誰が好きですか?
1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/05(金) 22:48


アンリアルいしよしです。


2 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:48

それは突然だった。

大学4年生の夏。両親は天国へ行ってしまった。

田舎から大学進学のために都会へ出てきたあたしと妹に会い、
田舎へ帰る途中、事故に遭った。

両親は友人の借金を背負っていたと後で知った。保険金はそっちへ回された。

幸せな学生生活は一瞬にして壊れてしまった。

残されたあたし達は、自分で稼いで暮らしていくしかない。

妹はまだ大学1年生。どうしても大学に通わせてあげたかった。

そのためには自分が働くしかない。学費を払うためにも働くしかない。

妹のために、一生懸命働こうと思った。

3 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:49






















4 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:49

「おはようございます」
「おぉ、おはようさん。今日もカッコええなぁ」
「ははは」

あたしは苦笑いをする。
今挨拶をしたのはお世話になっている店のオーナー兼店長の中澤さん。

「今日は早いんですね」
「ん?まぁ色々あってな」

“また彼女と喧嘩かよ。わかりやすい人だな、本当に”
この店長はかなり女癖が悪く、彼女が居るにも関わらず他の女に手を出す。
でも気さくで優しくて良い人っちゃ良い人だ。

「さぁ!今日は土曜日やから忙しいでぇ」
「そうっすねぇ」

ここは飲み屋だから、次の日が休みであれば忙しい。ただそれだけ。

5 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:49

「おはようございまぁす」
「おはよう」
「おはようさん。あんたよっさんより年下のくせに重役出勤とはどういうことやねん」

今入ってきたのは小川麻琴。
2歳下だけど、この店にはあたしよりも早くから働いているから仕事上は先輩。

「年下ですけど先輩ですから」
「えらくなったもんやな」

ヘラっと笑って従業員控え室に入っていく。
麻琴はヘラヘラしてるけど、気が利くし仕事は出来る良い先輩だ。
大学3年生で仕事をしながら自分で学費を払っている頑張り屋さん。
まだ20歳なのに。よく働く。
両親と色々あって自分で払うことになったみたいだけど、その辺は深く知らない。

6 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:49

「おっはよう、よっちゃん」
「おはよう」
「あ、中澤さん。おはようございます」
「なんやねん。居たんだみたいな言い方は」

この人は藤本美貴。あたしの一つ年上で、この仕事が天職だと言っている。
年上だけど唯一タメ口で話せる。話も合うから一番仲が良いかもしれない。
高校卒業してからこの仕事を始めてもう5年。素晴らしい仕事っぷりだ。

「今日って大谷さん休みでしたっけ?」
「さぁ?うちに聞くな。圭ちゃんのほうが知ってるやろ」

“この人本当に店長かよ”

圭ちゃんとは保田さんのこと。ここで一番年上で、ベテランだ。
凄く落ち着いているように見えるけど、なかなか天然で面白い人。

「さぁて、店開けよか」
「はい」

3人が揃って店を開ける。保田さんは遅番だから後から来る。
新人のあたしに遅番も早番もない。最初から最後までここにいる。

7 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:50

あたしが働いているのはいわゆる『おなべバー』だ。
お金が必要だったあたしは、夜の仕事をするしかないと決めた。
でもオジサンの相手をするのは嫌だった。それなら女性の相手がいい。
そう思ってある店に飛び込んで働かせてもらっていた。
でもそこは上下関係が厳しく、変な世界だった。ナンバー1が威張ってる。
もうここを出ようかと考えていたとき、今の店に誘われた。
あたしを救ってくれたのがこの店のオーナー兼店長の中澤さんだった。

それから部屋も用意してくれ、車も譲ってくれた。
だから中澤さんには感謝している。この店で一生懸命働こうと決めた。
カウンターと小テーブルが1つしかない小さな店だがそれなりに繁盛している。

「いらっしゃいませー」
「ちょっと裕ちゃん!!」

入ってきたのは中澤さんの彼女。矢口真里さん。
付き合い始めて5年らしいが、その間何回浮気したのか分からないという。
そんな人と付き合い続けているこの人は凄いと思う。

「げ、なんでおんねん」
「逃げるからでしょ!ちゃんと説明して!!」
「分かった!わかったから、あっちいこ」

中澤さんはそそくさと裏へ逃げていく。それを追う矢口さん。

“あーあ。また大変だなぁ”

「矢口さんもよく我慢できるな」
「僕は絶対に無理ですね」
「美貴も無理だなぁ」

8 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:50

『おなべバー』と言いつつも、名前を変えることもない。それが楽だったりする。
お客さんも常連客が多く、値段も他の店より高くないから気軽に来れる店。
色んなお客さんが居て働きがいがある。癒されに来る人も少なくない。

「吉澤さ〜ん」
「お、愛ちゃん。いらっしゃい」
「また来ちゃった」
「ありがと。いつでも来て」

常連客の愛ちゃん。田舎から出てきてこっちで働いている。だから少し訛っている。
麻琴が想いを寄せる人でもある。愛ちゃんが来るとデレっとなる顔は止めてほしい。

「ねぇ、吉澤さん。今度デートせぇへん?」
「デェト!?」

横で聞いていた麻琴が大きな声を出す。

「なんやねん、麻琴。盗み聞きすな」
「だぁって。えぇ?吉澤さん。するの?」
「いや〜」

9 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:50

あたしは困った。前と右から痛い視線。
麻琴は弟みたいな存在だし、愛ちゃんは大事なお客さん。機嫌を損ねるわけにはいかない。

「俺休みないんすよ。だから相手出来ないかもしれない」
「えぇ〜。昼間は暇やろ?」
「他のバイトもしてるんで、無理かもしれないっす」

プゥっと膨れる愛ちゃんに、すかさず麻琴がフォローする。

「僕と行こうよ!暇暇。メッチャ暇」
「麻琴は学生やろ。学校行き」
「学校ばっかり行ってるわけじゃないよ。ね?僕でいいでしょ?」

首を傾げる麻琴。
その仕草がなかなか可愛くて、お客さんからマスコット的な存在で見られている。
そんな麻琴を見て、愛ちゃんも少しカワイイと思ったらしく、

「じゃあ麻琴でいっか」

としょがないなぁという感じで言った。麻琴はヘラっと笑った。

10 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:51

「こんばんはぁ」
「お、いらっしゃい」
「今日まさおは?」
「ん?休みだよ。残念でした」

美貴の前に座ったのは柴ちゃん。大谷さん目当ての人。
大谷さんを会いたくてもう何年もここに通っている。

「なぁんだ。来て損した」
「ちょっと。人気ナンバー1の俺を前にしてそんなこと言わないでよ」
「美貴がナンバー1とか変だよね。普通はまさおでしょ」

ナンバー1を目の前にしてそんなことを言ってのける女性が1人。
美貴と柴ちゃんは仲が良く、お互いなんでも言い合える感じ。
2人の会話は聞いてて面白いと思うことが何度もある。

11 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:51

「たーん!!」

入ってきた瞬間美貴に抱きつこうとする人。亜弥ちゃん。
この子は美貴の彼女。この店で出会って付き合い始めたらしい。当時亜弥ちゃんは高校生。
亜弥ちゃんからも猛烈アタックに負けて付き合い始めたが、
最近では美貴のほうがデレデレしてるようだ。

「亜弥ちゃん!いらっしゃい」
「あーまた柴ちゃんとイチャイチャしてたんだぁ」
「「絶対無い」」

あたしはこの空間が好きだ。でも一生ここで過ごすつもりはない。
あの子が。妹の絵里が大学を卒業して就職するまで・・・・・
絵里にはしばらく会ってない。というか会わないようにしている。
この仕事をしてると言ったら大学を辞めて働くと言いそうだから。
絵里には絶対に大学を卒業して欲しい。せっかく入学したんだからもったいない。

両親が死んでから、友達にも会っていない。この仕事をしているから。
受け入れてくれるか分からないし、心配をかけたくない。
連絡が来ても電話だけで済ましている。会うことはない。

12 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:51

「よっちゃん、ジントニックお願い」
「あ、はい」

今は頑張るとき。自分がどうとか関係ない。妹のために。頑張るだけ。

「よっちゃんは彼女居ないの?」
「いないっすねぇ」
「いや、こいつ隠してると思うんだよね」
「私もそう思う」

一斉にこっちを見るこの場にいる5人。視線が痛い・・・・・
でも本当に彼女なんていないし、嘘ついてない。

「本当にいないですって」
「こんなカッコいいのにいないわけないよねぇ」
「いっつも聞いてんだけど、吐かないんだよ」

“だからいないっつーの!どうしたら信じてくれるんだよ”

「じゃあさ、好きな人とか居ないの?」

13 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:51

好きな人・・・・・それは叶わない恋。
学生時代に好きだった子がいた。高校生の頃だけど、すごくキレイで一瞬で恋に落ちた。
でも女の子だから、あたしから「好きだ」とは言えなかった。友達のままで良かった。
今はもうどこかで彼氏でも作って仲良くやっているんだろうと思う。

「叶わぬ恋ですよ」
「えぇー。頑張ればいいじゃん」
「ヘタレなもんで。頑張れないっす」

皆好き勝手にブーブー文句を言ってるけど、これはあたしの問題。
友達で居るって決めたから、仕方の無いこと。

「じゃあ今度私の友達紹介してあげるよ!」
「ダメ!!」

横から入ってきたのは愛ちゃん。好いてくれてるのは分かってるんだけどね。

「吉澤さんにはまだ要らないと思います」
「なぁんで?彼女いたほうが楽しいでしょ?」
「あぁ、いや、どうでしょう」

あたしは苦笑いをした。今まで彼女が居たことなんてないし、楽しいのかわからない。
第一今は彼女なんて作ってる場合じゃない。居ても相手してあげられない。
暮らしのために必死なんだよ、色々と。

「焦らなくてもいつか見つかるよ、良い人が」

美貴が呟いた。

14 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:52






















15 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:52

「お疲れで〜す」
「お疲れ様です」
「お疲れー」

今日も1日の仕事が終わった。今日は人が休み無く入ってきて疲れた1日だった。
帰り道に携帯を見る。滅多に鳴らない携帯だけど、今日はメールが1件。

“誰だろ”

「あ」

その送り主を見て、口が開いた。
送り主は『石川梨華』。あたしが想いを寄せていた人。
メールを読んで一瞬固まった。

ひーちゃんへ
元気ですか?私は元気です。まだ○○市に居るよね?
明日遊びに行くので駅まで迎えに来てください。絶対だよ。
                         梨華より

16 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/05(金) 22:53

変わっていない彼女の強引さにニヤけつつ、重大なことだと悟った。

“明日って・・・これ昨日の夜に来てるメールだから・・・今日じゃん!!”

いきなりのことでその場から動けないあたし。
迎えに来いと言われても何時に行けばいいのか、このメールからは分からない。
しかも彼女に会う気なんてさらさらなかった。逆に会いたくなかった。
でももう断ることは出来ない。彼女のことだからきちんと準備してあるはず。
ダメだと言っても来るだろう。あたしにはもう迎えに行くしかない。

「はぁ」

自然とため息が出る。会いたいけど会えなかったこの10ヶ月間。
今のあたしを見たら彼女はどう思うのだろう。
どこからどう見ても男の格好をしているあたし。
幻滅するだろうか。それならそのほうがいいかもしれない。
もう会わなくて済む。きっぱりと諦められる・・・・・


                                     つづく

17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/06(土) 00:11
おもろそうな話です
続き期待しとりまする
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/06(土) 00:19
男装よっちゃん、メッチャかっけーだろうな。

続き楽しみにしてます。
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/06(土) 12:35


>>名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 これからヨロシクお願いします。

>>名無飼育さん様
 かっこいいと思いますね。
 頑張りますのでヨロシクお願いします。


20 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:35










21 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:36

午前8時。あたしは駅前に車を止め、その中で彼女を待っている。

「はぁ。何してんだろ」

自然と独り言も出てくる。仕事の疲れもあって、睡魔にも襲われる。
しばらくして携帯が鳴った。彼女からの連絡であろう。

「はい」
『もしもーし。ひーちゃん何処?』
「駅前」
『駅前のどこ?』
「○−ソンの前」
『えぇ〜どこだろう・・・・・あ!あった』

あたしはやれやれとため息をつく。相変わらず自分だけテンションが高い。

『どんな車?』
「黒の長いの」

22 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:36

コンコン。

叩かれたドアを見ると、太陽に照らされて眩しい彼女の笑顔があった。

「おはよ!」
「おはよ」
「・・・・・ひーちゃん、なんか」
「ん?」
「カッコいい」

彼女はそう呟いた。
髪の毛が短いせいだろうか、雰囲気が男っぽくなっているせいだろうか・・・・・
彼女は笑ってそう言ってくれた。あたしにとっては有り難いお言葉。

「なんかしばらく会わないうちに変わった」
「変えたからね」
「えぇ?なんでぇ?」
「まぁ色々と。おいおい話すよ」

「そっか」と言った彼女の表情は、何故だか清々しく思えた。
朝の光を浴びているからだろうか・・・・・

23 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:37

あたしの車は家に向かって走り出す。日曜日の朝は快適だ。車が少ない。
みんなまだ寝てるのかなぁと思いながら、睡魔と格闘していた。
彼女は車に乗ってから一言も話さない。あたしも話しかけない。眠いから。

「ねぇ、ひーちゃん。眠たいんでしょ?」
「ん、眠い」
「おうち着いたら寝たい?」
「ん、寝たい」

明らかに落ち込んでる姿が横目に見える。
どっか行こうとか考えていたのだろうか。

「久しぶりだね、こんな風に話すの」
「うん。葬式以来かな。あの時はどうもね」
「私は何もしてない。ひーちゃんがしっかりしすぎてて、ちょっと心配だった」

24 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:37

あたしは両親が亡くなった後、自分がしっかりしなくてはと思い毅然と振舞っていた。
それを見た友人たちは心配そうな顔をしていたけれど、
「大丈夫」と言って弱音を吐くことはなかった。

身寄りがないあたしたち姉妹。妹にとって頼れるのはあたししかいない。だから・・・

「どっか行きたかったの?」
「え?なんで?」
「いや、家に帰って寝るって言ったら残念そうな顔してたから」
「どこかに行きたいってわけじゃないんだけど、買い物したいなぁって思って・・・」

あぁ、買い物ね。女の子なら絶対に行きたがるよね。

「ふ〜ん」
「何よぉ」
「別に」
「聞いただけぇ?」
「聞いただけ」

あたしはニヤっと笑う。彼女を弄るのは面白い。高校のときから止められない。
口を尖らしてあたしを見ている。その顔を見て、あたしは昔を思い出した。

25 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:37

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「もう!あごあご言わないでよぉ」
「だぁって顎出てるんだも」
「しょうがないでしょ、生まれつきなんだから!!」
「はは、おもしれーなぁ」

あたしはいつも色んなネタで彼女を弄っていた。
決まって彼女は口を尖らして怒る。本当に怒っているのかわからない表情で。

「今日はもう許さない」
「あっそ」
「ちょっと!流さないでよ」
「キンキンうるせーなぁ」

またいつものように口を尖らす。でもその日は何故か、その口に引き込まれていった。
そして気がついたら彼女の口をあたしの口がくっついていた。
あたしはごく自然に近づいたのだろうか。彼女は抵抗しなかった。
その後驚いて離れ、お互い俯いたまま帰った覚えがある。
もうあの時のこと、彼女は忘れているだろう。

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26 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:37

「ねぇ、ひーちゃん。買い物付き合って」
「えぇ?」
「ね?いいでしょ?決定」
「強制かよ」

さっきまで何を遠慮していたのか、そして何が弾けたのか。
気を使う様子もなく買い物は強制的にお供させられ、マシンガンのように喋りだす。
高校時代の共通の友人の話、今の会社の話、家族の話、自称面白い話。
次から次へと出てくる話にあたしはただ相槌を打つのみ。これでいいのだ。
高校時代もそうだった。彼女が一方的に話して、あたしは聞き役に徹する。
たまに聞いてないときもあり、その時は「聞いてる?」と口を尖らせて言われる。
意外と見てるんだなと思った。聞いてるか聞いていないか。

「でね〜ジュンちゃんがぁ」

いつまでも続く話とこの声を聞いていたいけれど、家はもうすぐだった。

27 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:38

「もう着くから。話はまた後ね」
「え?あ、着くんだぁ。広い?」
「ん〜まぁまぁかなぁ」

このマンションは中澤さんから紹介してもらったもの。
前の店で働いていた分貯金は結構あったから、広い部屋に住むことが出来ている。

「2LDKかな。でも1つ使ってない部屋がある」
「絵里ちゃんは?」
「・・・・・別々に住んでるよ」

あたしは努めて明るく返す。でも彼女はその変化に気がついているはず。そういう女だ。

「1人で住むには広すぎない?ひーちゃん物置かない人だし」

そう。ガチャガチャしているのが嫌だから、あまり物は置かない主義。
必要最低限の家具のみ。今もそれは変わっていない。

28 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:38

「どうぞ」
「お邪魔しま〜す。うわぁ、広〜い」

普通の一人暮らしよりはかなり広い部屋。あたしも気に入っている。

「すごぉい。なんでこんなところに住めるのぉ?」
「今お世話になってる店のオーナーさんが紹介してくれたんだよねぇ」
「へぇ。いいオーナーさんだね。最高の部屋だよ」
「そりゃどうも」

彼女が家の中をグルグル見て回っていると、あたしの携帯が鳴った。美貴からだ。

29 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:38

「はい」
『もし。よっちゃん?』
「そうですが」
『今日のシフト変わってくれないかなぁ?お願い!』
「え、いや、今日は無理だ。ごめん。予定があって」
『なぁんの用だよぉ。あ、さては女だな!!』
『女ぁ??やっぱりよっちゃん居たんだ』

電話の向こうから亜弥ちゃんの声も聞こえてくる。どうやら一緒にいるらしい。
なにしてるんだか。

「ひーちゃん?」

部屋をグルグル見終わったあたしに声をかける梨華ちゃん。

“もしかしたら今の声、聞かれたか?”

『やっぱり女じゃんかぁ。ひーちゃんだって』
『えぇぇ!ひーちゃんて呼ばれてるの?可愛い』

今度会ったらひどい目に合うことを覚悟した瞬間だった。
彼女は首を傾げてあたしを見ている。それは昔と変わらない仕草。

30 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:39

「今日はとにかく無理!!じゃ」
『おぃ、よっ』

まだ何か言いそうな感じだったから電話を切ってやった。
一息ついて彼女のほうを見る。まだ不思議そうな顔をしていた。

「ちょっと仕事でね。まぁたいしたこじゃないから」

電話のことを心配したのだろうと事情を説明した。

「そっか。いいのぉ?」
「いいのいいの。今日は元々休みだし」

彼女は困った顔をしていたけれど、美貴に合わせていたら自分の休みがなくなる。
ここは鬼となるべし。

31 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:39

「ひーちゃんて、何のお仕事してるの?」
「・・・・・あぁ、、、えっとねぇ」
「言いづらい?」
「うーん、結構言いづらいかも」
「なぁに?」

優しく聞いてくる梨華ちゃん。
この子になら話せるなって思わせるその素振りは昔と変わらない。
あたしは正直に今の生活、状況を説明した。
梨華ちゃんはじっとあたしの目を見て聞いてくれた。

「そっか・・・・本当に大変なんだね」
「まぁね。絵里に大学卒業して欲しいしさ」
「頑張りやさんだね、本当に」

そう言って彼女はあたしの頭を優しくなでる。もう久しくしてもらってない。
ガムシャラに働き続けてきた10ヶ月間。甘えられる場所なんて無かった。
昔からの友人だからなのか、彼女といるこの空間はすごく安心できる。

32 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:39

「買い物行くんでしょ?準備しないと」
「・・・・うん」
「何買うの?」
「ん〜?色々ぉ」

イタズラっ子みたいな顔をして言う彼女。カワイイなぁと思う。

「彼氏にプレゼントだ」
「・・・・・彼氏なんて居ないもん」
「あれ?あの彼氏は?」
「別れた」

あらら。傷心中かもしれないなと思った。凄く寂しそうな顔をしていたから。
彼女は男運が相当悪い。
初めて出来た彼氏は自己中で、自分の思い通りにならないからと言っていつも怒ってた。
彼女はそれに嫌気が差して自ら別れを告げた。
次の彼氏は年下で、でもかなり遊んでる男だった。
周りの注意も聞かずに付き合い、ヤッただけでフラれた。
そして今回の彼氏。
彼女にしては長く付き合っていたほうだと思うけど、何があったんだか。

33 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:39

「梨華ちゃんって男運悪いよね」
「うるさいぃ」

こうやって笑って話せるなら大丈夫なのかな。
昔から「幸せになりたい」「王子様が現れる」っていっつも言ってた。
そして毎回彼氏が出来るたびに「王子様に出会ったの」とか言ってた。
でもそれは王子様なんかじゃなくて・・・

「ま、そのうちいい人が現れるさ」
「ひーちゃんて、彼氏と別れるたびにそれ言うよね」
「だってそれしか言うことないじゃん」
「もっと優しい言葉かけてくれてもいいじゃん」
「十分優しいと思いますけど?」

あたしは笑ってシャワーを浴びることにした。
寝ずに出かけるのはキツイけど、彼女がそうしたいなら付き合うしかない。
せっかく来てくれているんだし。

34 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:40






















35 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:40

「どこ行くの?」
「適当に買い物できるところでいいでしょ?」
「うん」

彼女は嬉しそうに笑った。
“あぁ。あたしはこの笑顔に惚れてたんだなぁ”
昔を思い出す。いや、今も惚れているのかもしれない。忘れられないのかもしれない。

「掘り返すようで悪いけど、なんで彼氏と別れたの?」
「・・・・・もういいよ、それは」

思い出したくも無いようだった。その目は本当に寂しそうで、癒してあげたいと思わせる。
買い物だけじゃなくて、色んなところにドライブでもしてみようかと思う。
というより、買い物をするよりもドライブのほうがあたしには合っている。
“つーか、梨華ちゃんいつ帰るんだろ。結構荷物あったよなぁ”

36 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:40

「ひーちゃんは?いないの?」
「いませんね」
「こんなにキレイなのに?」
「全くキレイじゃないよ。目にゴミでも入ったか?」

ちょっとからかうように言ったけど、彼女は笑っていなかった。

「本当にキレイだよ。キレイなお姉さんってかんじ」

彼女が言ってることは本心なのか冗談なのか冷やかしているのか分からない時がある。
いつも真面目で頑張り屋さんだけど、たまに抜けているところがあるから。

「はいはい、どうも」
「もう。本当だってば!」
「褒めていただいて大変嬉しく思います」
「なぁに?それぇ。ちょっと面白い」

彼女がまた笑った。その笑顔に何度救われたかわからない。
だからあたしは彼女の笑顔が好きだった。

37 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:41

「もうさ、買い物辞めない?」
「えぇ?」
「人ごみ嫌だもん。だからさ、ドライブでもしましょ?」

彼女は少し考えた後すぐに、OKサインを出してくれた。
今日は色んなところに行って、嫌なことを忘れたいと思う。

あたしと彼女の話は尽きなかった。
高校時代の話や大学時代の話、そして今の生活の話。
だいたい彼女がずっと話していたけど、それが凄く心地よく思えた。

「梨華ちゃんはホント喋るよねぇ」
「そんなことないよ〜ひーちゃんが話さないからでしょ?」
「うそだぁ、あたし話す暇ないもん。息継ぎなしに話すから」
「そんなことないですぅ」

38 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:41

なんやかんや話しているうちに、海に着いた。
ここはあたしがたまに息抜きに来る場所。人気がなく、波の音だけが聞こえる。
あたしにとっては絶好の癒しの場所だった。
彼女をここに連れてこようと思ったのは、何か悩んでるような顔をしていたから。
少しでも癒してもらおうと思って連れてきた。

「すごーい。やっぱり海はいいなぁ」
「ここ結構穴場。人ほとんど来ないけど、キレイなんだよねぇ」
「ひーちゃんが見つけたの?」
「そ。なんか海行きたいなぁって思って車走らせたらここに着いたの」

「へぇ」って梨華ちゃんは呟いて、そのままジッと海を見ていた。
何かを考えているような、そうでもないような表情をしている。
あたしは海ではなく、ただただ彼女の横顔を見ていた。
“かわいいなぁ”

こんなことを思うのはいつもだ。
見た目はとっても可愛いんだけど、家事全般が不得意な彼女。
彼氏が出来るたびに家事を頑張ろうとするんだけど、すぐ別れるから長続きしない。
それがまたカワイイとは思うんだけどね。
「カワイイ」なんて言ったら彼女は調子こくから絶対に口には出さない。
でもずっとそういう思いは心の中にあった。

39 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:41

「ちょっと寒いね」
「うん」
「もう帰ろうか」

あたしがそう言うと、彼女は黙って頷いた。
車に乗り込み次はどこへ行こうかと考えていたら、彼女が「もうお家帰ろ」と言った。

「え?海来ただけじゃん」
「いいの。ひーちゃん疲れてるでしょ?」
「まぁ疲れてるっちゃ疲れているけど、別に大丈夫だよ」
「ううん。私も家でゆっくりしたくなっちゃった」

