約束の橋
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/24(月) 22:22
- モーニング娘。の原風景。
そこにはある少女の心の葛藤の物語が…
----------------------------------------
『約束の橋』
- 2 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:24
- 表参道の銀杏並木がほんの少し黄色く色づき、歩道を行き交う人たちが
秋を感じる寂しい季節、私はずっとずっと昔の日記を開いた。
なぜそうしたのか、自分でも不思議に思う。
いつもよりちょっとだけ多く飲んだお酒が私のことを遠い昔に運んだの
かもしれなかった。
- 3 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:25
- 赤いカバーに守られたそれは、引き出しの奥に誰かに見られることを拒
むかのように眠っていた。あの頃使っていたシールの貼られた筆箱や端
の擦り切れた手帳も懐かしかったが、その下に隠れていた日記帳に私の
手は自然とのびていた。
普段ならその引き出しだって開けはしない。ずっと昔の自分が眠ったそ
の引き出しを開けさせたのは、あの人からの電話がきっかけだった。い
や、それはあの人のせいにしたい気持ちがどこかにあったのかもしれな
い。数年ぶりに聞くあの人のはずんだ声からは、あの頃のように天真爛
漫で屈託のない笑顔で話している様子が思い浮かんだ。そう、あの頃の
ように… 純粋に夢だけを追い続けられる彼女が私にはまぶしくて仕方
がなかった。
- 4 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:25
-
私は日記を毎日つけていたわけじゃない。ほんのわずかな眠りに入る直
前、閉じそうになる目をこすりながら書いた日記は、我ながらよくぞこ
こまでヘタクソに書いたと苦笑できるものだった。自分の字がお世辞に
もきれいとは言えないレベルとは分かっているものの、中学生の頃に書
いた自分の字は日記の上にミミズがのたくっているようにしか見えず、
おそらく私本人しか読めそうにない。それはそれで自分だけの秘密を守
っていけるからいいのだけど。
- 5 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:26
- 思えばこの日記を買うときにおこずかいをくれた祖父も数年前に他界し
た。私の話をちゃんと聞いてくれて、そしてよく理解してくれた祖父だ
った。私の帰りが遅い時や、学校帰りに出かける時など、いつも祖父が
クルマで送り迎えしてくれた。私がどうしようもない生活をしていたと
きも、祖父だけは私を優しい目で見てくれていたように思う。そんな酔
っぱらうと上機嫌で話す優しかった祖父ももういない。
たった一冊の日記に多くの思い出と忘れられない私の苦悩とが詰まって
いる。私が過ごした今では信じられないジェットコースタームービーの
ような2年間。その後半の1年の記録がそこには残っていた。
- 6 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:28
-
その日記は私が中学2年生になったときから始まっている。
私の中学2年の始まりは、それはそれは明るく未来の希望に満ち溢れた
新緑の季節だった…というわけではない。
神奈川県は鎌倉の近くのマンションで合宿した春休みが終わって、心身
ともに疲れきった中で迎えた4月だった。その合宿生活で私は周りと馴
染むことができず、いつも海ばかり見ていた。「仕事なんだから仲良く
しなくったっていいじゃん」というその頃の私の考え方は、少しだけ大
人になった今の自分から思えばただの強がりだった。孤独だったことの
寂しさを、そう言ってごまかしていただけなのかもしれない。
- 7 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:28
- それでも私は砂だらけの布団でみんなで川の字になって寝たことを今で
も忘れていないし、一つのストーブでみんなで温まり合ったことを今で
もはっきりと覚えている。でもあの頃の私には人をかまう余裕なんてま
ったくなかった。そうした人との関わりが面倒くさくて仕方なかったの
だと今となっては思う。
- 8 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:29
-
『4月6日(月)
今日から学校。2年生。クラス替えがないから特に変わらない。面倒な
連中も変わらずにそこにいた。目をつけられていた前の3年のバカども
がいなくなったことだけが救いだ』
『4月11日(土)
新しい曲「ナイトタウン」の歌入れが始まった。前よりも大人っぽい曲
だ。今回は最初からつんくさんが立ち会って、橋本さんとレコーディン
グ作業の手順確認をしていた。PVの撮影を沖縄でやるって和田さんから
聞かされた。今回は水着がないとのことで安心。カオリンが沖縄って聞
いて「夏だ」「サマーだ」って意味もなく叫んでた。最近あの人の言う
ことのわけのわからなさはすごい。おもろいからいいけどさ』
『4月19日(日)
レコーディングが終わった。今度は前より歌うところが増えているとい
いな。今週はオーディションが忙しいらしくて和田さんもアサヤンのカ
メラも来なかった。帰る時につんくさんがちょこっと話してくれたとこ
ろによると、なっちに雰囲気の似たイナカの人や(九州って言ってたか
な?)、髪にメッシュの入った人が入ってくるとか。つんくさんはレコ
ーディングスタジオにこもりっきりで、オーディションのことはいいの
かな?』
- 9 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:30
- 『4月21日(火)
ジャケット撮影。会社に集まったらいきなり今日新メンバーと対面する
って言われた。なっちがものすごくびびってた。事前に聞かされていた
通り本当に自分より小さな人がいてびっくりした。あの人あれで高校1
年かぁ。仲良くできるのかな… でも、年が近い人たちが増えたから少
し楽になるかも』
『4月28日(火)
沖縄に初めて来た。暑い。ホテルのロビーで保田さんと写真を撮った。
怖い人かと思っていたら、ものすごく気を使っている人らしい。移動の
途中で中澤さんが矢口さんを泣かしてしまった(あれは矢口さんの勘違
いだったけど…)。もう少し優しくしてあげてもいいと思うけどな…
矢口さんに「元気出して」って声かけたら喜んでくれた。』
『5月6日(水)
久しぶりに学校に行く。めずらしくヨリコが来てた。そのことをヨリコ
に言ったら「あんたに言われたくない」と言い返された。たしかに私も
2年になってから学校にあんまり行ってない。このままで大丈夫か、私』
- 10 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:31
-
この頃の私は、他の人たちと同じように新しいメンバーが入ってくるこ
とに抵抗は感じていた。私たちが必死になって5万枚のCDを手売りして
デビューの夢を掴み取ったのに、なんでいきなり何の試練もなく新しい
人たちが入ってくるの?って、憤りさえあった。
でも、それと同時に窮屈な人間関係が少し変わるかもしれないという期
待もどこかにあったんだと思う。裕ちゃんや彩っぺがこだわった「5人
で」ということに私はそんなにこだわっていなかった。ただ、そんな私
たちの気持ちがテレビに都合のいいように映されているのを見ると、複
雑な気持ちの毎日だった。学校に行って、そんな悩みなんて想像もつか
ない普通の友達の日常を見たりすると、自分のいる世界がどこかおかし
いんじゃないかと違和感を感じていたのだ。
- 11 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:32
-
『5月12日(火)
学校が終わってからレコーディング。レコーディングスタジオに行った
らみんながグロさんのことをなぐさめていた。私がいない間のレコーデ
ィングでうまくいかなかったらしい。グロさんは今日が誕生日だったの
でみんなで盛大に祝ってあげたら、少し元気になってくれた。グロさん、
ハタチの誕生日おめでとう』
『5月14日(木)
アルバム曲のレコーディング。朝から鼻の調子が悪い。レコーディング
で怒られるだろうなと思っていたらやっぱりだった。高音のところが出
なくて、自分でイヤになった。平家さんと久しぶりに会ったけど、やっ
ぱりあの人はガリガリだ。ごはん食べてるのかな?』
『5月16日(土)
イベントで鹿児島。桜島を初めて見た、けむりに感動。
カオリンと保田さんが泣きながら大ゲンカした。怖かった。「私たちだ
って一生懸命やってる」って泣いて叫んだ保田さんの言葉を思い出すと、
たった半年だけの先輩で下積み経験のない自分たちが大きな口は叩けな
いなって反省。でもホント怖かった。人の生の感情は怖い。市井さんと
部屋の隅でうずくまるようにしていた。自己嫌悪』
- 12 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:33
- 『5月17日(日)
イベントで広島。お昼に油麺を食べに行った。おいしくておかわり。
でも、かおりんは昨日のケンカがあったから食べに来なかった。雰囲気
は最悪のままだ。リーダーもグロさんも何もしない。もうちょっと年長
者らしいところみせてよ』
『5月19日(火)
うたばん収録。石橋さんと中居さんに初めて会った。二人とも声が大き
くてびっくりした。なんであんなイジワルな質問ばかりするんだろう。
和田さんは芸能界とはそういうところだって言うけど、私は好きになれ
そうにない』
『5月23日(土)
イベントで仙台と金沢に行った。なっちがみんなに杏仁豆腐を作ってき
たけど微妙な味だった。私はなっちみたいにみんなに何かを作っていく
ってことはないな…
おととい大阪に二人でキャンペーンに行ってからリーダーと保田さんの
仲がうまくいってないらしい。先週あれだけ保田さんとケンカしてたカ
オリンが、リーダーと保田さんの仲を取り持っていた。カオリンは自分
に関係がなければ客観的になれる人だ。私も人に少しは気をつかえる人
間になっていかなくちゃいけないと思う』
- 13 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:34
- 『5月24日(日)
今日は新潟でイベントをしてから東京に帰ってきた。昨日ホテルが一緒
の部屋だったサヤカに「アスカって呼んでもいい?」って聞かれたから
「いいよ」って答えた。私も今日からサヤカって呼ぶことにする。そう
呼び合ううちらをリーダーや矢口さんが奇妙な顔をして見てた』
『5月27日(水)
サマナイ発売日。仮歌のタイトルに「サマー」って付け足したのはあの
ときカオリンが叫んでいたからだって。カオリンは喜んでたけど、それ
でいいのか?つんくさん。
今回もおじいちゃんたちがいっぱい買ってくれて申し訳ないと思う。早
く一人前のアーティストにならなくちゃ。昼休みに学校でもサマナイを
かけてくれたけど、また3年にからまれたらどうしよう。でもなんだっ
てあいつらに髪を注意されなきゃいけないんだろ。教師でもないくせに』
『5月29日(金)
Mステの本番前に矢口さんが自己紹介で悩んでたから「気合い入ってま
す」でいいじゃんって言ったら、そのまんま本番で言っちゃった。でも
矢口さんが喜んでたからまあいいか。リーダーが本番の後で和田さんに
呼ばれて一人だけどこかに連れていかれた。ASAYANのカメラが回ってい
た。嫌な予感』
- 14 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:34
- 『5月30日(土)
リーダーの顔が暗い。グロさんやなっちが昨日のことを聞いてたけど
「個人的なことやから」って言わなかった。イベント先の宇都宮で餃子
を食べた。でも蒲田で食べた方がおいしいかな』
『5月31日(日)
昨日はホテルで一緒の部屋だったサヤカに誘われて、保田さんと矢口さ
んの部屋でずっと話した。保田さんは小さい頃から母親に演歌を教え込
まれてきたらしい。歌が上手いのもうなずける。矢口さんとは好きなド
ラマが一緒で、その話で盛り上がった。今度『未成年』のビデオをホテ
ルで見ようということになった』
- 15 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:35
-
あの3人が入ってきたときに漠然と感じていた「何か変わるかもしれな
い」という予感は、私の中では当たっていた。裕ちゃんや彩っぺには悪
かったなって思うけど、あの3人が入ってきたおかげで私は精神的にす
ごく楽になっていた。それまで5人だけの関係だったものが8人になった
ことで、一人一人の密度が薄くなったのだ。何もかも一緒に行動しなけ
ればならない毎日の中、「自分」というものを侵されたくなかった私は、
5人だけの空間がつらかったんだと思う。私よりもずっと大人だった裕
ちゃんや彩っぺに私の考えが見透かされているんじゃないかという、私
が子供だったが故の悩みもあった。それが年齢の近い紗耶香や矢口が入
ってきたことで、ぐっと自分が楽になったのだ。
それに、もしかするとあの3人に他のメンバーたちやファンからの負の
感情が向いたおかげで、どこか自分がプレッシャーから解放されていた
のかもしれない。そんないやらしい感情を当時は抱いていたのかもしれ
なかった。
- 16 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:36
- 紗耶香とは意外とすぐに打ち解けられた。唯一の中学生仲間だったし、
学校のことを話せるのは紗耶香しかいなかった。紗耶香はもう高校に行
くことを諦めていたみたいだけど、あの頃の私は迷っていた。なっちや
カオリが北海道の高校を辞めて、東京の高校に新たに入り直したのがあ
の年の4月。でも入学早々、高校生らしい生活なんて到底不可能な状況
に追い込まれ、二人に諦めが見えかけている頃だった。それに圭ちゃん
は、その前の年の9月に歌手になることを諦めきれなくて通っていた高
校を辞め、そしてオーディションを受けモーニング娘。に入ってきた。
そんなみんなの状況や覚悟を知ると、自分のしていることがいかにも中
途半端であるように思えていたのだ。
矢口は入ってきた頃、いつも裕ちゃんと彩っぺにおびえてた。おびえ過
ぎてたせいで怒られたと勘違いして泣いてしまうこともあったけど、新
メンバー3人だけになるととても明るかった。私がホテルの部屋にお邪
魔した時に、自分から色んなことを喋ってカラカラと笑っている姿を見
て、実は幼い人じゃなくてその状況でその場をうまくおさめようとして
いるとても大人な人なのだと分かった。そして本質はとても陽気な人な
のだということも。
- 17 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:37
-
『6月1日(月)
学校で来月初めにおこなわれる第1回定期考査の説明があった。1年のと
きはなんとか成績はもっていたけど、2年になってあまり学校に行けな
くなってきたからかなりマズい。「芸能活動してるからバカになった」
とは言われたくないな… もう少し学校に来れないかって言われたけど、
これでも無理して行ってる方なんだよ、センセィ』
『6月6日(土)
リーダーがずっと暗い顔をしていた理由が今日わかった。アサヤンのカ
メラが回っているところで、リーダーが演歌をやると聞かされた。私は
リーダーがやめさせられたり、モーニング娘。が解散させられるのかも
しれないと思っていたから少しほっとした。リーダーには誕生日に合わ
せて着物がおくられるって話で、それは良いことだなって思う。リーダ
ーはきっと大人だからこんなに色んなことをやることになったのかもし
れない。私はまだまだ子供でレコーディングに体調も整えられないから
怒られてばっかりなんだと思う』
- 18 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:38
- 『6月7日(日)
レコーディング。もうすぐファーストアルバムのレコーディングも終わ
る。けっきょくずっと高音部に苦労し続けた。毎日和田さんや橋本さん
の視線が怖かった。最後くらいいい形で終わりたい』
『6月10日(水)
アルバムの最後に入るという曲をレコーディングした。歌っていて不覚
にも涙してしまった。私たちのために書かれた曲だとはっきりとわかる
この曲を大切にしていきたい。泣いてしまったのはまずかったけど、歌
は満足のいく出来だったと思う。つんくさんに「泣いちゃまずいですか?
」って言ったら「歌さえ良ければ」ってイマイチはっきりしない答えを
返された。もっとすっぱり言ってくれてもいいのに。つんくさんが作っ
た曲で泣いたんだから』
『6月13日(土)
ダンスレッスン。夏先生が来てた。
学校は今日、矢中祭だった。団体行事は苦手だから今日はダンスレッス
ンで良かった。しかも3年と一緒の行事なんて出たくない』
- 19 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:39
- 『6月14日(日)
アルバム曲でダンスレッスン。なかなか上達しない。なんでずっとモダ
ンバレエやっていたのに私はダメなんだろう。どんどんみんなに追いつ
かれて追い越されている気がする。みんなどんどん痩せていくし、この
ままじゃヤバい。でも、眠くて仕方がないし… 明日学校行きたくない
な』
『6月19日(金)
リーダーの誕生日。サヤカとまりっぺと圭ちゃんが共同でマニキュアを
買ってプレゼントしたら、リーダーが泣いて喜んでいた。3人とリーダ
ーの仲が少しでも良くなるのはうれしい。私はお金がないから去年の自
分の誕生日にもらったみたいに手紙を書いて渡した。』
『6月20日(土)
映画の撮影が始まった。自分の演技のダメっぷりが怖い。春のときより
少しはましになっているんだろうけど、モーニング刑事。ヤバすぎるよ。
しかもまた水着なんて最悪』
『6月27日(土)
高速道路に乗って遠くまで行って那須ってところで映画の撮影をしてい
る。今日は雑誌の撮影も入ってた。待ち時間がめちゃ長かったから定期
考査の勉強をした。まりっぺがちょっと教えてくれたけど、知らない間
に二人とも寝てた。ダメだこりゃ。』
- 20 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:40
- 『6月28日(日)
昨日からほとんど徹夜の撮影で眠い。起きてらんない』
『6月30日(火)
朝から表参道で映画の撮影をした。天気よくて暑かった。通りをみんな
で一斉に駆け抜けると、まわりの人たちが驚いて振り返って面白かった。
ようやくこれで撮影が終わる。
あーもう明日からのテストどうしよ』
『7月1日(水)
定期考査1日目。ダメに決まってる』
『7月2日(木)
定期考査2日目。昨日の夜やった数学だけはなんとかなった。まりっぺ
にちょっとでも教わっといてよかった』
- 21 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:40
-
6月に入ってようやくアルバムのレコーディングが終わった。あのアル
バムのレコーディングのときに限らず、私は歌入れの時に体調を崩して
いることが多かった。デビュー候補曲3曲のときも『A MEMORY OF
SUMMER '98』のときも大抵鼻炎を起こしていて、体調管理を和田さんに
よく叱られたものだ。特に『未来の扉』という曲の伸ばす部分が全然出
なくなってしまって、その日はつんくさんにも叱られた。その後コンサ
ートでこの曲をやるようになった時に「なんでレコーディングのときに
これが出来ないんや?」って嫌味っぽく言われたこともある。あのアル
バムのレコーディングは私にとっては今でも体調管理の良い教訓となっ
ている。
学校の方はもうどうにもならなかった。矢中祭という体育祭にも出れな
かったし、年4回ある定期考査の準備なんて到底無理な状態だった。映
画『モーニング刑事。』の撮影は本当に時間が足りなくて徹夜続きの撮
影で、その合間に勉強するなんて不可能。矢口が教えてくれたりもした
けど集中力がないから身についていかなかった。
- 22 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/24(月) 22:41
- でも映画の撮影の待ち時間はあの当時の私たちにとって、とても良い時
間となった。時間があるから元からいたメンバーと新メンバーとが話す
機会が増えたのだ。裕ちゃんが圭ちゃんから本を借りて読んでいるのを
見たときは、みんながびっくりしたものだった。私自身も元からいたメ
ンバーたちと今までよりも壁をなくして話していけたんじゃないかと思
う。モーニング娘。のことだけに関して言えば精神的には4月頃よりず
っと楽になっていた。
しかしまだこのときの私は自分が出口のない迷路の入口に立っているこ
とに気付いていない。この映画撮影から始まる1998年の過酷な夏は私の
心をどんどん蝕んでいくのだった。いや、このときの過酷な夏は私だけ
でなく他のメンバーたちの心にも余裕をなくしていったのだ。
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/24(月) 22:55
- 退屈。
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/24(月) 23:24
- いくらなんでも非常識
自分は味があっていいと思います
これからの展開に期待
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 16:55
- 面白いです
続きに期待してます
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 22:13
- 解説的なものを入れるのはやめようと思っていたので、あえて名無しで
紹介も入れずに始めたのですが、やはりそれじゃ角が立つようで…
福田さんってのは冷静で淡々としてて、あんまり感情を露わにしない人
だったから、日記も回想もそうしていかないとリアルさがありません。
彼女は感情の起伏が内にこもるタイプだったので。
しかもあの人は常に自分を「アイドルじゃない」って考えている人で、
アイドルをやっている自分を嫌っている節がありましたから、自己否定
や自己反省の気持ちがない方に理解してもらうことは難しいのかもしれ
ませんね。
>>24-25
ありがとうございます。
続きをやるかどうか迷ったので、レスに助けられました。
- 27 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/26(水) 22:14
- 『7月4日(土)
コンサートの全体レッスン。ただのダンスレッスンと違って、ステージ
に出てくるタイミング、立ち位置、はける方向、MCの順番、お客さんを
煽るセリフ、…覚えることが多くてまいる。それに、曲ごとにフォーメ
ーションを変えるのがこんなに大変だと思ってなかった。立ち位置を変
えようとするとみんなあちこちでぶつかり合ってしまってうまくいかな
かい。1曲ごとに全部その都度その都度相談して決めていった。こんな
んで間に合うんだろうか』
『7月5日(日)
夏先生に集中が足りないと怒られた。たしかに聞いていなかったり、同
じ間違いを繰り返したり、全体に緊張感がなかった。一人の集中力の不
足がみんなに迷惑をかけることが分かって気が引き締まった。ひたすら
通しの練習で、個々の練習は各自してこいって言われたけど、家に帰っ
てくるのが12時すぎなのに、その後やるのは正直きついな』
- 28 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/26(水) 22:15
- 『7月7日(火)
七夕。今日もずっとダンスレッスン。
夏先生が正式に結成される前のTRFのメンバーだったと聞かされた。び
っくり。小室プロデュースに憧れてオーディションを受けていたメンバ
ーも多かったからみんな興味津々だった。私はもう小室プロデュースは
いいや…』
『7月8日(水)
昨日の帰りにサヤカたちが泊まっているホテルに寄った。サヤカたちは
ここのところずっとホテル暮らしだ。まりっぺと圭ちゃんも入れて4人
で振り付けの確認。おじいちゃんがホテルまで迎えに来てくれた。今朝
起きたら、お母さんがそのことや定期考査のことを聞いてくる。たまら
なくイヤで無視して家を出た。帰ってきても口をきいていない。あぁイ
ヤだイヤだ』
『7月11日(土)
いよいよ明日は初めてのコンサートだ。
きっとうまくいくさ。いくよ。いくよね?
