Graceful Wing
- 1 名前:ウイング 投稿日:2007/05/10(木) 19:41
- ある人の作品にかなり影響され、自分でも書いてみようと思って書いてみました。
どんな感じになるかはわかりませんが、どうぞよろしくお願いします。
メインは高橋と亀井になります。音楽系?になります。
他にも登場予定ですので、実際は誰が主人公かは読者さんの想像にお任せします・・・。
それではー、スタート。
- 2 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/10(木) 19:42
- 「愛ねーちゃん、朝だよ、起きて!」
バサッ。
「んー、もう朝かぁ・・・、おはよう、絵里」
「愛ねーちゃん、珍しいね。絵里がいつも起こされるのに・・・」
- 3 名前:LIVING 投稿日:2007/05/10(木) 19:42
-
ココに来て、早1年。
愛と絵里は2人暮らしをしている。
姉妹とはいっても血はつながっていない。
いつも一緒にいるからそう見えるだけなのだ。
- 4 名前:LIVING 投稿日:2007/05/10(木) 19:43
- 2人の家族は1年前に飛行機事故で亡くなっていた。
その時愛と絵里は同乗していたものの、奇跡的に助かった。
飛行機の中で出会い、仲良くなった矢先のことだった。
- 5 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/10(木) 19:43
- お互いに失うものは全て失った。
愛も絵里もお互いの親戚が引き取ると申し出ていたのだが、絵里が愛と一緒がいいと言ったのだ。
愛は最初は戸惑ったが、大学生になることもあって、絵里の目を見るなりOKしてしまったのだ。
そして、その生活からはや1年が経とうとしている。
絵里は愛を「愛ねーちゃん」と呼び、完全に愛に懐いていた。
「愛ねーちゃん、朝ごはんどうしよっか?」
「あー、忘れてた、あーしの番やね。絵里も早く学校行く準備しね。今日から3年生やろ?」
「はーい」
そう言うと絵里は部屋に消えていった。
絵里の背中を見て愛はうっすら微笑み、ベッドから飛び起きた。
- 6 名前:LIVING 投稿日:2007/05/10(木) 19:44
- 絵里の通う高校は2人の家から電車で1駅のすぐとなり町にある。
1駅といってもすぐに着いてしまうので、自転車でもそれほどかからない。
「行ってきまぁす!」
愛の作ったトーストをほおばり、絵里は自転車で学校に向かう。
その慌しい姿がなくなると、愛も「さ、あーしも行くか」とソファーから腰をあげた。
- 7 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/10(木) 19:44
- 桜並木道を駆け抜けて、絵里は学校に着いた。
絵里の学校では、今日から新学期が始まる。
この学校に来て1年、人見知りの激しい絵里も少ないながらの友達も出来た。
「絵〜里ぃ!!おはよう!」
「あ、れーな。おはよう」
「一緒なクラスになれるといいね!」
「そうだねぇ・・・。」
「絵里、どうしたの?」
「・・・ん、いやなんでもないよ! そういえば、さゆは?」
「もうすぐ来るんじゃない?」
- 8 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/10(木) 19:45
- ダダダダダ。
「おはよう!! ハァ、ハァ・・。」
「さゆ、どうしたの? そんなにあわてちゃって・・・。」
「寝坊しちゃったの・・・、ハァ、ハァ」
「いつものことじゃない、どーせ鏡ずっと見てたんでしょ?」
「あ、バレちゃった? さゆ、自分の顔見ててもずっと飽きないの」
そんなれいなとさゆみのやりとりを見ていると、絵里はいつも微笑んでしまうのであった。
絵里の高校2年生は、桜の花とともに始まりを告げた。
- 9 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/10(木) 19:45
- 「やったぁ・・・!」
3人は無事同じクラスになることができた。
その上担任は”優しい”と高校内でも評判のよい、なつみだった。
「安倍先生が担任だって、超ラッキーじゃない?」
「そうだね」
そんな話をしていると、教室の前ドアがガラガラと開いた。
入ってくるのはもちろんなつみである。
「えっと、今年1年間この2−Aを受け持つことになりました、安倍なつみです。みんな、よろしくだべ! あ・・・よろしくネ!」
「なつみ先生、よろしくー!」
「キャー! かわいいー!」
明らかに1学期初日の先生と生徒の関係ではない、やわらかな、和やかな雰囲気がこの教室には流れていた。
こんな雰囲気にしているのも、なつみの人気の秘密なのかな?って絵里は思った。
- 10 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/10(木) 19:46
- キャンパスの中をまっすぐに通る一本道。
その頃、愛も大学に来ていた。
愛も大学生になって1年が過ぎた。
(大学生って意外と孤独なんだなー)
愛が大学生活に対する思いはそんなものだった。
愛の生活は”キャンパスライフ”という華やかなイメージからは遠くかけ離れている。
一応クラスというものはあるが、その空間だけの会話、つながり。
大学内ではあいさつ程度、プライベートで遊ぶことなど全くといっていいほどなかった。
- 11 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/10(木) 19:46
- そんな愛の大学生活パターンを崩した人が1人だけいた。
「あ、愛ちゃんおはよー。」
「おはよー、あさ美」
「今日は何の授業あるの?」
「えーと、2限がメディア史で4限が社会学基礎やよ、あさ美は?」
「あー、2限は心理学入門だけど、4限は一緒やね。間に時間あるし、ご飯一緒に食べない?」
「いいよ。でも、あさ美がそんなコト言うのめずらしーね。どういう風のふきまわし?」
愛は半ば笑いながらあさ美のほうを見ている。
「今まで愛ちゃんとご飯ってあんまりなかったじゃん、そんなこと言わずに付き合ってよー。」
「わかったよ、あさ美の頼みじゃ断れんもんな」
「ありがとう」
「じゃー、また後でね!」
「おう♪」
- 12 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/10(木) 19:47
- あさ美は愛が大学に入ってからの唯一の友達といえる人だった。
とはいっても、当たり障りのない話しかしない、とても親友と言えるものではなかった。
小さい頃は人なつっこく、誰とでも気軽に話せた愛。
しかし、ある時期を境に人と話すのをためらうようになっていた。
それをほんの少しだけ変えてくれたのは、ほかでもないあさ美だった。
- 13 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/10(木) 19:47
- 「た、高橋さんだっけ?」
「そうだけど」
「一緒にお昼食べに行かない? ほら、せっかく一緒なクラスになったんだしさ」
「私はいいよ」
「そんなコト、言わずにさ、ほら、ね?」
「・・・、わかった」
(そう言われてしぶしぶあさ美についていったことが、今思えば2人をつなげるきっかけになったんやなぁ・・・)
大講義室での授業を受けながら、愛は去年の出来事を思い出していた。
- 14 名前:ウイング 投稿日:2007/05/10(木) 19:48
- 今日はここまでになります。
もし、読んでいただけたら感想をいただけるとうれしいです。
あ、タイトルが一部間違っていますが、正しくは”LIVING DAYLIGHTS”です。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/11(金) 02:35
- ほんわかなようで何かありそうで楽しみにしてます^^
マイペースでがんばってください
- 16 名前:ウイング 投稿日:2007/05/11(金) 19:27
- >15 名無飼育さん
コメントありがとうございます!
何が起こるかは正直自分でもわかりません(笑)
文章がおかしかったりもしますが、気長にお付き合いいただければと思います。
- 17 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/11(金) 19:28
- 時は過ぎ、大学のカフェテリア。
2人は静かにランチの席についた。
愛は少しばかり気難しい顔をしている。
「愛ちゃん、どうしたの?」
「あ、いや・・・ちょっと大学入りたての頃を思い出しただけ。あの時もこーやってあさ美に誘われたんやなって」
「そういえば、そうだったね。」
「あさ美、そーいえばどうしてあーしなんか誘ったん?他にもたくさんクラスの人いたやん?」
「うーん、ただね、なんとなくかな。私にちょっと似てるような気がして」
「あたしが・・・あさ美に・・・?」
「うん」
「どんなトコが?」
「秘密」
「はぁ?」
「まぁ直感やよ。それはいいじゃん、今こうやって友達になれたんだし・・・」
「なぁんか納得いかんけど、まぁいいか」
- 18 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/11(金) 19:28
- 「・・・あさ美、この後時間ある?」
「あるけど、どうしたの?」
「授業終わったら、カラオケでも行かん?」
「え、いいの?愛ちゃんがこうやって誘ってくれるのって何かうれしーな。なんかめずらしいし」
「う、そうだっけ?、ってか大学の外で会うのってないやん」
「そーいえばそうだね・・・、愛ちゃんと遊ぶのって初めてかも。それじゃー、カラオケ終わったら愛ちゃんの家行ってもいい?」
「えーよ。夕飯も家で食べる?」
「いいの?」
「誘ってんだから、ダメって言うはずないやん。じゃー、決まりね」
「オッケー!」
- 19 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/11(金) 19:29
-
その時。
キーンコーンカーンコーン。
「やばっ、もう始まるやん」
そう言いながら愛とあさ美は授業に向かったのだった。
- 20 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/11(金) 19:29
- ----
こちらも昼休み。
絵里は教室でいつもの3人とお弁当を食べながら、談笑していた。
今日の絵里のお弁当は愛が作ったものだ。
鶏の唐揚げに卵焼き、野菜にイチゴと彩り・栄養価どれをとっても満点だ。
「わーおいしそう、絵里のお弁当」
「いつもそうなの。絵里、誰に作ってもらってるの?」
「エヘヘ、愛ねーちゃんだよ。たまには絵里も作るけど」
「絵里のお姉ちゃんってすごい料理できるけんね」
「そーかな?たまにドジったりするけど・・・」
- 21 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/11(金) 19:29
- 「そういえば、今日学校終わったらどうする?」
「さゆみ、絵里の家に行きたい! 絵里のお姉ちゃんの料理食べてみたいの」
「れいなも!」
「うーん・・・、愛ねーちゃんに聞いてみてもいい? いくら何でもいきなりはマズイから」
「じゃあ、それから決めよっか」
「そうだね」
- 22 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/11(金) 19:30
- 絵里は愛に電話をかけた。
TrTrTr....
「もしもし、愛ねーちゃん? 絵里だけど、今日友達連れて行っていい? 愛ねーちゃんの料理が食べたいって。
うん、うん、あ、ちょっと待って?」
- 23 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/11(金) 19:30
-
「愛ねーちゃんの友達来るけど、それでもいい?」
「いいよ、大勢の方が楽しいけん」
「うん」
さゆみがうなずく。
「それでもいーよ! うん、やったー! なら連れてくね! うん、7時ね、わかった」
- 24 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/11(金) 19:30
-
「いいって」
「やったー。うれしいの。楽しみ楽しみ」
「なら部活終わってから学校の門のとこに集合♪」
「オッケー!やっほーぃ!」
急にテンションがハイになるれいな。
絵里とさゆみはそのれいなの姿を見て、ケラケラと笑っていた。
- 25 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/11(金) 19:30
- ----
陽も落ち始めた夕方。
愛とあさ美は愛の家へ向かっていた。
最初はカラオケボックスにずっといるつもりだったが、絵里たちが来ることになったので早めに切り上げてきた。
「そーいえば、絵里も友達連れてくるの初めてなんやよね・・・」
「絵里さんって・・・、妹さん?」
「まぁ・・・そんなところ・・・」
- 26 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/11(金) 19:31
- (言ったところで、どうにもならんよね)
愛は絵里のこと、飛行機事故のことを、あさ美に話すか迷っていた。
もちろん、他の誰にもこのことを言ったことはない。
愛にとっても、できるだけ思い出したくない事項だったし、もともと愛には少しながら秘密主義のところがあった。
あさ美はそんな愛から何かを瞬間的に感じとったのか、その質問をそれ以上はしなかった。
- 27 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/11(金) 19:31
- 「ただいまー」
「おかえりー愛ねーちゃん、れいなとさゆ、もう着てるよ」
「わかった。あさ美、紹介しとくわ、例のいちおう妹の絵里」
「ちょっと、愛ねーちゃん? 一応って何さ、い・ち・お・うって・・・」
「・・・。」
愛はすっと横を向きあさ美に同意を求めたが、あさ美はただ苦笑するだけだった。
- 28 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/11(金) 19:31
- そんな愛とあさ美を見ながら、絵里は「妹の絵里です、よろしくお願いします」と丁寧にあいさつをした。
「あさ美、先にあーしの部屋に行ってて。そこの奥の部屋やから」
あさ美は絵里にお辞儀をして、愛の部屋へと消えていった。
- 29 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/11(金) 19:31
- 「ほら、そんな顔せーんの」
ふてくされた顔をする絵里に愛がそっと言う。
「だって・・・」
「ずっとあーしは絵里を守ってくつもりやよ。そんな小さなこと気にしないんやよ」
「愛ねーちゃん・・・」
深く考え込みそうになった絵里の頭を、愛はそっとなでてあさ美のいる部屋に向かった。
- 30 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/11(金) 19:32
- 愛の部屋には1台の電子ピアノが置かれていた。
さらに、壁には1台のギターがかかっている。
「愛ちゃん楽器弾くんだ? へぇ・・・」
「習ってたわけじゃないんだけどね。たまに弾きたくなるときがあって、弾いてるんや」
「そうだ、何か聞かせてよ!」
「え? そんなに上手くないよ?」
「いいから、いいから。私、愛ちゃんの演奏が聴きたい」
「んー、わかったよ。なら夕飯の後にでも」
「やった、楽しみにしてるね♪」
「なら、夕飯作るしちょっと待っとって」
「あ、私も手伝うよ」
「なら、一緒にキッチンまで来てくれっか」
あさ美は何かを複雑なワクワク感を胸に感じながら、愛の後をついていった。
- 31 名前:ウイング 投稿日:2007/05/11(金) 19:33
- 更新しました〜。
何か文章がおかしいのは、ご勘弁ください・・・。
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/12(土) 02:23
- 更新乙です^^
やっぱ愛絵里いいですね
文章は今のところ気になるのは私はないです♪
- 33 名前:ウイング 投稿日:2007/05/12(土) 21:11
- >32名無飼育さん
ありがとうございます!
愛絵里だとこんな雰囲気になるんですかね?(笑)
これからもよろしくお願いします。
あ、早速訂正(爆)
31の最終行
<誤>あさ美は何かを複雑な・・・
<正>あさ美は何か複雑な・・・・
頭からスイマセン・・・。
- 34 名前:LIVIBG DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:13
- 「わぁ、おいしそー!!」
絵里、れいな、さゆみの3人は目の前にある愛とあさ美が作った料理を目の前にしてはしゃいでいる。
しかし心の中で一番はしゃいでいたのは、愛が料理をする姿を真横で見ていた、あさ美だった。
・・・とは言っても、食べ物に関しては目がないあさ美ではあったが。
- 35 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:14
- 「いっただきまぁすぅ!」
部屋中に声がこだまする。
れいなやさゆみは口にするたび、「おいしぃー!」と叫びっぱなし。
あさ美は何も喋らずに食べることだけに集中しているようだ。
愛と絵里はそんな3人を見て、少しばかり呆れながらも、笑っていた。
- 36 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:15
- 食事も一段落し始めると、やっと会話らしい会話が展開される。
「愛さんって、いつも料理してるんですか?」
「いや、絵里と交替やよ。あーしばっかりやってるわけじゃないが」
「でもこんな美味しいものいつも食べれる絵里は幸せ者ですね」
「そんなにほめんでもええーって、なんかてれるがー。」
「だって絵里ってかなり料理オンチなんですよー。前にマンゴープリン作ろうとして・・・」
「さゆ、それは言っちゃダメ!」
絵里が慌ててさゆみに口封じをしようとしたが。
「あー、マンゴーとパパイヤ間違えてとんでもないことになったやつやろ?」
「・・・愛ねーちゃん、知ってたの?」
「当たり前や、あーしは絵里のことなら何でも知ってるよ」
「愛って超能力者?」
あさ美がすかさず横ヤリを入れる。
「そんなわけないがー。ちゃんと絵里を見とるんやよ」
そういって、愛は絵里の方を見ると絵里は拗ねてしまった。
「グスン・・・」
そんな姿を見て、さゆみ・れいな・愛は大笑い。
あさ美も普段はあまり大笑いしないものの、このときばかりは3人につられて大笑いしてしまうのであった。
- 37 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:15
- 夕飯の間の談笑で、5人はかなり打ち解けた。
特にさゆみが愛になついている様子で、それに気付いた絵里はちょっとジェラシーすら感じていた。
夕飯も終わって、愛は部屋に行って楽器の準備を始めた。
「愛ねーちゃんって楽器は部屋にあるけど、ピアノやギター弾いたり、歌ってるのって聴いたことない」
「え、そうなの?絵里でもないの?」
- 38 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:15
- 絵里がこう言うのも無理はなかった。
愛が絵里との生活を始めてから、愛は歌うのをやめてしまった。
1年前のあの事故からだ。
愛は絵里との新しい生活には音楽はいらないと決めこんでいたようだが、なぜか今でも捨てられずに置いてあるのだった。
「1年ぶりぐらいに弾くから、そんなに上手くできないかもしれんけど、よろしく。
それじゃー、みんなの知ってるよーな歌を1曲やります、聴いてください ”You are beside me”
- 39 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:16
- 愛の声とともに、曲が始まった。
演奏にのせて歌う愛の歌は、あさ美がカラオケで聞いた時よりも一段ときれいだった。
絵里・れいな・さゆみの3人もずっと聴き入っている。
愛も感情が入ってきたのか、歌声が情熱的になっていくのを自身で感じていた。
- 40 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:16
- 曲が終わり、愛は語り始めた。
「えっと、ミニコンサートみたいになってるし少し喋るがし。
まぁ喋り方聴いてわかったコもいると思うけど、あーしと絵里はホントの姉妹じゃない。」
絵里がギクッとする。
「あーしと絵里の家族は1年前に飛行機事故で死んでしもうた。たまたま2人だけが生き残った。
でも、これも何かの運命じゃないがって最近思うようになったがし。だから絵里のことを家族だと思ってる。
時々変な目で見てた人もいたけど、今ここにいるみんなはそんな感じしなかったよ。
だからこうやって楽器も怖かったけど持てた。弾けた。歌えた。
あーしは音楽が好きだったけど、あの時以来歌えなかった。演れなかった。でもそれは現実から逃げてただけかもしれない」
- 41 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:16
- さゆみ・れいな・あさ美は愛の話を真剣な面持ちで聴いている。
絵里に至っては下を向いてもう涙目だ。
「現実を見てるだけじゃダメだけど、逃げてるのはもっとダメだって気付いた。
素直に受け止めることも大切なことだと思う。だから、あの頃聴いてた曲を演奏するがし。
なんかシリアスに語ってしまって、みんなには悪いけどホントにありがとう。
じゃあ、聴いてください。ラスト曲、”Walking hand in hand”」
- 42 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:16
-
愛のキーボードから流れるピアノ音は、あさ美にとって何かなつかしい音がした。
高校生の頃、あさ美も好きでよく聴いていた曲だった。
愛がそのことを知っていたのかどうかはあさ美にはわからなかったが、愛の歌声がすごく心地よかった。
- 43 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:17
- 「愛ちゃん、とっても上手やよ!プロの歌手みたい」
「ホントにすごいね、愛ねーちゃん」
「れいな感動したっちゃ、また聴きたい!」
「さゆみももっとたくさん聴きたいの」
「ありがと・・・」
愛はその後何かから開放されたようにばったりと倒れ、そのまま眠ってしまった。
- 44 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:17
- 翌朝。
愛はいつもよりも少しだけ早く目が覚めた。
スクッと起きてリビングに行くと、机の上には2枚の置き手紙があった。
- 45 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:17
- DEAR 愛さん
”昨日はどうもありがとうございました。
愛さんの料理・歌、どっちも素敵でおいしかったです。
また良ければ是非呼んでください!”
P.S 絵里のこともよろしくお願いします。
田中れいな 道重さゆみ
- 46 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:17
- ”昨日はありがとう。
愛のことをちょっとだけ知ることができてうれしかったよ。
何かあったらいつでも相談に乗るから、遠慮しないでね。
それじゃ、また学校で会おうね。”
あさ美
- 47 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:18
- 2枚の手紙を読んだ瞬間、愛は少しだけ涙が出そうになった。
悩んだけど、歌えて・話せてよかったと思った。
1人じゃないって思った。
そう思ったら、目の前が少しだけ明るくなった気がした。
- 48 名前:LIVING DAYLIGHTS 投稿日:2007/05/12(土) 21:18
- リビングのカーテンを開けると、朝日が少しずつ昇りはじめるところだった。
(今のあたしの気持ちそのままやざ、また新鮮な気持ちになれた)
そう思った後、愛は朝食の準備に取りかかるのだった。
- 49 名前:ウイング 投稿日:2007/05/12(土) 21:21
- 更新しました〜。
次回から新タイトルになります。
音楽モノって言ってるけど、音楽感今はそれほどなし(笑)
タイトルや作品中に出てくる曲タイトルは一応原曲イメージがあります。
(ってか、そのままのやつもあります。ハロプロ系とは限りません)
なので、その辺わかる方は少しだけ読む際にお得感あるかもしれません(笑)
- 50 名前:ais 投稿日:2007/05/13(日) 00:43
- 愛六+コンコンでほのぼの系かと思いきや感動しました。
家族って大事ですね〜。
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/13(日) 09:45
- 更新お疲れ様です^^
訂正言われなければ気づきませんでした^^;
愛ちゃんが起きて絵里がどうしてるのかが気になります
- 52 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:31
- あの日以来、愛とあさ美の距離は急速に近づいていった。
世間一般的にいう、”親友”っていうコトかもしれない。
というよりも、あさ美はそれほど何も変わってなくて、
愛があさ美に対して心を開くようになっただけなのだが。
- 53 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:32
- そんな4月も終わりに近づいた日の帰り道。
葉桜になり始めた大学の並木道を2人で歩いていた。
- 54 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:32
-
「愛ちゃんってさ、歌唄ってるけど自分で曲とか作ったりしないの?」
「うーん、そーいえばやったことないなぁ。あさ美ってそんなん興味あるん?」
「高校の先輩にそうやって曲を作って唄ってた人がいたんだよね。
だから愛ちゃんもそんな風にやってたのかなって。」
「ふーん」
「あ、そうだ愛ちゃん今日夕方あいてる?」
- 55 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:33
- 「ライブを見に行かない?」
「誰の?」
「その先輩が、ライブやるんだ」
あさ美の説明によると彼女はあさ美の高校の先輩で、大学進学とともに上京して音楽活動をしているそうだ。
その大学もあさ美達の近くの大学で、よく近くでライブをしているらしい。
「えーよ、何時からどこで?」
「20時から原宿で」
「わかったよ、じゃあ19時に駅でいい?」
「うん!なら後でね〜」
「おう」
- 56 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:33
- ----
時は19時30分。
愛とあさ美は原宿に着いた。
駅から歩いて数分の場所にあるライブハウスが2人の目的地だ。
すっかり陽は落ちてしまったが、ネオンサインが夜の街を照らしている。
福井の田舎でずっと過ごしてきた愛は、未だに夜の街の明るさにまだ慣れなかった。
- 57 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:34
- 「あ、ここやない?あさ美」
「意外と早く着いたねー」
受付の人にチケットを見せる。
このライブでは、目的の”彼女”以外にもいくつかのバンド・歌手が出演するようだ。
- 58 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:34
- 「なぁあさ美、どんな先輩なん?今日ライブする人って」
「藤本美貴さんっていうの、とっても上手くて、かっこよくて・・・」
「へぇー。あさ美、もしかしてその藤本さんに憧れてなかった?」
「というより、藤本先輩の友達に憧れてたんだけどね」
「なんだそれー」
- 59 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:34
-
そんなじゃれあいから時はたち、いよいよライブが始まる。
MCの紹介とともに、美貴が出てきた。
- 60 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:35
- 美貴の声は迫力がありながら、なおかつその中に繊細な部分も持っていた。
あさ美はもちろん、愛もその迫力に押されながらも美貴の歌声に惹かれている。
「美貴ちゃーん!」
「美貴ちゃーん! かっこいいー!」
そんな黄色い声すら上がっていた。
- 61 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:35
- 「こーやって会場のみんなに美貴の歌を聴いてもらって、ホントに感謝してます。
美貴の歌は次で最後になりますが、この後も素敵な方々がどんどん出てくるので最後まで楽しんでくださいね!
それではラストの曲になります、最後はちょっと昔の名曲のカバーをやりたいと思います」
会場の様子がちょっとおかしいが、愛とあさ美は気付かない。
実は美貴がライブを行う時はラストの曲は定番の曲が存在し、他の曲を演ることは今まで考えられなかったからだ。
- 62 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:35
- 美貴は続ける。
「"Romance!"だと思ったでしょ? たまには変えないとおもしろくないじゃん。
美貴はもともと北海道出身で、その時テレビでみて憧れて歌い始めたきっかけの曲。まぁ、美貴にとって思い入れのある曲です。
それじゃ聞いてください。”今でもずっと”」
- 63 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:36
- イントロのギターがとても印象的なミディアム・ナンバーは、愛・あさ美をはじめとした観客全員の心に染みこんでいく曲だった。
初めて聴く観客も、そうでない人も、いつも以上に美貴の歌にのめりこんでいくようだった。
そして、美貴のライブは終了した。
- 64 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:36
- 近くのファーストフード店で、2人はハンバーガーを食べながら語り合う。
「あさ美、藤本さんってめちゃくちゃ上手やん! すげー感動したがし」
愛がこんなに興奮する姿を、あさ美が見るのは初めてだった。
愛が心から喜ぶ姿を見て、少しだけ安堵の気持ちになりながら答えた。
「愛ちゃんが喜んでくれてよかったよ、また行きたいね」
あさ美の問いかけに頷きながらも、オレンジジュースを一口飲んだ後に愛はあさ美にある疑問を投げかけた。
「んで?あさ美の憧れのオトモダチはどこにいたん?」
- 65 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:36
- あさ美の顔が一気に赤くなる。
「まぁいいじゃない。今日は感動したんだしさ」
「あー、またそうやって自分の話からは逃げる! ずるいぞーあさ美」
「こうなったら・・・逃げるのみ!」
あさ美はいきなり立つと、一目散に店を後にした。
「あ、逃げられた」
慌てて愛もあさ美を追っかけるのであった。
- 66 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:37
- 「はぁ、はぁ、あさ美どこ行った?」
あさ美が愛の前から消えてはや10分、愛は未だ探しきれずにいた。
(しゃーない、ライブハウスの方でも行ってみるか・・・)
ふと思って、さっきまでいたライブハウスのほうに向かって歩いていく。
- 67 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:37
- 信号が赤になったので、愛は歩道で立ち止まっていた。
桜の時期が過ぎたとはいえ、夜になればまだ少しだけ肌寒い。
少しだけ時間があるので、スニーカーの靴ヒモを直す。
立ち上がろうとした瞬間に、横に見覚えのある姿があった。
- 68 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:37
- (ふ、藤本さん・・・)
横にいたのは、愛がさっきまで見ていた演者、美貴だった。
近くで見るとより凛々しさが漂っている。
愛が美貴にちょっとだけ見とれていた時、信号が青に変わり人々は歩き始めた。
(あ、あーしも行かなきゃ・・・。)
そう思った矢先、誰かに手をつかまれた。
(え?)
ちょっとだけ恐れながら後ろを振り返ると、そこには横断歩道をわたってしまったはずの美貴の姿が。
愛は驚いてしまった。
- 69 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:38
- 「携帯、落ちてるよ。あなたのじゃないの?」
どうやら靴ヒモを結んだ際に、カバンから落ちてしまったらしい。
とりあえず、愛はありがとうございました、と言う。
美貴が”それじゃ”と言った次の瞬間、今まででは考えられない言葉が愛の口から出た。
- 70 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/13(日) 19:38
- 「あの・・・、藤本美貴さんですよね?」
「え、どうしてあたしのこと知ってるの?」
愛はさっき美貴のライブをあさ美と見たことについて恐る恐るながら話した。
「ふーん、紺ちゃんの友達ね。って、そういえば紺ちゃんは?」
「あ、ちょっとはぐれちゃって・・・」
「電話したらいいじゃん、美貴も一緒にいるって言ったら飛んでくるよ」
愛はあさ美に電話をかける。
美貴の言うとおりに事を運ぶと、案の定あさ美はダッシュで愛たちのいる交差点までやってきた。
- 71 名前:ウイング 投稿日:2007/05/13(日) 19:47
- 更新しましたー。
今回から、レスのお返事は最後につけさせていただきます。
>aisさん
ありがとうございますー。
6期メンバー、1人出てなかったので強制的に出しました(笑)
もともと出すつもりだったってのがオチですけど(爆)
家族の部分ってのは、これからも大切に描いていきたいなと思います。
>51名無飼育さん
鋭いツッコミをありがとうございます☆
亀井さんは、まだ就寝中です・・・(申し訳・・・)
こんな突っ込みどころ満載のお話になると思うので、どんどん突っ込んでいただければと思います(^^;)
- 72 名前:51 投稿日:2007/05/14(月) 02:56
- えーw絵里寝っぱなしーーー!?どんだけ〜(笑)?
らしすぎるからGJです!
ミキティも出てきてワクワクです^^
- 73 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:26
- 「はぁ、はぁ、愛ちゃん探したんだよー!戻ったらいないから・・・」
「何言うとんやざ?勝手に逃げたくせに」
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて!」
美貴が慌てて2人の間に入る。
美貴としても、こんなところでケンカでもされたらそれこそ厄介だ。
「そうだ、これから2人時間ある?」
「えっと、ないこともないですけど」
愛は答える。
「なら、美貴たちとご飯行かない? 今日久しぶりにごっちん来てるからさ」
「あさ美、行くがし。あさ美の好きな人を見ないわけにいかん」
「あー、ちょっと待ってよ愛ちゃん!」
「なら決まりね! よし、美貴の後についてきて」
あさ美の意見を完全に無視して、美貴と愛は歩き出した。
あさ美は「ちょっとぉー。」といいつつも、憧れの”あの人”に会えるのを内心では喜んでいた。
- 74 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:26
- 行く途中に愛が美貴にたずねる。
「あさ美の好きな人ってどんな人なんですか?」
「ちょっとー、愛ちゃん!」
慌ててあさ美は止めようとしたが、愛の様子がいつもと違うことに気付いた。
(いつの間にか好きな人扱いされてるよー、どうしよ・・・。
でも、人見知りの激しい愛ちゃんが藤本さんに対しては積極的になっている・・・・、ような気がする)
ふとこんなことを考えたが、とりあえず目の前の会話に集中することにした。
「あー、ごっちんのコトかな。紺ちゃん昔からごっちんにぞっこんだもんね」
- 75 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:27
- 美貴によると、”ごっちん”という人物は美貴の幼馴染みで、美貴が中学のときに東京の高校に転校したそうだ。
たまたま同じ大学に入学したのがきっかけで再会している。
他にも仲のいい友達が2人いて、いつも4人で行動しているようだ。
- 76 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:29
-
そんな会話もほとんどままならないまま、美貴の案内された店に着いた。
3人が地下に降りていくと、”ごっちん”と思われる人物がいた。
愛があさ美の方を振り向くと、あさ美の目の輝きが変わっていた。
- 77 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:29
- 「ジャジャーン!今日のお客様は紺ちゃんとその友達の愛ちゃんで〜す!」
「んー、紺ちゃんじゃん、久しぶりだねぇ〜」
ワンテンポ遅れて真希が言う。
「あ、あ、あ、あさ美・・・、あの人・・・がどうしてここに・・・」
愛は真希の方を見て少しだけ顔を赤らめながら、固まっていた。
「あ、そうか。愛ちゃんはまだ知らなかったんだよね。そう、13歳でデビューしていきなりオリコン1位を取り、18歳で突然の引退。
その謎は未だに包まれている後藤真希さんだよ。愛ちゃん、この前歌ってくれたじゃん」
- 78 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:29
- そんなことを言ってると、真希が愛たちに近づいてきた。
「んー、紺ちゃんの友達の愛ちゃんだね、私は後藤真希。よろしくね」
「た、高橋、あ、愛です・・・よろしくお願いします。
昔から後藤さんの曲が好きで、ずっと聴いてました」
「んー、そーなんだ。じゃあ、呼び方は愛ちゃんって呼んでいい?」
「え? あ、いいですよ」
- 79 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:30
- 「愛ちゃん、前に後藤さんの曲を弾き語りしてくれたんですよ。とっても上手なんです」
「ちょっと、あさ美!」
愛の顔がさらに赤くなる。
「へぇ〜、ホントに後藤の曲を聴いてくれたんだ。そうだ、良かったら聴かせてよ」
「え、後藤さんに聴かせるようなものじゃ・・・」
と愛が言うか言わないかのタイミングで、真希は美貴に
「ねぇミキティ、愛ちゃんの歌聴いてみたくない?」と聞いた。
「聴きたい! よしカラオケ行こう、カラオケ」
「いいねぇー!、よしカラオケ行こう、カラオケ」
「賛成ー!」
- 80 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:30
- カラオケルームに4人で乗り込む。
(うわぁ、何か大変なことになったなぁ・・・)
愛は心の中で少しだけ嘆いた。
とはいえ、真希に会えたことだけでもうれしいのだが。
その頃には、あさ美の憧れの人が真希であることすら忘れていた。
- 81 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:30
- 「よし、次は愛ちゃんの番ね」
美貴にマイクを渡される。
愛は自信なさげに笑いながら、曲を入れた。
もちろん曲は真希の"Walking hand in hand"。
先日、あさ美や絵里たちに聴かせた曲だ。
- 82 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:31
- ♪I want to walk hand in hand with you on our road♪
愛は歌いながら、視線を真希たちに合わせてみた。
すると、思いのほかみんな真剣な目をしているではないか。
- 83 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:31
- 歌い終えると、みんなが温かい拍手で迎えてくれた。
「愛ちゃん、うまかったよ。」
「愛ちゃん、バンドやってみる気ない?」
「え、あーしがバンドですか?」
「うん、メンバーも美貴の大学の友達。紺ちゃんが知ってる子もいるよ」
「あれ、後藤さんは?」
「後藤はねぇ、マネージャーなんだよ。さすがに音楽はもういいかなって」
「そうなんですか・・・」
「あれ、ガッカリした?美貴たちじゃダメかな?」
「そんなわけないですよ!でも・・うーん・・・少し考えさせてもらえませんか?」
「後藤も愛ちゃんの歌なら保証するよ、是非ミキティたちと一緒にやってくれない?」
愛はウーン、と考え込んでしまったため、その瞬間に沈黙が流れた。
- 84 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:32
- 「わかった、また来週美貴ライブやるから、その後でもいい? これ、来週のチケット」
そう言うと、美貴は来週のチケットを愛とあさ美に渡した。
"PEACE"と書かれているのが、美貴たちのバンドらしい。
- 85 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:32
- 「今日は1人で歌ってたけど、来週はバンドなんだ。ホントはこっちメインなんだけどね」
「わかりました、また楽しみにしてますね」
そう言って、愛とあさ美はカラオケボックスを先に出た。
その後、美貴と真希は朝まで延々と歌ってたらしい。
- 86 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:32
- 帰りの電車の中で、愛はあさ美に聞いてみた。
「ねぇあさ美、ホントにやれるのかなぁ・・・?」
「うん、何が?」
「バンドやよ、バンド。藤本さんと一緒にやれるのかなぁ?、ついていけるのかなぁ?」
- 87 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:33
- あさ美はため息をついて、愛にこう答えた。
「いい、愛ちゃん。愛ちゃんはあなた自身が思ってるよりもずっと輝いてるし、輝こうとしてる。
でも、今の愛ちゃん自身がそういうことをあんまり望んでいないように見えるのね。
だからこれはチャンスだよ、チャンス。いろんな意味でのね」
「チャンス?」
「うん、愛ちゃんは歌うことが好きだし、楽器も弾いてる。だから、好きなことは思う存分やってみるといいと思うんだ。
しかもまだ学生という時間的には恵まれた環境にいるからね。ちょっとでもやりたいと思ったらやらなきゃ損だと思うよ」
再び、愛は考え込む。
あさ美はこう付け加えた。
「ちょっと言葉では言い表しにくいし、もしかしたら傷つけちゃうかもしれないけど・・・」
「もういいよあさ美、ありがとう。もう少しだけ考えさせて・・・」
- 88 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:33
- プシュー。と電車の扉が開く。
見計らったように、電車は愛たちの降りる駅に着いた。
「じゃーね、また明日ね」
「うん、バイバイ」
別れ際、愛に背を向けて去ってゆくあさ美の姿を見ながら、愛は小声で「ありがとう」と囁いた。
- 89 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:33
- ---
翌日。
大学から家に戻ると、そこには愛のキーボードを弾いている絵里の姿があった。
「あ、愛ねーちゃんお帰り」
「ただいま、え、絵里がキーボ弾くなんて珍しい。明日雨でも・・・」
と言いかけた瞬間、絵里はちょっとふてくされながら言った。
「いいじゃん・・・」
「まぁええよ、で、何で弾こうと思ったん?」
愛は特に悪気はないのだが、とりあえず絵里を問い詰めてみる。
- 90 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:33
-
「れーなとさゆがこの前ウチに来たでしょ?あの時の愛ねーちゃんの弾き語りを見て、何か3人とも感動しちゃって。
それで、3人でバンドを組もうってコトになったんだ」
絵里は少し照れながらも、愛のちょっとした問い詰めに吐いた。
- 91 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:34
- 「なーんや、そんなことか」
「そんなことって・・・。絵里たちの中では目標になってるんだからね」
「え?」
「いつか愛ねーちゃんと一緒にバンドやって、一緒なステージに立つんだ!エヘヘ」
(とんでもない目標立ててしまったな、コイツ)
愛は心の中で密かにため息をつくのであった。
- 92 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:34
- 寝る前にふと愛は思った。
(あーしの周りだけ、なんかバンドブーム化してるんやけど)
確かにあさ美と美貴のライブを見に行ってバンドに誘われ、さらには絵里までバンド始める始末である。
(音楽かぁ・・・)
そう思いながら、愛は眠りについた。
- 93 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/14(月) 19:37
- 更新しましたー。
次回から新タイトルになります。
>51さん
ちゃんと学校に遅刻しない程度には起きてます(笑)
そんなに早起きはしないかもしれないですが・・・(^^;
藤本さんに関しては、6期で1人だけ出てないとかすると注意されるので出しました(笑)
- 94 名前:ウイング 投稿日:2007/05/14(月) 19:47
- 前レスタイトル変わってねぇ(汗)
ちなみに。
1.LIVING DAYLIGHTS
2.運命のルーレット
以上の2つのタイトルの中で出てきた曲をまとめておきます。
・You are beside me
・Walking hand in hand
・Romance!
