えんじぇる☆Hearts!3
1 名前:すてっぷ 投稿日:2006/09/10(日) 20:14
幻板の前スレ「えんじぇる☆Hearts!2 」からの続きです。
よろしければ、お付き合いください。
2 名前:<第28話> 投稿日:2006/09/10(日) 20:16
飯田圭織はおかしい。それに気付いているのは、果たして自分だけなのだろうか。

まず落ち着きが無い。
だらしなく口を半開きにし特に考え事をしている風でもなく虚ろな目で、壁に沿って時計回りにぐるぐると歩き回っている。
まるでやる気のないゾンビのようだと麻琴は思った。

「あいぼん怒るかなぁ…ってやっぱ怒るよね、カオリだったらキレるもん」
「なに?ウチがどーしたって?」
昼食のカップラーメンをすすっていた亜依が、箸を止め言った。しかし圭織は気付かない。

「許してあいぼん…でもコレは、あなたにしか出来ないコトなのよ」
「ちょっとー、なんやねん。めっちゃ気になるやんかぁ」
「そういえばこないだ買ったプリン賞味期限まだ平気だよね…どうしよう気になる…今すぐおうちの冷蔵庫あけて確かめたい…」
「ちょっとー」
圭織は依然として亜依の声に気付かず、亡霊のように部室の中を一人彷徨っている。

(監督、自分がひとりごと言っちゃってるコトに全く気付いてない…)
やはり今日の圭織は明らかにおかしい。一体彼女の身に何が起きたというのか。

3 名前:<第28話> 投稿日:2006/09/10(日) 20:17
「よし、今日はとっとと帰ってプリン食べよっと」
何かが吹っ切れたように圭織が言う。
「というワケでみんな集まってー!監督から重大発表がありますよ〜!」
「監督、頭の中がまる聞こえですよ」
里沙が言った。

「自分がプリン食べたいからって練習早く終わらそうとするのやめてください」
「なに言ってるの高橋!カオリプリン食べたいなんて一言も言ってないし。ったくこんな時になに不謹慎なコト言ってるのよ!
こっちはね、遊びでやってんじゃないの!あんたねぇ、そんなねぇ、浮ついた気持ちでやるんだったら、今すぐこっから出て行きなさい!!」
「えっ…」
呆れて物が言えないとはこういう事か。その場に居た全員が、思わず怒りを忘れた。

「ねぇ、めんどくさいからとりあえず謝っちゃいなよ」
皆がただポカンとしている中、後藤真希がぽつりと言った。
「…す、すいません、でした」
「うんうん。わかればいいの」
満足気に頷く。
「それで、重大発表って何なんですか?」
「おっ。さすが紺野、イイトコに気付いたね。忘れてこのまま帰るトコだったよカオリ」
「ホントに重大なのかその発表…」
ひとみが呟く。
4 名前:<第28話> 投稿日:2006/09/10(日) 20:18
「えー、今日はついに、大会のレギュラーメンバーを発表したいと思います」
「えええぇぇっっ!?」
「どうしたの紺野?リアクションが大きすぎるよ」
「いえ、っていうか…それ監督が決めるんだぁって思って」
「えーなんでなんでー?こういうのって監督が決めるものでしょ普通?ちがうのー?」
「や、まぁ普通はそうなんですけどね、普通は」
しかし監督自身が”普通”でない場合、話は別だ。
ひとみの言わんとしている事が、麻琴には痛いほど分かった。

「ええやん、早よ発表してぇな。どーせウチ体操のレギュラーはもう諦めてるし」
「そっか!あいぼんさんは合唱でリードボーカル、だもんね!」
「フフン」
不敵な笑みを浮かべる亜依を見て、圭織が哀しげに微笑む。
(監督、何か、企んでる…?)

