この掌に掴むもの
1 名前:白猫 投稿日:2007/01/31(水) 23:54
はじめまして。

6期のお馴染みトリオ中心で、野球モノです。
シャイなんでsageでやっていこうかと。
亀更新になりそうですが、何卒よろしくお願いします。
2 名前:白猫 投稿日:2007/01/31(水) 23:55
 
3 名前:白猫 投稿日:2007/01/31(水) 23:56
 
4 名前:白猫 投稿日:2007/01/31(水) 23:57
まただ。これで何度目だろうか。
一日に一回は触ってしまう。

「絵里?そろそろ学校行かないと。入学式から遅刻はやめてよ〜」
「わかってる〜。すぐ行く」

未練なんてない。そう決めた。
絵里は小さく溜息を吐くとそれを押し入れにいれ、静かに部屋を出た。
5 名前:白猫 投稿日:2007/01/31(水) 23:57
 
6 名前:白猫 投稿日:2007/01/31(水) 23:59
亀井絵里はこの春、ハロー高校に入学する。
ハロー高校は都内にある公立高校。
特にレベルが高くも低くもない。平凡な高校である。

駅を降りて高校までの道のりを歩く。
入学初日ということもあってか、登校している生徒たちは浮かれているように見える。

「絵里〜、おはよー」
のんびりした声をかけられ、絵里が後ろを振り向くと中学からの友人、道重さゆみがとことこと走ってきた。

「おはよー、さゆ。入学式ですねぇ」
「ですねぇ。高校生のさゆも可愛い?」
「可愛い可愛い。絵里ほどじゃないけどねー」
「絶対さゆのほうが可愛いの」

2人の独特の間で会話をかわしながら残り少ない高校までの道のりを歩く。
7 名前:白猫 投稿日:2007/02/01(木) 00:00
「さゆ?何もってるの?」
絵里は、さゆみがポケットの中で左手に何か握っていることに気づいた。
「ああ、これ」
そういってさゆみが手を出すと、その手には野球の硬球が握られていた。
その感触を確かめるように、何度もボールをこねながら、さゆが続ける。

「高校からは硬球だし、早めに慣れておこうと思ったの」
「ああ…そっか…」
絵里はきまりが悪そうな顔をして答える。
8 名前:白猫 投稿日:2007/02/01(木) 00:02
そんな絵里をさゆみは大きな目でじっと見つめる。

「絵里…しつこいかもしれないけど、ほんとに野球やらないの?」
「!? う、うん。言ったじゃん。もともと野球は中学でやめるつもりだったし。絵里、走るの得意だから高校では陸上やろうかと思ってるんだよね」

明るい口調でいう絵里をさゆみは真剣な顔で見つめる。
「でも――」
「あ、人だかりできてるよ。クラス貼り出されてるんじゃない?行こ!」

絵里はそれだけまくしたてると人だかりの中へ混ざっていった。

「絵里…さゆは一緒にやりたいの…」
残されたさゆみはそう呟いた。
9 名前:白猫 投稿日:2007/02/01(木) 00:11
本日は以上です。
少なすぎですかね(汗
徐々に増やしていきますので。

目標は週一更新っていう低いハードルで頑張ろうかと。
暖かく見守っていただければこれ幸いに思います。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/01(木) 02:28
おぉ!6期モノ楽しみにしてます♪
11 名前:白猫 投稿日:2007/02/07(水) 22:58

12 名前:白猫 投稿日:2007/02/07(水) 22:58
学生にとって入学式というのは単なる退屈なものでしかない。

それは、大人が満足するためだけにこなされる儀式であり、生徒にとってはなんの意味ももたないものである。
それでも今春入学した絵里たちにとっては、高校生になったことを自覚させてくれるものだったことは確かだった。

長い入学式がようやく終わり、教室へ移動する。
担任は保田圭という女の先生だった。
13 名前:白猫 投稿日:2007/02/07(水) 22:59
「これから1年よろしくね。せっかく高校生活、めいっぱい楽しんでちょうだい。もちろん勉強するのは当たり前よ!きりきり行くわよ!」