彼女がそう言うならそうするしかない。あたしは家に向けて車を走らせた。
来る時は喋りっぱなしだった彼女が帰りは一言も話さない。
ずっと窓の外を見ていた。
あたしからも何だか話しかけられなくて、無言のまま家まで来てしまった。

40 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:42

「はい、到着」
「ありがと」
「うち何もないよ?」
「テレビぐらいはあるでしょ?」
「それぐらいはあるけどさ」

そう言うと、彼女はさっさと車から降りてスタスタ行ってしまった。
“1人で行っても開いてないのに”

案の定玄関の前に立っていた。口を尖らせている。

「遅い」
「はぁ?さっさと行くほうが悪いじゃん」

ぶつぶつ言っている彼女を無視して玄関のドアを開けた。

「ふぅ。やっぱりひーちゃんの部屋は落ち着くね。物が無いからかなぁ?」
「いや、色の問題じゃないの?」
「どういう意味よぉ」
「そういう意味だよ」

あたしは笑った。梨華ちゃんの部屋を思い出したからだ。
部屋中ピンクで最初はマジでひいた。でも何回も行ってるうちに慣れてくるもので。
最近行ってないから、また具合悪くなるんだろうなぁなんて思う。

41 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:42

「ひーちゃん、寝るの?」
「寝ていいの?」
「いいよ、ゆっくり休んで」
「んじゃお言葉に甘えて」

実は相当限界だった。車を運転している途中で何度も瞼が重くなっていた。
まぁ気合で切り抜けたけど、家に帰ってきて安心したのか、今凄く眠たい。

あたしは寝室にいき、布団に入った。すると梨華ちゃんも後ろからついてきていた。

「どしたの?向こうで適当にDVDでも見てていいよ?」
「う〜ん」
「あ、エロDVDは無いけど」
「そんなの見ません」
「あらそうですか」
「ねぇひーちゃん」

いつになく甘い声。何かをお願いするとき、決まって彼女はこんな声を出す。
そんな声にドキドキしているなんて、口が裂けても言えない。

「ん?」
「私も寝たい」
「えぇ?布団出すのめんどい。勝手に出して寝てよ」
「えぇ〜。じゃあ一緒に寝ようよぉ」
「嫌だよ、狭い」
「なぁんで?前も一緒に寝てたじゃん」

42 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/10/06(土) 12:42

あたし達はよく眠たくなる性質らしく、家に遊びに行くと途中で絶対寝ていた。
どっちかが眠いと言うと、自然と布団に入って寝ていた。

「はぁ」

あたしはため息をついて、布団を少し捲って彼女が入れるようにした。
すると彼女は嬉しそうに布団に入ってきて、「ありがと」と言う。満面の笑みだ。

「じゃ、おやすみ」
「おやすみぃ」

本当に眠たかったあたし、1分もしないうちに夢の世界へと旅立っていった。


                                     つづく

43 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/06(土) 16:39
うお…気になりますね。
絵里ちゃんもそろそろ出てくるんでしょうか^^
44 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/06(土) 22:01
いしよし大好きなんで期待してます!!
45 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/06(土) 22:20
梨華ちゃんに甘いよっちゃん。
それに甘える梨華ちゃん。
この関係性スキです。
46 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/11(木) 17:22
気になる〜…続き楽しみにして待っています
頑張ってください!
47 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/03(土) 15:10


>>43
 絵里ちゃんはもう少し後になりますが、
 よろしくお願いします。

>>44
 ご期待にそえるよう頑張ります。

>>45
 私もこの関係性が好きなので、どこまでもこれでいきたいと思います。

>>46
 遅くなりましたが、更新します。
 頑張りますのでヨロシクお願いします。

48 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:10

「ん、んん」

どれくらい寝たか分からないけど、自然と目が覚めた。
隣が凄く暖かくて、自分じゃない寝息が聞こえる。
ちらっと隣を見ると、まだまだ夢の中にいそうな彼女の寝顔があった。
“一緒に寝たんだっけ”
起きる気配のない彼女の寝顔をジッと見ていた。相変わらずカワイイ。

「よし」

彼女を起こさないように布団を出て、時間を確認する。17時だった。
お腹もすいてきたなと思い、キッチンへいき冷蔵庫の中を調べる。
最近は仕事が忙しく家で食事することがないため、冷蔵庫には何も入ってなかった。

「買い物行ってこようかなぁ」

準備して外で食事も面倒くさいと思い、彼女が寝てるうちに買い物に行くことにした。
「何食べたい?」と聞いても「何でもいい」と言うだろう。
今日はナポリタンにしようと思う。簡単に作れるからだ。
適当なジーンズを穿き、キャップを被って家を出た。

49 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:11






















50 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:11

「あれ。起きてたの?」

買い物を終えて家に戻ると、彼女がソファの上で膝を抱えて座っていた。
あたしの声に反応しないところをみると、少し機嫌がよろしくないと思う。

「梨華ちゃん?」
「・・・・・・」
「なんか怒ってる?」

あたしは彼女の顔を覗き込んで尋ねる。思ったとおり、口を尖らせて不貞腐れていた。

「梨華ちゃん?」
「なんで置いていくのよぉ」
「え?いや、寝てたからさ」
「起きたら居ないんだもん」
「あぁ、ゴメン」
「ひーちゃんはいっつもそう」
「はい?」

彼女が言う「いっつも」の意味が分からなかった。
何を指しているのか。身に覚えがない。

51 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:11

「いっつも何も言わずにいなくなるじゃない」
「そうかぁ?」
「そうよ。実家を出る日だって教えてくれなかったし。
 いつの間にかこっちに引っ越してたじゃない」
「いや、それは梨華ちゃんがバイトで忙しそうだったから、
 別に言わなくてもいいかと思って」

あたしはこっちへ出てくるとき、友達にいつ出発するとも言わずに出てきた。
それはいつでも会えると思っていたから。後からたくさん怒られたけど。

「それだけじゃないよ。実家に帰ってきても連絡くれないし。
 連絡くれても会わずにまた戻っちゃうし」
「あ、いやぁ」

それは彼女に彼氏が出来たと聞いたから。なんか会いたくなかった。
会うとまた惚れちゃいそうだから。嫉妬しちゃう自分が嫌だったから。

「会いたいと思っても全然会えないし」
「はい、ごめんなさい」
「皆会いたいって言ってるんだよ?」
「うん」
「たまには帰ってきてよ。忙しいのも分かるけどさ」
「はい」

あたしは黙って彼女の説教を聞くしかなかった。

52 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:11

「もういい。どこ行ってたの?」
「ん?買い物。夕食の準備しなきゃなぁと思って」
「なんか作ってくれるの?」
「ナポリタンだけどね。簡単なものですが」

あたしがそういうと、彼女はニッコリ笑って「手伝う」って言ってくれた。
でも手伝わせたくない。余計に仕事が増えそうだから。
そんなこと言ったらまた何か言われそうだから黙っていた。

「ひーちゃんて、料理できるの?」
「まぁ一応仕事で色々作ってるからね。なんか覚えた」
「ふ〜ん」

あまり興味なさそうに彼女は手伝い始めた。
ナポリタンなんて本当に簡単だから、すぐに出来上がる。
手すきの彼女はジッとあたしが作るナポリタンを見ていた。

53 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:12

「「いただきます」」

すぐに出来上がったナポリタンを2人で仲良く食べる。
2人ともお腹がペコペコだったから、あっという間になくなってしまった。

「あー美味しかった」
「そりゃ良かった」
「私が手伝ったからだね」

その発言をあたしは無視した。いわゆる放置プレイだ。

「ちょっとぉ、なんか言ってよぉ」

面倒くさいから、「はいはい」とだけ言って食器をキッチンへもっていき、洗い始める。
梨華ちゃんも後からついてきて、洗ったお皿を拭いてくれた。
なんかキッチンに2人とか、久しぶりだなぁと思う。
妹と2人暮らししていた時は、よくこうやって一緒に食器洗いとかしていた。
“元気かなぁ”
ふとした瞬間に妹を思い出す。同じ年ぐらいの子を見たとき。

54 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:12

食器洗いも終わり、ソファでのんびりしていた。
彼女はテレビを見ながら笑っている。相当楽しいのだろう。
クッションを抱えて爆笑中。そんな彼女を見て、あたしは笑う。
テレビじゃなくて、笑ってる彼女を見ていると笑えてくる。

「なぁに、ひーちゃん」
「うぇ?」
「人の顔見て笑わないでよぉ」
「だって、はは、メッチャ笑ってるんだもん」
「テレビ見てよぉ。本当に面白いよ?」
「うん、梨華ちゃんの顔見てたら面白いのは伝わるよ」

また口を尖らせて笑った。これはクセだな。絶対そうだ。
懐かしさと面白さで癒されている自分が居る。

「ねぇ梨華ちゃん」
「んん?」
「いつまでこっちに居るの?
 あたし夕方から仕事だから、その前なら駅まで送るよ?」
「う〜ん」

梨華ちゃんは何か考え込んでしまった。
無計画でここに来たのかもしれない。そういう子だ。

55 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:12

「まだ居てもいい?」
「え?いや、あたしはいいけど、仕事あるからあんま相手できないよ?」
「うん、大丈夫」
「それならご自由にどうぞ」
「ありがと」
「あ、でも梨華ちゃんの仕事は?大丈夫なの?」
「うん」

梨華ちゃんが大丈夫なら何の問題も無い。この家は誰も来ないし。
ずーっと1人だったから、誰かが居るのも寂しくなくていいし。

「車使いたかったら使っていいよ?」
「んー止めとく」

車使っていいとは言ったものの、実はあまり運転させたくなかったから安心した。
一度彼女の運転する車に乗ったけど、生きた心地しなかったし。

「ま、自由に使ってよ」
「うん」

それからお互い風呂に入り、布団を一組出して敷き、寝る準備を始めた。
でも夜行性になってしまったあたしは、眠くなんてなることはなく。
同じく梨華ちゃんもお昼寝をしたからか、眠くなることはなく。
一応布団には入ったけど、ずっと話をしていた。

56 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:13

「ひーちゃん、眠い?」
「ん?う〜ん。まぁまぁ」

いいだけ話した後に、だんだんと睡魔に襲われ始めた。
彼女の声がそうさせたのかもしれない。

「ねぇ」
「ん?」
「一緒に寝ない?」
「えぇ?またぁ?」
「いいじゃん」
「もう布団敷いてあるからそこで寝ろよ」
「絶対2人の方が暖かいよぉ」

いやいや。よくわかんないし。1人でも十分暖かいと思いつつも、半分開けるあたし。
そこに嬉しそうに入ってくる彼女。布団一組いらないんじゃないかと思う。

「やっぱりいい」
「なぁにが」
「寝心地がいいの」
「あらそう」

そんな彼女の一言に嬉しくなる。なんだか抱きしめたくなる。腕枕したくなる。
昔のことを思い出しつつ、今は違うんだと自分に言い聞かせる。

57 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:13

「ひーちゃん?」
「ん?」
「腕枕して?」

彼女の言葉にドキっとした。もう久しくしていない。
だって彼女と寝るときしかしなかったから。
あたしはビビリながら腕を頭に持っていく。すると彼女は少し頭を浮かしてくれた。
そのまま乗っかって、グッとあたしのほうに顔を寄せた。

「うん、いい」
「なんでそんな上から目線なんだよ」
「ふふふ」

彼女はただ笑うだけだ。あたしも自然と笑みがこぼれる。
すると頬に柔らかい感触。それが唇だとわかるのに、そんなに時間は掛からなかった。

「え?」
「おやすみぃ」

それだけ言って梨華ちゃんは目を瞑った。まだドキドキしているあたし。
しばらくすると寝息が聞こえてきた。
あたしをドキドキさせたまま、彼女は夢の世界へ・・・・・

58 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:13





















59 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:14

「よっちゃん!おはよ」
「おはよー」

あたしは梨華ちゃんを家に残し、いつも通り出勤した。
準備をしているところに勢いよく入ってきたのは珍しく早い出勤の美貴だった。

「昨日はどうだったぁ?」

ニヤニヤしながら聞いてくる。あたしは「別に」とかわしたがかわせるわけがない。

「別にじゃないでしょ?なぁんで彼女居るの隠してたんだよ」
「いやいや、隠してないし。ってか彼女じゃないし」
「うっそだぁ!ただの友達ってか」
「そうだよ。高校のときの友達」

疑いの目であたしを見てくる。本当に何もない。ただの友達だ。

「それより昨日は出たの?」
「ん?いや、風邪ひいたことにした」
「何やってんだよ」
「こっちだって色々忙しいんだよ」

美貴の忙しさはたいしたことじゃない。きっと遊びの用事が入ったんだろう。

60 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:14

「おはようございます!あ、美貴さん大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫大丈夫」
「大丈夫に決まってるじゃん。仮病だも」
「えぇ?仮病だったんですか?」
「バカ!風邪ひいたんだよ、風邪を」
「こいつの半分は嘘で出来てるから」

美貴は怒っているけど事実だからしょうがない。麻琴はいい子だからすぐ信用する。

「それよりさ、よっちゃん昨日彼女と会ってたんだよ」
「マジすか?吉澤さん彼女いたんですか?」
「いねえよ。友達だって言ってんだろ」
「怪しいんだよなぁ」

いつまで疑っているのか。こりゃ今日はずっとこのネタで弄られると確信した。
麻琴も興味津々な顔しているけど本当に何もない。期待されても困る。

「やっぱ居たんですね」
「だから違うってば」
「もう愛ちゃんには手を出さないで下さい」
「出してないし」

麻琴は真面目な顔で言ってくる。本当に愛ちゃんのことが好きなんだろう。
一途でアホな子だ。

61 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:14

「さ、店開けるかぁ」
「はいよぉ」

そしてまた騒がしい一日が始まる。
いつもの常連さんや、興味本位で訪れる人。様々だ。

「ねぇよっすぃ〜」
「はい?」
「彼女が居るのに他の人に手を出すってどんな気持ち?」
「うぇ?」
「どんな気持ち?」

どんな気持ちと言われても困る。あたしはそんな体験したことが無い。
きっと中澤さんのことを言っているんだろうと思ったが、あたしには答えられない。

「いやぁわかないっす」
「ふ〜ん。よっすぃ遊んでそうだから分かるかと思った」
「遊んでないですよ。彼女とかいないですし」
「えぇ〜。さっき美貴が居るって言ってたよ」
「またあいつは」

もう店中に知れ渡っているんだろうと思う。あいつは本当によく喋る。

62 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:14

「よっちゃん、モスコミュール1つ」
「おい、美貴。あんま変なこと言いふらすなよ」
「なにが?」
「なにがじゃねぇよ。友達だって言ってんだろ」
「あぁ、その話ね。はいはい」

分かってるのか分かってないのか。こいつの適当さはいつものことだ。

「美貴はさ、浮気とかしたことないの?」
「ないですねぇ。こう見えても一途なんで」
「へぇ。でもあややって年下じゃん?もっと大人の人に興味ないの?」
「亜弥ちゃんも十分大人ですよ」

意味深な笑みを浮かべて去っていく美貴。矢口さんは「なんだあれ」と鼻で笑った。
あたしも「なんなんですかねぇ」と首を傾げた。

63 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:15

「まぁでもさ、彼女いないなら紹介してあげるよ。
 よっすぃ〜はカッコいいから選びたい放題だよ、きっと」
「そんなことないっすよ」
「本当に狙ってる人多いんだから」
「えぇ?」

狙っている人が多いと言われると嬉しいんだけど、
その人たちとどうのこうのしようとは思わない。
きっとこの店に来てくれてる人だろうし、店員と客の関係で十分だ。

「彼女欲しくないの?」
「いや、別に」
「楽しいよぉ、恋人いると」
「浮気されてもですか?」
「うぅ。それは言うな」

どこか寂しそうに笑っている矢口さんだけど、
中澤さんのことが好きだというのが伝わってくる。

「そんな風に愛されてみたいですね」
「え?」
「いえ、中澤さんは愛されてるなぁと思って」

矢口さんが下を向いて静かに笑った。そして顔をあげた。凄くキレイだ。

64 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:15

「それ逆」
「え?逆ですか?」
「うん」

矢口さんは静かに話す。あたしは初め、逆って言葉に納得できなかった。
浮気し放題の中澤さんが・・・?

「裕ちゃんが凄く愛してくれるから、それに応えて愛すことが出来る」
「・・・・・・・・・・」
「たくさん浮気されるじゃん?でもね、別れたいとか思ったこと無いよ」
「・・・どうしてですか?」
「愛されてるっていつも感じさせてくれるから。
 口にはあんまり出さないけど、態度とかで分かるだよねぇ」
「へぇ」

あたしは感心することしかできない。そんな経験ないし、あたしには伝わってこない。

「想いって本当に伝わるんだよ。愛してるって強く思っていれば、相手に伝わるの。
 現に私がそうだから。想ってくれてるっていうのが分かる」

黙って聞き入ってしまった。あたしには体験したことの無い未知の世界だと思う。
でも何だか妙に納得してしまった。強い思いは相手に伝わる。勇気がもらえる話だ。

「カッコいいっすね、矢口さん」
「なぁに言ってんだよ。よっすぃも早くそういう人探したほうがいいよ」
「はい、頑張ります」

65 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:15

いつも通り仕事が終わり、帰る準備をする。

「ねぇ、よっちゃん」
「ん?」
「その友達さ、今度連れてきてよ」
「はぁ?」
「見てみたい」
「僕も見たいです!吉澤さんの知り合いって、会ったことないですもん」

確かに知り合いとは連絡とって無いから会うわけが無い。
でも彼女は絶対に連れてきたくない。美貴が余計なこと言い兼ねないし。
彼女も飲み屋とはいえ、こんなところに来たくはないだろう。

「嫌だよ」
「いいじゃーん。1回でいいからさ」
「なんでだよ」
「だってさ、よっちゃん秘密が多すぎるんだもん。
 言う必要は無いかもしれないけど、一応仲間じゃん?」
「・・・・・とにかく無理」

あたしはそれだけ言って店を出た。
帰ったら彼女が居るだろう。寝てるかもしれない。
彼女のことを思い出すと、無性に会いたくなった。まだ好きなんだと実感する。
「想いは伝わるんだよ」という矢口さんの言葉が思い出された。
“伝わるもんなのかなぁ”
伝えてみたいと思ったことはある。でも関係を壊したくないから伝えない。
ただの臆病なのかもしれないと、ふと思った。

66 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:16

家のドアと開けると電気がついているのが分かった。
まだ起きているのかと少し期待したけど、
ソファの近くによると期待を裏切られた気がした。
そこに横になって寝息を立てている彼女がいる。クッションを抱えて寝ていた。

「こんなとこで寝たら風邪引くっつーの」

風邪を引かれては困るので、一度起こして布団に寝かせることにした。

「梨華ちゃん。こんなところで寝たら風邪引くよ。向こう行こ」
「ん、んぅ」

薄っすらと彼女の目が開いた。その顔が何だか凄く色っぽい。

「ひーちゃん?おかえり」
「うん、ただいま。ほら、あっち行こ」

まだ寝ぼけ眼な彼女はジッとあたしを見つめてくる。誘われている気にさえなる目だ。
そのまま髪の毛を撫でると、気持ちよさそうな微笑をくれる。ドキッとする。
間違いを起こしてしまいそうだ。

67 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:16

「ね、布団で寝よ」
「うん・・・・ひーちゃんは?」
「ん?シャワー入ってから寝る」
「えぇ〜一緒に寝ようよ」
「昨日寝たじゃん」
「今日もぉ」
「いや、ほら、あたしまだ寝ないからさ」
「じゃあ私もまだ寝ない」

訳の分からないワガママなことを言い出した彼女。
もうさっき寝てたんだからそのまま寝たほうが良い。
というか、あたしがシャワーに入ってる間に寝てるだろうと思う。

「わぁったよ。じゃ入ってくるから」
「はぁい」

満面の笑み。つくづく彼女に弱いなぁと思う。いつでも彼女が上だ。
それが嫌じゃないからあたしも困ったもんだなぁ。

68 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:16





















69 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:16

シャワーから上がると、案の定ソファで彼女は眠っていた。

「だから布団で寝てろって言ったのに。よいしょ」

あたしは彼女を起こすのが面倒くさくなり、
横になっている彼女を抱えて布団に寝かせることにした。

「んん、ひーちゃん?」
「あ、起きた?布団で寝ろって言ったのに」
「これって・・・・・お姫様抱っこ?」
「・・・・・」

あたしは無言で部屋まで運び、布団に寝かせた。
ちょっと顔をが赤いのは気のせいだろうか?きっとあたしも真っ赤だと思う。
“お姫様抱っことか言うからだよ”と心で毒づき、髪の毛を撫でた。
彼女はあたしを見つめている。

「ひーちゃん」
「ん?」
「もう寝る?」
「うん」

そういうと、場所を1人分開けてポンポンと布団を叩く。
来いってことだろうけど、そんな簡単にはいかない。

「ガス栓とか確認してくる」

それだけ言って部屋を出た。

70 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:17

戸締りなどを確認をして部屋に戻ると、彼女はもう寝息を立てて寝ていた。
あたしは彼女の横ではなく、自分の布団に入った。
なんだか自分から入るのは恥ずかしくて。寝てるからしつこくも言われないし。

「ふぅ」

一息ついて、あたしも眠りについた。

71 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:17





















72 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:17

「ひーちゃん、今日もお仕事かぁ」
「あぁ、うん」
「今日は何してようかなぁ」
「・・・・・いっつも何してんの?」

彼女が来て1週間が経った。あたしは変わらず毎日仕事。
朝に寝て、昼に起きる生活リズムは、彼女がいようと変わらない。
逆に彼女があたしに生活リズムを合わせ始めた。
仕事から帰ってきたら、必ず起きている。
それから一緒に寝て、一緒に起きる。
ずっと一緒にいるようだけど、
あたしが仕事をしている間は何をしているのか分からなかった。

「買い物しにコンビニ行ったりぃ、DVD借りてきたりぃ、
 あとは公園に散歩も行くよ?」
「え?散歩?夜?」
「うん」
「うんって。危ないじゃん」
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないよ。変な人に襲われたらどうすんだ」
「その時はひーちゃんが助けに来てくれるでしょ?」

首を傾げてニコっと笑う。その姿かかわいくて、思わず頷きそうになる。
“ヤバイ、ヤバイ”

73 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:18

「とにかくダメ」
「なぁんで〜、暇なんだもん」
「危ない」
「危なくない、気をつけてるもん」

どうやって気をつけているのか聞きたいものだ。
こんなにスタイルが良くてカワイイ人がいれば、襲いたくもなる。

「でもダメ」
「ヒマー」
「じゃあ帰ればいいじゃん」

そう言った後に物凄く失敗したと思った。彼女の顔が、一瞬にして悲しくなったから。

「やっぱ迷惑だよね」
「え?」
「いきなり押しかけてさ、ずっと居座って」
「そんなこと」
「ゴメンね、勝手だったよね。もう帰るから」

その顔は、自分を追い詰めているような顔だった。
こんな彼女の顔は見たくない。

74 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:18

「いや、違うよ。全然迷惑じゃないって」
「うそ」
「ウソじゃないよ。梨華ちゃん来てから家帰るの楽しみになったし」
「・・・・・」
「本当だよ?ほら、今までずっと1人で居たから。なんか照らされた感じ」
「照らされた?」
「うん。今まで暗闇に居たんだけど、太陽に下に出てきた感じ。
・・・・よくわかんないけど」
「ふふ、変なひーちゃん」
「まぁだからさ、いつまで居てもいいよ」

これは本音だった。ずっと1人だったから。必死に仕事してきたから。
彼女が待っていることが凄く嬉しい。

「いいの?」
「うん、いいよ」

そう言うと彼女は嬉しそうに微笑んだ。
彼女が居たいなら居ればいい。あたしはいつも通り過ごすだけ。

75 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:18

「でも危ないから出ちゃダメ」
「じゃあ何してたらいいのよぉ」
「えぇ?何って言われても」
「ほらぁ。ヒマなのぉ」

あたしは無い頭をたくさん捻って色々考えたけど、何も浮かんで来ない。
確かに夜に1人はかなり暇だろう。あたしなら寝てる。
でも梨華ちゃんは寝ずにあたしを待っててくれる。

「あ」
「ん?なぁに?」
「いやぁ、そうだねぇ」

一瞬、美貴の『店に連れて来い』という声が聞こえた気がした。
恐ろしい。彼女が食われてしまうかもしれない。
でもあたしの目に見えるところに居てくれるほうが安心する気がしないでもない。

「ねぇ、梨華ちゃん」
「ん?」
「うちの店・・・・・来てみる?」
「え?ひーちゃんの仕事場?行きたい」
「あぁ、そう。んじゃおいでよ」
「やったぁ」

76 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:19





















77 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:19

「おはよう」
「おはよ」

あたしは先に家を出て、店の開店準備をしている。
何時に来てとも言ってないから、いつ来るか分からない。
場所は地図も書いて教えたから大丈夫だろう。

「よっちゃん?さっきから何そわそわしてんの?トイレ?」
「ちげーよ。別にそわそわしてないし」

疑いの目で見てくる美貴を無視して、開店準備を急いだ。
今日は平日だから、そんなに人も来ないだろう。
忙しすぎると梨華ちゃんの相手をしてあげえられない。

「吉澤さ〜ん」

妙に甘えた声で話しかけてきたのは年下の先輩、麻琴。

「なんだよ」
「今度、愛ちゃんとデートするんですよぉ」
「へぇ。良かったじゃん」
「はぁい。吉澤さんが断ってくれたおかげです」
「あぁ、そういえばそんなこともあったなぁ」
「ありがとうございます」

