彼女達の事。
- 1 名前:メン後 投稿日:2008/10/04(土) 19:46
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ベリキュー学園モノ。
菅谷さん中心といいつつベリは全員。
矢島さんと梅田さんも出てくる。
そんな話書きます。
基本菅谷さんと嗣永さんです。
知ってる方も初めての方もよろしくお願いします。
- 2 名前:メン後 投稿日:2008/10/04(土) 19:46
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- 3 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:47
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- 4 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:47
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「わお、美少女。」
それが最初に見た感想で。
思わず声に出ていて佐紀ちゃんに苦笑された。
写真だけでも今年の中等部のミスコンは決定したなと思った瞬間だった。
- 5 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:47
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―ミスコンの彼女―
- 6 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:48
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桃子の学校は文化祭が割りと早い時期にある。
夏休み明けの九月半ば、準備は夏休み中に済ませておかなければならない。
そのため実行委員に選ばれた者の夏休みはないに等しく。
従ってなりたがる者も余りいない。
面倒くさいものが嫌いな桃子も勿論なりたくなかった。
「暑いー……。」
「我慢してよ、夏なんだから。」
がら空きの窓から蝉の声が盛大に聞こえるのに風はちっとも入ってこない。
規模だけは大きい私立の小中高一貫校。それが桃子の学校だ。
「大体さー、なんでこうも都合よくクーラーが壊れるわけ。」
「しょうがないでしょ、うちの学校古いし。」
「もー、佐紀ちゃんはさっきからそれしか言わない。」
「ももが同じことしか言わないからだよ。」
桃子の言葉に佐紀が肩を竦める。
ただ机でだれているだけの桃子と違い佐紀の目と手は先ほどから忙しなく動いている。
その様子はまさに実行委員長。
そう桃子がここに居るのも全てはこの実行委員長のせいだった。
- 7 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:48
-
「佐紀ちゃんが指名するのが悪いー。」
「だってそうでもしなきゃ、もも働かないじゃん。」
毎年集まりの悪いこの委員会は一人だけ委員長からの指名が許される。
その制度で真っ先に名前を挙げられたのが桃子だった。
拒否することも出来る。
出来るが桃子は委員会も部活もしていなかった。
そんな明らかに暇人な桃子が断れるほど周りの目は甘くなかった。
小学校から一緒の佐紀には桃子の性格が良くわかっている。
桃子を働かせるための佐紀の英断だった。
「ていうか、その書類早く。確認もしなきゃなんないし。」
「はーい……。」
佐紀が一端手を止めて桃子が顔の下敷きにしている書類を指差す。
桃子が頼まれた仕事である。
学年順に並べて名前とクラスだけを書き写す。
それだけの作業。
桃子は暑さのせいにしてちっとも進めていない。
- 8 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:49
-
「なんで文化祭は中高一緒なんだろうね?」
「さぁ、規模が大きい方が楽しいからじゃない。」
体を机から引き剥がし、シャープペンを右手に持つ。
高等部と中等部を分けて名前を書いていく。
ミスコンの応募書類だけあってクラスと量はバラバラだ。
極端に多いクラスもあれば、少ない所もある。
そうは言ってもミスコンに応募する人など余りいなく、数は中高合わせて五十程度だ。
あ、この子可愛いとか思いながら桃子は書類を捲る。
「その分もぉ達が大変じゃん。」
「大変なのはももじゃなくてあたし。そういう事言いたいならもっと働く。」
桃子の愚痴に佐紀が厳しい突込みを入れた。
もっともなことを言われて桃子は言葉に詰まる。
「はーい。」と小さく返事をするしか方法はなかった。
自薦他薦を問わないミスコンは応募受付の後、参加確認が待っている。
他薦の中には当然出たくないという人もいる為だ。
その作業は佐紀が行うことになるのでこうやって書類を書き写すだけの桃子より余程忙しい。
- 9 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:49
-
―委員長は大変だねぇ。
自分だったら絶対に就きたくない役職だ。
夏休み前に行われる体育祭までは全て三年生主導で行われる。
だが文化祭から受験の関係で二年生が行事を取り仕切ることになる。
その最初の重大事に佐紀が選ばれたわけだ。
そういう背景が分かっていたから桃子だって強く断れなかった。
佐紀の気心が知れた相手がいた方が良いだろうから。
「あ。」
しかし他人事には変わらない。
そう思っていた桃子の手が最後の書類を取り出す。
運命の書類。
あとからそう思えるほどになる、今はただの紙切れを。
それを片手に桃子は惚けた声を出していた。
- 10 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:49
-
「うん?どうかした?」
突然動きを止めた桃子に佐紀は訝しげに首を傾げる。
佐紀の声に桃子は持っていた書類を佐紀の方に向け。
ただ一言こう言い放った。
「すっごい、美少女。」
ミスコンの書類には当然写真が添付される。
佐紀の方に向けられた書類にはそっぽを向いた一人の少女の写真があった。
斜めから撮られたそれは所為隠し撮りという奴なのだろうか。
正面からではない。顔が全部映っているわけでもない。
ましてや笑顔でもない。
しかしそこにいたのは確かな美少女だった。
「菅谷、梨沙子?」
写真から視線を少しスライドさせてその隣の名前へと移す。
クラスは2−E、制服からして中等部の生徒だった。
桃子は佐紀に見せていた書類を自分の方へ回転させ戻す。
先ほどまでのやる気の無い様子とは正反対に熱い視線で書類を見始める。
その様子に佐紀は苦笑した。
- 11 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:50
-
「なに、興味あるの?」
「だってこの子がミスコンに出るんだよ。面白そうじゃない?」
「まぁ、確かに……。」
菅谷梨沙子。
名前しか知らない彼女。
これだけの美少女なのに自薦他薦の欄には他薦の文字があった。
桃子がこの子に会いたいがために佐紀に「やっぱもぉも参加確認手伝う!」と言うのはあと少し先。
その輝く瞳に佐紀が再び苦笑したのは言うまでも無かった。
- 12 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:50
-
―そして夏休みが明けた。
- 13 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:50
-
「あたし、出ません。」
文化祭までもう時間が無い。
ミスコンの参加確認は夏休み明けその日から始められた。
朝や昼を使い、掃除の時間まで特別に免除してもらい。
やっとの放課後、桃子が目当てとする彼女にたどり着く。
ミスコンの説明をして最初の一言は思いも寄らないものだった。
「え?なんで?」
「興味、ないですし……人前に出るの、苦手なんです。」
写真以外で見た菅谷梨沙子の印象。
正しく第一印象はやはり美少女だった。
写真で見たのと余り変わらない、顔に雰囲気。
呼び出されたのが嫌なのか表情は無に近い。
無に近い顔がミスコンの話になってさらに嫌そうに歪められた。
つんとした顔さえ似合っていると桃子はぼんやりと思う。
- 14 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:51
-
「できるだけ出て欲しいんだよね。他薦てことはあなたが出るのを楽しみにしている人もいるわけだし……。」
「そうそう、梨沙子ちゃんが出てくれたら絶対優勝だしっ。」
「そう言われても。」
ふるふると顔を振られる。
意思は固いようだ。
佐紀と桃子はどうしようかと一瞬顔を見合わせる。
佐紀は行事を盛り上げるためにも出てもらいたい。
桃子は梨沙子ともっと関わるために出て欲しい。
あの書類一枚でやる気を出した桃子は上手いことミスコン担当に収まっていた。
会場での参加者への説明など関わる場面は増える。
そういった私事を抜かしても、桃子もミスコン担当となったからには盛り上げたかった。
二人の間で梨沙子が出れば優勝というのは共通した認識だったのだ。
「じゃあ、保留って事で!明日また来るから。」
「ちょっ、困ります。」
「大丈夫!困ることないし。」
- 15 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:51
-
しょうがないかと佐紀が口を開こうとした瞬間。
桃子は佐紀の言葉を遮り、そう言った。
桃子の発言に梨沙子は驚いたように声を上げる。
しかし桃子はそんな言葉など聞こえなかったように声をかけ切り上げる。
じゃ!と手を挙げ、桃子は佐紀を引っ張ってその場を去る。
最後に佐紀が見た梨沙子はただ呆然としていた。
「もも、あんな強引に来ちゃって良かったの?」
梨沙子のいる階を離れた所で腕を引いていた桃子の手が離れる。
心配そうに佐紀が桃子に声をかける。
佐紀とて梨沙子には出て欲しいが、本人の意思が何より優先させるべきものだ。
無理やり出させて嫌な想いなどしてもらいたくない。
「いいの、りーちゃんはもぉが懐柔させてみせる!」
そんな佐紀の心配などまるで気にしない風に桃子はそう言い切った。
固く握り締められた拳は桃子のやる気を示している。
こうなった桃子が止まらないのも佐紀の良く知るところである。
- 16 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:52
-
「りーちゃん?」
懐柔なんて言葉を桃子が知っていることに驚く。
驚いたがそれより“りーちゃん”という危機になれない単語の方が気になった。
思わずそれを繰り返し、次の瞬間には後悔していた。
「もぉが決めた呼び名、可愛いでしょ?」
ニコッと笑い顔を緩める桃子は客観的に見れば可愛かったのだろう。
桃子の本質を知らない者から見れば。
残念ながら桃子のことをいやと言うほど知っている佐紀にとって、それはまるで違うもの。
ギラギラと欲望に光る怖い笑みだった。
- 17 名前:―ミスコンの彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:52
-
―菅谷さん、大変だね。これは。
桃子は面倒くさがりだ。
だがそれ以上に自分が興味を持ったものには偏執的にこだわる。
これからのことを考えると少し梨沙子がかわいそうに思えた。
―ま、ももがやるって言ったからミスコンは心配ないかな。
梨沙子のことは可愛そうだが佐紀は自分の仕事が減ることを喜んでいた。
桃子はやる気さえあれば大抵のことはこなしてしまうから。
それに。
何だかんだでよい方向に持っていく桃子だから。
きっと大丈夫だろうと楽観的に考えた。
文化祭まであと三週間を切っていた。
―ミスコンの彼女―終
- 18 名前:メン後 投稿日:2008/10/04(土) 19:53
-
- 19 名前:メン後 投稿日:2008/10/04(土) 19:55
-
こんな雰囲気で進みます。
短編連作です。
ということで、もう1つ。
菅谷さん側です。
- 20 名前:メン後 投稿日:2008/10/04(土) 19:55
-
- 21 名前:―教室の彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:57
-
ミスコンなんて意味が無い。
あたしが欲しいのは皆の評価じゃなくて。
たった一人の視線だったから。
- 22 名前:―教室の彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:57
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―教室の彼女―
- 23 名前:―教室の彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:57
-
「先輩たちなんだって?」
「……ミスコンに出ろって。」
騒がしかった二人の先輩が帰って。
梨沙子は不機嫌な顔のまま教室に戻る。
後ろの席の愛理に梨沙子は椅子を引きながら答えた。
がらがらと喧しい音が放課後静かな教室に響く。
ちょっと心配そうな顔は梨沙子がこれまでも何回か呼び出されたことがあるからに違いない。
梨沙子の答えに愛理はあからさまにほっとした表情を浮かべる。
胸の前で握られていた拳がゆっくりと開かれる。
「ミスコン?凄いじゃん、梨沙子応募してなかったから他薦ってことでしょ。」
ぱっと咲いた笑顔は一転して明るい。
愛理の興奮した声が大きく聞こえる。
それは優しくなり始めた夕方の日差しが差し込む教室と対照的だった。
- 24 名前:―教室の彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:57
-
「似たようなこと言ってた。」
梨沙子は変わらない不機嫌さで呟く。
その様子に愛理は首をかしげた。
まさかという思いと共に恐る恐る尋ねる。
「……出ないの?」
「出ない。」
椅子に座ったまま、梨沙子はじっと一点を見つめ動かない。
パタリと片足だけが音を立てた。
愛理の席から見える横顔はどこまでも硬質だ。
その意思を変えることなど不可能なことに思える。
- 25 名前:―教室の彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:58
-
―梨沙子、頑固だからなぁ。
小中高とあるこの学校で梨沙子と愛理が同じクラスになったのは去年が初めてだ。
それまでは話をしたことも余り無かった。
噂で可愛い子がいると聞く程度の関係。
しかし同じクラスになってみると想像以上に気が合って。
一年も待たずに梨沙子と愛理は親友という位置についていた。
「出たらいいのに。」
思わずその単語が出る。
ミスコンに出ないなんてもったいなさ過ぎる。
梨沙子が出れば間違いなく優勝だ。少なくとも愛理はそう思っている。
ミスコンは中高ともに三年生と一度優勝した人が除外される。
挑戦できる期間は意外と短い。
自分のことにとんと無頓着なこの親友には丁度よい機会だと思った。
- 26 名前:―教室の彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:58
-
「出たくない。興味ないし、意味もないから。」
「意味って。」
愛理の机に肘をつき、梨沙子がムッとした顔で言う。
はぁと漏れた溜息はきっとそのまま本心なのだろう。
突き出された唇が可愛かった。
梨沙子の言葉に愛理は苦笑するしか出来ない。
ミスコンに意味を求める人などそんなにいない。
当然一番になりたいとかそういったものを求める人はいるだろうけど。
梨沙子が言っているのがそういうものではない事も愛理は知っていた。
「……夏焼先輩?」
僅かに首をかしげて梨沙子の様子を伺う。
ぴくりと小さく、しかしはっきりと梨沙子は反応した。
やっぱりと愛理は一人納得する。
- 27 名前:―教室の彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:58
-
頬杖から更に姿勢が低くなって、腕に顔を埋めるような体勢になる。
横になった顔にさらりと斜光に赤く見える髪がかかった。
黙り込む梨沙子の姿は夕暮れに染まり始めた教室によく映える。
まるで一枚の絵みたいだと愛理は思った。
題は青春なんてどうだろうと頭の片隅で考える。
静かな空間が二人の間に広がる。
「梨沙子がミスコンに出るなら、夏焼先輩も見に来ると思うよ。」
「来ないよ。みやは。」
一拍置いて愛理は梨沙子を宥めるように言った。
それに間髪置かず梨沙子が返す。
ばっさりと一言で否定された愛理はまたもや苦笑するしか出来ない。
今は良く見えない表情はきっと拗ねているのだろう。
夏焼先輩、みや――雅が関わったときの梨沙子の反応を愛理は身近に見てきた。
- 28 名前:―教室の彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:59
-
「あたしのことなんて……興味ないんだから。」
そっと梨沙子の瞳が閉じられる。
気にしていない風を装っていながら寂しげな声に聞こえた。
いや、実際寂しいのだろう。
梨沙子が雅をどれだけ好きなのかを愛理は知っているから。
それ以外の音に聞こえなかった。
「そんなこと、無いと思うけど。」
「あるよ。」
梨沙子の余りにも頑なな様子に困って首を傾げる。
机の上に組んだ腕に突っ伏したまま梨沙子は動かない。
愛理を、周りの世界を拒否するその姿が嫌で。
行儀が悪いと思いつつ残りの少ないスペースで同じ姿勢になる。
近くなった梨沙子の体温を感じながら愛理も目を閉じる。
その方が穏やかに話すことが出来るように思えた。
- 29 名前:―教室の彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:59
-
「出てみたら?わたしは、梨沙子が出てるの見たい。」
たとえ雅が興味を持たなくても。ミスコンを見にさえ来なくても。
愛理は壇上で輝く梨沙子が見たかった。
実際はきっと仮定さえ成り立たない。
余り接した事のない愛理でさえ雅が梨沙子を気にしているのはよく分かる。
ミスコンに出たら間違いなく見に来るだろう。
「……人前、苦手なの知ってるでしょ。」
「うん、知ってるけど、でも見たい。」
数秒置いて梨沙子の声が聞こえた。
戸惑っているような、困ったような、苦笑いが含まれた声音。
穏やかな低音から紡がれる声が耳に心地よい。
梨沙子が一度懐を許した相手には甘いことを愛理は知っている。
愛理だからこその、戸惑い。愛理への特別。
それが嬉しくて仕方なかった。
- 30 名前:―教室の彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 19:59
-
―ズルイなぁ。
表情は見えない。
見えないが愛理には梨沙子が今どんな顔をしているか容易に想像できた。
ちょっと眉を下げた情けない顔。そんな顔をしているのだろう。
冷たく見えてしまう彼女のそういう、感情が見える表情が愛理は好きである。
「わかった。明日まで考えてみる。」
梨沙子が顔を上げる。
それに合わせて愛理も顔を上げた。
目の前に梨沙子の顔があって、その距離に少し驚く。
「いいの?」
「いいよ、どうせ明日もあの先輩達来るって言ってたし。」
- 31 名前:―教室の彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 20:00
-
「無理にでも出されそうだったから。」と梨沙子は小さく溜息を吐く。
面倒くさいなぁと言外に言っていた。
くしゃりと音がしそうなほど一度髪を握り、席を立つ。
机の脇に掛けてある通学鞄を取った。
「あたし、そろそろ帰るけど。愛理は?」
「帰ろうかな。」
ちらりと外を見ると眩しいくらいの赤に染まっていた。
すぐに日は落ちて暗くなるだろう。
そうなると一人で帰るにはちょっと怖い。
「ん。じゃあ、途中まで一緒に帰ろ。」
緩やかな笑顔で誘われる。
愛理がその誘いを断るはずもなく、というかその為に今帰るわけで。
梨沙子は愛理の準備が終わるまで穏やかに待っていてくれた。
出来る限り急いで鞄を持って隣に並ぶ。
ごめんと小さく頭を下げれば、いいよと頭を振られた。
- 32 名前:―教室の彼女― 投稿日:2008/10/04(土) 20:00
-
「よし、行こ。どっか寄る?」
「あー、わたし今日ちょっとダメかも。」
「また習い事?大変だねぇ、愛理も。」
あははと笑う。梨沙子は少し呆れ顔だ。
梨沙子と仲良くなるまでは放課後なんて用が無かった。
こうやって学生っぽいことができるのは、きっと梨沙子のおかげ。
初めて家より優先させたいことができたから。
「梨沙子、大好き。」
「あたしも好きだよ。」
笑顔で言い合う。
そのやり取りに恋は含まれない。
初めて得た楽しい時間。それが愛理はただ大切だった。
今は友情がほとんどだけど、愛理はそこに何かが加わってきている気がした。
―教室の彼女―終
- 33 名前:メン後 投稿日:2008/10/04(土) 20:01
-
- 34 名前:メン後 投稿日:2008/10/04(土) 20:02
-
以上です。
週一更新を目指して頑張ります。
ですが予定は未定な部分が大きいです。
では暫くお付き合い下さい。
- 35 名前:メン後 投稿日:2008/10/04(土) 20:02
-
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/04(土) 20:36
- 面白そう!
りーちゃん絡み大好物なので続き楽しみに待ってます
- 37 名前:麻人 投稿日:2008/10/04(土) 21:07
-
おー!新シリーズ待ってましたw
また日々の楽しみが増えましたよ♪♪
りしゃももだし、りしゃみやだし、りしゃあいりの予感も!w
更新を心待ちにしてまっす!頑張ってください♪
- 38 名前:名無し飼育 投稿日:2008/10/05(日) 00:50
- ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン
りしゃこりしゃこ!りしゃもも!りしゃあいり!りしゃみや!!
大好物です!!!!
- 39 名前:名無し 投稿日:2008/10/05(日) 02:20
- ℃のあと2人がどう絡むのかもすごく楽しみ
- 40 名前:YOU 投稿日:2008/10/05(日) 18:57
- 新シリーズいよいよ来ましたか〜!!!!
これからはこっちのシリーズの更新も楽しみにしながら待っていますよ。
- 41 名前:メン後 投稿日:2008/10/09(木) 20:30
-
週末更新できなさそうな予感です。
なので今のうちに載せときます。
ストックがあるうちはテンポよくいきたいと思いますw
36<<名無飼育さん
ありがとうございます。
ほぼりーちゃん絡みしか書けない作者です(エ
その面白さが続くように頑張ります。
37<<麻人さん
新シリーズお待たせしました。
またもや学園モノですんません。
期待に応えられるように頑張ります。
38<<名無し飼育さん
ハァーンありがとうございますっ。
りしゃこりしゃこです!!w
満腹になるまでお楽しみ下さい。
39<<名無しさん
あの二人は普通にやじやじうめうめします。
理由は自分が嵌ったからですw
互いの話が少しずつリンクするようになるのが理想です。
40<<YOUさん
お待たせしました。
まもたもや、なシリーズです。
期待に応えられるように頑張ります。
- 42 名前:メン後 投稿日:2008/10/09(木) 20:31
-
- 43 名前:―運動部の彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:32
-
部活帰り、たまたま見つけた顔は知り合いで。
梨沙子の友達。
梨沙子の話の中に一番良く出てくる女の子だった。
- 44 名前:―運動部の彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:32
-
―運動部の彼女―
- 45 名前:―運動部の彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:33
-
「あれ、愛理ちゃん、だっけ?」
「あ、夏焼先輩。こんにちは。」
会ったのは本当にたまたまだった。
愛理は下駄箱で忘れ物を取りに行った梨沙子を待っていた。
一人きりの下駄箱は少し寂しい。
響いた音に顔を向ければ、それこにいたのは雅で。
知ってはいるがそこまで仲の良くない二人は無難に挨拶を交わす。
「部活、今日は早いんですね。」
「そうかな?大会なければいつもこんなんだけど。」
スパイクの土を払って下足箱から袋を出す。
愛理はそれを横目で見ていた。
ちらりと時計を見れば、まだ早い。
愛理は梨沙子と一緒に美術部に所属している。
帰宅時間はそれ程遅くはない。
ましてや運動部に所属している雅と会ったことなど今までなかった。
- 46 名前:―運動部の彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:33
-
―カッコいい人だなぁ。
思わず心の中でそう思う。
会うたびに思うのだが、また思った。
すらっとした肢体も少し茶色い長髪も全て雅に似合っている。
「梨沙子待ってるの?」
「はい、忘れ物して取りに行ったんで。」
スパイクを完全にしまい雅が愛理の目の前に立った。
ばちりと目が合ってしまい、一瞬言葉に困る。
べらべらと話せるほどの仲ではない。
むしろ梨沙子がいない場面でこうやって話すことは始めてかもしれなかった。
「そっか。」と雅が返事をすれば話題は尽きてしまう。
困ったような静寂が二人の間を覆った。
- 47 名前:―運動部の彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:34
-
「じゃ、うち、帰るね。」
右を見て、左を見て、もう一度右を見た時、雅がそう言った。
俯いている愛理に雅の表情は見えない。
だけど先輩の方からそう言ってもらえると愛理も気が楽だ。
向こうも困ってるし、丁度いいやと愛理は思った。
「梨沙子によろしく。」
バイバイと軽く手を振って雅は普通の通学靴に履き替え行こうとする。
その背を見て。
梨沙子によろしくという言葉を聞いて。
愛理は言わなければならない事があったのを思い出す。
あの雅を気にしすぎる親友の為に愛理は言わなければならない。
「先輩!」
「ん?どうかした?」
最早出口を出ようとしていた雅との距離を詰めるため上履きで行けるギリギリまで寄る。
愛理の声に雅はすぐに振り返った。
まさか呼び止められるとは思っていなかったらしく。
その表情はとても不思議そうだった。
- 48 名前:―運動部の彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:34
-
「あの、梨沙子のことなんですけど……。」
「梨沙子のこと?」
心当たりが無いのだろう、雅が首を傾げる。
もちろんそれは愛理にだってわかっていた。
雅には自覚が無い。
そんなこと梨沙子から聞かされた話で十分に理解している。
「今日みたいな時、梨沙子と一緒に帰ってあげてくれませんか?」
「へ?」
手を握ったり開いたり、出た声も僅かに掠れている。
自分のことじゃないのに妙に緊張している自分に愛理は気づいた。
むしろ自分の事だったらここまで緊張しなかったに違いない。
梨沙子のことだから。
頑固なくせに繊細で泣き虫な大切な親友のことだから。
こんなに緊張しているのだと思った。
- 49 名前:―運動部の彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:34
-
「……。」
「……あー。」
先程より気まずい空気が流れる。
愛理の言葉に雅は上手く返すことが出来ない。
言いよどんでいるのは何故なのか。
困っているだけなのか、恥かしいのか。
見える表情だけで判断するのは難しすぎた。
―良いよって、言ってください。
心の中で祈る。
愛理は梨沙子のことが好きである。
梨沙子の助けになることならしたいし、助けたい。
今、雅が頷いてくれたら。
それはきっとここ暫くないくらいの嬉しいニュースになるに違いない。
頷いてくれると、思っていた。
良いよと言ってくれると思っていた。
雅は梨沙子の幼馴染だ。昔から一緒に過ごしてきた。
だからか雅は自然と梨沙子を気に掛けていたし、梨沙子は雅のことが大好きだった。
それを知っていたから愛理は断られるという可能性を考えていなかったのだ。
- 50 名前:―運動部の彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:35
-
「えーと……ごめん、一緒には帰れないんだ。」
言葉を探して、それでも見つからなかったという風に雅は言った。
直球なそのこ言葉は逆に雅らしかった。
そしてこういう真っ直ぐな所に惹かれたんだろうなぁと親友の思考をトレースする。
誠実な言葉は確かに心地いい。
だがその内容は愛理にとって決して一言で済まされるものではなかった。
「何でって、聞いていいですか?」
真っ直ぐに真っ直ぐに、雅に負けないように愛理は前を見る。
きっと険しい顔になっていた。
自分でも眉間に皺が寄ることが分かったくらいだ。
それくらい、愛理にとって梨沙子は大事だった。
「約束、あるから。梨沙子も知ってるよ。」
困惑した顔で雅が前髪を掻き揚げた。
さらさらと零れ落ちる髪は夕日に透けて赤に近い茶色。
その様子はとても様になっていて。
こんな時でも格好良く見える自分が愛理は悔しかった。
- 51 名前:―運動部の彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:35
-
―梨沙子も知ってる?
雅が帰れない理由。
しかも梨沙子を差し置いて帰れない理由。
そんなもの、きっと一つしかない。
そしてそれこそ梨沙子が一番嫌がるものに違いない。
「梨沙子、知ってるんですか……?」
唇が震えた。
梨沙子が知っている。
雅と一緒に帰れない理由を梨沙子は既に知っている。
それは婉曲的にでも梨沙子の失恋を意味していた。
梨沙子は、好きだったのだ。
本気で好きだったのだ。梨沙子は。
雅のことが好きで、幼馴染から変わりたいと願っていた。
恋に輝く笑顔を見るのが愛理はとても好きだった。
- 52 名前:―運動部の彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:35
-
「うん、知ってるよ。ていうか、同じこと聞くなんて本当に仲いいんだね。」
いつもなら嬉々として頷いた言葉もただ流れていく。
くすりと小さく笑った雅の声だけが空間に響いた。
それと同時に寂しげに笑う梨沙子の顔が浮かぶ。
同じように聞いて。
いや、自分なんかより勇気を振り絞って聞いて。
それが断られて、失恋して。
でも雅にそれを悟らせることはできなくて。
誤魔化すように笑う、寂しい顔が愛理には見えた。
―わたし、しらない。
愛理は知らなかった。
いつもなら一番に雅のことを話してくるのに。
愛理は知らなかった。
親友の長かった恋の喪失を。
梨沙子は愛理に教えてくれなかった。
- 53 名前:―運動部の彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:36
-
「それじゃ、うちは今度こそ帰るね。」
バイバイと再び手が振られる。
茫然自失であった愛理はぼんやりとその言葉に頷いた。
ただもしもの可能性に掛けて、愛理は鎌を掛ける。
「先輩、恋人さんと仲良く、してください。」
「ありがと。」
途切れ途切れにしか言葉が出ない。
にっこりと笑って返す雅の顔は綺麗だった。
梨沙子と同じ幸せな恋をしている顔だった。
―梨沙子。
誰もいない、雅の帰った廊下で愛理は一人目を瞑る。
教えてくれなかった親友に。
一人で泣いただろう親友に。
黙祷を捧げるかのように、愛理は梨沙子の来ない廊下に佇んでいた。
―運動部の彼女―終
- 54 名前:メン後 投稿日:2008/10/09(木) 20:37
-
- 55 名前:メン後 投稿日:2008/10/09(木) 20:39
-
りしゃみや喪失。
りしゃももになるための、試練みたいなものだと思います。
そんなこと言っても結局りしゃみや絡むんですけど。
なぜならそれがりーちゃんにとってのりしゃみやだからです。
続いて、皆さんが気にしているあの二人ですw
- 56 名前:メン後 投稿日:2008/10/09(木) 20:39
-
- 57 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:41
-
「えりって、声高いんだね。」
「あー、うん。そうかも。」
「いいね、声、可愛い。」
そんな会話が酷く不思議な感じがした
- 58 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:41
-
―不良な彼女―
- 59 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:41
-
給水塔に寄りかかる。
見上げた空はどこまでも青く爽やかだった。
それがどこか彼女を連想させて、えりかは顔を下げる。
屋上から景色をみることは金を払わず一番遠くまで見る方法だ。
柵の近くに寄れないのは高い所が怖いからに他ならない。
それなのに、なぜ屋上に居るかというとただの気分転換だった。
―合唱ねぇ……。
高校生にもなって面倒くさい。
元々人に合わせるとか、人と一緒に何かをするのが好きじゃなかった。
いつの間にかテンポがずれてしまう。そして自分にはそれを直す気がない。
どうしようもないなと思う。
そのままぼんやりと一人過ごしていたら、中学を卒業する頃には不良と呼ばれていた。
- 60 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:42
-
「ま、間違いでもないけどさ。」
右手に持っているのはタバコだ。
鬱陶しい合唱の時間を終えて、一服しようと思っていたのだ。
えりかは自分の手に収まる長方形の箱に目を落とす。
幸い大人っぽい容姿であった為タバコを買うのに怪しまれたことはない。
とは言っても、買ったのはこの一箱だけだ。
吸うのは精々一週間に一本、気分が乗らなければ一ヶ月に一本のときもある。
その為一年ほど前に買ったこの箱にもまだ数本の余裕がある。
「…………。」
いつもならとっくに箱から取り出し、火をつけ、吸い始めている。
下手すれば吸い終っている頃かもしれない。
それなのにえりかの手は動かなかった。
ひたすら箱を見つめる。
箱の青と空の青は同じ青のはずなのに全てが違った。
- 61 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:42
-
『えりの声、可愛い。』
リフレインする声に溜息を吐く。
バカだなぁと自分に呆れた。
あんな一言、彼女にとってはなんでもない。
気まぐれのようなものだ。深い意味はない。
そう分かっているのにえりかはどうしてもタバコを吸う気にならなかった。
「舞美の、気まぐれじゃん。」
矢島舞美という少女は屈託なく笑う。
それと同時に意味なく褒めるし、無理なく人に好かれる。
まるでえりかと対極にいるような存在だった。
クラスの誰もがえりかのことを不良と遠巻きにするのに、舞美だけ近づいてくる。
噂など知らないというように、えりかを知りたがる。
そういう少女だった。
- 62 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:43
-
―ギ、キィー、カチャ、バタン
重そうな音が連続してえりかの耳に届く。
誰だろうと微かに首を傾げる。大体のクラスが授業中だ。
抜け出してわざわざここに来る人物など余り居ない。
上履きと屋上のコンクリートがぶつかって、乾いた音を立てる。
段々と近づいてくる足音に目を向けた。
「あっれー?えりかちゃん、何してんの?」
高い声に眉を顰める。
舞美とは似ても似つかない、キーの高い耳につく声。
えりかは重々しく口を開く。
- 63 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:43
-
「……もも、うるさい。」
「ひっどーい、たまに会った友達にその言葉はどうなの?」
冷たく言えば桃子は腰に手を当てて得意のぶりっ子だ。
友達、というより昔馴染み。
今でこそかわい子ぶりっ子しているが桃子も昔は荒れていた。
その証拠に今えりかの前に立っている。
「たまにって……一週間に一回は会ってるじゃん。」
大げさに言う桃子に呆れる。
こんな事を言っているが桃子は隣のクラスだ。
週一である合同授業のたび顔は見るし。
そんな事しなくてもちょっと廊下を歩いて隣に来ればすぐに顔は見られる。
- 64 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:43
-
「もぉはこの頃忙しいから久しぶりな気がしたんですぅー。」
「あー、文化祭の実行委員になったんだっけ。」
座り込んだままのえりかの前に立つ桃子。
その言葉にえりかはそういえばと記憶を探る。
佐紀が言っていたかもしれない。
委員長になったから、桃子を指名委員にすると。
佐紀とは家が近くてえりかが良く話す数少ない人物の一人だった。
「そうそう!しかも、ミスコン担当になったからっ。」
「ミスコンって、また面倒くさい所任せられたね。」
意気揚々と言う桃子にえりかは顔をしかめた。
ミスコン。文化祭の目玉の一つで、最も人が集まる催しだ。
それの担当と考えて自分だったら絶対に嫌だと思う。
気を紛らわすように左手は勝手にタバコの箱を弄っていた。
- 65 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:43
-
「ううん、もぉが立候補したの。」
「へ?」
―面倒くさがりのももが?
えりかは信じられなかった。
桃子は自分の利があることじゃないとしない。
それどころか利があっても面倒くさいとしない。
委員をきちんとこなしているのさえ驚くのに、ましてやミスコン担当に立候補など。
どこかに頭でも打ったのだろうかとちょっと本気で心配した。
「ちょっと、そんな顔しないでよー。ほんとなんだし。」
「え?え?本当にももが自分から立候補したの?」
「うん、他の候補の人には譲ってもらって。」
にっこりと笑って桃子が言う。
その笑顔は見慣れた策を弄するときのそれで。
えりかは何か余程桃子の気を引くものがあったのだろうと予測する。
- 66 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:44
-
「なにが、あったの?」
桃子が何にそこまで興味を持ったのか。
えりかは興味津々という風に桃子を見上げた。
すると逆光の中、見えづらい表情が微かに変化する。
すっと目が細められ、薄い唇が引き上げられた。
「面白そうな子が一人。」
「へぇ、それは。」
―珍しいねぇ。
桃子の興味を引くなんて、運が悪い。
ましてやミスコン担当を引き受けるくらいだ。
その本気度合いは凄まじいだろう。
絶対に落とされるんだろうなとえりかは知らぬその子に少し同情した。
- 67 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:44
-
「そういえば、そっちのクラスの矢島さんだっけ?彼女もミスコンに出るみたいだよ。」
くるりと表情を変え、桃子が言う。
矢島さん、矢島舞美、舞美。
ぴくりと肩が跳ねたのをえりかは感じた。
箱を弄っていた手も動きを止め、ただ真っ直ぐに見る。
そこにいたのは変わらない笑顔の桃子だった。
「舞美が……?」
「確か他薦だね、確認しに行ったし。」
断れなかったのだろうと内心思う。
舞美の周囲を考える性格からするとそうだ。
しかし、もしかしたら出たかったのかもしれない。
その二択が出来ないほどに、えりかと舞美の距離はある。
- 68 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:45
-
「このまま行けば、高等部は矢島さんで決まりだね。」
「他に目立つ人いなかったし。」と桃子が付け足す。
そう言われてえりかは改めて舞美の姿を思い浮かべてみる。
運動のできるすらっとした肢体。陸上部の癖に白い肌。
黒いストレートの髪、同じく輝く黒い瞳。
そして屈託なく笑う薄めの赤い唇。
想像の中でその唇が『えりの声、可愛いよ。』と動く。
瞬間えりかは赤くなった。
―何してんだか。
自分で自分に突っ込みを入れる。
まるで思春期の男子のようじゃないかと考えて。
すぐに馬鹿らしいと頭を振る。
- 69 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:45
-
「あれれー?えりかちゃん、もしかして。」
「あー、あー、あー。違う違う。」
確かに考えてみれば舞美は美少女だった。
人当たりの良い性格は人気の付け足しのようなものだ。
姿だけで舞美は十分に人を魅了できる。
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる桃子に、パタパタと手を振り否定する。
顔が熱かった。
「舞美はただのクラスメートだから。」
「ま、そう言うならいいけど。」
ふーんと少しも信じていなそうに桃子は言った。
その瞳は興味深そうに輝いていて、えりかは少し汗を掻く。
柄じゃないと心の中で苦く笑う。
舞美が関わると今まで見なかった梅田えりかが顔を出す。
- 70 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:45
-
「で、もう少しで授業終わるけど……それ吸わないの?」
桃子の視線がいつまでも弄られる箱に移る。
同時にえりかもその視線を追うように顔を下げた。
吸う気で来た。だけど今は吸う気にならない。
箱を持つ方の手を挙げ桃子に傾ける。
「もも、吸う?」
「もぉはタバコは吸いませんー。この美声が掠れちゃうじゃん。」
「そういや……前もそんなこと、言ってたっけ。」
くすりと小さく笑う。
―美声が掠れる。
そう、その通りだ。タバコの副作用の一つ。
それこそがえりかの手を止めている犯人。
何より舞美の言葉を気にしている証拠だ。
- 71 名前:―不良な彼女― 投稿日:2008/10/09(木) 20:46
-
「んー……なんか、吸う気にならないんだよね。」
だけど桃子にその理由を言えるわけなく言葉を濁す。
えりかはまた箱を弄り出す。仕舞いも吸いもしないその半端な動き。
それは今のえりかの気持ちを何より表しているようだった。
―不良な彼女―終
- 72 名前:メン後 投稿日:2008/10/09(木) 20:46
-
- 73 名前:メン後 投稿日:2008/10/09(木) 20:48
-
両想いって幸せなことだとおもう今日この頃です。
この二人はベリには中々存在しない両想いっぽさを持っていると思います。
片思いに疲れた時はどぞ、この二人を摘んでください。
そういう楽しみ方をするスレですw
- 74 名前:メン後 投稿日:2008/10/09(木) 20:48
-
- 75 名前:YOU 投稿日:2008/10/10(金) 22:42
- 更新お疲れ様です。
「運動部の彼女」では梨沙子はもう失恋していたんですねぇ〜。
りしゃももになるためにはしょうがないですがなんか切ないです。
そして「不良の彼女」は梅さんが不良という設定ですか。
このA人にもかなり注目していま〜す。
また更新待ってます。
- 76 名前:名無し飼育 投稿日:2008/10/10(金) 23:25
- 更新お疲れ様です!!
せつねえええええええええです。・゚・(ノД`)・゚・。
誰にも気づかれずに親友にもバラさずにそっと失恋した・・・
りちゃハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!!!!!!
それに気づいた愛理ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!!!!!
メン後さんのりしゃももとりしゃみやは色んな角度から見れて大好きデス^^
りーちゃん絡みだと桃子が物凄くピュアな感じが好きです♪
- 77 名前:名無し 投稿日:2008/10/19(日) 15:21
- やじうめ大好きなので期待してますw
- 78 名前:メン後 投稿日:2008/10/19(日) 18:07
-
この季節のハロプロは本当に油断できませんorz
微妙に落ち込むつつの更新です。
75<<YOUさん
感想あっとうございます!
自分も切ないですw
でもりしゃもものためと堪えました。
しかしりーちゃんは喜ばないでしょう(爆
やじうめは今まで余り書いたことのない関係性なので。
探りつつ頑張ります!
76<<名無し飼育さん
ハァーンあっとうございます!
切なさの似合う顔をりしゃこはしてますw
りしゃももといいつつ、どちらかと言うとりしゃあいりな感じですた。
同じCPでも妄想の角度が尽きません。
これからもどぞ着いて来てやって下さい。
ピュアな桃子万歳でっす!
