07%のstory
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/18(日) 22:21
-
娘。現メン9人、特にゴロッキーズを中心に
“れいなさんがカッコ良ければ、それでいいじゃない”
をモットーにつらつらと書いていかせていただきます。
よろしければお付き合いください。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/18(日) 22:25
-
はじめまして。たっつんと申します。
基本は娘。DDですが、本性は6期ヲタのれなえりストです。
一発目は“れなえりvs愛ガキ”イきます。
- 3 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/18(日) 22:26
-
「ふぁぁ〜………ふぇっ?」
ふいに目が覚めて顔を上げれば、そこは真っ暗闇
「あれ?あれぇ?」
間抜けな声を上げながら部屋の中を見回したけれど、目が暗闇に慣れていないせいか何も見えなかった
ちょっとばかし居眠りしてただけなのに、確かに点いていた少し暗めの蛍光灯は消えていた
「おかしいなぁ?」と絵里は首を傾げた
博物館職員の亀井絵里は、連日の泊り込み作業で疲れがたまっていたせいか
作業の終わりが見えてきた今日、気が抜けてしまったようで残業中に居眠りをしてしまった
「にしても…みんな帰るなら起こしてくれたっていいのにぃ」
薄情にも絵里を放置して帰っていった、今は姿が見えない同僚達に悪態をつきながら
近くに置いてあるはずの携帯電話を手探りで手繰り寄せた
眠たげな眼をこすりながら覗いたディスプレイには信じられない表示が
02:46
「………真夜中じゃん」
本格的に爆睡していた自分に呆れつつ、これは始発電車を待ったほうが得策だと考えた絵里は
少し乱れた髪を手櫛で整えながら、自分の席を立った
「喉渇いたし、コンビニでも行こーっと…」
携帯電話の明かりを頼りに、部屋の扉のところまでよたよたと歩く
そして、部屋の照明のスイッチに手を伸ばす
- 4 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/18(日) 22:27
-
「………あれ?」
カチ、カチカチ、カチッ……カチカチカチカチカチ…………
「点かないじゃん…」
何度スイッチを押してみても、部屋は一向に明るくならない
「停電とか?」
ならば、点けていたはずの照明が居眠りしている間に消えていた事も納得できる
しかしここは博物館
そして今は“世界の秘宝展”の開催期間
セキュリティシステムの関係で、自家発電なる設備があるはずなのだが…
「ちょっ…おかしいよね?」
誰に問いかけるわけでもなく、絵里は独り呟いた
そしてゆっくりと扉を開ける
隙間からのぞく長い廊下もやっぱり真っ暗で、緑色の非常灯も見当たらない
「やっぱりおかしいよぉ…」
その声はもはや涙声であった
が、しかし、とにかくここを出なければならない
喉も渇いたけれども、それ以上の空腹感を自覚してしまったから
グゥゥゥ〜〜〜……
盛大にお腹のムシが主張する
「もぉぉ〜…わかったって…行きますよ?」
- 5 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/18(日) 22:28
-
壁沿いに手探りで、出口の方にのそのそと進む
毎日歩きなれた道ではあるのがせめてのも救いであった
「もうちょっとで右に曲がったら、通用口…」
絵里はびくびくしながら廊下を進む
やっとの思いで関係者通用口までたどり着いたものの、そこにも明かりはなかった
「おかしい。絶対におかしいってばぁ…」
現在、催し物開催中の博物館にあるまじき状況
館内の警備の要である、通用口横の警備員室までが真っ暗などという事はありえなかった
もはや完全に異常事態である
絵里はまたゆっくり歩き出して、警備員室を覗いた
「ッ!!」
そこにはテープで口を塞がれて、ロープで体はぐるぐるに縛られて気を失っている警備員
絵里は声にならない悲鳴を上げた
ヤバいってばぁーーーー
混乱して立ち尽くす絵里
その視界の端に、暗闇よりも濃い影が入り込んできた
絵里はごくりと喉を鳴らしてから、ゆっくりとその方向に顔を向けた
そこには紛れもなく人間が立っていた
全身黒ずくめの人間が、手にナイフのようなものを持って立っていた
またも声にならない悲鳴を上げた絵里は通用口の扉を押して外に飛び出した
- 6 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/18(日) 22:29
-
そこは博物館の地下搬入口
逃げなきゃ!
幸い、地下搬入口の明かりは通常の半分程度であったものの走って逃げるには十分の明かりが灯っていた
が、しかし…
絵里が駆け出したその瞬間、絵里は豪快に前のめりにすっ転んだ
「ったぁ〜…」
その勢いで先程の恐怖で溢れていた涙が、零れ落ちてコンクリートの地面を濡らした
でも、泣いている場合ではない
逃げなければ
絵里は立ち上がった
と思ったら、誰かに後ろから抱きかかえられて立たされた
それからクルッと向きを180度回転
「っしょっと…大丈夫?」
「あ、はい…」
「ビックリした〜…いきなりこけるし…」
そう言って手を口に、真っ黒な皮手袋をはめた手を口にあててクスクスと笑った
「だっ…だって、貴方が足を引っ掛けたからじゃないですか!」
笑われた絵里はムキになって反論する
「へ?違うし。そこに足を取られて勝手にこけたんやろ?」
目の前の黒い人は絵里の背後を指差す
絵里が振り返るとそこには駐車スペースに置かれたコンクリートの車止め
「…………」
「……プッ」
「笑わないでください」
「笑うやろ、さすがにこれは」
「…………」
絵里は思わず頬を膨らませた
- 7 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/18(日) 22:29
-
「じゃ、帰るんで…」
笑いを切って、黒い人が静かに告げる
「待ってください」
絵里は黒い人の革ジャンの裾を掴む
「……なん?」
「それ、置いてってください」
「……あぁ…気づいとったと?」
「いくらなんでも気づきますよ?」
ふたりの視線の先は黒い人の右手
そこに握られているのは“宝玉の短剣”
現在、この博物館で行われている“世界の秘宝展”の目玉展示物―“宝玉の短剣”
長年に渡り、遺跡の中で眠っていたにも関わらずその刃は一切錆びることなく
その刀身に発掘した者の顔を映し出したと言う
そして刃以外の部分には様々な宝石と一面金で施された装飾
博物館の一番奥の部屋の一番奥のショーケースの中で先日からその輝きを放っていたその短剣
それが、今、何故か黒い人の手の中に
「それ、どうやって持ってきたんですか?」
「んー…それは企業秘密」
ニヤリと笑う黒い人
その笑いにふと疑問の波が絵里を襲う
「ってか、女の人ですよね?」
「今頃気づいたん?」
良く見ると黒い不審者はその背格好と声から推測するに、確実に、女性
茶髪のロングヘヤーを頭の両脇で結んで、サングラスに全身黒一色のコーディネート
信じられないが、どうやら女性…というか女の子
「そして泥棒さんですよね?」
「それも今頃?」
「いや、あんまり緊迫感がなかったので…つい、普通に会話しちゃいましたけど…」
「そうやね。あんまりビビっとらんよね、アンタ」
「そんなことはないですけど…あの、それ、返してもらえます?」
絵里は黒い人が右手に持つ“宝玉の短剣”を指差す
- 8 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/18(日) 22:30
-
「いややし。せっかく盗ってきたのにハイどうぞ、って返すわけなかろーが」
「えー…じゃぁ、警察に通報しちゃいますよ?」
「どうやって?」
「この携帯で110番通ほ…って、あれ?」
絵里が握り締めていたはずの携帯電話は何故か黒い人の左手の中に
「ついでにこの携帯電話ももらっていこうかなー」
ニヤニヤしながら携帯電話を手の中で弄ぶ黒い人
「かっ…返してくださいよぉ〜」
絵里は急いで飛び掛るも、黒い人は笑い声を上げながら後ろに軽くステップを踏んで絵里の追跡から逃れる
「ちょっとぉ〜困ります〜」
「二ヒヒ」
しばらく追いかけっこをしていたら、黒い人が急に真顔になって立ち止まった
絵里は急に止まれずに、黒い人の胸の中に飛び込んでしまった
追いかけていた勢いのまま、黒い人の肩に鼻を思いっきりぶつけて身悶えた
「ふぇぇ〜…痛ぁ〜い…」
「随分と楽しそうにしてるじゃない、“黒猫”さん?」
「チッ…」
聞きなれない声がしたので、絵里は鼻を押さえながら顔を上げるとそこには見慣れない女の人
柱の影からこれまた全身黒ずくめの女の人が笑いながら登場した
茶髪の巻き髪ロングヘヤーでサングラス姿のこれまた見るからに怪しい女性がこちらに向かって歩いてくる
それを見ていた黒い人は身を強張らせる
「楽しくじゃれ合ってる所悪いんだけど、その“宝玉の短剣”いただきに来たの。渡してもらえるかしら?」
「なん…渡せるわけなかろーが。横取りは感心せんけど、“アテナ”さん?」
“黒猫”と呼ばれた黒い人の胸の中で、絵里は“黒猫”と“アテナ”の顔を忙しく交互に見やる
- 9 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/18(日) 22:31
-
「まぁ、大人しく渡してもらえると思ってなかったけど…」
「じゃぁ、とっとと消えるったい」
「私の顔を見た貴方達には消えてもらおうかしら?」
「はぁ?」
「ふぇ?」
“黒猫”の苛立ちを含んだ呆れた声と、絵里のとぼけた声が重なった
その瞬間“アテナ”は地面を蹴ってこちらに飛び掛って来た
“黒猫”は体を捩って、絵里を自分の背後に押しのけた
そして“アテナ”が繰り出した右の拳を寸での所でかわす
拳が止められた次の瞬間、“アテナ”の右手首の裾から銀色に光る刃物が飛び出した
「ッ!」
反射的に顔をそらした“黒猫”だったが、仕込み刀の急襲を避けきれなかった
その頬に赤い切り傷が走ったのと同時にその顔からサングラスが弾け飛んだ
「クソッ!」
“アテナ”は怯んだ“黒猫”に対して、さらに至近距離から反対の拳で襲い掛かる
その拳には、既に右手から伸びる銀色の刃がむき出しになっていた
「させるかっ!」
“黒猫”はすばやくコンパクトに“アテナ”の腹部に蹴りを打ち込んで、間合いを開けた
「っ痛いわね!」
「知るか!」
「なぁに?ちょっとー…この子、聞いてたより手ごわいんだけどぉ」
“アテナ”は誰かにクレームを告げているように大きな声で不満をぶちまけた
「なん?」
その言動を不審に感じた“黒猫”は絵里に対して小さな声で指示を出す
「ちょ、アンタ…後ろに下がって…柱かなんかの物陰に隠れとって!」
「え?」
「アイツ、何か企んどるかもしれんけん…」
「ぅん…わかった…」
“黒猫”は絵里の返事を聞き終わると同時に、“宝玉の短剣”を上着のポケットに入れた
そして、右足を半歩後ろに下げて、ゆっくりと構えた
「そうこなくっちゃ」
静かに構える“黒猫”を見て“アテナ”は嬉しそうに笑った
- 10 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/18(日) 22:32
-
そこからは一進一退の攻防が続いた
無駄のない動きで“黒猫”に休む暇を与えない連続攻撃を続ける“アテナ”
仕込み刀のせいでリーチの長い“アテナ”の攻撃を紙一重でかわしながら、素早いカウンター攻撃で反撃を試みる“黒猫”
その早い攻防に絵里の目が少し慣れてきた頃、気づいたことがあった
時折、“アテナ”がチラリと絵里の方を見る
その度に“黒猫”がその視界を遮るように、“アテナ”の顔面を狙った攻撃を仕掛けた
「庇われてる?」
絵里は違和感を感じながらも、確かに“黒猫”に守られていた
それが何度か繰り返されたとき、顔面への攻撃を予め予想していたのか
高く蹴り上げられた“黒猫”の足かがんでかわした
大きく空振りをした“黒猫”が“アテナ”に背中を向ける体勢になってしまった
バランスを崩した“黒猫”は急いで立て直そうとしたものの既に遅し
“アテナ”の蹴りを背中でモロに受けてしまい、そのまま吹っ飛ばされた
転がった“黒猫”は絵里の足元まで来て、素早く立ち上がった
「ちょっ、物陰に隠れとけっていたやろうが!気が散って“アテナ”に集中できんちゃけ!」
「だってぇ…後ろに下がったら動くなって言われたんだもん…」
何かにおびえているかのように絵里の反論の語尾が小さくなる
その様子がおかしいと思い、絵里の姿を確認しようと“黒猫”は振り返る…
その瞬間
“黒猫”のこめかみにゴツリと嫌な感触
いつの間にか現われた誰かに背後から銃を突きつけられた
- 11 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/18(日) 22:33
-
「はい、動かんといてやー」
“黒猫”の背後から場違いなロリ声が響く
「“アテナ”は一人で行動するもんやなかったと?」
“黒猫”はロリ声の主を確認もせず、前方で楽しそうに笑いをかみ殺している“アテナ”を睨みつけた
「それは過去の話。誰かと行動した方がいいのならそうするに決まってるじゃない」
「へぇ・・・」
「誰かさんと違って、その辺は臨機応変に対応しますから」
「チッ・・・」
「はいはい、どう足掻いたってこれで終わり。“黒猫”さんの負けですよ。」
ゆっくりと“黒猫”と絵里に近づいてくる“アテナ”
そのまま2人は手錠を掛けられて、その場に座らされて足を紐で縛られた
“黒猫”の上着から“宝玉の短剣”、ズボンのポケットからはバイクのキーが奪われた
「あと、お土産」
“アテナ”はそう言って上着のポケットから小さなリモコンのような物を取り出した
ニヤリと笑ったあと、スイッチを軽く押した
警備員室の辺りで小さな爆発音
そしてけたたましく鳴り響く非常ベル
「ふぁぁぁっ!」
静かだった地下がいきなり騒がしくなったため、絵里は思わず大きな声を上げて驚いた
隣で縛られている“黒猫”は少しも表情を変えず、“アテナ”の顔を見据えていた
「非常ベルが鳴り始めてから警備会社の車が到着するまで約6分、警察が到着するまで約10分かかるがし」
“アテナ”の相棒が腕時計を見ながら呟く
「…知っとる」
ぶっきらぼうに“黒猫”が答える
「それだけの時間があれば“黒猫”なら逃げられるでしょ?じゃね」
そう言い残して、“アテナ”とその相棒は地下の端に停めてあった“黒猫”のバイクにまたがって去ってしまった
「あのバイクのローン…払い終わってないっちゃん…」
「…そうなんだ…」
切ない瞳で走り去るバイクを眺める“黒猫”
そんな彼女に絵里は気の利いた言葉をかけることはできなかった…
- 12 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/18(日) 22:35
-
「ってか、逃げんと!」
我に返った“黒猫”はもそもそと身を捩って、絵里に背中を向けた
「この腰の小さなポーチの中から針金を2本取ってほしいと」
「あ、はい」
絵里はゆっくりと針金を取り出して“黒猫”に手渡す
“黒猫”はその針金を器用に使って手錠を解いた
そして今度は自分でポーチから小型ナイフを取り出して、足のロープを切り落とした
手足が自由になった“黒猫”は絵里の前にかがみ込む
「怪我とかしとらん?」
絵里は真正面からまっすぐに見つめてくる“黒猫”の素顔に見とれたものの、すぐに怪我はないと首を横に振った
「っ…ぅん…だいじょぉぶ…です…」
「そか」
少し笑って安心したような顔つきをした“黒猫”に胸がキュンとしてしまった絵里
頬が少し赤く染まった
“黒猫”はその反応に気づいているのかいないのか、ゆっくりと立ち上がって
少しはなれたところに転がっている自分のサングラスを拾い上げた
「じゃ、逃げるけん」
振り返った“黒猫”は手を上げてそう言ったあと、走り去ってしまった
数分後、けたたましいサイレント共に駆けつけた警察隊に座り込んだままの絵里は保護された
- 13 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/18(日) 22:36
-
そして絵里は朝日が昇ってしばらくしても、警察から取調べを受けていた
「で、犯人の特徴は?」
「…目隠しされてたので…ちょっとわかんないですぅ」
その素顔も見たし、声も聞いた
それでも何故か“黒猫”を庇ってしまう絵里
「むぅ…では、何か他に気づいた事は?」
「んー…ほんとに、気を失っていたんで…わかりません…」
「はぁ…じゃぁ、“宝玉の短剣”以外に他に盗まれた展示品とか……」
「絵里の…」
「貴方の?」
「絵里の…」
「貴方の?」
「………ハート?」
「真面目に答えてください。」
「ああああああああああああっ!!」
「っ!!どっ!どうしました?!」
「携帯!」
「は?」
「絵里の携帯……盗まれたぁ…」
- 14 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/18(日) 22:38
-
从*` ロ´)<つづくけんね!
- 15 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/18(日) 22:40
-
ノノ*^ー^)<絵里の携帯は?
从*` ロ´)<知らん!
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/18(日) 22:41
-
続きはまた後日…
- 17 名前:遊 投稿日:2008/05/19(月) 00:22
- いやーんW
れなえりと愛ガキ♪
これはブックマーク決定W
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/19(月) 00:38
- すごくおもしろいです!
………ハート?がツボでしたw
そして作者様のモットーに大賛成です。
続き楽しみに待ってます!
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/19(月) 07:00
- これはおもしろそうですね。ちぇっくちぇっく。
アテナさんたちのほうも気になりますw
- 20 名前:竜斗 投稿日:2008/05/19(月) 12:40
-
スレ立て待ってました!
男前れいなさん堪能させていただきます。
- 21 名前:たっつん 投稿日:2008/05/21(水) 14:31
- 僭越ながらレス返しなぞ…
>>遊サマ
いやーんw
レスとブックマークありがとうございます!
愛ガキももちろんイきますよwイっちゃいますよ!
>>18サマ
ありがとうございます!
ピンポイントなツボ申告ありがたいです!
モットーに反することなく更新続けたいと思っております。
裏モットーは“亀井さんはとことんアホ可愛ければ、それでいいじゃないか”ですw
>>19サマ
ありがとうございます!
今後はアテナさんも活躍してくれるはずなんで、気長にちえっくちぇっくしちゃってください!
>>竜斗サマ
竜斗師匠キタ━(゚∀゚)━!!
レスありがとうございます!
このスレでれいなさん男前道を極めるつもりでかんばります!
【お知らせ】
このスレを読んでいただいておられる有難い読者様で
なんかリク的なものがございましたらお気軽にどうぞ。
ご希望に沿えれるかどうかは分かりませんが…。
次回更新は週末にでもできればいいなぁ…なんて思ってます。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/24(土) 00:55
- れなえりならどんなリクエストでもよろしいのでしょうか
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/25(日) 00:28
- 私もたっつんさんのモットーに激しく共感するれなえりストです。
このお話おもしろいですね♪続きが気になりますぅ。
あと・・・リクエストしちゃいます!
不良の妹れーなと優等生のお姉ちゃん絵里の禁断愛。的なものをお願いします。
姉妹設定が無理なら普通に先輩後輩でもOKです♪
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/25(日) 12:37
- 憧れの先輩カップルとかでいいのでいしよしを登場させて欲しいです♪
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/25(日) 17:44
- あ、愛ガキをw
- 26 名前:たっつん 投稿日:2008/05/26(月) 02:27
- レスに喜びながらレス返しなぞ…
>>23サマ
れなえりなら…と言っても文章力がないので…
書けるかどうかは小説の神のみぞ知る…
ってか、リクなんて言った者勝ちですので、お気軽にどうぞw
>>23サマ
ありがとうございます!
あのモットーに共感していただけるとは…
なかなかのれなえりストとお見受けいたしますw
姉妹は無理そうですけど、不良×優等生…そのネタいただきます!
今のが無事完結できれば、トライしてみます!
