ミス・インディペンデント〜MISS INDEPENDENT〜
1 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/24(水) 21:33
初めて小説書きます。
ふつつか者ですが、よろしくお願いします。

いしよしです。
2 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/24(水) 21:34
なんとなく気になって

つい、見てしまう……

そんな人がいる。


さかのぼること1か月前、放課後になってもまだウダウダと教室で
無駄話を続けていた。
いい加減くたびれた私はフッと外に目をやると
テニス部たちが目に入った。
3 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/24(水) 21:34
スカート短けぇなー。ってかスカートって言わないんだっけか!?
ま、なんだっていいけどぉ。それにしても
よくもまぁ、こんな時間までやってられるねぇ、ご立派ご立派。
おや?ひと際黒い人がいんなー。私と並んだらこりゃオセロだね。
アハハの歯。


「ちょっと〜、聞いてんの?よっちゃん!?」
しまった。全然聞いてなかったヤべー。
「ゴメン、ゴメンっ。なんの話だったけか??」
4 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/24(水) 21:35
ただなんとなく眺めてただけなんだ。
誰かを見ていたわけじゃない。
そう、ただなんとなく……。
5 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/24(水) 21:37
「よっちゃん、おっはよー♪」
「あぁ、なんだミキティか。おはようさん、。」
「なんだはないっしょー!?なんだー、すでに夏バテかぁ!?」
「夏バテの原因はおまえだ。暑苦しいからくっつくなー。」

「……花火大会とか行きたいねぇ。」
「何?突然。ってか背中から降りてくんないかね、藤本君よ。」
「実はさぁ、最近気になってる子がいんのよー。ムフフ。」
「へー。」
「へー。ってさぁ、もっと他に何かないわけ!?どんな子?とかさっ。」
「どんな子なんですかー」(棒読み)
「あんたさぁ、もうちょっと私に興味あってもいいんじゃね!?」
6 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/24(水) 21:38
そんなくだらないやり取りをしてる時だった。

『梨華ちゃん、おはよー』


パッ


なんか今、目が合ったような気が。
ん〜、気のせいか、どのみち逸らしてしまったし。
名前、梨華ってんだ……。
7 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/24(水) 21:38
「2-A 石川 梨華かぁ。」
「!?…ミキティ知ってんの?」
「や、知らんけど。」
「じゃあ、何で名前……」
「げた箱―――。」

そう言って彼女はそれを指さした。
8 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/24(水) 21:39
キーンコーンカーンコーン。

「ねねねね、よっちゃんさん。」
「ダメー。私は今から寝るんだ。、昨日タモリ倶楽部見たから寝不足なんだってば。」
「好きだねー、タモリ倶楽部。ってか、授業中もたんまり寝てたじゃーん。
 休み時間ぐらい相手してよぅ。」
「うるへー。あっちいってろ。」
「今日の朝さ、梨華って呼ばれてた子かわいくね?」

ガバッッッ!!

「……今、なんかすごい風圧感じた。」
「……。」
「そうそう、この頃こっち見てる気がすんのよぅ。」
「誰が?」
「だーかーら、あの梨華って子さぁ。あっ、ほら外見てみなっ!
 今あそこのベンチに座ってる!!」
「……」
「あ、またこっち見たー。」
「気のせいじゃね?」
「吉澤さん、朝言った事を覚えてらっしゃる?何を隠そう、あの子なんだよねー。」

まさか。

「私の気になってる子。その名は石川梨華ちゃーん♪」
9 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/24(水) 21:40
「……夏バテでやられたのアンタの方じゃねーの?」
「ぐふふっ。ロマンティック浮かれモード♪
史上最大の恋が始まりそう〜〜♪」
「ちょっ、ちょっとー、ウゼーし。歌いだすんだったら余所いってよっ。
  大体だ、アンタの事見てるかどうかも定かじゃないのに
 よくもまぁ、そんな浮かれられんね。」
「わからんよ〜賭ける?百万円??」
「くだらん…。寝る。」
「チッ、つれない奴よのぅ、よっちゃんさんは。」
10 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/24(水) 21:41
なんなんだろう。このモヤモヤした感じ……。
ミキティはいつだってこんな調子だし、これまでだって
彼女の恋バナは散々聞いてきたのに。
今日はやけに気分が優れない。
いやいや、昨日の深夜に見たタモリ倶楽部のせいだ。
くそっ、こんなことならちゃんと早く寝りゃよかった。
11 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/24(水) 21:41
キーンコーンカーンコーン


やけに今日は長く感じた。
さっさと家に帰ろう。
と思ったらガッシリ腕を掴まれた。

「コラ〜、掃除当番〜!サボる気か!!」

中澤先生に捕まってしまった。ぐぬぅぅ。
「あんたの担当は裏庭や!!」
「えー!?ってかあんなとこ掃除必要あんのかよ!?」
ゲンコーツ!!
「……うぅ、痛い。このご時世で体罰とは…。」
「グダグダ言うてらんとサッサと掃除してこーい!!」
「うへっ。」



スタコラ〜。
12 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/24(水) 21:43
「こんなとこホントに今まで掃除してたのかよー?」

雑草が生い茂る中、ゴミが散乱しまくっていた。
こんにゃろめー、ポイ捨て反対―――!!って中澤のやろう、
ぜってーこれは奴の嫌がらせに違いあるまい!!くそっ!くっそー!!

「吉澤さん」

はて?なんか呼ばれたような?

「吉澤さん」

「あっ。」
振り返るとそこに彼女がいたーーーー。

「えっと……。」
「私、2-Aの松浦亜弥でーっす!」
「あぁ、どうも?。」
「吉澤さんって最寄り駅『網無須』じゃない?」
「えっ?あぁそうだけど。」
「やっぱりー!私もそうなんだっ。駅前のファミマでよく見かける(笑)」
「マジで?」
「亜弥ちゃん、私先行くね。」
「あっ、ごめん、ごめん梨華ちゃん。
今からテニス部の練習なんだぁ。じゃあ、またね、吉澤さん♪」
「ん。」


去り際、また彼女と目が合ったような気がした。
声、高けーな。って思った。

13 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/24(水) 21:53
すんません。実はワタシがいしよしLOVEだったのって
かれこれ5年ほど前なんです。
ですが、最近例のチュー画像と動画を見てしまって
いしよし再熱してしまいました。
こんな唐突の勢いで書き出してしまったのですが
ぼちぼち更新できれば、と思っとります。
14 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/24(水) 21:54
あ、ちなみに今日はここまでです。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/25(木) 00:32
頑張ってください。
続き楽しみにしてます。
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/26(金) 00:19
楽しみにします。
17 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/26(金) 22:46
>>15 有難うございます。
  とても励みになります。

>>16 有難うございます。


では、更新します。
18 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/26(金) 22:47

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どのくらいそこにいたんだろうか。
私はいつになく真面目に裏庭の掃除をしていた。
いつもなら適当にやって、すぐにその場から離れてしまっていただろうに。


テニス部のかけ声が聞こえる。
掃除をしながら横目でテニスコートを眺めた。
石川さんはとても真剣に、また凄く楽しそうにテニスの練習をしていた。


19 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/26(金) 22:48

♪♪She got her own thing〜
  That’s why I love her
 Miss independent
 Won’t you came and spend a little time〜♪♪


あ、メールだ。

『From:ミキティ
 Sub :おい!
  
    どこにいる〜!?』

へーへー。君はそんなに私が好きかっ、と。

『To:ミキティ
 Sub :どこにいるって

   今、裏庭で掃除中。』

ポチっとな。送信。
20 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/26(金) 22:52

ほどなくして奴はやってきた。

「あー!、いたいたぁ!探したんだからさー!
 なんだってこんなとこにいんのよー!?」
「いや、だから掃除中。その足どけてくれる?ゴミ踏んづけてっから。」
「はぁ!?マジで真面目に掃除しちゃってんのぉ!?」
「何を言う。いつだって私は真面目だっちゅーに。」
「えー!?だっていつも裕ちゃんの目盗んでとんずらこいてたじゃん!」
「あたしゃ改心したんだよ。」
「ふーん。まぁ、なんだっていいけどぉ。
ほらほらっ、さっさと終わらせてカラオケ行こっ!」
「だったら手伝ってよ…。」
「えー!ミキ掃除当番じゃないしー!」



21 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/26(金) 22:53
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「何!?このゴミゴミゴミーっ!!!減らないじゃん!
どっかから湧いてんじゃねーのぉ!?」
「マジで……。さすがに疲れた。腰イテーし。」
「そもそも、この裏庭って3年のたまり場なんだから
 奴らにやりゃせりゃいーんだよ!」
「んだんだ。」
「……。」
「…どーしたぁ?さすがのミキ様も声も出ないくらい疲れたかぁ?(笑)」
「…この裏庭ってテニスコートの隣だったんだねー。」
「はっ?今気づいたわけ?おっせ。」
「わわわわっ♪あれ!!石川さんじゃん!!テニス部だったんだ!
 やーん、超カワイー♪スコート超似合ってる♪♪」
「あんたねー、さっさと終わらせてカラオケ行くんじゃなかったの?」
「石川さーーーーーーんっ!!!!」
「 !!!!!! 」
「いっしかわさぁ〜〜〜ん♪」
「!!ちょっ、あんた何やってんのっ!?」
「へっ?何って?いーじゃん、いいじゃーん。これを機にお近づきに♪」
22 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/26(金) 22:54
「どんな機だよ!?意味わかんーーーーーーー」
「りぃーーかぁーーちゃ〜〜〜っっん♪」
私の言葉を遮ってフェンスをガッションガッション揺らしながら
ミキティは石川さんの名を呼び続けた。

「あっ!気づいた。うへへ、こっち見たよ。」
「ホント、いい加減にしなよ!そんなけ騒げば誰でも気付くってのっ!
 ってか、向こうは練習中なのに迷惑だろうがっ!!」
「見て見て!梨華ちゃん顔超まっ赤だよ〜、
さてはこのミキ様に惚れたな!?きゃわいいぃ!」
「…明らか恥ずかしがってる、って言うか困惑顔してんじゃん!」
「はぁ〜、シャイなとこもまたよろし。」
ガシッッ!
「な、あにすんだよー!?」
「あっ、すんませーーん!気にしないで練習続けちゃって下さい!」
私はミキティの襟首を掴んでその場から逃げた。


23 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/26(金) 22:55
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ズンズンズン
「…ねぇ、どこまで連れてく気?」
ズンズンズン
「ねぇってばっ。」
ピタッ。
「ふぅ〜。やっと解放されたぁ。なーに?どうしたってのさ?」
「どうしたもこうしたもねーよ!こっちが聞きたいね!」
「練習って何時に終わんのかな??」
「…人の話を聞けよ。」
「テニス部の練習終わるまでガッコに残っとこうかなぁ〜?」
「カラオケはよ?」
「決めた!私テニス部の練習終わるまで待―っとこぉ。」
「待ってどうすんの?」
「えー?梨華ちゃんとまずはお友達になろっかな?って。」
「……あんなことして…避けられんじゃねー?逆に。」
「そんなことないって!ほら、言ったじゃん!
この頃よくこっち見てるって!」
24 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/26(金) 22:56
「だからー、あんたを見てたわけじゃないんじゃないのー?
 気のせいだって。」
「そんなのわっかんないじゃん!?
マジで私狙いだったらどーする!?」
「いや、ないし。」
「何故そう言い切れる!?マジで賭けろ百万!」
「……好きにすればー?私は帰るよ。じゃーねー。」
「好きにするよーん。バイナラぁ、よっちゃーん。」


どうしてこの人はこんなにも熱しやすいのか。
一週間前までは石川の「い」の字も出てなかったくせに。
ほとほとあきれる。


気だるい気分の中私は学校を後にした。


25 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/26(金) 23:09
今日はここまでです。
石川さんまだ一言しかしゃべってないですw

26 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/27(土) 03:22
ミキティ強引ですねぇw
27 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:22
>>26

かなりの強引キャラになってしまいましたw
その後もまだまだ彼女は突っ走りますw



では、更新します。
28 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:24


―――翌朝―――



梅雨特有のジメジメ感、生暖かい風。
「…暑い…。」
足取り重く登校する。


昨日と変わらず気だるい感じが体から抜けない。
朝ってのと、この蒸し暑さのせいでだろうけど。
・・・あ、いるよ〜。
人のテンションに反して満面の笑みで
げた箱前に立ちふさがる奴が・・・。


29 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:24

「どいたどいたー。靴を履き替えさせろー。」
「ニヤニヤ」
「…なんなんすか?」
無言の笑みで添えた両手をグイグイあたしに押し付けてくる。
「百万円。」
「は?」
「は?じゃないっての。賭けたでしょうが。」
「・・・。」
「昨日、あれからマジで練習終わるまで梨華ちゃんのこと待ってたわけ、」
「…そう。」
「で、意外とあっさり一緒に帰ることになってさー。」
「はぁ。」
「帰り道にメルアドと携番交換して…」
「……。」
「その夜、電話で告ったらオッケーだって!ヒャッホウッ!」
「・・・・・頭、強打した?」
「ミキは正常っ!!ちみちみー、潔く認めたもー。ほれっ、百万よこせっ。」


30 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:25



「藤本さん、おはよ。」

「お、おはようっ梨華ちゃん!!昨日は突然でごめんね〜。」
「フフっ。別に謝らなくていいのに。」
「アハッ。そだよねー。謝ることじゃないかっ。
あ、今日も部活って昨日と同じくらいの時間に終わりそう?」
「そだねー。いつも終わるのあれくらいの時間だよ。」
「よしっ!じゃあ今日も待ってるね。一緒に帰ろっ。」
「遅くなっちゃうよ?いいの?」
「いいの、いいのー。ねぇ?よっちゃんさん?ニヒヒ。」
「…」
「あ、コヤツは吉澤ひとみっての。ミキはよっちゃんさんって呼んでるけど
 ま、好きなように呼んでやって。愛想はないけど悪い奴ではないからっ。」

「あたし、石川梨華です。」

そういって、彼女はペコッと軽く頭をさげた。
ペコ。
それにつられて、あたしも頭を下げた。


31 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:26


・・・
・・・・・・。
ってか、まじでか!?



32 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:27


「かわいー。ほっっんと、かわいーわ〜、梨華ちゃんっ。」
「急だよね。」
「何が?」
「告白とか。」
「思い立ったが吉日よー!現に告ってオッケーもらったんだしぃ。」
「…お幸せに。」




33 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:28


―――であるからして、3+14=17人の中から四人を選ぶ時の組み合わせは
17C4=2380通りで……。―――



何でミキティがいきなり告ったのオッケーしたんだろう?

(この頃こっち見てる気がすんのよぅ。)
(あ、またこっち見たー。)

…あー… 
あれはマジでミキティのこと見てたのかぁ??
へー…しかし何でまた。いや、何でまたってことはないか。
ま、こんなことってタイミングっていうしなー。
タイミングというよりは、ただのゴリ押しのような気もするけど。
でもオーケーしたことは紛れもない事実で…。

34 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:29

キーンコーンカーンコーン

「―――やぞ〜!今日やったココっ!絶対期末出すからなぁっ!」

あり?

いつのまにか授業が終わっていた。
あたし今日一日何してたんだか?記憶が、ない。
あ、中澤センセがこっちに向かってくる。

「吉澤ぁ、おまえまた掃除せんと帰ろうとしてんねやろぉ!?
 そうはいかんぞ〜。」
相変わらずドスのきいた声。
「わかってますって。全然逃げないっ!掃除大好きっ!いってきまーす!!」

意外にもあっさりあたしが引き下がったからか
中澤先生はポカーンとなっていた。



何でだろ?不思議と嫌じゃない。
むしろ裏庭までの足取りは軽かった。



35 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:30



「アハっ。今日も裏庭掃除してんの?真面目だね、吉澤さん。
 なんかイメージと違うかもぉ。」
「ちょっと、どーいうイメージだっつーの。」
「怒った?ニャハハ。」
「ニャハハって。」

石川さん……はまだコートに来てないっぽかった。
と、そう思った時、昨日、松浦と名乗った子が私に気付いたらしく
話かけてきた。


「あ、聞いたよ〜。吉澤さんの友達の藤本さんと
 うちの梨華ちゃん付き合うことになったんだって?」
「あ〜、みたいだね。」
「ふふっ。あの二人お似合いだよね〜、ね?」
「だね。」
「今日も部活終わったら一緒に帰るって言ってたよー。おあついよねー。」
「…。」
「…?吉澤さーん?」
「えぇ?あぁ、そういやアイツ朝なんかそんなこと言ってたなーって。
 いやー、確かにアツいやねー。それでなくても暑いってのに。
 いい迷惑な二人だよ全く、ハハハっ。」
「…吉澤さんはそういう人いないの?」
「へ?」
「付き合ってる人、とかいないの?」
「いないよー。」
「うっそー!意外ぃ!」
「…ねぇ、一体あたしのこと、どういう風にみてんの?」
「だってだってぇ、超人気あんだよ!吉澤さんっ。
 テニス部の子たちもそうだけど、あたしのクラスってか、他のクラスにも
 何人か吉澤さんの事好きって子多いしぃ。」
36 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:32

へ〜。って、あたしも知らないわけではなかったけど
なにせ、その噂聞いたのがミキティからだったから
イマイチ信じてなかったんだよねー。

「あたし、だいぶとモテてんねー。」
「そだよー。ちなみにあたしもそのうちの一人〜……」
『よぉーーーっちゃーーーーんっさぁーーーーーーんっ!!!』
ミキティだ。怒涛の勢いでこっちに向って走ってくる。
今の大声のせいで松浦さん何て言ったか聞こえなかったじゃん。
「梨華ちゃん見送ってきた♪」
「練習行くだけなのに大袈裟だねー。」
「…よっちゃんさん、こちらは?」
あ、そかそか。ミキティは松浦さんのこと知らないんだった。
「あ、あたし松浦亜弥っていいまーす。」
「ああっ!あんたが梨華ちゃんの友達のー!?どもー藤本美貴でーす。
ってか、何?よっちゃん亜弥ちゃんと友達だったの?」
「いや、友達っていうか、昨日知ったってか…」
「あ、梨華ちゃーんっ!!」
聞いてないし…。
ミキティはコートに入ってきた石川さんにブンブンと手を振っている。
それに気がついた石川さんがパタパタと私たちの方に向ってやってきた
37 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:33

「アハっ、フェンス越しに集まってなにやってんの??」
「あ!そうだ!二人の部活終わったら四人でカラオケいこうよっ!
 梨華ちゃん、亜弥ちゃん、どう?大丈夫?」
「ホント、藤本さんって突然だね。」
そういって彼女は微笑む。
「いくいくー!!」
「おっ!ノリがいいねー、亜弥ちゃん!じゃ、決定で!!」
「あたしは……」
「じゃっ、二人とも練習頑張ってねー!ここから応援してるよー!」
ありがとー、と言いながら二人は部員たちの方へ戻っていった。


ガシッ、とミキティに肩を組まれて
「昨日カラオケいけなかったじゃん?だから今日はそのお詫び。」
彼女はそう言ってニカっと笑った。




38 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:35
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「「「「かんぱーいっ!!」」」」

彼女たちの部活が終わってカラオケにやってきた。
制服なので残念ながらソフトドリンク。
あーあ、よっちゃん何だか今日は一杯やりたい気分なのに。
向い側のソファーには、何歌うー?アハハー。とかいいながら二人が戯れてる。
あたしのとなりにはもちろん松浦さん。だってあたしは吉澤さん。
石川さんと横並びになんてならない。
39 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:35

「やっぱ仲いいよねっ、あの二人っ。」
「そう…ね。」
「実は梨華ちゃんも藤本さんのこと超気にいってて
 今日の休み時間とかノロケっぱなしっ。」
「……そ、そーなんだぁ…。」
「うん♪」

あぁ、やっぱり。ずっとミキティのことが好きだったわけね。
そりゃこっち見てるはずだわ。へー。
ミキティが何かシャウトしながら歌い始めたけど
何か全然耳に入ってこない。

「吉澤さんっ。」

あっ。なんか意識とんでた。
松浦さんが何か言ってるけど歌で全然聞こえない。
あたしは彼女に耳を近付けた。

「あたしもーっ、吉澤さんとあの二人みたいになりたいっ。」
「へ。」
「好きっっ!!」
「え。」





40 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:37
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「やはは。歌いきったよー!気持ちいいー!
 ほら、よっちゃんさんも早くなんか曲入れなよーっ、て、
 あっれーーーっ!?何!?なんなの!?何で手ぇつないでんのー!?
 あんたたち、いつの間にーーーーー!?」

気付いたら松浦さんはあたしと手をつないでいた。
「やぁだぁー!いちいちツッこまないでよー♪はずかしーぃ!!、
 ねぇ、よっすぃ♪」
「…。」

そう、あたしはよっすぃ。

「梨華ちゃん!!うちらもつなぐ!?」
「えっ!?」
「ってか、もうつないじゃったー♪」
「梨華ちゃんはシャイだかんねー。藤本さん、そんな感じで
 ガンガンいっちゃってね!」
「ダハハっ。任しとけー!!」


くるしい。


「あ、写真とろー!よっしゃあ!先にそちらのアツアツカップルから
 撮ってやるぜ〜!!」
「やったぁー!ほらほら笑ってよー!よっすぃ〜!ピースピースっ」
「ほらぁ〜!!よっちゃんもっと亜弥ちゃんと寄り添えーーい!!」
「もぉーん、照れ屋さんなんだからぁ!!」


つぶれる。



41 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:38

ミキティと松浦さんは散々歌いたおした。
ってか、ほぼその二人のオンステージだった。
あたしも歌ったけど何歌ったか思いだせない。
石川さんはあゆとか歌ってた。
歌声ももちろん高かった。

42 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:39

「じゃーねー。」

あたしと松浦さん、ミキティと石川さん。
帰りの方面まで見事にセットになっていた。
石川さんと全くご縁が感じられない。
…でも何でだろう。
カラオケの時も何回か石川さんと視線がぶつかった…。
気のせいなんかじゃない。ただ目が合うのとは違うんだ。
何か感じるんだ。
って、自分でいっておきながら何を感じとってんのか
正体不明なんだけど……。


「今日はすごい楽しかったぁ。帰ったらメールしていい?」
「うん。」
「それじゃ、また明日ねっ。」
「バイバイ。」


松浦さんとは降りる駅は一緒だけど
家はお互い全く逆の方向だったので
私たちは駅前で別れた。

43 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:39
---------------------------------------------------------

家路に帰る途中、石川さんのことを思い出していた。

(何飲む?あたし注文するけど?)
(じゃあ、ウーロン茶。)

カラオケで交わした会話は以上。
…これは会話とは言わんだろぅ…。
ミキティとどんな話してんのかな?
なんかカラオケん時は結構笑ってたけど。
どんなことでウケたりすんだろ?
笑った顔、かわいかったな……。
44 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:40

♪♪She got her own thing〜
  That’s why I love her
 Miss independent
 Won’t you came and spend a little time〜♪♪

おうっ!!びっくったぁ〜。完全気ぃ抜いてた。
亜弥ちゃんからかな?



『From:ミキティ
 Sub :りかちゃんと
  
     チューしちゃった☆ (^0^) 』



ズボッッッッ!!




あたしはドブに落っこちた。







45 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:41
---------------------------------------------------------


昨日、ドブに落ちたことにより挫いてしまった足が
パンパンに腫れ出したので朝は病院に行った。
そのまま休んでやろうかと思ったけど
付き添った母親に一喝されて午後登校を余儀なくされた。
46 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:41


「おそようー、よっちゃん。」
「おそよう。」
「あれ?何?その足どったの?」
「…昨日帰り途中にドブに落っこちて足挫いた。」
「だはー、だっせぇ。さては亜弥ちゃんのこと考えながら
 歩いてたんでしょー??」
あ、松浦さんにメール返すの忘れてた。
あのドブに落ちたすぐ後くらいにきてたんだけど
それどころじゃなくて。

「ところで、メール見てくれた?」

そうだ。コイツは…昨日…。

「見たよ。」
「ちょっとー!だったら返信してよ!」
「だから、ドブに落っこちて昨日はメールどころじゃ…。」
「まぁ、いいや。でねでね、昨日あれから電車乗ったら超混んでて」
「うんうん。」
「ほら、加護駅と辻駅の急カーブんとこでさ超揺れてさっ!」
「…」
「そしたら体勢くずれちゃって、んで、そん時にチュッって」
「…」
「おでこにだけどねー。」
47 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:43

……。なんだ、おでこか。
って、おいおい、何安心してんだよ。
友達の彼女だっての。
そう。あたしは吉澤ひとみ。
ミキティじゃない。
彼女はあたしを必要としてない。

48 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:44
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ミキティが石川さんとチューしただの、あたしがドブに落っこちただの
期末テストだのーーー
と、その間に石川さんとちょいちょい話すようになった。
あくまでミキティありきなんだけど…。
で間もなく一週間が過ぎようとしてた。


その日はテニス部が休みとかでまた四人一緒に帰ることになり
げた箱んとこで待ち合わせた。。

「あ、携帯わすれた。」
「どんくさー!!ほら、ダッシュでとりにいきな!」
「足、まだ完全じゃねーもん。ダッシュとか無理。」


「よっちゃんって、クールに見えてぬけ作なんだよねぇ。」
「そのギャップがまたいいんじゃんっ。」
「そういや梨華ちゃんは?。」
「日直当番だかんねぇー、職員室寄んなきゃとかで、もうちょっとかかるんじゃない?」
「そっかー。」



49 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:44
---------------------------------------------------------

「あーった。あたしとしたことが。」

体育の時間に着替えたジャージのポッケに携帯入れて
そのままだったのだ。

「ふー。」


「…。」


50 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:45
…あ、まただ。この感じ。



なんとなく気になって何故か

つい、見てしまう……。

正体不明のあの感じ。

その時はっきりと気付いたんだ。

居る。




石川さんが居るのを感じてて

だから

見てた

ずっと


教室のドア前を彼女が横切ろうとして立ち止まる。

「あれ?どうしたのー吉澤さん?」
「……」
「藤本さんたちと一緒にいかなかったの?」
「……」
「?」


『あたし、石川さんのことが好きみたい。』



51 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 00:46


自分で自分の発した言葉に吃驚した。でも。

「…っ」

彼女が何かを言おうとした次の瞬間
あたしは手を強引にとり
石川さんを抱きしめた。



石川さんが好きだ。
どうしよう。止められない。



初めは強張ってた彼女の腕が
そっと自分の背中にまわった。


ぎゅ…



―このまま溶けてなくなるんじゃないか?
 激しい鼓動と同時に安らぎと、この言葉では
 表現できない心地よさ。
 いつまでもこうしていたい。





52 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/09/29(月) 01:04
本日はここまでです。
53 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/29(月) 10:04
急展開ですね!
今後どうなるのか楽しみにしています♪
54 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/29(月) 23:41
良い所でこの後の展開めっちゃ気になって眠れそうにありません。
どうしても止められない想いってありますよね。
55 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:07

こんばんは。更新します。
56 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:08

「この夏休みは4人でダブルデートしようっ!!」
「いいっ!!それいいっ!!」
「バーベキューとかぁ、あっ!花火大会!!」
「花火大会はよっすぃと二人きりがいいぃ〜。」
「いうねー。ニヒヒ。」



57 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:09



「…おそいねー、よっすぃ〜。」
「梨華ちゃんもー。」
「ひょっとしてホントにダッシュして足また悪化したんじゃ…。」
「心配しすぎじゃね?。」
「あたし向かえにいってくる!」
「えー!?じゃあ、ミキもいくよー。」



58 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:09



「あー階段しんどー。亜弥ちゃん早いよ、待ってよ〜。」
「ほらほら、しっかりしてよー。
あぁっ、よっすぃ教室で倒れてたりしたらどうしよっ?」
「はぁ!?どうせトイレ行ってたーっとか、そんなオチじゃない!?
そんでもって大の方ねっ。ニヒヒ。」
「アハハっ。ちょっとー、そんなこと言わないのぉ。」
「きゃははは。ぜってー今頃キバってんなーワハハ」
「ニャハハッ。って、もうっ、とにかく先教室いくよっ。」


ガラララッッ




「あ、あんたら・・・!?」

59 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:10
-----------------------------------------------------------


あたしは彼女を抱きしめたまま離れられないでいる。


自分でも呆れる
もっと早くに気がついても良さそうなものを。



違う。

気付かないよう誤魔化してた。






石川さんは泣きそうな顔をしていた。


60 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:11
--------------------------------------------------------


ガラララッッ

「あ、あんたら・・・!?」


61 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:12


「!!」


ミキティと松浦さん……。


「…ちょ、どーして…―」
ミキティが言い終わる前に松浦さんが発狂した。
「なに!?ねぇっ、何してんのっ!?ねぇっっ!!!!?」

松浦さんが石川さんの肩を掴み
必死に問いただす。

「ねぇっ!!!!ねぇってばっ!!!!!」

バッ

振りかぶった松浦さんの掌が


バシーンッ!!
62 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:13


あたしの頬へ。



63 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:13



「…ごめん。」


「あたし 石川さんが好きだ……。」


「ごめん。」

「ごめん…ミキティ…」

「ごめん……。」



64 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:14


「うっ…ごめんなさい…」
「亜弥ちゃん、藤本さん…」
「ごめんなさい…」

「梨華ちゃん…」




65 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:15

「…ず」
「ずるいよっ。」
「ごめん、ごめんって二人して…」
「何なの!?ふざけないでよっ!」

「あ、亜弥ちゃっ…」

「藤本さんは黙ってってよ!!」

「…」

「謝られたらこっちはどーしよーもないじゃんっ!」
「ごめんなんてっ…」
「許して」
「にしか聞こえないっ!!」



「…そんなの許せるわけないじゃん!!」


ドゴッッッ!!!!!


「ふざけんなっ!!」



そう言って松浦さんは教室を飛び出して行ったーーー。
66 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:16
----------------------------------------------------------


ツゥーーーー。

鼻血がつたう。


「ぐぅ…、だったね…、最後。」
「……。」



痛い。



67 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:16
「……あたし」

「……あたしがもっと早く」
「吉澤さんのこと好きだって気づいてれば…」

「…亜弥ちゃんの相談乗るようになってから……」
「………吉澤さんのことずっと見てて…」

「…話すようになって…」


「ほんとにごめん…」
「なさい…」



「…そっ」
「かぁ…」


痛い



68 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:17


「…水臭いなー…よっちゃんも言ってくれればよかったのに…」

「……。」

「ほ〜らぁ、梨華ちゃんも泣かないでよ〜。」



痛い


殴られたとこがじゃない。


あたしがみんなを傷つけた。


あたしが…


馬鹿だ…。



69 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/02(木) 00:31
今夜はここまでです。

次回でラストになりそうです。


>53

ありがとうございます。
またまた急展開でした。
期待に添えるラストになるかどうか…。

>54

寝れない夜になってしまったなんて…すんません。
どうにも止まらない思い…
いしよしは常にそうあってほしいと思いますねw

70 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:04
こんにちは。更新します。
71 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:06



72 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:08
-----------------------------------------------------------

あれから、あたしは亜弥ちゃんに電話した。
でも出てくれなかった。
当然か。
自分でも電話したところで何を話すつもりでいたのか。
全部言い訳にしか聞こえないし。

ミキティは
あたしが何も言ってくれなかったことが悲しいと言い、
石川さんとは残念だけど、自分に気持が向いてないんじゃ
空しいだけだしーっと言って笑い飛ばしてた。


あたしは、
石川さんとはあれから一言も話さなくなった。
もちろん視線がぶつかることもない。


石川さんは
前みたいに松浦さんと一緒にいることはなくなった。
あたしがそうさせたんだ…



73 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:09
キーンコーンカーンコーン

「ぽーにょぽーにょぽにょさかなのこぉ〜」
「!」
「おっ。亜弥ちゃんヒサブリ。」
ギロッ
「うっ…あ、あぁ、そういやミキ、この前の期末さぁ
 奇跡的に赤点なかったのーラッキーハハハ。」
「…」

スタスタスター

「あ、ちょっと待ってっ。」

「何よ、ついてこないでよ。」






74 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:10
「…よっちゃんさ、ミキがいきなり梨華ちゃんに告ったもんだから
 遠慮してたんだと思うんだっ。」
「…」

「二人とも気にはなってたみたいなんだけどー」
「…」
「四人で話すようになって自分の気持ちに気付いたみたいでー」
「…」
「まぁ、ね、それまで接点なかったわけだし…。」
「何それ?何のフォロー?物わかりのいい大人気取りなわけ!?」
「いや、別にそういうわけじゃ…」
「お互い気になってた!?だったらなんで付き合ったりすんのよ!?」
「まぁ、色々あってのことだと思うよ〜。」
「色々って何よ!?」
「…色々はイロイロだよ。」
「…勢いだけで告った人は言うことが違うよね。あんなことがあっても
 よっすぃと一緒に居るし。信じらんない。どーせ、一人で怒ってる
 あたしのこと馬鹿にしてんでしょっ!」
「んなこと言ってないじゃ〜ん。」
「ふんっ!」
「あっ」

スタスタスターーーーーーーー・・・・・・・


「あ〜ぁ、…行っちゃった…。」

75 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:11


76 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:11



スタスタスタ


「わかってる…わかってるよ…。」



77 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:12




78 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:12

79 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:12

80 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:14
---------------------------------------------------------

『節度を守って、有意義な夏休みをーーーーー』



「ヒャッホウっ!あっしたから夏休みー!」
「追試もないし、今年はバイトでもすっかなー?」
「…ふーん。」
「何?あんだよ?」
「梨華ちゃんとはどうすんの?」
「…どーもしねーし。」

「嘘つき。」

「っ嘘なんか。だってあれから全然じゃべってねーし。
 ほら、むこうももうあたしとは関わりたくないんじゃん?」
「―なんか、さすがのミキもムカついてきた。」
「え?」
「そんないい加減な気持ちだったわけ!?ミキはあの時、本気で
よっちゃんが梨華ちゃんのこと好きなんだって、そう思ったのにっ!!」
「…もう誰も傷つけたくないんだよ……。」
「ばーか!少し一人で頭冷やせっ!!」

そういって、ミキティはいってしまった。一体どこにいくのか。
なんだ、なんなんだよっ、もうっ。

81 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:15
-----------------------------------------------------


終業式のあと、あたしはあの裏庭に来ていた。



82 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:16


フェンス越しにテニスコートを見る。

いないはずの石川さんが。

聞こえるはずのない彼女の声が。



確かにあたしは嘘つきだ。こうして彼女を想ってる。
でも

83 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:17

大丈夫。

大丈夫だ。

辛くったってこうして日々は流れてく。

何も考えなかったら時間なんてあっという間に過ぎて

気付いたら十年とか二十年とか経ってて

あーこんなこともあったねーなんっつてる間に

三十年、四十年、五十年…

そうして石川さんを好きなあたしは死ぬ。

だったら、捨ててしまえばいい。

こんな気持ち。こんな……

84 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:18


「吉澤さん…」

気付いたら、松浦さんが居た。

85 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:19
「…」
「ごめんね、梨華ちゃんじゃなくて。」
「…なんで」
「藤本さん怒ってたよ、バカーって。」
「あっ。あいつ松浦さんとこいたの?」
「最近すごい纏わりついてくんだけど?何なのあれ?」
「そうなの?…ご迷惑おかけして申し訳…」
「吉澤さんが悪いんだよ。」

「へ?」

「梨華ちゃんが悪い。」

「…?」

86 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:20
「あたし、よっすぃに好きになってもらえなかったことが
 悲しかったし許せなかった。」
「…」
「だから、ごめんって言ってるの、それ許したら
あたしのこと好きじゃないんだって認めることになる。」
「……」
「みんな嫌いになっちゃえばって思った…。」
「…」
「だから、あたしも少しは悪かったかなぁーって。」
「悪くないよ。あたしが全部悪いんだ。」
「そうやって内に溜め込むくせ治したら?」
「………。」

「ふぅ、あたしと梨華ちゃんのこと気にしてんだったら大丈夫だよ。」
「えっ?」
「…ちゃんと話したから。よっすぃのことが好きって、梨華ちゃんハッキリ言ってたよ。
 あたしとしては、ごめんよりも先にそっちが聞きたかったけど。」
87 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:21

あたしは
88 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:21
あたしは・・・
89 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:21

アホだ。
90 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:22



アホすぎる。


あたしなんて自分の気持ちに嘘ついて無理矢理忘れようとしてたのに。


91 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:22

「石川さんどこにいんの!?」
「…さぁ?さっきまでは教室だったけど?」
「わかった!!ゴメンっ、松浦さん、あたし行くわっ!
ありがとう!じゃっ!!」
「じゃあね…。」


92 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:23

93 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:23

ヒョコッ

「行ったね、よっちゃん。」
「好きどうしなのに、変な二人だよね。」
「確かに。ミキだと考えられんけど。あのモタモタ感。」
「でも、心配でしかたないんでしょ?」
「それはお互い様でしょー?」
「どうだかー」


94 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:24

95 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:25
-----------------------------------------------------


忘れられるわけねーだろうっ。

こんなにも石川さんを感じるのに。

ほら、居る。確かに居る。

どこに居たって、私は石川さんを感じるんだ。

今も

だから……

だからもう一度いってもいいよね?


96 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:25



「石川さんっ・・・・!!」


97 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:26



こんなにも好きだってこと







―おわりー




98 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 14:33
終わりました。
初めて小説書きましたが、こんなに大変とは…(汗)
いしよしって言ってたのに、ほぼ絡むことなく
石川さんに至ってはセリフが無さすぎだと。
反省点がたくさんありますが、書き上げたことに満足してますw

最後までお付き合い頂いた方、コメントくれた方
本当にありがとうございました。


99 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/03(金) 22:52
完結お疲れさまです。
なんだか懐かしい匂いのするお話でした。

ところでスレの容量が460KB以上残ってますが、
続編か別のお話があると期待してもいいのでしょうか?
100 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/03(金) 23:53
>>99
読んで頂いて、有難うございます。
自分の場合どうしても初期の二人のイメージが強いのか
こんな感じになってしまうようです。
今のいしよしラッシュが信じられないw

次回は石川さん視点で、キャンパスものを、と
考えております。
もちろん"いしよし"で。
101 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/04(土) 03:16
良かったですよ。
次回も楽しみにしてます
102 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/08(水) 13:37
>>101さん
ありがとうございます。
それでは、只今より「You Got The Love」を
更新させてもらいます。
103 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:38
104 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/08(水) 13:40
石川 梨華 19歳 大学2回生

地味だった高校時代。
そんな自分は捨て、新しい自分に生まれ変わるのだ、と
これから始まる大学生活に
あたしはただならぬ意欲を燃やしていた。

105 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:41

化粧をし、オシャレをし、ダイエットだって頑張った。
自分で言うのもなんだけど、そこそこ可愛くなったと思う。
でも、なにか足りないことに気付く。
106 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:43
「梨華ちゃんって彼氏いないのー?」

大学で友達になった柴ちゃんに聞かれて
あたしはハッとした。

そうだ、彼氏だ。

彼氏をつくらなければっ。


それからというもの、あたしは合コンに明け暮れた。
107 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:44
しかしながらヒットゼロ。
なかなか、あたしのタイプの人が現れない。
108 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:45
前に
「梨華ちゃんのタイプってどんな人?」
と柴ちゃんに聞かれて、”白馬に乗った王子様”と言ったらドン引きされた。
さすがに馬に乗って現れろ、とは言わないけど。
でも、とりあえず一回は自分の頭の中で白タイツは穿かせてみる。
気持が悪くなって眩暈がすることがほとんどってのが現状だけどね。
109 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:46
それにしても、まったくもって恋心に発展しない。

こんなに自分は努力してるのに
なぜ、彼氏ができないのか!?っと
柴ちゃんに食ってかかったら
「まぁまぁ、落ち着いてよ、気晴らしに占いでも行く?」
と言うから、初めはあまり気乗りしなかったけど行くことにした。

柴ちゃんいわく、そこの占いはかなりの確率で当たるらしい。
行ってみて損はないんじゃない?と。
占いなんかに自分を左右されたくないのが本心だけど
今から思えば、その時は藁にもすがる思いだったのかも、って大袈裟すぎ??
110 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:47
古びた雑居ビルにそれはあった。


「じゃ、そこに自分の名前、生年月日、書いてちょうだい。」
「はぁ」
チャイナドレスを着た占い師に促されるまま
あたしは指示に従った。
「はい。書けました。」
「では・・・。―――う〜ん・・・う〜ん・・・」
そう言いながら占い師は白目をむき背中を海老反っている。
う、胡散臭さ満載なんですけど。

「はぁぁぁぁぁ。」
「…」
「あなた、の出会いは来年。2,3,4月に集中しています。」
「はい…」
「なので、今言った月に誘われた合コン、友人の紹介など、
 そういったお話がある場合は必ず顔を出してください。」
「はい!!」
「この時期に出会った人とは今後、一生の付き合いとなると出ています。」
「ホ、ホントですか!?運命の人ってこと!?」
「それはあなた次第。」
111 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:48

そりゃーもう
年が明けてからのあたしは凄かったと思う。
1月はさておき、2月3月。
あたしのスケジュール帳に合コンなり、そういった類のことを
書いてない日はほとんどなかった。


しかし


惨敗。


心惹かれる人なんて現れなかった。

酔った勢いで絡みついてくるは、一人暮らしとわかったとたんに
人の家でゆっくり話がしたいだとか。下心丸見え。

違う。

そんなガツガツしたの求めてないからっ!!