77<<名無しさん
やじうめ頑張ります。
が、どうしても出番は少なめです。
それを補うようにやじやじうめうめさせたいと思いますw
- 79 名前:メン後 投稿日:2008/10/19(日) 18:08
-
りしゃもも。
やっとりしゃももスレらしくなりますw
- 80 名前:メン後 投稿日:2008/10/19(日) 18:08
-
- 81 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:09
-
空が高くて。
あー、秋だなって思って。
夏が終わったって思った。
- 82 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:09
-
―放課後の彼女―
- 83 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:09
-
「んーん、サボっちゃおうか。」
そんな一言が出たのは仕方ないと思う。
ここ暫く自分でも珍しいと思うくらい働いた。
文化祭の日程を調整したり、場所の許可を取ったり。
もちろん担当になったミスコンの方も大方上手くいっている。
たった一つの、最重要要素以外は。
―りーちゃん、頑固だし。
はぁと小さく息が漏れる。
非常階段を上りながら桃子は梨沙子のことを考えていた。
梨沙子はミスコンに出るのを結局断った。
あの日の翌日、つまり昨日、今度は桃子だけで梨沙子の教室を訪ねた。
佐紀は委員長として他の仕事が忙しかったし、説き伏せるにしても一人の方が楽だった。
真面目すぎる節がある佐紀は口八丁手八丁には向いていない。
桃子のできるだけの思考を振り絞って説得した。
しかし結果は同じ「出ません。」の一言で。
固かった意志は変わることが無かったのだ。
- 84 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:10
-
残念だ。残念すぎる。
梨沙子が出ないことに対する感想はそれに尽きた。
ミスコンは注目を集める企画だ、文化祭の盛り上がりにも関わってくる。
佐紀のためというのも当然ある。
何かと貧乏くじを引いている友に少しは楽をさせたかった。
だがそれだけのためでもない。
結局は何よりきっと桃子自身のため。
―あの子、空気が違う。
夏の空に吐息は色もなさずに消えていく。
ふと思ったのは梨沙子のことだった。
頑固で難しい、まだ笑顔を見たことない彼女のこと。
桃子が好きになった彼女のこと。
感覚としては一目惚れに近い。
写真で見て、惹かれた。
次に実物を見て更に興味を持った。
あんな子は初めて見た。
- 85 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:10
-
「一目惚れ、ねぇ……。」
はっきり言って柄じゃない。
かわい子ぶりっ子してはいるが、自分の性格が現実的なのを桃子は知っている。
だからこそ女の子らしいものに憧れる部分もあるわけで。
一目惚れなんて、無理だろうなと諦めていた部分だった。
屋上に繋がる非常階段。
そこは余り人が来ない。
屋上自体人が訪れることが少ないのだが、非常階段を使う人物は更に少ない。
桃子はなんとなく非常階段から行くのが好きで。
普通使う通路を通らなかった。
それは偶然というには確実で、必然というには曖昧だった。
- 86 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:10
-
「あ……。」
ぴたり、足が止まる。
もう少しで屋上という最後の踊り場。
桃子はそこにあるはずのない人影を見つける。
思わず漏れた一言に向こうもピクリと反応した。
緩やかに顔が上げられ、視線が触れ合う。
そこにいたのは間違いなく菅谷梨沙子だった。
「……先輩。」
なんでと言いたかった。
梨沙子もなんでと聞きたかったに違いない。
なんでこのタイミングでこの子と会わなければいけないのか。
桃子は神様を恨んだ。
恨むにしては、大して信じてもいなかったのだけれど。
- 87 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:11
-
「どうしたの、こんな場所で。」
「別にどうもしてないですよ。先輩こそ、どうしたんですか?」
「あたしは……。」
ちらりと梨沙子の後ろに続く階段へと目をやる。
あたし、なんて一人称を使うことは酷く久しぶりな気がした。
少なくとも高校に入ってからは一回も言っていなかった。
言っていなかったはずの、一人称。
梨沙子と二人だとそちらの方が自然な気がしてしまう。
桃子の視線に梨沙子は察したのか、あぁと小さく頷いて体を避ける。
「屋上ですか?なら、どうぞ。」
「ありがと。」
開いたスペースに足を進める。
何と言っていいか分からなかった。
梨沙子の横を通り抜けて、屋上に着く。
着いたはいいもののやはり梨沙子が気になって、振り返って見えた背中。
それが余りにも寂しそうに見えて。
桃子はもう一度階段を下りる。
- 88 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:11
-
「一緒に、来ない?」
掛ける言葉なんて考えてなかったし、見つからなかった。
だからその背中にたどり着いて最初に出たのは思いついた言葉。
桃子は梨沙子が気になった。
勘違いかもしれないのに寂しそうな梨沙子を放って置けなくて。
刹那の逡巡の後、声を掛ける。
振り返った梨沙子の顔はとても不思議そうだった。
それが不機嫌そうな顔以外で桃子が初めて貰った梨沙子の表情だ。
そんな事で喜んでしまう自分が少し笑えた。
「なんで、誘ったんですか?」
屋上に再び着いて、最初の言葉はそれだった。
秋も近くになったのに暑い。
そよぐ風に目を細めながら桃子はんーと首を傾げる。
理由なんて分からない。
言えたとしてもその理由に梨沙子が納得することはないだろう。
桃子は遮蔽物の少ないそこの日陰を見つけ座る。
梨沙子は座らずにただ桃子の答えを待っていた。
- 89 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:12
-
「わかんない……なんとなく、かな。」
「なんとなく、ですか。」
「そう、なんとなくりーちゃんと屋上に行きたくなったの。」
ぴんと人差し指を立てて言う。
授業などでも良く見る先生の格好だったが、こうする訳がわかった気がした。
桃子の答えに梨沙子は当然、納得しない。
眉を顰めて昨日も一昨日も見た表情になった。
―笑ったほうが可愛いのに。
もったいないと声に出さずに呟く。
ミスコンの写真も思えば無表情だった。
気難しい子なのかもしれないと今更思った。
- 90 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:12
-
「りーちゃんはなんであんな中途半端な所にいたの?」
日陰から見る空はいつの間にか高い。
ついこの間まで目が痛くなるような鮮やかな青だったのに。
今は透き通るような淡い秋の色に変化していた。
ぴくりと梨沙子が器用に片眉を上げる。
何に反応したのか桃子には判別がつかなかった。
「その“りーちゃん”ってなんですか?」
「あたしが考えたあだ名。可愛いでしょ?」
「可愛い……?まぁ、いいです。」
呆れたような声を出して、諦めたように動く。
屋上の真ん中らへんから桃子の隣に移動する。
埋まらない間隔が少し嫌だった。
- 91 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:12
-
「で、何であんなとこいたの?」
ぐっと体を寄せる。
途端に僅かに梨沙子の眉間に皺が寄ったのを桃子は確り見ていた。
見てはいたが離れる気も更々ない。
やがて梨沙子は諦めたのかはぁと小さくため息を吐いて。
膝を抱えるような体勢のままぼんやりと空を見つめた。
「空が、見たかったんです。」
「空見るの好きなんで。」と直ぐに付け足すように言う。
ぼそりと呟いた言葉は酷く梨沙子に似合っている。
その言葉を証明するように梨沙子が少し上を見上げる。
焦点の合っていない遠い瞳だ。
空を眺める梨沙子はそれだけで違う世界にいるようだった。
これが美少女というものかと変に感心してしまう。
- 92 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:13
-
「でも空見たいなら屋上の方がいいよね?」
「そう……ですね。」
桃子の尤もな言葉に梨沙子は押し黙る。
それを見てちょっと後悔した。
あんまりにも直球過ぎた。
言い方とかもう少しあっただろうと自分に突っ込む。
「いつも、空、見たら元気になるんですけど。」
「うん。」
「今、見たら、泣きそうな気がしたんで。」
「だからあんな半端な所にいたんです。」と梨沙子は誤魔化すように笑いながら言った。
桃子には分からない。
梨沙子が泣きそうな理由も、何でそんな顔をするのかも。
全てが分からなかった。
だから言葉通り泣きそうな表情をしている梨沙子になんて言えば良いのか判断できない。
- 93 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:13
-
「あのさ……。」
近くなった身体は仄かな体温を伝えてくる。
掛けるべき言葉のない桃子はただ身体を寄せるしかできない。
伝わらない想いが温もりになって伝わってくれれば良いと思った。
そんな顔はしないで欲しい。
辛そうな顔は嫌だった。
「あたしは、りーちゃんの泣く理由とか知らないけど。」
「は、い。」
「でも泣きたいときには泣いた方がいいと思う、よ?」
泣きたいときには泣く。
笑いたいときには笑う。
身勝手かもしれないけど、きっとそれが一番幸せなこと。
そんな気がした。
- 94 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:13
-
「そんな事言うと……泣いちゃいますよ?」
「うん。あたしでいいなら、ここにいるし。」
顔だけを梨沙子が桃子の方へ向ける。
その大きな瞳には既に涙が溜まっていた。
今にも零れ落ちそうなそれは、キラキラと光っている。
綺麗過ぎるそれが直視できなくて桃子はそっと前を向く。
「結構、優しいんですね。先輩。」
「結構は余計!あたしは優しいの。」
にこり笑った梨沙子に胸がときめいた。
トクンと胸が躍るのを桃子は感じる。
一気に体温が二、三度上がった気分だ。
ぽろりと一粒落ちた涙は梨沙子の強がりの証なのだろう。
- 95 名前:―放課後の彼女― 投稿日:2008/10/19(日) 18:14
-
「…ひっ…く…ふ、ぁ……っ。」
堰を切ったように涙が溢れる。
桃子は何も言わず、ただその背を撫でた。
しゃくり上げるたびに落ちる雫。
キラキラと光を反射する。
場違いに綺麗だと思った。人の悲しさはどこか綺麗だ。
散るように消えていくそれはコンクリートの地面の色を変える。
「もぉはね、りーちゃんが好きだよ。」
「んっ……っく、せん、ぱい?」
「だから一人で泣かないでね。」
純粋に、純粋に桃子はそう思った。
梨沙子が好きだ。好きだから一人にさせたくない。
泣きたいなら泣けばいい。笑いたいなら笑えばいい。
ただ一人というのは悲しいから。
梨沙子に桃子の想いがどう伝わったかは分からない。
だけど、何かが伝わったのだけは確かな屋上だった。
―放課後の彼女―終
- 96 名前:メン後 投稿日:2008/10/19(日) 18:14
-
- 97 名前:メン後 投稿日:2008/10/19(日) 18:16
-
りしゃもも、りしゃももっ!
さり気無い告白がよろしいかと(エ
きっと桃子自身も無意識に近いものだったに違いありません。
そういう妄想ですw
では今日から一本ずつになりそうな予感です。
のんびりとお付き合い下さい。
- 98 名前:メン後 投稿日:2008/10/19(日) 18:16
-
- 99 名前:YOU 投稿日:2008/10/20(月) 00:07
- 更新お疲れ様です。
桃子のさりげない告白にやられちゃいましたよwww
りーちゃんにはどう伝わったのかなぁ〜???
次回もまた更新待ってます。
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/21(火) 00:10
- 桃ちゃんって、したたかな黒桃と優しい甘桃の両方が似合うもんなぁ。
ドロドロに拗れるのに期待してます。
- 101 名前:メン後 投稿日:2008/10/27(月) 07:08
-
絶賛風邪引き中。
喉も痛いし、熱もある……な状態の駄文書きです。
忙しさにストックがめに見えて減っていきますが。
日常の山場は越えたので頑張りますw
99>>YOUさん
ありがとうございます。
さり気無さが使えるのはりしゃももの良い所だと思います。
りしゃみやでさり気無くは使えませんからw
ちょっと遅れ気味の更新ですがよろしくお願いします。
100>>名無飼育さん
白も黒も好きです。
そしてこの話は両方見れる仕様にしたいと思っとります。
ドロドロ……までいくかは分かりませんが。
ある程度ごちゃごちゃはさせたいなぁと。
のんびりお付き合い下さい。
では今日の更新。
ストックがなくなるといいつつ二本です。
- 102 名前:メン後 投稿日:2008/10/27(月) 07:09
-
- 103 名前:―悪戯な彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:10
-
佐紀ちゃんも、みやも、梨沙子も。
それにももも。
なんか全部面白いことになってて。
だからちょっと、ちょっかい出したくなった。
- 104 名前:―悪戯な彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:10
-
―悪戯な彼女―
- 105 名前:―悪戯な彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:11
-
「ねぇ、もも。梨沙子に気があるってほんと?」
「千奈美……どっからそんな話聞いたの?」
はぁと小さく溜息を吐く。
千奈美は友達、というより悪友に近い。
最初は少し荒れていた時期に、次に佐紀を通じて。
佐紀と千奈美は仲が良い。正反対なりに合う所があるのだろう。
少なくとも桃子はそう見ていた。
掃除の時間、周りには多くの先輩がいるというのに千奈美に慌てた様子はない。
その飄々としたマイペースさは凄いと思う。
「佐紀ちゃんがももが興味を持ったって。」
「佐紀ちゃんが?」
「そのおかげでやる気出してくれて助かるって言ってた。」
廊下側の窓枠に肘をつき千奈美がケラケラと笑う。
桃子は少し眉を顰めた。
半ば予想はついていた。
梨沙子のことについてなど漏れる箇所が限られている。
それでも面倒くさい子にばれたと佐紀を恨みたくなった。
- 106 名前:―悪戯な彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:11
-
「でもさー、梨沙子はきついと思うよ?」
「なに、あんた、りーちゃんと知り合い?」
千奈美といるとつい言葉が荒くなる。
知り合った当時の名残みたいなもので。
千奈美といる時はこちらの方が話しやすい。
「もも、こわいよー?」という千奈美の言葉が刺さった。
すぐににっこりと何時もの様に笑ってみせる。
「ウケる!ももってそんなキャラなんだ。」
「うっさい、早く答えて。」
何がおかしいのか、破顔して笑う。
それが少し気に食わなくて、桃子は唇を尖らせた。
千奈美は昔からこうだ。
読めなくて掴めない、なのに憎めない。
ある意味一番対処に困る相手。
- 107 名前:―悪戯な彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:11
-
「知り合い、知り合い。正確には友達の後輩。」
ぱたぱたと軽く手を振りつつ千奈美が答える。
その動作に合わせて出会った頃より伸びた髪が揺れた。
掃除も終わりに近づき、廊下を過ぎる生徒も増えてきた。
千奈美はにっと得意気に笑い少し桃子に向かい身を乗り出す。
ぎしりとサッシが軋んだ。
「梨沙子はね、頑固なんだよ。」
「知ってるよ……そんなこと。」
千奈美に言われるまでもない。
梨沙子は頑固だ。しかも繊細な、頑固。
だからこそあそこまでミスコンに出るのを拒んだんだろうし。
だからこそあの屋上での涙があったと桃子は思う。
桃子の様子に千奈美は首を傾げ。
すぐにぽんと掌に拳を打ちつける一昔前の動きをしてみせた。
- 108 名前:―悪戯な彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:12
-
「あー、仕事断られたんだっけ?」
「それもある。」
ふーんと千奈美が興味無さ気に相槌を打った。
なんだろと桃子は違和感に顔をしかめる。
千奈美のしたいことが分からなくて。
千奈美の言いたいことが分からなくて。
それが途轍もなく不快に思えた。
「じゃあ、ただの一目惚れってわけじゃないんだ?」
「ただの一目惚れって。」
一目惚れにただも、特別もないだろうに。
桃子は苦笑する。
自分の気持ちが特別なのかなど知らない。
知らないが、梨沙子が好きということだけが酷く明確にあった。
- 109 名前:―悪戯な彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:13
-
「あのね、梨沙子はうちも可愛いがってるつもり。」
「へぇ、珍しい。」
唐突に真面目な顔になる千奈美。
桃子はにやりと口角を上げる。
千奈美は人当たりが良い。
だが浅く広くが基本であるのを桃子は知っていた。
だから一人の後輩を可愛がっているという千奈美は凄く珍しいものだったのだ。
「ももに言われたくないし。」
「確かにね、自分でも驚いてる。」
ぷくりと頬を膨らませた千奈美に頷く。
千奈美の言葉は珍しいが桃子の行動も同じくらい珍しかった。
桃子もそれくらい自覚している。
「それは、まぁ、いいんだけど。」
「うん、何を言いに来たの?」
はぁと千奈美が息を吐く。
少し俯いて、次に顔を上げたとき。
その視線は完全に違うものになっていた。
張り詰めた空気が二人の間に漂う。
- 110 名前:―悪戯な彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:13
-
「―――忠告。」
「千奈美が、もぉに?」
小さく頷く動作に、桃子は声を落とした。
困惑の混じった声音に千奈美は酷薄な笑みを浮かべる。
寒気がする笑い方だった。
―久しぶりに見る、この千奈美。
誰にでも荒れている時期というものはあるもので。
桃子と千奈美のその時はたまたま一緒だった。
昔、一緒にいる頃はこの顔を良く見た。
何処か切れている笑顔。
恐らく自分も同じような顔をしていたんだろうと思う。
佐紀と一緒にいるようになってからは余り見なくなった表情だった。
- 111 名前:―悪戯な彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:13
-
「梨沙子、傷つけたら許さないから。」
そんな昔の顔で千奈美が言う。
梨沙子を傷つけたら許さないと言う。
桃子には状況がサッパリ分からなかった。
「は?」
「あたしが今言えるのはそれだけ。」
ふっと元の顔に戻る。
俯く顔は何より優しさが見えた。
ぼそぼそと極端に低くなった声が桃子の耳に届く。
「…やが…傷つけたから。これ以上、梨沙子を悲しませないで。」
「ちょ、千奈美っ。」
聞き取れなかった前半。聞き取れた後半。
どちらも桃子には意味が不明だ。
千奈美は間違いなく何かを知っている。
桃子の知らない梨沙子の何かを知っている。
その何かを知りたくて、桃子は千奈美に手を伸ばした。
- 112 名前:―悪戯な彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:14
-
「千奈美!その逃げ方はずるいっ。」
「言ってるじゃん、あたしは今ここまでしか話せないの。」
伸ばした手はしかし届かない。
千奈美の身の引き方が上手かったのか、ただ単に桃子の速さが足りなかったのか。
するりと風に吹かれるカーテンのようにすり抜けてしまう。
先ほどまでとは逆に窓枠から桃子が身を乗り出す。
それに対する千奈美の顔は既に何時ものものだ。
人をからかって止まないトリックスター。
ともすればさっきの千奈美が幻のようだった。
「あたしが梨沙子を可愛がってるのは本当だし、ももに言ったのもほんと!」
「なら全部話してってよ!」
段々と遠くなる千奈美に大声で叫ぶ。
衆目を集めるが桃子はそれを意識の外に弾いた。
しかし千奈美は緩やかに首を振るだけだった。
- 113 名前:―悪戯な彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:14
-
「ももがもう少し知ったら、教えてあげる。まぁ、あんま遅いとあたしが貰うけど?」
「なっ……。」
にっこりと言い放たれた言葉に桃子は動きを止めた。
その一瞬を千奈美は見逃さない。
あっという間に自分の階へと逃げてしまった。
一人残された桃子はぎりと唇を噛む。
やられたと思った。完全に千奈美の予定調和になっている。
「覚えてなよ、千奈美。」
漏れた言葉は久しく使っていない音程だった。
いずれ必ず全てを聞き出してやると思いながら。
これからのために何時もは使わない頭をフルに回していた。
―悪戯な彼女―終
- 114 名前:メン後 投稿日:2008/10/27(月) 07:15
-
- 115 名前:メン後 投稿日:2008/10/27(月) 07:17
-
マイナーな二人です。
ちーには色々引っ掻き回して貰いましょう。
続いて親友同士。
筆の進む二人です。
- 116 名前:メン後 投稿日:2008/10/27(月) 07:17
-
- 117 名前:―カラオケの彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:18
-
愛理と一緒にカラオケに行った。
久しぶりにマイクを握る。
選んだ曲はどれも悲しいくらい、失恋ソングだった。
- 118 名前:―カラオケの彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:18
-
―カラオケの彼女―
- 119 名前:―カラオケの彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:19
-
「珍しいねー、りーちゃんがカラオケに誘うなんて。」
「うー……そんなに歌いたくなる訳じゃないし、ね。」
店員の人に案内されて中に入る。
二人だけとあって小さい部屋だった。
テレビとソファでほぼ一杯。
机はほんとに飲み物だけを置けるスペースしかなかった。
「えー、もうちょっと行こうよ。カラオケ。」
「愛理は好きだもんね、歌うの。」
梨沙子が先に部屋に入って奥に座る。
愛理はそんな梨沙子にぴたりとくっ付くように座った。
近いよと全然嫌そうじゃない笑顔で言われて。
愛理もいいでしょ?と笑顔で返した。
仄かに伝わる体温がとても心地よい。
- 120 名前:―カラオケの彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:19
-
「で、本当にどうしたの?」
とりあえず歌本を渡す。
ずっしりと重いそれは片手で持つには困難だった。
テレビの脇に備え付けられているリモコンとマイクを持ってくる。
歌本を見る梨沙子の隣で、愛理はリモコンで曲を調べる。
新曲の情報はこっちの方が早いのだ。
梨沙子がページを捲くる音とピッピッという電子音だけが響く。
「歌ったらスッキリするかなぁって。」
カラオケボックスというのは音が溢れているのが常だ。
まだ音楽の流れていない部屋というのは不思議な感じがする。
梨沙子の大きくない声がしんとした部屋に染みて、広がる。
遠くからどこかで聞いた曲がぼんやり流れていた。
- 121 名前:―カラオケの彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:20
-
「あー……夏焼、先輩?」
ぴたりと刹那愛理の指が止まる。
しかしそれも一瞬のことですぐにまた同じように曲を探し始める。
梨沙子は本から顔を上げない。
愛理も上げることが出来なかった。
顔を上げて梨沙子の表情を確認するのが怖かったからだ。
「うん、そう。みや、恋人できたんだって。」
「そっか。」
淡々と言う梨沙子が逆に痛ましい。
雅のことをこんなに簡単に言えるわけがないのだ。
ずっと好きで、ずっと追いかけてきた。
そんな背中なのだから。
愛理が聞いてきた雅の話はどれも熱が篭っていた。
パサと梨沙子がまた一枚紙を捲った。
- 122 名前:―カラオケの彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:20
-
「すっごい、良い笑顔なの。みや。」
「うん。」
声だけは穏やかだった。
だけど愛理はそこに込められた想いが分かるから、頷くしかできない。
梨沙子の手が止まり、声のトーンが変わる。
「……すっごい、良い笑顔で言うんだもん。」
「そんなの祝福するしかないじゃん。」と梨沙子が呟く。
諦めたような、呆れたような響きで。
梨沙子がただ雅について話す。
まるで今まで溜まった分を失くすような勢いだった。
「みや、最後まで気づかなかったなぁ。」
ぽそっと零すように言う。
ちらりと愛理が横を見れば、そこには苦笑いする梨沙子が。
大人びた表情だと思った。
梨沙子は自分と同い年のはずなのに、時々遠くに見える。
愛理はそれが少し羨ましくて、また少し寂しかった。
- 123 名前:―カラオケの彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:20
-
―いつもは子供っぽいのにね。
梨沙子は抜けている。
忘れ物もよくするし、物忘れも激しい。
前日、明日の持ち物確認をすると必ず一つ二つ忘れていて。
愛理はその度にお礼を言われた。
そんな決まりきったやり取りさえ楽しく思える。
愛理はそう感じるほどに梨沙子のことが好きだった。
「いつ、わかったの?」
見つからない曲と言葉。
梨沙子を励ますためにはどうしたらいいのだろう。
どんな言葉をかければいいのか。
どんな曲を歌えばいいのか。
愛理は最善の結果を出すために考える。
- 124 名前:―カラオケの彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:21
-
「今年の大会の後。」
「そんな前?」
「うん。」
運動部の大会は大体夏休みが始まる前後に集中している。
そして雅の大会は確か夏休みが始まって直ぐだった。
梨沙子に連れられて愛理も応援に行ったから良く覚えている。
少なくとも一ヶ月は経っていた。
その間梨沙子は自分にずっと気持ちを隠していたのだ。
悲しくて寂しい事実。
「言ってくれれば、良かったのに。」
口から出たのは拗ねたような言葉だった。
梨沙子の側にいなかった自分が情けない。
変化に気づかなかった自分が悔しい。
何より言ってくれなかったことがショックだった。
- 125 名前:―カラオケの彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:21
-
「だって……愛理心配するじゃん。」
「当たり前だよ。」
雅への盲目さ加減を愛理は知っている。
梨沙子がどれだけ雅を好きだったかずっと隣で見てきたから。
その梨沙子が失恋したのだ。直接振られたわけではないが。
それでも落ち込むのは目に見えている。
あんな悟ったような顔をできるようになるまで、梨沙子は一体何回泣いたのだろう。
胸が痛かった。
愛理は真剣な顔で梨沙子の顔を見る。
しかし梨沙子は顔を上げなかった。
まるで意固地になっているかのように本を見つめる。
「だから、言えなかったんだよ。愛理は心配してくれるから。」
「そんなのっ!友達として当然じゃん。」
思わず声が大きくなる。
梨沙子が悲しいなら、自分も悲しい。
梨沙子が辛いなら、自分も辛い。
そこまで言わなくても梨沙子が悲しいのも辛いのも愛理は嫌だった。
- 126 名前:―カラオケの彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:22
-
「いいの、もう。無理だったんだよ。だってみや……。」
―気づいてもくれないんだもん。
ポツリと零された一言は何より愛理の心を揺さぶる。
なんだか自分の方が泣きたくなってしまった。
じんわりと視界が滲む。
さっきの苦笑いと共に言われた言葉とはまた違う。
怒りが通り越して悲しみになってしまったような、静かな感情が込められていた。
「そんなの、言わなきゃわかんないよ?」
「言ったよ……言っても伝わらなかったんだよ。」
「でも、何回も言えばさ!」
梨沙子はもういいと言っているのに。
本人がもういいと諦めているのに、愛理は何故か諦めるのが嫌だった。
このままじゃいけない。
そんな感情ばかりが覆って、具体策が出てこない。
はぁと小さく梨沙子が息を吐く。
同時にずっと見つめられていた本がパタリと両手で閉じられた。
梨沙子も歌う曲が見つからなかったようだ。
- 127 名前:―カラオケの彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:22
-
「前も言ったじゃん、みやはあたしに興味がないんだって。」
―来ないよ。みやは。
―あたしのことなんて興味ないから。
自嘲するように笑う梨沙子に、映像がフラッシュバックした。
唐突に愛理は理解する。
あの時、なんで梨沙子があんな態度だったのか。
雅のことに触れられたくなかった。それがきっと答え。
「だからミスコン、出たくないんだ?」
「別に関係ないし。」
梨沙子が愛理の手から半ば奪うような形で機械を取る。
そのままピッピと操作し始めた。
尖った唇は図星なのだろう。
- 128 名前:―カラオケの彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:23
-
―変だなぁとは思ったけど……。
これで愛理は納得できた。
梨沙子は基本的に人見知りだし、人前に出るのが好きではない。
それらは全て本当のことだ。しかし雅が関係すれば梨沙子は活動的になる。
正確に言えば雅に褒めてもらえそうなことや見てもらえることだったら。
梨沙子は何時も以上に頑張る。体育祭でも文化祭でも、今まではそうだった。
雅に褒めてもらって輝く笑顔は酷く無邪気で、綺麗だ。
―なるほどねー。
だからあそこまで拒否するなんて変だなと愛理は思っていたのだ。
まして困っている人、しかも先輩から頼まれて断るなんて。
よっぽど嫌なのだろうなとは予想していた。
そして今回その“嫌”の原因がはっきりとした。
- 129 名前:―カラオケの彼女― 投稿日:2008/10/27(月) 07:23
-
「もう、この話はいいじゃん。歌お?時間減っちゃうし。」
「あ、うん。」
ピッと一際高い音がして曲が転送される。
表示された曲は愛理も知っているものだった。
梨沙子が無言でマイクを渡し、一緒に歌うことを要求する。
その瞳はさっきまでの色を綺麗に消して、爛々と輝いていた。
忘れる気なのだ、雅への気持ちも何もかも。
―でもね、りーちゃん。
流れ出したイントロに自然と身体がリズムを取る。
身体が触れて小さく梨沙子と微笑みあう。何処にでもあるじゃれ合いだった。
先に歌っていいよという言葉に頷いて、歌いだす。
隣で梨沙子はそんな愛理の様子を、目を細め見ていた。
―忘れるっていうのが一番とは限らないんだよ?
愛理の思いは歌に消える。今はただ忘れれば良いと思う。
悲しそうな梨沙子の顔は見たくないから。
でも何れ梨沙子は自分の気持ちと対面しなければならなくなる気がした。
―カラオケの彼女―終
- 130 名前:メン後 投稿日:2008/10/27(月) 07:24
-
- 131 名前:メン後 投稿日:2008/10/27(月) 07:26
-
りーちゃんは素直じゃないです。
唯一素直になれる相手がいなくなってしまったので。
しかし愛理ちゃんにはなかなかどうして甘くなっとります。
りしゃあいりいいわぁw
つーことでまたの日に。
恐らく一週間後でしょう。
ではでは。
- 132 名前:メン後 投稿日:2008/10/27(月) 07:26
-
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/27(月) 17:27
- 作者さんが書く小説の雰囲気が大好きです
りーちゃんの心情を察すると胸が詰まって泣けてきます
…作者さんはりーちゃんが大好きですね?w
- 134 名前:YOU 投稿日:2008/10/30(木) 00:01
- 大量更新お疲れ様です。
千奈美が今後どのように関わってくるのか楽しみです。
りしゃあいりはやっぱりサイコーっすね。
梨沙子と雅がどうなっていくのか気になります。
また更新待ってます。
- 135 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/30(木) 03:52
-
今の所はりーちゃん中心ですがもう一人の主人公、もも側がどうなるのかに期待ですね!
ももに片思いする子もいるのかな?案外まだ名しか登場してない舞美辺りなのかなとか、想像が膨らむ素敵作品です!
- 136 名前:メン後 投稿日:2008/11/03(月) 10:21
-
11月、今年もあと少しです。
寒さに負けないように頑張ります!
133>>名無飼育さん
ありがとうございます!
このりーちゃんはひたすら切なくなってます。
なぜそうなったのか自分にも不明です(エ
そしてもちろん、梨沙子大好きですw
134>>YOUさん
あっとうございます!
千奈美は色々してもらう予定ではあります。
予定通り動いてくれたらの話ですがw
りしゃあいりは親友!!って感じの空気が好きです。
りーちゃんとびちゃんはまぁ、色々です(バク
お待たせしました。
135>>名無飼育さん
ももち側は何だかんだで年長組みと絡みが増えそうです。
りーちゃん側はりーちゃん側。
ももち側はももち側として別の人間関係が見えたらいいなぁと思います。
自分の筆でそこまで書き分けられたらの話ですが。
舞美ちゃんはやじやじうめうめしてもらう予定ですので。
ももちには行かないはずです。
感想あっとうございました!
そして今日はももちでもりーちゃんでもない。
雅ちゃん側の更新です。
その後、やじうめ。
そろそろ甘さを補給してくださいw
- 137 名前:メン後 投稿日:2008/11/03(月) 10:21
-
- 138 名前:―鈍感な彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:22
-
掃除の時間に見つけた生徒手帳。
誰かと思えばみやので。
挟まっていたものに思わず苦笑した。
みやは鈍くて、優しくて、ちょっと酷い。
- 139 名前:―鈍感な彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:22
-
―鈍感な彼女―
- 140 名前:―鈍感な彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:22
-
「みや、これ落ちてたよ。」
掃除の時間も終わり、鞄を取りに皆が戻ってくる。
茉麻はその中でも目立つ一人の人物を呼び止めた。
少し茶に染まった髪にすらりとした手足。
部活の準備をしている姿はいつもより少し楽しそうだ。
茉麻の声に雅は直ぐに気がついて、スポーツバックから顔を上げる。
「え、あっ、うち落としてた?」
差し出した手に乗っているのは校章の入ったビニールの手帳。
茉麻の学校の生徒手帳に他ならない。
学生証も付随しているそれは使わないようで、中々役に立つ。
特に雅のように部活の遠征などが多い人物には必須だろう。
慌てた様子で茉麻から手帳を受け取り雅は中身を確認する。
ぺらりと捲れば確かに雅の顔写真が入っていた。
- 141 名前:―鈍感な彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:23
-
「机運ぶとき見つけた。」
茉麻はその行動を苦笑しながら見つめる。
落としたこと自体に気づいていなかったようだ。
雅はしっかりしているようで時々抜けている。
そしてそういう部分がまた人気を集めることを茉麻は知っていた。
「そっか、ありがとー。まぁ。」
安心した笑顔で自分の内ポケットに生徒手帳を入れる。
掃除を終えてからそれ程時間は経っていないのに、教室の人影は疎らになっていた。
部活に行く人はさっさと行ってしまったし、遊ぶにしても早い方がいい。
茉麻は周りの声が届く範囲に誰もいないことを確認して。
それから再び準備を始めた雅を見た。
「あのさ。」
ぼそりと出た声は何故か気まずい。
雅はそんな茉麻の様子に気づかず「ん?」と普通に聞き返す。
がたりと鳴った椅子の音が妙に響いた。
- 142 名前:―鈍感な彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:23
-
「その写真、例の恋人?」
手帳を拾った時、誰のかを確かめるために学生証を見た。
学生証は最後のページに定期券を入れるポケットと見開きになっている。
だが一々出すのが面倒くさいため専用の定期入れを買っている人がほとんどだ。
その為その空間は空かまたは写真を入れたりするのに使われる。
ちらりと見た雅の手帳も、まさしくそうだったようで。
あったのは腕を組んで楽しそうに笑う雅ともう一人だった。
―……バカップル。
そう言いたくなってしまうくらいイチャイチャしている写真だったのだ。
写真を見た瞬間に茉麻は思わず固まった。
固まって次に浮かんだのは雅を大好きな彼女のこと。
ふんわりとお嬢様然とした雰囲気の後輩だった。
梨沙子のことに他ならなかった。
- 143 名前:―鈍感な彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:24
-
「まぁ、あの写真見たのっ?」
「うん、ごめん、見るつもりはなかったんだけど。」
あんな所に入れていては誰でも見てしまう。
あははと笑いながら「うー。」と恥ずかしがる雅に心の中で冷静に返す。
雅が幸せそうなのを邪魔する気はない。
恋人との写真だって入れていたければ入れていればいいと思う。
だけれどその行為で傷つく人がいるのも確かなのだ。
―……梨沙子。
梨沙子とは部活の先輩後輩だ。
雅の知り合いだったというのも関係するのだろう。
甘えたがりである彼女は茉麻にとても懐いてくれた。
人見知りで繊細な梨沙子を茉麻は人一倍可愛がっている。
- 144 名前:―鈍感な彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:24
-
「それさ、他に見た人いるの?」
軽い調子を装って尋ねる。
変に個人名を出したりしてはだめだ。
雅ならば気づかないかもしれないが、念のため。
茉麻はいつもの会話の雰囲気を思い出すように話す。
梨沙子は芸術家気質というのだろうか。
変に頑固で、面倒くさい所がある。
人見知りで苦手とする人も中々に多かった。
だから梨沙子の恋に気づいていたのは本当に仲の良い者だけだ。
逆に仲が良ければ気づかざるを得なかった。
それほどまでに雅についての話題は多かったのだ。
「写真?あー……どうだろ。」
雅の瞳が思い出すように天井を動く。
優しくなった陽光がきらきらと照らしていた。
さらさらと結っていない髪が風に揺れる。
教室に立つその姿さえ目が留まってしまう。
- 145 名前:―鈍感な彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:25
-
―幼馴染、だもんねぇ。
何故か梨沙子にだけ世話焼きになる雅。
優しくて、格好良くて、自分にだけ世話を焼いてくれる。
ましてや年上の雅を梨沙子が好きになるのも仕方ない気がした。
そう考えて漫画の世界みたいだなと苦笑する。
しかし梨沙子の恋は上手くいかず、今雅には別の恋人がいる。
上手くいかないもんだなと少し悲しくなった。
「梨沙子には、見せたかもしんない。」
「梨沙子に?」
きょろりと動いていた目が止まって、茉麻を見る。
雅の言葉は茉麻が一番心配していたものだった。
梨沙子に見せる。
何でも教えあっている二人にとってそれは普通の行動なのかもしれない。
しれないがせめてその話題だけは止めてあげて欲しかった。
- 146 名前:―鈍感な彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:25
-
「だって梨沙子なんでも聞いてくれるからさ。ついつい話しちゃうんだよね。」
照れ隠しのように雅が後頭部を掻く。
緩んだ顔になんでと言いたくなった。ぐっと飛び出しそうな一言を抑える。
梨沙子が言わないものを茉麻が言えるわけがない。
雅は鈍い。とっくにそんな事知っている。
だけどそれでもその仕打ちは余りに酷いのではないだろうか。
「そうなんだ。梨沙子、みやのこと好きだからねー。」
「まぁ、妹みたいな感じだから。」
にこりと笑って雅は言う。
茉麻の言葉の意味など微塵も考えもせず。
雅はただにこりと笑って、梨沙子の恋を切ったのだ。
自分のことでないのに茉麻は胸が苦しくなった。
「そっか。」と辛うじて笑って返す。
- 147 名前:―鈍感な彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:26
-
―……酷いね、みやは。
気づきもしなかった。思いもしなかった。
雅にしてみればそういう事なのだろう。
それは雅の罪ではないし、悪いことでもない。
人が人を好きになるのに理由はない。
それと同じで仕方のないことなのだ。
雅が教室に備えられている時計を見る。
いつの間にか教室に人はいなくなっていた。
廊下から聞こえていたざわめきも今は遠い。
「あ、うちそろそろ部活行かなきゃ。手帳ありがとね。」
「ううん、偶々見つけただけだから。」
拾ったのは本当に偶然だ。
そこまでお礼を言われる必要はない。
片手に鞄、肩にスポーツバックを担いで雅は机を離れる。
バイバイと片手を振る雅に茉麻も振り返した。
- 148 名前:―鈍感な彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:26
-
―でも、さ。
雅の行動は仕方のないことなのかもしれない。
だけど、それでも。
何もない、というのは余りに切ないことなのではないだろうか。
「ねぇ、みや!梨沙子、可愛い?」
教室を出る直前、雅はゆっくりと振り返った。
その顔は薄暗くなり始めた教室ではよく見えない。
しかし雅の口元は笑っている気が茉麻にはした。
「うん、可愛いよ。」
「そっか……ありがと。」
「なんで茉麻がお礼言うの?変なの。」
くすくすと笑いながら雅が教室を去る。
残ったのは茉麻ただ一人。
可愛い、その言葉がどれだけの慰めになるかは分からない。
もしかしたらその言葉さえ梨沙子を傷つけるかもしれない。
でも今はその一言が梨沙子の救いになることを祈るしかなかった。
―鈍感な彼女―終
- 149 名前:メン後 投稿日:2008/11/03(月) 10:27
-
- 150 名前:メン後 投稿日:2008/11/03(月) 10:28
-
びちゃんほど、鈍いという言葉が似合う属性を持つ人も珍しい。
と駄文書きとして思います。
次はやじうめ。
話の流れとか、余り気にせずにw
- 151 名前:メン後 投稿日:2008/11/03(月) 10:28
-
- 152 名前:―青空の彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:28
-
緑の芝生に転がって。
校舎の間から見える空を見て。
ぼんやりするのって、贅沢じゃない?
- 153 名前:―青空の彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:29
-
―青空の彼女―
- 154 名前:―青空の彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:29
-
さくりと伸びた芝生の音がした。
青々とした芝はある程度で切りそろえられている。
ソックスの上からでも先端が刺さって少し痛い。
歩みを進める。
一歩、二歩、三歩と進んでも風景に変わる気配はない。
―なんで、学校にこんな林があるかな。
そしてそこを内履きのまま進む自分もどうなのだろう。
間違いなく洗わなければいけないだろう事実にため息をつく。
高等部と中等部の間。中庭と呼ばれる部分は実質林になっている。
中等部の生徒は高等部の生徒と会うことを避けるために利用しない。
また高等部の生徒は林が面倒で利用しない。
そんな学校における空白域の一つだった。
「人いないなー、しかし。」
誰も使わないのに手入れだけはきちんとしてある。
芝も木もきちんと切られた後があった。
渡り廊下からふらりと外に出てみてえりかは既に後悔し始めていた。
放課後という時間帯、暇だからと寄り道したくなった。
- 155 名前:―青空の彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:29
-
―佐紀達と一緒に行けばよかった。
脳裏に誘ってくれた人影が過ぎる。
佐紀に桃子、千奈美もいただろうか。
えりかのことを恐れず付き合ってくれる友達だった。
悲しいことに全員が違うクラスのため、クラスで話すことはない。
道のりは半分まで来ただろうか。
この中庭という名の林がどの程度の広さか知らない。
後ろを見ても緑、前も緑という状況で自分が何処にいるかなど判断できなかった。
さくりとまた耳につく音が響いて、えりかは唐突に前が開けたことに気づく。
「うぁ……。」
林の中に突如現れた緑の広場。
木々で遮られていた光が燦々と降り注ぐ。
一瞬目が眩しさで眩んだ。反射的に目を細める。
白に染まった世界に段々と色が戻り始める。
その中心に一番ありえない人物がいた。
- 156 名前:―青空の彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:30
-
―なんでいるの?
ゆっくりと近づく。
緑の中で深い蒼のカーディガンが妙に映える。
何よりも浮いていたのはその艶やかな黒髪だった。
恐る恐る、信じられない現実に歩み寄る。
顔がはっきりと見える位置まで来て、えりかは動きを止めた。
「矢島、舞美。」
真上から見た彼女は完璧に寝ていた。
穏やかな寝息が小さな木々のざわめきと混じる。
安らかに眠る舞美とは反対にえりかの脳内はパニックだった。
まさか、会うとは思わなかった。
放課後は部活に精を出している舞美。帰宅部のえりかとは違う彼女。
どうしたらいいのか分からなくて、立ち尽くしたまま顔をしかめる。
- 157 名前:―青空の彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:30
-
「う……ん?」
「舞美。」
ざぁと強く風が吹いた。
音にか、またはえりかの存在にか。
意識を呼び覚まされた舞美の瞼がぴくりと動く。
その動きに自然と名前を呼んでしまっていた。
眩しそうにその瞳が開けられる。
「え、り?」
黒玉がえりかを見つめる。
寝起きのとろんとした輝きに何故か心臓が跳ねた。
ごしごしと袖で乱暴に顔を擦った後、舞美が上体を起こす。
寝転がっていた背中には緑の芝がくっついていた。
- 158 名前:―青空の彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:30
-
「何してるの、こんな所で?」
「それはうちのセリフだよ、舞美。」
舞美の側にしゃがみ背中の芝を払う。
不思議そうな表情にえりかは困った様に息を吐く。
刺さるようにカーディガンにくっついている芝に痛くないのかと思った。
一つ一つ払えなかったものを指で摘んで。
やっと舞美の背中は緑の混じらないものになった。
「ありがと、えり。」
舞美がいつものニコニコとした笑顔で言う。
えりかはうんとだけ頷いて舞美の隣に腰掛ける。
芝生はやはりちくちくと痛かった。
「で、なんでここにいるの?部活は?」
「今日は休みなんだ。だからのんびりしてたの。」
人当たりのいい笑顔は癒される。
舞美がモテるのもよく分かる気がした。
- 159 名前:―青空の彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:31
-
「ここで?」
「うん、気持ちいいでしょ。ここ。」
えりかが半ば呆れた声音で尋ねる。
すると舞美は手で身体を支えるようにして空を仰ぎ見る。
機嫌の良さそうな表情に自然と頬が緩む。
―舞美だねー……。
矢島舞美という少女は独特のものを持っているとえりかは思う。
ただ明るいのではない。ただ優しいのではない。
なんというか和やかになる。
舞美の隣は存外に居心地がいい事をえりかは知っていた。
「でも、びっくりしたー。」
つられたように空を仰ぎ見る。
どれだけの幅を取っているのか。
視界の端にも校舎は見えず、ただ若葉の色が映えている。
何も存在しない空なんて中々見られない。
えりかは一瞬本当に自分が林の中にいるのではないかと錯覚した。
- 160 名前:―青空の彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:31
-
「何が?」
舞美の声に見慣れない蒼から視線を下げる。
首をかしげて隣を見ればくすくすと笑う姿が見えた。
楽しそうに、嬉しそうに微笑む理由が見当たらなくて。
えりかはまた首を傾げる。
「だって起きたら、えりがいるんだもん。」
ふんわりと舞美の瞳が動いて、えりかを見る。
黒く輝く瞳はきっと何より綺麗だ。
その視線に縫い付けられたように動けなくなる。
「驚いて、でも嬉しい。」
その言葉通りに舞美は機嫌良さそうに笑った。
ふわふわの甘い笑み。
綿菓子みたいだと蕩けた頭で思う。
- 161 名前:―青空の彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:32
-
―ああ、もう。
自分の中に生まれた感情にえりかは米神に手を当てる。
この時、えりかは完敗した。もう負けを認めた。
できることなら知らん振りしていたかったけれど。
どうしようもないくらい、確実にえりかは舞美を好きなのだ。
「そんなに、うちに会いたかったの?」
零れた一言は半分以上からかいの色を含んでいた。
自分ばかりが好きなのは何処か不公平な気がするから。
梅田えりかというのはそんなに素直な存在じゃないから。
にやりと上がった口角で、舞美を見つめる。
きょとんとした顔で舞美がえりかを見た。
何を言われたかの分からない顔だった。
しかしそれはすぐに満面の笑みに変化する。
- 162 名前:―青空の彼女― 投稿日:2008/11/03(月) 10:32
-
「うん、あたし、えりに会いたかった。」
「舞美……。」
今度はえりかが言葉を失う。
素直に真っ直ぐ伝えられた言葉は少しくすぐった過ぎる。
えりかの周りには捻くれた人ばかりだから。
どう対応していいのか分からなかった。
変わらない笑顔で自分を見る舞美から視線を逸らす。
出来たのはそれだけだった。
「うちもだよ。」
つぶやかれた言葉は風に消える。
青空がよく似合う舞美らしい爽やかな風だった。
―青空の彼女―終
- 163 名前:メン後 投稿日:2008/11/03(月) 10:33
-
- 164 名前:メン後 投稿日:2008/11/03(月) 10:35
-
自分の中で矢島さんはこんなキャラです。
真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐ。
なのに女誑し。
では以上今日の更新でした。
次は恐らく来週です。
- 165 名前:メン後 投稿日:2008/11/03(月) 10:35
-
- 166 名前:名無し飼育 投稿日:2008/11/03(月) 10:54
- やじうめキタ━━(゜∀゜)━━!!
楽しみにしてます!
- 167 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/11/03(月) 22:59
- 爽やか泥棒なあの人にきゅんきゅんですw
で、あの人の恋人って誰ですか?設定とかあります?
ちょっと気になっちゃいました
- 168 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/05(水) 11:25
-
リlI*´∀`lI<片想い祭りだったからこの展開は嬉しいんだよ
从*・ゥ・从<とか言って
ル;’-’リ<もも達もらぶらぶ出来る?ねぇ、りーちゃん
Σ州*‘ -‘リ<そっ、そんなの知らないもん!
州´・ v ・)<‥(りーちゃんを気になる人はいるみたいだけれど、嗣永先輩を気になる人はいるのかなぁ‥)
- 169 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/07(金) 00:54
- 桃とキャプテンの関係も気になるね。
恋愛にはならないだろうけど。
- 170 名前:メン後 投稿日:2008/11/08(土) 21:34
-
- 171 名前:メン後 投稿日:2008/11/08(土) 21:45
-
そろそろストックが……orz
私生活も忙しくなってきまして、のんびりペースになるかもしれません。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。
166<<名無し飼育さん
やっとやじやじうめうめしてくれましたw
ですがお二人さんにはしばらく隠れていて貰います。
なるべく、早い再登場にはしたいと思います。
167<<名無し飼育さん
爽やか泥棒とはいい言葉ですw
あの人の恋人は今のところ決めていません。
登場させるかはひじょーに迷っております。
ということで未定ですw
168<<名無飼育さん
顔文字あっとうございます。楽しみました!
嗣永先輩は自分の好みでモテてもらう予定です。
登場まで暫くお待ちくださいw
169<<名無飼育さん
そうですね、佐紀ちゃんにはちょっとマイナーに頑張ってもらいます。
といってもまだまだそこまで行くのに掛かりそうですが。
暫くお待ち下さい。
多くのレスあっとうございます。
毎回楽しみにしてます。
では今日の更新。
珍しい二人組みです。
- 172 名前:メン後 投稿日:2008/11/08(土) 21:45
-
- 173 名前:―大人な彼女― 投稿日:2008/11/08(土) 21:46
-
ねぇ、ちー。
想いって言わなきゃ伝わらないんだよ。
言っても伝わらない時もあるんだよ。
だからさ、伝えて?
