ルーズボール2
1 名前:clover 投稿日:2007/09/16(日) 21:39
容量がいっぱいになってしまいましたので新スレ立てます。

前スレ 
「ルーズボール」
ttp://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1171380256

2 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:40
38.恋の行方(続き)
3 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:41
「ごっちんは?」
「別れた。」
「美貴のせい?」
「自惚れ過ぎ。ごっちんに振られたの。」
「そっ。で、振られたから今度は美貴ってこと。」
「そーじゃないよ。多分、ずっと気持ちはあったんだよ。ここの奥の方にね。」

胸に手を当てる松浦。
藤本も自分の胸に手を当ててみた。

「美貴の中にはよっちゃんへの気持ちしかない、かな。」
「はやっ。もうちょっと私への気持ちを探してくれてもよくない?」
「だって、無いんだって。」
「相変わらず冷たいね。」

微笑む松浦に「そーだね。」と呟く藤本。
4 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:41
「きっと、亜弥ちゃんとはさ同じ気持ちで居られないもん・・・。」

そう言った藤本の脳裏に道重の言葉が浮かぶ。

「どうして分かるのさ。」
「美貴は誰かにずっと気持ちがあるのに他の誰かを好きになったり出来ないよ。」
「それは・・・。」
「美貴と亜弥ちゃんは同じ気持ちで居られない。よっちゃんもだったけどね。」
「美貴たんはもう、誰かを好きになったりしないの?」
「探すよ・・・よっちゃんへの気持ちの整理がついたらね。」

藤本はフッと笑みを零すと松浦に背を向け歩みだした。

「見つかるといいねっ。」

背中から聞こえる松浦の声に藤本は片手を上げて応えた。
5 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:41
 
6 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:42
吉澤の居ない吉澤の部屋。
亀井はソファに座り青いラグを眺める。
いつもそこに居るはずの主をここのところ見ていない。
ネコは気まぐれ。
居ないのなら連れてこようと呼びに行ってみたが留守だった。

「全く、どこほっつき歩いてるのよ。」

吉澤が帰ってくるのを待っているのは初めてじゃない。
待っていることは嫌いじゃない。

今日の仕事は無事に終わったのかな。
今どの辺りを歩いているのだろう。
まだ、電車かな。
吉澤のことを考えている間は楽しいから。

でも・・・。
7 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:42
いつだって、言葉を口にすれば返してくれるネコがそこに居た。

「もうそろそろ、帰ってくるかな?」

呟いてみても誰も応答してくれない。




8 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:42
「ただいま。亀ちゃん?」
ソファの上で膝を抱えて丸まっている亀井の姿を見つけた吉澤。
亀井の前に座って顔を下から覗きこむ。

「どうした?」
「この部屋で吉澤さんを待ってるの初めてだったの。」
「ん?そんなこと無いでしょ。」
「れーながいつもそこにいたもん。」

ラグに視線を向けた亀井の頭を吉澤は気まずそうに撫でる。

「隣の部屋にも行ってみたけど留守だった。」
「そっか。」
「れーなが、こんなに姿見せないのってどうして?」
「ネコ、だから、かな。」
「ガキさんがなんだか心配してた。」

真っ直ぐと向けられる亀井の視線から吉澤は一瞬、ほんの一瞬だけ目を逸らす。

9 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:43
「れーな、どうかしたの?」

困ったな、亀井は吉澤の表情からそんな言葉を読みとった。

「直ぐ、会えるなら・・・何でもないなら良いんだけど。」

吉澤の手を取って言う亀井。
吉澤は亀井の心配そうな顔を見ながら仕事帰りに寄ってきた病院のベッドの上に居た田中の姿を思う。

「れいなはそのラグの上が似合うよね。」
「うん。」
「もう、そこで寝ることはないかもしれない。」

驚愕の表情を見せる亀井から吉澤をラグへと視線を動かす。

「吉澤さん?」
「入院してる。」
「嘘・・・。」
「れーなは亀ちゃんには言うなって。」
「どうしてっ?」
10 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:43
怒り。
亀井に視線を向けた吉澤は亀井の表情からそれを受け取った。
あやすように亀井の頭を撫でてやる。

「亀ちゃんが悲しむから、れーなは、亀ちゃんが大好き何だ。だから、そっと居なくなろうとしてる。」

俯いたまま話を聞いていた亀井の瞳からポロポロと涙が溢れた。

「そっと居なくなるって?そんなことされたらもっと、悲しいじゃん。」
「れーなは・・・亀ちゃんの笑顔を見てたいんだよ。」
「れーなに会わして。」

亀井の涙を指で拭いながら吉澤は頷く。
11 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:44
「その前に・・・ちゃんとれーなの病気のこと受け止めて欲しいんだ。」
「うん。」
「れーなは進行性の病気。」
「進行性?」
「治ることはない・・・どんどん弱ってく。もう、ほとんど寝てる状態。」
「どこが悪いの?」
「珍しい病気。普通はれーなの歳じゃならないみたい。筋肉がダメになっていくんだって。」
「筋肉?」
「足とか手とか背中とかほっぺたも、顎も・・・」
「動けなくなるってこと?」
「うん。それに、舌とかもまだ話しは出来るけど出来なくなるって。食べれなくなるし飲み込む筋肉もなくなって呼吸困難になったりする。いつか・・・そんなに遠くない、いつかは呼吸をする筋肉さえもなくなる。」
「そんな・・・。」
「もう、歩くのもきつかったみたい。言われてたんだ。限界までここに居たい、そしたら病院連れて行ってって。」
「いつ?いつ言ったの?」
「教会に行った日。」
「絵里、全然知らなくて・・・のん気に騒いでた・・・。」
「それでいいんだよ。れーなはそれを望んでる。」
「でも・・・。」
「でも、じゃなくてそうしてやって。れーなの前では涙は見せない。約束して。」

いつもより、強い口調の吉澤。
12 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:44
「れーなの前では悲観的にならないで、最後まで必死に生きようとしてるんだ。諦めないで生きようとしてるんだ。うちらに出来ることなんてそんなにないんだよ。見てるだけしか出来ない、れーなが望むのはうちらが笑って幸せでいることくらいなんだ。だから、亀ちゃんはれーなの前で笑顔で居て。」

亀井は涙を掌で拭うと頷いた。

「絵里の笑顔、高いんだぞ。」
「そう、その笑顔。れーなきっと喜ぶよ。明日、一緒に行こう。」
「うん。」
13 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:45
ラグに視線を向けながら吉澤は心の中で謝った。
田中に口止めされた約束を守らなかったことに。

それでも、吉澤はきっと、これが一番いいと思った。
何も言わずにさよならなんて出来るわけない。
れーなにとって亀井の笑顔は何よりの薬になるだろう。

ただ、最期まで亀井を田中の側に置いておくことは亀井が望んだとしても出来ないだろう。

「吉澤さん?」
「ん?」
「大丈夫?」
「うちは、心の準備をしておく時間が十分あったから。」
「そう、なんだ。」

吉澤は悲しそうに頷いた。
14 名前:ルーズボール 投稿日:2007/09/16(日) 21:45
「ガキさん、心配してるんだけど・・・。言わないほうがいいのかな?」
「知ってるんだと思う。」
「ん?」
「うちの誕生日の日、ガキさんれーなの部屋みてるから。」
「れーなの部屋に何かあるの?」
「在宅の呼吸器。最近、部屋に戻って寝てただろ。」
「うん。」
「呼吸器ないとちゃんと寝られなくなってたんだ。」
「そう、なんだ。」
「だから、きっとガキさん知ってると思うよ。」
「じゃぁ。」
「とりあえず、明日は二人で行こう。」

田中がどんな状態で病院にいるのか、想像が出来ない亀井は少しだけ不安そうに頷いた。

15 名前:clover 投稿日:2007/09/16(日) 21:59
本日の更新以上です。
中途半端に新スレになってしまってスミマセン。

恋の行方
>>ttp://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1171380256/911-923
>>2-14


>>909 :名無飼育さっ 様
レス、有り難うございます。
田中さん・・・。はい。
結構、重要なポディションに居てもらってて
なんだか申し訳ないんです。

今後もよろしくです。

>>910 :ももんが 様
レス有り難うございます。
カップリングをどーしようかなぁって悩んでます。
ルーズボールになって人が増えてきてる気がw
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/17(月) 20:11
新スレに移動していたんですね。前スレの更新が中途半端だったので心配してました。
ちょっと話の展開が暗い感じになってきているので読むのが辛いところですが、
続きが気になるのでがんばって読んでます。みんなに幸せになって欲しいけど
おとなしく更新を待ってます。がんばって下さい。
17 名前:ももんが 投稿日:2007/09/18(火) 08:22
更新お疲れ様です。
このルーズボール内のさゆはさっぱりしてて気持ちがいいです。とっても好感もてます。
ガキさん初々しい感じですごいかわいいです!
これからも更新楽しみにしてます。
18 名前:clover 投稿日:2007/10/07(日) 01:10
更新する前に
更新内容に病気の話しが入っておりますが
実際、存在しているものではなく架空ですのでご了承を。
19 名前:ルーズボール 投稿日:2007/10/07(日) 01:11
39.ネコの寝床
20 名前:ルーズボール 投稿日:2007/10/07(日) 01:11
田中は病室で白い天井を眺めていた。
呼吸器の音だけが聞こえる病室。

入院して1週間が過ぎた。
数時間おきに看護士がやって来て背中にあるクッションを入れ替えていく。
もう、自分で寝返りはうてない。
2日目にはご飯を喉に詰まらせ咽てからお粥になってしまった。
水を飲もうと手を伸ばしたけれどカップを持っていられずシーツをぬらしてしまった。
どちらにしても、食欲なんてものはない。

ちょっと動くだけ。
足を曲げたり、手の位置を移動させるだけ、それだけで息が切れて苦しくなる。
話しに聞いていたよりもずっと急激に弱っていく自分の体。
実際、担当医も驚いていた。
21 名前:ルーズボール 投稿日:2007/10/07(日) 01:12
毎日、仕事帰りに寄ってくれる吉澤の変わらない笑顔だけが救いになっていた。
どんどんと動けなくなっていく自分を見て本当は驚いているだろう。
それでも、吉澤はマッサージして筋肉に刺激を与えてやるといって手や足を擦ってくれる。
見た目にも細くなっていく手や足を何も言わずに擦ってくれる。

絵里と上手くいっている話を聞かせてくれる。
シャイな吉澤だから本当はそんな話をするのは苦手なはずなのに。
22 名前:ルーズボール 投稿日:2007/10/07(日) 01:12
こんな体になっていくなら、死んでしまったほうが・・・。
そう、思っていたのに。
実際、今はそう思っていない。
吉澤と最後まで生きると約束したからだけではない。
少しでも長く、生きていればその間、吉澤と一緒に居られる。
二人のことを見ていられる。

「今度、生まれ変わったら本物のネコになって吉澤さんと絵里に飼われたい。」
昨日、吉澤にそう伝えたら「れーなは人間になれたんだよ。そんなこと考えるのは人間だけだ。」と笑われた。
それでもやっぱり、二人の側に居られたらきっと幸せだと思うからそうなりたい。

23 名前:ルーズボール 投稿日:2007/10/07(日) 01:13
どんどん体が動かなくなっていく代わりに脳が活動しすぎて困ってしまう。
いろんなことを考えてしまう、想像してしまう。
吉澤さんは人間だから考えるのは当たり前だというけど、きっと普通の人間以上に今の自分の脳は活動していると思う。

どうして、自分が・・・。
そんなことは何度も考えた、けど、考えないようにしてきた。
考えたって答えなんて見つからないだろうから。
だって、なってしまったものは仕方ない。
そう、思うしかない。
「なってしまったから・・・どう生きるか。それを考えろ。」
吉澤さんの言葉は救いだった。

あるだけの時間を自分らしく。
自分が一番大切にしたいものを大事なものを見つける。
見つかったあとは楽しい毎日が待っていた。
それは今も続いている。
きっと、最期まで続くと思う。
24 名前:ルーズボール 投稿日:2007/10/07(日) 01:13
一つだけ・・・心配事。
吉澤さんが毎日来てくれること。
ここに来ると絵里に会う時間が減ってしまう。
吉澤さんは大丈夫だと言っていてけれど・・・。
絵里は寂しがり屋だから。

「一緒に来ればそんな心配いらねーんだけど。」
吉澤さんのその言葉に頷いたり出来ない。
だって、ずるいかも知れないけど・・・
絵里の悲しむ顔を見たくないから。
そんな、顔で自分を見て欲しくない。
自分が居なくなって少しくらいは悲しんで寂しがって欲しいけど、それを見たくない。

人間らしい、ズルイ考え。
25 名前:ルーズボール 投稿日:2007/10/07(日) 01:14
「なーに、笑ってんだ?」

吉澤の声が聞こえて視線だけを声の方へと向ける。
それでもまだ視界に吉澤の姿は映らない。
田中はゆっくりとした動作で手を動かして口元にあるマスクを外す。

「もっと、こっちに、こんと、見えんと。」
「分かってるって。」

吉澤が視界に入ると田中の目だけが微笑む。
そんな田中の頭を吉澤の手がそっと撫でた。

26 名前:ルーズボール 投稿日:2007/10/07(日) 01:14
「今日は、お客さん居るんだ。」
「だれ?」
「亀ちゃん。」

田中の瞼がゆっくりと閉じられた。

「そこに、もう、いると?」
「ドアの向こう。」
「そう。」
「隠し通すなんて、無理だよ。」

瞼を閉じたままの田中の目じりから涙が零れる。
それを吉澤の指がそっと拭った。

「全部、話したんだ。困るんだよ。お前があそこに居ないと寂しがって。」

ゆっくりと瞼を上げた田中に吉澤は笑いながら「嫉妬しそーだ。」と呟いた。

「仕方、なかね。」

一生懸命、笑みを作ろうと田中は頬の筋肉を動かした。
吉澤がドアを開けに田中の視界から消えても田中はそのまま笑みを保ってる。
27 名前:ルーズボール 投稿日:2007/10/07(日) 01:15
「亀ちゃん。入って。」

病室に入った亀井はベッドの上の田中を見て立ち止まった。

「絵里、もっと、こっちにこんと、絵里の、顔、見えんと。」

途切れ途切れ、ゆっくりと話す田中の声に亀井は戸惑いながら吉澤に視線を向ける。
吉澤は優しい顔で頷くと亀井の背中をそっと押した。

「絵里、元気そう、っちゃね。」

笑みを浮かべたままの田中がそういうと亀井は頷いた。

「酷いよ。れーな。絵里には内緒とか。」

亀井は両頬を膨らましてみせる。

「絵里は、騒ぐけん。病院は、静かにせんと、いけんけん。」
「もうぉ。それくらい絵里だって分かるよ。」

亀井は精一杯の笑顔を見せる。

28 名前:ルーズボール 投稿日:2007/10/07(日) 01:16
「絵里は、笑顔が、一番っちゃ、ね。」

その言葉が言い終わると同時に田中の頬の筋肉が緩む。
無表情になった田中の頬を亀井の手がそっと撫でた。

「笑らいたい、のに、笑うのも、大変っちゃ。」
「喋るのも大変なら何も喋らなくたっていいんだよ。れーなはネコなんだから。」

亀井は吉澤の家から持ってきた青いラグを田中の視界に映るように掲げた。

「れーなはこの上にゴロンと寝てるだけで絵里にとっては可愛いペットなんだから、それに、白いシーツよりれーなにはこっちのが似合う。」

涙を堪えながら微笑む亀井に田中は「あり、がと。」と告げる。

「吉澤さん手伝って。」
「あいよ。」

吉澤が小さくなった田中の体を軽々と持ち上げると亀井がシーツの上にラグを敷いた。

29 名前:ルーズボール 投稿日:2007/10/07(日) 01:16
「ほら、こっちのがれーなだよ。うん。ネコだ。ね、吉澤さん。」
「そーだね。れーなもこっちのがゆっくり出来るんじゃない?」
「そう、っちゃね。」
「なんか、飲み物買ってくる。」

二人の様子を見て安心した吉澤はそう言って病室を出て行った。

亀井は椅子をベッドの横へと持ってきて座ると田中の手をそっと包み込むように握る。

30 名前:ルーズボール 投稿日:2007/10/07(日) 01:17
「吉澤さんの部屋でね、一人で待ってることってあんまりなかったんだよね。いつもれーながそのラグの上で寝てるの。聞いてるのか聞いてないのか分からないけど、絵里はいっつも話しかけてて、たまにれーなの返事があってさ。でも、ここんとこずっと絵里の独り言になってて寂しかったんだから。絵里、部屋で一人で喋っててマヌケみたいじゃん。」
「ふっ。」

田中の声が漏れて亀井は微笑む。

「これから、ここで吉澤さんのこと待つ。そしたら今までと何も変わらないでしょ。絵里はここに座って、れーなはそこに寝て。それがいいよ。そーしよ。ね、いいよね。」
「そう、っちゃね。」
「絵里と吉澤さんの間にはれーながいるんだよね。なんか、不思議な関係だね。れーなと吉澤さんが仲良くしても絵里は嫉妬しないし。きっと吉澤さんもそうだと思う。こういう関係もありだよねぇ。」

亀井が嬉しそうに笑う。
田中にとってそれはとても嬉しいことだった。
もう、それを表情に表すことは叶わないけれど目だけは嬉しさを伝えている。

31 名前:ルーズボール 投稿日:2007/10/07(日) 01:17
お茶の缶を手にドアの前で二人の会話に耳を傾けていた吉澤が息を一つ吐くとドアを開ける。

吉澤は「お茶、買ってきた。」と亀井に手にある1つを渡すともう一つは水のみに入れた。

「れーなちょっと飲む?」
吉澤の問いに瞬きで答える田中を見て吉澤は田中の口元に水のみを当ててほんの少しだけ、唇を濡らす程度のお茶を与えた。

「大丈夫そう?」
吉澤は飲み込む力が弱まっているが咽ないように少しずつお茶を口に運ぶ。

「あり、がと。」
「ん。うちが居ないときは亀ちゃん飲ましてあげてね。」
「うん。わかった。」

様子を見ていた亀井は頼られることに嬉しさを感じながら頷いた。

32 名前:ルーズボール 投稿日:2007/10/07(日) 01:24
本日の更新以上です。
>>19-31 39.ネコの寝床

今回は田中さんメインでした。
話しがなんだか長くなってきてしまって・・・
どうしようかなという感じですが
最後まで書くのでお付き合い宜しくお願いします。


>>16 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
スミマセン、最後までいけるかなと思っていたのですが
入りきらなかったのです・・・。
ご心配かけました。
暗い感じになってしまっているのですが
是非、最後までお付き合い下さい。

>>17 :ももんが 様
レス有り難うございます。
道重さんは大人な感じでw
ガキさんも最近めっきり女性らしくなってきた印象なのでw
最後までお付き合い宜しくです。
33 名前:ももんが 投稿日:2007/10/07(日) 12:05
更新お疲れ様です。
吉澤さんと亀ちゃんとれーなは不思議な関係ですね。
でも3人それぞれに絆があって、強く結びついててうらやましいです。
最後まで応援してます。
34 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/12(金) 03:31
れいなぁあああああああ
35 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/13(火) 19:15
更新待ってますw
36 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:29
40.大人を装う子共たち
37 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:31
「絵里、バイト辞めようと思う。」

新垣の家にやって来た亀井は玄関先で出迎えた新垣にまずそう言った。

「はぁ?」

何が、どうして、そういう結論に達したのか全く把握できていない新垣はそんな声を上げた。

「何、急に。今、さゆも来てるから取り合えず上がりなよ。」
「さゆも来てるの?」
「うん。加護さんに会って来たんだって。」

階段を上る新垣の背中を見ながら亀井は「ほぇぇ。」と声漏らしその後についていった。

38 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:32
「亀、来たよ。」
「絵里?どうしたの?」
「バイト辞めようと思って、ちょっと言いに来た。」

ソファに座っていた道重が横にずれると亀井がその空いたスペースへ腰を降ろす。
床に座った新垣は亀井のために紅茶を入れていた。

「でぇ?何で辞めるのよ。」
「そう、うん。話すと凄い長いんだけど。」
「短い話も長くなるのはいつものことだけど。」
「ガキさん、さゆが毒はいてくるんですけども。」
「だから、何で辞めるのよ。」

紅茶を差し出しながら再び尋ねる新垣。
いつもと違う新垣の様子にいち早く気がついた道重はそれ以上、亀井を茶化したりしなかった。

「れいなと一緒に吉澤さんの帰りを待とうと思って。」

新垣は薄っすらと優しい笑みを浮かべ頷いた。
何一つ理解していない道重の視線が二人の顔を行き交う。

「田中っち、元気?・・・ではないか。」
「うん。」
「れーなどうかしたの?」

新垣の目が亀井に話すようにと促すと亀井は少しだけ目を伏せた。
39 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:33
「れーな。病院にいるの。入院してる。」

亀井が吉澤から聞いた田中の病気のこと、自分が目にした田中の姿を話し終えると3人の目には涙が浮かんでいた。

「ガキさん、知ってたんでしょ?」
「・・・うん。」
「どうして教えてくれなかったの。」
「田中っちの気持ち、分からなかったから・・・どうしていいのか分からなかったの。」
「そっか・・・。でも、なんで絵里には教えてくれなかったんだろう。知ってたら・・・。」
「それ、だと思うの。」

亀井と新垣は不思議そうに道重に視線を向けた。

「知ってたら、気にかけるでしょ。大丈夫?って聞くでしょ。」
「そりゃ、心配だもん。」
「れーな、そういうの嫌だったんだよ。普通にしてたかったんだよ。だから、吉澤さんも普通に接してたんだと思うの。」

新垣は感心しながら道重の言葉に頷いた。
40 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:33
「でもっ。れーなの病気は・・・二人ともれーなの姿見てないからっ。もう・・・」
「それでも、れーなはそれを望んだんだよ。絵里。」
「だって、れーな・・・さゆ、冷たいよ。れーな可哀想。」

道重は顔を覆って泣き出した亀井の背中をそっと撫でなる。
新垣は悲しそうに下唇を噛んだ道重の表情を眺めていた。

「れーなは・・・絵里に可哀想なんて思って欲しくないと思う。」

撫でる手を止めずに道重は続ける。

「れーなはそう思って欲しくないから何も言わないで入院したんだと思うの。人ってさ・・・そんな風に思われるために生きてるんじゃないじゃないの。」

亀井は顔を上げると涙目で道重を見つめた。

「じゃぁ、何のために生きてるの?何のために死ぬの?ねぇ、さゆ。なんでれーながあんな病気になるの?教えてよ。ねぇ、何のため?」

今まで黙っていた新垣が「亀。辞めな。」と声をあげた。

41 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:33
「さゆに当たらないの。」
「だって・・・。」
「いいよ。さゆみ大丈夫だから。絵里がそれでれーなの前で笑顔でいれるなら。」

優しく亀井の頭を撫でる道重に亀井は涙を拭いながら困った顔をする。

「もう・・・さゆもガキさんもどうして大人みたいに落ち着いてるのよ。絵里が子共みたいじゃない。」
「絵里はそれでいいと思うの。」

微笑む道重に新垣も同じように頷く。

「ねぇ絵里。」
「ん?」
「人はね、愛する人のために生きて、愛される人のために生きるの。れーなは幸せなの。」

微笑む道重に亀井は頷いた。
42 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:34





「絵里、元気になってよかった。」
「うん。」

今度、一緒にお見舞いに行こうと約束を交わし、亀井は笑顔で帰っていった。
新垣は抱えた膝の上に顎を乗せ道重を眺める。

「なに?さゆみに見とれてるの?」
「違うから。」
「じゃ、なに?」

首を傾げる道重を見上げながら新垣は小さくため息をつく。

「ふふっ。」
道重がそんな新垣を見て笑い声をもらした。

「恋の悩みでしょぉ。悩め悩め。今までガキさんそういう悩みなかったんだから。」
「あーんた面白がってるでしょ。」
「まこっちゃんいい人だよ。」
「知ってる。」
「何を悩んでるの?」
「好きとか付き合うとかさ・・・。」

道重はカップに手を伸ばし紅茶を口に含む。

43 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:35
「付き合ってみればいいじゃない。」
「そんな簡単にっ。付き合ってダメだったってなったらまこっちゃんに悪いでしょ。」
「まこっちゃんに?」

意地悪く微笑む道重。

「まこっちゃんはそれはそれで諦めつくからいいと思うけど。寧ろ、そんな理由で付き合ってもらえないほうが傷つくよ。」
「だって・・・。」
「ダメだったらダメで良いんだよ。付き合ってみないと何も変わらないし始まらないよ。付き合ってから分かることだってあるの。」

膝に額を当てて顔を伏せる新垣。

「付き合うとするじゃない。」

顔を伏せたまま話す新垣に道重は「うん。」と相槌を返す。

44 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:35
「好き、だから付き合うでしょ。」
「そうだね。」
「でも、別れることもあるじゃない。」
「うん。」
「好き、って気持ちはどこに行っちゃうの?好き、だから付き合ったのに。」
「好きって気持ちはここに残るよ。」

道重は胸に手を当てて微笑む。

「いっぱい人を好きになることはいいことなの。その気持ちがここにいっぱい溜まっていって、いつかそれずっと一緒にいられる人へあげればいいの。」
「さゆってさ。」
「ん?」
「小さい頃はそういうこと考えてる子じゃなかったよね?」
「暗かったって言いたいの?」
「だって、人と関るの苦手だったじゃん。」
「その前に小さい頃からこんなこと考えてる子なんて、嫌なの。」

新垣は「そーだね。ははは。」と笑い出す。
45 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:36
「ガキさん。」
「ん?」
「最初の一歩はみーんな怖いんだよ。」

道重はそう言って微笑む。

「さゆも、そうだった?」
「まぁそうだったかなぁ。でも、まぁ良く、考えることは悪いことじゃないと思うよ。」
そう、言い残し新垣の部屋を後にした。

「ここに溜まっていくのかぁ。」

新垣は自分の胸に手を当てた。

「ちょっとは溜まってるのかな?」

そう、呟いてフーと息を吐き出した。



46 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:36
 
47 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:36
「お先に失礼します。」

柴田はカバンを持って職場を後にする。
柴田の姿が見えなくなると後藤は「お先に。」と呟き駆け出した。

エレベータホールの前に立っている柴田の姿を見つけ後藤の足は速度を落とす。

「お疲れ様。」

隣に並んだ後藤に柴田が言う。

「ちょっと付き合ってよ。」

無表情のまま言う後藤に柴田は「いいよ。」と呟いた。


48 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:36
無言のまま歩く後藤の後を柴田も無言のまま着いていく。

何も変わってないようで少し変わってしまった二人の関係。
その原因は自分にある。
柴田はそう思っている。
極力、仕事の会話以外はしないようにしてきた。

後藤がどんな話をしたいのか、その答えは容易。

このままでいたら、仕事にも支障が出てくるだろう。

公園に入り歩を止めた後藤。
柴田も少し離れて歩みを止めた。
ゆっくりと振り返る後藤の表情は悲しそうにも苦しそうにも取れる。
49 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:37
「どした?ごっちん。」

柴田はわざと明るい声を出した。


「柴ちゃんさぁ。」
「んー?」
「ごとーとどうしたいわけ?」
「どーって?」
「このままじゃ、ごとー仕事もしてらんない。」
「プロじゃないなぁ。こんなことでダメになるなんて。」
「こんなこと?柴ちゃんにとってこんなことなの?」

柴田は柔らかい笑みを零し後藤に歩み寄る。
背の高い後藤を見上げた柴田は腕を伸ばし後藤の体を抱きしめた。

「ごっちんと私が付き合ったとしても、上手くいかないと思うんだ。」
「なんで決め付けるの?」
「決め付けてるんじゃないよ。」
「決め付けてるよ。付き合ってみないとわからないじゃん。」

柴田はポンポンと後藤の背中を叩きゆっくりと離れる。
50 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:38
「分かるよ。」
「わかんない。」
「昔だったら・・・高校生とか大学生とかだったら・・・わかんなかったけど。今は分かるよ。」

不満気な顔をする後藤に柴田は笑みを零しながら。
一歩、柴田は後ずさる。

「もう、二人とも結構、大人じゃん。」

また一歩、後ずさる。

「こんな風に付き合い始めたって、傷つけ合うだけだよ。子供みたいに、突っ走ったり私は出来ない。」

また、一歩。

「そういう風に考えてくれただけで、幸せだよ。」

また、一歩。

「ありがと、ごっちん。」

柴田は少し大きめの声で言うと後藤に背を向けた。
51 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:38
「柴ちゃん。」
「ん〜?」
「ごとーはきっとまだ子共なんだね。突っ走れる気がするけど。」
「そうかもね。」
「明日から、仕事頑張ろうね。」
「うん。」

背を向けたまま、歩き出した柴田の背中に後藤は「おやすみ。」と呟いた。
52 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:39
公園から出た柴田は肩を震わせながら駅へと歩を進める。
付き合い出したらきっと不満が出てくる。
仕事の延長のような気がしてしまう。
傷つけて嫌われるのが嫌なだけ。
後藤に愛される自信がない。

大人だからなんて言い訳。

松浦と別れる原因を作って。
引っ掻き回して・・・

私の方がよっぽど子共だ・・・。




53 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:39
 
54 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:40
仕事を終えた吉澤はアヤカの事務所でコーヒーを飲んでいた。
向かいに居るアヤカは吉澤の表情を眺めている。

「はぁ。」

この椅子に座ってからもう何十回目かのため息が吉澤の口から漏れる。
その理由をアヤカは知らない。

「恋人と上手くいってないの?」
「ん?いってますよ?なんで?」

キョトンとした顔で吉澤はアヤカを見つめた。

「ため息ばっかりしてるから。」
「して、ました?」
「うん。」
「気をつけてるんだけどなぁ。アヤカさんの前だと安心してるのかも。」

アヤカは笑みを浮かべた。
55 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:41
「最近、直ぐに帰って行くってけーちゃん心配してたよ。」
「ちょっとね。行くところあって。」
「そっか。」
「大切な子が入院してるんだ。」
「恋人?」

吉澤は首を横に振る。

「じゃ、恋人がヤキモチ妬いてるでしょ。」
「そんなことないですよ。先に病室行ってるし。」
「二人とも知り合いなんだ。」
「うん。うちらにとってとっても大切な人。」
「それが、ため息の原因なわけ?」
「まぁ、ねぇアヤカさん。」
「ん?」
「神様って、意地悪だよね。」
「人って、ズルイよね。都合が悪いと神様のせいにする。」

吉澤は困った顔をする。
56 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:42
「ごめん、意地悪なこと言ったね。」
「ううん。」
「私、神様なんて信じてないからさ。」
「そうなんだ。」
「見えないものは信じないの。」
「へー。」
「だから、愛も信じてない。」

吉澤は肩眉を器用に上げる。

「ちょっと違うな。信じるの辞めたの。」
「愛も目に見えない・・・か。」
「そう、あぁ、でもだからって愛を信じるのが馬鹿だとかそういう風に思ったりしてないよ。」

吉澤は軽く頷いてみせる。

「出来ることならね、信じる心を取り戻したいと思ってるんだけどね。」

アヤカは自虐的に微笑む。
57 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:42
「ごめん話、戻そうっか。なんで、神様は意地悪だって思うの?」
「生きようとしてる人の命を奪う。必要とされている人の命を・・・」

アヤカはカップに口をつけ、足を組みなおす。

「限りがあるから有難みがあるんじゃない。何でも、無限にあった価値がないじゃない。」
「そうかもしれないね。」
「かも知れない、じゃないよ。そうなの。」
「うん。」
「その子、助かりそうにないの?」
「今の医学じゃ無理だって。」
「そう・・・。」
「うちと亀ちゃんには必要な子なのに・・・。」
「その子、幸せだね。二人にも必要とされて。」
「命がなくなるのに?幸せ?」
「いつか、皆死ぬよ。」
「まだ、17才だよ。」
「寿命は皆にあるもの、17才より若くても尽きることはある。」

吉澤は視線を落とし「アヤカさんは大人だね。」と呟いた。

58 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:43
「受け入れないといけないって分かってる。だから、そう装ってる。」
「疲れてるってことだ。」
「そうかもね。」

苦笑する吉澤の頭に手を伸ばしたアヤカは「たまにはここにおいで。」と微笑んだ。
吉澤は腕時計に目をやると「ありがと。」言い残し病院へと向かった。


59 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:43
亀井は気持ちの整理が付いたのだろうか。
日に日に弱っていく田中を見て動揺を見せずに看病している。

「やっぱり、強い子だな。」

電車に揺られ流れる景色を眺めながら吉澤は呟く。
亀井や田中と一緒にいると自分がとても弱い人間に思える。

だから・・・
自分にないものを持っている子だから
とても惹かれる

亀井も田中も




60 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:43
病室からまるで独り言のように亀井の声だけが聞こえてくる。
吉澤は大きく深呼吸をしてからドアをノックして入った。

「ただいま。」
「お帰りなさーい。」

亀井の笑顔が吉澤を迎える。
吉澤はも一度「ただいま。」と微笑み田中に視線を向ける。

田中の瞼がゆっくりと閉じてゆっくりと上がる。

「ただいま、れいな。」と田中の頭を撫でる。

61 名前:ルーズボール 投稿日:2007/11/24(土) 23:44
「ねぇ、吉澤さん。」
「ん〜?」
「れーなにも話したんだけど、絵里ねバイト辞めようと思うの。」
「そう。それがいいかもね、ここに早く来れるもんね。」
「うん。」
「よかったな、れーな。退屈にならない。」
「れーな迷惑そうな顔するんだよぉ。」

