡を待って、機会をうかがってまた攻めに出よう。


無造作に投げた携帯を掴み上げ、みっちゃんに再度コールする。

36 名前:黄泉がえり3 投稿日:2009/02/23(月) 03:02
「もしもし、みっちゃん?」

携帯から無気力な声が聞こえた。

「あ、さっきは悪かったなぁ……実は」


言い訳なんて今はどうでもいい。

「残ったメンバーを呼び戻して。撤退よ」


「……」



数秒の沈黙。

閉め切った部屋に嫌な空気が流れた。
思わず唾を飲み込んで、次の言葉を待つ。



「撤退は、もう無理や」


予感を的中させる言葉に、息が詰まる。
手から携帯が滑り落ち、がしゃりと嫌な音を立てた。



静かな部屋にはよく響く、破滅の音だった。
37 名前:黄泉がえり3 投稿日:2009/02/23(月) 03:04

同日 午前10時 12分3秒


沈黙と静寂の中に、私はいた。


木が折れ土が抉られた荒地の中に、梨華ちゃんがいた。

あちこち怪我してて、血が出ていた。

特に酷いのは前の方で、服は焦げ、ぼろぼろになっている。


でも

その顔はまるで……昼寝をしているような、安らかで穏やかな表情だった。


でも

梨華ちゃんは息をしていなかった。

もう目を覚ますことはない。



「梨華ちゃん。甘えられて、ちょっとうざかったけど、嫌いじゃなかったよ」
38 名前:黄泉がえり3 投稿日:2009/02/23(月) 03:04

さらに先へ進むと、今度は07がいた。

腹に焦げ痕を残し、仰向けに倒れていた

07の目は、何かを求めるように、虚ろに梨華ちゃんを見つめていた。


でも

もう梨華ちゃんは答えてくれない。


そして、

07がそれを知る術はもうない。

彼女ももう、目を覚まさないのだから。



「07。コードネームじゃなくて、お前を1回本名で呼んでみたかったな」
39 名前:黄泉がえり3 投稿日:2009/02/23(月) 03:09

さらに先へ進むと、「彼女」がいた。

かつては飢えるように執着した「彼女」。


彼女は折れていない木にもたれ、うつむいていた。

まるでこれまでの行為を謝罪するかのように。


 頭が熱くなる。


(でも知ったことか)


 目の前が真っ赤に染まる。


(もう遅いんだよ)

 
 心の抑制がなくなっていく。


(「あんた」がしたことはね)


 殺せ、殺せ、と叫んで回る。


(もう取り返しがつかないんだよ!!)


私は意識を無意識へと身を投げた。


40 名前:黄泉がえり3 投稿日:2009/02/23(月) 03:10

傷だらけの体を木に預けて、涙が止まるのを待った。


 地面に水滴が落ちる。


『矢口』が消えた喪失感に胸が熱くなった。


 地面の水滴が増える。


人を殺した罪悪感に胸を押しつぶされた。


 地面の水滴が広がる。


(ああああああああああああああああああああああああああああああっ!!)


  モウダメダ。


  ヤグチハココマデダヨ。


  カオリ、ナッチ、ユーチャン、ミンナ……ゴメン。



心の中が真っ暗になる……寸前、


「え……?」


一条の光が暗闇を突き抜けた。


地面の水滴が、止まった。

41 名前:黄泉がえり3 投稿日:2009/02/23(月) 03:11

「……あ、れ?」

さっきまで留まることなく流れていた涙が止まっていた。

そして矢口は一条の光を、自分の中に見つけた。


『矢口』がいた。


消えたと思ったら、ちゃんと矢口の中にいた。

(あぁ、そうか)

『矢口』は言ってたもんね。


(心は、一緒だってさ)


そうだったね。

見えなくても、聞こえなくても



私とあなた、2人で1人。



(もう終わらせる。全部……全部!!)


もう昔には戻れない。

そんなこと、とっくにわかってしまっていたことだ。


(行こう)

私は目の前に向かって駆けた。
42 名前:黄泉がえり3 投稿日:2009/02/23(月) 03:13

夢を見た。

小さな女の子が戦っていた。

2人組の女の子と戦っていた。

目に見えない力を一杯に振り絞って。

まずは1人が倒れた。仲間を庇ったのだろうか、
無抵抗のまま彼女は動かなくなった。

そしてもう1人も倒れた。

動かなくなった仲間を見て怒りのまま攻撃して、
反撃を食らって動かなくなった。

小さな女の子は泣いていた。

罪の重さか、それとも大事な何かを無くしてしまったのかは、
定かではない。

やがて小さな女の子は泣き止み、
現れた3人目の女の子に向かって突っ込んでいった。

耳を劈く叫び声、揺れる大気、『力』が2人を囲って……。





「矢口!!」


夢が終わり、現実が目を覚ました。


目を開けると見慣れない天井があった。

43 名前:黄泉がえり3 投稿日:2009/02/23(月) 03:15
「……さん、安倍さん。どうかしましたか?」


「え、ううん? なんでもないよ」

……

「ぼーっとしてましたが? 何を考えていたのですか?」

「あー、さっき寝てたときにね、変な夢を見たんだ。
何か大きな、運命が決まってしまうような、夢を」

……

……

「安倍さんは意外とロマンチストですね。小説家にでもなったらどうですか?
最近ではケータイ小説なるものが流行っているらしいですよ?」


……この子に何をどういったらいいのかもうわからない。



ただ、それは置いといて、さっきの夢は……なんだったのだろう?


(矢口、カオリ……)


心の奥で、ぽつりと親友の名前をつぶやいた。
44 名前:タケ 投稿日:2009/02/23(月) 03:23
更新終了です。

久しぶりに更新できてほっとしています……。

更新ごとに書き方が変わるのは
ストックを溜めてないとか更新ごとに書いてるとかそんなモンですorz

次回もなるべく早く更新したいと思います。

では。

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