>>24サマ
いしよしですか…読むのは好きなんですが、書いたことないんですよね…
先輩キャラが出てくるネタの時は、いしよしに出演してもらうようにしますねw
>>25サマ
愛ガキw わかってますってw 出演させますってばwww
だって、愛ガキも好きですもんw
ってな訳で、短いですが更新します。
愛ガキも(ちょっとだけ)ありますぜw
- 27 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/26(月) 02:31
-
絵里が取調べ中に叫び声を上げた時から遡る事、数時間前…
れいなから奪ったバイクで博物館を立ち去った“アテナ”とその相棒は…
* * * * *
「“黒猫”ってさ、ほんとに学生なんだね…」
“黒猫”の自宅マンション
簡素で整理された室内を見回しながら“アテナ”は呟く
「ガキさん、あーしの組織の情報を信じてなかったん?」
本棚から適当に取り出した教科書をパラパラとめくる“アテナ”に向かって
相棒の女性はおもしろくなさそうな顔をして拗ねたポーズ
そんな相棒を横目に“アテナ”は笑いながら、持っていた本をパタンと閉じた
「いや、そーゆーわけじゃないんだけどさ…」
本を元の位置に戻した“アテナ”は、次に自分の上着のポケットに手を伸ばす
「学生が一人であそこまで完璧な盗みを仕掛けられるなんて、すごいなーと思って…」
部屋の真ん中に鎮座する小さなテーブルの上に部屋とバイクの鍵を投げ置いた
「確かに・・・あの“黒猫”は優秀な人間だと思うがし…けどな…」
そう言いながら相棒は顔を赤らめながら“アテナ”の服をちょこんとつまんだ
「愛ちゃん?」
「その“黒猫”をあっさり出し抜いた“アテナ”はもっとすごいと思う…」
そう言い終わった相棒の顔はもっと赤くなっていた
“アテナ”は自分の服をつまんでいる手を取って、握り返す
「愛ちゃん、それ、あたしのこと褒めてくれてんの?」
「うん…“アテナ”は…里沙ちゃんはいつもすごいがし」
- 28 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/26(月) 02:32
-
愛ちゃんと呼ばれた相棒の賛辞に、素直にその口元を緩ませる“アテナ”
“アテナ”は握り返した愛の手に口づけたあと、その細い指に舌を這わせる
「あっ!ちょっ…里沙ちゃぁ…」
里沙の舌に釘付けになっている愛の視線
「じゃぁさ…いつもみたいにご褒美ちょうだいよ…愛ちゃん…」
里沙はその視線を解いて愛を抱き寄せる
「ぇ…でも、ここ…“黒猫”さんの部屋やんかぁ…」
愛は里沙の腕の中に抱え込まれながら、小さな声で反論した
「大丈夫だよ…“黒猫”はすぐには帰ってこないから…」
愛の耳元で諭すような囁き
里沙の吐息に耳を撫でられるくすぐったさに耐えながら愛は尚も反論する
「ゃっ…あかんて…里沙ちゃ…ここでなんか…無理…ぁ……」
「無理じゃないよ…ふたりっきりならどこでもできるでしょ?…ご褒美」
里沙は乱暴に愛を部屋の端に置かれていたベッドに突き倒した
皺ひとつなく整えられていたシーツが波打つ
「ぅおぉっ!」
仰向けに倒れた愛の口から、色気のない驚きが漏れた
そして、さらに抗議の言葉が吐き出される…その前に、愛の口は里沙の唇に塞がれた
言葉にならなかった声は里沙の舌に掠め取られた
今、愛に許されるのは、里沙から与えられる快感への歓喜と里沙の仕事振りに対する賞賛の言葉のみ
頭の芯が熱くなり、覆いかぶさる里沙の姿がぼんやりと霞んできた頃
愛は力が入らない腕をゆっくりと里沙の背中に回した
里沙は唇の端を僅かに上げて、自身の舌と指を愛の奥へと潜り込ませた
- 29 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/26(月) 02:34
-
* * * * *
朝陽が昇ってしばらくした頃、“黒猫”の自宅前
“黒猫”はマンションの敷地の入り口付近に駐車されている自分のバイクをしばらくジッと見つめている
「バイクが返ってきとるったい…」
いつもと同じ場所に、いつもと同じように停められているバイクが、今は逆に不気味だった
そして、ゆっくりと2階にある自宅玄関を見上げる
「れなの家、アイツらにバレとるってことやんね…」
小さくため息を吐き出したあと、観念したように階段を上る
その足取りは、先程の“アテナ”とのやり取りで見られたものとは別人のように重かった
ゆっくりと扉のノブに手を掛ける
玄関の鍵は開いていた
警戒しながら朝陽の差し込む部屋に入ると、机の上には見覚えのあるキーホルダーと2つの鍵
“黒猫”の眉間に皺が浮き上がる
ぐるりと部屋の中を見回して特に見た目で変わったところはないのだが…
目を閉じて、ゆっくりと鼻から息を吸い込む
眉間の皺が一層深くなる
そっと目を開いてそのまま険しい視線を部屋の端にあるベッドにやる
昨晩、この部屋から出かける前に整えたはずのベッドが少し乱れていた
「アイツら…人の部屋で…信じられん…」
“黒猫”はそばにあったバッグにめぼしいものだけ詰め込んで、またすぐに部屋を出て行った
無駄だとは思いつつも、玄関の扉にはしっかりと鍵をかけて…
- 30 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/26(月) 02:35
-
* * * * *
取調べをしこたま受けてふらふらになりながら自宅に帰ってきた絵里
太陽はこの日一番の高さに差し掛かっていた
「絵里ちゃん、疲れたよぉ〜」
なんて独り言を呟きながら、鍵穴に差し込んだ鍵を力なくひねる
「ただいまぁ〜」
独り暮らしの絵里の声に返ってくる声はない
けれど、帰宅と同時にこう言ってしまうのは絵里の長年の癖だった
「……おかえり」
「ふぇ?」
聞こえるはずのない返事が、今、確かに絵里の耳に届いた
絵里は疲労のせいでぐったりとうな垂れていた頭を上げた
「ふぇぇぇえええっ?!」
「奇声上げる前に、玄関閉めるったい」
目の前には見覚えのある携帯をプラプラと揺らしている、見覚えのある女の子
「くくくくくく…“黒猫”さんだぁ!」
「やけん、はよ玄関閉めって…」
二度、指摘を受けて我に返った絵里は慌てて玄関の扉を閉めた
「なななななな…なんで、ここにいるんですかっ?!」
「携帯、返そうと思ったけん」
「だからって、勝手に人の家に入らないでくださいよぉ!」
「玄関から向こうには入っとらんけん、安心してください」
「そーゆー問題じゃなくてぇ…」
突然の事に慌てふためく絵里
- 31 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/26(月) 02:36
-
しかし、玄関に座り込んで涼しい顔してる不法侵入者は
絵里の様子を気にする事なく、さらにとんでもない事を言い放った
「あのさ、今晩、ここに泊めてくれん?」
「なんで?!」
「家出したけん」
「何のために?!」
「んー…念のため?」
「はぁ?」
- 32 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/26(月) 02:37
-
ノノ*^ー^)<つづきますよ?
- 33 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/05/26(月) 02:39
-
从*´ ワ`)<大丈夫。着替えとか持ってきたけん
ノノ*^ー^)<だから、そーゆー問題じゃないと思う…
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/26(月) 02:42
-
れいなの顔文字しくった…orz
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/26(月) 08:00
- んあー、おもしろい!
れなえり同棲開始!?w
作者様、リクなのですが、『モテれいなに振り回されるこんこん』をお願いしたいです。
もちろん、できたらでかまわないので。
続きワクワクしながら待ってます!
- 36 名前:遊 投稿日:2008/05/26(月) 22:45
- ガキ愛ーーーー!!
ってガキさん!れいなの家でするなんて、どんだけ愛ちゃんに飢えてんのW
もう最高!GOOD!
この調子でれなえりもイって下さい(え)
- 37 名前:みゃー017 投稿日:2008/05/29(木) 03:54
- この小説大好きです!
亀のボケ具合と言い、愛ガキの絡み言い…最高です!!
僕としてはこの調子でれなえりでどんどん行って欲しいです♪
ただ、この先の展開で一つだけリクエストさせて貰えるなら、ちょっとでもいいんで美貴絵里希望です♪w
あの意外なペアが大好きなので。
続き、頑張ってください!!
- 38 名前:たっつん 投稿日:2008/05/30(金) 16:18
- レスが嬉しくてニヤニヤしながらレス返しなぞ…
>>35サマ
ありがとうございます!
同棲…言葉の響きが素敵だなw
れなこんかぁ…ここの作者はれなえりストなんで難しいッス(涙)
基本現メン中心スレにしようとしてますしね…
と、言うのは言い訳で、ただ紺野さんをよく知らないってのがホントの所ですw
ごめんなさい(涙)
でもそのリクは覚えておくので、何かの機会にでも…
今後ともよろしくです!
>>遊サマ
あっ!愛ガキじゃなくてあれだとガキ愛じゃん!
下書きの段階では愛ガキだったんですわ…
ガキ愛に負けず、れなえりももちろんイきますよ!
…そのうちにw
>>みゃー017サマ
ありがとうございます!
大好きだなんて…そんな貴方様が大好きですw
美貴絵里ですか…<思案中>…むぅ…
了解!脳内キャスティング変更しました。
ちょっと美貴様に出演依頼してきます。
ってな訳で、次回更新は近日中にでもできればなぁ…
- 39 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/01(日) 21:09
-
* * * * *
「あのぉ〜…泊まるのは別にいいんですけどぉ〜…」
「なん?」
ビクビクしながらお茶を出す絵里の方など一切向かず、先に出されていた煎餅を咥えてテレビを見ている“黒猫”
「この状況がにわかに信じられないんですけど…」
「なんか難しい言い回しっちゃね」
「そうでもないと思いますけど…」
「そう?」
「はい…」
“黒猫”の向かいに座って、絵里はお茶を一啜りした
一息ついた後、真剣な声色で尋ねてみる
「“黒猫”さんの目的は何ですか?」
ゆっくりと紡ぎだされた言葉が今までとは違った雰囲気だったのを感じたのか
“黒猫”は煎餅に齧りついたまま、絵里をチラリと横目でうかがった
「目的?それはアンタも知っとるやろ?“宝玉の短剣”やん」
「でも、アレは奪われちゃったじゃないですか」
「やけん、奪い返すと」
「どうやって?」
絵里の疑問に“黒猫”はニヤリと笑って、煎餅を小気味良い音を立てて噛み砕いた
「知りたい?」
「……知りたい…です」
「知りたいんやったら…それなりの覚悟が必要っちゃよ?」
「覚悟…」
「そ。覚悟」
「何の覚悟ですか?」
口の中に残っていた煎餅をゴクリと飲み込んだ“黒猫”はテーブルの上に身を乗り出してそっと答えた
- 40 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/01(日) 21:10
-
「れなの共犯者になる覚悟」
「………共犯者…ですか」
思いがけない答えに固まってしまった絵里を見て、歯を見せて満足そうに笑う“黒猫”
体勢を戻して、手に持っていた煎餅の残りの欠片を口の中に放り込んだ
“黒猫”は絵里の様子をうかがいながら返答を待ってみる
しかし絵里は湯飲みを握り締めて俯いたまま
かなり真剣に考え込んでいる様である
しばらく時間がかかりそうだと判断した“黒猫”は二枚目の煎餅に手を伸ばした
が、その予想は甘かった
机の上の煎餅はすでに“黒猫”が食べつくしてしまった
湯飲みのお茶も飲み干して、今は底に薄っすらと細かい茶葉が残っているだけ
さすがの“黒猫”も待ちくたびれた
“共犯者になる”その事に対して、Yes か No か
その結論が出せないのであれば、何らかの質問でもしてくれば良いのに…
痺れを切らした“黒猫”がようやく口を開く
「なぁ、ちょっと、亀井さん…考えすぎやろ…」
「………………」
「とりあえず、れな、お茶のおかわりが欲しいんやけど…」
「………………」
「ちょw無視とかwww」
「………………」
「………………」
“黒猫”は煎餅の食べかすが残っている口から大きく息を吸い込んで──
「かぁーーーめぇーーーいぃーーーさぁぁぁぁぁあああんっ!!!」
「ふぇぇぇぇぇぇっ!!」
突然の大声に体全体で驚いた絵里は、座ったまま飛び上がってそのまま背中から床に倒れこんだ
「ったぁ〜…いきなり大きな声を出さないでくださいよぉ〜…」
「アンタが無視するからやけん…」
「…無視って言うか…絵里、今、寝てました」
「はぁ?」
「うへへ〜」
少し照れくさそうに、八重歯を見せて笑う絵里
- 41 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/01(日) 21:11
-
「話の途中で寝るとか…ありえんし」
「だってだってぇ〜…絵里、取調べとかで昨日全然寝てないんですよ!」
「夜中に目が覚めるまで、事務所で爆睡しとったやん」
「………や、あれはぁ〜…疲れてたからしかたないんですぅ」
「ってか、れなの質問に対する答えは?」
逸れてしまいそうな話の流れを真剣な表情で元に戻した“黒猫”
その表情につられて絵里もその顔を引き締めた
そして、絵里の口から出たその答えは──
「………質問って…なんでしたっけ?」
「帰る」
立ち上がって玄関に歩いていこうとする“黒猫”の足にしがみつく絵里
「あーーーうそうそうそ!ホントうそ!」
「じゃぁ、答え、聞かせてほしいっちゃけど」
自身の足に全身で絡みつく絵里を冷たく見下ろす“黒猫”
「その前にいっこ質問していいですか?」
上から降りかかる視線に目を逸らすことなく、絵里もまっすぐ見上げて問い返す
「なん?」
「………質問ってなんでしたっけ?」
「やっぱ帰る」
「あぁぁ〜〜〜っ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
- 42 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/01(日) 21:12
-
* * * * *
「ふぃぃ〜…さっぱりしたぁ」
「…おかえり」
バスタオルで濡れた髪をグシグシと撫で付けながら、短パンとTシャツ姿の絵里が戻ってきた
そんな絵里をぶっきらぼうな返事で出迎えた“黒猫”はTシャツとジャージ
あぐらをかいてテーブルに頬杖をつきながらテレビを見ていた
絵里は眠いし、“黒猫”はちょっぴりイライラしてるし
気分転換でも、という事になりふたりは順番にバスタイム
「“黒猫”さん、アイス食べる?」
「何味?」
「んーー…ゴリゴリ君ソーダ味」
「食べる」
ガサゴソとビニール袋がこすれ合う音がした後、バスタオルを頭から被ったままの絵里が戻ってきた
先程と同じ位置に座った絵里は、嬉しそうにだらしなく笑いながらアイスの袋を開いた
「なん?一個しかないん?」
「うん。だって絵里、独り暮らしだもん」
「じゃぁ、れなは遠慮しとく」
「えーーなんでなんでーー半分こすればいいじゃーん」
「………やったら、一口ちょうだい?」
「はい。あーーーん」
「…………。」
袋から取り出された水色のアイスを目の前に差し出して、満面の笑みを浮かべる絵里
頬杖をついた顔はそのままに、“黒猫”は無言で冷たい目線だけを絵里に向ける
持っていたアイスをさらにグイッと“黒猫”の顔に近づけながら絵里は追い討ちをかける
「あーーーんするにゃん?」
「あーーーんにも突っ込みたいけど、そのにゃんってなんね?」
「“黒猫”さんでしょ?だから猫語で話しかけてみましたよ?」
「………れな、猫やないし……」
「むぅ……」
マジレスで冷たく突き放された絵里は口を尖らせて不満の声を漏らした後、ゴリゴリ君ソーダ味に齧りついた
シャリシャリと口の中で弾ける感触が、風呂上りで火照った体に心地良い
- 43 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/01(日) 21:13
-
「へ、ゆーかはぁ…ふぁっひはらぁ…」
「飲み込んでからしゃべってくれん?」
「ふぉめんははい…ふぁぁっ!」
「ほれ、言わんこっちゃない…」
食べながらしゃべる絵里は口から溶けたアイスをこぼしてしまった
慌てて被っていたバスタオルで口元を拭ったあと、大きく喉を鳴らして口の中のものを飲み込んだ
「て、言うかさぁ…」
「なん?」
「さっきから“れな”って言ってるけど、それって“黒猫”さんの本名?」
「そう。れなの名前は田中れいな」
案外あっさりと答えてくれた事に驚きながらも、絵里は続ける
「職業は泥棒?」
「本職は学生、」
「へぇーーー」
「でもさ、なんで学生さんが泥棒なんか…ひひゃの?」
早くも溶け始めたアイスを慌てて口に運びながらも、絵里は質問を続ける
「れなは泥棒なんかやなくて、あの“宝玉の短剣”も2、3日借りようと思っとっただけやし」
「かりる?」
「そ。ちょっとだけ借りて、後はちゃんと返すつもりやったと」
「にゃんで?」
「…………。」
「猫語、気に入らない?」
「猫語も気に入らんし、アイスがもうあと一口も残っとらんのも気に入らん」
「あ…」
絵里の右手にはその全体像がはっきりとしたアイス棒と、その真ん中らへんに少しだけ残された水色のかたまり
「うへへ〜…ごめんね?」
かわいく小首を傾げて、絵里はれいなの目の前に最後の一塊を差し出した
上半身を伸ばして、かぶりついたれいな
口元を少しだけモゴモゴと動かしてすぐに飲み込んだ
- 44 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/01(日) 21:15
-
「“アテナ”が現われたのは計算外やったけん、こんなことになったっちゃん…」
「ってかさー、“アテナ”って何者なの?あの人も泥棒さん?」
「そう。その世界では有名な人。れなも初めて会ったけど、噂どおりやったけんすぐわかったと」
「どんな噂?」
「………おでこ」
「………あぁ」
絵里はすっかり乾いてしまったアイスの棒をくるくると回しながら、襲ってきた“アテナ”を思い出す
確かに、おでこが出ていた
「あのおでこから発せられるビームを浴びた人間は再起不能になるらしいったい」
「うそーー、なにそれぇーーー」
「いや、マジな話らしいっちゃん」
そう言ってれいなはニヤリと笑った
きっとあのツルツルおでこの特徴に、変な尾ひれが付いて出回った与太話なんだろう
絵里も一緒にニヤリと笑った
「とりあえずあのおでこから“宝玉の短剣”を取り返さんとあかんけんね」
「どうやって?」
「それ!それが、さっきれなが絵里にした質問やん!」
「ふぇ?な…なに?」
「やけん〜、絵里はれなの共犯者になる覚悟があるか?って事!」
れいなは真剣な顔つきで絵里を指差す
絵里はその指先を握って、真剣な眼差しを返す
「その前にいっこ質問」
「なん?」
「れいなが“宝玉の短剣”を必要とするその理由は?」
「それは信頼できる共犯者にしか教えられん」
「でもさ、絵里だってれいなが本当に本物の“宝玉の短剣”を博物館に返してくれるかどうかわかんないんだよ?」
「んー…それは約束する。“アテナ”から“宝玉の短剣”を取り返したら、絵里に本物の“宝玉の短剣”を渡す」
「ホントに?」
「ホント」
「絵里はれいなの事、信用していいの?」
「信用してよかよ」
テーブルを挟んで、真正面から見詰め合うふたり
「んー…でも絵里、いまいち信用しきれないんだよね…」
「なん?れながこんなに真剣に約束してんのに…」
「だってさー…名前もさっき知ったばかりの間柄なんだよ?」
「ぬぅ……」
れいなの眉間に皺が寄る
「そりゃーさぁ、“宝玉の短剣”は返してもらいたいけどぉ…」
「やったら、言い方を変える」
- 45 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/01(日) 21:16
-
れいなは握られていた人差し指をするりと抜いて、絵里の右手を握り返した
「絵里の願いをれなが叶えてあげるったい」
「絵里の願いぃ?」
「そう。れなが絵里のために“宝玉の短剣”を取り返す」
「絵里のためにぃ?」
「そう。でも、そのためには絵里の力が必要っちゃけん、手伝ってほしいと」
「絵里の力ぁ?」
「そう。これでよか?」
「むぅ…」
「なん?まだ納得してくれんと?」
「んー…なんでさぁ、絵里のためにとか言うの?」
絵里の右手を握り締める力がグッと強くなる
「れな、絵里に惚れたっちゃん」
れいなの顔が近づいてきて、絵里は引き寄せられて
ふたりの唇が重なった
「っ!!」
絵里はいきなりの事で体が全く反応できず固まったまま
れいなはその様子をチラリと確認した後、絵里の手を開放した
自由になったれいなの手は絵里の髪をなぞりながら、後頭部へ回される
「っ…んっ!」
さらに押し付けられる唇
その感触、そのぬくもり、悪くない
しかし、どうにもならない息苦しさを感じ始めた頃、そのぬくもりが絵里の唇を離れた
「どう?この理由」
「っ…いきなりキス…とか…ズルイよぉ…」
キスされた事実
それに酔いかけた自分
ニヤリと笑って自分の唇を舐めるれいなの仕草
すべてが恥ずかしくって、絵里は顔を赤らめて俯いた
- 46 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/01(日) 21:17
-
「ちょっといきなり過ぎたとは思うけど、絵里に惚れたのは事実やけん」
れいなのストレートな告白にますます背中を丸めて小さくなる絵里
「好きな人の願いを叶えたいって言うのは、自然な事やろ?」
ますます絵里の顔が赤くなる
「それに、れなは好きな人を裏切るようなことはせん」
絵里の胸がキューーーっとなって、キスしていた時よりも息苦しくなる
「やけん、れなの事信じてほしいと」
しばらくの沈黙の後…絵里は小さくうなずいた
「………ゎかった」
- 47 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/01(日) 21:18
-
从*´ ヮ`)<つづくと
- 48 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/01(日) 21:18
-
从*´ ヮ`)<照れとる照れとるw
ノノ#^ー^)<うっさい
- 49 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/01(日) 21:21
-
(ё)<オデコ…
- 50 名前:遊 投稿日:2008/06/01(日) 22:35
- れいなやるーW
ガキさんドンマイドンマイW
川*’ー’) あーしはガキさんのオデコ好きやで♪
- 51 名前:ミート 投稿日:2008/06/02(月) 05:01
- 最初から読ませていただきました!!
