my name is...
1 名前:my name is... 投稿日:2007/08/19(日) 08:54
初めて書かせて頂きます。 
 
基本的に石川さんと吉澤さんがイチャイチャしてるだけのお話です。 
2 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 08:55
 
 −1− 
 
3 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 08:57
 
 
 
「ねぇ…よっちゃん」 
 
「あー、なに」 
「あのさー、……」 
 
 
「いつまでここにいるつもり?」 
 
「…ごめんなさいほんっとごめんなさい。」 
 ああ、なにこの泣くに泣けない状況。 
 
 
4 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:01
「だいたいさぁー木造に住んでたのが悪いよね」 
「もう…わかったわかったから今週中にどうにかしますから」 
「みきたん、よっちゃんかわいそうでしょー?」 
 落ちてるあたしと責めるミキティとなだめる亜弥ちゃんと。 
 あたし吉澤ひとみは今、幼馴染みの藤本美貴の部屋にお世話になっている。なぜかって、 
 
 アパートが全焼したから。 
 
 火元は一番離れた部屋で、不幸中の幸いかその時あたしは部屋にいて騒ぎに気付き早めに荷物をまとめて出れた。 
 性格上部屋に家具以外の余計なもんは置いてなかったし、昔のアルバムだとか思い出の品系はみんな実家。 
 被害は少ない方だと思うけど、それでも経済的にも精神的にも色々と、痛すぎる。 
 命があっただけで万々歳なんだが、アレは相当ショックでかい。 

 …はぁ。実際、ミキティに憎まれ口でも叩いてもらわなきゃ泣きそうだ。 
 
5 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:04
 本当は、 
 部屋は見つからないわけじゃない。 
 敷金礼金無しのとこなんていっぱいあるし。まさに『カバン一つでお引越し』状態のあたしに打って付けな 
 レオパレスなんてものもあるし。 
 でもやっぱりトラウマとゆうか、なかなか一人暮しを再スタートさせられない。 
 友達の家を転々とする、とか出来る程のあては無いし、大学で一番仲いーまいちんの部屋も何でってくらい 
 学校から遠いし。ここにはもう3週間ぐらい居座っていて、今のとこ電車で二時間の実家から学校に通う気は 
 無し…。ミキティがこっち出てきてこんなに感謝したことはない、いやあよかったよかった。 
 
 ミキティとはその片田舎の実家が近所で小さいときからずっと一緒。あたしは4大入学と同時に東京出てきて、 
 1つ年上のミキティがその1年後に地元の短大出て東京で就職した。大学も3年、こっち出て来て3年。 
 まさか家事に遭うとは!
 
6 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:08
 ミキティの部屋はそこそこ小ぎれいな賃貸マンションで、ワンルームユニットバス。 
 ミキティは彼氏んち行ったり友達とオールだったり、帰らないことの方が多いから 
 ベッドを借りてるけど、いる時はソファー。それもそろそろ限界が来た。
 しかも週1ペースくらいでミキティの親友の亜弥ちゃんが遊びに来るんだけど、 
 また何か知らんがこいつら女同士でイチャイチャイチャイチャしやがって、 
 いやもうホント出たいんだけど、出たいんだけど! 
 
「ハァ…二人とも、ホントごめんね」 
「いーんですよぉ別にー」 
「てゆうかよっちゃんちょっと」 
「ん…ん?」 
「これ、このコどー思う?」 
「は?」 
 差し出された携帯の画面を見る。 
 そこには一人の女の人の写真。見たとこあたしかミキティと同い年くらいで、 
 観光地っぽい綺麗な景色をバックに笑っている。 
7 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:10
 いやなぜこんなものを? 
 どーって、どーって… 
 
「美人…じゃない?てか、すげー可愛いね」 
 粗い画像でもわかる、整った顔立ち。アイドルみたいな美少女顔。 
 色黒っぽいけど、お嬢様とゆう感じだ。 
「…ふ〜〜ん、…そっかよーしよし」 
「…なに?」 
「や、べつに。よっちゃんはどう思うかなって」 
「あっそー…」 
 誰が見ても、可愛いってゆーんじゃないのかな? 
 てかなに人の答えにニヤニヤしてんの? 
 何か企んでんのはいーけど、傷心のあたしを巻き込むようなことはすんなよ… 
 
 
 
 
8 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:12
 
 
 
 て思ってたのに 
 
 
 さっそく次の日ミキティの会社近くのカフェに呼び出され、 
 あたしはイヤ〜な予感がしてしょうがない。わざわざこんなとこに呼び出されるなんて… 
 なんで外で会う必要があんのか? 
「なに…こんなとこで話って」 
「いや〜悪い話じゃないからさ」 
 いや〜あんたにわざわ呼び出されて、悪い話じゃないわけないだろう。 
「今来るから」 
「え?は?」 
「あ、おーい梨華ちゃ〜ん、こっち」 
 ミキティが軽く手を上げて視線を送るその先には。 
 
9 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:13
 その先には… 
 
 
 見覚えのある顔。?? 
 ああ!!昨日の写メの人! 
 
 昨日見たばかりの笑顔で近付いて来る、上品そうなオフィスレディ…いや 
 白いシャツにピンクのカーディガン、ピンクのスカートにピンクのバッグ… 
 なんだこのピンキーな女は… 
 
 
10 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:15
 
 不安が的中したことによるショックと、眩しいくらいの「興奮色」に頭が軽くクラクラする。 
 
 でも、正直それ以上の衝撃が 
 
 
 うおー、やっぱり実物もめちゃくちゃかわいー人だ… 
 
 目なんかウルウルしてて、睫毛なんか、茶色い巻き髪と同じくらい、長くてクルックルで。 
 
 
 なんだかよくわからないけどあたしはとりあえず彼女に軽く会釈をした。 
 座ってティーカップを手にしたまま、そ〜と〜間抜けた顔をしていたに違いない。 
 視界の隅でミキティがこっちを見てニヤついていた。 
 なに企んでやがんだこいつ、まじで… 
 
11 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:17
 
 ぼーっとするあたしにピンクな彼女は優しく微笑んで、ミキティに促され椅子に腰掛けた。 
「えーと、同僚の石川梨華ちゃん」 
「どうも…美貴ちゃんからお話は聞いてます。」 
 なんのお話だよ、おい 
「あ、えーと…どうも。あー…よ、吉澤です」 
 なに緊張してんだよ、おい 
「…大変だったでしょう。あ、大変だったなんて他人事みたい、ごめんね。その…」 
 大変?ああ、火事のことか。いや大変だったし他人事だから気にしないで下さい。 
「あのあたし、美喜ちゃんとは職場で仲良くしてもらってて。いつもお世話になってます」 
 
12 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:18
 
 同年代なのに、随分丁寧に喋る人だ、と思った。育ちが良いんだろう。 
 状況はまったく掴めないけど…とりあえずこの人は悪い人ではなさそう。とゆうか人よさげだ。 
 ピンクの見た目だけじゃない、芯まで女の子なんだなー。 
 言葉遣いもちゃんとしてて、小指たてちゃって…。うーんじっくり見てもやっぱり可愛い。 
 てかなにのん気にお茶してんだうちら 
 
13 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:20
 
「ま、そんな感じでさー梨華ちゃんとは結構仲良いんだけどね、 
 よっちゃんの話とか前から何回かしたことあるんだけど。 
 今回のこと話したら、梨華ちゃんとこ住んでもいいってゆうからさー」 
 
 …は? 
 
 
14 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:21
 
「あの、知らない人と住むなんて抵抗あると思うけど、やっぱり、 
 でも美貴ちゃんのとこ2人じゃ狭いでしょ、他に近くには頼れる人いないって聞いて…」 
「そーそー梨華ちゃんちね、よっちゃんの学校から歩いて10分なんだよー!よかったね!」 
 
 …はぁ? 
 
 
15 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:23
 
「あたしの部屋、結構広いの。色々と落ち着くまで暮らすぶんには、 
 2人でも十分な広さだと思うから、」 
「それでさー梨華ちゃんってすんごいだらしないの。 
 だからよっちゃん家事やったげて!居候するかわりにさー」 
 
 
 ちょ、ちょっと待ってよ、なに言ってんだこいつら! 
「いや、あの……。…はぁぁ?」 
 
 
16 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:25
 
「まーそーゆうことだから、よっちゃんは今日から梨華ちゃんち泊まってね。 
 荷物も今朝送っといたからー。じゃ梨華ちゃんよっちゃんよろしく! 
 あー見えて結構クチうるさいからさー、でも2人ならうまくいくと思うよ、じゃ、 
 今日亜弥ちゃん来るからもー帰るねー」 
 
 そう強引にまとめて、ミキティはさっさと帰り支度をして立ち上がった。 
 
 え、ちょ、待てよ! 
 マジで何が何だかわからなくて、 
 またぼーっとしていたあたしは慌ててミキティを掴まえた。 
「ちょ…どうゆう…」 
 ことだよ、と言い切る前にミキティの視線に遮られる。 
 
「…よっちゃん。今日、帰ってきたら殺すから。」 
 
 …げ。コレまじで殺されるわ。 
 
 
17 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:26
 
「じゃ、がんばって!梨華ちゃん、明日ね〜」 
「うん、じゃあね、美貴ちゃん」 
 ミキティはあたしの手をあっさり振りほどき、颯爽と出口へ向かって行った。 
 向かいに座ってる彼女は、何を咎めるでもなく笑顔全開で手を振って見送っている。 
 
 ああ、嫌な予感は外れない…。 
 
 
18 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:29
 
 
 
 これ以上ミキティに迷惑かけるわけにはいかないから、突き放されたのはよかったかもしれない。 
 
 それはしょうがないんだけど、いいんだけど、でも、 
 
 目の前のこの人どうしたらいい? 
 
 
「…あの〜、座ったら?」 
 ミキティが店を出て見えなくなっても突っ立ったままのあたしに、彼女は言った。 
 そうか、うん、とりあえず座ろう。 
「で、えーと…い、石川さん、」 
「名前でいいよ」 
 ミキティも相当ブッ飛んでるけど、初対面の人間に一緒に住もうなんてこの人、 
 相当変わってるとゆうかお人好しなのか何なのか。 
 人見知りのあたしにルームシェアなんて無理な話だ。 
 
19 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:31
 
「…あのぉ、」 
「うん、なぁに?」 
 アニメみたいな高い声が、急に艶を帯びた。 
 こーゆーのを猫撫で声ってゆうんだろーか 
「あのー、本気ですか?…住んでもいいって」 
「うん、あなたさえよければ」 
「いや、それは正直すごい助かるんだけど、そのー、やっぱり初対面なのに一緒に住むって、 
 何か…そんな迷惑、かけらんないです。」 
「平気だよ、部屋余ってるし。」 
 
20 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:32
 
 
「や、でも…」 
 
 
「お金の心配ならいいから」 
 
 
「いや、あのー…」 
 
 
21 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:34
 
 
 
「ね、とにかく。困ってるのは事実でしょ?」 
 
 
「う…はい」 
 
 
「じゃあ、いいじゃない。ね?」 
 
 
「……」 
 
 
 
22 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:35
 
 
 ああ、なにかこの人には逆らえない 
 
 彼女は両手で頬杖を突きながら、含み笑いで返事を待っている…。 
 
 
 
23 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/19(日) 09:36
 
 
 
 ち、ちくしょー可愛い。 
 
 い、一緒に住んでもいいかな… 
 
 
 
 
「…ね?」 
 
 
「……はい。じゃあ、…お世話に、なります」 
 
 
 
24 名前:my name is... 投稿日:2007/08/19(日) 09:47
とりあえず、ここまでとなります。読みにくくてすみません… 
スレを立てた以上放棄はせずに頑張りますので、お付き合い頂ける方がいたら嬉しいです。 
何か気になる点ありましたら、厳しく言ってください。 
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/19(日) 20:32
お!期待!
いしよし久しぶりだな〜
26 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/19(日) 20:43
期待してます
27 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/19(日) 23:07
面白い!!
戸惑うよっちゃんイイ!!
28 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/19(日) 23:26
最近いしよし熱が熱いですね!
楽しみにさせてもらいますので頑張ってください。^^
29 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/08/19(日) 23:41
誤字と改行がちょっと気になるけれど
それ以上に続きが気になる!
更新楽しみにしてます
30 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 05:38
 
 
 *  *  *  *  *  
 
 
31 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 05:40
 
 少し肌寒い初秋の夜の中を、ゆっくりと歩いてゆく。 
 彼女はマンションまでの道のりを、駅から学校の方角を確認しながら案内してくれた。 
 
 歩きながら彼女は、なにやらぶつぶつと一人で悩んでいる。 
「ひとみちゃんかぁ…吉澤、ひとみちゃんでしょ〜? 
 うーん、よっちゃん、よっしー、ひとみちゃん…」 
「あの…何でもいーから。てかよっちゃんでいいから」 
「えぇーつまんないよぉ!せっかく一緒に住むんだし、何か決めたいじゃない?」 
 そーかい… 
 なにをそんなに嬉しそうにしてるんだ?この人は… 
 一体ミキティはあたしのことをどんな風に紹介したんだろうか。 
 妙なまでに好意的なこの視線が逆に怖い。 
32 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 05:43
「あ、じゃあ…ひーちゃん、ひーちゃんは!?」 
 何かとても名案を思いついたというような顔であたしの様子を覗う。 
 うーん、ひーちゃんですか 
「それはあんま、呼ばれないなあ」 
「そう?じゃひーちゃんにする。ひーちゃん、あ、何か可愛いね。 
 ひーちゃん♪」 
 いやそんな呼ぶなって。 
 何か、子供みたい…で、恥ずかしい。 
「…やっぱ厭かも…」 
 
「えっ…」 
 
 うわ、そんな悲しい顔しないで!ごめん、ごめん 
「あ…いや、えと、それでいーよ。…あたしは、梨華ちゃん、でいーかな…」 
 
 
 ああ、すげー笑顔。 
 
 
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/20(月) 05:44
うわーいしよしだー!!!
楽しみが一つふえたよ頑張ってねー
34 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 05:45
 
 
 彼女の歩幅に合わせて、ゆっくりゆっくり駅から徒歩で15分。 
「ここがウチだよ」 
「わ、でけー!」 
 通されたのは、10階建てマンションの広ーい玄関ホール。 
「ずいぶんいーとこ住んでますね」 
 正直、中流企業のOLの給料で住めるトコとは思えないんだけども。 
「うん、でも親戚が経営してるから、お家賃すっごく安くしてもらってるの。 
 でもねだからねココほんとに一人じゃ広いんだよ?」 
「あ、へぇ…」 
 何だ、そうゆうことか。 
 てっきり愛人やってて買ってもらった系とかそんなのかと…。 
 よかった、そんなある意味いわくつきの部屋だったらやだもんね。
 
35 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 05:49
 
 エレベーターを7階で降りる。廊下を一つだけ曲がった角部屋の705号室。 
 ガチャッ。 
「あ、鍵。」 
「え?」 
「ごめん、忘れてた。 
 ひーちゃんも鍵ないとだもんね?スペアキー、どこやったっけ…」 
 言いながら通された部屋は廊下にいくつもドアがあって、 
 2LDKってとこだろーか、確かに一人じゃ広いかも。 
 廊下を抜けてリビングに入るとそこは…
 
36 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 05:51
 
 げ!! 
 ま…まぶしい… 
 
 ピンクのソファー、ピンクのラグ、ピンクの置物、ピンク、ピンク、ピンク…。 
 ばかじゃねぇのこいつ!!よくこんな眩しいリビングでくつろげるな! 
 
 
 てゆうか、マジで、きったねー…。 
 
37 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 05:53
 
 案外ミキティは「家事やったげて」が一番本音だったのかもしれないと思う。 
 うーん…これはやりがいありそうだ。 
「ごめんね、あの…きゅ、急だったから…」 
 あたしが黙ったまま突っ立ってると、 
 きったねぇ部屋の主・梨華ちゃんが恥ずかしそうに俯いて言った。 
 あたしは満面の笑みで返してあげる。 
 
「…片付けながら、鍵探すよ」 
 
 
 梨華ちゃんはもっと俯いてしまった。 
 
38 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 05:58
 
 とりあえず、ここ使ってと7畳くらいの寝室に通される。 
 お姉さんと同居していた時期があったらしく、もう使われてないベッドと箪笥まであって 
 何かほんとに普通に暮らせそうだ。 
 こんなにお世話になっていいもんかなと思っていると、宅急便であたしの荷物が。 
 ミキティ、ほんとに送ってたのか…。 
「荷物、それだけ?」 
 ボロボロのデカバッグ一つとゆう荷物を見て梨華ちゃんが言った。 
「これでもかなり持ち出せた方だよ、てか生きてるだけでかなりラッキー。」 
「あ…ごめんね」 
「気にしないから。あのさ〜、この箪笥とかも使っていい?」 
 緊急避難のミキティの部屋に荷物を増やすのは悪いと思ってそのままでいたけど、 
 いい加減服とか買いたい。秋口だからこの3週間でだいぶ寒くなってきた。 
「いいよ、ひーちゃんの部屋だから。家具とかも買って置いちゃっていいからね?」 
「ありがと、ほんと助かる」 
39 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 06:01
 それから一通り部屋の間取りと水周りの使い勝手なんかを教わって、 
 さて夕飯どうしようということになって。 
 だらしない部屋の割にはキチンとされている台所を見て、 
 外食ばっかりしてるんだろうなと思う。 
「何か、作るよ」 
 と言ったはいいが、「何にも無いよ?」の言葉どおり冷蔵庫には飲み物とヨーグルトだけ。 
 これは本格的に家事をやってやらなきゃなあ。 
 
40 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 06:04
 
 食材を買いに部屋を出て、散歩しながら買い物しながら、色んなことを話した。 
 話したとゆうか、ずっと彼女が喋ってたんだけど。 
 マンションの経営者は中澤裕子さんという女性で、遠い親戚なんだけど親しいそうだ。 
 梨華ちゃんは三姉妹の真ん中で、短大入学と同時に神奈川から出て来て、 
 地元に柴ちゃんという親友がいて。家族のこと地元のこと会社のこと、とにかく喋る喋る。 
 一生懸命話してる姿がなんか面白くてちょっと可愛い。 
 喋りながら途中で自分ウケして笑い出したり、 
 人の話も妙に真剣に頷いてるかと思えば案外聞いてなかったり、 
 やっぱり変な人だ。 
41 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 06:08
「ひーちゃんの写メール初めて見たとき、すっごい綺麗でびっくりしちゃった」 
「あ、えー?あたしが?」 
「そうだよー。スタイルもいいし、モデルさんみたい…カッコいいね」 
 そんなこと言われて、何て返したらいんだろう。 
 自分のルックスに不満も驕りも特に無いのでこういう類の話は苦手だ。 
 
 てゆうか梨華ちゃん熱っぽい視線で見過ぎ。 
 なんだろうコレは、アレか?女子校時代のあの憧れの先輩的なアレなのか? 
 なんかもしかしてあたしちょっと身の危険を感じた方がよいのかな?
42 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 06:10
「あたしもね、正直知らない人と住めるかなって不安だったんだけど、 
 美貴ちゃんは大事な友達でしょ、その美貴ちゃんの大事な幼馴染みが困ってるって、 
 あたし役に立ちたいなあって思ったの。 
 ひーちゃんのことは前から話聞いてたし、 
 いい子そうだなって思ったから会うのも楽しみだったの」 
 …ほんとによく喋るなあ。 
 
「それで今日会ってみてね」 
「うん」 
 
「予想以上に素敵な子だなって思った。嬉しかった」 
「…」 
43 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 06:12
 梨華ちゃんは立ち止まってあたしに向き合い、微笑んで言った。 
 
「これからよろしくね」 
 
 あー、ほんと可愛いなあって、心から思ってしまうような笑顔。 
 
 あたしも会えて嬉しいなんて、そんなことは口にしないけど 
「こちらこそ、あの、迷惑は掛けないようにするから」 
 差し出した手を握りながら梨華ちゃんは、 
 
 
「ううん、あたしこそ、あの…だらしないから」 
 
 また真っ赤になって俯いてしまう。 
 
 
44 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 06:13
 
 *  *  *  *  *  
 
45 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 06:15
 
 梨華ちゃんが「和食がいい」と言ったので、夕飯は豆腐サラダとアジの開き。 
 野菜切って魚焼いただけだけど、何だかやたらと美味しい美味しいと感動してくれて嬉しかった。 
 広いお風呂に入って、軋まないベッドに寝る。うおー、めちゃめちゃいい生活。 
 
 ミキティ、ありがとう… 
 
 ブーッ、ブーッ、ブーッ。 
 寝るとこだったのに…。噂をすれば?ミキティからのメール。 
46 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 06:16
 
『梨華ちゃんちどお?すっごいいー部屋でしょ! 
 そのうち亜弥ちゃんと遊び行くからね〜!仲良くやれよ!! 
 
 
 
 つーか梨華ちゃん胸でかくない!?』 
 
 
 …意味わからん。おやすみ 
 
 
 
47 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/20(月) 06:18
 
48 名前:my name is... 投稿日:2007/08/20(月) 06:28
今回はここまでです。 
 
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>25 名無飼育さん 様 
 やはり娘。小説といえばいしよしだと勝手に思っています。 
 
>26 名無飼育さん 様 
 ありがとうございます頑張ります! 
 
>27 名無飼育さん 様 
 ヘタレよっちぃがデフォなので(・∀・) 
 
>28 名無飼育さん 様 
 熊谷より熱いいしよしに熱中症気味です。 
 
>29 名無飼育さん 様 
 改行下手ですみません…誤字気をつけますね(T▽T) 
 
>33 名無飼育さん 様 
 いしよしです!頑張ります! 
 
レスとても励みになりますね。お付き合い頂きありがとうございます。 
次回は遅くとも金曜までには更新したいと思います。
49 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/20(月) 22:42
梨華ちゃんのひーちゃん♪大好きです。
楽しみにしてます。
50 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/08/20(月) 22:52
甘さで胸やけを起こす日は近いですか?
胃薬用意して更新待ってます
51 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/21(火) 04:11
何故「いしよし」はこんなに私を熱くさせるの?
私は何故他人の恋愛を応援してるの?これって何?
何故こんなにいしよしが好きなんだろう…病気なのかな

52 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:10
 
 −2− 
 
53 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:11
 
 次の日、梨華ちゃんが仕事の間リビングを片付けた。スペアキーが出てきた。 
 
54 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:12
 
 これからの共同生活のために、ルールを決める。 
 基本は自分のことは自分で、だけど 
 洗濯は分けると効率悪いから一回で、あたしやるからと言うと 
「だって下着とかあるし…」 
 とか顔赤らめやがって 
 ええーなんかこっちまで意識しちゃったじゃんよ! 
 おんなじもん身に着けてんのに変な話だ、と思ったけど 
 めんどくさいので特に突っ込まずに話を進める。
55 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:14
「あたし、ご飯は一緒に食べたいなあ」 
「いいけど、あたしバイト終わんの12時とかだよ?」 
「うん。帰りが早い時だけでいいの。 
 ひーちゃんだって飲みとか帰らないこととかあるでしょ、だから家にいる時。 
 朝でも夜でも二人ともいる時は、一緒にご飯、食べよ?」 
 上目遣いでお願いされて、断れるわけもなく。てか断る理由もなく。 
 そもそも家事はミキティからの指令でもあるし。 
 でもそれって、毎日今日ご飯どうするとか聞かなきゃいけないわけだよなーと思って、 
 なんか、同棲みたい… 
 昨日初めて会ったのになぁ。 
56 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:15
 
 お金の話をしたら、そんなのはいらないから貯めなさいなんて逆に怒られてしまった。 
 状況が状況だし、今まで一人で払ってきたものを貰うのは気が引けるからと 
 強く断られたけど、あたしはそういう事はきちんとしたいのでしつこく食い下がり 
 ちゃんと払うことを約束した。 
 すぐには引っ越せない理由が物件云々の問題だけじゃないのを察して呼んでくれた 
 みたいで、ゆっくりでいいから、と言ってくれた。 
57 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:16
 
「でも、別にお部屋見つけなくても、ずっとここにいてもいいんだよ?」 
 
 なんて上目遣いで言われてうーんマジでずっと住んじゃおうかなんて… 
 思ったりも、する。 
 
58 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:18
 
 そんな感じで特に何の問題もなくあたしは快適な生活を保証された。 
 
 掃除してれば部屋は綺麗で広いし(梨華ちゃんの寝室はどうかわからないけど) 
 防音きいてるから隣の生活音なんて聞こえないし。 
 前のアパートは学生ばっかで毎日朝方までうるさかった。 
 バイトはもともと学校の近くを選んでたからそんなに遠くないし、学校は徒歩圏内。 
 今までよりちょっとだけ長く寝れるようになった。 
59 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:19
 
 でも一番おっきいのは、家に帰ると人がいること。 
 
 火事のこともあるけどもともと淋しがり屋で家に一人というのが苦手だったから、 
 バイトで遅くなって疲れて暗い夜道を帰ってきても、 
 可愛い同居人が待っていてくれてると気持ちが和らぐ。 
 別に決めたわけでもないのにいつも二人でリビングで過ごす。 
 
 早く帰ったときはあたしが飯作って、二人で食べて片してテレビ見たり、 
 あーなんかいいなあ。 
 梨華ちゃんといると落ち着く。ときどき変なこと言って疲れるけど、 
 この人の話を聞くのは嫌じゃない。良くも悪くもすごく素直で真っ直ぐで、 
 こまごまとした気遣いが優しくて。結構何してても可愛い。それは別にいいか。 
60 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:20
 しかし、 
 初めて会ったときは完璧な美人OLって印象だったのに。 
 マメに片さないとすぐ部屋はきったなくなるし、 
 朝はあたしが起こしてやんないとなかなか起きれないし、 
 機械にやたら弱くてテレビ番組を録画すんのにもいちいち聞いてくる。 
 あたしがバイトの日はいつもコンビニ弁当なんか食ってるし、 
 この人は一体どうやって一人で生活してたんだと思う。 
 
61 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:21
 
  *  *  *  *  *  
 
62 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:22
 
 今日もいつものように飯食ってテレビを見る。 
 リビングにはでっかいピンクのソファーがあって、 
 梨華ちゃんはいつもそれの端っこに座る。 
 あたしは梨華ちゃんの脚を横に、低めのソファーを枕に床にごろごろ。 
 この体勢ちょっと腰とか痛いんだけど、たまに隣に座ろうもんなら 
 ぴったりくっついてきたりしてそれもある意味身体がもたないので、今日も床に寝転がる。 
 
63 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:24
 
「…ひーちゃんて髪細いね」 
 
 え、え、なにしてんのこの人。 
 
 いきなり髪の毛触られた。こーゆーことがあるから安心できない。 
 あたしは背高い方だから頭触られんのなんて慣れてないし、 
 そんなに優しく撫でられたら困る。 
 動悸は速まるし、顔は熱くなるし、でやめてほしいけど気持ちいい。 
 
64 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:25
 
 あーなんか、眠くなってきたかも…と思って 
 うっすら開けた目でウトウトとテレビを見てたら、 
 いきなり不穏な音楽と暗い映像が流れ出して、なんだよホラー映画かよー。 
 
 こーゆーの結構苦手なんだよな、替えていーかなと思ってリモコン探してたら、 
 横でキャーキャー言いながら楽しんでる人が一人。 
65 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:26
「ひーちゃんやだこわ〜い」 
 なんつってるからチャンネル回そうとすると、待って見てるからぁ、って。 
 う〜、けっこーこわい… 
 げっ。 
 
 ああ、もう完全に目ぇ覚めてきちゃった… 
 わ、うわ〜 
 
 ちょ、梨華ちゃん、見てないじゃん! 
 ちょ 
 うおおおこえええ 
 
 
 …… 
 
66 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:27
 
 …お、終わった。 
 風呂入ってからで、よかった。 
 
 つーか、梨華ちゃん…。 
 
 見上げると、すっかりちっちゃくなって震えてる。 
「……だいじょぶ?」 
 返事が無い。体育座りして、膝に顔を伏せたまま動かない。 
 自分で見るなんてゆっといて、もう終盤あたりからずっとこうだ。 
 バカだなぁ。ほんとバカかわいー。 
67 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:28
「りーかーちゃん、おぉい」 
「…」 
 まだ返事がないので、起き上がって無防備な背中を人差し指でとんとんと叩く。 
 
「やんっ」 
 
 やんって… 
 へ、へんなこえ出すなよ、ったく… 
 
68 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:31
「…も終わったよー。だいじょぶ?」 
「ううー、怖かったぁ〜。」 
 やっと顔上げた梨華ちゃんは、いつも困ったときする八の字眉よりもっと八の字になってて。 
 思わずぷっと吹いてしまった。 
「な、なんで笑うの〜!」 
「いや、なんか…ごめんごめん」 
「もぉ!ほんとに怖かったんだよ?」 
「だから他の回そうとしたら、梨華ちゃんが見てるからってゆったんじゃん」 
「だってだって見たかったやつだったんだもん!」 
「そんで結局ラスト見てないんじゃしょ〜がね〜っしょ…」 
「だって、こんなに怖いと思わなかったぁ…」 
 
69 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:32
 言いながら梨華ちゃんは、あたしに身体を向けてぐっと顔を近付けてきた。 
 ち、近いから。 
「…まあ、怖かったねぇ…」 
「うん…ひーちゃん、もう…寝る?」 
「え?ああ…」 
 まだ11時だけど、基本早寝のあたしはバイト無い日はもう就寝時間。 
 でも今日は、梨華ちゃんほっとけないし。さっきので眠気飛んだし。 
「んー、まだ寝ないかな」 
「いーよ?寝て」 
「いや、別に…明日遅いし」 
 
70 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:33
 
「ね、ひーちゃん……」 
 言いながら更に顔を近づける。 
 
 な、なに? 
 
 
71 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:33
 
 
「……一緒に寝よ?」 
 
 
72 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:34
 
 
 ガキかよ!! 
 
 てか、恥ずいから! 
 
73 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:36
「…子供じゃないんだからさぁ」 
 
「だって怖いんだもん…」 
 
「もうちょっと、起きてるからさ」 
 
「でもひーちゃん寝ちゃったら怖いもん」 
 
74 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:37
 
「…」 
 
「…おねがい」 
 
 
 あああ、またそんな上目遣い… 
 
 
「ひーちゃん…」 
 
 
 それ、その声、反則だから 
 
 
75 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:39
 
 
「おねがぁい」 
 
 
 
「……しょーがないな」 
 
 
76 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:39
 
  *  *  *  *  *  
 
77 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:40
 
 だいたい、何をこんなに緊張してんだ。 
 一緒に寝るだけじゃん、そんなの誰とでもするじゃんか。 
78 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:41
「ね〜ひーちゃん、もっとこっち来てぇ」 
 セミダブルのベッドの中、あたしはできる限り身体を離して 
 落ちそうなくらいのはじっこに寝転んだ。 
 梨華ちゃんは間をポンポン叩きながらあたしを呼んでいる。 
 
 だってこの人、女同士でもヘンな気なりそうなぐらい色気あるカラダしてんだもん。 
「…梨華ちゃん寝相悪そうだから、やだ」 
「う…悪くないもん。」 
「…」 
 
「…怖いよ〜淋しいよぉ」 
「……」 
 
79 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:43
 
「ひーちゃぁん…来てぇ…」 
 
 やらしー声でやらしーことゆうんじゃない! 
 
 しょーがないから、はじっこからもそもそと淋しい間を埋めていく。 
 ち、近ぇ… 
 息が触れるくらいの距離。にむしょーにドキドキして、 
 動揺がばれないように視線を逸らす。 
 
80 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:44
「ったく…いくつだよもー」 
「だってひーちゃん怖くないの?」 
「怖いけどさぁ…一人で寝れるよ。」 
 
「…ひーちゃんがいて、よかったぁ」 
 
 ほんとカワイイなこいつ… 
 そんでほんと声エロい。 
81 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:45
 ちらっと視線を戻すと、いつものウルウルした瞳でまっすぐに見つめられていた。 
 
 また恥ずかしくってすぐに下向くと、 
 パジャマの首元から、ああああ、乳が。 
 
 いやこれほんとに、乳か? 
 普段服着ててもおっきいのわかるくらいなのに、 
 横向きで寝っ転がってるから谷間がすごいことに。 
 
 ミキティ、梨華乳はマジででかいです…。 
 
82 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:46
「…ひーちゃぁん?」 
「え?う…あ…り、梨華ちゃん、乳が、いや胸が…み…」 
 みえてます…っていやだから乳見えてるくらいで何動揺してんだっつの! 
 乳なんてあたしにもついてるから!こんなでかくねぇけど! 
「えっ?」 
「あ…いやぁ、ミキティがさ…梨華ちゃん、胸、おっきいでしょって…」 
「ああー。何かね、よく鷲掴みにされるの。なんだよこの胸は、って。ふふふ。」 
 なにやってんだよミキティ…亜弥ちゃんに言ってやろ 
83 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:47
 
「…触ってもいーよ?」 
 
「はぁ!??」 
「あれぇ、違った?」 
 いやいや、確かに触りた…いや、ずっと見てたけども。 
 
84 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:49
「ば〜か。そんなん彼氏にでも揉んでもらっとけ」 
「……彼氏、いないもん」 
 いるともいないとも聞いてなかったけど、なんだやっぱりいないのか。 
 いつも家にいるもんなー 
「なんでいないの?」 
「…………別れたから…」 
 
「ああ…ごめん」 
85 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:53
「いーの。終わったことだもん」 
 目のやり場に困って天井辺りに泳がせていた視線を梨華ちゃんに戻すと、 
 何か思い詰めた表情で、 
 うぅ、なんか気まずい空気…。聞いちゃいけなかったかな。 
 
 この空気をどうにかしたい、何か言わなきゃ、何か… 
 
 
 
「…触ってもいい?」 
 
86 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:55
 
 ってアホかああああああ 
 
 
「…いーよ…」 
 
 ってお前もアホかああああああ 
 
 
 「触ってもいい?」「いーよ」って、もう触るしかないじゃん、どどどーすんだよ。 
 平静を装いつつ内心オロオロしまくってるあたし。 
 いやだから、乳くらいで…。 
 べべ別に、女同士で、でかい乳触らしてもらうだけじゃん、 
 梨華ちゃん待ってるし、行け行っとけあたし。 
 
87 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:56
 
 胸元に、手を伸ばす。 
 待ってる梨華ちゃんの顔は、すんげえやらしい。 
 目細めたときの下まぶたがエロい。半開きの口が、何とも言えない。 
 
 動揺させてんのは、この人だ。 
 何か息荒くなってきたような気するけど、あたしが変態なんじゃない。 
 
88 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:57
 
 手が、胸に、ふ、触れて… 
 
 ななななんでブラ付けてねんだよおおお計算かこのやろおおお 
 
 
「ぁん…」 
 
 だだだからヘンな声だすなっ… 
 
 
89 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:58
 
 
「ひ…ちゃん、触り方、えっち…」 
 
 
「…梨華ちゃんこそ声…すっげやらしぃ」 
 
 
90 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 06:59
 
「…ぁ」 
 
 パジャマがはだけた部分に直接指が触れると、 
 梨華ちゃんはほんの少しだけ身体を震わせて小さく声を漏らした。 
 
 かわいい、めちゃくちゃかわいい…。 
 だめだ、とまんない… 
 
91 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:00
 
「ひー、ちゃん」 
 
「…梨華ちゃ…」 
 
 
 
 ブーーッ、ブーーッ、ブーーッ。 
 
 
 誰 だ よ ! ! 
 
92 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:02
 あたしも梨華ちゃんも、手の動きとか息遣いとか、二人して完全に固まってしまった。 
 
 ブーーッ、ブーーッ、ブーーッ。 
 
「…電話、じゃない?」 
「あ…うん…。ちょ、ごめん…」 
「うん…」 
93 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:03
 梨華ちゃんの胸に置かれた手を、ゆっくりと離して枕元の携帯を取る。 
 
 ブーーッ、ブッ。切れちった。 
 履歴を見ると、 
 『 不在着信  ミキティ 』 
 ミキティ…。 
 どうせまたなんか暇だから〜、とかなんとかで掛けてきたんだろーな… 
 
 いや、でも、助かったのかな。 
 あのままいってたら、何か確実にやばいことになってた気がする。 
 
 落ち着いて考えたらなにやってたんだおいおい。 
 
94 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:04
「あー、ね、寝よっか」 
「いいの?電話…」 
「ん、だいじょぶ。ほらー梨華ちゃん、早く寝ないとまた朝起きれないよ」 
「だって怖くて寝れないよ〜…ひーちゃん、起こしてくれるでしょ?」 
「起こすけどさ…」 
95 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:06
 
 あたしは内心まだ動揺してるのに、 
 梨華ちゃんは全然普通で、とゆうか開き直ってんのか、 
 更に距離を詰めて寄ってきて、腰に手を回したりする。 
 
 胸が、胸が当たってますから。 
 さっきまでそれ揉んでたんですけど、だめだ感触思い出す… 
 
「ああもう、くっつくな!」 
「やだひーちゃんもぎゅってして!」 
 
 恋人かよ!! 
 なんでそんなんまで面倒みなきゃいけないの、まったく… 
 
 と思いつつあたしの腕は梨華ちゃんの腰へ。だって、この人には何か逆らえない。 
 どこまでも世話の焼ける…。 
 
96 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:07
「梨華ちゃんさー…あたしが来る前どうやって起きてたの?」 
「んー、いつもギリギリに、危機感で。」 
「…じゃあ、ご飯は?」 
「食べてなかった」 
「ハァ??」 
「ちょっと、食欲不振だったの」 
97 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:08
 マジで?? 
 …それって、別れた彼氏のせい? 
 あの思い詰めた表情といい、なんか、色々大変だったんかなあ 
98 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:08
 
 あたしはなにも言えることがないやと思って、 
 何となく、梨華ちゃんの頭をよしよしと撫でた。 
 
 梨華ちゃんはふふっと笑ってあたしの胸に顔を埋める。 
 
99 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:10
 
「あったかーい」 
 
 
 息、くすぐったいよ 
 
 
「ひーちゃぁん…」 
 
 
 もそもそ動くなって 
 
 髪、くすぐったいよ 
 
 
100 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:11
 
 怖くて寝れなぁいなんて言ってたくせに。 
 
 すぐに静かな寝息が聞こえてきたから、少し体を離して寝顔を覗き込む。 
 
 顔だけは完璧だなー 
 
 あたしはまだドキドキしてんのに、ひとり寝やがって。 
 熟睡してるようなので、ほっぺたを突ついたり髪の毛で遊んだり。 
 
 
 部屋に戻ろうかと思ったけど、この可愛い寝顔をもうちょっと見ていたかった。 
 
 
101 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:12
 
  *  *  *  *  *  
 
102 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:14
 
「あれよしこー、クマできてるよ。どーしたん?」 
 
 昨日は、結局部屋には戻らず、つーか戻れず、ずっと梨華ちゃんのベッドにいた。 
 寝相なのかなんなのか下半身を両脚で挟まれて身動きできなくて、 
 腕には乳が当たってるし、寝顔はかわいーし、拷問かと思った。 
 
 なにがあろうと寝れないことなんて滅多に無いあたしが、 
 朝まで悶々としてしまい結局眠れたのは2時間くらい。 
「ああ…寝てないの、マジで…。だめだ、まいちんあとよろしく」 
103 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:16
 こんな日は、早く帰ろう。帰ってバイトまで寝よう。 
 グループ研究のレポートの最後の最後の確認を、まいちんとその他メンバーに任せて 
 あたしは席を立った。 
「いいねぇ家ちかいと」 
「あー。まいちん家遠いもんね」 
「徒歩10ぷんは近すぎだよ!」 
 まあ確かに。いやいや、ほんとによかった。 
 もうこれ運命だね、二人で暮らすのは必然だったのかもね、ってもう寝ぼけてんのか?あたし 
 適当な謝罪をしてその場を後にし、学校を出てマンションに向かう。 
104 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:18
 
 歩いてたら目覚めてきちゃったな、今からバイトまで何時間寝れるかなー 
 なんて考えながらエレベーターを降りると、何かすっげー派手な女の人が廊下に。 
 
 見たとこ30歳ぐらい、 
 金髪で鋭い目つきで、高そうなスーツに高そうなアクセをじゃらじゃら着けてる。 
 見かけない人だけど、7階の住人なのかな。 
105 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:19
 一瞬目が合ってすぐに逸らしたけど、あっちは何か、何か見てるんですけど。 
 見てるどころかガン見じゃん、睨まれてるじゃん。え、なに?なんなの? 
 怖いからさっさと部屋に入ろうと705号室の前に立って鍵を探してると、 
 げっ、こっち来たよ、何だよ〜! 
106 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:20
「ちょっと…」 
 は、話し掛けられたし。 
 
「はい?」 
「アンタがひーちゃん?」 
「え!?」 
 
 なぜその呼び名を…。 
 そうですけどと応えると女性は笑顔で頭を下げた。 
「やっぱり、梨華ちゃんの言うとったとおりの子やねすぐわかった。 
 私、ここ経営してます中澤です。梨華ちゃんから話は聞いてますー」 
 
「あ、あ〜!どうも、吉澤です…」 
 この人が中澤さんか! 
 きれーな人だなー…。梨華ちゃんの血縁ってみんな美人なんだろうか。 
 
107 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:22
 部屋に問題は無いかとか住み心地はどうかとか簡単な挨拶話をして、 
 ここじゃなんだからと部屋に上がってもらおうとしたけど中澤さんは急いでいるからと遠慮した。 
 
「今日はねーちょっと野暮用でこっちまで来たんやけど、吉澤さんに会えてよかったわ」 
「いや〜こちらこそ…」 
「梨華ちゃんやけど、外じゃ気ぃ張って家ではああでしょー、 
 ホンマやったら身内以外となんてよう住まれへん子やんか。 
 でも吉澤さんのことめっちゃ気に入ってるみたいで。」 
 
「あ、へえ…」 
 梨華ちゃんの好意はわかってるけど、 
 こうやって人に言われると何だか恥ずかしい。 
108 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:23
「なんやめっちゃ嬉しそうにしてたで。ひーちゃん来てから家にいるのが楽しー、って」 
 そんなこと言われたら益々照れる。 
 とゆうか、楽しい思いさせてもらってるのは、あたしだし 
 
「めっちゃ優しくてええ子やって」 
 なに言ってんだ 
 
 いきなり転がり込んで、迷惑かけてんのに。 
 いつもぶっきらぼうにしか答えられないのに。 
109 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:25
 
 中澤さんは、すごく優しい笑顔で言った。 
「あんなでもカワイイ親戚やから、仲良うしたって」 
「はい」 
 
「大事にしたってな」 
「…はい」 
 
 それはちょっとあたしにゆうことじゃないんじゃと思うけど。 
 
 大事には、します 
 
110 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:26
 
 それじゃと言って中澤さんが去ってからも、あたしはしばらくその場でぼーっと立ち尽くしていた。 
 瞼が重くなってきて、寝る為に帰ってきたんだと思い出した。 
 
 
 梨華ちゃんに、今日はバイトだけど一緒にご飯食べようとメールしておこう。 
 
 
111 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:27
 
  *  *  *  *  *  
 
112 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:28
 
「裕ちゃんに?」 
「うん、昼過ぎに。廊下で会った」 
 
 待っていてくれた梨華ちゃんの為に、彼女の好きなイタリアンの店に来た。 
 
 あたしも会いたかったなーなんて言いながらパスタをくるくる。 
 
 なんか、緊張する。 
 いつも隣で飯食ってるから、向かい合ってるのが恥ずかしい。 
 
113 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:30
「何話したの?」 
 
「え?」 
「何て言ってた?」 
「あー、何だっけな…別に、お世話になってますとかそんなこと」 
 
 覚えてないわけないんだけど。 
 何か、恥ずかしいから。 
 
「でも、梨華ちゃんのことよく知ってた。ほんとに仲いんだね」 
「うん、ちっちゃい頃近くに住んでて。親戚で一番裕ちゃんと仲良いの。」 
114 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:32
「へー…そーいやどんな親戚だっけ?どー繋がってんの?」 
「えぇとね、ママの従姉妹の旦那さんの、弟さんの奥さんの、お姉さん」 
「遠いな! 
 じゃあ全然血は繋がってないんだ、なんだ」 
「なんだ、って?」 
「いや、中澤さんて、すごいきれーな人だったから。 
 やっぱ梨華ちゃんの親戚だなーて思ったんだけど。」 
 
「それって、どうゆう意味?」 
「え?」 
 
 まずい。 
 なに言ってんだあたし。 
 
115 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:33
「ねえねえ〜」 
 ああもう、なに期待してんだよ。そのままの意味だよ。わかってんでしょ、聞くなよ。 
 そんなカワイイ顔したって言わねえから。 
 
「…別に。中澤さん美人だね、って話」 
「うん、裕ちゃん綺麗よね。ってそれはそうだけどぉやっぱりあたしの…って下りはぁ? 
 ねえねえどーゆーことぉ〜?」 
「別に意味なんかないから!早く食っちゃえよもー」 
116 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:34
 
「もう…ひーちゃん照れ屋なんだから」 
 
 そうだよ、シャイなんだよあたしは。 
 
 だからそんな目で見ないで。 
 カオ赤くなってたらどーすんだよ、恥ずかしいよ。 
 
117 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:36
 
 今日の梨華ちゃんは何だかほんとに綺麗で。 
 あたしは食事中なのにどきどきどきどき。 
 
 外にいるから、梨華ちゃん化粧してるから。照明が薄暗いから。 
 言い聞かせながら、梨華ちゃんをチラチラ盗み見たりして。 
 
 
 絶対言わないから。 
 
 梨華ちゃんが綺麗でドキドキするなんて。 
 
118 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:37
 
 
 
「り、かちゃん」 
 
「なぁに?」 
 
119 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:37
 
「あー…」 
 
 
 
「きれーだよ、すごく」 
 
 
120 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:38
 
 ああ、言ってしまった。 
 
 
 
 なんで、ゆうこと聞いてしまうんだろう 
 
 どうして望むことしてあげたくなるんだろう 
 
121 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:40
 
 
「…ありがと…」 
 
 
 彼女は真っ赤になって、 
 でもひーちゃんの方が綺麗よ、なんて言いながらまたパスタをくるくる。 
 
 
122 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/21(火) 07:40
 
 
123 名前:my name is... 投稿日:2007/08/21(火) 07:44
 
 今回ここまでとなります。 
 やたら長くあげてしまったので読みにくいかもしれませんね…スイマセン(T▽T) 
 
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>49 名無飼育さん 様 
 石川さんのひーちゃん力は凄いですよね! 
 