112 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:49
結局ろくな人が現れぬまま四月に突入。

しょせん占いだったと、半ばあきらめモードで参加したのが、この新歓コンパ。
現在に至る。
113 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:50

ハイっ、パーリラパリラパーリラピーピー
パーリラパリラ オフジョイトイっ♪


50人以上が集まる中、場はどんどん盛り上がっていくけど
あたしのテンションは下がる一方。
しかも何のサークルなのかもわかんない。
あーぁ、やっぱダメだぁ。王子様なんていないのね…。
なんかもう帰りたくなってきちゃったぁ。

と、思ってたら一人の女の子があたしにお酌しにきた。

「あたし、よしざぁ ひとみっていぃます。よろひくおねがいしまーす。」
一回生の子?だよね?はは、酔ってるね、だいぶ。
「あたしは石川 梨花、ヨロシク。」
ふふふ、今何かあたしお姉さんっぽかった?なんてねー。

「おーいい!吉澤ぁ〜こっちーきて飲め〜っ!」
「はぁ〜い。」
114 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:51
あらら、行っちゃった。
新入生ってのも大変だね、飲まされて。可哀そうに。
でも、あの子すごい綺麗な顔してたなぁ。きっと高校とかでもモテてたんだろうなぁ。
115 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:52
「りーかーちゃんっ、いい人いた!?」
柴ちゃんが少し赤い顔であたしに愚問をする。
「いなーい。さっき、ケーバン聞いてきた人いたけど、
今は壊れてないって言って断った。」
「なんでかなー?とりあえず交換して、様子見りゃいいじゃん?」
「とりあえずなんかいらないのっ!」
「またぁ、そうやって切り捨てる。後日二人で遊んだりしたら
 また違った印象かもしんないし?それがダメでもまたその人の友達とかさぁ。」
「だってぇ、めんどくさいんだもん。好きでもない人と
 メールとかさぁ。特に聞きたいことも報告したいこともないし。」
「ご飯いくのもダメなのぉ?」
「なんか、途中でしんどくなってくるんだ。あたし何でこの人と一緒にいるの?って。」
「…こりゃやっぱ当分彼氏は出来そうにないねぇ。」
「うぅ。」
その後、あたしは柴ちゃんから、許容範囲が狭すぎるだの、
そんな理想の男なんていやしないだの、少しは妥協が必要だの
白タイツなんて論外だの、散々ダメ出しを食らった。


結局、本日も収穫なし。運命の人いずこ。


116 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:54
--------------------------------------------------------

「あ〜、疲れたぁー。」

バフッ。

ベットに倒れこむ。

王子様・・・いないのかなぁ・・・

そのままあたしは動けなくなって、いつの間にか眠ってしまっていた。



117 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:54



・・・・・

一面に広がるお花畑。淡いピンク色の空。
そこに気の抜けるような音が流れ込む。

((ぺーぺーぽーぺーぺぽぽー・・・))
((いしかわさぁーん、おーい、いしかわさぁーん))

声のする方を見てみるとそこには
焼酎片手に白タイツを履いた王子様姿の吉澤って子が
遊園地にあるパンダの乗り物に乗って
あたしに向ってくる。
118 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:55

((いしかわさーん、いしかわさーん))

・・・・・

119 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:56

「………」



120 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:56
変な夢。
何?なんであんな夢みたんだろー?おっかしいの。
でも、やたら白タイツが似合ってた吉澤って子のこと思い出してたら
笑いが込み上げてきた。しかも片手に焼酎って。ククク。

その日の朝、あたしは今朝見た夢を思い出しては
今にも笑い出しそうで非常に困った。
駅までの道も、電車の中でも、大学までのバスの中でも
ニヤニヤしてたと思う。

案の定、大学の講義を受けてても
あの夢を思い出してしまい、ニヤニヤしてたら
ついに柴ちゃんにツッこまれた。
121 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:58
「なんかイイことあった?」
「へっ?」
「超楽しそうなんですけど?」
「いや、あのさぁ変な夢見ちゃって」
「へぇ。」
「昨日の新歓コンパにいた、吉澤って子覚えてる?」
「あぁ、あの目のクリっとした色白の子?」
「あの子がさ、クククっ、白タイツはいてさぁ」
「なんであの子が白タイツ着てんのよ?」
「王子様のかっこして、ほら、遊園地とかによくあるパンダの乗り物あるじゃん?
 あれにまたがって、焼酎片手にもってやってくんの〜」

「梨華ちゃんまだお酒ぬけてない?」
「それが妙に似合ってて笑えるんだぁ、ククク」
「…へぇ。それって面白いの?」
「え?なんで?おっかしいじゃん?バカみたいでさぁ。」

「ふーん。ま、いいや。それより、今日また合コンあるんだけど
 梨華ちゃん来ない?一人足りないんだぁ〜。」
「ごめーん。今日バイトなんだ、ホントごめんっ!」
「マジでー!?今日かなりのメンツらしかったんだけどなー。」
「ホント?残念。でも今月厳しくって。真面目に働かないと…」
「そか、梨華ちゃん実家じゃないしねー。」
「はぁぁ、タイミング悪いよ〜」

今日のお相手は某有名広告代理店勤務のメンズだったらしい。
学生と違って社会人ってのも惹かれるところよねっ。
あー、断って失敗したかなぁ?バイト休んででも行くべきだった?
でもホントに今月キツイし。親からの仕送りもまだ一週間以上ある。
ダメダメ、今日はちゃんとバイトにいかなきゃ。
122 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:59
バイト中も何度かあの夢を思い出してしまった。
そんなあたしを見てバイトの後輩である小川麻琴が今にも
石川さん気持ちわりぃっすよ、とでも言いたげな顔をしている。
123 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 13:59
「なに?」
「…なにニヤついてんすか?」
「え?あたし今ニヤついてた?」
すぐ顔に出てしまうのがあたしの悪いクセだ。
「思い出し笑いする人ってムッツリスケベなんすよねー。」
「なによー!そんなんじゃないしっ。そもそもムッツリって何よ!?」
「なんか、オープンなスケベじゃないっていうんですか?
こう、ほらイヤらしさ満開な感じ!?」
そういいながら、体をクネクネさせニヤリと笑う。
「やめてよぉ〜!」
あたしはそう言って奥へ逃げこんだ
124 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:00
そういえば、あの子ってうちの大学の新入生なんだよね?
やばー、本人目の前にしたらあたし爆笑しちゃうんじゃない?
でも他人にはイマイチこの面白さが伝わらないのよねー。
125 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:01
―23:20―
腕時計の時間をみてドッと疲れが増す。

「はぁ、足だる〜い。」
126 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:02
立ちっぱなしだったので足がむくんでる。
お風呂に入ってよくマッサージしなきゃ。
「あーでもお風呂洗うの…めんどくさ〜い」
トホホと重い足を引きずりながら歩いていると
ようやく自分のアパートの入り口が見える。
エレベータ、一階に停まってたらラッキーなんだけどなぁ。
そんなことを思いながらエレベータホールに向って目をやると
そこには二つの人影が・・・
127 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:03
あれっ?あれって吉澤さんじゃん!?プーッ、クククッ。

今朝の白タイツ姿が頭をよぎる。

しかし、実際の吉澤さんは昨日の夢に出てきた人とはまるで別人。
酔っ払ってないせいか、凄く凛々しくみえる。それに加えてあの綺麗な瞳。
あたしは何故か遠巻きに彼女を見つめていた。
吉澤さんはなにやら隣のお友達とお話している様子。
二人の手にはお酒やらおつまみやらが入ったコンビニ袋。
あー、今日は友達と一緒に夜な夜な語り合うわけね。
あたしも一回生の時は柴ちゃんとよく朝まで語り明かしたもんねぇ。
最近はそういうことしてないなぁ…。
なんて思っていたら、とんでもない光景が目にとびこんできた。
128 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:04
なんか…近い。あの二人近くない?よくよく見ると手つないでない??
と、その瞬間、吉澤さんのお友達と思われる人物が
彼女の首にそっと腕を廻し二人はキスをした―――
129 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:05
・・・・・



ハッ!!
気が付いたら二人はいなくなっていた。
あたしが呆気にとられてる間に二人はエレベータで上がっていった模様。
エレベータが5階で停まる。
あたしと一緒のフロアだ・・・。
ってか、今の何!?女の子だったよね?
うん、どっからどー見ても女の子だったよ!
吉澤さんももちろん女の子だよね?
最近の子のスキンシップってあれくらい普通なのかしら??
で、でもスキンシップって雰囲気でもなかったような・・・
130 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:05
「乗らないんですか?」
「へ?」
「あのー、先上がりますよ?」
「ああっ!乗りますっ乗りますっ!!」
131 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:06


部屋に入ってからも自分の見たものが信じられなくて
しばらくあたしはテーブルから動けなかった。

こ、これは見てはいけないものを…見てしまったのでは…。

132 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:07
あたしがあれこれ考えていると隣の部屋から声が洩れてきた。

ここのアパートは結構新しいし、家賃の割には部屋も広くて
トイレ、お風呂もセパレート。
そこが気に入って借りたはいいけど、壁が薄くて音や話し声が
筒抜けなとこが気になるところではあった。
でも、半年前にお隣さんは引っ越したし、最近まで空室だったはず。
誰か引っ越してきたのかな?
133 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:07

「…ア〜ン、ヨシザワさんったらぁ…」

134 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:08
!!
今、ヨシザワって聞こえなかった!?

135 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:09

「…ねぇ、吉澤さぁん、チューしてっ」

136 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:09
ハッキリと聞こえた。
今、吉澤って言ったよね!?

ま、まさかっ!?
隣に越してきたのって!?どっち!?
吉澤さん!?それともあのお友達の方!?
そして何?チューって!?さっきもうしたじゃん。
って、あんたら一体今から何をっ・・・
137 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:10

「…あんっ、やだっダメぇ…んんぅぅ」

138 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:10
ピ、ピピピピピピピピピピ―――
『『なぁにぃっ!!!???やぁーっちまったなぁっっっ!!!!!!!!!!!!!!』』


急いでテレビの音量を上げる。
ダハハハハと大音量で聞こえる笑い声。

笑えない。

笑えなーーーーーっい!!
も、もしかして、これから毎晩あんなの聞こえてくるわけ!?
イヤっ、イヤーーーーっ!!冗談じゃない!
しかも、何であたしがこんな音量上げたりして気を使わなきゃいけないわけっ!?
139 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:11
無性に腹が立って、あたしはリモコンを壁に投げつけた。

心を落ち着かせようと
それからお風呂に入って明日の身支度をし
あたしは床に就こうとしたけど

「…あん」

聞こえる…いつまでやってんのよ。
寝れないじゃない!
「もうっ!」
あたしは布団を頭から覆いかぶさった。
140 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:13
141 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:13
----------------------------------------------------


「梨華ちゃん、おはよー。」
「…おはよ。」
「あれっ?今日は昨日と打って変ってご機嫌ナナメだね?
 クマもすごいよ?また変な夢でも見たの??」

142 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:14
夢ならそうであってほしい。
結局、昨日は一睡も出来なかった。
143 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:14
「…柴ちゃん、」
「何?」
「柴ちゃんは女の子好きになったことある?」
「どうしたの?突然?あ、もしかして…?」
「あ、あたしは違うよっっ!!」
「ムキになるところがあやしい。」
「違うってば!ちょっとさ、昨日見ちゃったんだよね。
 …女の子同士がさぁ、キスしてるとこ。」
144 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:15
「なぁんだ。とうとう梨華ちゃん彼氏出来なさすぎで
 そっちに目覚めたのかと思っちゃった。」
「なぁんだってことないでしょー。実際リアルに見たらビックリしちゃうよー。」
「まぁ、あたしは無いよ、女の子好きになったこと。」
「普通そうだよねぇ…。」
145 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:15
「でもさ、別にいいんじゃない?」
「え?」
「だってさ、好きになる相手なんて選べるもんじゃないんじゃん?
 この先、もしかしたら女の子好きになっちゃう可能性も無きにしも非ずだよ。」
「そ、そうかな?」
「恋なんてそんなもんじゃない??」
146 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:16
意外な返事が返ってきて少しあたしは気が抜けた。
柴ちゃんって意外と見解広いのね。
むしろ、あたしが心狭すぎなのかな?
147 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:17
「あ、そう言えば、昨日の合コンどうだった?」
「なかなか良かったよー。梨華ちゃんも絶対来るべきだったね。」
「うっそー!なんかすごい悔しいぃぃっ。」

こんなことになるなら合コン行っときゃよかった。
そしたら、あんなの見ることも聞くことも無かったかもしれないのに。

あたしは次、合コンの話が出たら絶対に行くから
必ず声をかけてね、と柴ちゃんに懇願した。


148 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:17
149 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:18
-------------------------------------------------------

それから数日―――

あたしの心配をよそに
隣の部屋から変な声が漏れてきたのは
あの日だけだった。むしろ物音すらしない。
生きてる?
あたしはそっと壁に耳を近付けてみる。
ゴーっという機械音しか聞こえない。冷蔵庫の音かな?
150 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:19
…なにやってんだか。
あたし、今の姿見られたら完璧変態じゃん。
壁から離れてソファーに座る。
151 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:20
「おーい」

隣の壁にむかって言ってみる。
当然返事なんて返ってこない。

「お隣さんは吉澤さんなのかな?」

ベットで転がってるスヌーピーに話しかける。
「…」
沈黙。


「あー、暇。そうだっ、柴ちゃんにでも電話しよー。」


152 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:20
153 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:21
翌日、あたしは柴ちゃんとカフェに来ていた。

「でさ、梨華ちゃん今日の夜ヒマ?」
「あー、バイトなんだけど昼からだから六時には終わるかな?
 何?合コン!?」
「ちがうよー、今日はあたしの高校時代の先輩と一緒に飲むんだけど
 梨華ちゃんもどうかなぁーって思ってさ。」
154 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:22
ふーん。柴ちゃんの先輩かぁ・・・
ってぼんやり正面を眺めたら、見覚えのある二人…。
あれっ?も、もしかしてアレは吉澤さん!?
155 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:23
あたしたちの席の隣に吉澤さんがいるっ。しかもまたあのお友達とっ。
あたしは思わず顔を隠した。

「?どうしたの梨華ちゃん?やっぱ嫌?初対面だし。」

柴ちゃんが何か言ってるけど、あたしは隣の席の会話が耳に入ってしかたない。

156 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:24
「よっすぃ、どうして最近連絡くれないの?あたしばっかり誘ってるじゃん。」
「…もう、会うのやめにしない?」
「なんで!?別れるってこと!?」
「別にぃ。」
「そんなの理由にっ…」
「飽きた。ってか、そもそも付き合ってるつもりもなかったんだけど?」
「何よそれ…」
「ちゅーわけだから、もうその辺であっても声かけないでね。じゃー。」
157 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:25
そういって吉澤さんは立ち去っていった。

う、うわ〜〜。悲惨、最悪・・・
なんてヤツ…

158 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:25
「りーかーちゃん??」
「あっ、いいいい、いいの?あ、あたしがいても?」
「いいよー。人数多い方が楽しいじゃん。」
「じゃ、じゃあ、バイト終わったらメールいれるね。」
「了解。」
159 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:26

柴ちゃんにはさっきの会話聞こえてなかったのかな?
それにしてもヒドイ。鬼畜吉澤めっ。
あたしは前のこともあってか、なんだか凄くムカムカしたけど
自分とは関係ないし、と言い聞かせた。

160 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:27
-------------------------------------------------------

バイトが終わってメールを確認したら
柴ちゃんから”先に店に入ってるから”と受信アリ。
“今終わったから、すぐ行くね”
とあたしは返信し、店に向った。


161 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:28
「あー、梨華ちゃん、こっちこっちー。」
店内が暗くてキョロキョロしてたら柴ちゃんの方が先に気付いたみたい。
「は、はじめまして、。あたし石川梨華っていいます。」
「どうも。話はよく、あゆみから聞いてるよ〜。私は大谷。大谷雅恵です。」
「二人ともかしこまっちゃって〜、まぁまぁ、梨華ちゃんも座りなよっ。」
「う、うん。」
162 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:28


「へぇ〜、梨華ちゃん。それは私も難しいと思うなぁ。」
「でしょ!?先輩からももっと言ってやって下さいよー。」
「…やっぱ難しいのかなぁ?」
話はあたしの好みのタイプで盛り上がっていた。
やっぱ基本、白タイツは否定されるようだ。
これからタイプを聞かれても言わないことにしよう…。
163 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:29
「あ、でも、一人いるかもね?白タイツ。」
「マジで?先輩!?」
「うそっ!?」
不気味な笑みを浮かべる大谷さん。
「よっしゃ。今からそいつを呼ぼう。」
「ちょっと!梨華ちゃん!今日は運命の日になるかもよ!?」
「やだぁ〜!どうしよう!心の準備がっ。」
「あ、もしもしーわたしー今から出てこれる?―――」
164 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:30

思いもよらぬ展開。
ついにきたの!?
そうよっ、今まで頑張ってきたもん。神様だって見ててくれてたハズ。

165 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:31
「あと30分くらいで来れるってさー。」
「わー、楽しみいぃ。でも先輩〜、ホントに王子様キャラなんでしょうねぇ?」
「王子キャラだよー。いまだかつて私はヤツほど白タイツが似合う人を見たことないよ。」
「だって。梨華ちゃん。これは期待大だよっ。」
「うんっ!」
166 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:31
あたしたちは今からやってくる王子様についてあれこれ聞いたけど
大谷さんは”まぁまぁ、来てからのお楽しみ”とか言って全然教えてくれない。
あたしの期待は膨らむばかり。
そうこうしてる間に30分が過ぎた―――
167 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:32
「あ、きたきた。」
「えっ!?うそ?どこどこ!?」
あたしより柴ちゃんが敷居から顔をのり出す。
「吉澤―――。こっち。」
168 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:33

今、なんて?

「ちょっ、柴ちゃん」
あたしはそう言って柴ちゃんと代わる形で顔をのり出した。

「ども。」
「・・・」

169 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:34
「あれ?どっかで・・・あっ」
「ままま、吉澤とりあえずあっち座れ。」
170 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:34
で、でたな。・・・この鬼畜吉澤ぁ。
ってなんであんたがここに来んのよ!?
意味わかんないんですけどーっ
171 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:35
「梨華ちゃん?」
「へっ?」
「どうしたの?すっごい険しい顔してたけど?」
「えぇ!?あ、あっそう???」
「王子様があらわれてビックリしたんじゃないのぉ!?あっ、こいつは吉澤ひとみね。」
「こんばんは。」
「ちょっとー、せんぱーい、王子様って女の子じゃなーい。」
「なんなんすか?王子様って??」
「や、まぁ聞いてよっ。なぁ?吉澤ぁ、あんた中学ん時王子様やったじゃん!?」
「…あ、あれは。もともと王子役だった子が風邪で寝込んだから代役やったって話で…」
「吉澤さんが?他に男の子いなかったの?」
「あー、お姫さま役の子が結構デカクって。
うちのクラス、男子がチビばっかりだったから。」
「そうそう、お姫さま役の子もさぁ自分より背の高い人じゃなきゃイヤぁ、とか言って。
それでしたかなく、だったっけ?」
「そうそう、渋々ね…って一体なに?なんでそんな話?」
172 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:37
「いやぁ、白タイツ似合ってたよ。」
大谷さんはそう言ってポンッと吉澤さんの肩をたたいた。
吉澤さんは怪訝な顔をしている。

「まぁ、そう恐い顔すんなって。あ、こちらは―――」
「知ってますよ。石川さんですよね?」
「へ?」
「新歓コンパん時に…」
「あ、あっそうだよー!あの時いたよねっ。はは」
「ねねね。じゃあ、あたしの名前は?」
「?」
「ヒッドーイ!あたしもあのコンパいたんですけどー!?
 …ハイハイ、もうお二人でやって下さい。」
「え、や、ちょっと、柴ちゃ〜」
「この、項垂れてるのが柴田あゆみ。私の高校ん時の後輩。
 んでもって、吉澤とは中学時代の後輩ってわけ。」
173 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:38
はぁ、とか何とも気の抜けるような返事で吉澤さんは大谷さんの
話を聞いている。
柴ちゃんはさっきの件でむくれてるし。
あたしは・・・
174 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:39
「石川先輩って色黒いっすよねー。」

グッ…。人が気にしてることを

「あたし、外でサッカーやったりとかすんだけど、あんま焼けないよ。」
これでも日焼け対策かなりしてんだからーっ
そらあんたは色白でしょーよ、日に当たったって焼けないんでしょうよー!
あたしは日差しを吸収しやすい体質なのーーー!

「ほら、腕かして。」

ドキッ。

「ほら、どっちが黒い?」
「…申し訳ないけど、梨華ちゃんだねぇ。」
「ううぅ。ひどいぃ。」

ドキッドキッ

「いーじゃん、健康的。」
そう言ってフニっと笑う。

なによ・・・

175 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:40
------------------------------------------------------
柴ちゃんは大谷さんと久しぶりに会ったせいか
いつもより酔っ払ってた。ってかかなりの泥酔。
結局歩けなくて大谷さんがおぶって帰ることになった。

「ごめんねー、このあとカラオケでも行こうと思ってたのにさぁ。」
「いえ。でも、柴ちゃんがこんな酔ってるの初めてみたかも。」
「あ、そうなの?私といる時はいつもこんなだけどね。」
「そうなんですか?」
「せんぱーい!もう一軒いくのー。」
「へいへい。もうその辺にしときなさいっての。」
気ごころ知れた先輩の前だと普段は冷静な柴ちゃんもこうなるわけか…
「じゃ、吉澤、梨華ちゃんのことたのんだよー」
「わかりましたー。」
176 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:41

「・・・」
あれ?この状況ってもしや…
どうしよっ、吉澤さんと二人きりじゃんっ。

177 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:42
「家、どのへんなんすかー?」
「へ?あ、ええっと保田駅おりて15分くらいにあるアパートなんだけど…」
「そうなんだ。あたしと一緒じゃん。」
「はい?」
「あたし、そこの”ツンク”ってアパートなんだ。変な名前で
 逆にそこが気に入って借りたんだけど。」
178 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:42
変な名前だから借りたって…
ちょっと、あたしのアパートも同じ名前なんだけど。
っていうかさぁ、もっとトイレお風呂別なのか?とか
築何年なのか?とかオートロックなのか?とか他に見るとこなかったの?
179 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:43

・・・ん?

同じアパート名・・・?

お、同じ!?
ちょ、ちょっとまって。ま、まさか…うそっ!?

180 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:44
「顔色悪いけど?吐く?」
「吐きません!!」
「…なんか怒ってます?」
「怒ってません!」
「あ…そう。じゃ、まぁご近所みたいだし、もうタクに乗ってかえりましょうか?」
「…うん。」
181 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:44

タクシーの車内。
あたしは、お隣さんが吉澤さんでは?と気が気がじゃなかった。
でも、相手に悟られぬよう努めて冷静にやり過ごそうと思っていたら
しばしらくの沈黙のあと、吉澤さんが話しかけてきた

182 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:46
「どうなんすか?最近の合コンゲット率は?」
「ご、合コンゲット率って…」
「いや〜、だって有名ですよー石川先輩。合コンの女王なんでしょ?」

な、なんですって!?

「毎日行ってるって聞きましたけど?」
「ま、毎日!?そんなに行ってません!
ちょっと、人を遊びまくってるような言い方しないでよっ。」
「え〜、でも合コン行きまくってんのは事実なんでしょ?」
「そ、そうだけど…。」
「ほらー、やっぱそうなんじゃん。」
「だって!」
「だって?」

ダ、ダメだ。この子に運命の人を、王子様を探してる、
なんて言ったって馬鹿にされるだけよ!

「別にいーじゃない!吉澤さんには迷惑かけてないしっ。」
「開き直りましたね?」
「悪い?」
「いーえ。」
なんとなく冷やかな空気が車内に流れる。
183 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:47
き、気まずい。怒らせちゃった?
でも、吉澤さんもかなりの遊び人だと思うんですけどっ
朝の彼女?との会話を聞くかぎり…。
184 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:48
「…で、家。どこなんです?先に石川先輩の方に行ってもらいますから。」
「あ、あ、あのー。」
「はい?」
「あ、あたしも同じアパート…」
「え?何て?」
「あたしも同じアパートなの!」
「…それならそうと最初っから言やいいのに。ボソッ。」
「何か言った!?」
「あ、いやいや。なんでも。
運転手さんっ、そこの信号曲がってすぐのとこだから。」

185 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:49


ブイ――――――――。

走り去るタクシー。
見慣れたアパートを目の前に立ちすくむあたし。
隣人が吉澤さんの可能性はこれでほぼ確定といったところね…。
それでもっ、と自分と違うフロアを言ってくれることを期待して
あたしは往生際悪く聞いてみる。
186 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:50
「…吉澤さん、何階なの?」
「あたし5階です。」

ガッデーーーーームッッッ!!

あたしの一縷の望みがガラガラと音を立てて崩れてく。
やっぱり、やっぱりぃぃぃっ。

187 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:50
「石川さんは?」
「…ご、5階。」
「マジで?なんかすげー。ちなにみ何号室?」
「…507」
「うわっ!隣!?あたし506っ。うひぃー、なんか鳥肌たっちゃった。」
「は、ははは・・・」
188 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:51
もはや逃れられない事実にあたしが愕然としている間に
エレベータが5階で開く。
するとその瞬間、

ぐもぉ―――――っ

あたしの”おなか”がうなり声をあげた。
189 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:51
「うはっ、すっげぇ音。」

カァ〜〜
全身が熱くなる。
な、なんで鳴るかなぁ!?こんな時にぃぃ!?

「ハハッ。あたしも腹減った―と思ってたんですよ。」
190 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:52

ぐー、ぐもォォォ

ここんとこの金欠であまり食べてなかったのと
今日、とても飲み食いできる心境じゃなかったのが祟って
あたしのおなかは牛が住み始めたようだ。、
えぇっい!止まれ!お願いだから止まってよぉぉぉ。

191 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:53
「クックク。あ、スンマセン。どうです?うちの部屋で一緒に食べません? 」

ギュモー、ぐもも〜。

一向に鳴り止まない”おなか”。もう死にたい。

「実家から色々送ってくれるのはいいんだけど、一人じゃ食べきれないし、
腐らすのもなぁって思ってったんで。」
192 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:53
自分ちの冷蔵庫の中を思い出していた。

確か・・・

オロナミンCが一本

…ダメだ。





193 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:54
「あんま片付いてなくてすんません。ここんとこあんま帰ってなくて。」

食欲に負けた。
食べたらさっさと帰ろう。

「あ、そのへんテキトーに座って下さい。」
「どうも…、失礼します…。」

194 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:54
片付いてないと言ったけど、あたしの部屋よりは全然きれいで
部屋には大きな水槽がおいてある。
そこに二匹の金魚がヒラヒラと泳いでいた。
ゴーっという機械音はこの水槽の音だったのかぁ…
195 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:55
「大きいでしょ。」
「え!?」

あたしは壁に耳をあてている時の自分の姿を見られたような気がしてビクっとした。

「このビックサイズ金魚。あたしが小学校の時、夜店でもらったやつで。」
確かに。金魚にしては異様に大きい。
「それまではすぐに死んだりしてたんだけど、この二匹はやたら長生きでね。」
「へ〜。」
「気付いたら規格外の大きさまで育っちゃった。」
「アハハ。こんな大きいの初めて見たよ。
あ〜、なんか懐かしい。あたしも小さい頃はよく夜店とかいったなぁ。」
「あたしもー。」
「でね、あたし、こう見えてめちゃ金魚すくい得意なんだ!」
「あー、なんかわかる。唯一の特技って感じ?」
「ちょっとそれーどういう意味?」
「おーっと、パスタのお湯が噴きこぼれるっ。」
196 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:56
そう言って吉澤さんはキッチンへと下がっていった。
何か手伝おうか?と聞いたけど
余計に手間がかかりそうなのでいいです、と断られた。
失礼しちゃう。ま、当たってなくもないけど。
197 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:57
「へいっ、おまちぃっ!」
「ラーメンじゃないんだから。」
自然と笑顔になる。
「わ、おいしー。ホントにおいしいよぉー。」
「でしょー!?けっこう評判いいんすよー、このひとみスペシャル。」
「吉澤さんってネーミングセンスないよねー。」
「ひとみスペシャルって、もっと他になかったの?」
「えー、じゃあ、ひーちゃんパスタ。」
「ダサッ。…ホントにあんな理由で部屋借りたのも今なんとなくわかった。」
「ダサいってひどくないですかぁ?仮にもひーちゃんって、あたしの名前とってんだから。」
198 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:58
なんだ。普通にしゃべれるじゃん。
そう思って、ふっと気を抜いた瞬間
今朝のカフェでの光景が頭をよぎった。
199 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 14:59
「・・・」
「?やっぱまずい?」
「…ううん。これは凄くおいしい。」
「そ。よかった。」
「あ、あのぉ・・・」
「なんすか?」
「よ、吉澤さんって今日、大学横のカフェにいた?」
「あー?、いたかも。」
「あ、あたし、聞いちゃったんだ。」
「なにを?」
「なにって、…別れるとか、もう会っても声かけないで、とか。」
「あぁ…?」
200 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 15:00
吉澤さんはそんなこと言ったっけ?みたいな顔をしている。
ちょっと、今朝の話なんですけどっ。もう忘れたっての?

「女の子…好きなの?」
「うーん。かわいい子は好きだよ。あたし、おーるまいてぃだから。」

お、オールマイティって使い方間違ってない?。

「男女問わずってこと?」
「そゆこと。いい男も、いい女も。基本来る者拒まず。」
「そ、そうなんだぁ…。」

なるほど。やっぱり、あたし今とんでもない人と一緒にいるんじゃ…
パスタなんて呑気に食べてる場合じゃあーーー
201 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 15:01
「ちょーっと前ゴメン。」
そう言って吉澤さんの腕があたしの前をすり抜ける。
顔が近いっ。
「!」
思わず目を瞑ってしまった。

「ふぅ、ごちそうさまでしたー。」
そう言って吉澤さんはティッシュでお口をフキフキ。

202 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/08(水) 15:57

203 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 15:58
「・・・」
あたしがポカーンとしていると
「おーい。フリーズ?固まっちゃってますよー?」
「へ?あ、あぁぁ、ティッシュね。言ってくれれば取ったのにっ。」
あたしはそういって後ろにあったティッシュ箱から無意味にティッシュを取り出す。
すると吉澤さんがニヤ〜っとした顔で
「ははーん。今キスされると思った?」
「ち、違うよっ。」
「うそだー、だってチョー顔赤いっすよ。」
「え、うそっ!やだっ!」
「ほら、赤くなったやっぱりぃ。」
「そんなこと言うからじゃん!」
「まぁまぁ、落ち着いて。」
「あたしは落ち着いてるよっ!」
「全然そんな風にはみえないけど。まぁ安心して下さいよ。」
「なにっ!?」
「あたしにもタイプってもんがありますから。」
「っ!」
「先輩には手だしませんよー。」
204 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 15:59
こ、こいつ。
あたし、完全に遊ばれてるっ!?

「…吉澤さんのタイプがどーとか、誰と付き合おうが
 あたしの知ったことじゃないからっ。」
「まぁ、そうですよね。」
「でも!」
「でも?」
「で、でも、この部屋に連れてきて変なことしないでよねっ!」
「はぁ!?なんでー?あたしの部屋なんだし、そこは自由でしょ!?」
「だって…聞こ…」

あの日のイヤらしい声が蘇る。

「聞こえるんだもん!!変な声!!!」

205 名前:You Got The 投稿日:2008/10/08(水) 15:59
「…人の夜の営みについてあれこれ言うのは如何なもんかと…」
「夜な夜なあんなの聞かされるこっちの身にもなってよっ!」
「夜な夜なって…。はぁ、わかりましたよ。気をつけます。」
「ホントに?」
「まぁ、ほんとはそんなに誰かれ家にあげる方じゃないし…行く方だから。」
「わ、わかってくれたならいいけど…」
「ふふっ。でもあん時の聞かれてたんだ。で、石川先輩は欲求不満になった、と。」
「欲求不満なんかじゃない!」
206 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 16:00
ダメ。調子狂う。。
ホントに今言ったことわかってくれてんのかな?
むしろ、嫌がらせのように毎晩…なんてことになったりして。
ゾゾゾーーー。悪寒が走る。
もうココにいても吉澤さんに遊ばれるだけだっ。
207 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/08(水) 16:01
「もう、帰る。」
「あはは、どうせ帰るったって隣なんだし、泊ってけば?」
「帰ります!!」

バタンっ!と扉を閉めて
あたしは吉澤さんちを飛び出した。




208 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/08(水) 16:07
本日は以上です。
途中で書き込めなくなってあせりました(汗)
意外と石川さん視点のが書きやすいみたいです。
209 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/09(木) 02:06
石川さんと吉澤さんの掛け合いがおもしろいですね。
続き楽しみにしてます。
210 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/09(木) 03:36
つんくアパート505は空いてるかしら?w
大量更新お疲れさまでした!おもしろいです。
211 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/13(月) 21:25
>>209さん
有難うございます。
おもしろいと言って頂けるのが何よりも糧になります。

>>210さん
有難うございます。
505空室だと逆に大変かも。会話が気になって…w



更新します。
212 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:26
「はぁ。」
どっと疲れがくる。
今後、吉澤さんとは関わらないようにしなきゃ。
あの子完全に遊んでるもん、あたしで。
あ・・・でもご飯ごちそうになったっちゃのに
お礼も言わずに帰ってきちゃった・・・
どうしよう。これは人として問われるよねぇ。
でもなぁ、会うと調子狂わされるし・・・

「も〜っ!!」

いい方法が思いつかず思わず声がでる。

もうどーでもいいや、考えたってきりがない。
とりあえず、お風呂に入って気分を変えよう。


213 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:27
「はぁ、いいお湯だったぁ。」

コットンに化粧水をしみ込ませ、パタパタと肌に馴染ませていく。
そうしながら今日一日のことを振り返ってみた。
吉澤さんの一件から始まり、吉澤さんで終わった。
ガクっと肩を落とす。
王子様が来る、なんてはしゃいだ自分がなんだか馬鹿馬鹿しく思えてならなかった。
もう寝よう。
そう思ってベットに入ったその時、


コンコン

コンコン

壁を軽くノックする音。

「もう寝ました〜?」

214 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:28
!!

「…なによ。っていうか、壁越しに話しかけないでよ。」
「今日は楽しかったですねー。石川先輩もかなりおもしろい人だってわかったし。」

「・・・。」
おもしろいのはアンタだけでしょーが。あたしは別におもしろくないしっ。もうっ。

「じゃ、おやすみなさーい。」
「…おやすみ。」


215 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:29


・・・・・・




あれ?この場面何か見たことあるなぁ。
いつだったっけなぁ?

あ、そうそう。
バイトから疲れて帰って来たら
あのエレベータホールで吉澤さんとお友達がチューしてたんだよ。
ほら、居る。
吉澤さんとお友達・・・

…あら?あらっ!?
よくよく見るとあの友達はあたしになってる。
なんであたしがそこに居るの?
って、近いよっ!!吉澤さんに近寄りすぎよっ、離れなさいっての!
ちょっと、ダメっ!絡んじゃダメっ!コラァ!あたしぃぃ!!

((吉澤さぁん、キスしてぇ。))

何言ってんのよ!?そんな甘えた声ださないでよ!やめなさいっての!!
あ”あ”あ”―――――――――――!!!

・・・してる…。めっちゃチューしちゃってる。
あっ!?…よ、吉澤さんの手があた、あたっ、あたしのあんなトコロにっ!?
やめてっ!そんなところで!!

((ダメ・・・))




・・・・・・・



216 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:30
217 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:31
ガバァァァァ!!

「っはぁはぁ」

な、なんで!?

「なんであんな夢見なきゃなんないのよっ!!」

THE悪夢。

「最っっっ低っ・・・。」



夢とはいえ、あんな夢を見てしまった自分に自己嫌悪でいっぱいになった。
どーかしてる…。
あたしホントに欲求不満なんじゃ…。

ブンブン

首を横に振る。

「・・・。」

忘れよう。見なかったことにしよう。

スクッ

こんな気分のときは誰かに会わなきゃ。大学に行こう。
柴ちゃんに会って合コンにでも行けばこんなこと忘れるっ。

あたしは起き上がって出かける支度をした。

218 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:32
----------------------------------------------------

「おっはー。」
「あぁぁぁ、柴ちゃんっ、会いたかったよぉぉ。」
「大袈裟だなぁ。あ、あの後王子様とどうなったのー?」
王子様?吉澤さんのこと!?やめてよ!
「どっ、どうもなんないよっ!」
「なに?その過剰反応。チューでもしたっ?」

柴ちゃんのその言葉で昨日の夢が蘇る。

((吉澤さぁん、キスしてぇ))

カァァァァァッ

「しないっ!!」
「…真っ赤だよ。まさかホントにしたの?」
「してないったらっ!」
「ふ〜ん。」
219 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:32
「あんなの王子様でもなんでもないよっ。それに女の子じゃん!」
「そうかなぁ。なかなかボーイッシュだし、その辺の男より全然イケてると思うけど。」
「もうその話はいいよぉ。」
「でも、あれから先輩に聞いたんだけど、結構モテんだって吉澤さん。男の子にもだけど女の子にもかなりって話だよ〜。」
「…あたしには関係ないよ。」
「あたし、吉澤さんとだったらキスしてもいいかなぁー?」
「ええ?本気でいってんの?」
「うん。」
「女の子だよ!?」
「うん。」
「鬼畜だよ!?」
「なにそれ?」
「え?いやいや、だって柴ちゃんが突然そんなこと言うもんだから…。」
「吉澤さんとだったらエッチだってしちゃうかもっ。」
「し、柴ちゃん…。」
「ふふっ。」
220 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:33

ふふって。あーた、自分が何いってるかわかってんの!?
アイツは顔だけなんだからっ。飽きたらポイって捨てるんだから。
エッチだってしつこいんだから。たぶん。
あたしが壁越しに聞いたかぎりじゃ長かったもん…。

あたしの大事な友達が吉澤って子のおかげて路線を大きく踏み外す、
なんてことになったら…あたし…あたし…。
ダメよっ!そんなの。
友達として断固として反対だわ。応援なんて出来ないっ!

221 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:34
「柴ちゃんっ!!」
「どうしたの?急に大きな声出して。」
「あたしは反対よっ!」
「はい?」
「そんな恋、賛成できませんっ。」
「別に恋したなんて一言も…」
「そりゃあの吉澤って子、色白でお肌もスベスベで見た目だってカッコイイかもしんないけど目も大きくって素敵だけど背だって高くてスラっとしてるけど性格最悪なんだからっ!」
「…息継ぎしてる?ってか性格最悪?昨日はそんな風には思わなかったけど。」
「最悪だよっ!」
「やっぱり昨日なんかあったの?」
「ないよっ。だって柴ちゃんが吉澤さんとキスしてもいいとか言いだすから…。」
「もしも、の話だよ。そんな心配しなくったって。」
「じゃ、その”もしも”の状況になったらやぱりしちゃうの?」
「うーん。だって、あのビジュアルだしねー。」
222 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:35

柴ちゃんは知らないんだ。
あいつの本性を。
昨日だって、あのカフェでの出来事を話しても
“そんなこと言ったっけ”みたいな顔して。
要するにどーでもいいんだよ、あいつにとって過ぎたことなんて興味ないんだ。
だから大した理由なくてもくっついたり離れたりするんだよ。
そんなヤツに柴ちゃんを振り回してほしくないんだもん。



223 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:35
「あんなのに付き合ったら遊ばれるだけだよっ。」
「はぁ。なんか吉澤さんが気の毒に思えてきちゃった…。」
「なんで吉澤さんが気の毒なのよー。」
「だって、すごい言われようなんだもん。人ごとながら可哀そう。」
「あたしは柴ちゃんのことを思って…」
「はいはい。吉澤さんに何されたかしんないけど、梨華ちゃんの気持ちはしかと受取ました。ありがと。」

柴ちゃんはあきれた様子で”あたし次の授業あるからー”と言って行ってしまった。
あたしはあいにく選択してた授業が休講だったので一人取り残された。
はぁ、柴ちゃんの授業終わるまで暇だなぁ。
どうしよー。カフェにでもいって時間つぶすかぁ。



224 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:37
------------------------------------------------------

アイスティーを頼んでボーっとしていた。

なんだかなぁ。
それにしても柴ちゃんがあんなこと言うなんてビックリだよ。
そりゃあ、今まで数々の合コンに行ったけど
その誰よりも白タイツは似合ってんだけど
(性格抜きにしたら)吉澤さんみたいな男の子がいたら
少しはときめいたかもしんないけど・・・

「おはようございまーす。」
「!!ゴホッゴホッ!!」
「大丈夫ですか?」
「ちょっ、突然っ!咽るじゃん!」
225 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:38
あたしが頭を悩ませる張本人が目の前に・・・。

「昨日はよく眠れましたかぁ?」

寝ましたよ。寝たけど、おかげであんな夢まで見て。最悪。

「なんでココにいるのよ。」
「なんでって、次の授業まで暇だから。で、店きたら石川先輩いるし、みたいな?」
「ちょっと、勝手に前に座らないでよっ!」
「冷たいなぁ。別にいいじゃん、家だって隣なんだし。それにフツーお隣さんみかけたら声かけるでしょ?かりにも一緒に飲んだ仲じゃないすか。」
「よく言うよっ。吉澤さんの元カノ?っていうの?元カノさんには”会っても声かけるな”とか平気で言うくせに。」

またその話?みたいな顔をしたのをあたしは見逃さなかった。

226 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:39

「…あれは、お互い遊びのだったはずなのに、めんどくさいこと言いだすから。」
「だからって、あんな言い方…」
「あれくらい言わないとズルズルするんだもん。」
「…」
「ヤッたとたん独占欲むき出しとか、超ウゼーし。」

ほらっ、でた。
やっぱりこんなヤツ、絶対王子様なんかじゃないよっ。
この冷酷、極悪非道。
その体に血潮は流れてんのかってのよっ!

