GRACE HEAVEN
- 1 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/15(日) 23:24
- 初めてシークで小説を書かせて戴きます。kappa―!です。
よろしくお願いします。
Berryz工房中心で、桃子と梨沙子が主役となります。
ストーリーはかなり重いので、よろしくです。
- 2 名前:〜 プロローグ 〜 投稿日:2008/06/15(日) 23:25
-
悲劇なんて突然起こるもの。
別れはきっと、いつでも隣り合わせ。
なのに、どうして・・・?
あたしはこの世に、『取り残されて』しまったんだろう?
血に濡れたアスファルトに、ブルーの傘が緩やかに転がっている。
目の前には、息1つしない抜け殻の自分――。
- 3 名前:プロローグ 投稿日:2008/06/15(日) 23:26
-
――GRACE HEAVEN――
- 4 名前:プロローグ 投稿日:2008/06/15(日) 23:27
- 遥か遠くで、サイレンの音が鳴り響いていた。
土砂降りの雨が、雄大に聳え立つ桃の木を揺らした。
いつものお寺。
そして、いつもの待ち合わせの桃の木の下で、梨沙子は傘をさしながらボーっと雨空を見上げていた。
激しい雨の音に混じり、遠くにサイレンの音が聞こえた。
「ももも、みやも、遅いなぁ〜」
そう言って梨沙子はケータイ電話を開き、ディスプレイに表示される時間を確認した。
時刻は17:33。待ち合わせは17:30。待ち合わせ時間を過ぎていると言うに、2人が来る気配は一向になかった。
「ま。みやの遅刻はいつもの事だけどさ・・・」
そんな事を1人、呟く梨沙子。
放課後。
梨沙子はいつもの様に、幼馴染の桃子と雅と待ち合わせをしていたのだった。
学校が終わってから、3人でいつものお寺で待ち合わせをして、いつもの様に時を過ごす事。
それが幼馴染3人の・・・幼少の頃から変わらぬ日課であった。
- 5 名前:プロローグ 投稿日:2008/06/15(日) 23:28
- 17:34。
退屈な待ち時間。ましてや雨の日の待ち合わせは、1分1秒が長く感じる。
「遅いなぁ〜。早くしてよ〜」1人、愚痴る梨沙子。
ハァと小さくため息をつき、梨沙子は退屈そうに貧乏揺すりを始めた。
見上げる空。激しさを増す雨脚。
それに相乗するかのように、聞こえてくるサイレンの音も、徐々に激しさを増していった。
「・・・消防。あれ?救急車の音かな??」
そんな事を呟きながら、なんの気なしにサイレンの音が聞こえる方を振り返る。
その瞬間、梨沙子は心臓が止まるかのような思いをした。
振り返った瞬間、2mほど向こうにいつの間にか桃子の姿があり、梨沙子はビクッとその肩を震わせた。
「うわっ!も、もも!!!」
「え・・・」
「いつの間に来てたの!?気づかなかった・・・。ってゆーか・・・」
刹那、梨沙子は両の眉根に皺を寄せた。
目の前にいつの間にか桃子の姿。だが、それ以上に驚いた事に、桃子はこの土砂降りであるにも関わらず、傘を持っていなかった。
「ちょ!なんで・・・傘持ってないの!?」
激しさを増す一方の雨脚。
そんな中で傘をささないなんて、無謀にも程がある。
- 6 名前:プロローグ 投稿日:2008/06/15(日) 23:29
- 「もも。こっちおいでよ。傘、入りな」
梨沙子が手招きをする。
だが、桃子は愕然とした表情で「なんで・・・」と呟き、目を大きく見開いているだけだった。
なんでも何も、それはむしろコチラのセリフだ。この雨でなんで傘をさしてないのか、こちらが問いただしたいぐらい。
「いいから入りなよ、もも」
動こうとしない桃子に苛立ち、梨沙子は自ら桃子へと近づきその手を伸ばした。
だが、その瞬間、奇妙な出来事が起きた。
差し出される右手。梨沙子の右手が確実に桃子の左腕を求め、捕らえた瞬間・・・右手はまるで煙を掴むかのように、桃子の左手をすり抜けた。
「え?」
「・・・・・・・・・」
梨沙子はギョッとして思わずその顔を上げた。
目の前では桃子が、この世の終わりの様な顔をして唇を震わせている姿。
――遠くから、徐々に近づいてくるサイレン――。
しばし桃子を凝視したまま、梨沙子は立ち尽くした。そうしているうちに、梨沙子は桃子の中に、ある違和感があることに気づいた。
目の前にはこの土砂降りの中、傘をささずに佇む桃子。
- 7 名前:プロローグ 投稿日:2008/06/15(日) 23:30
-
なのに何故、桃子の髪の毛は濡れていないんだ?
- 8 名前:プロローグ 投稿日:2008/06/15(日) 23:31
- いつも桃子は言っていた。雨に濡れるとクセっ毛出ちゃうから、雨は大嫌い・・・と。
だが桃子の髪の毛は、この雨の中であるにも関わらず、クセっ毛が出るどころか、僅かに濡れている気配すら感じない。
「もも?」
「・・・・・・・・・」
「なんで、もも――」
梨沙子は桃子の名前を呼ぶ。
桃子はバツの悪そうな表情で、唇を噛み締め、俯いているだけだった。
思えば・・・桃子を見ていると、異常なのは、その髪の毛だけではない気がした。
桃子は学校の制服を着ていた。紺のチェックのフレアスカートに白いベスト。だが、制服も全く濡れている気配がない。
この雨の中、なのにまるで桃子の周りには雨など存在しないかのように・・・。
梨沙子は何も言えないまま、ただじっと桃子を見つめた。桃子も何も言わず、ただ困ったように梨沙子の顔を凝視するだけだった。
お互いどうする事も出来ず、顔を見合わせたままの状態。
やがて・・・。俄かに梨沙子の耳に、砂利道を歩く足音の様なモノが聞こえ、振り返った。
するとそこには、ビニール傘をさし、梨沙子の方へと近づいてくる雅の姿が見えた。
「遅れてゴメンネ〜。梨沙子」
そう言って右手を挙げる雅。
いつもと変わらぬ雅の様子に、梨沙子はホッとした様子で息を吐いた。
「みや・・・」
目の前にいる、どこか異常な桃子。
そして・・・歩み寄ってくる、いつも通りの雅。
梨沙子は縋るような目で近寄ってくる雅をみつめた。
そして、梨沙子が雅に「なんか、ももがヘンなんだけど・・・」と問いかけようとした。
その瞬間だった――。
- 9 名前:プロローグ 投稿日:2008/06/15(日) 23:31
-
「あれ?なんだ・・・。まだ、もも来てないんだね」
「え・・・」
梨沙子は開きかけた口を噤んだ。
確実に近づいてくるサイレン。激しさを増す雨音。
全ての音が、梨沙子の心臓の音とクロスし、重なった。
梨沙子は今一度、桃子を見る。
桃子は愕然と雅の顔を見つめたまま、今にも泣き出しそうな表情をしていた。
その一方で雅は、桃子の存在など始めからいないかの様に、梨沙子の方だけをニコニコと見つめている。
激しさを増す雨。
傘を持たぬ桃子。
雨は何も障害物がないかのように、桃子の体をすり抜けて地面だけを濡らしていった・・・。
- 10 名前:プロローグ 投稿日:2008/06/15(日) 23:33
- どうなっているんだ?一体コレは、どうなっているんだろう――?
何がなんだか、もはや梨沙子には解らなかった。
理解できぬまま、梨沙子がただ凍りついた表情で桃子を見ていると・・・「どうしたの?梨沙子。あさっての方向見て・・・」と言って雅は笑っていた。
その言葉を聞き、梨沙子は青ざめた表情で雅を見返した。
あさっての方向も何も、目の前には桃子がいるじゃないか。何を言ってるの?
だが、震える唇はその言葉を口に出来ない。
ただただ真っ青な表情で雅を見るしかない梨沙子に、雅は怪訝な面持ちを浮かべ、心配そうに顔を覗きこんだ。
「大丈夫?梨沙子・・・?」
そして雅はフッと表情を緩めると、
梨沙子の顔を覗きこみながら、おちゃらけた口調で、こう答えた。
- 11 名前:プロローグ 投稿日:2008/06/15(日) 23:33
-
「なんか、さっきから幽霊でも見たような表情してるよ?梨沙子」
- 12 名前:プロローグ 投稿日:2008/06/15(日) 23:34
- 救急車のサイレンの波はすぐ側まで押し寄せ、近くの公道で停車したようだった。
激しい雨音と、切り裂くようなサイレンの音。公道から聞こえてくる、人々の喧騒。
「なに?近くで事故でもあったのかな?」雅が怪訝な様子で、眉間に皺を寄せた。
そんな雅の隣りで、梨沙子はなにか嫌な予感の様なモノを感じ、激しい鼓動を抑えながら、桃子の顔を凝視する。
すると、桃子がポツリと「そっか。梨沙子には見えるんだね・・・」と、抑揚のない口調で呟いたのが解った。
激しい雨の音。サイレン。人々の喧騒。
それら全てから取り残されたように、
梨沙子と桃子の2人はお互いに見つめあい、立ち尽くすしかなかった。
(プロローグ FIN)
- 13 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/15(日) 23:35
-
- 14 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/15(日) 23:35
-
- 15 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/15(日) 23:37
- 今日はここまで。
文章自体は9割方仕上がってるんで、週1で1章ぐらいのペースで行きます。
ちなみに、ハンドルのわりにカッパの人は出ません。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/16(月) 01:14
- 楽しみにしてます!
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/16(月) 08:28
- 続きに期待
- 18 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/17(火) 23:15
-
第1章 取り残されて
- 19 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/17(火) 23:17
- 1
翌日も雨は、止む事はなかった・・・。
もしかしたら。みんなの涙が、雨になって街に降り注いでいるんじゃないかと、梨沙子は思った。
梨沙子が花束を持って訪れると、2−Bの教室は、まるで火が消えたみたいに静まり返っている。
教室の窓から2つ目の席に、1人泣きじゃくっている雅がいた。
- 20 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/17(火) 23:18
- 「みや・・・おはよう」
朝礼前の2−Bの教室。
梨沙子と友理奈がそう言って、窓寄りの雅の席へと向かう。
すると、雅は机に伏していた顔をゆっくりと上げ、2人の顔を見つめた。
「おはよう・・・」
鼻にかかった声。
それは、いつも元気に『おはよー!』と叫んで、梨沙子たちの教室に遊びに来る雅からは、想像もつかない姿だった。
- 21 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/17(火) 23:18
- 今だ泣きはらした真っ赤な目。いつもの笑顔なんて、どこにもない。
雅はゴシゴシと右手で目尻を拭うと、「なに・・・?」と、冷めた口調で梨沙子と友理奈を見た。
両の目が涙で揺れていて、今にも零れ落ちそうなぐらいに見えた。
梨沙子は抱えていた花束を差し出すと、やんわりと雅の問いに答えた。
「うちのクラスの友達がね。ももの・・・嗣永先輩の机にお花を添えてくれって」
そう言って、梨沙子の手に掲げられた花束。
それはカスミソウとユリとホワイトローズ。真っ白な雪の様な花束だった。
- 22 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/17(火) 23:21
- 「図書委員会でいつも優しくして貰ってたんだって」
「・・・・・・・・」
「もも、優しかったから」
桃子は優しかった。明るくて優しくて・・・。
いわゆるカッコイイ先輩じゃなかったけど、「可愛くて優しい先輩」として、後輩からも慕われていた。
「だから。事故で死んだなんて信じられないって・・・クラスのみんな言ってた」
「そんなの、うちだって・・・」
そう言うと、雅は涙に揺れる目を細めた。
きっと、また堪えられなくなったのだろう。雅はギュッと瞳を閉じると、再び机の上に顔を伏したのだった。
そんな雅を心配そうに見つめながら、梨沙子はゆっくりと歩み、雅の机の斜め前・・・教室の窓側の一番前の机に向かった。
そこにはすでに、たくさんの花が添えられていた。
梨沙子はそのお花畑の様な机に、そっと真っ白な花束を供える。
ここは窓際で一番日当たりのいい席だから、お花もきっと嬉しいだろうなと思った。
- 23 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/17(火) 23:21
-
花束を置いた瞬間。斜め後ろの自分の席からその光景を見ていた雅が、泣き声を漏らしたのが解った。
机に伏したまま、嗚咽を漏らす雅。
梨沙子は何も言わず、そっと雅の髪の毛を撫でた。サラサラと流れるような茶色い髪の毛。
- 24 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/17(火) 23:23
- やがて、始業5分前のチャイムが鳴る。
「梨沙子。そろそろ、戻らないと・・・」そう言って友理奈が、梨沙子の肩を叩いた。
梨沙子はコクリと頷くと、自分達の教室に戻るべく、友理奈と一緒に2−Bの教室を離れようとした。
すると。
梨沙子が雅の席の横を通りすぎる瞬間、雅が机に伏したままに、ポツリと呟いたのだった
- 25 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/17(火) 23:24
- 「なんで・・・。梨沙子はそんなに平気でいられるの?」
「え?」
「ももが死んだんだよ?!ずっと一緒にいたももが・・・」
立ち止まり、雅をじっと見つめる梨沙子。
おもむろに顔を起こすと、雅の頬は、涙でグシャグシャに濡れていた。
真っ赤に腫れ上がった目。頼りない表情で、雅は梨沙子の顔を見て言った。
「梨沙子は強いんだね」
「・・・・・」
「あたしはムリ。なんか、頭がおかしくなりそう・・・」
そう言って、また机に伏して声に出して泣く雅。
近くにいたクラスメイトの千奈美が「大丈夫?みや・・・」と言って、雅の背中を撫で、なぐさめていた。
- 26 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/17(火) 23:25
-
- 27 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/17(火) 23:26
- やがて教室を出て行く梨沙子と友理奈。
心がチクリと痛む。梨沙子がフゥとため息をつき、ぼんやりと廊下の虚空を見上げていると、
「みや、辛そうだったね・・・」友理奈が寂しそうに呟いた。
「みやってさ・・・凄く繊細だから」
「・・・うん」
「強い梨沙子が、繊細なみやを支えてあげなきゃね・・・」
そう言って梨沙子の肩をポンポンと叩く友理奈。だが、梨沙子はその言葉に頷く事が出来なかった。
だって、自分は別に雅や友理奈が言うように、強いワケじゃないから・・・。
平気でいられるのは、ただ、実感が沸かないだけ。
よく解らない。ももは本当に、死んだんだろうか?
- 28 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/17(火) 23:27
-
実感なんて・・・沸くハズもなかった――。
- 29 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/17(火) 23:28
- 桃子は今も梨沙子の部屋にいる。
行き場を失った桃子の幽霊は、梨沙子の部屋に居候している。
- 30 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/17(火) 23:29
-
2人が1−Aの教室に戻ると、丁度始業の会が始まった。
担任の飯田が神妙な面持ちで入ってきて、「みんなも聞いたと思うけど、2年の嗣永さんが・・・」と、話を切り出した。
目線を伏せ、寂しそうに飯田の話を聞いているクラスメイトたち。
最後に飯田が、「明日はお通夜だから、みんな行ってあげてね」と言って、優しく微笑んだ。
- 31 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/17(火) 23:30
-
- 32 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/17(火) 23:30
-
- 33 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/17(火) 23:33
- 今日はここまで。
最初の方は重いんで、小出しにあげていきます。
- 34 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/17(火) 23:38
- >>16さん
はい!ありがとうございます。
がんばりますゆ〜。
>>17さん
ありがとうございます。
かなりヘビーな話で進みますので、よろしくです。
- 35 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:08
- 2
「ねぇ、あたし・・・どーなっちゃうのかな?」
梨沙子の隣りで桃子がぼんやりと呟いた。
ポツポツと小降りの雨。
いつものお寺では、お通夜が行われていた。
桃子の家はアパートだから、桃子のお通夜はいつものお寺に会場を借りる事になっていたのだった。
- 36 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:09
- いつものお寺のいつもの待ち合わせの桃の木の下。
雨の中、傘をさして佇む梨沙子と、傘もなく佇む桃子。
ホンの僅かだけ空間に透けている桃子の体。
雨は桃子の体を濡らす事無く、桃子の足元の地面だけを滲みさせてゆく。
そんな桃子を横目に見ながら、梨沙子は漠然とした面持ちでそっとかぶりを振った。
目の前にいる桃子は、まるで生きているみたいに、当たり前の様に存在している。
実感なんて、沸くハズもなかった。
「ねぇ、梨沙子・・・。この先・・・どーなっちゃうんだろーね?」
不安げに呟く桃子。
この先どうなるかなんて、きっと誰にもわからないんだと思った。
- 37 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:10
- 梨沙子はそっと、桃の木に手を触れる。
つい先日も、梨沙子は桃子と一緒にここにいた・・・。
思い出す。
土砂降りの雨の中、桃子が見える自分と、桃子を見ることが出来ない雅。
すぐ近くで鳴り響く、救急車のサイレン。
あの時。俄かに背筋に寒気がして、梨沙子はすぐに神社を駆け出し、サイレンの鳴る方へ飛んでいったんだ。
「どうしたの?梨沙子!!!」
雅はそんな梨沙子の後を追って来た。
そして、2人が音のしてる方へ辿り着いてみると ・・・・・・事故の現場は騒然としていた。
- 38 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:11
- たどり着くと、まさに今、誰かが救急車に運び込まれるところだった。
真っ青な顔で警察の事情聴取を受けている、大型トラックの運転手。
近くにいたおばさんが、「可哀想だけど助かりそうもないわね」「若い子なのにね・・・」と会話をしてた。
地面にはおびただしい血の痕。
毛布に包まれてて、運び込まれる被害者の姿は見えなかった。
でも・・・・。
- 39 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:11
-
「ブルーの傘・・・」
- 40 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:12
- 雅が梨沙子の隣りでボソッと呟いた。
振り返ると雅の目はまったく焦点があってなかった。
そんな焦点が合わぬ雅の目線の先には、地面に転がるブルーの傘が一定のリズムで揺れている。
「ねぇ、あの傘、もものじゃ・・・ない?」
「・・・・・・・・・・・」
「ウソ・・・ウソだよ・・・ね?」
もう一度血の残った現場を見る。すると。そこに、いつの間にか桃子が立っていた。
だが、誰一人気づいていない。血の海の中に立つ、女の子の姿に。自分以外、誰一人として気づかない。
梨沙子が呆然と目を見開き、桃子を見ていると、桃子が梨沙子の目をじっと見つめながら問うた。
「梨沙子には、見えるんだね?あたしが・・・」
「・・・・・・・」
「あたしの声も、聞こえる?」
コクリと頷く。
ほんの僅かに透けてはいる。だけど、奇妙なぐらいハッキリと桃子の姿が見える。
桃子は、血に濡れた現場を振り返ると、独り言の様にボソッと呟いた。
「死んだのかな?・・・あたし」
- 41 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:13
- 救急車が慌しく現場を離れていく。
桃子の体を運んでいく救急車。それを見送る、梨沙子と桃子。
そう・・・。桃子は梨沙子の目の前にいる。
なれば、きっとあちらは空っぽの体。
桃子の魂はここにいる。主の魂を失った体は、きっと助からないだろう・・・。
- 42 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:14
- 急ぎ去ってゆく救急車。
それを呆然と見送りながら・・・
「だ、大丈夫だよね?ももじゃないよね?同じ傘なだけだよね?」
隣りで雅が梨沙子の腕を掴み、うわ言の様に呟いた。
その瞬間。目の前で桃子が目を伏せたのが解った。
うん、あれはももじゃないよ?・・・と言ってあげたかった。
でも・・・。
2人の距離は1メートルにも満たないのに、雅の目は桃子を捉えられない。
その事実が、「あの空っぽの体がもも」であった事を、皮肉にも証明していた。
- 43 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:15
- 「これからどうすればいいんだろ・・・あたし」
桃子がポツリと呟いた。隣りでは雅がうろたえ、泣き続けていた。
どうしていいのかなんて、自分達には解らない。
「ともかく・・・いったん家に戻ろう?みや・・・」
梨沙子が雅の肩を抱くと、雅が涙に濡れた目で、頼りなく頷いた。
そして、梨沙子はゆっくりと桃子に振り返る。か・え・ろ・う・・・声には出さずに口を動かすと、桃子はコクリと頷いた。
- 44 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:16
-
- 45 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:16
- やがて。雅を家まで送ったあと、梨沙子と桃子は梨沙子の自宅まで戻った。
そして、その3時間後・・・桃子の訃報が電話で届いた。
梨沙子の部屋で、2人は途方に暮れるしかなった。
「やっぱり・・・もも・・・死んだのかぁ〜」
「みたいだね」
まるで他人事の様に桃子が呟き、梨沙子もまるで他人事の様に頷いた。
2人とも、不思議なぐらい、実感など沸かなかった。
桃子は死んだ。でも、桃子は目の前にいる。じゃぁ・・・ここにいるももは幽霊?
2人で見詰め合う。きっと、桃子も梨沙子と同じ事を考えているのだろう。その疑問を先に口に出したのは、桃子だった。
「ねぇ?どうして・・・梨沙子にだけは見えるんだろ?」
「解らない」
「霊感強いの?」
「そんな事ない。今まで幽霊なんて見えたことない」
幽霊なんて今までTVでしか見た事がない。
そう言ったホラー映画やお化け屋敷の中で、幽霊は怖いモノだとインプットされていたけど・・・
「こんなに怖くない幽霊、中々ないよね」
「なにそれ、ひっどーい!」
思わず2人で笑いあう。
ふざけて桃子をおちょくって、桃子がプンスカするのはいつもの事。
こーして2人で会話して笑いあうのもいつもの事。
- 46 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:18
-
――本当にももは死んだのかな?
- 47 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:18
- 梨沙子が手を伸ばして桃子に触れようとすると、手は桃子の体をすり抜けて行った
そんな梨沙子に、怪訝そうに眉を顰める桃子。
「・・・なに?」
「いや。本当に、幽霊なのかなって・・・」
手を左右に動かす。
決して触れる事の出来ない、スカスカな桃子の体。
「・・・・・・・・・・実感した?」
「・・・・良く解らない」
- 48 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:19
- 確かに触れる事は出来ない。
でも、実感はやっぱり沸かない。まるで3Dで透写でもされているのかと思ってしまう。
だけど。実感なんて沸かないけど、桃子が死んだらしき現実は、梨沙子に突きつけられていた。
「さっきの電話連絡で、明後日お通夜があるって言ってた」
「誰の?」
「誰のって・・・ももの・・・かなぁ?」
「あたしはココにいるのに?」
梨沙子は困ったように首を傾げるしかなかった。
ホントに桃子は死んでるのだろうか?何かのドッキリなんじゃないかとか、そんな事まで考えてしまう。
だとすればタチの悪い、大掛かりすぎるドッキリだ。冗談じゃない。
そんな事を梨沙子が考えていると、不意に桃子が低い声で問いかけてきた。
「ねぇ。どこでお通夜やるの・・・」
「いつものお寺みたい」
「あ・・・そっか。あそこ、お寺だもんね」
いつも梨沙子と桃子と雅、3人で待ち合わせをしていたお寺。
そこでお通夜をやられるなんて、なんだか皮肉な感じもする。
3人で毎日笑いあったりはしゃいだりしていた思い出の場所が、弔いの場所になってしまうなんて・・・。
- 49 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:20
-
「さっき。みやにはあたしは見えてなかった・・・」
不意に桃子が言った。
梨沙子は何も言えないまま、桃子の顔を凝視する。
確かに。先ほどいつものお寺で待ち合わせをしていた時も、そして事故の現場でも、雅の目は桃子の事を捕らえてはいなかった。
「じゃぁ・・・ちぃやくまいちょーにも、あたしの姿は見えないのかな?」
「どう。なんだろ?」
桃子は『それを確認したい』と言っていた。
そして、「お通夜に参加すれば、それの確認が取れるよね?」と、呟いた。
だが。なんとなくだけど・・・きっと他の子達の目に、桃子の姿が捕らえられることはないような・・・そんな気がしていた。
- 50 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:21
-
- 51 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/18(水) 20:21
-
- 52 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/18(水) 20:22
- 今日はここまで。
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/20(金) 14:12
- 展開が読めないなあ・・・
続き楽しみにしてます
- 54 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:38
- 3
いつものお寺に雨が降る。
小振りながらシトシトと、ずっと雨が降り続いている。きっと涙雨なんだと思った。
式場の中は人々のすすり泣く声が聞こえる。
祭壇に飾られた遺影。それを見ながら、自分のお通夜に参加するのが凄くヘンな気分だと桃子はいった。
そして梨沙子自身も、桃子の遺体を見たとて、なにか作り物の人形のような感覚に陥る。
隣りにいる幽霊の桃子の方が、自分にとってはよっぽどリアリティな気がした。
でも・・・。
お通夜の最中でも、やっぱり誰一人、自分の隣りにいる桃子の姿に気づかない様子だった。桃子の霊体は誰の目にも止まらない。
急に不安になる。
みんなは見えないのに、なんで自分だけ見えるのか?本当に桃子は自分の隣りにいるのだろうか?
「もも・・・」
「ん?」
「そこにいるよね?」
「え?」
「いるよね・・・」
いつものクセで隣の桃子の手を握ろうとするが、当然握る事は出来ずに空気を掴む。
桃子はじっと梨沙子の顔を見つめたあと、
「・・・・・・・うん。いるよ」と言って、梨沙子を宥める様な優しい表情を浮かべた。
- 55 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:39
- やがて。
桃子はゆっくりと自分のお棺に近寄ると、そっと手を伸ばした。だが、幽霊の手は持ち主の抜け殻にすら、触れることを許されない。空気を掴むように、すり抜ける桃子の手。
代わりに梨沙子が、その亡骸に触れる。
「冷たい・・・」
「このあと焼かれちゃうのかな?そしたらホントにあたし、帰る場所なくなるね」
「・・・・・・・」
何も言えぬまま、梨沙子はじっと、抜け殻の方の桃子の顔を見つめた。
真っ白な顔。元々色白の桃子だけど、まるで雪の様に白い――。
こんなに雪の様に白いんだから、冷たいハズだよなと梨沙子は思った。
- 56 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:40
- 暫しの間。
梨沙子は棺に眠る桃子を見た後、ゆっくりとおもてを上げ、「ねぇ、もも・・・」と、隣にいる霊体の方の桃子を顧みた。
だが、その瞬間。隣りでは・・・桃子が何を見たのだろう?明らかに何かに驚き、愕然とした面持ちで、目を大きく見開く姿が見えた。
梨沙子は思わず「どうしたの、もも?!」と問う。
すると桃子は、「いや・・・」と言葉を濁し、戸惑いを露わにしていた。
愕然と目を見開く桃子の目線の先には、梨沙子たちの学校の制服を着た女の子。ショートヘアーで背のちっちゃな女の子の姿があった。
梨沙子がそちらの方を不思議そうに見ていると、隣りで桃子が震える声で呟いた。
「今、あの子・・・」
「ん?」
「目が合った気がした」
「え??」
思わず梨沙子はショートヘアーの少女の方を見ながら目を見開くが、今はもう、彼女は全くこちらを見ている様子などなかった。
何事もなかったように、お焼香を終え、お通夜の会場を離れてゆく少女。
梨沙子は眉根を寄せると、桃子に怪訝な面持ちで問いかけた。
「ホントに・・・ももの事、見てたの?今の人」
「わかんない。よく、わかんない」
「偶然、目があっただけなんじゃない?」
きっと偶然、目線の方向があっただけなんだと、梨沙子は思った。
現に少女は、幽霊の桃子の存在に驚いている様子も戸惑っている様子もなかったし。見えているワケがない。
そして。桃子もそれを聞き「だよね・・・」と、頷いた。
- 57 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:41
- やがて、お焼香も終え。梨沙子と桃子の2人は、ボンヤリと式場の隅で立ち尽くしていた。
段々空気も冷えてきた。夜風が冷たく通り抜けてゆく。
すると。ふと、2人の目線の向こうの方に、桃子のクラスメイト達の姿が見えた。
「みやだ・・・」
桃子がポツリと呟いた。
その隣りに、千奈美と友理奈。そして、舞美やえりか。仲良しだった友達たち。
みんなグシャグシャに泣いていた。
特に雅は、もうメチャクチャに泣いていて、まともに歩く事も出来ないようだった。雅のお母さんに支えられて、ようやく歩けてるぐらいだった。
- 58 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:44
- その様相を見て、桃子は戸惑っていた。
いつも明るくて笑顔ばっかりの雅と、今、目の前にいる雅は、まるで別人のようだった。
桃子はしごく狼狽した様子で梨沙子の顔を見ると、そっと頼りなく呟いた。
「ねぇ。みやのとこ、行ってあげて。梨沙子・・・」
「う、うん・・・」
桃子に即され、梨沙子は小走りで雅の元へと向かう。
そんな駆けて来る梨沙子の姿を確認してか、千奈美はホッとした様子で「ほら、みや。梨沙子来たよ」と言って、その肩を撫でた。
その言葉に、雅はゆっくりと顔を上げる。
「梨沙子・・・」
雅は梨沙子の顔を見て少しだけ安心したのか、梨沙子に縋るように抱きついて来て、そのまま胸の中で泣き崩れた。
零れ落ちる涙で胸元が濡れて冷たい。でも、それ以上に、胸の中が凍えるように冷たかった。
- 59 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:45
-
「どうして・・・なんで!!」
胸の中の雅は怒りと悲しみが同居してワケ解らなくなっていた。
梨沙子の制服の襟元をキュッと右手で掴み、雅は途切れ途切れの言葉を吐いた。
「やだよ、もも・・・寂しいよ・・・帰って来てよ・・・ねぇ・・・」
頼りない声が胸元から聞こえる。梨沙子は慰めるように雅の髪をそっと撫でた。
- 60 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:46
-
そう。みんな確かに、知ってはいた。雅が桃子の事を好きだったこと・・・。
だけど自分達は、本当は知らなかった。
ここまでグチャグチャに泣いて叫んで、心が折れてしまうぐらい。
雅は桃子の事が好きだったんだ――。
- 61 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:47
- 雅の背中をさすりながら、梨沙子はゆっくり後ろを振り返った。
すると、桃子は雅を見ているのが辛くなったのか、いつの間にか梨沙子の近くからいなくなっていた。
梨沙子の視界には、雨に揺れ続ける桃の木だけが見えている。
いつも3人で待ち合わせていた、桃の木だけが・・・。
- 62 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:47
- 梨沙子の胸の中では、何度も肩を上下させて嗚咽を漏らす雅。
そっと、その髪の毛を撫で続ける自分。
幽霊と化し、この世に取り残された桃子。
引き裂かれた幼馴染の3人。
もう2度と。
この3人が、あの桃の木の下で共に笑いあえる日は、来ない・・・。
- 63 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:48
-
- 64 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:49
- 4
降り続いていた雨も上がった――。
通夜が終わった後のお寺。
ショートヘアーの背のちっちゃな女の子が、お寺の敷地内にある自宅の方へと向かう。
思いつめたような厳しい表情。
- 65 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:50
- ただいまも何も言わず少女が玄関の扉を開け自宅へ戻ると、「おかえり、佐紀」と言う声が聞こえた。
無言のまま振り返る佐紀と言う名の少女。
目の前には、細身のGパンにTシャツ。ラフな格好をした20代前半ぐらいの女性がいた。佐紀の姉、石川梨華。
石川は佐紀に問いかけた。
「ねぇ、さっきウチで葬儀した子、あんたの学校の子なんでしょ?」
「・・・・・・・・」
「可哀想にね。若いのに・・・」
だが、佐紀は何も答えない。
返事1つせずに階段を駆け上ってしまう佐紀に、石川はため息を1つついた。
- 66 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:51
- パタパタと階段を駆け上ってゆく佐紀。
そして部屋に戻り、扉を閉めた瞬間。佐紀は扉に背中から凭れると、恨みがましい声で、ポツリと呟いた。
「神様はイジワルだ・・・」
佐紀は心の底から思った。
もし神様がこの世にいるのなら、神様に何度だって問いただしたい。
- 67 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:51
-
どうしてあの子を天に召した?そして、どうしてあの子をこの世に取り残した?――と。
- 68 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:52
- あれはいつだったろう?
小学生の頃。7年ぐらい前だったか?
佐紀がいじめられて転んで膝を擦りむいて、泣きながらお寺に帰ってきたとき。偶然、お寺の桃の木の前に立つ彼女と目があった。
彼女は友達と待ち合わせをしているようだった。
目が合うと、まだ幼かった彼女は、まるで天使の様な愛らしい笑顔で佐紀に笑いかけ、その手を差しのべてくれたんだ。
「だいじょうぶ?膝・・・血が出てるよ・・・」
「・・・・・・・・」
「こっちおいで」
彼女は優しく手を引いてくれた。
そして、膝が擦りむけていた佐紀に、境内にある手水舎の柄杓の水で膝を流してくれた。
ハンカチで膝を拭いてくれた。
「転んだの?誰かにやられたの?」
「・・・・・・・・・」
「あたしは平気だよ。怖がらなくても。あなたの味方だからね!」
- 69 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:53
- そう言って笑う桃子。
それは、たった一度きりの会話。
だけど、この時の記憶は一生忘れない。天使のような女の子だった。
だから。彼女は死んでも、すぐに天国に召されると思っていた。
他の亡者達とは違い、すぐにでも神様が天使の様な彼女を、天国にお召しになると信じていた。
なのにどうして・・・。
彼女をこの世に取り残した?誰よりも先に、天国に招かれる人だと思っていたのに。
神様はイジワルだ。
- 70 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:54
- あの日以来、彼女と再び話す事はなかったけど、同じ学校なのは知っていた。
だから、せめてお焼香だけでもしてあげたいと思って、自分もお通夜の式場に向かったんだ。
そしてその時・・・佐紀はハッキリとこの目で見た。
- 71 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:54
-
成仏も出来ず、この世に取り残されてしまった、桃子の幽霊を――。
- 72 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:55
- だが、佐紀が驚いた事はそれだけではなかった。
それ以上に、佐紀にとって引っかかる事が1つあったんだ・・・。
成仏出来ずに、この世に取り残された桃子。
そしてその隣りに、まるで『桃子が見えているかの様に会話をする』女の子がいた。
一緒に居た少女。
見覚えがある。何度かお寺の境内で桃子と一緒にいる姿を見かけた。桃子の幼馴染らしき女の子。
彼女は霊体の桃子と話してたみたいだった。あれは一体、どう言うことなのだろうか・・・?
- 73 名前:第1章 取り残されて 投稿日:2008/06/20(金) 22:57
- きっと。考えられる答えはただ1つなのだろう。
あの少女も、幽霊を見ることが出来ると・・・言う事か――?
(第1章 取り残されて FIN)
- 74 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/20(金) 22:57
-
- 75 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/20(金) 22:57
-
- 76 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/20(金) 22:58
- 今日はここまで。
とりあえず第1章。今後も、こんな感じで続きます。
- 77 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/20(金) 23:02
- >>53さん
楽しみにしててください。
まぁ、ビックリする様な展開は特にないですけど・・・w
- 78 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/21(土) 07:06
- いやーあの二人が姉妹っていう設定に驚きましたw
でも個人的にすごく好きな二人なのでこれからが楽しみです。
- 79 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/22(日) 21:17
-
第2章 幽霊を見る少女
- 80 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:17
- 1
入梅前のグズついた天気から一変し、今日は晴れ晴れとした気候だった。
梨沙子は花束を手に、2−Bへ向かった。
あの悲劇の事故から、1週間がすぎた――。
- 81 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:18
- 昼休憩に入る直前。
教室でクラスメイトの女の子数人が、「ねぇ、2年の教室に行くなら・・・」と言って、梨沙子に花束を手渡してきた。
色とりどりの綺麗な花束。
梨沙子が不思議そうに花束をじっと見つめていると、クラスメイトの女の子達はクスクスと笑った。
「ほら。りーちゃんに会いに、よく嗣永さん。うちのクラスにも来てたじゃん」
「ね!なんか感じいい人だったよね。うちらにもフツーに話しかけてきたり」
「だから、うちらもお花あげたいなーって思ってさ」
そう言って笑うクラスメイトの女の子達に、梨沙子は心底嬉しそうに笑顔を浮かべて「ありがとう・・・」とお礼を言った。
なんだか心の中が温かくなる。
- 82 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:18
-
桃子は本当に、色んな人に愛されていたと思う・・・。
- 83 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:19
- 梨沙子と友理奈が大事そうに花束を抱えて2−Bの教室へお花をあげに行くと、2−Bの教室の真ん中では、千奈美が何かの提案していたようだった。
それは2−Bの生徒だけでなく、隣のクラスの舞美やえりか達も、その話し合いに参加をしていた。
千奈美はみんなの顔を見渡しながら、笑顔でこう言った。
「ねぇ!今日から3学期が終わるまで、毎日交代でお花をあげない?」・・・と。
せっかく、みんなこうして色んな人がお花を持って来てくれる。
それがいつか途切れてしまうと、きっと桃子も寂しいだろうから、3学期が終わるまで毎日有志でお花をあげようと提案をしていたのだった。
千奈美の提案を聞き、2年B組の女の子たちが「いいねー!」と笑顔を見せあう。
そんな千奈美の提案に、梨沙子と友理奈が「ね。あたしたちも参加していい?」と問いかけると、千奈美は至極嬉しそうに微笑み、「うん、もちろんだよ!!」と言った。
2年C組の舞美とえりかも笑顔を浮かべながら、「ねぇねぇ!ウチらもー!」と言って参加をする。
心温まるやり取り。
- 84 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:19
- そんなみんなのやり取りを、自分の席に伏したまま、泣きそうな顔で見つめている雅。
「みやも、ね。一緒に参加するでしょ?」
千奈美がそう言って背中を撫でてあげると、雅は涙で目を潤ませながら、頼りなく頷いた。
あの日以降、梨沙子は雅の笑顔を一度も見ていない――。
まるで雅の表情は、心ごと凍り付いてしまったかのよう。
思い出しては泣いて、泣いては思い出して・・・その繰り返しだった。
- 85 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:20
- 梨沙子が案ずるように机に伏している雅の細い背中を見つめていると、ガラッと言う音を立て、不意に教室の扉が開いた。
一斉に2年B組の生徒の目線がそちらへ集中する。
するとそこには、背のちっちゃなショートヘアーの女の子が、花束を持っている姿があった。
その少女を見た瞬間、梨沙子は不思議そうに眉根を寄せた。
あれ?この人、どこかで見た気がする・・・。
ショートヘアーの少女は桃子の机に花を供えると、10秒ほど黙祷し、手をあわせる。
その様子をじっと見つめている梨沙子。
やがて少女は顔を上げる。そして、戻ろうと振り返り、梨沙子と不意に目があった瞬間、少女は驚いたようにその両目を見開いた。
しばし愕然とした様子で見つめ合う。
だが、梨沙子がそんな少女の反応に不審な表情で眉間に皺を寄せると、少女はハッと口を真一文字に噤み、そのまま教室を出て行ってしまったのだった。
- 86 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:20
- 「あの子、だれ?ももの知り合いかな?」
ショートヘアーの少女が出て行った後、千奈美がみんなに疑問を投げかけるが、雅も梨沙子も解らないといった様子で首を傾げしかなかった。
すると、「あの子、うちのクラスの子だよ」と、舞美が不意に呟いた。
俄かに全員の目線は舞美に移る。しかし、舞美はイマイチ歯切れの良くない感じで、えりかと顔を見合わせていた。
「いちおーね。ウチのクラスの子なんだけど」
「かなり、ヘンな人なんだよね!」
えりかの言葉に、舞美は若干躊躇いながらもコクリと頷いた。
「そうなんだよ。なんか変わってるって言うか・・・」
そう言って舞美は難しそうに顔を顰めている。
クラスメイトの悪口とかは言いたくないけど、どーにもこーにも、こう言う言い方でしか説明が出来ないと言った感じだった。
舞美が言うには、彼女は誰とも口を利かない、と。人と喋ってる所を1度も見たことがない、と。
「だけど時々ね。1人であさっての方向見て、ブツブツ言ってたりするみたいなんだよね・・・」
言葉をオブラートで包むためか、舞美があくまで伝聞口調で他人事の様に説明をする。
すると、その隣りでえりかが「つーか、怖いよね。チョー気持ち悪い!!」と、台無しなぐらいストレートな主観で物申し、舞美に「ちょっとぉ!えり!!」と叱り付けられていた。
- 87 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:21
- そんな2人の説明を聞き、「ふーん。そうなんだぁ」と、イマイチ興味なさそ気に頷いている千奈美。
『あの子誰?』と自分で聞いたくせに、千奈美の興味はすでに別の方向に向いているようだった。
そして案の定。千奈美の話はショートヘアーの女の子話から、すぐにお花当番の順番の話に移行した。
「ね。それより、順番はどーする?ジャンケンで決める?それともクジ引きで決める?」
そう言って、全員に問いかける千奈美。
こうしてあっという間に、女子の話題は、ショートヘアーの少女の話から、元のお花当番の話題へと戻っていったのだった
- 88 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:22
- だが。梨沙子だけはどこか上の空の様子で、ショートヘアーの少女が桃子の机に供えた花束だけを凝視していた。
白と紫を合わせた、美しい供養花。
葬儀の日も、たしか祭壇にはこんな色の花がいっぱい供えられていた・・・。
あの日――不意に梨沙子は思い出す。あのショートヘアーの子は確か、桃子のお通夜の日にいた、女の子。
桃子が『目があった気がした』と言った、あの女の子だ。
そして、彼女は自分と顔を見合わせた瞬間。ハッとした表情で自分を見た。あれは一体・・・どう言うことなのだろうか?