きっと幸せになれるから。
- 174 名前:―大人な彼女― 投稿日:2008/11/08(土) 21:46
-
―大人な彼女―
- 175 名前:―大人な彼女― 投稿日:2008/11/08(土) 21:48
-
「ちー、部活行かなくていいの?」
「大丈夫、大丈夫。あたしが抜けるのなんていつものことだし。」
顔の前でぱたぱたと軽く手を動かす千奈美に呆れたような声が出る。
ここは美術室だ。
対して千奈美の部活はグラウンドで走るバドミントン部。
サボっていることは明白だった。
梨沙子の前には塗りかけの水彩画が置いてある。
透明に近い薄さを重ねていく作業が好きだった。
次の大会までに完成させなければならないそれはどこか満足できない。
まだ完成の絵が見えないのだ。
重ねるべき色が見つからなくて、梨沙子は少々イラついていた。
「あたしだって暇じゃないんだよ?」
「知ってる、締め切り近いんでしょ。」
ぶらぶらと足を揺らしながら千奈美が答える。
美術室の机は少し大きめに出来ていて。
千奈美が乗るくらいなんてことはない。
上品とはいえないその行動に梨沙子は僅かに顔をしかめた。
- 176 名前:―大人な彼女― 投稿日:2008/11/08(土) 21:48
-
「……わかってるんじゃん。」
ぷいと顔を戻し描きかけの絵と向かい合う。
後ろからは相変わらず千奈美がこちらを見る雰囲気が伝わる。
今日の千奈美はいつにもまして頑固だ。
普通なら梨沙子が嫌がる素振りを見せただけで帰ってしまうのに。
何かあったのかと頭の隅で考えた。
「でもさ、それで完成じゃないの?」
「これはまだ書きかけだもん。」
背後からカタンと小さく音がして、千奈美が机から降りたのを知る。
キュッと上履きのゴムが擦れて鳴る。
足音は梨沙子の真後ろで止まった。
- 177 名前:―大人な彼女― 投稿日:2008/11/08(土) 21:49
-
―変な、ちー。
顔の真後ろから絵を覗き込まれる。
元々千奈美のほうが背は高い。
梨沙子が座っているとかなり腰を折らなければならなくなる。
するりと千奈美の腕が梨沙子の首に回る。
少し体重を掛けられて、僅かに前傾する。
「ちー、重い。」
身体が密着する。
仄かに伝わる体温に、梨沙子は動揺しなかった。
自分のすぐ横にある千奈美の顔にぴくりともせず絵を見つめる。
千奈美が何をしたいのか分からない。
- 178 名前:―大人な彼女― 投稿日:2008/11/08(土) 21:49
-
「ねぇ、りーちゃん。」
「なに。」
妙にねっとりとした口調に小さく片眉が上がる。
日常のトーンではない、妖しい色。
首に回った腕に力が込められ、梨沙子の身体は抱き寄せられる。
強い力に動けなくなった。
「みやなんて止めてさ、あたしにしなよ。」
ピクッと今度は大きく身体が跳ねる。
抱きしめている千奈美には良く分かった。
跳ねたがそれだけ。また微動せず前を見る。
千奈美が予想していたような行動は他に見られない。
「あたしだったら、ちゃんと梨沙子見てあげれるよ?」
耳元で囁く千奈美の声。甘くて優しい音。
しかし梨沙子にはわかっていた。
それが何の意味も持たないものだと。
だからはぁと小さく息を吐く。
- 179 名前:―大人な彼女― 投稿日:2008/11/08(土) 21:49
-
「ちー。」
僅かに顔を動かし、すぐ近くにある千奈美の瞳を見つめる。
悪戯に笑う瞳は今も変わらない。
きらきらとした輝きが梨沙子を見つめる。
「嘘は、よくないよ。」
千奈美とは小学生のときに知り合った。
中学に上がった雅が同じクラスの友達と紹介してきたのだ。
考えてみると結構長い付き合いになる。
その間千奈美の噂はよく聞いたし、また見てきた。
千奈美は良くも悪くも悪戯好きなのだ。
「嘘?嘘なんて吐いてないから。」
「あのね、あたしが知らないと思ってるの?」
千奈美の腕に手で触れる。
体操服から伸びた素肌の感触。
さらりとした感覚は触っていて気持ちいい。
今度は千奈美の身体がぴくりと跳ねたのを感じる。
- 180 名前:―大人な彼女― 投稿日:2008/11/08(土) 21:50
-
「好きな人、いるんでしょ。」
「……いないよ、そんな人。」
途端に千奈美の声が下がって。
分かりやすいなと梨沙子はくすりと笑みを漏らす。
千奈美は読めないだとか理解できないだとか良く言われている。
だが梨沙子はそうは思わなかった。
むしろこんなにも分かりやすい。
それが自分と一緒のときだけなのかは、梨沙子も分からないのだが。
「あたしになんか構ってないでさ。」
梨沙子の肩に顔を埋め千奈美は動かない。
ぽんぽんとその頭を梨沙子は撫でた。
励ますように、慰めるように。
精一杯自分の気持ちが伝わればいいと思った。
- 181 名前:―大人な彼女― 投稿日:2008/11/08(土) 21:50
-
「伝えてきた方がいいと思う。」
ぐっと押される感覚が肩に広がる。
ぐりぐりと肩に頭を埋める千奈美が幼く感じた。
自然と頬が緩んでしまう。千奈美は優しい。
雅に振られたことに千奈美だけが気づいていた。
他の誰も気づかなかった梨沙子の変化を見とめていた。
分かりにくい、この絡みは彼女なりの慰めなのだ。
「好きなら、好きって。あいしてるなら、あいしてるって。」
「……。」
「伝えなきゃ、いけないんだよ。」
そんな千奈美だから梨沙子も助けになりたい。
何が出来るかなんてわからない。
だが自分の為に千奈美がチャンスを逃すというならそれは間違っていると梨沙子は思う。
梨沙子の恋は終わってしまったから。もうどうなることもないから。
千奈美が犠牲になる必要は何処にもない。
- 182 名前:―大人な彼女― 投稿日:2008/11/08(土) 21:51
-
―ちーはちーの恋があるでしょ?
雅に恋していた。雅を好きだった。
雅を愛していた。雅に憧れていた。
どれも本当のことだ。
そして梨沙子の恋と千奈美の恋が違うのも確かなこと。
自分の恋が上手くいかなかったからこそ、千奈美には上手くいって欲しい。
もっとも気づかれもしなかった感情が恋といっていいのか。
梨沙子には分からなかったのだが。
「じゃなきゃ、あたしみたいになっちゃうよ?」
自嘲するような声音だった。
いや、実際梨沙子は自分に呆れていた。
何年想ったか分からないのに、数ヶ月にも満たない相手に雅を取られた。
それどころか雅は梨沙子をそういう風にさえ見ていなかった。
なんだか馬鹿みたいだという感情が出てきてもおかしくない。
- 183 名前:―大人な彼女― 投稿日:2008/11/08(土) 21:51
-
「みやもバカだね。」
「うん?」
「梨沙子の中身に気づかないなんて、馬鹿だよ。」
滑らかに千奈美の身体が離れる。
響く声だけが近かった。
遠くなる体温に僅かな寂しさが混じって、苦く笑う。
貰った言葉は何よりの慰めだった。
千奈美が椅子を引っ張り、隣に座る。乾いた音が鳴った。
使わない左手をきゅっと握られると人の温かさが沁みた。
「……ありがと、ちー。」
目の前には描きかけの絵。
何か、一つ足りない色。
上手く重なれば、きっとこの絵は全てが変わる。
なんだか人の感情みたいだと梨沙子は思った。
―大人な彼女―終
- 184 名前:メン後 投稿日:2008/11/08(土) 21:51
-
- 185 名前:メン後 投稿日:2008/11/08(土) 21:53
-
少ないですが以上です。
タイトル通り大人っぽいりーちゃんが書きたかったというw
それだけなんです。
では珍しい二人組みでした。
メン後
- 186 名前:メン後 投稿日:2008/11/08(土) 21:53
-
- 187 名前:メン後 投稿日:2008/11/08(土) 21:54
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- 188 名前:メン後 投稿日:2008/11/16(日) 11:20
-
- 189 名前:―大好きな彼女― 投稿日:2008/11/16(日) 11:21
-
いつ好きになったとか、覚えてない。
気づいたときには好きだった。
みやしか見てなかった。
そんな彼女が思い出になるなんて。
はっきり言って想像がつかない。
- 190 名前:―大好きな彼女― 投稿日:2008/11/16(日) 11:21
-
―大好きな彼女―
- 191 名前:―大好きな彼女― 投稿日:2008/11/16(日) 11:22
-
「ただいまー……。」
がちゃんという重い音と共に玄関の扉が閉まる。
すぐにウィーンという機械的な音がして鍵が閉まる。
白の大理石で出来た玄関は冷たい。
梨沙子の声などすぐに何処かへ消えてしまった。
帰ってこない返事などいつものことだ。
『おかえり、梨沙子。』
なんて雅の声が聞こえることもあった。もう遠い昔のことだ。
梨沙子を迎えてくれる温かい笑顔も、声も全て思い出せる。
思い出せるがそれだけのこと。
最早、梨沙子を迎えてくれる雅は何処にもいない。
はぁと小さく息を吐く。
単調に靴を脱いで、そのまま自分の部屋へと足を進める。
白の大理石はやはりひんやりと冷たかった。
- 192 名前:―大好きな彼女― 投稿日:2008/11/16(日) 11:23
-
一人暮らしというわけではない。
両親も兄弟もいる。今は外出しているだけだ。
勿論、次に帰ってくるのがいつか分からないものを外出と言っていいならばの話である。
階段を早くも遅くもない速度で上る。
母親の趣味である白の壁紙はこういう時酷く味気ない。
二階に着いて奥から二番目の部屋が梨沙子の部屋だ。
重く感じる鞄を片手に梨沙子はノブを回す。
「ただいま。」
二度目の帰宅の挨拶。
染み付いた習慣みたいなものだ。
梨沙子しかいないこの家は音が少なすぎる。
当然ここでも返事はない。鞄をベッドの脇に置く。
ベッドの上には今でも贈られてくるぬいぐるみが鎮座していた。
―あたし、もう中二だよ。
何年前に会ったか分からない父親はそれを知っているのだろうか。
いやと梨沙子は一人頭をふった。
知っているわけがない。
知っているなら、未だにぬいぐるみを贈ってくることもないだろう。
幼稚園から毎年一体ずつ増えるそれはベッドの半分を占領している。
その中で一体だけが布団の中にしっかりと入れられていた。
- 193 名前:―大好きな彼女― 投稿日:2008/11/16(日) 11:23
-
『梨沙子、寂しいでしょ?これ上げる。』
あれは雅と出会ったばかりの頃。
梨沙子は幼稚園に入ったばかりで、雅は年長組だった。
たまたま家の近かった雅はよく梨沙子の家に遊びに来てくれた。
その頃から既に家を空けがちだった両親のことを雅は知っていて。
誕生日も何も関係なく、自分のぬいぐるみをくれたのだ。
―嬉しかったなぁ。
寂しいという感情さえよく分からなかった頃。
何故か涙が溢れて、心配された。
思えばあれが人生初の嬉し泣きだった。
それから父親は毎年ぬいぐるみをくれる。
ぬいぐるみが嬉しかったと思っているなんて、勘違いも甚だしいけれど。
毎年数は増えても心の穴を埋めてくれたのは雅がくれたぬいぐるみだった。
名前をつけて、ずっと一緒に寝てきた。だがそれもそろそろ潮時だろう。
雅の代わりを務めてくれたそれは結局代わりでしかない。
本物が与えられるまでの代役。
本物が手に入らないと分かった今、それにどれだけの意味があるのだろう。
- 194 名前:―大好きな彼女― 投稿日:2008/11/16(日) 11:24
-
何もする気が起きなくて、梨沙子はベッドに腰掛ける。
そのままベッドへと身体を沈めた。
制服が皺になるかもしれないと思ったが、別段気にならなかった。
ちょうど右手の位置に雅のくれたぬいぐるみが当たる。
知らぬ振りで梨沙子は両手を顔に乗せた。
暗くなる視界に、音が冴えた。
『梨沙子、これ、返すね?』
キーンと静か過ぎる空間に耳鳴りがする。
そして聞こえてきたのは思い出したくない声だった。
チャリと左手に握ったままだったキーホルダーが音を立てる。
梨沙子の持っている家の鍵だ。
今は何故か一つの輪に二つのキーがついている。
「返すことは、ないんじゃないかな。」
出た声は既に潤んでいて、梨沙子は唇を噛む。
幼馴染の家の鍵だってなんで言えないのだろう。
梨沙子はそのまま雅に持っていて欲しかった。
百分の一、万分の一でもいいから可能性を残しておきたかったのだ。
帰ってきたときに雅の声が聞こえる可能性を。
それも他ならぬ雅自身から閉ざされた。
- 195 名前:―大好きな彼女― 投稿日:2008/11/16(日) 11:24
-
『あたし、みやに持ってて欲しいんだけど。』
『んー、梨沙子の家行く時は大体一緒だし……怒るんだよね、あいつが。』
『……そっか。』
―あいつって誰?
そんな野暮なことは聞かない。
聞いても自分が傷つくだけなのは分かりきったことだった。
一人の手に同じ鍵が二つある。
これだけ無駄なことはないんじゃないかと梨沙子は思った。
雅に鍵を預け始めたのは梨沙子の両親だった。
―たまにでいいから梨沙子の様子を見て遣ってくれ。
二つしか離れていない子供に頼むにしては大きな役目だ。
それを雅は嫌な顔一つせず受け止めてくれたし、雅の家にもよく行った。
思い出せば切りがないほど梨沙子の中に雅は溢れている。
「お茶でも、飲もうかな。」
声に出して言ってみる。
そうすると案外いい案のような気がしてきた。
ベッドから身体を起こし、手の中にある実際以上に重たい金属を机の上に置く。
二つの鍵が擦れあって空しい音が響いた。
寂しいっていうのはこういう音がするんだとぼんやり思った。
- 196 名前:―大好きな彼女― 投稿日:2008/11/16(日) 11:25
-
さっきとは逆の行程を辿り一階に下りる。
灯りさえ点いていないリビングを通って、キッチンに移動する。
お茶の葉の位置も、食器の位置も何も変わっていない。
梨沙子しかここを使う人がいないのだからそれも当然だ。
お湯を沸かしポットの準備をする。
カップを取ろうとして思わず手が止まった。
『誕生日プレゼント、紅茶よく飲むでしょ?』
可愛いデフォルメされた桜の花びら。
薄ピンクの色彩はまさに春だった。
ソーサーと合わせて貰った雅からの誕生日プレゼント。
少し照れたような表情で渡してくれた。場所もここだった。
だけどその時は雅がいて、薄暗いこの場所とは繋がらない。
雅がいる。それだけで梨沙子の家は明るくなった。
ならば雅がいなくなったこの家が明るくなることはもうないのだろう。
きっと今雅が訪ねてきたとしても、あの頃のような明るさは見出せない気がした。
ことんと瀬戸物らしい音がして、梨沙子はカップを台に置く。
ああと声とも溜息とも取れるものが漏れた。
視界の隅で湯が沸騰し出してスイッチを切る。
この家は雅との思い出が多すぎる。
- 197 名前:―大好きな彼女― 投稿日:2008/11/16(日) 11:25
-
―みやはもう、来ないんだよ?
思い出にしなければいけない。忘れなければいけない。
雅に気づかれないうちに、消さなければならない。
分かっているのにこの家には雅がくれたものが溢れている。
見るたびに思い出さずにはいられない記憶。
雅に泣かされたことがあった。
雅に喜んだことがあった。
雅に楽しませてもらったことがあった。
雅に怒ったことがあった。
梨沙子の今までの喜怒哀楽はほとんど雅に貰ったものだ。
力が入らない。
台を手で掴んだまま梨沙子はその場にしゃがみ込んだ。
足元に見えた梨沙子用のスリッパさえ雅がくれたものだ。
「ひっく。」と大きな音がキッチンに響く。
堤防は一回決壊してしまえばあとは何の役にも立たない。
- 198 名前:―大好きな彼女― 投稿日:2008/11/16(日) 11:26
-
「みやぁ……っく、ふぇ。」
何処を見ても雅が笑いかける。
何処にいても雅の匂いがする。
楽しかった時間が確かにここには存在する。
「えっく……好き、だったんだよ…っ…。」
何処を見ても雅はいない。何処にいても雅はいない。
大好きな彼女は梨沙子の側にいない。
楽しかった時間はもう二度と戻ってこない。
梨沙子の初恋は終わったのだ。
残ったのは前より強くなった寂しさだけだった。
―大好きな彼女―終
- 199 名前:メン後 投稿日:2008/11/16(日) 11:26
-
- 200 名前:メン後 投稿日:2008/11/16(日) 11:29
-
りしゃみやって良いですねー。
菅谷さんは切なさが似合いすぎて困ります。
だって切ないりしゃみやしかかけなくなるからw
りしゃみやを書いてて思うこと。
やっぱりしゃみや好きだわーw
次はりしゃももとやじうめをお届けできるかと。
それまでお待ち下さい。
- 201 名前:メン後 投稿日:2008/11/16(日) 11:29
-
- 202 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/16(日) 13:29
- 切なくて泣けました
- 203 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/17(月) 02:20
- 菅谷さんと一緒に私も泣きました。
- 204 名前:名無し飼育 投稿日:2008/11/17(月) 03:41
- 涙がポロポロ出ました
メン後さんのりしゃみや大好物です
- 205 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/17(月) 19:02
-
りーちゃん、切ない……(ノд<。)゜。
頼むから幸せになってください
- 206 名前:YOU 投稿日:2008/11/17(月) 22:01
- 更新お疲れ様です。
うわ〜かなり切ないですね〜(>_<)
さすがメン後さんのりしゃみやですよ。
心にかなり『グッ』ときました。
また更新まってます。
- 207 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/20(木) 23:53
- 雅と幸せにしてる梨沙子はもう見られないのかなぁ・・・
- 208 名前:メン後 投稿日:2008/11/23(日) 14:07
-
皆さん、りしゃみや好きですね。
ちょっと反響が多くて吃驚しました。
202<<名無飼育さん
ありがおとうございます。
梨沙子の心情が伝わってくれたようで。
一番の褒め言葉です。
203<<名無飼育さん
ありがとうございます。
この話の梨沙子を上手く伝えられてよかったです。
りしゃみやは切ないのが似合います。
204<<名無し飼育さん
ありがとうございます。
そう言ってもらえるとかなり嬉しいですw
切なさがを描かせたら梨沙子が一番だと思います。
205<<名無飼育さん
はい、自分も全く同じ気持ちです。
梨沙子には幸せになってもらいたいです。
というか幸せにしますw
206<<YOUさん
お待たせしました。
りしゃみや、特に切なく仕上がりました。
心に響くような何かを伝えられたらいいなと思いますw
207<<名無飼育さん
えー……この話のりしゃみやだと大体が切なくなってしまいます。
雅ちゃんと幸せにしている梨沙子は懐古で出てくるかもしれませんが予定は未定です。
余り期待せず、お待ち下さい。
- 209 名前:メン後 投稿日:2008/11/23(日) 14:08
-
では今日の更新。
りしゃもも予定だったんですが、りしゃみや。
それと予定通りやじうめです。
- 210 名前:メン後 投稿日:2008/11/23(日) 14:08
-
- 211 名前:―風邪引きの彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:09
-
さむい、喉痛い、だるい。
物音一つしない家で体温計を引っ張り出す。
計ってみたら思ったより熱があって。
何故か寂しくなった。
- 212 名前:―風邪引きの彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:09
-
―風邪引きの彼女―
- 213 名前:―風邪引きの彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:09
-
「みや、終わった。」
ぴぴぴと高い電子音が鳴った。
ぼんやりとした目線が彷徨う。
雅は梨沙子に手を伸ばし、体温計を出すように促す。
「ん、何度?」
「……38度6分。」
高熱に雅の顔がしかめられた。
梨沙子ははっきりとしない世界の中でそれを見ていた。
体温計を渡し雅の目が数字を読み取る。
どうしようかという逡巡がその瞳には見えた。
「病院、行く?」
「ううん、寝てれば治るよ。」
ふるふると力なく首を振る。
病院に行くとすれば雅に迷惑をかける。
それだけは避けなければならなかった。
- 214 名前:―風邪引きの彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:10
-
ベッドの脇に立って体温計と睨めっこする雅。場所は梨沙子の部屋だ。
きっと梨沙子を説得して病院へ連れて行くかを考えているのだろう。
ベッドから半身を出している梨沙子の顔は赤い。
色の白い肌が透き通って、熱の高さを教えた。
「ほんとに、大丈夫?」
結論が出なくて、梨沙子に尋ねる。
僅かに変わる表情から雅の思考まで読めてしまう自分が笑えた。
安心させるように大きく頷く。
雅が心配する必要なんてないのだから。
そんな事を言っても「何言ってんの。」と一蹴されることもわかっていた。
―大丈夫じゃないから、ここにいて。
なんて言えたらどんなに楽だろう。
何も考えずにその言葉を言えた昔の自分が羨ましくなった。
梨沙子はそう言う事が出来ない理由を持っていた。
ちらちらとさっきから時計を見る雅の様子を気づかぬわけが無い。
- 215 名前:―風邪引きの彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:10
-
―みや、分かりやすい。
大体にして梨沙子が教えなければ雅はここにはいなかったはずだ。
教える気も余り無かった。雅の今日の予定を知っていたためだ。
しかし習慣とは恐ろしいもので。
梨沙子は風邪を引いたと分かったその時に雅にメールしていた。
昔から体調を崩した梨沙子の世話はほとんど雅がしてくれる。
「大丈夫、だよ。だから行って?」
こほんと出て来そうになった咳を押し止める。
ニコリと笑ったつもりだが上手くできたかは分からない。
いや、これからは上手くならなければならない。
ばれないように、気づかれないように。
雅は梨沙子以外の大切な人を見つけたのだから。
―しっかりしなくちゃ。
雅との関係は区切りをつけなければいけない。
失恋してから何度目かの同じ決意だった。
何度目でも悲しい決意だった。
- 216 名前:―風邪引きの彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:10
-
「いいんだよ?今日くらい断っても。」
「ダメ、みや……楽しみに、してたじゃん。」
緩く首を傾げて梨沙子を覗き込む。
その動きに合わせて茶色になった髪が揺れ零れ落ちる。
嬉しくて、自分を未だに気にしてくれる雅が嬉しくて。
同じくらい切なくて。
梨沙子は途切れ途切れながらも自分の意思を伝える。
ブーブーと低い振動音が響く。
枕元に鎮めてある携帯電話からだった。
心配そうに自分を見る雅を傍目に梨沙子は震え続ける箱を手に取る。
開けてすぐに口元が緩む。当てが出来た。
これで雅も心置きなくデートに行くことができる。
―デート、ね。
自分で言って自分でダメージを受けることほど馬鹿らしいことはないのでないのだろうか。
そうはっきりとしない頭で考えながら梨沙子は雅を見上げた。
苦しいけど、熱があるけど、そんなのは関係ない。
雅をいつまでも自分に縛り付けては置けないから。
梨沙子は風邪の症状など無いかのような笑顔で雅に言う。
- 217 名前:―風邪引きの彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:12
-
「先輩が、来てくれるって。だから大丈夫だよ。」
「先輩?」
「うん、この間知り合った人。」
ミスコンを断ってからもしつこく梨沙子に付きまとう人。
愛理が家の事情でこれ無いとわかって、次に思い浮かんだ人。
最初は本当に煩かった。次に屋上で印象が少し変わって。
今では家に上げても良いかなくらいには思うようになった。
そうなったのは桃子が梨沙子を真っ直ぐに想っていてくれたからに違いない。
「へぇ、珍しいね。」
携帯を閉じて、元の位置に置く。
その様子を見ながら雅は明るい声で言った。
感心しているような、物珍しいような、嬉しいような、不思議な声だった。
訳が分からなくて梨沙子は熱に潤む目でただ雅を見つめる。
「何が……?」
こほっと小さく咳き込む梨沙子の背を雅は優しく撫でる。
緩やかに動く手はどうすれば心地いいのか全て分かっている風だった。
数回撫でて、トントンと宥めるように背に手を置く。
見つめた瞳は何処までも優しいものだった。
- 218 名前:―風邪引きの彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:12
-
「梨沙子が知り合い作るの、中々ないじゃん。」
「そう、かな。」
「そだよ、年上の知り合いってほぼうちを通してでしょ?」
嬉しそうな様子は人見知りの梨沙子を心配していたからか。
雅は純粋に姉代わりとして喜んでくれる。
それが彼女の良い所で、また残酷な所でもあった。
雅の好意は時として梨沙子を無意識のうちに傷つける。
―だってあたしはみや以外いらなかったんだもん。
そんな想いは深くに仕舞って、うんと小さく頷く。
千奈美や茉麻は雅と同じクラスだから知り合った。
そこから派生する人間関係も幾人かいるけれど、本を糺せば雅である。
別に知り合いなんて作ろうと思えば幾らでも増える。
愛理からだって、部活からだって、千奈美たちからだって。
しかし梨沙子はそういうものがいらなかった。いらないと感じていた。
なぜなら雅さえいてくれれば後はどうでも良かったから。
つくづく雅のことしか考えられない頭だと心の中で自嘲する。
- 219 名前:―風邪引きの彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:13
-
雅が全て。
雅しかいらなくて。
雅だけが梨沙子の世界だった。
そしてそうしていれる夢のような幼い時間はとうに過ぎ去ってしまった。
―好きだよ、みや。
なんて消せない想いに少し笑えた。
言えない想い、諦めた想い、忘れた想い。
そんなもの一日も早く塗り潰してしまいたい。
だけど心の何処かで梨沙子自身わかっていた。
「とりあえずそういうことだから、行っていいよ。みや。」
「うん、わかった。いつ頃来るの?その人。」
「自転車だからあと十分もしないうちに来ると思う。」
さっきのメールの内容を思い出す。
桃子からのメールには了承の意とすでにこちらに向かっていることが書かれていた。
ちらりと時計を見ればもうすぐメールが着てから十分が経とうとしている。
桃子から梨沙子の家は遠くない。
学校を挟んで丁度反対側に位置して入るが距離的には二十分あれば充分だ。
毎日自転車で通っている桃子ならそれより早く着くかもしれない。
- 220 名前:―風邪引きの彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:13
-
「そっか。」と雅が小さく頷く。
その動作にどうしようもないほどの寂しさを感じた。
雅がまた時計を見て、梨沙子を見る。
次に彼女が何を言い出すか梨沙子には察することが出来た。
「なら、うち行くね?その方がいいでしょ。」
「だからさっきからそう言ってるってば。」
繰り返す雅に呆れた顔を作る。
前に聞いた約束の時間は確か11時だった。
梨沙子の家から待ち合わせの場所に行くとなるとギリギリな時間だ。
今雅の頭の中では駅までの時間と電車に乗る時間が計算されているに違いない。
そんな姿を余り見ていたくなくて早く行けという風に手を振ってみせる。
すると雅は小さく笑って、それから部屋を出て行った。
- 221 名前:―風邪引きの彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:13
-
「体気をつけるんだよ。」
「わかってる。」
それだけを言い残して雅はデートに向かう。
彼女の優しさは変わらない。酷いくらいに優しい性格をしている。
雅の出て行った部屋は静かだった。ごろんと再び布団に寝て、ただ目を閉じる。
黒い視界に時計の秒針の音だけが響いていた。
「ばーか。」
小さな声で呟けば、ごほと咳が出た。
桃子が来るまで梨沙子は一人静かな空間に身を投じる。
そして取り留めの無い思考を馳せる。
人の想いは絵の具と同じだ。
一度塗ってしまえば完全に塗りつぶすことはできない。
想いはひたすらに塗り重なっていく。
水彩画と同じだと梨沙子が熱でぼんやりとしている頭で思った。
―風邪引きの彼女―終
- 222 名前:メン後 投稿日:2008/11/23(日) 14:14
-
- 223 名前:メン後 投稿日:2008/11/23(日) 14:14
-
続いてやじうめ。
両思いっていいですねw
- 224 名前:メン後 投稿日:2008/11/23(日) 14:14
-
- 225 名前:―真面目な彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:15
-
発端は何でもないこと。
うちが不良で、外見が派手で。
つまりはそんなことから発展した誤解。
よくあることだったからうちは別に気にしてなかった。
- 226 名前:―真面目な彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:15
-
―真面目な彼女―
- 227 名前:―真面目な彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:16
-
「ねぇ、梅田さん。」
「何?」
聞き慣れない声に顔を上げる。
そこにいたのは恐らくクラスメイト。
このクラスになって半年以上が経った。
だが話す人が決まっているえりかにとって、顔を覚えたのは少ししかいない。
人数だけは多い学校のため一々気にしていられないというのも事実だった。
―誰だっけ?
顔を覚えていない人物の用事に思い当たるものはない。
向こうも自分を名字で呼んでいる。
それだけで酷く他人行儀な響きになる。
乾いた声音からは良い用事だなんて思えなかった。
「梅田さん、私の教科書知らない?」
ざわざわとした人の気配が教室には満ちている。
なのにえりかの周りだけが変に静かで。
えりかは座ったまま自分の机の前に立つ少女を見上げる。
名前を知らない彼女の後ろには更に名前の知らない彼女たちがいた。
- 228 名前:―真面目な彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:16
-
―あー。
なんとなく自体を察する。
つまりえりかが教科書を盗った、もしくは隠したと思われていると。
理解した瞬間に面倒くさくなった。
なんで自分がそんな事をすると思うんだろう。
名前を知らないということは、彼女に抱く感情も何もないということだ。
教科書を盗むような恨みなんて一つもない。
それにそんな感情を持っていたとしても、盗むという姑息な手段は使わない。
「体育の時間が終わったらなくなってたの。」
「そうなんだ。」
「その時梅田さん、いなかったでしょ?」
腕を組んでただ淡々と状況を説明する彼女。
不良の自分にここまではっきりと文句を言える人物は貴重だ。
たとえ濡れ衣だったとしても、いやだからこそ彼女の胆は中々に据わっているようだった。
- 229 名前:―真面目な彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:17
-
確かに体育の時間、えりかはいなかった。
もちろん盗みを働いていて訳ではない。
いつもの様に屋上に気分転換にいっていただけだ。
そうしたら千奈美も屋上にいて、余りのんびりとはできなかったのだけど。
「体育は休んだけど、それだけで盗んだと思われるのは嫌だなぁ。」
「だってあなたしかいないじゃない!」
ほんわかとしたえりかの口調に相手が切れた。
机に手を突いて詰め寄ってくる。
教室に響くくらいの大きな音が出る。
シンと刹那教室の注目がえりかの机周辺に集まった。
「でもうちじゃないし。」
「机でも鞄でもロッカーでも調べたら?」と言う。
この身は潔白だから別に何を調べられても困らない。
むしろ教科書を挙げることさえ別に構わなかった。
教科書がなくなったくらいでこれだけ騒ぐならば、そうすればいい。
えりかは暫くそれがなくても十分に生活できる自信があった。
- 230 名前:―真面目な彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:17
-
そう提案しようかと口を開きかけたとき。
えりかの耳に馴染んでしまった音が教室の端から聞こえてくる。
人垣になっているクラスメイトを掻き分けて、彼女が飛び出す。
「えり!どうかしたの?」
「……舞美。」
タタタと駆け寄ってきた黒玉の彼女。
瞬間、えりかの顔が一番困ったものに変わる。
相変わらず綺麗な黒髪も、キラキラ光を放つ瞳もそのままだった。
心配そうにえりかの側に寄る。
机を挟んで舞美も名も知らぬ少女と対立することになった。
―大丈夫なのに。
こういう事態には慣れている。
舞美が出て来るまでもないのだ。
えりかは舞美との仲を知られるのが嫌だった。
不良のえりかと真面目な舞美が一緒にいる。
それだけで舞美の評判としてはよくない。
だからなるたけ、こういう厄介ごとに巻き込みたくなかったのだ。
- 231 名前:―真面目な彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:17
-
「ううん、なんでもないから。舞美は戻りなよ。」
「明らかに大丈夫じゃないじゃん。」
何かを疑われる前に戻って欲しい。
そう願い舞美に言うも一蹴された。
舞美の視線がえりかと未だ立ったままの彼女とを往復する。
えりかが何かを言う前に舞美の口が開いていた。
「どうしたの?村上さん。」
「別に、私の教科書知らないかって聞いてただけ。」
「舞美、名前知ってるんだ。」と思って、すぐに「そりゃ当然か。」と思い直す。
えりかの隣に立つ彼女は人気度も知名度も高い。
人付き合いも得意なようで、クラスメイトの顔と名前くらい覚えているのだろう。
「教科書?」
「そ、体育の時間になくなっていたから。」
「えりがいなかったから、ってこと?」
舞美の顔が険しくなる。
苦虫を噛み潰したような顔とはこういうのを言うのだろう。
何故かえりかを放って進んでいく話を横目にそう思った。
村上さんは舞美と相対しても一歩も引かない。
- 232 名前:―真面目な彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:18
-
「それだけ?」
「疑うには十分だと思うけど。」
ぴくりと舞美の眉が動く。
対する名前も知らなかった彼女は表情一つ変えない。
感情的な分舞美が不利だと感じた。
こういうのは感情を見せたほうが負ける。
喜怒哀楽の激しい事がダメだとは言わない。
えりかはそういう所も含めて好きなのだし、舞美はそっちの方が彼女らしい。
ただ単なる向き不向きの問題なのだ。
「えりはっ。」
何かを言いかける舞美の袖を引く。
すぐにその視線が落ちてきて、見上げるということが新鮮なのに気づく。
黙って首を振れば舞美の顔が泣きそうに変化した。
そんな顔する必要がないのにと思う。
だけどやっぱり彼女のそんな顔が自分のためだと思うと酷く嬉しかった。
- 233 名前:―真面目な彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:18
-
「とりあえず、うちは本当に知らないから。」
「でも、ないものはないのよ。」
「うちの貸すから、とりあえずそれでいいでしょ。」
椅子から立つ。椅子のゴムと床が擦れて耳ざわりな音が出る。
立ってみれば村上という少女は自分より10cm近く小さかった。
舞美はさっきから俯いて何も言わない。
表情を変えない少女はいつもで経っても変わらなかった。
「明日までに探しとく、責任もって。見つかんないなら、別にあげてもいいし。」
ちらりとあった視線は強いものだった。
それを最後にえりかは教室を出る。
あの少女も追ってくる様子はなかった。
嫌がらせでも何でもなく、純粋に教科書を探していただけのようだ。
だろうなとさっきの強い瞳を思い出す。
あんな目をしている人が姑息な手を使うはずがない。
- 234 名前:―真面目な彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:18
-
黙って歩く。
掴んだ袖と一緒に舞美はおとなしくえりかについてきてくれていた。
途中隣のクラスに顔を出す。
そんなに探す必要もなく、桃子と佐紀がいた。
軽く手招きして二人を呼ぶ。
「どうしたの?えりかちゃん。」
「珍しいね、自分から来るなんて。」
「ん、面倒な用事。」
軽く事情だけを説明して、教科書のことを頼む。
えりかは盗っていない。
ならば他の誰かが持っていったのだろう。
盗んだとかそういうものではなく、借りただけかもしれない。
そう考え、情報の早い二人に任せる。
佐紀は委員長の役ができたせいか色々人脈も広がった。
桃子は元から独特のパイプを持っている。
村上という名字だけで二人は誰のものだか分かったらしい。
「へー。」と興味を持ったのか持たないのか分からない声を上げた。
- 235 名前:―真面目な彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:19
-
「じゃ、うちは保健室にいるから。」
「オッケー。聞かれたらそう言っとく。」
次の時間は都合の良いことに隣のクラスと合同だ。
にっこりと笑う桃子の笑顔を背にえりかは歩き出す。
授業開始が近いため廊下を歩く人影は少なくなる。
ざわめきが遠のいてやっと舞美が顔を上げた。
「……えり、どこ行くの?」
「んー、いいとこ。」
進む歩の道は保健室には向かってなかった。
屋上に行こうと考えて、だが今日は千奈美がいたことを思い出す。
あれがいたら静かに話を聞くなんてできなくなる。
それに不良のレッテルが貼られているえりかと違い、優等生な舞美がいる。
無難に保健室にしようとえりかは心の中で決めた。
「舞美さ、ああいうのは放っておいていいんだよ。」
上ろうとしていた階段を下りる。
タンタンと軽快な音が反響した。
掴んだ袖が逆に取られて、えりかは舞美に引き止められる。
一段の差があれば舞美はえりかより高い位置になる。
- 236 名前:―真面目な彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:19
-
「でも、えりは盗ってないじゃん。」
「盗ってなくても関係ないの。盗りそうっていうのが問題なんだから。」
「そんなの、おかしいよ。」
ぐっと手首を掴む手に力が込められる。
舞美の黒髪がさらりと揺れて、表情をちらつかせる。
だけどえりかにはその瞳が潤んでいるのがはっきりと見えた。
―舞美は真面目だからなぁ。
疑うという行為自体が好きではないのだろう。
ましてや明らかな濡れ衣となれば更に。
人を真っ直ぐに信じられる。
それはきっと素晴らしいことに違いない。
- 237 名前:―真面目な彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:20
-
「いいんだよ。」
「なんで?あたし、えりがああいう風に言われるのやだ。」
元から強い輝きを放つ黒玉が、涙に縁取られてキラキラと光る。
舞美がこういう性質なのは今に始まったことじゃない。
けれどやはりえりかは思うのだ。
舞美が一番綺麗だと。
一番真っ直ぐで。一番可愛くて。一番綺麗だと。
毎日のように思ってしまうのだ。
「別に教科書は、佐紀たちが解決してくれるし。」
階段と言う安定しないものの上で身体を反転する。
一段上って、舞美と同じ場所に立つ。
並べば矢のように真っ直ぐな視線が飛んできた。
ふふと小さく笑みが漏れる。
舞美は気づいていない。だけどえりかは気づいていた。
舞美の喜怒哀楽はえりかといると激しくなる。
それが嬉しい。
- 238 名前:―真面目な彼女― 投稿日:2008/11/23(日) 14:20
-
「舞美が、信じてくれるなら別に他はどうでもいいから。」
言ってから恥ずかしくなる。
なんだ、今のは。ほとんど告白みたいじゃないかと自分で思う。
顔に血液が集まってくるのがわかって、顔を逸らす。
見上げた天井にはふざけた誰かが書いたのだろう落書きがあった。
掴まれた手はいつの間にか離されている。
それをいいことにえりかは一人階段を下り始める。
「えり、待ってよ。」
「無理、今は無理。」
授業中なんてことを忘れた二人の声が階段に響く。
足取りはとても軽かった。
振り返らなかったえりかは知らない。
舞美の顔もえりかに負けないくらい赤かったことを。
―真面目な彼女―終
- 239 名前:メン後 投稿日:2008/11/23(日) 14:20
-
- 240 名前:メン後 投稿日:2008/11/23(日) 14:21
-
やじうめは書いている方も幸せになりますw
りしゃももとりしゃみやもそうなってくれるといいのにorz
では次こそりしゃももを。
メン後でした。
- 241 名前:メン後 投稿日:2008/11/23(日) 16:50
-
上げ忘れ
- 242 名前:通りすがりのアゲ子 投稿日:2008/11/24(月) 01:04
-
いいわねぇ、りしゃみや流石ねぇ。
わたし的にはりしゃももの方が最近の王道になりつつあるけれどメン後さんの切ないりしゃみやはりしゃもも推しにもテンション上げさせるわねぇ。
- 243 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/24(月) 01:07
-
自分も菅嗣好きなので菅夏に変わってしまったのは残念ですが、切ないとこはグッド!
