雨音
- 1 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/15(木) 17:56
- 初めて小説書きます。
よろしくお願いします。
- 2 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/15(木) 17:59
- 朝、目が覚めると部屋が薄暗い。
ベットから起きて、カーテンを少し開けて外を見る。
「雨か…」
一週間続いた仕事が昨日でようかく終わり、疲れが出たのか。
なんだか少し身体がダルい。
雨の日は嫌いだ。嫌でも彼女を思い出してしまうから。
彼女と過ごしたあの満ち足りた日々を。
- 3 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/15(木) 18:00
- 「もう二年か…。」
忘れたと思ってたのに、目を閉じると驚くほど鮮明に蘇
る。
彼女の優しく笑う顔が好きだったんだ。なのにあたしは
泣かせてばかりだった。
シャワーを浴びてもう一度外を見る。
雨は少し弱くなっていた。
- 4 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/15(木) 18:00
-
______________________________
- 5 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/15(木) 18:02
- 「吉澤さん!バイト入ってください!」
休みの日を見計らったかの様に人んちに来て、
玄関を開けた途端いきなり腕を引っ張る人間一人。
「…は!?ちょっ、ちょっと待て。」
「なんですかぁ?」
玄関から出てこないあたしに、
心底不思議そうに聞く後輩。
「なんですかじゃねぇよ。いきなり!こっちこそなんですか!?」
「なんで敬語なんですか?吉澤さん。それより行きますよ!早くー!」
「やだ!てかなんで?。」
「中澤さんが急に今日の夜うちの店貸し切ってパーティーやりたいって言い出して
人手不足なんです!それに約束したじゃないですかー」
「なんであたし?てか約束なんかしてねぇじゃん…」
「しました!」
「してない」
「した!」
「してねぇよ!あほ」
「したじゃないですかー先週!
それに吉澤さんつれてかないとあたしが
怒られちゃうじゃないですか。」
「先週…?」
- 6 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/15(木) 18:03
-
思い出した。
確か先週バイトの休憩中にマコトのお気に入りのサングラスを踏んで壊したんだ…
そんでこいつがいつまでもビービー泣いてっから…
「お詫びになんでも言うこと聞いてやる!」
って約束したんだ…
「ね?だから吉澤さんに拒否権ありませんから!」
「…それはわかった。でもなんでウチなんだよ。一週間ぶりの休みだぞ?
カンベンしてくれよ…それに中澤さん苦手なんだよ、知ってんじゃん」
「だってさっきわざわざ店に来て…吉澤だけは絶対連れてこい!って…
めちゃくちゃ恐い顔で言うんですよ?…お願いしますよ〜…」
中澤さんはあたしが働いているバーの常連さんで、
なんとかってデカイ会社の理事をやってるらしい。
悪い人じゃないんだけど、あたしを見る目つきが恐いというか…
こないだなんかいきなりキスされそうになったしなぁ…。
でも約束したし、涙目でお願いしてくる後輩が少し可哀相になってきて、
結局あたしは行く事にした。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/16(金) 00:09
- 続きが気になりますねぇ。
頑張ってください。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/16(金) 00:15
- しょっぱなから出てきた3人とも自分のツボです。
続きを楽しみにしてますね。
- 9 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/16(金) 22:05
- >>7
ありがとうございます。
頑張ります!
>>8
作者的にも気に入ってるメンバーです!
更新します。
- 10 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/16(金) 22:05
- あたしの働く店は日本酒を多く取り揃えたダイニングバー。
店長の趣味で全国から、いろんな種類のお酒を集めている。
あたしはここで二年前から働いている。
地元を離れてフラフラしていたあたしを、ここの店長の
安倍さんが拾ってくれた。
安倍さんはお酒の下見で全国を飛び回ってるからあまり店に顔を出さない。
その代わりに、最近は店長代理を努めることも少なくない。
「まこと!ちょっと買い出し行ってきて」
「はーい。あっ安倍さん!お疲れ様でーす!」
「お疲れ様ー。マコト気をつけるんだよー?」
- 11 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/16(金) 22:06
- 「よっちゃん!ごめんね?せっかくの休みだったのに…
キツイっしょ?早めに上がっていいかんね?」
「安倍さん!こっち戻って来てたんすか?てか全然大丈夫ですよ。
休みっていってもどーせヒマしてましたから。」
「でもあんまり顔色良くないべ?
なっちも今日は早めにこっちに来るようにするから」
「ほんと気にしないで下さい。マコトもいるし、キツかったらちゃんと
休みますから。」
安倍さんは心配そうにもう一度うちの顔を覗き込んでから、
申し訳なさそうに店を出て行った。
安倍さんにはあぁ言ったけど、さすがに少し身体がダルイ…
店はマコトと他のバイトに任せて開店の時間まで
少し仮眠を取らせてもらう事にした。
- 12 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/16(金) 22:06
- ――ひとみちゃんはいっつも無理し過ぎだよ?
もっと自分を大事にしなきゃ…――
こんなときまで彼女の言葉を思い出すなんて。
やっぱり雨の日は嫌いだ。
- 13 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/16(金) 22:07
- 「…しざわ…さ…吉…澤さん…」
「…吉澤さん!?どうしたんですか!?大丈夫ですか?」
「ん…?…マコトか…うるせぇよ…あほ」
「えー??なんですか!うなされてから心配したのにー!
もう!開店するんで起きて下さいよ?」
マコトを適当にあしらって時計を見ると、
開店時間ギリギリだった。
「はぁ、やな夢見た…頭いてぇ…」
- 14 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/16(金) 22:07
-
ホールに出ると中澤が丁度入ってきたところだった。
「よっさん!おぉ、いつ見ても綺麗な顔やなぁ」
「いらっしゃいませ。お待ちしてました。」
「今日は急に言うてすまんかったなぁ。実はあたし転勤が決まってなぁ、
来週にはアメリカに行くことになってん。行く前にあんたに
会いたくてなぁ。」
「そうなんですか!?じゃあしばらくはアメリカに?」
「そやねん。寂しいやろうけど、とりあえず今日はお祝いしてなぁ!」
「は、はぁ。」
勢いよくあたしに話しかけ、中澤さんはすぐにほかの出席者の方に
挨拶をしてまわっていた。
いつもとは違い過ぎる彼女の背中を見ながら
やっぱり仕事の出来る人なんだろうなと思った。
- 15 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/16(金) 22:08
-
それから2時間、パーティーは思っていたよりも長引いていた。
「吉澤さん、大丈夫ですか?なんか顔色悪いですよ?」
「大丈夫だよ、ちょっと眠いだけ。それよりおまえ酒のストック持って来い。」
「でもやっぱり安倍さんに来てもらいましょうよ〜…」
「いいから…行け!ほら、お客さんはウチが案内すっから。」
正直やばい…なんか頭ガンガンするし、寒い。
てか地面が揺れてねぇ?ダメだ…
「…マコトわりぃ、やっぱ…」
- 16 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/16(金) 22:08
-
「ひとみちゃん…?」
一瞬、時が止まったみたいだった。
「梨華…ちゃん…?」
振り向くと彼女の顔が見えた気がした。
そのあと、目の前は真っ暗になった。
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/17(土) 02:00
- おぉ!気になる展開ですね。
楽しみにしてます。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/17(土) 14:52
- むむっ!!いしよし!?
楽しみに読ませていただくので
頑張って下さい♪
- 19 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:37
- >>17
文才が無いので読みづらいかもしれないんですが
最後までよろしくお願いします!
>>18
おお!当たりです。
このCP好きなんです。
では更新します。
- 20 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:38
-
あたしは山口県の小さな町に済んでいた。
梨華ちゃんと出会ったのは高校二年の時だった。
友達に紹介されて知り合った。
あたしたちが出会ってから付き合うことになるまで時間はかからなかった。
梨華ちゃんは、あたしより一つ年上なのに泣き虫で。
見た目からすごく女の子で。仕草も声も。でも意外に頑固で、思い込むととことん悩むような子だった。
それから、彼女は雨が好きだった。どうして?と聞くと
「ひとみちゃんと堂々と腕を組んで歩けるからだよ?」と言った。
そう言った後、少し照れた様に優しく微笑む彼女を本当に愛おしいと思った。
そんな彼女が大好きだった。
- 21 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:38
-
付き合いはじめて1年が経った頃。ささいな事で言い合いになった。
- 22 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:38
-
「浮気してるんでしょ?いいよ…もう隠さないでよ…」
「してないって言ってんじゃん。親と喧嘩して家に帰れないって言うから泊めてやっただけだって」
「じゃあどうしてそのこと隠してたの?言ってくれればよかったじゃない!」
「隠してたんじゃないよ、言わなかっただけで…」
「同じだよ!…いつもそう…あたしには何も言ってくれないんだね、ひとみちゃんは…大っ嫌い!!」
「だから誤解だって言ってんじゃん!」
- 23 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:39
- 梨華ちゃんは泣いていた。
言い合いをするのは初めてじゃなかった。
その頃のあたし達はお互いに忙しくて、会う時間も話す時間も
圧倒的に少なくなっていて…今まで何度か、こうなることはあった。
でも…
- 24 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:39
-
「…ごめん。言い過ぎた…」
「もう別れよ?」
- 25 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:39
- 別れを切り出されたのは初めてだった。
「なんで」
「嫌いになったの…あなたを…だから…」
「……わかった」
心のどこかで思ってた。別れても、梨華ちゃんのほうから寄りを戻そうって言ってきてくれると。
どんなに喧嘩しても謝るのはいつも彼女からだったから。
口にはしなくても分かってくれてると。
根拠の無い自信ばかりあったんだ。
そんなことありえないのに。
- 26 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:40
-
彼女と別れて1ヶ月経った頃だった。彼女から連絡があった。
「大阪の大学へ行くの。」
夢から覚めたようだった。
そう言った彼女の顔はもう泣いてはいなかったから。
まるで一人でも平気だというように、笑ってた。
実際、彼女は平気だったのかもしれない。
一人が耐えられなかったのは、間違いなくあたしの方だった。
梨華ちゃんが町を出る朝、あたしは彼女を訪ねた。
「梨華ちゃん!」
「ひとみちゃん…来てくれたんだね。わざわざありがと。」
「梨華ちゃん…あの…」
「さようなら」
あたしを真っ直ぐ見て梨華ちゃんは言った。
彼女は泣きもせず、笑いもせず、ただあたしだけを見て…
「さよなら、ひとみちゃん」
あたしは何も言えなかった。
雨の中、去っていく彼女の背中を、ただ見つめるしかできなかった。
- 27 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:40
-
それからあたしは高校卒業と共に、町を出た。
一人で過ごすにはこの町には思い出がありすぎた。
ねぇ、梨華ちゃん
あたしはこんなに弱い人間だったんだね。
あなたが隣にいないだけで、こんなにも苦しいなんて
あなたがいない明日なんてこなければいいと。
そんなことを本気で思ってたんだ。
- 28 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:42
-
「…よっちゃん?」
「安倍さん…ってかここは??」
「病院。よっちゃんほんとごめん!こんなになるまで無理させて…」
あたしはパーティーの途中に倒れ、救急車で近くの病院で運ばれた。
そのあとあたしは、丸一日眠り続けたと…
原因は風邪。無理したせいで肺炎になりかけてたらしい。
- 29 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:42
- 「熱も40度近くあって下がらないっていうし、マコトは泣いてばっかでわけわかんないし…なっちびっくりしたよ〜」
40度!?…そりゃしんどいはずだ。
「でも近くにいた人が付き添ってくれたみたいでね。その人さぁ
なっちが来るまでずっとついててくれて。いいひとがいるよねぇ」
「近くにいた人…?」
「多分よっちゃんの知り合いだと思う。だってその人さぁ泣きながらひとみちゃんって何度も呼んでたし…優しい人なんだね。
ついさっきまでいたんだけど、用事があるから帰るって今…」
- 30 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:43
-
「どんな人ですか!?その人!」
必死で安部さんの腕をつかむ。
「へ?どんなって…」
「お願いします!!教えてください!!!」
確信は無かった。
でも彼女であってほしい。
「あっ、そういえば帰り際によっちゃんに無理しすぎないでほしいって伝えてくれって。
自分を大事にって…よっちゃん!?どこ行くの!?」
- 31 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:43
-
必死だった。
ただ彼女に会いたくて…
- 32 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:43
-
“泣きながらひとみちゃんって……”
“優しい人なんだね”
- 33 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:44
-
あたしは彼女の何を見てたんだろう…
彼女は一人が平気だから泣かなかったんじゃない。
泣かないかわりに笑ってたんだ。
あたしが傷つかなくていいように…
梨華ちゃんはそういう人だった。
そういう優しさで、あたしはいつも包まれてたんだ。
そういう梨華ちゃんが、好きだったんだ。
走って、走って…
どうしても彼女に伝えたかった。
三年前には、言えなかった事を、今。
- 34 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/18(日) 21:44
-
更新は以上です。
次回で完結になります。
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/19(月) 02:16
- 次で完結ですか…。
最後まで楽しみにしてますね。
頑張ってください。
- 36 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/25(日) 21:22
- >>35
完結です。読んで頂いてうれしいです。
では、最終話。
短いんですが、更新します。
- 37 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/25(日) 21:22
- 「梨華ちゃん!!」
バスに乗ろうとしていた彼女の腕を無理やりつかんで、引き寄せた。
彼女は一瞬びっくりしたようにあたしを見て
すぐに困ったような顔をした。
「…ひとみちゃん?…何してるのよぉ…」
「…ごめ…ん…はぁ、はぁ、…」
「どうして?…」
「行かないでよ…お願いだから…」
「…ひとみちゃん」
「お願い。ここにいて…」
「…やめて…もう……やめてよ…」
- 38 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/25(日) 21:23
-
彼女は泣いていた。
泣きながらつかんでいたあたしの手をそっと押し返す。
でも今度は離さない。
離したくない。
俯いたままの彼女を思い切り抱き締めた。
- 39 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/25(日) 21:23
-
「お願い……ウチのこと大嫌いでもなんでもいいから…
そのぶんウチが梨華ちゃんを好きになるから…だから、そばにいてよ…」
「…嘘に決まってるじゃない…ひとみちゃんを大嫌いだなんて
嘘に決まってるじゃん…」
「だったら…」
「自分が嫌になったの。あなたの事を疑って疑って
…信じてあげられなかった。そんな自分が許せなかったの。」
「もう一回信じてよ」
「私のこと意気地無しって言ってもいいよ?怖いの。
またあなたを信じられなくなるのが…」
- 40 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/25(日) 21:23
- 「ひとりじゃだめなんだよ!梨華ちゃんがいないと…。全然ダメ…。
好きなんだよ…これ以上ないってくらい、梨華ちゃんが。
だから、お願いだから……そばにいて…」
「…いいの?私、泣きむしだよ…?」
「知ってる」
「…嫉妬もたくさんするよ?」
「いいよ」
「お料理もお掃除も全然出来ないし…」
「うん」
「また…あなたを信じてあげられないかも…」
- 41 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/25(日) 21:24
-
「……」
何も言わないあたしに驚いたのか、彼女が身体を少し離して顔を覗き込む。
「ひとみちゃ…んっ…」
返事の変わりにキスをした。
彼女の細い身体を閉じ込めるように抱き締めて、彼女の唇にいくつもの
キスを落とす。
大丈夫だよ、梨華ちゃん。
もうあなたを離したりしないから。
あたしはもう、あなたなしでは生きていけそうもない。
だから…。
あなたのいない三年間を埋めるように、夢中であなたにキスをした。
- 42 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/25(日) 21:25
-
完結です。
ありがとうございました。
- 43 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/25(日) 21:35
- 完結お疲れさまです。
ところで、これ以上はもう書かれないのでしょうか?
ここは幻板だし、容量も500kb中まだ15kbしか使ってないですよ。
スレを立てた以上、できれば使いきってほしいのですが…
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/25(日) 21:39
- いしよしでじゃんじゃん書いてくださいよ
- 45 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/25(日) 21:53
- >>43
書きます!
紛らわしいことを書いてしまってすみません。
全然続けるつもりでいますので、
これからもよろしくお願いします。
>>44
じゃんじゃん更新できるように頑張ります。
よろしくお願いします。
- 46 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/26(月) 00:38
- ラブジェネ?
- 47 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/26(月) 01:40
- 作者さん頑張れ!
いしよし大好きですよ。
- 48 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/26(月) 22:29
- 短編を書きます。
- 49 名前:まいちんの秘密 投稿日:2008/05/26(月) 22:29
-
今日は朝からガッタスのイベントで、私たちは帰りの新幹線の中にいた。
ガッタスメンバーはみんな疲れきって寝ている人がほとんどで
あたしの隣に座る美貴も、すっかり眠りに入っているようだった。
通路を挟んだそのとなりの座席には、よしこと梨華ちゃんが座っていたが
彼女たちも目を閉じていた。
なんでもない、いつも通りの風景だった。
そう、いつもと変わらない
- 50 名前:まいちんの秘密 投稿日:2008/05/26(月) 22:29
-
しばらくして、あたしがトイレから帰ってくる途中
座席のほうに目をやると、信じられない光景が目に飛び込んできた。
よしこが梨華ちゃんにキスをしてた。
よしこは二人の間を隔てていた肘掛を押し上げ、
彼女の首すじ、頬、目元へと何度も何度もキスの雨を降らせていた。
私ははじめ、梨華ちゃんは全くの無表情だと思っていたが、
すぐに、口元に小さく秘密めいた微笑が浮かんでいるのに気付いた。
- 51 名前:まいちんの秘密 投稿日:2008/05/26(月) 22:30
-
彼女はヘッドレストに頭をもたれかけ、目を閉じていた。
よしこは完全に彼女の方へかがみこむような姿勢になって、
彼女のジャケットを押し広げてお腹と腰にかけて手を這わせ、
もう一方の手は肘を曲げて彼女の肩から髪の中に差し入れていた。
二人のキスはいつ終わるともしれないものだった。
ゆっくりとして柔らかく控えめだけれどそれでいて官能的なキスが彼女の額、首のつけ根、まぶたへと落とされていく。
甘くほれぼれするほど美しく、厳かで愛に満ち溢れた光景だった。
- 52 名前:まいちんの秘密 投稿日:2008/05/26(月) 22:30
-
私が席に戻ってきたことに二人が気付いていないことは分かっていた。
でもここは新幹線の中。誰が見ているかわからない。
物音でも立てて気付かせるべきだと頭では分かっていた。
でも、私は彼女たちから目を離すことができないでいた。
- 53 名前:まいちんの秘密 投稿日:2008/05/26(月) 22:30
-
よしこは彼女の頬骨から徐々に移動して
彼女の口元のすぐそばまでキスを進めていた。本当に近くまで。
すると、彼女が顔を動かす、ほんの少し。
よしこの唇が彼女の唇をかすめる。
よしこは静かに息をしながら、名残惜しげに彼女の口の端に
自分の唇を寄せていた。
よしこは待っているのだろう。
彼女がよしこを受け入れるのを。
- 54 名前:まいちんの秘密 投稿日:2008/05/26(月) 22:31
-
しかし、彼女はそうはしなかった。
瞳を開けて、彼女は腕を持ち上げてよしこの顔を押しやった。
「よっ、ちゃん・・・」
彼女の拒絶を受けて、よしこがうつむいて肩を落とす。
「ごめん・・・」
彼女はよしこの言葉をさえぎり、首を振って親指でその薄い下唇に触れた。
彼女の表情は真剣なものに変わっていた。
「よっちゃん・・・」
よしこを呼ぶ彼女の声はまるでよしこを抱きしめるようなものだった。
聞き耳をたてていなければ聞えないくらいの小さな囁き声。
- 55 名前:まいちんの秘密 投稿日:2008/05/26(月) 22:31
-
よしこは緊張を解いて彼女の方に身を寄せ、彼女の額に自分の額をつける。
よしこの掌が彼女のお腹で円を描くように動く。
彼女はよしこの顔に触れていた手を下ろし、よしこの手を覆う。
しばらく、彼女はよしこの指をもてあそんでいた。
そして、おずおずと云ってもいいような調子でそっと口にした。
「私・・よっちゃんのこと好きだよ。」
驚きでよしこの身体全体が震える。
- 56 名前:まいちんの秘密 投稿日:2008/05/26(月) 22:32
- よしこは顔を上げた。
彼女のお腹に置いた手は見て分かるほどに震えていた。
その手で彼女の腰をぐっと抱きしめると、
彼女の瞳を覗き込んで、のどをひくつかせる他はまったく
動かなくなってしまった。
彼女はよしこのこんな激しい反応にまったく驚いていないように見えた。
「梨華、ちゃん…」
かすれた声で言うと、彼女の身体を押し潰さんばかりに抱え込み、
顎の下に彼女の頭を押し付け、きつく抱きしめた。
それから、彼女の耳元で返事をする。
「ウチも、好きだよ…もう…ずっと…好きだったんだ」
自分の顔を彼女の髪にこすりつけながら続けた。
「好きだよ…」
何度も何度もそう繰り返しながら、彼女の背中を自分の手で上下に擦る。
そしてよしこは両手で彼女の身体全体を自分の身体にぴったり抱え込んだ。
- 57 名前:まいちんの秘密 投稿日:2008/05/26(月) 22:32
-
彼女が身体を捩らせたので、よしこはほんの少し彼女を抱く手をゆるめて彼女が身を引く余地を作った。
でも、逆に、彼女はよしこの唇を追う・・・
すぐにキスが始まった。
―――深く、お互いを味わいつくすようなキス―――
何度も何度も繰り返される。
永遠とも思えるキスの後、ようやくよしこが
のどの奥から必死で押さえこむようなうめき声を上げて、唇を離した。
座席にまっすぐ座り直し、目を固く閉じる。
- 58 名前:まいちんの秘密 投稿日:2008/05/26(月) 22:32
-
梨華ちゃんの方を見やると、彼女は顔を伏せていた。
けれども、彼女の顔に笑みが浮かんでいるのが分かった。
私の目の前で、よしこが彼女の手を取りその指に唇を寄せた。
目は閉じたまま軽く握った手の甲に素早く2回口付け、
それから手を離した。
そしてため息をついて、彼女の身体を少し動かして
彼女のウエストに腕をまわした。
自分の胸に彼女が寄りかかるように抱きしめて、よしこは顔を下げて彼女の頬に自分の頬をつける。
「ありがと…」
よしこは彼女の髪に顔を埋めた。
幸せそうに笑う二人を見て、あたしはなんだか
あったかい気持ちだった。
- 59 名前:まいちんの秘密 投稿日:2008/05/26(月) 22:33
-
「……んで?まいちんはなんでそんなにニヤニヤしてんの?」
「なんでもないよ。てか美貴起きてたの?」
「んにゃ。今起きた。」
「そっか。もうすぐ着くよ」
「うん。…で、なんで笑ってんの?」
「ないしょ。」
「はぁ?なにそれ。意味わかんないから、まいちん」
美貴はそれから何度か聞いてきたけど、何も言わずにニヤける
あたしに呆れたようにため息をつき、諦めたようだった。
別に美貴になら言ってもいいんだろうけど、なぜだかあたしは
今さっき見た光景をだれにも言いたくはなかった。
ひとりじめしていたかった。
どうしてこんなにも穏やかな気分なのか。
それはわからなかったけど、それでよかった。
- 60 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/26(月) 22:33
-
更新しました。
- 61 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/27(火) 00:15
- よい!
- 62 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/27(火) 01:00
- いしよし大好きです。
二人以外の視点も楽しかったです。
- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/27(火) 02:01
- リアルに妄想しちまった!
凄く良かったですよ。Thanks♪
- 64 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/27(火) 15:10
- >>61
どうもです!
>>62
作者も大好きです。
>>63
ありがとうございます。
こんな駄文ですが、読んで頂いて本当にうれしいです。
次も短めですが、更新します。
- 65 名前:距離 投稿日:2008/05/27(火) 15:10
-
シャワーを浴び、髪をタオルで拭きながらリビングへのドアを開けたとき、ちょうど鳴りだした携帯に梨華は慌ててでる。
「もしもし」
「いっそ死ねと言ってほしい。」
恋人のぐったりしたその声に、梨華は小さな笑みをもらした。
「笑い事じゃないよ」
「あのね?ひとみちゃんの今の辛い辛い状況は昨日の電話でも一昨日の電話でも聞かせてもらったよ。だから十分にわかっているつもり」
「お礼でも言おうか?理解ある恋人に。」
「けっこうです」
ふてくされるようなひとみに梨華はあえて素っ気なく答えると、
不満そうな声が返ってくる。
- 66 名前:距離 投稿日:2008/05/27(火) 15:11
-
同じ会社に勤めていたひとみと梨華。
だがカレンダーを最後の1枚へとめくった頃、
ひとみは研修の為、東京からNYへと出張となった。
「今はもう部屋?」
「いや、明日の準備でまだ・・。」
「そう・・。大変だね。」
確か昨日も一昨日も仕事場からホテルの部屋に戻ったのは
夜中の0時を過ぎていたはず。
梨華はそんなひとみの様子を思い、小さく溜め息をつく。
「確かに大変だねぇ。」
NYへ行って1週間を経過した頃から明らかに疲労の色が伺えるようになった
ひとみの声と今日のこの言葉に梨華の心配は更にその色濃さを増した。
「きちんと食事はとってる?」
「適当にね。」
「“きちんと”って聞いたの。」
「・・・。」
- 67 名前:距離 投稿日:2008/05/27(火) 15:11
- 即座に切り込む梨華の耳にひとみの小さな笑い声が届く。
「なぁに?」
その笑いの意味を梨華が問いかけると、短い沈黙の後ひとみは呟くように
言った。
「いや・・梨華ちゃんだなと思ってさ」
「どういう意味?」
「会いたいっていう意味だよ。」
「・・え?」
「もう2週間以上も会ってない。」
戯けた口調から囁くようなトーンに変わったひとみのその声に梨華の胸は
トクンと鳴った。
――― 私も会いたいよ。すぐにでも・・・
- 68 名前:距離 投稿日:2008/05/27(火) 15:11
-
「・・・。」
「梨華ちゃんは?」
「え?」
「・・・梨華ちゃんは?」
その意味をはぐらかしていることを知っているようにひとみは同じ言葉を
繰り返す。
「・・仕事だもん。しょうがないよ。」
心の中とは裏腹の答えが口をつく。
「なるほど。・・・言ってもしょうがないことだしね。」
ひとみの声に棘が混じった。
――― まただ。
梨華は心の中でため息をつく。
数日前からひとみの疲労の色が濃くなってきているせいなのか、
それとも“会いたい”という素直な気持ちを口に出来ない自分への苛立ちから
なのか、互いの言葉に小さな棘が混じることが増えている。
- 69 名前:距離 投稿日:2008/05/27(火) 15:12
-
今日は梨華がその棘を少しでも抜くように話を逸らす。
「あと1週間もすれば私もそっちに行くんだから。」
クリスマス休暇も取れそうにないひとみの元へ梨華はクリスマス当日に会い
に行く。
「楽しみに・・してるんだよ?」
会いたいと素直に言葉に出来ない性格の梨華の精一杯の言葉だった。
するとしばらく間があり、受話器の向こうからシャ・・とカーテンをあける音
がする。
「クリスマスのイルミネーションがきれいだよ。
ここからも街の飾りがよく見える。」
梨華のその性格を十分に理解しているひとみは声色を戻し、優しく答えた。
「NYだもんね」
「うん」
「5番街とかはもう歩いたの?」
「移動中に見かけたくらいかなぁ。」
「ロックフェラーセンターのツリーも?」
「テレビのニュースでいつも見てる。」
実際にはまだ見ていないというひとみの答えに梨華は笑った。
「残念だね、せっかくこの時期のNYなのに。」
「1週間後に楽しみにとっておくよ。」
「・・そうだね。」
「明日と明後日はちょっと時間が取れそうにないんだ。3日後に電話する。」
「・・・わかった。大変だと思うけど、頑張ってね。」
「それじゃ。」
「うん・・」
- 70 名前:距離 投稿日:2008/05/27(火) 15:12
- 梨華が静かに答えるとプツっという音の後、ツーツーと機械音が受話器から
届き、小さな溜め息と共に受話器をおろす。
そしてカーテンをあけ、梨華は窓から空間にとけ込むような満天の星空を見
上げた。
ひとみちゃんも今頃、同じ星空を眺めてるのかなぁ。
それともそんな時間もなく、また仕事に戻っちゃったかな。
――― 寂しい、今すぐにでも会いたいと口にしたら、
一体どんな気持ちになるのだろう。
素直に胸の内を言葉に出すと言うことの難しさに梨華は大きく息を吐くと、
同じ空の下にいるひとみを想い、また星空を見上げたのだった。
- 71 名前:距離 投稿日:2008/05/27(火) 15:12
-
「吉澤さん!」
携帯の電源を切った直後ひとみは自分を呼ぶ声に振り返った。
「そろそろ・・・」
「あぁ、はい。」
ひとみは自分を会議室へと促す声にげんなりとした気持ちがすぐにわき上がってくるのだが、先ほどの“頑張って”という梨華の言葉を胸に思い、小さく頷くとデスクの上に散乱していた書類を無造作にまとめ上げ、部屋の電気を消しドアをしめた。
すると、廊下の窓のむこう側に広がるきれいな星空が目に飛び込んできた。
東京で見る星とさして差がないように思えるのは、先ほど聞いた梨華の声のおかげか・・
そんなことを思いながらひとみは会議室へと向かう足をとめ、その満天の星空を見上げた。
――― あと1週間か。
心の中でそんなことを呟いた。
- 72 名前:距離 投稿日:2008/05/27(火) 15:13
- 12月いっぱい、こちらでの仕事をするようにと上司の平家から連絡が入ったときに、せめて一度くらいは東京へと戻してくれるように電話で抗議をしたのだが、普段の行いからなのか、にべもなくその願いは却下となった。
(平家さんのやつ、自分がいないときになんだかんだと梨華ちゃんをこき使うつもりじゃないだろうな。)
そんな邪推さえも生まれてくる。だが、そうそう上司に逆らってばかりもいられない。
しかもこれは真っ当な職務であり、ひとみもそれに逆らえないことはよくわかっていた。
どうにか仕事のスケジュールを立て、クリスマスにあわせて3日間の休みをとった。
梨華と過ごすNYでの3日間を心の糧としている自分。
しかしその時間がやっとあと1週間というところに迫ったというのに
“会いたい”というたった一言を求めてしまう自分の想い。
そしてそんな気持ちをもてあましてしまう自分。
――― いい大人が・・・。
- 73 名前:距離 投稿日:2008/05/27(火) 15:13
-
そんな言葉を心で呟きながらも、やはり梨華を想いその星空を見つめていると、
「吉澤さんのお部屋からでは見えないですもんね。」
最近聞き慣れてきた声が耳に飛び込んできた。
少し驚いたように視線を右に移すと、こちらについてから何かと一緒に仕事をすることの多かった女性が書類をもって近づいてくる。
「?」
「この建物。北側と南側では全然景色が違うんです。吉澤さんのお部屋の方は街側なのでイルミネーションであまり空とかには気がつけないですけど、北側はまったく邪魔になる物はなくて・・。星がきれいに見えるんです。」
「・・それで。どうりで今まで気がつかないはずだ。」
「きれいですよね、星。」
そう言うとその女性もひとみの隣に立ち、星空を見上げる。
「うん・・。」
「・・・吉澤さん!」
「あぁ!悪い。」
会議室のドアから体半分出して自分を呼ぶ声にひとみは我に返ると、
その女性に笑顔をみせ慌てて会議室へと向かっていった。
その女性が送る視線の温度に気づくことなく・・・。
- 74 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/27(火) 15:14
-
とりあえず更新です。
- 75 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/27(火) 22:33
- 深読みし甲斐のある設定ですね
- 76 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/28(水) 00:32
- これもまた面白そうですね。
楽しみにしてます。
- 77 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/28(水) 01:22
- 前回とはガラリと変わって大人ないしよし
楽しみです。更新お疲れ様です。
- 78 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/29(木) 19:06
- >>75
あまり細かい設定を決めずに書き始めてしまったので
わかりにくい所も多々あると思いますが、最後までよろしくお願いします。
>>76
読んでいただいてうれしいです。
頑張ります。
>>77
一応年齢は25歳くらいな、大人な感じで。
皆さんの意見が聞けてうれしいです。
おかしなところなど、あればどんどん言って頂けると光栄です。
では更新します。
- 79 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:06
-
ひとみの言葉通り、次の日も、そしてその次の日も
ひとみからの電話はなかった。
当然ではあるものの、梨華はますます寂しさを募らせていた。
しかし、いい大人が恋人に会えない2週間という時間に
悲しんでいるなんてと自分で自分に言い聞かせ、
その思いを全て仕事にぶつけることで紛らわせていた。
あわただしい時間が刻々と過ぎていく。
その時間の早さはひとみに会える日の近道と思い、梨華はその日を
待ち望みながらこの3日間を過ごしたのだった。
- 80 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:07
-
「・・ふぅ。」
梨華は人がまばらな会社のカフェで熱いコーヒーを一口飲むと、
大きく息を吐いた。
忙しい時間も一区切り付き、遅めの昼食にありつけた午後3時。
ブラックのコーヒーは疲れた体にほどよく行き渡り、
カフェインの刺激が適度に体に心地よい。
明後日にはNY行きの飛行機に乗る。
そして今日はひとみから電話も入るだろう。
そんなことを思うと、梨華はそっと携帯の電源を確認した。
こんな昼間から電話が入るわけもないのに・・と思いながらも
今日3度目となる同じ行為に梨華はそっと俯き
自嘲するような笑みを唇にのせた。
- 81 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:07
-
その時「今頃お昼?」という声と共に、
同じ課の後藤真希が自分のテーブルの目の前に座った。
一人でゆったりと過ごしたいという気持ちもあったのだが
彼女の普段の愛想の良さに癒される部分がある梨華は笑顔で
「そうなの。」と頷いた。
「わたしも今日は立て込んじゃって、やっとだよ」
「そう」
「クリスマスの休暇は絶対に確保したいから、しょうがないんだけどね」
「そうだね。」
「梨華ちゃんも休暇予定有り?」
「うん。」
元気にベーグルサンドを食べ出した真希に
梨華は小さな笑顔を返す。
- 82 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:07
-
「そう言えば・・よしこ、最近見かけないよね?」
ふと気がついたように真希は屈託なく梨華に聞く。
「長期出張よ。」
「あ、そーいえばだね。NYだよね?」
「うん・・。」
真希がその行き先まで知っていることに梨華が不思議そうな顔をすると、
その表情を察知した彼女は一口、冷たいミルクを飲むとごくっと
ベーグルサンドを飲み込んで笑顔をみせる。
「市井ちゃんも一緒だから。」
「あ、それで・・。」
市井とは真希の恋人で、ひとみの先輩にあたる人物だ。
「このクリスマスの時期に長期出張なんてぶつぶつ言っていたけど、
明日帰ってくるの。それでこの前の電話でよしこは1週間延期に
なったって話がでて、その時初めて一緒なんだって知ったんだけど。」
「そう。」
「気に入られちゃったみたいよ。あっちで。」
「ひとみちゃんが?」
「うん。」
真希はサラダを頬張りながら頷いた。
- 83 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:08
-
「ほら、よしこって普段は別として仕事に関しては優秀じゃん?