>50 名無飼育さん 様 
 胸やけして頂けたでしょうか… 
 しかし事実は小説よりなんちゃらの実際のいしよしには遠く及びませんね。 
 
>51 名無飼育さん 様 
 どうして他人の恋愛なのにこんなにも不安になったりドキドキしたりするんでしょうね。 
 やはりいしよしは運命だからですかね 
 私も時々病気かと心配になりますが、よっちぃの尋常でない石オタっぷりを見ていると 
 大した事では無いと思われます。 
 
 待っていて下さる方々の期待に少しでも応えられるようなものを 
 毎回更新できるように頑張ります。 
124 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/21(火) 10:55
更新お疲れさま。
作者さんの書く「いしよし」良いですねー
二人ともおもろいしカワイイですね 頑張って!
125 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/21(火) 12:38
ヘタレなひーちゃんキャワイイー
梨華ちゃんもっとエロくひーちゃんに迫ってエーーー
126 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/22(水) 13:05
選んだ言葉とそのテンポがすごい。
その調子で軽いテンポで進むと思いきや、もしかして、と
勝手に展開を想像してしまう程のわくわく感。こういうの読めて嬉しいです。
127 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:30
 
 −3− 
 
128 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:31
 
「今日、遅くなるかも」 
 
 今朝そう言って出勤したきり、梨華ちゃんが帰って来ない。 
 あたしがバイトから帰ってもまだいないし、何の連絡も無い。 
 今まで日が変わる前に帰って来なかったことなんて無いのに、もう2時だ。 
 
 楽しく飲んでるんだろうけど、もしかしたら何かあったのかもしれないとか 
 見るからに酒弱そうだし持ち帰られてんじゃないだろーかとか、 
 抜けてるからまさか事故やら事件に巻き込まれてんじゃないかとか気が気じゃない。 
129 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:32
 飯を一緒に食わない以上、梨華ちゃんがあたしに連絡する必要なんて無いんだけど、 
 それでも何か一言ぐらい、連絡入れてくれればいいのに。 
 梨華ちゃんのメール不精も、こうやって時々淋しくなる。 
 
 あたしの場合、意外とマメだよねとかよく言われるけど 
 それって淋しいからで。 
 誰かと繋がっていたい。メールでもなんでも。 
 
130 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:32
 
 梨華ちゃんのいないこの部屋で、久しぶりにものすごい孤独感。 
 
 家事になる前は、一人だったじゃん。しばらく彼氏もいなくて。それでもやって来れたのに。 
 
 なんだよなんかすげー淋しいよどうしよ。ちょい涙目なってきた。 
 
131 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:34
 
 梨華ちゃん、まだかなー。 
 
 やっぱ、何かあったのかもしんない。 
 
 
 とにかく落ち着かないのでコーヒーでも飲もうと立ち上がった瞬間、 
 ガチャッと玄関の戸の開く音がして。 
「たぁだいま〜」とかかなり酔っ払った感じの声がして。 
 あたしはむかついたからその場にもっかい座り込んで、 
 出迎えずにリビングのドアが開くのを待った。 
132 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:36
「ひ〜ちゃんただいまー!」 
 ちらっと横目で見た感じ、かなり上機嫌みたい。 
「…遅いじゃん」 
「あ〜なんかねぇ盛り上がっちゃって〜」 
「…ふーん」 
「…あれぇ?…ひーちゃん、なんか怒ってる?」 
 あたしの態度に梨華ちゃんは、少しだけテンション下げて申し訳無さそうに尋ねて来た。 
 
「別に。」 
「ごめんね?心配した?」 
「別に。」 
「淋しかった?」 
 
133 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:37
 
「…別に」 
 うそ、すっげえ淋しかった。 
 思いっきり強がってんのが分かったのか、梨華ちゃんはいきなり後ろから抱きついてきて、 
 ぐしゃぐしゃに頭を撫でられる。 
 
「ちょ、なに!」 
「ひ〜ちゃん、カワイイね」 
「なんでだよ意味わかんない」 
 
134 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:38
 こんなの嫌なのに恥ずかしいのに、何か動けなくて。 
 あたしはされるがままに、梨華ちゃんの腕に顔を預けた。 
 
 酒くさ。 
 でも、微かに梨華ちゃんの匂い。 
 
 あー、安心する。 
 
 梨華ちゃんてこんなにも、でかいんだなあ。あたしの中で。 
 
135 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:39
「…ひぃちゃん」 
「ん」 
「ごめんね?」 
「…なにがって」 
 
 まだ強がるあたしを、梨華ちゃんは更に強く、めいっぱい抱きしめた。 
 酔ってるからかな、身体が熱い。 
 
136 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:39
「…別に、謝んなくていーから」 
「うん…」 
「…メールの一通くらい、してよ。」 
「うん」 
「珍しいから、心配するじゃん」 
「ありがと…ごめんね? 
 でも、大丈夫だから。今日は柴ちゃんと… 」 
 
「あー!!」 
 
 急にたっかい声で叫んだかと思えば何やらまず〜い顔をしていて、
 それと同時にまたドアの開く音がして、 
「梨華ちゃーん、無理ならいんだけど…」 
 と言う声。開け放しのリビングから見える玄関には女の子が一人。 
137 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:41
「ごめんね!柴ちゃん!忘れてた!ごめんね!」 
 梨華ちゃんは慌てて女の子の方へ駆け寄り、必死で謝る。 
 柴ちゃん?柴ちゃんて、梨華ちゃんがいっつも柴ちゃんが柴ちゃんが言ってるあの柴ちゃんか。 
「いいよ何かやっぱあたし邪魔みたいだし。漫喫泊まるからさー」 
「ちがうのちがうの!ごめんね!」 
138 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:42
 
 どうやら、盛り上がって終電逃した結果泊まることになったらしいが、 
 一応あたしの許可を取るため玄関先で待たせていたらしく。 
 そんな話題微塵も無かった会話の間じゅう、放置してしまってたみたい。 
 
「てゆーか、忘れてたとか結構ありえなくない?」 
「だって飲んでるからさぁ、ちょっと…ねぇ」 
 いや、ありえないありえない。あたしのせいでもあるけど、忘れてたはひどいでしょ。 
 
 帰ってからもまだコンビニの酒とつまみで飲み続ける二人、なぜか付き合わされるあたし。 
「まったく人待たせといてさーイチャついてんだからびっくりしたよ」 
「も〜ごめんってばぁ」 
 いや、イチャついてないから!てゆーか否定して梨華ちゃん! 
 
 かなり突っ込みたいところだけど、酔っ払い相手だし…まあいーか 
 
139 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:43
 
 梨華ちゃんの親友・柴田さんは、かわいー人だ。明るくて優しそう。 
 
 今日近くに用事があったついでに会うことになったらしいけど、もともと日帰りの予定で 
 明日の朝には帰らなくちゃいけない、と言った。 
「ほんとはもっと時間あったらよかったんだけどね〜 
 まあでも噂のひーちゃんを見れたからよかったよ」 
 噂のって…だから梨華ちゃん、中澤さんにしろ柴田さんにしろあんたどんだけ話してんだ? 
140 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:45
「で、どう?どう?…感想は?」 
「う〜ん、いいね梨華ちゃん、いいの捕まえたね!」 
 いやソレ本人前にしてする話じゃねーだろ。てかなにその感想おかしくない? 
「でしょぉ?…ひーちゃんて、優しいしおもしろいしカッコいいし可愛いし…」 
「ちょ、梨華ちゃん。ヘンなこと言わないで」 
「も〜ひーちゃん照れ屋さん♪」 
「はあああ?うっぜーー」 
「もぉ、すぐそういうこと言う…」 
「あはは梨華ちゃんうざいって」 
「…柴ちゃんまでぇ〜」 
 なんなの、なによ…とか言いながら、 
 さっきからウトウトしていた梨華ちゃんはソファーに寝転がるとすぐに眠ってしまった。 
141 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:46
 
「あれ寝ちゃったよ…」 
「まあいーや二人で飲もうよ、よしこちゃん」 
 
 既に相当できあがってる感じの柴田さんにそう誘われて、 
 ちょっと心配だけど飲みたい気分なんだろうと思って付き合った。 
 
142 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:48
 話は自然と梨華ちゃんのことばかり。 
 
 呂律も回らないほど酔っ払った柴田さんの話は脈絡の無い分かりにくいものだったけど、 
 梨華ちゃんのことが大好きなんだろーなというのがすごく伝わってきた。 
 
 
「今日もさーよしこの話ばっかりでさぁ。 
 なんか、いつも柴ちゃん柴ちゃんで、ずーっとあたしのものだったのにさ」 
 
 梨華ちゃんの隣に寝転んで、愛しそうに頭を撫でながら話す 
 柴田さんの表情はあたしには見えなかったけど。 
 
143 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:49
 
「あ〜〜あ。梨華ちゃんも、『柴ちゃん』離れしちゃうのかなー」 
 
 明るく言い放ったけど、ちょっとだけ悲しそうな声で。 
 
 
「…だいじょぶ、ウチではいつも柴ちゃん柴ちゃんだから」 
「…マジでぇ?」 
「今日朝すっごい嬉しそうに出てったし」 
「……ふーん」 
144 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:51
 少し間を置いて起き上がった柴田さんは、片肘をついて考え込む仕草を見せた。 
「でもさぁ、梨華ちゃん、よしこ大好きでしょー」 
「ん〜…まあ、そうみたい」 
「…ちょっとさあ、ちょっとだけ癪なんだけどさ」 
 
「梨華ちゃんは、二人のものってことで」 
 
 柴田さんはどこか嬉しそうで悔しそうな、そんな表情で右手を差し出した。 
 
「…じゃあ、そーゆーことで」 
 あたしはその手を固く握り締めて返事をした。 
 
 酔ってるけど、ちゃんとわかってる。忘れないよ、柴田さん。 
 
145 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:52
 
 それから少しだけ酔い潰れた状態で寝て、 
 朝方ものすごい気持ち悪そーな柴田さんを駅まで送った。 
 
146 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:53
「ね、ほんとに大丈夫ぅ?」 
「う〜ん結構キツい…。でも頑張って帰るわ…」 
「ね、気をつけてね?やばかったら途中で降りるんだよ?なにかあったら、駅員さんとか、 
 通りすがりの人でもいいからちゃんと言って、ね?」 
 心配していつまでも手を離さない梨華ちゃんに柴田さんは、電車が来るから、と言って 
 二日酔いながらも明るい笑顔でじゃあね〜と元気に手を振った。 
147 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:55
 よろよろと改札に向かい、一瞬立ち止まって何か思い出したように振り返る。 
 
「よしこー」 
「え?」 
 
「約束ね〜」 
 
 言いながらやっぱり明るい笑顔で手を振って、自動改札を通り歩いてゆく。 
「…はぁーい」 
 
 梨華ちゃんは当然ながら、よくわからないといった風に 
 あたしの顔と小さくなってく柴田さんの後姿を見比べていた。 
 
148 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:57
 
「ねぇ、約束って何?」 
 駅からの帰り道しつこくそう聞かれて、 
 やっぱり酔った勢いで、ヘンな約束しちゃったかなーと思いながら軽くあしらう。 
「はいはい梨華ちゃんには言えないことだから」 
 
「何よー、何か、仲良くなっちゃって…」 
 質問は諦めたのか、今度は口を尖らせて文句を垂れる。 
 
 独占欲、強いなー。本気でいじけてやんの。 
 
149 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 12:59
 
「だいじょーぶ柴ちゃんは、梨華ちゃんが一番だから」 
 
 少し先を歩きながら振り向いて笑いかけると、梨華ちゃんもようやく笑顔になる。 
「…そっか。ふふ、そーだよね」 
 
 嬉しそーに笑う梨華ちゃんが可愛い。 
 
 そうか、梨華ちゃんは、 
 柴田さんと、そう、あたしのもの。 
 
150 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 13:01
 
 あたしも少しだけ気持ちを伝えたくて。 
 歩幅を縮めて、横に並ぶ。マンションまでの短い道のり、手を繋いで帰った。 
 
 
151 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 13:06
 
152 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 13:06
 
153 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/24(金) 13:06
 
 今回更新短めですが、以上です。 
 
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>124 名無飼育さん 様 
 いしよしの可愛らしさを、この作品からも感じて頂けたんでしょうか…嬉しいです。頑張ります! 
 
>125 名無飼育さん 様 
 ヘタレなひーちゃんと狂梨華ちゃんでこれからも頑張ります(・∀・) 
 
>126 名無飼育さん 様 
 ウヘー(゚д゚;)もったいないお言葉を…喜んで頂けてなによりです! 
 
 読んで下さってる方、ありがとうございます。 
 次回は早めにあげたいと思います 
154 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/25(土) 04:53
最早夫婦かよ!てな雰囲気ですねー
あああーカワイイなー二人とも! 次回更新楽しみです。
155 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 08:57
 
  *  *  *  *  *  
 
156 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 08:58
 
 あー、さぶいさぶい。 
 少しだけかじかんだ手で部屋の鍵を開ける。 
 マンションの中はあったかいけど、外から纏ってきた寒さはなかなか消えてくれない。 
「ただいまー」 
「おかえりぃ」 
 あれ? 
 玄関照明のスイッチを押しても、反応が無い。 
157 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 08:59
「電気、点かないね?」 
「そうなの、切れちゃって」 
「明日電球買ってこようか?」 
「あ、あのね替えはあるんだけど…ひーちゃんにつけてもらおうと思って、待ってたの。 
 できる?」
「あーいいよ」 
158 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 08:59
 あたしはそばに用意されていた脚立を広げて中段に立った。 
 梨華ちゃんは懐中電灯であたしの手元を照らしながら、すごいねーなんて言ってる。 
「廊下とか洗面所とか、オレンジライトっていきなり切れちゃうじゃない?いつも困るの」 
「初めてじゃないの?」 
「うん、ここ結構長いし」 
「じゃ何で自分で付けれないの…」 
 つくづく一人で生きていけていたのが不思議な人だ。 
159 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:00
 
「いつも、人に頼んでたから」 
 人に? 
 
 変な言い回しだ。友達でもなく家族でもなく。 
 彼氏ってことね。 
 電球なんてそうそう切れるもんじゃないし、長い付き合いだったのかな 
 付け替えもできないのにソケットに合った買い置きがあったのは、 
 この電球も買っといてもらったってとこなんだろう。 
 
 そうか、ふーん、そう。 
 
160 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:01
 
「点けてみ?」 
「うん、あ、点いたぁ!ありがとー」 
「梨華ちゃんねえ…電球くらい」 
「え?」 
「…や、なんでもない」 
「?ひーちゃん、ありがとね」 
「ん。」 
 
 キッチンに行き、あたしは夕飯はなににしようと冷蔵庫の中を覗いた。 
 遅くなっても疲れてても、出来るだけ食事は作るようにしてる。 
 バイトしてれば規則正しい生活なんて無理だから、なんてゆうかせめて自炊くらいはというか 
 人として生活する上でなにかひとつはちゃんとしていたいと思う。 
 それにしても梨華ちゃんは… 
 
161 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:01
「梨華ちゃん…」 
「なあにー?」 
「今日、夜飯なに食ったの?」 
「え?」 
 ソファーで雑誌を読んでた梨華ちゃんは、顔を上げて気まずそーにこっちを振り向く。 
162 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:02
「えーとねぇ……。やきそば」 
「つくったの?」 
「んー、ううん」 
 ゴミ箱を開けるとカップ麺の空の容器。 
 まぁーたこんなのばっか食べて…。 
 
 梨華ちゃんだって仕事で疲れてないわけじゃないし、 
 まあ現代女性でまともに自炊してる人もそんなにいないんだろうから、別にいいけど、 
 さすがに少し心配になる。 
 梨華ちゃんだって別に料理できないわけじゃないけど、何でも面倒くさがるのが悪い癖だ。 
 20代女性が米すら炊かないなんてどうなんだろうと思う。 
163 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:03
 
 あたしはソファーに近付いて、背もたれの上に腕を組んで肘を置いた。 
 梨華ちゃんはちょっとだけ怯えたように笑う。 
「梨華ちゃんさあ…」 
「うん?」 
「たまには何か作りなよ。いつもこんなんじゃ、体に悪いでしょ」 
「でも、ひーちゃんと一緒の日は、いいもの食べてるもん」 
「違うよ、一人のとき。 
 一緒に食うときはたまに何か作ってくれるのに、一人だと何もしないじゃん」 
「だってぇ…。めんどくさいんだもん」 
「めんどいってさあー」 
164 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:04
「いいの、ひーちゃんがいるから。」 
「そりゃあたしがいるうちはよくてもさー。 
 さっきの電球にしたって、あたしが出てったらどーすんの、そんなんで。 
 掃除もできない朝も起きれない…」 
「……」 
 
 あれ? 
 梨華ちゃんの表情が、曇っちゃった。 
 
165 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:05
 
「ごめ、言い過ぎた」 
 
「…なんで、そんなことゆうのぉ?」 
「うん、ごめん。ちょっと心配でね」 
 ごめんね。 
 
 よしよし。 
 
166 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:06
 
 あたしは、目の前で俯きがちに泣きそうになってる梨華ちゃんの頭を、出来るだけ優しく撫でた。 
 それに顔を上げて、梨華ちゃんはソファーの上に膝立ちになり、あたしの肩に両手を乗せた。 
 見る見るうちに梨華ちゃんの瞳から涙がこぼれてく。 
 
 あー泣かせた 
 
 ごめんね、ごめん 
 
167 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:07
 
 
「ひーちゃん、出てっちゃやだよお」 
「は?」 
 
 
「出てくなんて、言わないで」 
 
 
 おいおいそっちかよ! 
 
168 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:08
「えと…梨華ちゃん…そんなことで…」 
「そんなことじゃないもん!」 
「いや、えーと」 
 
 
「ひーちゃん、出ていっちゃったらやだもん…」 
 
「梨華ちゃん…」 
 
169 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:08
 
 
 泣くほど、やなの? 
 あたしといたいの? 
 
 
 嬉しくて、胸が詰まった。 
 
 
170 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:09
 
「もー…ばかだなあ」 
「なによぉ」 
 
「いるから」 
「…ほんと?」 
「梨華ちゃんが、いいってゆってくれてる間は居座るよ」 
「じゃあ、ずっとだよ?」 
「じゃあ、ずっと」 
「ほんとに?」 
「出てこうか?」 
「いやー!」 
「…フッ」 
 
171 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:10
 
 梨華ちゃんは、「約束ね」と小指を差し出した。 
 バーカ、んな恥ずかしいこと、出来っかよ 
 
 と思っても、あたしの指は、ほらね。 
 
 小さな小指を絡めとって揺らした。 
 梨華ちゃんがゆーびきりげんまん…って歌う。 
 
172 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:11
 
 
 嬉しそうにしちゃってまー。 
 ほんと、かわいーなあ 
 
 
173 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:11
 
 恥ずかしさで、身体がムズムズする。 
 
 心の奥もくすぐったくなった。 
 
 
 ずっと仲良しでいようね、なんて、幼い頃誰かと交わした指きりみたいに。 
 
 小さな可愛い約束をしたと思った。 
 
 
 
174 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:12
 
   *  *  *  *  *  
 
175 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:13
 
『 今日、行くから 』 
 
 こんなメール1通でアポを取った気になるミキティはすごい。 
 予告通り、日曜だってのに昼間っから部屋に乗り込んできた。 
 
176 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:14
「今度亜弥ちゃんと来る、って言ってたじゃん」 
「なんか亜弥ちゃん最近忙しくてさー」 
「だからさぁ、暇なときあたし使うのやめてくんない?今日は予定なかったからいいけどさー」 
「今日はそーゆーわけじゃないよ。この後約束あるし、ほんとすぐ帰る。寄っただけ」 
 今日はって、じゃあやっぱりいつもはそうなのかよ…。 
 訪ねてきてすぐに勝手にリビングのソファーにどかっと腰を下ろし、喋りながらも携帯をチラチラ。 
「何だよじゃあ何で来たの?梨華ちゃーん、ミキティすぐ行くってー」 
 キッチンでお茶なんか用意してる梨華ちゃんに声を掛けた。 
「うそ、待って待ってぇ」とか言いながらカップとお茶請けを乗せたトレイを持って戻って来る。 
177 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:15
「いや、うまくやってるかなと思ってさー。紹介したの美貴だし。 
 何かなかなか来れなかったから、今日この辺で遊ぶからついでに寄ってこうかと思ってさ」 
「あたし会社でお話してるじゃない」 
「だってよっちゃんとは会ってなかったから。梨華ちゃんに疲れてないかなーって」 
「なにそれぇ」 
「あー疲れる疲れる。ずーっとしゃべってるしさー」 
「ひっどーい、ひーちゃん、そんな風に思ってたのぉ?!」 
 膨れっ面の梨華ちゃんに肩を軽くはたかれる。 
「うそじゃん、うそうそ」 
178 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:16
「なんだ、マジで仲良いね」 
 じゃれあってるうちらの様子を見て、よかったよかった、と安心したようにミキティが言った。 
 
 少しだけ携帯をいじって立ちあがり、 
「じゃあ、悪いねー思ったより時間なかった、もー行かなきゃ。 
 何か用意してくれてたのにごめんね、まあそれは仲良い2人でお茶してよ、じゃ」 
 とまた速攻でまとめて、よっちゃん途中まで送って、と言ってあたしの手を引いて玄関へ向かう。 
「あ、待ってあたしも…」 
「ああへーきへーき梨華ちゃんはまた明日ねー」 
「あーじゃ梨華ちゃん、ちょっと送ってく…」 
 言い切らないうちにドアを閉められ、早足でエレべーターに乗り込む。 
179 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:17
 
 ほんとに何しに来たんだろう…と思いながら様子を覗っていると、 
 今度は少し張り詰めた声で、よかった、と呟くように言った。 
 
「あのさ、梨華ちゃん…ちょっと、元気なかったんだよね前まで」 
「ああ…」 
「なんか聞いてる?」 
「いや。でも拒食気味だったってのは聞いた」 
180 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:17
「…そっか。何かさほんとちょっと見てられない、てぐらいな時あってさ…色々あって、 
 あーゆー性格だから思い詰めちゃうじゃん。 
 よっちゃんと住み始めるまでずっと死んでたんだけど」 
 たまにすごくくだらない事で何日も悩んでいたりする。 
 そんな梨華ちゃんだから、大袈裟な表現ではないんだろうと思う。 
 
「でも、急に元気んなってさー、やっぱりよっちゃんのおかげなのかなーって確認しに来たの」 
 
181 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:18
「…え、なんで」 
 あたし?あたしのおかげって 
「そうゆーのって時間の問題でもあるからと思ってたけど、 
 もー最近よっちゃんの話ばっかでさー。楽しいよって言っててさ。 
 今日見た限りほんとに楽しそうだったから。」 
「そーなの?」 
「うんうん。あのウザいテンション」 
「あー」 
 
 そーか、あたしの…そーか。 
 やっぱ一緒に住んでよかった、かな。 
 
182 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:20
 
「…梨華ちゃんにさあ前からよっちゃんの話ししてたじゃん、写メとかも見せてて。 
 梨華ちゃん結構気に入ってたんだよねよっちゃんのこと」 
 そーいや初めて会った時、やたら嬉しそーにしてたなぁ 
 
「それでよっちゃんにもあんなことあったからさ、じゃあ一緒に住んじゃえばって。 
 半分冗談だったんだけど、梨華ちゃんがまさか他人と住むわけないと思って。 
 そしたら梨華ちゃんうんってゆうからさー。そんなに気に入ってたんだなーって。 
 よっちゃんからしたらビックリしたろーけど、ごめんね」 
「ビビったよぉ〜。別に、いいけど…」 
 
 別に、てゆうか、感謝してるよ。 
 ありがと。 
 
183 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:21
「でもよっちゃんも絶対梨華ちゃん気に入ると思ったし。ね?」 
「えぇ?まぁ…嫌いじゃないよ」 
 
「ふ〜〜〜ん。…好きだろ?」 
 何だよ、その顔。 
 知ってんだよ、みたいな。言っちまえよ、みたいな。 
 
「あー…す、好きだよ、ふつーに…」 
「うん。がんばれよ、おーえんしてるよ」 
 え、いやそーゆんじゃないし。 
「違うから…」 
「は?なに言ってんの、わかんだよよっちゃんのことは。デレデレしちゃってさあ〜」 
「してねーし!」 
「素直に認めろよ〜、てかもうちゅーくらいしてんでしょ?もしかしてもうヤっちゃった?」 
184 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:22
 
「ヤっ…」 
 てねえよ。ヤってねえけど、胸は揉んだな。 
 つかミキティから電話来てなきゃしてたかもじゃん…。 
 あああ、完全には否定出来ない… 
 
「…ヤったのかよ…」 
「いや!!ヤってはない、よ」 
「え、じゃキスは?したの?」 
「してない。だから、そーゆんじゃないって」 
「あっそー…」 
 
185 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:23
 ミキティはいかにもつまんねえなといった表情で、でも至って真面目に続けた。 
「まあ、でも、少なくとも梨華ちゃんは本気で好きだと思うよ、よっちゃんのこと」 
 
「え」 
「よっちゃんなら信用してるけど。傷付けないでよね」 
「え、え」 
 
 戸惑いながら玄関ホールをのろのろ歩くあたしを置いて、ミキティはドアの前に立った。 
「ここでいいよ。それだけ会って言いたかったから、じゃあ」 
「え、ああ・・・じゃ」 
 
「よっちゃん、約束ね」 
186 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:24
 
 そんなこと言われても。 
「……わっかんねえよ…」 
 
 
「…よっちゃん、梨華ちゃん大事じゃないの?」 
 
 
 
 
「…大事だよ」 
 
 
187 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:24
 
「だったら、わかるでしょ」 
「う…えぇ〜?」 
 
「もー、ほんとヘタレだな」 
「うるへー」 
「なんかしろって言ってんじゃないの。大事に思ってんなら、それだけでいいの。 
 傷付けたくないって、思うでしょ?そしたらそうしなければいいだけじゃん」 
「ああ…」 
 
188 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:25
「頼むよー?」 
「ん…わかった」 
 
「じゃね」 
「うん、じゃまた」 
 
 
 マンションを出て階段を降りた先に既に迎えは来ていて、 
 高そうな車に乗ってミキティはどっかへ行った。 
 
189 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:26
 
 
  梨華ちゃんなぁあんたのこと随分気に入ってるみたいで。 
 
  なんやめっちゃ嬉しそうにしてたで。ひーちゃん来てから家にいるのが楽しー、って 
 
 
 
  でも、急に元気んなってさー、やっぱりよっちゃんのおかげなのかなーって 
 
  少なくとも梨華ちゃんは本気で好きだと思うよ 
 
 
190 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:27
 
 梨華ちゃん… 
 
 
 
 
  大事にしたってな 
 
 
  傷付けないでよね 
 
 
 
191 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:28
 
 いや、ちょ、待って! 
 
 
 あたしは一体なにを任されてるんだろう… 
 
 会ってまだ、2ヶ月足らずの女友達ですよ? 
 大事にするとかしないとか、ねえ…やっぱりあたしにゆうことじゃないんじゃ、と思うけど。 
 
192 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:29
 
 そりゃあ大切な同居人だけど。好きだし、すごく。 
 好きだけど。 
 
 好きなら。 
 
193 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:29
 
 …まあいーか、それで。 
 
 
 うーん。 
 
 
 やっぱりよくわからないと思ったけど、 
 とりあえず部屋で待ってる梨華ちゃんに早く会いたくて 
 あたしは駆け足でエレベーターに乗り込んだ。 
 
 7階の距離さえもどかしい気持ち。今はきっとこれだけで十分。 
 
 
194 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:31
 
  *  *  *  *  *  
 
195 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:31
 
 玄関ホールで一人あれこれ考えている間に、お茶はすっかり冷たくなってしまっていた。 
 煎れ直そうかと言ったら、梨華ちゃんが映画見ながらお茶したいと言うので 
 レンタルビデオ屋に行くことにした。 
 
196 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:33
 洋画がいい、いや邦画がいいとか、アクションがいいコメディはいやだとかあれこれ物色する。 
 コレは?なんて差し出したら、「それこの間テレビで見たじゃない」って、あれぇ?そーだっけ? 
「ひーちゃん途中から寝てたんだよ」 
 あれ〜…? 
「いいよ、どうせ今日も寝ちゃうんだよ」 
「いや、いやいや見るよちゃんと。ごめんね」 
「絶対寝るよぉ。ひーちゃんが映画最後まで見たことってほんとに少ないんだから。 
 確かねぇちょっと前に見た怖いのぐらい」 
 ん?何だろう? 
 …ああ〜、乳揉んだ日に見たやつか… 
197 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:33
「いつも寝るのは構わないけど、せっかく借りるのにもったいないじゃない?怖いのなら寝ない?」 
「いや、もう梨華ちゃんと怖いのは見ない。」 
「え、なんでえ?」 
「だって、見てんのか見てねんかわかんねーし…」 
「見てるよ」 
「キャーキャー騒ぐやん」 
「じゃあ静かにしますぅ」 
198 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:35
 
「…でも見ないよ。」 
 
「何で?一緒に寝ようって言うから?」 
 ……そーだよ、なんて言えない。なに意識してんだっつー話。 
 
「ホラー苦手だし。」 
「じゃ、何見る?」 
「んー梨華ちゃんの見たいの、選んでよ。今日は絶対寝ないから。」 
「…ほんとにぃ?」 
「ん、寝ない」 
199 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:36
 梨華ちゃんは途端に嬉しそうに、目の前の棚から、店の奥、新作の棚をキョロキョロと見渡す。 
「えーー、じゃあねぇ…」 
 見たかったものがあるようで、探すというより考え込むように、人差し指を口に当てて呟く。 
 そんな梨華ちゃんの様子を見つめながらふと横にあった柱の鏡に目をやると、 
 どうしようもなく緩んだあたしの顔が。 
 
 やばいやばい、なにこの顔。 
 もともとあたしの笑い顔はだらしないけど、でも、これはミキティにデレデレしてる言われるわ。 
 
 恥ずかしくなって、無心に棚の上から下まで全タイトルを目で追う。 
 
『恋に落ちたら・・・』 
 
 あああこんなクサいタイトルすら意識しちゃうあたしってアホか 
 
200 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:36
 しばらく一人で悶えているとその辺ウロウロしてた梨華ちゃんが戻って来た。 
 手に何本かのDVDを持って、どれがいいかな〜なんて言いながら歩み寄ってくる。 
 特に口出しはしない。この人の場合ほとんど悩みたいだけって感じだもん。 
 俯き加減にうんうん言っている梨華ちゃんを見つめる。 
201 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:37
 
 可愛いなあー。 
 顔もだけど、仕種とかいちいち可愛い。 
 
 ああ、またあたしニヤケてんだろーなあ。 
 
 でもかわいーもんなあ 
 
 
 やっぱ好きだなあ。 
 
202 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:38
 
 決めたっといって梨華ちゃんが顔を上げたから、鑑賞タイムは終わり。 
 
 会計を済ませて家路を歩く。 
 隣でまた梨華ちゃんが、仕事の話やら友達の話をぺちゃくちゃと喋ってる。 
 あたしはいつものように半分くらい耳を傾けてたまに頷く。 
 
 ちゃんと観るって約束したけど。今日は梨華ちゃんを見ていたい。 
 寝るわけじゃないからいいよね。 
 
 
203 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/25(土) 09:38
 
204 名前:my name is... 投稿日:2007/08/25(土) 09:39
 今回以上です。未だ改行慣れません…(T▽T) 
205 名前:my name is... 投稿日:2007/08/25(土) 09:47
 
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>154 名無飼育さん 様 
 やはりいしよしは夫婦ということで…(・∀・) 
 常にカワイイ二人を意識して書いております。20代なのに中学生ないしよし。 
 
 桃版に更新情報あげて下さってる方、毎回ありがとうございます。 
 たぶん次回から終盤に差し掛かります。 
206 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/25(土) 15:50
もう終盤ですか・・・
この2人、ずっとずっと見守っていたいですwww
いしよし病です^^;
207 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/25(土) 23:18
鈍感よっちゃんカワイイ。
208 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 08:21
イヤー!終盤だなんて…もっと続いてほしいYO!
209 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:25
 
 −4−
 
210 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:27
 
 
「だから、もう終わりだって言ってるの!」 
 
 聞き慣れない、怒気を含んだ声が響いた。 
 
 
 玄関前に立ったときから、ドアの向こうから微かに聞こえる声に、ただごとじゃないなと思った。 
 中に入るのが躊躇われたけど、廊下は寒くて。 
 とりあえず部屋に入ろう。入ってマズい雰囲気だったら外に飯を食いに行こう。 
 靴を脱いだ瞬間、そんな声が聞こえてきた。 
211 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:29
 
 梨華ちゃんが、怒ってる。 
 自分では怒りっぽいと言ってたけど、 
 あたしは怒られたことなんて無いからこんな声を聞くのは初めてだ。 
 
 聞いちゃまずいよなあ。 
 早く出よう。 
 
 そう思ったけど、でも、何か引っかかる。動けない。 
 
 
 終わりだって言ってるの 
 
 
 
 元彼かー。
 それ以外無いよなあ。 
 
212 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:30
 とりあえずあたしは、寝室に荷物を置いて上着を手に取る。 
 聞いちゃいけないと思っても過敏になってる神経が梨華ちゃんの声を拾ってしまう。 
 
 
「…なの、会う気なんて…」 
 
「……から、…もう!そうじゃないでしょ…」 
 
「…めてよ。……いつもそう…!」 
 
213 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:32
 
 しつこい奴だなー 
 
 梨華ちゃん終わりだって言ってんじゃん 
 なんなんだよ 
 
 
 電話の向こうの知らない相手に、憎しみに近いものを感じる。 
 
 邪魔してやろうと思ったのかもしれない。 
 あたしは出来るだけ大きな足音で洗面所に向かった。思いっきり引き戸を開ける。 
 梨華ちゃんは気付いたみたい。声が止んだ。 
 
214 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:33
 
 洗面所から出ると、リビングのドアに凭れて梨華ちゃんがこっちを見ていた。 
「…おかえり」 
 
 悲しい声だ。悲しい顔してる。 
 
 
 梨華ちゃん。 
 
 
215 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:34
 
 あー、何かやだすごいやだ。 
 
 むかついて気持ち悪い。 
 
 
 梨華ちゃんを傷付ける奴は死ねばいい。 
 
 
216 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:35
 
「…ひーちゃん?」 
「……ただいま。」 
 
 あたしは出来るだけ冷静に応えて、ドアの前に、梨華ちゃんの前に立った。 
 作れるだけの笑顔で笑いかける。 
 
「なあーに突っ立ってんの」 
 
 
「ひーちゃん」 
 
「…んー?」 
 
「きこえた、よね」 
 
「…なにが」 
 
「引いちゃった?」 
 
「ばーか」 
 
 
 泣きそーな梨華ちゃんの頭をくしゃくしゃに撫でる。 
 あ、また泣きそうな 
 
217 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:36
 
「ひーちゃぁん」 
 
「うん?」 
 
 
「きらわないで」 
 
「…嫌うかよ」 
 
218 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:37
 
「ひーちゃ…」 
 
 
 梨華ちゃん。 
 
 長い睫毛の下から、涙がポロポロ 
 
 悲しくって切なくって、綺麗で、目の前の梨華ちゃんを夢中で引き寄せた。 
 
219 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:39
 
「ひーちゃん」 
 
「ん?」 
 
 
「すき」 
 
 
 
「…ん」 
 
 
「すきなの」 
 
 
「…しってる」 
 
 
「もぉ…」 
 
220 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:40
 
「…梨華ちゃん」 
 
「…んぅ…」 
 
 
「あのさ。」 
 
「うん…」 
 
 
「えーと、その…あの〜」 
 
「フフッ…なあに」 
 
221 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:41
 
 
「その、好き、だから」 
 
 
「……」 
 
 
 
「だからさ、嫌いんなんないから」 
 
222 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:42
 
「……嬉しい…」 
 
 
「うん。だから」 
 
 
 
 好き、だよ。 
 
 
223 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:43
 
 言ってから、ものすごい恥ずかしくなった。 
 
 
 やべー、ぜってぇ顔真っ赤だ。 
 
 どうしよ。 
 
 
 
 好きだ。 
 
 ほんとに好きだ。 
 
 
 あー、マジなんだなあたし 
 
 どうしよ。気付かれたかな。 
 
224 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:44
 
「ひーちゃん」 
 
「う、ああ?なに」 
 
 上目遣いで、見んなよ 
 絶対顔赤いんだって 
 よけー赤くさせんなって 
 
225 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:45
 
「ありがと」 
 
「…や、べつに」 
 
 
 何にもしてないんだけどさ。 
 
 元気でた? 
 
226 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:46
「ごはん、たべよっか」 
「そだね」 
 
「ひーちゃん」 
「はい?」 
 
 
「すき」 
 
「…おう」 
 
 
「ひーちゃんは?」 
「ああ?」 
 
 
 もっかい言って、なんて、 
 ばーかばーか言えるかよ 
227 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:47
 
「いーじゃない減るもんじゃないんだし」 
 
 減ります、何かが 
 
 体力とか気力とか。 
 
 
「ひーちゃぁん」 
 
 
 だから、上目遣い反則 
 
 
 もう、敵わねーなホントこの人 
 
228 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:48
 
 
「あ〜もお…」 
 
 まだ腕の中にいる梨華ちゃんを、思いっきり抱き締めた。 
 
229 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:50
 
 
 耳元で、囁くように 
 
 
「好きだよ」 
 
 
 
 
 やばいめちゃめちゃ恥ずかしいすんげえ恥ずかしい 
 
 
 
 
 バレないかな。 
 
 大好きだって、すっごい好きだって、バレちゃったらどうしよう。 
 
 
 
230 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:50
 
 
231 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:51
 
 その夜、梨華ちゃんのベッドで一緒に寝た。 
 
 元彼のことを、少しだけ話してくれた。 
 家庭のある人だったこと。一度電話で奥さんにものすごい罵声を浴びせられたこと。 
 とても弱い人で、別れるくらいなら死ぬと目の前で手首を切られたこと。 
 本社から短期間指導のために来た人だから、今は顔を合わせなくて済んでる、と笑った。 
 
 梨華ちゃんが、不倫。 
 彼女の性格を知った今、まずありえないことだなと思ったから 
 じゃあこの人どんだけ悩んだんだろ、と苦しくなった。 
 
 ベッドん中で、ちっちゃくなって抱き合って寝た。 
 
 
232 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/08/27(月) 05:54
 
 
233 名前:my name is... 投稿日:2007/08/27(月) 05:56
 今回ここまでです。 
 読みにくい演出をしてしまったようです…(T▽T) 
 もうちょっとで終わるかもです。 
234 名前:my name is... 投稿日:2007/08/27(月) 05:59
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>206 名無飼育さん 様 
 ○と●を見ているだけでニヤニヤしたり微笑ましい気持ちになってしまう 
 あのいしよし病ですか…(・∀・) 
 見守って頂けるとここの二人も嬉しいかと思います。 
 
>207 名無飼育さん 様 
 よっちぃは鋭そうできっとものすごく鈍感なのだろうなというイメージです。
 カワイイと思って頂けるととても嬉しいです 
 
>208 名無飼育さん 様 
 (0^〜^)<もうちょっとだけ続くYO! 
 もっと長く書きたかったんですがネタが…。ツマンネ(゚听)な終わりにだけはならないように頑張ります。 

 レス下さる方も読んで下さってる方もありがとうございます。 
 色んな意味でもうちょっと頑張ります。 
235 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 07:47
もうちょっとではなくもっともっと頑張ってぇー
続編、続々編など希望(欲張りですね)してるYO
236 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 15:28
どんどんいい感じになってきたのにもう終わりが近いの?
まだまだ行けますって!
これからがいいトコじゃんw
期待してますよー!!
237 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/30(木) 15:37
↑様同様、まだ終わりは早いかと…
と言うか、いしよしイチャイチャが見れないと思うと(ToT)
作者さんのペースや意思を尊重します。が、
自分的には久々のいしよし系ヒット作ですよ!!!
待ってます。待ちます。
238 名前:my name is... 投稿日:2007/09/01(土) 20:41
レスありがとうございます。 
続きを期待して下さる方がいるようなのでもうちょっと長く書こうと思ったんですが、 
あのー… 
 
スイマセンできませんでした(T▽T) 
 
言い訳になりますけども、 
初心者のため大体話を作ってからスレ立てしたので、なかなかうまくいかず… 
とりあえず今回が最終回ということで、反響があれば続編を書かせて頂く予定とします。 
 
では最終話です。 
239 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:42
 
 −5− 
 
240 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:43
 梨華ちゃんが風邪を引いた。 
 会社で流行ってるらしい。 
 金曜の夜から体調崩して、土日寝込んで何故か今日月曜の朝悪化した。 
 
「ひー、ちゃん、お願い…、がっこう行って」 
「だからー行くから、午後から。」 
「嘘。…月曜、いつも朝から、じゃない…」 
「わかったから、しゃべんない」 
 こんな言い合いを昨日の夜から続けてる。 
 ベッドに寝たまま梨華ちゃんは、額に冷却シート張って、真っ赤な顔して必死に訴えてくる。 
 わかってるけど、じゃあ誰がこの病人の面倒みるわけ?心配でしょうがないんだもん。 
241 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:44
「ひーちゃん、だめよ」 
「…だって、何かあったらどーすんの」 
「何にもないよ。おとなしく、寝てるから…ひーちゃん、行っ、て?」 
「わかったって。じゃあほんとに午後から行くから。1、2限は、ほんとに大丈夫だから。」 
「…とにぃ?」 
「うん。」 
「ぜったい、午後から行くんだよ?」 
「ん、行く。 
 いま何か作ってくるから。食える?」 
「ん…ありがと…。ごめ、ね」 
「気にすんなー」 
242 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:45
 
 部屋を出てキッチンで腕まくりして考える。うーん。 
 風邪引きの食事といえば、やっぱりお粥とリンゴだろーか。 
 
 梨華ちゃんすごい苦しそうだなあ可哀相だなあ 
 大丈夫かなあ… 
 
 学校行くなんて約束しちゃったけど、だめだやっぱり心配だ! 
 トイレ行く途中に倒れたらどうしよう。ベッドから転げ落ちたらどーすんだ。 
 うーん何とか言い訳考えて家にいよう。 
 
243 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:46
 余計な心配かけちゃうとアレだし、、何て言ったらいんだろうと思いながらお粥を食べさせる。 
 熱でぼーっとした顔で、うっすらとだけ開けた口でスプーン一杯をちびちび食べる梨華ちゃん。 
 
 可愛い…。
 
 ものすごい不謹慎だけどすっげ可愛いやばい可愛い。 
 
244 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:46
 
 食べ終えて口を拭いてやる。 
 
 熱い息。
 
 
 キスで風邪が伝染るってほんとかなあ。 
 
 
 変なことを考える。 
 
 潤んだ瞳で見つめられると、思考が飛びそうになる。 
 
245 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:48
 食べ終えてからも暫くついていると、梨華ちゃんはすぐに寝てしまって、時々苦しそうに呻いた。 
 嫌な夢見たりしてないかな… 
 考えながら梨華ちゃんの寝顔を見つめていると、あたしも眠くなってきて 
 梨華ちゃんのベッドに肘をついたまま眠りこんでた。 
 
 言い訳の心配をしなくても、目が覚めると午後の講義には既に遅刻の時間だった。 
 
 …二人して風邪引いちゃしょーもないな。 
 そう思って部屋を出ようとドアを開けると、後ろから小さく声が聞こえた。 
246 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:49
 
「ひー…ちゃ?」 
 
 慌てて振りかえると、梨華ちゃんがこっちを見てる。 
 
 見て…る?ん?見てないかな? 
 