今日までの練習の成果を出さなきゃ。また夏先生に「練習の方が良かっ
た」って言われたら夏先生に顔向けできない』
- 29 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/26(水) 22:16
-
この時のコンサートのレッスンは今思い出してもおかしいくらい尋常な
レッスンじゃなかった。毎日のように9時間以上ダンスレッスンをして、
その合間にボイトレもして、さらにその合間にコンサートの台本を覚え
ていた。学校に行ってもふらふらで授業中も起きていられずいつもウト
ウト。そんな私を見て、「そんなんだったら学校来るなよ」ってクラス
メイトの陰口が聞こえてきたこともある… あの時はホントきつかった
な。
とにかくあの時は初めてのことばっかりで、何回も通し稽古をしなきゃ
ならないのが大変だった。衣装替え一つとっても、着替えるのにかかる
時間、楽屋での衣裳の配置、ステージに再び出ていく順番など、決めな
きゃならないことがありすぎて、その都度その都度スタッフたちと相談
しながら決めていった。ダンスにしても、煽りを入れるタイミングや、
ステージの幅をフルに使った横並びのフォーメーションなんかは今まで
やったことがなかったので、その位置感覚がみんな取れなくて苦労した
っけ。
あの時のスタッフは夏先生だけがああいうダンスを交えた多人数のステ
ージ運営の経験があっただけで、うちの事務所の人たちはあんまり頼り
にならなかった。和田さんがスタッフを怒鳴りつけている場面を何度目
撃したことか。毎日毎日状況が変わり、覚えても次の日にはすぐに変更
が加えられ、私たちもそれに翻弄された。分からないことをスタッフに
聞いても「今決めてるとこ」とか「まだ決まってない」とか曖昧な返事
ばかりで、けっきょく私たちは自分で答えを見つけていくしかなかった
のだ。
- 30 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/26(水) 22:17
- 夏先生には去年のオーディションの時に悔しい思いをさせてしまったか
ら、私を含め去年からいた5人とみっちゃんに失敗は許されなかった。
オーディション時のダンスの課題発表で、夏先生は「今日は頑張ったけ
ど、練習の時の方が良かった。これからプロとしてやるならそれは許さ
れない」って泣いて怒ってくれた。あの時、私たちの苦労も背負ってい
たものも全部分かった上で、それでもこれからのことを考えて泣いて怒
ってくれた夏先生の気持ちは私たちも痛いほど分かっていた。だから今
回は絶対に「練習の方が良かった」結果にしてはならないってみんなが
思っていた。
この時のコンサートレッスンは本当に大変だったけど、みんな絶対にコ
ンサートを成功させてやるって目標があった。そして、その目標に向か
い達成したときに、成功は私に新しい発見をもたらすことになる。でも
レッスンの時は無我夢中で毎日があっという間に過ぎてしまい、それに
気付けなかった私。メンバーはみんな同じ課題をこなしていたし、ここ
で自分だけ負けちゃいられないって、必死になってた… それにみっち
ゃんとも一緒だったから、私たちが失敗したらみっちゃんにも迷惑がか
かっちゃうって、それはみんな気にしてたっけ。
- 31 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/26(水) 22:18
-
『7月13日(月)
昨日のコンサート、なんとか無事に終わった。「さみしい日」は泣いて
しまったけど、今できる精一杯のことはやれたと思う。
みんなそれぞれにマイクのカラーが割り当てられた。私は緑色で、ずっ
とこの先この色を使っていくって。でもリーダーは紫に変えてくれって
言ってた(笑)。
終わった後の打ち上げにはみんなの家族が来場。時々会って顔は知って
いるけど、きちんと話すのは初めてだ。なっちに妹がいて、同い年なん
だよって紹介されたけど、なんかうちの学校にいる子たちとは違う。で
も芸能界目指してるんだって。私だったら身内が芸能界にいたら絶対目
指そうとは思わないのに…
リーダーは打ち上げを途中で切り上げて演歌活動のキャンペーンに向か
った。一人だけ大変だなぁって思う。リーダーは家族も来てなくて、ホ
ント一人の大人の女性として生きている。きっとこれまで社会に一人で
生きてきたから強いのかな。リーダーの着物姿はきれいだったよ。ハプ
ニングにも平然と歌いきった姿もカッコよかった。』
『7月16日(木)
学校に行ったら今日は多摩川清掃の日だった。多摩川に来るのもホント
久しぶり。去年まではよく来てたけど、すっかり来れなくなってしまっ
た。グランド脇のベンチに座って川をぼーっと見てたら、吉岡ちゃんが
後ろに座ってきて「夏だねー」って。で、「あんたもう少し学校来なよ。
あたしが暇でしょうがないじゃん」って私の背中にあおむけになってよ
っかかってくる。「まあねー」って答えたけど、それがいつのことにな
るのやらって感じ。また吉岡ちゃんと家出でもしちゃおうかな…』
- 32 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/26(水) 22:20
- 『7月17日(金)
グロさんが急激にやつれた。ほとんど寝れてないし食事もろくにとって
ないっていう。でも誰も何も言えなかった。リーダーもグロさんも忙し
くていつもピリピリしてる。サヤカたち3人は嵐が通り過ぎるのを待っ
てるって言ってた。和田さんもメンバーたちの個人的な関係には首をつ
っこまないと決めているみたいで、「女が8人も集まって仲良くできる
わけないだろ」ってことらしい』
『7月20日(月)
今、名古屋のホテルでこれを書いている。夜に食べにつれていってもら
ったひつまぶしがおいしかった。なっちも頼んだけどうなぎがやっぱり
ダメだって言って天ぷらを食べてた。あんなにおいしいのに。
最近サヤカがカメラにこりだしていて、ホテルの部屋でもしょっちゅう
撮ってて困る。でもそれがサヤカなりのみんなとのコミュニケーション
の手段らしい。私はみんなとの写真を撮ってこなかったら、今度ちょっ
とだけもらおうかな』
『7月23日(木)
冬や春と違って鼻の調子がメチャいい。今日のボイトレもけっこう順調
にこなせた。これなら次のレコーディングはうまく出来そう。
なっちとカオリンが今日もケンカしてた。あんなに仲の良かった二人が
ちょっとしたことで言い合いしてる。リーダーは演歌のキャンペーンに
行ってて最近いないことが多いし、グロさんは体調悪いしで、抑える人
がいないから二人の言い合いはエスカレートする一方だ』
『7月25日(土)
レコーディングスタジオでなっちが屋上に花火を見に行こうって誘って
きたので、サヤカとまりっぺにも声をかけて見に行った。遠くの方に、
しかもビルのかげに隠れてちょっと見えただけだった。なっちが残念そ
うにしてた。なっちの地元じゃちょうどこの時期にお祭りがあるんだっ
て。うちの近くの土手に行けば花火大会が見れるよって言ったら、じゃ
あ今度そこに集まろうって話になった』
- 33 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/26(水) 22:21
-
寝る間も惜しんで練習して迎えた初めてのコンサート。今見れば恥ずか
しくて仕方ないけど、あれでも当時の私たちが出来る精一杯のものは残
せた。終わった後の打ち上げの時のみんなの表情は生き生きとして満足
感に満ちていた。夏先生も「よくやった」って…多くを語る人じゃない
からそれだけで十分だった。
それでもミスはあった。周りのスタッフさんたちも初めてで、裕ちゃん
の「カラスの女房」の途中でオケが止まってしまうというハプニングが
起こったのだ。裕ちゃんはオケが止まってしまっても動ぜず、平然と最
後まで歌いきった。戻ってきてから聞いて見れば、もう平然どころでは
なかったっていう。手足がガクガク震えて止まらない裕ちゃん。でも、
それを感じさせずにステージで歌った裕ちゃんはカッコ良かったな。あ
れで私は裕ちゃんは演歌も頑張った方がいいんだなって感じて、裕ちゃ
んがソロの歌手として成長していけることをうらやましくも思っていた。
裕ちゃんはずっと演歌イヤだったみたいだけど。
- 34 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/26(水) 22:22
- 練習の時に気付かなかった一つの発見。それは、このコンサートがあっ
たおかげでモーニング娘。が一つのチームとして何かを作り上げている
んだなって実感できたこと。それまでは自分のことばかりで、自分はこ
うありたいって考えてばかりだったけど、初めて全体を見渡せて、部分
部分の寄せ集めじゃいいものは出来ないんだってことが分かったのだ。
協調性というものが皆無だった当時の私には、あの体験は目から鱗が出
る思いだった。
あの頃のコンサートは他人から見れば「お遊戯」みたいだったのかもし
れない。けど、あれはあれで良かったんだと思う。「ダサかっこいい」
のがモーニング娘。なんだって、みんな気持ちを振り切ることができて
いたから達成感はあった。ダサくても8人で一生懸命やるのがモーニン
グ娘。なんだって、みんなあの時からちょっとずつ意識が変わっていっ
たな。「5人」にこだわっていたモーニング娘。はすでに過去のものに
なっていたんだと思う。
- 35 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/26(水) 22:23
- そうそう、私の緑のマイクカラーもこの時に決まった。誰がどのマイク
を持つかを固定するために、それぞれカラーテープを貼って識別できる
ようにしたのだ。カラーテープなしのマイクはみっちゃん専用で、みっ
ちゃんのソロ歌手としてのささやかな自慢だった。
…私が辞めてから何年かして楽屋を訪ねた時になっちがわざわざステー
ジ裏からマイクを2本持ってきたことがある。1本は赤のテープが巻いて
あり、すぐになっちのものだと分かった。もう1本には緑のテープが巻
いてあって、不思議そうになっちの顔を見たら、今は辻さんが使ってい
るのだという。紗耶香の水色や彩っぺのピンクも、それぞれ吉澤さんと
石川さんに受け継がれているって話だった。裕ちゃんの紫だけは今でも
空きにしてあるってなっちが笑って話したっけ。
- 36 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/26(水) 22:24
- その話をした際、なっちは突然話を切って私に緑のマイクをまっすぐに
突き付け「歌ってみる?」って問いかけてきた。その時のなっちの真剣
な視線に堪えられず私は目を逸らして笑ってごまかした。「何言ってん
の」って… あの時「うん」って言ってマイクを握ったら、その後のな
っちと私の人生は変わっていたのかもしれない。
今から思えばあの時の自分の弱さが情けなくて仕方がない。なんでなっ
ちがわざわざマイクを持ってきたかを考えれば、笑ってごまかした私の
態度は最悪だった。あのときのなっちの私に向けた真剣な眼差しは今で
も脳裏に焼きついていて離れることはない… そして、私が笑ってごま
かした後の寂しそうな微笑みも…
- 37 名前:オリメンファン 投稿日:2007/12/26(水) 23:19
- タイトルが泣かせます。
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/27(木) 22:41
- 黒歴史をなぞるのもまた一興か。
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/28(金) 22:59
- レスどうもです。
>37
タイトル分かってくれてうれしい。(たぶん昔レスをくれた人かな…)
>38
黒歴史ていうか、黒にしたくないんですよね(笑)
- 40 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/28(金) 23:01
-
話を日記の1998年の夏に戻す。
あの年の夏は本当に大変だった。裕ちゃんは演歌活動が忙しくなるにつ
れてどんどん余裕がなくなっていったし、彩っぺは連日の9時間を超え
るダンスレッスンをしている中でろくに寝ない、食べないって生活をし
ていたからみるみるうちに痩せていった。額に血管が浮き出たり、髪に
ツヤがなくなってきたのを見てメンバーたちが心配したけど、彩っぺは
みんなのほうが痩せてるからって聞く耳持たなかった。彩っぺは一人暮
らしを始めたばっかりだったから、家で心配する人もいなくて、どんど
ん自分で自分を追い込んでいたように思う。
なっちとカオリは彩っぺと時期を同じくして二人暮らしの生活に入って
いた。最初は仲良く暮らしていた二人も、次第にちょっとしたことで気
持ちがすれ違うようになり、この頃になるとしょっちゅう二人が言い合
っている姿を見ることができた。それはゴミを捨てないだとか皿を洗わ
ないだとか生活のちょっとしたことだったけど、実家に住んでいた私か
らすればそれは全部親がやってくれていたわけで、何もしてない自分を
恥ずかしく思ったこともある。でも二人にはそれが重要なことだった。
毎日毎日朝から夜までレッスンして、帰るのも一緒、帰ってからも一緒、
出るのも一緒、二人とも自分の時間が欲しくてたまらなかったんだと思
う。
- 41 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/28(金) 23:02
-
『8月1日(土)
9月に出る新曲のレコーディング。スタジオではグロさんがふらついて
いてみんなに心配されていた。ブースに入ると声が出なくてつんくさん
にメチャクチャ怒られていた。でも泣かないでじっとくちびるを噛んで
堪えていたグロさんの姿が印象的だった。
レコーディングは自分はけっこう好調にきてる。今までで一番いいかも
しんない。』
『8月2日(日)
今日もレコーディング。夕食後につんくさんにここまでの暫定的なトラ
ックを聞かせてもらうと私となっちが交互に歌うような感じになってた。
自分のパートが多いことは素直にうれしい。かなりカッコいい曲にもな
ってた。
でも、その後にカオリンがブースに入ることになっていたんだけど、カ
オリンは「なんでなの」(もっとはっきり言ってたけど書きたくない)
って叫んでスタジオを飛び出していってしまった。圭ちゃんが追いかけ
ようとしたけど、つんくさんや和田さんが「放っておけ」「時間がない」
って押しとどめた。レコーディングスタジオ全体がイヤな空気。
なっちに「なっちは悪くないんだから堂々としてなよ」って言ったら
「明日香は平気なの?」って。私は今回は自分でよく歌えたと思ってい
たからカオリンが何を言っても気にならなかったし、良い歌を残すため
に集まっているんだから、それを第一に考える。それをなっちに言った
ら「そこまで強くなれない」って。あたしだってそんなに強いわけじゃ
ないよ、なっち。でも、私たちがなんのために毎日つらい思いをして一
生懸命やってるのか、その目的を失っちゃいけないと思うんだ…
カオリンは1時間くらいして戻ってきた。泣いたあとがくっきりと残っ
ていた。誰も声かけてあげられなくて、静かなスタジオの空気がつらか
った。明日の夜からハワイに行くってのにこんなんで大丈夫かいな、モ
ーニング娘。』
- 42 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/28(金) 23:03
- 『8月4日(火)
ハワイではまだ3日らしいけど、よくわかんないから4日。
飛行機は長くて疲れた。今回はリーダーの横じゃなかったから寝れたぞ。
カオリンはハワイへ行くっていう開放感もあって、少し元気になってた。
みんな昨日(おととい?)のことにふれないで会話できるのはさすがだ
なって思う。特に圭ちゃん、ナイスフォロー。
着いてから雑誌用の撮影。明日はまた水着の撮影だ。もうホントいや。
なんで歌手なのに水着着なくちゃいけないんだか。誰もフクダアスカの
水着なんて見たくないよ』
『8月6日(金)
ハワイじゃ5日。過去の自分へ、10年後の自分へってVTRを撮った。なん
かどっちもうまく話せなかったな… 今の自分は1年前と変わってしま
って、今いる自分と1年前の自分のどちらが本当の自分なのか分からな
いから10年後の自分がどうなっているかなんてわからなかった。1年前
の私だったら素直に「10年後も歌を歌っています」って言えたと思うん
だけどな…』
『8月7日(金)
ハワイじゃ6日。海のそばの公園で集合写真を撮ったり、夕陽をバック
に撮影したりした。夕ごはんのときになっちとカオリンの誕生日ケーキ
が出てきた。ちょっと早めだったけどみんなでお祝いしてあげて、二人
の間にあったわだかまりも少し溶けたみたいだった』
- 43 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/28(金) 23:04
- 『8月8日(土)
ハワイじゃ7日。リーダーが演歌のキャンペーンのために一日早く帰っ
た。
夜、サヤカと一緒にまりっぺとなっちの部屋に遊びにいった。今回のハ
ワイのホテルからなっちとまりっぺが同じ部屋になって、カオリンと圭
ちゃんが同じ部屋になった。なっちとこうして夜ホテルで話すのは久し
ぶりかも。
明日はいよいよオフ! でもハワイですることないなー』
『8月10日(月)
今日から新曲のダンスレッスン。
今日はなっちの誕生日で赤い目覚まし時計をプレゼントした。
ダンスはあまりうまくいってない』
- 44 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/28(金) 23:05
- 『8月11日(火)
ダンスレッスンを撮ったビデオを見た。自分のとこだけおばさんがいる
ように見えてホントにイヤだ。こんな自分が真ん中にいていいんだろう
か。歌の雰囲気を自分が壊してるような気がする…』
『8月12日(水)
なんで自分がアイドルとして歌っているんだろう。アイドルなんてガラ
じゃないのに。みんなどんどんカワイクなって、衣装も華やかになって
いく。私がやりたかったことはこんなことだった? ダンスや自分の容
姿で毎日悩んでる自分が本当にイヤだ。歌うことってもっと楽しかった
んじゃなかったっけ? 新曲はいいデキだって自分でも思ってたんじゃ
なかったっけ?
そんなことを考えてたら帰りのタクシーで涙が出てきた。ハァ…』
- 45 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/28(金) 23:05
- 『8月13日(木)
アサヤンで歌収録。初めて人前で新曲を歌った。サマナイよりも8人で
あることの必要性がぐっと増していると思う。でもこんな自分が先頭に
立って歌ってて本当に大丈夫なんだろか? 私たちは常に解散の危険に
さらされているから怖くて仕方がない…
和田さんがナイナイの二人に坊主頭にされた。リーダーの演歌のオリコ
ンの順位で約束してたんだって。現実をよく見ろって普段はよく怒る和
田さんだけど、こういうところは熱い人だ』
『8月15日(土)
昨日から今朝にかけて「抱いて〜」のPV撮影をした。船に乗ってレイン
ボーブリッジを下から見上げて、メチャきれいだった。ラップの部分は
自分でもイケてるんじゃないかなって思う』
- 46 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/28(金) 23:05
-
新曲『抱いてHOLD ON ME!』のレコーディングは自分でも上手くできた
と思ったし、つんくさんも「これなら俺のやりたかったことができる」
って喜んでくれていた。本当ならそれで満足すればよかったんだと思う。
でもその先、私の心の中にどうしようもない矛盾が生まれていってしま
う。
アイドルを演じなければならない私、アイドルを演じたくない私。
うまく踊りたい私、うまく踊れない私。
そして、もっと歌に真剣でありたい私、歌に集中できていない私。
そんなことを抱え込んでしまって解決できないあの頃の自分…
今から思えばそれらは相反するものじゃないんだからと割り切って、自
己解決できるものだったのかもしれない。実際に、和田さんにはあまり
考えすぎるなってアドバイスを受けていたこともある。でも、あの頃の
私がそれを理解することは難しかった。私には社会に生きるための経験
が圧倒的に不足していたから、自分の理想や信念を現実の社会にリンク
させていく術を知らなかったんだ。
- 47 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/28(金) 23:06
-
『8月18日(火)
室蘭でイベント。なっちの地元だ。なっちの家族や友達もいっぱい来て
た。カオリンが実は室蘭生まれだったことをあかした。同じ病院で生ま
れたってことは、あの二人は生まれた時に顔を合しているんだ。ものす
ごい縁。
完成した映画を私たちも見せてもらったけど、なんか泣きたくなった。
泣きを通り越して笑いにすらなった。ああいうことをしていかないと歌
わせてもらえないのかな…』
『8月20日(木)
盛岡のホテル。さっきまでサヤカと圭ちゃんと話してた。
マジメな話になって、ちょっとこの先どうしようか悩んでるって言った
ら、今辞めるのはもったいないって二人に言われた。圭ちゃんに「アス
カはぜいたくだよ」って。でもさ…このままでモーニング娘。いいの?』
- 48 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/28(金) 23:07
- 『8月21日(金)
仙台のイベントの後ようやく家に帰ってきた。疲れきってたから「ゆー
シティー蒲田」に行ってジャグジーのお風呂に入ってきた。お風呂に入
ってたらイヤなこともちょっとの間忘れられた。
あー、目の前にある夏休みの課題どうしよ。明日のオフの後もう休みな
いのに』
『8月24日(月)
イベントで福岡。楽屋で腕相撲大会やって盛り上がっていた。カオリン
が優勝してあまりにもはしゃぐので、この一番に意味なんかないよって、
みんな楽しかったんだからそれでいいじゃんってなだめた。なんか、カ
オリンはスタジオを飛び出した騒ぎの時からものすごくメンバーの中で
の一番とか優先順位にこだわるようになった。前からそういうところは
あって前向きな人なんだなあって思っていたけど、ちょっと最近のカオ
リンは苦手だ。競争してても相手をリスペクトする気持ちがなきゃいか
んよね』
- 49 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/28(金) 23:07
- 『8月26日(水)
グロさんと朝に福岡を出発して札幌のイベントに行った。グロさんとこ
んなに長い時間二人きりになったのは初めてだ。リーダーと二人っきり
で大阪に行くことになってたサヤカはメチャ怖がってた。
イベントで「モーニング娘。はただのアイドルじゃなくて、歌心のある
シンガーです」ってアドリブで言ったら、楽屋であまりいい顔されなか
った。アイドル目指してるわけじゃないんだから私は当然のことを言っ
ただけだよ。ファンにちゃんとそのことを伝えなくちゃいけないと思う。
ホテルの部屋でグロさんとそのことをさっきまで話した。話をすると今
までグロさんのことを私は全然わかってなかったんだなって思う。
グロさんは「抱いて〜」のレコーディングで失敗してから考え方を変え
たって話してくれた。痩せて声が出なくなってちゃ歌手失格だって。ア
イドルである前に自分は歌手だって。これからはモーニング娘。の中で
自分独自の路線を貫くことに決めたとも言ってた。そして、これまで余
裕がなくてゴメンネって。最後に「私もアーティスト目指してるからさ」
って言ったグロさんはカッコよかった』
- 50 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/28(金) 23:08
- 『8月27日(木)
今日は広島。イベントの後に和田さんに呼び出された。「最近元気ない
んじゃないか?」って。
ここ最近悩んでいたことを話した。アイドルとしてやっていくには自信
がないこと、私たちは歌うために「愛の種」から頑張ってきたはずだっ
てこと、学校の勉強が全然追いつかなくなってること、忙しすぎて雰囲
気が悪くなってきていること、そんなことを話した。で、このまま歌を
続けていくのはツラいって。
和田さんも「今やめるのはもったいない」って言ってくれた。「そのう
ちやりたいことができるようになる」とも。2時間くらい話して、もう
ちょっと頑張ってみようって気になった』
- 51 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/28(金) 23:08
-
今考えると、札幌の時のスタッフが広島で和田さんに私のことを報告し
たんだろうなって思う。「フクダがなんか言ってるぞ」って。和田さん
は超現実路線の人だったけど、裕ちゃんの演歌に挑む心意気に打たれた
みたいに、気持ちに対しては気持ちで返してくれる熱い人だった。あの
ときの私は和田さんに熱心に説得されて、もう一度頑張ってみようって、
そんな気持ちになったんだ。そしてそれでやっていけると思っていた。
でもそれはその時だけで、自分の中の気持ちの整理が全然ついてないこ
とが後々分かっていく。
彩っぺとはあの時二人っきりで札幌に行けて本当に良かったと思う。き
っとあの時のことがなければ、ずっと彩っぺとは距離をとったままだっ
た。あれがなければ辞めたあとに彩っぺの結婚式に行ったり赤ちゃんを
見に行ったりすることもなかったのかもしれない。あの時に彩っぺが歌
に対して本気で考えてくれてたおかげで私の気持ちはぐっと楽になって
いた。でもあの後彩っぺが化粧や髪型まで変えて一気にお水っぽい雰囲
気にしたときにはちょっと笑ってしまったな。彩っぺはこうと決めたら
ホント思い切りがよかった。
- 52 名前:オリメンファン 投稿日:2007/12/29(土) 10:51
- 作者さん、昔何かお書きになられてたんですか?