もう…最高です(*´ω`*)
萌え死に寸前ですよっ!
設定もセリフも私好みでして…とにかくヤバイです…!!
続き楽しみにしてます(*´ω`*)))
- 52 名前:ダヂー 投稿日:2008/06/02(月) 13:07
- ↑の方と同じく…。笑
これヤバいですね!!
まぢれなえり萌です。
れーなもっと攻めちゃっていいよー(*´∀`*)!
- 53 名前:たっつん 投稿日:2008/06/26(木) 19:38
- 続き投下ができなくて焦りながら取り急ぎレス返しなぞ…
>>遊サマ
そうか…愛ちゃんはおでこが好きか…
そうかそうか…ニヤリ
>>ミートサマ
ご来訪ありがとうございます!
萌え要素ありました?!嬉しいなぁ
ミートサマの期待を裏切らないようにこの路線で突っ走りたいと思いますので、今後ともよろしくです!
>>ダヂーサマ
れなえり萌!最高の誉め言葉ありがとうございます!
じゃぁ、れいなはガンガン攻めるキャラでイかせていただきます!
次回更新週末目標でがんばります!
がんばれ自分w
- 54 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/30(月) 01:47
-
* * * * *
「じゃ、寝ると」
「ぅえぇっ?!」
れいなからの突然の告白に突然のキス
どうしようもなく恥ずかしくて俯いたままの絵里に、れいなからの追撃
「やけん、寝るよって。れな、もう我慢の限界」
「ちょいちょいちょい…いくらなんでも早いよ!それは早い!」
真っ赤な顔を上げて絵里は必死に反論する
「そりゃ、いつもよりは早いかも知れんけど、今日は無理。れな、早く寝たいけん」
れいなは絵里に向かって手を差し出す
絵里は差し出された手から自分の手を大げさな動きで遠ざける
「いつもより早いかどーかは知んないけどさぁ…やっぱり早いって!」
絵里は避けた手を机にバンバンと叩きつけて、なおも反論を続ける
「なん?じゃぁ、れなだけ先に寝るし」
そう言ってれいなはゆっくりと立ち上がって部屋を見回す
「ベッド借りるけんね?絵里も眠くなったら、後から布団に入って来ればいいし」
「………は?」
机を叩き続けていた絵里の手がピタリと止まった
「は?やなくて…どうせ布団、一組しかないんやろ?やったら一緒に寝るしかないやん」
「………え…っと…」
絵里の見開いた目がぱちくりと何度かまばたき、口はあんぐりと開いたまんま
その表情を見てれいなはクスクス笑い出した
「れな、昨日の夜から一睡もしてないけん、バリ眠い…」
「ぁ…ぁあ…そそそそそうだよね…えええ絵里も寝てないから、すっごく眠いなぁ…ははは」
- 55 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/30(月) 01:48
-
真っ赤な顔のまま焦りながらも取り繕う絵里
「Hな勘違いは、まぁ誰にでもあるけど…絵里がそんな風に考えるタイプとは思わんかったと」
「っ!!」
かぁぁ〜〜っとさらに真っ赤になる絵里の顔
「まぁ、れなは別にそっちの方の“寝る”でもよかよ?」
「っ…ばかぁ!!」
絵里はそばにあったバスタオルを手早く丸めて、笑いながら見下ろしてくるれいなに投げつけた
れいなは笑いながらそれを受け止めて、絵里にゆっくりと歩み寄る
唇を尖らせたまま、れいなの姿を目線だけで追いかける
「れな、相当眠いけん…」
絵里のそばまで来たれいなはスッとかがんで座ったまま見上げる絵里の肩に自身の腕を回す
グイッと引き寄せられた絵里の体
絵里の頬をれいなの長い髪が掠める
絵里の耳にれいなの温い吐息が降り注ぐ
「明日の朝ならシてあげるけど?」
「っ!!」
「それまで我慢、できると?」
「………」
口をパクパクさせて固まる絵里
そんな絵里の頭をポンポンと軽く叩いてから立ち上がったれいなは軽い足取りでベッドへ向かった
ゆっくりした動きでもそもそとシーツの中に潜り込んだ後
「おやすみぃ」
やけにかわいらしい声でひとつ挨拶をしたかと思ったら、すぐに寝息を立てて眠りに落ちてしまった
その後、ひとり部屋に残された絵里の顔から赤みが引くのに相当時間がかかったのでした
- 56 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/30(月) 01:49
-
* * * * *
窓の外ではすずめがさえずり、太陽が一日の始まりをこれでもかと主張している
絵里はもそもそと布団から一人で這い出て昨日のやり取りを思い出す
悩みに悩んだ挙句、どうにでもなれぃ!という気持ちでれいなの隣に自分の体を横たわらせたのだったが…
昨日あんなにも挑発してきたれいなは、朝になっても目を覚ます気配はなかった
絵里が出勤のためにセットしていた5台の目覚ましが鳴り響こうとも、
髪型を整えるために使ったドライヤーが唸りを上げても、
朝食のカップスープがおいしそうな匂いを漂わせても、
絵里がれいなの寝顔に触れるだけのキスをしても…
シーツにくるまった黒猫はまったく反応を見せなかった
「むぅ…絵里、もう出て行っちゃいますよ?」
むにゃむにゃと幸せそうな顔で眠り続ける黒猫に、至近距離から最後の警告
「しかたないなぁ、もぉ…」
絵里の細い指先がれいなの赤い唇をゆっくりとなぞってゆく
「もっかいキスしちゃおっかなーうへへ…」
ゆっくりと重なり合った唇の隙間から赤い舌が這い出てきて、れいなの唇をゆっくりとなぞった
「うへへ…」
顔を上げてふにゃりと笑った絵里は照れ隠しのつもりか、少し小走りで部屋を出て行った
バタンとドアが閉まる音と、鍵が閉められる金属音がほぼ同時に室内に響き渡る
すると、れいなの目がゆっくりと開かれた
「絵里って大胆なんか、照れ屋さんなんかわからんっちゃね…」
そう呟いた後、れいなはゆっくりと体を起こして大きく伸びをする
「どっちでもかわいいっちゃけどね」
あくびのせいで目に涙を浮かべながらカーテンがかかった窓際に移動する
カーテンの隙間から外の様子を窺うと、ちょうど駅に向かって走っていく絵里の姿
目を細めながらその後姿を眺めていると、れいなの携帯電話の着信音がけたたましく鳴り響いた
ちょっと顔をしかめた後、ソファーの上に昨日から放りっぱなしにしていた携帯を手に取る
- 57 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/30(月) 01:50
-
「もしもし?おはよ」
目をこすりながら、慣れた様子で電話の向こうに朝の挨拶
「あぁ…そうったい…予想通りやね…」
れいなの表情に少し笑顔が戻る
「で、例の“宝玉の短剣”の行方は?」
その目に鋭さが宿る
「ふぅん…それはなんとなく意外っちゃね…」
眉間に薄く皺が浮かび上がる
「え、こっち?」
ニヤリと唇の端が上を向く
「案外、簡単やった」
- 58 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/30(月) 01:50
-
从*` ロ´)<つづくと!
- 59 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/30(月) 01:51
-
ノノ*^ー^)<短いですよ?
从*` ロ´)<大人の事情ったい!
- 60 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/06/30(月) 01:52
-
(ё)<デバンガナイノダ…
- 61 名前:みゃー017 投稿日:2008/06/30(月) 09:06
- おっ、果たしてその電話の相手は…誰なのかな♪
57のれいなの表情は目に浮かびますwあのニヤッって顔ですよねww
絵里が意外と積極的なので今後の展開が楽しみです^^頑張って下さい。
- 62 名前:ミート 投稿日:2008/06/30(月) 19:29
- 更新お疲れ様です!
積極的なえりりん…激かわゆすです(*´`*)
そして…とても気になる展開になりつつありますね…!
次回更新も楽しみに待ってます!
- 63 名前:遊 投稿日:2008/06/30(月) 21:29
-
いやー…相変わらずれなえり良いW
川’ー’) ガキさん、出番まであーしで…
(・e・)/ 賛成
川;’ー’) 早…れなえりがまだなのに…
- 64 名前:たっつん 投稿日:2008/07/04(金) 22:56
- レスいただける事に感謝しながらレス返しなぞ…
>>みゃー017サマ
いつもありがとうございます!
電話の相手…誰でしょうね?いや、マジでw
れいなさんのニヤリ顔が最高に好きなんですw
亀井さんはシャイりんとえろりんの同居具合が最高に萌えるんですw
>>ミートサマ
またもやレスありがとうございます!
やや積極的な照れりんが最高にm(ry
完結まで気にしていただけるよう、がんばります!
>>遊サマ
毎度お世話になっておりますm(_ _)m
そうなんだよ!れなえりなんだよ!
でも愛ガキも書きたいんだよ!
( ・e・)<再登場するまで待ってられないのだ
川*’ー’)<もうちょっと待ってみるがし
(#・e・)<無理だから
川*’∀’)<アッヒャー
次回更新はこの土日にしたいとゆいたい…
- 65 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:37
-
単純にカプモノが書きたくなったので、
衝動的に書いてみました。
- 66 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:39
-
「で、どーしてれいながついて来るわけ?」
「世にもめずらしい奇特な人間を見れるチャンスやけん」
「れいなって“奇特”って言葉知ってたんだぁ…」
「れな、意外に頭良いけんね」
『 ラブレターの宛先 』
- 67 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:40
-
蝉も喚き出した初夏
校舎の屋上で繰り広げらるテンポ良い会話
それは初夏の風物詩でもなんでもなく、大雨と大雪の日以外だとかなりの頻度で見られる光景だった
屋上のさらに一段高いところに設置された貯水槽
その下にできた日陰に座り込んだ絵里とれいなはその肌に薄っすらと汗を浮かべながら会話を続ける
「れいなってさぁ…頭、良かったっけ?」
「学校の成績と頭の良さは比例せんやん?」
あぐらを掻いてニシシと得意げな表情で笑うれいな
「そんな事ないと思いますけどぉー」
呆れた顔で反論する絵里
「そんな事よりも…遅いっちゃねぇ…その…誰さんやったっけ?」
「道重さん?ってかれいな、今、話逸らしたよね?」
「逸らしてなかよ。ここに来たそもそもの理由は、その…」
「み ち し げ さん!」
「あぁ、そうそう、その奇特な道重さんが理由やけん、れなの話はどうでもよか」
そう吐き捨てて、れいなは体をゴロリと横たわらせた
少しオレンジがかってきた空を見上げながら、少しおもしろくなさそうに呟く
「呼び出したくせに遅刻するってどーゆーこったい…ねぇ?亀井さん」
チラリと視線を向けられて、絵里は返答に困ってしまった
絵里もれいなとのデートの待ち合わせによく遅れてしまうから…
- 68 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:41
-
*****
今朝、いつものようにれいなと一緒に登校して来た絵里の下駄箱には一通の手紙
かわいらしいピンクのハートがいくつも散りばめられた封筒
絵里は手にとって数秒それを眺めていたら、視界の端かられいなの後頭部がにゅっと割り込んできた
「ちょぉ絵里!これってもしかして…」
「ぅん…」
「ラブレターやろ、絶対!」
後頭部がクルっと回転して、見慣れたれいなの笑顔が至近距離に現われる
無邪気なれいなの笑顔なんて見慣れているけど、こんなに近くで顔を覗きこまれるのもいつもの事だけれど
やっぱり恥ずかしくて絵里は一歩後ずさった
「ゎ…わかんないじゃん、そんなの!」
「んじゃ、開けてみれば?」
「そ…そだね…」
消え入りそうな絵里の返答はタイミングよく校内に鳴り響いた予鈴にかき消されたけれど、れいなは笑顔のまま頷いた
ふたりは並んで教室に向かって歩き始める
絵里は手にした封筒を丁寧に開きながら
れいなはその手元をニヤニヤ見つめながら
朝礼の間、教壇に立つ担任の話をひとつも聞かず、席が隣同士の絵里とれいなは今朝手に入れたラブレターについて盛り上がる
「…今日の放課後、屋上に来てください。だってぇ」
「やっぱりラブレターやん!」
「これだけじゃ、ラブな手紙かどうかはわかんないじゃん!」
「いや、れながこんな手紙貰って差出人に会いに行ったら90%はラブな告白されるっちゃん」
確かに、れいなは頻繁にラブレターの類を貰う人種である
だから絵里は毎日片時もれいなの傍を離れないように心掛けている
好きで好きでたまらないれいなを誰かに盗られないように
「はいはいそうですねー。れいなはモテモテですよねー。」
人の気持ちも知らないでからかって来るれいなに絵里は少し腹立たしくなって、ぶっきらぼうに返答
- 69 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:42
-
「なん?なんで不機嫌?」
「なんでもないですよー。…ってかさぁ」
ふと疑問が湧いた絵里は、自分が不機嫌だったのを一瞬にして忘れ去って質問を投げかけた
「ラブな告白以外の10%って、何?」
「ん?タイマン申し込み?」
確かに、れいなは頻繁に喧嘩を売られてしまう類の人種でもあった
*****
「れな、眠たくなってきたけん…ちょっと寝る」
もともと飽きっぽい性格のれいなは待たされているこの状況にちょっぴりイライラしている様子
寝転がったままもそもそと動いて、だらしなく伸ばされた絵里の足元に体を寄せた
「ちょっとぉ〜…」
れいなが絵里の傍で居眠りをするのなんて日常茶飯事
だけど、どちらかの部屋の中ではないにも関わらず猫のように擦り寄ってくるれいなは珍しかった
「なんで自分だけ寝ちゃうのさぁ…」
「待ちくたびれたと」
「だったら先に帰ればいいじゃん…」
気ままなれいなの行動に、つい思ってもみない提案を口走ってしまう
「そしたら奇特な人に会えんやん」
「会わなくてもいいじゃん…別に…」
「れなは会いたいんやもん、その…」
「道重さん」
「そう、道重さんって子に」
れいなはまぶしいのか心底楽しんでいるのか、いつもよりも一層目を細めて笑った
絵里はその笑顔に見とれてしまって、一瞬言葉に詰まる
だけど、良い機会だかられいなにははっきり言っておこう
そう決心して、尖らせていたアヒル口をキュッと横一文字に引き締める
- 70 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:43
-
「れいなはね、絵里に手紙をくれた人には会いたがるのにぃ…
れいなに手紙をくれた人には会わせてくれないじゃん。それって不公平だよね?」
そう、れいながラブレターで指定された待ち合わせ場所に行く時はいつも
絵里の隙をついて、いつの間にか居なくなってしまう
そして何事もなかったかの様にフラリと絵里の元へ帰って来るのだった
絵里の思いもかけない不満をぶつけられたれいなは細めていた目をぱちくりさせる
そしてもう一度柔らかく笑った
「待ち合わせ場所に行ってみたら不良からの呼び出しでした。
みたいな事になったら絵里が危ないやろ?やけん絵里は連れて行かん」
「そんなの言い訳ー」
「なん?」
「絵里はぁ〜危ない目に遭っても、れいなが居てくれれば恐くないよ?