 北側のこの部屋は、午後になるともう薄暗くて、よくわかんない。 
 
247 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:50
 
「…よんだ?」 
 
 視線がわかるくらいに近づくと、梨華ちゃんは少しだけ顔を背けた。 
「だ…め、…ぅつっちゃ、う」 
 
 苦しそう。 
 触ってなくても熱いのがわかる。 
 
248 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:51
 
「…ちゃん、ごめ…ね」 
 
 目が合った。 
 
 
 
 だめだ、思考、飛ぶ。 
 
 
249 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:52
 
 キスで風邪うつるって、ほんと、かな 
 
 
「…え…?」 
 声には出さなかったと思うけど、梨華ちゃんがこっちを向いた。 
 
 
 頬に触れる。熱い。 
 
 この熱を少しでも奪ってあげたい。 
 
250 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:53
 
 あと、3センチ。 
 
「ひ…ちゃん…?」 
 梨華ちゃんの掠れた声が、頭を痺れさせた。 
 
 
 あと、2センチ。 
 
 すごい熱い。 
 
 
 
 あと、1センチ。 
 
 
 こんな近くで顔見んの…初めてだな 
 
 
 
 あと、 
 
 
 
 もうわかんない 
 
 
251 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:54
 
 
 熱ちぃ 
 
 
 
 触れた 
 
 
252 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:55
 
 梨華ちゃんの口唇が、ほんの少しだけ動く。 
 
 抵抗じゃない。 
 目を閉じて、あたしの下唇を咥えるように動かした。 
 
 
 熱い、熱い、熱い。 
 
 熱のせいだけじゃないよなあ 
 
 あたしの全身が熱い。 
 
 脳味噌溶けそう 
 
 
253 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:55
 
 口唇を離しても、目の前が翳んでた。 
 
 梨華ちゃんがうまく見えない。 
 
 でも、そんな苦しくなさそう。 
 
 よかった 
 
 気のせいかな 
 
254 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:56
 
「…梨華ちゃん」 
 
 
 名前を呼ぶと、梨華ちゃんはすごく切なげな瞳であたしを見て 
 あたしはもう、なにも考えられなくて。 
 
255 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:56
 
 
「ひ…ちゃん」 
 
 
 
 
 もっかいちゅーした。 
 
 
 
256 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:57
 
 
257 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:57
 
 −6− 
 
258 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:58
 
「ねーミキティ〜〜」 
「んっだようるさいなー」 
「…もーどーしたらいんだよー!」 
259 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 20:59
 キスなんぞしてしまって以来あたしは一人ドギマギしてて、 
 梨華ちゃんはというと何の変化も無く 
 よそよそしくなったというわけでもないしベタベタしてくるわけでもない。 
 熱で朦朧としてたし覚えてないのかなと思ったけどそういうわけでもなく、 
 それらしい話題になると真っ赤になって話を逸らす。 
 もしかして無かったことにしたいんだけどってヤツかなとちょっと落ち込みつつ、 
 今日はミキティに相談に来た。 
260 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:00
「どーするってなにがだよ」 
「なにがって」 
「どーすることもないじゃん、普通にしてれば」 
「普通に出来ないから相談してんじゃんかよー」 
 あたしは、梨華ちゃんは大事な同居人で、大好きな友人で、 
 そんなだったのにキスしちゃってああそんな感情があったんだって思って、 
 しかも普通にぎゅってしたいなーとかまたキスしたいとかどんどんヨコシマな感情が沸いてきて。 
 すごく、戸惑っている。どうしたらいいのかほんとにわからない。 
 
261 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:01
「まー気にすんなよ。 
 あたしだって亜弥ちゃんとえっちしてみたいなとか思うことあるし。」 
 
「え…そうゆうときどーすんの」 
「や、別にたま〜に思うだけだから、他の人でガマンしてる」 
「他の人って…」 
 
「よっちゃんはそんなことできないもんねー。 
 だったら梨華ちゃんとヤっちゃいなよ」 
262 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:02
 
 梨華ちゃんだって、したいと思ってんじゃん?とミキティは笑う。 
 いや別にヤりたいってわけじゃないんだけどさぁ…。ヤりたくなくはないけど… 
 つか無理だって今の状態からセックスとか。 
 
「つーかもうそーゆーの無理っぽいし…」 
「だからーそれは梨華ちゃんにも思うとこがあんでしょ。 
 何も言わないんじゃなくて、言えないんだよ。察してやれよ」 
「…」 
 
 そう、なのかなー。よくわかんないんだよなーやっぱりだめだなぁあたし 
263 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:03
 どーしよどーしよ連発のあたしに、 
 ミキティは呆れたような視線を投げかけると鳴り出した携帯を手に取った。 
「あ、亜弥ちゃんだちょっと待って」 
「あ、うん…」 
 
「もしもーし。なに、どしたの〜?」 
 甘い。甘いなあ、声が。自分だって亜弥ちゃんにデレデレしてんじゃん… 
 あたしも、声変わってたりすんのかなぁ。…いやそれは無いよなぁ、恥ずかしい…。 
 
264 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:04
 
 梨華ちゃん… 
 
 
 やっぱ、話さなきゃ何もわかんないよな。 
 
 うん。悩んでてもしょーがねーし。 
 今日は梨華ちゃん遅くなるって言ってたから、明日ゆっくり話そう。よし、そうしよう。 
 
265 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:05
「うん、じゃーねまた電話するー。ばいばい。」 
 
 あれもう終わりか。いっつもすげー長いのに、相談なんかしてたから気使ってくれたのかな 
 亜弥ちゃんからの電話を、悪いなー… 
 
「ごめんよっちゃん、終わったー」 
「ん…ところでさー…」 
「なに?」 
266 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:06
 なんとなく疑問に思ったことを口にする。 
 
「ミキティにとって、亜弥ちゃんてなに?」 
 
 あたしの問いに、ミキティは即答で 
 
 
「この世のすべて。亜弥ちゃんがいれば何も要らない」 
 
267 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:08
「…何もいらないようには見えないんだけど…」 
「当たり前じゃん、修行僧じゃないんだし。 
 ただ、亜弥ちゃん失くすか全て失くすかっていったら亜弥ちゃんてだけ」 
 
「…じゃあ、亜弥ちゃんにとってのミキティって何だろう…」 
 
「さあ?わかんない」 
「わかんないって…」 
268 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:09
 
「知らない。考えないもん。 
 まあ亜弥ちゃんは美貴がいなくてもやってけるだろーけどね」 
 
 ミキティは至極当然だという様子で笑って言ったけど、 
 あたしは初めてミキティに突っ込みたくなった。 
 あたしに亜弥ちゃんの気持ちなんてわからないけど、そんなことは無いと思う。 
 
269 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:09
 
 あたしにとっての梨華ちゃんて、何だろう。 
 
 
 すごく、すごく大切な人。 
 約束通りずっと一緒にいたいから、梨華ちゃんの気持ちを聞こう。 
 
 
270 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:10
 
  *  *  *  *  *  
 
271 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:10
「おかえりぃ」 
 
「…あれ?今日遅くなんじゃなかった?」 
「ん、今出るとこ」 
「あ、そう…」 
 いないと思ってた梨華ちゃんがいたことで、拍子抜けしたようなドキドキするような。 
 上着を着てバッグも持って、出掛ける直前の鏡チェックをしてる梨華ちゃん。 
272 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:12
 
「あのさ…明日さ」 
「うん?」 
「…今日、でもいんだけど」 
「なぁに?」 
「あー…、んーと…やっぱいーや。帰ったらで」 
「え、なにぃ?」 
273 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:13
「あ〜なんでもない、えーと、…あー、今日は、飲み?」 
 飲み過ぎんなよと続けようとしたら、 
 
「うん…ちょっと」 
 
 
 あれ?何この感じ 
 言い難いことになると、言葉を濁す。すぐわかる。 
 
274 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:14
 
 
 
「…会うんだ」 
 
 
 
 
「…うん…。 
 ちゃんと、話さなきゃ」 
 
 
275 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:15
 
「……」 
 
 
 
 あー、会うのか、マジでか。そーか。 
 
 
 なんで? 
 
 
276 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:15
 
 話なんて何度もしたんじゃないの? 
 そうやって優しくするから、終わんないんじゃないの? 
 
 いやだ梨華ちゃんを攻めたくない。あたしだってきっと同じことする。 
 しょうがないこと。 
 
 
 
 …でも嫌だ。 
 
 
277 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:16
 
 あたしは、多分、泣きそうになってしまったのかもしれない。 
 梨華ちゃんの手が優しく頬に触れる。 
 
 やだ。優しくしないで。そんな目で見ないで。 
 いやだ。こんなあたしは置いていって 
 
278 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:17
 
「ひーちゃん」 
「……」 
 
「…ひーちゃん」 
 
 
 
 梨華ちゃん、やだよ 
 
 
279 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:17
 
 
 
「…行かないで…」 
 
 
 
280 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:18
 
 梨華ちゃんは、一瞬とても悲しそうな顔をして、 
 それからすごく優しい笑顔であたしを抱きしめた。 
 
 梨華ちゃんの体温と匂いと呼吸に包まれる。 
 
 しがみつきたいけど腕に力が入らなくて、肩に頭を乗せる。 
 
281 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:19
 
「…ひーちゃん、帰って来たら…」 
 
「……」 
 
 
「…ね、お話するだけだから。ちゃんとわかってもらって、今日で最後だから」 
 
282 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:19
 
「……」 
 
 
 
「ひーちゃん、好き」 
 
 
283 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:20
 
 
 
「好きよ」 
 
 
 
 
 梨華ちゃん、 
 
 すき 
 
 
 
284 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:21
 
「……」 
 
 
 
「……なに」 
「え?」 
 
285 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:21
「帰って来たら、なに」 
「ああ、帰ったら…そうだなー。 
 帰ったら、キスしてあげる」 
「…」 
「だから、いい子で待っててね」 
「…なにそれ、ばかじゃん」 
「もぉ…。」 
 
286 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:22
 
「……ひーちゃん」 
 
「…行きなよ。へーきだから」 
「……うん」 
「ほら早く。」 
 あたしは梨華ちゃんの腕を解いて、玄関へ背中を押した。 
「気−つけて。色々と」 
「うん、行って来るね」 
「じゃ」 
「ばいばい」 
287 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:23
 あたしはいつも通りに梨華ちゃんを送って、梨華ちゃんもいつも通りの笑顔で出ていった。 
 
 さて、何して過ごすか。ココ大事だな。 
 
 掃除でもしようか。…めんどくさいな 
 誰かと遊ぶか。…つかまえるのめんどいな 
288 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:24
 立ち上がったり座ったり、携帯を開いたり閉じたり、しばらくそんなことを繰り返して 
 それすらめんどくさくなってテレビをつけてソファーに寝転がる。 
 
 さっきの梨華ちゃんの感触を思い出しながら、 
 やっぱり悲しくて泣いた。 
 
289 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:24
 
  *  *  *  *  *  
 
290 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:24
 
 
291 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:25
 
 
 …気持ちーな 
 
 …なんだろ。あったかい 
 
292 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:25
 目を覚ますと、梨華ちゃんの笑顔。 
 あたしの顔を覗き込んで頭を撫でてくれている。 
 
「あ、ごめんね?…起こしちゃった」 
「……んー…きもちくて…」 
 
 頭も視界もぼーっとして、うまく梨華ちゃんを捉えられない。 
 
293 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:26
 
「あのね…終わったから」 
 
 ん?ああ… 
 そっか、ちゃんと… 
 頑張ったね、おつかれ。 
 
 床に座ってる梨華ちゃんに体を向けて、今度はあたしが頭を撫でてあげる。 
 
「…泣けば」 
「平気だよぉ」 
「…そう?」 
「うん」 
 
294 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:27
 
 
 
「…ひぃちゃん」 
 
 
 
295 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:27
 
 
 すごーく甘ったるい声でそう呟いて、キスされる。 
 
 
 
 …頭がクラクラする。 
 
 
 
 梨華ちゃん 
 
 
296 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:28
 
 キスをしたまま、ソファーの上に引き寄せた。 
 邪魔なクッションを蹴り落として、身体を重ねる。 
 離れないように、しっかり抱き締める。 
 
 
 
 梨華ちゃん 
 
 
 梨華ちゃん 
 
 
 
 
 梨華ちゃん 
 
 
297 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:29
 
 息をするのも忘れてたから、苦しくなって唇を離す。 
 
 
「…はげしぃよ」 
 
「自分からしたくせに」 
 
298 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:30
 梨華ちゃんが恥ずかしそうに顔を逸らそうとするから、両手で頬を押さえる。 
「だって、帰ったらするって、言っちゃったから…」 
 
 
 
 かわいーなぁ。 
 
 今コレあたしのもんなんだろうなぁ 
 
 
 嬉しくなって、いっぱいキスする。 
 
 ちゅっちゅって触れるだけのキスを、顔中に浴びせた。 
 
299 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:31
 
 梨華ちゃんがくすぐったそうに肩をすくめる。 
 
 キスをする。 
 
 恥ずかしそうに笑う。 
 
 キスをする。 
 
 
300 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:31
 
 少しでも離れたくなくて、一緒にお風呂に入って、一緒のベッドに寝る。 
 
 
 やっぱりこの人とずっと一緒にいたい。 
 ずぅっとあたしのもんだったらいい。 
 
 
301 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:32
 
 −7− 
 
302 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:32
 
「それでね、あたしが眠るまでずーっと手繋いでくれてたの」 
「ふ〜〜〜ん、…それで?」 
「それでね、朝起きたらひーちゃんがねおはようってキスしてくれて、 
 眠そうな声で梨華ちゃぁんって言うのー!もうすっっごいカワイイの!」 
「ふ〜〜ん…で?」 
「…美貴ちゃぁーん…」 
 
303 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:33
 何かすっごく面白くないって顔の美貴ちゃんに、 
 会社ってことも忘れてテンション上がっちゃったあたしは急に恥ずかしくなった。 
 
「もぉーどうしてそんなにつまんなそうなのー?」 
「…え〜?だってさぁ、何?その流れでヤってないの?」 
「やっ…してないよぉ。そんなその日に…」 
 もう、美貴ちゃんっていっつもそういうこと言うんだよね。 
 もーちょっとひーちゃんとの甘いお話聞いてくれたっていいのに。 
 
304 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:34
「嘘だね、絶対ヤったね。」 
「してないってば、そのまま寝ただけ」 
 
「…じゃあオメーその首のキスマークは何なんだよ!!」 
 
「え?!うそやだ、どこぉ?!」 
 慌てて鏡を出して見てみるけど、無い。 
「嘘だし。バカじゃん」 
305 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:34
 …やられた。 
 あーあ何でいつもこんな手に引っ掛かっちゃうんだろ。 
 今朝だって見えないかちゃんと確認して来たのに。 
 大体首にはついてなかったし。 
 
 それより、美貴ちゃん。すーっごく楽しそーな顔になってるんだけど。 
306 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:35
「やっぱヤったんじゃん」 
「…き、昨日ね」 
「その日に…とか言っといて次の日じゃんかよ」 
「だっだってだってさぁ」 
 
 
 だって、だって。 
 ひーちゃんが、すっごく優しくキスしてくれるんだもん。 
 
 好きだって、すっごく好きだって伝わってくるんだもん。 
 
307 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:36
 
 結局言葉にしてはくれなかったけど。 
 あたしに触れる手が唇が、好きだよってちゃんと言ってくれてた。 
 
 いつも涼しい顔して落ち着いてるひーちゃんが、 
 汗びっしょりになってあたしを抱いてくれた。 
 
 嬉しくてちょっとだけ泣いちゃったら、 
 どうしたのって、泣かないでっていっぱいキスしてくれた。 
 
308 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:36
 
 やだ、何か…思い出したら… 
 
 …… 
 
 
 
 …はやく帰りたいなぁ… 
 
 
309 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:37
 
「…で、どうだった?」 
「どうって…」 
「よっちゃん、よかった?」 
 
「よっ……もぉ…。…よかったょ」 
「ほ〜〜〜」 
 
「…やっぱり、気持ちいいんだね。好きな人とするのって」 
「なにそれ、今までよくなかったんかよ」 
「そうじゃないけど…何ていうか」 
 
 
 わかるの。ああ、この人なんだって 
 
 
 あたしが言うと美貴ちゃんは、いつもの調子でふ〜んと言って少しだけ笑った。 
 
310 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:38
 
 あのね、美貴ちゃんのおかげでひーちゃんに出会えたこと、忘れてないよ。 
 ありがとう。 
 
 たくさんお話ししたいことがあって、食事にでも行きたいんだけど。 
 でも今日は、ひーちゃんバイト無いから。 
 早く帰って大好きって言わなくちゃ。 
 
 
311 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:39
 
  *  *  *  *  *  
 
312 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:39
 
「あのさぁ、梨華ちゃん…」 
「なぁにぃ?」 
 
 
 いや、そんなキラキラした目で見られても。 
 期待してるようなことは言わないんだけども。 
 てゆうかむしろ、見るの止めてって言おうとしたんだけども… 
 
313 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:40
「あー、なんでもない」 
「えー?なによぉ」 
 なによはこっちの台詞だよ。 
 さっきからじーーっと人の顔見つめてさあ。 
 膝枕してもらって何だけど、全っ然落ち着けねえから! 
 
314 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:40
 
 あの日から梨華ちゃんは何か変で、 
 やたらとくっつきたがったり抱きついてきたりただ見つめるだけだったり。 
 まあそれを許してるあたしもあたしなんだが。 
 こうやってリビングで過ごす時間も何だか甘いものに変化してしまった。 
 
 あたしもわりと好きな人とはベタベタしたい感じなんだけど、 
 今まで普通に一緒に住んでた人といきなりこういうのは、やっぱり何だか恥ずかしい。 
 
315 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:41
「あーもー…」 
 視線がうざったいので起き上がって梨華ちゃんの後ろに回る。 
 後ろから抱えるようにすると、ちょうど梨華ちゃんの首が口元にあたった。 
「ひ、ひーちゃん?」 
 首筋にキスすると、驚いたように身体を強張らせて、黙ってしまう。 
316 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:41
 
 
 あーやっぱり、くっついてると落ち着くんだよなあ 
 
 
 もうずっとこのままでいーや 
 
317 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:42
 
「…ひぃちゃん」 
 
「んー」 
 
「すき」 
「フッ、うん」 
 
「ひーちゃんは?」 
 
「あー?うん…」 
 
 
「ひーちゃん」 
 
318 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:43
 
 何だよー、もう 
 わかってるくせに聞きたがるよなぁ 
 
 
「…んー…」 
「ひーちゃぁん」 
 
319 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:43
 
 聞くなって。 
 
 恥ずかしってば 
 
 
 
 でも 
 
 
 
 …言わなきゃなんだろうなあ 
 
 
 
320 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:44
 
「ひーちゃん」 
 
 
「ん…」 
 
 
 
「好き」 
 
 
 
 
 だって、 
 
 
321 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:44
 
 
「ひーちゃん、好きよ」 
 
 
 
 梨華ちゃんが、笑うから。 
 
 甘ったるい声で、あたしを呼ぶから。 
 
 
 
322 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:45
 
   〜fin 
 
323 名前:ひとつ屋根の下 投稿日:2007/09/01(土) 21:45
 
 
324 名前:my name is... 投稿日:2007/09/01(土) 21:46
以上です。 
一応完結となります。 
325 名前:my name is... 投稿日:2007/09/01(土) 21:48
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>235 名無飼育さん 様 
 (0^〜^)<続々編かぁ…頑張るYO! 
 
>236 名無飼育さん 様 
 まだまだ行けますかね… 
 期待を裏切ってしまったでしょうか…(T▽T) 
 
>237 名無飼育さん 様 
 ヒットだなんてアワワ(゚д゚;)しかし早くも終わってしまってすみません…。 
 待って頂けるんであれば、続編頑張ってみようかと思います。 
 ただ、もし続かないとしても基本イチャイチャスレなので、次回作も言わずもがなで(・∀・) 
 
 
スレ立てた以上作品に対してネガな発言は禁句なんですが… 
本当にこんな作品を、期待して下さった方、ありがとうございました。 
しかし最終話とかどうなんでしょう、期待外れになってないでしょうか…(T▽T) 
 
もしこんなんでも続き読みたいYOと言う方がいれば、 
ものすっごい短編とかでも、何かしら続編を書かせて頂きたいと思います。 
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。 
326 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2007/09/01(土) 21:53
久々に甘いいしよしをありがとう!
327 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/01(土) 22:04
ほんとう、みなさんおっしゃられてますが
久々に大変良いいしよしでした。
御馳走様でした!
そして、おかわり!w
328 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/09/01(土) 23:22
甘ったる〜いいしよしを存分に堪能出来ました!
ここまでの更新お疲れ様でした。

続き?そんなの読みたいに決まってるじゃんw
甘々ないしよしをお願いします!
待ってますよ〜!!
329 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/01(土) 23:41
甘〜いいしよしをありがとう!心が和みました。
作者さんのペースで良いので続編お願いします。
330 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/02(日) 03:52
大漁更新ありがとうそしてお疲れ様
いしよしであればなんでもOKな私なんで作者さんの
思考で時にはリアル短編ごちゃまぜなど…なんでも来い!!ですYO
331 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/02(日) 14:21
最高!!
もちろん続編、そして短編希望します!!

甘々ないしよしをアリガトウ。
梨華ちゃんもひーちゃんもとっても可愛かったです。
332 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/02(日) 17:09
すんごく良かったです!
もう二人ともかわいくてかわいくて。
特に吉澤さんのかわいさがたまりません。
単に甘甘イチャイチャしてるだけの短編でいいのでまた読みたいです!

……アヤミキも。
333 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/02(日) 21:20
最高にあま〜いキモチになりました。
石川さんも吉澤さんも可愛い過ぎます。
今後の二人の甘々な展開も読みたいですし、
ミキティとあややの今後も気になります。

ひとまず、お疲れ様でした。
そして、ごちそうさまでしたw
334 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/09/03(月) 10:31
久々に甘いいしよし読んで(*´Д`)ポワワ
続編期待!w
他の作品でも作者さんのいしよし読みたいですー!
…あやみきもw
335 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/03(月) 19:13
更新お疲れ様でした!
皆さんと本当に以下同文って感じです!
ひぃちゃんが可愛かったです。
ひぃちゃん視点で梨華ちゃんやミキティ、自分に突っ込みも笑えたwww
梨華ちゃん視点も甘甘でよかったです。
イチャイチャ甘甘、続編も希望です!!
あとやはり少しあやみきも…w
336 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/05(水) 07:33
超ラブラブひーちゃん梨華ちゃん有難う!
(あやみき)別のスレでも多いので個人的には
ここのスレは甘甘いしよしオンリーでお願いしたいです。
あ、でも作者さんの思いどうりでいいですからねー
337 名前:my name is... 投稿日:2007/09/07(金) 07:39
まずはレス返しを。 
 
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>326 名無飼育さん 様 
 いやもうこちらこそ読んで頂きありがとうございます!やはりいしよしは甘甘で。 
 
>327 名無飼育さん 様 
 ほんとうにそう言って頂けて大変嬉しいです。 
 現実のいしよしのようにご馳走様な展開を書けるよう頑張ります! 
 
>328 名無飼育さん 様 
 堪能して頂けましたか!うわーい 
 甘甘な続編、頑張ります。 
 
>329 名無飼育さん 様 
 心が和むようないしよしを、と思っていたので嬉しいです!続編頑張ります。 
 
>330 名無飼育さん 様 
 やっぱりいしよしあらばIT’S ALL RIGHTですよね(´∀`) 
 リアルもたまに書く予定ですので、よろしくお願いします。 
 
>331 名無飼育さん 様 
 最高とまで(゚д゚;)アワワありがとうございます。 
 とにかく甘甘で可愛いいしよしを、と思いながら書きました。 
 
>332 名無飼育さん 様 
 同上、とにかく可愛いいしよしを、と思いまして。やっぱり特に吉澤さんを(´∀`) 
 恐らくほんとにイチャイチャしてるだけの短編になるかと思います… 
 そして初のあやみきレスに小躍りしてしまいました。 
 
>333 名無飼育さん 様 
 あま〜いキモチになって頂けましたか…今後も二人はあま〜い感じで… 
 あやみきの今後も考えてみます。川*VvV)<ほんとかよ! 
 
>334 名無飼育さん 様 
 続編含めこれからも何か書かせて頂きますのでよろしくお願いします。 
 あやみきはメインで書くことはありませんが、ちょいちょい出てくる予定です(・∀・)
 
>335 名無飼育さん 様 
 よっちぃがよく自分突っ込みしてるので、こんな心情なのかなと。 
 石川さんはとにかく甘甘ですね(ノ▽^)アチャーミー
 あやみきも織り交ぜつつこれからもイチャイチャ甘甘で頑張ります。 
 
>336 名無飼育さん 様 
 やはりいしよしは超ラブラブですよね( ^▽^)人(^〜^0) 
 1にある通り、ここではあくまでいしよしがイチャイチャするだけなのでご安心ください。 
 
 
たくさんレス頂き、本当にありがとうございました・゚・(つД`)・゚・ 
続編、ちょっといつになるかはわかりませんが必ず書きますのでお待ち頂けますでしょうか… 
338 名前:my name is... 投稿日:2007/09/07(金) 07:41
それでですね、えーと… 
ちまたでうわさの超ラブラブチェリーに見事に釣られ、リアル短編書きました。 
ストックしていたものを少しいじって書いたものです。 
エロがテーマです。リアルでエロはちょっと…という方いたらすみません(T▽T) 
339 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:43
 
( ^▽^)人(^〜^0)<始まるYO! 
 
340 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:44
 

 よっちゃんとするのって、すごく気持ちぃ。 
 あたしどうにかなっちゃうんじゃないかって、それこそ不安になるくらい。 
 
 若い頃はそりゃもういっぱいしたけど、今じゃやっぱりそんな風にはいかないから。 
体力…の問題もあると思うけど、これだけ長い付き合いだと、もうそういうの恥ずかし 
くなっちゃったり。 
 それで21になった頃とか、それぐらいからあんまりっていうかほとんど、ご無沙汰 
だったのに。 
 何か、何か最近のよっちゃんはヘンで。 
 変っていうか、何かすっごく可愛くて、子供みたいで、すっごく優しい。全部元から 
だけど、最近特にそうで何だかいつも楽しそう。子供みたいだけど、大人になったの 
かな、あんまり意地張ったりしなくなった。 
 したいとか、口で言うわけじゃないんだけど。今まで抑えてたってわけでもないと思 
うんだけど、何だかとても素直に求めてくる。 
341 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:45
 昔は、あまり言葉をくれないよっちゃんに身体を求められるのが、愛の証みたいで 
嬉しかった。えっちが減る頃には、何も言わなくても愛されてるって自信がついてた。 
 それが最近じゃ、言葉も態度も、ベッドでも素直だから。実際何が違うってわけでも 
ないんだけど、ちょっとだけなんだけど、何かが違うのはわかるの。 
 今は付き合ってる人いないみたいだし、もしかして、もしかしてなんて、今更期待し 
ちゃったりする。浮かれてるって、自分でわかってる。多くは期待しない。それは仕事 
でもそう、何でもそう。でも、頑張った分は必ず返ってくるって、信じてるから。あたしの 
7年は、よっちゃんのものだったから。 
 
342 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:46
 
 ソファーで雑誌を読んでるよっちゃんに、ちらっと視線を送る。あたしは御飯の片付け 
したりお風呂入ったり。 
 落ち着いてから隣に座って話し掛けるけど、よっちゃんは誌面から顔を上げてくれない。 
いつものこと。お話聞いてくれないのは、変わんないんだから… 
「それでね、この間のラジオで」 
「んー…」 
「そしたら柴ちゃんが、あっ、その前にね、もーママがね…」 
 よっちゃんは雑誌を読み終えたらしく、部屋をキョロキョロ見渡したりテレビを見ながら 
また生返事。もう。なんなの、なによ。 
「ね、よっちゃん?」 
「ん?」 
 振り向いた時の、顔が好き。 
 優しい目で見つめられると、なんにも言えなくなっちゃう。 
343 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:46
 そうやってあたしが黙ると、だんだんよっちゃんの顔が近付いてくる。大好きな顔が 
近付いてくるこの瞬間が、やっぱり一番ドキドキする。 
 背筋が凍る位のクールな目で迫るくせに、唇は驚く程優しく触れる。もっと激しくして 
欲しくて、舌でねだると絡みつく。 
 熱くて苦しくて、溶けそうなくらい気持ち良い。 
 よっちゃんも、同じだといい。 
 口が裂けたってそんなことは言ってくれないだろうけど、よっちゃんもそうなんだって、 
今は何となくわかる気がする。 
 服の下に直に手を感じて、触れられてる部分が熱くなる。 
344 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:47
「よっちゃん、ベッド…行こ?」 
「ここでいい」 
 よっちゃんは低い声でそれだけ零すと、あたしの上着を剥いで首筋や胸元に顔を 
埋めた。 
 よっちゃんの髪の毛って、ふわふわしてる。細くて柔らかくて、気持ちーの。ふわふわ 
の頭に頬ずりしながら、手櫛で梳く様に撫でてあげると嬉しそうに笑う。「きもちい?」 
って聞くと、答える代わりにキスしてくれる。 
 よっちゃんの手が、あたしのお腹を撫でながら落ちていく感触にぞくぞくする。 
 あの長い指が、奥に奥に、入ってくるともう、ほんとに、どうにかなっちゃいそう 
 あたしは目の前の肩にしがみつくしかなくて、漏れる声を喉の奥で噛み殺す。 
「…っひ、ちゃぁ…ん」 
 返事は、無い。答える代わりにたくさん気持ち良くしてくれるの。 
 よっちゃんの指や舌が動くたびに身体が反応して、意識がどんどん遠くなってく。 
 あ、もう、だめ 
 
 
345 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:48
 
「りかちゃん」 
「ん…」 
「だいじょぶ?」 
「…ぅん」 
 終わってから必ずそう聞いてくれる癖は、7年経っても変わらない。イくとやっぱり 
疲れてぐったりしちゃうし、してる時すごく苦しそうだからって。 
 今日も優しくしてくれたけど。よっちゃんて基本はすっごくSだから、ああ、今日は 
意地悪モードなんだって時がたまにある。イく寸前でやめちゃったり、恥ずかしい事 
させられたり、言わされたり。そういうコトする時のよっちゃんはとーっても楽しそう。 
 でも、そんな意地悪したあとでも、すごく優しくしてくれるから。よっちゃんはいつも 
優しいけど、やっぱり終わったあとが一番優しい。
 目の前には、すっごく優しい笑顔。大好きな大きい手で頭を撫でてくれる。 
346 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:48
 普通ならここで、俗に言うピロートークってのになる筈なんだけど…。あたし達の 
場合、夜のえっちの後起きてることは少ない。疲れてるし、お仕事朝早いし。体冷や 
すといけないから終わったらすぐ服着ちゃうし、ムードが無いんだよね。 
 あたしだってほんとは、よっちゃんと甘い会話なんてものしてみたい─ 
 でも、しょうがないよね。って言っても、大概先に寝ちゃうのはあたし。だから、 
よっちゃんがその後どうしてるかって、本当は知らないけど。 
 いつもと同じ、あたしが起き上がって下着を手に取ると 
「まって」 
 よっちゃんに腕を掴まれた。 
「どうしたの?」 
「…もうちょっと…」 
347 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:49
 またベッドに引きずり込まれて、全身を抱き締められる。 
 眠そうな声で、きっと今日はよっちゃんもすぐ寝ちゃいそう。ね、よっちゃん?ここ、 
ソファーだし。服着ないと、風邪引いちゃうかもしれないよ?汗かいた後だし。夏だって、 
安心できないんだから。もう大分涼しくなってきてるし…。 
 言いたいことはあっても、あたしの胸に顔を埋めて幸せそうにウトウトしてるよっちゃん 
を見てると何も言えなかった。 
 今日くらい、いいかなぁ。 
 ピロートークはやっぱり無理そうだけど。朝目が覚めたとき、生まれたままの姿で、 
おはようって言うのはちょっと憧れだから。 
 
348 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:50


349 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:51
 今日もよっちゃんがうちに来てくれた。 
 最近は一緒のお仕事ばっかりで2人になることが多かったから、でも今日は別々 
だったんだけどな。何だろう、こういうことやっぱちょっと変。だってついこの間だって 
泊まっていったのに。最近、いつも一緒にいるのに。 
 まいちゃんが忙しいからってのもあるのかな。 
350 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:51
 ─ひーちゃんには、誰かがいてあげないとだめだから。 
 だから、誰と付き合ったって我慢してきた。まいちゃん達親友だって、誰か男の人 
だって、よっちゃんの傍には誰かいないとだめだから。よっちゃんの辛いとき、あたし 
はカントリーとかおとめで会えなかった。 
 今は、あたしが傍にいていいってことなのかな。だから、ほとんど毎日お仕事で 
一緒でも、お食事行ったり泊まりに来てくれたり。 
 そういえば。ちょっと前までは、あたしがよっちゃんのお家に行くことが多かったん 
だけど、最近はいつもあたしの部屋。それってやっぱり、何ていうか、そういうことなの 
かなぁ…。 
351 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:52
 でも、どうしよう。あたし今日、アレなんだよね…。昨日ちらっと言ったからよっちゃんも 
わかってるんだけど、でも… 
 いつも好き勝手にゴロゴロしてるひーちゃんが、今日はずぅっとあたしの隣でニコニコ 
してる。 
 それだけじゃなくって、何だか妙にとろんとした目つきで。 
 何か今日のよっちゃん、すごくしたそう…。 
「りぃかちゃん…」 
「よ、よっちゃん?」 
 聞いたこともないような甘えた声で名前を呼んで、たくさんキスをくれる。 
 よっちゃんが、行為の前からこんなに積極的にキスして来ることなんて滅多にない。 
 唇に、首筋に、唇に、鎖骨に。あたしの肌から離れようとしない。腰や背中や脇腹を 
撫でられて、身体が熱くなってくる。 
352 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:53
 なんか、すごいえっち。いつもえっちだけど、今日のよっちゃんは特に。やらしい動きで 
身体中撫で回されて、とうとうよっちゃんの手は服の中に入って来た。 
「ひ…ちゃん?ね、生理…だって」 
「んー」 
「ね、できないよ?」 
「んー」 
 適当に喉を鳴らしてるだけの返事しか返って来ない。 
 そりゃぁ、あたしだってしたいけど。こんなに求められて、あげられないのは辛いけど。 
 どうしよう、どうしたらいいのかな? 
「じゃあ風呂でしよ」 
 よっちゃんは早口にそれだけ言うと、あたしの腕を引っ張ってバスルームへ向かった。 
353 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:53
「ちょ、ちょよっちゃん?どしたの?」 
「なにが?」 
 何がって、変だよ、絶対。 
 そんなに急いで服脱いで、変だよ。 
「よっちゃん、あたしは、自分で脱ぐから」 
 待ち切れないという風にあたしの服まで慌てて脱がすから、あたしも慌てて制止する。 
「なに。なんで」 
「だって、色々あるでしょ、アレなんだってば」 
「ああ」と頷いて、よっちゃんは先に中に入った。ドアの向こうから「はやくー」と急かされて、 
あたしも急いで服を脱ぐ。 
 はやく、なんて。ふふ、ほんとに子供みたい。 
 随分えっちな子供だけど。 
354 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:54
 少し遅れて中を覗くと、よっちゃんの濡れた白い背中があった。人差し指だけでそっと 
触れて、背骨にそって指を落とすと、低い笑い声が聞こえた。 
 そのまま後ろから抱きついて、首の後ろにキスをする。少しだけ肩が揺れて、あたしの 
大好きな顔がこっちを向いた。 
 微かにお湯の味の混ざったキス。 
 そこから性急に求められて、よっちゃんはすぐにあたしの中に入ってきた。 
「なんか…、いつもより、ぬるぬるしてる」 
「…やぁだ…」 
 何か、あたしも、変。 
 すっごい感じる。 
 よっちゃんが、耳元で意地悪く囁いた。 
「あのさ…生理の時、感じやすいって知ってた…?」 
 それって、俗説じゃなかったっけ 
 でも、確かに、感じる… 
355 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:55
 普段よりなかが熱い。入り口から子宮にかけて、鈍い痺れに似た感覚が走る。気持ち 
くて苦しくて必死でよっちゃんにしがみついた。 
 よっちゃんはあたしを壁に押し付けて、首筋に執拗にキスを落とす。指の動きがだんだん 
早くなってきて、脚ががくがくして今にも崩れ落ちそう。快感に支配された頭は、もう何も 
考えられなくて…よっちゃんの顔と、電気しか見えない。 
 
356 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:56
 
 あっという間にイっちゃったけど、よっちゃんは満足したみたい。まだ動けないでいる 
あたしをしっかり抱き締めて、いっぱいキスをくれる。 
 どうしたんだろ、今日はほんとに。何かいいことでもあったのかな? 
 どうしてそんなに嬉しそうなの? 
 どうしてそんなにキスしてくれるの? 
 ねえ、よっちゃん 
 やっぱりちょっとだけ、期待しちゃってもいいのかな? 
 だってあたし、きっと一生よっちゃんのものだから。あたしのなかには、よっちゃんしか 
入れないから。 
「よっちゃん?」 
「んー…なにぃ」 
 聞いても、いいのかな? 
 今なら、言ってもいい気がする。答えてくれる気がする。 
「あたしのこと、好き?」 
 

357 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:56




358 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:57
 
 梨華ちゃんは、何も知らない。 
 あたしがどんだけ梨華ちゃんが好きで、どんだけ頼りにしてるか、会えないストレスが 
どれ程のものかなんてきっと何も知らないんだ。 
 何も知らないくせに、きっと何もかもわかってるんだ。 
 わかってて、あの甘い声で「好きだよ」なんて言ってあたしの心を乱す。 
 今はやっとすんなり受け止められるようになったけど、それが苦痛な時期もあった。 
 あたしは、一人でいられないから。誰かいなくちゃ、淋しくて淋しくて気が狂いそうだから。 
それが梨華ちゃんだったらどんなにいいんだろう。いつもそう考えて、そんなのきっと 
叶いっこないと思って泣くんだ。そんなことを7年も繰り返してきた。あたしの思いなんて 
知らずに、梨華ちゃんは何の疑念も無く一生あたしの為に生きようなんて思ってるに違い 
ない。そんなのわかんないのに、あと何年かしただけで梨華ちゃんはあたしのこと嫌いに 
なってるかもしれないのに。だいたいお前結婚しない気かよ。 
 そうやって馬鹿みたいに悩み続けて来たけど、最近ようやく落ち着いたかもしれない。 
 だって、もし今梨華ちゃんに何かあったら、あたしは後悔してもしきれないから。だったら 
今素直になるしかないんだって。 
359 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:58
 
「ね、よっちゃん?」 
「ん?」 
 振り向けば、すぐ近くに梨華ちゃんの顔。 
 いつもいつも、キスしてって言われてるみたいな気になる。だからあたしはしてあげる。 
 キスを繰り返せば、自然と梨華ちゃんのすべてが欲しくなる。 
「…ぁ…」 
 この、声。耳元で振動して、脳に響く。梨華ちゃんが感じてくれるだけであたしはイきそう 
になる。セックスなんて好きじゃなかった。特に快楽も無い行為に何の意味も無いと思って 
た。それなのに梨華ちゃんとするのは、どうしてこんなに気持ちいんだろ。 
「よっちゃん、ベッド…行こ?」 
 やだ。ベッド行くまで、ガマンできないもん。 
360 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:58
 多分、あたし抑えてたから。梨華ちゃんが何かちょっと恥ずかしがるようになってからも、 
あたしはきっといつも欲情してた。顔見たり声聞いたりするだけで、押し倒したくなること 
だってあった。 梨華ちゃんがその気になんない限り手出さないようにしてたけど、今は 
それももう我慢することないのかもと思って。 
 素直に求めるようになると、あああたしってまだこんなに性欲あったんだ…とか思う。 
でももう恥ずかしがらない。「好きなんだから当たり前じゃない」って、いつか梨華ちゃんが 
言ってた。あたしの上に乗ったまま、すげーエロい顔でゆってたのを覚えてる。あの頃の 
梨華ちゃんはエロかったなあ…、今も十分エロいけど…。 
361 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 07:59
「…っひ、ちゃぁ…ん」 
 顔と、声と呼吸と、全身で感じてくれてるのがわかると、あたしも感じてしまう。ちょっと 
いじめた時、涙目でお願いされるとゾクゾクする。
 求められただけ触れれば触れる程、梨華ちゃんが切なげな表情をするから 
「りか、ちゃん?」 
 不安になって名前を呼ぶと、肩が震える。梨華ちゃんは、あたしの声が好きらしい。 
 耳元で何か囁くとわかりやすい反応をくれる。嬉しくなって夢中で愛撫すると、すごく 
苦しそうにするからまた不安になる。 
 それがわかっちゃうのか梨華ちゃんは、荒い呼吸を繰り返しながらも、優しく微笑んで 
キスしてくれる。やっぱりこんな時でも梨華ちゃんの方が余裕がある。 
 でも、あたしの動き一つで梨華ちゃんの快楽が左右されてるんだと思うと、異常なまでに 
興奮する。 
 呼吸が小刻みになる。 
 あ、そろそろだ 
「…ちゃん、…っもう…」 
「うん」 
 顔、見たい。梨華ちゃんの体をソファーに押し付ける。 
 梨華ちゃんは恥ずかしがるけど、イくときの顔ってすごいいいから。 
 
362 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 08:01

 あたしの手でイった梨華ちゃんを見てるととても満足する。 
 その時だけは、確実にあたしのものだから。 
 征服欲、独占欲。そういうものがあたしはすごいんだと思う。梨華ちゃんがあたしだけの 
ものじゃないと嫌だ。昔なんか梨華ちゃんが男のスタッフと話してるの見ると、ほんとに 
腸が煮えくり返るみたいな気持ちになった。 
 今だって、もし梨華ちゃんに彼氏なんかできたら、あたし多分泣いてしまうんだと思う。でも 
まぁ、こいつ完全に男に興味なんて無いだろうし…。きっと、わかってるから。あたしが 
嫌がること。どんだけ嫌かなんて知らないんだろうけど、でもわかってるから。 
 とにかく今だけは、あたしのもの。 
363 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 08:02
 そう思って、せっかく気持ちよく寝られそうだったのに、梨華ちゃんは起き上がってもう 
服着ようとしてる。エアコンもついてない暑い部屋で、体なんか冷えないでしょ。 
 こんな時でも仕事仕事な梨華ちゃんに淋しくなる。いつだってそうだ。明日早いから、 
来週からツアーだから、お仕事だから。 
 そりゃあ、普通の仕事じゃないから、気使うの当たり前だけど。…たまには裸で眠る 
くらい。 
「まって」 
「どうしたの?」 
 ちょっとだけびっくりしてる梨華ちゃんの腕を引いて、逃げられないように全身で抱き締め 
た。体温が気持ちいい。 
「…もうちょっと…」 
 梨華ちゃんは何か言いたげだけど、黙ってくれてる。 
 もうちょっと、このまま。もうちょっと、幸せに浸りたい。 
 
 
364 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 08:02
 
 あー何か、今日会いたいなぁ。 
 今日は、別の仕事で。 
「最近よく梨華ちゃんと一緒にいるよね」 
と言われ、まあ仕事が一緒だから…と返すと、 
「でもご飯とかもよく行ってるじゃん」 
 そういえば、確かに。前までは仕事で一緒になったって、そんなのはあんまり無かった。 
最近一緒の仕事ばっかで嬉しいなあと浮かれてたけど、確かに外でもよく会ってるんだよな。 
 あたしが誘うようになったのがでかいんだろう。それで機嫌が良いと思ってるのか、自分 
からは言えない筈の梨華ちゃんも、声掛けてくれるようになったし。 
 やっぱり素直になれば、それだけ良い事あるってことなんだろうか。 
 てことは今日も、いきなり泊まりたいとか言っても大丈夫なのかもしれない。明日の梨華 
ちゃんのスケジュールは、わかってるし。 
365 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 08:04
 梨華ちゃんに連絡すると、平気だよと返事をくれた。 
 何か、普通に嬉しい。 
 今まではこんな風にいかなかった。一緒にいたいだけなのに、周りの顔色窺ったり、 
お互いに遠慮して、気持ちごまかしたり。あたしが意地張って突っぱねれば、梨華ちゃん 
はすぐに身を引いた。 
 大体、梨華ちゃんがいてくれれば男なんていらないんだし。梨華ちゃんに傍にいてって 
言えばいいだけじゃん。それはやっぱりあたしには簡単なことじゃないけど、それでも、 
最近は大分素直になれてる気がするから。 
 やっぱり、このまま一生一緒にいられるとは思わないけど、それでも今は、今だけは。 
 梨華ちゃんに、会いたいって言ったら会ってくれる。傍にいてって言えばいてくれる。 
 それがもうちょっとだけ続いてくれればいい。 
366 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 08:05
 結局仕事の間中梨華ちゃんのことを考えてて、その内最近の梨華ちゃんの部屋での 
過ごし方を思い出して、ムラムラして止まらなくなった。梨華ちゃんちに向かってる途中、 
そういえば今できないんだっけということを思い出して、でも会えるだけでいいんだしと 
思ったんだけど。 
 玄関で顔を見た瞬間後悔した。 
 どうしようすごいしたい。 
 いや、ガマンガマン。 
 いやでもできないことないし…とか考えてると梨華ちゃんが不審そうな顔で見てくるから 
慌てて部屋に入る。まあとにかく、会えただけでいいんだから。 
367 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 08:05
 別な仕事の日にこうして2人でいれることが嬉しくて、今日は何となくずっと梨華ちゃんに 
くっついていた。梨華ちゃんはすごく嬉しそうに笑ってくれて、あたしも嬉しくなっていっぱい 
キスする。 
 キスして体中撫で回してるうちに、…あーやっぱすごいしたいかも。 
「ひ…ちゃん?ね、生理…だって」 
 梨華ちゃんはちょっと困ってる。 
 わかってる。でも、したい 
「ね、できないよ?」 
 …もう止まんないんだけど…
 どうしようかな、できないことないと思うんだけど。でも梨華ちゃんやならやめるんだけど。 
 顔上げて梨華ちゃんを見ると、何とも言えない顔してて。困ったような、嬉しそうな、何か 
ちょっと快感に耐えてる時みたいな。 
 そんな顔されてあたしが我慢できるわけもなく。 
368 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 08:06
「じゃあ風呂でしよ」 
とだけ言ってバスルームに引っ張って行く。梨華ちゃんは何かごちゃごちゃ言ってるっぽい 
けども気にしない。とにかくこいつを早く抱きたい。 
 急いで脱がせようとしたら断られたので、先に風呂に入って待つ。 
 シャワーを浴びて、火照った体と頭を落ち着かせる。 
 早く、早く。 
 背中に指が触れた。梨華ちゃんの小さな手の、細い指があたしの背中を落ちていく。 
 後ろから包まれて首にキスされる。よし、もう我慢やめ。 
369 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 08:07
 振り向いて抱き締めて、愛撫する。やっぱりちょっといつもと違う。なかの感触も、反応も。 
 いつもより、感じてるっぽい。梨華ちゃんも何か違うってわかってるみたいで、少し怯えた 
ように手に力がこもった。ちょっと意地悪したくなる。 
「あのさ…生理の時、感じやすいって知ってた…?」 
 ほんとはそんなわけ、ないんだけど。確か医学的にはそういう時って感じにくい筈だ。 
たぶん梨華ちゃん、いっぱいキスしたから興奮してるんだろーな。 
370 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 08:08
「ぅ…あ、ひ…ちゃん、ぁ…!」 
 少しの刺激で大きく反応してくれる。すごい感じてくれてる。…今日は、イくときどんな顔 
すんだろ。 
 梨華ちゃん、梨華ちゃん。 
 ずっとこのままがいい。ずっと梨華ちゃんを抱いていたい。いつまでも、あたしで感じて 
欲しい。 
「…きもちぃ?」 
「ん…はぁ、はぁ、…っいい…」 
 あ、すごい 
 梨華ちゃん、もうイきそう 
「りかちゃん、かお…」 
 見せて、もっと。それでもっと恥じらって。 
 そしたらあたしが嬉しいから。 
「はぁ、あ…ひぃちゃ、…ゃ、……っ!」 
 梨華ちゃん 
 あーこれ、あたしのもんだ。 
 …すごい幸せ。 
 
 
371 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 08:09
 
 いつもより早くイって、ちょっと恥ずかしそうな梨華ちゃんをめいっぱい抱き締める。 
たくさんキスをする。 
 梨華ちゃんはまたちょっと困ったみたいな表情してる。変だなとか、思ってんのかなあ。 
 だってきっと知らないから、あたしの気持ち。梨華ちゃんが可愛くて可愛くてしょうがない 
のとか、どこにも行けないように抱き締めていたいのとか、きっと知らないから。 
「よっちゃん?」 
 …なに? 
 その甘い声って、一体どこから出してんだろう。 
 こいつは何でこうも、人の心乱すんだろう。 
 あのさ、もうちょっと、こうさせて。 
 今だけでも、いいから。 
 でも出来たら、ずっと。 
 ねえ、梨華ちゃんが大好きだから。 
 
 
372 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 08:10



373 名前:KillerTune 投稿日:2007/09/07(金) 08:10
 
( ^▽^)人(^〜^0)<終わりだYO! 
 
