アッシュ
1 名前:室井蓉 投稿日:2006/08/21(月) 20:31
室井蓉と申します。
はじめて、スレたてさせていただきます。
基本は村斉と考えておりますが、どうなることやら。
よろしくお願いします。
2 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:32
「来るんじゃなかった・・・」

久しぶりに訪れた斉藤の部屋を見た村田は、心の中でつぶやいた。
3 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:35
斉藤の愛猫メルが、部屋のコードを引きちぎりまくって、大変になっている話は、ちょっと前から聞いていた。
それなりに困ってはいるんだろうけど、幸せそうに話す斉藤に心配はしてなかった。
だから、面白半分に大谷と「メルを叱りに行ってあげよう」と言ったのは、昨日のこと。
4 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:36
フットサルの練習がある柴田をのぞいて、他の3人、丸1日オフの今日、やってきたのはいいのだが、「ごめん、今起きたトコ」って大谷からメールが村田の元に届く。

ー困る、困るんだよ。

もう、斉藤の家の近くまで来ていた。
5 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:38
大谷が到着するまで、この辺をウロウロしてるのも、待っているのもおかしいし、まあ、なるようになるだろうと、インタホンを押したのはほんの5分前のこと。

通された部屋を見て、先程の己の楽天的な選択を呪うしかない。
6 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:39
以前の知っている斉藤の部屋は、整然としていて、それなりに家具やら雑誌やら多いものの、きちんと片づけられていた。

それがしかし、今はどうだ。メルがやったであろうコードだけでなく、雑誌は散乱し、飲みかけのマグカップやら、食べ終わった惣菜のパックがテーブルの上に置かれたままだ。
7 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:40
村田の知っている斉藤は、外で食べるとき以外は自分でごはんを作っていた。いや、それよりなにより、食べたものをそのままにしておくようなことは決してしなかった。
8 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:41
「ひどいでしょ・・・?」
すまなさそうに斉藤が言うから、
「ん、あぁ、いや、そうでも・・・。ちょっとは、びっくりしたけどねー。いやー、メルちゃん元気元気で、結構結構!」
自分でも何を言ってるんだかな、気分になりつつ、
「ん、これ」
と言ってケーキの包みを差し出す。
9 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:42
「あ、超うれしー。ここのチョコケーキ好きなんだ〜。ありがとう」
顔がほころんだのもつかの間、
「そうだ、紅茶切らしててなんにもないんだった」
「それなら、大谷くんに来る時、何か買ってきてもらうように頼もうか。大谷くん揃ってから、食べたほうがいいしね」
「そだね」
10 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:43
飲み物を何種類も常備していたかつての彼女のことを考えないようにして、「えっと、メルちゃんはどこかな」
と、捜すフリをしつつ、カーテンの隅にいて、こちらをうかがっているメルに視線を走らせる。
11 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:44
ケーキを冷蔵庫にしまい終わった斉藤が、メルに近づき抱き上げる。
「こんにちは、メルちゃん」
斉藤の腕の中から出ようとするメルに、村田は挨拶した。
そんなメルを斉藤は必死におさえつけながら、
「ほら、メル、『こんにちは』は?メル?ほら、村っちゃんですよ」
そしらぬ顔でそっぽを向き、メルは「ニャ」と一声鳴いて、斉藤からすり抜ける。
12 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:45
「もう、メル〜」
「いや〜、猫なんてそんなもんですよ」

ふと見ると、カーテンの近くに置いてあるテレビやDVDの裏側が目に入り、つないである線が、ぐちゃぐちゃにされている。
13 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:46
「それにしても、コードはこのままにしておくのは、さすがにヤバいですな」
「うん、そうなんだよね。でも、またすぐこうなるかと思うと、どうしたらいいいか分かんないよ」
「にゃるほど。じゃあ、まず、現場検証でもしますかな」
「適当に見て」
と、余り興味がなさそうに斉藤はテーブルを挟んで、テレビとは反対側に置いてあるソファに身を沈める。
14 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:47
「メグ」
引きちぎられて、導線がむき出しになっているコードを見るために背を向けてしゃがみこんでいる村田の背中に斉藤の声。
ドキンと心臓がひとつ鳴るのが、分かる。
それは、かつて斉藤にそう呼ばれていた村田の名前。
15 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:48
声がかすれるだろう予想したのと、返事をしたのは同時。

「な、なぁに?」
16 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:49
「あはは、村っちゃんのこと、呼んだんじゃないよ。メルを呼んだんだよ」
「な、なーんだ、そうか、てっきり私のこと呼んだのかと」
「村っちゃんのこと『メル』って呼ぶわけないじゃん」
「そうだよね」
「もしかして、『メグ』って聞こえちゃった?」
17 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:50
ゴクリとつばをのみこむ。その音がやけに村田の頭に大きく響く。
さっきは、後ろを向いていたから悟られなかっただろうが、今度は動揺しているのが、まるわかりだ。
答えないということは、肯定してるってことだから、うまく否定したほうがいいんだろうか。
18 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:51
ーえーっと。

「聞こえ・・・」

村田が言葉を発するのと同時に、斉藤もつぶやく。
「『メグ』か。懐かしいね」

そう言う斉藤の瞳が、みるみる潤み出し、とどまることを知らぬその液体は、あふれ、流れ、斉藤の頬を伝った。
19 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:52
「けっ・・、こん・・・」

ーえ?なんて言った?

うまく聞き取れなかった村田は、ティッシュを指し出す理由を自分で見付け、斉藤の近くへ座り直す。

「結婚したの」

「誰が・・・?」

聞いているそばから、「誰」か見当がつく自分がイヤになる。
20 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:53
2003年のクリスマス、約束はしてなかったけれど、村田は斉藤と一緒に過ごすつもりだった。
だけど、斉藤は幼なじみの地元の友人が東京へ出てきているというので、夕方あがりの仕事が終るやいなや、飛び出していってしまったのだ。
21 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:54
斉藤の親友が気をきかせてくれて、斉藤の昔からの想い人をわざわざ引っぱってきてくれたこと。
その親友の恋人と4人でクリスマスはWデートだったんだと気付くのにそう時間はかからなかった。
22 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:55
「埋め合わせしてよね〜」

後日、冗談ぽく迫ると

「メグ、ごめんね、やっぱりあの人の顔見たらダメだった」

ピンキーリングを光らせながら、謝る彼女を今までで一番美しいとさえ思った村田には引き止めるべき言葉はなかった。

そして、それが村田を「メグ」って斉藤が呼んだ最後だった。
23 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 20:58
「うまくいってたんじゃないの?」

少し涙が収まってきた斉藤に、そんなことを思い出した村田は聞いてみる。

「私もそう思ってた。でも考えてみたら、なにも約束してなかったんだよね」

「それでもさー!」

語気が荒くなる。そんな村田にちょっとホッとしたのか、斉藤が続ける。
24 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 21:00
「去年は仕事とフットサルで目が回るくらい忙しかったじゃない?週末は必ず仕事だったし。
でも、今年はガッタスも区切りがついたし、なんとなーく時間もあるから、去年ほとんど会えなかった分まで会えるかなと思ってたわけ。
そしたらさー、友だちからメール来てさー、『結婚するって、あんた知ってんのー!?』だって。
知らないつーの。しかも、相手は私も知ってる高校の後輩」

「・・・・」

「ひどいよね、付き合ってると思ってたのは、私だけだったのかな・・・、って思ったらさ」

「ひとみんは意思表示したの?」

髪を撫でてやると、再び涙が頬を伝う。
25 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 21:06
「してた・・・、と思う」
「どうやって?」
「一緒にいたりとか・・・」

「いなかったじゃん」

ー意地悪だ、私。

「ゲームボーイしてる横にいたもん」

「それは、小学生のときの話でしょう〜」

「そう・・・、だよね」

「あのね、ひとみん、好きなら好きって言わなきゃダメだよ。一緒にいたかったら、いてほしいって言わなきゃ」

下を向いている斉藤の頭を両手でつかんで、強く撫でる村田。
それは、3年前に言えなかった村田自身の話。
26 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 21:07
「ミャー」

泣いている斉藤の足元にメルがすり寄ってきた。

「ほら、メルちゃんだって、心配してるよ」
27 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 21:08
メルに視線を走らせ

「そう、なのかな。メル、心配してくれてるの?」

「ニャ」

小さく鳴いて、そのまま斉藤の足先に乗っかるように座る。
28 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 21:09
「村っちゃん」

「ん?」

「あのね、夜、一人で部屋にいるのが、たえられなくなってさ、メル飼うことにしたんだけど、気付いたらメルなしでは生きていけないくらいになっちゃったんだよね。メルも私なしでは生きていけないのかなあ」

「ひとみん・・・」

焦点が定まっていないぼんやりした目で、メルを見つめる斉藤。
29 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 21:11
「メル・・・、大好き」
「いいね、メルちゃん相手だと素直に言えるんだね。それにしても、はじめてかもね、素直に色んな話をしてくれるひとみんって。メルちゃんのおかげです」

深々とメルに頭を下げる村田を見て、涙のあとが残る頬をくしゃっと歪めながら、斉藤が笑う。

「なんでだろうね。ねえ、メルがいる素直ついでに聞いてもいい?」

「なに?」
30 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 21:12
「村っちゃん、恋人いるの?」

「いるよ」

「やっぱり。やけにうれしそうにメール打ってるなあーって思ってたんだよね〜。時々心配そうにでんわしたりもしてるでしょ」

ー見てたのか。

「あはは」

「どんな人?」

「えーっと・・・」
31 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 21:14
「ちゃんと好きって言ってくれる?」

「いつもじゃないけど、言ってほしいときには、言ってくれる、かな」

「いいじゃん」

「うん」
32 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 21:15
村田の返事を聞いた斉藤の顔に生気が戻る。そして、思い出したように
「ねえ、マサ、遅くない?」

「ホントだねえ、電話してみよっか」

村田はカバンから携帯を取り出し、コールすることしばし。

ーあ、出た!