そんな事よりも、絵里はれいなが浮気しないか心配なのぉっ!」
ほっぺたをぷぅ〜と膨らませて拗ねたポーズ
れいなはお腹を弾ませて笑う
「れなは浮気なんかせんけど?」
「でも、れいな、いっつもカワイイ子を視線で追っかけてる」
まだ膨らんだままの絵里のほっぺ
れいなはゆっくりと手を伸ばして、まあるくなった頬を撫でる
「それは、『カワイイけど絵里の方が断然カワイイなぁ』って思っとるだけやけん」
頬を撫でていた手がゆっくりと下がってゆく
「それ、ウソでしょ…」
「マジ」
れいなの細い指先が絵里の首筋をなぞって行く
「そう言ったら絵里が喜ぶと思って言ったんでしょ…」
「マジで絵里が一番カワイイと思っとーから言っただけやし」
きっちりと結ばれた絵里のネクタイにれいなの手がかかる
「ホントに絵里が一番?」
「マジで一番」
少し乱暴に、だけどゆっくりとネクタイが引っ張られる
「ホントにホント?」
「れなは一番カワイイと思う絵里としかキスしたいと思わん」
絵里とれいなの間が数センチに縮まっても、れいなのネクタイを引っ張る力は緩まない
「やけん、キスして」
真剣な目でねだられたから、絵里はゆっくりと唇を合わせた
- 71 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:44
-
だけど、絵里はすぐに顔を上げる
絵里の目の前には若干不満顔のれいな
「なん?それだけ?」
「だっ…だってぇ…もうすぐ道重さんが来るかもしれないのに…」
止まらなくなりそうだったから
とまでは恥ずかしすぎて言えないから、絵里はれいなから目を逸らしてモジモジクネクネ
残念やねーとか暢気に足をバタつかせたれいなは
「道重さんが来たら起こしてくださーい」
注文を寄越してそのまま寝息を立てて本当に眠ってしまった
絵里のスカートの裾をちょこんと握ったまま
「えぇ!?ってもぉ…ホント、マイペースなんだからぁ…」
れいなの寝顔を見下ろしながら、絵里はれいなの夕日に照らされて一層茶色く輝く髪をそっと撫でる
もしかしたら、ちょっとやきもちを焼かれているのかもしれない…
外では絶対に甘えたりしないれいなが自ら近づいて来た
絵里はちょっとだけ自惚れて、そして柔らかく笑った
その時、屋上の出入り口の錆び付いた扉が乱暴に開かれた
絵里は何事かと身を乗り出して物音のする方の様子を窺った
そこには4、5人の不良集団と、それに囲まれて怯えた様子の女の子
やめてください
すいませんでした
何度も懇願する女の子の声も全く無視で、不良集団は女の子を屋上の端に追い詰めた
「ぶつかって来て、すいませんで済むと思ってるわけ?」
「ごめんなさい!あの…急いでたんで…」
「急いでたら人にぶつかっても良いんだ?」
「そんなぁ…」
絵里はありきたり過ぎる不良集団の因縁のつけ方に驚愕し、ポカーンと口を開けて固まってしまった
が、すぐに
( ;・e・)<まずいことになったのだ
幼馴染のガキさんのキメ台詞が頭を過ぎって、我に返る
- 72 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:45
-
すぐ傍で居眠りこいているれいなのプリケツをバシバシと叩きながら小声で呼びかける
「れいな!れいなってば!大変だってばぁ!」
れいなは叩かれた自分のプリケツをポリポリと掻く
ただそれだけで、起きる気配はまったく感じさせない見事なまでの居眠りっぷりだった
「ちょ…ちょいちょいれーな!起きてって!」
「…ん…さすがのれなも一日に5回はムリやけん…ニシシ…」
「ちょれいな…どんな夢見てんのよぉ!バカーーーーッ!…って…あ。」
絵里がゆっくりと顔を上げると当然のごとく自分自身が注目の的だった
不良集団も、そいつらに囲まれている女の子も目を丸くして絵里を凝視していた
「あ…あの…あは…あははは…」
笑ってごまかしてはみたものの、不良集団の目は笑っていない
ついでを言えば、絡まれていた女の子の目は明らかに絵里に助けを求めていた
「ってか、お前、見てた?」
不良集団のリーダーっぽい女が敵意剥き出しで絵里に声をかける
「あ、はぃ…見て、ましたけど…」
絵里は気丈にも返答しつつも傍で居眠りこき続けるれいなのプリケツを揺すって起こそうとする
しかし、れいなは一向に目を覚まさない
そんな絵里の空しい努力と絵里の隣でれいなが寝ている事に気づいていない不良(リーダー)はさらに続ける
「んじゃ、ちょっと、下りて来いよ」
「え…あー…ちょっとそれは出来ない相談ですねぇ…」
「ふざけんじゃねぇよ!!」
「っ!!」
急に怒鳴られた絵里はギュッと目を閉じた
こ…こわいよぉ…
ゆっくりと開かれた絵里の目にはうっすら涙が溢れていた
「早く下りてこないと一秒ごとに、コイツ殴るよ?」
絡まれてる女の子の横に立っていたNo.2っぽい不良が、女の子の右腕を捻り上げた
短く、小さく悲鳴を上げる女の子
不良(No.2)がゆっくりとカウントを始める
「いーーーち……」
「ちょいちょいちょい!待って待って!」
しぶしぶ観念した絵里はゆっくりと立ち上がって、はしごを一段一段もったいぶるように下っていく
その様子をじっと見つめていた不良集団と同じ地面に下り立った絵里
恐怖のあまり、そこから動くことは出来なかった
- 73 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:46
-
「さっさとこっち来いって」
不良(リーダー)が面倒くさそうに言う
「来ねーとマジ殴るよ」
不良(No.2)が右手を振り上げる
今度は女の子がギュッと目を閉じて身を強張らせた
その拍子にERI's EYESはハッキリとキャッチしてしまった
女の子の胸にキチンと校則通りの位置に留められた白い名札を
そこにゴシック体で刻み付けられた“道重”という文字を
この子が道重さんなのぉぉぉぉっ!?
アラクレ者の狼の群れのど真ん中で、怯えきった真っ白いウサギちゃん
黒くて長い髪をサイドで結んだその髪型のせいで少々幼く見えるのだが、おそらく絵里と同学年
絵里の事を好きだと思ってくれている(と予測される)道重さん
とにもかくにも、自分の事を好きになってくれた人の前では良いトコ見せたいじゃん?
──絵里は俄然強めになった
「暴力とかはダメだと思いますよ?」
先程まで怯えきっていた絵里の豹変振りに、不良集団は一様に不快感を表す
「なんだコイツ?」
「何エラそーな事ぬかしてんだっつーの」
「ちょ、やっぱあっちからシメた方がいいんじゃね?」
集団の中から下っ端っぽい不良ふたりが絵里の方へ歩み寄って来る
それでも絵里はやっぱり俄然強め
「その女の子を離さないと怪我しますよ?」
絵里は事も無げに笑ってみせる
「はぁ?何言ってんの?」
「マジムカつくんですけどー」
不良(下っ端っぽい)が歩みを速める
「それ以上絵里に近づいたら本当に怪我しますよ?」
言っていることは物騒なのに、絵里はとても楽しそうに警告する
「意味わかんねーし!」
「できるもんならやってみろっつーの!」
不良(下っ端っぽい)は走り出して絵里に掴みかかろうと手を伸ばした
- 74 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:47
-
その瞬間、絵里は一番大好きな人の名前を呼ぶ
凶暴に差し出された手は派手に空を切る
空から舞い降りた黒い影がそれを阻んだから
一同が目を見開いて凝視するその先には…
ウヘヘとだらしなく笑う絵里の前に冷たい表情で立ちはだかるれいなが居た
「お前ら…れなの絵里に何しようとしとると…?」
「え…あの…」
「いや…その…」
静かな、それで居て圧倒的な迫力に声も出ない不良(下っ端っぽい)ふたり
「れーなぁ…絵里、この人たちに『殴る』って言われたぁ」
絵里はれいなの背中に抱きついて、いつもより甘さ3割増しの声で告げ口
「お前ら…れなの絵里を殴るとはエエ度胸しとるっちゃね…」
「あの…ちょっと…」
「まだ…殴ってません…けど?」
ビビり過ぎているせいか掠れた声で途切れ途切れの返答
さらに絵里は後ろから回した腕にぎゅっと力を込めてれいなを背後から抱きしめる
そしてれいなの耳元で囁くように告げ口
「れーなぁ…この人達、絵里だけじゃなくてあそこに居る道重さんも殴ったぁ」
絵里の告げ口の中では、何故かいつの間にか絵里も道重さんも殴られたことになっていた
れいなの目に怒りと言う名の炎が宿る
「っテメェら…」
「いや!殴ってない殴ってない!」
「誰もまだ殴ったりしてないし!」
不良集団は一気に慌てふためく
──田中れいなの本気を見て、生き残った者はいない
この学園で、この地域で、不良として生きてきた者なら一度は耳にしたことのある言葉
不良集団は断末魔の叫びを残して、蜘蛛の子を散らすように屋上から走り去った
- 75 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:48
-
「逃げんな!」
「だめぇ〜」
追いかけようと駆け出そうとしたれいなを後ろから羽交い絞めにして取り押さえる絵里
なかなかに素敵な体格の絵里には華奢なれいなが敵うはずもなく、勢い良く絵里の胸へ引き戻された
「絵里!離すったい!アイツら絶対許さんっ!!」
絵里の胸のなかでジタバタもがくれいなを片腕で押さえる絵里は、もう片方の手でれいなの頭をナデナデナデナデ
「うへへ〜…れーなカッコ良かったですよ?」
「…なん?」
「絵里のために怒ってくれたのが嬉しかったのー」
ゴキゲンでれいなの頭を撫で続ける絵里
居心地が悪いような嬉しいような、照れくさい気持ちでいっぱいのれいなはふと自分達に向けられた視線に気づく
「ちょ…絵里…」
頭の上に置かれた絵里の手を払い落としながら、視線で絵里に合図を送った
れいなに促されて視線を移したその先には、ボー然と立ちつくす道重さゆみちゃんの姿
「あのね、れーな…あの子が道重さんだよ」
れいなにしか聞こえないような小声で紹介する
「ほぇーーー…」
驚いた様子のれいなの手を取って絵里は道重さんの方へ歩き出す
そして、極めて優しい口調で話しかけた
「ねぇ、道重さんだよね?」
「は…はい!」
「怪我とかしてない?」
「は…はい!大丈夫…です…」
返事は良いけど、真っ赤な顔で俯いたままの道重さん
「なんでからまれとったと?」
れいながぶっきらぼうに問いかける
「あの…さゆみが亀井さんに…ここに来て欲しいってお願いしたのに…さゆみの方が来るの遅くなっちゃって…」
「それで急いでたら、あの人達にぶつかっちゃったんだ?」
「はい…」
なるほどねー、なんて納得する絵里とれいな
そんな二人をじーっと見つめる道重さん
その視線に先に気づいたれいなは慌てて絵里の背後に回る
- 76 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:49
-
「あ、ごめん!道重さんは絵里に話があったんやもんね?れいなの事は気にせんと二人で話よって」
素敵な体格の絵里の背中にその華奢な体を隠しながら道重さんを気遣ってみせる
「いやいやいや、気になるから。確実に気になるから」
絵里は呆れ顔でれいなの言動にツッコミを入れる
「あの…」
道重さんはやっぱり真っ赤な顔でモジモジしながらチラチラと絵里の様子を窺っていた
「ほらぁれーなぁ、道重さんが困ってんじゃん!向こうに行っててよぉ!」
絵里が背後のれいなに向かってシッシと小動物を追い払うジェスチャー
それにひどいっちゃねー、と歯向かうネコ
そこはすでに二人だけの世界
ひとり現実世界に取り残された道重さんは大きく息を吸い込んで、大声で割り込んだ
「好いちょーーーーーーー!!!」
「うへ?」
「はぁ?」
「やけぇ、好いちょー」
真顔で、道重さんは同じ言葉を繰り返した
「あ…いや…そんなぁストレートに言われてもさぁ…ウヘヘ〜」
今度は絵里が顔を赤くして、照れくさそうに頭を掻く
「顔に似合わず大胆っちゃねー」
「田中さんは大胆と言うか、積極的な女の子は好きやないの?」
「ウへ?」
「はぁ?」
いきなりの質問に戸惑ったれいなは確認の意味を込めて、自分の顔を指差す
それを見た道重さんは大きく首を縦に振ります
「れな?うーーん…可愛ければ、積極的でも消極的でも、まぁ気にせんかなぁ?」
「なんでれーなが答えてるのぉ?」
「やって、道重さんはれなに聞いとーみたいやし…」
「じゃぁ、さゆみはかわいい?」
「ウへ?」
「はぁ?」
「やけぇ、田中さんから見てさゆみは可愛いのかって聞いちょー」
真顔のままの続けられる質問に、れいなは素直に答えた
「うん、可愛かよ、ってイタタタタタタタ…」
「ニタニタしながら答えないでよ!この、エロ猫!」
絵里はれいなの耳を引っ張って、その耳元で怒鳴りつけた
- 77 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:50
-
「でも、絵里も道重さんの事、可愛いと思うっちゃろ?!」
「確かに可愛いけどさぁ…」
そんな事、はっきりとれいなの口から聞きたくなかった
だからもっと強く耳を引っ張ってもっと大きな声で怒鳴った
「そんな事よりもっ…れーなはあっちに行っててってばぁ!!」
「やっぱり田中さんの事好いちょーーーーーーー!!!」
「ウヘェェェェェッ?!」
「はぁぁぁぁぁぁっ?!」
ギュッと目をつぶって、グッと拳を握り締めて、あらん限りの声で叫ぶ道重さん
「ちょいちょいちょい、道重さん?絵里の苗字は亀井ですよ?」
「れなが田中やけん…」
いつも一緒にいる絵里とれいな
ふたりを良く知らない人だと、名前がこんがらがってしまうのも仕方がない事…の、はずがなかろーが
「そんなのわかっちょー。」
冷静な返答
と思いきや、急に沸騰した頬を押さえて照れ始める道重さん
「さゆみ…田中さんに惚れてしまったみたいなの…」
「うっそ?!」
「マジですか…」
「さっき、不良から助けてくれた田中さん…ぶちカッコ良かったの…」
「助けたのは絵里ですけど…」
「マジで?惚れた?れなのカッコ良さがわかるとは!道重さんは人を見る目あるっちゃねー」
告白されると思い込んでいたため、少なからず芽生えていた優越感と満足感が絵里の中で一気に崩れ去った
沈みかけている夕日を焦点の合わない目で見つめる絵里
- 78 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:50
-
反対に、高みの見物を決め込んでいたれいなは予想外の告白にすっかり調子に乗ってしまった
道重さんの肩に馴れ馴れしく腕を回すれいな
「あの不良達がまだうろついとったら危ないけん、今日はれな達が家まで送ったるけんね?」
「ホントですかぁ〜。さゆみ超〜うれしいんですけど〜♪」
「助けたの…絵里だよね…?絵里、がんばったよね…?」
すっかり意気投合した猫とウサギは腕を組んで歩き出す
「絵里ぃ〜…ボーっとしとらんと帰るよー」
ゴキゲンのれいなは道重さんと組んでいる腕とは反対の手で未だ立ち直れないでいる絵里の手を取った
「今日は三人で帰ると」
「さゆみと田中さんの二人っきりはダメなの?」
小首を傾げるかわいらしい仕草で尋ねる、と言うかお願い
するとれいなは無邪気な笑顔で応えた
「れなと絵里はずっと一緒におるって約束したけん、毎日一緒に帰っとー」
「…れーな…」
我に返った絵里がれいなの横顔を見つめる
道重さんはれいなの顔をじっと真正面から見つめて、その先の言葉を待つ
「やけん、二人っきりはムリやけど、三人で帰るんやったらいつでも一緒に帰れるっちゃよ?」
はっきりとキッパリと言い切った後、れいなは繋いでいた絵里の手をギュッと握り締めた
握り締められる強さが強くなる程絵里の顔はだらしなく緩んで、いつものウヘヘ笑いが零れた
れいなの返答にちょっと驚いた顔の道重さんもすぐにさっきの笑顔に戻って、絡めていたれいなの腕を抱き寄せた
「わかったの。じゃぁ明日からは三人で帰りましょ?」
「よかよ」
「むぅ……」
絵里的にはちょっと…どころか大いに不満の残る放課後の出来事
だけど、握られたれいなの手がちっとも離れる気がしないから
ま、いっかーと深く考えず、れいなの手を握り返した
- 79 名前:いきなり短編 投稿日:2008/07/25(金) 00:51
-
ノノ*^ー^)<れーな、浮気っぽいですよ?
从*´ ヮ`)<モテるのはれなのせいやなかと
从*・ 。.・)<そのうち二人っきりになってみせるの
- 80 名前:たっつん 投稿日:2008/07/25(金) 00:51
-
亀兎猫の3人が書きたかった
兎さんに「好いちょー」って言わせたかった
それだけ
反省はしていない
- 81 名前:たっつん 投稿日:2008/07/25(金) 00:53
-
( ・e・)<反省しろ、バカ
本編更新はもうちょい後日に…orz
- 82 名前:みゃー017 投稿日:2008/07/25(金) 08:18
- やっぱりれいなが一番美味しいところ持ってくんですねww
でも、れいな推しの自分にはそれでまんぞk(ry
さて、本編のえろりんが今後どうなるか楽しみですな♪w
- 83 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/07/29(火) 02:41
-
* * * * *
時を同じくして、ここはとある大富豪のとある大豪邸
「ニ…ニセモノーーーッ?!」
「どういうことやのっ?!」
「だから…どうもこうも、このダイアモンドはニセモノなんですってば…」
驚きの叫びと冷静な声が交差するのは豪邸の敷地内
その一番奥にひっそりと建てられた小さな離れの中
白いソファーが置かれた応接室のような部屋から漏れ聞こえる会話は続く
「ちょっと!その鑑定結果はとてもじゃないけど信じられないのだ!」
「貴方が信じられなくても、この鑑定結果は覆りません」
「ほしたらあーしらが盗んできた“宝玉の短剣”はニセモノって事なんか?」
「そうじゃなくて、この一番大きなダイアモンド、これだけがニセモノなんです」
黒い長髪を耳にかけながら、反対の手で今話題に上っているダイアモンドを指差す利発そうな女の子
その女の子の向かいに座った二人、“アテナ”こと新垣里沙とその相棒高橋愛は強い抗議の声を上げた
「ということはさぁ、あの博物館はニセモノを展示してたわけ?!」
「そう言う事になりますねぇ…」
ヤケに冷静な女の子はダイアモンドを差していた指をそのままスライドさせて、
膝の上に置いて小さな袋から一番長いじゃがポックルをつまんで口に放り投げた
「あ、わかったで里沙ちゃん!あの“黒猫”さんがすり替えたんやで!」
「ボリボリ…それは…ボリ…状況から考えて…ボリボリ…不可能だと…ボリ…思います」
「あさ美ちゃん、食べるか話すかどっちかにしてくれんかのぉ」
「ゴックン…ごめんね、あまりにもおいしいからさぁ、コレ…愛ちゃんも食べる?」
あさ美ちゃんと呼ばれた女の子は愛にじゃがポックルの袋を差し出した
「食べてええの?」
「うん。いいよ」
「ちょっと、アンタ達…のんびりお菓子とか食べてる場合じゃないでしょーが!」
さっきからカリカリしている里沙がすかさずツッコミを入れる
「里沙ちゃんも食べる?」
「おぉ!里沙ちゃん!ボリボリこれボリボリおいいしいで!」
「ちょっと…愛ちゃんまで…」
一向に話が進まなかった
- 84 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/07/29(火) 02:42
-
* * * * *
そして小一時間が過ぎ…
離れを後にした里沙と愛は重い足取りで豪邸内を歩いていた
「なぁ里沙ちゃん…さっきあさ美ちゃんからもらったお菓子、どこで売っとるんやろ?」
「いや、愛ちゃん。そうじゃなくてさ…」
「ん?“宝玉の短剣”のこと?」
「そう。で、どうすんのさ?今更ニセモノでしたーなんて言えると思う?」
「んー…怒るやろーなー、さゆ」
「でもさー、怒られてもさー、アタシ達のせいじゃないんだもん。どうしょうもないよね…」
この屋敷に雇われて、敷地内の離れで来る日も来る日もひとりで何やら怪しい研究を続けている紺野あさ美
先程、“宝玉の短剣”に埋め込まれた一番大きなダイヤモンドをニセモノだと指摘したのはそのあさ美だった
彼女は何に対してもその幅広く深い知識で、これまで幾度となく愛や里沙の任務をサポートしてきた
そのあさ美が“ニセモノ”だと指摘したダイヤモンド
ならばこれは間違いなくニセモノなのだろう
里沙と愛は信じたくはなかったが、信じざるを得なかった
「しかたないやろー、さゆにはあーしから謝っとくやよ」
「謝って済むもんなの?だってさ、さゆみんってば、昨日から“宝玉の短剣”を肌身離さず抱きしめたまんまじゃん」
「ほーやな。昨日かて、抱きしめたまま寝とるしの」
「そんなに?!そんなに気に入ってるのぉ?!」
さゆみの入れ込み具合に少しめまいがした里沙だった
そうこう話をしている間に里沙と愛はさゆみの寝室の前に辿り着いてしまった
「で、愛ちゃん。どう話すか決めたの?」
「んー?どーにかなるやろー」
「楽天家だねぇ〜」
半ば呆れる里沙を気にすることなく、愛は軽くノックをした後扉を開いた