お礼されるほど何もしてないけれど、何もしないことが麻琴にとって好都合だったようだ。

「よし、じゃあ開けますか」

78 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:19

予想通り、お客さんは少なかった。
あたしはいつ梨華ちゃんが来るのか、気になって落ち着かない。
美貴に「そわそわしてる」と言われてもしょうがない気がする。
時計を見つつ、入り口をちら見する。

「誰か来んの?」
「え?・・・・いや」
「来るんだ。誰?」
「誰も来ないって」

今ここで言うと、従業員全員がそわそわしてしまう気がする。ここは言わないほうがいい。
皆、梨華ちゃんに会いたがっている。来ると言ったら気になってしまうだろうと思った。

「怪しい。亜弥ちゃんを呼ぼう」
「は?おい、美貴」

美貴はそそくさと控え室にいってしまった。亜弥ちゃんにメールでもするんだろう。

「吉澤さん、誰か来るんですか?」
「いや、別に」
「ふ〜ん、今日は愛ちゃんも来るって言ってましたよ」
「あ、そう」

大集合じゃねーか。明日にすれば良かったかな、と少し後悔している。
それにしても遅い。もう22時を過ぎていた。

79 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:19

「こんばんわぁ」
「いらっしゃいま・・・」

元気よく入ってきたのは柴ちゃん。そしてその後ろに・・・・・

「・・・・なんで?」

柴ちゃんと一緒に入ってきたのは梨華ちゃんだった。
少し俯きながら柴ちゃんについてきてる。
柴ちゃんはニヤニヤしながらあたしの前のカウンターの椅子に座り、
梨華ちゃんはその隣に座った。

「会っちゃった」
「はは。どこで?」
「すぐそこ」
「もしかして・・・・・迷った?」
「・・・うん」

梨華ちゃんは少し俯き加減で頷いた。
かなり詳しく説明して地図も書いたから、迷うことはないと思っていたけど・・・・
梨華ちゃんだということを忘れていた。

「相当困っちゃったみたいで、私に聞いてきたもん」
「ゴメンね、ありがと」
「ううん。なんか新しい友達が出来て良かった。ねぇ?」
「うん!本当にありがとぅ」

80 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:20

柴ちゃんとはこの短い時間でそれなりに仲良くなったようだった。
あたしは少し安心した。ここに来ても知らない人ばっかりだとつまらないだろうから。

「よっちゃん、カシオレ2つ」
「はいよ」
「お、柴ちゃん、いらっしゃい」
「亜弥ちゃん今日来る?」
「うん。来るよ」

美貴は柴ちゃんと話しながらも、隣にいる梨華ちゃんをジッと見ている。
その視線に気付いた梨華ちゃんが軽く会釈すると、ニコっと笑った。

「初めて見る子だなぁ」
「そりゃ来るの初めてだもんねぇ?」
「うん。初めまして」

美貴は一瞬驚いた顔をして、あたしを見た。そしてニヤっと笑う。
こいつの勘は本当に怖い。きっとビンゴだろう。

「もしかして・・・・・よっちゃんの?」
「はい、石川梨華です」
「あーそれでぇ」

美貴はカシオレを2つ持って、「ごゆっくり」と言い、
他のお客さんのところに持っていった。
それを置いて、またこっちに戻ってくる。お客さんの相手は麻琴に任せたようだ。

81 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:20

「梨華ちゃんかぁ。藤本美貴です。よろしく〜」
「美貴、よく分かったね」
「声で分かった。前によっちゃんに電話かけたとき、声が聞こえたから」
「へぇ。確かに特徴的な声だもんね」
「よく言われるぅ」

梨華ちゃんが楽しそうにしているから少しホッとした。
1人で散歩とかさせるよりは、ここに居てくれたほうが安心だ。

「よっちゃんの知り合いに会うの初めてだから、なんか不思議な感じ」
「そうだよねぇ。いっつも1人だもんね」

梨華ちゃんが悲しそうな目であたしを見た。
あたしは「大丈夫だよ」という気持ちを込めて、軽く微笑む。

「んでさ、よっちゃんとはいつから付き合ってんの?」
「え?」
「あ、さっそくいっちゃうの?」

2人はニヤニヤしているけど、梨華ちゃんは相当驚いた顔をしている。
そりゃそうだ。だって付き合ってないだもん。

「だーかーらー。付き合ってないって言ってんじゃん」
「絶対嘘だね。だってこんなにカッコいいのに、彼女居ないわけないじゃん」
「はぁ」

梨華ちゃん困ってるじゃんかよ。あたしは言われなれてるからいいけど、梨華ちゃんはさ。
今まで彼氏が居たわけだし。女になんて興味ないんだから。

82 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:20

「梨華ちゃん?正直に言っちゃいなよ」
「え・・・・えーっと・・・」
「いっつもこうなんだよ。ちゃんと言ってやって。友達だって」
「あーうん・・・・」

煮え切らない声を発する梨華ちゃんに。あたしはイライラし始めていた。
≪友達≫と一言言えばいい話。さっさと言ってほしい。

「結構前から・・・」
「え?」
「あーやっぱりね。なんか長いんじゃないのかなと思ったもん」
「え、ちょ、待って。梨華ちゃん?」

首を傾げてあたしを見ている。カワイイ・・・・じゃなくて!!
梨華ちゃんは付き合っているということを否定しなかった。
ということはあたしと梨華ちゃんは付き合ってることになる。それはおかしい。
付き合って覚えは一度も無い。

「なに、よっちゃん。そういうプレイが好きなの?」
「どんなプレイだよ!!」
「でも安心したよ。梨華ちゃんが居るならよっちゃんも大丈夫だね」
「そうだよ。すっごい働いているみたいだったし、ちょっと心配してたんだから」
「あぁ、そりゃご心配をおかけしまして」

あたしの頭の中はハテナでいっぱいだった。
何故付き合っていると言ったのか。何故普通の顔をしているのか。
梨華ちゃんが何を考えているのか、全く分からなかった。

83 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:21

その後、他のお客さんがいなくなり、亜弥ちゃんと愛ちゃんがやってきた。
貸し切り状態になり、美貴も麻琴もどんどんお酒が進む。

「今日さ、もう終わりにしない?」
「何言ってんだよ」
「どうせオーナー来ないしさ。いいじゃん」
「僕も賛成です!石川さん歓迎会ということで」

確かに今日はもう誰も来ないだろう。だからといって閉めていいものか。
きっとバレたら怒られる。

「ダメだって」
「なんだよ、よっちゃんは本当にかてーな」
「だよねぇ。梨華ちゃん、この人と一緒にいて楽しい?」
「う、うん。楽しいよ」
「きっとこいつは、2人だと変わるタイプなんだよ」

変な妄想をあーだこーだ言いまくっている。
完全に出来上がっちゃってるから、もう店を閉めざるを得ないだろう。
怒られる覚悟をしておかなきゃいけない。

84 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:21

「石川さぁ〜ん」

完全に酔っ払った麻琴が梨華ちゃんが甘えている。なんかムカつく。
あいつはカワイイって言われるタイプだもんな。

「本当にカワイイですね、石川さんは」
「ありがとぅ。麻琴もカワイイね」
「へへへ〜」

懐いちゃっているよ・・・はぁ。
ふと愛ちゃんを見ると、物凄く怖い顔をしていた。思いっきり麻琴を睨んでる。

「愛ちゃん。メッチャ怒ってない?」
「別に」

愛ちゃんもなんだかんだ言って、麻琴を気に入ってるんだなぁと思った。
自分以外の人にヘラヘラしているのが気に入らないんだろう。

85 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:21






















86 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:22

午前4時になり、いいだけ騒いだ美貴と麻琴は眠ってしまった。
店では寝ないで欲しい。あたしが帰れなくなる。

「おい!起きろよ。帰るぞ」
「・・・う〜ん、、、もうちょっとぉ」
「もうちょっとじゃねーよ!帰るぞ」

亜弥ちゃんが美貴を引っ張り、愛ちゃんと柴ちゃんで麻琴を引っ張る。
タクシーに乗せ、各々が帰っていった。

「帰ろっか」
「うん」

無言で家まで2人で歩く。
いつもなら色々話すのに、こういうときに限って何も出てこない。
それは梨華ちゃんも同じようだった。ひたすら無言で歩き、家に着いた。

87 名前:誰が好きですか? 投稿日:2007/11/03(土) 15:22

「先にいいよ。シャワー」
「うん、じゃあ入ってくる」

梨華ちゃんは妙に機嫌が良い。相当楽しかったんだろう。店に誘って良かったなと思った。
それにしても梨華ちゃんに聞きたいことはたくさんある。
とりあえず今日は疲れているだろうから、明日にしよう。
そう思いつつ、梨華ちゃんが上がってくる前に、あたしはソファで寝てしまった。


                                     つづく

88 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/03(土) 23:55
梨華ちゃんもよっちゃんと同じ気持ち?
89 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/04(日) 10:24
????
90 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/04(日) 18:05
ドキドキして待ってます
作者さん頑張ってください。
91 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/18(日) 10:33
!!!!
92 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/18(日) 18:01
>>89&91
sageレスする気ないならもうレス入れんなや。

>作者さん
続き楽しみにしていますよ〜
93 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/09(日) 03:57
作者さーん起きてくださーい!
一ヶ月も梨華ちゃんをお風呂場で放置ですか〜w
94 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/14(月) 18:46
>>88
どうなのでしょう。私にも分かりません。

>>90
お待たせいたしました。少しですが更新です。

>>92
ありがとうございます。続きです。

>>93
やっと目を覚ましましたw
梨華ちゃんはふやけてしまっていることでしょうw

95 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/01/14(月) 18:47

目を覚ますと毛布が掛けられていた。きっと梨華ちゃんが掛けてくれたのだろう。
そっと寝室を覗くと、梨華ちゃんはベッドの上で寝息を立てて眠っていた。
起きる気配はない。時計を見ると、午前8時だった。まだ寝ることはできる。
“今からベッドに入るのは気まずいよなぁ”
あたしはそう思い、リビングに戻ってソファに横になった。

「ふぅ」

店での梨華ちゃんの発言が気になってしょうがなかった。
どういう意図であんなことを言ったのか。
あたし達は知らないうちに付き合っていたのだろうか。
考え始めると眠れなくなってしまった。

「シャワー入ろ」

ボーっとする頭をこの際覚ますことにした。

96 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/01/14(月) 18:47

「あ、おはよ」
「おはよぅ」

シャワーから出ると、梨華ちゃんはすでに起きていた。
まだ眠たそうに目を擦りながら、クッションを抱えてソファでテレビを見ている。
あたしは冷蔵庫から冷たいお茶を取り出し、コップに注ぐ。

「お茶飲む?」
「ううん、いらない」

お茶を冷蔵庫にしまい、コップを持ってソファに下に座った。

「眠くないの?」
「ひーちゃんは?」
「覚めた」
「私も覚めちゃった。昨日飲み過ぎたかも」
「気分悪い?」
「ううん。なんか楽しくて興奮して眠れない感じ」

楽しんでくれたみたいで良かった。
正直あんなところに行って、普通の人は楽しいのかどうか分からなかった。
“あいつらだから楽しかったんだろうなぁ”
あたしは素直にそう思った。

97 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/01/14(月) 18:48

あたしは1つだけ聞きたいことがあった。
それは昨日の梨華ちゃんの発言。あたし達の関係性。

「ねぇ梨華ちゃん」
「ん?」
「昨日さぁ、皆に付き合ってるって言ったじゃん?あれなんで?」

梨華ちゃんは一瞬わからないといった顔をしたけど、すぐに思い出したようだった。

「うーん、ああやって言ったほうがいいのかと思って」
「え?なんでそう思ったの?」

梨華ちゃんは皆があたしに彼女がいないのはおかしいと責められていたから、
それを助けるために付き合っていると嘘をついたらしい。
そうすれば話も丸く収まると、梨華ちゃんなりの気を使ったようだ。

「そういうことか」
「うん、そういうこと」
「それは・・・いらなかったかもね」
「えぇ?せっかくお芝居したのにぃ」

彼女はどこか楽しんでいるように見えた。
あたしと付き合っているという芝居をしている自分に酔っているようだ。

98 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/01/14(月) 18:48

「あいつら色々としつこいよ。きっと根掘り葉掘り聞かれるよ?
 嘘なんてつき通せる?」
「大丈夫!!」

その自信はどこから来るのか教えていただきたい。ため息が出る。

「あたし知らないからね」
「いいもん!」

口を尖らせて不貞腐れている。
“なんでちょっと不貞腐れてるんだよ。意味わからん”
こうして梨華ちゃんのお芝居生活はスタートした。
(店でだけだけどね♪)

99 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/01/14(月) 18:48





















100 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/01/14(月) 18:49

「いらっしゃい」
「どうも〜」
「こんばんわぁ」

あれから梨華ちゃんはよく店に来るようになった。
美貴たちは梨華ちゃんに興味津々で、昔話なんかをよくさせられている。
梨華ちゃんもそれなりに楽しそうに話しているからいいのかもしれないけど・・・
もちろん、あたしと梨華ちゃんのことについても触れてくるわけで・・・

「初めてキスしたのっていつ?」
「え?」
「よっちゃんとのファーストキス」
「あぁ、、、それはぁ・・・」

お芝居梨華ちゃん発動だ。あたしは一切助け舟は出さない。
梨華ちゃんがやるって言い出したんだ。助けてなんかやらない。
悩んでるのがちょっと面白かったりする。
“何考えてるんだろう”

101 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/01/14(月) 18:49

「・・・高2のときかな」

“お、答えた”

「かなり前じゃん。どんなシチュエーションで?」
「ひーちゃんてね、すごい私のことからかうの」

“うん、嘘じゃない”

「その時も学校帰りに色々からかわれてて、私が怒ったの。
 そしたらいきなりキスされた」

“ん?・・・それって”

「じゃあ奪われた感じなんだ。そん時はもう付き合ってなかったの?」
「ううん、まだ」

“ってか今でも付き合ってねーよ”

あたしは心の中で毒づきつつも、梨華ちゃんの話に1つも嘘がないことに気付いた。
梨華ちゃんはあのキスを覚えていた。確かにあれはファーストキスだった。

「よっちゃん、やるなぁ」
「やっぱ男前はやることが違うよね」

102 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/01/14(月) 18:49

皆各々に好きなことを言っているけれど、あたしは特に聞いてなかった。
梨華ちゃんがあのキスを覚えていたことが、何だか嬉しい。
一方的に感情に任せてしてしまったキスだけど・・・。

「へぇ。じゃあ初エッチは?」
「ブゥー」
「ちょっと、よっちゃん汚いよ」
「だって・・・なんでいきなりそれに持ってくんだよ」
「気になるじゃーん。皆聞かないから代表してあたしが聞いてあげる」

そう言ったのは亜弥ちゃんだった。

「ねぇ、いつ?どうだった?」
「えっと・・・」

梨華ちゃんは困った顔をしながらあたしのほうを見た。
“なんだよ。お芝居梨華ちゃんはどこにいったんだよ。大体1つも芝居できてないじゃん”
仕方がないから助け舟を出してあげることにした。

「もうさ、勘弁してよ。一日にそんなに色々聞いたら、後の楽しみなくなるでしょ」
「えぇ〜」
「まぁそうかもね。お楽しみはまた今度っていうことにしようよ、亜弥ちゃん」

珍しく美貴がフォローしてくれた。亜弥ちゃんも渋々美貴の言うことを聞いてくれた。
梨華ちゃんがホッとしてる。だから嘘は止めたほうがいいのに。

103 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/01/14(月) 18:49

梨華ちゃんは最後までいてあたしを待っていてくれた。
「寒い、寒い」と言いながら、家へと急ぐ。

「ひーちゃん、今日ゴメンね」
「ん?何が?」
「助けてもらったから」
「あぁ」

家に着いた途端、梨華ちゃんはあたしに謝ってきた。全然気にしてないのに。
彼女の中で許されない部分があったのかもしれない。

「お芝居梨華ちゃんはもう無理じゃない?」
「そんなことない!」
「頑固だなぁ」
「大丈夫だもん」

たった3日でボロが出たのにまだやる気の梨華ちゃん。本当に頑固だと思う。
折れようとしない。そんなんだから彼氏と長続きしないんだ。
なんて言ったらネガティブで面倒くさくなるから止めよう。

「だって今日1つもお芝居してないじゃん」
「・・・・思いつかないんだもん」
「それじゃあダメだよ」
「・・・ひーちゃん覚えてたの?キスのこと」

104 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/01/14(月) 18:50

あたしはドキっとした。自ら地雷を踏んでしまった感じがする。

「そりゃ、あたしからしたわけだし。梨華ちゃんこそよく覚えてたね」
「だって・・・・」

梨華ちゃんは少し俯いて、あのときみたいに、あのキスをしたときみたいに口を尖らせた。

「あれ、ファーストキスだったんだもん。ひーちゃんに奪われた」

奪われたって言い方嫌だなぁと思いつつも、少しだけ優越感が漂っている。
なんとなくそんな気はしてたけど、ファーストキスだったのか・・・まぁあたしもだけど。

「えっと・・・ゴメンね」
「もう済んだことはしょうがないよ」
「はは、意外とさっぱりしてるよね、梨華ちゃんって」

彼女は「そうかなぁ」と言いつつ部屋に入っていく。
1つだけ余っていた部屋は、いつの間にか梨華ちゃんの部屋になっていた。
どうせ誰も使わないし、使ってもらったほうが部屋も喜ぶだろうと思った。
でも最近気がついたことが、その部屋に家具が増えてきているということ。
だんだんと普通の梨華ちゃんの部屋になっている。

105 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/01/14(月) 18:50

部屋から出てきた梨華ちゃんに聞いてみた。

「ねぇ、梨華ちゃん」
「んん?」
「また家具増えてない?」
「え?・・・そんなことないよ?」

明らかに動揺している。これは確実に増えているなと確信した。

「洋服もさ、色々と着てるけど、カバンそんなに大きくなかったよね?」
「あぁ、あれ結構入るんだよねぇ」
「ふ〜ん。靴も増えてるよね?」
「・・・・・ひーちゃん、意外と細かいね」

そりゃ今まで全然なかった靴が増えてたら気付くでしょ。
こいつ・・・・・このままここに住もうとしてないか?
だってこんなに仕事休めるとかおかしい。なんか企んでる気がしてきた。

「仕事は?いつまで休み?」
「ん?う〜んとねぇ、もう行かない」
「はい?」
「もう行かなくていいの」

あたしの頭がこんがらがる。「もう行かなくていい」=「会社を辞めた」??

106 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/01/14(月) 18:50

「え?辞めたの?」
「うん」
「いつ?」
「こっちに来る前」
「なんで?」
「もう嫌になったから」

とぉーって単純だけど、一番わからない解答をされた。
会社で何かあったとしか考えられない。

「大丈夫か?」
「え?」
「なんか辛いことでもあったんじゃないかと思ってさ」
「・・・・ありがと、ひーちゃんは優しい子だね」
「まぁね」
「自分で言うと格好良くないね」
「うるせぇ」

「はは」っと2人で笑った。
会社を辞めてちょっと気分を変えるためにこっちに来たのかもしれない。
こっち癒されているのだろうか。

107 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/01/14(月) 18:50

「こっちに来て楽しい?」
「うん!特にあの店の人たちが楽しい。柴ちゃんとも仲良くなれたし。
 こんどお買い物行くんだぁ。ひーちゃんが付き合ってくれないから」

皮肉たっぷりにいう彼女の仕草1つ1つが本当にかわいい。
思わずニヤけてしまうのは何故だろう。彼女に惚れているからだろうか。
美貴に見られたらどれだけ冷やかされるか分からない顔を今していると思う。

「いつまででも居ていいよ」
「え?」
「梨華ちゃんが嫌になるまで居てもいいから」
「・・・・・」
「つーかさ、居てよ」
「・・・え?」
「側に居てよ」

あたしは自然と、凄く自然に彼女を抱きしめていた。
鼓動が早くなるのが自分でも分かる。と同時に、梨華ちゃんの鼓動も伝わってくる。
しばらく抱きしめたあと、身体を少し離し、
吸い寄せられるように彼女の唇に自分の唇を落とした。


                                     つづく


108 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/15(火) 04:00
お!更新お疲れ様です。
やっぱりドキドキしますねー
最後の「おーまーぃがーーっ!!」になっちゃったんですww
109 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/15(火) 23:00
梨華ちゃんの反応が楽しみです。
110 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/16(水) 14:52
あ、作者さん起きた!良かったァ
よっちゃんも動きだしたことだし
続き楽しみです頑張ってくださいね。

 
111 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/08(金) 21:22
>>108
 109様
 110様
 読んでくださってありがとうございます。
 今回の更新で終了です。
 
112 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/02/08(金) 21:23

ただ触れるだけのキスをして、やってしまったと思ったあたしは、
「ごめん」と一言だけ言ってシャワーに逃げた。
手がまだ震えてる。ノリだったとしてもやってしまった。
梨華ちゃんに合わす顔がなく、いつもより長いシャワーを浴びた。

シャワーから出て、リビングをチラっと覗く。
“あれ、いない”
もう寝たのかと、少し安心した。
構わずリビングに入っていくと、部屋から梨華ちゃんが出てきた。

「おわっ」
「なによぉ」
「いやっ・・・何でもない」

梨華ちゃんはそのままシャワーを浴びにいった。
まだドキドキしている。
高校の頃は、なんかお遊びっていうか、そんな感じだった。
でも今はそうじゃない。それなりに大人になって、こういう状況で。

「はぁ」

ため息が出る。梨華ちゃんはどう思っているんだろう。
ってか、あたしは何をしているんだろう。本当に、ただ吸い込まれていった。そんな感覚。

113 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/02/08(金) 21:23

キスをしたいという願望がなかったと言えば嘘になる。
何度も一緒に寝て、その寝顔を見るたびにキスがしたいと思っていた。
でもまさかするなんて・・・

もうそろそろ梨華ちゃんが上がってくる時間かもしれない。
さっさと寝てしまおう。それがいい。
そそくさと寝室へ入り、布団を被った。
しばらくして、リビングに梨華ちゃんが戻ってきた。
寝室のドアを少し開けているから、梨華ちゃんの動作がそれとなく、耳に入ってくる。
というよりも、気になって聞いてしまう。

「ふぅ」

梨華ちゃんもため息をついた。あたしに対してだろうか。
冷蔵庫を開けて、何か飲んでいる。・・・・・あたし、ストーカーみたいだ。

しばらくすると、梨華ちゃんが寝室に入ってきた。
近くに梨華ちゃんがいる。寝たふり寝たふり。

「ひーちゃん」

起きない、起きない。

「寝ちゃったのぉ?」

寝てます、寝てます。

114 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/02/08(金) 21:23

梨華ちゃんは小さく息を吐いて、寝室から出ていった。
パチッとリビングの電気が消されたと思ったら、また寝室に入ってきた。
“そうだ!いつも一緒に寝てるんだった”
梨華ちゃんはいつも通り、布団を軽く捲り、あたしの隣に入り込んできた。
ドキドキを悟られないように必死に胸を押さえる。
寝返りを打つふりをして、梨華ちゃんに背を向けた。

「ひーちゃん」

梨華ちゃんはまだ話しかけてくる。返すべきか迷ったが、やっぱり寝たふりをした。
すると背を向けたあたしにピッタリと寄り添ってきた。
“ヤバイ、ドキドキが収まんない”
梨華ちゃんの心の音が背中越しに伝わってくる。それなりにドキドキしているみたいだ。

「ひーちゃん、私ね」

梨華ちゃんはポツリポツリと話し始めた。
あたしが狸寝入りしていることに気付いているようだ。

115 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/02/08(金) 21:23

「ずっと、ひーちゃんのことが好きだったの」

思わぬ告白にドキドキが収まらない。そんなことって・・・

「出会ったときから・・・でもこの恋は叶わないんだろうなって、ずっと思ってた」

あたしもだよ。梨華ちゃんとの恋は叶わない。ずっとそう言い聞かせてきた。

「だからね、ひーちゃんのこと忘れなきゃって、何人かと付き合ってきたの」

そうだよね。あたしもその人たち知ってるよ。

「でもね、ひーちゃんみたいな人なんて居なかった」

そりゃ、あたしは1人しかいませんから。

「あぁもうダメなんだって。ひーちゃんしかダメなんだって思ってこっちに来たの」

116 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/02/08(金) 21:24

ここへ来た本当の理由。それはあたしに会いたかったから。
想い人からそう告げられて、嬉しくないはずがない。
狸寝入りしていたことも忘れて、彼女のほうに身体をむけ思いっきり抱きしめた。