「もしもし、大谷くん!?え!また寝てた!?いいかげんにしなさい。すみやかに起床し、飲み物を買って、ひとみんちに急行せよ!」

ブチッと携帯を切った途端、斉藤と目が合った。

「あはははははは」

二人の笑い声が部屋に響く。
驚いたメルが、ソファのうしろに逃げていってしまう。
33 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 21:17
ー大谷くんが到着する頃には、涙のあとも消えるだろう。

ー心の傷は、メルが消してくれるだろう。

ー時間は進んでいく、私たちもそれぞれに進んでいく、これまでも、そして、これからも。

「来て、よかったかな」

「え、なんか言った?村っちゃん」

「いえいえ、単なる独り言です」
34 名前:mel 投稿日:2006/08/21(月) 21:18
終わり。
35 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/21(木) 03:18
リアリティがあるお話ですね
メロンってなんだか大人だなぁ
他のカップリング(?)も見てみたいです
よろしければまた書いて下さい
36 名前:室井蓉 投稿日:2006/09/23(土) 09:17
コメントありがとうございます。
とてもとてもうれしいです。
カップリングはどうなるか自分でも分かりませんが、
まだまだ書きたい話があるので、近々書きます。
その時はまた読んでいただけるとうれしいです。
37 名前:monochrome 投稿日:2006/10/02(月) 20:43
ー 早く終んないかな〜。

今日は一人で図書委員当番の日。
学校の図書貸し出しのお世話をするだけなんだけど。

体育祭も学祭も終って(ついでにアタシの誕生日も終って)、気の抜けたこんな時期、放課後になんかほとんど誰も来ないわけですよ。
しかも校舎はL字型の3階建てなのに、図書室だけなぜかとってつけたように、って建て増しでホントにつけたらしいんだけど、4階にあるんだよね〜。
L字型の角にぽっこり図書室。
隣に展望室もあるくらいだから、眺めがいいのはいいんだけどさー、見飽きた田んぼばっかだから、もういい、ってかんじだし。
4階までわざわざあがってくるのも、だるいから、誰も来ない、つーの。
まあ、何人かは来るから、いなきゃいけないんだけどさ。
38 名前:monochrome 投稿日:2006/10/02(月) 20:51
11月に入った途端、冷えも厳しくなってくるような気がして、図書カウンターの中に一人で座っていると、余計に寒い。
12月に入ると、コートもOKだし、暖房も入るんだけどなー。
そう思うと、やっぱりこの時期が1番寒いかも。

3年生の図書委員が10月いっぱいで担当から外れたおかげで、図書当番の日が増える上に、こうやって一人当番の日も多くなるんだろうな〜。

まだ、5時10分前だけど、閉める準備してもいいよね?
さっきまで、2、3人いたようだけど、もう誰もいないみたいだし。
今日は帰りにクラスメイトのマサとカラオケ行く約束もしてるから、早く閉めちゃえ〜。
39 名前:monochrome 投稿日:2006/10/02(月) 21:40
思い切ってカウンターの外に出て、一番奥の窓のカギからチェックしようとズンズン歩いていくと、天井近くまである本棚と本棚の間に人がいた。
図書室だから、本棚と本棚の間に人がいて当たり前なんだけど・・・。

ひぇ〜、キスしてる〜。

つうか、ここ女子校なんですけど。
そんでもって、二人とも制服でスカートなんですけど。

ありえないんですけど。

凍りついて立ち尽くしているアタシに気がついた二人のうち一人は、すぐ反対側に走って行って、図書室から出ていってしまった。

うっ、あれって、うちのクラスの木村さんじゃん・・・。

そして、残されたもう一人は涼しい顔してこちらを見てる。
見られた人より、見た人の方が動揺してるって、どうなの?どうなの?
40 名前:monochrome 投稿日:2006/10/02(月) 21:47
「ひと声かけて下さいよ。恥ずかしいじゃないですか」

いや、お前絶対、恥ずかしくないから。
恥ずかしいのアタシの方だから。

あわあわしてるアタシを見て、口元だけでニヤッと笑ったその人は、

「これ貸りるね、図書委員の斉藤瞳ちゃん」

と言って、自分の横にある本をタイトルも見ないで1冊つかみ、カウンターの方へスタスタ歩き出した。
あわてて追いかけたアタシは、カウンターの前で待ってるその人の横を通り抜けて、中へ入る。

「なんで、アタシの名前知ってんですか?」

その人は、自分の胸ポケットを指して、またニヤッと笑う。
41 名前:monochrome 投稿日:2006/10/02(月) 21:57
「あ!」

そうだ、図書当番はネームプレートを胸に付けてるんだった。
時々忘れて、家まで付けて帰って、妹に大笑いされる。

「そうそう。そこに書いてあったから、読んだだけ」

「ですよねー」

とっさに言葉が丁寧になったのは、今その人が自身に指した胸ポケットに校章を象った紺色のバッジ、つまり3年生をあらわすバッジをつけていたから。
特に上下関係が厳しい学校じゃないけど、なんとなくね。

「この紙にクラスと名前お願いします」
42 名前:monochrome 投稿日:2006/10/02(月) 22:13
その人はサラサラっと書き上げて、紙を上下ひっくり返して渡してくれた。

【3ーD 村田めぐみ】

村田さんかー。
っていうか、D組!
頭いいんだ〜。

うちの学校は3年生になると、A組国立理系、B組国立文系、C組私立理系、D組私立文系、E組中堅私大・・・以下略みたいに、ハッキリ割りふられている。
1、2年もそこまでは、分けられているわけじゃないんだけど、J組の私からすると、同じ学年でもD組の人なんて、何話したらいいんだろってかんじ。

「なんか、めずらしいこと書いてある?」

貸出し用紙を握りしめてたアタシは、ハッと我にかえる。

「すっ、すいません。ちょっと、ぼーっとしてました。えーっと、えーっと貸出し期間は2週間、返却はこのカウンターまでお願いします」

「ありがとね」
43 名前:monochrome 投稿日:2006/10/03(火) 22:46
その時、図書室のドアが開いて

「遅いよ、ひとみん!」

マサが入って来た。
私以外に人がいるとは思ってなかったようで、ちょっと驚いた顔してる。

「じゃ」

軽く顔を傾けて、そうアタシに言うと村田さんは帰りかける。
マサの横を通る時にも、村田さんは簡単に頭を下げる。
慌ててマサもおじぎをする。

それにしても、少し離れて見ると村田さんって細いな〜。
制服の中を身体が泳いでいるみたい。
44 名前:monochrome 投稿日:2006/10/03(火) 22:51
村田さんがいなくなると、マサが急に近寄って来て、

「なんかされなかった?」

ってマジな顔して聞くから笑っちゃった。

「なんかって、なにされんのよ〜」

「ひとみん、村田先輩のこと知らないの?」

「うん、全然!マサよく名前知ってんねぇ。アタシ今はじめて知ったよ」

「マジ?」

「マジ」

「ということは、『断らない村田先輩』っていうのも知らないんだ?」

45 名前:monochrome 投稿日:2006/10/03(火) 23:02
「ええ〜、何それ〜。知らない、知らない、全然知らない。っていうかさ、ここ女子高だよ。断るとか、断らないとか、ありえなくなくな〜い?」

「いや、女子高だからあるんだよ」

「やだやだやだやだ、そんなの絶対ヤダ。だって気持ち悪いじゃん」

「そこまで言わなくても・・・。まあ、ひとみんがなんともなかったんならいいから、いいよ。はやくカラオケ、行こっ」

頭の中にいっぱいのクエッションマークがつきながら、アタシはマサに引っぱられるようにして、カラオケに行った。

思い出したいわけじゃないのに、村田さんの笑った口元や、紙を渡された時のキレイな指先、後ろ姿、そしてなにより本棚の間でしてたこと・・・が頭にはっきり浮かんでくる。
それを消したいかのように、たくさんたくさん大きな声で歌って、振り払った。

46 名前:室井蓉 投稿日:2006/10/03(火) 23:05
今回の更新はここまでにさせていただきます。
47 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/03(火) 23:42
面白いですね!
このカプは珍しいので、読めて嬉しいです。
続き待っています。

48 名前:室井蓉 投稿日:2006/10/04(水) 21:00
おもしろいと書いていただいて、とてもうれしいです。
そして、ありがとうございます。
やはり、このCPめずらしいですよね(苦笑)。
でもでも大好きなんですこの二人!
まだまだこの話は続きますので、気長にお付き合いいただけたらと思います。
49 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/05(日) 19:25
こんなところに村斉が!(笑)
このCP大好きなんで楽しみです。
50 名前:室井蓉 投稿日:2006/11/06(月) 22:43
コメントありがとうございます。
うれしいです。
いいですよね〜この二人。
51 名前:monochrome 投稿日:2006/11/26(日) 22:07
翌週早々に次の図書当番がまわってきた。

その日はもともとアタシの入ってる吹奏楽部の練習日にあたってるので、堂々と部活をサボれちゃったりするこんな日の図書当番が好きだったりする。
もちろん部活は好きなんだけど、学祭も終わって、3年生も引退したし、行ってもなんとなくダラダラしちゃう部活が、月・水・金の週3回もあるのは、正直ダルい。
本当は、最上級生になったアタシたちが引っぱっていかなきゃなんないんだけど、まだまだ無理って言うか、なんかイベントがないと練習する気もおきないってっていうか。

52 名前:monochrome 投稿日:2006/11/26(日) 22:16
図書当番の方は、今日は1年生とだから、先に行ってカギあけてくれるみたいだし、アタシはゆっくり行ってもいいよね・・・と思いつつ、この前あんなことがあったから、行きたいような、行きたくないような・・・。

って、なんでアタシそんなこと考えるんだ!?
なんでアタシ、緊張なんかしてるんだ!?
おいっ、おかしいだろアタシ!?