それであっちのなんとかっていう偉い人がすごくよしこを気に入って、
どうにか延長をって平家さんに嘆願したって話だよ。」
「そうなんだ。知らなかった。」
「そうだよね、こっちにはそんな事情は伝わってこないし、
よしこ自身だって・・知らないと思うし。」
「そっか。」
「でも、よしこを気に入ったのはそこのお偉いさんだけじゃないみたい。」
「え?」
「向こうの職場はさ、比較的女性は年配の人が多いんだって。」
「うん・・?」
「でもそこに一人だけ若い女がいて、その人が
よしこにあっという間にお熱あげたって話だよ。」
「ひとみちゃんに?」
梨華は自分の感情が顔に出ない事を祈りつつ抑揚のない声で問いかけた。
- 84 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:08
-
「よしこあちらでもけっこう友好的らしくて、
大勢で飲みに行ったりしたこともあるみたいだよ。
その時もその人がけっこうな勢いでアプローチかけてたって。
ま、市井ちゃんの話だから多少大げさなところも
あるかもしれないんだけど。」
必死の笑顔を作った梨華に、真希は100%気づくことなく
そう言って小さく肩をすくめて見せたのだった。
- 85 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:08
-
――― 若い女?大勢で飲みに行った?
そんなこと聞いていないっっ!
梨華は午後から何度も押さえ込んだはずの怒りがまた胸の内で
沸々とわき上がってくるのを感じ、乱暴に自分のマンションのドアを開けた。
そしてバンっと音をたてるように閉めると、いらついている自分を押さえ込も
うと大きく息を吐く。
疲れた体を堅いスーツから解放するため寝室に入ると、
NY準備のために並べておいた、洋服たちが目に飛び込んできた。
- 86 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:09
-
時間に追われ、食事などもしっかりとっていないだろうひとみを
心配していた自分。
予想していたよりもだいぶ気温が低いと言っていたひとみのため、
ひとみのマンションへ厚手のセーターをとりに行き、
嬉々としてそれをバッグへと詰め込んでいた自分。
やっと会えるという幸福感に包まれ、
楽しげに準備を進めていた昨日の自分の姿を思い出し、
梨華は更に苛立って来る気持ちを抑えられず、
きゅっと唇を噛んだ。
「バカみたい・・・。」
そう小さく呟いた時、電話がなった。
- 87 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:09
-
梨華ははっとその電話を見つめ、その相手が誰であるか根拠もなく確信する。
そしてその受話器へと手を伸ばすが、一瞬躊躇してまた手を戻す。
しかし鳴り続けるその電話の音に深く息をつくと、
受話器を手に取ったのだった。
「もしもし・・・」
「梨華ちゃん。」
ひとみの安堵したような声が聞こえてくる。
「・・・。」
「よかった、いないのかと思った。携帯にかけてもつながらないし・・。」
「そう。気がつかなかった。」
「・・・どうかした?」
梨華の様子にひとみが不思議そうに問いかけた。
- 88 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:09
-
「別に、どうもしないよ。」
「女の人がどうもしないなんて答えるときは、
大方、その逆であるときが多いらしいよ?」
「だいぶ女性の事に詳しいのね。」
戯けたように聞くひとみに梨華はばさりと斬りつけた。
「なんだよ。突っかかるね。」
「そんなことない。」
笑いを含むようなひとみの声が妙に耳に障る。
「そう?」
「そうよ。」
ひとみは変わることのない梨華の声のトーンにしばし押し黙ったが、
ゆっくりと言った。
「梨華ちゃん・・何かあるんでしょ。はっきり言って。」
「・・・・。」
「梨華ちゃん。」
「・・・・。」
「あのさ?目の前にいるのだったらまだしも・・電話だけなんだよ。
話してくれなくちゃわかんないって。」
ひとみのため息に混じった苛立ちが受話器の向こうから伝わってくる。
梨華はその声を聞きながら視線をNY行きのバッグへと移した。
- 89 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:10
-
「忙しいって聞いてたよ。」
「・・・時間に追われているのは確かだけど?」
「毎日、次の日の準備で忙しいって・・・。」
「うん。」
「若い女性がいるなんて話も聞いてない。」
こんな事を口にすれば後々自分が後悔することはわかっている。
「若い女性・・・?あ、確かにいるねぇ。それがどうかした?」
「その人と仕事以外でも親しいなんて知らなかった。」
それでも自分の感情が止められない。
「親しい?」
「そうだよ。」
「一体誰がそんなことを言ったの。」
「誰だっていいでしょう。
それとも誰か突き止めて今度は口止めでもするつもり?」
「梨華ちゃん・・・確かに一度、歓迎したいって誘われて
大勢で食事に出たことはあるけど、その程度の付き合いだよ。
口止めするとかそういう話じゃない。」
ひとみは梨華の不機嫌さの原因に検討がつき、心の中でため息をついた。
- 90 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:10
-
「・・・大勢でも楽しいでしょ。若い女の人がそばにいたら。」
「仕事上の付き合いじゃん。」
「今は離れているんだもの。何とでも言えるじゃない。」
梨華の気持ちをなだめようとしていたひとみも
その言葉にさすがにむっとくる。
「うちは離れていようがいまいが同じ事だと思ってるよ。」
「あなたにその気がなくても、彼女はその気かもしれないじゃない。」
「関係ないだろ!そんなこと。」
「・・・・。」
遮るようにひとみの荒いトーンに梨華は言葉をとめた。
言いたくないことを感情の赴くまま言ってしまった自分が口惜しい。
きゅっと唇をかみ梨華はそのまま押し黙る。
- 91 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:10
-
「・・・うちのこと信じられない?」
静寂を破りひとみが静かに問いかける。
「・・・そんなこと、ない。」
間をおいて梨華はようやく、しかし囁くように答えた。
「あと3日。会えるの楽しみにしてるから。」
「・・・。」
「また明日、いや・・明後日、電話する。」
「・・・わかった。」
「おやすみ。」
「・・・おやすみなさい。」
梨華が小さくそう呟くと、無機質な音を立て電話は切れたのだった。
- 92 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:11
-
「…さん…石川さん!」
「えっ!?あぁ・・なに?」
「どうかしました?」
「どうもしないよ・・。どうして?」
「なんか心ここにあらずって感じですよ。」
「そんなことないよ。」
デスクで思わず昨日のひとみとのやりとりを思い返していた梨華は
慌てて後輩の岡田の問いかけに笑顔をみせた。
- 93 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:11
- 「でも・・もうすぐクリスマス休暇ですもんね。
なんか仕事に身がはいらなくって。」
書類を棚に戻しながら今年入社した岡田は小さく肩をすくめた。
「・・なにか予定はあるの?」
「はい!」
梨華は書類に慌てて続きを書き足しながら、
何気なく問いかけると嬉しそうに答える後輩がいる。
「どんな予定?」
その様子に梨華も顔を上げ、つられるように彼女に笑顔を見せると少しはにかんだ様な微笑みを返す。
(恋人ね)
そう直感すると同時に岡田はごそごそとポケットから手帳を取り出した。
「写真見てくれます?」
「え?うん。」
差し出されたその手帳の中には明るい笑顔で幸せそうに写真に写る岡田とその恋人の写真があった。
「素敵な人だね。」
「やっぱりそう思います?」
梨華の言葉に岡田ははしゃいだ声を上げた。
その無邪気な後輩の態度に梨華も自然と気持ちが和らいで来るのを感じる。
- 94 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:11
- 「うん、そう思うよ。」
「ありがとうございます!」
「私の恋人、大阪に住んでるんです。だから・・あたしがこっちに来てから
全然会えなくて。でもクリスマスはやっと休暇がもらえて・・・
明日こっちにくるんですけど、3ヶ月ぶりなんです。」
「3ヶ月?」
「はい!」
「・・・3ヶ月も会えないなんて・・寂しいね。」
梨華がその時間の長さに驚きながら言うと、
「すごーく寂しいです。学生時代は毎日毎日会っていたから余計に寂しくって。
それに、彼、ステキでしょう?だからきっと同じ職場の女からも声をかけら
れちゃっていると思うんですよね。」
岡田はそう言って唇をとがらせた。
「・・・そうだね。心配だよね。」
「でも、そう言うところは信頼関係で補っていこうってお互いにいつも話し
てるんです。」
「それは大切な事だと思う。」
梨華は手帳をぎゅっと抱きしめて明日へと思いを馳せている後輩に曖昧な微笑みをみせた。
- 95 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:12
-
若いからなのか、それともこういう性格なのか・・
先輩である自分にこうもストレートに感情を表現する岡田を梨華はほんの少し唖然とし、そしてうらやましいと思う気持ちで見つめていたのだった。
「でもやっぱり離れていると不安なもんですよね。電話でいくら話していても
やっぱり会えないことで誤解も生まれてくることもあるし、
変な心配もしちゃうし。」
「・・・そうね。3ヶ月も会えないんだもんね。」
「はい。3ヶ月は絶対に会えないってわかってるから、
会いたいなんて簡単に言えないし。ぐっと我慢してるんです。」
明日会えることで彼への思いが募っているのか、饒舌に自分の気持ちを
話し続ける後輩に梨華はうらやましい気持ちでも見つめ続けた。
「そう。」
「会えないと電話で小さなさな衝突なんかも起きるけど、
それは会えないせいだから。会えば解消されると思って乗り越えてます。」
「会えないせいだから?」
梨華はその言葉に小さく反応した。
- 96 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:12
- 「そうです。会っていれば手もつなげるし、抱き合うことも出来るし。
言葉にしなくてもスキンシップで伝わってくる事ってたくさんあるけど、
会えないときはそれが出来ないでしょう。
だから喧嘩しちゃうときもあるんだけど、でも会った時にその喧嘩の仲直りをしようって約束をしてとりあえず休戦するんです。」
そう言うと彼女は小さくぽんっと手を叩いてみせた。
「それじゃ、実際に会えたらどっちが謝るの?」
「別にどっちも謝りませんよ。」
「だって、仲直りって・・。」
「謝罪の言葉なんてなくてもふれあう事が出来ればそれで
仲直り出来ちゃいます。」
「ふれあう事が出来れば・・・?」
「はい!それで会いたかったってたーくさん伝えるんです。言葉とここで。」
そう言うと岡田はポンポンと自分の胸を叩く。
「言葉と心?」
「え?・・えっと・・そうじゃなくて。言葉と・・・
体っていう意味だったんですけど。」
梨華の問いかけに岡田はバツが悪そうな表情をみせる。
「体?」
梨華が不思議そうに首を傾げると
「もうっっ!石川さんっ!変なところ突っ込まないでくださいよぉ〜〜。」
岡田はそう言って顔を赤くするとバンバンと梨華を叩く。
「あ・・あぁ・・そう言う意味ね。」
梨華も意味を理解すると慌てて無理矢理な笑顔をつくった。
- 97 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:13
- 「だってぇ・・向こうだってきっとそう言うのぐっとこらえているから
余計にいらだってきちゃうところもあると思うんですよね。
だから思い切り解放してあげないと。その解放をしてあげられるのは
私しかいないですから!」
「・・・・。」
はっきり言い切って得意げな表情をしてみせる後輩を梨華は
言葉を失ったようにみつめた。
「石川さん?」
「あ、ううん。明日がとっても楽しみだね。」
梨華はハッと我に返ると慌てて笑顔を見せる。
「はい!」
元気に頷いた岡田が同僚によばれて行ったのはすぐその後だった。
- 98 名前:距離 投稿日:2008/05/29(木) 19:13
-
――― 私しかいないですから!
一人、残された梨華はその言葉が頭の中に、心の中にこだまする。
“私しかいない”
梨華はそう一度呟くと、時計を確認した。
そして目の前の書類と地下室に置いてきた書類の数を頭の中で計算する。
そしてまた時計を見ると、きっと表情を引き締めて、
そこからはいつも以上に的確にそして
スピーディーに仕事をこなしていったのだった。
- 99 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/29(木) 19:14
-
少ないですが更新終了です。
次回で終わります。
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/30(金) 18:43
- イケー!梨華ちゃん!!
- 101 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/30(金) 19:49
- >>100
がんがん行きます!
更新します。
- 102 名前:距離 投稿日:2008/05/30(金) 19:50
-
「唯ちゃん!」
「石川さん。」
地下の駐車場を足早に歩いていると、
目の前に岡田が歩いているのを見つけ、梨華は声をかけた。
- 103 名前:距離 投稿日:2008/05/30(金) 19:50
- 「今、帰り?」
「はい!明日からお休みをもらってるんで少し遅くまで残って
仕事を片づけちゃったんです。」
「そう。・・・それは?」
梨華が岡田の手に握られてるメモに目を留めると
「これは、明日のお料理の買い出しリストです。」
嬉しそうにメモをぴらっと目の前に広げてみせる。
「全部手作り?」
「そうです。彼、楽しみにしているから。」
「それじゃ腕をふるわなくちゃね。」
「はい!・・・石川さんは明後日からお休みですよね。」
「その予定だったんだけど・・・急きょ1日早めたの。」
「え?」
「仕事もどうにか片づけられたし、平家さんに申し立てたら
あっさり許可されたわ。」
「よかったですね。お休みは一日でも多い方が楽しいから。」
「そうだね。・・・あなたのおかげよ。」
自分の車まで来た梨華はドアを開けながら、そう言って微笑んだ。
- 104 名前:距離 投稿日:2008/05/30(金) 19:50
-
「え?」
「・・・ううん。なんでもない。素敵な休暇をね。」
「はい!石川さんも。」
「それじゃ。」
梨華は優しい笑顔を見せると、小さく手をあげてアクセルを踏み込んだ。
- 105 名前:距離 投稿日:2008/05/30(金) 19:51
-
「・・・とりあえず、連絡だけはしておいた方がいいかな?」
梨華はそう呟くと、NY行きの飛行機のアナウンスが流れる空港で
携帯を取り出した。
クリスマスシーズンのNY行きの便は思った以上に混雑しており
結局は午後の出発となってしまった。
――― でも、明日よりも今日の方がずっといい。
梨華はそう思いその飛行機を予約した。
しかし、予約はしたものの予告通り電話のなかったひとみに
自ら電話も出来ず、結局当日を迎えてしまった。
- 106 名前:距離 投稿日:2008/05/30(金) 19:51
-
このままNYへ直接出向いてもと思ったのだが、
ひとみが泊まっているホテルの名前しかわからない。
ひとみが自分との休暇用にと予約してくれたホテルは
名前の半分を覚えている程度。
NYには何度か足を運んだこともあるのに、
自分の記憶力の曖昧さに情けなくなる。
(こんなことになるんだったらしっかり聞いておけば良かったなぁ。)
そんなことを思ってみるものの全て後の祭り。
梨華は覚悟を決めてひとみの携帯へと電話をするが、
仕事中であるひとみがその電話にでるわけもなく、
今からNYへと向かう事をメッセージで残した。
そして最終アナウンスが流れる中、梨華は搭乗ゲートをくぐったのだった。
- 107 名前:距離 投稿日:2008/05/30(金) 19:52
- クリスマスシーズンと言っても仕事の人もいるのだろう。
空港に飾られた大きなツリーを見上げることもなく、スーツに身を包み、
大きな鞄を提げて颯爽と空港を出て行くビジネスマンたちを梨華は
ベンチに座り見送った。
NYへと飛行機が到着してからすでに2時間も経過していることに
梨華はまったく気づいていない。
ホテルの名前を頼りにまっすぐに街へと出て行こうとも思ったのだが、
何となくそんな気分にもならない。
それに急に訊ねてきたもののひとみの予定というものもあるだろうと
今さらながら気がつく自分。
自分は明日このNYに来るはずだった。
- 108 名前:距離 投稿日:2008/05/30(金) 19:53
-
「計画性のないうちだけど、それなりに計画を立てておくから。」
そう言っていたひとみを思い出す。
梨華がNYへ行くと告げてから、ひとみなりにNYで過ごす二人のクリスマスを
計画していておいてくれているようだった。
「計画性がないのは私の方だよ。」
梨華はここまできてNYに1日早く到着してしまったことを
悔やみだしていた。
自分たちは大人で、公私をしっかり使い分け、
互いのプライベートは尊重しあい・・
結局それが出来ていないのは自分なのかもしれない。
そういう思いを何度も頭の中で巡らせているうちに
2時間という時が経過していた。
- 109 名前:距離 投稿日:2008/05/30(金) 19:53
- 梨華は仕事の顔で空港から出て行ったビジネスマンたちを思い出し、
ひとみもあんな風に仕事としてNYへ来ていたのだと言うことを
改めて認識した。
自分の本意ではなく、仕方がないと何回も繰り返しNYへと出発していった。
そんなNYからほぼ毎日欠かさずに電話もくれた。
(まぁ・・元々電話は好きなんだろうと思うけど)
梨華はひとみの優しい笑顔を思い出し、
自分を励ますように小さく息を吐き出し、すくっとベンチから立ち上がった。
――― 会いたかった。1日でも早く。
そう伝えよう。言葉にしよう・・・そう思った瞬間
- 110 名前:距離 投稿日:2008/05/30(金) 19:54
-
「梨華ちゃん!」
聞き慣れた・・そして、今いちばん聞きたかった声が梨華の耳に響く。
その声へと振り返ると、息を切らしてかけてくるひとみの姿が見える。
「ひとみちゃん。」
「・・・驚いたよ。留守電聞いて・・・どうにか仕事を調整して・・。
今ついたの?」
だいぶ走ってきたのだろう。目の前のひとみの息が上がっている。
梨華はそんなひとみをじっと見つめた。
「いったいどうした・・・」
自分の胸に飛び込んできた梨華を受け止め、ひとみは言葉をとめた。
「会いたかったの。ずっと・・・・。それを伝えたかったの。1日でも早く・・。」
梨華はひとみの胸の中でそう言うと、
ぎゅっとその腕をひとみの広い背中に廻した。
- 111 名前:距離 投稿日:2008/05/30(金) 19:54
-
真っ白なシーツの波に広がる長い髪をひとみは愛しそうにすくい、
額に瞼に頬に、そして唇にキスを落としていく。
梨華はひとみの唇の温度、体の重みを受け止め、
その指の動きに小さな声を上げた。
「会いたかった・・・会って早く梨華を抱きたかった。」
「・・んっ」
「早く会いたくて・・・。」
ひとみの唇に梨華の唇が重なる。
長い長い口づけの合間に洩れる甘い吐息。
互いの想いに互いの体は熱を徐々に帯びていく。
- 112 名前:距離 投稿日:2008/05/30(金) 19:55
-
「・・会いたかったの。会ってあなたに抱いて欲しかった。」
「梨華ちゃん・・。」
「・・愛してる?」
「愛してる。」
その答えに梨華は腕を伸ばし、短めの髪にその手を差し入れた。
「・・・んっ。・・私の・・どこがすき?」
「全部。」
ひとみの熱い囁きを胸元で感じながら、
梨華はその舌先の動きに甘い声を上げた。
「ここも・・・。」
ひとみの手が梨華の太股をなで上げる。
「・・んっ。」
「ここも・・。」
ひとみの右の指先が唇をなぞり、左の指先で梨華の背中をなぞる。
「あっ・・んんっ…。」
「その声も・・・。」
敏感に反応する梨華の喘ぐ声にひとみは熱く囁くともう一度唇を重ねた。
白いシーツに敷き詰められたベッドはやがて軋みだし、
熱い吐息と甘い声を誘い出す。
- 113 名前:距離 投稿日:2008/05/30(金) 19:55
-
“会いたい”そして“ 愛してる。”
たった一言が呪文のように離れていた距離を縮め、熱い時間を連れてくる。
会えない寂しい時を、想いの深さを確かめる時間であったのだと
教えてくれる肌のぬくもり。
ホテルの窓の向こうにはクリスマスの明かりが柔らかく光り、
やがて降り出した白い粉はNYの街全体を光り輝く美しい空間へと
変えていったのだった。
- 114 名前:さんにーろく 投稿日:2008/05/30(金) 19:56
-
完結です。
次回の更新は未定ですが、続けていきますので
よろしくお願いします。
- 115 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/31(土) 00:18
- 更新お疲れ様でした。
よかったです!
次回も楽しみにしてますね。
- 116 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/31(土) 03:03
- もう〜最高!!でした。
「さんにーろく」さんも最高です!
- 117 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/01(日) 00:44
- >>115
ありがとうございます!
>>116
最高でしたか!?うれしいですね。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
最近探してるいしよし小説が見つからずに凹んでいる作者です。
では、更新します。
- 118 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:45
-
「ねぇ。いい加減に起きないと・・・。」
少し肌寒く感じられる秋風が吹き出した日曜日。
梨華は自分のアパートの自分の寝室の自分のベッドから起きだそうとした。
「まだ、いいよ。」
その声と一緒にまたベッドへと押さえ込まれる。
「でも、あの、本当に・・お昼になるよ?」
「だから?関係ないよ、時間なんて。」
そして、シーツの中でまどろむその広い腕の中へと引き戻される。
梨華は少し困ったような表情をみせて、その大きな瞳を覗き込んだ。
- 119 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:46
-
「ん?」
その自分の表情をみて微笑み返される。
「なんかね、自分が日曜日のこんな時間までベッドの中にいるなんて信じられない。」
「そう?」
「うん。あなたは日曜日にいつもこんな時間までベッドの中にいるわけ?」
「う〜ん、まぁ絶対ってわけじゃないけどね・・。」
「でも・・少し贅沢かもしれないね。貴重な日曜日の時間をこんな風に使うなんて。」
梨華が微笑むと、ひとみは面白がるような視線を向ける。
「今までの恋人たちとはこんな時間を過ごしてこなかったの?」
「・・・さあ?」
ほんの少しの沈黙のあと梨華は軽くとぼけたような表情を作ってみせる。
「それはさ、思い出せないくらい遠い昔の話だからなのか、
それともただの忘れたフリなのか?微妙なとこだね。」
ひとみは梨華の髪に軽く唇を寄せる。
- 120 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:46
- 「もしかしたら、私にはこういう経験が一切ないのかもしれないよ?」
面白がるように答える梨華の言葉にひとみは軽く笑った。
「先輩に今まで恋人がいなかったとは思ってないよ。」
「わからないじゃない?」
「世の中の男はあなたを放っておくほど馬鹿ばかりじゃない。」
「・・・すごい誉め言葉だね。あなたからそんなことを聞くなんて思わなかった。」
一瞬の言葉を失った梨華が見上げるようにしてひとみの顔をみると、
「そうかな?こういうセリフは得意なんだけどなぁ。」
笑顔で答える。
「そうだったの。また新たな発見ね。」
- 121 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:47
- 「そう?」
「うん。あなたとこうなってからまだそんなにたたないのに、次から次へと新しい発見がある。」
梨華が大げさな表情で答えると、
「こうなってっていうのは具体的に言うとどういうことを指すわけ?」
上目遣いで聞かれる。
「え?」
「ぜひ詳しく教えてほしいんだけど?」
ひとみは梨華の耳元で囁くように言うと、梨華を抱きしめる腕に力をこめる。
「あの、ひとみちゃん?・・・もう起きたほうがいいと思うの・・。」
梨華は自分の首筋に感じるひとみの唇の動きに思わず、小さく身をすくめるようにすると、
ますます抱きしめる力が強められたように感じる。
- 122 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:48
-
「ねぇ・・。」
「ん?」
「起きないの?」
「起きない。」
「でも・・。」
それでも小さな抵抗を見せると、ひとみは梨華の瞳を覗き込んだ。
「なに?」
その視線の意味を図りかねて、上目遣いで梨華はひとみをみた。
「いや・・。」
「なに?」
「なんかいつまでたってもさ・・。」
「え?」
「もう2ヶ月もたつのに、相変わらずコトのはじまりには困ったような顔をする。」
「コトのはじまりって・・・。」
思わず梨華が頬を染めると、
「それじゃ愛の確認のはじまりとか?」
「その方がもっと・・・。」
「またその困った顔もそそるって言えばそそるんだけどね。」
そう言ってひとみは梨華の胸元に唇を這わせる。
「そそるって・・。」
「そうやってうちの言葉にひとつひとつ反応するところもまたそそられる。」
ひとみはそういうと、梨華を組み敷いて次なる行為へと移っていった。
- 123 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:49
-
「ねぇ!本当に起きようよ。朝食も食べていないし、昼食だってまだなのよ。」
梨華は満足しきってベッドでまどろむひとみに言った。
「そういえばそうだねぇ。」
「もう12時も過ぎてるのよ。」
時計を見ながら梨華が体を起こすと、
ひとみがその腰に両腕をまわしそれを引き止める。
- 124 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:51
- 「でかけるの面倒だよ。」
「いいよ。なにか作るから。」
「へぇ・・手料理?」
ひとみが梨華を後ろから抱きこむようにしてそのほっそりとした肩に唇を寄せる。
「今までだって私の作ったものを食べてきたくせになに言っているの。」
その言葉に軽く笑っていうと、
「恋人の手料理となってからは数えるほどしかないよ。」
「同じ味だよ。」
呆れたようにいうと、ひとみは即座に否定した。
「違うね。」
「どうして?私が作ってるんだよ。どこかの誰かがつくったものと
混在させて勘違いしてるの?」
梨華が肩をすくめると、
「そうじゃないよ。先輩が作ってくれたものも美味かったけど、
梨華が作ってくれたものはまた格別だからさ。」
ひとみがおどけたように言う。
「あのね。私はあなた先輩の石川梨華っていうの、
あなたが思っている人お2人は同一人物なの。」
- 125 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:51
- 「それがさ、なんか違うんだよね。」
「え?」
その耳元の後ろで囁かれる言葉に梨華は思わず振り向いた。
「会社での先輩はうちを一切寄せ付けない。でも週末の梨華はうちを魅了して離さない。
とても同一人物とは思えない。」
「・・・。」
「お返事は?・・。」
「本当にこういうことを言うのね。また新たな発見ね。」
梨華はまた染まってしまった自分の頬を見られるのを避けるように、ベッドからでると
バスルームへと向かった。
ひとみもベッドからでるとシャツを羽織った。
- 126 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:52
-
梨華がシャワーを浴びて、すっかり着替えを済ませて出てくると、
ひとみがソファーにすわり、テレビをみていた。
「シャワー浴びたら?」
「う〜ん、そうだね。」
背伸びをするとひとみはバスルームに入っていった。
そんなひとみにタオルを渡すと、梨華はキッチンへと入り、とっくにその時間は過ぎて
しまっているが昼食を作り始めた。
しばらくするとひとみがぬれた髪をタオルで拭きながらキッチンへと入ってきた。
「どうしたの?」
「あのさ、歯ブラシある?」
「あぁ、使い捨てのが鏡の前の引き出しに入ってると思うよ。」
「わかった。」
そういうとひとみはまたバスルームへと戻っていった。
- 127 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:53
-
「もう作ったの?」
テーブルの上に並んでいる昼食をみてひとみは驚いたような声をあげた。
「うん。」
「さすが。手際のよさには感心するよ。」
「そう?」
グラスにオレンジジュースを注ぎながら梨華は答えた。
「手伝おうと思ったのにな。」
テーブルにつきながらひとみが言う。
「料理できるの?」
「全然できない。」
その答えに呆れながらも梨華はひとみに聞いた。
「日曜日とかって、何をたべていたの?」
「その辺で買ってきて食べることが多いかな?」
「それじゃ栄養が偏りそうだよ。それでなくても好き嫌い多そうなのに。」
梨華もテーブルについてグラスをひとみに渡す。
「そうでもないけど・・・。
でも確かにわざわざ嫌いなものを買ってきたりはしないかな。」
「何が嫌いなの?」
「そういわれると思い浮かばない。」
ひとみはオレンジジュースを飲みながら少し考えるようにして答える。
- 128 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:54
- それから梨華の作った料理を食べ始める。
「うん、美味いよ!」
梨華も続いて一口食べると、少し眉をよせる。
「味が濃くない?」
「いや。美味いよ。」
本当に美味しそうにひとみは食べつづける。
「待って。やっぱり味が濃いと思うの。少し直すから待ってて。」
そう言って梨華はテーブルの上のお皿をもって立ち上がった。
「いいよ。充分おいしい。直す必要なんてないよ。」
「でも・・・。」
「それにほら、少し味が濃いくらいのほうが午後の運動のためにはいいかもしれない。」
ひとみは口元に意味のある笑いをのせて梨華を見た。
「運動?」
梨華が不思議そうにひとみをみる。
「いや・・。そう、まじめに聞かれるとちょっと・・。」
「・・!! いい加減にして!食事中よ。」
そのひとみの言葉の意味を理解すると梨華は頬を染めてキッチンへと入っていった。
- 129 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:55
-
梨華がキッチンに立ち、味を直しているとひとみが入ってきた。
「なぁに?やってくれるの?」
「見学。」
ひとみは梨華のうしろからそのおなべの中を覗き込む。
「これ、何につかうの?」
隣に置いてあったバジルの葉を持って不思議そうに見る。
「今、食べた中にも入ってたよ?」
「これが?」
「そう。」
「これ何?」
「バジルだよ。」
「バジル?」
「そう。ハーブ。」
「ハーブ?!あのバスルームにある入浴剤のパッケージに書いてあるやつ?」
驚いたようにそれを見つめる。それを聞いて梨華は軽く笑うと、
「あのハーブと料理に使うハーブはまた別だよ。」
「ハーブって何種類もあるの?」
- 130 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:56
- 「ハーブっていうのはこのバジルとかの総称であって、いろいろな種類があるの。」
「へぇ・・・。」
感心したようにバジルを見つめている。
「ラベンダーとかだってハーブの一種だよ。」
「あの紫の?」
「うん。」
「ふ〜ん、なんか知らないことが山のようにあるんだなぁ。」
そう言ってひとみはキッチンの棚を見回した。
「どうしたの?」
沈黙しているひとみに梨華が不思議そうに聞くと、
「いや、料理って・・・奥が深いんだなって思って。」
「そうだね。やってみると楽しいかもしれないよ。チャレンジしてみたら?」
からかうように言うと、ひとみは肩をすくめた。
「うちはやる前からそれが自分に向いているか、向いていないか分かるタイプなんだよ。」
「じゃ、料理は向いていないの?」
「そう。料理は食べる方に向いてる。」
「都合がいいのね。」
梨華は笑って最後の調味料を入れると味を確かめる。
「ん。いいよ。さ!食べよっか。」
- 131 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:57
-
おそい昼食が終わり片づけを済ませてキッチンから出てくると、
ひとみは梨華の雑誌を読んでいた。
「終わった?」
「うん。」
「片付けくらい手伝うって言ったのに。」
雑誌をみながらひとみは言った。
「いいよ。2人分だし、大切なお皿を割ってほしくないしね。」
「皿ぐらい洗えるよ。」
「それ、面白い?」
ひとみの手元を覗き込んでいった。
「面白くない。」
パタンと雑誌を閉じる。
「単なる暇つぶしってわけね。」
梨華も軽く笑う。
「そう。でももう暇じゃなくなるから。」
そう言って脇にたつ梨華の腰に腕をまわして引き寄せた。
「きゃ・・」
いきなりのその行為に小さく悲鳴をあげたものの気がつけばひとみの
膝の上に座らせられている。
- 132 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:58
- 「ちょっと・・。」
「ん?」
まじまじと瞳を覗き込まれ梨華は思わず視線をそらす。
「どうしたの?」
「あの、離してくれない・・?」
「どうして?」
「どうしてって・・。」
続きの言葉を考えているうちに自分の唇にそっとひとみの唇が重ねられる。
そしてそのまま抱き上げられベッドへと運ばれた。
「ねぇ!あの、ひとみちゃん、ちょっと。」
ベッドで組み敷かれながら梨華は必死に抵抗する。
「何?」
そんな梨華の言葉を聞いていないかのように1枚づつ梨華から洋服を剥がしていく。
「ねぇ。ダメだよ。」
ブラウスのボタンにかけられたひとみの手を押さえる。
「どうして?」
瞳を覗き込まれる。
- 133 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:58
- 「どうしてって・・・あの、あ、そうだ。食休みが必要でしょ?」
「食休み?」
「そ、そうだよ!食べたばかりでこういうことをするのは、体によくないよ。」
梨華が必死でいうと、
「う〜ん。そうかな?」
「そうよ!それに午前中に充分・・。」
「充分?」
にやりと笑ってひとみは梨華を見る。
「いいから、とにかくすぐはダメ!」
その笑いの意味を読み取って梨華は強く否定した。
「わかったよ。何もしない。このまま食休みしよう。」
ひとみはそういうと、ベッドに横になったまま梨華を後ろから抱きしめる。
「これじゃゆっくりできないでしょ?」
「いいじゃんか。それに、うちはゆっくりできてるもん。」
「・・もう。」
諦めたように梨華はため息をついた。
- 134 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/01(日) 00:59
- 「・・・ひとみちゃん。」
梨華は少し体をこわばらせた。
「ん?」
「食休みするって言っているでしょ?」
「うん。」
「でも、手が・・。」
その手から逃げようと身をよじると、簡単に封じ込まれる。
「だってさ、こうしていると自然に・・。」
ひとみの唇が梨華のうなじを這い出す。
「何もしないって言ったでしょ!」
慌てて起き上がろうとするが、それも押さえ込まれる。
「そのつもりだったんだけどさ・・。」
「ねぇ、やめて!・・・んんっ。」
ひとみの唇の動きから思わず梨華は声をあげる。
「そんな声だして誘わないでよ。」
そう耳元で囁くと、梨華を自分の下に組み敷く。
そして深く梨華に口づけた。
- 135 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/01(日) 01:00
-
とりあえず更新終了です。
- 136 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/01(日) 10:45
- 24時間イチャイチャうらやましいねーw。
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/01(日) 13:43
- なんだよ!ヤリ過ぎだよ!!よっすぃー!!w
- 138 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/07(土) 17:38
- >>136
イチャイチャし過ぎですね…
反省!