「さゆーおはよー!」
「愛ちゃん!おはよう!」
朝陽が差し込む広々とした部屋
その中で一番に視界に飛び込んでくるのは部屋の中心に置かれたピンク色の天蓋付きの大きなベッド
そしてそこにちょこんと座ってこちらに柔らかい笑顔を向けて来るのは色白で長髪の女の子
「こんな朝早くからどうしたの?」
女の子はピンク色のネグリジェの裾をヒラリと揺らめかせながら立ち上がった
「ちょっと、大切な話があったから来てみたんやけどなー」
「大事なお話って?」
小首を傾げる仕草はまさにお嬢様
そう、道重さゆみはこの豪邸の所有者である道重財閥のトップのひとり娘だった
筋金入りの、生粋の、ハンパねぇ金持ちのお嬢様だった
- 85 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/07/29(火) 02:43
-
「さゆが今抱いてる“宝玉の短剣”の話やよ」
「これ?」
さゆみは抱きしめていた“宝玉の短剣”に視線を落とした
そこにはまさに“黒猫”が博物館から盗み出して、“アテナ”がこの屋敷まで持ち帰って来た“宝玉の短剣”だった
「これがどうしたの?」
「あんなー、その“宝玉の短剣”に付いてる一番デカいダイアモンドあるやろ?」
「うん、コレ?」
「そうそう、それ」
「これ、キレイだよね…まさに世界で一番カワイイさゆみにピッタリのダイアモンドだよね…ウットリ」
さゆみはその問題のダイアモンドを朝陽にかざしてウットリ、自分の世界にどっぷりトリップしてしまった。
「愛ちゃん…ホントに言うの?」
「言うた方がさゆのためやろ?」
「いや、この場合、言わない方がさゆみんにとっては幸せだと思うんだけど…」
「嫌や。後でバレたら100倍怒られるがし。怒られるんはあーしやねんもん」
「アタシ達が黙ってればバレないんじゃない?」
「何二人でボソボソしゃべってるの?」
さゆみはいつの間にかこっちの世界に帰還していた
「いや、やから…そのー…さゆお気に入りのダイアモンドやねんけどな?」
「この世界一美しいダイアモンドがどうしたの?」
「それなー…」
さゆみのまっすぐな目で見つめられて、さすがの愛も口ごもる
愛は隣で傍観を決め込んでいた里沙の肩にポンと手を置いた
「里沙ちゃん、タッチ」
「ぅええぇ〜そこでアタシに振る?」
「里沙ちゃん…お願いやぁ…」
愛はウルウルな瞳で里沙を見上げる
朝陽に照らされてキラキラとしたその瞳に里沙は何も逆らえなくなった
里沙にとって、その瞳はダイアモンドなんかよりもキレイに思えた
なんだかんだ言って、里沙は愛キュンにメロメロだった
「さゆみん、良く聞いて?」
「なんですか?」
疑問の色を深めた表情のさゆみがバトンタッチされた里沙をまっすぐ見つめる
里沙は緩みかけた頬をビシッと引き締めて、真面目な表情でさゆみの方へ向き直る
- 86 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/07/29(火) 02:44
-
「そのダイアモンドは…ニセモノなんだって」
「…………」
とたんにさゆみの顔からスッと血の気が引いていく
「あの…さゆみん?」
「…………」
表情をなくしたさゆみはゆっくりと俯いてしまう
心配になった愛は控えめな声で呼びかける
「おーぃ、さーゆー…」
「…………」
そのまま微動だにしなくなったさゆみ
「いや、アタシ達さ、別にさゆみんを騙そうと思ってた訳じゃなくてさ」
「そうなんやよ!さっきあさ美ちゃんに呼ばれて鑑定結果を聞いたら、その…ニセモノやて言われての」
「あさ美ちゃんが言うには、博物館に飾ってた時からもうすでにニセモノだったって…」
「そんなのやなの…」
「え?なんて?」
「そんなのやなの…」
「さゆみん??」
「そんなの…」
ガバッとさゆみが勢い良く顔を上げた
「やなのやなの!そんなのさゆみやなの!ニセモノなんてさゆみやなのーーーーーーーっ!!!!!」
いきなりの大声とさゆみの全力拒否の勢いに思わず仲良く尻餅をついてしまった里沙と愛
「さゆみニセモノとかやなの!さゆみはホンモノが良いの!!ホンモノじゃなきゃやなの!!!」
呆然とする里沙と愛
さゆみは握り締めていた“宝玉の短剣”をポイッと愛に投げつけた
「だから、ホンモノを持ってきて欲しいの!」
そして、テテテテとベッドに走って行って、布団の中に潜ってしまった
「おーい、さゆー」
「やなの!ホンモノを持ってきてくれるまで二人とはお話しないの!」
布団の中からくぐもった返答
「ごめんてー。でもこのダイアモンド以外はホンモノやねんて。あさ美ちゃんが言うとったで?」
「やなの!そのダイアモンドが一番大切なの!」
「まぁ、確かにそうだよね…」
里沙は呆れながらもさゆみの主張に理解を示す
「ほやけどー…」
「もう!出て行ってなの!」
何とか食い下がる愛の弁解をバッサリと断ち切ったさゆみはその後、愛が何を言っても「やなの」の一点張りだった
しかたなく里沙と愛は退出することにした
- 87 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/07/29(火) 02:45
-
静かに寝室の扉を閉めて、愛は深いため息を吐き出す
「やっぱりアカンかったなー」
「頑固だね、愛ちゃんのお嬢様は」
「昔からああなんよ…言い出したらテコでも動かん」
「愛ちゃんもそういうトコあるよ?」
「あーしはいつでも素直やよ?」
さゆみに部屋を追い出されたばかりだというのに、愛は里沙の腕に絡み付いて、んふー♪と甘えた仕草
立ち直り早っ!と思いながらも里沙は冷静に話を戻す
「で、どうすんの?この付き返された“宝玉の短剣”」
「とりあえず博物館に返したらどーや?」
「返すのぉ?」
「やって、もうコレは用無しやろ?」
「んー、まぁそうなるかなぁ?」
「もともとさゆは“宝玉の短剣”が欲しかったんやなくて、このダイアモンドが欲しかったんやしのぉ」
「ってかさ…“黒猫”はこのダイアモンドがニセモノだって知ってたのかな?」
里沙の目の奥がギラリと光る
その光に愛はワクワクすると同時にゾクゾクする
「知らんやろー…」
愛は里沙の言う事に反論する気はない
ただ、その妖しく光るその目をもっと光らせたかっただけだった
「いや…調べてみる価値はあると思うんだけど?」
新しい獲物を見つけたその鋭い目線は遠くを見据えた後、ゆっくりと愛を見下ろした
「里沙ちゃんがそう言うなら…調べてみるやよ」
愛は笑顔でそう答えた後、唇をゆっくりと舌なめずり
里沙は愛の舌を追うようにそっと唇を重ねた
契約成立
里沙と愛はまた、新しい獲物に向かって共に動き出す
- 88 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/07/29(火) 02:46
-
* * * * *
「おーい、愛ちゃーん」
昨晩訪れた博物館に再度出かけようとしていた愛を呼び止める声
一生懸命走ってこちらに向かって来るのはあさ美だった
「あさ美ちゃん、どーしたん?」
愛の傍まで追いつくと乱れた息を整えながら、愛の肩に手を置いてふらつく自身の体を支える
「里沙ちゃんは?」
「里沙ちゃんは今車取りに行っとるけど?」
「あ、そうなんだ。じゃ、ちょうどよかった…」
「どうしたん?」
「あの“宝玉の短剣”なんだけどさ。ダイアモンドを鑑定してる時に、私、付着物に気づいたんだ」
「付着物?」
「そう。ありえない物が付着してたんだよね…」
何を言いたいのかわからないと言った愛の表情を見て、あさ美はにっこり笑った
「愛ちゃんさ、嫌な時はハッキリ嫌って言わなきゃダメだよ?」
「嫌とか意味わからんのやけど…それと付着物…ってまさか…あさ美ちゃん…」
とたんに愛の顔がみるみるうちに赤くなる
「あんな物には付いてるはずのない体液が付いてたんだよね…」
「ちょっ!あさ美ちゃん!!」
わたわたとその場でジタバタ暴れだす愛
「そーゆー時に道具とか使うのはあんまり良くないと思うよ?」
「ああああああさ美ちゃん!!」
「愛ちゃんが好きなら別に私がとやかく言う必要はないんだろうけどね」
「もうそれ以上言わんでええからぁっ!」
「でもさ使うなら使うで、使う道具はキチンとした物にしてもらいなよ?」
「ああああああああああああっ!!」
「あ!里沙ちゃんが来ちゃった!じゃ、またね!」
あさ美はそう言い残して今度は軽やかに走って、戻っていった
- 89 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/07/29(火) 02:48
-
ひとりもがき暴れる愛の前に黒塗りの高級車が停車してその運転席の窓が開く
「ちょっと愛ちゃん?何してんの?動きが怪しいんですけど」
事情をしらない里沙はいつもの調子ですかさず突っ込みを入れる
「りっ…里沙ちゃんのアホーーーーー!!!」
「なぁんで?!」
- 90 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/07/29(火) 02:48
-
( ・e・)<続くのだ!
- 91 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2008/07/29(火) 02:49
-
_, ,_
川*’へ’)<“アテナ”は変態!
( #・e・)<コラー!
ノノ*^ー^)<出番がなかったですよ?
- 92 名前:たっつん 投稿日:2008/07/29(火) 02:53
- >>みゃー017サマ
衝動的短編にもレスありがとうございましたw
これからもれいな推しに優しいスレであるよう心掛ける次第であります!
从*´ ヮ`)<えろりんはまたの機会に登場やけん
期待せずにお待ちくだされw
- 93 名前:遊 投稿日:2008/08/02(土) 00:22
- さすがガキさんW
二人がどうやって会ったか気になりますねW
れなえりもこれからどうなるやら楽しみです
- 94 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/16(土) 23:13
- 愛ガキも気になりますね
- 95 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/01(水) 21:44
- プリーズ
- 96 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/10(金) 12:47
- (・e・)続いて欲しいのだ
- 97 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/10(月) 20:55
- ゆっくりと待ってます(≧ε≦)
- 98 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/02(月) 02:55
- まだ待ちたい
- 99 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/07(火) 01:29
- 「おはよーございまーす!」
若干遅刻気味の絵里が勤務先である博物館のオフィスの扉を勢い良く開くと一斉に集まる同僚達の視線。
いつもならまたかとチラ見されるだけなのだが、今日は違った。
「ほぇ?どうかしましたか?」
間の抜けた絵里の反応に同僚達が一気に詰め寄ってくる。
「どうしたもこうしたもないわよ!あんな大事件の後なのに何呑気な事言ってるの!」
「ってか、亀井。館長が呼んでたぞ…」
「出勤したらすぐに館長室に来いってさ」
「えぇぇぇ…なんでですかぁ?」
「そりゃ、お前…事件について話があるんだろ・・・」
「絵里、昨日さんざん警察の人にいろいろ聞かれたんですけど…」
「つべこべ言わずに、館長の機嫌がこれ以上悪くなる前にさっさと行ってよ!」
「はぁ〜い」
絵里は持っていたカバンを自分の席に置くと、今入ってきたばかりの扉に向かった。
重苦しい足取りの絵里の背中にトドメの一言が降りかかる。
「なんか館長にお客さんが来てて…揉めてるっぽいぞ」
「え…絵里、揉め事とか嫌なんですけどぉ…」
「「「さっさと行け!」」」
同僚達のキツい激励を浴びて、絵里はトボトボと薄暗い廊下を歩く。
この廊下の突き当たりには目的地である館長室。
普段なら、自分をかわいがってくれている館長とお茶でもしながら雑談ばかりしている楽しい場所なのだが。
機嫌が悪い館長は半端なく怖い。
揉め事は亀井絵里の人生において、もっとも避けて通りたいもののひとつ。
そして、人見知りがちな絵里にとって、見知らぬ客人も避けて通りたかった。
しかし、そう長くはない廊下のせいで無情にも絵里の体はあっと言う間に館長室の扉の前に辿り着いてしまった。
ひとつため息を吐いて、絵里は館長室の扉の取っ手に指を掛けた。
と、その時、扉の向こうで女の怒声が上がった。
- 100 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/07(火) 01:30
- 「ダカラ、どう責任取ルのかハッキリするネ!」
片言の、だけれどはっきりと聞き取れる日本語。
絵里は驚いて思わず手を引いた。
「ソンナの納得できル説明ジャナイですヨ!」
「んな事言ったって、こっちは警察に任せるしかないって言ってんだろ!」
「開キ直りデスカ!」
「開き直ってなんかねぇって!」
部屋の中の激しい応酬に、絵里は早退しようと心に決めた。
足音を立てずにくるりと回れ右して元来た道を戻ろうとした時、
廊下の遥か前方から物凄い勢いでこちらに向かって走ってくる人影を見つけた。
「たたたたたたたたたたたた…大変ですぅぅぅぅぅううううううっ!!!」
大声でただならぬ表情で叫びながら一直線にこちらを目指しているのは
事件の夜、“黒猫”にテープで口を塞がれてロープで体はぐるぐるに縛られて気を失っていた警備員だった。
絵里は警備員の勢いと必死の表情に思わず廊下の壁に身を寄せる。
「館長ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおっ!たたたたたた大変ですぅぅぅぅぅぅうううううっ!!」
警備員は走ってきた勢いそのままに絵里の横を素通りして、館長室の扉を蹴破って中に突入した。
「んだよ!こっちはもっとたいへんなんだっつーの!」
警備員は館長の威嚇も気にすることなく、ソファーに座っている館長の組まれた足にしがみついた。
「館長!たたた、たっ、大変なんです!」
「何が大変なんだよ!」
「アレがっ!ああああアレがっ!」
「アレ?」
「ほほほほほ…宝玉の短剣がっ!帰ってきましたぁっ!」
「はぁぁぁ?!!」
- 101 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/07(火) 01:32
-
* * * * *
館長室の中央に鎮座するガラステーブルの上。
その上にはトレイの上で以前とまったく同じ輝きを放っている“宝玉の短剣”。
そして、その“宝玉の短剣”を挟んで無言で対峙する4人の女。
「ってか…どーなってんだよ…」
重苦しい沈黙を破ったのは館長、藤本美貴だった。
「盗まれた物が返って来るって…おかしくね?」
「オカシイ!絶対にオカシイ!コレ、ニセモノアルヨ!」
「でも…見たところ、すべての石は本物の様ですが…」
「もう一度、鑑定するネ!ヨク見ルです!」
顔を真っ赤にして隣に座る女に指示する片言の女。
宝石鑑定士は苦笑いを浮かべながらもう一度“宝玉の短剣”を手にした。
「コレは絶対に何カ裏が在りマスダカラ!」
「はいはい、わかりましたって…」
もう一度コンパクトな顕微鏡を覗き込む女とその様子を熱心に見入る女。
絵里は二人の様子を横目に見ながら、小声で美貴に尋ねた。
「あの…あちらのお二人は誰なんですか?」
美貴は少し困ったようなウザったそうな表情で、絵里に耳打ちした。
(片言の方が李純。“宝玉の短剣”の所有者の娘。)
(ほぇぇ〜・・・。で、その隣の女の子は?)
(詳しくは知らねぇけど、あの中国人が連れてきた鑑定士)
(鑑定士にしては若くないですか?見た目、高校生ぐらいですよ?)
(だから知らねぇっつってんだろーが)
(館長…お口が悪いですよ?)
(ほっとけ、この居眠り女)
(心外ですね…居眠りせざるを得ない程働かせたのはどこの誰ですか?)
(仕事片付けるのが遅ぇお前のせいだろ)
(絵里は絵里なりに頑張ってはいるんですけどね…ウヘヘ…)
- 102 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/07(火) 01:33
- 「あのぉ…」
小声で言い合う二人が視線を正面に戻すと、申し訳なさそうに片手を挙げる見た目が高校生の鑑定士。
「やっぱり、ホンモンやと思うんですけど…」
「ホントデスカ?!光井!」
「光井言うな」
「ホントなンダろうナ?!愛佳!」
「愛佳言うな」
「美貴的に呼び方はどーでも良いんですけど…本当に本物なワケ?」
「ええ、本物ですね」
「ジャ、ナンデ盗んダ?」
「そんなの美貴、知らねーし…」
「館長、言葉遣い戻ってます」
「あぁ…ゴホン…それは私共も理解しかねる所ですが…ま、良かったんじゃね?」
「館長…」
本物だと言うお墨付きを貰った所で、館長である美貴は安心したのかソファーの背もたれに体を預けた。
「光井の鑑定ハ本物アルね。ワタシも安心しタ」
つられて李純もトレイの上に戻された“宝玉の短剣”の輝きに目を細めながら
乗り出していた体の力を抜いてソファーに深く座りなおした。
しかし、事の経緯を自分の目で見ていた絵里は納得できない。
“黒猫”が盗み出し、“アテナ”とその相棒が横取りして行った“宝玉の短剣”。
こんなにもあっさりと元の場所に返って来るはずもない。
絵里はそっと“宝玉の短剣”を手にした。
「………」
「亀ちゃん?どうした?」
「いや、あのー…絵里、この“宝玉の短剣”が飾られてるアジアエリアの担当じゃなかったんでぇ…
これをこんな近くで見るのは初めてなんですけどぉ…」
「あぁ、そっか。亀ちゃんはヨーロッパの展示物担当だったっけ」
「そうなんですけどぉ…あの〜…」
絵里の表情がいつに無く真剣で、その目がキラリと光る。
「ちょ…なに?」
美貴は絵里の変化を見逃さなかった。
こんな時、絵里のあの能力が最大限に発揮されるからである。
しかし…今のこの状況下に置いて、その能力はとんでもない大混乱を巻き起こす物になる。
美貴は面倒な事になるのを覚悟して、絵里に次の言葉を促した。
- 103 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/07(火) 01:34
-
「亀ちゃん…もしかして…」
「えっと…言っちゃって良いんですか?」
「美貴的には聞きたくないけど、言え。許可する」
「この真ん中の一番大きなダイアモンド…」
「もったいぶるな…言う時は一気に言え…」
「このダイアモンド…ニセモノですよ?」
- 104 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/07(火) 01:36
-
川VvV)y~<短い。
ノノ*^ー^)<続きますよ?
- 105 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/07(火) 01:37
-
( ・e・)<出番がなかったのだ
川*’へ’)<出番がなかったやよ
从*` ロ´)<出番がなかったっちゃん!
- 106 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/07(火) 01:48
- >>遊サマ
ワタスも気になりまスw
書けるもんなら書いてみたいですね、出会い編w
>>94サマ
ありがとうございます。
愛ガキにもスポットを当ててあげたい今日この頃…
>>95サマ
サンキュー
>>96サマ
川*’ー’)ありがとうやよー
>>97サマ
待っていただいているのに更新できず申し訳ない(><)
>>98サマ
その一言に応えたい
と、言う訳で短いながらも更新してみました。
本当に、申し訳ないです。
そしてありがとうございます。
マターリお待ちいただければこれほど嬉しい事はないです。
見捨てないでねw
- 107 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/08(水) 00:33
- 続きキタ━━(゚∀゚)━━!!!
待ってましたよ!お帰りなさい。
放棄せずに書いてくれてありがとうございます!
- 108 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/08(水) 01:26
- みっつぃは分かってなかったのか分かって敢えてなのか…
どっちにしろえりりんKYw
- 109 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/09(木) 00:42
- 続きキテタ━━━━!!