以上の3曲です、表題も入れると5曲になります。
イメージ原曲を考えながら読み進めると、より楽しめるようになってます☆
(注)常にハロプロの曲とは限りませんので、あしからず。
- 95 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:30
- 4月も終わりに近づいた。
今日は美貴に誘われたライブの日だった。
愛は今日の最後の授業があさ美と同じだったので、その足で一緒に行くことにした。
- 96 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:30
- 夕方。
前の時と同じように2人で電車に乗り込む。
会場は前と同じ原宿だった。
電車の中でもウキウキ気分なあさ美とは対照的に、ため息を連発する愛。
まだ愛の心の中は決まっていなかった。
(なぁんか、周りが音楽バカばっかになりそう・・・)
それについては、特に対した問題ではないのだが。
- 97 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:30
- (そもそも、あーしが入って何をするんだろう?)
ボーカルをするなら美貴がやれば問題ないし、キーボードやギターは多少は出来るが、
楽器が出来るとも美貴に言ってない。
そんな疑問が愛の頭の中を駆け巡られながら、原宿を目指すのであった。
- 98 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:31
-
そして、原宿。
愛とあさ美は先週も来たライブハウスに足を踏み入れた。
受付の人にチケットを見せて、会場内に入る。
既にライブは始まっており、トップバッターのバンドが既に演奏を始めていた。
美貴たちのバンドは2番目ということで、次のようだ。
- 99 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:31
- 「何か緊張するね」
あさ美が愛に声をかける。
しかし愛はどこかうわの空だった。
「愛ちゃん・・?あいちゃーん・・・?」
「お、おう」
愛のほうがよほど何かのプレッシャーに押しつぶされそうになっている。
- 100 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:31
- そんな中、前のバンドの演奏が終わり美貴たちの出番になった。
「あ、藤本先輩出てきたよ!」
あさ美の声に、愛もやっと反応する。
愛は、美貴のほかにも3人ばかりメンバーがいるのがわかった。
- 101 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:31
- [I hope you're by side of me,all the time...]
美貴のイントロボーカルが終わるとともに、テンポの速いドラムが多い被さる。
そして、曲は始まった。
「Peace、行くぞー!」
「1曲目ぇー、”あなたが好きだから”」
- 102 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:32
- その後も何曲か流れるうちに、愛はこのバンドに魅力を感じるようになった。
まず、メンバー。
美貴とはタイプが違うが、かっこよくて凛とした感じを受けるドラマー。
対照的に元気っぽさ出ていて、迫力のある演奏を醸し出すベーシスト。
さらにはどこにでも笑顔を振りまいて、アイドルかと思わせるようなキーボーディスト。
そして歌声とパフォーマンスで観客を魅せていく、ギターボーカルの美貴。
4人が4人のそれぞれの魅力があった。
それを見てるだけで、愛は充分に満足していた。
- 103 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:32
- 美貴たちのライブが終了してから約30分。
愛とあさ美はライブハウスの外に出た。
「あ、愛ちゃんと紺ちゃんおつかれー」
声の主は美貴だった。
「先輩お疲れさまですー!」
あさ美が明るく応対する。
「あ、どうも・・・」
愛もとりあえずお辞儀をする。
- 104 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:32
- 「どうだった、美貴たちのライブ」
「かっこよかったですよー!、超迫力ありましたー」
「愛ちゃんは?、どうだった?」
「何か4人が4人の魅力があったと思います、良いバンドですね」
「そーなんだ、今のバンドってすげーいいんだよ」
- 105 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:32
- そこに、他のメンバーがやってきて、愛とあさ美を見つける。
「あ、前に言ってた美貴ちゃんの後輩?」
「2人ともかわいいじゃん、よし、兄ちゃんについて来い!」
「ナンパはやめろっ」
案の定、美貴に突っ込まれる某メンバー。
- 106 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:33
- 「2人ともこれから大丈夫?またご飯食べに行かない?
愛ちゃんの”返事”も聞きたいし・・・」
愛はちょっとだけギクッとした。
あさ美はそれを雰囲気で感じ取ったが、「いいですよ」と言った。
- 107 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:33
- --------------
ライブハウスの近くにある、とある焼肉店。
そこで食事はスタートした。
とりあえず、飲み物と食べ物を頼んで乾杯する。
「あ、そーだ。2人にまだメンバー紹介してなかったね。
あたしの前に座ってるのが、キーボードの梨華ちゃん」
「石川梨華です、よろしくね」
「その横、愛ちゃんの前にいるのがドラムのよっすぃー」
「よっすぃーっす、ども」
「一番奥、紺ちゃんの前にいるのがベースの麻琴」
「小川麻琴です、よろしくー。」
愛とあさ美は簡単にお辞儀をしていく。
- 108 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:33
- 「で、こっち側。麻琴の前があたしの高校の後輩の紺ちゃんで、よっすぃーの前が紺ちゃんの友達の愛ちゃん」
「紺野あさ美です、よろしくお願いします」
「高橋愛です、どうもです」
2人とも丁寧にあいさつを済ませた。
- 109 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:33
- 「で、美貴ちゃんがうちのバンドに入れたいって言ってたのはどっちだっけ?」
梨華が美貴に聞いた。
(あちゃー、梨華ちゃん本題はいるの早すぎだよ)
心の中でそう思うも、
「あー、愛ちゃんのほうね。先週にごっちんと4人でカラオケ行ったんだけど、抜群に上手かった。
ごっちんも実力は保障してくれたし」
「へぇー、あのごっちんが褒めるんならかなり上手いんだね」
- 110 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:34
- (あれ、これ面接やない?)
普通の人が見れば単に女の子6人がご飯食べているようにしか見えないのだが、愛にとっては面接にしか感じなかった。
「前に紺ちゃんがメールくれたけど、愛ちゃんって楽器も出来るんだよね」
「え、えぇ・・・」
愛は苦笑しながら、隣にいるあさ美の腿をギュッとつねった。
(余計なことしなくていいんだよっ)
「イタッ」
あさ美は思わず声に出してしまう。
愛以外の視線があさ美に集まったが、「何でもないです」と言ってその場は元に戻った。
- 111 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:34
- 「で、何ができるの?」
「キーボードとギターを少しだけです、ずっとやってなかったんで出来るかどうか・・・」
自信なさげに愛は答えた。
ちなみに前に会った時に、美貴とあさ美は愛の目を盗んで既に連絡先を交換していた。
なので、美貴だけはその情報は既に知っていたのだが。
「で、提案なんだけど、美貴と愛ちゃんをツインボーカル&ツインギターにしようって思ってるんだ。
どっちがメインボーカルでどっちがメインギターになるかは後で考えればいいしさ」
- 112 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:34
- その提案にひとみ、麻琴、梨華の3人は「おぉ〜!」と言ってあっさり納得してしまった。
「さ、後は愛ちゃんの気持ちだけだよ。素直な気持ちを聞かせて欲しいな」
美貴は愛に向かって小声で言った。
- 113 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:34
- 「んー、やりたい気持ちはあるんです。でもみんな上手じゃないですか。
そこについていけるのかなぁって・・・」
「そんなの心配いらないって、ねぇ、みんな!」
「大丈夫だよ、あたしたちだっていつも練習してるわけじゃないし。
あたし一応このバンドのリーダーやってるのね。で、このバンドのコンセプトっていうの?は”楽しく”とか”エンジョイ”。
あ、一緒か。だから別にプロを目指して切磋琢磨してるわけでもないし、趣味でやってるの。
ホラ、あたし達もまだ学生だからやりたいことをやっとけ?見たいな感じで」
「あたしも愛ちゃんと一緒にやりたい。だって年齢近い人いないもん・・・」
麻琴が寂しげにつぶやく。
- 114 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:35
- それもそのはずだ、麻琴以外のメンバーは4年生だが、麻琴は2年生。
愛とあさ美が同級生であることを考えれば、麻琴の発言にもあさ美は理解していた。
「ウチも愛ちゃんとやってみたいなぁ・・・、カワイイからね」
「よっすぃー?またナンパかい」
ドスッ。
美貴に本日2回目の突っ込みを入れられるひとみであった。
それを見て愛は苦笑する。
それと同時に考え込んでしまった。
- 115 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:35
- そのため、静かな空気が辺りを包む。
「さ、お肉焼けてるから食べないとこげちゃうよ!」
美貴は次々とお肉を平らげていった。
愛をはさんであさ美もゆっくりではあるが、次々と食べていくのであった。
- 116 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:35
- --------
時間も過ぎ、お店を出る時。
愛は「色々考えた結果、やってみようと思います。よろしくお願いします」とだけ美貴たちに言った。
美貴たちも「うん、よろしく」と言って愛の加入を祝福した。
「今度うちのバンドの楽譜コピーして渡すよ。紺ちゃんに聞いたらうちらって大学もすぐ近くにあるからね」
「そーなんですか、わかりました」
「じゃあ、美貴たちはこれから行く場所があるから・・・」
「わかりました、またこの次よろしくお願いします」
愛は丁寧にお辞儀をして、あさ美とともにその場を去った。
- 117 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:36
- ----------
帰りの電車の中。
「ちょっとあさ美、どーいうつもりしとるが? 勝手に人の情報流してさ・・・」
愛はあさ美に怒り気味に聞いた。
「愛ちゃんは、愛はね、秘密主義すぎるの」
「え?」
愛は自分の心の中をあさ美に見破られた気がした。
「愛はね、自分自身を心の中に隠しすぎるところがあるの。
だから本当に自分のやりたいこと、自分のやりたいことをちゃんとやれてないし、愛自身がそれが何かをわかってない。
先週といい、今回といい、愛のあれだけ楽しそうな姿、笑ってる姿ってあんまり私も見たことないの。
もっと自分に素直になればいいと思うよ、じゃないとみんなに愛のいい部分をわかってもらえないよ?」
「ほやけど・・・」
「思うこともたくさんあるから、あんまり無理強いはしないけどね。
私が言えた立場じゃないかもしれないけど、もっと前を向いて歩こうよ」
- 118 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:36
- 少しの間があく。
「あーしは・・・どうすればいいんや?」
あさ美は愛の目を見た。
「もっと心の中の自分に正直になればいいと思う。私でよければ何でも話を聞くし、そんなに溜め込まないでね」
「うん、わかった。ありがとう、あさ美・・・」
- 119 名前:運命のルーレット 投稿日:2007/05/16(水) 19:36
- 電車は駅に着いた。
あさ美と別れた後、愛は心の中で何度も同じ質問を自問した。
「あーしのやりたいことって・・・、あーし自身って何や?」
答えの見つからないまま、家に到着してしまうのであった。
- 120 名前:ウイング 投稿日:2007/05/16(水) 19:39
- 更新しました〜。
事情により、新タイトルは次回からになりますm(__)m
- 121 名前:ais 投稿日:2007/05/17(木) 00:16
- 愛ちゃんにとって新しい世界の幕開けですね〜。
今後どのようになるのか楽しみにしてます。
- 122 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/18(金) 20:07
- 季節はゴールデンウィークに突入した。
愛は美貴たちから楽譜をもらい、少しずつ歌とギターの練習を始める。
初めての合同練習はゴールデンウィーク明けに決まり、少しずつながら充実感を得ていた。
- 123 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/18(金) 20:08
- そんな合間をぬって、愛と絵里は京都に出かけることにした。
古都・京都には愛の母親の妹(つまりは叔母に当たる人物)が住んでいる。
愛の大学の費用は全てこの叔母さんが出してくれているので、お礼を兼ねて行くことにしたのである。
最初は愛1人で行くことにしていたが、
「絵里も行きたい」と言ったので叔母さんに聞いたところ、
「ええで、ちゃんと会ったことなかったし、連れて来いや」と快くOKしてくれたので、絵里も連れて行くことにした。
- 124 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/18(金) 20:08
- 朝、東京駅。
八重洲口のほうから入り、みどりの窓口でキップを買う。
「えっと、京都まで大人2枚」
「新幹線はどうなさいますか?」
「この後ののぞみってどうなってます?」
「あー、喫煙席でよければありますけど、禁煙だと次のひかりしかあいてないですね」
「なら、ひかりでいいです」
- 125 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/18(金) 20:08
- 正しくキップを買って、新幹線に乗り込む。
「あ、ここだ」
愛と絵里は指定席についた。
すると間もなく新幹線は走り出す。
「ご乗車ありがとうございます、ひかり3○△号、岡山行きです。
止まります駅は、新横浜、豊橋、名古屋、岐阜羽島、米原、京都、新大阪・・・」
- 126 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/18(金) 20:09
- 「愛ねーちゃんとこうやって遠出するのって初めてだよね」
「そーいえばそうやんな」
「なんかワクワクする〜!デートみたいじゃん」
- 127 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/18(金) 20:09
- プッ。
愛は飲みかけていたペットボトルのお茶を吐き出しそうになった。
「絵里、あんた何言うとんやざ?」
「エヘヘ。あー、絵里眠くなってきた」
「なら寝といてええよ、近くなったら起こしてあげる」
「ありがとう、ならおやすみ」
絵里はよほど疲れていたのか、すぐに眠ってしまった。
(あーしも少し休むか)
愛もしばしの休息に入るのだった。
- 128 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/18(金) 20:09
- 愛が目が覚めると、車内アナウンスが聞こえてきた。
「間もなく、米原ぁ〜、米原です。お出口は左側です。
乗り換えのご案内をします。北陸線、福井・金沢方面特急・・・」
(あぁ、もう米原か)
愛はふと思った。
生まれ故郷の福井に行くにはこの駅で降りる。
以前にも何回か来たことのある、見覚えのある駅だった。
- 129 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/18(金) 20:09
- 愛は福井での思い出を思い出そうとしていた。
福井の景色、味覚、友達、感覚・・・。
しかしどうしても思い出せない部分もある。
それをどうにかして思い出そうとしていた時、
「米原の次は、京都に止まります」と車内アナウンスがなる。
それを愛は、はっと我に返った。
「絵里、もうすぐ京都に着くよ」
「ん・・・、わかった」
絵里は目をこすりながら頷いた。
- 130 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/18(金) 20:10
- 「京都、京都です。ご乗車ありがとうございました」
2人は京都駅に到着した。
- 131 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/18(金) 20:10
- 愛は叔母に電話をかけた。
「もしもし、裕子叔母ちゃん? 愛です、今京都着きました。 はい、はい・・・」
絵里の耳にも、裕子の関西弁が少しながら聞こえてきた。
「はい、はい、わかりました。△番線の電車に乗って、はい、OKです。着いたらいるんですね? わかりました」
- 132 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/18(金) 20:10
- 「絵里、もうちょっとだけ頑張れるか」
「また電車乗るの?」
「うん、って言ってもちょっとだけだけどね」
そういって、電車の乗り換え口に行く2人だった。
- 133 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/18(金) 20:10
-
京都駅から電車で揺られて。
2人は裕子が出迎える駅に着いた。
駅の改札を出ると、そこには裕子がいた。
「裕子叔母ちゃーんー!」
「おー、愛、よー来た。ってか、叔母ちゃんはやめぇや・・・。
横の子が絵里ちゃんやな。話は愛から聞いとるで」
「お世話になります」
一通りあいさつして。
「なら、家行くか、今愛佳もいるし、新潟から妹の子も来てるしな」
「あー、小春ちゃんですね。久しぶりに会うなぁ・・・」
「おう、2人とも同い年やからな、仲良ぉしてんで」
3人は裕子の運転する車に乗り、裕子の家に向かうのであった。
- 134 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/18(金) 20:10
- 裕子の家に着く。
「ただいまぁ、おう、愛佳、小春、愛連れてきたで」
「わぁー、愛ねーちゃんだー。久しぶりやなぁ」
「愛ねーちゃんの後ろにいる人は誰なの?」
小春が不思議そうに裕子に尋ねる。
「今愛と一緒に住んどる絵里や、小春も愛佳も、仲良よーしたってな」
「はーい」
多少小学生にも取られかねない元気な返事をする2人であった。
- 135 名前:ウイング 投稿日:2007/05/18(金) 20:14
- 更新しました〜。
>aisさん
色んな展開を考えましたが、とりあえず京都に行かせてみました(笑)
亀井さんから「絵里が出てない!」って怒られそうなんで(爆)
- 136 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:02
- 少しだけ裕子の家で休んだ後、愛と絵里は京都観光をすることにした。
最初は2人だけでいくつもりだったが、愛佳と小春も「行きたぁい!」と言ったので、4人で行くことにした。
- 137 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:03
- 最初に4人が向かったのは、金閣寺。
約600年前、3代将軍・足利義満が建てた何ともきらびやかなお寺である。
「わぁー、きれい・・・」
初めて京都に足を運んだ絵里は、その華やかさに感動している。
「雪が降るともっときれーなんよ、お母さんと一度見に来たことあるけど、ホントにきれーなんや」
愛佳がちょっとだけ言ってみる。
- 138 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:03
- 金閣を後にし、バスと地下鉄を乗り継いで向かった先。
4人は東山・平安神宮に来ていた。
「次どこ行くー?」って愛佳が聞いたとき、愛が「平安神宮に行きたい・・・」と言ったので、その場で決まった。
- 139 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:04
- 神宮道を北上し、大鳥居の前に立つ。
「おっきぃー!」と小春と絵里は2人ではしゃいでいた。
愛だけは何か神聖な面持ちで、目をつぶっている。
「愛ねーちゃん、どうしたの?」
絵里がちょっと心配そうに愛に聞いた。
「いや、また昔のことを思い出したんや。あーしはここに2回来たことあって、1回は家族みんなで、もう1回はお母さんとライブ見に」
「こんなところでライブ見たの?」
「あー、たまにやってますよ」
愛佳が頷きながら答える。
「ま、とりあえず写真写真。4人で取ることなかなかないが」
「そーだね、写真とろう、写真!」
- 140 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:04
- 「ハイ、チーズ」
4人は近くを通りがかった観光客と思われる若い男性に写真を撮ってもらった。
最初ははしゃぎすぎる小春と愛佳に男性はもちろん、愛や絵里までも苦笑する始末であったが。
「どうもありがとうございました」「ありがとうございました」
愛、続いて絵里が男性に丁寧にお礼を言う。
小春と愛佳も元気に「ありがとー!」と元気よくお礼を言った。
男性は2人のいせいのよさにびっくりしてしまうが「どうも」と言って去っていった。
- 141 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:04
- 4人は平安神宮の中に入った。
白い砂と朱色の本殿が紅白をイメージさせるように、見事にマッチする。
今まで見てきた神社とは何か違うことを、愛佳以外の3人は強く感じるのであった。
- 142 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:05
- 一通り見終わった後、小春が「おみくじをひこう」と言ったので、4人でおみくじをひくことにした。
「やったー!大吉だー!」
「あーしは中吉やが」
「ウチは吉やで〜」
小春、愛、愛佳の順に結果に一喜一憂する。
その傍らで絵里は一人で一生懸命おみくじを読んでいた。
- 143 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:05
- 「・・・」
「どしたん?絵里」
「絵里、今までおみくじって何回かひいたことあるけど、こんなの初めて・・・」
そういうと、絵里は愛におみくじを見せた。
そこには愛も見たことのない結果が。
- 144 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:05
- <運勢 半吉>
「は、はんきちぃ?」
「うん」
「なになに?」
小春と愛佳も寄って来る。
「絵里のおみくじ、半吉やって・・・」
「えー、半吉ぃ〜?」
テレビ番組であるかのような小春と愛佳のハモリに愛と絵里は思わず笑ってしまうのであった。
- 145 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:05
- 中澤家に戻る電車の中でも、ずっと「半吉」談義で盛り上がっていた。
運勢の位置的には吉と小吉の間だとか、そうでないとか。
4人の中でその正解を知っているものは誰1人としていないのだが。
そうしているうちに、いつの間にか中澤家についてしまっていた。
- 146 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:06
- 中澤家に戻ると、裕子が夕飯の支度をしていた。
「疲れたやろ、先順番に風呂入って来いや〜。あがる頃にはご飯できてるさかいな」
「はーい!」
「なら、愛佳と小春ちゃん先入ってええが。あーしらは後でもええし」
「愛佳一緒に入る?」
「うん!」
「なら愛、ちょっと手伝ってくれへんか?」
「いいですよ」
「あ、絵里も手伝います!」
「絵里ちゃんはお客さんだからええで。リビングでゆっくりしててな」
「じゃあお言葉に甘えて・・・」
それぞれがそれぞれの場所に散っていった。
- 147 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:06
- キッチン。
「あーしは何をしたらいいでしょう?」
「なら、そこにあるコロッケと鶏肉を揚げてくれんか、下ごしらえは全部できてるし」
「わかりました」
そう言って、愛はガスの火をつけた。
横でじゃがいもをつぶしながら、裕子が愛に話しかける。
- 148 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:06
- 「今日平安神宮行って来たんやて?なつかしかったやろ」
「うん・・・、何か変わってないなぁって」
「そーいえばあん時やったな。”愛が歌手目指す”って言ってオーディション受けてたの・・・」
「もう6年も前になりますね」
裕子はじゃがいもをつぶすと、次はリンゴを切り始める。
「うちの愛佳もそうやし小春もそうやけど、最近みんな音楽にハマりはじめてな。歌ったり、楽器弾くようになってきたんよ」
「あらぁ・・・」
「ん?どしたんや?」
「いや、あーしがこの前初めて楽器弾いてるとこを絵里に見せたんですよ。そしたら絵里も楽器始めて・・・」
愛が揚がった鶏肉を取り出しながら続ける。
- 149 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:07
- 「実はあーしもバンドに誘われて、迷ったけどやることにしたんです。4人が4人、音楽に浸かろうとしてますよね」
ちょっぴり深刻そうな顔になった愛を見て、裕子はちょっと微笑んで言った。
「まぁ、みんなやりたいことやったらええんちゃう?若いうちやで、何でもやってみるのは」
「そうですかね?」
「そうやで。愛もまだ歌手になりたいんやったら、もう1回受けてみたらええやん。夢とか目標って大切やで。
夢ならウチだって応援するし、別に大学出る出ないもどうのこうの言わん」
「でも、逆に迷惑かけてるみたいで・・・」
「ウチは別に迷惑なんて思とらん。逆に愛や絵里ちゃんが、愛佳や小春がちゃんと成長していくのを見守っていきたいんや。
特に愛はな、色々あったしな。愛らしさっていうか、もっと自分を出していってもええと思うねん」
「ありがとうございます・・・でも、自分らしさってなんですか?」
愛は今一番自分の中で駆け巡っているテーマを裕子に聞いてみた。
- 150 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:07
- 「自分らしさか・・・、難しいけどな。ウチが言うのも何やけど、普通じゃないことやねん」
「はぁ・・・」
「まずは自分の考えや思ったことを素直にやってみることやとウチは思うで。そこから自分流っていうスタイルが生まれてくるしな。
わからなくなったら、誰かに聞けばいい、調べればいい。それが全て自分の栄養になる。その栄養を自分で考えて使っていけばいい。
そのサイクルを繰り返すことで、自分のスタイルてのが作られていくんちゃうかな」
愛は裕子の目を見ながら聞いている。
「人間は機械やない。それぞれが感情を持ち、それぞれが自分の意思を持つ。マニュアル化されてない”生き物”やねん。
マニュアル化されてしまったら、人間=機械=無生物ってことやしな」
- 151 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:07
- 裕子の人生哲学講座はこの後もしばらく続いた。
愛は裕子の言ってる意味が今はわからなかったが、とりあえず裕子が「何でもやってみろ」って言ってることだけは理解できた。
最後に裕子は愛にこう言った。
「まぁいつでもあたしに相談しぃや、愛はいつも悩みを自分のものだけにしてしまうからな」
「そうですかね」
- 152 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:07
- -----------
一方、こちらはリビング。
風呂あがりの小春・愛佳と絵里がソファーに座ってテレビを見ながら会話している。
「小春あの曲弾けるよ!」
「小春ちゃん何か楽器できるの?」
絵里が小春に尋ねる。
「小春、ずっとピアノ弾いてたんだよ!それで色々できるようになったんだ。今はキーボードかな」
「そーなんだ。愛ねーちゃんもキーボード上手かったよ。絵里はまだ始めたばっかりで練習中だけど・・・。」
「ウチもギターできますよ〜」
小春と絵里の会話に思わぬ形で入ってきた愛佳。
そのエピソードに入る前に、愛佳の口から絵里や小春にとって初耳な言葉が聞こえた。
- 153 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:08
- 「愛ねーちゃんって昔オーディション受けたことあるの知ってる?」
「え、それホント?今初めて聞いたんだけど・・・」
「あたしがまだ小学生の頃やと思うけど、ウチのお母さんがずっとテレビ見てたで。確か最終選考まで行ってダメやったんちゃうかな」
「そうなんだ・・・」
小春と絵里は頷く。
「その後お母さんが愛佳に何かやらせようとして、愛佳がやったのがギターやねん。お陰で今ではけっこう弾けるようになったで」
「じゃあさ、今度4人で一緒に何かやろうよ」
小春の提案に、まずは愛佳がのる。
「ええよ!何か楽しみになったきた」
「絵里さんも、いいですよね?」
「うん」と絵里は小さく返事をした。
- 154 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:08
-
(結局なんだかんだで愛ねーちゃんの影響ってすごいんだな)
絵里は心の中でこう思った。
確かに、絵里以外にも愛の影響で楽器を始めた人が少なからずいる。
知らず知らずのうちに愛の周りに人が集まっていることを、本人は気付いているのかなとすら絵里は思った。
「絵里ー、愛佳ー、小春ちゃんー、ご飯やよー」
愛の声がリビングにこだまする。
それを聞いた3人は走って愛と裕子の元に行くのであった。
- 155 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:08
-
夕食後、愛のオーディション時のVHSを見ようということになった。
絵里が夕食中に話題にしたことをきっかけに、裕子が「ええよ、見せてやる」と言った。
愛だけは顔を少しだけ赤くしながらも反対したのだが。
テレビに6年前の愛の姿が映る。
「わー、愛ねーちゃんかわいいー!」
絵里は目を輝かせて画面を見ている。
- 156 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:08
- 「高橋愛、14歳、福井県出身です。よろしくお願いします」
画面の中の愛が歌いだす。
「どや、これがオーディション時の愛や。今の愛佳や小春と同い年やで」
小春と愛佳は当時の愛の凛々しさに驚きを隠せない。
当時の愛は、現在の2人よりもはるかに大人びていたからであった。
「師匠、あたしを弟子にしてください!」
「へ?」
愛佳のいきなりの懇願に、愛はただ驚く。
「ずるいー、小春も弟子にしてぇ」
そんなやりとりを裕子は微笑ましく見ているのであった。
「さ、これ済んだらそろそろ寝ぇや。夜もだいぶ遅くなった来たし、小春も愛も絵里ちゃんも明日早いやろ?」
「はーい」
- 157 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:09
- 4人は大部屋に布団を敷いて横になった。
部屋の明かりを完全に落とした後、先に小春と愛佳が寝たのを横に見ながら、絵里は愛に声をかけた。
「愛ねーちゃん、起きてる?」
「あー、絵里か。どしたん?」
「何か寝れなくて・・・」
「絵里もか、あーしもや。ちょっと玄関で話すか」
「うん」
- 158 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:09
- 2人は玄関口に腰を下ろした。
ドアを開ければ、時折冷たい風が入り込んでくる。
ちょっとした沈黙が続いたが、愛が先にそれを破った。
「なぁ絵里、京都来て良かった?」
「うん?良かったよ。愛ねーちゃんの若かりし頃も見れたし」
「若かりしは余計やっ。まぁ、あの頃はただ歌手になりたいって思ってた」
- 159 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:09
- 玄関のドアから差し込む月の光が、2人をほのかに照らす。
「もしかしたら、”変わりたい”って思って、ガムシャラに動いてただけかもしれない、って今になっては思うけどね」
「そーなんだ、何かちょっと意外だった」
「ん?」
「言ってることがあってるかわかんないけど、愛ねーちゃんってあんまり人に”自分”ってものを見せないじゃん。
何かミステリアスっていうか、謎の少女っていうか」
「あー、前にあさ美にも言われたことあったわ。”愛は秘密主義すぎる”って」
「そうかも。だってあたし達1年くらい一緒に住んでるけど、愛ねーちゃんのこと良く知らないもん・・・」
絵里の言葉に、愛ははっとした。
知らず知らずのうちに、自ら孤独の深みにはまっていこうとしていることに気付いたのだ。
- 160 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:10
- 「愛ねーちゃんのことをもっと知りたい」
絵里は元気なくそう言って、愛にもたれかかった。
「絵里?絵里?」
「スー・・・スー・・・」
(あれま、こいつ寝ちゃったわ)
仕方なしに絵里をおんぶして寝室まで運んだ。
- 161 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:10
- その後、愛は天井を見ながら考えた。
(事故の時は絵里があーしを求めてたけど、もしかしたら心の奥底ではあーしも誰かを求めてたんやな。
人間1人では生きていけないし、心のどこかで誰かを求めてるんやな)
愛は寝ている絵里を見ながら小さく”ありがと”と言って、眠りについた。
- 162 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:10
- 翌朝。
愛・絵里・小春の3人はそれぞれの場所へ帰ることになった。
裕子と愛佳が3人を京都駅まで送ってくれた。
お土産屋で愛と絵里は買い物した後、先に電車の来る小春の元へ駆けていった。
ちょうど、駅のアナウンスが流れる。
「まもなく0番乗り場に入ります列車は特急サンダーバード△号、金沢・富山行きです。
京都を出ますと、敦賀、福井、金沢、高岡、終点富山・・・」
「お、小春の電車来たで」
裕子が言う。
愛は故郷を走る電車の到着に少しばかり懐かしみを覚えた。
- 163 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:10
-
「愛ねーちゃんも絵里ちゃんも愛佳もみんなありがとー!」
そういって電車に乗り込む。
「おう、また来ぃや」
「絵里たちのところにも来てね」
「はーい!」
小春が元気に返事をしたところで、列車のドアは閉まった。
「あー、いっちゃった」
愛佳が寂しそうにポツリとこぼす。
「またいつでも会えるやん、すぐやで」
裕子が愛佳の肩をポンと叩く。
「なら次は愛と絵里ちゃんやな、新幹線口のほう行くで」
4人はエスカレーターを上がり、新幹線の乗り場の方に向かっていった。
- 164 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:11
- 大型連休の京都駅ともあり、駅構内は人でかなり混雑している。
人の流れに乗らなければ、前へ進むことも困難なくらいだった。
やっとの思いで、新幹線口のほうにたどり着く。
「そんなら、愛も絵里ちゃんもがんばってな」
「はい、色々ありがとうございます」
「愛佳も元気にしとんやでー」
「愛ねーちゃんたちも元気でね」
お互いに別れの挨拶をして、愛と絵里は新幹線に乗り込んだ。
- 165 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:11
- 東京に向かう新幹線の中で、愛と絵里は駅弁を食べながらこの2日間を思いながら談笑する。
愛にとっては、裕子に、絵里に思いをちょっとだけぶつけたことで、周りに少しずつ心を開くことを覚え始めた2日間。
絵里にとっては、愛だけでなく小春や愛佳という違った意味での”ライバル”であり、”目標”を見つけた2日間。
愛、絵里2人の心の中の「のぞみ」は今、ゆっくりではありながら走り始めた。
- 166 名前:春舞う街で 投稿日:2007/05/21(月) 20:11
- 更新しました。
次回から新タイトルになります。
- 167 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:06
- GW明け、愛と美貴たちの練習が本格的に始まることになった。
今日、その初日を迎える。
- 168 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:07
- 「こんばんはー」
19時前に愛がスタジオに着くと、他のメンバーは既に準備をしていた。
「おー、愛ちゃん!ささ、すぐ準備して」
美貴が愛に声をかけるが、他のメンバーは何かシーンとしている。
愛が見た限りでは、梨華がいちばん難しい顔をしていた。
- 169 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:08
- 全員のスタンバイができた頃に真希が現れる。
「んー、みんなちゃんとそろってるね。けっこうけっこう」
「ごっちんは監督か!」
美貴の激しい突っ込みが入る。
ひとみが「この前やった”あなたが好きだから”からやろう、愛ちゃんに楽譜渡してるよね?」
「もらってますよ」
愛が淡白に答える。
「じゃー、やろっか。ミキティお願い」
「あ、今日は高橋のボーカルでやらない?」
- 170 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:09
- その場にいた美貴・愛・麻琴・ひとみにとっては意外な答えだった。
「せっかく高橋が入ったんだしさ、高橋の歌でやらなきゃ意味がないじゃん。
美貴ちゃんの歌はいつでもできるしね」
梨華の提案に、真希も同調する。
「んー、いいんじゃない?愛ちゃんの歌で一度やってみようよ」
- 171 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:09
- ------------------
同時刻。
絵里・れいな・さゆみもバンドについて話すため、絵里の家に集まっていた。
楽器すらやったことのない3人が一同に集まっている。
「まず、どーやったらバンドっぽくなる?」
絵里が2人に聞く。
「ボーカルでしょ、ギターでしょ、あとはドラムもいるの」
「あとベースもいるんじゃない?キーボードもいればいいとー」
「んー、絵里たち3人じゃできないのかな・・・」
「うーん・・・」
- 172 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:10
- 3人は深く考え込んでしまう。
少しだけ沈黙が続いた後、
「わかった!とりあえず、ボーカルとギターとキーボードとベース。ドラムはいらないの」
「ドラムなしでどうすると?」
「ドラムがない曲を作ればいいの」
さゆみのぶっとび発言に絵里とれいなはこける。
「あのねぇさゆ、ドラムがない曲もあるけどそれだとバラードばっかりになっちゃうよ」
「それにさゆが言ったのだけでも4つあるし、3人じゃ無理とー」
さゆみは2人の正しいツッコミにうなだれてしまった。
- 173 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:10
- --------------------
「愛ちゃん、いいよ!」
歌い終えた後、真っ先に美貴が愛の元に駆け寄る。
愛が真希のほうに視線を移すと、真希も満面の笑みで愛のほうを見ていた。
「そーですかね?」
愛が謙遜して答えると、愛の後ろから梨華がやってきた。
梨華は最初は難しい顔をしていたが、愛が梨華の方を振り向くと笑顔になって、
「高橋は合格」
- 174 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:11
- 「は?」
「ごめんねー、テストしてたんだー。
いくらごっちんと美貴ちゃんがいいって言っても、このバンドの雰囲気に合うかどうかは実際にやってみないとわかんないでしょ?