吉澤の隣で亀井が頬を膨らます。

「二人の、時間・・・減る、っちゃ。」
「なーに言ってんだよ。」
「そうそう、今までだってれーないっつも居たじゃない。」

「ねっ。」と微笑む亀井に吉澤は笑みを返す。

田中が居なくなったら、この笑顔を自分が守れるのだろうかと一瞬、吉澤に不安が過ぎる。

そんな吉澤の気持ちなど知る由もなく亀井は笑顔を向けていた。



62 名前:clover 投稿日:2007/11/24(土) 23:57
本日の更新以上です。
>>36-61
40.大人を装う子共たち

大分間が空いてしまいました。
次回は早めに更新したいと思います。


>>33 :ももんが 様
レス、有り難うございます。
>最後まで応援してます。
有り難うございます。
早め早めに更新したいと思いますのでよろしくです。

>>34 :名無飼育さん 様
レス、有り難うございます。
>れいなぁあああああああ
田中さん・・・(涙

>>35 :名無飼育さん 様
レス、有り難うございます。
63 名前:ももんが 投稿日:2007/11/25(日) 01:04
更新お疲れ様です。
道重さんの大人っぷりにはお見それしました。なんでこんな子になるのと不思議です。
れいなが気になってしかたないっす。
64 名前:ルーズボール 投稿日:2007/12/31(月) 13:47
41.夢見る少女の現実
65 名前:ルーズボール 投稿日:2007/12/31(月) 13:48
亀井に連れられてやってきた田中の病室。
道重は笑顔で田中に話しかける亀井を少し後ろから眺めていた。

「今日ね、ガキさんとさゆも一緒なの。二人とも、こっちから顔見せてあげて。」
「あ、うん。」

想像以上だったのだろう、新垣の表情が一瞬、戸惑う。

「田中っち。来たよ。」

田中はゆっくりと瞬きを返し口を開いた。

「あ、り、が、と。」
「うん。」

新垣を安心させようと声を出した田中はゆっくりと深呼吸を繰り返す。

「無理、しないで。」

新垣が戸惑いながら呟いた。

「話せる、とき、は、話し、たい、けん。 だい、じょぶ、ちゃ。」

ゆっくりと、途切れ途切れ言葉を発する田中の唇。
皆、その唇に視線を向け言葉を読み取っていた。

「れーな、幸せそうで良かったね。」

道重はそう言って微笑み、田中の手を取った。
道重の言葉に戸惑う二人を他所に田中はゆっくりと頷いてみせる。
66 名前:ルーズボール 投稿日:2007/12/31(月) 13:49
「さゆみ、羨ましいよ。」

道重はそう言うと亀井に向きなおした。

「さゆ、どうしたの?」
「絵里、さゆみ今日はもう帰る。」
「えっ?来たばっかりじゃん。」
「うん、また、来るからもう直ぐ、吉澤さんも来るんでしょ?」
「うん。」
「病室に何人も居たら迷惑だし。」

道重は田中の顔を覗きこみ「また、来るね。」と告げると病室を出て行った。

「れーなどうしたんだろうね。」

亀井の言葉に新垣は首を傾げた。



67 名前:ルーズボール 投稿日:2007/12/31(月) 13:49
病院を出た道重はオレンジ色に染まった空を眺めながゆっくりと歩く。


田中れいな。
初めて会った時の印象・・・無愛想な猫。
れーなの中身を知った後の印象・・・飼い主に忠実な犬。
絵里は猫だっていうけれど、さゆみは犬だと思う。

絵里のためなら、躊躇しないで何でもする。
れーなの愛を知る前の印象・・・人間を愛してしまった哀れな犬。
れーなの愛仕方を知った後の印象・・・幸せな子。

純粋に愛せるれーなが羨ましいと思った。
見返りもいらない。
ただ、愛する。

何も求めないから愛されているかなんて不安になることもない。
一方通行の愛だけれど、れーなの愛は絵里にも吉澤さんにも伝わっている。
二人にとってれーなの存在は大きくなって、必要とされている。

必要・・・。それは生きていくのにとても大切な要素。
誰にも必要とされない人間は寂しすぎる。

もしも、れーなが人間として絵里の愛を求めていたら、きっと傷つくだけだったと思う。
れーなも絵里も吉澤さんも。

れーなは・・・ただ、愛することを貫こうとしている。

そんな風に愛することができるれーなの愛が羨ましい。
68 名前:ルーズボール 投稿日:2007/12/31(月) 13:49
さゆみは求めてしまう。
愛した分の愛を。
さゆみだけじゃないと思う、多くの人がそうだと思う。
こんなに愛しているのにどうして愛してくれないの?
そう想いながら・・・どこかで諦めて一緒にいるんだと思う。

だって・・・ルーズボールのままじゃ寂しいから。

トン、トン、トン・・・って体育館にバウンドする音だけ残して片隅で忘れられちゃう。

だから、さゆみはここにいるよ。って愛する人を求めて探す。
自分を一番愛しているのはいつか自分以上に愛する人が見つかったときに直ぐに自覚できるように。

辻さんが・・・そうだと思った。
さゆみがれーなみたいに人を愛せる人間だったら・・・
でも、人はそれぞれ違うから・・・
さゆみは同じ気持ちで居られる人と愛しあいたい。
愛するじゃなくて愛し合う。

愛した分だけ愛してくれる人。
そんな相手が直ぐに見つかったら・・・殆どの人が幸せになっているはず。
そうでないってことは・・・見つかる確立はとても低い。

69 名前:ルーズボール 投稿日:2007/12/31(月) 13:50
「重さん?」

久々の呼び名に道重は歩みを止めた。
病院から家に向かうつもりが自然とここに向かっていた。

「まこっちゃん。練習終わったの?」
「のんちゃん?」

道重は苦笑しながら首を横に振った。
辻が通う大学に自然に足が向いてしまった自分を心の中で嘲笑う。
自分から辻を拒否したのに。

「えっと、あぁ、お、お腹空いたかな、重さん付き合ってよ。」

オドオドしながら言う小川。

「仕方ないな、可愛いさゆみがまこっちゃんに付き合ってあげますか。」

前と変らない道重の応えに小川は安心したように微笑んだ。

「重さんどうしたの?」
「まこっちゃん整形した?」
「はぁ?してないし、する分けないじゃん。」
「そうだよね、してたらもっとね・・・。」
「何それ・・・。」
「ふふっ。」
「何笑ってんのさ。」
「今、なんかホッとしたの。」
「ん?」
「まこっちゃんの笑顔に。」
「はぁ?」
「だから、整形でもしたのかなって。ふふ。」
「意味、わかんない。あぁ、ホントにお腹空いてきた。」
「早く行こう。」

道重は小川の手を取り歩みだす。

70 名前:ルーズボール 投稿日:2007/12/31(月) 13:50
「まこっちゃん変な顔してるけどどうかした?」

歩こうとしない小川に振り向いた道重が微笑む。

「まぁ、まこっちゃんはいつも変な顔だけど。」
「だから、さっきから失礼だから。」
「ふふ、で、どうしたの?」
「いや、重さんと手、繋ぐの初めてだから、変なのって。」
「そうかも、なんか今日、変だね。」
「んー。まぁ、いっか。」
「うん、いいよ。行こう。」

れーなの姿を見て
色々考えたからかな・・・
まこっちゃんが馬鹿みたいに黙々と食べてる姿にホッとしてる。

71 名前:ルーズボール 投稿日:2007/12/31(月) 13:51
「そんなに食べたら太るよ。」
「食べた分、消費してるから。重さんと違って。」
「なにそれ。」
「最近、太ったでしょ。」
「そうなの、辻さんと別れてから2キロくらいね・・・。」
「あ、ごめん。」
「運動してないからなぁ。まこっちゃんは知らないかも知れないけどエッチってかなりの運動量なの。」
「ちょ、重さんっ。」
「まこっちゃん顔、真っ赤。」
「もー、からかわないでって。」
「はは、でも本当に太ったんだよねぇ、痩せないと。」
「いいじゃない、ちょっとくらい。」
「まぁ、そういってくれる人が殆どだったら世の中の女の子は苦労しないんだよねぇ。」
「いや、私も女だからそういうのは分かるから。」
「そうなの?」
「分かるから。」

もぉ〜。といいながら食事をする小川を眺めながら道重は心を落ち着かせていた。
72 名前:ルーズボール 投稿日:2007/12/31(月) 13:51
「まこっちゃんってさ。」
「ん?」
「ガキさんに振られてもガキさんのこと好き?」
「へっ?」
「振られたら、別の人好きになる?」
「そりゃ、これからの人生また出会いがあるかもしれないし。」
「だよね。」
「重さんだってそうでしょ。」
「うん。」
「なに、何かあったの?」
「んー。なんか究極の愛を目の前で見てショックを受けたのかも。」
「究極?」
「そっ、究極。ま、まこっちゃんには分からないと思うからいいけど。」
「なんそれっ。」
「まこっちゃんは、まずガキさんの気持ちを確かめるところから始めないとってことよ。」
「それはさー。いいの。」
「いいって?」
「気持ちは伝えたし、もう私からすることってないじゃん。待つだけでしょ。」
「押しが弱いな。」
「強引なのはキャラじゃないし。」
「それはそうだね。うん。」
「それより、重さんショックの方は?大丈夫?」

道重は柔らかく微笑んだ。

「まこっちゃんって、凄く優しいのにね。」
「優しいのにねって何さ。」
「まこっちゃんを好きになる人ってきっと幸せだよね。」
「なんかその言い方って微妙だよね。」
「褒めてるんだけどな。」

ふふっと笑う道重の横顔にはなんとなく寂しさが映った。

「きっとまこっちゃんにはいい人が現れるよ。ガキさんかもしれないし別の人かもしれないけど。いい人が。」

小川は「ありがと。」と微笑んだ。
73 名前:ルーズボール 投稿日:2007/12/31(月) 13:52
小川に駅まで送ってもらった道重は田中のいる病院へと向かっていた。

面会時間がもうあと数分で終わってしまう。
そうしたら亀井たちが帰って行くだろう。

病院に着くと案の定、面会時間は終わり入口は閉じられていた。
道重は救急通路を探しそこから院内へと身を潜めながら侵入した。

夜勤の看護士たちに見つからないように田中の病室へそっと忍び込む。

「れーな。」

田中のベッドを覗き込み道重は小声で名前を呼んだ。

薄っすらと目を開けた田中はゆっくりと頬を上げ笑みを浮かべた。

「なに、し、とー?」
「忍び込んできたの。」

道重は手を伸ばし、ベッドのライトをつけ椅子を運んできてそこに座る。

「れーなにね、話しを聞いてもらおうかなって。」

細い田中の手を握り道重は一人ごとのように話し始めた。
74 名前:ルーズボール 投稿日:2007/12/31(月) 13:52
「もう、絵里と一緒にはここに来ない。れーなと絵里の時間を邪魔したくないから。
さゆみのカンなんだけどね、れーなは絵里を愛してる。でも、その想いはきっと絵里に伝えることはない。凄いね、れーなの愛は。絵里が羨ましいよ。
ねー、れーな。さゆみはさ、れーなみたいに愛せる人、この世にいないって思ってた。愛なんて目に見えないから本当に愛されてるのかとか不安になるでしょ。こっちはこんなに愛してるのに伝わってるのかなとか・・・れーなは凄いよ。」
「すご、く、ない、と・・・ホントの・・・。」
「うん。ホントじゃないもんね。愛するだけじゃ。
分かるよ。愛されることも必要だよね。でも、れーなは絵里にも吉澤さんにも愛されてる。れーなの愛とは違うかもしれないけど。でも、愛は成り立ってる。れーなはさ・・・それで良いんだよね。それがれーなの生き方なんだよね。」

ゆっくりと頷く田中を見て道重は笑みを浮かべた。

「絵里が居ないときにまた来るね。」

道重は田中の頬を撫でるとそっと病室から抜け出した。
75 名前:ルーズボール 投稿日:2007/12/31(月) 13:52
夏ももう直ぐ終わるな。
夜空に浮かぶ月を見ながらそんなことを道重は思った。

現実は厳しい。
人間は動物の中でも有能だけれど、れーなの病気を治せるほど有能ではない。
だったら、いっそのこと将来のことなんて考えることなんてない動物だったら良いのに。
そしたら、不安になることだってないのに。

みんな考えるから不安になるのだろう。
何にも考えないで居られたら幸せなのかな。

76 名前:clover 投稿日:2007/12/31(月) 15:31
本日の更新以上です。
>>64-75
41.夢見る少女の現実

また、間が空いてしまいました・・・
年末となるとやはり忙しいものですね。
今年はお世話になりました。
温かく見守ってくださった皆さん有り難うございます。
来年もまた、宜しくおねがいします。


>>63 :ももんが 様
レス有り難うございます。
道重さん。そーですねw大人ですね
来年もよろしくです
77 名前:clover 投稿日:2007/12/31(月) 15:34
訂正
>>75
誤・・・夏ももう直ぐ終わるな。
正・・・夏がもう直ぐ始まるな。

スミマセン。
78 名前:ももんが 投稿日:2007/12/31(月) 20:56
更新お疲れさまです。
愛し方は人それぞれ。cloverさんの小説を読むと愛ってなんだ!?て悩んでしまいます。
今回もさゆにますます惚れてしまいましたw
来年も楽しみにしてます♪
79 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/01/06(日) 18:07
更新お疲れ様です。
みんな迷いながら先へ進もうとしているんですよね。
さゆが大人だなぁとしみじみ。
次回も楽しみにしています。
80 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/11(金) 23:45
一気に読んで引き込まれてしまいました

自分が悩んだり苦しんだりしてるのに、それでもれいなを想う優しいさゆ
切ないですがこういう娘って『がんばれ』と応援したくなるんですよね
現実のさゆは何に対しても一生懸命な所が大好きなので
ももんがさんが書くさゆも何とか頑張って欲しいです
81 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/12(土) 00:20
>>80
ももんがさんじゃなくて『clover』さんですね
大変失礼しました
82 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/22(火) 23:15
久しぶりにきて、一気によませていただきました。
久しぶりすぎて、色々な展開におどろいたりしてます。
で、その中でもやっぱり、れいなぁーーーっ(涙)って感じなんですよね。
愛って、奥深い…
さゆも凄い大人ですよね。
続き楽しみにしています!
83 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/27(日) 23:50
42.夏のルーズボールたち
84 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/27(日) 23:52

「ごとーさん。」
「石川先輩。待ってたんですか?」
「うん。暇だからね。」

後藤が働くビルのエントランス、帽子を深めにかぶった石川が自虐的に微笑んだ。
返す言葉が見つからない後藤は曖昧に微笑み石川へと歩み寄る。

「柴ちゃん、見つかった?」
「全然。」
「そっか。携帯はずっと圏外だしね。」
「うん、それよりここだとひと目につくからどっか行きましょうか。」
「もう、人も集まってこないけどね。」

こんな石川の反応に後藤はもう何も反応せず先にビルを出て行った。

85 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/27(日) 23:53

あの夜、公園で別れたのが柴田を見た最後だった。
次の日に上司から柴田が退職したと聞かされた。
マンションはもぬけの殻。
石川にもなんとか連絡を取ったが知らなかった。
柴田がどこか別の出版社から記事を出していないかと本屋で柴田の記事を探した。
あれから、3ヶ月。
柴田の居場所は未だ分からない。
86 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/27(日) 23:54
オフィスからそれほど離れてない居酒屋。
全てが個室になっているため都合が良いだろう。
石川と二人きりで向かい合って話すのは初めてで少し緊張しているなと想いながら後藤は空腹を満たすためにメニューに視線を落とした。

「柴ちゃんもまた、凄いことするねぇ。どっちかっていうと柴ちゃんって凄い正統派じゃない。顔もそうだけど性格もさぁ。ビックリしたよ。なにか、トンでもないことあったのかなとか色々考えたんだけどねぇ。」

後藤を見ながら話している石川だが、後藤は一向に視線を上げる気配がない。

「でもねぇ。柴ちゃんって何があっても絶対に無難な道を選ぶ子なのよね。だから今回もきっと無難な道行ってると思うの。」

やっと顔を上げた後藤が首を傾げる。
ニコリと微笑んだ石川は誇らしげな表情を見せた。

87 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/27(日) 23:55
「親に心配かけるような子じゃないと思って。」
「連絡取れるの?」
「取ったの。」
「で?分かったの?」
「口止めされてるって教えてもらえなかった。心配ないからってだけ言ってた。」
「心配ないからって・・・。」
「仕方ないよ。何か事情があるんじゃない?ホントは後藤さんが一番知ってるとか?」
「なんで?」
「なんとなく。後藤さんて他人にあんまり興味示さないでしょ。高校の時はよっちゃんだけ。だからよっちゃんの周りの人も必然的に把握することになるけど。後藤さんてクラスの子の名前とか覚えてないでしょ。」

後藤は言われて見ればそうかもしれないと苦笑しながら頷く。

「一番側に居る人に興味を示すの?」
「さぁ?」
「柴ちゃんに興味あった?」
「なに?尋問ですか?」

石川はニヤリと口元を上げた。

「私、柴ちゃんの親友だよ?知らないとでも思ってる?二人のこと。」

後藤は石川の視線を真っ直ぐと受け止めるとしばらくしてから行きを一つ吐き出した。

「ごとーたちのこと聞いてるなら最初から言ってくださいよ。人が悪いな。」

88 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/27(日) 23:56
後藤の言葉に石川が驚愕の表情を浮かべる。

「ウソっ、ホントに?えっ?ホントに何かあったの?」
「えっ?」

後藤は口を半開きにして愕然とした。
鎌をかけられたのだ。
まんまと嵌ってしまった自分が情けなくうなだれる。
その向かいで石川は「ホントなの?」を繰り返している。

「騙したの?」
「だって、こういうのやってみたかったんだもん。」
「他の人にやってよ。」
「ごめん。だって、まさかさぁ。」
「あぁ。柴ちゃんが誰かに言うわけないか・・・。」
「柴ちゃん口堅いからね。」
「なのに騙された。やっぱりごとーは子供なのかな。」
「ねぇ、後藤さんって、松浦さんと付き合ってるんじゃないの?」

どうして、石川に柴田とのことを話しているのだろう。
そう、想いながらも後藤の口から言葉が溢れだしていく。
89 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/27(日) 23:57
聞き終えた石川は「そっか、そっか。」と微笑むと店員を呼ぶ呼び鈴を押した。
威勢よく入ってきた店員に石川は手際良くアルコールとつまみを注文する。

「ごっちんビールでよかったよね。」

頼んでしまってから確認する石川の性格は自分には合わない。
そう、再認識しかながら後藤は頷く。

直ぐにやって来たビール。
石川が「とりあえず。乾杯。」と言って飲みだした。
後藤も「乾杯。」と呟きながらそれを口にする。

なんでこんなところでこの人と乾杯とか言っちゃってるんだ。
大体、自分と柴田の話しは『そっか、そっか。』で終わりなのか?
そんなものなのか?

「あぁやっぱり夏はビールだよねぇ。」
おいしそうにゴクゴクと喉を鳴らしながら冷えたビールを流し込んでいく石川は頼んだ料理を運んできた店員にビールのお代わりを注げる。

「あのぉ。」
「ん?」
「石川先輩は柴ちゃんの行きそうなところ分からないんですか?」
「えぇ、私より後藤さんのが知ってるでしょぉ。そういう関係になってるんだから。」

石川は店員が持ってきたお代わりのビールをゴクっと飲んでニヤっと笑った。

90 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/27(日) 23:58
自分よりも石川の方が確実に柴田という人間を知っているだろう。
下手したら、自分と柴田の関係は一夜の過ちという言葉で終わってしまうかもしれない。

「ごとーは・・・仕事での柴ちゃんしか知らない。」
「私は仕事してる柴ちゃんってこないだのしか知らないなぁ。まぁ性格出てるっていかキツイ感じは普段と変らないみたいだったけど。」
「だから、思い当たるところとかあるなら教えて下さい。」
「柴ちゃんの友達には連絡したんだけど、知らないって。」
「他には?」
「あのね、よく考えてみると私って柴ちゃんにいつも話しを聞いてもらう感じで柴ちゃんん話しってあんまり聞いたことないんだよね。だから、あんまり知らないっていうか。」
「何それ・・・。」
「いやぁ、ホント私がいつも相談したり、愚痴聞いてもらったり・・・。」
「じゃぁ、柴ちゃんは誰に?」
「後藤さんじゃない?」
「後藤は仕事の話しか・・・。」
「じゃぁ、あの人かな?」
「誰?」
「村田っていう・・・高校の先輩で柴ちゃんの2コ上。私は入れ違いだから会ったことないんだけど、慕ってたみたいだから。」
「連絡は?」

石川は首を横に振った。

「村田、なんていうの?」
「めぐみだったかな。」
「高校行けば、住所わかるよね。実家に居てくれればいいけど。」

後藤はゴクゴクと勢い良くビールを飲み干した。
91 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/27(日) 23:59
店を出て後藤と別れた石川は夜道を歩きながらため息をついた。
自分が今、姿を消したら後藤のように必死に探してくれる人がいるだろうか。
いくら、幼馴染に戻ったといっても吉澤には亀井がいる、藤本にはバスケットがある。

柴田には・・・夢がある。

本当に後藤は村田を訪ねていくだろうか?
村田の話しを出したのはまずかったかも知れない。
村田は実家にいるはずだ。実家でやっている家業を継いだと聞いている。
柴ちゃんがよく村田の店で売っている手焼き煎餅を別けてくれた。

柴田は今頃・・・。
92 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/28(月) 00:01
柴田に呼び出されたあの日。

「放浪の旅にでることにした。」

柴田は会うなり突然そう言った。
私が質問をしようとする前に「経緯は聞くな親友よ。」と笑った。
理由の質問が出来なくなってしまった私が次に口にした質問は目的だった。

「日本って国は本当に幸せなのか確かめに行こうと思って。」と柴田は語りだした。
「マザーテレサが日本は心が貧しい国だって言ってるじゃない。裕福なのに貧しい国に手を差し伸べない。愛がないって。私さ。当たり前じゃんとか思っちゃう。だって、貧困で困ってる国の人はさ、満員電車の辛さしってる?忙しくて寝る時間もない辛さしってる?仕事でミスしないようにどれだけ神経使ってるか知ってる?仕事がないから貧しいって分かるよ。飢えで、生きていくのがギリギリだって分かるよ。でもこっちは精神的にギリギリだよ。心が貧しくなるの当たり前だって。愛だってなくなるよ。そんな余裕ないもん。自分のことで精一杯。だから、貧しい国だけど心が豊かな国を見て回ろうって思うんだ。どっちが幸せなのかなって。いつか、自分で見たものを書きたいって思ってる。」

柴田と会って自分の話しをしなかったのはあの日が初めてかも知れない。

「ごっちんには内緒にして。黙って会社辞めてきたから。」

最後にそう告げて柴田は愛のあるどこかの国へ旅立ってしまった。

柴田が教えてくれなかった理由は後藤。
93 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/28(月) 00:01
影響を与えてくれる相手を居ることが。
好きな人が居ることが。

石川は駅へ向かう歩みを止めて回りを見渡す。
夏という季節は人を開放させる。
辺りは真っ暗になっているのに人が溢れている。
この中に自分と同じように一人ぼっちの人は何人いるのだろう。

お天気お姉さんをしていた頃。
どこを歩いていても直ぐに声を駆けられ囲まれた。
懐かしい華やかな時期。
直ぐに終わってしまったけれど。
あの頃と私は何も変っていないのに。
勝手に騒いで去っていく。
違うな、あの頃、浮かれてた。
勝手じゃない・・・私はそれに乗っかっていた。
流されていた。

私はここに居るのに、もう誰も私に目を留めない。

取り残されていく・・・私だけ。
寂しいよ・・・不安だよ。

助けて・・・。



94 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/28(月) 00:02




「もう直ぐ、さゆの誕生日なんだよねぇ。どれがいいかな?」

可愛らしいアクセサリーが並ぶ店内。
新垣は品物を見ながら背後にくっ付いている小川にそう呟く。
亀井と一緒に行こうと思っていたが吉澤と行くと断られてしまい小川にメールした。
忙しかったら一人で行こうと思っていたが小川は快く同行してくれた。

「ピアスは?無難だし。」
「あ、ダメ、さゆホールないから。」
「そっかぁ。重さん元気になったの?」
「へっ?」

振り向いた新垣はなんのことだと首を傾げた。
95 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/28(月) 00:03
「こないだ、うちの大学来たから。なんか元気なかったみたいだから。」

最近、元気がなかったことなんてあっただろうか。
思い当たることなんて一つも浮かんでこない。
元気だった。いい相手が居ないって騒いでいたけど・・・元気だった。
あれから、一度も一緒に田中の病院には言っていないけど一人で行っているみたいでたまに田中との会話を話してることもある。
あの日、様子がおかしかったけれど、でも引きずっている様子なんてなかった。

「さゆ、どうかしたの?」
「えっ、あの、理由とかそういうのは話さなかったけどなんとなくそう見えたし。凄い愛を見てショックとかなんとか言ってったし。それに、うちの大学来る理由なんてもうないのに来てたから、なんかあったのかと思って。」
「そう、だね。」
「だから元気になったかなって。」
「うん、最近、元気だよ。大丈夫なんじゃない。」

96 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/28(月) 00:03
道重は出来の良い妹みたに思ってた。
親が仲良くて母親が道重の家に行くときは向こうにも年の近い女の子がいるからって連れて行かれていた。一緒に道重の部屋で遊んできなさいって言われて道重の部屋に行っても道重はパソコンに向かうかマンガを読んでいて一緒に遊ぶことなんてなかった。いつも一人で遊んでいて、遊びに来た私のことは放置。逆にさゆの母親が打ちに来るときはさゆは来なかった。ひとり遊びの上手な子だった。ちゃんと留守番の出来る幼稚園児。
さゆは幼稚園に入ってきてもいつも一人で遊んでいた。
人見知りとはまた違う。挨拶もちゃんとできるいい子。ただ、人間が大嫌いな子だった。
私のことも嫌いだと最初のうちは言っていた。
幼稚園に行くようになって変ったことが一つだけある。
さゆは自分は可愛いと年がら年中言うようになった。
確かに他の子に比べるとさゆは可愛い女の子らしい女の子だと思う。
まるで何かの呪文のようにさゆはいつも「可愛い。」を口にしていた。

一度だけ、どうして私のことが嫌いなのかと尋ねたことがある。

「ガキさんだけじゃないよ。人間は本音を言わないから。」

そんなことを言う4歳児だった。
5歳だった私は意味が分かるわけもなく。いけない言葉だったらいけないと思って母親にも聞くことはなかった。
私がその意味を知ったのは確か小学4年くらいだっただろう。
その頃になってもさゆは相変わらずで言葉を交わすのは私と亀くらい。

そして、さゆがそういう行動を取っていた理由を知ったのも、その頃だった。

道重家に夕食に呼ばれて両親と一緒に出掛けていったときのことだ。
道重家と新垣家。6人で楽しい食事の時間を過ごしケーキを食べながらお茶をしていたときに事件は起きた。

97 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/28(月) 00:04
「ガキさんのパパもママ以外に好きな女の人いるんですか?」

小学3年のさゆの言葉に私の両親はお茶を噴出し
さゆのお母さんは「辞めなさい。」と低い声をだした。

「さゆみのパパはね、ママ以外にも好きな人いるんだよ。」

母親の言葉にさゆは従わずに父親の顔を見ながら話していた。
私はその時、さゆの顔をずっと見ていて両親がどんな反応を示していたかは知らない。
ただ、さゆの悲しそうな顔だけがとても印象強く残っている。

「浮気、って言うんだって。そういうの。最低なことだって。」
「さゆみちゃん、分かったから辞めなさい。」
「不潔。嫌い。パパなんて大嫌い。」

さゆは怒鳴るでもなく、冷たい声でそう言って自分の部屋へ行ってしまった。

「最近の子は色々知ってて困ったものです。」

そんなさゆのお父さんの言葉に「そうですね。」とお父さんが応えていた。
変な空気の大人たちと一緒に居るのが嫌で私はさゆの部屋へ逃げ込んだ。

98 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/28(月) 00:06
「パパ4ヶ月ぶりに帰ってきたの。」

部屋にお邪魔するなりさゆが話し出したので私はベッドの上に座り話に耳を傾けた。
さゆが話しをしてくれるのは珍しいことだったから。

「さゆみね、見たこともない妹居るの。ママが違う妹。」

私に背を向けていたさゆはクルリとこちらを向き「意味、分かる?」と微笑んだ。

「あんまり。」
「パパにはさゆみのママ以外にママがいるんだよ。」

さゆはそう言ってまた私に背を向けた。

「ママも知ってるのに、パパに優しくするの。さゆみそれが何か嫌なの。パパなんか大嫌い。皆、大嫌い。」
99 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/28(月) 00:06
それから1年後にさゆの両親は離婚した。
さゆのおじいちゃんの会社の跡取りとして婿養子になったさゆの父親は会社も辞めて家を出て行った。

「ガキさん、親でも子供捨てるんだね。自分以外信用できないね。得に男の人は。」

さゆは笑ってそう言った。

それでも、さゆは段々と人と接するようになった。
但し、女の人だけ。
さゆは極度の男嫌い。
ずっと一緒にいる私と亀には少しは心を開いてくれているのだろう。
そして恋人だった辻にも心を開いていた。

なぜ?
私のところでも、亀のところでもなく小川なのだろう。
なんだか最近のさゆは大人すぎて寂しく感じる。

「私のところには何も言ってこなかったけど。」

新垣はそう良いながら、目に入ったアクセサリーショップに足を踏み入れる。
小川は慌ててその後について行った。

「そっか。じゃ、もう元気なんだね。きっと。」
「どうなんだろうね。私じゃ、役不足なのかも。」
「ん?」
「元々、しっかりしてる子で、頭も良いし。最近はなんだか凄い大人なことばかり言うし、私がアドバイスもらってばかりで、さゆに何もしてあげられないの。」
「そんなことないでしょ。」
「そんなことあるのよ。」

ため息をついた新垣の様子を小川は困った顔で眺めていた。

100 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/28(月) 00:08

「大体、私は恋愛相談乗れないから。」
「どうして?」
「亀とかさゆみたいに、ちゃんと恋したことないから。」
「すればいいじゃん。」
「簡単に言うねぇ。」
「傷つくのが怖いんだっけ。」
「それもあったんだけど。本当の恋愛ってどういうのかなって・・・。」

新垣は四葉のクローバーをモチーフにしたブレスレットを手に取った。

「一緒に居たいとか好きとか愛してるとか思うのがそうじゃないの?」
「それって、恋?それとも愛?」
「えっ?」
「これにしよ。」

新垣は手に持っていたそれをレジへと持っていく。
後に付いてきた小川に「そもそも、恋と愛ってどこら辺が違うわけ?」と会計をしながら尋ねる。

小川はポカンと口を開け店を出て行く新垣を慌てて追いかけた。
101 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/28(月) 00:09
「ガキさんはどう思うわけ?」
「ん?」
「亀ちゃんと吉澤さんは愛なの恋なの?重さんとのんちゃんはどっちだったと思う?」

新垣は駅へと向かう歩みを止めて小川を振り返って見た。

「まこっちゃん。」
「ん?」
「分かんないから私は恋愛できないんだよ。」
「そしたら、皆、世界中の人が恋も愛も出来ないよ。」
「なんで?」
「答えなんて、どこにもないから。」

新垣は悲しそうに「そっか。」と呟き駅へと歩みだした。



102 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/28(月) 00:09



「れーなぁ。・・・・寝てる?そっかそっか。寝る子は育つってぇもんさ。」

亀井は田中の病室で眠っている田中の寝顔を眺めている。

「れーなぁ、白いねぇ。ツルツルだし。」

寝ている田中の頬を指の腹で撫でる亀井。
田中は亀井の声を聞いていた。
意識ははっきりしているのに瞼が上がらない。
今日は色々検査をしたから筋肉たちが悲鳴を上げている。
きっと吉澤が来てもこの状態で二人が帰ってしばらくするとそのまま寝てしまうのだろう。
そんなことを考えながら頬に触れている亀井の体温に安らぎを感じていた。

103 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/28(月) 00:10
「れーながさぁ。入院しちゃって、れーながあの部屋に居ないのって凄い不自然なんだよねぇ。なんでだろう。吉澤さんの部屋なのにね。でも、それになれないといけないんだよね。」

そうっちゃねぇ。田中は心の中で呟く。

「絵里さぁ。れーなと違って想像力が足りないじゃん。」

うん。

「れーなが居ないなんてどんなんだろうって。相談とかさぁ。れーなにしかしてない話しとかさ。いっぱいあるのにさぁ。」

ガキさんとさゆがおるっちゃ。

「潤滑剤?って言うんだっけ。れーなは絵里と吉澤さんのそれなんだよねぇ。きっと。」

違うとよ。

「れーなが居ないと不安だよ。」

104 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/28(月) 00:11

そうじゃなか。違うと・・・。
れーなはただ、絵里の笑顔が見たいだけっちゃ。
不安になんてならんで。
絵里には吉澤さんがおるけん。
吉澤さんには絵里が。
本当はれーなが居ちゃいけんかったと。
二人とも優しいけん。れーなの居場所作ってくれただけっちゃ。
れーなの気持ちはれーなの命と一緒に消えればいい。
さゆしか知らないれーなの気持ち。
さゆが言う通り。本物ではないそれは知られる必要なんてない。
そんなこともあったんだとさゆが時々考えてくれるだけで幸せだ。

だから、絵里は吉澤さんといつまでも笑っていればいいんだ。

「絵里ね・・・最近良く思うの。れーなが居なくなっちゃったら絵里、あの家で吉澤さんのこと待っていられるかなって。」

出来るっちゃ。

「れーなはさ。絵里のヒーローじゃん。困ったりしたら直ぐにれーなが助けてくれる。」

絵里のヒーローは吉澤さん。

「でも、今は絵里がれーなのヒーローになってあげるね。今までの恩返し。だから、れーな。絵里がちゃんとヒーローに慣れるまでもう少し頑張っていてね。」

いるっちゃ。れーなはしぶといけん。
せめて18歳にはならして。

「ってか、今日はれーな寝すぎだよぉ。」

おきとるっちゃ。
105 名前:ルーズボール 投稿日:2008/01/28(月) 00:11

「起きないとチューしちゃうぞ。」

だから、おきとるけん。
嘘でもそういうこと言っちゃだめっちゃ。

「れーな起きろぉ。ホントにしちゃうぞぉ。」

瞼が上がらないから絵里がどんな顔してるのかわからん。
吉澤さん・・・苦しいよ・・・胸が痛いよ、助けて。

106 名前:clover 投稿日:2008/01/28(月) 00:22
本日の更新以上です。

>>83-105
42.夏のルーズボールたち

今年も宜しくお願いします。
今年は本気で早いタイミングで更新できるようにしたいです。
そして、この話を早く完結させたいw。
なんて思っておりますので今年もお付き合い宜しくです。

>>78 :ももんが 様
レス有り難うございます。

愛とか恋とかナンなんでしょうねぇ。
自分も答えを教えて欲しいっすわ。

最後まで宜しくです。

>>79 :名無し飼育さん 様
レス有り難うございます。
今回、道重さんがかなりw
はい。大人な感じですねぇ。

今後もよろしくです。

>>80 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。

>一気に読んで引き込まれてしまいました
有り難うございます。

道重さん頑張りますよw
頑張ってもらいます。

今後もよろしくです。

>>82 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。

田中さんが・・・可哀想なんですけど。
スミマセン。

今後もよろしくです。
107 名前:ももんが 投稿日:2008/01/29(火) 08:18
更新お疲れ様です。
さゆ冷めてる・・・。
こんな幼稚園児嫌ですねえw
周りに敏感だからこんな風になっちゃったんでしょうか。

れーなしんどそうだ・・・。
ハラハラドキドキしながら続き待ってます。
108 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/29(火) 11:10
更新お疲れ様です。
さゆれなが切ない・・・・・・・・・・・。
109 名前:バスケット 投稿日:2008/02/24(日) 18:26
こんにちわ
110 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:42
43.駆け引き
111 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:42
れーなってね。
れーながね。
れーなにね。

さっきから絵里の口から出てくる最初の言葉はれーな。
ここ最近ずっとそうだ。

「ねぇ。さゆ聞いてるの?れーなね今日ね、おかゆ飲み込めなくてね。」
「うん。看護士さん呼んだ?」
「うん。直ぐ呼んだ。れーな苦しそうでさ。絵里はそれしか出来ないし。」
「で、吉澤さんは?」
「ん?」

おいおい。
君はあの病室で吉澤さんを待っているんじゃないのかい?
部屋で一人で待つのは嫌だから。
れーなと一緒に待ってるんじゃないのかい?