「じゃあ、まずはラジオ体操部門から」
部員は9人、うちレギュラーになれるのは6人だ。
部員達の間に、緊張が走る。

「なっち、ごっつぁん、吉澤、のの」
「っしゃあ!」
呼ばれた瞬間思わず叫んだ希美を、圭織がギロリと睨む。
「はーい、すんませーん。ふきんしんでしたぁー」
「チッ…」
(舌打ち!?)
「浮かれんな」
(監督、な、なんか怖いぃ…)
飯田圭織が殺気立っている。
麻琴は何かとてつもない事が起こりそうな、暗い予感を感じた。
5 名前:<第28話> 投稿日:2006/09/10(日) 20:19
「あと高橋、小川。以上」
希美が口を挟んだせいで投げやりに名前を呼ばれてしまった事が麻琴には少々不満ではあったが、圭織に選ばれた事は素直に嬉しかった。
同時に、レギュラー落ちしたあさ美や里沙のためにも頑張らなければと改めて思った。

「紺野には、戦略の面で色々と相談に乗ってもらいたいと思ってる。
それから新垣はまだ一年だし、今回は先輩達の演技をしっかり見て、学んで欲しいの」
「「はい!」」
「おいおい。ウチにはコメントすら無しか」
「あ、あいぼん………。………じゃあ次は、合唱部門の発表です」
「え、ちょなに今の間?めっちゃ気になる」
「ポジションと名前、発表するね」
合唱部門も体操と同じく、出場できるのは6人である。
麻琴は両手を合わせ祈った。
体操と合唱。もし実現すれば、夢のダブル・レギュラーである。

「まずは、リードボーカル」
自分の名前が呼ばれるのを確信しているのだろう、亜依がにやりと笑う。
「のんちゃん」
瞬間、亜依の表情が凍り付いた。
(うそ…あいぼんじゃ、ないの?)

「次にコーラスで、なっち、ごっつぁん、高橋、紺野」
全員の驚きをよそに、圭織は淡々と発表を続けた。
「最後に、ボイスパーカッションであいぼん」
「はあっ!?」
ようやく名前を呼ばれ、我に返った亜依が素っ頓狂に叫ぶ。
6 名前:<第28話> 投稿日:2006/09/10(日) 20:21
「どういうコトですか、先輩!セワシくんはね、合唱でメインはるためにここまで頑張ってきたんですよ。それをボイスパーカッションって!」
「そうですよ!いくらあいぼんさんが芸達者だからって、ボイスパーカッションはどうかと!」
悔しそうに、亜依が唇を噛む。

「あんたたちね、ボイパをなめんじゃないわよ!!」
圭織の声が、微かに震えている。
「あいぼんの声が、あいぼんの声が、楽器に、楽器になるんだよ!」
「そんなっ二回ずつ強調して言われても、納得できません!」
ひとみがくってかかる。彼女が圭織に逆らうのは、珍しい事だった。

「てゆーか、それ以前にそんなスキルないわボケ」
「本当に、そうかな」
なつみが言った。
「うちらには到底無理なコトだって、あいぼんにだったら出来ると思う。だって不可能を可能にするのが、あいぼんマジック。そうでしょ?」
(なつみちゃん…。またてきとーなコト言って…)
深く考えない。
それはなつみの長所であり、同時に短所でもあった。
7 名前:<第28話> 投稿日:2006/09/10(日) 20:24
「カントクもなっち先輩も、勝手なコトばっか…厄介払いしたいんやったらハッキリそう言うたらええやろ!」
「どうしてそんなコト…カオリは本当に、」
「あいぼん。あいぼんにならきっと出来る。なっちは、そう信じてるよ」
「うっさい!なっち先輩のアホ!」
「ぬわにぃー!アホって言うヤツがアホだべさ!ボケ!タコ!田舎モン!」
「…なつみおねえちゃんの方がよっぽど田舎モンだっつーの」
「あん?今なんつったの愛?なっちのどこが田舎モンだってのさ。ああ?具体的に証拠さ見してみろっつってんのよ」
「ねぇごっちん。やっぱなつみ先輩って、キャーワイイよね。どーでもいいコトに超ムキになっちゃってさぁ」
「よっすぃーってなつみ先輩のコト好きなの?って梨華ちゃんに聞かれたコトあったなぁ、そういえば」
「はあ!?なにそれマジで!?で何て答えたのごっちん!」
「えーっ………忘れた」
「ふざけんなよ!忘れんなよ!大事なトコだよそこ!!」
「だってもう何年も前だし。梨華ちゃんが普通じゃなく深刻なカオしてて怖かったのだけは、よく覚えてんだけど」
「ふざけんなよ!忘れんなよ!」
「あっはは。いいじゃないですかぁ先輩、もう過ぎちゃったコトなんだし今さら……ハッ!」
(いけない!またあいぼんが、置いてけぼりに!)
麻琴が気付いた時には、既に遅かった。