その点、高橋はちゃんとグループの雰囲気にも音にも溶け込んでたし、あたしが言うことは何にもないよ」
「はぁ・・・」
「今日最初スタジオに来たら愛ちゃんいないし、どうしたのかなぁーって思ってたら石川さんが「テストする」なんて言って。
これでダメだったら愛ちゃんどうなるのかと思ってたよ。せっかく同学年のコができると思ってたのに・・・」
麻琴は少し涙目になりながらも、とてもうれしそうだ。
「大丈夫、もしダメだったとしてもカワイイから合格させるつもりだったし」
バシッ。
「よっすぃーは黙ってて」
「いってぇー!」
梨華の平手突っ込みに、ひとみは頭を抱えてしゃがんでしまう。
(またよしざーさんやられてる・・・)
そんなひとみを見ながら、愛は少しだけ笑っていた。
- 175 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:12
- 「そんな新加入の高橋にお願いがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「新曲用の歌詞を書いて欲しいんだ」
「あーしがですか?」
梨華のいきなりの提案に、愛は驚く。
「うん、ウチのバンドでは曲を先に書いてから詞を書くんじゃなくて、書いた詞を元にして曲を書いていくのね。
いわゆる詞先ってやつ。曲は残りの誰かが書くから」
「わかりました」
「あと、次回のライブで愛ちゃんお披露目ね」
- 176 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:12
- 美貴が続いて話す。
「次回っていつになるんですか?」
「えーと、6月の中旬かな。曲は今日やった「あなたが好きだから」と、この前愛ちゃんが聞かせてくれた「Walking hand in hand」、
後はカバーで「You're beside me」ね。確か紺ちゃんが言ってた曲だったはずだけど」
「・・・あさ美が?」
「うん。美貴、この前会った後に”愛ちゃんのこと何にも知らない”ってことに気付いたの。で、紺ちゃんにちょっとだけ聞いといたんだよ。
後これ、その2曲をアレンジした譜面ね。愛ちゃんのギターパートがちょっとだけあるから」
「・・・はい」
「今日は後その2曲やって終わりね。さーやるよー!」
梨華の言葉とともに全員がスタンバイを始めた。
- 177 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:13
- -----
「うーん・・・」
なかなか話が進まないこちら亀井家。
2人に正しいツッコミを受けたさゆみがその後再び提案し、「ボーカル・キーボード・ベース」という3ピース型に決まった。
「でも、ギターは弾いててカッコイイし、是非欲しくない?」
絵里が小さくつぶやく。
- 178 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:13
- 「そうやねー」
れいなも同じ意見であった。
「じゃあさ、ボーカルがギターをやればいいんじゃない?」
さゆみのまたの提案に、2人は「それだー!」と合いの手を打つ。
「よし、決まったね。後は誰が何をするか・・・」
- 179 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:13
- その後はすぐに決まった。
もともとさゆみはあんまり歌が上手いとはいえず、絵里は愛が弾いてるキーボードをやりたい!と言ったので、
必然的にギターボーカルれいな・キーボード絵里・ベースさゆみの形式になった。
「でも、あたしギターなんか持ってないとー」
「あたしもベース持ってないの」
「じゃあさー、明日みんなで楽器店行こうよ!」
「そだね、そうしよー!」
- 180 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:14
- ---------
「おつかれー!」
愛が加入したPEACEの記念すべき第1回目の練習は終わった。
とは言っても、実際は愛がバンドの音になじむかどうかのテストだったが。
とりあえずのお互いの連絡先を交換して、今日は解散となった。
- 181 名前:スタートライン 投稿日:2007/05/28(月) 21:14
- (何か楽しかったなぁ・・・)
そう回想をしながらスタジオの玄関を出る時、
「愛ちゃん、今から時間ある?」
声の主は美貴だった。
「特に何もないけど、どうしたんですか?」
「えっと、その・・・ご飯食べに行かないかな?って」
「いいですよ、みなさん行くんですか?」
「いや、他のみんなはこの後ちょっと用事が・・・。美貴と2人だけじゃだめかな?」
特に断る理由もないので、愛は美貴の誘いを受け入れた。
- 182 名前:ウイング 投稿日:2007/05/28(月) 21:16
- 更新しました〜。
- 183 名前:スタートライン 投稿日:2007/06/04(月) 21:23
- 美貴と2人で、スタジオ近くのファミレスに入る。
学生街ということもあって、学生と思われる同じ年齢くらいの人がたくさんいた。
「いらっしゃいませ、こんばんはー」
店員に案内され、2人は大通りが見える窓際の席についた。
- 184 名前:スタートライン 投稿日:2007/06/04(月) 21:24
- メニューを見ながら、美貴が愛に話しかける。
「ねぇねぇ愛ちゃん、練習どうだった?」
「うーん、思ってたより楽しかったですよ。いきなりテストだったのはびっくりしたけど・・・」
愛の素直な感想に、美貴はちょっと申し訳なさそうな顔をする。
「あー、ごめんね。さすがに美貴だけで決めるわけにいかなくてね。美貴的にはどーしても入ってほしかったんだけど」
美貴がボタンを押したので、店員がやってきた。
- 185 名前:スタートライン 投稿日:2007/06/04(月) 21:24
- 「ご注文お決まりでしょうか?」
「えーと、あたしはすき焼き定食でー、愛ちゃんは?」
「あーしはミートソースで」
「以上でよろしいですか?」
「あ、ドリンクバー2つ」
注文を終えると、美貴が「飲みもの取ってきてあげるよ」と言ったので、「じゃあ、オレンジジュースお願いします」と愛は答えた。
- 186 名前:スタートライン 投稿日:2007/06/04(月) 21:24
- 美貴が飲み物を取って、席に戻ってくる。
「ありがとうございます」
愛は美貴からもらったオレンジジュースを一口だけ飲んだ。
「ま、梨華ちゃんもよっすぃーも、麻琴もいいヤツだからね。それだけは言っとくよ」
「は、はぁ・・・」
愛は窓越しに見える大通りを見ながら、軽く頷いた。
「まだ緊張してる?」
「ほぇ?」
「だって、愛ちゃん美貴に全然話しかけてくれないんだもん」
- 187 名前:スタートライン 投稿日:2007/06/04(月) 21:25
- 愛の表情が一瞬変わった。
「あー、さては図星やね。愛ちゃん、美貴のこと嫌い?」
「そんなことないですって」
「あ、また訛った。愛ちゃんって時々訛るんだよねー。美貴的にはそこがカワイイんだけど」
「そんなもんですかねぇ」
美貴がウーロン茶を一口だけ飲んで、会話を続ける。
「愛ちゃんって大学ウチの近くだよね、ってことは何、AFU?」
「そーですけど」
「えー、AFUなんだ!メチャクチャ頭いいんじゃん!確かあそこは外国人の学生がたくさんいるって」
そんな話をしていると、店員がやってくる。
「失礼します、こちらすき焼き定食とミートソースになります」
「はーい、ありがとうー」
そう言うと、美貴は一目散に食べ始めた。
そんな美貴を愛はただただ唖然と見ていた。
- 188 名前:スタートライン 投稿日:2007/06/04(月) 21:25
- 美貴の威勢のいい食事も終わり、店を出る。
「まぁ、愛ちゃんは人見知り激しいのかな?もっと美貴たちに心を開いていいんだよ?
まだ会ってそんなにたたないし、急にはなかなか難しいとは思うんだけど」
美貴の正しいしてきに、ちょっとだけ口をあけてしまう愛ではあったが。それを隠すように頬をかいた後
「今日はありがとうございました、またお願いします」
とだけ言って帰途に着いた。
美貴は歩いていく愛の姿を見ながら、微笑ましく「かわいい」とポツリとつぶやいた。
もちろん、そんな声は愛には届いていないのだが。
- 189 名前:スタートライン 投稿日:2007/06/04(月) 21:25
- 「ただいまー」
「あー、愛ねーちゃんおかえり。どーだった?練習」
「楽しかったよー。ちょっと疲れちゃったけど」
「今ね、れいなとさゆみが来てるんだ。ちょうどバンドの話してたところだよ」
「お邪魔してます」
さゆみとれいながあいさつをする。
- 190 名前:スタートライン 投稿日:2007/06/04(月) 21:25
- 「んで?どんな感じなんそっちは」
「とりあえず、れーながボーカルで、絵里がキーボード、さゆがベースってことになった」
「ギターとドラムは?」
「れーながギターもやる。ドラムはいない」
「打ち込みか・・・」
「打ち込み?」
「あ、その手がありましたね!」
さゆみが何かをひらめいたような顔で言った。
しかし、れいなと絵里は愛の言ってる意味が全くわからない。
そんな2人を見て愛が簡単に説明をする。
- 191 名前:スタートライン 投稿日:2007/06/04(月) 21:25
- 「打ち込みってね、簡単に言えばあらかじめ機械に音を入れといて、3人が演奏しているの同じタイミングで鳴らすんや。
そーすれば、ドラムがいなくてもドラムの音が出るってわけ」
「なるほどぉ!」
絵里とれいなは納得する。
(ってか、バンド始めるのにそのくらいは知っといたほうがええんやない?)
愛は心の中でつぶやいた。
- 192 名前:スタートライン 投稿日:2007/06/04(月) 21:26
- とりあえず一通り事も決まったので、絵里たちの会議もお開きになった。
エントランスまで絵里が2人を見送る。
「ならね、また明日」
「うん」
そう言って3人は別れた。
- 193 名前:スタートライン 投稿日:2007/06/04(月) 21:26
- 絵里が家に戻ると、愛はソファーに座ってギターの手入れをしていた。
「絵里あのさー、今度ライブやることになったから」
「愛ねーちゃんのライブ?絵里も行きたい!あ、れいなとさゆみも誘っていい?」
「ええが。あとあさ美にも声かけてみる。4人で一緒に来れる?」
「うん!で、いつどこで何時から?」
「小学生みたいな聞き方やが?えっと、6月19日の夜7時から。場所は下北沢」
「下北か・・・、ならそんなに遠くないね」
「そやね」
ちょっとだけ静かな空気が流れる。
「愛ねーちゃん?」
「ん、どーした絵里」
愛が振り向こうとした瞬間、後ろから絵里が抱きついて、「だいすき」とポツリといった。
いきなりの行動に愛は一瞬戸惑ったが、軽く微笑んで右肩に乗っている絵里の頭を左手でなでた。
(こういうのって、姉妹愛っぽくていいな)
愛はそう思いながら、絵里を見るのであった。
- 194 名前:ウイング 投稿日:2007/06/04(月) 21:27
- 更新しました。
次回から新タイトルになります。
- 195 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/24(日) 18:24
- 風薫る5月のある日。
愛はいつものように自転車で大学に向かっている。
(はぁ、はぁ。。。)
上り坂をあがって、大学の正門の前にたどりつく。
いつになく急勾配に感じるこの坂の前に、愛も息を切らしていた。
- 196 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/24(日) 18:25
- 初練習以来の心の変化を愛は少しずつ感じていた。
というより、生活に充実感が生まれてきただけなのだが。
”大学生活”という愛自身の広いキャンパスに、少しずつ愛なりの絵ができそうな予感であった。
(よし、今日もがんばるがし)
そう思いながら、大講義室のある棟に向かって歩いていく。
- 197 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/24(日) 18:25
- 「おはよー」
「あ、あさ美おはよ」
教室に入ろうとした瞬間に、あさ美に偶然会った。
「愛、今日は早いね。今から授業?」
「うん、哲学T。とやかく言うあさ美も早いやん」
「まぁね。今イベント企画のスタッフやっててね。ちょくちょく動いてんだ」
「そーなんや、あさ美も知らないとこでけっこうやってんねぇ。このー」
愛があさ美にちょっかいを出しながら笑う。
「あ。そーだ愛、今日ランチ一緒に食べない?」
「あー、ええよ。これ終わったら午後までないし」
「なら、また連絡するね」
「あーい」
大学生の定番文句のような終わり方で2人は別れた後、愛は教室のほうに入っていった。
- 198 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/24(日) 18:25
- 愛が教室に入ると、いつもより人はそれほど多くはなかった。
(そろそろみんなサボり出したな)
5月になると急に人が減ることが多い大学の講義。
単に”とりあえず最初と最後だけ出ておく”っていう学生が多いためなのであるが。
- 199 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/24(日) 18:25
- チャイムがなり、教授が入ってくる。
教授は少し寂しくなった教室の様子にも慣れている様子で、淡々と授業を始めた。
愛も最初はちゃんと聞いてたものの、しだいに退屈にもなり始める。
(そーいえばいしかーさんに言われてた歌詞のやつどーしよ)
そう思った愛は、新しいルーズリーフを1枚取り出し、歌詞というものを初めて考えてみるのであった。
- 200 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/24(日) 18:26
- ---------
その頃、絵里は休み時間。
いつもの3人でおしゃべりをしている。
他愛もない話から始まり、やっぱり3人になると最近は”バンド”の話をすることが多くなっている。
そんな話をしていると、隣のクラスから里沙が入ってきた。
もともとあるきっかけで里沙と絵里が仲良くなり、そこから学校内では4人でいることも多くなった。
- 201 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/24(日) 18:28
- 「あ、ガキさんだ」
「うぃーす、何の話してんの?」
何でもない里沙の声に、れいなとさゆみが食いついた。
「そうだ、ガキさん使うっちゃ」
「それいいの」
「コラー!、人を勝手に使うなぁー!」
話の内容が完全に理解できていない里沙は、当然のような突っ込みをするわけで。
- 202 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/24(日) 18:28
- 「ガキさんってさ、昔エレクトーン習ってなかったっけ?」
「あー、小さい頃ね。今だとそんなにできなくなってるかも」
「じゃあ、バンドやんない?」
「ちょっとー、いきなり振られてもどうしていいかわかんないんですけど」
- 203 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/24(日) 18:28
- 絵里のあまりにも唐突な提案に、里沙もびっくりしている。
とりあえずさゆみとれいなから詳細を聞き、里沙も事の内容を理解したのであった。
「なるほどね。いいじゃん、面白いと思うよ」
「ガキさん大人ぁ!」
「そこは関係ない! で、私は何をすればいいの?エレクトーン?」
「ドラムなの」
「ドラムかぁ・・・ってコラー!やったことないし」
さゆみのいきなりの発言に里沙も少し戸惑いを隠せない。
さらに絵里・れいなもさゆみも同時に里沙に襲いかかる。
- 204 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/24(日) 18:29
- 「でもエレクトーンやってたんなら手と足同時に違うことできるでしょ?」
「できる・・・ってそれは全く別物じゃん」
「れーなたちも初心者からスタートなんだから、ガキさんも初心者からスタートしてもらうっちゃ」
「スタートしてもらうってどーいうこと、も・ら・うって」
- 205 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/24(日) 18:29
- キーンコーンカーンコーン。
短い休み時間なので、あっと言う間にチャイムがなる。
「じゃ、決定なの」
そう言ってさゆみは自分の席に戻っていく。
里沙は唖然としながら、得意の突っ込みができないままクラスに戻っていった。
(さゆって・・・言うことが時々ブラッキー・・・。)
心の中で絵里は強く思った。
- 206 名前:ウイング 投稿日:2007/06/24(日) 18:31
- 久しぶりになってしまいましたが、更新しました。
って読んでいただけてるのだろうか・・・。
- 207 名前:ais 投稿日:2007/06/24(日) 20:59
- 更新お疲れ様です〜。
自分のことで精一杯ですけど読んでますよ〜w
っつうか同じくバンド物書いたはずなのに知らないこと多すぎ・・・(汗)
どんな二組のアーティストができるのか楽しみです。
- 208 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/30(土) 22:57
- 愛とあさ美は大学内のいつものカフェでランチをしていた。
いつもより少しだけ人が多いこともあって、かなりの人がいる。
「あさ美〜!ココあいてるよ!」
愛が偶然にも空席テーブルを見つけ、あさ美を呼ぶ。
2人はやっとの思いで席に着いた。
- 209 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/30(土) 22:57
- 「よかった〜」
あさ美がほっと胸をなでおろす。
二人で静かに「いただきます」と言って、パスタを口に入れ始めた。
「そーいや、あさ美朝さ、イベントのスタッフやってるって言ってたが、どんなんやっとんや?」
「えっとね、学園祭の大きいやつになるのかな・・・?たくさんの大学の合同学園祭みたいなやつなんだ」
「ふーん、いつ本番なん?」
「9月の中ごろだったと思う、大学が夏休みの終わり頃にやるんだ。そーじゃないと人が集まらないからね」
「あぁー、なるほど。んで、あさ美はどんなことやるんや?」
「ま、それはまた今度話すよ、今ここで言うと面白くないし」
「それはどーいう意味なん?」
「あ、ほら、楽しみは最後までとっておけって・・・よく言うじゃん」
「それは今使うモンじゃないやろがぁ〜」
- 210 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/30(土) 22:58
- 「で、愛のライブっていつあるの?」
「急に話を変えんなぁ・・・、まいっか、えっとね、6月19日」
「って言うと・・・、火曜日だね」
「そう」
あさ美はカバンからスケジュール帳を取り出す。
- 211 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/30(土) 22:58
- ん、と・・・19日は・・・何時から?」
「19時。でも順番は決まってないし、まだはっきりはわからん」
「場所は?」
「下北沢」
あさ美はスケジュール帳をざっと見直した後、笑顔で愛に答えた。
「うん、大丈夫だよ。楽しみにしておくね」
「後、絵里たちも来るし一緒に行ってくれんか?」
「あ、うん、わかったよ。私も一人じゃ心細いしね」
あさ美は頷きながら、スケジュール帳の19日の欄に「愛のライブ@下北沢 19:00〜」とシャープペンで書き込んだ。
- 212 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/30(土) 22:58
- 「あさ美、今日夕方からあいてる? 久しぶりにウチ来るか?」
「うん、この後打ち合わせがあるし、それ終わったら行くよ」
「なら、終わったら電話ちょーだい。たぶんあーしのほうが先に終わって帰ってると思うし」
「OK、わかったよー」
そう言ってあさ美はお皿の乗ったお盆を持って、テーブルから去っていった。
愛は次の講義までしばらく特にすることがないので、朝考えていた歌詞の続きでも考えることにした。
- 213 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/30(土) 22:59
- ----------------
再び、絵里たちの教室。
授業も終わり、下校前のガイダンスをなつみが行っている。
「はーい、みんなこっち向いて〜。明日からの家庭訪問のお知らせ配るよ〜!」
なつみが言うと同時に、紙が配られてゆく。
高校生にもなって家庭訪問が行われる学校は、かなり珍しい。
それを疑問に思い、「センセー!どうして家庭訪問するんですか?」なんて冷やかしで聞く生徒もいたが、
なつみによれば、絵里たちが入学する数年前に起きた”ある問題”がきっかけで始まったということだ。
- 214 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/30(土) 22:59
- 紙をもらい、絵里は自分の日を確認する。
(3日後かぁー、こーいうのって家族誰でもいいのかなぁ?)