>>137
はい。ヤリすぎです!
反省!
反省しつつ更新します。
- 139 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/07(土) 17:39
-
「あの、ひとみちゃん?。本当に起きないと、もう人としてだめなんじゃないかと・・。」
梨華はひとみの腕の中からベッドの脇にある時計を見た。
「何時?」
「・・・夕方の5時。」
「どうりで・・。」
「え?」
「外がオレンジ色だなって思ってたんだ。」
そう言って窓の外を指差す。
「私は1時間前くらいから気になってたよ!」
腕の中から抜け出そうとしながら梨華が言うと、
「1時間前っ!?」
大げさに驚いたような声をだす。
「なんなの?」
- 140 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/07(土) 17:39
- 驚いてひとみをみると、ひどく傷ついた表情をしてみせている。
「あれだけ熱い時間を過ごしている最中に時間を気にしていたわけ?」
「熱い時間って・・・。」
「お互い燃えていたと思ったのに・・・。」
「・・・・。」
梨華は思わず言葉を詰まらす。
「それなのに・・・ショックだ。」
ひとみは梨華がそれに弱いことをしっているかのように上目遣いを披露する。
「・・・もうっ!からかうのもいい加減にしてよ!」
梨華はひとみの腕を振り払うとベッドから起きだした。
- 141 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/07(土) 17:40
-
「週末って時間が過ぎるのがすごく早いと思う。」
ひとみは黒のジャケットを羽織ながらリビングに入ってきた。
「その文句は先週も聞いたよ。」
梨華が呆れたようにひとみをみると、
「だって、そう思わない?月曜から水曜と金曜から日曜までの時間の速さが同じだなんて
うちには信じられない。」
ふてくされるように言う。
「さ、いいから!もう帰る時間でしょ?」
梨華がアパートのドアをあける。
「うちはもう一泊しても一向に構わないんだけど。」
「私はいやなの。さ!」
そう言って梨華は自分からドアの外にでる。
ひとみはそんな梨華をみてため息をつくと、後に続いた。
- 142 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/07(土) 17:41
-
うっすらと暗くなり始めた外にでると、2人で近くの駅までゆっくりと歩く。
「じゃ、明日ね。」
梨華が微笑む。
「うん。じゃ明日。」
「おやすみなさい。」
少し背の高い恋人を見上げると自分の唇に軽く唇が重ねられた。
唇が離れると梨華は視線を泳がせてあたりを見るようなしぐさをとる。
「誰もいないことは確認したよ。」
ひとみが笑って言うと、
「別に・・そんなんじゃ・・。」
視線を外して答える。そんな梨華に微笑んで
「おやすみ。」
というと、ひとみは手を上げてホームに消えていった。
- 143 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/07(土) 17:41
-
梨華はそのまま部屋に帰るのもなんとなくためらわれて、近くのスーパーへと向かった。
スーパーのカゴをもつと、適当に食材を見繕ってその中に入れていく。
「あ、そうだ。」
シャンプーが切れそうになっていたことを思い出し、目的の棚へと向かう。
愛用のシャンプーをカゴに入れると、ふとその隣にある歯ブラシに気がつく。
「・・・・。」
今日のひとみを思い出す。
そっとその歯ブラシを手にとると、梨華はためらいがちにカゴへいれた。
そして2、3歩レジへ向かおうと進む。
しかし立ち止まると、またその場所に戻りカゴの中の歯ブラシを元に戻した。
- 144 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/07(土) 17:42
-
アパートに戻ると、夕飯を作る気にもなれず部屋の掃除をはじめた。
一通り片付けると、洗濯しておいたものにアイロンをかける。
しかし、そんなことをしていてもつい電話に視線が行ってしまっている自分に
気がつく。そんな自分を戒めるようにいろいろと思いつくことをしてみるが
やはり電話へと視線が行く。
そんな自分にため息をついて、ふと時計をみると19時半をさしている。
「まだ、大丈夫だよね・・。」
そう呟くように言うと、梨華は受話器をとった。
- 145 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/07(土) 17:42
-
「ごめん、まった?」
梨華が約束店の前で待っていると、程なくして真希がやってきた。
「ううん。私も今きたところなの。」
梨華が微笑むと、
「よかった。」
安心したように言うと、真希は微笑んだ。
「さ、入ろっか?」
「うん。」
- 146 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/07(土) 17:42
-
後藤真希。
彼女は梨華が中学のときからの親友だ。大学を出るまでは一緒だったが、
お互い違う会社に就職してからは、あまり会うこともなかった。
- 147 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/07(土) 17:43
-
「今日は急にごめんね。」
梨華は席につくと笑顔で言った。
「なに気遣ってんのさ。そういう仲じゃないじゃん?」
真希も笑顔で答える。
「もうあれから3ヶ月くらいたつ?」
「そうだね。」
梨華も思い出すように言うと、
「あのときだよねぇ。ごとーの2回目の失恋は。」
「ごっちんって本当にその手の冗談が好きね。」
笑っていうと、
「何言ってるんだよー。まじめな話だよ。1回目は高校時代。
しばらくして、再チャレンジしたときには、恋人ができました、だもんなぁ。」
「知らない人が聞いたら本気にするよ。」
梨華が軽く睨んでいうと、
「本気もなにも、本当の話だよ。」
「あいかわらずだね。」
「この性格はなかなかかわらないよ。」
大げさに両手を開いてポーズをとってみせる。
- 148 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/07(土) 17:44
- 「でも、楽しい。学生時代を思い出すよ。」
「それで?梨華ちゃんは新しい恋人とはうまく行ってるの?」
真希は目の前に運ばれてきた料理をさっそく食べ始めながら梨華に聞いた。
「え?うん・・まぁ。」
「歯切れの悪い答えだねぇ。」
「そんなことないよ。」
梨華は思わず視線を伏せる。
「さっそく別れ話でもでてるの?」
「そんなの出ていないよ。」
「その割には浮かない顔じゃん。」
「・・・そう?」
「そんな顔しているとこっちにもまだチャンスがあるのかなって思っちゃうよ?」
「そんな・・。」
思わず梨華苦笑して真希をみると、学生時代から励ましてくれる笑顔があった。
- 149 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/07(土) 17:44
- 「どうした?その恋人のことで悩み?」
「ううん、悩みってほどじゃないよ。私が勝手に考え込んでいるだけなの。」
「なにを?」
「・・・恋人と過ごす週末があたりまえになっていくのかなって思って。」
梨華は思い切って言葉にすると、ため息をついた。
「普通、恋人同士っていうのはそういうものだと思うよ?」
「そうかな?」
「そんなもんじゃない?」
「・・・そう。」
そういってまたため息をつく梨華を真希はじっとみつめた。
「梨華ちゃん、なにがそんなに心配なの?」
そんな真希の言葉に梨華は顔をあげた。
「なにが心配なのかわからないの。一緒にいるのにどうしてあんな心もとない気持ちに
なるのかわからないの。」
思い切ったように自分の感情をはきだした。
- 150 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/07(土) 17:45
- 「梨華ちゃん。」
「彼女が帰った後のアパートにすぐ戻っても、あの人の残していった感覚があちこちに残されて
いるようで、すぐには部屋になじめない。今までどこよりも居心地のいい空間だったのに
彼女が帰るとそれが180度変わってしまったみたいになるの。」
「・・・・。」
「強がって彼女を帰したくせに、すぐに電話をしたくなる。・・・馬鹿みたい。
私は・・私はこんな感情におぼれるような女になりたくないの。」
気持ちを搾り出すように梨華は言った。
「梨華ちゃん・・・。」
「ほんと、馬鹿みたい。こんな・・・。」
そう言って梨華は自嘲するような笑いを見せる。
「梨華ちゃんはいっつもそうだったよねぇ。」
そんな梨華を優しくみつめると真希は微笑んだ。
「え?」
「いつも自分の気持ちにプレーキをかけて、それ以上深入りしないようにする。」
- 151 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/07(土) 17:46
- 「私は別にそんなつもりは・・。」
「意識してそういうことをしてきたとは言わないよ。
でもさ、実際にそうしてしまっているのは事実だと思う。
古くからの付き合いのごとーだからこそ分かることじゃない?」
「・・・・。」
その真希の言葉に梨華は黙り込んだ。
「でも、今まではそれに苦しんでいる風にも見えなかったけどなぁ。」
「え?」
「そういう自分に満足してるみたいで、自分で自分の立っている場所になんの不満も
なさそうだった。」
「それは・・・。」
「でも、今は違うんでしょ?」
梨華は答える代わりに軽く下唇をかんだ。
そんな表情を覗きこむと、真希は大げさにため息をつく。
「梨華ちゃんはさ、けっこうもててきてたから、恋愛に対してもそれなりの免疫があると思ってたん
だけど、実はそうじゃなかったわけだ。」
- 152 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/07(土) 17:47
- 「え?それはどういう・・?」
梨華が不思議そうに真希を見ると、
「長いこと友達をしてきて、今まで恋愛の相談なんてされたことなかったから、こういうことも
すんなりと問題なく、そつなくこなしているもんだと思っていたんだぁ。でも実際は今回のこの
恋愛が梨華ちゃんの初めての本気ってやつなんだよ。」
「そんなことないよ。今までだって好きな人はいたし、私は遊びなんかで付き合ってきてない。」
その真希の言葉ひとつひとつを梨華は否定した。
「ふ〜ん、じゃ今まではこういう気持ちにはなったことは?」
「・・・・それは・・。」
「今までこんな相談されたことなんてなかったよ。」
「だって、しばらく恋愛からは遠ざかってたし・・。」
「そうじゃないでしょ?ずっと梨華ちゃんは恋愛をしてきたよ。それが実を結んで形になったから
戸惑っているだけだよ。」
今までと違ったまじめな真希の言葉のトーンに梨華は押し黙った。
「いいじゃない?そんな気にしなくても。今はその相手とうまくいっているんだしさ。」
真希がいつもの笑顔で梨華の顔を覗き込む。
- 153 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/07(土) 17:47
- 「でも・・・」
少し照れたような表情をみせた梨華に
「・・う〜ん、これはいつものメンバーをすぐにも集めて報告会を開かなくちゃな!」
大げさに驚いたように真希は言った。
「え?」
「あの梨華ちゃんが恋人のことを話して照れていたってね。みんな驚くよ!」
「もう、いい加減にして!」
梨華が頬を染めて、睨むと
「ま、恋愛に悩みはつきものだよ。こういう悩みは梨華ちゃんだけが持っているんじゃないよ。
案外、その噂の恋人も同じようにいろいろと悩んでいるかもしれないよ?」
- 154 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/07(土) 17:48
- 「それはないような気がする。」
週末ずっと一緒に過ごしたひとみを思い出しながら梨華はクスっと笑った。
「いいじゃんか、素直になれば。」
「ごっちん・・。」
「そんなにがんばってしまうことはないと思うよ。ごとーは友達だから、梨華ちゃんのそんな気持ちがわからないでもないけど、恋人が梨華ちゃんのそういう気持ちを理解してくれるとは限らないし。」
「・・・・。」
「だから、肩肘張らずにその恋人に、甘えればいいよ。」
その真希の言葉はやけに胸に沁みたが、梨華は困ったような笑顔をみせるだけだった。
- 155 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/07(土) 17:48
-
梨華は食事を終えて真希と別れるとまっすぐとアパートに戻った。
部屋に入るとバスルームへと向かう。
熱いお湯をはってゆったりとその中に身を沈めた。
・・・今夜は真希に話を聞いてもらったおかげで、すんなりと眠れそう・・・
なかなか寝付けない日曜の夜を持て余していた梨華はほっと息をついた。
本当はほかの友人でもよかった。
真希以外の友人でも、きっと理解してくれて、励ましてくれたかもしれない。
でも今日はあえて真希を誘った。少しでもひとみへの気持ちの歯止めになるように。
学生時代、真希の優しさに心がゆれた事がないわけではなかったから・・・
- 156 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/07(土) 17:49
-
そんな真希を利用するような自分のずるさも自覚している。
でもこれ以上、ひとみをすきにならないように・・・。
これ以上ひとみ以外のことを考えられない自分にならないように・・・。
ふと棚にある入浴剤が目に入った。
ハーブのラベルをみて昼間のひとみとの会話を思い出す。
まるでそれを忘れたいかのように梨華は熱いお湯を手ですくい思い切り顔にかける。
真希の言うとおり、素直になれたら、そうできたらきっととっても楽だろう。
素直に愛情を表現できたら・・・何回もそう思ってきた。でも・・・。
- 157 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/07(土) 17:50
-
バスルームから出てくると、電話の音が聞こえてきた。
慌てて受話器をとると、それはひとみからだった。
「もしもし。」
「ひとみちゃん!どうしたの?」
「いや、どうしてるかなって思って。」
「どうしてるってもう寝るところだよ。」
梨華が12時を指そうとしている時計を見ながら言った。
「ん、・・いや、9時くらいに電話をしたんだけど出なかったから。」
「あ、出かけてたの。」
ほんの少しの罪悪感を感じながら梨華は答える。
- 158 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/07(土) 17:50
- 「そっか・・。いや別にそれならそれでいいんだ。おやすみ。」
そう言って電話を切ろうとするひとみに梨華は
「まって。」
と、止めた。
「なに?」
「どうして電話してきたの?」
「どうしてって・・。」
「明日また仕事であえるのに。何か用事があったならともかく、そうじゃないのにこんな時間に
かけてこなくても・・・。」
思わず強がって言ってしまった自分の言葉にはっとする。
「・・・わかった。ごめん。」
その言葉にひとみは静かに答えた。
「あの、・・・。」
「なに?」
あくまでも冷静なトーンで返事が返ってくる。
- 159 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/07(土) 17:51
- 「いや、それじゃ・・。」
「おやすみ。」
そのひとみの言葉を聞くと、思わず自分から受話器を置いた。
梨華は自分の気持ちと裏腹な今の行動に涙ぐんだ。
あの人との恋。
その幸せに包まれていく自分を自覚していても、この恋が永遠に続くなんて思っていられるほど、
気楽に夢見る年齢でもない。
2人でいることがあたりまえになっていく事が怖い。
このままだったら彼女なしでは生きていけなくなる。そんな自分にはなりたくない。
そうならないように自分だけで生きていける強さをもった女でいたい。
そう思ってここまでやってきたはずだったのに・・・。
- 160 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/07(土) 17:53
-
更新終了です。
139−148
題名を入れ忘れました。
読みにくかったらすみません。
- 161 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/08(日) 01:48
- 感情に素直になるのは難しいですよね。
158でよっすぃがひねくれちゃいそうで心配。
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/08(日) 16:00
- あぁ・・・切ない・・・
- 163 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/15(日) 20:49
- >>161
素直になること。
一番簡単なことのようで一番難しいもののような気がします。
>>162
はい…切なくなっております…
更新します。
- 164 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:49
-
あまり良く眠れないまま梨華は月曜の朝になり、出社した。
いつものオフィスのドアをあけると、まだひとみは出勤してきていないようだった。
パソコンを立ち上げて、早めに仕事に取り掛かろうとするとひとみが入ってきた。
「おはよ。」
いつもどおりの笑顔で朝の挨拶をされる。
「おはよう。」
「さすが、月曜でも早いねぇ。」
「…うん。」
デスクについたひとみを気づかれないように見るが、変わった様子はない。
謝ろうかと思ったりもしたが、結局は普段どおりにしか振舞えない自分だった。
- 165 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:50
-
「石川先輩。」
「え?」
いろいろと考えていた梨華はひとみの声に少し驚いたように顔をあげた。
「今日は朝から会議なんだ。それから午後はずっと外にでなくちゃいけないし。
悪いんだけど、この書類に目を通しておいてくれない?」
そう言ってファイルを差し出された。
「うん。分かった。」
そのファイルを受け取ろうとひとみをみると、初めて目が合った。
「ん?」
梨華の戸惑ったような表情にひとみは不思議そうに首をかしげた。
- 166 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:50
-
「なんでもない。」
「そう。じゃ、よろしく頼みます。」
そう言ってオフィスのドアをあけると会議へと出て行った。
梨華は黙ってその背中を見送る。
梨華はひとみに日曜の夜の電話のことを謝るきっかけもつかめず
木曜日になってしまったことに少し苛つきさえも感じていた。
どうしてあのとき、あんな態度をとってしまったんだろう。
それに、こんな思いで数日間過ごしているのに、ひとみは一向にあの時のことを
気にしている様子がない。
何もなかったかのように今までとなんら変わりはない。
自分がこんなに気にしているのに、彼女にとってはなんてことないことなのだろうか?
公私の公と私をきっちり分けるという約束を自分で取り付けたくせに・・・。
- 167 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:51
-
結局、仕事中もこんなに気にしているのは自分だけかと思うと、情けなささえも感じてくる。
そんな思いを抱いたままでいつのも週末を迎えることになるのはどうしても避けたかった。
金曜になり、終業時間が近づいてくると、ずっと席を外していたひとみから
携帯に電話が入った。
「もしもし。」
「ウチだけど。」
「なに?」
思わずそっけなく答えてしまった自分にまた苛つきを感じ始める。
「今日なんだけどさ、仕事が長引きそうだから遅くなると思う。」
「・・・そう。」
「だから、先にかえって・・。」
「ねぇ。」
梨華はそのひとみの言葉を遮った。
- 168 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:51
-
「なに?」
「あの、今週はお互いに仕事も忙しかったし、それぞれにゆっくりと過ごしたほうがいいと思うの。」
「・・・そっか。」
そのいきなりの提案をすんなりと受け入れられたことに梨華は自分の中の苛つきが
ますます大きくなるのを感じる。
「うん。そのほうがお互いにいいと思う。」
「わかった。そうしよう。」
「それじゃ。」
「うん。いい週末を。」
ひとみはそういうと電話を切った。
電話を切った後、梨華は仕事に没頭しようと一気にやりかけの書類を書上げた。
時計をみるとひとみが戻ってくる時間が近づいてきている。
梨華は少し乱暴にあたりを片付けると、まるでひとみを避けるようにオフィスをでた。
- 169 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:52
-
まっすぐアパートに戻ると一気に熱いシャワーを浴びる。
今週のイライラや不安感を流しきってしまいたかった。
しかし、熱いお湯も自分の上を通り過ぎていくだけで、
そんな思いまでは消してくれることはなかった。
バスルームから出てくると、梨華は滅多に口にしない深いアルコールをグラスに注いだ。
それを一気に喉に流し込むと、思わずむせ返る。
ますます自分のしていることに情けなさがこみ上げてきた。
こんな想いをするくらいだったら、付き合う前の関係のままがまだましだったかもしれない。
そのほうがよっぽど・・・。
でも、それは本当に自分が望んでいる関係ではないことはよく分かっていた。
こんなに自分が彼女のことで思い悩むとは思わなかった。
彼女と結ばれたあの日。あんなに幸せな時間があるとは思わなかった。
それなのに・・もうこんなに不安になっている自分がいる。
でもこの関係を解消することはもうできない。
- 170 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:52
- それは到底無理だということはよくわかっている。
こんなジレンマと一生付き合っていかなくてはならないのだろうか?
そんなことを考えて涙ぐみそうになったとき、アパートのドアがノックされた。
思わずその音に反応するようにドアをあけると、そこにはひとみが立っていた。
「ひとみちゃん・・・。」
驚きの表情で見つめると、いつもの笑顔を返される。
- 171 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:53
-
「どう、したの?」
「この週末に一緒に飲もうと思って、先輩の好きなワインを買っておいたんだけど、
急にキャンセルされちゃったんでね。でも、ワインくらいは届けようかなと思ってさ。」
そう言って右手の包みを軽くあげてみせる。
「そう・・ありがとう。」
「いや。それじゃ。」
それを梨華に渡すとひとみはエレベーターに向かう。
梨華はその後姿をみながら、今まで抑えようと思っていた気持ちが
騒ぎはじめるのを感じた。
「まって!」
「ん?」
「部屋に来て!」
思わず走ってエレベーターの前のひとみを掴まえる。
- 172 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:53
-
「いや、今日はゆっくりしたいって言ってたんじゃ・・」
「いいから、来て!」
梨華が怒鳴るように言うと、ひとみは不審そうに梨華と一緒に部屋へと入った。
乱暴にドアを閉めると、梨華はきつい表情でひとみをみた。
「あなたってどっちが本当なの?」
その梨華の様子をみてもひとみはいつもどおりに見える。
「なにが?」
「こうなってから、私が何をしても何を言っても、いつも落ち着いてそのまま受け入れる。
でも、仕事の時は決して私の言うことなんて聞いてくれない。
いったいどっちが本当のあなたなのっ!?」
今まで誰に対してもこんな感情をぶつけるような態度をとったことのない梨華は
自分自身に戸惑いさえも覚えた。
しかも、いちばん聞かせたくなかった相手、ひとみに言ってしまった自分。
- 173 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:53
-
「先輩・・・。」
「私は・・いつもあなたのその態度に不安になる・・。」
そこまでいうと梨華は押し黙った。
ひとみもその梨華の言葉に黙ったままだった。
しばらく気まずい沈黙が続く。
その沈黙を最初に破ったのはひとみだった。
「先輩、・・・疲れてるんでしょ?帰るよ。」
「ひとみちゃん・・。」
「今日は急にきてごめんね。」
そういうとドアを背にしてたっている梨華を避けるようにドアノブに手をかける。
「待って!」
梨華はそのひとみの手を押さえた。
「いや、帰るよ。」
「だって、なんの話も終わっていないじゃない!」
それでも冷静に帰るというひとみに梨華は声を荒らげた。
- 174 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:54
-
「今日は帰る。」
冷静なトーンを変えることなくひとみは答える。
「だから私の話は終わってないんだって!」
「話っ!?いったい何の話なんだよ!!」
恋人同士となってから初めて聞くひとみの荒い声に梨華は思わず手を引く。
「これ以上、何の話をするの?」
思わず声を荒げてしまった自分を落ち着かせるようにひとみは低いトーンで梨華に聞いた。
「何の話って・・。」
「そんな話は聞きたくないんだ・・。」
「ひとみちゃん?」
「さっき、先輩はウチの態度に不安になるって言ったよね。どういうこと?」
「え?」
「不安にさせられているのはウチのほうだよ。先輩の態度こそウチを不安にさせる。」
- 175 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:54
-
ひとみは梨華からゆっくりと視線を外した。
「私がいつ、あなたを不安にさせたのよ?」
梨華は考えたこともないひとみの言葉に眉を寄せた。
「いつ?」
「そうよ。私がいつあなたを不安にさせたっていうの?
不安にさせられてるのは 私のほうじゃない。」
「じゃ、今日は?」
「え?」
「日曜の晩は?」
「ひとみちゃん・・。」
「どこ行ってたの?」
「あれは・・。」
「本当は今日だってどうして一緒に過ごしたがらないのか問いただしたかった。
もしかしたら、誰か他にいるのかとかも考えたよ。
だから、こんな口実を作って先輩のところにきた。・・・情けないと思ってるよ。」
- 176 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:55
-
梨華は考えもしたことがなかったひとみの言葉に戸惑ったような表情をみせる。
「ひとみちゃん、そんなこと・・・。」
「そんなこと?そうだろうね。こんな情けないこと考えてたなんていやになるでしょ?」
自嘲的な笑いを見せると、ひとみはドアノブに手をかける。
「ひとみちゃん、まって。」
「帰らせてよ…。先輩が言いたいことはよく分かったから。」
「分かったって・・、一体何が分かったの?」
「そんなことまでウチから言わせるの?」
「そんなことまで?」
梨華はひとみの言う意味を理解できず聞き返す。
- 177 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:56
-
「だってそうでしょ。なんでも言葉にするのはウチのほう。
1回でも先輩の気持ちを聞いたことはない。」
「私の気持ち?」
「いやならいやではっきり言って。ウチのこの気持ちはあなたじゃなきゃ消せない。」
「そんな・・私がいつ嫌だなんていったの?」
驚いたように梨華はひとみをみた。
「だってそうでしょ?そうとしかとれないよ。
電話をすれば用事もないのにかけてくるなと言われる。
週末も突然一緒に過ごしたくないといわれる。他にどう考えればいいの?」
「だってあなたはそれに文句なんていわなかった。あたりまえのように受け止めたでしょ?」
梨華も思わず反論する。
「そうするしかないじゃん!いい大人が嫌だって騒ぐの?
どうして電話しちゃだめなのかって問いただすの!?」
「ひとみちゃん・・・。」
初めて聞くひとみの言葉に梨華は複雑な表情でひとみを見つめた。
- 178 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:57
- 「だって・・私、あなたがそんな風に思っていたなんて・・。」
「ウチだって先輩の考えていることはよくわからない時があるよ。
でも、そのたびに自分に言い聞かせてきた。相思の満足ばかり求める恋なんて浅薄なものだって。
あなたを愛して恋を成就させられたと思ってる今は最上には違いない。
でも、あなたを愛していつかあなたがウチから離れていっても
今の次くらいにいいことなんだと思える自分でいられるようになりたいとも思ってるよ。
今は無理だけど・・・いつかそうなれるようになりたいと思ってる。」
そう苦しそうに言うひとみに梨華は呟くようにいった。
「そんなこと今まで一度もきいたことなかったよ。」
「あたりまえじゃん。こんなこといえるわけない。」
「それは・・。」
「もういい。こんなこと言うつもりなんてなかった。馬鹿みたいで呆れたでしょ?」
「そんな・・。」
「情けないほど先輩に惚れてる。そんな自分をどうしていいか分からないんだ。」
梨華は、自分と同じ気持ちでひとみがいたとは想像もしなかった。
- 179 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:57
-
そう・・。恋におぼれたくない。自立した女性でいたい・・・。
そんな自分を取り戻したいと思っていた。でも結局はそうじゃない。
ここまで相手を愛してしまっている自分に戸惑い、
いろいろな言い訳を自分の中で作り出していただけ。ただそれだけのこと・・・。
それを今、ひとみからの言葉ではっきりと自覚する。
しかしうまく言葉にできない自分をどうすることも出来ず、梨華は黙ったままだった。
その沈黙の意味をひとみは理解できず口を開いた。
「先輩、もういいよ。よくわかったから。」
「・・え?」
梨華はひとみを見た。
「先輩の気持ちはよく分かった。」
「何がわかったって言うの?」
「・・・いいんだ。もう。」
そう言ってひとみはドアノブにてをかける。
- 180 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:58
-
「待って!」
「お願いだから離して。これ以上惨めな気分にさせないでよ。」
ひとみは思わず梨華の手を振り払った。
「違う!そうじゃないの!
本当は素直になりたいの。電話だって、今日だって、本当は・・・。
でもできないの。素直になれないの。それが苦しくて、辛いよ・・・。」
そこまでいうと梨華は言葉を詰まらせて涙を一筋こぼした。
梨華はその涙を慌てて拭う。
「先輩…。」
ひとみも初めて聞く梨華の言葉に戸惑いの表情をみせる。
「いつも冷静沈着な私でいたい。そう思う一方で素直になりたいと思う自分もいるの。
他には何も考えないで、この幸せな気持ちの中にずっといたいと思う。
でも、それじゃだめだとも思ってきた。
恋人としてだけではなくて、仕事のパートナーとしてもあなたの隣にいたい。
でも、その両立が私にはとても難しいの・・・。あなたみたいにはできない。」
「ウチみたい?」
「そうよ。あなたはちゃんと公私の区別をつけてる。でも私はそれができない・・。」
「ウチが?ウチが公私の区別をつけてるっていうの?」
驚いたようにひとみは梨華に聞いた。
- 181 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:59
-
「そうよ。でも私は・・・。」
「先輩・・・。」
ひとみは苦しそうな表情をする梨華の頬にそっと触れた。
梨華はその手にビクっと体を緊張させたがゆっくりとひとみをみた。
「ウチのどこが公私の区別をつけられてるわけ?」
「え?」
「ウチのほうこそ、先輩のあのオフィスでの態度に戸惑いを感じるよ。
今までと一切変わらないかのように振舞う。
もしかしたら本当にもとの関係にもどってしまったんじゃないのかと不安にもさせられる。」
「ひとみちゃん・・・。」
また聞かされる思いもかけないひとみの言葉に梨華はその瞳をみつめた。
「お互いに言葉が足りなかったのかもしれないね・・。」
「そうだね・・。」
「思っているだけじゃ通じない。言葉にしないと難しいことって多いのかもしれない。」
「そのとおりだと思う。でもね・・。」
そのひとみの言葉に梨華は俯く。
「でも?」
「でも・・そうは思うんだけど・・。これから自分が素直に言葉にできるとも思えないの。」
- 182 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 20:59
- そう呟くように言う梨華にひとみは微笑む。
「でもそれが先輩だよ。」
「え?」
その言葉に顔をあげた。
「それで、あんな情けないことを考えてここにきたのもウチだよ。」
「そんな、情けないなんてこと・・。」
「いや、かっこ悪いと思ってるんだ・・・」
そう言ってひとみは深くため息をついた。
そして顔をあげると梨華から視線を外した。
「…とにかく今日はかえるよ。」
「え?」
驚いてひとみをみたが、なぜか視線を合わせようとしない。
「このままここにいても、なんか何を話していいかよくわからない。」
「何をって・・。」
「なんか急にバツが悪くなってきたし…。」
「バツが悪いって・・。」
- 183 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 21:00
-
急に所在なげになってきたひとみを梨華は戸惑いながらみる。
今までひとみちゃんがこんな風になっているのを見たことがない。
「ねぇ、どうしたの?」
「え?」
「なんか、いつものひとみちゃんじゃないみたい・・。」
「あたりまえでしょ?あれは虚勢をはって一生懸命だったんだよ。
ここまで言わされて、今日はまともに振舞えない。帰る。」
そう言ってドアノブに手をかけた。
「待って。このまま帰っちゃうの?」
慌ててひとみの腕を掴む。
「うん・・。来週また・・。それまでには少し自分を立て直せる。」
「残された私はどうするのよ?」
「ゆっくりしたいって言ったのは先輩だよ。」
「あれは・・・」
「いいんだ。とにかく今日は帰らせて。かっこ悪すぎる。」
「かっこ悪くなんてないよ!」
梨華は帰ろうとするひとみの前のドアに立ちはだかった。
- 184 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 21:00
-
「・・・嬉しかった。」
「先輩・・・。」
「それでもあなたがかっこ悪いっていうなら、そんなあなたも、私は・・。」
梨華はどうしてもその続きがいえない自分自身に歯がゆさを感じる。
ひとみはそんな梨華の気持ちを察したように先に言葉を続けた。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど・・・。でも今日は帰る。」
ドアを開けようとする。
- 185 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/15(日) 21:01
-
「だめ。今帰ったから、別れるから。」
梨華は強めに言った。
「別れる?」
ひとみはその言葉に思わず梨華をみた。
「本気だよ。」
じっとひとみをみつめる。
「でも・・。」
「私と別れたい?」
「なにを・・。」
「そうじゃないならここにいて。」
ひとみは梨華をじっとみていたが深いため息をひとつついた。
「・・・・わかった。」
「そう。よかった。」
梨華は少しほっとしたように微笑みをみせる。
「もってきてくれたワイン、一緒に飲も?」
- 186 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/15(日) 21:02
-
とりあえず更新終了です。
次回で完結となります。
少量の更新で申し訳ないです!