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 11:17
- うーん、いい。
なんていうかすごくいいです。
続き待ってます。
- 54 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/30(日) 22:42
- レスどうもです。
>52
昔どこかでお見かけしたような名前だったので
もしかしたらと思って聞いてみました。
書いてましたけど、まぁ本当に昔のことですから。
>53
ありがとうございます。
PC環境によって表示のされ方は変わると思いますが、
1行32字で改行を打ってしまっているので、デコボコに
なってしまっている方には大変申し訳なく。
- 55 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/30(日) 22:44
- 『8月28日(金)
神戸。10日近くほぼ毎日やってきた地方イベントもようやく一段落。長
かったよー。晩ごはんの時に和田さんが今度の新曲の成績が良かったら
何か御馳走してくれるって話になった。なっちがホッケとかいう魚がい
いって言ってたけど、ヤダよ魚なんて。やっぱ肉だよ、肉!』
『8月29日(土)
久しぶりのテレビ収録。今日は歌番組に生出演。またこれからしばらく
テレビの収録が続くらしい。もうすぐ学校始まるんだけどなー』
『8月31日(月)
明日の収録のために「神田川」の練習。半月くらい前に出しておいた番
組のアンケートがこんなことで使われるとは思ってなかった。和田さん
が言うには向こうのプロデューサーが気に入ったからだって。最近銭湯
にハマっているから思いついただけなんだけどなー。今日の帰りも新田
浴場に寄ったし。
矢口とカオリンが披露することになった笛の練習に必死。私はなっちと
彩っぺと一緒に歌の練習。最初の出だしの音がつかみづらくて…』
- 56 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/30(日) 22:45
- 『9月1日(火)
始業式だってのに学校は行ってない。夏休みの間、1日も友達に会わな
かったし、みんな私のこと辞めたと思ってんじゃないの?
今日は「ラブラブあいしてる」の収録で、父親に言ったらうらやましが
ってた。収録にはたくさんのミュージシャンがいて、音楽の話がいっぱ
い聞けて楽しかった(直接聞いたわけじゃないけどさ)。あの人たちみ
たいに日常に音楽が溶けこんでいる生活がうらやましい。そうそう、し
のらーはホントは静かな人だったよ。
収録でもらってきた私をデフォルメした人形が今私の目の前にある。コ
イツはけっこうカワイイのになぁ。ドドンパって私もやってみるか』
『9月2日(水)
なぜか今日は一人で名古屋で仕事だった。なんで?
商店街を一人で散策したり、生の番組に出て新曲のPR。
直行直帰、メンバーとも会わないし、学校にも行けてない。よくわから
ずに1日が過ぎた。???』
- 57 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/30(日) 22:45
- 『9月4日(金)
ようやく新学期になって初めて学校に顔を出せた。勝手に席替えされて
て廊下側の端に自分の席が追いやられてた。仕方ないとはいえ寂しかっ
たな。宿題のことは知らんぷり』
『9月6日(日)
HEY!HEY!HEY!の収録。しのらーと鈴木あみちゃんと一緒だった。前より
はずっとトークできるようになったと思う。でもカオリン、あれはない
よ…浜ちゃんとのやりとりだったのに自分のことだと思うなんてさ…
楽屋裏でも蒸し返されたけど、これもまた知らんぷり。カオリンの天然
サクレツにはついてけんわー』
- 58 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/30(日) 22:46
-
和田さんと相談した後、スケジュールはテレビ収録が立て続けに入って
いた。私の中の気持ちはすっきりとしていなかったけど、目の前にある
ことは一生懸命こなそうって思っていたから、なんとかこなせていた。
でも、この頃から私の中には徐々に「ただ目の前にあることをこなして
いるだけで、目標を見失ってしまっているんじゃないか」って疑問が芽
生えてしまうことになる。
『HEY!HEY!HEY!』に出演した時には、私の若さゆえの無謀さというか、
浜田さんに「ブサイク」とか「きさまー」とか暴言吐いたりして、自分
でもよくやってたなぁって苦笑してしまう。カオリンは私が浜田さんに
言った言葉をどう勘違いしたのか自分のことを言われたのだと思ったら
しく、何か私が悪口言ったみたいに思われてあの時は参った。
- 59 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/30(日) 22:46
- 今から思えば、この頃からなっちの私への接し方がすごく変わったなあ
って思うんだけど、それはカオリンとの関係も影響してたのかもしれな
い… 私はカオリンとケンカしてたわけでもないし派閥争いしてたわけ
じゃないけど、センターに立ってる気苦労はなっちとしか解り合えなか
ったから、そういうことに関してなっちと話す機会はこの後増えていっ
た。
『ラブラブあいしてる』で貰った私をデフォルメした人形は今でも私の
部屋にあって、私に向かって気合いをかけ続けている。両手を広げて前
に突き出しているポーズがキンキキッズの二人の目に留まって、そのポ
ーズを見て「ドドンパ」って言われたんだ。あの時私に人形をくれたプ
ロデューサーのきくちさんとはその後も何度も仕事を一緒にして、辞め
た後にも会う機会があった。私のマイナーな音楽活動を応援してくれた
けど、まだあの頃は会うたびにテレホンカードをくれるちょっと変わっ
た人だなぁとしか思ってなかった。
- 60 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/30(日) 22:47
-
『9月9日(水)
新曲の発売日。サヤカとまりっぺが空き時間にCDショップに行って「抱
いて〜」のCDを売れるようにこっそり並べかえてきてしまったって。ナ
イスだ!2人とも。予約はけっこう好調だって言われてて、みんなそわ
そわしてる』
『9月10日(木)
私たち初めての単独ラジオ、オールナイトニッポン。ゆずのラジオをず
っと聴いてきたからあのジングルをスタジオで聴けて感動。
リーダーとあやっぺがめちゃくちゃハリきってた。みんなぶっちゃけエ
ロトークしすぎ。でも最後にもらった和田さんからの手紙じゃみんな泣
いちゃったな…』
『9月11日(金)
ミュージックステーションでジュディマリと初対面。なっちが泣きそう
なくらい感激してた。私も好きだったよって言ったら、なっち喜んでた。
YUKIちゃんみたいなロリータパンクは無理だけど、私もああいう風にな
っていきたい…
本番の後にリーダーとなっちと私の3人が残されて、何の発表をされる
のか不安に思っていたら、10月からアサヤンのアシスタントをこの3人
で交替しながらやっていくんだって。永作さんがやめちゃうことがすご
くショック。ずっとあこがれの人だったのに』
- 61 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/30(日) 22:48
- 『9月13日(日)
3週間ぶりの完全オフ。1日中家でバク睡。でも家族がうっとうしい。家
にいるときくらい仕事のことは話したくないんだから聞いてこないでほ
しい。
夜ちょっと多摩川まで行って星を見てきた。花火大会のことをすっかり
忘れていたことに気付く。もうとっくに終わってるって…』
『9月15日(火)
大阪でイベント。出発前に事務所でなっちと二人だけでラジオのレギュ
ラー、それとソロでの雑誌連載が決まったって聞かされた。最近はとも
かく、今までなっちとそんなに話してきたわけじゃないのに大丈夫かな?
自分でも思ってみなかった方向に話がどんどん進んでる。やることは増
えていく一方で、それはそれで芸能人としていい方向に行ってるんだろ
うけど、自分自身がいい方向に行ってるのか、さっぱりわからないよ』
『9月16日(水)
カウントダウンTVのスペシャル番組の収録。なっちが一輪車に乗ってみ
せた。運動ダメな安倍さんが意外やん。
私は幼稚園の頃に歌っているVTRが流された。勝手にお母さんが提供し
たって、まったく。でもVTRに映っていた私は純粋でとても楽しそうに
歌を歌ってた。今の私とは大違いだな…』
- 62 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/30(日) 22:49
- 『9月17日(木)
アサヤンで「抱いて〜」のオリコンの順位が1位だって聞かされた。ず
っと自分が歌ってていいのか、私たちが歌手として認められているのか、
そんなことばかり考えてきたから、1位をとれたことはメチャうれしい。
タレントクロークに戻ってきてみんな号泣してたら、後から戻ってきた
永作さんまで一緒に泣いてくれた。オーディションの頃からずっと私た
ちを見ててくれた永作さんとは今日でお別れになってしまう。サミシィ』
『9月19日(土)
札幌でイベント。おとといのアサヤンの収録のあと、和田さんに「ここ
からがスタートだ」って言われて、ずっとその言葉に引っかかっている。
私はただ目の前にあることを必死にこなしているだけで、それで結果と
して1位を取れた。私はなんで1位を取れたのか、そのことを本質的に分
かってない。
私の歌はまだまだで、ボイトレだってもっと長く続けていかなきゃ成果
出ないし、ダンスだってカッコいいレベルにはほど遠い。それに和田さ
んやスタッフの人たちがどれだけ苦労して仕事しているとか、メンバー
たちが上京して一人っきりで苦労していたことを、私はこれまで経験し
てないから、回りにいる人たちの苦労を理解することもできない。私は
このまま物事の本質を理解しないで流されてしまっていいのだろうか?
本当にスタートラインに立ったって言えるのだろうか?
きっとこの先、モーニング娘。はいい方向に向かっていくんだと思う。
それは和田さんも言ってた。でも、何も学ばないままこの先に進んでい
っていいのかな、わたし…
明日は早くに東京に戻るからもう寝よう。サヤカもよく寝てるし』
- 63 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/30(日) 22:50
- 『9月20日(日)
スーパージョッキーに出演。日テレつながりでサムエルさんの話をスタ
ッフから聞かされた。今サムエルさんたちは、電波少年の企画でアパー
トに閉じ込められて曲作りのための合宿をやらされてるんだって。今度
の曲が売れなければ解散だって… 私よりもずっと音楽に詳しくて純粋
に音楽やってるあの人たちがバラエティの企画に挑戦してる。聞いた話
だと最後までバラエティやることを迷っていたって。音楽で生きていく
ってそんなに難しいことなのかな? サムエルさんが迷って最終的に出
した企画参加の決断、それに比べて私のこれからの芸能界のスタート…
私は安易に流されてスタートしちゃっていいのかな… そこには音楽や
歌に対する気持ちが抜けちゃっているんじゃないのかな…』
- 64 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/30(日) 22:51
-
日記を読んでいくと、この頃がたぶん私の精神的な限界だった。長くな
った日記が何よりもそれを物語っている。札幌でイベントがあった夜、
疲れていたのに全然寝れなかった私。紗耶香がぐっすり寝ている横でず
っとソファーに座って思い悩んでいた。
アサヤンから永作さんがいなくなってしまうこと。私にとってそれはけ
っこう大きなことだった。この時から1年以上も前、私がオーディショ
ンで戸惑っていた時、優しく言葉をかけてくれたのが永作さんだった。
それにオーディション最中はいろいろと私にいいコメントを言ってくれ
たりもした。モーニング娘。の企画が始まってからも、ナイナイの2人
のイジワルな質問にやんわりとくぎを刺してフォローしてくれたことも
ある。アサヤンの収録で私はずっと永作さんに助けられてきた。
それにあのオリコン1位が発表された日、永作さんはタレントクローク
に戻ってきて、私たちと一緒に喜び泣いてくれた。いつも私たちの歌を
ちゃかしたり、バカにしたりして鼻で笑っている矢部さんとは大違いだ
った。それはきっと永作さんもアイドル時代に同じようなことを経験し
てきて、私たちの苦労や環境を誰よりも分かってくれていたからなんだ
と思う。
- 65 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/30(日) 22:52
- そんな永作さんが番組を去って、代わりに私たちがアシスタントをする
…そんな芸能界の仕組みが私には堪えられなかった。今から考えればそ
れは一般社会にも言えることだって分かるけど、当時の私は悪い方に考
えてばかりだったから、後任としてアシスタントに入ることに漠然とし
た抵抗を感じていた。
「オリコンの1位がすべての1番ではない」って私が言ったのは、常々和
田さんから同じようなことを言われていたからで、何も独創的なことを
言ったわけじゃない。アサヤンがあのことを大きくクローズアップして
くれたけど、むしろあの時の私の気持ちは1位を取ったことでセンター
を務めたプレッシャーから解放され、モーニング娘。や芸能界のしがら
みからに捉われないで発言した結果だった。自分の中での1番を大事に
しよう、そんな気持ちが芽生え始めたのかもしれなかった。
- 66 名前:約束の橋 投稿日:2007/12/30(日) 22:52
- 春のドラマで一緒だった同じ事務所のサムシングエルスの3人。ドラマ
の待ち時間にはギターを弾いてくれたりして、海を見ながら一緒に歌っ
たこともある。ストリートからの叩き上げで気さくな音楽好きの兄ちゃ
んたちだった。私たちよりもずっと音楽に詳しくて純粋に音楽やってる
あの人たちがバラエティの企画に挑戦しなければならない… 芸能界で
生きるための音楽、純粋に楽しむための音楽、私はいったい何をやりた
いのか、やっていきたいのか、さっぱり分からなくなって思い悩む日々
だった。
オーディションに落ちた時の「売れなくてもいいから音楽をずっとやっ
ていきたい」って気持ちや、『愛の種』の手売りに臨んでいた頃の純粋
な音楽に対する憧れの気持ちがどんどん薄れているような気がしていた
んだ…
- 67 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/01(火) 22:31
-
9月20日のあと、私の日記は2週間日ほど途切れていた。答えのない問題
をずっと悩み続けていたんだと思う。その間にはなっちとのラジオの初
収録や地方イベントも少しあったけど、目の前にあることはなんとかこ
なせていた。その「こなせていた」ことで、私はこのまま流されていっ
ちゃダメなんだなって気持ちが固まってきた。思い悩んだり、自分では
万全だと思っていないのに、虚像を平然と演じ続けられる私…
結局、今の私にはこんなことを考えないで普通の社会に生きる人たちの
ような経験が必要だって考えるようになったんだ。そうした経験を積ん
で社会に出てくれば、物事を受け止められる本当のスタートラインに立
つことが出来るって。
そう思うようになると、自分の気持ちは一気に固まった。今から思えば
それは逃げていただけなのかもしれない。他のメンバーたちも同じよう
に日々思い悩み続けていたわけで、私がその結論に達したことはどんな
非難をあびても仕方がない。でも、あの頃の私は毎日悩み続けておかし
くなりそうだった… きつくてたまらなかった…
…日記は10月に入ってから再開されていた。
私が普通の生活に戻ろうとすでに決心した後のことだった。
- 68 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/01(火) 22:31
-
『10月7日(水)
久しぶりに書く。少し気持ちに整理がついたみたい。10月に入って仕事
も一段落し落ち着いて考える時間が出来た。今週はずっとオフだ。思い
起こせば6月の半ばくらいからほとんど休むことなく働いてきた。カラ
ダももう限界だよ。
普通の生活に戻ろう…それが私の出した答えだ。新しい仕事も入ってい
つのことになるか分からないけど、中学行って高校行って普通の生活し
て、社会の経験をつんで、私が思う音楽と向き合っていこう。そう決め
た。
今日はなっちとラジオの収録をした後に家族と食事に行った。お寿司お
いしかった。その時に「もう、私はやめる」って父に伝えた。「そうか、
そんならやめりゃいいよ」ってあっさり言ってたけど、私が本気だって
ホントに分かってるのかな?』
『10月9日(金)
2年生になって初めて1週間通して学校に行けた。奇跡だ!
ものすごい珍現象が起きたみたいに学校でも扱われる。秋の矢中祭での
合唱コンクールの話も聞かされて、これなら参加できるかもしれない。
教わりながら廊下で歌っていたら声が大きくなりすぎて注意されちゃっ
た』
- 69 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/01(火) 22:32
- 『10月10日(土)
土手にMDウォークマンを持って行って川を見ながら音楽を聴いた。風が
気持ちよかったなー。去年オーディションの頃に買ったELTのアルバム
「everlasting」を聴き直した。「Dear My Friend」っていい歌詞だな
ー。今の私の心境にぴったりさ(なっち風
帰りがけに新田浴場に寄ってお風呂に入ってきた。やっぱ銭湯はここが
一番気楽』
『10月11日(日)
クソオヤジめー、あたしの買ってきた焼きそば食べやがってー!