「吉澤さん、来なかったの?」
「来たよ。」
「で、どうしてここにいるの?」
「ん?」
「だから、ここは吉澤さんの家じゃないよ。」
「知ってるよぉ。さゆの家だもん。」
「夕飯は?」
「まだ。でも食欲ないからいらないよ。」

はぁ・・・。
思わず心の中で大きなため息が零れてしまう。

「吉澤さんもお昼遅かったからって。」
「そう。」

今まで見つめられていた絵里が今度はれーなを見つめてしまったから。
3人の形が変ってしまったのかもしれない。
今まで見てこなかったれーなの色んなことが絵里には新鮮で
トントンって一定のリズムでバウンドしていたボールのリズムが変ってしまった。

でもそれは吉澤さんにとって予想していたことだろう。
だからきっと対応しているはず。

でも、れーなは・・・
112 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:43
「ごめん。絵里ちょっと帰って。」
「はっ?」
「さゆみこれからちょっと出掛けるから。」
「えぇぇ。っちょっと。来たばっかり。」
「ごめん。でもさゆみ行かないと行けないところあるの。」

ちょっと絵里ちゃんと歩いてよ。
足を突っぱねてる絵里を引っ張りながら階段を降りていく。
玄関の鍵を閉めてもまだ、駄々を捏ねている絵里を放置して駅まで急いだ。

113 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:43


「吉澤さんっ。開けてください。」

インターホンを押しながらドアに向かって声をかけると直ぐにドアは開いた。

「重さん、どーしたの?」
「れーな。大丈夫ですか?」

吉澤さんは少しだけ目を細めて「入りなよ。」と呟き中に入っていった。

「おじゃまします。」
「そこ座って。」

指差されたソファに大人しく座る。
冷蔵庫が開く音とコップに氷が落ちる音。
それから、トクトクトクとコップに液体が注がれる音。

「こんな時間でも外は暑かったでしょ。」

差し出されたコップから麦茶のどくどくの匂いが漂う。
受け取ったそれはさゆみの乾いた喉を潤した。
114 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:43
「亀ちゃん?」
「えっ?」
「れーなが大丈夫かって亀ちゃんの様子で?」
「あぁ、はい。なんとなく。」
「なんとなく、じゃないでしょ。」

横顔に視線を感じてさゆみはその視線を捕らえた。

「吉澤さんは、れーなのフォローは?」
「重さんはさぁ。なんかうちと似てるわ。」
「そうですか?」
「でも重さんの方がちゃんとしてる。」
「吉澤さん?」
「まさか、こんなに直ぐにとは思ってなかった。」
「れーな、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。」

吉澤さんの笑顔は凄く切なくて綺麗で見とれてしまう。
115 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:44
「こないだね。亀ちゃん。れーなにキスしようとしたらしい。」
「えっ?」
「れーな、起きてたんだけど。目があかなかったらしくてね。いつまでも寝てるとチューしちゃうぞって、ふざけてさ。」
「絵里はそうでも・・・。」
「うん。れーなは必死でギリギリのところで目をあけたって。」

苦しかっただろう。悲しかっただろう。
でも、良かった。
唇の柔らかさを知ったら・・・
触れ合う幸せを知ってしまったら・・・
何も求めないなんてありえない。

116 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:44
「れーな。」
「ん?」
「吉澤さんは、れーなの絵里への気持ち・・・。」
「知ってるよ。」
「なら、大丈夫だなんて・・・。」

吉澤さんは空いたグラスに麦茶を注ぎだしながら「そうだね。」と呟いた。


「そうだねって・・・。」
「重さんなら、傷つくよね。苦しいし悲しい想いもするよね。」
「当たり前です。」
「そして、気持ちを伝えて、愛を求める。」
「れーなは違う・・・。」
「そう。傷ついて、苦しい想いとかしても・・・自分より相手の気持ちを優先するんだ。」
「今、気持ちを伝えたら絵里は困る。」
「れーなを敬遠するかもしれない。」
「それよりも・・・一緒にいたい。」

吉澤さんはゆっくりと頷いた。

「れーなはさ。失いたくないんだよ。愛しているっていう事実を。」
「でも、れーなは、絵里の愛を求めてない。ただ、愛してるだけで。」
「側に居て欲しい、笑顔で居て欲しい・・・何も望んでない?」

117 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:45
吉澤さんは目を伏せて、コクっと麦茶を飲んだ。
れーなは何も望んでないと思った。
私の勘違い?

違う・・・。

「れーなは絵里に病気のこと伝えなかった。入院のことも。」
「うん。」
「教えたのは吉澤さん。」
「そう。うちが教えて、連れて行った。」

れーなは望まなかったのに。

「どうして?」
「人間は・・・欲の塊だから。」

吉澤さんの動く視線に連れられて私の視線も窓際へと向かった。
118 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:45
「そこにあたり前にあったものが突然なくなると凄く欲するでしょ。目に見えるものに人間は敏感だから。」
「物欲。」
「うん。お金で買えるものなら、満たしてあげられるけど。そうじゃないものはどうしようもない。れーなは1人しかいないから。」

吉澤さんはコップを両手で握りゆっくりと目を伏せる。

「れーなは、うちにとっても亀ちゃんにとっても癒しなんだ。れーなはうちらの身になって考えてくれる。分身見たいなものだから。」
「吉澤さん?」
「れーなが居なくなった事実をうちの口から伝えるより・・・」
「一緒に、目で見ていたほうが、吉澤さんの気持ちが楽になる。1人でれーなが居なくなったという事実を受け入れなくてすむから。」

119 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:48
吉澤さんの視線がゆっくりと私に向き、しっかりと視線がぶつかる。

「吉澤さんは、さっき、さゆみと似てるって言いましたよね。」
「うん。重さんのがしっかりしてるってね。」
「どういうところが似てるんですか?」
「愛した分の愛を求めてるところ。・・・違う?」

吉澤さんは優しい表情で微笑んだ。

絵里に愛された分、絵里を愛したの?
絵里を愛した分、絵里に求めたの?
120 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:48
「違う。似てないです。」
「そっか。」
「さゆみなら・・・れーなの気持ちを優先します。れーなの愛を、愛だと認めてあげる。」
「一方的なんて悲しすぎるよ。寂しいよ。」
「それでもれーながそれを愛だと思うならそれで良い。」
「そんな可哀想なこと・・・」
「ウソ。れーなが可哀想なんじゃない。絵里よりも・・・れーなと長く過ごした吉澤さんの方が喪失感は大きい。自分が・・・可哀想なだけ。れーなは・・・可哀想なんかじゃない。」

吉澤さんは「 はは。」と声を零して笑った。
121 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:49
「そう。やっぱり重さんの方がしっかりしてるね。重さんの言う通り、れーなが居なくなったら、どうなる?いつもそこで眠そうにしながらそばから離れないでいたれーなが居なくなるんだ。うちが、一人でここからやり直したときからずっと。ずっと、そこで側にいたんだよ。」

ポロポロと吉澤さんの大きな瞳から涙が零れ私は驚いてただ、吉澤さんの言葉に耳を傾けながら零れる涙に目を奪われた。

「亀ちゃんにれーなのこと聞かれて耐えられなかった。隠し切れないって思った。だかられーなが本当にいなくなる前に、一緒に悲しみを分け合う逃げ道を選んだ。それでも・・・うちは弱いんだね。れーなと亀ちゃんの前で日に日に弱っていくれーなの姿を見て平然を装うことに限界を感じてる。」

122 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:51
何をそんなに恐れているの?
れーなが居なくなること?
絵里との関係が変ること?

「大切な人が側から居なくなる悲しさ、辛さを味わうのはもう嫌なんだ。」
「それはれーなのこと、ですか?」

吉澤さんは目を逸らさずに沈黙する。

「絵里がれーなに惹かれていくこと、ですか?」
「どっちかな?二人とも大切な人だから。亀ちゃんがれーなに惹かれるのはなんとなくそうだろうなって。」
「立場がかわるんだから、そうでしょうね。」

吉澤さんはまた沈黙してしまった。

打算。
ふと、そんな言葉が過ぎる。

絵里がれーなに惹かれても・・・れーなは何れ居なくなってしまう。
れーなを失った悲しみを分け合うことが出来る。
居なくなってしまったれーなを思い出として共有する。


123 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:53
「重さんはさ。」
「はい。」
「辻と別れたのって自分から?」
「結果的にそうですけど。」
「そっか。」
「なんですか?」
「別れるのにもさ去る側と去られる側があるじゃん。」
「そう、ですね。」
「去る人って、自分の中で考える時間があってすすべき道を決めて去っていく。」
「反対側に居る人は・・・去る人に課せられた突然の環境の変化に対応しないといけない・・・。」
「そう、ここに昔、対応できなかった奴がいる。」
「藤本さん・・・。」

吉澤さんは苦笑していた。
124 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 01:53
「もう、去られる側にはなりたくないんだ。」
「絵里にさせてもいいって言うんですか?」
「させないよ。うちは亀ちゃんから離れたりしないから。」

あぁ・・・そういうこと・・・。
れーなを共有してしまえば
悲しみを共有してしまえば
3人だけの思い出を共有してしまえば

他の誰かじゃそれらは共有することなんて出来ない
きっと・・・吉澤さんは絵里じゃないと
絵里は吉澤さんじゃないと・・・

お互い去ることなんて出来ない。
125 名前:ルーズボール 投稿日:2008/03/01(土) 02:12
「それは・・・愛、ですか?」

言葉にも態度にも示さない・・・束縛。
れーなという共通の束縛。
愛じゃない。
愛なら・・・絵里がれーなに引かれていくことを黙ってみていられるはずがない。

「愛だと、うちは思う。」
「れーなを理由にしなくても・・・同じ気持ちを分け合える人・・・」
「この世のどこかに居るかもね。探しだすのは大変だよ。国が違うかもしれない。気持ちが同じでも言葉が通じないかも知れない。」
「だったら、身近で・・・」

絵里から告白されたから。
それを受け入れて・・・
理想の愛にしようと・・・

絵里をれーなの側に居させているのは
吉澤さんの賭けなんだろう・・・

でも、何れ分かってしまう。
れーなの思い出の中から出れないことに・・・

126 名前:clover 投稿日:2008/03/01(土) 02:20
本日の更新以上です。

>>110-125
43.駆け引き

2月中にに更新しようと思っていたのに・・・
日付が変ってしまった(ノ_-)
もう少し・・・いや、まだ結構長くなってる・・・
早く終わらせたいのですが・・・
お付き合い宜しくです。


>>107 :ももんが 様
レス有り難うございます。
あんな幼稚園児いないですよね(^。^;;
今後もよろしくです。


>>108 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
道重さん、田中さん・・・
うぅ、もう少しこんな感じです。

>>109 :バスケット 様
レス有り難うございます。
出来ればSAGEでお願いします。
127 名前:ももんが 投稿日:2008/03/02(日) 21:10
更新ありがとうございます。
なんかいろんな人の思いが渦巻きすぎてる・・・。
よっちゃんの弱さに触れるとどうしようもない切ない気持ちになります。
これからもこの物語を楽しみにしてます。
128 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/03(月) 00:58
いつもドキドキしながら読んでます。
個人的には、柴田さんと後藤さんが気になる…。
129 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/28(金) 01:51
続きが気になるぅ〜!!
去年の暮れからcloverさんの小説を読ませていただいてましたが、このスレ以外、読み終わる前に倉庫落ちしてしまい読めなくなりました…‥。
携帯からのせいか?
出来れば読みたい!!!cloverさんて自サイトお持ちですか?
もしお持ちなら是非教えて下さいm(_ _)m
長々と失礼しましたm(_ _)m
130 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/29(土) 12:14
>>129

Cloverさんのサイトは聞いたことないからないと思うよ。

過去ログ観覧ツールで見れるけど
ttp://m-seek.net/n.cgi?MoN=g&UoN=mseek%2Exrea%2Ejp%2Fnovel%2Ehtml
131 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/15(火) 00:42
>>130
そぅなんですか…‥
早速アクセスしてみます。
教えて下さって有難うございます。
132 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/17(木) 16:25
週刊誌のニャンニャン写真といい、ここの小説といいえりりんは常に僕を悩ませる
最近は現実に裏切られて疲れ果ててしまいましたがアンリアルな世界に少しだけ逃避しています(爆)
それでも小春ちゃんや最近ミッツィも好きで、さゆとれいなのラブラブな絡みに萌えたり・・・・
ということでcloverさん、さゆとれいなに幸せをお願いします

次回更新待ってます
133 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:11
44.愛と憧れ
134 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:12
「まこっちゃんお待たせ。」
「私も今来たところ。」

今、ではないでしょ。
向こうの通りから見えたよ。
ぼけーっと口開けてチラチラ携帯で時間確認してる姿。

「やっぱりまこっちゃんは優しいねぇ。」
「何が?」
「いいの、いいの。いこっか。」
「ホントに行くの?」
「行くから来たんでしょ。」
「でもさ。」
「1人では無理だからまこっちゃんに来てもらってんだから。大丈夫。」
「大丈夫なのかぁ?」

良い顔をしないまこっちゃんの腕を掴んで駅から目的の場所へと歩を進めた。

「ねー。さゆみんなんで?」
「なにが?」
「なにがって、もう終わった相手なのにさ。それともまだ気になるの?」

掴んでいた手を離して歩みを止めるとまこっちゃんは「おっとっ。」と呟いて私よりも数歩先で立ち止まり振り向いた。

「気になんてなってなかったよ。」
「じゃ、なんで。見に行くことなんてないじゃん。」
「相手が違うじゃない。加護さんだからさゆみは納得したの。」
「だって、それは・・・」
「だから、相手が気になるだけ。」

まだ、何か言いたそうなまこっちゃんを残して私は歩を進めた。
135 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:13

「傷つくだけじゃん。」

振り向くと、まこっちゃんは悲しそうに私を見ていた。
何でそんなに哀れんだ目で・・・

「辞めようよ。こんなの。」
「だって、気に入らないじゃない。気持ちが収まらない。」
「落ち着こう。」

落ち着けるわけがない。
別れてから、加護さんの計らいで実業団での練習をさせてもらっていた辻さん。
それがどうして?
なんで、コーチと結婚なわけ?

「あいぼんだって。納得してる。笑ってたよ。うちが縁結びやって。」

そうなんだ。

136 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:14
「加護さんはそうでも、さゆみは違う。笑えない。」
「あんなすっぱり別れたのに、何で?何が気に入らないの?」

相手が男性だということ。
それだけ。

「いいじゃん。のんちゃん幸せそうだし。・・・重、さん?」

駆け寄ってくるまこっちゃんの姿が歪む。
頭を撫でられた途端、私はまこっちゃんの肩に顔を埋めた。

男の人は嫌なの。

「重さん。どーした?」

よしよし。と私の背中をさするまこっちゃんを他所に私の感情はどんどん大きくなる。
男と女は基本的に考えが違う。感じ方が違う。
同じ様に愛し合うなんて出来るわけない。
137 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:15

(自分と違うから惹かれる。だから、女は男を、男は女を好きになる。)
(異性に触れるきっかけがないから、自分と違うタイプの同性に惹かれる。憧れみたいなもの。)
(うちはね、同性愛者。でも亀ちゃんは違うかもしれない。憧れの延長なのかも知れない。)
(だから、離れられないように・・・間違えてるけど。)
(それでもいいんだ。亀ちゃんと一緒に生きて行きたいんだ。)

先日、最後に吉澤さんが話した言葉が頭を過ぎる。

「まこっちゃんはどうしてガキさんが好きなの?」

顔を埋めたまま、呟いた。

吉澤さんを好きになった絵里。
れーなに惹かれる絵里。
絵里を愛してるれーな。
吉澤さんを好きになった藤本さん、石川さん。
ガキさんを好きでいるまこっちゃん。
さゆみを好きだった辻さん。

皆、吉澤さんが言うように憧れの延長なの?
本当は男の人がいいの?

138 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:15

「ガキさんがガキさんだから、好き。なんだと思う。」

私の顔を覗きこむようにして言うまこっちゃんの頬はほのかに赤く染まっている。

「ガキさんが女の子だからじゃない・・・。」
「あぁ、そこね、うん。私も悩んだ。自分は同性愛者なのかなって。っていうか周りが皆そうだったし。自分はそうじゃないって思ってたのにそうだったから。」
「憧れ?」

まこっちゃんは困ったように微笑み私の頬にハンカチを当ててくれた。

「重さんはのんちゃんがあいぼんじゃなくて男の人だからムキになってるんだね。」

今、わかった。と呟きながら私の手を引いて来た道を戻り始めた。
抵抗せずに大人しくまこっちゃんに連れて行かれることにした。
今、辻さんとコーチの姿を見たらきっとまこっちゃんが言うように傷つくだけだ。

「会うなら、ちょっと落ち着いてからのがいいよ。」

まこっちゃんは私に背を向けたまま呟いた。

139 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:16




駅前の喫茶店。
まこっちゃんは一番奥の角のテーブルに私を座らせると。「何がいい?」と尋ねてきた。

「アイスティ。」

了解。と笑顔を向けてカウンターへ向かうまこっちゃん。
優しい人だなって思う。

悩んだ。ってまこっちゃんは言っていた。
少なくとも、自覚している。私や吉澤さんのように。

140 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:16

「お待たせ。」
「ありがと。いくら?」
「いいって。」
「じゃぁ。素直にご馳走になります。」

向かいに座ったまこっちゃんは「シロップいる?」「ミルクは?」と私にそれらを差し出してから自分のアイスティにそれらを入れた。

「ねぇ。」
「ん?」
「悩んで、どうしたの?」
「さっきの?」
「うん。」
「最初はね、何で皆、女の子好きになるんだろうって思ってた。でもさ、卒業した先輩とか中学とか高校のときには女の子と付き合ってたのに、普通に彼氏連れて部活に見に来たりしてて。あぁやっぱり男の人が好きなんだってどこかで安心して。今だけ、この学校っていう囲いの中に居るときだけなんだって思ってた。でもね。大学入って、男の人と接する機会があっても、私は誰にも惹かれたりしなかった。だから、ちょっと焦った。」

まこっちゃんは苦笑し、ストローに口をつける。

141 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:17

「それで、まこっちゃんは悩んだんだ。」
「うん。色々、調べた。何でだろうって。私は別に女の子じゃないといけないってわけじゃない。女の子を性的な対象としてるわけじゃないし。幼稚園に通ってる頃、隣の組の男の子が好きだったし。だから、なんだろう、結論から言うと好きになった人が女の子だった。ってだけ。」
「だから、ガキさんがガキさんだから好き・・・。」
「うん。よく、ほら。好きになった相手に奥さんと子共がいたとか、あんな感じ。」
「好きになった相手に恋人がいた。くらいにしておいて欲しい。」
「へっ?」
「家庭を持っている相手だと、相手だけじゃなくて子共にまで被害が及ぶから。っていうか、結婚するなら、子共つくるなら、ちゃんと愛し合える相手とにして欲しいの。」
「しげ、さん?なんか声が低くなってるけれども・・・。」
「ごめん。」
「いいけど。」
「まこっちゃん。それってバイセクシャルっていうんだよ。」
「し、知ってるよ。人が言葉を選んでるのに。もぉ。重さんはぁ。」
「ごめんね。さゆみはね。男の人が嫌いなの。苦手じゃなくて嫌なの。」

そうなんだ。まこっちゃんはそう呟いて視線を伏せる。

142 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:18

「気持ち悪い?」
「そんなことないよ。」
「さゆみね、思うの。異性より同性の方が気持ちって通じ合えるって。」
「ん〜。」
「違うかな。例えば買い物だって、男の人は興味なかったりするじゃない。彼女に付き合っていくって感じでしょ。さゆみはそういうの嫌。一緒に楽しみたい。これ可愛いねぇって一緒に共感したい。そういう相手と一緒に居たい。きっとそういうのを求めるなら同性の方が確立高いでしょ。」
「確立?」
「うん。自分より大切、愛してるって思える相手に出会う確立。だから男の人が嫌いっていうわけじゃないけど。さゆみの相手は女の人だって思うの。」
「うん。重さんがそう思うならそれでいいんじゃない。私は偏見とかないし。でも、それでのんちゃんを敵視するのはおかしいよ。違う?」
「そうだね。」
「なら、会わないほうがいいって。」
「1つだけ聞きたいの。」
「ん?」
「さゆみへの想いは憧れだったのか愛情だったのか。」
「愛情だよ。」
「辻さんの言葉で聞きたいの。」

143 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:19

まこっちゃんは困ったように私を見ていた。
私は馬鹿なのかも知れない。
そんなこと気にしないで、もう終わったことだと割り切ってしまえばいいのに。
幸せそうな元、恋人を見ることなんてないのに。
ましてや・・・好きだったのか確認なんて何を今更って話しだろう。

「さゆみはね。愛だけでいいの・・・。」
「ん?」
「本当はセックスとかいらない。だって、性的欲求って子孫繁栄のための行為じゃない。」
「ちょ、重さん声大きい。」
「あ、ごめんね。でも聞いて。女同士でそんなことしたって子共は出来ないじゃん。」
「まぁ、確かに。」
「だから本当はそんな行為に意味はないの。ただ、相手が求めるなら応えるよ。スキンシップは大切だから。でも、本当はもっとシンプルに愛だけでいいの。」
「重さん。」
「人間は動物とは違う。ただ、強い子孫を残すために生きているんじゃない・・・進化しすぎなければ良かったのに・・・駆け引きなんかいらない。強ければいい。凄いシンプルでよかったのに・・・人間は欲張りすぎたんだよ。だから、さゆみは沢山の欲の中の一つ、愛を選んだ。だから、辻さんに聞きたい。愛だったのかどうか・・・。そうじゃないと、また同じこと繰り返す。無駄な時間を過ごしたくない。」
「のんちゃんは、のんちゃんなりに重さんを愛してたよ。それは私が保証する。それじゃ、ダメ?」

まこっちゃんはまた困った顔で私を見ている。
144 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:20

「ごめんね。まこっちゃんのこと困らせちゃって。今日は帰る。」
「うん。」

まこっちゃんはホッとしたように笑った。

優しいまこっちゃんは心配だからって自分の降りる駅じゃないのに私のことをおくってくれる。私だから、じゃない。
まこっちゃんは誰にだって優しい。

「重さんはさ。」
「ん?」
「いつごろから・・・その・・・。」
「ん?」
「恋愛対象がさ・・・。」
「あぁ・・・。言葉不足だったね。本当に同性愛者なのかっていうと、本当のところ分からないの。」
「ん?」
「小さいころから、男の人が嫌いだから、食わず嫌いってやつなの。」
「食わず嫌いって・・・。」
「だって、男の人と最後に話したのなんてもう10年以上前だよ。」
「えっ?」
「出て行ったお父さんに、バイバイってそれが最後かなぁ。」
「そっかぁ。」
「そんな顔しないでよぉ。」

まこっちゃんは悲しそうな顔で私を見てくる。

145 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:20
ガキさんとまこっちゃんはきっと合わないよ。
きっとね。
まこっちゃんが皆に優しくすることをガキさんはどこかで不満に思いながらまこっちゃんの優しさを受け入れると思うの。
きっと優しいまこっちゃんはそんなガキさんに気がついてしまう。
そして、まこっちゃんはガキさんを救うために去っていくだろう。

本当の相手を見つけるのは大変なことなのに
本当の愛に憧れる吉澤さん偽装した愛に幸せはありますか?

「まこっちゃん。」
「ん?」
「幸せになりたいね。」
「そーだねぇ。」
「幸せってどこにあるんだろうね。」
「その辺に落ちてない?」
「落ちてるといーねぇ。」



146 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:21



久々の母校。
何も変っていないその建物。
きっと今の生徒たちもここでたくさんの想い出を作っているのだろう。

いつか、笑って話せる仲間がいるといいね。
ごとーもよしことそんな風になりたかった。

先生は案外簡単に大谷さんの住所を教えてくれた、と言うか駅から学校までの通学路にある煎餅屋。ごとーもよく知ってる店だった。

「いらっしゃいませ。」

見せに入ると奇抜なヘアースタイルの人が笑顔で出迎えてくれた。

147 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:21

「あの、大谷雅恵さんは。」
「私だけど。」
「あの・・・。」
「後藤さんでしょ。」
「はい。」

大谷さんはごとーを上から下まで見てから微笑んだ。

「あゆみのことでしょ。」
「柴ちゃん、どこにいるんですか?」
「あゆみに口止めされてるんだよねぇ。」

大谷はガラスケースの上に肘を突きだるそうに呟く。

「会いたいんです。どうしても。」
「あゆみはそうじゃないみたいだけど。」
「でも、ごとーは会いたい。」
「子共、だね。自分の主張ばかり。相手のこと考えてない。」
「なんて言われてもいいから、柴ちゃんと連絡が取りたいんです。」
「あゆみが迷惑する。」
「迷惑だったら、柴ちゃんは自分でそういう。」
「確かにそうだね。あゆみは気が強いから。」

148 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:22

でも、本当はか弱い。
周りの目を気にしちゃって立ち止まっちゃう。
でも、誰かに頼ったり出来ない。
だから、柴ちゃんにはごとーがいいはず。

「もう直ぐ、ビザが切れるって。」
「いつ?いつ帰ってきます。」
「来週だよ。」

大谷さんはショーケースの上で白いメモ帳になにやら書いたそれをごとーに差し出した。

書かれていたのは帰国便

「あゆみ泣かしたあゆみを可愛がってたうちの恋人が後藤さんのこと襲うよ。」

見せられた携帯のディスプレイには濃い化粧を施し胸の谷間をやたら強調している服を着た金髪の女性。
襲うって・・・。

149 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:22

ニヤっと笑う大谷さんに「泣かせません。」と約束した。

「あゆみ、後藤さんがここに来るって予想してたよ。」
「へっ?」
「きっと来るから、迷惑かけたくないからって言ってた。」
「迷惑?」
「迷惑じゃない?あゆみって相当、我侭だよ。」

思わず、ふっと笑ってしまった。

「ごとーのがもっと我侭だから。」

「有り難うございました。」と頭を下げてごとーはお店を出た。
明後日、柴ちゃんは帰ってくる。

柴ちゃん、待ってるから。
ごとー。待ってるから。


150 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:23





はぁ。
これじゃ、美貴がストーカーじゃんか・・・。

膝の調子が悪くて練習には行かず病院に行った帰り。
麻琴と辻の元カノが駅に向かって歩いてきたので思わず隠れた。
なんで隠れる必要があったのだろうか・・・。
隠れなければ普通に挨拶して今頃、練習に参加していたはずなのに。

隠れただけならまだしも二人の会話に聞き耳を立てて後を付けてカフェまで着いてきちゃって。そのあともなんか気になって今、ここにいる。
道重さゆみの自宅の前。

151 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:24

「はぁ・・・。」

何がしたいんだ美貴は。
いや、気になる。
道重さゆみが言っていた食わず嫌い・・・。
美貴もそうなのだろうか?

道重さゆみと話しをしてみたい。

「あっ・・・。」
「ふじ、もとさん?」
「あ、いや、うん。どうも、こんにちは・・・。」
「何してるんですか?」

突然、玄関から出てきた道重さゆみが美貴を見て首を傾げ、眉間に皺を寄せた。
当然の反応だよね・・・。

152 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:24

「何っていうか・・・。」
「なんで、さゆみの家を知ってるんでか?」
「なんでっていうか・・・付けてきたから?」
「藤本さんってストーカーですか?」
「この状況だと・・・だよね。」
「ふふ。」

道重さゆみが真っ黒な綺麗な髪を耳に掛けながら笑った。

「藤本さんはどーして吉澤さんから離れたりしたの?」

道重さゆみは突然、よっちゃんの話しをしながら玄関のドアを閉め美貴の前へと歩み寄ってくる。

「ねぇ、どうして?」

大きな目をクリクリさせて美貴の顔をじっと見つめる姿がなんだかよっちゃんの姿とかぶった。
153 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:25

「ホントに愛し合ってるなら、離れても大丈夫だって思ったから。」
「でも吉澤さんは行かないでって言ったんでしょ?」
「でもバスケをやってる美貴が美貴だったから、よっちゃんも応援してくれると思った。」

なんで、道重さゆみによっちゃんとのことを説明してるんだろう。

「さゆみだったら良かったのに、藤本さんと同じ気持ちになってたのに・・・。」
「どういうこと?」
「さゆみも離れても同じ気持ちでいられると思うの。それがホントに愛し合ってる人となら。」
「そう、なんだ。」
「でも、それって、難しいことですよね。」
「確かに。」
「だから、さゆみなら、本当は離れても大丈夫って思っても、きっとその人の側にいると思う。」
「えっ?」
「気持ちは目に見えないから。吉澤さんみたいに、愛情に敏感な人が相手なら絶対に離れたりしない。強く見えてとても脆い人だから。全力で愛してくれる人だから。だから、さゆみなら、何を犠牲にしても側にいると思います。」
「何が、言いたいのかな?」
「結局、藤本さんは相手の気持ちより自分の意思を尊重したんですよね。それって本当に吉澤さんを愛していたのかなって。」

道重さゆみはきっりっとしたよっちゃんとは違うけれども大きな瞳で美貴を見てくる。

154 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:25

あの時、美貴だって知らない土地で知らない人たちと生活を始める。だからよっちゃんはそれを応援してくれると思ったしよっちゃんも同じように美貴を思って生活してくれると思った。美貴だってよっちゃんが待っていてくれる、応援してくれていると思えたから頑張れると思った。
結局これってこの子が言うように美貴の意思を尊重したってことなの?

「だったら、バスケを諦めて、よっちゃんとずっと一緒に居ればよかったってこと?」
「そうしたら、吉澤さんは藤本さんから離れることはなかったでしょうね。」
「亀井絵里は、よっちゃんとずっと一緒に居るのか。」
「どうでしょうね。でも吉澤さんから離れることは無いんじゃないですか。」
「どうして?」

155 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:26
くすっと笑う道重さゆみに美貴よりもよっちゃんを理解しているといわれている気がして
少しだけイラとする。

「言ったじゃないですか。吉澤さんは全力で愛してくれる人だから。それにとても優しいから。人を裏切ったり、気持ちが揺れたりしない。」
「美貴は・・・よっちゃんを裏切ったり、他の誰かなんて思ったことないよ。」
「それに吉澤さんは脆い人だから、一番近くに居ないと壊れちゃう。」

何も言い返せない。
一番近くに居なかったから。
一度、よっちゃんを壊してしまったから。

「藤本さんも早く本当の相手が見つかるといいですね。」

そう、笑って道重さゆみは美貴の横を通り過ぎていく。

156 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:27

「待って。」
「はい?」

ゆっくりと振り返ると道重は首を傾げて美貴を見ていた。

「なんで?」
「はぁ?」
「なんで、恋人でもないのにそんなによっちゃんのこと分かるの?」
「さゆみも同じだったから。吉澤さんと。」
「何が同じなの?」
「さゆみはホントの愛を探してるの。吉澤さんは多分、過去形ですけど。」
「よっちゃんにとって亀井絵里がそうってこと。」
「そう、したみたいですよ。」

それじゃ。と道重さゆみは美貴に背を向けて去っていった。

157 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:28

したみたい。ってなんだよ。
美貴のよっちゃんへの気持ちが愛じゃなかったら、他に何って言えばいいんだよ。
いつもなら、誰かに何を言われても言い返せるだけの言葉があるのに。
愛ってことに対してそんなに深く考えたことなかった。
だから、言い返す言葉なんて美貴にはない。
ねぇ。よっちゃん。
よっちゃんもあの子みたいに、愛っていう気持ちを考えてたの?