連絡事項、高校生活の心得などが保田の口からテンポよく話される。

「さぁ、みんなの自己紹介してもらうわ!まずはそこのアナタね」

一番に指されたのは同じクラスになったさゆみであった。
さゆみは一瞬目を見開いたが、すぐに立ち上がる。
14 名前:白猫 投稿日:2007/02/07(水) 23:00
「あのー、なんでさゆからなんですか?こういうのって普通出席番号順とかなの」
「なんとなく目についたからよ!」

堂々とそう答える保田にクラスが笑いに包まれる。

厳しそうだけど、結構面白い先生かも…。
絵里もそう思った。

「それはさゆが目につくほど可愛いってことなの。そーいうことならさゆから言うの」
「誰もそんなこと言ってないわよ!」

漫才のようなやりとりにますますクラスが和む。
あの子面白いねーという声が飛び交う。

さゆの場合は冗談じゃなくて天然なんだけどなぁ。
このことを知っている絵里は一層おかしくてたまらない。
15 名前:白猫 投稿日:2007/02/07(水) 23:01
「さゆは道重さゆみ。西中出身なの。可愛いものが好きなの。
一番可愛いのはさゆだけどね。特技は野球かな。よろしくお願いします」

さゆみがふにゃりと笑い、かわいらしくペコンと頭を下げるとまわりから拍手がなる。

「なんか突っ込み所が満載ね…。それより、あなた西中の道重?ピッチャーの?」
「さゆのこと知ってるの?」
「言ってなかったけど、私は野球部の顧問なのよ。まぁ、あんまり詳しくないんだけどね。
西中って昨年の地区大会準優勝チームよね。あなたの名前は珍しかったし覚えてるわ。
いい投球してたしね」

ドクン。心臓の音が大きく聞こえる。
保田とさゆみが言葉を交わしているが、絵里はそれを聞かないように耳に手をあてた。
ふーっと息を吐く。

耳から手を離すと保田とさゆみの会話は終わっており、次の生徒が指されていた。
16 名前:白猫 投稿日:2007/02/07(水) 23:03
10人ほどの自己紹介が終わって絵里が指された。
人前で話すのは得意じゃない。しかし今はそれ以上の緊張があった。

「亀井絵里です。西中出身。特技は…走ることです。高校では陸上をやろうと思ってます」
「よろしくね。次は――」

心配していたことが杞憂に終わり、座ろうとすると右前にいる子と目があった。
気の強そうな目に少し上を向いた鼻。猫のような顔立ちをした子だった。
力のある目つきで絵里を見つめると、ぷいっと前を向いた。

なに?どこかで会ったことあった?それとも絵里、なんか変なこと言ったのかな?
なんか悪そうなカンジだったし、目つけられたらどうしよう。
17 名前:白猫 投稿日:2007/02/07(水) 23:04
絵里がぶつぶつといっている間にも自己紹介が進んでいく。
最後の方になって先程の子が指された。
立ち上がったその体は小さく、決して背が高くない絵里よりももっと低いようだった。

「田中れいなです。この春に引っ越してきて、出身は福岡です。趣味は野球です」

やっぱり知らない子だ。てゆーか、この子も野球やるんだ…

れいなが発した「野球」という言葉に食いつく野球部の顧問の話しも聞かず、絵里はれいなの姿を見つめていた。
18 名前:白猫 投稿日:2007/02/07(水) 23:07

19 名前:白猫 投稿日:2007/02/07(水) 23:09
更新です。
れいな登場。

「適度な改行」って難しい…
改めて他の作者さんたちをすごいと思います。
20 名前:白猫 投稿日:2007/02/07(水) 23:11
>>10 名無し飼育さん

ありがとうございます。
ご期待にそえるように頑張ります。
21 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/02/19(月) 23:44

22 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/02/19(月) 23:45
放課後。
一緒に帰ろうと絵里がさゆみの姿を探すとさゆみはれいなと話していた。
絵里に気づいて手を振るさゆみ。
初対面が苦手な絵里はぎごちない笑みをれいなに向けた。