3年になる絵里ではあったが、実は家庭訪問というのは小学校以来だった。
1年のときは別の高校に通っていたので、もちろん家庭訪問はない。
2年の時は事故からそれほど時間が経ってなかったこともあって、学校側の配慮により訪問は見送られていた。
- 215 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/30(土) 23:00
- 「今日の掃除当番は3班、よろしく〜。じゃあ、号令」
「起立・礼・さよなら〜」
みんながバラバラになった後、絵里はなつみのところに相談に行った。
「安倍先生!」
廊下に出て、なつみに声をかける。
「ん、どーした亀ちゃん?」
絵里は小走りでなつみのほうにかけていく。
「家庭訪問のことなんですけど・・・」
- 216 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/30(土) 23:00
- 「あー、亀ちゃんは初めてだったね」
「家庭訪問ってどんなことするんですか?」
「んーとね、なっちがね、亀ちゃんの家に行って、亀ちゃんがどんな子かおうちの人に話を聞くの」
当たり前のことを言うなつみに対して、さすがに絵里はあきれて少しだけ笑ってしまう。
なつみにとっては、どうして絵里が笑ったのか不可解だった。
- 217 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/30(土) 23:00
- 「亀ちゃんとこはお姉ちゃんがいるって聞いてるけど、大丈夫かな?」
「たぶん家庭訪問のコト知らないんで、言っときますよ」
「よし、頼むよ」
「その代わり絵里のこと”イイ子だ”って言ってくださいよ」
「考えとくよ〜」とだけ言って、なつみは職員室に戻っていった。
- 218 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/30(土) 23:00
- なつみとの話を終えた頃、掃除当番だったれいなとさゆみが廊下にいる絵里の元にやってきた。
「絵里〜、なつみ先生と何話してたと?」
「んとね、家庭訪問のこと」
「絵里の家はお姉ちゃんが出るんでしょ?いいなぁ・・・ウチなんか何言われるかわからんと」
「あたしも・・・」
さゆみとれいなは意気消沈気味だ。
- 219 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/30(土) 23:01
- そんな3人のところにひょこっと現れたのは、里沙だ。
「うぃーす、どしたんや?何か顔が暗いぞ〜?」
そう言いながら、れいなやさゆみのほうをじっと見つめる。
「れーなもさゆも、家庭訪問があるってなったら、急にブルーになっちゃった」
「ガキさんは家庭訪問はあるの?」
「この学校では誰でもあるだろー!」
「でもガキさんは落ち着いてるね」
「ま、毎年のことだからね。いまさら沈んだって・・・」
「ガキさん大人ぁ〜!」
- 220 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/06/30(土) 23:01
- 絵里と里沙がはしゃいでいると、
「れーな部活行くわ・・・」「あたしも・・・」
そう言って、れいなとさゆみは廊下を歩いていった。
「ならあたしたちも部活行こう」
里沙が言って、2人は部活に行くことにした。
- 221 名前:ウイング 投稿日:2007/06/30(土) 23:06
- 更新しました。
>aisさん
ありがとうございます☆
そうですね、1つの方は割とイメージは出来上がってます。
もう1つの方は、全くもって不明で・・・(爆)
後、話の流れがメチャクチャで申し訳・・・(汗)
- 222 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/07(土) 23:10
- 3年のこの時期は、部活も終盤に近づいている。
運動部では、夏のインターハイ予選が最後の大会だ。
もちろん、絵里もその1人である。
里沙・絵里・れいな・さゆみのうち、選手として部活に参加しているのは絵里だけで、
れいなはバレーボール部の、さゆみはテニス部の、里沙は絵里がいる陸上部のマネージャーとして部活に参加している。
- 223 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/07(土) 23:10
- (よーし、1本目)
絵里は心の準備ができると、「いいよ〜」と里沙に言った。
「よーい」
パンとピストルの音がなると同時に、絵里は走り出す。
地面をける音が、リズムよく刻まれていく。
- 224 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/07(土) 23:11
- 「お、けっこーいいタイム出たじゃん。最近にしては」
里沙が絵里に向かってストップウォッチを向ける。
時計に表示された28”11という数字を見ると、息を整えた絵里は少しだけ笑って言った。
「最近なんか走る気が出てきたし」
- 225 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/07(土) 23:17
- 高校に入学した頃の絵里は、陸上部の将来のエースを嘱望されるほどの存在であったが、
1年前の事故以来、しばらく部活を休んでいた。
一時は部活をやめることも考えていたが、理沙が粘りに粘って絵里を説得し、去年の冬くらいから再び部活に来るようになった。
(ガキさんにホント感謝しなきゃ)
部活に来るたび、心の中で絵里はいつも感じている。
- 226 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/07(土) 23:18
- そこに陸上部顧問の飯田がやってきた。
里沙のストップウォッチの結果を見るなり、
「お、亀井も調子を上げてきたか。よし、次100もタイムとるぞ」
「はい」
- 227 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/07(土) 23:18
- ダダダダ。
絵里が100m地点、飯田の前を通過する。
ストップウォッチに表示された結果を見て、飯田は納得の表情を見せた。
(うん、このタイムなら充分。いいとこまでいけそう)
飯田は納得の表情を浮かべていた。
- 228 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/07(土) 23:18
- 「よーし、みんな集合」
飯田が集合をかけ、週末に行われるインターハイ予選の種目割を発表する。
「100と200は亀井」
「はい」
「今日のタイム見る限りじゃいいトコまでいけそうだから、自信もってがんばってくれ」
「はい!」
「じゃー、今日は解散」
「ありがとうございました!」
- 229 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/07(土) 23:18
- 「ガキさん、一緒に帰ろう〜」
「って、いつも一緒に帰ってるじゃん。そろそろ田中っちとさゆも終わるから待ってよーよ」
「そだね〜エヘヘ」
絵里たちが着替えて校門の前に来ると、ちょうどれいなとさゆみも部活を終えて待っていた。
- 230 名前:ウイング 投稿日:2007/07/07(土) 23:19
- 更新しました。
今回は音楽ネタはありません(汗)
- 231 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/16(月) 07:52
- 夕日も沈みかける頃、あさ美は愛の家に着いた。
(最近愛とちゃんと話すよーになったなぁ…)
あさ美はそう思いながら、エントランスで愛の部屋番号を押した。
- 232 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/16(月) 07:52
- あぃ」
「あ、愛?私だけど」
「その声はあさ美やな?今開けるよ〜」
と言って電話を切ったと同時にガラガラとエントランスのドアが開く。
あさ美は中に入って、エレベーターに乗り込んだ。
(えっと何階だっけ…、そうだ)
ちょっとだけ考えた後、あさ美は9のボタンを押した。
- 233 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/16(月) 07:53
- 「うぃす、中に入って」
あさ美はスニーカーを脱ぎ、中に入る。
「おじゃましまーす」
2人は短い廊下を抜け、リビングに入った。
「そこのソファーで座ってて、今飲み物出すわ」
そう言って愛はキッチンに行く。
あさ美がソファーに座ると、前にあるテーブルには1枚のルーズリーフが置かれていた。
(なんだろ・・・)
ちょっと興味があってのぞいてみる。
そこには愛の字ではあるが、愛からは聞いたことのないような言葉が並んでいた。
- 234 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/16(月) 07:53
- 「コーヒーと紅茶どっちがいい?」
キッチンから愛の声がこだまする。
同時にあさ美はその紙から目線を外してしまう。
「あ、紅茶がいいな!」
なぜかいつもよりちょっとだけ大きな声になってしまった。
「あぃよ〜」
ちょっとだけ遠くにいる愛は何の違和感もなく返事をしたので、あさ美はもう1度問題の紙を見てみることにした。
- 235 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/16(月) 07:53
- “Graceful Wing”
夢に向かって羽ばたく翼 みんなどこかに持っている
あたし”だけ”が運命に 絶望したわけじゃない
・・・
・・・
- 236 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/16(月) 07:53
- (愛が書いた歌詞だ・・・)
そう思って、あさ美は読み進めようとした。
あまりにもそっちの方向に集中していたため、愛が近づいていることにあさ美は気づかなかった。
「なぁに人の勝手に見とるんやが?」
そう言って愛はアイスティーの入ったガラスコップをあさ美の頬にあてる。
「ひゃい!?」
「そんなに驚くことないやん」
そう言って愛はアイスティーを2つテーブルに置く。
- 237 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/16(月) 07:54
- 「今度のライブで使うわけじゃないけど、いしかーさんに”歌詞作ってきて”って言われたんやざ。
んで考えて今書いてんやけど、それがこれ。何か暗ぁいもんになっとるやろ?」
愛にそう言われて、あさ美はもう1度愛の書いた歌詞を読んでみた。
「んー、でもこれでいいんじゃない? 愛の思ってることそのまま書いたらいいんだと思う」
「でもそれって恥ずかしいよー! 自分のありのままを書くって」
「うん、でもそれが“歌”だと思うよ。“好き”っていう気持ちを伝える歌が多いのと同じで・・・」
「ほや。それもそーやな」
あさ美の言葉に、愛は簡単に納得してしまう。
- 238 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/16(月) 07:54
- あさ美は一口アイスティを飲んで、再び話始める。
「今が楽しければ、楽しい感じの言葉でもかけると思うよ。自然体だって!」
「そーかもね。楽しく、きれいにね」
「そ。"Beautiful EveryDay"だね」
- 239 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/16(月) 07:55
- そんなやりとりをしていると、「ただいまー」という声とともに絵里が帰ってきた。
同時にれいなやさゆみも一緒にいる。
愛やあさ美にとっては、見たことのない顔が1人だけいた。
「愛ねーちゃん、絵里の部活のマネージャーのガキさん。バンドも一緒にやることになった」
「新垣里沙です」
「あ、高橋愛です。絵里のことよろしくね」
「はい」
一通り挨拶を済ませた後、絵里は3人を部屋のほうに行くように案内した。
- 240 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/16(月) 07:55
- 「絵里、夕飯はどーすんの?」
「考えてなかった・・・」
「しゃーないな・・・」
と言って、愛はキッチンに行き冷蔵庫を開く。
中にはとてもじゃないが何人もの食事を作る材料は置いてなかった。
「何もないわ、近くのファミレスで食べるか?」
「愛ねーちゃんたちは?」
「うちらもまだやし、どーしよかは考えてるけど。一緒に食べに行くか?」
「うん、いいよ!」
「あさ美もええか?」
「いいよ」
「なら決まりね!」
そう言って絵里はその旨を伝えるために部屋に戻っていった。
- 241 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/16(月) 07:55
-
「絵里ちゃんってホントに愛のこと慕ってるね」
「みたいやね。ホントはもうちょっと自立してほしいっても思うけど」
愛が苦笑する。
「でも、今は2人しかいないんだから。心のよりどころなんだと思う、きっと」
「だろうね。あーしもそれは人のこと言えないし」
愛はそのとき絵里の存在の重要性について再確認したのだった。
- 242 名前:Beautiful EveryDay 投稿日:2007/07/16(月) 07:55
- 「愛ねーちゃん、行こう!」
部屋から出てきた絵里が言う。
それに続いてれいな、里沙、さゆみも出てきた。
「おう、下のエントランスにおって。今カバンとってくるし」
「わかった。さゆ、れーな、ガキさん行くよ」
そう言って4人は玄関を出ていく。
「ならあーしたちも行くか」
「うん」
そう言って愛は部屋にカバンを取りに行った後、あさ美とともに部屋を出た。
- 243 名前:ウイング 投稿日:2007/07/16(月) 07:56
- 更新しました。
次回から新章になります。
- 244 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/16(木) 17:04
- 6月19日。
いよいよ愛の”初”ライブ当日を迎えた。
この日は午後から最後の練習を行い、会場に向かう予定になっている。
- 245 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/16(木) 17:05
- 何回か練習を重ねるうちに、愛とメンバーとの距離もかなり近づいた。
当初はなかなか上手く話せなかった愛も、今ではかなり会話を楽しめるようになっている。
- 246 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/16(木) 17:05
-
「おはよーございまーす」
愛が練習スタジオに入ると、既に美貴と梨華が準備を始めていた。
「愛ちゃん、もうお昼なんだからおはよーでもないでしょ」
美貴が冷静に突っ込む。
「あ、いしかーさん。この前行ってた歌詞作ったやつ持ってきましたよ」
「って無視かい!」
「美貴ちゃんはいつでもしゃべってくれるから後でもええが」
「そんなわけないだろ!」
- 247 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/16(木) 17:05
- 「あ、ありがとね」
「3つばかり書いてみました。変なのばっかやと思うけどとりあえず見てください」
「3つも?すごいじゃん!」
梨華は愛からもらった3枚のルーズリーフをさっとだけ見る。
「どんなのどんなの?」
「美貴ちゃんには秘密やざ。歌うことになるまでおあずけやよ」
「ちぇ、愛ちゃんのケチ・・・」
- 248 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/16(木) 17:06
- 愛が書いた歌詞の書かれた紙を見ながら、その後も続く2人のやり取りをずっと聞いている。
2人が話す姿は、梨華から見て他の誰かと話すよりも睦まじく見えた。
少しだけ美貴が愛に対して積極的になっているようにも見える。
(ふーん・・・)
どうやら美貴が愛に気があるようだと梨華は感じた。
昔から人間模様を直感で感じ取ることに梨華は長けている。
(愛ちゃんは・・・美貴ちゃんのことどう思ってるんだろ)
- 249 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/16(木) 17:06
- ひとみと麻琴もそろって、いよいよ最終練習が始まる。
「とりあえず、曲順決めないと」
「今回はツインボーカルだけど愛ちゃんメインで行くから、You are beside me → あなたが好きだから → Walking hand in hand でいいんじゃない?」
「なるほどね、アップテンポを真ん中に持ってくる、これ意外だね」
「じゃ、決定ね」
ひとみと梨華のやりとりですぐに決まる。
あうんの呼吸と言わんばかりの2人のやりとりに、愛は感心していた。
- 250 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/16(木) 17:06
- ライブ前の最終練習が始まった。
1曲目を美貴のボーカルで歌い終えた後、愛の紹介のMCが入ることになっている。
簡単に台本どおりあわせた後、曲に入る。
「次はいつもやらせてもらってる、chaikoさんのいつもの曲を愛ちゃんボーカルver.でやります、いつもとは一味違った感覚を楽しんでください。
では、”あなたが好きだから”」
美貴の台本どおりの言葉の後、愛の歌声がスタジオ中にこだました。
- 251 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/16(木) 17:08
-
「うん、いい仕上がり!」
麻琴と美貴が声をそろえて言う。
「愛ちゃんもよかったよ!」
梨華が愛に声をかけると、”ありがとうございます〜”と返事が返ってきた。
そんな感じで、最終練習は終わった。
「さ、準備して乗り込むぞー!」
ひとみの威勢のいい声に他のメンバーの気合が乗る。
愛はこの時間帯から、少しずつ緊張し始めていた。
- 252 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/16(木) 17:09
- スタジオを後にし、近くの駅から電車に乗り込む。
会場の下北沢へは、一度の乗り換えを経てたどりつく予定だ。
「いよいよだね、ドキドキしてきた?」
梨華が愛に声をかけた。
「はい、だいぶ・・・」
愛が少しだけ元気なく答える。
「まぁ、ウチらはちょっとだけどライブ数やってるからね。愛ちゃんが緊張するのも無理ないよ・・・」
「そんなもんですかねぇ」
「そんなもんだよ。あ、ライブ前に緊張をほぐすイイおまじないを教えてあげる」
「ホントですか?」
「手のひらに人って3回書いて飲み込むの。もしかしたら知ってるかもしれないけど」
「あー、聞いたことありますね」
「ある?なら本番前にやってみて。意外と効くんだから!」
「へぇ〜」
- 253 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/16(木) 17:09
- 梨華と愛の会話が弾んできた頃に、車内アナウンスが流れる。
「まもなく吉祥寺〜吉祥寺〜」
「さ、降りるよ」
梨華が5人に言う。
各自荷物を持ち上げ、ドアが開くとともに電車を降りた。
- 254 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/16(木) 17:09
- 吉祥寺から20分ほどして、下北沢に到着した。
会場は駅から歩いて比較的近い場所にある。
時間的にも夕日がまぶしい頃になっていた。
- 255 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/16(木) 17:09
- -------
愛たちが下北沢につく10分ほど前、一人の女性が吉祥寺駅にいた。
「紺ちゃんまだかなー」
あさ美のことを待っているその女性は、何年か前は金髪で衝撃的な印象を周囲に与えていたが、今は髪を濃茶にしている。
「お待たせしました」
駅構内の柱によしかかる女性に声をかけるあさ美。
「よし、まだちょっとだけ時間あるしお茶でもしていこ」
「わかりました」
そう言うと、2人は駅前の喫茶店に入っていた。
- 256 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/16(木) 17:10
- 「ご注文お決まりでしょうか」
「えーと、アイスティー1つとアイスコーヒー1つ」
「かしこまりました」
注文を簡単に済ませた後、2人は愛たちのことについて話し始めた。
- 257 名前:ウイング 投稿日:2007/08/16(木) 17:11
- 更新しました。
久しぶりの更新になってしまい、申し訳ないです。
これからも定期的に更新できるようにがんばりますので、よろしくお願いします。
- 258 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 22:29
- この音楽系の小説っていうのを、初めて読みました。ものすごくおもしろいです。これからも頑張ってください。
- 259 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/31(金) 22:44
- ------
同時刻。
絵里・れいな・さゆみも愛の歌を聴くために下北沢に向かっていた。
駅であさ美と待ち合わせすることになっているが、あさ美が人を連れて来ていることは知らない。
数分後には3人が声をそろえて驚かなければいけなくなるのだが。
- 260 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/31(金) 22:45
- れいなとさゆみが電車の中で楽しくしゃべってるのを横に、絵里はどこかうわの空だった。
「絵里・・・、絵里?」
れいなが絵里の顔の前で手を縦に振りながら呼びかける。
「あ、ごめん・・・」
「なんか今日の絵里いつもよりぼーっとしてると」
「今日の絵里、ちょっと変なの。いつも変だけど」
「ちょっと、さゆー?」
3人が笑いの色に包まれる。
「ちょっと考え事してただけだよ」
- 261 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/31(金) 22:45
- 絵里の中では、愛のことで頭がいっぱいだった。
それは今に始まったことではないが。
初めて愛に会った時から、絵里自身でもわからない、複雑な感情が絵里の中にはあった。
ただ、それは憎しみとか、軽蔑のようなマイナスの感情ではないことは絵里でも分かっていた。
愛の今までにはない、違った姿を見れることが絵里にとってはうれしかった。
- 262 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/31(金) 22:45
- 「下北沢〜下北沢〜」
改札口を出て、会場のあるほうの出口を目指す。
この出口で3人はあさ美と待ち合わせることになっていた。
「まだちょっと早いと」
れいなが携帯を取り出し、時間を確認する。
「コンビニでも行く〜?」
「それがいいの」
絵里の提案で、3人は駅近くのコンビニで時間をつぶすことした。
- 263 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/31(金) 22:45
- 「いらっしゃいませこんにちは〜」
店員のいつもの挨拶とともに、3人はコンビニに突入する。
コンビニ自体それほど大きな店ではないが、3人が3人違う売り場に向かって歩いていった。
飲み物を探しに来たのは絵里。
(あー、この紅茶って確かテレビでCMしてて、すごいかわいかったやつ・・・)
そう思いながら、ミルクティーを手にとって見ている。
入り口近辺でサプリメントを見ているのはさゆみ。
(もっとかわいくなるサプリメントは・・・)
もちろん、そんな商品はないことくらいさゆみ自身も知っているが、どうしても探してしまうのがクセなのであった。
一方れいなはファッション誌を立ち読みしていた。
(紫系洋服の着こなし術、ふーん、なるほどね)
何気にれいなの着る服には紫が多かった。
実際、今日も紫系柄色のワンピースなのである。
(こんなアクセサリーもあるっちゃね)
そう思って雑誌を閉じた。
- 264 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/31(金) 22:46
- それぞれが思ったものを買って外に出ると、駅の出口のほうであさ美らしい人が誰かと待っている。
あさ美が絵里たちに気づいたようで、こっちのほうに向かってきた。
「ねぇ、コンコンの横にいるのって誰?どこかで見たことない?」
絵里が2人に投げかける。
「さゆみも見たことあるの」
「・・・」
さゆみは絵里に同意したが、れいなはその人物が誰かわかったようで、声も出せないくらい驚いていた。
「れーな、どうしたの?」
- 265 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/31(金) 22:46
- 「あの人って・・・ご、後藤真希じゃない?」
「えぇ!?」
2人は驚く。れいなはさらに説明を続けた。
「後藤真希、13歳の時に「Love is simply impossible」でデビュー、初登場でオリコン1位。その後も出すシングルが次々と1位を獲得するも、
1年前に突然芸能界から引退した。引退の理由はさまざまな憶測が飛び交ってるけど詳細は不明で・・・」
「れーな、しゃべり方が探偵チックになってるの」
さゆみに突っ込まれたその時、
「ご名答」
そう言いながら真希は背後かられいなの目を両手で隠した。
- 266 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/08/31(金) 22:46
- 「待った?」
「いや、そーでもないですよ。絵里たちも来てすぐだし・・・」
「なら、よかった。じゃ、行こっか」
そう言って歩き出したときに、れいなが真希の手を外してあさ美に問いかけた。
「ど、どうしてこの人がここに・・・」
「んー、ま、それは後で、ね」
真希はれいなの背中をポンとたたいて、会場への歩行を促した。
それを見てあさ美はれいなに対して微笑みをかけた。
- 267 名前:ウイング 投稿日:2007/08/31(金) 22:48
- 少量ですが、更新しました。
>258 名無飼育さん
ありがとうございます!
なかなか慣れない&下手な文章で申し訳ないですが、
これからもがんばりますのでよろしくお願いします!
- 268 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:44
- ---------
いよいよ、開演時間が近づく。
時計の短針の7を指そうとしていた。
出演者の中で順番を決めた結果、愛たちはトップバッターになった。
かつてない緊張感が愛に襲い掛かる。
「愛ちゃん、顔がかたまってるよ」
梨華が愛にそっと声をかけた。
「えー、あー、はい」
「愛ちゃんは初めてだからね、楽しくできればそれでいいのよ」
「あ、はい・・・」
その会話が聞こえたのか、美貴が近づいてくる。
愛の後ろを通るその瞬間に、美貴は、右手で愛のお尻を触った。
愛の脳が逆回転するようにクルクル動く。
「ちょっと、美貴ちゃん?何するがー?」
「ん?美貴何かした?今から緊張している愛ちゃんに声かけようと思ったんだけど・・・」
「ひどいやざ・・・」
「ホラホラ、もう始まるよ。みんな集まって!」
「はーい」
梨華の声で、5人が集まった。
- 269 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:44
- 「今日は、愛ちゃんの記念すべきデビュー戦です」
「はい」
「いつもより、楽しく、愛ちゃんを迎えてあげましょう」
「はい」
「愛ちゃんも、自分らしくやればいいよ。何にも気にしなくていいからね」
「わかりました」
「じゃ、PEACE、張り切っていきまーーー」
「しょーい!」
5人の気合とともに、それぞれがステージへ向かった。
- 270 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:45
- こちらは客席側。
絵里たちも愛たちの出番を今か今かと待っている。
少しだけ待っていると、会場が暗くなり中から人が出てきた。
「あ、あそこにいるの愛ちゃんじゃない?」
あさ美が絵里に声をかける。
「ホントだ・・・」
ステージが始まる前から感慨にふけっている絵里を前に、ステージが明るくなる。
- 271 名前:Deciding 投稿日:2007/09/06(木) 21:45
- 「♪You are ・・・♪」
美貴の声がこだまする。
次の瞬間、美貴・愛の歌とすべての楽器が重なり見事なハーモニーを奏で始めた。
「♪always beside of me, as I feel my soul,as long as you like♪」
美貴と愛のハモりはキレイに決まっていた。
「きれい・・・」
絵里は思わず口をこぼす。
真希は1人で頷いていた。
- 272 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:45
- 1曲目が終わり、美貴がMCを始める。
「今日は美貴たちに新しいメンバーが加わりました」
会場がちょっとだけ沸く。
向かって右に注目!紹介します、ギターボーカルの愛!」
拍手が会場を埋め尽くす。
愛は手を上げ、深く一礼をした。
- 273 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:46
- まぁー、愛ちゃんはかなり恥ずかしがりやなんでー、喋ったり、笑いを取ったりするのは難しいコですが、
歌に関してはこの美貴も”惚れた”のでゼヒ酔いしれて欲しいなと思ってます。愛ちゃん、よろしくね」
美貴の問いかけに対し、愛は笑顔で美貴に返した。
「よし、次の曲いくぞ!」
美貴が叫び、愛のポジションと入れ替わる。
梨華のシンセがなった。
(ん、台本と違うやざ)
愛は一瞬とまどったが、そんなことは言ってられない。
すぐに歌が始まるからだ。
"I hope you're by side of me,all the time, and say to me "I love you" till my soul be gone
No Line I'm satisfied with your words, You love me without any rest..."
- 274 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:47
- カンカンカンカン。
ひとみのスティック音とともに、美貴のギターがテンポのよさを持ちつつも、豪快になる。
愛ももちろん、それにあわせてギターを鳴らしていた。
- 275 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:47
- 3分ほどだった曲もすぐに終わり、愛のMCが入る。
「別に自由にしゃべっていいよ、バンド入ったときのきっかけとか印象とかでもいいからね」
最終練習のときに、愛は梨華にそう言われていた。
しかし、愛は特に何を話そうかは考えていなかった。もともと人前で話すのはそんなに得意なほうではないのだが。
ふっとギターを降ろして客席を見たとき、たまたま真ん中やや左側に絵里の姿を見つけた。
(あ、絵里だ・・・、あさ美もいる・・・、その横は・・・後藤さん!?)
愛の思考がぐるぐるかけめぐる。
次に歌うのは、そう、真希の曲だからだ。
- 276 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:47
- (ふう・・・)
愛は深呼吸をした後、客席に向かって話し始めた。
「はじめまして、今回からPEACEのメンバーに加わりました、高橋愛です」
「愛ちゃーん!」
会場の後ろのほうから、黄色い声援が返ってくる。
「あ、ありがとうございます」
愛は簡単に一礼をした。
「えっと次が最後の曲なんですが、歌う前に”何かしゃべれ”といしかーリーダーに言われたもんで。
さっき誰かさんが言ったように、笑いの取れる話はできないので、マジトークをします」
会場がほのかな笑いに包まれる。
後ろを振り向くと、梨華と美貴が何か言いたそうだったが、無視して振り返った。
「えっと、最後の曲についてなんですけど、最後も・・・やっぱりカバーです。
原曲は後藤真希さんの”Walking hand in hand"です。原曲は英語になっていますが、今回は皆さんにわかりやすいように
あーしなりに意味を解釈して、日本語にしました」
会場が少しだけざわめいた。
ざわめいたのはオーディエンスだけではない。後ろで楽器を持ってスタンバイしている4人でさえも心の中では驚く。
それもそのはず、最終練習までは愛は原曲である英語で歌っていたのだから。
- 277 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:48
- 「タイトルの日本語名は”手を握って歩きたい”です」
愛が絵里たちの方を見ると、真希が静かに頷いて拍手をしていた。
愛は続ける。
「この曲を聴いてて、あーしはいろんな人に感謝しなければいけないなと思いました。家族・友達・この会場のみなさん・
バンドメンバー・他にも今まであーしが出会った人みんな。あーしには妹がいて、絵里って言う名前なんですけど、
この絵里がすごい絵が下手で、この前も張り切ってコアラ書いたものの、あーしにはネコにしか見えなくて・・・」
会場が笑いに包まれる。
絵里はあまりにも恥ずかしくなって、下を向いてしまった。
「”これが運命なんだ”って思うような出来事もあったけど、絵里がいるから今のあーしがいるんだって思う。
”決められた”って言ったらおかしいのかな?、うん、その”運命”を受けとめられるのは絵里がいるからです。
絵里、今までホントにありがとう。
今日、この会場のどこかにきっといると思うけど、見ててください。
それでは最後の曲、絵里だけじゃなく、会場の皆さんにも贈ります。原曲はかなりアップテンポな曲ですが、今回は歌詞に合うように
しっとりとバラード風味に仕上げました。それでは聴いてください」
- 278 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:48
- 観客からの暖かい拍手がなる。
絵里はステージ上の愛を見たまま、口をあけてぽかーんとしていた。
梨華のピアノ音とともに、愛の力強くも繊細な声が会場に響き渡る。
愛が翻訳したという歌詞は、生きることの大切さ、未来への希望、感謝への気持ちを当時の真希が歌っているかのようで、
少しだけ愛自身の世界観を持っていた。
1つ1つの言葉は女性的に書かれながらも、内容的には中性的な少しだけシリアスなものだった。
- 279 名前:Deciding 投稿日:2007/09/06(木) 21:48
- ピアノ音だけから、他の音もミックスされていく。
まずは梨華のピアノに麻琴のベースとひとみのシンバル中心の音が溶け合う。
美貴はギターをアコースティックに持ち替え、曲に更なる色を付け加えていた。
- 280 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:48
- 間奏になり、愛がバンドメンバーを紹介する。
「ドラムス、吉澤ひとみ」
次の瞬間、曲のテンポが一気にあがる。
客のボルテージもだんだんと上がっていった。
ひとみがシンバル中心の音構成から、スネアドラム、バスドラムを多用する。
ドラムソロをたたき終えると、ひとみは右手を上げ、手に持っているスティックを放り投げ、再び掴んで一礼をした。
「ベース、小川麻琴」
麻琴は2曲目に演った”あなたが好きだから”のイントロのベースソロを再び演奏し始める。
その部分が終わると、ひとみ同様に右手を上げ、ピックを上に投げようとしたが、誤って客席の方に投げてしまった。
麻琴は(しまった)と思ったが、そんなミスがかえって客席を盛り上げていく。
「キーボード、石川梨華」
梨華はパイプオルガンの音で16分の細かい音を作っていく。
バロック時代に作曲された有名な曲の1節を演奏した。
「ギターボーカル、藤本美貴」
3人の紹介の間に持ち替えたエレキギターをグイグイと美貴は鳴らしていく。
麻琴同様にピックを客席に投げ込んだ。
もちろん、これは確信犯ではあるのだが。
「そして、あーしは高橋愛でした。最後いくでー!」
バラード風味の曲が最後だけはロック調の曲に早代わりして、ハイテンポのまま愛たちのライブは終了した。
- 281 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:49
- (終わったやざ・・・)
愛はライブ終了直後、体が硬直してしばらくの間動けなくなった。
やっとの思いで会場裏に出ると、そこには愛たちを今か今かと待っていたあさ美・絵里・さゆみ・れいな・真希の姿があった。
- 282 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:49
- 「おつかれさまー!」
ライブハウスの近くのカラオケで、簡単な打ち上げが始まった。
PEACEのメンバーに絵里たちを加えて9人。
「いやー、愛ちゃんびっくりしたわ」
「いきなり日本語で歌うって言い出すんだもん」
麻琴や梨華をはじめ、演奏直前の愛の信じがたい発言は会場を驚かせた。
「でも、歌はすごくきれいだったよ。メッセージもちゃんと伝わってたよ」
真希が愛にフォローを入れる。
「あ、ありがとうございます・・・」
愛は恐縮気味に真希に礼をした。
「しっかしねぇ、こんなお姉さんに想われる妹さんはうらやましいねぇ!」
ひとみが絵里の方に向かって言うが、絵里はずっと固まっていた。
- 283 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:50
- 絵里にしてみれば、愛からこんなことを言われたのは初めてだ。
それに、目の前にはさっきまでステージにいた人間がずらりと座っている。
そんな不思議な感覚に絵里は襲われていた。
絵里はひとみに何か言われたことにはっとして隣を向くと、れいなとさゆみも同じような感覚に陥っているようだった。
「あ、ありがとうございます、エヘヘ」
「お姉ちゃんはかっこよかったかい?」
「あんな愛ねーちゃんの姿、初めて見ました。かっこよかったです!」
「言われてるよ、愛ねーちゃん!」
「美貴ちゃん言われたくないやざ、しかも美貴ちゃんの姉じゃないし」
横やりを愛は美貴の背中をたたいて、かき消した。
「痛っ!愛ちゃん力強すぎ・・・」
美貴の痛みとは裏腹に、周りの空気は非常に和やかなものになった。
- 284 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/06(木) 21:50
- しばらくして、愛はトイレに行くといっていったんその場を外れた。
ポケットの中から携帯をとり、電話をかける。
「もしもし」
「おー、愛やないか」
電話の先は裕子だった。
「裕子さん、誕生日おめでとうございます」
「なんや、覚えてくれてたんか。ありがとな
最近どや、元気にしとるか?」
「おかげさまで・・・。無事ライブも出来ましたし」
「ライブ?何か昔の愛を見てるみたいやな」
裕子は愛の報告に対し、少しだけ感慨にふける。
その感情が電話越しに愛に伝わったのか、愛は少しだけ泣きそうになった。
「まぁ、色々思うこともあるやろうけどがんばってな。今という時間はホントに今しかないしな」
「はい、ありがとうございます・・・」
「ほなね、絵里ちゃんにもよろしくね」
「はい」
愛は静かに電源ボタンを押し、みんながいる部屋に戻った。
- 285 名前:ウイング 投稿日:2007/09/06(木) 21:51
- 更新しました。
- 286 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/17(月) 08:36
- 時間も遅くなり、終電の時間になったので愛たちは帰ることにした。
場の空気に圧倒されていたれいながふと思い出す。
「・・・後藤さん」
「どうしたの、田中ちゃん?」
「後藤さんは・・・、どうして今ここにいるんですか?」
れいなはわけがわからなくなって、真希に対して変な質問をしてしまった。
真希は最初変な顔をしたが、れいなの質問の意図がわかったため少しだけ考えて答えた。
- 287 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/17(月) 08:36
- 「後藤はね、梨華ちゃんやよっすぃ〜たちと昔から友達なんだ。たぶん田中ちゃんが知ってる当時のあたしよりね。
その梨華ちゃんたちがライブするっていうのに、見に行かなくてどーするの?」
「じゃあ、ポンちゃんと一緒にいたのは・・・?」
「ポンちゃん?あー、紺野のことね。彼女はミキティの後輩だよ。
まぁ田中ちゃんが聞きたいことはいっぱいあると思うけど、それは今度話してあげるよ。終電も近いしね」
「また会ってもらえるんですか!?」
「もちろん、いつでもいーよ」
「やったー!れーな、めっちゃ後藤さんのファンだったんですよー!」
「ありがとね」
「あー、れーなだけずるいの」
さゆみが2人の会話に割って入る。
「さゆみも一緒にお願いしまーす」
「はいはい、わかったよ」
真希はれいなとさゆみの姿を見て、少しだけ笑った。
- 288 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/17(月) 08:37
- --------
あっという間に、電車は愛たちの最寄り駅に到着した。
駅であさ美やれいな、さゆみと別れる。
愛と絵里は2人で家まで歩き出した。
- 289 名前:Deciding 投稿日:2007/09/17(月) 08:37
- 「愛ねーちゃん?」
「ん?どうした絵里」
「・・・ありがとう」
「何が?」
「何がって・・・、ライブ」
愛は小さなため息をつく。
「公園行くか」
「うん」
2人は絵里と公園に向かった。
- 290 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/17(月) 08:38
- 公園に着き、愛はブランコに座りながら夜空を見上げる。
普段見ることない星空があたり一面に広がり、かすかに2人の灯となっていた。
「絵里」
「ん?」
「ストレートに聞くわ、ライブどうやった?」
「良かったよ。楽しかったし、感動したよ」
「絵里のことネタにしたけど?」
「それは・・・あせったけど・・・、でも愛ねーちゃんが楽しそうに何かやってるのって初めて見たしうれしかった」
「そっか・・・、絵里ってさ・・・」
公園の横を1台の車が通る。
その音がなくなると、再び静けさが周りにたちこめた。
- 291 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/17(月) 08:38
- 「絵里って、あーしのことどう思ってる?」
(えっ?)