「ひーちゃん?」
「あの、あたしさ・・・えっと、あのね」
「・・・うん」
「・・・・・あたしも梨華ちゃんがずっと好きだった」

梨華ちゃんは何も言わず、あたしの腕の中でじっと聞いている。

「もうずっと。ずっとずっと、今も好き」

今まで押さえ込んでいた言葉がどんどん溢れ出てくる。

「他の誰よりも梨華ちゃんを幸せにする自信がある。
 結婚できないけど、子供もできないけど・・・幸せにできる」

自分の思いをすべて伝えた。こんなにスラスラ出てくるとは思っていなかった。
腕の中にいる梨華ちゃんが顔を上げてあたしの目を見てくる。
凄くキレイで澄んでいる目。

117 名前:誰が好きですか? 投稿日:2008/02/08(金) 21:24

「本当に幸せにしてくれる?」
「もちろん」
「絶対?3か月でさよなら、なんて無しだよ?」
「そこらへんの男と一緒にしないでよ」
「うん・・・・分かった」
「信じる?」
「信じてあげる」
「なんで上から目線なんだよ」
「ふふ」

こんな会話が出来るだなんて、夢にも思わなかった。
たぶん一生で一番幸せな瞬間なのかもしれない。

「ひーちゃん大好き」
「ぅおい」
「好き」
「はい、ありがと」

やっと手に入れた、最愛の人。もう絶対に離すことはない。


                                      END

118 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/08(金) 21:25

今後、『その後』という形で番外編を書いていきたいと思います。
そこで絵里ちゃんも出てきますので、よろしくお願いします。

119 名前:t-born 投稿日:2008/02/08(金) 22:53
二人とも、想いが通じ合って良かったですね!
梨華ちゃんの気持がすごく気になってたので、なんだか納得できました。
次回は、その後ということで、すごく楽しみです!
二人の関係は、もっと深くなるんでしょうか?
ああ、すごく楽しみです!
今回の更新、ありがとうございました!
そして、番外編もよろしくお願いします!
120 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/09(土) 02:13

続編の前に中編小説を書いてみました。
良かったら読んでみてください。

121 名前:愛を探して 投稿日:2008/02/09(土) 02:14




122 名前:< 1 > 投稿日:2008/02/09(土) 02:14
「「いぇ〜い」」
「ふぅ」

カラオケで盛り上がっている男女数名。
そんな中でいまいち盛り上がることが出来ない。
もう帰ろう。そう思って一緒にいる友達に声をかける。

「ごめん、柴ちゃん。今日帰る」
「え〜?梨華ちゃん帰るの?なんでぇ?」
「う〜ん・・・何となく。ゴメン」
「わかったぁ、気をつけてねぇ。また明日」
「うん」

その場から素早く抜け出し、駅に向かう。
最近はいつもこんな感じ。たくさんの人と飲んで騒いでも、何だか心が埋まらない。
今日は早く寝よう。そう思いながら駅へと向かう。

「はぁ」

ため息も減らない。増える一方だよ。

123 名前:<1> 投稿日:2008/02/09(土) 02:15

電車に乗って、家の近くの最寄り駅で降りる。
コンビニで何か買おうかとも考えたけど、
それすらも面倒臭く感じて、コンビニを通り過ぎた。

家の近くの小さな公園を通る。もう夜だから、子供が遊んでるはずもなく。
カップルがいるような公園でもない。そこはシーンと静まり返っていた。
静か過ぎて少し怖いくらい。

「ゴメンなぁ」

私は突然聞こえてきた声にビクっとした。
辺りをキョロキョロ見渡しても誰もいない。

(ガサガサ)
「これで我慢して」

やっぱり空耳じゃない。ふと、草むらのほうに人影が見えた。
好奇心というか、興味本位でそこに近づいてみる。

124 名前:<1> 投稿日:2008/02/09(土) 02:15

「うまい?」

そこにはダンボールに入っている子犬と、帽子を被った人がいた。

どうやら子犬に何かあげているみたい。
その人は私がいることに気がつかず、ずっと子犬に話しかけている。
顔を盗み見ると、凄く整っていて綺麗な顔。澄んだ瞳をしている。

私は気付かれないように、その場を後にした。

「変な人。連れて帰ればいいのに」

ポロッと独り言が出てしまう。家までもう少し・・・。

125 名前:<1> 投稿日:2008/02/09(土) 02:16

無駄に大きい家。誰もこんな家に、今私が一人でいるだなんて思っていないと思う。
パパもママも会社を経営していて、いつも帰ってこない。

ううん。仕事が忙しいなんて、ただの口実だと思う。
きっとどこかでお互いがバラバラで仲良くやっている。そういう冷め切った夫婦。
私の前では、仕事が忙しい仲の良い夫婦を演じている。大変よね。

だから私は家にあまり帰らなかった。帰っても誰もいない。
それなら友達と一緒に居たほうが寂しくなくて良い。
幸いお金には困らなかった。お小遣いはいくらでもくれる。

「はぁ」

またため息。帰ってきてお風呂に入った。もちろんまだ両親は帰ってこない。
愛のない家庭に育った私は、本当の愛を知らない。
すべて見せかけだと思っている。

「もう寝よ。明日も学校だし」

126 名前:<1> 投稿日:2008/02/09(土) 02:16





















127 名前:<2> 投稿日:2008/02/09(土) 02:16
「梨華ちゃ〜ん。おはよ」
「あ、おはよう」
「なんで昨日帰っちゃったのぉ?」
「なんか気分が乗らなくて」
「最近いっつもじゃん。梨華ちゃん帰ったから、あたし達もすぐ帰ったんだよぉ」

今日の朝も家には誰もいなかった。
朝方帰ってきたらしい後は残っていたけど、起きたときにはもう誰もいない。

「ゴメンね、亜弥ちゃん」
「いいんだけどさぁ。あ、柴ちゃんおはよ」
「おはよう。亜弥ちゃんこの授業とってないでしょ」
「あは。じゃあまたねぇ。就活頑張って!」

そう言い残して亜弥ちゃんは自分の教室を出て行った。
カワイイ後輩。柴ちゃんと同じ高校出身で、今はよく一緒に遊びに行っている。

「就活かぁ」

私たちは大学4年生。
もう決まっている人は決まっているけど、
まだヤル気の出ない私たちは1つも動いていない。

128 名前:<2> 投稿日:2008/02/09(土) 02:17

「あぁ、お腹減ったぁ」
「もう?」
「朝ごはん食べそびれてさぁ。今日何食べよっかなぁ」

大学の学食は安くて美味しい。大学に来る1つの楽しみにもなっている。
4年生で単位を取っていればもう来なくても大丈夫なはず。
単位はしっかり取っているけど、皆と会う時間が欲しくてこうやって授業を入れている。

だって、もし授業が無かったら、私は毎日一人ぼっち・・・

「眠い」
「たくさん寝たんでしょ?」
「寝すぎて眠い」
「あ〜あるある」

こんな何気ない会話が私の凍りつきそうな心を暖めてくれる。
でもまだ、凍らないだけで冷たいことには変わりない。
私はずっとこのまま、冷たい心のまま、生き続けるのかなぁ。なんて思う時がある。

129 名前:<2> 投稿日:2008/02/09(土) 02:17










130 名前:<2> 投稿日:2008/02/09(土) 02:17

「さ、学食学食」

授業が早めに終わった。
柴ちゃんは本当に嬉しそうに学食に向かう。
途中で亜弥ちゃんも合流して、3人での昼食。

「何にしよっかなぁ」
「あーまた迷うぅ」
「スイマセン、ささみチーズ揚げ下さい」
「ごめんねぇ。今ちょうど揚げてるとこなんだわ。後5分待てる?」
「はい」

まだあまり人が居ない学食。これから沢山人が来る。

「すいませぇん」
「はぁい。あら、今日はどっち?」
「う〜んとねぇ・・・蕎麦!!」

そんな会話が聞こえてきて、そちら側を見た。

「あっ」

思わず声に出してしまった。そこには昨日公園で子犬を会話をしていた人。
ここの学生だったんだ。ということは、女の子か。
昨日は暗くてどっちか分からなかった。

131 名前:<2> 投稿日:2008/02/09(土) 02:17

「今日は朝ごはん食べたの?」
「ううん。昨日ここでウドン食べてから、何も食べてない」
「またぁ?もう、しょうがないわねぇ」

そう言っておばちゃんは、カレーをオボンに乗せた。
やけに親しげに学食のおばちゃんと話をしている。
それよりも、会話の内容が気になって仕方がない。
お昼から何も食べてないってどういうこと?またってどういうこと?
この人いっつもご飯食べてないの?

私の頭の中で、色々なハテナが浮かんでくる。
自分とは正反対の人間だと確信を持って言える。

「うわぁ。やったー!これで今日一日もつ」

カレーはおばちゃんからのサービスみたい。
満面の笑みでお礼を言う彼女。私には考えられないこと。

「よっちゃ〜ん。あれ、今日は豪勢じゃん」
「へへ。もらった」
「また?本当に得な性格してるよね」
「美貴ももらえば?」
「普通はもらえないっつーの」

そんな会話をボーっと聞いていたら、私のささみチーズ揚げが出来上がった。
それを持って、柴ちゃんたちの元へ行く。

132 名前:<2> 投稿日:2008/02/09(土) 02:18

「ねぇ柴ちゃん」
「ん?」
「昨日のお昼からご飯食べないなんてこと、あり得る?」
「えぇ?お腹空くでしょ」

そりゃそうだよね。お腹空くよね。普通はね。あの人はお腹空かないのかな。

「でもお金が無い人なら、お腹空いているのを我慢して食べない人とかいるんじゃない?」
「あぁなるほどね。まぁ梨華ちゃんには全く関係ない話だよ」

お金がない。あ、そうか。だからご飯が食べられないんだ。かわいそう。
私は妙に納得して、ご飯を食べ始めた。
すると、私たちの座っている斜め前に、『犬の人』が現れた。

133 名前:<2> 投稿日:2008/02/09(土) 02:18

「ねぇ」
「ん?」
「あの人格好良いよね?」

亜弥ちゃんが指差したほうには『犬の人』がいた。柴ちゃんも乗っかる。

「あぁ、ダンス部の人でしょ?」
「そう。でも幽霊部員らしいよ。カッコいいから人集めのために入部させられたんだって」
「そうなんだぁ」

確かに綺麗な顔してるし、人気が出そうな感じ。

「目当てで入ってくる人はいるらしいよ」
「ふぅ〜ん。何狙ってるの?」
「いや、カッコいいなぁと思って」
「あの人なんて名前だっけ?」
「吉澤ひとみ」

私はその時初めて『犬の人』の名前を知った。

134 名前:<2> 投稿日:2008/02/09(土) 02:18











135 名前:<2> 投稿日:2008/02/09(土) 02:18

「えぇ〜梨華ちゃん行かないのぉ?」
「ごめん!今日は帰る」
「どうしたの?大丈夫?」
「え?大丈夫だよ。元気モリモリ」
「・・・・・いつもながら寒いから大丈夫だね」
「うん」

寒いってどういうことよぉ!元気モリモリって言っただけで寒いの?
柴ちゃんと亜弥ちゃんと別れて家に帰る。
今日も特に何も無いんだけど、何だか家でボーっとしたかった。

家に帰るのに、また公園を通る。今は夕方だから、まだ子供達が遊んでいる。
元気に走り回って・・・私にもあんなころがあったのかなぁ。

「はい。しっかり食べろよ」

昨日と同じ声が、草むらから聞こえてきた。私は彼女に違いないと確信を持っていた。
草むらをチラッと見ると、やはりそこには子犬と彼女が居た。またミルクをあげている。

「ゴメンな。飼ってやりたいんだけど、ウチのアパートじゃ飼えないんだよ」

そう言いながら、子犬に頭をずっと撫でている。凄く優しい目で。

私はその光景をジッと見ていた。
彼女がすっと立ち上がったのを見て、我に帰り、その場を後にした。

136 名前:<2> 投稿日:2008/02/09(土) 02:19

その後も何度もその光景を目にしていた。学食でもよく見かける。
相変わらず満面の笑みでおばちゃんたちと接している。
彼女は周りの人に愛されている。ふとそう思った。

愛されている人はあんな風に笑うんだ。
私はどうだろ?きっとあんな笑顔は出来ていない。
両親の仕事の関係上、偉い人に会うことが多かった私は、
いつの間にか愛想笑いができるようになっていた。
その人たちに向けて、心から笑ったことなど1度もない。

パパのため、ママのため、私は必死に笑っていた。
彼女が羨ましい。心から笑える人になりたい。

公園での彼女は本当に優しい目をしていた。

137 名前:<2> 投稿日:2008/02/09(土) 02:19





















138 名前:<3> 投稿日:2008/02/09(土) 02:20
家に帰ると電気が点いていて、誰か居るようだった。
両方居ることはないと思う。きっと片方。

「おかえり」
「ただいま、今日はパパ早いんだね」
「あぁ。ママはまだか」
「うん、今日も遅くなるんじゃない?」

私は1度着替えてからリビングに降りてきた。
ソファに座ってテレビを見ていると、パパが話しかけてきた。

「梨華」
「ん?」
「ちょっと、食事をしてほしい人がいるんだ」
「・・・食事?」
「あぁ。取引先の人でな。年はお前より3つ上。好青年だぞ」

また利用される。今までも何回かそういうことがあった。
契約のために私がかり出される。

「お前ももう卒業だろ?
 就職活動もしてないみたいだし。落ち着いてもいいんじゃないか?」

その言葉を聞いて、今までの食事会とは違う感じた。

139 名前:<3> 投稿日:2008/02/09(土) 02:20

「パパ。それって」
「お見合いってほどじゃない。
 ただ、お互い気が合えばお付き合いしてもいいんじゃないかと・・・」

私は最後までパパとママのビジネスの餌。
私の気持ちなんて尊重してくれるはずもない。ビジネスがすべて。
こんなことのために生まれてきたの?私は・・・

「今は付き合っている人いないんだろ?ちょうどいいじゃないか」

何がちょうどいいのか分からない。パパには都合の良いことって意味?
こうやって自分の人生が終わっていくのかと思うと寂しくて堪らない。

「どうだ?」

私に選択肢なんて無いんでしょ?

「・・・分かった」

今度の土曜日に、食事をすることになった。
パパは凄く喜んでいる。これで良いんだよね。これが私の人生。

140 名前:<3> 投稿日:2008/02/09(土) 02:20











141 名前:<3> 投稿日:2008/02/09(土) 02:20

「はじめまして、田中です」
「石川梨華です」

パパの言うとおり、本当に好青年だった。
品があって、色々なことを知っていて、優しくしてくれる。
会話も楽しくて、それなりに良い食事会。

食事をして、その後送ってくれるということで、彼の車まで歩く。
居酒屋なんかが並んでいるところ。

「よっちゃ〜ん」

私はその声がしたほうを向いた。
そこには予想していた通り、『吉澤さん』がいた。友達と飲んでいるみたい。

「いや、本当に金もう無い!帰る!」
「貸すってば」
「借りても返せないから無理」

私がそれを見ていることに気がついた田中さんは、明らかな嫌悪感をあらわにした。

142 名前:<3> 投稿日:2008/02/09(土) 02:21

「俺さ、ああいう学生ダメなんだよね」
「え?」
「ただ遊んでるだけって言うか、夢も希望も無いような学生」

私もあの人たちと変わらないのに・・・
この人も見た目だけで判断しちゃってるんだ。

「いろんな人が居ますからね。でもダメな人ばかりじゃないと思いますよ?」
「そうかな?俺はダメな人間しか見たこと無い」

決め付けちゃって、心の冷たい人。私も心が冷たいし、変わらないよね。

そのまま家まで送ってもらった。
「また食事に」って誘われたけど、そんなに行きたいと思わない。
仕事のためなのかなって思っちゃった。
私の心を知ろうとはしていない。外見だけ。バックにいるパパを見ているだけ。

143 名前:<3> 投稿日:2008/02/09(土) 02:21





















144 名前:<4> 投稿日:2008/02/09(土) 02:21
「うわぁ、凄い雨」

天気予報の通り、昼から突然雨が降ってきた。しかも大雨。
傘持ってきてよかった。なかなか帰れない人もちらほらいる。

「今日はあたしも遊びに行くのやめようっと」
「この雨じゃね。私もやめよ」

雨だから遊びに行かず家に帰るという2人と別れて、私も家に向かう。
途中の小さな公園。さすがに誰も遊んでいない。

「あ、犬」

子犬のことを思い出して、草むらへ向かう。こんな雨だから、震えてるかもしれない。
彼女はいるのだろうか。

「寒いよね、大丈夫か?」

「っ!?」

彼女はそこにいたけれど、ずぶ濡れもいいとこだった。
ここにどれくらいの間いたのか分からない。
一本しかない傘をダンボールの上に差して、子犬を庇っていた。
自分がいくら濡れても構わない。そんな感じだった。

145 名前:<4> 投稿日:2008/02/09(土) 02:22

びしょ濡れの彼女を見ていられなくて、傘をもう一本出して彼女の上に傘を差した。
急に雨が当たらなくなったのを感じて、彼女が上を向く。

「風邪ひいちゃうよ?」

私は声をかけた。驚いたようにゆっくり顔をこちらに向ける。
整った顔に澄んだ瞳。とっても綺麗。
そんな目で見ないで。子犬みたいな目で・・・

「あ、ありがとうございます」

彼女は合った目をすぐに逸らし、そう呟いた。
大学で見る彼女の姿とは全く違っていて、
熱でもあるんじゃないかと彼女の額に手を当てた。

彼女はビクッとして、また私のほうを向いた。
熱は無いみたいだけど、かなり冷え切っている。
この子犬だって、このままにしておいたらどうなるかわからない。

146 名前:<4> 投稿日:2008/02/09(土) 02:22

「その犬。ウチで飼っちゃダメかな?」

私はごく自然にその言葉を口にしていた。

「え?」
「だって、このまま置いておいたら風邪引いちゃうよ」
「・・・・・いいんですか?」

彼女は申し訳なさそうに、そして寂しそうに呟いた。

「うん、いいよ。あなたもウチで暖まっていって?本当に風邪引く」

私がそう言うと、ダンボールの中の子犬を抱き上げ、傘を自分に差した。
私は一本をしまい、家に向かって歩き出す。

家に着くまでずっと無言。私も話しかけなかったし、彼女も話さなかった。

147 名前:<4> 投稿日:2008/02/09(土) 02:22

部屋の中を温かくして、彼女にバスタオルを渡す。
彼女は子犬も一緒に拭いてあげている。

「寒くない?大丈夫?」
「はい、結構温まってきました」

そう言いながら子犬を拭いている彼女の顔は、凄く優しかった。
こんなに優しい顔をした人がいるんだろうかと思うぐらい、私は出会ったことのない人。

「あの」
「ん?」
「本当に飼っていただけるんですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとうございます!!」

「よかったなぁ。もうこれからは寒くないぞ」

子犬に一生懸命声をかけている。
飼い主が見つかって嬉しいという気持ちと、
世話が出来なくて寂しいという気持ちが入り混じっているように見える。

「いつでも会いに来て。その子も懐いているみたいだし」
「え?いいんですか?やった〜」

それは私が学食で見る、満面の笑みだった。

148 名前:<4> 投稿日:2008/02/09(土) 02:22











149 名前:<4> 投稿日:2008/02/09(土) 02:23

「じゃあ、よろしくお願いします」
「はい、わかりました」

彼女は子犬にバイバイをして、家を後にした。
バイトがあるらしく、そこまで温まらずに帰ってしまった。
風邪をひかないか少し心配。

残された私と子犬。あ、名前付けてなかった。
子犬を見ると、目がクリクリしている。彼女に似てるなぁって思った。

「お名前何がいい?カワイイ名前がいいよねぇ」

あれこれリビングで考えている間に、ソファでぐっすり眠ってしまった。

150 名前:<4> 投稿日:2008/02/09(土) 02:23




















151 名前:<5> 投稿日:2008/02/09(土) 02:24
犬を預って以来、毎日のように彼女はウチを訪れるようになった。
少し犬を遊んで、すぐにバイトにいってしまう。

「ねぇ。バイト漬けで大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「無理してないの?」
「全然。楽しく稼がせてもらってます」

私はずっと疑問に思っていたことがある。どうしてそこまでして稼ぐのか。
私はバイトをしたことがないから、稼ぐとはどういうことかを知らない。

「どうしてそんなに稼ごうとするの?」
「え?・・・いや、まぁお金が必要なんですよ、色々と」
「そうなんだ」
「そうなんです」

今日も少しだけ遊んでバイトに行ってしまった。

私は子犬が来てから、幾分寂しくなくなった。
家に帰ったら、人ではなくとも待っていてくれる。彼女に少し感謝した。

152 名前:<5> 投稿日:2008/02/09(土) 02:24

(♪♪♪〜〜)
「もしもし?」
『僕です。田中です』
「あ、こんにちは」
『あのぉ、また食事どうかと思いまして。来週の金曜日にでもどうですか?』

乗り気になれない。行けばきっと美味しいものを食べさせてくれるに違いない。
でもそのためだけに行くのも・・・・・

「すいません、今回は」
『あ、日にちならいくらでもズラせます』
「いえ、そうではなくて」
『???』
「ちょっと今、忙しいんですよ。すいません」
『わかりました。また今度お誘いします』

そのまま携帯を切った。このことはパパに知られたら、きっと何か言われる。
でも私は今そういう気分ではない。
寂しいと思いつつも、1人になる時間が欲しいのかもしれない。

153 名前:<5> 投稿日:2008/02/09(土) 02:24

最近の楽しみは、家に帰ること。子犬に会うこと。彼女に会うこと。
犬と遊びつつも、バイトでのエピソードや、友達についても面白い話をしてくれる。
彼女の話で私の心は少し温められていた。

美貴という子は、「口は悪いけど気遣いが出来る奴だ」とか、
まいちんという子は、「頭は悪いけど、みんなのこと良く考えている」だとか、
麻琴っていう後輩は、「いっつもヘラヘラしているけど、やる時はやる!」とか。

話したことも無いのに、彼女の話を聞くだけで友達になったような感覚に陥る。
それぐらい、楽しそうに友達の話をしていた。

いつか、私も友達になれるのかなぁ。。。


                                     つづく

154 名前:名無し 投稿日:2008/02/09(土) 15:17
これからどうなっていくのか楽しみですね。
続編のほうも楽しみにしてます。
155 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/09(土) 18:23

>>154
 ありがとうございます。
 今後もよろしくお願いします。

156 名前:<6> 投稿日:2008/02/09(土) 18:24

(ピーンポーン)
「は〜い」
「こんにちは」
「どうぞ」

子犬が来てから2週間が経とうとしていた。
相変わらず吉澤さんは毎日子犬に会いに通っている。
ちなみに子犬の名前は『チャ〜』に決まった。
ただ色が茶色だからという安易な付け方だけど、チャ〜もそれなりに気に入ってるみたい。

「んでね」

今日も吉澤さんは周りで起きた面白い話を私にしてくれる。
それはもう、楽しそうに話ものだから、私もその話に引き込まれていく。

「毎日楽しそうだよね」
「はい。楽しいですよ。石川さんは楽しくないんですか?」
「う〜ん・・・楽しくないかなぁ」

学校に行って帰ってきて家に一人。遊びに行って帰ってきて一人。

157 名前:<6> 投稿日:2008/02/09(土) 18:24

「でも、チャ〜が居たら楽しいんじゃないですか?」
「そうだねぇ、前よりは楽しいかなぁ」

私がそう言うと、吉澤さんは嬉しそうな顔をしてチャ〜の頭をグリグリした。

「良かったね、チャ〜。来てくれたから楽しいってさ」

チャ〜も心なしか喜んでいるように見える。カワイイ。
最近楽しいと思えるようになったのは、チャ〜だけではないと感じていた。
吉澤さんがチャ〜に会いに家に来る。必然的に話しようになる。
今は吉澤さんとの会話が一番楽しい時間なのかもしれない。

冷たい心を暖めてくれる存在だと思ってはいたけど、
そこまで大切な人だとは思っていなかった。
だって、吉澤さんは私ではなく、チャ〜に会いに来ているんだもの。

158 名前:<6> 投稿日:2008/02/09(土) 18:24

(ガチャ)
「ただいま」
「あ、パパぁ。今日早いね」

予想よりもずっと早くパパが帰ってきた。
吉澤さんが家に来ているときに帰ってくることなんて無かったから、2人は初対面。

「あぁ。また夜に出かける」

そう言いながら、チャ〜を抱いてボーっと立っている吉澤さんに目を向けた。
目が合った吉澤さんは、パパに軽く一礼する。パパも無表情のまま、一礼した。

「シャワーいってくる」
「うん」

パパは何も声を掛けずに浴室へ入っていった。

「なんか、怒ってませんでした?」
「ううん。いつもあんな感じ。ゴメンね、嫌な思いさせて」
「いえ、全然!嫌な思いなんてしていませんよ」

吉澤さんは大げさに首を横に振って否定する。そしてまたニコっと笑った。
私もつられて笑ってしまう。

「あ、もうバイト行かないと」
「気をつけてね」
「はい、ではまた。失礼します」
「うん。またね」

159 名前:<6> 投稿日:2008/02/09(土) 18:24











160 名前:<6> 投稿日:2008/02/09(土) 18:25

浴室から出てきたパパはリビングを見渡し、誰もいないことを確認している。

「お友達は帰ったのか」
「うん、バイトだって」
「そうか」

キッチンへ行き、お茶を取り出す。

「お前も飲むか?」
「ううん」

私はチャ〜を撫でながら、ボーっとテレビを見ていた。

「梨華。お前田中さんの誘いを断ったそうじゃないか」
「あぁ、うん」
「何故だ?」
「・・・・・乗り気じゃなかったから」
「はぁ。お前なぁ」

パパは呆れたという声を出して私の側へ寄ってきた。

161 名前:<6> 投稿日:2008/02/09(土) 18:25

「田中さん、良い人だっただろ」
「うん」
「じゃあ何故だ。何が気に食わない」
「別に」

私はあくまで興味がない態度を崩そうとはしなかった。
そうすれば、パパが諦めてくれる。心のどこかでそう思っていた。

「あのな。田中さんは、パパの大事な取引先の有望な若手なんだ。
 仕事は出来るし、品がある。言うことないだろ」
「なんか・・・苦手」
「お前達が上手くいけば、こっちも上手く事が進むんだよ」