227 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:39
「…なんか言いたそうな顔してますけどねぇ、あるでしょ?先輩だって。」
「何をよ?」
「あんだけ合コン行ってんだから、一夜限りのなんちゃらくらい今までに何回かあるでしょー?って言ってんですよ。」
「あたしはそんなことしないもんっ!」
「ホントですかねぇ?カマトトぶってんじゃないんすかー?」
「あのねぇ、吉澤さんと一緒にしないで。あたしは好きな人としかしませんっ。」
「んなこと言ってるから欲求不満になるんですよ。」
「欲求不満なんかじゃありませんっ。ケンカうってんの!?」
「こっちのセリフですよ。そもそもあの子との事は石川先輩には関係ないでしょう?」
「そりゃそうだけど…」
「だいたいねぇ、昨日だってご飯食べるだけ食べて怒って帰っちゃうし。」
「あっ…」
「まぁ、いいですけど。おかでげで食材は無駄にはならなかったから…」
「ごめんなさい。昨日は…ごちそうさまでした…。」
228 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:40
そうだ。昨日のお礼だけは言わなくちゃって思ってたのに
吉澤さんの顔を見るとつい…

そうだよね。あたしがこんなにムキになる必要なんてまるでないのに。
柴ちゃんの事だって、あんなこと言ってたけど
実際にキスしたわけでも、吉澤さんが柴ちゃんを弄んだわけでもないんだし。
なのに、あたしってば吉澤さんにはついキツくあたっちゃってたかも…
大人げ無いなぁ………

229 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:41
「この世の終わり…」
「…え?」
「みたいな顔して落ち込まないでもらえます?」
「だって…吉澤さんにお礼も言わないで…あたしって嫌なヤツだよね。はぁ。」
「・・・」

吉澤さんは何も言わずにあたしを見つめてる。
何?なんかついてる?
そんな綺麗な瞳で見つめないでよ、なんか恥ずかしくなってくるじゃん…

「な、なに?」
「いや、コロコロと表情の変わる人だなぁ〜、と思って。」
「…なによぉ。そうやってまたからかう。」
「ふふっ。剥れた顔も…おもしろっ。」
230 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:41
そう言ってケラケラ笑う。
おもしろいって、失礼しちゃうわよ。なんか反省して損した。

「あたしもう行くから。」
「じゃ、また今度お礼して下さいね。」
「なにそれ!?」
「ごちそうしたのと、あたしの事、色々中傷したことのお詫びも含めて。」

そう言って吉澤さんは手をヒラヒラさせニヤリと笑った。

「勝手にしてよっ!」
「そうしま〜す。」

中傷って、大袈裟な。
そもそも無実ではないでしょうが。あたしはその事実を批判しただけじゃん。
あたしは吉澤さんを睨んで店を出た。



231 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:42
---------------------------------------------------


「「「「くぁんぱーーーーーいっ!」」」」

柴ちゃんのおかげで、あたしは合コンに来ていた。
あのあと、どうしても今日は合コンに行きたいんだと
柴ちゃんに泣きついてセッティングしてもらった。
持つべきものは友よ。
でも・・・

232 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:43
「へー、梨華ちゃん一人暮らしなんだっ。」
「うん。まぁ。」

まただ。あ、今イヤらしい顔して笑った。きしょいっての。

「今度は梨華ちゃんちで鍋パでもしない?」

やめてよ。

「俺ね、こう見えても鍋奉行!」

どーでもいいし。

「ちょっと」ボソッ
柴ちゃんが肘でつついてくる。

「何?」
「あ、ちょっとゴメンねー。ほら、梨華ちゃんも立って。」
そう言ってあたしの腕をつかんだ柴ちゃんは
ズルズルと引っ張ってトイレに連れてきた。
233 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:44
「ちょっとー、あからさまに嫌な顔が出すぎっ。」
「ゴメン、だって…」
「梨華ちゃんがどうしてもって言うからこうして集めたのにっ。」
「ホントにごめんっ。」
「…梨華ちゃんってさぁ、マジで彼氏つくる気あんの?」
「あ、あるよっ。」
「正直、さっきみたいな態度されたら今後もう合コン誘わないよ。」
「えぇぇぇぇ。」

柴ちゃんに怒られてるその時だった
先に入ってた女の子たちの会話が奥の方から聞こえてきた。
234 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:44
「今日よっすぃとハロカフェにいた子って新しい彼女?」
「あ、あたしも思った。」
「まっさか。からかってるだけじゃん?」
「だよねー。」
「そうそう。よっすぃが女の子からかってんのなんてしょっちゅうじゃん。
そんなこと言ったら、あたしなんてよっすぃとキスしたことあるし。」
「まじで!?いつよ!?」
「高校ん時。あたし高校一緒だったから。」
「なんでー!?なんでンなことに?」
「さぁ、よっすぃからすればキスなんて挨拶程度なんじゃん?」
「外人かよっ!アハハハハ。」
235 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:45
ドンッ

肩がぶつかる。

「あ。」

昼間の子じゃん、って顔をされた。

「あ、すいませーん。」
そう言ってゾロゾロとその子たちはトイレから出て行った。

「ちょっと、梨華ちゃん、聞いてんの!?」
「うん…。」
「…戻ったらちゃんとしてよー。」
「うん…。」





236 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:45
237 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:46
------------------------------------------------

酔っ払っている。

あの後、あたしは大いに飲みまくった。
柴ちゃんにあんな風に言われたからなのか、何なのかわかんないけど
とにかく飲まないとその場をやり過ごせなかった。
一軒目を出た後、柴ちゃんたちとは別れて行動することになってしまい
そして今、あたしは今日の朝髭を剃ったであろうに、もう青くなってる鼻息荒い男と
カジノバーに来ていた。
238 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:47

「ヒット!」
「ステイ。」

奥のテーブルではブラックジャックで盛り上がる人たち。
その一部のテーブルには、やたらと女性客ばかりでワーキャー言ってる。
さぞかし男前なディーラーでも居るんだろう。

そんな様子をよそに、あたしたちはカウンターで飲んでいた。
239 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:47
「ウォッカ飲む?」
「飲む。」
「まじで?」
「いけない!?」
「全然OK。」

グイ―――――――。
出てきたウォッカを一気に飲み干す。

「〜〜〜〜〜〜」

ヒゲ男が何か言ってるけどナーニ言ってるか全然わかんない。
もう、どうでもいいやぁ。
頑張ったて王子様なんていやしないしぃ。
一夜限りのなんちゃら?いいじゃない。やってやろーじゃない。

「もう帰ろうか。家まで送るよ。」
240 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:48
そう言って店を出て
ヒゲ男は意識朦朧としているあたしをなぜか店の裏口の方へ連れて行く。
帰るんじゃなかったんかい。何しようってのよ。

グラッ

酔っ払ったあたしは足もとがフラついて抱きつくような格好になってしまった。
あ、コイツ、今完全にキスしようとしてる。わ〜、キショいなぁ・・・
でもこれでいいんだ・・・


バンッ

裏口から誰か出てきてタバコを吸い始めた。
おそらく、このカジノバーの従業員が休憩しているのだろう。

ヒゲ男の顔がどんどん近付いてくる。
暗闇に目が慣れ始めた。
すると視線の先に知ってる顔が浮かび上がる。

「フ―。」
ボケっとした顔で煙を吹き出す。

吉澤さん・・・。
241 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:49


吉澤さん!?

なんでぇっ!?


そう思った瞬間、一気に酔いが醒めた。
目の前には鼻息フゴフゴ鳴らしながら迫りくる顔。
242 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:49
「や、」
「ヤダ――――!!イヤッ!モ――――!」

「ちょ、っちょっと。」

「やだったらやなの――――――!!!!」

持っていたクラッチバッグで相手を殴る。

「いやー!いやー!ヤなのーーー!!」
「イ、イテッ、イテッ。」

「な、なんだぁ?あっ、いしか・・・」



何なのあたし
何やってんのよ
どうしちゃったってのよ

わけわかんない。

243 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:50
「ちょっと、落ち着いて。」
そう言って、吉澤さんがブンブン振り回してたあたしの腕を掴む。
それでも納まらず振り解こうとあたしがするもんだから
今度は後ろから両腕ごとを抱え込まれた。

「ふぅ…。あ。あのう…あたしが言うのもなんですけど、見ての通り猛烈に嫌がってますんで、ここはもう諦めた方が…。」
「な、なんなんだよっ!ふざけんなよー。」
「まぁ、ね、そう言いたくなるお気持ちもわかりますが…」
「ちっ。」

ヒゲ男は舌打ちをしバツが悪そうに去っていった。


なんで



244 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:51
「なんで助けてくれたの…」
「はぁー?あれだけ騒いでよくゆーよー」
「…なんでこんなとこにいんの。」
「あたしゃバイト中だからですよ。」
「そうなの?でもカウンターには居なかったよね?」
「あたしバーテンじゃないもん。ディーラー。」

そう言ってカードを切る真似をする。
そっか、あの女ばかりのテーブル客は吉澤さんが居たからか。どうりで。

「なにやってんすか。」
「へ?」
「へ?じゃなくって。何?また合コンの帰り?」
「よ、吉澤さんには関係ない…」
「助けてもらっといてソリャないでしょ?」
「…」
「いつもあんななんすか?男だってヤレるって勘違いしますよ?」
「いつもじゃないよっ、今日は…」
245 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:51

だって飲まなきゃテンションなんて上げられなかったんだもん。
柴ちゃんにだって怒られて、なんとかしなきゃって…
でも全部自分が悪い。なげやりになって危うく好きでもない男と寝るとこだった。
そんな自分の情けない状況を思うとなんだか泣けてきた。
246 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/13(月) 21:52
「うぅ。ぐすっぐすっ。」
「ちょ、泣いてんの?なにも泣くことないじゃん。」
「あたしカッコ悪いぃ。うぅ、ぐすっ。」
「…ちょっとココで待っててよ。一緒に帰ろう。」
「ふぇ?」
「あたしもう上がりだから。」
あきれた顔で吉澤さんが続ける。
「帰る前に一服しにきたら何か凄いことになってるし。ホント、もうどうなってんだか。」
「ごめんね…大丈夫だよ。一人で帰れるし…」
「そんなフラついた足でよく言うよ。着替えてくるからおとなしくそこで待ってろ。」

そう言って吉澤さんは店に入っていった。



吉澤さんを待ってる間
あたしは彼女に腕をとられ、抱き込まれたシーンを
頭の中で何度も繰り返した。
胸が苦しくなった。
247 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/13(月) 21:56
本日は以上です。
なにやら現実世界ではいしよし祭りですね。
随分と遠ざかってたいしよしに再び火が点いたのも
小説書こうと思ったのもこの日の為だったのか?…
248 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/14(火) 11:43
ハンアンいいですよね!
ここも凄くいいですYO!
249 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/20(月) 17:42
>248さん

ハンアンいいですよね。
これからの活動に期待大です!




更新します。
250 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:44
 
251 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:45
「おまたせぇ〜。」

ドキッ。

着替えて出てきた吉澤さんと目が合う。

ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ

鼓動はどんどん激しく鳴って止まない。

それに加えて、またさっきのシーンが何度も頭の中でフラッシュバックする。

ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ

どうしたーっ!?あたしっ!!?
一体何が起こったの??く、苦しい…。
とにかく、何でもいいから治まってよ…早く…。
252 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:46
そう自分に言い聞かせても胸は高鳴る一方で
ほんともう、この心臓の音もれてんじゃないかってくらいで。

ブンブンと首を横に振る。
頭の中で繰り返されるあのシーンを振り払うかのように。

「あ”っ。」

バカだった。
まだお酒が残った状態で頭なんか振ったもんだから
クラクラして目が回ったあたしはまともに立ってられなくなった。

そしてそんなあたしを吉澤さんが腕を取って支えてくれる。
253 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:47
馬鹿タレ。酒が回った頭ブンブン振ってんじゃねーよ。
っつたくもうー、しゃんとしろーしゃんとぉ。」
「どどど、どうもすいましぇん。」

呂律が回らなくてカミカミだ。もうマジでカッコ悪い。
あたし、吉澤さんの前でこんなのばっかだなぁ。

「よいっしょっと。」

グダグダになったあたしを裏口の階段に座らせる。

「いい?聞こえる?あたしのとっておきの愛車とってくるから、ちっとだけ待ってよ。」
254 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:48
そう言いながらしゃがみ込んだ吉澤さんはあたしの頭を撫でて顔を下から覗き込む。
立っている時は彼女の方が背が高いから
どうしてもあたしが見上げる形になっちゃうのに。
あ、あんなところにホクロはっけーん。

月明かりに照らされて、いつもと違う角度から見る彼女の顔。目。
そして、その瞳に吸い込まれるかのように
あたしはそっと彼女の頬に手を添えた。


キス……したい………


255 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:49
「な、なんだぁ??」

吉澤さんが発した間の抜けたような声で
ハッと我に返る。


あたし、なにやってんの!?
バッと頬にあてた手を放し
また頭をブンブン振ったら案の定めまいが
256 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:50
「あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ」

「アホですか?まったく、さっきから何やってんだか、この人は…」

怪訝な顔して”はぁ”とため息をつきながら
吉澤さんは奥へと行ってしまった。

あぁ、ほんとに何やってんだよぉぉぉ。
ってか、なんで?
なんで、あんなこと思ったんだろう……。
おかしい………。
なんでこんなドキドキしてんのよぉぉぉ!?
257 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:50
…違う。
そう。
あたしは酔ってるんだ。
酔っちゃってるもんだから思考回路がおかしくなっちゃんてんだよっ。
梨華、冷静になるのよっ。相手は吉澤さんだよ?
ただ、今回は運良く偶然助けてもらっただけなんだからっ。
なんてことないんだからっ。


258 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:51
「何ブツブツ言ってんすか。酔うとマジでタチ悪いな。」
「…あ、あはは。聞こえた?」
ヤバっ。声になってた?

「キショイ。」
「キ、キショイって…さぁ…そんな身も蓋もない…。」
なんとなくヘコむ。

「…ほら立ってよ。」
そう言って吉澤さんが手を差し伸べてくれる。

「あ、ありがと。」
ドキドキ

もうっ!ドキドキしないの〜!
バカバカ、あたしの馬鹿。
259 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:52
「ほら、乗って”うしろ”。」
「…え?」
「ほらっ。」
「…えっと、」
「ほら、ぼさっと突っ立ってないで。」
「あの…愛車ってこれ……?」
「そう。」
260 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:53


ママチャリ…じゃん!
勝手に車かバイクを想像してしまっていた。


「ママチャリは愛車とは言わないんじゃないかな…?」
「あ、チャリンコ馬鹿にしてる?言っとくけど凄いんだからー。」
「別に馬鹿にしてないけど…何が凄いの?」
「まぁいいから。早く後ろに乗りなせぇ。」
そう言ってリアキャリアをバンバンと叩く。
「はぁ。」
261 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:54

なんだか拍子ぬけしてしまった。
まぁ、現実なんてこんなもんか。
ドラマの見すぎだな。っていうか、そんなこと
吉澤さんに求める方が間違ってるんだから。
それよりも、大丈夫なの?
物凄いフラついてるのは気のせいかしら?

262 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:55
「ちょっとー、めっちゃフラついてんじゃん。どこが凄いのよー?」
「ぐっ、ちょっ、意外と重いねぇぇぇ石川先輩ぃぃぃ。」
「しっつれいねっ!」
「はぁっ、ふぅっ、もうちょいぃぃ。」
「ほらほら〜しっかり漕いでよー。」
「かー、よくそんなこと言えるもんだぁぁ。恐ろしい女だぁぁ。」
そんな憎まれ口を叩きながらも必死に自転車を漕ぐ後姿を見てたら
かわいいなって思った。

263 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:56

「ふふ。」
「なにー?今笑ったぁ?」
「なんでもなーい。」
「何それー。あ、だいぶのってきた。どうよ?加速づいたらスゲーんだから!」

吉澤さんがぐんぐんとペダルを漕ぐ。
確かに速い。ひょっとして高校時代はチャリ通?
それで鍛え上げたの?この脚力?

264 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:57
「凄いってこのことー?速いだけじゃーん。」
「え〜!?このマッハに感動しないかね?ほら、もう一駅こえたんだよー。」
「はいはい、凄いね〜。」
「なんか酷くねぇー?男に絡まれてるとこ助けて、
家まで送る為にこうして必死こいてんのにー」
「だからぁ、それは謝ってんじゃん。感謝してんじゃーん。
ちなみに重くてごめんなさいねーだ。」
「全くもって誠意が伝わってこないんですけどぉ?さっきまでグズグズ泣いてた人とは
 思えんな。心配して損したぁー。」


心配してくれてたんだ…。
てっきり呆れられたかと思ったよ。
ってか本当は呆れてるか。そりゃそうだ。
でも、ウソでも嬉しいよ。なんか。
265 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:58
火照った体に心地よい風があたる。
サドルを持っていた手を吉澤さんの腰に回して
あたしの頬と体を彼女の背中にあずけた。

「なにー?眠いのー?」
「…眠いぃ。」
「自由だなー。子供かっ。」
「いいじゃん…」
「なにがいいんだっ。この甘えたぁ。」
「いいじゃん、甘えさせてよぉ…」
「…この酔っ払いがぁ。ほんとに寝て落っこちないで下さいよー、
これ以上はもう面倒見きれないから〜。」
「うん…。」



切っていく風と吉澤さんの背中の温度が気持よくて
あたしは本当に寝てしまいそうだった。

266 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:59

―――――――――――――――――――――――――――
267 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 17:59

「ついたよっ。」
「ふぇ?」
「ふぇ?じゃない。ほらほら降りて降りて。」
「速かったねぇ、もう着いたんだぁ。凄いね!」
「馬鹿にしてたくせに。」
「してないよー。」
「どーだか。」
「そりゃ最初は車で送ってくれるのかと思ってたけど。まさか…」
「…」
268 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:00
あれ?黙り込んじゃった。
吉澤さんはスタスタとエレベータホールへ向かって歩いてく。
おーい、ちょっと待ってよー。

「何?怒った?」
「…」

何も言わず『↑』のボタンを押す吉澤さん。
1階に停まっていたエレベータのドアが開く。
269 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:01
「で、でも自転車、気持ち良かっ」
「石川先輩って…」
「何?」
「胸デカイんすね。」
「ばっ、バカー!すけべ!」
「ヒャハハハハー。仕返しじゃあ〜!
チャリンコを馬鹿にした制裁じゃあ〜!セクハラ攻撃ぃぃ!」
「ちょっとー!人のこと子供かっ、とか言うくせに
どっちが子供よ〜。いい勝負じゃない。」
「いやいや、子供タイトルは石川先輩にお譲りしますよ。ヒャッヒャッヒャッ」
「いらないよっ、そんなのっ。」

そんなくだらない話をしてる間にエレベータは5階に。


270 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:03
「はぁ、やっと解放されるわ。」
「それ、どういう意味?」
「そのままですけど。こんな迷惑極まりない人、あたし先輩以外で知りません。」

「いつもはこんなんじゃないんだからねっ。誤解しないでよっ。」
「何をどう誤解すんなっつーんだよ。」
「もう!いいから今日のことは忘れてっ。お願い!」
「へいへい。そんじゃおやすみなさい。ふぁぁぁ。」


バタン。


大きなあくびをして吉澤さんは自分ちに入っていった。


「おやすみ…。」

271 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:03
 
272 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:04

―――――――――――――――――――――――――――
273 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:05
―翌日―

午後からの授業を受けるためにあたしは大学にきていた。

あれだけ飲んだから、てっきり今日は二日酔いだろうと思っていたけど
意外とスキッリしていて。
朝なんか、目覚めた時なんだかとても清々しくて
ベランダにある花壇に水なんかあげたりしちゃって。
ま、その花壇には何も咲いてないんだけども。
274 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:06
「柴ちゃん、おはよー。」
「おはー。なんか今日爽やかだね。」
「そう?」
「昨日あれからどうだった?」


昨日…か……

なんか色々あったような気がするけど
どこまで話したらいいもんか…
275 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:07
「・・・あの後、二人でカジノバーに行ったの。」
「ええ?ずるいーカジノバーとかさぁ。あたしもそっちが良かったなー。
 うちらなんてカラオケだよ?もう飽き飽きだよー。」
「でも、カジノしてないし。」
「なんでぇ?飲んでただけ?あたし久々にブラックジャックとかしたかったー。」
「で、二人でカウンターで飲んでて」
「ふんふん。そんで?」
「酔って」
「で?」
「キス」
「キス――――!?したのっ!?」
「ちょっと、声が大きいよ〜。」
「はっ、ごめんごめんっ。いや、だって梨華ちゃんにしては珍しい展開だったから。」
「されそうになったの。」
「はぁ?なにそれ?未遂なわけ?」
「そう。だからキスされそうになったけど、してないからっ。」
「なぁ〜んだぁ。」
「なぁ〜んだってさぁ…」
276 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:08
「…だって、やっと梨華ちゃんから恋バナ聞けるかと思ったのにさ。
っていうか、どうやって切り抜けたの?」
「…吉澤さんがそこのカジノバーでバイトしててね。たまたま遭遇しちゃって。」
「吉澤さん?へー、あの子カジノバーでバイトしてんだ。」
「あたし…何て言ったらいいのか、申し訳ないんだけど物凄く気持ち悪くなって…」
「…」
「大騒ぎしちゃって…」
「…そりゃ申し訳ない話だねぇ。」
「だよね…。」
「で、そこで吉澤さんに一役かってもらったってわけね。」
「はい。そうです・・・」
277 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:08

「何やってんのー。も〜。いい歳してんだからさぁ〜別に一回くらい
よかったんじゃないの? ヒゲは濃かったけど、別に悪くはなかったじゃん、彼。」
「最初はあたしも…ねぇ…別にいいかなーとか思ってたんだけどさ…」
「体を重ねてから始まることだってあんだよ?」
「吉澤さんが急に現われてビックリしちゃって…」
「吉澤さん関係ないじゃーん。そりゃ今まさにキスしようとしてるとこ
見られて恥ずかしいってのはあるかもしんないけど。」
278 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:09
「あたしね…なんか変なんだ。」
「今さら。」
「柴ちゃん…ひどい。」
「で、何がどう変なの?」
「吉澤さんと居ると。」
「…」
「なんかね、心の治安が保てないの。」
「…」
「ん〜、言葉ではうまく表現できないんだよっ。自分でもよく解んないんだけど。」
「それってさぁ…」
「何?」

「…ま、いいや。あ、吉澤さんといえば、さっきあたし見たよ。」
「え!?どこで??」
「…やっぱり。この異様な食いつき…」
「なに?なんなのよー!?」
「あの〜、今の梨華ちゃんにこんなこと言うの気が引けるんだけども…」
「何!?言ってよっ。」

「中庭で梨華ちゃんが来る前にお弁当食べてたんだけど、とある会話が聞こえてきてさ。」
「うん。で?」
「あの、うちらと同い年の藤本さんって知ってる?」
「あ〜、あの子?知ってるよ。」
「そ。その藤本さん、吉澤さんに告ってた。」
「・・・・・・・・・」
「…これ以上は続けない方が良さそうだね…」
「これ以上って何!?言って!」
「あ、あのね、あたしも見るつもりなかったんだけど」
「…」

「・・・チューしてたよ。あれは付き合うんじゃない…かな…?」




279 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:10
なんなんだろう。
やっぱりあたし変だ。
柴ちゃんの話を聞いてたら
ドロドロした不穏な感情が渦巻くように湧いてくる。

「梨華ちゃん、眉間。」
「え?」
「ギューって、物凄い皺よってるから。」
「あ、あぁ。」

「…梨華ちゃん、合コンいこっか?ハハハ。」
「…あたし、当分合コン行かない…。」
「梨華ちゃ〜ん・・・」
280 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:11
柴ちゃんは困った顔をして
“大丈夫だよ、王子様きっと見つかるよ、うん。絶対いるって!
あたしも応援するし協力するから”
とかなんとか言って、なんだかとても慌てていた。
いつもならこんなこと絶対に言わないのに。
王子様否定派だったのに、一体いつから肯定派になったんだろう。

逆にあたしは王子様なんてホントにもうどうでもいいって思った。
合コンなんて馬鹿みたいだ。
そもそも、それで上手くいってるカップルの話なんかめったと聞かない。
あたしは一生好きな人なんて出来なくて、恋人なんか出来なくて
このまま一人で孤独に死んでいくに違いない。
281 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:12


ネガティブな感情があたしを支配する。


一人になりたい。

282 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:12
「あたし…帰るね。」
「へぇっ!?ちょ、ちょっと、授業出ないの!?」
「うん。帰る。」
「単位とれなくなっちゃうよっ。さっきまでの爽やかはどこいった!?」
「やっぱり二日酔いみたい…」
「…。」

何も考えたくない。
なのにこのモヤモヤとした気持ちが収まらない。
あたし、病気なんじゃないの?


283 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:13

―――――――――――――――――――――――――――――
284 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:13
♪♪♪チャラリラ〜♪♪♪

携帯が鳴る。

あたしは家に戻って寝ていた。
寝たら何も考えなくてすむと思ったから。

♪チャラリ〜…ブッ

切れた。
はぁ、何よ。
今のあたしに構わないでよ。

♪♪♪チャラリラ〜♪♪♪

…また。
もう、一体なんだってのよ。
ほっといてよ。
何もしたくないんだってば。
285 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:14
♪♪♪チャラリラ〜♪♪♪

一向に鳴り止まない携帯。

「もうっ!!!」

乱暴に携帯を取って画面を見たら知らない番号を表示している。
訝しげに電話に出る。
286 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:15
「…はい。どちらさま?」
「うっわー、超カンジ悪ぃぃぃ。」
「…誰よ。」
「石川先輩のかわいいかわいい後輩の吉澤ひとみちゃんですよぉ。」


げっ。
なんでこんな時にかけてくるかな!?
ってか、なんであたしの番号知ってんの!?
教えてないよね?あたし吉澤さんの知らないし…。
287 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:15
「…なんで?番号交換してないよね?」
「あ、大学で柴田さんに会って。んで聞いたんです。」

柴ちゃん…。
教える前になんであたしに一言ゆってくれないのかな?

288 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:16
「何の為に?」
「何かトゲあるな〜。それで柴田さん今日はやめとけって言ってたのかぁ?」
「何の事?」
「携番教えたげるけど、今日はかけない方がいいよって言われたんですよ。
 で、かけたらマジで超機嫌悪いし。」
「で、何の用なわけ?」
「ひゃーこえ〜!でも、ひーちゃんめげないもんっ。」
「はやく言いなさいよ。」
「えっと、この前の事と、昨日の事。覚えてますよね?先輩?」

なによ。人の弱みに付け込んでどうしようってのよ。
289 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:17
「今日、夕方六時に飯田駅の南口に来て下さいっ。」
「…それ、絶対今日じゃなきゃダメなの・・・?」
「来てくれなかったら毎晩お隣からエッチな声聞こえてくることになりますよー。
いいんですかー?」
「わかりましたぁ、行きます。行けばいいんでしょう…」
「素直でよろしい。では、六時に。遅刻は厳禁ですよ!」


プーップーップーッ

290 名前:You Got The Love 投稿日:2008/10/20(月) 18:17

切れた。
なんて強引な。
しかも人が嫌がってるのに、あんなことで脅してくるなんて。
それ、今日告られた藤本さんとするつもり?
信じられない。冗談じゃない。
行ってやるわよ!そしてこれで借りは無くなるんだから!



291 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/10/20(月) 18:18
本日は以上です。
292 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/21(火) 00:33
更新お疲れ様です。
吉澤さんが何をする気なのか楽しみですね。
293 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/21(火) 01:14
二人のノリが好きです!
面白くなって来ましたねw
294 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/04(火) 02:02
待ってます
295 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/11/06(木) 20:47
>>292さん

ありがとうございます。
吉澤さんは自分でも意外な行動を取りましたw

>>293さん

レスありがとうございます。
二人の掛け合いは結構気を使ってるところなので
そう言ってもらえると嬉し限りです(^^)

>>294さん

あぁ。待ってくれている方がいらっしゃるなんて…
感無量です。
そして、更新が遅くなってスイマセンでした。


では、更新させて頂きます。
296 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:49

『いらっしゃいませぇ〜。先にぃお飲み物からお伺い致しまぁーす。』

「えぇっと、とりあえず生で。先輩は?」
「……あたしも…。」
「ちゅーわけで、生二つお願いねっ。」

『ご注文もお決まりでしたらぁお伺いたしますがぁ〜?』

「ん〜、何します?」
「・・・。」
「考え中?じゃ、あとでいいや。また呼ぶから、ありがとね。」

『かぁしこまりましたぁ〜。』
297 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:50
呼び出されて何処のに行くのかと思えば
あたしは居酒屋に連れて来られていた。
全くもって行動が読めない。

「たこわさ、は外せないっすよね、あ、あとじゃこと大根のパリパリサラダでしょ〜」
「・・・。」
「石川先輩は何にします?ひーちゃん的にはここの山芋だんざくは激ウマ。」
「あのさ…」
「あ、決まりました?」
「…何したらいいの?」
「え?そんなの、自分の食べたいの選んで下さいよ。」
「そうじゃなくてっ。この前の事と、昨日の事。その事で呼び出したんじゃないの?」
「あ〜・・・。」
「ねえ?」
「…へへっ。」
298 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:51
気恥ずかしそうに笑う。
何を考えてるのだろう。何かとんでもないことを言い出すつもりじゃ…
あたしはグッと身構えた。


「おごって下さい。」
「は?」
「いや〜、今月ピンチで…。」
「・・・」
「実家から送ってもらったのも底つくし、
………ちょっと急に思いもよらぬ出費がかさみましてですね…。」
「…こんなことで良かったんだ。」
「何されると思ってたんです?」
「え?別に…。」
299 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:51
なんだ。変に身構えたりしてバカみたい。
っていうか、それならそうと
電話掛けてきた時に言えばいいじゃない。
あんなこと言って、脅すようなまねしてさっ。
ホント、つくづくムカつく人だよね。
300 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:52

くやしいから、あたしは少し意地悪を言ってやろうと思った。

301 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:52
「藤本さんには言えないもんねぇ〜、奢って、なんて。」
「…何?」
「彼女にカッコつかないもんねぇ?ひーちゃん?」
「なんで……。何を知ってんすか?」
「合コンの女王なめんじゃないわよー」
「…合コンの女王は関係なくね?」
302 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:53

ガラ――――――――――ッツ

敷居の扉が開く。

『生ふたつぅ〜、おまたせしましたぁ〜』

やる気あんのか無いのかわからない、おそらくバイトであろう
若い店員が生ビールをドンっと机の上に置いた。

『ご注文お決まりでしょうかぁ〜?』
303 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:54


「…。」
「…。」

沈黙。

『あのぉ〜、ご注文・・・』
304 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:55
なに?黙りこんじゃって。
何考えてんの?今。
そうやって、自分の都合が悪くなったらすぐ
だんまり、なわけ?
なんとか言いなさいよ。

あたしはなんだか無性にイライラしていた。
305 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:55
「…焼き鳥盛り合わせとシーザーサラダ。あと、コレとコレとコレと、
あ、あとコレと本日のオススメのコレも。」
「頼みすぎじゃね…?」
「なによ?なんか文句ある?あたしの奢りなんだからいいでしょ!?」
「…ごもっとも…です…。」

『…以上でよろしいですかぁ?』

「はい。」
「はい、って。あたしの注文…」
「なに!?」
「あ、いえ。以上です。」
306 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:56
やる気があるのか無いのか微妙な店員はオーダーを復唱して立ち去った。
その後、しばらくの間があって吉澤さんが”とりあえず乾杯”って言ったから
条件反射的にしてしまったけど
一体、何の乾杯だっつーの。
とりあえずってなんだっつーの。
307 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:57

ゴッゴッゴッゴクッ

勢いよく飲み干したジョッキをドンっと少し乱暴にテーブルの上に置いた。
308 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:57
「すげ〜。いきなり一気かよ。」
「…付き合うの?」
「はい?」
「付き合うの?藤本さんと?」
「…それ、誰から聞いたんすか?」
「柴ちゃんが見たって言ってたよ。今日のお昼に。」
「げっ、うそ?見られてたのかよ…。」
「チューまでしてたそうじゃない。相変わらずお盛んなことで。」
「まぁ、ね。」
309 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:58
まぁね、って。
やっぱりしたんだ。キス。
ところかまわずキスするって
どういう神経よ。この色情魔。
310 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:59
「柴田さんもひどいなぁ〜。盗み見かよー。」
「柴ちゃんのこと悪く言わないでよっ。そもそも
 大学校内でそんなことしてるからでしょうが。」
「へへっ。」
「へへって。」
「でも、どっちかつーと、あたしは不可抗力だったんですよ。」
「不可抗力?」
「そう。むこうからしてきたんだから。」
「…ずいぶんと積極的な人なんだね。」
「あたしもビックリしたけどね。でもカワイイからいっか。みたいな。」
「それって不可抗力じゃないじゃない。」
「そうなの?」
311 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 20:59
しれっとした顔で彼女はそう言った。
あきれた。
軽い。なんて軽いんだろう。
あたしの脳裏に昨日の合コンの時、トイレにいた女の子たちの会話が過る。

(あたしなんてよっすぃとキスしたことあるし。)

(よっすぃからすればキスなんて挨拶程度なんじゃん?)

312 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:00
あぁ……。
この子にとっての”キス”って、別にさして重要なことじゃないんだろうな。
それとも、あたしがそれに対して意識しすぎてんのかな?
でも、あたしは好きな人としかしたくない。
きっと価値観が全然違うベクトルにいる人なんだろうな…
313 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:01
「ちゃんと付き合う気とかないの?」
「え?藤本さんとってこと?」
「…なにそれ。他にもいるの?そういう人?」
「あはは。」

笑ってごまかすつもりなんだろうか。
まったく、いったい何人と遊んでんだろう?この子?
314 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:01

♪♪♪

吉澤さんのケータイが鳴る。
そのメールは藤本さんから?それとも…誰?
吉澤さんは頬杖をついてケータイをいじっている。
メールの返信をしようとしてるのだろう。
すると彼女から意外なことを聞いてきた。



「石川さんって好きな人いないの?」
315 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:02
何?急に?

「・・・・・あ〜〜〜〜〜……」

突然すぎて言葉に詰まってしまう。

「……吉澤さんはいないの?好きな人?」
316 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:03
動揺したあたしは質問に質問で返してしまった。

すると吉澤さんはケータイの画面を見つめたまま冷めた表情でこう答えた。



「いない。」


317 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:03

「……じゃあ、藤本さんとはどうするの?」
「どうするもなにも、付き合わないよ。」
「そう…。」
「っちゅーわけでっ、この話は終わり!
さっ、食べましょうよ〜腹へったぁ。」
318 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:04
 
319 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:05
*******************************************************


「今日はホントにごちそうさまでしたぁ〜。」
「どういたしまして。」
「これでチャラになった。」
「へ?」
「あたしへの借り。」
「あ、あぁ…」
「あれ?今日はその借り返すために来たんでしょ?」
「そう!そうよっ!」
「そんな声張らなくたって聞こえてるっての。あ〜もう耳キンキンする〜。」

そう言って指で耳を塞ぐから、あたしは無理やり腕を掴んでそれを阻止する。

「あ、バカ、やめろよぉ〜。」
「誰がバカよ〜。はずしなさいよその指ぃ。」
「いーやーだー。」
「もうっ!そんなことするんだったらこうだから!」
320 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:06
あたしは大きく息を吸い込んで吉澤さんの耳元で叫んだ。

「吉澤さんのバカァァァァァッッッ!!!!!」

「う”う”っるせ――――」

「吉澤さんのぉーバー・・・モガモガ」
321 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:07
もう一度あたしが叫ぼうとした瞬間
慌てて吉澤さんがあたしの口を手で塞いだ。

「勘弁してくださいよぉ〜。」
「モガモガ…はぁっ、離してよっ!」
「うわっ!!もぉ〜、手にリップついちゃったじゃん。」
「ちょっと!あたしの服で拭こうとしないでよっ!」
「え〜、だってベトベトするもん。」

そんなことを言い合ってる時だった
322 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:07
♪♪♪

まただ。
飲んでる時も気になっていた。
度々鳴るその着信音。
その度に吉澤さんは遠い眼をして返事を打っていた。
そして、今も。
もしや老眼…んなわけないか。
323 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:08
「んじゃ、ここで。」
「え?」
「今日はそんなに酔ってないし、一人で帰れるでしょ?ここから二駅だし。」
「吉澤さんは?帰らないの?」
「うん。行くとこあるから。」
「…あっそう。藤本さんのとこにでも行くの?こんな時間に。」
「違うっての。あ、もしかして寂しいんですかぁ〜?」
「はやく行けば?バイバイ。」
「そういうとこ、治したほうがいいっすよ。男できないよ?」
「よ、余計なお世話です。」
「ハハッ。じゃ、気をつけてね。今日はありがとうございました〜。」

そう言って吉澤さんは行ってしまった
324 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:09

ぽつん。



一人その場にとり残された。

これってどうよ?
食べるだけ食べて、飲むだけ飲んで、
ホントにそれだけの為に呼び出したの!?
…それだけの為、だったんだろうな……。
別に何かを期待してた訳じゃないからいいけど。
別に一緒に帰る約束してたわけじゃないからいいけど。
別に一人で帰れるけどっ。
別に寂しくなんか……。
325 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:10
一人で帰る電車の中。
その車両にはあたし以外に一組のカップルが寄り添って座っている。
あまりジロジロ見るのもあれなので
あたしは目を瞑って寝たふりしていた。
すると脳裏に浮かんでくるのは吉澤さんの顔と声。
326 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:10

『どうするもなにも、付き合わないよ。』

藤本さんと付き合わないと聞いて内心ホっとしている自分がいた。
でも
327 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:11

『いない。』

そう吉澤さんが切り捨てるように言い放った
その言葉に傷付いてる自分もいた。




『石川さんって好きな人いないの?』
328 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:12

………………あたし
もしかして…
吉澤さんのことが…
329 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:12

「どうしよう…」


そうつぶやいたと同時に電車は駅に着いて扉が開いた。


330 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:13
 
331 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:14
*******************************************************

あれから1カ月以上が過ぎようとしていた

あたしは吉澤さんと会うこともなく
むこうから連絡がくることもなかった。
あたしからも連絡はしていない。
大体、自分からするとしても
何をメールしていいものやら、何を話せばいいのやら
さっぱり思い付かなかった。
そのくせ、鳴りもしないケータイをずっと眺めたり
無駄に問い合わせしたりして。
それにしても、同じ大学に通ってるのに同じアパートに住んでるのに
会わない時はてんで会わないものなのね……
332 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:14
たまに隣から物音が聞こえてくるので
部屋には帰ってきてるんだろうけど
すぐにまたどこかへ出て行っている感じ。
あの金魚はどうしてるんだろう。
エサ、ちゃんとあげてるのかな?
333 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:15

「はぁ…。」
「最近、溜息ばっかだねぇ梨華ちゃん。」
「そう…?」

柴ちゃんがどうしたもんか、といったような顔で
首をかしげてあたしを見る。
すると、急に窓の方を指さしてこう言った
334 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:16
「…あ!吉澤さんっ!!」
「えっ!?うそ!?どこ!?」
「…。」
「いないじゃん!なんでそんなウソつくかなぁ!?」
「梨華ちゃん、ズバリ聞くけど吉澤さんのこと好きなの?」

こ、これまたストレート、ド直球だなぁ…
それにしても、なんであたしが吉澤さんを気にしてることに
気付いたんだろう……
すごいなぁ柴ちゃんは。
335 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:16
あたしはすっかり柴ちゃんに感心していた。

「梨華ちゃん、どうなの?前から薄々そうなんじゃないかと
 あたしは思ってるんだけど…」
「どうなのかな…」
336 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:17
あの日、吉澤さんと二人で飲みに行った帰りの電車で
あたしもそうじゃないかと思った。
だけど…
このまま吉澤さんに対する気持ちをハッキリと
認めてしまっていいのだろうか。

あたしはなぜかずっと引っ掛かっていることがあった。
そのせいなのか、どこかで気持ちにブレーキをかけてしまう自分がいる。
337 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:18
「じゃあ、まだ完全に好きなわけじゃないんだね。」
「…わかんない。」

「……やめといたほうがいいよ、吉澤さんは。」
338 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:18
最初、言われた意味がよくわからなかった。
以前、柴ちゃんは好きになる相手なんて選べるもんじゃない
もしかしたら女の子を好きになっちゃう可能性もあるんじゃないかって
そう見解広いことを言っていたから、てっきり応援する系のことを言われるんだと
勝手にそう思ってた。
339 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:19
あたしが意外、といったふうな顔で柴ちゃんを見ていたら
柴ちゃんはゆっくりと話し始めた。
340 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/06(木) 21:19
「…あたし、この前大谷先輩から聞いたの。
 おせっかい、って思うだろうけど梨華ちゃんがずっと
 吉澤さんの事気にしてる感じだったから。なにかいい情報ゲットできないかな?って。
 そしたらね、……」
341 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/11/06(木) 21:20
今日はココまでです!
342 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/06(木) 23:11
うおっ!?
続きが気になる(>_<)
二人のノリが好きでしたが、どうなることやら…
特によっしーのノリが好きです。
作者様更新お疲れ様です。
343 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/07(金) 00:52
うはぁっ!いいところで…
とても面白いです。
続き楽しみにしてますね!
344 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:42
345 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:43
午後から急に雨が降りだした。

あたしはアパートにむかって歩いていた。
ザーザーと激しく降る雨
傘をさしていても雨が跳ね返って足元はすでにずぶ濡れだった。

でもそんなことは気にならなかった。

なぜなら、あたしは帰り道中ずっと
柴ちゃんから聞いた話を反芻していたから―――――
346 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:44

吉澤さんには中学の時からずっと好きな人がいた。
“ゴトウ”さんという名の女の子だったそう。
でも、その人には吉澤さんじゃない別の好きな人がいた。

暫くして、その二人は付き合い始めた。

それからだという、吉澤さんが色んな子と遊びだけの
付き合いをするようになったのは。
以来、吉澤さんは誰にも本気にならない。
結局、彼女の事を忘れられないんじゃないかと、柴ちゃんは言っていた。
347 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:44
そして、最近になってその彼女は恋人と上手くいってないらしく、
二人はここのところ頻繁に会っているらしかった。

そんな吉澤さんの話を聞いて思い当たる節がいくつかあった。

二人で飲みに行った日、何度もメールの着信音が鳴って
その度に遠い眼をして画面を見ていたこと。
『いない』と無表情で切り捨てるように言ったこと。
そして、家にはほとんど帰ってきていない様子であること。
348 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:45
それは、あたしがずっと引っ掛かっていたことだった
ということに今になって気が付いた。
349 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:45
夜になっても一向に雨は止みそうになかった。
むしろ雷が鳴り響き、激しさは増していく。
あたしはというと、ソファーの上で動けなくなっていた。
無音の部屋の中で、ただただ雨の音だけがしている。

あたしは、隣の部屋に意識を傾けてみたけど
そんなのは無駄なことで、家主は今日も帰ってくる気配はない。
350 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:46
暫くして、柴ちゃんからメールが入った。
大谷さんと近くまで車で来てるから今から行ってもいいか、
というような内容だった。
きっと今日の話の続きかなんかだろうと思う。


あたしは迷ったけど、その問いに承諾するメールを返信した。
ひどく落ち込んだような気分になったにもかかわらず
あたしの”吉澤さんのことを知りたい”という
欲求に負けたのだ。
351 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:47
*******************************************************

ピンポーン


十分程して二人はやってきた。
笑顔をみせるがどこか気まずさを感じさせる。

「部屋くらっ!…梨華ちゃん電気くらいつけなよぉ」
「あぁ…ごめんね…」
「…おじゃましまーす。」
柴ちゃんはそう言ってズカズカと中に入っていき
勝手知ったる、といった感じで部屋の電気をつけた。
352 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:47
「お、おじゃましまーす」
大谷さんは申し訳なさそうに、おずおずと柴ちゃんの後に付いていった。
353 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:48
「…」
「…」
「…」

シーンとした空気の中、柴ちゃんは大谷さんの方を見て
何か言えと言わんばかりに肘で突いている。
そんな大谷さんはとても言い辛そうな顔で俯いていた。
そんな二人を見兼ねたあたしは自分から切り出した。
354 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:48
「あたしなら大丈夫だよ。」
「え?」
柴ちゃんが驚いた顔であたしを見る。
「吉澤さんのことで話があったんじゃないの?」
「…ま、そうなんだけどさぁ、って先輩!俯いてないでちゃんと話してよっ」
そう言われてもって顔で大谷さんは困っている様子だった。
「そもそも、先輩があんな小難しい子、梨華ちゃんに会わせたからでしょー!?」
「わたしのせいかよぉ。…だって、こんなことになるなんて思わないじゃん。」
「…」
「…」
「…」
355 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:49
どことなく張り詰めた空気が部屋全体に漂っていた。
そんな空気の重さと柴ちゃんの刺すような視線に耐えかねたのか
大谷さんはしぶしぶといった様子でポツリポツリと話し始めた。

「…正直、自分の事じゃないから、私の口から言うのはどうも気が引けるんだけど…」
「…」「…」
「あいつさぁ……一時期は諦めようとしてたんだろうけどさ、
あいつの気持ち知ってるだけに、そりゃあ当時の吉澤は痛々しかったよ。」
そう言って大谷さんは苦笑した。
356 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:49
「あゆみから大体のことは聞いたんだよね?」
「…まぁ。」
「だったらもういいんじゃない?」
「先輩っ!あの話は!?」
「だからぁ、それは当人同士の問題なんだし、
梨華ちゃんに言うことじゃないと思うんだけど。」
「だからじゃない。はっきり聞けば梨華ちゃんも諦めがつくでしょ。」

二人の言い合っている意味がさっぱりわからなかった。
吉澤さんってそんなに複雑な人なんだろうか?
357 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:50
「わかったよ…私と吉澤の信頼関係が崩れたらあゆみのせいだかんな」
「あたしは梨華ちゃんが心配なの」
「ほんと…勝手…。はぁ…」

大谷さんは大きく項垂れた。
しかし、覚悟を決めたようで
あたしに確認するようにこう聞いてきた。
358 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:51
「梨華ちゃんは吉澤のこと好きなんだよね?」
「……」
何も言わないあたしを大谷さんがどうとったのかはわからなかった。