- 187 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/16(月) 04:36
- 自分も石川さんと同じようによっちゃんを引き止めてたw
大人のいしよしがカッコ良いです。更新お疲れさまでした。
- 188 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/20(金) 22:16
- >>187
作者も必死に引き止めてました笑
更新します。
- 189 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:17
-
「どうぞ。」
ワインを注ぎグラスを渡しながら梨華はひとみの隣に座った
。
「あ、ありがと・・。」
なぜか少し梨華から離れるようにしながらひとみはグラスを受け取る。
梨華はその距離を縮めるようにグラスとグラスを合わせる。
そしてワインを一口飲んだ。
「ん、美味しい。」
「そう、よかった。」
「ひとみちゃんは?飲まないの?」
そう言ってひとみの顔を覗き込む。
- 190 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:18
-
「いや、ウチはいいよ。」
ひとみはグラスを置いてまた梨華との距離をとる様に座りなおした。
「どうして?」
そうききながら梨華はまた離された距離をつめる。
「車だしさ。」
「今夜、帰るの?」
「う、うん・・帰る。」
「ダメ。」
- 191 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:18
-
ひとみはため息混じりに梨華をみた。
「今日は帰りたいんだよ。」
「今夜は何でも私の言うことをきいて。そうしてくれないと別れるわよ。」
「また・・。それを言えばウチが何でも言うことを聞くとおもってるの?」
「違うの?」
梨華は上目遣いでひとみをみた。
「・・・分かった。」
ひとみは大きくため息をついてグラスを持つと、ぐっと煽るようにしてワインを飲んだ。
それをみて梨華はくすっと笑った。やはりいつのもひとみと違う。
「なに?」
「ううん、そんなに一気にのんでもワインの美味しさって分からないよ。」
「そうかな?」
「そうだよ。じっくり味わうようにのまないと。」
- 192 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:19
-
そう言って梨華はまたグラスに口をつけた。
そしてひとみの頬を両手でそっとはさむと自分の方へと顔を向けさせる。
そしてひとみの唇に自分の唇を合わせ、その琥珀色の液体をひとみの口へと移す。
「ね、このくらいの量がいいんだよ。」
初めての梨華からの行為にひとみは戸惑ったようにみる
「梨華ちゃん…」
「やっと・・・」
「え?」
梨華はテーブルの上にコトンとグラスをおいた。
- 193 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:20
-
「やっと名前で呼んでくれたね・・」
そう言って梨華はもう一度ひとみの唇に自分の唇を重ねた。
それにひとみが思わず瞳をとじて応えると、ふと唇が離れる。
「ねぇ、ひとみちゃんってまつ毛長いんだね。」
「え?」
その言葉に瞳をあけると、また唇をあわせながらも梨華の目はしっかりと開いていた。
思わずひとみは唇を離す。
「あの、さ、目閉じてよ。」
「どうして?」
「キスするときは目を閉じるでしょ。」
「なんで?」
「なんでって、そういうもんだよ。」
「そういうもんてどういうこと?」
「そう決まってるじゃん!」
「誰が決めたの?」
「誰がって・・・。」
「他の女との経験上?」
「梨華ちゃん・・・」
思わずひとみが詰まったように梨華をみるとじっと見つめ返される。
- 194 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:20
- 「知っているでしょ?私、嫉妬深いの。」
「嫉妬深いって・・。」
「今までの恋人達のことが気になるの。それであなたが私をどう思ったかも気になる。」
「そんな比べるような真似するわけないよ。」
その梨華の言葉にひとみが困惑するように答えると、
「でも、気になるの。」
きっぱりといわれる。
「ひとみちゃんはいつも余裕で私を翻弄する。」
梨華はひとみを見つめたまま言った。
- 195 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:20
-
「そんなときね、ふと思うことがあるの。今までの人にもそうだったのかなって。」
「梨華ちゃん・・・。」
「この先にもこうやってあなたに抱かれる女性がいるのかなって。」
「・・・・・。」
「そう思うと、ひとみちゃんに抱かれてても胸が苦しくなる時があるの。」
そう言って梨華はひとみから視線を外し俯いた。
「あなたと離れて、別々の道を歩いている未来がくるかもしれない。そう考えると・・・。」
それ以上の言葉は続けることができず、梨華は押し黙った。
そんな梨華をひとみはじっと見つめる。
「梨華ちゃん、それはウチだってそう思うときがあるよ。」
- 196 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:21
-
梨華がその言葉に顔をあげた。
「でも、ウチはそんなときにこう考えるんだ。未来は突然訪れるものじゃないって。
いま思っていること、感じていること、話していること、その全部が未来につながってる。
未来はさ、ずっと先にあるものじゃなくて、今、ここから続いているものなんだって。」
「ひとみちゃん。」
「だから、梨華ちゃんと離れてしまう未来はこない。くるはずがないって、そう信じようと。」
梨華はひとみをじっと見つめた。それから呟くように言った。
「本当にこないかな?」
「来ないと信じてるよ。でも、来るとしたらそれは梨華ちゃん次第だよ?」
「え?」
「この関係が終わるとしたら、その決断をするのは梨華ちゃんだもん。」
「どうして?ひとみちゃんかもしれないじゃない。」
少し戸惑ったような表情で梨華はひとみをみた。
- 197 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:22
-
「いや、ウチからってことは絶対にない。」
「絶対なんてこの世の中にないよ。」
「あるんだよ。これは絶対。」
「ひとみちゃん・・・。」
その言葉に梨華は胸に熱いものが込み上げてくるのを感じる。
「でも、あなたから終止符を打たれるときがくるかもしれない覚悟はしておいたほうがいいと自分に
言い聞かせてるんだ。今のウチにそんな覚悟はつけられないけど、いつかできるようになりたいとは
思ってる。いつかあなたがウチから離れたいと言ったとき、それを受け入れられるようになろう。
そう思ってるよ。」
「・・どうして?」
梨華はひとみをみつめた。
「え?」
「私がひとみちゃんから離れるときがくるなんて、どうしてそう思うの?」
「どうしてって・・。」
「教えて。」
透き通るような潤んだ目でひとみをじっとみる。
「…………。」
「私もあなたが私から離れていくときがくるかもしれないって思ってる。でもどうして
そう思ってしまうのかよくわからないの。ただそんな不安だけがいつもどこかにあるの。
もしひとみちゃんも同じ気持なら・・・。」
「同じ気持ちだよ。」
「本当に?」
「同じ気持ちだったんだね。」
2人は見つめあい、穏やかな沈黙をもった。
- 198 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:22
-
「慣れていこう。」
ふとひとみがその沈黙を破った。
「え?」
「新しい事をはじめるときは、やっぱり不安になるんだよ。うまくやれるかとか、きちんとできるかとか。
でもそういうとき忘れずにいたいのが、慣れていく大切さだと思うんだ。
はじめはうまくいかないことでも、慣れていくことでうまくいくようになる。
慣れていくのには時間がかかる。
時間をかけて慣れていくことは思ってるより大切な事なのかもしれない。
だから、ウチらも慣れることからはじよう・・。
きっとそう思うくらいの気楽さが、小さなたくさんの不安を消してくれるから。」
ひとみはゆっくりと自分にも言い聞かせるように言った。
「慣れる・・・。」
梨華もその言葉を繰り返す。
「そう。」
ひとみは優しく梨華に微笑みかけた。
「そうだね・・・。」
梨華も美しい微笑みを見せる。
ひとみはそっとその美しい微笑みに掌を添えると、梨華の唇に自分の唇を重ねた。
しばらく抱き合ったままの静かな時間が流れ、ひとみはふと梨華から体を離した。
- 199 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:23
-
「どうしたの?」
不思議そうにみる梨華にひとみは笑顔をみせる。
「いや、前からお願いしようと思っていたことを今、実行に移そうと思って。」
「え?」
「これ、ここに置いてくれる?」
そう言って、ポケットからそれを取り出して上目遣いで梨華をみた。
「歯ブラシ・・・・」
「そう。結構前から買っておいたんだけどさ。出すタイミングがつかめなかったから。」
ひとみは少し照れたような微笑を見せる。
- 200 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:23
-
「ひとみちゃん。」
「置いてくれる?」
「・・・。」
「だめ?」
「ううん・・。」
梨華は美しい瞳に涙を浮かべると、ひとみにそっと抱きついた。
「梨華ちゃんからなんてめずらしいね。」
抱きしめながらひとみが梨華に囁くように言う。
「だって・・。」
「その続きはベッドでききたいねぇ。」
そういうとひとみは梨華を抱き上げる。
「ひとみちゃん!?」
- 201 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:24
-
驚いて梨華はひとみの腕の中でもがく。
「なに?今日もまたなにかと理由をつけるわけ?」
すっかりいつもの悪戯顔に戻ったひとみをみて、梨華は軽くため息をついてみせる。
「しょうがない。今日はなにも言わないであげる。」
ひとみはその言葉をきくと微笑んでベッドルームに向かった。
- 202 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:24
-
ひとみは梨華のベッドでふと目を覚ました。
腕の中には安心しきって寝息を立てているの梨華がいる。
そっと起こさないように梨華から腕を外しベッドからでる。
そして部屋の窓のカーテンを静かにあけた。
「・・ん。」
振り向くと、梨華がうっすらを瞳をあける。
「あ、ごめん。起こした?」
「・・もう朝?」
「いや、夜が明けるくらいだよ。」
「ふふ・・。」
「なに?」
「今日は早起きだね。」
梨華がまどろみながら美しく微笑む。
「いや、また寝るよ。」
そういって窓を背にしたひとみを梨華はじっとみつめた。
「なに?」
その視線をうけてひとみは少し首を傾げる。
- 203 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:25
-
「影がきれい。」
「え?」
「ひとみちゃん。」
そう言って梨華はひとみに両手をのばした。
ひとみは自然にその手をとる。
するとぐっと力をこめて引かれて、ベッドに戻される。
「なんだよー・・。」
軽く笑ってひとみがベッドに入ると、梨華はひとみの手に指を絡めた。
その手を口元にもってくると、
「愛してる。」
そう囁いてまた瞳をとじた。
「梨華ちゃん・・。」
初めて聞く梨華の言葉にひとみは言葉が返せない。
梨華はそんなひとみの表情を見ることなく、また眠りにはいった。
ひとみはその寝顔をじっと見つめる。
- 204 名前:不器用な恋 投稿日:2008/06/20(金) 22:25
-
何気ない一言で、梨華は自分のすべてを変える。
情けない予感・・・。
つながれたままのこの手を一生離せなくなる自分が見える。
やるせない第六感・・・。
今まで以上に、梨華ちゃん・・あなたに惚れる。
せつなくて温かい夜明け。自分の知らなかった世界がここからはじまる。
ひとみはこみ上げてくるものを押さえるように、梨華を自分の胸にとじこめ
また瞳を閉じた。
- 205 名前:さんにーろく 投稿日:2008/06/20(金) 22:27
-
完結&更新終了です。
読んでいただいて感謝しています。
ありがとうございました。
次回の更新は未定です。
- 206 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/21(土) 02:54
- 完結お疲れサマです。
『石川さんの粘り勝ちで賞』さしあげます。
ここではエロんな・じゃなくて・いろんな
いしよしが楽しめて好きです 次回も頑張ってください。有難うございました。
- 207 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/21(土) 23:03
- 完結お疲れ様です。
二人が分かり合えてホント良かったです。
よっすぃの梨華ちゃんにメロメロな感じが目に浮かびました。w
次回作も楽しみにしてます。
- 208 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/23(月) 20:59
- すげ!
感動してしまった。
ありがとー。
次回作あまあまでとろけたいです。
- 209 名前:sage 投稿日:2008/06/26(木) 01:33
- あ〜・・・有難う作者様
すごいです、リアル感じる
- 210 名前:さんにーろく 投稿日:2008/07/02(水) 23:42
- >>207
最後まで読んで頂けてうれしいです!
これからも甘甘ないしよしを書いていきたいです。
>>208
感動しましたか!よかったです。
どんどんとろけさせたいと思います!
>>209
こちらこそ有難うございます。
これからもよろしくおねがいします!
では更新したいと思います。
- 211 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:43
- 私は物静かな方なのよ。
このメンバーじゃ、誰かがその役目を果たさないと。
私達がずっと一緒に過ごした高校大学時代、私は梨華ちゃんよりは社交的だった、と思う。
でもそれはほんの少しだけで、それも私達が二人だけになった時だけの話。
今の彼女はその頃よりも自信に満ちた感じがするものの、
やっぱり未だにまいちゃんと美貴を喋り負かすことは出来ないみたい。
こないだの同窓会に顔を出さなかった梨華ちゃんを呼び出そうと思い付いたのも、
彼女達のアイディア。
久しぶりに一日、一緒に時を過ごして、また昔のように絆を深めるのはとても楽しかった。
- 212 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:43
-
「梨華ちゃんさぁ、いいかげん恋人に会わせてよ。なんだっけ?
あ、ひとみちゃんだ、吉澤ひとみ。」
「うーん・・・そのうちに、ね?」
「いっつもそれじゃんかー。いいかげん会わせてくれても良くない?」
「美貴も見てみたい。梨華ちゃんの恋人」
なぜか梨華ちゃんは自分の恋人を私達に会わせようとしない。
黙って何も言わなくなった梨華ちゃんをみて、まいちゃんが言った。
- 213 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:43
-
「じゃあ梨華ちゃん、選んで。」
まいちゃんがお気に入りのゲームをはじめようとしていた。
彼女自身はそんな度胸は全くないのに。
「選ぶって、何を…?」
「分かってるくせに!知らばっくれちゃって。」
「…どうしてわたしなのよ!言い出したまいちゃんがやりなよぉ!」
「梨華ちゃんやったことないでしょ?何事も経験だから」
「無理だって・・・」
「これ一回っきりだから。ダンスだけ、それ以上はしなくていいからさ」
ほらきた。美貴が加わった。
彼女は昔からいつも口が上手い。
もういい加減に―
- 214 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:44
-
「ねぇ、柴ちゃんも何とか言ってよ!」
しまった。
「私を巻き込まないでよ。するかしないかは梨華ちゃんの自由でしょ?」
梨華ちゃんは相変わらず困ったように二人に視線を送っているけど、今夜の彼女たちには
あんまり効果がないと思うよ。
彼女達の決心は何故だか相当固いみたい。
「いいじゃんか〜。もしかして、恋人のこと気にしてんの?
大丈夫。こんなの浮気には入んないから。」
「黙ってればバレないバレない。」
「そういう問題じゃないよぉ。」
「いいから!やる!」
「いや!やっぱりやらない。私にも拒否する権利くらいあるでしょ!」
美貴は飲み物にむせながら彼女の方に唖然とした視線を送った。
「そんなのルール違反だから!絶対選ぶこと。」
「ルールなんて最初から無いじゃない!」
「あるよ。その場その場で作っていくの」
- 215 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:44
-
梨華ちゃんは呆れたようにため息をついて、笑った。
「なんだか、二人とも子供みたいだね」
「悪い?」
まいちゃんは空になったグラスの中に向かってくすくす笑いながら、ピッチャーのビールをそこに注いだ。
私達、もう何杯くらい飲んだのかなぁ?
テーブルには空のピッチャーが2つと、半分になったものが1つのっている。
どうやらあの大学一年の頃のアルコールのもやの中に戻ったみたい。
- 216 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:45
-
「わかった。」
え?
しばらく考えるようにあたりを見回して、梨華ちゃんがいった。
今梨華ちゃんはまいちゃんと美貴に同意した?
まだ私は幻聴を聞く程酔ってないと思ってたのに。
「今日は二人にのってあげる。ただし、ダンスを一曲だけ。いいよね?」
まいちゃんはこくこくと頷いているけど、どうやらそれを止められないらしい。
「分かった、ダンス一曲ね。相手にベタベタさせて散々その気にしておいて、
それで思いっきり捨てるの。」
「えぇ!?」
「大学の時はいつもそうだったじゃんか」
「美貴ちゃんは、でしょ!?あたしは・・・」
「やるの?やらないの?」
「・・・やるよ。」
梨華ちゃんは自分のグラスにぶつぶつ呟いてから残りのビールを一気に飲み干した。
私達はバーの他の客を見渡した。
結構混んでるのに気づいた。
多くの男性は一人で、まさに今まいちゃん達が仕掛けようとしている事を待っているらしい。
- 217 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:45
-
「なんかどいつもこいつもだなぁ。」
「あ。あの人は?」
「どの人?柴ちゃん!」
まいちゃんは首から取れるんじゃないかと思うほどの勢いで頭を回した。
美貴がすぐに見つけたので、私は答えなくてもすんだ。
「いいかも・・・ほら、革のジャケットの彼。てか綺麗な顔・・・惚れるね」
「どれどれ??あ・・・いいねぇ。悪くない!てかいい!かっこいいわぁ」
「・・・え〜そう、かなぁ?」
「いいって!レベル高いよ、梨華ちゃん!」
- 218 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:46
-
まいちゃんは既に決意を固めたみたいだけど、梨華ちゃんは細かくチェックするらしい。
「でも意外と情けない性格かも。それにもしかしたら綺麗な顔して鼻毛とかすっごい生えてたりして。」
美貴がその言葉にむせたので、私は咳き込む彼女の背中を叩いてあげた。
まいちゃんがその間に梨華ちゃんに反論した。
「駄目。あのレベルはなかなかいない。だから獲物はあの人。さあ梨華ちゃん、行ってみよう!」
梨華ちゃんは殆ど空のピッチャーを持って、ちらちと視線を私達に向けた。
「どうなっても知らないからね?」
そういうと梨華ちゃんは人込みの中を縫うようにすり抜け、あの人の真横に立った。
ああ、私はもう既にあの人がかわいそうになる。
- 219 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:46
-
私は昔からこのゲームが好きではなかった。
多分梨華ちゃんも。
やるほうは楽しいかもしれないけど、見てるほうは相手に感情移入しちゃうんだよね…。
だから、時にはそれを強いられる前に帰ってしまって、
後からまいちゃん達の不機嫌な文句に耐えたりした。
- 220 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:47
-
その手順はあの頃と変わらない。
梨華ちゃんがバーカウンターに滑り込み、バーテンダーにピッチャーのおかわりを頼む。
カウンターの端に居る可愛そうなあの人は彼女に何か言い、彼女は殆ど相手に視線も向けない。
彼がまた何か言うと、今度は梨華ちゃんは笑った。
それからまた彼が笑い返した時、私は椅子から落ちそうになった。
その綺麗な顔が輝くように明るくなり、あまりに変わったその外見が同じ人とは思えない。
実際、最初に見た時よりもずっと素敵な人に見える。
そして彼は、梨華ちゃんの後に続いて私達のテーブルに来た。
まいちゃんと美貴は口を開けて言葉も無いままそこに座っていた。
その人は私たちの傍までくると、ジャケットを脱いだ。
「彼女と踊る間、ここにジャケットを置いておいても構いませんか?」
どうやら私が答えなくちゃだめみたい。言葉が出るのは私だけみたいだから。
「全然!大丈夫です。私達でちゃんと見ておきますから。」
「ありがとう。」
- 221 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:47
-
私に微笑むと梨華ちゃんの手をとってダンスフロアーに向かった。
私はというと、椅子の上で蕩けそうになっていた。
彼だと思っていたあの人はよく見ると女の人だったみたい・・・。
でもこのダンスフロアにいるどの男よりも魅力的だった。
彼女の瞳には何かがある。
吸い込まれるような、何かが。
「やばい、美貴あんな綺麗な顔はじめて見たかも・・・」
「まいも・・・一瞬見とれた」
美貴の目は去っていく彼女の姿から一時も離れることはなかった。
二人は私が同じテーブルに居ることすら忘れてるみたい。
梨華ちゃんの獲物に視線を釘付けにしたまま、私を飛び越してお喋りをしてる。
梨華ちゃんはとんでもないものに首を突っ込んだような気がする。
- 222 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:48
-
「あの二人・・・」
「どうしたの?」
「なんか・・・エロくね?」
「はぁ?」
二人を見ていた美貴の言葉にまいちゃんと私は視線を移す。
確かに・・・。
彼女は両手を梨華ちゃんの腰に置いて、音楽に合わせて揺れている
時々彼女が梨華ちゃんの耳元に顔を寄せて何かを囁いている。
梨華ちゃんは彼女のほっそりとした二の腕を掴んで、顔を見上げて話しかけているみたいだった。
彼女が動くたびに髪が顔にかかる。
彼女の俯いた表情があまりに魅惑的で。
時折、唇を舐めるのは彼女の癖なんだろうか。
それに、梨華ちゃんを見つめるあの熱っぽい視線・・・
- 223 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:48
-
私がぼんやりとしていると、二人がテーブルに戻って来た。
二人がダンスフロアーを去ったのに気が付かなかった。
梨華ちゃんは自分のバッグを床から取った。
「もう夜も遅いから、先に帰るね。それじゃぁ、おやすみなさい。」
「みなさん、良い夜を。」
彼女はそこに置いてあったジャケットを肩に掛けて、私達に笑顔を向けた。
そして彼女は梨華ちゃんの背中に手を置いて、ドアの方へと導いていった。
- 224 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:48
-
ちょっと待った!梨華ちゃん?あの人と一緒に行くの!?
話が違う。彼女は勘違いしてるんだろうか・・・
心配になって二人の後を追おうとした時に、新しいピッチャーが私達のテーブルにドンと置かれた。
「どうぞごゆっくり。」
- 225 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:49
- 「ちょっと待って!」
まいちゃんが叫ぶと、ウェーターが困惑した顔で戻ってきた。
「ああ、すみません。それは吉澤さんから。」
「吉澤さん?って・・・吉澤ひとみ!?梨華ちゃんの恋人!?・・・ここに居たの?」
美貴の声は私と同様困惑していた。
そのウェーターも同じような顔をしていた。
「ええ。石川さんがカウンターに来た時に、
二人がお帰りになる時にここにお届けするようにと、吉澤さんに頼まれたんです。
丁重なご挨拶と一緒に。ご存じなかったんですか?」
- 226 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:49
-
まいちゃんは美貴を見た。美貴は私を見て、私はウェーターを見た。
そしてようやくパズルのピースが全て嵌り、私は涙が出るほど大笑いしたくなった。
どうして梨華ちゃんが、あんなに嫌がっていたこのゲームにあっさり参加したのか。
彼女・・・吉澤さんが梨華ちゃんに向けていたあの視線の意味も。
「今、梨華ちゃんと一緒に出て行ったあの人が吉澤ひとみ、そういうこと・・・だよね」
答えは分かっていたので、私の質問も本当の質問ではなかった。
「ええと、そうですけど」
ウェーターはさっきよりも更に困惑した様子で言った。
「お二人とも夕食を食べによくここに来てくれるんです。」
- 227 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:50
-
やられた。
まいちゃんも美貴もあの騙されやすい、梨華ちゃんに騙されたことが
よっぽどショックだったらしい。
「美貴、梨華ちゃんにだけは騙されるとは思ってなかった」
「まいも。なんかすっごい悔しくない??」
「でも、噂のひとみちゃんが見れたのは思わぬ収穫だったね」
「だね。今ならあの二人のダンスのエロさの理由がわかるわ」
「まいちん、コメントがおっさん」
「うっさい!美貴も納得してたじゃん!」
二人は言い合いながら、運ばれてきたビールを飲み始めた。
- 228 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:50
-
でもね、私もうひとつわかっちゃったみたい。
梨華ちゃんがあんなに頑なに恋人を私たちに会わせたがらなかった理由。
あんなに魅力的な恋人を見せたりしたら、美貴もまいちゃんもライバルになりかねないもんね。
そうでしょ?梨華ちゃん。
でもね、心配ないと思う。
目の前であんなにイチャイチャされて、吉澤さんが梨華ちゃんを見つめる、あの瞳をみたら
美貴もまいちゃんも諦めたみたいだから。
だから、今度はきちんと紹介してよね。
あなたの自慢の恋人を。
- 229 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:50
- END
- 230 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/07/02(水) 23:51
-
- 231 名前:さんにーろく 投稿日:2008/07/02(水) 23:52
-
更新終了です。
短編で申し訳ないです。
そして甘くない・・・
次回はもう少し長いお話を書きたいと思います。
- 232 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/03(木) 02:23
- 今回もとても良かったです。
あの夜の二人のその後も気になりますねー
- 233 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/03(木) 22:54
- すき放題言う二人におされ気味の梨華ちゃんそれを冷静に観察する
柴ちゃん視点面白かったです。
梨華ちゃんのチョッとした二人への復讐もw
唖然とする二人の顔が浮かびました。
- 234 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/04(金) 17:48
- 数いる人の中からひとみちゃん選ばせられる自信があったという事かスゲーw
自分には十分甘かったですYO!
- 235 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/24(日) 11:13
- 待ってます!!
- 236 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/25(月) 02:15
- 私も待ってます
- 237 名前:さんにーろく 投稿日:2008/09/16(火) 01:09
- >>232
>>233
>>234
>>235
>>236
2ヶ月も放置してて、すみません!完全にスランプでした。
待っていてくれた方々に感謝します。
見切り発車になりそうですが、新作です。
- 238 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:09
-
- 239 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:10
-
「お願い!します!頼む!この通り!」
「……あのさぁごっちん?やだって言ってんじゃんよ。
いいかげん諦めろ。」
「むぅぅぅ〜…」
彼女の名前は吉澤ひとみ。
よしこはあたしの良き友人。大学に入ってからの付き合いなんだけど
お互いなんだか気が合うみたいで、今日もこうして一緒にランチ。
- 240 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:10
-
なんだけど……あたしがさっきから必死になってお願いしてるのに
彼女は絶対に首を縦には振らない。
そんなに嫌かねぇ?…いいじゃん、合コンくらい。
よしこはキレイなんだから絶対モテモテなのに…
「よしこのケチー」
「嫌いなんだよ、そういうの」
「お願い!」
「断る」
「頼みます!」
「ぜっったい嫌!だいたいメリットがない。
知らない人間と飯食ってなにがおもろいねん。アホか。」
よしこは悪びれる様子もなく、のんきにベーグルを食べながら言う。
変な関西弁!
- 241 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:11
-
へーんだ。
いいもんねっ。よしこの弱点は抑えてあるんでぃ!
「………一ヶ月!!」
「…は?何が??」
「一ヶ月ベーグルおごります券!差し上げます!」
「行きましょう。ぜひ!」
あたしは迷わず即答したよしこと固い握手をかわした。
- 242 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:11
-
「はぁ…」
「何」
合コン当日、店に来たよしこを店の隅っこに引っ張って行き、
思いっきりため息をついてみせる。
だって…だってだよ?
仮にも合コンの席に色あせたビリビリのジーパンに黒のパーカー。
どこのメンズだよ
「あのさぁ……いや、いいんだよ?別に似合ってるし
それがよしこなんだけどさ?でももうちょっと…」
「なんだよー。来るだけでいいからって言ったのごっちんじゃんよ」
「そーだけど……じゃあせめてその黒縁めがねは外せぃ!」
「そこ!?…まぁいーや。らじゃー」
のんきに言ってのけた男前をつれて再び合コン再開。
- 243 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:12
-
「ひとみちゃん…だっけ?かわいいねーいつも何して遊んでんの?
てかさぁ、……」
さっきから必死にウチに話しかけてくるコイツ。
ほんっと勘弁してほしい…
悪いけど今は彼氏とか作る気ないんだよなぁ。
おなかも満たして、激しく帰りたい衝動に駆られていたひとみは
目の前の男が繰り広げる落ちのない話にイライラしつつ、
気を紛らわそうと回りをキョロキョロと見渡していた。
- 244 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:13
-
「美貴ちゃーん!はぁ、遅れてごめんね?」
(おっ、隣も合コンかい。…学生は暇だねぇ、ってウチもか…
てか声高けぇー)
「おー、梨華ちゃん!遅かったじゃーん。こっちこっち」
となりの席では別の飲み会が行われていた。
うわぁ、男性の皆さんの視線が一気にかたよったぞ・・・
まぁ普通にかわいいもんね。仕方ない。
- 245 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:13
-
「よしこ、どーするよ?」
飲み会が始まって、2時間は経ったころ。
いつの間にかお客はあたし達だけになっていた。
ごっちんは気に入った男がいなかったらしく、帰るらしい。
かなり飲んだのか、顔が赤いし、酒臭い。
「うちも帰るよ。」
「じゃあ、これから二次会行くらしいからお互い適当に抜けるってことで」
「らじゃ」
「今日ごめんねぇ、無理やりつき合わせて」
「いいって。ただ飯食べれたし」
「んじゃーまた明日学校で〜」
「ひとりで帰れんの?」
「んー。だいじょぶ」
- 246 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:13
-
店の外に出ると、他の連中はフラフラと次の店に歩き出していた。
あたしは反対方向の駅に向かって歩き出す。
ごっちんほんとに大丈夫かな・・・
一応電話でもしてみるか。
- 247 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:14
-
「大丈夫〜?飲みすぎちゃったねぇ。家どのへんなの?
俺んちすぐそこだからさぁ、休んでいかない?」
「んー・・・」
「いいじゃん。ほら・・・」
「いやっ・・・離してぇ。ひっく・・・」
携帯片手に駅のホームにつくと、中から声が聞こえてきた。
カップルのいちゃつきか。
家帰ってやれよなぁ。入りづらい。
パンっ!
「離してってば!もうっ・・・やめてよ!」
突然大きな声がした。
- 248 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:14
-
中をのぞくと、そうとう酔ってるのかフラフラしながら立ってる女の子と、
ホームに転がる男性一名。
叩かれたっぽいね。
嫌がってんのに、しつこくするからだよ。
のんきに見てると、転がってた男のほうがいきなり立ち上がって
女の子の胸倉を掴んだ。
「てめぇ!おとなしくしねぇと犯すぞコラ!」
はぁ…めんどくさそうだなぁ。
どうしよう。・・・・・・行っとくか。
- 249 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:15
-
「おまわりさん!こっちです!」
「・・・!?」
「早く早く!こっちです!」
「・・・くそっ!どけ!」
ドンっ!
うわっ!・・・いってぇ。
あたしの迫真の演技のお陰で、男は女の子から手を離して
ホームの入り口に立っていたあたしに勢いよくぶつかりながら走り去った。
「いたた・・・大丈夫、ですか?」
「んー・・・」
「おーい」
「・・・・・・」
ホームに座り込んだまま顔を上げない酔っ払いに話しかけるものの
全く反応がない。
- 250 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:15
-
「こら、おい。」
頬をペチペチと叩いても、眉間にしわを寄せるだけで目を開けもしない。
何度ゆすっても、叩いても反応のないこの酔っ払い。
どうしよ。
「って寝てるし・・・」
放置して帰ってもよかったんだけど、このまま凍死されても嫌だし。
なぜか人のパーカーの裾を掴んだまま離そうとしない酔っ払いをおぶって、
とりあえず家へ帰った。
「ん、しょっと・・・はぁぁぁあ〜、重っ・・・
離せっ、この!・・・はぁ」
どうにか酔っ払いをベットに下ろして、あたしもベットを背にその場に座り込む。
疲れた・・・
- 251 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:16
- うちのアパートは駅から徒歩30分。
そう、かなり遠い。
いくら体力に自信のあるウチでも、力の抜けきった酔っ払いをおぶって歩くのは
しんどいわけで。
ため息一つつきながら、ふと酔っ払いの顔を見る。
気持ちよさそーに寝ちゃってますねぇ。
・・・そーいやこの部屋に人が来たのいつぶりだろ。
まぁいいや。とにかく疲れた。
シャワー浴びて、寝よ。
- 252 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:16
-
- 253 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/16(火) 01:17
-
- 254 名前:さんにーろく 投稿日:2008/09/16(火) 01:17
- 短いですが、更新終了です。
- 255 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/16(火) 15:22
- 待ってました!
おもしろそうですね。
楽しみにしてます。
- 256 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 00:00
- 同じく待ってました。
面白そうな設定ですね、続きが楽しみです。
- 257 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 02:27
- 更新お疲れ様です。
待ってましたよ!
これから面白くなりそうな感じですね。
続き楽しみにしてます。
- 258 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 04:59
- 待ってたYO嬉しいYO
ドキドキしてきた。
- 259 名前:さんにーろく 投稿日:2008/09/17(水) 14:31
- >>255
待っていてくださって嬉しいです!
頑張ります!
>>256
見ていてくれる方がいるというのは
作者にとってすごく励みになります。頑張ります!
>>257
どういう展開になるか、作者的にも楽しみですw
>>258
こっちこそ嬉しいです!
待っていただいてありがとうございます!
皆さんのレスで創作意欲が沸いてきました。
本当にありがとうございました!めざせ完結!
とういうことで、本日の更新です。
- 260 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/17(水) 14:32
-
「ごっちん!おはよ」
「んー・・・んん・・・んあぁー・・・」
「おい。どーしたぁ?」
「んんー・・・」
朝から教室の机に突っ伏したままうなる親友。
・・・あー、二日酔いね。飲んでたもんねぇ、昨日。
「大丈夫かー。つーか、よくそんなんで学校これたね」
「今日休んだら単位落とす」
なるほど。
でもまぁその前に休みすぎだろ。
- 261 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/17(水) 14:32
-
ごっちんはそのあとの全ての講義の間、一度も起き上がることなく一日を終えた。
そのお陰か、帰るころにはすっきりした顔でだいぶ遅い昼飯を食っている。
「よっ。顔色戻ったじゃん」
「んーおかげさまで。よしこ終わり?」
「いや、講義はないんだけど呼び出されてて。帰れん」
「誰に?」
「保田先生」
「なんかしたの?」
「いや、多分なんもしてない・・・と思う」
「よしこがんばれ」
「完全に人ごとだな。んじゃ行くわ」
「んー。また明日ねぇ〜」
- 262 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/17(水) 14:33
-
保田さん何の用事だろ・・・
こえぇな、怒られんのかなぁ、やっぱ。
恐る恐る保田先生の部屋に入る。
「失礼しまーす・・・」
「あ、吉澤ね。入りなさい」
「あ、はい」
「座って」
「あの・・・ウチなんかしました?」
「は?何でよ」
「え、いや、いきなり呼び出されたんで」
「怒りはしないわよ!失礼ね。話があったのよ!」
「話?」
「これよ」
保田先生は微笑みながら、一枚の紙を出してきた。
- 263 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/17(水) 14:33
-
・・・2LDK、家賃5万3千円
なんだぁ?
「あのー・・・」
「住んでみない?この家」
「・・・は?」
「あたしの後輩がルームシェアしてくれる相手を探してるわけ
んで、あんた引越しの話があるらしいじゃない?だから声かけたのよ」
「はぁ…」
「どう?悪い話じゃないと思うわよ。
大学には近いし、徒歩5分圏内に駅、コンビニあり、新築。
あんたにとったら好条件でしょ。」
- 264 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/17(水) 14:34
-
確かに。
来月から家賃値上がり宣告を受けて引越しを考えてたのは事実だ。
今のとこより交通の便はいいし、治安も悪くない。
何より広い。
こんなに条件のそろった物件めったにない。
それにここならバイト先にもチャリで通えるし。
でも・・・シェアか。
知らないやつと一緒に暮らすってことっしょ?
ってかなんで先生はウチが引っ越そうとしてるのを知ってんだ?
おそるべし保田圭・・・!