- 244 名前:メン後 投稿日:2008/12/04(木) 00:33
-
- 245 名前:メン後 投稿日:2008/12/04(木) 00:37
-
12月ってバカみたいに忙しいです。
遅れ気味ですが、何か妄想が溢れそうな予感がするので更新。
242<<通りすがりのアゲ子さん
はい、りしゃみや流石ですw
りしゃももも負けないくらいCP臭いんですが。
りーちゃん絡みだとやっぱりしゃみやは別格になってしまいます。
りしゃもも推しの方にも楽しんでもらえたら嬉しいです。
243<<名無飼育さん
ありがとうございます。
りしゃみやは切なさを書くなら物凄く楽な二人です。
今日はきちんとりしゃももなんで、おそらく。
気に入ってもらえたら幸いです。
ではでは久しぶりのりしゃもも。
話が進みません。この二人w
- 246 名前:メン後 投稿日:2008/12/04(木) 00:38
-
- 247 名前:―帰り道の彼女― 投稿日:2008/12/04(木) 00:39
-
文化祭まであと一週間。
何が変わったかなんて分からないけど。
一歩進んだと信じたい。
だってやっぱりーちゃんが好きだから。
- 248 名前:―帰り道の彼女― 投稿日:2008/12/04(木) 00:39
-
―帰り道の彼女―
- 249 名前:―帰り道の彼女― 投稿日:2008/12/04(木) 00:39
-
桃子の家と梨沙子の家は離れている。
正確には桃子の家が遠いのだ。
梨沙子は徒歩で通学しているが、桃子は自転車で来ている。
バスや電車を使う手もあった。
あったが桃子はあの人ごみが好きではない。
そのため、毎日自転車を漕いできているのだ。
「秋祭り?」
「うん、今度近所であるの。来ない?」
自転車を引きながら桃子は言う。
帰りが一緒になったのは偶々だった。
委員会で遅くなった桃子と部活が終わった梨沙子。
いつも一緒に帰る友達も今日は休みらしく、桃子は運よく一緒に帰る権利を手に入れた。
夏が終わって日が短くなってきている。
ついこの間まで明るかった時間なのに、既に世界が赤く染まり始めていた。
桃子は隣を歩く梨沙子を見つめる。此間からのタメ口が嬉しかった。
勝手に頬が緩んで顔が崩れないようにするのが大変だった。
- 250 名前:―帰り道の彼女― 投稿日:2008/12/04(木) 00:40
-
「予定はないけど、他に誰が来るの?」
「千奈美に佐紀ちゃん、あとはえりかちゃん達も来るかな。」
「えりかちゃん?」
不思議そうに首を傾げる。知らなくて当然だろう。
今挙げた名前は全て梨沙子より上の学年である。
桃子としても一緒に集まる気はなかった。
だが千奈美が面白そうだと人を集めてしまったのだ。
「友達、でもたぶん途中で分かれると思う。」
「なんで?」
知らない梨沙子に教えようと口を開く。
その行為は中々に楽しいものだ。
ううんと桃子はその考えに途中で首を振る。
梨沙子に自分のことを知ってもらえるのが嬉しい。
そっちの方がきっと自分の感情には合っている気がした。
- 251 名前:―帰り道の彼女― 投稿日:2008/12/04(木) 00:40
-
「えりかちゃんを好きな人とくっつけさせるから。」
「あー、なるほど。二人だけにさせるんだ?」
定番とも言える手法。
えりかは何も知らずに来るのだろう。
そして千奈美が連れてきた舞美に吃驚するに違いない。
えりかが舞美を好きなことはもうばれている。
驚く様子が想像できて桃子は小さく笑いを収めた。
「そ、千奈美が妙に張り切ってたし。」
「ちーはそういうの大好きだからね。」
くすくすと笑う顔は穏やかだった。
千奈美と仲がいいのは既に知っている。
可愛がっていると言ったのは他ならぬ千奈美自身だし。
梨沙子も案外懐いているように見えた。少し、妬ける。
- 252 名前:―帰り道の彼女― 投稿日:2008/12/04(木) 00:40
-
「りーちゃん、これから大丈夫?」
そう思った瞬間に桃子は梨沙子の手を掴んでいた。
片手でバランスを取る自転車がふらつく。
しかし梨沙子の手を離す気にはならなかった。
突然手を掴まれ、ビクッと肩が跳ねる。
「え、うん。別に大丈夫だけど……。」
「ならちょっと付き合って。」
ぽんぽんと梨沙子の顔を見て荷台を叩く。
手を離されて、今度は理解できないと言うようにきょとんとされた。
桃子は梨沙子を安心させるように笑顔をつくる。
「乗って?もぉ、こう見えても自転車漕ぐの上手いから。」
「……乗るの?」
半信半疑。
まさにそんな目線が梨沙子から発せられる。
荷台と桃子の顔を往復する梨沙子の瞳。
その瞳を見つめながら桃子は大きく頷いた。
- 253 名前:―帰り道の彼女― 投稿日:2008/12/04(木) 00:41
-
「平気だって。すぐ着くし。」
「絶対転ばないでよ!」
実際に15分も掛からないだろう。
二人乗りをして行ったことはないが、桃子一人だと10分程度で着く。
のんびり安全運転をしてもさほど変わらない気がした。
念を押すように言って梨沙子が荷台に座る。
少し顰められた眉は不安と良いとは言えない乗り心地のせいだと思いたい。
それを見届けてから桃子はサドルに座り、ペダルに足をかけた。
「じゃ、行くよ。」
「うん。」
梨沙子が桃子の制服を遠慮がちに握る。
腰の部分を少しだけ摘むその握り方に逆に心配になった。
顔を逸らして横目で見る。横座りをしている梨沙子と目が合った。
- 254 名前:―帰り道の彼女― 投稿日:2008/12/04(木) 00:41
-
「ちゃんと掴まってて。落ちると危ないから。」
「……わかった。」
逡巡した末、梨沙子が呟くように言った。
一端手が離され桃子の腰に回る。ぎゅっと伝わる力に頬が緩んだ。
背中全体に体温が伝わるのは梨沙子がくっついてくれているからだ。
その温もりが嬉しくて、桃子は力強くペダルを踏み込んだ。
「わ、わ、わ!」
「ちょっ、りーちゃん、動くと危ないぃ〜。」
自転車と言うものは最初の数メートルが一番ふら付く。
スピードが出ていないからだ。
一人のとき感じない揺れは、二人になると顕著に感じられる。
二人乗りを初めてした梨沙子はそれを知らなかったに違いない。
少し揺れるたびに大きな声が耳元で漏れた。
- 255 名前:―帰り道の彼女― 投稿日:2008/12/04(木) 00:42
-
「だって揺れるんだもん!」
拗ねた声が響く。
こつんと顎で小突かれた。もっと丁寧にということらしい。
なんとなく梨沙子の表情さえ浮かんでしまう。
彼女のことを知っていける自分が嬉しかった。
フラフラする桃子たちの横を何しているんだかと電車が素知らぬ顔で通り過ぎる。
「しょーがないでしょ、自転車なんだから。」
少し大きめの声でぼやく。
自転車は声が聞き取りにくい。
特に前の声は後ろに聞こえない。
桃子はそれを経験で知っていた。
そんなやり取りをしているうちに自転車は安定する。
真っ直ぐ走り始めたそれに梨沙子の安堵の吐息が漏れた。
すいすいと走れば自然と風も吹く。
見慣れているはずなのに、全く違うように見える景色を見ていた。
あっという間に目的地へとたどり着く。
梨沙子一人だけでこんなに違うんだと桃子は変に感心した。
- 256 名前:―帰り道の彼女― 投稿日:2008/12/04(木) 00:42
-
「ここ……?」
「あたしんち。さ、入って入って。」
門柱の前で立ち止まる梨沙子の背中を押す。
なんてことはない普通の一軒家だ。
表札にもしっかりとした字体で嗣永と書いてある。
ガチャと門と言うにはお粗末過ぎる扉を開ける。
門の中に入って二、三歩歩けばそこは既に玄関だ。
「ただいまー。」
「お邪魔します。」
鞄から鍵を出し、開ける。さっさと靴を脱ぎ上がる。
迎える声はなかった。
戸惑った表情をしていた梨沙子も観念したように靴を脱ぐ。
- 257 名前:―帰り道の彼女― 投稿日:2008/12/04(木) 00:42
-
「りーちゃん、こっち、こっち。」
玄関を上がって真っ直ぐに進めば台所だ。
なぜか靴を脱いだままぼんやりとそこに佇む梨沙子を呼ぶ。
すると梨沙子はぴくりと肩を動かし、それからすぐに桃子を見た。
その刹那に漏れた感情がなんだったのかは分からない。
だが梨沙子の目が何かを確かめるように動いていたのは分かった。
「ちょっと座ってて。いいもの作るから。」
「作るって、もも、料理できるの?」
「失礼な。こう見えてもぉはりーちゃんより三つも年上なんですぅ。」
冷蔵庫から紙パックを取り出す。
コーンポタージュと印刷してあるそれはよくあるインスタントだ。
なぜか桃子の家にはこれのレシピがある。
- 258 名前:―帰り道の彼女― 投稿日:2008/12/04(木) 00:43
-
―ほとんど、温めるだけなんだけど……。
そこにちょっとしたものを加えるのだ。それだけで味は結構変わる。
桃子はその独特の料理が好きだった。
恐らく自分の家にしかないもの。それを梨沙子にも食べて欲しい。
鍋を火に掛けパックの中身を入れる。
そんな作業を梨沙子はこれまたぼんやりとした目で見ていた。
「りーちゃん、どうかした?」
「ううん、何でもない。」
五分もしない内に嗣永家のコーンポタージュができあがる。
桃子はそれをカップに注ぎ、梨沙子に渡した。
両手で包み込むように持つ。
手が冷えてたのかなとそれを見て思った。
「いただきます。」
「うん、召し上がれ!」
こくりと梨沙子がカップを傾ける。
その何てことない動作を桃子は梨沙子の対面に座って見つめた。
好きな人がそばにいるというのはそれだけでこんなに嬉しい。
桃子はうふふとぶりっ子の笑みを零した。
- 259 名前:―帰り道の彼女― 投稿日:2008/12/04(木) 00:43
-
「……おいしい。」
「そっか、よかったぁ。」
ゆるりと梨沙子が口元を緩める。
ほのかな笑顔は桃子を幸せにさせた。
小さな音がしてカップがテーブルの上に置かれた。
湯気の立つそれを見つめる梨沙子の瞳は限りなく優しい。
「誰かにご飯作ってもらうの、久しぶり。」
「そーなの?んじゃ、今度食べにおいでよ。」
「うん。」
こくりと頷いた顔は見たことがないくらい可愛かった。
梨沙子の心はこんなにも温かい。
そう思った日だった。
―帰り道の彼女―終
- 260 名前:メン後 投稿日:2008/12/04(木) 00:43
-
- 261 名前:メン後 投稿日:2008/12/04(木) 00:45
-
改めて、更新遅くなってすみません。
忙しいのと一緒に微スランプが来とりました。
もう少ししたら色々楽になるので。
通常更新が安定するまで暫くお待ち下さい。
- 262 名前:メン後 投稿日:2008/12/04(木) 00:45
-
- 263 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/04(木) 03:26
-
どうやらメン後さんの推しはりしゃみやみたいですが、りしゃももも流石だとゆいたい
もも相手だとやきもきやほのぼの引き立つところがたまりません!
- 264 名前:メン後 投稿日:2008/12/13(土) 08:53
-
低速ながら生きてます。
ちびちびと溢れ出る妄想を紡いでる感じです。
263>>名無飼育さん
レスあっとうございます。
りしゃみや扱いが違いますが、基本りしゃCPDDです。
りーちゃん絡みはどれも大好きです。
りしゃももはその中でも好きなCPなんで中篇が出来てしまいましたw
では今日の更新。
りしゃあいりです。
- 265 名前:メン後 投稿日:2008/12/13(土) 08:53
-
- 266 名前:―親友の彼女― 投稿日:2008/12/13(土) 08:53
-
久しぶりに訪れた彼女の家はやはり少し寂しい。
普通より大きいからだろうか。
真っ白な家にぽつんと一人でいる。
そんな姿が愛理は嫌いだった。
- 267 名前:―親友の彼女― 投稿日:2008/12/13(土) 08:54
-
―親友の彼女―
- 268 名前:―親友の彼女― 投稿日:2008/12/13(土) 08:54
-
―相変わらずだなぁ。
ちくたくと進む時計の針の音。
いつもは気にならないそれが今ははっきりと愛理の耳には届いていた。
理由は簡単だ。静かなのである。
愛理と梨沙子以外存在しないこの家は、物静か過ぎる。
ベッドの端に座り梨沙子を待つ。
清々しいほどまでに白い壁は一人ということを際立たせた。
することがなくて視線を動かす。
何回か見た机の上に変わらない写真が置いてあった。
梨沙子と雅の写真である。
前は見るたびに笑顔になれた。今は見るたびにどう反応していいか分からない。
ただじっと楽しそうに笑う二人を見るしかなかった。
「お待たせ。」
かちゃと金属の擦れる音がしてドアが開いた。
愛理は梨沙子を笑顔で迎える。
難しい顔など梨沙子に知られたくはなかった。
- 269 名前:―親友の彼女― 投稿日:2008/12/13(土) 08:55
-
「ううん、待ってない。大丈夫だよ。」
梨沙子の持つお盆の上には湯気を立てるカップがあった。
自然と手伝うために側に寄る。
いいのにと笑う梨沙子にううん、やらせてと返す。
実の所何かしていなければ落ち着かなかった。
―あれから、来るの初めてだしなぁ。
梨沙子の家を最後に訪れたのは七月の最初だった。
元々二人で遊ぶのに梨沙子の家を使うことは少ない。
多くは帰り道に寄れる範囲で遊ぶ。
もしくは愛理の家に来てもらうことのほうが多かった。
白のカップを二つ並べる。
ふわりと香りが掠め、愛理はそれが紅茶だと理解した。
自分の好きな匂いに目を細める。
- 270 名前:―親友の彼女― 投稿日:2008/12/13(土) 08:55
-
「これ、前あげたの?」
「そう愛理から貰った葉っぱだよ。これ好きなんでしょ?」
「うん。」
ゆるやかに口元が緩む。
自分の好きなものが嬉しくて、自分の好きなものを覚えていてくれたことが嬉しい。
笑う梨沙子は酷く穏やかだった。二人並んで腰掛ける。
ベッドとテーブルの隙間は少し狭かった。
だが二人にしてみれば、ちょうどよい距離になる。
広すぎるこの家ではこの位近いほうがいいと愛理は思う。
手の届く距離にいないといなくなってしまいそうで心配になる。
特に梨沙子はそういう雰囲気を持っている。
気まぐれで儚くていついなくなるか分からない。
時々そういう妄想に限りなく近い考えが浮かんでしまう。
人が消えるなんて、そう簡単に出来ないのだ。
知っているのに不安になる。
- 271 名前:―親友の彼女― 投稿日:2008/12/13(土) 08:56
-
「まだ、帰ってきてないんだ?」
愛理の言葉に梨沙子は頷く。
帰ってきていないとは梨沙子の両親のことだ。
他にも年の離れた兄弟がいるらしい。
確信できないのは、話に聞いたことはあっても実物を見たことがないからだ。
いつ来ても梨沙子の家族はこの家にいなかった。
いつ来ても愛理が見るのはこの家に一人いる梨沙子の姿だった。
「慣れたよ、もう。小学校に上がる頃からこんな感じだし。」
苦い表情一つしない。
何も変わらない顔は確かに言葉通りのように見えた。
入れたての紅茶の湯気が昇って散った。
寂しくない。
そう言葉で言ったら嘘になるのだろう。
両親がいない状況に慣れていたとしても。
兄弟がいない状況に慣れたとしても。
梨沙子が寂しいという感情を理解しているのを愛理は知っている。
なぜなら梨沙子には雅がいたから。
寂しいという感情を梨沙子に教えたのはきっと雅だ。
- 272 名前:―親友の彼女― 投稿日:2008/12/13(土) 08:56
-
―寂しくないなんて、言えないよね。
人の温かさも、優しさも。
両親から教わるべきことを梨沙子は全て雅から学んだ。
ならば雅の離れていった今梨沙子が寂しさを感じていないなんてことは絶対にない。
静かにカップを傾ける。慣れ親しんだ味がじんわりと舌に広がった。
「あ……。」
「どうかした?」
テーブルにカップを戻そうとして隣に置かれたものが違うのに気づく。
梨沙子が紅茶を飲む時はいつも同じものを使っていた。
ピンクというより桜色に染まった綺麗なカップだった。
その鮮やかな色が梨沙子にぴったりと合っていて、愛理の印象に残っている。
「いつも使ってた桜のカップ、どうしたの?」
「あれは。」
勢い聞いてしまってから後悔する。
口ごもる梨沙子の額には深い皺が刻まれている。
あ、夏焼先輩だとすぐに思った。
そしてそれこそ一番触れてはいけない真新しい傷。
- 273 名前:―親友の彼女― 投稿日:2008/12/13(土) 08:57
-
―……どうしよ。
分かって、しかし対処法を愛理は持っていなかった。
口から出た言葉を戻すことなどできやしない。
梨沙子の答えをひたすらに待つ。
愛理の隣で梨沙子の指が白いカップの縁をなぞった。
滑らかな動きだった。
手に新しいそれを馴染ませようとしているように愛理には見えた。
「みやから、貰った奴なんだけどね。結構古いから、仕舞ってる。」
「あ、そうなんだ。」
梨沙子の答えにほっとしている自分に驚いた。
それと同時に雅の大きさを知る。
結局梨沙子には忘れることも捨てることなど出来ないのだ。
捨てられなかったカップがその証拠のように思えた。
手が離れて、緩く巻かれた髪の毛先を触る。
先端だけを摘んで弄るその癖は誤魔化しているときのものだ。
視線は愛理を見ずにただ髪の先を見つめていた。
- 274 名前:―親友の彼女― 投稿日:2008/12/13(土) 08:58
-
「愛理さ。」
「うん?」
髪を摘んでいた手がパッと離される。
横を見ても、梨沙子はこちらを見てはいなかった。
ひたすらに白い壁を見つめている。
その瞳は美術室で見る、白い画面と向かい合うものと酷く似ていた。
「かぎ、いらない?」
「かぎ?」
幼い口調で言われた言葉が一瞬結びつかなかった。
かぎ、カギ、鍵。
漸く頭の中にその絵が浮かんだとき、梨沙子は既に愛理の方を見ていた。
真っ直ぐな視線に気後れする。強い瞳に重さを感じた。
- 275 名前:―親友の彼女― 投稿日:2008/12/13(土) 08:58
-
「なんの、鍵?」
自分が緊張していることに震える声で気づいた。
梨沙子は時々こういう目をする。
気圧されるような、静かな目。
意識してやっているのではないことくらい分かっていた。
人と付き合うことが苦手な彼女は主張したいことを言葉じゃなくて瞳に込めるのだ。
「この家の鍵。余ってるから。」
さっぱりと言い切った。
何でもないことのように言うも、梨沙子にとって重要なことだったのは間違いない。
だってその鍵の前の持ち主を愛理は知っているから。
雅のことを言う姿は未だに自暴自棄が大半を占めているように見える。
縛られているのだ、梨沙子はまだ。
―大好き、だったもんねぇ。
そして愛理も梨沙子のことが大好きである。
不安定な感情を知って、家の鍵を貰いたくなるくらいには。
だがその鍵を愛理は貰うことはできない。
自分ではダメだとわかっていた。
- 276 名前:―親友の彼女― 投稿日:2008/12/13(土) 08:59
-
「貰ってもいいけど、ダメだよ。わたしじゃ。」
「なんで?」
梨沙子の手が伸びて、愛理の制服の裾を掴む。
きゅっと込められた力は儚い。
顰められた眉と潤んだ瞳が対照的だった。
困ったなと思いながら愛理は笑顔を漏らす。
どう言えばいいのかよく分からなかった。
「わたしじゃ、その鍵使えないもん。」
考えて、考えて出た言葉はそれだけだった。
貰えるものならば貰ってしまいたいけれど。
鍵を貰ったとして、愛理にそれを活用することは出来ない。
自分の性格とかそういうものを諸々考えての結果だ。
―もっと、相応しい人がいるよ。
梨沙子はふわふわしている。
不安定で繊細で、なのに変な所が頑固で。
良くも悪くも芸術家みたいな性格をしていた。
そんな梨沙子を包み込むには自分では足りない。
鍵を貰うという事は梨沙子の心を守るという役割を受け入れるのと同じだから。
側にいて欲しいときにいれる人物でないといけない。
少なくとも愛理はそう思っていた。
- 277 名前:―親友の彼女― 投稿日:2008/12/13(土) 08:59
-
「だから他の人に渡した方がいいよ。」
「渡したい人なんていないよ。」
「ならできるまで待つ。」
「えー。」という不満そうな声は聞かなかったとことにした。
ほんのちょっと悔しくて不甲斐なかった。
きっと梨沙子は誰でも良かったのだ。雅以外なら誰でも梨沙子にとって等しく同じ。
愛理がその中で一番仲が良くて、鍵を渡そうと思えただけ。
そこに含まれる意味など塵ほどもないに違いない。
それ以上になれない自分が情けなくも思えた。
「……すぐに、できるよ。」
零れた言の葉は流せなかった涙の代わり。
結局自分は梨沙子にとって親友以上にはなりえない。
―親友の彼女―終
- 278 名前:メン後 投稿日:2008/12/13(土) 09:00
-
- 279 名前:メン後 投稿日:2008/12/13(土) 09:02
-
りしゃあいり。
書いている自分にも友情なのか恋情なのか分かりません。
でもこの曖昧さがりしゃあいりの良さ、とか言ってw
ではではまたの日に。
メン後でした。
- 280 名前:メン後 投稿日:2008/12/13(土) 09:02
-
- 281 名前:メン後 投稿日:2008/12/21(日) 23:08
-
- 282 名前:―決心の彼女― 投稿日:2008/12/21(日) 23:11
-
「出ることにした。」
唐突に言われたそれが最初は何を指しているのか分からなくて。
だけど次の瞬間に物凄く嬉しくなった。
だってきっと少しは気を許してくれたってことだと思うから。
- 283 名前:―決心の彼女― 投稿日:2008/12/21(日) 23:11
-
―決心の彼女―
- 284 名前:―決心の彼女― 投稿日:2008/12/21(日) 23:12
-
「へぇ。そりゃ良かったね、もも。」
「うんっ、ギリギリだからちょっとずるしちゃったけど。」
佐紀にそう言って桃子はひたすらに書類を書き進めていた。
忙しそうに動く手とは反対に桃子の顔は非常に嬉しそうである。
梨沙子がミスコンに出ると言った。
断られた後もずっと桃子がそれを請うていたのを知っている。
梨沙子がそれを許したという事は桃子との関係も進んだという事で。
佐紀はなんとなく嬉しくなった。
「いいんじゃない?ミスコンは会場設営以外大掛かりなことないし。」
梨沙子を一人出場者に加えるくらい楽なものだろう。
幸い出場者のリハーサルは例年前日に行われるだけだ。
まだ誰が出るかも完全に把握していない人がほとんどだ。
いたとして委員長である佐紀と担当である桃子。
その二人ともが梨沙子が出ることを熱望していたのだから何も問題はない。
- 285 名前:―決心の彼女― 投稿日:2008/12/21(日) 23:12
-
「でも何で急に?」
「さぁ、もぉは知らない。」
書類から目を離さないで桃子が首を傾げる。
本当に知らない様子に佐紀は苦笑した。
梨沙子が出てくれるのならそれでいい。
そんな雰囲気が滲んでいた。
よっぽど好きなんだなぁと今までに無い桃子に思う。
佐紀から見た桃子はどこかいつもドライで、それを隠すかのようにぶりっ子をしていた。
桃子とは小学校から同じである。
そして小学生のときから桃子の性格は然程変わっていない。
女の子らしい容姿に話し方。
場を読める性格に回転の速い頭。
子供っぽい容姿に反してとても大人っぽい中身の人物だった。
そして。
―楽しそうだね、もも。
強い光を放つその瞳。
ギラギラと何かを求めていたそれはいつの間にか柔らかくなっていた。
光の強さは変わらない。
ただその種類が変わっただけ。
だがそれが佐紀にしてみれば驚くべきことなのだった。
- 286 名前:―決心の彼女― 投稿日:2008/12/21(日) 23:13
-
「佐紀ちゃんの方はさ、どうなの?」
「え?」
悪戯に桃子が笑って言う。
唐突に掛けられた声に驚いて目を向ければ、視線が合った。
いつの間にか挙げられた顔が佐紀を見つめている。
一瞬の静寂が部屋を覆った。
「千奈美のこと?」
何について訊かれているのか分からなくて、少し首を傾げる。
しかし佐紀と桃子の間で出る話など中々に限られている。
それほど交友関係も部活も重ならない二人だから。
佐紀は自分の中にある名前を言った。
それは正解だったようで桃子の顔が変わる。
すっと細められた瞳は昔の色をしていた。
- 287 名前:―決心の彼女― 投稿日:2008/12/21(日) 23:13
-
「そうそう、あの子りーちゃんに手出そうとしてるんですけど。」
「千奈美が?」
ぴくりと眉間に自分の顔に皺が寄ったのが分かった。
苛ただしげにシャープペンの先が机に押し付けられる。
タンッという乾いた音と共に芯が引っ込む。
桃子により投げ出されたそれはコロリと机の上に転がった。
「それはないと思うけど。」
千奈美に気になる人がいるのを佐紀は感じていた。
はっきりと言われたわけではない。
雰囲気というか、空気みたいなものが違う。
だからそんな状態の千奈美が下手に周囲に手を出すはずが無かった。
千奈美と知り合ったのは中学校に入ってからだ。
桃子が佐紀の前に連れてきたのだ。
幼馴染とも言えるえりかも一緒にいたかもしれない。
とりあえずその二人が佐紀と千奈美の縁を結んだ。
話してみれば気が合って、仲良くなった。
- 288 名前:―決心の彼女― 投稿日:2008/12/21(日) 23:14
-
「そうそう、あの子りーちゃんに手出そうとしてるんですけど。」
「千奈美が?」
ぴくりと眉間に自分の顔に皺が寄ったのが分かった。
苛ただしげにシャープペンの先が机に押し付けられる。
タンッという乾いた音と共に芯が引っ込む。
桃子により投げ出されたそれはコロリと机の上に転がった。
「それはないと思うけど。」
千奈美に気になる人がいるのを佐紀は感じていた。
はっきりと言われたわけではない。
雰囲気というか、空気みたいなものが違う。
だからそんな状態の千奈美が下手に周囲に手を出すはずが無かった。
千奈美と知り合ったのは中学校に入ってからだ。
桃子が佐紀の前に連れてきたのだ。
幼馴染とも言えるえりかも一緒にいたかもしれない。
とりあえずその二人が佐紀と千奈美の縁を結んだ。
話してみれば気が合って、仲良くなった。
「ちゃんと手綱握っててよ。千奈美、佐紀ちゃんの言う事は聞くじゃん。」
「いやー……まぁ、善処します。」
不思議なことに誰の意見も聞かない千奈美は佐紀の話だけは聞いた。
そんな状況の千奈美を見て、懐いたと桃子は言った。
犬じゃないんだからと苦笑したのを佐紀ははっきりと覚えている。
それから何となく仲間内で千奈美の世話を任されるのは佐紀になった。
「ていうか、ちー、菅谷さんと知り合いだったんだ?」
「そう、そうなの!なんでか知らないけど知り合いだったのっ。」
ダンと大きな音が出る。
机を強く叩いたその拳は痛かったに違いない。
「信じらんない。」と拗ねた口調で言う桃子はどこか可愛かった。
「好きなんだねー、菅谷さんのこと。」
くすりと小さく笑ってしまう。
ここまで感情的な桃子は酷く珍しい。
基本的に冷静でそれをキャピキャピした言動で隠している子だから。
桃子の感情を引き出せるというだけで梨沙子は凄いと思えてしまう。
小さいときから知っている大人びた冷めた視線を、梨沙子は存在だけで変えてしまった。
- 289 名前:―決心の彼女― 投稿日:2008/12/21(日) 23:14
-
「好き、だよ……そりゃ。」
唐突なセリフに面食らったように桃子がつっかえる。
ぷいと顔を逸らしたのは恥ずかしかったのだろう。
色の白い肌が薄らと赤くなっているのが見えた。
桃子が好きと言う日が来るなど小学生の頃の佐紀には予想できなかった。
あの頃の自分がここにいたらどんな顔をするのだろうと想像して、楽しくなる。
とてもとても驚いた顔をするんだろうなと思って。
それからその変化を見られた自分が嬉しくなる。
「ももには、菅谷さんだったんだね。」
「何が?」
何がと問われて刹那言葉に戸惑う。
桃子には梨沙子だったのだ。
佐紀にとってはそれが一番しっくりとくる言い方。
感覚的な言葉は他の人に説明するのに酷く困る。
- 290 名前:―決心の彼女― 投稿日:2008/12/21(日) 23:15
-
桃子を変えるのは佐紀ではダメだった。
桃子にとって起爆剤となったのは梨沙子。
梨沙子以外ではきっと成し得なかった事。
運命の人とかそういうロマンティック過ぎるものではない。
恋とかそういうもの以上の、あえて言うなら必然。
何に出会っても変わらないように思えた桃子は梨沙子と言う存在を待っていたのだろう。
―パズルのピースみたいなものかな。
ぴったりと来て、それ一つで全てが変わる。
そんな最後の一ピースのような存在。
「……ももは菅谷さんで世界が変わったんだろうねってことだよ。」
「あー、どうなんだろ。もぉ、変わった?」
「うん。」
それはもう、言葉で表せないくらいに。
ももは変わったよと佐紀は言ってあげたかった。
だがそう言う事は出来なくて頷くに止める。
佐紀の言葉に「そっか、そっか。」と桃子は口早に呟く。
頬が緩んでいたのは見間違いじゃないと佐紀は思った。
- 291 名前:―決心の彼女― 投稿日:2008/12/21(日) 23:15
-
「でもさ。」
机に転がしたままだったシャープペンを手に取り回す。
片肘をついて桃子はそこに顎を置いた。
行儀が良いとは言えない体勢のまま、にやりと笑う。
「もぉが変わったのがりーちゃんのおかげなら。」
「うん?」
「千奈美には佐紀ちゃんなんだよ、きっと。」
思いがけない一言に体が止まる。
桃子に梨沙子のように、千奈美には佐紀。
それは非常に過大評価されている気がした。
自嘲に近いような苦笑いが漏れる。
「そっかなぁ。」
「そうだよ。」と頷いた桃子をわき目に考える。
桃子には梨沙子、千奈美には佐紀と言うのならば梨沙子には誰だったのだろう。
もし桃子だとしたらそれはとても幸せなことだ。
しかしそうは上手く行かないのだろう。
ふと最後に見た梨沙子の硬質な表情が思い浮かんだ。
あれは何かを見つけている顔だと佐紀には思えた。
―決心の彼女―終
- 292 名前:メン後 投稿日:2008/12/21(日) 23:15
-
- 293 名前:メン後 投稿日:2008/12/21(日) 23:20
-
とりえずのりしゃもも。
……そう言っていいのかは果てしなく謎です。
さて次が恐らく文化祭の話になるかと。
皆さん結構お忘れでしょうが、この話ミスコンがメインなんです。
書いてる方も此間まで忘れてましたがw
久しぶりにやじうめも書きたいとか思いつつ、スランプをやり過ごします。
では駄文にお付き合いいただき毎回ありがとうございます。
- 294 名前:メン後 投稿日:2008/12/21(日) 23:20
-
- 295 名前:sage 投稿日:2008/12/23(火) 03:40
-
こんな学校があったら入りたいたい!
ってなわけで甘酸っぱいですね、それぞれの片思い!そこにまた二人入ったっぽいのでうきうきですが!
あー!青春だとゆいたい!
- 296 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/24(水) 00:12
- 興奮し過ぎで”sage”入れる場所間違ってるよ
- 297 名前:メン後 投稿日:2009/01/06(火) 13:07
-
295>>sageさん?
あっとうございます!
青春な感じを目指しているので嬉しいです。
片思い量産していますが、両思いも増やしたいなと。
のんびりですがよろしくお願いします。
296>>名無飼育さん
ご指摘ありがとうございます。
ではようやくの文化祭です。
お待ちして頂いた方いらしたら、お待たせしましたw
- 298 名前:メン後 投稿日:2009/01/06(火) 13:07
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- 299 名前:―優勝した彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:09
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あの先輩に少しだけ嫉妬した。
それはきっと自分に出来ないことをやってみせたから。
それでも多大な感謝を。
梨沙子を救った先輩に。
- 300 名前:―優勝した彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:10
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―優勝した彼女―
- 301 名前:―優勝した彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:10
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「おめでとう、梨沙子。」
「……ありがとう、愛理。」
壇に登った彼女は間違いなく綺麗だった。
時間ギリギリまで舞台裏にいた愛理は梨沙子の緊張を知っている。
「どうしよう。」とおろおろする様子は幼くて、可愛かった。
愛理の前にいる梨沙子は大概がそうだ。
年相応で、下手するとそれより幼くて、可愛い。
だが始まった瞬間にそんなものは消え失せていた。
大衆の前に出た途端、梨沙子は愛理の梨沙子ではなくて。
皆の梨沙子になっていたのだから。
―ちょっと、悔しいかな。
冷たくて、硬質。近寄りがたい雰囲気。
それが梨沙子の外向けに作った壁だ。
その冷たさが外見に似合っていて良いという人間もいる。
愛理はそんな話を聞くたびに、梨沙子の何を見ているのだろうと思う。
外見と中身は違う。小学生だってわかる話だ。
内に入った人には際限なく優しい。
けれど入り込むには酷く苦労する。
そんな性格を梨沙子はしていた。
- 302 名前:―優勝した彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:11
-
愛理は一年かけた。
今の親友という位置に着くのに一年。
ゆっくりゆっくり馴染んで。
じんわりじんわり惹かれていった。
「ねぇ。」
「なに?梨沙子。」
少し落ち着かない様子で梨沙子が声を上げる。
片手にはミスコン優勝者に送られるトロフィーを持ったままだ。
そわそわとした姿は愛理に容易に何を思っているかを伝える。
その姿が可愛くて愛理はくすりと小さく笑みを漏らす。
今にも駆け出していきそうに愛理には見えた。
梨沙子は本当に忠実すぎるくらい忠実だ。
その身に染み込んだ習慣はたとえ諦めていると言っても抜けないのだろう。
だからこそ梨沙子の特別が変わるなど想像できない。
愛理には雅と一緒の時が一番幸せそうに見えた。
たとえ振られた後だったとしても。
梨沙子の特別は変わらず雅が保持しているように見えたのだ。
- 303 名前:―優勝した彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:12
-
「みや、見なかった?」
―やっぱり。
予想通りの問いだ。
何かで良い成績を取った時、梨沙子が最初に伝えるのは雅なのだ。
それは学校の成績でも絵でも何でも変わらなかった。
愛理はふと思い出す。
雅はステージから程近い所でミスコンを見ていた。
なので会場から出たのは自分より遅いだろう。
時間ギリギリまで梨沙子と共にいた愛理は会場の最後列付近しか場所がなかった。
「見た、結構ステージ近くにいたけど。」
「……そうなんだ。」
梨沙子の表情が変わる。
顔が下がって、口元しか見えなくなる。
喜びをかみ締めたような笑みは極僅かだった。
全てが映画のコマ送りのように見える。
セピアに染まる風景。
次に梨沙子が顔を上げた時、既にその笑みはなかった。
- 304 名前:―優勝した彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:13
-
あ、と愛理は思わず息を呑む。
きれいだった。
ミスコンで優勝した彼女に言うセリフではないのかもしれない。
だけれど、それでも、やはり梨沙子は綺麗だったのだ。
特別な彼女が見せる特別な笑顔。
それは彼女の特別な人にだけ見せるべきもので。
愛理がそれを見られたのは偶々覗き見たに近かった。
「行って来たら?たぶんまだ会場近くにいると思うけど。」
愛理の席は出口に近い。
それに比べて雅の席は出口から遠い。
愛理はミスコンが終わった瞬間に会場から出ることができた。
そしてそのままこの舞台裏に足を運んだのだ。
会場に入っていた人ごみを考えると、それ程遠くには行っていないはずだ。
「ううん……いい。」
愛理の言葉に梨沙子は一瞬黙り込む。
綺麗な横顔が浮いて沈んで、また浮いた。
ぎゅっと胸の前でトロフィーを握る。
やんわりと梨沙子の口角が上がった。
柔らかく振られた顔には何も見えない。
ただ清々しさだけがあった。
- 305 名前:―優勝した彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:14
-
「どうかしたの?」
その姿が今までの梨沙子からは少し違った気がした。
そっと愛理は声をかける。
何かが終わって、何かが始まった。
二つが切り替わる瞬間があるとしたらきっと今だと愛理は思った。
「ももに、」
聞こえた単語は半ば予想した通り。
緩やかに弧を描く赤い唇が動く。
ぽつりと小さいはずの声は、はっきりと愛理の耳に響いた。
「うん?」
「ももに、見せてくる。」
「……うん。」
晴れやかに笑う梨沙子に愛理は微笑むしか出来なかった。
小さく頷くしかできなかった。
嬉しい。それに違いはないはずなのに。
どこかで悲しく思う愛理も確かに存在していたのだ。
- 306 名前:―優勝した彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:15
-
「これ取れたのもものおかげだし。」
そう言いながら梨沙子は軽くその黄金に輝くものを掲げる。
“もも”のおかげ。考えていた通りの、しかし思ってもいなかった言葉。
まさか梨沙子の口から雅以外のことを聞く日が来るとは愛理は思ってもいなかった。
―違うよ、梨沙子。
今までの梨沙子ならきっと“みや”のおかげと言っただろう。
梨沙子が頑張ったのは全て雅のためだったから。
そんな到底理解できないような理由で雅のおかげと言い切ってしまう子だったのだ。
今までの梨沙子は、雅のために生きていた。
だが、今、梨沙子は桃子のおかげと言った。
桃子が諦めなかったから梨沙子はミスコンに出場した。
そう考えればその感謝も至極一般的だ。
一般的ではあるが梨沙子らしくはない言葉だ。
- 307 名前:―優勝した彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:15
-
「みやが見てくれていたなら、それだけでいいよ。」
弱く、儚く梨沙子が微笑む。
しかしそれは最早枯れる花の弱さではない。
ついこの間までの梨沙子が咲き終わって、あとは萎れるだけの花だとしたら。
今の梨沙子が持つのは蕾の弱さ。
咲く前の一瞬の儚さ、これから最盛期を迎える前の姿だった。
「梨沙子……。」
「だいじょうぶ、本当にそう思ってるから。」
愛理の様子に強がっていると思われたと感じたのだろうか。
梨沙子が少し微笑みながら言葉を紡ぐ。
分かっていた、愛理には。
親友の地位に就いているのは嘘でも何でもないから。
梨沙子の様子が強がりかどうかなど分かる。
分かったからこそ、衝撃だった。
- 308 名前:―優勝した彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:16
-
「そっか、わたしはいつでも梨沙子の味方だから。」
「ありがとう、愛理。」
ふんわりと笑って梨沙子がゆっくりと歩き始める。
駆けはしないのんびりとした速度。
雅の元に行くのとは違う、桃子用の速さだ。
酷く梨沙子らしい歩調だと愛理は思う。
愛理は遠くなっていく背中をただ見つめた。
―良かったね、梨沙子。
梨沙子は着実に切り替えを始めている。
捨てられない恋だと思っていた。
諦められない恋だと思っていた。
しかしそれはあくまで愛理だけだったのかもしれない。
梨沙子はそんなに弱い子ではない。
ならば愛理はどんなことがあっても梨沙子を応援するだけだ。
俯かせていた視線を上げて、最早見えない梨沙子の背を見送る。
文化祭の喧騒がありがたかった。
―優勝した彼女―終
- 309 名前:メン後 投稿日:2009/01/06(火) 13:17
-
- 310 名前:メン後 投稿日:2009/01/06(火) 13:19
-
正月という事で、勢い良くもう一つ挙げます。
何故か気になるこの二人で。
- 311 名前:メン後 投稿日:2009/01/06(火) 13:19
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- 312 名前:―いとこの彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:20
-
そう、例えば。
彼女が緑だとしたら、うちは黄色。
彼女がお嬢様なら、うちは執事。
似ていないようでどこか重なる二人。
そんなだから昔から何故か気があった。
- 313 名前:―いとこの彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:20
-
―いとこの彼女―
- 314 名前:―いとこの彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:21
-
「あ、えりかちゃん。」
「おー、愛理。どうしたのさ、こんなとこで。」
軽い調子で声をかける。
久しぶりに見た従姉妹の隣にはどこかで見た美少女の姿があった。
場所は高等部の美術室。
えりか自身もあまり用のない場所だった。
ましてや中等部の愛理には繋がりの少ない場所のはずだ。
「わたしは……ほら、美術部だから。」
「そっか。愛理、絵描くの好きだもんね。」
そういえばそうだった。
遠くなってしまった記憶を引っ張り出してきてそう思う。
たまに会って遊ぶ時も愛理は床に座って絵を描く子だった。
えりかはそんな愛理と一緒に上手いとはお世辞にも言えない絵を描いていた。
小学生、下手したら幼稚園の時の記憶だ。
緩く緩く、愛理の口角が上がって柔らかい笑顔になる。
ふにゃふにゃした笑顔はえりかが小さい頃から見てきたものと何も変わらない。
可愛いなと自然に思って、いつの間にか頭を撫でていた。
- 315 名前:―いとこの彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:22
-
「相変わらずだねー、愛理。」
「えりかちゃんこそ元気そうで良かったよ。」
ふふふと普段の生活では使わない声が出た。
本当のえりかを知らないクラスメイト達は驚くに違いない。
それほど柔らかいトーンの声だった。
くいくいと制服の袖を引っ張る感覚があって、えりかは隣を見る。
そこには不思議そうな、それでいて少し不機嫌な顔があった。
珍しいと思いながら舞美を見て首を傾げる。
この間ミスコンで優勝した顔がゆっくりと近づいてくる。
えりかはその動作に然程疑問を持たず耳を寄せた。
「えり、知り合い?」
「あ、うん。そっか、舞美には言ってないっけ。」
こくりと小さく舞美の頭が上下する。
いつの間にか二人でいるのが当たり前になっていた。
この間まで考えられなかったことだけれど、それが現状だ。
だからか舞美には何でも話している気になっていた。
しかし考えてみれば愛理と従姉妹だなんてこういう事がなければ言う必要がない。
- 316 名前:―いとこの彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:22
-
えりかは改めて愛理の方を見る。
愛理たちの方もこちらと同じ状態のようだ。
つまり「誰?」と連れの女の子に聞かれている。
ふと見た横顔にえりかは気づく。
ミスコンの時、舞美の隣に立っていた子だと。
―そりゃ、可愛いか。
今の今までそのことに気づかなかった自分に呆れた。
どれだけ舞美しか見ていなかったのだろう。
そしてこの場に高等部と中等部両方の優勝者がいる事に少し感心した。
こほんと小さく咳をして、注意を引く。
きょとんとした表情でこちらを見る愛理は昔と変わっていなかった。
懐かしい思いが溢れて、胸が温かい。
「舞美、愛理はうちの従姉妹で三つ下。昔から結構よく遊んだの。」
えりかが説明を始める。
舞美の顔は興味津々といった感じだ。
突然すぎる自己紹介の始まりに、しかし愛理は確りついてきてくれた。
しっかりと行儀よく笑う姿は何度か見たことがある。
昔から愛理は親の言う事をよく聞く“いい子”だ。
- 317 名前:―いとこの彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:23
-
「初めまして、中等部二年の鈴木愛理です。」
「……菅谷梨沙子です。」
愛理は舞美を見て、梨沙子はえりかを見てそう言った。
舞美と梨沙子はミスコンである程度のことは知っているようだった。
隣に並んだ人物のことくらい覚えているのだろう。
えりかに名乗る梨沙子の顔は決して明るいものではない。
緊張なのか、怯えなのか。よく分からないものが梨沙子にはあった。
―人見知り?
あの壇上では欠片も見られなかった様子。
辛うじてえりかを見ている視線は忙しなく動いている。
床、天井、右左と動いて時々助けを求めるように愛理を見る。
その様子はとてもミスコンで見た姿とは結びつかない。
「あたしは矢島舞美。えりとはクラスメイト。」
そんなことをえりかが思っている内に舞美と愛理は言葉を交わしていた。
愛理は人当たりが良い。舞美は言わずもがなだ。
えりかは今でも自分の隣よりクラスの中心の方が彼女には似合っていると思う。
梨沙子は名前を言っただけで後は何も言わない。
俯きながら制服の袖を弄る様子はとても似合っていた。
- 318 名前:―いとこの彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:24
-
「梅田えりか。ま、よろしく。」
なるべく怖がらせないように意識して穏やかな声で話す。
着崩した制服や茶に染まった髪はきっと怖い。
自然にそんな風に気が回ってしまって、愛理の友達だからかと思う。
意識せずに優しくしてしまう雰囲気が梨沙子にはある。
面白い子だなぁとえりかの中での第一印象は固まった。
「よろしく、お願いします。梅田先輩。」
それだけを言うと梨沙子は限界という風に隣の愛理の袖を握った。
微かに伝わった感触に愛理が目を向ける。
苦笑のような、何とも言えない表情。
心情としては仕方ないという所だろう。
しかし愛理がそれを嫌がっていないことはえりかに充分に伝わった。
- 319 名前:―いとこの彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:25
-
「もう、えりかちゃんは怖くないよ?」
「知ってる。ももの話によく出てくるもん。」
愛理が梨沙子の手を取って優しく握った。
それでも梨沙子は一歩えりかから引いた位置に下がる。
よほど人が苦手なんだなと感じた。
ミスコンでの輝く笑顔からはとても想像できない。
「ただ慣れないだけ。」
えりかと舞美の視線から逃れるように顔を俯かせる。
その仕草さえ見とれるような何かがあった。
ああ、これは優勝するわと心の中で呟く。
舞美と同じそういう種の人間だとえりかは思う。
- 320 名前:―いとこの彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:25
-
「ももって嗣永、桃子?」
「え、あ、はい。そうです。」
「へぇ。」
唐突なえりかの言葉に梨沙子は戸惑う。
僅かに皺が寄せられた眉間は不安を表していた。
だがえりかはそれを気にせず、ふうんと息を漏らす。
嗣永桃子。えりかの友人の一人だ。
中々灰汁の強い人間で、そんな桃子が気に入る人間というのも珍しかった。
その桃子が後輩にあだ名で呼ばせる。
それはまたとても、とても珍しいことだ。
―……この子か。
行き成り黙り込んだえりかに舞美と愛理の視線が集まる。
そんな二人に愛想笑いのように笑顔をつくった。
桃子がいつか言っていた言葉が思い出される。
- 321 名前:―いとこの彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:27
-
『面白い子が一人。』
なるほど、確かにこの子は面白い。
面白いがそれ以上に首を突っ込む理由が見当たらなかった。
桃子が何に惹かれてミスコンまで引き受けたのか。
えりかにはとんと見当がつかない。
「えり?」
「なんでもない、ちょっと考え事。」
心配そうに自分の顔を覗き込む舞美に軽く頷いた。
ちらりと視線を走らせれば愛理が梨沙子を宥めている。
ゆっくり優しく、梨沙子に話しかける声は聞いたことがないくらい温かかった。
あ、とまた一つえりかは気づく。
- 322 名前:―いとこの彼女― 投稿日:2009/01/06(火) 13:27
-
―大切なんだ?愛理。
それを今、言葉に出すほどにえりかは場が読めないわけではない。
ただ黙って少しも似ていないはずなのに、いつもどこか重なる従姉妹を見ていた。
えりかが舞美を好きなら、愛理が梨沙子を好きなのも充分にありえる話だ。
愛理の後ろにいる梨沙子を見る。
可愛い少女だ。しかし桃子と愛理を惹きつけるものがあるようには見えなかった。
二人とも中身を重視するタイプだったから、外見というわけでもないだろう。
偶々目が合う。ぴくりと梨沙子の肩が跳ねた。
深い色。見たことがない印象的な色をしていた。
これこそ二人が気になったものなのかなと他人事にえりかは思った。
―いとこの彼女―終
- 323 名前:メン後 投稿日:2009/01/06(火) 13:27
-
- 324 名前:メン後 投稿日:2009/01/06(火) 13:31
-
遅れましたが
明けましておめでとうございます!
そして今年もよろしくお願いします。
ではまだ亀更新が続きそうですが。
のんびり見てやってください。
- 325 名前:メン後 投稿日:2009/01/06(火) 13:31
-
- 326 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/10(土) 11:37
- メン後さん明けましておめでとうございます
近頃巷で話題の梅鈴 ニヤけながら読ませていただきましたw
- 327 名前:メン後 投稿日:2009/01/24(土) 10:53
-
色々な事が立て込んで、こんな時期です。
プライベートで大きなポカをやらかしまして。
ちょっと落ちこんどりましたorz
326<<名無飼育さん
あけましておめでとうございます。
梅鈴、珍しく流行りに乗って大好きですw
きゅーとさんたちにドンドン好きカプができてきています。
レスあっとうございました!