やっぱり自分のことしか考えていない。娘の幸せなんて、これっぽっちも考えていない。
ビジネスの材料。そう確信した。

「な?パパのためだと思って」
「なんで!?なんで私がパパのために好きでもない人と付き合わなきゃいけないの?
 どうして自分の想っている人と結婚させてもらえないの?」

私はもう嫌だと思い、思っていることをすべて吐き出した。

162 名前:<6> 投稿日:2008/02/09(土) 18:25

「私はパパにとって、ビジネスの材料でしかないんでしょ?
 娘の幸せなんて少しも考えていないじゃない!!」

リビングを飛び出して、2階の部屋へと上がっていく。
その間も怒りが収まることはない。
こんなに大声で怒鳴ったのは始めてかもしれない。きっとパパも驚いている。
反抗したのも始めてかもしれない。ずっと良い子で居たから・・・

ベッドに寝転がり、ジッと天井を見つめる。
私の人生ってなんなんだろう。生まれてこなくても良かったんじゃないかな。
お金持ちの家に生まれていいよねって周りは言うけれど、
お金があって愛が無いよりは、お金が無くても愛があるほうが良いと思う。

私はきっと、愛に飢えている。

163 名前:<6> 投稿日:2008/02/09(土) 18:25




















164 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:26

「ねぇ梨華ちゃん」

昼食の時間。学食は学生達で賑わっている。
柴ちゃんと食事をしていたら、亜弥ちゃんが声を掛けてきた。

「ん?」
「今日さ、久しぶりに飲みに行こうよ。最近全然行ってないでしょ?」
「う〜ん」
「いつもとは違うんだって!新しい飲み仲間捕まえたの」
「え?誰々?」

柴ちゃんは興味津々といった感じで、身を乗り出して亜弥ちゃんの話に耳を傾けていた。
私は特に興味はない。でも最近飲みに行ってないなぁと、ふと思った。

「あのね、ダンス部の人たちと飲むの!」
「うっそ」

ダンス部?あぁ、なんか聞いたことがある。
と思ったら、吉澤さんが幽霊部員っていう部活だ。
なんで亜弥ちゃんはそんな人たちと交流をもてるのか、凄く不思議。

「ね。梨華ちゃんいいでしょ?もう梨華ちゃん来るって言っちゃったの」
「えぇ?私何も言ってないじゃん」
「お願い!今回だけだからさ。ね、ね」

165 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:26

いつになく懇願してくる亜弥ちゃんに負けて、飲みに行くことにした。
この何週間も遊びに行っていなかったのが不思議。
大学に入ってからは、本当にずっと遊んでいた。
大学には行くけど、その後はいろんな人といろんな場所で時間を潰して。
気付けばもう卒業。大学で何したの?って聞かれれば、「遊んでた」としか答えようがない。

「あ〜楽しみだなぁ」
「ってかさ、どうやってダンス部の人と知り合ったの?」
「学食にたむろしてたから、声掛けたの。そしたらOKだった」

この前も飲み会みたいなのしてたし、きっと騒ぐのが好きなんだろうなぁ。
吉澤さんも楽しいって言ってたし。来るのかぁ。

「もしかして、梨華ちゃんを連れてくることが条件とか?」
「当ったり〜。結構人気者らしいよ、梨華ちゃん」

嬉しいような、そうでないような。なんか複雑。
だって女子大のダンス部っていったら、皆女の子でしょ?
同性に好かれるのは悪いことじゃないけど・・・

私は1度家に帰り、準備をしてから家を出た。
今日は吉澤さんはチャ〜に会いに来なかった。

166 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:26










167 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:27

「「「「「「「かんぱーい」」」」」」」

楽しく始まったダンス部との飲み会。幽霊部員の吉澤さんはその場にいなかった。
顔は分からないけど、その雰囲気と話し方で誰が誰だか何となくわかる。

きっと、このするどい目つきの人が『美貴』と呼んでいた人だろう。
さりげない気遣いが見える。今もお皿を取ってくれた。

「ありがと」
「いいえ」
「就職決まった?」
「全然。そっちは?」
「まだ動いてもいない」
「はは、意外」

柔らかい笑い方をする人。そんな印象だった。
同じ学年で、ダンス部の部長をやっているらしい。

「でも、こんなカワイイ人がいっつも飲み歩いているとはね。ちょっとショック」
「よく言われる。全然大人しそうなのにって」
「人は見かけによらないんだね」
「そうだよ」

今日は何だか楽しいと思える。
吉澤さんが話していた通り、良い人たちばっかり。

168 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:27

「藤本さん!」
「ん?」

そこそこ盛り上がっていた私たちの間に割って入ってきた亜弥ちゃん。
少し不貞腐れているように見える。

「吉澤さんはいつになったら来るんですか?」

あ。吉澤さんも来るんだ。そうなんだ。へぇ、そっか・・・

「バイト終わったら来るって言ってたから、もうそろそろじゃない?」
「もう終わっちゃう時間じゃないですかぁ!条件が違います」
「2次会も連れていくから。それでいいでしょ」
「あたしは梨華ちゃん連れてきたのに。嘘つき」
「嘘はついてないよ。ちゃんと来るから」

2人は私と吉澤さんを連れてくることを条件に飲み会をセッティングしたらしい。
また餌にされたのね。でもいいや。こっちは楽しいから。

「梨華ちゃんも2次会行くでしょ?」
「・・・うん、行く」

169 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:27

1次会も終わりに近づいてきた頃、吉澤さんがやってきた。

「すいません、遅くなりました!」
「遅いよぉ。もう2次会行く」
「あ、マジで?わかった」

辺りを見回している吉澤さんを見ていたら、目があってしまった。
逸らすわけにもいかず、軽く会釈する。
私が居ることを知らなかったようで、凄く驚いた顔をしている。

私は特に気にしていないように、吉澤さんから目を逸らした。

「吉澤さん!」
「はい」
「あたし、2年の松浦亜弥です」
「3年の吉澤ひとみです」

亜弥ちゃんは待ち望んでいた人の登場に、テンションが上がりっぱなし。
ずっと側で色々話しかけている。
他のダンス部の子も吉澤さんの元へかけよっている。
人気者なんだね。いつもの笑顔を振りまいちゃってさ。

170 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:27

私は何だか面白くなくなって、1人店の外に出た。
2次会行くの止めようかなぁ・・・

「どしたの?大丈夫?」

声を掛けにきてくれたのは美貴ちゃんだった。
タバコに火をつけて私の立っている足元に座り込んだ。

「あいつ、人気者でしょ」
「え?あぁそうみたいだねぇ」
「ダンス部に入れたのも、部員集めのためなんだよねぇ」

そう言えば亜弥ちゃんが言ってたなぁ。

「美貴とよっちゃんは幼馴染でさ。昔からつるんでるんだよね」
「へぇ。いいね、そういうの」

私は美貴ちゃんの隣に腰を下ろした。
美貴ちゃんは柔らかく微笑みながら続けた。

「うん。本当に大切な幼馴染。切っても切れないんだよねぇ」

面倒くさそうに言いながらも、どこか嬉しそうな顔。
凄く羨ましかった。そういう人がいるってこと。

171 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:28

「2次会カラオケだって」
「ふ〜ん」
「行く?」
「う〜ん、どうしよ」
「はは。曖昧だなぁ。行こうよ」
「・・・・・うん」

吉澤さんの周りにはこういう人がばっかりがいるのかなぁ。
だから吉澤さんもあんなに優しいのかなぁ。

「ねぇ」
「ん?」
「吉澤さんて、なんであんなにバイトしてるの?」
「・・・・・よっちゃんがバイトいっぱいしてるって、よく知ってるね」
「え?・・・あ、なんか小耳に挟んだから」

別に隠さなくてもいいのかもしれないし、吉澤さんがもう言っているかもしれない。
でも何故か内緒にしておきたかった。
美貴ちゃんは黙ってしまい、その理由を聞くことは出来なかった。

172 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:28

しばらくして皆が一斉に出てきた。
吉澤さんは相変わらずたくさんの人に囲まれている。

「あれ?藤本さんと梨華ちゃん。2人っきりで何してたの?」
「皆が遅いから待っていました。さ、行こ」
「怪しいなぁ」
「亜弥ちゃんの方が怪しいけど?」

亜弥ちゃんは吉澤さんの腕にしっかりと自分の腕を絡めて、ピッタリとくっついている。
吉澤さんのほうをチラッと見ると、困ったような苦笑い。
でも亜弥ちゃんは離そうとしない。

「あはは」
「はぁ。梨華ちゃん、行こう」

美貴ちゃんが先頭を切って歩き出す。その後を皆がついてくる。
なんか気分良いね、こういうの。
後ろを見ると、相変わらずヘラヘラしている吉澤さんがいる。
なんかちょっとイラっとしてきた。

「美貴ちゃん。私やっぱり帰る」
「うぇ?どうしたの、いきなり」

分からないけどイライラしてる。きっと行っても楽しくない。

173 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:28

「帰りたくなった」
「・・・ワガママなお嬢さんだね。じゃあ、美貴も帰ろうかなぁ」
「え?美貴ちゃんは居たほうがいいよ」
「なんで?」

なんでかは分からない。けど、私のワガママに付き合ってもらう必要はないし。
それでも帰るという美貴ちゃん。

「皆に言わなくていい?」
「大丈夫でしょ。仲良くやってるし」

そう言ってカラオケとは逆の、駅のほうへと歩き出した。
私もそれについて行くように歩き出す。

きっと皆仲良くカラオケやるんだろうなぁ。
そういえば、柴ちゃん居たっけ?どこ行ったんだろう。

174 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:28

「さっきさ」

美貴ちゃんが話し始めた。

「よっちゃんは何であんなにバイトするのかって聞いたしょ?」
「あぁ、うん」
「別に隠すことでもないと思うから言うけど」

美貴ちゃんは吉澤さんについて、ポツリポツリと話してくれた。

「よっちゃん家ね、お父さんがいないの。
 お母さんが1人でよっちゃんと妹を育てたんだけどね。その妹が心臓悪くて」

吉澤さんには高校3年生の妹がいるらしく、その妹が心臓がずっと悪かった。
働きに出ているお母さんに代わって、妹の面倒をずっと見ていた。
妹が高校1年生のとき、持病が悪化。手術しないと命に関わると言われたらしい。
でもお母さん1人で働いてきたため、お金の余裕はなかった。
大学に行かせてもらえたけど、それは学費が全額免除だったからだという。
生活費は自分で稼いで何とかするつもりでいたらしい。

妹に手術を受けさせるために、借金をした。
手術は成功して、今は元気にしているそうだけど、
その時の借金を返すために、吉澤さんはガムシャラに働いているらしかった。

175 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:29

「そうなんだ」
「そう。バイトしないと生きていけないんだよ。
 友達からは、金は借りないって主義だから」

吉澤さんが頑張りすぎる理由がはっきりと分かった。
家族のため。それしかない。

「妹さんは、全然元気なんだ」
「うん。ピンピンしてる。姉と全額免除で大学入るために必死だよ」

吉澤さんのことが少し分かっただけでも嬉しかった。
妹を大切にして来たから、どんな人も大切に出来るんだと思う。
もちろん人だけでなく、動物も皆・・・

176 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:29

(♪♪♪〜)
「あ、ゴメン」

美貴ちゃんの携帯が鳴った。
私も何気なく携帯を見てみると、柴ちゃんからメールが来ていた。

≪ごめん!抜ける〜≫

たったこれだけ?しかもメールでだなんて。私も送ろうかと思ったけど止めた。
面倒くさい。
美貴ちゃんは電話で話している。きっとさっきの飲み会の中にいた誰かだろう。

「いや、梨華ちゃんと一緒だけど。うん、うん。ちゃんと駅まで送る。楽しみなよ。
 え?何言ってるの?美貴お金払うから、皆に付き合ってあげて」

電話の向こうの人は、どうも帰りたそうにしているみたい。

「うん、じゃあね。はーい」
「大丈夫?」
「帰りたいって言われてさ。そんなの今美貴に言われても困るのに」
「抜け出せないんだ」
「盛り上がってるみたいだったからね。しょうがないでしょ」

177 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:29

吉澤さんも楽しんでるのかなぁ。なんて考えてしまう。

「梨華ちゃん家って学校の近く?」
「うん。実家なんだけどね。近くなの」
「そうなんだ。美貴もよっちゃんも1人暮らしなんだけど、あの辺に住んでる」

近くということで、家まで送ってもらうことにした。
女の子の夜道は危ないからって。美貴ちゃんも女の子なのに。

「ありがと」
「また飲もうね」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」

美貴ちゃんは自分の家へと帰っていった。
私はまた真っ暗な家へと入っていく。
玄関の電気を点けると、チャ〜がシッポを振って待っていた。

「ただいま、チャ〜。遅くなってゴメンね」

そんなこと気にするなよって顔でこっちを見ている。
癒されるなぁ。

178 名前:<7> 投稿日:2008/02/09(土) 18:30




















179 名前:<8> 投稿日:2008/02/09(土) 18:30

「もう!なんで梨華ちゃんも柴ちゃんも先に帰っちゃうのぉ」
「ごめん、ごめん」
「ごめんね」

次の日。私たちは後輩にこっ酷く叱られている。
勝手に帰ったことにイライラ来ているみたい。

「亜弥ちゃん達、楽しそうにしてたしさ。良いかなぁと思って・・・」
「本当に勝手なんだから」

そう言い残して亜弥ちゃんは去っていった。

「ねぇねぇ梨華ちゃん。誰と抜けたの」
「誰とって・・・美貴ちゃんと一緒に帰った」
「・・・帰っただけ?」
「うん」

柴ちゃんの様子が何かおかしい。絶対に何か隠している。
大学4年間付き合ってきたから雰囲気で分かってしまう。

「柴ちゃんはどうして帰ったの?」
「えっと・・・実はね」

180 名前:<8> 投稿日:2008/02/09(土) 18:30

柴ちゃんはダンス部の大谷さんという人と、親しくなっていたらしい。
もう社会人だけど、飲み会に迷い込んでいたみたい。

「1次会終わって抜けたんだ」
「うん。抜けよって言うからさ」

これはいつものことだから特に驚かないんだけど・・・
相手は女の人だよね?この大学出身なんでしょ?
そう思って尋ねると、「愛に性別なんて関係ない」なんてカッコいい言葉が返ってきた。

「好きになっちゃったら、男も女も関係ないよ」
「ふ〜ん」
「好きになったのが、たまたま女性だっただけ。でも男の人よりもカッコいいし。
 頼りがいあるし。やっばい・・・あたし嵌っている?」

嵌っているよね、完全に。いつものことだけど・・・
男も女も関係ないか。凄いなぁ、柴ちゃんは。

「しかも、エッチが凄く上手いの」
「へ?」
「もう。何回も言わせないでよ」

柴ちゃんは顔を赤らめて私の腕をバシバシ叩いてくる。
しちゃったんだ・・・早いなぁ。

181 名前:<8> 投稿日:2008/02/09(土) 18:30

「今まで出会った人の中で、一番上手だった。ビックリしたもん」
「もういいよ、ノロケ話は」
「あ、ゴメンゴメン」

女の人のほうがツボが分かっているから、気持ちいいってよく聞くよね。
って、私何考えているんだろ。柴ちゃんが変なこと言うからだよ。

その後私は、もやもやした気持ちを持ったまま、授業を消化していった。
廊下で吉澤さんとすれ違うこともあったけど、お互い知らないフリ。
なんでこんなことするのか分からないけど、2人だけの秘密みたい。

今日も何事もなく1日が過ぎていく。
平凡な1日。それが一番幸せな気がする。

182 名前:<8> 投稿日:2008/02/09(土) 18:30










183 名前:<8> 投稿日:2008/02/09(土) 18:31

「チャ〜。ごめんね、昨日来れなくて」

吉澤さんがウチにやってきた。チャ〜に会いに。それは前と変わらなくて。
昨日の飲み会の話は1つもしなかった。
ただ、話しているのが誰のことなのか、
顔が一致する分、吉澤さんの話が余計に楽しく感じられた。

「今日バイトは?」
「あ、休みなんですよ。久しぶりの。たまには体休めろって怒られちゃって」
「そうなんだ」

チャ〜と遊んでいるその顔が、この人の人間性そのものを映し出していると思うと、
凄く愛おしくなってくる。
借金の話を聞いてからでも、昨日の飲み会でモテモテなところを見たからでもない。
ただ、この人の純粋さに惹かれていると気付き始めていた。

「夕飯は?あるの?」
「いやぁ、何かあるんじゃないですかね?」
「ちゃんと食べなきゃダメだよ」
「はい」

と返事をしながらも、きっとご飯を食べないんだろうなって雰囲気が漂っている。
そんなんじゃ、本当に身体壊しちゃうよ。

184 名前:<8> 投稿日:2008/02/09(土) 18:31

「ねぇ。何か作る?」
「え?」
「ウチにあるもので良かったら、何か食べていかない?」
「いいんですか?」

お手伝いさんが作ってくれた残り物がいくつかある。
それをお皿に盛れば、それなりに食事になるはず・・・

「いいよ。誰も帰って来ないだろうし。帰ってきてもまた出て行くし」

1人で食事するよりも、誰かが側に居てくれたほうがいい。

「じゃあ、遠慮なく」

冷蔵庫にある残り物をレンジで温める。ご飯は炊き立てがあった。
味噌汁もある。今日は帰るって言ってあったから、お手伝いさんが作ってくれていた。

「どうぞ」
「うわぁ。いただきます」

吉澤さんは黙々と食べ始めた。
私も少しつまむけど、吉澤さんを見ているだけで凄く食べた気分になった。
おかずはどんどんなくなっていく。ご飯のおかわりもする。
もしかして、今日何も食べていないんじゃないかとさえ感じる。

185 名前:<8> 投稿日:2008/02/09(土) 18:31

「ご馳走様でした!メッチャおいしかったです」
「ふふ。良かった」

吉澤さんの満面の笑みに、私も満面の笑みを返す。
すっごくドキドキする。キュンと切なくなる。
ずっとこうしていられたらいいのにって思う。
何も考えずに、こうやって笑ってられたらいいのにって・・・

「凄く満たされました。本当にアリガトウございます」
「うん・・・ねぇ。今日泊まっていかない?」
「え?」

私はとんでもないことを口にしていた。何故そんなことを言ったのか分からない。
ただ、本能のままに発した言葉だった。
吉澤さんは目を丸くして驚いている。それは驚くよね。私だって驚いたもの。

「ゴメン、あの」
「いいんですか?」
「へ?」
「泊まっていってもいいんですか?」

吉澤さんは嬉しそうに私に問いかけてくる。
私は問いかけ返す。

「泊まっていってくれるの?」
「石川さんが良いなら、泊まりたいです」

186 名前:<8> 投稿日:2008/02/09(土) 18:32

そんなわけで吉澤さんは泊まることになった。
私が「泊まる?」と口に出てしまったのは、今までの時間が楽しくて、
1人になるのが嫌だったからだと思う。寂しかったからだと思う。

無駄に広い寝室に吉澤さんを招き入れる。

「広いっすねぇ。ウチの家ぐらいかな」

お風呂にも入って、下でダラダラした後、さぁ寝ようと上に上がってきた。
ベッドの下に、お客様用の布団を敷く。
ふと吉澤さんのほうを見ると、私のベッドを見ながらニヤニヤしていた。

「何見てるの?」
「あ、いや。石川さんの趣味丸出しなベッドだなと思って」

私のベッドはすべてピンク。更にピンクのぬいぐるみ。
確かに私の趣味だけど、そんなにニヤニヤすることないじゃない。

「もう。早く寝るよ」
「あ、はい」

187 名前:<8> 投稿日:2008/02/09(土) 18:32

布団に入ってしばらくすると、吉澤さんの寝息が聞こえてきた。
きっと日頃の疲れが溜まっているんだろう。
そこまでして頑張る吉澤さんを、私は尊敬していた。

「無理しすぎちゃダメだよ」

そう呟いて、私の夢の中へ引き込まれていった。


                                     つづく

188 名前:t-born 投稿日:2008/02/10(日) 02:51
よっちゃんがんばってますね。
梨華ちゃんも、だんだん変わってきているのがわかります。
二人の関係はどうなっていくのか、とても楽しみです。
こちらの小説もおもしろいですね!
189 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/02(水) 20:59
更新楽しみにしてます。<br><br><br>
190 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/23(月) 13:34

なかなか筆が進まなく、行き詰っています。
すいません。繋ぎに短編を書いてみました。
良かったら読んでください。
191 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:34

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「ただいま〜」
「おかえり。そこに夕飯あるから、温めて食べてね。あと冷蔵庫にもサラダと冷奴あるから」
「ほ〜い」

テーブルの上には焼き魚、ガス台には味噌汁の入った鍋。それを温める。
大学を出て、仕事を始めて2ヶ月ほど。やっと仕事に慣れてきた。
1人暮らしも良いかなって思ったけど、やっぱりこんな美味しいご飯がある実家を出ることなんて出来ないな、とこの時間はよく思う。

「うん、旨い」
「あんたはご飯食べている時が一番幸せそうね」
「まぁ幸せだね」

そんなことを言うお母さんも、幸せそうな顔をしている。
あたしは幸せな家庭で育ったんだなぁとつくづく思う瞬間。

「幸せといえば・・・梨華ちゃん結婚するらしいわよ。聞いてた?」
「え?・・・聞いてない」
「そう。今日梨華ちゃんのママが言ってたわよ」
「・・・ふ〜ん」
「あなたたち昔は仲良かったのに、最近は連絡すら取ってないのね」
「お互い忙しいし、近くにいないしね」

192 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:35

梨華ちゃんはあたしの家の隣の家に住んでいた幼馴染。
小さい頃はお互いマンションに住んでいたんだけど、
その頃からお隣さん同士だった。
小学校4年生の時にこの一軒家に引っ越したんだけど、
梨華ちゃん一家も隣に引っ越してきた。
またお隣さんだなんて凄いねって昔はよく話してた。

『もしかしたら私はひーちゃんとずっと一緒にいる運命なのかもしれない』
『どうだろうね』
『ひーちゃん冷たいぃ』

あたし達は性格も格好も真逆の2人だった。
普通なら絶対友達になんてなっていない。
だけどあたし達はずっと一緒にいた。

2人が疎遠になったのは、梨華ちゃんが高校を卒業してから。
1コ上だった梨華ちゃんは短大に進み、1人暮らしを始めた。
何度か遊びに行ったことがあったけど、
どんどん大人びていく梨華ちゃんを直視できなくなって、
離れたのはあたしのほうだった。今はちょっと後悔してる。
もっと普通に、あのままずっと仲の良い幼馴染でいれば良かった。

「はぁ。失敗したなぁ」
「いやね、ため息なんて。おめでとうって電話ぐらいしなさいよ。
 あ、近々実家に帰ってくるらしいから、直接でもいいわね」
「・・・うん」

193 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:35

連絡を取らなくなってからもう5年。そんなに経っていることに驚いた。
遊びにバイトに学校に・・・忙しい日々を送っていたから・・・
というよりも、忙しくして忘れようとしていたのかもしれない。
梨華ちゃんが居なくても全然大丈夫だって、
自分に言い聞かせていた気がしないでもない。

「メールでもしてみるか」

あたしはご馳走さまをして、食器を片付け、自室に入った。
ベッドに寝転がる。ふと「食べた後にすぐ横になっちゃダメなんだよ」って、
梨華ちゃんの声が聞こえてくる気がする。

あたしはいつもしっかり者の梨華ちゃんに叱られてばっかりだった。
公園で一番高いところに昇って調子に乗っていたあたし。
「ひーちゃん、危ない〜」「大丈夫だって」「降りてよぉ」
いつも泣きそうな声であたしに訴えてた。
「わかったよ」といって降りるとき、あたしは見事に足を踏み外して落ちた。
梨華ちゃんは泣きながら、「だから言ったでしょう〜」って怒ってたな。

「はは、懐かしい〜・・・・・・結婚かぁ」

194 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:35

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

「うん、わかった・・・・うん、大丈夫・・・じゃあね」

電話を切ると同時にもれるため息。最近はため息の数が増えた気がする。
だから幸せも逃げちゃうのかな・・・

「はぁ」

あ、また。ダメだなぁ、私って・・・。

プロポーズされたときは凄く嬉しくて舞い上がっちゃって、
でも冷静に考えてみるとこれでいいのかなって考えちゃって・・・
きっとこういうのをマリッジブルーって言うのかな?
幸せの前の不安。だって彼は凄く良い人で、優しくて。
誰からも羨ましいって言われる。幸せなはずの私。

「はぁ。なんだろ、このモヤモヤした感覚は」

誰に聞いたってわかるわけがない。私の中に潜んでいるこの感情。
誰にも知られてはいけない。私の中で眠っているこの感情。

「ひーちゃん」

わたしは凄く自然に彼女の名前を口にしていた。

195 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:35

生まれたときから、私の記憶がはっきりしないときから、
ひーちゃんとはずっと一緒だった。
私の方が1コ上なのに、いつも私を守ってくれた。
危なっかしいこともするから、一緒に居る私はいつもヒヤヒヤしていた。

そうそう。一番驚いたのが、公園の高いところから足を踏み外して落ちたとき。
一瞬動かなくなったひーちゃんが死んじゃったと思った私は、凄く泣いて。
でも実際はかすり傷程度で、「このくらい平気にきまってっしょ」って、
私をギュッと抱きしめてくれた。
「居なくなるわけないじゃん。ずっと近くにいるでしょ」って。
何歳のときだったかな?
たぶんマンションに住んでいた時だから、小学校の低学年ぐらいだね。
今考えるとかなりのマセガキよね。でもカッコ良かったなぁ。

そんなひーちゃんと疎遠になったのは、私が高校を卒業して短大に進んでから。
1人暮らしの家に何度か遊びには来たけど、突然連絡すら来なくなって。
こっちから連絡してもいつも不機嫌そうで・・・
あぁ、きっと私と居ても楽しくなくなったんだなぁって、
もう連絡するのを辞めたの。それから5年。

・・・・・ひーちゃんのことを忘れた日は一度も無かった・・・・・

誰を見ても、ひーちゃんと比べちゃって。もちろん友達をたくさん出来た。
男友達だって。でもいつも、「ひーちゃんならこうしてくれるなぁ」って。

もう気付いてたよ、自分のひーちゃんに対する気持ちが恋なんだって。
小学生の頃から、気付いてた。

196 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:36

でも口に出すことなんて出来ずにズルズルと今まで。
結婚まで決めちゃって・・・そりゃため息も出るよね・・・

「もう寝よ」

考えたって何も起きるわけじゃない。私が割り切れば良い話。
「よし」って思ったその瞬間、あの音楽が響くなんて、神様のイタズラなの?