「…吉澤のずっと好きな奴ってのが”後藤”って子だってことは聞いてると思うけど
その後藤の相手ってのが”市井”ってやつでね。あ、そいつと私は同期なんだよ。
 だから、中学ん時はよく四人で遊んでたんだ。」
359 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:51
「とにかく、それからは何をするにも一緒だったよ。
するとさ、別に見ようと思ったわけでもないことも見えてくんだよ。
まぁ、後藤の場合はあからさまだったけど。
あいつは市井のことで胸いっぱいって感じで、毎日頭から花咲いてたけど。」

そこまで言って大谷さんは柴ちゃんが買ってきていたペットボトルの
お茶を一口飲んだ。
360 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:53
「そもそも、四人でよく連るむようになったのは後藤がしょっちゅう市井に
 会いにうちらの教室に来るようになったからなんだ。
 それこそ初めはうっとうしそうな顔してたよ、市井も。
なんなんだ、アイツはってよく言ってた。
相手はガキだったからな。実際幼かったよ、二人は。
 あいつらは中一でうちらは中三で、あの頃の二学年差ってでかいだろ?」



「最初は後藤もただの憧れの先輩として市井を見てたんだと思う。でも、いつしかそれは
 恋に変わっていったんだな。そんな後藤を吉澤も初めは単に友達として見てたんだろうけど。でもさ、うちらが高校に上がって二年になったある日、あいつらは中三か、
 …私は気付いたんだ、いつも市井に纏わりついてる後藤のことを
切なそうに隣で見つめる吉澤の気持ちにさぁ」
361 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:54
「市井は市井で何考えてるかよくわかんないようなとこがあってね、
 あんまり自分のこと話すようなタイプじゃなかったし、だから
 二人が付き合ってるって聞いた時はビビったよ。ほんと、いつの間にって感じで。
 ってか、友達やってんのに何で言わねーんだって。
 …その二人が付き合ってるって話は吉澤から聞いたんだ。
 どんな思いで話してたかは私は知る由もないけど、苦笑しながら話す
 吉澤の顔は今でも忘れられないよ……」

柴ちゃんもあたしも大谷さんの話に聞き入っていた。
実際、柴ちゃんはどんな思いで聞いていたかはわからない。
あたしは切なかった。
それはあたし自身が切ないのか、吉澤さんの後藤さんに対する思いが切ないからなのか。
362 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:54
「吉澤さんは後藤さんに自分の気持ち言わなかったの?」
唐突に柴ちゃんが大谷さんに問いかけた。

「言えないし、言わないって。」
「吉澤さんがそう言ったの?」
「…そう。あいつから後藤のことを相談してきたことは一度もなかったけどね。
でも、あまりに辛そうだったから一回だけ私には全部言えよって言ったことがあった。」
「その時に吉澤さんが……?」
「うん。後にも先にもあれきりだったけど。吉澤から後藤への気持ちを聞いたのはね。」

とても悲しそうな顔をしながら大谷さんはため息をついた。
そして、暫く俯き加減でいた顔を上にあげて天井を見つめたかと思ったら
またお茶を一口飲んで話し始めた。
363 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:55
「でもさ、今の吉澤を見てて思うのが、後藤のことに
意地になってるだけなんじゃないかって、そう思うんだ。
あいつは過去に囚われてるだけなんじゃないかな?。何もわかってないんだよ。
打ち明けられなかった気持ちが燻ってて、もがいてんだ。ただそれだけなんだ。
なのに後藤のことを諦めきれない、忘れられないってことにして
今でも好きだってことだと勘違いしてんだよ。」
364 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:56
なんて言っていいか判らなかった。
報われなかった自分の気持ちが消化しきれなくて彷徨っている。
それは好きということとは違うのか?
あたしには難しすぎる。

あたしが出せない答えについて考えていた時
大谷さんがあたしの顔をジッと見つめてこう言った。
365 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:56
「私は吉澤に未来を見てほしいって思ってる。前だけ見ろよって。
 あゆみは梨華ちゃんに吉澤のこと諦めてほしいって思ってるみたいだけど
 私は梨華ちゃんが本気で吉澤のことが好きなら、アイツを救ってやってほしい
って思ってるんだよ。」

「先輩!?何いってんの?本気で言ってんのそれ!?」
「私は本気だよ。」
「信じらんないっ!梨華ちゃんっ、ダメだよ!そんな後藤って子に
 未練たらたらで過去ばっか引きずってるようなヤツ!!」
「おいおい、仮にも私の後輩だぞ。ボロカス言うなぁ。」
366 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:57
柴ちゃんはひどく憤慨していた。
でも、あたしが柴ちゃんの立場でも同じように思っただろう。

「…あたしには荷が重すぎるかなぁ?ハハッ……」
あたしはそう言って笑ってみせたけど
柴ちゃんはそんなのお構いなしでいきり立っている。
367 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:58
「引き受けなくていいよ!梨華ちゃんっ!」
「…そっか。無理にとはいわないよ。ほんとは吉澤が自分で解決しなきゃ
 いけないことなんだ。」
「そうだよ!梨華ちゃん巻き込まないでよっ。」
「あゆみはうっさいなぁ〜。」
「いい!?梨華ちゃん?吉澤さん、その後藤って子にお金まで
 貸してんのよ!?しかも千円二千円の話じゃないんだよ?大金だよっ。
 しかも、そのお金が後藤さんの恋人の市井さんの為だっていうんだから!」
「あゆみっ!!!」
「…ごめん。」
368 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:58

殺伐とした空気が流れる。
そんな中、今言った柴ちゃんの言葉を聞いてあたしはあることを思い出した。

(ちょっと急に思いもよらぬ出費がかさみましてですね…。)

二人で飲んだあの日、吉澤さんは確かにそう言っていた。
あの時言っていた理由がこの話と繋がってるかまでは
正直なとこわからないけど…
369 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 21:59
「はぁ…。これは梨華ちゃんに言うことじゃないと思ってたんだけどな…。
市井はね、ずっとシンガーソングライターってやつになりたいって言ってて
 で、漸くこの2,3カ月前くらいにある事務所からスカウトされたんだって。
 でも、それがどうやら騙されてたらしくてさ、結構な借金をつくるハメになった。
 その金を市井の為に後藤が?き集めてるって話なんだよ…。」


その後、しゃべりすぎたと言って、大谷さんは肩を落としていた。
そんな様子の大谷さんを見て柴ちゃんもここまで言わせたことに
少し責任を感じているようだった。
そして、二人が帰ろうとした時
柴ちゃんがあたしに念を押すようにこう言った。

「とにかく、これから吉澤さんに関わっちゃだめだよ?」
370 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:00
次に吉澤さんと会った時、あたしはどんな顔すれば良いのだろう。
そんな思いとは裏腹に、柴ちゃんには関わるなと言われたけど
あたしは無性に吉澤さんに会いたいと思ってしまった。

変かもしれないけど、あたしは吉澤さんを酷くいとおしいと感じていた。
371 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:00
**********************************************************

ふっと足元を見てみたら携帯が落ちていた。
それはあたしのではなかったし、柴ちゃんのものでもなかった。
おそらく、その持ち主は大谷さんだ。

あたしは急いで柴ちゃんに電話した。
車で来ていた二人は、もう結構な距離を走っているみたいで
引き返すのに十五分くらいかかるとのことだった。
372 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:01
引き返してくる二人を暫く待っていたら
ドンドンと隣の部屋のドアを叩く音がした。
外からは誰かを呼ぶような声が聞こえる。
当の家主はまだ帰ってきてはいない。

あたしはそう伝えようとして玄関を開けた。
373 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:01
「よしこ〜、いないのー?」
「あの〜、まだ帰ってきてないと思いますよ…」
「…あ、もしかして石川さん!?」

何?なんでこの子あたしの名前知ってんの?
こわ〜……。
374 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:02
ちょっと引き気味にあたしは答えた。
「そうですけど…。」
「あはっ。やっぱり。最近よしこからよく石川さんの話聞くから。」

よしこ?あぁ、吉澤さんのことね…
375 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:02
「どうせおもしろおかしく言ってるんでしょ?あたしの事。」
「あはは。んなことないよー。よしこは石川さんと一緒だと楽しいみたいだけど
 石川さんにはどうも嫌われてるって嘆いてたよ〜。」
「そうなの?」
「うん。」

…思い返せば、そう思われても仕方ないような事ばかりが
頭の中に浮かんできた。
これまで、あたしは吉澤さんを批判するようなことばかり言ってた。
顔を合わせば突慳貪な態度ばかりで。
まさか今のあたしが吉澤さんを想ってるなんて
考えもしないことだろう。
376 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:03
「…今どき、突然家にくるなんて、メールとか電話とかしないの?」
「あはっ、ケータイ壊れちゃって。」

軽い感じでそういう彼女としゃべっていたら
彼女が待っていた家主が帰ってきた。
377 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:03
「真希!?なにやってんの!?」
「あ!よしこぉ待ってたよ〜お帰りぃ」
そう言って真希という子は吉澤さんに抱きついていた。

あたしはというと、突然帰ってきた吉澤さんから目が離せなくなっていた。
378 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:04
「あ、石川先輩久しぶり。隣なのに会わないもんっすね〜。」
「…」
「何かあたしについてます?」
「ごとーがついてるよぉっ♪」
379 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:05

ゴトー?
…ごとう?後藤…

「後藤っっ!?」

そう叫んだあたしを二人は目を丸くして見ていた。

「…さん、って言うんだね。ハハッ…」
380 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:05
あきらか不自然なあたしの態度をよそに
廊下奥のエレベータの扉が開いた。
そこから出てきたのは大谷さんと柴ちゃんだった。


「後藤!?」

そう叫んで驚いている大谷さんの顔見て
あたしは確信した。

この子だ。
吉澤さんが今も尚思っている人は。

あたしがそう気づいた瞬間
その場が凍りついた。
381 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:06
「…………」



柴ちゃんが今にも何か言いたそうなのがよくわかる。
大谷さんは呆気に取られている。
吉澤さんは……
この異様な空気の重さに何かを感じ取ったのか
今まで見たこともないような
険しい顔をしていたけど、誰とも目を合わせようとしなかった。
382 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:07
そんな中、一人軽い感じで彼女は話しかける。

「大谷先輩ヒサブリっ♪元気してた?」
「後藤…、おまえ何でこんなとこにいんだよ?」
「何でって…まぁいいじゃないっすかぁ。よしこに用事あんのっ」

そう言った後藤さんに吉澤さんが険しい顔のまま言い放った。

「あたしに用事って、どうせ野暮用だろ?」
「んなことないよー!大事なことだよっ。」
「…」
383 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:07
あたしはハラハラしていた。
ここで誰かが何か言えば一発触発なこの空気に。
柴ちゃんあたりがそろそろ限界を迎えてそうなのは
見て取れる。
384 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:08
「吉澤っ。」

その空気を切ったのは大谷さんだった。
あたしはビクッとした。


「おまえ、いーかげん目ぇ覚ませ。」
385 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:09
そんな風に言われた吉澤さんは、これでもかってくらいに
大谷さんを睨んで吐き捨てるかのようにこう言った。

「知った風な口きいてんじゃねぇーよ。」
「よしざ―――」

大谷さんが何か言おうとしたけど
それを遮って吉澤さんは続ける。

「説教でもする気かよ?あんたらに関係ねーだろうが…
 行くぞっ、真希。」
386 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:10
吉澤さんは、何?何?と訳がわからないといった様子の
後藤さんの腕を強引に引っ張って
部屋の中へ入ってしまった。

「…先輩には敬語使え、あのバカ。」
「あの…大丈夫ですか?」
「私?ハハっ、私は大丈夫だよ〜。それより梨華ちゃんこそビックリしたんじゃない?」
「あはは…まぁ。」
387 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:10
大谷さんとお互い申し訳なさげにハハハ、ハハハと笑いあっていたら
一人ふるふると体を震わせながら顔を怒りで真っ赤にさせた
柴ちゃんが限界!と言わんばかりにこう言った。

「何あれっ!?先輩も梨華ちゃんも何笑ってんのさ!?
 ムカつかないわけっ!?」
「落ちつけよ〜あんたが取り乱してどうすんだ。」
「そうだよ。柴ちゃん、落ち着いて。」
「なんであんたたち二人が冷静なのよっ!もっと怒りなさいよ!!」
「梨華ちゃん、悪いけど携帯持ってきてくれる?
 あゆみはあたしが何とかするから。とりあえず、この場は
 さっさと離れた方が良さそうだしね…」
「そ、そうですね。今の柴ちゃん何するかわかんないし…」
「キ――――っ!!」
388 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:11
いきり立っている柴ちゃんをよそに
あたしは部屋から大谷さんの携帯をとってそれを渡した。

「ほんとにゴメンね。こんなことになるなんて…」
「大丈夫です。大谷さんは悪くないですよ。」
「ありがと。じゃあ。ほら!行くぞあゆみぃ!」
「梨華ちゃんっ、気を確かにもってよ!」

気を確かに持つのはお前だっと
柴ちゃんは大谷さんに頭を小突かれながら帰っていった。
389 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:11
 
390 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:12
柴ちゃんたちが帰ってあたしが部屋に戻って暫くしたら
隣から出ていく音がした。
おそらくあの二人が帰るのを見計らっていたんだろう。
時計を見たら午後11時を回っていた。
こんな時間に一体どこに行くのか。


あたしはベットに横になって目を瞑った。
吉澤さんが怒った顔を思い出す。
どちらかといえば普段飄々としている吉澤さんしか知らない。
だから、あんな風に感情を剥き出しにすることが意外だった。
彼女の触れてはいけないところに触れてしまった。
きっと、吉澤さんにとって後藤さんのことは
他の人が思う以上に深刻なんだろう。
あたしなんかが入り込む隙間は微塵も感じられなかった。
391 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:13
**********************************************************




いつの間にか眠っていた。
目が覚めたのは、隣から何かが割れるような音がしたから。


ドガッシャーン


今度は何かが倒れたような音がする。
吉澤さん……?

心配になったあたしは自分の部屋を出て吉澤さんの部屋へと向かった。
392 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:14

ピンポーン


インターホンを押してみるが反応がない。

コンコン


今度はノックしてみる。しかし反応ナシ。
ひょっとしたら、先刻のことであたしと顔を会わせ辛いのかも…

ドアノブに手をかけたら
ドアがきぃっと開いた。
393 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:14
「お、おじゃましま〜す。」
部屋の明かりをつけて、恐る恐る中に入ったら
そこには、本棚と一緒に倒れこむ吉澤さんがいた。

「よ、吉澤さんっ!!」
雨に打たれて服も髪もビショビショに濡れている。
そんなうつ伏せになって倒れている彼女の腕を自分の肩に乗せて
ゆっくりと起こした。
お酒臭い……。
吉澤さんはかなり酔っ払っているようだった。
394 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:15
「…ありゃ?石川さん?なぜここにぃ?」
「夜中にあんな物音たてるんだもん。心配するじゃない。
 で、来てみたら曙みたいになってるし。」
「曙…」
「ほら、あたしに捕まって、立てる?」
「う”〜ん」
395 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:15
気分が悪そうに項垂れている吉澤さんを
あたしは何とかベットに連れていこうとするけど
なにせ、あたしより彼女の方が体が大きいので
なかなか上手い具合にはいかない。

やっとの思いでベットまで辿り着いて
そのまま吉澤さんを座らせる。
396 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:16
「う”う”」

やっぱり相当気分が悪そうだ。

「お水、飲んだ方がいいね?ある?」
「冷蔵庫に…」

あたしは冷蔵庫からペットボトルの水を出し
ついでに浴室からタオルを持ってきた。
397 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:17
「飲んで?あ、先に服着替えた方がいいんじゃない?」
「…」

吉澤さんは俯いたまま動こうとしない。
とにかく、このままじゃ風邪ひいちゃう。
そう思って、あたしは持ってきたタオルで彼女の髪を拭いていると
吉澤さんがあたしの腕を取って自分の膝の上に置いた。
398 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:17
「あ、ごめん。でも髪濡れたままだと風邪ひいちゃう…」
「…聞いたんでしょ?大谷先輩に……」
「…」

きっとあの話のことを言ってるんだ。後藤さんとのこと…。
そう言った吉澤さんは俯いたままでその表情は窺えない。
あたしは答えに詰まる。
399 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:18
「やっぱりね…。カッコわりぃ…あたし…」
「…」
「あはは。自分でもねぇ、もうねぇ、バカかかと思うよ。」
「…今でも好きなの?…彼女のこと…」

「…」

黙ってしまった吉澤さんを見て
そんなことを聞いてしまった自分に後悔した。
400 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:19
「…アイツさぁ、市井さんにケータイ壊されてやんの。何でだと思う?」
「あぁ、確かにケータイ壊れたって言ってた…」
「あの人の借金返す為に集めた金渡したら、怒って壊されたんだと。
 ボキッと見事に二つ折り。あげく余計なことすんなって。」
「…」
「…信じらんねーよ。真希がどんな思いで色んな人に頭下げてまわったと思ってんだ。」
「そう…だったんだ…」
「あたしさぁ……ずっと考えてた…」

すうっと息を吸い込んで吉澤さんは続けた。
401 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:19
「ずっと考えてたんだ。真希に辛い思いをさせるあの人より
 自分の方が真希を一番わかってるのに、大事にするのに。
 気持ちを打ち明けて市井さんから真希を奪ってしまったら…
 でも、それは駄目なんだ。駄目なのはわかってる。
 真希が市井さんを想う気持ちは誰よりもあたしが知ってる。
 だけど、真希が想うようにあの人は真希の事を想ってくれてるのか?
 だったら、本当はあたし達が一緒にいるべきなんじゃないか?」
402 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:20

そこまで言って吉澤さんはフッと微笑んだ。

「でも、違う。やっぱりそれは駄目なんだ……
ダセェよなぁ、こんなことばっか考えてるなんて」
403 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:21


ずっと…

ずっと一人でそんな風に考えてたんだね。
そうやって、行き場のない想いを抱えて。


吉澤さんの心が苦しい苦しいと叫んでいるような気がした。
笑顔の奥で本当は泣いているようで……。
404 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:22
「泣いてんの?」


泣いていたのは
あたしだった。でもそれは…


「泣くよっ」
「…」
「吉澤さんの代わりに、あたしが泣く。」
405 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:22
吉澤さんと目が合った。
と思ったらまた俯いてこう言った。


「…………便利な人だね…」

406 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:23


あたしは吉澤さんを抱きしめた。
そんな切ない顔して笑わないで。
悲しい想いはあたしが全部取ってあげる。



そっと吉澤さんの唇に触れるだけのキスをした。



407 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:24
「…」
「…エッチする?」
「…なんでそうなんのよっ」
「だって、流れ的にそうじゃね?」
「バカっ!」
「うそだよ……」

そう言って今度は吉澤さんに抱きしめられた。
とても優しく、そっと。
408 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:24
「いい匂いすんね、石川さん…」
「そう…?」
「うん…なんか眠たくなってきちゃった…」
「…寝ていいよ。あ、でも着替えないとここままじゃ…」


あたしに凭れかかったまま後ろのクローゼットを
指さす吉澤さん。
取って来いと。
はいはい。わかりましたよ。

少し惜しい気持ちで吉澤さんの腕を解き
あたしはクローゼットから適当に
Tシャツとスウェットを取り出した。
409 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:25
「はい、これでいい?」
「あんがとぉ」

そう言って吉澤さんは服を受け取ったけど
なかなか着替えようとしない。
やっぱり気分が悪くて着替えるのも億劫なのかな?
410 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:25
「…見ちゃやだよ〜」
「エッチしようとした人が何言ってんの!?」
「うへへ。」

もうっ!
手がかかる。早く着替えないとホントに風邪ひいちゃうんだから!

あたしは強引に吉澤さんの上着を脱がせた。
411 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:26
「わ〜、ごうかーん!」
「ふざけてないで着替えるのっ」
「はいはいよ〜」

眠そうな目でフラフラしながらも
なんとか吉澤さんは自分で着替えて
バフッとベットに寝転んだ。
412 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:27
「大丈夫?」
「……」

スースーと寝息が聞こえる。



ごめんね。ホントは後藤さんのこと
誰にも話したくなかったんだよね。
それなのに、こんな風にあたしに知られてしまって。
きっと傷ついたよね。
413 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:27
寝ている吉澤さんを起こさないように
散乱していた部屋を片付ける。
部屋には水槽の音と吉澤さんの寝息だけが聞こえていた。
414 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/07(金) 22:28



「好きよ。吉澤さん……」



あたしは無防備な寝顔にキスをして部屋を出た。


415 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/11/07(金) 22:38
更新を怠っていたので、二日連続で上げてみました。


>>342さん

レスありがとうございます。
ちょっと重い感じになってきてますんで
なかなか二人のノリの良さを出せない…
もう少々、お待ちくださいませm(__)m

>>343さん

レスありがとうございます。
今回の内容はちょっと重いので
期待に応えられてるのかは…自信ないっす(汗)
416 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/11/07(金) 23:09
スイマセン。
>>369の大谷さんのセリフで「?」になってるとこがある…
正しくは

「―――――掻き集めてるって話なんだよ…。」

です。


417 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/20(木) 23:38
やっと自分の気持ちに素直になった梨華ちゃんその調子で
よっすぃの心を癒してあげて。
418 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/22(土) 02:23
梨華ちゃんに期待大です!
こんなよっすぃ〜も好きです(^-^)
419 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/11/24(月) 23:46
>417さん

そうですね〜。どんどん癒してあげてほしいと思います。
いしかーさんガンバレっ!です。


>418さん

私もいしかーさんを応援していますwww
こんなよっすぃ〜で良いですか?
一つ言えることは、ここの二人はお酒はあまり強くないということですw

420 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/11/24(月) 23:47
更新します
421 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/24(月) 23:49
 
422 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/24(月) 23:51

グッと腕を伸ばし
あたしは体を起こした。
眠い目を擦りながらカーテンを開けたら
空一面に晴天が広がっていた。
眩しい朝の光に目を顰める。


窓を開けて風を部屋に入れる。
その初夏を感じさせる風を感じながら
あたしは昨夜のことを思い出していた。



423 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/24(月) 23:51



ああいう状況だったとはいえ
キス……しちゃった……
しかも自分から…二回も。

…二回目は吉澤さん寝ちゃってたけど。

昨日のあたしを吉澤さんはどうとったのかな?
いつも、誰かとあんな感じなのかな?
実際、キスしたあとふざけたこと言ってたし。


424 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/24(月) 23:52
…こんなこと聞いたら柴ちゃんきっと怒るだろうなぁ。


でも、止めらんないよ。
もう止められない。
あたし吉澤さんが好きでしょうがない。


皮肉なもんだよね。
その気持ちに気付くや否や、その相手には
あたしじゃない、他の誰かが好きだなんて。
425 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/24(月) 23:53
吉澤さんもずっと……
葛藤してたんだろうな。


(ずっと考えてたんだ……)


昨夜の吉澤さんの言葉が蘇る。



426 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/24(月) 23:53

「…………」

チクリと胸が痛んだ。
彼女が言った言葉から
後藤さんへの想いが痛いくらいに伝わるから。

でも、同時にあたしは不謹慎にも
吉澤さんが誰にも言わなかった想いを
自分に言ってくれたことに
少し優越感を感じていた――――



427 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/24(月) 23:54

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428 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/24(月) 23:55

大学のカフェテリアで
あたしは顎を両手で支えながら
テーブルに肘をつき、ボーっと外を眺めていた。

そんな時でも、あたしの心を支配していたのは吉澤さんだった。
あれこれと彼女の色んな表情を思い浮かべる。
あたしって、意外と恋に溺れるタイプ?

429 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/24(月) 23:56

「はぁ」
「おはよう」

ビクッと肩が上がる。
あたしは後ろを向き、声のする方を見た。


「し、柴ちゃん!?お、おはよう」

すると、そこには腕を組んで立つ柴ちゃん。
怖いんですけど…

「…」
「あ、あれからちゃんと帰れた?雨凄かったから〜」
「帰れてなかったら、今ここにいないでしょ?」

…そりゃそうだけど。言葉に刺を感じるのは気のせい?

430 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/24(月) 23:57
「だ、だよね〜。あはは…」
「ごめんね」
「え?」
「昨日は…なんていうか、頭に血が上っちゃって…」

そう言って柴ちゃんは申し訳なさそうな顔をする。


「ううん。心配してくれたんだよね?あたしのこと」
「うん…まぁ…」
「だったらいいよ。ありがとう」
「あれから反省した。吉澤さんも色々辛いんだよね…」
「だろうね…」
「だからといって賛成したわけじゃないから」
「…」

そう言って、しばらくお互い沈黙。
でも、きっと今、柴ちゃんが考えていることはわかる。
すると柴ちゃんの口が開いた。
431 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/24(月) 23:58
「…やっぱり吉澤さんのこと好き?」


ほらね。聞かれると思ったよ。
でもね、今のあたしは迷わないよ。
この前みたいなことは言わない。


「好き」


そう言ったあたしの顔を
柴ちゃんは豆鉄砲をくったような顔で見る。

432 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/24(月) 23:59
「これはまた…ハッキリと…」
「好きになっちゃったんだもん」
「…どうすんの?言わなくてもわかってると思うけど、
あの子まだ未練タラタラなんだよ?あの後藤って子に」
「だよねぇ…」
「難しいよ…」


なんで、わざわざこんな
ややこしい人を好きになるかねぇ?
と柴ちゃんは少し諦め気味にぼやいていた。

あたしもそう思う。

大学に入って初めて好きなった相手は
なんと女の子で、遊び人気取りで色んな子に手を出して
そのくせ、本当は凄く好きな人がいるなんて
ややこしいこと、この上ない。

恋とは時に理不尽だ。
433 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:00
434 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:00
435 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:01
「あっ」
「わっ」


アパートに戻ったら
エレベータホールにいたのは吉澤さんだった。
お互い素っ頓狂な声を出して見合う。

すると、見る見るうちに
吉澤さんの顔が赤くなった。
昨夜はかなり雨に打たれていたから
体調が悪いのかもしれない。
436 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:01
「やっぱり風邪ひいた?はやく着替えないからだよ」
「……」
「熱ある?」

そう言って、あたしは自分の手を
吉澤さんの額に当てた。
ちょっと吉澤さんに触れてしまってドキドキ、なんてね。バカ。

437 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:02
「だいじょうぶ…です…」

そう言って、吉澤さんは一歩二歩後ろへ下がる。
様子が変。ホントに大丈夫?


「き、昨日は…随分とカッコ悪いとこ見せちゃって…」

あ、それでか。どうりで大人しいわけだ。
吉澤さんは気恥ずかしそうに目をそらしている。
顔は相変わらず赤いまま。
438 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:03
「なんか色々ベラベラしゃべりましたけど……覚えてます?」
「あたしは酔ってなかったからね」
「…ですよね。あぁ…」

そう言って吉澤さんはガクッと肩を落とした。


「これであたしに借りが出来たね」

へ?と顔を上げて吉澤さんはあたしを見た。

「ね?」

それだけ言ってあたしは笑顔で吉澤さんを見る。

「…っだァ―――!!石川さんに弱みを握られるとは
 吉澤、一生の不覚っ…」
「ふふん。どうしよっかなぁ〜」
「なに?なに企んでんすか!?」
439 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:04

この1か月前とは立場逆転。
慌てふためく吉澤さんを見るのはチョット快感。
あたしってサディスト(笑)

おもしろいから、ちょっとからかっちゃおう♪
あたしは吉澤さんの首に自分の腕をまわした。

440 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:04
「んふ♪」

吉澤さんは眉間に皺を寄せては顔をのけ反る。

「…なんすか?」
「何してもらおっかな?」
「その笑顔が怖いんすけど…なんかキャラ変わってねぇ?」
「ひーちゃん、あたし今日バイト休みなの」
「だから?どうしろと?」
「ご飯作って?」
「…あたしを飯炊き女にしようって魂胆だな……」
「もー、違うよぉ。一緒にご飯食べたいの」
「馬鹿な…」
441 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:05


ホントだよ。ちょっとでも一緒にいたいんだもん。


442 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:06
「決まりだね?」
「毒盛ろう…」
「なんて?」
「いやいや、こっちの話。なんでもない。」

やったー!
今日はこれから吉澤さんとディナーだぁ〜
443 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:06
444 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:07

吉澤さんの部屋は昨夜の一件で
本棚が壊れてしまって足の踏み場もないそうで
ご飯を二人座って食べるなんて出来ないと言われた。
なので、ご飯はあたしの部屋で作ることに。

「おじゃまします…」
「どうぞ〜」
「…」
445 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:07

あれ?何突っ立ってんの?

吉澤さんはあたしの部屋に入るや否や、ギョっとした顔で
立ち尽くしている。
もしかして緊張してる??

446 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:08
「どうしたの?」
「汚ねぇ」

しまった!部屋をかたずけてなかった!

吉澤さんは緊張していたわけではなかった。
単にあたしの部屋の汚さに驚いただけだったのだ。

あたしは浮かれすぎていて、吉澤さんにそう言われるまで自分の部屋の
状況なんて忘れてしまっていた。
あぁ、自分のバカ…。
447 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:09

「なんでこんなに綿棒があちこちに落ちてんだ…」

吉澤さんはテーブルの上に散らばっていた綿棒を取って首を傾げている。
あたしは焦って吉澤さんからそれを奪い取った。

「こ、これはメイクの時に使ったからなのっ」
「だからってさぁ、何日分ため込んでのさ?使ったらちゃんと捨てよーよ」
あきれた声で言う。

「わ、わかってるよっ」
「…あたしの部屋の方がマシなんじゃねーか?」
「大丈夫だよっ!ほら、ちゃんと座るとこあるしっ」
あたしは吉澤さんの腕をとって強引にソファーの上に座らせた。
「ねっ。吉澤さんはここに座ってて」
「座ってていいの?」
「ん?」
「あたしに作らせる気だったんじゃないの?ご飯?」
448 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:10

あっと、そうだった。
肝心なことを忘れてた。

「だよね〜。あはは」
「何が”だよね〜”だ。はぁ、キッチン借りますよ」

吉澤さんは立ち上がってキッチンへと向かう。
……緊張してんのはあたしの方か。
そう思うと変にドキドキしてきた。
そんなあたしをよそに後ろから呼ぶ声が聞こえる。

「おい」
449 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:11
あたしは後ろを振り返って
キッチンに立つ吉澤さんの方を見た。
すると、吉澤さんはあたしにこっちへこいと手招きする。

「な〜に?」

冷蔵庫を開けたまま、吉澤さんは険しい顔をしている。

「なにもねーじゃねぇか」
「エヘッ」
「…よくもまぁこれでご飯作って、とか言えるなぁ」
「ご、ごめんね」
450 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:12
少し考えた様子で吉澤さんは腕をくんで俯いていた。
あたしって一体…

こんなんじゃ一向に好きになってもらえそうにないなぁ。
料理しないのバレバレじゃん。
って、それ以前の問題?
451 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:12
「もういい…」

へっ?何がいいの!?
そんなに呆れた!?

「あ、あたし買い物行ってくるよっ」
「別にいいよ、んなことしなくても。あたしの部屋から持ってくるから」

それから吉澤さんは自分の部屋から色々食材を持ってきて
チャッとご飯を作ってくれた。
452 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:13
453 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:13

「おいすぃ〜♪」
「そいつぁーよかった」
「なんでこんなにサッと作れんの?」
「別に。これくらい出来て普通なんじゃないの?」
「…」
「あ、ここに出来ない人が約一名」

そう言って吉澤さんはシャッシャーと笑っている。
どうせあたしは出来ませんよ。こんなこと。
454 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:14
「あれ?怒った?」
「…なによ〜」
「まぁいいんじゃないすか?料理出来なくったって、
 石川さんはカワイイからさ」
「へっ??」

突然のその言葉にあたしは目を丸くした。
吉澤さんは優しく微笑みながら続ける。
455 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:15

「うん。かわいい。」


頬杖をついて首をかしげながらニコッと笑う。
そんなこと言われたら
勘違いしちゃうよ。
あたしは顔から首が真っ赤になるのを感じた。

「か、からかわないでよ」
「別にからかってなんかないし」
「そ、そういうこと簡単に言うから
よ、吉澤さんのこと好きな子とか勘違いするんじゃん」

そうだよ。ドキドキしちゃうよ。
今言ったことは紛れもなくあたし自身のことだけど…
456 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:15
「ふ〜ん」
「ふ〜んって…ホントにカワイイなんて思ってんの?」

こんなこと聞き返してるあたしもどうかと思うけど。

「…世間一般的に見てカワイイ部類にはいるんじゃない?」

あ、そう…
世間的に見て、ね。
嬉しいような、そうでもないような…
457 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:16
「ね?なんで男つくんないの?」
「えっ?」

また突然突拍子もないことを聞く。

「いや、前から思ってたんすけどね。合コン行きまくってるわりに
 そういった話聞かないな〜って」
「あ、あたしモテないもん」
「うっそ?あたしよく聞くよ〜、石川先輩カワイイって言ってるヤツ」
「そんなの…知らない…」
「あ、そだ。今度そいつ紹介しましょうか?」
「…」
458 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:17
なんでそんなこと言うの?
そりゃまぁ、つい1か月前までは確かに合コン行きまくってたけど
でもそれは…

「そいつね〜石川さんのこと可愛いカワイイってうっさいんだ。
 んで、あたしと石川さんが知り合いだってわかってから
一回会わせろってしつこくってさぁ〜」

「イヤ」
「へ?」

あたしは吉澤さんの目をキッと睨みつけるように見て
ハッキリと言ってやった。
459 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:18
「イヤよ。会いたくない」
「…これまたキッパリと」
「紹介なんていらない…」
「アハハ。無理にってわけじゃないから〜。そういうヤツがいるよって話で
 もしよかったら会ってみない?みたいな―――ってなんでっ!?」
460 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:19

気づいたらあたしは泣いていた。

「ちょっ、マジで!?なんでさぁ??」
吉澤さんは訳がわからないといった様子で困った顔をした。

「うぅ。もうやだぁ〜ヒック」
「ゴ、ゴメンっ。あたし何か変なこと言った??」
「ち、違うの…吉澤さんは悪くない…うぅ」
「だったら何で泣くのさ〜?」

そう。吉澤さんは悪くない。
そんなのわかってる。でも涙が止まらない。
あたし情緒不安定だ…

461 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:20
「ごめんね…」
「ううん…ヒック、ヒック」
「泣かないでよ…」

そっと吉澤さんの腕がのびて
いつまでたっても泣きやまないあたしを
優しく抱きしめて頭を撫でてくれる。

「よしよし」
「…うぅ」
「よしっ、今日は何でも言うこと聞くよ〜
 遠慮なく言っちゃってくれ〜」
「…と、当然だよ。だって、あたしに借りがあるのは吉澤さんだよ?」
「お!?いつもの調子が戻ってきたね?」

少し体を離してあたしの顔を覗き込む
462 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:21
「…なんでも言うこと聞くの?」
「おうさ!何だって聞いちゃうよ〜。ひーちゃんキャンペーン中!」

そういってポポーンとあたしの背中を軽くたたく。
無駄に優しい…


「じゃあ…」
「なんだぁい?梨華ちゃん?何でも言ってごらーん♪」

おどけるようしてに彼女がそう聞く。
463 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:21

好き


いとおしい気持ちが激しく込み上げてくる。


どうしよう

吉澤さんにさわりたい……


464 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:22

「キスして」

「フムフム。そうか、キスか。」

吉澤さんは目を細めながら、顎に手をやって
うんうんと頷いたと思ったら、ハタっと気が付いたように
あたしを見た。

「聴き間違い?」
「キス、してよ……」
「キスゥっ!?」
「…そうだよ」
「…」

こんなことをお願いしてしまった自分にも驚いたけど
それ以上に吉澤さんの方が驚いている様子。
465 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:23
「何でも言うこと聞くんじゃなかったの…?」
「やぁ、そんなことも言ったような気もするけど…」

吉澤さんは頭をポリポリと掻いて
あたしから視線を外してしまう―――

「ね キス しよ」
「何、言ってんだか…」
「なんで?だめなの?なんで?なんで!?」
「うるさい」
466 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:23
う、うるさい〜〜〜!?
ちょっと、それってどうなの!?
えーーーーーー!?

「…もういい」
「へぇ?」
「ヤなんでしょ?もういいよ」
「だって石川さん―――」

吉澤さんが何か言いかけたけど
あたしの勢いは止まらない。
467 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:24
「うるさいって、そんなこと言われてまでしてほしくない」
「だから―――」
「他の子には平気でするくせに…」
「…」

そこまで言って自分でハっと気が付いた。
こんなに躊躇う理由はやっぱり後藤さんのことがあるから?
それでも、これまでは色んな子とキスしてきたくせに
あたしとはしてくれないなんて。
なんか、すっごい惨めな気分になってきた。
468 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:25
「ホントにもういい。離して」
「へ?」
「もうっ、離してよっ!」
「のわぁっっ」
ドンっと吉澤さんを突き飛ばす。

「いってぇ〜」
「何よ…?さっきから全然言うこと聞いてくんないじゃんっ。
 キャンペーン中じゃなかったの!?口先ばっかり!」

あたしは吉澤さんに背を向ける。
後ろで吉澤さんは”なんだよ〜”とか言ってるけど
もう知らないっ。
469 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:26
そんな怒ってるあたしの背中越しに吉澤さんが話しかける

「……おかしいよ、今日の石川さん」
「……」
「ってか、昨日も…」

何言ってんの?わけわかんない…
470 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:26
「…好きな人としかしないって言ってたのに」
「……」

「その場のノリでやったりとかってヤなんじゃなかったんすか?」
「…そうだけど…」

だって、これはその場のノリなんかじゃない…
そんなんじゃないのに
471 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:27
「……あたしの事、可哀そうだって思ってる?
だから昨日だってキスしてくれたんでしょ?
別に慰めなら――――」
「ち、違うよそんなんじゃっ…」

あたしは振り返って吉澤さんを見た。
吉澤さんと視線が絡み合う。


本気で好きになったの
 

そう言ったら、あなたはどんな顔するの?
あたしの気持ちに応えてくれるの?

472 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:28
「あ、あたし、吉澤さんが…」

そう言いかけた時だった。


ブーブーブー


マナーモードにされた吉澤さんのケータイが
絨毯の上で鳴っている。
473 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:28


―――きっと後藤さんだ…


そう思った瞬間、あたしは自分が今言おうとした
言葉をのみ込んだ。


怖かったの
肩をすくめて困る吉澤さんを見るのが
怖くて……
474 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:29

ブーブーブー


無情にもケータイは鳴り続ける。

「…出ないの?」

自分からそう切り出してしまった。
あたしを見てた吉澤さんの視線が
そっちにいってしまう。
475 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:30
「ごめん」

そう一言だけ言って
彼女は電話に出た。

「もしもし…あぁ、どうした?」

声のトーンが
あの子と居る時と同じになる。
476 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:30
「うん。わかった、すぐ行くよ。じゃあ」

ピッ。

電話が切られて
あたしを申し訳なさそうに見る

「…ごめん。あたし行かなきゃ」
「………後藤さんのとこ?」
「ん、まぁ…」
「そっか」
477 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:31
行かないで…

そう言ったら、あなたはここに居てくれる?

そんなわけない。
現にこうして今あたしと一緒に居たって
彼女からの電話一つで
『すぐに行く』
そう言えてしまうんだもん。
478 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:31
「…」
「…」
「…なぁ〜んだよー、そんな暗い顔すんなよ〜」

沈黙を嫌がったのか
吉澤さんがちゃかすようにあたしに声をかける。

「あ、何?そんなにひーちゃんとチューしたかったの?
なんてね〜、ははは」

「馬鹿言わないでよ」

自分の気持ちとは裏腹に
冷たい態度をとってしまう。
素直になれない。
479 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:32
「…ですよね〜」
「はやく行ったら…」
「じゃあ…」

吉澤さんは立ち上がって玄関へといってしまった。
あたしは見送らない。

「おじゃましました…」

バタン

扉が閉まった音が聞こえて
吉澤さんの足音が遠ざかっていくのがわかる。
480 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:33
テーブルには吉澤さんが作ってくれたご飯。
もうすっかり冷めてしまっている。

それでもあたしは食べた。

「うぅ、」

ひたすら。

「ヒック、ヒック、なんで行っちゃうのぉ」

食べた。

「一人じゃこんなの食べきれないよ……」


涙まじりのご飯は少ししょっぱかった―――


481 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/25(火) 00:33
482 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/11/25(火) 00:34
本日は以上です。
483 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/25(火) 02:09
いしかーさん、せつな(涙)
484 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/25(火) 03:50
でも素直ないしかーさん好きw
へたれよっしーも良しw
いしかーさんを応援します!
485 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/25(火) 22:40
ガンバレ!!梨華ちゃん!!
486 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/11/28(金) 20:56
>>483さん

ほんとにねぇ…
ごめんね、いしかーさんw

>>484さん

どんどん応援しちゃって下さい!
へたれよっすぃ、いしかーさん泣かせんなよw

>>485さん

(^▽^)ありがとっ





更新します。

487 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 20:58
 
488 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 20:58
吉澤さんが後藤さんからの電話でいなくなってしまってから
あたしは独りもんもんと日々を送っていた。

大学で吉澤さんを見かけても
向うはこっちに気付いてないし
いつも誰かと楽しそうに話をしていて
あたしからは話しかけられなかった。
489 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 20:59
たまにアパートで会ったと思ったら

「あ、久しぶりです」とか
「今からバイト?頑張ってね」とか
「そんじゃ」とか

時間にして数秒。
そんな素っ気ない会話ばかりで
どこか吉澤さんはよそよそしい。

そして、絶対にあの日のことには触れてこなかった。
490 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:00

あたし、嫌われたのかな…
あんなこと言って引かれてしまったんだ。
きっと

どうしよう、そのうち”話しかけないで”とか言われたら。
実際、そう言われた子をあたし見てるし…

そんなことばかり考えてしまって
バイト中もミスばかりしてしまう。
今日は主任にひどく怒られて落ち込んだ。
491 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:01

独りトボトボと駅へ向かう。

「あ〜、もうやだぁ…」

そう呟いて、駅の改札を通ろうとしたら
誰かに呼び止められた。

「石川さん」
「あっ」

声をかけてきたのは後藤さんだった。

492 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:01
「どうしたの…こんな時間に」
「あはっ。今からね〜いちーちゃんとこいくんだぁ」

嬉しそうに後藤さんはそう言う。

「いちーちゃん?」
「あ、いちーちゃんってね、んふふ。あたしと付き合ってる人なんだけどー」

後藤さんが言う”いちーちゃん”とは
大谷さんや吉澤さんが言ってた市井さんのことだった。
あたしはなんだか少し複雑な気持ちになる。

493 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:02

「石川さんは?今からどっか行くの?」
「あ、あたしはバイト帰りで…」
「そうだったんだ〜、遅くまでご苦労様です」

そう言って後藤さんはペコリと頭を下げる。

「ふふ。ありがと」
「あはっ」


彼女の茶色がかったストレートの髪がふわっと風に揺れる。
ニコッと笑ってあたしを見るその姿はとても綺麗だった。
494 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:03



「綺麗だね」

「え?」


言われた意味が初め、よくわからなかった。


「石川さんってすっごい綺麗だよね〜」

あたしが後藤さんをそう思っていたのに
逆に彼女からそんなことを言われて動揺してしまう。

495 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:04
「な、あたしなんて」
「なんで〜?ってか何か色っぽい」
「ど、どうしっちゃたのよー、急にそんなこと言って…」
「う〜ん。これはヨシコもハマるわけだ」
「はい?」

後藤さんは顎に拳をあててウンウンと頷いている。
ちょっと、何を一人で納得しちゃってんのさ?
っていうか、よしこって吉澤さんのことだよね??
ハマるってどういうこと?
496 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:04
「いや〜、ごとーが思うにさぁ、
よしこ、石川さんのこと好きなんじゃないかと」
「え?何?急に…」

だって、吉澤さんが好きなのは後藤さんじゃん。
何を根拠にこんなことを言い出すのか…

「そんなことあるってば。だって最近のよしこは
 石川さんのことしかしゃべんないだもーん」
「うそ…」
「マジで。今日は大学で石川さんを見たとか、こんなこと話したとかさぁ」

後藤さんにそんなことを言われても
なんだか信じられなかった。
一体どんなふうにあたしの事を彼女に話しているんだろう?
最近じゃ全然会話らしい会話もしてないのに。
497 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:05
「とにかく、石川さん話の頻度がハンパない」
「……」
「僕にはわかる」
「はい?」

ポンとあたしの肩に後藤さんは手を置いて
何故か劇団チックにそう言った。

あの日のこと…
後藤さんに言ったりしてないよね……?
不安…

498 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:06
「めずらしいことだよ〜?よしこがあんな風に誰かの事話すのってさぁ」
「…」
「まぁ、前から石川さんがどうこう言ってたけど、最近はちょっと感じが違うんだよね〜」
「感じが?」
「そう。なんて言うのかなー?石川さんのこと話してる時のよしこは
 凄く嬉しそうというか、楽しそうというかぁ、うん、優しい顔してんだよね」
「…後藤さんの気のせいなんじゃない?」
「そっかな?でも、今までよしこが誰かと付き合ってるって聞いても
 その相手の話とか一切本人から聞いたことないもん」
「そ、それは――」
499 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:06

本当は後藤さんが好きだから。
だから、そう言った話は避けてたんだと思うんだけど…


「だからさぁ、ホントにめずらしいんだって。
 ってか、これはマジで石川さんにハマりつつあると
 ごとーは踏んでるわけっ」

ハマりつつあるって…
そんなの後藤さんの勘違いだよ。
だって、あの日だって電話一つで
あなたのところに迷わず行っちゃうんだよ?
吉澤さんの心にあたしなんかいない。
いるのはあなただよ。
500 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:07
「そんなの後藤さんの思い過ごしだよ…」
「…」
「吉澤さんが見てるのは…」
「じゃ、石川さんはどうなの?」
「え?」

不意にそう聞かれてあたしはたじろいでしまう
あたしがどう答えようか迷っていたら
後藤さんは慌てた様子で切符を買い始めた。

「やっば、電車来ちゃう!」
「あ、あ、ゴメン。大丈夫?」
「わー、来たきたっ」

ドタバタしながら切符を改札に通し
後藤さんは振り返りざまあたしに言った


「よしこをよろしくねぇ―――!」

手をブンブンと振って
そのまま走って電車に飛び乗ってしまった。

後藤さんを乗せた電車は発車した。
501 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:08

「よろしくって……」

そう言い残して後藤さんは去って行ったけど
そんなことを突然言われても全くわけがわらない。
さっきまで話していた内容も
いまいち信ぴょう性にかける。

あたしの事をよく話すからと言って
それがあたしにハマるのとは
また話が別だと思うんだけど…
502 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:09
でも、もし今後藤さんが言ってたことが
本当なら期待してもいいのかな……
恋敵、、、と呼ぶべきなのか
そんな相手が言ってた事を素直に
鵜呑みにしてしまっていいのだろうか?