374 名前:my name is... 投稿日:2007/09/07(金) 08:12
以上です。 
プラトニックないしよしも好きなんですが、やはりエロあってこそのいしよしかなと… 
タイトルについては、 
東○事変の新曲がちょうど最近の曲ではいしよしっぽいかなと思いお借り致しました。 
 
しかし…現実のいしよしがいしよし過ぎてもうどうしたらいいのかわかりません。 
何かの転機か?と思える程で、今回妙に真剣に書いてしまいました。 
ちょっと雰囲気違うかもしれませんが、こういうのも受け入れて頂けると幸いです。
 
375 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/07(金) 08:34
いやはや 最 高 でした。
いしよしがいしよしであるだけでなんだか安心します。
376 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/07(金) 09:18
朝からごちそうさまです!
台風で患者さんが来ないのでつい職場で読んでしまいました。
超ラブラブ最高です!!
377 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/09/07(金) 10:24
朝からいしよしで(*´Д`)ポワワ
いいです。いいですよー甘々最高です♪
378 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/08(土) 02:00
いしよし最高ですね!
これで今日一日頑張れます。
巷で噂の超ラブラブチェリーをまだかまだかと待ってますw
前の話の続編も楽しみにしてますね。
379 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/08(土) 05:16
作者さーん凄くよかったYO!!!
**いしよしメイキングラブ**ですねー 
たまには石川さんも男らしくしてくれたらなーなんて…(独り言っス)。
380 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/08(土) 18:08
作者さんサイコーです!!
381 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/09(日) 07:54
こんないしよしも最高ですね!

リアルな感じがとってもいいです
382 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/11(火) 10:17
>381

さげてね
383 名前:名無しさん 投稿日:2007/09/12(水) 00:16
一気に読みました!最高でした〜!!!
384 名前:my name is... 投稿日:2007/09/17(月) 18:26
ひとつ屋根の下・続編です。 
タイトルはまた某少女漫画からお借りします。 
385 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:27
 
 
 
386 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:28
 
 
 
「ね、ひーちゃん?」 
 
 目の前の梨華ちゃんが、あたしを呼ぶ。 
 本当にどっからだしてんのって聞きたくなるような甘い声で、 
 朝も、夜も、どんな時も。 
 
387 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:29
 何となく恥ずかしくなって視線を逸らす。 
 
 
 おんなじベッドの中で、ぴったりくっついて。 
 
「梨華ちゃん、もー寝な」 
 腕の中でまだ落ち着き無くもぞもぞ動いてる梨華ちゃんを諌める。 
 さっきから寝るって言ってはあたしの肌をつついて遊んだり、急に笑い出したりするから。 
 あたしもおちおち寝ていられない。 
 
「はぁーい」 
 …返事だけはいいんだからなぁ。 
 どうせその内、またねぇねぇとか言い出すんだろ。 
 
388 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:30
 最近はほとんど毎晩、一緒に寝てる。 
 好き合ってるモン同士いっこの布団にくるまって、まあ当然そーゆーことになるわけだけど 
 
 こうやって終わった後、 
 上機嫌の梨華ちゃんの相手をするのが嬉しくもありめんどくさくもあり… 
 
 
 何てゆうか、梨華ちゃんってタフだよなぁ。 
 あんなにして、こんだけ元気ってさぁ… 
 
 普段と変わんない調子で他愛も無い話を喋り続けたり、 
 疲れてるあたしを抱き締めて頭撫でてくれたり、キスしたり、 
 
 
 そーゆーのはさ、幸せなんだけど。 
 
389 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:32
 
「…ひぃちゃん」 
 
 
 …キタ、来たよコレ。 
 寝るって言ったのに。 
 
 
 あの甘い声を、何倍も甘くしたような、 
 
 それこそ砂糖なんかより全然甘い 
 
 
 囁かれて、溶けてしまいそう 
 
 
390 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:33
 
「…すき」 
 
 
 
 …あたしも、って、心の中では簡単に返事できるのにね。 
 言葉にならないあたしの気持ちを、今か今かと梨華ちゃんが待ってるから 
 
 かわりにちゅってキスをする。 
 
 誤魔化す為のキスでも、愛はあるから 
 梨華ちゃんは満足そうに笑うけど、それでもまた… 
 
 
「ね、ひーちゃん」 
 
「…なに」 
「すき」 
「…ん」 
391 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:34
「…ひーちゃん?」 
「なんだよ」 
 
「大好き」 
 
「…わかったから」 
「だってぇ」 
「もー早く寝ろよ」 
 
「…ひーちゃんはぁ?」 
 
 
 もーしつこいから! 
 コレ、これがやなんだよ 
 言えないのとかさ、しょーがないじゃん。恥ずかしいんだって。 
 そんなのさ言わなくてもわかるのが愛じゃん? 
 そりゃたまには言葉も必要かもしんないけど、さぁ 
 
 
 …そーやって、見つめんのずるいよ。 
 
392 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:35
「ね…ひーちゃん?」 
 
「…うぅ」 
 
 
 
「……ひぃちゃん。好き」 
 
「…ん…」 
 
 
 
 梨華ちゃんが、キスしてくれる。 
 あたしの頬や耳や首筋を、くすぐるように撫でる。 
 
 唇や指で、言ってごらんて急かすように。 
 
393 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:35
 
 
 …言わなきゃ、だめ? 
 
 
 だってさ、怖いんだよ 
 
 言葉にするたび、梨華ちゃんへの想いで溢れそうになるから。 
 
 梨華ちゃんのことしか、考えられなくなっちゃうから。 
 
394 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:37
 
  *  *  *  *  * 
 
395 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:38
「よっちゃん、梨華ちゃんが好きって言ってくれないって泣いてたよ」 
 
 こっちも見ずにミキティはそう言ったけど、声が怒ってるのがわかる。 
 
「う…な、泣いてた?」 
「いや愚痴ってただけだけどね。 
 うざったいからさーよっちゃん、言ったげてよ」 
 
 ベッドから半身乗り出して睨まれた。 
 あたしはテレビに向かってるけど、横から痛いくらいに刺さる視線がわかる。 
396 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:40
「ほんとにさー何でそうヘタレなの? 
 好きだよ、好き。二文字じゃん。言っちまえよ」 
 
 ミキティは焦れったそうに足をバタバタさせながら、 
 ほら練習しろ、とか言って携帯を投げ出す。 
 慌てて受け取ると、画面いっぱいの梨華ちゃんのどアップ。 
 
 初めて見た時と違うヤツ。 
 …ねぇ、何で梨華ちゃんピンショットの写メがそんなにあんの? 
 
 
 まあいーけど、この梨華ちゃんカワイイなあ。 
 あーーこの目が、下瞼がエロいんだよなあ。口がたまらんなあ。 
 
 可愛い…梨華ちゃん 
 
 
 …好きだなー 
 
 
「…梨華ちゃん…」 
 
397 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:41
 
 
 
「…ぶっ!! 
 うはははははわはははははひ〜おっかし」 
 
「ちょ、な、なに笑ってんだよ」 
 
 
 やっべ!あぶねーーーー!! 
 うっかりミキティの前で好きとか言っちゃうとこだった!あっぶねー! 
 はっ、まさかコレ音声メモとかになってねーよな今の録音されてねーよな!? 
 
 慌てて携帯を調べるあたしの横で、ミキティは腹抱えて爆笑してる。 
 あーもう…そんな笑うなよちくしょう 
398 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:42
「あ〜ウケたねもーよっちゃん、よっちゃんが…梨華ちゃん…てプププ」 
「うっせー」 
 
「だってさあ〜、はーウケるわ、うん 
 …もうさ、そんなカオ出来んなら好きって言うくらい簡単じゃないの?」 
 
「…それとこれとは…別じゃん」 
 
「でたよヘタレが。 
 女ならビシっと決めろよ!愛してるぐらい言ってやれ!」 
「無理。絶っっ対ムリ。ギャグだしあたしが愛してるとか」 
「…まあ確かにな。 
 でもさ、好きの一言くらい」 
 
「いやでもさあ〜…ハァ…」 
399 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:43
 うじうじしてるあたしに痺れを切らしたのかミキティは、でっかい溜息を一つ吐いて 
 
「…よっちゃん、そんなんじゃさぁ、梨華ちゃん不安だよ?」 
 
 
 う… 
 
 
「よっちゃんの気持ちもわからないでもないけどさー、 
 やっぱり大事じゃん言葉って」 
 
 
 うん… 
 
 
「わかってんだけどさあ…」 
 
 
 携帯の小っちゃな画面いっぱいの梨華ちゃん。 
 
 梨華ちゃん、好きなのに。 
 たった一言なのに、それが怖い 
 
 気持ちはこんなにも暴れ回るのに。抑えきれないのに。 
 
400 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:44
 また、ミキティのでっかい溜息が聞こえた。 
 
「とりあえず帰りなよ。そんな切ない顔、本人の前でして」 
「…ごめん」 
「携帯返せ 
 …送ってあげるからそれ」 
「うう…ありがと」 
 
 
 玄関で仁王立ちするミキティに見送られるっていう。 
 あたしは愛しの梨華ちゃんのもとへ帰る為に靴を履く。 
401 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:46
 
「じゃあね」 
「おう…」 
 
 
「…よっちゃん」 
 
「ん?」 
 
 
 
「頑張んないとさ、美貴がもらっちゃうよ」 
 
「あ?何を?」 
 
402 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:47
 
 
 
「梨華ちゃんだよ」 
 
 
 
 バタンッ、ガチャ 
 
 
 
403 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:49
 
 一瞬、思考も身体も完全に固まった。 
 
 そんでまず、 
 鍵閉めやがったな、と 
 
 そんでえーと、梨華ちゃんをって… 
 もらっちゃうよって… 
 
 梨華ちゃんをもらっちゃうよ? 
 
 ははは何言ってんだアイツ殺してやろうか 
 
 
 いやだってさミキティその気は無いよね? 
 亜弥ちゃんとかは特別な存在であってそんな梨華ちゃんとなんてそんな梨華ちゃんは女の子だぞ 
 いやでもあたしも一応ノーマルだぞ…アレレ?梨華ちゃんもだよね? 
 ん?よくわからん 
404 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:50
 
 とりあえず、帰ろう 
 
 梨華ちゃんに梨華ちゃんに会わなきゃ 
 
 
 今日こそ好きって、伝えなきゃ 
 
 
 
405 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/17(月) 18:50
 
 
 
406 名前:my name is... 投稿日:2007/09/17(月) 18:51
以上です。とりあえず前編、というとこでしょうか。更新2回くらいで終わると思います。 
待って下さってた方、お待たせ致しました。しかし甘くなくてすいません(T▽T) 
407 名前:my name is... 投稿日:2007/09/17(月) 18:52
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>375 名無飼育さん 様 
  最 高 とまで言って頂ければ本望です。 
 いしよしは安心しますね、やっぱりハロプロの良心です。 
 
>376 名無飼育さん 様 
 医療関係の方ですか…(゚д゚;)ナント 
 もし職場でニヤニヤして頂けたなら嬉しいです。 
 
>377 名無飼育さん 様 
 いしよしは24時間です。24時間甘々です(*´Д`) 
 
>378 名無飼育さん 様 
 これで今日一日とかもうそんなありがとうございます・゚・(つД`)・゚・ 
 続編お待たせ致しました…ラブラブチェリーはまだですかね。 
 
>379 名無飼育さん 様 
 石川さんの場合、よっちぃが「男通り越してなんかでっかい人」と言ったように
 現実でオトコ過ぎるので、小説の中くらい乙女でいさせてあげたいというのが心情です。
 ただ、今のところこのスレでは一応よっちぃは 受 です。微妙に。
 
>380 名無飼育さん 様 
 ありがとうございます、更新した甲斐があります(´∀`) 
 
>381 名無飼育さん 様 
 リアルを感じて頂けると嬉しいです!
 私の中で一番リアルで一番理想ないしよしを書いたので。 
 
>383 名無飼育さん 様 
 ありがとうございますまた読んでやってください(ノ∀`) 
 
ラブラブチェリーの前にとんでもないネタが来たわけですが、個人的に大ヒットです。 
正直尋常でいられません。 
 
408 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/18(火) 02:09
素直に「好き」と言えないひーちゃんがキャワイイ〜ス!
409 名前:378 投稿日:2007/09/18(火) 02:19
続編待ってました!ありがとうございます!
ひーちゃんがヘタレでカワイイですねw
現実がいしよしすぎてヤバイです。熱すぎですw
ラブラブチェリーは最後の週みたいですね。
410 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/18(火) 21:08
いやいやいや、甘いですよっ。
続きが気になる〜。
411 名前:riru 投稿日:2007/09/23(日) 20:46
オモシロス
412 名前:riru 投稿日:2007/09/23(日) 20:46
オモシロス
413 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/24(月) 04:15
待ってますよー
414 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:12
 
  *  *  *  *  * 
 
415 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:13
 
「ただいま」 
「あ、ひーちゃん!おかえりー」 
 
 帰るなり梨華ちゃんはリビングから走って来て抱きついてくる。 
 さっきまでもやもやと胸に詰まってた悲しい気持ちが、一瞬にしてなくなった気がした。 
 
416 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:13
 
「…ただいま」 
「フフ、おかえりぃ」 
 
 かわいー笑顔で、洗面所までちょこちょことついてくる。 
 あーもういつもの事だけどかわいすぎてたまらん。 
 鏡越しのその視線とか、誘ってんの? 
 
 よくそんな喋ることあんなってくらい、また後ろでぺちゃくちゃ喋ってんだけど 
「美貴ちゃんとこ、行ったんだっけ」 
 う…今はあんまその話したくないなあ。 
 そんなかわいー笑顔で問われても、うまく対応できないぞ。 
 
 いやいやでも、逃げちゃだめだ。 
 あんなのミキティのいつもの冗談なんだろうけど、それでも焦っちゃうのは情けない。 
 ちゃんと、伝えないと。梨華ちゃんに好きって。 
 
 
 …でもそれ、どんなタイミングで言ったらいんだ?い、今? 
 いや、ベッドで…か?つか何て言ったらいいの?愛してるとか…マジで無理だし。 
 す、好きだよとか言えばいいのかな? 
 今まで片手で数えられるぐらいしか言ったこと無いからな… 
 どうしたらいいのか全くわからん… 
417 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:14
 
「…ひーちゃん?」 
 ひとり考え込んで黙りこくってしまったあたしの顔を、梨華ちゃんが心配そうに覗き込む。 
 
「どうしたの? 
 …何か、あった?」 
 
「…いや」 
 
 あったって言やあったけど、でも、そんなことより… 
 梨華ちゃんに、言わなきゃいけないことが。 
 
 
「…梨華ちゃん」 
 
「なぁに?」 
 
 
 身体ごと振り向いて真っ直ぐに向き合う。 
 見つめると、潤んだ瞳に飲み込まれそうになる。 
 
418 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:15
 
 
 梨華ちゃん、好き 
 
 
 離したくない。ミキティだろうが誰だろうが、誰にも渡したくない。 
 
 これって、重いのかなぁ 
 こんなこと言って、引かれたくないんだよ 
 
 こんなに想ってて、たくさん伝えても 
 結局嫌われちゃったら悲しいじゃん。 
 
 
「ひーちゃん…?」 
 
「あ、いや、あのさ…」 
 
 
 …ああだめだ、また怖くなってきた。 
 
 どうしよう、言えそうにない。 
 
419 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:16
 
「ひぃちゃん」 
 
 
 何も言えないあたしを、梨華ちゃんは優しく抱き締めてくれる。 
 
「ひーちゃん、冷たいね」 
「…あ、ごめん…」 
「んーん、だいじょぶ?」 
 
 梨華ちゃんが、両手で頬をあっためてくれる。 
 その小っちゃい手から伝わる体温で、身体も心もあったかい。 
 やべ、ちょっと泣きそう。見られないように、梨華ちゃんの肩に顔を埋める。 
 
 そのまま首筋に軽く唇を落とすと、ビクッと肩が震えた。…まだ冷たいかな? 
 なんにも言わないから、好き放題に身体を撫で回してると小刻みな震えを繰り返す。 
420 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:17
「ひ…ちゃん?」 
 ようやく声を発したから、見上げるともう 
 感じてますってカオしてて。 
 
 
 …うわ、これはヤバい。 
 
 このままここでしたいけど、こんなとこで、とかって梨華ちゃんに怒られそうだから 
 最後の理性であったかいリビングまで引っ張ってく。 
 
 少しだけ乱暴にソファーに押し倒して荒々しくキスすると、 
 梨華ちゃんはかなり興奮するみたいで、すっげーやらしい表情になる。 
 身に着けてるもんを一枚一枚剥いでゆく。 
 
「…ひーちゃんてぇ、脱がせてる時、すっごく楽しそうだよね」 
「うん。楽しーもん」 
 梨華ちゃんの肌がだんだん露になってくのが、すげぇ興奮する。 
 
「ひーちゃんは…自分で脱いじゃうんだもん、ずるいよ…」 
 
 
「ずるいかな」 
 
「ずるいよぉ……、ん」 
 
421 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:17
 
 
 …ずるいのは、わかってる 
 
 
 梨華ちゃんの感じてるトコばっか見て、楽しんでる。 
 あたしはたった一言なのに、言葉に詰まってばかりで。 
 
 
 
「ひぃちゃん…」 
 
 
 でもさ、梨華ちゃん、好きなんだ 
 
 
 もう少し、もう少しだけ、時間が欲しい。 
  
 
422 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:18
 
  *  *  *  *  *   
 
423 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:18
 「もらっちゃうよ」の真意を確かめる為にミキティに電話すると、 
 今から来いと呼び出しをくらった。 
 
 文句の一つでも言ってやりたいんだが…結局梨華ちゃんに好きって言えてないからなぁ。 
 何て切り出したらいいんだろう。 
 とりあえずマジなのか冗談なのか、それだけ聞ければいいかな、と思ったんだけど 
 
「あ〜〜、言ったっけそんなの。 
 …てゆーか悪いけどそれどころじゃないんだよね」 
 かなりテンション低めに一蹴されてしまった。 
 …なんだやっぱ冗談かな、よかった。 
「それどころじゃないって、何。つーか元気無くね?」 
「あー、彼氏と別れた」 
424 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:19
「…マジで?」 
「昨日ねー」 
「…そっか…」 
「ほら、終わると思ってたし」 
「ん…」 
「何かもういーわとか思った」 
 淡々と語るミキティ。 
 もう、長い付き合いだからさ。こんなことは何回かあった。 
 あたしは何も言わないし、ミキティも何も要らないだろうし、 
 今彼女の傍に居てあげる人も、あたしじゃないってわかってる。 
 

「もー、やだ……亜弥ちゃんに会いたい」 
 
 
 
「美貴、亜弥ちゃんがいてくれればいいや…」 
 
425 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:20
 そう言ってミキティは静かに泣いた。 
 
 ミキティのすすり泣く声だけが響く部屋。こういう時、きっと 
 ああほら、携帯鳴った。 
 
「…亜弥ちゃんだよ」 
「え、うそ早くかしてかして!」 
 傍にあった携帯を差し出すと、ミキティがひったくる様に受け取る。 
426 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:20
 
「もしもし…うん」 
 
「うん…うん」 
 
「…だいじょぶ、亜弥ちゃんの声聞いたら元気でた」 
 
「うん…。…会いたい」 
 
「亜弥ちゃん、好き」 
 
「だって好きなんだもん。」 
 
「…ん、…待ってる」 
 
427 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:21
 
 そうやってミキティは、何の惑いも無くハッキリと、亜弥ちゃんに気持ちを告げる。 
 どうしてそんなに素直でいられるんだろう。 
 
 あたしは、ミキティが羨ましくて。 
 電話を切って、びっくりするぐらい元気になったミキティが可愛く思えて。 
 
 あたしも少しでも、そう出来たらいいのに。 
 てゆーかそうしなきゃいけないのに。 
 
 
 速攻で訪ねて来てくれた亜弥ちゃんにミキティを任せて、あたしは部屋を後にした。 
 
428 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:21
 
  *  *  *  *  * 
 
429 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:21
 
「…で、まあそんな感じだったんだけどさ」 
「そっかぁ…美貴ちゃん、明日は元気かな」 
「亜弥ちゃん泊まってくって言ってたから、多分ね」 
「…よかった」 
 
 明日、美貴ちゃんと飲みにでも行こうかなって、梨華ちゃんは笑った。 
 そうしたげてって、あたしも笑顔で返す。 
 もうあと数センチって位の距離で、話しながらキスする。 
430 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:22
「…何か、いいね。二人。」 
「うん…」 
 
「…ひーちゃん、好き」 
 
「…ありがと」 
 
 
 
「ふふ…もぉ。」 
 
 
 
 
 
「……ぁたしも」 
 
 
「えっ!?」 
 
「うわびっ…くりした、さ、叫ぶなよ」 
「今、今なんて言ったの?」 
431 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:23
「なんも言ってねーよ別に…」 
「うそ、今何か言ってくれたぁ!ね、もう一回!」 

 ソファーの上のあたしの上で、梨華ちゃんは駄々捏ねるみたいに脚ばたばたさせる。 
 ちょっとかなり頑張った一言も、いまいち決まんなかったな…。 
 もう一回とか、さすがにかなり厳しいよ…もう喉カラカラなんだけど 
 
「ね、ひーちゃんもう一回」 
「…もー無理だって」 
「だめ、ちゃんと言って」 
 
「…また今度」 
 
432 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:25
 
 上で暴れられるとちょっと節々が痛い…とか思ってると急に動きが止まって、 
 逸らしてた視線を上に戻すと、いつになく真剣な梨華ちゃんの顔があった。 
 
 
「…ひぃちゃん。あたし、不安なの」 
 
 
「……そんなんじゃ、わかんないよ…?」 
 
 
 
「……」 
 
 
「…ね?…言って」 
 
 
 
 
 梨華ちゃん… 
 
 
 伝えたいけど、言葉が出ない 
 
 梨華ちゃんは小さく一つ溜息をついて、ソファーから降りてリビングを出ようとした。 
 あたしはゆっくりと起き上がって、視線だけ梨華ちゃんを追う。 
 ドアの前に立って、振り返る。 
433 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:26
 
「ね…ひぃちゃん。」 
 あたし、いつまでもいるわけじゃないんだよ…?」 
 
 
「今言ってくれなきゃ、わかんないんだから」 
 
 
 
 
 
 そう言って、ドアが閉まった。 
 
 
 え、ま、待って。 
 待って。 
 
 
 梨華ちゃん 
 
434 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:27
「まって」 
 どこか行こうとしている梨華ちゃんを玄関で呼び止ると、振り返り何も言わずにあたしを睨む。 
 
「あ…の、さ…」 
 どうしよう、何て言ったらいいんだろう。 
 
 二の句を告げないあたしを見て、梨華ちゃんは呆れたような溜息を零すと、
 玄関のドアに手を掛けた。 
 
 お願い、待って。 
 
 梨華ちゃんの、腕を掴む。 
 
 
 細い。すり抜けてしまうかもしれない。 
 
 震えてるのは、あたしなのか梨華ちゃんなのか、掴む右手と掴まれた左手ががくがくする。 
 頭ん中がぐるぐるする。 
 
「梨華ちゃん、あたし…」 
 
435 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:27

 
 梨華ちゃん、そばに、いて。それだけでいいのに。 
 たったそれだけの言葉が、どうして声にならないんだろう。 
 
 もう嫌だ。こんなに弱いあたしが、梨華ちゃんの傍にいていいわけない。 
 だから何も言えない。見捨てられるのを待っているだけ。 
 
 
 苦しくて、涙が出てきた。 
 泣いてる場合じゃないのに、大切な梨華ちゃんに、告白しなきゃいけないのに。 
 
 
436 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:28
 
 急に、頬に触れた。 
 その手から、梨華ちゃんの体温が嫌と言う程あたしの奥まで届く。 
 
 
 
「ひーちゃん……多くなんて、いらないの」 
 
 
 だから、ね? 
 
 
 
 梨華ちゃんの唇が動く様子が、とても綺麗で 
 
 この唇がこの手があたしに触れなくなる日が来るのかなんて漠然と考えてみる。 
 そんなの考えるまでもなく嫌だと思って。 
 
437 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:28
 
 
 
「…か、ちゃん」 
 
 
「…す、き」 
 
 
 
 
 声は掠れて切れそうで、自分でもよく聞こえない程小さかった。 
 でも梨華ちゃんは、ちゃんと聞いてくれたみたい。 
 
「…あたしも」 
 
 
「…だいすきだから、梨華ちゃん、いないと…だめだから」 
 
「うん」 
 
 
「そばにいて…ずっと」 
 
 
 梨華ちゃん、好き 
 梨華ちゃんの全部が、大好き 
 どうにかなってしまいそうなくらい、梨華ちゃんが愛しくてしょうがないんだよ 
 
438 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:29
 
 あったかい指が、あたしの涙を拾ってくれる。 
 
 
「…ずっと、ひーちゃんが好きだからね」 
 
 
「…ん」 
 
「だからもっと聞かせて?」 
 
「…ん、す、き」 
 
 
 
「よしよしだね♪」 
 
「…なんだよそれぇ」 
 
 
439 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:29
 
 梨華ちゃんが、いっぱいキスしてくれる。 
 あたしも、いっぱい好きだよって囁く。 
 玄関で抱き合ったまま、ばかみたいにずっと、それを繰り返した。 
 
 
 結局また梨華ちゃんに助けられちゃったんだ。 
 でも、もうちょっと頑張るよ。 
 たくさん好きって、言えるようにするからね 
 もっと傍にいてって、声に出して言うよ。 
 だから、ずっと隣にいて 
 
 
 
440 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:30
 
  *  *  *  *  * 
 
441 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:30
 
 その夜はあたしがしてもらう方で、もうめちゃくちゃに愛された。 
 あんまり覚えてないけど、あたしたぶん梨華ちゃん梨華ちゃんって、必死で呼んでた。 
 
 梨華ちゃんが、熱い息で好きよって、囁く度に気が遠くなった 
 
 
 
「ひーちゃん」 
 
「んー」 
 
 
「好きだよ」 
 
 
 
「…うん、好き」 
 
 
「ふふ、嬉しーぃ」 
 
 
 
 やっぱり可愛い梨華ちゃん。 
 シーツにくるまってキャーキャー言って喜んでる。…襲ってやりたい 
 
 あたしがキスして好きだよって笑うと、梨華ちゃんも赤くなって黙ってしまう。 
 今までと逆で、 
 …今度はこっちで遊んでもいいかもしれない 
 
 
442 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:31


 
「そういえば」 
 
「ん?」 
「だから美貴ちゃん、最近ヘンだったのかな…」 
「え?どしたの」 
「いつもさぁあたしにヒドいじゃない?キモいとかうざいとか… 
 それがねこの間から、妙に可愛く甘えてきたり、すぐ手繋ぎたがったりね、 
 可愛いよ、とか言ってくれたりするの! 
 ね、ヘンじゃない?」 
 
 
443 名前:きみのことすきなんだ 投稿日:2007/09/24(月) 17:31



444 名前:my name is... 投稿日:2007/09/24(月) 17:32
以上です。続編はこれで終わりになります。 
読んで下さった方、待っていて下さった方、レス下さった方、ありがとうございます。 
445 名前:my name is... 投稿日:2007/09/24(月) 17:34
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>408 名無飼育さん 様 
 無事好きと言わせました!(・∀・) 
 よっちぃと言ったら素直じゃないだったのに、最近は一体どうしたんでしょうかね、ほんとに。 
 
>409 378様 
 ラブラブチェリーまでに何とか更新しました。今夜はきっと眠れません。 
 ヘタレでカワイイひーちゃんも、今回頑張りました。 (0^ω^)<リカチャンスキー 
 
>410 名無飼育さん 様 
 甘かったですか(´∀`)ヨカター 
 更新しましたが、今回も一応甘い感じで…どうでしょうかね 
 
>411>412 riru 様 
 オモシロスか!よかったです。ありがとうございます。 
 
>413 名無飼育さん 様 
 スイマセンお待たせ致しました…。待っていて下さりありがとうございます(T▽T) 
 
待っていてくれる方がいたので更新できました。本当にありがとうございます。 
何とかチェリーの前に更新できてよかったです。 
楽しみ過ぎて本気でふるえがとまらん状態です。 
本当にいしよしが事実は小説よりなんちゃらでもうどうにもアレなんですが、 
また何か書かせて頂きたいと思います! 
446 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/25(火) 07:04
うは。甘っ。てかエロwやっぱいいなあ、ここのいしよし。
最高でした。また待ってます!(ミキティも気になるしw)
447 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/25(火) 17:12
やっと好きって言えたねひーちゃん
(もう〜この二人にリアルでやられました!w)作者さん更新ありがとう!!!
448 名前:378 投稿日:2007/09/26(水) 02:00
ひーちゃんが可愛すぎる!!
最後の梨華ちゃんのセリフが気になりますねw
24日のラブラブチェリーにはやられました(*´∀`)
あれから何回もリピートしまくりですw
次回作も楽しみにしてますね。
449 名前:my name is... 投稿日:2007/10/06(土) 03:55
まずはレス返しを。 
 
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>446 名無飼育さん 様 
 ここの二人を気に入ってもらえてとても嬉しいです。 
 自分でも気に入ったんでまた何か続々編でも書きたいなーと思います! 
 
>447 名無飼育さん 様 
 こちらこそ読んで頂いてありがとうございます。 
 やっと好きって言えたひーちゃん…ヘタレでしたね〜。 
 リアルのひーちゃんは肩抱きなんてまったくやってくれましたね!(・∀・) 
 
>448 378様 
 可愛いひーちゃんを書くのが大好きなんです! 
 ラブラブチェリーのひーちゃんも、嬉しそう過ぎな表情がとても可愛かったですね。(0^ω^) 
 最後のセリフ、引っ張ってまた何か書くかもしれません。 
 
ここで書くことじゃないのでアレなんですが、ただ、ただ一言だけ言わせて頂きたいのが、 
いしよしチェリーとにかく  最  高  過ぎました。 

そんな感じで、新作になります。 
ここのいしよしが好きと言って頂いたのですが、ちょっと雰囲気変わって、あんまり甘くないかもです…(T▽T;) 
450 名前:equal 投稿日:2007/10/06(土) 03:56



451 名前:equal 投稿日:2007/10/06(土) 03:58



その人に初めて会ったのは桜の綺麗な春だった。 
花びらを払う仕草に胸が熱くなって、恋をしたんだ、と思った。 
 
 
 
452 名前:equal 投稿日:2007/10/06(土) 03:58
 
  *  *  *  *  *  
 
453 名前:equal 投稿日:2007/10/06(土) 04:02
 
「38番、吉澤ひとみ」 
「はい」 
 
 金髪の教師なんて、初めて見た。担任の中澤は物理教師で、 
派手な見た目とあらゆる意味で、校内でもかなり目立つ存在みたいだ。 
入学説明会と入学式の今日で2度、彼女が教壇に立つのを見ているけど。 
教師なんてガラじゃないだろうと思う。 
出欠で名前を呼ばれただけであたしは萎縮してしまう、そんな人だ。 
 
「めんどくさい問題だけは起こさんといてな」 
 中澤は最後にそう言ってHRを終えた。 
 どこからがめんどくさい問題なんだろう。そう思いながら携帯を開いた。 
今日は知り合いの先輩に挨拶に行く予定だった。 
小学校のころ同じ地域のバレークラブに所属していて、それから何となく仲良くなった人。 
 同中の子に一緒に帰ろうと誘われたけど、約束があるからと教室を出た。 
普通科から商業科棟に続く廊下を探す。 
454 名前:equal 投稿日:2007/10/06(土) 04:04
 新入生一人で2年の教室に行くなんて普通ならかなり緊張するものだけど、 
幸い在校生のHRはとっくに終わっていて、校内は閑散としている。 
廊下の窓から流れてくる風が気持ち良くて、 
遠回りになるけど外から行こうと思い立ち、手近な昇降口から校舎外に出た。 
正直なところさっきまでかなり迷っていたけど、外に出ると商業科棟がすぐ目に付いて安心した。 
 静かな校内のどこからか生徒の声が聞こえてくる。 
この学校は広くて新しい。 
普通科と商業科合わせて一学年10クラス程の女子高だ。 
 
 
 微かに頬を撫でる風の中、ゆっくり歩を進める。 
 ふと足に何かが当たった。黄緑色の蛍光色、硬式のテニスボール。 
 足元のそれを拾うと、背後に人の気配を感じ振り向く。 
 
455 名前:equal 投稿日:2007/10/06(土) 04:05

 振り向いた先の人物を捕らえた瞬間、心が真っ白になった気がした。 
 
 その人はあたしを見て笑った。 
 白い体操着と対照的な褐色の肌に、眩暈を覚える。 
 
 手元から滑り落ちそうになるボールを握り締めた。 
 
 風に煽られて揺れる桜の樹から、花びらがはらはらと舞い落ちる。 
それは彼女の姿を霞ませるようにしかし際立たせるように、 
あたしの瞼の奥までその姿を焼き付ける。 
 言葉にならない感情が、頭の先から足の先まで、廻るように湧き上がるのを感じた。 
 
456 名前:equal 投稿日:2007/10/06(土) 04:05
「あのー…」 
 目の前の彼女は、髪をかき上げながら言葉の先を視線で促した。 
 彼女の動き一つ一つに、心臓が異常な程鼓動を速める。 
こんなに綺麗な人を、今までに見たことが無い、と思った。 
 
 彼女のやや特異な声が耳を衝き、 
ただ時間が止まったように立ち尽くしていたあたしも、ようやく口を開くことが出来た。 
「これですか?」 
 彼女が頷くより少し早く、ボールを投げ返す。 
ラケットを使って器用に受け取ると、彼女は「ありがとう」と頭を下げた。 
 
 脚だけはまだ言うことを聞かないようで、 
それともただ立ち去りたくないのか、あたしはそこから一歩も動けない。 
「新入生?」 
 ネクタイの色を見て、優しい笑顔のまま彼女は首を傾げて尋ねてきた。 
「はい…」 
 ろくに思考が回らないので、ただそれだけ答える事しか出来ない。 
「また、会えるといいね」 
 そう言うと彼女はこちらを向いたまま2、3歩後ずさり、 
振り返ってテニスコートへ駆けて行った。 
 
 桜の花弁はまだ舞っていた。 
 
457 名前:equal 投稿日:2007/10/06(土) 04:07
 
  *  *  *  *  *  
 
458 名前:equal 投稿日:2007/10/06(土) 04:09
 
 ようやく辿り着いた教室に、入るなり待っていた人物に「遅い」と睨まれる。 
他に誰もいない教室に一人、例の先輩はやや頭に来てる様子だ。 
 
「ごめんミキティ、迷ってた。」 
「わかんないなら電話しろよ!何分掛かってんの」 
 確かに、教室で今から行くとメールしてから20分も経っている。 
適当に謝罪をして、久しぶりの会話を交わす。 
学校はどんな感じかと聞かれて、綺麗な校舎や中澤やクラスメイトの第一印象、 
そんな話題があった筈なのに。
 あたしの頭にはさっきからひとつの映像だけが焼き付いて離れない。 
 
「…あのさ、すっごいかわいー人、見た。在校生で」 
「へ〜〜?すっごいかわいい〜?誰だろ」 
 あまり人を誉めないあたしの言葉に、ミキティは少しだけ興味のある様子を見せた。 
「うちの学校、この辺じゃレベル高いらしいからね」 
と言って、しかしあくまで「らしい」から自分はそんなかわいい子なんて存じません、 
といった様子で考え込んでいる。 
確かにミキティは、そのレベルの恐らくトップに位置するぐらいの美少女だ。 
だから一般的な「カワイイ」なんて、よくわからないのかもしれない。 
 
 でも彼女は、本当に綺麗だったから。知っている筈だと思った。 
 
459 名前:equal 投稿日:2007/10/06(土) 04:12
 そういえばテニスをしてたと言うと、ミキティはああ、と一言 
「じゃあそれたぶん梨華ちゃんだよ」 
「知ってんの?!」 
 
 あまりにもあっさりと答えられて、あたしもあっさりと動揺を見せてしまう。 
「テニス部で可愛い子っつったら、梨華ちゃんぐらいかな。 
 すっごい黒くなかった?」 
 確かに、大袈裟な程に陽に焼けてた気がする。 
あとはやたらとアニメ声だったとか、髪型とか、 
大体の特徴が一致するとじゃあ間違いなく梨華ちゃんだねとミキティが言った。 
 1、2年と同じクラスらしく、何だかんだで仲いいかな、と 
ミキティは妙に不服そうにして見せた。 
照れ隠しだな、と思った。そういう人だから。 
好き嫌いの激しいミキティにも好かれるような、優しい人なんだろう。 
 
 「紹介しよっか?」と言われたけど、別にいいと言って断った。 
 自力で会おうと思った。会おうというか、何となくそのうち会えるだろうと自然に思えた。 
 
 石川梨華、それが彼女の名前。 
 
 
460 名前:equal 投稿日:2007/10/06(土) 04:13

 
 
 −また、会えるといいね− 
 
 あの特徴的な声が、耳に残って離れない。 
 ミキティと行ったファミレスの喧騒の中でも、ガタガタと煩い私鉄の中でも、 
まるで彼女がそこに居るかのように、鮮明に、鮮烈に、頭に響いて離れない。 
やたらと高いのに、安心してしまうような、よくわからない不思議な声だ。 
 そもそも彼女の存在自体、不思議で仕方ないのだけど。 
 これが世に言う一目惚れってやつなんだろうか。よくわからない。 
 
 ただ、彼女を見た瞬間。 
 心も思考もどこかへ行ってしまいそうになって、五感全てが彼女を求めた。 
彼女に会ったのは必然だ。 
あたしはもしかしたら、この為に生まれてきたのかもしれない。 
 