「絵里、これから田中さんと野球部の見学に行こうと思うの。絵里も一緒に行かない?」
「あ…絵里はいいや。陸上やるって決めてるし。田中さんと行ってきなよ」

じゃあね、そう2人にいい残して絵里は教室を出ていった。
さゆみはそれを寂しそうな目で見送る。
23 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/02/19(月) 23:46
「亀井さんって―――」

れいながふいにさゆみに話しかけてきた。

「野球やっとったん?」
「あ、うん。同じ西中でね。セカンド守ってたの。でも高校入ったらもうやらないつもりみたいなの。さゆは一緒にやりたいんだけど」
「ふ〜ん」

れいなは不機嫌そうな顔で教室の出口に向かう。

「田中さんの話し方って博多弁ってやつ?結構可愛いの」
「うるさか」

れいなはすたすたと教室を出ていく。
邪険にされたさゆみは一瞬口を尖らせたが、すぐにその後を追いかけた。
24 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/02/19(月) 23:47
さゆみとれいながグラウンドに出ると、野球部が活動しているのが見える。
ちょうどランニングが終わったところのようだ。
さゆみとれいなの他に見学に来ている1年はいないようである。

「あの、見学させてもらっていいですか?」
近くにいた部員に2人が話しかけると、その子は満面の笑みを浮かべた。

「新入部員?いやっほーい!!愛ちゃぁん!!!」
「いや…見学…。まぁどうせ入るけんいいけど」

れいなの突っ込みもむなしく、彼女のテンションは部全体へと広がる。
ほのぼのとした雰囲気だったのが、ドタバタと騒がしいものに変わった。
25 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/02/19(月) 23:47
「ガキさん、椅子! あさ美ちゃん、お茶!」
「バカ!そんな汚れた椅子はいかん!もっと綺麗なのを持ってくるやざぁ」

丁重なおもてなしを受けた2人はポカーンとしたままである。

そんな2人に「愛ちゃん」と呼ばれたコが声をかける。

「よく来てくれたなぁ。あーしがハロ高野球部部長の高橋愛や。今日はゆっくり見学してってな。」

すらりとした体つきに綺麗な顔立ち。それに似合わぬ訛りは、彼女の魅力をより引き立てているようにも感じる。
26 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/02/19(月) 23:48
「あ、えと…1年B組の田中れいなです」
「道重さゆみです。同じ1年B組です」

2人揃ってペコンと頭を下げる。
なぜか拍手が起きる。

「2人とも経験者?出身は?」
「れいなは福岡出身で、中学校でやってました。ポジションはショートストップです」

体育会系の癖なのか、丁寧な敬語で受け答えするれいな。
れいなの博多弁を「可愛い」と言ったさゆみは不満そうに口を尖らせた。
27 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/02/19(月) 23:49
「道重ちゃんは?」
笑顔でそう聞いてくる愛にさゆみは慌てて返事をする。

「あ、さゆは西中出身です。ポジションはピッチャーです」

「あー!!」
奇声をあげたのは、最初にさゆみたちが話しかけた部員。さゆみを指差して、口をぱくぱくさせている。

「なんやー?まこと。うるさいがし」
「愛ちゃん。このコ、西中の道重だよ。昨年の地区大会準優勝ピッチャー!」

全員がニコニコとしているさゆみを見つめる。
28 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/02/19(月) 23:50
「おー、そういやすごい投手がおるって話題になっとったっけ?道重ちゃんがそうなんか。こりゃ、ウチのチームも飛躍のチャンスかもなぁ」
「うちは、選手層薄いしねぇ。新入部員大歓迎だよねぇ」
「1年生はいつから部活に参加でしたっけ?」

「あの、れいなたちは勝手に見学しとくけん、練習はじめてもらって構わんっちゃ」
なにやら談笑ムードになってきたのをれいなが制する。

「あ、そうやのう。じゃあ、見学しとってや」

そういい残して練習に戻る部員たち。
さゆみとれいなは練習が終わるまでその様子を見つめていた。
29 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/02/19(月) 23:51