158 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:28




「面会時間終わりましたよ。」

れーなの病室を開けたら中にいた看護士さんに言われてしまった。

「あ、すみません。直ぐに、顔だけみたら帰りますから。」
そう言って頭を下げると看護士さんはあっさりと笑顔で頷いて出て行った。

見舞いに誰も来ないより、時間を過ぎてたって来たほうがいいに決まっている。

「れーな。」

ベッドに近寄って呼びかけると瞼が少し動いた。

「起きてるんだね。いいよ。そのままで。」

小さなれいなの手を握るとその指の細さに驚いた。
159 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:29
「絵里のこと吉澤さんから聞いたよ。辛かったね。」

よしよし。とれーなの頭を撫でた。
それをれーなが望んでいるかどうか、分からないけれど。
そうしてあげたかった。

「れーな。さゆみね。決めたことがあるの。」

さっきから一生懸命、瞼を上げようとしているれいな。
そんなに頑張らなくてもいいのに。

「きっとね。れーなが心配していることだと思うんだ。吉澤さんのこと。、」

ゆっくりとれーなの瞼があがった。
うっすらと開いたそこからさゆみへと視線が向けられる。

「れーながいなくなっちゃって。吉澤さんと絵里の関係がかわったら。絵里よりも吉澤さんの方が壊れちゃうと思うんだ。想像だけど・・・。そしたら、その時はさゆみ、吉澤さんの側に居ようと思う。」
160 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:29

れーなはゆっくりと息を吸い込んでいく。
言葉を発するのだろう。
さゆみはれーなの口元に耳を寄せた。

「かわらんと、いいと。」
「うん。」
「でも、・・・頼むとね。」
「うん。もう、おやすみ。」

顔を上げたときは既にれーなの瞼は閉じられていた。
ごめんね、無理させて。
でも、れーなも気がついてるんだよね。
少しずつ、二人の関係が変ってきてるって。

161 名前:ルーズボール 投稿日:2008/04/19(土) 22:45
>>133-160
本日の更新以上です。

もう直ぐ、終わりますので
お付き合い宜しくお願いします。

>>127 :ももんが 様
レス有り難うございます。

出演させる人、多すぎたなぁと・・・
今更、自分でも思っていますw
終盤になって更にごちゃごちゃw
レスに励まされています。

>>128 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。

後藤さんと柴田さんもちょこちょこ出てきますんで。
宜しくお願いします。

>>129 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。

そうですか、有り難うございます。
嬉しいかぎりです。
>>130の方もレスして下さっていますが
過去ログ観覧から見れると思いますので
宜しくお願いします。
ちなみに、サイトは持っておりません。

>>130 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
そうなんです、サイトは持っておりません。
有り難うございます。

>>132 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
残念ながら小春ちゃんや光井さんは出てきませんが。
道重さんと田中さんは出てくるので宜しくお願いします。
162 名前:clover 投稿日:2008/04/19(土) 22:46
また名前を・・・
>>161
cloverでした。
すみません。
163 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/20(日) 00:55
素晴らしい
164 名前:ももんが 投稿日:2008/04/20(日) 12:15
更新ありがとうございます。
『愛』が難しすぎてよくわからなくなりました。
いろいろ考えてるこのさゆを尊敬しますw
最後まで応援してます。頑張ってくださいね。
165 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/07(月) 19:39
cloverさん


いつも読ませてもらってます。


ゆっくり待ってます。
166 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:42

45.それぞれの思考
167 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:43
私の隣にまこっちゃんが居て。
その隣の誕生席にさゆが居て。
その隣に亀が居て。
去年は亀が居た場所にのんつぁんが居て。
その隣に亀が居たのに。

月日が経つと人間関係も変るんだ。
168 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:44
私があげた誕生日プレゼントをさゆは早速、腕に嵌めてくれている。
幸せくるといいなぁ。なんて呟きながら。
亀はハートの形のトップがついたネックレスをプレゼントしていた。
まこっちゃんはお菓子の詰め合わせ。
さゆはお菓子の詰め合わせを見たとき一番喜んでいた。

おいしい。と何度も口にしながらケーキを食べるさゆ。
去年はのんつぁんに食べさせてもらって凄く幸せそうに見えたのに。
1年前はまた来年もこうしているんだろうなんて思っていたのに。
169 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:45
「ガキさんどうした?」

心配そうな眼差しを向けるまこっちゃんに「どうもしてないよ。」と笑って応えた。

まこっちゃんは優しい。
人がいいしし面白いし。

でも、だからって・・・
ずっと愛し合っていけるって保障はある?

あんなにラブラブだったさゆたちだってあっけなく終わってしまったのに。

170 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:45
まこっちゃんは空いてしまったさゆのお皿にケーキを乗せてあげて、空になっていた亀のグラスにウーロン茶を注いであげている。

私だけじゃない。
皆に平等に優しい。

ずっとまこっちゃんの行動を目で追っていたらふとさゆと目が合った。
思わず、目をそらした。
さゆが、何かを感づいた目をしていたから。
171 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:46
「絵里。」
「んー?」
「吉澤さんも呼んだら?」
「ん?」
「だって、今日は病院からこっちに来ちゃったんでしょ。」
「うん。」
「呼べば?ね?別に吉澤さんいても問題ないよね?」

さゆの問いかけに私もまこっちゃんも頷いた。

「じゃ、来れるか聞いてみるね。」

亀は携帯を取り出して吉澤さんに電話をかけ始める。

「まこっちゃん。羨ましそう過ぎだから。」
172 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:46
携帯越しに吉澤さんと言葉を交わす亀を見ていたまこっちゃんの顔を見てさゆが笑っている。
藤本さんと石川さんとのことがあったのに、それでも続いている亀と吉澤さんは凄いのだろうか。もしかしたら、心のどこかに小さな蟠りがあったりしてそれでもこうして、いるのだろうか。

「吉澤さん、明日早いんだって。」

「そっか、残念だったね。」と私が言うと亀は「そうだねぇ。」と曖昧に笑っていた。

静まり返った微妙な空気の中で取り合えず私たちはテーブルの上に並んだ料理に手をつけた。
173 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:47
 
174 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:47
「美貴ちゃん。練習は?」
「梨華ちゃん、仕事は?」

二人して思わず、笑い声を上げた。

突然やって来た美貴ちゃんはあからさまに不機嫌な表情だったけれど、なんだかその表情も懐かしい。
175 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:47
「どうしたの?」
「特に、用事ってわけでもないんだけどね。」
「そっか、でも嬉しいな。」
「何が?」
「昔はさ用事なくても3人でいたじゃん。」
「あぁ。うん、そうだね。」
「でも、私たちってまだ、そんなに昔を懐かしむような年じゃないんだよねぇ。」
「何それ、そういうこと言うこと事態が年取ってる証拠じゃん。」
「まぁ、確実に年はとってるからねぇ。」
「まぁね。」
「それより、美貴ちゃん練習は?」

美貴ちゃんはため息をつきながら膝をポンポンと叩いた。
そういえば、美貴ちゃんにしては珍しくスカートじゃない。
176 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:48
「膝さ。」
「悪いの?」
「まぁ、ちょっとね。」
「そっか。」

美貴ちゃんの膝に手を伸ばしてそっと擦る。

しっかりとテーピングで固定されている。
これじゃ、膝も曲げられないね。

「どのくらい掛かるって?」
「2週間、くらい。」

目をそらして言う美貴ちゃん。

「2ヶ月かぁ。」
「2週間って言ったんだけど。」
「美貴ちゃんの嘘くらい分かるよ。ふふ。」
「ふふ。って気持ち悪いってば。」
「もぉ。で?2ヶ月でどのくらいまで治るって?」
「完治するに決まってるじゃん。」
「だから、美貴ちゃん?」
177 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:48
美貴ちゃんはゴロンと後ろに倒れて横になると「はぁ〜。」とため息を着いた。

きっと、ここに来たのはそれが原因なんだね。
でも、ちょっと嬉しい。
私を頼ってきてくれたことが。

「美貴さぁ。ずっと膝に違和感あったんだぁ。」
「病院、行かなかったの?」
「うん。」
「必死にバスケしてたんだ。」
「慌てることなんてないのにね。なに、焦ってったんだろう。」
「美貴ちゃん・・・。」
「バスケもよっちゃんも・・・美貴の勝手な焦りで失ったわ。はは。」

すっと腕を目の辺りに置いた美貴ちゃん。
私はそんな美貴ちゃんにそっと背を向けた。
178 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:49
「見ないから、泣いていいよ。」

返事はなかったけれど、たまに鼻を啜る音が聞こえてくる。

ここに私の仲間が居たことに安心してる。
目的を失ってしまった。
私も美貴ちゃんも。
ねぇ。よっちゃん。
よっちゃんならこんなとき、どうする?
私は今、何をしたらいいのかも分からないや。
179 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:49
 
180 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:49
夏休みの空港は人がごった返していた。
柴ちゃんが乗っている飛行機は定刻どおりの着陸らしい。
ごとーは出迎えの人を掻き分けて入国ゲートの入口を陣取った。

もう、柴ちゃんが乗っているはずの飛行機は着陸しているはずだ。
ごとーはぞろぞろと出てくる人の中から柴ちゃんの姿を探した。
迎えに来た人と言葉を交わしながら立ち去っていく人々。

181 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:50
もう、ごとーが掻き分けた人は殆どいなくなってしまった。
ツアーガイドらしき人が、リストを見ながら異国の人を探しているくらいだ。

普通、日本人のが入国はスムーズなんではないだろうか。
待っても待っても一向に出てこない待ち人にごとーの気持ちが苛立ち始めた。
182 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:50


機内に詰め込まれていた人が一斉に同じゲートへと向かって歩きだす。
私は一番最後に機内を出てその列の最後について歩いた。

入国審査の日本人の列は空いていた。
学生の一人旅らしき人が数人。
カメラのバックを方から提げた人が数人。
さすがにあの国でバカンスをする人少ないだろう・
カップルや家族の姿はなかった。
183 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:50
スムーズに入国を済ませ、手荷物を取りにベルトコンベアーの前で自分の荷物が出てくるのを待った。
ぞろぞろと外国人が入国審査を済ませ私の周りにはあっというまに人が溢れた。
出稼ぎだろうか、商談だろうかまたはバカンスだろうか。
どれにしても、貧困の中でも裕福な人々に違いはない。

自分の荷物を手にし、税関ゲートに向かう外国人を見送る。
慣れた様子で税関を抜けていくその人たちは外国が始めての人たちでないのだろう。

184 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:51
「はぁ。」

思わずため息が漏れた。
私が欲しかった答えは案外、容易に見つけることが出来た。
仕事を辞めて、普段なら行かないような国に行き、答えを手にした私の生活は帰国しても今までの生活と何も変らないだろう。
変るのは無職になってしまったことくらいだろう。
数年前にした、就職活動。
職種、給与、福利厚生・・・求めるものはきっと変らない。より良い条件を探すかもしれない。

パスポートを見せ、税関を抜ける。

今までと変らない価値観の私が今までと同じように生活をする。
185 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:52
ほらね、思ったとおり、失ったのは仕事だけ。

「柴ちゃん。」

笑顔とホッとしたような安堵感が混ざった表情を見せる私の元相棒。

必ず、マサオのところに辿り着くだろうと予想していた。
心配性の梨華ちゃんにはマサオにはちゃんと話してあるとだけ伝えた。
マサオにはごっちんが私が帰国する前間でにやってきたらマサオの判断で帰国便を知らせて欲しいとお願いしておいた。

私の予想は大当たりだ。
186 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:52
「お帰り、柴ちゃん。」
「ただいま。」

ぎゅっと抱きしめられた私の心は安心感に包まれる。

「もっと驚いてよ、ごとーがここにいることに。」

優しい声で耳元で囁かれた。

「私の予想通りだから、驚かないよ。」
「予想通り?」

首を傾げ私の顔を覗きこむごっちん。

「ごっちんは納得できるまで突っ走るから。私の言葉に納得してないごっちんなら絶対に来ると思った。」
「なに、それ。」

信じられないと笑うごっちんに。私も久々に笑みをもらした。
187 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:52
「で、何しに行ってたの?」
「ちょっと、探し物。ごっちんと突っ走れるかどうか、答えを見つけにね。」
「どうだった?」
「突っ走れそう。」

国という大きい単位で見るから日本は愛のない国になってしまうんだ。
人間どうしで比べてみたらそれほど変りはしない。

188 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:53
貧しければ1つのパンを分け合う優しさ、相手を思いやる愛情を手に入れられるかもしれないけれど一方で生きるために、1つのパンを盗んだり、他人を傷付け、もしかしたら命すら奪ってしまう悪の心を持ってしまう。
豊かな心も貧しい心もいつだって隣合わせであってそれは国がどうとかじゃなくて自分がどうするかで決まるんだ。
ずっと先までの愛なんて要らない。
夫を持って夫婦になって子共が出来て家族になってなんて望まない。
189 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:53
「ごっちん。」
「ん?」
「私、我侭だよ。」
「ごとーもだよ。」
「私、女だよ。」
「ごとーも女だよ。」
「いいの?」
「いいよ。」
「私、そんなに軽くないよ?」
「ごとーだって。」
「しつこいから、中々離れないよ。」
「ごとーだって。」
「私・・・。」
「もう、いいよ。大丈夫、ごとーと一緒に突っ走ろう。」

ごっちんは笑みを見せてからそっと唇を重ねてきた。
190 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:54
きっと、こんな私たちを受け入れてくれる人は多くはないだろう。
家族ですら、祝福してくれるかすらわからない。
でもね、ごっちん。
私は我侭だから、皆が反対したって思うようにするよ。
191 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:54
 
192 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:54
亀ちゃんから電話に、明日は仕事が早いと理由をつけて断った。
れーなの寝顔を見ながら「別に早くはないけどな。」と呟く。
寝ているのか起きているのか分からないけど、れーなの寝顔はなんだか安心する。
いつも、見ていたせいだろう。
寝ている表情は何も変わらないのに。
もう直ぐ、いなくなるなんて本当はまだ信じられない。
でも、実感はしてる、もうしばらくの間、れーなの寝顔しかみていないから。
亀ちゃんがたまに薄っすら目を開けるれーなをみてるらしいけれど。
うちはもうずっとこの寝顔しか見ていない。
193 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:54
最近、ここで重さんに会うことが多くなった。
亀ちゃんを病院から家まで送って、うちはれーなが気になってその足で病院に戻るといつも重さんと会う。
重さんはみんなに内緒で来てるんです。と言っていた。
だから、亀ちゃんに会っていることは言っていない。
別に言うなと口止めされたわけじゃないけど。
なんとなく・・・ただ、なんとなく。
ここでれーなと二人でいるよりも、三人でいるほうが落ち着くんだ。
もしも今、こうして二人でいるときに一人になってしまったら・・・。
そう思うと怖くてどうしようなくなる。
194 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:55
いっそのこと・・・いつ呼吸が止まるか分からないまま怯えているなら・・・
いけないことを考えてしまう自分がいる。
195 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:55
「吉澤さん。」

れーなの首にかけようとしてたうちの手首を掴んだ白い手と声。
考えていただけで、実際そうしようなんて1つも思っていなかったはずなのに。
196 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:56
「うち、なにやってんだろう。」
「そういう時もあると思います。」
「重さんいなかったらこの手はれーなの首に。」
「でも、そうならなかったんだからいいじゃないですか。」
「ごめんな。れーな。」
「怒ってないですよ。ね、れーな。」

重さんはそう言って微笑み、れーなの髪を撫でてる。

「もしもね、そういうことがあったとしても、れーなはきっと怒らない。れーなはあなたのことよく知ってるから。」

思わず、息と笑みが零れた。
この子はきっとそういうことがないようにするためにそういうことを言っているんだろう。
もしかしたら、ずっと前からそう思ってここに来ているのかもしれない。
197 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:56
「今日、誕生日でしょ?」
「はい。18になりました。」
「おめでとう。あいにく何も用意してなくてごめんね。」
「いいですよ。今度、皆で食事に行ったときお会計お願いするんで。」

うちの顔を見ないでいう重さん。
うちは「分かった。」とつぶやいた。
198 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:56
「今日、絵理の電話、断ったのはさゆみへのプレゼントの用意がないからってわけではないですよね。」

足音を忍ばせてうちの前にやって来た重さんは膝を抱えて座り込むとうちの顔をしたから見上げた。

「息抜きでもって思って、さゆみが電話させたんです。」
「そうなんだ。」
「いつか、言ってましたよね。愛に応えるって。覚えてます?」

覚えてるよ。君が偽りだといった。

「絵理が愛してくれる分、吉澤さんはそれに応える・・・それって、吉澤さんが望むときに望んだ分だけの愛をくれるかどうかは分からないですよね。」

199 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:57
君の言う通り。
亀ちゃんはうちがここでれーなと二人でいることに恐怖を持っているなんて気がついてないだろうね。亀ちゃんはれーなと二人でいることに恐怖を持っていないから。

「さゆみ、なんでかな、分かっちゃうんです。吉澤さんの考えてること、思ってること。」

なんでかな、なんて、嘘でしょ?

「やっぱり、うちと重さんは似てるから、じゃない?」
「れーな。どう、思う?似てないよね?」

なんて、言いながら重さんはれーなの元へ戻っていった。

ありがとう。
心の中で呟いた。
200 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:57
 
201 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:57
最近、吉澤さんと二人きりになる時間がない。
そのことに少しだけ安堵する自分が嫌。
202 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:58
いつも頼りになる吉澤さんが怯えて見えてるのは気のせい?
もう、言葉も発しない、目も開けなくなってしまったれーな。
そうなっていく姿を見ていたはずなのに。
れーなはもう直ぐいなくなるって分かっているのに。
そう、思ってしまう絵理はいけないのかな。
最初は可哀想とか思ったけれど、最後まで一生懸命生きれば、それでいいんじゃないかって思うようになった。
203 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:58
吉澤さんがどうしてあんなに怯えているのか絵理には全くわからない。
れーななら、吉澤さんの気持ちわかるんだろうな。
吉澤さんの気持ちになって色んな想像するんだろうな。

絵理がいるのに・・・何を怯えているんだろう。

そもそも、怯えているんじゃないのかも知れない。
今日だって、さゆの誕生日会に来てくれなかった。
前なら直ぐに来てくれたはず。
204 名前:ルーズボール 投稿日:2008/08/03(日) 23:59
さゆは、吉澤さんだって色々、忙しいんだから支えてあげなって言うけれど。
れーなの病室にいたって絵理だけがれーなと話していて吉澤さんはただ、聞いてるだけ。
絵理のことなんて何もきかない。
前なら、その日なにがあったって聞いてくれた。

れーなが側にいるときは愚痴を聞いてくれて、吉澤さんの気持ち教えてくれて・・・。
あぁ、こうやって不安を持ってる自分が嫌になる。

ねぇ、吉澤さん。
絵理ね、分からないよ。
ちゃんと言葉で伝えてくれないと。
もう、れーなが教えてくれることはないんだから・・・。
205 名前:clover 投稿日:2008/08/04(月) 00:05
>>166-204  45.それぞれの思考
本日の更新は以上です。

かなり間があいてしまいました・・・
また、近いうちに更新できるといいんですが。
もう、書き終わってはいるので・・・。


>>163 :名無飼育さん さま
レス有り難うございます。
恐縮です、ありがとうございます。

>>164 :ももんが さま
いつもレス有り難うございます。
>『愛』が難しすぎてよくわからなくなりました。
自分もよく分かってませんw
難しいもんですからねぇ。
有り難うございます。
最後まで更新がんばります。

>>165 :名無飼育さん さま
レス有り難うございます。
待っていてくださって有り難うございます。
励みになります。
206 名前:名無し飼育 投稿日:2008/08/04(月) 00:58
待ってました!
更新お疲れ様ですm(__)m
207 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/04(月) 04:09
待ってました!
更新お疲れ様です。
これから、皆どうなっていくんでしょうか。
次回も楽しみにして待ってます。
208 名前:ももんが 投稿日:2008/08/05(火) 07:58
更新お疲れ様です。
ラストスパート頑張ってくださいね。
画面の前でみんなを応援したいと思います。
209 名前:名無し飼育 投稿日:2008/09/14(日) 19:57
マイペースに頑張って下さい
いつまでも待ってます
210 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/26(金) 00:22
楽しみにしながら、待ってます
211 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/24(金) 12:21
なんか切ないですね。

続きを待ってますZ
212 名前:clover 投稿日:2008/10/25(土) 00:12
間がかなりあいてしまいました。
待っていてくれている方々に感謝、感謝です。

気がついたら10月も下旬とか・・・。

本日の更新はダークな部分がありますので
苦手な人は避けてください。
なのでsageで更新させていただきます。
213 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:15

46.ルール
214 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:15
その日は突然やってきた。
絵理が想像していた以上に早く。
ううん。絵理だけじゃないと思う、みんながそう感じていると思う。
特に、吉澤さんは。

呼吸器を外されたれーなから離れようとはしなかった。
絵理が何度も声をかけても、絵理の声なんて聞こえてないみたいに
ただ、れーなを見つめてた。
215 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:15
医師も看護士もそんな吉澤さんを哀れんだ目で見ていた。
看護士はれーなのこの後の説明をそんな吉澤さんに向かって淡々と説明していた。
れーなを霊安室に寝かせてその間に葬儀社と話しを進めるようにとかという話をしているときだった。
「れーなは家に帰ります。」
さゆがそう看護士に言った。
さゆのその言葉の後、直ぐにれーなは身支度をされた。
制服姿のれーなは吉澤さんの代わりにさゆが話しをした葬儀社が用意した棺に入れられ、葬儀社の車で吉澤さんとアパートへ向かった。
絵理たちもタクシーでその後を追った。
216 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:16
れーなはれーなの部屋でなく吉澤さんの部屋へ入れた。
いつもいたのはこの部屋だから。
というか吉澤さんが開けた部屋がその部屋だったから。

葬儀社の人はさゆに火葬場と連絡を取ったら連絡を入れると告げて帰っていった。
さゆは葬儀社が置いていった用具を不慣れな手つきで用意してお線香をつけた。
「これ、絶やしちゃいけないんだって。」と呟きながらお線香が放つ煙を目で追っていた。
吉澤さんは相変わらず、放心したようにれーなの側でれーなを見ていた。

まこっちゃんはそんな吉澤さんを気にしながらも涙を流すガキさんを支えていた。
217 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:17
 
218 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:18
れーなが様態が悪いと知らしてくれたのはさゆだった。
その日、絵理が昼間に病室に行ってたときに熱があったことをさゆに話していた。
さゆはそれが気になって夜に病院に行ったらしい。
一緒に帰ったはずの吉澤さんも病室に戻っていた。
心配そうに治療されるれーなを見つめる吉澤さんに絵理は何も言葉をかけれなかった。

何時間くらいしてからだろう、機械の音が鳴り響いて医師や看護士が騒がしくなって急に静かになった。
何も、かわらないれーながそこにはいた。
いつもと変わらない可愛らしい猫みたいな寝顔で寝てた。
死んだなんて思えない寝顔で。
でも、もうれーなは生きてはいないんだね。
219 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:19
 
220 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:20
れーなの魂は今どの変にあるのだろう。
れーな、聞こえる?
吉澤さん、一生懸命れーなの死を受け入れようって戦ってる。
さゆみももう少し時間が欲しいよ。
そう思っている時点でれーなの死を受けれてるだね。
絵理もガキさんもまこっちゃんももう受け入れているのに。
まだ、なのは吉澤さん。
ゆっくりでいいと思う。
急いだら壊れちゃうよね。れーな。
221 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:21
葬儀社から、斎場も火葬場も明日空いていると連絡が入ったのは昼前だった。
れーなは明日、田中れいなという物体ではなくなってしまう。

夕方になって、ガキさんとまこっちゃんは帰っていった。
絵理は、れーなに付き添う吉澤さんを眺めている。
きっとさゆみがずっといたら絵理は不思議に思う課も知れない。
でも、吉澤さんを救うためにさゆみはここにいないといけない。
222 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:22
「あ、れーな、夕飯の時間だ。何食いたい?肉か?れーな肉好きだもんな。今、買ってきてやるから。待ってろ。」
「吉澤さん?ちょっと。えっ?」
吉澤さんはそう言って絵里の声を無視して財布だけ持って出て行った。

223 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:22
「ねぇ。吉澤さん、おかしくなっちゃったとかじゃないよね?」
「おかしくなんてなってないでしょ。夕飯にするって言ってたから仕度しちゃおう。」
「仕度って?」
「夕飯の。」
「さゆもおかしくなってる?」
「なってないよ。れーなは死んだ。分かってるよ。」
「じゃ、なんで夕飯?」
「吉澤さんがれーなにご飯を作ってあげたいから。」
「あ、そう、そうなの?」
「そうなの。」

戸惑いながらも、絵理はお米を研ぎ始めた。
さゆみも料理なんてしたことないから良く分からないけど、取りあえず何を作るかもわからないから冷蔵庫にあった野菜を洗っておいた。
224 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:24
30分くらいして戻って来た吉澤さんは何も言わずにキッチンに入ると包丁の音を部屋に響かせ始めた。
さゆみと絵理はただ、その音を聞きながられーなをみていた。

「野菜炒めでいいよな。肉は全部れーなが食っていいから。」

そういいながらお皿に乗せた野菜炒めとお茶碗によそったご飯を持って吉澤さんはれーなの棺の隣に座り込むとテーブルにそれを置いた。

「ほら、れーな起きろ。今日は超奮発していい肉買ってきたから。」
「ちょっと、吉澤さん。」

棺かられーなの体を起こそうとした吉澤さんを止めようとした絵理の手をさゆみは思わず掴んで首を横に振った。
225 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:25
やりたいようにさせてあげないとって思ったから。
吉澤さんの目が赤かったから。
涙を堪えてる目をしてたから。
この人は・・・吉澤さんはれーなの死を既に受け入れてるんだ。

受け入れてるのに受け入れたくないだけ。

「ごめん、さゆ。」
「ん?」
「こんなの・・・絵理、見てらんない。」
「絵理?」
「辛すぎる。」

「吉澤さん、れーなはも・・・」
「絵理っ。」

吉澤さんを止めようとした絵理をさゆみはやっぱり止めた。

226 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:25
「お別れ、しようとしてるんだよ。」
「だって、もう。」
「それでも。」

絵理は涙を零して吉澤さんを見ると玄関へ向かった。

「絵理?」

慌てて追いかけると絵理は俯いて首を横に振る。

「これ以上、見てられない。夜、様子見に来るから。」

そう言って絵里は部屋を出て行った。

227 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:25
 
228 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:26
涙が収まらなかった。
もう、死んでしまっているれーなをまるで生きているかのように扱う吉澤さんをみて。

絵理が死んでも吉澤さんはあんな風になるんだろうか。
気が狂ってる。

れーなと絵理は吉澤さんにとってどう違うのだろう。
キスをするかしないか?
れーなは吉澤さんの家族じゃない。
だったら・・・
死んでしまったれーなに嫉妬してる自分を最低な人間だと思った。

頬に伝う涙を手で拭って絵理は思わず立ち止まった。
229 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:26
この涙の意味は何なのか・・・。
れーなが死んだ悲しみ?
れーなへの嫉妬?
吉澤さんへの苛立ち?

「はは・・・。」

泣きながら、笑ってしまった。

何で泣いているのか分からない。


230 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:27
「あら?あなた吉澤の。どうしたの?」

知らないおばさんに声を駆けられた。
吉澤さんを知っている人みたい。

「どーもしないです。」

そう言って涙を拭った。

「吉澤となにかあった?無断欠勤なんて初めてだから様子見に来たんだけど。あ、吉澤の上司の保田といいます。あたな、吉澤の恋人でしょ?会社で一度見かけたから。」

涙が溢れてくるから拭いながらその保田さんの言葉に耳を傾けた。

「これ、使って。擦ったら赤くなっちゃうよ。」
保田さんの隣にいた綺麗なお姉さんがハンカチを出してくれた。

「ありがとう、ございます。あの・・・」
「よっしぃの仕事仲間のアヤカって言います。」
「あ、亀井絵里です。」

もう、手で拭うには限界だったのでありがたくそれを使わせてもらった。

231 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:27
「吉澤と喧嘩でもしたの?」
「してないです。」
「よっしぃ、風邪でもひいた?」

絵理は首を横に振った。
れーなが死んだって口にしたくなかった。
なんとなく。
死んだって分かってるけれど、言葉にはしたくなかった。

「家に、います。」
「あなたは、亀井さんはどうしたの?よっしぃと一緒にいたんじゃないの?」
「ね、ちょっと喫茶店でも入って落ち着こうか。」

保田さんの言葉に絵理は頷いた。
こんな、顔で電車にも乗れないし、お母さんもビックリするだろうから。
232 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:28
通りの直ぐ近くにあった喫茶店に入ると直ぐに保田さんが店員を呼んだ。

「亀井さん、アイスティーでいい?」
「はい。」
「じゃ、アイスコーヒー2つとアイスティー。」

アヤカさんはポーチを出して「可愛いお顔が台無しだよ。」と絵理の崩れてしまったメイクを直してくれた。

アイスティーが来て少しだけそれを飲んだ。
しばらく保田さんもアヤカさんも何も話さなかった。

今頃、吉澤さんはれーなにご飯を食べさせようとしてるのだろうか。
233 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:28
「落ち着いたかな?」

保田さんの問いに頷いた。

「大切な子が入院してるからって看病と仕事で体調崩したのかと思って。吉澤、何にも言わないから。」
「亀井さんも看病してるんでしょ。体調、大丈夫?」

絵理は一口、アイスティーを飲んだ。

「もう、看病、終わりました。」

絵理の言葉で保田さんとアヤカさんの表情が強張ったのが分かった。

「よっしぃの側に、いなくていいの?」
「あんな、吉澤さん見てられなくて。」

絵理は小さな声で呟くと俯いた。
234 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:29
 
235 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:29
私の視線に圭ちゃんは小さく頷いた。

「亀井さん、気をつけて帰ってね。」

圭ちゃんはそう言って伝票を手に取り立ち去った。
私も足早に後を追う。

「吉澤が疲れて弱ってるの分かってたのに。ダメな上司ね。」
「そんなことないよ。プライベートだから仕方ない。」

あの子に普段のよっしぃを支えることが出来ても人の死という大きな影響を受けたよっしぃを支えることは無理だろう。
あの子自身もその死の影響を受けているのだから。
236 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:30
「あんな吉澤さんってどんな吉澤よ。」

圭ちゃんが興奮気味に呟いた。

「狂ってるかもね。よっしぃは脆すぎる心を持ってるから。」
「私らにはなんでもない青あざが、吉澤には・・・。」
「中で内出血。」
「ぶつけすぎて最近じゃ青あざにもならないわ。」
「確かに。硬くなりすぎてるかも。」

よっしぃの住むアパートの前にやって来た時、私も圭ちゃんも少し心拍数が上がっていた。

「運動不足過ぎかしら。」

圭ちゃんの言葉に苦笑をもらした。
圭ちゃんは大きく息を吐くとインターホンを鳴らした。

237 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:30
「はぁい。」と聞こえてきた声はよっしぃの声ではない。

「はい。」とドア越しに顔を出したの亀井さんと同い年くらいの女の子だった。

「どちら様ですか?」
「吉澤の上司の保田と言います。」
「アヤカと言います。」

圭ちゃんと二人で軽く頭を下げるとその子は一度、部屋の奥に目をやりそっとドアから出てきた。

「あの、今取込んでまして、出来れば日を改めて。」

亀井さんよりもしっかりした子だなと思った。

「大切な子が亡くなったんでしょ?」
「どうして?」

私の言葉にその子は驚いた表情を見せた。

238 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:31
「看病してることは知ってたから、ここに来る途中で亀井さんに会ったの。」

圭ちゃんが簡単に説明するとその子は私と圭ちゃんを観察しながら何かを考えている余うっだった。

「道重さゆみと言います。絵里の、亀井絵里の幼馴染で吉澤さんとも仲良くしてます。」

そう言って道重さんは頭を下げた。

「お二人は、吉澤さんにとって単なる上司ってわけではないですよね。」
「どうして?単なる上司よ、部下の心配するのは当たり前でしょ。」

圭ちゃんはそう応えたけど、道重さんの言っている意味は違うと思った。

「凄い心配してるし、焦ってるのは吉澤さんのこと理解してるからですよね。吉澤さん今、必死にれーなとお別れしようとしてるところなんです。」

どうぞ。と言って道重さんはドアを開けた。

お邪魔します。
私も圭ちゃんも小声でそう呟きよっしぃの部屋へ足を踏み入れた。

その光景というのは一般的に狂ったものなのだろう。

ぐったりとしている少女を抱きかかえ口元に箸を運ぶよっしぃの姿がそこにあった。

239 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:32
「吉澤。」
隣から圭ちゃんの声が微かに聞こえた。

「吉澤さん、れーなが食べないことも死んでいることも理解してますよ。」

背後から聞こえてくる道重さんの声。

「よっしぃ。泣いた?」
「いいえ。堪えてるみたいですけど。」
「あんな風にしか、悲しみを表せないのね。よっしぃは。」

よっしぃは何回か箸を少女の口元へと運ぶとにっこりと微笑み棺へ少女をもどした。

手にお皿とお茶碗を持ち立ち上がったよっしぃの視線が私たちへと向けられる。

240 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:32
「保田さんにアヤカさん。」
「無断欠勤したから様子見に来たの。」

圭ちゃんの言葉によっしぃは「すみません。」と頭を下げた。

「明日も行けそうには・・・。」
「いいわよ。休みなさい。」
「有り難うございます。」
「あ、それよりそんなところに立ってないで上がってください。」

道重さんに視線を向けると微笑み「どうぞ。」と呟いた。
この子はもしかしたらよっすぃの全てを理解できているのかも知れない。
そんなことを思いながら圭ちゃんに続いて部屋の奥へと入った。

立ち上るお線香の煙に目をやった圭ちゃんが「お線香。あげさせて。」と呟いた。

241 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:33
 
242 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:33
保田さんとアヤカさんがれーなの前に座るとキッチンから吉澤さんが戻って来た。

「有り難うございます。この子が大切な子・・・れーなって言うんですよ。」

吉澤さんはそう言って棺の蓋を開ける。

「昨日から容態悪くて夜中に・・・。」

二人は頷きながらお線香をあげ、れーなに手を合わせている。

「この子、いい人生だったんだね。いい顔してる。よっしぃが側にいたからかもね。」
「うちは、何もしてあげられなかった。頼ってばかりで。」

243 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:34
れーなの死を吉澤さんは完全に受け入れていた。
ふと気がつくと自分の目から涙が零れた。

あ、さゆみ泣けた。
れーなの死に対して・・・泣けた。
そう、思った。
吉澤さんが受け入れてると本当に実感したからかもしれない。
さゆみ自身もれーなの死をきちんと受け入れた瞬間だと思った。

244 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:34
「誰かに頼られるって生きていく中でかなり重要なことよ。吉澤。」
「必要とされないほど悲しい人生はないわ。この子にとってよっしぃといることに意味があったのよ。」
「そうだといいですけど。」

明日の場所を聞くと保田さんとアヤカさんは帰って行った。


245 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:34
「重さん。」
「はい?」
「色々、ありがとね。」

さゆみは首を横に振った。
何も礼を言われるようなことはしていないから。

「亀ちゃん、戻ってくるかな。」
「夜になれば。」
「重さんがいて、よかった。れーなと二人じゃ・・・。」

吉澤さんは自傷気味に微笑んだ。

れーなと二人じゃ・・・
優しい吉澤さんはきっとれーなを一人で逝かせたりしない。

でも、そんなことさゆみがさせない。
れーなだってそれを望んでいない

それに、やっと見つけた・・・。

絵理・・・。
絵理が吉澤さんといる間は無理やり引き裂いたりしない。
吉澤さんはそれを望まないから。
246 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:35
 
247 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:35
気がつくと部屋にはれーなと重さんしかいなかった。
亀ちゃんの姿はなくなってた。

あぁ、亀ちゃんは・・・一人でもれーなの死を受け入れられたんだ。
そう、思った。
れーなにご飯をあげているとき、ふと視界に重さんの笑顔が入った。
その時、実感した、この腕に掛かるれーなの重み、開かない口、減らない食べ物。
れーなはもう、動かないんだと。

その時だった、保田さんとアヤカさんが玄関に立っていた。
心配気な表情の二人に、精一杯の笑顔を向けた。
大丈夫だと伝えるために。

248 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:37
重さんが泣いているのが見えた。
うちを見て微笑みながら泣いていた。

えねぇ。亀ちゃん。
どうして、ここにいてくれないの?