461 名前:equal 投稿日:2007/10/06(土) 04:15


462 名前:my name is... 投稿日:2007/10/06(土) 04:17
以上です。滅茶苦茶読み難くて大変申し訳無いです…。 
463 名前:my name is... 投稿日:2007/10/06(土) 04:17
何だか某有名いしよし小説に激しく似た感じになってしまったような… 
古き良きいしよし小説を書いてみたかったんですが難しいですね。 
こんなのでもまたお付き合い頂けたら嬉しいです。 
464 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/06(土) 16:19
これからが楽しみです^^
465 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/06(土) 22:34
どんな風に二人が出会うのか楽しみにしてます。
466 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/07(日) 08:05
>古き良きいしよし小説

大好物ですw
学園ものいいですねー、期待してます。
467 名前:equal 投稿日:2007/10/07(日) 16:27
 
 翌日のホームルームで席替えをした。 
 隣になった後藤さんは、変わった人だ。 
授業初日にして教科書を全部忘れたなんて言うから、 
あたしと後藤さんの机はその日一日中隙間無くくっついていた。 
 風に揺れる長い茶髪と、はっきりした横顔が綺麗な子だと思った。 
 
 後藤さんとはすぐに仲良くなって、ごっちん、よっすぃーと呼び合うようになり、 
二週間も経つ頃にはいつも一緒にいるようになった。 
 他のクラスメイトともそれなりに親しくなり授業にも慣れて、 
入学して約1ヶ月、あたしは高校生活を満喫していた。 
 
 ただ、まだ彼女には再会出来ない。 
 
 1年の昇降口はテニスコートに近くないし、 
商業科でしかも他の学年の生徒とは、あまり校内では会わないみたいだし。 
 無理に会おうとする必要は無い。 
 彼女との出会いは、必然だから。再会の機は、きっと自然に訪れる。 
あたしの緩やかな日々の出来事の中に、ちゃんと用意されている筈。 
 
468 名前:equal 投稿日:2007/10/07(日) 16:28
 
 
 そう、ほら。 
 
 人気の無い、渡り廊下の向こう。 
 一人歩く凛とした彼女の姿に、日影の廊下で眩しいような錯覚を覚える。 
 
 ごく自然に目が合って、ごく自然に彼女は笑って立ち止まった。 
「こんにちは。」 
 彼女の耳に衝く声が、日陰の湿った空気を震わせた。 
「久しぶりだね」 
 
469 名前:equal 投稿日:2007/10/07(日) 16:30
 挨拶以上の言葉を投げかけられて、あたしは突然のことにうまく反応できない。 
こんな状況を予想していたのに、いざ彼女を間近で目にしただけで 
やっぱり上手く思考が回らないみたいだ。 
「テニスボール、取ってくれたよね。忘れちゃった?」 
 あまりにも無反応のあたしを見て、彼女はやや自嘲気味に笑いながらそう言った。 
「あ、いや、まさか!覚えてたんだと思って…。ちょっとビビッて」 
 あたしが慌てて反論すると、よかったぁと嬉しそうに笑う。 
 
 二人の距離は初めて会ったときの半分くらいで、 
こうして見ると、この人、わりと小さいんだなと思った。 
華奢な体型のせいかもしれない。 
 少しだけ下にある目もとから感じる視線に、頬が紅潮していくのがわかった。 
対照的に余裕な笑みの彼女に、落ち着いた声色で 
1年生なのに大人っぽいよね、と言われ益々恥ずかしくなる。 
確かに普段はよくそう言われるけれど、今はきっと小学生以下の落ち着きの無さだろうなと思う。 
 
470 名前:equal 投稿日:2007/10/07(日) 16:31
「美貴ちゃんが知り合いだっていうから、びっくりしちゃった」 
「あ…あたしも。ミキティに聞きました、…先輩のこと」 
 彼女も、知っていたんだあたしの存在を。 
あれからミキティには2度程会ったけど、何も言ってはこなかった。 
 きっとその内会えると、自分も同じ事を考えていたのに 
何だか焦らされたような気になって。 
あたしは少し物欲しそうな顔をしたかもしれない。 
 彼女がとても自然に距離を詰めるから、いつのまにかすぐ傍に彼女の顔があった。 
 
「ね、また…会えたね」 
 やたらと意味ありげな視線で、見上げながら囁くように言われた。 
 どうしよう、熱い。何て言ったらいいんだろう。 
 
471 名前:equal 投稿日:2007/10/07(日) 16:32
 
「学校、楽しい?」 
「…はい。」 
 彼女の視線や仕草ばかりが気になって、ぎこちない会話が続いた。 
あたしが言葉に詰まっても、彼女は優しく声を掛けてくれる。 
 このまま時間が止まればいいと本気で思った。 
遠く見えるグラウンドにまばらな人影と、青紫の空を翔る鳥達。 
彼女と交わす言葉の一つ一つが、空気に溶けていくような感じ。 
 
「ひとみちゃん」 
 彼女はあたしをそう呼んだ。 
そんなくすぐったい呼び名は小学校以来だ。あたしは恥ずかしくて、視線を逸らす。 
先輩、と呼ぶと彼女は名前でいいのよと言った。 
「だって、先輩だし」 
「ふふ、まじめだね」 
 先輩は笑いながら首を傾げた。 
 露になった首元に、少しだけ襟に隠れた紅い痕を見たような気がした。 
472 名前:equal 投稿日:2007/10/07(日) 16:33
 途端に、消えて無くなりたい衝動に駆られる。 
 
「あ、あの…呼ばれてるんで、先生に」 
「あ、そうだったね。ごめんね?」 
「いえ…、じゃ」 
 あたしは急いでその場を後にした。 
背後から彼女の、またねと言った声がした。 
 
 教員室に向かって全力で走る。喉がひゅーひゅーと音をたてる。 
 余計なことは何も考えたくない。 
先輩はまたねと言った。 
あたしはそれだけでまた先輩に会える日まで生きていくことが出来る。 
それだけでいい。いい筈だ。 
 不自然に会話を絶って、気を悪くさせたかもしれない。 
 次に会った時は、ゆっくり話そう。名前を呼んだら喜ぶかもしれない。 
 
473 名前:equal 投稿日:2007/10/07(日) 16:34
 
 
 
474 名前:equal 投稿日:2007/10/07(日) 16:35
 
 理科教員室の戸を開けると、3つ机の並んだ狭い部屋に、中澤が一人で居た。 
「早かったなぁ」 
「え?あ、走って来たんで」 
 理由をそのまま答えると中澤は、なんでやねんと少しだけ笑い、 
足速いなぁと言って窓の外を指した。 
475 名前:equal 投稿日:2007/10/07(日) 16:35
「さっき、そこんとこで石川と話してるの見えたで」 
 
 見られていた。 
 先輩との時間を見られていた。 
 学校内である以上そんな事は承知していたけど、何となく悔しくなった。 
中澤が先輩を知っていた事にかもしれない。 
 会話の中で先輩は、担任が中澤だと言うとああ、と知っている素振りを見せた。 
生徒が教師を知っているのは、当たり前だと思ったけど。 
窓の外をちらりと確認する。二階のこの部屋から、さっきの一階の廊下まではかなりある。 
中澤はこの距離で先輩を認識出来たのか。 
いや、あたしのこともわかったのなら目が良いだけかもしれない。 
なにを過敏になっているんだろう。 
 
476 名前:equal 投稿日:2007/10/07(日) 16:36
 中澤は何か言い難そうに、書類を捲りながら会話のタイミングを計っているようだ。 
 別に互いに嫌い合ってるというわけでもないのだけど、 
相性の問題なんだろうか中澤とは何故か話が進まない。 
教室ではあたしに話しかけられないから、勢いでこんな所まで呼び出しておいて、 
それできっと大した用事じゃないに決まっている。 
 
「吉澤、バレー部入らんの?」 
 中澤から口を開いた。ああ、その事か。やっぱり大した話じゃなかった。 
あたしは即答する。 
「入る気は無いです」 
「何でやろなぁ。中学でも途中で辞めてしまったんやって?」 
 中学のバレー部は、弱かった。チームワークが最悪だった。 
あたしは期待されていたようだけど、 
技術も無い癖に年上というだけで威張り腐る連中にうんざりして、2年で退部した。 
スポーツは好きだけど向いていないのかなと思う。 
 こんな話は中学の顧問や担任とももう何度も話をしているから今更説明する気すら無いし、 
そんな事よりあたしはまだ先輩の事が気になっていた。 
477 名前:equal 投稿日:2007/10/07(日) 16:37
 
 そもそも彼女は、何故あんな所にいたんだろう。 
 あそこは理科棟と普通科棟と商業科棟を結ぶ渡り廊下で、 
先輩は理科棟の方から歩いて来た。 
放課後の理科棟に用事なんて、この教員室に来る事位しか無いだろう。 
通って来た教室にも廊下にも人一人見当たらなかったし。 
 先輩は、中澤に会いに来てたんだろうか。 
2年の授業は受け持っていない中澤に、どうして? 
用も無く会う程の間柄なんだろうか。 
 
 いやたとえそうだとしても、だから何だと。 
二人が親密な関係だとして、あたしは一体何を気にしてるんだろう。 
まさか首の痕に中澤が関わってる筈も無いし。 
 余計な事は考えたくないのに、どうしてこうも色々な感情が生まれてしまうんだろう。 
 
478 名前:equal 投稿日:2007/10/07(日) 16:38
「バレー部の顧問がね、軽い気持ちでいいから入ってみんかなー言うてたのよ」 
 中澤はまだあたしの興味の無い話をしている。 
さっさと部屋を出たくて、軽い気持ちでなんてできませんと、強い口調で断った。 
なんやハッキリしてるんや、と中澤は笑った。 
「吉澤なあ、何てゆうかフワフワしてるから。 
 しっかりしてるようで危なっかしいゆうんか、ちょっと心配してたんやけどね」 
 
 そんなこと、本当に思ってるんだろうか。 
失礼な話だけど、そう思ってしまった。 
 中澤は良い人だ。あたしはもともと教師というものが好きじゃないけど、中澤は別だ。 
怖いけど偉ぶらず、生徒想いのよく出来た教師だと思う。 
きっと本当に皆のことを心配している。 
 それでもあたし達の間にだけは、 
何か埋められない壁のようなものがあるんじゃないだろうか。 
確かに、嫌い合ってはいないのだけど、ただの相性の問題だと思いたいのだけど。 
 
479 名前:equal 投稿日:2007/10/07(日) 16:39
「まあ、いーわ。そしたら、入らんでもええからちょっと遊び行くつもりで顔出したって。 
 ほらうちまだ新しいからね、大会とか登録してへんのよ。
 だからほんまに遊び場ってゆうかね」 
「……」 
「…あたしもね、無理にはやらせたくないし、好きにしたらええわ。 
 もーいーで」 
 
 ひらひらと手を仰ぐ中澤に一礼して、あたしは部屋を出た。 
 部活のことを思い出させられて、少しだけイライラしていた。 
けれどそれはすぐに、先輩の笑顔でかき消される。 
またね。その言葉を反芻する。 
 またね。また、会える。 
 
 
480 名前:my name is... 投稿日:2007/10/07(日) 16:39
 
 
481 名前:my name is... 投稿日:2007/10/07(日) 16:40
更新以上です。 
482 名前:my name is... 投稿日:2007/10/07(日) 16:41
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>464 名無飼育さん 様 
 お付き合い下さるようで…頑張ります・゚・(つ∀`)・゚・ 
 
>465 名無飼育さん 様 
 期待して頂いたようですが、出会いも展開もゆるーい感じで申し訳無いです…。もっと頑張ります! 
 
>466 名無飼育さん 様 
 時と共に小説の雰囲気も大分変わってきましたよね。 
 いしよしはやっぱり学園ものが似合うと思うのです。 
 
普通に盛り上がりに欠ける暗い話ですね。イチャイチャスレの筈が… 
だがそこがいい、と思って頂ければ幸いですが。 
483 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/07(日) 18:10
うお〜なんか切ない予感
だがそこがいいです
484 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/07(日) 22:26
うぅ〜よっすぃ〜切ないです。
切なければ切ないほど楽しい未来があると思うのでw
485 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/10/07(日) 23:33
作者さんが自分で仰ってましたが他の作品に酷似してますね
独自の展開になることを期待しています
486 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/08(月) 04:16
作者さんについて行きますよどこまでも♪
487 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/08(月) 04:55
切ないのは作者さんも書いてて辛いと思いますが頑張ってください。
488 名前:my name is... 投稿日:2007/10/14(日) 16:57
ちょこっと更新です。
489 名前:equal 投稿日:2007/10/14(日) 16:59
 
「昨日さ、何だったの?」 
 翌日、中澤の呼び出しの用件についてごっちんに聞かれ、 
あたしは単語を二つ三つくっつけただけの説明で返事をした。 
ふぅん、と素っ気無い相槌が返ってくる。 
 こういう時、深く聞かないのが彼女に救われるところだ。 
ごっちんは簡単に言ってしまえば無口な子で、 
あまり人に深入りされたくないあたしには合っているんだと思う。 
 
「…そーいや、部活と言えばさあ、 
 圭ちゃんに写真部入んないかって言われてさー」 
 
「圭ちゃん?」 
「あ、先生なんだけど。保田先生」 
490 名前:equal 投稿日:2007/10/14(日) 17:00
 言い直されても特に聞き覚えの無い名前なのだけど。 
 どうやら店の常連らしい。 
 店というのは、ごっちんの家が学校のすぐ近くの居酒屋で、 
ここの教師がよく飲みに来るそうだ。 
中澤にも入学前から会っていたという話は聞いていた。 
 
「全然部員いないらしくて、このままじゃ存続の危機だーとかいって。 
 名前だけでいいからって言うんだけどさー」 
 めんどくさい、と言うようにごっちんは溜息を吐いた。 
 
「圭ちゃんにはかわいがってもらってるんだよねえ」 
 
「…そーなんだ」 
 あたしも、バレー部に限らず部活なんてやる気はなかったけど、 
ごっちんに付き合うぐらいならいいかなと思った。 
恩ある人には恩を返す主義だ。 
 一緒に入ろうかと聞くと、ごっちんはありがとーと眠そうに笑った。 
 
491 名前:equal 投稿日:2007/10/14(日) 17:01

492 名前:equal 投稿日:2007/10/14(日) 17:02
 
 移動教室の際に、ここ部室、とごっちんが小さな多目的教室を指した。 
 無用心にもドアは開いていて、無人の教室には微かな陽が差し込んでいた。 
 
 すぐ傍にあったトイレに入ったごっちんを待つ間、 
あたしは暇を持て余し室内に足を踏み入れた。 
 
 数枚の写真が貼られたホワイトボードと、無造作に置かれた机。 
小さな棚に数冊のアルバムとファイル。 
室内のドアで繋がった隣の部屋は現像室のようだ。 
 確かに設備などを考えると、少人数での存続は認められないだろうと思った。 
 
 写真は嫌いじゃない。 
 3階の端に位置するこの部屋は、窓からの眺めも悪くない。 
 入ろうかな、と思った。誰もいない教室の空気にぼーっとしていると、後ろから声を掛けられた。 
 
「何してるの?」 
 急に話し掛けられ、あたしは慌てて振り向いた。 
 振り返ると後ろに立っていた教師らしき女は、 
何故か少しだけ驚いたように眉を上げ、笑顔で言った。 
493 名前:equal 投稿日:2007/10/14(日) 17:03
「もしかして、入部希望?」 
 
「…いえ」 
 恐らくこの女が、保田圭なんだろう。 
けれどあたしは、とっさにノーと言ってしまった。 
目の前の人物に何かしらの恐怖を感じたからだ。 
 何だかギラギラした女だ、と思った。 
猫か爬虫類のように大きく釣り上がった目。 
 
 女は、なんだ残念、と呟いて、あたしの身体を上から下まで、そして特に顔を、 
舐め回すように見つめてくる。 
「ねえ、写真部入らない?」 
 視姦でもされているような気分に背筋が凍り、 
恐怖からまた咄嗟に入りません、と答えてしまった。 
 答えてからしまった、と思った。 
ごっちんと約束をしたのに、断ってしまった。 
 幸か不幸か女は諦めず、写真興味無い?なんて勧誘してくる。 
あまりハッキリと断ることも出来ず、適当な相槌で返していると、 
女はふぅと一つ溜息を吐いて言った。 
 
「あなた、すごく綺麗な顔してる。気に入っちゃった」 
 笑顔で言ってくれれば受け流せたのに、 
ギョロリと音を立てて光りそうな鋭い視線に射られる。 
 
「…勘弁して下さい」 
494 名前:equal 投稿日:2007/10/14(日) 17:04
 キツめにそう言い捨て、あたしは教室から出ようと思った。 
しかし入り口に女が立っているせいで出て行くタイミングが読めない。 
拒絶の言葉にも女は不適な笑みを浮かべている。 
 あたしが足踏みしていると、戻ってきたごっちんがドアと女の隙間から顔を出した。 
「あれ?圭ちゃんじゃん」 
 
 やっぱり。こいつが保田圭か。 
ごっちんには悪いけど、入部はできるだけ避けよう。 
入ることになっても、名前だけにしてもらおう。 
 お待たせ、とごっちんは中に入ってあたしの肩を叩いた。 
保田圭はその様子を妙に興味深そうに見ている。 
 
「なにやってんの?圭ちゃん暇なの?」 
「ちょっと…暇なわけないでしょう。これでも担任持ってんのよ」 
「そーだっけ。どこのクラス?」 
「商業の2−A」 
 
 二人のやりとりを何となく聞きながら教室を見渡していたけれど、思わず振り返ってしまった。 
 
 商業科、2年A組。確か先輩のクラスだ。 
 
 そうか、こいつが担任…。 
これも必然か、それともただの偶然か。 
これで写真部には入らないわけにはいかなくなった。 
 しつこく勧誘を再開した保田圭に、ごっちんが入部するよと告げた。 

「え?でも、この子さっき入りませんて…」 
 少し気まずくて視線を泳がせると、ごっちんは怪訝な表情をした。 
「ごめん、気遣わせた?」 
 不安そうな問いに慌てて否定する。 
入りたいよ、と言うとごっちんは安心したように笑って言った。 
「たぶんー、圭ちゃんが怖かったんだよ」 
「なによ、それ」 
「いや〜ははは…」 
 誤魔化そうと努めて明るく振舞ったが、あたしの口からは乾いた笑いしか漏れなかった。 
495 名前:my name is... 投稿日:2007/10/14(日) 17:08
以上です。 
496 名前:my name is... 投稿日:2007/10/14(日) 17:11
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>483 名無飼育さん 様 
 そう言って頂けると本当に有難いです。頑張ります。 
 
>484 名無飼育さん 様 
 き、期待されてるんでしょうか…楽しくなるといいんですが(;´∀`) 
 ( ^▽^)<ハッピーエンドがいいの 
 と石川さんも仰られてますしね。 
 
>485 名無飼育さん 様 
 もし不快な思いをされたなら、大変申し訳無いです。 
 期待にお応えできるよう頑張りますが、設定の都合上まだ被るところが出てくるかと思います。 
 酷いと感じられた場合は、更新を停止させて頂きますので…。 
 
>486 名無飼育さん 様 
 ありがとうございます、ついてきて頂けるよう頑張ります! 
 
>487 名無飼育さん 様 
 やっぱり暗いのを書いてるとばかみたいに明るいのも書きたくなりますね。 
 しかし暗いのは好きなので、これはこれで平気です。 
 読まれてる方も切なくなるようなものを、と思っております。 
 
遂に保田さんを出してしまいました…。 
497 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/15(月) 06:07
やすすの第一印象怖かったのね〜吉澤さんw
あま〜いのも好きですが暗い痛いのも好きなんで
これからの展開が気になります作者さん頑張れ!

ところで作者さんのHNは何でしょう?
           ( My name is = ? )

づ〜っと気になってるもんで…

498 名前:equal 投稿日:2007/10/26(金) 21:40

 
 あれから入部届も提出して、正式に写真部に入部した。 
 けれど一週間程経ってもまだ、一度も部室に顔を出してはいなかった。 
 
 もともとごっちんは名前だけのつもりだったから、二人で部活に行こうなんて流れにはならないし、 
かと言ってあたし一人で保田圭に会いに行く勇気はまだ無かった。 
 しかし名前だけでいいとは言ったものの、やはり顧問としては部活動をして欲しいようだ。 
痺れを切らした保田の方から、部活に出ろとの要請があったらしい。 
ごっちんに、今日暇だったら部活行こと誘われた。 
予定が無いことはなかったけれど、あたしは暇な振りをした。 
 
499 名前:equal 投稿日:2007/10/26(金) 21:41
 
「あんた達、やっと来たわね」 
 部室に入るともう保田は来ていて、そう言ってひと睨みされた。二人で愛想笑いを返す。 
 保田は一人でアルバムの整理かなにかをやっていたようで、机の上は雑然としている。 
他に部員は見当たらない。 
「ねー、いつも誰も来ないの?」 
「今日は部活休みだけど。 
 後藤が昨日行くかもって言ってたから、毎日待とうかと思って」 
「えぇー?ほんと暇だねぇ?」 
「だから、暇じゃないって言ってんでしょうが!」 
 
 あたしは二人のやりとりを見ながら椅子に腰を下ろし、目の前に積まれたアルバムを手に取り捲った。 
 ごっちんは意外にあまり人見知りをしないけど、保田には特に気を許しているみたいだ。 
何か怖いけど、変な女だけど、憎めないというか。 
待っていてくれたなら来ればよかった、と思った。 
500 名前:equal 投稿日:2007/10/26(金) 21:42
 
「あっ」 
 思わずページを捲っていた手が止まる。 
あたしの声に保田が振り向き、身を乗り出して開かれたページを覗き込んできた。 

「ああこれ、良い写真でしょ」 
 
 良い写真かどうかはわからない。 
ただ、波打つ砂浜に立つその人は、間違いなく先輩で。 
真っ白なワンピースを着て笑っている。 
被写体があの人だということで、もうこれ以上の写真なんて無いと思う。 
 あたしはその一枚の写真に完全に見入ってしまった。 
 
「それあたしが撮ったのよ」 
 真っ青な空に、白く溶ける水平線。陽を浴びて象牙に光る砂。 
その中で先輩はとても楽しそうに笑っている。 
 この笑顔が保田に向けられたものなのかと思うと、悔しくて少しだけ腹が立った。 
 
 
「どうしたの?気に入った?」 
「…これ、石川先輩ですよね」 
 あたしの答えに保田は妙な顔をして、知ってるの、と静かに言った。 
「まぁ、ちょっと」 
 適当な返事をしてまた写真を見詰める。綺麗だ。 
やっぱりこんなに綺麗な人は他に居ない。 
 
501 名前:equal 投稿日:2007/10/26(金) 21:43
 保田が何か聞きたそうにしていたけれど、あたしは何となく答えたくなかった。 
あたし達の様子をぼーっと眺めていたごっちんに声を掛ける。 
「あ、この人知り合いでさ。保田先生のクラスなんだよ」 
「へぇー」 
 渡したアルバムを見てごっちんは、 
「かわいー人だね。圭ちゃんお気に入りでしょ」 
とからかうように笑った。 
 
 どういう意味だろう。 
ふとこの間初めて会ったときの保田のせりふを思い出した。 
綺麗な顔してて気に入ったとかなんとか、そうかこいつ、 
可愛い女の子が好きなんだ。 
だったら先輩を気に入らない筈は無い。 
 
「まあね」と笑った保田を見て、ますます腹が立った。 
ごっちんに返されたアルバムを、また食い入るように見詰める。 
 いくら気に入っている生徒だからって、モデルなんか頼むものなんだろうかとまたくだらない事を考える。 
先輩はそんなことを引き受ける人なんだろうか。 
例えばあたしが写真を撮らせてと言えば、彼女はカメラの前に立ってくれるのだろうか。 
 
502 名前:equal 投稿日:2007/10/26(金) 21:44
「ねえ、石川と…」 
 保田はどうも何か気になるようで、それとなくあたしの方に視線を向けて聞いてきた。 
 
「なんですか」 
「同じ中学?」 
「違いますよ」 
「地元が一緒とか?」 
 
 やけに気にする。 
友達の友達です。ただの知り合いです。 
そう言えば片付く関係。でも、きっとそんなんじゃない。 
それを保田はわかって聞いているんだろう。 
 
「全然。あたしM町なんで」 
「石川はY市よね」 
「そう言ってましたね」 
 何も隠さずけれど核心には触れず、探るような質問に素直に答えた。 
保田はあたしのことを気に入っているらしいし、さっき認めた通り先輩もお気に入りだというんだから、 
あたし達の関係が気になって当然だろう。 
 ごっちんがそうしたように、あたしもからかい半分に含んだ笑いで保田を見返した。 
 
「…なによ」 
「いや、別に」 
 保田はそれ以上は何も聞かなかった。 
 
 それからあたし達は1時間程雑談をして、またその内顔を出すからと約束して帰った。 
写真を見に、今度は一人で来てもいいと思った。 
 
503 名前:equal 投稿日:2007/10/26(金) 21:45
 
  *  *  *  *  *  
 
504 名前:equal 投稿日:2007/10/26(金) 21:45
 
 昼休みにコンビニに行った帰り、商業科棟に近い裏門から入るとあの人に会った。 
 
「…あ」 
「ひとみちゃん」 
 
 あたしは視線を足元に落とした。 
やっぱりまだこの人とは、まともに目を合わせる事が出来ない。 
 
「どこ行って来たの?」 
 先輩はあたしの手元を見てそう言った。ちょっとそこまで、と持っていた袋を掲げて見せる。 
何となくバツが悪く苦笑いになってしまう。 
先輩は真面目だ。言葉遣いや雰囲気や、ミキティの評価から十分にわかる。 
校則にある通りに、休み時間の校外への外出は厳禁よ、なんて言いそうだ。 
 けれど先輩は、変わらない優しい笑顔でくすりと小さく笑うと、 
連れ立っていた数人に先に行っててと促した。 
幸いあたしも、一緒に行ったごっちんがそのまま帰ってしまい一人だった。 
505 名前:equal 投稿日:2007/10/26(金) 21:47
 
 
 昼休みはあと10分。 
 5月の強い日差しに、あたしは目を細めた。 
暑いですねと言うと、陰になっている渡り廊下に立つ先輩に、腕を引かれた。 
初めて触れた先輩の手に、頬が自然と熱くなる。 
 
「ふふ、真っ赤だよ?」 
「あ、ああ…焼けたかな…」 
 日差しの所為にして、空いている手で顔を冷やす。 
けれど左腕はまだ掴まれたままで。いくら掌を返してあてがっても、熱は治まらない。 
 苦し紛れの言い訳を先輩は信じたようで、心配そうに下から覗き込んでくる。 
ますます熱が上がりそうで、あたしはすぐに視線を逸らした。 
先輩はまた意味ありげな視線であたしを見る。 
視界の端でそれを感じながら、あたしは何か話題を探そうと必死に考えた。 
 
「そういえば」 
「うん?」 
「先輩の担任と話したんです」 
 先輩はへえ、と大きく頷いて笑った。 
「…何か、変わった人ですよね」 
 あたしの率直な感想に、彼女はまた大きく笑った。 
そうそう、と言いながら腹を抱えて笑っている。 
 保田のお陰で空気が緩んだ気がした。同時にやっぱり変な奴だと思われてるのかと、 
自分で言っておいて笑い出しそうになってくる。 
506 名前:equal 投稿日:2007/10/26(金) 21:48
 
「ふふ、そう、何かちょっと変わってるんだよね。でも良い先生よ」 
「そうですね」 
 
「中澤先生も、良いひとよね」 
 
 同意を求めるように先輩は首を傾げた。今日は痕は無かった。 
 
 きりきりと小さく胸が痛む。 
自然な流れで出た名前でも、あたしは妙に意識してしまってすぐに返事が出来なかった。 
少し間を置いてはいと返したけれど、先輩は特に気にはならなかったようだ。 
 
 余計なことばかり考える頭をどうにかしたい。 
 良い人の意味なんて、沢山あるようでこの場合一つだ。 
深読みしている?違う。嫉妬している。 
この不安な気持ちも、言い様の無いもやもやとした翳も、きっと嫉妬からだ。 
 
 
 せっかく先輩に会えたのに馬鹿らしいと思い、話題を変えようと口を開くと予鈴が鳴った。 
「鳴っちゃったね」 
 先輩は残念そうにそう言って、あたしの言葉を待った。 
本鈴までに教室に戻るならまだ余裕はあるけれど、真面目な先輩のことだ。 
あたしは授業なんてどうでもよくて。今はただ先輩ともっと一緒にいたい。 
 
507 名前:equal 投稿日:2007/10/26(金) 21:49
 
 気付くと、自然と離れていた先輩の手が、いつの間にかまた左腕にあった。 
それがするすると降りてきて、絡めとるようにあたしの手を握る。 
 
 
「…先輩、次移動ですか?」 
「うん、すぐそこだけど…ひとみちゃんは?」 
「あたしは教室だから」 
 
「…でもここからじゃ遠いよね?」 
「うん、でも」 
 
 それ以上は言えなくて、あたしは口を噤んだ。 
先輩も何も言わず、指を絡ませる。 
誘ったらいけない。でも、離れたくない。 
時間に取り残されたようにあたし達はただ黙って立っていた。 
 
 
 先に口を開いたのは先輩だった。 
下を向いていた視線がぶつかり、先輩は声を潜めて言った。 
 
「…さぼっちゃおっか」 
 
 
508 名前:equal 投稿日:2007/10/26(金) 21:49

509 名前:my name is... 投稿日:2007/10/26(金) 21:50
更新以上です。 
510 名前:my name is... 投稿日:2007/10/26(金) 21:52
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>497 名無飼育さん 様 
 よっちぃは常にどっかでヤスを怖がってそうなんで…(;´∀`) 
 私は根が( ^▽^)<ポジティブ!なので、ちゃんと暗いのが書けてるか心配です。 
 HN…あった方がいいでしょうかね?あまりネットいじらないんで無いんです。 
 考えるのが面倒だったのでスレタイのままにしておきました。 
 (スレタイについても、その先に続くものとか意味は特に無いです…(;´∀`) ) 
 
そろそろ甘いのが書きたくなってきました。 
511 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/26(金) 22:24
さぼっちゃえ、さぼっちゃえw

甘いの大好きなので大歓迎です!!
512 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/27(土) 05:07

同意♪
HNを是非考えて欲しいです(我が儘ですね)
続き楽しみです がんばってください。
513 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 20:16
HNは考えすぎずに思いついたのをつければいいんじゃないですかね
514 名前:equal 投稿日:2007/11/10(土) 07:33
 
 
515 名前:equal 投稿日:2007/11/10(土) 07:34
 
 
「静かだね?」 
「…はい」 
 
 誰もいない教室。 
あたし達は、移動教室で空いた先輩のクラスに来た。 
前にミキティに会いに来た事があったから、ここへ来るのは二度目だ。 
 
「そこが美貴ちゃんの席で、その隣があたし」 
 先輩は教室のほぼ真ん中に位置する二つの席を指して言った。 
「隣なんですね」 
「うん、何かねいつも席近いの。またかよって言われる」 
 ふふ、と笑って先輩は窓際へ歩いてゆく。 
悪態をつくミキティの様子が容易に想像できてあたしも少し笑った。 
 
 見つからないように、奥の机の陰に並んで腰を降ろした。 
窓の外に目をやると、先程と変わらず太陽は強い日差しを放っている。 
差し込む光で教室は暖かく、これからあのジメジメとした梅雨がやって来るのが嘘のようだ。 
516 名前:equal 投稿日:2007/11/10(土) 07:35
 
「ね、もしかして写真部入った?」 
「え?」 
 唐突にそう訊ねられ、あたしは一瞬戸惑いながらも頷いた。 
写真部に関しては、ごっちんのこともあったしもちろんそれ自体に興味を持ったから入部したのだけれど、動機に他意が無かったとは言えない。 
やましいという程でもないが少しだけ気まずくて、彼女の顔は見ずに話を続けた。 
 
「…何で知ってるんですか?」 
「この間先生が、部員が増えたーって喜んでて。 
 吉澤って苗字だけ聞いてもしかしたらって思ってたんだけど、やっぱりひとみちゃんだったんだね」 
 先輩は何だか嬉しそうに笑って言った。 
あたしは保田が喜んでいたということに、また一種の罪悪感のようなものまで生まれていた。複雑な気分だ。 
 
 入部に至った経緯を簡単に話すと、先輩は相変わらず嬉しそうに笑いながら、丁寧に相槌を打った。 
「それで、昨日やっと部活行ったんだけど」 
「うん」 
「アルバム見てたら先輩の写真がありました」 
「うそ、やだあ」 
 恥ずかしい、と眉を顰めて先輩は、小さく呟いた。 
 
「…やめてって言ったのに。」 
 
517 名前:equal 投稿日:2007/11/10(土) 07:36
 この場合、写真を部室のアルバムに入れておいたことだろうか。 
先輩の言い方に、何となく保田と彼女の関係が教師と生徒以上のものではと連想させられた。 
また深読みしているのかもしれない。どこで撮ったのかと聞くと、 
「九十九里浜」 
 
「写真撮りに?そんなとこまで?」 
「あ、違うの海には遊びに行ってて、ついでに撮った写真で、 
 それがすごく保田先生は気に入っちゃったみたいなんだけど」 
 
「…二人で遊び行ったんですか?」 
「ううん、その…保田先生のお友達と」 
 それ以上聞けば何だか傷付いてしまいそうで、そこで質問をやめておいた。 
知りもしない友人も含め保田に嫉妬した。 
 あたしはこんなに格好悪い人間だったんだろうか。 
先輩には先輩の生活や空間がありそれは決してあたしなんかが知らなくてもよい世界で、 
ましてや嫉妬なんて。 
 
 悟られないように静かに溜め息を吐いた。 
保田の人の良い笑顔を思い浮かべるとますます自分の幼稚さがばからしくなり、 
胸の前で折っていた膝を投げ出した。 
 
「…写真、すごい綺麗でした」 
 投げ出した手足と共に緊張もどこかへ行ってしまったようで、 
思っていた、たぶん一番伝えたかった言葉がするりと口をついて出た。 
 
518 名前:equal 投稿日:2007/11/10(土) 07:37
 何も言わない先輩を横目で見ると、真っ赤になって遠くを見ている。照れてるんだろうか。 
きっと何か必死で返事を考えているんだろう。 
無言の空気の中あたしは不思議と落ち着いた心持ちで、彼女の言葉を待った。 
 
「…あっ、ごめん、写真がだよね?やだあたし、自分のこと言われたのかと思って…」 
 返ってきたせりふの何とも間の抜けた内容に、あたしは軽く喉を鳴らして笑った。 
 それは綺麗な写真だったけれど、被写体が無ければ。 
誰が居たからあんなに綺麗な空間が、あんなに綺麗な画が撮れたのかと、 
囁いて聞いてみたかったがそんな事は出来る筈も無く。 
「もう、笑わないで。だってあたし…」 
「いやいや写真じゃなくて、先輩ですよ〜」 
 からかうような口調になってしまい、先輩はますます恥ずかしそうに頬を赤らめて、いいわよと拗ねてみせた。 
 そんなところも可愛いと思った。 
さすがにそれは年上の彼女に言うのは躊躇われて、 
あたしは本当ですと一言だけ返して黙り込む。この空気が気持ち良すぎて。 
 
 手足を伸ばして背中のロッカーに凭れるあたしを見て、それに倣うように先輩も脚を伸ばした。 
「きもちーね」 
「そーですね」 
 顔を見合わせて、くすくすと笑った。二人きりの教室に、小さな笑い声はよく響いた。 
 
519 名前:equal 投稿日:2007/11/10(土) 07:38
 
 それにしてもここは本当に静かで、隣の教室も移動らしく廊下を通る人影も無い。 
それだから時折遠くの階段で響く足音や、どこかの教室の授業の声がやたらと耳に衝く。 
先輩は会話をしながらもそれらに一々敏感に反応して、小さく肩を震わせた。 
 その様子がおかしくて何度目かであたしは遂に噴き出してしまった。 
 
「な、なに?」 
 びっくりしたように振り返る先輩。 
彼女の挙動不審な様子に、あたしは気になっていたことを尋ねてみた。 
「先輩、まさか、授業さぼったの初めてとか」 
 
「初めてだよ?」 
 即答だった。 
予想通りというか期待通りというか、とにかく思っていた通りの答えにまた笑ってしまいそうになる。 
慌てて口元を手で覆ったけれど、にやついた顔に先輩は不満そうな声を出した。 
「…何で笑うのぉ?」 
「何つーか想像通りってゆーか、いやあの、ほんとに真面目なんだなーって」 
「変かなぁ」 
 
「ああそうじゃなくて。凄いですよ、そんだけちゃんとしてられるのって、ほんとに。 
 ごめんなさいさぼらしちゃって」 
 あたしは座ったまま深々と頭を下げた。 
「ううん、全然」 
 そう言って笑う先輩に、少しだけ意地悪したくなったのか、試してみたくなったのか、身体ごと彼女に向き合いしっかりと視線を合わせて聞いた。 
 
「…どうして」 
「え?」 
 
520 名前:equal 投稿日:2007/11/10(土) 07:39
 
「どうして、今日は…さぼってもいいと思ったの?」 
 彼女の口元から笑みが消える。 
 
 数秒かそれとも数十秒か、短く長い沈黙の後先輩は口を開いた。 
「…だって」 
 
 左手に暖かいものを感じた。 
まっすぐに先輩の顔を見つめる視界にそれは入ってはこないけれど、彼女のたぶん右手だろう。 
 
「……だって?」 
 
「…ひとみちゃんと」 
 ゆっくりと、息を吐くようにあたしの名前を呼ぶと、それだけで言葉は途切れて。 
 
 代わりにあたしの手に重なった先輩のそれが、微かに動いた。指先で甲を撫ぜるように、ゆっくりと。 
恥ずかしくて目を逸らしたくても、彼女の潤んだ瞳に縛られてしまう。 
仕掛けたあたしの方がいつの間にか呑まれている。 
 
「…せん、ぱ」 
「いつまで……、『先輩』…なのかな…」 
 
 重なった手から、あたしは溶かされてしまうんじゃないだろうか。そう思った。 
 
 
521 名前:equal 投稿日:2007/11/10(土) 07:40
 
「あんたたち、何やってんの!」 
 唐突に響き渡った声に、あたしも先輩も驚いてドアの方へ目をやった。 
 
 一瞬の緊張が走ったが、ドアの横に立つ人物を認識すると、妙に間の抜けた感覚に陥る。保田だった。 
「……石川?!…と、吉澤ぁ?」 
「あ、あのっえーと…」 
 慌てて立ち上がった先輩に倣ってあたしもゆっくりと腰を上げた。 
 
 保田は黙ったまま寄り添って立つあたし達をじろじろと見回しながら言った。 
「…なによ、あんたたちもしかして付き合ってるの?」 
522 名前:equal 投稿日:2007/11/10(土) 07:41
 
「やだ、先生。そういうこと…」 
 すぐに答えたのは先輩だった。 
 その否定とも肯定とも取れる答えに、戸惑ったのは保田よりあたしの方だった。 
完全に否定してくれるかと思ったのだけれど。 
保田とのこんな小さなやりとりが意味を持たないのはわかっているけど。 
 もともと先輩と、付き合うとかそんな事は望んでいない。 
なのに期待をしてしまいそうな自分に寒気がして、あたしの顔を窺う保田に向かってはっきりと伝えた。 
 
「違います。そうゆんじゃないんで」 
 断ち切るようなあたしの言葉の後に、先輩との時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。 
 
 先輩はあたしの方を振り向いて、残念とでも言いたげに眉を下げて笑った。 
あたしはもしかして、からかわれてるんだろうか。 
何となく悔しくなって、保田に促され教室を出る際に大きな声で言った。 
 
「梨華ちゃん、またね」 
 
 早足でその場を去ったけれど、赤くなった彼女の顔は視界の端で確認してやった。 
初めて口にしたその名前は、あたしの中で熱を持って強くその存在を主張した。 
 
 
523 名前:equal 投稿日:2007/11/10(土) 07:42
 
 
524 名前:はと 投稿日:2007/11/10(土) 07:43
更新以上です。 
525 名前:はと 投稿日:2007/11/10(土) 07:44
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>511 名無飼育さん 様 
 さぼっちゃいました。  |.∀´)y-~ <アンタタチ… 
 甘過ぎず冷め過ぎずで更新してみましたがいかがでしょう… 
 
>512 名無飼育さん 様 
 HNつけておきました。 
 続きが楽しみと言って頂けると嬉しいです。ありがとうございます。 
 
>513 名無飼育さん 様 
 御心配というか助言ありがとうございます(;´∀`) 
 もしかしてお待たせしてしまったからでしょうか、すみませんでした。 
 
だいぶ間が空いてしまった気がします…(T▽T) 
今後もこんな感じでやっていくことになるとは思いますが、 
出来るだけ早く上げるように頑張りますのでお付き合い頂けると嬉しいです。 
526 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/10(土) 09:43
更新キタコレ!
梨華ちゃん可愛い!
527 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/10(土) 11:22
はとさん始めまして!
私個人の希望でHNまで付けてくださってホントごめんなさい。
凄い作品になる予感がするので名無しではもったいないなと
思ったもので、つい…。
かっけー吉澤さん素敵です!はとさん応援するので頑張ってね!
528 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/10(土) 14:54
更新お疲れさまです。
HNは「はと」で決定なのでしょうか?
石川さんが大嫌いな鳥の「ハト」ですか?もしも意味なく適当に付けた
HNでしたら、変えたほうがいいかなと。「はーと」はどうでしょう?ナンテ、ナマイキデスネ、ゴメンナサイ!
529 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/10(土) 21:25
私は「はと」っていうHN気に入ったけどなぁw
余りにもシンプルだからツボにはまったよw
他と作者と被ってなかったら、コロコロ変えない方がいいかもしれないねっ☆
530 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/14(水) 20:59
なにこれスバラシ――!!