絵里の心の中が急にざわつき始める。
「あーしは絵里の全部を知ってるわけやない。
やし、今まで一緒にいてきっとムカつくこともあったし、不満もあったと思う。
今日歌ってるときに思ったんやけど、絵里はどんな気持ちでこの場にいるんやろなって」
そう言った後、愛は再び空を見上げた。
(あたしは・・・愛ねーちゃんのこと・・・)
「あ、あたしは・・・」
「ん?」
「愛ねーちゃんが好き。愛ねーちゃんがいないと生きていけない」
- 292 名前:Deciding Fortune 投稿日:2007/09/17(月) 08:38
- 絵里は言い切った。
愛が好きであることを。
愛はブランコから降りて、絵里のところに行く。
絵里の心臓音が愛にも聞こえそうなくらい、鳴っていた。
「ありがと。これからもよろしくね」
そう言って、絵里の頭を腕で抱きかかえ頭を撫でた。
「さ、帰ろっか」
「うん・・・」
予想外の展開に絵里は膝がガクっとなってしまった。
「ん?どうした絵里、大丈夫か?」
「うん・・・」
(ま、いいか)
次の瞬間、絵里は立ち直っていた。
愛に拒絶されたわけではないのだから、と。
- 293 名前:ウイング 投稿日:2007/09/17(月) 08:39
- 少量ですが、更新しました。
次回より新タイトルになります。
- 294 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:18
- 週末。
絵里・れいな・さゆみ・里沙は近くの音楽スタジオに来ていた。
楽器店に併設させるこのスタジオは、楽器店ともども1人の女性が経営している。
「こんにちは・・・」
絵里たちが恐る恐る入る。
以前に愛と来たことはあるが、自分たちだけで入るのは初めてなのでどうしても足が萎縮してしまう。
「あら、絵里ちゃんじゃない。愛ちゃんから話は聞いてるわよ。
スタジオは上だよ。そこの階段からあがってね」
「お願いしまーす」
絵里以外の3人が声をそろえて言う。
絵里はその3人に先に上がって準備してもらうように頼んだ。
- 295 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:18
- 「あの・・・」
「どうしたの、絵里ちゃん」
「愛ねーちゃんってよくここに来るんですか?」
絵里は店員の女性に聞く。
「うん、けっこー来るよ。ギターの弦とか買ってもらってるしね」
「そうですか・・・」
「どうしたの?」
「後で愛ねーちゃん来ると思うんで、よろしくお願いします」
そう言って、絵里は階段を上がっていった。
- 296 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:18
- 数分後。
愛は絵里たちのいる楽器店にやってきた。
絵里にバンドの練習を見てほしいとお願いされ、PEACEの練習のない今日も音楽漬けだ。
自動ドアが開いて、愛は中に入る。
「矢口さん、こんにちはー」
「あら、愛ちゃんじゃない。絵里ちゃんたち来てるわよ」
「はーい、これからよろしくお願いします」
「スタジオって2Fでしたっけ?」
「そーだよ、後でおいらも行くから」
「お願いしまーす」
簡単な会話を交わし、愛は2階へと階段を上っていく。
- 297 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:19
- 愛がスタジオのドアを開けると、それぞれが音調節をしていた。
「あ、愛ねーちゃん来た!」
絵里の一声で、それぞれの楽器が止まる。
「おはよーございます!」
絵里以外の3人が声をそろえてあいさつをするのには、愛も驚いてしまった。
- 298 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:19
- 絵里たちが本格的に練習をするのは、今回が初めてだ。
今までは個人で練習をしてきただけ。
絵里だけではなく、さゆみ、れいな、里沙も初心者からのスタートである。
個人での練習量はかなり豊富であることは家でずっと練習をしていた絵里を見ればわかったが、
いきなり合わせることの難しさは、バンドを始めてそれほど長くない愛でも、十分にわかっていた。
- 299 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:19
- 「ならー、今日たぶんはじめて4人で練習すると思うけど、あんまり緊張せずにね。
絵里、あーしはどうしたらいい?」
愛が絵里に聞く。
「2曲練習してこようって約束になってるから、その2曲をあわせてみたい」
「ん、わかったよ。じゃ1曲ずつ聞かせてもらうわ。カバーならどんな曲や?」
「NARUMIの"RISING SUN"と、後藤さんの"Primary Girl"・・・」
「なるほど・・・、じゃー、NARUMIの方からやろっか」
愛がそういうと、4人は「はい!」と言って音あわせを始めた。
- 300 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:20
- 数秒後・・・
「ストップ!」
すぐに音は止められる。
「里沙ちゃん?ちょっと遅れとんが」
どうやら里沙のシンバルがワンテンポ遅かったらしい。
「よし、もう1回頭から・・・」
この後も、愛からのストップは鳴り止まない。
「ストップ!絵里のシンセが早い!」
「ストップ!れいなの歌とギターがだんだん一人歩き!」
「ストップ!さゆの音がなくなってる!」
「ストップ!れいな!・・・」
「ストップ!・・・」
- 301 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:20
-
結局愛の”ストップ!”という大きな声は何十回も響き、あっという間に2時間という練習予定時間は終了した。
- 302 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:20
- 「よし、今日は終わりやね。片付けたら少しだけミーティングするしね。下に集まってね」
「ありがとーございました」
そういって、4人は片付け始めた。
愛は真里のいる下のフロアに下りていった。
- 303 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:20
- 「おつかれー、愛ちゃん吠えてたね。モニターから見させてもらったよ」
「あ、ありがとうございました。そうですか?」
「うん、頭に鬼の角が生えてたよ」
「そうですか・・・、ちょっと絞りすぎたかな。んで、あの子達の演奏聞いてどう思いました?」
愛は一番の心配事を聞いてみた。
「そうだな・・・、この子達が楽器買いに来たのってついこの前の話だからなぁ・・・。
技術的な面はまだこれからだと思うけど、練習の様子見てる限りはなかなか面白いんじゃないかな。
派手さはないけど、んー、特別な雰囲気はあるね。ただ・・・」
- 304 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:21
- 2人が話していると、絵里たちが降りてきた。
「ありがとうございましたー!」
「お、おつかれさん。次どうする?練習。相当愛ちゃんにカミナリ落とされたみたいだけど」
真里の言葉にも4人は特に落ち込む様子もなく、ケロッとしている。
特に愛に怒られたという意識はないようだ。
- 305 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:21
-
「明日って空いてますか?」
「ちょっと待ってね」
そう言って真里はパソコンに手をやり、画面をみながら答える。
「明日は・・・、んー昼過ぎからミニライブのリハが入ってるなぁ。午前中ならOKだけど」
「朝って何時からやってます?」
「10時だけど・・・、そうだな、絵里ちゃんたちなら9時からにしてあげる」
「やったー、ありがとうございます!、なら9時から12時でよろしくお願いしまーす!」
「3時間もやるのかよ・・・、ま、高校生ならパワー有り余ってるか」
「エヘヘ」
「なら絵里、ちょっと外で待っとってくれんか?矢口さんと少しだけ話があるし・・・」
「わかったよー、なら先に横のファミレス入ってるね」
絵里がそういうと、4人は先に楽器店を後にした。
- 306 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:21
- 4人が去ったのを確認して、真里は愛との会話を再開させる。
「なぁ、オイラ思ったんだけど、ギターボーカルの子ちょっと負担かけすぎじゃないか?」
「あ、やっぱり思います?」
愛も同じ意見だった。
実際、愛自身がギターボーカルをこなしてはいるが、美貴とのツインボーカルギターであり、
さらに楽器経験の浅いれいなが短期間でこなすのは難しいと考えていた。
「でも、練習すれば何とかなるレベルだと思うし、下手だという理由でパートチェンジはしない方がいいと思う・・・」
「それはそうですけど・・・」
真里は前置きだけした後、感想を言い始める。
「オイラが思ったのはね、あの子達はもしかしたら愛ちゃんたちを目標にしてるのかもしれない」
「え?」
「まず、ギター・キーボード・ベース・ドラムがすべてそろってる。おまけにギターボーカルって所もね。
4人と5人っていう人数的な違いはあるけど・・・、身近な目標にしてると思うんだ」
「・・・」
「でも、それはあくまでPEACEの作り上げる音楽の世界であって、あの子達が目指す音楽の世界じゃない。
オイラはあの子たちにしかできないもっと他のバンドの”やり方”があると思うんだ。
もちろん、最初は愛ちゃんたちを目標にすればいいのかもしれないけどね。
これは例えばの話だけど、せっかくNARUMIやごっちんの曲やるなら、ダンスを加えてもいいと思う」
- 307 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:22
- 愛はしばらく黙りこんで頭の中を駆け巡らせる。
真里のアドバイスが終わってから数秒後、口を開けた。
「ならー、今からちょっと相談してみます。ありがとうございました」
「おう、愛ちゃんは明日も来るの?」
「来るつもりではいますけど、あ、そうや、
矢口さんって元々はギターとかベースやってた人でしたよね?」
「まさかオイラに女子高生のバンドの中に入れって言わないよな?」
真里は笑って愛に問いかける。
「さすがに入ってとは言えないですけど」
「なんだそれ、言えないって」
愛と真里は笑う。
「とりあえず、れいなとさゆのコーチを頼めません?あーしじゃ技術的に無理で・・・」
真里は腕を組んでちょっとだけ考えた後、
「んー、ま、わかったよ。愛ちゃんの頼みじゃ断れないからな」
「ありがとうございます、なら明日もよろしくお願いします」
「はいよ!ありがとね」
そう言って、愛も絵里たちのいるファミレスに向かった。
- 308 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:22
- ファミレスの中では、4人がドリンクバーの飲み物を片手に会話していた。
「今日はがんばったの」
「たっくさんダメ出し食らったけどね」
「でも、4人で何かやってるって感じでれいなはよかったと」
「そうだね、あたしもよかったと思うよ。みんな誘ってくれてありがとね」
そこに真里との話を終えた愛がやってきた。
「おつかれさま。どーだった?初めての合同練習。だいぶしぼっちゃったけど」
「楽しかったよー!愛ねーちゃんの怒りっぷりが」
「また絵里はいつもテキトーなこと言わんの!」
絵里の背中を愛が軽く叩くと、パンといい音がした。
「痛っー!、もー愛ねーちゃんたら・・・」
そんな絵里を無視して、愛は話を進める。
- 309 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/14(日) 19:22
- 「ま、今日は初めてやしあんなモンやと思うわ。今日の宿題は1つだけね。
カバーやる上で必要なことなんだけど、原曲を明日までに何回も聞いてくること」
「はーい」
「後、ちょっと悪いんだけど、れいなとさゆはちょっと話したいことがあるからもうちょっとおってくれんか」
れいなとさゆみはお互いを見つめ、頷いた後「いいですよ」と返事をした。
「何、れーなとさゆだけ居残り?」
絵里がからかう。
「ほらほら、優等生は先に帰った帰った!」
「はーい、なら明日ね〜!」
- 310 名前:ウイング 投稿日:2007/10/14(日) 19:23
- 更新しました。
かなり間隔をあけてしまい、申し訳ないです。
- 311 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/22(月) 00:39
- 続きが楽しみです。
- 312 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:10
- (何言われるんだろう・・・)
れいなは心の中で不安に陥っていた。
1つ思い出したのは、さっきまでの練習。
愛に一番注意されてたのがれいなだったからだ。
ドリンクバーに飲み物を取りに行っていた愛が席に戻ってくる。
「ごめんね、2人だけ残しちゃって。はい、飲み物のおかわり」
愛はれいなにウーロン茶、さゆみにオレンジジュースを手渡す。
最後に自分の席にアップルティーを置いて、れいなの対面に座った。
- 313 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:11
- 「ごめんね、2人だけ残しちゃって」
「いえいえ」
2人は首を横に振る。
「・・・ちょっと言いにくいこともあって」
「・・・れいなたち、ダメなんですか?」
れいなのあまりの早とちりに、愛はクスっと笑った。
- 314 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:11
- 「何、”バンドできない”って言われると思ったん?」
「はい・・・」
「れいな、これはれいな達のなんやから、あーしがそんなん決めれんよ」
「それもそうですね、よかった・・・」
ホッとため息をつくれいな。
「ただ・・・」
愛が次の言葉を発した瞬間、やっぱりれいなはびくっとしてしまうのであった。
「れいなって誰か目標にしている人いる?」
意外な質問にれいなはびっくりする。
「・・・後藤さん、です。ずっと昔から好きやったけん。後、美貴ねえ。この前のライブのときすごかったけん」
「ん、同じ質問さゆにもするわ、さゆは誰を目標にしてる?」
さゆは顔を少し赤らめながら、愛を指差した。
愛はちょっとだけ笑って「ありがとう」と言った。
- 315 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:11
- 「なら、その2人のもっと近くでやってみたいと思わん?」
「・・・え?」
れいなとさゆみは愛の言ってる意味がわからなかった。
「ここからはあーしの提案なんだけど、れいなはボーカルに絞って練習してもらう。
ギターがダメとか言うんやなくて、そっちの方が合っとる気がするが。
もちろん、後藤さんのようにダンスで魅せるのもいいしね。れいなオリジナルを作ってほしいんやよ。
そしてさゆはベースからギターに変わってもらう。ちょっと練習時間は必要かもしれないけど、弦には慣れてきてると思うから絵里がやるより
数倍上達は早いと思う。矢口さんにもコーチはお願いしてある」
「・・・さゆのベースはどうなるんですか?」
「ベースは基本的にない、というか打ち込みにする。それか矢口さんにサポートとして入ってもらう。あくまで主役は4人やからね。
そんで、初ライブの時にはあーしたちと対バンを組む。もし後藤さんがOKなら見に来てもらうつもりやよ」
- 316 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:12
- 愛の閃いた考えは、さゆみのハートを完全に射抜いていた。
数分前まで不安でいっぱいだったれいなも、愛の話はとてもうれしかった。
「なら、一応決まりかな。絵里たちには明日言うから、それまでは秘密でお願いやよ。
で、さゆはこれから矢口さんのところに行ってもらっていいかな、あーしも一緒に行くし」
「わかりましたー」
「じゃあ、れいなはこれでおつかれさま。長くなってごめんね」
「おつかれさまですー!」
さゆみと愛はファミレスを出て、再び真里のいる楽器店に戻っていった。
れいなはしばらく窓の外と店の天井を眺めた後、小声で「がんばろ」と自身に言い聞かせた。
- 317 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:12
- 翌日。
一足早く、れいなは真里の店にやってきた。
「お、田中ちゃんじゃん。今日も気合いバッチリかい?」
「さゆは・・・、来てます?」
「あー、重さんね。まだだよ。昨日けっこう遅かったからね・・・」
「さゆ、昨日ずっと練習してたんですか?」
真里は手に持ってた伝票を引き出しの中にしまう。
「愛ちゃんから事情はある程度聞いたよ。オイラも賛成だよ。
少なくとも亀ちゃんや重さんは愛ちゃんたちを目標にしてるってのはなんとなくわかってたからね。
後選曲にしても、ごっちんやNARUMIをやるならボーカルは楽器持たない方が味が出るし」
真里とれいなが話していると、愛と絵里がやってきた。
「おはよーございますー」
「お、愛ちゃんたち来た」
「おはよー」
- 318 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:12
- 絵里とさゆみが店内の楽器を見ている間に、愛と真里は小声でしゃべりだす。
「昨日・・・、どうでした?」
「あー、重さんね。あの子見た目よりかなりセンスあるよ。1日でかなり上達したと思うよ」
「そうですか・・・、ありがとうございます」
「って言うか愛ちゃん・・・? オイラが女子高生バンドに入るってどういうことぉ?」
愛はギクッとした。
「ホラホラ、サポートで・・・」
「サポートって言ってもなぁ・・・明らかに浮くし」
「矢口さんもまだまだ若いですって」
「そんなことわかってるよ! あ、そーだ、例の件・・・」
- 319 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:13
- 「2人で何そんなにヒソヒソしゃべってるんですか?」
声の主は里沙だった。
「あー、いやいや、何でもない、何でもないです」
真里の突然の敬語に、里沙の頭には?マークがたくさんついている。
「あ、里沙ちゃんにさゆ、おはよー」
「おはよーです」
「ならみんな集まったし、今日もやりますか。準備してね」
「はーい」
そう言って、4人は準備のため上に向かっていった。
- 320 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:13
- スタジオでは準備を始めている。
しかし、里沙や絵里はさゆみの持ってる楽器がベースではなく、ギターであることに気づいていない。
もちろん、ギターを持たなきゃいけないはずのれいなが持っていないことも。
「よーし、みんな準備はOKやね?」
「はい!」
「練習といきたいとこやけど、その前にみんなに言っておかなきゃいけないことがあるから、ちょっと集まって」
- 321 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:13
- 「まず、パートを変える」
「え?」
絵里と里沙が反応する。
もちろん、昨日言われたれいなとさゆみは無反応だ。
「変わるのはれいなとさゆで、れいなはボーカル一本。さゆがベースからギター。
これは昨日2人にOKをもらってる。今日からこの構成で練習する」
「え、ベースはどうなるの?」
「ベースは基本的にはなし、つまり打ち込みってことやね。場合によっては矢口さんがサポートとして入ってもらえるように
今お願いしてる」
「さゆとれいなはそれでいいの・・・?」
里沙が2人のほうを見ると、2人はウンとうなづいた。
「そしてもう1つ。初ライブ。これは2人も知らないとこやけど、
日にちは7/7の土曜日。時間は・・・18時やったかな?今日が6/24やから、あと2週間やね。場所はここ。
その日はあーし達も一緒に出ることになってる。昨日いしかーさんにお願いして、OKもらったから。
後、その時のために矢口さんが1曲プレゼントしてくれるって。歌詞はちなみにあーしが昨日夜に書いたモノを使うことになってる」
- 322 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:13
- 愛の次々と出てくる発言は、何かテレビ番組を見てるような展開であった。
4人がそういう風に感じることができるようになるのは、愛の発言から数時間たった後になるのだが。
里沙や絵里はもちろん、昨日既に一部分を知っていたれいなやさゆみでさえ、今の状況をあんまり読み込めていない。
「ん、あーしの言うべきことはこんで終わった。後は練習あるのみやよ〜」
そう言って、バトンを里沙に渡す。
里沙は「じゃあ・・・、RISING SUNから・・・やろうか・・・」と未だ放心状態だった。
- 323 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:14
- 練習終了後、再びミーティング。
今度は真里の作ったという曲を聴くことになった。
真里がMDをセットし、再生ボタンを押す。
トラック1の曲が流れ始めた。
- 324 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:14
- 「かっこいいの」
さゆみが発した感想は、聴き終えての他のメンバーとも一致した。
真里が4人に譜面を配っていく。
「ま、今練習している2曲とはちょっとタイプが違うかな。テンポも少し遅いしね。
愛ちゃんの詞がこれまたいいんだよ・・・」
愛は下を向いた。
「え、どんなの?」
興味はそこに行くが、真里は制止する。
「これは、まず田中ちゃんにあげる。ホラホラ、他の3人は次の練習までのお楽しみってことで」
「えぇーーー!!!」
- 325 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:14
- 「後ライブのコトなんだけど、デビュー戦って言っても一般のお客さんは入らないからね。
友達とか、どんどん連れてきてね」
「わかりました」
「なら、今日はこれで終了。愛ちゃん、何か後言いたいことある?」
「いや、特に・・・ないです」
「じゃあ、おつかれさまー」
「おつかれさまでーす!」
- 326 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:15
- 4人は真里の楽器店を後にした。
「ふぅー」
真里がほっとため息をつく。
「いよいよですね」
「そうだね。とは言っても誰かの知り合いばっかりなんだけどね」
「そうですけど、スペシャルなゲストも呼んでますからね」
「あー、ごっちんのことか・・・」
真里は天井を向く。
「矢口さん、後藤さんとお知り合いなんですか?」
「あ、まぁ・・・、うん・・・」
真里の表情が一瞬曇った。
「・・・」
愛は何かを感じ取ったかのように、話題を切り替えようとする。
真里の言葉がそれをさえぎった。
「ま、いずれわかることだし、愛ちゃんには今度話すよ」
- 327 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:15
- ---------------------------------------------------------
翌日の学校。
授業も終わり部活も引退した3年生にとって、進路以外にすることがない時期。
しかし、絵里は今、目の前のライブで頭がいっぱいだった。
絵里はなつみに相談を持ちかけた。
「安倍先生〜」
「なーに、亀ちゃん」
「明日から第2音楽室って貸してもらえないですかねぇ〜?」
「どうしたの?」
「絵里たち、バンド始めたんですよ…で、本番もうすぐなんで音楽室貸してもらえないかなって・・・」
絵里の発言はなつみを驚かせた。
- 328 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:16
- 「知ってるよ。前に亀ちゃんの家に家庭訪問行ったとき、お姉さんが言ってたよ。田中ちゃんと重さんも一緒なんだって?」
「エヘヘ、そーですよ。今度ライブやる時安倍先生も招待しますから」
絵里はケラケラ笑いながら言う。
「そーだなぁ・・・。ちょっと職員室行って聞いてくるね」
そう言って、なつみは職員室の方に向かった。
- 329 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:16
- 「絵里、何をなつみ先生に頼んだの?」
「ん?音楽室でバンド練習させてくださいって」
「えーーーーーー、学校で練習やるの!?」
れいなは驚く。
そこにさゆみと隣のクラスから里沙がやってきた。
「絵里、学校で練習したいってなつみ先生に頼んだって」
- 330 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:16
- そこになつみが戻ってくる。
「亀ちゃん?音楽室使っていいよ。ただし約束ね。ちゃんと始めと終わりはなっちのところに報告に来ることね。
後たまーに練習見させて」
「え、いいんですか?ありがとうございます!」
絵里の反応に、なつみは笑って頷いた。
「お、これがうわさのバンドメンバーかい?」
「エヘヘ」
「安倍先生って、もしかして昔バンドとかやってたんですか?」
「なっち、昔から歌ったりするのは好きだったし、今はもう解散しちゃったけど、ずっと好きなバンドがあってね。
そのバンドの曲をずっと聴いてたんだ」
「へぇ・・・どんな曲だったんですか?」
- 331 名前:SHINING STAR 投稿日:2007/10/27(土) 18:17
- 里沙が聞くと、なつみは歌い始めた。
「♪since I was a girl,when I was scolded the night,...」
「・・・」
絵里にはなつみの声が心地よく聞こえた。
「あ、それ知ってます! 確か10年くらい前に・・・」
「なっちが中学生とかの時によく聞いてた曲だよ。ま、なっちのコトはいいからさ、練習がんばりな」
「うん、ありがとう先生」
なつみは教室から出て行く。
教室の窓から差し込む夕日が絵里たちの顔を赤く映していた。
- 332 名前:ウイング 投稿日:2007/10/27(土) 18:20
- 更新しました。
>311名無飼育さん様
ありがとうございます!
そう言っていただけると製作の励みになります。
これからもよろしくお願いします。
- 333 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 20:14
- もっと演奏してるシーンがたくさん見たいなあ
- 334 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:00
- 7月7日。
絵里が朝起きると、愛はリビングでギターの弦を交換していた。
「あ、絵里おはよ」
愛が振り向いて、絵里に声をかける。
絵里は眠い目をこすりながら、「おはよ」と言って洗面台に向かっていった。
- 335 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:01
- 顔を洗い終えて、いつものタオルで拭く。
拭い終えた顔に、窓から差し込む朝日が差しこんで絵里を照らす。
(あぁ、今日いよいよかぁ・・・)
そう思いながら、鏡を見つめる。
そのまま何も考えずに数分、その場に立ち尽くしていた。
もちろん、絵里の中では何かを考えていたようだが。
- 336 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:01
- ふっと気がつき、時計を見るとれいなたちが家に来る時間まで、それほど時間がないことに気づく。
(やばっ、早く準備しないと)
あわてて髪をとかし、自分の部屋に戻るのであった。
- 337 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:01
-
”ピンポーン”
エントランスからのコールがなる。
「絵里〜、れいなたち来たで〜」
「わかったー、絵里まだ着替えてるから1回上がってもらって〜」
- 338 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:02
- 絵里が準備するまでの間、れいな・さゆみ・里沙は愛のいるリビングに通された。
愛が冷蔵庫から冷茶を出して、3人に差し出す。
「ごめんねー、絵里が待たせちゃって」
「いえいえ、とんでもないです」
「いよいよだね、がんばるんやよ」
「はい、さゆみたちめっちゃ練習しましたから」
「おー、それはちゃんと聴かんとな。今日は矢口さんのトコで練習するんやろ?」
「はい」
「あーしも時間あったら行くわ。PEACEの練習もあるし」
「ぜひ、お願いします」
- 339 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:02
- 会話に割り込むようにして、絵里が部屋からでてきた。
「ごめーん、みんな何話してたの?」
「え?今日はがんばってね、って言ってただけやよ。さ、4人そろったとこやし最後の練習にいってらっしゃい」
「はーい」
そう言って、4人は絵里の家を出る。
愛はそれを見送った後、コップを洗いながら(今日は色々楽しくなりそうやな)と思った。
- 340 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:02
- ------------
午前10時。
絵里たちは真里の楽器店にやってきた。
すなわち、練習スタジオでもあり、絵里たちのデビュー戦となる会場でもある。
「こんにちはー」
「お、ルーキー達来たな。上あいてるし今日は自由に使っていいぞ」
「ありがとうございます」
「ただし、今日の準備だけちょっと手伝ってもらうけどね」
「はーい」
そう言って、4人は2Fのいつものスタジオに乗り込んだ。
- 341 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:02
- ほぼ同時刻。
絵里たちのいる東京から西へ500Km、京都。
ここにもいつになく慌しく動いてる人たちがいた。
「愛佳〜、準備ええんか?早よせんと、電車間に合わんくなるで」
「お母さん、ちょっと待ってよ〜」
- 342 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:03
- さらに、東京から北へ300Km離れた新潟では。
「なら、小春行って来ます」
「はい、行ってらっしゃい。ちゃんと愛ちゃんに会ったら電話するんだよ」
「わかってるよ、お母さん」
そう言って、小春は父親の運転する車に乗り込む。
- 343 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:03
- 再び東京に戻って。
(小春と愛佳、昼くらいって言ってたなぁ)
愛はPEACEの練習の前に、駅に小春や愛佳たちを迎えにいくことになっていた。
もちろん、今回のことを話したのは愛本人であるがゆえなのだが。
小春も愛佳も、愛や絵里のバンド姿を見たいと言ってくれた。
もちろん、裕子もである。
(PEACEの練習は15時からで・・、その前に愛佳と小春を迎えにいって・・・、あ、その前にあさ美が来るんだった、
ほんで矢口さんとこ行く前に・・・)
何気に結構忙しいスケジュールである。
”ピーンポーン”
(あ、あさ美や。もう今日のスケジュール開始やざ)
そう思って、インターホンに出る愛なのであった。
- 344 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:03
- ---------------------
忙しい時ほど、時間はいつの間にか過ぎ去っていくものであり、
すでに時計は17時をさしていた。
PEACEのメンバーは最後の調整の練習を終え、真里のやっている楽器店に向かう準備をしていた。
「いよいよだねー、何かれいなたちの演奏ってかなり気になるんだけど」
麻琴が愛に話しかける。
「どやろーね。あーしも最後はちゃんと聞いてないし、どんな感じに仕上がっているかはさっぱりわからん」
そこにギターを片付け終えた美貴がやってきた。
「あーいちゃん、なーに話してるの?」
「何や美貴ちゃんか」
「何だよ、その言い草は!いかにも美貴が残念な人間みたいじゃん」
「だって残念やもん、あーし的には」
- 345 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:03
- 練習を重ねるたびに、愛と美貴のコミュニケーションは格段によくなっている。
基本的には美貴が愛に甘え、それを愛がはねのける形になっているようにしか見えないのだが。
ただ、他のメンバーに比べてこの2人の空間が一際よくなっているのは、紛れもない事実だった。
- 346 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:04
- 「なら、17:55に現地集合でね。愛ちゃんは一旦離れるみたいやから」
「え、梨華ちゃん、愛ちゃんどうしたの?」
「ミキティがしつこいから一緒にいたくないって」
ひとみがちょっかいを出す。
「愛ちゃん・・・美貴のこと嫌いになった?」
「美貴ちゃんもアホやのー。そんなわけないが。なら、お先に失礼します」
そう言って、愛はPEACEのメンバーと一旦離れる。
- 347 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:04
- 愛が向かった先は、絵里の通う高校だった。
「すいませーん、ちょっと遅くなって」
愛の声が届く先には、なつみの姿がある。
「いえいえ、なっちも今来たとこだから。なら行きましょうか」
「はい」
なつみと愛は駅の方に向かって歩き出した。
- 348 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:04
- -----------------------------------
絵里たちも時間ギリギリまで、一杯一杯の練習を行った。
結局真里が入ることはなく、ベースは打ち込みとなった。
「やれるだけ、やったね」
絵里はさゆみや里沙たちに確認する。
「うん、がんばったと思う」
- 349 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:04
- そんなことを話していると、下から真里が上がってきた。
「お、もう練習はいいか?」
「はい、がんばりました」
「そっか。えっと、3Fが本番をやる場所になるからね。ここは控え室みたいにして使うからね。
後、もうお客さんが・・・、来てるから」
「え、そうなんですか?」
れいなが聞きなおす。
「おう、ちゃんと見てくれる人がいるんだから、がんばれよ」
そう言って、真里は再び下に戻った。
- 350 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:05
- 下にはちょうどあさ美・小春・愛佳・裕子が到着した。
「いつも愛と絵里がお世話になっております」
裕子が挨拶をする。
「いえいえ、こちらこそいつも楽しませていただいてますよ。さ、どうぞどうぞ上に上がってください。
紺ちゃんも、あがってね」
「はい、小春ちゃん、愛佳ちゃん、いくよ」
「はーい!」
そう言って、4人は上に上がっていく。
- 351 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:05
- その後も次々と真里の店に人が集まってきた。
まずはPEACEのメンバーがスタンバイのために入る。
さらに5分後、なつみを連れた愛が到着。
なつみは客席のほう、愛はPEACEのメンバーに合流。
さらに遅れること10分、開演寸前になって真希が到着した。
自動ドアが開いた瞬間、そこにいた真里と目が合う。
- 352 名前:GREETING 投稿日:2007/11/18(日) 20:05
- 「久しぶりだね、真里っぺ」
「ごっちん・・・」
真里の顔が一瞬だけ凍りつく。
「来ちゃった。愛ちゃんやミキティのステージを見に」
少しだけ沈黙が流れ、真里が口を開ける。
「ま、後でゆっくり話そうよ。とりあえずは上がって。
せっかくのステージを見逃すからね」
「真里っぺの言うとおりにさせてもらうよ、じゃ、後でね」
そう言って真希は3Fのほうに上がっていった。
- 353 名前:ウイング 投稿日:2007/11/18(日) 20:08
- 更新しました。
>333 名無飼育さん様
リクエストありがとうございます!
ちょうど次回は演奏シーンを予定しています。
よろしくお願いします。
- 354 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 21:59
- 3Fでは丸テープルとそれに囲まれた椅子が何セットか容易されている。
今回はお客も限定で人数も少ないということで、真里がカフェ形式のスタジオセットを用意していた。
愛は小春や愛佳と楽しそうにおしゃべりをし、真希は美貴や梨華たちと騒ぎ、なつみは裕子に挨拶をしている。
絵里・れいな・さゆみ・里沙の4人は裏口からステージ横に入り、最後の確認をする。
同時に、真里のアナウンスでライブは始まった。
- 355 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:00
- 「本日は、ミニライブスタジオ・Marineにお越しいただきありがとうございます。
本日司会を勤めさせていただきます、オーナー矢口真里です、どうぞよろしく」
客席からは拍手がちりばめる。
「えっと、今日は2組のバンドによる演奏をお楽しみいただきます。
1組目は4人の女子高生バンド・I(アイ)による演奏です。
なんと今夜がデビュー戦!
ちなみに”I”の由来ですが、メンバーのREINA/ERI/SAYUMI/RISAと4人の名前をローマ字表示すると
唯一の共通の文字だということと、愛されるバンドになりたいという意味をこめてつけたそうですよ。
オイラとしては、他にもまだ何かあるんじゃないかって必死で考えてますけど」
客席から笑みがこぼれる。
「そして15分の休憩を挟みまして、2組目はご存知の方も多いと思いますすが、5人組女子大生バンド”PEACE”。
3ヶ月前に新ボーカルである高橋愛を迎えてからさらに勢いが増しました。
Iのメンバーも目標にしているバンドの1つなんじゃないかな、って思います。
そんなIのパフォーマンスからご覧ください、どうぞ!」
- 356 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:00
- 一方ステージ袖では。
「練習たくさんしたし、がんばろうね」
「がんばるっちゃ」
「がんばるの」
「がんばります、ヘヘ」
「よし、行こう!」
里沙の声で4人はステージに上がった。
- 357 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:00
- れいなのイントロサビで曲が始まる。
[WE HAVE A CLEAR RISING SUN, WHOSE LIGHT CAN GUIDE US TO NEXT STAGE,
LET'S RUN TO YOUR DREAMS, LIKE TO FINE SKY, FLYING HIGH!!]
まずはれいなのボーカルと里沙のドラムが一体化していく。
間に絵里のキーボードが挟まり、次の里沙のスネアドラム・シンバルと同時にれいなは激しいダンスを始めた。
150に近いかなり早いテンポだが、れいなは体を動かしていく。
聴衆の方も「おー!」とばかりにびっくりしながら手をたたいている。
- 358 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:00
- (いける、いけるっちゃ)
れいなはメロディーラインを歌いながら、心の中でそう感じていた。
聴いてくれてる人が楽しそうにこっちを見ている、れいなを見てくれている。
そういう充実感を早くも感じていた。
- 359 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:01
- 再びサビに戻る。
「〜LIKE TO FINE SKY, FLYING HIGH!!〜」とれいながサビを歌い終える。
同時にスポットライトが消えた。
「C'MON ERI!」
れいなの声と同時にスポットライトがボーカル位置に再びともる。
しかし、その場所にいたのはれいなではなく、キーボードパートから前に出てきた絵里だった。
その絵里がさっきれいなやったダンスのアレンジ版を始める。
これには客席からも驚きの声が。
再びれいなにライトが戻り、ダンスを始める。
絵里は再び自分の持ち場であるキーボードに戻っていく。
- 360 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:01
- (やった、うまくいった)
絵里は絵里で、楽器の演奏以外であるダンスの部分に不安があったが、ダンスの効果がキーボードにもいい影響を及ぼしている。
(かっこいい)
客席で見ていた小春と愛佳は、感情をあまり声には出さなかったが、内心とても興奮していた。
- 361 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:01
- 2回目のサビが終わると、次はさゆみのギターがうなり始める。
細かい音符を刻みながら、ギターは激しさを増していく。
(よし、今日のあたしも完璧なの)
さゆみは心の中でそう思った。
再びれいなにバトンが戻る。
最後のサビの部分をれいなが元気良く歌い上げた。
- 362 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:02
- 「こんばんは、”I”でーす! 今日はよろしくお願いします!」
れいなの元気いっぱいの声に、なつみをはじめとした聴衆は拍手で迎える。
「さて、オープニングからかなり派手にやっちゃいましたが、いかがでしたでしょうか。
今の曲はNARUMIさんの"RISING SUN"という曲です。とても希望に満ちた曲で、今からこうやって音楽を始めるあたし達にとって
ぴったりな曲だと思って選びました。
もともとキーボードの絵里がNARUMIさんの曲がすごく好きで、絶対やりたいという絵里のワガママで決まった曲なんですけどね」
「そんなことないよー」
れいなの後ろから絵里の声が飛ぶ。
会場が笑いに包まれた。
「さて、次の曲ですが今度はれいなめっちゃ好きな曲です。
れいな後藤真希さんがめっちゃ好きで、ずっと聴いてたんで絶対やりたい!と思ってた曲がなんと今回演れることになったけん、
れいなの尊敬する人の1人である後藤さんの曲をやれてうれしいです。
今回の曲もダンスもありますが、さっきの曲とは違ってかなりかわいいダンスだと思います。
じゃ、聴いてください"Primary Girl"」
- 363 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:02
- れいな、さゆみ、絵里が後ろを向く。
里沙がスティックでカウントをならし、さゆみのギターとともに曲が始まった。
(こんなん美貴じゃできないな・・・)
テンポはあまり変わらないはずなのに、さっきまでとは全く逆のタイプの曲。
それは別に美貴にとっては問題ではなかったが、コミカルで可愛げのあるダンスは美貴にとっては到底やり切れる覚悟はなかった。
真希はれいなの目をずっと見ていた。
しばらくして何かを悟ったように、誰にも気づかれないようにうっすらと微笑んだ。
- 364 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:02
- 「えっと、次が最後の曲になります。今までの2曲とは違って、今回はれいなたち”I”のオリジナル曲になります。
この曲はこの楽器店のオーナーである矢口さんから曲を頂き、さらにこの会場にいる”ある方”に詞を作って頂き、
そして出来上がった曲です。
すごくかっこいい曲で、ゼヒ聞いてください。”GIRL TO THE VICTORY”」
絵里と里沙のイントロからスタートした曲は、今までの2曲とは違うタイプのアップテンポな応援曲だった。
れいなだけでなく、絵里・さゆみ・里沙も一緒にユニゾンで歌う。
- 365 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:03
- サビが終わったところの間奏で、れいながメンバー紹介を行う。
「最後になりましたが、Iのメンバーを紹介するっちゃ! まずはドラム・ガキさん」
里沙がシンバルとスネアを中心に力強いパフォーマンスを仕掛けていく。
「キーボード・絵里」
絵里は七夕ということで、童謡”きらきら星”の最初の部分を演奏する。
「ギター・さゆみ」
さゆみは1つ1つの音を力強く、時に繊細にソロを運んでいく。
「そしてボーカル・れいなでした。ありがとう!」
そして演奏はクライマックスへ。
「せーの!」
ドォーン!