- 89 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:22
-
- 90 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:22
- やがて、放課後になる。
梨沙子は帰り掛けに桃子と、いつものお寺で待ち合わせをしていたのだった。
「学食寄って行かない?」と誘う友理奈に「ごめんね」をして、梨沙子はいそいそと廊下を歩いた。
通り行く友達やクラスメイトが「バイバーイ」と声をかけてくるので、「バイバイ」と答える。
そんな帰宅ラッシュの廊下を抜け、梨沙子は校庭へと出た。
外に出ると、日が随分と傾きかけていたようだった。
グラウンド脇のコンクリートで舗装された部分を歩く梨沙子。
ふと校舎に備えられた時計を見ると、HRが長引いてしまったせいか、予定してた時間よりも随分とオーバーしてしまったようだった。
「もも、遅れるとうるさいからなぁ。早く行かなきゃ・・・」
そう呟き、梨沙子がその歩くスピードを速めようとした瞬間だった。
トントン――と、不意に後から、梨沙子は肩を叩かれた。
- 91 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:23
- 「え?!」
梨沙子は驚き振り返る。
すると、すぐそこには背の小さなショートヘアーの女の子。
彼女の胸元には2年生の青バッチが付けられていた。・・・・・・さっきの子だ。
「えっと、あなたはさっき。ももにお花上げてた人ですよね?」
「・・・・・・・・」
「あの。もものお知り合いですか?」
相手は上級生なだけに、梨沙子は丁寧に問いかけた。
だが、少女は何も言わない。ただ、何かを訴えかけるように、自分の目を見つめているだけだった。
「あ、あのぉ・・・なにか用ですか?」今一度問うが、やはり返事はなかった。
ふと、梨沙子は昼休憩にえりかたちが言ってた言葉を思い出した。
そう。彼女は誰とも話してるとこを見た事がない・・・不気味な子だって・・・。
- 92 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:23
- 何も言わない彼女に困り果てる梨沙子。
どうする事も出来ず、梨沙子は「あ、あの。それじゃぁ・・・」と言ってペコリと頭を下げ、首を傾げながら通り過ぎようとする。
だけど、その瞬間だった。
その子の口から出た言葉は、あまりに予想外の言葉だった。
- 93 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:24
-
「取り残されちゃったんだね」
「え?」
「嗣永さん。この世界に・・・」
- 94 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:24
- 凍りつき、その足を止める梨沙子。
青ざめた表情で振り返ると、少女は僅かに口角を上げ、微笑んでいた。
辺りからは、帰宅につく生徒達の「バイバイ」「じゃぁねー」と言う声が、校庭にこだます。
そんな周囲の音を掻き消すかのように、梨沙子の心臓の音が、凍りついた時を刻むよう、激しく鳴り響いた。
- 95 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:25
-
- 96 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:25
- 2
夕暮れ前の緩やかな日の光。
いつものお寺。その桃の木の下で、桃子は梨沙子が来るまでの時間をボンヤリと佇んでいた。
風がお寺の庭を吹き抜け、木々がサラサラと柔らかな音を奏でる。
「今日はいい天気だな〜」
桃子は空を見上げた。最近はずっと雨が続いていたから、太陽が心地よく感じた。
もっとも、幽霊のカラッポの体は風や温かさなんて感じないけど、それでも心地よいと思えてしまうのが不思議に思えた。
雨の日はジトジトと気が滅入る。こう言う天気の日はカラッと心地よい。それが生前の記憶としてあるからなのだろうか・・・。
- 97 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:26
- 桃子は境内にのぼり、ゆっくりと木造のお寺の周りを周回する。
すると、お寺の柱の下の方に、小さな落書きが見つかった。
お星様とかウサギとか桃とか、なんか色々な落書きがしてあって、その下に『ももこ、みやび、りさこ』と名前が書かれていた。
桃子はそれを見て、なんだか懐かしくなって目を細めた。
小学生・・・幼稚園の頃からかな?桃子は雅と梨沙子と3人で、いつもここで遊んでいた。
それは、高校生になった、つい今しがたまでも――。
- 98 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:26
-
「うち、ももの事が好きだよ?」
- 99 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:27
- 高校に上がってすぐの事。
梨沙子は中学の学校行事かなんかがあって、その時はいなくって。桃子と雅は2人きりで、いつものお寺にいた。
春先の・・・まだ、そこの桃の木に桃の花が微かに咲いていた頃。
境内に座る桃子と、桃の木に寄りかかっている雅。
雅はニコッと微笑むと、頬っぺたをホンの少しだけ赤く染め、桃子へと言った。
「うち。ももの事が好き」
「みや・・・」
「梨沙子よりも、ももの方が、ホンのちょっと・・・大きな好き」
それは、過ぎ去りし想い出――。
- 100 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:27
- 風がピューっと音を立て、境内の中を吹き抜けた。
木の葉が一斉に舞い上がり、桃子のカラッポの体を通り抜ける。
風も光も熱も、全て通り抜ける。思い出も・・・。
- 101 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:28
- 「もも・・・」
不意に聞こえた声。
ハッとする桃子。にわかに境内の上から階段の下を見下ろすと、そこには制服姿のままの梨沙子の姿があった。
そして――。
その後ろには、じっと自分の目を見つめる佐紀の眼差し・・・。
桃子は思わず目を丸く見開いた。
そう、あの時も。お通夜の時もそうだった。こうやって、彼女は桃子の事を寸分違わぬ目線で見つめていた・・・あの時の子。
そして今も、その目はしっかりと、桃子の両の目を捕らえていた。
- 102 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:30
- 暫しの間。桃子は佐紀と見つめ合ったまま、硬直する。動く事が出来ない。
自分の目をしっかりと捕らえる、その眼差し。
すると。やがて佐紀は、桃子の目をしっかりと見つめながら・・・まるで独り言の様に、こう呟いたのだった。
「神様はイジワルだよね」
「え?」
「あなたならきっと。最上の天国へ召されると思ってたのに・・・」
空っぽの心臓がドクンと音を立てる。
しっかりと自分の目を捕らえる眼差しも・・・。そして、全てを理解しているかの様な、その言葉も・・・。
「み、見えてるの?」
「・・・・・・・・」
「本当にあなたにも、ももの姿が見えてるの?声が聞こえてるの?」
すると、佐紀はゆっくりと桃子へと近づいた。
まっすぐに、その手を伸ばす。
一瞬、頬に触れるかと思った手は、自分の頬の1センチ程、外側を掠めた。
そして、その手は桃子の頬から、首。首から肩、腕・・・綺麗に桃子の体の輪郭の外をなぞっていった。
桃子はピクリとも動く事が出来なかった。
自分の輪郭を寸分違わずなぞっていく手。ハッキリと。この子の目には自分の姿が見えているんだ・・・。
- 103 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/22(日) 21:31
- ただただ。
愕然と目を見開き、佐紀の顔を見つめるしかない桃子。そして、梨沙子。
佐紀はクスッと微笑むと、2人の顔を交互に見て、答えた。
「昔からね。どう言うわけか、見えるんだ。うち・・・」
「え?」
「幽霊が――」
何も言えず、立ち尽くすだけの2人。
柔らかな風が、境内の木の葉を揺らし、2人の間を通り抜けていった。
- 104 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/22(日) 21:32
-
- 105 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/22(日) 21:32
-
- 106 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/22(日) 21:34
- 今日はここまでー。
>>78さん
確かにあの2人はある意味以外かも。
そしてもっと意外な人がそのうち出てきますw
- 107 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:40
- 3
少女の名は佐紀といった。
このお寺の住職の娘で・・・ここでいつも待ち合わせをしていた桃子たち3人を、昔から知っていたと言う。
佐紀は境内の階段に腰をかけると、楽しそうに、立ち尽くす2人を見つめた。
「よくさ、うちのお寺で。3人で鬼ごっことかしてたでしょ?」
佐紀はクスリと笑う。
確かに、桃子と梨沙子と雅の3人で、小学生の頃は鬼ごっこなんてしょっちゅうだった。
3人で日暮れまで鬼ごっこしたり、かくれんぼしたり。それは落日の思い出。
「嗣永さんとはね、一度だけココでお話したことあるんだよ?」
そう言って佐紀は懐かしそうに桃子の顔を見つめる。
だが、桃子は思い当たる節がなく、「え?」と戸惑いを露わにするしかなかった。
記憶を辿ってみるが、どうにも佐紀の顔がピンと来ない。
そんな困惑気味の桃子を見ると、佐紀はホンの少しだけ、寂しそうに顔を翳らせた。
「すっごい昔だから。やっぱ覚えてないよね・・・」
「ごめん」
申しわけなさそうに俯く桃子。
佐紀は「仕方ないよ。昔だもん・・・」と微笑んだ。そんな佐紀の返答に、桃子はもう一度「ごめん」と呟く。
- 108 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:40
-
当たり前の様に言葉を交わす2人。
幽霊と人間。
そんなやりとりを交わす2人を、ボンヤリとした表情で見つめる梨沙子。そして・・・
- 109 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:41
- 「ホントに。ももが見えるんだね・・・」
俄かに、梨沙子が泣きそうな顔で、そう呟いた。
2人の顔は一斉に梨沙子の方を振り返る。
「やっぱり・・・ももはいるんだね」
「梨沙子?」
桃子が振り向くと、梨沙子は唇を震わせていた。
その虚ろな目が、ぼんやりと地面にさす入り日の影をみつめている。
地面には自分と佐紀の影だけがクッキリと映り、桃子の足元には影なんてなかった。
「あたし、不安だったんだ。みやもちぃも熊井ちゃんも・・・みんなももが見えてないのに、あたしだけ」
「・・・・・・・・」
「ひょっとしたら、ホントはももはいないんじゃないかって不安だった」
「梨沙子・・・」
「ひょっとしたら、あたしが頭オカシクなって、幻覚見てるだけなんじゃないかって・・・」
声が震えた。
上空で雲が流れ、地面に映る影はまるで幽霊の様にスゥっと消える。
- 110 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:42
- 影は幽霊の様にその姿を消し、幽霊はまるで影の様に誰の目にも止まらない。
誰の目にも止まらない桃子。
本当に桃子はこの世界に存在しているのか、ずっと不安だった。
でも、そんな事は誰にも・・・桃子にも・・・相談出来ない。確かめる術のないまま、ずっと不安だけを抱いていた。
じっと地面を見つめたままの梨沙子。
そんな梨沙子を安心させるように、桃子は柔らかな笑顔を浮かべると、その顔を覗きこんだ。
「そんなことない。ももはいる。幻覚じゃない。ちゃんとここにいるよ?見て・・・」
優しく声をかけると、梨沙子はしっかりと桃子の顔を見つめコクリと頷いた。
そして、そんな2人のやりとりを、じっと見つめている佐紀。
入り日が眩しいほどに照らしつけ、佐紀はその目をギュッと細めた。
- 111 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:42
-
「でも・・・。どうしてももは取り残されたんだろう?」
不意に桃子が、独り言の様に呟いた。
その声に反応し、佐紀は桃子を見る。眩しいほどの入り日は、桃子の体を素通りし、地面だけを照らし上げていた。
桃子は顔を上げると、縋るような目で佐紀を見つめる。
そして、今度は一人言のようではなく、はっきりとした問いかけで桃子は佐紀に問うた。
「ねぇ。あなたは色んな幽霊を見て来たんでしょ?何かわからない?」
「大抵の幽霊は・・・この世に未練を残して取り残される」
「未練・・・?」
桃子は思わず顔を顰める。
そりゃ沢山ある。こんなに若くして死んで、未練がないワケない。
そもそも、自殺とか老衰ならともかく、事件事故で唐突に死んだ人間の中に、未練のない人なんているのだろうか?
そして、未練を残した人間がみんな幽霊になるのなら、この世は幽霊だらけになってしまう気もする。
- 112 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:43
- 「・・・ウチのお姉ちゃんに会ってみる?」
「え?」
不意に佐紀が言った。
桃子と梨沙子は予想外の言葉に目を丸くする。
何故唐突にお姉ちゃんが出てきたのだろうかと思ったが、その理由はハッキリとしたものだった。
「有名な霊媒師だったんだ・・・お姉ちゃん」
「霊媒・・・師?」
桃子と梨沙子で思わず顔を見合わせる。
霊媒師と言う言葉はよく聞く。TVや雑誌で夏になるとよく見かけた。あの霊媒師?
そう考えると、不意に期待が満ち溢れてくる。
桃子と梨沙子の2人だけではどうしていいのか解らず途方に暮れるしかなかった現状が、
いわば霊のプロフェッショナルが介入してくれる事で、初めて道が開けて来る様な気がした。
- 113 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:44
-
「う、うん!お願い!!是非、お姉さんに会わせて!!」
桃子は縋るように身を乗り出した。
だが、佐紀はあまり歯切れの良さそうな感じではなかった。
あからさまにトーンが上がっている桃子たちに比べ、佐紀は不安の入り混じった低い口調でポツリと答えた。
「うん、解った。お姉ちゃんトコ、行こ」
「ホントに?!ありがとう!!」
「でも正直。今は廃業しているから・・・協力なんてしてくれないかもしれないけど」
佐紀は言う。
だけど、廃業してようが何してようが、関係ない。
何をどうすればいいのか解らない自分達は、霊を生業としていた佐紀の姉に会わないワケには、いかなかった。
- 114 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:45
-
- 115 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:45
- 4
お寺の敷地内に、佐紀の自宅はある。
2階建ての一軒家。
その自宅の中にある客間に、噂の佐紀の姉はいた。
開け放たれたふすまからは、ロックの洋楽が激しい音を奏でて廊下まで鳴り響く。
ミニスカートと少し派手目の化粧。
壁に凭れて畳の上に座りながら、退屈そうにメールを打っている姿。
とても、『かつて霊媒師だった』とは思えない若い女性がそこにいた・・・。
- 116 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:46
- 廊下から石川の姿を確認した梨沙子が不安そうに、「ねぇ。本当にあの人が霊媒師なの?」と佐紀に問うが、何故か佐紀は何も喋らなくなっていた。
まるで貝がその殻を閉ざしてしまうみたいに、キュッと口を噤んで言葉を閉ざしてしまう佐紀。
不思議そうな面持ちを浮かべながら「佐紀ちゃん?」と、もう一度佐紀に呼びかけてみるが、返事はない。
すると、佐紀が口を開くより先に、客間に居た石川が廊下にいる梨沙子達の存在に気づいた様だった。
「どうしたの佐紀?」
パチンと携帯を閉じ、石川は不意に立ち上がる。
そして廊下へ出ると、怪訝そうに眉を顰め、真っ直ぐに梨沙子の顔を凝視した。
「なに?この子は誰?」
だが、佐紀は全く口を開こうとしない。
口を真一文字に閉ざしたまま、その場に目線を伏せるだけだった。
- 117 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:46
-
「ね、ねぇ?佐紀ちゃん・・・?」
梨沙子が戸惑うように佐紀の腕を掴むが、押し黙ったまま。
桃子も隣りから不思議そうに佐紀の顔を覗きこむしかなかった。
そして、当の石川も佐紀から返答を聞くのを諦めたらしく、その目線は俄かに梨沙子に向けられる。
「何か用かな?佐紀の友達なの?」
「あ、あの・・・」
どうしようと戸惑うが、佐紀はもはや言葉を発する素振りを伺わせてくれない。
そして、桃子は桃子で、その姿は石川の目には全く映っていないようだった。
この状況下では、石川に事の説明を出来るのは、もはや梨沙子しかいないのは一目瞭然だった。
仕方なく、梨沙子は自ら事情を話す。
佐紀がどう言うわけか一言も話してくれないせいで、かなり説明に戸惑った。
なにより。いきなり知らない人間がズカズカと自宅に現われて「友達が幽霊になった」なんて言った所で、信じて貰えるのか不安ではあった。
だからこそ、佐紀の口から説明して欲しかったのだが・・・。
- 118 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:47
-
だけど。石川は特に怪訝な様子を窺わせる事はなかった。
思ってた以上に冷静に、うんうんと相槌を交わしながら梨沙子の言葉を聞いてくれた。
そして梨沙子がひと通りの説明を終えると、石川は納得したように頷き、ポツリと呟いた。
「そう。友達の霊が、取り残されたのね・・・?」
正直なトコ――。
石川に頭がヘンな人と思われるかと思ってたけど、元々霊に関わる仕事をしていたからか、石川はアッサリなぐらい素直に説明を受け入れてくれた。
それが凄く意外に感じた。
だけど、その反面。梨沙子の話を信じてくれる一方で、その態度にはハッキリと協力する気のない様子が見て取れた。
石川は肩まである髪の毛を邪魔臭そうにかきあげながらケータイの時刻表示を見つめると、「あ。もう、こんな時間だ・・・」と呟いた。
「悪いんだけど。あたし今からバイトだから、ごめんね」
「え?あ・・・そ、それじゃぁ・・・」
バイトが終わった後に――と言おうとしたが、
その先を察知したのか、石川は「申し訳ないけど」と前置き、言葉を続けた。
「幽霊とかそー言うの、あたしはもう、かかわりたくないの」
「え・・・」
「今は、ファミレスでバイトしてる」
- 119 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:48
- 確かに、霊媒師にはとても見えないスタイル。
彼女を霊媒師と言われても梨沙子はイマイチ信憑性を感じなかったけど、ファミレスでバイトと言われれば納得な気がした。
何も言えないまま、ただ石川をじっと見つめる梨沙子。すると、石川はハッキリとした口調で答えた。
友達がこの世に取り残されたのは残念だとは思うけど・・・霊媒師を辞めた今となっては、あなた達に協力する理由なんて何もないと。
「それにあたしにはその桃子って子は見えないから、何も解からない。最近は霊感も弱まってるの。残念だけど・・・」
そう言って梨沙子を見つめる石川。
その目が梨沙子に「諦めなさい」と語っていた。
- 120 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:49
- 確かに。桃子が梨沙子の隣りで石川の顔をじっと見つめているが、石川は桃子に気づいてる様子は微塵も感じられない。
桃子を見えている人間なら、何が何でも縋る意義もあるのかもしれないが、見えていない以上は、霊媒師を辞めたと言う人間にこれ以上縋るのも、迷惑な気もした。
おとなしくその場を離れようとする梨沙子。
だが。最後に梨沙子は振り返り、 「でも、1つだけ聞いていいですか?」と、問いかけた。
それは、どうしても気になっていた違和感でもあった。
「あの。石川さんはなんで初対面のあたしの・・・こんな突拍子もない話、アッサリ信じてくれるんですか?」
いくら元々が霊媒師だったからと言って、そんな簡単に『友達が幽霊になって取り残された』『自分はその友達の幽霊を見ることが出来る』なんて絵空事、信じてくれるものだろうか?
桃子の姿が見えているならともかく、石川に桃子が見えている様子は全くない。
それなのに、石川は断りこそすれ、疑い1つ持たずに梨沙子の話を受け入れてくれた。それはなんだか逆に、奇妙な感じがしたんだ・・・。
- 121 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:49
- すると。
石川はクスクスと笑うと、その細身の肩をすぼめた。
「フフ。別に、あなたの事を信じてるワケじゃないわよ」
「え?」
「そうでなきゃ。佐紀が『生きてる人間』と一緒になんて、いるわけないってだけの事・・・」
「・・・・・・・」
「佐紀が『生きてる人間』と一緒にいるって事が、あなたの言ってることが真実である、何よりの証拠」
そう言って石川は笑うが、いまいち石川の言う意味が梨沙子には解らなかった。
不思議そうに隣の佐紀を見つめるが、佐紀は押し黙ったままで特に何かを言う様子もない。
もう、これ以上何も言う事が出来ず・・・梨沙子たちは渋々、佐紀の自宅を後にした。
- 122 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:50
-
- 123 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:50
- お寺の境内へと戻ると、さっきまで眩しかった入り日は、随分と地平線へと沈んでいた。
辺りは薄暗い空に包まれている。
境内の階段に腰掛ける梨沙子。その目は不満そうに、社の前に立つ佐紀を見つめた。
「ねぇ。なんで・・・お姉さんに何も言ってくれなかったの?」
「ごめん」
小さく呟き、俯くしかない佐紀。
もっとも、こんな状況になって困っているのは梨沙子と桃子であり、本来は佐紀にはなにも関係のないこと。
佐紀を責めるのはお門違いなのかもしれないけど、少しのフォローはしてくれてもいいんじゃないかと梨沙子は思っていた。
だけど、申しわけなさそうに俯いている佐紀からポツリと発せられた言葉は、極めて衝撃的な事実であった。
- 124 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:51
- 「ごめんね。うち、もう3年ぐらい。生きてる人間と話してないんだ・・・」
「え?」
「うち。最近はもう、幽霊としか会話してない。お姉ちゃんとも、何年も喋ってない」
予想外の返答に、思わず言葉を失う梨沙子と桃子。
そんな2人を見て佐紀は頼りない表情で薄く笑っていた。
今にも夕陽と一緒に消え入りそうな、寂しい笑顔。
- 125 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:52
- 佐紀は言う。
小さい頃から幽霊が見えて、やがてどんどん霊力が強まっていった。
中学に上がるころには。いつしか霊と会話が出来るほどに。
「でも、そんなうちを、みんな気味悪がった。そりゃそうだよね。みんなが見えないものが見えるんだもん」
「・・・・・・・・」
「1人で何も居ないほうを向いてブツブツ喋ってるようにしか見えないもんね。みんなには・・・」
佐紀の言葉を聞き、梨沙子は俄かに、昼間のえりかと舞美の言葉を思い出した。
えりかも舞美も、梨沙子の知る限り、凄く優しくてイイ子達だと思う。
だけど、そんな2人ですら、ハッキリと佐紀を「気味が悪い」と敬遠していた。
「生きてる人間は、うちの事を気味悪がったり陰口叩いたり、時にはイジメたりする」
あのえりかたちですら、佐紀を気味が悪いと拒む。
ましてや、他の子達なんかはどうなんだろう?考えるだけで、寒気がしてくる。
「でもね。幽霊はみんな、うちに優しくしてくれるんだ」
「・・・・・・」
「幽霊の殆どは、この世に1人で取り残されて寂しいから・・・姿を見ることが出来るあたしに、凄く優しくしてくれる」
そう言って佐紀は桃子の顔を見つめた。
そんな佐紀に桃子は、何かを言いあぐね、困ったようにその場に俯くしかなかった。
- 126 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:53
-
「うちは生きてる人間より、死んで幽霊になった人間の方がずっと好き」
- 127 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:53
- 佐紀はハッキリとした口調で言った。
生きて自分を侮蔑したり悪口言ったり苛めたりする人間よりも・・・霊が見れる自分を縋って慕って頼ってきてくれる、死んだ幽霊の方がずっと好きだと。
人間の友達なんていらない。自分には幽霊の友達がいれば、なにもいらないと。
そんな佐紀の言葉を聞き、梨沙子は初めて、さきほど石川が言っていた言葉を理解した。
「そうでなきゃ、佐紀が『生きてる人間』と一緒になんて、いるわけない」と、石川は言っていた。
生きてる人間と3年も交流を断絶しているハズの佐紀が、梨沙子と一緒にいる。
それは梨沙子の言うとおり、桃子と言う霊が2人の間に存在しているから。その理由に他ならないと石川も解っているのだろう・・・。
- 128 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:54
- だけど、そう考えると同時に、梨沙子はある疑問を胸に抱いた。
そして何気なく。梨沙子はその疑問を投げかけてみた。
「ねぇ・・・じゃぁ。あたしはどうしてなの?」
「ん?」
「確かにももは死んでるけど。あたしは生きてる人間だよ?なのに、なんで話しかけてくれたの?」
すると、佐紀はクスッと笑い肩をすぼめた。
石川とは全く似ていない姉妹だと思ったけど、笑い方はちょっとだけ似てるなと、梨沙子は思った。
「だって。あなたはうちと同類だもん」
「同類・・・?」
「幽霊が見えるあなたは、うちを気味悪がったり嫌ったりなんてしないでしょ?」
「・・・・・・・」
- 129 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:55
- 何も言えない梨沙子。
確かに、昔からの幼馴染の雅や、仲良しの友理奈と千奈美。友達のみんな。
自分には親友と呼べる人間は沢山いる。
だけど・・・彼女らは所詮。桃子を見ることが出来ない。
確かに自分は、佐紀を気味悪がったり嫌ったりなんてしないだろう。
それどころか。桃子の幽霊を見ることが出来る自分は、佐紀が「自分も幽霊を見ることが出来る」と言った瞬間、泣いて縋りたい程の気分だった。
誰にも相談なんてすることが出来ず不安で不安で仕方なかったけど、佐紀の一言で何か物凄く救われた気がしたんだ。
多くの霊を見る事が出来る佐紀と、桃子の霊しか見ることの出来ない自分。
違いはあれど、自分達は紛れもなく同類なんだと思う。
そして実際。この件に関してはもう――頼れる人は佐紀しかいないのかもしれないと思った。
- 130 名前:第2章 幽霊を見る少女 投稿日:2008/06/27(金) 23:56
-
日が沈む。
落日は闇に沈んでいく。
お寺の社を照らすオレンジ色の光も、やがて全て、闇へと飲み込まれていった。
(第2章 幽霊を見る少女 FIN)
- 131 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/27(金) 23:57
-
- 132 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/27(金) 23:57
-
- 133 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/28(土) 00:01
- 今日はここまでー。
8月に入るととっても忙しそうなので、
更新ペース、ちょいと速めます。
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/28(土) 05:02
- 更新お疲れさまです!
Berryz工房からのあと一人のメンバーはどんな役どころになるのかなあとちょっと気になったりしてますw
次も楽しみにしてます!
- 135 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/28(土) 23:45
-
第3章 枯れないフリージア
- 136 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/28(土) 23:50
- 1
あの、土砂降りの日から2週間が過ぎた――。
- 137 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/28(土) 23:50
- 梨沙子は部屋のカーテンを大きく開く。
朝6時。早朝の爽やかな空気が、梨沙子の部屋の中を満たした。
いつもより早い朝食。そして7時ちょっと過ぎに、いつもより30分ほど早い登校。
梨沙子が玄関でいそいそと靴を履いていると、ふと、桃子が後ろから不思議そうに問いかけてきた。
「今日。早いね?」
「うん、ちょっと用があって」
「そっか・・・。ねぇ、ももも途中まで一緒に行っていい?」
「ん?なんで?」
梨沙子が驚いた様子で振り返ると、桃子は「最近、もも。川原を散歩しているんだよね」と言って肩をすくめた。
ずっと家にいると、気持ちが滅入ってくる。
だからなるべく外に出るようにしてて、特に最近は川原をよく散歩していると桃子は答えた。
- 138 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/28(土) 23:51
- 確かに・・・。
梨沙子が学校に行っている間は1人でヒマだろうし、散歩ぐらいは積極的にした方がいいと思う。
そんな事を考えながら梨沙子は「じゃぁ、学校にも来ればいいじゃん」と問いかけた。
「どーせみんなに見えないから、来ても平気だよ?」
だが、桃子は難しい顔でうーんと唸ると、梨沙子の顔を見て小さくかぶりを振った。
「いいや。みんなから見えないのが逆に辛い」
「・・・・・・・・・・」
「みんなと話したくなっちゃうもん」
- 139 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/28(土) 23:52
- 桃子の回答。
それを聞き、なんだか悪い事を聞いてしまったような気がして、梨沙子が申しわけなさそうな表情を浮かべる。
すると、そんな梨沙子をフォローするように桃子は笑いかけた。
「でも。梨沙子や佐紀ちゃんと話せるから、ももは寂しくないよ?」
実際。申しわけなさそうな梨沙子をフォローする言葉でもあったが、同時にそれは本心でもある。
梨沙子は勿論、最近は佐紀も交えて3人で一緒にお話をする事が多くなった。
もしも世界に1人ぼっちだった事を考えると、自分を見えてくれる人間が2人もいるって事は、凄く幸せでラッキーな事なんだと思う。
もし誰からも見てもらえず、ひとりぼっちでこの世界に取り残されていたら、今頃気が狂ってたかもしれない。
- 140 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/28(土) 23:52
-
- 141 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/28(土) 23:53
- 早朝の街並み。
肩を並べて2人で学校への道を歩いた。
家が近所の2人は、いつも学校までの道のりを一緒に登校していた。
今日は2週間ぶりの一緒の通学路。桃子はなんだか懐かしく感じ、嬉しそうに鼻歌を歌った。
だが・・・。
いつも学校へと向かう、裏路地。
しかし、梨沙子はどう言うわけか、いつもの通学路から少しルートを外れた。
裏路地へと向かわず国道を通って行く梨沙子。
「あれ?どこ行くの?」と、不思議そうな桃子を横目に、梨沙子がまっすぐ向かったのは、国道沿いの花屋だった。
花屋に入っていく梨沙子をポカンと見ている桃子に、梨沙子はクスッと笑いかけた。
「知ってる?もも?毎日学校の友達と交代で、ももの机にお花あげてるの」
「え?」
「まだ一度も欠かしたことないんだよ?だからももの机は、毎日お花が咲いてるの」
「・・・・・・・」
「みんなももの事好きなんだね〜」
梨沙子の言葉に暫し言葉を失う桃子。
そして、次第にポカンとしたその表情に、柔らかさが満ちてくる。
「そっか・・・なんか、嬉しいな」
- 142 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/28(土) 23:54
- 梨沙子は桃子に好きな花を聞く。
フリージアが一番好きと言うので、梨沙子は花束の中にピンクのフリージアを選んだ。
ニコニコと嬉しそうに、その花束を見つめている桃子。
そんな嬉しそうな桃子を見て、やっぱり3学期が終わるまで、お花当番は続けてあげなきゃな〜と梨沙子は思った。
そして、2人は花屋を離れる。
花屋から、2人がバイバイする交差点まで、色々な事を話した。
桃子のクラスの子はもちろん、他のクラスの子や、友理奈たちの様な年下の子まで、有志で毎日花をあげてくれてると梨沙子は言った。
そう言う話を聞くと、やっぱり幽霊だって嬉しくて嬉しくてしょうがないのが本音。
嬉しくてなんだか桃子は、顔がニヤケてしまう。
「なんだー。みんなこっそり、あたしの事、愛してくれてたんだね〜」
「キモいとか言われてたのにねぇ」
2人で一斉に笑いあう。
すると、すぐ側を通っていたサラリーマンが不思議そうに梨沙子を顧みて、おもわず2人で口を噤んだ。
誤魔化すようにその場に俯く梨沙子に、桃子はクスリと笑いかける。
「ちょっと〜。梨沙子、怪しい人に思われてるよ」
「そっか。みんなももの姿が見えてないんだよね・・・」
桃子と2人で肩を並べて歩くのが、余りに当たり前だったから。こうして話していると、そんな事も忘れてしまう。
梨沙子は歩きながら、ぼんやりと佐紀の言葉を思い出していた。
『生きてる人間は、うちの事を気味悪がったりする』と、佐紀は言っていた。
なんとなく解る気がする。
こうして佐紀は、少しずつ周りの人間から敬遠されていったんだろう・・・。
- 143 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/28(土) 23:55
-
やがて、2人がバイバイする交差点に辿り着く。
交差点を右に行くと学校の方面。左に行くと川原の遊歩道へ出る。
桃子は梨沙子の方を顧みると、その手をあげた。
「それじゃ。ももは、川原の方に行って散歩してくるね」
「うん、じゃぁ、ここでバイバイだね」
「いってらっしゃい」
そう言って桃子は梨沙子を見送るように手を振った。
梨沙子もそれに返すように、右手をゆるやかに振り、歩き出す。
だが、その瞬間だった。
不意に梨沙子が立ち止まり、「あれ?」と呟いた。
- 144 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/28(土) 23:56
-
「え?なに?」
思わず桃子は振り返る。
そこには、立ち止まっている梨沙子。そんな梨沙子の目線の先には、交差点のガードレールの下に供えられた、一輪のフリージアがあった。
小さな花瓶に供えられ、小さく揺れている赤いフリージア。
「あれ?フリージアだね・・・」
桃子が不思議そうに呟いた。
梨沙子がさっき買ったのと、同じようなフリージア。
花瓶の中で、頼りなく風に吹かれて、揺れていた。
「なんでこんなトコにあるんだろ?もも」
「さぁ?」
そう言って、桃子は難しい表情で首を傾げた。
その瞬間だった・・・。
桃子はなんだか奇妙な気配を感じ、不意に顔を上げた。すると――。
- 145 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/28(土) 23:56
- 交差点。
そこで、桃子の目に不思議な光景が飛び込んでくる。
交差点では、デニム地のスカートと赤いTシャツを着た女の子が、ガードレール脇に佇んでいる姿が見えた。
そして、その少女は何を思ったのか・・・まっすぐに、赤信号の交差点を渡って行ったのだった。
「な!!」
桃子の中のカラッポの心臓が、激しく警報を鳴らす。
「ちょ!ちょっと!」
思わず声をあげる桃子に、梨沙子はビックリした様子で「ど、どうしたの?もも?」と問いかけた。
だが、赤い服の少女はこちらの様子など気づく事無く、当たり前の様に赤信号の交差点をまっすぐに渡ろうとする。
すると。信号の向こうからは、ブレーキ1つ踏まずに交差点に飛び込んでくる、4tトラックの姿が見えた。
トラックは躊躇わない。少女も躊躇わない。
時速60キロぐらいのスピードで飛び込んでくるトラックは、そのまま交差点を渡ろうとする少女に、ブレーキ1つ踏む事無くつっ込んできたのだった。
- 146 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/28(土) 23:57
-
「きゃ・・・キャーーー!!」
- 147 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/28(土) 23:58
- 完全に轢かれた・・・。
思わず悲鳴を挙げ、手で顔を覆い隠し、その場に目を伏せる桃子。
シーンと静まり返る交差点。だが・・・。
「ど、どうしたの?もも?」
「・・・・ふぇ?」
梨沙子の不思議そうな声に、桃子は伏せていた顔をあげた。
そして、桃子は目線を上げ恐る恐るに交差点を見る。
だが、そこには何もなかった・・・。
あったのは、当たり前の様に交差点を通り抜けていく4tトラックと、何事もなかったかのように交差点を渡りきる少女の姿。
- 148 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/28(土) 23:58
- 「え・・・?」
桃子は凍りついた。
確かにあの瞬間、トラックと少女はぶつかるタイミングだったのに。どうして・・・。
一体、この交差点で何が起きたのか??
桃子は興奮した様子で「梨沙子。い、今!!あの子・・・」と言って少女を指差し、梨沙子の顔を見た。
だが梨沙子の返答は、至極キョトンとした面持ちで「え?あの子って誰よ?」と、訝しげに眉根を寄せるだけだった。
- 149 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/28(土) 23:59
- 「へ?」
梨沙子の返答に、桃子は指を差したまま言葉を失う。
その指の先には赤い服の女の子。彼女は交差点の向こう側に付くと、ボーっと空を見上げていた。
目が大きくて、自分より遥かに背の高い女の子。
桃子は遠くからその少女をじっと見つめた。
そうしていくうちに、不意に何か違和感を感じた気がした。
そして桃子はふと、その違和感に気づく。
交差点にはギンギンに降り注ぐ朝の日差し。
だが。少女の足元には、影がなかった。そして、微かだが後の景色を透過させている体。
「・・・・・・・・・・・・・・」
桃子のカラッポの心臓が、ドクドクと激しい音をあげた気がした。
足元に供えられた真っ赤なフリージアだけが、交差点の風に揺れ続ける。
- 150 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/29(日) 00:00
-
- 151 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/29(日) 00:00
- 2
今日で何日が過ぎたろう?