アタシはあの人とは何のつながりもないんだから。
たまたま見ちゃっただけで、なんもないんだから。

でも、いたら、どんな顔したらいいんだよ〜。

ええ〜いっ!もうなるようになれー!って勢いつけて階段をのぼりきって扉をあけると、1番奥の窓際の閲覧用イスにこしかけた村田さんがいた。
カウンターにアタシが入って座ると、遠いけどちょうど村田さんと一直線になる。
53 名前:monochrome 投稿日:2006/11/26(日) 22:25
なぜ、ドキドキするアタシ!?
なぜ、ボールペンを持つ手が震えるんだ!?

気付かれないように、ちらちら村田さんを見ると、村田さんは読んでる本から時折顔をあげて、窓の外を見てはまた視線を落としていた。
こちらには全く気付く様子もないので、だんだんと村田さんを見てる時間も長くなってくる。

前髪が時々落ちるのをすくう手の動きがなんだか大人っぽいなあ。

「斉藤さん、何見てるんですか」

1年の子に言われて、ドキリとする。
「あ、いや、いや・・・」なんて慌てたら、村田さんが突然こちらに向かって歩いてくるから、村田さんを見ていいもんだか、目をそらすべきなんだか、あわあわ
してる間に、間違いなく目があった。
54 名前:monochrome 投稿日:2006/11/26(日) 22:33
こんな時はなんて言うんだ?なんて言うんだ?やっぱ、「こんにちは」か???

「こっ、こ、こんに・・・」

テンパってるアタシを視界に確実にとらえてるはずなのに、村田さんの視線はそのまま何もなかったかのように、はずされる。
そして、扉をあけて、図書室から出ていってしまった。

シカトかよー!!

それとも、アタシのことなんて覚えてないってこと!?

別に村田さんのことなんてどうでもよかったはずなのに、こんなことになったらなったで、ヘコんでるよアタシ。

「あ、どうも」とか「この前の人だね」とかあるんじゃねえのか。

なんかショックだよ〜。
55 名前:室井蓉 投稿日:2006/11/26(日) 22:35
本日の更新はここまでにさせていただきます。
56 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/09(土) 17:32
楽しみに待ってます!
57 名前:室井蓉 投稿日:2006/12/11(月) 21:59
ありがとうございます。
励みになります。
58 名前:室井蓉 投稿日:2006/12/11(月) 22:00
すぐに次の更新をするつもりで「本日の更新」と書いたのですが、気がつけば2週間以上も放置してしまいました。
更新します。
59 名前:monochrome 投稿日:2006/12/11(月) 22:09
時間になって、図書室から出る時の足どりは、入ってきた時には予想もしなかったほど重かった。

次もその次の当番のときも、村田さんは図書室にいた。
決まって奥の窓際の席。
窓の外を時々ぼんやり眺めながら、読書。

最初の時と違って、アタシもドキドキすることなく村田さんを見る。
村田さんにとって、アタシは知らない人だからとか思うと、反対に気がラクに見れるような気がした。
学校の有名人だから見ちゃう、みたいな、そんなかんじかな。
60 名前:monochrome 投稿日:2006/12/11(月) 22:18
11月も半ばを過ぎた、ある日のこと。
めずらしく返却されてきた本が多くて、事務作業に追われていた。

ある程度本がたまると、今度は本棚に戻しに行く。
仕事が少ない時は、退屈しのぎにいいけど、忙しい時はめんどくさい。

本をたくさんかかえて、本棚に戻していると、アタシの前にまわって覗き込んでくる人がいた。

えっ、ちょっと、なに、なに、なに?
邪魔なんですけど。

その人は、ひょっこり顔をあげると

「やっぱり、瞳ちゃんだ!」

む、む、む、む、村田さーん!?
しかも、顔、顔、顔、顔近いんですけど。
近すぎるんですけど・・・。

突然のことにびっくりしたアタシは、持ってた本を全部取り落としてしまっていた。
61 名前:monochrome 投稿日:2006/12/11(月) 22:29
「ごめんねー、驚かせちゃったねー。ごめんごめん」

そう言いながら村田さんは、アタシが取り落とした本を全部拾ってくれた。

「ありがとうございます」

「え、あ、いや。いえいえ。なんかさー、悪いことしちゃったねー」

ちょっと申し訳なさそうに言う村田さんが、ちっちゃくなったみたいで、それがかわいくて、アタシは本をかかえたまま、見てしまう。

「結構、重そうだね。これ全部本棚に戻すの?」

「あ、はい」

「手伝おっか」

「いえ、そんな、いいです、いいです、全然いいですから」

「まあ、まあ、そんなこと言わず。こう見えてもあたくし、この図書室には詳しいんですよ」

そう言って村田さんは、アタシの手の中から1冊つかんで、本棚に戻した。
しかも、場所は正確。
62 名前:monochrome 投稿日:2006/12/11(月) 22:44
「ありがとうございました。おかげで助かりました」

最後の1冊を戻し終えた本棚の前でお礼を言うと、村田さんはニコニコしてる。
この前シカトした人と、同じ人とはとてもじゃないけど思えない。

「ほんと、図書室の本がどこにあるのか、よくご存知ですよね」

本を戻す手際の良さは、図書委員のアタシが全然、足元にも及ばないほどだったので、感心して言ってしまう。

「ああ、ん。よく来るからね〜」

「たしかにいつもいらしてますよね。そういえば、窓の外もよく見てます、よ、ね?」

「ああ、よく知ってんね。景色見るの好きなのよ」

「そうなんですか」

と言ったきり、間が持たなくなったかんじがして、思い切って聞いてみた。

「あのう、先週の木曜日、図書室いらしてましたよね」

「多分、来てたと思うけど」

不思議そうな顔して答える村田さん。
63 名前:室井蓉 投稿日:2006/12/11(月) 22:47
本日の更新はここまでにさせていただきます。
64 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/17(日) 16:24
ニヤニヤしながら待ちたいと思います(ぇ
65 名前:室井蓉 投稿日:2007/01/07(日) 21:42
ニヤニヤして待っていただいて恐縮です。
ありがとうございます。
66 名前:室井蓉 投稿日:2007/01/07(日) 21:45
更新しなければと思いつつ、年を越してしまいました。
こんなに更新できないものとは、予想外の遅筆っぷりで自分でもイヤになりますが、更新します。
67 名前:monochrome 投稿日:2007/01/07(日) 21:48
「アタシ受付にいたんです。その前を通って・・・」

「あ!」

村田さんは、なにか思い出したように、顔がぱっと変わって続けた。

「それは、コンタクト忘れた日だね〜、きっと」
68 名前:monochrome 投稿日:2007/01/07(日) 21:53
「え!?メガネかけてらっしゃいます、よ、ね」

「あー、これ?これね、レンズ入ってないの」

そう言って村田さんは、両方の人差し指をそれぞれのメガネのふちの中に差し入れて見せてくれた。

ひ〜、そんな人はじめて見たよ。
っていうか、なんのために???
なんか村田さんって、すごいかも。

アタシもコンタクトだけど、コンタクトしてわざわざメガネかけるって、分かんないよ。
っていうか、コンタクトする意味あんのかってことだよねー。
69 名前:monochrome 投稿日:2007/01/07(日) 22:00
「あのう、邪魔じゃないですか」

「慣れたね〜。今じゃないと落ち着かないかも」

ひー、やっぱり変だよ、村田さん。
話が終わっちゃったよ。
そして、また妙な沈黙が訪れたような気が・・・。
なんか、話、話。

「あの、村田、せっ、せん、先輩・・・」

「先輩いらないよ」

口元が少しあがる微笑みとともにこたえる村田さん。
そんな村田さんを見てると、頭がぼんやりするような気がする。
これが、好きだって気持ちに気付くのはもう少し後になるんだけど、その時のアタシの頭はぼんやりしていたと思う。
70 名前:monochrome 投稿日:2007/01/07(日) 22:06
「じゃあ、村田さん」

「はい、なんでしょう」

「あのー、木村さんと付き合っているんですか」

うわー、何聞いているんだアタシ!!!
話題がないからって、頭がぼーっとしてるからって、これはないだろ、これは!