いや、でも、もし、いや、でも…
あたしは電車の中でそんなことを繰り返し考えていた。
503 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:09
**********************************************************
504 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:10
505 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:10


――――――アパートについて
自分の部屋に入ろうとしたら
ドアの前で吉澤さんが立っている。。

そして、真剣な面持ちで彼女はあたしにこう言うんだ


「石川さんのこと、好きになったみたい―――」



506 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:11



なんてね。
後藤さんにあんな事を言われて
少しテンションが上がってしまったあたしは
妄想がエスカレートする。
やばいな〜
あたしキショい

「………ふっ」

エレベータを待ってる間も
あたしの妄想は止まらない。

「クックッ」

507 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:13
「きも〜い」


聞き覚えのある声に
ハっと我にかえって横をみたら
そこに居たのは吉澤さんだった。

「よ、吉澤さんっ」
「一人で笑ってる人がいるよ〜」
「……」

恥ずかしくなって顔が赤くなるのがわかる。

508 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:13
「何考えてたんすか〜?」
「べ、べつに」
「思い出し笑いする人ってムッツリすけべーなんですよ〜」

ニヤニヤしながらそう言う吉澤さんを見て
前にバイトの後輩、真琴にもそう言われたっけ…と思い出した。
あたしってやっぱりそうなのかな…
509 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:14
「あれ?何も言わないところを見ると、マジでムッツリ!?」

そんな事を言いながら、シャッシャーと笑う吉澤さんを見る限り
あたしにハマってる様子など微塵も感じられない。
相変わらず、あたしを見ればからかうような素振りばかりで。

でも、ここ最近はそんなこともなくて
ずっとよそよそしかったのに
さては……
510 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:15
「飲んでるの?」
「ん〜、少しだけねぇ〜」

よく見ると顔が少しだけ赤い。

「はい、姫さま、エレベータが到着しましたよぉ」

妙に上機嫌な吉澤さんはエレベータのドアを
手で押さえてあたしを中へと誘導する。
511 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:16
「…ありがと」
「いえいえ、どういたまして姫さま」
「…」
「五階へ上がりまぁーす」
「わかってるって」

エレベータガールの声色を真似て
ボタンを押す。

「ねーねー、石川さんはこんな時間まで何してたの〜?」
「…」
「ねーねーってばぁ」

五階のボタンを何度もグイグイ押しながら、
あたしの顔を覗き込むようにして聞いてくる。
そんなに押さなくても五階には着くから。
それにしても、酔っぱらうとよくしゃべる。
512 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:17
「…バイトだったの」
「おう!バイト!?素晴らしい!!」
「何言ってんだか…」
「今更だけどバイトって何してんのぉ?」
「…ホント、今更だよ…」

はぁ、とあたしはため息が漏れた。

「げっ、今タメ息ついた?この人しどいぃぃ」
「ファミレス!そこでバイドしてんのっ」
「ウェイトレスってこと?」
「そうだよっ」
「わっ、見たい見たい、ウェイトレス姿のいしかーさん見たい♪」
513 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:18

真剣な面持ちで…
そんな事を妄想していた自分が
馬鹿馬鹿しく思えてきた。
実際、目の前にいるあたしの好きな人は
ただの飲んだくれと化している。


「はいっ、着きましたよ」
「はいはい」
「えっと、石川さんの部屋は507号室で、この廊下を―――」
「まっすぐだよっ、いちいち説明してくれなくてもわかるからっ
 毎日通ってるからっ」
「エクセレントっ!」
514 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:19

吉澤さんは意味の判んない英語を発して
手を額にあてて体を仰け反らしている…

つ、付き合い切れない。

そう思って、あたしは早々に部屋に入ろうと
カバンから鍵を出そうとするけど
吉澤さんは何故か自分の部屋には入ろうとせず
あたしの隣で突っ立っている。
515 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:20

「……いや…もう…影になってカギ穴が見えないから」
「もう帰んの〜?」
「そもそも、あたしはバイトから帰ってきたんだよ」
「あ、そだ、一緒にDVD見ない!?」

516 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:21

へ?あたし、今誘われた?

自分の妄想とは少し、ってかだいぶと違ってるけど
予想外の展開にあたしは目を丸くしながら
吉澤さんの方を見た。

フニャと笑って吉澤さんはあたしの手を取って
「よしっ、決まり〜」
そう言って自分の部屋の鍵をガチャガチャと開け始めた。。

ど、どうしちゃったの?
急に?

517 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:21
「どうぞー」
「あ、お、おじゃまします」

って、引っ張られるがまま中に入っちゃったけど
一体、何?
急速に胸の鼓動が激しくなっていく。
一方の吉澤さんは相変わらずニコニコしてる。
でも、手は離してくれない…

バタン、とドアが閉まって
あたしが靴を脱ごうとしていた
その時だっだ
518 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:22
ドキッッ!!
い、今、手が…
普通に繋いでいた手が恋人繋ぎになって
あたしは声が出そうになる。

チラッと横目で吉澤さんを見ても
素知らぬ顔であたしを引っ張って
部屋の中へと連れていく。

「何見る〜?」

そんなことを聞いてくる間も
吉澤さんはずっとあたしの手を離さない。

「え、や、よ、吉澤さんが見たいのでいいよっ」

声が裏返ってしまう。
この妙な展開に自分の思考が追い付かない。
519 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:23
「じゃ、これにしよ。いい?」

あ、この映画あたしも好き。
吉澤さんが取り出したのはシザーハンズという映画。

「へへ〜、この映画好きなんだよね〜」
「あたしも…」

ニッと笑ったと思ったら
ずっと握っていた手が離された。
吉澤さんはプレイヤーにDVDをセットしている。

ちょっと淋しかったけど
あたしはホッとしながら吉澤さんの部屋を見渡した。

「ほ、本棚買い換えたんだね?相変わらずきれいな部屋―――」
520 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:24
そう言いかけてた時に
今度は後ろからあたしの腰に吉澤さんの腕が廻されて
ギュッと抱きしめられる。

「ど、どうしたの?」
「ん〜?ダメ?」


521 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:24


なにがダメでなにがいいのか、
吉澤さんから放たれるこの甘い雰囲気に
あたしはその腕を解くことが出来ない。

あたしはもう胸が張り裂けそうなほど
ドキドキしていた。

「ダメ…じゃないよ…」
「じゃあ…このまま見ようよ」

言われるがまま、あたしは吉澤さんと一緒にクッションの上に座る。
もう、ホントに何が何だかわけがわかんなかくなってきた…
522 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:25

「……電気消していい?」
「う、うん…」


手元にあったリモコンで照明が落とされる。
暗闇の中、テレビ画面から映画が流れ始めた。
だけど、全然ストーリーが頭の中に入ってこない。
だって、さっきからずっと吉澤さんがあたしのうなじに
顔を埋めてるんだもん…
全然集中して見れないよぉ
523 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:26

「…やっぱりいしかーさん、いい匂いする」

そう言ってクンクンとあたしのうなじに
鼻先をつけるようにして嗅いでくる。


「く、くすぐったいよぉ」
「いしかーさん…」
「なに……?」
「…呼んでみただけ……」

また、お互いの指を絡めるようにして手を繋ぐ

524 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:27
「きょ、今日はどうしたのぉ?いつもと…なんか…違うよ…?」

とか言いながら、あたしも妙に甘ったるい声になっちゃう。


「そう…?」
「そう…だよ…」


あたしの手のひらを親指で円を描くようになぞってくる。
あぁ、もうそれだけで気が遠のいていきそう…

「ん…」

525 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:27
あたしの首筋に吉澤さんの唇が触れる。
初めは優しく触れるだけ。
それを何度も落としていく

そして次第にチュッと音をたてる様にして
首筋に唇が執拗に絡みつく

「ん…うぅん…」

どう我慢しても甘い息が漏れてしまう。
あたしはギュッと繋いでいる手に力を入れた。
それに応える様にしてギュッギュと吉澤さんも返してくれる。
526 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:29
柔らかい唇はどんどん上へ上がってきて
顎、、頬、、そして
唇の端にそっと触れた。

体を向きあうように寄せられて
テレビから漏れる明かりが反射する中
お互いを見つめ合う。



はやく…

はやく、キスして……




あたしの気持ちを見透かしたかのように
吉澤さんの唇があたしのそれと重なった。
527 名前:You Got The Love 投稿日:2008/11/28(金) 21:29
 
528 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/11/28(金) 21:30
本日は以上です。
529 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/29(土) 00:33
ヲイ!!以上って><
最高の展開ですww
続き待ってますっ(^-^)/~
530 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/11/29(土) 02:31
うおっ!んないいとこでっっ!!!

んー吉澤さんいいよ。いっちゃってくださいww
期待してます。
531 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/12/12(金) 14:47
>>529さん

中途半端なとこで区切ってスイマセン。
もうしばらくお待ちください。

>>530さん

吉澤さんどーしたんでしょうか?
ご期待して下さるなんて、ありがとうございます。



ちょっと、ここで短編を入れさせてもらおうかと…
「You Got The Love 」の続きは
もうしばらくお待ちください。
スイマセン。




532 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:48
 
533 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:49



ベーグル食べたい。

今すぐ逢いたい。

とっても淋しい。

今すぐ逢いたい。

ベーグル食べたい。

とっても淋しい。

今すぐ梨華ちゃんに逢いたい。



534 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:49


こんなこと想ってるなんて
彼女は知らない。

きっと
知るはずがない。

535 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:50

手に取ったB級雑誌で特集されていた
星占い。
牡羊座のあたしと、山羊座の梨華ちゃんの
相性はあまり良くない。



こんなことで肩を落としてるなんて
きっと考えもしない。
536 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:51

酔った勢いで梨華ちゃんに電話してやった。
声が聞きたくて
忙しいのわかってて
長電話してやった。
どーしても声が聞きたくて。
ただただしょーもない話題で。
涙が出るくらい笑った。




でも、物足りない。
もう優しい言葉だけじゃ。




537 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:51


ベーグル食べたい。

今すぐ逢いたい。

ベーグル食べたい。

とっても淋しい。

今すぐ梨華ちゃんに逢いたい。


538 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:52

この前、久々に仕事で一緒になった。
同じ部屋に泊まった。
疲れた体で二人してテレビ見てた。
何も語らない梨華ちゃんを隣に
あたしはイケナイ妄想を巡らせた。

539 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:53


「もう寝る」

それだけ言って
シーツに包まれていった。

「おやすみ」

それだけ言って
あたしはまだテレビを見るフリをした。

540 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:53

寝息が聞こえる頃
自分のイケナイ妄想を打ち消す。
真面目な夜が過ぎていく。
カワイイ寝顔を見つめて
なんだか泣きそうになる。



こんなあたしを彼女は知らない。

きっと知るはずがない。





541 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:54
どこかの新聞で梨華ちゃんの記事が載っていた。

「結婚したい」
「子供は三人欲しい」

そんなコメントだった。

彼女が見てる未来に自分がいないと
わかってしまって
胸がチクチクした。
542 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:55
いつだったか、あたしが好きだと言った
歌の話になった。
めずらしく、それに興味をしめした梨華ちゃんは
ずっとそれを聞きたいと繰り返していた。

543 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:55

あたしはメールした。


「じゃあ、今度そのCD焼いて持ってくよ」

「好き よっすぃ 」


文字の間にハートが二つ飛んでいるそのメール。
それがあたしの望んでいる意味をなさないと
知っていても
小さな箱にあたしはそれを保存した。

544 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:56
「よっすぃ、そろそろケータイ変えたら?
 角の辺りもう欠けてるじゃん、ボロボロだよ?」



まさか、自分が送った
メール一つの為に
あたしがそれを使い続けてるとは
思いもしない。
545 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:57


出逢った頃、梨華ちゃんはよく泣いていた。
その涙を拭えるのは自分だけだと思っていた。
そう思っていたのに。


546 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:57

あれだけ一緒に居たのに
気づいたら
続々と作られるわけのわからんユニットは必ず外され
次第にお互いそれぞれ個々の仕事が増え。


いつしか梨華ちゃんは泣かなくなった。

相談事も聞かなくなった。



梨華ちゃんの最新情報は
本人ではない第三者から聞くことが
当たり前になっていった。
547 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:58



梨華ちゃんはよく空を眺める。

その日は秋晴れだった。


548 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 14:59


「何見てるの?」

「うろこ雲」

「かわいーなぁ チューしていい?」

「だめ」



549 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 15:00

あたしの気持ちが肥大するほど
反比例して梨華ちゃんは離れていくようだった。


どっちかっつーと
昔は梨華ちゃんの方が
あたしに何かと絡みついてきたのに。
ウザかったのに。
それを冷たくあしらって



今じゃ触れることもない。


550 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 15:01
呪いのカラスが飛んでいた。
夕陽を背に受けて
少し影になるその横顔
視線を外せなくなる。



おろかな恋に溺れているとわかっていた。

前に行くには どーしたらいい?



551 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 15:02

何の前触れもなく
梨華ちゃんに彼氏が出来た。
こんな日が来ることはわかっていたけど
彼の事を話す時
今まで自分が知っている彼女と
違って見えるのが煩わしかった。
552 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 15:03


「よっすぃはいないの? 好きな人」



聞かないでほしい。
そんなこと。


あたしの中にある何かが反抗する。

安全な世界に身を置けば置くほど。

自由奔放な世界に惹かれていった。


553 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 15:04
夢に梨華ちゃんが現れた。

とても穏やかな顔をしていた。

あたしは梨華ちゃんが立っているところへ行こうとするけど
その場所へ近づくことが出来ない。
どんなに歩み寄っても。


息を切らしたあたしは立ち止って
彼女の方を見た。


554 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 15:05




『 よっすぃがどんなに

  あたしを好きだったか 

  ほんとは知ってるわ  』





555 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 15:06

そこで夢は途切れた。

556 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 15:07


知るわけがない。

知るわけがないんだ。






頬をつたう涙のわけなんて
きっと知らない

557 名前:叶わぬ恋をしている。 投稿日:2008/12/12(金) 15:08
ベーグル食べたい。

今すぐ逢いたい。

とっても淋しい。

今すぐ逢いたい。

ベーグル食べたい。

とっても淋しい。

今すぐ梨華ちゃんに逢いたい。






―Fin―

558 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/15(月) 23:34
切ないねー。
559 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/12/29(月) 22:32
>>558

レスありがとうございます。
吉澤さん視点だと切ない感じになっちゃうのです。なぜだろう?



やっとこさですが「You Got The Love」
続きを更新したいと思います。
560 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:33
 
561 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:34
熱気と湿気をはらんだ隙間を埋める様に
吉澤さんは何度も上唇、下唇をチュッチュッと吸ってくる。
どうしようもない甘い悦びに支配されたあたしは
それだけで何度も頭の中が真っ白になりそうだった。


そして再び口が塞がれると
伸びてきた柔らかな吉澤さんの舌が
あたしの舌と絡みつく。

562 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:35

「んっ…ぅん…」


吐息が漏れるのも忘れて
あたしも必死で吉澤さんの舌を追いかけた。
甘い唾液が侵入してくる。
上顎の奥をなぞられてあたしは
身体中が電気が通ったかのようにピリピリした。
563 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:36

キスしたままゆっくりと体を絨毯の上へと倒される。
あたしは吉澤さんの背中に腕を廻した。


「んぅっ、はぁ…好き…吉澤さん…好き…」
「ん…そうか…」


そう言って頭を撫でられる。
…そうかって……
返事のしかたが間違ってるってば。
そんな答えが欲しいんじゃないのに……
564 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:37
少し腹が立って
あたしは吉澤さんのほっぺたを両手で摘んだ。


「あにすんだよほぉ…」
「ムカつく…」
「…はにゃせよ」
「やだ」


今度は両手で顔を挟む。
吉澤さんの顔がムニュっと押しつぶされて
たまらずあたしは吹き出してしまう。
565 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:38
「プッ、アハハ、変な顔ぉ〜」
「うぉい、コラ」
「ふ〜んだ」
「…ゆうこと聞かないヤツはこうだぁ〜」
「あっ…」

するりと吉澤さんの手があたしのキャミの裾から入ってきた。
ゾクゾクっという甘美な波が素肌を走っていく。
566 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:39

「ふふ…」

そうニヤリと笑ってまた吉澤さんはあたしの口を塞ぐ。
舌がもつれ合い、唾液が混じり合う
厭らしい音だけが部屋の中で反響する。


ひんやりしていた吉澤さんの手が
あたしの体温で温かくなっていった。
その手にゆっくりと優しく
なぞる様に触れられる度
吉澤さんが愛おしいと思わずにいられなくなる。
567 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:40
もっと吉澤さんを感じたい

触れていたい

触れられたい



首筋をツウッと舐められて
たまらず声が漏れた。

「ぁ…」
「…エロいなぁ…いしかーさんは…」

耳元でぼそっと囁かれて吉澤さんの吐息がかかる。

「バカ…」
568 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:41
ねぇ、どうして好きっていってくれないの?
じゃあ、なんでこんなことするの?
あたし、後藤さんの代わりなの?
じゃあ、なんであたしの話を後藤さんにするの?




あたしだけ見てよ
彼女のこと忘れて―――
569 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:41
そう言う代わりに
何度も何度も吉澤さんに口づけた。
ドクドクッと速まる吉澤さんの鼓動を感じながら。
きっとあたしのも伝わってる。


あたしを意識の彼方へといざなう
愛しいその白い手が背中へと移動する。
スッとブラのホックが外された。
その隙間から手のひらを当てがわれる。
ビクっとなって上体をのけぞらせたあたしは
吉澤さんに廻していた腕に力を入れてしまった。
570 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:43
「……怖い?」
「うんん…へーき…だよ…」
「キレイ だよ…  石川さん…」




その夜、あたし達は何度も繰り返し
お互いの体温を重ね合った―――――――


571 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:43
 
572 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:43
 
573 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:44

朝、目覚めると吉澤さんはもう部屋にはいなかった。


テーブルに置いてあった
小さなメモ紙をみつける。

574 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:45


― あたしは合鍵もってくから
  この鍵はポストにでも入れといて
                
                 吉澤 ―

575 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:45

書かれていたのはそれだけだった。
メモ紙の横に置かれた鍵を手に取り
持ち上げて眺める。

「…なんでいないのよぉ」

そんな事を言いながらも
なんとなくこうなる様な気もしていた。
576 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:46
昨夜、あたしが何度「好き」と言っても
彼女からそれを聞くことは出来なかった。
吉澤さんにとってはただ酔った勢いってやつで
昨日のあたしとのことも、その中の一つで
きっとなんの意味もないことなんだ……
577 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:47

「なに笑ってんのよ…」

吉澤さんの部屋にある大きな水槽。
その中を優雅に泳ぐ金魚と目が合ったような気がした。

金魚が笑うはずがないことなんてわかってる。
でも、文句の一つも言いたいよ。
言いたくなるよ…



578 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:48
―あたしは思い出していた。
 中学生なって初めての夏休み
 友達同士で行ったあの日の縁日―――





金魚すくいが得意だったあたしは
その日も友達に「すごい、すごい」って言われて
金魚すくいの露店前で得意顔になっていた。


579 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:49
「おじぃーちゃん、あたしも金魚すくいしたいよ」

金魚すくいに夢中になっていたあたしのすぐ後ろで
おじいさんの服の袖を引張りながら
だだをこねてる女の子。

「金魚すくいぃ?お前はへったくそじゃないかぁ、やめとけやめとけー」
「えー!?んなことないよっ!ねー、金魚すくいしたいってば」
「すくったところで、ちゃんと世話できんだろ〜
 昨年の金魚だってしんじゃったじゃないか」
「ちゃんとお世話するからさぁ〜、ねぇ〜」
580 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:49
その女の子はよっぽど金魚すくいがしたかったみたい。
隣にいたおじいさんはやれやれといった風に
財布から小銭を出して、その子に渡した。

「一回だけだぞ〜」
「うんっ!」

その子は腕まくりする真似をして「うっしゃーっ、やったるぞ」とか言って
あたしの隣で金魚を追いかけ始めた。
581 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:50
半袖からのぞくその腕はすごく白くて
暑かったその年の夏にとても不釣り合いだった。
自分の真っ黒に焼けた腕と比べて
ちょっと恥ずかしくなったんだ。



あたしがその子のあまりに白い腕に気をとられていたら

「あ”あ”あ”」

と、なんとも情けない声が聞こえてきて、隣の顔を見たら半ベソ状態。

その子のポイ(金魚をすくうやつ)はあっけなく
破れてしまっていた。
582 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:51
「ほれみたことか」

その子のおじいさんはあきれたように笑う。

「うぅぅ、もうちょっとだったのにぃぃ…」
「気がすんだろ、もう帰るぞ〜」
「…もっかい」
「だーめ」
「もっかいっ!!」
「だめったらダメだっ!!おかーさんに言うぞ!?」
「うぐっ!!……」

『おかーさん』は驚異らしい。
その一言で急にその子は大人しくなってしまった。
583 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:52
そんな様子をよそに
あたしはまだ調子に乗って金魚すくいを続けていた。

「おねーちゃん、じょうずだね?」
「え!?何? あっっっ!!」

突然話しかけられて手元がビクっとなったその衝撃で
あたしのポイも破れてしまった。
584 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:53
「あ”っ……ご、ゴメン…」

ヤバイって顔でその子があたしを覗き込んで目が合った。
そこへ上からその子のおじいさんの声が。

「馬鹿っ、なにお姉さんの邪魔してんだ、お前はっ」
「うえぇ〜、だってぇ」
「ゴメンなさいね?ほれっ、お前もちゃんと謝れっ」
「ご、ご、ごめんなさぁいぃ」

おじいさんに頭を押さえられて
あたしに謝ってくるその姿は
申し訳ないけど、ちょっとおかしくて
あたしは笑ってしまった。
585 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:54
「あははっ、いいよ。全然気にしてないから」
「マジで?」

ゴンっ!!

「い”っでぇぇぇ!あにすんだよっ!?」

頭をごつかれたその子がおじいさんに抗議する。

「マジで!?、じゃないっ。なんでそんなに口が悪いんじゃっ」
「ちゃんと謝ったじゃんっ」
「ほんと、すいません」
586 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:54
別にそんなに謝らなくてもいいのになぁー
とか思いながらその二人のやり取りを見てた。
そしたら、その子が

「あ〜あ、あたしも金魚ほしかったな〜」

って、まるで子犬みたいな目で名残惜しそうにまだ金魚の方を見て
そう言うもんだから

「あげるよ」
「え?」

あたしは自分がすくった金魚をその子に渡したんだ。
587 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:55
「いいの!?ホントにいいの!?」
「うん。大事に育ててね」
「絶対大事にするよっ!ちゃんとお世話するしっ!!」
「絶対だよ〜」

あたしがあげた金魚が泳ぐそのビニール袋を
目の前に掲げながら食い入るように眺めている。

「キレ〜」

ビニール袋に光が反射してキラキラしていた。
同様にその子の瞳もキラキラ輝いていて。
588 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:56
「ありがとぉ!ホントに毎日ちゃんとお世話するからねっ。
 おっきくなったら、おねーちゃんに見せたげるよ!」

それって、金魚が大きくなったら?
あなたが大きくなったら?
ま、どっちだっていいや。
っていうか、見せるったってねぇ?
あたし、あなたの家知らないし。
とか、あたしは冷静に考えてたんだけど
あまりにその子がうれしそうに笑ってそう言うもんだから

「約束だよ」

そう言って、あたしも笑ったんだ。
589 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:57

「約束する」

そう言って、差し出された小指。
あたしたちは『ゆびきり』をした。



―あの子は今どうしてるのかな?
 あの時の金魚、まだ大事にしてくれてるかな?―――
590 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:58


「ックシュッッ」


さむ…

くしゃみをしたあたしは、一気に現実に引き戻される。
591 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 22:59
あたしは人の部屋で一体なにやってんだか。
しかも素っ裸で。

「…」

なんで今になってこんなこと思い出したんだろう
前にこの部屋にきた時、この金魚たちを見ても
そんなことは思わなかったのに
592 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:00

水槽にぼんやりと自分の姿が映し出されていた。
そこには体に残る無数の吉澤さんの痕。


夢じゃない。
昨日の夜の事は。


「意味が無い」なんて思いたくない。


でも
でも、わからない。

593 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:01
吉澤さんが何考えてるのか全然わかんないよ。
こんなに淋しいのはなんでなの?

ぽろぽろと涙が零れ落ちる。

「これじゃひと夏のナントカじゃん…うぅ…」


あたしは冷房がガンガンきいた部屋で
服も着ずにひたすら泣いた。


594 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:01
 
595 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:02

「なに!?その声?ヒドイよ?」
「…えへへ。そう、かな?…ックシュン」



風邪をひいた。
冷房がききまくった部屋で
いつまでも裸でいるからだ。自業自得…
596 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:02
「うぅぅ、体ダルイ…」

柴ちゃんが心配そうにあたしを見る。

「ちょっと〜、大丈夫なの?」
「大丈夫…じゃないかもぉ……」
「休めば…っていっても無理か。今日のこの講義は出ないと
 単位ないもんねぇ〜」
「…そうなんだよぉ、あたしだってホントは休みたかったよ」
「バカだねぇ、なんでこんな時期に」
597 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:03
ほんとバカだ。
なにやってんだよ。
あ〜っ、もうっ!
バカバカバカバカっ!!吉澤ひとみのバカぁぁ!!
あんたのせいだよ!

「もう、大っ嫌いなんだからぁ〜」
「…梨華ちゃん、何言ってんの?」
598 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:04
あ、ヤバ。また声になってたみたい。

「や、なんでも、無いよ。うん。ないっす」
「なんだよ、ないっす、って」

柴ちゃんは無駄に鋭いからなぁ。
昨日、吉澤さんと…… なんて言ったら
また何を言い出すかわかんない。
ほら、そう言ったそばから柴ちゃんはあたしを訝しげに見てくる。
だから、そんな顔で腕組んで見ないでよ。怖いんだってば。
599 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:04
「あ〜、頭イタイ」
「ごまかすな。何かあったでしょ?」
「…だから、ないっすってば」
「…さっきから気になってたんだけど、何なの?このスカーフは?」
「ええ!?」
「普段こんなのしないじゃん」
「そ、そうだっけ?やぁー、この前せっかく買ったし、
流行ってるし、してみよーかな?なんて、ねぇ?エヘヘ」
「今日の服に全然合ってないから。不自然」
「ひ、ひどーい。どうせセンスないですよ〜
 でも、別に合ってなくったっていいんだもん…」
600 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:05
マズイ。
非常にマズイ。
このままでは、バレてしまう。
これ以上はお願いだから突っ込まないで!

「おかしいよ…その服もだけど、梨華ちゃんが。
 いつもそんなこと言ったら『え〜!?マジで!?これ変??ヤダぁぁぁ』
 とか言うじゃん。別に合ってなくてもいい、なんて」
「や、風邪気味で寒いし、コレ首に巻いてると丁度いいかな?なんて…」
601 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:06
よしっ!上手いこと言った!
これでさすがの柴ちゃんもこれ以上は突っ込めないでしょ!?

「そっか」
「そうだよ〜、コレ巻いてるとね、温かいんだよ…ア、アハハハ」

ふう…。なんとか誤魔化せた。
柴ちゃんめ、油断も隙もないんだから。
602 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:07
「で、何が大っ嫌いなの?」

って全然ダメじゃん!
ぜんっぜん話ふりだしに戻ってんじゃん!誤魔化せてないじゃん!

「…と、鳥が」
「知ってるよ、んなことは」
「ですよねぇ…」

柴ちゃんの視線がイタイ。
それが辛くて視線を外したのがマズかった。
603 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:08
「はけぇ〜!!何があったのか〜!」

柴ちゃんがあたしの首を掴むようなフリをして
激しくあたしを揺さぶったその拍子に
首に巻いていた不自然だと言われたスカーフが
ひらりと下に落ちてしまった。

「…」
「…えへっ♪」
604 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:09
柴ちゃんがあたしの首もとについた痣を凝視する。あたしは目が泳ぐ。
限界だ。もうこれ以上は誤魔化しきれない。

「えへっ、じゃなくて。何ですか?それは?」
「…なんなんでしょう?」
「何よ、そのキスマークだらけの首は!?ちょっ、まさか吉澤さん!?」
「だったらどうしますぅ?」
605 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:09
あたしがめいっぱいおどけた感じで言ってみても
柴ちゃんには全く通じないかった。

「ふざけてないでっ!、やったの!?吉澤さんと!?」

そーいうこと、大きな声で言わないでほしーな…
そんな事を思うあたしを無視して柴ちゃんはさらに捲くし立てる。
606 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:10
「どーいうことよ!?昨日の夜に何があったのさ!?」
「なんか、そういう雰囲気になっちゃって…」
「雰囲気っ!?ええっ!?」
「こわいよぉ〜、柴ちゃん…」
「だって、だって、話しが全然見えてこないんだもんっ!!」

まぁ、ね。
そりゃあ、急展開だもんね。
あたしが一番驚いてるよ、柴ちゃん。


雰囲気だけでは納得いってくれそうもない柴ちゃんに
あたしは観念して昨日の一部始終を話すことにした。
607 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:11
「昨日ね、バイトから帰ったら吉澤さんがいて」
「ふんふん、で?」
「何か、ちょっと酔っ払ってて、吉澤さん」
「はあ?」
「いつになく上機嫌で」
「そりゃあ、飲んでたからでしょうよ?」
「そうなんだろうけど…まぁ、ふだんもヘラヘラしてるし
 最初はまたからかわれてんのかと思ってたんだよ、あたしも」
「で、どこでどうなって、そんな流れになったのさ?」
「なんか、わけわかんないことばっか言ってるから
 早く部屋に入ろうと思ったんだけど」
「うん」
「急に手引っ張られて、吉澤さんちに連れてかれてぇ
 なんか、後ろから抱きしめられて、チュウされて」
「…」
「…しちゃった。あはは」
608 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:12
柴ちゃんはポカーンとした顔であたしを見ていた。
ダメですか?こんな流れ?
そりゃ、あたしだって望んだ展開じゃなかったですよ?

「それってさぁ…」
「はい」
「酔った勢いじゃん。梨華ちゃんはさておき」

グサッ!!
…やっぱり、そう思います?
あぁ、それは言わないでほしかった。
609 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:13
「なに考えてんだ?吉澤ひとみ…」
「ねぇ…、どういうつもりなんだか…」

あたしが一番知りたいよ!っと、心の中で一人ツッコミをしていると
柴ちゃんは急に神妙な顔つきであたしにこう訊ねた。

「梨華ちゃんさぁ、吉澤さんに言ったの?」
「はい?」
「好きって」
「…言ったよ、あたし昨日ずっと好きって言いまくってたもん…」
610 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:14
そうなんだよ。
あたし、何気に昨日告っちゃってんだよ。

「吉澤さんは?なんて?」
「『そうか』とか、『ふーん』とか、『わかったって』とか…」
「もう、なんか泣けてきた」

あぁ、柴ちゃん、あたしをそんな憐れんだ目で見るのはやめてっ。
611 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:14
「あぁ…もう何やってんの…」
「だって…」
「…で、いとしの『ひとみちゃん』は?その様子からして
 あまりいいその後の展開は期待できないけど」

やっぱりするどいなぁ、完敗です、柴ちゃん。
あなたはすごい。
612 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:15
「朝、起きたらメモだけおいて居なくなっちゃってた」
「…」
「遊ばれたのかな?あたし…」
「…どーすんの?」
「さぁ…?」
「さぁ、って梨華ちゃん、あんたねー…」

もはやかける言葉も無いようで
柴ちゃんは項垂れている。
あたし以上に柴ちゃんが落ち込んでいる姿をみて
これじゃいけない、と思ったあたしは
めいっぱい元気なフリをした。
613 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:16
「なんで柴ちゃんがそんな落ち込むのさ〜
 あたしは大丈夫だよ?ほら?」
「そんな擦れた声で大丈夫です、って言われてもね…」
「ックッシュン」
「風邪までひいて…大丈夫なわけないじゃん……鼻水出てるよ…」
「あ、やだぁ〜ははは」

急いで鼻をかむ。
はぁ、どこまでもかっこわるぅ。
614 名前:You Got The Love 投稿日:2008/12/29(月) 23:16
「ねぇ、梨華ちゃんにはもっと他にいい人いるよぉ。なんで吉澤さんなの?」
「あたし、あの白い肌が…大きな瞳が…好きなの…」
「見た目かよ」
「いやいや、それだけでは」
「じゃあ、ヨカッタんだ?エッチが」
「うん。って何言わせんのよっ!」
「体か…」
「納得しないのっ!」


なぜか最後の方は柴ちゃんのセクハラ攻撃にあって
その日の講義を終えたあたしは
早々に家に帰った。
615 名前:ほうれん僧 投稿日:2008/12/29(月) 23:21
とまぁ、こんな感じで。
本日は以上になります。

エイチなシーンが混入した為、書くペースがいつも以上に
遅くなっておりました。苦手だ…
なんかすごく二人に申し訳ない気分になります。
スンマセン、いしかーさんによしざーさん。
(じゃ、やめとけって話ですがね)
616 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/30(火) 01:22
更新お疲れ様です。
吉澤さんは、一体どういうつもりなんでしょうか?
酔った勢いだけだとは思わないのですが…
頑張れ石川さん!
617 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/30(火) 09:40
いしかーさん頑張って!
甘甘とっても良かったですww
またお願いしますw
よしざーさんも気になります。
618 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/02(金) 19:54
柴っちゃんが本当にいい子ですね(;_;)
梨華ちゃんがんばって!!
619 名前:ほうれん僧 投稿日:2009/01/05(月) 08:39
あけましておめでとうございます。

>>616さん
レスありがとうございます。
吉澤さん…その行動の真意が今日あきらかに…
石川さんは今回も頑張ってますよ(^^)

>>617さん
レスありがとうございます。
甘甘、よかったですか?そう言っていただけると嬉しい限りです。
いしよしの甘甘を読むのは好きですが
自分で書くのは苦手だと気付きました。
最後までの描写が無いのはそのせいです。スイマセン。

>>618さん
レスありがとうございます。
柴田さんがいなかったら正直この話は成立しません。
助演女優賞は彼女です。




では、更新いたします。
620 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:40
 
621 名前:You& ◆YpFPhH6Rnw 投稿日:2009/01/05(月) 08:41
「ゴホッゴホッ」

夜になって風邪が悪化し始めた。
体が異様に重くて寝がえりをうつのも億劫で。
吉澤ひとみ…許すまじ…

熱にうなされて意識が朦朧としていたその時だった
622 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:43
ブーブーブー

枕もとに置いていた携帯が鳴っている。

「こんな時間に誰ぇ…」

画面に目をやると着信の主は吉澤さん。
あたしは慌てて電話に出た。

「…は”い”」
「…なに?どうしたの?その声?」
「風邪…ひいいちゃって…」
「そっか…」
623 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:44
…だからさぁ、何なの?「そっか」って。
もっと他に言うことないわけぇ?
イライラしたあたしはもう我慢できなくて

「きらい…」
「そっか」
「バカぁ〜大っ嫌いなんだから〜!!、ゴホゴホっ」
「大丈夫なの?」
「大丈夫なわけないじゃんっ!ックッシュ!!」
「何かいるもんある?」
「…吉澤さん」
「…うつす気かよ?風邪」
「うつればいいじゃんっ、あんたなんか風邪ひいちゃって
 後藤さんにフラレればっ!?」
「…」
624 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:44
しまった。
イライラして言い過ぎた。
後藤さんの事はNGワードなのに…
でも、でも、あたしだって我慢の限界ってもんがあるんだからっ。
この際だから、言いたいこと言っちゃえ。

「なんとか言いなさいよぉ」
「…ふざけたこと言ってないでさぁ、何かいるもんないの?」
「ふざけてんのはそっちじゃんっ、バカにしないでよっっゴホッゴホッ」
「風邪ひいてんのに、そんな血圧あげちゃダメじゃん」
「もーっ!!誰のせいよっ」
「怒ってんの?…昨日の事?」
625 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:45
わかってんじゃん!
一体どういうつもりよ!
あたしにあんなことしておいて
と、言おうと思ってたら先に吉澤さんに遮られる。

「とっくにフラレてんだよ」
「え?」
「あたし、真希にフラレた」

何言ってんの?
熱であたし頭おかしくなっちゃった?
吉澤さんが言ってることがすぐに理解できなくて
何も言えなくなる。
626 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:46
「…」
「おーい?寝た?」
「起きてるよ…」
「じゃあ、何かリアクションしてよ。さっきまでギャーギャー騒いでたくせに」
「…だって」
「まぁ、いっか。だから何か欲しいもんないの?真面目に答えてよ?
 水とか、そういうの」
「ポカリ的なものが欲しいです…」
「わかった。じゃあ買ってくるから、玄関は開けられる?」
「え?う、うん」
「そんじゃ、チャイム鳴らしたら開けてね」
「わかった…」

何?今の電話?
電話が切られて、今さっきまでしゃべっていた
内容を整理しようと必死に考えた。
627 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:47
後藤さんに告白した?
いつ!?
一体いつの間に??
で、フラレた?
どーいうこと!?
で、今から吉澤さんはあたしのとこに来るの?