では更新。
暫く低いテンションの話が続きそうですが予定は未定。
結局自分が耐え切れなくなって甘い話を投入しそうですw
- 328 名前:メン後 投稿日:2009/01/24(土) 10:54
-
- 329 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/01/24(土) 10:55
-
たぶん、きっと、分かってた。
千奈美が言ってたのはこういう事。
あたしが気になったのもこういう事。
菅谷さんには好きな人がいた。
- 330 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/01/24(土) 10:55
-
―恋する彼女―
- 331 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/01/24(土) 10:55
-
「ね、ちー。」
珍しく家に来ている千奈美に声をかける。
その格好は私服で、人の部屋とは思えないくらい寛いでいる。
ベッドの上という一番休める場所を奪われて佐紀は椅子に座っていた。
佐紀の声に千奈美は口で転がしたロリポップはそのままに視線だけを動かした。
その表情は見慣れた退屈そうな顔。
「うん?なに?」
「菅谷さんの事なんだけど。」
佐紀がそう言った瞬間に千奈美の顔が歪んだ。
うげっと女の子に有るまじき声を出してベッドから逃げようとする。
そんな背中に手を置いて、動けないように固定した。
嫌なことから逃げ回る性格など良くわかっている。
しかしどうしても聞きたい佐紀としてはここで逃がすわけにはいかなかった。
- 332 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/01/24(土) 10:56
-
「梨沙子が……何?」
そして千奈美も佐紀が諦めの悪い人物だと分かっている。
ベッドに押し付けられるような姿勢のままはぁと小さく溜息を吐く。
言いたくないとその全てが言っていた。
佐紀とてわざわざ千奈美の機嫌を損ねてまで聞くのは面倒くさい。
それを越してなお聞かなければならない。
敢えて言うなら悪友な幼馴染のために佐紀は聞かなければならなかったのだ。
「素直に答えてよ。」
更に念を押す。
千奈美が自分に嘘をつくとは思えない。
そう思えるだけの信頼が二人の間にはあった。
あったが捻くれている所も知っている。
「はいはい。」
呆れた様な、仕方ない様な御座なりな返事。
ちらりと佐紀を見た視線は直ぐに反らされてしまった。
その姿が拗ねた子供のように見えて佐紀は笑ってしまう。
- 333 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/01/24(土) 10:57
-
「あの子、好きな人いるでしょ。しかも大好きな。」
「何でさ。」
ぴくりと千奈美の肩が反応する。
素直に反応に佐紀はまた笑みを深めた。
扱いづらくて、分かりにくい所が千奈美には多い。
多いがそれを知ってしまえば理解することは出来る。
「わっかりやすい。」
そして今の反応は明らかにいるという事を示していた。
他の人には分からなくても、佐紀には確りとわかった。
ふっと笑みが漏れる。
千奈美以外には余り使わない、悪い笑みだった。
「そんなこと、佐紀ちゃんと梨沙子しか言わないし……。」
「ふーん、菅谷さんにもばれてるんだ。」
あっと千奈美が声を上げる。
その声音は明らかにまずいと言っているようだった。
本当にわかりやすい。
心の中でそう呟いてから、佐紀は少し手を緩める。
千奈美が半身を起こし気まずそうな顔で佐紀を見る。
- 334 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/01/24(土) 10:57
-
「別に、あの子、そういうの敏感だから。」
言葉を選ぶように千奈美がゆっくり話す。
佐紀はそれを聞きながらまた一つ梨沙子の情報を整理する。
人の気持ちに敏感。聡い。
それは奇しくも桃子にも言えることだった。
『あの子、りーちゃんに手出そうとしてた。』
瞬間響いたのはいつかの桃子の声だった。
浮かんだのは不貞腐れたような顔だった。
らしくないくらい桃子に肩入れしている自分に苦笑する。
あんな友達でも自分にとっては親友なのだ。
「でも、それだけじゃないんでしょう?」
「それだけって?」
「千奈美が気に入るんだから、それだけじゃないよね。」
それは半ば確信に満ちた問いだった。
千奈美は気まぐれで、掴めない人物だと皆に思われている。
桃子でさえもそう思っているのだから凄いことだ。
そんな癖のある千奈美が気に入るのだからあの子には何かがある。
佐紀はそう感じていた。
- 335 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/01/24(土) 10:58
-
真剣な佐紀の声音に千奈美ははぁと溜息を吐く。
その顔にはしょうがないなぁという表情が有々と表れていた。
佐紀の部屋だという事を気にせず、壁を背にして寄りかかる。
二人しかいない部屋で時が止まったかのような時間が流れる。
「なんで、分かるかな……。」
「別にいいでしょ。それより、どうなのさ。」
苦笑する千奈美に佐紀は逸れてしまった話を戻す。
梨沙子の性質がなんとなくわかってきた気がした。
桃子に千奈美。癖のある人物ばかりに好かれる。
それはつまりあの子自体も珍しいものを持っているのだろう。
「あー、うん。いたよ、梨沙子に好きな人。」
言わないでよという注釈に佐紀はうんと頷く。
勿論言う気はない。佐紀が気になったのはただ友達のためだから。
好奇心というものはほぼ零に近かった。
- 336 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/01/24(土) 10:58
-
「へぇ。」
「梨沙子、傍目から見てもその子のこと大好きでねー。」
呆れたような雰囲気で千奈美が話す。
その視線は佐紀を見ることはない。
天井を見ている瞳は過去を思い出しているに違いなかった。
苦く笑うその顔はしかし何処か幸せそうだった。
「好きで好きで好きで、仕方なかったのに……。」
ゆっくり、ゆっくり。千奈美の視線が降りてくる。
見たことのない色をした瞳だった。
千奈美との付き合いは短くはない。
だけど、それでも見たことのない色だった。
その色だけで佐紀は話の佐紀が読めてしまった。
- 337 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/01/24(土) 10:59
-
「梨沙子の恋は叶わなかった。」
やっぱりと佐紀は心の中で呟く。見つけていたのだ。
桃子にとっての梨沙子のような、そんな特別な一人。
初めて会ったときの硬質な横顔が思い出される。
何かを見つけているから、ああいう顔が出来るのだ。
見つけて破れて、それでもまだ見つめている。
そういう顔なのだろう。
―また、面倒くさい子を好きになったねぇ。
でもそれは梨沙子にとっても同じ。
桃子に好きな人が出来たと聞いたとき、佐紀はその相手に同情したのだから。
面倒くさい人に好かれたなぁと。
「人があんなに人を好きになれるって、知らなかった。」
「千奈美……。」
「だから、あたしは梨沙子を気に入ってるし、応援してる。」
- 338 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/01/24(土) 10:59
-
梨沙子には幸せになって欲しい。そう千奈美らしくない声で呟く。
なんとなく、分かる。梨沙子の好きな人はきっと千奈美の友達だったのだろう。
そうでなければ千奈美がここまで気にするわけが無い。
興味のないことにはトコトン無関心な性質なのだから。
相手が自分の友達だからこそ、千奈美は梨沙子のことを気にかけるようになったのだ。
友達でなかったらきっと殴りこみにいくに近い勢いで文句を言いに行った。
それができなかったのだから、と佐紀は頭の中で考えた。
―だから、人を好きになったのかもね。
千奈美の変化を佐紀は確りと感じ取っていた。
千奈美に好きな人がいる。それは恐らく間違いない。
話を聞く限り梨沙子がその相手ではないが、影響は大きかったようだ。
桃子が嫉妬するのも分かるくらいに。
また拗ねたような顔が頭の中に浮かんできて佐紀はくすりと笑った。
「あたしも、千奈美をいつでも応援してるよ?」
佐紀がからかい半分でそう声をかければ、思いもしなかった綺麗な笑顔が返ってきた。
ありがとうという当たり前の言葉さえ優しく思える。
千奈美は変わった。本当に驚くほど。
- 339 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/01/24(土) 11:00
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―恋は人を変えるってこと?
刹那、ちくんと痛んだ胸に佐紀は気づかない振りをした。
恋で人は変わる。良くも悪くも。
その時が佐紀自身にも確実に近づいてきていた。
―恋する彼女―
- 340 名前:メン後 投稿日:2009/01/24(土) 11:00
-
- 341 名前:メン後 投稿日:2009/01/24(土) 11:02
-
ちなさき番外編。
次はまた文化祭に戻ります。
といっても文化祭もそんなに続きません。
ではまた早いうちに週一ペースに戻れるように。
そう願いながら終わります。
- 342 名前:メン後 投稿日:2009/01/24(土) 11:02
-
- 343 名前:―彼女のくれたもの― 投稿日:2009/02/08(日) 12:38
-
彼女が与えてくれたものがあたしをここに立たせています。
彼女がくれたものがあたしを形作りました。
そして今あたしはそれを深く深く沈めます。
捨てることはできないから。
あたしはそれを深く沈めることにします。
- 344 名前:―彼女のくれたもの― 投稿日:2009/02/08(日) 12:38
-
―彼女のくれたもの―
- 345 名前:―彼女のくれたもの― 投稿日:2009/02/08(日) 12:39
-
梨沙子は今舞台裏と呼ばれる場所に居る。
急ごしらえのそこはとても立派とは言いがたい。
表とを分ける仕切りにただ視線を隠すだけの扉。
ミスコンを楽しみにして集まってきている人のざわめきがすぐ近くのように聞こえた。
―どうしよう。
ついさっきまでは愛理がいた。
緊張でおろおろする梨沙子と会話していた。
そうすればまだ気は紛れ、出番のことを考えずに済んだ。
愛理が握っていてくれた手の感触が思い出されて少し安心する。
ミスコンに出ると決めたのは他でもない梨沙子だ。
何で決心したのかなど忘れてしまった。
ただこの舞台に立つことで変わると思った。
いつまでも彼女から脱することの出来ない自分を。
梨沙子は変えたいと願っていたのだ。
よく転がるかなんて分からない。
どうなってしまうかも分からない。
ただ踏み出すべき一歩がそこにあったのだ。
- 346 名前:―彼女のくれたもの― 投稿日:2009/02/08(日) 12:40
-
「ミスコン出場者は並んでください。」
―……始まる。
委員の声が響いて梨沙子は心を決めた。
いや、心を切り替えた。
この場所に居る時点で出ることは決定していたのだから。
事前に行われた打ち合わせどおりの位置に並ぶ。
その時の桃子の悪戯な顔が浮かんできて梨沙子は少し気が抜けた。
『彼女との出会いはいわば必然でした。
あたしが生きていくのに彼女は必要だったのです。
帰って来ない家族の代わりにあたしと一緒にいたのは彼女でした。』
真ん中に作られた扉から順番に出て行く。
梨沙子の順番は最後だ。
これは申し込みが最後だったため仕方ない。
ドクンと強く心臓がなった。
一歩仕切りを踏み出せばそこに溢れているのは光の世界。
眩しい照明に梨沙子は目を細める。
- 347 名前:―彼女のくれたもの― 投稿日:2009/02/08(日) 12:40
-
―みや。
ミスコンの始まりにざわめきが歓声に変わる。
大きくなる音とは反対に梨沙子の緊張は波のように引いていった。
静かになる世界。度々感じたことのある世界だ。
梨沙子の目にはもう、少し離れた所にいる雅しか映っていない。
すうと息を吸って緩やかに吐き出す。
それも今日で終わりだ。
雅の隣にいる、知っているけれど知らない人物を見ながら思う。
「さぁ、始まりました―――」
知らぬ司会者が言葉を発する。
梨沙子の耳には何も聞こえない。
ただの雑音のように音が通り過ぎていく。
ミスコンの手順は桃子から良く言い聞かされていた。
ミスコン担当の意地なのか詳しく、詳しく聞かされた。
審査の仕方は一般投票だ。
事前に渡された全校生徒一人一枚の投票用紙の枚数。
それに会場に来た人たちの玉による投票が足される。
玉の方が事前の投票より多くのポイントを与えられる。
優勝するには事前の評判は勿論、会場での人気も重要なのだ。
- 348 名前:―彼女のくれたもの― 投稿日:2009/02/08(日) 12:41
-
―絶対にりーちゃんが優勝だから!
―自信を持って言える、りーちゃんが一番可愛い。
脳裏に桃子の声が響いてきて、梨沙子は少し顔を俯けてくすりと笑う。
急な出場ができたのも桃子のおかげだ。
そういう意味で彼女にはとても感謝している。
梨沙子の人生を切り替えるのに丁度よい舞台を用意してくれた。
―もも。
担当者がそんな風で良いのかと疑問に思える位、桃子は梨沙子に肩入れした。
もっともそれは実行委員長である佐紀の公認だったようでさして問題にはならなかった。
最初はしつこい先輩だと思った。
だが桃子は梨沙子に知らないものをたくさん見せてくれた。
誰かに料理を、あれを料理と言っていいのかは置いておいて、作ってもらったのは久しぶりだ。
そんな優しさに絆されたのかもしれない。
『彼女が大好きでした。
どうしようもないくらい大好きでした。
家族として人として彼女はあたしにとって眩しすぎました。』
僅かに俯かせていた顔を上げる。
気合を入れるように笑顔をつくった。
輝く、魅了する笑顔。
それが梨沙子に出来る恩返しのようなものだった。
すっと観客の声が遠のいた気がする。
- 349 名前:―彼女のくれたもの― 投稿日:2009/02/08(日) 12:42
-
「では続いて菅谷さん!」
「はい。」
司会者の声に促されて一歩前に出る。
マイクを手渡されて梨沙子は舞台の中央に進む。
震えそうな足を知らぬ振りで通す。
ある意味一世一代の舞台だ。
この大会で梨沙子は今までの人生の全てを変えるのだから。
「二年E組、菅谷梨沙子――優勝したいです。」
まさか自分の口からこんな言葉を言う日が来るとは思わなかった。
梨沙子は自分の性格をある程度は把握しているつもりだ。
引っ込み思案で、人が苦手。
感情を言葉にするのは下手だし、その癖我侭だ。
そんな梨沙子が人前に出るのは雅に関したときだけ。
雅が関係するときだけ、梨沙子は頑張ろうと思うことが出来た。
―愛理。
真っ直ぐ前を見る。
ステージ近くにいる雅が目に入らないように遠くを。
奥の奥にはきっと愛理がいるはずだ。
あんなに遅くまで梨沙子の側に居て、後ろ以外に席を取れるわけがない。
- 350 名前:―彼女のくれたもの― 投稿日:2009/02/08(日) 12:43
-
「お、優勝とは大きく出ましたね〜。」
「そですね、自分でもちょっと驚いてます。」
梨沙子の赤い唇がマイクに隠れる。
はにかんだ笑みが隠れて尚眩しかった。
ふわっと大輪の花が咲いたように惹きつけられる。
一瞬会場全体が息を呑んだ。
どこかで全員が雰囲気の違いを感じ取っていた。
「それは元からの目標で?」
「約束と……意地、ですね。」
「約束は分かりますが意地とは意外な言葉です。」
雅への意地。桃子との約束。愛理に返すべき感謝。
この大会には色んなものが含まれている。
それらはごちゃ混ぜになって梨沙子本人にも分からないものになっていた。
「あたしは今、色んな人のおかげでここに立ってるから。」
一端、自分の中で言葉を整える。
雅も桃子も愛理も、誰が欠けても梨沙子はこの場にはいなかった。
切欠は確かに桃子だった。
けれども雅がいなければミスコンに出る気など起きもしなかっただろう。
そしてそれら全てを知って背中を押したのは愛理だ。
- 351 名前:―彼女のくれたもの― 投稿日:2009/02/08(日) 12:43
-
「だからその人の想いの分も優勝しなくちゃいけないと思うんです。」
「……そうですか、ありがとうございました。」
ぺこりと軽く頭を下げ列に戻る。
梨沙子が終われば後は審査が残るのみだ。
投票・集計と暫く時間がかかる為、出場者は一度舞台裏に下げられる。
終わったという事に梨沙子は一先ず息を吐いた。
『彼女の与えてくれた全てがあたしを作っています。
そして彼女から離れるためにあたしはそれを沈めようと思います。
彼女の全てはキラキラと光っていました。
彼女のくれたものも光り輝いていて、とても大事なものでした。
でもそれらは既に灰色になってしまったのです。』
裏に戻ると途端に緊張がぶり返してきて、梨沙子は椅子に座る。
ひょこりと袖から桃子が顔を出す。
一番忙しいはずなのにここにいる事に苦笑した。
パタパタと手を振られて振り返す。
明るい笑顔は桃子の予想通りになったからなのだろうか。
―終わった、かな。
とりあえず一段落だ。
雅への想いもけりをつけることが出来た。
これで優勝できたら本当に言う事はない。
梨沙子を形成していた雅が素晴らしいという事が証明できる。
そうできたら梨沙子は雅から離れられる。
ある種の恩返しだったのだ。今まで梨沙子を作ってくれた雅に対する。
そしてちょっとした見返し。
いつまでも梨沙子を子ども扱いする雅への見返し。
一度たりとも真面目に告白を受け取ってくれなかった雅への仕返し。
- 352 名前:―彼女のくれたもの― 投稿日:2009/02/08(日) 12:44
-
「……面倒くさいな、あたし。」
ふふと自嘲するように呟く。
自分でもそう思うくらいややこしい性格をしている。
いつの間にか桃子はいなくなっていた。恐らく表に戻ったのだろう。
段々とざわめきが少なくなってきた。
結果が出るまであと少しだ。
穏やかに、しかし確実に引いていく声の波。
それに重ねて梨沙子の中のごちゃごちゃも解消されるようだった。
波にさらわれるように雅への想いが沈んでいく。
次に舞台に立ったとき。
その時には全てが完了しているように思われた。
『灰色に染まったそれは酷く重いものでした。
それでもあたしにとって大事なものには違いありません。
でもそれさえ捨てなければならない時が来たのです。
彼女のためにも、あたしのためにも。
それができないあたしはただ沈めることにしました。
深く、深く、灰色が出てこないように。
段々と沈みゆく灰色を見送るのはどこか物悲しいものがありました。
それでいて清々しさも感じます。新しい自分が始まるからです。』
- 353 名前:―彼女のくれたもの― 投稿日:2009/02/08(日) 12:44
-
「……さよならだね。」
その言葉は歓声に消えた。結果が出たのだ。
梨沙子は椅子から立ち上がり、一度だけ振り返った。
そこにはやはり何も残っていなかった。
―彼女のくれたもの―終
- 354 名前:メン後 投稿日:2009/02/08(日) 12:45
-
- 355 名前:メン後 投稿日:2009/02/08(日) 12:48
-
りーちゃん独白。
りしゃこは時々こういう暗いのを書きたくなります。
みやびちゃんにキリを付けるのはりーちゃんにとってかなり大変なことだろうなと。
そんな妄想から出来ておりますw
ではまた会う日まで。メン後でした。
- 356 名前:メン後 投稿日:2009/02/08(日) 12:48
-
- 357 名前:にーじー 投稿日:2009/02/22(日) 00:11
- 一気に読みました、おもしろいー!
千奈美さんがどうなるのか気になります。。。
- 358 名前:メン後 投稿日:2009/02/24(火) 15:33
-
遅くなりましたが更新します。
二月はほんと、あっという間ですね。
357>>にーじーさん
一気読みありがとうございます!
千奈美は細々と小さく登場します。
匂わせる千奈美分に気づいてくれると嬉しいですw
そして今回の更新は都合よくちなさきです。
コメントあっとうございました!!
では久しぶりの更新です。
くるくる視点が変わってすんません。
一話完結型ドラマみたいなもんだと思ってください……orz
- 359 名前:メン後 投稿日:2009/02/24(火) 15:34
-
- 360 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 15:35
-
たぶん、きっと、分かってた。
千奈美が言ってたのはこういう事。
あたしが気になったのもこういう事。
菅谷さんには好きな人がいた。
- 361 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 15:35
-
―恋する彼女―
- 362 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 15:36
-
「ね、ちー。」
珍しく家に来ている千奈美に声をかける。
その格好は私服で、人の部屋とは思えないくらい寛いでいる。
ベッドの上という一番休める場所を奪われて佐紀は椅子に座っていた。
佐紀の声に千奈美は口で転がしたロリポップはそのままに視線だけを動かした。
その表情は見慣れた退屈そうな顔。
「うん?なに?」
「菅谷さんの事なんだけど。」
佐紀がそう言った瞬間に千奈美の顔が歪んだ。
うげっと女の子に有るまじき声を出してベッドから逃げようとする。
そんな背中に手を置いて、動けないように固定した。
嫌なことから逃げ回る性格など良くわかっている。
しかしどうしても聞きたい佐紀としてはここで逃がすわけにはいかなかった。
「梨沙子が……何?」
そして千奈美も佐紀が諦めの悪い人物だと分かっている。
ベッドに押し付けられるような姿勢のままはぁと小さく溜息を吐く。
言いたくないとその全てが言っていた。
佐紀とてわざわざ千奈美の機嫌を損ねてまで聞くのは面倒くさい。
それを越してなお聞かなければならない。
敢えて言うなら悪友な幼馴染のために佐紀は聞かなければならなかったのだ。
- 363 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 15:36
-
「素直に答えてよ。」
更に念を押す。
千奈美が自分に嘘をつくとは思えない。
そう思えるだけの信頼が二人の間にはあった。
あったが捻くれている所も知っている。
「はいはい。」
呆れた様な、仕方ない様な御座なりな返事。
ちらりと佐紀を見た視線は直ぐに反らされてしまった。
その姿が拗ねた子供のように見えて佐紀は笑ってしまう。
「あの子、好きな人いるでしょ。しかも大好きな。」
「何でさ。」
ぴくりと千奈美の肩が反応する。
素直に反応に佐紀はまた笑みを深めた。
扱いづらくて、分かりにくい所が千奈美には多い。
多いがそれを知ってしまえば理解することは出来る。
- 364 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 15:37
-
「わっかりやすい。」
そして今の反応は明らかにいるという事を示していた。
他の人には分からなくても、佐紀には確りとわかった。
ふっと笑みが漏れる。
千奈美以外には余り使わない、悪い笑みだった。
「そんなこと、佐紀ちゃんと梨沙子しか言わないし……。」
「ふーん、菅谷さんにもばれてるんだ。」
あっと千奈美が声を上げる。
その声音は明らかにまずいと言っているようだった。
本当にわかりやすい。
心の中でそう呟いてから、佐紀は少し手を緩める。
千奈美が半身を起こし気まずそうな顔で佐紀を見る。
「別に、あの子、そういうの敏感だから。」
言葉を選ぶように千奈美がゆっくり話す。
佐紀はそれを聞きながらまた一つ梨沙子の情報を整理する。
人の気持ちに敏感。聡い。
それは奇しくも桃子にも言えることだった。
- 365 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 15:38
-
『あの子、りーちゃんに手出そうとしてた。』
瞬間響いたのはいつかの桃子の声だった。
浮かんだのは不貞腐れたような顔だった。
らしくないくらい桃子に肩入れしている自分に苦笑する。
あんな友達でも自分にとっては親友なのだ。
「でも、それだけじゃないんでしょう?」
「それだけって?」
「千奈美が気に入るんだから、それだけじゃないよね。」
それは半ば確信に満ちた問いだった。
千奈美は気まぐれで、掴めない人物だと皆に思われている。
桃子でさえもそう思っているのだから凄いことだ。
そんな癖のある千奈美が気に入るのだからあの子には何かがある。
佐紀はそう感じていた。
真剣な佐紀の声音に千奈美ははぁと溜息を吐く。
その顔にはしょうがないなぁという表情が有々と表れていた。
佐紀の部屋だという事を気にせず、壁を背にして寄りかかる。
二人しかいない部屋で時が止まったかのような時間が流れる。
- 366 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 15:38
-
「なんで、分かるかな……。」
「別にいいでしょ。それより、どうなのさ。」
苦笑する千奈美に佐紀は逸れてしまった話を戻す。
梨沙子の性質がなんとなくわかってきた気がした。
桃子に千奈美。癖のある人物ばかりに好かれる。
それはつまりあの子自体も珍しいものを持っているのだろう。
「あー、うん。いたよ、梨沙子に好きな人。」
言わないでよという注釈に佐紀はうんと頷く。
勿論言う気はない。佐紀が気になったのはただ友達のためだから。
好奇心というものはほぼ零に近かった。
「へぇ。」
「梨沙子、傍目から見てもその子のこと大好きでねー。」
呆れたような雰囲気で千奈美が話す。
その視線は佐紀を見ることはない。
天井を見ている瞳は過去を思い出しているに違いなかった。
苦く笑うその顔はしかし何処か幸せそうだった。
- 367 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 15:39
-
「好きで好きで好きで、仕方なかったのに……。」
ゆっくり、ゆっくり。千奈美の視線が降りてくる。
見たことのない色をした瞳だった。
千奈美との付き合いは短くはない。
だけど、それでも見たことのない色だった。
その色だけで佐紀は話の佐紀が読めてしまった。
「梨沙子の恋は叶わなかった。」
やっぱりと佐紀は心の中で呟く。見つけていたのだ。
桃子にとっての梨沙子のような、そんな特別な一人。
初めて会ったときの硬質な横顔が思い出される。
何かを見つけているから、ああいう顔が出来るのだ。
見つけて破れて、それでもまだ見つめている。
そういう顔なのだろう。
―また、面倒くさい子を好きになったねぇ。
でもそれは梨沙子にとっても同じ。
桃子に好きな人が出来たと聞いたとき、佐紀はその相手に同情したのだから。
面倒くさい人に好かれたなぁと。
- 368 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 15:39
-
「人があんなに人を好きになれるって、知らなかった。」
「千奈美……。」
「だから、あたしは梨沙子を気に入ってるし、応援してる。」
梨沙子には幸せになって欲しい。そう千奈美らしくない声で呟く。
なんとなく、分かる。梨沙子の好きな人はきっと千奈美の友達だったのだろう。
そうでなければ千奈美がここまで気にするわけが無い。
興味のないことにはトコトン無関心な性質なのだから。
相手が自分の友達だからこそ、千奈美は梨沙子のことを気にかけるようになったのだ。
友達でなかったらきっと殴りこみにいくに近い勢いで文句を言いに行った。
それができなかったのだから、と佐紀は頭の中で考えた。
―だから、人を好きになったのかもね。
千奈美の変化を佐紀は確りと感じ取っていた。
千奈美に好きな人がいる。それは恐らく間違いない。
話を聞く限り梨沙子がその相手ではないが、影響は大きかったようだ。
桃子が嫉妬するのも分かるくらいに。
また拗ねたような顔が頭の中に浮かんできて佐紀はくすりと笑った。
- 369 名前:―恋する彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 15:40
-
「あたしも、千奈美をいつでも応援してるよ?」
佐紀がからかい半分でそう声をかければ、思いもしなかった綺麗な笑顔が返ってきた。
ありがとうという当たり前の言葉さえ優しく思える。
千奈美は変わった。本当に驚くほど。
―恋は人を変えるってこと?
刹那、ちくんと痛んだ胸に佐紀は気づかない振りをした。
恋で人は変わる。良くも悪くも。
その時が佐紀自身にも確実に近づいてきていた。
―恋する彼女―
- 370 名前:メン後 投稿日:2009/02/24(火) 15:41
-
- 371 名前:メン後 投稿日:2009/02/24(火) 15:42
-
ちなさき、プライベートでも良く遊ぶって言うんで。
ほぼリアルに近づける形で書きました。
ま、それでも妄想なんですけどw
次はもう少し早くお届けできるかと。
ではまたお会いしましょう。
- 372 名前:メン後 投稿日:2009/02/24(火) 15:42
-
- 373 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/24(火) 17:53
- あれ?―恋する彼女―前にもありましたよ。
でも何度読んでもいいっすw
- 374 名前:メン後 投稿日:2009/02/24(火) 19:57
-
373>>名無飼育さん
すんません、素で間違いました。
きちんと新しいやつ載せますorz
そして優しいお言葉ありがとうございます。
- 375 名前:メン後 投稿日:2009/02/24(火) 19:58
-
- 376 名前:―溶け込む彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 20:01
-
知ってる。ももの気持ち。
何にも無しに優しさを貰えるほどこの世界は甘くない。
だからももがあたしになんで甘いか、なんて。
実はとっくに気づいていたんだと思う。
でもあたしは……。
- 377 名前:―溶け込む彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 20:01
-
―溶け込む彼女―
- 378 名前:―溶け込む彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 20:02
-
白い壁に彼女が映るようになったのは何時からだろう。
前まではそこに存在しなかった人。
だけど白い壁に桃子は良く映えた。
まるで前からそこにいたかのように、違和感が無かった。
「ねぇ、もも。」
瞳を動かす。
そうすればすぐに自分の隣に居る姿が見える。
ベッドを背にして桃子はどこからか取り出した漫画を読んでいた。
真剣にページを捲くる姿は、文化祭の期間さえ見なかったものだ。
「うん?」
何処まで読んだかを確認してから桃子が顔を上げる。
うん?ともう一度首を傾げる様は既にいつもの笑顔だった。
目の端を掠めたのはいつかからか置きっぱなしになった鍵。
嫌というほど、思い出の多い鍵である。
それに気づかない振りをして、ニコリと笑顔をつくる。
上手く笑えている自信ははっきり言ってなかった。
- 379 名前:―溶け込む彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 20:02
-
「もも、あたしのこと好きなんだよね?」
出会った頃、そう経っていない内に零された言葉。
屋上で拾った言葉を梨沙子は忘れていない。
だって、あんなに真っ直ぐな感情を貰ったのは久しぶりだったのだから。
雅が離れて初めて人前で泣いた日だった。
―だって、泣けない。
愛理の前で泣いたりしたら、きっと止まらない。
茉麻の前で泣いたりしたら、きっと甘えてしまう。
千奈美の前で泣いたりしたら、きっと千奈美は怒ってしまう。
梨沙子の周りは優しい人ばかりで。
だからこそ泣いてはいけないと梨沙子は思っていた。
「好きだよ。」
もぉはりーちゃんが好きだよ、と繰り返される。
にこりと零された笑顔はここ数ヶ月でよっぽど見慣れたものだった。
その顔に少し安心する。
好きならば、捨てられない。
好きならば、離れていくことはない。
梨沙子は人が遠くなることに酷く臆病だった。
- 380 名前:―溶け込む彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 20:03
-
「あたしね、好きな人がいたの。」
だからだろうか、自分のこと話す気になれたのは。
好きと真っ直ぐ伝えてくれる相手には真っ直ぐに返さないといけない。
そんな考えが梨沙子の中にはあった。
―あたしが好き、なんて変わってる。
考えてみると昔から一人だった。
雅以外梨沙子の周りには誰もいなかった。
親も兄弟も皆、いなかった。
年を経るにつれて近づいてくる人は一杯いた。
梨沙子の姿とか家柄とか財産とかそういうものに惹かれてくる人たちだ。
その度に不思議でしょうがなかった。
その度にわかっていながら何処かに傷がついた。
その度に慰めてくれるのは雅で、結局梨沙子は雅にべったりになったのだ。
梨沙子にとって塵芥と同じものを欲しがる人は多い。
「とっくに振られちゃったんだけど、それでも好きだった人。」
「……屋上で、泣いた原因?」
桃子の目が少し細められる。
少し怒っている瞳だ。
その顔に梨沙子は微笑んで返す。
- 381 名前:―溶け込む彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 20:03
-
たくさん、たくさん梨沙子に近寄ってくる人はいた。
だけど梨沙子が受け入れられたのはほんの僅かだ。
そのほとんどが雅の友達である。
梨沙子の友達となると愛理くらいしかいないのかもしれない。
でも気を許した一握りの友人達は掛け替えのない友達だ。
雅という一番星が落ちてしまっても、それは変わらない。
何より梨沙子は結局雅との関係を切る事が出来ないのだから。
「あたしの幼馴染で、すんごく優しいんだ。」
「でもりーちゃんを傷つけた。」
くしゃりと桃子の膝の上にある雑誌に皺が寄る。
ページを摘んでいた指に力が入っている。
桃子は本当に怒ると表情が消える。
怒った風を装う時は分かりやすいほど起こった顔を作る。
分かりにくい、桃子の二重性だった。
でも今はそれが嬉しい。
それが分かるようになった自分が嬉しい。
それを自分に見せてくれる桃子が嬉しい。
- 382 名前:―溶け込む彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 20:04
-
「しょうがないんだよ、みやはお姉ちゃんなんだもん。」
ぎゅっと口角を引き締め険しい顔をする桃子の服を少し摘む。
自分は大丈夫だと伝えるためにそっと、そっと掴んだ。
どう伝えればこの感情は上手く伝わってくれるのだろうか。
そればかりを普段使わない頭を使って考える。
雅は自分のことを年下の女の子としか見ていない。
幼馴染で妹みたいな存在、そんなところだろう。
だから雅が恋人を作ったとしてもそれは責められるべきことではない。
そして自分が好きだといっても、恋愛にしか取ってくれなかったのも至極当然だ。
なぜなら雅はお姉ちゃんだったのだから。
「お姉ちゃんにも好きな人はできるし、それが妹でない方が普通でしょ?」
ゆるりと首を傾げて桃子を見る。
雅の存在は梨沙子の中に溶け込みすぎて最早区別も出来ない。
何が雅からもらったもので、何がそれ以外のものなのか。
その判断さえ危ういものである。
- 383 名前:―溶け込む彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 20:05
-
「でもりーちゃんは、りーちゃんにとってはお姉ちゃんじゃなかったんでしょ?!」
そして、最近自分に溶け込み始めたのは他でもない彼女だ。
今自分に向かって必死になっている彼女。
嗣永桃子。
今までの人生の中で梨沙子にとって初めての存在。
「そう、だね。」
お姉ちゃんじゃないならば、何なのだろう。
ふと梨沙子の中でその疑問が湧き上がる。
菅谷梨沙子にとっての夏焼雅とは、一体何なのだろう。
お姉ちゃんで、幼馴染で、好きな人。
きっと何より大切な人。
それだけの存在なのだろうか。
「じゃあ、何でっ。」
「いいんだよ、みやが幸せならあたしは何も言わない。」
雅が幸せなら幸せ。
独占欲がないといえば嘘になる。
自分だけを見て欲しいとそんな感情もある。
だが最後にたどり着くのはそれだけなのだ。
雅が幸せならそれでいい。自分が不幸でも、不幸じゃなくなる。
なぜなら好きな人が幸せなのが一番幸せだから。
そんな綺麗事さえ今の梨沙子には本当だと断言できた。
- 384 名前:―溶け込む彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 20:05
-
「それよりさ。」
まだ何かを言わんとする桃子を押し止める。
うんしょと少し体を伸ばし机の上にある物体に手をやる。
触れた瞬間に冷たい金属の感触が伝わる。
チャリと金属同士が擦れる音がした。
「カギ、いらない?」
「何の?」
「この家の。」
不審そうに眉を顰めた桃子の顔が一瞬で吃驚顔になる。
「いいの?」と聞かれた言葉に梨沙子はただ頷いた。
もう使われなくなったカギだ。
梨沙子が誰に上げようと関係ないだろう。
『いつかあげたい人ができるよ。』
瞬間、脳裏に響いたのは愛理の声だった。
愛理には受け取ってもらえなかったもの。
一番の親友が貰ってくれなかったものを梨沙子は桃子にあげることにした。
- 385 名前:―溶け込む彼女― 投稿日:2009/02/24(火) 20:06
-
―わかんないよ、愛理。
桃子がその人なのかは分からない。
分からないが、預けてみたくなった。
自分の中に溶け込み始めた彼女に。
自分の中で未だ位置を決めない彼女に。
どうなるか分からないから、預けてみよう
――さて、どうなるか見ものだ。
梨沙子は自暴自棄の考えにも似たものでそう思った。
―溶け込む彼女―終
- 386 名前:メン後 投稿日:2009/02/24(火) 20:06
-
- 387 名前:メン後 投稿日:2009/02/24(火) 20:08
-
はい、そんなこんなでりしゃももでした。
本当にすんませんでした。
前のは忘れてこっちに接続してくださいorz
ではではメン後でした。
- 388 名前:メン後 投稿日:2009/02/24(火) 20:08
-
- 389 名前:名無し飼育 投稿日:2009/02/24(火) 20:56
- りしゃもも、めちゃ好きです☆
傷ついた、りーちゃんを救うのは、ももしかいないと思います(^-^)
- 390 名前:にーじー 投稿日:2009/02/24(火) 21:37
- いや、すばらしいっす。
やっぱりなんだかんだで、このコンビは幸せな気分になりますね。
- 391 名前:名無し飼育 投稿日:2009/02/26(木) 11:09
- 更新乙です!
フルーティズ大好きっす(*´д`*)
- 392 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/27(金) 00:18
-
- 393 名前:メン後 投稿日:2009/03/17(火) 15:55
-
早、一ヶ月orz
そんな放置する気はなかったんダベ……
389>>名無し飼育さん
りしゃもも好きです。
ほんと、りーちゃんは桃子に惚れた方が傷は少ないと思いますw
なんで夏焼さんなのか是非インタビューしてみたいっす(エ
390>>にーじーさん
あっとうございます。
りしゃみやより幸せな場面が浮かびやすい二人ではあります(バク
りーちゃんの態度の違いは最早笑えるレベルです。
391>>名無し飼育さん
お待たせしました。
自分もフルーティズ大好きっス。
もっと普及してもいいと思うんですけどね、この二人は。
- 394 名前:メン後 投稿日:2009/03/17(火) 15:56
-
では今日の更新。
忘れた頃にやってくる、そんな二人です。
- 395 名前:メン後 投稿日:2009/03/17(火) 15:56
-
- 396 名前:―愛しい彼女― 投稿日:2009/03/17(火) 15:57
-
もう、ラブラブだよねって笑うももを隣で見ていた。
見たことない笑顔で笑う彼女を呆れながら見ていた。
幸せそうに顔を蕩けさせるももに。
でもやっぱりどこか不安が残った。
- 397 名前:―愛しい彼女― 投稿日:2009/03/17(火) 15:57
-
―愛しい彼女―
- 398 名前:―愛しい彼女― 投稿日:2009/03/17(火) 15:58
-
「見て、見て!」
「あー、もうっ、分かったって!その話は。」
ちゃらちゃらとした金属音の後に桃子の甲高い声が重なる。
その音だけで騒音と言って問題のないものだ。
それを毎時間耳元で聞かされるこれは公害だと佐紀は訴えたくなった。
隣で嬉しそうにカギを弄る桃子を尻目にそう思う。今日は朝からテンションが高かった。
教室に入って第一声が『佐紀ちゃん、聞いて!』だったことからも覚悟しておくべきだったのだ。
時間はやっと折り返し地点。
昼休みに入ったばかりの教室は多分どこも五月蝿い。
周りでは二人のことなど気にせず、仲の良い同士がグループを組み始めていた。
佐紀も何時もだったらその中に入っていただろう。
しかしこの幸せオーラ満開の桃子を見るとそうもできない。
被害が及ばないように二人きりで食べよう。
そう自己犠牲の精神と共に思った。
「で、そんなに嬉しいわけ?」
購買に寄り、パンとジュースを買い込む。
女子高生はお腹が減るものだと佐紀は実感していた。
パックからストローを取り穴に差し込む。
ぱふと変な音がしてストローが通った。
すぐに冷たくて甘い味が流れ込んでくる。
- 399 名前:―愛しい彼女― 投稿日:2009/03/17(火) 15:58
-
「そりゃ、嬉しいよ。だってカギだよ、カギ!」
恋人同士の証明じゃんと桃子らしくない爽やかな笑顔で言い切る。
幸せなことだと分かっていても佐紀には何処か違和感があった。
それは千奈美から梨沙子の好きな人について聞いたからかもしれない。
まだ割り切れているはずが無いのだ。
少なくとも佐紀だったら、長年大好きだった人をそう簡単に変えることはできない。
だから浮かれている桃子が心配になってしまう。
―あの子が、人を傷つけるようには見えなかったけど。
脳裏に二、三度会っただけの少女の顔が浮かぶ。
佐紀の記憶にある梨沙子はいつも無に近い表情で、硬質な印象しかない。
人としての実感がとても少ないのだ。雰囲気が違う。
普通の人が持っているものを全て拒絶して、その上で別なものを見ている。
まるで同じ世界に生きている気がしなかった。
佐紀にとって梨沙子は彼岸の人なのだ。
「カギねぇ。」
そんなに嬉しいものだろうか。佐紀にはよく分からない。
桃子が持つ金属の棒に重大な意味があるとは思えなかった。
屋上には最早少し肌寒いくらいの風が吹いている。
文化祭も終わり、後はただ冬を待つだけになっていた。
- 400 名前:―愛しい彼女― 投稿日:2009/03/17(火) 15:59
-
「もう、感動が薄いなぁ。ほら想像してみてよ、千奈美の家に入り放題なんだよ?!」
「いや、別に今でも入り放題だし。」
桃子の話に少し考えるも、やはり佐紀には良く分からなかった。
千奈美の家に入ることにそこまで執着しているわけではない。
なのにそんな例え話を出されても首を捻るしかなかった。
ジュースの紙パックが軽くなって佐紀はそれを置く。
ぱくりと持ってきたパンを食べれば口の中がパサパサした。
思うに入り放題が嬉しいわけではいのだろう。
入ってもいいよと自分に許される事が嬉しくて、桃子はこんな状態なのだ。
特に梨沙子は見るからにガードが固い人物だ。
その梨沙子からカギを持っていてと言われた事が嬉しいのだ。
―やっぱ、あたしには分かんないかな。
頭の中で考えをまとめて、それから佐紀は溜息を吐いた。
理解できても同感できない感情は確かに存在している。
基本的に佐紀と桃子は違う人間だしだからこそこれまで付き合ってこられたのだと思う。
持っているパンは一口、二口食べているうちにあっという間に無くなった。
その間中桃子は隣でニコニコとカギを見つめていた。
- 401 名前:―愛しい彼女― 投稿日:2009/03/17(火) 15:59
-
「ねぇ、もも。菅谷さんはすごく面倒くさい女の子かもしれないよ。」
幸せな顔を崩すのは申し訳ない。
だが今ここで注意しておかないと、桃子はもっと悲しい目に合うかもしれない。
杞憂だったらそれでいい。だから佐紀は敢えて口を開いた。
桃子が盲目になるのは非常に珍しいことだから。
そういう時くらい、佐紀が口を出しても構わないだろう。
ずずずずと鈍い音がして紙パックが空になった。
慣れた手つきで折り畳み長方形にする。
購買のビニールにパンの空と共に突っ込む。
秋より冬に近づいた空がいやに高く佐紀の目に映った。
「面倒くさくても、いいよ。」
空が青い。
現実逃避をしていた佐紀の耳にそれははっきりと届いた。
ちらりと目を動かして桃子を見る。
そこにいたのはやはり笑顔の桃子だった。
- 402 名前:―愛しい彼女― 投稿日:2009/03/17(火) 16:00
-
「りーちゃんが好きだから、面倒くさくてもいい。」
「大変じゃない?」
「欲しいなら大変でもいいじゃん。」
穏やかに笑って桃子が言う。
その顔に佐紀は知っているんだなと予想をつけた。
桃子は梨沙子の好きな人の事を知っている。誰から聞いたのかは知らない。
だが桃子が知った上で、それでも梨沙子が好きと言うならばもう佐紀は止められない。
「あたしは楽な方が嬉しいけどなぁ。」
「佐紀ちゃんはそうでしょ。」
そう言って笑う彼女に佐紀は何それと文句を言った。
桃子はずっと弄っていたカギを大事そうにポケットにしまう。
失くさないようにと付けられたキーホルダーが目立つ。
フェンス付近で外を眺めていた桃子が佐紀の隣に座り込む。
屋上で唯一の壁に背をつけて二人は笑った。
- 403 名前:―愛しい彼女― 投稿日:2009/03/17(火) 16:01
-
「ももは、なんでそう難しい事が好きなわけ。」
さっさと食べちゃいなよと佐紀は桃子に言う。
桃子の手にも購買で買ったおにぎりが握られている。
その他に緑茶、桃子はみどりちゃと言って憚らないものもある。
純日本風な昼食が、味気ないビニールに包まれて出てきた。
「もぉからすれば、楽なことばっかやってる佐紀ちゃんの方が分かんないけど?」
「そりゃそうだ。」
佐紀には桃子が分からない。
桃子には佐紀が分からない。
そんな当たり前のことを今更に確認されて、佐紀は苦笑した。
難しいからやりがいがあると思う人間は確かに存在している。
分からなくはない。理解は出来る。
しかし楽な方があるならその方法を選んだ方が良いというのも事実だと思う。
佐紀はそうやって、今までの人生を生きてきた。
だから桃子のような考え方の根本を受け入れることはきっとできないのだ。
そう思えば千奈美もその傾向が合って、自分の周りはそんなのばかりなのかもしれないと思った。
- 404 名前:―愛しい彼女― 投稿日:2009/03/17(火) 16:02
-
「ま、いいや。ももが進むなら止めない。」
「そうそう。存分に応援してね!」
「いや、それもしないと思うけど。」
おにぎりを途中まで食べ進んだ桃子が頬を膨らます。
両手でおにぎりを持っている体制では突っ込むことも出来ないだろう。
佐紀は僅かに肩を竦めて、少し距離を取る。
「ほら、早くしないとチャイム鳴るよ。」
腕時計を確認すると始業まで後十分を切っていた。
五分前に一度予鈴がなるからそれまでには食べ終わっていて欲しかった。
のんびりと自分のペースで食べている桃子を急かす。
うんと一人立ち上がり背伸びをする。
そうすると午前中の授業で溜まっていた疲れが骨を鳴らした。
ぱたぱたと秋風に吹かれてスカートが靡く。
くすぐったい感触に佐紀は目を細めた。
- 405 名前:―愛しい彼女― 投稿日:2009/03/17(火) 16:02
-
「あ、いいよ。先に行ってて。」
「サボるの?」
「うん、そういう気分。」
もうちょっと幸せ満喫していくと桃子はカギの入ったポケットを叩く。
そっかとだけ行って佐紀は自分のゴミを持った。
屋上に残るというなら邪魔することも出来ないだろう。
微かに錆の見え始めた扉は重く、開けづらい。
ひらひらと最後に手を振れば桃子も手を振り替えしてくれた。
屋上からの階段は電球もなく非常に暗い。
やけに音が反響するそこを下りながら、佐紀は思った。
恐らく桃子の幸せは長くは続かない。
そしてそれを桃子自身が半ば覚悟している。
幸せを満喫したいとはそういう意味だと少なくとも佐紀は考えていた。
「愛しい、彼女……かぁ。」
桃子がそういうなら佐紀は止める事ができない。それが桃子の覚悟だから。
それでも、どうせなら楽にいけばいいのにと佐紀は一人呟いた。
―愛しい彼女―終
- 406 名前:メン後 投稿日:2009/03/17(火) 16:02
-
- 407 名前:メン後 投稿日:2009/03/17(火) 16:05
-
この二人も中々独特な雰囲気がある。
と、そう思うのは自分がカップリングヲタだからなのでしょうかw
同学年しか分からんものはきっとあると思いたいっす。
ではまた妄想が溜まった日にお会いしましょう。
- 408 名前:メン後 投稿日:2009/03/17(火) 16:05
-
- 409 名前:にーじー 投稿日:2009/03/17(火) 22:07
- ばかっぽく見えつつも、最後の数レスでやられた!と思いました。
嗣永さんにはこういう役が似合いますね。
これから一体どうなるんだろう…。
- 410 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/29(水) 21:57
- ここの桃子って、テンションが高くないのに、妙に桃子っぽいなぁ。
ロック魂感じる時の雰囲気が近いような気がします。
- 411 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/22(金) 23:27
- りーちゃんと桃の今後がどうなっていくのか。
周りのCPも気になるし、メン後さんの小説はかなり読んじゃってます。
- 412 名前:メン後 投稿日:2009/05/26(火) 23:36
-
かなーり、お久しぶりですw
とりあえず更新します。
409<<にーじーさん
お待たせしました!