保田さんたちが帰った後、部屋に残った自分とれーなと重さんを見てそう思った。
ここにはいつも重さんじゃなくて亀ちゃんがいたはずなのに。
249 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:37
「泣いて、良いんですよ。」

涙を堪えようとしたとき重さんの声がして、視界が真っ暗になった。

頭を撫でられて柔らかい温もりに包まれ。
うちは声を出して泣いた。
250 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:38
泣きつかれていつの間にか眠ってしまったのだろう。
うちを抱いて眠っている重さんの顔が直ぐ横にあった。

「どうして、そんなに優しくしてくれるの?」

ふと思った疑問を口にした。

「あなたが、さゆみだから。」

薄っすらと目を開けて重さんが言った。

「起こしちゃった?」
「寝てないですもん。」

重さんはそう言って視線を横に向けた。
どうやらうちを抱きながらお線香を絶やさずにあげてくれいた。
251 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:38
「重さんはやっぱり、うちとは似てない。」
「どして?」

うちは体を起こして「しっかりしてる。」と呟いた。
重さんは困ったように微笑んで黒い長い髪を耳にかけると新しいお線香を手に取り火をつけ始めた。

「さゆみと吉澤さんと立場が逆なら吉澤さんはさゆみと同じことをするし、さゆみは吉澤さんと同じことをしてると思いますけどね。」

そう、かもしれない。

「さゆみ、ファウルはしません。」
「ん?」
「絵理を突き飛ばしたりしないから。」

重さんは目を細めて微笑むとそっと顔を近づけてきた。

うちの唇を掠めるように奪ったあと耳元で呟いた。

「さゆみと吉澤さんは同じ。」

252 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:38
 
253 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:39
「ねぇ。まこっちゃん。」
「ん?」

私の背中をずっと撫でていてくれたまこっちゃんの手の温もりが消えた。

「突然、死んじゃうのとさ。1ヶ月後に死ぬって分かってて死ぬのどっちがいいのかな。」
「え?」
「私は多分、耐えられない。1ヶ月も死の恐怖と付き合うの。」
「突然、いなくなったら回りは悲しいよ。」
「そうかもしれないけど。それでも、私には無理だよ。」

ジャリ。って音がしてまこっちゃんに視線を向けるベンチから立ち上がってため息をついていた。
私の前に来たまこっちゃんの他事馬手見る表情に私は息を呑んだ。

254 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:39
「どうしてそんな顔してるの?怒ってるの?」
「怒ってるよ。」
「なんで?」
「ガキさんはいっつも先のこと気にして、何もしようとしない。」
「なに?どうしたの?」
「結局、自分のことしか考えてないんだよ。恐怖に耐えられない?それって一人だからでしょ。誰かと一緒なら耐えられるよ。れーなはそうだった。一人じゃなかった。だから平気だった、幸せだった。ガキさんは踏み込まないから・・・結局、ひとりなんだよ。それって、凄い寂しいことだよ。それに、さゆにも亀ちゃんにも失礼だよ。私にもね・・・。」
255 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:39
バイバイ。
そういい残してまこっちゃんは去っていった。
最後の方は悲しそうな顔をして。
何も言葉がでなかった。
なにか、とても酷いことを言われた気がするけれど。
何も言い返せなかった。

256 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:40
 
257 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:40
結局、吉澤さんの部屋へは戻らず朝になってしまい、ガキさんと二人で斎場へと向かった。
ガキさんがずっと絵理の隣にいてくれた。
吉澤さんではない。
側にいてくれたのはガキさん。
吉澤さんは絵理どころではなかった。

火葬されたれーなを見た吉澤さんは取り乱したように泣いていた。
絵理がいるのになんでそんなに悲しむの?
絵理がいるのに・・・。

258 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:41
絵理が冷めた子なんだろうか。

泣き崩れる吉澤さんをそんな風に見ていた。
そして、そんな吉澤さんの手を握っていたのはさゆだった。
さゆは、何度か絵理を見ながら吉澤さんの手をただ、握っていた。
まこっちゃんは火葬がすむと直ぐに帰っていった。

「ガキさん、いいの?」
「うん。」
「喧嘩、した?」
「私が、悪いの。」
「そっか。」
「亀はいいの?」
「ん?」
「吉澤さんの側にいなくて。」
「さゆがいる。」
「恋人は亀じゃない。」
「絵理にはああいうこと出来ないよ。」

259 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:41
吉澤さんを信じることは出来ても
慰めなんて出来ない。
ましてやあんなに悲しむ吉澤さんの悲しみを分け合うなんて・・・
出来るわけがない。
絵理と吉澤さんの悲しみが違いすぎる。

260 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:41
 
261 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:42
骨だけになってしまったれいなを抱え。
重さんに付き添われて埋葬するために墓地へと向かった。
亀ちゃんは黙ってそんなうちを見ていた。
見ているだけで、決して側に来ようとはしなかった。

そして、この部屋へも

こようとはしなかった。
262 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:42
「ごめんね。手伝ってもらってばかりで。」

重さんは首を横に振ってお茶を入れてくれた。

「一端、着替えに戻りますね。買い物、必要ならしてきますけど。」
「大丈夫、ありがとう。重さんも疲れてるでしょ。もう、大丈夫だから。」

重さんは頷くと帰っていた。
一人きりになったこの部屋はそれほど広くもないのに広く感じた。
祭壇にあるれいなの写真を眺めながらこの部屋に越してきたばかりの頃を思い出す。

263 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:42
れいなもいなかった。
誰も知っている人なんていない。
どん底だったあの頃。

それから、れーなに会って。
亀ちゃんとガキさんに会って。
重さんに会って。

れいなが居なくなって。
亀ちゃんも居なくなってしまうんだろうか。

それを止める権利はうちにはない。
亀ちゃんが決めたことならば。
持っているボールは誰だって自由にコントロールできるのだから。
ルールを侵さない限り。
264 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:42
 
265 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:43
「絵理?」
「お疲れ。」
「待てたの?」
「うん。吉澤さん、どう?」
「落ち着いてるよ。うち、入ろう。」

さゆはいつもと変わらない様子で部屋に通してくれた。
いつもと変わらない。
それがなんだか腹立たしい。
れーなが居なくなってしまったというのに。
何も変わらない。
悲しい様子でも悔しい様子でもない。

266 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:43
「絵理、どうした?座らないの?」

さゆの言葉に絵理がだ待ってソファに座る。さゆはそれを横目で確認しながらクローゼットから洋服を取り出した。
部屋で過ごすときはいつもスゥエットのさゆがワンピースを取り出した。

「出掛けるの?」
「吉澤さん、ひとりにしておけないでしょ。」

さゆの真っ白い肌が一瞬、絵理の目に晒され直ぐにワンピース姿のさゆが隣に座った。

267 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:43
「絵理が一緒にいるのが本当なんだよ。」
「絵理のせいでって言いたい?」
「違う。ただ、吉澤さんのこともっと考えてあげなよ。れーなが死んだんだよ。」
「絵理だって、ショックなんだから・・・。」
「じゃ、助け合えばいいじゃない。お互いに支えあえばいいじゃない。」

さゆの真っ直ぐ視線から目をそらした。

「さゆはさ。友達が死んだのに何でそんなに冷静なの?悲しくないの?」
「冷静じゃないよ。悲しよ。でも、藤本さんと吉澤さんの話し聞いたでしょ。吉澤さんは脆い人なんだよ。側に居てあげないとって思わないの?」
268 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:44
何で?
吉澤さんとずっと一緒に過ごしてきたのは絵理なのに。
何で?
絵理よりも吉澤さんを分かったように話すの?

「それとも、絵理は吉澤さんよりれーなが好きになった?」

逸らしていた視線を戻した。

「もう、よ・・・」
さゆに絵理の怒りが伝わったのだろう。
何か言おうとしていたが、口を噤んだ。

「さゆは知らないかもしれないけど。吉澤さんはいつだって絵理を優先して気遣ってくれる人なんだよ。」

さゆよりも絵理の方が吉澤さんをよく知っている。

269 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:44
「絵理だって、悲しいの。ホントなら吉澤さんに側にいて支えて欲しいくらい。なのに吉澤さんは絵理よりももっともっとショックを受けてる。まるで恋人が死んでしまったみたいに。」
「絵理が側にいて支えて欲しいって思ってるなら吉澤さんだってそうじゃん。」

言葉が出てこなかった。
望んでいると分かっていても絵理にはそれは出来ない。
子共なのだろうか。
支えて欲しいと望んでいる吉澤さんのその悲しみの対象への嫉妬心の方が大きいのかも知れない。

れーなへの嫉妬。
れーなと吉澤さんの絆の嫉妬。

「絵理?さゆみ、もう行くけど。」

一緒にここを出ろということなのだろう。
ドアの前で絵理を待っているさゆに視線を向ける。

270 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:46
「れーなも、さゆも、何で絵理より吉澤さんを分かったように言うの?」
「れーなは絵理よりも吉澤さんと居た時間が長いからでしょ。
さゆみだってきっと吉澤さんより絵理のこと分かるよ。」

さゆはドアノブにあった手を下ろして絵理に向き直った。

「絵理は、甘えん坊だから。今の吉澤さんの側にいても何もしてあげられない。
それどころか、吉澤さをそんな風にしてしまったれーなに大しても嫉妬しちゃう。
それに・・・さゆみ対しての苛立ちが一番大きい。」

言い当てられて、余計に苛立った。

271 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:46
「さゆは吉澤さんのなに?なんで介抱みたいなことしてるの?好きになった?
でもダメだよ。吉澤さんは絵理のこと好きなんだもん。」
「そうだね。好きになったかもね。でも吉澤さんは絵理から離れたりしないよ。
分かってるから絵里から無理やり奪ったりしないから安心して。」

なんでもないって顔をして言うさゆの言い方に余計に怒りが募っていく。

「だったら、吉澤さんに手出さないで、構わないでよ。」
「さゆみ、吉澤さんを好きになったかもってい言ったでしょ。」
「だから?奪わないっていったじゃん。」
「奪わないよ。ただ、吉澤さんっていう人間をこの世に残しておきたいだけ、
審判員みたいなもんだよ。吉澤さんがファールしないように見張ってるの。」
「ファール?」
「自殺しないようにってね。だから行かなきゃ。帰るときママに声かけててね。」

さゆは絵理を部屋に残したまま行ってしまった。
272 名前:ルーズボール 投稿日:2008/10/25(土) 00:47
自殺って?
れーなを追ってってこと?
なんで?なんで、れーなのために吉澤さんが?
恋人でもないのに・・・。

273 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/25(土) 00:53
さゆー(>_<)

今まで待ってて良かった♪

リアルで読めた♪
274 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/25(土) 00:56
面白いけど、ずっと「絵理」なのが気になります
正しくは「絵里」ですよ
ハロメンの名前は間違ってほしくないな
275 名前:clover 投稿日:2008/10/25(土) 00:57
>>213-272  46.ルール
本日の更新は以上です。

また、間が開いてしまって・・・。
それでもレスをくれた方々に感謝です。
本当に有り難うございます。

あと、数回で終わりますので。
今年中に・・・。終わらせたい(^。^;;
と、思っております。

>>206 :名無し飼育 様
レス有り難うございます。

待ってていただけてありがたいです。
今後とも、あと数回なのでお付き合いください。

>>207 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。

待ってていただけて光栄です。
有り難うございます。
どうなっていくか・・・。
どうなっていくのでしょうw
もう、何回かお付き合いください。

>>208 :ももんが 様
いつもレス有り難うございます。

ラストスパートなのに、更新の間が開いてしまい・・・
今年中に終わらせることを目標に頑張りますので
お付き合いください。

>>209 :名無し飼育 様
レス有り難うございます。
マイペースに頑張ります。
お付き合いのほど宜しくお願いします。

>210 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。

楽しみにしていただけて光栄です。
もう少しペースを上げて更新できるよう頑張ります。

>>211 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。

待っていただいてありがとうございます。
今後とも宜しくお願いします。
276 名前:clover 投稿日:2008/10/25(土) 01:02
>>273 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。
深夜まで待っていただいて有り難うございます。


>>274 :名無飼育さん 様
レス有り難うございます。

>正しくは「絵里」ですよ
ご指摘有り難うございます。
このスレッドになってから絵里と絵理と両方使ってますね。
気がつきませんでした。

>ハロメンの名前は間違ってほしくないな
申し訳ありません。
今後きをつけます。
277 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/11/03(月) 05:14
更新お疲れさまです。
最終回が近いようですね〜
皆がどのような結末を迎えるのか楽しみにしています。
278 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/07(金) 00:14
切なくて複雑になってきましたね(>_<)
そんな中…知らないおばさんって…w
個人的にさゆを応援します。
279 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:40
梨華ちゃんから連絡が来たのは2日前だった。
ベッドの中でごっちんと待ったりとしていた時。
梨華ちゃんから電話が掛かってきた。

「無職の柴ちゃんにいい仕事させてあげる。」と上から目線で会話をしてきたことに少しだけ腹がたった。
「自分だって、無職に近いくせに。」と言い返してみると隣でごっちんがクスクスと笑っていた。

いい仕事というのは藤本美貴の取材だった。
何の取材をして欲しいのかは会ってから本人に聞いてと梨華ちゃんは一方的に場所と時間を指定して電話を切った。
280 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:41
指定されたのは藤本美貴が所属する実業団の体育館。
指定された時間より10分前に中に入ると梨華ちゃんと藤本さんがパイプ椅子を用意していた。

「練習は終わってるみたいだね。」

ごっちんの言葉に頷きながら中に入っていった。

「お久しぶり。」

私の言葉にごっちんも隣で「どうも。」と頭を下げる。

「そんな、かしこまらなくてもさ、座ってよ。」

梨華ちゃんのハイテンションに呆れながら促された椅子に二人で座った。

281 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:41
「かしこまらなくてもって一応、仕事なんで、そういう訳にもいかないの。」
「でた、柴ちゃんは固いよね。」

梨華ちゃんの言葉を無視して藤本さんに視線を向ける。
藤本さんは苦笑しながら「態々すみません。」と呟いた。

「じゃ、質問初めてもいい?」
「いいよ。どんどん聞いてあげて。」
「梨華ちゃん、ちょっと黙ってて。」

「こわっ。」という梨華ちゃんを無視して手帳を開くとごっちんも梨華ちゃんを気にせずカメラをもって立ち上がった。

「じゃ、改めて、質問させてもらうね。」
「はい。宜しくお願いします。」

以前の藤本と同一人物だろうか。
自信とかオーラみたいなものが全く感じられなくなっていた。
282 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:43
「こちらこそ宜しく。じゃ、今日、どうして私を呼んだのか教えてくれる?」
「日本に戻ってバスケをやるときに取材をしてもらったから、辞めるときも柴田さんに取材してもらいたいと思って。別に記事にしてくれとかじゃないんだけど。あ、別に記事になるならしてくれてもいいし。」
「よしこに伝えました?」

私の取材中に一度だって口を出したことのないごっちんが、私の横で私より先にそう質問していた。

「まだ。携帯ずっと繋がらないの。」

藤本さんはごっちんから視線を反らして呟いた。

「そうですか。柴ちゃん、口挟んでごめん、続けて。」

ごっちんはそう言ってフィルターを覗き込んだ。
283 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:43
二人のその会話で私が今しなければいけないことを認識した。
藤本さんのバスケに対する思い、吉澤に対する思い。
それをここで聞き出し、記事にしなければいけない。
284 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:43
 
285 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:44
れーなが旅立ってから数日、うちはまだ会社を休んでいた。
保田さんは有給がたまってるんだから堂々と休みなさいと言ってくれたけれど
きっと、うちが休んでる分の仕事は保田さんがこなしてくれているのだろう。
それが分かっていてもうちは会社に行く気にはならなかった。
いや、れーなから離れることが出来ないだけだ。
それも違うのかもしれない。実際、れーなはもう居ないのだから。

西陽が部屋に差し込んできて、カーテンを閉めるとドアの開く音が背後から聞こえた。
振り向くと制服姿にコンビニの袋を手に提げた重さんが靴を脱いでいた。

286 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:44
「おじゃまします。」
「お帰り。」

こんな言葉を交わすのが当たり前になっていた。
葬儀が終わってから、一度も亀ちゃんはやってきていない。
こちらから、会いに行くこともしていない。

ただ、うちは日が昇ったら目を覚まし、
れーなの位牌に語りかけ
部屋が夕陽の色に染まりだした頃に重さんがやって来て
2人でれーなの位牌に語りかける
陽が沈む頃に重さんが帰っていって
うちはシャワーを浴びてベッドに入る

そんな日々。

重さんの存在に助けられている。
それは日を重ねるごとに実感している。

亀ちゃんはこんなうちをどう見て、どう感じているだろう。
287 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:44

「ねぇ。れーな。亀ちゃんどうしてっかね。」
「それは、れーなよりさゆみの方が応えられる質問なの。」
「確かに。」
「聞きたい?」
「ん。ちょっと聞きたいかな。」
「絵里も毎日、吉澤さんのことさゆみに聞いてくる。」
「そうなんだ。」
「さゆみは伝言係じゃないの。」

怒ったように頬を膨らます重さんだけれどもそれは本心でないのだろう。
本当に嫌ならこの部屋にうちの様子を見に来たりしない。

「迷ってるの?」

この子との会話はとてもスムーズで楽。
全てを言葉にしなくても大丈夫なことが多いから。
288 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:45

「絵里の気持ちがあったら前と変わらないならここに来てるって。」
「まぁね。迷わせたくないっていうのもあったりするかな。」
「吉澤さんが迎えに行ったら今の現状なら愛情だけじゃないか。」
「同情、哀れみ、罪悪感・・・人の心って何か色んなものはいってんね。」
「れーなと吉澤さんはどんな気持ちで繋がってた?」

位牌を見つめて呟く重さん。
うちも位牌に視線を移した。

「んー。なんだろうね。れーな。」
「家族みたいな感じが一番近いのかもね。」
「重さんにはそう見えた?」
「はい。」

微笑む重さんに「そっか。そうだって。れーな。」と笑いながら返した。
289 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:45
愛だけを追う人間は周りから見たら物凄く自己中心的な人間なのかもしれない

自分から離れたりはしないと言いながら、
来ないならばデッドタイム中。
だから、重さんとこうしていることに罪悪感はない。
きっとこの子もそうだろう。
ファールは犯さないと言いながら、こうして毎日、ここにやってくる。
亀ちゃんにはなんと言っているのだろう。
きっと、ここに来るように仕向けているのだろう。
そうでなければ、ずっとデッドタイムになってしまう。
きっと重さんはそれを避けたいだろうから。

290 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:46
「吉澤さん、これ見てください。」

重さんが指さすものに視線を向けた。
テーブルに広げられた週刊誌。
さっき提げていたコンビニの袋に入っていたものだろう。
白黒写真にはよく知る顔。
太字にはよく知る名前。

「吉澤さん、携帯も充電してないみたいだし、テレビも見てないから知らないだろうと思って。」
「うん。」
「きっと、吉澤さんに会いたいし、伝えたいと思ってると思いますよ。」
「知ってるの?」
「一応、聞いてますから。」
「そっか。」

やっぱり、重さんとの会話はとても楽だ。

291 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:46
「これ、後で絶対に目を通してください。多分、吉澤さんに伝えないと、本当に終わったことにはならないんだと思うの。」
「そう。分かった。」

その記事には色んな人の名前が載っていた。
どれも、よく知っている名前。

この4人が今も繋がっていることが単純に嬉しいと感じる。

うちは結局・・・いつも取り残される。
いつの間にか、気がつくとコートの外に出てしまう。
それが、自分からなのかどうか良く分からない。
それに、一人で会いに行く勇気なんてない。
亀ちゃんに頼むことは、亀ちゃんにとって理不尽で苦痛なことに違いない。
れーながいれば・・・。

位牌に視線を向けた。
292 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:46
もう、れーなという人間は居ない。

「さゆみでよければ、一緒に行きますよ。」

優しい声に視線を向けた。

「あぁ、えっと、前に、ストーキングっていうかさゆみの家の前に居て、ストーカー呼ばわりしっちゃったから、謝らないとって思ってて。ついでっていうか、さゆみも一人で行くのはちょっとって思って。そんなに親しいわけでもないし。」
「ありがと。お願いするよ。」

重さんの家の前に言ったのが本当かどうか、それは分からないけれどそんなことはどうでもいい。
一緒に行くことが負担ではないと言うことを伝えてくれた温かい言葉。
293 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:47
本当は随分前に気が付いてた。
自分の症状を。
美貴に捨てられたと思い込み、その後にとった自分の行動。
ごっちんに指摘された時には既に自覚していた。

自分は精神面に障害を持っているのではないかと。

依存性人格障害。
子供の頃は美貴か梨華ちゃんに依存して。
高校生になって美貴に依存した。

そして、美貴が渡米したときにとてつもない不安と恐怖に襲われた。

自覚した後、ひとりになってひとりで生きれば大丈夫だろうと思った。
そしてれーなに会って。
れーなに・・・依存していたのだろう。
それを認めたくないと思った時に亀ちゃんに会った。
きれいごとを言っても結局はそういうことなんだ。

うちは、誰かに依存しないといられない。

294 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:47
「吉澤さん?」

亀ちゃんが去ったら、きっとうちはこの子に依存しようとするのだろう。

「どうかしました?」

首を傾げる重さんの表情はとても心配そうだ。

「うちはホント、弱い人間だね。」
「人間はみんなそうですよ。人はひとりじゃ生きられない。
れーなだって吉澤さんがいたから頑張れた。」

思わずふっと笑みが零れて位牌に視線を向けた。

295 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:47
「れーなは・・・うちがいなくても頑張ったよ。きっと。
自分の意思でもう一度生きようって、頑張ったはずだよ。」
「自分は必要ではなかった?そう、思ってるなら間違いですよ。」
「れーなから聞いてます。吉澤さんが助けてくれたからって。」
「そう、だかられーなはうちから離れなかった。離れられなかった。
それはうちがそう仕向けたんだ。うちがれーなに頼りたかったから。」
「仕向けた?」
「そう・・・。親から離れたれーなに、君にはうちしか居ない。うちが側にいて面倒見てあげる。洗脳みたいに・・・励ました。」
「じゃぁ。どうして絵里と。」
「うちがれーなに依存しないように、自分自身に否定するため、それに・・・。」
「れーなが居なくなったときの保障・・・。」

うちの言葉を引き継ぐように重さんが呟いた。

「だから、うちはれーなに何もしてない。逆に利用したようなもん。」

296 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:48
吉澤さんはれーなの位牌を眺めながら「ごめんな。」と呟いた。
やっと分かった。
れーなの本当の気持ち。
自分がいなくなった後の吉澤さんをどうしてあんなにも心配していたか。

「れーなは謝って欲しいなんて思ってない。利用されたとも。」
「ん?」
「れーなも吉澤さんと同じだったんですよ。きっと。」
「同じ?」
「吉澤さんが利用したと思っているなられーなもそうしてた。」
「どういう意味?」
「言ったでしょ。人は一人じゃ生きられない。それに、洗脳なんて無理です。れーなは知ってた。吉澤さん、あなたがとても繊細で弱い人間だと。だから、れーなは安心してたんだと思う。」
「安心?」
「吉澤さんの側に居れば、二度と一人ぼっちになることはないって。」

297 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:49
さゆみの言葉を聞いた吉澤さんはほっとしたような表情をしてれーなの写真に目を向けた。
れーなの予想通り、れーなは一人ぼっちになることも孤独を感じることもなかっただろう。でも、誤算だったのが吉澤さんが恋人を作ったこと、そしてその恋人にれーな自身も惹かれてしまったこと。
でも、もっと誤算だったのはさゆみの存在だったんだろう。
さゆみの存在がれーなの不安を多少軽減させただろう。

298 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:49
 
299 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:49
「亀さぁ。」
「んー?」
「吉澤さんと会ってないの?」
「まこっちゃんと会ってないの?」

無言のまま亀と視線をぶつけ合った。

「別にまこっちゃんとか今、関係ないでしょ。亀の話ししてるんだから。」
「絵里の話しはしなくて良いよ。」
「どうしてよ。」
「考えたくないから。絵里、考えるとか苦手だし。」
「このままってわけには行かないでしょ。さゆだって、ずっと手伝いに行ってるんでしょ?」

亀は怒ったように私を見てくる。
300 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:49
「なによ?」
「絵里はお手伝いさんじゃないから。」

あぁ、そこに怒ったのか。
でも、普通、恋人の身内ではないがそれに近い存在の人が亡くなったら手伝うだろう。
大体、どうしてさゆが手伝いに行っているのかも疑問だ。
亀という恋人がいるのに出しゃばり過ぎではないのか。

301 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:50
「でもさ、早く会わないと今度は会いづらくなるんじゃないの?」
「世間はそれを自然消滅と言うんだよ。ガキさん。」
「自然消滅って、だって、藤本さんとの事だって乗り越えたのに。どうして今度はそんなに簡単にそんなこと言えるのよ。」

亀はウィンドウ越しに通りを行き交う人を眺めてそれから呟いた。

「面倒臭いのは苦手。」
「苦手って、それじゃすまないでしょうが。」
「絵里、信じることは出来ても、考えるのは無理。れーながいつも考えてくれてた。」
「田中っちはもう・・・。」
「だから、考えないと一緒に居られないなら絵里は無理だよ。」

亀は寂しそうにそれでも微笑みを私に向けた。
私に亀にかける言葉は何も見つからなかった。
302 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:50
「好きっていう気持ちと好かれているって気持ちだけで一緒に居る理由じゃ足りないのかね?」
「それ、私に聞く?」
「だね。さゆのがそういうの得意だもんね。どこか似てるんだよ。さゆと吉澤さん。だから・・・」

亀は途中で言葉を切ってまた、通りへと視線を向けた。

「急に嫌いにはなれないけどね。絵里、面倒なのは嫌いなの。ガキさんよく知ってるでしょ。」
「まぁ。日常生活においては、だけど。」
「恋愛だって日常の一つだよ。」
303 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:51
好きとか会いたいとか抱きしめられたいとかそういう気持ちだけで吉澤さんの側にいた。
それだけじゃ無理なときにはれーなに頼った。
それが出来ないなら、距離と時間を取るしかない。
考えるなんて面倒だから。

諦める。
304 名前:ルーズボール 投稿日:2008/12/10(水) 11:51
「そういう、もんなの?」
「んー?なにが?」
「日常がさ、急に今までと違って戸惑ったりさ、退屈だったりしないわけ?大体、いつも一緒に居た人がいなくなって寂しいとかないの?」
「だから、またここで雇ってもらって、バイト毎日入れてもらってるんじゃん。」

ガキさんは「そっか、ごめん。」と呟いてテーブル席へと行ってしまった。

ここは、この店は吉澤さんとであった場所だし。一緒に働いた場所だから。
色々、考えなくたって吉澤さんとの思い出を自然と感じられる。

面倒だって、直ぐに忘れることなんて出来ないのは事実だ。

305 名前:clover 投稿日:2008/12/10(水) 11:59
>>279-304 48.バイオレーション

更新以上です。

なにやら、とっても慌しく1ヶ月が過ぎてしまいました。
気がつきゃ12月にはいってる・・・
年内に終わらせたい・・・。
そんなことを目標としています。
どうぞ、待っていてくださる優しい方々、
お付き合い宜しくお願いします。

>>277 :名無し飼育さん さま
レス有り難うございます。
はい最終回、間近です。
宜しくお願いします。

>>278 :名無飼育さん さま
レスありがとうございます。
さゆさんがメインになってきてますねw
306 名前:clover 投稿日:2008/12/10(水) 12:01
訂正です。
×→ 48.バイオレーション
○→ 47.デッド

次のものを書いてしまいました・・・。
すみません
307 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/11(木) 00:42
更新お疲れ様です。
人間って難しいですね…。
ずっといつまでも待ってますよ。
どこまでも付き合います。
cloverさんのペースで頑張ってくださいね。
308 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 13:54
48.バイオレーション
309 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 13:55
吉澤さんが藤本さんに会いに行くきっかけ。
吉澤さんが絵里に会いに行くきっかけ。
それを作らなければならない。
さゆみ自身のためにもそうしなければならない。
もう、限界が近いから。
さゆみも甘えたい。愛し合いたい。

「絵里、バイトなの?」

ガキさんがため息混じりに「毎日だよ。」と言った。

嫌悪感を漂わせているのは私に対してだろう。
絵里の恋人を好きになることに対しての。
さゆみに対しての嫌悪。
310 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 13:55
「ガキさんも毎日?」
「だったら、ここには居ないでしょ。それより、さゆは・・・。」

「好きだよ。吉澤さんが。」そう言って、ガキさんの言葉を途中で切った。

ガキさんは眉間に皺を寄せて、まるでエイリアンか何かを見るような目でさゆをみてくる。

「それってさ。幼馴染やめる覚悟で言ってる?」
「なんでやめないといけないの?っていうか、幼馴染にやめるとかあるわけ?」
「吉澤さん、奪っておいて亀と普通でいられるわけないでしょう。私だって、迷惑だよ。」

さゆみだけがいけないわけじゃない。
というよりも絵里も吉澤さんもバイオレーションを取られてもおかしくない。
お互いを所有したまま何も行動せずに随分、時間を有している。

「奪うわけじゃないと思うの。」
「じゃ、なに?奪ってないとか言ってずっと吉澤さんにべったりじゃない。」

さゆみがべったりじゃなかったら、絵里はもっとずっと後悔することになったと思う。
311 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 13:57
絵里のバイト先に行くといったさゆみに「行かないほうがいいと思うけど。」とガキさんは助言したけれどもそれに従う気はなかった。

ウィンドウ越しに店内を覗くと絵里は忙しそうに客と言葉を交わしていた。
その客への対応が終わり一息つきながら視線を外へと向けた絵里がさゆみを捕らえたのが分かった。
さゆみは絵里が視線を反らさないのを確認しながら店内へと入る。

「いらっしゃいませ。」

いつもならたわいもない会話をしていたが
絵里の言葉にさゆみは他の客と同じようにメニューから商品を選ぶことにした。

「アイスココア。」
「店内でお召し上がりですか?」
「はい。」
「少々お待ち下さい。」

絵里がカウンターから離れてココアをグラスに注いでいる姿を目で追って待つ。
312 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 13:57
「お待たせしました。」

料金を言わない絵里。
さゆみが財布を出すと「いいよ。奢る。」と呟く。
「ご馳走様。」と言って財布をバッグにもどした。

「絵里と話しがしたくて来たんだけど。」
「あと10分で休憩はいれる。」
「分かった。」

絵里は表情を固くして仕事に戻っていった。
ココアの乗ったトレイをもって話しがしやすいであろう、一番奥の角の席に座った。
313 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 13:58
 
314 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 13:58
さゆが亀のもとへ行った後、特に予定のなかった私は、ふらっと足を向けたのはまこっちゃんの大学の体育館だった。

夕刻の体育館の中は汗を流す学生の姿があった。
ベンチに座り学生たちの中からまこっちゃんの姿を見つけるは以外にも容易かった。

向かってくる相手を交わしながらコートを駆け抜け、ラインの手前からそシュートを放つ。
綺麗な弧を描きボールはリングへと向かう。
その場にいる者たちが皆その行方を見守った。

ゴォンと音を鳴らしてボールはリンクの縁にぶつかるとグルグルとその縁をなぞる。
入るか入らないかドキドキしながら見守った。
ボールの勢いがなくなりそのままリンクの内側へと入っていくだろうと思った時、ボールの軌道が僅かにずれて急にリンクの外側へと落ち、トーン、トーン、トン・・・とバウンドする音を室内に響かせた。

似たような光景を、以前に見たことがる。
その時はちゃんと、リンクにボールが入った。

ボールを放ったのがまこっちゃんではなく藤本美貴であった。
もう、その光景を見ることもない。

まこっちゃんのシュートを機に練習が終わったらしく、ボールをカゴに仕舞いだす。
まこっちゃんも、リンクに入らなかったボールを残念そうに追いかけていった。
315 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 13:59
外で待つこと30分。やっとまこっちゃんが出てきた。
別に、約束していたわけではないから待たされたという考えはおかしいのだろう。

「どうしたの?」

私を見て少し驚いた表情を見せるまこっちゃん。

「これ、読んだ?」
「あぁ。うん。部内でも話題になったからね。」
「そうなんだ。」
「どっかはいる?」

まこっちゃんの言葉に頷いて、そのまま近くのファミレスに入った。
316 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 13:59
「これって、昔の古傷?」
「高校のときにはなかったと思うよ。」
「ふーん。じゃ、その後なんだ。」
「多分。」
「これってさ。吉澤さんに向けて書いてあるんだよね。」
「そうだね。」
「知らないんだよね。れーなのこと。」
「あれから、連絡取り合ってると思ったけど、違ったみたいだね。」
「戻れてなかったってことだよね。」