あたしはグルグルと同じことを
繰り返し考えていたものの
なにせ熱があるせいか、全然まとまらない。


ピンポーン


そうこうしてる間に
吉澤さんがやってきた。
体は重いけど開けないわけにはいかない。
聞かなきゃいけないことが山ほどある。

風邪の症状の一つである
節々の痛みと寒気と熱のある体を
引きずりながら、あたしは玄関を開けた。
その隙間から吉澤さんが顔を覗かせる。

628 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:48
「…」
「入ってい?」
「う"ん”」
「やっぱひでぇね、声?」
「ごめん…」
「なんで謝んの?…擦れた声もセクシーだよ…」

耳元でフッと息をかける様にしてそんな事を言う。
あたしはバシっと吉澤さんの肩を叩いた。

「キモイ」
「っいってぇ〜なぁ」

肩をさすりながら痛がるフリをする。
何なの?昨日からそんなことばっか言ってさ。
でも、今日は酔ってるとかそんなじゃなさそう。
629 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:49
「はい。コレ」

そう言ってコンビニの袋から取り出したスポーツドリンクを渡される。

「ありがとう。わざわざ買ってきてくれたの?」
「別にいいよ。」
「でも…いくらだった?」
「いいってのに。病人は寝とけって」
「きゃっ」

いきなりお姫様だっこをされて
ベットに連れてかれる。

「はい、ちゃんと温くして」
「…ありがとう」
「熱あんの?」

そう言って、吉澤さんはあたしのおでこに手をあてた。
ひんやりしていて気持ちいい。

「うわっ、あっちぃ」
「なんか夜になって急に上がってきちゃって…」
「そんな石川さんに…ジャジャーン」

吉澤さんはゴソゴソとコンビニの袋をあさって
得意げにそれをあたしの目の前に差し出した。

「コレ、おでこに貼っとこうね」
630 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:50
吉澤さん…
優しいのか、そうじゃないのか
ますます分かんないよ。

なんか、また吉澤さんのペースの様な気がする。
聞かなきゃ、さっき言ってたこと。

「あのさ…」
「なに?」
「さっき電話で言ってたことホントなの…?」
「気になる?」

吉澤さんはいじわるそうな顔をして
あたしにそう聞き返す。
気になるに決まってんじゃんっ。
あたしはムっとした顔で吉澤さんを見た。
631 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:51
「そう睨まないでよ、ホントだって。真希に告ったよ」
「いつ?」
「え〜?いつって、あぁほら、前に石川さんち来たときあったじゃん」

あ、あの後、後藤さんから電話がきて
吉澤さんが行っちゃった日だ。

「真希から電話がきて、あたし、あん時帰ったでしょ?」
「うん…」
「あの日に、ね」
「…あたしと別れた後に後藤さんに言ったの?」
「そう」
「…なんでぇ?」
「…」
632 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:51
絶対に言えないって、そう言ってたんだよね?
だいたいさぁ、やることがいつも急なんだよ。
この人は一体奥手なのか手が早いのかどっちよ。

「…ってか、寝なくていいの?石川さん」
「ここまで聞かせといて寝れるわけないじゃん」
「やっぱ続き聞きますか?」
「聞きます」

あ、そう?なんて言いながら
吉澤さんはあぐらをかいて
自分の体を支える様に腕を後ろに廻して座りなおした。
633 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:52
「ポロっとでたんだよね」
「はい?」
「や、ポロっとさ」
「…」

ポロっとって。あんたねぇ
ずっとひた隠しにしてたわりに
そんなさらっと…いいんですか?それ?
あたしは呆れて吉澤さんを見かえした。

「あの日さ、真希が話があるっていうから行ったんだよ。
 あ、あん時は急に帰っちゃってゴメンね?」
「や、別に…」

今さらあの日の事を謝られても
ってか、そういうことはもっと早く言えないかな?
634 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:53
「なんかさ、市井さんがニューヨークに行くらしくて
 真希も一緒についてくんだーって」
「急だね…って、後藤さんも?」
「そう。急だよね。あげく、んなこと言いだすもんだからさぁ、あたし何かアタマきてさ」
「うん…」
「気が付いたら、今まで想ってたこと全部言ってた」
「…」
「真希が好きだったって、言った」
「そう…なんだ…」
「…たぶん、あたしも隠してるの限界だったんだろうなー
 今になってそう思うわ〜」
「…後藤さんは?」
「…わかってたよ、って。でもゴメン、よしこの気持には応えられないってさ」
「そう…」
635 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:53
そんなことになってたなんて…
あたし、無神経なこと言っちゃった
フラレればいい、なんて。

「ごめんね…さっきあんなこと言って…ホントごめんなさい」
「なーんでそんな石川さんが謝んのさっ、ての」
「だって」
「ホントの事なんだからいいんだよ、別に」

無理しちゃって…
なんでそんな何事も無かったかのような顔してんの?
あたしの前ではそんな無理しなくていいのに…

「そんな、元気なフリしなくていいよ
 そんなことがあったから、昨日も一人あんなに酔っ払ってたんでしょ…」
「違うっての!ちょっと〜、人聞きの悪いこといわないでよ。」
「酔ってたじゃん」
「あのねぇ、フラレたからって自棄になって飲んだくれたりしません」
636 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:54
うそつき。
すぐ飲んだくれんじゃん。
自棄になって酔っ払って雨にずぶ濡れになって
本棚破壊したのはどこの誰よ。

「昨日はさ、サークルの先輩に飲まされたんだよ」
「ほんとに?」
「そうだよ。自棄になんかなってない。
 ってか、むしろスッキリしてんだ」

そう言って、吉澤さんは優しく微笑んだ。
あんなに想ってたのに吉澤さんはそれで平気なの?

「…それでいいの?」
「それでいいもなにも、フラレたんだもん。
 これ以上どうしようもないじゃん。ってか
 あたし、十分やったよ?真希に対してさ。
 で、この結果だし。自分で自分を褒めてあげたいよね〜アハハ」
「辛くない?」
「不思議とこれが無いんだよね。もっと落ち込むかとか思ったけど」
「ゴホッゴホッゴホッ」

吉澤さんがそこまで言ったあと、あたしは布団に入って
体温が上がったせいか咳きこんでしまう。
637 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:55
「ゴッホゴホっ」
「あぁ、あたしのこんな話ばっかしてゴメン!
 もうホントに寝た方がいいよ」
「う”ん…」
「じゃあ、あんまり長居するのもあれだから…」

そう言って吉澤さんが立ち上がろうとするから
なんだか急に淋しくなってしまって
あたしは吉澤さんの手を取って自分の方に引き寄せた。

「やだ…帰っちゃ…」
「…嫌いじゃなかったの?あたしのこと?」
「いじわる…嫌いよ、吉澤さんなんか…」

そっとあたしの前髪を
吉澤さんの細くて白い指が?き分ける
638 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:56
「…ごめんね、今日は。先に出ちゃって」
「そうだよ…起きたらいないし…」
「真希たちを見送りに行ってたんだよ…」
「えぇ!?今日だったの?ニューヨーク行き?」
「うん。」
「…ホントにもう未練ないの?」
「しつこいよ。ないってば、それに…」

それに、何?
吉澤さんはそこまで言って黙ってしまった。
少し顔が赤いのは気のせいかな?
あ!あたしの風邪がほんとにうつったんじゃあ…

「大丈夫?顔赤いよ?あたし風邪うつしちゃった?」
「ばーか」
「な、なによ!?心配してんのにっ!」
「そんなヤワじゃねーしっ」
「もうっ、やっぱりキライっ!帰れば!?」

あたしはガバッと布団を頭まで被って
吉澤さんに背を向けた。
639 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:57
「帰るなとか、帰ればとか、どっちだよ」
「しらない」
「わけわからん人だなぁ〜」
「…」
「…ねぇ、今度さぁ二人で夏祭りいかない?」
「え…?」
「ここからちょっと行ったところに神社があって
 15日に縁日があるんだって」
「ふ〜ん…」
「…金魚すくい得意っつってたじゃん。その腕見せてよ?あたしに」
640 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:57
覚えてくれてた。
あたしが初めて吉澤さんの部屋に行った時。
あたしがそう言ってたこと。
なんか意外。でも嬉しい。

「いいよ。そんなに言うなら一緒に行ってあげる」
「その前に、その風邪。とっとと治しなよ、今週末だから」
「だれのせいで…」

そこまで言いかけてやめておいた。
そもそも自分があんな恰好でずっといたから
こんな風邪をひく羽目になったわけだし。

「どーせ裸でうろうろしてたんだろ〜」
「うぐっ、ち、違いますっ」

意外と鋭い。
あながち間違ってないけど、間違ってる。
ウロウロなんてしてないもん。
641 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:59
「じゃあね、梨華…」
「うん…って、今なんて言った?」

ガバッと布団から顔を出して吉澤さんを見る。



今、この人あたしのこと呼びすてに…
したよね!?
ね?ね?



「もう一回言ってっ」
「おやすみ梨華ちゃん…」

そう言われてちゅうっとキスされた。

「…おや…すみ…」

あぁ、なんか付き合ってるみたい…
あたし今なら死んでもいいかもぉ。
なんて思いながら目を閉じていたら
いつの間にか眠っていた。
642 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 08:59
 
643 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:00

次の日、あたしの熱はどこへやら。
絶好調だった。

あ、そうだ。
吉澤さんにメールしとこ。



―昨日はありがとう。
 おかげで熱も下がって
 風邪なんかどっかいっちゃった―



送信っと。

そしたらすぐに吉澤さんから返信がきた。



―マジで?どんな回復力だよ?(笑)
 ってか、もう今から大学いくの?
 だったら一緒に行かない?―



もう、そんなの一緒に行くに決まってんじゃん。
間髪いれずにあたしは吉澤さんに返信をした。
644 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:01
いそいそと出かける準備をして
巻き髪にも気合いが入る。
合コンの時だってこんな気持ちにならなかったのに。
あ〜ん、早く逢いたいよぉ。

ピンポーン

吉澤さんが迎えにくる。
あたしは急いで玄関のドアを開けた。
645 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:02
「おはよっ♪」
「おはよ〜、あぁホントに顔色良くなったねぇ」
「おかげさまで」
「これはあたしの帰り際のチュウが効いたな」

ニシシ〜と吉澤さんは笑ってあたしを見る。
やだっ、顔が熱い。

「な、なぁに言ってんのよぉ」
「もっかいしとく?」
「え?」

気付いた時にはもうチュッてキスされてて
吉澤さんを見たらヘヘ〜と笑ってる。


何?ちょっと、これっていわゆる
ラブラブってやつなんじゃ?
646 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:03
「そんじゃ、行くかっ」

そう言って差し出された手。

「行くかっ♪」

あたしも笑顔を返してその手を握り締めた。
647 名前:You& ◆YpFPhH6Rnw 投稿日:2009/01/05(月) 09:04


**********************************************************
648 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:04
どうしよ〜
どうしたって、笑っちゃう。
ニヤケちゃう。
あたしは自分の頬をペシっと叩いてみた。

「??何やってんの?」
「えへへ、何でもにゃい…」
「にゃい、って」
「うふふ」
「うふふ、って。どーよそれ」

そんなことを言いながら
駅へと向かう。
チラッと横目で吉澤さんを見たら
あたしの視線に気づいて微笑んでくれる。
キューン
か、かわいいぃぃ。
あぁ、そしてその横顔もステキ…かっこいい…
649 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:05
あたしは改めて吉澤さんの魅力にハマっていた。
そして、その後も大学につくまで
吉澤さんとはずっと手も繋いでたし
別れ際も、人気のないところに連れてかれて
なんなのかな〜?なんて思ってたら
ギュっと抱きしめてくれて、またチュウをした。

「今日バイトあんの?」
「ないよ、明日はあるけど」
「じゃあ、何時くらいに帰ってくる?」
「ん〜と、午後からの抗議終わってすぐ帰ったら5時くらいかな?」
「そっか。あたしは今日フルで講義あるからさー7時くらいになるんだけど、
 またうちで飯食わない?」
「うん♪」
「じゃ、また後でね」
「いってらっしゃ〜い♪」

あたしは去りゆく吉澤さんに手をふりつつ
甘い甘い余韻に浸っていた。

650 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:06
「んふふ♪」
「…なぁ〜に?今の?」
「ひいっ!!」

後ろを振り返ったらそこには冷ややかな目で
あたしを見る柴ちゃんが立っていた。

「いってらっしゃ〜い♪」

そう言って、柴ちゃんが満面の笑みを作りながら手を振るマネをする。
どうやら、あたしの物マネをしているらしい。
「何コレ?梨華ちゃん?」
「…な、なんだぁ〜。もう、いたなら声かけてよぉ」
「ずっと見てたけど、どうなってんの?おたくら?
どう見てもイチャついてたよね?」

ずっと見てたなんて、どこに隠れて見てたのさ?
ってか、どこから見られてたんだろう……
651 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:07
「付き合ってんの?」
「ん〜、さぁ?」
「はぁ?さぁって何?じゃあ、さっきのイチャつきぶりは何なの?」
「なんなんだろね?」
「梨華ちゃん、ふざけてないで」
「ふざけてなんか」
「ラブラブだったじゃんっ」
「やっぱ他の人から見てもそう思う?」
「思うよっ」

やっぱそうかぁ〜。
いやぁ、あたしもそうじゃないかと思ってたけど
やっぱそうなんだねぇ〜、んふふ。

「ちょっと、展開が速すぎだよ。昨日はあんなだったのに…」
「これってやっぱ付き合ってるって言うのかな?」
「はい?何言ってんの?」
「だって、吉澤さんから付き合って、とか好き、とか言われたわけじゃないし」
「なんなの!?それ!?」

柴ちゃんの声がキーンと耳に響きわたる。
652 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:08
「なんなのって…そう言われても」
「あきれるっ」
「やっぱこういうのって変かな?」
「変とかそういう…っていうかさぁ、後藤って子のことはどうなったわけ?」

それは…
そのことは、あたしから言うのはどうなんだろう。
吉澤さんのことだしなぁ。
ん〜。

あたしはどう言おうか迷っていた。

「まぁ、その件はおいおいってことで…」
「なによそれ」
「う〜ん」
「まぁいいけど、言いたくないなら。
っていうかさぁ、梨華ちゃん好きって言われてないんでしょー?どうなのそれぇ?」
「うん…」
653 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:09

そう。
手だって繋いじゃうし
キスだってするし
エッチだって…ねぇ、したし…
でも、肝心なことを聞いていない。言われてない。



「吉澤さん、あたしのこと好きなのかな?」
「知んないよっ、んなこと」
「えーん、柴ちゃん冷たいぃぃ」
「あたしにどうしろっちゅーのよ?ハッキリ聞けば?
 あたしのこと好き?ってさ」
「だからぁ、あたしからは何回も好きだって吉澤さんに言ってんの」
「じゃあ、何も言わないのが答えなんじゃない?」
「ヒドイっ」
「気をつけなよ〜、今ラブラブだからって油断してたら
 痛い目あうかもよぉ?なにせ、あの吉澤ひとみだかんねぇ?」
「吉澤さんのこと、そんな風に言わないでよ」
「忘れたの?最初にそう言ってたのは、そもそも梨華ちゃんなんだよ?」
「そ、それは…そうですけど」

確かにねぇ〜。こんなに浮かれてる場合じゃないのかも。
いつかのカフェでの一件もあるしねぇ…
654 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:10


『そもそも付き合ってたつもりなかったんだけど』


あの時の吉澤さんの言葉が頭の中でリフレインする。
思い出したとたんに急に不安な気持ちが
体の中を駆け巡った。

「梨華ちゃん、顔青い」
「ど、どうしよう〜っ!柴ちゃん!!」
「な、なに急に!?」
「吉澤さんに好きって言われてなぁぁいぃぃ」
「いや、それはさっき聞いたって」
「あたし捨てられるぅ〜っ」
「ああ、もうっ、わかったから、落ち着いて!」
「わぁぁん」
「今日も講義終わったら会うんでしょ?その時ちゃんと
 聞きなよ?この際ハッキリしてもらいなよ」
「こわいよぉ〜」
「今更なに言ってんのっ」
「だって、だってぇ…っていうか、柴ちゃん、一体どこから見てたの?」
「あんたたちがチューしてるとこから。しかと見届けておりました」
「やだぁ〜」
655 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:11
バシバシっと柴ちゃんの背中を叩きながら
あたしはまた浮かれていた。
でも、またハッと我に返って冷静に吉澤さんとの関係を
考えていた。


聞かなくちゃ。
一体、あたしのことどう思っているのか。
あぁ、でもあの性格だもんなぁ…
関係性を問い質したとたんに
冷たくされそう…

『めんどくさいんですけど、そういうの』

とか言いそうぅぅっっ。

その日一日、あたしは浮かれたり沈んだりして
非常に忙しかった。
そんな様子みて柴ちゃんは半ばあきれていた。

そして、帰り際

656 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:12
「じゃ、頑張って」
「うん」
「いつでも慰めてあげるから。辛くったってあたしが
 また合コンセッティングしたげるし」
「…フラれる前程でそういうこと言うのやめてくれる?」
「アハハ。だってさぁ〜」
「アハハじゃないよ、もうっ」
「うそうそ。ゴメンってば」

縁起でもないこと言うんだから。
ホントにそうなったらどうすんのよ。
それこそ合コンどころじゃないっての。
657 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:12
「あたし覚悟決めたよっ」
「うん。いい報告が聞けるよう祈ってるよ」

そう言って柴ちゃんと抱き合った。
ありがとう。
いつもあたしのこと応援してくれて。
大好きだよ、柴ちゃん。

「よしっ、じゃあ行って来い」
「うんっ!石川梨華、行って参ります!」



吉澤ひとみっ、今日はあんたのホンネ聞きだしちゃうかんね〜。
覚悟してなさいよぉ!
658 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:13
659 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:13
「今日は豚の角煮だよ〜」


とうとう運命の別れ道の時間がやってきていた。(おおげさ?)
あたしは吉澤さんの部屋で
雑誌なんかを読むフリをしながら
いつ聞き出そうか様子を窺っている、という状況。
何か手伝えよって声が聞こえそうだけど
あたしだって聞いたんだよ?
手伝おうか?って。
でも相変わらず「ご勘弁。おとなしくしてて下さい」とか
憎たらしいこと言うんだもん。
660 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:14
「この圧力鍋、実家からかっさらってきたんだけど、超優秀。ビビっちゃった」
「…そんなに優秀なお鍋、かっさらってきていいのぉ?
おかぁさん困ってるんじゃない?」
「いいのいいのぉ、あの人あんま料理しないから。どこかの誰かさんと同じで」
「ちょっとぉ〜、それどういう意味?」
「石川の梨華とか言う人だったっけなぁ?あっ、なんと目の前にいたっ!」
「もうっ!!」

こんな調子じゃ全然聞き出せないなぁ。
まぁ、こんな子供っぽいところも好きだけど…キャッ♪
って、違う違う。
浮かれてる場合じゃないのよ。

「吉澤さん、あの〜」
「ん?なに?」
「…」
661 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:15
どどどど、どうしようっ
いざ、聞こうとしたら言葉が出ない。
吉澤さんはあたしの方をじっと見ている。
ううっ、ますます聞きずらい…

「そんなハラへってんの?」
「ええ?」
「もう出来るよ、なんたって優秀なこの子がいてるからね〜」

そう言って吉澤さんが絶賛している圧力鍋のふたをポーンと叩いた。
あたし、なんかすっごく食いしん坊な人になってない?
ま、いっか…、もうちょっと落ち着いてから聞こ。




と、思ったのが失敗だった。
662 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:16
その後、吉澤さんの作った角煮に舌鼓を打ちつつ
あたしたちは軽く一杯のつもりで飲んだんだけど
一杯では終わらなくなって、日本酒に手を出した。
そこで吉澤さんはノックアウト。
唯今、となりで爆睡中。
ちょっとぉ〜!!

「吉澤さんっ、よしざわさぁーんったらぁ!」

あたしは吉澤さんの体を結構強めに揺さぶってみたけど
全然起きる気配がない。

「ちょっとぉ〜、おきてよぉ」
「スカー、ぐう。」
「あぁ、もう…」

ガクっと肩を落とす。
いや、その無防備な寝顔はカワイいんだけどさぁ
663 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:17
「…」
「ぐうぐう。」
「…ねぇ、あたしのこと好き?」
「ぐう。」
「好きっていってよぉ…」
「スカー、ぐうぐう。」
「ダメだ、こりゃ…」




結局、その日に吉澤さんのホントのところは聞き出せなかった。
あげく、週末まで会えないという始末。
(サークルの合宿に行くんだそう)
柴ちゃんには“電話かメールで聞きゃいいじゃん”とか言われたけど
あたしはソレはなんだか嫌で。
だって、そういうことはちゃんと本人の口から聞きたいじゃん。
“好きだ”って言ってくれる保証は…ないけど…
664 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:18


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665 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:18

666 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:19

そして、吉澤さんから答えを得られぬまま
週末を迎えることとなった。

あたしは約束していた縁日に行く準備をしていた。
浴衣を着て、髪もアップに結ってもらって。


美容室を出ようとした時に
吉澤さんからメールが入る。


“なにしてんの?”
667 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:20
何って、美容院に行くって昨日電話した時言ったじゃん。

“美容院行くって言ったけど?忘れた?”
“そうだっけ?”
“そうです”

「…」
しばらく携帯を眺めていたけど返信してくる気配がない。
ちょっと〜、今日の約束も忘れてるんじゃあ…
なんて思ってたら着信音が鳴る。
668 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:21
「はい」
「今日さ、ちょっと先に神社行っててくんない?」
「えぇ!?7時には戻ってくるって言ってたよね?」
「そうなんだけどね〜、なんか渋滞してて。って大丈夫、絶対7時には行くからさ」
「じゃあ、あたしも家で待って…」
「そんじゃ、また後でね〜」

プッ、プープープー

ひ、人の話を最後まで聞けってのっ!
はぁ。
ホント、この人は一体何考えてんだろ。
考えれば考えるほどわかんない。


…誰かが言ってたな
好きになった瞬間に相手の事がわからなくなるって。

あたしの今がきっとそれだ。
669 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:22

670 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:23

「おまたせ〜っ」

そう言って、息を切らしながら走ってくるのは
あたしの愛しいあの人。吉澤さん。

「よっしゃ、ギリセーフだ」

ニカっと笑うその笑顔。
キュンとハートを鷲掴みにされる。

「お、いいじゃん浴衣ぁ」
「そ、そう?」
「ほんじゃ、いこっか」

んふふ。
浴衣、新調してヨカッタ。
671 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:24
そうして二人で色んな夜店を回って
ハシャギまくる。
射的の時の吉澤さんにはあたしのハートまで射抜かれたって感じ?
かっこいいんだからぁ〜♪


…って、あたし、肝心なこと忘れてない?
あ、そうだった。
今日こそ、あたしのことどう思ってんのか聞きださなきゃいけないんだった。


「吉澤さ…」
「よーし、そろそろ行きますか?」
「へ?どこに?」
「どこって、あーた、“金魚すくい”でしょーが」
「あ、あぁ」
「ホントに得意なの〜?あやし〜?」
「ホントだよっ!ちょっとぉ〜見ときなさいよー」

あたしの金魚すくいの腕を見縊ってもらっちゃ困るわよ。
あたしは久々にメラメラと闘志を燃やしていた。
672 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:25
「お、あったあった」

吉澤さんはそう言って、さっそく夜店のおじさんにお代を払う。

「さぁ、見せてもらいましょうか?」

ニヤ〜っと笑って腕組みをしながらあたしを見つめる。

「ほんっと、得意なんだからっ。ビックリするよ?」
「しのごの言ってないで早くしなよ」
「なによ、その言い方!」
「うるせーうるせー」
673 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:25
もうっ。感じワルっ。
いまいちあたしの腕を信用していない様子の吉澤さんを後目に
あたしは浴衣をたくし上げて集中した。
ヒョイヒョイと金魚をすくい上げていく。

「おぉ、おねーさん、やるねぇ」

夜店のおじさんも関心している。
ふふん。
どーよ?
チラっと吉澤さんを見たら
まだ腕組みをしながら次々とすくい上げていく
あたしの手元を見ているようだった。
アハハ、ぐぅ音も出ないようね。
674 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:26
あたしは気分が良くなって
また調子に乗って金魚を追いかけていた。
すると吉澤さんが…

「おねーちゃん、上手だね」

「えっ…」

話しかけられた拍子に
パシャンッと弾けて手元のポイは破れてしまった。

でも、そんなことより今の…
あの時と一緒だ―――


あたしはハッとして吉澤さんの顔を見たら。
ニヤニヤと微笑んでいた。

まさか―――

675 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:27
「あ〜あぁ、んだよぉ、褒めたとたんこれかよ」
「…」

あたしは目を丸くして吉澤さんを見つめながら
ワナワナと震えた指で彼女をさした
吉澤さんは横目であたしを見たかと思ったら

「フッ…あん時と一緒だ。あたしが話しかけたら破れたよね〜」
「えええぇっっ!?まさか、あの時のっ!?」
「ちょっと、指さすなっての」
「だだだだって!」

うそっ!?吉澤さんがあの時の女の子だっての?
し、信じらんない…
676 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:28
「おねーちゃん、あたし約束守ったよ」
「へぇ?」

あたしは、ただただ素っ頓狂な声を出して驚いていた。
吉澤さんはジッとあたしを見つめてこう言った。

「おっきくなったら見せるっつったじゃん」
「ええ?」
「金魚」

吉澤さんの部屋にある水槽。
そしてそこに泳ぐ2匹の金魚を思い出した。

「ああっ!!」
「そ。あのビックサイズ金魚、いしかーさんから貰ったやつ」
「ウソっ!?」
「うそじゃねーって。正真正銘あん時、石川さんから譲り受けたやつだよ」
「…」
677 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:29
あたしは呆気にとられて
ただ吉澤さんを見つめていた。

「ちょっと歩こっか」

吉澤さんはそう言って、少し露店から離れた場所を二人で一緒に歩く。

「信じらんないっ、なんでぇー!?」
「なんでって言われてもねぇ」
「いつから気付いてたの?」
「んーと、石川さんがうちにきて“金魚すくい得意だー”って言ってて
 2、3日してくらいから?」
「…よく思い出したね」
「でしょー」

そう言って吉澤さんはヘラっと笑う。
そういうことは早く言ってよ。
678 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:30
「なんで隠してたのよ」
「別に隠してたわけじゃないけど」
「でも、なんであの時のがあたしだってわかったの?」

そう、確かお互い名前も名乗ってなかったはず。
それでなんであたしだったってわかったんだろう?

「あん時、あのおねーちゃんは友達に“リカちゃん”って呼ばれてた。」
「あ…」
「“リカちゃんすごーい”って、友達に言われてて」

そうだ。あたしはそれで調子に乗って
金魚すくいの前で陣取ってったんだったっけ。

「チョー得意げだったよね」
「そ、そうです」

あぁ、恥ずかしい…
昔のこととはいえ、そんなとこまで見られてたなんて…
679 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:30
「スゲー、この人って思って見てた。ハハハ」
「…でも、“リカチャン”なんて呼ばれてる人たくさんいるじゃない?」

そうだよ。それだけで“あたし”だったって
気付くのはちょっと無理があるんじゃない?

「あと、そん時の“おねーちゃん”は…」
「なに?」
「黒かった」
「ちょっとっ!!」
「うへへっ、うそうそ。ってうそでもないか。でもそれだけじゃないよ」
「なんなのよ〜」
「ココ」

そう言って、吉澤さんは自分の鼻の左横を指さした
680 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:31
「ここにホクロがあった」
「…」
「石川さんもあるよね?ここにホクロ。もうこれだけ揃えば十分じゃね?」



そんなこと覚えてたんだ。
吉澤さんには失礼だけど、そういった記憶力は皆無だと思ってただけに
あたしはさらに驚いてしまった。


「ってか、何?石川さん全然気付いてなかったの?」
「え?…え〜と…」
「んだよ〜、ひでーなぁ」
「ご、ごめんねぇ」
681 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:32
あたしは申し訳なくなって
小さくなってしまっていた。
だって、まさかまた出逢えるなんて思わないじゃない。
すると吉澤さんは急に立ち止って
あたしを見てこう言った。



「これって運命じゃね?」

「え?」
682 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:33

吉澤さんがニっと笑って
あたしを抱き寄せる。

「離れられない運命」
「おおげさだなぁ」

吉澤さんの腕にギュっと力が入るのがわかる。

「あたしはそう思ってんだけど…」
「…あたしも…そう思うよ…」
683 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:34
久しぶりに感じる吉澤さんの体温。
そんなふうに思ってくれてるなんて
すごく嬉しい。

そして、少し体を離してお互いを見つめ合った。
そっと吉澤さんの唇があたしのに触れる。

「…好きだよ。梨華ちゃん」

そう言ってまたギュッと抱きしめられた。





……!?
い、今“好き”って言った!?
684 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:35
あたしはガバっと体を離して
吉澤さんの顔を凝視した。

「…な、なんだよ?」
「もう一回言って!!」
「え〜、ヤだよ」
「なんでよっ!」
「やだね〜」

そう言って、吉澤さんはスタスタとあたしを置いて歩いて行く。

「ちょっと〜!待ちなさいよ〜!」

また“やだね〜”とか言いながらケラケラ笑う吉澤さん。
なによ〜、せっかくいい雰囲気だったのにぃ。

もう一回くらい言ってくれたっていいじゃん
ずっと聞きたかったんだよ?
685 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:36
ぷうっと顔を膨らませて吉澤さんの方を見てたら
急に振り返ってあたしを見て笑った。

「あいしてるよ〜」

そう言った吉澤さんはこれでもかってくらい
赤い顔をしていて。
686 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:36

あぁ神様、この憎いシャイなこの人、どうにかなりませんか?
あたしが幸せすぎてどうにかなっちゃいそうです。


「大好きっ」


あたしは駆け寄って吉澤さんに抱きついた。
少しよろめきながらも
その白い腕はあたしを優しく包み込んでくれる。


687 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:38


石川 梨華 19歳。

ついに「愛」を得ました。


神様、このどーしようなくヒネくれた王子様に
あたし一生ついて行くことをここに誓います。



「ひーちゃん」
「ん〜」
「あたしたちって付き合ってんだよね?」
「なんだよ、いまさら」
「エヘヘ〜♪」




ね、ひーちゃん。
この繋いだ手、ずっとずっと、離さないでね。









―おわりー
688 名前:You Got The Love 投稿日:2009/01/05(月) 09:39

689 名前:ほうれん僧 投稿日:2009/01/05(月) 09:46
突然ですが、今回が最終回でしたwww
あぁ…長かった。

お付き合いいただいた方、レスを下さった方
本当に有難うございました。

自分が書いてるんですけど
思いの外、あまりに長くなったので
何度かヘコタレそうになりましたが、
レスを見たら頑張ろうっ!!って
とても励まされました。ありがとうございます。

今年も皆様にとって、いしよしにとって素晴らしい一年でありますように。
690 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/06(火) 02:13
更新お疲れ様です。
吉澤さんがシャイすぎて可愛い(笑
完結お疲れ様でした!そして、ありがとうございました。
この小説に出会えたことに感謝です。
今年も素晴らしいいしよしが見れることを楽しみにしてます。
691 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/06(火) 10:21
いしよしサイコーです!
作者様サイコーです!
甘甘いしよしをありがとうございます。

作者様の書くよしざーさんが大好きです(^-^)
妄想エスカレートのいしかーさんも面白かったです。
射的のくだり(≧▼≦)

また機会がありましたら、是非…(^_^)/~

692 名前:ほうれん僧 投稿日:2009/05/26(火) 23:54
>>690さん
>>691さん

ありがとうございました。

ちょっとまた書いてみたので
暇つぶしにでも…。
693 名前:甘い声 投稿日:2009/05/26(火) 23:55


694 名前:甘い声 投稿日:2009/05/26(火) 23:56
彼女の常套句は“疲れた”“眠い”“忙しい”。

聞き飽きたよ、そんなこと。

あたしは思う。



たまには、あたしの事を“好き”って言ってみたらどうだろう?


その


甘い声で。



695 名前:甘い声 投稿日:2009/05/26(火) 23:56
石川梨華という人物。
世間がイメージする彼女像とはざっとこんなもん?

まき散らす乙女チックな雰囲気。
放たれるカワイイ高い声。
守ってあげたい。
そんな彼女にカワイク甘えられたら
きっと何も断れない。許しちゃう。

そう、人呼んで“THE 女の子”。
その名を欲しいままにしてる。
696 名前:甘い声 投稿日:2009/05/26(火) 23:57


でも、それに期待して近付いたらきっと裏切られる。



みんな知らなさすぎるね。
本当の彼女を。


もう、随分と長い間一緒にいるあたしが言うんだから
梨華ちゃんの家族よりも、時にはいたかもしれない彼氏よりも、
誰よりも
ずっと傍にいた
あたしが言うんだから、間違いない
697 名前:甘い声 投稿日:2009/05/26(火) 23:58


698 名前:甘い声 投稿日:2009/05/26(火) 23:59

クリスマス、バレンタイン。
そんなイベントごとには、ことごとく興味がない。

カワイイ顔して、あのカワイイ声で、

「みんな浮かれちゃってさー、バカみたい」

とか、平気で言ってのけたりする。実は。
“THE 女の子”が聞いて呆れるよね。まったく。


あたしはどうかって?
そう言ってのけた人の隣で浮かれた気持ちがバレやしないかって
ヒヤヒヤしてる
699 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:00

そう。
その点、あたしの方がなんぼか乙女チックなわけで。
世間のあたしに対するイメージとは裏腹に。





ねぇねぇ、梨華ちゃん。
たまにはロマンチックよっすぃに付き合ってよ。
そんな薄い反応してないでさ。
昔はもっとあたしにベタベタしてたじゃん。



知り合って10年になろうとしてる今もなお
むしろ、あの頃よりも
ドキドキしてるあたしの気持ちに少しは付き合ってよ。



700 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:00


701 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:01
「はぁ〜、眠い。目ざましかけずに、おもっきり寝たいなぁ」
「…お疲れ?」
「うん。最近ホント寝ても寝ても疲れがとれない」

楽屋で二人。
またまた梨華ちゃんがお疲れモード全開で隣に座る。
あ〜あ、あくびなんてしちゃってさ。
しかも割とおもいっきり。
カワイイ顔が台無しだよ。とか思ってる事は言ってやんない。

「歳だな。」
「…同い年になったじゃん」
702 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:01
じっとあたしを見て抗議する。
あ、それ反則なんだっての。
前から思ってんだけど、なんなの?その上目使い。
絶対何か出てるよね。フェロモンとかいうやつ。


「その目は一体どういう構造なのさ」
「?なにが??」

キョトンとした顔。
ほらっ
すっとボケた顔もカワイイなんて。
これに人は騙されるわけだ。なんてヤツ。


もっと、自分の持ってるものを理解しとけ。

703 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:02

「ずるい」
「だからー、何がよぉ?」


自分を知らなさすぎる。


「…梨華ちゃんが」
「わたしが?なんでよ?」

なんでよ、じゃないよ。。
いちいち、仕草とかしゃべり方とか女の子女の子なくせに、
メールが嫌いだったり、イベント事・記念日とか興味ないとか
その辺ちっとも女の子じゃない。
704 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:02
そのくせ、梨華ちゃんがそういう人だと知ってるのに
あたしは梨華ちゃんのことを
女の子としてすごく意識してしまう。
(いや、自分も女なんだけど。)


そして色々期待して裏切られる。
他の人より、何よりも、この人に騙され続けてるのは
あたしってわけか。

そんなことを考えながら、梨華ちゃんを見たら
何がなんだか?みたいな顔してた。
705 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:03
「ねぇ、よっすぃ。言ってることがわかんないよ」
「梨華ちゃん、自分のことわかってる?」
「もう、なんなの?よっすぃ今日ヘンだよ?」

今頃気づいたのかよ。
おせーよ。

そんなの、梨華ちゃんと出会ってからずっとだよ。




706 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:04


梨華ちゃんに対するあたしの採点の甘さは異常。




それがまるで、あたしがあたしじゃなくなるみたいで
10代のころはそれが煩わしくもあった。
でも、計り知れない自分の気持ちを素直に認めたら
あたしはすごく欲が出てきた。



ずっと思ってた。
どこかで、梨華ちゃんにそんな自分を受け入れてもらいたいと。



そんなあたしはどーかしてる。
んなこと、とっくにあたしは気付いてたよ。
707 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:04
「梨華ちゃんが、疲れた、疲れたって言うから」
「え〜、だってさぁ、疲れてるんだもん」
「すぐ眠い、眠いって言う」
「眠いもん。」

その、言葉の最後につく“もん”って言う言い方が
いちいち甘すぎる。
どうせなら、その甘さで、さ。

「そんなツマンナイこと言ってないでさ〜…」
「なによ、ツマンナイって」
「……たまには“ひとみちゃん、好き”とかさー…言ってみたら?」
708 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:05




ち・ん・も・く

かよっ!
なんだよー、さっきまで無駄に甘い声だしてたくせにぃ
別にさ、減るもんじゃなし、ちょっとくらいいーじゃんよ。


「…なにそれ」
「なにそれ、じゃなくって。ほら」
「…」


困った顔してる。
いつもだったら「なんてねー」とか言っちゃって
ちゃかすけど。そんな顔されたら。



でも、今日はどーしても聞きたい。ウソでもいいから。
709 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:06
「…名前、呼んでよ。昔みたく」
「…やっぱヘンだよ、よっすぃ…」
「よっすぃ、じゃなくて」
「…」
「…」
「…」
「…」
「……ひとみちゃん…」


蚊の鳴くような声。
ようやく聞けた“ひとみちゃん”

あぁ、何年ぶりかな〜この響き。
もっともっと聞きたい。
710 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:07
「もっかい」
「え?」
「もっかい聞きたい」
「…ひとみちゃん」
「…好き、は?」
「……好き」


ヤバイ。
よっすぃ、いや、ひとみ
なんか泣いちゃいそう。
あたしはそれを誤魔化すようにしてフザケタ声を出した。


「うへへ〜いいねぇ。すっごいいい。」
「もうっ。よっすぃ絶対ヘンだよぉ〜」
「ヘン?なにが?」
「だって…なんか、わたしたち付き合ってるみたいじゃん」
711 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:07


いっそのこと、付き合ってみる?
なんて、そんなことはなぜか言えなくて。


「そう?」
「もう…ヘンなの」

ほら、でもさ
今、眠くないっしょ?
一瞬、疲れてたこととか忘れたんじゃない?
いいことじゃん。

あたしは、もっと梨華ちゃんに昔みたくかまってほしくて
ついつい調子にのってしまう。

「ちゅー、とかする?」

712 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:08
そう言ったあたしを、梨華ちゃんが見る。
少し潤んだ目。上目使い。
無自覚だとしたら、ホント、この人は恐ろしい。


「するの?」


今のこの状況で
その甘い声で
そんなこと聞き返さないでほしい。

答えなんて決まってる。



(する!したいんだって!)



ぞう、心の中で言ってみる。
いつだって、肝心な時にすくんでしまうあたしは
言葉に出来ない想いを、この瞳に込めて
梨華ちゃんを見つめた。
713 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:09


「じゃあ…目、瞑って…」


そう囁いて
梨華ちゃんの腕があたしの首に回った。

ウッソ!?マジで!?
ちゅー、してくれんの??

言われたとおり、あたしはギュっと目を瞑った。
あぁ、恋の奴隷って、こゆこと?

梨華ちゃんの髪の香りがフッと横切る。
それが、梨華ちゃんとの距離の近さをさらに意識させて
ドキドキとかを通り越していた。
714 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:09


「好きだよ…よっすぃ〜」


甘い甘いその声が、全身に広がっていく。
いつまでも聞いていたい。
その声を聞くたびに、あたしの胸がギュっと苦しくなってんの
あんた、ちったーわかってくれてんの?
…わかってないよなー。


なんて、思ってたら
なんかゴワついたものが顔面に押し付けられていた。
715 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:10
「…んだよ、これぇ」
「アングリーだよ♪」

そう言って
エへっと、その押し付けられたモノの横から顔を覗かせる
乙女チックな見かけだけの彼女。

「…ちゅー」
「しないよぉ〜だ。」

そうですか。
しませんか。
でも、さっきより随分お元気そうで。
疲れも、眠気も吹っ飛びましたか?
なにより、なにより。
716 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:11


って!んなアホな!

えー!?チューしてくんないのぉぉ!?


「いやいや、そうでなくて」
「そんなにしたいならアングリーがしてあげるって、ね?」

ゴリゴリとまたそのヌイグルミをあたしに押し付けてくる。
やめてくれ。
なんだ?その嬉しそうな顔は?

717 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:11
「でぇぇいっ、やめろぃ!顔がかゆいっ」
「えぇー?でもチューしたいんでしょ?ほらぁ〜」
「もういいっ、いいから、ウソ。ウッソでしたーっ」




ほら、やっぱりだ。
期待すると裏切られる。




こうゆう人だよ、この人は。
718 名前:甘い声 投稿日:2009/05/27(水) 00:12


「ふふっ、よっすぃがヘンなこと言うからだよぉ」
「あっそ。ってか、ホント、かゆいから。もういいから、アングリ―は」
「…今度、ね」
「え?」




ねぇ、あとどれくらいの時間を
あたしは梨華ちゃんと寄り添って過ごせるのかな?