「木村さん?」

「そう、木村さんです」

「誰ですか、それ?」

「は!?いや、あの、だから木村さん。2年J組の木村さんですってば」

「ごめんなさい。全然分かんないです。だいたい、私付き合っている人いないですから」

「え、ここでいたじゃないですか」

アタシ幻見てたのか???
村田さんにふざけているかんじは全くない。
むしろ真剣に考えている様子だ。
71 名前:monochrome 投稿日:2007/01/07(日) 22:13
そんな村田さんの眉がぴくっと動いたなと思ったら、

「あ!あの人木村さんっていうんですね」

はああああー!?
突然何を言い出すんだよ、この人は。

「名前も知らない人と、あんなことするんですかー!!!」

図書室なのに思わず叫んでしまったアタシは、図書室にいる人にジロジロ見られてしまった。
恥ずかしい。
恥ずかしいけど、それよりなにより、村田さんって人が分からない。

だいたい、だいたいなんなのよ、名前も知らない人となんであんなことができるのよ。
ああいうことは、お互いが好きだってことを確認してさぁ、いろんなことを知って、いっぱい話してからすることなんじゃないのぉ。
72 名前:室井蓉 投稿日:2007/01/07(日) 22:15
少ないですが、本日の更新はここまでにさせていただきます。
73 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/10(水) 06:28
純だね、ひとちゃんw
74 名前:室井蓉 投稿日:2007/01/15(月) 10:18
純なんです、ひとちゃんw
75 名前:室井蓉 投稿日:2007/01/15(月) 10:19
更新します。
76 名前:monochrome 投稿日:2007/01/15(月) 10:24
ぽつりと村田さんが口を開く。

「頼まれたんです」

また、アタシの分からないことを言ってきたよ〜、この人は。

「頼まれたら、するんですか」

今度は小声で言った。
だけど、感情がおさえられない。

「なんで、そんなことできるんですか」

「その勇気に敬意を表して、かな」

ユ・ウ・キ・・・・?  ケ・イ・イ???
77 名前:monochrome 投稿日:2007/01/15(月) 10:29
「ますます、分かんないです。好きでもないのに失礼じゃないですか」

「愛おしいと思うよ」

「それって、なんか違うと思います」

「分かった。瞳ちゃんに頼まれたら、しないから」

「頼みませんから!」

「そりゃ、残念」

残念???
残念!?
なんなのよ、それは。
なんなの、村田さんって!?

それだけ言うと村田さんは「じゃ、またね」と言いながら、手をひらひらさせて図書室をあとにした。
78 名前:室井蓉 投稿日:2007/01/15(月) 10:32
すいません、ほんと〜に少ないんですけど、今回の更新はここまでです。
少しずつでもなるべく更新していくようにしますので、これからもよろしくお願いします。
79 名前:室井蓉 投稿日:2007/01/15(月) 10:45
今ごろ気付きました。
62 の「先週の木曜日」は「先週の月曜日」の誤りです。
大事な部分を間違えてしまいました。
みなさまの頭の中で訂正していただけると大変ありがたいです。
翌週早々でも、吹奏楽部の練習日でも全然ないのに、木曜とか書いてしまって・・・・、すぐ気付くべきなのに申し訳ないです。
80 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/18(日) 02:37
稀少な斉村コンビで今の斉藤さんを好きでいてくれるのが手に取るようにわかってニヤニヤが止まりません。
続き待ってます。
81 名前:室井蓉 投稿日:2007/02/19(月) 21:07
ありがとうございます。
お見通しなかんじで、うれしいです。
これからもよろしくお願いします。
82 名前:室井蓉 投稿日:2007/02/19(月) 21:08
更新します。
83 名前:monochrome 投稿日:2007/02/19(月) 21:13
「自販行くけど、なんかいる?」

お昼休みの教室。
食べ終わったお弁当箱を包むハンカチをキュっと結ぶと、マサは立ち上がって言った。

「んー、いいや」

そう言ったものの

「アタシも行く」

マサが出て行こうとするのを追いかける。
84 名前:monochrome 投稿日:2007/02/19(月) 21:22
「あれ?めずらしいね。寒くなると教室から出ないひとみんが」

廊下に出てすぐにアタシに気がついたマサは、両方の眉を少しあげて迎えてくれる。

「たまには、アタシだって行くわよー」

自販はL字型校舎の曲がり角部分に、はりつくように建っている、購買部プレハブの横にある。
はりつくように建っているものの、いったんは外に出なきゃいけないので、寒い日とか雨の日には、超不人気。

廊下に出ただけで寒いので、マサの腕に身体をからめて暖をとる。
少し歩くと、マサが立ち止まる。

「ひとみん、なんかあった?」

「ううん」

マサの腕をぎゅっとつかんで、肩口に顔をあててこたえる。
85 名前:monochrome 投稿日:2007/02/19(月) 21:29
「ふーん」

また歩き出すマサ。

「ね、マサ」

「ん?」

「頼まれたら、キスできる?」

痛っ。。。
急にマサが立ち止まるから、肩の骨にぶつかっちゃったよ。

「ホントになんにもなかったわけじゃ、ない、よ、ね」

マサがゆっくり聞くから

「ううん、なんもない」

また顔をこすりつけてこたえる。

「なんにもないのに、そんなこと聞く?」

「聞く。ん、やっぱもういい、早く行こっ」

マサの腕を押すようにして、ズンズン進む。
マサもそれ以上聞かなくて、「ひとみんはココアだっけ」と言いながら自販機の前に立つ。
86 名前:monochrome 投稿日:2007/02/19(月) 22:34
購買部の両脇にひとつづつジュースの自販機があって、向かって左側は紙コップが出てきて、注がれるタイプ。
右はパックのタイプ。
で、左の自販機でココアのボタンを押す。

コトンとコップが落ちてきて、サァーっとココアが注がれる音が聞こえる。
出来上がりを教えてくれる、矢印がなかなか進まないようにいつも思う。

はやく、入れよー!みたいな。

やっと3つ目の矢印にもランプがついて、できあがり。

「熱っ、つっつっつっ」

マサの腕から離れて、とったカップはめちゃくちゃ熱くて、何回も握り直しちゃう。

「あはははは」

笑って見てるマサ。
87 名前:monochrome 投稿日:2007/02/19(月) 22:40
「マサは何飲むの?今日もアセロラ?」

「うん、よく分かったね。さすがひとみんだ」

と、言いながら右に移動。

「よくこんな寒いのに、こんな冷たいもの飲むよね」

「寒い時こそ、冷たいものを!って言うでしょ」

アセロラのボタンを押しながら、マサがそんなことを言うから

「それってさあ、暑い時だけなんじゃねえのか」

と、アタシなりにツッコンでみると、間髪入れずに

「大谷家の格言なんです!」

「え、ホントに!?」

「うそ」

やられた〜。

「なんだそりゃ」

と、アタシはあきれ顔を装いつつも、こんなことをすぐ言えるマサってすごいなーと、実は感心してしまう。
88 名前:monochrome 投稿日:2007/02/19(月) 22:46
「あのさ、ひとみん」

「ん?」

また廊下を引き返している時に、マサが少し改まった口で聞く。

「さっきの話さ・・・、ひょっとして、村田先輩のことじゃないの」

「・・・・」

「違ったらいいんだ、ごめん」

「なんで分かるの」

帰りはアタシがココアのコップを持っているから、腕は組んでなかったけど、その分顔がよく見えて、アタシは目をそらしてしまった。

「なんとなく、ね。最近ひとみんの様子おかしいし、図書当番の日でも文句言わなくなったし・・・」

さすがマサだ。
自分では、全然気付かなかったけど。
89 名前:monochrome 投稿日:2007/02/19(月) 22:52
「・・・・」

「村田先輩に頼まれた、とか!?」

「違う、違う!」

考えてもなかったことをマサに言われて、びっくりしてしまった。
違うからマサ!!!

「まさか、頼んだの!?」

「絶対、違うからー!!!」

肩で息する程に答えちゃうよ。
なんで、マサってば次から次へととんでもないこと言い出すのかな。

「じゃあ、誰の話?」

「うーん、うまく説明できないんだけどさ、なんか気になって。マサならどうなんだろうって」

「ふーん。で、ひとみんならどうなの」

「できないよー」

「やっぱりね」
90 名前:室井蓉 投稿日:2007/02/19(月) 22:55
今日の更新はここまでにさせていただきます。
91 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/20(火) 16:21
脇役が生きてるのはいい話の証拠。ここのマサヲ君好きです。
ゆっくりジックリ書いて下さいな。そのつもりで待ってますから。
92 名前:室井蓉 投稿日:2007/02/22(木) 22:29
数々の暖かいコメントありがとうございます。
励みになります。
93 名前:室井蓉 投稿日:2007/02/22(木) 22:30
更新します。
94 名前:monochrome 投稿日:2007/02/22(木) 22:37
「マサは?」