「くっそぅ…みんな、みんな不幸になるがいいさ」
亜依は拳を握り締め、孤独に打ち震えていた。
8 名前:<第28話> 投稿日:2006/09/10(日) 20:27
「あいぼん!」
「べーっだ!」
振り返ると亜依は、後を追って部室を飛び出した麻琴に向かって大きく舌を出した。

「マコっちゃんのどアホ!バカ!バカバカバカ!!」
「えっ…」
「ボイスパーカッションなんか、」
「あいぼん戻って、お願い」
「ボイスパーカッションなんか、絶対やらへんからなあああ―――!!」
捨て台詞を残すと、亜依は麻琴に背を向け再び走り出した。

「ひどいよ…。監督に言ってよそれ…」
(ていうかそういえばあたし、レギュラー落ちしてんじゃん…)
追い掛ける気力など、とうに失くしていた。
遠ざかっていく後ろ姿を見ながら、夢のダブル・レギュラーを逃した悔しさを麻琴はようやく噛み締めた。

「カオリは信じてる」
振り返ると、圭織が立っていた。

「あいぼんは必ず、戻ってくる」
亜依の走り去った方を真っ直ぐに見つめ、圭織は言った。

「じゃあ、カオリ今日は帰るね」
「おつかれさまでした」
「おつかれさま」
圭織は足早に麻琴の傍を通り過ぎると、
「プリン、まだ大丈夫だといいですね」

「な、なんのこと?じゃっじゃあ、カオリはこれからピアノのお稽古があるからこれで」
明らかに動揺した様子で走り去った。全速力であった。
 
 
9 名前:すてっぷ 投稿日:2006/09/10(日) 20:29
3スレ目になりました。
相変わらず更新ペース遅いですが、お付き合いいただけると嬉しいです。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/11(月) 01:49
新スレおめです。
あいぼん・・・
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/12(火) 00:10
通りがかった読者です

応援してください

応援します
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/12(火) 12:27
とうとう3スレ目に突入ですね。
初期の頃からずっと読んでいます。
のんびり頑張ってくださいね♪
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/03(日) 23:26
アッー!

この作品は好きだアッー!
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/20(水) 16:56
もう・・・終わりなのかな
15 名前:名無しレンジャー 投稿日:2007/02/02(金) 01:24
すてっぷさん
大好きなんだ

毎年クリスマスになると
サンタクロースに逢えた日。や
あわてんぼうのサンタクロース。を読むよ

昨日は楽しいナカザワ家を見て
久しぶりに笑ったな

すてっぷさん
頼むからm-seekから
消えないでくれ..

お願いだ
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/14(水) 07:42
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/15(木) 01:08
>>16
自治厨?勝手に落とすなよ
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/16(金) 22:15
>>16
ochiをするのかどうかは作者さんが決められることです。
更新を心待ちにしている読者を悲しませる行為はしないで下さい。
19 名前:<第29話> 投稿日:2007/02/25(日) 00:30

抜けるような青空を見上げ、麻琴は深い溜息を吐いた。

もう三日も、亜依が練習に来ない。
メールしても返事は無いし、電話にも出ない。

(どうしちゃったんだろう、あいぼん…)
とは言え、麻琴にはその原因が痛いほど思い当たるのである。

「あいつ、今日も来てないね」
隣でストレッチをしていたひとみが言った。

  『ボイスパーカッションなんか、絶対やらへんからなあああ―――!!』

監督である飯田圭織の口から発表された、大会でのポジションとレギュラーメンバー。
亜依は体操部門でのレギュラー落ちは大方の予想通りとしても、狙っていたリードボーカルを他人に獲られたことがよほどショックだったのだろう。
それに加えてボイスパーカッションという未知の、というか無謀なポジションを突然振られてしまった亜依の苦悩は計り知れない。