- 265 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/17(水) 14:34
-
「まぁ、すぐに返事しろとは言わないから。
今週中に返事聞かせてくれればいいから、ゆっくり考えてみて」
「はぁ」
- 266 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/17(水) 14:35
-
- 267 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/17(水) 14:36
-
「またやっちゃった・・・」
梨華はそこが自分の部屋ではないことに気づいて小さく舌打ちをした。
昨夜、合コンでまたもや飲みすぎてしまったらしい。
記憶が全くない上に、家主はいないようだ。
とりあえず自分の荷物を抱えて、二日酔いの頭を抱えながら部屋を出た。
自分のアパートに帰って、梨華は唖然とした。
室内はメチャクチャ。もともと綺麗な部屋ではなかったが、それにしてもおかしい。
「うそ・・・空き巣・・・」
- 268 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/17(水) 14:36
-
結局、取られたのはパンツだけで済んだが、バイト先のインテリアショップに着いても
仕事が手につかない。
「ソレって完全狙われてたね」
同僚の柴田あゆみに指摘されて、梨華は恐くなった。
「どーしよぉ、柴ちゃん・・・」
- 269 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/17(水) 14:37
- 「今まで見境なく男と遊んだ代償じゃない?」
「遊んだって・・・人聞き悪い言い方しないでよ」
「ほんとのことじゃん」
「私は運命の相手を探してるだけだから」
「はいはい。あたしは単純に男好きなだけなんだと思ってましたが」
「もう!真剣に考えてよぉ」
「じゃー引っ越しな」
「でもぉ・・・」
「次はパンツじゃ済まないかもよ?」
引越しだ。
- 270 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/17(水) 14:37
-
翌日早速、梨華は不動産屋に飛びこんだ。
「お客さん目が高い!」
担当者に案内されたのは2LDKマンション。リビングをはさんで2つ部屋が向かい合っている。
「いい!あたしここに住みたい!」
ただし問題が1つ。
10万6千円という家賃は梨華には支払えそうにない。
それでもあの部屋に住みたい。
- 271 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/17(水) 14:38
-
「もしあれだったら、シェアしてくれる相手を見つけて、家賃を折半すれば
半額の5万3千円ですよ。お互い個室だしプライバシーも保障されますし・・・いかがです?」
半額・・・5万3千円・・・
「ルームシェアします!」
- 272 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/17(水) 14:39
-
梨華はあゆみに手伝ってもらい、インターネットでルームメイトを募集した。
そこそこ反応はあったが、応募者に会ってみるとみんな自分勝手な要求ばかり。
「神様、いい人と出逢わせてください」
「あのさぁ、梨華ちゃん。
いいかげん決めなよ。多少の要求は我慢しないと、一生決まらないよ」
「でも、一緒に住むんだよ?生活を共にするんだから」
「だから?」
「妥協したくないの!」
「はぁ・・・」
- 273 名前:さんにーろく 投稿日:2008/09/17(水) 14:40
-
今回も短め更新申し訳ないです!
- 274 名前:さんにーろく 投稿日:2008/09/17(水) 14:40
-
次回の更新は未定です。
- 275 名前:さんにーろく 投稿日:2008/09/17(水) 14:41
-
- 276 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 23:07
- 連続更新お疲れ様です。
なるほど、そういう訳でこうなったんですね。
って訳わかんない感想になってしまいましたがネタバレしちゃうとアレなのでw
二人の再会が楽しみです。
- 277 名前:さんにーろく 投稿日:2008/09/18(木) 15:23
- >>276
ほんと連続更新ですね
まとめて更新しろよって感じですがw
今回で再会します。
三日連続更新です。すいません!
でわ。
- 278 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:24
-
- 279 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:24
-
「おぉ、広い!綺麗!いいとこじゃん」
保田先生に返事をする前に、一度部屋を見せてもらうことにした。
鍵だけ預かって、ごっちんと見に来たけど
「んー確かに。これで5万3千円はありえない」
「決めちゃいなよ、よしこ」
「んー」
- 280 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:25
-
「まだ迷ってんの?いい話じゃん
なに、シェアすんのがそんなに嫌なわけかい」
「嫌ってわけじゃないけど・・・」
「けど?」
「他人と暮らす・・・ウチが?・・・えぇー」
ウチが真剣に頭を抱えて悩んでるのに、親友ごっちんは呆れ顔。
なんでぇ、そんな簡単に決めちゃだめだろ
住むんだよ?知らない人間と!一つ屋根の下で!生活を共にするんだよ??
大事じゃんよ。
それに・・・
- 281 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:25
-
「個室もあるんだから、関係ないって」
「・・・」
「それに向こうは社会人なわけでしょ?毎日顔合わせるとは限んないし
よしこさ・・・何心配してんの?同棲じゃないんだよ、シェアなわけ。シェア!わかる?」
「しぇあ?」
「そ。シェア」
「しぇあ、ねぇ」
- 282 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:25
- ――――――――――――――――――――
- 283 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:26
-
「はじめまして、石川梨華です」
「・・・」
「吉澤っ!なにぼーっとしてんの」
「・・・あっ、どうも・・・吉澤ひとみです」
見たことある・・・
見たことあるぞ、この人
つーか、会ったことある
- 284 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:26
-
「これ、あたしの学校の生徒。
話したと思うけど、こっちがあたしの大学の時の後輩の石川」
保田先生が仲介人みたいにって、ウチは結局ルームシェアすることに決めた。
話を聞けば、向こうも相手がなかなか決まらずに困っていたらしいし、
ウチも大家さんに更新を迫られてて、早めに引越しを進めたかったから。
早速、昼休みに学校近くの喫茶店で会うことになったんだけど・・・
向かい側に座るこの人。石川さん。
誰だっけ・・・
見覚えあるんだけど、思い出せない。
- 285 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:27
- 「ってことで、石川は今日中には荷物運び込むのね。
吉澤、あんたどうするの?」
横に座る保田先生がウチをみる
「・・・へ?」
「荷物よ!話聞いてなかったわけ?」
「あっ荷物は明日の昼にでも」
「なにぼけっとしてんのよ、全く。」
結局この日、ウチは石川さんとろくに話もせずに、学校にもどった。
- 286 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:27
-
- 287 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:27
-
「重いぃぃ・・・っ」
「重くない。がんばれごっちん」
引越しの日、今日はとりあえず荷物だけ運び込む。
ウチはもともと荷物が少ないし
ごっちんが手伝ってくれたお陰で一時間もしないうちに搬入終了。
- 288 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:28
-
「さーんきゅ。ほい」
疲れてリビングに寝そべる親友にジュースの差し入れ。
ごっちんは一気飲みしてから、ウチを睨む
「楽して稼げるいいバイトがあるっていうから来たのに
詐欺!詐欺師よしこ!」
怖くねぇから
てか体力ないね、後藤さん。まぁ確かに騙したのは悪かった。
でもさ、手伝ってもらったのってソファーだけじゃん
依然として、ウチを詐欺師扱いしてわめくごっちん
- 289 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:29
-
「わーかった。昼飯おごるよ」
「ん」
「でもその前に一服させて」
タバコをくわえて窓際に置いてある椅子に座る
「この部屋禁煙じゃないの?」
確かに、そういうこと全く聞いてないけど
普通禁煙だよな。石川さん吸わないだろーし
ウチはタバコをくわえたまま、テラスに出た。
- 290 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:29
-
「はぁー、それにしてもほんと綺麗な部屋だねぇ
ごとーもここに住もうかな」
リビングの絨毯の上でゴロゴロするごっちん
「なーに言ってんだ」
「いや、ほんとに。
最近うちのアパート隙間風がひどくてさぁ、どう?三人暮らし!」
- 291 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:29
-
「うそつけ。ごっちんとこも新築じゃんよ」
「・・・んー」
「何だよ」
「よしこ平気?」
「何が?」
「・・・」
ごっちんは何も言わずに、ウチの目をじっとみてから
さっき苦労して運び込んだソファーに横になる。
わかってるんだ。
ごっちんが心配してること
だけど、
- 292 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:30
-
「大丈夫だよ、ウチひとりでも」
そう。これはルームシェア。
一緒に住むんじゃない、場所を共有し合って暮らすだけ。
そんだけだ。
あの時とは違う。
「よしこは一人じゃないから。ごとーがいるもん」
「ん。だな」
ウチはごっちんの言葉を聞きながら、口から吐き出される煙をいつまでも見つめていた。
- 293 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:30
- ――――――――――――――――
- 294 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:31
- 「おぉ〜、こりゃいいとこ見つけたね!梨華ちゃん」
部屋に入るなり、柴ちゃんは感心したような声をあげた。
「でしょ!結構人気の物件らしくて、あたしで最後だったんだって」
私は持っていたバッグをリビングのテーブルに置き、部屋を見渡す。
家具はうちの店の店長が引っ越し祝いだと言って、もらったものを置いてあるし
キッチンはダイニングになっていて、部屋中が見渡せるし
うん、やっぱりこの部屋にしてよかった。
- 295 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:31
-
「で、二人で住むわけだここに。しかも女子!
あたしはてっきり合コンで引っ掛けた男と住むんだと思ってたよぉ〜」
「住むわけないでしょ!」
「にしても、なーんかあたしには想像できないなぁ。見ず知らずの他人と同棲するなんて」
すごい発想だね〜、なんて言いながら柴ちゃんは部屋を物色していった。
一昨日のうちに荷物は運んでいたので、早速今日からここに住むことにした。
リビングに見慣れない真っ白な革のソファーが置いてあったけど、きっと吉澤さんが
昨日のうちに運び込んだんだろう。
よかった。
私は引越しの邪魔になるからとソファーは処分してしまっていたから。
- 296 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:32
-
「相手の子はいつから暮らすの?」
柴ちゃんは部屋を一通り見終わったみたいで、勢いよくソファーに座りながら言った。
「んー、詳しくは聞いてないんだけど荷物は昨日運んだみたいだし
明日にはくるんじゃないかなぁ」
「ふーん。てかさ、どんな子なわけ? その・・・なんとかさん」
「吉澤さん」
「それ、吉澤さん」
「どんな子って・・・あんまり話せてないからよくはわかんないんだけど
保田さんの教え子らしくて。背高くて綺麗な子だったよ」
- 297 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:32
-
「教え子ってことは、学生?へぇー!
学生の分際でこんなとこ住めるなんてすごいね。贅沢
なんかやばいバイトでもしてたりしてねぇ」
「もう!そういう言い方本人の前でしないでよ!」
「はいはい、って・・・あ、」
「ん?」
柴ちゃんの視線を追うように玄関のほうを見て固まった。
そこには、ダンボールを抱えたままの申し訳無さそうに立つ吉澤さんがいたから。
- 298 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:33
-
「・・・あ、すんません。鍵開いてたから」
「ううん、気にしないで!ていうかあなたの家でもあるわけだし」
「あ、はい。ちょっと大学の荷物置きに来ただけで、すぐ出るんで」
そういうと吉澤さんは、私の横を通り抜けて奥の部屋に入っていった。
でも、ほんとうに荷物を置きに来ただけみたいで、私たちに軽く会釈して
すぐに玄関に向かう。
私はなんだか少しでも話がしたくて、彼女のあとを追いかけた。
「あのっ!」
「へ?・・・あ、はい」
ドアノブに手をかけたまま振り返る彼女
- 299 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:33
-
「あ、あの・・・鍵!」
「鍵・・・?」
「鍵!もらってる?この部屋の」
「あー、はい。保田先生から」
「そっか・・・」
「・・・あのー」
私の顔を覗き込むようにして見る彼女
「あっ、それだけ!ごめんね引き止めて」
「いえ。じゃあ失礼します」
吉澤さんはそういうと、さっさと部屋を出て行ってしまった。
なんか思わずわけわかんないこと聞いちゃったなぁ。
吉澤さんも困ってたみたいだし。
- 300 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:34
-
翌日。
「じゃあお先に失礼しまーす」
「あー!石川さん、ちょっと待って!」
午後8時、私が入り口から出ようとすると、店の奥から声がした。
「こっちこっち」
店の奥から顔だけ出して手招きしている彼女は、市井さん。
このインテリアショップの店長代理だ。
店長は商品の仕入れで、店に顔を出すことなんてほとんどない。
だから彼女が代理を務める。
- 301 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:34
-
ていうか今日は珍しく早上がりだと思ったのに。
また残業?こないだもそれで合コンに遅刻しちゃったばっかりじゃん!
「なんですかぁ?」
「いやいや、そんな顔しなくても・・・石川さんの男探しの邪魔はしないよ」
失礼な。私は運命を探してるんだってば!
「で?用件は何ですか、店長代・理!」
事務所の椅子に軽く腰をかけながら聞く。
「代理はいらないから!
あのー来月からバイト増やそうと思って。まぁ一応告知出すけど
石川さんの知り合いにもどんどん声かけといてくれない?」
そう言いながら市井さんはバイト募集のチラシを渡してきた。
- 302 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:35
-
「はーい。わかりました」
「じゃあ、お疲れ様。
もう合コン行っていいよ」
ニヤニヤしている市井さんの言葉を聞き流し、私はさっさと店を出た。
もう、柴ちゃんといい、代理といい、男探しの何が悪いわけ?
自分に合う相手を探すのは大事なことじゃない。
- 303 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:35
-
「で、梨華ちゃんはイラついてたわけだ」
「はぁ?」
「でも梨華ちゃんは男好きっていうより、自分大好き〜って気がするけど」
合コンの帰り道、たいした男もいないので美貴ちゃんと早々切り上げて。
駅までの道を歩く。
彼女とは毎日のように合コンに励む、言ってみれば友達というよりは戦友。
っていっても彼女はただで飲んで食べれることのほうが魅力で目的みたいだけど
- 304 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:36
-
「男が好き!じゃなくて、男に好かれてる自分が好き!って感じ?」
「・・・美貴ちゃんの言ってる意味がよくわかんない」
「だから、相手は誰でもいいってこと」
んー、イライラしちゃってお酒もだいぶ飲んだせいか頭がうまく働かない気がする。
でも、誰でもいいわけじゃない
収入もそれなりにあって、背高くて、できればかっこいい人じゃなきゃ!
「つまり、貧乏でチビでブサイクじゃなきゃ誰でもいいわけだ」
「うぅー、そうなのかなぁ。・・・私って間違ってる?」
「間違ってるかは知らないけど、美貴はそういう梨華ちゃん嫌いじゃないよ
一生懸命楽しもうとしてるから、毎日を」
美貴ちゃんはにゃはは、なんていいながら私の頭を撫でてくれた。
私は本当は何が見つけたいんだろう。
- 305 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:36
-
美貴ちゃんと別れてマンションに戻ると、鍵が開いていた。
リビングに入るとキッチンには吉澤さん。
私に気づくと頭を軽く下げて、小さく「どーも」って。
そっか、今日からくるって言ってたっけ
「ただいま。何してるの?」
ダイニングになっているキッチンの中を彼女の正面からのぞく
「あ、ココアいれてて・・・」
「おいしそうだね」
「・・・飲みます?」
「うん!」
- 306 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:37
-
私が着替えてソファーに座っていると、
吉澤さんが湯気のたったカップを差し出してくれる。
「ありがとう」
おいしそうなココアに思わず嬉しくて私が笑顔でそういうと
彼女はしばらくボーっと私の顔を見て、そのまま慌てたように自分の部屋に向かう。
「吉澤さんっ」
思わず呼び止めてしまった。
彼女ともう少し話がしたかったから。
- 307 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:37
- ―――――――――――――――――――――
「吉澤さんっ」
石川さんがウチを呼び止めた。
「・・・って呼び方固いからやめにしない?」
「へ?」
「普段なんて呼ばれてるの?」
- 308 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:38
-
あぁ、名前ね。
この人の話し方って脈絡がなくて変だ。そんで面白い。
でもあだ名は必要ないよ
「いや、別にウチはこのままでいいですよ」
仲良くなろうとは思わないから。
「いいじゃない、教えてよ」
ウチが立ってるせいか、上目遣いでしつこく聞いてくる石川さん
酒を飲んできてんのか、ほっぺも微妙にピンク色。
んーやっぱなんかどっかでみた顔だなぁ
- 309 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:38
-
「ねぇってば」
「んー、じゃあ石川さん年上なんだし勝手に呼んでください」
「えぇ〜・・・ひとみ、ちゃん?」
「やです!」
即答する。
嫌だ。はずかしいし、それに・・・馴れ馴れしい
「なぁんでよ!いいじゃない!」
「やめてください」
「ひとみっち?」
「No!てかなんで下の名前で呼ぶんですか、吉澤で考えてくださいよ」
- 310 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:39
-
「・・・私今年で23なのね?」
「はぁ・・・?」
まただ。話が急に変わる
「あなたは?」
「21です」
「つまり、私のほうが2つも年上なわけ」
「はぁ」
「だから、あなたは私になんと呼ばれようと文句は言えないわけ」
- 311 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:39
-
えぇー、どんな理屈だよ
まぁいーや。これ以上言い合っても仕方ない。
「じゃあもう、石川さんの好きに呼んでください」
「うん!じゃあ、おやすみ!ひとみちゃん」
満点の笑顔でそういうと、石川さんはバスルームに消えていった。
- 312 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:39
-
――――ひとみちゃん・・・――――
いい子ね。ひとみちゃん
- 313 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:39
-
- 314 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/18(木) 15:40
-
- 315 名前:さんにーろく 投稿日:2008/09/18(木) 15:41
- 更新終了です。
なんか読みづらい出来上がりになってしまった…
- 316 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/19(金) 09:49
- イイ展開になって来て楽しみです(≧▽≦)
いちごまのキャラが良いですねw
更新お疲れ様です!
- 317 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/19(金) 23:48
- 自由人梨華ちゃんいいですね〜。
それにしてもよすぃ〜の過去が気になりました。
- 318 名前:さんにーろく 投稿日:2008/09/21(日) 01:24
- >>316
楽しみにしてくださって、うれしいです!
作者的に、いちごまは書きやすいですw
>>317
自由人の石川さんって好きなんです
書き慣れないので、微妙にキャラが定まらないんですけどね
精進します。
では、本日の更新です。
- 319 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:24
-
- 320 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:25
-
うちの大学は自慢じゃないが、結構広い。
学内で人を探すとなるとホントに一苦労だ。
「よーしーこ・・・」
でもよしこの場合、見つけるのが意外に簡単なときがある
歩いていると、軽い人だかりが出来てた。
あたしはその間をぬって、注目の的に近づく
「ちょっと、ごめんなさいねぇ・・・っと」
学生用のホールでよしこはソファーの背もたれに深く腰をかけて目を閉じて座ってた。
両手を膝と膝の間に置いて、俯いたまま居眠り中。
- 321 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:25
-
彼女はたまにこんな風に居眠りをする。
よしこのファンは多いから、それを見に来たファンで人だかりができる
にしても、こんなに囲まれててよくスヤスヤ眠れるもんだ
「よーしこー」
「・・・」
「こら、起きろ」
「・・・」
「むぅぅー」
「・・・っっ!」
- 322 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:26
-
「謝ったじゃん。ごめんって」
「・・・」
「もうしないからー」
「・・・・・・・」
ホールじゃ人が多いから、外のベンチに移動した。
ここはあたしとよしこの憩いの場
- 323 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:26
-
でも吉澤さん、ご機嫌ななめの模様です。
あたしが彼女を起こすのに仕掛けたちょっとした冗談が気に入らなかったらしい。
「どこがちょっとした、だよ!しかも首絞めるか?普通、あの力で!
冗談じゃ片付けられん握力じゃんよ!起こすなら普通に起こせ」
「だって普通におこしても起きなかったんだもん。ごめんって・・・」
「・・・・・」
「ごめんなさい」
ほんとに苦しかったっぽいので、あたしも素直に謝った。
よしこはそんなあたしを横目で見て
ほんのり赤くなった首をさすりながら、「ジュース」って。
- 324 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:27
-
友情復活。
りんごジュースで仲直り
- 325 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:27
-
「んで、なんか用事だった?」
「んぁー、なんだっけ」
「思い出せ」
「ん、んふうぅぅぅー・・・」
「ふはっ、なぁんだよそれ」
あたしが腕組みして声を上げると、よしこは小さく笑って伸びをした
見上げた横顔は、相変わらずきれいだ。
「・・・また寝てないの?昨日」
一瞬、動きの止まったよしこ、でも一瞬だった
「ちょっと寝付けなかっただけ。新居だからじゃん?」
そういってタバコを取り出して、火をつけた。
- 326 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:27
-
よしこは意外に正直者だ。すぐわかる
嘘ついてるときは、上を向く。
そんで優しいから嘘をつく
あたしが心配しなくていいように
「意外と繊細なのねぇ」
だからあたしも騙される、上を向く。
空が今日も綺麗だ
- 327 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:28
-
――――――――――――――――――
- 328 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:29
-
引っ越して1週間たったころ
「おはよ」
「あ、今日よしこんち行っていい?」
「なんで?」
「引越しお祝いパーティーでしょ」
朝一番、挨拶したらごっちんに言われた。
でしょ、ってなんだよ、初耳だよそんな話は
「聞いてないよ」
「言ってないもん」
堂々と答える彼女。
- 329 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:29
- 「だから今聞いてんの。今日でいい?」
あ、パーティーはやること前提の話ね
まぁ今日はバイト休みだし
「いいけど、どっか店でやろうよ」
「なーんで」
「だって石川さんいるし」
「だから行くんでしょ」
当たり前だとでも言いたい顔
「は?」
「挨拶をかねて」
なるほど。
- 330 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:30
-
シェアを始めて一週間、石川さんとは相変わらずだった
朝、ウチが起きるころには社会人の彼女はもう仕事に行った後だし
ウチが帰るのはバイトが終わる夜12時以降、その時間は彼女はもう寝てる。
たまに遅くに帰ってきたり、
休みの前の日は朝帰りしたり、友達と部屋で飲んだりしてるみたいだから、会えば話す。
その程度
彼女は「せっかく一緒に住んでるのになんか寂しいね」なんて言ってたけど
それでいいんだ。ルームシェアなんだから。
無理やり仲良くなる必要なんてない。いつかは出て行くんだから
- 331 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:30
-
「あ、おかえりーひとみちゃん」
「どーもー」
夕方5時、部屋に帰るとリビングに石川さんがいた。珍しい。
「こんな時間に会うの初めてじゃない?」
「ですね」
「今日バイト休みなの?」
石川さんはキッチンに入りカップを取り出すしながら聞く。
- 332 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:30
-
「あーそのことでちょっと話が」
「紅茶飲む?」
「いえ、大丈夫です。あのー突然でアレなんですけど
今日友達が引越しお祝いパーティーしてくれるって言ってて・・・
ここでやってもいいですか?うるさくしないようにはするんで」
石川さんはキッチンにもたれて、両手でカップを持ち紅茶を冷ましながらウチをみる。
「それは全然いいんだけど」
「けど?」
「私の同僚も今夜来るっていっててさぁ」
「あーならウチ別の日にしますね」
「ううん、そうじゃなくて!
どうせなら一緒にしちゃわない?」
「へ?」
- 333 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:31
-
――――――――――――――――――――
- 334 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:31
- 「ってことで・・・」
「「「「「かんぱーい」」」」」
結局、石川さんに押し切られる形で合同お祝いパーティーが始まった。
来てくれたのは、石川さんの同僚の柴田さんと友達の藤本さん
それから、ごっちん。
「はじめましてぇ、後藤真希です」
「かわいいねー最近の子は、あたし柴田あゆみ
梨華ちゃんと同じ店で働いてまーす」
早速、自己紹介が始まった
- 335 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:32
- ウチは席を立ってキッチンでつまみになりそーな物を作ることにした。
しかしみんな飲むペースが早い
「あ、藤本美貴です、よろしくー」
「石川梨華ですっ!よろしくぅ!
この部屋で、ひとみちゃんとルームシェアしてまーす」
「ひとみちゃん・・・?」
盛り上がってた面々が、一斉にこっちをみる。
なんだ・・・ウチにもその「よろしくぅ」をやれっつーのか
- 336 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:32
- 「ほれ、よしこもやれ」
3本目のビールを片手にごっちんが顎でうちに命令
「嫌だ」
「KYよしこ!」
「変なあだ名つけんな、あほ」
「JKよしこ」
「なんでやねん」
- 337 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:32
-
「「「プッ」」」
ウチとごっちんのやり取りを見て、急に笑い出した三人
なんだぁ?
「うん!おもしろい!あんたらナイスコンビ!」
うけるーって言いながらまた飲み始める
ほんと飲むの好きなんすね
- 338 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:33
-
再びみんなが酒を煽りだしたので、ウチはごっちんの隣に腰を下ろした。
「吉澤さん」
「はい?」
隣に座るように寄ってきた藤本さんにいきなり呼ばれた
目が据わってる・・・
「・・・よっちゃん」
「・・・はい」
藤本さんはそのままウチにむかって倒れこんできた。
開始1時間で潰れてしまったわけで
- 339 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:33
-
「早くね?」
「ふふっ、美貴ちゃんって見かけによらず、お酒意外と弱いの」
とカクテル片手に石川さん。
弱いならあのペースで飲むなよ。
ウチは藤本さんを窓際にあるソファーに寝かせ
そのままテラスへ出た。
「ふぅ」
ため息と一緒にタバコの煙が出て行く
後で窓の開く音
- 340 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:34
-
「なーに一人たそがれてんのさ」
「ごっちんか」
振り返ると、缶ビール片手にニカっと笑うごっちん
「よしこ飲まないの?」
「飲む気分じゃないし」
「・・・なんかさぁ、楽しい人達じゃない?」
窓ガラス越しにリビングで騒ぐ、石川さんと柴田さんをみる
「んー、まぁね」
- 341 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:34
- 「石川さんとは上手くやっていけそ?」
「上手くやる必要なんかないよ」
ウチはテラスの椅子に腰掛けて、タバコに火をつける。
ごっちんが少し寂しそうな顔をしたのが、何故だか妙にイラついた
「なんだよ、言いたいことあるなら言えって」
「なんもないよ」
「うそつけ」
「ほんと。よしこは言わなくてもわかってんじゃん」
「なら、そんな顔すんな。腹立つ」
「んじゃー戻るわ」
そういって笑ってごっちんは部屋に戻っていった。
- 342 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:35
-
――――――――――――――――――――――――――――
- 343 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:35
-
「「じゃーおじゃましましたぁー」」
お酒もつまみも尽きてきたので、柴田さんとごっちんが自力で帰れそうなうちに
今夜は解散にすることにした
マンションの下の玄関ホールまで二人を見送る。
「柴ちゃん、今日はありがとねっ。真希ちゃんも
二人ともまたきてね〜!」
石川さんはそういうと柴田さんに抱きついた。
酔ってんなぁ
- 344 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:36
-
キャーキャー言って騒ぐ二人を見て楽しそうに笑う横顔に声をかけた。
「ごめん」
「なにがぁ」
ごっちんはこっちを見ずに答える
「さっき、言い過ぎたから」
ウチも視線をそっちに向けて言った。
- 345 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:36
-
「よーしーこーぅ」
気色悪い声と共に、ごっちんが抱きついてきた
「やーめろ!なんだよ急に!」
「好きだぁぞぅー」
言ってる声とテンションはかわいいもんだが
ウチの体を締め付ける力がはんぱじゃない
そんで、そんなうちらを見て騒ぐ酔っ払い二人
- 346 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:36
-
「痛い!ちょっ・・・離せアホ!いってぇ!」
「うへへへ、ごとーはよしこの家族だかんなー」
「・・・・・・」
「忘れんなよー」
「わーかったから、離せって」
笑いながらごっちんを引き剥がして、そっけなく言った。
嬉しかったから。
うれしくて涙が出そうだったから。
そんな事を言われたのは、あの時以来だったから
- 347 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:37
-
「んじゃ、我々は帰ります!」
「ます!」
ウチと石川さんに敬礼して、二人は仲良く腕を組みながら帰って行った。
「戻りましょっか」
「そーだねぇ、よし!部屋で飲みなおそう!」
石川さんはそういうとウチの腕につかまって
そのままスキップでもしそうな勢いで進んでいく
- 348 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:37
- 部屋にもどって、泥酔した藤本さんを石川さんの部屋まで運ぶ。
本当に飲みなおそうとする石川さんの向かい側で
ウチが片づけをしていると
「ひとみちゃんってぇ、恋人とかいないの?」
相変わらずの、いきなりトークが始まる。
「いませんねぇ」
「どうして〜?すっごくモテそうなのに」
ソファーにもたれながらそう聞く石川さんに、笑顔で対応
完全に酔っ払ってる石川さんを相手にするほどバカじゃない
でも、何も言わないウチにかまわず彼女は話し続ける。
- 349 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:38
-
「ねぇねぇーどーして恋人作んないの?」
「あ!わかった!もしかして・・・
昔の恋を今でも引きずってるとか!」
動かしていた手が止まる
胸の奥がドクンと鳴る
- 350 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:38
-
「当ったりだぁ!捨てられたのね・・・つらかったよね
でもねぇ、いつまでも引きずってても意味ないって!
前に進まなきゃーいけません!」
石川さんは飲んでいた缶ビールを片手に持ち
ウチの隣に腰を下ろす。肩を組んできて
- 351 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:39
-
「捨てられるってことはさ、その程度の関係だったってことじゃん?」
違う
「まぁ辛かっただろうけど、相手もとっくに忘れてるって」
・・・違う
「だから!そんな人は忘れて、早く次の恋見つ・・・」
「ごちゃごちゃうるせぇって!」
振り払った彼女の手から落ちたビールが絨毯にこぼれた
- 352 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:39
-
「勝手なことばっか・・・あんたと一緒にすんなよ
適当な恋愛しかしてこなかったあんたなんかと一緒にすんな」
石川さんの顔が強張る
「なによそれ!」
「悲しみを背負うことだって!・・・誰にも言えないことだって
振り返ることでしか、進み出せないことだってあるんだ。
―そういう恋愛もある。
適当に男と遊んで、毎日を平々凡々と過ごしてるあんたにはわかんない」
- 353 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:39
-
静まり返った部屋
時計の針の音だけが、耳に残る
それから、石川さんは何も言わず部屋に入って行った。
――――最低だ。
- 354 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:40
-
- 355 名前:ルームシェア 投稿日:2008/09/21(日) 01:40
-
- 356 名前:さんにーろく 投稿日:2008/09/21(日) 01:40
-
更新終了です。
- 357 名前:さんにーろく 投稿日:2008/09/24(水) 16:35
-
本日の更新です。
- 358 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:36
-
- 359 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:36
-
「最低だね」
「…」
「わかってんの?」
「・・・はい」
どうしようと、昨日のことをごっちんに相談しに行ったら
一通り怒られた後、「黙って謝りに行け」と言われた
- 360 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:36
- ―――――――――――――――――――――――――
- 361 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:37
-
朝起きて、リビングに行くと部屋はきれいに片付いてた
昨日のことなんてなかったかのように、いつも通りの朝の光景だった。
でも、ソファーに座って、足元を見ると
こぼれたビールのシミが薄っすらと残ったままだった
石川さん、仕事かな
- 362 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:37
-
- 363 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:37
- 授業をサボっていざ、石川さんに謝りに行こうとして
彼女の仕事先どころか携帯の番号すら知らないことに気づいた。
ごっちんが柴田さんと連絡をとってくれて、仕事先を教えてもらう
「つーかごっちん、いつの間に・・・」
「みんなで交換したんだよ、よしこがテラスで拗ねてる間にー」
あ、そーですかい
- 364 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:37
-
「いらっしゃいませー」
店に入ると、笑顔でかわいい女の子のお出迎え
「あの、すいません」
「はい?」
「石川さんって今日いらっしゃいますか?」
「あー・・・っと、ちょっと待ってて下さい」
女の子はそういうと店の奥に行って別の店員さんを呼んできてくれた。
- 365 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:38
-
「あ、お待たせしてすんませんねぇ。
店長の中澤です。石川に用事があるそうで」
関西弁の店長の話によると、石川さんは今日風邪で休みらしい
「そー、ですか。じゃあまた来ます。すいませんでした」
「あ、一応お名前だけええですか?」
「吉澤です。吉澤ひとみ」
「「ありがとうございましたー」」
その足で、ウチはマンションに向かう道を走り出した。
- 366 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:38
- ――――――――――――――――――――――――――
- 367 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:38
-
「梨華ちゃんが悪い」
「はい」
朝起きて一番最初に、何故だか美貴ちゃんに怒られた。
話を聞けば、夜中に目が覚めて私とひとみちゃんの言い合いを一部始終見てたらしい
人のベットの上で偉そうに腕組みして私を見下ろす。
私は床に正座。・・・なによぅ、ベット貸してあげたのに!なんか悔しい
- 368 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:39
-
「酒癖悪すぎるよ、あれじゃよっちゃんも怒るっつーの」
「・・・はい」
昨日のままだったリビングを片付けて、美貴ちゃんを送るために部屋を出る。
駅までの道のり、私が反省してるのがわかってか
美貴ちゃんは何も言わなかった。
「んじゃ、お見送りどーもね」
「うん」
「梨華ちゃんさ・・・」
「わかってる!謝るよ、ひとみちゃんに」
美貴ちゃんの言葉をさえぎって言った。
わかってるよ、
- 369 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:39
-
“適当に男と遊んで、毎日を平々凡々と過ごしてるあんたにはわかんない”
酔って絡んだ私が悪いんだから
「梨華ちゃんは大丈夫?」
「へ?」
美貴ちゃんはちょっと笑って、私の頭にそっと手をおく
「ケンカ両成敗!酔って絡んだあんたも悪いけど
ムキになって暴言はきまくったよっちゃんも同じくらい悪いってこと」
そういって美貴ちゃんは照れたように笑い、ホームに消えていった。
- 370 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:40
-
そのまま、仕事先に休むという電話をして
ひとみちゃんの大学へと急いだ
謝るなら早いほうがいい
それから、勢いで大学に来たはいいけど
なんだか急に怖気づいてしまった。
入り口でウロウロしてたら、のんびりとした声が耳に届いた。
- 371 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:40
-
「んー?梨華ちゃーん?」
「真希ちゃん!」
真希ちゃんから、ひとみちゃんが授業を休んでまで私に謝りに行ったことを聞いた。
「多分、部屋だよ」
その言葉を聞いて、私はマンションへと急いだ。
- 372 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:40
- ―――――――――――――――――――――
- 373 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:41
- 「ごめんなさい!」
部屋に帰ると、ひとみちゃんはリビングの床に正座
「ちょっ、ちょっと!どうしてひとみちゃんが謝るのよ!」
「いや、昨日の夜の暴言の数々を・・・
ほんとすいませんでした。ひどいこといって」
「そんなぁ、私がひとみちゃんにひどいこと言ったから
怒って当然の話だったんだよ。だから謝らなきゃいけないのは私のほうなの」
私は、尚も頭を下げ続ける彼女をソファーに座らせ
今度は私が頭を下げた
- 374 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:41
-
「ごめんなさい」
「ちょっ、やめてくださいよ」
「私ね、悔しかったの」
「ひとみちゃんに本当のこと言われて・・・
自分でもね、時々わかんなくなるの。何か掴みたくて、それで
毎日毎日違う男の人と飲んで遊んで・・・運命の人だ!って思っても
目が覚めると何にもないの。からっぽ。
私は一体、何がしたいんだろうって・・・」
- 375 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:42
-
ひとみちゃんは俯いたまま何もいわない。
それがなんだか無性に寂しくて。彼女が目を見てくれないことが
私を認めてもらえないんだということが、耐えられなかった。
「ごめん、意味わかんないねー―」
涙が溢れそうで、部屋に戻ろうとした
「―誰だって!」
彼女は立ち上がって私の目を見る
「・・・誰だってそうですよ。
みんな一生懸命、自分の居場所とか意義とか探してるんです
やり方はみんな違うけど、石川さんもそうなんですよ
だから・・・いいと思います。石川さんは、間違ってない」
- 376 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:42
-
――――どうしよう、涙が溢れてとまらない。
あぁ、そうだったんだ
私は自分の居場所を探してたんだ
誰かに認めてほしくて
いつの間にか私の頭の上にはひとみちゃんの掌
あったかくて、優しくて、
私の涙はしばらく止まってくれそうになかった
- 377 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:42
-
- 378 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:43
-
「ただいまぁ」
「おかえりー」
- 379 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:43
-
「・・・ただいま」
「ん?はい、おかえりなさい」
あれ以来、石川さんとの関係に微妙だけど変化があった
目に見えるようなものじゃないけど
「ただいま」
「・・・なんすか?」
ウチがちょうど夕飯を食べてると、帰ってきてそうそう
リビングの入り口でボケーっと立ちっぱなしの石川さん
- 380 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:44
-
「おかえりって」
「へ?」
「おかえりって、言ってよ」
「いや、言ったじゃないですか」
「いいから!はい、ただいま!」
「・・・おかえり」
「初めて言われたぁ!」
「はぁ」
そんなことで喜ぶんだ
つーか、初めてじゃなくね?今までも言ってたし
- 381 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:44
-
「言われてない!初だよ!