「場合によるかもね」

「どんな場合?」

身近にもおんなじ考えの人がいたんだと思うと、ちょっとびっくりだけど、なんでなのか知りたいと思った。

「そんなの今、分かんないけど、さ」

「ね、『勇気に敬意を表して』っていうのはアリだと思う?」

「うーん、アリなんじゃないの。場合によっては」

「また『場合』だね」

「うん。それって、村田先輩が言ったの?」

アタシはココアを両手に握りしめたまま、うなずく。



95 名前:monochrome 投稿日:2007/02/22(木) 22:42
「そっか。で、そんな村田先輩のことが気になるの?」

「気になるっていうかさー、そういうんじゃないんだけど、おかしなこと言うなーとか思ってさ」

「そういうの気になるって、言うんじゃない?」

「違うってば」

「もう好きになっちゃったとか!?」

「ありえませんから!!」

マサってば何を言いだすんだか。

「そうだよね、この前、気持ち悪いとか言ってたもんね」

「そう!そうだよー」

言いながら、アタシそんなこと言ってたんだっけなあと、思い出した。
どういうことだ。
96 名前:monochrome 投稿日:2007/02/22(木) 22:50
「よかった〜、トンビにアブラアゲかと思っちゃったよ」

「トンビ!?なんだそりゃ」

「なんでも、ない!ない!」

「アブラアゲは、ばあちゃんちに行くと、出てくるぞ!」

マサは、目を丸くして、アタシの顔をじーっと見たかと思うと、ゲハゲハ笑ってアセロラのパックを落としそうになってる。

「なんだよ、マサー」

「なんでもないから」

「なんでもないのに、そんなに笑うー!?」

「まあ、まあ」

笑いすぎて、目のハシに涙を浮かべて、言われてもねー。

「おっと、予鈴だ!」

教室の前まで来て、ずっとしゃべってたアタシたちは、マサのその声と同時に、急いで飲み終えて、教室へ入った。
97 名前:室井蓉 投稿日:2007/02/22(木) 22:51
本日の更新はここまでにさせていただきます。
98 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 21:09
お、これはいい意味で予想外でした。
99 名前:室井蓉 投稿日:2007/02/25(日) 21:35
レスありがとうございます。
どの辺でしょう。またよろしければお教えください。
(もしかして、更新が早かったところとか???w)
100 名前:室井蓉 投稿日:2007/02/25(日) 21:36
更新します。
101 名前:monochrome 投稿日:2007/02/25(日) 21:47
マサとそんな話をした日の放課後、アタシは部活のために音楽室へ行く。
今日は金曜日だから、中等部の子たちがやってくる日。
その子たちに教えなきゃいけないから、サボるわけにはいかない。

3階の端にある音楽室に入っていくと、すでに中等部の子たちが来ていた。

「こんにちは。よろしくお願いしまーす」

立ち上がってあいさつする中等部の子たちは、かわいい。
制服は高等部と基本的に変わんないだけど、胸元にエンジ色の棒タイがある。
中等部の時は、それが子供っぽくてやだなーとか思ったりもしたけど、今、中等部の子たちを見ると、それがあるだけでかわいくって、アタシももっとちゃんと締めとくんだったなとか思っちゃう。
102 名前:monochrome 投稿日:2007/02/25(日) 21:54
「ごめんね、すぐ来たつもりだったんだけどね」

「いえ、私たちも今来たところですから」

そういえば、他の高等部の部員は来てないや。
隣りの第2音楽室からはすでに、弦楽器の音が聞こえてくるというのに、我が管楽器チームは・・・。

「それにしても、いい天気だねえ。こんな日に部活なんてねえ」

中等部の子たちは、あいまいに笑ってる。

「カーテンあけよ、あけよ!」

さすがに厚手の黒いカーテンは、かかっていなかったけど、白地の薄いカーテンもあけた方が気持ちよさそうなので、シャーッと思いっきりあける。

あれ!?こっから、図書室よく見えるんだ。
知らなかったな。
103 名前:monochrome 投稿日:2007/02/25(日) 21:59
あの窓のところにいるの村田さんだよね。
ほんとに外見るの好きなんだ。

ドキリと心臓がひとつ打つ。

ーもう、好きになっちゃとか。

マサが変なこと言うからだよ。
心臓が鳴ったのは、ビックリしただけ。
104 名前:monochrome 投稿日:2007/02/25(日) 22:11
でも、この前キツいこと言っちゃったよね。
悪かったかな。
アタシがあんなに言うことないよね、だって別に「関係ない」しね。

よし!いろいろ考えるのやめた!

窓をあけると、身を乗り出して村田さんに手をブンブン振ってみた。
あれ!?気がつかないかな。

お!気がついた。
あ、振り返してる、振り返してる。

手の振り方、小キザミだよ、村田さん。

「何してんの、瞳ちゃん」

私が来た時には、まだ来てなかった中等部のあゆみが、窓にひょっこり顔を出す。
105 名前:monochrome 投稿日:2007/02/25(日) 22:17
「お!あゆみ。あそこに知ってる人がいるからさ、手を振ってたの」

「ふうん」

村田さんがちょっとよろけるようなかんじを見せたけど、また手を振ってくれる。
なんか、やめるタイミングなくしちゃったな。

「瞳ちゃん、あの人、誰?」

「村田さんのこと?」

「あの人が」

「知ってんの?」

「あ、うん。うちのクラスにも騒いでる人たちがいるから」

ホントに村田さんって、有名人なんだな。
ついこの間まで、知らなかったのって、アタシだけなんだなきっと。
106 名前:monochrome 投稿日:2007/02/25(日) 22:22
「あゆみも、手ぇ振る?」

「いい」

「ちょっとー、窓しめてよ〜。寒い〜。さっさと練習はじめるよ〜」

いつの間にか、高等部の部員たちが来ていた。

「はーい」

私たちは、慌てて窓をしめると、みんなに合流した。

あ!村田さんに、最後なんの合図もなしだったと、気がついたのは、フルートをとり出して、楽譜もスタンバイして、一息ついたあとだった。
107 名前:室井蓉 投稿日:2007/02/25(日) 22:26
本日の更新はここまでにさせていただきます。
108 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/25(日) 23:36
斉藤さん天然過ぎますw

>予想外
マサ君のひと言ですw
もちろん更新来てたのも嬉しかったです!
109 名前:室井蓉 投稿日:2007/03/03(土) 12:38
レスありがとうございます。
質問にも答えていただいて、ありがとうございます。
>マサ君のひと言ですw
なるほど。
自分の中では全部出来上がっているので、分からないものですねえw
110 名前:室井蓉 投稿日:2007/03/03(土) 12:39
更新します。
111 名前:monochrome 投稿日:2007/03/03(土) 12:46
「瞳ちゃん、吹奏楽部だったんだね」

翌週、図書カウンターで図書日誌を書いていると、頭の上から声がふってきた。
声の主は村田さん。
コートを小脇にかかえながら、ニコニコしてる。

「あ、はい。あ、あの、この前はすいませんでした」

「この前?何?」

「えっと・・・、手ぇ振ってたのに、急にいなくなって・・・、すいません。練習に呼ばれたんで、あわてたら・・・」

「あ、そっちの方か」

「え、そっちって。あ・・・」

「あ、ごめん」

「いや、あの。ごめんなさい。この前は言い過ぎました」

「うー。こっちこそ、ごめんね。なんか変なこと言っちゃって。反省してます」

二人で少し見つめ合って沈黙してしまう。
そして、二人でクスクス笑った。
112 名前:monochrome 投稿日:2007/03/03(土) 12:59
12月に入り、明日から期末テスト1週間前ってやつに突入。
部活も自粛、図書室もお休みに入る。
テスト前でも、どうしても賃りたい本があるときだけ、先生に言ったら賃りれるけど。

そんな日だから、図書室には誰もいなかった。
当番もアタシだけ。

「今日はヒマそうだねー」

「そうなんですよー」

「瞳ちゃんが、吹奏楽部だとは思わなかったよ」

「言ってませんでしたものね」

「図書委員が部活かと思ってた」

「これはどっちかっていうと、おしつけられたっていうかー」

「そうなの!?その割には似合ってると思うけど」

「そんなこと言っても、なにも出ませんよ」

また、クスクス笑う。
113 名前:monochrome 投稿日:2007/03/03(土) 13:09
そういえば、と思い出して、聞いてみる。

「村田さんって、ほんとに窓の外見るのお好きなんですね」

「あ、ああ。うん。好き、だね」

「でも、そっち側から見ても、そんなにおもしろくないんじゃありません?」

「いや、そんなことないよ」

そっちというのは、図書カウンターと真正面になる一番奥の窓。
そこからは、グランドと裏山しか見えないはず。
反対に図書カウンターの中にある窓は、街の景色が広く一望できる。
街といっても、田んぼ田んぼ田んぼ田んぼ、たまに家ってかんじなんだけどさ。

「よかったら、こちらの窓も見てみます?」

「え、いいの?入って怒られない?」

「先生に見つかったら、怒られちゃうかもですけど、大丈夫ですよ、多分」

「いいのかな」

そう言いながら村田さんは、アタシがカウンターの台を内側からあけると、ちょこちょこ入ってきた。
114 名前:monochrome 投稿日:2007/03/03(土) 13:17
「うわー、こっちは見晴らしがいいんだね〜」

「そうなんですよ」

「みんなが帰って行くところも見えますね」

下は、この学校へと続く坂道だから、よく見える。
ちょっと興奮気味に窓の外を見る村田さんの横顔をふと見ると、まつ毛が長いのがよく分かる。
視線に気がついたのか、どうなのか、村田さんが突然こっちを向いたので、びっくりしてると、村田さんが口を開いた。