「もう三日目ですよ。あいぼんが無断で練習休むなんて、今まで一度も無かったのに…」
休む時はいつも律儀に、『今日はサボりまーす☆』と愛へメールで連絡する事を忘れなかった亜依。
携帯を持つ右手を力の限り握り締め、怒りで小刻みに全身を震わす愛を怯えた目で見つめていた里沙。

「帰りに寄ってみるか」
ひとみの言葉に麻琴は頷いた。
20 名前:<第29話> 投稿日:2007/02/25(日) 00:31

「セワシくんて、おばあちゃんと二人暮しだったよね」
休日に亜依とよく遊びに出掛けたりするという話は聞いていたが、ひとみはまだ亜依の家へ行った事が無いらしい。
初めてだし手土産を買っていこうと提案したのもひとみだった。
学校帰りに近くの和菓子屋で羊羹を買い、その足で二人は亜依の家へ向かった。
「うん。優しそうな人ですよ、おばあちゃん。何ていうか、ほんわかしてて。あいぼんとは真逆っていうか」
麻琴と亜依、希美、あさ美。
同い年である四人は、宿題や試験勉強で互いの家を頻繁に行き来していた。
亜依の家へ行くと決まって彼女の祖母が振舞ってくれるおしるこが、麻琴は大好きだった。

『まぁ、いらっしゃい。暑かったでしょう?さぁ、みんな上がって。おしるこ出来てるからね』
炎天下の中、駅から15分の道程を汗だくで歩き続けてようやく辿り着いた最初の一杯が、あつあつのおしるこなのである。
21 名前:<第29話> 投稿日:2007/02/25(日) 00:33
「おしるこ?夏なのに?真夏なのに?自販機から”あったか〜い”のコーナーだって無くなってる季節なのに?」
「はい。自販機から”あったか〜い”のコーナーだって無くなってる季節なのにです」
「うわぁ…」
麻琴がその話をすると、ひとみはえらく驚いた様子だった。
「死ぬほどノド乾いてんのにアッツアツの飲み物が出てきちゃったときほどもどかしいのって無いよな。イッキにイキたいのにあぁぁー出来ないみたいな」
一気に流し込みたいのに、あまりの熱さにそう出来ないもどかしさ。
ふぅふぅと息を吹きかけ自分の舌を守るか、それともヤケド覚悟で一気に飲み干すか。
とは言え、仮に火傷を負ってまで飲み干したところで喉の渇きを潤してくれる類の飲み物ではないのだが。
美味しいのは言うまでも無いがそのもどかしさも込みで、麻琴はおばあちゃんのおしるこが大好きだった。

『おしるこ食べたら、コーラもあるからね』
出来ればコーラを先に…とは、間違っても言い出せなかった。
みんなおばあちゃんを、がっかりさせたくなかったのだ。
22 名前:<第29話> 投稿日:2007/02/25(日) 00:35
「まぁでも、愛んちも似たようなモンですけどね。なつみちゃんしか居ないときに遊びに行くと大変なんですよもう。
こないだなんか、ノドからっからで着くなりホット練乳ミルクプリンですよ。スゴくないですか?熱いんですよ!プリンなのに!」
言いながら、麻琴は身震いした。恐怖。思い出すだけで鳥肌が立つ。
焼けるように熱いカラメルと無駄に甘い練乳が舌にべっとりと貼り付く、あの感触。
そしてさらに熱い。一体どんな方法で加熱するとこんなに熱く出来上がるのかと問いたいぐらい、とにかく熱いのである。