いっぱい期待
- 110 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/16(木) 23:39
- 「ちょっと…なんでニセモノってわかったの?!」
博物館の裏手に路駐された黒塗り高級車の中、館長室での会話を盗聴していた“アテナ”こと新垣里沙は驚きの声を上げた。
「里沙ちゃぁ…あーしの、なんや聞こえにくいんやけど…この盗聴機壊れとんのやろか?」
二人の間に置かれた小さな受信機をバシバシ容赦なく叩きだす愛。
「愛ちゃん…そのイヤホン右耳用だから…」
「へっ?ほーか…」
助手席に座る愛はガサゴソと左耳に着けていたイヤホンを着け換えた。
「あー…聞こえたがし」
「まったくもぉ…しっかりしてよねぇ」
落ち着きを取り戻した愛を横目に里沙は、イヤホンから流れてくる慌ただしい館長室の様子に集中していた。
「なぁ里沙ちゃん。なんでみんな慌てとんの?」
「あの亀井絵里って子があのダイヤモンドをニセモノだって言い当てたの」
「なんでわかったんや?」
「わかんないわよ、そんなの…でも、館長はなぜか亀井絵里の発言を信用してるみたい…」
「ふーん…で、このカタコトの人は誰なんや?」
「………後で説明するから愛ちゃん、ちょっとイヤホン外してて…」
うんざりした顔で里沙は愛の質問を遮ったその時、愛の横の窓ガラスがコンコンとノックされた。
「はーい」
「ちょっ、愛ちゃん!」
愛は警戒もせずに、ウィンドウを下げた。
半分程開けられた隙間から博物館の警備員の制服を着た女性が顔を覗かせる。
「ちょーっとイイですかー?」
何かを警備している雰囲気など微塵も感じさせない朗らかな呼び掛けに、里沙は呆気に取られた。
「なんですかー?」
愛も負けず劣らずの朗らかさで応えた。
- 111 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/16(木) 23:39
- 「あのー、ここでなにしてるんすかー?」
「あっ!あぁ、あのっ、みっ…道に迷っちゃったみたいで!」
里沙はそれらしく見せるために手元にあったカーナビのリモコンを素早く手繰り寄せた後、警備員にチラつかせた。
「あぁー、そーなんすかー。この辺一方通行が多くてわかりにくいっすもんねー」
警備員はにこやかに笑って同情の言葉を発した。
「そうですよねぇ〜ははは…」
里沙もめいいっぱいの愛想笑いを返す。
「いや〜、ここの博物館に先日、泥棒が入っちゃったんでねぇ」
「ニュースで見たやよ!」
愛は素なのかあえてなのか、警備員に全力で話を合わせた。
「それで警戒を強めてたんで、声を掛けさせてもらったんすよ〜。失礼しました!」
これ以上の無駄話と長居は危険だ。
里沙はそう判断して、車のエンジンキーに手を伸ばす。
「こちらこそ、そんな大変な時に紛らわしい事しちゃってすいませんでしたっ!」
「いえいえ」
警備員は帽子のつばに指を当てて会釈する。
「もう、道わかったんで、行きますね!」
里沙は静かなエンジンをひとつ噴かしてからサイドブレーキを解除した。
「運転、お気を付けてー」
警備員は里沙に向かって軽く敬礼した後、車から一歩後退した。
「バイバーイ」
愛は走り出した車から上半身を外に乗り出してまで、無邪気に手を振って警備員に別れを告げた。
「愛ちゃん!」
「グェッ?!」
運転中の里沙は前方を見ながら、愛の首根っこを掴んで車内に引きずり込んだ。
「里沙ちゃぁ…激しい…ケホッ」
「何、警備員と仲良く会話しちゃってんのよ!自分の立場ってのをわかってるわけ?
緊迫感ってのを持ちなさいって日頃から言ってんでしょーが!だいたい愛ちゃんはねぇ……」
里沙の説教は車が道重邸に到着するまで延々と続いたのだった…
- 112 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/16(木) 23:40
-
* * * * *
一方、博物館の館内では…
「とりあえず、警察に連絡して…このダイヤモンドも詳しく調べてもらうとすっか…」
「チョット待つデスよ!」
頭を掻きむしりながら館長室内の電話に手を伸ばす美貴を李純が制した。
「モシ、コのダイヤモンドがニセモノだったラ…」
「ってか、もしもも何もこの子がニセモノって言ったらニセモノだって」
美貴は隣でシューンとちっさくなっている絵里の頭をこづいた。
「ヨク調べモしナイで!見たダケで分かるオカシい!」
今度は絵里を指差す李純。
「信じられないだろうけど、この子の鑑定眼は本物だから」
「ニセモノだったラ!李家はアナタを訴えマスデス!本物だったラ!アナタ嘘つき!!」
「なんで美貴が訴えられんだよ!」
「ぅえぇぇ〜…絵里、嘘つき呼ばわりとか嫌なんですけどぉ…」
息荒くまくし立てて、両手で美貴と絵里を指差しながら睨みつけた。
「まぁまぁジュンジュン、落ち着いてぇや…」
李純と美貴の怒りも絵里の動揺も気にしていないような素振りで、李純の太ももをペシペシと叩いてなだめる鑑定士。
「落チ着けナイよ!コレ、大問題アルよ!」
李純は冷静な愛佳に苛立ちを感じ、ガッシリ両肩を掴んで詰め寄った。
「李家の家宝、盗まレたデスよ!」
ガクガクと愛佳の体を激しく揺らす。
「い、ま、あ、わ、て、て、も、しゃ、ぁ、な、い、で、す、か、ら、ぁぁ、ぁぁ...、ぁ...」
揺られ過ぎて愛佳の言葉が途切れ途切れになり、その瞳も虚ろになってくる…。
「死んじゃう死んじゃう!鑑定士さん、死んじゃうからぁ!」
- 113 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/16(木) 23:41
- 愛佳の口から薄く白い霊的なものが見え始めた時、絵里が慌てて二人の間に割って入った。
「ハァッ…ハァッ…危うく自分で自分にお経をあげるとこでしたわ…」
真っ青な顔をした愛佳が喉を押さえながらそっとつぶやいた。
「盗まレたダイヤモンド!ドウしてクレるデスカー!」
平成の日本ではあまり見られなくなった地団駄を盛大に踏んで李純は尚も抗議の声を上げる。
「そこは警察に任せるって言ってんだろーが!」
これまた平成の日本では絶滅危惧種のヤンキー的なドスの効いた声で応酬する美貴。
絵里は泣きたくなった。
泣きたくなったら頭に“黒猫”のニヒヒ笑いが浮かんだ。
“黒猫”さんならこんな時どうするんだろう?
あの余裕たっぷりの顔で荒れてる二人を捻じ伏せるのかな?
「日本ノ警察信用できナイね!」
「こっちは警察、信用するしかねぇんだよ!」
「ソレに!あのダイヤモンドがニセモノだと世間に広まったラ李家ノ名前にモ傷ガ付くアルよ!」
“黒猫”さんのことだから、このダイヤモンドがニセモノだって事、知ってたのかもしれない?
「んなことはお互い様だろーが!こっちはもう既に博物館の名前に傷ついちまってんだよ!」
「ウガーーーーーッッ!」
完全にキレた李純は自身の日本語会話力が怒りに追いつかなくなり、咆哮した。
唖然として固まる一同。
そんな一同の間をすり抜けて危険な状態に陥った李純を取り押さえたのは、
館長室内の様子に危機を覚えた職員の通報によって駆け付けた警察官達であった。
- 114 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/16(木) 23:42
-
* * * * *
「それじゃあ、私はこれで失礼させていただきます」
警備員室の横、博物館通用口の前で向かい合う美貴と絵里、そして鑑定士光井愛佳。
落ち着いて聞くと関西訛りの話し方をしている愛佳はペコリと頭を下げた。
「まぁ、警察から詳しい鑑定結果が来たら連絡するし」
美貴は先程受け取った愛佳の名刺を人差し指と中指の間に挟んでかざした。
「よろしくお願いします」
ニッコリ笑って愛佳はもう一度頭を下げる。
そして小さくそれではと呟いて、地下駐車場の出口に向かって歩き出した。
絵里と美貴は小さくなる愛佳の背中を見送った。
「なぁ亀ちゃん…」
「なんですか?」
「あの鑑定士…変な奴だよな…」
「そうですか?少なくとも李純よりはマトモだと思いますよ?」
「いや…そう言う事じゃなくてよ…」
美貴が横に立っている絵里の目を見つめる。
「本物って断言したダイヤモンドの鑑定を亀ちゃんに覆された時さ、あの子…何にも反論しなかっただろ?」
「そうでしたっけ?」
「そうでしたっけ?じゃねーよ」
美貴は絵里の頭を軽くはたいてクルリと体を反転させた。
「まっ、どーでもいいや…亀ちゃん、昼メシ食べに行こ」
「はーい」
美貴と絵里に別れを告げて外に出た愛佳は昼間の陽射しを見上げながらため息をついた。
「あーホンマ疲れたわぁ…」
肩に掛けていたかばんを掛け直してまた歩みを進めようとした時、小声で呼び止められた。
「みっつぃーみっつぃー」
振り返ると電柱の影からひょっこり顔を出して手招きする女性警備員。
- 115 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/16(木) 23:43
- 「なんや、久住さんか…びっくりさせんといてくださいよ…」
愛佳はゆっくりと怪しげな警備員に歩み寄る。
「びっくりくりくり!びっクィーーーンッ!」
右斜め上45゜を指差し、ビシッとポーズをキメる警備員。
「………どないしはったんですか?」
愛佳はツッコミを入れようにも、警備員の真意を図りかねたのでスルーした。
「小春はみっつぃーがびっくりするようなネタを仕入れちゃいましたー」
「なんですのん?」
無駄なハイテンションにはあえてツッコミを入れず、スマートに先を促した。
「小春、さっきねー“アテナ”さんとその相方さんとしゃべっちゃいましたー」
「はぁ?なんでですの?」
「あっちで車の中に居たんだもん」
「なんや要領を得ない説明ですけど…久住さん、二人の声聞きはりました?」
「うん!バッチリデース!」
両手をパッと頬の辺りで開いたポーズでおどける小春に呆れる愛佳。
しかし、小春が“アテナ”とその相棒の声を聞いたのは大きな収穫だ。
愛佳の口元に思わず笑みが溢れた。
「とりあえず田中さんには連絡しときましょか。愛佳も報告したい事ありますし…」
「ほーい」
ポケットから携帯を取り出す小春と並んで歩き出した愛佳は、とりあえずひとつだけツッコミを入れておく。
「久住さん、早めにその制服脱いだ方がええんとちゃいます?」
「えー…小春、結構似合ってると思うんだけどなー」
「いや、そう言う問題やなくて…」
愛佳はまた小さくため息を吐き出した。
- 116 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/16(木) 23:44
-
川=´┴`)<続くらしいですわ
- 117 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/16(木) 23:45
-
从;` ロ´)<・・・デバン・・・・・・・・・
☆ノハヽ ナデナデ
ノノ*^ー^)づハヽo∈
从;` ロ´)<・・・・・・・・・
- 118 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/04/16(木) 23:50
- AAズレタ…orz
>>107サマ
ただいまです。ありがとうございます。
放棄なんてしないYO!
>>108サマ
えりりんのKY力は異常w
>>109サマ
レスキタ━━━!!!
いっぱい感謝
久々に読み返したらいっぱい間違い発見でorz
気にせず無かったことにして進めていきたいと思いますw
- 119 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/17(金) 18:56
- おおー!これはこの3人が組んでるということですかw
そしてえりりんを信頼してる館長いい感じです
- 120 名前:みゃー017 投稿日:2009/04/26(日) 04:07
- おぉ、久々に覗いたら続きが!
美貴様とジュンジュンの言い合いがいい感じですね♪
しかし、仕事が遅くて全然使えない(?)と思われてた亀ちゃんが博物館に雇われてる理由ってのはそれだったんですねw
そしてれいなには知性で捜査を進めてくれる手下と、勢いに全てを任せる手下が付きましたかww
果たして、偽物は一体いつの間に・・・
- 121 名前:聖 投稿日:2009/04/26(日) 19:21
- ガキさん激しいwやっぱりガキ愛好きですわw
れなえりもワクワクですw
- 122 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/23(日) 00:05
- 久しぶりに見ました!!
何気ずっと待ってたんで嬉しいです
愛ガキ推しつつ続き待っております
- 123 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/21(月) 13:04
- 「おっ?館長!それに亀ちゃんも。いらっしゃい!」
まだ昼飯時には少し早い時間に絵里と美貴は博物館の近所にあるうどん屋ののれんをくぐった。
「ちわー…美貴、日替わりね」
慣れた様子で座敷に上がり込みだらーんと足を伸ばした美貴は、
水がたっぷり注がれたコップを運んで来た店のおかみさんに緩い調子挨拶と注文を済ませる。
「亀ちゃんは?」
「絵里も日替わりでぇ」
「はいよっ、日替わりにちょー!」
おかみさんは厨房の奥に威勢良く常連客2人組の注文を投げた後、
一段高くなっている座敷の畳に手を付いて美貴に詰め寄った。
「なぁ、ちょっと!あの事件…どうなったんだよ!?」
「なんだ矢口さん…知ってたんですね…」
「そりゃー知ってるに決まってんだろーよ…夜中にパトカーは走り回るわ、
朝になったらテレビカメラが博物館の回りを囲んでるわ…」
おかみさんはニヤニヤしながら息継ぎナシで、でも小声でまくしたてる。
店内には絵里と美貴以外に客はいなかったが。
「んで、テレビつけたら展示品が盗まれたって大騒ぎだろぉ?
…まぁ、取材に来てた人達がこの店にお金を落として行ってくれたおかげで棚ボタだったけどな」
おかみさんはキャハハと笑って美貴の背中を豪快に叩いた。
美貴は心底ウザそうな表情を浮かべてコップの水をグイッとあおった。
その時、美貴の携帯がメロディを奏でて何者からかの着信を知らせる。
「何?何?また事件かよ?」
おかみさんは上着のポケットから携帯を取り出す美貴にキラキラした視線を投げ掛けた。
「こうも立て続けに事件が起こってたら美貴の体がもたないっつーの!はい、水おかわり!」
「へいへい」
おかみさんは不機嫌丸出しの美貴が差し出した空のコップを受け取って面白くなさそうな表情を浮かべて厨房に消えて行った。
- 124 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/21(月) 13:04
- おかみさんの背中が見えなくなったのを確認した後、美貴は携帯の画面に視線を落とした。
「誰から電話ですか?」
「んー…事務所からだな」
「取らないんですか?」
「んー…」
美貴が電話を取りあぐねているとそのうち携帯は大人しくなった。
「切れちゃいましたよ?」
「ま、今は休憩中だしな」
「それもそうですね」
二人はオンとオフをしっかり区別するタイプだった。
程なくして運ばれてきた日替わりうどん定食をすすりながら美貴と絵里は朝からのひと騒動を振り返る。
「なぁ亀ちゃん…あのダイヤモンド…やっぱニセモノだよなぁ…」
「絵里はそう思いますけど…」
「ずっと疑問だったんだけどさ…亀ちゃんはなんで見た目だけで本物かニセモノってわかんの?」
「んーー…勘ですかね?」
「いや、ですかね?って聞かれても美貴わかんないし」
美貴はうどんを食べる手を一旦止めて、流れ出した鼻水をかみながら絵里の質問返しにツッコミを入れた。
「なんか、こう…本物だと頭にガツーンと来て胸がキューンてなるんですけどぉ…
今朝のダイヤモンドはガツーンって来たんですけどキューンってはならなかったんですぅ〜」
そう言って絵里はほわ〜んと笑った。
笑った時に見えた八重歯にネギが挟まっていた。
「ワケわかんないんですけど」
美貴はネギにはツッコミを入れず、絵里のあいまいな解説にツッコミを入れた。
「でもぉ〜絵里もちょっと迷っちゃいました。すっごく本物っぽかったんですもん。
盗んだ人はニセモノだってバレないと思ったんでしょうね。」
「いや、バレないと思って返したんじゃないだろ。」
「ふぇ?どう言う事ですか?」
「あれは盗んだ奴がニセモノに変えたんじゃねーよ」
「え?と、言う事は…」
「あれは日本に来た時から…なんなら、李家にあった時からニセモノだったんだよ」
「え?えっ?」
美貴はズズズとうどんのおだしを豪快にすすった後またティッシュに手を伸ばした。
- 125 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/21(月) 13:06
- 「あれは最初からニセモノだったってこと」
「どうしてそう言いきれるんですか?」
「あの“宝玉の短剣”ってのは元々、曰く付きの発掘品なんだよ」
「いわくつき?」
初めて聞く話に絵里は口をモゴモゴさせながら首を傾げた。
無意識のうちに、歯に挟まっているネギが気になっているらしい。
「そう、あの“宝玉の短剣”は発掘後、一度盗まれてるんだよ」
“宝玉の短剣”は中国大陸南部の遺跡から発掘された。
その遺跡とは、その土地を治めていたとされる権力者の墓。
権力者と共に埋葬されたそれは、何百年の時を経ても朽ち果てることなく地中深くでその輝きを維持し続けていた。
失われるこのとなかった輝きは人々からの興味と注目を集めた。
その不思議な魅力のせいで保管されていた政府機関からの盗難。
その後、長い年月の間、それは闇の世界でその所有者を転々としていった。
その流れに、“宝玉の短剣”は単なる歴史的重要出土品でははく“権力者の証”としてもてはやされる事となる。
時が経つにつれ、その刀身からひとつ、またひとつ宝石が取り外されて闇の世界へ散らばっていった。
しかし、近年力をつけて来た李家の当主がその“宝玉の短剣”にまつわる話に目を付けた。
既に金・権力・地位は手に入れたものの、急速に成長を遂げた李家には歴史がない。
ならば“宝玉の短剣”を手に入れて、その力を確固たるものにしようと ──
「そう考えたのが、今朝わめいてた李純の祖父にあたる人間ってわけ」
「名実共に本当の権力者になりたかったってことですか…」
「そう。それで李純のおじいさんは金に物を言わせて、世界各国に散らばった“宝玉の短剣”のパーツを集めたって話」
「だけど、一番重要なはずのダイヤモンドが、ニセモノだった…と…」
「残念ながら、ね」
「でも、なんでダイヤモンドだけがニセモノだって言い切れるんですか?他の宝石はみんな本物だったんですよね?」
絵里は口をモゴモゴさせながら素直に疑問をぶつけた。
「見ての通り、例のダイアモンドのまわりは複雑な装飾がほどこされているわけだ」
「はい」
絵里は“宝玉の短剣”を頭に思い描く。
確かに、問題のダイヤモンドは複雑な装飾が入り組んだ柄の部分に埋め込まれていた。
- 126 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/21(月) 13:06
- 「あんな装飾に小さな傷ひとつ付けずにダイヤモンドを取り替える。
しかもたった一晩やそこらで…。それは相当腕の立つ職人でも不可能なんだよ」
「ほぇ〜…でも、でも、本当に凄い人なら可能って事ですよね?」
「まあな…本当に物凄い職人ならな…」
「じゃあ、その凄い人が取り替えたかもしれないじゃないですか!?」
「だから、それが不可能なんだよ…」
「なんでですか?」
「あんな仕事を短時間で、しかも完璧にできるのは美貴の知る限り、一人しかいない…」
「誰ですか?」
「伝説の贋作師と呼ばれ、あのバラバラになった“宝玉の短剣”を修復した“銭子庸” だけだよ」
「チェジウ?」
「ちげーよ、バカ。なんで女優が宝石組み立てるんだよ!チェン・シヨウ!」
「あー、発音、似てますね。」
「似てねーよ」
美貴は思わず鼻をかんだ後のまるめたティッシュを絵里に投げつけた。
「でも、そういう事ができる人がいるんだったら、その人が取り替えたって可能性もあるじゃないですかぁ」
「いや、だからそのチェジウが手掛けたと言う可能性ははっきりいって0%」
その人は去年、亡くなったからな
- 127 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/21(月) 13:09
- 美貴と絵里がうどんをすすって博物館に戻っていると、通用口に差し掛かる手前の角で職員が落ち着きなく立っていた。
どうやら絵里と美貴の帰りを待ち伏せしていた様子で、二人の姿を見つけるやいなやものすごい勢いで駆け寄ってくる。
「館長!さっきからずっと電話してたのになんで出てくれないんですかぁっ!」
「んだよ…昼飯ぐらいゆっくり食べさせろよ」
「悠長に昼飯なんか食べてる場合じゃないんですよ!また昨日の刑事さんが来てるんですよぉ」
「ちょっとぐらい待たせておけよ…」
「いや…待たせるとか言う問題じゃなくてぇ…」
職員は眉毛をハの字にして美貴の後ろをトコトコついて歩く絵里をチラリと見やった。
「ニセモノの短剣を取りに来た刑事さんに今朝の経緯を話したら、なんか亀井ちゃんを疑っちゃってですねぇ…」