嗣永さんはキャピキャピしたり、冷静だったりすると嬉しいですw
二面性が欲しくなる人柄です(エ
410<<名無飼育さん
桃子は根本的にローテンションな気がします。
勝手な思い込みですが。
桃子っぽいと言ってもらえるのが嬉しいですw
411<<名無飼育さん
読んでくださりあっとうございます!
りしゃもも小説なんで、りしゃももっぽくはしたいと。
回りも自分の好みで固めたのですが、そう言っていただけるとありがたいです。
では久しぶりの更新、スタート。
- 413 名前:メン後 投稿日:2009/05/26(火) 23:37
-
- 414 名前:―フられた彼女― 投稿日:2009/05/26(火) 23:38
-
泣きそうになって、一番に足が向いたのはそこだった。
なんでそこだったのか、自分でも分からない。
でも多分知っていたのだ。
そこにいけば泣けるくらいの優しさに包まれることを。
- 415 名前:―フられた彼女― 投稿日:2009/05/26(火) 23:38
-
―フられた彼女―
- 416 名前:―フられた彼女― 投稿日:2009/05/26(火) 23:39
-
玄関に蹲った人影を見つけたのは愛理と寄り道した日だった。
駅で別れた愛理の姿はもうない。
また一人かと憂鬱になりながら飾りのような門を潜る。
インターホンも鳴らないし、自分以外使わない。
そんな門に必要性など微塵も感じなかった。
数メートルの階段を上って玄関に着く。
上りきる少し前からその人影は見えていた。
梨沙子の家は玄関の前に壁がある。
そこから階段をくの字に下りて門になる。
おかしいと首を傾げる。
用事があるなら、梨沙子に連絡が来る。
強盗ならさっさと玄関を壊して入れば良い。
この家に大切なものなどほとんどないのだから。
何もせずにそこに蹲る人影に梨沙子は心当たりが無かった。
- 417 名前:―フられた彼女― 投稿日:2009/05/26(火) 23:39
-
「梨沙子?」
とりあえず状況を整理しようと階段を下りようとした背中に声が掛かる。
その声には聞き覚えがあった。
聞き覚えという言葉が生温いほど染み込んでいる声だった。
ぴくりと聞いた瞬間に肩が跳ねる。正直な自分の体に苦笑した。
自分の体はもう自動的に雅に反応することを止めないのだろうなと思った。
「みや、何してるの?こんな所で。」
もう一度反転して雅の元へ駆け寄る。近づけば確かに雅だった。
ずっと見てきた綺麗な髪も、見覚えのある制服も、ちょっと短いスカートも。
全てが梨沙子の知っている雅を構成しているものだった。
―家、近いなのに。
わざわざ梨沙子の家の前にいる意味が無い。
用事があるなら梨沙子に連絡してから来れば良い。
ここまで足を運ばなくても雅に呼ばれたら家に行っていただろう。
梨沙子の家で、雅が、梨沙子を待つ必要は何処にもなかった。
- 418 名前:―フられた彼女― 投稿日:2009/05/26(火) 23:40
-
「フラレタ。」
響いた音は余りにも機械的に聞こえた。
ただの文字の羅列は梨沙子の頭に言葉として入ってこなかった。
苦笑する雅に余りに現実感がなかったのかもしれない。
「……え?」
反射的に聞き返す。
いや、信じられなくていつの間にか声が出ていた。
呆気に取られ固まる梨沙子を前に、雅は泣きそうな顔で微笑む。
その表情がリアルで自分の聞き取った言葉に間違いは無かったのだと分かる。
動けない梨沙子を他所に雅はもう一度口を開くと言った。
「振られた。」
繰り返された単語に違いは無くて。
梨沙子はとりあえず鞄からカギを取り出すと扉を開ける。
聞きたいことは沢山あった。
言いたいことも沢山あった。
だが何より泣きそうな顔をした雅を一人にすることはできない。
ガチャという無駄に重そうな音と共にガキが解かれる。
ぐっと力を込めて招き入れるように扉を開いた。
- 419 名前:―フられた彼女― 投稿日:2009/05/26(火) 23:40
- 「入って、みや。」
部屋の場所、分かるよねと言えば当然じゃんと返ってきた。
強気な言葉の裏に悲しそうな感情が見えて。
靴をいつもより乱暴に脱ぎながら梨沙子は台所に向かう。
雅には先に部屋へ行ってもらう。
落ち着いて話を聞くには飲み物が必要だと冷静な理性が判断していた。
―振られたって。
雅が恋人と別れた。
別れたと振られたの間にある違いを梨沙子は理解できない。
だがその二つには明確な違いがあることは理解できた。
戸棚からカップを出し、ココアを入れる。
紅茶もあったが甘いものの方が良い気がした。
久しく使っていなかった雅用の薄い青のカップを自分のカップの隣に並べる。
そこに並ぶのがピンクではなく白のコップだった事に目が痛む。
雅から貰ったカップはもう無いのだ。
気づきませんようにと願いながら梨沙子はそれを持って部屋に上がった。
- 420 名前:―フられた彼女― 投稿日:2009/05/26(火) 23:41
- 「はい、これ。」
「ありがと。」
雅は部屋の中にいた。
ベッドに腰掛けて並べてあるクッションを一つ抱きしめていた。
その姿はまるでこの部屋の主のように自然で、梨沙子は顔を俯かせる。
溢れそうなものが胸の奥から飛び出そうと必死だった。
暫くココアを飲む音だけが部屋に響く。甘い匂いが充満していく。
このまま染み付いてしまえばいいのにと梨沙子は思った。
そうすれば自分はただ甘さの中、何も思い出さずに眠れるかもしれない。
「あいつさ、好きな人が……出来たんだって。」
「そう、なの?」
みやがいるのに?と口から零れそうになる言葉を抑える。
雅がいるのに他のものを望むなんて梨沙子には微塵も理解できない。
それこそ、好きでジェットコースターに乗る人以上に分からない。
だから雅の恋人と、今では元恋人だが、自分が理解し会う日は死んでも来ないだろう。
雅と付き合えて、その上振るなんて梨沙子の中には選択肢としてさえ存在しないのだ。
- 421 名前:―フられた彼女― 投稿日:2009/05/26(火) 23:41
- 「だから終わりにしたいんだって。」
終わりにしたい。
それは限られたものだけが言う権利を持った言葉だ。
手に入れて、それだけで満足できなかった者が言う言葉だ。
梨沙子が永遠に雅に使うことの無い言葉でもある。
「酷くない?それだけなんだよ。」
「うん、それは酷いね。」
ははっと乾いた笑いを雅が漏らす。
雅の視線は先ほどからずっとカップに注がれている。
その様子はきっと言われた時のことを思い出しているに違いなかった。
―意味、分かんない。
雅をそんなにあっさりと振る意味が分からない。
一年も付き合っていないのに雅の何が分かると言うのだろう。
不器用な優しさも、恥ずかしがりの所も梨沙子は色々な雅を知っている。
勿論、酷いほどの素直さや真っ直ぐさも分かっていた。
でもそれ全てを含めて梨沙子は好きと断言できる。
なぜなら、それが梨沙子にとっての好きだからである。
梨沙子は雅の全部を好きなのであって、良い所だけが好きなのではない。
- 422 名前:―フられた彼女― 投稿日:2009/05/26(火) 23:41
- 「みやを振るなんて、その人見る目ないんだよ。」
どう言えば雅を慰められるかいつもは余り使わない頭を回転させて考える。
ココアから昇る湯気はいつの間にか少なくなってきた。
ちびちびと口を付けながら、ふと梨沙子は思った。
雅は梨沙子の特別だ。
雅が手に入るのならば他には何もいらなかった。
その唯一が手に入らないから、苦しくてしょうがなかった。
だがそれはその恋人にとっても同じだったのかもしれない。
その人にとって雅は特別ではなかったのだ。あくまで代えが利く、一時的な恋人。
そう考えればまだ納得のいく話だった。
「ほんとだよね、見る目…っ…ない。」
梨沙子の話に笑おうとした雅の瞳から涙が落ちる。
ぽろりと綺麗な珠の形をしたそれは静かに頬を伝う。
一粒零れたと思ったら、また一粒とそれは絶え間なく流れていく。
壊れた堤防のように涙は止まらなかった。
- 423 名前:―フられた彼女― 投稿日:2009/05/26(火) 23:42
- 「みや。」
どうしたら良いか分からなかった。
雅は泣き虫な梨沙子と違い昔から泣かない人であったから。
こういった時の対応を梨沙子は覚えていなかった。
ココアを置いて雅の隣に移動する。
恐る恐る背中に手を回せば嗚咽は更に酷くなった。
近くなった泣き顔を見ていられなくて、体ごと抱きこむ。
伝わる体温に少しでも雅が安心してくれればいいと思った。
「…っく……り、さこ…ぇ…ふ……。」
「いいよ、みや。あたしの家、誰もいないし。」
声を押し殺す雅に梨沙子まで悲しくなった。思い切り泣けばいいのに、今くらい。
いつも涙の欠片も見せないのだから、泣けるときくらい泣いた方がいい。
そう考えて雅は多分泣きたかったのだと思い当たる。
声を出して、そしてそれを誰にも知られずに泣きたかったのだ。
自分の弱い所を見せるのが嫌いなのを知っていた。
ならば梨沙子の家以上にぴったりな場所はない。
ここにいるのはいつも梨沙子だけで、梨沙子は雅のことを誰かに漏らすわけがないから。
- 424 名前:―フられた彼女― 投稿日:2009/05/26(火) 23:42
- 「ふぇ、あ、たし…ひっく…振らっぁ、れぇ…たぁっ……っ!」
「みやの良いとこ、いっぱいある。だからきっと大丈夫だよ。」
途端大きくなった声にうんうんと頷きながら背中を撫でる。
ここまで大泣きする姿は初めて見た。
自分の胸に縋る雅と言うのは本当に珍しい。
泣かないで、と気ばかりが焦って上手い言葉が出ない。
―あたしはみやのこと大好きだよ。
―みやの良いとこも、いっぱい知ってるよ。
―みやは素敵な女性だからすぐに恋人なんてできるよ。
繰り返し、繰り返しそんな事ばかりを言った気がする。
慰めになっているのかも良く分からず、梨沙子はただ言葉を続けた。
辛いことも苦しかったことも全部聞いて上げたかった。
何でもいいから力に成りたくて、あっという間に時は過ぎる。
気づけば一時間近くが過ぎココアもすっかり冷たくなっていた。
- 425 名前:―フられた彼女― 投稿日:2009/05/26(火) 23:43
- 「大丈夫?」
「うん、落ち着いてきた。」
真っ赤な目をしながらそれでも雅は笑った。
その笑顔に嘘は無くて梨沙子は安心する。
自然な流れで腕を離し、机の前の椅子に再び座る。
遠のく体温に寂しさを感じたことは知らぬ振りで塗りつぶした。
「梨沙子がいてくれて、良かった。」
「え?」
「こんなとこ、見せれるの梨沙子だけだし……大好きだよ、梨沙子。」
何とはなしに言われた言葉に身動きが取れなくなる。
へへへと照れたように笑う雅は非常に可愛らしかった。
酷いほど無邪気な言葉は梨沙子を容赦なく傷つける。
あたしだって大好きだよ、飲み込んだ言葉は冷たくて重い。さっきまで言えたことが最早言えない。
そんな風に告げられては、梨沙子は思いを伝えて玉砕することも出来ない。
必要とされれば応えてしまう。求められれば与えてしまう。
閉じられた蓋が何より強い力で抉じ開けられようとしている気がした。
―ふられた彼女―終
- 426 名前:メン後 投稿日:2009/05/26(火) 23:43
-
- 427 名前:メン後 投稿日:2009/05/26(火) 23:45
-
とりあえず、こんな感じで。
悩んで、悩んでこんな風に進めてみました。
低速なのは変わりませんが、書き続けてはいます。
なので申し訳ありませんが気長に待っていてください、としか言えません。
出来る限り早めに週一ペースに戻せるようにはしたいです。
では言い訳ばかりですが、今日はこれにて。
メン後でした。
- 428 名前:メン後 投稿日:2009/05/26(火) 23:45
-
- 429 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/27(水) 00:28
- まさかの展開。
次も楽しみです。更新お疲れ様でした。
- 430 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/27(水) 07:02
- りしゃこにばかり感情移入してしまう・・・
ちくしょーずるいよみやびちゃーん
- 431 名前:麻人 投稿日:2009/05/27(水) 11:27
-
更新お疲れさまです!
こんな展開を待ってましたwりしゃみやがこれからどうなっていくのか楽しみです。メン後さんの作品大好きです♪
- 432 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/29(金) 13:48
- どうなってしまうんじゃろ。
なかなか気になる展開に発展していきょうるし。
みんな頑張れ!
- 433 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/01(月) 00:05
- このまま平和に終わるのかなと思っていたら、・・・
予想外の展開に期待大です。
あと、まだ出てきてないあの方にも興味があります。
- 434 名前:メン後 投稿日:2009/06/16(火) 05:14
-
- 435 名前:メン後 投稿日:2009/06/16(火) 05:20
-
のんびりペースで更新。
忙しさがどうにも止まりません。
429<<名無飼育さん
あっとうございます。
色々悩んでこんな感じですw
430<<名無飼育さん
みやびちゃんはずるい女です。
そしてそれが許される人でもあります(バク
431<<麻人さん
あっとうございます。
結局りしゃみやが好きな自分ですw
432<<名無飼育さん
どうなりますかねー……
彼女達を悲しませることはなくしたいですが無理っぽいです(エ
433<<名無飼育さん
期待に応えられるように頑張ります。
ベリメンは全員出ますよ、一応。
では今日の更新、朝が早くて眠いですw
- 436 名前:メン後 投稿日:2009/06/16(火) 05:20
-
- 437 名前:―願う彼女― 投稿日:2009/06/16(火) 05:21
-
神様はいじわるだ。
たった一つ欲しいものを諦めさせておいて。
まるでそれが手に入るかのように錯覚させる。
これ以上梨沙子を苦しめるのは本当にやめて欲しい。
そう思った。
- 438 名前:―願う彼女― 投稿日:2009/06/16(火) 05:21
-
―願う彼女―
- 439 名前:―願う彼女― 投稿日:2009/06/16(火) 05:22
-
「梨沙子。」
「んー……。」
チャイムと共に喧騒が広がる。
放課後と言う時間帯に突入した校舎は活気に満ちていた。
愛理は自分の席から立ち上がると、日がな一日ぼうっとしていた親友の席へと赴く。
思ったとおり、学校が終わったという意識も無く机に肘をついて座っていた。
「授業終わったよ?」
「んー……。」
呻るような返事しか返さない梨沙子に苦笑する。
今日はずっとこの調子だ。
朝教室に入ってきた時から何処か別の場所を見ている。
昨日の時点ではなかった傾向だ。
元々ぼんやりしていることが多い子ではあったが、ここまで入り込むことは少ない。
- 440 名前:―願う彼女― 投稿日:2009/06/16(火) 05:22
-
「梨沙子。」
ぽんと肩に手を置く。
このまま明日までもずっと教室にいそうな梨沙子を放っておくことなど出来ない。
こうしている間にも級友達は荷物を纏め足早に教室を去っていく。
肩に手を置かれて初めて梨沙子は愛理の存在に気づいたようであった。
はっと顔を上げきょとんとした顔で周囲を見渡す。
西日の差し込む教室で照らされた横顔は影が濃かった。
「愛理。」
「どうしたの?今日はいつもよりぼうっとしてるけど。」
からかう様な声音でそう告げれば梨沙子は少しむくれた顔をする。
冗談だよと断りながら愛理は梨沙子の前に座った。
幸い席の持ち主はチャイムと共に教室を飛び出している。
人の少なくなった教室に椅子を引く音がやけに響いた。
「みやのね、ことを……考えてた。」
椅子に座った愛理を見て梨沙子がポツリポツリと言葉を零す。
その視線は愛理を通り過ぎていて、少し悲しかった。
泣きそうなわけではない。悔しいと言う表情でも勿論無かった。
まるで悲しいと嬉しいが打ち消しあって何もなくなったような顔だった。
- 441 名前:―願う彼女― 投稿日:2009/06/16(火) 05:23
-
「夏焼先輩?」
愛理は首を傾げる。
あのミスコン以来、余り聞かなくなった名前である。
というより梨沙子も愛理もわざと触れなかった。
出さないことで封印するに努めたのだ。
そうでもしないと隠せない程、梨沙子には雅の匂いが付いて回った。
今頃なぜその名前が出たのだろうと不安が顔を出した。
「みやね、あたしの家にいたの。昨日。」
表情を消したまま梨沙子が言う。
鍵無いから玄関の前で蹲っていたという梨沙子の言葉に愛理は面食らった。
まるで横から不意打ちにトラックにぶつかられたくらいの衝撃があった。
うんと相槌を打とうとした格好のまま愛理は固まった。
だって、雅が何も無しに梨沙子の家に来るわけがない。
そのことを愛理は充分に知っていた。
「……夏焼先輩、どうしたの?」
どうにか頭を叩き起こし梨沙子に問いかける。
夕焼けに染まる顔が更に深刻な陰影を帯びて、空気が張り詰めた。
そっと胸の前で指を絡める。沈黙が痛かった。
この嫌な予感が当たらないで欲しいと愛理は祈った。
- 442 名前:―願う彼女― 投稿日:2009/06/16(火) 05:24
-
「別れたんだって、恋人と。」
淡々とした声で梨沙子が愛理の願いを破る。
平坦すぎる声は逆に感情をかみ殺しているようだった。
伺うように見つめた顔からは何も読み取れない。
「昨日、みや、泣いてた。あんなの、初めてだった。」
「梨沙子……。」
ずっと遠くを見ていた梨沙子の視線が下がり机を見る。
泣きそうな顔をしているんだろうなと愛理は勝手に予想をつけた。
梨沙子が顔を隠そうとする時は大体がそうだったからだ。
ふるりと肩が刻み出し、声が震える。傷ついているのだ、梨沙子は。
初恋を断ち切らなくてはいけなくなった恋なのに。
辛い思いをして、たくさん涙を流して諦めた恋なのに。
雅のその関係が終わったことに心痛めている。
自分には真似のできない芸当だと愛理は思う。
- 443 名前:―願う彼女― 投稿日:2009/06/16(火) 05:24
-
―なんで。
神様はこんな残酷なことをするのだろう。
梨沙子はもう充分に雅のことで傷ついたはずだ。
終わった恋を蒸し返すことは無粋に他ならない。
何よりそれにまた梨沙子が傷つくかと思うと、愛理は悔しくて仕方なかった。
「ねぇ、愛理……あたし、どうしたらいいかな?」
上げられた顔には深い皺が刻まれていた。
眉間に皺を寄せるのは癖のようなもので、気難しい梨沙子はよくこの顔をする。
自分を真っ直ぐに見つめる視線に愛理はどう答えていいのか分からなくなった。
空気を求める金魚のように言葉を探して口を開閉する。
段々と教室の中は赤から群青へと変わり始めていた。
「梨沙子はどうしたいの?」
どうしようと迷って出た言葉はそれだった。
傷つくだけだから止めた方がいいよとも言えた。
これを機に恋人になっちゃいなよとも言えた。
ただ愛理の感情のみで言えば、これ以上傷つく梨沙子を見たくはなかった。
- 444 名前:―願う彼女― 投稿日:2009/06/16(火) 05:25
-
「あたし?」
「うん、梨沙子。」
一瞬何を言われたか分からない顔で梨沙子は首を傾げた。
愛理はただ頷く。自分の無力さが痛かった。
たとえ何を言おうと結局は言葉だけだ。
傷つくのも涙するのも梨沙子に他ならない。
そして愛理はそれを止めることができない。
「梨沙子がしたいことをわたしは応援するよ。」
これは逃げだ。愛理の中の誰かが呟く。
梨沙子に全てを任せて、自分は何も負わない。そんな卑怯で狡賢い逃げだと言っていた。
臆病な愛理は何も言う事が出来ない。自分の感情のままに止めなよとさえ言えなかった。
ただ臆病なまでに優しい愛理は梨沙子に寄り添う覚悟しか持っていない。
何があっても自分は梨沙子を助ける、そういう覚悟しかできなかった。
だがそれこそが梨沙子に必要なものだったのかもしれない。
「あたしは。」
一瞬梨沙子は顔を俯ける。
長い睫が最後の夕日の瞬きに照らされて頬に陰を作った。
怖いほどに綺麗な光景だった。
- 445 名前:―願う彼女― 投稿日:2009/06/16(火) 05:25
-
「あたしはみやの側にいてあげたい。」
分かっていた言葉だった。
梨沙子に雅を見捨てるという選択はないのだ。
真っ直ぐと愛理を見つめる瞳は強すぎて見ていられない。
愛理は隠している分からない程度に、しかし表情が見えないように顔を伏せた。
―やっぱ、神様はいじわるだ。
なんで梨沙子に雅のことを忘れさせてあげないのだろう。
なんでこんなにも優しく梨沙子の性質を作ってしまったのだろう。
なんで雅はこんな時だけ梨沙子を頼るのだろう。
なんでが積もりすぎて涙に代わりそうだった。
「梨沙子が、そうしたいんなら、それがいいんだよ。」
だがここで泣く事はできなくて、愛理は涙腺を引き締めた。
突っかかりながらも言葉を発する。
こうなっては梨沙子が傷つかないように祈るしかなかった。
恋でなくなったとしても特別な人なのだ、雅は。
分かりきった事実を愛理は忘れようとしていた。
だってその方が梨沙子は幸せになれるだろうから。
- 446 名前:―願う彼女― 投稿日:2009/06/16(火) 05:25
-
「ありがとう、愛理。」
教室が完全に暗闇に包まれる寸前、梨沙子は言う。
愛理の考えなどわかっているような顔で微笑んだ。
その顔を見て愛理は唇を噛む。
何を言っても無駄だ。今の梨沙子を止めることはできない。
ありがとうの裏に潜む梨沙子のごめんね、を愛理は確り感じ取っていた。
傷つくと分かっていて梨沙子は進む。
それが雅のためならば、自分のことなど省みない。
―梨沙子のばか。
愛理の呟きは暗くなった教室に溶け込んでいった。
―願う彼女―終
- 447 名前:メン後 投稿日:2009/06/16(火) 05:26
-
- 448 名前:メン後 投稿日:2009/06/16(火) 05:28
-
この話はりしゃももと名乗っておきながらりしゃあいりっぽい気がする。
と勝手に思っとります。
りーちゃん側がりしゃあいりなら、ももち側はももさきでしょう。
とりあえず独特な雰囲気のある二人でしたw
- 449 名前:メン後 投稿日:2009/06/16(火) 05:28
-
- 450 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/17(水) 00:50
- りしゃあいりって、タイプは異なってるけど、うまく支え合ってるって感じですね。
ももさきには、それを超える一体感を感じます。
- 451 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/22(月) 23:21
- りしゃみや好きな自分としては嬉しい展開にw
ってかとても素敵な文章でいつも感動してます!!
登場人物の心理描写が最高ですw
- 452 名前:メン後 投稿日:2009/07/14(火) 23:24
-
夏は一日が長いはずなのに、どうしてこんなに早く過ぎるのでしょう……。
・
・
・
つまり、言い訳ですw
遅くてすいません、ほんと。
450<<名無飼育さん
確かにりしゃあいりは補ってるって感じがします。
ももさきは繋がってるって感じなんですけどねw
分かりにくくてすんません。
451<<名無飼育さん
りしゃみや、やっぱりーちゃんから切り離せません。
いやいや、頭から流れ出る妄想が勝手に形になっているだけっすw
ですがそう言ってもらえると素直に嬉しいです!
では今日の更新。
- 453 名前:メン後 投稿日:2009/07/14(火) 23:26
-
- 454 名前:―背の高い彼女― 投稿日:2009/07/14(火) 23:26
-
一目で好きになった。
自分とは違う小さい背も、白い肌も。
どれをとっても可愛らしい姿に目を奪われた。
千奈美の話を聞いてもそれは変わらなかった。
- 455 名前:―背の高い彼女― 投稿日:2009/07/14(火) 23:26
-
―背の高い彼女―
- 456 名前:―背の高い彼女― 投稿日:2009/07/14(火) 23:27
-
何だか珍しく目覚ましがなる前に目が覚めた。
余りに目覚めが良くて思わず首を傾げてしまう。
何もあるわけでもない。
予定もないし、記念日でもない。
当然期待するような行事もない。
何で目が覚めたのだろうと内心不思議に思いながら学校に向かう。
「はよー。」
「おはよう、もも。今日は早いね。」
「目が覚めちゃってねぇ。」
校門の前で佐紀と会った。
桃子はいつも遅刻ギリギリまで寝ているため教室以外で会うことは珍しい。
佐紀の後ろにはまだ眠そうな千奈美が欠伸をしている。
面倒見がいいなと改めて佐紀の人の良さに感心する。
千奈美の家に行って、起こして、準備をさせて、学校につれてくる。
その全行程を行うには桃子なら想像したくない程早くに起きなければならないのだろう。
- 457 名前:―背の高い彼女― 投稿日:2009/07/14(火) 23:27
-
「おはよ、千奈美。」
「……はよ。」
目覚めの良さそのままに笑顔で挨拶すれば、ぷいと顔を逸らされた。
気分屋で感情の起伏が激しい千奈美は機嫌が捉えにくい。
千奈美の機嫌を察する事が出来る人間など片手で足りる。
まして完璧に把握するとなると桃子は佐紀以外に知らなかった。
だが今回に関しては別だ。
桃子にもはっきり分かるほどに今日の千奈美は機嫌が良くない。
「ごめん、なんか今日機嫌悪いんだ。」
千奈美の代わりに苦笑いしながら佐紀がそう謝る。
いいよ、と言いながらもう一度佐紀の少し後ろを歩く千奈美を見る。
制服を着崩して、少し猫背になっている。
その姿は長身と相まって普通の人から見た少し怖い。
桃子は少し肩を竦めた。
- 458 名前:―背の高い彼女― 投稿日:2009/07/14(火) 23:27
-
千奈美を刺激しないように注意しながら校門から昇降口までの距離を歩く。
こうやってのんびりと歩くのは初めてに近い行為だ。
取り留めのないことを佐紀と話しながらこういう登校もいいかもしれないと桃子は思った。
下駄箱まで来て千奈美と別れる。最後まで機嫌は悪いままだった。
「あれ?」
出席番号の関係で桃子の下駄箱は佐紀より奥にある。
かたんと小さな音がして、立て付けの悪い蓋を開ける。
いつもならそこにあるのは少し汚れた上履きだけだ。
それを取って、床に放って適当に履く。
昨日まで何の問題もなくそのルーチンを繰り返していた。
だが今日そこに異物が紛れ込んだ。
―手紙?
下駄箱に入っている手紙。
それが意味するものは大よそ二通りだろう。
呼び出しか、告白か。昔なら大体が呼び出しだった。
だが高校に入ってからなるべく目立たないようにしていた為それはないはずだ。
実際、この数年で初めて受け取る手紙である。
- 459 名前:―背の高い彼女― 投稿日:2009/07/14(火) 23:28
-
とりあえず上履きを出して履く。
便箋の色はシンプルな白一色で宛名は桃子の名前が書いてあった。
タンタンとつま先を床に当てて調整する。
片手で手紙をひっくり返し、もう一度確認するように表を見る。
暫く突っ立っていた桃子の後ろから佐紀が近づく。
「何してんの?こんな所で。」
「あー、手紙、入ってて。」
とんと肩に手を置かれ桃子は佐紀と一緒に歩き始める。
下駄箱は人通りが多い。余り立ち止まっていては注目を集めてしまう。
桃子の言葉に佐紀は少し首を傾げた後、手に握られたものを見て納得する。
久しぶりだね、そういうのと佐紀が言えば桃子はうんと頷いた。
「でもこれ、呼び出しじゃないでしょ。」
「佐紀ちゃんもやっぱりそう思う?」
桃子から便箋を受け取った佐紀が物珍しそうに見る。
一二度表裏を確認してから佐紀は直ぐに手紙を返した。
桃子は受け取った手紙を鞄に入れ、普通に教室へと歩む。
- 460 名前:―背の高い彼女― 投稿日:2009/07/14(火) 23:28
-
「行くの?それ。」
「うん、どっちにしろ行くのが礼儀だと思うし。」
だよねと佐紀が疲れたように息を吐いた。
伊達に桃子と長い時間をいた訳ではない。
呼び出しにしろ、告白にしろ、桃子が取る行動は変わらない。
それを佐紀は知っていた。
「まぁ、良いけど。気をつけてよ?」
「分かってるって。」
その言葉を最後にこの話題を切り上げる。
教室に入る時は何ら変わらない笑顔だ。
もっとも、桃子はいつもなら考えられない早い登校に散々からかわれた。
―……誰だっけ?
佐紀が来る前に手紙の名前は確認していた。
熊井友理奈。
その名前に桃子は心当たりが無かった。
- 461 名前:―背の高い彼女― 投稿日:2009/07/14(火) 23:29
-
手紙に書かれていた場所は定番の屋上だった。
桃子も隣のクラスのえりかや年下の千奈美もよく利用する場所だ。
言うなれば溜まり場と言う所か。
今日は誰もいないといいなぁと思いながら桃子は足を進める。
この時点で桃子は呼び出しではないと見切りをつけていた。
「告白ねぇ。」
薄暗い階段を一段一段確かめるように上りながら呟く。
屋上へと続く道は一般教室からは少し離れた場所にある。
普通に生活する分には使う必要のない道のりだから知らない生徒も多いだろう。
特別教室の更に置くにある階段は喧騒からは少し遠い。
―もぉに告白なんて物好き。
人生で初めての告白と言うわけではない。
自慢ではないが見た目はそこそこ良い方だ。
それに中学までの桃子は悪目立ちしていた。
興味本位で近づく人物も少なくなかった。
もっとも一度足りと桃子はそういった連中に付き合うことはなかったのだが。
- 462 名前:―背の高い彼女― 投稿日:2009/07/14(火) 23:29
-
タンと踏ん切りを付ける様に最後の一段で音を立てる。
目の前にある扉はいつもと何も変わらない。
錆の浮かび始めた姿がいっそ重々しく見える。
桃子は然して逡巡する事無く扉に手を当て押し開けた。
―答なんて、決まってるし。
桃子にとって迷いの無い理由は、けれど相手にとっては分が悪い。
好きな人がいるのだ。今の桃子には。
それもベタ惚れと周りが言って止まない程の人物だ。
今、この時期に、手紙を出した時点で結果は決まったのかもしれない。
「――――。」
開けた先は何より抜けた青空があった。
白に染まる視界に目を細める。
急激に変わったコントラストに目が付いていかない。
梨沙子とこんな日に出かけられたら気持ち良いんだろうなと頭に過ぎる。
ふと空に咲く花のように朗らかに笑う梨沙子が見えた気がして頬が緩んだ。
- 463 名前:―背の高い彼女― 投稿日:2009/07/14(火) 23:29
-
「嗣永先輩!」
視界が戻ってくる前に声が響いた。
ちょっと幼くて、高めの可愛い声。
耳だけを頼りに顔を動かせば青をバックに立つ姿が目に入った。
靡く黒髪が太陽に艶帯びて輝いていた。
すらりとした肢体はまるでモデルのようで桃子は素直にカッコいいなと思う。
「来てくれたんですね。」
「うん、返事くらいしようと思って。」
梨沙子とは正反対な少女だった。
可愛いと言うより格好良い。声だって高くて、よく通る。
何処か壁の有る梨沙子と違ってとてもすんなり馴染める。
雰囲気もふんわりと言うよりは溌溂としていた。
「じゃ、言います。」
桃子の様子に説明は必要ないと分かったのだろうか友理奈はニコリと笑った。
告白と言うより世間話をしているような空気だった。
重さがない。ああ、ダメだなと感じる。
たぶんこの子とは友達にはなれても恋人にはなれない。
元より断るつもりだったが、今はっきりと桃子の中で決断が下される。
- 464 名前:―背の高い彼女― 投稿日:2009/07/14(火) 23:30
-
「先輩が、好きです。」
朗らかな顔に陰は一欠けらも見えなかった。
きっと幸せな人生を歩んできたのだと自然に思ってしまうほどに。
真っ直ぐで、純粋な少女の顔だった。
「ごめんなさい、知ってるかもしれないけど……もぉ、好きな人いるから。」
「そう、なんですか。」
苦笑と共に告げれば僅かに友理奈の顔が曇る。
断られたという事実は少なからず傷つけたようだ。
分かっていた。だけれど桃子には断るほか無い。
「断られるのは分かってましたけど、残念です。」
「本当に、ごめんね?」
「いえ、良いんです。千奈美からも言われてましたし。」
ほぼ見上げるような形で謝罪すれば思ってもいなかった名前が降って来た。
一瞬、音と人物が繋がらなくて動きが止まる。
機嫌の悪かった今朝の千奈美の様子が思い出された。
- 465 名前:―背の高い彼女― 投稿日:2009/07/14(火) 23:30
-
「千奈美って、徳永?」
「はい、友達なんです。」
断れたことなど無かったかのように普通だった。
気分が少し落ちたかなと感じる程度だ。
本気ではなかったという事なのだろうか。
いや、たぶん本気ではあったと思う。
ただそこに重さが足りなかった。それだけのことなのだ。
―千奈美、まさか。
たとえば梨沙子を想う桃子の感情は重さを伴う。
梨沙子の雅を想う感情だってきっと重かったに違いない。
友理奈にはそれがなかった。だからダメージも少なかったのだろう。
ならば千奈美はどうなのだろう。
この少女への想いはどれだけ重かったのだろう。
軽かったわけはない、朝の様子から考えてもそれは間違いない。
桃子は友理奈の告白を断ったことより、千奈美のこれからを考えて憂鬱になった。
―背の高い彼女―終
- 466 名前:メン後 投稿日:2009/07/14(火) 23:31
-
- 467 名前:メン後 投稿日:2009/07/14(火) 23:33
-
波風立たせてみようと頑張ったものの、撃沈。
ものっそあっさりしてますね、これ。
とりあえず、これで端役でも一応全員だよね?
執筆がんがります……
ではまた。
メン後でした。
- 468 名前:メン後 投稿日:2009/07/14(火) 23:33
-
- 469 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/15(水) 17:32
- 待ってました。
ベリーズのそれぞれの雰囲気とあってる感じがして大好きなので、ワクワクしながら毎回読んでます。
- 470 名前:メン後 投稿日:2009/07/21(火) 22:48
-
チャンプルを買って少しご機嫌ですw
そんな良い調子のまま更新行きます。
469<<名無飼育さん
あっとうございます。
そしてお待たせしてしまって申し訳ありませんorz
ベリ達本人よりよっぽど乾いた雰囲気で、なんかすんません。
自分が書くと毎回こんな感じになってしまいますw
そう言ってもらえると嬉しいっす。
では更新。
何気に登場回数の多い二人です。
- 471 名前:メン後 投稿日:2009/07/21(火) 22:48
-
- 472 名前:―悪友な彼女― 投稿日:2009/07/21(火) 22:49
-
好き、とかそういうのは分からない。
馬が合って一緒にいる。
それが一番適切な言葉だ。
けど、傷つく彼女を放っては置けなかった。
- 473 名前:―悪友な彼女― 投稿日:2009/07/21(火) 22:50
-
―悪友な彼女―
- 474 名前:―悪友な彼女― 投稿日:2009/07/21(火) 22:50
-
バドミントン部の部室。
委員会の用事以外で特に関係が深いわけでもない。
ましてや委員長と言う座からとりあえず降りた佐紀にとっては。
それでもここに来なければならない理由があった。
はぁと小さくため息を吐く。
部活もほとんどの部が終わり、生徒の大半は帰路に着いた。
少し前までなら部室が並ぶこの付近は人が溢れていただろう。
沈んだ太陽の色の中、時々響く声が逆に寂しい。
―トントン
木という材質は音が通る。
静かな廊下に佐紀のノックの音だけが一人歩く。
鍵は掛かっていない。
部室には防犯のための鍵がそれぞれついているが、目の前の扉は例外だ。
もっとも中に人がいるのだから可笑しいことではない。
「開けていい?」
何回目か分からない問いかけを放つ。
せめて何か分かればと置いた手には何も伝わってこない。
だけど、いる。
それだけが確信できることで、だからこそ佐紀は帰ることができなかった。
- 475 名前:―悪友な彼女― 投稿日:2009/07/21(火) 22:51
-
「千奈美。」
しんと耳が痛くなるほどの静寂が佐紀を責め立てる。
此処に来てから三十分は経過しているだろう。
嫌な予感はした。
今日の朝、機嫌が良くないことからして変だった。
なんとか引っ張り出して学校に来れば、桃子は手紙を持っていて。
それが以前と違う質のものだということも判断できた。
その相手を千奈美が気にしていることも見れば分かった。
―嫌な予感ばっか、当たるんだから。
意を決して取っ手に手をかける。
本当は何分でも待ってあげたい。
だが残念なことに佐紀はそこまで気が長い対応はできなかった。
余りこういう状態の千奈美を一人にしておきたくなかったのである。
部室の扉はどれも同じ作りで引き戸である。
のっぺりとした印刷の木目が嫌に目に付く。
上の方に陽光を取り込むための磨りガラスだけが明るい。
少し力を込めれば佐紀の考え通り鍵は掛かっておらず、すんなりと扉が開いた。
- 476 名前:―悪友な彼女― 投稿日:2009/07/21(火) 22:51
-
「千奈美。」
「佐紀、ちゃん。」
ぽつんと一人千奈美は座っていた。
何もしないでただ虚空を見つめている。
空ろな瞳が天井から佐紀へと移され、聞こえた声はとても小さかった。
刹那、足を進めるのに躊躇する。
千奈美との付き合いは長いがここまで落ち込むのは初めて見た。
―恋、ねぇ。
ここしばらく佐紀の周りは皆その単語に浮かれている。
桃子が変わった。
千奈美が傷ついた。
えりかが楽しそうだった。
全部が全部、恋のせいであり、おかげである。
そっと近づいて隣に座る。
簡易なつくりのベンチはひんやりとしていて、少し硬い。
ぎっと乾いた音がして、静寂を佐紀に知らせた。
- 477 名前:―悪友な彼女― 投稿日:2009/07/21(火) 22:51
-
「ももの、相手」
「っ……。」
「好きだったんでしょ?」
少し息を吸ってから切り出す。
そうでなければ佐紀の方が窒息してしまいそうだった。
何をしているんだろうと心の中で誰かが苦笑する。
佐紀という人間は楽しいのが好きで、苦労はなるべくしたくない。
要領よく全てを切り抜ける人のはずだった。
千奈美の恋に佐紀はなんとなく気づいていた。
どことなく機嫌良さ気な日が続くようになったし、そういう日にはある特定の名前を聞いた。
だから分かってはいたのだ。
その子が桃子を好きになるなんて思いもしなかったけれど。
「熊井ちゃん、一目惚れだって。」
千奈美が僅かに、本当に僅かに苦そうに笑う。
千奈美自身考えていなかったに違いない。
恋は必ず叶うものじゃない。むしろ多くが叶わないものだ。
ちょっと考えれば気づく事実を、恋が覆い隠した。
- 478 名前:―悪友な彼女― 投稿日:2009/07/21(火) 22:52
-
「ももに?」
「そう、ももに。」
――ちっちゃくて、可愛いのが好きなんだって。
告げられた言葉に佐紀は肩を竦める。
ちっちゃくて、可愛い。
それは確かに桃子を端的に表す言葉ではある。
佐紀だって桃子って誰と聞かれたらそう説明するだろう。
だがそれだけだ。桃子の本質には一ミリたりとも触れていない。
―ちっちゃくて、可愛い?