「先輩?」
ふと隣を見ると、ひとみはぼんやりとして麻琴の話などまるで耳に入っていないようだった。
「なーんだかなぁ」
しばらく黙っていたひとみが、口を開く。
「セワシくんと仲良いつもりでいたけど、あたしアイツのコト何も知らないのかもな」
そう言うとひとみは、少し寂しげに笑った。
23 名前:<第29話> 投稿日:2007/02/25(日) 00:36
学校から電車で一時間ほどの所に、亜依の家はあった。
奈良の中学からハロモニ女子学園に編入してきた亜依は、今は都内にある祖母の家に居候している。
「小川です。突然すみません」
インターホンを押して告げると、いつものおっとりした声が返ってきた。
しばらくして玄関のドアが開き、一人の女性が満面の笑みで二人を出迎えてくれた。
「まぁまぁ、暑かったでしょう?ほら上がって、ちょうどねぇ、おしるこ作ったところなのよ」
今日は突然の訪問だったのだが、そんな時でもおしるこは用意されているのだ。
おばあちゃん恐るべし。
おばあちゃんはいつ隣の晩ごはんが来てもいいようにしているんだと、麻琴は思った。いつヨネスケが来てもいいようにしているんだと。

「あっ、初めまして、吉澤です。セワシくんとは部活で一緒で、いつもお世話になってます」
「あらそうなの!こちらこそねぇ、亜依がいつもお世話になってぇ、ねぇ」
玄関先でペコリペコリと頭を下げ合う二人を見ながら麻琴は、それより先輩「セワシくん」て言っちゃってたけどおばあちゃんよく解ったな、と思った。
24 名前:<第29話> 投稿日:2007/02/25(日) 00:38
「ほら二人とも上がって。今日はね、特別甘いのよ」
おしるこの事だと、麻琴はすぐに分かった。
両手を挙げて喜びを表現したいのを堪え、麻琴は唇をきゅっと結んだ。
今日は亜依と話をしに来たのであっておしるこを頂きに来たのではない。おしるこは、ノーサンキューなのである。
「あのね、おばあちゃん、」
「おばあちゃん」
亜依の事を切り出そうとした麻琴を、ひとみが遮る。
「悪いけど今日は、コーラを飲む時間はあってもおしるこ食べてる時間は無いんですよ」
「先輩!失礼ですよ…!」
「あらあら、それは穏やかじゃないわねぇ」
おっとりした口調で言い、微笑む彼女は、ひとみの失言を少しも気にしていないようだ。麻琴は胸を撫で下ろした。
「まさか、亜依が何かご迷惑を?」
「ううん、違うの。私たち、あいぼんと話がしたくて。で、あの、あいぼん、いますか?」
「亜依?」
「はい」
「亜依、ねぇ…」
顎に手を当て、首を捻ったポーズのまま考え込んでいる。
麻琴には彼女が、忘れてはいけない何かを必死で思い出そうとしているように見えた。
「どうしたんですか、おばあちゃん…」
ひとみが、心配そうに見守っている。
25 名前:<第29話> 投稿日:2007/02/25(日) 00:40
「三日…」
長い間考え込んだ末に、ぽつりと呟く。
「三日?なにが?」
ひとみが尋ねる。
「亜依ねぇ、もう三日も部屋から出てこないんだけど、どうしたのかしらねぇ」
「「エエェェーーーーーッッ!!!」」
驚くしかなかった。
「おばあちゃんノンキすぎ!それ立派な行方不明だから!!」
ひとみが詰め寄る。
「おじゃましますっ!」
部屋から出てこないというよりは、もう部屋にはいない可能性が高いのではないか。
そう思ったが居ても立っても居られず、麻琴は二人を押し退け家の中へ入った。
階段を駆け上がると、二階の亜依の部屋をノックもせずに開けた。ひとみがその後に続く。
だが思ったとおり、部屋の中に亜依の姿は無かった。
「あいつっ…!」
亜依への怒りなのか、それとも彼女の苦悩に気付いてやれなかった自分への苛立ちなのか、ひとみが悔しげに呟く。
麻琴は、机の上に一枚の紙を見つけた。
置手紙だろうか。それは見覚えのある、亜依の文字だった。
26 名前:<第29話> 投稿日:2007/02/25(日) 00:41
「先輩見てください、これ」
「ん?」