「は?」
「へぇ?」
「なんだよ、それ」
「だから事件直後の亀井ちゃんの供述がおかしい上に、返還されてきた短剣をニセモノだと言い張るのも亀井ちゃんで…」
「お前バカか。亀ちゃんが怪しいのはいつもの事じゃん」
「館長、ひどいですよ?」
「それはあっしらも重々承知の上ですけどぉ…」
「小川さんもひどいですよ?」
「ってかお前、亀ちゃんの証言も警察に話したのかよ?」
「…………へい」
「やっぱバカだろお前。話をこれ以上ややこしくすんなよ……」
「すすすすすいませぇん…でも、こうなっちゃったからには、とにかく館長から刑事さんに説明してくださいよ〜」
泣き縋るちょっとおバカな職員に、冷ややかな目線を下ろす美貴。
なんで自分の部下はこうもおバカなヤツが多いのかと情けなくなりながらも、しぶしぶ美貴は頷いた。
重い気持ちを背負いながら、通用口の重い扉を開けようとした時、目がくらむような白い光が美貴達を襲った。
「館長〜〜〜!!お待ちしてましたよ〜〜〜っ!!」
続いて、甲高いブリブリしたアニメ声が地下駐車場の低い天井に響き渡る。
嫌なタイミングで最も嫌なヤツに出くわした…美貴は自分の不運を嘆きながらゆっくり振り返った。
いつの間に背後に回ってきたのか…そこにはライト以上に眼球を刺激するようなピンク色のワンピースを纏った
テレビタレント、チャーミー・石川とテレビ撮影クルーの姿。
「うっせーよ、梨華ちゃん」
「も〜〜っ、こっちはずっと待ってたんだもん!声も大きくなるわよ!」
「うるさいし、ライトまぶしいし、うっとおしいし、美貴、梨華ちゃんに話すことないし…帰ってくんない?」
「帰りません!だって、あの盗まれた“宝玉の短剣”が返って来たんでしょ??」
「………ノーコメント」
「もぅ!美貴ちゃんは強情なんだからっ!私達モーニング・プロジェクト・ニュースの情報網を甘く見ないで頂戴?!」
- 128 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/21(月) 13:11
- そう胸を張って誇らしげに語るアニメ声の女。
日曜朝の人気情報バラエティ番組の人気美人キャスター(自称)の石川梨華は首から下げた取材パスを美貴の眼前にこれ見よがしと掲げた。
美貴は目障りだと言った風にそのパスを払いのけながらため息をつく。
「ライト消せ。カメラも止めろ。んで、梨華ちゃんはもう少ししゃべりのトーンを押さえろ」
「あら?それって、オフレコなら話してくれるって事?もう、面倒なんだから…
大学の同級生のよしみでサラッと話してくれたっていいじゃない…」
「いいから止めろ。じゃないとそのカメラに向かって、梨華ちゃんがその情報をどこから入手してきたのかブチ撒けるからな…」
「キャーーーーッ!!!止めて止めて!カメラさん止めてぇぇぇーーーーーーーっ!!!!」
美貴の静かな脅しに梨華は慌ててカメラの前で大きく手を振る。
「照明さんも一旦ストップ!とりあえず取材、中止!中止よっ!!」
「だから、うるせーっつーの……」
事態を飲み込めない撮影スタッフだったが、とりあえず看板キャスター(自称)の指示通り持っていた機材の電源を切る。
すべての機材がオフになった事をしっかりと確認した梨華は、一度ゆっくり息を吐いてから再度、美貴の前に立った。
「情報入手の話は置いておいて……“宝玉の短剣”は本当に返ってきたんでしょ?」
「梨華ちゃんはー、警察の人を色仕掛けで落としてぇーーー…」
美貴は梨華の背後に立ったままの撮影スタッフに聞こえる様な大声で語りだす。
「ちょっちょっちょっ!みみみみ美貴ちゃん?!!!」
「質問の意味がわかんないから、美貴が話したい事話してるだけなんですけどー」
「そんな事を聞きたいわけじゃないのよっ!しかも色仕掛けって失礼ね!」
「今日も首筋についてる赤い跡はー、警察の人が付けたー、きs…」
「ごめんなさい!美貴様!私が悪ぅございましたっ!もう一度質問させていただいてもよろしいでしょうか??」
青ざめた表情で、口調を正す梨華。
「どうぞ?」
余裕の表情で梨華を見下す美貴。
「あのー、ワタクシ、こちらの博物館から先日盗み出された展示品の事について取材をさせていただきたくですね…
館長の…いや、美人館長の藤本美貴様にお話をお伺いしたくですね…あのー、お邪魔させていただいたわけなんですけれど…」
「あぁ、その件ね」
「お話いただけますか??」
下手下手の梨華の質問に美貴の表情に笑顔が戻ったのを見て、梨華の表情もパッと明るくなった。
- 129 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/21(月) 13:11
- 「うん。ノーコメント」
「ええええ〜、ちょっとぉ〜!美貴ちゃん!期待させといてそれはないわよ〜!」
「うっせーなぁ、今は何聞かれてもノーコメントなの!」
「せっかく、スクープが取れて今週末の番組で放送できると思ったのに〜…」
「梨華ちゃんの都合でこっちもペラペラしゃべってられませんから!」
梨華は両手を合わせて頭を下げてノーコメントを貫く美貴に尚も喰らい付く。
「ねぇ美貴ちゃん…この事件、世間でもすっごく関心が高いの!だからちょっとだけでも!話を聞かせてっ!」
そんな梨華の両手を握って美貴は呆れた風に同じ様なコメントを返した。
「だから、悪いけどノーコメント。その代わり…」
美貴の新たな提案に勢いよく顔を上げる梨華。
「これ、あげる」
梨華の頬にペシペシと叩きつけられた紙切れ。
訝しげな表情のままその紙切れを手に取った梨華が目にしたのは…“世界の秘宝展”特別招待券だった。
「なんなのよぉ、こんなのいらないわよ!」
「こんなのとは失礼なヤツだな…そんなヤツの取材は一切受け付けませーん」
そうおどけた美貴は傍に立って、やり取りを見ていた小川に目配せする。
美貴の意図を受け取った小川は慌てて美貴と梨華の間に割って入った。
「館長は忙しいのでこの辺にしていただけますかぁ?」
「ちょっと!話は終わってないのよ!美貴ちゃん??!」
「真琴、梨華ちゃんは任せたから。んじゃ、亀ちゃん行くぞ」
「はぁ〜い」
「館長!ここはっ!ここはあっしに任せて!!先に進んでくださいっ!!!」
「頼んだぞ〜」
なぜか冒険物のヒーロー気分に浸っている真琴に手を振りながら、美貴は絵里を引き連れて館内に戻っていった。
- 130 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/21(月) 13:12
-
「お待たせしました」
美貴と絵里が館長室に戻ると、室内には今回の事件を担当している二人の刑事が居た。
美貴の姿を確認すると二人は同時に立ち上がった。
年長の保田刑事が返事する。
「いえ、お忙しい所申し訳ございませんね。あ、こちらは私の部下で吉澤です」
「どうも、吉澤です」
美貴は若い方の刑事とは特に言葉を交わすことなく、そっけない態度で着席を促した。
「早速ですが、改めてお話をお聞きしたくてですね…」
「話もなにも、うちの職員が先程お話させていただいた事で全てですよ」
「いや、もう一度館長様の口からお聞きしたいんでね…それとお隣にいらっしゃる亀井さんからも…」
職業柄なのか、人を値踏みするような視線でジロリと絵里を見る保田刑事。
「その後、携帯電話は戻ってはきてないですよね?」
「あ、えっ?あぁ、携帯が盗まれたのは絵里の勘違い…でした…」
慌てて訂正する絵里。
それを聞いて、保田刑事は隣に座って手帳を広げている吉澤刑事となにやらアイコンタクトを取った。
「こいつの携帯電話と今回の事件は関係ないだろ?」
元来、コソコソする人間が好きではない美貴は刑事達のその様子に苛立ちを覚え、すかさず反論する。
しかし、保田刑事は美貴の威嚇も気にすることなくゆっくりと立ち上がった。
「そうですか…それでは私どもはこの辺で失礼します」
「はぁ?美貴、まだなんにもしゃべってないんですけど?」
「いえ、もう結構です。では、お預かりした短剣の鑑定結果がはっきりしたらまたお伺いさせていただきますよ」
部屋を出て行こうとする保田刑事に倣って、吉澤刑事もすばやく立ち上がった。
「ちょっと待ってください」
美貴がソファーに足を組んだまま保田刑事を見上げる。
- 131 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/21(月) 13:13
-
「なんでしょう?」
「鑑定結果って、どうせニセモノだと分かり切ってるんだけどな…すぐに公表してほしくないんですよね」
「何故?」
「そりゃ、こっちだって客商売なんですよ。いろいろと今後の事も考えなきゃいけないですしね」
「しかし、この事件は世間の関心が集まっています。我々としては捜査情報をすべて隠し通す事はできませんね」
「こちらとしましては、この事件を警察のマスコミと世間へのご機嫌取りに利用されたくはないんですけど」
「そんなつもりはまったく意図してないのですが?何か探られては困る事がおありなのですか?館長」
「………とりあえず鑑定結果を公表する前に連絡いただきたいんですけど」
「わかりました。それはお約束しましょう」
そう言い残して二人は館長室を後にした。
館長室から通用口を出るまで無言で歩いていた二人だったが、駐車場に出て止めていた車のドアノブに手を掛けた時、
おもむろに保田刑事が相棒の吉澤刑事に向かって静かに問いかけた。
「吉澤…あの亀井って子…どう思う?」
「………何か、隠しているとは思いますが…」
その答えに満足そうな笑みを浮かべて保田刑事は助手席に乗り込んだ。
吉澤刑事もそれに続いて運転席に乗り込んでエンジンキーを回す。
ゆっくりと走り出した車の中で、二人の会話は続く。
「あの亀井って子…事件当夜、発見された時は両手両足を縛られた状態だった…」
保田刑事は目を閉じて事件当時の状況を思い出しながら、ゆっくりと語り出す。
運転中の吉澤刑事はチラリと保田刑事の様子を窺った後、付け加える。
「しかし、目隠しはされていなかった…」
「だけど“目隠しをされていたので犯人の顔を見ていない”……そう答えた…」
「しかし、彼女の傍には目隠しになるような物は発見されなかった…と…」
「そう。つまり彼女は目隠しなんてされていない」
「なのに“目隠しをされていた”と言い張るその理由…それはなんでしょうね?」
「犯人を庇ってるとしか思えないでしょーが」
そこで保田刑事は身を起こして吉澤刑事の顔を覗きこむ。
吉澤刑事は隣からの鋭い視線を肌で感じつつも正面から視線を逸らさず、保田刑事の結論を言い換える。
- 132 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/21(月) 13:14
-
「つまり、亀井絵里は犯人の“共犯者”……」
「そう考えるのが普通よねー」
そう言って保田刑事はまた目を閉じてシートに深く体を預けた。
「しかし、変ですよね?」
「何が…?」
吉澤刑事の呟きに片目を開いてその先を促す。
「“共犯者”のクセ事件現場に立ち合ったり、事情聴取では盗まれていない携帯電話を盗まれたと供述したり、
戻ってきた証拠品をニセモノだと言い張ったり…目立った言動しすぎですよね…」
「確かに、そこは変よね……まぁ、あの子自身変わり者っぽいけどね…」
「もしかしたら…」
「何?」
目の前の信号が赤に変わり、停止線の手前で車を止めた吉澤刑事が保田刑事に視線を移す。
「亀井って子…もしかしたら、“共犯者”ではなく……犯人に肩入れ…いや、一目ぼれしたんじゃないですか?」
「はぁ?」
「いや、だって…事情聴取の時に、ボソッと上の空で呟いてたじゃないですか…」
「なんて?」
「盗まれたのは、“ハート”だって……」
「そんな事、言ってたかしら?」
「言ってましたよ」
「しかも、犯人に一目ぼれとかってありえる訳?」
「……ありえるんじゃないですか?」
事も無げに、一目ぼれの可能性を説く吉澤刑事の脳裏には、3ヶ月ほど前に偶然事件現場で出くわして
一目ぼれしてそのままお付き合いする事になったアニメ声の地黒人気キャスター(自称)の彼女の笑顔が浮かんでいた。
「そんな漫画みたいな事、まずありえないでしょ…」
「亀井がそうかはわかりませんが…一目ぼれってのは存在するんですよね…」
- 133 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/21(月) 13:21
-
ノノ*^ー^)<続きますよ?
- 134 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/21(月) 13:25
-
川=´┴`) <今後、どうなるんでしょうね?
从*・ 。.・)<さゆみが大活躍なの
ノノハヽo∈
从*` ロ´) <ナイナイ
ヾ=シ )
し--J
- 135 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/21(月) 13:33
- お久しぶりです。ごめんなさい。
これでも頑張って書いてみたのよ。ごめんなさい。
こんな亀更新スレにもレス感謝!マジで多謝!
>>119サマ
そうですね。そういうことですねw
館長とえりりんの関係は>>37みゃー017サマリク要素ですw
>>120みゃー017サマ
感想と的確な補足説明あざーす。
稚拙な文章ですが、きちんと内容が伝わっている事が確認できて安心しましたw
>>121聖サマ
今回はガキ愛もれなえりもなくてごめんちゃい。
次回こそはっ!次回こそわぁぁぁぁぁっ!
>>122サマ
お待ちいただいてたとは、嬉しい限りです。
次回はもうちょい早めに更新したいのだ。
ってか、ガキ愛スキーの方が多いですなw
- 136 名前:みゃー017 投稿日:2009/09/21(月) 22:21
- 更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
梨華美貴はやっぱりこうでなくっちゃ♪w
れーなに一目惚れしたえりりん、果たしてどうなっちゃうんだろうか・・・w
从*・ 。.・)<さゆみが絵里を逮捕しちゃうなの
ノノハヽo∈
从*` ロ´) <それもナイナイ
ヾ=シ )
し--J
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/22(火) 16:07
- 更新ありがとうございます!
おおお、どんどん面白くなってきましたね
しかもどんどん新しい人が出てきてるしっ
次の更新もまったり待ってまーす
- 138 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/27(日) 02:44
- 一方、館長室に残された美貴と絵里の間に気まずい雰囲気が流れていた。
「亀ちゃん」
「はいっ!」
「美貴になんか隠してるだろ?」
「………隠してないですよぅ」
「嘘つけ。なんだよ、携帯電話って…しかも完全に怪しんでたじゃん、あの刑事……」
「ぅ〜……」
冷たい視線に小さくなっちゃう絵里。
「ってか…そんなことはないと思うけどさ…一応、聞いておく」
「……はぃ……」
「亀ちゃんは犯人じゃねーよな?」
「ちっ、違いますよぅ!」
絵里は思わず立ち上がって、美貴を真剣な眼差しで見下ろす。
「だから、そうムキになんなって。一応って言っただろ?」
「ぁ…はぃ……すいません…」
ついカッとなってしまった自分を恥じる様に、またしょぼーんとしてソファーにへたり込んでしまう絵里。
その隣で、美貴もぐったりと背もたれに体を預けて唸り声を上げる。
「あーーーーってかマズいなーーーー」
いつもの美貴からは考えられない弱気な発言に、絵里はチラリと上目遣いで美貴の様子を窺う。
「ってか、ニセモノって公表されたらやっぱ美貴クビかーーーー」
「えぇっ?!だって、館長は何も悪くないじゃないですかぁ!」
思いがけない美貴の独白に絵里はガバッと体を起こして美貴に詰め寄る。
近づいてきた絵里の顔をチラリと片目で捕らえながらも避けることはせず、そのままの姿勢で美貴は続けた。
「展示品の盗難。ニセモノをホンモノと偽っての展示。そりゃ、館長って名前背負ってる美貴の責任でしょ」
「それ、館長の責任じゃないですよぉ〜」
「じゃぁ、誰が責任取るワケ?」
「っ……そ、それは……」
それが社会ってもん。
絵里は何も言い返せずに、自分の上着の裾を握り締めるしかできなかった。
- 139 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/27(日) 02:47
- 「亀ちゃんの見立てがハズレてたら良いんだけどな…亀ちゃんの鑑定眼はハズレなしなんだよな…憎たらしいことにw」
そう言って何とか笑い話に持っていこうとする美貴の優しさが絵里の胸に突き刺さる。
絵里だって、自分の判断が間違ってくれればいい。館長が救われるなら自分は李純にいくらウソツキ呼ばわりされてもいい。
そう思ったが、あのダイヤモンドはやっぱりホンモノではなさそうだ。
絵里は大きくため息を吐いた。
つられて美貴も大きくため息。
重い雰囲気が館長室に流れる。
「どうしたら、館長は辞めなくてすむんですか??」
ダイヤモンドの鑑定は覆らない。
それが警察の鑑定によって確固たるものになる。
だったら、次の手を考えよう。
そう考えた絵里は、重い空気をやっとの思いで押しのけて質問する。
「んー?そりゃ、あのダイヤがホンモノだったら…丸く収まるんじゃね?」
「だから…それは…」
「だーかーらー、諦めるしかないんだって……亀ちゃん……」
美貴は絵里の頭をポンポンと優しく、でもちょっと乱暴に撫でた。
絵里はギュッと目を閉じた後、美貴の手が頭から離れていくのを感じてゆっくりと顔を上げる。
目の前に美貴の柔らかい笑顔。
その笑顔が家に置いてきた“黒猫”の笑顔と重なる。
「あ……」
「へ?亀ちゃん…どした?」
涙目の絵里にまっすぐ見つめられて戸惑ってしまう美貴。
「そうだ……うん……そうですよね……」
「な…なにがそうなんだよ…亀ちゃん、寝ぼけてる?」
「ねっ…寝ぼけてません!絵里はいつでも真剣ですよぅ〜」
「そうは見えねぇけど…」
絵里は美貴の両肩を掴んで、詰め寄る。
「なんだよ!?」
「絵里に考えがあります!」
「なんの考えだよ…」
「館長が辞めなくてもいい方法です!」
「………なんだよ……」
あまりの真剣な眼差しに思わず話しに乗ってしまい、先を促す。
「要するに、あのダイヤモンドがホンモノだったらいいんですよね?!!」
「まぁ、そうだけどよー」
「じゃぁ、絵里がホンモノのダイヤモンドを持ってきます!!」
「はぁ?」
「警察の発表を遅らせるのは館長に任せます!だから!絵里はその間にホンモノ探してきます!」
「はぁぁ???亀ちゃん、頭打ったりとかした?」
「絵里はいつだって正常です!!」
せっかく本気で心配して真剣に提案してるのに、いつも通りバカにされた絵里はポカポカと美貴の肩を叩く。
「わかったけど…亀ちゃん、何するつもりだよ…」
「それは…ちょっと詳しくは言えないですけど…絵里に時間をください!」
「亀ちゃん…危ない事するんだったら…やめとけ」
絵里の握り拳を握り返して、そう呟く美貴の目はいつになく真面目なもの。
だから絵里もまっすぐ、真正面から向き合う。
- 140 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/27(日) 02:48
- 「大丈夫です」
「何企んでるのか知らねーけど…美貴は亀ちゃんを信じてもいいわけ?」
「…………信じてください」
絵里に本物の“宝玉の短剣”を渡す
絵里のために
絵里、れいなの共犯者になる覚悟、決めました
- 141 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/27(日) 02:49
-
ノリo´ゥ`リ<続くんだってー!!!!
- 142 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/27(日) 02:49
-
川VvV)y~<相変わらず短いな
ノノ*^ー^)<その時の気分ですよ、気分w
川´・_o・)<作者短イ
- 143 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/09/27(日) 02:50
- お礼がてらちょっくらミニ更新w
>>136みゃー017サマ
レスキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
いつもありがとうございます!
美貴梨華は気まぐれで入れてみましたw
从;` ロ´)<逮捕…だと…まさか・・・さゆみ婦警…
☆ノハヽ
ノノ*^ー^) <スレ違いw
ヾ=シ )
し--J
>>137サマ
チョイ役もどーせだからOGメンにしてみましたw
今後この人たちを上手く絡められるのか…自信はないw
今後ともよろしくです!
- 144 名前:聖 投稿日:2009/09/27(日) 21:19
- 今日は誕生日〜wにUPされており幸運w
从´ヮ`) ノノ^ー^)は良い
(・e・) 川’ー’)は再に良いという
細かいバカ読者なりw
(0^〜^) (^▽^)カップルも好きなのだー(落ち着け)
- 145 名前:みゃー017 投稿日:2009/09/28(月) 03:55
- おぉ、進展ktkr!