月は300以上は昇った。くわしい数はよくわからない。
交差点に風が吹く。
スポーツカーが激しいエンジン音を吹かし、交差点を通り抜けて行った。
メタリックシルバーのスポーツカー。
そう、あの時の車もそうだった。メタリックシルバーの車体が赤く染まった姿を思い出す。
茉麻はじっと、通り抜けてゆく車を見つめていた。
すると、車に気をとられ油断していた茉麻の背後から、突然に声が聞こえた。
「いつから・・・ここにいるの?」
「?!!!」
茉麻の大きな目が丸く見開かれる。
振り返ると、見開かれた茉麻の目の前には小柄な少女。彼女は人懐っこい笑顔で笑っていた。
そして、ただただ言葉を失い愕然としている茉麻に、少女は楽しそうに問いかけたのだった。
- 152 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/29(日) 00:01
-
「大丈夫?まるで幽霊でも見たような顔だよ?」
- 153 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/29(日) 00:02
- いたずらな顔でクスクスと笑う女の子。
その彼女の一言で、全てを悟った気がした。
茉麻は震える声で問いかけた。
「まさか、あなたも・・・?」
「あたしは桃子。嗣永桃子・・・」
桃子は手を差し出す。
僅かに躊躇ったあと、茉麻はギュッと桃子の手を握った。
「私は。須藤茉麻・・・」
手からは暖かな体温を感じたような気がしたが、きっと気のせいだろう・・・。
- 154 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/29(日) 00:02
-
- 155 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/29(日) 00:03
- 日の光は低く交差点を照らす。
赤いフリージアは、日に照らされて、太陽の様にきらめいていた。
「ココに取り残されて1年かな?」
「1年・・・」
交差点で茉麻が空を見上げながら、ボソッと呟いた。
長い年月。桃子は思わず顔を顰めた。
「正確にはわかんないけど、毎日ヒマだったから・・・月が昇る回数ばっか数えてた。300回以上は昇ったから、きっと1年弱」
1年・・・想像をしてみる気にもなれない。
桃子は遣る瀬無い表情で俯き、かぶりを振った。
自分はわずか2週間程度で気が滅入ってるのに、1年間も。気が遠くなりそうだ・・・。
「まぁはずっと、ここにいるんだ」
「え?ずっとこの場所に?」
「ももは色んな場所にいけるんだね。いいな」
そう言って茉麻は薄い表情で微笑んだ。
そんな茉麻を、桃子はキョトンとした顔で見つめる。
色んな場所に行けるんだね・・・その意味がつかめなかった。
「どう言う事?まぁは色んな場所に行けないの?」
「まぁはきっと・・・地縛霊なんだと思う。この交差点を離れることが出来ない」
「・・・・・・・・」
- 156 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/29(日) 00:03
- フリージアが揺れる。
桃子は何も言えず、じっと茉麻の横顔をだけを見つめた。
地縛霊――。
一体なにが起きて彼女はこうなってしまったんだろうと、桃子は瞬時に思った。
足元に揺れるフリージアも、そう。
地縛霊になって1年も、この世に取り残されてしまった茉麻。
一体この交差点でなにが、彼女の身に起きたのだろうか?
このフリージアは、一体どう言う事なのだろうか?
- 157 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/29(日) 00:04
- 桃子がそんな事を思いながら、交差点で揺れるフリージアに目線を向けると、
茉麻は桃子の思惑を察したのか、「そのフリージアは、ある人が供えてくれてるんだ」と答えた。
ふと、茉麻を見あげる桃子。
茉麻はぼんやりとフリージアを見つめながら、呟いた。
「まぁは、自動車に跳ねられた。でも、信号無視で飛び出したんだから、ホントはまぁが悪いんだ」
だけど・・・。
誰が悪いのかなんて、きっと誰にも解らない。
誰が悪いのかなんて、そんな事、問題じゃない。
「意識が沈んでいく瞬間。車から飛び出して駆けつけて来た柴田さんの表情が、今でも忘れられない」
柴田さん?
話の流れからして、茉麻の事を轢いた人物なのだろうか?
桃子は困惑の表情で、交差点に供えられた一輪のフリージアを見た。
すると・・・
「これはね。絶対に、枯れないフリージアなんだ」
フリージアを見つめる桃子の耳にそんな言葉が聞こえてきて、桃子はキュッと目を細めた。
一輪の枯れないフリージアは、ただ風に吹かれ、揺れていた。
この世界に1人取り残された、憐れな霊魂の様に。ただ寂しく・・・風に吹かれて――。
- 158 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/29(日) 00:05
-
- 159 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/29(日) 00:05
-
- 160 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/29(日) 00:06
- 今日はここまでー。
- 161 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/29(日) 00:08
- >>134さん
残りの1人はこんな役どころでした。
これでベリメン出揃いましたわ。
ル*’ー’リ<ウフフ
- 162 名前:名無し飼育 投稿日:2008/06/29(日) 02:33
- りしゃももまぁ゚+。:.゚ヽ(*´∀`)ノ゚.:。+゚
正確にはももまぁですが^^;
更新毎回楽しみにしてますがんばってくださいませ!
- 163 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:05
- 3
2−Bの教室。
窓際の一番前の席で、日光にキラキラと照らされ、花瓶の中で輝くフリージアの花束。
机に伏したまま、じっとそれを見つめている雅。
また涙が溢れ出し、千奈美がそっとその背中を撫でた。
「綺麗だね。フリージア」
千奈美の言葉に、雅が伏したままコクリと頷いた。
早朝の少し騒がしい教室内。
そんな雑音がまるで別世界の様に、窓際の席では静まりかえった空間が広がっている。
すると、しんみりとしたムードを打ち破るように友理奈が、雅の背中をポンポンと叩き、
「明日はうちの番だね。なんのお花選ぼうかな〜!」と、明るく笑った。
そしてそれに同調するように、今度は舞美が「で、その次はあたしだよね」と言って、嬉しそうにガッツポーズをしている。
「ももが喜んでくれそうなお花、選んでくるね!!」
- 164 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:06
- 友達たちの暖かなやり取り・・・。
だが、雅は机に伏したままピクリとも動かない。伏せられたままの顔。
梨沙子が様子を伺うように、雅の机にそっと手を置くと、不意にその手をギュッと握られた。
握られた雅の手は震えている。
悲しみは未だに消えない・・・。
梨沙子は雅の手の震えを押えるように、ギュッと手を握り返した。
暖かな手の温もりが伝わって来て、切なくなる。
そんな2人の隣りで、千奈美が嬉しそうにお花を見つめながら、笑って言った。
「これからも、毎日交代でお花あげて・・・ぜったいに枯らさないようにしようね!!!」
- 165 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:06
-
- 166 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:07
-
「1年間。柴田さんは1日だって花を供えることを忘れなかった。だから絶対。この花は枯れないんだ」
- 167 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:07
- やがて、日も高くなる。
交差点で2人きりで会話を続ける桃子と茉麻。
そうしているうちに、桃子は不意に人の気配を感じ、後ろを振り返った。
すると。すぐそこには、肩ぐらいまでの髪の毛の、綺麗な女性。
彼女には、自分達の姿は映っていない。その目は、桃子たちの姿を捕らえてはいなかった・・・。
彼女は何もないかの様に桃子と茉麻の前を素通りすると、ガードレール下に供えられた、フリージアの前にしゃがみ込む。
そんな彼女の手には、新しい一輪の赤いフリージアが大切そうに抱えられていた。
- 168 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:08
-
(この人が・・・柴田さん?)
桃子がじっとその様子を見ていると、不意に茉麻が動き出した。
茉麻は、フリージアの前でしゃがみ込んでいる柴田のすぐ後ろに立つと、柴田に呼びかけるように、こう言った。
「もう。まぁの事は忘れていいんだよ?柴田さん」
「・・・・・まぁ」
「飛び出したのはまぁだもん。自業自得。柴田さんは悪くない」
届くはずのない声は、ただ空間に取り残される。
柴田は言葉に気づく事無く、ただじっと、風に揺れるフリージアに手を合わせ続けていた。
赤いフリージアが太陽に照らされ、燦燦と輝く。
- 169 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:09
- 「柴田さんの名前を知ったのはずっと後。柴田さんの友達なのかな?たまたま一緒に来て、その時に呼んでるのを聞いて、名前を初めて知った」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「だから、下の名前は知らない。死んでから初めて出会ったような人だもん」
柴田には2人の姿は決して見えない。
やがて祈りを終え、真っ青な顔で供えてあったフリージアを手に取ると、新しいフリージアを花瓶へ供える。
茉麻は柴田の背中越しに、ぼんやりと呟いた。
「でも、柴田さんはこの事故を忘れない。まぁのせいで柴田さんは、笑顔を失ってしまった」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「もういいよ、柴田さん。まぁは、アナタの事を恨んでないから・・・」
だが、声は届かない。
僅か1メートルにも満たない距離。
この距離はきっと、何億光年よりもずっと遠い。
「このフリージアが枯れない限り。まぁは成仏できないような気がする」
「・・・・・・・・・・」
「柴田さんがまぁの事を忘れて笑顔を取り戻さない限り、まぁはきっと・・・」
- 170 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:09
-
- 171 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:10
- 日差しが差し込む、明るい教室。2−Bの教室。
握られたままの、梨沙子と雅の手。
やがて、雅が机に顔を伏せたまま、ポツリと 「梨沙子・・・」と、呼びかけてきた。
「なに?」
梨沙子は机に手をつき、しゃがみ込む。
すると、雅は机に伏したまま、搾り出すような弱弱しい声で呟いたのだった。
「梨沙子も、知ってたんだね?ももが、フリージア、好きなの」
「え?」
「もも、言ってた。フリージアが、一番好きって・・・」
「・・・・・・・・」
「だから、選んだんで、しょ?梨沙子・・・」
- 172 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:10
- キュッと心が締め付けられた。
知ってたわけじゃない。さっき初めて、桃子に聞いたんだ。
でも・・・そんな事を言えるはずもない。「うん。前にももに聞いたの」と言って、話をあわせた。
雅は梨沙子の手を握ったまま、ポツリポツリと言葉を続けた。
「フリージア。ももは、やっぱピンクが好きって・・・言ってた」
「・・・・・・・・」
「ももは、ホント、ピンクが好きだったよね・・・」
「うん。そうだね、みや」
笑顔で頷く。
瞬間、梨沙子の心がキリキリと痛んだ。
- 173 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:11
-
みやはももが、フリージアを好きなのを知っていたんだ。
みやは、ももが好きだったから。
きっと、自分の知らないももを、みやはいっぱい知っているんだ・・・。
- 174 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:11
- だけど・・・梨沙子は思う。
それでも、雅はもう、桃子の事を新しく知ることは出来ないんだ・・・と。
自分はつい今朝方。桃子に『フリージアが好き』と聞いた。
桃子を見ることが出来る自分は、新しい桃子をたくさん知ることが出来る。
でも、雅は違う・・・。
もう雅は、桃子と話す事がない。笑いあう事も出来ない。
新しい桃子を知る事が出来ぬまま、花が枯れていくみたいに、
あとは、記憶が枯れていくだけ・・・。
「ねぇ、梨沙子・・・。お花、絶対、枯らさないように、しようね?」
途切れ途切れ。涙声でゆっくりと呟く雅。
梨沙子はそっと雅の髪の毛を撫でながら、「うん・・・」と優しく微笑んだ。
- 175 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:12
-
きっと雅は、涙も思い出も枯れ果てるまで。こうして泣き続けるのだろうと思った――。
- 176 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:12
-
- 177 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:13
- 4
交差点に真っ赤な夕日が沈む。
どれだけ長い間、2人で喋っていたのだろう?
茉麻はよく喋った。まるで1年分の沈黙を全て取り戻すかのように。
桃子は殆ど喋る事無く、茉麻の話をうんうんと聞いていた。
気づけばあたりは夕焼けに沈んでいた。
「ごめん。1人で喋ってばっかだったね」
「ううん、いいよ」
「1年ぶりに誰かと喋れて、すっごい嬉しかった」
「そうだよね・・・」
桃子は頷いた。
自分には梨沙子がいる。その事がどれだけあり難いことだったのか、身に染みて感じる。
1年間ひとりぼっち。それはどんな気分なんだろう・・・。
- 178 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:14
-
「もも、そろそろ帰るね?梨沙子、戻ってきてるかもしれないし」
「例の幼馴染?」
「うん、そう」
殆ど聞き手に回っていた桃子だったけど、梨沙子の事は少しだけ話した。
その間、茉麻はずっと羨ましそうに、梨沙子の話を聞いていた。
「いいな、話し相手がいて」
「・・・・・・・・」
寂しそうに俯く茉麻。
梨沙子には茉麻の姿が見えていないであろう事は、朝の様子でわかった。
紹介してあげたいけど、きっと紹介の仕様もない。
「でも、これからは話し相手にももがいるじゃん」
「そうだね。そうだよね・・・」
桃子の言葉に茉麻は嬉しそうに笑う。
そしてそれは、自分自身にも――。
話し相手が増えることもそうだけど、同じ境遇の人間(もう人間じゃないか・・・)が増えることが嬉しかったし、心強かった。
- 179 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:14
- そんな事を2人で話していると、不意に茉麻は、ある疑問を桃子に投げかけてきた。
「でもさ。なんでその梨沙子ちゃんは・・・ももの姿だけが見えるんだろう?」
「さぁ・・・」
「まぁの事は見えてないんでしょ?」
確かに。疑問ではあったが、梨沙子が自分を見てくれる事に安心して、深くは考えなかった。
どうして梨沙子は、自分の姿が見えるんだろう?
そしてどうして、茉麻の姿は・・・他の幽霊の姿は・・・見ることが出来ないのだろう?
茉麻は寂しそうにため息をつき、呟いた。
「あぁ〜あ。まぁの姿も見えてくれれば良かったのにな・・・」
- 180 名前:第3章 枯れないフリージア 投稿日:2008/06/30(月) 00:15
- だが。それを聞いた瞬間、桃子はハッとした表情を浮かべた。
茉麻の姿も見えてくれればよかった・・・その言葉を聞き、脳裏に浮かぶ1人の顔があった。
「あ・・・」
「?」
「あの子なら、ひょっとして、まぁを見ることが出来るかもしれない」
「え?!」
そう。梨沙子以外にもう1人いる。自分を見ることが出来る少女。
昔から、色々な幽霊を見ることが出来ると言っていた女の子。佐紀――。
「今度、その子連れてくるよ、まぁ!!多分、あの子ならきっと・・・!!」
「・・・・・・・・・・・」
交差点に夕日が沈む。
太陽の様に赤く輝くフリージアが、風に揺れる。
交差点を駆け抜けてゆく、何台もの車。国道を通る、人々の喧騒。
全てから取り残され、2人はただ、互いの顔だけを見つめていた。
(第3章 枯れないフリージア FIN)
- 181 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/30(月) 00:16
-
- 182 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/30(月) 00:16
-
- 183 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/30(月) 00:16
- ここまでー。
- 184 名前:kappa―! 投稿日:2008/06/30(月) 00:18
- >>162さん
あら、そんなに喜んで戴けるとはww
応援ありがとうございます。がんばりますよー。
- 185 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/05(土) 00:24
- 先の展開がまったく読めないのですごく楽しいです。
更新お待ちしております。
- 186 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:35
- 1
「ねぇ、もも。この問題、どーやって解くの?」
「これはねぇ・・・」
早朝の菅谷家。
梨沙子の部屋では、頭を抱えて数学の教科書を広げている梨沙子と、そんな梨沙子に勉強を教えてあげている桃子の姿があった。
「も〜!昨夜のうちにやっときなよぉ、梨沙子」
「ごめん。忘れてたの。でも、ももがいて助かったー!」
「あたしは家庭教師じゃないんだからね」
「あはは。解かってるよ」
そう言って調子よく笑っている梨沙子。
そしてノートをしまうと、急いで制服に着替えカバンを手に取る。
「じゃ、行って来るね、もも!!」
「いってらっしゃーい」
呆れ顔で手を振る桃子。
梨沙子はパタパタと忙しなく階段を駆け降りて行った。
あの事故から、3週間。
未だに桃子はこの世に取り残されたまま、梨沙子の部屋に住まわせてもらっていた。
- 187 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:36
-
「まったく。ヒト使いが荒いんだからなぁ〜」
呆れ顔で笑う桃子。
だが、騒がしい梨沙子がいなくなると、部屋の中が急にシーンと寂しく感じる。
なんとなく桃子が、梨沙子の散らかりまくった机の上を見ていると、教科書の下に写真が何枚か置いてあるのが目に止まった。
去年、桃子と梨沙子と雅で遊園地に遊びに行った時のスナップ写真。
桃子は手を伸ばして写真を見ようとする。だが、手は写真を掴む事無く、虚しくすり抜けた。
「・・・・・・・・・・・」
時々。
梨沙子と一緒に話していると、自分が幽霊である事を忘れる。
そして忘れた後に、こうして自分が幽霊である事を思い知らされる・・・。
- 188 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:37
- 何かを振り払うように、ブンブンとかぶりを振る桃子。そして、ボソッと呟く。
「まぁに会いに行こ・・・」
地縛霊の茉麻は、いつも交差点にいる。
梨沙子が学校に通っている日中は、川原で散歩をしてから交差点に向かい、茉麻に会いに行くのが日課になっていた。
だが、茉麻に出会ってから、桃子の中にはある疑問が浮かぶようになっていた。
- 189 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:38
-
茉麻は自分を地縛霊だと言った。
じゃぁ、ももは?
自分は一体、何者なんだろうか?
そして、何故・・・梨沙子は自分が見えるのか?
何故、梨沙子は。自分しか・・・見えないのか?
- 190 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:38
- 決して答えなんて出そうもない疑問。
桃子はフゥと息を吐くと、梨沙子の机に散らばっている教科書を眺めた。
学校の授業ではこんな問題は一度も出なかった。サイン コサイン タンジェント。そんなの知ってた所で、なんにも解決なんてしない。
「学校の授業って、ホント、無駄だったんだなぁ〜」
そんな事を呟く桃子。
そして桃子は梨沙子の部屋を離れ、いつもの川原へと向かった。
机の上には教科書と・・・3人の思い出が取り残されたまま。
- 191 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:39
-
- 192 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:39
- 2
昼休憩時間。
教室の窓際の席で、花が揺れる。
梨沙子が2−Bの教室を訪れると、そこには可愛らしいピンクの花束があった。
じっと見つめていると、不意に梨沙子の後から、雅がポツリと呟いた。
「ヒナギク」
「?」
「ももの誕生花」
- 193 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:40
- 今日は雅の当番だった。
3週間が経ち、雅も少しは、事故の痛みから立ち直ったようだった。
先週まではロクに昼食すら取らなかったけど、ここ数日はちゃんと、お弁当を食べるようになってきた。
でも・・・。それでもきっと。
雅は今も、悲しみに囚われたままの様な気がした。
「ヒナギクの花言葉は、『明朗』とか『無邪気』とか『お人よし』とか――」
「・・・・・・・・・」
「ホント。朗らかで無邪気でお人よしだったよね、もも・・・」
目を細め、ヒナギクに触れる雅。
照らしつける太陽が、ヒナギクの花と雅の横顔をキラキラと輝かせた。
綺麗だな・・・と、梨沙子は思った。
- 194 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:41
-
そんな雅たちの様子とは裏腹に。
昼休憩時間の教室は騒がしく、窓際の席のすぐ側では、男子がふざけあってプロレスごっこをやる姿もあった。
大笑いする男の子たちの声。
やがて、調子に乗ってプロレスごっこをしていた男子の1人が、桃子の机に大きく体をぶつけた。
その瞬間。花瓶が机の上で、激しく傾く。
「あ!!!」
咄嗟に梨沙子が手を伸ばし受け止めようとするが、あと少しのところで手が届かなかった。
花瓶は机の上で大きく倒れ、水をぶちまける。
男子は花瓶が倒れる音を聞き、ハッとした様子で振り返った。その時だった・・・。
- 195 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:42
-
「なにしてんのよ!!!」
雅の怒鳴り声。
そして雅は、自分の机に置いてあった学生カバンを、血相を変えて男子に投げつけた。
激しい怒鳴り声と、カバンのぶつかる音に、教室内は瞬時にシーンと静まり返った。
- 196 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:43
- 「あ、ご・・・ごめん」
雅の異常なまでの剣幕な様子に青ざめる男子。
申しわけなさそうに、今一度呟く。
「ご、ごめんな・・・夏焼」
雅は桃子の机に近づくと、倒れた花瓶を元に戻す。
ばら撒かれたヒナギクの花も、一本一本拾い上げる。
それを見て、他の子とオシャベリしていた千奈美も、雅の元へ駆けつけ、いそいそと手伝ってあげた。
「男子。ホント、サイテー!!!」
千奈美が横目で見ると、男の子は申しわけなさそうに頭を下げ、縮こまっていた。
きっと彼に悪気はなかったんだろう事は、その様子から掴めた。
- 197 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:48
-
梨沙子も雅や千奈美と同じようにヒナギクを拾い上げ、手伝ってあげる。
そして、水の零れている机を雑巾で丁寧に拭いていると、雅がポツリと隣りで呟いた。
「あと・・・もう1個」
「え?」
「花言葉――『幸福』」
なんだか急に、梨沙子は悲しい気持ちに陥った。
きっと。雅はまだ、桃子の事を好きなんだと思った・・・。
- 198 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:48
-
今朝、自分は桃子に勉強を教わってきた。
- 199 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:49
- いっぱいおしゃべりをした。「行って来ます」を言ってきた。桃子は今も、すぐ側にいる。
でも、雅はそれを知らない。
大好きな人が、今もこの世に取り残されている事を知らない。
「ねぇ、みや」
「ん?・・・なに?」
「ももは――」
思わず口にするが、すぐに梨沙子は口を噤む。
桃子が幽霊になって自分と一緒に暮らしている事を知ったところで、一体どうなるんだ?
例えそこに桃子が居ても、雅は桃子を見ることが出来ない。話すことも出来ない。
知ったところで、余計つらいだけじゃないか。
- 200 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:49
- 「・・・どうしたの?梨沙子」
不思議そうに問いかける雅に、梨沙子は優しく笑いかけた。
精一杯の笑顔を作って微笑んだ。
「ももは――きっと、幸福だね。こんなにみんなに愛されて・・・」
「うん・・・」
雅が嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔がまた、梨沙子の胸をキリキリと締め付けた。
- 201 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:50
-
- 202 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/05(土) 00:50
-
- 203 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/05(土) 00:51
- ちょい短めですが、今日はここまでー。
- 204 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/05(土) 00:54
- >185さん
ありがとうございます。
前半はもう少しこのまま、悲しい雰囲気に徹していきたいと思います。
- 205 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:32
- 3
川原の遊歩道。
休日にもなれば、釣りをする親子や犬の散歩をするOLで賑わう遊歩道だが、平日ともなるとひと気も少ない。
桃子が川原の遊歩道に辿り着くと、そこでは、いつものおじいさんが犬を連れて遊んでいた。
「ほれ、ジョン。取って来い」
おじいさんが投げたボールを嬉しそうに追いかけるビーグル犬。
桃子の目の前を走りぬけ、ボールを咥えると、嬉しそうに尻尾を振っておじいさんの元へと戻ってくる。
「いい子じゃ、ジョン。ビーフジャーキーじゃぞ!」
尻尾をふって甘えるビーグル犬。ガツガツとビーフジャーキーを口に含んでいる。
おじいさんは毛並みを揃える様に、よしよしとジョンの頭を撫でていた。
そんなやり取りを、楽しそうに見ている桃子。
- 206 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:32
- 桃子は幽霊になってからほぼ毎日、川原の遊歩道を散歩するのを日課にしていた。
そして、ここを散歩すると、よくおじいさんとジョンのお散歩に遭遇した。
もちろん、おじいさんに桃子の事は見えない。桃子は一方的に、おじいさんを見ているだけ。
だけど。不思議なんだけど・・・ジョンは時々、桃子の方を振り向く事が何度かあった。
振り向いて、キョトンとした丸い目を桃子へと向ける。
それはあくまで、偶然なのかもしれないけど、もしかしたら動物の本能的なもので桃子の存在に気づくのかもしれない。
そして。それがともかく、桃子は嬉しかった。
「じゃぁね、ジョン。またね〜」
誰かに気づいてもらえる・・・。
そんな、たったそれだけの事だけど、不思議なぐらい嬉しかった。
- 207 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:33
-
- 208 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:33
- やがて。川原の遊歩道を離れ、桃子は交差点へと向かう。
すると、そこではすでに佐紀と茉麻が集まっており、2人で楽しそうにおしゃべりをしている姿が見えた。
「あ、ももー!!」
茉麻が桃子に気づき、大きく手を振る。
だが、桃子は手を振り返しながらも、目線は不思議そうに佐紀を見た。
「あれ?学校は?」
「うん・・・・」
「いいの?」
「3人でお喋りしてる方が楽しいから」
そう言って佐紀は笑っていた。
茉麻と出会った翌日、桃子は佐紀をこの交差点へと連れてきた。
佐紀はやっぱり、茉麻を見ることが出来たのだった。
そして最近は、よく3人で時間を過ごしている。なんて事ない会話で、日没まで話している。
- 209 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:34
-
「あはははは」
茉麻のおちゃらけた言動に、佐紀が楽しそうに笑う。
すると、すぐ近くを歩いていた買い物途中の主婦が、不審そうに佐紀を顧みた。
そして主婦2人で、気味悪そうに顔を顰めながら、なにやらヒソヒソと話していた。
「・・・・・・・・・・」
それを見て、桃子は何も言えなくなって黙り込んでしまう。
梨沙子と話してるときもそうだ。
時々自分でわからなくなるけど・・・他の人間には、自分と茉麻の姿は見えていないんだ。
たとえ3人で仲良く喋っていた所で、周りの人間には当然、佐紀が1人で喋ってるようにしか見えないんだろう。
桃子は心配そうに佐紀を見るが、佐紀は苦笑いで肩をすくめるだけだった。
「だいじょうぶ。うち、慣れっこだから」
「・・・・・・・」
「こうやってどんどん、周りの人間に気味悪がっていかれたんだ・・・」
佐紀の言葉に、思わず顔を見合わせてしまう、桃子と茉麻。
だが、佐紀は「気にしないでいいよ」と笑った。「周りの人間なんてどうでもいいから」・・・と。
そう。初めて会った日にも、佐紀は言っていた。
自分は生きてる人間より、死んで幽霊になった人間の方がずっと好きだ。
だから、周りの人間に気味悪がられても、桃子や茉麻とオシャベリできる方が、ずっと嬉しいと・・・佐紀は言う。
- 210 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:35
- 確かに、自分達はこの世に取り残された霊魂。
寂しい自分達は『自分を気づいてくれる人たち』に縋らざるを得ない。
現に犬のジョンが、自分の存在に気づいてくれるだけでも、桃子は嬉しくて仕方がなかった。
それがましてや、佐紀の様に会話が出来るとなれば尚更だ。
そして、佐紀にとっても。
自分を不気味がったり陰口を叩いたりイジメたりする生きた人間よりも、
自分に縋って頼ってくれる幽霊の方が、ずっと優しくて居心地の良い存在なのだろう。
なんとなくだけど、わかる気はした・・・。
- 211 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:35
-
でも、だけど。
本当にそれでいいのだろうか?
- 212 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:36
- 生きてる人間よりも、死んだ人間と一緒にいる事を選ぶと言うこと。
それは、生きてると言えるのだろうか?
自分を殺してるようなモノなんじゃないか?
自ら死の世界に足を踏み入れてるようなモノなんじゃないか?
- 213 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:36
-
何か言いた気な桃子の目線に気づいたのだろう。
佐紀は「・・・・・・ももが、何を言いたいのかわかるよ」と呟き、俯いた。
キュッと唇を噛む、寂しそうな横顔。
「だから、お姉ちゃんは。幽霊を嫌うんだ」
「お姉さんが?」
「うちがいつしか幽霊にしか心を開かなくなったから。だからお姉ちゃんは、霊に関わる仕事を捨てて、ファミレスとかで働くようになったの」
「・・・・・・・・・」
「お姉ちゃんは・・・幽霊を忌み嫌っている」
佐紀の言葉に、桃子はキュッと唇を噛んだ。
幽霊の立場にある自分だけど、桃子は石川の気持ちが良く解るような気がした。
姉は姉なりに、妹を誰よりも大切に思っているんだろう・・・と思う。
だけど、その気持ちはきっと通じない。佐紀は俯いたまま、ポツリと呟いた。
「でも、うちは。生きてる人間は好きじゃない。みんな大嫌い」
「・・・・・・・・・」
「死んだ人間の方がずっと好き」
それぞれの想い。それぞれの言い分。
なんとなくだけど、どちらの言い分も間違ってはいない気がした。
だから・・・分かたれた姉と妹は、きっと、解かり合えない。
- 214 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:37
-
- 215 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:37
- 4
学校では、5時間目終了のチャイムが鳴る。
日直の梨沙子は友理奈と一緒に、物理で使った教材を職員室へと運んでいた。
重そうな荷物をよいしょと持ち直す梨沙子。友理奈が隣りから「だいじょうぶ?」と言って荷物を支えてくれる。
そんなやりとりをしながら職員室へと向かうと、そのすがら、2人は2−Bの教室の前を通りかかった。
教室のドアは閉まっているから、中の様子は見えない。梨沙子がじっと、2−Bの教室を横目で見ながら歩いていると、友理奈が隣りでポツリと呟いた。
- 216 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:38
- 「みや。早く元気を取り戻すといいね・・・」
「うん・・・」
友理奈の言葉にコクリと頷く梨沙子。
正直。みんな大切な友達の死にショックを受け、気持ちが参っているのは一緒だった。
だけど、雅の傷の深さは相当・・・。
昼休憩の時の様子を見れば、それは一目瞭然だったし、なんとかして元気付けてあげたいとも思った。
友理奈は教材のダンボールを抱えたまま、小さくため息を吐いた。
「ハァ〜。どうしたら、元気づけられるのかなぁ?」
「わかんない。どうするのがいいのかな・・・あたしたち」
目を細め、梨沙子は呟くように答えた。
幽霊になって取り残された、桃子の事もそう。
この先。どうする事が正しいのか、自分達には何も解からない・・・。
- 217 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:38
- そんな事を話しながら、2人はやがて職員室へ辿り着く。
そして、梨沙子が荷物を抱えたまま、片手で扉を開けようとすると、それより少し早いタイミングで職員室の扉が開いた。
「飯田先生。ありがとう御座いました」
そう言って挨拶をしながら出てきたのは、佐紀の姉の石川だった。
梨沙子は、予期せぬ人物の登場にびっくりして荷物を落としそうになり、慌てて友理奈が隣りから教材を押えてくれた。
- 218 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:39
- 「あ、石川さん!!」
「あなたは・・・」
目を丸くして互いに顔を見合わせる2人。
梨沙子の隣りでは友理奈が、教材を押えながら不思議そうに2人の顔を交互に見ている。
しばし見つめ合う2人。
すると、石川は何かを考えるように目線を逸らしたあと、「ねぇ、あなた。授業はいつ終わるの?」と、梨沙子に問いかけてきた。
突然の質問に、梨沙子は一瞬、戸惑う。
「え?あ・・・と。今日はもう、このあとの帰りのHRで終わりです」
「そう・・・。ねぇ、放課後にちょっとだけお話したいんだけど、いいかな?」
お話?一体なんだろう?
不審には思ったけど、梨沙子には特に断る理由はなかった。
石川の問いに梨沙子は少しだけ躊躇った後、コクリと頷いた。
「ありがと」
そして梨沙子は石川に、HRが終わったら学食に来るよう告げられた。
石川はそれだけ伝えると、一足先に学食に行ってると言って、職員室前の廊下を東階段の方へと歩いて行った。
呆然と、石川の背中を見送る梨沙子。
すると。そんな2人のやりとりを見ていた友理奈が、不思議そうに梨沙子に尋ねた。
「なに?知り合い?今の人」
「うん。まぁ・・・」
- 219 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:40
- 2人は職員室へと入り、教材を物理の教師へと返す。
そして梨沙子は、職員室の手前の席へと向かうと、職員室の机の上で出席簿などを纏めている飯田に、恐る恐る声を掛けた。
「あの・・・飯田先生」
「ん?どうしたの?菅谷さん」
「石川さん。先生に用があったんですか?」
すると、
飯田は至極意外そうな表情を浮かべ、首をかしげた。
「え?菅谷さん。石川さん・・・知り合いなの?」
「まぁ、ちょっと。」
「あの人は2年C組の佐紀ちゃんのお姉さんで、お母様がいないから、進路指導とかはいつも彼女が来るの」
- 220 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:40
- そう答えながら、飯田はHRで配るらしきプリントを揃えている。
プリントには授業参観が云々と言った内容が書かれていた。
そんなプリントを見つめながら梨沙子は、『じゃぁ授業参観の時は、やっぱり石川さんが来るのかな?』・・・と、思った。
と同時に、梨沙子はふと感じたのだった。
石川はきっと佐紀を大切にしているんだろう、と。だからこうして、学校にも顔を見せるんだ。
「・・・何かあったんですか?佐紀ちゃん」
梨沙子がそう言って問いかけるが、
飯田は困ったような表情を浮かべながら、「ま。色々ね・・・」と言って、言葉をはぐらかすだけだった。
- 221 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:41
-
- 222 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:42
- 放課後のチャイムが鳴り響く。
HRが終わり梨沙子がいそいそと学食へ向かうと、窓際の席でコーヒーを飲んでいる石川の姿があった。
「お待たせしました」と言って梨沙子が石川の元へ向かうと、「何か飲む?」と聞いてくれ、梨沙子にコーヒー牛乳をご馳走してくれた。
「ありがとう御座います」
ペコリと頭を下げ、石川の隣りに腰掛けた梨沙子は、コーヒー牛乳をひと口、口に含んだ。
甘い味が口の中にいっぱいに広がって、なんだか疲れを癒してくれる。
しばしの間、2人で無言で飲み物を口に含んでいると。
「今日。佐紀の事で飯田先生から呼び出しがあってね」と、唐突に石川が話し始めた。
- 223 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:42
- 「最近、佐紀。学校サボってるんだって・・・」
心当たりがないか聞かれるが、ハッキリとは解からない。
だけど。確信はないが、なんとなくだけど・・・解かる気もした。
生きてる人間と交流を断絶しているハズの佐紀が、学校に来ないで、誰と一緒にいるのか。
答えなんて、1つしかない様な気がした。
「もしかしたら。ももと一緒にいるのかも・・・」
「そう。きっとそうね・・・」
- 224 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:43
- 石川はコーヒーを一口飲み込むと、フゥとため息をついた。
梨沙子はその隣りで、チビチビとコーヒー牛乳を口に含む。
コーヒーと牛乳の甘い香り。
そう言えば佐紀ちゃんが『牛乳は嫌い。だからコーヒー牛乳も飲めない』って前に言ってたなぁ・・・なんて事を思っていると。
「ねぇ、梨沙子ちゃんだっけ?あなた、佐紀と話せるんでしょ?」
「あ。はい・・・」
「あたしはもう、3年ぐらい、口を訊いてもらえてない」
石川の言葉。梨沙子は思わずその言葉に顔を顰めてしまった。
3年。同じ家に住んでいるのに、3年・・・。
佐紀は言っていた。生きてる人間は好きじゃない。死んで幽霊になった人間の方が好き――と。
それは、例え姉妹でも変わらないんだろう。
例え姉妹でも、生きてる人間は好きじゃない・・・。
- 225 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:43
-
「ねぇ。桃子って子に伝えて。佐紀に、もう、近づかないで・・・って」
「い・・・え・・・!?」
突然の言葉に梨沙子は目を丸くする。
一瞬、何を言われてるんだかわからなくて梨沙子が言葉を失っていると、石川は深刻な面持ちでその言葉を続けた。
「あの子は。佐紀は。幽霊に取り憑かれてるようなものなの」
「・・・・・・・・」
「このままじゃ、あの子はどんどん、生きながらに死んでいく――」
幽霊と心を交わしていくうちに、いつしか佐紀は幽霊としか心を交わせなくなった。
佐紀の側に幽霊がいる限り、佐紀はきっと、生きてる人間の元へは戻らない。
幽霊のせいで、佐紀は生きてる人間たちの側から居場所を失ってゆく・・・。
だから、もう二度と。幽霊である桃子には、佐紀へと近づかないでくれ。
そう伝えて欲しいと石川は言った。
だけど――。
- 226 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:44
- 梨沙子は俯き、キュッと唇を噤んだ。不満気な表情。
確かに石川の言いたいことはなんとなくわかる。
でも、だけど・・・。
「ももは佐紀ちゃんに取り憑いたりしないよ。優しい子だもん!!」
梨沙子は思わず言葉を荒げる。
なんとなく、桃子が侮辱されてる様な気がして、気が気じゃなかった。
すると、そんな梨沙子を宥めるように、石川は「そうね、ごめんなさい」と言って肩をすくめ、その言葉を続けた。
「確かに、言い方が悪かったかな?」
「・・・・・・・・・」
「でもね。向こうに悪気がなくっても、生きてる人間が死んだ人間に関わる事自体が、すでに問題なの。解るでしょ?」
「・・・・・・・・・」
「あなたも。気をつけなさい。霊に関わると、あなたも佐紀と、同じ運命を辿るかもしれないわよ」
そう言って石川は目を細め、じっと梨沙子を見つめる。
その目がまるで、何か梨沙子の心を見透かすかのように見え、梨沙子は無言のまま、その目線を伏せた。
- 227 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:45
-
- 228 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:46
- 5
夕暮れの下校路。
学校からの帰り道、梨沙子はカバンをプラプラ提げてアスファルトの上を歩いていた。
放課後に石川に会ったため、いつもより遅い下校。夕日が西の空に沈んでいる。
そして。歩いているうちに梨沙子は、いつものお寺の前に差し掛かった。
ふと、なんの気なしにお寺の中に目を向けてみると、境内の階段の前に桃子が立っている姿が見え、梨沙子はその足を止めた。
- 229 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:46
- 「・・・もも?」
桃子はボンヤリと空を見上げていた。
寂しそうな目。恨めしそうにじっと、天を仰いでいる。
一体、なにをしているんだろう?
ゆっくりとした足取りで梨沙子が近づくと、不意にお寺の砂利道が音を立て、桃子はハッとして振り返った。
「梨沙子・・・」
「どしたの?もも」
梨沙子が問うと桃子はフッと微笑み「空、見上げてた」と言って、再び虚空に目を向け、その目を細めた。
オレンジ色の空と、真っ赤な夕陽。
桃子は空を仰いだまま、ポツリと呟いた。
- 230 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:47
-
「この空の向こうに、天国はあるのかな?」
- 231 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:47
- 梨沙子は境内の階段に腰を掛ける。カバンを階段に置く。
そして桃子と一緒に、空を見上げた。
夕日がオレンジ色に空を染めている。ため息が出るほど、綺麗な空。
どうなんだろう?この綺麗な夕日の向こうに天国はあるのかな?