朝食べようと思って昨日の帰りにコンビニで買ってきた焼きそばを勝手
に食べられた。朝寝坊してのんびり食べようと思っていたのにさぁ。1
日中それでムカついていた。子供だなぁ、自分』
『10月12日(月)
会社に行ってメンバーたちと久しぶりに会った。みんな帰省してリフレ
ッシュした顔してた。この先のスケジュールを聞かされたけど、これま
でのことを思えば全然楽。
雑誌の取材まで時間があったから圭ちゃんと麻布の温泉に行った。なん
だ、あそこは、ただの大きいお風呂じゃないかー。もう二度と行かない
ぞ』
- 70 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/01(火) 22:34
- 『10月14日(水)
なっちとラジオ。初めて買ったCDの話をした。なっちはずっと好きって
言っていたジュディマリの「小さな頃から」だって。他にもいろいろと
音楽の話が出来て楽しかった。なっちは私なんかより全然ラジオっ子な
んだなー』
『10月15日(木)
アサヤン収録。今回からいよいよ番組のアシスタントだ。1本目はなっ
ちと裕ちゃんで、2本目が私と裕ちゃんだった。めちゃくちゃ裕ちゃん
に助けてもらった。
ここのところなっちとよく話していたせいかもしれないけど、「裕ちゃ
ん」って気軽に呼んでしまったら、ものすごい喜んでくれた。ずっと私
がそう呼んでくれないことを気にしていたんだって。もっと早く言って
くれればよかったのに』
- 71 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/01(火) 22:34
- 『10月16日(金)
つんくさんから電話がかかってきて、さっきまで2時間くらい話した。
Mステの私のラップ部分のパフォーマンスを見て、それを誉めにかけて
きてくれたんだけど…私はやめたいってことを伝えた。つんくさんにも
説得されたけど、もう自分の気持ちは固まっているから動かなかった。
私はやめるんだ。つんくさんも最後はあきらめて、「社長にはオレが言
っておくから、オマエはとにかく家族に心配かけるな」って言ってくれ
た。あー、ついに言っちゃったな…』
『10月18日(日)
テレビ収録。よく分からないけど昔のクルマの番組。
一昨日つんくさんに話してから、それが気になって眠れない。
はぁー、怖いな』
『10月20日(火)
つんくさんから電話が来た。社長には話しておいたし、もうオレは口出
ししないから、あとは社長と和田さんと親と一緒に話し合えって。なん
かちっとも状況が変わらなくて逆に不安になるよ』
- 72 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/01(火) 22:35
-
10月16日のミュージックステーションで私は『抱いてHOLD ON ME!』の
ラップの部分でカメラを持って揺り動かすってパフォーマンスをして見
せた。あれは今でも気に入っているアクションなんだけど、つんくさん
もあの日の私を見て気に入ってくれたらしくて、その日のうちに電話を
かけてきてくれたんだ。あの時つんくさんは私が引退話を切り出すなん
て思ってもみなかったと思うな。
話し始めてけっこう早い段階で辞めたいってことを伝えたんだけど、そ
れから2時間、かなり話した。私はラジオや雑誌の連載が新たに始まっ
たからすぐに辞められるとは思っていない、ただこの先ずっと続けてい
く気はないし、普通の子供らしく学校に行って、社会の勉強をして経験
を積んで、その時に改めて音楽とどう向き合えるか考えたいってことを
伝えた。それは後日どういうわけか私が「社会科の勉強をしたい」って
話になってしまって、つんくさんやナイナイの二人を恨んだりしたもの
だけど、あの時の私は説明するのにうまく言葉を見つけられなかったか
ら仕方ない部分はあるのかも。
- 73 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/01(火) 22:36
- それにあの時の私はつんくさんにけっこう失礼なことを言っていた。
「売れれば何やってもいいんですか?」とか「もっと私たちに合った歌
を作ってください」だとか、それまでのつんくさんのやり方への不満も
ちょっと出ていたんじゃないかと思う。だってつんくさんは『愛の種』
のときは私たちのことはほったらかしだったし、『モーニングコーヒー』
のときも私たちのことを引っかき回しただけだったし、私たちがちょっ
とイケてるかなって雰囲気の出始めた今年の春ごろになって、いきなり
態度を変えて現場に乗り出してきた人だ。みんな曲を作ってもらったり、
パート分けのことがあるから口にしないけど、ちょっとした不信感って
のはずっと持っていたと思う。
でもつんくさんは、私のわけの分からない説明や失礼な言葉を丁寧に聞
いてくれて、そういうところはやっぱり大人だなって感じた。でももう
一度電話をかけてきてくれた時に、あとは和田さんたちと話を決めてく
れって言われて、他人任せなんだなあって多少の失望感があったことを
覚えてる。私だって自分のことを他人任せにしておいてよく言えたもん
だと思うけど、当時の私はダメだったな… それにつんくさんが敢えて
そうした理由も後々分かって、自分がすごく恥ずかしかった。
- 74 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/01(火) 22:37
-
『10月23日(金)
和田さんと話した。「なんで俺と話す前に社長のところに話を持ってい
ったのか」ってすごく叱られた。社長のところに話したのはつんくさん
だけど、元はと言えば全部自分に責任があるから何も言えなかった。
「もったいなすぎる」って言ってくれたし、「芸能界に残っていれば、
俺の事務所に引っぱることだってできた」って言ってくれた。和田さん
がどういうわけか私の素質をものすごく評価してくれていることは分か
って、その気持ちにこたえたいとも思ったけど、もう決めたことなんだ。
和田さんが「モーニング娘。のこともあるし、今後のことはこれからち
ゃんと決めていくから、福田は今ある仕事と学業をきっちりとやりなさ
い」って言ってくれて私は少しほっとしたけど、和田さんの落胆した顔
を見るのはツラかった』
『10月25日(日)
茨城でコンサート。テレビ収録以外でお客さんの前で歌うのは久しぶり
だ。しかも野外ライブ、これは開放感あっていいぞーって思ってた。で
も途中でファンの人同士がケンカを始めてライブが中止になった。歌を
聴いてほしくて頑張ってたのに、その気持ちが伝わっていなかったと思
うと涙が出てきた。みんなも涙ぐんで悔しがってた』
- 75 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/01(火) 22:38
- 『10月26日(月)』
エレカシの「明日に向かって走れ」をずっと聴き続けて、くじけそうな
自分の気持ちをふるい立たせた。頑張って走り続けよう』
『10月27日(火)
ボイトレのあとなっちと原宿に遊びに行って白い指輪を買った。なっち
は同じ形の白いピアス。そのあとサヤカと圭ちゃんと合流して4人でカ
ラオケに行った。なっちが久宝留理子の「男」を歌ってビビった。こん
なん歌うんだねぇ。意外な発見』
『10月29日(木)
アサヤン収録。鈴木あみちゃんにタレントクロークで「歌声セクシーで
すね」って言われる。うれしいな。でもなっちとあみちゃんに並ばれて
あたしゃキツかったなー』
『10月31日(土)
今日は千葉で学園祭に出演。秋は目指せ学園祭クイーンを合言葉にガン
バルぞ!
矢口が最近元気ないなぁって思って声かけたら、タンポポが忙しいし、
あの二人に挟まれている毎日はけっこう気を使うって。彩っぺは逆に気
を使わない方が喜んでくれるよって言ったら、頑張ってみるって』
- 76 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/01(火) 22:39
- 『11月2日(月)
熊本で学園祭。飛行機に乗るのひさしぶりで裕ちゃんの恐怖症復活。で
も最近はタンポポの3人以外余裕があるから、裕ちゃんの相手してあげ
たよ(笑) かくし芸大会に出場することになってメンバーたちはその
話題で持ちきりだ。みんなでいろんな楽器を演奏することになって、私
も楽しみ』
『11月3日(火)
金沢でイベント。これが最後の「モーニング刑事。」のイベントだ。
帰り際に和田さんに呼び出されて、明日社長のところに一緒に会いに行
くって言われた。怖いなー』
『11月4日(水)
和田さんに付き添われて社長のところに行った。いろいろと理由を説明
して、それを和田さんがフォローしてくれて、淡々とした話し合いにな
った。最終的に、私がやめたいって意思だったら止める気はないってこ
とだった。芸能界目指している子がいっぱいいて、ほとんどの人が夢を
達成できずにやめていくのに、やめたいって言ってる人間が続けていい
世界じゃないって、そう言われたけどもっともなことだと思う。週末に
家族も入れて面談することになった。はぁ…気が重いなぁ』
- 77 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/01(火) 22:40
- 『11月5日(木)
親に話した。父が「なんで勝手にそんなことするんだ」ってめっちゃ怒
った。だから、やめたいってちゃんと言っておいたじゃないか! 超腹
立った。明日もう一回話し合い』
『11月6日(金)
おじいちゃんやおばあちゃんも一緒に話し合い。家族会議っていうの?
お父さんもお母さんもおばあちゃんも私がやめることにはみんな反対だ。
「オマエの考えてることはよくわからん」とか「いろんな人にお世話に
なってきたのに失礼じゃないか」って。
おじいちゃんだけが、私がツラいならやめた方がいいって言ってくれた。
私が歌手になったことを家族で一番喜んでくれたおじいちゃんがそう言
ってくれて申し訳ない気持ちでいっぱい。ゴメンナサイおじいちゃん』
『11月8日(日)
社長と親と和田さんとで会社で話し合った。うちの家族が納得してなか
ったから、社長が私の家族を説得するっていう変な話し合いだった。な
んとか私の考えを納得してもらって私がやめることで話はまとまったけ
ど、最終的な結論は1ヵ月くらい待ちましょうって。この1ヵ月で考えが
変わったら変わったでそれでいいって。それはありがたいけどさ、私の
考えは変わらないよ』
- 78 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/01(火) 22:41
- この頃のことを思うと私は和田さんに頭が上がらない。ずっと私が芸能
界に残る道を模索し奔走してくれていたからだ。社長との話し合いの時
も社長が「やめちまえ」って言ってる中、休業案や復帰案を出してくれ
たりした。それは家族を交えた話し合いの時も同様で、最終的な結論を
1ヵ月先延ばししたのは私の家族と和田さんが完全には納得していなか
ったからだと言ってもいい。でもあの話し合いの時点で私と社長はもう
やめることを確定したものと思っていた。
うちの家族は私が10月に辞めたいって言ったことを本気と思ってなかっ
たらしくて、その話が本格的に進んでるって報告をしたときにめちゃく
ちゃ怒られた。父も母も祖母も家族みんなが反対する中でただ一人祖父
だけが私の言い分を聞いてくれて、「明日香が辞めたいって言うんだっ
たら、そうさせてあげればいい」って分かってくれた。祖父には事務所
やメンバーたちが泊まっているホテルまで何度もクルマで送り迎えして
もらって、その時に私が毎日のことをちょっとずつ話していたから、分
かってもらえたんだと思う。小さい頃からずっと私が歌う姿を見て喜ん
でくれていた祖父だったから、本当にすまない気持ちでいっぱいだった
…
- 79 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/01(火) 22:42
- 私の芸能界での去就はほぼ決まっていたから、そういう点では私の気持
ちは前よりすっきりしていたし、辞めるまで頑張らなきゃなって前向き
になれた。しかし今度はそれをメンバーたちに黙っていなきゃならない
罪悪感を感じる日々が始まる。
特になっちとはあの頃から仕事で二人になる機会が多くなって、どんど
ん親しくなっていたから、私の裏で何が起こっているか本当のことを言
えなくてなっちの笑顔を見るのが時々つらかった。…そうそう、なっち
といえば確かこの頃にカオリンとの共同生活を解消してそれぞれ一人暮
らしを始めていた。裕ちゃんと彩っぺが「あの二人がこの先一緒に暮ら
していても傷つけ合うだけだ」って会社とかけあって二人の生活を止め
させた。さすがと思ったな、あの時は。
あと、メンバーの中じゃ矢口が一番大変だったかな。確かあの頃に年下
の私にも「矢口」って呼んでくれって言ってきたんだけど、メンバーの
中で自分のポジションを見つけようとして必死になってた。彩っぺには
まだまだ認められてなかったし、カオリンの天然ぶりはひどかったから、
遠征先のホテルで一緒になるといつも泣き気味にタンポポの活動の愚痴
をこぼしていた。もちろん一生懸命やってたけどさ。
- 80 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/04(金) 22:38
-
『11月11日(水)
なっちとラジオ収録した後に一緒にご飯食べて帰ってきた。いつもラジ
オの収録中におなかをグーグー鳴らしてる私に、「今日は特別だよ」っ
ておごってもらった。やったね。
今日は「1」並びの日で、それはなっちにとってオーディション以来の
特別な数字なんだって。入った和食屋さんでなっちがホッケ定食を頼ん
で私に食べ方を教えてくれた。身がポロポロ取れて食べやすいし、あぶ
らのってておいしぃ。魚嫌いの私でもこれならいいかも。
でもラジオの収録中に「これからも銀杏コンビで頑張っていこうよ」っ
て言われて、ウンって答えて心が痛んだ…』
『11月13日(金)
学校で定期考査を受けた後、かくし芸大会の練習初日。
スチールパンって楽器の練習をみんなでした。南国の雰囲気。どこを叩
けば思い通りの音が出るか分からなくて覚えるのに一苦労。あとちんど
ん屋さんの和ダイコ(「ちんどん」って言うらしい)の練習もしたけど、
こっちはけっこううまくできた』
『11月14日(土)
定期考査が終わってホッとしてる。2年になって初めて勉強する時間が
あったから前よりも手ごたえはあった。帰りがけに土手をまわって帰っ
たら、もうけっこう肌寒くなってきてるみたい。明日はMD持って河原に
行こう』
- 81 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/04(金) 22:39
- 『11月15日(日)
ウルフルズの「ある日のこと」は心に染みるね。「ポッカリ穴があいた
心で」って自分の気持ちにぴったりだなあって思った。ヨリコがグラン
ドでよく知らない連中と遊んでたんで、鉄琴を弾くコツを教わろうと思
ったんだけど、「ピアノと鉄琴を一緒にすんな」って怒られた。なんだ
よーケチ』
『11月16日(月)
ポップジャムの収録。「恋人がサンタクロース」を歌った。もう芸能界
はクリスマスの準備なんだなー』
『11月17日(火)
なっちと一緒にかくし芸大会の鉄琴の練習。二人ともあんまりうまくい
かない。練習が終わったあと、「こないだのお礼にいいもの見せてあげ
る」って多摩川の土手に誘った。夕陽が沈むところでめちゃくちゃきれ
い。そのあとにカラオケにちょっとだけ寄って「君を忘れない」を歌っ
たら、私ちょっと涙ぐんでしまったな。まずいまずい。…今日はいろん
なことあったよ』
- 82 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/04(金) 22:40
-
私はこの日のことを詳しく書いていなかった。たぶん文章にするのが難
しくてこんな書き方だったんだと思う。
その前の週になっちにゴハンを奢ってもらったお礼を何かしなきゃなあ
と思っていた時のこと。私はあんまりお金もってないし、なっちは自然
とか風を感じるのが好きって言っていたから、じゃあこの多摩川のいつ
も私が見ている景色を見てもらおうって、『ある日のこと』を聴きなが
ら考えたんだ。
あの日なっちと二人で鉄琴の練習を終えて、わざわざ地元まで来てもら
って土手を歩きながら見た夕陽、きれいだった。
でも本当はあの日のメインイベントはそれじゃなかったんだ。
そのメインイベントの時間になるまでちょっとカラオケに行ったんだけ
ど、松山千春の『君を忘れない』を歌ったのは計算じゃなくてただの思
いつきだった。前の週のラジオ収録でかけたあの曲がいいなあって思っ
て歌っただけのこと。北海道特集でかけた曲だから、なっちと歌うには
いいねって。
でも画面に映る歌詞を見てたら「君を忘れないよ互いの道歩こうとも」
って出てきて涙が出てしまったんだ。なっちに悪いことしてるなぁって
… なっちには「いい歌詞だね」ってごまかしたけど、この先私はメン
バーたちと別々の道を歩いていかなきゃいけないんだなって初めて実感
したんだ…
- 83 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/04(金) 22:41
- そんなカラオケの後がその日のメインイベントだった。
実はあの日は獅子座流星群が見れた日だったんだ。
土手に戻ってなっちと夜空を見上げ、東京の明るい夜空の中に見えたひ
とすじの流れ星。同じ瞬間に同じ星を見ていた感動…
「東京で見る星もふるさとで見る星も一緒だね」ってなっちが話してく
れた時にはここに連れてきて良かったなあって思ったものだ。
でも、その後が笑い話で、私たちがグランドにいたら中学の友だちの吉
岡ちゃんも流星群を見に来てて目ざとくこっちを発見してきたんだ。ち
ゃっかりなっちにまで挨拶して「福ちゃんをよろしくお願いしますね」って。
「さすが明日香の友だちは根性すわってるわ」ってなっちは感心してた
けど、私は気が気じゃなかったよ。彼女がどんな暴露話するかわかった
もんじゃなかったから。小学生の頃から彼女と一緒にけっこう遊んでき
てたんでねえ。
…思えばあの時からだったな、私のことを「福ちゃん、福ちゃん」って
なっちが呼び出したのは。「学校じゃそう呼ばれてるんだねー」って。
- 84 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/04(金) 22:41
- 『11月18日(水)
タンポポの「ラストキッス」の発売日だ。ゆうせんに電話してリクエス
トしたよ。売れるといいね。』
『11月21日(土)
かくし芸大会の練習、今日は篠原さんと玲子ちゃんが合流して初めての
全体練習。みんなで合わせてみたけどまだまだだったなー。でもあれだ
け大人数で鳴らすとやっぱ迫力出て楽しかった。
篠原さんがデザインした衣装が仕上がってきて、みんなで試着。さすが
しのらー、独特で奇抜なファッションセンス。矢口カワイすぎるぞ』
『11月22日(日)
学園祭で京都に行った。京都は紅葉のシーズンで観光客でいっぱいだ。
二人ずつに分かれて竜安寺ってところで紅葉を見に行った。私はサヤカ
と一緒だったから写真撮ってもらったんだ。
圭ちゃんが「ワガママ」で2番の歌詞を飛ばしちゃってまじヘコみ。圭
ちゃんはこの曲と相性が悪くてレコーディングのときからずっと手こず
っている。それがもうトラウマみたいになっちゃってるんだね』
- 85 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/04(金) 22:42
- 『11月23日(月)
福岡で学園祭。圭ちゃんと「ワガママ」の練習を何度も繰り返して本番。
今日はうまくいったじゃん。帰りがけの空港で圭ちゃんとラーメン食べ
てお祝いした』
『11月24日(火)
モーニング娘。の紅白初出場が決定した。最高にうれしい!
おじいちゃんに真っ先に報告したら喜んでたなあ。でも今日はあせった
よ。朝会社の前でアサヤンのカメラが回ってて、和田さんが私たちの控
え室に入ってきたときもカメラが入っていたから、てっきり私のことを
話すんじゃないかと思ってドキドキもんだった』
『11月27日(金)
かくし芸の練習中につんくさんに呼び出されて、なっちと一緒にレコー
ディングスタジオに行った。そしたらつんくさん「何か最近メンバー同
士であれやったとか、これやったとかエピソードないか?」って。なっ
ちと一緒に多摩川の土手に行ったときのことを話した。何なのつんくさ
ん?
スタジオを出る時につんくさんから「明日までにメロディー覚えてこい」
ってカセットテープを渡される。今聞いてるけどメロディーだけで名曲
の予感』
- 86 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/04(金) 22:43
- 『11月28日(土)
レコーディングスタジオに行くと呼ばれてたのは私だけ。
つんくさんから「Never Forget(仮)」と仮タイトルの入った歌詞の紙を
渡された。「昨日渡した曲の歌詞や」ってニヤニヤしてる。
私、それを見た時に泣いてしまったな… それはあまりにも私の心に響
いたから。涙が止まらなくてしょうがなかった。何度歌っても涙が出ち
ゃってレコーディングとしてはうまくいかなかったけど、今日はつんく
さんは怒らなかった』
『11月29日(日)
なっちと二人でレコーディング。しし座流星群の時の話が歌詞に入って
てなっちが大感激してた。
終わったあとにつんくさんが仮トラックを聴かせてくれた。「東京で見
る星も(福)ふるさとでの星も(安)同じだと教えてくれた(安福)」
ってなってて二人で大感動。つんくさんがそのトラックを私たちにMDに
して渡してくれた。「他のみんなには内緒な」って』
『11月30日(月)
今日は全員でレコーディング。今日は「愛の種」を完売させたあの日か
らちょうど1年だ。「Never Forget」の歌詞に合わせて「出会った日に
カンパイ」ってみんなでスタジオでカンパイした。ずっとみんなと一緒
にいたいけど、私はいなくなるんだ…それは仕方のないことさ』
- 87 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/04(金) 22:44
-
『Never Forget』を一人でレコーディングしたときつんくさんは私に言
ってくれた。「オマエには音楽で応えてやるのが一番やろ」って。
「オマエを説得したりスケジュール作ったり今後のことを考えていくの
は俺やなくても出来る。俺は俺にしかできないことでオマエの音楽に対
する気持ちに応えたい」って言われて私、言葉が出なかった。
つんくさんに辞めたいって話をしたときに、「音楽ってなんですか?」
ってつんくさんへの批判ともとれる発言を私はしていた。あの時つんく
さんは私に明確な答えを言わず、いつもみたいに例え話でごまかしたか
ら、『Never Forget』であんなに直接的に私の心に訴えかける答えが返
ってくるとは思っていなかったのだ。つんくさんは私の問いに最高の形
で答えを返してくれたんだ。
- 88 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/04(金) 22:45
- こんなにも自分の置かれている状況や気持ちにピッタリの曲は初めてだ
ったし、この先のモーニング娘。にとってもそうなるんじゃないかって、
この曲を書いてくれたつんくさんにめちゃくちゃ感謝した。それに、自
分の思い上がった考えを反省して、これが大人として音楽と向き合って
いる一つの姿なんだなって…考えの浅はかな自分を恥じ入るばかりだっ
た。
なっちと私につんくさんが「何かエピソードないか?」って聞いてきた理由… もう10年近く経った今だから言ってもいいだろう。
本当は最初の『Never Forget』は『抱いてHOLD ON ME!』と同じように
なっちと私がメインの部分を交互に歌ってみんながハモリやコーラスで
フォローしてくれる形の曲だった。2番のBメロの部分だって「きっとま
た逢えるよね(福)きっと笑いあえるよね(安)今度出会うときは必然
(安福)」ってなってたんだ。
- 89 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/04(金) 22:46
- それに本当はこの歌が『Memory 青春の光』ってタイトルになる予定だ
った。『Never Forget』はあの時点じゃあくまでも仮タイトルにすぎな
い。そうなった理由はこの先の日記を読んでいけば分かると思うけど、
間違いなくあの時私たちは4thシングルはこの曲になるんだって気持ち
でレコーディングに臨んでいたのだ。
11月30日にみんなで乾杯できたこともうれしかったな。元の5人は当時
の気持ちを振り返ることができて初心を思い出せたし、追加で入ってき
た3人も「完売してくれてありがとう」って言葉に出して伝えたことで、
より8人の関係が深まった。私個人としては毎日つらい日は続いていた
けど、あの頃のモーニング娘。は楽しかったな。そういう人との繋がり
が深まって、仕事じゃ紅白も決まって、年末の歌番組にもいっぱい出演
が決まって、自分たちでも「走ってるな」って高揚感があったんだと思
う。
- 90 名前:オリメンファン 投稿日:2008/01/06(日) 00:05
- 作者さんは6年前にここに降臨していた方ですか?