他の誰にも聞かせたくない。
あたしだけの甘い声。


もっと、その声で
あたしを好きって。
呼んでよ、下の名前で。







―おしまい―

719 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/27(水) 00:36
おぉ、あまいいしよし、
最高です。
720 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 14:08
なんか現実にありそうなシチュエーションですね。
ドライな梨華ちゃん、素敵です。
721 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 20:02
からっと梨華ちゃんだけどお話自体はあまーい感じ
いいですねー
722 名前:ほうれん僧 投稿日:2009/06/15(月) 22:43
>>719さん

ありがとうございます。
なかなか甘甘が書けない作者でございますので
そう言っていただけると嬉しい限りです。

>>720さん

ありがとうございます。
実際の石川さんってドライなイメージなんですよね。
恋愛にはさほど興味がなさそう…。


>>721さん

ありがとうございます。
からっとサッパリ石川さんでした。
吉澤さんが泣けるっw

723 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:44

724 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:45


「ちょっとっ、二人ともここに座りなさいっ!」


腕を組み、仁王立ちした石川が小さな二人の前に立ち塞がる。
言われた二人は、しぶしぶ、といった風にいたずらしていた手を止め
彼女の前で俯いた。

「いいかげげんにしなさいよっ。まったく、あんたたち何歳になったの!?
 いつまでもこんなイタズラばっかりしてっ……」


くどくど くどくど


石川の説教は小一時間におよんだ。

725 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:46
「反省してるのっ!?」
「…」
「…」
「返事はっっ!?」
「「はいっっ」」
「今度したら承知しないわよっ!」
「もぅしません」
「しないのれす」


「ほんとにもうっ」


まだ言い足りないといった様子だったが
石川はそのままバタンッと扉を勢い良く閉め
楽屋から出ていってしまった。


ほとほと疲れきった顔で
小さな二人が顔を見合わせる。

726 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:47
「よくもまぁ、あんなけ長々と説教たれれるで」
「更年期なのれす」
「うはは。ってアホ。冗談ゆうてる場合ちゃうわ」
「冗談でも言わなきゃ、やってられないのれす」
「梨華ちゃんめ、相当きとるな」
「何が?」
「あほ。わからんのかいな?あれは最近よっすぃ〜と上手いこといっとらんのや」
「えぇ!?そうだったんれすか!?」
「せやなかったら、こんな目におうとるかいっ!一時間やぞっ?一時間もっっ!」
「梨華ちゃん、人に当たるとか良くないのれす」
727 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:48
「よっすぃ〜のアホウが色んな女にチョッカイだすから、梨華ちゃんイライラしとんのや」
「ん〜。確かに。最近のよっすぃ〜は調子にのりすぎなのれす。
この前だってシゲさんに…」
「ええか、のの。このままではうちらの平穏な日々が奪われてまうっ」
「どうしたらいいんれすか??」
「…今夜、うちに集合や」
「まさか…」
「その、まさかや…」

ニヤリと加護は笑った。
辻はヘラヘラしていた。



一体、今夜2人は何をしでかそうと言うのだろうか……。


728 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:48

729 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:49
2人は地下にいた。
どうやら、加護家には地下があるらしい。
そこには、理科の実験室にあるようなビーカーやら試験管などが並べられ
そこからはなにやら怪しげな煙が噴き出している。


「で、どうするんれすか?」
「わーっとるやろ!?梨華ちゃんとよっすぃ〜の仲を修復するんやないかっ」
「で、今回はなにを使うのれす?」
「コレや、コレ」


そう言って、加護は銀紙に包まれた小さなそれを手のひらに乗せて辻に見せた。

730 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:49
「何れすか?これは?」
「聞いて驚くなやっ!?」
「でぇぇぇぇ!?」
「まだ何も言うとらんわいっ!」
「もったいぶってないで早く言ってくれなのれす」
「そう、せかすなや。早い話がコレをよっすぃ〜に食わすんや」
「食べたらどうなるのれすか?」

加護はグッと辻に顔を近づけ、非常にあくどい顔でこう言った。

「キス、すんねや」
「はい?」
「ええか?よう聞けや。要は梨華ちゃんがよっすぃ〜にコレを食べさすやろ?」
「ふんふん」
「するとや、よっすぃ〜は梨華ちゃんにキスしてまうようになってんのや!!」
「でぇぇぇぇ!?」
731 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:50
「ふっ…驚くなっちゅっとろうが」
「さすが、あいぼん…」
「これを食うと、キスしたてしたて、たまらんようなんねん!
もちろん梨華ちゃん限定にな!!」
「梨華ちゃん限定、ってところがミソなのれす。これで梨華ちゃんのヤキモチも
納まって、のの達があたられることもなくなる…」
「せや!…苦労したでぇ。徹夜で発明したからな。この画期的アイテム
『ちゅー・インガム』を使ってやなぁ…」
「酷いネーミングセンスなのれす」
「うっさいわいっ。名前なんぞこの際どーでもええんじゃっ」
「これで梨華ちゃんの機嫌も良くなるのれす〜」
「ふははははっ!!!よっすぃ〜悪く思わんでやぁ、かわいいうちらの為と思って
犠牲になってもらうで!!!」


けたたましく加護の笑い声が地下一帯に鳴り響いた。

732 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:51



なんということだろうか…
2人のイタズラはもはや「イタズラ」と呼べる域を脱していた。
地下に実験室まで作り、こんなものまで作り上げてしまうほどに……


733 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:51


734 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:52

翌日―。


「おはようなのれす」
「おう。のんか。」
「持ってきたのれすか?例の?」
「しーっ!デカい声だすなっちゅうねん。」

加護はキョロキョロと周りを見渡した。

「誰もいないのれす」
「アホっ、油断すんな。そこのロッカーに誰か隠れてるかもしれんやろっ」
「…誰もそんなところに隠れないと思うのれす」
「飯田さんが交信して話し聞いとるかも知れんやろがっ」
「それは否定できないのれす」

妙に納得した辻が加護に近づき、ヒソヒソと話しかけた。

735 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:53
「梨華ちゃん、早く来てほしいのれす」
「効果は30分や。よっすぃ〜にはとっとと食ってもらって
梨華ちゃんにキスしてもらうで」
「30分ずっとキスするんれすかっ?やらしいのれすぅ」
「ぐはは。ええやないか、その間ずっと梨華ちゃんはよっすぃ〜1人占めっちゅーわけや」
「これで機嫌が直らないわけないのれす」
「せや。ホンマ、うちらにあんなけ説教たれといてからに。
むしろ感謝してほしいもんやで」
「感謝してほしいのれす」


2人はどこか誇らしげであった。
そうこうしてるうちに、誰かが近づいてくる気配が…

736 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:53

「あっ、足音が聞こえるのれすっ」
「誰や!?」

ガチャリ

「おはよー。なによ、珍しく早いわねー、アンタたち」

現れたのは石川だった。
ニタ〜っと辻と加護は互いの顔を見合わせる。

「お、おはようなのれす。梨華ちゃん」
「おはよぅさん。なんや、今日もピンク一色で眩暈しそうなくらい景気がええな〜」
「…それ、褒めてるの?けなしてるの?」

石川はジトっと細い目をして加護を見た。
加護は背筋に冷たいものを感じる。
737 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:54

(ゾワワ。なんやねん、今日もえらい機嫌悪そうやんけ)
(あきらか、あいぼんがあんなこと言うかられすっ)

ボソボソと互いに耳打ちする。
その様子を見て、また石川は苛立ちを感じながら
傍にあった椅子に座った。

(なんなのよ、この子たちは…)

「ま、まぁええわ」
「なにがいいのよ。あんたたち、今日は何企んでるのよ?
昨日言ったことホントに反省してるの?」
「まぁまぁ、梨華ちゃん落ち着くのれすっ」
「わたしは落ち着いてるわよっ」
「どこがやねん」
「加護っ!何か言った!?」
「ひいっっ」
「あいぼん、話がこじれるのれす」
738 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:55

ついつい石川にはツッコミたくなる加護だったが、辻に止められる。
そう。二人の目的は石川と言い争いにきたわけではないのだ。

「ご、ごめんやてぇ、梨華ちゃん。昨日のことは反省してるから」
「…」

腕を組み、ジ〜と加護を横目で見た石川だったが、プイっと後ろを向いてしまう。

(なんやねん!人がわざわざ頭下げたってんのにあの態度!!)
(あいぼんっ!怒ってないで早くコレを渡すのれす)
(あっ)
739 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:55

辻が手にしていたのはあの『ちゅー・インガム』であった。
これを石川に渡し、吉澤に食べさせないことには話は始まらない。

「り〜かぁ〜ちゅわぁぁぁん」

そう言って加護はベッタリと石川に後ろから抱きついた。
しかしながら、石川はまだ機嫌が悪いのか
冷やかな目で加護を見る。

「まぁ、そないカリカリしぃなや。今日は梨華ちゃんにエエもん持ってきたんやから」
「そうれす。きっと梨華ちゃんも気にいるのれす」
「…なによ、あんたたちがそう言う時って必ずろくな目にあってないけど?」
「梨華ちゃん…よっすぃ〜とキスしたないか??」
「はい?」
「梨華ちゃんはよっすぃ〜とキスしたくないのれすか?」
「なななな、なに言ってるのよっ、あんたたち」

くっ付いていた加護をベリっと剥がし取り
石川は顔を赤くしてガバっと勢いよく立ち上がった。
740 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:56

そんな石川の様子を見て、ニヒヒヒとほくそ笑む二人。


(かーっ!わっかりやすいやっちゃでぇ)
(顔がまっかっかれす)
「隠さんでもええがな〜。よっすぃ〜とキスしたいんやろう?」
「べっ、別に隠してなんかっ」
「あっ、よっすぃ〜が飯田さんと手つないで歩いてるのす」

そう言って、辻が楽屋外の廊下を指さした。
その指した方向を鬼の形相で目をやる石川。

が、しかし
辻が指した方には誰も居なかった。


741 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:57


「〜〜〜〜」


騙されたと気付いた石川はワナワナと震えながら
言葉にならないのか唇を噛みしめ、涙目で辻を見る。

そんな石川の肩にポンと手を置き
首を横に振りながら加護が諭すように言った。

「梨華ちゃん…そんなによっすぃ〜のことが……」
「す、好きよっ!悪い!?」

もはや開き直ったかのように、泣きながら加護に訴える石川。

(けけけ。んなこたとっくに知っとったわ。知らんのはよっすぃ〜のアホだけじゃ)

742 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:58
「そんな、よっすぃ〜大好きな梨華ちゃんに、ののたちからプレゼントなのれす」
「プレゼント?」
「せや」


そう言って、手渡れた銀色の包み紙を手のひらに乗せられる。
石川はそっとそれを剥がし取った。


「……なによ…ただのガムじゃない」
「チッチッチ、“た・だ”のガムじゃないのれす」
「ええか、梨華ちゃん、よう聞けや。
このガムをよっすぃ〜に食べさせたらキスできんねで」
「あんたたち…人をからかうのもいい加減に……」

石川の背後からメラメラと怒りの炎が立ち昇る。
二人は飛び跳ね、あわてて石川から逃げ出した。
遠くの物陰に隠れながら石川に叫ぶ。
743 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:58
「は、話を最後まで聞かんかーいっ!!」
「ひぃぃぃ。梨華ちゃん怖いのれすぅ」
「ののぉぉー!あいぼんっっーーー!!隠れてないで出てきなさい!!!!」
「このガムはなぁぁ!普通のガムとは違うんじゃあ!!
 梨華ちゃんがよっすぃ〜にこのガムを食べさすことによって
 よっすぃ〜はたちまち梨華ちゃんにキスしたなるっちゅう―――」

ゼイゼイっ
肩を上下させながら加護は叫んだ。

「…ホントなの?」
「疑り深いやっちゃなぁ…」
「まぁまぁ、信じろっていう方が難しいのれす」
「チっ、ほな誰かで試したらええやんけ」

すると、ちょうどいいタイミング?でバーンと勢いよく楽屋の扉を開け
入ってきた二人組が―――
744 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 22:59
「あ、ちょうどいいところに矢口さんと中澤さんがきたのれす」
「矢口さーん、ほれ、このガムむっちゃ上手いねんでぇ。一つどないです?」
「なんだ加護ぉ、気が利くじゃねーか。」
「は、ははは。そうでっしゃろ?」
加護は顔を引きつらせながらポリポリと頭をかいた。

「じゃ、遠慮なく。いっただっきま―――」
「あっ!!あかん!!」

加護はバッと矢口からガムを奪い取った。
冷や汗が体中に流れる。

(ふ〜…危ないとこやった。あやうく自分が餌食になってまうとこやんけ)
745 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:00
「なんだよぉ。くれるんじゃなかったのかよ?」
「やかましいっ!だまっとれカスっ」
「なんだと!?かごぉぉ!!」
「おとなしくしてるのれす」

矢口は後ろからグッと辻に抑え込まれながら
ギャーギャー騒いでいた。

「中澤さん、コレを」

加護はそう言って例のものを中澤に渡した。

「なんや、うちにはくれるんか?」
「ちゃうねん、中澤さん。ええからコレをグッと握り締めて
矢口さんのことだけを考えて下さい」
「どういうこっちゃ?」
「ええからっ!」
「なんのこっちゃ」
746 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:00
中澤は、わけがわからんといった風だったが
加護に言われた通り、矢口のことだけを想い、ガムを握り締めた。

(やぐちぃぃ〜、あいしてるでぇ)

「ほれ、これでええんか?」

手を開いて、ガムを加護に見せる。

「よしっ、ほなら次はそのガムを矢口さんに食べさせて下さい」
「なんやねん、結局、矢口にやるんかい」
「はなせぇぇぇぇ辻ぃぃ!!加護のやつ、今日という今日は―――!!」
「中澤さぁぁぁん!!はやくそのガムを矢口さんに食べさすのれすぅぅ!!」

矢口を押さえていた辻の腕も限界を迎えようとしていた。
バタバタと暴れる矢口の怒りは加護へ一直線へと向かっている。
747 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:01
「んな、まどろっこしいことせんと、
大人しく初めっから矢口にやっときゃ良かったやん」
「それやと意味がないんです。って、ええからはよしてもらえません!?
 私、今生死かかっとるんです!!」
「かごぉぉぉ!ぶっ殺す!!」
「ひぃぃぃぃぃ!!!!」
「も、もう限界なのれす!」

辻の腕が矢口から離れた。
ようやく解放された矢口は加護めがけてドロップキックをかまそうとしたところを
中澤に軽く腕一本で取り押さえらる。

「コ、コラ、裕子ぉ、はなせよぉぉ!!」
「まぁまぁ、ガキどものすることにいちいち腹立てんなや」
「ゆうちゃんだっていつも青筋たてて怒ってるじゃんよー!!」

床にねじ伏せられた矢口は足をジタバタさせながら
中澤に抗議する。しかし、中澤は余裕だ。
748 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:01
「ええから。ほれ、これでも食うて落ち着きや」

そう言って、中澤はヒョイッ、と矢口の口にガムをほり込んだ。

モグモグ。

「どや?うまいか?」
「…普通。なにがメッチャ上手い、だ。やっぱりアイツらに騙された」
「ふ〜ん。そうけ。
おいっ!加護っ、これでええんか!?言われたとおり矢口に食わしたで」


(な、なにも起こらないれすね?あいぼん…)
(なんでや…、そんな、何も起こらへんはずないっ)

「なにをヒソヒソ話しとんねん?説明せーよ、加護ぉ」
「…ちょっとー、やっぱり何も起きないじゃない。デタラメなことばっか言ってぇ」

石川は組んだ腕を加護にグイグイと押し当て
あきれたようにそう言った。
749 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:02
「失敗れすね…」
「んなはずあるかい!!」

失敗などと言う言葉で片付けられようとしたことで
加護のプライドに傷が入りムキになる。

「矢口さん!ホンマになんともないんかっ!?」
「なに言ってんだよー?っていうか、まだ話は終わってねぇぞ、カ――――」

加護、と言おうとした矢口であったが
ピタリと動きが止まる。
焦点の合わない、虚ろな目をした矢口に中澤が焦って
ユサユサと矢口の体を揺さ振った。

「や、やぐちっ、どないしたんや!?」
「…」
「やぐちっ!!」

叫ぶ中澤の声に反応し
ようやく矢口の目が中澤を捕える。
その時だった。

750 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:03


「ゆうちゃん!!!」




ぶちゅううううううううううう





あっけにとられる中澤。
目を点にする石川。
二人の様子に興味津々な辻
ニヤリと笑う加護。

「ゆうちゃん…スキ……」

矢口はそう言ってピタリと中澤の胸に収まった。

751 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:03
「どどどっどどど、どないしたんじゃ!?何が起こった!?」
「ガ――――ハッハッハ!!どないもこないもあるか―――い」
「加護っ、オマエ矢口になに食わしたんや!?」
「わははは―――!見てのとおりやっ。このガムを食わした相手は
 キスするようになっとんのじゃあ」
「何やと――――!?」
「ゆうちゃあん、ちゅ〜」
「はよゆわんかいっ!!」

ぶちゅううううううううううう

「な、なによ、これ…」
「どや?これでもまだ信じられへんか?」
「梨華ちゃん、はやくよっすぃ〜にコレを食べさせるのれすよ」

ぶちゅううううううううううう

「矢口ぃぃぃぃ、ゆうちゃんは今、猛烈に感動しとる!!」
「ゆうちゃああん」
「いっつもいっつもゆうちゃんばっかりが矢口にキスを迫って
 しかもそれをウザがって逃げてた矢口からキスしてくるなんてっ
 やぐちぃぃぃぃ!!あいしてんでぇぇぇぇえ」

ぶちゅううううううううううう

今度は中澤の唇が矢口の唇に襲いかかった。
二人の熱烈なキスが続く。
752 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:04
「あんまり、いつもとかわらないじゃない……」
「あほう、いつもとは違う。よう見てみぃ。中澤さんが一方的に迫ってることはあっても
矢口さんがあんな積極的に中澤さんに迫ってるとこみたことあるか?」
「たしかに…」
「すごい効果なのれす」

あぜんと二人の様子を見つめる石川だった。
そんな石川をチョイチョイと指で突き
辻が例のものを石川に握らせる。


「ほら、はやくよっすぃ〜捕まえて食べさせるのれすよ」
「のの…」
「うちらからのささやかなお詫びのしるしや。受け取ったってくれんか?」
「あいぼん…」

石川はふるふると肩を震わせながら俯いていた。

753 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:04
(な、なんや?まだ怒っとんのか?執念深いやっちゃでっ)
(のの達、信用されてないれすからねぇ…)

すると、突如二人は石川に手をギュっと握られる。
ギョっとして二人は背筋が凍る思いだったが、
とうの石川は泣いていた。

「あいぼんっ、ののっ、わたしの為に…ううぅ」

(い、一瞬、刺されるかおもたで)
(心臓がとまったのれす)
「わたし、あんたたちのこと勘違いしてたっゴメンね」
「わ、わかってくれたらええんや」
「梨華ちゃんの幸せをいつも願ってるのれす」
「さぁ、梨華ちゃん、行くんや。よっすぃ〜のとこへ」
「いってらっしゃいなのれす」
754 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:05
(はよ、この掴んだ手、離してくれんか…痛いんやて)
(おなかすいたから、そろそろこの一件から解放してほしいのれす)

そんな二人の本心も知らずに
石川は駈け出していた。
そう、吉澤の元へと。


「あいぼーん!ののぉ!ありがとう!!わたし頑張る!!!」


そういって、ブンブンと加護と辻に手を振っていたかと思うと
石川の姿はあっという間に見えなくなっていった。
755 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:05
「ま、せいぜい頑張れや」
「あいぼーん。おなかすいたのれす」
「?気なやっちゃな〜」
「おかし♪おかし♪」
「ゆうちゅわわわん」
「やぁ〜ぐちぃ」
「ゲッ、しもた」
「この二人のこと忘れてたのれす」

チュッチュッッチュウ〜〜〜

楽屋のソファでイチャイチャと絡みつく中澤と矢口。
見てられんっ、といった具合で加護が自分の額に手をやり天井を仰いだ。
辻も今更ながら、両手で顔を隠し、指の隙間から二人を覗く。

「ええいっ!むさくるしい!!」
「…あと20分は続くのれす」

「ゆうちゅわわっわん」
「やあぁぁぁぐちぃぃぃ〜」

「やかましいわいっ!!!」
「はぁぁぁ…地獄なのれす」
756 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:06

757 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:07
その頃、石川は吉澤を探しフロアをうろついていた。
そもそも、吉澤がどこにいるかもわからず
闇雲に駈け出してきてしまった為である。

(よっすぃ、一体どこにいるの!?)

キョロキョロとあたりを見渡すが吉澤の姿は無い。
当たり前だ。

「あ、梨華ちゃんじゃーん。なにしてんの?」
「ご、ごっちん!?」

そこに現れたのは後藤であった。
相変わらず飄々としている後藤に石川はグッと詰め寄る。

758 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:07
「ごっちん!!よっすぃ知らないっ!?」
「り、梨華ちゃん?怖いんですけど…」

後藤は体を逸らし、石川と距離をとる。
しかし石川の勢いは止まらない。

「よ、よしこならもうすぐ来るよ。今さっきレッスン終わったとこだから」
「ホントに!?」
「ホ、ホントだよ」

後藤は背骨が折れそうなくらい仰け反ってそう答えた。

「おまたせー、ごっち〜ん。って、あれ?梨華ちゃんじゃん」
「よっすぃぃ!!!」

キ―――ンと石川の声がフロアに響きわたる。
後藤は思わず耳に指を突っ込んだ。

759 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:08

「2人してなにしてんの〜?」

吉澤の暢気な声を聞いて後藤は不思議に思った。

(前々から思ってたけど、よしこって平気なのかな?梨華ちゃんのこの
 超音波のような声聞いて…)

「ごっちん?」
「こ、鼓膜が…」
「なに?」
「いやいや、何でも…それより梨華ちゃんがよしこのこと探してたみたいよ」
「へ?なに?なんか用なの?梨華ちゃん?」
「え、えっと…」

石川はモジモジしながら例のガムを取り出した。
吉澤はそれを摘み取り、上に持ち上げしげしげと見つめていた。
760 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:08

「で?なに?コレ?」
「開けてみて…」

そう言われ、吉澤は周りの銀紙を取り除いた。

「なんだ、ただのガムじゃん」

そう言って、後藤が吉澤の後ろから覗き込む。
吉澤の肩に顎を乗せ、後藤はだらしなくケタケタ笑っていたが
石川はその様子にムッとする。

「よっすぃ、はやくそのガム食べてよっ、」
「なに?その言い草?食べて下さいだろ〜が」
「よしこがいらないなら、ごとーが…」

吉澤の背後から手を伸ばし、ガムを取ろうとした後藤であったが
次の石川のけたたましい叫び声にそれを阻まれる。
761 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:09


「ダメェェェェェェエッッッッッ!!!!!!!!!」


後藤は目をバッテンにしながらその場に崩れ落ちた。
耳はジンジンしている。

「ごっ、ごっちん!!大丈夫かっ!?」
(な、なぜ…よしこは平気なんだ…ろうか…ガクッ)
「ごっち―――――ん!!」

吉澤は後藤の体をこれまた脳震盪を起こしそうなくらい揺さぶってみたが
後藤はグッタリと倒れたまま起き上がらなかった。

「ごっちん…」
「さぁ、よっすぃ…おとなしくコレを食べて」

ジリジリと吉澤に迫る石川
762 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:09
「き、きさま、ごっちんに何をしたっ?」
「自分があんなにごっちんのことブンブン振り回すからじゃない!
 首の骨折れるんじゃないかと思ったわよっ」
「なにー!?あたしのせいだってのっ!?」
「…よっすぃ、今はケンカしてる場合じゃないの」
「なにを言うかっ、先に売ってきたのはそっちじゃん!」
「このガム食べて…」

気が付けば壁際まで吉澤は追い詰められていた。
これでは逃げようがない。

「観念して、よっすぃ〜」
「だぁぁれが食うかぁぁぁ!!」

そんなも――――ん!と言おうとした吉澤であったが
大きく開いた口目掛けて、石川はガムを投げ込んだ。
なかなかのコントロールであった。

もぐもぐ。

ゴックン。

「げぇぇぇぇ。飲み込んじまったじゃね〜か」
763 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:10
吉澤は舌を出しながら、ゲーゲー言っていた。
そんな様子を見ながら、まだかまだかと石川は両手を胸の前で組み
吉澤の変化を待っていた。

「う、うううう〜ん」

床にのびていた後藤が意識を取り戻した。
体を起こし、回りを見渡すとそこには
ウゲウゲ言ってる吉澤の姿と、期待の眼差しで吉澤を見つめる石川の姿が。

(一体どうなってんだ?)

「…ねぇ…よしこ、何して――――」

言いかけた後藤に吉澤の腕が伸びる。
ガッシリと掴まれた後藤に逃げる間もなく
吉澤に唇を奪われた。
764 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:11

ぶちゅううううううううううう

「――――ぷはっ!…よよよよしこぉぉぉぉ!!なにすんだっ――――!?」
「ごっちぃぃぃん♪」

吉澤は後藤の胸にスリスリと自分の頬を撫でつけている。
後藤はそんな吉澤をひっぺ剥がそうとするが
いかんせん、吉澤の怪力でガッツリ掴まれている為、なかなか上手くいかない。

「や、やめぇぇぇい!!」
「ごっちぃぃぃん〜、チュ〜しよ〜ぜぇぇ。チュー」
「だ、だれがするかぁぁ―――!!ハッ!!」

後藤は殺気を感じ、その殺気立つ方向に目をやった。
その先にいたのはもちろん石川だ。
石川はワナワナと震え、拳を握りしめていた。
765 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:11
(げっ!刺される!)

あわてて石川に後藤が叫ぶ。

「り、梨華ちゃん!なんか誤解してない!?」
「なぁ〜にが誤解なのぉぉぉ!?」
「ひぃぃぃぃっ!もっのすご―――く殺意を感じるんですけど―――!!」
「ごっちゅいぃぃぃぃん♪」
「よっすぃぃぃっ!!!なにやってんのよ!!」
「でぇぇぇい!!離れろっ!よしこっ!!!梨華ちゃんに殺されるではないかっ!!」

グググと力づくでなんとか吉澤を突き飛ばし
その勢いで吉澤はゴロゴロと転がっていった。

「ゼイゼイッ。はぁ〜〜〜〜あ…何なの?アレ?」

後藤は汗ばんだ額を拭いながら肩を上下させていた。

766 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:12
「…は、話しが違うじゃない!どういうことよっ」
「はぁはぁ…ちょ、梨華ちゃん、ソレ一体どういうこと?」

ギクっとした石川であったが
ことの一部始終を後藤に話した。

「まったく、なんでそんなしょーもないもんに手ぇだすかなぁ?」
「だってだってぇぇ。よっすぃ、わたしのこと全然相手にしてくれないんだもん!」
「…そんなことしなくたって、よしこは……」

と、二人で吉澤の方に目をやったが
その前を藤本と松浦が通りかかる。


「あっ、ミッキティィィィィ〜〜〜♪アッヤヤぁぁぁ〜〜〜♪」


767 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:12
ピョ〜ンと二人に跳び付く吉澤。
そしてキスを押し迫る。

「ウヒヒヒ♪お二人とも今日もかわゆ〜い♪さぁ!レッツ・キス!!」
「いやぁ〜ん、よっすぃ〜ったらぁ」
「よっちゃんさん、頭どっかで強打したの?」

藤本に顔を押さえられ距離は測られてはいるものの
吉澤は今にも2人に襲いかかる勢いだ。

「…そんなことしなくても、何?」
「へっ!?い、いやあぁ…どうなんでしょ?わははは。」

腕を組み、血管を浮かせ怒りに満ちた石川の前に
後藤は苦笑いするしかなかった。
768 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:12

769 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:13

一方、その頃――――


楽屋ではまだ中澤と矢口がイチャイチャしていた。

「チュ〜」
「いつまでやっとんねん!!ええかげんにせんかい!!」
「あいぼん、あと15分で終了なのれす」
「だぁぁぁ!15分も待っとられるかい!出てくぞっ、のの!」
「ええ?いいんれすか?もうすぐ出番が…」
「2人がこんな状態で番組出来るわけないやろ!ほっといても中止じゃ!!」
「う〜ん。たしかに」
「梨華ちゃん探すで」
「なんだかんだで心配なのれすね」
「はんっ、アホか。おちょくりに行くに決まっとるやんけ」
「素直じゃないのれす」
「ええから、いくで!」
「はいはい。なのれす」


バンッと勢いよく扉を開け、二人は楽屋を後にした。


770 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:14

勢いよく開け放たれたドアと壁の間からズルズルと人影が。

「…痛いわね。一体なんだってのよ……」

保田だった。

「まったく、アイツらっ!次会ったら承知しないわよっ!!ふんっ」

保田はオデコをさすりながら楽屋に入って行った。

「ギャ―――――!!な、なにやってんのよ!?アンタたち!?」

「なんや、けいちゃんか邪魔すんなよ」
「し、しないけど…どうなってんの?」

わけがわからない保田であった。


771 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:15

772 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:15
「なんや、楽屋の方からおどろおどろしい声が聞こえたような…」
「断末魔のような声れした」

加護と辻は石川を探し、フロアを駆け抜けていた。
しばらくすると、近くから明らかに様子のおかしい話し声が聞こえてきた。

「えらいあっちの方が騒がしいで」
「??2人じゃなさそうなのれす」
「どういうこっちゃ?」
「さあ?」

首をかしげながら2人は声のする方へと向かった。
そこには最悪の事態が繰り広げられているとも知らず。
773 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:15

774 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:16


ぶちゅううううううううううう


「いっいだすわぁぁぁん♪」
「あ〜ん!ちょっとー!よっすぃ〜離してぇぇ」

ぶちゅううううううううううう

「あっべすわぁぁぁぁん♪」
「ちょっ、やめるべさっ!よっすぃぃ」

ぶちゅううううううううううう

「たっかはすぃぃぃぃ♪」
「なにすんやてー!はなしてぇやぁ!吉澤さんっ!!」


ピョンピョンとあっちこっちへ移り
吉澤は片っぱしからキスを攻めまくっていた。
775 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:16
加護と辻は目を疑った。
なかなか目の前で起こっている状況を把握しきれないでいた。
辻は何度も目をゴシゴシとこすっている。
加護は垂れた鼻水にも気付かず唖然としていた。


「どどど、どないなっとんねん」
「わけがわかんなのれす」
「どないなっとんねん、じゃねーよ。加護」
「ご、ごっちん!」
「説明してもらいしょうか?ののぉ」
「り、りかちゃん!」

首根っこを掴まれ、ズルズルと引きずられる2人。
しかし、本人たちにも今起こっている事態は予想外の展開だ。
問い詰められたところで答えようがない。
776 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:17
「わ、わからん!わしは知らんぞ!」
「おかしいのれす〜。梨華ちゃんが食べさせたのなら
 よっすぃ〜は梨華ちゃんにキスするようになってるのれすっ」
「どうすんのよ?よしこ、いつもより増して酷いことになってんじゃん」
「うわぁぁぁんっっ、なんなよぉ〜!どうなってんのよぉぉ」

石川は滝のように涙を流しながら喚いていた。
後藤は耳栓をしつつ、加護たちに詰め寄る。

「解毒剤とかないわけ?」
「あるかいっ!んなもんあったら、とっくに中澤さんと矢口さんに飲ませとる」
「なに?あの二人にも食べさせたの?」
「そこでキーキー泣き喚いとる奴がなかなか信じへんから、あの二人で試したんや」
「でも、あの二人は成功したのれすよ?」

後藤は頭を抱えそうになったが
そんなことをしている場合ではない。
吉澤の行動を早く止めなければ。
しかし、どうすればいいのか…
777 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:17

778 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:18
まったく、あんなイチャイチャされたら居場所ないじゃない。
ってか他のメンバーは何してんのよ!?」

ブツブツと文句を言いながら一人歩く人物。

「だいたいねぇ、いい大人なんだから、時と場所を選んで…
ぎゃあああああああ!!吉澤っ!アンタ何やってるの!?」

そこに現れたのは保田だった。

「ハッ」

吉澤の動きが止まる。
779 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:18
「何って?アレ?安部さん、なんであたしにくっついてんすか?」
「こっちのセリフだべさっ!!」
「ほらほらー、なっちから離れなさいっての、一体なんだってのよ?
 ゆうちゃんといい、矢口といい、アンタまで」

そう言って、てくてくと吉澤に近づく保田。

「あ、あかん!保田さん!」
「ダメなのれす!」
「圭ちゃん!!よしこに近づいちゃダメ!!」
「保田さんまでぇぇ、やめてぇぇぇ!」


一斉に叫ぶ4人を怪訝な顔で見かえす保田だったが
状況を知らない保田は足を止めなかった。

(も、もう終わりや。保田さんとのキ、キスシーンなんて見とおなかった…)
(ゴメンれす、よっすぃ〜…)
(よしこっ!許せ!)
「いやいやいやぁぁぁぁぁ、よっすぃのバカぁぁぁ!!」

石川が叫んだと同時に吉澤が叫んだ
780 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:19
「だれがバカだっ!!ええっ!?」
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」

4人はキョトンとして互いの顔を見合わせた。
吉澤は保田を素通りして石川の方に向ってグングンと歩いてきた。

(どーやら、保田さんには反応せぇへんらしいで)
(よしっ!圭ちゃんを使って、よしこと梨華ちゃんを二人きっりにさせるしかないね)
(ごっちん、あったまいいれす!)


「こらー、そこの三人なにコソコソしてやがる」
「ま、まて。よしこ、それ以上あたし達に近づくな」
「はぁ?どういう意味よ?それ」
「今は説明しとる場合やないんや」
「とにかく、よっすぃ〜はそこを動かずじっとしてるのれす」

テテテと辻と加護が保田の元へ駆け寄り
吉澤が今置かれている状況を説明した。
781 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:19
「なんですって―――!?アンタたちが発明したガムを石川から吉澤に食べさせることによって、たちまち吉澤は石川にキスしたくなるようになるガムを石川は吉澤に食べさせたっていうの―――――!?」

「ボケーっ!!なにをベラベラとしゃべり倒しとんじゃっ!!
 くぉんの、子泣きじじぃがっ!!!!」
「はっ!マズイのれすよ!あいぼんっ」

加護は保田の胸倉をつかみ取り一発殴ってやろうかというところだったが
後ろを振り返ると、吉澤の背中からユラユラと怒りが燃え盛っていた。

ワナワナと肩を震わせ、吉澤は辻と加護の方に振り返る。

「どういうことだぁぁぁ!?」
「「ぎぇぇぇぇぇ!!」」
「よしこ、落ち着けっ」
「よっすぃ…」

今にも辻と加護に襲いかかろうとした吉澤を
石川が止めに入ろうとした。が、しかし。
782 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:20
「ち、近づくなぁぁ!!」
「よ、よっすぃ、どうしてぇぇぇ!?」
「じょーだんじゃねー!!なんであたしが梨華ちゃんとキスせにゃならんのだ!」

ムカっ。石川に怒りが走る。
吉澤のそんな様子に石川も黙ってはいない。

「なんでよ――――!?他の子とはいっつもイチャイチャしてるくせにっ
 ちょっとくらいいいじゃない!!」
「はん。バカバカしい。こんなガキどもの作ったものを使って
 あたしの心を操ろうなんて、そんなセコイ考えのやつにだぁ〜れがキスなんぞ」
「よ、よしこ、もうその辺にしときなよ」
「口出ししないでもらおうかっ!これはあたしと梨華ちゃんの問題だっ!!」
「え、ええやないか。キスくらい。減るもんでもなし」
「そうなのれす。たまには梨華ちゃんにキスくらいしたってバチあたらないのれす」
「妙なもん作っておきながら、オメェーらが言うな!!」
「「ひぃぃぃぃぃ!!」」

783 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:20
(あ、あかん。よっすぃブチギレとる)
(普段、のほほんとしてる分、怒ったら尋常じゃないくらい怖いのれす)

加護と辻はサササと保田の影に隠れた。

「あんたたちね〜…」
「り、梨華ちゃんの為を思って作ったんやど!責められるいわれはないわいっ」
「そうれす。よっすぃ〜と梨華ちゃんに仲良くしてもらいたくて」
「私が見る限り、仲違いしてるように見えるけど…」
「なんでやっ、なんでこうなるんや―――!!」
「とっととキスするのれすぅぅ!!」

辻と加護は保田の背後に隠れながら泣き喚いていた。
さすがの保田も呆れているようだ。
784 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:21
「よしこぉ〜、一回くらいしたっていいじゃん?何をそんなに意固地になって…」
「そ、そんなんじゃない!こんな卑怯な手を使われて
はいそうですか、って出来るわけないだろぅっ」
「卑怯って…なにもそこまで言うことないじゃん。
 よしこ、梨華ちゃんの気持ちわかってんでしょ?」
「やーい、やーい、卑怯もーん」

後藤の言葉を無視して吉澤は石川を罵っていた。

「…」
「悔しかったら何か言えよ〜っ」

785 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:21
(クソガキかっ、梨華ちゃん逆撫でするようなことばっか言いおってからに!)
(はぁぁ、よっすぃ〜、もうちょっと大人になってほしいのれす)

「もういい…」
「へ?」
「よっすぃなんか知らない」
「バカっ!よしこっ、早く謝りなよ!!」
「さよなら」
「あ、あ〜っそう。せいせいするね。」
「り、梨華ちゃん…」
「どこへでもいっちまえ〜」

吉澤は手をヒラヒラさせてそっぽを向いていた。
そんな吉澤を悲しげな表情で見つめる石川だったが
諦めたようにその場から立ち去って行った。
786 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:23
「バカよしこっ!早く追っかけなよ!」
「そうや、そうやっ。はよ追っかけらんかいアホ」
「ホントに梨華ちゃん娘。に戻ってこなかったらどうするつもりれすか!?」
「はぁ、んなわけね〜だろぉ?性格上、突然仕事ほったらかしてドロン出来る
 タイプじゃねーっつーの」
「そうやって、いつまでも過信してると痛い目あうよっ、よしこ!!」
「んだよ〜、ごっちんまでさ〜人を悪者みたいに」



ブスっと膨れる吉澤だった。
しかし、吉澤には吉澤の考えがあったのだ。



(バカめ。こんな状況でしたってみんなの晒しもんじゃないかっ
んなこともわかんねーのかよっ。梨華ちゃんのアホ)


787 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:23
そんな、俯き拳を握り締める吉澤に飯田が離れた場所から話しかける。

「…よっすぃ〜、悪いこと言わないから、石川追いかけてあげなさいよ」
「なんすか、飯田さんまで」
「さっき、石川が仕事をほってまで何処かに行くはずないなんて言ってたけど
 わかんないわよ?あの子、思い詰めたらどうするか…」
「え…?」
「そうだべさ。梨華ちゃんネガティブな時はとことこんだから
 今頃荷物まとめてるかもだべ?」
「えぇ…?」
「石川さん、ほーんと一度負のオーラしょっちゃうと長いもんね〜」
「あ、あやや…?」
「そうそう。で、梨華ちゃんってあぁ見えて頑固だから、娘。辞めるってなってたら
 絶対帰ってこなさそーだよね?」
「ミ、ミキティ…?」

吉澤の肩はどんどん下に下がり
猫背を通り越して、ヘナヘナと床に手をついてその場にしゃがみ込んでしまった。

788 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:23
「そ、そんな…」
「吉澤、素直になりなさいよ」

崩れ落ちた吉澤の肩に保田の手が乗る。
今、吉澤に近づけるのはこの人以外にいない。

「保田さん…」
「石川追っかけな。アンタ、取り返しのつかないことになってもいいっての?」
「で、でも」
「でももヘチマもありゃしないわよ!とっとと行きな!!!」

バキっとお尻を蹴飛ばされる。

「いでぇぇぇぇ」
「このスカタン!はよ行かんかい!!」
「まったく、世話がやけるのれす」
「うるせぇ〜」

ヨタヨタと立ち上がりながら吉澤は石川が去って行った方に向って
走って行った。
789 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:24

「よしこ…梨華ちゃんに刺されないかな…心配」
「きっと見つけたら梨華ちゃんにしばきたおされるで、あれは」
「怒った時の梨華ちゃんはハンパないのれすっ!ひぃぃぃ」
「血の海にならなきゃいいけど…」

790 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:24

791 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:25
その頃、石川は楽屋に戻り、荷物をまとめていた。
中澤と矢口もすでに通常に戻っていた。がそれは矢口だけであって
中澤はまだ矢口に絡んでいた。

「矢口ぃぃ、ええやないかぁ〜、さっきまであんなに熱かったのに〜」
「でぇぇぇい、離れろ!ゆぅ〜こぉぉぉ」

矢口は必死に中澤を自分から剥がそうとしていた。

「い、石川ぁ〜、コイツ剥がすの手伝ってくれよぉぉ」
「…いいですね、矢口さんは」
「はぁ?何言ってんだよ?オイラが迷惑してんの目に入らねーのかよっ」
「うらやましいです」
「なんだ?石川ぁ?頭でも打ったか??」
「そんな風に中澤さんに愛してもらって…。しかも、見かけによらず
 中澤さんは矢口さん一筋だし」
「見かけによらずはよけーや!!…なんや石川、何かあったんか?」

ただならぬ石川の暗さにさすがの中澤も矢口にイチャつく手を止めた。
792 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:25
「あっ!わかった。よっすぃ〜とケンカしたんだろ?わっかりやすいんだよ〜石川はぁ」
「…その名前、二度とわたしの前で言わないでもらえます?」

ゴゴゴゴゴ……と地響きが聞こえてくるような殺気を矢口は感じた。
気のせいか、石川の長い髪が逆立っているようにも見える。

「ギャっ!こ、こえ〜よ。ゆうこっ」
「アホ、空気読めや。石川のこの暗さ、尋常やない…」
「な、一体なにがあったんてんだよ!?よっすぃ〜と?」

ギロリと石川の目が矢口に光る。

「びぇぇぇぇ!さささ刺される!!!」
「学習能力ないんか!状況みれや!」

すかっりビビってしまった矢口は中澤の後ろに隠れて
小さな体がより小さくなって震えていた。
793 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:26
「説明してもらおーか?石川」
「中澤さんには関係ありません」
「あからさまに私情はさんだその暗さみせつけといて、関係ないはないやろ」
「ほっといて下さい!」


そう言いながら、すでにはち切れんばかりに膨らんでいるカバンに
ぎゅうぎゅうと石川は泣きながらモノを詰め込んでいた。
一体、どこにそれだけの荷物を隠し持っていたのか不思議だ。

(うわ〜、石川のヤツ、あいかわらず面倒だなぁ。巻き込まれる前にに〜げよっと)
矢口はコソコソと石川と中澤に気付かれぬようドアの方に向かった。
中澤はというと、石川の様子を見て首を傾げていた。

(どこから湧いてくんのじゃ?あのガラクタは?)

と、思っていた矢先だった。

、ドバ――――――ン!!

吹っ飛びそうな勢いでドアが開かれる。
ドア付近にいた矢口は「ブギュル」と音をたてて崩れ落ちた。

794 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:27
「りかちゃんっ!!」
「なんや!吉澤ぁ!?騒々しいっ!!」
「どこに行く気だよ!?もうすぐ出番だぞ!!」
「どこにでもいけばいいって言ったのはよっすぃじゃない!」
「な、どないしたんやお前ら?」

中澤の問い掛けも無視して二人は睨み合っている。

一方―――

後藤、加護、辻、保田は吉澤の後を追いかけ
楽屋に向かっていた。
795 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:27
「よしこのやつ、どうする気なんだろね?」
「さぁ?追いかけたはええけど、なんも考えとらんちゃうか?」
「よっすぃ〜らいと言えばらしいのれすけどねぇ」
「なんで石川にはあんな態度なのかしら?ホント、素直じゃないわよね」
「まるで中学生なのれす」
「きょうびの中学生の方がもっと大人やぁゆうねん」
「まぁ、よしこの本音に気付いてない梨華ちゃんもある意味ニブすぎるけど」
「どっこいどっこいな二人ね」

4人は肩を並べて「はぁぁ〜」と深い溜息をついた。
「あ、なんか声が聞こえるのれす」
「…ケンカしとるようやで」
「やっぱり…」
「どーしようもないわねっ」

4人はこっそりとドアの隙間から楽屋の中を覗きこんだ。
視線の先には言い争う石川と吉澤の姿が。

796 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:28
「おいおい、ええかげん止めんかいな。何があったんか知らんけどやな」
「仕事投げ出してどうする気なわけ!?無責任だと思わないのかよっっ!」
「誰がここまで追い込んだのよっ!」
「はぁぁん!?逆ギレしてんじゃねーぞ!!」
「どっちがよ!もういい!!娘。辞めるからっ!よっすぃなんか二度と見たくない!」
「上等だぁぁぁ!こっちだって!!」
「なんやと―――――!?石川っ、今、お前なんて言うた!?娘。辞めるやと!?」

中澤は完全に無視されていた。

二人の様子を伺う四人たち。

(はぁ、なんでこうなんねん…)
(あちゃーなのれす)
(よしこ…このままじゃ梨華ちゃんホントに辞めちゃうじゃん。
ってか芸能界引退くらいの勢いじゃん)
(バカね。吉澤は。正真正銘のバカだわ)
(さっさと梨華ちゃんに近付いてキスしたらんかい)
(これではガムを発明した意味がないのれす!)
(…ねぇ?ところで、そのガムって効き目どれくらいなの?)
(30分や)
(ふ〜ん…)

後藤は自分の腕時計を見たかと思うと、上を向いて何か考えているようだった。
797 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:28
「ちょっ、ちょう待てやっ石川。どういうこっちゃ!?娘。辞めるやなんて」
「…よっすぃのせいよ」

ジトっと目に涙を溜めながら、石川は吉澤の方を睨んだ。
吉澤は一瞬、その気迫にギクリとする。

「な、なんであたしのせいになんだよぉー!
キスしないから娘。辞めるなんてムチャクチャだっ!!」
「なんやねん?吉澤が石川にキスしたったら済む話しかいな?
ワーハッハッハ!!驚かせやがってぇ〜」
「ちょっと!中澤さん!そういう問題じゃ…」
「なぁーにがじゃ。問題もくそもあるかい!しのごの言っとらんと
 キスの一つや二つ、ぶちゅうううううっとかましたらんか――――いっ!!」

そう言って、ズバ――――――ンと中澤に背中を張り飛ばされた吉澤は
勢いよく石川に覆い被さるような形で倒れ込んだ。
798 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:29
(でかしたっ!!中澤さん!これで射程距離やっっ)
(うわわわわぁ!ついに2人がっ!ドキドキしてきたのれす!)
(あの二人が揃うと何だかエロイのよね。これは見物だわ)
(んあ…)

二人のキスシーンを見逃すまいと、グッと力が入る加護、辻、保田。
後藤はあいかわらず時計をいじっていた。

(なんや…さっきから異様な圧迫感を感じるのは気のせいか…?)
(ひゃああ、あの二人、しゃべってなきゃ絵になるわねぇ〜)
(それにしても、よっすぃ〜固まってねぇべさ?)
(よっちゃんさん、ココまで来てそれはないでしょ)
(や〜ん、意外とウブなのんだぁ、よっすぃ〜って)

いつの間にか、ギャラリーが増えていた。
安部や藤本はポップコーン片手にまるで映画のクライマックスを
見逃すまい、といったかのように食い入るように見ていた。

メリメリ…
799 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:29
(イタイタタ、ちょっと、押さないで下さいなのれすっ)
(なんやねん!?オマエら!どっから湧いてきたんじゃっ)
(うるさいな〜、静かにしろよぉ)
(ちょっと!今いいとこなんだから!邪魔するんじゃないわよ!)