だとしたら、天国はきっと、美しい世界なんだろうな――。
- 232 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:48
- 目を細め、空を仰ぐ2人。
やがて、梨沙子は境内に腰をかけたまま、ポツリと問いかけた。
「ねぇ、もも。佐紀ちゃんは一緒じゃないの?」
「さっきまで一緒だったけど、今さっき、帰ったよ」
「そっか・・・」
石川の言葉を思い出す。もう、佐紀には近づくな・・・と。
伝えようか一瞬迷ったけど、やっぱり止めた。
- 233 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:49
- 桃子は優しいから。それを伝えればきっと、言葉通り佐紀へは近づかなくなるのは解っていた。
でも。天国にいけない桃子は、この地上で人間に頼るしかない。
そんな桃子から、数少ない時間の共有者を奪うなんてこと、とてもじゃないけど出来ないと思った。
石川は言っていた。
佐紀をあんなにした幽霊を憎むと。
だけど、なんとなくだけど、本当に悪いのは幽霊だけじゃない様な気が、梨沙子はしていたんだ。
本当に悪いのは――。
- 234 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:49
-
- 235 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:50
- 「梨沙子・・・?」
桃子と梨沙子で夕日を見上げる。
すると。不意に梨沙子の名前を呼ぶ声が聞こえて、2人はそちらを振り返った。
その瞬間。
桃子と梨沙子の間で時がピタリと止まり、やがて、2人の声が同時に重なった・・・。
- 236 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:51
-
「「みや・・・」」
- 237 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:51
- 2人の目線の先には、雅の姿があった。
薄い笑いを浮かべながら、雅は夕陽の中、立ち尽くしていた。
茶色い髪の毛が、キラキラとオレンジの光に染まっている――。
「みや、どうして・・・」
梨沙子は境内の階段に立ち上がった。
微かに震えを帯びる声。
そんな梨沙子の問いに、雅は小さく微笑み、答える。
「久しぶりに来たくなったんだ・・・」
桃子が死んで以来、雅は一度も『いつものお寺』を訪れる事はなかった。
雅は懐かしそうに辺りを見渡す。
訪れなくなってたった3週間程度なのに、何年も来なかった様に懐かしく感じるから不思議と、雅は笑った。
「あたしたちの思い出の場所だもんね・・・」
- 238 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:52
- 微笑みながら、雅はゆっくりと境内の階段へと近づいてくる。
1歩2歩。
そして、境内の階段の前に立つ桃子の下へ、雅はゆっくりと近づいてきた。
思わず笑顔が零れる桃子。一歩前に立ち、桃子は近づいてくる雅を迎えいれる。
「みや・・・」そっと雅へと手を伸ばす桃子。「久しぶりだね、みや・・・」
- 239 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:53
- だけど――。
雅の体は何事もなかったかのように、雅を迎える桃子の体をすり抜ける。
桃子に全く気づく事のない雅。桃子の幽体をすり抜け、雅はまっすぐ、階段に立つ梨沙子へと歩み寄った。
何も言えず・・・呆然と立ち尽くすしかない梨沙子。
階段の下にいる桃子の背中が、微かに震えているのが見えた。
解かっていた。
雅には桃子の姿が見えないのは、2人とも最初から解かっていた。
でも・・・。
- 240 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:54
- 「よくここでさ、梨沙子とももとうちで遊んだよね」
嬉しそうに雅は笑っていた。
懐かしそうに境内の柱に触れ「ほら、昔書いた落書きもある!」と、微笑む。
そして。雅は境内を降りると、その隣りにある、大きな桃の木にそっと手を触れた。
新緑に染まる桃の木。
しばし桃の木を見上げたあと、雅はコツンと木に額を押しつけ、ギュッと目を閉じ、言った。
「この木の下でね。一度だけももに・・・好きって・・・言ったことある」
「みや・・・。」
「うちね。ももの事が、ホントに、大好きだった・・・。なのに・・・なんで・・・」
やがて、ポロポロと零れ落ちる涙。嗚咽を漏らして木に縋る雅。
梨沙子が雅の肩に手を触れると、雅は泣きながら梨沙子の体にしがみついた。
抱き寄せる事も何も出来ず、梨沙子はただ立ち尽くした。
雅の肩越しに、桃子が唇を噛んで悲しみを堪えている姿が見え、どうしようもなく心が痛くなる。
- 241 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:54
-
そう・・・。
悪いのはきっと、幽霊だけじゃない――。
- 242 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:55
- 幽霊を見る事が出来ない、周りの人間も悪いんだ。
周りの人間が幽霊を見る事が出来るなら、佐紀も周りの人間に気味悪がられる事なんてなかった。
周りの人間が幽霊を見る事が出来るなら、桃子もこんなに傷つく事もなかった。
周りの人間が幽霊を見る事が出来るなら、雅だって好きな人を失った悲しみに囚われる事はなかった。
気づいて貰える事のない、取り残された哀れな霊魂たち。
- 243 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:56
-
もし、周りの人間が幽霊を見る事が出来るなら・・・・・・。
- 244 名前:第4章 見えざる想い 投稿日:2008/07/06(日) 20:56
- 交差点でフリージアが揺れる。
目を閉じ、自分の罪を悔いるように祈り続ける柴田。茉麻はその背中に呟く。
「もう、忘れていいんだよ?柴田さん・・・」
声は決して届かない。
こんなに近くにいるのに。恩赦の声は決して届かない。
きっと、みんなが幽霊を見る事さえ出来るのならば、こんなにみんな・・・悲しい想いをすることなんてなかったのに。
(第4章 見えざる想い FIN)
- 245 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/06(日) 20:57
-
- 246 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/06(日) 20:57
-
- 247 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/06(日) 20:59
- 今日はここまでー。
ちょっと長めの更新した記念に、一旦あげますww
- 248 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/07(月) 22:22
- ここの桃子いいですね
- 249 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:12
- 1
雨の遊歩道。
川原では桃子が、ぼんやりと水面を見ながら佇んでいた。
激しい雨が川に波紋を作り、草木を叩き、地面を容赦なく濡らしてゆく。
「今日は来ないかな、ジョン・・・」
桃子は身を乗り出し水面を覗き込んでみるが、水面に自分の姿は映っていなかった。
そう。傘も何も差さなくても、このカラッポの体は濡れる事はない。
だけど、おじいさんとジョンは、この雨ではきっと散歩どころではないのだろう。
「もう、帰ろっ・・・」
誰も居ない川原。雑音のない空間。
雨音だけがいつまでも一定のリズムを奏で続けていた・・・。
- 250 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:12
-
- 251 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:13
- 1年A組の教室。
窓の外では、雨音が絶える事無くザーザーと音を奏でる。
3時限目は退屈な世界史の授業。
梨沙子はぼんやりと、雨に濡れるグラウンドを教室の窓から見下ろしていた。
雨で誰もいないグラウンド。
だが、いつもならこの時間は、グラウンドでは2年B組の生徒達が校庭で体育の授業をしていた。
ホンの2、3ヶ月前もそうだった。
マラソンの苦手な桃子がグラウンドをビリッケツで走っていて。雅が「がんばれー」って笑いながら桃子にあわせたスピードで併走していて。
そんな2人を、こうして教室の窓から見下ろしていたっけな・・・。
今日は雨――。
2年B組の授業は体育館で行われているのだろう。
そして、たとえこの雨が止んだとしても・・・あの日の風景は、もう二度と戻って来ない。
桃子と雅が幸せそうに笑い合う姿は、もう見れない。
- 252 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:15
- そんな事を思いながら、梨沙子が一定のリズムでグラウンドを叩く雨の音に耳を傾けていると。
隣の席の友理奈がチョンチョンと梨沙子の腕をたたいた。
不思議そうに振り返ると、友理奈が不意に梨沙子へと小声で問いかけてきた。
「ねぇ、梨沙子。週末さ・・・4人で久しぶりに遊ばない?」
「え?4人?」
「うん。梨沙子とうちとちーちゃんとみやの4人」
そう言って頷いた後、友理奈はふとその表情を曇らせた。
目線はぼんやりと窓の外のグラウンドを見つめる。
「さっきね。ちーちゃんと話してたんだ。どうしたらみやに元気出して貰えるかって・・・」
そう言って寂しそうに俯く友理奈。
- 253 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:16
-
桃子が死んで1ヶ月がたった。だけど、雅は変わらない。今も悲しみの中・・・。
今も雅の心の中には、激しい雨が降り続けていた。笑顔なんて今だ殆ど見せる事がなかった。
そしてそんな雅を、梨沙子だけでなく、友理奈も千奈美も、みんな心配し案じていた。
- 254 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:16
- 「うちらもずっと遊びになんて行く気にならなかったけど・・・丁度いい機会かなぁって。ちーちゃんと言ってたんだ」
「うん、そうだね。いい考えだと思う」
梨沙子はその言葉に同調し、そっと頷いた。
すると友理奈は嬉しそうに微笑み、「でしょ?」と言った。
確かに・・・。
この1ヶ月間、みんなは悲しみのあまり、楽しもうという気にすらなれなかった。
だけど。このままじゃみんなきっと、参ってしまう。
前向きに楽しむ事も、そろそろ自分達には必要なのかもしれない。
「じゃぁ週末は、4人で遊園地行こうよ!!」
そう言って笑顔を見せる友理奈。
梨沙子は柔らかな笑顔を見せ、コクリと頷いた。
グラウンドは相変わらず激しさを増す雨。
ぼんやりと窓の外を覗きながら、週末はいい天気になってくれるといい・・・と梨沙子は思った。
- 255 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:17
-
- 256 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:17
- 2
「週末ね。遊園地行く事になった」
「へぇ。いいじゃん!」
梨沙子の部屋。
TVの前に座り込み、TVに釘付けになりながらも、桃子はそう言って声をあげた。
桃子は連ドラが好きらしく、梨沙子の家に居候するようになってから、しょっちゅうTVを見ていた。
そもそも、幽霊が夕方から再放送の連ドラを見て感動しているんだから笑ってしまう。
「でも。ちぃもみやも熊井ちゃんも、絶叫マシーンが好きだから、ちょっと不安」
「あはは。梨沙子はももと一緒で、ジェットコースター苦手だもんね」
- 257 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:19
- 熱心にドラマを見ながらも、桃子はちゃんと梨沙子の話は聞いてるらしく、楽しそうに笑い声をあげていた。
やがて、TVがCMに入る。
CMに入るとTVの音が若干うるさく感じたのか・・・「ねぇ、梨沙子。音量下げて〜」と言って、桃子は梨沙子の方を振り向く。
「はいはい」
梨沙子は笑いながらリモコンで音量を下げてあげた。
TVの中では綺麗な女優さんが、清潔な笑顔を振りまきながらお茶のCMをしている。
「もも、この女優さん好きー!」と言って、嬉しそうに嬉しそうにTVに釘付けになる桃子。
だが、音が小さくなり、なんとなくさっきよりも話がしやすくなった感じはする。
梨沙子はTVの中で笑う女優さんをぼんやりと見つめながら、先ほどの言葉を続けた。
- 258 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:20
- 「でも、あたしはジェットコースター苦手だけど、みやはジェットコースター好きだからさ」
「・・・・・・・・・・」
「遊園地行って、少しでもみやに元気出して貰おうって、熊井ちゃんと話したの」
「そっか・・・」
「1カ月経った今も、みやは引きずってる・・・」
梨沙子がそう言うと、桃子は複雑な表情でその場に俯いた。
そんな桃子に、梨沙子はニコッと笑いかける。
「愛されてたんだね、もも」
「うん・・・」
梨沙子の言葉に、桃子は柔らかい表情で何も言わず、相づちだけを交わした。
そう。桃子はいつも・・・生きていた頃からそうだった。
雅の話になると、こーしてすぐにはぐらかした。
梨沙子が雅を好きな事を知っていて、雅が桃子を好きな事を知っていたから。
いつもこうして桃子は、雅の話になると気を使ったり、はぐらかしたりした。
- 259 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:21
-
「・・・・・・・・」
TVを見続けている桃子。
梨沙子はその背中をじっと見つめた。
雅の言葉を思い出す。あの夕暮れのいつものお寺で、雅は言っていた。
「一度だけ、ももに好きって言ったことがある」・・・って。
桃子がこうして話をはぐらかすたび、いつも思う。
じゃぁ、桃子の気持ちはどうだったんだろう?
いつも話をはぐらかす桃子だけど、桃子は雅の事を、ホントはどう思っていたのだろうか?と。
- 260 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:22
-
- 261 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:22
- 連ドラが終わる。
6時のニュース。週末の天気予報のコーナーを見ながら、桃子が嬉しそうに声をあげた。
「あ。週末はチョー晴れるって!!良かったね〜!!!」
TV画面に映る、週末の予報。
太陽の晴れマーク。
だけど、梨沙子の心の中は晴れないまま。
桃子は一体、雅の事をどう思っていたのだろうか?
「ねえ、もも」
「ん?」
「みやの事・・・好き?」
ストレートすぎる質問。
自分でもなんで、こんなにストレートに聞いてしまったんだろうと、聞いた直後に後悔した。
だけど。そんな梨沙子に対して返ってきた答えは、質問以上にストレートな、桃子の返答でもあった。
- 262 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:23
-
「好きだよ」
- 263 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/08(火) 23:26
- 一言。物凄くハッキリとした口調で・・・。
そんな桃子の返答に、梨沙子は何も言えず目を見開くしかなかった。
だが・・・。
桃子は梨沙子の方を振り返りクスっと笑うと、いつものくしゃっとした笑顔で微笑みながら、言葉を続けた。
「好きだよ。みやも、梨沙子も、ちぃも、くまいちょーも・・・みんな大好き!!」
それは、いつもの桃子と同じ。
いつもと変わらない無邪気な言葉と、いつもと変わらない無邪気な笑顔。
桃子の雅に対する気持ちの真意。
それは、きっと。この先も梨沙子には語られる事はないんだろうと、思った。
- 264 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/08(火) 23:26
-
- 265 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/08(火) 23:26
-
- 266 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/08(火) 23:27
- 今日はここまでです。
- 267 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/08(火) 23:28
- >248さん
ありがとうございます。
そう言って戴けると、非常に嬉しいです。
- 268 名前:名無飼育。。。 投稿日:2008/07/10(木) 23:27
- お疲れ様です。
先の読めない展開&文章力に思わず魅き込まれてしまいます!
これからも応援していますので、頑張って下さい!
- 269 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:13
- 3
週末は、予報どおりよく晴れた。
適度に風のある気候は暑すぎず寒すぎず。まさに絶好の、行楽日和であった。
梨沙子たち4人は電車に乗り、海沿いにある大きな遊園地へとやってきた。
休日らしいごちゃごちゃした人ごみ。そんな人ごみを縫って、4人はちょうど遊園地のセンターに位置する巨大ジェットコースターに向かっていた。
「あれあれ!次!アレにのろうよ!!」
それは4人が遊園地に来て、2つ目のアトラクション。
千奈美はニコニコと笑いながら、遠くに見えるジェットコースターを指差していた。
レールがグルグルと4回転ぐらいしているジェットコースター。
乗り物が4回転ゾーンに差し掛かるたび、これだけの距離が開いているにも関わらず、悲鳴の様なモノが梨沙子たちの元まで聞こえて来ていた。
- 270 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:14
-
「うわぁ!!ちょー楽しそう!絶対楽しいよ、あのジェットコースター」
ハイテンションな口調の千奈美。
ピョンピョンと小さくその場に飛び跳ねながら、嬉しそうに雅の腕を揺さぶっている。
梨沙子は、そんな千奈美を後ろから見ながら、気を使っていつも以上にはしゃいでくれているんだなぁと思った。
そして、それは友理奈も同じで・・・。
「いこーよ、みや!!」
そう言って楽しそうに雅の手を引っ張る。
そんな賑やかな2人の間に挟まれ、当の雅も、相変わらず晴れない様子ではあったけど、それでもいつもよりはずっと楽しそうな感じがした。
両サイドの賑やかコンビに腕を組まれ、雅は笑いながら「うん。行こう!」と答えた。
- 271 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:15
- 人ごみをくぐり、途中のクレープ屋さんに目を奪われつつも、4人は巨大ジャットコースター乗り場に着く。
やはり、カンカン照りの休日は混み合っていて、40分ほど並んで、ようやく自分達の番だった。
待ってる間も、千奈美と友理奈はずっと賑やかにおしゃべりをしていた。それは、いざ順番が来たあとも――。
「ちょっと!熊井ちゃん!一番前だよ、一番前!どーする!?」
「うわぁ。怖そう!!やばい、マジ、やばいって!!」
もちろん、気を使って務めて明るく振舞っているのもあるのだろうけど。
単純に遊園地が楽しくて仕方ないって言うのもあるらしい。
千奈美と友理奈は楽しそうにジェットコースターの最前に座って、賑やかに笑っていた。
この1ヶ月間、みんな楽しむと言う事をしなかったから、久しぶりに心が解放されたのかもしれない。
ただ自分は、正直なトコ、ケラケラと笑えるような状況ではなかったのだが・・・。
- 272 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:16
-
「ジェットコースター苦手なんだよね・・・」
そう言って梨沙子がなんの気なしに呟くと、雅がジェットコースターの隣りの席から手を握ってきてくれた。
梨沙子が振り向くと、雅は心配そうに梨沙子の顔を覗き込んでいた。
「平気?梨沙子??」
「うん・・・」
「うち、ジェットコースター平気だから。手、握っててあげるね」
「ありがとう」
- 273 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:17
- 温かい手。優しく指を絡め、キュッと握ってくれる。ドキドキと心臓が高ぶってきた。
この胸の高鳴りは、ジェットコースターが怖いからか、それとも他の理由なのか。よく解らなかった。
ジェットコースターがガタゴトと動き出す。思わず目をきつく瞑る梨沙子。
(そう言えばももも、ジェットコースターが苦手だったな・・・)
発車直前、なんとなくそんな事を思った。
すると、不意に雅の握る手が強まった気がした。もしかしたら雅も、梨沙子と同じ事を考えたのかもしれない。
きっと雅は、自分ではなく、桃子と。こうしてジェットコースターに乗りたかったんだろうな・・・。
- 274 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:17
-
- 275 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:17
- あれから立て続けに2つ、絶叫マシーンに乗せられた。
3人は得意だからいいだろうけど・・・。
正直。苦手なジェットコースターを何個も乗せられ、フラフラな状態の梨沙子。
そんな梨沙子を憐れに思ってくれたのか、ベンチに座り込みグッタリしている梨沙子の背中をさすりながら、千奈美がすぐ側にあったお化け屋敷を指差していた。
「ね。次はさ、お化け屋敷行こうよ!!」
どうやらお化け屋敷はイマイチ不人気らしく、全く並ぶ事無く入れるような状態だった。
「うん・・・いいよ」
梨沙子は顔を上げ、コクリと頷く。
お化け屋敷もあんまり得意じゃないけど・・・。
これ以上、絶叫系に乗せられては体が持ちそうにないと思った。
- 276 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:18
- そして・・・。
お化け屋敷の中に入っても、相変わらず千奈美は物凄い賑やかぶりを発揮していた。
千奈美と友理奈。梨沙子と雅。2人づつで入る事になったお化け屋敷。
先に入ったのは千奈美と友理奈のペアなのだが、お化け屋敷の奥の方から、さっきから千奈美の悲鳴がギャーギャー響き渡っていた。
そしてソレと一緒に、友理奈の笑い声がこだましている。
- 277 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:19
- 「もう!ちーちゃんの悲鳴の方が怖いよ!!」
なんだか凄く、自由に楽しんでいる2人。
そして、そんな2人とは裏腹に、手を繋ぎながらモノ静かに歩いている梨沙子と雅。
特に怖がるでもなく、黙りこくるでもなく、梨沙子が平然とした様子で周りのセットやお化けをキョロキョロと物珍しそうに見ながら歩いていると、不意に隣で雅が笑った。
「なんか、意外・・・」
「え?」
「梨沙子ってお化け屋敷平気なんだ?」
なんか梨沙子ってお化けが苦手なイメージがあったと、雅は言う。
実際。前まではちょっとしたお化けの作り物でも、怖がって大泣きしてたじゃん、と。
ソレを聞き、思わず梨沙子は笑う。
「あぁ。それは・・・」
- 278 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:20
- お化けと暮らしているから慣れちゃった――。
なんて。言えるワケもない・・・か。
口から出掛かった言葉を飲み込み、梨沙子が誤魔化すよう
「んー。最近お化け、平気になったんだ」と笑う。
すると、「お化けか・・・」雅が虚空を見上げ、独り言の様にポツリと呟いた。
その言葉にきっと深いイミなんてなかったんだろうけど――それは凄く、梨沙子をドキリとさせる言葉だった。
- 279 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:20
-
「お化けでも幽霊でもいいから、もう一回ももに会いたいな・・・」
- 280 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:21
- 雅の言葉に、心臓が止まりそうになる。
梨沙子は目を見開いて雅を見るが、雅は虚空を見上げたまま虚ろな目をしているだけだった。
やがて。握られた手に、ギュッと力が入る。
揺れる眼差し。また雅が泣き出してしまうんじゃないかと思ったけど、泣く事はなかった。
じっと天井を見上げたまま、キツく手を握り締めているだけだった・・・。
- 281 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:21
-
- 282 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:22
- そして。4人は日が暮れるまで、いくつものアトラクションに乗った。
最初のうちは、雅も時々、色んなことを思い出していたようだったけど、元々雅は遊園地が好きだったから、その楽しさに次第に笑顔を取り戻していった。
色んなアトラクションに乗るうちに、声に出してケラケラと笑うようになっていた。
それには勿論。千奈美と友理奈が勤めて明るく振舞った努力もあったんだと思う。
「ちょっと疲れたよね〜」
そう言って千奈美は、大広場のベンチに腰掛けた。
歩きづくめで足がパンパン。今まで何度か遊園地には行ったけど、朝から夕方までここまで遊びつくした事は珍しい。
「もうフラフラだよーーー!!!」
「だって、絶叫系ばっか選ぶんだもん、ちーちゃん」
近くのクレープ屋からチョコバナナクレープを購入してきた友理奈が、千奈美の隣りに座り飽きれた様に笑った。
「そんなの疲れるに決まってるじゃん!」友理奈のもっともすぎる意見。
そんな友理奈の言葉につられて梨沙子と雅も「そうだよー」と笑った。
雅の手は、梨沙子の手につながれたままだった。
- 283 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:22
-
沈んでゆく夕日。
遠くで鐘のようなものが鳴る。6時のチャイム。
ベンチに座ってクレープを食べている千奈美と友理奈。
そして、しっかりと手を繋いだまま立ち尽くす、梨沙子と雅。
なんだか不思議な沈黙。
上空で雲が流れてゆく。空が夕焼けに染まる。
4人はただただ、ぼんやりと美しい空を見上げた。
- 284 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:23
- 「夕日・・・綺麗だね」
梨沙子が呟くと、雅がその隣りで「そうだね。すごく綺麗」と、頷いた。
キュッと強く握られる、雅の手。
そして雅は、眩しそうに両の目を細めると、まるで独り言の様に言ったのだった――。
- 285 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:24
- 「あの綺麗な夕日の向こうに天国があるなら。きっと天国はステキな所だね」
「・・・・・・・」
「きっと、最上の天国」
- 286 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:24
- 梨沙子は黙りこくる。
胸の中がキュッと締め付けられる。
夕陽の赤と、夕焼けのオレンジと、空の青。
3つが混じりあった、この美しい境界線の向こうに天国はあるのかな?
桃子が恨めしそうに天を仰いでいた、あの横顔を思い出す。
最上の天国は、きっとそこにある。
でも、桃子は最上の天国へ行く手立てを知らない。
そして。天国へ行く術を知らない桃子は、悲しい顔で空を見上げるしか出来ないんだ。
- 287 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:25
- じっと空を見上げたままの4人。
そうしているうちに、雅は空を見上げながら俄かにフッと笑顔を零した。
それは不思議なぐらいに柔らかい表情で、梨沙子は思わず雅の横顔を凝視した。
やがて、雅は一歩二歩とその足を進める。そして・・・クルッと身を翻すと、雅は3人の方へ笑顔で振り返った。
「みんな、ありがとね!ちぃも、熊井ちゃんも・・・梨沙子も」
「みや?」
「今日は、すごく楽しかった・・・」
空を見上げる。雅の横顔に夕陽が逆光となり、影を落とす。
その顔は寂しげだけれども。でも、それは今までにはない、どこか晴れ晴れとした表情でもあった。
夕陽のシャドーの中、雅は優しく笑っていた。
- 288 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:26
- 「そうだよね。こんな綺麗な空の上にいるんだもん。ももはきっと・・・幸せだよね?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「いつまでも悲しんでばかりじゃ・・・ももだって、安心して夕日の向こうから、うち達の事。見ていられないよね?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「急に忘れるなんて、出来るワケない。でも。なんかね。うち。少しずつだけど、忘れられそうな気がするんだ。ホンの、少しずつだけど・・・」
この悲しみも痛みも苦しみも、そう簡単になくすことは出来ない。
だけど、自分の周りには、沢山の友達がいる。
悲しみを忘れさせてくれる、大切な、生きている友達たち。
そんな友達たちと一緒に、時間をかければ少しずつ・・・少しずつだけど。切り裂かれるような痛みから、前に進めるような、そんな気が雅はしていた。
- 289 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:26
- そして。
そんな雅から告げられた、この1ヶ月間聞くことの出来なかった前向きな言葉に、千奈美と友理奈は嬉しそうに互いの顔を見合わせた。
思わず2人の顔に、笑顔が零れ落ちる。
「そ、そうだよ!みや!!この綺麗な空の上にももはいるんだよ!?きっと、天国はステキな世界だと、ちぃも思うよ?!!」
「ね!もものことだもん。きっと能天気に天国でバカンスしてるよね!!?」
そう言って友理奈も笑う。
2人の言葉を聞きながら、雅は頷き、「だよね?」と楽しそうに微笑んだ。
- 290 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:27
- そう。費える事のない痛みも悲しみも苦しみも。
消える事のない心の傷も。
友達たちとの、毎日の笑顔と会話と、過ぎ行く時間と共に・・・。
少しずつ、ホンの少しずつ・・・・心の隅へと追いやる事が出来るだろう。
雅は、そんな気がした――。
- 291 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:27
-
やがて。千奈美はクレープを一気に口に含むと、
どこか嬉しそうな面持ちでベンチから立ち上がり、夕日に向かって叫んだ。
「よーし!じゃぁ、最後に元気にフリーフォール乗るかぁ!熊井ちゃん!!!」
「えーーー!?まだ乗るの?ちぃちゃん!!?」
張り切っている千奈美と呆れ顔の友理奈。
その隣りで、アハハと笑っている雅。
久々に穏やかな笑顔が零れる、親友たちの時間がそこにあった・・・。
- 292 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:28
-
――しかし。
- 293 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:29
- そんな3人の空間から、梨沙子はポツンと取り残された。
唇が震える。
目の前には、楽しそうに顔を見合わせ笑っている3人。
だが、梨沙子は3人の横顔を見ながら、心の中でしきりに呟いた。
- 294 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:29
- 違う――。違うよ、みや。
ももはあの空の向こうにはいない。
今もこの地上に取り残されているんだ。
そう。ももは側にいる。みんなの側で、みんなを優しく、寂しく、見守っている。
なのに、みんなは少しづつももを忘れていくと言うの――?
- 295 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:30
- 心臓が痛む。 喉の奥が乾いて、ゴクッと生唾を飲み込む。
確かに。最初は梨沙子も、雅に忘れて欲しかった。雅に何もかも忘れて、笑顔を取り戻して欲しかった。
だけど、だけど・・・。
天国にも行けず、誰の目にも止まらず、少しずつみんなに忘れられていく桃子。
そうしたら桃子は。この世に寂しく取り残された桃子は、一体どうなってしまうのだろうか?
そうしたら・・・ももは・・・ももは・・・。
夕日が落ちる。
オレンジ色の光が、4人の女の子たちを包み込む。
楽しげに笑顔を零す女の子たち。
だが、その中で梨沙子だけが『取り残されている事』を、まだ、雅たちは気づいていなかった。
- 296 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:31
-
- 297 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/11(金) 02:31
-
- 298 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/11(金) 02:31
- 今日は、ここまでです。
- 299 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/11(金) 02:33
- >268さん
応援ありがとうございます。
楽しんでお待ちいただけると、こちらも文章を書く活力になります。
- 300 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/12(土) 00:40
- 初レスです
楽しく読ませてもらってます
- 301 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:12
- 4
真っ赤なフリージアが夕陽に染まる。
まるでもう1つの太陽の様に、キラキラと輝く。
いつもの交差点では、桃子と茉麻と佐紀の3人が、いつもどおり談笑をしていた。
「なんかさ。梨沙子、遊園地行ってるんだって」
そんな事を茉麻と佐紀に話している桃子。
きっと今頃は、4人で絶叫マシーンに乗ってワーキャー騒いでるんだろうな。
桃子はぼんやりと空を見上げ、羨ましそうに呟いた。
「いいなぁ〜遊園地。ももも行きたいなぁ〜」
とは言え、この体では絶叫系とか乗り様がないし。
そもそも絶叫系、嫌いだし。
言うほど遊園地が好きなワケではないのだが、ない物ねだり。行けないとなると、なんだか行きたくなるから不思議。
- 302 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:12
- 「でも、このスケスケの体じゃ、ジェットコースターとかムリだしね。うちら」
そう言って茉麻が笑うと、佐紀が名案とばかりに、「お化け屋敷とかなら行けるんじゃん?」と言った。
だが、佐紀の言葉に桃子はブンブンと大きくかぶりを振って、断固として拒絶する。
「イヤ!!ぜったいイヤ!!もも、お化け苦手だもん!!」
「あはは。自分もお化けのクセにぃ」
茉麻のツッコミにケラケラと笑う3人。
すると。通行人が不意に怪訝そうな表情を浮かべて佐紀を垣間見ていった。
ハッとして、口を噤む桃子。また、いつものクセで調子に乗って盛り上がってしまった・・・。
だが、当の佐紀は、全く気にしていない様子だった。
周りの人間から気味悪がられるのは、もう慣れていたし、周りの人間から取り残されようと、どうでも良かった。
桃子や茉麻と過ごす時間が、楽しくて仕方ないと言った様子だった。
- 303 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:13
-
- 304 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:13
- そして――。
石川は、遠くからそんな佐紀の背中をじっと見つめていた。
お昼過ぎに家を出て行った佐紀を、悪いと思いながらもコッソリとつけて来たのだが・・・。
辿り着くと、交差点で1人きり、佐紀は楽しそうに笑っていた。
それは異様な光景。
だが、きっと。その隣りには我々の眼には見えなくとも、霊が存在しているのであろう。周りの人間には見ることの出来ない、霊魂がきっと。
- 305 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:13
-
幽霊にしか心を開かない憐れな妹。
幽霊なんかと関われば、不幸になるだけなのに・・・。
- 306 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:14
- だけど、正直。どうしていいのか石川はわからなかった。
幽霊なんて無意味な存在と一緒に居ても、幸せになんてなれるワケがない。だけど・・・。
あんなに楽しそうな佐紀の笑顔、自分には絶対に見せてくれない。
佐紀はもしかしたら。あれで幸せなのかもしれないと、思った。
周りがたとえ、どう思おうとも・・・。
人間との関係を断絶し、死者と時間を共有する事が、この子にとって、一番幸せな事なのかもしれない。
そして。もしもそんな幸せな時間をムリに奪い取ったとなれば、佐紀はいったいどうなってしまうのだろうか?
無理やり、佐紀を連れ帰るのは簡単だ。だけど、そうする事で佐紀は、唯一の心の拠り所を失ってしまうのかもしれない。
そうなった時に、自分が代わりに、佐紀の心の拠り所になれるのだろうか?3年も言葉を交わしてもらえてない自分が・・・。
- 307 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:14
-
それを考えると、どうしても石川は、佐紀を無理やり幽霊から突き放し、連れて帰る気にはなれなかった。
深くため息をつく。
声を掛けられぬまま、石川は結局、その場を諦めて離れようとした。
その時だった・・・。
「もしかして・・・梨華・・・ちゃん?」
「?!!」
不意に石川にかけられる声。
ハッとして振り向くと、正面には一輪のフリージアを手にした女性が立っていた。
やつれ青ざめた表情。
だけど、ひと目見てすぐに、石川はその女性を誰だか思い出せた。
- 308 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:15
-
「柴・・・っちゃん?」
- 309 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:16
- 目の前に居る柴田は、その問いかけに肩を震わせたまま、コクリと頷いた。
やつれ果て、顔色も随分と悪く感じるけど・・・正面にいる女性は紛れもなく、高校時代、同じクラスに籍を置いていたクラスメイトの柴田あゆみだった。
石川はそんな柴田に、懐かしそうにニコッと笑顔を零した。
「わぁ〜。久しぶり。高校以来だね!」
「梨華ちゃん・・・あ、あたし・・・」
「ん?柴っちゃん?」
「梨華ちゃん。あたし・・・あたし・・・・」
夕日が交差点に沈む。
繰り返し石川の名を呼ぶ柴田。その何処か切羽詰った様相に、何か異様なモノを感じた。
そして、辺りはそんな柴田の声を掻き消すように、
夕暮れのチャイムと、車のクラクションの音だけが響いていた。
- 310 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:16
-
- 311 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:16
- 5
辺りはいつの間にか、夜の闇に沈んでいた。
今日1日、本当によく遊びつくしたと思い、梨沙子はハァ〜と大きく息をついた。
千奈美と友理奈とは駅でお別れをして、梨沙子と雅はそれぞれの自宅までの道のり、一緒に夜の商店街を歩いていた。
夜になると、街に肌寒い風が吹き抜ける。
そんな夜の寒さをカバーするように、ギュッと握られた2人の手。温かい手。
まるで何かに縋るかのように、雅の手はずーっと、梨沙子の手につながれたままだった。
- 312 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:17
- やがて、互いの家への岐路に辿り着く。
雅は名残惜しそうに梨沙子の手を離し、優しい目でほほえんだ。
離された手が、なんだか急に冷たさを感じる・・・。
「今日は、ありがとうね。梨沙子。すっごい、楽しかった」
「・・・・・・・・」
「梨沙子が側にいてくれて、あたし、本当に良かった・・・」
雅の言葉に、何も言えない梨沙子。
すると、雅がコツンと梨沙子の肩に額を寄せ、そっと呟いた。
「ありがとう・・・」
だが、梨沙子は俯いたまま、どうする事も出来なかった。
頬に微かに触れる雅の髪の毛から、シャンプーの匂いがフワッと漂い、鼻をくすぐる。
それは、大好きな雅の香り。
だが、梨沙子はギュッと目を閉じると、雅の両肩に手を沿え、その体をぐっと押し戻した。
- 313 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:18
- 「梨沙・・・子・・・?」
自分を突き放す、梨沙子の手。
驚きと不安が入り混じった表情で雅は梨沙子を見上げるが、梨沙子は作り笑いを浮かべると、何事もなかったように右手を挙げ、答えた。
「じゃぁ。またね・・・みや」
「う、うん――」
それ以上何も言えず、雅も「じゃぁね・・・」と言って右手を挙げる。
そして。梨沙子は雅と別れると、路地裏を駆け出して、急いで家路へと戻った。
夜道を駆け抜ける。ドクドクと音を奏でる心臓。胃がキリキリと激しい痛みを伴う。
- 314 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:18
-
あったかい手。シャンプーの香り。優しい目。大好きな人。
だけど・・・雅が好きなのは桃子。自分じゃない。解かっている――。
だから、どうしてあげることも出来なかった。
あぁ言うとき。抱きとめてあげる事なんて・・・自分には出来るワケもない。
なんだか吐きそうなぐらいに苦しかった。
ポタリと涙が零れ落ちる。
こう言うとき、どうしていいのかわからない。
一体、自分は。どうする事が、正しいのだろう・・・?