戻れない。
なんだかその言葉にショックを受ける。
さゆの行動が自分たちもそうするのではないかと不安が過ぎる。

「なんか、寂しいね。」
「それ、違うよ。」

まこっちゃんはアイスティーをコクっと音を立てて飲んだ。

「戻るなんて誰も出来ないよ。時間は戻ったりしないから。みんな前に進むしかないし、進めば色んな変化があるんだよ。うちだって、数ヶ月前よりかなり変わってる。」
「そうだよね。まこっちゃんて、自分の意見ちゃんといえる人じゃなかったもんね。」
「まぁ・・・言わないと通じないっていうの実感したし、それに時間に流されるだけじゃなくて、自分でその流れを作りたいなとか色々、考えたりしてる。」
「自分で・・・。」
「うん。なんとなくやってくんじゃなくてそろそろ目的っていうか人生設計なんて大きなものじゃないけど。さゆ見てるとそう思う。」

さゆは前に進もうとしてるのだろうか。
単に、亀を傷つけてるだけのように見えるのは私だけなんだろうか。
317 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 14:00
「どうかした?」
「んー。さゆはさ。何がしたいのかなって思って。」
「愛に飢えてるんだよ。」
「飢えてるねぇ。」
「さゆはさ。傷を持ってるから。深い傷をさ。」
「お父さんのこと?」
「うん。だから、人の傷も分かるし癒し方だって知ってる。その癒し方は愛なんだろうね。」
「でも吉澤さんは亀の・・・。」
「どっちか、しかないよ。愛か友情か。さゆには愛のが大切だと思う。」

そっか。って納得できるほど簡単なことではない。

「うちね、もう直ぐアメリカ行くことになると思う。」
「へっ?」
「バスケね。頑張ろうと思って。さっきも言ったでしょ。結構、環境が変わったの。」
「あぁ。うん。」
「のんちゃんの後ろにずっとくっ付いてたからさ。離れてみたら結構、自由に動けたっていうか、そんな感じでさ。」
「そ、そうなんだ。」
318 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 14:01
何で、こんなに動揺しているんだろう。
まこっちゃんは、なんとなくずっと変わらずそこにいると思ってた。

「ってことで、これから英会話教室あるから行くね。」
「あ、うん。」
「今日は奢るね。」

まこっちゃんは伝票をもって笑顔を見せていってしまった。

なんか、皆に置いていかれてる。
私だけ、何も変わってない。
319 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 14:01
 
320 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 14:01
ココアが残り半分になったころ「つかれたぁ。」と呟きながら向かいの席に絵理がやって来た。

「お疲れ。」
「ココア、美味しい?」
「うん。」
「良かった。」

ふにゃっと笑う絵里。
絵里はいつも、そう。
なんだってこの笑顔で片付けてしまう。
ある意味、羨ましい。
深いところまで何も考えない。

「吉澤さん、どう?」
「元気になってきたよ。」
「そっか。」
「会いたい?」
「んー。会えれば。」
「行く?」
「行かない。待ってる。」
「絵里は、ずるい。」

絵里はまた、ふにゃっと笑う。
321 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 14:02
「だってさ、絵里が会いにいったら絵里じゃないじゃん。」
「はぁ?」
「絵里はさ、こう・・・なんていうのキャラ的に待ってるタイプだし。やってあげるよりしてもらうタイプなんだよ。だから行かない。」

絵里的にはそれで解決なのだろう。
吉澤さんが会いに来なかったらそれで終わり。
終わり。を決めるのは絵里の気分次第なんだろう。

「じゃぁ。さゆみが連れてく。」
「それはダメだよ。吉澤さんの意思じゃないもん。」
「連れてく。言ったからね。」
「へっ?」
「ご馳走様。」
322 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 14:02
ファールはしない。
これは、ファールじゃない。


ポカンとしている絵里を残してさゆみは店を出た。
323 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 14:02
 
324 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 14:03
まこっちゃんにお願いして藤本さんと会う機会を作ってもらった。
一緒に行こうかと言ってくれたまこっちゃんを断った。

これはさゆみの問題だから。
まこっちゃんが指定した店には待ち合わせ時間よりも30分早く付いた。
時間通りにキョロキョロしながら店内に入ってきた藤本さんを見つけて立ち上がる。
藤本さんは「あっ。」と口を動かしてやってきた。

「及び立てしてしまってすみません。」
「暇してるから、気にしないで。」
「膝の調子はどうなんですか?」
「うん。まぁまぁ。っていうか、何か食べよう。お腹すいた。」
「はい。」

藤本さんは突然、用件も聞かされずに呼び出されたのに気を悪くしている様子もなく子供みたいにメニューに視線を向けた。
325 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 14:03
「道重さんは?食べてきたの?」
「いいえ。」
「じゃ、食べちゃう?っていうか一人だと食べづらいから食べてよ。」
「はい。」
「美貴、これにしよぉ。決まった?」
「あ、えっと、はい。」

思わず、苦笑をもらしてしまった。
自分が決まったら、相手も決まっているのが当たり前。
自分がそうだから、相手もそうに決まってる。

「雑誌読んだ?あ、読んだから膝のこと知ってるのか。」
「はい。吉澤さんも読みました。」

藤本さんは一瞬だけ眉を寄せた。

「よっちゃん、元気?」

元気です。とは答えられない。
けれど健康面に問題があるわけでもない。
返答に困る。
326 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 14:04
「元気じゃないの?」
「その、元気は元気です。ちょっと環境に変化があって。」
「変化?」
「れーな。分かります?」
「れーな?」
「田中、れいな。方言の。」
「あぁ。きつそうな子。」
「亡くなったんです。」

藤本さんは何て答えていいのか分からない様子で口をつぐんだ。

「吉澤さんはれーなの命が短いことを知ってて側にいました。れーなは吉澤さんにとって恋人とは別にとても大切な存在だったんです。それで今、恋人の絵里とも一緒に居ません。」
「それって、亀井さんからしてみれば自分以外にもって・・・そういうこと?」
「そうれだけではないんですけど。色々あって。今、さゆみが一緒に居ます。」
「はっ?」
「あ、別に恋人とかそういうんじゃなくて。吉澤さん、ひとりには出来ないし、ひとりにさせたくないし。さゆみも吉澤さんの側に居たいと思ってるから。」

藤本さんは何も言わずじっとさゆみに視線を向けてきた。
327 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 14:05
「で?今日はそれを伝えに?」
「1つは。」
「他には?」
「雑誌、読んだので・・・。あんなふうにメッセージを送られたら吉澤さんと会ってもらわないとさゆみも困るんです。」
「なんで道重さんが?」
「吉澤さんとずっと一緒に居たいと思ってるから。今の弱ってる吉澤さん、藤本さんのメッセージを読んで会わずにいたらきっといつか後悔してしまうから。後戻りはして欲しくないんです。」
「それって、美貴にも好都合って思ったほうが良いわけ?」
「そう、なんじゃないですか?吉澤さんと別れたと言っても藤本さんにとってバスケは吉澤さん・・・でしょ?」
「そう、だね。凄いね、なんでも分かるんだ。」
「分からないことも多いですけど。吉澤さんのこととその周りのことは分かります。」
「なんで?」
「前にも言ったと思いますけど?」
「よっちゃんと同じだから。だっけ?」
「はい。」

藤本さんはため息をひとつ零した。

「で?美貴はよっちゃんと会えるの?っていうか許可を得ることもない、よね。」

確かに、許可を得る必要なんてない。
でも、さゆみは頷かなかった。
328 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 14:06
「ダメ、なわけ?」
「条件が1つ。」
「なに?」
「絵里も、亀井絵里も一緒に。」
「美貴と2人ではダメってこと?」
「はい。」
「どうして?」
「さっきも言いましたけど、吉澤さん今凄い弱ってるんです。誰かにすがりたい気持ちがいっぱいなんです。」

藤本さんは暫くさゆみを見ていた。
自分でもズルイことは分かってる。
弱っている吉澤さんと一緒にいるのだから。
でも、藤本さんも絵里も一度、吉澤さんを裏切っている。
さゆみはそんなことしない。

「じゃ、なんで道重さんは側にいていいわけ?」
「絵里が側にいるんであればさゆみは居ませんでした。でも絵里がいないから。」
「なんで、道重さん?」
「吉澤さんの気持ちを一番理解できると思う。」

誰よりもきっと。
さゆみも吉澤さんも愛に飢えてるから。
329 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/08(木) 14:07
「わかった。で?いつ会えるの?」
「あした。絵里がバイトしている喫茶店で13時。大丈夫ですか?」
「暇だからね。」
「我侭ばかり言ってすみません。」

さゆみが頭を下げると藤本さんは伝票を持って立ち上がった。

「ここ、私が払います。」
「高校生に払わせるほど、落ちぶれてないから。」

藤本さんは苦笑してからレジに向かっていった。
330 名前:clover 投稿日:2009/01/08(木) 14:14
>>308-329 48.バイオレーション

本日の更新以上です。

明けましておめでとうございます。
昨年はお世話になり、読んでくれている方々には感謝でいっぱいです。
そして、昨年に終わらせると言っておきながら実行できず申し訳ないです。
今年こそ・・・と言っても残りあと1回なので終わると思います。

今年もよろしくお願いします。

>>307 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
あと、1回ですのでよろしくお願いします。
待ってて頂き、感謝です
331 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/09(金) 00:23
とうとう次がラストですか・・・

淋しくなりますね・・・
332 名前:ももんが 投稿日:2009/01/09(金) 08:04
更新お疲れ様です。
これでまたさゆが大好きになりました。
次で最後ということなので、次回楽しみにしています。
333 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/10(土) 02:06
更新お疲れ様です。
いよいよ次でラストですか。
寂しく感じますが、どのような終わりになるのか楽しみにしてますね。
334 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:26

49.ルーズボール
335 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:27
外に出ることを拒んだうちを決心させてくれたのは多分、重さんが最後に言った言葉だと思う。

「さゆみはどんな情況になっても吉澤さんの側にいます。れーなのように。」
その言葉はうちととても安心させてくれた。
結局、うちは一人が苦手なだけ。
誰かに側に居てもらわないと生きていけない人間っていう
ずるくて最悪な人間なんだ。
336 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:28
亀ちゃんがバイトする店に行くのはとても久しぶりで
重さんとこうして歩いていく日が来るとは思っていなかった。

「吉澤さん。」
「ん?」
「勝手なことして、本当にごめんなさい。」

ずっと無言で歩いてきたけれど、店の前に立ったとき重さんはそう言って目を伏せた。

「いいんだ。自分じゃどうにも出来なかっただろうから。感謝してる。」

もう直ぐ、
うちら4人が席に付いた後、試合終了のホイッスルがなるはず。
誰がブザービーターになるのだろう。
うちというボールは誰のリングに吸い込まれるのだろう。
337 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:28
「いらっ・・・。」

ドアを開けると直ぐに聞こえてきた声は随分久しぶりに聞く声だった。
声の主に視線を向けると驚いている表情の亀ちゃん。その隣にはガキさんもいた。

「絵里、もう直ぐ休憩、だよね。昨日、店長さんに教えてもらった。」

亀ちゃんは困ったようにそれでも笑みを浮かべてうちを見て頷いた。

「ガキさん、さゆみ、アイスティー。」

重さんに視線を向けられて「アイスカフェモカ」と答えながら
亀ちゃんに視線を向けると亀ちゃんは頷いた。

「2つでお願いします。」

うちがそういうとガキさんは「はい。」とただけ答えて作業をしただした。
ポケットから財布を取り出し千円札を1枚レジに出す。
隣で重さんも財布を出すのが見せたので「いいよ。」と呟いた。
338 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:29
「お待たせしました。」

ガキさんがトレーにカップを3つ乗せて差し出すと千円札をとりレジを打ち、レシートとおつりをうちの手に乗せた。
その間、ガキさんはうちと視線を合わせないようにしているのがよく分かった。

「亀、休憩はいっていいよ。」
「うん。」

1時までまだ15分ある。
ガキさんの気遣いにうちは軽く頭を下げた。
339 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:30
亀ちゃんが先頭で席に向かって歩いていく。
一番奥の席が良かったのだろう。
でも、その席は先客が居た。
亀ちゃんは店内を見回して逆に一番手前の席を選んだ。
周りに客が居ない席。

気まずい話になるのだろうと予想しているのだろう。

3人で席につくとやはりそんな空気が漂った。
うちの隣に重さんが座ったからだ。
いや、うちが・・・そうさせた。
先に座った亀ちゃんの向かいにうちが座ったからだ。

「絵里。」
「ん?」
「もう少ししたら、藤本さんも来るから。」
「へっ?」

亀さんはどうして、とういう表情でうちに視線をおくる。
でもそれに答えたのは重さんだった。
340 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:30
「さゆみが呼んだの。雑誌、見た?」
「ガキさんに見せてもらった。」
「ちゃんと、藤本さんの口から吉澤さんに伝える機会が必要だとさゆみが思ったから勝手に呼んだの。」
「ねぇ。さゆ。」

亀ちゃんは微笑みながら重さんを見た。

「なんで、さゆがそこまでするの?」
「吉澤さんを愛し始めたから。」

重さんの言葉は一瞬にして亀ちゃんの表情から笑みを消し去った。
なんとなく、うちは気がついていた。
この子はうちをそう思っていると。
341 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:31
「こちらです。」

沈黙の中にガキさんの声が聞こえてきた
視線を上げるとガキさんと美貴が立っていた。

「ありがと。なんか凄い空気が漂ってるんだけど。」

美貴はそう言って亀ちゃんの隣に腰を降ろした。

「これで美貴に飲み物を。」

500円玉を差し出すとガキさんは頷いてそれを受け取った。

「はい、何にしますか?」
「アイスカフェオレ。」
「はい。」

ガキさんが頭を下げて去っていくと美貴と視線がぶつかった。
342 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:32
「ごちそうさま。」
「あ、うん。」
「で?話しってもう始まってるの?」

美貴の視線がうちから重さんに向けられた。

「今、丁度さゆみが吉澤さんを愛し始めてるって宣言したところです。」

美貴は「はは。」と笑った。
それから大きく息を吸い込んでゆっくりと息を吐き出した。

「はぁ。もうなんかさ。負けるわ。道重さんには負ける。亀井さんにも負けたけどその上行くわ。よっちゃんのことなんでも分かる人にそんな宣言されたらどうしようもないじゃん。」

ガキさんが戻ってきて黙って美貴の前にグラスとおつりを置いて去っていった。
美貴はそれを一口飲んで視線をうちに向けた。
343 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:32
「よっちゃん。」
「ん?」
「美貴ね、膝を壊した。」
「うん。」
「バスケやめないといけない。」
「うん。」
「美貴からバスケ取ったら・・・何が残る?」

いっぱい、色んなものが残ると思う。
優しさとか頑張る気持ちとか諦めない気持ちとか・・・
バスケなんて色んなものを持ってる美貴の一つでしかなくて

「バスケなんてスポーツの一つでしかないじゃん。バスケやれなくなってもバスケに対してあった美貴の気持ちは美貴の中に残ると思う。」

美貴は「そっか。そうかもね。」と呟いて微笑んだ。

「何も残らないならさ、あの頃、高校のころからやり直したかった。美貴が居てよっちゃんがいて梨華ちゃんがいて、楽しかったあの頃みたいにさ、三人で最初からやり直せたらいいなとか思ったんだけど。」

美貴はうちから重さんに視線を向けてため息をついた。
344 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:33
「こんな子が側に居るんじゃよっちゃんは美貴たちのところに戻ってくるわけないよね。」
「こんな子とか言わないで下さい。」
「っていうか、亀井さんとは話ついてるの?よっちゃんの隣に座ってるけど。」
「まだです。藤本さんが来て勝手にベラベラ話しだすから。」
「はぁ?美貴のせい?」

言い合う二人の横でうちは亀ちゃんに視線を向けた。
亀ちゃんの表情は俯いていて見えない。

「絵里?」
「んー?」

重さんの呼びかけに亀ちゃんがゆっくりと顔を上げて首を傾げる。

「それで、その。さっき言ってた話の続きなんだけど。」

向きなおった重さんに美貴が「美貴、居ていいの?」と問いかけた。
重さんはうちを見てから「どうぞ。」と答えた。

ある意味、ここ場で審判は重さんだ。
本当はうちがそうでないといけないのだろうけれど。
うちにはこんなこと出来ない。
こんな顔をしている亀ちゃんになんて言葉をかけていいのかも
亀ちゃんが何を考えているのかも分からない。
345 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:34
「絵里は、これからどうしたい?」
「なにそれ、その質問、おかしくない?」
「そうだね。じゃぁ。さゆみは、吉澤さんの側に居たい。ずっと。」

亀ちゃんが「そうなんだ。」と呟いてうちをみた。

「吉澤さんは、どうしたい?絵里、れーなの代わりは出来ない。」

うちは・・・。
亀ちゃんにバイバイという言葉をかけることは出来ない。
バイバイって言われた方の気持ちを知ってるから。
別れを言うなら亀ちゃんがこんなうちに愛想をつかして捨ててくれたほうがましだと思う。

346 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:35
「吉澤さんは、絵里に別れてなんて言えないよね。前に、れーなに言われた。吉澤さんは絵里に側に居てほしいから何も言わないって。それって、絵里が不安になったり傷ついたりするような言葉のことだと思った。けどねさっきずっと考えてたんだけど。別れの言葉もそれに含まれるなぁって。」

亀ちゃんは「気がついちゃった。」とうち微笑んだ。

「吉澤さん、優しいから。絵里にもう、家に来るなとかメールも電話もしてくるな。とか絶対に言わないよね。言える顔してないし。でもぉ。困ったことにれーなが居なくなってしまった。絵里はれーなの代わり出来ない。吉澤さんはれーなみたいに支える人が絶対に必要とかってなると絵里はどうしたらいいのかなぁ。今まで通りの絵里じゃ吉澤さんには役不足なんでしょ?今まで通りっていうのは無理なんでしょ?」

亀ちゃんと二人だけの生活をイメージしてみる。
きっと亀ちゃんは今までどおり、何も考えず全てのパワーでうちを愛してくれるだろう。
それが5年先、10年先・・・
きっと、社会とか制度とかが壁になることが出てくるだろう。
そんな時、うちは誰に頼ったら良いのだろう。
一人になる不安をだれが補ってくれるのだろう。

347 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:36
結局、うちは怖がりで弱い人間だから・・・
どんな情況になっても吉澤さんの側にいます。れーなのように。と言ってくれた重さんに頼るのだろう。

重さんに目を配らせてから亀ちゃんに視線を戻した。

「うちは、平気だよ。今までどおりでも大丈夫。亀ちゃんがそんなうちでも良いなら。」

亀ちゃんはフッっと微笑んで重さんに視線を向けた。

「さゆはれーなじゃない。れーなが絵里と吉澤さんと一緒にいるのは最初から当たり前だったけど、さゆは違う。さゆがこうやって吉澤さんの側にいるなら、絵里は居られない。」

亀ちゃんの言うことはもっともで、それが亀ちゃんを不安にさせるのであれば側に居てもらうわけにはいかない。
そうなるとうちはもう、どうしようもなくなって。
きっと亀ちゃんは・・・今みたく、うちと距離を置くのだろう。
重さんが居なければうちから行動することもなく、いつの間にかうちらの関係は終わってしまうのだろう。

「重さんは側にいないよ。亀ちゃんが側にいるなら。」

隣で重さんの視線が向けられたのが視界の端に分かった。
亀ちゃんがうちに視線を戻すのをまってうちは微笑んで見せた。

「亀ちゃんが嫌だっていうことをうちはしない。」
「じゃ、誰に支えてもらうの?」
「誰にも支えてもらわない。それでもうちで良いって言ってくれるなら、だけど。」

348 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:37
絵里には無理だと思った。
これで、さゆみが吉澤さんの隣に堂々といられる。
そう、思った。

絵里はフニャって笑った。

「良いよ。そんな吉澤さんで良い。」
「亀ちゃん。」
「れーなの変わりはできないけど。絵里がいる。絵里はずっといる。れーなと約束したもん。」

あぁ。
さゆみの入る隙はなくなった。
そう、思った。
向いにいた藤本さんがさゆみに視線を向けてきたが気がつかない振りをした。

349 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:37
「でもね、吉澤さん。」
「ん?」
「絵里、吉澤さんのこと好きだから。」
「うん。」

絵里はニコっとほほ笑んだ。

「好きだから、絵里からバイバイって言う。」

吉澤さんは何も言わず、ただ、絵里を見ている。

「吉澤さんは絵里よりも、もっと吉澤さんのことわかる人のがいいよ。」
「亀ちゃん。」
「さゆは、れーなみたいだし、絵里みたいだし。丁度、いいと思う。」

吉澤さんは何も言わなかった。
絵里はさゆみに視線を向けると微笑んだ。

350 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:38
「さゆ。」
「ん?」

入る隙がなくなったと思っていたのに、この急展開に思考が鈍る。

「これからも、遊ぼう。パーティもやろうね。絵里も早く吉澤さんよりかっこいい相手見つけるから。」
「絵里。」
「あ、でも絵里が見つけちゃったら、またガキさん一人で僻むかもね。」

フヘヘと絵里は笑って見せた。

「なんか、あれ、もう決着付いた感じ?」

藤本さんがさゆみを見ながらいう。

「まだ、吉澤さんの答えがないから。」
「それは、よっちゃんと道重さんのことでしょ。亀井さんはもう別れるって言ってるんだし、もうこれ以上ここに4人いる必要はないってことだよね。」
「それは、そうですけど。」

なんだか、2人になるのがちょっとだけ怖い。
吉澤さんが帰ろうとした藤本さんを呼び止めた。

351 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:39
「美貴」
「なに?」
「バスケ、美貴、教えるの上手かったよ。」
「教えたことなんてあったかな。」
「うちは美貴から教わった。指導者って道もあると思う。」
「そうだね、考えてみる。」

吉澤さんは頷いた。

「よっちゃん、あのさ。」
「ん?」
「美貴たちもたまにはさ、焼き肉パーティとかしようよ。」
「そうだね。梨華は元気?」
「うん。仕事はないみたいだけどね。」
「そっか。よろしく言っておいて。」
「うん。」

藤本さんは「じゃぁね。」といって帰って行った。

「絵里もそろそ戻らないと。」
「亀ちゃん。」
「ん?」
「亀ちゃんは素直だし面白いし、一緒にいて楽しかった。それにうちを信じてくれた。すごい感謝してる、ありがとう。」
「絵里も、すごい楽しかったよ。ありがとう。あとでれーなにお線香あげに行ってもいいかな?」
「もちろん、れーなも喜ぶよ。」
「うん。じゃぁ戻るね。」

絵里は去り際に「吉澤さんをよろしく。」と言い残しバイトに戻っていた。

352 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:40
「絵里っぽいっていうか・・・さっぱりしてるっていうか。」
「亀ちゃんらしね。」

吉澤さんは仕事をしている絵里を見て微笑んだ。

「打算とかなんもない、純粋な子。うちなんかにもったいなかった。」
「それって、さゆみに失礼じゃない?」
「そうだね。ごめん。」
「でも、確かに、さゆみは絵里より純粋じゃないけど。」

吉澤さんは「確かに。」と呟いて二人でほほ笑んだ。

「でもね、吉澤さん。」
「ん?」
「バイバイっていう方も、場合によってはバイバイって言われる方より辛いと思うの。」
「そう、だね。」
「絵里は、見た目よりもとても強い子なのかも知れない。」

353 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:40
354 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:41
重さんは毎日うちに来て夕飯を一緒に食べてからうちが家まで送っていく。
そんな生活を送るようになっても半年以上。
重さんを家に送る途中に何度か亀ちゃんに会ったこともある。
気まずい雰囲気はない。多分、お互いに。
新年を重さんと二人で迎えた。
それかられーなのお墓に行った。
れーなはこんなうちらをどう見ているのかなんて言いあいながら。

受験生の重さんは勉強はうちでするようになり、いつの間にかうちは家庭教師になっていた。そんな日々も楽しく過ごし、重さんは亀ちゃんたちが通う付属の大学ではなく、うちが働く会社の近くの大学に入った。

少しでも側にいたいからと言ってくれた重さんは言葉通り、時間が空くとうちに電話をしてくる。うちも時間が空いていれば近くで落ち合うようにしていた。
それはお互いに心のバランスをとる行動。
人一倍、誰かを必要とするうちらの大切な行動。
355 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:41
356 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:41
麻琴から重さんの携帯に大学に来てくれないかと連絡が入ったのは重さんたちの夏休み前の試験が始まるころ、来月には重さんの誕生日とれーなの1周忌が控えている時期だった。

「まこっちゃんがさゆみを呼び出すなんて10年早いの。」
「えぇ。なんで?」
「なんでってまこっちゃんだからでしょ。試験前で忙しいのに。」
「ちょっと、吉澤さん。なんとか言ってくださいよ。」
「麻琴だから仕方ない。」
「そんなぁ。」
「それより、用事ってなに?これからデートなの。」
「試験勉強じゃないのかよ。」
「試験勉強だって、デートだもん。」

麻琴は「良かったね。」と重さんに微笑んだ。
357 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:45
「なにがよかったのよ?」
「重さん幸せそうだから。」

重さんは「余計な御世話なの。」と言いながらうちの腕に腕を絡ませて微笑んだ。

「で、用事ってなんなの?吉澤さんだって忙しいんだからね。」
「1周忌の法要、呼んでもらって嬉しかったんですけど。」
「あぁ、悪いと思ったんだけどね、うちら二人じゃれーな寂しがると思って、亀ちゃんとガキさんと麻琴に声かけたんだ。」
「うち来月入ったら直ぐ、アメリカ行きます。だから出れなくて。」
「バスケやりに?」
「はい、4月から赴任したコーチがやり手で、冬から合流する予定だったんですけど、途中からより新学期から行った方が良いって色々、手続きしてくれたんです。」

うちは策に歩み寄ってコートを見下ろした。
そこには一人の学生に指導している美貴の姿があった。
358 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:47
「まこっちゃん、ガキさんには言ったの?」
「会ってないからね。留学するつもりだって言ってあるだけ。」
「言わないの?」
「うん。黙って行こうと思ってる。」
「ごめん、さゆみ今ガキさんと微妙で協力できないの。」
「いいの、いいの。うちの気持ちじゃ、ガキさんを踏み出させること出来なかっただけだから。うちがさ、一人で頑張ってるってこと風の噂程度にでも耳に入ってくれたら、それでガキさんも何か変わろうとしてくれたら嬉しいかな。」
「うん。」

二人の会話を聞きながら重さんに対して申し訳ない気持ちが膨らんでくる。
ガキさんとの仲が元には戻っていないことに。
359 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:47
「っていうか、まこっちゃん。」
「ん?」
「それだけ言うなら電話でもメールでもよくない?吉澤さんまで呼んで。」
「あ、それはうちのコーチがさ、こないだ飲みに行ったとき、ちょっとこぼしてて。」
「美貴、なんて?」
「たまに昔、よくやってた1対1を吉澤さんとやりたいって。」
「あぁよくやった。」
「恩返しっていうか、留学のことでお世話になったからそれくらいなんとか出来ないかなと思って。昔には戻れないってわかってます。それに、重さんにも許可っていうか必要かなって思って。」

戻ることはできない。
けど、懐かしむことは出来る。
重さんに視線を向けると微笑んでいた。
360 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:48
「さゆみ、見てみたいな。昔の二人。」
「それで、実は昔の雰囲気を出そうと思って。」

麻琴は悪戯っ子のような顔をしていた。

「なんだよ。言えよ。」
「石川さんも呼んでみました。ギャラリーのいつも居たでしょ。」
「あぁ。居たな。」
「あと、後藤さん。」
「懐かしいな。」
「石川さんに言ってみたら、協力してくれて、後藤さんとあと柴田さんも連れてきてくれるって、あと30分くらいで来ると思うんですけど。」
「そっか。」
「いいですか?」
「うん。ありがとな、麻琴。」

麻琴はほっとしたような表情をしていた。
361 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:49
「ねぇ、絵里も呼んでいい?」

重さんはそう言ってうちをみた。

なんとなく、わかった。
亀ちゃんだけじゃなくてガキさんもここに来てほしいのだろう。
麻琴のためにも自分たちのためにも。
362 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:49
363 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:49
まこっちゃんが吉澤さんを連れてコートに戻って行くと
藤本さんが驚いた顔をして何か話しかけているのが見えた。
二人はあれ以来、会ったりはしていないけれど
藤本さんからたまに近況を報告するメールが吉澤さんに届いている
吉澤さんたちの関係が前とは違った関係を築き始めている。
それは蟠りのないいい関係だと思う。
さゆみたちもそうでなければいけない。
そうでなければ吉澤さんは自分を責めてしまうだろうから。
364 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:50
「もしもし絵里?」
『どうしたぁ?』
「バイト終わってる?」
『うん、今、ガキさんと帰ろうかなって。』
「じゃ、まこっちゃんの大学きて。ガキさん連れて。」
『へ?』
「直ぐに来て、お願い。」
『あ、うん。わかった。』
「ガキさんも絶対にだよ。」
『まかして。』

絵里のまかしては頼りないけれど、絵里を信じて待つしかない。
365 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:50
コートではジャージに着替えた吉澤さんが端の方で柔軟をしていた。
こうやって吉澤さんを見るのは初めてかもしれない。
一緒にいるようになってもう直ぐ1年になる。
吉澤さんの側はとても居心地がいい。
辻さんとのときとは違う。
好きとか可愛いとか言葉にしてもらわなくても安心できる。
絶対的な存在。
吉澤さんにとってさゆみが
さゆみにとって吉澤さんが
お互いに居なければならない存在。
この1年でそれがよくわかった。

366 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:50
吉澤さんはたまに一人になりたくない夜がある。
でも、吉澤さんは何も言わない。
それでも、なんとなくわかる。
誰だってどうしようもなくさみしく感じる時がある。
ただ、さゆみも吉澤さんもそんな夜を独りで過ごせない。

さゆみが「今日は泊まろうかな。」とこぼすと吉澤さんはほほ笑んで「ありがと。」と言う。
逆にさゆみが一人になりたくない夜は吉澤さんが「泊っていかない?」と言ってくれる。
だからさゆみは「ありがと。」と言う。

そんな夜、さゆみたちは一つのベッドで体を寄せ合ってお互いの体温を感じながら眠る。
吉澤さんと体を重ねたことはない。
ただ、お互いの体温を感じられれば、存在を確かめられれば
自分たちは一人ではないと確認できれば十分なんだ。
そして、お互いを思いやり、愛する。
367 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:54
「さゆ。お待たせ。」
「ごめんね。急に呼び出して。」
「ちょっとぉ。何なのよ。」

絵里の後でガキさんがふくれっ面をしていた。

「ガキさんも居た方がいいと思って。」
「何にが?」
「藤本さんと吉澤さんが1対1やるから。」
「うっそ。」

嬉しそうに驚いた後にばつが悪そうに横を向くガキさん。

「それと、まこっちゃん来月、アメリカ行くって。」
「うそ。」
「本当はガキさんに言わないつもりだったみたいだけど。余計な御世話かもしれないけど知っておいたほうがいいと思って。今日、逃したらホントに会わないで行っちゃうから。」

さゆみに視線を向けたガキさんの表情は困惑していた。

「もしやもしや、絵里ってガキさん連れてくるために呼ばれた?」
「絵里、正解。」
「なんだよぉ。それ。」
「ごめんね。」
368 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:56
絵里は「別に暇だからいいけどねぇ。」と言いながら策に手をかけてコートを見下ろした。

「吉澤さん、さゆと付き合いだしてから絵里といたころよりもなんか表情が明るい気がする。さゆ、凄いね。」
「絵里も凄いよ。」
「えぇ。絵里凄いの?」
「吉澤さんのこともさゆみのことも許してくれて。」
「普通、じゃないのかな?」

さゆみは首をかしげながら受け流した。
絵里はもしかしたら、愛という大きな塊なのかもしれない。
人を信じ、愛し、許し、解り合える・・・。

「普通じゃないから、普通、怒るし今まで通り仲良くなんてできないでしょ。」

ガキさんが凄い剣幕で絵里に言った。
絵里は「コワっ。」と言いながらまたコートに視線を向ける。

「でも、好きな人が幸せなら怒ることないし。絵里はさゆのことも吉澤さんのことも好きだから。」

絵里はほほ笑んでそう言うとガキさんに振り返った。
369 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:57
「ってかなんでガキさんがそんなに怒るわけ?絵里ずっと気になってたんだけど。」
「なんでって、普通怒るでしょ。恋人取られたんだよ。」

ガキさんはさゆみを気まずそうに見ながらそういった。

「取られてないから。話したじゃん。絵里がバイバイ言ったんだよ。」
「それは田中っちのことがあったときさゆが・・・。」
「あの時、さゆは吉澤さんの気持ちわかった。でも絵里は分からなかった。だから仕方ない。絵里さぁ。最近思うんだけど。好きって気持ちだけじゃ、一緒にいるのに限界あるよね。だって、ガキさんとさゆと一緒にいるのだって、お互いの性格とか気持ちとか多少は分かってて一緒にいるじゃない。それがなかったら居られないよねぇ。まぁ、絵里も少しは大人になったということで、ガキさんもそんなに怒らないでここは一つ、大人になろうよ。ねっ。」
「ねって、あんたねぇ。」
「まぁまぁ。絵里たちももう直ぐ二十歳なんだから、ねっ。ガキさんもさゆと元通りになろうよぉ。気まずいと絵里も困るし。」

ガキさんははぁーと溜息をついてベンチに座った。

「ガキさんも恋愛してみれば、少しは絵里の言い分も分かってくれると思うんだけど。」

絵里の言葉にガキさんは黙っていた。
370 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:57
「あれ、あれ、あれ。」

急に高い声がしたのでさゆみたち3人は驚いて振り返った。
そこには凄い笑顔の石川さんが居た、その後ろには2人の女性。
まこっちゃんが言っていた後藤さんと柴田さんだろう。

「よっちゃんの元恋人と現恋人が一緒にいるとは、そして、そしてあのコートにはさらに元恋人どうしがいるのねぇ。」

ハイテンションの石川さんは策を乗り越えるんじゃないかという勢いで策から体を乗り出した。

「美貴ちゃん、よっちゃん頑張ってね。」と大声で叫び手を振る。

「相変わらず、空気読めないっていうか。」
「それが、石川先輩だからね。」

後藤さんと柴田さんが後で話している声が聞こえてくる。
吉澤さんと藤本さんは苦笑しながら手を振っていた。
371 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:58
372 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:59
まこっちゃんがポンとボールを投げると吉澤さんと藤本さんの1対1が始まった。
私にとってそれはとても興味のあるゲームのはず。
それなのに、私の視線はゲームをする二人ではなく、そのゲームを見守るまこっちゃんを追っていた。