私に心を開いてくれてるのね!もう一回!」
「おかえりー」
「ただいま!」
おかえりっていい言葉ね・・・なんて言いながら
胸の前でウチの両手を握って、感動モードの石川さん
うん、食べづらいのでやめてください
- 382 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:45
-
「何食べてるの?」
「パスタ」
「インスタント?」
「いや、作りましたけど」
「すごーい!おいしそぉ」
「食べるなら、あまってるんでどーぞ」
「いいの!?」
ってことで石川さんと海鮮パスタを食す。
でも、こんな時間に帰ってくるなんて珍しい
- 383 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:45
-
「おいしい!」
「そりゃよかった」
「今日はバイト休みなの?」
「そっちこそ、今日は合コンお休みですかぁー?」
「んー、なんか今日はそういう気分じゃなくて断ってきた」
冗談で聞いたのに、普通に返された
つーか、ほんとすごいペースで合コンしてんだな
「・・・あのー」
「はい?」
- 384 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:46
-
「ひとみちゃんっていつも自分で料理とかするの?」
「まぁ、バイトがない日は」
「じゃあさ!料理教えてくれない?」
「えぇ?」
この人の話はほんと突然だ
そして強引。
「いいでしょー、ひとみちゃんがバイトない日だけでいいからぁ」
「なんで急に」
「私ね、趣味見つけようと思って」
「なんすかそれ」
「ちょっと自分を見直すためによ、だからよろしくね」
ルームシェアを始めて2週間、うちらはようやく連絡先を交換した
- 385 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:46
-
それ以来、彼女と過ごす時間は圧倒的に増えた。
バイトがない日は石川さんに料理を教えて、一緒に食事して。
バイトがある日でも、夜中帰ってくると毎日じゃないけど
石川さんが作った手料理が書き置きと共に置いてある
最初は食べられたもんじゃなくて処理に困ったけど、しばらく経つとそれも無くなった。
とにかく、ひとりを感じる時間が少なくなっていた
会わない時間でも、彼女の存在を感じていたから。
- 386 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:47
- ――――――――――――――――――――――――――――
- 387 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:47
-
“今夜マンション集合”
石川さんのその呼びかけはいつものごとく、突然だった
というか一緒に暮らしてるウチになんの相談もなしって・・・
「仕事中に突然思いついてメールしちゃったんだもん
久々にみんなで集まろうとおもってさ」
- 388 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:48
-
うそだ。
かわいく言ってるけど、嘘。
絶対前々から計画してたろ
だって変じゃん、本格的な料理からおつまみまで・・・
揃いすぎだろ。
「手料理を披露したかったわけだ」
「だって!ひとみちゃん反応薄くてつまんないんだもん」
ピンポーン
「あ、誰かきたみたい」
語尾に音符マークつけて、パタパタと玄関にむかう
なんじゃそりゃ
- 389 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:48
-
- 390 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:48
-
「おぉー今日はなんか豪華じゃない?
なんかのお祝いなわけ?」
藤本さんにごっちんに、突然の集合メールに律儀に従うメンツが続々と
つーか知らない人もいるのは気のせい?
「んぁー今日柴ちゃんはー?」
「今日なんか他の飲み会あるからパスだって
ってことで、こちらピンチヒッターの市井さん」
「どーもー、市井さやかでーす」
- 391 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:49
- 「うちの店の店長、代理です」
「・・・石川さ、なんかあたしに恨みでもあるんか?」
「さぁ!じゃあみんな揃ったし乾杯しよっか!」
「おい!無視かい!」
「ひとみちゃんも早くこっちおいでって」
テラスで一服してたら、梨華ちゃんに手招きされた
みんなをもてなす様子があまりに一生懸命で、そんな彼女を見てたら
思わず頬が緩んだ。
はりきってんなぁ。
「はーやーく!」
「へいへい」
- 392 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:49
- ――――――――――――――――――――――――――
- 393 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:49
- 「おいしい!梨華ちゃん料理上手なんだねぇ」
「ありがとー美貴ちゃん!どんどん食べてね」
「最初食べた焼きそばは、生ごみの味がしたんですけどね」
「ちょっと!ひとみちゃん、やめてよ!」
「ははっ、ほんとのことじゃないすか」
- 394 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:50
-
珍しい。
すんごい珍しいもん見つけた
ってか、初めて見た
梨華ちゃんにたたかれながら、笑うよしこの顔
あんな顔して笑うんだ、なんか新鮮
笑うとこ見るのは初めてじゃないけど、なんか違う
いつもより、やわらかい。
かわいいな。子供みたい。
- 395 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:50
-
「なんだよ」
「ふぇ?」
急に呼ばれて、向かい側に座るよしこと目があった
- 396 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:51
-
「何見とんじゃい」
「何が」
「人の顔みてニヤニヤしてんじゃねぇ、変態」
「だーれが変態じゃ」
「おめぇだよ」
「よーしこぉー」
「うわっ、やめれ!頭をかむな!変態」
- 397 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:51
-
その夜、よしこは楽しそうだった。
笑うのはたまにだけど、話にはほとんど参加してこないけど
ソファーにもたれてちびちび焼酎のんでるけどー
それでもよしこは楽しそうだった。
- 398 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:51
- ―――――――――――――――――――――――
- 399 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:52
-
ルームシェアを始めて一ヶ月
私が朝目を覚ますと、ひとみちゃんが部屋の入り口で青ざめた表情で立ってた
「ちょっと!そんなとこで急に立ってないでよ!びっくりするじゃない!」
「…すげぇ怖いもん見た」
- 400 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:52
-
「――それで、話を聞いたら幽霊の声きいて、金縛りにあったって。
しまいには、怖いから一緒に寝させろとか言うし・・・
もぅ、私まで怖くなっちゃいましたよぉ」
今朝のことをお店で市井さんに相談。
だってほんとにおばけが出るなら、お払いしてもらわなきゃだし
「それってさぁ、手口じゃん?」
「はい?」
「石川さんって鈍いねぇ、相手はヤリたいんだよ」
「はぁ・・・は?」
- 401 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:53
-
やりたい?ヤりたい?
ひとみちゃんが。私と?・・・ない、断じてない
あり得ない!
「それって独り言?」
「ふぇ!?あっあの、・・・いつ帰ってきたの!?」
「今だよ、今。ただいまって言ったじゃないすか」
石川さん大丈夫?なんてニヤニヤしながらこっちに・・・
って、なんでそんな近づいてくんの!?
- 402 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:53
-
「何!」
「何?それ」
「へ?」
ひとみちゃんの視線は私の手元
「ガス代?」
「あ、うん」
- 403 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:54
-
私が持ってる請求書を横から一緒になって覗こうとするもんだから
近い。私の髪の毛が、彼女の肩に触れるくらい
「うわぁー、こりゃ高いね
一人暮らししてたときの倍以上だよ」
- 404 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:54
-
彼女が動くたびに香る香水の匂い
「節約しなきゃじゃん」
――――私・・・ドキドキしてる
「石川さん?」
違う違う!市井さんが変なこと言うからだ
「おーい、聞いてる?」
そうよ、あの飲み会以来、毎晩のように飲みにくる
市井さん達のせいよ。このドキドキも、ガス代も
- 405 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:54
-
「お金とれないかな」
思わず口にした言葉に、ひとみちゃんは鼻で笑った
またニヤニヤしながら
「石川さんって意外とケチだねぇ、友達なくすよ?」
イラっ。
「大きなお世話です」
ほらね、やっぱり違った
- 406 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:54
-
- 407 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/09/24(水) 16:54
-
- 408 名前:さんにーろく 投稿日:2008/09/24(水) 16:56
- 更新終了です。
話が進まない…そして読みづらくて申し訳ないです…
- 409 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/24(水) 22:32
- 読みづらいことないです
更新いつも楽しみにしています
- 410 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/25(木) 00:43
- 2人に小さな変化がでてきてますね。
次回も楽しみにしてます。
- 411 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/25(木) 16:07
- 周りの暖かいキャラが良いですね。
いしよし応援します!
- 412 名前:さんにーろく 投稿日:2008/10/01(水) 23:14
- >>409
そういってもらえてよかったです
頑張ります!
>>410
ちょっとずつですが、
変化を楽しんで頂ければ光栄です
>>411
何気に周りのキャラのほうがはっきりしてるというw
頑張ります…
では、本日の更新です。
- 413 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:14
-
- 414 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:15
-
よしこが元気だ。昨日も今日も。
っていうか、ここ最近のよしこは特に
バイトがない日は、真っ直ぐマンションに帰る。
なんでも、梨華ちゃんに料理を教えてあげてるらしい。
あんなに嫌がっていたルームシェアを、よしこは楽しんでる
- 415 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:15
-
「よしこ」
「んー?なぁに」
「梨華ちゃん元気?」
「はぁ?昨日も会ったじゃんよ」
そう、昨日もよしこのマンションでみんなで飲んだ。
よしこは日に日に楽しそう、特に梨華ちゃんといるときのよしこは
- 416 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:15
-
「うん、でも元気?」
「元気なんじゃん?今日は新しいレシピに挑戦するから!とか言ってたし」
「今日も教えるの?」
「んー、まぁ最近はほとんど試食係になってんだけどね」
文句言ってる割には、楽しそうに笑う。
ごとー的には、大変うれしいことなんだ
よしこは大学の友達ともあんまり付き合いがないから
でもそれと同時に小さな不安も生まれていた。
- 417 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:15
-
- 418 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:16
-
「あ!後藤さんじゃん」
「どーもー。梨華ちゃんいます?」
よしこのこと考えてたら、無性に梨華ちゃんに会いたくなったので
仕事先に押しかけ訪問
「石川?今日休みだよ」
なぁんだ。
出迎えてくれた市井ちゃんの話では、柴ちゃんも休み。
「せっかく学校さぼってきたのにぃー」
「ちなみにあたしも上がりなんだけど、よかったら飲みにでも行かない?」
- 419 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:17
-
市井ちゃんに誘われるのって実は今月入ってもう5回目
最初はなんか気乗りしなかったんだけど、話してみると結構面白い人。
「いーよ、でもごとー今お金ピンチなんだよね」
「あー、あたしもだ。給料日前だし」
「じゃあ、よしこんち行こう。あっこならお酒あるし
仕事休みなら梨華ちゃんもいるはず」
「ナイスアイディア。ただ酒賛成」
一応、梨華ちゃんがいなかった時のために
よしこに部屋の鍵を借りてから、マンションへ向かった。
たとえ梨華ちゃんが留守だったとしても、ただ酒は飲みたい。
- 420 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:17
-
- 421 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:17
-
「ええぇ〜!!」
「ちょっ!梨華ちゃん声でかいっ」
「本気で言ってんの?」
「本気も本気。マジですから」
- 422 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:18
-
今日はたまたま柴ちゃんと休みがかぶった。
朝早くから、相談があるからと呼び出されて
買い物がてら話でも聞こうかと、のんびり構えていたら――
柴ちゃんと市井さんが付き合ってる。
1週間前から。
しかも、早くも市井さんの女好きに困ってると。
信じられない。
私の気づかないとこで、そんなことが起きてたことも
柴ちゃんが市井さんに半年以上も想いを寄せていたってことも
しかも、念願の両想いになれたのに浮気って・・・
- 423 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:18
-
「どこがいいの?市井さんの」
「んー、なんかいいんだよねぇ。優しいし、話面白いし」
「でも女好き」
「まぁ浮気してるわけじゃないっぽいからいいんだけどね」
そういう問題?
- 424 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:18
-
- 425 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:19
-
「ただいまぁー」
鍵開いてたのに誰もいない
「ごっちーん?いないのー?」
リビングのテーブルには、飲み散らかした缶ビールやら
食い散らかしたお菓子やらが散乱したまんま
床には、ワインボトルが2本
飲んだら飲みっぱなしかい
つーか何飲んでんだよ。市井さんと話があるから部屋貸してっていってなかった?
しかも誰もいない。意味わからん。
- 426 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:19
-
バイトも休みだし、ちょっと寝ようと
そう思って部屋のドアを開けた。
ガチャ、
・・・・・・・
…バタンっ
いや、見間違いだ
疲れてんだな。最近寝不足だったもん。うん。
一息ついて、もっかい開ける
- 427 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:20
-
「――なんで!?」
ウチのベッドの上には、裸で抱き合って眠るごっちんと市井さん
とりあえずドアを閉めて、ゆっくり考える
・・・わかるかぁ!
- 428 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:20
-
「ただいまぁー」
「あ、ひとみちゃんいたんだ・・・って何してんの?」
「お、おかえりっ!」
ウチはドアに張り付いたまま返事
やばい。
「うん。ただいま。で、何してるの?」
「・・・石川さん!今日は飲みに行きましょう!」
「は?」
- 429 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:20
-
石川さんにバレたら何となくまずい。
彼女の背中を押しながら玄関へ誘導
でもそこはあの石川さん。素直に言うことは聞いてくれない。
「ちょっとーいきなり何?やめてよー」
「おごりますから!飲み放題に食べ放題!なんでもいいっすよ!ね!」
眉間にしわを寄せて見上げてる石川さんには悪いけど、両手広げて通せんぼ
「気持ちはありがたいけど、今日はいい」
そういって石川さんはウチの脇を抜けてリビングへ・・・
「あっ・・・」
- 430 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:21
-
「何これ!」
「あ、いや、これはですねぇ・・・なんというか」
「ひとみちゃん」
仁王立ちの石川さん。
「・・・はい」
「説明して」
「はい・・・」
説明もなにも、ウチだって状況が読めていないので
とりあえず、ウチの部屋を見てもらった。
- 431 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:21
-
「は!?どゆこと?」
うん。ウチもわかりません。
「まぁ好き合ってる同士が結ばれたんだから、いいことじゃないすか」
「そりゃ、お互い独り身ならいいけど・・・」
市井さんって恋人いたんだ
「いる」
「誰」
「柴ちゃん」
「はぁ!?付き合ってんの?あの二人」
- 432 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:22
-
「どうしてうちが浮気現場になってんのよ!」
「だってごっちんが、市井さんと話したいから部屋貸してって」
市井さんは最近、ごっちんを誘ってよく出かける
そんでごっちんは市井さんを気に入ってる。
友達なら応援するっしょ
「浮気応援してどーすんのよ!」
「知らなかったんだって!
そっちこそ知ってんなら早く言ってよ!」
「私だってさっき聞いたのよ!」
- 433 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:23
-
「梨華ちゃんまだぁ〜?」
玄関から声がする。
「あ、柴ちゃんだ」
「は!?なんでくんの?」
「今夜ここで飲もうって話になってて・・・」
「タイミング悪っ!」
「梨華ちゃーん?」
- 434 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:23
-
「石川さん言ってよ」
「はぁ?なんで私なのよ!ひとみちゃんのせいでしょ!」
「無理!石川さんの友達でしょ!」
「だいたいねぇ、部屋貸すからこういうことになるんじゃない!」
「こんなことになるとは思わないじゃん!」
石川さんとあたふたと押し問答してたから
柴田さんがリビングに来たことに気づかなかった。
「2人とも何してんの?ってか部屋汚な!
掃除くらいしなよー。昨日遅くまで飲んでたんでしょ、どうせ」
- 435 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:24
-
「そ、そーなの!だから今日は外で飲も」
「いいよ。ここのほうが落ち着くし」
今月お財布ピンチなんだよね〜とか言いながら
柴田さんはダイニングテーブルに腰掛ける。
まずい。
今はいいけど、二人が起きたら完全に言い訳できん。
ウチはこっそり石川さんに行けの合図を送る
石川さんの顎でGOサインを速攻で返される
- 436 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:24
-
なんだよそれ、いつもは年上ぶるくせに
何度目かのやりあいの後、
石川さんがため息をついて柴田さんを誘う
「ね、ねぇ柴ちゃん、やっぱ外に飲み行こ!
おごるから!んー…飲み放題に食べ放題!なんでもいいよ!ね?」
「何か変」
「へ…変って何が」
「何で二人ともそんなあせってんの?
それに梨華ちゃんがおごるなんて、絶対変!ありえない」
石川さん・・・仮にも一番の親友にどういう印象持たれてんすか
- 437 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:25
-
「違うよ?ひとみちゃんがおごってくれるの」
―――はぁ!?
「今日は臨時収入があったらしくて。だから柴田さんもどうですかって」
おい、そんな裏設定聞いてないぞ
「そーなの?」
って、柴田さんそこは信じるんすね
「そーだよね?ひとみちゃん」
「えっとですねぇ」
「ね?」
「…はい」
- 438 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:25
-
- 439 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:25
-
「覚えてない!?」
結局、昨日はあのまま柴田さんと石川さんと三人で
飲みに行き、事なきを得た。
石川さんと二人、部屋に戻ると
部屋は綺麗に片付けられ、
何故だか、騒動の張本人の二人はいなくなっていた。
とにかく、事情を聞いて来いと石川さんに散々怒られ
朝からごっちんに話を聞きにきた…のはいいけど
- 440 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:26
-
「ごめん」
「事情を説明しろって!事情を」
「だから覚えてないんだってば
なんかマンション行ったら、梨華ちゃんいなくて。んで、市井ちゃんと飲んでたら
なんかそういう流れになってさ、気づいたら…」
「あーゆーことになってたと」
「いえす」
つーかなんで飲んでんだよ
話あったんじゃないんかい
- 441 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:26
-
「だからぁー、梨華ちゃんいなかったからって言ったじゃん」
「は?」
「話したかったの、梨華ちゃんだから」
「何を」
「――忘れた」
「はぁ!?」
ごっちんの話だと市井さんに恋愛感情は全くない
酔った勢いでってことだったので、軽く説教しておいた。
- 442 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:26
-
- 443 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:27
-
「じゃあ、安心していいのね?」
「はい」
今日は仕事が早上がりだったから、ひとみちゃんと待ち合わせをして
夕飯の買い物に出かけた。
「柴田さん、大丈夫でした?」
「うん。いつも通り、二日酔い」
「じゃあ、安心だ」
「うん」
- 444 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:27
-
スーパーからの帰り道、なだらかな上り坂が続く真っ直ぐの道
ひとみちゃんと二人、並んで歩く
なんとなく会話が途切れて、でもすごくゆったりとした気持ち
こんなにのんびりとした週末は久しぶりかもしれない
ここのところ色々と忙しかったから
ふと、私の右手が軽くなる
- 445 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:28
-
「ありがと」
「いーえ」
ふと隣を見上げると
少し微笑んだ横顔が夕日に照らされて
綺麗な顔…
「あんまり見つめないでもらえます?」
少し照れくさそうに、前向いたままそう言った彼女
- 446 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:28
-
愛しい気持ちは突然やってくる
- 447 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:28
-
「石川さん?」
突然鳴り始めたこの胸のドキドキが
私に教えてくれてるみたいだった
あなたのことが好きなんだって
「ねぇ、ひとみちゃん」
「はい?」
「綺麗だね」
「へ?」
- 448 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:29
-
「夕日」
私に向けられていた視線が少し上がって
少し眩しそうに細められた。
「ね?」
「ですね」
すぐにまた私に戻ってきた視線に
少し照れくさくなって、ひとみちゃんの左手から荷物をとって歩き出す
「あ、持ちます」
「いいの、ひとみちゃん一つ持ってるでしょ」
- 449 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:29
-
でも…って言いながら、手を伸ばしてくるから
持ってた荷物を左手に移動して、右手を差し出した
一瞬、指先が触れて
ドキドキが少し早くなる。
「なにやってんすか」
「そんなに手つなぎたかったの?」
「はぁ〜?」
「ふふっ。しょうがないからつないであげよっか
私のほうが年上だし――」
照れ隠しの冗談で言ったら、彼女の左手が
包み込むように私の右手をつなぐ
- 450 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:30
-
「さ、帰りますか」
ひとみちゃんに引っ張られるように歩く私の顔は
きっと真っ赤。
夕日のせいじゃないよね。
少し前を歩く彼女の気持ちが、私とおんなじならいいのに
- 451 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:30
-
- 452 名前:ルームシェアリング 投稿日:2008/10/01(水) 23:30
-
- 453 名前:さんにーろく 投稿日:2008/10/01(水) 23:31
- 更新終了です。
煮詰まっているので、次回の更新はしばらく先になると思います。
読んでくださっている方、すいません!
- 454 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/06(月) 17:02
- 楽しみに待ってます。
- 455 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/07(火) 13:25
-
同じく、楽しみに待ってます。
- 456 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/14(金) 07:18
- 待ってます。
- 457 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/20(木) 20:07
- 何かいい感じになって来てますね(^-^)
待ってますよ。
- 458 名前:さんにーろく 投稿日:2008/12/20(土) 00:07
- >>454
>>455
>>456
>>457
久々の更新で申し訳ないです。
なかなか話がまとまらずにスランプ気味でした…。
「ルームシェアリング」はちょっと中断で、
今回は>>211−>>230
「自慢の恋人」の続編です。
読んでくださる方がいれば光栄です。
- 459 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:08
-
- 460 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:08
-
「みんな言ったんだから梨華ちゃんも言わなくちゃだめだよ」
「いや、絶対無理」
どうしてこんな話になったんだろう
さっきまで仕事の愚痴とか、そういう話だったのに
「早く」
「だって・・、今からひとみちゃんくるんだよ?別になにもそんな話しなくても」
- 461 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:09
-
先月の同窓会以来、美貴ちゃんから嫌がらせかのように
ひとみちゃんに会わせろと毎日のようにメールが来ていた。
なんとなく断り続けていたんだけど、さすがに言い訳のしようがなくなった今日の朝
とうとう美貴ちゃんの家で飲むことが決まった。
「だいたいさぁ、美貴が誘ったのって1ヶ月も前だよ?
こんだけ待たせたんだから、いろいろ聞かないと割りに合わない」
「そうだよ。平等にいかないとね」
「・・・・・。」
- 462 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:09
-
―――言い出しっぺは、まいちゃんだった
「梨華ちゃんはどんな時に吉澤さんに魅力を感じるわけ?」
「魅力?」
「なんかこう、色気?みたいな」
「出た。まいちゃんのおっさんトーク」
「でも、美貴も気になるかも
こないだのダンスもそーとーエロかったし」
どうして何の前触れもなく、そういうこと聞くのか
いまだに、まいちゃんの頭の中だけは理解できなかった
「で、どこ?」
「どこって・・・。」
「じゃどんなとき?」
「どんな時って言われても、別にいつも…」
最後の言葉を小さく呟くように言った私に美貴ちゃんが即座に反応する
- 463 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:10
-
「いつも?いま『いつも』っていったよねっ!?」
「え?」
「言った。まいも聞いた」
まいちゃんも大きく頷く。
「梨華ちゃんはいつも吉澤さんに色気を感じてるわけ?」
柴ちゃんまで思い切り私の顔をのぞき込む。
「え、いや。いつもっていうか・・。」
「今いつもって言ったじゃん」
「なるほどねぇ」
「いつもなわけねぇ」
「24時間ってことだよねぇ」
3人は感心しきったように私をみつめる
「なによ・・。」
その視線を避けるように私はワインに口をつけた
- 464 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:10
-
「でも、あれじゃない?24時間色気を感じるような人といつも一緒にいて
ぶっちゃけ、疲れたりしない?」
まいちゃんは思いついたように聞いてきた
「疲れる?」
「うん。だってなんか緊張するじゃん。そういう人といるっていうのは」
「別に疲れはしないよ」
「美貴なんかわかるかも。
だっていつも自分が女だっていう意識を持って行動するのは大変じゃない?」
「別に意識をもって行動してるわけじゃないよ。2人でいることはもう自然なことだし・・・。」
「はぁ・・となると自然に振る舞っている中にも色気があるって事だよね」
- 465 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:11
-
私の答えに一つ一つ感心したようにうなずく三人には悪いけど
そんなに特別なこと言ってるつもりなんて全然ない
「・・・あのね。みんながあの人をよく思ってくれるのは嬉しいけど
現実はそんなこと全然ないよ」
「そんなことないと思うけど・・・。」
柴ちゃんに対して、私は大きく首を横に振る。
「外面がいいだけ。私の部屋にいる姿をみたら考え方を変えると思う」
「そう?」
私がしっかり頷くと「どんな姿なわけ?」と、美貴ちゃんが興味深そうに聞いた。
- 466 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:11
-
「なんかいつまでもだらだらしてる。シャキっとしていることなんか滅多にないし」
「そうなの?」
「そうだよ」
「あ、そういえばいつまでもベッドの中からでないって言ってなかった?」
「でないわよ。お昼過ぎてもベッドからでられないことなんてしょっちゅうだし」
私なんだか少し居心地が悪くて、ワイングラスをぐっとあけた。
「それは梨華ちゃんも一緒にベッドからでないってことでしょ?」
まいちゃんが、すかさずグラスにワインを注ぎながら聞く
「でないんじゃなくて、出してもらえないのよ。」
「出してもらえない・・・。」
「そうよ!私は何度も起きるって言ってるのに。それなのに・・。」
- 467 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:12
-
いっつもそう。
普段はのんびりなくせに、そういうときに限って強引なのよ
こっちの身にもなってほしいよ!
「それは・・・」
「大変ねぇ?」
「ねぇ?」
なんだかニヤニヤしながらだけど、同意してくれる三人
「そうでしょ?大変でしょ?」
大きく頷く。
やっぱりひとみちゃんが変なのね。
- 468 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:12
-
「でも、いいの。もうすぐひとみちゃんもここに来るのに
みんなに愚痴ってても悪いから。」
私が気を取り直して言うと、3人はきょとんとしていた
「なに?」
その視線に思わず私もきょとんとする。
梨華は恋人の日頃の行いの愚痴を言っているつもりだったが、3人にはのろけ以外の
何者にも聞こえていない事実に気づいてはいなかった。
「梨華ちゃん、相変わらずだねぇ」
まいちゃんが吹き出すと、二人も続けて笑う。
「なに?なんなの?」
「なんでもないよ」
「なによ、気になるじゃない」
「なんでもないって。ただ梨華ちゃんが吉澤さんをすごく好きなんだなぁっていうのが
よーくわかっただけだよ」
柴ちゃんが楽しそうに言う。
- 469 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:13
-
「どうして?私、そんなこと言ってないじゃない!」
「はいはい。」
「ちょっと、やめてよ。私、一言も言ってないでしょ?」
三人の流されるような会話に私はついていけなかった。
「確かに言ってはいないけどね」と、柴ちゃん
「でもなんかわかっちゃうもんなのよ」と、まいちゃん。
「っていうかもう言ったも同然」
美貴ちゃんも続く。
そう言って3人は楽しそうに笑った。
- 470 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:14
- ――――――――
- 471 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:14
-
- 472 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:14
-
梨華ちゃんが何か言おうとしたちょうどそのとき、部屋のチャイムが鳴った。
「さ、どっちだろ?」
まいちゃんが楽しそうに美貴と梨華ちゃんをみる。
「そろそろ来る時間だもんね」
美貴も時計を見ながら頷く。
今日は私たち三人のほかに、仕事で少し遅くなると言っていた吉澤さん
それから美貴の恋人の亜弥ちゃんがくることになっていた。
「はーい」
美貴が立ち上がろうとすると、それを制して梨華ちゃんが立ち上がった。
「たぶん、ひとみちゃん」
そう言ってドアに向かおうとする。
「なんで?」
不思議そうにする私たちに
「なんとなく」
その言葉に残りのメンバーは顔を見合わせる。
- 473 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:15
-
ドアをあけると、梨華ちゃんの言うとおり吉澤さんがたっていた。
「遅くなってごめん、みんなもうそろってる?」
少し息を切らせた吉澤さんが梨華ちゃんをみて笑顔をみせると、
「お疲れさま。まだもう一人来てないよ。ここ、すぐわかった?」
「うん。わかりやすかったよ」
「そっか」
梨華ちゃんも笑顔をみせて、吉澤さんの上着を受け取った。
「おじゃましまーす・・・こないだはどーもー」
「ほんと、あの時は二人に完全に騙されちゃった」
リビングに吉澤さんが姿を現すと、美貴たちは笑顔をみせる。
「すんません・・・」
困ったように笑いながら、首の後ろを掻いてたたずむ吉澤さん。
- 474 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:15
-
その姿に、私はなんだか驚いた。
だって前回とはまったく印象が違ったから。
この前は、私たちの一つ年下なのに、すごく大人びて見えたけど
今日こうして改めてみると、少し無邪気な年相応の女の子に見えた。
「あ、飲み物もう少し持ってくる」
すでに空いていた1本のワインしかなかったかため、私が立ち上がろうとすると、
一番キッチン側に座っていた吉澤さんがそれを制して立ち上がった。
「いいですよ。あたし持ってきます」
「え、でも・・・。」
「一番近いし。すぐわかるところにあります?」
「あ、はい。冷蔵庫の二段目に」
「了解です」
そう言って吉澤さんは笑顔を見せてキッチンへとたっていった。
- 475 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:16
-
「かっこいー」
「ほんと。まい惚れそう」
「あのさりげない心遣いがねぇ」
私もまいちゃんも美貴も。三人してしみじみ頷き、梨華ちゃんに視線を送る。
「梨華ちゃんがうらやましいわ」
「え?なにが?」
「だから、よっちゃんさん」
「優しいのねぇ」
「まさに理想の恋人だね」
「そ、そう・・?」
- 476 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:17
-
キッチンから戻ってくると、私たちは一斉に吉澤さんに話しかけ始めた。
しばらくして来た、亜弥ちゃんも加わり、小さなパーティーは和やかに楽しく進んでいる。
梨華はひとみの、さりげなく美貴たちに気遣う配慮に感心しまくりだった。
確かに普段からこういう人だったら魅力ある人として他の人の目には映るだろう。
・・となると他のところではけっこうもてたりしているのかな?