- 91 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/07(月) 21:43
- >90
おそらく正解です(笑
この時代をやるのはどうかなあとも思ったんですが、
一番やりたい時代でもあるわけでして…
- 92 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:45
-
『12月1日(月)
今日はなっちと篠原さんと3人でユーミンの「守ってあげたい」の練習。
「ラブラブあいしてる」のお正月特番で3人で歌うんだって。番組で着
る着物の衣装合わせをしたら、意外とシックリ。やっぱオバちゃんには
着物が似合うね(笑)』
『12月2日(火)
ナイナイの二人が「めちゃイケ」の収録でかくし芸の練習をしている私
たちのところに来た。タイコをけられたりして怖かったっす。
夜休んでるときに彩っぺが篠原さんのギターをこっそり借りて、私がド
ラム叩いて、圭ちゃんがエレクトーン弾いてセッション。途中からみん
なわけもわからず参加しだして楽しかったー。やっぱみんな楽器やりた
いんじゃん』
『12月3日(木)
今日のFNS歌謡祭、なっちとカオリンが大遅刻。リハーサルの直前にど
うにかすべりこんで間に合った。ひさびさの和田さんカミナリ。コワっ』
- 93 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:46
- 『12月4日(金)
「ラブラブあいしてる」の「守ってあげたい」の収録。きくちさんが今
回もテレホンカードをくれて「またいつでも歌いにきてね」って。そり
ゃそうしたいけどさ、そうもいかないんだな、これが。
収録後に篠原さんがメールアドレスを書いたメモをなっちと私にくれた。
「今度遊びにいこうね」って書いてあったけど、どこまで本気なのかな
あ… 帰りがけになっちと話して「社交辞令だよね」ってことで納得。
そうそう!「Never Forget」が「Memory 青春の光」ってタイトルに決
まったって和田さんが教えてくれた。青春の光かぁ…なるほど。
あの日に見た多摩川の星空を思い出したよ。さすがつんくさん』
『12月5日(土)
今日はかくし芸のリハーサルで、隣の部屋で練習してる堺正章さんのと
ころにあいさつに行ったら、冗談で怒られちゃった。「君たち、うるさ
いよ!」って。そりゃまあ、ずっと誰かしら音出してたからなあ。それ
とマチャアキってけっこう小柄な人なのねー。
練習は今日で終わり。みんな寂しがってたな。短い間だったけどずっと
楽器に囲まれて楽しく練習してきたから、それがなくなるってけっこう
大きい。やっぱりみんな音楽が好きなんだなって思う。
さあ、いよいよ明日はかくし芸本番だ!』
- 94 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:46
- 『12月6日(日)
かくし芸の本番前に湿気のせいでタイコの皮がゆるんで音が変わっちゃ
ったときはどうしようと思った。スタッフの人が急いでドライヤーを持
ってきて乾かしてくれたけど、かくし芸のスタッフの人たちはみんな親
切だった。私はこれで最後だけど、こういうのだったらまたいつかみん
なとやりたいな。
本番が終わったあとに楽屋で圭ちゃんの誕生日祝い。ケーキが出てきて
圭ちゃん喜んでたよ』
『12月7日(月)
脱退が正式に決まった。親と一緒に会社に行って最終的な話し合い。来
年のツアーの最終日で私はやめる。もうそれは変わらない。やめるまで
精一杯頑張っていいものを作っていこう』
『12月9日(水)
なっちとラジオ収録。私の「孤独だから」って嘆きになっちは「なっち
が一緒にいるさ」って返してくれるけど、ゴメンなっち、そうじゃない
んだ。なっちがそう言ってくれることはうれしいけど、逆に私には寂し
くて、孤独だって感じちゃうんだ。みんなに本当のことを言えないこの
状態が寂しいね…』
- 95 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:48
- 11月に会社で話し合ってからその後の1ヵ月で私の気持ちは変わらなか
った。かくし芸大会のためにいろんな楽器の練習をしたり、『Never
Forget』という私の節目となる曲との出会いがあったり、再び「ラブラ
ブあいしてる」に出させてもらったりして、音楽的には充実した仕事が
続いていたけど、けっきょくそれは私の思い出を増やしただけで、私が
芸能活動の継続を考えることはなかった。
11月から12月初めにかけて適度な仕事量で音楽的な仕事が充実していた
こと…それは和田さんとその友人であるフジテレビのきくちさんが組ん
で私の気持ちを変えようとしていた結果だったのかもしれない。
だって今までだって楽器やりたいとか、もっとアイドル的じゃない仕事
をしたいとか、そんな不満を抱えてきたのに、いきなりそういった仕事
が増えたことは今考えるとおかしいと思うもの。彩っぺだってスターダ
ストレビューのレコーディングにお呼ばれして、楽しそうに仕事してた。
私に対してもそうだったけど、みんなにも「この先の方向性を見せてあ
げたい」って、そんな風に和田さんは当時考えていたんじゃないのかな。
- 96 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:49
- 親は私の考えが変わらなければ芸能活動の継続は無理だと分かって、口
に出して何かを言うってことはあまりしなくなった。また何か言えば私
が頑なになるのは分かっていたと思うんで、それは今思うと親に悪いこ
としたなあって思う。
かくし芸大会は娘。の8人と篠原さん、あとホリプロの大森玲子さんの
計10人でやった「ハイパーちんどん」が私たちの演目。裕ちゃんと彩っ
ぺが三味線ひいて、なっちがアコーディオンを弾いて、その他にもいっ
ぱい楽器を使ってホント楽しかった。
毎日のようにお台場のフジテレビのスタジオに通って行ってはみんなで
遅くまで練習。私が中学で続けられなかったブラスバンド部の活動をそ
こでしているみたいで学校にいるみたいだったな、あの時。みんな自分
の担当楽器の練習に疲れると交換して遊んで、わけもわからずに弾いて
ただけなんだけど、まさに「青春」って感じだった。
- 97 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:49
- 本番もけっこううまくいって、特にスチールパンでみんなの呼吸があっ
たときにはスタジオから歓声があがっていたし、終わった後もうれしく
てみんなちょっと涙ぐんだっけ。
あの時の「ハイパーちんどん」でなっちと私は篠原ともえさんと一緒に
練習することが多かったんだけど、同じ時期に篠原さんとは「ラブラブ
あいしてる」って番組で一緒に唄を歌うことにもなっていた。
あのとき歌ったユーミンの『守ってあげたい』には今考えると実は深い
意味があって選ばれた曲なのかなって思う。あの頃のなっちや和田さん
やきくちさんの私への言葉を思い出すといくらでも思い当たることはあ
るんだけど…当時の私がそれに気がつくことはなかったな…
- 98 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:50
- 『12月11日(金)
中国・上海。けっこうビルが建ってて近代的な町なんだなー。このホテ
ルも上海のテレビ局が用意してくれて超リッチでみんなゴキゲン。
今日は「Memory 青春の光」のジャケット撮影。衣装を替えて2パターン
撮って「どっちが使われるか分からないよ」って言われた。私は宇宙服
の方がいいかな。黒ピンクはきつくてイヤだ。夕方のビル街は風が強く
てメチャ寒』
『12月13日(日)
NHKのBS特番用の撮影。シャンハイの音楽学校や芸能界を目指す人たち
の学校を取材した。向こうの人たちも音楽が好きで頑張ってる人たちが
いっぱいいる。住む国が変わっても音楽への気持ちは変わらないな。
夕方から「アジアライブドリーム」のリハーサル。長くてまいったよー。
日本から一緒に来てたスガシカオさんが、「もう俺はカニ食いにいくぞ
ー」って途中でこっそり抜け出しちゃった。度胸あるなぁ、あの人』
『12月14日(月)
「アジアライブドリーム」の本番だった。けっこういい感じで来てたの
に最後の出演者全員での合唱のときにモンゴルの人がミスってダイナシ。
「なんだよ、もーっ」てみんな怒った。もちろん私もね! でもその後
にカニを食べに連れていってもらったから、いいんだもう。上海ガニお
いしかったー』
- 99 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:51
- 『12月15日(火)
朝シャンハイから戻ってきて「うたばん」の収録。今回は「とくばん」
ってことで野猿の人たちと一緒の出演だった。とうとう「とくばん」か
あ、最初に出た頃には考えもしなかったよ』
『12月17日(木)
私もついに14歳。エヴァのシンジ君と同じ年齢になっちゃった。14歳の
私はもう「逃げちゃダメだ」ね。
今日はアサヤンの収録でスタッフのある人からポケットボードをいただ
いた。やったね。あとケーキも用意してもらったし、メンバーのみんな
もプレゼントくれてホントありがとう』
- 100 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:51
- 『12月18日(金)
今日またつんくさんになっちと呼び出されてレコーディングスタジオに
行った。今から渡す曲を明日と明後日で徹底的にレコーディングするか
らって言われて、今日はそれに向けてひたすらレッスン。つんくさんは
「最高のものを作ろう」ってめちゃくちゃ張り切ってた。途中で説明し
てくれたけど、この「ゾンビ」って仮タイトルの歌を今度のシングルに
したいんだって。じゃあ「Memory 青春の光」はどうするの?って思っ
ていたら、「それも入れる」って。つんくさんは今日はものすごくはし
ゃいでたな』
『12月19日(土)
なっちと二人だけレコーディング。なっちも私も何度も録り直しを指示
されて時間がかかった。つんくさんは「今回はどんな妥協も絶対にしな
い」って決めてるみたいで、ひたすら真剣だった』
- 101 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:52
-
ここいらへんの経緯はややこしくて今でも説明が難しいんだけど、つん
くさんが一番重要に思っていたのは「8人でいる間にしか作れない最高
のものを作りたい」ってことだった。「私たちが8人でいることの意味、
それもアーティストとして8人でいる必要性、最初に5人を選んだことも
後から3人追加したことも、この日のためにあったんだと分かってもら
いたい」って。そして「オマエがいる間にな」って言ってくれて…
「じゃあ『Memory 青春の光』(現『Never Forget』)はどうするんで
すか?」って聞いたら、「あれはモーニング娘。を去るオマエとオマエ
を見送るモーニング娘。のために書いた歌だ」「だからオマエにあの曲
を託す」って。そして「そのかわり、モーニング娘。の8人で今出来る
最高の歌を残して、モーニング娘。がアーティストなんだってことをオ
マエの最後に残そう」って話だった。もちろんその話をしたときはなっ
ちも他のスタッフもいなかったんだけど、あの時はただただつんくさん
の熱意に圧倒されたことを覚えてる。
- 102 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:53
- それとつんくさんは「『Never Forget』はオマエとオマエのいるモーニ
ング娘。8人のために書いた曲だから、シングルの1曲目に持ってくるこ
とはあえてやめよう」「この曲を8人で歌ったことをずっと思い出にし
たいからな」って、「シングルの1曲目にもってきたらオマエが辞めた
後も歌わなきゃならんやろ」とも言っていた。
私は「そんな…、いい曲なんだから封印しちゃわなくてもいいじゃない
ですか」って言ったけど、「こういう曲があってもカッコエエやん。も
しこれでオマエが戻ってきてこれを一発目に歌ったらそれはそれで最高
のロックやで」って冗談っぽくつんくさんは返してきた。あの時のつん
くさんのセリフは理屈抜きにカッコ良かったな。私も勢いでその考えに
納得してしまった。
- 103 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:55
- …そういういろんな経緯があって、シングルの表題曲は今残っている
『Memory 青春の光』になった。本当は「ゾンビ」に違う曲名をつける
予定でいたんだけど、4thシングルは「ゾンビ」にするって後から急に
決まったから変更がきかなくなってしまったのだ。その時にはすでにシ
ングルジャケットのデザインを発注済み、春のツアー名も『Memory 青
春の光ツアー』で決定済み、これらは一例に過ぎずすでに4thシングル
は『Memory 青春の光』を決定事項として会社が動き始めていたから、
そこから変えていくことはかなり難しかった。安易に変えることが出来
なかったさらなる理由として、その裏に私の脱退っていう真相が隠され
ていたこともある。
もちろんメンバーたちはそんなことは露知らず、シングル表題曲の変更
の件と急遽クリスマス前後に入ったレコーディングスケジュールにかな
り戸惑っていた。本当はクリスマスにメンバーたちみんなで集まって鍋
パーティーをしようって言ってたんだけど、忙しくなっちゃって当日に
はすっかり忘れてしまっていた。
けっきょく「ゾンビ(仮)」は『Memory 青春の光』になり、
初期『Memory 青春の光』は仮タイトルだった『Never Forget』に戻っ
た。つまりはそういうことだった。
ややこしくなるのでこの先は現在ある曲名であの頃を思い出していくこ
とにしよう。
- 104 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:56
- 『12月21日(月)
「HEY!HEY!HEY!」に生出演。半そでミニスカートで真冬のフジテレビの
大階段で歌うなんて間違ってるよ! もうみんな歯がガチガチ言ってた
し、みんなで抱き合ってどうにか正気を保った。終わった後にフジのき
くちさんから平謝りされたけど、みんなでブーイング。また番組出して
ねってちゃっかりおねだり』
『12月23日(水)
年明けのコンサートの初練習。今回は振り付けの先生が変わってやり方
が変わったから大変だった。なっちが「どうしよう。ついていけないよ」
って言ってたのを矢口が「がんばろうよ」って励ましてた。メンバー愛
っていいな』
『12月24日(木)
「ゾンビ」のレコーディング。今日は8人揃ってのレコーディングだっ
た。私となっちが先にレコーディングしているのをみんなは知らないか
ら裕ちゃんとかが不審そうな目でこっちを見てた。ゴメンネ、裕ちゃん』
- 105 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:56
- 『12月25日(金)
Mステに出演した後にレコーディングスタジオに戻ったらスタッフの人
たちがケーキとシャンパンを用意してくれていて、みんなでささやかな
クリスマスパーティー。時間がないからすぐにレコーディングを再開し
たけど、うれしかったなー。メリクリ!だね』
『12月26日(土)
「ゾンビ」のレコーディングがようやく終わった。つんくさんが言って
いた通りホントに今回は丁寧に時間をかけてじっくりレコーディングし
た。いいものができるといいな。
今日はカオリンが間奏のところの「アッハーン」ってセクシーボイスを
録ってたら、いきなり知らない人が「何をやってるんだ!」って入って
きてみんなで大爆笑』
『12月28日(月)
今日はコンサートの通し練習だったんだけど、あれで大丈夫かなあ。す
ごく不安。ちょっと準備時間が足りないんでないかい? なんか途中で
どうしてもツラくなってしまってトイレで泣いてしまった。反省』
- 106 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:57
- 『12月29日(火)
紅白の音合わせの後、再びコンサートレッスン。なんとか形になってき
た』
『1月1日(金)
年が明けちゃったなー。あけおめ。
昨日はレコード大賞で最優秀新人賞がとれてみんな号泣もんだった。み
んな頑張ってきたもんね。最高の思い出ができてうれしいよ。みんなあ
りがとう。
私は9時以降はサヤカと矢口と一緒にお客さんとして見てただけだけど、
紅白も最高だったね。あの緊張感は忘れらんないよ。でもNHKと赤坂を
いったい何往復したのか、クルマの中で何回着替えたのか、もうさっぱ
り分からない。すさまじい目の回る大みそか。
紅白のあとはNHKの食堂でみんなで年越し。サヤカの誕生日で何か準備
して祝ってあげたかったけど、忙しくてコトバだけでゴメンね。サヤカ
はみんなに「新人賞が取れたことと紅白出れたことが何よりのプレゼン
ト」って言ってたけど、今度なにか埋め合わせするよ。
今日はもう一日中ひたすら寝た。明日のコンサートうまくいくかなあ』
- 107 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:58
- 『1月2日(土)
なんとかなったー! 時間がなくてどうなるかと思っていたけど、みん
な頑張っていいコンサートになった。つんくさんがリハーサルの時に来
てくれて私たちの練習を熱心に指導。でもつんくさん酔っ払っているみ
たいで、ものすごく上機嫌。練習が終わった後に
「売れるかどうか分からないけど日本の音楽業界がひっくり返るくらい
良い曲ができた。お前ら頑張れ」って。
つんくさんは約束した通り、最高のものを作り上げたみたいだ。早く聴
きたいな』
『1月3日(日)
今日もつんくさんが来てくれてコンサート前のレッスンで指導してくれ
た。今回は演出の人も変わったからつんくさんもいろいろと不満がある
みたい。でもつんくさん明日からニューヨークに行くって言ってるのに
毎日お酒飲んでて大丈夫?