「さゆみなら、追ってアメリカ行くな。」

右隣でさゆが呟いた。

「絵里は追わないな。待ってていいか聞く。それで良いってて言われたら信じて待ってる。ダメなら、それで終わりだな。また縁があったら・・・かな。」

左隣で亀が呟く。
373 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:59
私は・・・

「私のこと、好きなら行かないで。ここに居て・・・。」

呟いたら二人の視線に挟まれた。
それでも私の視線は、まこっちゃんから外れることはない。

「まこっちゃんの夢は無視?」

さゆの質問に私は答えなかった。
愛してるなら。
全てを犠牲にしてでも愛してほしい。
それくらいの保障がないなら、リスクが大きすぎる。
374 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 19:59
うちのシュートが決まったところでうちはボールを持って一息ついた。

「もう、休憩?」

美貴の質問にちょっとだけ頷いて見せた。

「麻琴」
「はい?」
「ガキさん、来てるぞ。」
「はい?」
「重さんが呼んだんだ。」

麻琴はさりげなくガキさんを確認するだけだった。
うちはドリブルを始めた。
美貴もガードするような仕草をしてくれた。

「なに、麻琴あんた、好きな子いたの?」
「まぁ。一応・・・。」
375 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 20:00
ガキさんに気がつかれないようにゲームをしている振りをしながらうちらは会話を続けた。

「なにも言わずに行くらしいよ。こいつ。」
「そうなの?それってどうしてよ。」
「まだ、別に何もないから。友達ってだけだから。そういうこと言う必要ないかなって。」
「言うタイミングがなかっただけじゃなくて?重さんせっかくそれ作ってくれたんだぞ。」
「ガキさんは、きっとまだ付き合うとかそういうの望んでないから。傷つくことばかりを気にしてるから。」
「だから、ガキさんに告白もしないわけ。」
「自分にもっと自信をつけてから。自分にもっと余裕が持てるようになってから。そう思ってアメリカ行くことにしたんです。」
「美貴みたいに、帰ってきたら・・・ってこともあるんだよ。」

うちが、足を止めると美貴はうちがコントロールしていたボールをポンと弾いた。
トン、トン、トン・・・とバウンドしながらボールは転がった。

「そんときはそんときです。」

麻琴はそう言い残してボールを拾いにいった。
376 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 20:01
「亀井さんも含めて最近の子ってサバサバしてるんだね。」
「そうじゃないよ。」
「じゃ、なに?」
「みんな、自分に合った相手を探してるんだよ。」
「あった、相手ねぇ。」
「そっ。」

麻琴からボールを受け取って指の先でクルクルと回す。

「相変わらず上手いね。」
「皆さ、自分を一番上手にコントロールしてくれる相手、探してるんだ。」

美貴はうちの指の先からボールを奪う。

「美貴も早く見つけたいは。」と呟き、ポンポンとバウンドさせてからポンとボールを投げた。
377 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 20:01
それは綺麗な孤を描きリングに吸い込まれるように入っていった。
ギャラリーからひときわ高い声の歓声が聞こえてくる。
美貴とうちは苦笑しながら顔を見合わせた。

「案外、近くにいるのかもよ。」
「もしかして、あれ?」
「さぁ。」
「でも梨華ちゃんはよっちゃんを好きだったんだよ。」
「錯覚、してたのかも知れないよ。」
「錯覚?」
「美貴の感情と、自分の感情。」
「そんなこと、あるわけ・・・。」
「あるかも知れないよ。美貴の気持ちが解りすぎて、ってことも。」
「本当に?」
「さぁ。それが本当かどうかはこれから美貴たち自身が確かめないと。」
「あのボールはすごい扱いづらそうなんだけど。」
「確かに。」

うち等が梨華を見て笑うと梨華は首をかしげていた。
378 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 20:01
「みんなも一緒にやりませんか?」

隣から麻琴の大きな声が聞こえる。
ギャラリーは互いに顔を見合せながら動き出した。
379 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 20:01
380 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 20:15
コートの中で知っている顔が笑顔でひとつのボールを奪いあっている。
そんな中で、ボールを手にしたガキさんが麻琴にボールをぶつけた。
驚いた顔をしている麻琴をよそに、転がったボールを拾ってまたぶつける。

「痛いって。」

うちを含めてみんな足を止めてそんな二人を見ていた。
ガキさんがまた、ボールをぶつけようとしたとき、慌てた様子で亀ちゃんがガキさんの手をつかんだ。
381 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 20:16
「ちょ、ちょ、ガキさん?何してんの?ボールは人にぶつけるもんじゃないって知ってるでしょ?」

転がったボールを麻琴が拾いに向かった。

「何で、何も言わないのよ。好き、みたいなこと言っておいて、黙っていなくなるってどういうことよ。」

ガキさんの言葉を背中で受け止めながら麻琴はボールを拾った。
そして振り返った麻琴は満面の笑みを浮かべていた。
382 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 20:17
「待ってて、って言ったら、ガキさんはきっと約束なんて出来ないって言う。でも、真面目なガキさんは待ってて言葉が気になってまた恋愛に対して踏みとどまるでしょ。一緒に行こうって言ったら、きっと自分勝手だって言うだろうね。私の気持ちは無視なのって。」

驚いた顔をしているガキさんとは対称的に麻琴は落ち着いた表情をしていた。

「きっとね。行くなって言うでしょ。ガキさんにとって愛とか恋ってそういうもんだと思ってるから。好きなら、側にって・・・。それでもいいかなって最初は思ってたよ。いつかガキさんと付き合えるならって。でもね。人は成長しないと・・・幸せになんてなれないと思うんだ。成長しないと、相手の気持ちもわかってあげられない。だからね。何も言わずに行くつもりだったんだ。成長したって実感して自信付けて戻ってくるから。そこから始めないと何も進まない気がするんだ。」

ガキさんは指で涙をぬぐった。

「勝手に好きだとか言ってきて、勝手に自分の中で結論出さないでよ。」
「そう、だね。ごめん。でもきっとね、ガキさんもうちも今を乗り越えたらきっと幸せになれると思うんだ。二人で一緒にか、それぞれにか・・・それは今は分からないけど。」
「ホントに?」
「多分。」
「あはは、多分なの?」

ガキさんはいつの間にか笑顔になっていった。
383 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 20:17
「ってことでガキさん。」
「なによ。亀。」
「絵里と二人、新しい、恋の相手を探そうぜぃ。」
「探そうぜぃ、じゃないから。」
「だって、だって。ねぇ。さゆ。」

亀ちゃんはうちの隣にいた重さんのところにやってきて、肩を組んだ。

「人は、一人じゃ生きられないんだもんねぇ。」
「そう、絵里の言うとおりなの。」

二人が微笑むとガキさんは困ったように、それでも笑みを返していた。


384 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 20:17
385 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 20:19
人は結局、一人で生きていくことなんて出来ない。
喜び、悲しみ、楽しさ、虚しさ・・・色んな感情をたった一人で耐えられる人間なんて居ない。
耐えようと頑張っても、きっと行きつく先は諦めや絶望。
そして、きっとそれぞれから逃れようと別の世界へ行こうとする。
きっと誰も自分の気持ちなんてわかってくれない。
そう、思いながら・・・

同じように感じる相手を、まるで相手が自分のような・・・
そんな相手を見つけられたら幸せだと思う。

だから、みんなそこらへんに転がってるボールを拾って確かめるんだ。
自分のものかどうか。
自分のものが見つかるまでずっと・・・。
ルーズボールを追い続ける。
386 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 20:21
387 名前:ルーズボール 投稿日:2009/01/31(土) 20:21
END
388 名前:clover 投稿日:2009/01/31(土) 20:32
>>334-387 49.ルーズボール
本日の更新以上です。

これで、一応、完結となります。
長い間、ありがとうございました。
前スレを立てたのが2007年2月・・・。
約2年前・・・。

やっぱり、登場人物が多いのはキツイなと途中で後悔をw
それでも、読んでくださっている方の励ましで何とか終わりました。
お付き合い頂いた方々、本当にありがとうございました。

次書くのであれば、短いのを・・・と思うばかりですw
というか、気分転換に、いくつか書いてあるのがあるので
それをアップ出来ればと思ってる感じです。

>>331 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
何とか、終わりました。
お付き合いありがとうございました。
また、次の機会がありましたらよろしくです。

>>332 :ももんが 様
いつも、レスありがとうございます。
最初から最後までお付き合い頂き感謝、感謝です。
また、次の機会がありましたらよろしくです。

>>333 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。
やっと終わりました。
お付き合いありがとうございます。
また、次の機会がありましたらよろしくです。
389 名前:ももんが 投稿日:2009/01/31(土) 22:59
完結おめでとうございます。
そう来たか!!と思わず唸ってしまいました。
亀ちゃん大きいよ、と言わせてくださいw
やはりこの道重さんは大好きですね。
次の機会をまた楽しみにしております。
390 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/01(日) 02:17
完結おめでとうございます。

みんな、人間くさくて、すごく素敵でした。本当にいいお話でした。

自分のボキャブラリーの無さが恥ずかしいですが、とても感動しております。

ありがとうございました。
391 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2009/02/01(日) 09:02
素晴らしいストーリーをありがとうございます。
また最初から読みなおそうかと!
長編小説お疲れ様です。
たくさんの涙と感動を本当にありがとうございます。
392 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2009/02/01(日) 09:03
すいませんageてしまいしたorz
393 名前:ウイング 投稿日:2009/02/03(火) 20:12
ある作品でcloverさんの文章に恋に落ちてからかなりの期間がたちますが、
初めてコメントします。

今回もとても感動的で、かつ考えさせられる作品でした。
完結、お疲れ様でした。
そしてありがとうございました。
また、こんな作品に出会えることを楽しみにしています。
394 名前:clover 投稿日:2009/02/09(月) 22:26
レス返しさせていただきます。

>>389 :ももんが 様
レスありがとうございます。

何とか、終わりました。
長い間本当にありがとうございました。

ラスト、かなり迷いました。
吉澤さんと亀井さんか
吉澤さんと道重さんか
どちらもなしか・・・。

でも、吉澤さんと亀井さんにすると
また長くなりそうだったのでw

自分も今というかルーズボールを書きだして
道重さんが上がってきてますw
なので途中で書いてた短編もその影響がw

またよろしくお願いします。

>>390 :名無飼育さん 様
レスありがとうございます。

本当はもっと細かく一人一人のストーリーを書きたかったんですけど。
時間もなかったのでかなりダラダラになってしまいましたが
そう言っていただけるとありがたいです。
今後もよろしくお願いします。


>>391 :名無し募集中。。。 様
レスありがとうございます。
読み直すと辻褄合わないこととか出てきそうなのでw
お勧めしませんがwありがとうございます。

またよろしくお願いします。

>>393 :ウイング 様
レスありがとうございます。
ウイングさんはこの板で書かれてる作者さんでしょうか?
ある作品・・・どれだろう、気になりますがw

最後の方はグダグダだったんですが。
そう言ってもらえると救われます。
ありがとうございます。

またよろしくお願いします。
395 名前:clover 投稿日:2009/02/09(月) 22:29
ルーズボールを書いている時に
気分転換に書いた短編があるのでアップしたいと思います。

主人公と4人のお話です。
ちなみに主人公の性別が男性になってるので
お嫌いな方は読まずにスルーしてください。
396 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:32
0.プロローグ
397 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:33
自分のことを説明しろ。
そう言われたらきっとこう答える。

女にだらしない。

この一言で片付く。
ただ、それは僕を知らない人が僕の行動を3・4日観察したらの話だ。

本当の僕は女にだらしないなんて思っていない。
見た目は結構、いい男らしく声をかけてくる女は多い方だと思う。
仕事をしていても、女に誘われることは少なくない。
女にだらしなくないと言うのはそんな安い誘いに乗ったりしないから。
398 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:33
誰か一人に縛られるのは何か違う気がするんだ。
たとえば、結婚とか。

私を幸せにして。
娘を幸せにしてあげてくれ。

そう言われて、幸せにします。と答える男に聞きたい。
そんな保障はどこにあるんだ、と。

結婚生活の中で不安にさせることや悲しませることだってあるだろう。
一時の幸せを約束するなら結婚なんて無意味じゃないか。


結婚する条件に年収を聞く女に聞きたい。
君にとっての結婚に愛は必要ないのか、と。

裕福の中に幸せはあるかもしれない。
でもきっと、その相手は君を社会の中のアイテムの1つとしか思わないだろう。
妻がいる。家庭がある。そんな風に社会に示すためのアイテム。
君はそれを幸せっていうのか。
399 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:34
愛 イコール 結婚
幸せ イコール 結婚
そんな方程式は成り立たない、と思う。
ましてや、結婚 イコール 勝ち組 とか 未婚 イコール 負け組
とかバカバカしいと思うんだ。

別に、結婚という契約を否定しているわけじゃない。
ただ、僕は興味がないだけ。

愛ってものが目に見えて商品として存在したらよかったのに。

きっとさ。
ほら、これ見て、愛だよ、って相手に見せられたら
嫉妬とか憎しみとかそういう感情も生まれないんだと思うんだ。

それらの感情ってすごく醜いものだって思う。
それに人を壊していく。
400 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:35
愛っていうのは色んな種類があるから。
だから僕は、誰か一人に縛られることはしない。
我がままって言われるかも知れないけどね。
でも、僕と同じように色んな種類の愛を
それぞれの男に1つを求める女は存在する。

だから僕はそんな女だけを相手にするんだ。
もしかしたら、その女たちのなかで
僕に求める愛の種類が変わってしまって
いつか言うかも知れない。

他の子と別れて。彼女にして。結婚して・・・
そしたら僕は、吉澤ひとみは・・・
401 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:35



1.ストルゲー
402 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:36
渋谷駅の西口を出てタクシー乗り場を横目に歩いく。
すぐに見える歩道橋の階段を上ると横には高速道路、下には246。
車の通りが激しく騒々しいこの場所が僕と親友の待ち合わせ場所。

待ち合わせ時間より15分前に着いた僕は歩道橋に寄りかかり行き交う人を眺めた。

小さな男の子が人ごみから逸れまいと姉らしき女の子の手をしっかりと握っている。
女の子は男の子が人にぶつかったりしないように何度も横を確認しながら歩いている。

そんな二人を見ながら僕の頬はなんだか緩んでいた。
403 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:37
僕の職業。それは女性を美しくすること。
メイクアップアーティスト。
まだ、若いといわれる年だし、この業界じゃひよっこかもしれないけれど
腕は評価されているらしく仕事はそれなりにある。
この仕事に就こうと思ったのはとても早い時期だったと思う。
理由は簡単。姉の影響。
僕の顔は姉曰くとても美形だそうだ。
自分の姉を自慢するわけじゃないが彼女もとても美しい人。
顔だけでなく振舞い方も含めて。

幼い頃、僕は姉に聞いたんだ。
「どうしてお姉ちゃんだけお化粧するの。」と。
姉はこう答えた。「女の人はいつだって綺麗なままで居たいと思うの。」
だから僕は大好きな姉をいつか僕の手で奇麗にしてあげたいと思ったんだ。
404 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:37
今はもう、嫁に行ってしまった、飯田圭織。
彼女を血の繋がった姉なのだと自覚したのは小学校に入ったころだった。
それまで僕はか彼女を母親だと思っていた。
幼稚園のころ自分の母親は他の母親に比べてとても若くて綺麗だと
内心、鼻高々だった。
僕の本当の母親は僕を産んだときに亡くなった。
だから、彼女が僕の母親代わりとなってくれた。
代わりではないかもしれない。実際、彼女は僕にとって母親と同じだ。

夜に怖い夢を見て寝付けないでいると
彼女はいつだって僕を優しく包み込んで眠るまで一緒にいてくれた。

「怖くないよ。圭織がいるから。守ってあげるから。」

そう言って、背中をいつも摩ってくれた。
僕は彼女といるといつだって暖かくて、優しくて、幸せな気分になれた。
405 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:38
僕が中学生になったころ。
大学生だった彼女が知らない男と一緒にいるとことを目撃した。
その日、僕の心の中で不思議な感情が湧きあがっていた。

様子のおかしな僕を彼女は仕切りに気にかけてくれた。

「よっちゃん。どうしたの?」
「別に。どうもしないよ。」
「どうもしなくないでしょ。さっきから、不貞腐れてる。」

そんな、悲しい顔をしないで。
大好きな人だから、そんな顔をさせたくないんだ。

「お願い、よっちゃん。どうしたのか教えてよ。」
「今日、一緒に居たの誰だよ。」

彼女は右上に視線を動かした。
しばらくしてから「あっ。保田君。」と言った。

「保田?どういう関係?」
「どういうって・・・。」

彼女はしばらく僕の顔を見てから「あぁ。そういうことか。」と微笑んだ。
406 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:39
「何がそういうことだよ。」

僕は彼女の微笑みになんとなく照れてしまい、怒ったように頬を膨らます。

「妬いてるんだ。よっちゃん。」
「はぁ。別に妬いてなんてないし。」

彼女はソファに座っていた僕の隣へとやってきた。
そしてギュッと僕を包み込んで言った。

「圭織に彼氏ができても、よっちゃんのお姉ちゃんには変わりないから。」

彼氏?今、彼氏と言った?

「よっちゃんが大人になるまで、圭織が守ってあげるから。安心して。」
「姉ちゃんのこと、僕が守る。」
「うん。ありがと。」

彼女が僕以外の人をこうして抱きしめていると想像しただけで
心の中に保田という人に対しての憎しみが湧き出てくる。
407 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:39
「じゃ、保田って人はいらないね。」
「ん?」
「だって、僕は姉ちゃんのこと大好きだから。僕がいるからいいでしょ。」
「んー。圭織もよっちゃんのこと大好きだよ。でも保田君も大好きなの。」
「二股じゃん。それ。」
「ちょっと違うかな。」

彼女は体を離して僕の頭を撫でた。

「よっちゃんが圭織に対して思ってくれてる愛はきっとストルゲーだね。」
「ストルゲー?」
「そう、肉親愛。ストルゲーはね。生まれついてみんなが持ってる愛情のことだよ。」

彼女は「よっちゃんは圭織が育てたようなもんだからそれがとっても深いんだね。きっと。」と微笑んだ。

「ストルゲーなら圭織もよっちゃんに対してもちろんある。大好きだもん。
 でもねそれは血が繋がってるから生まれる感情なんだよ。保田君に対する感情とはまた違うの。」

その日、僕は初めて知ったんだ。
愛っていうやつは色んな種類がるんだってこと。

彼女が僕に向けている愛情と保田という人に向けている愛情が違うんだと
そう、理解したとき、僕の中の憎しみは消えていた。
408 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:40


駅から歩道橋に向かって歩いてくる女性。
それが、僕の待ち人。
何十人といる人の中で彼女がどこにいるかすぐに分かる。
彼女の放つオーラがそうさせる。

帽子を深めに被り大き目のサングラスを掛けた彼女。
手入れのされた栗色の綺麗な長い髪を靡かせカツカツとヒールの音を響かせて階段を上ってくる。
409 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:41




2.フィーリア
410 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:41
「よっ。」

彼女は時計を見てからそう言った。
待ち合わせ時間を確認したのだろう。
過ぎていたら、僕にかける一言目が違ったのだろう。
でも、まだ過ぎていない。
だから、今の一言で終わったのだ。
彼女、後藤真希はそういう人だ。
気を使わないで良い、友達。

彼女とは高校が同じだった。3年間同じクラス。
そのころから彼女は今と違った形で他の生徒よりも目立っていた。

黒ぶち眼鏡に長い前髪でほとんど顔が見えない。
いつも、俯いて歩いているような子だった。
411 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:42
彼女にとって必要な学業というものは義務教育で十分だったんだろう。
別にきっと彼女にとって微分・積分とかどうでもいいんだ。
だから、彼女は授業中は机にうつ伏せて寝て居ればいい方で
屋上か保健室に居ることが多かった。
といっても、登校してくることが少なかった。
だから、クラスに友達と呼べる人間は僕だけだった。

彼女と友達になったのは入学してすぐのころだった。
メイクアップアーティストを目指していた僕は女性向けの雑誌を読むことが好きだった。
思春期に男がそういう雑誌を読んでいれば、やはり冷かされる。
だから僕はいつも屋上でそれを読んでいた。
そんなある日、彼女が声をかけてきたんだ。
412 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:42
「吉澤君ってそっち系なの?」
「いや・・・。」
「綺麗な顔してるもんね、その辺の子よりメイクしたら綺麗になるよね。」
「ちょっと待って、そっち系じゃないから。」
「違うの?」
「違う。」
「照れなくてもいいよ。ごとーそういうの気にしないから。偏見ないし。」
「だから、違うって。」
「メイクしてあげようか?」
「いいって。」
「照れなくていいのに。」
「違くて、したいんじゃなくて、してあげるのが好きなの。」
「メイクを?」
「うん。っていってもしたことないんだけどね。」
「ごとーにしてみる?」
「いいの?」

彼女は「暇だし。綺麗にしてね。」と微笑んだ。
413 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:43
メガネをとって前髪をあげた彼女の顔はとても綺麗だった。

「どうした?」
「いや・・・。」

どこかで見たことがあるような、そんな錯覚を覚え僕は彼女の顔を食い入るように見詰めた。
結局、思いだせず僕は彼女のメイク道具でメイクを始めた。

「あっ・・・。」僕はメイクを施している途中で思わず声を漏らした。

「んー?どしたの?」
「後藤さんって・・・。」
「真希でいいよ。」
「っていうか。」

僕は彼女の顔と持っていた雑誌を何度も見比べた。

「真希だよ。」

真希。それは、若者に大人気のモデルの名前。
半年くらい前に急遽現れたモデル。
年齢も出身地も本名も不明。
414 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:43
「よく、バレないね。中学の友達とかさ。」
「ごとー、普段はずっとこんなだったから。」
「そうなんだ。」
「最後まで、やってよ。」
「うん。」

僕が手を動かし始めると彼女は自分のことを色々話してくれた。
子供のころから、芸能界に憧れていたこと。
芸能人になることを前提に生きてきたこと。
だから、素性を隠すためにあまり人に顔を見せずにきたこと。

「だから、友達ができたのも初めて。」
「友達?」
「吉澤君。違うの?」
「いいや、違くない。友達。」


それからは僕にとっても微分・積分なんてどうでもいいものになった。
彼女が登校してくる日は僕は彼女と過ごすようになった。

雑誌の彼女のメイクをマネして、彼女にメイクをする。
でも、完成してもそれはすぐに落としてしまわなければならない。
他の人に彼女が真希だと知られないように。
415 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:43
いつだったか彼女は僕に言った。
「夢がかなったけど、たまにすごく疲れるんだ。本当の自分を隠すってことにさ。」と遠くを見ながら。

気兼ねなく言葉を交わせる存在でいよう。
冗談を言える存在でいよう。
素顔を曝せる存在でいよう。
救いの手を差し出せる存在でいよう。

フラッシュを浴びながら、一見華やかな世界で多くの人に曝されている彼女。
でも実は本当の彼女を知っている人は家族と僕だけ。
もしからしたら、彼女の本心を知っているのは僕だけかもしれない。

僕が存在するこで彼女が芸能界という世界にいられるのであれば。
416 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:44
今日は彼女と二人で半年後に始まるライブツアーの打ち合わせ。
高校を卒業した彼女は仕事の幅を広げた。
この仕事を始めた僕を彼女は度々、指名して使ってくれるようになり。
最近、独立した僕は彼女の専属として契約をしている。
僕がこの世界で名が売れるようになったのは彼女の存在があったから。

彼女は僕との打ち合わせを二人きりでやりたがる。
その方が気が楽だからと彼女は言う。

街をブラブラ歩き、時間になれば食事をとって
その中でアイデアを出し合って話を詰めていく。

高校の屋上にいたころと変わらない。
彼女は僕の友達。
僕は彼女の友達。

彼女に対する僕の愛情はフィーリア。
僕に対する彼女の愛情はフィーリア。

友達としての愛情。
417 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:44
「そういえば。」
「ん?」
「こないだ、移動中によしこのこと見かけた。」
「どこで?」
「横浜。」
「いつだろう。最近、仕事で行くこと多かったからな。」
「石川町。」

ウィンドウショッピングをしながら何んでもなさそうに彼女は言った。
それでも、こういうことを聞かれるのは初めてだ。
たとえ、見かけたとしても彼女の場合は仕事だろう。で済んでしまうんだ。

僕から、こないだあそこに行ったんだ。と話を振らない限り
突っ込んで聞いてきたり、探るようなことはしない。
だって、僕らの関係は友達だから。
418 名前:LOVE 投稿日:2009/02/09(月) 22:45
「彼女できたの?」
「いいや。いないよ。」
「よしこさ。今更だけど。男、だよね?」
「ホント、今更だな。」
「どう処理してるの?そういう店とか行ってるわけ?」
「セックスする相手はいるから行く必要ないし。」
「だよね。顔はいいし、メイクアップアーティストだし。モテるだろうし。」
「どしたの、急に。」
「別に、あの子が彼女なのかなって思って。」
「彼女、じゃないよ。」
「じゃ、友達か。」

彼女は「ごとーにはそういう要求してこないなとか思っただけ。」と呟いた。

「友達はごっちん。だけだよ。あの子とはそういう名称のない関係。」
「そういうのあるかな。」
「僕はあると思うけど。」

彼女はそれ以上、もうその話はしなかった。
石川町へは最近行った。
たぶん、彼女が見たのはその時のことだろう。

もしも、どちらかの愛情がフィーリアでなくなってしまったら。
きっと悲しい出来事が待っているんだろう。
419 名前:clover 投稿日:2009/02/09(月) 22:49
更新以上です。

>>369-400 LOVE 0.プロローグ
>>401-408 LOVE 1.ストルゲー
>>409-418 LOVE 2.フィーリア

次で終わります。
どうぞよろしくお願いします。
420 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/10(火) 03:36
味のある話ですね。イイです♪


一カ所気になったんですが、圭織は血の繋がった姉であるのに、ひとみを『よっちゃん』と呼ぶんですか?
421 名前:clover 投稿日:2009/04/01(水) 00:49
エロありなんでsageで更新します。

>>420 :名無飼育さん 様
子供のころって家族からもあだ名で呼ばれませんかね・・・。
自分、そうだったんでつい。
422 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:49

3.エロス
423 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:50
横浜での仕事が早く終わりそうだったので僕は彼女に電話をした。

「学校終わった?」
「うん。終わった。吉澤さんも仕事終わったの?会えるの?」
「まだ、でも早く終わりそうだから。」
「どこ行けばいい?」
「こないだ、言ってただろ。横浜行きたいって。」
「うん。言った言った。じゃ、今から行く。」
「中華街よるか?」
「いいの?」
「いいよ。じゃぁ。関内の南口で待ってて。」
「うん。わかった。」

残った仕事を終えた僕は車を関内へと走らせた。
車に乗る前にメールを確認すると彼女から既に着いているという
内容のメールが届いていた。
424 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:50
彼女と出会ったのは2年くらい前だっただろうか。

渋谷でプラプラ歩いている僕に彼女は「お兄さん。暇、ですか?」と声をかけてきた。
それが彼女と出会った最初だった。

暇だった僕は彼女を連れてまたプラプラ歩いた。

「君、いくつ?」
「18。」
「僕、23だよ。君くらいの子って同世代と遊ぶのが楽しいんじゃないの?」
「そういうの特にないけど。」

彼女はそう言って僕と腕を組んで歩きだした。

「どうして僕?」
「んー。なんかすごくセクシーだったから?」
「なんだそれ。」
「ほら、抱かれたい男ランキングとかあるじゃん。あんな感じ。」
「僕が凄い悪い人だったどうするの?危ないじゃんか。」
「そういうの心配してくれる時点で悪い人じゃないよね。」
「お兄さん、なんていう名前。」
「吉澤。」
「吉澤さんか。私は亀井絵里。」
「亀井さんは、そういうのが目的で声をかけたってこと?」
「絵里でいいよ。」

彼女、亀井絵里は「相性、いい気がする。そんな気がするの。」と微笑んだ。
425 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:50
彼女は僕をホテル街へと誘導した。
細い路地を彼女は迷いもせずに僕の腕を引っ張るように歩いて行く。
ホテルの前にくるとそれまで積極的だった彼女は僕の後ろへと回り
緊張した様子だった。

フロントで鍵を受け取り彼女を連れて部屋へと向かう途中
彼女は言葉を発しなかった。

彼女は部屋に入ると室内を見渡し「へー。」と言葉を漏らした。

「やっぱり。」
「ん?」
「君、慣れてるように僕に振舞ってるけど、初めてでしょ。」
「そんなこと・・・。」
「ホテルくるのも、こうやって声かけるのも。」

彼女は「バレちゃったかぁ。」と残念そうにベッドに腰をおろした。

「エッチに興味があったの。友達とかみんな経験してるし。」
「男も女も思春期になればみんなそういうもんだよ。」
「彼氏とか作ればいいんだろうけど。絵里、そういうの向かないみたい。」
「付き合うってことが?」
「うん。何人か付き合ってみたけど1週間もたない。」
「原因は絵里?」
「そう。絵里が悪いらしい。疲れるの。束縛っていう、所有物みたいになるの。」
「だから、経験だけしたいってことか。で、僕が選ばれたわけだ。」
「そういうの嫌い?彼女じゃないと無理とか?」
「殆どの男がおいしい話だって思うんじゃない。絵里は可愛いし、スタイルもいい。若いし。」

彼女は「褒めてくれてありがとう。」と照れたように笑った。


彼女は最初、少しだけ照れていたけれど、どんどんと大胆になっていった。
426 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:51
初めて彼女を抱いてから2年。
僕はこの2年、彼女以外の女性を抱いていない。
彼女が僕だけか、それはどうかわからない。
彼女と僕の体の相性がとてもよかったのは事実だ。


交差点の端で邪魔にならないように立っている彼女を見つけた。
車を止めると彼女は急いで車に乗った。

「中華街、ホントにいいの?」
「いいよ。行きたいって言ってじゃんか。」
「行ったことないからね。」

中華街まで僅かな距離を車で移動し石川町駅の近くのパーキングに車を止めた。
平日でも賑わう場所で彼女は嬉しそうに
あれが食べたい、あれも美味しそうだとはしゃいでいた。

手を繋いで石川町の駅へと向かう。
線路を越えてちょっと路地に入ったところで彼女は笑った。

「渋谷の円山町と同じところってどこにでもあるんだね。」
「動物と違って人間がその辺でやってたら犯罪だからな。」
「おっかしいね。やること一緒なのに。」
「人間には羞恥心があるだろ。絵里だって、知らない男に下着見られたら?」
「嫌だよぉー。」
「それと同じだよ。」


明日は僕の仕事は夕方からだというと、彼女は大学を休むと言った。
だったら、広い部屋でゆっくりしようと露天風呂から夜景が見える部屋を選んだ。

歯磨きしてから。という彼女を置いて僕は先に露天風呂に入った。
空がオレンジ色に染まっている。
遠くの方にはクイーンズスクウェアとランドマークタワーが見える。
427 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:52
「おっ、いい景色だねぇ。」

外に出てきた彼女は風呂に入らず僕に背中を向けて景色を見に行った。

僕は湯の中を移動して彼女の脹脛へと手を伸ばす。
彼女の体を欲求する僕の体。
顔だけ振り返った彼女を見上げると艶めかしく微笑んだ。

「時間、いっぱいあるよ。」
「知ってる。」

僕は湯から出て彼女を後ろから包み込む。
張りのある胸を包み込み彼女の首筋に舌を這わす。

僕は「僕の、舐めて。」と耳元で囁くと彼女は振り返って僕の唇を奪う。

吸いつくように僕の舌を絡め取り唾液を吸い取った。
跪いて僕のそれに手を添えながら僕を見上げて舌をだした。

僕は彼女に色んな要求をする。
そして彼女もまた同じく要求をする。
お互い、要求に応えてるんだからそんな思いがあるのだろう。

彼女は僕の出した物をゴクッと飲み込んだ。
体の力が一瞬抜けた僕は湯船の淵に座り込んだ。

湯船に入った彼女は「吉澤さん、凄いセクシーな顔してる。」と笑って僕の手を引いた。
僕が入ると彼女は僕の上に乗ってまた口づけを交わす。

「吉澤さんとキスしてるだけで凄い気持ちいいの。何でだろう。」
「僕も気持ちいい。」

彼女は彼女の腰にあった僕の手を胸へと持ってくると
僕の手を包み込むように胸を揉む。
428 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:52
「吉澤さんで、よかった。」
「何が?」
「声、かけたの。」
「どうして?」
「だって、こんなに、気持ちいい。」

それは僕だって同じだ。
彼女に触れるだけで、僕の体は反応する。
仕事がら一般的に美しい、可愛いといわれる女性に触れることが多い。
それでも彼女に触れたときのような反応はしない。

彼女は僕の上で淫らに腰を揺らす。
絵里に処理してもらったばかりなのにまた僕のが先に限界を迎えてしまう。

「絵里、僕、もう直ぐ。」
「絵里も、逝く。中、大丈夫だよ。生理終わった後だから。」

彼女は艶めかしく微笑んで言った。

「絵里、妊娠したら、どうする?」

彼女の中が僕を思い切り締め付けると彼女の体が僕に凭れかかった。
繋がったまま僕は彼女を抱きしめる。

「ね、どうする?」
「絵里が妊娠したらって?」
「うん。」

僕は何も答えず腰を揺らし始めた。
ゆっくりと動いて彼女の中を堪能する。

「ちょ、もうちょっと休もうよ。おかしくなっちゃうっ。」

僕にしがみつき言う彼女の言葉を無視して僕は彼女の胸にも舌を這わした。
429 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:54
この2年で僕は気がついたことがある。
彼女に安全日、危険日なんて存在しない。
女性がもつ子供を宿す機能が彼女には備わっていないんだ。