30 名前:白猫 投稿日:2007/02/19(月) 23:52
更新です。
早くも週一更新守られず…(泣
31 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 12:12
待ってます。
気長に書いてください。
32 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/04(日) 10:40
こうゆうの好きです!
れいなの博多弁もキャワ・・・!!。
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 04:00
>>32
あなたはsageを覚えるべきでは?
34 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:41

35 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:43

36 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:44
野球部を終わりまで見学したさゆみとれいなは、駅までの帰り道を歩いていた。

「さゆって、すごいピッチャーやったと?先輩たちみんな驚いてたっちゃ」

すっかり仲良くなったさゆみとれいなは、
お互いのことを「れいな」「さゆ」と呼び合うようになっていた。

「さゆはすごいの。可愛いし、すごいし、可愛いの」
さゆみはふわふわと微笑みながら、れいなの問いに答える。
37 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:45
「…あ、そう…」
さゆみのキャラに戸惑うれいなは、どうしてもさゆみがすごい投手には見えない。
でも野球部の顧問や部員が知っているくらいだ。
おそらくすごい投手なのだろう。

「さゆの球、早く見てみたいっちゃ…っておい!」
さゆみは鏡を見ながら歩いていて聞いていなかった。
38 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:46

39 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:47
絵里は自分の部屋に入るとその身をベッドに投げ出した。
このばふっという感触が堪らなく好きだ。
ごろっと半回転して天井を向くと深く息を吐き出した。

本当なら陸上部に見学へ行ってみる予定だったのだが、結局帰ってきてしまった。
きっとさゆみたちは今頃野球部を見学している。

さゆみならすぐに活躍できるだろう。
あの田中ってコはどのくらいうまいんだろう。
確かハロ高はそんなに強くなかった筈だけど…
40 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:49
もうやめたのにね。
やらないと決めているのに野球のことを考えている自分がおかしかった。
明日こそ陸上部へ行こう。
そう決心すると、半回転してもう一度顔を枕にうずめた。


ふいに部屋に携帯電話の音が鳴り響く。
あのまま眠ってしまっていた絵里は慌てて飛びおきると、
軽快なメロディーを奏でるそれを掴んで、通話ボタンを押した。
41 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:51
「もしもし」
「あ、絵里?さゆなの。今、野球部を見学してきた帰りなの」
「うん。雰囲気はどうだった?」

絵里は意識して明るい声で返事をした。
自分はうまく笑えているだろうか。

「人数は少ないけど、練習は結構ちゃんとやってるの。うまい人もいるよ。
特にキャプテンの高橋先輩はすごいの。可愛いしうまいの!それでね…」
42 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:52
嬉しそうに話をするさゆみに相槌をうちながら、絵里は部屋の壁を見つめていた。

「でね、エース不在って言ってたから、さゆは期待されてるの。頑張らないとね」
「さゆなら大丈夫だよ。頑張ってね」

やっとの思いでそう返す。

「うん。頑張るの。……絵里…」
「え?」
「あ、なんでもない。また明日なの」
「うん。バイバーイ」

きれた携帯を見ながら絵里は小さなため息をついた。
43 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:53

44 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:54
絵里たちが入学してから1週間がたった。

「さぁ、今日からようやく野球ができるっちゃね」
絵里の右前で、れいなが叫ぶ。

「やっとなの」
そこにさゆみも加わった。

入学後のイベントは盛りだくさんで新入生が部活に参加できるのは今日からだ。
とはいってもまだ「仮入部」の段階だが。
45 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:55
「じゃあ絵里、さゆたちは行くの」
「寂しかったら絵里も来ていいっちゃ」
「あはは〜、また明日ね〜」

結局、入学してから3日目に陸上部に見学へいった絵里は、
ハロ高の陸上部は週に2,3回ほどしか活動していないことを知る。

個人種目だし、自主練すればいいかな…
どちらかというと楽観的な絵里はそれほど気にしてはいない。
46 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:56
れいなとはさゆみを通じてすぐに仲良くなった。
性格は正反対だが、「野球バカ」同士、さゆみとはかなりウマがあったらしく、
普段から一緒にいる。
そこにもともとさゆみと仲が良い絵里が一緒なのは必然だった。
2人といる絵里は、複雑な気持ちではあったが、新しい友達ができたことが嬉しくもあった。

「図書館でも行ってみようかな〜」
ひとりになった絵里はそう呟くと、教室を出た。
47 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:56

48 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2007/11/15(木) 23:58

49 名前:白猫 投稿日:2007/11/16(金) 00:03
更新です。

なんつーか…
すんませんでしたぁ!