コンサートはもうお客さんがいっぱい入ってて盛り上がって最高だった
ね。あー、明日は思いっきり寝坊するぞー』
- 108 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 21:58
-
私たちのレコーディングは基本的に全員同時に始めて、その中でパート
を得るために競っていくってことがデビュー前からの決まりごとになっ
ていたから、『Never Forget』と『Memory 青春の光』でなっちと私が
先行してレコーディングしたことはメンバーたちには内緒だった。でも
やっぱり先にレコーディングすると、それなりに指導を受けているし直
すところも少なくなるから、勘のいい裕ちゃんや彩っぺはすぐに私たち
が先行して音を録ったことに気づいたみたい。二人ともそれについては
何も言わなくて、そこはやっぱり大人だったな。
でも私が脱退した後に聞いた話ではタンポポの『ラストキッス』のとき
にすでにカオリンが先行レコーディングをしていたらしく、「なんだよ
ー」と思ったものだけど、どうやらあの頃から明確に「この曲にはこの
メンバーの声」「ここのパートにはあいつ」ってあらかじめ決めた上で
つんくさんはレコーディングに臨んでいるみたいだった。
- 109 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/07(月) 22:00
- 『Memory 青春の光』のレコーディングが入ってしまったことで、年明
けの新春コンサートは練習に時間がなくて大変だった。振り付けも演出
も指導してくれる人がみんな変わってしまって現場の雰囲気もあまり良
くなかったし。だからつんくさんもコンサート会場に来て見るに見かね
て細かく指導しはじめちゃって、開演ギリギリまでバタバタしてた。
実際のステージは納得のいかないことも多かったし苦労もしたけど、夏
のファーストコンサートの時に比べれば客席を見る余裕もあって、何よ
りもそのお客さんが私たちのコンサートを楽しんで見てくれていること
が分かって感動したことを覚えてる。「あぁ、いい年明けになったなあ」
って…
- 110 名前:オリメンファン 投稿日:2008/01/08(火) 00:32
- >作者殿
御正体、推察つきました。
続きを期待しております。
- 111 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/10(木) 00:02
- >110
覚えててくれる方がいるのはホントうれしいもんです。
まあ今は以前みたいに雑談やりつつってわけにはいきませんけどね(笑
- 112 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/10(木) 00:04
-
新春コンサートが終わった後、私たちは1週間のオフだった。みんな帰
省したり、みっちゃんなんかは家族とグアム旅行に行くって言ってたけ
ど、あの時私は仕事人間になってたからオフをもらってもすることがな
くて、何もしないでダラダラと過ごして1週間が過ぎちゃったな。あと、
休みあけに自分の脱退の発表があるっていうのも決まってたから、毎日
それが気になって何をやっても落ち着かなかった。
『1月10日(日)
明日から学校…じゃなくて仕事。今週はいよいよ発表だ。みんななんて
言うかな…』
- 113 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/10(木) 00:05
- 『1月11日(月)
事務所に行って打ち合わせとファンクラブ向けの写真撮影。それとイン
タビューも取った。インタビューで「今年の目標は?」って聞かれるの
がツラい。あいまいな目標にするしかないじゃん…
つんくさんがニューヨークに行って完成させた「Memory 青春の光」を
聴かされた。ものすごいデキ。感動。なっちや矢口なんか飛び上がって
喜んでた』
『1月12日(火)
和田さんから明日アサヤンのカメラが来るって聞かされる。いよいよ明
日だ。みんなと会うのがこわい…』
『1月13日(水)
ゴメンね、みんな。
本当にゴメン…』
- 114 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/10(木) 00:06
-
あの日の私の日記にはただ「ゴメン」って言葉がノートいっぱいに溢れ
ていた。あの日にあったことは大きすぎて、とてもじゃないけど書き残
せなかったんだと思う。
あの日事務所では、裕ちゃん、なっち、サヤカ・圭ちゃん、タンポポの
3人、それと私に別れてアサヤンの新年の挨拶を収録するって予定にな
っていた。それぞれ別々に部屋を用意して収録するって。
でもそんな収録はなくて…、それは私の脱退を部屋別に報告してメンバ
ーの表情を撮るためのアサヤンの手段だった。4部屋に分かれたメンバ
ーたちにスタッフが私のモーニング娘。脱退を報告する。そういう手筈
になっていた。
アサヤンには映ってなかったけど、あの日みんなに脱退が報告されたあ
と、私は各部屋をまわって私自身の口からみんなにちゃんと説明をした。
それがアサヤンに映っていなかったのは私がそれを拒否したからで、私
はメンバーとプライベートで本気で話したかったんだ。それはアサヤン
のスタッフや和田さんも解かってくれて、部屋を私とメンバーだけにし
てくれた。
- 115 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/10(木) 00:07
- 裕ちゃんの部屋に入ったとき、裕ちゃんはまだ私が辞めることを疑って
た。「明日香、これドッキリやろ」って。
でも私が事情を説明していくうちに泣いちゃって、「明日香はそれで歌
うことを辞めてしまってええの?」って何度も聞かれた。でも、裕ちゃ
んは私がどうして辞めるかその根本の部分を解かってくれたみたいで、
しまいには「あたしも一緒に辞めようかな」とまで言ってくれた。
「ダメだよ裕ちゃんはモーニング娘。引っぱっていって、それに演歌頑
張って、その先のソロ歌手目指さなきゃ」
そう伝えたら裕ちゃん涙ながらにうなずいたんだっけ。「明日香の成長
をずっと見守っていきたかったな」って…
- 116 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/10(木) 00:08
- …次になっちに会いに部屋に入った。あの時のなっち、放心状態で心こ
こにあらずって感じで、私すぐに声をかけられなかった。あのあと私
「ゴメンね」としか言えなかったな…
ずーっと長い沈黙のあと、なっちは一気に「高校受かったら戻ってくる
んでしょ?」とか「ラジオだけでも一緒にやろうよ」だとか「ライブの
ときだけ戻ってくればいいじゃん」ってまくし立てた。
私が軽く首を振って「なっち…ごめんね」って伝えると、なっちの涙は
止まらなくなった。メンバーが声を出して泣いている姿を見たのは後に
も先にもあの時だけだったと思う。私、なっちの顔まともに見れなかっ
たな… 私はただもうなっちには謝るしかなくて、それまでの数ヵ月の
なっちとの思い出がガラガラと崩れていったようにあの時は感じていた。
けっきょく私もなっちもあの場では泣くことしか出来ずに時間だけが過
ぎていったんだっけ…
あまりにも長くなったことを心配した和田さんがノックして部屋に入っ
てきたことで、その長い心の葛藤のやり取りの時間は終わった。和田さ
んが女性スタッフも招き入れてなっちの面倒をみさせ、私には「早く次
の部屋に行け」って言ったことであのときなっちとの話は終わってしま
った…
- 117 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/10(木) 00:08
- 紗耶香と圭ちゃんと話した時にはちょっと落ち着いて話せた。それは夏
ごろにこの二人に相談したことがあったからで、そのことを二人とも覚
えていてくれた。でも二人とも本当にこうなるとは思ってなかったみた
い。「明日香はなんでもっと自分の気持ちを話さないの!」って圭ちゃ
んが怒ってくれたときは逆にうれしかったな。それは「あー圭ちゃんは
ホントに私のことを仲間だと思ってくれてるんだな」って分かったから。
私を本気で叱ってくれた圭ちゃんの気持ちがすごくうれしかったんだ。
紗耶香は私と一緒であまり自分の気持ちを話すのが得意じゃなかったか
らあの時は言葉少なだったけど、「いつか私が明日香が果たせなかった
夢をやってやるから」「もしその時一緒にやれたらやろうよ」って前向
きな言葉をかけてくれた。
あの時紗耶香と交わした言葉がその後の紗耶香の人生に影響を与えてし
まったみたいで、後年ちょっぴり心が痛んだけど、あの時は紗耶香との
会話が一番気持ち的に楽だったな…
- 118 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/10(木) 00:09
- 最後のタンポポの部屋。入ったら矢口が一番泣いてたっけ。
それとは逆にカオリンが笑ってた。彩っぺが「なんであんたは笑ってら
れんのよ」って怒ったら、「だって泣いてたら明日香だって困るじゃん。
明日香が決めたことを笑顔で受け入れてあげようよ」ってカオリン。
カオリン、良いこと言うなーってあの時は思ったものだ。しかもカオリ
ン、涙ながしながら笑ってたんだよ、あのとき…
彩っぺからも圭ちゃんと同じように「なんであんたは黙ってるの」って
すごい怒られた。「明日香はどこまでマイペースなんだ!」って。「私
はこういう決断をした明日香みたいに強くなれないから、明日香の言う
すべての一番を取って明日香を見返してやる」って宣言した彩っぺは相
変わらずカッコ良かったな…
この部屋じゃ矢口だけがもの凄い泣いていた。矢口にも声かけられなか
ったな… ぽろぽろ涙がこぼれ落ちてて、私も思わずもらい泣きしそう
になった… でもこの部屋は彩っぺとカオリンがいてフォローしてくれ
たから、なんとかちゃんと話はできた。
- 119 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/10(木) 00:10
- みんなと話したあと、今度は私がアサヤンのカメラの前で脱退報告をす
る番だった。タンポポの3人がいた部屋を使わせてもらって、視聴者に
脱退の報告をする。その間にメンバーたちは帰らされていて私は助かっ
たな…けっこう私も追い詰められていたから、あれ以上メンバーたちと
話すのはツラかった。それが自分の身勝手でワガママな考えだと分かっ
ていても…
…あの日起きたことを思い出すと今でもみんなの表情が鮮明に蘇ってく
る。
裕ちゃん、なっち、紗耶香、圭ちゃん、矢口、彩っぺ、カオリン…
あのとき私が部屋に入っていくとみんながみんな泣いていた。
私、みんなが私のことを思ってあんなに泣いてくれるなんて思ってもみ
なかった。前の年の「太陽娘と海」の頃にはあんなに浮いてた私のため
に、今はこんなに泣いてくれる人たちがいるんだって… 辞めるって報
告して、みんながどんなにお互いを支え合ってきたかってことが改めて
分かった気がしたんだ…
私は孤独なんかじゃなかったんだなって…
- 120 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 00:20
- 『1月14日(木)
夕方ダンスレッスンに行く前になっちから電話がかかってきて会社の近
くで話すことになった。会ったらなっちの目がはれててクマが出てた。
モーレツなザイアク感。
それでもなっちは昨日よりちょっと落ち着いてたから今日はちゃんと話
せた。でもやっぱり話していくうちになっちも私も泣いちゃったな…
勝手な言い草だけど、なっちにはこの先私の分まで歌を頑張っていって
ほしい』
『1月16日(土)
今日から「メモ青」の振り付けのレッスンに入った。
夏先生が戻ってきて、つんくさんも最初からダンスレッスンに立ち会っ
てる。タダゴトじゃないぞ、こりゃ。
8人での最初の立ち位置を上から見ると「M」の字に見えるようにするっ
て言われて、やっぱりこれも8人でモーニング娘。ってことなのかな』
『1月17日(日)
今日もダンスレッスン。カオリンが夏先生に6回くらい呼ばれても気付
かなくて、どっか違う世界と交信してたらしい。夏先生は怒りを通り越
してチカラなく笑ってた。
さっきアサヤンで私が辞めることが放送された。
何か起きると困るからって、私だけホテルに泊まってる。はぁー、携帯
もずっと鳴りっぱなしだよ』
- 121 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 00:21
- 『1月18日(月)
なっちとラジオ収録。脱退のことを話していたら2人とも泣きそうにな
っちゃってヤバいヤバい。収録が終わった後もこれからのことについて
ずっとなっちと話した』
『1月19日(火)
どういうわけか、私がやめる理由がメンバーからいじめられたからって
ウワサが流れてる。ムカつくなー、こういうのは。イジメをでっちあげ
て何が楽しいんだか私には理解できない。そりゃあね女同士だからいろ
いろとあるけど、私たちは歌を目標に競ってきたんだよ。そんなイジメ
なんかしてる暇があったら他の人たちにすぐに抜かれちゃうよ。ほんと
バカバカしい』
『1月20日(水)
ゆずのラジオを聴いてたら、私の特集をやってる!え?
「福田明日香の脱退をあなたはどう思いますか?』って。
私もFAX送ってみようかしらん』
- 122 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 00:22
- 『1月21日(木)
マイったマイった。矢口がアサヤンの収録中に泣いちゃうから私もつら
れちゃったよ。この先もう少し涙腺を強くしていかないとマズいぞ。
あとなんで何回も「社会科の勉強のためにやめるんじゃない」って言っ
てるのに、岡村さんはそういうことにしたがるんだろう。普段容姿のこ
とを言われたり、チャカされたりするのは仕方ないけど、人が真剣に話
していることをマジメに取り合ってくれないのはかなりムカつく。イジ
メ報道してるのと変わらないじゃん。岡村さんにはサヤカも途中でマジ
ギレしちゃったよ。
この際だからと思って収録中にハッキリと「仲が悪くてやめるわけじゃ
ない」「そういう事実はありません」って言っておいた』
『1月24日(日)
HEY!HEY!HEY!の収録。今日はついに座りトークだ。
今日もカオリン大暴走。松本さんも悪ノリしてカオリンの前髪を見て
「定規とカッターで切ってるの?」って。悪いと思ったけど私も笑っち
ゃった』
- 123 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 00:22
- 『1月26日(火)
芳林堂で「ビジネスマナーA to Z」を買った。やっぱこの先を考えると
ちゃんとあいさつとかお辞儀とかできるようになっていかないとね』
『1月28日(水)
ヨリコがうちに来て、ゆずのCDとか適当にあさって持っていった。あん
たはもーフラフラしてないで少しは学校に行きなさいっての。まあでも
あの子なりに私のことを心配してうちに来たのかもしんないな』
『1月31日(日)
夕食に母が八宝菜を作ってくれておいしかった。そのお礼を言ったらび
っくりしてた。…ずっと私はこういうことができなくなってたんだなっ
て、あらためて分かった』
- 124 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 00:23
-
脱退を発表してから10日間くらいは落ち着かなくて、私もメンバーたち
もコトあるごとに泣いていた。矢口はアサヤンの時に涙が止まらなくな
っちゃって大変だったな… いつも矢口はすぐに目に涙がいっぱいにな
ってきちゃってホント泣き虫だった。
…そうそう、脱退発表後に何が一番困ったかっていうと、まったく真実
が報道されなかったこと。特に私がいじめられて脱退するみたいな話に
なってて、どこからそんな話になるの?ってみんなで笑ってた。いい加
減なんだなあって。
- 125 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 00:24
- それと学業専念っていうのはいろんなことを考えた末の結果がそうだっ
たのに、それが理由で辞めるって話になってしまって、いろんな番組に
出てもそれを聞かれた。もう途中から説明するのも面倒になってしまっ
てそういうことにしてしまったけど、本当はそうじゃない。歌を歌う気
持ちを大事にしたかったから、音楽と真剣に向き合いたかったからそう
いう道を選んだんだよ、あの時は…
1月末くらいになると気持ちも落ち着いてきて、いろんなプレッシャー
からも解放されたからずいぶんと楽になった。メンバーたちと気軽にい
ろんなことを話したし、いつもあたってばかりだった親にも気を配れる
余裕ができた。ようやくね、半年くらい続いた苦悩の日々から脱出した
って感じだったかな。
- 126 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 23:53
-
『2月2日(火)
初めてのパパパパパフィー。チョコフォンデュしていろんなものを食べ
たけど、白子はやっぱダメだね。
その後に来週は忙しいからって、来週分のラジオの収録。
なっちが「明日は鍋するつもりだけど一人なんだよね」とか「買い出し
するの付きあってよ」って言ってくる。これって鍋に誘われてるの?』
『2月4日(木)
けっきょく昨日はなっちとお鍋してそのまま泊まっちゃった。
でもいろんな音楽の話とかしたし、他のメンバーには言えないこともい
っぱい話した。二人だけのヒミツなんだな(笑) あ!なっちが私のあ
げた目覚まし時計を使っててくれてうれしいっす。
今日はアサヤンの収録で毎度毎度のカオリンの勘違い歌詞講座炸裂。よ
くあの解釈で歌えるなあって逆に感心しちゃうな』
『2月8日(月)
ポップジャムの収録。やっぱりどの番組にいっても脱退のことを聞かれ
る。しかもちょっと間違った方向で。
でもお客さんの声援がうれしかった。やっぱりそれがあればいろんなこ
とも我慢できる』
- 127 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 23:53
- 『2月9日(火)
うたばんの収録でカオリンが中居君にけられたりして大変だった。ジョ
ンソンて誰のことなんだろ?』
『2月11日(木)
久しぶりに生田スタジオに行ってFUNの収録をした。今回から司会が松
任谷さんと今田さんと藤原さんにかわっててちょっとドキドキ。藤原紀
香さんはかなり大きい人で色気ムンムンだった。彩っぺがあのナイスバ
ディに嫉妬しまくり(笑)』
『2月12日(金)
Mステの収録でGRAPEVINEと一緒になったよ。けっこう歌声好きなんだよ
ねえ。ちょこっと話す機会があったけど、今度ライブがあるんだって。
行ってみようかな…』
『2月14日(日)
バレンタインデーに矢口がメンバーのみんなにチョコを配ってた。私は
ないなぁ、そういうの。好きでもない人に渡さないな… もちろん矢口
からはもらったけど(笑)』
- 128 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 23:54
- 『2月15日(月)
空き時間になっちと『ユー・ガット・メール』を見に行った。平日の昼
間だってのにけっこう映画館混んでる。映画のデキは微妙って感じ』
『2月16日(火)
なっちとサヤカと矢口とラジオの生番組に出演。普段なっちと録音して
るラジオに今日は生出演したんだ。
なっちが私へのコメントを言ってるときに、矢口が「なっち泣くなよー」
って岡村さんみたいな言い方で泣くことを煽ったんで総ツッコミ。「お
まえが言うなー」』
『2月17日(水)
うぇ! ゆずのラジオに生出演してた裕ちゃんと彩っぺと圭ちゃんがゆ
ずの岩沢さんを連れてうちまで来たよ。なにやってんのさみんな! 岩
沢さんが『夏色』を熱唱して帰っていった。うれしいけどさー、今何時
だと思ってんのよー。
今スタジオに戻って裕ちゃんたちトークしてるよ…えぇ!?
勘弁してよもー、私パジャマでノーブラだったじゃん。テレビじゃなく
てよかったよ、ほんと』
- 129 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 23:55
- 『2月21日(日)
タンポポの3人が新曲の撮影のためにサンフランシスコへ。
矢口おみやげよろしくね。
明日までに出さなきゃいけない交通費の計算が間に合わない。ヤバいヤ
バい』
『2月22日(月)
なっちとラジオ収録。そのあと時間があったから二人でマンガ喫茶に行
ってみた。初体験! おぉーサブカルの世界だー。こりゃヨリコが行っ
たらたまらんね』
『2月24日(水)
今週はタンポポの3人がいないから、仕事もレッスンもぽつぽつとしか
ない。こんな中途半端な空き時間は今までで初めてかも。
今日はサヤカが渋谷に行きたいって言うから渋谷に行って遊んできた。
ラーメン食べてたら途中でバレちゃって大変。渋谷の街を逃げ回った。
あとから合流してきたなっちに東急のデパートの地下ならおばちゃんし
かいないって言われて、3人で走りまくって逃げ込んだ。あー大変だっ
たけど面白かったっす』
- 130 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 23:56
- 『2月26日(金)
昨日はGRAPEVINEのコンサートになっちと行った。なっちは初ライブハ
ウスで大興奮。いやあ、いいもの見せてもらいました。元気出た。
そのままなっちのところに泊まって今日はMステ。つんくさんも今回は
シャ乱Qとして出演。久々にアーティストとしての顔を見たね。でもつ
んくさんの黒髪は変だ』
『2月27日(土)
そうだ! コンサートで「Never Forget」の弾き語りをしよう。そう思
って父親の部屋からギターを拝借してきたんだ。
今からやって間に合うかな… とりあえずちょっとずつでも始めよう』
- 131 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 23:56
-
2月は前半に『Memory 青春の光』でのテレビ収録が続いて、後半は比較
的余裕のあるスケジュールだった。メンバーとのプライベートな付き合
いはこの頃が一番充実してたかな。1年前の私からしてみたら考えられ
ないことだよ、これって。メンバーと一緒にいたってそれを自然なもの
として受け止められるようになってたんだから。
…モーニング娘。のことが好きで、メンバーたちが頑張っている姿が好
きで、お互いに気持ちを分かり労わっていく…、そんなことを教えてく
れたモーニング娘。っていう「グループ」が私は愛おしくてたまらなか
った。いろんなことを乗り越えてここまで作ってきた8人のメンバーた
ちが好きでたまらなくなっていた。
でも、この頃がメンバーたちと一番仲の良かった時期とはいえ、もうす
ぐ別れが近づいてきているのは分かっていたから、仲良くなればなるほ
ど別れがつらくなるんだろうなって予感はしてた。
- 132 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 23:57
- なっちとはこの時期にホントいろんなこと話したな…音楽のことから芝
居のこと、それにプライベートなこともいっぱい。なっちのところに泊
まりにいって朝まで語り合ったこともある。
そのときに「音楽を好きって気持ちが自分たちの出会いをもたらしたん
だから、絶対にそのことは忘れないでいよう」って約束した。この先何
年か経って会うことはなくなってしまっても、もしこの世からどちらか
がいなくなることになっても、その音楽を好きって気持ちだけは絶対に
忘れないでいようね…って。そしたら私たちの出会いも忘れないからっ
て…
紗耶香とはあんまり真剣な言葉のやりとりってしなかった。お互いに似
ている部分があって、特に喋らなくても時間が過ぎるのが苦痛じゃなか
ったから、なんか居心地よかったな… だから紗耶香がモーニング娘。
を辞めたあとも気軽に会えたりしたんだと思う。
- 133 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 23:58
- これから数年経ったとき、紗耶香が芸能界に復帰するってなって、そこ
にちょっと顔を出したことがある。そしたら紗耶香、なっちからも応援
メールが来てるって喜んでたっけ。
なっちはあの頃の気持ちを変わらずに持っている、そしてそれが紗耶香
との繋がりを生んでいる… あのときは裕ちゃんも一緒にいて、そんな
風な昔一緒に戦った仲間の繋がりが私はうれしかったな。
それから、2月の後半、ゆずの岩沢さんがうちに突然来て歌ったことや、
GRAPEVINEのライブを見たりして刺激を受けた私は『Never Forget』の
弾き語りを春のツアーの最終日までにするつもりで練習を始めてた。で
も、あれはちょっと気づいたのが遅すぎたな。もう2週間くらい早く始
めてれば練習出来たけど、さすがにね…3月入ってからは練習する時間
がなかった。
- 134 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 23:58
-
『3月1日(月)
ゴールデンアロー賞の授賞式に参加した。華やか。音楽新人賞というの
をいただいた。私はこのゴールデンアロー賞をよく知らないからこれが
すごいことなのかピンとこない。うーん…』
『3月3日(水)
今日はゴールドディスク大賞の授賞式。これなら私も知ってる。ニュー
アーティスト・オブ・ザ・イヤー賞をいただいて、なぜか私がスピーチ
をするはめに。いやぁ緊張した』
『3月4日(木)
私の自伝を出すことになって急に忙しくなった。かなり自由にやらせて
もらえることになって、写真を撮る場所や着る服、話す内容もけっこう
自分で決められるらしい。』
- 135 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 23:59
- 『3月6日(土)
春のツアーのコンサートレッスンが始まった。夏先生も私の最後のツア
ーってことで気合い入ってる。期待にこたえなくちゃ』
『3月9日(火)
うたばんの収録。もう席決めのことでカオリンが大暴走して大変。カオ
リンにはモーニング娘。が一つのチームとして良いものを作っていくに
は競う中にも他人を思いやる心が必要だよって言ってきたけど、分かっ
てもらえてるのかなぁ… なっちとのこともあるからこの先心配』
『3月11日(木)
なっちの部屋の天井の電気が落下して粉々にくだけちったんだって。な
っち、ろうそく暮らしだって嘆いてた。一歩間違えれば私が泊まってた
時に落ちてた可能性もあるんだな…
あ!なっちが天井に貼った星型の蛍光シールはろうそくの方がきれいに
見えるかもね』
- 136 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/11(金) 23:59
- 『3月13日(土)
今日は自伝で使う写真のロケハンをしたあと蓮沼の黒ひげ亭でご飯を食
べさせてもらった。
私が小さい頃から見てきた多摩川の景色を自分の芸能生活の最後に残し
ておけるのはけっこううれしい』
『3月15日(月)
今日は朝から地元で自伝に載せる写真の撮影だった。プロが撮れば地元
の景色もこんな風に見られるんだなあって感激。
他のメンバーたちは今日から次のシングルのレコーディングだって。ち
ょっと聴かせてもらったけど今までじゃ考えられないような爽やかな明
るい曲。みんな頑張れ!』
『3月18日(木)
コンサートの通しけいこ。今回は時間がきちんと作られて準備してる。
いいコンサートが出来そうな予感。やっぱりね、最後だからいいツアー