531 名前:equal 投稿日:2007/11/22(木) 06:40
 
 「またね」なんて、我ながらよく言えたもんだと思う。 
 あたしは悩んでいた。先輩──梨華ちゃんに、会いたくても手段が無い。 
相変わらず校内で顔を合わせることは滅多に無いし、外で会おうと思ったところで連絡先すら知らない。 
携帯の番号くらいミキティに聞けばどうとでもなる事かもしれないけれど、そうしないのは何故なのか。 
彼女に近づきたいという本能と、あまり関わりたくないという意思で複雑な心境だった。 
 
 そうやってもやもやした時は部活に行く、というのがいつの間にか習慣になっている。 
時々ごっちんも付いて来る。 
まあ部活と言っても、ほとんど雑談の時間だ。高校の文化系の部活動なんてそんなものだろう。 
532 名前:equal 投稿日:2007/11/22(木) 06:41
 
 保田とは大分喋れるようになったと思うのに、あたしは「なかなか心を開いてくれない」らしい。 
確かにあたしは誰に対してもそういった所があるのかもしれない。根が暗いというか。 
 さすがに心を開ける親友の一人くらいは居るが、 
それ以外の人間には家族ですら、自分自身の話をするのは抵抗がある。ごっちんだって例外じゃない。 
そうやって生きていたいわけではないけど、そうやってしか生きていけないんだろうか。 
つくづく不器用なんだと思う。 
 
 不器用なのは保田もそうみたいで、だから無視出来ないのかもしれない。 
 あたしが部室に来て一人静かにアルバムを見ていたりなんかすると、 
保田はさり気なく寄ってきて、どうしたのとか、何か悩んでるのとか小うるさく話し掛けてくる。 
うざったくてしょうがないけど、それが月並みの好奇心だったりお節介だったりとかいうのではなくて、 
あたしに好意を持って真剣に聞いているんだから笑える。 
保田にそうされると何故か邪険には出来なくて、あたしは段々と口を滑らせてしまうようになっていた。 
 
533 名前:equal 投稿日:2007/11/22(木) 06:42
 
「またソレ見てるの?」 
 保田の言葉に、手元のアルバムを閉じて顔を上げる。 
 
「…石川のでしょ、いつも見てる写真」 
 保田はあたしの顔色を窺うように、しかし遠慮なくそう言ってのけた。 
 不覚にも動揺して、あたしは持っていたアルバムを床に落としてしまった。 
一瞬だけ他の部員の視線が集まる。 
 閉じる時に見ていたページを指で挟んでいた為それは簡単に床の上でお披露目されてしまった。 
足元に先輩の写真と、きっと赤くなっているあたしの顔。 
ああ、今だけ第三者になりたい。そうしたらこの状況を笑い飛ばせるのに。 
 
「そんなに気に入った?」 
 アルバムを拾い上げて、保田は邪気無く笑いながら言った。 
 あたしはそれを無言で頷き受け取ると、今度は遠慮無く先輩の写真を眺めることにした。 
彼女への気持ちなんて、どうせ保田はわかっていたんだろう。 
わざわざ言いたくなかっただけで、隠していたわけじゃないし。 
 自分の写真を気に入られたのが嬉しいのか、それともあたしが素直に認めたのが嬉しいのか、 
妙な笑顔の保田が視界に入る。 
 
「それ、九十九里浜で撮ったんだけどさ」 
 つらつらと思い出すように語り始める保田。無言のまま耳を傾けた。 
「で、石川と裕ちゃんと3人で行ったんだけど」 
534 名前:equal 投稿日:2007/11/22(木) 06:43
 一瞬、自分の耳を疑った。 
 しかし語り続ける保田の口から「裕ちゃん」という名が何度も出てくることから、 
あたしの耳は何も間違ったことは聞いていないようだ。 
 
 「裕ちゃん」とは、保田が使う中澤の呼び名だった。 
二人が親しいというのは何度か聞いていた。保田が先輩を食事に連れたりするという話も聞いていた。 
そして今初めて、3人が繋がった。 
 
 ──どうして先輩は、中澤のことを、保田の友人なんて言ったりしたんだろう。 
 
 どうして。 
 
 答えを、出したくない。 
 そんなことは、知らなくていいことだ。逃げてるわけじゃない。知らなくていいことなんだ。 
あたしは先輩に、何も望んではいないんだから。 
 その日はとても風が強かったとか、帰る途中に大雨になったとか、 
保田がしたのはそんな小さな話だった。そんな話を、妙に言葉を選びながら。 
535 名前:equal 投稿日:2007/11/22(木) 06:44
 
 心が沈んでいくのは、きっと梅雨の煩い雨と重たい空気のせいだ。 
 窓の外に目をやっても、光は無い。 
 雨の日は、テニス部は休みなんだろうか。先輩はもう家に帰ったんだろうか。 
それとも、体育館かどこかで真面目に筋トレでもしているのかもしれない。 
 そんなことをぼんやりと考えながら、机の上にアルバムを置いた。 
思ったより大きな音がして、顔を上げた保田と目が合った。 
 
「…すいません」 
 小さく謝ると、保田が何か言いたげに口を開いてすぐに閉じた。 
 
 その後ろにふと現れた人物の姿に、泳がせた視線が止まる。 
 その人は華奢な手を仰いであたしに向かって笑った。 
 
「ひとみちゃん!」 
 そう言って彼女は駆け寄るように部屋に入り、慌てて一度立ち止まり、失礼しますと誰に向けるでもなく挨拶をした。 
その真面目で少し滑稽な姿に苦笑してしまう。 
 保田も笑いながら立ち上がり、どうしたのと彼女に訊ねた。 
先輩は脇に抱えていた提出物を保田に渡すと、あたしの隣の席に腰を下ろす。 
536 名前:equal 投稿日:2007/11/22(木) 06:45
 
「…どうも」 
 笑いを堪えて挨拶をしたら、何だか素気無いものになってしまった。 
けれど先輩は特に気にする様子も無く、笑顔で話し掛けてくる。 
 
「部活、来てるんだね」 
 
「写真撮ってるの?」 
 
 あたしは適当な返事を返しながら、相槌を打った。 
 会いたくて仕方がなかった人が目の前に居る。自然と顔が緩む。 
 
 保田は黙って提出物をチェックしていたが、暫くすると手元のそれと時計を交互に見て言った。 
「今日は雨だし、吉澤は現像も無いんだし、二人共もう帰りな」 
 時計に目をやるとまだ4時半だったけれど、先輩ははいと返事をしてすぐに席を立った。 
つられてあたしも立ち上がり、のろのろと帰り支度を始める。 
 
 もしかして、保田は気を使ってくれたんだろうか。 
だったらあたしは先輩を誘わなくてはいけない。 
 待っていてくれているのか鞄を持って立ったままの彼女に声を掛ける。 
 
「…あ、い、一緒に…帰らない?」 
 
 失敗だ。 
 
 不自然過ぎた。 
 落ち込みそうになったけれど、彼女はとても嬉しそうに笑ってくれた。 
 
「うん、帰ろ」 
 差し出された彼女の手を掴む。その手を引かれて、二人で教室を出た。 
 後ろから保田の声がしたが、振り返る余裕は無かった。
 
 
537 名前:equal 投稿日:2007/11/22(木) 06:46
 
 
 雨はざあざあと、相変わらず煩く振り続ける。 
「止まないかなぁ」 
「止みそうにないね」 
 正門に近い昇降口で待ち合わせたが、さっきからそんな会話ばかりしている。 
煩いだけでそんなに強くもない雨の中へ踏み出せずに。 
 こんなところでいつまでも突っ立っている所を保田に見られたら、きっと怒られてしまうだろう。 
せっかく時間があるのに、どこかに行こうとも誘えず立ち往生して他愛もない話を続けるばかりだ。 
 
 でも、あたし達にはこれで十分だろう。 
先を急ぎたくないし、そもそもその先なんて無い。 
 ただゆっくりと、話をするだけで。 
時々その仕草にドキドキさせられて。 
 
538 名前:equal 投稿日:2007/11/22(木) 06:46
 
「もぉ、聞いてる?」 
先輩はあたしの肩を小突いてふふっと笑う。 
 
 彼女の笑い方が好きだ。 
 小さな手が好きだ。 
 華奢な身体に見とれてしまう。 
 
「先輩」 
「なぁに?」 
 
「…好きです」 
 
 とても素直に、気持ちが言葉になる。 
 
 先輩は恥ずかしそうな笑みを浮かべ暫く押し黙った後、呟くように言った。 
「…この間は、名前で呼んでくれたのに」 
「そうだっけ」 
「そうだよ、忘れないよ」 
 拗ねたように唇を尖らせる。 
 
 可愛い彼女の名を呼んでやろうと耳元に唇を寄せると、華奢な肩が小さく震える。 
名前を呼ぶだけなのに、あたしの唇も震える。 
恥ずかしくなって、ふうっと一つ息を吐いて顔を戻した。 
539 名前:equal 投稿日:2007/11/22(木) 06:47
 からかわれたと思ったのか先輩は、真っ赤になりながらまたあたしの肩を小突いた。 
 少し低いところにある彼女の睫毛が、震えるように瞬きを繰り返す。何て綺麗なんだろう。 
 零れそうになる溜息を呑んで、言葉にした。 
 
「…梨華ちゃん」 
 
 ゆっくりと、彼女の瞳があたしを捉える。 
 視線が合うのを待たずに、あたしは弾かれたように雨の中へ飛び出した。 
 
「あ、待ってよ」 
 慌てて後を追ってくる彼女を、振り切るように早足で歩く。 
 
 梨華ちゃん。 
 その名はまたあたしの中で大きくなって。 
 
 梨華ちゃん、梨華ちゃん、梨華ちゃん。 
 
 何だかくすぐったくなるその感覚に、更に足を速める。風を切って走りたいような気分だ。 
けれど後ろを歩く彼女は、なかなかあたしに追い付いてくれない。 
 
「待ってひとみちゃん、歩くの速いよ」 
「脚長いんで」 
「…そうだけどぉ。ね、お願い。もうちょっとゆっくり…」 
 まるで泣き出しそうな彼女の声は、あたしの加虐嗜好を刺激する。わざと聞こえない振りをして歩き続けた。 
 
540 名前:equal 投稿日:2007/11/22(木) 06:47
 
 赤信号で仕方なく足を止めると、ようやく彼女が追い付く。 
「…もう、わざとでしょ」 
「なにが?」 
 白々しい答えに、眉間に皺を寄せて睨まれた。 
「…にやにやしてるもん」 
 彼女は怒ったようにそう呟くと、乱れた前髪を直しながら顔を逸らせた。 
その様子が可愛くて、益々苛めてやりたくなったが素直に謝る。 
 
「ごめんね。梨華ちゃん」 
 うん、と彼女が小さく頷くのを確認して、先程とは打って変わってゆっくりと歩き出す。 
 彼女はまたいつものように笑顔で話を始める。 
その高い声を、かき消しそうな程の雨音。水溜りを蹴る乗用車の走行音。 
梅雨は静かでとても煩い。 
時々、傘から零れ落ちる水滴が目の前を掠めた。 
 
541 名前:equal 投稿日:2007/11/22(木) 06:48
 あ、と突然思い出したように彼女が鞄を探り出した。 
「番号、教えて?」 
 取り出した携帯を掲げて、嬉しそうに微笑む。 
どうしようかな、とあたしが勿体つけるように答えると、心底不思議そうな表情でどうしてと聞き返してくる。 
彼女を相手にするのは飽きない。 
 
「めんどくさいから、あとでミキティに聞いてよ」 
「え、でも」 
「なに?」 
 
「今日…電話しちゃだめ?」 
 首を傾げて上目遣いにそう言う彼女。 
 あたしは一気に体温が上がるのを感じた。 
どうしてそうやって、ドキドキさせるんだろう。顔が火照るのを抑えられない。 
見られないように顔を背けたけれど、彼女は面白そうに覗き込んでくる。 
 
「ねえ、もしかして照れてる?」 
「うるさいなぁ」 
 ぶっきらぼうにそう答えても、何だか彼女は満足そうだ。 
暫く一人で笑ったあと、また早足になってしまったあたしを諫めて横に並ぶ。 
 
「駅に着いたら、番号教えてね」 
「…ん」 
「今日、電話するね」 
「…うん」 
 あたしは未だ熱の治まらない頬を軽く撫でた。横を歩く彼女は、とても嬉しそうに微笑んでいる。 
 
 この雨が止めばいいのに。この雨が止めば、傘を閉じて手を繋げるのに。 
 
 
542 名前:equal 投稿日:2007/11/22(木) 06:48
 
 
 
543 名前:はと 投稿日:2007/11/22(木) 06:49
更新以上です。 
544 名前:はと 投稿日:2007/11/22(木) 06:50
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>526 名無飼育さん 様 
 ( ^▽^)<うふふ 
 
>527 名無飼育さん 様 
 いえいえ自分でもHN付けてなんだかスッキリというか(・∀・) 
 凄い作品だなんてそんな大変恐縮なんですが、出来ればちょっと凄い作品になるように頑張ります。 
 応援ありがとうございます(*´∀`) 
 
>528 名無飼育さん 様 
 わざわざ考えて頂いてどうもすいません(´∀`;) 
 いっそ「はーと」でも良いんですが、一応考えて付けたので「はと」で行こうかなと。 
 ちなみに由来は仰る通りの鳩です。 
 
>529 名無飼育さん 様 
 ありがとうございますコレで行きますw 
 
>530 名無飼育さん 様 
 いやホント大変恐縮です。ありがとうございます! 
 
 
保田圭を出し過ぎてる気がしないでもないです。 
545 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/22(木) 10:30
わー!
どきどき。

こんなのが読めるなんてほんと幸せです
546 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/11/23(金) 05:50
超イイ...
547 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/23(金) 06:12
はとさん 待ってたYO
雨が止むといいな〜♪(私も雨になりたい…ゥフッ)
この後の展開が非常に気になりつつ次回の更新をお待ちします。
                  はとさん頑張って!527
548 名前:たんたかたん 投稿日:2007/12/02(日) 22:33
ワクワクドキドキっす。
始めまして!
快い物語、気持ちいいっす。
549 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/16(日) 13:24
そろそろいちゃいちゃさせてくださいw

550 名前:equal 投稿日:2007/12/17(月) 16:33
 
 
 星の数を数えていた。 
耳に残る彼女の声に、ぐちゃぐちゃになりそうな思考を止めたくて。 
終わりの無いその行為に没頭していた。 
 
551 名前:equal 投稿日:2007/12/17(月) 16:34
 
「ひとみちゃん」 
 
 電話を終えてもすぐ傍で囁かれているよう。 
 
 梨華ちゃんが、あんな熱っぽい声で、あたしの名を呼ぶからだ。 
 何を話したかなんてまるで覚えていない。 
ただ時々、思わせぶりにあたしを動揺させるような事を言う。 
そんな時は決まって何も答えられず只沈黙が訪れるばかりだ。 
 
 
 わかっているのに。 
 
 彼女の首に見たものや、あたしが傷付けたあの人の存在を。 
わかっていて、そんな小さな言動に迷わされてしまう。 
 
 それとも、彼女が手を引く先に向かってしまおうか。その先には何があるんだろうか。 
 さっきまでの電話での会話や、なかなか別れを切り出せずに過ごした駅での時間や、あの帰り道。 
そんな幸せな時間を、変わらず過ごせることが出来るんだろうか。 
552 名前:equal 投稿日:2007/12/17(月) 16:34
 
 星の輝く夜空を見つめながら、ふといつ晴れたんだろうと思う。 
 駅に着くまでには雨は止まなかったけれど、雑踏のなか切符売場の片隅で、握り締められた梨華ちゃんの手。 
 
「冷たいね」 
 言われて慌てて振り解こうとしたけれど、逃げられなかった。 
 
 そうやって梨華ちゃんはいつだって、あたしを捕えて離さないんだ。その瞳や声や、指で。 
 
 もっともっと縛られたい。 
 本当はもっと声を聞きたいしいつだって梨華ちゃんに会いたい。 
 あなたばかりの心の中を、見抜いて欲しい。 
 
 
553 名前:equal 投稿日:2007/12/17(月) 16:34
 
  *  *  *  *  *  
 
554 名前:equal 投稿日:2007/12/17(月) 16:35
 
「最近、梨華ちゃんと会ってんだって?」 
 久しぶりに会ったミキティにそう言われてあたしは何となく、誤魔化すような笑いで答えた。 
 冷房が効いた店内の、ひんやりとした空気が頬を撫でる。 
ハッキリしないあたしの態度に、ミキティは首を傾げて変なの、と呟いた。 
 
 夏がやってきた。 
窓の外では、陽を照り返すアスファルトがきらきらと光っている。 
 この強い日差しの中、きっと今日も梨華ちゃんは部活をやっているんだろう。 
ボールを打ち返す彼女の姿が浮かんでくる。 
3日前に見たばかりのその姿は、割と鮮明に思い出せた。 
555 名前:equal 投稿日:2007/12/17(月) 16:36
 
 梨華ちゃんとは頻繁に連絡を取り合うようになった。時々一緒に下校する。 
3日前も、彼女が部活を終えるのを待ってご飯を食べに行った。 
これ以上近付きたくないなんて思いながら、 
流されるように彼女との関係を築いていってしまっている自分を浅ましく思う。 
 
「つーかまさか、付き合ってんの?」 
「まさか!」 
 反射的に首を振って否定した。ミキティは益々訳が分からないといった風に眉を顰める。 
梨華ちゃんから色々と聞いているみたいで、あたし達の微妙な関係に苛立っているようだ。 
 ハッキリしないことが嫌だ、とよくミキティは言う。今日もそう言って不機嫌そうな顔を見せる。 
あたしの梨華ちゃんへの気持ちを見透かすように、睨むのだ。 
 
「付き合いたいとか、別にそんなんじゃなくて…」 
 あたしは言葉を濁した。 
この気持ちをどう説明すればいいのかわからず、当ても無く黙り込む。 
 ミキティはなんだよと悪態をついてコップの中でストローを遊ばせていたが、 
少しの沈黙の後あたしの顔を窺うように覗き込んで言った。 
 
「もしかして、アレのせい?」 
 
556 名前:equal 投稿日:2007/12/17(月) 16:37
 
「アレ?」 
「ほら、バレー部のさ」 
 
 バレー部の、と言われて思い出すのは一人だけだ。 
その人を思い出す度に、胸の奥の方がチクチクと痛む。 
 会わなくなってからは、出来るだけ思い出さないようにしているのに。 
確か最近にも…そうだ、中澤に呼び出された時。 
 
「よっちゃん?」 
 黙ったままのあたしを心配するようなミキティの声。 
 確かに、あの事が無ければあたしはきっと堂々と、梨華ちゃんと一緒に居たいと思えたんだろう。 
けれどあたしにはきっとそんな資格はもう無いのだ。 
 
「…そんなんじゃないよ」 
 引きずっているわけじゃない。言い訳にはしたくない。 
 また曖昧な返事を返した。 
 ミキティも、それ以上は何も聞かなかった。 
 
 
557 名前:equal 投稿日:2007/12/17(月) 16:38
 
 
 帰りの電車の中、バレー部の先輩だった絵梨香を思い出した。また少しだけ胸が痛んだ。 
 いつだったか絵梨香は、あたしのことを好きだと言った。同性からの告白に思いの外動揺して、 
あたしは確か「冗談でしょ」とか、そんなような事を言った気がする。よく覚えていない。 
只、絵梨香の傷付いたような顔ばかりが微かな記憶の中で浮かんでは消える。 
窓の外のネオンが現れては消えてゆくように。 
 
 ミキティと同じ小学校だったという絵梨香とは、先輩達の中で一番よく話した。 
 色々な面で妬まれるばかりのあたしに、対等に接してくれる彼女を信頼していた。 
それを、告白された瞬間裏切られたように感じてしまったのだ。 
 あの時あたしの顔には、微かながら侮蔑の表情が浮かんでいたに違いない。 
 あたしは自分を恥じた。それがどんな感情からであろうと、素直にあたしを慕ってくれていただけなのに。 
 
 もう絵梨香に会わせる顔は無いと思った。 
 拒絶の言葉を返した瞬間、向けられた悲しげな表情が頭から離れない。 
 
 とても忘れられそうには、ない。 
 
558 名前:equal 投稿日:2007/12/17(月) 16:39
 古びた私鉄の車体が揺れる度に、どこかへ急かされているような気分になる。 
 どこへ向かえというんだろう。絵梨香には謝る権利すら無いし、 
梨華ちゃんとも肩を並べられるような資格は持ち得ない。 
「じゃあね」 
 いつもの鼻声でそう言ってミキティは先に降りて行った。 
 いつものように、ふざけた調子で窓越しに指を差したりして笑い合った。 
小さな痛みに顔を歪めるあたしに、隣に座っていたミキティは気付いていたのだろうか。 
きっとあれは寝た振りだったろう。 
 
 何故誰もあたしを責めないのだろう。 
傷付けてしまった絵梨香ですら、あたしに何も非は無いと笑っていた。 
皆があたしを許しても、あたしはあたしを絶対に許せない。 
 
 電車を降りると、冷房で冷えた身体に生暖かい空気が纏わりつく。
駅から遠ざかる程足元は暗くなってゆく。 
 光を求めて空を仰いだ。 
 曇っているのか真っ暗な夜空が広がるだけだ。 
 
 こんなあたしを、月さえ照らさない。 
 
 夏の夜の蒸し暑い空気を、蹴り裂くようにして歩いて帰った。 
 
 
 
559 名前:equal 投稿日:2007/12/17(月) 16:39
 
 
560 名前:はと 投稿日:2007/12/17(月) 16:40
更新以上です。 
561 名前:はと 投稿日:2007/12/17(月) 16:40
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>545 名無飼育さん 様 
 なんかもう凄い言葉を頂けてこちらこそ書いてて幸せです、ほんとに。 
 
>546 名無飼育さん 様 
 物凄いキュンとくるレスですね。ありがとうございます。 
 
>547 名無飼育さん(527) 様 
 雨は止みませんでしたがちゃっかりと手は繋ぎました。 
 しかしながら毎度ゆるい展開で申し訳無いです… 
 
>548 たんたかたん 様 
 はじめまして。レスも気持ちいいっす! 
 ワクワクドキドキが持続されるようなものを書けるように頑張ります! 
 
>549 名無飼育さん 様 
 …いちゃいちゃしてない…       _| ̄|○ 
 イチャイチャスレの筈が… 何かを見失ってしまっています… 
 でもその内勝手にイチャコラし始めると思います。 
 
またお待たせしてしまったようで申し訳無いです。 
( ;^▽^)<師走なもので… 
ダラダラにならないように、次回は早めに上げれるよう頑張ります。 
562 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/17(月) 22:41
ハイサイ〜はとさん
更新されてるので安心しました。
今回の吉澤さんは少し切なかったですね。
次回更新楽しみに待ちますんで チバリヨ〜(頑張って!)
563 名前:equal 投稿日:2007/12/25(火) 06:27
 
 
 絵梨香を思い出した夜、初めて梨華ちゃんからの着信を無視した。 
 出たくなかったというのもあったし、夜通し泣いていたせいで掛け直す事も出来なかった。 
人前では泣く事なんて滅多に無いのに、一人でいると妙に涙脆くて困る。 
 
564 名前:equal 投稿日:2007/12/25(火) 06:28
 それから何となく連絡をしないまま四日程経った。 
 いつの間に当たり前になっていたのだろうか電話やメールのやり取りが、これ程長く途絶えたのは初めてだ。 
そうなってみるとまるで梨華ちゃんの存在が夢物語のように思える。 
もともと校内で顔を合わせることなんて殆ど無いわけで、 
会おうとしなければ姿を見る事は無いし声も聞かない。 
 そんな日々が続くと段々もしかして、なんて思えてくるけれど、 
不思議な事に携帯を見ればきちんと物的証拠が残っている。 
 
 彼女の居ない日常は淡々と過ぎてゆき、それでも淋しいと思う資格なんかあたしには無いのだ。 
 
 そんな事を考えながら、少しだけ重い足取りで理科棟へ向かう。 
提出物を届けに行く為で、呼び出されたわけでもないが気が向かない。 
中澤と話すのはやはり苦手だ。 
 またあの廊下で梨華ちゃんに会えたらいいけれど、会えたら会えたできっと複雑な気分になるのだろう。 
 
 放課後の校舎というのは例外無く静かで、教室に残る僅かな人影もそれをより一層孤独めいたものにさせる。 
 やたらと響く自分の足音が耳障りで、歩調を緩めた。 
ジワジワと鳴く蝉の声がどこからか聞こえ、日陰の廊下で汗が滲む。 
私立だったら空調が効いているだろうに。 
 
565 名前:equal 投稿日:2007/12/25(火) 06:28
 
 少しの期待は裏切られ、あたしは誰にも会わずに教員室前の廊下に辿り着いた。 
 無意識に安堵の溜め息が漏れ、思わず苦笑する。あたしは何だろう。 
 これじゃ逃げているみたいだ。 
 
 今日は梨華ちゃんに、電話をしよう。忙しくても、何があっても。 
 
 そう決意したけれど、一歩一歩教員室の入り口に近付く度に、何故だかわからない妙な不安に胸が騒ぐ。 
 とても静かな筈のこの棟で、微かに聞こえる人の声。 
風の音を聞き違えたのかと思ったけれどそうではないようで、確かに開け放した教員室の入り口から聞こえてくる。 
それは中澤ともう一人、恐らく、いや確実に聞き覚えのある声で。 
 
566 名前:equal 投稿日:2007/12/25(火) 06:30
 
 
「─だって、ふふ」 
「…なんやそれ、ホンマに?─」 
 
 
 自分の耳を疑いたくとも、疑いようが無い。聞き間違える筈が無いのだから、梨華ちゃんの声を。 
 
 聞き耳など立てたくはないのに、あたしの聴覚はとても敏感になってしまっていて、 
入口のすぐ横で身動きも出来ず固まったまま。 
ふざけ笑うような二人の声が脳を刺すように耳に入る。 
 
「─ね、先生」 
 
「なんやあんた、えらいやらしくなったなぁ…」 
 
 梨華ちゃんの声が、中澤の声が、脳に刺さる。 
 
「先生、だめ…」 
 
567 名前:equal 投稿日:2007/12/25(火) 06:31
 
「…アカンの?」 
「だって、もう」 
「……吉澤、か?」 
 
 心臓を斬りつけられたって、こんな痛みは無いだろう。 
あたしの名前が出たことも何もかも訳がわからなくて、思考は渦を巻くだけ。 
鋭過ぎる痛みに麻痺した五感を引き連れて、立ち止まっていた場所を踏み出した。 
 
「失礼します」 
 自分でも驚く程に冷たく低い声が発せられる。 
568 名前:equal 投稿日:2007/12/25(火) 06:33
 あたしの声と姿を認識した二人はすぐに体を離したけれど、 
麻痺していても敏感な視覚は一瞬の姿をも捉えてしまった。 
 梨華ちゃんの腕を掴んだ中澤の手。絡み合うような脚、触れ合いそうな程近付いた顔。 
 一瞬の映像が視界から離れず、今不自然に距離をとっている二人も、抱き合っているかのように見える。 
 
「提出物、持って来ました」 
「あ、ああ…そこ、置いといて」 
 顔の筋肉だけで精一杯の笑顔を作る。引き攣った笑いを浮かべながら梨華ちゃんに視線を向けたが、 
滑稽な程に動揺している中澤とは対照的に、彼女はとても落ち着き払っていた。 
 それじゃ、と中澤に軽く会釈をすると、梨華ちゃんはこちらを見ながら入口に向かって歩いて来る。 
 確かにあたしの顔を見ているようだけど、視線が合っているような気はしない。 
その目から何の感情も読み取れないのはあたしが混乱しているからだろうか。 
 
「ひとみちゃん、またね」 
 何でも無い、というような、とても当たり障りの無い笑顔を見せてあたしの横を過ぎて行った。 
 それでも少しは動揺していたのか、思ったより早足だったようで 
振り向いた時には入口には姿は見えず足音しか聞こえない。 
 何が出来るわけでもないけれど、彼女を追いかけなくちゃ、そう思いあたしもすぐ後を追って走り出した。 
569 名前:equal 投稿日:2007/12/25(火) 06:33
「吉澤、あの…!」 
「失礼します!」 
 中澤の呼び掛けなんてどうでもよくて、教室を出て走る、走る。 
時々曲がり角で見える姿と足音を頼りに、彼女を追う。 
 
 理科棟の入り口でようやく追い付くと思い切り彼女の腕を掴んだ。 
「梨華ちゃん!」 
 振り向いた彼女は、泣いていた。 
 
「…ひとみちゃ…」 
 
「なんで泣いてるの?」 
 
 あたしはきっと最高に意地の悪い顔をしていたに違いない。 
ぐちゃぐちゃの気持ちとは裏腹に冷静な声が響く。 
 梨華ちゃんは少し怯えたような瞳であたしを見つめる。 
 
 初めて見る涙はとても綺麗で、それはとても非現実的な程だ。 
 
570 名前:equal 投稿日:2007/12/25(火) 06:34
 
「…ねえ、なんで泣いてんの」 
「……んで、…って」 
 梨華ちゃんは必死で涙を拭いながら、嗚咽を繰り返す。何も言わない。 
 きっと彼女が今言える事なんて何も無いんだろう。 
けれどあたしはまたどうして、と訊ねる。彼女の腕を掴む手に力が増す。 
怯える姿があたしの加虐嗜好を刺激する。 

「ねえ、なんで。言ってよ」 
「…嫌…」 
 
 震えながら搾り出す梨華ちゃんの声はとても…何ていうか、 
 例えるなら、官能的で。 
 
 ぞくぞくする。 
 
「…抱きしめてもいい?」 
 
「だ、め」 

 あたしは、ずるい。 
 梨華ちゃんに何も望まないなんて、所詮は綺麗事だ。 
 こんなにも彼女が欲しくて仕方が無い。 
 
 掴んだままの腕を身体ごと引き寄せて、両腕で包み込んだ。 
痩せている身体は思ったよりもずっとやわらかい。梨華ちゃんの匂いがする。 
腕の中の彼女は力無く抵抗し、やがて諦めたように動きを止めた。 
 
571 名前:equal 投稿日:2007/12/25(火) 06:36
「…何しようとしてたの?中澤」 
「別に、何も…」 
「嘘だね」 
「わかって、るなら、どうして聞くの」 
「もっと泣いて欲しいから」 
 
「すっごい意地悪…っ」 
 
「うん。ゆって?」 
「嫌」 
「じゃ、キスしてい?」 
 
「…だめ」 
 
 口から漏れる拒絶の言葉と、求めるような瞳の色に体が震える。 
吸い寄せられるように彼女の唇に自分のそれを重ねた。 
 
 喉や耳や頭の奥が、ピリピリと痺れる。 
 
 梨華ちゃんの熱い息が、直接唇に触れる。 
 
 胸元で抵抗を諦めていた手がもどかしそうにあたしのブラウスの襟を握った。 
 腕の中の梨華ちゃんの存在に、信じられないくらい満たされた気持ちになる。 
 あぁあたしは、こんなにも彼女が欲しかった。 
 
572 名前:equal 投稿日:2007/12/25(火) 06:38
「学校だよ…?」 
 そっと唇を離すと、梨華ちゃんは弱々しくそう言った。涙で潤んだ瞳が揺れて、また一つ滴が零れ落ちる。 
 
「その学校で、中澤と」 
「…ぅぅ」 
「何しようとしてたのかな」 
 
「…ひどいょ」 
「うん。ひどいよ?」 
 
 だって、あなたを苛めたい。 
 もっとあたしに縋って泣いたらいいのに。 
 
 
 抵抗をやめた梨華ちゃんは、あたしの繰り出す攻撃にされるがままで。 
唇で、彼女の頬や瞼をついばむように食んでは弄ぶ。 
涙の味が、じわりと広がる。 
 
573 名前:equal 投稿日:2007/12/25(火) 06:39
 
 もう何も考えたくない。この腕の中に梨華ちゃんがいたら、もう他には何も要らない。 
 絡まっていた思考はするすると解けて、頭の奥の奥ではらりと落ちた。 
 夏の暑さのせいか、梨華ちゃんの匂いなのか、狂おしい程にあたしを欲情させる。 
 
 今すぐに、彼女の全てを奪いたい。 
 
「梨華ちゃん、あたし」 
 
 繰り返す口付けを止めて彼女を見詰めた。 
 吸い込まれそうになる、その瞳。 
「…ひとみ、ちゃ」 
 
 
「梨華ちゃんが好き」 
 
 
574 名前:equal 投稿日:2007/12/25(火) 06:39
 
 
575 名前:はと 投稿日:2007/12/25(火) 06:39
更新以上です。 
576 名前:はと 投稿日:2007/12/25(火) 06:41
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>562 名無飼育さん 様 
 更新お待たせ致しました。 
 吉澤さんには思い詰めさせてしまう癖があるようで、ちょっと可哀相なんで今回はこんな感じで(ノ∀`) 
 
今回で今年は最後の更新です。来年も読んで頂けたらいいなあと思いつつよいお年を… 
あ、クリスマスも… 
577 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/25(火) 23:35
やっぱり・・そうゆう関係だったのか・・・

これ以上よっすぃが苦しまないことを祈ります。
578 名前:たんたかたん 投稿日:2008/01/19(土) 00:51
超季節外れですが、あけおめっす。はとさん!。
待ち焦がれてたっす。
上級な駆引き、何だかウキウキな展開になりそう。
二人がただただラブラブハッピーになって頂きたい今日この頃。
早く二人を仕合せにしてあげて下さい。

579 名前:equal 投稿日:2008/02/10(日) 06:04
 
 
 
「ひとみちゃん…」 
「なに?」 
 
「だめ、だよ」 
 
 そう言って梨華ちゃんは視線を落とした。 
 悩ましげに俯く顔も綺麗だ、なんてぼんやりと思う。 
 
「あたし、まだ…」 
 まだ、なに?
 耳元で囁く。 
 あたしの息に梨華ちゃんは小さく肩を震わせ、目を閉じた。 
だめ、でも、ううん。 
心の葛藤が表情に表れる。 
何て分かり易いひとなんだろう、あたしはその思考を遮るように 
彼女の顎を持ち上げて視線を合わせた。 
 
580 名前:equal 投稿日:2008/02/10(日) 06:05
 
「…嫌じゃないよね?」 
 
 問い掛けたけれど答える隙も与えず、あたしはまた雨のように口付けを降らせる。 
「…ん、ひとみちゃん、ま…って、」 
 嫌だ。止めたくない。 
あたしがずるいのと同じ位、梨華ちゃんだってずるいでしょう? 
こうなる事を、望んでたんでしょ? 
 言葉とは裏腹に、抵抗しない梨華ちゃんの身体。 
あたしの腕の中でゆっくりと崩れ落ちていった。 
 
「……だめ、なの…」 
 あたしの足元で蹲り、梨華ちゃんは声を殺して泣き始めた。 
 
「…なにがだめなの?」 
「とにかく、だめなの」 
「なら、嫌ってゆってよ」 
「…嫌じゃないからだめなんじゃない」 
「そんなのわかってるよ」 
581 名前:equal 投稿日:2008/02/10(日) 06:05
 
 あたしだってこんなこと、本当はしちゃいけないんだ。 
絵梨香を傷付けたことに、涙したのがつい数日前。 
梨華ちゃんと中澤がどんな関係なのかも知らない。 
 でも、どうでもいい。目の前の彼女が、今のあたしのすべてなんだ。 
 
「…わかってるよ。だから」 
 あたしも体を落として、梨華ちゃんと視線を合わせた。 
 その涙の美しさに、眩暈がする。 
 
 
「だったら、いけないこと沢山しようよ」 
 梨華ちゃんは、微かに頷いたように見えた。 
 
 
582 名前:equal 投稿日:2008/02/10(日) 06:06
 
 
   ─ equal ─ 
 
 
583 名前:equal 投稿日:2008/02/10(日) 06:06
 
 
 
 ひとみちゃんが好きだと言ってくれた。 
 涙が止まらなくなるようなキスを、何度もしてくれた。 
 
 そうして私は益々ひとみちゃんを好きになってしまう。 
 今目の前にある、綺麗な寝顔から目が離せない。 
 
584 名前:equal 投稿日:2008/02/10(日) 06:07
 
 結局、こうなっちゃうんだね。 
ひとみちゃんの柔らかい頬を指でつつきながら、一人で溜息を吐く。 
 今日、中澤先生と居る所を見られた時は、もうだめだって思った。 
今まで悪戯に仕掛けてた罰が当たったんだと思った。 
呆れられると思ったのに、ひとみちゃんは追いかけてきてくれて。 
 
 でもそう考えると、あれだけ誘ったのにやっと抱いてくれたのが今日、 
ひとみちゃんて案外奥手なのかもしれない。 
だって何度も私に欲情してたのはわかったもの。 
 ああ、またそんなことばっかり。でも、だって、こうして欲しかったんだもの。 
 誤魔化せないくらいに、初めて会った時からずっと、この子と触れ合いたいって思ってた。 
 
585 名前:equal 投稿日:2008/02/10(日) 06:09
 
 ある意味これが、望んでた形なのかもしれない。 
無理矢理にでも奪ってくれなければ、私達はただ足踏みを繰り返すだけだった。 
 それに私は、倫理的には何も悪いことはしてないし。 
女同士っていう点では、そうハッキリとは言い切れないかもしれないけど。 
 私自身の心の問題であって、きっと人によっては取るに足らない事だったりするんだわ。 
 
「ん…梨華ちゃぁん」 
 目を覚ましたひとみちゃんが、ふわふわした笑顔で私を引き寄せた。 
 真っ白な柔らかい腕に包み込まれて、つい数時間前の行為を思い出して恥ずかしくなってしまう。 
ひとみちゃんは私の存在を確認すると、満足そうに笑ってまた眠りにつこうとした。 
慌てて大丈夫なのと尋ねると、時計に目をやってから帰らなきゃ、と力無く体を起こす。 
 
 ああ、行ってしまうの 
 
 幸せは永遠には続かない。 
  
586 名前:equal 投稿日:2008/02/10(日) 06:09

 ひとみちゃんが起き上がってから、家に連絡して制服を着てドアの前に立つまで、 
私達はまた何度もキスをした。 
明日になってよく考えたら、ひとみちゃんはもう二度と私に会わないと決めるかもしれない。 
或いは私が、そう思うかもしれないし。 
 ドアの前で最後のキスを交わして、二人で階段を下りた。 
行為の後の気まずさからか、ひとみちゃんは両親と顔を合わせると 
蚊の鳴くような声でお邪魔しましたと言った。 
 
587 名前:equal 投稿日:2008/02/10(日) 06:11
 
 玄関先でひとみちゃんを見送ってから、部屋に戻り携帯を開いた。 
 着信が一件。…中澤先生。 
後で掛けようか、それとももう返さない方がいいのかな。 
暫く考えて携帯を置いた。 
 考えても、きっと私はまた理科棟へ行ってしまう。 
先生の為には行かない方が良いのに、 
あの人に『淋しい』と言われれば私は行かずにいられないんだ。 
 だって、あんなに好きだったんだもの。 
どんなにずるくても、どんなにひとみちゃんの方が好きでも、先生を突き放す事が出来ない…。 
 
 ねえ、ひとみちゃん、私をどこかへ連れ去って。 
 
 
588 名前:はと 投稿日:2008/02/10(日) 06:11
更新以上です。 
589 名前:はと 投稿日:2008/02/10(日) 06:12
 
590 名前:はと 投稿日:2008/02/10(日) 06:13
 
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>577 名無飼育さん 様 
 も、申し訳無いです(T▽T) 
 作者的にも、そろそろいい加減ネガチブ脱出させたい感じです。 
 
>578 たんたかたん 様 
 あけおめっす!またお待たせしてしまいました… 
 ウキウキまではいかないかもしれませんが、 
 これから良い方向には向かわせてあげたいところです( ^▽^)人(^〜^0) 
591 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/11(月) 00:51
梨華ちゃん・・・強くなって!!
592 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/12(火) 11:00
なかざー姐さんなんて…!!

いしよしいちゃいちゃして!
593 名前:equal 投稿日:2008/02/18(月) 21:22
 
 
 
 私は、私に優しくしてくれる人が好き。可愛がってくれる人が好き。 
私の事が好きかどうかなんてそんなに重要なことじゃないの。 
如何に私を包み込んでくれるか、安心させてくれるかが大事で、そういう人と一緒に居たい。 
 
 
594 名前:equal 投稿日:2008/02/18(月) 21:23
 
 先生はいつも私を見ていてくれた。 
どんな事でも笑って許してくれたし、何があっても傍に居てくれた。 
だから先生を好きになった。 
 それで私幸せなんだって思ってた、そう感じてたのに。 
 
 
 ひとみちゃんに、出会ってしまった。 
 完全な一目惚れだった。 
 あの時は桜が舞っていて、私の大好きなピンク色に包まれる真っ白なひとみちゃんが、すごく綺麗だった。 
先生が居るのに他の人を好きになってしまった自分が嫌で、 
すぐに先生と別れて、美貴ちゃんがひとみちゃんと友達だって知っても近付く気には到底なれなかった。 
 なのに、今はこんな事になってる。 
どこから間違ったんだろう。 
 
595 名前:equal 投稿日:2008/02/18(月) 21:25
 
 でも、ひとみちゃんて、想像してたより優しくない。 
 てゆうか、子供っぽい。 
 根がすごく優しいのはわかるけど、男の子みたいないじわるして楽しんでたりするトコがあるのよね。 
ふわふわしてるようで頑固だから譲らないし、言葉も態度も大きくて大袈裟。 
それに、時々すっごく強引。 
 はっきり言って全然合わない。 
 
 なのに、どんどん好きになっていく。 
どんな所も、愛しくてしょうがないって思えてしまう。 
 ひとみちゃんが居なかったら生きていけない、なんて事は無いけど、 
居なかったらきっと心がうまくいかない。 
それくらい私、奪われてしまってる。 
 
596 名前:equal 投稿日:2008/02/18(月) 21:27
 
 
 朝なんて来なければと思っても、無情にも陽は昇る。 
 今日が日曜ならまだいいけど、あと数時間で学校に行かなきゃいけない。 
ひとみちゃんと先生が顔を合わせてしまう。 
重い身体を引き摺ってベッドから抜け出した。 
 
 保田さんに会うのだって気まずい。 
昨日の内に先生から何か聞いてるかもしれないし、 
そうでなくても、全て知ってる保田さんに今日は何も言わずに顔を合わせられる気がしない。 
 早目に登校して、相談しようか。 
そう思ってパジャマのボタンに手を掛け、昨日から脱ぎ散らかしたままの制服に目をやった。 
 
 
 昨日ひとみちゃんと過ごしたあの数時間、私は間違い無く幸せだった。 
あんなに幸せな時間は今までに無かったって、言い切れるくらい。 
この子じゃなきゃだめって思えた。 
 あの時だけは、何もかもがどうでもよくって、 
ただひとみちゃんとずっと居たい、そう思えたけど。 
 
 もう部屋にもベッドにも、ひとみちゃんの温もりは無い。 
鏡を見ながら胸に残ったしるしを指でなぞっても、何だか虚しく感じる。 
 
 これを先生が見たら何て思うだろう。
違う、見られる状況になったらいけないんだってば。 
どうして私ってこうなんだろう。 
 
 
597 名前:equal 投稿日:2008/02/18(月) 21:29
 
 
 いつもより一時間早く家を出て、学校へ向かった。 
時間が違っても電車の中は変わらず混み合っている。 
満員電車なんてキライ。 
男の人と肌が触れ合うのが嫌で、夏でも薄手のカーディガンを着て電車に乗る。 
 別に私は、男の人が嫌いな訳じゃない。 
性の対象として見られるのが我慢出来ない。 
どうしたって力では敵わないし、女はいつだって男より弱い立場にあるもの。 
 
 胸元に抱えた鞄をきつく握り締めながら、駅までの時間を必死で耐える。 
さっきから、わざとらしくお尻の辺りを掠める手がある。 
頭の後ろに感じる、気持ちが悪い生暖かい吐息。 
 何度電車の時間や車両を変えようと、どこまでもこの悪夢のような出来事はついてくるんだ。 
何か考えなきゃ。何か他の事を考えないと、頭がおかしくなりそう。 
 
「チッ」 
 
 誰かが小さく舌打ちをした。 
 女の子? 
 その瞬間、あたしの下半身を弄ぶように這いずり回っていた手が離れ、男の人の呻くような声が響いた。 
「ぅうう…ってぇ…」 
 振り返ると女の子が、中年の男性を睨んでいる。 
 …この子、知ってる。私服でもすぐにうちの学校の生徒だとわかった。 
 いつもひとみちゃんと一緒にいる子だ。 
 
 
598 名前:equal 投稿日:2008/02/18(月) 21:33
 
 女の子は下で掴んだ男の人の手首を、肩まで掲げ無言で振り払った。 
男の人の呻き声が小さく響いただけで、静かに行われたその行為に気付いた人はあまり居ない。 
何人かが訝しげな表情でこちらを見ているだけ。 
女の子はまた小さく舌打ちをして、男の人から視線を逸らした。 
その間固まったままだった私は、ようやく声を出そうとして車内放送にタイミングを奪われた。 
 
『○○駅、○○駅──』 
 学校の最寄り駅に到着し、ドアが開き溢れるように車内から人が流れていく。 
 女の子は私と視線を合わせようともせず、流れに乗って車内を出て行く。 
慌てて私も降りたけれど、人混みを思うようには進めない。 
すぐ傍に居た筈の女の子はどんどん先を歩いて行く。 
 足、速い。 
ひとみちゃんの友達だから? 
なんて思いながら、私は駆け足で後を追った。 
 
 彼女の的確な行動で、騒ぎにならずに済んだ。 
 車内で痴漢がばれれば、周りの人に『あの子痴漢されたんだ』と好奇の目で見られたり、 
更に悪ければ駅員室で『どこをどんな風に触られた』とか、屈辱的な事情聴取を受けることになったりする。 
実際前にそういう事があった。 
 とても助かったから、絶対にお礼を言わなきゃ。 
必死で後を追い、改札を出たところでようやく追いついた。 
 
「あの…!」 
 呼び掛けると女の子は、まさか追って来ているとは思わなかったみたいで驚いたように目を見開いた。 
私はその場で深々と頭を下げ、ありがとうございましたとお礼を言う。 
 女の子は何も言わない。無表情だけど、視線や仕草から少し困っているようなのがわかった。 
 …もしかして、迷惑かな。 
面倒だから声出さなかっただけかもしれないし…、 
こんな時間にまだ私服で居るなら、急いでるかもしれないし。 
 呼び止めた事を謝って一歩引くと、女の子は軽くお辞儀をして去ろうとした。 
 
 ああ、でも、やっぱり。 
 
599 名前:equal 投稿日:2008/02/18(月) 21:34
 
「…待って、…ひとみちゃんの、お友達だよね?」 
 
 振り向いた女の子は、一瞬考えるような表情を見せてからああ、と呟いた。 
私に覚えがあるんだろうか。 
 
「よっすぃーなら、今日休むってメール来てるけど」 
 
「……そう…」 
 私が力無く答えると、女の子は身を翻し行ってしまった。 
最後のお礼をしそびれた、と思った時にはもう姿は見えなかった。 
 
 ひとみちゃんは、学校休むんだ。 
私が休ませたようなものだわ。 
ひとみちゃんは学校に来られないっていうのに、平然と登校してる私は案外図太いのかもしれない。 
 一晩中付き纏っていた後悔が、また私の頭を支配する。 
 