れいながジャンプし、着地とともに”I”のファースト・ステージはすべて終了した。
- 366 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:03
- 「みんな、かっこよかったよ! なっちちょっと感動しちゃった」
「エヘヘ、ありがとうなつみ先生」
演奏を終えた4人の下に、なつみと愛がやってきた。
「みんな、輝いてたよ。ちょっとの時間でよくがんばったわ。
なら、あーしは今から出番やし、話は後でするが」
「愛ねーちゃん、がんばってね」
「あいよ」
そう言って、愛はステージ横に進んでいく。
絵里は何かケラケラ笑いながらなつみと話しているが、れいな・さゆみ・里沙の3人は魂が抜けたような顔をしていた。
「ほら、れいなちゃんもさゆみちゃんも里沙ちゃんも、かっこよかったよ」
「あ、ありがとう、なつみせ・ん・せ・い・・・」
「れいなたち、演奏終わってヌケガラみたいになってる」
「とりあえず、座ろ。ホラホラお姉さんたちの演奏始まるよ」
れいな達はなつみと絵里に連れられて、客席にやっとの思いでたどり着くのであった。
- 367 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:03
- ステージでは愛たちの演奏が始まろうとしていた。
まずは演奏前に美貴がしゃべる。
「えーと、今日なんですけど。今日はほとんどが新曲です。
今日のために書き下ろしたモノもあるし、元々次のステージでお披露目予定のもあります。
今回はみなさんに一足早くプレゼントってことでね。
準備いい?」
美貴が後ろをを振り向くと、梨華・ひとみがコクっと頷く。
「なら、1曲目聞いてください。DEAR MY BOY」
美貴が言った後、横に居た愛とアイコンタクトをとる。
美貴のギターイントロで曲は始まった。
- 368 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:04
- (やっぱり愛ねーちゃんたちってすごいなぁ・・・)
ステージを見ながら絵里は思う。
ほんの数分前まで、自分達があのステージに立っていたが、そのときとステージの雰囲気が全く違うように絵里が感じた。
(やっぱり、かっこいい)
曲は次へと進んでいく。
「次の曲からー、矢口さんにいただいた曲を吉澤さんがアレンジし、あーしと美貴ちゃんが一緒につけて完成した曲です。
1番はあーしの言葉、2番は美貴ちゃんの言葉やよ。
2人それぞれが思ったことを、言葉にした曲です。
それでは聞いてください、”トワイライト・エクスプレス”」
- 369 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:05
- 大阪から愛の故郷である福井を経て、美貴の故郷・北海道まで走り続ける寝台列車から連想される恋の曲だった。
次々と放たれていくメロディーは、絵里の心の中に響いていく。
放心状態から解き放たれた3人も、愛たちのステージに酔いしれていた。
- 370 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:11
- 「それじゃ、メンバー紹介!」
美貴が言うと、紹介用の音楽がなる。
「まずは、キーボード・石川梨華! ハイ!」
愛が梨華のほうを振り向くと、麻琴が梨華の紹介文を歌い始める。
梨華はソロパートを艶やかに弾きなぐる。
「メインギター・藤本美貴さーん」
今度は梨華が歌い始めた。
横で美貴はギターを唸らせていく。
- 371 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:11
- 「メインボーカル・高橋愛、C'MON!」
続いて歌は美貴にバトンタッチをする。
美貴は愛に告白しているような詞で歌ったため、愛は顔を赤らめながらのパフォーマンスになってしまう。
「ドラムス・吉澤ひとみ!」
次は先ほどまでパフォーマンスをしていた梨華がひとみの紹介文を歌い始めた。
ひとみはスティックを高く放り上げ、ヴォンゴのように手でスネアドラムをたたき始める。
天井に高く放られたスティックは、しばしの時間を経て美貴の手の中に収まった。
「ラスト、ベース・小川麻琴!」
麻琴は麻琴の元気キャラを売り文句にした歌詞をつけて歌う。
麻琴が最後に「じゃ最後の曲いくよー! みんなどこー??」と音頭をとったところで、
「「「「「I'M HERE!!!!!」」」」」
ひとみのドラムがスピードを増していく。
- 372 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:11
-
(ミキティたち、一段とうまくなったなぁ)
客席では真希が感心しきりだ。
愛が加入する前、まだ4人だった頃からこのバンド=PEACEを知っている真希が見ても、今のPEACEは過去にないくらい成長していた。
(んー、誰かが出しゃばってる・・・っていうわけでもないし。オリジナルで”らしさ”が出てきたのかな)
頬杖をつきながら、もう1度ステージに目を戻す。
真希はバンドの感情・感性・人間関係といった、技術では語ることのできない部分を見抜くことに長けている。
その鋭い感覚はボーカルを務める、愛と美貴に向けられていた。
(やっぱり愛ちゃんとミキティだな、あの2人がこのバンドのエネルギーの元なんだよねー。
でも愛ちゃんって普段大人しいコなんだけどなー。今度1回遊びに誘ってみよ)
そう思って、真希はポケットからメモ帳を取り出し、何かを書き始めた。
- 373 名前:GREETING 投稿日:2007/12/04(火) 22:12
- 最後の曲、"I'M HERE"が終わり、美貴が「どうもありがとー!」と叫んでステージは幕を閉じた。
変わって真里が登場する。
「えー、以上を持ちまして本日2組の演奏はすべて終了しました。2組の方々、どうぞこちらへ」
真里がメンバー全員を舞台に招く。
まず最初のバンド”I”ですが、これが初演奏ということで、緊張もしたと思います。
でもとても初めてとは思えない堂々とした演奏振りを見て、これならどこで演っても大丈夫だなと思いました。
またここで演ってほしいなぁと思います。
それではIの皆さんに拍手をお願いします!」
会場は拍手に包まれる。
絵里たちは深くお辞儀をした。
「そしてPEACE。都内では結構活動してまして、それなりに知名度のあるバンドではありますが、
前回から新メンバー・高橋愛を加えてよりパワーアップした印象をオイラは受けました。
これからもがんばってほしいなと思います。
それではPEACEの皆さんに拍手をお願いします!」
愛たちもお辞儀をしたところで、ライブ・プログラム全体は終了した。
- 374 名前:ウイング 投稿日:2007/12/04(火) 22:12
- 更新しました。
- 375 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/09(日) 10:11
- PEACEよりIの演奏シーンの方が良さげだね
- 376 名前:GREETING 投稿日:2007/12/15(土) 21:56
- 「とりあえず、今日はお疲れ様でした。かんぱーい!」
ひとみのセリフとともに、ライブステージだった会場は数分もしないうちに、打ち上げ会場へと変貌する。
裕子は愛と簡単に話をした後、
「明日もう1回愛のトコ行くわ。小春と愛佳も連れて」と言って、宿泊先のホテルへと帰っていった。
なつみはなつみで絵里と愛に「ありがとね、また話学校で聞かせてね」と言って、会場を後にした。
- 377 名前:GREETING 投稿日:2007/12/15(土) 21:57
- 愛はちょっとだけお酒を飲んで、Iのメンバーのところに行く。
「絵里〜?飲んどるかぁ・・・?」
「ちょっと愛ねーちゃん、絵里たち未成年だから一応飲んじゃだめだし」
「んなもん今日くらいええよ、はい」
そう言って、缶チューハイをコップについでいく。
「ホラ、れいなもさゆも里沙ちゃんも」
とりあえず人数分ついで、乾杯を再度する。
儀式を終えたところで、
「愛ねーちゃん、絵里たちの演奏どうだった?」と静かに訊いた。
- 378 名前:GREETING 投稿日:2007/12/15(土) 21:57
- 「あ? あー、正直あそこまでやれるとは思ってなかったやざ。みんな輝いとったよ。
れいなと絵里のダンス、さゆのソロもカッコよかったし。
でも、あーし的に一番驚いたのは里沙ちゃんやが」
え?と言った感じで里沙は愛のほうを向いた。
「あーしは一番里沙ちゃんが心配やったんよ、初心者なのにこんな短い時間でドラムをマスターしろってのがね。
でも期待を裏切るかのようにあれだけの演奏をやりきった。それだけでもすごいと思う。それに比べてうちの絵里ときたら・・・」
予想外の言葉に絵里が愛のほうを振り向く。
「冗談やよ、絵里。絵里は絵里でがんばってたし、あーしが思ってるよりずっとよくできたと思う。
あーしから言うことは特にないよ」
そう言って、絵里の頭を撫でる。
ションボリ顔をしていた絵里も、愛の言葉にうれしさが滲みでてきた。
- 379 名前:GREETING 投稿日:2007/12/15(土) 21:58
- 「あーいちゃん」
愛に背後から抱きついてきたのは、美貴だった。
すでにかなりの量を飲み干しており、目が若干ながらうつろになっている。
「なんや美貴ちゃん、もうそんなになっちゃって・・・」
「愛ちゃんは、美貴のこと好き?」
「は?」
「だーかーら、愛ちゃんは美貴のこと好き?」
「ちょっとこの酔っ払い相手するの大変なんですけど」
そう言って、愛は絵里のほうに目線を向け助けを求めたが、絵里はれいなやさゆみと話していたため、愛には気づかなかった。
- 380 名前:GREETING 投稿日:2007/12/15(土) 21:58
- 「美貴は、愛ちゃんのことだーいすき!」
そう言って、美貴は愛を抱きしめる。
「ちょっと美貴ちゃん、苦しーよ!」
「これが言えど言えど振り向いてくれないあたしの愛ちゃんに対する気持ちよ、どうわかった?」
「え?」
愛の反応に美貴の力が一瞬緩み、愛は美貴の抱きつきから開放される。
「美貴は、初めて会ったときから愛ちゃんのことがずっと好きだった。いわゆる一目ぼれってやつ。
その後ずっとさりげなくアタックしてきたけど、愛ちゃん鈍感だから全然気にしてくれなかった。
だからもう今日言おうと思って・・・」
「美貴ちゃん・・・」
「美貴は愛ちゃんのことが好きです、付き合ってください」
- 381 名前:GREETING 投稿日:2007/12/15(土) 21:58
- ----------------------------------------------------------------
一方、2Fでは。
片付けをしている真里と、その手伝いをしている真希がいた。
「ごっちん、どうだった今日のやつ」
「んー、美貴ちゃんたちめっちゃ上手くなってたね。あと亀ちゃんたちのやつも。
これがデビュー戦だとは思えないよ」
「亀井ちゃんたちはまだ楽器を初めて1ヶ月ちょっとくらいしかやってないのに、ホントよくあれだけやったよなー」
「うん、そうだね。あの4人はきっと素質あるよね」
真里がシールドを束ねて戸棚にしまう。
「あの頃が懐かしいよ・・・・」
ボソッと言った真希の言葉に、真里が反応した。
「あの頃ねぇ・・・。オイラもホントに懐かしいよ・・・」
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- 382 名前:GREETING 投稿日:2007/12/15(土) 21:59
- 真希がデビューした頃、真里は真希のマネージャー兼プロデューサーであった。
元々は所属歌手のバックバンドのベーシストとして、業界では名を馳せていた真里ではあったが、
同じ事務所の後輩として入ってきた真希の才能に惚れ込んで、マネージャー兼プロデューサーを申し出たのだ。
真里のエスコートによって13歳で衝撃のデビューを果たした真希。
その類稀な能力を上手く引き出す真里のプロデュース力は、事務所内でも大きく評価されていた。
事務所側は真里に次々に色んな歌手のプロデュースをさせ、デビューさせていった。
それらのほとんどが歌手としての評価を上げ、真里は名プロデューサーの位置にまでたどり着こうとしていたのだ。
しかし、ある新人歌手をデビューさせる際に、レコード会社と真里の間で亀裂が発生し、所属事務所は真里との契約を一方的に解除した。
その処遇に憤慨した真希が「真里っぺが辞めるなら後藤も辞める」と事務所に吐き捨てて出ていったのだ。
その後真希は真里と連絡をとろうとしたが、真里の行方は真希にもわからなかった。
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- 383 名前:GREETING 投稿日:2007/12/15(土) 21:59
- 「そーいえばさ、ごっちんよくオイラの隠れ蓑がわかったな」
「後藤にかかれば、朝飯前だよ」
「朝飯前の割には、結構時間かかってるぞ」
「そんなことはどーだっていいの」
「ま、そうだな」
「ずっと思ってたんだけどさ」
「ん?」
「ごっちんって、今でももう1度歌手目指そうとしてる?」
「ん・・・どうだろ」
実際、真里の行方を追っていたときは歌手としてもう一度やりたいと思っていた真希ではあったが、
大学に入り、現在の生活に慣れてしまった今、歌手として再びステージに上がることはそこまで重要なことではなくなっていた。
「後藤よりも、ミキティたちを1度表舞台に立たせてあげたいんだよね」
「藤本たちを?」
「ミキティたちはそういうことに全く興味ないみたいだけどさ」
「ふーん」
「ま、あたしはミキティ達が「デビューしたい!」って言ったら「がんばれー!」って応援することしかできないけどさ」
- 384 名前:GREETING 投稿日:2007/12/15(土) 21:59
- 「ちょっと愛ちゃん、ミキティどうしたの・・・?」
2人の様子が変であることに気づいたひとみが2人に声をかける。
愛は美貴からの告白とお酒のせいで顔を真っ赤にしながら下を向いて黙り込んでいた。
ずっと愛の方を見ていた美貴も、ひとみが来るや否やコップを持って席を離れてしまった。
「愛ちゃん、あーいちゃーん・・・?」
ひとみが愛に声をかける。
「どうした?ミキティにイジメられた?」
コクッ。
- 385 名前:GREETING 投稿日:2007/12/15(土) 22:00
- 愛が首を立てにふる。
(そうなんだ・・・)とひとみは思った。
しかし次の瞬間、愛はひとみにもたれかかるようにして寝てしまった。
どうやらウトウトしていたようだ。
(寝ちゃったのね・・・)
ひとみは絵里を呼んだ。
「亀ちゃん、愛ちゃん寝ちゃったんだ。悪いんだけど、家まで愛ちゃん送ってもらえるかな」
「わかりましたよ〜、そしたら絵里たちそろそろ帰りますね」
「ありがとね、今矢口さん呼んでくるわ」
そう言ってひとみは真里のいる2Fへと降りていく。
- 386 名前:GREETING 投稿日:2007/12/15(土) 22:00
- ひとみがいない間に、美貴が絵里のもとにやってきた。
「亀ちゃん、愛ちゃんが起きたらごめんねって謝っといてくれないかな。美貴、愛ちゃんに悪いことしちゃった」
「わかりました・・・藤本さんどうしたんですか?」
「美貴は・・・疲れたよ」
ただそれだけ言って、美貴も階段を下りていった。
- 387 名前:GREETING 投稿日:2007/12/15(土) 22:05
- 更新しました。
次回より新タイトルになります。
>375名無飼育さん様
コメントありがとうございます。
今回はIの4人、輝いていましたね。
これからもよろしくお願いします。
- 388 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 18:58
- 翌日。
愛が目覚めると、そこには普段と変わらない風景が目に飛び込んできた。
「あ、あーし昨日どうやって・・・、それに・・・」
やっぱり、思い出そうとしても思い出せない。
- 389 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 18:59
- 「絵里ぃ、昨日ってあーしどうやって帰ってきたぁ・・・?」
リビングでテレビを見ている絵里に聞く。
「もー、愛ねーちゃんしっかりしてよー。昨日は、絵・里・が愛ねーちゃんを家まで連れてきました」
愛ねーちゃんたら、お酒飲んで寝ちゃってずっと起こしても起きなかったんだよ?」
「あー、そいえばそーかもしれん、ありがと」
「と言っても吉澤さんに手伝ってもらったんだけどね。あたし1人じゃ無理だったし」
「よしざーさんに後でお礼言っとかんとなぁ・・・」
「後、藤本さんが愛ねーちゃんに謝りたいって。詳しくは聞いてないけど、藤本さんと愛ねーちゃんケンカでもしたの?」
- 390 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 18:59
- 絵里の言葉で、愛は昨日の記憶が一瞬にして戻ってくる。
そして、悟った。
美貴からの冗談交じりの告白は、実は本気であったことを。
そう思うと、あのときも、あの時もと美貴の愛に対する態度が他の人とは違うということに気づく。
次々と少し前の情景が浮かんでくる。
すっかり黙り込んでしまった愛に、絵里がそっと声をかけた。
「あたしはずっと愛ちゃんの味方だからね。絵里、愛ねーちゃんのこと大好きだから」
- 391 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 18:59
- 絵里にとってはなんでもない一言のだが、愛にとっては”大好き”の一言は禁句に等しい。
「あ、ありがと・・・」
と返事だけして、再び部屋に戻ってしまった。
その様子を見ていた絵里は、
(愛ねーちゃんどーしたのかなぁ・・・?)
とずっと首をかしげていた。
- 392 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 19:00
-
午後1時過ぎ、愛はふらっと近くの駅に来た。
特にすることはないのだが、どうも家にいても落ち着かなかったのだ。
とりあえず、スイカを片手に電車に乗る。
たまたま来た電車に乗った。
辺りを見回すと、改めて世の中には色んな人がいるんだなぁと愛は改めて思う。
立って本や新聞を一生懸命読んでる会社員、ヘッドフォンから流れる音楽でノリノリな男の人、座って化粧をしている女子高生。
この人たちはどうして生きてるんだろう・・・。
そんなことをずっと考えてしまう。
- 393 名前:Rescue 投稿日:2007/12/23(日) 19:00
-
「新宿〜新宿〜」
行くあてもなかったが、とりあえず、降りることにした。
---------------------------------------------------
- 394 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 19:00
- ピンポーン。
絵里に向かって、誰かが来たという情報が飛び込む。
「はいはーい」
モニターに映し出されたのは、美貴だった。
- 395 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 19:00
- 「ふ、藤本さん?どーしてここにいるんですか?」
「ん?その声は亀ちゃん?愛ちゃんは?」
「愛ちゃんですか? 1時間くらい前に”ちょっと行ってくる”って言ってどこか行きましたけど・・・」
「さっきから電話してるんだけど、なかなかでないんだよ・・・」
「そうですか、ならちょっとだけ上がっていきます?」
「んー、なら亀ちゃんのお言葉に甘えるかな。そうさせてもらうよ」
- 396 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 19:01
- 冷蔵庫からペットボトルを取り出し、コップに注ぎ込む。
絵里はコースターを下におき、ミルクティーを美貴に差し出した。
「あ、ごめんね。わざわざ飲み物まで出してもらって・・・」
「で、昨日のことですか?愛ねーちゃんに謝ってっていってたやつ。
愛ねーちゃんとケンカでもしたんですか?」
「いや、そーいうわけじゃないんだけどね・・・」
そう言って、美貴は昨日のこと、愛に対する気持ちを話しはじめた。
- 397 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 19:01
- ------------------------------------------------------------------
同時刻、新宿。
特に行くあてもなく降りた愛。
愛が最初に新宿で降りた理由は、乗り換えの電車が多いという単にそれだけの理由だった。
- 398 名前:Rescue 投稿日:2007/12/23(日) 19:01
- しかしそれは時として逆効果にもなる。
選択肢の多さが、迷いにもつながるのだ。
(あー、新宿についたはいいけど、どうしよ・・・)
そう思っていた矢先にはっと思い出したのは、夜の音楽番組で対談している風景。
そこは都内にある神社だった。
「なら、あそこに行こうかなぁ・・・」
愛は携帯を開いて、アクセスを調べようとした。
- 399 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 19:01
- 「不在着信 3件」
画面にはそう表示されている。
(誰やざ?)
愛がボタンを押すと、そこには美貴ちゃんという文字が3列並んでいた。
- 400 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 19:02
- (美貴ちゃん・・・)
愛は再び午前中の思考回路に突入しようとした。
・・・が、ここは新宿。
すぐに他の音に思考力を奪われる。
(ま、後で電話すればええが)
そう思って、愛は携帯で目的地までの経路を調べ始めた。
-------------------------------------------------------------------------------
- 401 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 19:02
- 「藤本さん、愛ちゃんのこと好きなの?」
「そうだよ、って今まで散々話してきただろうが!」
「エヘヘ」
絵里はケラケラ笑う。
美貴はため息をついた。
「絵里も愛ねーちゃん好きですよ」
- 402 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 19:02
- 「でも、亀ちゃんのは家族愛じゃない。美貴はホントに・・・」
絵里の心臓の中が熱くなる。
「でも、愛ねーちゃん、OKともダメとも言ってないんでしょ?」
「まぁ、そうなんだけど・・・」
「愛ねーちゃんとあたしって、ホントは全くの他人なのって知ってます?」
その言葉に、美貴の口は止まった。
「やっぱり・・・、愛ねーちゃんから聞いてないんですね」
- 403 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 19:02
- 絵里は愛と出会うまでの経緯をすべて美貴に話した。
愛だけではなく、絵里もあの事故のことについては、人には話さないようにしていた。
里沙はもちろん、れいなやさゆみにも詳しくは話していない。
おそらく愛との関係を”親戚同士”だとごまかした、と絵里の中では記憶している。
愛だけでなく、絵里にとってもこのことはずっとトラウマになっているのだ。
- 404 名前:Rescue me! 投稿日:2007/12/23(日) 19:03
- 「藤本さんに1つだけお願いがあります」
「ん、何?」
「今回のことで、愛ねーちゃんと気まずくならないでください」
「それは・・・、美貴も望んでることだけどね」
美貴は一旦目線を絵里から離した。
「藤本さんが愛ねーちゃんをバンドに誘ってくれて、絵里は藤本さんにすごく感謝してます。
愛ねーちゃん自身、楽しいって良く言ってるし」
美貴はうなずく。
「でも、今回の告白は別の問題です」
- 405 名前:ウイング 投稿日:2007/12/23(日) 19:03
- 更新しました。
- 406 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 14:01
- せつないのう
- 407 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:10
- ------------------------------------------------------------
新宿到着から30分。
愛は都内のある町についた。
駅から少しだけ歩いたところに商店街があり、下町の雰囲気をにおわせるような場所だ。
(東京にもこんなところがあったんやね)
愛は少しだけそう思って、足を進める。
- 408 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:11
- やがて歩いていると、1つの神社が愛の視界に入ってきた。
愛は何かを思うように入っていく。
とりあえず、お賽銭を入れて静かに祈りはじめる。
(・・・)
しばらくの静寂が過ぎた。
- 409 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:11
- お祈りを終えた愛は、しばらくの間その神社をゆっくりと散歩する。
少しだけ疲れたので、近くにあったベンチに座った。
(ふぅ・・・、色んなことありすぎやよ、最近)
愛は空を見上げる。
梅雨空の中休みといったばかりの青い空が愛に微笑みかけているようだ。
ふと、愛は昨日の出来事を思い出す。
(美貴ちゃん・・・)
普通誰かに告白されるときは、それとなく雰囲気でわかるようなものだが
まさに突然降ってきたような魔法の言葉だった。
でも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
普段から冗談で言われていることもあったからか、その言葉は受け入れることはできる。
でも、どうやって返事をしていいのかは愛はわからなかった。
- 410 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:11
- (そーいえば、昔っから人に合わせてばっかりだっけ)
昔から自分の意思で何かを決めるようなことはあまりしなかった愛。
絵里と暮らすようになってからも物事は大概絵里が決めて、愛はそれに同意するだけだった。
大学でもあさ美に引っ張られてここまでいる。
たまには愛から誘うこともあったが、そのたびにあさ美から物珍しく言われたことも少なくはない。
(でも、あーしって変わったんかな)
愛の思考回路はだんだん深くなっていく。
元々、愛自身そんなに明るい性格ではないことは兼ねて自覚している。
さらに事故以来、秘密主義という良くも悪くも自分を隠す性格になってしまった。
それが周りとの距離を感じさせ、自分勝手に孤独との戦いに苛まれていた。
- 411 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:11
- (そっか、変わろうとはしてなかったんやよ)
自己表現をすることを辞めてしまった愛に、そのチャンスを与えたのはあさ美であり、絵里であり、美貴達だった。
それも愛の好きな”音楽”という世界で。
今考えれば、事故以来楽器を弾いていなかったら、歌っていなかったら、自分はどうなっていたのだろうか。
絵里の「愛ねーちゃんの演奏を聴いてみたい」という言葉が反芻する。
あさ美たちに初めて弾き語りをしたあの日の情景がよみがえってくる。
それだけ、愛の周りには決して多くはなかったが、いつも誰かがいてくれたことを改めて認識する。
(結局、周りに流されてきただけなんやよ)
何かのきっかけで閉鎖的になってしまった自分を何かのきっかけで変えていく、
固まって何もできなくなっている愛を、
雪解けのようにそれを少しずつ溶かしているのは、絵里やあさ美、そして美貴たちであることを改めて感じさせられた。
- 412 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:12
- (でも、助けられているんやね)
次々と色々な顔が頭に浮かんでくる。
最後に浮かんだのが、美貴だった。
(ほや、美貴ちゃんに返事せないかん・・・・、とりあえず、一回家帰ろ)
そう思って、愛は再び歩き出した。
- 413 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:12
- ----------------------------------------------------------------------------
「別の問題??」
美貴が絵里に問いかける。
「絵里も愛ねーちゃんが好きだから」
「え?」
「藤本さんと絵里はライバルですよ〜」
「そ、そっか・・・」
- 414 名前:Rescue 投稿日:2008/01/06(日) 16:12
- 「絵里が相手じゃ楽勝とか思ってないですか〜?」
「そ、そんなことないよ〜」
「絵里は毎日愛ねーちゃんの横にいます、愛ねーちゃんのことは誰よりも知ってるつもりです」
「そっか、なら、ライバル、だ、ね・・・」
あまりにも絵里の本気さに、美貴は少しばかり苦笑してしまう。
昨日の自分がとった行為に考えれば、同類なのだが。
話を変えようと、美貴はとっさに昨日のライブの話を持ち出した。
「あ、亀ちゃん昨日のライブ良かったよ、みんなかっこよかったねぇ!」
「・・・藤本さん、話かえるの上手いですね」
- 415 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:13
- ------------------------------------------------------------------------------
帰りの電車に乗り込んだ愛。
もちろん、今美貴が愛の家にいることは知らない。
愛は下を向いて、再び深い思考回路に突入した。
(でも、今はまだ美貴ちゃんの期待に答えられない、あーしがどうしたいのかまだわかってない。
あーしは美貴ちゃんを求めてるの?そうなの?違うの・・・?)
考え事をしていると、時間と言うものはあっという間に過ぎるようで、
愛が再び顔を上げて電車の窓から見える景色は、見慣れた景色に戻っていた。
駅で電車を降りても、まだ考えがまとまらない。
独り言のように”あーでもない”、”こーでもない”とブツブツ言いながら足を進める。
周りの人には、愛の姿はどう映っていたのだろう。
家のマンションのエントランスについたとき、愛は我に返ってはっと思った。
- 416 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:13
- 「ただいまー」
そう言って、愛はリビングに入ってくる。
ドアを開けたそこには、問題児が1人絵里と楽しくしゃべっていた。
「愛ねーちゃん、おかえりー」
「ただいま・・・じゃなくって、どーして美貴ちゃんがここにいるんやざ?」
愛が大声で美貴と絵里に向かって言う。
「美貴と亀ちゃんは親友だもんねー」
「ねー美貴様ー」
(み、美貴様・・・?)
愛はその辺りは非常に疑問に思ったが、あえて口にはしなかった。
- 417 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:13
- 「ま、ええが・・・絵里、美貴ちゃんの処理は頼んだ」
そう言って、愛は部屋にこもってしまった。
「処理って、美貴はゴミか・・・」
うなだれる美貴に、絵里はそっと言う。
「美貴様、ご飯食べていきます?絵里が特製のパスタ作ってあげますよ☆」
「お、気がきくね・・・やっぱり持つべきものは親友だよね」
「そうですよねぇー☆」
絵里も上機嫌だ。
一方、愛はベッドの上にあおむけになって、天井を仰いでいた。
(ま、あの様子ならあーしのことなんか気にしてないやろ)
そう結論付けると、少しだけ頭の中がすっきりした。
(・・・ねよ)
そう思って、愛は少しばかり眠りについた。
- 418 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:14
- -------------------------------------------------------------------------------------
・・・どうして美貴ちゃんはあたしのことを好きって言ってくれるの?
・・・どうしてそんなに慕ってくれるの?
あーし以外にもいっぱいおるやん?
・・・どうして。。。
・・・どうして・・・?
- 419 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:14
- はっと目が覚める。
(ゆ、夢か・・・)
起きてはみたものの、もちろん美貴に対する答えなど見つかっているはずもない。
でも、何かが愛の中で変わっていた。
(今の気持ちを素直に言うしかないね)
そう心の中に刻んでいた。
リビングでは絵里の作ったパスタを美貴が美味しそうに食べている。
「あ、愛ねーちゃんも食べる?」
絵里が愛に気づき、尋ねた。
「んー、後でもらうわ」
「わかった、まだたくさんあるからね〜☆」
にっこりスマイルで笑う絵里。
愛はその笑顔を見た後、問題児に声をかけた。
- 420 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:14
- 「み、美貴ちゃん」
「ん?なーに愛ちゃん・・?」
「それ食べたらあーしの部屋に来て」
それだけ言って、愛はドアを閉めて中に戻ってしまった。
「愛ねーちゃん・・・、どうしたんだろ」
絵里は不思議そうな顔をしている。
美貴は何もいえなくなって下を向いてしまった。
もちろん昨日の出来事の後、愛とちゃんと話すのは初めてだったから。
- 421 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:14
- 「藤本さん・・・?」
絵里が心配そうに美貴の顔を覗き込む。
「あ、亀ちゃん・・・、いよいよ第1ラウンドだね」
「第1ラウンド?」
「そう、愛ちゃんに返事をもらうの、きっと。昨日の返事をね」
「そっか・・・」
「美貴、がんばるよ」
そう言って、美貴は皿に残っているパスタをフォークにくるんで平らげた。
- 422 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:15
- コンコン。
「どうぞー」
中で愛の声がする。
美貴はゆっくるとドアを開けて中に入る。
中ではベッドの上に座って読書をしている愛がいた。
「あ、あいちゃん・・・」
「お、問題児が来たな」
「問題児って何さ問題児って」
「まぁ、ええが。ここ座って」
愛は美貴にベッドの上に座るよう指示すると同時に立ち上がって机の横にある椅子に座った。
- 423 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:15
- 「・・・で、愛ちゃん・・・」
「ん?」
「美貴をここに呼んだのは・・・、どうして・・・?」
「わかってるくせに・・・」
しばしの沈黙が流れる。
先に口を開けたのは美貴ではなく、愛だった。
「あーしは最初、美貴ちゃんのあの告白は冗談だと思ってた。いつもあんな風にじゃれてるからやよ。
でも、今日ずっと考えていく中で、あーしは美貴ちゃんにすごく想われてるんだなって感じたんやよ」
美貴はうなずく。
愛は続けた。
「でも、今のあーしじゃごめんなさいって言うしかないんやよ・・・」
「・・・どうして・・・?、美貴のことしつこいから嫌い・・・?」
- 424 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:15
- 愛は首を横にふった。
「美貴ちゃんはあーしの気持ちに答えてくれるかもしれない。
でも、あーしは美貴ちゃんの気持ちに答えられるか、わからないし、自信もない。
あーしはいい意味で美貴ちゃんのこと好きやし、感謝もしてるんやよ。
でも・・・」
「それでも美貴は・・・、愛ちゃんのこと・・・ずっと好きなんだから」
- 425 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:16
- 「絵里からあーしたちがどうして出会ったか聞いてるよね?」
美貴はうなずく。
「あの時以来、あーしはあまり”あーし自身”を見せなくなったんやよ、固まった氷のようにね。
それを少しずつだけ溶かしてくれたのは、言うまでもなく美貴ちゃんなんやよ。
あーしをバンドに誘ってくれたり、積極的に話しかけてくれたり。
でも、まだホントの自分を誰かに見せられるほどあーしの心の中はできてない。
ホントにあーしのわがままなんだけど、もうちょっと待ってほしいんやよ・・・」
- 426 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:16
- 愛の言葉に美貴はフフッと笑って答えた。
「そっか・・・、美貴、今の愛ちゃんの言葉聞けてうれしかったよ。
結果は見てのとおりかもしれないけど、愛ちゃんのホントの気持ちが聞けただけで十分だよ。
それだけでも美貴はうれしかったな。
愛ちゃんの過去のことは、亀ちゃんから色々聞かせてもらったよ。
今、ここで美貴がそれについてどうこう言える立場じゃないけど、少しだけ愛ちゃんのことを知れてよかった。
ってどーして亀ちゃんから聞いたって知ってるの・・・?」
「それは・・・、女のカンやよ」
そう言うと、2人は笑い出した。
- 427 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:16
- 「なら、美貴帰るね。すっきりしたしさ」
「うん、ごめんね。でもホントにありがとう」
「いずれは愛ちゃんは美貴のモノにしたいなぁ」
「まぁ、がんばって」
2人は笑いあう。
「じゃーね、また今度ね」
そう言って、美貴はドアを閉めて帰っていった。
- 428 名前:Rescue me! 投稿日:2008/01/06(日) 16:17
- リビングに戻った愛は、冷めてちょっとだけ固くなってしまった絵里お手製のパスタを食べる。
「絵里、おいしいじゃんこれ」
「そう?よかった☆」
絵里は愛の返事がどうだったのか、
部屋の中で愛が美貴に対してどのような言葉をかけたのかはこの時は知ることはなかったが、
家を出るときの美貴の様子、また何か変だった愛の表情が戻ったことから
(ま、一件落着かな)
と思った。
- 429 名前:ウイング 投稿日:2008/01/06(日) 16:21
- あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
更新しました。
次回より新タイトルになります。
>406名無飼育さん様
人それぞれ色んな思いがあると思います。
その思いを大切にしてほしいなぁと作者も思います。
- 430 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/07(月) 01:10
- >>1
ある人って誰かな?