にしたい。聞いてくれてる人に気持ちの届く歌を歌ってね、気持ちのい
い終わり方にしたいな』
- 137 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/12(土) 00:00
-
私が辞めるにあたって書いた自伝『もうひとりの明日香』は、実際には
私が語ったことを文章にしてもらったもので正確に言えば執筆はしてい
ない。それでも話した内容はそのままだし、地元で撮った写真にも私の
意向が入っていてなかなか満足のいく出来に仕上がったと思う。
3月の中頃はダンスレッスンの合間やテレビ収録の合間にずっと自伝用
のインタビューをされてて、2月のときのようにメンバーたちと空き時
間に遊びに出ることも出来なくなった。それに他のメンバーたちにも
『5+3-1』の取材が入っていてそんな余裕はなかったかな… せっかく
始めた『Never Forget』のギターの稽古ももうこれじゃどうやっても間
に合わないってことで途中で諦めざるをえなかった。
3月に入ってから私が辞める4月18日まではあっという間だったな、うん。
- 138 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 00:28
-
実はこの日記はここで終わっている。
3月21日からモーニング娘。は初めての全国ツアーを回ることになるん
だけど、その時の日記を自伝に載せるっていうんで、この日記を付ける
ことは止めたからだ。だからこの先の日記は『もうひとりの明日香』に
残ることになった。
目の前にある赤い日記帳を引出しに戻し、瞼を閉じるとあの頃の思い出
が甦ってくる…
- 139 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 00:28
- あの最後の全国ツアー、『Never Forget』を歌うといつもみんな泣いて
いたっけ。矢口の方を振り向くといつも目を涙でいっぱいにしていて、
そんな矢口の手を裕ちゃんが取って慰めていた。それに他のみんなも…
泣いてないライブはなかったな。
いろんな番組に出るとモーニング娘。は毎回私が脱退することについて
のコメントを求められた。私は泣いて歌をダメにしたくなかったからわ
ざとそっけないコメントにしようとしてるのに、司会者の人たちが泣く
ようにもっていくんだよね、これが。
でもタモリさんやナイナイさんや石橋さん・中居君からも花束をもらっ
た時はうれしかったな。いろいろとイヤなことを言われたこともあった
けど、それはあの人たちが芸能界って世界で生きるためにあえてそうし
ているんだって、辞める頃になってやっと私は分かり始めたから…
- 140 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 00:29
-
東京で1日3公演の日が続いたとき、つんくさんがやってきて私たちにプ
レゼントをくれたことがある。9つの箱を用意して「これはお前らと俺
の9人だけの秘密や。他の誰にも教えないように」って言ってみんなに配った。
つんくさんは「俺も仲間に入れてほしいから9つ用意した」ってうれし
そうにニヤついたっけ。箱の中にはそれぞれ型違いのサングラスと色違
いのあるものが入っていた。
…それはみんなそれぞれのマイクカラーと対応したあるもの。
色違いに輝いていたけど、説明されなければ「へ?」って思ってしまう
ようなものが箱の中に入っていたんだ。
- 141 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 00:30
- 私にくれた箱の中、そこにはサングラスと緑色のケースのMDが1枚入っ
ていた。
MDの中身は…1曲目に私が歌った『Never Forget』、そして2曲目に最初
に発売する予定だったみんなで歌った『Never Forget』、最後の3曲目
にはなっちと二人でレコーディングした時のトラックがちゃんとしたア
レンジに直されて入っていた。他のメンバーたちの3曲目にはそれぞれ
がソロを歌ったバージョン。
つんくさんは「これは青春の光や。この時代を一緒に過ごしたって証し
なんや。『Never Forget』そのものなんやで」って自分のMDを持って私
たちに強く説明してくれた。あの話を聞いたときは感動したなぁ。
「モーニング娘。が8人だったこと絶対に忘れない。7人になっても私た
ちはずっと8人だと思って続けていく」ってみんなが言ってくれて、
「あぁ、なんて素敵なことをしてくれたんだろう、つんくさん」ってホ
ント感謝したな、あの時…
こんな風に『Never Forget』にはいろんな思いがあったから私は最後ま
で絶対に泣かないでこの歌をきちんと歌おうって決めていた。最後の最
後にも私はどうにか涙せずに歌い終えた。泣かなかったことを良く言わ
ない人もいたけど、ライブできちんと歌いきったことは辞めてからも私
の誇りだ。
- 142 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 00:31
-
…あれから8年以上が経つ。
『Never Forget』は私が歌ったステージを最後に封印され、圭ちゃんが
卒業のときに会社の命令で歌うことになってもつんくさんがアレンジを
変えて当時のままでは使わせなかった。もちろんコーラスからは裕ちゃ
んと彩っぺと紗耶香の声は外したし… 圭ちゃんも「その方がいい」っ
て言って、他のみんなもそれならってことで賛成した。
…去年矢口がどうしても歌いたいって言ってこの曲を歌った。
出会った頃の歌への気持ちを思い出すために、モーニング娘。へ一つの
けじめをつけるためにどうしてもって…
私のところにも連絡がきたけど、みんな快くそれを受け入れた。こうい
う時のために守り続けてきた約束だ。矢口が困難に突き当たって苦悩し
てるんならいつでも歌ってよ。言葉は伝えなくても、会えなくても、ず
っと私は矢口のことを仲間だと思ってるよ。
- 143 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 00:31
- だってさ、私の最後のステージで裕ちゃんが言ったことは今でも永遠に
私たちの約束なんだ。
「この日のことをずっと覚えていようね」って…
そして「モーニング娘。は永遠に8人なんだ」って…
もちろん私が辞めた後に入ってきた子たちだってモーニング娘。のメン
バーだってことは分かってる。後藤さんや石川さんにも会ったことがあ
るし、私が辞めたあとに7人は彼女たちと新しいモーニング娘。を作っ
ていった。
…でもね、私たちにはあのときあの経験をしたメンバーだけの絆がずっ
とあるんだ。その約束の象徴が『Never Forget』なんだ。
- 144 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 00:32
-
つんくさんからのプレゼントをもらう前、なっちとのラジオが終わるこ
ろだったかな…私はなっちにこう言ったことがある。
「もしこの先『Never Forget』を歌う機会があるならば、なっちに私の
パートを譲るよ」って。
私のパートを譲るってことは、実質的にこの曲をなっちに託すよって意
味だった。私が辞めた後にいろんなことが起こって、なっちが大変にな
ってもこの曲との思い出を忘れずに頑張っていってねって、そういうつ
もりだった。あの頃はなっちと音楽に対する考え方を解かり合っていた
から、私の気持ちをなっちに託そう…そんな気持ちもあったのかもしれ
ない。
…でもその後なっちはどんなにつらいことがあっても絶対に『Never
Forget』を歌わなかった。8人で交わした約束のこともあったけど、も
っとそれ以上に心に決めていたことがあったんだと思う。
ベストアルバムに収められた『Never Forget』の歌詞を見たときもそれ
は分かったし、2002年の梅雨頃に私に緑のマイクを向けてきたときもそ
れは分かった。なっちは私がもう一度この曲と向き合う日まで絶対にこ
の曲を歌う気はないんだな…って。
- 145 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 00:33
- 今思うと2002年のあの頃が私が芸能界に戻る最後の機会だったのかもし
れない。紗耶香もあの頃はやる気があったし、ヨリコのことをきっかけ
にして和田さんと連絡することも多かったし、フジのきくちさんとも会
ったりして、私さえその気になればそうなっていたんじゃないかって思
うこともある。
それに、私があのとき『モーニングタウン』の楽屋になっちに会いに行
ったのって、なっちからモーニング娘。を辞める決心をしたって聞かさ
れたからだった。どうなるか分からないけど、私の中での気持ちは固ま
ったって…
- 146 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 00:35
- あのあと7月の終わりになっちから電話がかかってきたとき、なっちめ
ずらしく泣いてた。私が辞めたあとに会いに行っても絶対弱音をはかな
かったなっちがね…「またあのときの思いが遠のいていくよ」って。あ
のときはなっちの思いとは裏腹に後藤さんと圭ちゃんの卒業が無理やり
決まって、それに矢口とカオリからタンポポがなくなるっていう、ずっ
と私たちがやりたいって思っていたことの真反対に行くようなことが起
こっていた。
もし私がなっちの差し出したマイクを握っていたら、7月の終わりにな
っちはどうしようとしてたんだろう… なっちに聞こうかどうか迷った
こともあったけど、それを聞く勇気は私になかった。答えを聞いたから
って、あの日に私がマイクを握らなかったことがすべてだった…
- 147 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 00:36
-
…そして私が卒業した1999年からもなっちの卒業の意志を聞いた2002年
からも時が過ぎ、今は2007年。
あのときの仲間だった7人も今はそれぞれの道を歩きはじめ、自分のや
りたいことで頑張っている。
彩っぺは私が辞めたあとに『LOVEマシーン』で「すべてのやりたいこと
はやった」って言ってモーニング娘。を辞めた。今では3人も子供を産
んで、人気のママドルとして芸能界で活躍している。
裕ちゃんの卒業公演には私も和田さんに連れられて大阪まで行った。あ
れからも裕ちゃんは私たちのリーダーであり続け、先頭に立って走って
いる。みんなに愛され頼りがいのある裕ちゃんは今も当時のままだ。
- 148 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 00:37
- 圭ちゃんは私が辞めたあと私が歌っていたパートを引き継いだ。あまり
喋らなかった圭ちゃんが一気にみんなのいじられキャラになってしまっ
た時は驚いたな。でもみんなに気を配る優しい圭ちゃんは変わらない。
カオリンは危惧していた通り、私の辞めたあとなっちと激しく衝突した。
でも徐々にカオリンも大人になり、いつの間にかすべてを受け入れられ
るようになっていった。もうすぐママになる彼女に当時の面影はない。
矢口とはなかなか会う機会がない。でもテレビ番組に映るいつも笑って
いる彼女の裏にはいろんな思いが隠されていることを私は知っている。
いつの日か夢がかなうといいね、矢口。
紗耶香。辞めた後も仲良かった。でも復帰するってなった後にいろいろ
あってね… みんなもどうにかしたいって気持ちはあったけど、力のな
い私たちにはどうにもならなかった。紗耶香、元気にしてるかな…
- 149 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 00:38
- そしてなっち。
この前電話をしてきた彼女からは何の屈託も感じられなかった。きっと
今の生活と活動に満足してるんだろうなって思う。話を聞けばずっと念
願だった生演奏でのライブも私が辞めた時以来再開したそうだ。
私が辞める前に彼女のところに泊まって朝まで語り合った音楽のコト…
彼女はずっとあの時の気持ちを持ち続けたまま今日までやってきた。
私にはそんな彼女がまぶしくて仕方がない。
私は昼間ボイトレの先生をして、夜は自分の店で歌うだけだ。それを後
悔しているわけじゃないけど、華やかな世界を知っている分、なっちの
いる世界と自分のいる世界の違いにちょっぴり気恥かしさを覚えたんだ。
「今度昔のメンバーだけで食事会するから明日香も来ようよ」ってなっ
ちはそう言ってた。私はその日に用事があったから行けなかったけど、
逆にむしろ用事が入っていたことにホッとしていた。なんかね…やっぱ
りどうしても気恥かしさがあるんだよ…
私はみんなの活躍を陰から見守っているだけでいいんだ。8年前に辞め
た時にずっと7人のことを応援し続けようってそう決めたんだから…
- 150 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:41
-
◇ ◇ ◇
- 151 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:42
-
……あの日記を読んだ日から数週間が過ぎた。
私の日常は変わらない。
週に何回かボイトレの先生をして夜は自分の家の店を手伝い、気が向け
ばリクエストされた歌を歌う。そんな毎日が過ぎていく。
なっちたちが食事をしたっていう日には留守電にメッセージが残ってい
た。裕ちゃんと、なっちと、彩っぺと、カオリンの声、それに和田さん
まで。懐かしい声に私の心は弾んだけど、それと同時にちょっぴり寂し
さも残った。久しぶりにこみ上げてきた孤独感…胸がキューっと締め付
つけられた。
- 152 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:43
-
…その日もいつもと変わらない一日。
お客さんが帰ったあと弟と店の片づけをして、店員たちを帰らせ、いつ
ものようにカウンターに座って仕事終わりの一息をつこうとしたときだ
…
「おめでとうー」
って言って閉店した店にドカドカと入ってくる集団があった。
その声で一発で分かる。
裕ちゃん!? それになっちも、矢口も圭ちゃんも! 何やってんの?
私の前には華やかに着飾った彼女たちが立っていた。いや裕ちゃんだけ
は圭ちゃんと矢口に支えられて立っている。あきらかに酔っ払ってる裕
ちゃんだ。
- 153 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:44
- 「明日香、水くれる」って圭ちゃんに言われてグラスに注いで裕ちゃん
の前に差し出した。一息で飲み干した裕ちゃんは「明日香、今日はなん
の日か分かってるんやろうな」ってグラスを突き返しながら言う。
もちろん分かってるよ…今日は私たちがナゴヤ球場で5万枚の『愛の種』
を完売させてデビューを掴み取った日だ。あれからちょうど10年の記念
すべき日だ。
「うん。分かってるよ…」って言ったら裕ちゃんが「じゃあなんであん
たはこんなところで一人で飲んどるんや」って…「うちらとは一緒に飲
めんってことかい!あたしの酒はクロワッサンと同じかい!」って支離
滅裂だ。
裕ちゃんをソファーで休ませた圭ちゃんが事情を説明してくれた。
今日4人で10周年記念のイベントをやったあと、そのまま飲みに行って、
裕ちゃんが途中でどうしてもここに突撃するって言い張って聞かなくな
ったから、その勢いで来ちゃったって。
- 154 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:45
- 私はカウンターに座った3人にジャスミンティーを出した。もうお酒は
いいんだろうなって思ったから…
そしたらなっちが「懐かしいね、この味」って。よく覚えてたなぁ、な
っち。そう、これはあの頃からずっと私が好きで飲んでたお茶だ。仕事
現場にお茶っ葉を持って行って飲んでたこともある。お金がなかったか
ら当時はそんなことして節約してた。
矢口が唐突に「ねぇカラオケある?」って聞いてきた。そりゃまあウチ
はこんな店だからもちろんあるけど… 分厚い歌本を渡しながら「何か
歌うの?」って聞いたら「うん」って。電源をもう落としてたから裏に
回ってスイッチを入れなおした。
そしたら矢口、ステージからマイクを2本持ってきて2本ともなっちに渡
す。
あれ?矢口が歌うんじゃないの?
そう問いかけようとしたときだった…
- 155 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:46
-
「福ちゃん、歌いますか? 歌いませんか?」
なっちがそう言って私にまっすぐマイクを向けてきたんだ。
裕ちゃんが目を覚ましていて真剣な顔でこっちを見ていることも横目で
見えた。
…私それで全部分かった。
人の気持ちの分からないバカな私でも、今ここでこのマイクを取らなか
ったらそれは最低なやつなんだなって…
ずっとあのときの気持ちを忘れずに芸能界でイヤなことにも堪えて必死
に頑張ってきたメンバーたちが今目の前にいる。そして、そんなメンバ
ーたちを応援してきた「つもり」の私がいる。
「つもり」を「つもり」でなくすには態度で示さなくちゃ何も伝わらな
い。8年前の約束が嘘じゃなかったことを、ずっと覚えていたってこと
をみんなに伝えたい。
- 156 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:48
-
「歌います…私、歌うよ!」
私はなっちの手からマイクを取った。
矢口がすかさずリモコンで曲を入れてくれる。
あの懐かしいイントロが始まる。それを聞くだけで矢口が涙していたイ
ントロだ…
♪I'll Never Forget You
忘れないわ あなたのこと
ずっとそばにいたいけど
ねぇ仕方ないのね
ああ 泣き出しそう 〜〜
- 157 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:49
- なっちが横で一緒に歌い、そしてそれを3人が見守っていてくれる。
あの頃のようにそこには涙はなく、みんなが笑顔だった。
なっちがうれしそうに歌い、
裕ちゃんが温かい目で、
圭ちゃんが懐かしそうに、
矢口が満面の笑顔で私たちが歌う姿を見ていた。
「ねえ福ちゃん。私たちにとって誰に何があってもあのときの約束は変
わらないから。ずっと仲間だし、何かあったらいつだって駆けつけるん
だよ。…だからあのときの歌への気持ちを絶対に忘れないでね」
歌い終わったあと、そう言ってなっちは微笑んだ。
私、なんて言ったらいいか分からなかった。…だってそのとき私だけが
泣いてたから。私の最後のステージとまったく逆だった。
- 158 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:50
- そしたら裕ちゃんがステージまで来て
「明日香、乾杯しようよ。なんかお酒出して」
って。
店の奥からとっておきのシャンパンを持ってきた。
あの年のクリスマスとは違ってちゃんとアルコールの入った本物のシャ
ンパンだ。
私はグラスを8つ出してシャンパンを注ぎ4人に渡していった。
3つのテーブルに置かれたままのグラスをちらっと見て裕ちゃんが掛け
声をかけた。
- 159 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:51
- 「私たちが出会った日に…」
「「カンパーイ!」」
思いっきりの笑顔でグラスを合わせた。
そして誰ともなく言ったんだ
「いつかまたみんなでね…」って。
- 160 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:52
-
◇ ◇ ◇
- 161 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:53
- 1ヵ月ぶりに歩いた表参道の街はすでに銀杏の葉が黄金色の絨毯を作っ
ていた。クリスマスのイルミネーションもところどころに飾られていて、
街の雰囲気はどこかそわそわしている。
また春が来て、夏が来て、秋が来るだけさ。
そう思っていただけの景色が今は違って見える。
これから私が行く道は正しいのかどうか分からない。
また後悔することになるのかもしれない。
でもちょっとは成長できた今なら私は出来るのかも…
- 162 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:54
-
私は今日、未来への扉をくぐる。
約束の橋を渡って…
みんなの待つ世界へ。
〜fin〜
- 163 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:55
-
この作品はフィクションです。
実在の人物や出来事とは一切関係ありません。
- 164 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:56
- 【参考資料】
福田明日香『もうひとりの明日香』
ASAYAN 編『5+3-1』
安倍なつみ『ALBUM 1998-2003』
中澤裕子『ずっとうしろから見てきた』
石黒彩『娘。からママへ』
矢口真里『おいら』
夏まゆみ『変身革命』
別冊宝島『モーニング娘。バイブル』
1998〜1999年 テレビ東京『ASAYAN』
1998〜1999年 TBS『うたばん』
1998〜1999年 フジテレビ『HEY!HEY!HEY!』
1998〜1999年 テレビ朝日『ミュージックステーション』
1998〜1999年 NHK『POPJAM』
- 165 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:57
- 1998.09.12 フジテレビ『LOVE LOVEあいしてる!』
1999.01.03 フジテレビ『LOVE LOVEあいしてる!』
1998.12.03 フジテレビ『FNS歌謡祭』
1998.12.26 フジテレビ『めちゃめちゃイケてる!』
1999.01.01 フジテレビ『新春かくし芸大会』
1999.02.10 テレビ朝日『パパパパパフィー』
1998.09.18 日本テレビ『FAN』
1999.02.19 日本テレビ『FUN』
1999.12.29 日本テレビ『音楽神話』
1998.09.20 愛知テレビ『BANG!』
1998.10.01 TBS『COUNT DOWN ALL HIT'S』
1998.12.31 TBS『日本レコード大賞』
1998.12.31 NHK『紅白歌合戦』
1999.01.21 NHK-BS2『アジアライブドリームIN上海』
1999.03.03 NHK『日本ゴールドディスク大賞』
- 166 名前:約束の橋 投稿日:2008/01/13(日) 17:58
- 1998 テレビ東京『太陽娘と海』
1999 テレビ東京『ガレージ』
1998〜1999年 TOKYO-FM『モーニング娘。のお願いMORNING CALL!』
1998.09.10 ニッポン放送『モーニング娘。のオールナイトニッポン』
1999 ニッポン放送『ゆずのオールナイトニッポン』
1999 TOKYO-FM『ミリオンナイツ』
Hello! 会報 vol.1〜5
オリコン・CDでーた・B.L.T
WHAT'IN・UP to BOY・TV kids 各誌
- 167 名前:池田屋 投稿日:2008/01/13(日) 17:59
- あとがき
5、6年ぶりに書くにあたって、書くのに迷った時代が他に二つありまし
た。2002年のことをもう一度書くか、それとも2007年のことを書くか。
特に後者は選ぶメンバーによっては面白い話になるなと、構想だけはあ
ったので迷いました。それでもやっぱり初期の頃を一度書いておいた方
がいいのかなと思いまして、今回の時代を選ぶことにしたのです。
日記の内容は一つ(いや二つと書いた方がいいかな…)の大きな嘘を除
けば、出来る限り当時の証言を元にしています(もちろん小さな嘘は無
数にありますし、もっと大きな意味ですべてが嘘ですが)。学校の行事
などは現在の学校のホームページからの流用です。99年3月半ばからの
ことは日記にするかどうか迷った部分なのですが、個人的に思いが強す
ぎて日記にするのはやめました。どうかご理解ください。
- 168 名前:池田屋 投稿日:2008/01/13(日) 18:00
- 調査に数年かかり、妄想も数年、書くのはそれに比べたらとても短い時
間になってしまいました。とにかく書く時間があまりないので急いで書
き上げてしまったのですがいかがでしたでしょうか? 文章力・構成力
が足りず、稚拙な文を書いているのは重々承知しておりますが、当時の
メンバーたちの気持ちが少しでも文章にのっていると感じていただけた
ら作者冥利につきます。
それでは短いですがこのへんにて。
またいつかお会いしましょう。
すぐのことになるか、ずっと先のことになるかそれは分りませんが…
- 169 名前:池田屋 投稿日:2008/01/13(日) 18:01
-
そうだ大事なことを一つ忘れてました。
福田明日香が生まれて初めて買ったCDが
佐野元春の『約束の橋』でした。
今回の作品はもちろんこの歌詞に影響を受けております。
うたまっぷ
ttp://www.utamap.com/showkasi.php?surl=37170
それでは、みなさん楽しいヲタライフを。
池田屋
- 170 名前:- 投稿日:2008/01/13(日) 18:01
-
・
- 171 名前:- 投稿日:2008/01/13(日) 18:02
-
・
- 172 名前:- 投稿日:2008/01/13(日) 18:02
-
・
- 173 名前:オリメンファン 投稿日:2008/01/15(火) 00:54
- >池田屋様
おつかれさまでした。
読み応えありました。
最後に、この言葉を全てのモーニング娘。在籍メンバーに捧げます。
「20代には20代のSOMEDAY、30代には30代、 そして40代には、40代にいつかきっとという気持ちがあると思います」
by 佐野元春(「クリスマスの約束」より)
- 174 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/22(火) 03:03
- 夏の記憶が甦ります。
ちょっと立ち寄っただけの私を、未だにココに留めてくれた甘辛い記憶です。
今回もありがとうございました。
- 175 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/24(木) 02:54
- お疲れ様でした。
この気持ちを表す言葉を持たないことが歯痒いです。
いつかこの場所でお会い出来ることを願って。
- 176 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/24(水) 23:50
- ★ FA-1 ★
クリスマス?
休みなんてあるわけないじゃん。
かきいれ時だよ、この時期は。
その日だけは最近固いお客さんの財布の紐も緩くなるだろうし
不景気なこのご時世、うちにとっちゃ死活問題だっての。
あるんだかないんだか分らない私の給料だって少しは増やしたいよ。
知らぬ間に料理の腕も上がって、お酒を作るのも上手くなって、
…あ、上手くなったってのはアルコールの配分量ね、
お客さんを上手く酔わすのがこの商売の腕の見せ所って…おっとこれは内緒ね。
とにかく勝手に花嫁修業させられてるみたいなもんだけど…
それは助かるんだけどさ、やっぱりここに閉じこもって
クリスマスの夜が過ぎちゃうってのは24の乙女としてはサビシイねえ。
- 177 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/24(水) 23:52
- え? クリスマスソング?