 どうして拒めなかったんだろう。 
 こうなる事は分かってたのに。 
 
 なのに、ひとみちゃんの言葉に甘えて流されてしまった。 
ひとみちゃんだって、あんなのその場の昂りで言ってしまっただけだもの、きっと。 
あの子がとても繊細なのは、分かってたのに。 
 
 好きな人を好きでいたいだけなのに。どうして、上手くいかないのかな。 
 
 
600 名前:equal 投稿日:2008/02/18(月) 21:37
 
「あんたバカじゃないの?」 
「…え?」 
 一晩を費やした悩み事を、バカみたいの一言で保田さんに一蹴されてしまった。 
もっと言えばひとみちゃんと出会ってからの3ヶ月半、ずっと悩み続けていた事なのに。 
 
「裕ちゃんにもいつも言ってるけど、あんた達もう会うのやめなさいよ」 
 保田さんは心底呆れたような表情でそう言う。 
 それは尤もなんですけど。 
そう出来ないから相談してるんです…なんて私が言うと、 
保田さんは大きな溜め息を繰り返す。 
 
「すいません…」 
 私が謝ると、窓の外を見ながら保田さんは無言で首を振った。私も外へと視線を外す。 
 今日、こんなに晴れてたんだ。 
家からここに来るまで、下ばかり向いていて気が付かなかった。 
 私はいつもそう、自分の事ばかりで、周りに目を向ける余裕が無い。 
ひとみちゃんや先生の気持ちを考えれば、自然と私がどうすべきかは決まってくるのに。 
自分自身の勝手な罪悪感で頭を悩ませて、皆に迷惑掛けてる。 
 
601 名前:equal 投稿日:2008/02/18(月) 21:38
 保田さんにも、どれだけ迷惑掛けただろう。 
先生と付き合う前から別れた今までずっと、相談に乗ってもらってる。 
先生と喧嘩したり、厄介な事があればいつも上手く立ち回ってくれた。 
 ひとみちゃんの事に関しては、先生の友人としての立場から何も出来ない、とは言われたけど、 
それでも話は聞いてくれるし、部活でひとみちゃんにも良くしてくれてるみたい。 
 まさか写真部に入るなんて吃驚したけど、 
後でひとみちゃんが私の好きな人だって知って、保田さんの方が驚いてたな。 
 
「石川さ」 
「はい」 
「まだ若いんだからもっと自由に恋愛すりゃいいじゃない。真面目すぎんのよ」 
 そう言って保田さんは立ち上がり、私に教室へ向かうよう促した。 
 真面目、なのかな。 
 先生との関係を切れずに、ひとみちゃんとも寝てしまう私が真面目なんだろうか。 
 時計を見て私も席を立ち、写真部の部室を出た。 
最後に先生は、あんたが好きなのは誰よ、と呟くように言った。 
 
 それだけは、ハッキリしてる。 
 ただ、そこからが、どうしても割り切れないの。 
単純な計算を、いくつもの式で解くような、 
或いは間違った式で求めようとしてるのか、 
永遠に、答えに辿り着けないような。 
 
 
602 名前:equal 投稿日:2008/02/18(月) 21:40
 
 教室に入れば、美貴ちゃんに「ひどいクマ」だとからかわれて散々だった。 
一日中考え事ばかりして、授業も全く集中出来ない。 
私は初めて部活を休む事にした。 
 帰りのSHRを終えるとすぐに教室を飛び出す。 
 いつもの癖で、ちらりと理科棟が目に入った。 
 
 私はまた必ず、あそこに行く事になる。 
それがあと一度だけか、そうでなくなるかはまだ分からない。 
取り敢えず今日は、一番好きな人の所へ行こうと思う。 
 私は携帯電話を握り締め、ひとみちゃんの家へ向かった。 
 
 
603 名前:equal 投稿日:2008/02/18(月) 21:41
 
 
604 名前:はと 投稿日:2008/02/18(月) 21:41
更新以上です。 
…進展が無い… 
605 名前:はと 投稿日:2008/02/18(月) 21:42
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>591 名無飼育さん 様 
 石川さんの強さを出すのが物凄い難しかったりします。 
 でも石川さんに関しては心配いらないと思います。 
 
>592 名無飼育さん 様 
 イチャイチャスレの筈が本当に申し訳無いです  _| ̄|○ 
 もうそろそろ…じゃないかなと… 
606 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/18(月) 23:21
作者さん!しっかり!!w
右に左に揺れる梨華ちゃんの心もとない想いが静かに落ち着く時を楽しみにしています♪

607 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/24(日) 15:28
待ってますよ♪
608 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/02(日) 23:12
よっすぃ、しっかり梨華ちゃんを捕まえてね。
609 名前:equal 投稿日:2008/03/07(金) 01:50
 
 
 駅のホームでひとみちゃんにメールして、電源を切った。 
返事を待ってから電車に乗るのは何だかズルい気がしたし、面倒だったから。 
 電車を降りて電源を入れると、返事が一通、『いいよー』と一言。 
断られなくてよかったと、胸を撫で下ろし駅を出た。 
 
 よく知らない街を、一度きりの記憶を頼りに歩いて行く。 
そう、ひとみちゃんのお家には一度だけ行った事があって、お部屋が凄く綺麗だった。 
お母さんが優しそうな人で、ひとみちゃんにそっくりで…。 
もし本当に、具合が悪くて休んだんだったらどうしよう。大丈夫かな。 
通りがかった青果店でフルーツを買った。 
 
610 名前:equal 投稿日:2008/03/07(金) 01:51
 
 ひとみちゃんのお家のドアの前に立って、インターホンに手を掛け深呼吸した。 
このまま押せばひとみちゃんに会える。もちろん、押さないで帰る事も出来る。 
出来るけど、私には一つしか選択肢は無い。 
 インターホンを鳴らすとすぐにドアが開いて、ジャージ姿のひとみちゃんが顔を出した。 
 
「おー、来たねぇ」 
 元気そう、って感じではないけど、特別具合が悪そうでも無し。よかった。 
 ひとみちゃんは私を見て、嬉しそうに笑った。 
昨日の今日でこの笑顔、ひとみちゃんの気持ちが私は図れない。 
気まずそうな態度でもとってくれれば余程分かり易かったのに。 
私は何も言葉が出て来なくて、一つ息を呑んだ。 
611 名前:equal 投稿日:2008/03/07(金) 01:52
 
「いいよ、入って」 
「あ…うん。お邪魔します…」 
 促されるまま玄関に入る。 
今ちょうど、誰もいなくてさあー。 
ひとみちゃんは明るい調子でそう言って、私を自室に通した。 
 その部屋は以前より少しだけ散らかっていて、 
自意識過剰なのかもれないけど私はまた、自分のせいのような気がして。 
何となくドアの前から動けない。 
 
「どうしたの?」 
 黙ったまま立ち呆けている私に、ひとみちゃんが低く尋ねる。 
私は俯いたまま、何も言えない。 
 
「…来てくれて嬉しい」 
 今度は耳元で囁かれる。 
 
 …どういうつもりだろう。 
 混乱しそうになる思考を遮るように、突然ひとみちゃんの手が私のそれに触れた。 
 顔を上げると、試すような笑顔に、いたずらっ子の目が光る。 
 この子、…楽しんでる? 
もしかしたら何も意図なんて無くて、 
先生との事を探る気も、ましてや私を責める気なんて全く無く、 
この状況を楽しんでるのかもしれない。 
 やっぱり、悪戯に誘って楽しんでた付けが回って来たんだ。 
今度は私がからかわれてる。 
 
612 名前:equal 投稿日:2008/03/07(金) 01:53
 
 ひとみちゃんのもう一方の手が、ふと額を掠めた。 
「眉間、シワ寄ってる」 
 くすくすと笑いながら、私の前髪を軽く撫でる。 
やだ。見られたくなくて顔を背けたら、撫でてくれる手を拒んだみたいになってしまった。 
慌ててごめんと謝ると、ひとみちゃんはまた笑う。 
 
 繋いだ手を優しく解いて、ひとみちゃんはベッドの上にごろんと寝転んだ。 
枕に半分顔を埋めて、立ち竦む私を見据えて呟く。 
「…おいでよ」 
 誘うような瞳に逆らえず、フラフラと呼び寄せられるようにベッドへと歩く。 
 長い腕に強引に引き寄せられ、私の身体はひとみちゃんに覆い被さるように崩れ落ちた。 
 
613 名前:equal 投稿日:2008/03/07(金) 01:54
 下から見つめてくる瞳に、背筋がゾクリと震える。 
 
「梨華ちゃん、かわいー」 
 触れるだけの一瞬のキス。 
 肘で支えてた身体をあっさりとひっくり返され、ベッドの上で組み敷かれた。 
 
「かわいくて…」 
 だめ、飲み込まれそう 
 
「食べちゃいたい」 
 
 息だけでそう囁いて、ひとみちゃんは獣みたいに私の唇に喰らいつく。 
 
 舌が奪われてしまいそうな感覚。 
 どうして、こんなに…。おかしくなりそうなくらい、気持ちいい。 
 
 ひとみちゃんの手が服の下を這い出しても、私はもう何も抵抗できずただ本能に身を任せた。 
 
 
614 名前:equal 投稿日:2008/03/07(金) 01:55
 
 
 カーテンが真っ赤に染まっている。ひとみちゃんの白い肌も、差し込む日差しを紅く映す。 
 
「…どしたの」 
 うっすらと開いた瞳が私を捉えた。 
「ん…きれい…」 
 指先で肩をなぞると、ひとみちゃんは、はぁ、と一つ溜息を漏らす。官能的な響き。 
 
 この子は本当に、すべてが綺麗。頭の先から足の先まで、 
睫毛や爪やどんな細かい部分でも、容赦なく美しい。 
ときどきだけど、凄く…嫉妬するぐらい。 
 
「そーいやさ、何でフルーツなの」 
「え?」 
「おみやげ」 
「…あ、うん」 
 具合悪いかと思って、と言い掛けて止めた。 
学校を休んだ事は、ひとみちゃんからは直接聞いてない。 
お友達に聞いたと言っても、まさか痴漢から助けてもらってその時、 
なんて絶対に言いたくないし。 
他にひとみちゃんの欠席を私に知らせる事ができる人は、中澤先生だけ。 
変な誤解を招いたらいけないと思い、私は知らない振りをする事にした。 
615 名前:equal 投稿日:2008/03/07(金) 01:56
「ん…何となく」 
「そっか。ありがとね、いただきます」 
 ひとみちゃんは特に気にする様子も無い。 
嬉しそうに微笑んで、私の前髪を撫でる。頬に垂れた髪の毛を掬って、耳に掛けてくれる。 
 
 いつもは少し淋しげな瞳が、今日は優しくまっすぐに、私を見つめてくれる。 
そう言えば以前は、射るような視線で私を見ては、すっと視線を外す、そういう事がよくあった。 
思えば昨日からその違和感が無い。 
ひとみちゃんの中で、何かが確実に変わったんだ。 
 私は…私は、何も変わってないのに。 
 
 ひとみちゃんは大きな欠伸を一つして、私の胸に顔を埋めた。 
ちょっと舌足らずな口調で何か呟き、言い切らないうちに眠りについてしまう。 
寝息が直接肌に当たるから、くすぐったい…。 
ひとみちゃんの柔らかい髪の毛を撫でていると私も眠くなってきた。 
少しだけ寝よう。そう思って目を閉じた。 
 
 私、この子を傷つけたくないのに。私のやっていることって何なんだろう。 
先生に、会いに行かなきゃいけない。 
いけないと思うけれど、保田さんのもう会うなという言葉が頭をよぎる。 
もうすぐ夏休みが来る。 
 
 
616 名前:equal 投稿日:2008/03/07(金) 01:58
 
 
617 名前:はと 投稿日:2008/03/07(金) 01:58
更新以上です。 
618 名前:はと 投稿日:2008/03/07(金) 01:58
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>606 名無飼育さん 様 
 暗い展開でも楽しみにして頂けると幸いです。 
 
>607 名無飼育さん 様 
 お待たせ致しました。 
 
>608 名無飼育さん 様 
 よっちゃんが本気になれば、石川さんあっさりと捕まってしまうかもしれませんね。 
 
相変わらずの亀更新ですが、長いこと付き合って頂いて有難うございます。 
619 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/11(金) 13:00
楽しみに待ってます
620 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/11(日) 13:15
なんていうか、色気のある(でも品がある)文章がいいですね。
ドキドキしました。
更新楽しみにしています。
621 名前:equal 投稿日:2008/05/29(木) 07:04
 
 
「また焼けた?」 
 ひとみちゃんが眩しそうにこちらを見て目を細める。 
夏休みは部活が無いからそんなに焼けてない筈だけど。 
私は立ち上がって後ろのカーテンを閉めた。 
そのままベッドまで歩いて、寝転がるひとみちゃんの横に腰を下ろす。 
そうすると彼女が私の腕を引いて、髪を撫でて、キスをする。 
そんなことばかり繰り返す夏の日々。 
 
622 名前:equal 投稿日:2008/05/29(木) 07:05
 ばかみたいに身体ばかり求め合って、 
互いにそんな二人をどこか冷静に傍観しているような不思議な感覚。 
きっとくだらない。こんなことを保田さんが知ったら、私怒られるんだわ。 
 
 好きと言って愛し合うのと、好きと言われて抱かれるのは、どっちが幸せだろう。 
私にはそれが分からないから、こんな関係を続けてる。 
きっと普通なら当たり前のように前者を選ぶのだろうけど、 
目の前の愛しい彼女に、私はまだ全てを委ねられない。 
 見上げれば綺麗な横顔があって、それだけで今の私は満足出来てしまうの。 
ひとみちゃんのどこが好きかって考えたら、きっと一番はダントツで顔、だろうな。 
 
 
 あの日から終業式までの数日、 
先生とひとみちゃんは一体どんな顔してお互いの居る教室で過ごしたんだろう。 
先生には会っていないしひとみちゃんからもそういうお話は聞かないから分からない。 
終業式のHRの後、保田さんが私に何か言いたげに声を掛けるタイミングを図っていたようだったけど、 
私は逃げるように教室を後にしてしまった。 
自分が相談したい時は押し掛けて、話したくない時には避ける私はなんてずるいんだろう。 
でも、分からないんだもの。 
自分の気持ちが、というよりは、ひとみちゃんの気持ちかもしれないけど。 
 
623 名前:equal 投稿日:2008/05/29(木) 07:06
 
「梨華ちゃんは夏休み、何か予定あるの?」 
 事が終わるとひとみちゃんは、いつも満足そうに目を細めて私を見る。 
髪を撫でながら優しく話し掛けてくれたり、そのまま一人で眠りに落ちたり、 
時には終わらせてくれなかったり。 
 
 気怠い私達の行為は、恨めしいくらいに爽やかな日差しをカーテンで遮り、 
弱い冷房でも冷え切ってしまう部屋の空気と相俟って、最悪に不健康。 
夏休みってこんなものじゃない筈、 
なんて考えながら答えとして足りうる程の予定があったかを思い出す。 
 
「うーん、友達と海とか…それくらいかな。ひとみちゃんは?」 
「あたし?あたしはごっちんとー…」 
 よく聞く名前。最近だんだんそのごっちんという子が、 
いつも学校で一緒にいる、痴漢から助けてくれたあの子だって事が分かってきた。 
 
624 名前:equal 投稿日:2008/05/29(木) 07:07
「ちょっと旅行いかないかって言われたんだけど、迷っててさ」 
「どうして?」 
「んー、うちの親結構厳しいじゃん。旅行つっても隣県あたりなんだけどねー」 
「ふぅん」 
 厳しい親御さんのいる家の中でこんなことしてるのね、私達。 
誰に問うでも無くそう一人心の中で嗤っていると、 
ひとみちゃんは少し考え込むように間を置いて、何だか言い難そうに話を続けた。 
 
「つーか、ごっちんと旅行ってのが、微妙」 
 
「微妙って、」 
「いや、ごっちんがさ、嫌いじゃないんだけど。何か…」 
 低く掠れて消えてしまった言葉の後を、私は何となく聞きたくなくて。 
「合わないってゆーか…、何か……、」 
 何だろうね、と、またその先の言葉は消えてしまった。 
 
 私は切なくなった。
あんなに良い子なのに。 
人と人が合わないのなんて当たり前の事なのに、 
どうしてこの子はこんなにも繊細なんだろう。 
 
 確かにひとみちゃんとあの彼女とは、少し合わないところがあるのかもしれない。 
本質的な考え方の違いっていうのかな、真面目さの度合いっていうか… 
別にあの子が不真面目ってわけじゃないけど、 
そういう違いがあって、きっと彼女の事が大好きなひとみちゃんには、それが辛いんだ。 
仲良くしたいのに、違和感を感じる。そういう辛さ。 
 
 
 
625 名前:equal 投稿日:2008/05/29(木) 07:07
 
 
 帰りの電車の窓から学校が見えると、それは何だかとても懐かしく感じて、 
私は急に保田さんに会いたくなった。 
電車を降りるとすぐに保田さんに電話した。 
一人で飲もうと思ってたところだったからと、学校の近くの飲み屋に来て、と言われた。 
 そうやっていつも、何があろうと保田さんは私と会ってくれる。 
私だったら急に会おうなんて言われたら絶対に断るのに、 
お人好しな彼女に甘えさせてもらっている。 
 
 
626 名前:equal 投稿日:2008/05/29(木) 07:09
 
 
 保田さんの行きつけの居酒屋。ここに来るのは初めてだ。 
そういえばこの店には、先生も良く来るって言ってた。 
だから私も行きたいと言っても、学校の近くだからと一緒に行く事は許してもらえなかったのに。 
 引き戸を開けると、カウンターに座る保田さんが私に気付き手を上げた。 
挨拶をして隣の椅子を引くと、鋭い視線で睨まれる。 
 
「あんたね、何なのよいつも。ホント急なんだから」 
「ごめんなさい、保田さんとお話ししたくて」 
「終業式はやたら避けてたくせに?」 
 答えずに笑って返し、椅子に腰掛けた。 
久しぶりに座るこの人の隣。それは私を酷く安心させる。 
 
「どうして、ここにしたんですか?」 
「意味があると思うの」 
「だって、いつも駄目って言ってたのに、どうして今日は?」 
「…別に深い意味は無いけど、ちょっとね」 
「なによぉ」 
 彼女の手元のグラスに手を伸ばすと、ぱち、と軽く叩かれた。 
ねだる様な視線を送っても、「今日は駄目」、と一蹴される。 
目の前にお酒があるのに飲めないなんて、つまらない。 
 
627 名前:equal 投稿日:2008/05/29(木) 07:10
 
 最初の一言が決まらないのか、私の言葉を待っているのか、 
保田さんは無言のまま何度もグラスに口を付ける。 
私はそれを眺める。 
再びグラスに手をやると、今度は何も言われず私はそれをすんなりと口に運ぶ事が出来た。 
 
「…どうなの、吉澤と」 
「うまくいってますよ」 
「身体の関係が?」 
 思わず咳込んだ。 
もう、何でこの人は…。 
私はグラスを置いて深い溜息を一つ落とした。 
 
「生意気なのよ、高校生が」 
「そうですね」 
 
 俯いて言葉を探していると、肩に手を置かれ優しく撫でられる。 
変わらない仕草。私はあなたの親友を裏切ったのに。 
瞼の奥に滲む涙を飲み込んで、お酒で流した。 
 
628 名前:equal 投稿日:2008/05/29(木) 07:11
「まあ、身体は素直だからね」 
「やぁだ、もう」 
「身体くらい心も素直になってみなさいよ」 
 
 見上げると保田さんは笑っている。 
彼女の優しさと、大人の余裕だ。 
私だって分かってる。意地や罪悪感なんて、引きずっていても何の役にも立たない。 
私はまだ子供で、 
先生よりも好きな人が出来るくらい許される事であって、 
ひとみちゃんの好意に素直に身を委ねるべきなんだ。 
そうすればいいだけ。 
それでも、私は納得出来ないの。
時々自分の性格が面倒臭いと思える。 
 
 
 暫く無言のまま飲んでいると、それ程騒がしくもない店内に、ガラ、と勢いよく戸を開ける音が響いた。 
その入口から、見覚えのある女の子が暖簾を潜って店に入って来る。 
 
「後藤。」 
「あー、圭ちゃん」 
 確かごっちんと言ったその子は、保田さんに手を振りながら、気怠い視線を私に向けた。 
 
 
 
629 名前:equal 投稿日:2008/05/29(木) 07:11
 
 
630 名前:はと 投稿日:2008/05/29(木) 07:11
更新以上です。
631 名前:はと 投稿日:2008/05/29(木) 07:12
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>619 名無飼育さん 様 
 久しぶりの更新となってしまい申し訳無いです…(;^▽^) 
 待っていて下さりありがとうございます! 
 
>620 名無飼育さん 様 
 非常に素敵な言葉を頂けて嬉しいです。 
 色気は意識してるものの、品があるとはまた恐れ多いんですがそれを崩さないよう頑張ります(*´∀`) 
632 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/01(日) 00:42
変なところが生真面目な梨華ちゃん。
やっぱり、一度会ってちゃんとお別れをしないと駄目なのかな?
633 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/02(月) 01:07
ここでこの人が出てきましたか。
今後の展開が楽しみです。
634 名前:たんたかたん 投稿日:2008/06/23(月) 21:33
お久しぶりです。
いつもありがとうです。
この二人はいったいどうなっちゃうんすか?
痛いってか、切ないのに目が離せない。
幸せ→尼尼を期待したいのですが・・・。
でも、相変わらず快い。
大好きです。

635 名前:equal 投稿日:2008/07/04(金) 17:21
 
 
 保田さんはその子を私に紹介するとすぐに、 
他の席にいたお客さんに呼ばれて席を立ってしまった。 
 
 後藤真希ちゃん、ひとみちゃんのお友達。 
私は彼女とひとみちゃんが一緒にいるところを何度も見ては、時々嫉妬していた。 
だって、凄く綺麗な子。 
すらりと見える背格好は、ひとみちゃんの隣に立つにはあまりにも似合い過ぎてる。 
強気な目線や雰囲気は、年上の私でも少し圧倒されてしまう。 
 
でも、それでは悔しい。 
 
「ね、一緒に飲まない?」 
 立ったままの真希ちゃんに声を掛けると、彼女は少しだけ驚いたような顔で(と言っても、 
お世辞にも愛想が良いとは言えない表情には、微かな変化しか見受けられない)、 
私の隣に腰を下ろした。 
「…なんか、意外」 
「どうして?」 
「あのよっすぃーが先輩はそ〜と〜真面目だって言うから、 
 どんだけと思ってたんだけど。普通にお酒とか飲むんだ」 
「飲むよ。私別に真面目じゃないもん」 
 そう、別に。お酒大好きだし。 
…授業だって、さぼる方が色々と面倒だから、そうしないだけ。 
ひとみちゃんの言う真面目な私は、過大評価だもの。 
 
636 名前:equal 投稿日:2008/07/04(金) 17:22
 乾杯しよっかと誘うと、やっぱり彼女は愛想無しに、グラスを掲げた。 
カチン、と小さく音を立てる。 
「いつも、ひとみちゃんと一緒に居るよね?」 
「先輩もね」 
 その少し棘のある言い方に、ああ、私嫉妬されてるんだ、と思った。 
彼女は、私に友達を奪われたと思ってるのかもしれない。 
「…あの、あたし」 
 何て言ったらいいんだろう。 
ひとみちゃんとは、そういう関係じゃないの、なんて意味深過ぎるし。 
そんなに仲良くないから、なんて言うのもおかしいし。 
…付き合ってるっていうのも、違うし。 
 
 いっそ友達だったら、良かったかもしれない。 
触れたい近付きたいなんて思ったばっかりに、ううん、好きになってしまったのがいけなかったんだ。 
あの日ひとみちゃんに会うまでは、私は確かに先生の事が好きだった。 
それなのに、でも、だって。 
出会ってしまって、好きにならないわけが無い。 
あんなに熱い衝動は、生まれて初めてだったもの。 
 
637 名前:equal 投稿日:2008/07/04(金) 17:22
 
「よっすぃはさぁ」 
 言葉に詰まった私に、真希ちゃんが口を開いた。 
「誰にでも優しいよね」 
「…そうね」 
「あたしは無理、あーゆーの。凄いと思う」 
「そんなこと」 
 だって、知らない私を痴漢から助けてくれたじゃない。 
私がそう言うと真希ちゃんは別に、と抑揚無く答えた。 
「てか覚えてたんだ」 
「忘れないよ。あの時はほんとにありがとう」 
 お礼を言っても、彼女は別に、と答える。 
素っ気ない振りをするところが、ひとみちゃんに似てるかもしれない。 
 私達は静かに飲んだ。時々私か彼女が、ひとみちゃんについてお話するくらい。 
なかなか戻らない保田さんを恨みながらも、こんな時間も悪くないと思った。 
 
 
 
638 名前:equal 投稿日:2008/07/04(金) 17:23
 
 
 目覚めると頭がガンガンする。 
また、飲んですぐ寝ちゃったんだ。 
額を抑えながらうっすらと瞼を開けると、少しの違和感。 
あぁ…そっか、保田さんの部屋。 
昨日はかなり酔っ払っちゃって、とても自宅に帰れる状態じゃなかったんだった。 
 
 だるい身体を引き摺ってベッドから抜け出し、リビングに続く戸を開けた。 
「保田さん…?」 
 そこには居る筈の家主の姿は見えず、替わりにソファーで眠る真希ちゃんが居た。 
 どうして、…あ、まずい。私… 
 そうだ、私が無理矢理真希ちゃんをここへ呼んだんだった。 
 
 昨夜はあの後、やっと戻って来た保田さんと三人でお話をして、 
すっかり酔いが回ってしまった私はひとみちゃんとのことをべらべらと、 
…駄目、…どこまで話しちゃったのか全然覚えてない…。 
確かそれで真希ちゃんとは何となく打ち解けられて、 
上機嫌になった私は、お店が真希ちゃんの自宅だっていうのにわざわざここへ誘ったんだ。 
その後は……、どうしたっけ、 
…取り敢えず、お水飲もう。 
 真希ちゃんが眠るソファーを通り過ぎようとして、私は思わず足を止めた。 
喉の辺りが僅かに動いている以外は、まるで死んだように静かに眠る彼女。 
寝ている時ですら、この子の美しさには隙が無い。 
 
639 名前:equal 投稿日:2008/07/04(金) 17:23
 
「んぁ…」 
「あ、ごめん。起こしちゃった」 
 目を覚ますのも静かで、真希ちゃんは半分ほど瞼を開けて私を見上げると、ゆっくりと起き上がった。 
「…あー、梨華ちゃん、起きたんだ」 
「うん。…保田さんは?」 
 そういえば見当たらない家主の行方を聞くと、 
真希ちゃんは出掛けた、と一言、鍵を揺らして見せる。 
またお礼も言えずに寝過ごしちゃった…。 
 
「おなかすいた」 
「え?あ、そうだね。どうしよっか?ファミレスでも行く?」 
「行くー。おなかすいたー」 
「ごめんね。ちょっと待っててね」 
 おなかすいたよー、と繰り返す真希ちゃんに返事をしながら、私は急いで支度を整えた。 
 
 
640 名前:equal 投稿日:2008/07/04(金) 17:23
 
 外に出ると酷く暑くて、じりじりと肌を焼く日差しが辛い。 
またひとみちゃんに焼けたって言われちゃう。 
汗が止まらない程暑いのに、真希ちゃんの表情はとても涼しげで。 
「真希ちゃん、大丈夫?」 
「あついー」 
 涼しげな顔でそう言うのが何だかおかしくて、私は少し笑った。 
 
 店に着きドアを開けると、ひんやりと冷たい空気が肌をなぞる。 
何だか、気が引き締まる感じ。 
席に着くと真希ちゃんは、ちょっと考えられない位の量のメニューを頼んで嬉しそうに笑った。 
普段の冷たい印象すら与える表情とは、まるで別人みたいに可愛く笑う子。 
 
641 名前:equal 投稿日:2008/07/04(金) 17:24
 
「ね、昨日、ごめんね」 
「なにがー?」 
「無理矢理誘っちゃって…」 
「別にー。圭ちゃんち興味あったし」 
 楽しかったし、と付け加えるように言って、真希ちゃんはまた笑った。 
「でもさぁ、梨華ちゃん、すごいんだもん。ちょー酔っ払っちゃってテンション高くて」 
 けらけらと手を叩きながら笑う。 
私は恥ずかしくて頬が熱くなるのを感じた。 
その上あんまり覚えてないなんて、最低だわ私…。 
 
「よっすぃーちょっと引いてたしね」 
 
「え!?」 
 何、どういうこと?ひとみちゃん?どうして? 
 
「え、何で…」 
「覚えてないの?」 
 声も出せず私はかくかくと頷いた。 
真希ちゃんは可笑しそうに笑いながら、私の覚えていない部分を話してくれた。 
 
642 名前:equal 投稿日:2008/07/04(金) 17:24
 
 それは記憶が飛んでいる保田さんの部屋に着いてからのことで、 
初めは真希ちゃんが、ひとみちゃんに電話をしようと言い出したみたい。 
真希ちゃんの携帯で掛けて、初めに真希ちゃん、次に保田さん、とひとみちゃんとお話して、 
どうやら夜中の迷惑な電話にかなり機嫌が悪そうだ、ということになって。 
替わりに謝ってと電話を渡された私が一番酔っぱらっていて、 
呂律も回らず訳の分からないことをまくし立てて切ってしまった…。 
 
「その後掛けたら、よっすぃーかなりびっくりしてたよ。 
 今のほんとに梨華ちゃん?とか言ってー」 
「……もう嫌…」 
 今まで生きてきた中で、一番最悪の出来事かもしれない。 
絶対嫌われた、間違い無い。 
私、何て事してたんだろう。恥ずかしくて消えてしまいたい。 
 
「面白かったよー。梨華ちゃんて、なかなか過激だね」 
 真希ちゃんはニコニコと笑いながら、やっと来た料理を幸せそうに頬張った。 
その後すぐに私の頼んだものも来たけれど、それどころじゃなくて。 
私は不器用にフォークを揺らすだけだった。 
 
 
643 名前:equal 投稿日:2008/07/04(金) 17:25
 
  *  *  *  *  *  
 
644 名前:equal 投稿日:2008/07/04(金) 17:25
 
 
 『着信中 吉澤ひとみ』 
 これ程電話に出るのに戸惑ったことは無い。 
この電話に出たら、きっと全てが終わってしまう。 
出なくてももう終わってるようなものだけど…。 
何て言ったらいいんだろう。あぁ、早く出ないと、余計に怒らせちゃう…。 
 心臓が速い。震える指で通話ボタンを押そうとした時、着信は切れた。 
絶望に近い焦りと少しの安堵とが頭の中で絡まり合い、 
息つく暇も無く二度目の着信で携帯電話が震える。 
出るしかない。今出なかったところで、いつかは出るしか無いんだもの。 
 
「…もしもし」 
「あのさ、いつごっちんと仲良くなったの」 
 電話口のひとみちゃんは、当然だけど怒っていて。 
そう言ったきり黙ってしまった。 
私は必死で昨日の出来事を話し、それからひたすら謝った。 
人生でこんなに謝った事って、きっと無かったってくらい。 
けど、長い沈黙を破りひとみちゃんが発した言葉は、意外なものだった。 
 
645 名前:equal 投稿日:2008/07/04(金) 17:26
「…そっか。何か、知らないとこで実は二人ずっと繋がってたのかなとか思って、 
 ちょっと悲しかったんだ。昨日からってゆんなら、別にいいんだ」 
 ひとみちゃんは、もしかしたら少し涙ぐんでるような声でそう言った。 
…私、馬鹿だ。私の失態なんてどうでもよくて、 
ひとみちゃんが居て当然の面子に彼女を呼ばなかった事が、 
繊細な彼女にとって僅かでも淋しくない筈無かったんだ。私はますます申し訳無くなった。 
 
「あんな形で、報告することになるとは思わなかったんだけど」 
「そうだね。酔っ払いの電話とか、あたしは好きじゃないね。 
 梨華ちゃんがあんなだと思わなかったし」 
「…ごめんなさい…」 
「いいよ。梨華ちゃんて、なかなか過激なところもあったんだね」 
 そう言ってひとみちゃんはくすくすと笑う。 
私も、友人と同じような感想を持ち合う二人が何だか嬉しくて、声を出さずに笑った。 
 
 
646 名前:equal 投稿日:2008/07/04(金) 17:26
 
 
「ところで、あの時言ってた事だけど」 
「え?」 
 あの時?ってもしかして、私が電話で言ったこと? 
私は一気に窮地に立たされた。 
何しろ完全に記憶が無い。 
まくし立ててたっていうんだから、覚えてないなんてとてもじゃないけど言えないもの…。 
 
 電話の向こうに再び沈黙が訪れ、私の心臓も再び鼓動を速める。怖い。 
真希ちゃんが言うには、たまに聞き取れた単語の限りでは、 
話の内容も相当過激だったんじゃないかって事。 
どうしよう。今ひとみちゃんが何か言う前に、覚えてないって正直に言うべきなのかな。 
でも、言わない方が良い場合もある。どうしよう、どうしたらいいんだろう。 
 
「…あのさ、ちゃんと考えたよ」 
 低く掠れる言葉の間に、聞き慣れた吐息が混じる。緊張してる時の息遣い。 
 
「あたしやっぱり、梨華ちゃんが好きだから」 
 迷いの無い声で、ひとみちゃんは言い切った。 
 
「ちゃんと向き合おうと思います。だから、いっかい話そうか」 
 
 
 
647 名前:equal 投稿日:2008/07/04(金) 17:26
 
648 名前:はと 投稿日:2008/07/04(金) 17:27
更新以上です。 
649 名前:はと 投稿日:2008/07/04(金) 17:29
( ^▽^)<レスありがとうございます! 
 
>632 名無飼育さん 様 
 さて生真面目梨華ちゃんは、ちゃんと決着つけられるんでしょうか… 
 
>633 名無飼育さん 様 
 ここのごっちんは移籍しませんので、今後とも宜しくお願い致します(ノ∀`) 
 
>634 たんたかたん 様 
 こちらこそいつもありがとうございます。 
 未だgdgdでどうなるか分かりませんが、スレの趣旨だけは守り通したいと思っています! 
 
長らくお付き合い頂きありがとうございます。 
今まで書いたお話をまとめたページを作りました。→ttp://equal.mizusasi.net/novels.htm 
誤字や改行など、おかしなところは出来るだけ訂正しましたので若干読み易いかと思います。 
宜しければご利用下さい。 
今後の更新は引き続きこのスレで行います。 
今しばらくお付き合い頂ければ幸いです。 
650 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/05(土) 02:09
イチャイチャも好きですが、このいしよしの感じも引き込まれます。
安田さんとかごっちんも良い味出してますねw

更新お疲れ様です。
楽しみにしてます。
651 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/05(土) 04:34
はとさん 久しぶり〜
HPのほうも訪ねてみますね。更新お疲れさまでした。
652 名前:たんたかたん 投稿日:2008/08/18(月) 20:05
はとさん!
夏ばてしてませんかー?
毎日暑いですね!。
HP訪ねちゃいました。
快さを待ってまーす。
653 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/15(月) 00:46
HP消えてる・・・。
もう、書かないって事なのかな?
654 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/15(月) 01:04
つttp://equal.mizusasi.net/
655 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/15(月) 22:20
654さん、ありがとー!!
656 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/16(火) 02:34
>>654さん
ついでに私も!ありがとう。

はとさんも元気かな?待ってますよー
657 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/20(木) 21:44
まだかな
658 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/26(金) 18:15
待ちます
659 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:08



 「話そう」と言ってもらえたのに、なかなか時間が合わず私は苛々していた。
ひとみちゃんは少し前に始めたアルバイトが忙しそうで、私は急遽家族旅行へ行くことになったり。
あんなこと言われたら、一日でも早く会いたいのに。
でも、避暑地の涼しい空気で頭を冷やすには丁度いいかもしれないと思った。
帰ってからも時間が合わないのは、今の私達には良い充電期間なんだと思って諦めた。
660 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:09


 そうして夏の気怠い暑さが続く中、まだ日も昇って数時間と経たない朝に母に起こされた。
もう、なんなの。眠い頭で数秒考えてから、そう言えば今日は母の従姉妹の一家が訪ねて来る日だったと思い立つ。
私は慌てて人前に出られる程度に身だしなみを整えてから、食卓につき絵梨香も来るのか尋ねた。
「来るよ」と母は言った。予想外の答え。
絵梨香が来るなら、部屋にも入るかもしれない。
片付けようと思って急いで朝食を済ませる。

 私は、はとこの絵梨香が苦手だ。
小さな頃はよく遊んだけど、それなりに成長して何となく相性の悪さを感じ合うようになってからは、滅多に会わなくなっていた。
おばさん達は年に一、二度程遊びに来るけれど、絵梨香とはもう三年は会っていない。
今日は何の予定も無かったけれど、何か用事を作って出掛けようかとも思った。

661 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:10

「梨華ちゃん、久しぶり」
 三年振りに会う絵梨香は、当たり前だけど大人っぽくなっていて。
それでも、私が苦手とする、私と通づるようなあの、鬱めいた暗さを変わらず纏っていた。

「久しぶり。元気だった?」
「うん、梨華ちゃんは…」
 元気だよ、と私は絵梨香の肩をぽんと叩いた。あぁ、懐かしい。
さっきまではあんなに気が重かったのに、いざ会ってみればどうってこと無いわ。
私は久し振りに絵梨香と話がしたくなった。
おばさん達に軽く挨拶をして、絵梨香に部屋に来るか尋ねた。
うん、と絵梨香は嬉しそうに頷いた。
662 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:10

「今日はどうしたの?」
 部屋に入り、久々に来る気になった理由を尋ねる。
どうせまた突拍子も無いことを言い出すんだろうと思えばその予感は見事的中した。
何だか今度はテニスのウェアを集めているんだって。
子供の頃にも、確か『解体クラブ』なんてものを作って自転車なんか解体して遊んでた、
絵梨香は相当な変わり者だった。

「古いのでいいからさー。梨華ちゃん中学もテニス部だったよね?」
 うん、と返事をしながら、そう言えば絵梨香はどこの中学に行ってたんだっけ、と思い出そうと頭を巡らせた。

 あれ、そう言えばひとみちゃんと絵梨香の家って、そう遠くなかった気がする。
最寄り駅こそ違うから思い出さなかったけど、そう言えば近い。同じ市内だ。
同じ学区内ってこともあり得る。
ひとみちゃんて何中だったっけ。
やばい、忘れてる。
そう言えば美貴ちゃんも、ううん美貴ちゃんはいいけど、もしかして、もしかしたら、
663 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:11
「…絵梨香」
「なに?」
「絵梨香って中学、何部だったっけ?」
「バレー部」
「後輩に、吉澤ひとみちゃんて居なかった?」

「…いた、けど、」
 絵梨香の低めの声が少しだけ上ずって、視線は不自然に一瞬、宙を舞った。

「梨華ちゃん、何で知ってんの?」
 何で、って、何で動揺してるのか、聞きたいのはこっちよ。

「…同じ高校で、仲良いんだ」
「ふーん…私も、良かったよ」
 良かった、過去形。

「絵梨香。今はね」

 今は、私のものなの。
なんて言いそうになる。
どうかしてる。
どんな関係かなんてわからないじゃない。何焦ってるんだろう。
ひとみちゃんのことになると…、何ていうか、見境無いわ、私。
664 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:13
「…今は、1つ下なのに大人っぽくて」
「あーわかる」
「やっぱり昔からそう?」
「うん、人気あったよー」
 苦笑いしながら絵梨香は、ひとみちゃんのことを話してくれた。
どこか気まずそうに、けれど、ひとみちゃんのことを好きだというのは伝わった。
どれくらい好きだったかは、はぐらかされてるような話し方。
仲違いでもしたのかなと、探りたくなる。でも知りたくはないの。
ああ、こういう感じなんだ。私と中澤さんの、ひとみちゃんにとっての。



 酷い暑さも少しだけ和らいだ午後に、また来るねと言って絵梨香は帰っていった。
本音が7割、社交辞令が3割ってところかな。どっちに転んでも私は、あまりいい気はしないんだろう。
会えばひとみちゃんのことで嫉妬してしまいそうだし、会えなくてもそれはそれできっと淋しいんだ。
665 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:13

 ひとみちゃんに会いたい。
 何だかどうしても、ひとみちゃんに会いたくなった。
絵梨香に嫉妬しての自分勝手な欲望。そう、いつだって私は自分勝手なんだ。
ひとみちゃんの気持ちを考えてあげられたことなんて、ちっとも無いの。

 ふいに涙が出そうになって、上を向く。
 馬鹿みたい。
 でも、自分を責める事なんて自分へのポーズでしかないから。
意味の無い事はやめて素直になろう。
ひとみちゃんに会いに行きたい。
バイトの後でも少しくらいなら、時間を取ってくれるって言ってたし。


 電話をして約束をして、私は夜を待った。
会いたいと言う私の言葉に、ひとみちゃんはほんの少しだけ焦ったような反応を返した。
気のせいかもしれないけど、少しだけ。
もしかしたら、物凄く迷惑だったかもしれない。
ひとみちゃんは会いたくないかもしれない。
もう話す気なんて無いのかも。
そんなことばかり考えながら時間を過ごした。

666 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:14

 待ち合わせたのは、夜の学校。
既に閉められた門の前でひとみちゃんを待つ。
纏わり付く湿気が、熱帯夜の空気を一層不快に感じさせる。
早く来て。何故だか妙に気が逸る。
鳴らない携帯電話を握り締めながら、夜空を仰いで深呼吸した。

 …苦しい。
 湿気と、熱と、細い喉と。
 ひとみちゃんに会いたい。

 会いたくて会いたくて、気が狂いそうなくらい。
何故だか身動きが出来なくなって、金縛りにあったみたいに上を向き続けた。
667 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:15
「なーにやってんの」

 朦朧としていた意識が一気に引き戻されて、私は声の主を振り返った。
「星が綺麗だね」
 そう言ってひとみちゃんは、満天の星を仰ぐ。
そんなの見てもいなかったなんて言えないから、私ももう一度上を見た。
苦しさで気付いてなかったけど、それは彼女の言葉通りとても綺麗で、私は思わず息を飲んだ。
さっきまで淀んでいた空気が一気に爽快に、生まれ変わったような感覚。
久し振りに会う愛しい人。背が高い彼女には、私より少しだけ、本当に少しだけ、
あの輝きが近くに見えているんだ。
何だか悔しいじゃない。
私は小さな足で背伸びして、ひとみちゃんと肩を並べた。

「バイトお疲れ様」
「ありがと。待った?」
 背伸びをやめて彼女を振り返ると、変わらない優しい笑顔。
「ううん、暑いね」
「暑いけど手繋いでいい?」
 いいよ、とも言ってないのに、ひとみちゃんは私の手を取って強く握った。
それがとても突然で、私は何も言えずにうろたえるように彼女の顔と手元とを見た。

「…冷えてんじゃん」
「うそ。暑いのに」
「暑いのにね」
 握られた手を優しく撫でられる。両手で包み込むように。
下を向いたひとみちゃんの表情は、よく見えない。
月の明かりが彼女を照らして、髪も頬も長い睫毛も、消えてしまいそうに透き通って儚い。
668 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:16

「中、入ってみよっか」
 ひとみちゃんは弾けるようにそう言って笑うと、私の手を引いて駆け出した。

「ちょ、ちょっとぉ、平気なの?誰か先生とか居たら…」
「へーきだって別に大騒ぎするわけでもないし」
「…好きなんだから、そういうの」

 相変わらずの強引さで、強く私を急かす。
あまり気が乗らないまま東門まで連れられ走った。
それは理科棟の裏にあるひっそりとした小さな門で、
鉄製の門扉に手を掛けるとひとみちゃんはひらりと跳び上がり、あっさり乗り超えてしまう。
普段は大人みたいに振る舞うくせに、こういう時は酷く無邪気で子供のよう。
早くー、なんて言ってぴょんぴょん跳ねるひとみちゃんをよそに、私はゆっくりとその門を乗り越えた。
学校に忍び込むのなんて初めてだ。

「夜の学校って何かエロくね?」
 ひとみちゃんがニヤニヤしながら私を見る。ほんとに子供みたい。
なんて、私もちょっと思わなかったわけじゃないから、余計に恥ずかしくて真っ赤になってしまった。
あぁ、くだらない…。
そんな私に気付かずひとみちゃんはさっさと先へ行ってしまう。
私もそのまま歩いて彼女の後を追った。
669 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:17

 私達は口数も少なく、月明かりだけの校内を当ても無しに歩き回った。

「あれが梨華ちゃんと、ミキティのクラスでしょー」
 そうやってひとみちゃんは時々、誰も居ない教室の窓を指して何か言った。
私は返事をしたり頷いたり、彼女を見つめたり。
「ひとみちゃんの教室は?」
「あっちかな。違うわ、あれだあれ」
 私は彼女が指す先の窓を見る。
あそこに毎日、ひとみちゃんと、真希ちゃんと…先生、が。
昼間だったら見覚えがあったかもしれないけど、暗くて全然わからない。感覚が狂ってる。
それでも夜中にしてはばかに明るくて、おかしいなと思うくらい。
これだけ明るかったら満月の夜にはもっと、
なんてぼんやりと考えながら、少し先を歩くひとみちゃんの後を黙って追う。

 前を歩く彼女から流れる匂いが鼻を擽る。
無意識に押し寄せる安堵と、じわじわと湧き上がるように襲う不安とが、甘い香りで私を支配する。
眩暈でも起こしそうなほどに。
そんな葛藤で混乱している私を、ひとみちゃんが突然に振り返った。
立ち止まって身体ごと私に向き合い、

「あのさぁ」

 低く響くひとみちゃんの声。
別に男の人みたいに低いわけじゃないけど、
少しだけハスキーで、
何だか心地良くセクシーに響く。
この声が好き。
670 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:18
「あたしめんどくさいことが凄く嫌いで」
「ふふ、知ってる」
 ひとみちゃんはふわりと笑って、くすぐったそうに髪をかき上げる。
薄い唇が小さく息を吐く。
月明かりに透き通る姿が、発光して見えて何だか不思議。

「梨華ちゃんとか超めんどくさいじゃん」
「ちょ、なによぉ」
「でも好きなんだよね」
「…ん…」
 何だかとても恥ずかしくて、真っ直ぐに見つめる彼女の瞳を見つめ返すことが出来なくて、
視線を逸らせばいつの間にかそこは、私達が出会ったテニスコートの前だった。
ひとみちゃんが分かっていてここで立ち止まったのか、それとも唯の偶然なのかとか、
どうでもいいくらい何も考える余裕が無い。
好きと言われた嬉しさや切なさや後ろめたさが、私の指一本すら動く事を許さない。

 ひとみちゃんはいつもなら黙っていると必ず怒るのに、今日はとても優しい顔で私を見つめる。
その表情に息が苦しくなる。
我慢出来ずに、涙はぱらぱらと足元へ落ちていく。

「泣くなよ〜」
 ひとみちゃんは少しだけ困ったような顔で、それでも笑顔で、私の腕を取って引き寄せた。

 噎せるような甘い香り。
 刺激で脳がおかしくなりそう。

671 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:21

「何かさ」
 息を吐くみたいに囁く癖が好き。
自分勝手に抱き寄せるのに、優しく触れる手が好き。
「ちゃんとしなきゃって思うとすげーめんどくせーから、ずっと逃げてた。
 だってさちゃんとするの意味が分かんないじゃん。
 女同士で付き合うってのもよくわかんないし、中澤との関係もあたしは知らないし」

「…先生とは、…もう」
 もう終わってる、とは言い切れなくて、その先は言えなかった。
別れてからも教員室へ行っていたのは私。拒めなかったのも、私。
だけど言わなかったところで、ひとみちゃんはだらしない私をもうきっと知ってる。

「忘れてよ。あたしの為に」
「…わかって、るんだけど」

「誘ったのはそっちなのにズルいじゃん。あたしが欲しかったんでしょ?
 手に入れてからビビってんなよ。貫き通してよ、堂々としてよ」
672 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:21

 抱き締められてるから顔は見えないけど、言葉の最後が上ずって、泣いているんだと分かった。
私はずっとひとみちゃんに辛い思いをさせてたのに、気付かない振りしてた。
悩んでるのは私なんだって、捕まえてくれない彼女のせいなんて、そんな事考えてた。


 ああ。心臓が千切れそう。


「…ひとみちゃん…」

 夜が静かだからか、私の耳には何も聞こえなくて。
ひとみちゃんの呼吸以外何も聞こえない。
震える肩を抱き返すと、彼女はその身体を私に預ける。
柔らかい髪が私の頬を擽る。

 何も聞こえないし涙で何も見えなくて、酷く不安定な筈なのに私の脚はしっかりと、二人ぶんの身体を支える。
ひとみちゃんの呼吸や体温や匂いが、直接脳に届きそうな程に私の五感を刺激する。
立ち昇るような甘い香りが、自分の発情の匂いじゃないかと思うくらい。
そこに在る身体が、どちらのものかも分からないくらいに。


 それから私は彼女にたくさん好きと言って、そしてその後の事は…よく覚えていない。


673 名前:equal 投稿日:2009/01/10(土) 11:22
 
 
674 名前:はと 投稿日:2009/01/10(土) 11:22
更新以上です。
675 名前:はと 投稿日:2009/01/10(土) 11:25
( ^▽^)<レスありがとうございます!