きっと、だからかもしれない。

僕も同じだから。

体がお互いを惹きつけているのかもしれない。

夜空が真っ暗になる前に部屋に入った。
運動した後はお腹が空くという彼女の意見に同意して
ルームサービスを頼んた。

ソファで僕は彼女の膝に頭を乗せて寝ころんだ。

「さっきの話。答え聞かせて。」と彼女は僕の前髪を弄りながら言う。

「妊娠したら、責任とって欲しい?」
「さぁ。どうだろう。」
「絵里はきっと責任とってなんて言わないな。」
「どうして?」
「初めて会ったとき言ってただろ。所有物になりたくないって。」
「言ったっけ。」
「言ったよ。責任って結婚だろ?そんなのお互いが所有物ですっていう契約するだけだから。」

「絵里は言わない。」僕はそう言って、彼女を抱きあげた。

「吉澤さんも所有物になりたくないの?」
「なりたくない。」
「だから、絵里とこういう関係なの?」
「そうだね。」

「それに・・・。」彼女をキングサイズのベッドに下ろし口づけをする。

子供が出来たからって責任を取らなければいけないなら・・・。
僕はきっと一生、責任をとる場面には出くわすことはないだろう。

「パパとかママって呼び合う夫婦より僕はずっと絵里と男と女の関係で居たいな。」
「絵里もそれに賛成。」
430 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:55
僕が知っていること、僕もそうであることはきっとこれからも伝えることはないだろう。
彼女がそれを知ったら、きっと。
変わってしまうから。

僕が彼女に対する愛情はエロス。
彼女が僕に対する愛情はエロス。

僕と彼女の関係はこれでいい。
お互いの欲求を満たすだけの愛。
眠る間を惜しんで、体だけを求めあう。

431 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:55

4.アガペー
432 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:56
僕には時間が出来れば会いに行く人がいる。
画家の彼女。
出会って8年くらいだろうか、僕がまだ中学生で彼女が小学生だった。

中学の課外授業で障害者と触れ合うというのがあった。
訪問した障害者の中に彼女が居た。

車椅子にのり、仔犬を抱きあげ微笑んだ彼女を僕は天使だと思った。


障害者。
彼女にとってそれがコンプレックスなのだろう。
健常者の僕にはわからない、彼女の気持ち、思考。

それでもわかることだってある。

彼女は本当の気持ちを口にはしない。
いつだって、逆の言葉を口にする。

寂しい時には一人にして。
行きたいところには行きたくない。

だから、本当はとってもわかりやすい。

僕は彼女の笑顔をいつだって見たいと思うんだ。
そのためだった僕は何だってする。

彼女があの時みたいに、天使のような微笑みを見せてくれるなら。
433 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:56
道重、と書かれた表札を確認してインターホンを押す。
住宅街の一軒家。
裕福でも貧しくもない一般の家。

彼女の母親が顔を出し嬉しそうに招き入れてくれるのはいつものことだ。

「昨日からこもりっきりなの。」

母親は「困ったわ。」と言いながらバリアフリーになっている廊下の一番奥の扉を見つめた。

「何か大作でも描いてるのかな?」
「私のことは中には入れてくれないから。」

僕は「じゃ、僕が。」と微笑んでその扉へ歩みよった。

「いつもありがとうね。」と母親は言い残しリビングへと入って行った。

この扉の向こう側に道重さゆみがいる。
僕の大切な子。

コンコンコンと3回、ノックをする。
もちろん、部屋から返事が聞こえてきたことなんて一度だってない。
ゆっくりとノブを回して扉を開けるとそこにはいつもの光景。
もう、何百回、何千回、何万回と見てきた光景。

キャンバスと向き合う車椅子の少女の後姿。
真っ黒で腰まである長い髪が印象的だ。
434 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:57
「さゆ。僕だけど。」
「別にボランティア頼んでないの。」

今日はいつもよりもご機嫌斜めな彼女。

「今日はさゆの髪、クルクルに可愛くさせてもらおうかなって、それに合わせてメイクも。」
「別にしなくていいの。どこに出かけるわけでもないから。」
「描くの忙しい?」
「忙しい。」

「そっか。」と言って僕は彼女の背後に立った。
彼女はとってもわかりやすい。

お洒落をしたい年ごろはどんな女の子だって一緒なんだ。
特に彼女は人一倍、お姫様を夢見ている。
白馬に乗った王子様が迎えに来てくれることを願って。

「さゆの髪は相変わらず綺麗だね。」
「触らないでいいって言ってるの。」

彼女の言葉を無視して僕は髪をいくつかの束にまとめていく。

「今日さ、仕事休みなんだ。さゆも暇なら買い物付き合ってよ。」
「忙しいの。」
「もちろん、お昼もさゆの好きな店でいいし、疲れてなかったら夕飯も。」

彼女は高校を卒業したころから僕以外と外に出なくなった。
学校に通うことがなくなったから。

だから、彼女の母親は僕が来ると喜んでくれる。

「よし、アイロンするね。」と言って僕は彼女の髪を傷まないように気をつけながらカールさせていく。

「今日はね。さゆにワンピースも持ってきたんだ。」
「膝かけするからスカートだってパンツだって変わらないの。」

本当は誰よりも気にしている。
自分に似合う形の服か、色の服か。

「さゆは身長があるからロングが似合うと思うんだ。」
「立てないから身長なんて関係ないの。」
「それに、黒の基調が似合うね。」
「黒は誰にだって合うの。」
「さゆには特に似合う。」

カールを終えた髪を整え彼女の車椅子をクルッと180度回す。
思った通り、巻き髪にしただけでずいぶんと大人っぽく見える。

僕は思わず微笑んだ。

「実はね夜は僕が行きたいところあるんだ。ちょっと一人じゃ行きづらいから付き合って欲しい。」
「一人で行けばいいの。さゆみは暇じゃないの。」
435 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:58
彼女が笑った顔を見たのは1度だけ。
怒った顔も見たことがない。
彼女には表情がない、いや感情を表情に出さないんだ。
だから、あの微笑みを見ることができた僕はラッキーだったんだろう。

「目、閉じて。」
「いや。」
「じゃ、目、開いて。」

彼女は困ったように「いや。」と言って目を閉じた。

本当はとっても素直な子。
まっ白い肌に僕はまるで絵を描くように彼女に合った色を乗せていく。

「出来たよ。目、閉じて。」

ゆっくりと瞼を開ける彼女を見て僕は一度、頷いた。

「凄く、綺麗。」と彼女の頭をそっと撫でて用意してきたワンピースを彼女に差し出した。

「これに、着替えて。一人でできるよね。外で待ってるから。」


扉に寄りかかり彼女が着替えるのを待った。
たとえ、着替え終わっても彼女から声をかけてくることはない。
でも、もう何年もこうしてきた。
部屋の中を見なくても微かに聞こえてくる物音で彼女が何をしているか想像がつく。


「さゆ、入るよ。」と声をかけて扉を開けると
黒いワンピースに身を包んだ彼女が居た。

僕はポケットから最後のアクセントをとりだした。

「これ。さゆの可愛らしさを引き出すアイテム。」

ピンクサファイアでハートの形になっているトップのペンダント。
大人びすぎないように可愛らしいものを1つ身につけさせた。

「うん。完璧。じゃ、行こうか。」

返事をしない彼女を部屋から連れ出す。
リビングにいる母親が僕らの姿を見て出てきた。

「夕飯たべてから送り届けますから。」と母親に告げて彼女を太陽の下へ連れ出した。
436 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 00:59
眩しそうに眼を細めた彼女を抱きあげて助手席に座らせた。
車いすを畳んでトランクに入れた。
18歳で中古で買った軽の車から仕事をしだしたVOXYに変えた。
彼女の車椅子が積めて、彼女が乗っているのに疲れないように。

「キャンバスは足りてる?」
「足りてる。」

その言葉を聞いて僕は行先を決める。
前に買いに行ってから大分時間がたっていたから本当に無いのだろう。

彼女が中学の頃から行っている画材店へと車を走らせる。
見慣れた景色に彼女も行先がわかったのだろう。
僕の顔を一瞥した。

画材店で彼女はいつも決まったものを買う。
余所見なんてしない。
試してみようなんてことはしないんだ。
彼女は自分に合ったもの、必要なもの全部知ってるんだ。


「お昼にしようか。それともどこか行きたいところある?」
「さゆみは絵を描く道具以外、必要なものなんてないの。」

そう言いながら彼女は巻いた髪をクルクルと指で回していた。

「そういえば、こないだ仕事で女の子たちが髪飾りの話をしてたっけ。
 青山だからちょっと寄って行こうか。可愛い小物もあるってよ。」
「髪なんて吉澤さんが勝手にやってるだけじゃない。いらないの。」

僕があげたものを彼女は必ず次に会うと身につけている。
あげたもの、と言うより彼女が欲しがったもの。
欲しがったという表現自体、違うかもしれない。
彼女が望んでいるものを僕が勝手に持ってきているだけだ。

車椅子を押しながら雑貨屋に入ると彼女は自分で移動しはじめた。
興味のあるものを手にとって眺めて戻す。
僕はその中から彼女が欲しいだろう、似合うだろうものを手にとっていった。

女子高生が食べ歩きしている姿を彼女がじっと見ていたから。
結局、お昼はクレープになった。

彼女は外を眺めるのが好きだ。
どこか降りて見たいというより。
景色を記憶している。

その景色や人が混ざりったものが彼女の絵の材料。
437 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 01:00
日が暮れ出して僕は目的地へと向かった。
青山霊園を突っ切って交差点を右折。
国立美術館の前を通り六本木ヒルズが見えてくる。
テレ朝の前を通って左前方には東京タワーが見えてくる。
赤羽橋を右折してずっと走っていくと辻の札の交差点。
国道15号線を突っ切って、橋を渡るともうそこは海が近い。
旧湾岸通りを大井に向かって走っていく。
ソニーの本社が見えて少し行くと東洋海洋大学が右手に見える。
天王洲橋を渡り、左手に見えてきたテレビ東京スタジオを左折する。
新東海橋を渡ればそこはちょっとしたアイル、島だ。
天王洲アイル。ショッピングモールとオフィスビル、そして海。
ドラマのロケで見たことのある景色。
ちょうど、島の真ん中を突っ切るように走っていく。
品川埠頭橋を渡りすぐに左折するとそこが僕の目的地。

20分程度のドライブ。
何も話さず、ずっと外を眺めていた彼女はきっと楽しんでくれたのだろう。

駐車場に車を止めて彼女を車椅子に乗せてクラブハウスへと入って行った。

スタッフたちが僕らを見て手を貸してくれる。
彼女が少しだけ戸惑ったように見えた。
438 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 01:00
予約していた個室に入りスタッフが去った後のことだ。
「海は、すごく好き。ありがとう。」と彼女は言った。
表情を変えないはずの彼女が強張った表情で。

「ディナークルーズ。気に入らない?」
「気に入ったよ。言ったでしょ、海は好きって。」
「嫌なら出る?」

ギュッと車椅子を握りめる彼女。
僕は本当は知ってる。
彼女が海を嫌いだってこと。
でも彼女は間違えてる。自分の気持ちのとらえ方を。

彼女が返事をする前に船が動きだした。

「動いちゃったね。」
「どうして?」
「なにが?」
「いつも、さゆみが嘘ついても見抜いてくれるのに。」
「海が嫌いって?」

彼女は頷いた。

「違うだろ、海は好きだろ。」
「吉澤さんにはさゆみの気持ち、分からない。歩けるんだから。」
「そうだね、歩ける。だから歩けないさゆの気持ち、全部分からないな。」
「車椅子がさゆみの足なの。海じゃ使えないの。どれだけ怖いかわかる?」
「それが正解だよ。嫌いじゃない。怖いんだよ。」
「同じだもん。」
「違う。さゆが描く海はいつだってキラキラしてて青くて綺麗だよ。」
「嫌いなの。」

僕は彼女の前に跪き今にも泣き出しそうな顔を見上げた。
439 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 01:01
「海が怖いのは、さゆが車椅子だからでしょ。泳げないから。
 もしもね、タイタニックみたいにこの船が沈んじゃったら。
 それでもさゆは助かるんだ。絶対に。」
「どうして。車椅子がないとさゆみは生きていけないの。」
「僕がいるから。僕は絶対にさゆを助ける。自分が死にそうでもね。」
「ねぇ。どうして?どうして吉澤さんはさゆみにそこまでしてくれるの?
 いつも、文句ばっかりなのに、いつも嘘つくのに。
 吉澤さんにさゆみは何もしてあげられないのに。」
「何かしてもらおうなんて思ってない。いいんだ。さゆが幸せでいてくれれば。
 幸せになるためなら何だってしてあげる。何だって言うこときく。
 だから、もっと世界を広げよう。あの部屋なら安全かもしれない。
 傷つかないでいられるかも知れない。でも、楽しい?」
「楽しい・・・わけない。時計を見ないと朝なのか夜なのかもわからない。
 さゆみの存在を世間に知らせるのは絵を見せる時だけ。
 吉澤さんだけが、ずっとさゆみのこと忘れずに来てくれる。」
「うん。僕は忘れたりなんてしないから。さゆが来ないで、会いたくないって言わない限り、行くよ。」
「いつも言ってるのに、来てる。」
「さゆの本心が、そう言ったら行かないよ。」

僕は立ち上がり、彼女の車椅子をテーブルに向けた。

「料理が来るから、夜景を楽しもう。」と言って僕も横の席に着いた。

「怖がることなんてない。僕が側にいる。」
「吉澤さんはさゆみが好きなの?」
「嫌いな子の側にはいないかな。」
「さゆみと何を望んでいるの?エッチなことしたいとかそういうこと?」
「僕はさゆの幸せだけを願ってる。さゆがそういうことして欲しいならすけどね。」

彼女は顔を真赤にして「して欲しくないもん。」と呟き
ごまかす様に出てきた料理を食べた。

「ねぇ。さゆ。知っててほしいんだ。」
「なにを?」
「僕はいつだってさゆのこと考えてるってこと。」

彼女は大きな黒い眼で僕をじっと見つめた。
440 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 01:02
「さゆみが、歩けないから同情してるんだ。」
「違う。」
「こんな体で、閉じこもって、結婚もできなくて、ずっと一人で生きていかないと行けないさゆみに。」
「さゆが望めば結婚だってできる。一人になんてならない。」
「吉澤さんは知らないから。さゆみがお風呂にはいるのもトイレに入るのも大変なの。
 年をとったら、もっともっと大変になる着替えだって一人でできなくなる。
 お母さんだっていつまでも私の面倒見てられない。それがどういうことかわかる?
 絵を描く理由わかる?ちょっと上手いくらいで車椅子に乗ってるから高く買ってくれる。
 結局、さゆみは同情で生きていくしかないの。同情を売ってお金をもらって、それで今度は、
 今度はそのお金で施設に入って世話をしてもらうの。そして、寂しく死んでいく。」

彼女は無表情だった。
いつだって彼女はそうだ、何でも諦めてしまう。

「そんな顔、しないで。」
「僕、どんな顔してる。」
「同情してる顔。」
「じゃ、さゆはまた間違えてる。僕はさゆに同情なんてしない。」
「嘘。」
「嘘じゃないさ。むしろ、うらやましいと思うよ。」
「さゆみのどこが?羨ましがられるところなんて一つもないのに。」
「あるよ。さゆには僕がいるってこと。さゆは、愛されてるってこと。」
「愛されてる?」
「そう、無償の愛にね。」
「無償の・・・。」
「多くの人は与えられない愛だよ。」
「どういうこと?」
「普通、みんな要求するんだよ。
 自分を愛して、自分も愛すから・・・。
 結婚して、子どもできたから。
 たいていの人は要求したり、条件がないと愛してもらえない。」
441 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 01:03
僕は彼女のグラスに「もう、二十歳だもんね。」とワインを注いだ。

「さゆが望むなら、僕がしてあげる。お風呂だってトイレだって着替えだって。」
「そんな恥ずかしいこと吉澤さんにしてもらえないにきまってるでしょ。」
「見られることが?してもらわないと出来ないことが?どっちが恥ずかしいの?」
「どっちも。」
「親にしてもらうのもお金はってしてもらうのも僕にしてもらうのも同じじゃない?」
「違う、お母さんは親だもん。子供を育てる義務がある。お金もらうなら仕事としての義務がある。」
「親だからやって、お金払うからやって。それって要求と条件だろ。」

僕は彼女のもとへ歩み寄り目線を合わせた。

「言ったろ、さゆには僕がいるって。要らないんだよ。さゆには、要求も条件も。」
「吉澤さん。」
「さゆは特別なんだ。無条件に愛される、選ばれた女の子。何でもしてあげる。さゆが望むなら。」
「だから、どうして?」
「さゆを愛してるから。」
「さゆは何も・・・。」

僕は彼女の唇に人差し指をそっと近付けた。

「さゆから何かしてもらおうなんて望んでないってば。」
「でも・・・。」
「いいんだよ。さゆは。」

僕は席に戻りながら「望んだことは何だってしてあげる。」と言った。
442 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 01:04
「恋人になって。って言っても?」
「出来る限り、応じるさ。」
「さゆみ、たぶん、本は人より読んでると思うの。」
「うん。」
「どの恋愛小説も吉澤さんの言う、要求とか条件を相手にしてる。」
「そうだね。そして、嫉妬とか憎悪とか、そういうのが生まれてくる。」
「そうれが普通じゃないの?」
「一般的に、それが恋愛、そういうのが愛って言うのかもね。」
「でも吉澤さんはそれをしない。」
「うん。しない。僕には今ね。愛してる人が4人いるんだ。」
「なにそれ。」
「まず、姉さん。それから友達のごっちん。それと肉体関係を持ってる絵里。
 そして、ただ愛してる相手がさゆ。」
「ちょっと待って、全然、分からない。肉体関係を持ってる人が恋人でしょ。
 どうして?それなのにさゆみを愛してるとかいうの?」
「きっとそうだね。一般的に恋人と肉体関係を持つのが普通かもね。」
「当たり前じゃん。」
「でも、僕と絵里は恋人ではない。だから、嫉妬とか憎悪はない。」
「それは吉澤さんがそう思ってるだけかもしれない。」
「それはない。どっちかが違う愛情を持った時、僕らの関係は成り立たないから。」
「成り立たないって?」
「その時は別れが待ってる。でも、さゆと僕は違う。」
「どうして?」
「僕とさゆは違う愛情でも成り立つんだ。」
「吉澤さんが何も要求しないから。」
「そう、僕のさゆへの愛は無償の愛、アガペーだから。
 さゆの愛がどんなものでも受け入れられる。」
「友達っていう人は?女の人?」
「うん。彼女との関係が今、一番もろいかもしれない。」
「どうして?」
「彼女のフィーリアからエロスへと変化しようとしてるから。」
「さっきからアガペーとかフィーリアってなに?」
「ストルゲーは親子関係の愛とか、フィーリアが友情愛、エロスが肉体的な愛。
 アガペーが無条件な愛。」
「無条件の愛。」
「そう、さゆがどんな子でも僕はさゆを愛してるんだ。」
「さゆみが、その絵里って子ともう会わないでって言ったら?」
「会わないさ。」
「さゆみ以外を愛さないでって言っても?」
「ああ。さゆだけを、愛すよ。」
「結婚してって言ったら?」
「僕でいいなら。」
「さゆみを、抱いてって言ったら?」
「抱くよ。」
「こんな体の子でいいの?同情して抱くの?」
「そんなことない、さゆがそれを望むなら僕は喜んでさゆを抱くさ。」
「他の子と比べたりしない?」
「比べるなんてことしないよ。ただ、ひとつだけ、さゆが望んでも出来ないことがある。」
「なに?どんなことだってしてくれるんでしょ。」
「出来ることならね、でも、子供は作れない。」
「さゆみが育てられないから?」
「育てられるさ。きっととってもいい子に育てると思うよ。」
「じゃ、どうして?」
「さゆに歩く機能がないように、僕にもないんだ。子供を作る機能がね。」

彼女は驚いたように「それって・・・」と言葉を漏らした。
443 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 01:05
「そんな顔すんなよ。」と僕は笑って見せた。

「どんな顔?」
「かわいそうって同情してる顔。」
「同情なんてしてない。」
「うん。わかってるよ。さゆがいつも言うから言ってみた。」
「意地悪。」
「ごめん。それでも僕でいいっていうなら結婚だってなんだって。僕は受け止めるさ。」
「ねぇ。吉澤さん。」
「ん?」
「吉澤さんってさゆみよりもコンプレックス持ってるね。」
「そう、かもね。」

彼女はコクっとグラスのワインを飲んで「さゆみの王子様になって。」と言った。

444 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 01:05
帰りの車の中、彼女は窓の外を見ながら「帰りたくないって言ったら困る?」と言った。

「うち、泊まる?」
「いいの?」
「僕はさゆにノーなんて言わないさ。」

窓ガラスに映った彼女顔は1度だけ見たことのある天使の笑顔だった。



僕のベッドの上に座った彼女はキャンバスに向かっている彼女と全く別人だった。

「吉澤さんが好き。」
「男として?友達として?」
「男としてに決まってる。」
「男として、か。」
「問題ある?」
「いいや、ないさ。さゆがそれで幸せなら。」
「幸せよ。吉澤さんはさゆみを無償で愛してくれるんでしょ。」
「あぁ。」
「なら、こんなにも幸せなこと、ないよね。愛してくれる人のものになる。」

きっと、一般的にはきっとそれを恋愛と呼ぶのだろう。
そして、両思いになれたと言うのだろう。

天使の笑顔を見れるなら
僕はずっといつまでも彼女の側にいる。
445 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 01:06

5.エピローグ
446 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 01:08
「最近、付き合い悪くなったよね。」

彼女の髪をセットしながら僕は「そうかもね。」と返した。
鏡越しに僕の様子を窺う彼女。

「なんかあった?」
「一緒に暮らしてる子がいるんだ。だから早く帰らないと。」
「彼女?」
「うん。」
「へー。会ってみたい。」
「今度ね。」
「どんな子?」
「天使。」

彼女は「天使って。」っと笑った。

「だから、ごっちんの気持ちには答えられない。」

彼女は鏡越しに「そんな気持ちないですから。」と苦笑した。
447 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 01:08
仕事を終えて、駐車場に向かうと僕の車に寄りかかっている子がいた。

「絵里?どうしたの?」
「だって、電話しても出てくれないから。」
「仕事、してたから。」
「ホテル、行こう。」

彼女は僕の腕に絡みついてくる。

「絵里。」
「ん?」
「彼女が出来た。」
「マジ?おめでとー。」
「だから・・・。」
「ん。わかった。言わないでいいから。」

絡まった腕を解いた彼女は僕の向いに立ちなおし笑顔を見せる。

もしも、僕が天使の存在を知らなかったら
きっと彼女と僕は上手く付き合って行けただろう。
普通の恋人として恋愛ってものをしていたのだろう。

最後に彼女は「今までありがとう。」と手を振った。
448 名前:LOVE 投稿日:2009/04/01(水) 01:10
家に帰れば車椅子の彼女が玄関まで出迎えてくれる。
「おかえりなさい。」と微笑む天使に僕はそっとキスをする。
それが僕の日課。

今、自分のことを説明しろ。
そう言われたらきっとこう答える。

一人の天使のためだけに存在してる。
449 名前:clover 投稿日:2009/04/01(水) 01:14
以上でLOVE終わりです。

>>422-430 LOVE 3.エロス
>>431-444 LOVE 4.アガペー
>>445-448 LOVE 5.エピローグ

また、書き始めたらよろしくお願いします。
450 名前:名無し飼育さん 投稿日:2009/04/12(日) 02:14
意味がよく解らないんですけど
何の話だったんすか?
451 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/19(日) 15:22
うーん・・・

なんだかな〜
452 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/20(月) 19:42
別にわからなくないよ
面白かったと思います
453 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/22(水) 01:08
愛にも色々な種類があるんですねぇ。
こういうタイプの話も好きです。
次の話も楽しみにしてます。
454 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/22(水) 01:13
sage忘れた...orz
ごめんなさい:(T-T):
455 名前:七氏 投稿日:2009/04/22(水) 23:09
色んな角度から見れて面白いです
456 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/11/24(火) 10:06
cloverさんの作品が大好きです。心で繋がってる話が多いので読んでて羨ましくなっちゃうんです。作中の人が。

また新しい物語が出来ることを楽しみに待ってます!
457 名前:clover 投稿日:2010/02/16(火) 02:55
お久しぶりです。
ちょっと時間が出来そうなのでまた書いていこうと思います。
カメ更新になるかもしれませんがよろしくお願いします。

★♂化してるので嫌いな方は避けてください。

>>450 :名無し飼育さん さま
レス有難うございます。
色んな愛の話だったんですが・・・
言葉が足りなかったかもしれないですね。
すみません。

>>451 :名無飼育さん さま
レス有難うございます。
なんか、すみませんw

>>452 :名無飼育さん さま
レス有難うございます。
有難うございます。

>>453 :名無飼育さん さま
レス有難うございます。
有難うございます。

>>455 :七氏 さま
レス有難うございます。
有難うございます。

>>456 :名無飼育さん さま
レス有難うございます。
有難うございます。
458 名前:リフレーミング 投稿日:2010/02/16(火) 02:55
■恋愛は面倒なもの
459 名前:リフレーミング 投稿日:2010/02/16(火) 02:55
日々の色んなことが面倒になる、
特に、人間関係。
それぞれのペースがあるのにそれを乱される。

好きな人と一緒に笑ったり、泣いたり、怒ったり。
何が楽しいのだろうと思う。
一緒に何かを共感するにはその相手のことを知らないといけない。
そして自分のことも相手に知ってもらわなければならない。
そんなことにたくさんの時間を使っても・・・
ずっと一緒にいられるなんて保障はどこにもない。
別れてしまったらまた別の人と一からその作業のやり直し。
無駄な時間を使うなら一人で気楽に過ごしたほうがいいんじゃないだろうか。
460 名前:リフレーミング 投稿日:2010/02/16(火) 02:56
中学のころから友達との会話がかみ合わなかった。
周りの友達はみんな恋愛の話ばかりだから。
そんなことに時間を使うなら勉強とか趣味とかもっと他にやることあるのに。
そんな風に思ってしまう。

東京に出れば私と同じ考えの人がたくさんいるんじゃないかと思って東京の大学に入りたかったから。
過保護な親を納得されるにはそれなりの有名大学でなければならなかった。
だからみんなが恋愛に呆けている間、私は勉強した。


大学に受かった私はそれなりにセキュリティがしっかりしているマンションに入居した。
角部屋でいい条件だったのに、唯一の隣の住人は私が一番苦手なタイプだったのが残念で仕方ない。
461 名前:リフレーミング 投稿日:2010/02/16(火) 02:57
その人は吉澤ひとみ。
隣に引っ越してきたと挨拶に行った時から苦手だった。
吉澤さんの変わりに出てきたのは彼女の石川梨華という人だった。
人前だというのにベタベタ、イチャイチャ。
あまり関わらないようにしようとと思っていたのに・・・
東京に出てきたばかりで友達がいなくて寂しいでしょうと勘違いした石川さんは迷惑なことに私を誘ってくれた。
友達があまりいなかった私は強引に誘われるとどうしてよいかわからず結局、吉澤さんの部屋で夕食を頂いたりする羽目になり
見たくもない二人のイチャイチャぶりを見なければいけないという状況に持っていかれてしまう。
462 名前:リフレーミング 投稿日:2010/02/16(火) 02:57
463 名前:リフレーミング 投稿日:2010/02/16(火) 02:57
「重さん?」

大学の講義が休講になってしまい、空いた時間に本屋で読みたかった小説を買おうかと向かっていると呼びとめられた。
私をそう呼ぶのは吉澤さんだけ。
道重さゆみという私の名前から中途半端に重という文字だけを使って呼ぶ意味がよくわからない。
重と呼ぶなら道も付けて欲しいと常々思う。

「お仕事、ですか?」
「前の打ち合わせが早く終わっちゃってさ、時間潰してたら重さんの姿見えたから。」
「私も休講になっちゃって。」
「お茶、しない?」
「本、買いに来たんで。」
「そっか、僕は邪魔?」
「別に、そんなことないですけど。」
「じゃ、一緒に本みよっかな。」


私は先に本屋に入っていく吉澤さんの後ろ姿を見ながら気がつかれないように溜息をついた。
464 名前:リフレーミング 投稿日:2010/02/16(火) 02:57
「小説?マンガ?それとも雑誌?」
「小説です。」
「恋愛?」
「いいえ。歴史小説を。」
「重さんってさ、僕と梨華のこと見てひいてるよね。」

気が付いていたのかと吉澤さんの横顔を見ると苦笑していた。

「ごめんね、梨華が強引に連れてきてるでしょ。」
「まぁ。あの勢いで来られると断れなくて。」
「声高いし、人の話あまり聞かないしね。」
「良く、一緒にいられますね。」
「好きだからね。高校のころからだから慣れてるのもあるかな。」
「昔からあのテンションなんですか?」
「初めて会った時は凄いおとなしい子だったんだよ。恥ずかしがり屋でね。」
「想像できなですね。」
「まぁ、そうだね。重さんは好きな人とか彼氏いないの?」
「いないですね。」
「かわいいし、モテルでしょ。」
「モテないですよ。それに、恋愛に興味ないですから。」

私は欲しかった本を手にとってレジへと向かった。
465 名前:リフレーミング 投稿日:2010/02/16(火) 02:58
店を出ると吉澤さんが小さな公園を指さし「座ろうっか。」と言ったので私は腕時計を見てから頷いた。

「来月あたりにはもう、梨華が重さんを強引に誘うことはないと思うよ。」

空いていたベンチに座ると吉澤さんは突然そういった。

「どういう、意味でしょうか?」
「来週、梨華と別れるんだ。」
「そうなんですか?」
「なんか、リアクションが普通と違うね。」
「そうですか?普通どういうリアクションなんですか?」
「えっ、嘘。とか、あんなに仲がいいのに何で?とかどうして来週?とかかな。」
「じゃぁ・・・なんで?」

吉澤さんは苦笑する。
この人は、意見を押し付けたり私を注意したり、褒めたり、そういう、感情を乱す行為をあまりしない。
だから、かも知れない。一緒にいて疲れない。

「梨華ね、結婚するんだ。」
「そうなんですか。」
「そう、言うと思った。」
「普通なら、誰と?なんで?とかあたりですか?」
「そうだね。」
「じゃぁ・・・」
「いいよ。無理に言わなくても。」
「そうですか。じゃぁ。やめておきます。」
「重さんは干渉しないね。」
「はい、されたくもないですから。」
「そっか。」
466 名前:リフレーミング 投稿日:2010/02/16(火) 02:58
吉澤さんがまた苦笑する。
私の言葉に対してなのか、石川さんとのことに対してなのか私にはわからない。
別に、考えなくてもいいことだと思う。自分には関係ないことだから。
でも・・・なぜか吉澤さんの苦笑の意味はいつも探りたくなる。
面倒だとは思わないのが自分でも不思議だった。
きっと吉澤さんと石川さんとセットでいるとき、私にとって二人は苦手なタイプになる。
石川さんは一人でも苦手。
でも吉澤さん一人のときは苦手なタイプではないのだろう。

「ふったんですか?ふられたんですか?」
「珍しいね、重さんから聞いてくるって。」
「だって、吉澤さん、黙るから。」
「沈黙に耐えられない人じゃないよね?」
「まぁ、でも結婚するんだ。で終わられるとなんていうか。私には関係ないことでも・・・。」
「そっか。」

吉澤さんはまた、苦笑した。

「重さんはさぁ。恋愛に興味ないんでしょ。」
「はい、面倒の何物でもないと思います。」
「何が、面倒なの?」
「相手のことを知ったり、相手に知ってもらったり、何かしてあげたり、してもらったり。気遣ったり、遣われたり。」
「楽しいのにな。」
「そうですか?」
「そうだよ。好きな人に何かしてあげて、笑顔が見れただけで心が幸せになるじゃん。」
「そうなんですか。」
「そうだよ。好きな人の笑顔見てキュンってなったことない?」
「ないです。」
「そっか。」
「はい。」
「僕はさ、梨華の笑顔見たくてね。いつも下向いて歩いてた梨華が笑ったら凄い可愛くて。
いつも、一緒にいて梨華を笑顔にしてあげたいって思って付き合いだしたんだ。」
「そうだったんですか。」
467 名前:リフレーミング 投稿日:2010/02/16(火) 03:00
吉澤さんはそれから、別れる原因、石川さんが結婚する理由を教えてくれた。

石川さんは25歳で結婚して30歳までに子供は3人欲しいらしい。
だから、タイムリミットが今。
吉澤さんはそれに応えようと頑張ってみたけれど経済的にも今直ぐ結婚ってわけにはいかないらしい。
「結婚式くらいはやってあげたいじゃん。」と苦笑していた。
だから、石川さんはお見合いして、結婚を決めた。
吉澤さんもそれを受け入れた。
でも、お互い愛し合ってる。

私にはわけのわからないことだらけな話だった。

「高校からずっと付き合って9年とか10年、ですよね?」
「そうだね。出会ったのは15だったから。」
「その時間が、無駄だったとは思いませんか?」
「なんで?」
「だって、石川さんはまた新しい相手のことを知って、自分のことを知ってもらってってしないといけない。
吉澤さんとの時間は何の未来も生み出さない。」

吉澤さんは「なるほどね。」と苦笑した。

「よくわからないんですけど、結婚すれば良いだけの話、じゃないんですか?」
「傍から見たらそうかもね。でもね、想像できるんだよ。今、結婚してもダメになるって。」
「どうして?」
「梨華に応えてあげられない、そのことに僕は苛立つでしょ。それを見てる梨華も我慢する。それって楽しくないじゃん。」
「だから、恋愛なんてしなければいい。やっぱり、面倒なことしかない。」
「でもさ、好きになったらどうしようもないんだよね。」
468 名前:リフレーミング 投稿日:2010/02/16(火) 03:00
私は胸にそっと手を当てた。
不思議な感覚だった、呼吸が詰まるような感じ。
これが、キュンという感覚なのだろうか?

でも、私にはきっと恋愛なんて出来ないと思う。
469 名前:clover 投稿日:2010/02/16(火) 03:02
本日の更新は以上です。

>>458-468 フレーミング:恋愛は面倒なもの

今後ともよろしくお願いします。
470 名前:名無飼育 投稿日:2010/02/17(水) 12:04
お久しぶりです
独特の雰囲気に毎回楽しませて頂いてます^^
更新ありがとうございます
471 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/18(木) 22:01
更新お疲れ様です
久しぶりにcloverさんのお話が読めて嬉しいです
続き楽しみにしてます

ログ一覧へ


Converted by dat2html.pl v0.2