ふ、と心の中鼻で笑う。
桃子はその外見とは違い、動物的な人間だ。
欲しいものは何をしてでも手に入れる。
その為なら苦労を厭わないし、人間的な計算も駆使する。
誰よりも狡猾で本能的なそういう人間だ。
とても可愛いの一言で済ませられる人物ではない。
- 479 名前:―悪友な彼女― 投稿日:2009/07/21(火) 22:52
-
「千奈美には、悪いけど……その子振られると思うよ?」
一応疑問にしてはいるが佐紀の中でそれは最早確定事項だった。
桃子がそんな表面しか見ない人物に心揺れるわけがない。
勢いそのまま告白してきた子に好感を持つはずがない。
特に、今現在桃子には恋の相手がいるのだから。
―恋、かぁ。
佐紀にはよくわからない。
恋とは素晴らしいものだと誰もが口を揃えて言う。
しかし、これがそんなに良いものだとはとても思えなかった。
笑って、浮かれて、楽しんで、それも一つの側面ではある。
泣いて、傷ついて、悲しんで、それも確かに存在している。
何より好きという言葉一つで感情を揺らすようになるのが佐紀には怖かった。
「うん、わかってる。だから止めたんだけど。」
それでもしてしまうのが恋なのだろう。
悔いるように呟く千奈美の姿を見ながらそう思う。
止めるという行為は千奈美にしてはとても珍しい。
刹那主義的思考をベースとしているため、楽しければ良いのである。
だからトリックスターなどと言う不名誉なあだ名を付けられる。
何をしでかすか分からない奔放さが目に付くのだ。
- 480 名前:―悪友な彼女― 投稿日:2009/07/21(火) 22:53
-
「ちょっと、力不足だったみたい。」
千奈美の口角が僅かに上がって笑みを作る。
ただそれは悲しいほど苦い想いが乗っていたものだった。
そっと千奈美の肩に手を置く。
宥めるようにぽんぽんと背中を叩けばひっくと大きな音が響いた。
「千奈美……。」
部室にただ千奈美の嗚咽が響く。
佐紀はそれを聞いているしか出来なかった。
恋について理解できない自分が口を出せることではないと思ったのだ。
涙に邪魔されて息を吸いにくそうな千奈美の背中を撫でる。
高めの体温が掌から伝わって何故か切なくなった。
なんで人は人を好きになるのだろう。
恋なんてしなくても生きていける。
こんなに傷つくのに、人はそれに挑むことを止めない。
- 481 名前:―悪友な彼女― 投稿日:2009/07/21(火) 22:53
-
ふるりと頭を振る。
溢れそうになった何かを止めた。
佐紀には理解できない感情だ。
ましてや、今は他にすべき事がある。
「梨沙子に、言われてたのにっ。」
「なんて?」
零れる涙の合間に千奈美は悔いるように告げた。
出てきた名前に一瞬佐紀は目を細める。
梨沙子、それはとても興味深い名前だ。
こんな場面で名前が出るほど影響を与えているとは思わなかった。
「好きなら、好きって……言わなきゃ、ダメだって!」
結局言えなかったと千奈美がぽろりと呟く。
ぽろぽろと零れる涙は透明でとても綺麗に滑り落ちていく。
呼吸を整えるように深く息を吸えば微かに木の匂いがした。
- 482 名前:―悪友な彼女― 投稿日:2009/07/21(火) 22:54
-
「後悔、するからって。」
ああと佐紀は嘆息する。
梨沙子という少女はきっと知っていたのだろう。
桃子から聞いていた雰囲気とも一致する。
言えなくて、秘められたまま終わったそんな恋が彼女にも存在するのだ。
だからこその千奈美への言葉。
―もも、ひどく怒ってたな。
今になればそれも少し理解できる。
友達が泣かされればそれだけで怒りたくなる。
あんな激しい感情は抱けないけれど、それでも山はある。
なんで千奈美が泣いているのか。
それだけが佐紀の頭を回っていた。
「ちーには、あたしがいるでしょう?」
恋なんて馬鹿げた感情だと思う。
自分には不必要なものだとも思っていた。
佐紀は感情を乱される事が嫌いで、楽しく生きていたかったから。
唯一それのみが佐紀のポリシーだった。
- 483 名前:―悪友な彼女― 投稿日:2009/07/21(火) 22:55
-
「佐紀ちゃん?」
「泣かないでよ、あたしまで悲しくなっちゃうから。」
吃驚したように顔を上げる千奈美に苦笑する。
ポリシーなんて関係ない。
泣いて欲しくないなら、泣かせなければ良いだけだ。
激しい感情なんていらない。
穏やかに、じっと人を好きになることもきっとある。
ただ泣いて欲しくないという感情だけが佐紀にとっての真実だった。
―悪友の彼女―終
- 484 名前:メン後 投稿日:2009/07/21(火) 22:55
-
- 485 名前:メン後 投稿日:2009/07/21(火) 22:56
-
何気にこの二人大活躍。
出す気はあんまり無いのだけれど、書きやすいんで出てきてしまいます。
しかし需要があるのかわかりませんw
ではまた一週間後にお会いできることを願って。
メン後でした。
- 486 名前:メン後 投稿日:2009/07/21(火) 22:57
-
- 487 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/22(水) 13:39
- この二人は需要はあると思いますよ。
また、1週間後を楽しみにしちゃってます
- 488 名前:メン後 投稿日:2009/07/30(木) 15:55
-
暑くて、死ねそうです。
そして帰省の準備でやや忙しい。
ですが妄想は止まりませんw
487<<名無飼育さん
あ、そうなんですか?
そう言われるとほっとしますw
一週間より若干長くなりましたが、期待に応えられるように頑張ります。
では、今日の更新。
やっと話の本筋に戻ります。
- 489 名前:メン後 投稿日:2009/07/30(木) 15:55
-
- 490 名前:―遠い彼女― 投稿日:2009/07/30(木) 15:56
-
みやを放っておけない。
みやを一人になんてできない。
それが正直な気持ち。
あたしの行動がももを傷つけるのもわかってた。
それでも、そうしかできなかった。
- 491 名前:―遠い彼女― 投稿日:2009/07/30(木) 15:56
-
―遠い彼女―
- 492 名前:―遠い彼女― 投稿日:2009/07/30(木) 15:56
-
近づいたと思ったら、遠のいて。
触れられたと思ったら、水のようにすり抜けて。
まるで陽炎のように捕まえられない。
『ごめん、その日無理。』
素っ気無い返事に桃子は肩を落とす。
机の上に行儀悪く身体を投げ出す。
このメール一つで桃子の放課後は暗くなってしまった。
「おっきな溜息。」
呆れたような声が後ろから聞こえて桃子は首を逸らす。
視界に肩より短い黒髪と、膝小僧の覗くスカートが映った。
優秀な高校生の見本のような格好で佐紀がそこには立っていた。
佐紀ー……と情けない声を出せば鼻で笑われる。
「どうせ、菅谷さんのことでしょ?」
一歩の距離を縮め佐紀が桃子の机の隣に来る。
椅子に座らないのは“少しだけ聞く”という意思表示なのだろうか。
変に疑り深くなっていると桃子は自分に少し苦笑する。
疲れているからだと思った。
- 493 名前:―遠い彼女― 投稿日:2009/07/30(木) 15:57
-
「もぉだってりーちゃん以外のこと考えますよ?」
「じゃ、なに?」
見透かされているような視線に口ごもる。
事実、桃子の中は梨沙子で溢れてしまっている。
まして溜息を吐いた理由は梨沙子に違いない。
桃子は正直に言うしかできなかった。
「……いや、りーちゃんのことなんだけど。」
佐紀がやっぱりとでもいうように肩を挙げる。
オーバーな動作は佐紀にしては珍しく、機嫌が良いことを表している。
千奈美と何かあったのだろうかとぼんやり頭の端で考えた。
感情の揺れが少ない佐紀は基本的に変化がない。
- 494 名前:―遠い彼女― 投稿日:2009/07/30(木) 15:57
-
―会ってないなぁ。
羨ましく思いながら心の中で呟く。
最後に梨沙子に会ったのはいつだろう。
少し、考えて。一週間は会っていないことに気づく。
梨沙子と出会ってからそんなに会わない日々が続いたことはないだろう。
前は会いに行く用事も、口実もあった。
文化祭準備期間は高等部が中等部にいても違和感が少ない。
黙り込んだ桃子に佐紀は表情を変える。
呆れたような、可笑しそうな何ともいえない表情だった。
「そんなに気になるなら会いに行けばいいじゃん。」
カギ、持ってるんでしょと佐紀が言う。
チャリとポケットに手をやれば金属音が響いた。
貰ってから一度も使っていない。
はみ出しているキーホルダーを引っ張ってカギを取り出す。
鈍い銀色が目に痛かった。
- 495 名前:―遠い彼女― 投稿日:2009/07/30(木) 15:58
-
「そう、だよね。」
携帯電話とカギを交互に見つめる。
一度も使っていないのは使う機会がなかったから。
それ以上に桃子自身カギを使うことを怖がっていたのかもしれない。
痛くない程度に力を込めてカギを握る。
梨沙子の家を訪れようと桃子は心に決めた。
- 496 名前:―遠い彼女― 投稿日:2009/07/30(木) 15:58
-
- 497 名前:―遠い彼女― 投稿日:2009/07/30(木) 15:59
-
梨沙子の家まで自転車を引っ張る。
乗らなかったのは何となく、気分に過ぎない。
勝手に家に行く、という事にそわそわしてしまう。
こんな感覚を抱くのは初めてで桃子はそれを歩くことで諌めた。
目に映るのは久しぶりにその姿を見る大きな門だった。
そしてその背後に立っている白一色の外壁を持つ豪邸。
前に立つだけで萎縮してしまいそうになる大きさだった。
―キィ
まず門に手をかける。そう力を入れる事無くそれは開いた。
軋むような音が耳につく。余り使われていない音だと桃子は思った。
いつか梨沙子が門の鍵は掛けないと言っていた場面が浮かぶ。
自分以外使わないから面倒なのだと苦く笑っていた。
「無用心だよね。」
中に入り、黒い柵を元の位置に戻す。
門があるなら鍵を掛けた方がいい。
梨沙子の心情を察せ無くはないが、安全な方が桃子は良い。
誰かに入られたらどうするのだろうとひやりとした。
門から玄関へと続く階段を上る。
一段一段踏みしめるたびに心臓が大きくなっている気がした。
- 498 名前:―遠い彼女― 投稿日:2009/07/30(木) 15:59
-
そう時間も掛からず桃子は扉の前へと到着した。
ふうと一度息を吐いてから鍵を取り出し、差し込む。
確認のために引いてみるが扉はびくともしなかった。
慎重に鍵を回すと、カチャリと外れる音がした。
「―――――お邪魔します。」
ある程度の重量を持った扉が押し開かれる。
体重を掛けて少しずつ、桃子の視界が開かれていく。
一人で見る玄関はまるで初めての世界だった。
しんとした空気が綺麗に掃除された床に反射する。
週二で掃除をする人が入ると梨沙子は言っていた。
学校に行っている間に仕事は済まされているらしく、梨沙子は実際会ったことがない。
―小人さんみたいなものだよ。
無表情に呟いていたのを桃子は知っている。
きっと梨沙子が欲しかったのは誰もが望む小人ではなくて、誰もが持っている家族だったのだろう。
知らない間に綺麗にされるより、一緒に綺麗にした方が楽しい。
そういう感情があったに違いない。
- 499 名前:―遠い彼女― 投稿日:2009/07/30(木) 16:00
-
恐る恐る靴を脱いで、雲に立つような心地で足をつける。
梨沙子がいないだけでここまで違うものかと桃子は思った。
一人ぽつんと立ち見回す家は酷く寂しい。
高い天井は一人という事を強調する。
白い壁は温もりを許さないようだった。
「誰?」
時を忘れたようにそこに立ち竦んでいた。
久しぶりに感じた梨沙子の気配に動けなくなっていたのかもしれない。
そんな桃子を動かしたのは聞いたことのない声だった。
瞳をじっと見上げていた天井からスライドさせ、声の方を確かめる。
見えたのは慣れた様子で手すりを握る少女だった。
表情には少しの驚愕と多くの警戒が滲み出ている。
まず目に入ったのは茶色い髪だった。
学生にしてはかなり明るい方に入るだろう色。
手すりの上に覗く制服は見慣れた、桃子自身が着ているものだ。
次にその瞳が桃子の中に突き刺さる。
ここにいる事に微塵の疑問も感じていない。
まるで自分の家のように少女は梨沙子の家に溶け込んでいた。
現在の桃子にはまだ無理なことを普通に成し遂げている
- 500 名前:―遠い彼女― 投稿日:2009/07/30(木) 16:00
-
―……この子だ。
一目見た瞬間桃子は理解した。
梨沙子を泣かせた本人、梨沙子の想い人。
それはきっとこの少女以外にありえない。
「もぉはりーちゃんの先輩だけど?」
「先輩……?」
一瞬何と言っていいか分からなかった。
恋人なわけではない。
親友のわけでもない。
あやふやで曖昧な桃子と梨沙子の関係。
「あー……梨沙子、そう言えばそんなこと言ってたっけ。」
数秒考えてから顔を上げる。
くしゃりと前髪を掻き揚げるように握る。
端正な面立ちが桃子の目に入った。
人形のような梨沙子とは違う、中性的な整った容姿だった。
- 501 名前:―遠い彼女― 投稿日:2009/07/30(木) 16:01
-
「あなたこそ、誰?」
「あたしは雅、梨沙子からはみやって呼ばれてます。」
―みやはお姉ちゃんなんだよ。
少女の言葉に記憶がフラッシュバックする。
“みや”、それは梨沙子の口から良く出る言葉だった。
同時にこの頃の素っ気無い態度の理由を知る。
雅が家にいるからだ。
梨沙子の雅への想いの深さを桃子はある程度理解している。
何があったかなんて知らない。
だが梨沙子に雅を放っておくことなんてできないのだろう。
その事実に身体の熱が引いていくような気がした。
―まだ、好きって……ことだよね。
自然と握った手に力が入る。
過ぎったのは屋上での出会い。
あの日、梨沙子は泣いていた。
あそこまで感情を露にする姿はあの日以来見ていない。
それはつまり雅以上に感情を揺らすものが無かったという事だ。
- 502 名前:―遠い彼女― 投稿日:2009/07/30(木) 16:02
-
まだ、足りない。
梨沙子の特別になるには全てが不足していた。
少なくとも桃子の中ではそう思えてならなかった。
鍵を預けられるそれ自体が梨沙子にとっては特別枠に値することなのに。
梨沙子自身意識してとった行動ではないそれを。
ましてや桃子がそれを理解できるわけが無かった。
「もぉ、りーちゃんに会いに来たんだけど。」
「梨沙子は今買い物に……。」
今日の夕飯なんです。と朗らかに笑う彼女に違和感を覚える。
なんだか、とても手応えがない。
梨沙子の話す雅と違いすぎるためだろうか。
桃子には雅という存在が酷く希薄なものに感じられた。
- 503 名前:―遠い彼女― 投稿日:2009/07/30(木) 16:02
-
「―――なんで、あなたがいるの?」
「え?」
「ここ、りーちゃんの家でしょう?」
だからかもしれない。そんな思ってもいなかった言葉が桃子の口から飛び出したのは。
雅が傷ついた顔をした。それは梨沙子を傷つけたことと同意義だ。
桃子と雅、きっと梨沙子を間に挟んで対極にしか立てない二人。
そんな二人が出会ってもきっと傷つけあうことしか出来ない。
桃子は雅の表情を見ながら自嘲するように思う。俯かせた顔は見えなかった。
―遠い彼女―終
- 504 名前:メン後 投稿日:2009/07/30(木) 16:03
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- 505 名前:メン後 投稿日:2009/07/30(木) 16:04
-
そんなこんなで、この二人。
一回くらい会わなきゃダメだよね?
という軽い感じで決めた割りに重い雰囲気。
しょーがないか……
ではまた一週間後にお会いできることを願って。
メン後でした。
- 506 名前:メン後 投稿日:2009/07/30(木) 16:04
-
- 507 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/30(木) 21:48
- 待ってました!!
どうなるかハラハラドキドキですw
- 508 名前:メン後 投稿日:2009/08/06(木) 01:04
-
目処がついたんで今日から量多めっす
この話が終わったら少し潜ろうかと……
507>>名無飼育さん
ありがとうございます!
期待に応えられるよう頑張ります。
自信ないですがw
では今日の更新。
二本立てです。
- 509 名前:メン後 投稿日:2009/08/06(木) 01:04
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- 510 名前:―揺れる彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:05
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ぼんやりと遠くを見つめる。
屋上から見る空は、同じ空なのに違う色をしている。
滲む青になんだか涙が零れそうになった。
バカみたい、と一人呟いた言葉は風に消えた。
- 511 名前:―揺れる彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:05
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―揺れる彼女―
- 512 名前:―揺れる彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:06
-
「なんで、全く、そんなに運が無いんだろうね。」
「うっさい……。」
所々錆の目立つ鉄柵に肘をつける。
返された言葉は彼女にしては酷く荒いものだった。
それこそが今の心理状態を表しているようで千奈美は少し笑う。
運が無いのだ、彼女は、本当に笑ってしまうほどに。
―ほんと、しょうがない。
千奈美は梨沙子を知っている。
今時珍しいくらい一途で、真っ直ぐな性格も。
ちょっと、どうだろうと千奈美が思うくらいな家庭環境も。
雅の状態だって友達の千奈美には届いていた。
全てが悪い条件と言うわけではない。
言うなれば僅かに時間が遅かっただけで。
もう少し早ければまた違った状態になっていたのだろう。
- 513 名前:―揺れる彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:06
-
「みや、もう少しで手に入れられたのにね。」
鉄柵に顔を伏せたまま顔を上げない梨沙子の隣で言う。
出会った頃から梨沙子の欲しいものは雅だった。
その願いを叶えるには最適と言える状況になってきている。
だが梨沙子が雅を手に入れられるとは残念なことに少しも思っていない。
「ちぃには、関係ない。」
「はいはい、そうですねー。」
拗ねたような声がくぐもって聞こえる。
意地でも体勢を崩さない梨沙子に千奈美は呆れたように鉄柵に背を預ける。
自然と視界に映った空は透き通るような薄い青色で、千奈美は冬を知る。
いつも知らぬ間に時間は過ぎて、変わらぬものなどない。
少なくとも千奈美は梨沙子の雅への想い以外そんなものを知らなかった。
それさえ状況は変わり、揺れ動いている。
なんだか悲しくて、ちょっとだけ空しい。
- 514 名前:―揺れる彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:07
-
「しっかし、みやを振るなんて中々勇気のある奴だね。」
しゃべらない、動かない梨沙子の代わりに口を動かす。
大よそなら千奈美にも梨沙子の感情の動きを察することは出来る。
二人の関係はそういうもので、それ以上近くも遠くもならない。
―どっか似てるのかも知んない。
千奈美と梨沙子。
何も重ならないように見える二人は、何かが似通っていた。
だから千奈美は梨沙子を放っておけないし、梨沙子も千奈美の下を訪れるのだろう。
気兼ねなく物を話せる関係として。
友達ともまた違う意見を相手が持っていると知っているから。
「ほんと、」
「ん?」
「みやを振るなんてバカみたい……。」
ぽつりと呟かれた言葉は驚くほど静かだった。
それでいて重くて冷たくて硬質な感じがした。
梨沙子はまだ顔を伏せている。
見えない表情の下で何を思っているのか千奈美には筒抜けだった。
- 515 名前:―揺れる彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:07
-
―好きで、特別で、絶対。
梨沙子の中にある雅への想いはそんなようなものだろうか。
特別の三乗倍だったり、愛しているの域に入ってきているのだろうか。
千奈美は梨沙子の思考を読むことは出来る。
だが共感するかというとそういうわけでもない。
そういう意味で、千奈美と梨沙子は決定的に違う人間だった。
「ばか、みたい。」
それきり黙りこむ梨沙子を見ながら千奈美は小さく肩を竦めた。
雅は綺麗だ。千奈美もそれは理解している。
すらりとした肢体も、さらさらと流れる茶色の髪も、キラキラと光る無邪気な瞳も。
梨沙子が惹かれるのは充分に納得できる。
- 516 名前:―揺れる彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:08
-
―泣かせないのに、ってとこ?
ただ顔を伏せる梨沙子の背中に一人投げかける。
梨沙子にとって重要なのは振られたという事ではない。
きっと振られたことで雅が傷ついたという事が何倍も大切なのだ。
雅が傷つく。
雅が泣く。
それだけが梨沙子の重要項目なのだ。
好きとか嫌いとか以前の問題なのだ。
「みやも、本当に鈍いなぁ。」
多くの人が手に入れられないものを雅は既に手に入れている。
傷ついたとき泣ける場所があるというのはそれだけで嬉しいことだ。
梨沙子の家に行ったのは無意識の行動だったに違いない。
それでも雅はわかっていたのだ。
自分には梨沙子がいるということを。
梨沙子と雅の関係は果てしなく平行線だ。
雅は梨沙子を大切にしている。
梨沙子はもちろん雅のことが大切だ。
だが“大切”というそれだけで、交わることはない。
- 517 名前:―揺れる彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:08
-
「梨沙子を選んでればそれで済んだ話なのにね。」
「うるさいよ。」
それでも千奈美は梨沙子を刺激する。
からかうように、胸の弱い部分を知っていながら突き刺す。
分かっていた。誰にでも触れられたくない場所があることくらい。
だが触れなければならないことがあるとも思っていた。
だってそうしなければ梨沙子は進めないだろうから。
「でもさ、梨沙子。」
くすりと笑って隣に並ぶ。
微かにもたげられた視線がぶつかる。
その瞳にはうっすらと水の膜が出来ていた。
屋上に差し込む光がキラキラと結晶を光らせる。
「誰も、傷つけないで、なんて生きていけないんだよ。」
人が人である限り、必ず何かが生まれてしまう。
そしてその多くは軋轢になる。
- 518 名前:―揺れる彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:09
-
「……。」
「傷つけないで生きていけたら、そんなに良いことはないのにね。」
梨沙子は優しい。
それはしかし、傷つけられた事があるからだ。
傷つけられたからこそ人は優しくなれる。
痛みが分からない人はその痛みに対処できないように。
傷つけられなければその傷の対処法が分からない。
だから人間関係で人一倍大きな傷を持つ梨沙子はとても臆病だ。
「でも、」
ぽつりと小さな声が隣から響く。
鉄柵を掴みながらも梨沙子の視線は遠くを見ていた。
呆れるくらい、綺麗に世界を見つめていた。
「それでも傷つけたくないんだよ。人間は。」
小さな世界に住んでいた梨沙子はきっとこの世界の汚さを知らない。
雅を通してしか、世界を見なかった梨沙子は知らない。
それなのにこんなにも説得力があるのは何故だろう。
千奈美は嫌気が差した。
桃子だってそれは同じはずだ。
- 519 名前:―揺れる彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:10
-
「特に大事な人だったら、その想いは止められない。」
真っ直ぐ、真っ直ぐ綺麗な世界を読み上げる。
決して理想ではない。
現実と折半された優しい願いだ。
―やっぱ、もったいない。
こんな綺麗な願いを持った子なのに、その願いは叶わない。
梨沙子の大事な人はとても鈍いから。
梨沙子は陰ながら支えるしか出来ない。
もし自分がと考えて千奈美は意味の無いことだと中断した。
- 520 名前:―揺れる彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:10
-
「みやも、ばかだねぇ。」
「いいの、みやはみやだから。」
雅は雅だから、良い。
純粋な好意は雅を見えないところで支えている。
幸せになって欲しい――それが千奈美の中の結論だ。
誰とでも良い。ただ梨沙子には幸せになって欲しい。
―もも、頑張って。
心の中で小さくエールを送る。
梨沙子の瞳はずっと遠くを見ていて。
その瞳に映るのはどんなに綺麗な世界のだろうと思った。
―揺れる彼女―終
- 521 名前:メン後 投稿日:2009/08/06(木) 01:11
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- 522 名前:メン後 投稿日:2009/08/06(木) 01:12
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このシリーズはほんと、ちなりしゃが多いw
この頃妙に仲良くて少し驚いてます。
それだけ成長したって事か、皆(爆
- 523 名前:メン後 投稿日:2009/08/06(木) 01:12
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- 524 名前:―ヤキモチ焼きな彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:13
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なんとなく、ももが凹んでいた。
なんとなく、分かった。
なんとなく、恋してるんだなって。
なんとなく、二人でいれるのは幸せなことなんだろう。
- 525 名前:―ヤキモチ焼きな彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:13
-
―ヤキモチ焼きな彼女―
- 526 名前:―ヤキモチ焼きな彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:13
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えりかの前には桃子がいる。
違うクラスにも拘らずえりかの机に来て、前の席を奪い座っている。
高校生になってから見ることが出来なかった強引さだ。
何かあったのだろうなとは思っていた。
ましてや、珍しいことにその横には佐紀がいない。
千奈美の方にでも行っているのだろうと勝手に予測をつけた。
「ももー?どうしたの、一体。」
予鈴が鳴ろうと、本鈴が鳴ろうと桃子は動こうとしなかった。
はぁとえりかは溜息を吐く。
別に授業を休むことくらい慣れている。
幸いなことに次の授業は体育のため教室には誰もいない。
桃子が座っている席の生徒も勿論帰ってこない。
だがこの状態の桃子を放っておけるかと言えばそうではなかった。
―なんだかなー。
休み時間いきなり教室に入ってきた桃子に変化はない。
机を奪って、椅子に座って、顔を机に突っ伏して。
そこからかれこれ数十分動くことはなかった。
- 527 名前:―ヤキモチ焼きな彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:14
-
携帯電話を弄ったり、ぼんやりとしてみたり色々と暇を潰してみる。
何もしないことを苦痛に感じる人間ではなかった。
空を見るのも散歩するのも嫌いじゃない。
待つのだって恐らく気長に出来る方だ。
それでも人には待つ限界があって。
特に教室という特異なこの場所は流れる時間に区切りがある。
やがて授業が終わればクラスメイトは戻ってくる。
そして次のチャイムが鳴ればまた新たな授業が始まる。
その時には桃子の席にはその持ち主が座ることになっている。
―舞美、何しているかな?
ちらりと時計に目をやる。
目の端に青い空を白い雲が泳いでいった。
動かない桃子に、浮んだ思考は舞美だった。
今頃、得意な体育でまた大活躍をしているのだろう。
舞美の笑顔は青空に映える。
体育館でも輝く笑顔に違いはないが、えりかはなんとなく外で見る方が好きだった。
- 528 名前:―ヤキモチ焼きな彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:14
-
「ねぇ、もも。」
何回目か分からない呼びかけをする。
話したくないなら待っていても良い。
サボりたいならサボっても良い。
ただこの場所から移動することだけは必要なのだ。
そう考えて、言葉を紡ぐ。
だが桃子にもそれは分かっていた事らしい。
緩やかに止まっていた空気が震えた。
「あ、たしさぁ―――」
えりかの声しか聞こえなかった教室に別の声が聞こえた。
この部屋にはえりかと桃子しかいない。
そのためこの声は当然桃子のものだ。
- 529 名前:―ヤキモチ焼きな彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:15
-
「言っちゃいけないこと、言ったんだよね。」
ふと桃子の“あたし”という一人称を聞くのは久しぶりな気がした。
えりかは桃子とある程度長い付き合いである。
中学時代まで、桃子は今のように“あたし”と言っていた。
高校になって“もぉ”という甘ったるい言い方に変わったが、桃子は気に入っているようだった。
その前の桃子を知るえりかのような存在には少し笑えるものだが。
元々小柄で可愛い雰囲気を持つ桃子にその一人称は酷く似合っていた。
「何が?」
言っちゃいけないこと。
それは歳を経る度に増えていく存在だ。
また、言っちゃいけない、なんて人によって取り方ががらりと違う。
以前の桃子にはそういうものは極端に少なかった。
そういう柵が煩わしくてえりかも桃子も道を少し外れたのだから。
- 530 名前:―ヤキモチ焼きな彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:15
-
「あたし、傷つけた、きっと。あの子の事。」
「誰の話?」
「……りーちゃん、正確にはりーちゃんの好きな人。」
ぼそぼそと紡がれる言葉にえりかは微かに眉を顰めた。
りーちゃん――それが誰を指すのかは知っている。
それが桃子の想い人でこの間会った少女だという事も。
だがそのりーちゃんの好きな人、となるとえりかにはてんで予想がつかなかった。
「あの子、好きな人いるんだ?」
思い浮かぶのはただ愛理の隣にいた姿だけ。
少し怯えるような光は人見知りなのだろう。
そして何より印象的だった深い色の瞳。
あれは頑なに世界を諦めている色のような気がした。
―好きな人、ねぇ。
あの子の好きな人が思い浮かばない。
それを言ったら桃子が人を好きになるのも想像がつかなかったが。
あの子、梨沙子が恋をしているのが何となく浮ばなかった。
- 531 名前:―ヤキモチ焼きな彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:15
-
少し視線を上げて考える。
えりかにはまだまだ明るい昼の陽光が眩しく感じられる。
ふーんと興味半分に聞いていた思考に一つの疑問が浮んだ。
「傷つけたってことは、会ったの?」
「うん、まぁ……そういうこと。」
へぇと感心した様な声が独りでに上がった。
桃子が人を傷つけることを気にする日が来るとは思ってもいなかった。
それはえりかにも言えたことだし、千奈美だってそうだ。
何年か前まで自分たちは傷つけることを躊躇わなかった。
それと同じくらい傷つくことを怖がらなかった。
―醒めてたなぁ。
昔の自分に少し苦笑する。
特に桃子はその傾向が強くて、きっと変わらないと思っていた。
あの感情が読めない瞳のまま生きていくのだろう。
そうえりかは思っていた。
- 532 名前:―ヤキモチ焼きな彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:16
-
その桃子が傷つけたと嘆く。
しかも本人に何かを言ったわけではない。
酷く間接的な傷つけ方だ。
「ももも優しくなったねぇ。」
「りーちゃんのことだから。他だったらこんな悩まないんだけど。」
二人しかいない教室に桃子とは丸きり反対な声が響く。
のんびりとしたえりかの声に桃子は暗く頭を振った。
まるで自分は優しくないと主張しているような姿にえりかは口角を上げて笑う。
「だから優しくなったんだよ。」
桃子は気づいていない。
でもとても、とても桃子は変わった。
だからきっと上手くいく。
変な確信がえりかの中にはあった。
- 533 名前:―ヤキモチ焼きな彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:17
-
桃子と梨沙子は反対の色をしている。
桃子が傷つけてきた人ならば、梨沙子はきっと傷ついてきた人だ。
あの世界を拒絶している色。
傷ついてきたからこその、傷つけたくないという感情。
だからこそ臆病なまでに梨沙子は世界を閉じているのだ。
そんな風にえりかはぼんやりと思った。
―まるで、ももと反対だね。
だがきっとだからこそ上手くいくこともあるとえりかは一人思った。
「あー!もも、えりと何話してるの?」
「舞美。」
「んー、ちょっとね。」
それから余り経たずしてチャイムが鳴った。
何をするにも全力な舞美は教室に入ってくるのも早くて。
一番にえりかと桃子の元へと走ってきた。
- 534 名前:―ヤキモチ焼きな彼女― 投稿日:2009/08/06(木) 01:17
-
「えりが来ないから、どうしたのかなぁって思ってたんだけど。」
ももだったんだと言う舞美の顔は相変わらずニコニコしている。
だけどその言葉に少しだけ棘を感じたのはえりかの気のせいなのだろうか。
えりかは舞美の側に行くため席を立つ。
桃子はまだぼんやりと中空を見つめていた。
「大丈夫、なんとかなるよ。」
えりかの言葉に桃子は小さくコクリと頷いた。
傷つけた、傷つけないはえりかには良く分からない。
だが桃子が梨沙子を好きな限りどうにかなるだろうとは思っていた。
それよりも、今えりかに大切なのは少しヤキモチ焼きらしい彼女をどうにかすることだった。
―ヤキモチ焼きな彼女―終
- 535 名前:メン後 投稿日:2009/08/06(木) 01:17
-
- 536 名前:メン後 投稿日:2009/08/06(木) 01:20
-
二つうpした割には量が少ないorz
相変わらず駄文だな、自分……と落ち込みつつ
考えれば梅さんも書けなくなるのかと思ったら更に鬱w
好きだったのになぁ、梅さん。
頑張ってくれとしか言えない。
とりあえず自分はやじうめを頑張りますw
- 537 名前:メン後 投稿日:2009/08/06(木) 01:20
-
- 538 名前:もんちっち 投稿日:2009/08/06(木) 21:25
- このシリーズのちなりしゃ好きです。すごい可愛くて!
あたしとしてはちぃにも祝福が訪れると嬉しいです(笑)
- 539 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/07(金) 15:39
- 大好きです!!
- 540 名前:しん 投稿日:2009/08/15(土) 14:13
- 更新お疲れ様です!
こんなに良い作品を読ませて、ありがとうございます。
いや。。みやを傷つけたなぁ。。桃子は。。
ぞれをりーちゃんに知ったらどうなるだろう。。。><
次の更新も待っています!
- 541 名前:メン後 投稿日:2009/09/05(土) 10:57
-
お久しぶりですな感じのメン後です。
パソ故障やら、リアルの影響で一ヶ月ぶりとなってしまいました。
本当にすみませんorz
これから終わりまでは週一でいけると思うのでお付き合いください。
538<<もんちっちさん
ありがとうございます。
自分もちなりしゃ好きです。
このシリーズだと一番勝手に動いてくれるCPでもありますw
幸せな雰囲気が好きなので千奈美にも祝福は訪れるかと。
539<<名無飼育さん
ありがとうございます!
こんな駄文を好きだなんて、涙が出そうですw
540<<しんさん
お待たせしました。
妄想のまま突っ走ってる話なので気に入ってくれると嬉しいです。
色々葛藤してもらいながら、次の話に向かいますw
- 542 名前:メン後 投稿日:2009/09/05(土) 10:59
-
えー、暫くローテンションな話が続きそうです。
そんなこんなで、この話の主役二人。
実を言うと久しぶりw
- 543 名前:メン後 投稿日:2009/09/05(土) 10:59
-
- 544 名前:―二人きりの彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:00
-
どくん、一つ高鳴った音は無視した。
どくん、二つ鳴った音は気のせいだと思い込んだ。
どくん、三つ。
それでも身体はこれが恋だと教えていた。
- 545 名前:―二人きりの彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:00
-
―二人きりの彼女―
- 546 名前:―二人きりの彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:00
-
久しぶりにメールが来た。
梨沙子からメールが来たのが久しぶりで、何だか泣きそうになった。
だけどこんなことで泣くわけにはいかない。
桃子にはしなければならないことがあるのだから。
「頑張って、何とかなるよ。」
メールが来たままの格好で固まる桃子の隣で佐紀が声を掛ける。
少し心配そうな、優しい声は直ぐにクラスの喧騒に溶けていった。
ゆっくりと窓の方へ視線を向ける。
そこにはいつか見たような青空が広がっていた。
「うん、ありがとう。」
心を決めたというように桃子はきっぱりとした声で答える。
大丈夫と自分に言い聞かせるように呟く。
佐紀の言葉に薄く微笑みならが桃子は携帯電話を握り締める。
全ては放課後になってからだった。
- 547 名前:―二人きりの彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:01
-
- 548 名前:―二人きりの彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:01
-
「ごめん、もも。」
会って最初の一言はそれだった。
苦しげに顰められた眉に、腰からきっちりと折りたたまれた身体。
梨沙子が何を気にしてそうなっているのか桃子にはよく分かっていた。
そして、だからこそきゅっと唇を強く噛む。
『ううん、気にしないで。』
言うのは簡単だ。
そして最も簡単に関係を修復できる言葉である。
ただそれを桃子が望んでいるかと問われればそうではない。
「あの子が、みや、なんだね。」
ぽつり、呟く。
梨沙子は折り目正しい子だ。
親の教育か、環境か、分からないがとてもきっちりした性格をしていた。
悪いことは謝る。したくないことは断る。
何より関わるべきものと、関わらない方が良いことの区別がついている。
そして自分が口を出せることも理解している。
典型的な“良い子”なのだ、梨沙子は。
- 549 名前:―二人きりの彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:01
-
桃子の言葉に梨沙子が顔を上げる。
その表情は先ほどと然して変わってはいない。
申し訳なさそうな、苦しそうな顔。
それをさせているのはきっと自分じゃない、雅だ。
「この間、会ったよ。」
「……うん。」
知らないはずはない。
だけど桃子はあえて口に出す。
梨沙子の気持ちをはっきりさせることの方が大事だったから。
手すりから見える景色は何処か寂しい。
冬が近いからだと桃子は少し顎を引いた。
静かな言葉が風に乗って消えていく。
冷たい空気に掠れて、言葉まで固まってしまいそうだった。
「りーちゃんの、好きな人……なんだね。」
出た声は少し震えていた。
泣くつもりなんてなかった。
それは卑怯だと桃子は知っていた。
ただ込みて上げてくる何かが桃子の声を出すのを邪魔していた。
- 550 名前:―二人きりの彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:02
-
「そうだね。」
こくんと梨沙子の頭が頷く。
その時、桃子の運命は決まったのかもしれない。
頷く姿が瞼に焼きつく。
こんな時でさえ梨沙子は綺麗で、桃子が目を奪われた姿そのままだった。
どうして嫌いになれないんだろう。
そんな感情が湧き上がる。
奇しくもそれは梨沙子が雅に抱くものととても近似していた。
「……きっと、ずっとあたしの好きな人だよ。」
残酷なほど静かな声で梨沙子は言った。
あ、と桃子は顔を俯ける。
瞼を閉じたその瞬間に透明な雫は珠になった。
ぽろりと耐え切れなくなった涙が頬を伝っていく。
- 551 名前:―二人きりの彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:02
-
「そう、だよね。」
分かっていた事ではないか。
梨沙子が、梨沙子の一番が誰かなど。
出会った時から知れば知るほど分かったことだった。
桃子が自分に言い聞かせるが涙は止まらない。
後から、後から涙が溢れて桃子を困らせる。
泣いてしまった桃子に梨沙子は少し困ったように頬を緩めた。
そっと近づいて、緩やかに手を伸ばす。
頬に触れた手は酷く優しくて、桃子は更に悲しくなってしまった。
「聞いて?もも。」
桃子の涙が溢れるたびに梨沙子はそれを掬い取る。
肩が震えれば宥めるように撫で、慰めた。
涙が歪む視界に梨沙子の顔が下りてきて、桃子は覗き込まれていることを知った。
「みやはあたしの特別、それは変わんないと思う。」
「……うん。」
見えた顔は苦しそうだった。
なんで、と桃子の中に疑問が立ち上る。
梨沙子の特別が雅だなんてこと、桃子にだって分かる。
ならばそれを伝える梨沙子がなぜそんなに苦しそうな顔をしているのだろう。
- 552 名前:―二人きりの彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:03
-
「でも、ももさえ良ければ待ってて欲しい。」
言われた言葉は青天の霹靂に他ならない。
信じられなくて梨沙子を見る。
驚きに見開いた瞳から再び雫が零れていった。
「りー、ちゃん。」
勝手に鼓動が高まる。
どくん、どくんと無音になった世界にその音だけが聞こえた。
今までに感じたことの無い種類の感情だった。
荒れていた時も、その前も感じたこの無いものだった。
だから、だろうか。
桃子には今自分の胸を高鳴らせる感情がはっきりと見えた気がした。
真っ直ぐに見えた瞳は只々清々しい。
綺麗だと桃子はぼやける視界の中、それでも思う。
梨沙子の瞳は出会った時から同じ色をしている。
硬くて冷たい。その癖、何か人を引き付けて止まない光がある。
清澄な光は桃子が持てなかったものだ。
持ちたかったものだ。
- 553 名前:―二人きりの彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:03
-
―待ってるよ。
最初に零れたのは胸の中だった。
そして相変わらず梨沙子には形無しの自分に苦笑する。
それでも、ダメなのだ。
あの梨沙子の瞳を見てしまうと桃子は何も言えなくなってしまう。
綺麗な、ずっと憧れていた光がそこにあるのだから。
「みやね、たぶん、もう少しで立ち直ると思うから。」
ふっと梨沙子が瞳を細める。
冷たい、硬質な光が和らぎ優しさが伝わる。
なんでそんなに優しい顔が出来るのだろう。
桃子は疑問に思う。
――立ち直るまで、待って欲しい。
それはつまり立ち直ったら雅は梨沙子から離れるという事だ。
そして梨沙子はそれを了承している。
まるで当たり前かのように。
- 554 名前:―二人きりの彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:04
-
「待つ、よ……そんなの、当たり前じゃん。」
じんわりと何故か桃子の目頭が熱くなる。
なんとなく、分かってしまったからなのだろう。
元からこの子には叶える気が無いのだ。
きっと自分の欲というものがとても薄いに違いない。
「ありがとう、もも。」
にこり、笑う顔はやはり純粋な美しさに溢れていた。
『みやのために。』
梨沙子が言うその言葉が今ほど忌々しく感じられた事はない。
雅は梨沙子の一部なのだ。悲しいほどに。
桃子はこの日、ずっと探していたものを見つけた。
それはとてもとても綺麗で、そしてとてもとても悲しいものだった。
―二人きりの彼女―終
- 555 名前:メン後 投稿日:2009/09/05(土) 11:04
-
- 556 名前:メン後 投稿日:2009/09/05(土) 11:05
-
で、続いてりしゃみや。
つーか何処もかしこも悲しい雰囲気w
ほんとに幸せになるのだろうか(爆
- 557 名前:メン後 投稿日:2009/09/05(土) 11:05
-
- 558 名前:―結局な彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:06
-
結局、あたしがみやに出来ることなんてほとんどなくて。
結局、あたしの想いはみやに気付いてもらえなくて。
結局、あたしは一体なんだったんだろう。
――ねぇ、やっぱみやは残酷な人だね。
なんて思っていても言えないんだけど。
- 559 名前:―結局な彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:06
-
―結局な彼女―
- 560 名前:―結局な彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:07
-
「ね、だいじょぶ?」
「大丈夫、梨沙子のほうが泣きそうだよ?」
ベッドに座っている雅の横に座り顔を覗き込む。
そこにいたのはいつもと変わらない顔で笑う彼女だった。
昔から見てきた顔で綺麗に笑みを形作っている。
「……そんなことないよ。」
なんだか唐突に悲しくなって、梨沙子は顔を俯けた。
雅は昔から変わらない。
気付いたときには雅だった。
梨沙子が影響を与えられたことはほとんどないだろう。
雅が梨沙子に影響を与えたことは微かに部屋を見渡すだけで見えてくるのに。
雅が梨沙子で変わったことはほとんどない。
―ダメだなぁ、あたし。
ずっと雅の力になれたらと考えていた。
雅のことだけを考えて生きてきた。
それが梨沙子の生き方だったし、進み方だった。
その考えに齟齬が出てきたのはつい最近の話だ。
それでも身体に馴染んだ思考は雅が悲しむのを許さない。
- 561 名前:―結局な彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:07
-
「それにしても相変わらず“だいじょぶ”なんだね?」
「ふぇ?」
「梨沙子、昔から本気で心配するとだいじょぶになるからさ。」
変わってないのがおかしくてと雅は笑う。
朗らかな笑顔だった。
昔から梨沙子が好きで仕方なかった笑みだった。
一瞬空気を吸い込むことを忘れる。
神経全てが見る事に集中して、動かすことができなかったのだ。
―変わってなんか、ないよ。
太陽のような笑顔が苦しくて、梨沙子はそっと顔を俯ける。
きっと雅は照れていると考えるのだろう。
外れも激しいがそういう性格を雅はしていた。
もちろん、憎むことなどできやしない。
ギシリとベッドのスプリングが軋んだ。
二人分の体重が乗ることなんて久しぶりだったから驚いているのかもしれない。
白い壁に、沢山のぬいぐるみ、そして雅。
見回す部屋は何年経っても変化が無くて、まるで自分みたいだと梨沙子は思った。
- 562 名前:―結局な彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:08
-
「……もものこと、責めないであげて。」
顔を見ることなどできない。
ただ桃子がこの家に来たのは梨沙子が悪い。
鍵を預けていながら、放っておいた。
雅が大変だからといって碌に会ってもいなかった。
全て桃子のせいではない。梨沙子のせいだ。
だからか、梨沙子は桃子が何か言われるのが嫌だったのだ。
桃子はとても優しい人だ。
ここ数ヶ月の付き合いであるが梨沙子にはわかっていた。
可愛く笑うその瞳は時々驚くほど冷静に現実を見ている。
現状を知って、分析して、動いて、諦めて。
そういう事をして来た人なのだろうと勝手に思っている。
千奈美の知り合いと言うのも大きかったのかもしれない。
- 563 名前:―結局な彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:08
-
「わかってるよ。」
雅は僅かに口角を上げ、微笑んだ。
いつもは見ない雰囲気の笑みに梨沙子は首を傾げる。
なんとなく、予感がした。
傷つく予感が、気づく予感が。
何より泣きそうになる予感がした。
「優しいね、梨沙子。」
耳朶に届く声は只管に優しい。
まるで子供を甘やかすかのような、優しいだけの声。
この声に包まれて梨沙子は今まで過ごしてきた。
いつも雅という膜一枚を通して世界に接してきた。
それは凄く幸せなことだったのだろうと今思う。
「え?」
「ちょっと安心した。」
穏やかな微笑みに辛うじて笑顔を浮かべる。
それでもやはり見ていられなくて、梨沙子は顔を逸らした。
見慣れたカーペットの模様が目の端に映る。
梨沙子の好きな人は相変わらず残酷だった。
- 564 名前:―結局な彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:09
-
―みやの、ばか。
何も変わっていない。
何もわかっていない。
昔と同じ、優しくて鈍くて、それでも眩しい姿のまま――雅は梨沙子を無造作に傷つける。
少し唇を突き出して拗ねたような表情を作る。
結局、雅が梨沙子の特別から外れることなどないのだ。
今更ながらにそう痛感した。
「ももにはあたしから言っておくから……みやが居たいなら、居てね?」
桃子が雅に言った言葉は既に聞いた。
いつも冷静な桃子にしては酷く勘定的な言葉で梨沙子は驚いた。
だからと言って雅をこの家から追い出すことなど出来ない。
半分以上ここは雅の家のようなものなのだから。
取り繕うように笑って、言う。
うんと雅が幼い顔で頷いた。
梨沙子は雅に守られて生きてきた。
だがいつの間にか精神だけが逆転してしまったように思える。
- 565 名前:―結局な彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:09
-
―みやの見る世界は、いつも綺麗。
雅が見せてくれる世界は綺麗で、何もかも輝いていた。
一時でも汚い世界など無いかのように感じられた。
それが梨沙子にとって一番嬉しいことだったのだ。
顔も朧気な両親や、存在を忘れてしまうような兄弟など知らない。
雅が真っ直ぐに見つめる世界。
雅が楽しむことを止めない世界。
それが梨沙子の望む世界で、見つめていた世界だった。
どんな事情があろうと世界は間違いなく回っている。
回る世界を楽しむ事が出来たなら、雅のようになれるのだろう。
「ありがとう、梨沙子。」
「ううん……どういたしまして。」
お礼に返事だけをして梨沙子はベッドから腰を上げる。
これ以上ここに居たら余計なことまで喋ってしまいそうだった。
桃子のことは謝罪した。
雅の言葉通りなら、大丈夫だろう。
そして正直さにかけて雅ほど信頼できる人物は少なかった。
- 566 名前:―結局な彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:10
-
「飲み物、取ってくるね。何かリクエストある?」
緩やかに振られる首を確認してから梨沙子は静かに部屋を出た。
とんとんとん、と軽い音を立てて階段を下る。
日常的過ぎて考えることもなくなった動作だ。
階段を下りるという小さな間で梨沙子はふと考える。
雅という人間について、考える。
それは凄く莫大なようでいて、全て出尽くした議論のように梨沙子には感じられた。
「……あたしと同じでいっか。」
手早く準備をして、入れる。
季節柄温かい方が良いかと思い紅茶にした。
それでも微妙な分量を入れ分ける自分の身体に梨沙子は苦笑する。
分かっているのだ、雅の好みなど。
下手したら自分の好みより、雅のことを知っているかもしれない。
- 567 名前:―結局な彼女― 投稿日:2009/09/05(土) 11:10
-
―みやのことは、わかるのに。
自分の事が分からない。
今まで全てを雅に甘えてきた代償なのだろうか。
梨沙子には自分というものを判断するのが難しかった。
お気に入りの紅茶の匂いが鼻を掠める。
「もものことも、わかるようになるのかな。」
引っ張り出されるように言葉が出た。
立ち上る湯気にふと浮んだのはたった一人だった。
自分と同じように、梨沙子に判断がつかない人間。
今は分からない。だけど。
「……わかるように、なりたいな。」
呟くように息を吐く。
変化は怖い、でも変わらなければいけない。
そう思った瞬間にぽろりと梨沙子の瞳から雫が零れカップに落ちた。
何かに気付いた瞬間だった―-何かが終わった瞬間だった。
―結局な彼女―終
- 568 名前:メン後 投稿日:2009/09/05(土) 11:11
-
- 569 名前:メン後 投稿日:2009/09/05(土) 11:12
-
相変わらず、自分の書くみやびちゃんは幼いなぁ……
でもその能天気さが書きやすいんだよね
と、どうでも良いこと呟いて終わります。
ではまたお会いしましょう。
メン後でした。
- 570 名前:メン後 投稿日:2009/09/05(土) 11:12
-
- 571 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/05(土) 22:54
- あの…………
メン後サンのファン名乗ってもィイですかw!?