これで僕の大好きなカプがまた見れる♪
(個人的には6期の4人はどう組もうとかなり推せるカプになると思いますがww)
>さゆみ婦警… / スレ違いw
元ネタが解るのを喜んでいいのだろうか・・・www
- 146 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/10/10(土) 23:58
- 唇を真一文字に引き締めて、今朝走った駅までの道のりを足早に戻る絵里。
まだ部屋に居るはずの“黒猫”に一秒でも早く伝えなければならない。
絵里の覚悟と絵里の気持ち。
いつもは全く気にならないのに、マンションのエレベーターが1階に降りてくるまでの時間がもどかしい。
絵里は壁のボタンを二、三度強く叩いた。一人、無機質な小さい箱の中で考える。
“黒猫”は“宝玉の短剣”にまつわる話をどこまで知っているのか?
“宝玉の短剣”を『借りるだけ』と言っていた“黒猫”の本当の目的は?
本物のダイヤモンドはどこにあるのか?
自分も……れいなに惚れてしまっている。
エレベーターが停止する時独特の浮遊感で我に返った絵里は、カバンの中に手を突っ込んで鍵を探しながら自室へと足を速める。
いつも何の違和感もないのに今日に限っては鍵が鍵穴に引っ掛かった。
はやる気持ちをどうにか抑えながらドアを開けると頬を掠めていくゆるやかな空気の流れ。
部屋の奥の窓が開いている…?まだ、この部屋に、れいなが居る!
いつも帰宅した時と同じように、だけど昨日帰宅した時よりも大きな声で、中に居るはずのれいなに帰宅を告げる。
はずだったが……足音もたてずに忍び寄ってきた恐怖にただいまの一言が喉に貼りついて、苦しげな吐息だけがヒュウと鳴った。
「はい、おかえりなさい。亀井絵里ちゃん?」
「っ…!!」
一度経験した事のある嫌な感触を自身のこめかみに感じて、身体が完全に強ばる。
「偉いわね…ちゃんと判ってるんだ。こういう時は声を出しちゃいけないって…」
まっすぐ前を見据えたままの絵里の正面に回り込んできたのは“アテナ”。
「そのままゆっくり部屋の中に入るがし」
そして、絵里の背後から銃を突き付けているのは“アテナ”の相棒。
ふたりの淡々とした声色に絵里の全身の体温がスッと冷めていく。
気がつけば足が震えている。
だけどそんな絵里の様子を分かっていながらも“アテナ”の相棒は歩みを促すために固い銃口を絵里の肌に押し付けた。
「早く……入るやよ」
「大人しく私達の言う事聞いてれば何もしないから」
そう言って笑う“アテナ”の笑顔は“黒猫”と絵里を置いて去って行く時のそれと同じだった。
完全に優位に立っている人間の余裕の笑み。
絵里は無意識に唇を噛んだ。
- 147 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/10/11(日) 00:00
- 「歯向かおうったって無駄よ…」
強ばる絵里の顎をグイッと掴み上げて、顔を寄せる“アテナ”。
「痛い思いしたいのなら別だけど…」
吐息が掛かる距離で物騒な言葉を投げ掛けられては絵里の気持ちも折れてしまう。
溢れそうになる涙を堪えながら絵里は乱暴に足だけを使って靴を脱ぎ捨てた。
「そう…素直にしてれば良いのよ」
軽く払うように絵里の顔から手を離した“アテナ”は踵を返して先に部屋の中へと進んで行った。
後を追う相棒に背中を押され重い足取りで前に進む絵里。
まったく予想していなかった状況に陥って混乱するも、一歩前に立つ“アテナ”の肩越しに見えた唯一の予想通りの展開。
絵里はその存在に息を飲んだ。
真っ暗な部屋の中から絵里が待ち望んでいた声が届く。
「絵里…おかえり…」
窓際で立てた膝に頬杖をついて、まるでここに居る3人を待ち構えていたかのような“黒猫”。
全開のカーテンと窓の前に座っているれいなが真っすぐこちらを見据えていた。
れいなの両脇で風に揺れるカーテンが絵里には幻想的に見えたがその姿と声は間違いなく現実。
その姿に絵里の胸は熱さを取り戻す。
「相変わらず“アテナ”のやり方は荒っぽいっちゃね」
「…簡単に諦めるようなタマじゃないとは思っていたけど…こんな所で再会するとは、予想外だわ」
「こっちは二度と会いたくなかったっちゃけどね…」
「ま、それはお互い様。そんな事より、あなたがここにいる理由を教えてもらおうかしら?」
“アテナ”の質問と同時に銃口が絵里のこめかみにグッとねじつけられる。
直接肌から流れ込んで来る恐怖に絵里は身体を震わせる。
そんな絵里と一瞬だけ視線を絡ませた後、“黒猫”は“アテナ”に向き直った。
「ひとつ。そんな子供騙しの脅しでペラペラしゃべるなんてありえん」
「ちょっと…この状況でなに生意気な事、言ってんのよ?」
“黒猫”は怯む事なく続ける。
「ふたつ。その上から目線がムカつく」
「里沙ちゃ…」
「愛ちゃんは黙ってて!」
「みっつ。こっちの手の中で翻弄されてるだけのアンタらはなんの脅威でもない」
「…………どういう意味よ…」
“アテナ”の顔が曇る。
そんな“アテナ”の様子を見つめる愛の銃を握る手に力が入る。
- 148 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/10/11(日) 00:02
- 「よっつ………」
“黒猫”…いや、れいなの目に感情が宿る。
「絵里を恐がらせたアンタらは絶対に許さん」
「手も足も出ないクセに偉そうな事言ってんじゃないわよ!」
“アテナ”の手首の袖口から銀色の刃が現れる。
「里沙ちゃん!動いたらアカン!」
驚愕の表情の愛が絶叫して“アテナ”の動きを制する。
「だから黙っててっ……て……」
半歩後ろにいる愛を振り返った“アテナ”も途端に同じ様に驚きの色を浮かべた。
お互いの額に浮かぶ赤い一点の光。
「………ポインター……?」
「……そうみたいやよ…あーしらいつの間にか狙われとったらしいわ……」
“アテナ”がゆっくりと首を回して赤い筋を目線で辿る。
開け放たれた窓の外。
月夜の薄明るい空気を隔て先にふたつ、同じ赤の光を捕えた。
向かい側に建つマンションの一室に“黒猫”の意を汲む何者かが狙いを定めている。
自らが置かれた状況を理解した“アテナ”は“黒猫”を静かに見下ろす。
「誰かと行動した方がいいならそうするに決まっとーやろ」
“黒猫”はフンとひとつ鼻を鳴らして、どこかで聞いた台詞をそのまま吐き捨てた。
「だけど…アナタのお友達がアタシ達の頭を撃ち抜くのと、アタシ達がこの子の頭を撃ち抜くの…どちらが速いかしらね?」
「……そんな挑発にはのらんよ」
“黒猫”の余裕の表情に“アテナ”はギリッと奥歯を噛み締める。
「今、アンタらの頭ブチ抜いた所で、絵里の部屋が汚れるだけやし。……これは警告」
「フッ……舐められっぱなしね……」
「分かったんやったら絵里を離せ」
“アテナ”は愛に目配せる。
愛はしぶしぶ銃口を天井に向けた。
- 149 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/10/11(日) 00:05
- 銃を突きつけられていた恐怖で腰が抜けたのか、絵里はその場にへたり込んでしまう。
「絵里…ポインターの軌道を遮らん様に……そのままこっちに来るったい」
れいなは手の平を差し出してこちらに来いと促す。
恐怖から解放されたものの、震えが治まる気配のない足でゆっくりと懸命にれいなの方へ這って行く絵里。
やっとの思いでれいなの横に辿り着いた絵里はそのままれいなの腰に腕を回して抱きついた。
“黒猫”は“アテナ”とその相棒から視線を外さないまま、すぐ傍で震える絵里の背中に腕を回して抱き寄せる。
その瞬間、絵里の涙がれいなの肩に涙が落ちた。
「じゃあ、もうアンタらには用はないけん…帰ってもらおうかな」
これ以上この場に留まるのは得策ではないと判断した“アテナ”。
凶暴に光る刃を収め、愛にも銃を収めるように指示する。
「そのままこの部屋を出て、非常階段を使って一階まで降りる事。車で乗り込むまで両手を頭の上に組んで歩く事。」
「そこまで指示するわけ?」
「途中で変な気ぃ起こされても困るけん。アンタらが道重さんのお家に帰るまで仲間が見張らせてもらうけんね」
「……そこまでお見通しなんだ」
自分達のアジトが知られていることに驚きながら、“アテナ”は自嘲気味に笑う。
「だから、所詮アンタらはこっちの手の中で踊ってるだけなんやって。新垣里沙さんと高橋愛さん?」
“黒猫”はあえて相対する敵の本名を口にして、更なるプレッシャーを与えた。
「この借りはいつか返すから」
「こっちも絵里を怖がらせた借りは返させてもらうっちゃん。」
静かな口調の宣戦布告に反して、れいなは力強く絵里を抱き寄せた。
「……帰るよ」
「ぁぃ……」
素早く身を翻して部屋を出ていく“アテナ”に小さな声で返事をしてその後を追う相棒。
2人の背中が見えなくなってすぐ、部屋のドアが閉まる音が静かな室内に響いた。
れいなは“アテナ”とその相棒の気配が消えた事を確認した後、傍らで小さく震えてる絵里の泣き顔を覗き込む。
「絵里…ケガとかしとらんと?」
絵里が初めてれいなと会った時の夜と同じ声と言葉にまた絵里の目に涙が溢れる。
- 150 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/10/11(日) 00:07
- 「だっ、大丈夫だけど……怖かったよぅ」
「もう大丈夫やけん…泣きやみぃ」
そう言ってれいなは優しく絵里の頭を撫でた。
絵里はまたれいなの身体にしっかりと腕をまわして固く抱きついた。
そのままの態勢で絵里はれいなに伝えたかった想いをポツリと口にする。
「絵里ね……決めたの……」
「なん?」
「昨日れいなが言ってたこと…」
「ん?」
「………覚悟、決めた」
ゆっくりと顔を上げた絵里はちょっと強引に笑顔を浮かべたけれど、その笑顔にれいなは頷いた。
「またこんな怖い思いさせてしまうかもしれんけど……いや、させんようには努力するっちゃけど……それでもよかと?」
絵里も静かに頷いた。
れいなは落ち着きを取り戻した絵里の涙を指で少し乱暴に拭ってから白い歯を見せて笑った。
「よし!んじゃ絵里に良いもん見しちゃるけん」
そう言ってれいなは絵里の手を取りながら勢い良く立ち上がる。
「とりあえず、絵里に酷い事したアイツらに軽くお返ししてやるっちゃん」
絵里の手を引いてベランダに出るれいな。
ベランダの手すりから身を乗り出して、マンションの敷地に面した道路を見下ろす。
「あれ。あの黒い車がアイツらの車っちゃん」
「高そうな車だね…」
「アイツらの雇い主が金持ちやけんね…」
「へぇ…」
「もうすぐアイツらが出て来るけん。そこで軽〜く一発仕返ししちゃる」
物騒な事を言っているにも関わらず、れいなは無邪気な子供の様に目を細めて笑った。
絵里もつられて、さっきまで泣いていた事などすっかり忘れてしまっていた。
- 151 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/10/11(日) 00:08
-
「ちょっと!アタシ達の素性バレバレじゃん!」
「ほやったのぉ……」
“黒猫”が突き付けてきた条件に従って、マンションの非常階段を足早に駆け降りる里沙と愛。
「なんでバレるワケ?!」
「もしかしたら、博物館で鉢合わせた夜も“黒猫”さんの仲間が近くにおったのかもしれんの…」
「あの夜アタシ達は尾行されてたってコト?」
「そのタイミングぐらいしか考えられんやろ…」
「あー!もうっ!」
苛立つ気持ちを隠す事なく里沙は上着のポケットから車のキーを取り出した。
「とにかく!“黒猫”が次に何を仕掛けて来るかもわからないから、とりあえずここから急いで離れるわよ…」
「あ……」
愛がドアノブに手をかけたままマンションを見上げているので、里沙もその視線の先を追った。
「アイツら…」
視力の良い里沙には暗くともベランダからこちらを見下ろす“黒猫”のニヤついた顔が嫌でもはっきりと見えてしまう。
今日は完全にあの小娘に一本取られたと悔しいけれど認めよう。
だから一刻も早くこの場を立ち去りたい。
里沙はいつもよりもさらにキツい口調でぼんやりと見上げたままの愛を車内へと促す。
「愛ちゃん!あんなのに構ってないで、早く行くよ!」
しかし愛は視線を動かす事なく、“黒猫”の方を指差す。
「ほやって…あれ…」
「なに?なんなのよ…」
里沙がもう一度見上げるとニヤついた表情のまま親指を立てて人差し指をこちらに向けている“黒猫”。
「銃がアタシ達を狙ってるって言いたいワケ……完全に舐められてるわね…」
“黒猫”の口が動いて銃を撃った仕草を里沙の鋭い視線が捕えたその時、里沙と愛の頭上で派手な破壊音がした。
「う゛お゛お゛ぉっ!」
「愛ちゃん伏せて!」
素早く車体に身を隠した2人の周囲が急に暗くなり、近くで細かい何かが降り注ぐ耳障りな音。
「街灯が…割れた…」
「超能力やよ!」
「違うから!!」
ドエライ勘違いをして驚いている愛にツッコミをひとつ入れてもう一度“黒猫”を見上げた。
“黒猫”の“銃口”はまだこちらを向いている。
「…まだ“銃弾”は残ってるってワケね…」
里沙は小さく舌打ちをしてから運転席に乗り込む。
愛も一瞬遅れて助手席に身体を滑り込ませた。
里沙は助手席のドアが閉まる音と同時にアクセルをめいいっぱい踏み込んだ。
「飛ばすからね!しっかり掴まってなさいよ!」
「おう!」
夜の住宅街に似つかわしくない激しいスキール音を響かせ黒い車が走り出す。
- 152 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/10/11(日) 00:10
-
「…行っちゃったね…」
「アイツらバリびびっとったっちゃん!」
“アテナ”とその相棒が乗った車がベランダから見えなくなった所でれいなは隣で身を寄せてくる絵里の肩に腕を回してケラケラと笑う。
「ねぇ、れーな…どうやってあの街灯を割ったの?」
「それは企業秘密っと……で、アイツらの気が変わらん内に逃げるとしますか…」
れいなはそう言ってのんびり背筋を伸ばした。
「逃げるの?」
「絵里もね」
「ふぇ?絵里も?」
「そりゃそうやろ…やって、またあんな物騒な奴らが来たら困るやろ?」
「やだやだやだ!絵里すっごい恐かったんだもん!もうあの人達には会いたくないよぅ〜」
「いや、まぁ…れいなも会いたくないっちゃけど…」
「え〜…でもさぁ…逃げるって言ったって、どこに逃げんのさ?」
「んー…れいなの実家?みたいな?」
「あれ?だってれーな家出中だよね?え、なに?実家?みたいな?」
「んもぅ!その辺は移動しながら説明するけん!とりあえず荷造りするったい」
ひとりで悩む絵里の背中を押しながら部屋の中に促すれいな。
「うぇ〜…そんな急に言われても困るよぉ〜…絵里、片付けとか苦手なんだもん!」
くるりと体を反転させてれいなの腕にしがみつく絵里。
「ぐちぐち言わんと手ぇ動かす!!」
「ってゆーか、なんでこーなっちゃうワケ?!」
「絵里の安全のため!身柄の確保っちゃん!」
「うぇ〜あやしいよぅ!絶対あやしいってば!」
ジタバタ駄々をこねる絵里にれいなは小さくため息を吐いてから絵里の肩にそっと手を添えた。
そして、絵里の目をまっすぐ見つめて努めて優しい声でなだめる。
「絵里……」
れいなの様子の変化に言葉を失う絵里。
*
「ちょっ………れーな?」
「今ここでは詳しく言えんけど…絵里のためやけん……不安かもしれんけど、大丈夫やけん…」
「…………本当に?」
そんな念押しされなくても絵里はれいなを信じていた。
疑っているわけどはない。
れいなのまっすぐな瞳のもう少し向こう側を見てみたいという無意識が絵里にそう言わせたのだった。
それに気付いているのか無意識に感じ取ったのか、れいなはふっと緊張を解く。
「信じてほしいと。それに…絵里、言ってくれたやん」
「ん?」
「覚悟決めたって」
「………ぅん…言った…」
れいなに掴まれてる肩が熱いし顔も熱くて、頬が赤く染まってしまっている事を自覚する。
恥ずかしくて下を向いてしまったけれど、れいなの視線が追い掛けてくるのが肌の感覚でわかる。
「なぁ絵里……顔上げて?」
「………ゃだぁ」
うつむいたまま横を向く絵里の頬がそっと包まれた。
下から唇を奪われる。
そっと優しく触れるだけのキス。
頬に添えられた手のひらがそのまま絵里の顎のラインを辿って首筋を撫でた。
直接感じるれいなの柔らかい体温が心地好くて無意識の内にれいなの頭に腕をまわす。
同じ様にれいなも絵里の長い髪に指を差し入れて、ゼロの距離をさらに縮める。
ふたりの唇が交差してお互いの唇を食む。
ふたりの唇の間で小さく濡れた音が鳴ってキスが解かれた。
「…っ……れーな……」
「説明もこの続きもここ出てからな?」
「ん……もぉ〜……」
諭すようなれいなの口振りに、まだ物足りないと感じた事を見透かされた様な気分なった絵里はますます頬を紅潮させた。
「れいなも荷造り手伝っちゃるけん」
ニヒヒと前歯を見せて目を細めるれいなに、絵里も肩の力が抜けて八重歯を見せて笑った。
- 153 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/10/11(日) 00:11
-
「あ…絵里、その前にいっこだけ」
「何?」
「八重歯んトコにネギが挟まっとー」
「うぇぇぇぇえええええええええっ??!!」
- 154 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/10/11(日) 00:12
-
从*´ ヮ`)<続くっちゃん
- 155 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/10/11(日) 00:12
-
ノノ*^ー^)<さっきのバーンってヤツ。あれって超能力?
从;´ ヮ`)<違うけん…
从*・ 。.・)<さゆみのかわいさは超常現象並み
- 156 名前:“黒猫”と亀 投稿日:2009/10/11(日) 00:14
- >>144聖サマ
ハッピーバースデー!!
なのに短い更新でごめんちゃいw
絡みに関してはお好みに添えれるよう善処させていただきまっす!
>>145みゃー017サマ
貴方様も変態紳士でしたかwww
意外なところで同志に巡り会えて嬉しゅうございますwww
この際だから白状しちゃいますけどさゆみ婦警を最初に書いたの自分ですwww
ここにきてやっと話が少し進んだ感じですねw 亀展開ホント申し訳ない…orz
- 157 名前:みゃー017 投稿日:2009/10/11(日) 08:53
- 最後に何というオチwww
一緒に移動して、行き先であーんな事やこーんな事を期待しちゃって良いのかな?w
もしくは我慢できずに移動中にry
>さゆみ婦警を最初に書いたの自分ですwww
マジですかwwあれには色々とお世話になりました←
最近は作者が増え、残念ながら♂化される様になったので全然読んでないですがOrz
私事ですが、最近自分も何か一つ書こうかと思ってストーリーを考えてるのですが、
中々思いつかないものですねw キャラ設定はある程度出来たものの、肝心なネタが・・・;
- 158 名前:みゃー017 投稿日:2009/11/11(水) 08:50
- リo´ゥ`リ 今日は更新期待しちゃって良いの☆カナ?w
れいな20歳おめでとう♪これからも話のネタになるキャラで居続けて下さ(ry
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