「ところでさー、この前、窓で一緒にいた子は誰ですか」

「え、誰だろ!?」

突然だったので、あわててて、なんの話かとっさによく分からなかった。
115 名前:monochrome 投稿日:2007/03/03(土) 13:29
「ほら、あとから、ひょこっと顔を出した子ですよ。もしかして、柴田さんというのでは」

「あ、そうです、あゆみのことですね。中等部の柴田あゆみ」

ようやく頭が追いついてきたよ。
ふー。

「中等部なんですね。タイしてましたね、そういえば」

「はい」

「なんで、高等部の校舎にいたんですか」

「ああ、それはですねえ、うちの部、秋になると週に1回、金曜日なんですけど中等部の3年生が練習に来るナラワシになってるんですよ。
秋の文化祭で3年生が引退しちゃうし、毎年5月に発表会があるんで、4月に入ってから音を合わせてたんじゃ、全然間に合わないから、それで。
まあ、高等部に慣れるってくらいのかんじなんだけど、3年生が部活に来なくなるかわりに、中等部の子たちが来てくれると、なんかいいっていうか。
こういうとき、エスカレーター式の学校って便利ですよね」

村田さんはアタシの話を「ほうほう」とか「なるほど」とか、合いの手を入れながら聞いてくれた。

「それで、中等部の人がいたんですね」
116 名前:monochrome 投稿日:2007/03/03(土) 13:37
「はい。でも、村田さん、なんであゆみのこと知ってたんですか」

「あ、いや、前にお姉さんと同じクラスだったことがあるんでね、それでね。よく似てるからひょっとして、と思ったわけなんですよ」

「そうだったんですか」

「さてと、帰るわ」

「あれ!?本は見てかないんですか」

「うん、今日は瞳ちゃんの顔、見に来ただけだから」

じゃあね〜、と言って村田さんは帰ってしまった。
「瞳ちゃんの顔、見に来ただけ」
村田さんの言葉で顔が、いや、耳まで赤くなっているのが自分でもよく分かる。

村田さんに気づかれてませんように。
って、おいおい!
アタシなんで赤くなってるんだ!?
117 名前:室井蓉 投稿日:2007/03/03(土) 13:39
今回の更新はここまでです。
118 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/04(日) 00:04
アンリアルなのに4人が凄くリアルっぽい
119 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/04(日) 04:50
ひとたん可愛いよひとたん( ;´д`)
120 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/19(月) 12:01
ディナー行って参りました。
斉藤さん可愛い系の衣装もチョイスし出してるみたいで、ここの斉藤さんぽかったです。
121 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/10(火) 22:33
レスをつけてくれたみなさま
リアルだと思ってくださったり、かわいいと思ってくださったり、ここの斉藤さんぽいと思ってくださったりと、どれもこれもありがたい言葉ばかりで、とてもうれしいです。
ありがとうございます。
引き続き読んでいただけるとうれしいです。
122 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/10(火) 22:34
更新します。
123 名前:monochrome 投稿日:2007/04/10(火) 22:41
「よっしゃ〜、あと1つだー!がんばってくるぜぃ、ひとみん」

「がんばってきてねー」

「あれ、ひとみんは教室ここ?」

「うん」

期末テスト最終日。
そして、最後の科目を残すのみとなった。

さっきは、必修の現国で、今からは選択科目。
アタシは「物理2」で、マサは「英会話中級」。
アタシは自分の教室なんだけど、マサは移動。

と、いうことで、見送ったアタシは物理のノートをひろげて、復習復習。
必修科目は中間テストもあるけど、選択は期末だけの一発勝負だから、失敗は許されない。

そうは言っても、数学が好きだから、物理も大丈夫だろうと特に何も考えずにとったものの、イマイチ授業についていけてないアタシには、赤点とらずに乗り切れるかどうかっていう話なんだけどね〜。

124 名前:monochrome 投稿日:2007/04/10(火) 22:53
「席についてますかー」

チャイムより先に試験監督の先生が入ってきた。

選択授業は普段、好きなところに座って授業を受けているので、テスト用の出席順にどう座っていいかみんな戸惑ってる。
もちろんアタシも。

立ったまま、困っている生徒が多いのを見て先生は

「1学期末のことは、覚えて・・・ないか。このクラスは、IJK組だったね。じゃあI組の飯田さんからここに座って・・・」

名簿を見ながら、順番に名前を呼んで座らせてくれた。

「J組、木村さんここ。はい、続いてJ組斉藤さんは、ここね」

アタシ、木村さんのすぐ後ろなんだ。
いつもなら小島さんとか、是ちゃんとかいるから、分かんなかったけど。
125 名前:monochrome 投稿日:2007/04/10(火) 22:59
「ねえ、ねえ、出るとこちゃんとやった?」

席につくと、木村さんが後ろを振り返って、聞いてくる。

「私なんてさー、丸暗記しちゃったよ。もし数字変わってたら、アウトだよー」

木村さんはしゃべり続けている。
でもアタシ、木村さんがしゃべってる口元ばっかり、見ちゃってるよ。
木村さん、図書室で見たのがアタシって気付いてないのかな。
それとも知ってても、平気なのかな。
そんなことないよね。
やっぱり、気付いてないんだよね。

でも、その唇って、村田さんと・・・。



















































































































































































































































126 名前:monochrome 投稿日:2007/04/10(火) 23:04
わー、アタシ何考えた!?
今何考えた!?

テストに集中、集中!

「ねえ、瞳ちゃん、聞いてる?」

「う、うん。うん。ヤバいよね、物理」

「ようし、みんなちゃんと座った?テスト用紙配りますよー」

その声に、思いっきり「?」な顔してた木村さんも、あわてて前を向いた。
127 名前:monochrome 投稿日:2007/04/10(火) 23:12
木村さんの背中を見ながらのテストの出来が良かったとは、とても思えない。

なんたって、巡回してきた先生に、テスト用紙の氏名欄を指されて、空白だったのを見て、「うわぁ〜!」と叫んでしまったのだから、もうボロボロ。

教室に帰ってきて、凹んでいる私を見つけたマサが「昼メシおごっちゃる」って言って、近くの(っていっても学校から1番近いってだけで、遠いけど)ショッピングセンターまで、自転車通学の2人して、自転車こいでる間も凹みは、まだおさまらなかった。
128 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/10(火) 23:18
本日の更新はここまでです。

125 の最後は間違って空白を大量につけてしまいました。
省略を読んでも何も出てきません。
すいません。
自分でもなぜこんなにあいてしまったのか、文章あげてびっくりでした。
今後、あげる前にさらに再度確認するようにします。
(今回は1番最初も「sage」をつけ忘れてしまったし・・・。反省の更新です。)
129 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/11(水) 21:13
お、更新来てる♪
マサ君はやさしーですね。
130 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/11(水) 22:04
お待たせしました。
いつも御贔屓にしていただいているようで、ありがたく思います。
131 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/11(水) 22:05
更新します。
132 名前:monochrome 投稿日:2007/04/11(水) 22:08
「何食べたい?」

「なんでもいい〜」

「せっかくのおごりだよ」

「うーん」

レストランフロアまでたどりついても、そんなアタシに

「よし、もう、パスタだ、パスタ!」

マサはアタシの腕をつかんで、お店の中へ入って行った。
133 名前:monochrome 投稿日:2007/04/11(水) 22:14
「そんなに物理ヤバいの、ひとみん?」

ランチのデザートのチーズケーキとコーヒーを店員さんが置き終えると、まだしゅんとしてるアタシにマサが聞いてきた。

「うん、そーとーヤバいと思う」

まさか、木村さんのことが気になって、できなかったとは言えないけど。

「追試あるんでしょ、大丈夫だよ」

「なぐさめになってないし、マサ」

はぁーっ、と大きなため息をつくアタシをよそに「お、このチーズケーキうまいわ」とかなんとか言いながら、パクパク食べてるよ、この人は。
134 名前:monochrome 投稿日:2007/04/11(水) 22:19
「ひとみん、それ食べないの?食べたげよっか?」

前からフォークを持った手がのびてきたので、ぴしっと叩く。

「食べます〜」

あわてて、一口食べると、ほんとだ、おいしい。

「おいしいね、これ」

「でしょ〜」

「なんか、マサが作ったみたいなこと言ってる」

2人でゲラゲラ笑うと、

「やっと、笑ったねえ。どうしようかと思ったよ」

マサがニコニコ笑ってくれてる。
マサってほんと優しいよね。
ありがと、マサ。
135 名前:monochrome 投稿日:2007/04/11(水) 22:29
コーヒーも全部飲み終える頃、

「そういえばさ、ひとみん今年は、クリスマス前に合コンとかいいの?
昨年は『カレシのいないクリスマスなんて、女子高生のクリスマスじゃねーよー』とか言って、暴れまくってたよね」

「暴れまくってません!」

「そうだっけ!?」

そりゃたしかに、クリスマス前になっても、カレシできなかったから「紹介して〜」とか「合コンセッティングして〜」とかは言ってたけどさ。

「いいの、今年は?何も言わないからさ」

「うん、いい」

「もしかして、実はナイショでカレシができたとか?」

「イヤミ〜!?マサ〜。
ずっと一緒にいて、いないのマサが1番知ってるでしょ〜」

テーブルの下で、クツをコチンと蹴ると、

「暴力反対〜!!」

と、口で返された。
136 名前:monochrome 投稿日:2007/04/11(水) 22:37
「じゃあ今年は、カレシのいない女の子チームで集まりますか!」