- 572 名前:メン後 投稿日:2009/09/15(火) 16:51
-
寒い寒い。
もう冬のように寒くて吃驚しますw
そんなこんなで季節感がずれ始めている話を上げます。
571>>名無飼育さん
どぞ、ファンなんて恐れ多いですが。
名乗りたいなら止めません(爆
いや本当に自分は妄想のまま突っ走っているだけなのでw
応援してくださってありがとうございます。
では、今日も2つです。
残りの話は今日も含めてあと4話。
あと少しお付き合いください。
- 573 名前:メン後 投稿日:2009/09/15(火) 16:51
-
- 574 名前:―優しい彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:52
-
穏やかに、穏やかに微笑むから。
何も言えなくなる。
梨沙子の微笑みは綺麗なまんまるの月みたい。
- 575 名前:―優しい彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:52
-
―優しい彼女―
- 576 名前:―優しい彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:52
-
梨沙子が手を振る。
見送る相手は愛理にとってお世辞にも大好きとは言い難い。
梨沙子を傷つける相手で、梨沙子を泣かせる相手で。
それでも梨沙子が特別に思う相手だから。
愛理はただ見送ることしか出来ない。
「梨沙子、良かったの?」
「うん。」
はらはらと振っていた手を下ろす。
最早その背中は見えないくらい遠くなっていた。
きっと今からグラウンドにいって好きな部活をするのだろう。
思いっきり駆けて梨沙子のことなんて忘れるに違いない。
そう思うと場違いな怒りが沸々と湧いてくる。
「みやは、部活好きだから。」
隣から見る瞳はただ優しい。
まるで大切な子供を見守る母親のような瞳だ。
あながち間違いでもないかもしれない。
梨沙子はたぶん命と同じくらいには雅を大切にしている。
- 577 名前:―優しい彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:53
-
「梨沙子も部活好きでしょ?」
その姿が遠くに見えて愛理は心配になる。
だってこの親友は時々酷く大人に見える。
いつもは子供の癖に、変な所で達観している。
だから愛理は心配になるのだ。
―わたしの隣にいてくれるよね?
声に出しては聞けない。
そこまで梨沙子を縛ることが愛理にはできないから。
ただ隣にいてくれるだけで良い。
一番になんて贅沢は言わないから。
ただ親友として隣にいて欲しいのだ。
じっと、もう愛理には見えない背中を梨沙子は見つめていた。
その顔を覗き込むようにして確認する。
ぱちりと目が合って梨沙子は少し驚いたように瞬きをした。
- 578 名前:―優しい彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:53
-
「好きだよ?好きじゃなきゃしないって。」
「だよね……良かった。」
ほっとしたように笑う愛理に梨沙子は肩を竦める。
変な愛理と口元で笑って、くるりと方向を変えた。
グラウンドではない。美術室の方向だ。
それだけで愛理の中に嬉しさが広がる。
「久しぶりだね。こうやって部活に行くの。」
雅が塞ぎこんでから梨沙子は雅に掛かりきりだった。
朝は校門まで一緒に登校する。
昼は雅が迎えに来たり、梨沙子が行ったりしてご飯を食べる。
授業が終われば直ぐに高校まで迎えに行って、帰る。
梨沙子の日常全てが雅のケアに使われていた。
「夏焼先輩、元気になって良かったよ。」
「うん、まぁ、部活に行ってくれるなら大丈夫かな。」
ゆっくりと柔らかくなり始めた日を背に歩く。
うっすらと茜色の香りを漂わせ始めた日光はじんわり暖かい。
若干高度を下げた太陽は愛理の陰を長くした。
- 579 名前:―優しい彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:53
-
「梨沙子は大丈夫?」
雅が大丈夫なのはさっき見て分かった。
何より梨沙子が付いている時点で愛理は心配していない。
梨沙子は雅のためなら身を削る。
そしてそれこそ愛理が梨沙子に尋ねたくなった理由だ。
―昔から、だよね。
雅のためなら梨沙子は平気で無理をする。
頑張りすぎて倒れたことも、怪我したこともある。
ずっと愛理は側で見てきたのだから身に沁みているのだ。
愛理が心配そうに眉を下げると梨沙子は少し笑った。
大丈夫だよと言っているようにも、ごめんねと謝っているようにも見えた。
「だい、じょうぶ。」
それでも穏やかに笑うから、愛理は何も聞けなくなる。
笑顔の下に傷があるのはわかっているのに。
穏やかな表情を得るまでの苦労を知っているのに。
どうしてそれを暴くことなどできようか。
- 580 名前:―優しい彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:54
-
「本当かなぁ?」
「本当だよ。」
だがそれを梨沙子に伝える必要はない。
微かに拗ねたような声音を作って聞き返す。
直ぐに焦った梨沙子の声が聞こえて愛理は僅かに笑った。
梨沙子は遠くには行かない。
それがわかってどこか安心した。
「そういえば、次の展覧会のテーマ決まった?」
暫く日常会話にもならない様な話を紡ぐ。
美術室近くまで来てから思い出したように梨沙子が言った。
――展覧会。
冬の大会のようなものだ。
美術部員は冬休み前までに出す事が義務付けられている。
テーマはそれぞれで、分野も好きなものに応募して良い。
専ら愛理は油絵で、梨沙子は水彩画を好んでいた。
- 581 名前:―優しい彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:54
-
「わたしは決まったよ。」
「え、早いっ。」
「だって油絵、時間掛かるし。毎年の事じゃん。」
それでも早いと唇を尖らせる梨沙子に愛理は何だか笑いたくなった。
毎年この時期になると話題になることだ。
愛理のテーマが決まるのは、常に梨沙子より早かった。
それは今言ったように油絵が手間のかかるものだという事や絵を書く姿勢の違いである。
「梨沙子は決まると早いから。わたしは決まっても進まないし。」
梨沙子は一端描くものが決まれば早い。
何にでものめり込むタイプなのだろうか。
集中すると周りが見えなくなるのだ。
―ま、それ以外にも理由はあるんだけど。
愛理自身今年のテーマを決めるのは早かったと思っている。
ただこれ以外に描きたいものが浮ばなかったのである。
描きたいものが沢山あって迷ってしまう例年とは違う。
一個しか愛理の中で絵として世界を成さなかった。
- 582 名前:―優しい彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:55
-
「何にしたの?」
梨沙子の声が人の少ない美術室に木霊する。
まだ下書きのスケッチブックを広げる愛理の隣に梨沙子が腰を下ろす。
窓際の席はグラウンドがよく見えた。
いつの間にか指定席になっていた場所である。
理由は勿論、梨沙子が雅を見るため。
「んー、夜にしようかなって。」
「夜?」
愛理が珍しいね。と梨沙子が僅かに首を傾けた。
確かに今まで愛理が描くのは昼の世界が多かった。
太陽を浴びて揺れる花や、風を描くのが好きだったからだ。
「正確には月夜かな。温かい月と夜の世界。」
ぱらぱらとスケッチブックを捲って考えた構想を見せる。
どれもまだ形にもなってない、と言った方が近いラフ画だ。
そこには全て月と思わしきまん丸の円と配置のみを決められた植物達がいた。
少し目を細めて、梨沙子がそれを見る。
- 583 名前:―優しい彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:55
-
「へぇ、月なのに温かいんだ。」
「そ、たまには良いでしょ。」
梨沙子が口の端だけを上げて笑う。
興味を引かれた顔だった。
月は昔からよく題材に取り上げられている。
ただ多くは冷めた青い光を発するのもばかりで、温かさは余り感じない。
それはそれで完成した一つの芸術なのだが愛理が描きたいのはそういう類ではなかった。
「月って、優しいと思わない?」
太陽は何もかも曝け出す。何よりちょっと眩しすぎる。
それに比べて月の光は優しい。
隠しておきたいものはそっとしておいてくれる。
太陽が元気付ける光だとしたら、月は見守る光だ。
そんな風に愛理は思っていた。
「分からなくは、ないかも。」
「ありがと。」
考え込む顔にお礼を言う。
僅かに眉間に皺が寄って、真剣なことを表していた。
それだけで愛理にとっては嬉しいことだ。
- 584 名前:―優しい彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:55
-
―梨沙子は月っぽいよね。
見守って、育んで、休ませる。
この頃、特に雅が塞ぎこんでから愛理はそう感じる事が多くなった。
そしてそれはそのまま愛理の題材になる。
“温かい月”
それは愛理に言わせれば梨沙子のことなのだ。
対照的に太陽はきっと雅だ。
あの綺麗な先輩はとても眩しい。
目が眩んでしまうほどの光に、それでも引き付けられる。
だが太陽光は直接見ると毒に等しい。
知らないうちに誰かを何かを傷つけている。
「愛理が月なら、あたしは太陽にしようかな。」
頭の中で言葉を遊ばせていた愛理に梨沙子の声が降って来る。
え?と愛理は反射的に聞き返した。
愛理は今まで昼を描く事が多かった。
梨沙子は逆に夜や夕暮れを描くことを好んでいた。
- 585 名前:―優しい彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:56
-
「いつもと反対なのも面白いでしょ。」
にこりと笑って梨沙子が言う。
その顔に愛理は少し顔を伏せた。
愛理が描くのはまん丸の月と静かな夜だ。
その琥珀色の月の下で安らかに眠る世界を構想していた。
梨沙子をその根本に置くことも心の中で決めていた。
ならば梨沙子が描く昼の世界はきっと雅の絵になる。
眩しいくらいに周囲を照らす光と、それに笑い返す世界だ。
まあるい琥珀色の甘い月が愛理の中で優しく微笑んだ気がした。
―優しい彼女―終
- 586 名前:メン後 投稿日:2009/09/15(火) 16:56
-
- 587 名前:メン後 投稿日:2009/09/15(火) 16:57
-
この二人も登場が多いなぁと今更ながらに思うw
下手するとりしゃみややりしゃももより多いんじゃないんだろうか。
で、次は雅ちゃん視点でっす。
雅ちゃんにとってのりーちゃんです。
- 588 名前:メン後 投稿日:2009/09/15(火) 16:58
-
- 589 名前:―大事な彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:58
-
すき、とか心の中で呟いてみる。
それは思ったよりすんなりと胸に馴染んだ。
でもきっと違う。
この感情をすき、なんて言葉で括るにはちょっと違う。
だから今までそのままにしておいた。
- 590 名前:―大事な彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:59
-
―大事な彼女―
- 591 名前:―大事な彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 16:59
-
ボンと蹴った球は思ったより遠くまで飛んだ。
真っ青に晴れた空に何気なく幼馴染の彼女が浮んでくる。
青い空に白い雲は彼女が好む題材の一つだ。
ぽやぽやとした笑顔で自分に見つめる姿が見える。
うきうきした顔で絵筆を握る姿が見える。
彼女の好きな色だと何処かで思う自分がいた。
「みやー、飛ばしすぎ!」
「あ、ごめーんっ。」
久しぶりに立ったグラウンドはまだ足に馴染まない。
微妙な感覚に狂いが出て調整が難しい。
グラウンドの外れまで転がったボールに雅は大声で謝った。
パスの相手をしてくれている部活仲間はしょうがないと笑っている。
その笑顔に少し気まずくなる。
―……三週間かぁ。
その期間は雅が考えていたより長かったらしい。
恋して、失恋して、休んで。
随分と身勝手な理由だったのに部員達は皆許してくれた。
幾ら感謝しても足りない気分だ。
- 592 名前:―大事な彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 17:00
-
ポーンと先ほどの雅とは違うコントロールされた球が高く上がる。
飛距離や角度を計算されたそれは雅の前で一二度バウンドしてから転がる。
それをいつもより幾分か慎重に雅は受け止めた。
パスは基本だ。
基本が出来なければ上手く試合を運ぶことなんてできない。
そう思って雅は頭を切り替える。
――面倒くさいことは後。
それが雅の基本的な考えだった。
「あー、久しぶりにするとシンドイ。」
「三週間も休むからだよ。」
アップをして、その後軽く試合をして。
全てが終わったときには空は黒の帳に閉ざされていた。
流石にボールが見えなくては追いかけることも出来ない。
雅は後片付けを終えると、懐かしい清涼感に包まれたまま美術室へと歩いていた。
やはり部活は楽しい。
弾むボールを追いかけるのも、仲間とパスを通すのも、何もかも。
それが、今日分かったことで雅にとって何よりの収穫だった。
- 593 名前:―大事な彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 17:01
-
「……しょうがないじゃん、それは。」
梨沙子に冷たく言われて、雅は言葉に詰まる。
美術室には雅たち以外誰もいなかった。
グラウンドがよく見えるらしい窓際に梨沙子はいつもいる。
カーテンが引かれ最早そこには何も見えない。
静寂が支配する部屋は何処か寂しい空気が漂っていた。
―まったく、冷たい。
雅は心の中で肩を竦めた。
梨沙子の言う事は間違っていない。
雅が三週間も部活を休んだのは事実だ。
それにより体力が落ちたから疲れるという言い分も正しい。
昔から梨沙子は正しいことしか言わない。
「でも、楽しかったんでしょ?」
「うん。」
梨沙子の言葉に雅は歩を緩めて頷いた。
楽しかった。それは間違いないほどに。
そしてこの短期間で吹っ切れたのも梨沙子のおかげである。
- 594 名前:―大事な彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 17:01
-
「よかった。」
ほっとした吐息が梨沙子の口から漏れる。
淡々と後片付けを進める手は止まらない。
パラリと見えたスケッチは雅にはちっとも理解できないものだった。
梨沙子は時々冷たいことを言う。
冷たいことを言うが、それも全ては雅のためだ。
分かっている。理解しているが感情は止まらない。
「ありがとう、梨沙子。」
「みやが元気になるなら……それでいいよ。」
ニコリと梨沙子が微笑む。
雅の返すように頬を緩めてみせた。
この三週間、梨沙子はずっと側にいてくれた。
自分の部活や友達関係も断ち切って雅と共にいた。
朝も昼も夜も一緒で、こんなに一緒にいたのは小学校以来かもしれない。
- 595 名前:―大事な彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 17:02
-
―変な感じ。
違和感はない。
逆にそれが微かな違和感となっていた。
雅と梨沙子は兄弟ではない。
ましてや家族ではないし、一緒に住んでいるわけでもない。
家が近いだけのただの幼馴染だ。学校も違えば部活も違う。
重なる時間の方が圧倒的に少ないはずなのだ。
それでも雅にとって梨沙子といる時間は限りなく多い。
いや、雅を占める梨沙子の割合が多いと言った方がよいかもしれない。
「でもさ、梨沙子の方は大丈夫だったの?」
「何が?」
「部活とか、友達とか。予定あったんじゃん?」
雅の言葉にああ、と梨沙子は曖昧に頷いた。
ちらりと見た瞳は泳いでいる。
無理をしたんだとそれだけでわかってしまった。
- 596 名前:―大事な彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 17:02
-
「大丈夫だよ。みやが心配する必要ない。」
表情が曇ったのに気付いたのだろう。
梨沙子が少し慌てた様子で言い繕う。
緩やかに上げられた口角に下げられた眉尻。
完璧な笑顔だった。
だが雅を騙すことはできない。
それ位出来なければ梨沙子の世話を見ることは出来ないから。
「無理、しないで?」
「してないよ。」
梨沙子の手が止まる。
鞄にスケッチブックを入れて机に置いた。
そしてその上に色素の薄い手を翳す。
日に焼けていない文化部の色だった。
「みやが困ってたら助ける。普通のことでしょ?」
「梨沙子……。」
雅が困っていたら梨沙子が助ける。
梨沙子が泣いていたら雅が手を差し伸べる。
その間には何の齟齬も生じない。
ただ二人の相互関係が成立しているだけなのだ。
- 597 名前:―大事な彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 17:02
-
雅は梨沙子の言葉に困ったように笑った。
雅にだって分かっている。
梨沙子が無理をしてでも雅を助けるだろうということが。
それが二人の当たり前だったし、当然なのだ。
「みやだって、あたしの具合が悪い時とか予定ずらすじゃん。」
脳裏にこの間梨沙子が体調を崩したときの事が過ぎる。
確かに雅はあの時予定をずらす気でいた。
――予定なんかより梨沙子が大事だった。
梨沙子があの調子ではしょうがないとも思った。
だがあれは結局予定通りに進んだのだ。
梨沙子が気にする必要は少しもない。
「それとこれとは」
「違わない。おんなじこと。」
雅の言葉は梨沙子に遮られる。
いつもは言葉数が少ない子なのに今日は妙に饒舌だ。
はぁと小さく心の中でため息を吐く。こうなった梨沙子は頑なだ。
意地になっている部分もあるから、聞く耳などないに等しい。
- 598 名前:―大事な彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 17:03
-
「ねぇ、梨沙子。」
「帰ろう、みや。」
尚も言葉を続けようとする雅に梨沙子は鞄を取った。
美術室の戸が軋んだ音を立てる。
雅はその背を追うことしか出来なかった。
外の世界は既に暗闇に染まっていた。
ふるりと身を震わせるほど外気は冷えてきている。
習慣のように隣を見ると、やはり少し寒そうだった。
大丈夫?と聞けば大丈夫と言葉少なに頷かれた。
その姿は昔からほとんど変わっていなくて、何となく嬉しくなった。
「好きな人って、どんな感じ?」
暫く何も言わずに帰路を歩く。
家までの半分の道のりを歩いた所だろうか。
梨沙子が僅かに掠れた声で聞いてきた。一瞬雅は首を傾げる。
今までそんな事を尋ねられた例がなかったからだ。
- 599 名前:―大事な彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 17:03
-
「一緒にいるだけで嬉しくなる人……。」
かな、と雅は語尾を濁した。
好きな人の定義なんて改めて考えた事が無かった。
少なくとも“梨沙子より”一緒にいたいと思う人を雅は好きになってきた。
梨沙子を少しくらい犠牲にしても良いと思う人を好きになってきた。
雅は気付いていなかった。それでは結局梨沙子に戻るしかないということに。
「そっか。それなら――」
雅の言葉に梨沙子は少し考え込むように俯いた。
急な変化に雅は怪訝な顔で隣を覗き込む。
「どうかしたの?」
「みや、あたし好きな人ができたかもしれない。」
え、と勝手に音が漏れた。梨沙子に好きな人。
繰り返してみても出てくるのは驚きばかりだった。
だが幼馴染の成長は素直に喜ばないといけない。
雅はとりあえず笑顔を引っ張り出した。
- 600 名前:―大事な彼女― 投稿日:2009/09/15(火) 17:04
-
「おめでとう、初めてじゃん。梨沙子がそういうの言うの。」
「だって初めてだもん。」
―みや以外の人好きになるの。
そんな呟きは雅の耳に届かない。
雅はただ無機質におめでとうと繰り返していた。
“すき”で括るにはもったいない。
梨沙子はうちにとって、物凄く大事な人だから。
――“すき”ごときにくれてやらない。
―大事な彼女―終
- 601 名前:メン後 投稿日:2009/09/15(火) 17:04
-
- 602 名前:メン後 投稿日:2009/09/15(火) 17:07
-
こんな感じで最終話に繋がります。
結構唐突な感じを受けるでしょうが、自分的には書ききった感じですw
予定としては次の話が最終話。
その次がエピローグのようなものです。
ま、予定は未定なんですがw
ではあと少しお付き合いください。
- 603 名前:メン後 投稿日:2009/09/15(火) 17:07
-
- 604 名前:麻人 投稿日:2009/09/15(火) 19:31
- やばいです。―大事な彼女―がツボすぎます。
恋人って設定じゃなくても二人の絆はやっぱいいもんですね。
Herシリーズが終わっちゃうのは残念ですが、きっと新作が始まるんだと信じて待ってますw
- 605 名前:名無し飼育 投稿日:2009/09/16(水) 09:58
- りーちゃんメインのお話がたまらんです
りしゃみや・りしゃもも・りしゃあいり・・・
たまらんです!毎回悶えてます!!
- 606 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/16(水) 18:22
- 雅サンのバカ…鈍感すぎる…orz
せっかくのりしゃみやになりそうな予感を…
質問なんですが、これって口端にキスみたいな色んなパターンの最終回がありますか??
- 607 名前:メン後サンファン 投稿日:2009/09/16(水) 18:23
- 早速名乗りましたw
雅サンのバカ…鈍感すぎる…orz
せっかくのりしゃみやになりそうな予感を…
質問なんですが、これって口端にキスみたいな色んなパターンの最終回がありますか??
- 608 名前:メン後 投稿日:2009/09/27(日) 23:17
-
何のかんので最終回。
今まで本当にありがとうございました。
604<<麻人さん
感想あっとうございます。
恋仲じゃなくても二人には最大の理解者でいて欲しいという願望がw
この話を書いているとき自分のりしゃみや書きとしての因縁を感じました。
新作は予定はしているのですがはっきりしていません。
暫く、短編で頑張りますw(予定)
605<<名無し飼育さん
ありがとうございます。
りーちゃんをカッコ可愛く書くのが目標でして。
その三つで悶えていただければ満足ですw
606,607<<メン後サンファンさん
ちょっと気恥ずかしいですが、どぞ名乗ってくださいw
感想あっとうございます。
雅ちゃんは鈍感で何ぼですw
きっと気付かないままずっと側にいるような人だと思いますよ。
今回は最終回は一つです。
りしゃももを書きたくて始めたシリーズなので。
責任をもってりしゃももで終わらせたいと決めました。
納得いかない人もいるかもしれませんが、ご容赦ください(拝
ではどうぞ、宣言どおり最終話。
そしてエピローグです。
- 609 名前:メン後 投稿日:2009/09/27(日) 23:17
-
- 610 名前:―太陽の彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:18
-
赤い絵の具を出してみる。
黄色を足したり、水で薄めたり。
気に入るまで色を作る。
できたのはあの人を連想させる赤だった。
- 611 名前:―太陽の彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:18
-
―太陽の彼女―
- 612 名前:―太陽の彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:19
-
「あれ、梨沙子がそういうの使うの珍しいね。」
「気分転換。」
愛理の言葉に梨沙子は振り返らない。
ただ自分の作った色の変化を見るように白い紙を見つめていた。
色は変わる。
特に水彩画においては、パレットの上と紙の上では雰囲気が異なる。
だから梨沙子のように試し書きをする人もいる。
「ちょっと、紅過ぎるかな。」
絵筆で引いた線が画用紙に染み込まれ、馴染む。
愛理の油絵では見られない色の変化に少しわくわくした。
梨沙子が乾いた色を見て眉を顰める。
眉間に寄った皺が真剣さを表していた。
「綺麗な色してるけど。」
梨沙子の言葉に愛理は首を傾げた。
確かに水彩に使うにはまだ強すぎる色をしているかもしれない。
鮮やかな色は梨沙子の苦心が目に見えるようだった。
何が気に入らないんだろうと不思議に思った。
- 613 名前:―太陽の彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:19
-
「これじゃ赤が強すぎるの――血みたいじゃん。」
「……赤を使おうと思えば、誰でも一回は思うよ。それは。」
今までの梨沙子の絵は寒色が多かった。
青の微妙な色加減の上手さといったら愛理に真似できない。
それで梨沙子は様々な空を描いてきたのだ。
「だめ、この色じゃない。」
カタンと絵筆がパレットの上に置かれる。
力の入っていた肩から力が抜けて、少し落ちた。
その様子に愛理は苦笑する。
絵なんて結局は本人の世界だ。
描く本人が気に入らないならそれはしょうがない。
「時間はあるし、頑張ってね。」
「うん、ありがとう。愛理。」
どうしよっかなと髪を掻き混ぜる姿に声を掛ける。
ちらりと梨沙子の視線がこっちを向いて、緩やかに微笑まれる。
愛理も軽く微笑んでその場を離れた。
きっと大事な色なのだろうなと思いながら。
そう自然に思えるほどに梨沙子の様子は真剣だった。
- 614 名前:―太陽の彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:19
-
愛理が側を離れて梨沙子は再び色を作り始めた。
気に入る色が出来るまで只管に混ぜる。
時には混ぜすぎて、また最初から作り直すときもあった。
中々梨沙子の思ったような赤を作ることは難しいようだ。
「あれ?珍しいことしてるじゃん。」
試行錯誤を繰り返す梨沙子に背後から声が掛かる。
千奈美だと梨沙子は声だけで分かった。
だが色作りを止める事の程ではない。
黙々と白い画面に向かい続ける。
「へぇ、色作ってんだ。」
「そ……ちぃは機嫌良さそうだね。」
声の調子が違う。
何かあったなと直感的に思ったが深入りする気はない。
千奈美が幸せならそれはそれで良いことだからだ。
- 615 名前:―太陽の彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:20
-
「まぁね。梨沙子はやっぱ手に入れられなかったみたいだけど。」
一瞬、千奈美は逡巡した。
それを言っていいのか判断が付かなかったからだ。
だが梨沙子の様子を見る限り、特にショックと言うわけでもなさそうだ。
当然か、と千奈美は心の中で呟く。
梨沙子は分かっていながら手を差し伸べたのだから。
雅のためなら何でもする。それは自己犠牲に近い精神だ。
「わかってたもん。いいよ。」
淡々と梨沙子が答える。昔からそうだった。
後一歩のところで自分は雅に手を伸ばす事が出来ない。
違う、手を伸ばしたところで届かないのだ。
「みやは元気になったし、梨沙子はリハビリ中?」
「そんな所。」
今はただこの絵を完成させたい。
いつもは描かない昼の世界を。
いつもは使わない色彩で表現したかった。
- 616 名前:―太陽の彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:20
-
「みやの色……探してるんでしょ?」
「よく、分かったね。」
ピタリと絵筆が動きを止める。それは僅かな時間だった。
千奈美はその様子に小さく肩をすくめてみせる。
白い画用紙の上に薄らと下書きされた絵は輝いていた。
眩い光を描こうというのが感じ取れる。
その色を梨沙子は探しているのだ。
そしてそれはきっと雅の色に違いない。
曖昧な推理はそれでも当たっていたらしく梨沙子は軽く頷いた。
「これでね、最後にする。」
すっと絵筆で引かれた線が色を発する。
それは愛理に見せられたものより若干朱に近い色をしていた。
前の色を知らない千奈美にはその差は分からない。
それでも感じたことは愛理と変わらなかった。
つまり、綺麗な色をしている、それだけだったのだ。
- 617 名前:―太陽の彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:21
-
「みやの好きに、あたしは入んないみたいだから。」
“あたしはただ大事なだけ。”
そう梨沙子は付け足した。
雅の好きに梨沙子が入らない。それは確かにそうかもしれない。
だがその一方で千奈美は雅が梨沙子のことをとても大切にしているのを知っていた。
雅の大事は下手したら、好きより上だ。
梨沙子に何か合ったら雅は予定をずらしたし、約束は守った。
雅の好きの上には大事があった。
梨沙子の好きの上には何もなかった。
それだけの違いなのかもしれない。
「綺麗な色、してるよ。」
「ありがと。」
結局、千奈美に言えたのはそれだけだった。
千奈美の言葉に梨沙子は小さく微笑んだ。
綺麗な瞳に綺麗な世界を映して綺麗に微笑む。
そんな梨沙子こそ絵画みたいだと千奈美は密かに思った。
- 618 名前:―太陽の彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:21
-
一色が決まれば後は早かった。
水彩の基本どおりに薄い色から塗っていく。
意識を集中し始めた梨沙子に千奈美はいつの間にかいなくなっていた。
描き始めると何も聞こえなくなる性質を知っていたのだろう。
出来た色は最後に使うことになりそうだった。
「りーちゃん……。」
「来ると思った。」
正しくは来て欲しかった。
梨沙子は自分の中でそう言い換えた。
響いた声は桃子のものに違いなかった。
粗方色は塗り終えた。
一息吐こうかと握っていた絵筆を置く。
じんわりと湿った感触が己の手からして梨沙子はハンカチを握る。
その動作を桃子はただ後ろから見ているだけだった。
「良い絵だね。」
まだ完成していない作品を見て桃子が呟く。
芸術なんて理解できない桃子でも、好きか嫌いか位あった。
梨沙子の絵を見るのは初めてだが温かいと思う。
硬質な横顔しか見せてくれないのに、こんなにも絵は温かい。
惚れた弱みだろうかと桃子は自嘲した。
- 619 名前:―太陽の彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:22
-
「この絵、できたらももにあげる。」
何でもない事を言うかのように梨沙子が言った。
余りの軽さに桃子は一瞬聞き逃しそうになる。
「え、でも大会に出すんでしょ?」
「今回のは戻ってくるから。」
大会に出すと戻ってこない絵も確かにある。
だが今回は違ったし何より桃子に貰って欲しい。
雅がいて、桃子がいて、初めて完成する絵なのだから。
それが梨沙子の想いだった。
「水彩って、薄い色から塗る理由わかる?」
「薄い色はあとから塗りつぶせるから……?」
唐突な質問に桃子は美術の記憶を引っ張り出す。
絵を書く際の注意なんてほとんど覚えていない。
だが外れてもいなかったようで梨沙子の表情に変化は無かった。
- 620 名前:―太陽の彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:22
-
「そ、最初に濃いの塗っちゃうと取り返しが付かないから。」
それだけを言って梨沙子はパレットを再び持った。
パッと見、全体に色は塗られている。
海の絵だった。夕暮れに近い時刻の海の絵。
太陽に照らされる海岸に木々が生い茂る。
並んだ家々は港町らしいつくりをしていた。
人の姿はないのにそこにははっきりとした人の生活があった。
「あ、」
思わず口から音が飛び出す。
梨沙子の腕は大胆に動いた。
青かった空に赤が出される。
白かった壁に赤が反射する。
木々の幹にも所々赤が差し込まれて。
たったの一色でがらりと絵は完成度を増した。
凄いと桃子は感心する。
「これで、完成?」
恐る恐る尋ねる。何となく声を掛けづらい雰囲気が漂っていた。
梨沙子は桃子の言葉に小さく頷き、ふーと長い息を吐いた。
張り詰めていた肩にいつもの丸みが戻る。
- 621 名前:―太陽の彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:23
-
出来たのは鮮やかな昼の世界。
夕暮れが近くなった時刻でありながら、それでも絵は主張する。
今はまだ太陽の時間だと、生命の時間だと訴えるのだ。
―あたしにとっての、みや。
その絵を見ながら梨沙子はそう思った。
あの赤は千奈美の言うとおり雅の色だった。
それが決まった瞬間に使う場面は太陽だけしかなかった。
昼の世界の、主役―-それは雅だった。
「うん、完成。」
桃子の言葉に同意するように大きく頷いた。
描ききった達成感が梨沙子の中を渦巻いていた。
沈まぬ太陽はない。そして昇らぬ太陽も、またない。
梨沙子の中で雅は間違いなく太陽だった。
「あたし、ももが好きだよ。」
「――――え?」
驚いて声が出なかった。
人間欲しかったものが急に差し出されると戸惑うものなのだ。
- 622 名前:―太陽の彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:23
-
「ほんと?」
「本当。」
太陽は生きるのに必須だ。
しかし太陽に照らされ続けても人は生きて行けない。
だから夜という暗闇に人は安息の吐息を漏らすのだ。
そして夜こそが自分の性分だと梨沙子は思っていた。
「すき?」
「好き。」
日の暮れた美術室はただ優しく二人を見守る。
重なった影を昇り始めた月だけが知っていた。
梨沙子はちらりと完成した絵を見て、口を開いた。
ばいばい、好きだった人。
こんにちは、新しい世界。
―太陽の彼女―終
- 623 名前:メン後 投稿日:2009/09/27(日) 23:24
-
- 624 名前:メン後 投稿日:2009/09/27(日) 23:24
-
ほんとはこれで終わる予定でした。
が、余りにもりしゃももが素っ気無さ過ぎるのでw
次の話です。
- 625 名前:メン後 投稿日:2009/09/27(日) 23:25
-
- 626 名前:―彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:25
-
秋が回れば冬が来る。
冬のシンシンとした寒さに身は凍えるけれど。
彼女が側にいる限り、凍えることはないのだろう。
- 627 名前:―彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:25
-
―彼女―
- 628 名前:―彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:26
-
「ごめん、待った?」
「大丈夫、そんなに待ってないし。」
はぁと吐いた息は白く染まっていた。
この頃グンと気温は下がり、秋の残り香も消え去ろうとしていた。
紅や黄に染まっていた山々も今はただ冬を待っていた。
「でもこうやって出かけるの、久しぶりじゃない?」
駅の改札を出て見える人々の格好は半分が冬に染まっていた。
夏に比べ、穏やかな色彩が多くなる。
何処か温かさを感じる色を梨沙子は好んでいた。
「そうだね。忙しかったし。」
愛理の言葉に梨沙子は少し考えてから答える。
同意するように愛理も頷いた。
展覧会の締め切りはこの間終わったばかりだ。
早めに仕上げていた愛理と梨沙子はそう焦りはしなかった。
だが見ているとどうしても手直しをしたくなる箇所が見つかるもので。
結局ギリギリまで粘ってしまっていた。
- 629 名前:―彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:26
-
冬の風に背中を押されたかのように歩き出す。
北風は地を這うように吹きすさび、足元を擦っていった。
針のような刺激が僅かに出ている素肌を刺激する。
―寒くなったなぁ。
隣にいる梨沙子をちらりと見ながら愛理はそう思った。
相変わらず親友の顔は硬質だ。
まるで磁器やガラスで出来ているかのように温度を感じさせない。
桃子と付き合いだして変わるかと思った。
あの先輩は愛理にしてみれば梨沙子とは逆の性質を持っている人物だから。
この硬質な横顔を見ることは出来なくなるかと少し心配していた。
「愛理の、良い絵だったね。」
「え、そうかな?ありがと。」
一歩二歩と歩みを進める。
目的は特に無い。
展覧会の息抜きにと二人揃って出かけただけだった。
- 630 名前:―彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:27
-
ニコリと梨沙子が笑いマフラーに隠れて見えない口元から言葉が飛び出す。
邪気の無い褒め言葉に愛理は頬に熱が篭るのが分かった。
つられたように照れ笑いを作り、礼を言う。
「うん、あたし好きだよ。ああいう…雰囲気っていうの?」
ざわざわとした喧騒に梨沙子の声が吸い込まれる。
緩やかなアルトの声。
それは耳に馴染んで酷く優しい響きになった。
「梨沙子にそう言ってもらえると、安心かな……。」
あの絵は梨沙子のようなものだったから。
その本人に認めてもらえたかと思うとそれだけで嬉しい。
展覧会での評価なんて関係ない。
それだけで愛理には充分だったのだ。
桃子と梨沙子が正式に付き合いだしてから数ヶ月が過ぎた。
何も、驚くほど何にも変化はなかった。
まるで最初からそれが当然であったかのように時間が過ぎた。
梨沙子と雅も相変わらずだ。
梨沙子と桃子も相変わらずだ。
そして梨沙子と愛理もそのままの関係だった。
- 631 名前:―彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:27
-
―でも、本当に大丈夫なのかな。
何も変わらない。
それこそ愛理の気がかりの一つだった。
変化しているのに何も変わらない。
そんなのは矛盾でしかなく、それが通っているのは無理があるからだ。
梨沙子が桃子をちゃんと恋人として大事にしているのを知っている。
デートもしているようだし、傍目にも楽しそうではあった。
雅とも相変わらずの関係らしく、仲は良さそうだ。
全てが丸く収まっている。
それは良いことのはずなのに梨沙子が無理をしているような気が愛理はしてならなかった。
「あ、クレープだ。愛理、食べない?」
「食べるー……何にしよっかな。」
この一時くらい何も考えずに楽しんでくれたらいい。
クレープを選ぶ横顔を見ながらそんな風に愛理は思った。
****
- 632 名前:―彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:28
-
「映画、面白かったね。」
「ねー。評判良かったの分かる気がする。」
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
愛理は夕暮れに染まる空を見上げた。
もう赤というより青に近くなった色が寒空を強調する。
「愛理さ。」
「うん?」
映画のパンフレットを片手に持ち中を眺める。
真剣な様子でページを捲る姿に余程気に入った事がわかった。
その姿を愛理はただ見ていた。
それだけでも少し幸せな気分になれたのだ。
「心配してくれて、ありがとうね。」
ひゅっと気まぐれな風が愛理の前髪を掻き揚げる。
乱された視界に、それでも梨沙子はパンフレットを見ていた。
- 633 名前:―彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:28
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「え?」
「心配してくれたんでしょ?」
間抜けな声が出る。
そこで初めて梨沙子は愛理の方を見た。
優しい笑顔だった。
何もかも見抜いていたんだと愛理は少し肩を落とした。
「みやも、ももも、何も変わってないよ。」
パタンとパンフレットを閉じる。
その梨沙子の顔に嘘は一欠けらも無い。
「ちぃは恋人ができたみたいで、幸せそうだけど。」
そんな風に付け足す言葉さえ嬉しそうな雰囲気に溢れていた。
梨沙子は幸せなのだ。
梨沙子が幸せなのが愛理にとっても一番である。
一番のはずなのに、愛理の瞳からは止めどない涙が溢れていた。
- 634 名前:―彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:29
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「もう、泣かないでよ。愛理。」
梨沙子が苦笑する。
その顔はずっと見てきたものに違いない。
ゆっくりと愛理は頭を横に振った。
「だって…梨沙子、無理してる。」
「無理じゃないよ。あたしはももと恋人になれて幸せだよ。」
距離が近くなって、そっと肩を抱かれる。
手渡されたハンカチに静かに雫が染み込んでいった。
仄かな温もりの残るそれに更に涙が溢れた。
「ももは優しいんだ。それに面白いし、退屈しない。」
そう言って笑う梨沙子は満月と言うより、寝待月のように輝いていた。
儚い光にそれでも込められた温かさ。
綺麗な世界に梨沙子は住んでいた。
「でも……夏焼先輩は?」
「みやはね、いいの。全部あの絵にぶつけたから。」
何も変わらない。
それはとても大切なことだと梨沙子は言った。
梨沙子がいて、雅がいる。
桃子が居て、梨沙子がいる。
全部が梨沙子の世界を作っているのだ。
- 635 名前:―彼女― 投稿日:2009/09/27(日) 23:29
-
「それにね、愛理。あたし、思うんだ。」
「なに?」
「みやとはずっといた。だから大事な人なのは間違いないの。」
うん、と愛理は素直に頷く。
ずっと一緒にいた。それは間違いない事実だから。
「ならももと、同じだけ過ごしてみて……それから出る答えでも遅くはないと思う。」
「梨沙子。」
にこりと梨沙子が笑う。
幸せだと梨沙子がその口で言う。
ならばもう愛理には見守るしかできることはない。
彼女の人生、彼女の価値観。彼女の住む世界。
彼女は彼女で、だからこそ梨沙子なのだから。
―彼女―終
- 636 名前:メン後 投稿日:2009/09/27(日) 23:30
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- 637 名前:メン後 投稿日:2009/09/27(日) 23:34
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物凄く、蛇足な気もしますが完結です。
りしゃももは長く続いて意味を成す二人のような気がしてます。
りしゃみやが最初から、それこそ王道にくっつく二人なら。
りしゃももは自分たちで作ってやっとくっ付く二人だと思ってますw
なので、これから先二人が関係を続けていくことで何よりも強い二人になるんじゃないかと……
そんなキモイことを考えとりますw
ではまたの機会があったらお会いしましょう。
妄想は限りなく降って来るので。
どこかで見つけたら暇つぶしにでも読んでやってください。
メン後でした。
- 638 名前:メン後 投稿日:2009/09/27(日) 23:34
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- 639 名前:メン後 投稿日:2009/09/27(日) 23:34
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終了
- 640 名前:メン後 投稿日:2009/09/27(日) 23:34
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あげ
- 641 名前:名無し飼育 投稿日:2009/09/28(月) 10:49
- 完結おめでとうございます!!
お疲れ様でした!
もっと番外編を期待しちゃう終わり方だー!
と思ってます^^
りしゃみや、りしゃもも大好物です♪
りーちゃんが幸せならステキです^^
彼女達をもっと読みたいです(まだ言うかw
- 642 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/29(火) 00:10
- 完結おめでとうございます。
ここの人って、みんながクールというか、ツンデレ系というか・・・
あっ、舞美は別ね。
りしゃあいりがエピローグなら、やじうめとももさきの番外編を期待しちゃいます。
- 643 名前:メン後サンファン 投稿日:2009/10/10(土) 02:10
- 完結…してしまいましたか…
これからの楽しみが減っちゃいます。。
いつかこの物語の梨沙子の1番が桃子になることを祈ってます。
なんて私はりしゃみや派なんですけどねw
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