ふとそのことに考えが行き着くと、感心を通り越してほんの少しの不安が湧き出てくる。
梨華そんな自分の感情を自覚した時、
「ウチが来る前、なんの話をしてたの?」
と隣に座るひとみが聞いてきた。
「え、えっと・・あぁ!そう。美貴ちゃんと亜弥ちゃんは、
柴ちゃんの開いた合コンで出会ったっていう話よ。」
梨華は我に返り、慌てて答えた。
「へぇ・・そうなんだ。」
ひとみは笑顔で美貴たちをみる。
- 477 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:17
-
「みきたんとは運命だから」
「出会いは合コンなのに運命なの?」
美貴に抱きつきながら言う亜弥に、梨華がたずねる。
「いつか出会うはずだったんです。それがたまたま合コンだっただけです」
「合コンも立派な出会いかぁ」
「梨華ちゃんも私が誘った合コンに来たことあるじゃん」
アルコールが廻ってきているあゆみが言うと、
「え?そうなの?」
まいが驚いて梨華を見る。
「え?な、なに言っているのよ。あれはそういうのじゃなかったじゃない。
飲み会だったし。それに、大分前の話だし…」
「そうだった?」
あゆみは慌てる梨華に不思議そうに首を傾げる。
- 478 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:18
-
「今のってちょっとまずい発言なんじゃない?」
美貴も楽しそうにあゆみに言うと、
「え?」
「昔よ、すごい昔。大昔の話だから!」
梨華の必死の様子とその狼狽ぶりにあゆみもやっとひとみの存在に気がつく。
「あ、そ、そうだよね。すごい昔よね。もう1年くらい前?」
「も、もっと前よ。」
半年くらい前の話を1年前と言ってくれたあゆみだったが、
どっちにしても1年前ではすでにひとみとつきあっていたため、
梨華は更に慌てる。
「そうか・・そうだよね。なんか最近、月日のたつのが早くて時間の感覚が・・・」
「そうなのよ。最近ねぇ。年とった証拠かな?」
あゆみと梨華の乾いた笑いが虚しく響く。
- 479 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:18
-
「これは後で追求しないとですねぇ、吉澤さん」
亜弥が楽しそうに言うと、
「そうだね。とことん追求するよ」
ひとみもその亜弥の言葉に楽しそうに笑った。
「梨華ちゃん、大変だね。」
「そ、そうだね。」
まいもあゆみもそのひとみの冗談に笑って自分をからかうような言葉をかけてきたので、
梨華もそれに笑顔で応えながらも、そっと隣のひとみの様子をうかがってみた。
すると、涼しい顔をしてワインを飲んでいるひとみと一瞬目があった。
その瞳の色をみて、これは冗談ではなく本当に追求される・・と梨華は密かに覚悟を決めた。
- 480 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:19
-
- 481 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:19
-
「あ、もうないわ。次持ってくるね」
そう言ってあゆみが空いてしまったボトルを手にキッチンにたつと、
亜弥が感心したように美貴たちをみた。
「これだけの量をこの時間で空けるっていうのはけっこうなペースですよね」
「そう?別に大した量じゃないよ。だってこれだけの人数で飲んでるわけだし」
まいはさらりと答える。
「そうですかぁ?けっこうな量だと思いますけど」
「まぁでも確かにこのメンバーは結構飲む人間ばっかりだしね」
「あ、そうなんだ。」
ひとみが感心したように梨華をみた。
「そんなことないよ。あんまり飲まないよ」
その視線に梨華は慌てて否定する。
- 482 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:20
-
「いや、梨華ちゃんだってけっこう飲める方だと思うけどね」
「けっこうどころじゃないよ。私たちの中で一番強い位じゃない?」
まいやあゆみがその梨華の否定を否定する。
「へぇ・・・。」
ますます感心したようにひとみは梨華を見ると、
「吉澤さんと一緒の時はあんまり飲まないんですか?」
あゆみが不思議そうに聞いてきた。
「飲まないね。食事の後に軽く飲む程度かな?」
「そうなの?梨華ちゃん」
「別にガマンして飲まないとかじゃないよ。適量を美味しく飲んでいるっていうだけの話で」
「うそ!じゃ吉澤さんの前で酔ったことないの?」
「あるわけないでしょ」
「じゃ、吉澤さんは梨華ちゃんが酔ったところは見たことないの?」
その問いかけに、ひとみは少し考えるようにしたが、軽く首を振った。
「ないなぁ。ほろ酔いって感じの時はあるかもしれないけど・・・。」
- 483 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:20
-
- 484 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:20
-
- 485 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:21
-
「いいってば。もうやめて!」
「邪魔だよ、梨華ちゃん」
ひとみはそう言うと梨華を押さえ込み、3人にとびきりの笑顔をみせる。
「さ、話して。」
「実はね・・・」
「やめてっていってるでしょ!」
ひとみに押さえ込まれながら梨華は必死に言うが、それは虚しい抵抗でしかなかった。
- 486 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:21
- 「これは、今日聞いたことなんだけど・・・」
「ん」
「梨華ちゃんはよっちゃんさんに常に魅力を感じてるらしいよ」
美貴はきっぱり言い切る。
「・・・梨華ちゃんがそう言ったの?」
ひとみはあまりのことに半信半疑で聞くと、
「うん」
「そうだよ」
「しっかり聞いた」
「へぇ・・それは・・」
「違うわよっ!」
3人のしっかりした頷きにひとみが言葉を発しようとしたその瞬間、
ひとみに押さえ込まれていた梨華が叫ぶように否定した。
「違わないじゃんか〜」
「そうそう。本当の話だ」
「違うわよ!あれはそう言う意味で言ったんじゃないの!変なこと言わないで!」
- 487 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:22
-
自分が押さえ込んでいる恋人の顔をひとみはのぞき込んだ。
「・・・う、うそよ!言っていないもん、そんなこと。」
梨華は慌ててひとみの腕の中から離れると、ぷいっと横を向く。
「梨華ちゃぁん。嘘ってことないでしょ」
「そうよぉ。」
「私たちがこんな作り話、3人そろってしないよね〜」
「ねー!」
3人は声を合わせて同意しあった。
「もうっ!私になんか恨みでもあるわけっ!?」
と梨華は怒鳴るように言うと、グラスにあったワインを思い切り飲み干した。
- 488 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:22
-
- 489 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:22
-
「ほら、あんまり苛めるから石川さん、寝ちゃいましたよ」
亜弥の言葉にほろ酔い気分のみんなはソファにもたれかかるように眠っている梨華をみた。
「ここまで飲んだのを見るのは初めてだなぁ」
ひとみもそんな梨華をみながら軽く笑った。
「あれからピッチ早かったしね」
「飲まなきゃやってられなかったんじゃない?あれからもどんどん美貴たん達が苛めるから」
亜弥が美貴たちに楽しそうに言った。
- 490 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:23
-
「失礼だね」
「そうだよ。まいたちはありのままの話をしただけだから」
「ねー!」
また3人は声を合わせて同意しあう。
「石川さんがまた怒りますよ。ね、吉澤さん?」
「うちにとっては驚きの連続で新鮮だったけどね」
「そうなんですか?」
「うん。まさか梨華ちゃんががこうなるとはね」
「自分の事をのろけられていた感想は?」
「思っても見なかった事だから、感激したよ」
ひとみはそう言って戯けたような微笑みを見せた。
その言葉に一同が軽く笑うと、
- 491 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:23
-
「あ、もうこんな時間だ。そろそろお開きにしようか?」
あゆみが3時を指している時計を見て気がついたように言った。
「そうだねぇ」
「あ、梨華ちゃんは・・。大丈夫か」
美貴は梨華をふと心配そうにみたが、ひとみに微笑みかけた。
「大丈夫。ちゃんと運ぶよ」
ひとみは熟睡している梨華を見つめて、
そっと抱き上げ、帰路についた。
- 492 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:23
-
- 493 名前:自慢の恋人 投稿日:2008/12/20(土) 00:23
-
- 494 名前:さんにーろく 投稿日:2008/12/20(土) 00:24
- 更新終了です。
短編なので一応次回で完結します。
- 495 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/20(土) 09:15
- うわぁ待ってましたっ
- 496 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/21(日) 00:22
- 新鮮です!
こっちのいしよしも気になりますw
更新お疲れ様です。
- 497 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/21(日) 00:42
- おぉ、まさか自慢の恋人の続編が読めるだなんて
次回は吉澤さんの追求があるのかな?楽しみにしたます。
スランプ大変だと思います焦らずマイペースに書いてくださいね
じっくり待っていますので。
- 498 名前:さんにーろく 投稿日:2009/01/26(月) 20:46
- >>495
待っていただけるなんて、光栄です。
>>496
新鮮だなんてうれしいですね。
>>497
自分でも続編なんて考えてませんでしたw
本当にマイペースな亀更新で…
読んでくださる方がいることがうれしいです。
一応完結になります。
- 499 名前:自慢の恋人 投稿日:2009/01/26(月) 20:47
-
- 500 名前:自慢の恋人 投稿日:2009/01/26(月) 20:48
-
「・・・梨華ちゃん」
「・・・・」
「梨華ちゃん、起きてって。着替えてから寝た方がいいよ」
ひとみは梨華をベッドに寝かせると、軽く頬を叩く。
「・・・ん」
梨華がやっとうっすらと瞳をあける。
「・・ひとみちゃん?」
「起きた?」
「・・・・あ」
梨華はやっと自分の部屋に帰っていることがわかり、あたりを見回した。
- 501 名前:自慢の恋人 投稿日:2009/01/26(月) 20:48
-
「みんなは?」
「もうお開きになったよ」
「・・そう。私、寝ちゃってたんだね」
「うん。1時間は寝てたかも」
「あの場所で?」
「そう。」
「1人で?」
「うん。」
「起こしてくれればいいじゃない」
そう言って梨華は体を起こそうしたが、そのだるさからまだ体内からアルコールが
抜けきっていないことがわかる。
「あまりにも飲んでたからさ。みんなも寝かせておいた方が良いって言うし」
「でも・・・」
「それに、梨華ちゃんが寝ていてくれたおかげでうちは幸せな気分を満喫できたし」
ひとみが梨華をのぞき込むようにしながら言った。
- 502 名前:自慢の恋人 投稿日:2009/01/26(月) 20:49
-
「どういう意味よ・・」
梨華は訝しげな表情でひとみを見る。
「実は梨華ちゃんがうちにベタ惚れだっていう事実を手中に収めたから」
「・・・何よそれっ!」
梨華は唖然とした表情でひとみをみた。
「そんな顔することないじゃん。いやぁ知らなかったよ。
梨華ちゃんがあれほどうちのことを友達にのろけてたなんて・・・」
「何言っているのよ!そんなことあるわけないじゃない!」
梨華はベッドから体を起こし必死にひとみに訴える。
「さすがのうちも見抜けなかったなぁ」
「ちょ、ちょっと!」
「うーん、でも考えてみれば自分のことだからな。
それだけに、見抜けないのも当然か・・・」
「ひとみちゃん!?」
「普段の態度からはそこまでの自信は与えてもらえなかったよ」
梨華の否定はまるで無視するかのように、ひとみはうんうんと納得したように頷く。
- 503 名前:自慢の恋人 投稿日:2009/01/26(月) 20:49
-
「・・私が寝ている間にあれからまた何かきいたの?」
梨華は、おずおずとひとみに聞く。
「なんの話?」
「だから、私が寝ている間に美貴ちゃんたちがまたなにか余計なことを言ったわけ?」
「余計なこと?」
「そうよ!」
「余計な事なんてなにも聞いていないよ」
ひとみは余計にアクセントを置いてニヤッと梨華を見る。
「・・・わかった。余計なことじゃなくても何かきいたわけね?」
梨華は自分に落ち着くように言い聞かせながらひとみにゆっくり聞いた。
「別に、何もきいていないよ。」
「うそ!」
「信じるか信じないかは、あなた次第!」
- 504 名前:自慢の恋人 投稿日:2009/01/26(月) 20:50
-
「・・・・それじゃどうしてあんな事いうの?」
「あんな事?」
「手中に収めたとかなんとか言ってたじゃない」
「あぁ。あれねぇ」
ひとみはわざとらしい声を上げる。
「そうよ!あれよ!」
「う〜ん・・・ま、いいじゃん。そのことは」
「だめ!」
「だめって言われてもね。」
「断っておくけど、美貴ちゃんたちがなにを言ったかは知らないけどそれは全部嘘だから!」
「嘘ねぇ・・・」
「そう」
ひとみの自分の見る視線に梨華は力強く頷く。
- 505 名前:自慢の恋人 投稿日:2009/01/26(月) 20:50
-
「でもあんな具体的な嘘、わざわざつくとは思えないかどなぁ」
ひとみはのんびりと答えてベッドに入った。
慌てて梨華はベッドからでる。
「寝ないの?」
梨華が自分に対してバツが悪くなり、頬が赤く染まってきていることを
充分承知しながら、ひとみは何喰わぬ顔で聞く。
「ね、ねるけど・・・。」
「もう3時半になるじゃん。さすがに眠いよ。」
そう言ってひとみは本格的に眠る姿勢に入った。
- 506 名前:自慢の恋人 投稿日:2009/01/26(月) 20:50
-
- 507 名前:自慢の恋人 投稿日:2009/01/26(月) 20:51
-
梨華は着替えが終わるとそっとひとみの顔をのぞき込んだ。
「寝たわね・・」
ほっとして呟くと静かにベッドに入り、なるべくひとみと距離をとるように横になった。
はじめはあんな事を言ったつもりもなかった梨華だったが、美貴たちに言われているうちに
どうもひとみの事を話したような気がしてきた。
とにかく知らぬ存ぜぬで通し抜こう!そう決めて瞳を閉じた瞬間、
いきなり伸びてきたひとみの腕に引き寄せられ、その広い胸の中に抱き込まれる。
「きゃっ・・・!」
驚いて顔を上げると、いたずらな色で自分をみている大きなの瞳がそこにあった。
「寝たふりしてたでしょ」
梨華が睨むと
「いつまでも隣にこないから」
ひとみは微笑んで答えた。
- 508 名前:自慢の恋人 投稿日:2009/01/26(月) 20:51
-
「だって・・・。」
「何をそんなに照れることがあるわけ?いまさら。」
「別に照れてなんかないよ」
「そう。だったらいいんだけど」
「・・・・」
その余裕の態度に梨華は頬を膨らます。
「なんだよ。その顔。」
「・・これからは美貴ちゃんたちの誘いは全部断る!」
「どうして?」
「だって、毎回毎回こんな思いさせられたらたまらないもん」
「うちは嬉しかったけどね。」
ひとみは優しく微笑んで梨華を見つめる。
「だから何回も言っているけど、あれは嘘だっ・・・。」
梨華のその先の言葉はひとみの唇によってふさがれた。
- 509 名前:自慢の恋人 投稿日:2009/01/26(月) 20:52
-
「んっ・・・んんっ・・・」
しばらく長いキスが続くと、ひとみはそっと唇を離し、梨華に囁いた。
「嘘なら嘘って言うことにしとこうか?」
「・・・なによ、それ・・・」
「嬉しい驚きだったけど、うちがみた夢だったって事にしてもいいよ」
「・・・・・」
その言葉に梨華はまじまじとひとみを見つめる。
「ん?」
「いっつもそうやって余裕ぶって」
梨華は上目遣いでひとみを見ると、軽く頬をつねった。
「いたっ!」
「夢じゃないっていう証拠よっ」
梨華はそう言うとそれ以上赤くなってしまった頬を見られないように
ひとみの胸へと顔を埋め、
「おやすみなさい」
口早に言うと瞳を閉じた。
「・・・おやすみ」
そんな梨華の態度にひとみは優しく微笑むと、梨華を抱きしめる腕の力を
ほんの少し強めて、自分も瞳をとじた。
- 510 名前:自慢の恋人 投稿日:2009/01/26(月) 20:52
-
- 511 名前:自慢の恋人 投稿日:2009/01/26(月) 20:52
-
- 512 名前:さんにーろく 投稿日:2009/01/26(月) 20:53
- 少量ですが更新終了です。
次回の更新は未定です。
- 513 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/27(火) 20:28
- すっかりこのスレにハマってもうた
次回の更新は未定ですか・・・
気長に待ってます
- 514 名前:さんにーろく 投稿日:2009/02/09(月) 10:12
- >>513
こんな駄文にハマっていただけるなんて!
読んで頂けて本当に嬉しいです。
定期的に更新できればいいんですが…
では、本日の更新です。
時間が空きましたが>>450からの「ルームシェアリング」です。
- 515 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:12
-
- 516 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:12
-
- 517 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:13
-
「先手必勝、早く告っちゃいなって」
「美貴ちゃん!?声大きい!」
「梨華ちゃんがのん気なこと言ってるからじゃん」
「だって…」
いつものようにマンションに集まった美貴ちゃん、柴ちゃんは
私の様子に異変を感じたらしく、問い詰められてあっさりと白状した。
「てか、なんとなく思ってたけどね美貴」
「なにを?」
「梨華ちゃんさぁ、よっちゃんと暮らし始めて
しばらくしてから、急に合コン行かなくなったじゃん
なんかあると美貴は思ってた」
- 518 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:13
-
そうだっけ、意識なかったな。
でもそうだったかも。
真希ちゃんと一緒にテラスでタバコを吸ってるひとみちゃんに目を向ける
――――かっこいいな
好きって気づいてから一週間。
彼女に見とれる回数が、驚くほど増えた。
- 519 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:13
-
「梨華ちゃん」
「ん?」
「好きなら気持ち伝えなきゃ
考えすぎると、人間はどんどん臆病になるもんだから」
- 520 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:14
-
- 521 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:14
-
それ以来、ひとみちゃんと2人きりになろうとするんだけど、決まって邪魔が入る。
今夜も市井さんが何故だか一人でやってきて
「こないだのこと、あゆみには絶対言わないで」
「わかってます」
「絶対だぞ!」
わかってるわよ。わざわざ来て口止めするような事?
だいたい、言うにしても、なんて言うのよ!
あなたの恋人があなたの知り合いと浮気してましたって?
言えるわけないじゃん!
何考えてんのよ
- 522 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:15
-
―――
「石川さん?」
「何よ!」
「おー、怖っ」
「あれ?市井さんは?」
「帰りましたよ、さっき」
ひとみちゃんが、飲み終えたカップを下げて
洗ってくれる。
「ねぇ」
「んー?」
「どうして人って浮気するんだろ」
「市井さん?」
「もだけど、他にも。
世の中には平気で浮気する人がたくさんいるじゃない」
- 523 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:15
-
「許せない?」
「そりゃそうだよ!されたほうの気持ちがわかってない」
「んー」
「じゃあ自分の恋人もしてもいいの?って思う」
「自分はよくても相手はダメっていうと思いますよ」
「何それ!意味わかんない」
「そんなもんですよ。――はい」
「ありがと」
ひとみちゃんはゆっくりと微笑んで私にココアを渡すと
自分のココアをすすりながら、ソファーに並んで腰掛ける。
- 524 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:16
-
「ひとみちゃんも?」
「んー?」
「ひとみちゃんも浮気とかする人?」
「んー、しないんじゃない?」
「なんか、微妙な言い方」
「だって初めから浮気しますなんて人いないって」
「じゃあ、浮気したことは?」
「――ないよ」
「されたことは?」
ひとみちゃんは何も言わない。
カップの中を見つめたまま
「…ごめん。また余計なこと聞いた」
- 525 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:16
-
「ん?あー、ごめん大丈夫。
ちょっとぼーっとしてた」
そんな顔して笑わないでよ
「浮気されたことだっけ?
あるよ。結構つらいよね」
そんな、泣きそうな顔して笑わないで―――
- 526 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:17
-
「でもね、ウチが悪かったんだよ
ウチが愛することをやめちゃったから」
「――ひとみちゃん」
「愛することをやめちゃいけなかったんだよ
たとえ愛されなくても。だから――」
それ以上彼女を見てられなかった
淡々とした口調なのに、彼女はすごく怯えているように見えたから
抱きしめることで、彼女を包んであげたかった。
- 527 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:17
-
「泣かないで」
「泣いてないよ」
「…泣い、てる」
「泣いてんのは石川さんじゃん」
「泣いてるよ、心が、泣いてる」
抱きしめた彼女の身体が、一瞬強張った
だから私はより一層強く、彼女を抱きしめる
「泣いていいんだよ」
「どっちだよ、さっき泣くなって言ったじゃん」
「いつも無理して笑ってるより
誰かのこと想って泣けるほうがいいんだから」
- 528 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:18
-
「私じゃだめかなぁ」
「私がひとみちゃんを好きなだけじゃ、だめかな」
「片思いでもいいの、その分好きになるから」
- 529 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:18
-
- 530 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:18
-
――――――――
あの日以来、石川さんとは会ってない。
「んで?」
「で…?」
「よしこの気持ちは?」
「わかんない」
はぁ〜・・・と盛大にため息をついたごっちんを
横目で見つつ、コーヒーをすする
「なんていったのさ、梨華ちゃんに」
「んー、普通に…ありがとって」
「なにそれ」
- 531 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:19
-
「…うちは弱いから」
「だから?」
「彼女をきっと傷つける」
そう、きっと…
「あのさぁ、よしこは弱いかもしれないけど
梨華ちゃんを傷つけたりはしないとおもう。」
「え?」
「人を傷つけるのは悲しい人なんだよ」
「ごっちん、ごめん意味分からん」
そういって席を立とうとする
- 532 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:19
-
「好きって言葉はさ魔法なの、言われた人を幸せにする魔法。
友達にでも、誰にでも。悲しい人はね、好きって言われたことのない人だから」
「ごとーはよしこのこと好きだよ。」
「…知ってる」
「うん。梨華ちゃんもそうなんだよ」
ごっちんの言いたいことが伝わった気がした
彼女はどんなときでも、うちのほしい言葉をくれる
逃げちゃダメだ
- 533 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:20
-
- 534 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:20
-
――――――――
「ただいまぁー」
バイトを早めに切り上げて帰ってきたのに、石川さんはいない
石川さんと話したいのに…
自分勝手に彼女を避けて
自分勝手に会いたいとおもう
「自己嫌悪になりそー…」
ソファーに腰を沈めて、ぼんやりと部屋を見渡す
彼女と会わなくなって、一週間
考え続けた自分の気持ちが、やっと分かった気がした
「はぁ…」
- 535 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:21
-
「―――ひとみちゃん」
「あ、おかえり」
「ただいま」
帰ってきた石川さんはリビングの入り口に突っ立ったまま
「石川さん」
「はい」
「さみしいです」
「…は?」
単刀直入に伝えた
彼女への想いを
「石川さんの顔を見ないと、声を聞かないと
さみしいです」
涙を浮かべたままの彼女にそっと、近づいて向き合う
- 536 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:22
- 「呼んでください」
「…何を」
「名前」
両手を取り、そっと握る
「うちの名前呼んでください、ひとみちゃんって」
「……」
「寂しいんです。うちを名前で呼んでくれる人、いないから」
「ひとみ、ちゃん」
「はい」
「それが答えじゃだめですか?」
「へ?」
「石川さんが好き、なんだと思うんです」
彼女の瞳から、溢れて零れ落ちた涙にキスをした
気持ちが伝わればいいと思う
言葉に出来ない、この想いが、彼女に届けばいいのにと思って、
今度は石川さんの唇にキスをした。
- 537 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:22
-
- 538 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/09(月) 10:22
-
- 539 名前:さんにーろく 投稿日:2009/02/09(月) 10:24
- 更新終了です。
なんとも進まない話…
精進します。
少し書く時間が出来たので次回更新はスムーズに!
- 540 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/10(火) 00:46
- 一歩前進かな?
次回楽しみにしてます。
- 541 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/10(火) 03:23
- 進んだんじゃないですか(^^)
- 542 名前:さんにーろく 投稿日:2009/02/10(火) 23:11
- >>540
半歩ぐらいでしょうかw
頑張ります!
>>541
進んでるといって頂けて嬉しいです。
でわ今日の更新です。
- 543 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:11
-
- 544 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:11
-
- 545 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:12
-
「梨華ちゃーんっ」
「ん?」
「何」
「…はい?何ってなによ美貴ちゃん」
今日もこのマンションにはおなじみのメンバーが勢ぞろい
あたしとひとみちゃん、美貴ちゃん、真希ちゃん、柴ちゃんに市井さん
なんかもう、毎晩のように来てない?
- 546 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:13
-
「何なの?」
「だから何が?」
今日はいつもに増して、あたしに絡んでくる美貴ちゃん
キッチンで料理を作ってる横からあたしの肩まで抱きこんで顔を近づけてくる
邪魔だ。
「だぁーから!よっちゃんと梨華ちゃん!
付き合ってんでしょ?」
- 547 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:13
-
そう。
あのキスされた日から、あたしとひとみちゃんの関係は変わった。
ただの同居人ってことじゃないのは確かなんだけど
「けど?」
「なんか恋人っていうのとも違うってゆーか」
「はぁ?あのさ、好きって言われて、キスされて、ヤっちゃったら
それはもう、誰がなんと言おうと恋人だと思う」
「美貴ちゃん!あたしヤってなんて…」
「ないの?」
いや…
「してんのかよ」って鼻で笑う美貴ちゃん。
- 548 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:14
-
…あの日、なんだか微妙な告白をされて、キスもしてくれたのはいいんだけど
一回で満足したように、優しく抱きしめたまま何もしてこないひとみちゃん
あたしとしては、なんだかちょっと納得行かなくて
でも、彼女の腕の中はすごくあたたかくて
だから、今度はあたしからキスして
それで…
でも、それってなんか違う
確かに、あんなに情熱的に抱かれたのも初めてだったし
これまでの誰よりも、気持ちよかった…
でも、終わった後の彼女はなんだかいつもの雰囲気とは違ってた。
上手くいえないけど、いつものひとみちゃんじゃなかった…
- 549 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:15
-
「そんな情熱的な夜を過ごしといて、なんであれ?」
美貴ちゃんはテラスで一服する、ひとみちゃんと真希ちゃんに目を向けた
「あれじゃだれが彼女だかわかんないじゃんよ」
あの二人には、独特の雰囲気がある
誰にでもオープンなようで、でも本当は誰も入り込めない
そんな空気が。
- 550 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:15
-
- 551 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:16
-
――――――――――
「んで、ごっちんはなんで恋人作らないわけ?ってかほんとはいるでしょ」
「んぁー、いないってばー。ミキティこそ作れば?」
「あたしの話はいいから、いるだろ。誰!美貴の知ってる人?」
「あ!お、おい、酒切れてんぞ!ふじもっちゃん買ってきてっ!」
「さやか、何あわててんの?」
さっきから執拗にごっちんに絡む美貴ちゃん
それを聞きながら妙にそわそわする市井さん
そんな市井さんを見て疑惑の目で睨む柴ちゃん
なんかその構図がおかしくて、ふと隣を見ると
あれ…?
- 552 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:17
-
―――――――――
「ひとみちゃん」
テラスの長いすでビールを飲みながら、部屋の中を見てるひとみちゃん
私が駆け寄るように隣に座ると、そっと手を握ってくれる
「寒くない?」
「大丈夫だよ。ひとみちゃんこそどうして中で飲まないの?」
今はタバコを吸ってるわけでもないのに…
ひとみちゃんは一瞬私に向けた視線を、すぐに部屋の中に戻した。
部屋の中では、柴ちゃんにヘッドロックをかけられてる市井さん
それを見て大爆笑の美貴ちゃんと真希ちゃん。
うっすらとした光の中で微笑むその横顔は、とても綺麗
- 553 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:17
-
「ここには人がたくさん来ますね、毎晩のように」
「ふふっ、幸せだね」
「うちはそういうのそばで聞いたり、見てたりするのが好きなんです」
「そばで?自分は入らないの?」
「うちはいいんです」
「どうして?」
「苦手…なのかな。多分」
「幸せが苦手…そんな人いる?」
私はひとみちゃんのいってることがいまいち理解できなくて。
だって人は幸せになるために生きてるものだって思ってるから
そう思って彼女を見上げて、握った手に少し力を込めた。
- 554 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:18
-
「なんかね、そういう中にいると、ちょっと怖くなるんですよね
きっと長くは続かないんじゃないかって。
いつか神様に、この幸せは取り上げられちゃうんじゃないかって。
そんな風に身構えちゃうんです。だから、うちはいいんです」
彼女の横顔はまだ微笑を残したまま、変わらない。
変わらないその表情に私は何故だか、少し恐怖を感じた。
今ある幸せを、怖いと言った彼女――
かけてあげられる言葉が見つからなくて、私は静かに彼女にキスをした。
腰に手を回して、すがりつくようにキスを続けると、彼女も返してくれる。
「んっ…」
- 555 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:18
-
私の舌を追うように、彼女の舌が動く
彼女の掌が私の背中を上下に動く感覚にちょっとずつ意識が薄れてくる
予想以上に激しいキスに苦しくなって、唇を離した
「ん…はぁ、はげしぃよ…」
「ご、ごめん…ごめん」
照れ隠しでいった私の言葉にひとみちゃんは
静かに謝って、私を強く抱きしめた
ひとみちゃん…?
私を抱きしめる腕は、ひどく不安げで。
私がここにいることを確かめるみたいに、強く、強く
力は強いくせに、おびえたようなその腕に私はなんだか胸を締め付けられた。
- 556 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:18
-
私は彼女の背中を出来る限り、優しくさする
安心させたくて、私がここにいることを伝えたくて
「ひとみちゃ…」
- 557 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:19
-
「なぁーにいちゃついてんだよ」
「ごとーここでHしちゃうのかと思った」
「部屋もベットも二つあるんだから部屋の中でしなよ?」
「使わない方をうちらに貸せ」
声のするほうに目を向けようとしたけど、
ひとみちゃんの腕は苦しいくらい私を抱きしめたまま
「っ…ひとみちゃん…?みんな見てるし、もう部屋入ろ?」
「……」
―――パシっ
「いてっ」
「梨華ちゃん死ぬ、絞め殺す気か」
ごっちんが固まったひとみちゃんの後頭部を勢いよく叩いた
途端に腕の力が弱まって、私の身体は自由になった。
- 558 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:20
-
「叩くなって、ばか力」
「梨華ちゃんは逃げないから。よしこがいつまでも甘えてるからだよ」
「…う、うっさい!」
ようやく周りに気づいたのか、ひとみちゃんは顔を真っ赤にして
勢い良く立ち上がった。
「そんなに抱きしめたいなら、ごとーを抱きしめてもいいのよぉーん」
「おぉ!市井も抱きしめてほすぃー!」
「いらん」
「ま、そんなに恥ずかしがっちゃって!
さっきはあんなチューまで見せ付けたくせにぃ」
「見てんじゃねーよ!変態ども」
ひとみちゃんは真希ちゃんと市井さんに抱きつかれながら
足早に部屋の中へ入っていった。
- 559 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:20
-
「ほら、梨華ちゃんも入ろ」
「あ、うん」
私も柴ちゃんに手を引かれ中へ。
美貴ちゃんもそっと近づいてきて「よかったね」って
…ありがとう。
「まぁ、あんなラブシーンまで見せてくれなくてもよかったけどね」
照れたようにそういうと、美貴ちゃんもひとみちゃんを冷やかしにいった。
ソファーにもたれながら、質問攻めにあう彼女は
もうさっきの不安を微塵も感じさせなかった。
- 560 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:21
-
- 561 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/10(火) 23:21
-
- 562 名前:さんにーろく 投稿日:2009/02/10(火) 23:23
-
更新終了です。
少量過ぎで、申し訳ないです…
とりあえず次回更新目指して頑張ります!
- 563 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/11(水) 03:59
- いやぁ、いいですねぇ(^^)
- 564 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/11(水) 19:58
- やっぱりいしよしはよいですねw
- 565 名前:名無し飼育さん 投稿日:2009/02/12(木) 04:33
- いいです、すごくいいです。これはきてます。
- 566 名前:さんにーろく 投稿日:2009/02/20(金) 15:10
- >>563
いいですか!嬉しいです!
>>564
いしよしいいですよねぇ
書いてても癒されます!
>>565
きてますかw
皆様のレスが何より励みになります。
ありがとうございます!
では、今回の更新です。
- 567 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:10
-
- 568 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:10
-
- 569 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:10
-
あの飲み会以来、ひとみちゃんに変わった様子はなかった。
でも、私は気になってお昼休みに、学校の後、会えないかと真希ちゃんに連絡した。
会って、何をきけばいいのかなんて分からなかったけど。
電話に出た真希ちゃんは、いつもとは違う私の様子に気づいたのか
バイトを休んでまで、待ち合わせ場所に来てくれると言った。
「ごめんね、気使わせて…」
「いーって、それよりなんか頼もうよ。ごとーお腹すいた」
- 570 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:11
-
――――――――
食事の間、彼女はたわいもない話で私を笑わせてくれた。
私もなんだか彼女と話しているうちに気が紛れたのか、
ひとみちゃんのことはまだ聞かなくてもいいような気持ちになっていた。
「で、よしこのこと聞きたかったんじゃないの?」
「え?」
食後のコーヒーを飲んでいると、突然真希ちゃんが切り出した。
「どうして?」
「んー、なんか、いつか梨華ちゃんに呼び出される感じはしてたから
よしこなんか梨華ちゃんにひどいこと言った?」
「ひどいことなんて!そんなこと全然…ただ…」
「ただ?」
――――――――
- 571 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:11
-
「そっかぁー」
梨華ちゃんに呼び出された時から、なんとなく分かってた。
よしこと付き合って、彼女の見えない何かに不安を感じてるんだろうと。
普通に関わっているだけじゃ感じない、よしこの陰に。
でも、よしこは何も言わない。
だから、梨華ちゃんはごとーに連絡してきた。
でも実際、話を聞いて安心した。
あたし的にはもっと最低なことになってるんじゃないかと思ってたから
でも、この短期間で梨華ちゃんよく気づいたなぁ。
やっぱすごいなぁ、意外と。
- 572 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:12
-
「…ごめんね、こんなこと言われても困るよね」
「んぁ?あー、ごめん。ちょっと梨華ちゃんを尊敬してた」
「は?」
何も言わないごとーに梨華ちゃんは、申し訳無さそうに謝った。
きっと、梨華ちゃんも不安なんだ。
ごとーにはわかる。
よしこを大事に思うから、不安になる。
だから梨華ちゃんには話したほうがいいと思った。
別に隠すことじゃないと思うけど、言う相手は選ぶ。
- 573 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:12
-
「よしこさ、両親いないのね」
「え?」
「蒸発しちゃってんの、小学校3年のときに」
「三年生って・・」
「9歳」
- 574 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:12
-
- 575 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:13
-
- 576 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:13
-
――――――――――
あたしがよしこに出会ったのは、大学一年の夏だった
人を寄せ付けない何かで、彼女は全身を覆われているみたいだった
そんな彼女とあたしは友達になりたいと思った。
話しかけても、目もあわせてくれない彼女との戦いは2ヶ月にも及んだ。
最初は全く相手にされず。でもあたしは懲りずによしこに話しかけていた。
2ヶ月も過ぎると、よしこも呆れたようで、
「よーしーこー、おはよぉー」
「ん、おはよ」
あたしが話しかけると、そっけないものの反応を示してくれるようになっていた。
- 577 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:14
-
そんなある日、彼女が学校を休んだ。
誰とも話さないけど、学校だけは律儀に通っていたよしこ
でも、ここ三日、彼女は姿を現さなかった。
さすがに休みすぎだと思ったあたしは、よしこの住む家へ向かった。
学校へ出て来い!と喝をいれてやるつもりだった。
「よぉーしこー…いないの?」
何度呼び鈴を鳴らしても、反応がないから
あたしは迷わず玄関を開けて、中へ入った。
- 578 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:14
-
「って…いるんなら返事くらいしてよ」
「…なにしてんだよ」
リビングに入るとよしこはいた。
部屋の真ん中で突っ立って、あたしを見て驚いた顔をした
あんな顔みたことないよ
それよりも驚いたのは、この部屋だった。
「何って、…この部屋こそ何?」
「触るな!どこにもさわるな」
ダイニングテーブルに手をついたあたしに
彼女は声を荒げた。
- 579 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:15
-
――吸殻の残った灰皿
洗いかけの食器
食べ散らかした、カップ麺の容器
大量のゴミ袋
「これ…」
「出て行け!」
よしこはあたしの肩を掴んで、強く押す
「よしこ!」
「出て行けって!」
「――家族の人は?」
- 580 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:15
-
「…頼むから、出てってよ…」
よしこはそのまま、崩れるようにしゃかみこんだ。
――――――――――――――
- 581 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:15
-
- 582 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:16
-
「それって…」
「ネグレクト、よしこは育児放棄を受けてた」
――――――――――――――
- 583 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:16
-
――――――――――――――
「小学生のときさ、いきなり出て行ったんだ。
それから、毎月一万円ずつ送られてきた」
少し落ち着いたよしこは少しずつ話してくれた。
小学生のときから、この家でひとりぼっちだったこと
父親、母親、年の離れた妹を一気に失ったこと
でも、淡々とした口調からは彼女の感情が見えなかった
「親もバカだよなぁ、
生まなきゃ、毎月一万なんて金送らずにすんだのに」
そう言ってよしこは笑った。
- 584 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:17
-
――――よしこは家族が大好きだったんだ
当時の面影をのこしたままの部屋…
ここに何年もの間、一人でいるつらさはあたしにはわからない
来る日も来る日も、たった一人で帰らない家族を待つ苦しみは
あたしはよしこを抱きしめた
どういう気持ちかなんて分からないけど、彼女を思い切り抱きしめた。
「やめろって」
「いなくなった時、最初は意味がわかんなかったよね
3日過ぎて、一週間、一ヶ月、一年経っても
いつか帰ってくるって信じてた」
「・・・・・・」
「よしこ」
- 585 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:18
-
「母さん、はさ…うちのこと好きだって
そう、言ってくれたんだ。何度も何度も、それこそいろんな言葉で」
「…うん」
「でもある日、うちは一人ぼっちになった
何度も好きだって言ってくれた母さんは、うちを置いて出て行った」
「ごとーも、よしこのこと好きだよ」
「…うん、ありがと」
「ごとー」
「は?」
「ごとーの名前はごとー」
「あぁ。ありがと、ごとーさん」
「はい」
- 586 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:18
-
――――――――――――――――――
それから、よしこは学校に来るようになった。
今までどおり無口だし、あんま笑わないし、相変わらずだけど
でも、なんか元気になったような気がした
あたしは住んでいた家を出ることを薦めた
あの家にいればどこを見ても、どこにいても、家族を思い出す。
とりあえずお金がたまるまで
よしこはあたしとルームシェアすることになった。
- 587 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:19
-
彼女を覆っていた何かは、もう見えなくなっていた。
それに、よしこはあたしを“ごっちん”って呼ぶようになった
よしこに穏やかな日常が戻りつつあるんだと思った。
でも、あたしは甘く見ていたんだと思う。
彼女の闇を、わかったような気でいたんだ
―――――――――――――
- 588 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:19
-
その日、あたしは付き合いはじめたばかりの彼氏に誘われて
北海道に一泊二日で旅行に来ていた。
夜、旅館に着くと携帯がなった。
「もしもーし」
「――ごっちん」
「よしこ?」
この日のよしこは様子が変だった。
“どこにいんの?”