♪♪♪〜

この5年間、一度も変えたことがないあの曲。
私が携帯を持ち始めたころ、高校2年生の時ぐらいに流行っていた曲。
「あたしこれ好きなんだよねぇ」って屈託ない顔で笑うから、
ついついダウンロードしちゃって、着メロにしたの。

「メールかぁ」

間違いない。送信者は今も変わらないアドレスのひーちゃんだった。
5年ぶり。ひーちゃんのメールをひらくと、素っ気ない一言。

<元気?>

昔から変わっていなくて、何だか笑えてくる。
だから私も、昔と同じように素っ気なく返した。

<元気だよ。>って。

197 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:36

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

なんてメールしようか、かれこれ1時間ぐらい悩んで送ったメール。
それが<元気?>の一言だけ。情けないな、あたしは。

するとすぐに返ってきた返事。それが・・・

<元気だよ。>

相変わらずだなって笑ってしまった。
女の子らしいくせに、面倒くさがりやだからメールはいつも素っ気ない。
「おめでとう」は直接言いたいから、いつ返ってくるのかだけ聞いてみた。

<そりゃ良かった。次はいつ帰ってくるの?>

もう夜も遅いし、用件だけで十分だ。
この5年間鳴らなかった音楽が鳴り響くだけで嬉しいから。

「あたしも素直じゃないよなぁ。着メロ5年間変えないとか・・・
 どんだけだよ・・・」

198 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:36

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

<そりゃ良かった。次はいつ帰ってくるの?>

ひーちゃんは知っているのかな?私が結婚すること。
知っているよね、お隣さんだもん。ママが言っているに決まっている。
だからメールしてきたのかな?でもそのことには1つも触れていない。
ひーちゃんらしいなぁ。

<次の土曜日の夜に帰るよ。しばらくいるつもり。>
<じゃあ1回ぐらい飲みに行こう。もうお互い20歳超えたし>
<うん、そうだね。楽しみにしてる>
<それじゃ、おやすみ>
<おやすみ。>

お互いに素っ気ないメールだったけど、それが普通のことだから。
変に飾っていないひーちゃんのメールに少しだけ心が温まった。

「さ、寝ようっと」

今日はぐっすり眠れそう・・・

199 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:36










***********************************










200 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:37

土曜日。私は準備をして実家に向かっていた。
午前中で仕事を終わらせて、準備をして。今は午後7時。
ひさびさの実家にワクワクしていたのではなく、
ひーちゃんに会えることにワクワクしている私がいる。

「何から話せばいいんだろう。やっぱり・・・結婚?」

私は考えながら、駅の改札口を出た。
結構重たい荷物。ちょっと多すぎたかな?なんて思ったけど、
一週間ならこれぐらいだよね。

「よっ!」
「キャッ!」

急にポンと肩を叩かれ、驚いて振り返ると、そこには昔と変わらない、
屈託のない笑顔をしたひーちゃんが居た。

「ひーちゃん」
「んな驚くこと無いじゃん。しょうがないから迎えに来てあげた」

ニッと笑うその笑顔に、抱きしめたくなる衝動に駆られる。
グッと押さえて私もいつもの笑顔を向ける。
するとひーちゃんは、何故か悲しそうな顔をした。
私が首を傾げると、ひーちゃんは心配そうに一言。

「今、幸せ?」

201 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:37

ひーちゃんは事あるごとに、私に「幸せ?」と聞いてきた。
小さい頃からずっとそう。
遊んでいるとき、ご飯を食べているとき、一緒に眠っているとき。
私はいつも幸せだったから、「幸せよ」って言ってきた。
でも今は・・・

「どうしたの?急に?」

私は誤魔化した。だって幸せだと思えないんだもの。
でも「幸せじゃない」なんて言えないし・・・

「いや、何となく・・・昔のくせ」

そう言ってひーちゃんはまた笑い、私のカバンを持ってくれた。
私もそのまま甘えることにした。だって重たかったから・・・
「重てぇな〜」って愚痴をこぼしながらも持ってくれるひーちゃんは、
どこか嬉しそうな顔をしているように見えた。

私もまた、ひーちゃんみたいに笑えるのかな?
結婚式のときは、本当の笑顔でいたいなぁ。

202 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:37

「結婚・・・するんだって?」

それは唐突だった。何気ない会話の中、切り出された話。
きっとタイミングを狙ってたんだと思う。
5年分の話をしようと意気込んでいた私。
実際は結婚の話に触れたくなかっただけ。

「・・・うん」
「そっか、おめでと」
「・・・うん」

「ちょっと公園寄って行こうか」
そう言って、私達がいつも遊んでいた公園に入っていった。
懐かしい。この公園。ひーちゃんが落ちた公園だ。

「覚えてる?あたしこの公園で調子こいて落ちたこと」

ひーちゃんも覚えてたんだ。なんか嬉しい。
そうだよね。ひーちゃんとは一緒の思い出がたくさんあるもんね。

「ふふ。覚えてるよ。懐かしい」
「・・・やっとだ」
「え?」
「やっと自然な笑顔見た」

ひーちゃんはニコって笑いながら、ベンチに腰をかけた。
私は驚いて声が出ない。「座れば?」と言うひーちゃんの言葉に、
隣に腰を下ろした。

203 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:37

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

久しぶりに会った梨華ちゃんは、本当に綺麗だった。
自分の腕の中に閉じ込めてしまいたいぐらい。

でも結婚を控えて幸せそうな顔をしてはいなかった。
笑顔も何だか・・・作っているように見えた。
だから、少しでも昔の笑顔を、自然な笑顔をして欲しい。
そう思って、あの公園に連れてきた。

予想通り、梨華ちゃんは昔の自然な、あたしの大好きな笑顔を見せてくれた。

「こうやって話すのも、5年ぶりだって知ってた?」
「・・・うん、この間メールしたときに気付いた」
「そっか。長いようだけど、何だか早かったかな、ここまで」
「ゴメンね、突然行かなくなって」
「ううん。人には色々あるんだから」

あたしは謝って、梨華ちゃんにあの時の、
今も変わらない気持ちを言おうと思っていた。
幸せになると思っていたから。結婚して、温かい家庭を築くと思っていたから。
だからあたしの気持ちを言っても問題ないだろうって。
でも・・・なんか違う気がしてきた。もしかしたら・・・
梨華ちゃんは今、幸せじゃないのかなって。
端からみれば幸せに見えるかもしれないけど、
心の底から幸せを感じてないのかなって。

204 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:38

「旦那さんってさ、どんな人?」
「ん?優しい人だよ。私のワガママもよく聞いてくれる」
「あーそれは絶対的な条件だよね。梨華ちゃんワガママだもん」
「ちょっとぉ。私そこまでワガママじゃないよ」
「えぇ?だってさ、自分の思い通りにならなかったら泣くじゃん」
「それは昔の話でしょ?今はそんなことありません」
「あっそうですかぁ」

「もうなんなのぉ」と言いながら口を尖らす梨華ちゃん。
こんな子を独り占めできるだなんて、旦那さんは本当にズルイと思う。

「良かったね、幸せになれて」
「・・・・・うん」

やっぱり。幸せそうじゃない。きっと何かに悩んでいる。そんな顔している。
あたしが知らない梨華ちゃんの5年間。やっぱ長かったな。
だって、昔なら何を考えているのか分かったけど、今は全く分からない。
情けないな。まだまだだな、あたしは。

「・・・元気ないじゃん。もっとテンション高いのかと思ってた。
 何?マリッジブルーとか?」
「う〜ん・・・そうかもしれない・・・最近ため息しか出ないもん」
「そりゃ幸せも逃げるさ」
「そうだよねぇ・・・」

そう言って梨華ちゃんは遠くを見つめた。
未来に不安を感じているのか。ずっと遠くを見ている。

205 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:38

「ねぇ!いつ飲みに行く?」
「あぁ・・・いつでもいいよ。1週間ぐらいこっちにいるから」
「この際だから、梨華ちゃんの1人暮らしの家に泊まりたい」
「え?いいけど・・・どうしたの?」
「久しぶりにさ、お泊りもいいかなって」

昔を思い出せば、少しは元気になるかなって。
梨華ちゃんの笑顔を引き出せるのは、あたししかいないんじゃないかなって、
少し自惚れしていた部分もあったけど、それは間違いじゃなかった。
この約束をしてからの梨華ちゃんは、何だかウキウキしていて、
「早く1週間経たないかなぁ」とか言っちゃって。
だんだんと昔の笑顔を見せてくれるようになった。

「じゃ、行こうか。梨華ママ待っているよ」
「そうだね」

そう言ってあたし達は歩き出した。
帰る途中もこの5年間のお互いの話をしてみたりして。
たった20分なのに、凄く長い時間に思えた。

ずっと続けばいいのになって。

206 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:38

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

実家に帰ってきてから1週間が過ぎ、戻る日になった。
もう少しゆっくりすることも出来たけど、
ひーちゃんが遊びに来るんだもん。これだけは外せない。
私が実家に帰ってきてから、1度もひーちゃんには会っていない。
朝早くに仕事に出て、夜遅くに帰ってくる。
私の部屋とひーちゃんの部屋はすぐ隣だから、電気が点くとすぐ分かる。

「梨華ぁ。これ持っていきなさい」
「なぁに?」
「お母さんが漬けた漬物よ」
「わぁ!ありがと。助かるぅ」
「今度漬け方教えてあげないとね」
「・・・うん!お願い」

ガチャ。

「お邪魔しま〜す」
「あら、ひーちゃん。ヨロシクねぇ」
「任せてください!」
「頼もしいわねぇ。ひーちゃんが旦那さんだったらいいのに」

「アハハハハ」ってママ。ちょっと笑えないよ。
ひーちゃんは笑っているけどさ。
そんなこと言われると、また変に意識しちゃうんだから。

207 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:39

「いってきま〜す」
「いってきます。またすぐ戻ってくるから」
「はいは〜い」

ひーちゃんは特に大きな荷物もない。泊まるって言っても一泊だもんね。
1度、荷物を私の家に置いて、近くの居酒屋さんに出かけることにした。
なんてことない普通の居酒屋さん。
ひーちゃんは結構お酒が強くて。あまり強くない私がついていけるはずもない。

「梨華ちゃん?大丈夫?」
「・・・うん、らいじょうぶ」
「ありゃ、ダメじゃん」

もう口が回らない。楽しくて。凄く楽しくて。
調子に乗ってひーちゃんに合わせて、こんなになっちゃった。
あー私って本当にダメだなぁ。どうしようもないなぁ。
ひーちゃんも呆れちゃうよね・・・

「ほら。帰るよ。立てる?」
「・・・うん」
「ほら、?まって。乗ってよ、背中に」
「えぇ?おんぶぅ?」
「そうだよ、ほら」

208 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:39

私は素直に甘えることにした。
ひーちゃんの背中はいつも温かい。
小さいときも、私が転んで膝を擦り剥いて「歩けない〜」って駄々をこねると、
いつも背中を差し出して、おんぶしてくれた。
おんぶをしてもらいたくて、ワザと転んだこともあったなぁ。

「ねぇ、ひーちゃん」
「うん?」
「結婚したくないの」
「はぁ?」
「私、結婚したくないの」

あーあ、言っちゃった。
ひーちゃん困るよね。本当に私って、勝手でワガママ。
でもお酒でも飲んでないと、素直にこんなこと口に出来ない。
ひーちゃんじゃなかったら、こんなこと言えないんだよ?

「・・・どうして?」
「だって・・・結婚したらその人とずっと一緒にいなきゃいけないでしょ?」
「そりゃね、夫婦だもん」
「彼とはずっと一緒にいる自信がないの」
「・・・なるほどね。大丈夫。
 梨華ちゃん今マリッジブルーってやつだから、そう思うんだよ」

違うの。そんなんじゃない。もうね。ひーちゃんに会ってから、確信したの。
私は彼と結婚しても、ずっとモヤモヤを抱えたままなんだって。
一生そうやって生きていくんだって。そんなの嫌。幸せじゃない。

209 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:40

「違うのぉ」
「もう、ほら。暴れないでよ!降ろすよ」
「嫌ぁ!降ろさないでぇ」
「分かったから、大人しく乗ってろ」

ひーちゃんはそれでもがっしりと私を落とさないように支えてくれている。
力強くて温かい。そんな腕で支えてくれる。

「旦那さんは優しくて良い人なんでしょ?何が不満なの?」
「まだ旦那さんじゃないもん」
「・・・めんどくさ」
「うぅ」
「泣くなよぉ。で?何が不満なのさ」

不満なんてない。だって本当に良い人だもん。でも違うの。
良い人は良い人だけど、彼は運命の人じゃないの。

「運命の人じゃないの」
「は?」
「だから、運命の人じゃないの、彼は」
「・・・あっそ」

ひーちゃんはきっとアホらしいと思っているに違いない。昔からそうだった。

210 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:40

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「結婚したくないの」といわれたとき、
思わず「しなければいいじゃん」と言いそうになった。
あたしの素直な気持ちは「してほしくない」。
何だか梨華ちゃんが他の人の取られるのは嫌だった。
でも建前上そんなことは言えない。

「運命の人なんて、いつ現れるか分からないんだから。
 いいじゃん、良い人ならさ」
「・・・・・・・・・・」

黙ってしまった梨華ちゃん。もうすぐマンションに着く。
玄関に着くまであたし達はずっと無言だった。

「梨華ちゃん、鍵ある?」

無言でカバンから鍵を出して渡してきた。
あれ?なんか怒っている?
あたしは鍵を開け、梨華ちゃんを玄関に降ろし、靴を脱がせた。

「もう居るもん、運命の人」
「へ?」

突然頭の上から声がして、へんな返事をしてしまった。運命の人?
あたしももう会っていると思っているよ。運命の人に。

211 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:40

顔をあげると、目をウルウルとさせ、
今にも泣きそうな顔をしている梨華ちゃん。口を尖らせている。
不謹慎ながらカワイイと思ってしまうあたしは、
完全に梨華ちゃんにはまっている。

「ここにいる」

そう言ってあたしの頬に両手を添える。
もうドキドキが止まらない。心臓が張り裂けそうだ。

「梨華ちゃん?」
「私の運命の人はここにいるの」

もう無理だ。止められない。
あたしはそのまま梨華ちゃんに顔を寄せ、キスをした。
軽く、触れるだけのキスを。

「ひーちゃん」

名前を呼ばれ、梨華ちゃんの腕が首に巻きついてきた。
梨華ちゃんからのキス。それは凄く甘くて、優しいキスだった。

唇を離すと、梨華ちゃんの頬が少しピンクに染まっているのが分かった。
お酒のせいなのか、今の甘いキスのせいなのか・・・

212 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:40

梨華ちゃんはあたしの目を見つめながら、

「好きなの。昔からずっと。小さい頃から。
 私を幸せにしてくれるのは、ひーちゃんしかいないの」

と言い、またキスをしてくれた。あたしも精一杯応える。
そのキスはだんだんと深くなり、舌を絡めあうようになった。
お酒の香りが少し口に広がる。それでも凄く甘く感じた。

「止まれないよ?それでもいい?」

梨華ちゃんは力なく頷いた。ダメだと言われても、止める自信は無かった。
そのままベッドに梨華ちゃんを連れて行く。

「ひーちゃん・・・好き」
「うん。。。 愛してるよ、梨華」

213 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:40










+++++++++++++++++++++++++++++++++++










214 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:41

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

どれくらい寝たのだろう。まだ外は暗い。
気だるさの残るベッドの上。横ではスヤスヤと眠るカワイイ寝顔。
人に抱かれてこんなに幸せだと思ったのは初めてだった。
少し起き上がって、ひーちゃんを見つめる。

「ふふ、カワイイ」

おでこにキスをして、夜の出来事を思い出す。
私、凄い積極的だったなぁ。ひーちゃん、嫌じゃなかったかなぁ。
結構強引だったよね、私。あーあ、やっちゃった。

「ゴメンね、ひーちゃん」
「ん・・・ん?あれ、起きたの?」

そう言いながら、私の腰にギュッと抱きついてきた。

「あ、起こしちゃった?」
「ううん、熟睡できなかったし・・・興奮しすぎて」

ニカって笑うひーちゃんはいつものひーちゃんで。凄く安心した。
私も思わず笑ってしまう。

「まさか梨華ちゃんがあんなになるとはね・・・ハハハ」
「ちょっと!思い出し笑いしないでよぉ」
「いや、だって・・・あー面白い」

215 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:41

何だかムカつく。私だけバカにされているみたい。
年下のクセに何なの。私は口を尖らして抗議しようとした。

「なぁに?口なんて尖らして。また誘っているんですか?」

またあどけない笑顔を見せるから、何だか悔しくて・・・

「いいよ?抱いてくれて」

私は横になり、ひーちゃんにキスをした。
最初から激しく熱く、お互いの舌が溶けるんじゃないかってぐらいのキス。

「・・・ん、もう、酔ってないよね?」
「酔ってないよ」
「いいの?」
「いいの」

ひーちゃんは安心したように、また私を幸せの世界へと連れて行ってくれた。

216 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:41










***********************************










217 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:41

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「ひーちゃん。このダンボールは?」
「あぁ、そこの部屋で」
「は〜い」

あの日から2ヶ月。梨華ちゃんは婚約を解消した。
相手も梨華ちゃんの雰囲気に気付いていたらしく、
すぐに了承してくれたそうだ。本当に良い人だったんだと思う。

あたしは1人暮らしをすることに決めた。
色々家を探しているとき、梨華ママに言われたこと。

『梨華と2人で住めばいいんじゃない?職場近いんでしょ?
 家賃も安くなるし、経済的には楽よ』

きっと梨華ママは感づいていたのだと思う。あたし達の関係を。
まだ家族の誰にも言っていないことだけど、
いづれはきちんと伝えるつもりだ。
「何よ、今更」って言われそうだけどね。

218 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:42

「ねぇ梨華ちゃん」
「ん?」

寝室で片づけをしている梨華ちゃんに話しかける。

「小さい頃にさ、まだマンションに住んでいた頃。
 あの頃に、あたしが言った言葉覚えてる?」
「えぇ?なんだろう・・・う〜ん」
「『ずっと近くにいるでしょ』って言ったんだけど・・・」
「あぁ!落ちたとき!」
「そうそう!もう叶えられないかなぁって思ってたけど、
 叶えられそうだなぁって思って」
「ふふ、そうだね」

あたしは梨華ちゃんをギュッと抱きしめた。もう離さないって意味を込めて。

「ほら、片付けないと。明日までに終わらないよ?」
「う〜ん・・・いいんじゃないか?あ、こんなところにベッドがあるぅ」
「キャッ、ちょっとぉ〜」

あたしは梨華ちゃんを抱えてベッドにダイブした。
優しく甘いキスをする。嫌と言いながらも、身体は抵抗していない。

「終わったらさ、片付けるから・・・ね」
「もう、勝手にして」

219 名前:幸せの証 投稿日:2008/06/23(月) 13:42

「ねぇ、梨華ちゃん」
「あっ、ん、うん?」
「今幸せ?」

これで良かったのかなって、時々不安になるんだ。

「ん、あ、んんっ、しあ、わせだよ」
「良かった」

これからはずっと側にいるよ。
それがお互いの、幸せの証だから・・・

                                END


220 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/06/23(月) 21:37
更新お疲れ様です。
短編のお話、すごくよかったです!なんかほっこりした気持ちになりました。

次回のお話も楽しみにしています。執筆がんばってください。
221 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/23(月) 23:06
やっぱ、いしよしは運命で繋がってますよね。

今回の短編すごく嬉しかったです。
222 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/24(火) 00:50
更新お疲れ様です。
今回の話、とてもおもしろかったです。
2人が幸せになれてよかった!
前の話の続きも楽しみにしてますね。
223 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/24(火) 01:44
体をこわされたのかと心配してました。
行き詰まってられるということで、あんまり無理なさらないようにしてくださいね。
今回の更新、また楽しませて頂きましたよ。
私もいしよし大好きなんで、リフレッシュのいしよし短編、大歓迎です!
まったり待ってますんで、ぼちぼち執筆していってくださいね。(^^)
224 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/06/24(火) 19:53
全部読みました!
どれも良いですー。
連載もゆっくりと続きお待ちしています。
225 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/02(木) 16:59

皆さん、応援ありがとうございます。
また短編を挟みたいと思います。
なかなか進まず申し訳ありません。

226 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:00

あたしは本が好きだ。小さい頃からよく本を買ってもらい読んでいた。
だから必然的に本屋さんにはよく通う。
この街に引っ越してきてからも、近くの本屋さんに通っていた。
でもいつからか、目当ては本を探すことではなく、彼女になっていた。

訪れると、必ずといっていいほどレジにいる。
「ありがとうございました」といつも笑顔でお客さんにお礼を言う。
こちらが言いたいぐらいだよ。
「素敵な笑顔を見せてくれてありがとう」って・・・。

これは恋だということに気付くのに、時間はかからなかった。
週に3回は本屋に行く。
特に欲しい本がなくても、
何かを探しているかのようにみせて、彼女を見ていた。

ストーカーか?
なんて、自分に自問自答しながらも、彼女の仕草一つ一つが気になる。
チャラチャラした男が話しかければ、
興味もない近くにある本を手に取り、一目散にレジに向かった。
男が舌打ちをしながら離れるとホッとした。
それと同時に落ち着いて自分の持ってきた本を確認する。

『昆虫大図鑑』
全く興味ない。って言うか高い。意味のない出費と沢山した。
あたしのバイト代は、全て本代へと消えた。

227 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:00











********************************











228 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:01

「いっらっしゃいませ〜」

あたしは居酒屋でバイトをしている。いわゆるフリーターだ。
夢はカメラマンになること。
夢だけは持っているけど、行動は伴っていない。
それでも今はいいかなって思ってる。とりあえずお金を貯めないと。

この店は家の近く。だから通いやすい。便利だ。
店の人もみんな良い人ばかり。だからこのままでいいかって思っちゃう。

「よっちゃん!これ3番テーブル」
「はいよ」

カシオレが2つにビールが2つ。
う〜ん・・・男2人と女2人とみた。こういう勘は当たるんだよなぁ。

「失礼します。ビールのお客様」

ビンゴ!男女2人ずつ。あたし凄いなぁ。ビールは男で・・・

「ビールこっち!私達だよぉ」
「あ、はい。申し訳ありません」

あたしは男2人にビールを渡そうとしたけど、
実際には女2人がビールだった。さすがにここまでは読めないな。

229 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:01

「ねぇ、美貴」
「ん?」
「いま面白いもの見た」
「何々?」
「カシオレ2つとビール2つだったでしょ?
 だから男2人がビールで女2人がカシオレだと思ったのさ」
「うん。違うの?」
「女2人がビールだった。やっぱ男と女の立場が逆転してんのかね?」
「別にビックリすることでもないでしょ。さっさと仕事して。
 はい、これ次」
「へ〜い」