- 315 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:19
-
- 316 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:19
- 長い家路を駆け抜け。
梨沙子が部屋に戻ると、桃子が退屈そうに窓の外を見ていた。
暇つぶしに星座を探しているらしく、空を見上げながら「アレがオリオン座かなぁ?」とかテキトーな事を言ってて、思わず梨沙子はクスッと微笑んだ。
「違うよ。オリオン座は冬の星座だよ?」
梨沙子が声をかけると、桃子は驚いた様子で振り返り、「あ!梨沙子、帰ってたんだ?お帰り〜」と柔らかい笑顔を浮かべた。
- 317 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:20
- 梨沙子は桃子の隣りへ歩み寄り、窓の外を見上げる。
今日は雲ひとつないいい天気だったから、南の空に、真っ赤な星が赤々と輝いて見えていた。
「あれ、アンタレスだよ?オリオン座じゃなくて、さそり座」
「へぇ〜凄い!そうなんだ。そう言えば梨沙子って、空とか見るの好きだよね」
「うん。空見るの好き〜」
そう言って、梨沙子は嬉しそうに空を見上げた。
これだけ空がよく晴れた日は、東京でも結構、星が見えるんだなぁ・・・と思った。
なんとなく。小さい頃から空を見るのが大好きで、小学生の頃、桃子と雅と3人で手を繋いで星を見上げた夜を思い出す。
- 318 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:20
- 「ねぇ?ももは、空見るの好きじゃないの?」
「うーん。ももは空よりTV見るほうが好きかなぁ〜?ねぇ、梨沙子。TVつけてくんない?」
ノスタルジックな梨沙子の想いとは裏腹に、ロマンチックの欠片もない桃子の、能天気な発言。
そんな桃子の言葉に、梨沙子は思わず苦笑いを浮かべた。
もー。幽霊のくせにお気楽だなぁ〜なんて思い、梨沙子はなんだかイジワルしたくなり、素っ気無く答える。
「TVが好きなら、自分でつければいいじゃん」
「あのねー。自分でリモコンが触れるなら、とっくにつけてるよー」
そう言って、桃子は膨れっ面を浮かべる。
そう。幽霊は自分でTVをつけることが出来ない。
だからTVを見たいときは、桃子はいつも梨沙子にこうして頼んでくるのだった。
もっとも。桃子がリモコンを触れないお陰で、2人の間ではチャンネル争いは絶対に起きないから、平和と言えば平和なんだけどね。
- 319 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:21
- 「もう、仕方ないな〜」
そう言って笑いながら、梨沙子はTVを付けてあげる。
すると、TV画面では桃子お目当てのドラマが丁度始まっていたらしい。
TVが付いた瞬間、桃子は嬉しそうに「あ!始まったぁ〜」と言って、一番TVを見やすい場所を陣取る。
桃子が大好きな女優さんが主役をつとめるTVドラマ。
そんなTVドラマを、桃子は楽しそうに目を輝かせながら見つめていた。
そして。そんな桃子の背中を、じっと見つめている梨沙子。
しばらくの間。
2人は雑談をする事もなく、TVドラマを黙って鑑賞していた。
- 320 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:22
-
だが、なんとなく・・・。
梨沙子はTVを見始めてものの10分もすると、つけていたチャンネルをプチッと切ってしまったのだった。
「ちょー!なんで消しちゃうの!!?」
丁度、主人公の女性の愛の告白シーン。
一番いいシーンでTVを消されてしまい納得のいかない様子で、桃子は梨沙子を振り返る。
だが、そんな膨れっツラの桃子に、梨沙子は笑いかけた。
「いーじゃん、ドラマなんて。ビデオ取っとこうよ。あたしが学校行ってる間に見ればいいじゃん」
「えー。でも。続き、気になるんだけど」
「いいじゃん、いいじゃん。それよりさぁ・・・もも」
- 321 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:23
- そう言って、梨沙子は部屋のベッドに腰掛け、クスクスと笑う。
そして桃子の顔を嬉しそうに見つめながら、こう答えたのだった。
「一緒にさ。おしゃべりしよーよ!もも!!」
「・・・へ?」
なんだか、凄く楽しそうな梨沙子。
桃子はそんな梨沙子の様子に不思議そうに首を傾げながらも、フッと表情を和らげるとベッドの側に座り込んだ。
「まぁ、ドラマはあとでいっか・・・」
- 322 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:23
- そして。2人は色々な事をオシャベリする。
梨沙子は今日、遊園地であった話を語り、桃子は楽しそうに話を聞き入った。
いつも以上に楽しそうで、いつも以上にテンションの高い梨沙子は、凄く饒舌に喋っていた。
30分も1時間もつづく、2人のおしゃべり。
笑いが絶えない時間が続く。
そして・・・。
2人が賑やかに会話を始めてから、しばらくして。不意に梨沙子は呟いたのだった。
「ねぇ、もも?」
「ん?なに?」
「そこに・・・いるんだよね?もも・・・」
「え?当たり前じゃん!」
桃子は思わず笑った。
「見れば解るじゃん。ここにいるよ?ももは」そう言って、くしゃっと微笑む。
それは、梨沙子が小さい頃から知っている、優しい桃子の笑顔だった。
梨沙子はソレを聞いて、なんだか安心した様子で「そうだよね・・・」と、笑う。
- 323 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:24
-
そう。桃子は側にいる――。
たとえ、みんなに見えなくても。桃子はすぐ側にいるんだ。
- 324 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:24
- 楽しそうに話す梨沙子。笑っている桃子。
それは、夜が更けても尽きる事のない、2人の会話。
それだけに。
廊下で。足音がギシッと鳴った事に、2人とも気づく事はなかった。
(第5章 薄れ行く悲しみ FIN)
- 325 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:25
-
- 326 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:25
-
- 327 名前:第5章 薄れ行く悲しみ 投稿日:2008/07/13(日) 03:27
- 今日はここまでー。
前半終了で、次から丁度折り返し地点に入ります。
この後も引き続き、お付き合いお願いします。
- 328 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/13(日) 03:31
- >300さん
ありがとうございます。
後半から話がシフトチェンジするので、お楽しみに。
- 329 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/13(日) 08:06
- これからお話が大きく動きそうですね。
次回の更新も楽しみに待ってます。
- 330 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:47
- 1
「どうしてお花の当番、忘れたりするの!!!」
朝の教室に怒号が響く。
クラス全員の目が、梨沙子に集まっていた。
血相を変えて怒鳴りつける梨沙子。いつもの優しい表情からは考えられないぐらいの剣幕。
その目の前には、凍りつく千奈美の姿があった。
「ご、ごめん・・・」
「ゴメンじゃない!ちぃが言いだしっぺじゃん!!」
- 331 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:48
- 2年B組の教室。
このクラスで、有志が桃子の机にお花を供えつづけ、2ヶ月が過ぎた。
桃子が居なくなってから、ずっと欠かさず続けていたお花当番だったけど、最初にそれを忘れたのは千奈美だった。
顔を真っ赤にして怒鳴る梨沙子に、千奈美は何も言い返せない。
「ごめん・・・。うっかり忘れてて」
「うっかりとか、そう言う問題じゃないじゃん!」
怒りで涙目の梨沙子。
どうにも気持ちが治まらず、頭ごなしに怒鳴り続ける。
「なに?2ヶ月もすぎれば、ももなんてどうでもいいの?」
「そ・・・そんなワケないじゃん!!」
「うっかり忘れちゃうような。そんな存在なの?!!」
「違う!!!」
今度は千奈美が涙目になる番。
だが、梨沙子はひるむ事無く、尚もまくし立てる。
いつもの梨沙子からは考えられないほど、きつくて冷たい口調。
「ふーん。ちぃはもう、ももの事なんてどうでもいいんだ。忘れちゃうぐらい、どーでもいいんだ!!」
「そ、そんなつもりじゃない・・・うちは・・・」
「じゃぁ、どういうつもりなの?!!」
- 332 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:48
- ただ一方的に怒鳴りつける梨沙子に、さすがの雅も見るに見かねて梨沙子を止めに入る。
雅は梨沙子と千奈美の間に体を割り込ませ、梨沙子の肩を押えた。
「ちょっと。やめなよ、梨沙子!ちぃだって別に、悪気があるワケじゃないんだし・・・」
「なんで・・・。なんでちぃを庇うの?みや」
「さすがに可哀想だよ。それは言いすぎだもん!」
「みやだって、つい1ヶ月前までは、男子が花瓶を倒しただけでも怒ってたじゃん!!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「2ヶ月も経てば忘れちゃうの?あんなに悲しんでいたももの事、忘れちゃうんだ?!!」
怒りに任せてまくし立てる梨沙子。
その瞬間、キーンコーンカーンコーンと、教室のチャイムが鳴った。
むっとした表情のまま時計をチラっと見つめ、梨沙子は仏頂ヅラのまま、不機嫌そうに自分達の教室へと戻ってゆく。
「あ、梨沙子・・・!」どっちにも味方できず、困ったように2人の様子を窺っていた友理奈は、慌てて梨沙子の後を追っかけて行った。
- 333 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:49
- 2人がいなくなった教室。
クラス中の注目を浴び静まり返っていた教室も、沈黙が溶け、元の喧騒を取り戻す。
だが、そんな中で千奈美は、何も言えないまま尚も呆然と立ち尽くしていた。
その唇が、しきりに震えている。
「ちぃ・・・」雅がそっと千奈美の肩を撫でる。「気にしないでいいよ?ちぃ・・・」
雅が優しく声をかけるが、優しくされると尚更悲しくなるのかもしれない。
次第にその肩も震えを帯びる。そして、潤んだ目で下を向いたまま、千奈美はポツリポツリと呟いた。
「ひどい・・・。あんな言い方ないじゃん・・・酷いよ・・・」
- 334 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:50
- 悔し涙で揺れている瞳。
雅は慰めるように千奈美の肩を優しく2、3度撫でた後、梨沙子が出て行った教室のドアを見つめた。
乱暴に開らかれたままのドア。
「梨沙子――」
桃子がいなくなって、すでに2ヶ月の月日が流れた。
少しずつ、自分達は悲しみから立ち直り、元の生活を取り戻していた。
だけど。今も梨沙子の中での時間は、あの時のまま止まっているような・・・雅はそんな気がした。
- 335 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:50
-
- 336 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:51
- 2
放課後。雅たち3人はファミレスに寄り道をして、時を過ごしていた。
3人は、国道沿いの日当たりの良い窓際の席で、ソフトドリンクを飲む。
そこは4人席のボックス。並んで座っている千奈美と友理奈。そして、雅の隣りはポツンと1人分の席が開いていた。
その開いている席を見て、コーヒーを口にしながら友理奈が、サミシそうに呟いた。
「梨沙子は来ないって言って、帰っちゃった・・・」
複雑な表情の3人。
友理奈は氷が解けて薄まり始めたアイスコーヒーをかき混ぜながら、言った。
「最近、付き合い悪いよね、梨沙子」
その隣りでは、相変わらず不機嫌そうに俯いている千奈美。
雅は何も言わず、ジュースを飲みながら目を伏せているだけだった。
- 337 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:52
- 「このところさ。学校でも・・・あの人とばっかいるよ。ほら、えりかちゃん達のクラスの・・・」
悲しそうに目を伏せる友理奈。
そんな友理奈の言葉に、千奈美は吐き捨てるように答えた。
「あの喋らない、不気味な人でしょ?」
「・・・うん」
千奈美の言葉に頷いたあと、友理奈はキュッと唇を噛み締めた。
そして、グラスの中で不安定に揺れる氷をぼんやりと見つめながら、独り言の様に呟いた。
「なんか。梨沙子ヘンだよ。何かヘン・・・。クラスでもね、口を開くと、ももの事ばっか」
「・・・・・・・・・・・」
「なんか梨沙子だけ、ももがいなくなったあの時のまま、時が止まってるみたい――」
- 338 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:53
- 静まり返るテーブル。
友理奈の言葉に、雅は遣り切れない表情で、小さく息を吐いた。
30秒ほど、3人の間で無音の空間が続く。
近くのテーブルから、女子中学生たちの明るい笑い声だけが響いていた。
すると、友理奈の隣りでだんまりを決め込んでいた千奈美が、俄かにポツリと呟いた。
「酷いよ、梨沙子」
突然の呟き。
雅と友理奈はハッとして千奈美の顔を見た。
俯いたままの千奈美。次第にその唇が震え、目頭が熱くなってくる。
- 339 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:53
- 「確かに・・・ちぃが言いだしっぺなのに、お花当番忘れたのは酷いって思う」
「ちぃ・・・」
「でも。ももが死んでから、もう、2ヶ月が経ってるんだよ!!!」
あふれ出る言葉。
そして、あふれ出す涙。これはきっと、悔し泣き。
「そりゃももが死んだばっかの頃は、ももの事しか考えられなかった。みんなだって、ももの事しか考えられなかったでしょ?!!」
「うん。うちも、毎日ももの事考えてた」
友理奈はゆっくりとあいづちを打った。
1ヶ月ぐらいの間、毎日、悲しくて寂しくて・・・気がつくと自分達はいつも、桃子の事を考えていたんだ。
だけど。毎日の時間が、少しづつ悲しみや痛みを風化させてくれた。
千奈美は目線を伏せ、唇を噛み締めるように言葉を続ける
- 340 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:55
- 「でも・・・2ヶ月も経てば、次第に他の事だって考えるようになるじゃん・・・。考える事はももの事ばっかじゃないじゃん・・・。」
それは学校の事。友達の事。進路の事。
自分達は生きているんだから、生きる為には色んなこと考えなきゃ勤まらない。
いつまでも同じ場所に立ち止まっているワケにはいかない。
「だから、お花だって・・・。うっかり忘れちゃう事だってあるよ」
涙がポロポロ零れる。
自分にはもちろん非がある事は解っている。だから、尚更悔しいんだと思う。
「でも!だからと言ってさ!ももの事、どうでもいいワケないじゃん!!忘れるわけないじゃん!!ちぃ、ももの事忘れないよ?!ずーっと忘れない!!だって、友達だもん!!」
もう涙は止めようがなかった。
隣りから友理奈が、優しく千奈美の背中をさすってあげていた。
「それなのに、あんな言い方、酷いよ。毎日、ももの事を考えてるワケじゃない。・・・でも、ももの事は忘れないもん、ちぃ!」
「・・・・・・・・・・」
「梨沙子。ヘンだよ――」
- 341 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:56
- グズグズと鼻をすすり、唇を噛み締める千奈美。そんな背中をさすったまま、友理奈は何も言えず俯いた。
正面には、黙ったまま千奈美の言葉を聞いていた雅。
すると。千奈美がひと通り話し終えたのを見て、黙り続けていた雅は、ボソッと呟くように答えたのだった。
「うちね・・・梨沙子のお母さんに、こないだ電話で相談されたんだ」
「え?」
突然の言葉に思わず顔を上げる千奈美。
すると、雅は唇を震わせながら、ゆっくりと言葉を続けた。
- 342 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:57
-
「梨沙子がね。部屋で1人でしゃべってるって・・・」
- 343 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:57
- 思わず眉根を寄せて凍りつく、千奈美と友理奈。
雅は俯いたまま、ポツリポツリと答える。
その顔は不安に揺れていて、どうしていいか解らないという表情だった。
「最初は電話かと思ったけど、廊下から覗いてみると電話じゃない。1人でずっと、楽しそうに喋ってるんだって、梨沙子・・・」
「・・・・・・・・・・」
「まるで、ももとお話をしているみたいに――」
- 344 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:58
- 沈黙。
千奈美も友理奈も、何も言えずただただ凍りつくしかなかった。
「梨沙子のお母さんに、『あの子、学校ではどう?』って聞かれた。学校ではヘンじゃないかって・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「梨沙子のお母さん、言ってた。もしかして梨沙子、ももが死んだ事、解かってないんじゃないかって」
「・・・・・・・・・・・」
「ももが死んだ事、解かってなくて、受け入れられなくて、おかしくなっちゃったんじゃないかって・・・泣いてた」
- 345 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 21:59
- 雅の目も、次第に涙で揺れ始める。
桃子が死んだばかりの頃は、自分ばかりがただ悲しくて、気づいてあげる事が出来なかった。
辛くて悲しくて切なくて、自分が梨沙子に泣いて縋るばかりで。梨沙子の異変に、気づいてあげられなかったんだ。
そんな自分が不甲斐なくて悔しくて、悲しみを打ち払うように、雅は何度も何度もかぶりを振った。
「もう、うち。どうしていいかわからない・・・。梨沙子に何してあげればいいのか。うちには解からない!!」
雅の話を聞き、呆然とするしかない千奈美と友理奈。
かける言葉が見つからず、ただ、静まり返るだけのテーブル。
- 346 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 22:00
- そんな3人の席のすぐ近くでは、ファミレスのウェイトレスがお皿を下げていた。
ウェイトレスはお皿を下げながらも、どこか神妙な面持ちでこちらを窺っているが、3人はその目線に気づかない。
すると、遠くから俄かに別のウェイトレスの呼ぶ声が届いた。
「ねぇ。石川さーん。こっちのお皿も下げてくれる〜?」
「はい・・・」
食器を手にし、石川はゆっくりと席を離れていく。
じっと、3人の様子を垣間見る。
国道沿いの日当たりの良い席では、どうしたらいいのか見当のつかぬままに、3人の沈黙だけが広がっていた。
あの事故から2ヶ月が経ち――。
幽霊を見ることの出来る梨沙子と、見ることの出来ないみんなの間で・・・何かが少しずつ狂い初めていたのを、石川は感じていた。
- 347 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 22:00
-
- 348 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/15(火) 22:00
-
- 349 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/15(火) 22:01
- 今日はここまで。
後半に入ったんで、一旦あげます。
- 350 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/15(火) 22:03
- >329さん
前半緩かったぶん、後半はかなり展開が速くなります。
楽しんでいただけると幸いです。
- 351 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 00:55
- 3
いつものお寺では、桃子と梨沙子と佐紀の3人が、お話をしながら笑いあっていた。
ゲームしたりクイズしたり、なんて事のないくだらない話をしたりと、楽しい時間。
だが。桃子は思う。ここんとこ、梨沙子は自分や佐紀とばっかりいる。平気なのだろうか?と・・・。
桃子は梨沙子の顔を見ると、なんの気なく問いかけてみた。
「ねぇ、梨沙子。みやたちは元気?」
「うん・・・」
だが、質問に対して明らかに歯切れの悪い感じ。
ますます不安になる。
雅たち3人と一緒にいなくて平気なのだろうか?あんなに仲良しだったのに・・・。
- 352 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 00:55
-
- 353 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 00:56
- ついこのあいだのことだった。
梨沙子が学校に行っている間ヒマだったから、桃子はこっそりとリビングに行った。
もっとも、このあいだが初めてってワケではなく、菅谷家にお邪魔するようになってから頻繁にやっていた事だが・・・。
昼は梨沙子のママがリビングで昼ドラを見ているから、どうせ気づかれないんだし、こっそりお邪魔して、便乗してTVを見ていたんだ。
そしてそのとき、突然、電話があった。
電話はどうやら、担任の先生からのようだった。
梨沙子のママはすぐにTVの音量を下げた。だから、電話の声はよく桃子の耳にまで通ってきた。
勿論、先生の方が何を喋っているのかまでは解らないけど、梨沙子のママの会話から、大まかな内容は掴めたんだ。
「梨沙子はどうでしょうか?」
「梨沙子は学校では普通なんでしょうか?」
「もしかして梨沙子は、桃子ちゃんが亡くなったこと、解かってないんじゃないでしょうか?」
そんな会話が、聞こえてきたのだった――。
- 354 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 00:56
- その瞬間。桃子のカラッポの心がキリキリと痛んだ。
周りの人間は少しづつ、気づき始めている・・・。
そして、それは自分も。桃子自身も、梨沙子の側にいて感じていた。
梨沙子は少しづつおかしくなってきている。――いや。梨沙子がおかしくなってるんじゃない。
- 355 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 00:57
-
自分のせいで、梨沙子の世界は少しずつ、狂ってきているんだ。
- 356 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 00:57
- 「ねぇ、もも」
桃子がそんな事を考えていると、ふいに声をかけられた。
ふとかえりみると、梨沙子は嬉しそうに桃子を見て、笑っていた。
当たり前の様に幽霊を見るその純粋な目に、また心がキュッと締め付けられた。
「ねぇ、もも。今度一緒にさ、映画見に行かない?」
「え?」
「ほら!ももの好きな女優さん、映画やるじゃん。遊園地とかはムリだけど、映画館だったら一緒に見れるでしょ?ね。一緒にいこーよ」
「・・・・・・・・・・・」
思わず桃子は黙りこくる。どうすればいいのかわからない。
こう言うとき、どうする事が正しい答えなんだろうか・・・?
桃子は2、3秒のあいだ凍りつくが、俄かに笑顔を取り繕い答える。
「うん・・・一緒に行こ」
「ね!!映画楽しみだね。ねぇ、佐紀ちゃんも一緒に行くでしょ?」
「うん!!」
- 357 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 00:58
- 楽しそうに笑っている梨沙子と佐紀。
桃子は不安げな眼差しで2人を見つめるしかなかった。
この子達は果たして解っているんだろうか?
目の前に居る桃子は、もう、この世に存在していないと言う事を。
もう、死んでいるんだと言う事を。
自分達の世界が、確実に狂っていると言う事を――。
- 358 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 00:58
-
- 359 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 00:59
- こうして3人で楽しくお話していると、時間は湯水の様に流れた。
やがて、陽も暮れだす。そろそろ家へと帰る時間だ。
佐紀とはお寺でバイバイして、桃子と梨沙子は一緒に夕暮れの路地を歩いた。
梨沙子は家までの岐路も、相変わらず当たり前の様に、桃子にいっぱい話しかけていた。
通りすがる人たちが、時折、1人で喋っている(ように見える)梨沙子を訝しげに振り返るが、梨沙子は気にしていなかった。
なんだか切なくなる・・・。
自分が一緒にいることで、梨沙子が周りから取り残されて行くのが手に取るように解り、悲しくなる。
確実に何かが狂い始めている梨沙子。
果たして、学校ではどうなんだろう?雅たちと一緒にいる時はどうなんだろう?
雅たちは梨沙子の異変に気づいているのだろうか?
梨沙子は。一体、どうなっちゃうんだろう・・・。
そして。自分は一体。どうすればいいんだろう・・・。
- 360 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:00
- 桃子は不安げに目線を伏せる。
夕暮れに照らされ、地面には梨沙子の影だけが大きく映し出されていた。
幽霊は影を持たない。
幽霊自身が、まるで影の様な存在だから。
命ある人間の隣りに寂しく依存する、憐れな影法師。
- 361 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:00
- 歩きながら、大きく地面に伸びる梨沙子の影を、じっと見つめている桃子。
すると。その動いていた影が、不意に動きを変え、立ち止まった。
ハッとして桃子が影の持ち主の方を振り向くと、隣りで梨沙子は苦しそうにお腹の辺りを押え、立ち尽くしていた。
眉間に皺の寄る、辛そうな表情。
「へ、平気?梨沙子!?」
桃子はビックリして梨沙子に手を伸ばすが、触れた手は、むなしく梨沙子の腕をすり抜けるだけだった。
「うん、平気・・・」
梨沙子は小さく頷き、笑顔を取り繕った。
痛みは一瞬だったらしく、梨沙子は「ごめんね。だいじょうぶだよ」と言って、再び夕暮れの街を歩き始めた。
桃子はキュッと唇を噛みしめると、梨沙子の隣りを歩幅をあわせ寄り添うように歩いた。
ホントは、すぐにでも肩を貸してあげたかったんだけど、ムリなのは解かっていた。肩を貸すなんて出来ない。触れる事など出来ない。
ただ梨沙子の隣りを、影の様に寄り添い、歩くだけ。
悲しいぐらい、無価値な存在。
自分は梨沙子に、結局、何もしてあげられない――。
- 362 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:01
-
- 363 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:01
- 4
日が沈む。
佐紀が梨沙子たちと別れ自宅に戻ると、居間では石川が雑誌を読んでいた。
今日のバイトはもう終わったのだろう。
ファッション雑誌を読みながら、ヒマそうにメールを打っている姿が見えた。
佐紀は何も言わない。何も言わず石川の横を素通りして自分の部屋へ戻ろうとするが、不意に石川から背中越しに声を掛けられた。
「佐紀。ウチのファミレスに、あんたの学校の子が来てたよ」
「・・・・・・・・・・・」
「梨沙子ちゃんの事、話してた」
- 364 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:02
- 梨沙子の名前に反応し、一瞬立ち止まる。
だが、佐紀は何も答えぬまま、その言葉を無視して部屋に戻ろうとした。
すると――。
「また。そうやって逃げる・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「佐紀はそうやってずっと、人間から逃げ続ける気?」
佐紀の足が止まる。
振り返る事無く、階段の2段目で立ち止まったままの佐紀。
石川は、その背中に答えた。
「女の子たち言ってた。梨沙子ちゃんがヘンだって。どうしていいかわからないって・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「解かる?あの子も同じ運命を辿っている。佐紀と一緒。少しづつ周りの人間から避けられている。気味悪がられている」
- 365 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:02
- 今はまだいい――。
友人は必死になって梨沙子を救おうとするだろう。
だけど、2、3ヶ月も経てば、きっとみんな諦める。関わるのを辞める。そして、確実に彼女は1人ぼっちになる。
佐紀がそうなった時の様に・・・。
じっと立ち止まったままの佐紀に、石川はまくし立てるように声を荒げた。
「嗣永桃子だっけ?あの子は死神ね!梨沙子ちゃんを生きながらに殺していく、死神!!」
「?!!!」
- 366 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:03
- 石川の讒言にカッとして振り返る佐紀。――ももは死神なんかじゃない!!――血相を変えて振り返り、叫ぼうとするが、言葉は声にならない。
何も言えないまま、佐紀は石川を睨んだ。
心の中で『ももは死神なんかじゃない』と何度も呟くが、思いは声に、言葉に、出来ぬまま・・・。
悔しそうに唇を噛むと、佐紀は踵を返し階段を駆け上って行った。
そんな佐紀の背中を見送り、石川は両目を閉じると、テーブルに頭をもたれた。
そして、深いため息と共に、そっと呟いたのだった。
「やっぱり。声には出してくれないんだね・・・佐紀」
- 367 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:04
- すると、その瞬間。
ピンポーンと不意に、玄関のチャイムが鳴り響いた。
「はい?」
こんな夕暮れに誰が来たのだろうか?宅配便か何かだろうか?
ゆっくりと立ち上がり、玄関へと向かう石川。
そして「どなたですか〜?」と言いながら扉を開けた瞬間だった。石川は目を見開き、言葉を失った。
- 368 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:04
- 「し・・・柴っちゃん?」
そこには、先日。偶然、街で再会した友人がいた。
高校時代のクラスメイトの柴田が、扉の外に佇んでいたのであった。
自分は柴田に、自宅の住所とかを教えた記憶はない。
驚きのあまり、石川は両の目をしばたかせた。そしてゆっくりと、目の前にいる柴田へと問いかけた。
「どうして・・・ここが・・・?」
「なんとかして調べたの。梨華ちゃん、有名な霊媒師なんでしょ?」
「・・・・・・・・・」
「お願い。お祓いをして欲しいの・・・」
「悪いけど。こないだも言ったでしょ?今は廃業してるから、関係ないって・・・」
冷たく突き放す言葉。
そう、先日。国道沿いで柴田と偶然出会った時もそうだった。
一輪のフリージアを手にした彼女は、出会うなり、突然震える声で問いかけてきた。
- 369 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:05
-
「梨華ちゃん・・・確か、霊媒師の仕事、してるんだよね?!」
- 370 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:06
- 高校時代、柴田と特別仲が良かったワケではなかったが・・・霊媒師の仕事をしているなんて、珍しいからだろう。
昔のクラスメイト達には、かなり仕事の事は知られていたようだった。
だから、柴田の耳にも、人づてにその噂は入っていたんだと思う。
あの日も、柴田は石川にこう言った。「お願いがあるの。お祓いをして欲しい・・・」と。
だが。
石川はすでに霊媒師の仕事は廃業していたし、もう幽霊と関わる気はなかったから、丁重にお断りした。
諦めのつかない柴田に何度かせがまれたけど、頑として聞かなかったら、柴田はなんとか諦めてくれた。
だから、もう、その話は終わったと思っていた・・・。
- 371 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:06
- 「お願いだから。除霊をして欲しいの・・・」
玄関の向こう。柴田はすっかりとやつれ青ざめた表情で、そう言った。
あの日出会った時以上に、柴田はやつれている様な気がした。
その顔を見る限り、霊に悩まされているのは本当なのかもしれないと思った。だけど、それでも、柴田の願いを受け入れる気は毛頭ない。
「申し訳ないけど。あたしはもう、霊に関わる気はないの。ごめんなさい」
ハッキリとした口調。
申しわけないが、もはや聞く耳持たない。
石川はハッキリと断りをいれた。そして、柴田の未練を断ち切るように、玄関の扉を閉めようとした・・・その時だった。
その瞬間。
予期せぬ事が石川の目の前で起こった。
- 372 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:07
- 目の前で、まるで小さな子供の様に、柴田が突然ボロボロと泣き出したのだ。
思わず目を見開く石川。
すると。柴田は大泣きをしながら「ねぇ!お願いだから!!」と土下座をして、石川の脚にすがった。
そんなあんまりの柴田の行動に、石川は愕然とした表情で柴田の両肩を掴んだ。
「ちょ!ちょっと・・・柴っちゃん!?」
「おねがい・・・お願いだから。あたしを、死神から、解放してよ・・・」
「え――?」
- 373 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:08
- 死神?
その言葉に石川は凍りついた。
目の前では地面に膝をつき、泣きながら「お願い・・・」と、繰り返し呟く柴田の姿。
「お願い。お願い。あたしを死神から、助けて」
「・・・・・・・・・・・・」
「お願いだから、あたしを、許してよ・・・茉麻」
石川は呆然とした表情で、惨めに泣き続ける柴田を見つめた。
一体彼女に、何があったのかは知らない。だけど、これだけはハッキリとしていた。
ここにも、霊によって人生を狂わされた人間がいるんだ・・・。
- 374 名前:第6章 凍りついた時間 投稿日:2008/07/17(木) 01:08
- 何も言えぬまま、石川は柴田を見つめ、立ち尽くした。
柴田の持つバッグから覗く、一輪の赤いフリージア。
ただすすり泣く、柴田の声。
それ以外は、2人の周りは一切の沈黙につつまれていた。
(第6章 凍りついた時間 FIN)
- 375 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/17(木) 01:09
-
- 376 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/17(木) 01:09
-
- 377 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/17(木) 01:09
- 今日はここまでです。
- 378 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:27
- 1
笑顔を失ったのはいつからか・・・。
会社で友達と笑っていても、本当の笑顔なんて零れない。
いつでも耳元であの子が囁く。「私を殺したお前に、笑える資格はあるのか?」と――。
最後に見た光景が忘れられない。
メタリックシルバーの車体が赤く染まる。
血だらけのあの子が、目を見開き凍りついたような表情であたしを見た。
あの末期の表情が、心を縛り付ける。きっと彼女は恨んでる。きっと彼女は憎んでる・・・。
- 379 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:27
- 青春の真っ只中の女の子が、青春を血で染められた。恨まないワケがない。
あの交差点に立つと、いつでも寒気を感じた。目に見えるわけじゃない。だけど、心が感じる。
きっとあの子はあの場にいると。あの場所でずっと、憎み続けてる。
――お願いだから許して!!
まるで贖罪の様に心の中で叫び、毎日あの場所に花を供える。
真っ赤なフリージア。
もう1年も繰り返している。
だけど、あの子はまだ、きっと許していない。今もあの場所で、あたしを憎み続けている。
- 380 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:28
- あの交差点へ向かう時。
まるで神様が導いてくれたかの様に、あの場所で学生時代の友人に会った。
彼女はお寺の娘で、その後、霊媒師や降霊の仕事をしていると言うのを、風の噂で聞いた事があった。
これはきっと、神様の恩恵――。
彼女に出会えた事は、きっと神様があたしにくれたチャンスなんだと思った。
あたしは泣いて彼女に縋った。助けてくれ。霊を祓ってくれ、と。
でも、彼女は断った。
自分はもう、霊に関わる仕事はしていないと。幽霊に関わる気はないと。
そう言われて、その場は諦めかけたけれど・・・交差点の霊は今も消えない。
- 381 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:28
- あれから必死で彼女の家を突き止めた。
高校時代の友達に電話して、片っ端から聞いて回った。
彼女の家の場所まで知ってる人はいなかったけど、彼女と年賀状のやりとりをしていた子がいて、住所を教えてくれた。
家にまで押しかけてきて彼女は狼狽していたけど、そんなのは気にしていられなかった。ともかく必死だった。
そして。あたしはもう一度、泣いて乞うた。
「助けて・・・お願いだから!!!」
彼女は凄く困っていた。
でも、最後は私の言葉に頷いてくれ。そして言った。
「本当に除霊できるかは解らない。きっと出来ないと思う」と。
でも。それでも構わなかった。今、あたしが頼れるのは、紛れも無く彼女だけだったから――。
- 382 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:28
-
- 383 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:29
- 2
学校の職員室では、飯田と石川が話していた。
いつもは石川が佐紀に関して飯田に相談をするのに、今日は逆だった。
飯田はすっかり気落ちした表情で、石川に言った。
「最近、梨沙子ちゃんもおかしい。佐紀ちゃんと同じ感じなの・・・」
明るい子だったのに。どうして・・・。
飯田は悲しそうに項垂れる。石川はそんな飯田を見ながらギュッと目を細め、心の中で呟いた。
そう、明るい子。
佐紀も元々は、明るい子だった。
「梨沙子ちゃんの友達も、みんな困惑しているみたい」
「・・・・・・・・」
「どう関わっていいのか、解らないって嘆いてた」
佐紀もそうだ。
中学のとき。最初は佐紀の友達も困惑しつつも心配してくれた。
だけどそのうち、みんな佐紀を見捨て、遠巻きにし、気味悪がっていった。
そして。やがて佐紀は、周りの人間から取り残され、いつしか人間を信じなくなっていった。
- 384 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:29
- 帰り際に石川は、1年の教室を覗いた。休憩時間で賑わう教室。
窓際の席で1人でぼんやりと座っている梨沙子。
背の高い髪の長い女の子が梨沙子を気にするが、他の子が「いいよ、ほっとこ」と言って止める。
困惑しながらも、背の高い女の子は他の友達に手を引かれ、梨沙子から離れた。
まるで昔の佐紀を見ているかのようだと、石川は思った。
こうして少しづつ、彼女は居場所を失って行く。
霊に関わった人間はみな、不幸になる。
佐紀を生きながらに殺してゆき、柴田から笑顔を奪い、今また1人の少女が周りから取り残されてゆく。
- 385 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:30
-
「まるで死神だわ・・・」
- 386 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:31
- 幽霊に関わってはいけない。みんな世界が狂って行く。だから自分は、幽霊に関わる仕事を捨てた。
校舎から外へ出ると、外にはジメッとした暑さが広がって行った。
梅雨もとうに終わり、そろそろ季節は夏へと移り変わっていく。
「あの子も・・・嗣永さんも・・・あの交差点にいるのかしら?」
この世に取り残された女の子たちの霊。
彼女達は何を思って、この世界にいるのだろう?
いったい、彼女達はどうしたら・・・この世界を離れることが出来るんだろう?
- 387 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:31
-
- 388 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:31
- 3
暑い日ざし。でも、体は熱を感じない。
草木を揺する風。でも、体はその風を感じることが出来ない。
もう、桃子が死んで2ヶ月が経つ。
でも今だに、魂はこの世界に取り残されたまま・・・。
「どうなっちゃうんだろ?あたし?」
失われた体。この世界に居場所なんて、本当はない。
だけど梨沙子はどう言うわけか、桃子を、桃子だけを見ることが出来る。
そのお陰で、本当は居場所のないハズのこの世界に、居場所を見つけることが出来た。梨沙子の隣り。
でも、それは結局、梨沙子を半分死の世界に引き釣り込んでいるようなものなのかもしれない。
居場所を得た自分の代わりに、梨沙子が次第に居場所を失ってゆく。この世界で・・。
- 389 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:32
- 風が吹き抜ける。
いつも川原を散歩している、おじいさんとジョンがやってくる。
死んでから、この川原を昼過ぎに散歩するのが、桃子の日課だった。
そしておじいさんも毎日、同じ時間にこの川原に来るらしく、しょっちゅう、おじいさんとは会っていた。
「おじーちゃん、こんにちわ〜」
すれ違いざまに笑いながら声をかける。
勿論声は届かない。毎日会ってるけど、おじいちゃんは桃子を知らない。
でも、桃子はおじいちゃんがココを毎日散歩しているのも知ってるし、犬の名前がジョンなのも知ってる。
くいしんぼーで、ビーフジャーキーが大好きなのも知ってる。
一方的な思い出。
でも、それは仕方がない。
何故なら自分は、本来この世界にいてはいけない存在だから。
こんなに近くにいても、交わることの出来ない世界。
そして、その交わる事の出来ない世界の桃子と交わる事の出来る梨沙子。
梨沙子の世界が少しづつ狂っていくのも、当然なのかもしれない。
- 390 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:32
-
間違いなく、自分の存在がいけないのだろう・・・。
- 391 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:33
- 梨沙子の世界が狂ったのは、自分の責任。解ってる、解ってるけど――。
どうすればいいのかが解らない。
どうすれば自分はこの世から消える?どうすればこの世から成仏できる?
そして、本当に消えたら、自分は一体何処に行くんだろう?天国?この世界に本当に天国なんてあるのだろうか?
目の前では、ジョンが嬉しそうにジャーキーを頬張っている。
結局、自分は何も解っていない。
どうしたら、この世を離れられるのか?
この世を離れたら、一体どこへ向かうのか?
何故自分は取り残されたのか?
自分は一体、何者なのか・・・?
- 392 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:33
-
- 393 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:33
- やがて。
交差点につくと、いつもどおり茉麻が座っていた。
「おはよ、もも」
「うん」
足元でフリージアが揺れる。
相変わらず柴田の心は今も、この交差点に取り残されたまま。
「どうしたら忘れてくれるのかな?柴田さん」
「・・・うん」
「もう、忘れていいのに――」
柴田は茉麻を見ることは出来ない。
だけど、彼女も幽霊に関わってしまった人間の1人なのかもしれない。
- 394 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:35
- 桃子と茉麻でぼんやりとフリージアを見つめていると、茉麻がポツリと呟くように言った。
「一度だけさ、柴田さん。笑ったことがある」
「え?」
「薄く・・・微笑んだだけだけど」
いつもどおり柴田がフリージアを供えに来たら、女の子が話しかけた。
「綺麗なお花〜」「そうだね」「なんて言うの?」「・・・フリージア」「へぇ〜」
すると女の子が、すっごい嬉しそうに笑って、こう答えた。
「おいしそーー!!」
その時の事を振り返りながら、茉麻は楽しそうに笑っていた。
「あたし、隣りで聞いててさ。大笑いしちゃった」
「あはは。それは面白いね!」
「でしょ?で・・・したらね。柴田さんも、ホンのちょっとだけだけど笑ったの。口元を緩めて。ホンのちょっとだけ・・・」
- 395 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:36
- この交差点に取り残されてから、茉麻は一度も柴田が微笑むところを見ていない。
いつも無表情に、ただじっと、祈っているだけ。
正直、茉麻は柴田を見て『この人に、本当に笑顔なんて存在するのだろうか?』とすら、思っていたけど・・・。
女の子の心とろかすような笑顔は、柴田の凍りついた表情を、ホンの僅かだけど溶かしてくれた。
溶かされた笑顔はびっくりするぐらい優しくて、柔らかな笑顔だった。
「なんか、心が痛んだ。心なんてとっくに失ってるハズなのに、チクリと痛んだ」
「・・・・・・・・・・」
「その時、思ったんだ。もっと笑顔を見たいって・・・。ホントは、きっともっと、素敵な笑顔なんだろーなーって」
「・・・・・・・・・・」
「柴田さんが本当に笑ってくれた時、まぁは初めて、成仏出来る気がする・・・」
- 396 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:36
- じっと茉麻の言葉に耳を傾けている桃子。
すると、桃子は不意に後に気配を感じた。
桃子が振り返ると、そこには柴田がフリージアを手に立っていた。
「柴田さん・・・」
柔らかく微笑む茉麻。柴田の手に握られたフリージアが揺れる。柴田の髪の毛も揺れる。
いつもどおり、フリージアを手に無表情に立ち尽くす柴田の姿。
だが、何かがいつもと違った。
ふと柴田の後にもう1人、連れの姿が見え・・・桃子は思わず呟いた。
- 397 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:37
- 「石川さん・・・」
「え?」
「何故、ここに・・・」
桃子は思わず息を呑んだ。
そこには、振り返りじっと石川をみつめる柴田の姿。
そして、柴田は石川に向かい叫んだ。
「お願い、梨華ちゃん。この交差点・・・この交差点で除霊をして!!!」
「!!!!」
驚きのあまり言葉を失う桃子と茉麻。
柴田はまくし立てるように、言葉を続けた。
「お願い、梨華ちゃん。あたしを幽霊の憎しみから解放してよ!!!」
- 398 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:39
- 柴田の言葉に「え・・・・」と、目を丸くする桃子。
憎しみ。それはどう言うことなんだ?