「それって、アタシとマサだけなんじゃねえのか!?」

「お互い、裏切りっこナシということで、ひとつ」

「バーカ」

「あ、でも、ひとみん。できそうだったら、遠慮しなくていいんだよ」

「遠慮なんてしないけどさ。なんか今、そういう気分にならないんだよね。なんでだろ」

「まあ、そういう時期があってもいいんじゃないの」

「そうなのかな」

「まあ、まあ。じゃあ、今年はカレシより、パパからもらうクリスマスプレゼントってことなのかな、ひとみん的には?」

「そう、かも」
137 名前:monochrome 投稿日:2007/04/11(水) 22:52
「何もらうことにしたの?」

「なんにしよっかな、って思ってたんだけどさ、妹が『コートほしい!』って言ってたから、アタシもそれにすることにした」

小学校までは、お願いをすると枕元に・・・ってパターンだったけど、最近はパパに直接言って、買ってもらうことに斉藤家では、なってる。

「ふーん。どんなのにするのか決めてんの?」

「黒いいな〜って思ってたら、妹に『姉ちゃん、黒はイメージじゃない!』とか言われてさ、ムカツクーとか思ったんだけど、それもそうだなと思って、紺にした」

「もう決めたんだ」

「うん、あとはクリスマス前に、ママがお店に取りに行くことになってるの」

うちの学校は、指定のコートがあるけど、黒か紺だったら違うの着てっても『クリーニング中でーす』とか言えば、先生に見逃してもらえるから、みんな違うの着てくる。
妹に乗っかっちゃったみたいだけど、学校に着てくの昨年と同じコートじゃなくて、新しいのほしーなーと思ってたから、うれしい。

ほんとは、この前村田さんの持ってた黒のコートが、カッコよかったから、黒にしたかったってのも、あったりしたんだけど、その話はなんとなくマサに言えなかった。
138 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/11(水) 22:53
本日の更新はここまでにさせていただきます。
139 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/17(火) 21:35
更新します。
140 名前:monochrome 投稿日:2007/04/17(火) 21:41
「マサは、何もらうの?」

「うち?うちはCD。『CDがいい〜』って言ったら『洋楽、邦楽、サントラ1枚ずつ』って設定がかえってきてさ、何にするか今、悩み中」

「へえ〜、いいじゃん」

「うん」

そうこうしてるうちに店員さんの「あいてるお皿失礼してもよろしいでしょうか」攻撃と「お水のおかわりよかったでしょうか」攻撃にやられたうちらは、店をあとにした。
141 名前:monochrome 投稿日:2007/04/17(火) 21:50
エスカレーターを下っていると、アクセサリー屋さんを発見!

「ねえ、マサ、寄ってこうよ〜」

「OK!」

アクセサリーに弱いアタシたちは、お店を見つけたら素通りできない。

近寄ってくと、店先にあった薄い水色に黒でふちどられた三日月のペンダントに、アタシはすぐに目が奪われてしまった。

これ、村田さんに似合いそうだなー。

そんなことを思うと、ますますこのペンダントから目が離せない。
取りあげて見ると、さらに村田さんのイメージだ。

クリスマスプレゼントとかなら、渡しても変じゃないよね。
いや、変か、アタシからなんて。

でも、村田さんって、そういうの慣れてんだよね、きっと。
ニッコリ笑って「ありがとう、瞳ちゃん」とか、言ってくれそうだな。
だけどさ、なんでもないように、これ受け取られても、つまんないな。

おいおいおい、アタシは何考えてんだ。
おかしいだろ、おかしすぎるだろ。
つまんないとか、わかんないし、アタシ。

「ひとみん、そんなにそれ気に入ってんなら、つけてみたら」
142 名前:monochrome 投稿日:2007/04/17(火) 21:56
取りあげたまま、じーっとしてるアタシに、マサが声をかけてくる。

「え、あ、うん。まあ、そうなんだけどね」

「でもさあ、これいつものひとみんのかんじじゃないね。ひとみんならこっちの星のやつじゃない?」

マサが指をさすほうに視線を移すと、モロ、アタシ好みのペンダントがいた。

「うーん、やっぱ、そうか。イメージ違うのに挑戦してみようかと思ってたんだけど、やっぱこっちだよねー」

全然目に入ってなかったよ。
ごめんね、マサ、嘘ついて。
143 名前:monochrome 投稿日:2007/04/17(火) 22:00
「今日はやめとくー。ねえ、マサ、今度はアタシがおごるからさ、お茶しようよ」

「え、マジ!?ダブルチョコサンデーとかにしてもいい?」

「ダメ〜。400円以内にしてください。それ以上は実費!」

「ケチ〜」

転がるように笑いながら、アタシたちは結局、1階のフードコートに落ち着いて、真っ暗になるまで、しゃべってた。
144 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/17(火) 22:01
本日の更新はここまでにさせていただきます。
145 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/19(木) 18:16
毎日見てるワケではないのですが楽しみにしています。
メロン系の話はメロンしか出て来ない掌短編が殆どなので、そういった意味でも期待しています。
146 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/19(木) 22:07
レスありがとうございます。

>毎日見てるワケではないのですが楽しみにしています。

月1更新の時もよくありますので、気が向いた時に立ち寄っていただけるだけで、充分幸せです。
ご期待にこたえられますかどうか、分かりませんが、話はまだまだ続く予定です。
またこのように感想などいただけたら、ありがたく思います。
147 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/19(木) 22:07
更新します。
148 名前:monochrome 投稿日:2007/04/19(木) 22:15
さて、と。
どうすんだ、これ!?

今日は祝日。
ここは自宅。
ここはアタシの部屋。

明日は終業式。
なんとか物理の追試はまぬがれて、通知表をもらう日。
そして、明日はクリスマスイブ。

目の前には、緑の包装紙に赤いリボンが結ばれた箱がひとつ。

さて、と。
どうすんだ、これ!?
149 名前:monochrome 投稿日:2007/04/19(木) 22:20
テスト最終日にマサと入った店で見つけてしまったペンダント。
どうしても気になって、あの日アタシはマサと別れた後、自転車をUターンさせてた。

勢いで買っちゃったのはいいんだけど、ほんとどうしよ。
買ってきたあの日からずっと勉強机の引き出しに入れて、見ないようにしてたんだけど、さすがに出してこないわけにはいかないし・・・。

うーん、困った。
150 名前:monochrome 投稿日:2007/04/19(木) 22:24
さんざん悩んだ結果、村田さんに「たまたま」会って、「たまたま」渡せそうなら、渡すことに決めた。

翌朝、ちょっとドキドキして、通学カバンに丁寧に入れた。
そして、何度も入れ直してみたりした。
151 名前:monochrome 投稿日:2007/04/19(木) 22:47
「年末年始は、生活が不規則になりがちです。冬休みですが、気を引き締めて・・・」

終業式、全校生徒が体育館に集められて、校長先生の話を聞かされている。
アタシはといえば、村田さんの3-Dが並んでいるあたりを気にしてしまう。
ずっと、ちらちら見てるんだけど、さすがに大きく横を向くこともできないから、村田さんの姿を全然捜せない。
いつもなら退屈で長い校長先生の話も、そんなことしてたらすぐに終ってしまったような気がした。

生活指導の先生の「冬休みの注意」も終わって、終業式も終了だ。

全校生徒が集合する今日のような集まりの時、終了後、全員が体育館から一斉に退出すると、大混乱するから、端にあたる3-Aか1-Kのどっちかから順番に、クラスごとに退出する決まりになっている。
だいたい交互にしてるらしいんだけど、2年生はどっちからはじまっても、教室に帰るのはそんなに変わらないから、気にしたことなかった。
だけど、今日は気になる。
村田さんを見つけたいと思うから、3年生からでありますように。
とか思っちゃう。

村田さんを見つけても渡せるわけじゃないんだけど、なんとなくまず、今日の村田さんを見て、落ち着いて起きたいようなそんな気分。
152 名前:monochrome 投稿日:2007/04/19(木) 22:59
「3-A起立」

教頭先生の号令で、3-Aが立ち上がる。

よし!
心の中で、小さくガッツポーズ。

「3-D起立」

前の方から、ざっと見たけど、村田さんがいない。
おかしいなと思って、歩きかける3-Dの人を1人1人チェックしたけど、村田さんはいなかった。

なんで見つけられなかったんだろう。
後ろ姿だけで、顔が見えなかった人も何人かいたから、その中にいたのかもしれない。

気になったので、教室へ戻る時、トイレに行くフリを装って、1人下駄箱へ向かう。
下駄箱のネームプレート「村田めぐみ」は、すぐに見つかった。

思いきってあけてみると、そこには上履きと、村田さん宛ての手紙が何通かあるだけだった。

なんだ〜、来てないんだ〜。

へなへなとヒザの力が抜ける。

なんだよ〜、昨日までのアタシは。
あんなにいっぱい悩んだのに。

あーあ、不戦敗なのかな、これは。
153 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/19(木) 23:00
本日の更新はここまでにさせていただきます。
154 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/19(木) 23:09
すいません、変換ミスです。
>>151
誤)落ち着いて起きたいようなそんな気分。
正)落ち着いておきたいようなそんな気分。
155 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/20(金) 23:41
更新お疲れさまです。
自分で何してるかわかってない斉藤さんが凄いです。
156 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/24(火) 12:16
もしかして急展開に?
157 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/30(月) 22:04
レスありがとうございます。
正直、ものすごく励みになります。