 ―― Dear  おばあちゃん。
     ほんのちょこっとなんだけど、しばらくの間、旅に出ます。
     探さないでください。

     From AI ☆ BON


「ほんのちょこっとなんだけど、しばらくの間、だって」
「どっちなんだい、セワシくん……」
何れにせよ、亜依は自らの意思で今ここに居ないのだ。
事件や事故に巻き込まれたのではないと判って、麻琴は安堵した。
「えー、あい、ほし?、びー、おお」
「あいぼん、って書いてあるんだよ、おばあちゃん」
「あぁ、あいぼんって書いてあるの?あらあら。まぁまぁ」
そしてやはりこの人は、事の重大さに少しも気付いていないのである。
27 名前:<第29話> 投稿日:2007/02/25(日) 00:44
「セワシくん……」
亜依の残した手紙を握り締め、ひとみが呟く。
おばあちゃんが事の重大さにこれっぽっちも気付いていない今、誰よりも亜依を想っているのは彼女かも知れなかった。
(吉澤先輩、やっぱりあいぼんのコトが心配なんだなぁ…)

「一人で旅行なんてズルイぜ」
「いや、違うと思いますよ」
的外れな親友。

「そうよねぇ、亜依ったらおばあちゃんに内緒で温泉行っちゃうなんて、ひどいわよねぇ」
「温泉てどこにも書いてないし」
そして呑気すぎる祖母。

麻琴には、亜依が一人になりたいと思った理由が何となく分かった気がした。
 
 
28 名前:すてっぷ 投稿日:2007/02/25(日) 00:46
レスありがとうございます。
更新が遅くなって、ホントに申し訳ないです。。

>10 名無飼育さん
ありがとうございます。あいぼんが報われる日も、きっと来るはず…(笑

>11 名無飼育さん
ありがとうございます。頑張ります。

>12 名無飼育さん
ありがとうございます。初期の作品からお読み頂いてるとのことで、すごく嬉しいです。
これからも楽しんでもらえるように頑張りますので、どうぞよろしく!

>13 名無飼育さん
ありがとうございます(笑)

>14 名無飼育さん
遅くなって本当にすみません。必ず完結させますので…。

>15 名無しレンジャーさん
温かいレスを、どうもありがとうございます。ホントに嬉しくて、胸が一杯になりました。
この作品は必ず完結させますし、短編もまた書きたいなと思います。
なのでよろしければ、最後までお付き合いくださいね。

>17 18 名無飼育さん
お気遣いありがとうございます。
これからはなるべくお待たせしないように更新したいと思いますので、どうぞよろしくです。
29 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/26(月) 07:50
やったー!更新きてたー!!!
更新乙です。
あいぼん、心配だよあいぼん!

普段なら律儀なあいぼん、なんだかMっけのある麻琴
心配してるのかなんだか分からないよっすぃー、最高です。
次回更新、まったりとお待ちしております。
30 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/27(火) 23:38
すてっぷさんおかえり!
31 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/28(水) 00:16
すてっぷさん、待ってましたよ!
本当に嬉しいです!
32 名前:名無しレンジャー 投稿日:2007/03/02(金) 01:18
ほんとに良かった..

行けるところまで
付き合いますよ


おかえりなさい
すてっぷさん
33 名前:すてっぷ(作者) 投稿日:2008/01/12(土) 14:59
生存報告です。

レス頂いた皆様、お読み頂いている方々、本当に長いことお待たせしていてすみません。
必ず更新しますので、もうちょっとだけお付き合い頂けると嬉しいです。。
34 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/13(日) 00:07
すてっぷさんだあああよかったああああああああ!!!
どこまでも付いていきます!!!
35 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/01/15(火) 15:25
すてっぷさんktkr!!!
最高の気分だ!
36 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/17(水) 15:27
ずっと待ってます。
37 名前:名無し飼育さん 投稿日:2009/07/05(日) 19:58
久々に読んで爆笑。待ってます。
38 名前:名無飼育さん 投稿日:2018/06/30(土) 23:01
懐かしいなぁ
未完なのが悲しい

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