解らない。解らないけど・・・。
桃子と茉麻の目の前で、柴田は突然狂ったように泣き叫んでいた。
柴田の目は、何もない空間を捉えながら。
「もう、許してよ!!あたしを憎まないで・・・お願い。あたしを許して――!!!」
- 399 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:39
- 「なにを・・・言って・・・」
桃子は何も言えず茉麻を見る。
茉麻の大きな目が、より大きく見開かれていた。
ボロボロと涙を零している柴田、完全に取り乱しているのがわかる。
今までの思いをぶちまけるように、泣きながら、ただ、喚き散らしている。
「事故を起こしたのは悔やみきれないよ!?泣いて謝ったって許して貰えないのは解ってる!でも・・・あなたが飛び出してきて、あたしは必死でハンドル切った!!」
「柴田さん・・・」
「あなたにだって、飛び込んできた責任はあるはずじゃない?!あたしだけが悪いワケじゃない!!」
「・・・・・・・・・・」
「1年間、あなたに許してもらおうと、毎日フリージアを添えた。何をやっても心が苦しくて、会社も辞めた。1年間、こんなに苦しみ続けてきたんだよ?!」
「・・・・・・・・・・」
「もう、お願いだからあたしを許してよ!!!」
泣きながら土下座をする柴田を見て、何も言えない2人。
茉麻の肩が微かに震えているのを、桃子は感じた。
- 400 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:40
- 「もう充分、あたしを憎んだでしょ?!あたしを苦しめたでしょ?!もう、許してよ!!」
「ちが・・・あたしは・・・まぁは・・・」
「もう、恨まないで!!」
「あたしは、恨んでなんか・・・」
「憎まないで!!」
「違う。憎んでなんか・・・」
「もう許してよ・・・茉麻」
「許してる。まぁはもう、あなたの事は許して・・・」
- 401 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:41
- 柴田の後ろで石川は、何も言わず立ち尽くしていた。
その目はじっと、柴田の背中をみつめているだけ。止めることもフォローすることもない。自由にぶちまけさせているのだろう。
柴田の叫びは尚も止まらない。
「お願いだから、消えて!成仏して!あたしの中から消え去って!!」
「ま、まぁは・・・」
「あなたがいる限り、あたしは笑うことが出来ない!お願い・・・消えて。もう、許してよ、お願い!!」
柴田の一方的な叫びは、桃子と茉麻の胸に、切り裂くように鋭く響く。
だが茉麻の声は、柴田には届かない。
恩赦の声は決して届く事無く、自分勝手な責苦だけが、2人の耳に降り注いでくる。
- 402 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:41
-
「違う・・・柴田さん。まぁは・・・あなたのことが・・・」
- 403 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:42
- 震える茉麻の声。
瞬間。
茉麻の目に、一方的に喚き散らす柴田へと、飛びかかる姿が見えた。
それは桃子。桃子がまっすぐに柴田に飛びかかり、コブシで殴りつけようとしていた。
「も、もも!!!」
「ふざけるなぁああ!!」
思いっきり振りかぶる。だが、コブシは触れることがない。
空を切り、柴田の顔をすり抜けるだけ。
だが、怒りは止まらない。当たらないと解っているのに、何度も桃子は柴田に殴りかかる。
「なにも。なにも知らないくせに!!!」
「もも・・・」
「まぁが、あなたをどう思ってくれてるのか・・・なんにも知らないくせにぃ!!!」
「・・・・・・・・・」
「なにが恨まないでだ!なにが憎まないでだ!!」
「・・・・・・・・・」
「ただ一方的に、恨んで憎んで、人を傷つけているのは・・・あなた自身じゃんか!!!」
- 404 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:43
- 不思議と桃子は目頭が熱くなるのを感じた。体なんて、もうないのに。
悔しくて悔しくて、コブシを当てることすら出来ない自分がもっと悔しくて。どうしようもなくって、ひたすらに殴りつける。ひたすらに空を切る。
決して触れない体。触れられない世界。触れる事ない気持ち。
- 405 名前:第7章 交わらぬ世界 投稿日:2008/07/21(月) 00:43
- 「なんにも知らないくせに・・・なんにも知らないくせに!!!」
「もういいよ!もも!!」
大声で叫び、後から茉麻は桃子の体を抱きとめる。
抱きとめられた後も、桃子はしばらく腕の中でもがいていたが、やがてぐったりと肩を落とし、嗚咽を漏らし始めた。
茉麻はギュッと桃子の体を背中越しに抱き締めた。そして、震える肩に、そっと顔を埋めた。
「ありがとう、もも」
「うっ・・・ヒック・・・」
「もういいよ、もも。もういいから――」
交差点に日が沈んでゆく。
交わる事のない世界。交わる事のない想いは、ただ夕陽と共に闇へと沈む。
(第7章 交わらぬ世界 FIN)
- 406 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/21(月) 00:44
-
- 407 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/21(月) 00:44
-
- 408 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/21(月) 00:45
- 今日はここまで。
7章は中途半端な長さなんで、一気にあげちゃいました。
- 409 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/25(金) 22:44
- 面白いです
次も楽しみにしてます
- 410 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:50
- 1
チャイムが鳴る。
放課後の校庭に『夕焼け小焼け』のメロディが響き渡る。
「バイバーイ」「明日ねー」と、生徒達の明るい声が所々から聞こえてきた。
そんな中を、梨沙子はぼんやりと1人で歩く。
周りの友達たちも一瞬梨沙子に気づくが、しかし、梨沙子の虚ろな眼差しに戸惑い、声を掛けづらくて「サヨナラ」を言えない。
そういえば最近、千奈美や友理奈ともあまりしゃべっていない気がした。雅とも・・・。
でも、そんなのはどうでもいい気がした。家に帰れば桃子がいる。
桃子とオシャベリをしよう。桃子と話していると元気になる。自分には桃子がいるから構わない。
早く桃子に会おう。早くウチに帰ろうと、俄かに足取りも早くなる。
だが。校門をすぐ出たところで、不意に梨沙子は声を掛けられた。どうやら自分を待っていたらしく、振り返ると雅が校門に寄りかかって笑っていた。
「みや・・・」
「ねぇ、一緒に帰らない?」
「・・・・・・・」
一瞬躊躇うが、梨沙子は無言のまま頷く。
雅は嬉しそうに笑うと、梨沙子の隣りに肩を並べた。
そして2人は夕暮れの街並みを、ゆっくりとした足取りで帰路についた。
- 411 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:51
-
- 412 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:52
- 大通りを歩く。
夕暮れの商店街は、夕飯の買い物客で、活気に満ち溢れていた。
だが、梨沙子と雅は何も喋らない。人々の喧騒が、2人の間を虚しく素通りしてゆくだけ。
ぼんやりと虚空を見上げる梨沙子。カラスが西の方へと、空を横切っていった。
目を細め、梨沙子がカラスの軌道を目で追っていると、隣りで雅がポツリと呟いた。
「ねぇ。最近、梨沙子・・・元気がないよ」
「そんなことないよ」
「熊井ちゃんやちぃも、心配してたよ?」
雅が心配そうな表情で梨沙子の顔を覗きこむと、梨沙子は何も言わずに俯いた。
透き通った雅の目に覗き込まれると、心の中まで覗き込まれそうでイヤだった。
「まだ、ももの事考えてるの?」
「・・・・・・・・・」
「ももはもう・・・いないん・・・だよ?」
途切れ途切れの雅の言葉。
だが、そんな雅の言葉に、梨沙子は俄かにカッとした表情で振り返る。
- 413 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:52
- 「なに?!いなければ考えなくてもいいの?!死んだらどうでもいいの?!」
「違う。そんなワケじゃないよ・・・」
「死んだ人間の事なんて、考える必要ないって事?!」
「そんな事言ってないでしょ?!!」
真っ直ぐな目で雅は梨沙子を見つめる。
意思の強い眼差し。
例えば学校の授業とかでもそう。伝えたくて伝わらなくて、そんなまどろっこしい時、雅はいつもこう言う目をした。
そして梨沙子は、そんな雅の目が好きだった。
- 414 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:53
- 「ただ・・・。他の事にも、少しは目を向けて欲しいだけ・・・」
雅の両目が揺れる。
その瞳に胸の奥が鷲づかみにされた様な、切ない気持ちを覚える。
梨沙子は頼りない表情で俯くと、ポツリと一言、呟くように答えるしかなかった。
「ほっといてよ・・・」
「ほっとけないよ。梨沙子の事好きだもん。ほっとけないよ」
- 415 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:53
- 好きと言う言葉に胸が締め付けられる。
だけど、その言葉はきっとウソ。意味なんて持たない。
だって知っている。雅が好きなのは自分じゃない。雅が好きなのは・・・。
「ウソツキ・・・。みやが好きなのはももでしょ?!」
「ももの事は好き。ももの事は大好きだよ?だけど・・・」
「なに?死んだらもう、ももの事は好きじゃないの??」
「違う・・・」
「死んだ人間なんてもう、好きの対象じゃないんだ?!」
「違う!!!」
顔を真っ赤にして怒鳴りつける雅。
その剣幕具合に、梨沙子は思わず黙り込む。
雅の肩が震え、両目が揺れる。そして、雅の両目からボロボロと涙が零れ落ちる。
- 416 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:54
- 「なんで、そんな事言うの?ヘンだよ・・・梨沙子。ねぇ、どうしちゃったの?」
雅は手を伸ばすと、ゆっくりと梨沙子の背中に腕を回し、その体を抱きしめた。
背中をさする優しい手。頬っぺたに、涙に濡れた雅の頬が触れる。
抱き返すことも押し返すことも、何も出来ないまま。梨沙子はその場に立ち止まるしかなかった。
触れた体から、暖かな熱だけが伝わってきた。
「ねぇ・・・正気に戻ってよ、梨沙子。もう、ももはいないんだよ?」
耳元から聞こえる、雅の言葉。
だが梨沙子はキュッと唇を噛み締めると、震える声で、だけどハッキリと、雅の言葉を否定した。
「違う。いなくなんかないもん。ももはすぐ、側にいる・・・」
「梨沙子・・・」
- 417 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:55
- 僅かに体を離す雅。
雅の真っ赤に腫れた目がじっと梨沙子の顔を見つめた。
視線が涙で揺れている。雅の目を直視できなくて、梨沙子は目線を伏せたままに答えた。
「みやたちにはわからないだけ・・・。ももは今でも、あたしたちの側にいるもん・・・」
やがて、梨沙子はゆっくりと雅の体を押し離す。
離れていく熱。離れていく心。
そして、梨沙子は逃げるように夕暮れの街を駆け出して行った。
- 418 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:55
-
- 419 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:56
- 2
桃子が交差点から梨沙子の部屋に戻ると、梨沙子はすでにベッドの中にもぐりこんでいた。
微かな寝息。もう寝てる様だし、話しかけないでおく。静かな部屋の中に、ステレオからCDのメロディだけが流れる。
ぼんやりと天井を見上げる桃子。
静まり返る部屋。
- 420 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:57
-
あれから、交差点では石川による除霊の儀が行われた。
- 421 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:57
- だけど、結局それにイミなんてなかった。今も桃子はここにいるし、茉麻は今も交差点にいる。
除霊の儀が終わった後、しばらくの間、桃子は茉麻と一緒にいた。
あのあと、茉麻は悲しそうな顔でずっと俯いていた。桃子は悔しくて悔しくて仕方なかった。
こんなに側にいるのに、どうして柴田には気持ちが伝わらない?!!
怒りと悔しさで泣きじゃくり、1人震える桃子の肩を抱き、茉麻はそっと呟いた。
「もう。帰って平気だよ?もも。まぁ、1人でいるから・・・」
「・・・・・・・・・」
「1人にして――」
- 422 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:58
-
- 423 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:58
- 部屋でため息をつくと、梨沙子が不意に起きたらしい。
ベッドがもぞもぞと動き、ホンの僅かに顔を上げた梨沙子が、桃子の事を眠気まなこで見つめていた。
「もも・・・?」
眠そうな声が聞こえ、桃子はそっと微笑む。「ごめん。起しちゃった?」
梨沙子はベッドからゆっくりと体を起すと、ううんとかぶりを振った。
そしてゴシゴシと両目を擦ったあと、不安げな声でポツリと呟いたのだった。
「何処・・・行ってたの?」
「うん。ちょっと・・・」
「ヤダ。1人にしないでよ」
「ごめんね」
- 424 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:59
- ポップな洋楽が流れる。
会話にかき消されるぐらいの小さな音だけど、静まり帰った部屋にはくっきりと響いた。
心地よいメロディ。
しばらく2人で見つめ合ったままでいると、やがて、梨沙子がポツリと呟いた。
「ねぇ、もも・・・。側にいるんだよね?」
「え?うん。いるよ?ここに」
「じゃぁ、手ぇ握って」
「え?」
「頭撫でて・・・」
- 425 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 22:59
- どうすることなど出来ない。無理な話。
何故梨沙子は突然そんな事を言い出したのか?無理な事だと解っているハズなのに・・・。
何もする事など出来ない。ただ困って俯くだけの桃子に、梨沙子は涙をボロボロと零した。
そして、呟いた。
「側にいるのに・・・どうして触ってくれないの?」
帰り道、雅はハッキリと梨沙子に言った。「ももはいない」と。
でも、桃子はすぐ側にいる。それは、手の届きそうなぐらい、すぐ側。
梨沙子はゆっくりと手を伸ばす。桃子も釣られて手を伸ばす。重なるが決して触れる事のない2人の手。
「なんで・・・」
「・・・・・・・・」
「こんなにもも、側にいるじゃん・・・」
涙がボロボロと零れる。胃が痛む。胃がキリキリと締め付けられ、吐きそうになる。
マクラに伏して痛みと悲しみで泣いている梨沙子。
桃子はどうする事も出来ない。
梨沙子の背中をさすってやる事すら出来ない。ただ、呆然と梨沙子を見つめているだけだった。
- 426 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 23:00
- やがて――。
梨沙子は泣いて泣いて泣きつかれたのだろうか・・・マクラに伏したまま、ゆっくりと寝息を立て始めた。
「梨沙子・・・」
桃子はそっと寝顔を覗き込む。
頬に涙の跡がクッキリと残っている。だが苦痛は治まったらしく、その柔らかなカワイイ寝顔にホッとする。
桃子は安心した様子でベッド脇に座ると、天井を見上げ、深いため息を吐いた。
- 427 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 23:00
-
(やっぱり。ここにいちゃダメなんだね、もも――。)
- 428 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 23:01
- 一緒にいると、梨沙子をダメにする。
解っているけど、どうしても離れる事など出来なかった。
だって、梨沙子の側を離れたら、自分は何処に行けばいいんだろう?
何処を彷徨えばいいんだろう?
行き場などない。どうしていいのか解らない。天国に行けない自分は、いったい何処にいればいい?
もしも梨沙子の側を離れれば、自分は1人ぼっちになってしまうじゃないか!?
梨沙子の側を離れれば、1人に――。
- 429 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 23:01
-
「・・・・・・・そっか。」
- 430 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/26(土) 23:02
- ポツリと呟く桃子。 ゆっくりと立ち上がり、低い天井を見上げた。
その目はハッキリと、何かを指し示していた。
どうすればいいのかは解らない。自分は何をすればいいのか知らない。だけど。何かが解った気がした・・・。
「そっか。まぁも、きっと・・・そうなんだ」
振り返る。
ベッドの上で梨沙子が寝ているのを確認し、桃子はゆっくりと部屋を離れた。
CDの静かなメロディーが、やがて最後の曲を奏でて消えた。
- 431 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/26(土) 23:03
-
- 432 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/26(土) 23:03
-
- 433 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/26(土) 23:03
- 今日はここまで。
- 434 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/26(土) 23:04
- >409さん
ありがとうございます。
あと一息な感じなのでなんとかがんばります。
- 435 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:34
- 3
月を見上げる茉麻。
足元ではフリージアが夜風に揺れる。
何度月は空に昇ったろう?今日で379回・・・だったかな?
結局、除霊なんて無駄だった。今も茉麻はこの交差点に取り残されている。
「まぁ・・・」
「もも?」
振り返ると、桃子が立っていた。
1人にしてと言って帰って貰ったのに、また戻ってきたのだろうか?自分を憐れに思って、引き返してくれたのか?
「なに?慰めに来てくれたの?」
「・・・・・・・・・・・」
「ありがとう。でも、今日は1人でいたいんだ・・・」
- 436 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:35
- 車がひと気のない道路を、遠くから猛スピードで走ってくる。
すると。まるで1年前を再現するかのように、茉麻は道路へと飛び出した。
だが、車はブレーキを踏む事すらなく猛スピードで加速し、そして、何事もなかったかの様に茉麻の体を素通りしていく。
桃子は黙ったままじっと、そんな茉麻の横顔をみつめていた。
- 437 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:35
- 「柴田さんが笑ってくれたら、この場所を離れられる様な気がしてた」
「・・・・・・・・・・」
「でも柴田さんは、まぁがこの場所にいる限り、笑顔を取り戻せないと言った」
「・・・・・・・・・・」
「もう、どうする事も出来ないね。まぁ・・・」
自嘲気味に笑う茉麻。
だが、桃子は笑わない。
真剣な目で茉麻を見つめたまま、ゆっくりとかぶりを振り、答えた。
- 438 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:36
- 「違うよ」
「え?」
「まぁをこの場所に縛り付けているのは、柴田さんの凍りついた笑顔でもない。枯れないフリージアでもない」
「・・・・・・・・」
「まぁ自身の気持ちが、まぁをこの場所に縛り付けている・・・。そうでしょ?」
何も言えない茉麻に、桃子はそっと手を伸ばした。
目を見開き桃子を見つめる茉麻に、桃子はゆっくりとした口調で、ハッキリと答えた。
「大丈夫。まぁは1人じゃないよ?」
「え・・・・」
「ももが一緒にいるから、大丈夫だよ?」
- 439 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:37
- 星が輝く。風が凪ぐ。
フリージアは夜風に震える。
凍りついた表情で佇む茉麻に、桃子は心とろかす優しい笑顔で笑いかけた。
「ほら。2人一緒なら怖くないよ、まぁ。勇気を出して・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「そして、この場所を離れよ?ももと一緒に」
震える手。茉麻はゆっくりと手を伸ばすと、桃子の小さな右手をキュッと握り締めた。
小さな手に、不思議と温かさを感じた。
そして・・・桃子はニコッと微笑むと、茉麻の手を引き、ゆっくりと交差点を離れた。
誰もいない交差点に、フリージアだけが静かに揺れる。
- 440 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:37
-
- 441 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:38
- 4
「うわーーー!!すっごい景色!!!」
東京タワーの展望台のさらに上。
生きてる人間だったら絶対に登らせて貰えない様なトコロ。2人はタワーの骨組みの上に立ち、目を細めて夜空を見上げた。
空には満天の星空。そして眼下には、星をちりばめたようなネオンの海。
世界は天上も地上も、光に包まれていた。
零れんばかりの笑顔で周囲を見渡す、桃子と茉麻。2人の手はしっかりと、握られたままだった。
「ねぇ、もも。この星空の向こうに、天国はあるのかな?」
そして茉麻は、笑いながら言葉を続けた。
「だとしたら、きっと天国は素敵なトコロだね!!」
そう。満天の星空の向こうにある天国は、きっと宝石箱のようにキラキラとした世界なのだろう。
そんな茉麻の言葉を聞きながら、桃子も嬉しそうに笑った。
「でもさ、地上も・・・星を散りばめたみたいにキレイじゃない?」
- 442 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:38
- そこは一面のネオンの海。
真夜中なのに、不思議なぐらいに街は、光で溢れかえっていた。
この世界に、きっと暗闇なんてない。
「この星空の向こうに天国があるならさ・・・きっと、この星の海の中にも、天国があるんだと思うよ」と、桃子は笑う。
光に包まれた世界。この光のひとつひとつが、人々の命の輝き。
きっと、この世界こそが、最上の天国。
「そうかも・・・しれないね」
茉麻は桃子の言葉に、目を細めて頷いた。
- 443 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:39
- やがて、東京タワーに強風が吹き抜ける。
でも、風を感じる事のない霊体の自分達には、風など無意味。
肩を並べて2人は、光の世界をただじっと見つめていた。そして・・・
「ももね。死んで初めて解った気がするんだ」
「え?」
「太陽は眩しくて、風は心地よくって、雨は冷たくて、人の手は暖かくて」
「・・・・・・・・・・」
「幸せって、そーゆーことなのかなぁ?って思った」
桃子の言葉。不意に茉麻の握る手が強まった。
幽霊の体に体温なんて感じない。
だけど、不思議と2人の手が温かく感じるのは、きっと生きてる頃の記憶があるから。
人の手の暖かさを知ってるから。
- 444 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:40
- 「ももはこの世界が好き。辛い事とか悲しい事とかいっぱいあるけど・・・やっぱりこの世界が一番好き」
「・・・・・・・・・・・」
「みんな悲しくて辛くてどーしようもなくって、だけどみんなには、この世界で幸せになって欲しい」
東京タワーから街を見下ろす。
梨沙子や雅の家はどこだろうか?
場所は解らないが、この星の海の光の欠片のどれかひとつが、きっとそう――。
- 445 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:40
- 「柴田さんの家は、何処にあるんだろう?」
茉麻はポツリと呟いた。
桃子は茉麻を見つめ、黙ったまま、その言葉の続きを聞いていた。
「まぁはね、柴田さんに幸せになって欲しいと思ってる。ホントだよ?」
「うん。解ってるよ、まぁ」
「柴田さんにわかって貰えなくっても、まぁは・・・」
星空に叫ぶ。
星の海に叫ぶ。
この光の欠片の何処かにいるであろう人に叫ぶ。
「まぁは、柴田さんの事好きだったのに!!!バカーーーーー!!!!」
決して届く事のない声は、何処までも遠く。何処までも遠く。
遥か光の果てへ伝い、消える。
- 446 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:41
-
- 447 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:41
- 遠くを見つめる茉麻の目。
何処かスッキリとした、晴れやかな眼差し。
茉麻はその大きな目を桃子に向け、問いかけた。
「ねぇ、どうして解ったの?もも・・・」
「ん?」
「まぁは、ホントは地縛霊じゃないって」
「・・・・・・・・・・・」
「まぁをあの場所に縛り付けていたのは、まぁ自身の気持ちだって」
不思議そうに問う茉麻。
だが、茉麻の言葉を聞き、桃子はイタズラっぽくクスクスと笑った。
「ウフフ。幽霊の気持ちはね、幽霊が良く解るんだよ?まぁ」
「・・・・・・・・」
「だって、もももそうだもん」
「え?」
「梨沙子をダメにしてるって解ってたけど、側を離れられなかった。だって、梨沙子の側を離れたら、ももは何処に行けばいいの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「どうしたらいいのか、そんなのわからないよね。あたしたちには・・・」
- 448 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:42
- 死んだら何処に行けばいいのかなんて、学校でも塾でも習っていない。
何が正しいのかなんて、自分達は知らない。
だから自分達は、こうするしかなかった。生きてた頃の様に、人の側にいる事を望むしかなかった。
1人は寂しいから。不安だから。怖いから。
- 449 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:42
- 「あの交差点にいれば、必ず毎日柴田さんが来てくれた」
「・・・・・・・・・・・・」
「1人ぼっちで居場所なんて何処にもない。だけど、あの交差点にいれば、必ず毎日・・・柴田さんが来てくれる。それが嬉しかったんだ」
茉麻はぼんやりと空を見上げる。
雲が凄い勢いで流れてゆく。
きっとここよりさらに上空は、もっと凄い風が吹き荒れているのだろう。
- 450 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:43
- 「まぁの存在が、柴田さんの笑顔を奪っていたのは知ってた。まぁが柴田さんの心を縛り付けていたのも」
「・・・・・・・・・・・・」
「でも、1人ぼっちは寂しかったから。あの交差点を離れる気にはならなかった」
「・・・・・・・・・・・・」
「まぁは柴田さんに会えるのが嬉しかった。柴田さんには、理解して貰えなかったけど・・・まぁは柴田さん、好きだった」
「幽霊の気持ちは、生きてる人間には解らないよ」
桃子の呟きに、茉麻はキュッと手を握しめ答えた。
人間に幽霊の気持ちなんて解らない。
だけど、幽霊の自分たちは、こうして解り合う事が出来る。
茉麻は柔らかく微笑むと、桃子の顔をじっとみつめた。その目は、今まで見たこともないぐらい、穏やかな眼差し。
- 451 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:44
- 「まぁ。ももと出会えてよかった」
「うん・・・」
「ももに出会えなかったら、ず〜っとあの交差点に居続ける事になったと思う」
「・・・・・・・・・・・」
「ずっと、柴田さんの心を縛り付けたまま」
ニコッと微笑む茉麻。
そして、茉麻の手が桃子の背中をギュッと抱き寄せる。
茉麻の体にスッポリと包まれる、桃子の小さな体。
「あ・・・」
「もも、大好きだよ、もも・・・」
「まぁ・・・」
「ありがとう、もも」
- 452 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:45
- その瞬間。
桃子の唇に触れる感触。不思議と、柔らかさと温かさを感じた――。
そして、それはホンの一瞬で。
次の瞬間には、茉麻の体は次第に夜の闇の中へと解けて消えて行った。
「ま・・・まぁ!!」
「本当にありがとう」
自分を抱き包んでいた体が次第に消えてゆく。
桃子は思わず茉麻の手を握り締めると、茉麻はキュッとその手を握り返してくれた。
自分を見つめる柔らかな笑顔も、握り返した手も、徐々に空へと解けてゆく。それは、魂の解放の時――。
- 453 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:45
- 「まぁ・・・」
「先に行ってるけど、また後で会えるよね?もも」
「うん。必ず、後から行くよ・・・?まぁ・・・少しだけ、待ってて」
「解った・・・待ってるから。」
消える瞬間、もう一度だけ2人の唇が触れる。
そして、最後に茉麻は呟くように答えた。
「なんとなくだけど。まぁね・・・解った気がするんだ」
「え?」
「ももは何者なのか。ももはさ・・・きっと・・・きっと・・・」
「・・・・・・・・・」
- 454 名前:第8章 最上の天国 投稿日:2008/07/30(水) 00:46
- そして、まるで砂のお城が崩れるように、腕の中から完全に消える茉麻の体。
1人取り残される桃子。
風が吹きすさび、東京タワーの鉄塔が激しく揺れる。
だが、寂しさはなかった。
この時、自分の中で何かがハッキリとしたような・・・桃子はそんな気がした。
(第8章 最上の天国 FIN)
- 455 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/30(水) 00:46
-
- 456 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/30(水) 00:46
-
- 457 名前:kappa―! 投稿日:2008/07/30(水) 00:47
- 今日はここまでー。
一旦あげ。
- 458 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/30(水) 06:31
- 続きがすごく気になります!
桃子にも幸せになってもらいたいですね
- 459 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/31(木) 00:36
- 生まれ変わりを繰り返し、やがて神になるのだ。と誰かが言ってました。
嗣永桃子は既にネ申ですが・・・。
というのは、自分で突っ込んでおこう。
- 460 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:23
- 1
夏の暑い日ざしが、アスファルトを焼き付ける。
茉麻がいなくなり、あれから3週間が過ぎた。
交差点では焼ける様な日差しの中、フリージアが静かに揺れる。
枯れないフリージアは、今も枯れないまま・・・。
だけど――。
- 461 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:23
- 「ねぇ、あゆみーん!そろそろいこーよぉ!!ビアガーデン!!」
「あ・・・うん!今、行く」
友達だろうか?
女の人が柴田の数メートル向こうに3人ばかり連れ立っている。
今日は暑いから、真昼間からビアガーデンに行って飲み明かすのだろうか。3人はテンション良く話していた。
茶髪の派手な女性がゲラゲラと笑い声をあげている。賑やかな人たち。
柴田は目を閉じフリージアに数秒間黙祷したあと、何処か晴れやかな表情で3人の元へと駆け出した。
「ごめんね、遅くなって!行こっ!!」
同じ職場の同僚なのだろうか、柴田を含めて4人は楽しそうに笑いあいながら、桃子の前を通り抜けて行った。
桃子に気づく事ないままに・・・。
- 462 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:24
- 「・・・・・・・・・」
桃子は柴田の去ってゆく後ろ姿を見つめる。
それはどこか、軽い足取りに思えた。
柴田は先ほど交差点にフリージアを供え、黙祷をしながら茉麻に報告をしていた。
「新しい職場で仕事を始めた」と。「同僚もいい人ばかりで、気持ちが随分と軽くなった」と。
そして、「あなたの分まで、一生懸命生きます。」と・・・。
柴田の中で何かが吹っ切れていた気がした。
それは茉麻がいなくなった事が原因ってだけではないような気がする。
職場が変わって気持ちが新しくなった事も勿論だろうけど。きっと、この場所で全ての思いをブチまけた事が、気持ちが吹っ切れた一番の理由の様な気がした。
心の中に蓄積されていた苦しみも憎しみも悲しみも、そして罪悪感も。
あの日、この場所で全てをブチまける事で、心の中が軽くなったのかもしれない。
- 463 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:25
- 茉麻も今の柴田の姿を見て、きっと喜ぶだろう。
早く茉麻に会って、報告してあげたい。
いや、もしかしたらすでに、天国から柴田を見て安心しているかもしれない。そうだといい――。
- 464 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:26
- 桃子は交差点を離れる。
赤いフリージアが遠のいてゆく。
きっともう、この交差点には来ないだろう・・・。
焼きつくような暑さ。ジジジジジと蝉の声が聞こえる。
季節は7月下旬。
世間はいつしか、夏休みになっていた。
- 465 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:26
-
- 466 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:27
- 桃子が交差点を離れ国道沿いを歩いていると、
川原へお散歩に向かうジョンとおじいさんにすれ違った。
高い場所で輝く太陽。いつものお散歩の時間。だが、桃子の足は川原には向かない。
ジョンはキョトンとした面持ちでこちらを振り返り、それを見た桃子は、思わずクスッと笑う。
「ごめんね、今日はあたし。川原に向かってるんじゃないんだ〜」
ヒラヒラとジョンへ手を振る桃子。その足は一路、学校へと向かう。
死んでから・・・一度も学校へは行かなかった。
クラスメイトを見るのが辛かったから。みんなから見えないのが辛かったから。雅に会うのが辛かったから。
だけど――。
- 467 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:27
- 昨日の夜を思い出す。
TV画面の中では、爽やかな夏の曲を歌うアイドルの女のコ。
部屋で歌番組を見ている桃子に、梨沙子が不意に笑いながら言った。
「ね。明日一緒に学校来てよ」
「え・・・?」
「だいじょうぶ。今は夏休みだから、部活やってる生徒ぐらいしかいないから大丈夫だよ」
梨沙子の話では、美術の授業で自由課題が出てるらしい。
折角だから、本格的な油絵を描きたい、と。
そして、風景画とか色々考えたけど、どうしても描きたい絵があると、梨沙子は言った。
- 468 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:28
- 「ねぇ、一緒に美術室に来てよ」
「え?」
「もも。絵のモデルになってよ」
思わず言葉を失う桃子。
梨沙子はもう、雅や千奈美や友理奈とは、殆ど会わなくなっていた。
「ももの絵、描きたい」
「でも・・・」
「ダメ?」
泣きそうな目で縋る。そんな目をされると断る事なんて出来ず「いいよ」と、微笑むしかなかった。
すると梨沙子は嬉しそうに、肩をすくめて笑った。
「ありがと、もも」
- 469 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:29
- 話は終わり、TVも見終わった後、梨沙子は「もう、寝るね?」と言った。
そして電気を消し、梨沙子がベッドに潜り寝ようとした瞬間、梨沙子が不意に胃の辺りを押え、蹲った。
流れ落ちる脂汗。
桃子はビックリして、梨沙子の側に駆け寄り、顔を覗きこんだ。
「り・・・梨沙子?!!」
「だいじょぶ・・・」
ココ数週間の間。梨沙子はあまり体調が良さそうではなかった。
だが、桃子にはどうする事も出来ない。
背中をさする事も、誰かを呼ぶことも出来ない。
- 470 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:29
-
(なんとなくだけど。まぁね・・・解った気がするんだ。ももは何者なのか・・・)
- 471 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:29
- あの日の茉麻の言葉を思い出す。
茉麻はあの時、ハッキリと桃子に告げた。桃子は一体何者なのか・・・。
だが、あの言葉は本当に正しいのか解らない。
結局。今も自分は、梨沙子を周りの世界から引きずり落としているだけの様な気がした・・・。
自分は梨沙子に何もしてあげられてない――。
- 472 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:29
-
- 473 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:30
- 夏の太陽の下。
やがて、桃子は学校の校門へと辿り着いた。
久しぶりの校舎。わずか2ヶ月ちょっと間だったけど、随分懐かしく感じた。
校庭では部活をする生徒達の姿。
見知った顔もちらほら。校庭の端っこでは、舞美とえりかが木陰で、バドミントンのラケットを持って笑いあっている。
「・・・・・・・・・・」
でも。声はかけない。かけられるワケがない。
生徒達の賑やかな部活動を横目に、桃子はまっすぐ、梨沙子の待つ美術室へと向かった。
- 474 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:30
-
- 475 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:30
- 2
「遅かったね、もも。何処行ってたの?」
美術室へ入ると、そう言って梨沙子が不安そうな顔で桃子を見つめた。
桃子は誤魔化すように笑う。「ちょっと、寄り道」
そして。ふと、梨沙子の隣りに目を向けると、そこには佐紀がいた。
佐紀も呼ぶとは聞いてなかっただけに、桃子は意外そうな顔を見せ、問いかけた。
「あれぇ?佐紀ちゃんも居たんだ?」
「うん」
佐紀はニコニコと微笑む。
私服姿なので部活動とかでは、勿論ないようだった。
佐紀は梨沙子と目線を合わせてクスクスと笑ったあと、答えた。
「今日。お姉ちゃんに無理矢理つれてこられたの。飯田先生と3人で相談って・・・」
「・・・・・・・・」
「でも、うちは話す事なんて何もないから。会議室、出てきちゃった」
「・・・・・・・・」
「そしたら廊下で会ったんだよね。りーちゃん」
笑いあう2人。
桃子はなんとも言えない複雑な表情で2人を見るしかなかった。
- 476 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:31
- クーラーをつけていないようで、美術室の中は随分と蒸し暑い様子だった。
桃子が美術室の壁に掛かっている温度計を見つめると、メモリが30度をさしていた。真夏日。
美術室では、梨沙子が黙々と油絵の準備をしている。キャンバスを立てる。
そんな梨沙子を見ながら、佐紀は机の上に座り、両足をブラブラさせていた。
まるで温室の様な、暑い部屋の中。
でも、梨沙子はなんとなく、暑さ以上の汗をかいている様な気がした・・・。
「梨沙子・・・大丈夫?」
桃子が問いかけると、梨沙子は弱弱しく頷いた。
「うん・・・」
顔色がいつも以上に悪く見える。
しかし梨沙子は淡々と準備を進めると、筆を手にし、桃子に呼びかけた。
- 477 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:31
-
「もも・・・そこに立って」
- 478 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:32
- 梨沙子に言われるまま、美術室の窓際に立つ。
構図を決めているのか、しばらく、窓際に立つ桃子をじっと見つめる梨沙子。
やがて梨沙子は、キャンパスに鉛筆で器用に線を取っていった。
梨沙子の頬を伝い、汗がポタポタと床に落ちる。机に座っている佐紀が、不安そうに梨沙子に問いかけた。
「暑い?窓・・・開けようか?」
「・・・・うん。ごめん」
佐紀はトトトと駆けつけ、桃子の後ろの窓を開ける。
その瞬間、風が吹き込んでくるが、桃子のカラッポの体は風を感じることがない。
代わりに梨沙子の髪の毛が、風に靡き揺れている。
無言のまま絵を描く梨沙子を見つめる、桃子と佐紀。梨沙子は淡々とペンを動かし続ける。
刹那。不意に窓から、激しい風が部屋の中に吹き込んできた。
桃子の背中の後ろで、窓の白いカーテンがブワッと風で舞い上がり、揺れた。
- 479 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:33
-
「羽みたい」
- 480 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:33
- 佐紀がポツリと呟いた。
桃子が不思議そうに振り向くと、佐紀は目を細めて「カーテン」と笑う。
「なんか、天使の羽みたい・・・」
梨沙子はゆっくりとペンを動かす。
イラストの中の桃子の背中に、大きく舞い上がる羽が描かれた。
梨沙子はキャンパスを見つめながら、フッと目を細めた。
「なんで、ももはこの世に取り残されたんだろうと思ってたけど」
「え?」
嬉しそうに桃子を見て笑う梨沙子。
「もしかしたらももは・・・天使なのかもしれないね?」
「・・・・・・・・」
俯く桃子。キュッと唇を噛み締める。
暑い日差し。焼け付くような熱気。ボタボタと床に零れる梨沙子の汗。
- 481 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:33
-
- 482 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:34
- 「あの子はきっと・・・死神」
「え?」訝しげな飯田に、石川はゆっくりと答えた。
会議室では、石川と飯田が佐紀の事について、相談をしていた。
そして、その途中に梨沙子の話題が出た瞬間、石川はハッキリとした口調で、こう断言した。
「嗣永さん。きっと彼女は死神なんだと思う」
「・・・・・・・」
「梨沙子ちゃんを生きながら殺していく死神」
「・・・・・・・」
「一緒にいると、取り殺されていく」
- 483 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:34
- 意味が解らないと言った表情の飯田。
困ったようすで肩をすくめると、飯田は石川の顔を心配そうに覗きこんだ。
「一緒にいるとって・・・どう言う意味?彼女はもう、死んだのよ」
「・・・・・・・・・」
「そうでしょ?梨沙子ちゃんだけが、桃子ちゃんがまだ生きてると、思い込んでいるだけ」
石川は無言のまま飯田の顔を見つめる。
霊の存在を知らない人間は幸せだ。素直にその死を受け入れる事が出来る。
ホンの少しでも霊に関わってしまった人間は、確実にその人生を狂わされてゆく・・・。
- 484 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:34
-
- 485 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:35
- 美術室。
一心不乱に油絵を描く梨沙子。
次第に零れる汗の量が増える。尋常ではない。
佐紀がその様子にさすがに不穏を抱き、梨沙子の肩にそっと触れた。
「ねぇ?平気?窓閉めて、クーラーつけようか?」
「だいじょうぶ・・・」
佐紀は不安そうに梨沙子の肩を触る。だが桃子は、何も出来ない。
ただ、梨沙子の様子が異常なのだけが、ハッキリと解る。
桃子は小さくかぶりを振ると、口を真一文字に噤み、梨沙子へと呼びかけた。
「もう。絵、描くのよそう・・・」
「・・・・・・・・」
「ね?」
- 486 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/02(土) 01:35
- 梨沙子が泣きそうな顔で桃子を見つめる。汗がボタボタと床を濡らす。
桃子は窓際から離れ、ゆっくりと梨沙子へ歩み寄った。
心配そうな優しい眼差し。
梨沙子はフッと微笑むと、縋るように、その右手をゆっくりと桃子へと伸ばした。
だが。その瞬間、梨沙子の右手から油絵の筆がボトリと落ちる。
「梨沙子・・・・?」
俄かに立ち止まる桃子。
そしてそのまま。
梨沙子は力を失うように、2人の目の前で、膝から床へと崩れ落ちたのだった。
- 487 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/02(土) 01:36
-
- 488 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/02(土) 01:36
-
- 489 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/02(土) 01:36
- ここまでー。
- 490 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/02(土) 01:38
- >458さん
是非とも幸せにしてあげたいですw
- 491 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/02(土) 01:40
- >459さん
確かに。
なんか妙に悟ってますからね、あの人w
- 492 名前:名無し飼育 投稿日:2008/08/03(日) 01:23
- ぁああああああああ!!!!!
気になる終わり方・・・
りーちゃああああああああん!!!!