次はクーニャンとカルアミルクか。きっと女2人だな。男2人もあるか。
そんなことを考えながらお酒を運ぶ。推理って面白いな。
でも次の瞬間、そんな推理なんてどうでもよくなった。

「!?・・・・・」

固まってしまった私。それに気付いた1人が声を掛けてくれた。

「どうか・・・しました?」
「・・・え?あ、あの、これ、その、お酒です」
「あぁ、ありがとうございます」

230 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:02

こんなところで会えるなんて・・・思わずニヤけてしまう。

「梨華ちゃん、カルアね」

梨華ちゃんて言うんだ。あぁ、名前知っちゃった。苗字は石川。
本屋の名札見たもんねぇ。

「失礼します」
「ありがとうございます」

微笑みかけてくれる彼女。あ〜カワイイ。きっとどの男もイチコロだ。
例えるとした天使の笑顔。ずっと笑っていてほしいって思えるな。

「何ニヤニヤしてんの」
「え?別に。どこがニヤニヤしているように見える?」
「いや、誰が見たってそう思うよ」
「参ったなぁ」
「何がだよ」

そりゃニヤニヤもするよね。本屋に行かないと会えない思っていた人に、
こんなところで会えちゃうんだから。
今日は何かいいことありそうだな。あ、もういいことあったのか。

231 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:02

あたしはウキウキが止まらなかった。
彼女の席の前を意味もなく何度も通り、頼まれたものは全て持っていった。
美貴は呆れていたけど、別にいいんだぁ。
はぁ。やっぱりカワイイなぁ。

「はい、よっちゃん。7番テーブル」
「OK!任せとけ!!」

彼女のところへデザートを持っていく。
こんなのいつの間に頼んだんだ?あたしが全て把握しているはずなのに。
聞き漏らしたところがあったのか。

「ほんと最低だね。付き合わなくて正解だよ」
「うん・・・でも電話とか、しつこく来るんだよねぇ」

ん?男の話か。石川さんを困らす奴は許せないな。
出来ることならあたしがやっつけてやるのに。

「お待たせしました。バニラアイスです」
「え?」
「頼んでないですけど・・・」

232 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:02

嘘だ。美貴持っていけって言ったぞ?
もしかしてテーブル間違った?
いや、でも7番って言ってたし。・・・そうだ。

「こちらはサービスです」
「サービス?なんのですか?」

なんの・・・?どうしよ、そこまで考えてなかった。

「えっと、、、」
「お2人ともお美しいので、私からのサービスです」

え?美貴?あ、そうか。店長からのサービスって言えば良かったんだ。

「えぇ?本当ですか?余ったからとかじゃなくて?」
「ははは。バレました?って、そんなことないです。
 本当にサービスですよ」

美貴と石川さんの友達は笑い合って色々話している。
石川さんもそのやりとりを見て笑っている。
あたしはそんな石川さんを見ている。
何だか妙な光景。嬉しいんだけど・・・なんか美貴ばっかり見てるし。

「よっちゃん。早く渡して。溶けちゃうよ」
「あ、ゴメン。どうぞ、お召し上がり下さい」

石川さんは飛びきりの笑顔で喜んでくれた。

233 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:03

「ねぇ、よっちゃん。ああいう時にうまく返せるようにならないと」
「うん、ゴメン」
「まぁ美貴は慣れてるから出来るのが当たり前かもしれないけど」
「いや、頑張るよ」

美貴は店長だ。まだ若いのに、店を任されている。
歳が近いから仲良くなったけど、店長の顔はいつでも持っている。
カッコいい女性ってこういう人のことを言うんだろうなって思う。

「んで、よっちゃんはどっちがタイプなわけ?」
「へ?・・・別にタイプなんてないけど」
「嘘つけ〜!あのテーブルに行くときだけテンション高いじゃん!」
「そんなことねーよ!」
「正直に言えって。協力してあげるから」

協力なんていらない。ただ、彼女の笑顔を見られるだけでいいんだ。
だから本屋さんで店員と客って立場でいいんだ。

「もういいって。さっさと仕事しろよ、店長」
「よっちゃんに言われたくない」

間もなくして、彼女達は帰っていった。

234 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:04










********************************











235 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:04

「うわぁ!凄い雨だぁ」

今の時間は午後9時。今日は早番で早く帰ることが出来た。
店を出ようとした瞬間に大粒の雨が沢山降ってきた。
美貴に傘を借りて家路を急ぐ。
途中で家に飲み物がないことに気付き、コンビニよることにした。

「んと、お茶は・・・・・!?」

これはもう運命じゃないかと思う。また会っちゃった。
でもよく考えたら、この辺に住んでいるとしたら会う確率は十分にある。
この先も、本屋さん以外で会えるかもしれない。
そんなことを考えていたら、ウキウキしてきた。

「売れちゃったんですか、傘」

よく見たら、彼女は少し濡れていた。
傘を買おうと思ってここに入ったようだ。でもすでに売り切れ。
傘が売り切れるって、どんなコンビニだよ。と思いつつ、
彼女を見ていた。

「わかりました」

トボトボと出入口に向かう彼女。
あたしは手に取ったお茶を戻して、彼女の後をついていった。
やっぱストーカーみたいだな。

236 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:05

彼女は入り口の屋根のところで突っ立っている。
どうしようか考えているのだろう。あたしに迷いはなかった。

「あの、これ使ってください」
「え?・・・・でも」
「大丈夫です。もう1本持っているんで」

嘘。本当は傘なんて持ってない。走る気マンマン。
傘を渡して、屈伸をする。久しぶりに走るからな。怪我はしたくない。

「・・・傘は?」
「大丈夫です」

そう言って私は走り出した。後ろから彼女が叫んでいる気がした。
でもそんなの関係ない。雨の中を走るのって、結構気持ちいいかも。
そんな風に思うあたしって、変態なのかな?
まぁ、彼女のことを見つめている時点で変態だよね。

あ〜あ。傘・・・美貴になんて説明しようかなぁ。

237 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:06











********************************











238 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:06

「フェックション!!」

あ〜鼻水とくしゃみが止まらない。完全に風邪引いた。
バカなことしなければ良かった。絶対美貴に怒られる。
そう思いながら、バイトの前に本屋に行く。
今日は欲しい雑誌があるんだ。

雑誌を探しながら、石川さんも探す。今日はいないみたい。休みかな。

「あ、これだ」
「あの〜」

雑誌を手にした瞬間に誰かに声を掛けられた。その主のほうを見る。

「・・・・・・・・」

あたしはまたしても固まった。
そこにいたのは眉をハの字にして、困り顔の石川さん。
なんで?話しかけられちゃったよ・・・

「傘、貸してくださった方ですよね?」
「え?あぁ、は、フェックション!!」
「大丈夫ですか?まさか、昨日で風邪引きました?」

239 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:06

石川さんは心配そうにあたしの顔を覗き込む。
あ〜カワイイ。ってそんなこと考えている場合じゃない。
心配掛けないようにしないと。

「いえ、花粉症なんです」
「・・・・花粉症・・・?」
「はい、だから風邪では絶対にありません」

石川さんはかなり疑いの眼差しであたしのことを見ている。
そんなに見つめないで。照れるじゃん。

「ならいいんですけど。昨日は本当にありがとうございました。
 凄く助かりました」

天使の笑顔。良かったぁ、傘貸して。

「それで、傘をお返ししたいんですけど・・・」
「あぁ、いいですよ。あげます」

どうせ美貴の傘だし。失くしたって言えばいい。

「それはダメです。ちゃんと返します。このあとって何かありますか?」
「あぁ、バイトです。9時まで」

今日も早番だからね。昨日と同じぐらいなんだよね。

240 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:07

「私もそれぐらいに終わるので、昨日のコンビニで傘返します」
「え?」
「ダメですか?」

そんな目で見つめられたら・・・

「もちろん。昨日のコンビニで」

って言うしかないじゃん。
石川さんは凄く喜んで、さっさとレジにいってしまった。
不思議な人だ。謎だ。でもカワイイ。
あ、これ買わなきゃ。

「はい、ありがとうございます。968円です」

あたしは1,000円を渡した。おつりと雑誌をもらってその場を離れる。

「また後で」

こんな約束できるだなんて思ってもいなかった。
美貴、ありがと。傘を貸してくれて。

241 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:07

その日のバイトはウキウキだった。具合が悪いけどウキウキだった。
時間ばっかり気になっちゃって、何度も美貴に怒られた。
熱がありそうだから、もう帰っていいって言われたけど、
約束の時間は9時だからそれまで帰ることはせずに働いた。

「今日なんかあんの?」
「なんで?」
「だっていつもなら、帰っていいって言ったらすぐ帰るじゃん」
「そんなことないでしょ」
「ってかさ、絶対熱あるよ。辛そうだもん」

美貴は心配してくれてるみたいだけど、今は関係ない。
熱があろうがなんだろうが、今日は9時にコンビニに行かなきゃ。
でもかなり身体が重くなってきたな。熱くなってきたな。

「もういいからさ、時間まで休んでな」
「う〜ん・・・うん」

あたしは美貴の言葉に甘えさせてもらうことにした。
待ち合わせの前に倒れたら意味がない。

242 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:07

「お疲れ〜」
「暖かくして寝るんだぞ」
「うん」

さっきよりは良くなったけど、やっぱり完全じゃないな。
傘を返してもらったら、すぐに帰って寝よう。
コンビニでおかゆでも買っていくか。

コンビニついたけど、まだ石川さんは来てなかった。
とりあえず、レトルトのおかゆを買おう。
何味がいいかなぁ。梅かな、卵かな。

トントン。

梅をカゴに入れたところで肩を叩かれた。

「お待たせしました」
「いえ、待ってないですよ」

私服の石川さんはやっぱりカワイイ。
そんなこと考えられるぐらいだから、まだ大丈夫だな。
石川さんはカゴに入っているレトルトのおかゆを見て、
心配そうな顔をしている。

243 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:08

「やっぱり風邪引いたんですね。顔も赤いし」
「いえ、たいしたことじゃないですから」
「ちょっと失礼します」

そう言ってオデコに手を当てた。その瞬間、女の子らしい香りがした。
なんの香水だろう。落ち着く香りだな。

「やっぱり熱い!急いで帰って寝なきゃダメです」
「はぁ」
「レトルトのおかゆもダメですよ。私が作ります」
「え?」
「昨日のお礼も兼ねてです。きっと私のせいです、風邪引いたの」
「それは違いますよ。自己管理がなっていないだけです」

とにかく自分のせいだという石川さん。意外と頑固だな。新たな発見だ。

「おうちはすぐ近くですか?」
「えぇ、まぁ」
「じゃあ行きましょう」

そう言ってレトルトのおかゆを棚に戻し、あたしの手を引いて店を出た。
出たところで止まる石川さん。
勢いよく出たはいいけど、
きっとどこに行けばよいのかわからないのだろう。

244 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:08

「左です」

あたしがそう言うと、安心したようにどんどん進んでいく。
うん、面白い。素直というか、なんと言うか。わかりやすい。

昨日とは全く違う、星が綺麗に見える晴れた夜空だ。
もし昨日が今日のような天気なら、こんな風に石川さんと歩けていない。
雨は嫌いだけど、風邪もひいちゃったけど、昨日の天気に感謝した。

「もうすぐです。左側に見える白いマンション」

石川さんはどんどん進んでいく。すごく積極的だ。
人は見かけによらないって本当だな。
そんなことを思っていると、マンションのエレベーターの前に着いた。

「何階ですか?」
「5階です」

エレベーターに乗り込み、5階を押す。
そういえば、部屋汚くなかったっけ。掃除したかな?
もういいや、この際。すべて彼女に身を任せよう。

245 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:09

部屋の鍵を彼女に渡した。素早く鍵を開けてくれた。
部屋に入るとホッとして、なんだか力が抜けてきた。
あぁ、辛い。寝たい。身体が熱い。

「大丈夫?横になってて。キッチン借りるね」

あたしはコクリと頷くことしか出来なかった。
そのまま敷きっぱなしの布団に倒れこむ。
部屋の構造は1DK。
キッチンで何かをしている彼女を気にする余裕もなく、
あたしは眠りについた。

246 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:09



















247 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:09

「吉澤さん、吉澤さん」

ん?誰かが呼んでる?
朦朧とする意識の中、少しずつ目を開けた。
最初に視界に入ってきたのは、眉をハノ字にした石川さんだった。
すごく幸せな目覚めだなぁ。

「おかゆ。食べれる?」
「・・・・・うん」

作ってくれたものは必ず食べる。それに食べないと薬も飲めないしね。
卵のおかゆ。鼻が詰まりすぎてあまり味はしないけど、美味しいはず。
あぁ。でも全部食べれそうにないや。

「残していいですから。食べれるだけ食べてください」

いい人だ。
弱っているときに優しくされるとその人を好きになるって言うけど、
本当だったんだな。
ってか、その前から好きだったから関係ないか。

「はい、お薬飲んで」

どっから探し出したんだ?凄いな、宝探し名人みたいだ。
あたしは薬と飲むと、また夢の世界へと引き込まれていった。

248 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:10










249 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:10

「んん、ん?」

目が覚めると電気がついていて、凄く眩しかった。
横を見ると、壁に身体を預けて眠っている石川さん。
まだ居てくれたんだ。

凄くいい人だな。見知らぬ他人の面倒を見てくれるなんて。
どんどん好きになっちゃうよ。本当はさ、辛いから。
これ以上好きにさせないで欲しいんだよね。
だから知り合いにならなくてもいいって思ってた。
見ているだけでいいって。傘なんて貸さなきゃ良かったな。

あたしは朦朧とした頭でそんなことを考えながら、彼女を見つめていた。
そんなあたしに気づくはずもない彼女はスヤスヤと眠っている。

布団かけなきゃ。石川さんが風邪引いちゃうよ。どうしよ。
あ、そういえば押入れに布団があったな。それを出そう。

立ち上がって押入れに向かう。でもやっぱり体力がなくてフラフラ。
危ねぇ。倒れそう。

「吉澤さん!?」

目を覚ました石川さんが驚いた声をあげている。

250 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:10

「何してるんですか?寝てないと駄目です」
「いえ、あの・・・布団をとろうと思いまして」
「寒いんですか?私が取ります」

石川さんの力に押されて仕方がなく布団に横になる。
パワフルだな。芯が強そうだ。

「はい、どうぞ」
「あ、それ、石川さんが使ってください」
「え?」
「布団かけないで寝ると、風邪、引きます、よ」

石川さんは驚いて、その後すぐに、小さく「ありがと」と言った。

「どうして・・・」
「はい?」
「どうして私の名前知っているんですか?」

あ、そういえば勝手に名前呼んじゃったな。
でも石川さんもあたしの名前・・・呼んでいたような・・・

「本屋で、名前、見たんです」
「あぁ、ネームプレートですか?」
「はい」

251 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:11

石川さんは納得したように、でも少し寂しそうな顔をしていた。

「石川さんは、どうして?」
「私もネームプレートです。居酒屋さんの」

覚えてたんだ、あたしのこと。
そう考えると何だか無性に嬉しくなった。
少しでも石川さんの記憶に残っていたことが。

「もう寝てください。治りませんよ」
「はい、寝ます・・・あの、あたしが目覚めるまで居てくれますか?」
「もちろんです。安心して眠ってください」

石川さんはあたしの髪の毛を優しくなでてくれた。
その心地よさがたまらなくて、あたしはすぐに眠りについた。

252 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:11











********************************










253 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:12

「いらっしゃいませ」

あたしはすぐに元気になった。本屋さんへ行き、お礼を言った。
今度ご飯を食べに行く約束もした。良い友人関係が築けたのかもしれない。

今日もレジにいる石川さんをチラチラ見ている。
気づかれないように、あの天使の笑顔を盗み見している。
あぁ、カワイイ。あたしの日課は変わらない。

また変な男が話しかけている。石川さん、モテすぎだよ。
近くの本を?んでレジまで持っていく。
男はすぐに諦めて出て行った。へ、そう簡単にいくかよ。

「今日は昆虫じゃないんですね」
「え?」

石川さんは笑いながらレジを打っている。
今日の本は・・・

『編み物の達人になろう!!』

「昆虫から編み物までなんて、趣味の幅が広いなぁと思いまして」

254 名前:LOVE 2008 投稿日:2008/10/02(木) 17:12

石川さんはクスクスと笑っている。
っていうか、あたしが昆虫図鑑買ってたの知ってるんだ。
結構覚えててもらえていたのかな?

「石川さんて、モテますよね」
「そんなことないと思いますよ」
「でもいつも男の人に話しかけられるじゃないですか」

う〜んと考える石川さん。まさか自覚なし?

「絶対狙われてますって」

必死なあたし。石川さんはまたクスクスと笑って言った。

「でも・・・
 男の人に話しかけられても、すぐに吉澤さんが助けてくれるから。
 すこし安心してます。危機感ないですもん」


・・・・・・・・・・これって、、、


期待しちゃってもいいんですか?



                            END?

255 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/03(金) 02:24
更新お疲れ様です。
とても面白いですね!
ENDの?マークに、期待しちゃってもいいんですか?
作者さんのペースで頑張ってくださいね。
256 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/03(金) 03:11
今回も良い感じのいしよしが読めてうれしいです。
257 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/03(金) 14:25

ご感想ありがとうございます。
ちょっと続きの短編です。

258 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:26

「お疲れ〜乾杯」
「今日も疲れたよね」

あたしは今居酒屋で親友とともにお酒を飲んでいる。
仕事帰りの一杯。たまんないよね。

「でさ〜今日も」

他愛もない話を繰り返す。それがあたし達のストレス発散。
この店は料理も美味しいし、それに店員さんが元気で気分が良い。
仕事場の近くだし、リーズナブルで通いやすい店。

「あ〜あ、いい人いないかなぁ」
「柴ちゃんには居るじゃない」
「だって、最近あんまり構ってくれないんだもん」
「でもいるだけいいでしょ、贅沢言わないの」

あたしの親友は梨華ちゃん。同じ本屋さんで働いている。
お互い誰にも言えないようなことでも話してしまう、そんな仲。

259 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:27

話している最中にふと横を見ると、突っ立ったままの店員さん。
どうしたんだろ。

「どうか・・・しました?」
「・・・え?あ、あの、これ、その、お酒です」
「あぁ、ありがとうございます」

なんで今固まってたんだろう。それにしても綺麗な顔。カッコいいなぁ。
いくつぐらいだろ。同い年ぐらいな気もする。

「失礼します」
「ありがとうございます」

店員さんは一礼をして厨房に入っていった。

「ねぇ梨華ちゃん。今の人、カッコ良くなかった?」
「え!?・・・・・あぁ、どうだろう、よく見なかった」
「次来たら見てみてよ。凄く綺麗な顔しているから」
「・・・・まさか、柴ちゃん狙ってないよね?」
「どうでしょうねぇ」

260 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:32

凄く綺麗な顔しているけど、あたしには合わないかな。
ちょっと綺麗すぎる。まぁでも一回だけならいいかなぁとも思う。

「一回ぐらいならいいかなぁって」
「ダメだよ!!」

いきなり梨華ちゃんが大きな声を出したので、
持っていたお酒を少し零してしまった。
あたしが驚いた顔をしていると、梨華ちゃんはハッとしたように続けた。

「だって柴ちゃんには、大谷さんがいるでしょ!?」
「うん、まぁそうだけど・・・一回くらいなら」
「ダメ!!そんなのダメ!」

あぁ、梨華ちゃんって本当に真面目。
これが仇となって恋人ができないんだよね、きっと。
もったいないなぁ。こんなにカワイイのに。
それにしても今の勢いは凄かった。焦ったぁ。

「梨華ちゃんは真面目だよね」
「そんなことないよ。柴ちゃんがだらしないだけ」

そんなこと言わないでよ。地味にショックじゃん。

261 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:33

「そういえばさ、この前飲み会で一緒だった人、どうなの?」
「それがね、彼女居たみたい」
「何それ。あんなに言い寄ってたのに?」
「彼女とは別れるからとか言ってたけど、私は無理」
「ほんと最低だね。付き合わなくて正解だよ」
「うん・・・でも電話とか、しつこく来るんだよねぇ」

梨華ちゃんは男運もない。真面目すぎて男運もないから、恋人も出来ない。
早くいい人見つけてあげたいと思うけど、梨華ちゃんはいいって言う。
それは凄く不思議だった。あたしらの周りは恋人はいるのが普通。
でも梨華ちゃんは作ろうとしない。
口には出さないけど、密かに想っている人がいるんじゃないかな。
あたしはそう感じるときが何度かあった。

「お待たせしました。バニラアイスです」
「え?頼んでないですけど・・・」

梨華ちゃんと顔を見合わせる。首を横に振る梨華ちゃん。
やっぱり頼んでないよね。美味しそうだけど。

262 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:34

「こちらはサービスです」
「サービス?なんのですか?」

サービス?今日は何かの日?
あれ、困ってるよ。適当に言ったな、この店員。

「お2人ともお美しいので、私からのサービスです」

困っている店員さんの横から、
胸元に“店長”と入ったネームプレートをつけた人が入り込んできた。

「えぇ?本当ですか?余ったからとかじゃなくて?」
「ははは。バレました?って、そんなことないです。
 本当にサービスですよ」
「いいんですか?」
「もちろん。私の特製アイスですから」
「へぇ。普通のアイスに見えますけどね」
「勘がいいですねぇ、普通のアイスです」

面白い人。客商売をする人は、こういう乗りが大切だよね、うん。
店員さんは呆然としているし。まだまだね。
顔は店員さんの方がいいけど、キャラ的には店長さんの方がいいな。

263 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:38

「よっちゃん。早く渡して。溶けちゃうよ」
「あ、ゴメン。どうぞ、お召し上がり下さい」

2人が厨房に戻ったあと、梨華ちゃんは嬉しそうにアイスを食べた。

「食べたかったんだ」
「うん!甘いもの頼みたいなって思ってたところ。ナイスタイミング」

あの店長さん、それを察してサービスしてくれていたのなら、凄いと思う。
観察力というかなんというか。

それにしてもあの店員さん、ずっと梨華ちゃんのこと見てたなぁ。
また惚れさせちゃった?無自覚の魔性の女だよね。

「やっぱりこの店いいよね」
「うん。また来ようね」

264 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:39










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265 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:39

「はい、こちらはカバーお掛けしますか?」

今日もいつも通りの本屋さん。あたしと梨華ちゃんはほとんどレジにいる。
まぁね、カワイイからさ、あたし達。
そういうのがレジにいたほうが、お客さんも来るかもだしね。

ん?あれって・・・

「ねぇ梨華ちゃん」
「ん?」
「あれ、あそこで本見ている人。この前の店員さんじゃない?」
「え?・・・あ、そう・・・かもね」
「何?覚えてないの?」
「ウ〜ん・・・あんまり」

絶対そうだ。あの横顔。やっぱり綺麗だなぁ。
あ、こっち見た。あんまり見すぎると変に思われるよね。

あたしはチラチラその店員さんを見ていた。
そのうちに色々なことに気が付いてしまった。
まず、彼女は特に欲しい本があるわけではないこと。
何となく近くの本を眺めている。
次にレジの近くの本しか見ていないこと。視界に入るところに必ずいる。
そして最後に、レジにいる梨華ちゃんをずっと見ているということ。

266 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:40

「そういうことか」
「何が?」
「え、いや、こっちの話」
「独り言は小さい声でね」

この前、彼女が梨華ちゃんを見ていた理由がわかった。
彼女は梨華ちゃんに好意を寄せているのだ。いいなぁ、梨華ちゃん。

「よっ!」
「あれ、まさお。どしたの?」
「外雨降ってきてるから、終わる時間ぐらいに迎えに来る」
「マジ?ありがとう」

そう言い残して店を出て行った。やっぱいい人と付き合ってるんだ、あたし。
そんなことに今更ながら気が付いた。

「いいなぁ、柴ちゃんは」
「梨華ちゃんだって早く作ればいいじゃん」
「・・・そうだよねぇ」

梨華ちゃんは遠くを見つめている。
その視線の先に、あの店員さんがいたことに、
あたしはまだ気がついていなかった。

267 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:40










268 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:40

「え!?乗せてあげたのに」
「あたしもそう言ったんだけどね、いいってさ」
「変に気を使わせちゃったかな」
「そういう子だからさ、しょうがないよ」

そんなことを言いつつも、やっぱりこのどしゃ降りの中は心配だった。
家について少ししてから梨華ちゃんに電話を掛けてみた。

「もしも〜し」
『もしもし?柴ちゃんどうしたの?』
「無事に着いた?凄い雨だったでしょ?傘も持ってなかったし」
『あ・・・うん。傘はなかったんだけどね、貸してくれた人がいて、
 だから大丈夫だったよ』

世の中には優しい人がいるもんだなぁって思った。
そういう出会いって、もしかするともしかするよね。

「貸してくれた人ってどんな人?男?女?」
『・・・女の人だけど、、、どうしてそんなこと聞くの?』
「ほら。運命かもしれないじゃん。大切だよ、そういうの」
『また柴ちゃんは。そんなんじゃないから、ね。じゃあまた明日』

そう言って梨華ちゃんは電話を切ってしまった。
まぁね、そんなうまくいくわけないしさ。梨華ちゃんも興味なさそうだし。
あ〜あ。もうそろそろ合コンでもセッティングしてあげようかな。

269 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:41










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270 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:41

「おはよう」
「あ、おはよう。昨日はありがと、心配してくれて」
「いえいえ」

特に風邪も引いてないみたいだし、本当に無事だったんだと思う。
あたしは先にレジに出て、お客さんの対応をしていた。

「あ」

まただ。またあの店員さんがいる。今日は何かを探しているみたい。
気になるなぁ。
2人とも顔が整っているから、お似合いのカップルだとは思うんだよね。

あれ?梨華ちゃん。話しかけているよ。なんで?知り合い?
ってか、あの店員さん、凄く嬉しそう。分かりやすいなぁ。
あ、梨華ちゃんがこっちに来た。何の話をしていたのだろう。

「ねぇねぇねぇ」
「ん?」
「なに話してたの?あの店員さんと」
「あの人がね、昨日傘貸してくれた人なの。だから返そうと思って」

うっそ。マジで?あの店員さん、狙ってたんじゃないの?
もしかして超能力者で雨を降らしたとか?凄いじゃん。
なんか運命感じちゃうなぁ。

271 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:41

あ、こっちに来るよ。何だかあたしが緊張してきた。

「はい、ありがとうございます。968円です」
「また後で」

また後でって、何か約束でもしたわけ?ちょっとやるじゃん。
それにしてもやっぱりカッコいい。

「何の約束したわけ?」
「9時にコンビニで傘返すって」

梨華ちゃんも律儀だよね。借りたものはきちんと返す。
どうせその辺に売っているビニール傘でしょ?