“なんで帰ってこないの?”
“すぐ帰ってきてよ”
「ちょ、ちょっと待ってよ、よしこ
あたし今北海道にきてんだって。言ったじゃん」
―――――ごっちんも、うちを置いて出て行くの?
- 589 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:20
-
彼に事情を説明して、荷物をまとめて、すぐに旅館を出た。
夜が明けるころ、アパートに着いたけど、そこによしこの姿はなかった
携帯にかけてもつながらない
だとしたら、もうあそこしかない。
彼女の帰る場所は、ほかにない
案の定、よしこは実家にいた。
部屋の真ん中でうずくまって
――震えていた。
「ごめん、よしこ。もうどこもいかないから」
駆け寄って、震える身体を抱きしめた
よしこの身体はひどく冷え切っていた
- 590 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:21
-
「よしこ…」
「…ごめん、なさい。なんか自分でもよくわかんなくて」
「うん」
とたんに、よしこの身体がこわばる。
「嫌いになんないでっ…もうこんなこと絶対にしないから、だから」
「大丈夫、大丈夫だよ」
「ごめ、んなさ、い」
「ごとーがよしこの家族になるから」
守りたいとか、救ってあげたいとか
そんな気持ちはこれっぽっちもなかった
ただ、腕の中で自分を押し殺すように震える友人を
ほってなんておけなかった。
「ごとーは、味方だから」
- 591 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:21
-
- 592 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/02/20(金) 15:21
-
- 593 名前:さんにーろく 投稿日:2009/02/20(金) 15:23
-
本日の更新は以上です。
せっかく話が進んだのに、過去編とか…
読まれてる方には申し訳ないです。
頑張ります!
- 594 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/21(土) 02:57
- こんな過去が…(>_<)
全然問題ないです(>_<)
楽しみにしてます!
- 595 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/21(土) 12:04
- この過去は設定的に無茶がありすぎませんか?
1万とか一桁以上足りないし学費とか考えても・・・どうなのかな
- 596 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/22(日) 00:36
- ↑食費だけなんじゃないの
光熱費、給食費、学費はたいてい引き落としだろうし、
制服とかは現物送ってきたり、中学に入れば新聞や牛乳の配達を
したりしてさ。
ごっちんに会えて良かったね。
謎が少し解けました。
次回楽しみにしてます。
- 597 名前:さんにーろく 投稿日:2009/05/08(金) 10:36
-
久々更新です。
読んでいてくれる方がいるか不安ですが、放置は絶対にないです。
でわ。。。
- 598 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:36
-
- 599 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:36
-
- 600 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:36
-
「ただいま」
今は深夜2時をちょっとまわったところ。
ひとみちゃんになんの連絡もせずに、この時間に帰ってきた。
柴ちゃんに無理言って、わざと。
なのにひとみちゃんは顔色一つ変えずに
私を出迎えてくれた。
- 601 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:37
-
―――――――――
今までも何度かこういうことがあった。
柴ちゃんと飲みすぎて、終電逃して朝帰りしても
人数あわせの急な合コンの誘いにも、「行ってきていいよ」って。
初めはね、私たち付き合ってるんだよ?
心配じゃないの?
私が知らない男の人とお酒飲んでもいいの?って
そう思ってた
―――嫉妬とかしてくれないの?って
- 602 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:37
-
でも、気づいたこともいくつかあった
私が遅くなる日は、連絡をしてもしなくても
ひとみちゃんはリビングのソファーの右端に座って、私の帰りを待つ。
多分、テレビもオーディオもつけずに、ただ待っているんだと思う。
それから、私の姿を見つけると
心底安心したように、私を抱きしめる。
そして、何も言わずに
「おかえり」って。そう一言。
- 603 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:38
-
「おかえり」
何も言わずにただ彼女を見つめる私にそう言って、
私の頭を優しく撫でるひとみちゃん
「…優しいね」
でもね、私が求めてるのはそんな優しさじゃないの
その優しさに、あなたの愛を感じられない私は
欲張りなのかな?
ねぇ、ひとみちゃん
「どうした?飲みすぎた?」
違うよ。
そうじゃない
私のこともっと見てよ
言葉に出来ない想いが、涙になって出て行く
泣きたいんじゃないのに…
- 604 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:38
-
「ちょっ、石川さん!?ほんとどうしたの?」
勝手に泣き出した私を、ひとみちゃんは優しく抱きしめてくれる
ふいにその腕にすべてを委ねたくなった。
そうすれば私はどんなに楽だろう。
でも――
彼女の両肩に手をついて、距離をとる
「石川さん…?」
不安げに見つめる瞳に吸い込まれる前に
涙を止めて、彼女を見上げた。
「どうして?」
「え?」
「どうして何も聞かないの?こんな時間に帰ってきたのに」
「帰ってきてくれればそれでいいから。
ここに石川さんがいるならそれで幸せだから」
微笑んで見つめ返す彼女の瞳に、私は罠を仕掛けた
- 605 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:38
-
「でも、こんな時間だよ?それに…
今日はひとみちゃんの知らない人と食事してきた」
彼女の瞳が少し揺れる
「そっか。今日は遅いからもう寝よ」
そう言って、そっと私の腕をとる彼女の言葉を無視して
あえて、そっけなく言い放つ
「…食事のあと、ホテル行こうって誘われた」
「うん」
「気にならないの?」
「なるけど、信じてるから」
ひとみちゃんの表情からは何も読めない。
いつもみたいに余裕のある、優しい表情。
- 606 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:39
-
「その人と食事したあと、ホテル行ってきた。
…だからこんな時間になったんだよ」
彼女を見る私の顔はきっと最低の女の顔
私を見ていたひとみちゃんの表情が、少しずつ余裕をなくしていくのが分かった。
「何してきたか知りたい?」
これ以上はきっと彼女を傷つける。
でも…それでも、私はやめる気なんてなかった
ここでやめたらきっと終わり
ひとみちゃんを永遠に失ってしまうような気がしていたから
- 607 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:39
-
「ホテルで、その人と何してたと思う?」
「……」
「部屋に入った途端、ベットに押し倒されて、それで…」
「やめろって!」
ひとみちゃんが急に大声で私を制したから
「なんでよ!」
私も必死になって食い下がる
「いいって…信じてるから」
「信じてなんかないでしょ!そんな言葉で片付けないでよ!
信じてるなんて、思ってもないのに言わないで!」
- 608 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:40
- 分かってた。
ひとみちゃんが私を好きでいてくれてることは。
でも、彼女の態度は信頼からくるものじゃない。
私を信じてるんじゃない
「どうして?何を怖がってるの?」
「怖がってる?」
私の腕を握る彼女の力が強くなる。
「怖がってるよ。過去に取り付かれて、変わることが怖いんだよ」
俯いていた顔が驚いたように上がり
鋭い視線は、私に向けられた
「うちの何を知ってるんだよ!」
- 609 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:40
-
「何にも知らないくせに!偉そうに言うなよ!
自分がほかの男と寝たからって、うちに責任押し付けてくんなよ!」
「自分の恐れを棚に上げて、私を責めないで!」
「うちが何を恐れてるんだよ!」
「私を、私を恐れてる。
私に愛されなくなることを」
目の前には、興奮して掴みかかる彼女
そして、いつのまにか掴まれていた胸倉がふいに軽くなり
歯を食いしばる彼女の少し強張った横顔
- 610 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:41
- 「私も同じよ…恐い。
ひとみちゃんを失うことが恐いよ」
伝えたかった
どうしても彼女に伝えたかった
あなたの受けた苦しみや悲しみはきっと深い
でも、恐いのは私も一緒だって
きっと私だけじゃない。
真希ちゃんも恐いんだよ
相手を大切に想えば想うほど、きっと…恐い
だから――
- 611 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:41
-
「逃げないで、ひとみちゃん」
「助けてくれなんて頼んでない」
「一緒にいたいの」
「いい加減なこと言うなよ!愛してもないくせに」
「愛してるの…あなただけを」
ひとみちゃんは上を向いたまま何も言わない。
こっち見てよひとみちゃん
私もう最低な顔なんてしてないよ
あなたを傷つけるような顔してないんだよ?
あなたと同じで、涙でぐちゃぐちゃの顔だけど
でももう、何も隠してない
ありのままの私を見て、ひとみちゃん
あなたが好きだって言ってくれた素直なままの私で
あなたを受け止めるから
だから
- 612 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:42
-
「愛してないなら言って。愛してないって。
そしたらもう何も言わないから。
あなたの人生から出て行くから。」
ねぇ、お願い
――ひとみちゃん
- 613 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:42
-
「――愛してない」
――――――私を見て
- 614 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:42
-
- 615 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/08(金) 10:43
-
- 616 名前:さんにーろく 投稿日:2009/05/08(金) 10:44
-
少量更新で申し訳ないです。
次回は今週中に更新予定です。
- 617 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/09(土) 00:42
- 梨華ちゃん頑張ったね。
- 618 名前:さんにーろく 投稿日:2009/05/10(日) 22:14
- >>617
頑張ってもらってます!
更新です。
- 619 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:15
-
- 620 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:15
-
- 621 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:15
-
「真希ちゃん、私逃げないから
ひとみちゃんが好きなの。一緒にいたいの」
「好きになるのって痛いよねぇ」
「ひとみちゃんのそばにいるから」
「梨華ちゃん、がんばれ」
- 622 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:16
-
―――――――――――――――
ひとみちゃんと会わなくなってから、毎週恒例の飲み会もなくなっていった。
もちろん、みんなで集まろうって話はあるけど
ひとみちゃんは参加しないし、私も断ることが多かった。
- 623 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:16
-
あの日、マンションから逃げるように飛び出した私は
その足で、柴ちゃんの家へ駆け込んだ。
柴ちゃんはいろいろ聞いてくれたけど
詳しい事情は言わずに、別れた事だけを伝えた。
それと、しばらく部屋に置いてほしいと
泣くだけ泣いた
きっとこれ以上出ないんじゃないかってくらい
涙が枯れるっていうけど、本当に私の涙は枯れてしまったみたい
あの日以来、私は一度も泣いていない
――――――――――――――
- 624 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:16
-
「久々だねぇ、このメンバーで集まるの」
「市井ちゃんさぁ、飲む以外にやることないの?」
ぱったりと飲み会がなくなっていたけれど
市井さんが店をやめて独立することになったお祝いで半年振りに
柴ちゃん、美貴ちゃん、真希ちゃん、市井さんが私のアパートに集まった。
「うるさいんだよ後藤、次期店長にむかって」
「あー、間違えた。飲む以外にやりたいことないの?」
- 625 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:17
-
私はみんなに会うのは久しぶりだったけど
柴ちゃんと市井さんは、仲良く、毎晩のように飲み歩いてるらしく
たまにその飲み歩きに真希ちゃんも参加しているみたいだった。
美貴ちゃんは相変わらず合コン三昧の焼肉三昧の生活だとか
私は…
- 626 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:17
-
「梨華ちゃーん、飲んでる?」
「飲んでるけど、真希ちゃんそれ何本目?」
500mlの缶ビール片手にピスタチオをほおばる真希ちゃん
相変わらずだなぁと、なんだかあったかい気持ちになる。
「んぁー、3本目。それよか梨華ちゃんに会えなくてごとーは寂しかったよぉ」
「そうだね。久しぶりだもんね。ごめんね連絡くれてたのに」
「いいよー。今日会えたし」
実は真希ちゃんに会うのもすごく久しぶりだったりする
―――――
- 627 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:17
-
ひとみちゃんは別れて、しばらくしてあの部屋を出ていった。
「自分が出て行くから、石川さんは戻って」と真希ちゃんから伝言を受けて
マンションへ帰ると、ひとみちゃんの荷物は綺麗に運び出された後で
リビングのテーブルの上に、部屋の鍵と3ヵ月分の家賃が置いてあった。
「よしこが、次の部屋見つかるまでここにいてほしいって」
「そんな…」
「受け取ってやってよ、一応」
- 628 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:18
-
「真希ちゃん、――ごめんなさい」
心配して付き添ってくれた真希ちゃんに謝った。
ひとみちゃんのそばにいるって言ったのに
ひとみちゃんから逃げないって言ったのに
「梨華ちゃんは何も悪くないじゃんか」
「悪い。私がひとみちゃんを傷つけたの」
私はあっけなく彼女のもとから逃げ出してしまった
ひとみちゃんを傷つけた
私は頑張れなかった。
- 629 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:18
-
「続けることはさ、戦いなんだって」
真希ちゃんはテラスへ続く窓をゆっくり開けながら私を見た
「だから、負けてもいいんだよ」
――――――――――
- 630 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:19
-
――――――――――
「ねぇ、梨華ちゃん」
「んー?」
ぼけーっとしたままの梨華ちゃん
久しぶりに見たその横顔は、半年しか経ってないのに
なんでか、違う人に見えた。
よしこと付き合って、別れて。
梨華ちゃんは今日までの半年をどうやって過ごしたんだろう
よしこみたいに、何もなかったみたいな顔してたのかな
だったらあたしは少し寂しいな
あたしの親友を好きになってくれたことは、あたしにとって
ものすごく幸せなことだったから。
- 631 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:19
-
「ごとーがさ、梨華ちゃんに、がんばれって言ったの覚えてる?」
「覚えてるよ」
一瞬こっちを見て、また目をそらされた
「どう思った?それ聞いたとき」
「どうって?」
「ごとーの“がんばれ”は、梨華ちゃんを苦しめた?」
今度は梨華ちゃんの視線が、しっかりとあたしを捕らえた
- 632 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:20
-
「真希ちゃんに、がんばれって言われたときね
私本当に嬉しかったの。…それから、ちょっと迷った。
本音を言うとね、真希ちゃんがやってきたことが私に出来るのかなって」
結局だめだったけどねって小さく笑う梨華ちゃん
だめじゃない
梨華ちゃんはよしこをちゃんと愛してくれた
ごとーと一緒で、よしこを愛してた
- 633 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:20
-
「あのねごとーは、がんばれって言ったの。
がんばろうじゃなくて、がんばれ。
ごとーと梨華ちゃんじゃ、愛し方が違うと思ったから
ごとーはよしこの家族なの。でも梨華ちゃんはよしこの彼女。
同じやり方でなんて思って言ったんじゃないよ」
「でも…」
「だから、それで梨華ちゃんを苦しめたなら…ごめんね」
- 634 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:20
-
―――来週ね、よしこと会うんだ
真希ちゃんの口からひとみちゃんの名前を聞いた時
正直、少し胸が痛んだ。
「ちょっと行くところあるから、そのあとで
よしこに会ってあげてくれない?」
会いたくないといえば嘘だった
でも、いまさら彼女に会ってどうすればいいんだろう
- 635 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:21
-
「よし!梨華ちゃんに、極秘よしこ情報を教えてあげる!」
突然、真面目な顔からいつもの真希ちゃんに戻った
本当に不思議な子。
無邪気なようで、繊細で
真希ちゃんと話せば話すほど、ひとみちゃんと似てるところが多いと感じる
「よしこはさ、意外だけど、正直者なの。
嘘つくとすぐ分かるんだよー?上ばっか見てるから」
「え?」
「んで、ほんとのこと言うときは、ちゃんと目を見てるの。
わっかりやすいでしょ?
あ、でもこれよしこには内緒ね。バレると不便だからねぇ。ひひひ」
- 636 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:21
-
―――――愛してない
ねぇ、ひとみちゃん
私はどうしたいんだろう
「真希ちゃん」
「んぁー?」
「どうして人はウソなんてつくのかな」
真希ちゃんは考える素振りもなく、即答した
「救ってほしいからじゃん?」
- 637 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:22
-
「真希ちゃん、私会うよ。
ひとみちゃんに会いたい」
- 638 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:22
-
- 639 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:22
-
- 640 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:23
-
――どうして恋なんてするのかな?
そりゃー人間だからでしょ
人は誰でも愛されることを望むんだよ
それが一番幸せなことだって分かってるから
――希望だ
そうだねぇ、希望なんだろうねぇ
- 641 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:23
-
――――――――
- 642 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:23
-
「久しぶりに来たなぁ」
「だねぇ」
「変わってない」
近くの駅から二人でてくてく歩いて
何年かぶりに、よしこの実家にやってきた。
最後の住人を失ったこの家は、静かにひっそりと
でも、変わらずにそこにあった。
中へ入ると、すこし埃っぽい
窓からの光で、部屋の中がうっすらと見えた
よしこは染みだらけになったソファーの背に手をついて
何か考えているみたい
- 643 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:24
-
「ねぇ、よしこ」
「んー?」
「よしこと梨華ちゃんが離れた原因」
「…原因?」
「そ。原因。それさ、無くして帰ろ」
「…なんだそりゃ」
よしこはあたしが梨華ちゃんの話をするのを嫌がった。
話をしようとすると、少し嫌な顔をしてあからさまに話をそらす
二人が別れたあの日からそれは変わらない
- 644 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:24
-
「用ないなら帰ろう、ここあんまりいたくないし」
「よしこが梨華ちゃんを捨てたのは、自分が捨てられるからでしょ」
背を向けたよしこの足が止まる。
顔は見えないけど、多分怒ってる
「人に捨てられる前に、人を捨てる。防衛してんの、自分を」
「やめろ」
振り返って、あたしを壁際に追い込んで。
助けてって言ってる。昔のよしこと同じ目をしてる
「傷つくのが怖くて、自分ばっか守ってんだよ」
「やめろ!」
「相手の気持ちはどーでもいいんだ、自分だけ逃げたんだよ」
――ドン!!
よしこの右手があたしの顔の横の壁を強く叩く
- 645 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:25
-
でも、あたしはやめないよ
だってそんなの本当は望んでないでしょ
よしこは傷つくのも傷つけるのも嫌いなんだよね
でもさ、それは違う。
そんなの寂しいじゃん
あたしは目をそらさずによしこに一歩ずつ近づく
その度によしこは後ずさる
逃げないでよ、よしこ
- 646 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:25
-
よしこの後ろでダイニングテーブルが小さく音を立てた
今度はあたしが彼女を追い込んだ
「ここにあるよしこの過去の全部、気にしなくていいよ」
「……」
「よしこは悪くない」
「…知ってる」
「よしこは悪くない」
「知ってる」
「分かってないよ、よしこは何も悪くない」
後のテーブルに両手をついた彼女の体が小さく震えだす
「悪くない。何も悪くない」
「……。」
大きな瞳が揺らいで、そして涙がこぼれた
「やめてよ…お願いだから」
- 647 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:26
-
――抱きしめる
あたしには小さなよしこが見えるよ
一人ぼっちで、泣きながら自分を責めてる
9歳のあなたが見える
「よしこは悪くない。悪くないよ」
自分を責めることで、家族が出て行ったことを受け入れようとしたんだ
自分が悪かったから。だからなんだって。
でもね、あなたは悪くない
悲しみで自分をすり減らしちゃダメだよ
人生はあなたの為にあるんだから
「悪くない。よしこは悪くない」
「お願い…うちを―――許して」
- 648 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:26
-
- 649 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:26
-
- 650 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:27
- 「あの家さ、取り壊しの通告きてんだ」
「へぇー」
「保留にしてたんだけどさ、決心ついたよ。
あそこはもう必要ない」
「ふーん」
「なぁんで興味なさげなんだよ。まぁいいや」
――――――――――――――
さっきまであんなに激しく活動してたごっちんは
家を出た途端、やけに静かになっていた。
駅まで歩くこの道も、隣にいるこのおせっかいな親友も
今はただうちを優しくゆるく包んでくれているようだった。
- 651 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:27
-
「ねぇ、ごっちん」
「んー?」
「なんで恋なんてするんだろ」
苦しい。
うちにしてみれば恋なんて苦しむためにあるもんだって思う
時には相手を傷つけて、自分を傷つけて
痛い思いして、好きなものが嫌いになって。
こんなこと聞かれても困るだろうと思っていたけど
意外にも、親友はサクッと答えをくれた
- 652 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:28
-
「人間だからだよ。
人は誰でも愛されることを望むんだよ。
それが一番幸せなことだて分かってるから」
「よしこ、ここ痛い?」
向き合ったごっちんがうちの胸に当てた掌が、すごく暖かくて
やけに現実味をおびていた。
「痛いんだよ。傷つけても傷つけられても
どっちだって痛いんだよ。それでいいの。痛いもんなの。
大事なものを手に入れる為の痛みなら、いい。OKなの」
- 653 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:28
-
心がスーッと晴れ渡っていくようだった
目を閉じて、深呼吸して。
「行け、よしこ」
少し上からごっちんの顔を眺めていたら
澄んだ瞳がうちを捕まえた。
「けんかしたら仲直りすんの」
「え?」
「けんかと仲直りはセットなんだよ!
だからうちらは愛し合うんじゃないか」
- 654 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:29
-
―――でも
「希望もて、よしこ」
―――希望
「希望はいいものだよ。多分最高のもの
いいものは絶対に滅びない」
「ねぇ、ごっちん」
「んぁ?」
「ごっちんの座右の銘って何?」
「くじけない、負けない、止まらない、、、しょうがないはない」
- 655 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:29
-
―――走り出そう
強く、優しい親友の元から
ごっちん、あなたに出会えたことに感謝したいんだ。
ありがとう、君に対する感謝の気持ちを教えてくれて
ありがとう、幸せの意味を教えてくれて
ごっちん、あなたには一生、恩がある
あなたがいたから
だから、うちはうちでいられたんだ
逃げ回っていたうちを、奮い立たせてくれた
もう逃げないよ。
真っ直ぐに自分と立ち向かって、生きて行きたいって
今ならそう思えるよ。
弱い自分に勝てるなら、誰に負けたっていい
- 656 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:29
-
- 657 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/10(日) 22:30
-
- 658 名前:さんにーろく 投稿日:2009/05/10(日) 22:31
-
更新終了です。
一応次回で完結予定です。
- 659 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/11(月) 00:51
- 今度はよっすぃが頑張る番ですね。
いよいよ完結ですか楽しみにしています。
- 660 名前:さんにーろく 投稿日:2009/05/14(木) 18:51
- >>659
レスありがとうございます。
よっすぃに頑張ってもらいましょう!
では、最終更新です。
- 661 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:51
-
- 662 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:51
-
- 663 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:51
-
- 664 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:52
-
「あー、その部屋に住んでた人なら、引っ越されましたよ」
「なんか急に決まったらしくてねぇ・・・」
走って走って、石川さんに会いたくて。
ようやくたどり着いた彼女のアパートはもぬけの殻だった。
―――――
行くあてを失ったうちは、なぜだか無性にあのマンションに行きたくなった
二人で過ごしたあの部屋に。
- 665 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:52
-
- 666 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:53
-
―――ガチャ
へ?
開いてはいないだろうと思ったけど、ふいに手をかけた玄関のドア
なんで開いてんだ?
今住んでる人はいないはずなのに
「はぁ!?」
「あ、ひとみちゃん」
リビングに石川さん、発見
- 667 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:53
-
「な、何してんの?」
「引越し。はい、手伝って」
大量のダンボールの山から、差し出された箱
いやいや、なんだ?
半年振りに見る彼女は、なんだか元気だった
「いや・・・あの・・・ちょ、ちょっと話が」
「いーから!早くー、こっちに運んでー」
「あのー石川さん」
「夜までには終わらせないといけないの!」
「はぁ」
「ね?だから悪いけど急いでくれる?」
- 668 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:53
-
忘れてた。
この人はこういう人だった
「はぁい・・・」
―――――――
- 669 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:53
-
- 670 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:54
-
「片付いたねー」
「疲れた・・・」
なんだかんだで1時間近くかかってようやく片付いた。
「あの、石川さん?」
「ここね、やっぱり住みやすいし。
それになんか落ち着くのよこの部屋」
石川さんがテラスの窓をゆっくり開ける
風が穏やかに吹いて、前とは違う色のカーテンを揺らす。
- 671 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:54
-
ねぇ、石川さん
なんて言ったらいいのかわかんないよ
あんなに高ぶってた気持ちも伝えたかった言葉もあったのに
また、臆病な自分が邪魔してる
――――
「あの・・・」
「謝って」
「え?」
「謝って。私に嘘ついたこと」
そう言って石川さんは振り返る
読めない表情
あんなにわかりやすかった彼女が
半年しか経ってないのになんだかあのころとは違う人に見えた
「うそ・・・」
「嘘じゃないの?愛してないって、そう言ったの」
「あ、嘘、です」
よかったぁって小さく微笑む石川さん
- 672 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:54
-
―――うちはアホだ
何させてんだろう
好きな人に、何言わせてんだろう
何、無理させてんだ
「石川さん」
伝えよう
もう逃げずに、素直に
自分の気持ちは自分にしか分からない
だから、分かってもらおう。石川さんに。
- 673 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:55
-
「石川さんと一緒にいたい、です」
「好きなんです。すごく。あなたをもう失いたくない」
「・・・っ」
少し強引に彼女を引き寄せて抱きしめたまま、目を閉じた。
ゆっくりと背中に触れる彼女の腕にほっとして
彼女の香りを大きく吸い込む。
「うちを愛してくれる人がいないと思ってたんだ」
支えを無くして、自分もいなくなるような気がしてた
こんなに近くにいたのに
うちを愛してくれる人はたくさんいたのに
気づくのが遅すぎて、あなたをたくさん傷つけた
- 674 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:55
-
「ほんとだよ、傷ついた。死んじゃうかとおもった」
「ごめん。ごめんなさい」
「私も・・・私もひとみちゃんを傷つけた。だからおあいこなの」
幸せになればなるほど怖かった。
石川さんがいなくなることが
「あのねぇ!私そんな女に見える!?」
「あ、いや、そーゆんじゃなくて・・・」
石川さんに両肩を押されて、身体が離れた
それから、彼女の掌がうちをバシバシと叩き始めた。
- 675 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:56
-
「もっと私を縛ってよ!」
「いてっ・・・」
「逃げ出しそうなら力ずくで引き止めなさいよ!
もっと・・・もっと欲張ってよ」
「でも」
「でもじゃない!もっとわがままになりなさいよ、あんた私より年下なんだから!」
「でも!」
「何!?」
「・・・それは、あなたを苦しめる」
「それなら、それでいい。それでもいいから
苦しくてもいいから、私はあなたと一緒がいい」
- 676 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:56
-
泣きそうな顔して怒ってて、でも悲しそうで
うちを睨むように見上げて、でも優しく見つめてくれて
―――もういい
目の前にいるそんな彼女が、いつまでも隣にいてくれれば
もうそれでいいや
「んっ・・・」
彼女のほうから、ぶつかるようなキスがきて
それをうちが受け止めて
お互いに噛み付くようなキスを繰り返して
彼女のベットに倒れこんだ
- 677 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:56
-
- 678 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:57
-
―――
「あっ…あっ…ん…んんっ」
夢中だった
無我夢中でキスをくれるひとみちゃんに
必死で返そうと。
唇を合わせることが、こんなに気持ちのいいものだなんて
知らなかった
- 679 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:57
-
「あっ…あっ…ひと、みちゃん」
「いい?」
「んっ…いい…いいのぉ…大好き…っ」
「うちも、好きだよ」
「んんっ、梨華って・・・」
「ん?」
「梨華って、・・・んぁっ・・・呼ん、でっ」
なんだか名前を呼んでほしくて
覆いかぶさるひとみちゃんを引き寄せてキスをした
そんな不安そうな顔しないで
不安なんて必要ないよ、私はあなたを離さない
- 680 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:58
-
強く抱きしめられて、ひとみちゃんの指が更に深く入ってきた
「梨華っ」
「もっと・・・」
「梨華・・・梨華!」
「あぁっ…ひとみちゃっ・・・ああぁぁぁぁっっ…!」
―――――――
- 681 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:58
-
「ねぇ」
「んー?」
ベットでひとみちゃんの腕の中で彼女の鼓動を聞きながら
なんだかふわふわとした気持ちで目を閉じていた。
正直疲れたっていうのもあるんだけど
それだけじゃなくて。
お互いに触れ合う肌も、少し低い彼女の声も心地よくて
- 682 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:59
-
「stand by meって知ってる?」
「ビートルズの?」
「ジョン・レノンの」
「一緒じゃん」
違うよって小さく笑うひとみちゃん
一緒でしょ。結局同じ人じゃない
「違うって。まぁいーや」
「それが?」
「あれってさ、世界の終わりかなぁ」
「は?」
「もしそうならさぁ、悲しい唄だよね」
意味が分からなくて、彼女の胸から少し離れて
整った顔を見上げる
- 683 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 18:59
-
「ひとみちゃん、言ってる意味わかんない」
「梨華ちゃんが好きだってこと」
「ちょっと、適当にあしらったでしょ今」
急にそんなことを言われて、なんだか照れ隠しみたいに言い返したら
降ってきたのは予想以上に優しいキスだった
重なった唇を離したくなくて、身体を寄せたのに
彼女はあっさりと離れてしまった
「ぶぅー」
「ふはっ、拗ねない拗ねない」
「だってー」
もっと触れていたいのに
ひとみちゃんは私の頭を撫でるだけ
- 684 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 19:00
-
「そーいえばさぁ、なんで引越し急いでたの?」
「へ?」
「ん?」
――あ・・・
―――――――――――――
- 685 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 19:00
-
- 686 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 19:00
-
「一応覗きはしたけど、決していやらしいアレじゃないよ」
「とりあえず鍵空きっぱだし、確認だから」
「でもさ、呼んどいて二人ともお取り込み中とかひどいよねぇ」
「まぁとりあえずシャワーしてくれば?二人とも」
急いで服をきて、ひとみちゃんとリビングへ行くと
いつものメンバー勢ぞろい…
「どゆこと??」
隣では状況が把握できてないひとみちゃん
・・・ごめんね
今日ひとみちゃんと話し合いしたら、その報告にと思って
みんなを呼んでいた私。
でもまさかひとみちゃんとあんな展開になるなんておもってなくて・・・
- 687 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 19:01
-
「梨華ちゃぁん・・・」
「ごめんってばぁ」
だってみんなにはたくさん心配かけたし
ひとみちゃんとも会いたがってたから
「仲直りしたあとのHは激しぃーのねぇ、よしこ」
「ばっか!見てんじゃねぇ!」
「見たんじゃないもーん、ごとーは声だけでも分かります」
「この変態!」
「いちーは見たよ。ばっちりと」
「えー、市井ちゃんずるい」
顔を真っ赤にして真希ちゃんと市井さんとじゃれてるひとみちゃんを眺めてたら
美貴ちゃんと柴ちゃんがこっそりきて「よかったね」って
「うんっ」
- 688 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 19:01
-
ひとみちゃん
私、幸せだよ。
ここは私の居場所でもあったんだね
ずっと探してたの、ここを
- 689 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 19:01
-
「ちょっ!梨華ちゃんが泣いてますけど!」
「何!よしこ何したの!梨華ちゃん大丈夫?
こいつ変なことした?縛ったりとか叩いたりとか・・・ん?」
「しねぇよ!ん?じゃねぇあほ!」
「何したんだ吉澤」
「いや!何も!・・・何も?いや・・・何もしてなくもないけど」
- 690 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 19:02
-
ねぇ、ひとみちゃん
ここにいて。
ずっと怖がって避けてたこの場所に。
――幸せの真ん中に
あなたは誰の手も、決して離さない人だから
ここにいるのに、誰よりもふさわしい人だから
- 691 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 19:04
- 頭上に広がる空が 落ちてきて
山が海へと崩れても
泣かない 決して泣かない
一粒の涙も流さない 君がいる限り
そばにいてくれ 愛する人よ 寄り添っていてほしい
そばにいて
そばに
そばに
- 692 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 19:04
-
――――――END―――――――
- 693 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 19:05
-
- 694 名前:ルームシェアリング 投稿日:2009/05/14(木) 19:05
-
- 695 名前:さんにーろく 投稿日:2009/05/14(木) 19:07
- 完結です。
恐ろしいほど亀更新な小説に、付き合っていただいた方々には
本当に感謝しています。
どうもありがとうございました!
次回はまだ未定ですが、なにか書いていけたらと思います。
- 696 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/15(金) 01:16
- 完結お疲れ様です。
うっかりかちゃん最高!!
次回も楽しみにまったり待ってます。
ログ一覧へ
Converted by dat2html.pl v0.2