>>650名無飼育さん 様
ずうずうしくも「雰囲気がある」と捉えていいんでしょうか
ヤススごっちんもいしよし小説に欠かせない人物だと思ってますので、
自分なりに丁寧に書いています。

>>651 名無飼育さん 様
毎度お久しぶりで申し訳ないです;
HPのほう訪ねて頂けたんでしょうか、ありがとうございます。

>>652 たんたかたん 様
すみません夏以来の更新になってしまいました;
今は毎日寒いですね。
HP訪ねて下さってありがとうございます。あまり面白いものもありませんが。
快さは感じて頂けたでしょうか…

>>653-655 名無飼育さん 様
すみません本来なら私がここでお知らせするべきでしたね、申し訳無いです;

>>656名無飼育さん 様
すみませんお待たせしました;
物凄く元気なのでちゃんと更新しますね。

>>657->>658 名無飼育さん 様
本当にお待たせしてしまいました、
待っていて頂きありがとうございます!


前回の更新から半年も経ってしまいました…。すみません。
たぶん次回で更新最後になるかもしれません。
スレ容量は余ってるので、このお話が終わってもまた短編などで利用させてもらうと思います。
676 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/17(土) 00:19
待ってました!待ったかいがある内容でやっとココまで来たかという感じですw
そして、あの人とあの人がそんな関係とは!!
次回の最終回楽しみにしています。あと短編も♪
677 名前:たんたかたん 投稿日:2009/01/20(火) 21:39
お久しぶり!
お帰りなさい。
快い風、待って・・・待ち焦がれてました。
HP素敵で・・・最近引きこもり気味です。
楽しませて頂いております。
どんどん行ってくだされ。
付きまといますから。
678 名前:はと 投稿日:2009/04/22(水) 07:34
( ^▽^)<レスありがとうございます!

>>676 名無飼育さん 様
お待たせしました。やっとここまで来ました!
あの人とあの人の関係はかなり最初から設定してあったので、
それもやっと出せたという感じです。
最終回はまだですが、短編を書かせて頂きました。

>>677 たんたかたん 様
毎度お久しぶりで申し訳無いです(^^;)
HP見て下さってありがとうございます。
お待たせしてばかりですが、まだまだ行く気です!
快い風、届けられるよう頑張ります。
679 名前:はと 投稿日:2009/04/22(水) 07:35
二人の卒業記念に短編を上げさせて頂きます。
これは随分昔に書き出して放置していたものなのですが、
久しぶりに梨華卒コンDVDを見て衝動的に続きを書きました。
その為だいぶ筋のまとまってないおかしな話になってますが、
気にしないよという方は読んでやって下さい。マジ駄文ですが。
equalの更新途中なのに本当に申し訳無いです。
680 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:37
 
681 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:38


5月がやってくる。
モーニング娘。で居られるのも、あと少しなんだ。
あたしは卒業、…梨華ちゃんは、二年になるのか。
5月の6日と7日の間を、指でなぞる。ツンと指先で弾くと、
小さなカレンダーは音も無く倒れた。


…あの頃。



『卒業したら、キスしよう』



そう言って梨華ちゃんは、娘。を去って行った。
682 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:39

 ◇ ◇ ◇


「来年の春に、石川が卒業する」
飯田さんが卒業すると、そう告げられたすぐ後に、
あたしはその事実を突き付けられた。
それだけの話で、言葉にすれば本当にそれだけで。
それまでの四年間とか、残りの一年とか、卒業してからの…何だか色々を、
考えてはいけないような気がした。
梨華ちゃんが、卒業。
あたしの頭は一瞬で考える事を放棄し、その後はただ糞真面目に、二人の卒業に関する事項に耳を傾けていた。


話が終わり部屋を出ると、メンバー達が思い思いの表情を見せる。
淋しさとか、憂いや焦燥。
卒業なんてもう年中行事みたいなもんだから、
大したことではあるけど大したことじゃない。
娘。という枠を出て仕事をする。それを卒業と呼び、最後の時には「おめでとう」と言う。
それが決まり。しきたり、みたいな。
「卒業」を自分の中で受け止め整理する術を、それなりの感傷に浸る余裕を、皆もう持ってる。
あたしだってそうなんだけど、その筈なんだけど。

どうして、何も出て来ないんだろう。
言葉も感情も、事実を整理してくれる筈の理性も、
一切がどこかへ行ってしまったような感じ。
「卒業」という言葉だけが、ただ頭の隅でちらつく感じ。

ふと梨華ちゃんと目が合った。
…一瞬。
お互いさりげなく逸らすのが、随分上手くなった。
683 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:40


「よっちゃーん」
あいぼんが笑いながら走ってきて、座っているあたしの膝上にすとんと収まる。
可愛いなあ。
昔も今も、あいぼんは子供で。そんでもって少しだけ、大人であって。
あと数ヶ月して、夏になればこの子もののも卒業だ。
「よっちゃんあっちいこ。」
立ち上がって手を引かれる。
そう言って時々、広くはないけれどそれ程狭くもないレッスン室の中を、あちこち連れ回される。
めんどくさいけど、少し嬉しい。
いつもひとりでぼーっとしてるのは、気が楽だけど淋しい時だってある。
そして今日のあたしは特別、淋しく見えたかもしれない。
あいぼんは分かってしまうんだろう。自分が淋しがりだからかな。

手を引くあいぼんの背中が、あたしに問い掛けているように見える。

『よっちゃん、平気?』

優しくしてくれた飯田さんに、同期の梨華ちゃんの卒業。
…何だろうな、よく分かんない。
今は、何も考えられないよ。
心の中でそう答えた。


その日は普段通りレッスンをこなして、家に帰り一日を終えた。
いつも通り、普通の一日。
一つだけ普段と少し違ったのは、日記を開いてもちっともペンが進まなかったこと。
684 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:40

思えば、初めての卒業というのは市井さんで、
あの時のあたしはまだ何も分かってなかったし、市井さんと過ごした時間なんてのも本当に僅かなものだった。
中澤さんの時も、あたしはまだ、卒業するのかくらいの感覚で…
ごっちん。ごっちんの時は、悲しかった。淋しかった。
淋し過ぎて、憤りに近いものを感じたのは覚えてる。
あの時で初めて、何で?って、卒業って何、って思ったのかもしれない。

でも、そんなもんだ。卒業なんて。
淋しさと不安が渦巻くだけ。少し、泣くくらいで。
でも梨華ちゃんは、

梨華ちゃんは…。

685 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:40


ハロモニの収録。騒がしいスタジオの中で、台本を捲る。

あ、今日梨華ちゃんとの絡みあんだっけ。

何となく鬱…とか、普段なら思ったりするんだけど。
今日は特別鬱だ。
出来ることなら逃げ出したい。
でも、あと数十分で衣装を替えて一徹のメイクをしてカメラの前に立たなきゃいけないんだ。
セリフの確認は後にしよう。そう思って台本を置いた。

後ろから梨華ちゃんの声が聞こえる。
あの特徴ある声、少しでも近くに居れば嫌でもわかってしまう。
ああ、こっちに来る。


「ね、よっちゃん」

いつからよっすぃ〜とかひーちゃんって、言われなくなったんだろ。
皆と同じ『よっちゃん』と呼ばれる度に、
もうあなたの事は何とも思ってないの、って言われてるような気になる。
まあ実際にはそんな、大した意味は無いんだろうけど…、無いといいんだけど。
だってあたしは、梨華ちゃん、と素直に呼ぶ事が出来なくなってる。
686 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:41
「なに?」
「ねぇ、ここのとこさあ…」
「あーなに、ちょっと待って」
置いた台本をまた手に取り、梨華ちゃんが示したページを探そうと急いで捲る。
「広場でのシーンなんだけど」
「えーと、あった、うん」
「ここのこの一徹のセリフで、トメ子がぁ…」
台本を読みながら一生懸命問い掛けてくる梨華ちゃん。

ああ、そうだな例えば、今だって。
昔なら一つの台本を、顔を寄せ合って見たんだ。
数センチって距離で笑い合ったりして…、すぐ傍に梨華ちゃんの笑顔があって。

梨華ちゃんと話すのは落ち着かない。
もっとこの人の声が聞きたくて、笑顔が見たくて、
もっと、って、梨華ちゃんが欲しくなる。

そんな自分に蓋をする。

蓋を閉める音が、いつからか梨華ちゃんには聞こえてたみたい。
687 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:42
「…そっか。わかった!ありがと」
一通り確認が終わると、梨華ちゃんはすっとその場を離れて行った。
その後ろ姿を見つめながら、
あぁあたしってホントに、梨華ちゃんの背中ばっかり見てる。そう思った。
ステージでも、楽屋でも、どんな時でも。
踊ってる背中や、話してる背中や、時にはじっと立つその後ろ姿を。

梨華ちゃんの背中は、女らしい曲線が綺麗で、黒い肌が何だか艶かしい。
あたしの背中なんてのはきっと、無駄に骨が出てて、猫背で、色気が無いんだろうな。

梨華ちゃんの背中は、センターを張る背中なんだ。

指で窓を作って、その中に閉じ込めてみる。
本当に、こんな風に彼女をあたしのモノにできたら。

その背中に近付きたい、
触れたい、

いっそ壊したい。


窓を閉じて拳を握った。

残ったのは、どうしようもないほどの虚無感。
圧倒的な、喪失感。

昨日卒業を聞いた時から必死で身を隠していたあたしの本音は、
たった一日であっさりと正体を現してしまい、あたしの心を支配する。

こうしてあたしはいつだって、梨華ちゃんが絶対的に特別な存在だと思い知らされるんだ。


─怖い。

アヤカとまいちんに会いたい、
二人に会えば、あたしはあたしで居られる。

一人の女の子に、気が狂いそうな程固執してしまうあたしじゃなくて。
もっときっと普通の、ただの吉澤ひとみで居られるんだ。
688 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:42

 ◇ ◇ ◇


梨華ちゃんという存在を意識し始めたのは、娘。に入ってすぐだった。

あまりにも女の子らしい彼女を見て、「違う人種だ」とハッキリと悟った。
学校だったら全然喋らないタイプだな。
普通同じクラスとかだったらそれなりに皆仲良くなるものだけど、
中でも特にあの子とはあんまり話した事無いな、てタイプ。

合わないんだよなとは思ってたけど、
合わないってゆーより、正反対?
言葉遣いとか仕草とか、声とか、体型とか。
これが「女の子」なんだって気付かされたら、妙に意識するようになってしまった。

あたしが女らしくないってか男っぽいのは、意識してやってるとこも大きいけど、
やっぱりもともと女の子な要素が少ないんだと思うわけで。
だから梨華ちゃんにひどく惹かれたんだ。

ほんとは、女の子なんて大嫌いだった。
くだらない喧嘩に時間を費やして、
常に誰かと女であることを競って、
男に寄り掛かって生きる。
くだらない。そう思ってた。
だから男に憧れた。
『見えなくなるほど遠くにボールを投げれる強い肩
 うらやましくて男の子になりたかった』
そういう歌があったっけ。
そう、まさにアレ。

メンバーに冗談で「よっちゃんは男」なんて言われても、嬉しいぐらいだった。
私はあんた達とは違うって、思ってたバカなあたし。

梨華ちゃんなんて、大嫌いなタイプだった筈なのに。
彼女はあたしに意識させた。女であることの魅力を。
女なら当り前にできることを、出来なかったあたし。


本当は怖いだけだ。
強がることでしか身を守る方法が無かったんだ。
女らしい言葉遣いをすれば舐められる。
か弱い素振りを見せれば突け込まれる。
女らしく着飾ればいやらしい目で見られる。
─そういうのが、堪らなく怖いだけなんだ。

689 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:44
 ◇ ◇ ◇


「おはよ」
「…おはよう」
朝仕様の、テンション低い梨華ちゃんに挨拶する。
挨拶だけはきちんとする。
あまり話さなくなってからも、それだけは普通にしてきた。
それは礼儀として。強がりとして。誤魔化しでもあって。

きっとお互いに存在を確かめてる。
今日も居るよ、と。
今日も居るのかよ、と。
今日も、居てほしい──て。多分ね。


メンバーへの発表があってから一週間、卒業については、まだ一度も話してない。
口にはしない。する必要も無い。
言ったところでお互い、なにか気の利いた台詞を交わせるわけでもないし。
あくまで普通の話しかしないけれど、あたしの胸の苦しみを、梨華ちゃんが察しているのがわかった。
優しい目であたしを見つめなだめるような口調で話す。
いやだ。嬉しいけど、そんなのはいやなんだ。
落ち込んでるあたしを見ないでほしい。
あなたを失うことに絶望を感じるあたしを。


それからも暫くは、梨華ちゃんの態度にあたしは益々強がっていた。
顔を合わせれば悟られてしまうからあまり関わりたくもなかった。

けどそんな強がりも1ヶ月ぐらいが限界で、やっぱり少しでも多く傍にいたいと思った。
残っている時間を共有したかった。
卒業と聞いてノコノコと傍へ戻って来たあたしを、
梨華ちゃんは受け容れてくれた。
嬉しそうに笑っていた。

ああ、あたしってバカだなぁ。
同期の有難み。こういう時こそ、そういうものを与えてあげなきゃいけなかったんじゃないの?
自分勝手で嫌になる。日記だけに、そう懺悔しておいた。
690 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:44
ノートを閉じベッドに寝転がると、携帯の着信音が鳴り響いた。
梨華ちゃんだ。
メンバーから電話なんて珍しい。
まさか昼間の愚痴の続きじゃないだろうななんて、
ひとり眉を顰め通話ボタンを押す。

「もしもし」
「あ、よっちゃん?寝てた?」
「や。なに?どしたの」
「んー、…特に用は無いんだけど。なんとなく」
「ハァ?珍しいね」
梨華ちゃんが用事も無しに電話を掛けてくるなんて、本当に稀だ。
用事があったって連絡を面倒がる梨華ちゃんが。

「なんかさぁ…」
少し躊躇いがちに、梨華ちゃんは言葉を切った。
ほんの数秒の沈黙が訪れる。あたしは無駄に緊張する。
どうしたのと返そうか、黙って続きを待とうかと考えていると言葉は放たれた。
「よっちゃんの声、聞きたいなって」

がつん、と心に響いた。
照れ隠しに笑うことしか出来ない。
あたしはこういう時に、素直に喜びを表す方法さえ知らないらしい。
内心嬉しくて嬉しくてしょうがないのに。
あたしの声が聞きたいって言うなら、何時間だって話してやりたい。
そんな風に思うくらいなのに。

あたしの照れ隠しに梨華ちゃんは、なによ笑って、なんて怒ってみせた。
うぜぇ、と返す。また怒られる。
不自然ながらに、自然を装う。

それからまた何でもないような話をして、数十分ほどで電話を切った。
それだけで、淋しくて心が折れそうになった。


卒業なんてしてほしくない。
ずっとモーニング娘。に、
あたしの傍に、居てくれたらいいのに。

691 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:45

 ◇ ◇ ◇


そうして季節は夏になり、ののとあいぼんが卒業する日が来た。

ステージの二人を袖から見つめながら、
あたしはとても自然に、梨華ちゃんに寄り添った。
とても自然に手を繋いだ。

─もう、ふたりだけだね。
─これからはふたりきりだね。

たぶんそんな感じのことを、手と手で会話する。
あたしは意外に落ち着いた心持ちで二人の姿を見ることが出来てる。
梨華ちゃんは物凄い勢いで、泣きじゃくってるけど。
二人が行ってしまって、梨華ちゃんも行っちゃって、そしていつかあたしも。
それでもずっと『家族』だよね。
四人の気持ちが、離れたりはしないよね。
問い掛けるように梨華ちゃんの手を握る力を強めた。

信じさせて欲しい、疑り深いあたしに。
安心させて欲しい、強がってばかりのあたしを。

応えるように梨華ちゃんの手にも力がこもる。
あぁ、この手もすぐに、居なくなってしまうんだ──
それでもあと、もう少しだけ。
もう少しだけあたしを支えて。

692 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:45

卒業までの日々は、驚くほど緩やかに流れていった。
現実感の無いままに、それでも突き付けられる現実を理性で処理し、
飯田さんを見送って、あたしは漠然と忙しい日々を過ごしていた。
漠然とした忙しさの中に、飛び込んできた矢口さんの脱退。
その日を境にあたしの周囲は目まぐるしく動き回り、そしてあたしも、
その忙しさに呑まれるしかなかった。
苛々と不安とばかりが頭を巡って、やたら胃痛が続く日々。

それでも、梨華ちゃんのことを考えずに居るには、打ってつけの環境ではあった。
同期の淋しさより、リーダーとしての責任があたしにはある。
そんなのは虚しくて淋しくてどうしようもなかったけど、
それならば敢えて、あたしに出来ることがあるかもしれないから。

あの武道館で卒業式なんて、笑っちゃうけど、少し羨ましいななんて思った。
693 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:47

「よっちゃんあたし行かない」

卒業コンサート当日。
最終公演直前。
みんな袖に行ったっていうのに、今日の主役がそんな事言って。
なに言ってんのと言おうとして、誰かが「一緒に行こ、って」とあたしの台詞をつくってくれた。

「…一人じゃ、決めれないよ」
「行かなきゃ駄目?」

行かなきゃ駄目?なんて。
本当は、あたしなんかよりずっと心の準備は出来てるだろうに。
何だかまるであたしの心を、見透かしているような。
言いたいこと言われてしまったような。


でも、行かなきゃ駄目だよ。
あたしも梨華ちゃんも。今はきっと立派なアイドルで。
もう、あの頃みたいに、訳を掴めず死んでたあたしではなくて、
待ってる人がたくさん居て、
あたしがどんなにあなたの卒業が悲しくても、
魅せなければいけないパフォーマンスを。
694 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:47

「さぁ、行こう」

なんてあの曲のノリで誤魔化して、
大切な手を取った。
出来ることならもう二度と離したくないほど、
大切な大切な、小さな手を。

もう何も考えない。
ただ全力で、歌おう。踊ろう。
あたしがあたしに満足しよう。



アンコール前には、目の醒めるほどのピンク、ピンク、ピンク。
梨華ちゃんの大好きな色に包まれてあたし達は…


あたしは、


梨華ちゃんは?


695 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:47


公演後はいつも、感傷に浸る間も無く慌しい。
衣装を脱ぎ汗を流し諸々の片付けや話なんかを終える頃には、殆どのメンバーは会場を出ていた。
あたしはまだやらなければならないことが少し残っていて、
と言ってもそれはわざと仕事をつくっているようにも思えたけれど、
忙しいふりをして梨華ちゃんと話したくなかった。

話したくてしょうがない気持ちと、決して言葉を交わしたくないような気持ち。
きっと思いを伝えきれなくて苛々してしまうから。

なんて思っていたのに、珍しく楽屋で二人きりになってしまった。
さっきまで何やかやと忙しそうにしていたガキさん達もどこかへ行ってしまい、
まだ少しだけ騒がしい廊下の音が微かに聞こえる、
酷く静かな部屋で梨華ちゃんとあたし。


「卒業おめでとー」
なるべく軽い調子で、世間話のように言葉を振る。
「…ありがと」
梨華ちゃんは、いつものあたし用の笑顔でふ、と笑って振り向いた。

「あーあ、あたしもいつか卒業すんだよなー」
「でも、リーダーだからね。暫くは無いよね」
「そーだね」

あたしの卒業、か。
確かに暫くは無いだろうな。
リーダーなんてそう簡単に引き継げるもんじゃないから、
短くともあと一年はあたしがあの子達を引っ張ってってやらなきゃいけない。
娘。自体が何年後まで残ってるかわからないけど、
それでもあたしがモーニング娘。でいる時間は、まだ暫く続くんだ。

梨華ちゃんと離れる時間もまたそう。

別に、サルがあるし。
会おうと思えばいつだって。

理屈で言えばそうだけど、それでも今さら、今さらなんだよね。
ちょっとご飯行こうよとか、簡単に言えたならきっともっと。


梨華ちゃん、あたし達、本当に離れてしまうんだね。
696 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:48

でも。
たった数十分前のこと、
思い出の武道館のステージを端から端まで駆け抜けて手を振った、
キラキラの空間がまだ頭の中で消えやしない。
眩しくて切なくて、感覚が千切れそうになった。

あのときあの瞬間だけの輝きに、あたしは「これから」を懸けられた。


「ねぇよっちゃん」
「うん?」
またあの感じだ。
傷ついたあたしをなだめるような、わざと落ち着かせた口調で。

「これからお互い忙しいね?」
「そうだね。リーダー同士ね」
「うん。…きっと、長いよね。落ち着けるまで」
「あたしはあいつら相手に落ち着ける気ーしないよ」
はは、とまたあたしは強がった。
みんなのことは信用してるけど、不安はとても重苦しくて。
投げ出すことの出来ないたくさんの事柄があたしを攻め立てる。

「ふふ、…ね。だからさぁ、よっちゃん」
「ん…」
「いつかよっちゃんが卒業ってなったら」
「…うん?」

にやりと梨華ちゃんが笑った。
こういう笑い方をする時は、またろくでもないことを考えてるに違いないんだ。
それで何度からかわれたか分からない。
ばかみたいに振り回されるのはもうごめんだ、なんて思っても、
それを望んでるあたしが居るのが非常に困る。


「…卒業したら…」
「…うん」
697 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:49


「…卒業したら、キスしよう」


つん、と空気が刺さるみたいな気がした。
梨華ちゃんはまっすぐにあたしの目を見つめてそれから、
にやりと笑った口角がふにゃりと下がって、突然に俯いて肩を震わせる。

「……それまで、ね。…頑張るから」

そう言って俯いたきり顔を上げないから、
泣いてるんだって分かってしまう。
こういうとこずるいんだ。
感情をまっすぐに突きつけて、さあどうすると答えを急かす。
でも、こういうとこが嫌いじゃない。

ライブや収録で、皆の前で流した涙とは違う。
これはあたしの為で、あたしのもので、梨華ちゃんの気持ち。
今すぐにでも彼女を抱き締めたいと思った。
それでもまだここには、あたし達の間には、
いつからか作った壁があって。

それを壊す為に、
変な意地や感情が邪魔をしないように。
誰にも邪魔されずに、素直に寄り添う為に。


「…あたしも、頑張るから」


うん、と小さく彼女は頷いた。
いつになるかわかんないけど、と付け足すと、
また小さくうんと頷いた。
手を繋ぎたかったけど、それもいつかに取っておこう、と思った。

698 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:49


 ◇ ◇ ◇

699 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:50

「よっちゃん、卒業おめでとう」

急に真面目くさってそう言う梨華ちゃんに、
あたしは一瞥をくれてやるとすぐに目の前の台本に視線を戻した。
「なに言ってんの今さら」
「えー?だってさぁ?」

「だって、なに」
先週、あたしはモーニング娘。を卒業した。
感慨に浸れる間も無くあたしは舞台、舞台の毎日で、
今も梨華ちゃんの部屋で練習している。
これというのも同期のクソガキのせいなわけだけれど、
最早大事なときに忙しいのがあたしの常のような気がしていて、
これはこれでいい、と思う。

苛々や不安や悲しみや焦燥を、いつだって心の奥に隠してきた。
認めなければいいだけだから。それは別に辛くはない。
支えてくれる人が、見守ってくれる人がたくさん居ることをもうあたしは知ってる。
誰かを大切に思う気持ちは、何も裏切らない。
あの一面の白にそう教えられた気がする。

離れてしまった4期の絆も、見えなくたって繋がってる。

─あたし、強くなったなぁ。
700 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:50

「だってさぁ」
「え?あぁなに?」

まだ真剣な顔を作ってる梨華ちゃんに向き直す。
何か言い難そうに口を結ぶ梨華ちゃん。

「だって、なに?」
あたしが首を傾げると梨華ちゃんは、
怪しげな視線を宙に浮かせてそれから下を向き、
今度はねっとりと絡みつくような目線であたしを捉えた。

「…何だよー」
「なによ」
「いやいやそっちだし。何?」

小さなやりとりをしている間に梨華ちゃんの顔が近付いてくる。

「り…か、ちゃん?」
「なあに?」
「…どしたの」

何だかどんどん近付いてくる顔にあたしは酷く動揺してしまって、
遠ざかろうと上体を引き両腕を後ろに付くと、事実上腕の自由が利かなくなった。

「約束、したでしょ?」
「やくそく…」

「卒業したら─」


──卒業したら?
701 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:51

あたしは記憶の奥の、あの甘ったるい響きを思い出した。



『卒業したら、キスしよう』



覚えてた。

梨華ちゃん覚えてたんだ。

絶対に忘れてると思ったのに。
何て女だろう。約束を忘れないのが女の怖い所だ。
でも、そんな所が嫌いじゃない。

ちらちらとまいちんやアヤカや家族や、色んな人の顔が浮かんでは消えていったけど、
もう何も考える余裕は無いくらい梨華ちゃんの顔はすぐそこにあって。


何かもう、どうでもいいや。
どうでもいいや、とかって思ってしまう。

ばかみたいに悩むのはまたあとでいい。あとでじっくり考えればいい。
手に入れたいものを拒まなくていい。

目の前の顔が見えなくなるのを惜しみながら、あたしは静かに目を閉じた。

702 名前:卒業したら、キスしよう 投稿日:2009/04/22(水) 07:52
 
703 名前:はと 投稿日:2009/04/22(水) 07:52
( ^▽^)<流しますよ
704 名前:はと 投稿日:2009/04/22(水) 07:54
終わりです。何だか本当に申し訳無い思いで一杯です。
次回はequalを更新します!
705 名前:名無し飼育さん 投稿日:2009/04/22(水) 12:10
これがいしよしの実力か!やっぱりいいなぁ。
更新お疲れさまです。
706 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/22(水) 22:33
すげぇーな、いしよし
すげぇーな、はとさん
707 名前:はと 投稿日:2009/06/29(月) 23:06


 新学期が始まって初めての放課後、私は理科棟へ向かった。
夏の名残はまだそこら中に漂っていて、少数の蝉がミンミンと騒ぎ立てる。
商業科棟と繋がる渡り廊下は日陰で、少し涼しい。
冬は確かとても寒くて、春には心地良い空気が流れる。
 私は何度もここを通った。もちろん授業で、そしてそれ以外にも。

 …「それ以外」でここを通るのは、きっと最後になる。
何度も揺れて折れてしまった気持ちも、今日はちっとも揺らがない。
私にはひとみちゃんがいるから。あの教員室へ行くのは、これが最後になる。


「こんにちは」
「…来たな」
 相変わらずの鋭い目つきで先生が私を振り返った。
窓から少しだけ午後の陽が差し込んで、彼女の金髪が透ける。

708 名前:equal 投稿日:2009/06/29(月) 23:06
「来たなって…何よ」
「先生には敬語使わんかい」
 何を今さら、と言おうとして止めた。
確かにこれからは、私達はただの生徒と教師なんだ。
けじめをつけなくちゃいけない、きちんと。

 ドアの前に立ったままだった私は、部屋の中心へ、先生の近くへ。2歩、3歩と歩み寄る。
鼻を衝く先生の香水。
先生は、ゆっくりと立ち上がって。そして、私に手を伸ばした。

「わざわざ来んでもええのに」
 溜息を吐き、私の胸元のリボンを正す。
「あたしやってもう分かってるよ」
「そんな、諦めみたいなの嫌です。納得したいの。二人で」
「アンタほんまにめんどくさいわ」
「よく言われます」
 ハッ、と皺を寄せて笑う。この顔が好きだった。

 開け放たれた窓から、生徒達の笑い声が聞こえる。
人気の無いこの棟から離れた、どこか遠くから、微かに。

「先生」
「ん?」
「私…、」
 すぅ、と思い切り息を吸っても、何だか苦しい。
私はこの人に対して今までこんなに、辛い思いをしたことが無かった気がする。
年上の先生に甘えてばかりで、どうしようもない恋人だったかも。
あんなに苦しくて切ない気持ちにさせられたのはひとみちゃんが初めてで、
それがつまりきっと、本気の恋なんだ。
709 名前:equal 投稿日:2009/06/29(月) 23:07

「はよ言いや」
 先生が、困ったように眉根を寄せて私を見る。口元は笑っている。
こんな時まで、甘えちゃいけないんだ。
私が、私の口から、ハッキリ言わなくちゃいけない。

「ひとみちゃんが好きなんです」
「おう」
「だから、先生とはもう会えません。ごめんなさい」
「…うん」

「先生のこと…好きでした」
「そういうのいらんねん!もーーー」
 ぐしゃぐしゃと頭を掻いて先生が声を上げた。
その顔は笑顔だ。ひどく素敵な笑顔。
途端に目頭が熱くなって、
私、好きだった。この人のこととても。
でも、今はそれ以上に、ひとみちゃんのことが大好き。

 言葉に詰まって立ち竦む私を先生は暫く黙って見つめ続け、
そしてまたふ、と笑った。つられて私も笑った。
先生が早く帰りなさいと言った。そうしますと、私は答えた。
それからいくつか言葉を交わして、私達は終わった。

710 名前:equal 投稿日:2009/06/29(月) 23:08


 何だか変な気分。嬉しいような、悲しいような。それでいてとても、幸せなような。
理科棟を出て大きく伸びをする。
顔を上げると、さっきは気付かなかった黒い雲が西の空を埋め尽くしている。
夕立が来るんだ、と他人事のように心中で呟き、
私は傘の心配もせずに早く帰ろうと思いながら教室へ向かった。
 だって、ひとみちゃんが待ってるから。

 教室に戻ると、どうやらクラスメイトは皆帰ってしまったか別の場所にでも溜まっているのか、数個のカバンが残されているだけで、
それとたったひとり、美貴ちゃんが行儀悪く椅子に座っていた。

「あれ、美貴ちゃん。ひとり?」
「うん、皆ジュース買いに行った」
 ガタンガタン、と忙しなく椅子を揺らしながら携帯電話をいじっている。
やめなよそれと言うと、うっせーな、と返された。
なによ、もう。荷物を纏めて私が教室を出ようとすると、

「あ、ねえ!よっちゃん元気?」
「…元気だけど」

「今度美貴とも遊ぼうよって言っといて」
 携帯から少し顔を逸らしただけの無表情でそう言う。
あぁ、もう。それが人に物を頼む態度なの?
なんていちいち苛立っている自分が面倒くさくなって、
私はわかった、と短く返事をして教室のドアに手を掛けた、
ところで、
ふと思い付いて美貴ちゃんに尋ねた。

「美貴ちゃん、絵梨香のこと知ってる?」
711 名前:equal 投稿日:2009/06/29(月) 23:08
「は、誰」
「三好絵梨香」
 美貴ちゃんは、一瞬だけ眉を顰めて、すぐに思い出したようにああ、と呟いた。
同小だったよーと、相変わらず興味無さそうに携帯電話を見たまま返事をする。
やっぱり美貴ちゃんも知り合いだったんだ。世間は狭いって本当なのね。

「で?」
 返事だけ聞いて黙ったままの私に、美貴ちゃんが顔を上げて問い掛ける。
「梨華ちゃんは何で知ってんの?」
「はとこなの。夏休みに久しぶりに会って」
 ふうん、と美貴ちゃんはまた視線を携帯電話に向ける。
「元気だった?」と無愛想に聞くから、元気だったと答えると、
また少しも興味無い素振りでふぅんと呟く。

「今度みんなで遊ぼっか」
「えー?いいよ、美貴と絵梨香だけで」
「ちょっ…、…いいけどぉ」

 あはは、と美貴ちゃんが笑った。カワイイ。
私も少し笑って、そしてバイバイと言った。

「よっちゃんと仲良くねー」
 教室を出る瞬間に後ろからそう聞こえて、私は足を止めず首だけ振り返って、
ドアで見えなくなった美貴ちゃんに聞こえるように答えた。
「言われなくても!」

712 名前:equal 投稿日:2009/06/29(月) 23:09

 美貴ちゃんと話してる間に雨は降り出していたようで、
廊下を急ぐ私の耳に木々やアスファルトの打たれる音が聞こえる。
これじゃ暫く帰れそうにないかも。それでも待たせている人が居るから早足で昇降口へと急ぐ。
その角を曲がればひとみちゃんが待ってる筈。
待たせてたら、…少し怒ってるかもしれない。

「遅いよー」

 雨を背にわりと機嫌の良さそうな笑顔でひとみちゃんは迎えてくれた。
ごめんね、と短く謝って隣に立つ。
ひとみちゃんの足元はまだ上履きのままで、
その先に通学用の革靴が綺麗に並べられている。
私も手に持って来た靴を横に並べた。

 ひとみちゃんの手元には丁度良い大きさの傘。
彼女の身長に合った、大き過ぎず、小さ過ぎないシンプルな傘。
私なんて傘も持っていないのに。
どんどんと激しくなっていく雨を眺めながら、どちらからともなく溜息が零れる。

「…通り雨かな」
「蒸し暑いね」
 そういえば、前にもこんな雨の日にここで待ち合わせたことがあった。
あのときの私達は、どんな感じだったっけ。確かまだ出会ったばかりの頃で、
一緒に帰ることになって私は凄くドキドキしてて…。
713 名前:equal 投稿日:2009/06/29(月) 23:11
 ざあざあと雨ばかりが声を上げて、ひとみちゃんは少しも口を開かない。
私もまたそうで、それでも気まずくはないこの沈黙が心地良い。
纏わりつくような湿気も不思議と不快ではなく、
ときどき二人のブラウスが思わせぶりに擦れ合った。

「…止みそうにないし帰ろっか」
 長い沈黙のあと、ひとみちゃんが口を開いた。
私が傘を持っていないことを告げると、平気平気と言って笑い、
その丁度良い大きさの傘を掲げて回して見せた。
「相合傘ってのもいいじゃん」
 そう言って強引に私の肩を掴むと、
足元の靴を履き替え適当な下駄箱に上履きを放り込んだ。

「ま…待ってよ」
「早く。今日映画観るっつってたじゃん」
 そうだっけ、と私が言うとひとみちゃんはむっとした表情。
ごめんね、と今日二回目の謝罪をする。
私の目的は常にひとみちゃんと過ごすことであって、
何をするとかそういうのはあまり覚えてなかったりする。

 不機嫌な顔をやめたひとみちゃんは、
真っ直ぐにこっちを見つめて、靴を履き替える私を待っている。
そう真っ直ぐに見つめられては何だか緊張して、
下駄箱に入れようとした上履きを落としてしまった。
「あは」
 少しだけひとみちゃんが笑った。
それでも視線は外されなくて、私の緊張は解れない。
顔が熱くなってるような気がするけれど、
何でもない表情をつくって傘を持つひとみちゃんの手を取った。
714 名前:equal 投稿日:2009/06/29(月) 23:11

「…濡れるの嫌?」

 柔らかい笑みで私にそう聞く。
 嫌だけど、別にいい。面倒だけど、あなたとなら構わない。
そんな事を言うのはさすがに少し恥ずかしいから、
私は笑顔だけ返して彼女の背中を押した。



「…ねえ」
「なに」
「好きだよ」
「…あぁ、…そう」
「そう、って何よ」
「他になに言えって」
「あるでしょ、言うこと」
「無いね」
「あるじゃない」
「無いよ」
「…もういい」
「うそうそ」

715 名前:equal 投稿日:2009/06/29(月) 23:11


 ざあざあ、ざあ。少しだけ弱まってきた雨の音に混じって、微かにひとみちゃんの声が聞こえた。
「…好きだよ」

 今度こそ、この雨が止むといい。そして二人手を繋いで、どこまでも行けたらいいね。


716 名前:equal 投稿日:2009/06/29(月) 23:12

  *  *  *  *  *  
717 名前:equal 投稿日:2009/06/29(月) 23:12


 蒸し暑い夏の名残もあっという間にどこかへ行ってしまって、
それからすぐに肌寒い秋が来て、厳しい冬も過ぎ去っていった。

「春だねえー」
「ほんと、気持ちいいね」
 私とひとみちゃんは相変わらずで、一年ぐらい前と少しも変わっていないような感じで、穏やかに過ごしている。
桜の咲き乱れる校内を二人で歩きながら、肩が触れるか触れないかというくらいの距離で。

 ふわりと風が吹くと、桜の香りが鼻を擽る。
咲き誇った花弁たちが春風にのって儚く散ってゆく。
いい季節だと思う、本当に。
舞い落ちる花びらを見つめながら、
私は少しだけ出会った頃のことなんかを思い出していた。
718 名前:equal 投稿日:2009/06/29(月) 23:12
「あ」
 ゆっくりと続く歩みを止めて、ひとみちゃんが辺りを見回した。
「そういえば、ここで初めて会ったんだよねうちら」
 恥ずかしいのか私には目も合わせず、少し遠くを見つめて静かに言う。
一歩二歩、後ろに下がって目の前を指差す。

「確かあたしが、この辺…に居て、梨華ちゃんが…」
 頼りなげに揺れるひとみちゃんの指先の方へ私も歩く。
覚えてる、確かこれくらいの距離で。
ゆっくりとゆっくりと、記憶を手繰るようにあの頃の私の元へ。

 温かい空気。振り向けば愛しい人。
少し強めの風が吹いて、降りしきる程の花弁が彼女の姿を霞ませるようにでも際立たせるように。

 心が、真っ白になる。

719 名前:equal 投稿日:2009/06/29(月) 23:13

「あのさあ」
「なにぃ?」
「あたし、またバレーやろうかなと思って」
 ひとみちゃんは、春の風が気持ち良さそうに大きく伸びをして、柔らかい声を私に届けた。
「…ほんとに?」
「もう2年だし今更だけど、大会とか出れないけど」
「うん」
「もっかいやってみるわー」
 ぐっ、と大きく背を反らせて、サーブを打つ真似をする。はにかんで笑う。
つられて私も笑顔になるから、ひとみちゃんがまた笑う。
 初めて会ったこの距離も、気持ち良いけどやっぱり少しもどかしくて。
私の足は自然と彼女の方へ、きっと彼女の足も私の方へ、少しづつ距離が縮まっていく。
数メートル、数十センチ、少しづつ、少しづつ。

 暑くもないのに、眩暈がする。それはきっとひとみちゃんがとても綺麗だから。


 ──そして私達は、また恋をした。



720 名前:equal 投稿日:2009/06/29(月) 23:14
 
 
721 名前:はと 投稿日:2009/06/29(月) 23:15
完結です。
722 名前:はと 投稿日:2009/06/29(月) 23:16
( ^▽^)<レスありがとうございます!


>>705 名無飼育さん 様
いしよしの実力はこんなもんじゃないですきっと!
やっぱりほんとに、いいですよね。いしよしって。

>>705 名無飼育さん 様
ありがとうございます。
まだまだすげーと言ってもらえるようなものが書きたいです!


これでequalの更新は最後になります。
遅筆な為この長さで超長期連載となってしまいましたが、
今までお付き合い頂き本当にありがとうございました。
何とか完結できて良かったです。

そしてこれでこのスレも一応終了とさせて頂きます。
容量は余ってるので、気が向いたら短編なんか書いたりするかもしれませんが。
読んで頂いた皆さん、本当にありがとうございました、本当に。
723 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/30(火) 00:26
うわー素敵なシーンだなー
もう一度最初から読みなおそうと思います
お疲れ様でした!

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