心なしか、梨華ちゃんも喜んでいるように見えた。
その時にちょっと思ったんだよね、もしかして梨華ちゃんもって。
でもそんな確証ないし。第一知り合う場面がないような気がする。
だからモヤモヤした気持ちでその日一日は過ごしていた。

272 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:42












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273 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:42

「どうだった昨日?」
「え?・・・・うん、まぁ普通に」
「傘返したんでしょ?」
「うん、それがね・・・」

今は休憩時間。一緒に休憩室でお茶をしている。
実は気になっていた2人のその後。
梨華ちゃんの後をつけようかなって思ったけど、
そんなお父さんみたいなことしたくないなって思って、大人しく家に帰った。

昨日の夜のことを一部始終話してくれた梨華ちゃん。
もうね、その話をしている梨華ちゃんの顔を見ただけで、
あたしの昨日の予感は的中していたんだなって分かっちゃったよ。

「いつから?」
「・・・なに、が?」
「いつからあの店員さんのこと、好きだったわけ?」
「!?好きだなんて言ってないじゃない」
「見てればわかるって。で?いつから?」

274 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:43

何も話そうとしない梨華ちゃん。じれったいなぁ、もう。
さっさと吐いちゃえば楽なのに。
でもさ、あたしは予想がつかないんだよね、いつからかって。
初めて会ったのはたぶんこの前飲みに行った時だし。

「言いたくないならいいけどさ。あたしね、嬉しいの。
 そりゃもっと早く言って欲しかったけど、
 梨華ちゃんにそういう人がいたってことが何よりも嬉しい」

梨華ちゃんは泣きそうな顔をしながら、話してくれた。

「柴ちゃんは知らないかもしれないけど、 私は4月ぐらいから知ってたの」

4月?今は10月だから・・・もう半年も片思いしていたってわけ?
信じられない。一言言ってくれれば良かったのに。

「なんだか言いづらくて。話したこともない見知らぬ人を好きになったって。
 中身も知らないのにさ」

やっぱり変なところ気にするんだよね。

275 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:43

「あのお店で働いていることも知ってたの」

だから梨華ちゃん、あの店気に入ってたんだ。

「どんな人だった?」
「いい人だったよ。優しい人だった」
「へぇ。アタックしちゃえば?」
「そんなの!無理だよ。向こうは何とも思ってないだろうし。
 少しでもお友達になれるのなら、それでいいの」

謙虚だねぇ。もし今告白したら、絶対にOKだけどね。
でも言わない。何だか悔しいから。もう少し片思いを味わえばいいさ。

「そっか。まぁいいや。あたしは応援するよ。またあのお店に行こ」
「うん!」

カワイイ笑顔だなぁ。たぶんあの店員さんも、この笑顔にやられたのかな。

276 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:43

梨華ちゃんが先に出て行き、レジについた。
そしたら間髪入れずにあの店員さんが近づいてきて、何か話しかけてる。
凄いな。風邪もう治ったんだ。愛のパワーだねぇ。
あたしも遅れてレジに行く。

「じゃ、そういうことで」
「はい、また」

あらら。なんか2人ともニコニコしちゃってさ。幸せそう。

「なんだって?」
「お礼に今度ご飯に行きませんかって」
「やったじゃん」
「ふふふ」

嬉しそうな梨華ちゃん。あの店員さんもなかなかやるなぁ。
意外と積極的だよね。もっとこう、引っ込み思案かと思ってた。
その日の梨華ちゃんは、ずっとテンションが高かった。

277 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:44










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278 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:44

相変わらずあの店員さんは、
梨華ちゃんの見える位置で興味のない本を手にとって見たりしている。
もうさ、友達になったんだから、堂々とすればいいのに。
一歩間違ったら犯罪。ストーカーですよ。

「お姉さん、この辺に住んでるの?」

また梨華ちゃんが男の人に口説かれている。本当に飽きないよね、君達。
梨華ちゃんはニコニコしながら、「どうでしょうねぇ」とかわしている。
もう慣れたものだなぁと思っていたら、あの店員さんがレジにやってきた。
迷わず梨華ちゃんのほうへ。

あの〜・・・レジ2つあるんですけど。
しかもこっちのレジ、開いてるんですけど・・・・ま、いっか。

「石川さんて、モテますよね」
「そんなことないと思いますよ」
「でもいつも男の人に話しかけられるじゃないですか」

よく見てるねぇ。さすが、ストーカー。あ、こんなこといったら怒られる。

「絶対狙われてますって」

279 名前:LOVE 2008 ver.S 投稿日:2008/10/03(金) 14:44

必死だねぇ。いいなぁ。あたしもそんな風に心配されたい。
なんかいい感じの雰囲気だよね。別に付き合っているわけじゃないのにさ。
一生懸命さが伝わってくるよ。
ここまで言われても、梨華ちゃんは気が付かないもんなのかねぇ。

「でも・・・
 男の人に話しかけられても、すぐに吉澤さんが助けてくれるから。
 すこし安心してます。危機感ないですもん」

梨華ちゃんはクスクスと笑いながら答えた。
ちょっと余裕の表情。
少しずつ気付いてきたのかな?向こうも同じ気持ちだってことに。

2人の表情を見比べると、まだまだ、梨華ちゃんのほうが一枚上手かな。


                              END?

280 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/03(金) 19:08
なんて素敵な時間に更新してくれたんでしょう!!
281 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/10/04(土) 01:44
いい!すごく最高です!!
そして続けっ!w
282 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/04(土) 03:04
今日もまた幸せな気持ちになれました。
283 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/05(日) 02:13
あぁ、こういうのいいね◎

すごくいい◎
284 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/05(日) 15:59

毎回のご感想アリガトウございます。
なんだか短編じゃなくて、中編になっていますが、
許してください。

285 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:00

あなたを初めて見かけたときから、私は恋に落ちたの。
それからもう半年。自分の心の奥底に沈めていたこの思い。
こんなに突然、湧き上がってくるとは思っていなかった。
あの雨のおかげ。あの傘のおかげ。今私は、凄く幸せです。

今は休憩中。柴ちゃんも隣にいる。携帯を見ると、赤く光っていた。
メールが来ているみたい。誰だろ。彼女だったらいいな。

『こんにちは。お仕事お疲れ様です。
 今夜暇ですか?店でワイワイやるんですが、一緒にいかがですか?
 柴田さんも一緒に。返事待ってます。』

凄く丁寧なメール。もう少し崩れてくれてもいいのに。真面目なのね。

「ねぇ、柴ちゃん。今日の夜空いてる?」
「あ〜うん。どうかした?」
「吉澤さんがね、店で集まるから一緒にどうかって」
「マジで?いいの?行く行く。まさおに連絡しておこう」

え?大谷さんと何か約束あったんじゃないの?
もう、そっちを優先してよね。私が無理やり誘ってるみたいじゃない。

286 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:00

『本当にいいんですか?ぜひご一緒させてください。』

私のメールも少し固いよね。人のこと言えないなぁ。
だってずっと思っていた人とメールできるんだもん。固くなるよね。

「よし、頑張ろうッと」
「お、梨華ちゃん。気合入ったねぇ。愛しの吉澤さんと会えるんだもんね。
 そりゃ頑張ろうって思うよね」
「柴ちゃん」
「お先ぃ」

柴ちゃんはそう言って、先に休憩室を出て行った。
もう。すぐ人のことイジるんだから。嫌になっちゃう。
そりゃあね、嬉しいよ。
でもね、ご飯に行こうって言ってから、まだ一度も2人で行ってないんだから。
必ず誰か連れてくるし。別にいいんだけどさ・・・
1度ぐらいは2人で行きたいなって思うの。
贅沢なのかな?友達になれただけでも凄いことかぁ。

287 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:01










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288 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:01

「凄い楽しみなんだけどぉ」
「ねぇ、大谷さんいいの?」

柴ちゃんは凄く嬉しそうに着替えている。
2人とももう上がりで、これからお店に行くところ。

「いいの。行っておいでって言ってくれたし」
「本当に優しいよね。優しいっていうか、甘やかしすぎな気がする」

大谷さん、本当は嫌だと思うよ。柴ちゃんのこと大好きだもん。
心配だと思うよ。でも、行くななんて、子どもみたいなこと言えないじゃない。
その辺、もう少し分かってあげてほしいなぁ。

「さぁ!いっぱい飲むぞう!!」
「ほどほどにしてよね。面倒見るの私なんだから」
「大丈夫!」

289 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:01













290 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:02

「こんばんはぁ」
「おう、いらっしゃい」

出迎えてくれたのは店長さん。
吉澤さんのことをよく分かっていて、
2人の掛け合いにはいつも笑わせてもらっている。

「あ、梨華ちゃんじゃん。こちらはお友達?」
「うん。同じ本屋さんで働いている柴田あゆみちゃん」
「はじめまして」

今話しかけてくれたのは里田まいちゃん。
吉澤さんと一緒に何度かご飯も食べて、遊びにも行った。
吉澤さんを通してだけど、交友関係がどんどん広がっていく。

「さぁさぁ、座って〜」
「今日は何かあるの?」
「ん?別に。ただ飲みたいだけ」

柴ちゃんは大笑い。ただ飲みたいだけで、お店休むって・・・。
すかさず店長は言う。

「休みじゃない。貸切だから。一応営業しているってことで」

291 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:02

「ただサボりたいだけだよ、ウチの店長は」

そう言いながら、厨房から出てきた吉澤さん。
相変わらずカッコいいなぁ。店の制服が凄く似合っている。

「余計なこと言うな!首にするぞ」

コツンと頭を叩かれて大袈裟に痛そうなリアクションをする吉澤さん。
ふふ。カワイイところもあるんだよね。
皆と一緒にいる吉澤さんを見ていると、今までのイメージとは違って、
そこにまた惹かれている自分がいる。好きになっている自分がいる。
でもね、怖いの。好きになりすぎるのが。
もし、あなたに恋人が出来たら、私はあなたのお友達でいる自信はない。
だって見たくないもの。あなたと誰かが一緒に歩いているところなんて。

「梨華ちゃん?座れば?」
「あ、うん」

ボーっと立っている私に、柴ちゃんが声を掛けてくれた。
「見とれすぎ」とか言われたけど、あんまり耳に入ってはいない。

292 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:03

「さぁ、それでは始めますか!」
「「「「「「「カンパーイ!!!」」」」」」」

メンバーは私と柴ちゃん、吉澤さんとまいちゃんと店長さん、
それからお店の店員さんの愛ちゃんとまこっちゃんの7人。
皆お酒のペースが早くて、正直ついていけない。
そう思ってたら、吉澤さんが「自分のペースで飲んでください」って。
本当に優しいんだから。嬉しい反面ツライ。
恋ってこんなにも苦しいものだったんだね。

「梨華ちゃんはさ、恋人いないわけ?」

お酒も進んで、話の内容は恋の話へ。
ちなみに愛ちゃんとまこっちゃんは恋人同士らしい。

「え?うん、いない」
「なんでぇ?こんなにカワイイのに」

なんでって言われても・・・色々あるのぉ。

「梨華ちゃんはね、理想が高いの。その辺の男じゃ無理だね。
 しかも真面目だから、全てがキチっとしてないとダメだし。ね?」
「う〜ん、、、」

ね?って言われてもなぁ。自分のことって、あんまりわからないし。
そうなのかなぁ。理想高いのかなぁ。

293 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:03

「好きな人もいないの?」
「え?・・・あ、いや」
「この慌てようはいるね。絶対いる。梨華ちゃんって分かりやすいよね」
「そう!そうなの。分かりやすすぎるの!!」
「ちょっと柴ちゃん。飲みすぎじゃない?」
「らいじょうぶだよ、梨華ちゃん」

ニコって笑われても・・・かなりヤバイと思うよ?
今のうちに大谷さん呼んでおいたほうがいいんじゃない?

「ねぇねぇ、梨華ちゃんの好きな人ってどんな人?」
「んとね〜」
「はは!なんで柴ちゃんが答えるのさ!ウケルんだけど」

皆笑い飛ばしているけど、私は内心ドキドキだよ。
酔っ払ってるから、本人の前で言っちゃいそうだもん。

「梨華ちゃんはぁ、もう半年も片思いをしています」
「マジで?一回も告白してないの?」
「らってぇ、話し始めたのも最近、んんん」

私はお喋りが止まらない柴ちゃんの口を思いっきり塞いだ。
だって喋りすぎだもん!!ダメだよ、言っちゃあ。

294 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:03

「梨華ちゃんって一途なんだね。しかも奥手。カワイイ」

ちょっと店長。ニヤニヤしながら言わないでよぉ。
どうせ私は積極的にいけなくて後悔ばっかりしてますよ。

「よっちゃんと一緒だよね」
「そうですよねぇ、吉澤さんも半年片思い中ですもんね」

「うるせぇ」って言いながら、まこっちゃんの首を絞めている吉澤さん。
そうだよね、居るよね。なんか切なくなってきちゃった。

「2人とも一途なんだねぇ。思われてる人が羨ましいわ」

ニヤニヤしながら言うまいちゃん。
もう!なんなのよ!皆でニヤニヤしちゃってさ。
愛ちゃんまで笑っているし。帰りたいよぉ!!

「まぁね、麻琴みたいにとっかえひっかえはしないよ」
「ちょっと!吉澤さん!!」

あれ、愛ちゃんの顔が変わったような・・・まこっちゃん、睨まれてる。

295 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:04

「確かに、麻琴よりはいいかも」
「店長まで何を言うんですか!!」
「まこと・・・」

あぁ。愛ちゃんのカワイイ顔が・・・

「とっかえひっかえってどういうこと?」
「いや、嘘だよ、嘘!ほら、冗談だって!ですよね、吉澤さん」
「そういやこの前のあさ美ちゃんはどうなったの?」
「吉澤さぁ〜ん」

困り果てたまこっちゃんと、怒りが収まらない愛ちゃん。
大笑いの他の人たち。面白いけど、ちょっと遊びすぎじゃない?
まこっちゃん、泣きそうな顔してるよ?

「麻琴。よくわかったろ?先輩をいじるとこういう目に会うんだよ」

吉澤さんも大笑い。
私も笑ってはいたけど、やっぱりさっきのことが気になって・・・
上手く笑えてなかったと思う。

296 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:04

「柴ちゃんは?恋人居るの?」
「ん〜?」
「どうして悩むのよぉ。大谷さんがいるでしょ?もう」
「あ〜そうだ。まさおがいた」

皆また大笑い。もう完璧に酔っ払いね。
早めに大谷さんに連絡しないと。

「なんだぁ、いるのかぁ。乗りが合うからいいかなって思ったのに」

え〜!店長さん、そうだったんだ。へぇ。

「おい。お前も居るだろ。愛しの亜弥ちゃんが」
「え?そうだっけ?」
「そんなこと言って知らねぇぞ。盗聴器とか仕掛けてるかもしれないし」

店長さんは急にビクッとして、辺りを見回し始めた。
そんな姿を見て皆大爆笑。そんなに怖い恋人なんだね。
でもね、今一番怖いのは、愛ちゃんだと思うよ?
だってまこっちゃんを見たまま、ずっと目を離さないんだもん。

297 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:05

「そう言えば、亜弥ちゃん来なかったんだね、今日は」
「うん、置いてきた。あいつ来たらゆっくり飲めない」
「他の人に手も出せないしね」

あ〜あ、またそんなこと言って。ほら。首絞められたじゃない。
でも楽しそうだよね、本当に。
そんな笑顔、本屋さんでは見たことなかったもんなぁ。

「石川さん、聞いてよ!こいつ酷いんだよ!」

そう言って吉澤さんを指す店長さん。
吉澤さんはポカンと口を開けている。

「前にさ、飲みに行ったとき、たまたまだよ!
 たまたま、他の女の子と唇が触れ合っちゃったわけ。
 それをさ、写メに撮って、彼女に送っちゃったんだよ。
 すぐにだよ!あれからどうしたか・・・」
「それは美貴が悪いんだろ。他の人とそういうことするから」
「しょうがない時だってあるだろ!」
「ねぇよ!人のせいにすんな!」

あれ?口論が始まっちゃった?
でもまいちゃんはいつものことって感じで笑っているし、
柴ちゃんは「やっちまえぇ〜」とか言ってるし、
まこっちゃんは愛ちゃんに謝りまくっているし。
客観的に見たら、凄くおかしな光景。

298 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:05

「だから、付き合っても居ない人とそういうことするなってての!」
「じゃあさ、よっちゃんは梨華ちゃんにキスを迫られてもしないわけ?」

えぇ?私?
ビックリして目を大きく見開いたままの私。
吉澤さんと目が合う。なんか気まずい。

「・・・なんで石川さんが出てくるんだよ!
 ってか勝手に下の名前で呼ぶな!馴れ馴れしいんだよ」
「いいじゃん、別に。友達だもん。
 梨華ちゃんのことを梨華ちゃんって呼んで、何が悪い」
「梨華ちゃん、梨華ちゃん言うな!」
「うるさい!梨華ちゃん、梨華ちゃん、梨華ちゃん」

「くだらない」
まいちゃんが笑いながら呟いた。
「ほんとにね」
柴ちゃんも笑いながら返事をした。

「いっつもこんな感じなの?」
「そう。恋愛のことになると、2人とも結構熱くてね」

299 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:05















300 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:06

楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

「今日は楽しかったぁ!ありがとうね」
「また来てね。いつでもサービスするから」
「うん、また来る」
「よっちゃん、ちゃんと送ってね」
「え?でも片付け」
「いいから!!」

吉澤さんは店長さんの勢いに押されて、
私達を送ってくれることになった。

あれ?あの車・・・

「ねぇ、柴ちゃん」
「んん?」
「あれ、大谷さんの車じゃない?」
「え?・・・あ、本当だ。ラッキー」

柴ちゃんはフラフラになりながら車へ掛けていった。
それが分かったのか、大谷さんが運転席から出てくる。
優しい顔。柴ちゃんは本当に幸せものだなぁ。

「まさお〜。飲みすぎたぁ」
「はいはい。帰ってさっさと寝ようね。
 梨華ちゃんも、、、大丈夫そうだね。あゆみだけ連れて帰るわ」

301 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:06

え?それって・・・・え?え?吉澤さんと2人きりってこと??
そんなの、恥ずかしくて・・・どうしよう。

「じゃ、お願いしますね。梨華ちゃんカワイイからすぐに襲われそうなんで。
 あ、送り狼なら許しますけどね、はは」

そう言って大谷さんは車を発進させた。
吉澤さんのほうを見ると、アタフタしているのが手に取るように分かった。
カワイイ。吉澤さんも緊張してくれているのかな。

「行きましょ?」
「あ、はい。きちんとお送りします」

家までの間、色んな話をした。
家族のこと、小さい頃のこと、夢のこと。
2人きりで話しことなんて今までなかったから、凄く新鮮。
真面目な話って、あんまりしたことなかったもんね。

「石川さんの好きな人って、どんな人なんですか?」
「え?」

突然の問いに驚きすぎて、固まってしまった。
だって、「あなたです」なんて言えないもの。

302 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:06

「いえ、言いたくないならいいんです。
 ただ、どんな人なのかなって思いまして」

それなら私だって・・・

「吉澤さんの好きな人は?どんな人なんですか?」
「え?あぁ、そうですよね、こっちが先に言うべきでしたね」

ハハっと笑いながら、その話をしようとした。
私は聞いておいてなんだけど、あんまり聞きたくない。
だって見ず知らずのその人に嫉妬しちゃうもの。

「あたしの好きな人は、笑顔が素敵なんです。
 まさに天使の笑顔って感じで」

へぇ。私はその話に聞き入っていた。
聞きたくないと思いながらも、やっぱり知りたい気持ちもある。
矛盾よね、こういうの。

「あたしがこの街に引っ越してきたのって、半年前なんですよ」

知っているよ。私が初めてあなたを見かけたのが半年前だから・・・

「その時に出会った・・・というか、
 こっちが勝手に見てただけなんですけどね。
 もう初めて見たその日から、惹かれちゃって」

303 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:07

私と一緒。そういうの、一目惚れって言うんだよ。

「その日から週に何度もその人を見に通ってましたね」

どこに通ってたの?なんて詳しいことは聞けない。

「いつもレジにいるんで、あたしもレジの近くをウロウロしたりして、
 まぁよく考えるとストーカーなんですけどね」

私も同じ。あなたのストーカーだったかもしれないね。
チラチラ見ちゃってさ。あ〜変態だぁ。

「その人が休みだったりすると、その日のバイトは気合が入らなかったりして、
 なんか、大変でしたね、あたし」

吉澤さんにそんな風に思われているだなんて、本当に羨ましいと思った。
一度でいいから変わってみたい。こんな歌の歌詞があった気がする。

304 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:07

「でも全然話しかけられなくて、
 なんであたしってこんなにヘタレなんだろうって思いましたね」
「奥手なんだね」
「メチャメチャ奥手ですね」

吉澤さんは笑いながら答える。それから楽しそうに話の続きをする。

「あることがきっかけで、やっと話せるようになったんですけど、
 知れば知るほど好きになっちゃって。
 もう自分でも抑えられないぐらいまで来てるなぁって感じですよね」

わかるよ、苦しいよね。どうしたら良いかわからないよね。

「メールとかもして、食事とかにも誘ったんですけど、
 何か2人きりっていうのが苦手で。友達を必ず連れて行ったりしてました」

そうだよね、私のときもだもんね。
恥ずかしがり屋なのかな。それに人見知り?

「でも周りからは、いい加減にしろって言われてました」

305 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:07

あぁ、あのメンバーなら言いそう。私も言われそうだもの。

「いいなぁ。いい感じじゃない?」
「そうかなぁって思ってたんですけど、
 その人に好きな人がいるって知っちゃったんで。今ちょっと落ちてます」

あ、もしかして、今日は吉澤さんを励ます会だったのかな?
全然そんなの考えてなかったよぉ。

「大丈夫だよ、吉澤さんなら。優しいし、真面目で良い人だし」
「そうですかね?」
「うん!きっとその人も気付くと思うよ、吉澤さんの良さに」

気付かないでほしいって思うけどね。
気付いちゃったら、あなたはその人のところへいくんでしょ?
それはやっぱり嫌だな。ゴメンね、応援してあげられなくて。

「それじゃあ、これからも通おうかな、あの本屋さんに」

本屋さん?この近くの本屋さんって・・・ウチの店?

306 名前:LOVE 2008 ver.I 投稿日:2008/10/05(日) 16:08

「レジで天使の笑顔を振りまいている人に、会いに行ってもいいのかな?
 男によく話しかけられる人をまた助けてもいいのかな?」

レジ・・・・男・・・・助ける・・・・?

「この前は昆虫図鑑も編み物の達人も買ったから、次は何を買おうかな」

それって・・・・どういうこと・・・?

「いつか振り向いてもらえるように、必死になってもいいですかね?
 好きだってことを、その人の伝えても大丈夫ですかね?」

そこまで言われると、もしかしたら柴ちゃんかもしれないけど・・・

期待しちゃってもいいのかな・・・?



                                END?

307 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/10/05(日) 20:00
続編期待しちゃってもいいですか?w
308 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/05(日) 20:27
うわああああこの話好きだ
309 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/06(月) 00:25
最高です!
ドキドキして続き待ってます!!
310 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/07(火) 19:52
おもしろいです!
続き期待しちゃってもよいですか〜〜♪
311 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/08(月) 19:23
いいわ〜この話!!
こちらも期待してもいいんですか?
312 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/10(火) 01:18
続き期待してます。
313 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/31(火) 23:13
期待してまつ!!!
待ってて良い???

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