- 493 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:34
- 3
「り、梨沙子!!!!」
お腹を押さえ、苦しそうに小刻みな呼吸を続けている梨沙子。
佐紀が愕然とした表情で、傍らで立ち尽くしている。
桃子は急いで梨沙子の背中に触れようとするが、触れる事など出来ない。どうする事も出来ない。助ける事も出来ない。
「だ、誰か・・・!!」
桃子はすぐさま美術室を飛び出す。
誰もいない、静まり返った廊下。
だが、向こうの方から部活の練習を終えたらしき舞美とえりかが、笑いながら歩いてくるのが見えた。
「あ!!えりかちゃん!舞美!!梨沙子が、梨沙子が・・・!!」
2人の元へ駆けつけ、必死になって呼びかける。
だが、2人は桃子に気づくことはない。
桃子のカラッポの体を通り抜け、2人はジャージ姿のまま「お昼、どっしよっか〜?」と笑いながら、廊下をオシャベリして歩いて行くだけだった。
- 494 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:35
- 「舞美・・・。えりかちゃん・・・」
桃子は呆然と、2人の背中を見送るしかなかった。
泣きたくなる。今ほど、自分を不甲斐なく感じるときは無い。
桃子は廊下で大声を上げ、叫ぶ。誰でもいいから、自分の声を聞きつけて欲しかった。
「ねぇ、誰か!!梨沙子を助けてよ!!!ももの声、聞いてよ!!!!」
しかし。声は誰にも届かない。
虚しく廊下を響いていくだけ。幽霊の声は誰の耳にも届かない。
- 495 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:35
- 美術室へ戻ると、梨沙子がうずくまったまま呻き声をあげていた。
佐紀が一生懸命、必死で梨沙子の背中をさすっているが、どうする事も出来ない。
桃子は佐紀のすぐ隣りに立ち、呼びかけた。
「佐紀ちゃん・・・誰かを・・・。誰か呼んで来て!!佐紀ちゃん!!」
「え・・・・」
その言葉に、佐紀は愕然の様子で目を見開く。
「で、でも。うちは・・・」
「お願い!ももの声は誰にも届かない!誰も気づいてくれない!!でも、佐紀ちゃんが呼びに行ってくれれば、誰かしら駆けつけてくれる!!」
「でも、うち・・・」
- 496 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:36
- 声が震える。
誰かと話すなんて出来ない。もう3年も誰とも口を聞いていない。
佐紀は思わず後ずさる。すると、踵の辺りに梨沙子の腕が当たった。
足元にはうずくまって苦しむ梨沙子。尋常ではない苦しみ方に怖くなってくる。
すると・・・桃子は佐紀の顔に自分の顔を近づけ、大声で怒鳴りつけた。
「早く!このままじゃ・・・梨沙子、死んじゃうかもしれないよ!!!」
「・・・・・・・・・」
「死んじゃってもいいの?!!」
「で、でも。うちは・・・」
完全に逃げ腰で怯えている佐紀。
桃子は自分の不甲斐なさが嫌になってくる。
梨沙子を助けられない。そして佐紀を説得する事も出来ない。
悔しくて悲しくて、桃子はギュッと唇を噛み締める。涙の代わりに、想いがボロボロと零れ落ちた。
「ねぇ、佐紀ちゃん」
「?」
「前に言ってたよね?自分は生きてる人間より、死んだ人間の方が好きだ・・・って」
「・・・・・・え?」
突然の桃子の問いかけに戸惑う佐紀。
すると、桃子はまるで泣き叫ぶ様に、そのあとの言葉を続けた。
- 497 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:37
- 「じゃぁ、梨沙子もそうなの?!!佐紀ちゃんは、生きてる梨沙子より、死んだ梨沙子の方が好きなの?!!」
「・・・・・・・・・」
「梨沙子が死んじゃったほうが、佐紀ちゃんはずっと嬉しいの?!!」
- 498 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:38
- 佐紀は目を見開く。そしてじっと、床に倒れる梨沙子を見つめる。
途切れ途切れの息。苦しそうにお腹を抑えたまま、口元からは唾液が零れていく。苦しみもがく友達。
次第に体が震えてゆく。佐紀は桃子の顔を見ると、桃子は顔をグチャグチャにして泣いていた。
幽霊の体に涙は零れないけど、桃子はメチャクチャに泣いていた。泣き叫んでいた。
「そんなワケない!人が死ぬことが嬉しいワケないじゃん!!生きてるほうが嬉しい!!そうでしょ?!!」
「・・・・・・・・・・・」
「お願いだから、梨沙子を助けて!!!ももじゃ、死んだももじゃ、どうする事も出来ないから!!!」
「・・・・・・・・・・・」
「でも。佐紀ちゃんは生きてるんだから!!佐紀ちゃんは人を助ける事が出来るんだから?!!!」
美術室に桃子の叫びが響き渡る。
焼きつくような熱気が教室を包む。
零れ落ちる汗。佐紀の頬に、一筋の雫が伝わって行った。
- 499 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:38
-
- 500 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:39
- 4
会議室では、飯田と石川が話している。
石川の目は真っ赤に腫れ上がっていた。
「ねぇ。飯田先生。佐紀は生きてるって言えるのかな・・・?」
「石川・・・さん」
「誰とも交流を失って、言葉を失って、心を失って」
「・・・・・・・」
「あの子は本当に、生きてると言えるんですかね・・・飯田先生」
- 501 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:39
- 生きてる人間を嫌い、死んだ人間にだけ心を許し。
周りの生ある人間から、次第に取り残されていく佐紀。
果たして、この子は生きてると言えるのだろうか?
生きている人間と生きる事を拒否する佐紀は、もしかしたら、死んでいるも同然なのかもしれない。
そして自分は、姉妹なのにそんな佐紀と分かち合う事はおろか、言葉を交わすことすら出来ない。
- 502 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:40
- 「どうしたら、あの子は・・・」
「石川さん・・・」
石川がギュッと唇を噛み締めると、飯田は慰めるようにその肩を優しく叩く。
誰よりも石川が佐紀の事を案じている事を、飯田は知っていた。
だから、だからこそ・・・飯田はいつだって、この姉妹の絆を繋げてあげたいと望んだ。
心の底から思う。もし、この世に神様がいるのなら、どうかこの姉妹の途切れた絆を・・・。
- 503 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:40
-
――バタン!!!
- 504 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:41
- それは突然の事だった。
会議室の扉が激しい音を立てて開く。
廊下からは、汗まみれの佐紀。石川が目を丸くして、佐紀を見つめる。
「佐紀・・・!」
飯田も、大きな目をさらに大きくして唇を振るわせた。
「佐紀ちゃん。どうしたの?」
すると佐紀は、フラフラとした足取りで、石川へと近づいた。
そして、搾り出すように、細い声をあげた。
「助けて・・・」
「え?!!!」
顔を上げると、佐紀は泣いていた。
泣きながら石川の体に縋り、そして細い声は俄かに大声になり、石川に呼びかけた。
- 505 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:41
-
「お願いだから!梨沙子を助けて!!梨沙子が死んじゃう!!」
- 506 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:42
- 石川は愕然と肩を震わせた。
何がどうなってるのか解らないが、確かに佐紀は、自分に話しかけている。
3年ぶりに・・・自分に話しかけてくれている。
「さ。佐紀。あなた・・・声・・・」
石川の驚愕の様子に気づく事無く、佐紀は石川に縋って泣き続ける。
一心腐乱で「梨沙子を助けて!!」と繰り返し泣き叫ぶ佐紀に、飯田がその肩を優しくすさぶる。
「お、落ち着いて!!佐紀ちゃん。梨沙子ちゃんが・・・・梨沙子ちゃんがどうしたの?!!」
「梨沙子が、梨沙子が・・・」
- 507 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:43
- ――その瞬間だった。
蒸し暑い部屋の中。
突如として、石川の体に異変が起こった。
「?!!!」
蒸すような暑さの中、急激な寒気が体を襲った。
何かに押さえつけられる心。「な、なに・・・」石川は目を見開く。
すると、石川のすぐ横に、女の子の顔が見えた。
そして次第に、体が心が、何者かに支配されていくような感覚を覚える。これは・・・。
- 508 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:44
- 「あなたは・・・まさか・・・桃子・・ちゃん・・・?」
この感覚はそう。かつて霊媒師であった自分には、よく解る。
降霊をして、霊が乗り移った時の感覚。
すぐに解る。自分の体に、幽霊が無理矢理入り込もうとしているのが。
「や、ヤダ・・・やめて!!桃子ちゃん、やめて!!!」
「お姉ちゃん!!」
石川の体に縋る佐紀が、泣きはらした目で不安げに石川を見上げる。
飯田も「石川さん?!ど、どうしたの?!!」と叫び、その肩を揺するが、体はもう、自制が効かなくなっていた。
「いや・・・いやーーーーーー!!!!!」
激しい悲鳴。膝から崩れ落ちる石川。
だが、崩れ落ちたのもつかの間。すぐに石川は、再び起き上がる。
その目はまっすぐ、会議室の外、廊下を見据えていた。
「早く。梨沙子を早く!!」
「おね・・・。も、もしかして・・・もも?!!」
すぐさま会議室を飛び出し、石川は廊下を駆け出して行く。
飯田と佐紀も石川を追い、美術室へと向かった。
- 509 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:45
- 開け放たれた美術室の扉。
中では梨沙子が蹲り、その背中を激しく震わせていた。
「梨沙子!!!」
蹲っている梨沙子を抱き上げる石川。
すると、梨沙子はその声と体に反応し、ゆっくりと薄く目を開けた。
「も・・・も・・・・?」
ぼんやりとした輪郭。
顔ははっきりと見えないが、梨沙子の目には、不思議と桃子の姿が見えた気がした。
「も・・・も・・・。助けにきて・・・くれ・・・た・・・の。も・・・も」
手を伸ばす。
石川の頬に触れる梨沙子の手。
飯田は真っ青な顔のまま、急いで美術室を飛び出し、電話へと走った。
やがて。
救急車のサイレンが遠くの方から響き渡って来た。
(第9章 舞い降りた天使 FIN)
- 510 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:45
-
- 511 名前:第9章 舞い降りた天使 投稿日:2008/08/10(日) 23:45
-
- 512 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/10(日) 23:46
- ここまで。
- 513 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/10(日) 23:47
- >492さん
あんまり引っ張らないんですけど、
今回は引っ張ってみましたw
- 514 名前:名無し飼育 投稿日:2008/08/11(月) 00:45
- ハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン
引っ張られたァーw
りーちゃんも桃子も作者さんもがんばって!!
- 515 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:07
- 1
都心のファーストフード店は、若者たちの笑い声で喧騒としていた。
そんな中、しんみりとした様子でポテトをほおばる雅と千奈美と友理奈の3人。
梨沙子と一緒に遊ばなくなって、1ヶ月近くが経った。
今日も、みんなで映画を見に行くつもりだったけど、梨沙子は「行かない」といって断ってきた。
もう、どうしたらいいのか解らない。
梨沙子をどうしてあげればいいのか、検討なんてつかなかった。
だけど・・・
「梨沙子。なんとかしてあげよ?!」
千奈美の言葉。
どうしていいのか解らないけど、どうにかしてあげなきゃいけない。
- 516 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:07
- 「梨沙子、最近ヘンだよ・・・。でも、助けてあげたい」
みんな梨沙子が優しくていい子なのを知っている。
甘ったれで泣き虫でワガママで、だけど誰よりも、人の痛みの解る優しい子。大切な友達。
雅も友理奈も、じっと千奈美の事を見つめる。
気持ちは一緒だった。
どうにかできないと解っていても、どうにかしなきゃいけない。
「そうだね!それにこのままじゃ、きっとももちだってさ、安心して天国から見守れないよ!」
友理奈がそう言って笑う。
千奈美はそんな友理奈の顔を覗きこみながら、嬉しそうに「だよね?!」と頷いている。
そんな2人を見ながら、雅は心の底から思った。
早く梨沙子に解って欲しい。1人で溜め込まないで欲しい。こんな優しい友達がすぐ側にいる事を知って欲しい・・・と。
- 517 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:08
-
桃子は大切な幼馴染。
- 518 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:08
- それは解っている。
雅にとっても桃子は特別で、この先なにがあっても、決して忘れることの出来ない大切な人。
だけど、梨沙子のすぐ隣りにも、大切な友達が存在してる事に気づいて欲しい。
生きて梨沙子を支える素敵な友達が、ちゃんと側にいるって事を・・・。
- 519 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:08
- 雅はストローに口をつける。
甘いコーヒーの味が、口の中いっぱいに広がった。
ストローを回し、カラカラと氷を揺さぶりながら、雅はイタズラな笑顔で2人に問いかけた。
「ねぇ、今日さ。いきなり梨沙子の家にお邪魔しちゃわない?ビックリするよ、きっと」
すると、正面にいる千奈美がテーブルから身を乗り出し、「それ、チョー名案!!」と答える。
友理奈も無邪気に笑いながら「わぁ!きっと、ビックリするだろうね、梨沙子」と喜んでいた。
そして3人で何時ぐらいに行くか?どんなドッキリを仕込もうか?なんて事を話し合う。
いきなり鍋を持ち込んで、鍋パーティなんていいんじゃないかと千奈美がいい、3人で頷く。
そんな賑やかなやり取りの最中に、不意に雅のケータイが鳴り出した。
- 520 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:09
- 「ん?」
雅はポケットからケータイを取り出す。
そして不思議そうにディスプレイを見ると、そこには『えりか』と表示されていた。
「あ。えりかちゃんだ、どーしたんだろ?」
「あれ?今日、舞美と一緒に部活じゃなかったっけ?」千奈美が呟く。
雅は2人と顔を見合わせながら、通話ボタンを押した。
そして、えりかの口から雅の耳に飛び込んで来た言葉は・・・
「え?!梨沙子が学校で倒れた・・・?」
両脇で友理奈と千奈美が愕然と目を見開いたのが解った。
ただ呆然と体を震わせる雅。そして次の瞬間、雅はファーストフード店を飛び出していた。
- 521 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:09
-
- 522 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:09
- 2
病院の一室。
ツンとくる薬品の匂い。その独特な空気に刺激され、梨沙子は薄目を開ける。
そこは真っ白な壁。高い天井。ベッドに横たわったまま、ぼんやり虚空を見上げる梨沙子。
すると、不意に手に何か感触を覚えた。
梨沙子がハッとして顔だけ振り向くと、ベッド脇で雅が、ギュッと梨沙子の手を握り締めたまま眠っていた。
無言のまま雅の顔を見つめる梨沙子。
すると――。
- 523 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:10
- 「さっきまでちぃとくまいちょーも居たんだよ?」
「?!」
「3人もいたら邪魔になっちゃうから、2人は渋々帰ったけど。みんな涙目で心配してた。愛されてるね、梨沙子」
声の方を見ると、桃子がベッド脇に立ち、笑っていた。
梨沙子はホッとした様子で声を漏らす。
- 524 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:10
- 「もも・・・」
雅の手を握ったまま、梨沙子は上半身だけ起こした。
点滴台がすぐ側にある。
それが真っ直ぐ、自分の腕のあたりにつながれていて、ここが病院である事に気づく。
「あたし。倒れたんだっけ・・・」
「さっき、お医者さんが梨沙子のママに説明してた。十二指腸潰瘍だって。1人でストレス溜め込みすぎなんだよ」
「・・・・・・・・」
「こんなに、優しい友達が回りに沢山いるのにさぁ〜」
- 525 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:11
- 梨沙子はチラッと雅を見る。握られたままの手。静かな寝息が聞こえる。
ベッド脇を見ると時計があって、それは21時を回っていた。
雅の頬には涙の跡がくっきりと伺え、さっきまで泣いていたであろう事が解った。
なんだか悲しくなり、梨沙子は繋がった手をギュッと強める。
「あたし、倒れて。病院に運ばれて・・・」
「みやが、ずーっと梨沙子の側にいた」
「・・・・・・・・」
すると、梨沙子はキュッと唇を噛み締め、雅の手をそっと離した。
不思議そうに眉根を寄せる桃子。
梨沙子は桃子の顔を嬉しそうに見上げると、満面の笑顔で桃子に問いかけたのだった。
「ねぇ?さっきさ・・・あたしを助けてくれたの、ももだよね?」
「・・・・・・・・・・」
「美術室であたしを抱き上げてくれたの、ももだよね?」
「・・・・・・・・・・」
「ありがとう、もも!!」
- 526 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:11
- 桃子は何も言わない。
やがて。
ニッコリと微笑んでいる梨沙子に、桃子は真顔のまま、そっとかぶりを振り答えた。
「違う。あれは石川さん。ももじゃない」
「ウソだ。解ったもん!あたしを助けてくれたのは、ももだよ・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「そうでしょ?ももがあたしを助けてく・・・・」
「梨沙子。」
言葉を静止する。
口をキュッと噤み、目を細めて自分を見つめる桃子に、梨沙子は戸惑いを覚えた。
子犬の様に不安げなその眼差し。
すると、桃子はゆっくりと、しかしハッキリとした口調で、その口を開いた。
- 527 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:12
- 「梨沙子は何も解ってない・・・」
「え?」
「あたしは・・・ももは・・・もう、死んでるんだよ?」
「・・・・・・・・・・」
「梨沙子は何も解ってない」
- 528 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:12
- ハッキリと桃子の口から告げられる言葉。
梨沙子はただ呆然と唇を振るわせた。
解っている。何を今更言ってるんだ。自分はちゃんと、解っている。最初からちゃんと・・・。
「解ってる。そんなの、解ってる・・・よ。ももは・・・死んだ。でも・・・ももはあたしの側に・・・」
「ウソ。なにも解ってない。梨沙子はなーんにも解ってない」
「・・・・・・・・・・」
「梨沙子の目の前にいるあたしは、この世にいないんだよ?それを理解してない」
「・・・・・・・・・・」
「すぐ側にいるけど。目の前にいるけど。でも、あたしはもう、この世に存在してない。存在してちゃいけない」
「そ・・・そんなの・・・解って・・・」
震える梨沙子の声。
すると、雅がその声に反応し、目を覚ます。
ゆっくりと開かれる雅の目。そして。
- 529 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:13
- 「梨沙・・・子・・・?」
「みや・・・」
「梨沙子!!」
梨沙子の顔を見るなり、雅はその体にギュッと抱きつき、泣きじゃくった。
パジャマに涙が染み、冷たく濡れてゆく。
体を震わせ、ただただ、嗚咽を漏らしつづける雅。腕がキツく、梨沙子の背中を締め付ける。
「なんで・・・心配した・・・心配したんだから・・・バカ・・・!!」
「みや・・・」
「ももがあんな・・・。なのに、梨沙子までいなくなったら・・・あたし・・・どうしたら!!」
「・・・・・・・・・」
「良かった。無事で・・・ホントに良かった」
自分の体にしがみ付き、大泣きの雅。
梨沙子はその背中に腕を回そうとするが、やはり回す気にはなれない。
手は雅に触れる事無く、頼りなくシーツを握り締める。
ベッド脇に立ち、じっと梨沙子を見つめている桃子。そして、呟く。
- 530 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:13
- 「抱きしめてあげなよ、梨沙子」
「・・・・・・・・・」
「みや。ずっと梨沙子の手を握り締めて、ず〜っと泣いてたんだよ?」
「・・・・・・・・・」
「抱きしめてあげなよ。背中さすってあげなよ。心配かけてごめんね?って言ってあげなよ」
「・・・・・・・・・」
何も出来ない梨沙子。
雅は抱きついたまま、嗚咽を漏らし続ける。その頼りない背中。
梨沙子は震える手で、そっと雅の長い髪の毛に触れるが、指先が触れ、すぐにビクッと手を離した。
「でも・・・みやは・・・」
「・・・・・・・・」
「みやが好きなのは・・・」
ボソボソと呟く梨沙子。
その声に驚き、雅が泣きはらした顔でゆっくりと梨沙子を見上げた。
- 531 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:14
- 「梨沙子・・・?」
涙に濡れた雅の顔。縋るような目。切なくなる。でも・・・抱きしめる事がどうしても出来ない。
すると。
桃子はゆっくりとした口調で答えた。
「確かに。みやが好きなのは・・・ももだったよ?」
「?!」
「ももはみやに告白された。みやはももの事、好きだって言ってくれた」
「・・・・・・・」
「でも――。ももはもう、この世にいない」
- 532 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:15
- 桃子はゆっくりと手を伸ばす。
その手は真っ直ぐ雅の髪の毛に向かい、優しく触れるが・・・手は空気を掴むようにすり抜けるだけ。
そして雅も。桃子の存在には気づかない。
決して触れる事のない2人。
雅の目は桃子を捕らえる事無く、ただ、梨沙子の顔だけをじっと見つめていた。
その手も、強く梨沙子の背中に回されたまま。
「抱きしめようにも抱きしめる事は出来ない。髪の毛に触れようにも、触れる事は出来ない」
「・・・・・・・・」
「解ってる?梨沙子。ももはもう、死んでるんだよ?」
「・・・・・・・・」
「ももは魂だけこの世に取り残されちゃったけど・・・。梨沙子も同じ。梨沙子は現実から取り残されてる」
「・・・・・・・・」
「みやもちぃもくまいちょーも、みんな『ももが死んだ現実』を受け入れてるのに、梨沙子だけがいつまでも現実から取り残されてる」
「・・・・・・・・」
「忘れないで?ももは死んだけど、梨沙子は生きてるんだよ?目を覚まして・・・」
優しい眼差し。
桃子はフッと微笑むと、手を伸ばし、梨沙子の頬をなぞるようにその輪郭を辿った。
触れる事のない手から、不思議と温かさが伝わり、梨沙子はポロポロと涙を零す。
- 533 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/15(金) 01:16
- 「もも・・・」
梨沙子の呟きに、雅は不安そうに梨沙子の顔を見上げた。
それに答えるように、梨沙子はゆっくりと雅を見つめる。
それは数センチの距離。今にも鼻と鼻がくっつきそうな僅かな隙間。
じっと不安げに自分を見つめる雅に、梨沙子は優しく笑いかけた。
「ごめんね」
そして。梨沙子は両腕を背中に回すと、雅の体をギュッと抱きしめた。
その瞬間、雅の顔が驚き、それは次第に驚きの微笑みへと変わる。
「梨沙子・・・」
「みや、ごめんね、みや・・・。心配かけて」
「ううん・・・」
「ありがとう。ずっと手を握っててくれて、ありがとう、みや・・・」
「うん・・・」
「大好きだよ?みや」
ギュッと抱きしめる。
触れた部分から雅の体の温かさが伝わってくる。これは命の温もり。生きている自分を、強く感じる。
梨沙子は雅の髪の毛を優しく撫で、その髪の毛に顔を埋める。自然と涙が溢れてくる。
静かな病室。2人だけの空間。動き出した、2人の時間・・・。
桃子は2人の様子を見つめフッと微笑むと、人知れず、病室からその姿を消した。
- 534 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/15(金) 01:17
-
- 535 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/15(金) 01:17
-
- 536 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/15(金) 01:17
- 今日はここまで。
- 537 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/15(金) 01:18
- >514さん
あとちょっとですので、みんなで頑張りますww
- 538 名前:名無し飼育 投稿日:2008/08/16(土) 00:17
- 更新お疲れ様です。
なんだかジワーッとキました(ノД`;)=3
終わりが見たいけど終わるのはイヤという気持ちでいっぱいですorz
- 539 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:14
- 3
いつものお寺。
夜中も蝉の声が絶える事無く聞こえる。
境内の社の側。桃子はそっと月を見上げ、ため息を1つついた。
「まぁは元気かな・・・」
空には星。
今日は随分と空気が澄んでいるのだろう。東京とは思えないぐらいの星空。
「きっと、もうすぐ。もうすぐ行けるからね・・・まぁ」
そっと呟く桃子。
すると――。
「りーちゃんは目、覚ましたの?」
- 540 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:15
- 不意に聞こえた声。振り返ると、そこにいるのは佐紀だった。
桃子は笑顔を零し、うんと頷く。
「目ぇ覚ましたよ。・・・色んな意味で」
そう言ってクスクスと笑うと、佐紀も嬉しそうに笑った。
佐紀も病院までついて来てくれて、しばらくずーっと梨沙子の様子を見ながら不安そうにしていた。
梨沙子が無事だった事を聞いて、ホッと胸を撫で下ろしている。
「良かった。りーちゃん、無事で」
「5日間ぐらい入院するらしいけど、そんなに症状は重くないから大丈夫だって」
「そっか・・・」
- 541 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:16
- 2人で空を見上げる。
今日は1日で、なんだか色んな事があった。
きっと、みんな。これから先も、今日と言う日を忘れないんじゃないかと思う。
「佐紀ちゃん。助け呼びにいってくれてありがとうね。お陰でりーちゃん、無事だった」
「ううん、そんな事ないよ。助けたのはももじゃん」
「でも。佐紀ちゃんが呼びに行ってくれなかったら、あぁは行かなかったと思うから。ほんと、ありがとう」
「違うよ。お礼を言うのはこっちだよ、もも・・・」
そう言って、佐紀は俯いた。
桃子がいなかったら、自分は梨沙子の助けを呼びに行く勇気は沸かなかった気がする。
全てに怯えたまま、梨沙子を見捨てて逃げ出していたかもしれない。
佐紀は桃子を見つめると、力強く頷き、答えた。
- 542 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:16
- 「あ・・・そうだ!ももにね、お礼をしたいって人がいるんだ・・・」
「え?ももにお礼??」
「うん。お礼!」
そう言って後ろを振り返る佐紀。それを見て、同じように振り返る桃子。
するとそこには・・・
「石川・・・さん?」
ジーパンにTシャツ。
ラフな格好で佇んでいる石川がいて、桃子は目を丸くした。
「お礼をしたい人って・・・」
「うん。お姉ちゃん」
- 543 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:17
- 佐紀はゆっくりと石川の側に歩み寄る。
そして石川の右腕を掴むと、「ね。お礼したいんでしょ?お姉ちゃん」と笑いかけた。
それは、封じられていた姉妹の会話。
当たり前の様な光景だが、3年間、封印されていた姉妹の言葉。
桃子が口を真一文字に閉じ、2人の様子を見つめていると、石川はふと桃子に微笑みかけた。
そして、佐紀の肩をそっと抱き寄せ、優しい口調で答えたのだった。
「ありがとう。佐紀がこうして話してくれるようになったのは、あなたのお陰・・・」
「・・・・・・・・」
「本当に、ありがとう」
「そんな・・・。あたし、無理矢理、石川さんの体借りちゃったから。お礼を言いたいのはこっちです」
- 544 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:18
- あの時、なんとか梨沙子を救いたい一心で、桃子は佐紀の後を追った。
そして会議室につくと、石川の姿が見えた。
幽霊の直感的な感覚――。
石川の姿を見た瞬間、なんとなくだけど、『この体には入り込める』ような気がしたんだ。
「元々あたしは、霊媒師で降霊とかもやってたからね」
「・・・・・・・・・」
「ふふ。体を貸すぐらいで佐紀との関係が戻るなら、安いものよ」
そう言って笑う石川。
つられて桃子と佐紀もクスクスと笑った。
- 545 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:18
-
だが、その瞬間――。
- 546 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:19
- 桃子は不意に肝心な事を思い出し、ハッとした表情を浮かべた。
そして桃子は疑問符を頭に漂わせながら佐紀を垣間見たあと、再び石川を見る。石川の目は、じっと桃子の姿を捉えているようだった。
そう。そうだ。何がおかしいって、それなんだ!
なんで、石川は自分と会話が出来るんだ?自分の姿を、こんなにハッキリと捉えているのだろうか?
「あれ?い、石川さん?まさか、ももの姿・・・声・・・・見えて・・・」
「見えているわよ。しっかりと」
「まさか・・・最初から?」
桃子が問うと石川はそっとかぶりを振った。
確かに。初めて石川に会ったとき、石川は桃子が見えている気配は全く感じなかった。
だったら何故。
最初は見えていなかったはずの石川が、今、ハッキリと。桃子の姿、声を、捕らえる事が出来るのだろうか・・・?
「どうして・・・ももの姿が・・・」
「あなたがあたしの体の中に入り込む瞬間。初めてあたしは、あなたの姿を見た」
「え?」
桃子がキョトンとした表情を浮かべると、石川はクスッと微笑み、その肩をすくめた。
そして、石川はゆっくりと桃子へと問いかけたのだった。
- 547 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:20
- 「ねぇ、桃子ちゃん。この世には、なんで幽霊を見れる人間と見れない人間がいるか・・・知ってる?」
「え・・・・」
「勿論、霊感の強い弱いも重要だけど・・・。幽霊を見る事の出来る人間は、霊を拒絶しない人間。霊と心を通わせられる人間」
「・・・・・・・・・」
「幽霊って言うのは精神的な存在だから。心が霊を受け入れる事が出来ないと、例え霊感が強くても、見る事なんて出来るワケがない。そうでしょ?」
石川の問いかけに、桃子は無言のままうつむいた。
確かに。石川の言うとおりなのかもしれない。
実際。佐紀は霊感が生まれつき強いのもあるのだろうが・・・誰よりも霊を受け入れる心を持っている。
だから、これだけハッキリと、自分や茉麻の姿を捉えることが出来たのかもしれない。
- 548 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:21
- 「あたしの霊力が弱まったのも、あたしが幽霊を憎むようになってから。どんどん霊力を失っていった」
霊感の強さは、人が生まれつき備わるもの。
あとは、霊を受け入れる心の強さ次第。
「でも。霊力が弱まり、幽霊なんて見る事が出来なくなっていたあたしだけど。あなたがあたしの中に入り込んできた瞬間、あなたの姿を見る事が出来た」
「どうして・・・」
「だってそうでしょ?あたしの体に乗り移るって事は、あたしの心の中にあなたが入り込むって事。これ以上に、幽霊と人間が『心を通わせる』すべはないと思わない?」
- 549 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:22
- 石川は笑う。
そう。桃子の霊が乗り移ってきた瞬間。
石川の心の中に、桃子の様々な想いが一緒に流れ込んできた。
助けたい――。
梨沙子を助けたい。佐紀を勇気づけたい。みんなに幸せになって欲しい。
死んでいるハズの幽霊が、誰よりも人を救う事を強く望んでいるのが解った。
そんな様々な想いを感じた瞬間。石川の中で、幽霊に対する憎しみが、不思議なぐらい崩れ落ちた。
- 550 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:22
- 「幽霊なんかに関わったせいで、佐紀は周りから取り残されていった。だからあたしは、幽霊を恨めしく思っていたけど・・・」
そう言って石川は、ふと佐紀を見ると、ニコッと微笑んだ。
そして佐紀の肩を、そっと自分の方に抱き寄せる。佐紀は素直に、石川の肩に頭をくっつけていた。
佐紀が人と言葉を交わさなくなったのは幽霊のせい。だけど、人と言葉を交わすきっかけを与えてくれたのも幽霊のお陰。
「でも。今回ばかりは、幽霊に感謝しなくちゃね・・・・ありがとう」
不思議な因縁だなと思う。
死神だと思っていた存在は、その暖かな優しさで、自分の妹を人間の世界へと戻してくれた。
だから、優しい死神さんに、せめてものお礼をしたいと、石川は言った。
- 551 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:23
- 「でも・・・人間が幽霊に出来るお礼なんて、あるんですか?」
そう。その気持ちは凄く嬉しかった・・・。
だけど、同時に疑問にも思う。実体を持たない幽霊にお礼なんて出来るのだろうか?
桃子が不思議に思っていると、石川は自分の両腕を左右に、大きく広げた。
何かを受け止めるように、大きく。
そんな石川を見て、不思議そうに目を丸くしている桃子に、石川は笑った。
それは優しい、姉の様な笑顔だった。
「解る?これがお礼。最後に思い出作りぐらいはしたいでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「また無理矢理。あたしの体に乗り移られてもたまらないからね・・・」
「石川さん・・・」
「この体。いつでも貸してあげる。梨沙子ちゃんが退院したら、思い出作りしてきな?」
- 552 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:23
- 桃子はキュッと口を結んだ。
石川の隣りでは、佐紀はニコニコと笑っていた。
カラッポの心が温かくなる。
死んでから初めて解る優しさもある。
この世界は優しくて、だけど幽霊にだけは何も優しくしてくれないと思ってたけど、やっぱり、世界は暖かくて優しい。
「ありがとう」
心の底から、桃子はそう感じた。
- 553 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:24
-
- 554 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:25
- 4
雅の家のリビング。
賑やかなTVの音が聞こえ、雅の母親が食器を洗っている音が聞こえる。
「ただいま・・・」
23時すぎ。雅はようやく家路につき、リビングの床にカバンを置き、ソファに凭れた。
そして雅はソファにもたれたまま、キツく両の目を閉じた。
梨沙子が無事で本当に良かったと思う。
梨沙子が目を覚ますまでは帰る気になれなかったし、梨沙子が無事なのを確認して安心して家に戻ることが出来た。
なんとも言えない脱力感に襲われる。
- 555 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:25
- すると、グッタリする雅に、雅の母親が笑いかけた。
「梨沙子ちゃん、無事だったんでしょ?良かったわね」
「うん!!」
嬉しそうに笑う雅。
疲れてはいるが、これ以上嬉しい事はない。
「お風呂入れといてあげるから、部屋でちょっとだけ休めば?」
母親の問いに雅は小さく頷くと、ソファから重い体を起こした。
「うん・・・。夏休みの宿題あるから、ちょっとだけやってる。お風呂沸いたら呼んで」
- 556 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:27
- 部屋に戻る。
机の上にノートと教科書を広げる雅。
すると、雅はふと、机の上に置かれたフォトスタンドが目に止まり、覗き込んだ。
3つのフォトスタンド。
1つ目は雅と梨沙子と友理奈と千奈美で行った、遊園地の写真。
2つ目は、梨沙子と雅で腕を組んでピースしている写真。
そして、3つ目。
桃子と2人で、いつものお寺の桃の木の下で撮った写真。
「・・・・・・・・・・・・」
フォトスタンドを手に取り、じっと見つめる雅。
笑っている2人。二度と帰らない時間。
雅は悲しみを堪えるように、キュッと唇を噛んだ。そして思いを振り切るように、教科書を開いた・・・。
その瞬間だった――。
- 557 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:27
-
「みや・・・・」
- 558 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:27
- 静かな部屋の中に、ポツリと伝わる声。
だが、机に向かったまま黙々と宿題をする雅は、声に気づかない。
雅の耳には、ノートに鉛筆が擦れる音だけが響く。決して気づく事のない声。
「みや・・・」
再び、声。
だが雅は気づかない。気づけない。
机に向かう雅。その背中の向こうに・・・優しく微笑む桃子の姿があった。
- 559 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:28
- 「ごめんね、みや。勝手に部屋に上がりこんで・・・」
桃子は笑う。
気づく事のない雅。
だが、気づく事がないのを承知で、桃子は雅の背中に言葉を続けた。
「死んでから。みやとはお話する事が出来なかったから・・・最後に、ちょっとだけ話をしたかったんだ」
届く事のない声。
桃子は噛み締めるように、大切に、その言葉を続けた。
「ももの事。好きになってくれてありがとう、みや」
「・・・・・・・・・・」
「結局。生きてる時は言ってあげられなかったけど・・・ももも、みやの事が好きだった。」
- 560 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:29
- 静まり返る部屋。
黙々と計算式を解いているだけの雅。
桃子はその細い背中に語り続ける。
「告白してくれた時。凄く嬉しかった・・・。でも、あたしたち3人はずっと仲良しで・・・だから、ももは、みやだけを選んであげる事が出来なかったんだ」
雅に告白された時、桃子は答えた。
自分も雅の事は好きだけど。恋とか愛とか、そう言う感情ではない・・・と。
でも。それはウソ。
桃子は本当は雅の事を『恋人』として好きだったけど、梨沙子も雅を好きな事は知ってたから、頷く事が出来なかった。
そして。その言葉を告げた時の雅の傷ついた表情が、ずっと忘れられなかった。
あんなに傷つけてしまうぐらいなら、「自分も雅が恋人として好きだ」と、素直に言ってあげれば良かったと後悔したときもあった。
だけど、今となっては。こんな事になってしまった今となっては。告白を断った事は、正解だったんだと思う・・・。
もしも恋人になっていたら、桃子が死んだとき、雅はもっと深い心の傷を受けていたのだろう。
- 561 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:29
- 「この声はみやには届かない。・・・ううん、届かない方がいいんだと思う」
届けばまた傷つける。
だから、届かなくていい。
この言葉はただ、誰にも気づかれること無く、現実の狭間に取り残されるだけなのであろう・・・。
桃子の存在の様に。
「ももは、みやの事が好きだよ」
「・・・・・・・・・・・」
「悲しませてばかりでゴメン。幸せにしてあげられなくてゴメンね」
「・・・・・・・・・・・」
「ありがとうね、みや。ももの事、好きになってくれて。ももも、みやの事が大好きだよ!!」
- 562 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:30
- 声が震える。
決して届くことの無い言葉だけど、これが最初で最後の告白。
結局、伝える事の出来なかった・・・だけど、伝えたかった思い。
「みやの事が好き。だから・・・幸せになって?みや。梨沙子と一緒に幸せになって・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「もう。ももの事は忘れて・・・。あ、でも。時々は思い出してくれたらウレシイかな」
桃子はクスクスと笑う。
黙々と宿題をする雅の背中は、ピクリとも動かないまま。
桃子はゆっくりと雅の背中に近づくと、その背中を包み込むように腕を回し、そっと顔を埋めた。
決して触れる事は出来ないけど、重なる事は出来る。
「ももの事。好きになってくれてありがとう。みや」
「・・・・・・・・・・・」
「大好きだよ。ありがとう。そして・・・さようなら」
全てを伝え微笑む。
そして、桃子はゆっくりと雅の部屋から姿を消す。
薄暗い部屋の中には、机の豆電の下、黙々と勉強をする雅の姿だけ・・・。
- 563 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:31
-
- 564 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:33
- やがて、階段を上る足音。
雅の母親が部屋の扉を開け、中を覗き込んだ。
「みや〜。お風呂沸いたわよ?」
だが、ピクリとも動かない雅の背中。
不穏に想い、母親が部屋の中に足を踏み入れる。
「みやび?」
机に向かったままの雅。
だが、その背中がホンの微かに震えているのに気づき、母親はその肩に触れる。
- 565 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:33
-
「みやび?・・・・・・み、みやび!!」
- 566 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:33
- 顔を覗きこむと、雅はグシャグシャに泣いていた。
ボロボロと零れ落ちる涙。唇を噛み締め、涙を必死で堪えるが止める事など出来ない。
ノートに涙がいくつもの雫となり、文字を滲ませている。
雅の母親は、真っ青な顔で雅の肩を揺さぶった。
「ど、どうしたの?雅?!!おなかでも、痛いの」
だが、雅は涙を零したまま、強くかぶりを振った。
違う。体はどこも悪くない。悲しい理由なんて何もない。なんで泣いてるのか、自分でも解らない。
だけど――。
- 567 名前:第10章 最初で最後の告白 投稿日:2008/08/22(金) 08:34
- 雅は机に突っ伏す。
そして、涙で鼻に詰まった声で、搾り出すように母親の問いに答えた。
「わかん・・・ない。なんでだか・・・わかんない・・・けど・・・」
泣きじゃくる雅の腕が、机に立てかけてあったフォトスタンドにぶつかる。
すると、3つのウチの1つが、小さな音を立てて倒れた。
それは、桃子と雅。2人でいつものお寺の桃の木の下で撮った、最後の写真。
雅はギュッと手を握り締め、ポツリと呟いた。
「凄く・・・悲しい――。」
(第10章 最初で最後の告白)
- 568 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/22(金) 08:35
-
- 569 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/22(金) 08:35
-
- 570 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/22(金) 08:35
- 今日はここまで。
- 571 名前:kappa―! 投稿日:2008/08/22(金) 08:37
- >538さん
終わるのが寂しいと言ってもらえると、作者冥利に尽きます。
ありがとうございます。
あと2・3回の更新で終了です。最後までよろしくお願いします。
- 572 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/22(金) 21:24
- やばいっす。
泣きました。
- 573 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/27(水) 00:58
- 凄く綺麗な映像が浮かびます。
メンバーもこのままでドラマ化されたら、一生の宝物にするんだけどなぁ。
- 574 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/02(火) 13:07
- 光景が容易に想像できます。
泣きました。
- 575 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:39
- 1
良く晴れた朝だった。
桃子はいつもどおり川原に向かい散歩をしていた。
川原の遊歩道には向日葵が何個も咲き並び、匂いは解らずとも、景色から初夏の香を感じる事が出来た。
最後の散歩がこんな素敵な日で良かったと、心の底から思う。
おととい、梨沙子が無事に退院した。
だから。今日がきっと・・・最後の日。
今日、何もかも全てが終わるような、そんな気がした。
毎日続けていた散歩も、今日できっと終わりなのだろう。
- 576 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:39
- 桃子はゆっくりと両の目を閉じる。目を閉じると、何もない暗闇だけが脳裏に広がる。
だけど――。
やがて何もない暗闇の中に広がってくるのは、鮮明な記憶。
綺麗な空気。暖かな風。焼きつくような太陽。まばゆい景色も・・・。
体は感じる事が出来なくとも、記憶が感じる。今日は清清しい天気。決して忘れる事の出来ない、最高の日和。
- 577 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:40
- 桃子は目を細め、眩しそうに、太陽にきらめく川面を見つめる。
すると、やがて・・・。
いつもどおり、遊歩道の向こうから、おじいちゃんがジョンを連れて川原を散歩しにやってきた。
真っ青な空。清清しい天気に、ジョンの足取りもいつも以上に軽いような気がした。
やがてすれ違う、桃子とジョンとおじいちゃん。
桃子はすれ違いざま、大きな声で手を振り、2人に笑いかけた。
「おじーちゃん、長生きしてね!!ジョンも元気で!!!」
何事もなく通り抜ける2人の背中にひらひらと手を振り、桃子は川原を立ち去った。
おじいさんは桃子を知らない。おじいさんは別に、桃子に会う為にこの川原に来ていたワケではない。
あくまで一方的な記憶なのだろうけど、それでも、この数ヶ月間、毎日会いに来てくれてありがとうと思った。
茉麻の柴田への想いも、きっとこう言う感謝の気持ちから始まったのかもしれないな・・・。
- 578 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:40
- 桃子が川原から立ち去った後。
いつもどおり川原のベンチに腰掛け、おじいちゃんはジョンの頭を撫でる。
すると、ジョンはいつも以上に嬉しそうに尻尾を振りながら、おじーちゃんに甘えていた。
「おっ、今日はなんだか嬉しそうだな、ジョン。いい事でもあったのかい?」
おじーちゃんが頭をなでると、ジョンは嬉しそうに尻尾を振りながら、頭を摺り寄せクゥンと鳴き声をあげた。
そんなジョンの頭を、おじいさんはよしよしと抱き寄せる。
「そうか、オマエもいい事があったか。不思議だな」
おじいさんは空を見上げる。
青く広がる空。真っ白な雲。真っ赤に燃える太陽も、まるで絵に描いたような美しさ。
「今日は素晴らしい日和だからかもなぁ。ワシも今日は・・・なんだかとっても清清しい気分じゃよ・・・」
- 579 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:40
-
- 580 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:41
- やがて、日は高く昇り始める。
最後の散歩を終え、桃子は梨沙子の家に戻った。
すると梨沙子の部屋の中から声が聞こえてきて、桃子が部屋を覗くと、梨沙子が楽しそうにケータイで会話をしている姿が見えた。
どうやら、雅との電話のようだ。
「明日会おうね〜」と言って梨沙子は嬉しそうに笑っている。
退院して、梨沙子はすっかり顔色も良くなったようだった。
電話が終わるや否や、梨沙子はハッとした様子で桃子に気づき、そんな梨沙子に桃子はニヤニヤしながら笑いかけた。
「え?なに?もしかしてデートのお誘い?このこのぉ!!」
「ち、違うよ!プール!明日ちぃと熊井ちゃんとみやの4人で行こうって約束してるの」
「なんだ。Wデートかぁ」
「だ、だから、Wデートじゃないもん!!単に4人で遊び行くだけだって!!なんでデートにしたがるのぉ!!」
恥ずかしそうに顔を赤くする梨沙子が可愛くて、桃子はクスクスと笑い声を零した。
イタズラっぽい顔をして笑っている桃子を見て「も〜!」と怒っている梨沙子。
そんな、小さい頃から繰り広げられているイタズラなやり取り。
なんだかそんなやりとりが無性に嬉しくなって、2人で俄かにクスっと微笑む。
そして、梨沙子はベッドの縁に寄りかかると、うーんと背の伸びをし、桃子の顔を見上げニコニコと笑顔を浮かべた。
「でも、明日はプールだけど、今日は大丈夫だよ。今日はちゃんと、予定空けてあるからね!」
「うん・・・」
- 581 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:42
- そう。今日がきっと、最後の日。
こんな無邪気なやり取りが出来るのも、きっと今日までなんだ・・・。
桃子はふうとため息をつき、窓の外を見た。変わらずカンカン照りの気候。
今日が天気が悪かったら明日にして貰おうかな?・・・なんて。未練たらしいことを考えてたけど、この眩しい空を見ていると、そんな気もなくなる。
桃子は気持ちを落ち着けるようにハァと息を吐くと、独り言のようにポツリと呟いた。
「よし。じゃ、そろそろ・・・レンタルしに行こっかなぁ」
それを聞き、梨沙子が思わずケラケラと笑う。
「てゆっか・・・レンタルって凄いよね」
- 582 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:42
- 今日、石川に体を借りる約束をした。
そして、今日が梨沙子との最後の思い出作り。
だからきっと、今日、全てが終わる・・・。
- 583 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:43
- 「じゃぁ、行って来るかな」
そう言って石川のところへ向かおうとする桃子。
すると、不意に後から梨沙子が「もも」と、小さな声で呼びかけた。
「ん?」
桃子が振り向くと、梨沙子が何処か名残惜しそうな表情をしていた。
ホントに今日、体を借りてしまうの?今度にしない?