半年以上も放置しまして…
これからはもう少し頑張ります。

>>31
ありがとうございます。
お待たせして申し訳ありませんでした。
亀ですが、これからも頑張ります。

>>32
方言があってるかは自信ないですが、
これからもカワイイれいなを書けるように頑張ります。

>>33
心遣いありがとうございます。
50 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:03
「道重さゆみ。西中出身。希望ポジションはピッチャーです!」
最後にさゆみの挨拶が終わる。

今年の野球部希望者は7名。
さゆみとれいなを除いて5人の希望者がいた。
全員、ジャージに身をつつみ、不安と期待が入り混じったような表情で愛たちを見つめている。

「みんなよろしくな。何人かには挨拶したけど、あーしが部長の高橋愛やよ。
これから一緒に頑張っていこう。
ウチは決して強い野球部やない。けど、野球が大好きな人の集まりやし、
向上心はすごくあるんよ。
頑張ってみんなで上手くなろうな!!」
51 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:04
簡潔に、しかしとても気持ちがこもった挨拶。
さゆみはますます愛に対して好感をもった。

「さっそくなんやけどな、ウチは見ての通り部員が少ない。
今日来てないモンを含めても15人しかおらん。
だから1年生も試合にはどんどん使っていきたい。
そこで今日はみんなの実力を見たいんよ」

「実力…ですか?」
新入生を代表してれいなが答える。
52 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:05
「そうや。もちろん、一日二日で実力が見抜けるなんて思ってないけどな。
なるべく早くみんなの力を把握したいからのぅ」
「どうやってみるの?」

愛の答えに今度はさゆみが反応した。

「実戦形式やよ。投手希望は道重ちゃんだけやったな?
道重ちゃんが投げて、他の者が打つ。バックの守備はなしや。
とりあえず打撃だけになるけど、みんなが野球をしてる姿を見てみたい。
結果を見るわけじゃないし、中学のときのプレー通りやってくれたらええんよ。
まずは全員でランニングとアップ。
それから30分くらいで各自準備をしてもらうな」
53 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:05

54 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:06
「ん〜、久しぶりっちゃね」
れいなは上機嫌で球を放った。
15m程離れた場所で、さゆみはその球を受けとる。

「でも、れいな、いいの?さゆみのアップに付き合ってくれて」
ボールを投げ返しながら、さゆみはれいなに聞いた。
れいなだってこれからさゆみの球を打たなければならないのだ。
さゆみの手伝いをしてる場合ではないだろう。
55 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:07
「ん?いいっちゃ。バットは毎日振っとるし、
キャッチボールで十分、身体がほぐれるけん」

ボールを受け取ったミットの衝撃にれいなは思わず顔をしかめた。
さゆみが少し強めに投げたらしい。
きれいなバックスピンがかかった球だった。
キャッチボールをしているだけで、れいなはさゆみが噂通りの好投手だと感じた。

改めてじっくりとさゆみの姿を眺める。
すらりとした長身に、野球部には似つかわしくない白い肌。
ボールを投げているさゆみは本当に楽しそうだ。

楽しみっちゃね。
れいなの心の中は弾むように踊っていた。
56 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:07
キャッチボールを終えたさゆみはマウンドの方向を向いた。

ボールを投げられる…
これから訪れる至福の時間を考えてさゆみは思わず笑みを浮かべた。
もちろん、高校に入るまでの間も練習は欠かしてはいない。
しかし、マウンドで…打者がいる状況でボールを投げるのはとても久しぶりだった。
57 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:08
「捕手を務めます、2年生の紺野あさ美です。よろしくお願いします」
プロテクターをつけた丸顔の少女が近づいてきた。
確か、見学したときに「こんこん」と呼ばれていた少女だ。
柔らかい物腰に、おっとりとした話し方。
先輩に「試される」というこの状況に少なからず緊張していたさゆみだが、
彼女はその緊張をほぐしてくれるような雰囲気をもっていた。