- 431 名前:WAVE 投稿日:2008/01/14(月) 15:30
- 夏休みも間もなく始まろうとしている時期。
大学生にとっては、大型休暇前の試練の時期でもある。
そう、期末テストなのだ。
普段から勉強している愛にとっては、一夜漬けという言葉は全く関係ないのだが。
(さ、もーすぐ夏休みやよ)
そう思ってテキストを閉じようとしたとき、絵里が愛の部屋にどたどたと入ってきた。
- 432 名前:WAVE 投稿日:2008/01/14(月) 15:30
- 「絵里ぃ、部屋はいるときくらいノックしねや」
「あ、ごめんね。それより、これ見てよこれ!」
そう言って絵里は愛に1枚のビラを見せた。
「オール・ステューデント・ミュージック・フェスタぁ?」
「学生なら誰でも応募できるコンテストだって。
しかもグランプリになると賞金200万円&デビューだってさ!」
絵里の興奮しながら話す姿に愛は少し戸惑う。
「とりあえず、読んでみてよ」と絵里が言うので、愛はそのビラを読んでみることした。
- 433 名前:WAVE 投稿日:2008/01/14(月) 15:31
- 応募資格:200×年6月1日現在で学生(小学生・中学生・高校生・大学生・専門学校生など)であること。
なお、グループの場合はメンバー全員が学生であること。
日程 :1次審査 書類審査・デモテープ審査
2次審査 9月初旬〜(1次審査通過者による課題曲審査)
3次審査 仙台:9月17日(土)、名古屋:9月18日(日)
福岡:9月23日(祝)、京都:9月24日(土)、東京:9月25日(日)
本選 10月10日(祝)・・・東京都内
審査会場:2次審査:各支部別予選
本部:東京 北海道:札幌 東北:仙台 神奈川:横浜 中京:名古屋
北陸:金沢 京滋:京都 阪神:大阪 中国:広島 四国:高松 九州:福岡
書類応募時に第1希望・第2希望の会場を選んでいただきます。
応募方法:HPにて応募書類をダウンロードの上、記入してください。
また、デモテープに2曲(カバー・オリジナルどちらでもOKです)必ず録音し、応募書類に添付してください。
オリジナル曲の場合は、歌詞カードを必ずつけてください。
注意 :1次審査の際に応募書類・デモテープをご持参ください。
個人での応募は1人1回としますが、グループでの応募は形態が違えば何度でも応募できます。
デモテープはCD,MD,DVDでも可です。
その他の詳細はホームページにて確認してください。
- 434 名前:WAVE 投稿日:2008/01/14(月) 15:31
- 「なるほどねぇ・・・」
愛は一通り読み終えると、ため息混じりに言った。
「絵里たちはこれ出ようと思うんだ、愛ねーちゃんたちも一緒に出よーよ」
「まぁみんなに話してみるがし」
「小春ちゃんと愛佳ちゃんにも聞いてみるね」
そういうと、絵里は小春と愛佳にメールを打ち始めた。
(でもこのイベントの名前、前にどこかで聞いたことあるような・・・)
愛はそう思ったが、今は思い出せなかった。
- 435 名前:WAVE 投稿日:2008/01/14(月) 15:31
- 翌日。
テストが同じ時間に終わったということもあって、あさ美は久しぶりに愛の家に来ていた。
最初はご飯を食べながらファミレスでグダグダ話そう予定だったが、愛の
「それやったらウチ来たら?」という提案にのることにした。
「愛の家来るのって久しぶりだね」
「あー、そうかも。最近会ってなかったのもあるし」
愛がテーブルに麦茶を2つ出す。
「あ、ありがと」
- 436 名前:WAVE 投稿日:2008/01/14(月) 15:31
- 「そういやさ、絵里からこんなのあるって言われたんやけど・・・」
そう言って、愛は昨日絵里からもらったビラをあさ美に見せる。
「愛、これ・・・」
「何かあさ美のやってるイベントと似たような名前やったような気がするけど」
「似たようなじゃなくて、これ私達の計画してるイベントそのものだよ」
あさ美の予想通りの答えに、愛は妙に納得した。
「愛たちも出るの?」
「いや、まだ決まってないんやよ。今からいしかーさん達に相談するやけどね。
あさ美はあーし達が出てほしい?」
突然の質問に、あさ美はちょっとだけ間をあけた。
- 437 名前:WAVE 投稿日:2008/01/14(月) 15:32
- 「ん・・・、どうだろう。愛達がやりたいようにすればいいんじゃないかな。
やりたいようにしたらいいんじゃないかな。
私としては、愛たちのライブを見れる回数が増えればいいなって思うけどね♪」
「出てほしいって言ってるやん・・・」
あさ美の言葉に、愛はちょっとだけ呆れてしまった。
愛がちょっとだけ慌てて話を変える。
「ね、せっかく夏休みなんやしどっか旅行に行かん?」
- 438 名前:WAVE 投稿日:2008/01/14(月) 15:32
- 「そうだね、どこか行きたいね。
でもあたしイベントの準備で何日もいけないかも。3日とかなら大丈夫かな」
「なら福井がええざ。あーしも久しぶりに行きたいと思ってたし。
夏なら寒くもないしね」
「・・・絵里ちゃんとかも一緒にどうかな。
初めて会ったときみたいに、5人でさ」
「ん、聞いてみるが」
そう言って愛は絵里の部屋に行く。
すでに夏休みに入っていたため、絵里は部屋で寝ていた。
- 439 名前:WAVE 投稿日:2008/01/14(月) 15:32
- バサ。
絵里の身体に包まっていた1枚の掛け布団を愛は放り投げる。
そしてうつぶせになって未だに起きない絵里の背中を思いっきりビンタした。
パチーン。
「いった・・・」
絵里が目を覚ます。
「絵里、いつまで寝てるんやざ?もう昼の2時やで?」
「ん・・・愛ねーちゃん・・・おはよ・・・」
「もう・・・。あ、絵里、伝言。
2週間後にあさ美と絵里たちと旅行に行くことになったから。れいなとさゆにも連絡しといてね、じゃ」
それだけ言って愛はドアを閉めてあさ美のいるリビングに戻ってしまった。
「絵里たち、いいって」
愛の答えに、事の一部始終が聞こえていたあさ美は苦笑した。
- 440 名前:WAVE 投稿日:2008/01/14(月) 15:32
- その夜、ちょっとPEACEの練習があったので、愛はイベントのことを話してみた。
全員が「うーん」と考える中、一番最初に結論を出したのは美貴だった。
「いいんじゃない?別にデビューとかは美貴興味ないけどさ。
本番出れたら、いろんな人に美貴たちの歌を聞いてもらえるじゃん」
美貴の意見に、麻琴も頷く。
ひとみは別にどっちでもいいという風な素振りだ。
一番最後までずっと黙っていた梨華も、「ま、楽しめればそれでいいんじゃない?」と言い、
PEACEの参加が決定した。
- 441 名前:WAVE 投稿日:2008/01/14(月) 15:32
- 「なら、今日の練習ね。
今日から新曲をやろうと思ってたの。えっと、何曲かあって・・・」
梨華がリストを配る。
「1曲目はカバーね。美貴ちゃんとか愛ちゃんの声に合うかどうかはわかんないけど、
ちょっと前までよくCMで流れていたやつ。村木加絵のやつね」
そう言って、梨華はCDをかける。
CMでお馴染みの曲に、みんなは”知ってるー!”と言った感じで納得の表情だ。
「で、2曲目。これは全くのオリジナル。
MDとそれを譜面に起こしたやつ今わけるね」
- 442 名前:WAVE 投稿日:2008/01/14(月) 15:33
- 梨華からそれらを受け取った愛は、歌詞を見てみる。
そこには、ちょっと前に梨華に渡した歌詞のものだった。
「いしかーさん、これ・・・」
「愛ちゃん、ちょっと待ってね」
- 443 名前:WAVE 投稿日:2008/01/14(月) 15:33
- 「これは何と・・・愛ちゃんが作詞してくれたんだよね?」
そう言って梨華は愛のほうを向く。
愛はコクっと頷いた。
「へぇ・・・愛ちゃんが・・・」
美貴は関心するように詞に見入りだした。
「で、よっすぃーが作曲したのを愛ちゃんの詞に合うように少しだけアレンジしてるの」
「愛ちゃんと初コラボだ、かっけー」
- 444 名前:WAVE 投稿日:2008/01/14(月) 15:33
- 「一応、カバーのほうは次回のライブから使おうと思うの。で、オリジナルのほうはもうちょっと音を付け加えていく感じ。
みんなの感性をこの曲の中に入れていって欲しいの」
梨華は他にも何曲かカバー曲を出した。
あくまでお試し感覚でやるつもりだから、と言っていた。
しかし、愛の中では自分が作った曲を自分が歌うという初めての感覚に、少しだけ変な感じがしていた。
前にれいな達に自分の詞でやってもらった時とは違う、不思議な感覚だった。
- 445 名前:ウイング 投稿日:2008/01/14(月) 15:43
- 更新しました。
>430名無飼育さん様
ご質問ありがとうございます。
実はたくさんいたりもしますが、
1に当てはまる方というのは、
昨年は幻版にて2本の物語を完結された方です。
その前は確か夢版だったと思います。
このスレッドのどこかに、ヒントがございますので
機会がありましたらお調べになってみてください。
- 446 名前:REASON(1) 投稿日:2008/02/29(金) 23:24
- あっという間に旅行の日になった。
愛はそれまで、準備に東奔西走していた。
ここで、自分自身を振り返るために。
ここで、これからの新しい自分に出会うために。
- 447 名前:REASON(1) 投稿日:2008/02/29(金) 23:25
-
---AM 9:30 羽田空港
- 448 名前:REASON(1) 投稿日:2008/02/29(金) 23:25
- 「みんなおるんか〜?」
「「「「「はーい」」」」」
絵里、さゆみ、れいな、あさ美、里沙の5人が声を出す。
愛が里沙にも声をかけ、6人で愛のふるさとである福井に向かうことになっていた。
「31番口 NH73*便 搭乗受付開始します」
アナウンスとともに、搭乗受付が始まる。
6人は、飛行機に乗り込んだ。
- 449 名前:REASON(1) 投稿日:2008/02/29(金) 23:25
-
---その1時間前、AM8:30 東京駅八重洲口
- 450 名前:REASON(1) 投稿日:2008/02/29(金) 23:25
- 「おはよーございます」
「あ、愛ちゃん来た」
「おそくなってすみません」
「まだ電車の時間には早かったね」
「いえいえ」
「なら、あっちの方はお願いね」
「わかりました。わがまま言ってすみません」
「全然いいよ。あたし達だっていつもわがまま言ってばっかりだし。愛ちゃんの故郷って行ってみたかったし、ね ごっちん」
「んー、後藤も楽しみにしてきたからね。愛ちゃんが心配するようなことじゃないよ」
- 451 名前:REASON(1) 投稿日:2008/02/29(金) 23:26
- アナウンスが聞こえる。
「11番線に入ります列車は、ひかり36*号 岡山・・・」
「なら、あたしたち先に行くね」
「はい、迷わないようだけお願いしますね」
「まかせなって」
そう言って、真希たちを乗せた新幹線は東京を発っていった。
- 452 名前:REASON(1) 投稿日:2008/02/29(金) 23:26
- 「しっかし愛ちゃんも大胆なこと考えるよね」
車内での美貴の言葉に皆がうなずく。
愛の計画というのは、PEACE,Iの合同合宿をやろうという提案のものだった。
しかし、絵里たちはまさか美貴たちが福井に向かっていることを知らない。
それもそのはずだ、「旅行」が「旅行兼合宿」になり、いつの間にか「合同合宿」になっているのだから。
- 453 名前:REASON(1) 投稿日:2008/02/29(金) 23:26
- 「へっくしゅーん!」
機内では愛がしきりにくしゃみをしている。
隣にいたあさ美が心配そうに愛を見つめていた。
「愛、大丈夫?」
「あ、うーん・・・、誰かあーしのうわさしてるみたい」
機内は比較的静かな空気になっている。
とはいっても、愛の前の列にいる里沙・れいな・さゆみは旅行気分で盛り上がっているのだが。
左隣にいる絵里はぐっすり眠っていた。
- 454 名前:REASON(1) 投稿日:2008/02/29(金) 23:26
- 「何か、あーし不思議な気分やわ。こうやってわいわい旅行するのって」
「もしかして、自分で色々決めてやってるからじゃないかな。あたしもそうだけど愛ってあんまり一人でモノ決めたことってないよね」
「んー、そうかも。絵里といるようになってからはだいぶん違うようにはなったと思うけど」
「そうなんだ・・・ってことは昔はどんなんだったんかな?」
「あさ美、そんなこと言わんの!」
「吉澤さんたち、今どのあたりまで行ったのかな・・・」
- 455 名前:REASON(1) 投稿日:2008/02/29(金) 23:27
- 新幹線の車内も最初と比べて静かだった。
美貴と真希は眠りに着き、麻琴は窓によしかかりながらヘッドフォンで音楽を聴いている。
ひとみと梨華は車内で色々と話していた。
「でも、こうやってみんなで合宿するのって初めてじゃない?」
「そうだね・・・たまにはいいと思うよ」
「あたし・・・すごくなんだかワクワクしてきた」
梨華の心の中の興奮がひとみにも伝わってくる。
落ち着いていたひとみも梨華の笑顔に、理由もなく興奮してきたのであった。
- 456 名前:REASON(1) 投稿日:2008/02/29(金) 23:27
-
---そして、 一路 福井へ-------------------
- 457 名前:REASON(1) 投稿日:2008/02/29(金) 23:28
- 「やあ」
到着した絵里たちが見たものは、東京でしか見たことのないはずのひとみの姿だった。
「あれ、吉澤さんなんでここにいると?」
「ん、PEACEで合宿をやるってことになってさ。それで私が愛ちゃんの故郷に行きたいって言ってここになったんだ」
絵里とれいなが顔を見合わせる。
「愛ねーちゃんに謀られた・・・」
絵里がボソッと言い、2人は愛の確信犯であることを悟った。
- 458 名前:REASON(1) 投稿日:2008/02/29(金) 23:28
- 「ん、よしざーさんたちも来たみたいやね」
「愛ねーちゃん?吉澤さんたちも一緒なの、黙ってたでしょ?」
「ほやけど、何か問題あるんか?」
「いや・・・、ないけど・・・」
絵里は黙り込んでしまう。
ひとみは笑っていた。
- 459 名前:REASON(1) 投稿日:2008/02/29(金) 23:28
- しばらくして、福井に到着したメンバーがロビーに全員そろった。
梨華の口から、今回のスケジュールに関する内容が説明される。
期間は1週間、最終日に福井のライブハウスでライブを行うという、大胆なものだった。
「もちろん、亀井ちゃんたちも秋の学生フェスタ出場狙ってるなら、いい機会になると思うよ。お互いにね。
じゃ、近くのスタジオまで移動しよっか。Iのメンバーの楽器もちゃんと用意してあるから」
「・・・はーい」
「で、最後。ごっちんはI、コンコンはうちらと一緒にスタジオ入ってもらって、色々アドバイスお願いね。
「え、でも私は何をしたらいいんですか?」
「んーとね、実際にあたし達が演奏しているのを聞いてもらって、感想を言ってくれればいいの。
それが色々と音を作る参考になるんだ」
「わかりました」
「じゃあ、スタジオまで行きましょ。ここから歩いてすぐだから」
「はーい」
そう言って、全員ですぐ近くのスタジオへ歩きはじめた。
- 460 名前:ウイング 投稿日:2008/02/29(金) 23:29
- 更新しました。
長らく時間をあけまして、申し訳ないです。
次回はなるべく早く更新すべく、がんばります。
- 461 名前:ais 投稿日:2008/03/03(月) 00:48
- 愛ちゃんが企画とは珍しいですねw
新しい二つのバンドがどのように展開されていくのか
今後も楽しみに待ってます。
- 462 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/04(火) 15:54
- おおおお
合同合宿とかなにがおこるんでしょうか
すごい楽しみ
- 463 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/13(木) 19:47
- リアルの亀ちゃんに残念なことが発覚しましたが頑張ってください
- 464 名前:REASON(1) 投稿日:2008/03/23(日) 20:23
- スタジオには、すでにひとみたちによって準備された楽器が並べてある。
「とりあえず、絵里たちはBスタジオのほう使ってね。あーしたちはAスタジオのほう使うから。
後藤さん、絵里たちのことよろしくお願いします」
「んー、わかったよ」
真希はそういうと、絵里たちの手を引っ張ってBスタジオのほうに入っていった。
「なら、あたし達もやりますか」
ひとみの言葉に促されて、愛もAスタジオのほうに入っていくのであった。
- 465 名前:REASON(1) 投稿日:2008/03/23(日) 20:23
- スタジオ内で、今回の合宿の目標を梨華から告げられる。
「さっき旅館のロビーでも言ったけど、1つは最終日のライブね。
見に来てくれるお客さんもあたし達のこと知らない人ばっかりだからね。今までよりも環境は厳しくなるよ。
で、もう1つは新曲を完成させること。曲の内容については前に言ったから、大丈夫だね」
「なら、あたしからもいいかな」
普段はシリアスなことをあまり言わないひとみが口を開く。
あさ美を除く4人がちょっと意外な顔つきでひとみを見た。
「いつもは楽しくやってるって感じだけど、たまには何日か音楽漬けになってみたいともあたしは思ってたんだ。
今日からの何日かはそのチャンスだと思ってきたし、みんなもそんな感覚を楽しんで欲しいと思う」
「よっすぃー、言うね」
美貴の横やりに、ひとみは照れ笑いをしてしまう。
「もー、せっかくキメようと思ってたのに・・・」
ひとみの発言に、5人は笑ってしまうのであった。
- 466 名前:REASON(1) 投稿日:2008/03/23(日) 20:24
- 一方、Bスタジオ。
特に今回の合宿の内容を知らさせていなかった4人は、なぜ真希がここにいるかすらわからない。
「後藤さん、あたし達どうすればいいと?」
れいなが真希に尋ねる。
「んー、さっき梨華ちゃんからも聞いたと思うけど、
とにかく1週間ずっと音楽やるの。んで、1週間後にライブ発表するの」
真希の簡潔な言葉かつ大胆な発言に、4人は唖然とするしかなくなっていた。
「で、とりあえず今できる曲を聞かせて欲しいんだ。それからみんなでどうするか考えよ」
- 467 名前:REASON(1) 投稿日:2008/03/23(日) 20:24
- れいなは息を飲んだ。
それが絵里、絵里から里沙、里沙からさゆみへと感覚的に伝わり、一気に空気がピリピリし始める。
周りの空気を感じ取った里沙が3人を自分の元へ集めた。
「だまされたのはもういいじゃん、あたし達が今できることをやるしかないよ」
「でも・・・」
「何言ってるの亀、後藤さんに聞いてもらえるチャンスなんてめったにないんだよ!
ほら、れいなもさゆも気持ち切り替えて。音にでるよ」
里沙は楽器のスタンバイを始める。
聞かないフリをして一連の会話をこっそりと聞いていた真希は、一瞬ニヤリと微笑んだ。
- 468 名前:REASON(1) 投稿日:2008/03/23(日) 20:24
- スタンバイを終え、里沙が再び3人を集めた。
「いい、あたし達もあのライブからもずっと練習してきたんだから。
そこを見せるわよ」
「うん」
「はい」
「うぃっす」
「がんばっていきまーーーーーーー」
「しょい!!!!!!!!」
- 469 名前:REASON(1) 投稿日:2008/03/23(日) 20:24
- 絵里たちは前回のライブでやったRISING SUN,Primary Girl,Girl to the Victoryの3曲をやった。
真希は真剣な顔で聴き入った後、立ち上がって4人を呼び寄せる。
「うん、前のライブよりはだいぶ良くなってると思う。特にニイニイのドラム捌きが軽くなったね」
「ありがとうございます」
里沙が頭を下げる。
「うーん後は色々課題もあるから、一つ一つ直していこっ。
とりあえず、今日は1つ!」
そう言って真希が出したのは、4冊のノートだった。
それを1人1人に配る。
「えっと、その中にあたしがバンドのイメージを勝手に考えて、
あ、あとみんなの曲の好みも愛ちゃんとかに聞いて、
曲をいくつか持ってきたんだ。で、その中に全部入ってるからそれを1週間でできるようにするのが1つの目標ね」
- 470 名前:REASON(1) 投稿日:2008/03/23(日) 20:25
- 再びAスタジオ。
「じゃあ、ここからね〜」
「あーい」
ピリピリしているBスタジオとは違い、Aスタジオは和やか雰囲気で練習が進んでいた。
美貴のギター&ボーカル、梨華のキーボード、麻琴のベース、ひとみのドラムが心地よく音を構成していく。
カバー曲の新曲として用意していた、村木加絵の曲の完成は思ったよりも早くできそうだ。
- 471 名前:REASON(1) 投稿日:2008/03/23(日) 20:25
- 「よし、まずまずかな」
ひとみもスティックを拭きながら、ボソっと言う。
麻琴の表情も明るい。
「うん、初日にしてはわるくないね」
音に関しては人一倍厳しい美貴がこういうのだから、バンドの音は非常にいい状態を示していた。
- 472 名前:REASON(1) 投稿日:2008/03/23(日) 20:25
-
「・・・」
その中で、愛の音だけがいつもと違うことを、梨華は見逃さなかった。
いつものような、まっすぐな、素直な音が愛の場所から出てきていないのだ。
(愛ちゃんどうしたんだろ?)
内心そう思いながら、「よし、次の曲!」と練習を促していく。
当の愛は、特にこれとなくいつもの感じで練習をしている。
ひとつ違うといえば、自分の書いた詞が実際に曲として今回のプログラムに入っていることだ。
(オリジナルがちょっと心配やね、どんな風になるか全くわからんわ)
- 473 名前:REASON(1) 投稿日:2008/03/23(日) 20:25
-
それぞれがそれぞれの課題・想いを持ちながら、合宿1日目の練習は終了した。
- 474 名前:ウイング 投稿日:2008/03/23(日) 20:26
- 更新しました。
- 475 名前:ウイング 投稿日:2008/03/23(日) 20:30
- >ais様
その計画の裏にはさまざまな物語が・・・。
ってなところを書ければな、って思ってます☆
でも構想だけで終わるかもしれませんけど(爆)
これからもよろしくお願いします。
>462 名無飼育さん様
みんなの思いがつまった、いい合宿になればいいなと思います。
これからも彼女たちを応援どうぞよろしくお願いします。
>463 名無飼育さん様
何が起こるかわからないのが現実かなと思います。
こちらはマイペースでやっていきますので、よろしくお願いします。
- 476 名前:Reason(1) 投稿日:2008/04/20(日) 20:19
- 夕飯を終え、それぞれがそれぞれの部屋でくつろいでいるとき。
「愛ちゃん、ちょっと・・・いい?」
愛とあさ美の部屋に現れたのは、梨華だった。
「あ、いいですよ、今行きます」
- 477 名前:Reason(1) 投稿日:2008/04/20(日) 20:20
- 梨華と愛はホテルの近くの海岸を歩いている。
夏の夜の海岸は、風が程よく吹いて気持ちいい。
一方、砂の熱が身体を間接的に温めていた。
「愛ちゃん、今何か悩んでる?」
「え・・・?」
梨華の言葉に言葉が詰まってしまう。
「今日の練習のときもそうだったけど、愛ちゃんから出てる音が最近違ってきてるんだよね・・・。
何かを言いたい、けど言えないってような表情だったり、音だったり」
「・・・そうですか?多分あーしが書いた詞が初めて曲になるからそれで緊張してただけだと思うんですけど」
愛は必死で弁明する。
しかし、梨華の口から出た言葉に、愛は隠せない反応をしてしまう。
- 478 名前:Reason(1) 投稿日:2008/04/20(日) 20:20
-
「いや、あたしは違うと思うな。何かもっと別のことで悩んでるんじゃない?」
- 479 名前:Reason(1) 投稿日:2008/04/20(日) 20:20
- 梨華の核心を突いた質問に、愛の顔が一瞬ビクっとなった。
その一瞬の表情を、梨華は見逃さなかった。
「あたしで・・・いいなら、話せることを話して」
- 480 名前:Reason(1) 投稿日:2008/04/20(日) 20:20
- 愛は梨華に美貴から告白されたこと、そして断ったこと、
また、そのときのことを境に色々と未来のことや過去のことをずっと考えていることを話した。
「なるほどね・・・」
「いしかーさん、あーしは・・・どうしたらいいんですか?」
「愛ちゃんはどうしたいの?」
「それが・・・わからないんです」
- 481 名前:Reason(1) 投稿日:2008/04/20(日) 20:21
- 愛は黙ってしまった。
波音が2人の会話の間を取るかのようになり続けている。
- 482 名前:Reason(1) 投稿日:2008/04/20(日) 20:21
- 「美貴ちゃんに告白されたのは・・・、ちょっとびっくりした?」
「はい・・・」
「美貴ちゃん見てれば、愛ちゃんにぞっこんなのわかるけどね」
梨華は笑いながら、続けた。
「そーいえば、あたしにも愛ちゃんに似たような経験があるんだ。
ちょっと違うかもしれないけど・・・」
「いしかーさんもですか?」
「うん」
- 483 名前:Reason(1) 投稿日:2008/04/20(日) 20:22
- 「あたしがまだ高校のとき、全然物事を前向きに考えることができなくって、
美貴ちゃんとかにも”梨華ちゃんってネガティブだね”ってずっと言われてたの。
ちょうどそのとき、ある人から告白されてね。
その人って高校でもすごく人気があったからさ、”あたしなんかで大丈夫かな?”ってずっと考えてた」
「で、いしかーさんはどうしたんですか・・・?」
「結局2週間くらいだったかな、ずっと悩んで。
それで付き合うことにしたんだ」
「へぇ・・・」
「付き合いはじめて感じたことなんだけど、結局悩んでた時間って何だったのかなって。
意味があるようで、実は無駄な時間を過ごしてただけじゃないなって。
そう思えば、どんなことでもネガティブに考えるのってあたしにとって意味があるのかなって思うようになったの。
それからかな、ポジティブに考えようって思ったのは」
- 484 名前:Reason(1) 投稿日:2008/04/20(日) 20:22
- 「で、今のポジティブないしかーさんがあるってわけですか」
「そう!って言ってもあたし自身はそんなに変わってないと思うよ。考え方をちょっと変えただけ。
愛ちゃんだって、すごく前向きに生きてるとあたしは思うよ。
ただ、ちょっと1人で悩みすぎかな。せっかく周りにあたしとか、みんないるんだからさ、もっと頼っていいんだよ」
「あ、ありがとうございますぅ・・・」
梨華の言葉に、何かはっとさせられた愛の目からは涙が落ちていた。
- 485 名前:Reason(1) 投稿日:2008/04/20(日) 20:22
- しばらく静寂な時間が流れる。
「さ、そろそろ時間もたったことだし戻ろっか」
「はい、あ、いしかーさん1つだけ聞いていいですか?」
「うんいいよ、何?」
「さっき言ってた人と、今でも付き合ってるんですか?」
愛の質問に梨華は微笑みながら首を横に振った。
「ううん、ちょうど大学行くときに別れたの。けんかしたわけじゃないけどね、
少しだけ距離を取ることがお互いの成長への第1歩だって言われて。あの時は泣きじゃくったっけ」
「その人とは今でも連絡とってるんですか?」
「うん、今でもいい友達だから」
- 486 名前:Reason(1) 投稿日:2008/04/20(日) 20:22
-
「でもその人って・・・、今日ここ一緒に来ませんでした・・・?」
- 487 名前:Reason(1) 投稿日:2008/04/20(日) 20:23
- 今度は梨華の身体が愛の言葉に敏感に反応してしまった。
海水がサンダルを濡らした後、梨華は
「・・・愛ちゃんって鋭いね、さすがだわ」
「へへ、そうですか?」
「うん、前から思ってたけどね。
この続きは愛ちゃんが悩み相談をしにきたときにでも話してあげるよ」
「わかりました、楽しみにしてます」
- 488 名前:Reason(1) 投稿日:2008/04/20(日) 20:23
- ふと梨華が空を見上げると、無数の星が夜空に浮かんでいた。
「愛ちゃんの地元って、星がすごいきれいだね。毎晩こんな空見てたんだ」
「はい」
「星たちも愛ちゃんの未来を見ててくれるよ」
「いしかーさんってロマンチストなんですね」
「みんなには寒いって言われるんだけどね」
- 489 名前:Reason(1) 投稿日:2008/04/20(日) 20:23
- 海から戻ってきた梨華と愛は、帰り道のコンビニでカフェオレを買ってホテルに戻った。
「今日はありがとうございました」
「いえいえ、あたしでよかったらずっと相談にのるよ」
「いしかーさんの話も聞かなきゃいけないし」
「はは、楽しみにしててね。それじゃーね」
「おやすみなさい」
そう言って梨華は自分の部屋に入っていった。
それを見届けた愛の顔には、昼間には持っていた悲哀感が少しだけ取り除かれていた。
- 490 名前:ウイング 投稿日:2008/04/20(日) 20:24
- 更新しました。
- 491 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:00
- 合宿も後半戦に入り、それぞれの仕上がりもまずまず見えてきた。
真希のスパルタ教育に音をあげそうになったれいなと絵里ではあったが、
里沙とさゆみのひたむきに練習している姿を見て、なんとか頑張っていた。
- 492 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:01
- 個人練習のほかにも、4人であわせる練習もどんどんやっていかないと時間がない。
その時はその時で、真希の声がスタジオ中に響くのであった。
「ストップ! キーボードの音がずれてる!」
「ストップ! ここはギターソロだからもっと強調して!」
「ストップ! ドラムが遅れてるよ!」
「ストップ! ボーカルがワンテンポ早い!」
「ストォーーーーープ!」
1日何百回と聞こえる真希の「STOP」の4文字。
それも時間がたつに連れて、だんだんと少なくなっていった。
- 493 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:01
- 里沙は、バンドとしての成長を確実につかんでいた。
(だいぶ後藤さんとの練習の成果も、出てきたのかな)
技術的には他のメンバーより難易度の高いドラムを打ち続ける一方で、
一応リーダーという、メンバーをまとめなければいけない立場上、里沙はあせっていた。
バンドという”チーム”をまとめる仕事は、真希に頼るというわけにはいかない。
一方で、絵里やれいな達の前でモチベーションを下げるようなことは言えないという、精神的には非常に辛い役目であった。
真希はその中で葛藤する里沙を見ながら(あたしの昔みたい)とひそかに思っていた。
「よし、少し休憩ね!」
- 494 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:01
- 「あーつかれたー!」
そう言ってスタジオを飛び出し、入り口付近の休憩室でジュースを買うれいな。
それを追ってさゆみと絵里が続く。
しかし、里沙はドラムセット前の椅子から立ち上がれないでいた。
「ん、ニイニイは行かないの?」
「はい、ちょっと疲れちゃって・・・」
「休憩なんだから休むときは休まないと、体力持たないよー。まだこれからもうちょっとあるんだし」
「ええ・・・」
「どした、元気ない?」
「いや、そんなことないですよ! 練習辛いですけど楽しいですから」
「なら、よかった。何か一人だけ余計なプレッシャー感じてるように見えたから」
そう言って、真希はスタジオを出る。
(読まれてるなぁ・・・)
里沙は、真希の後姿を見ながら、苦笑した。
- 495 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:01
- スタジオを出てさゆみ達がいる休憩室に行く。
「ガキさーん、おそいよー」
絵里の言葉に一瞬ため息をつきながらも「はいはい、わかったから」
といつものようにきりかえしてみせたのであった。
「絵里たち、だいぶ上手くなったんじゃない?」
「そやねー、後藤さんに怒られることも少なくなったと」
「さゆみはかわいく演奏できるようになったよ」
里沙の思うとおり、確かに3人の技術力は合宿の間だけでもかなり上達した。
それは里沙も例外ではない。
ただ、里沙の中で成長を感じる一方で違和感を感じていることがあった。
- 496 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:02
-
「んー、あたしは練習の成果は出てると思うし、みんな上手くなってると思うんだけど・・・
何かその・・・言葉ではいい表せないけど・・・変な感じがする」
「ん、ガキさんどういうこと?」
「多分だけど、ずっとこの何日間かひたすら”うまくなりたい!”って思ってそれぞれが練習してきたじゃん。
でも、本番はそれだけじゃダメだと思うんだ。見に来てくれるお客さんを楽しませなきゃ。
お客さんが楽しんでもらおうと思ったら、まずあたし達が楽しんで演ってなきゃ、楽しさが伝わらなくない?
少なくともあたしはそう思ったんだけど・・・」
3人はウーンと腕を組んで考えた。
「でもれいなもそう思うっちゃ。上手くなりたいけど、お客さんが楽しそうじゃなかったら嫌やけんね」
「さゆみも」
「絵里は?」
絵里はうーんと再び腕を組んで考える。
「ガキさんの言ってることは正しいと思う。でもまだそこまでの余裕がないのも確かなんだよね・・・」
絵里の指摘もあながち間違いではない。
- 497 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:02
- 休憩時間が終わっても、4人はずっと話し合っていた。
真希はその様子を影でずっと見ていた。
(ニイニイも、うん、みんなをちゃんとまとめてるね。
1人で悩んでないで、そうやってみんなと色々話し合っていけばずっと楽になると思うよ)
「ほら、練習やるよ!」
ずっとわざと出していた真希の厳しい声色は、いつの間にか優しくなっていた。
- 498 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:02
- 一方、Aスタジオ。
Bスタジオに遅れること2時間、Aスタジオも練習が再開する。
昨日梨華とずっと話し込んだ愛は、なんだか気分もすっきりしていた。
「美貴ちゃんおはよー」
「愛ちゃんおはよー、珍しいね。愛ちゃんから挨拶してくるの」
「あーしだっていつもちゃんと挨拶くらいしてんざ。美貴ちゃんには珍しいかもしれんけど」
「あたしだけかよ・・・」
いつものごとく、愛との会話は美貴のため息でひと段落する。
- 499 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:02
- 「うぃーす」
そこに眠そうな目をこすりながら、ひとみと麻琴がが入ってきた。
「あ、おはよーよっすぃー」
「よしざーさんおはよーございます」
「さ、やろっか」
ひとみの一声で、練習が始まる。
- 500 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:02
- 愛の歌声はいつになく輝いていた。
彼女の持ち味である低音のやわらかさ、伸び、どれをとってもここ最近にはない出来であった。
その変化にはメンバーの誰もが驚くとともに、不思議がっていた。
梨華だけは思い当たる節があったのだが。
(気持ちの変化でこんなにも変わるもんなんだね。あたしも少しだけ愛ちゃんの役に立てたかな。
愛ちゃんがこのバンドにホントになじんでくれるまで、もうちょいだね)
心の中で梨華はそう思うのであった。
- 501 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:03
- あさ美や絵里達とい福井に行くことを決めたのは愛だが、その話を聞いて合宿をしよう話を持ちかけたのは実は梨華だった。
ただ、他のメンバーこれは愛と梨華だけの秘密ということになっている。
梨華は「愛が発案した」ということにしておきたかった。
バンドに入ってから約3ヶ月がたつものの、バンドに完全になじめきれていないように見える愛を見て、
もっとバンドに溶け込んでいくきっかけを作ってあげなければ、と感じていた。
- 502 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:03
-
「ごめん、ちょっと練習やってて! 愛ちゃん、ちょっといいかな?」
梨華は愛を休憩室に呼び出した。
- 503 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:03
-
「愛ちゃん、後でオリジナルやるからね。愛ちゃんが詞作ってくれたやつ」
「え、ほんとですか?」
愛の顔が神妙になる。
「うん、いよいよだね。あたしもどんなになるか楽しみ」
「そうですね」
「うん?愛ちゃんうれしくないの?」
「いんや、そんなことないですよ?」
愛は慌てて首を横に振る。
「あたしは愛ちゃんの詞、すごく素敵だと思うんだ。愛ちゃんの人生観みたいなのが出てるし、すごく自然な感じだよね。
美貴ちゃんとかよっすぃーは恥ずかしいといってなかなか詞を書いてくれないし、麻琴は・・・。
梨華はうなだれる。
「あたしが書いたこともあったけど、よっすぃーや美貴ちゃんに散々言われたし・・・。アイドルじゃないんだからって」
梨華の説明に、愛は苦笑する。
「まだ、あんまりみんなとしゃべれてない?」
「いや、そんなことないですよ。ただ、あーし以外の4人がすごく仲いいからその輪に入っていいのかなーって思うときはありますけど」
(やっぱり・・・)と梨華は心の中で思う。
愛がバンドに馴染み切れていない理由が少しだけわかったような気がした。
- 504 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:04
- 「うーん・・・そう見えちゃうのかな?」
「あー、あんまり気にしないでください!」
「愛ちゃんって途中から入ってきたから昔のこととかあんまり知らないと思うけど、麻琴以外の3人って幼馴染なんだ。
で、小学校の頃に麻琴がうちの近所に引っ越してきて。だから麻琴も一応幼馴染ってことになるのかな。
特に3人は昔からずっといるからね、それがもしかしたら愛ちゃんにとっては窮屈に感じちゃうのかも。
でもそんなこと、気にしないで。みんな心配してるんだよ、愛ちゃん、愛ちゃん、って」
「ホントですか?」
「うん、麻琴は歳近い友達出来たって喜んでたし、よっすぃーは可愛い女の子大好きだし、美貴ちゃんは愛ちゃんにぞっこんだしね」
そういわれて愛は苦笑する、美貴の部分に反応して。
- 505 名前:Reason(1) 投稿日:2008/05/08(木) 21:04
- 「だから、もっと愛ちゃんは自分を出さなきゃ。まだまだ練習のときでも遠慮がちだと思うよ。
もし困ったこととかあったら、あたしでよければ聞くよ?昨日みたいな相談でも」
「あ、はい、ありがとうございます・・・」
梨華はスポーツドリンクを一口飲む。
「なら、練習しよっか。次はあの曲やるからね」
「はい、わかりました」
そう言って梨華は休憩室を出て行く。
愛は深呼吸をした後、梨華に遅れてスタジオに戻っていった。
- 506 名前:ウイング 投稿日:2008/05/08(木) 21:04
- 今回の更新は以上です。
- 507 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:09
- (愛視点)
いよいよ、合宿最終日も午後。
あーしたちは最後の練習を終えた後、いしかーさんが用意した3台のレンタカーに乗って
市内のライブハウスに行くことになった。
そのいしかーさんが「座席はくじで!」なんていうもんだから引いてみた。
あーしと一緒に乗るのはいしかーさんと、絵里、後藤さん、ガキさん。
次はよしざーさん、麻琴、ガキさん、あさ美、さゆ、れいな。
美貴ちゃんの車には荷物が全部載るみたい。何か宅急便の人やね。
- 508 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:09
- それはさておき、絵里たちはどんな練習してきたんだろ、ちょっと気になるがし。
後藤さんがかなりスパルタだったっていうウワサだけど、車の中で絵里に聞いてみるか。
あーしたちはいしかーさんの運転で向かうことになった。
正直どんな運転するんだろーって思ってたけど、
意外にも超安全運転でびっくりした。
- 509 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:10
- 「絵里、今日はどんな感じ?」
「絵里たちは完璧ですよ、ね、ガキさん?」
「絵里みたいにお気楽なことはいえないけど、かなりがんばりました」
絵里も里沙もかなりの自信を持っているみたいやね。
あーしは後藤さんのほうに目線を向ける。
「んー、亀ちゃんもニイニイもがんばったよ。本番もがんばってね」
「はい!」
後藤さんの言葉からも、かなり自信ありげなんやね。
そんなことを思ってると、
「愛ねーちゃん達はどーなんですか?」
「あーしら?あーしらも、ね。いしかーさん」
「うん?自信あるよ!」
あーしらもいくらなんでも絵里たちには負けたくないが。
- 510 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:10
- ちなみに、あーしたちが今回出させてもらうライブは「GIRLS VOCALIST LIVE」と言って、
女の子がボーカルであれば、ソロでもバンドでも出ていいっていう気さくなライブなんやよ。
ライブの後にお客さんによる審査があって、優勝者にはライブハウスからささやかなプレゼントもあるみたい。
このライブハウスでは月1回くらいのペースでやってるんだって。
いしかーさんと合宿のときに相談してた時に、たまたまインターネットで見つけたんやが。
といってもあーしは見つけただけで、いしかーさんが全部やってくれたんやけどね。
あーしも、こういうのを自分でやれるようにならないかんね。
- 511 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:10
- そうこうしているうちに、あーし達はライブハウスに着いたがし。
駅近くってこともあって、昔よく遊びに来ていたっけ。
あ、あそこの裏にあるカレー屋さん、めっちゃおいしーんやよ。
ライブ終わったらみんなで行かんかなぁ?