歌わないよぉ、柄でもないし。
お客さんがどうしてもって言えばまあしょうがないけど
一人で歌うのはこっぱずかしいかな。
ん? Happy Night?
何言ってんの?
いくら盛り上がるからって言ったって歌わないよ、私。
自分で歌えばいいじゃないのさ、そんなに好きなりゃさ。
…携帯を切るとまたいつもと同じように仕込みの準備を始めた。
今日はケーキの準備があったり常連さん用にクッキー焼いたり大忙しだ。
エプロンのポケットに入った携帯をちょっと見やった。
ちょっと言い方きつかったかな…
そう思った私の思考を圧力鍋のタイマーが遮る…
はいはい、今開けますよ…と。
- 178 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/24(水) 23:54
- ★ IS-1 ★
巨大な店の中を行き交う女子高生、そしてカップルたち、
どの顔もウキウキとして心ここにあらずといった感じ。
私のいるフロアも華やかな装飾が施されて、
点滅するイルミネーションが目にも鮮やかで眩しいくらい。
クリスマス・イヴ……
浮かれる世間様とは逆に私は地味に店を行き交う人を眺めている。
そして目をつけた人に声をかけて商品を勧めている。
店に入って半年以上…もうすぐ一年かな、
ようやく慣れてきてそれが普通の生活として馴染んできた。
- 179 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/24(水) 23:55
- 結婚して早4年。
外に出たくなった私の気持ちを理解してくれて
旦那は私が働くことを快く許してくれた。
「もうそろそろ何かやりたくなるんじゃないかなって思ってた」
そう言って送り出してくれたけど、24歳になるこの年まで
普通の社会人としての仕事経験がない私には不安がいっぱいだった。
そして私のこれまでの人生がいつマイナスに作用してもおかしくないわけで、
今ここで店に立っていても人の目が怖いことがある。
たった今も最新のコートを勧めたお客さんが私の顔を二度見して、
あ…バレたなと思ったばかりだ。
そんな時は軽くあしらって、時にはそれを逆に利用して服を売るすべも覚えた。
…私は洋服屋の売り子さん。
いつか自分でデザインした服を売ることを夢見て
毎日毎日足をむくませながら売り場に立っている。
クリスマスでもお正月でもそれは変わらない毎日…
- 180 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/24(水) 23:58
-
★ TR-1 ★
久しぶりに戻ってきた札幌は思っていたよりもずっと寒かった。
南の島で過ごして日に焼けた肌には、ちらつく雪が堪えるよ。
戻ってきたのはほかでもない、
ずっと仲の良かった小学生の頃の仲間に誘われたからだ。
中学高校と他県で寮生活をし、その後は十勝と沖縄で過ごした私にとって、
小学生の時の子どもミュージカルの仲間は地元札幌での数少ない友人たちだ。
その仲間たちと駅で待ち合わせると、再会の喜びもそこそこに
現役の子どもミュージカルの子たちが今日讃美歌を歌うという教会に向かう。
私も小学生の頃に歌ったことのある教会…
今日いる仲間たちと一緒に練習をし、赤いベレー帽を被り白いスモックを着て、
ろうそくを持って、ちょっと誇らしげだったかな、あの時は。
ひんやりとした教会の中は、クリスマスの儀式の厳粛な雰囲気が漂っていた。
外からも聴こえていたパイプオルガンの音が中に入ると私の気持ちを
一層懐かしくさせる。
それは高校生まで毎日当たり前のように聴いていた音だったから…
- 181 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/24(水) 23:59
- 最後列の近くに友人たちと腰を下ろすと、
私たちを待っていたかのようにパイプオルガンの音が一旦止まった。
そして一呼吸を置いて教会の扉が開かれると、
そこには子どもミュージカルの子たちが2列になって、
それぞれろうそくを持って並んでいた。
再び鳴り出すパイプオルガン。
静々と歩みを合わせて教会に入場してくる子供たち。
「も〜ろびと〜こぞ〜り〜て〜♪
むか〜えま〜つれ〜♪」
パイプオルガンに合わせて私も知らぬ間に口ずさんでいた。
たくさんの人たちの幸せな目が子供たちに向けられている。
その中を子供たちがそれ以上の幸せそうな目をして檀上に向かう。
私の愛した世界はまだここに生きているんだ…
- 182 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:00
-
★ FA-2 ★
まったく、『ラストクリスマス』や『クリスマスイヴ』を歌わされるのはまだしも
『赤鼻のトナカイ』まで私に歌わせるってのはどういうことよ。
その分チップもはずんでもらったから文句も言えないけどさぁ。
しかも今、私の目の前のカウンターにはぐでんぐでんに酔っぱらって
さらに涙で化粧が剥がれ落ちた子が座っているという、
お世辞にも有難いとは言えない状況だ。
目の前に座っている子は私の小学生の頃からの同級生で、
中学で私が先輩からいじめられそうになった時に
私を守ってくれた子でもあるから邪険には扱えない。
お互いに悪さした部分も知っているしね…
そんな彼女がイブの今日、しかも10時を過ぎた頃に泣きながら私の店に入ってきた。
まあ事情は聞かないけどさ、そりゃどう見たってねえ…
でも走り込む先がウチってのは、うら若き乙女としてはちと問題ありじゃないの?
いくら通い慣れた場所とはいえ、営業中はねえ。
- 183 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:02
- 「あんたさあ、いつまでもそこ座ってないであたしの部屋にでも行ってなよ」
そう言っても
「あたしはお客ですー」
って席から離れようとしない。
まったく…
11時を回ってお客さんがぽつぽつと帰りだし、
私が洗い終わったグラスを拭いていると
「あんたは今日ここだけでいいの?
どっか行ったりしなくていいの?」
少しは酔いが冷めてきたのか妙に気を遣い始めた。
- 184 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:03
- 「まあ別に。ウチは客商売だから
この時期の夜は忙しいこと分かってるし」
「かーっ、明日香はいっつもクールだねえ。
こう燃え上がるムラムラ感っちゅうのはないんかね。
あんたにあたしのムラムラ感わけてあげたいくらいだわ」
「ムラムラ感じゃなくて無理無理感でしょ、あんたのは」
そう言ったらまた落ち込み始めた。
ま、慣れてるからいいんだけど。
2時も回ってお客さんもみんな帰って、残っているのは彼女だけ。
今から家に帰るわけにもいかないだろうから、私もちょっとだけ彼女に
付き合って飲むことにした。
- 185 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:04
- 「今日歌ったの?」
「ちょっとだけね」
「自分の歌は?」
「いやもう作るのやめたし」
「そうじゃなくて、あんたたちの歌」
「もうあたしたちの歌じゃないし」
「またそうやって屁理屈を言う。
あんたを応援して一緒に学校でビラ配ったりしたのは幻だったのかい?
あたしにとっちゃまだ明日香の歌だよ、あれは」
「それを言うなよー。
もう昔のことだって…」
彼女にとってはたわいのない一言なんだろうけど
私はけっこう嫌なんだよなぁこの会話。
でも彼女はそんなことはお構いなし。
- 186 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:06
- 「ねえ、何か歌ってよー!
たまにはあんたの歌でも聴いてみたいわ」
「あたしの歌でもって」
「頼子の歌は聴き飽きたからあんたの歌がいいの。
ちょっと明るくなるような曲でもやってよ!」
「明るくってねぇ…
あたしになかなか難しいこと言ってくれるね」
「んなことないじゃん。
昔『Happy Night』歌ってた明日香は楽しそうだったよ。
あれ、明るくて好き」
「へ?」
本日二度目のHappy Night。
楽しい夜ねぇ…
- 187 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:07
-
★ IS-2 ★
お客さんに乱された洋服をたたみ直していると、
私の後ろに小柄な女の子が一人立っていた。
女の子というよりもたぶん私と同年代くらいかな…
ちょっと幼い感じを残した可愛い子だった。
「メリークリスマス」
そう優しく声をかけられて彼女の正体に気付いた。
容姿と同じで、年齢とは不釣り合いなくらいに可愛い声…
昔のショートカットのイメージが強くてわからなかったけど、
長い髪を除けばいろんなところに面影が残っている。
「玲子ちゃん!?」
そう驚く私を見て彼女はニマっとした。
「おうおう、久しぶりだねー」
そう言う彼女の声はどこまでも可愛い…
- 188 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:08
- 大森玲子ちゃん。
私がまだ芸能人だった頃、一緒にフジテレビのかくし芸大会に出演した子。
あまり一緒に練習はしなかったけど、同学年で同じ街に育ったから、
初対面でもそれをきっかけに打ち解けることが出来た。
でもそれだけの接点だったはずだけど…
彼女は現在裕ちゃんと一緒にラジオをやっていて、
毎週この大型商業施設から中継するレポーター役をやっていたから、
いつか会ってしまうんじゃないかという心配はしてた。
あんまり会いたくなかったんだけどな…
正直なところもう娘。時代のことは忘れたいし、みんなに会わす顔もないし…
そんな気持ちが顔に出てしまったのだろう、彼女はまたニコっとして
「大丈夫だよ。人にベラベラ喋ったりしないから」
って。
- 189 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:11
- 「なんであたしなんかに声かけたの?」
って聞いたら
「あたしなんかって言うなよー。
懐かしかったから声かけたの?ダメ?
同じ地元の仲じゃんよー」
「イヤ、ダメってわけじゃないけどさ…」
「じゃあ、いいじゃん。
あたしのことも見かけたら声かけていいよ」
「何その上から目線、ムカつくー」
私がちょっとむくれたのをきっかけに逆に気持ちがほぐれ
その後も少し立ち話しした。
しかも私に二、三洋服を持ってこさせるとそれを買い上げてくれた。
…もちろん彼女の笑顔に負けて値段をかなりまけさせられたんだけどね。
お買い上げありがとうございました。
そう見送ろうと思って通路にまで出ると、
彼女はこれまた明るく私に話しかけてくる。
- 190 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:12
- 「あたし、今『玲子』って言わないんだよ。
相原玲って言うの。まあ別にどっちでもいいんだけどさあ。
あたしもいろいろあったの知ってんでしょ?
そんで心機一転、名前まで変えちった。
それから今では明るく楽しく芸能人やってるよ。
だからさ、紗耶香も『あたしなんか』って言ってないで
もう過去の過ちは忘れてもっと気楽にいきなよ」
そう言いポンと私の背中をたたいた彼女は
私から服の入った紙袋を受け取って帰りだした。
私はその背中に向かって声をかけた。
「れーこ、また来てね」
彼女はこっちを向かずに軽く手を振るとそのまま去って行った。
- 191 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:13
-
★ TR-2 ★
礼拝が終わって劇団の人たちや神父さんたちへの挨拶を終え、
話し込んでいる友人たちをおいて先に教会の外に出た。
私がここに来るまではなんとかもっていた天気も今は本降りだ。
上を見上げると雪がどんどん私の顔に降り積もってくる。
「♪Ah 雪の中を Uh 歩いてると
思い出す今夜も 故郷の街並♪」
雪を見ながらつぶやくように歌っていると
白いスモックを着た小学校の低学年くらいの女の子が不思議そうに私を見上げていた。
子どもミュージカルの子か…
「それなんて曲?」
このくらいの子は遠慮ないなあ。
ちょっとかがんで微笑みながら私は返した。
- 192 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:14
- 「ちょっと昔の曲。
ちょうどあなたが生まれて来た頃の曲かなー」
「誰が歌ってたの?」
「お姉ちゃんだよぉ。
お姉ちゃんね、これでも昔歌手だったんだよ。
おっきなステージで歌ったりしたこともあるんだから」
「へぇ、すごーい。
もっと歌ってよお」
彼女の期待に応えるべく私は教会の石段をステージに見立てて歌を披露することにした。
彼女のためだけに歌うステージ。
無邪気な笑顔を見ているとこちらまでうれしくなってくる。
その笑顔が幸せを分けてくれているんだ。
『雪だより』を歌い終えて『北海道シャララ』を歌っていると
この女の子の母親らしき人が心配して探しに来た。
「本当ににすいません。
この子ったらもうー」
私の顔も見ずに女の子の頭を押さえて、謝ってくる。
- 193 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:16
- 「いえ、そんな…
私も楽しかったから…
ねー楽しかったよね」
そう女の子に声をかけようとしたらその母親が
「もしかして、りんねさん!?」
って驚いた顔をする。
この子が劇団に入っているから、その関係で私を知っている可能性もある。
だから別に警戒もせずに
「そうですけど…」
と答えたらびっくりする話を聞かされた。
- 194 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:18
- その母親は私の5つくらい先輩として劇団で活動していたらしい。
人づてに私のことも聞いたことがあって、十勝で芸能活動していたことや
その後ちょこちょこと劇団に顔を出していたことも知っていたとのこと。
そしてあの事故のことも…
そう私の大切な仲間を失った9年前のあの事故のこと…
すると傍らで私たちの会話をつまらなそうに聞いている女の子の肩を抱いて、
彼女はあることを打ち明けたのだ。
「この子、今年で9歳になるんです。
7月16日生まれの9歳です。
ええ、1999年の。
私、この子が生まれてから2、3年してこのことに気付いたんですけど…
今日という日にこの子がりんねさんに会えたことに
ものすごくびっくりしているんです。
しかもまさかこの子と歌を歌っているなんて…」
それを聞いて私は言葉が出なくなった。
- 195 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:19
- 驚き?
運命?
神のお導き?
女の子に目線を移すとニコっと彼女は微笑んでくる。
私は彼女を抱きよせて耳元にそっと話しかけた。
「りんねのこと忘れないでね。
一緒に歌ったこと忘れないでね」
女の子が小さな手で私のことをギュッと抱き返してきた。
「うん。ぜったい忘れないよ。
お姉ちゃんもわたしのこと忘れないでね」
- 196 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:20
-
★ FA-3 ★
酔っ払った彼女をどうにか自分の部屋まで連れて行って寝かしつけた後、
店に戻って後片づけ。
一緒に片づけをしている弟にも聞いてみた。
「ねえ、『Happy Night』歌ってたあたしって楽しそうだった?」
テーブルを拭きながら弟が面倒くさそうに答える。
「なんだよ、今さら…
一生懸命やってたってことは楽しかったってことじゃねえの?」
「楽しそうに見えたんだ?」
「なんだよ、キモいなあ。
そうだって言ってんじゃん」
「ふーん……」
片づけを終えると一人ビルの屋上にあがった。
- 197 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:24
- シーンとした街。
たまに聞こえるのは新聞を配達するバイクの走る音だけだ。
ネオンが落ちた街から空を見上げると微かに星が瞬いて見えた。
星に願いを…か。
意味もなくそんなフレーズが思い浮かぶ。
思い浮かぶままにポケットから携帯を取り出してメールを打った。
「今度一緒に『Happy Night』歌ってよ」
すぐに返事が来た。
「福ちゃんの望むままに」
って、何きどってるんだか…
思わず苦笑してしまった。
…でもその意味に気付く。
そっか…今日はクリスマスイブだったね……
- 198 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:25
-
★ IS-3 ★
あれから玲子が私の店に来ることはなかった。
このでっかい施設のどこかで毎週インタビューしてるのは確かなんだろうけど、
会うこともなく日々が過ぎて行く。
でもそんなある日の休憩時間、
彼女がラジオの収録隊をつれて館内を移動しているのが偶然上から見えた。
こっそり追いかけていって後ろから軽く叩いた。
「なんだよもー、びっくりさせないでよー」
彼女は飛び上がってびっくりしていた。
「声かけていいって言ったの玲子じゃん。
それともその場限りの嘘?」
「いや、いいって言ったけどさー、
驚かせとは言ってないじゃん。
もし収録中だったらどうする気でいんのよ」
玲子がブツブツ言っている。
- 199 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:26
- 「あたしがそんなヘマするわけないでしょ。
ただの素人じゃないんだから」
「お!何か吹っ切れてるねえ。いいじゃん紗耶香」
すると彼女は収録隊となにやら打ち合わせして
ニタりと笑うと私に一つ提案してきた。
「ラジオ出てみる?」
「いや、なに言ってんの?
無理無理。無理に決まってんじゃん」
「大丈夫だって。
ショップ店員の紗耶香さんなら誰も文句つけないって」
彼女は笑いながら事もなげに言う。
そしてわざと私に聞こえるように
「裕子さんびっくりするだろうなあ」
「裕子さん面白がるだろうなあ」
なんて言ってる。
- 200 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:27
- それを聞いて私の反骨精神がムクムクと蘇ってきた。
じゃあやってやろうじゃないの!
そのかわりどうなっても知らないかんね。
「よしやろう」
私の決断に玲子は親指を立てて
「グー」って言ってる。
おい、それは古くないかい?
あれやこれやとあっという間に話は進み、すぐにスタジオとの中継となった。
玲子がスタジオとのトークを始めている。
「今週はちょっといつもと違った場所からお送りしていまーす。
今週は館内でも人気のショップから店員さんを招いていまして、
その方からお話を伺っていこうと思いまーす。
スタジオの裕子さんは、ショップの店員さんにお友達がいたりとかしますかー?」
「いやあ人見知りだからさあ、
あんまり店員さんと話し込んだりしないんだよねえ、あたし」
懐かしい裕ちゃんの声が聴こえてきた。
何年ぶりだろう…
- 201 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:28
- 「今日はPエリアQ階にある人気ショップからこれまた可愛い店員さん
サヤカさんを迎えております。
裕子さん、この方めっちゃくちゃ可愛いんですよ」
「そうなの? めっちゃ見てみたいわぁ。
サヤカさん? どうもー初めまして。こんにちは!」
玲子が笑いをこらえながら私の方にマイクを向けた。
「よっ。裕ちゃん。久しぶり!
あたしは元気でやってるよ
いろいろと迷惑かけてごめんね」
「ふぇぇぇー!
何これ? 聞いてない聞いてない」
慌てふためく裕ちゃんの姿が想像できた。
再会まで迷惑かけてごめんね、
ゆうちゃん。
- 202 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:30
-
★ TR-3 ★
札幌の仲間たちと旧交を温めると、私はすぐに札幌から特急に飛び乗った。
もちろん千歳行きじゃない。
特急で一路東に向かって帯広で降りるとレンタカーを借りた。
久しぶりの雪道の運転が怖かったけど、除雪はしてあるから大丈夫だろう。
この道を行くのも6年ぶり。
知らぬ間に高速道路が出来上がり、
みんなで遊びに行ったカラオケスナックはなくなっていた。
あそこがどれだけ変わってしまったかと思うとちょっと不安だった。
たくさんの観光客と重機を積んだクルマとダンプがあそこに向かっている。
私がいた頃からは考えられない盛況ぶりだ。
- 203 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:31
- 牧場には入らなかった。
クルマをちょっとだけ止めて遠くから私たちがいた場所を眺めた。
もうあそこは私の知っている場所ではない…
でも9年前の7月に起きたあの事故の場所と、
私たちが一緒に暮らしたコテージにはきちんと挨拶をした。
いつまでも私の心の中に…
そう願ってお祈りをした。
- 204 名前:星のかけら 投稿日:2008/12/25(木) 00:32
-
沖縄に帰ると私は一通の手紙を出した。
宛先はない。
あの札幌で出会った女の子と一緒に映った写真を同封し、
「いつまでも一緒に歌っています」
その一言だけ書いて翡翠の色をしたボトルに入れ、
目の前いっぱいに広がるエメラルドグリーンの海にそっと流した。
〜fin〜
- 205 名前:- 投稿日:2008/12/25(木) 00:33
- ・
- 206 名前:池田屋 投稿日:2008/12/25(木) 00:34
-
あとがき
聖夜に短編を一本。
今日に合わせるために日曜に急いで書きました。
もっと細かく心情を描いてもいいのかもしれませんが
短編のつもりでしたのでこれくらいでいいかなと言い訳しておきます(笑)
これを叩き台にする可能性もありますしね。
『約束の橋』からちょうど1年。
今度はいつになるでしょうか…
池田屋
- 207 名前:- 投稿日:2008/12/25(木) 00:35
- ・
- 208 名前:- 投稿日:2008/12/25(木) 00:35
- ・
- 209 名前:オリメンファン 投稿日:2008/12/25(木) 00:49
- ずっと楽しかったね
あの頃 まわりの全てが
優しく いつも僕らを
包んでいるように見えた
語り合って 語りつくした
あてもなく探してた
その道を果てしなく
どこまでも どこまでも
哀しみはやがて 消えることを知った
喜びはいつまでも 輝き続けることを
思い出は今も あの時のまま
思い出に そして君に
だから さよならは 言わない
たとえこのまま 会えないとしても
思い出に そして君に
きっと さよならは 言わない
決して さよならは 言わない
××××××××××
偶然、投下現場を目撃しました。
感想に替えて、物語にぴったりの曲の歌詞を書き込んでおきました。
- 210 名前:池田屋 投稿日:2009/01/01(木) 22:26
- >>209
書き終えた後はここではレスしないつもりだったのですがひとこと。
小田さんの新曲はまだ聴いたことがありませんが
オフコースの仲間たちへ向けて書いた歌でもあるそうですね。
素敵な歌詞を教えてくださってありがとう。
彩っぺが明日香に向かって
「さよならは言わないよ」って言ってたシーンを思い出しました…
- 211 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/09(金) 00:44
- jp.youtube.com/watch?v=nHLoCoCpt8c
- 212 名前:とうきび 投稿日:2009/01/18(日) 10:55
- やっと、読めました。
オリメンがハロプロから居なくなるこのタイミングで。
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