「あ、よろしくなの」
さゆみがペコンと頭を下げる。
58 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:10
「コントロールも見たいので、サインを出させていただきますね。
変化球はなにがあります?」
「さゆはストレートだけなの。」
さゆみのやわらかな返答に、あさ美は目を見開いた。

「そ、そうなんですか?…じゃあ、コースだけサイン通りお願いします」
「わかったの」

ストレートだけ…?
ミットをはめながらあさ美は首を捻った。
地区大会準優勝投手が…一体どういうことでしょうか?
59 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:10

60 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:11
内野手も外野手もいないグラウンド。
マウンドの上にさゆみは立った。
久しぶりの感触。胸がドキドキする。

「愛ちゃん、みんなの実力が見たいってやつ。
あれ、本音なんだろうけど、一番は道重ちゃんの球がみたいんでしょ?」

一塁側からマウンドを眺める愛に、隣からまことが話しかける。

「何言っとるんや、まこと。みんなの力が見たいんよ。
もちろん、道重ちゃんの投球もな」
愛はまことにそう返すと、にやっと笑みを浮かべた。
61 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:12
「ほんじゃ、始めるやざ。そっちのコから順番でええやろ」

ありゃ?この順番やと、れいなは最後っちゃ…
マウンドに立つさゆみをぼーっと眺めていたれいなは、愛の言葉で我に返った。
62 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:13
「久しぶりね。道重さん」
はじめにバッターボックスに立ったコが笑顔でさゆみに声をかけた。

「? 誰なの?」
「!? 中央中の梅田よ!中学時代に何回も試合してるでしょ!」
「えーっと…覚えてないの…」
「……失礼すぎじゃない?言っとくけど、あなたとの対戦成績は悪くないのよ」

さゆみは全く覚えていないといった顔だ。
63 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:14
「中央中の梅田さん…。ん〜と、外野志望だっけ?」
「そう。梅田えりか。右投左打。中央中の中心打者だったコだね。
去年の夏は、3番でセンターだったかな」
「さすがガキさんだねぇ」

まことの問いに、『GAKI NOTE』と書かれたノートをめくりながら里沙が詳細な回答。
褒められた里沙は照れながら頭を掻いた。
64 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:14
「ガキさんは野球選手マニアやからなぁ。
リトルからメジャーまで…選手情報はガキさんにお任せやな」
「それほどでもないよ〜」
「いやいや。そういうのも立派な長所なのよ、新垣!胸を張りなさい!」
「そうですかぁ?あははは〜………って保田先生!いつからいたんですか!?」

ノリつっこみ!?
やり取りを近くで見ていたれいなは、妙なところで感動していた。
65 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:15

66 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:16
スパァァァン!!!

強烈な音を残し、あさ美が構えたミットの真ん中に白球が吸い込まれた。
たっぷり数秒間、辺りが静まり返る。

「す…すご…」
里沙の呟きをきっかけに、周りが音を取り戻した。
67 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:17
「なに…?今のストレート…。速いってもんじゃないよ。
これが最近まで中学生だったコの投げる球?」
まことが信じられないといった風に話す。

「ん。想像以上やなぁ」
愛が短く返答した。

「マツウラさんとどっちが速いかな?」
里沙も興奮気味に話を続ける。

ストレートだけで充分なはずですね。この速さなら…
ストライクをコールしながら、
あさ美は手の先から伝わる痺れに身体を震わせた。
68 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:20

69 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/06(日) 00:21

70 名前:白猫 投稿日:2008/01/06(日) 00:22
更新です。

梅田さんに登場していただきましたが、
名前を使わせてもらっただけで深い意味はありません。
(キャラも全然わからないしorz)