そんな事を言いたそげな顔をしているが、口には出さなかった。
梨沙子はキュッと唇を噛みしめると、満面の笑顔を浮かべ、桃子へと答えた。
「じゃぁ、もも!!またあとでね!!!!」
- 584 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:43
-
- 585 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:44
- 2
いつものお寺に眩しい夏の光が差す。
桃子が待ち合わせの場所へ向かうと、すでにそこには、佐紀と石川が肩を並べて境内の階段に腰掛けている姿が見えた。
なにやら楽しそうに笑いあっている姉妹の姿。そして・・・。
「あ!ももが、来た!!」
佐紀は嬉しそうに立ち上がり、こちらを指差す。
桃子はそんな2人に手を振りながら、境内の階段へ向かい、ゆっくりと歩んだ。
すると、石川も境内の階段からゆっくりと立ちあがり、手を挙げた。
「来たわね。桃子ちゃん」
「はい。今日1日、体をお借りします」
「フフ・・・せっかくのデートだからね。ほら!オシャレな格好しといたわよ」
そう言って笑う石川の格好は、超ミニスカートに、ノースリーブの露出スタイル。
桃子はそれを見て、恥ずかしそうに笑っている。
「えー?!石川さん、露出高すぎですよぉ!体借りるの恥ずかしいんですけど!!」
「ちょっと!恥ずかしいって失礼ねぇ〜!!」
仏頂面で口を尖らせる石川の隣りで、佐紀が「ね!絶対恥ずかしいよね〜!」と、ケラケラと大笑いをしている。
- 586 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:44
- 3年ぶりに姉の前で口を開いたあの日以来、佐紀はよく笑うようになった。
石川の前では勿論、飯田や他の人間の前でも、ちゃんと口を開くようになったと言う・・・。
楽しそうにケラケラと笑っている佐紀を見つめながら、2学期が楽しみだ、と。桃子は心の底から思った。
この様子なら、きっと2学期になればC組のクラスの子とも、また当たり前の様に喋る事が出来るようになるだろう。
そうしたら。C組の舞美やえりかを始め。きっとそんな佐紀を、クラスメイト達は暖かく迎え入れてくれるはずだ。
- 587 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:45
- そんな事を思っていると・・・。
やがて佐紀は目を細め、桃子の目をじっと見つめてきた。
桃子は不思議そうに、そんな佐紀を見返す。
「どしたの?佐紀ちゃん」
「うん・・・」
すると。
佐紀は小さく頷き、そして、答えた。
- 588 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:45
- 「ありがとうね。もも――」
「・・・・・・・・・・」
「ももに出会えて、本当に良かった」
- 589 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:46
- まっすぐ桃子を見つめる目。桃子は表情を和らげ、嬉しそうに頷いた。
幽霊になった自分を見据える事が出来る、数少ない人物。その目が真摯に自分の瞳を捕らえる。
それは幽霊と人間。何処か不思議な2人の友情だったのだろう・・・。
佐紀は桃子の顔を見つめ、目を細めると、ハッキリと力強い口調でこう続けたのだった。
「うちとももはさ。ももが死んでから友達になったけど・・・」
「ん?」
「出来ることなら。生きてるうちに、ももとは友達になりたかった」
「・・・・・・・・・」
「生きてるももと、友達になりたかった」
- 590 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:46
- 静まり返る空間。桃子は思わず息を呑んだ。
以前、「生きてる人間より、死んだ人間の方が好きだ」と、佐紀は繰り返し言っていた。
だけど、佐紀は今、ハッキリと答えた。
『生きてるももと、友達になりたかった』・・・と。
生きてる人間から取り残されていた少女は、今、再び、生きてる人間と共に生きる事を望んだ。
桃子は佐紀を見つめ、嬉しそうに満面の笑顔で笑った。
澄み切った青空の様な笑顔。
その笑顔を見て、いつか見た時の天使の様な笑顔だと・・・佐紀は思った。
- 591 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:47
- やがて。
桃子はその笑顔をさらに綻ばせると、ゆっくりとその口を開いた。
そして、その口から告げられた言葉は、佐紀が予想だにしなかった、意外な言葉であった。
「うふふ。なに言ってんのぉ?佐紀ちゃん」
「?」
「佐紀ちゃんとは、生きてる頃から友達だよ?ももは・・・」
「・・・・・・え?」
思わず言葉を失う佐紀。
桃子はいたずらな笑顔で佐紀を見ると、遥か遠い記憶を覗くかの様に、その目を細めた。
「佐紀ちゃん。昔と今で全然顔違うからさ、中々気づけなかったけど・・・最近もも、ようやく気づいたんだ」
「・・・・・・・・・・・」
「7、8年ぐらい前だっけ?この桃の木の下で泣いてた子でしょ?左ひざを擦りむいて」
- 592 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:48
- 遠い過去の記憶。
だけど、佐紀にとっては、今まで決して忘れる事が出来なかった記憶。
天使のような女の子との出会い。
そして、その天使のような女の子もまた、その時の事をハッキリと覚えていてくれた。
「佐紀ちゃんの左ひざを、そこの柄杓の水ですくって洗い流したんだよね?確か・・・」
「・・・・・覚えてるんだ?もも」
「きっと、ももと佐紀ちゃんはさ。あの時に初めて、友達になったんだと思うよ??」
- 593 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/03(水) 06:48
- 優しい言葉に、佐紀は泣きそうな目で俯く。
7年前に出会った天使の様な少女は、7年経った今、本当の天使になり、佐紀を救ってくれた。
「ありがとう。ホントウに・・・ありがとう」
ギュッと目を閉じる佐紀。
石川はそんな2人を見つめ、優しく微笑んだ。
佐紀は桃子を『死神ではなく天使だ』と言う。その意味が、石川にもハッキリと解ったような気がした。
そして、その天使に、自分の体を貸してあげるのも運命なのかもしれないな、と思った。
- 594 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/03(水) 06:49
-
- 595 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/03(水) 06:49
-
- 596 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/03(水) 06:50
- 今日はここまで。
あと2回の更新で終わります。
- 597 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/03(水) 06:51
- >572さん
ありがとうございます。
みやももシーン、一番張り切って書いてるんで嬉しいですww
- 598 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/03(水) 06:54
- >573さん
自分自身がパラレル同人書いてる感じというよりも、
配役決めてドラマを作る感じで書いてるんで、自分自身、このメンバーでドラマで見てみたいです。
- 599 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/03(水) 06:57
- >574さん
自分の文章で人様に泣いて貰えるのが一番嬉しいです。
以降も、読後感の悪くない悲しみをなんとか表現していきたいものです。
- 600 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/04(木) 00:16
- (´;ω;`)ももち
- 601 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/04(木) 00:38
- >>591
こういう展開に弱いっす。
タイトルも泣けるなぁ。
- 602 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:43
- 3
夏休みの遊園地は随分と混み合っていた。
2人で勇んで挑んだジェットコースターも50分待ち。
だけど、ジェットコースターの順番を一緒に待っている間すら、2人にとって楽しい思い出だった。
手をしっかりと繋いで遊園地内を歩く梨沙子と、石川の体を借りた桃子。
繋いだ手からは、暖かな体温。久しぶりに感じる人の熱が嬉しくて、ギュッと強く手を握り直した。
「なんか。ジェットコースター。すっごい久しぶり」
桃子が澄み切った青空を見上げながら呟くと、梨沙子はクスッと笑顔を零した。
- 603 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:44
- 「もも、ジェットコースター苦手だもんねぇ〜」
「梨沙子だって苦手でしょ?」
「うん、苦手。出来ればこんなの乗りたくない」
「だよねー。ももも乗りたくない」
そう言って2人は、思わず顔を見合わせ微笑んだ。
2人揃ってジェットコースターに乗りたくないと言う。なら、乗らなければいいハズなんだけど、乗らないと言う選択肢は2人にはなかった。
これが最後の思い出作りだから、きっと、泣く事も笑う事も全て感じたかったんだと思う。
50分の待ち時間。特別な会話もなく佇む2人。だけど、繋いだ手だけはずっと握られたまま・・・。
梨沙子は眩しそうに空を見上げると、独り言のようにポツリと呟いた。
「今日はホント。いい天気だね〜」
梨沙子の呟きに、桃子は「うん」と小さく頷く。
真っ青な空に流れる雲。緩やかな風と、降り注ぐ太陽の光。繋いだ手から伝わる人の温かさ。
それは、3ヶ月ぶりに感じる生きた心地。
生きてる時にはなんとも思わなかったひとつひとつが、今は宝物のように感じた・・・。
- 604 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:44
- それから――。
半日の間に、大嫌いな絶叫系に何度か挑んで泣き叫んだり、2人でソフトクリームを食べて笑ったり。
メリーゴーランドや、お化け屋敷にも回った。
お化け屋敷では桃子が随分とお化けを怖がっていて、そんな桃子を見ながら、梨沙子は思わず吹きだした。
「ちょっとぉ。お化けがお化け屋敷怖がってどーすんの?!」
梨沙子が隣りで大笑いすると、
桃子は唇を尖らし「うっさいなぁ」と拗ねた表情を浮かべた。
「だって。怖いものは。怖いじゃん」
「そんな事ないよー。お化けは怖くないよ?」
「そっかなぁ。怖いと思うけど・・・」
「ううん。だって。あたしの知ってるお化けは、優しいもん」
- 605 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:45
- キラキラと輝く梨沙子の笑顔。キラキラと輝く最後の時間。
そんな。楽しくて仕方ない、2人だけの思い出の時。
だが、楽しい時間は、湯水のように流れて行く。
1日中遊園地で遊びはしゃいでいるうちに、次第に日は翳り始め、1日中楽しんですっかりくたびれた2人は、最後に観覧車へと乗った。
すると、お化け屋敷とは逆に、今度は梨沙子が高いとこを怖がる番だった。
- 606 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:45
- 「高いとこは苦手」
そう言って梨沙子が不安そうに自分の体を抱くと、その正面で桃子が得意げに笑っていた。
「へへーん。ももは高いトコ、平気だよ〜!」
以前は桃子も高いところが苦手だったが、死んで以降は全く平気になった。
東京タワーのてっぺんにだって、登れるぐらいに。
幽霊の習性とか、そう言うのは勿論、良く解らないけど。
ひょっとしたら幽霊は、より空に・・・天国に近い場所を望むのかもしれないなと、思った。
「うん。幽霊になって以降、空は恐怖じゃなくなった」
桃子が呟くと、梨沙子はふーんと呟き、いたずらっぽく笑った。
「お化けはまだ怖いのにね」
「それはそれ、これはこれ」
そう言って桃子が笑うと、梨沙子も楽しそうにクスクスと声に出して笑った。
- 607 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:46
-
- 608 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:46
- 4
やがて。
観覧車はいつしか、一番てっぺんの位置に到着した。
2人でじっと窓の外を見る。夕暮れが街をオレンジに染める。綺麗だなぁって心の底から思う。
桃子は心の中で呟いた。
しっかり胸に焼き付けておこう。街の景色のひとつひとつ。
この幻想的な光景。死んでも忘れない・・・って。もう死んでるんだっけ?
そんな事を考えながら、桃子は窓の外をぼんやりと見た。
正面で梨沙子も、ぼんやりと窓の外を見つめている。
ただただ、無言の空間。
そして、2人で黙りこくってから30秒ほどしてからだろうか?梨沙子は、ポツリと呟いたのだった。
- 609 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:46
-
「ももは・・・あたしの守護霊なんでしょ?」
「?!」
- 610 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:47
- 突然の言葉だった。
その言葉に桃子は目を丸くして、ただじっと、梨沙子の顔を凝視した。
「なんで。そう思うの?」
「なんとなく、そんな気がしてた・・・」
ゆっくりと回る観覧車。ゆっくりと流れる時間。
桃子は観覧車の外を見つめる。
徐々に明かりが灯り始める街並み。
あの日、茉麻と東京タワーのてっぺんからみた、あの景色を思い出す。
- 611 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:47
-
(なんとなくだけど。まぁね・・・解った気がするんだ)
(ももは何者なのか。ももはさ・・・きっと・・・きっと・・・)
(みんなを助けるために、みんなを守るために、この世に残された・・・守護霊・・・)
- 612 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:48
- 梨沙子はぼんやりと外を見つめる。
キュッと目を細める。
外を見つめて桃子の顔を見ないのは、きっと涙で揺れる眼差しに気づかれたくないからなのであろう・・・。
「ごめんね。あたしがいつまでも頼りないから、ももはあたしが心配で成仏出来なかったんだよね」
「・・・・・・・・・・・」
「ありがとう、もも」
すると。対面から梨沙子は立ち上がると、桃子の隣りに座った。
そして肩に凭れかかる梨沙子。暖かな熱。伝わってくる人の体の温かさ。
「ももがいてくれて良かった。ももがもし居てくれなかったら・・・あたしきっと・・・もっともっと、おかしくなってた」
「梨沙子・・・」
「ずっと、ももの死を受け入れられなかった気がする」
「・・・・・・・・・」
「いつまでも、ももの死にこだわって・・・。みやの事だって、もしかしたら。一生、抱きしめてあげる事が出来なかったかもしれない」
「・・・・・・・・・・・」
「側にいてくれて、ありがとう、もも」
- 613 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:49
- 腕を絡める。
梨沙子は桃子の肩に顔を埋める。
涙声。震える声で、震える体で、梨沙子はポツリポツリと呟いた。
「でも・・・もう、大丈夫だよ?もも」
「梨沙子?」
「1人で頑張れる。ももがいなくても泣いたりしない。みやの事だって・・・大切にする」
「・・・・・・・・・」
「だから。ももはもう、自由になっていいんだよ」
梨沙子の腕が桃子の体をきつく抱きしめる。桃子は梨沙子の方に体をむけ、その背中をギュッと抱きとめた。
鼻にかかった声。
泣き虫な梨沙子が、泣くのを必死になって堪えながら・・・。
梨沙子は桃子の胸に顔を埋め、声を、一生懸命に絞り出す。
- 614 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:50
- 「ありがとう。大好きだよ、もも」
「・・・・・・」
「だから、もう、いいんだよ?自由になって・・・」
「梨沙子・・・」
「大好きだから。一生忘れないから。だから・・・今度はももが、天国で幸せになって・・・」
「・・・・・・・・」
大切に。ギュッと梨沙子の体を抱きしめる。
泣き虫で弱虫な梨沙子が涙を必死で堪えながら、桃子の為に、桃子の魂を解放する為に、精一杯の強がりを見せる。
ホントはずっと一緒に居たいだろうに・・・。
桃子は梨沙子の髪の毛をそっと撫でた。涙がボロボロと頬を伝う。
温かい涙。温かい体。温かい気持ち。
強く思う。この景色も、この温かさも、全て忘れない。天国に行っても、決して忘れない。
- 615 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:50
-
「ありがとう・・・梨沙子。」
- 616 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:51
- その瞬間。
背中に羽が生えた様な錯覚を覚える。
フワリと浮かび上がる体。
いや・・・体は浮かびあがってはいない。
正確には、石川の体を抜け出るように、桃子の姿が・・・桃子の魂が浮かび上がる。
梨沙子は今にも涙が零れ落ちそうな目で、桃子の魂を見上げた。
その背中には、ハッキリと羽が見えた。
- 617 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:51
- 「もも・・・」
「ありがとうね。梨沙子」
微笑む。桃子はゆっくりと手を伸ばす。梨沙子もそれに釣られて手を伸ばした。
消えてゆく桃子の体。
だが、2人の手はしっかりと触れたような、そんな気がした・・・。
「もも・・・」
「梨沙子・・・元気でね」
「もも!!!」
「大好きだよ。梨沙子」
笑う桃子。
その姿も微笑みも、すべては空気に融け、次第に消えてゆく。
そして、完全に桃子の姿が消えた瞬間。
梨沙子はボロボロと、堪えていた涙を一気に零した。
「もも・・・ももーー!!!」
- 618 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:52
- 泣き叫ぶ梨沙子。
すると、その頭をクシャっと撫でる石川の手。
石川は梨沙子の頭を撫でたまま、そっとその肩を抱いた。梨沙子は石川にしがみ付いたまま、嗚咽を漏らし続ける。
「行っちゃったね・・・桃子ちゃん」
「ひっく・・・うっ・・・えっぐ・・・」
「よく。泣くのガマンしたね?」
「うぐ・・・う・・・ん」
頼りなく頷く梨沙子。
桃子に心配かけさせない為。桃子に安心して天国に行って貰う為の、精一杯の強がり。
ガマンしていた涙は、とめどころ無く溢れかえる。
石川はただただ、その背中を撫で続けてあげた。
そして、肩を濡らす梨沙子の涙の熱を感じながら、ポツリポツリと呟くように答えたのだった。
- 619 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:52
- 「私ね。あれから色々考えたんだ。桃子ちゃん。あの子はどうして取り残されたのか――」
「・・・・・・・・・」
「もしかしたらあの子は、取り残されたんじゃなくって。神様が残してくれたのかもしれないって思った」
「・・・・・・・・・」
「本当に『取り残されていた人たち』を、救うために・・・」
- 620 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:52
- みんな。取り残されていた。
交差点に取り残された茉麻も、生きてる人間から取り残されていた佐紀も、死の現実から取り残された梨沙子も。
みんな、世界に取り残されていた――。
そして・・・取り残されていた人たちは、みな彼女に助けられた。
取り残されていた人たちを救い、彼女は消えた。まるで、その役目を果たしたかのように・・・。
彼女は取り残されたのではない。
もしかしたら、神様によって、この世に残されたのかもしれない。
- 621 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:53
-
それが人々への、天国の恩恵――GARCE HEAVEN。
- 622 名前:第11章 さよなら。大好きな世界 投稿日:2008/09/06(土) 07:53
- やがて・・・。
2人を乗せた観覧車は、地上へと近づく。
空から次第に遠ざかって行く。
梨沙子はボンヤリと窓の外を見た。
街は、まるで天国からの恵みのような、オレンジ色の暖かな夕陽に包まれていた――。
(第11章 さよなら。大好きな世界 FIN)
- 623 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/06(土) 07:54
-
- 624 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/06(土) 07:54
-
- 625 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/06(土) 07:55
- ここまで。
次の更新でラストになります。
- 626 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/06(土) 07:56
- >600さん
ル*’ー’リ<ウフフ。ももの演技で泣かせますよ
- 627 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/06(土) 07:58
- >601さん
なんかタイトルが最後だけ少年マンガチックだったかなぁと心配してたので、
そう言っていただけると助かります。
- 628 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/07(日) 00:38
- つД`) もも・・・
- 629 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/09/07(日) 16:15
- 泣ける。。
次でラストか、淋しいなぁー。
- 630 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/08(月) 00:06
- 梨沙子、がんばったなぁ。
作者さんもがんばった。
ラストまで期待しています。
- 631 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:15
- 近所の公園では、夏祭りが行われていた。
提灯が一斉に、新緑を赤く染めた。
千奈美と友理奈は浴衣姿で手を繋ぎながら、人ごみの中を駆け抜けて行った。
「熊井ちゃん!あっちに射的あるよ!!」
「おー!凄い!!やろっやろっ!!」
そんなテンションでそそくさと先を行ってしまう2人に、浴衣姿の雅は後ろを歩きながら思わず呆れ笑いを零した。
「もー。混んでるんだから、走ると危ないじゃん!!」
「ねっ」
隣りで浴衣姿の梨沙子がクスクスと笑顔を零す。
雅と梨沙子の手も、人ごみで離れないように固く握られていた。
今日は、地元で夏祭りが行われていた。
- 632 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:15
-
あの色々な出来事があった夏から、1年の月日が流れていた――。
- 633 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:16
- 梨沙子と雅の2人は、やがて公園の一番人が集まっている場所に辿り着く。
人ごみを縫って覗き込むと、公園を流れる川面には、一面、灯篭が流されていた。
「あ、見て!みや。凄い!!」
「ホントだ。超キレー」
「すごいね、なんだろ?これ?」
灯篭が水面に反射し、キラキラと幾重もの輝きを放つ。
梨沙子と雅の2人が手を繋いだまま、幻想的な光景に見入っていると、ふと後から・・・
「これは、灯籠流し。お盆に帰ってきた死者の魂を現世からふたたびあの世へと送り出すための儀式」
と言う声が聞こえた。
え?と思い、2人が振り返ると、そこには石川と佐紀の姿があった。
「あ!!石川さん。佐紀ちゃん」
梨沙子が嬉しそうに振り返ると、
「久しぶりね〜」
と答え、石川は2人の強く握られた手を見て、いたずらっぽく笑った。
「なに?デート?」
「ち、違いますよぉ!!」
思わず顔を真っ赤にして否定してしまう梨沙子。
すると雅が隣りで不機嫌そうに「え?違うの?」と問いかける。
そんな雅の反応を見て「あ、違くない!違くない!」とアワアワとしてしまう梨沙子に、石川と佐紀は楽しそうに笑っていた。
- 634 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:16
- ゆらゆらと水面を揺れる灯篭。
橋の手すりにあごを乗せ、ボンヤリとその光景を見つめる梨沙子と雅。
ため息を漏らしたくなるほど、幽玄的な光景に雅は目をギュッと細めた。
「この灯篭に乗って、死者の魂は天国に帰るんですか?」
雅が問うと、後で石川がコクリと頷き、「そうよ」と答えた。
すると、それを聞いた梨沙子は、至極柔らかな表情でそっと、独り言の様に呟いた。
「じゃぁ、ももも・・・かな?」
「かもね」
ただじっと、梨沙子と雅はゆらめく水面を眺めた。
灯篭の影を何重にも映す水面。光を乱反射させ、ゆらゆらと揺れるソレは、確かに死者の魂の様に見え、不思議な幻想を覚える。
梨沙子と雅の隣りでは、同じように、流れていく灯篭を無言で見つめている、佐紀と石川。
- 635 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:17
- すると。
そんな佐紀の後から不意に、聞き覚えのある、愛らしい声が聞こえてきたのだった。
「へー!これに乗って帰るんだ?あたしたち」
「マジで?どーやって乗るんだろう?もも」
「さぁ〜?」
それは懐かしい、聞き覚えのある、友達の声。
ハッとして、佐紀が後ろを振りかえると、そこには楽しそうに川面を見つめる桃子と茉麻の姿があった。
「あ・・・」
佐紀が驚きの声をあげると、桃子と茉麻も佐紀の姿に気づいたらしく、小さく手を上げた。
そんな2人を見て、佐紀が嬉しそうに手を振ろうとすると・・・。
- 636 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:18
- 「どーしたの?佐紀ちゃん」
不意に声をかけられる。
後ろを振り返る佐紀を見て、梨沙子が不思議そうに眉根を寄せていた。
「どしたの?そっちに何かあるの?」
「あ・・・」
梨沙子は首を傾げながら、佐紀が見ている方を顧みた。
だが、そちらには何もない。梨沙子の目には何も見えない。ただ、人々が往来をしているだけ。
「ん?なにかある?」
「り、りーちゃん・・・」
すぐそこに桃子がいるのに・・・。梨沙子の目には、桃子は見えていないのか?
佐紀は思わず声を震わせた。
すると。佐紀の目線の向こうに佇んでいる桃子が不意に、右手の人差し指を立て、自分の口元に添えた。
シー。小さくそう言って、柔らかな微笑みを浮かべる。
- 637 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:19
- 「・・・・・・・・・・・」
目を丸くする佐紀。
すると石川が隣りから、笑いながら佐紀の袖を引っ張った。
「・・・・・・・」
キュッと口を噤む佐紀。
そして佐紀は梨沙子に「ううん、なんでもない」と言って笑うと、石川の浴衣の袖を引っ張り、答えた。
「ねぇ、それよりさ、お姉ちゃん。お好み焼き買わない?お腹すいちゃった!」
「いいね。買おうか?梨沙子ちゃん達も食べるでしょ?私、おごってあげる」
そう言って石川が笑うと、梨沙子と雅は嬉しそうに声をあげた。
「え?ホント?やったぁ!」
「ありがとーございます!」
「せっかくだから、他の友達も呼んでくれば?」
「いいんですか?」嬉しそうに笑う梨沙子。
そして、手をつなぎながら梨沙子と雅は駆けて行く。
雅が射的場にいる千奈美と友理奈に「ちぃ!お好み焼き奢ってもらえるって!」と叫ぶと、「まじでー!!すぐ行く!!」と、
祭りのお囃子に負けない賑やかな声が聞こえてきた。
そんな様子を見ながら、クスクスと笑っている石川と佐紀の2人。
そして。佐紀はわずかに振り返ると、後ろに佇む2人にそっと微笑みかけた。
すると、桃子の口元がゆっくりと動く。
- 638 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:19
-
あ・り・が・と・う。
- 639 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:20
- やがて、梨沙子たちの後を追って、急いで祭りの中を駆けて行く、佐紀と石川。
桃子と茉麻は目を細め、その様子を遠くから見つめていた。
「見えてないんだね。梨沙子ちゃん・・・。もものこと」
茉麻が呟くと、桃子はあっけらかんとした口調で頷いた。
「そりゃそうだよ」
解っていた。
霊感の強いワケじゃない梨沙子が、自分の姿を見ることが出来たのは、自分が梨沙子の守護霊だったから。
だから、梨沙子の守護霊じゃなくなった今は・・・もう、梨沙子は自分を見ることが出来ない。
- 640 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:20
- 「悲しい?」
茉麻の問いに桃子は3秒ほど黙り込んだ後、 「ううん。ヘーキ」と言って、ゆっくりとかぶりを振った。
「だって。見えてないって事はさ、ももがいなくても、守護霊がいなくても、ちゃんと梨沙子が生きて行けてるって証拠じゃん」
「・・・・・・・・・・・」
「だから悲しくはない」
1人で生きてゆけてるのだから、悲しくなんてない。これでいいんだと、心の底から思う。
だけど、そうは解っていても、ホンの少しだけ胸を締め付けられるこの気持ちは・・・。
きっと『悲しい』ではなく、『寂しい』んだと思う。
「そうだね・・・」
茉麻はそれ以上は問いかけなかった。
何も言わず、茉麻はそっと桃子の手を握り締めてくれた。
桃子もその手をギュッと握り返す。寂しいけど1人じゃない。それがどれだけ、心強い事か・・・。
- 641 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:21
-
- 642 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:21
- その後。茉麻が話をきかせてくれた。
交差点に行ったら、柴田さんは相変わらずフリージアを供えていたと、茉麻は言っていた。
「だけど、ちゃんと柴田さんは笑えてた」
そう言って、茉麻は満面の笑顔を浮かべる。
きっと柴田は、この先もフリージアを供え続けるのだろう・・・。
交差点のフリージアは枯れない。この事故の痛みは一生忘れない。
だけど、その裂ける様な痛みも少しづつ和らいでゆくのだろう。毎日の時間と笑顔と共に――。
桃子は茉麻の顔を覗きこみ、答えた。
「いい事だよ。まぁの事はちゃんと覚えてて、それでもちゃんと笑えるようになったんだもん」
「うん。ホント良かった・・・」
- 643 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:22
- 2人は目を細め、空を仰いだ。
木々が揺れる。風が吹き抜ける。不思議と体に風を感じた気がした。
きっと気のせいだろう・・・。
人々の笑い声。灯篭の美しい景色。吹き抜ける風。木々の囁き。
そして、みんなの優しさ。
死んで初めて解る。
最上の天国は、この世界にあるってこと。
この世界は驚くほど美しくて、切ないほど優しい世界だった。
- 644 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:23
- 桃子は茉麻の手を握る。
「じゃぁ、帰ろっか。まぁ」
「うん・・・」
笑いあう2人。
でも、こっちの天国も悪くない。2人一緒なら、寂しくない。
- 645 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:25
- 提灯がいくつも連なる。
手を握り駆け抜ける2人。木々の間をすり抜け、人々をすり抜け・・・。
前方に梨沙子たちの姿が見えた。
桃子は全力で走りながら、大きな声で叫んだ。
「佐紀ちゃーん。石川さーん!」
振り返る2人に、桃子は何度も手を振りかざす。
「元気でねーーー!」
佐紀と石川は笑っていた。
笑顔で小さくピースする佐紀と、そっと手を振る石川。
佐紀の目には、桃子の背中にいつか見た羽が見えた。
全力で駆け抜け、佐紀と石川の体をすり抜ける、桃子と茉麻。
そのまま2人は友理奈と千奈美の間をすりぬけ、
そして・・・梨沙子と雅の間を通り抜ける。
- 646 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:26
-
「バイバイ、梨沙子。みや」
- 647 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:26
- 優しく笑いかける。
その瞬間、体がフワリと浮かび上がるのが解った。
2人は助走をつけたまま、空に駆け上がり、遥か上空へと消えて行った・・・。
- 648 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:27
-
「・・・・・・・・・・・・・」
梨沙子はふと立ち止まり、空を見上げる。
雅は隣りで手を握り締めたまま、「どーしたの?梨沙子」と問いかけた。
梨沙子はキョロキョロと辺りを見渡した後、「ん・・・。なんか」と呟き、不思議そうに頬っぺたをかいた。
「なんか、風が通りぬけた」
「風?」
「すっごい暖かい風が、空に向かって」
空を見上げる2人。
暗闇の中、空には星が美しく瞬いているのが見えた。
澄みきった夜空に輝く、幾千の星の欠片たち。
「灯篭も綺麗だけど、やっぱ空も綺麗だね・・・」
梨沙子はぼんやりと呟いた。
そう。あれだけ美しい空だ。きっと空の向こうには最上の天国が広がっているのだろう。
そしてあの空から、桃子はいつも自分を見ていてくれてるんだろう・・・。
- 649 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:28
- 雅の手を握りしめる。
すると雅は嬉しそうに微笑み、梨沙子の手を握り返した。
空を見るたび、いつも思う。
好きな人を大切にしよう。一生懸命生きよう。いつも、ももが見てくれている。
恥ずかしい人生は送らない。ももの分まで、強く生きよう。
それがずっと自分を見守ってくれた、これからも見守ってくれているであろう・・・ももへのありがとう。
梨沙子は雅の手を取り、夜風の中を駆け出していった。
提灯の光も、人々の喧騒も、木の葉のさざめきも、全てが1つとなり流れてゆく。
走って心臓がドクドクと高鳴るけど、辛くはなかった。
生きてる自分を、強く感じた。
- 650 名前:エピローグ 投稿日:2008/09/08(月) 23:30
-
―GRACE HEAVEN FIN―
- 651 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/08(月) 23:30
-
- 652 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/08(月) 23:30
-
- 653 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/08(月) 23:32
- 以上で『GRACE HEAVEN』は完結です。
約3ヶ月間。
なんだか、長いようであっという間な感じでした。
お付き合い下さった皆様。本当にありがとう御座いました。
- 654 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/08(月) 23:34
- >628さん
ル*’ー’リ<ウフフ。ももはいつでもあなたの側にいます
- 655 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/08(月) 23:35
- >629さん
終わっちゃうと思うと、なんだか自分も寂しいです。
お付き合いくださってありがとう御座いました。
- 656 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/08(月) 23:37
- >630さん
頑張りましたー!!
ラストもご期待に答えられてると嬉しいです。
- 657 名前:名無し飼育 投稿日:2008/09/09(火) 00:12
- お疲れ様です!
ぬあああああああ!!!!
終わってしまった。・゚・(ノД`)・゚・。
桃子と梨沙子の関係がとても可愛らしくて好きでした
梨沙子が描いていた桃子の絵がちょこっと気になりました
とにかく大好きなお話でした感動をありがとうございます!!
- 658 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/09(火) 00:16
- お疲れ様でした。とても優しさが滲み出た素晴らしい作品でした。
唯一残念なのは、梨沙子の描いた桃子の絵が見れなかったことです。
- 659 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/09(火) 00:22
- ありがとう、と言いたくなる作品でした。
作者さん良いもの読ませてくれてどうもありがとう。
- 660 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/09(火) 08:26
- この作品に出会えて良かった、ありがとう
- 661 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/09(火) 08:33
- 完結おめでとうございます。
そして、お疲れさまでした。
すばらしい作品をどうもありがとうございました。
- 662 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/09(火) 12:27
-
ずっと読んできました。
毎回ワクワクしていました。
素敵なお話をありがとう。
楽しい時間をありがとう。
また作者さんが書かれることがあったら、是非読ませていただきたいと思います。
ほんとに、お疲れさまでした。
- 663 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/10(水) 10:10
-
心から感動できました。
素晴らしいお話ありがとうございます!
作者さんの次回作、すごく楽しみにしています!
- 664 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/10(水) 18:21
- 終わってしまって淋しいけど、お疲れさまでした。
なんか、今までにはないBerryz工房の小説を味わえました。
さわやかな感動をありがとう。
- 665 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/11(木) 00:21
- 楽しませて頂きました
ありがとう
- 666 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/12(金) 22:29
- >657さん
ありがとう御座います。
恋とは違うりしゃももの友情関係は、私も書いていてたのしかったです。
梨沙子の書いた絵は・・・信じていれば、きっといつか見れますw
>658さん
ありがとうございます。
優しさを前面に描きたいと言うのがあったので、そう言って頂けるとうれしいです。
梨沙子の描いた桃子の絵は、今は梨沙子の手元にはないとだけ言っておきますw
>659さん
この小説のテーマは『感謝の祈り』でした。
だから『ありがとう』は、この小説で必要不可欠な言葉です。
最後まで読んでくださって、本当にありがとございます。
>660さん
この作品を読んでくれて、本当にありがとう。
- 667 名前:kappa―! 投稿日:2008/09/12(金) 22:37
- >661さん
ありがとうございます。
完結出来てホントにホッとしました。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。
>662さん
この作品を楽しんで頂けたことが、なによりの感謝の気持ちです。
またいつか新しい作品の形でお目にかかれたら、幸いです。ありがとうございました。
>663さん
次回作の予定は未定ではありますが、きっといつかお目にかかれると思います。
本当にありがとうございました。
>664さん
今までにないタイプのベリーズ小説を目指してはいたので、そう言って貰えるとうれしいです。
自分自身、終わってしまってなんだか寂しいですが、完結できて本当に良かったなぁと思います。
ありがとうございました。
>665さん
この小説を楽しんでもらえた事に、何よりもありがとうの思いです。
- 668 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/04(土) 12:07
- 作者様の書く文章から桃子の温かさが伝わってきました。
そして他の登場人物の描写も凄い素敵で
読んだ小説の中で最高だと思います。
- 669 名前:kappa―! 投稿日:2008/10/18(土) 14:59
- >668さん
ありがとう御座います。
全ての登場人物にドラマを持たせたかったので、
そう言っていただけると非常に嬉しいです。
ログ一覧へ
Converted by dat2html.pl v0.2