メリメリ…

「あっ、あたっあたしに、ちっ、近づくなぁ――――っ!!」
「……なに言ってんのよ、自分から飛び込んで来たくせに」

吉澤はガバッと状態を起こした。
石川はそんな様子を冷めた目で見る。
800 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:30

「ち、違うってのっ!!こ、これは中澤さんにすっ飛ばされたからっっ」

騒ぐ吉澤に半ば呆れた様子の石川。

「ヘタれ」
「は?」
「根性無しっ!」
「んな!?」
「キスくらいなんだってのよ、意識しすぎなんじゃないの?ばっかみたいっ」

フンっと石川はそっぽを向いた。
そんな石川に吉澤が逆上する。

801 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:30
「ムッカ〜ッ!言わせておけば好き勝手言いやがって!」
「なによ。出来ないんでしょ?この意気地なしっ」
「そんなにして欲しいならしてやるっ!!目ぇ瞑れやっ!!」

グッと吉澤が石川の手首を掴み、上に持ち上げたかと思うと
床に押さえつけた。吉澤が石川に迫る。

(い、いよいよなのれす!)
(ほんと、エロイわね。あの二人)
(…んあ。盛り上がってるところ、水さすようだけど…)
(なんやっごっちん!ええとこなんやから邪魔すなやっ)
(とっくに30分すぎてるよ…)

メリメリ…

(えっ?)
(なんれすって?)
(と、いうことは…)


メリ…メリメリメリメリぃぃぃぃぃぃぃぃぃ



吉澤と石川の距離が、あと1センチとなったとこであった。
802 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:31


バタァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!



楽屋のドアがけたたましい轟音を上げて崩壊した。
そこへ覗き見していた8人が放り出される。

「イダァァァ!なにさらすっ!!押すなっつったやろが!!」
「ういぃぃ。安部しゃん、重いのれす」
「失礼なやつだべさ」
「イチチチ、んあぁぁ、モロ膝打ったぁぁ」
「コラごっちん。私の背中踏ん付けてるわよっ!」

わらわらと湧いて出た8人に中澤がツッコム。

「なにしとんねん。お前ら」
「バカっ!いいとこだったのに台無しじゃねーか!」

803 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:32
矢口もいつの間にか復活し、石川と吉澤の様子を見ていたようだ。
8人は矢口の言葉にハッとする。

吉澤の方をみると赤い顔してワナワナと震えていた。

「て、てめぇらぁぁぁ、そこでなにしてやがるっっ」
「あ、あはっ。よしこ元気ぃー?」
「おしかったねぇ、よっちゃんさん。もうチョットだったのに」
「見ててじれったいったら。ねぇ?みきたん?」
「吉澤っ!詰めがあまいわよっ!!」
「なっちだったらもう少し優しくしてほしいだべさ」
「いや、なっちのことはこの際どうでもいいっしょ」
「よっすぃ〜にしたらよく頑張ったのれす」
「あ、うちらのことは気にせんと、続きしてくれてかまへんでぇ」

「できるかぁぁぁぁ――――ボケ――――――――――っっっ!!!」

804 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:32

吉澤の怒鳴り声と共に時計やら傘やらパイプ椅子やら長机やらハンマー等が飛んでくる。

「出てけぇぇぇぇぇぇlっっっ!!!!!」
「な、なにすんねんっ―――!この乱暴も――――んっ!!イダぁっっ!!」

ドでかいハンマーが加護にぶち当たった。
他の者たちも慌てて楽屋から逃げ出した。


「なんやねん!よっすぃ〜のやつ。
矢口さんと中澤さんは端から楽屋におったちゅーのに、なんでうちらだけ」
「石川にキレて興奮しとったさかいな。ゆうちゃん完全無視されとったわ」
「それにしても吉澤も往生際が悪いわね」
「素直になればいいのにれす」

805 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:33

806 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:34

「みなさーん。そろそろ本番ですからスタンバイお願いしまーす」


スタッフが彼女たちに声をかける。
石川と吉澤以外はゾロゾロとスタジオに向かった。
その頃、二人は――――。




「…」
「…」
「ねぇ…本番って声かかってたよ」
「…聞こえてるっつーの」
「…いつまでわたしの上に乗っかってるつもり?」

ハッ!!として吉澤は慌てて石川から飛び降りた。

「ふー。手加減してよね。あんなに乱暴に腕掴むから
 手首、真っ赤になっちゃったよ」
「あ。」
807 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:34
吉澤は「ヤベ〜…」と思ったのか
眉をハの字にして俯いた。

石川はスカートをパンパンとはらい、立ち上がる。
そんな石川の様子を見て吉澤が焦る。

「ど、どこいくのっ!?」
「どこって」
「娘。辞めんなよっ!」
「え?」
「うちら同期じゃん!!で、いいライバルだって言ってたじゃんかっ!」
「よっすぃ〜…」
「梨華ちゃん、ずっと一緒に頑張っていこうって言ってたじゃん!!!」

そんな吉澤を見て、石川はふっと笑った。
つかつかと吉澤に歩み寄る。
808 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:35

「ふふっ」
「な、なにがおかしいんだよっ」




チュッ





ほんの一瞬。
吉澤の唇に、石川のそれが触れた。


809 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:36
「ばっかじゃないのー?なに寝ぼけたこと言ってんのよ?
どこにいくって、本番じゃない。スタジオに行くに決まってるでしょー」
「…」
「ほら、よっすぃも早く行くよ?」
「…」


吉澤はもともと大きな目をまだ大きくして固まっている。


「もうっ、先いくからね」


石川はそう言って楽屋をあとにした。

ヘナヘナヘナ〜と吉澤はその場で腰から崩れ落ちる。



810 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:36

811 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:37

812 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:37

「吉澤ぁぁぁ!!なんやさっきから!!みんなとフリ合さんかぁぁぁい!!」

スタジオでは中澤の怒声が鳴り響いていた。

「なんや?よっすぃ〜のやつ、手と足一緒に動いとるやないか」
「まるでロボットみたいれす」
「…梨華ちゃん、よしこにあの後なにかしたの?」

後藤がそう尋ねるも、石川はふふっと笑うだけだ。

813 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:38
「おんどれ―――――!!!おちょくっとんのかぁぁ!!マジメにやれぇぇ!!」


中澤の怒声が響く中、呑気に石川はグッと上に腕を伸ばす


「いい一日だったぁ」
「梨華ちゃん?本気で言ってるのれすか?」
「どこがや。ドッと疲れたわい!」
(んあ。な〜んかあったな?この二人…)

814 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:39


でも



それは二人だけの秘密。




815 名前:Snatch a kiss 投稿日:2009/06/15(月) 23:39


(好きよ、よっすぃ〜)
(り、りかちゃん…さっきのは一体)




「吉澤わぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁっぁっぁぁぁぁ!!!!!」








―おしまいー
816 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/16(火) 17:09
嗚呼、古き良き娘小説
こういうの大好きです
817 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/16(火) 19:04
関西弁と語尾れす堪らないですw
818 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/16(火) 20:22
ほんと、古き良き時代の娘。ですね。
大爆笑しました。
819 名前:ほうれん僧 投稿日:2009/08/24(月) 01:12
>>816

一度、こういうドタバタした感じのが書いてみたかったのです。
わたしも古き良き娘小説が大好きです。


>>817

この二人は書いてて楽しかったです。
特に関西弁。ってか自分がそうなんで
標準語よりはむしろ書きやすい。


>>818

もっと古き良き時代ものが読みたいです。
誰か書いてくれやしませんか?
今はサディ・ストナッチが面白いですね。個人的に。
820 名前:ほうれん僧 投稿日:2009/08/24(月) 01:15
短編も短編です。
821 名前:タブー 投稿日:2009/08/24(月) 01:15



822 名前:タブー 投稿日:2009/08/24(月) 01:16
「ね?キスしたふりで写真とってみる?」


どうして、この人はこういうことを。
いつも唐突に。
ホント、意味わかんないよ。


「いいよ。別に」


わたしは、なんでもないように
つとめて冷静に。

823 名前:タブー 投稿日:2009/08/24(月) 01:17

「ふふっ」


よっすぃが笑うから
すっごい近い距離でやわらかい息がかかる。


「なに笑ってんのよ〜」


わたしも笑いながら文句っぽく言って
全然なんでもないことのように余裕ぶってた。

824 名前:タブー 投稿日:2009/08/24(月) 01:18

「ヤッベー。今のマジで超近かったよ〜」



そう言って、ひとみちゃんはいつもとかわらずヘラヘラしてた。
まいちゃんと何か言い合って、また笑って。


「でもさー、梨華ちゃんなんか余裕って感じっだったねー」
「そう?だってフリするだけじゃん?ホントにするわけじゃないし」

825 名前:タブー 投稿日:2009/08/24(月) 01:19
ウソ。

余裕なんてない。

よっすぃの息がかかるだけで
誓ったあの想いが押さえきれなくなりそうで
私は怖くなる。


「ひゅ〜。おっとなー」


よっすぃが奥にあったパイプ椅子に座りながらからかうように言った。
すると、まいちゃんが急に真顔になって

「っていうかさぁ、妙に梨華ちゃんが落ち着いてて、慣れた感じだったからビックリした」
「わたし大人だもーん」
826 名前:タブー 投稿日:2009/08/24(月) 01:21
さっき言われたことを皮肉るように
よっすぃを見て言った。
パイプ椅子を前後にキシキシ揺らしながら。
よっすぃはまたヘラヘラしてた。


「ホントは2人していつもチューしてんじゃん?
 フリ、じゃなくってマジで。あはは」
「バレた?ってんなわけないじゃん……あはは…」


まいちゃんと違って、私は自嘲するように笑った。


よっすぃはまた何かまいちゃんとしゃべっていて
へらへらと笑ってる。
そんな姿を見てるだけで、胸は締め付けられたように
キリキリと痛みだす。
827 名前:タブー 投稿日:2009/08/24(月) 01:22
同期で娘。に入った頃は考えもしなかった。
色が白くて、すごく綺麗な瞳をしていて、天才的にかわいい、なんて言われて。
ライバルだと思ってた。
同期だけど、この子に負けないように頑張らなきゃいけないって。



それが、どうしてこんな風に。

ましてや、女の子に。


828 名前:タブー 投稿日:2009/08/24(月) 01:24
一度だけ聞いたことがある。


「よっすぃにとって、わたしって何?」


たぶん、私はイライラしてんだ。
だから八つ当たりするように、よっすぃにそんなことを言った。


「え…何って…同期?仲間?」




よっすぃが困ったようにそう言ったあの日から決めたこと。
絶対に言わない、言ってはいけないこと。
829 名前:タブー 投稿日:2009/08/24(月) 01:26


好き。


ほんとは大好きなんだから。

大好き。

ほんとに好き、好き。


830 名前:タブー 投稿日:2009/08/24(月) 01:27
よっすぃは、まだまいちゃんとふざけ合って
へらへらと笑っていた。


「好きになってゴメンね」


私は、そう呟いて二人のもとへと駆け寄った。



























―おわり―
831 名前:ほうれん僧 投稿日:2010/07/12(月) 19:02
久しぶりに更新します。

内容が時期外れですが、この際気にしない。
832 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:03
あたしは、重大な発表をしようと決意していた。

長年言えなかったこと。

それは―――



833 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:04
「ねぇ?梨華ちゃん、もうすぐ七夕だね?」


隣で、ネイルを乾かしていた彼女。
しかし、そっちに意識を集中しているのか
あたしの問いかけにも反応せず、フーフー、と
爪に息を吹きかけていた。
あたしはかまわず続ける。
834 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:04
「年に一度だけ。たった一回だけ会うことが許される、特別な日が!!」
「…」
「もうすぐやってくるっ!!」

そこまで言っても、梨華ちゃんはあたしの方を見ようともしない。
だから、あたしは顔を覗き込むようにして、梨華ちゃんに顔を近づけた。

「って、聞いてんの!?」
「…あのさぁ、隣でそんだけ大きい声出されたらイヤでも聞こえてるよ」
「なにそれ!?ヒドクねっ!?イヤでもってなにさっ!?」
「なに?なんなわけ?突然?からまないでよ」

梨華ちゃんはそう言いながら、鬱陶しそうな顔をしてあたしから顔を背けた。

835 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:05
「別にからんでないしっ」
「あっそ」

う〜む、いかん。

あたしは腕を組んで考える。

なにも、あたしは梨華ちゃんとわざわざケンカしたくて
この話を切り出した訳ではないのだ。

しかし、この今の流れはとても良くない。
どうしようか?
…梨華ちゃん、腹減ってんのかな?
とりあえず、エサやっとこうか?
836 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:06
「…飴、食べる?」
「え?いいの〜!?ありがとうっ」

あたしが差し出した飴に
とたんに目が輝きだす。
ガキかよ。
物に釣られやがって。

おーっと、いけない。
毒づいてる場合ではない。
837 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:06
「でもさ〜、神サマもひっどいよねー?愛し合う二人をひっぺはがして、しかも年に一回しか会わしてやらないなんてさぁ。ねぇ?そう思わない!?」
「……その話まだ続いてんの?」

恐ろしく興味無い、って顔して梨華ちゃんはあたしを見た。
しかしっ!吉澤ひとみは諦めませんぞっ!

「続くのですっ!!」
「えぇぇ〜〜〜」
「だってさっ、ヒドクない!?その上、雨が降ったら会えないときたっ!どんだけ神サマ意地悪なんだよっ!っていう。ってか、ドSだっ!ぜってードSっ!!」

あたしがそこまで言い終えると、梨華ちゃんは大きくため息を吐いた。

838 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:07
「…あのね、よっすぃ…」
「ねっ?ヒドイっしょ!?梨華ちゃんもそう思うっしょ!?二人は愛し合ってんのにぃぃ」

梨華ちゃんが何か言いかけていたが、あたしはそれを無視して両手の拳を胸の前で握りしめ
顔を左右に振りながら唇をかみしめていた。

「…織姫と彦星が年に一度しか会えなくなったのは、二人が仕事もぜずに遊んでばかりいて、自堕落な生活を送っていたからなんだよ?」
「え?」

あたしの首がピタリと止まる。そして、梨華ちゃんの方を見た。

「恋に現をぬかして引き裂かれたんだから、自業自得じゃない?」
「…」
「さっきからよっすぃが言ってる神サマって、織姫のお父さんのことを言ってるんだろうけど、そもそも、そのお父さんが娘に良かれと思って彦星紹介したのに、結局こんな結果になって、本末転倒もいいとこだよね」

梨華ちゃんはそこまで言って、冷めた目をしながらまたフーっとネイルに息を吹きかけた。

839 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:08
「あんた……ホントに女子?」
「よっすぃに言われたくありません」

ピシャリと言い返される。
いやいや、ちょっと待ってよ。

「何それ!?とても女子とは思えない発言だよ。もうちょっとロマンチックに解釈できないわけ!?」
「何怒ってんの?なんでそんなによっすぃがムキになんのよ」
「別に怒ってはないけど…」

あたしとは違って、梨華ちゃんは見かけによらずドライだということはわかっていたが
ここまでだったとは。
840 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:08

そして、この後、想像もしてなかった言葉が放たれる。


「わたし、七夕きらい」


この、衝撃の一言にあたしは絶句した。
そして、ショックのあまり
ガ―――ン
というベタな音と共に、頭上から大きな岩が落ちてきたような
マンガさながら、顔面にたて線でも引いたような表情をしていたに違いない。

841 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:09

し、知らなかった…
10年も一緒にいるのに、知らなかった。

この話に食い付かなかったのも、冷めた顔でいたのも
お腹がすいて機嫌が悪かったからじゃない。


七夕がキライ。


そう、彼女は七夕がキライだったのだ。


……。
七夕がキライ!?

バカなっっ!?


842 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:09
「んなアホなっ!?」
「…だれがアホよ」
「だって!七夕がキライなんて人、聞いたことね〜よっ!」
「良かったね。初めてそんな人を見れて」

梨華ちゃんはそう言って二コリと笑った。

「なんで?なんでー!?もっとよく考えてよっ。愛し合ってる二人が年に一度だけ会えるんだよ!?
ロマンチックじゃん?素敵じゃん!?」
「ふ〜。よっすぃは見かけによらず、ロマンティストだもんね〜」
「梨華ちゃんがドライ過ぎんだよ!」
「もう、なんなのー?一体七夕がなんだってのよ。何?今更この歳にもなって願い事しようとか思ってんの?」
「うっ」
843 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:09
思わず言葉に詰まる。
願い事…出来ればそれはしたくないのが本音だが
でも、七夕、その日があたしにとって
とても特別な日になることには違いなかった。


と、いう展開を思い描いていたのだが
どうも、そういうわけにはいかないようなこの流れ。
待て。ちょっと待って。


梨華ちゃん、どうかこれ以上、あたしの決心が揺らぐようなこと言わないで!

844 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:10


あたしは、おずおずと話しかける。

「…あたししか知らない秘密がさ、あるんだ」

そう言ったあたしと梨華ちゃんの目が会う。

「それ、七夕と関係あるの?」

まっすぐあたしの目を見て、梨華ちゃんが問う。

「まぁ…ね」

あたしは目を逸らした。

「ふ〜ん」

梨華ちゃんもそう言いながら首をかしげた。

「なに?なんか言いたげ」

椅子に座る梨華ちゃんに上から話しかける。
必然的に彼女はあたしを見上げるような格好になる。
845 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:10
「別に。よっすぃしか知らない事と七夕の関係性について考えてただけ」
「あたしが、ついさっきまで梨華ちゃんが七夕きらいだったことを知らなかったように
 梨華ちゃんにだって、まだまだあたしの知らないことがあるんだよ」
「なに威張ってんのよ」
「威張ってなんか」
「…っていうか、その秘密って、よっすぃ自身のことなの?」
「…な、なんでそう思うのさ?」
「自分で言ったんじゃん。“まだまだあたしの知らないことがある”って。そういうことじゃないの?」
「あら?そんなこと言ったっけかな?」
「ちょっとー。……でもまぁ、10年一緒にいるけど、知ってるようで知らないのかもね。わたしたち」
「はい?」
「よっすぃが好きな食べ物だとか、好きな音楽だとか、そういうのは知ってるけど」
「そうだね。あたしも梨華ちゃんがゴボウをとんでもない切り方をする人だって知ってる」
「もうっ!!」
「イテッ」
846 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:11
バシっと、腕を叩かれる。
でも力なんて全然入ってなくて。
だから、本当はちっとも痛くなんかないんだ。
でも、あたしは腕を擦りながら大げさに痛がるフリをする。

「暴力はんたーい」
「やーん!今のでネイルよれちゃったじゃん!」
「そんなの、自業自得だよ」

あたしがそう言うと、梨華ちゃんは一拍おいてこう言った

「そう。自業自得。よっすぃの秘密が何だが知らないけど、七夕となんの関係があるのか知らないけど
 織姫と彦星が会えないのは自分たちのせいなんだから」

表情一つ変えずそんなふうに言い切られると
あたしは、返す言葉がない。

ボサッと、ただその場に立ち尽くすしかなかった。



847 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:11

「わたし、帰るね」
「え?あぁ」

梨華ちゃんは、スックと立ち上がり
こっちを振り返ることもなく、そのままその場を去って行った。



848 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:12


あんなことがあって、一週間が経った。

七夕まであと三日。

刻々と、時計は針を進めていく。

時は、決して待ってはくれない。




849 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:12
梨華ちゃんとは相変わらずだ。
しかし、あの日以来なんとなく避けられているような気もする。
ここ一・二年は一緒の仕事が多いから、いつもと変わらず仕事をこなすし、合間にくだらない話だってする。
でも、仕事が終わるとそそくさと帰ってしまうのだ。

なんとかして、七夕の日に梨華ちゃんと会いたいあたしだけど
この前の一件で、七夕という名目で梨華ちゃんを誘い出すことは困難に思える。
850 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:13
「どうしたもんか…」
「どうかしたの?よっすぃ?」

あたしが頭を悩ませていると、いつの間にか隣にまいちんがいた。
さらにあたしは考えた。
今回にかぎりは、あまり第三者は介入させたくないんだけど…

「まいちん。あんた7月7日なにしてんの?」
「何って、普通に仕事入ってるって」
「なんだおー、それぇぇぇぇ」

あたしは落胆した。
まいちんに梨華ちゃんを誘ってもらって、そこから何とかしようと思ったからだ。
851 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:13
「あっ、わぁーかったぁ」

まいちんはそう言いながら、あたしに後ろから抱きついてきた。

「なによぅ、それならそうと言ってくれればいいのにぃ」

何を?と思った。
あたし、まだ何にも言ってないんだけど。

「もうっ、七夕の日、私と一緒にいたいんでしょー?そんなに私と一緒がいいのー?
 うう〜ん、かわいぃぃよっすぃ〜♪」
「バカなっ」

ギューっとまいちんがあたしを抱きしめる腕に力を入れる。
く、苦しい。
852 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:13
こんなことしてる場合じゃないのにっ。
他に誰かいないだろうか?
そうだ、まいちんがダメなら保田さんだっ。
保田さんにお願いしよう!

あたしは急いで保田さんのケータイにかけた。

「もしもし!?」
「ちょっと、よっすぃ、急に誰と電話してんのよ?」
「あっ、保田さん?あたし、吉澤です!今大丈夫ですか?」
「もうっ!よっすぃ〜!?」

まいちんには悪いが今はかまってられない。
ゴメン、許せ!
853 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:14
「どうしたの?向こうでいたら二人の声がしたから…」
「あっ、梨華ちゃ〜ん。ちょっと聞いてよ〜、よっすぃってばさぁ〜」
「え!?ダメ?その日はダメ?ちょ、保田さんっ、まだ切らないでっ!」
「ってなわけなの〜。よっすぃ、どんだけ私の事が好きなんだっつーの♪」
「…へ〜」
「保田さ―――ん!!(泣)」

あたしの願いも空しく、保田さんはあっけなく「その日は無理」の一言で
一方的にブツリと電波を遮断しやがった。
あたしは思わずその場にガクッと膝をついた。
854 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:14
「よっすぃ、保田さんと電話してたの?」

聞き慣れたその声にハッとして後ろを振り返った。

「り、梨華ちゃん!?」
「保田さんと何かあった?」
「い、いや。そういうんじゃあ…って、梨華ちゃんこそ、帰ったんじゃなかったの?」
「忘れ物」
「あぁ…そう」

何を忘れたんだろう…
家の鍵?ケータイ?
そう思っていたのに、口から出た言葉は
全然違ったものだった。
855 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:14

「梨華ちゃんって、かわいいよね」

あたしは思わず手で口を押さえる。

あれ?あたし何言ってんだ?
あたしは梨華ちゃんの忘れ物について考えていたはずなのに…
やっぱり、もう限界なのかもしれない。

そして、あたしの思いがけず出た言葉に、梨華ちゃんがどんな顔をして聞いていたのかが気になった。
目の前にいた二人は、目を丸くして顔を見合わせていた。

856 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:15
「ちょっと、よっすぃ〜。なに梨華ちゃん口説いてんのよ」
「え?いや、あの」
「数分前に私のこと誘っておいて、どういうつもり〜?」
「アハハ。よっすぃ〜に口説かれたぁ〜」

まいちんにヘッドロックかけられてるあたしを見ながら、梨華ちゃんが笑う。


857 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:15


かわいいよ。

うん。

かわいくってしかたないよ。

だから

あたしは

笑う梨華ちゃんに見惚れてた―――




858 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:15
「じゃ〜ねー」
「え!?」

あたしは、梨華ちゃんの声で現実に引き戻される。
まいちんが帰ろうとする梨華ちゃんを引きとめるが…

「な〜に?梨華ちゃん帰っちゃうの?飲みにいこうよぅ」
「忘れ物取りにきただけだから。明日も早いしね」
「せっかく久しぶりに三人揃ったのにさー」
「まぁまぁ。よっすぃと二人で楽しんできてよ」
「う〜ん、残念だけどわかったぁ」

なんだよ。
帰えんのかよ。
最近ノリ悪くね?
ホントにちゃんと家に帰ってるわけ?
859 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:16
そんなことを思いながら
手を振り帰ろうとする梨華ちゃんの姿を見てたら、
そのままどこか遠いところへ行ってしまうような気がした。

「バイバ〜イ」

あたしとは違い、まいちんは隣で呑気に梨華ちゃんに手を振り返していた。

860 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:17
「バイバイ…」
「おい、コラ。あからさまにガッカリって顔しないでよ」
「してねーし」
「してるよ〜。なによ、私と二人じゃ不満なのぉ?」

ここは正直に「不満です」と言ってやろうかと思ったけど
それ以上に、その時は一人になりたくなかった。
だから、その後は調子のいいことを言って
まいちんの機嫌を取り、飲みに行った。
どんな話をしたっけな?思い出せないな。

当たり前だ。

あたしは、梨華ちゃんのことばかり考えていたんだから。




861 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:17



七夕まであと二日―――


朝から保田さんの電話で起こされた。
それは、昨日まいちんと飲んだお酒がまだ残っていて
非常に気分の悪い目覚めに拍車をかけた。

862 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:18

「…おはようございます……」

どんなに気分が悪かろうがなんだろうが、先輩である人に
挨拶をしないわけにはいかない。あたしがこの業界に入って学んだことだ。
いや、社会に出れば当たり前のこと。
あたしは酒やけした声を無理矢理でも絞り出す。

「どっから声出してんのよ?あんたホントに吉澤?」
「……ええ。こんな声ですが紛れもなく吉澤本人です…」
「これ以上低い声になってどうすんのよ?あんた一応アイドルなのよ?」
「はぁ…すみません…」
863 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:18
一体、何の用で電話をかけてきたのか?
あたしの声について話があったわけじゃなかろうに。
無駄話に付き合うほど調子がいいわけではなかったので、とりあえず謝っておいた。

「じゃあ…」
「コラコラコラコラ。なに勝手に切ろうとしてんのよ!?」
「…何なんすか?用件は手短に……」
「あんたねぇ〜。人がせっかく心配してかけてやったってのに、どういう扱いよ?」

864 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:18
心配?
なんの心配だというんだろう?
泥酔して帰ってきたことか?
まいちんが呆れて保田さんに連絡でもしたのだろうか…

「あんた、昨日わたしに電話してきたこと忘れたの?」
「あっ」
「その日になにがあんのか知らないけど、あんたから誘ってくるなんて珍しいし」
「あの〜」
「なによ?」

865 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:19

夜に保田さんと会うことになった。
あたしは、詳しいことはまだ言えないが、聞いてほしい話があると言った。
保田さんはそれを聞いて、なぜか少し間が空いた後に「わかった」とだけ言った。
もっと、「なんなのよ、もったいぶってないで今言いなさいよ」なんて
言われるんじゃなかろうか?と思っていたので、保田さんの反応は意外だった。


866 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:19


東京。午前12時の町にあたしはいた。
保田さんに指定された店へと向かう。

どう切り出そうか。
とにかく梨華ちゃんと七夕の日に会えるようになんとかしたい。
果たして、協力してくれるだろうか。
諦めろと言われるだろうか。

あたしは、店に向かう途中であれこれ考えた。
気付けばもう、今日は七夕の前日だった。


867 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:20
「わたしを待たせるなんていい度胸してるわねぇ」
「すいませーん、仕事がちょっと押しちゃって」
「まぁいいわよ。とりあえず座れば?」

あたしより先に着いていた保田さんの向かい側に座る。
さて、どうしよう。

「とりあえず、生でいい?」
「はい」

保田さんが店員をつかまえて生ビールを一つ注文した。
ここは、まず喉を潤しておこう。
あたしは今から重大な発表をするのだ。
868 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:20
「で?なんなの?話しって」
「はい。率直に言います。あたし、梨華ちゃんが好きです」

ブッと、保田さんは飲んでいたビールを吐きだした。
あぁ、人は驚くと本当にこんな反応をするんだ。
あたしは飛んできたビールの泡をおしぼりで拭いた。

「……」
「ビックリしますよね、そりゃ」

ドでかい目をこれでもかっってくらい開けて保田さんはあたしを見据えている。
石にでもなりそうだ。固まってしまう前に全てを話してしまおうと思っていたら
保田さんの方から先に口を開いた。
869 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:20
「わかってたわよ、そんなこと」
「えっ!?」
「わかってたけど……っていうか、なんとなく石川のことで話があるんだろうとも思って
今日は来たつもりだったから。それにしても、なんで今さら、わたしに言うのよ?そんなこと」
「それは…」
「…石川にはもう言ったの?」
「いえ…まだ…」
「でしょうねぇ」
「っていうかっなんで、あたしが梨華ちゃんを好きだってわかったんですか?」
「わかるわよ。あんたの態度見てれば。他のみんなだって、好きだろう、とは思ってなかったとしても
 あんたが石川のこと、すごく大事にしてることは気付いてるわよ」
「はぁ…そうですか」
「…気付いてないのは石川本人だけなんじゃないの?」
「やっぱり!?」
870 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:21
そうか。本人はやっぱり気付いてないのか。
あたしだけかと思ってたけど、他の人が見てもそうなんだ……

「やっぱりって、なにか思いあたる節でもあるの?」
「えぇ…。昔こそよっすぃ、よっすぃって、何かちょっとこう……甘えてくるようなこともあったのに
 今なんて、ぜんっぜんだし。ここ何年かはホントあっさりしたもんですよ、あたしたち」
「まぁ、それなりに石川だってもう25で大人なわけだしね。あんたに甘えてばかりはいられないんじゃない?」
「それはわかるんですけど…」
「で、石川に言うの?あんたの気持ち」
「はい…だから七夕の日に言おうと思ってたんですが…あの人、七夕がキライだということが
つい最近発覚いたしまして」

保田さんは「あぁ、それでこの前電話してきたのか」って顔で
大きなため息をつき、俯きこう言った。


「…石川のこと、大事にしてるから言わないでいるんだと思ってた」



871 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:21

その一言はあまりにも的中していた。

そう。普通に結婚し、子供を産んで家庭を築くことを
彼女が望んでいることは、あたしも知っている。
何度も聞いたから。
あたしだって、梨華ちゃんがそうなって幸せになってほしいと願ってる。
あたしを友人として大切思っていてくれてることだってわかる。
だから、あたしの一方的な思いを告げたらきっと梨華ちゃんは傷つくんじゃないかって思って。
友情として、この築き上げてきた10年という歳月を、あたしの自分勝手な気持ちで
壊すなんてバカげてるとさえ思ってた。
872 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:22
「なんで、今になって言う気になったの?正直、あんたが報われる確率はゼロに近いわよ?」
「わかってます。でも、もう好きで好きでどうしようもないんです。頭から離れないんです」
「…あんたたちの場合、友情が成立してるんだから、それを壊してまであの子に言うわけ?」
「それも考えました。あたしが本当のことを言えば梨華ちゃんはきっと傷つくって。
 でも、それは自分に言い訳してただけなんです。結局は自分が傷つきたくなかったからだって」
「そう…」
「自分が振られるのが怖かっただけなんだって…今は、それよりも正直に自分の気持ちを伝えたい。
 そうじゃなきゃ、ずっと梨華ちゃんにウソついてる自分でしかない……」

頬が冷たい。さっき、保田さんが飛ばしたビールの泡がまだ残っているのか?
いや、違う。頬を伝うのは自分の涙だった。
あたしは、自分が泣いていることにようやく気が付いた。
873 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:22

「わかった。で、わたしは何をすればいいの?」

泣いてる場合じゃない。
保田さんは、あたしの話を聞いて引くこともなく協力してくれようとしている。
石になりそうとか思ってゴメンナサイ。今は菩薩様のように後光が指して見えます。ははぁ〜。

「ちょっと、なに人のこと拝みだしてんのよ。んなことしてないで、わたしに頼みがあったんでしょ?」
「あぁっ!そうですっ!だから、七夕の日、梨華ちゃんと会えるようにしてほしいんですっ」
「はぁ?そんなの自分で言えばいいじゃない?飲みに行こうとかなんとか適当なこと言って
 とりあえず約束取りつけば済むこでしょうが?」
「それが出来ないからお願いしてるんでしょうが。最近、梨華ちゃんあたしが誘っても全然付き合ってくんないんすよぉ」
「それでわたしが誘って石川が乗ってきても、あんた、それはそれでショックなんじゃないの?」
「ゲッ!…そうかも……」
874 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:23
あんたって、ホント馬鹿ね」
「そんな…身も蓋もない…でも、ホントここんとこノリ悪くて。だから七夕を理由にしたら少しは乗ってくるかな〜?とか思ってたんですけどね、当の本人は七夕がキライだときた」
「じゃあ、七夕の日に告白なんて止めたらいいのに」
「もうこの日にするって決めてたんです!決意をこれ以上先延ばしにしたくないんですっ!」
「なんかもう無茶苦茶だなぁ〜」

あきれた様子の保田さんではあったが、最終的には七夕の日に保田さんが梨華ちゃんを
誘い出してくれるということになった。夜の梨華ちゃんのスケジュールは空いているはずだということも
伝えておいた。あたしの誘いは断っても、保田さんの誘いならそう簡単には断らないだろう。
少し悲しい気もするが。いや、大いにショックだが…
この、持つべきものは頼れる先輩、保田さんに感謝しながら
あたしは告白の日に向けて、準備を始めた。


七夕まであと一日―――


875 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:23
あたしは山にいた。
笹を受け取りに行ったのだ。
なにも、こんな山奥まで来なくても良かったな、と思ったのは
近所のスーパーでいとも簡単に笹を手に入れる事が出来るとは昨日まで知らなかったのだ。
でも、せっかく予約までしたし、スーパーで売ってるやつなんかよりも
上等な笹なんだから、と自分に言い聞かせた。
876 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:24

うん。相当立派な笹だよ。
あたしは満足げに繁々と笹を見上げた。
七夕がキライな梨華ちゃんでも、この笹にはちょっとビックリするんじゃないかな?
驚いた梨華ちゃんを想像して顔がニヤついた。

「ねぇちゃん、しまりのねぇ顔してねぇで足元気をつけろよ。泥るんでるからな」
「はいはい、わかってますってぇ〜……って、あれ?」



笹を譲ってくれたおじさんの姿が逆さまになったのを最後に、あたしの記憶は途切れた。




877 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:24



んん…

ここはどこだ?

シクシク…

誰か泣いてる?

ちょっと、待ってよ

泣きたいのはこっちだよ

さっきから全然体が言うこときかないんだから

あたし、寝てる場合じゃないんだよ

梨華ちゃんに会いにいかなきゃ…

梨華ちゃん

逢いたい…逢いたい…





878 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:25
「…ヴヴ…」

わずかに発した声と共に
ぼやけた視界から天井らしきものが目の中に入ってきた。
体を起こそうとするがやっぱり動かない。
かろうじて首だけ動かしたらズキリと鈍い痛みが走った。

「いってぇ……」
「よっすぃ!?」
879 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:25
薄暗い辺りから、聞き慣れた甲高い声が聞こえた。
その声のする方に顔を向けたら、そこには梨華ちゃんがいた。
あぁ、梨華ちゃんだ。すごく逢いたかったんだよ。
でも、なんで泣いてるのさ?どうして?

「バカバカバカバカバカ!!」
「バカになる呪いでもかけにきたの?」
「バカッ!!」

目に涙を溜めながら、あたしにそう吐き捨てた梨華ちゃんはベットの端でうっつぶしてしまった。
あたしはというと、ようやく視界がハッキリしてきたので周りを見渡した。
880 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:26


ん?ちょっと、なによ?

ここ病院じゃね?どゆこと!?




881 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:26
「っていうかっ、今日、何日だよ!?」

あたしはガバっとベットから起き上った。
なんだ、動くんじゃねぇかっ
と思った矢先、全身に激しく痛みが響いた。

「ヴゴーっ!…い、いてぇよぉぉ」
「ダメだよっ、まだ起きたりしたら。安静にしてなきゃだめ!」

ベットにうずくまるあたしの背中を優しく撫でながら
「お願いだから無理しないで」と梨華ちゃんはあたしを宥める。
それでもあたしはまだ梨華ちゃんに詰め寄った。
882 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:26
「ねぇっ、今日は何日?あたしの笹は!?」
「…今日は…もう7月8日だよ…」
「えぇ!?そんなぁぁぁ〜……」

あたしは項垂れながら、またベットにうずくまってしまった。

883 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:27

あぁ…そうだ、思い出した。

七夕の前日、あたしは山に笹を取りに行ったんだ。
そこで、おっさんの忠告を適当にあしらっていたら
本当に足をすくわれて、すっ転んだんだ。
で、意識を失って今日まで眠りこけてたってわけか。
ああ、梨華ちゃんの言うとおり、あたしって底抜けの大バカ。


884 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:27

「ゴメンね…」

梨華ちゃんがそう言いながら、酷く落胆して丸まった背中のあたしの後ろから
そっと優しく抱きしめる。
なんで、梨華ちゃんが謝るのだ?
ホントにバカなんだよ?あたしなんて。

885 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:28
「よっすぃが、そんなに七夕が好きだったなんて知らなかったよ」
「ん?」
「一人であんな遠くの山奥にまで行って、笹を取ってきてまで七夕したかったなんて…」
「へ?」
「そんなに七夕が好きなのに、よっすぃが一生懸命七夕の話ししてる時、ちゃんと聞いてあげれば良かった。
 それなのに、わたしはあんな風に水を差すようなことばかり言って」
「ちょ、っちょっと、梨華ちゃん?」
「ホントにごめんね……」

886 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:28

梨華ちゃんの涙が、あたしの首筋を伝う。


そうじゃない、

そうじゃないよっ

梨華ちゃん!




887 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:29
「違うよ、梨華ちゃん」
「え?」

あたしは振り返って、梨華ちゃんの手を取った。
そして、まっすぐに目を見つめる。


「あたしが好きなのは七夕なんかじゃない」

「…」

「あたしが好きなのは、梨華ちゃんだよ」



暗くて顔がよく見えないから、梨華ちゃんが今どんな表情なのかわからなかった。
でも、ビックリしてるんだろう。
その証拠に、梨華ちゃんは何も言い返してはこない。
7月8日になっちゃったけど、伝えたかった気持ちをあたしは全て言うことにした。
888 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:29
「ずっと、ずっと好きだった。同期として今の仕事を始めてから、この気持ちに気付くまで
 そんなに時間はかからなかったよ」
「よっ…」
「わかってる。まだ何も言わないで。梨華ちゃんが王子様みたいな人と結婚してお嫁さんになりたいって
 ことも全部承知の上で、あたしは自分の今まで思ってたことを梨華ちゃんに伝えたいんだ」
「…」
「冗談なんかじゃないよ、ホントに、ホントに梨華ちゃんが好きなんだ。忘れようって思っても
 考えないようにしようって思ってもダメなんだよ」
「…」
「梨華ちゃんのことばかり考えてしまう…」

自分でそこまで言って、我ながら気持ち悪いなぁって思った。
そんなキモイことを言われている梨華ちゃん本人は尚の事だろう。
889 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:30
「何も言わず、このまま梨華ちゃんの幸せを願って生きていこうと思ったりもした。でも、友達としてあたしを
思ってくれてる梨華ちゃんと、この気持ちを隠したまま傍にいることが辛くなった。だから、七夕の日に全部
告白しようって思ってたんだ」
「…そう…だったんだ」
「うん…。ごめんね?気持ちわりーよね…。こんな風に思ってたヤツが隣に居たなんて」

梨華ちゃんは俯いてしまった。

あぁ…やっぱり傷つけてしまった。
そりゃそうだよね、ずっと友達だって思って奴が自分のことをそんな風に見てたなんて知ったら
裏切られたって思って当然だ。
やっぱり、こんな自分の気持ちなんて墓場まで一緒に持っていくべきだった。

890 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:31

あたしは、梨華ちゃんの手に重ねていた自分の手を外した。

そして、自嘲気味に少し笑いを交えてこう言った。

「へへっ…もう、友達としても無理…だよね……」
「…なんで、なんで七夕の日に言おうと思ったの?」
「あぁ…どう考えてもフラれるだろうなぁ〜って思ったから、フラれた後に願い事しようって思ってたんだぁ」
「なんて?」

891 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:31
そう。

あたしは、一人で七夕祭りをするつもりでいた。

その願いですら、自分勝手なものだけど
神さまだってそのくらいは許してくれるような気がしたんだ。


「生まれ変わったら、梨華ちゃんがあたしのことを好きになって、って。ハハっ、バカみたいでしょ?
 さっき、梨華ちゃんが言ったとおり、あたしはバカなんだよ」

892 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:32

「…ほんと、よっすぃってバカだよね……」


グサっときた。
わかってはいるけど、やっぱり本人から言われると相当こたえる。
あ〜あ、マジでこのまま頭打って死んどけば良かったかな?

「あっ、でもさっ、あたしが用意しようとしてた笹、マジですっげ〜のよ?その辺の安物と違ってさ…
 ……梨華ちゃんにも見せたかったなぁ…」

893 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:33
し〜ん、と静まり返る病室。
相変わらず梨華ちゃんは下を向いたままで
あたしは、もう、これ以上なにも話しかけることなんて出来なかった。
すると、急に梨華ちゃんが話し始めた。

「どうして?どうしてそんなにバカなの?」
「…もう、あんまりバカバカ言わないでよ。わかってるよ、自分がバカだって十分すぎるくらいわかってるって」
「ううん。よっすぃは全然わかってない」
「なに?なんでさ?それこそ梨華ちゃんの方がわかってないんじゃないの!?」


売り言葉に買い言葉。

なんでケンカしちゃうんだろう?

それとも、消えゆく友情の前なんてこんなものなのかも。
なんて思っていた。

894 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:33

「生まれ変わる必要なんてないよ」
「…」
「なんでそうやって、自分の中で勝手にわたしの気持ち決めつけちゃうの?」
「り、梨華ちゃん?」

カーテンの隙間から、月の明かりが差し込んだ。
あたしと、梨華ちゃんの視線が互いを捉える。

895 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:33


「よっすぃが好き」



梨華ちゃんがそう言ったと同時にあたしの胸に飛び込んできた。
あたしは何が起こったのか、全く理解出来ないでいた。
しがみつくようにして、梨華ちゃんはあたしを抱きしめる。

896 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:34

「好き、大好き。わたしだってずっと好きだった」
「う…うそ……」
「うそなんかじゃないよっ。」
「マジ…で?」
「マジ…だよ」

互いに顔を見合わせる。
でも、あたしはまだ信じられない。
こりゃー、やっぱりまだあたしは頭打って昏睡状態なんじゃないのか?

897 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:34

「大丈夫だよ。夢なんかじゃないよ」

梨華ちゃんがそう言って、あたしの首筋に顔をうずめた。
梨華ちゃんの優しい香りが、あたしを包む。
あぁ…これは夢なんかじゃない。

898 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:35


「好きだ…」



今度はあたしが力を込めて梨華ちゃんを抱きしめた。

柔らかい、そして温かい。

ずっと感じたかった温度が、今自分の中にいる。


「ずっとこうしたかった…」
「わたしも…好きよ…よっすぃ」


899 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:36

そして


月明かりの中で


あたしたちは


長い長い


キスをした








Fin

900 名前:7月7日、その夜に 投稿日:2010/07/12(月) 19:36



(おまけ)




「ねぇ、前に言ってたよっすぃしか知らない秘密ってこのこと?」
「うん。そう」
「わたし、知ってたよ」
「うそっ!?」
「ほんと〜。フフッ」
「え?え?いつから?いつから気付いてたの?」
「教えなぁ〜い」






ホントにFin

901 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/07/16(金) 22:50
わっ!更新きてた!

よっすぃ〜ヨカッタね☆

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