ファンの方がいたらごめんなさい。
71 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:44

72 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:45

73 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:45
速くなってる…?
えりかはさゆみの姿を凝視した。
確かに昨年見たときよりも、身体は大きくなっているようだ。
さゆみは、今年入部した部員の誰よりも身体が大きい。

さゆみとの勝負に自信があったわけではなかった。
さゆみの球の凄さは承知だったし、1打席勝負は明らかにバッター不利だ。
しかし、さゆみとの対戦経験があり、球筋も見知っていたので、なんとかなると思っていた。

しかし今の球は――――

えりかの知っているさゆみのストレートではなかった。
自分が知っているよりも速く、強く、凄い。
74 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:46
「くッ!」
「ストライク!ツーナッシングです」

続く2球目。
インコース低目の球を空振り。

えりかは唇をかみ締めた。
三球三振?冗談じゃない!

もはや冷静さを失っていたえりかは、高めのボール球を空振りし、三振を喫した。
75 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:46
「よし、じゃあ次のコ!」
愛の言葉が飛ぶ。

「愛ちゃん…これって、無謀だよ。
道重ちゃんの球、あたしらでも1打席じゃ打てないって」
「まこと〜、結果じゃないって言うたやろ?
あーしは、1年生の野球に対する知恵を見たいだけや」
まことの問いに愛は呆れたように答えた。
76 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:46
「知恵って?」
里沙が問う。

「限られた中で自分で考える力や。
あさ美ちゃんにはセオリーに従ったリードをするようにお願いしとる。
ただ単に振り回してるだけじゃ、野球はできんのや。
大切なのは考えること。
打てんくてもいいからその中で最大限やれることができるか、や。
ま、確かに道重ちゃんの球は予想外やったけどな」

愛が苦笑いをしながら答えた。
77 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:47
続いて登場の1年生もさゆみの球に手も足も出ず、三振を喫した。
3人目、4人目…
誰もさゆみの球を前に飛ばすことができない。

「うわー、本当にすごいよ。
道重ちゃんがいれば、今年は結構いけるんじゃない?」
「噂通りってワケね。夏が楽しみね」

保田まで含めて、騒ぐ部員たち。

「驚いたのぅ。ここまでとは」
冷静に観察していた愛も、次々と三振を取るさゆみに驚きを隠せない様子だ。

上級生が騒ぐ中、さゆみの球によって仕留められ、呆然とする1年生たち。
その中でれいなだけは、さゆみの投球をじっと見つめていた。
78 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:47

79 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:47
絵里は思わず立ち止まっていた。
図書館からの帰り。
野球部が見える道を通ったのは故意ではあるが、さゆみが投げている姿を見てしまったのは偶然であった。
三振を取ったさゆみがマウンドでピョーンと跳ねた。
中学時代と変わらぬ笑顔だ。
80 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:47
ふと、自分とは反対側でグラウンドを見ている女性が目に入った。
モデルのようにスラリとした体型に、ショートの髪の毛。
野球部の様子を眺める様子はなんとなく悲しげで。
絵里は、妙に気になった。

じっと見つめていたが、彼女はすぐにグラウンドに背中を向け、立ち去っていった。
絵里が再びマウンドに目をやると、ちょうどれいなが
バッターボックスに向かうところだった。
81 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:48

82 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:48
「最後はれいなっちゃね。さゆには悪いけど、容赦せんばい」
そう言いながら、右バッターボックスに入るれいな。

「れいななんかに打たせないの」
さゆみは微笑みながら、そう答える。

返事を聞いたれいなは苦笑しながら、足場をならした。
足もとに向いていた視線をゆっくりとさゆみに向けながら、バットを立てる。
83 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:48
クセのないスタンダードな構え。
18.44mの距離を挟んで対峙したさゆみは、その落ち着きはらった表情に小さく喉を鳴らした。
これまでの打者とは違う。
背筋がゾクゾクする感覚に見舞われる。
中学時代、好打者と対戦したときに襲われたあの感覚。
さゆみは指先でボールの握りを確かめると、きゅっと表情を引き締めた。
84 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:48
初球。
インコース低めに放たれたさゆみのストレートを、れいなが鋭く振りぬく。
鈍い金属音を残して、ボールは真後ろのネットにぶつかった。