- 512 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:10
- そーこーしてたら、受付からいしかーさんとガキさんが戻ってきたやよ。
ガキさんがちょっと顔をしかめていたのは何でやろ?
「えっと、演奏順番を発表します、何とIがトップバッターでやることが大決定しました!」
「えーーーーーーーーー!!!!!!」
いしかーさんの声に、絵里たちはかなりびっくりしてた。
ガキさんは3人に申し訳なさそうな声で「ゴメン」と謝ってたみたい。
「で、PEACEは3番目」
あーしはうなずく。
「でリハの順番は逆リハね」
「逆リハって何ですか?」
「逆リハってのはね、本番の順番と逆順番でリハーサルをするの。だから亀ちゃんたちは一番最後ってこと」
さすが後藤さん、絵里たちにちゃんとわかりやすく説明してあげてる。
さーて、順番も決まったことやし、いよいよライブ開始やよ!
- 513 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:11
- ---------------------------------------------------------------------------------------------
リハーサルも終え、いよいよ本番。
絵里たちは舞台袖で客の様子を見ている。
(めっちゃ緊張してきた・・・)
絵里は心の鼓動が速く、そして強くなるのを感じていた。
「なら、お願いします」
「はい」
4人はうなずき、ステージに向かった。
- 514 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:11
- 「こんばんは、東京からやってきました、Iといいます。
今日はカバー、オリジナル演らせてもらいます、よろしくお願いします」
れいなの言葉に、会場からまばらな拍手。
それでは1曲目、聞いてください。"from-radio"
絵里たちが1曲目に選んだ曲は、なつみが大好きだというバンドの曲だった。
そのバンドのファンなら、誰でも知っているという隠れた名曲と言われている。
真希がこの曲を持ってきたとき、Iのメンバーで知っているメンバーはいなかったが、
梨華やひとみは「いい曲だよー!」と言っていた。
- 515 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:11
- さゆみのギターが先導しながら、8ビートのオーソドックスなリズムが刻まれていく。
今回、この曲でコーラスもやった。
れいなのボーカルは原曲と比べるとかなりロッカー向きであるため、
聴衆には少しヤンキーチックな曲にも聞こえたが。
トップバッターの1曲目から手拍子がなるほど、客は4人の世界に引き込まれつつあった。
(よし、最初は完璧っちゃ)
れいなの手ごたえは非常に大きい。
練習ではいつも余裕がなかったさゆみと里沙もだいぶ余裕を持ちながら音を奏でることに楽しみを感じていた。
- 516 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:11
- 曲はいったん閉じたものの、里沙のドラムがリズムを刻んでいく。
絵里のシンセとともに、2曲目が始まる。
「次もカバーです、聞いてください! ”理解”」
れいなのボーカルとともに、曲が始まる。
イントロサビを終えたところで、れいなは踊りだす。
その楽しさがだんだん観客にも伝わっていく。
聴衆もかなりの盛り上がりを見せていた。
- 517 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:12
- 「えー、2曲続けてカバーを聴いていただきました。
1曲目はFROM-RADIOという曲で、あたし達の学校の先生がすごく好きなバンドの曲です。
今回、やってみようということで、取り入れてみましたがいかがでしたでしょうか?」
れいなの問いかけに、拍手喝采となる。
「ありがとうございます。で2曲目はNARUMIさんのカバーです。
これはアニメでも使われていて知っている方も多いと思うけん。うちの絵里がNARUMIさんの大ファンで
今回何が何でもNARUMIさんの曲演らんといかんというけん、最初は正直・・・て思ってたんですけど、
実際にやってみるとダンスもできて、めっちゃ楽しい曲になったっちゃ。
そのときれいな思いました、物事を先入観でみちゃいけないんだって。
何でもやってみることが大切なんだって、ね?」
- 518 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:12
- れいなが後ろを振り向く。
3人はうなずいた。
「さ、こんなしんみりした話ばかりも面白くないとおもうんで、残り2曲激しくやりたいけん。
準備はいいっちゃか?」
会場からは拍手がなる。
「よし、3・4曲目はオリジナルをやります。両方とも女の子の恋の応援ソングっちゃ。
3曲目と4曲目でまったく感じが違うけん、ホントにそうなの?って思うかもしれないけど
そこはあんまり気にしない、ノリでわかってください」
会場からは笑いがおきる。
「それじゃ、2曲。BUBBLY LOVE,GIRL TO THE VICTORY、2曲続けていきます。今日はどうもありがとうございました!」
- 519 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:12
- ---------------------------------------------
(再び愛視点)
絵里たち、がんばったね。
これはあーしらもうかうかしてられんわ。
さ、すぐにあーしたちの番やが。
- 520 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:12
- 「亀ちゃんたち、すごかったね」
「あ、美貴ちゃん。うん・・・」
「美貴たちも負けないよ」
「当然やが。あーしたちはあーしたちの楽しさを見つけてやるんやざ」
「愛ちゃん、いよいよだね」
「麻琴ぉー」
「ん、どうしたの?」
「あーし、このライブに人生かけてるやざ」
「はぁ、どうしたのいきなり」
「ま、見てるやざ」
「あたしもバンドの一員なんだけど・・・」
「愛ちゃん、今日はおもいっきりはじけてきて」
「わかりました」
- 521 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:13
- 「愛ちゃん、いよいよだね」
「いしかーさん、ここまでホントにありがとうございました」
「いやいや、ここまであたしも愛ちゃんに助けられたよ。だから本番では自分の思い通りにやっていいからね。
よっすぃーにもあのことは言っておいたから」
「ありがとうございます」
今までやることはやったはず。
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- 522 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:13
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演奏終了後、あーしはライブハウスを走って一人で道路に出た。
外に出ると、夏ながらちょっとだけ涼しい空気が気持ちいい。
ちなみに今回やった曲は、村木加絵の「木登り」、NARUMIの「理由」、オリジナルの「Dear My Boy」と「Graceful Wing」。
あーしが作詞した「Graceful Wing」ってのは、元々ある曲を詞だけ変えて歌うっていうスタンスになった。
元々はTELの「優雅な世界」って言う曲なんやけどね。
NARUMIの曲のイントロがなった瞬間、れいなと絵里は口をあけて驚いてた。
ほうやよね、自分達と同じようなカバーやったんやから。
「木登り」と「Dear My Boy」は美貴ちゃんのギターとよしざーさんのドラムがめっちゃかっこよくって、
お客さんにもめっちゃ盛り上がってもらったやよ。
逆に「理由」と「Graceful Wing」はメッセージ性が強い曲。
だから、曲のあーしの歌の大切度は高いし、今日はちゃんと曲の感情、伝わったんやろか?ってちょっと心配。
あーしが書いた”詞”はこのお話のどこかでね。
- 523 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:13
- あーしは、今持っている歌唱力・感情・人間性全部を出し切った。
その後、何もかもがなくなっちゃうんじゃないかって思ってたけど、そんなことなかった。
むしろ、演りきった充実感で使い切ったはずのエネルギーが身体の中から沸いてくる。
こんなの初めてやよ。
後、ライブ中に思ったことがあって、
あーし自身色々考えすぎてなかなか行動に移すことができなかったんやよ。
考えるだけなら楽しいけど、いざ何かしようと思うと怖くてできなかったんやと思う。
美貴ちゃんから「好き」って言われたときもそうだった。
急にどうしていいかわからなくなるんだ。
あーしができることを1つずつやっていくこと。
それはどんなちっぽけなことでもいいんだ。
それをやっていくことが、何よりも大切なことなんだ。
やらなくて後悔するより、やって反省したほうがいいんだ。
迷ったときは心の中にゴーサインを出してあげればいいんだ。
それを気づかせてくれたみんなに、ありがとうを言わなきゃね。
それと音楽にも。
- 524 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:13
- そこにあーしの姿を見てこっちにやってきたのは、いしかーさんやった。
「愛ちゃん、探したんだよ! 一体どうしたのさ、終わった後いきなり飛びだして・・・」
「ごめんなさい、あーしどうしていいかわからんくなって・・・」
いしかーさんは首を横に振った後、こういってくれた。
「ううん、今日の愛ちゃん今までで一番良かったよ。何か吹っ切れた感じで。
お客さん見てても泣いてる人もいたし。あたしはあれだけのことがやれたから満足満足」
あたしもうなずく。
「ね。もうすぐフィナーレだから戻ろっか」
「はい」
いしかーさんって、いつも自分が自分がって感じの人やと思ってたんやけど、
1人1人に対する愛情っていうか、気遣いができてる。
それが時々度がいきすぎると「キモい」とかよく言われてるんやけどね。
それでも、すごいなって思う。
- 525 名前:REASON(2) 投稿日:2008/06/08(日) 17:15
-
----------------------------------------------------
こうして愛たちの福井での合宿は終わった。
PEACEは優勝・Iは3位という輝かしい成績を胸に、東京へ「のぞみ」は走っていく・・・。
- 526 名前:ウイング 投稿日:2008/06/08(日) 17:15
- 更新しました。
次回より新タイトルです。
- 527 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/08(月) 00:07
- そろそろかな?
- 528 名前:誰も知らない 投稿日:2008/10/05(日) 19:18
- 9月はじめのある土曜日。
あさ美は、大学の1室で書類整理をしていた。
「ふぅ・・・」
ふと、机を見ると愛の顔が目に飛び込んできた。
- 529 名前:誰も知らない 投稿日:2008/10/05(日) 19:19
- (愛たちも、書類選考通ったんだ・・・)
何枚か紙をめくっていくと、絵里たちの書類が見える。
(亀ちゃんたちも・・・、みんなすごいね)
「みんな、書類通ってきたね」
「後藤さん・・・、えぇ、みんなホントにすごいんです。
愛も、亀ちゃんも・・・」
「そうやってみんな成長してるってことだよ。
何かに一生懸命になってる時って、目が輝いてるんだよね・・・」
真希は何かを思い出すように、天井を仰いだ。
「後藤・・・さん?」
- 530 名前:誰も知らない 投稿日:2008/10/05(日) 19:19
-
「あぁ、ちょっと昔のことを思い出しただけ。
さ、もうちょっとがんばろ! それで後で一緒にご飯食べに行こ!」
「は、はい!」
そう言って、2人は再び机に向かった。
作業が終わるまで、あさ美の心拍数が元に戻ることはなかった。
- 531 名前:誰も知らない 投稿日:2008/10/05(日) 19:19
- ---------------------------
「うーん・・・、よく寝た・・・」
絵里が目覚めると、すでに時計の針は10時をさしている。
(今日は練習は午後からだったよね・・・)
そう思って、顔を洗いに洗面所へ行く。
(ん?愛ねーちゃんがいない・・・)
顔を洗い、タオルで拭いているときに絵里は気づいた。
「愛ねーちゃん! 愛ねーちゃん・・・?」
愛の名前を呼んでみるものの、一向に返事がない。
リビングに戻ると、絵里は1枚の置き手紙を見つけた。
- 532 名前:誰も知らない 投稿日:2008/10/05(日) 19:19
- ....................................................
絵里へ
1週間ほど留守にします
朝ごはんは冷蔵庫に作ってあるから、食べてね。
落ち着いたら電話するから、心配しないで。
愛
......................................................
- 533 名前:誰も知らない 投稿日:2008/10/05(日) 19:20
- 絵里はいてもたってもいられなくなり、すぐに愛に電話をかける。
「おかけになった電話番号は、電波の届かない場所にあるか・・・」
(大変だ・・・愛ねーちゃんが・・・家出・・・?)
そう確信した絵里は、慌ててれいなやさゆみにかたっぱしから電話をかけるのであった。
- 534 名前:誰も知らない 投稿日:2008/10/05(日) 19:20
- その頃。
愛は1人で東京から遠く離れた街の駅に降り立った。
(昔と全然かわったなぁ、この駅)
駅の正面にたち、天井を見上げてそう思う。
少なくともこんな屋根はなかった。
小さい頃、時々家族で遊びに来ていたこの街は、愛にとっては少し懐かしくもあり、
決戦の舞台でもあり、ターニングポイントなる場所になっていた。
そう、愛はソロとして、故郷のブロックからこのオーディションに応募していたのだ。
- 535 名前:誰も知らない 投稿日:2008/10/05(日) 19:20
- そのトリガーになったのは、合宿のときに真希がふと放った言葉で。
「愛ちゃんは、ホントに色んなこと考えてるよね」
1つ何かを考え出すと、次々と色んな思考回路が回っていく。
その思慮深い性格が逆に愛自身を縛り、何も行動できなくなっているという現実に、愛自身も気づいていた。
そんな愛に対する真希の言葉は、愛の心を逆撫でした。
結果、愛自身にとっても何か行動できたというプラスの方向に進んでいるのだが。
- 536 名前:誰も知らない 投稿日:2008/10/05(日) 19:25
- 市内をぐるりと回る。
あの頃にはなかった、新しい美術館。
あの頃にはなかった、駅前のショッピングモール。
あの頃からは変わった、市場の風景。
あの頃から変わらない、有名な庭園。
変わりゆくもの、そうでないものがすべて瞳に映る。
”伝統”守り続けながらも新しいものを創り出していく、この街の強いエネルギーを愛は肌で感じた。
それが強いフォローとなって愛の背中を後押しする。
(よし、行くざ)
そう心に決め愛は決戦の地となる選考会場へ歩き出した。
その場所も、以前に愛が訪れたときにはなかった場所だった。
- 537 名前:ウイング 投稿日:2008/10/05(日) 19:25
- 更新しました。
- 538 名前:ウイング 投稿日:2008/10/05(日) 19:29
- かなり長い間間隔をあけてしまい、申し訳ありませんでした。
少しでも、と思い今回UPさせていただきました。
もうご覧になられている方はいらっしゃらなくなってるかもしれませんが、
何とか、完結させたいと思っていますので、よろしくお願いします。
>527 名無飼育さん様
コメントありがとうございます。ほんの少しですが更新しました。
今後ともよろしくお願いします。
- 539 名前:誰も知らない 投稿日:2008/12/21(日) 09:51
- 愛がいなくなって一週間が過ぎた。
絵里は、ずっと気が気でなかった。
この一週間、絵里は愛のことを考えない日はなかった。
- 540 名前:誰も知らない 投稿日:2008/12/21(日) 09:52
- 「絵里ーぃ、帰ろ?」
机に肘を突きながらボーっとしている絵里に、かばんを持ったさゆみが声をかける。
「う、うん・・・」
絵里の思考回路は完全に止まりかけていた。
「絵里は気にしすぎなの」
「でも・・・。1週間も連絡ないんだよ?こんなんで心配しないほうがどうかしてるよ?」
「それは・・・、さゆもれいなも一緒だよ。でも、お姉さんに依存しすぎて何にもできなくなってる絵里のほうがもっと心配だよ!!」
さゆみの出した大声に、教室一帯が静まり返った。
「置き手紙には”1週間ほど”って書いてあったんでしょ?まだ行方不明と決まったわけじゃないじゃない?
今日帰ってくるかもしれないんだよ?
もちろん、さゆみ達も絵里のお姉ちゃんのこと心配だよ?でも、この1週間の絵里を見てると、絵里のほうが心配だよ。
言い方悪いかもしれないけど、絵里自身の心配したほうがいいんじゃないの!?」
- 541 名前:誰も知らない 投稿日:2008/12/21(日) 09:52
- 絵里は唖然としていた。
普段、あんまり人に対して大声で怒ることがないさゆみに怒鳴られたからだ。
さゆみ自身も、我を忘れたような感覚になっていた。
そのため、大声を出していた自分に気づいたのは、すべてを言い放った数秒後だった。
「ごめん・・・」
絵里はさゆみに小声でそう一言だけ話して、かばんを持って教室を後にした。
- 542 名前:誰も知らない 投稿日:2008/12/21(日) 09:52
- 「今のさゆの大声、何だったっちゃ!?」
廊下で掃除をしていたれいなが、走って戻ってくる。
扉のところで、下を向いてとぼとぼと歩いていく絵里とすれちがった。
「さゆ、どうしたと? 外までさゆの声が聞こえてきたけん・・・」
「れいな、さゆみ、絵里にひどいこといったかも・・・」
- 543 名前:誰も知らない 投稿日:2008/12/21(日) 09:53
-
絵里は混乱していた。
さゆみの言うことは、まさに正論だった。
このままでは絵里自身のほうが壊れてしまうような気がしていることは、わかっていた。
それほど愛に依存していた自分の弱さをさゆみに指摘されるのことに苛立っていた。
(さゆやれいなに悪いことしちゃったなぁ・・・、でも悪いのは勝手にどこでもいく愛ねーちゃんなんだから)
すでにこんなことを考えてしまう時点で、愛に依存しているのは間違いのないことなのではあるが。
絵里がそう思い直すには、時間はかからなかった。
- 544 名前:誰も知らない 投稿日:2008/12/21(日) 09:53
- とぼとぼと歩いて、家につく。
「ただいまぁー」
そう言っても、家の主は誰も返事をしない。
かばんをじゅうたんの上において、ソファーに座る。
絵里は疲れてしまい、眠りについてしまった。
- 545 名前:誰も知らない 投稿日:2008/12/21(日) 09:53
- 同時刻、品川。
そこにはギターを抱えた愛の姿があった。
横には真希の姿とともに。
「後藤さん、短い間でしたけどありがとうございました」
「んーん、こちらこそ。あたしも高橋の意外な一面見れて良かったよ」
真希の無邪気な言葉に、顔を赤らめる愛。
「なら、次もがんばってね。本番に出れるといいね」
「はい!」
「じゃあ、あたしはこっちだから」
「おつかれさまです!」
そう言って、真希は東京方面の電車に乗り込んだ。
- 546 名前:誰も知らない 投稿日:2008/12/21(日) 09:53
- 愛が家に戻ると、ソファーで横になって寝ている絵里がいた。
「あ、愛ねーちゃん・・・」
寝言を発する絵里に、愛は微笑む。
「絵里、ごめんね。心配かけて。
あーしもこの1週間でやりたいことが見つかったような気がしたんだ。
今はそれを一生懸命やりたいんだ。急にいなくなったごめんね」
そう言って、部屋から持ってきた毛布をそっと絵里にかけてあげた。
- 547 名前:ウイング 投稿日:2008/12/21(日) 09:54
- またまた感覚があいてしまいましたが、更新しました。
- 548 名前:ウイング 投稿日:2008/12/21(日) 09:55
- 訂正です。
546 × 急にいなくなった
○ 急にいなくなって
- 549 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/28(土) 06:39
- 続きはあるんですよね?
- 550 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/02(木) 20:20
- これからどうなるのか、いろんなメンバーがそれぞれに気になります
更新お待ちしてます
- 551 名前:RE-play 投稿日:2010/05/30(日) 21:51
- 真夏の日差しも陰りを見せ、小学生が登下校する姿が見えるような季節になった。
いつの間にか、9月1日。
- 552 名前:RE-play 投稿日:2010/05/30(日) 21:52
- 「よいしょっと」
真里が2階のスタジオでベースの弦をはりかえている。
スタジオに来る人の中は、必ずしも全員が楽器を持参してくるわけではないので
いつも貸し出し用にいくつか楽器を用意している。
それのメンテナンスを行うのが、真里の日課だ。
- 553 名前:RE-play 投稿日:2010/05/30(日) 21:52
- 弦をはりかえ、アンプに繋いでならす。
いつもと変わらない、きれいな音色がスタジオ内に静かに響き渡る。
(よし)
真里は頷き、ベースを台に立てかけて階段を下りた。
- 554 名前:RE-play 投稿日:2010/05/30(日) 21:52
- 下にいくと、真里の眼に1人の客が眼に映る。
「いらっしゃいませ・・・、ってなんだごっちんか」
「なんだって、何さ。折角来たのに」
「まーまー。でも1人で来るの珍しいじゃん。どうしたの?」
「ん、ちょっとギターを・・・」
そう言って、真希は店の中ほどにあるギターを見つめ始める。
真里が真希のほうに近づく前に、真希はすでに1本のエレキギターを手に持っていた。
- 555 名前:RE-play 投稿日:2010/05/30(日) 21:52
- 真希が持っていたのは、名だたる日本のギタリストも使っているメーカーのモノだ。
「これ、鳴らしてみてもいい?」
「おう、2F今誰もいないからそっちでやってくれ」
「ん、わかった」
- 556 名前:RE-play 投稿日:2010/05/30(日) 21:52
- 数分後、2階から漏れてくる音に真里は仕事の手を止めて静かに聞き入る。
曲自体は真里もよく知っている、90年代半ばの曲ではあったが
真希から出ている音は、真里の記憶を疑うくらい激しいものであった。
(ちょっとごっちん、この曲ってこんなにハードな曲だったたっけ?)
一方の真希は、ただただ無心に奏で続ける。
曲調など知ったことなく、自身の思うがままに。
- 557 名前:RE-play 投稿日:2010/05/30(日) 21:53
-
1曲弾き終わった後、真希が下りてきた。
「ごっちん、どうしたの?」
真里が心配そうに見つめる。
「ん?私何かした?」
「いや、久しぶりに楽器触りに来たと思ったら、何か音は無茶な音出すし・・・」
「・・・さすがやぐっちゃんだね」
「どんだけごっちんのこと見てきてると思ってんだよ。また音楽やりたくなったのか」
真希はこくっと頷いた。
- 558 名前:RE-play 投稿日:2010/05/30(日) 21:53
- 「ごっちんがそういうならあたしも協力するけどさ。前みたいなのはやめてよ」
「うん、あの時はホントにごめんね。やぐっちゃんにはいっぱい迷惑かけて・・・」
「ま、あれもごっちんが悪いわけじゃないから。またこれから色々とあたってみるよ」
「それなんだけど、あたしに考えがあって・・・」
「ん?」
そう言って、真希は店の奥の椅子に座る。
手で真里を招くので、真里は呆れて真希のほうに吸い込まれていった。
- 559 名前:ウイング 投稿日:2010/05/30(日) 21:56
- 1年半もご無沙汰してしまいました・・・。
がんばって、完結するようにがんばります。
>549 名無飼育さん様
続きは現在鋭意作成中です。
更新遅いかもですが、完結するようにがんばってます。
ときどき覗いてくれると、うれしいです。
>550 名無飼育さん様
お待たせしすぎました。
ちょっとずつ、また更新がんばりますのでよろしくお願いします。
- 560 名前:RE-play 投稿日:2010/06/13(日) 20:41
- 一方、大学の練習スタジオでは。
「はーい、10分休憩」
ひとみのいつもの声がする。
ついに、予選1週間前。
PEACEとIが合同で練習をしていた。
「しかし、予選会場が同じ場所じゃないとはねぇ」
梨華が絵里に話しかける。
「ん・・・、そうですねぇ」
絵里はスポーツドリンクをちょっとだけ飲み、返事した。
- 561 名前:RE-play 投稿日:2010/06/13(日) 20:41
- 関東地区では2会場で予選が行われる。
両バンドとも、東京会場での予選を第1希望としていたが
PEACEは横浜で予選を戦うことになっていた。
これも書類通過者の希望が東京希望が多かったからか。
合宿以降、PEACE,Iとも毎日3時間以上の練習をしてきた。
それぞれが、それぞれの課題をもって。
それぞれが、それぞれの気持ちをもって。
- 562 名前:RE-play 投稿日:2010/06/13(日) 20:42
- その気持ちをを確かめるための、今日は最後の合同練習の日。
最後に、お互いの練習曲を3曲ずつやって終わることになっている。
絵里は久しぶりに愛の歌を聴けるのを楽しみにしていた。
「じゃー、最後に3曲ずつね。絵里ちゃんたちからお願い」
そうひとみに言われて、絵里たちはちょっとだけ段差があるステージに促される。
4人がコソコソっと、1分ほどしゃべったあとにそれぞれのポジションについた。
- 563 名前:RE-play 投稿日:2010/06/13(日) 20:42
- いつもは里沙のスティックから始まるものが、今日は始まらない。
替わりに軽快に鳴り始めるのはさゆみのギター。
10年以上も前の、ジャムのヒット曲だった。
風のようにさわやかに、時に激しく音が流れてゆく。
「れいなの声、原曲とは全然違うけど意外とあってるね」
そう小声で話すのは、美貴と愛だ。
- 564 名前:RE-play 投稿日:2010/06/13(日) 20:42
- 2曲、無難に演奏をこなした。
本番さながら、MCを入れる。
さゆみがしゃべっているその間に、Vocalがなんと入れ替わる。
ステージの一番前に出てきたのは、なんと絵里だった。
- 565 名前:RE-play 投稿日:2010/06/13(日) 20:42
-
「最後に聞いてください、愛する心」
シーンとしたステージに、ピアノ音が鳴り始める。
イントロが終わり、歌い始めの直前に
絵里は目を閉じた。
かすれがかった絵里の歌声が、ピアノ音に溶け込んでゆく。
あなたと、ずっと生きていきたい。
あなたと、ひとつになりたい。
歌詞に込められた感情が、絵里を通じてスタジオをやわらかく包んだ。
- 566 名前:RE-play 投稿日:2010/06/13(日) 20:43
- ---------------------------------------------------------------
2週間前。
絵里と里沙は近くのプールに遊びに来ていた。
夏休みということもあって、人がかなり多い。
浮輪でプカプカ浮きながら、絵里と里沙は話していた。
「ねーガキさん」
「ん?」
「私歌ってみたい」
「は? あんた今さら何を言うの?」
「わかってるけど・・・。一度愛ねーちゃんのために歌いたい」
「やっぱり。そーだと思った。」
- 567 名前:RE-play 投稿日:2010/06/13(日) 20:43
-
「で、何歌うの?」
「愛してます!って歌。まだ何歌うか決まってないけど」
「じゃあ・・・バラードにしな。あたしがピアノ弾いてあげるから」
「やったー!大好きガキさん」
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- 568 名前:RE-play 投稿日:2010/06/13(日) 20:44
- この曲ではほとんど出番のないれいなやさゆみも
目をそらすことなく、絵里を見ている。
それはオーディエンスとなっている梨華・ひとみ・美貴・麻琴も同じだった。
対面している愛も、そっと目を閉じる。
絵里の歌声が脳に響く、その後にすっと心臓をやわらかく包み込む。
2人が目を閉じているのを、演奏しながら里沙は気づいていた。
絵里が愛のことを好きなのは知っていた。
絵里の歌を聞いて、愛は今どう思っているのだろうか?
里沙はふと絵里と話した出来事を思い出した。
- 569 名前:RE-play 投稿日:2010/06/13(日) 20:44
- 曲がクライマックスに近づくたび、絵里の声の感情が高ぶっていく。
それにつられるかのように、里沙の音もクレッシェンドしていく。
「loving,loving,you and your soul...」
sus4→Majorのコードを奏で、曲が終了した。
歌い終わると同時に、なぜか絵里は泣き出してスタジオの外に出て行ってしまった。
- 570 名前:RE-play 投稿日:2010/06/13(日) 20:44
- 麻琴とひとみは愛のほうを向いている。
れいなとさゆみはドアのほうを見て、唖然としている。
梨華は何かを悟っている。
美貴は下をずっと向いている。
里沙は小さな笑みを浮かべた。
愛は・・・
何が起こっているか分からない状況で、しばらく天を仰いでいた。
うっすら出ている涙に気づくのは、ステージから下りてきて
愛の前に立った、里沙を見ようとして
うまく見えないことに気付いた、その瞬間だった。
「ありがとう」
愛は誰にも聞こえないくらいの小さな声で、里沙にささやいた。
里沙は目で愛の言葉に答え、絵里の後を追っかけていった。
- 571 名前:ウイング 投稿日:2010/06/13(日) 20:44
- 更新しました。
- 572 名前:PRAYER 投稿日:2011/01/16(日) 21:58
- AM 6:00
「うーん・・・」
愛はふと、目が覚めた。
(ついにここまで来たが)
カーテンをちょっとだけ開けると、そこには無機質なグレー色が次々と目に入ってくる。
しばらくすると、体が横に揺れた。
愛たちを乗せたバスは、「京都東」と書かれた看板の左側を進んでいった。
「ん、もう少しやね」
心臓音が少しだけ大きくなったとともに、愛は数日前の出来事を思い出していた。
- 573 名前:PRAYER 投稿日:2011/01/16(日) 21:59
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Peace,IともにFinaListへの切符を手にしたその翌日、愛は真里の店に足を運んだ。
カランコロン
「いらっしゃいませ〜。
おう、愛ちゃんじゃねーか。亀ちゃんから聞いたよ、最終まで残ったんだってな」
「あ、はい」
「あとちょっとだ、がんばれよ!」
「ありがとうございます。
あの〜やぐちさん。ちょっと相談があるんやけどぉ」
急に、訛った声に真里はに少しだけ微笑む。
「うん、何?」
- 574 名前:PRAYER 投稿日:2011/01/16(日) 21:59
- 「あーし、自分で詞を書いてみたんですよ」
「ほえ?」
- 575 名前:PRAYER 投稿日:2011/01/16(日) 22:00
- 本番は2曲構成でオーディションが行われる。
1曲はカバーだが、1曲はオリジナルじゃないといけないのだ。
曲のほうはひとみが作ってくれるというになっていたが、
歌詞はメンバーで書いた歌詞を持ち寄り、本番前に決めようということになっていた。
- 576 名前:PRAYER 投稿日:2011/01/16(日) 22:00
-
「そういや、亀ちゃんたちも言ってたなぁ。オリジナル曲がどうのこうのって」
「予選通過者の連絡のときにいきなり言われたんですもん」
「それもちょっとひどいよなぁ」
「んで、ちょっとやぐちさんに見てもらおうかなって」
「ん?どれどれ」
- 577 名前:PRAYER 投稿日:2011/01/16(日) 22:01
- 愛の書いた歌詞を読んで、真里はちょっとの間、考え込んでしまった。
自分はどれだけ自分を信じて生きているか?
その瞬間瞬間を大切に生きているか?
見た目は元気を出して!というような歌詞なのだが
曲のつけ方によっては、大化けするかもしれないと感じていた。
- 578 名前:PRAYER 投稿日:2011/01/16(日) 22:01
-
「どうですか??」
「うん、いいと思う。曲がどんな感じなのかはわかんないけど
ミディアムバラード調にするとすごくいいんじゃないかな」
「そうですか?」
「高橋、その点は自信もちな。少なくとも初めて書いたものとは思えねーし、
お前は言葉を歌で人に伝えるのがうまい。だから自分で素直になって書いたものほど
それがどんなに変な言葉でも、ちゃんと伝わるから」
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- 579 名前:PRAYER 投稿日:2011/01/16(日) 22:02
- 愛たちは前日に京都に入り、練習しようと決めていた。
だが、Peaceは愛以外のメンバーは日中はバイトで到着が夜になってしまい、絵里たちも学校があるので京都に着くのが夜になってしまう。
愛はせっかく京都に来たのだからと思い、裕子のところに行くことに決めていた。
高速バスは京都駅に到着する。
「ご乗車おつかれさまでした、京都駅八条口に到着です」
アナウンスとともに、愛はあくびと背伸びをしてからバスを降りた。
- 580 名前:PRAYER 投稿日:2011/01/16(日) 22:02
-
駅ナカのファーストフード店でハンバーガーと飲み物を買い、裕子の家に向かう。
通勤時間よりもちょっとだけ早い時間だったこともあり
電車もそれほど混雑していなかった。
「おはよー。朝の早よからよー来たわ」
最寄り駅に着くと、裕子が出迎えてくれた。
- 581 名前:ウイング 投稿日:2011/01/16(日) 22:03
- 感覚がまたあいてしまいましたが、更新しました。
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