「ファール。ワンナッシングです」

あさ美はそう言うと、新しいボールをさゆみに投げる。
れいなは打席を外すと、左手を見つめた。
当てた瞬間に感じた球の重さ。これがさゆみの球か…
ぎゅっとバットを握り締め、再びバッターボックスにたった。
85 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:49
「愛ちゃん、あのスピードボールに初球からタイミング合わせていったよ」
まことが愛に話しかける。
「ほうやのう。今までの4人との勝負で掴んだんやろうけど、
初球から合わせていけるとはなぁ。あの子、いいバッターやよ」
愛は2人の勝負を見つめたまま、こたえる。
さゆみが2球目を投じようとしていた。
86 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:49
「速か…」
ミットに収まったボールを見つめて、れいなは思わず呟いた。
2球目は真ん中高めの直球。
タイミングを合わせて振ったはずだったが、初球よりもさらに勢いのあるその球に、
れいなのバットは空をきった。

「初球から当てられたのが悔しかったみたいですね。ツーナッシングです」
あさ美がそう言うのを聞いて、れいなはさゆみを見つめる。
いつもニコニコと笑っているさゆみだが、結構負けず嫌いなのかもしれない。
マウンド上の表情は真剣そのものだ。

続いて3球目に投じられた内角に外れる球をれいなは見送る。
87 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:49
たいしたものですね…。
勝負を一番近いところで見つめるあさ美は感心していた。
雑なコントロールとはいえ、これだけの球をコースに分けて投げ込めるさゆみ。
そして、さゆみの球とまともに対峙し、つり球をも見極めるれいな。
2人のポテンシャルには驚かされる。

さて、次が勝負です。
あさ美は、さゆみに4球目を要求した。
88 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:50
放たれた球は、外角低めのストレート。
れいなは、迷いなく踏み込むと、ミートポイントへバットを振り出した。
金属音を残してボールが弾き返される。

ライト方向へふらふらと上がった打球は、内外野の間にポトンと落ちた。
さゆみもれいなも表情を変えないまま、ボールが落ちた地点を眺めている。


「よし。そこまでやな」

パン、と一度手を叩いて、愛が2人に声をかけた。
れいなとさゆみが、愛の方を見る。
89 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:50
「ガキさん、今の打球はきわどいけど、ポテンヒットになるかのう?」
「そうだねぇ。微妙だけど、定位置で守ってたら、捕るのはちょっと厳しいかな」
「狙い打ちやったからな。当たりは悪いけどいいとこに落ちたわ。
田中ちゃんがしっかり振りぬけたからやな」
愛は里沙とそんなやりとりをする。

「あの…今のは、れいなの負けたい。セカンドフライっちゃ」
れいなが2人の会話に割って入った。

「ほうか?結構厳しいんやない?」
「いえ、れいなの負けっちゃ」

きっぱりと言い切るれいなの顔は真剣そのものだった。
愛は困ったように微笑む。
90 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:51
セカンドフライなの。

その様子を眺めながらさゆみはそう確信していた。
今のはアウトだ。中学時代はそうだったのだから。

絵里がセカンドだったときは…。
91 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:51

92 名前:この掌に掴むもの 投稿日:2008/01/13(日) 23:51

93 名前:白猫 投稿日:2008/01/13(日) 23:51
更新です。

94 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/15(火) 23:20
なかなかすんなりいかないものだねえ
95 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/10/04(土) 13:59
作者さんは野球部だったるしたのかな?
おもしろいです。
96 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/05(日) 02:22
さゆとこんこんのバッテリーって言うのがいいですね♪

個人的には

1 ショート   れーな
2 セカンド かめ
3 サード よっすぃ
4 ライト   ミラクル
5 キャッチャー こんこん
6 ファースト まこ
7 センター がきさん
8 ピッチャー さゆ
9 レフト 愛ちゅん

とか熱いけどな〜。。。

ログ一覧へ


Converted by dat2html.pl v0.2