>>155さま
斉藤さんには、そういうところがあるかなと思ってまして、書いてみました。
これから徐々に分かってくるのではないかと思ってますw

>>156さま
そろそろ後半から終盤に向かっていきますので、急かどうかは分かりませんが、展開はありますよ〜。
158 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/30(月) 22:05
更新します。
159 名前:monochrome 投稿日:2007/04/30(月) 22:10
「斉藤ちゃ〜ん!中等部の子が、呼んでるよ〜」

終業式後のホームルームも終わって、帰り支度をしてるアタシに、クラスの子が入り口から呼んでくれる。

「はーい!」

返事をして、行ってみるとあゆみがいた。

「どしたの、あゆみ?」

「よかった〜、まだいてくれて。これ返そうと思って」

あゆみが差し出したのは、前にアタシが部活の時に貸した楽譜だった。
160 名前:monochrome 投稿日:2007/04/30(月) 22:22
「こんなのいつでもいいのに〜」

「でもね、今年中に返したかったの〜」

ニコっと笑って手渡してくれるあゆみの顔に、安堵の表情が浮かんだのを見て、この子は律義だよなーとしみじみ思う。
あゆみのこういうトコ、ほんとかわいい。

「ありがとね、あゆみ」

アタシの言葉に、首をブンブン横に振って、答える仕草もかわいい。
161 名前:monochrome 投稿日:2007/04/30(月) 22:29
途端に気持ちが軽くなったアタシは、この前、村田さんが言ったことを思い出して、言ってみた。

「あ、そうだ、あゆみ。あゆみって、この学校にお姉さんいたんだね。アタシ全然知らなかったよ」

「え、瞳ちゃん、なに言ってんの!?この学校にもどこにも、私、お姉ちゃんいないよ。瞳ちゃんも知ってるでしょ、いるのはお兄ちゃんだってば」

「・・・・」

やっぱり、アタシには、村田さんのことが分かりません。
162 名前:室井蓉 投稿日:2007/04/30(月) 22:31
短いですが、今回の更新はここまでにさせていただきます。
163 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/01(火) 23:29
あゆみちゃんはやっぱり赤ほっぺなんでしょうか?w
終業式ネタ続いてて嬉しいです。
164 名前:室井蓉 投稿日:2007/08/06(月) 22:28
遅レス申し訳ありません。

そういえば赤いほっぺでしたねw
今の柴田さんをうっすら考えていたので、それは考えていませんでした。
(これからは、思い浮かべそうですw)
165 名前:室井蓉 投稿日:2007/08/06(月) 22:30
更新します。
166 名前:monochrome 投稿日:2007/08/06(月) 22:33
あー、これどうしようかなー。

机の上には、緑の包装紙に赤いリボンが結ばれた箱がひとつ。

ほんと、アホらしものだよね〜。
クリスマスのプレゼントを渡しそびれちゃってる1月なんてさ・・・。

明日から新学期。
なんだけど、ちょっと気が重い。

--私、お姉ちゃんいないよ。

あゆみの言葉が、何度も頭の中を行ったり来たりする。
167 名前:monochrome 投稿日:2007/08/06(月) 22:38
なんで村田さんは、いもしないあゆみのお姉さんと同じクラスだったとか、言ったんだろ。
誰かと勘違いしてるのかな。
でも、あの時「しばたあゆみ」って、名前知ってたよね。

もう、やだやだ、分かんないよ。
考えるのやめにしよっ。

そして、また緑の包装紙に赤いリボンが結ばれた箱と目が合って、同じことを考えてしまう。
168 名前:monochrome 投稿日:2007/08/06(月) 22:47
悩んでる間にも時間は過ぎ、次の朝は来ちゃう。

久しぶりに、自転車こいでるような気がするかもと思いつつ、学校への道を走る。
雪もだいぶ積もってきたから、寒いなあ。

道はきれいに雪かきされているから、自転車でも全然大丈夫なんだけど、さすがに学校近くの坂道は、早目に降りて、自転車をおすことにした。

「瞳ちゃーん」

少しドキッとして、その声に振り向くと、黒いコートを着た村田さんが歩いてきた。
169 名前:monochrome 投稿日:2007/08/06(月) 22:57
「お、おはようございます。あれ!?歩き、ですか?」

「バスです、この下まで。
さすがに、こっちは雪が降るから、寒いですね」

「え!?どっから、バスなんですか」

「名論駅から。あ、その前は電車だから」

「遠いんですね」

「そうですね、電車には1時間くらい乗りますからね〜」

「バスも駅からは、30分くらいかかりますよね」

「はい。毎日、旅行気分ですよ!」

なんだか、なごんだ空気が流れる。
あゆみのお姉ちゃんのことも、クリスマスプレゼントも、なんでもないようなことなんじゃないかって、思っちゃうくらいに。
そんな私の頭の中を知るはずもない村田さんは、ニコニコしてる。
私が考えすぎなだけ、なの、かな。
170 名前:室井蓉 投稿日:2007/08/06(月) 22:59
本日の更新はここまでにさせていただきます。
171 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/09(木) 15:39
村田さんの誰に対してもまず敬語な姿勢、
リアルでも好きな部分なので癒されてます。
172 名前:室井蓉 投稿日:2007/09/17(月) 15:43
レスありがとうございます。
敬語な姿勢私も大好きなんで、そんなこと書いていただけるとうれしいです。
173 名前:室井蓉 投稿日:2007/09/17(月) 15:45
更新します。
174 名前:monochrome 投稿日:2007/09/17(月) 15:51
「あの、村田さん」

「なんでしょう」

「終業式いらっしゃいませんでしたよ、ね」

それでも、アタシは聞きたいことのひとつを聞いてみる。

「あ、あの日ね。あの日は、お母さまがアタクシが、こちらで過ごす最後のクリスマスということで、家族で温泉に行ってきましたの」

「オカアサマ・・・?村田さんってお母さまって言うんですか?」

「いや、『おかあさん』だけど」

・・・。
175 名前:monochrome 投稿日:2007/09/17(月) 16:00
「いや、それより、クリスマスに温泉なんですか〜!?」

「連休でしょ、ちょうどあの日はお父さんも休みとれたから、みんなでゆっくりとね。クリスマスに温泉っていうのもオツなもんですよ。それにいいですよ〜、家族旅行は」

「そりゃ、家族旅行がいいのは、知ってますけど・・・」

「瞳ちゃんは、クリスマスはどうしてたの?」

「えっと、えっと、クラスの子と遊んでました」

「それもいいですね〜。じゃあ、お正月はどうしてたの?」

「家族でお雑煮食べたあと、みんなでばあちゃんちに行きました」

「いいですね〜」

「村田さんは?」

「あ、私!?今年は年末年始、地球にいませんでしたよ!」

「・・・???」

「年が変わる瞬間、ジャンプしましたからね!」

「・・・」

なんか色々変すぎて、よく分かんなくなってきたな〜。
176 名前:monochrome 投稿日:2007/09/17(月) 16:10
坂を登りきり、校門を抜けると校舎とは反対側の自転車置き場へ、アタシは自転車を置きに行かないといけないから、「それじゃ、アタシはここで・・・」と言って、村田さんと別れることにした。
あゆみのお姉さん(いないけど)のことを聞きたかったけど、どうやって聞いたらいいのかよく分かんないし、なんか残念なようなほっとしたような・・・。

ところが、自転車を置いて戻ってくると、村田さんはまだそこにいた。

「む、村田さん」

「あ、早かったね」

「え、待っててくれたんですか。なんで、なんで」

「いや、まだ時間あったし、ちゃんと挨拶もしてなかったし」

「すいません。そんなんだったら、もっとダッシュで行ってくればよかった」

「いえいえ、充分早かったですよ」
177 名前:monochrome 投稿日:2007/09/17(月) 17:15
あわあわしながら、話してると、あっという間に昇降口まできてしまった。
3年生の下駄箱から、手前にあるので、もう村田さんは行ってしまう。

せっかくのチャンスなんだから、あゆみのお姉さん(仮)のこと、聞かなきゃ。

村田さんは、自分の下駄箱をあけると、上履きをとるより先に、入ってた手紙を手際よく、カバンに入れる。

「それ・・・」

「あ、これ!?手紙」

「それは分かります。そんなにたくさん」

「ああ、休みだったからね。たまってたんだね。いつもはそんなに多くはないよ」

普通は、下駄箱には何も入ってないと思うんですけど・・・。

「あ、あのー、村田さん・・・」

「んー?」

178 名前:monochrome 投稿日:2007/09/17(月) 17:22
「せーの」
「村田先輩〜!」

大きな声にびっくりして、声の方を見ると、1年生の集団が声をあわせて、村田さんを呼んだことが分かった。
あっという間に、村田さんは1年生に囲まれてしまう。

「あのーあのー、温泉はどうでしたか?」

「楽しかったですよ」

村田さんは、にこやかにこたえている。

1年生の子達は、知ってたんだ・・・。
知らなかったのきっと、アタシだけなのかもしんないな。

そう思うと、私はゆっくりその場をあとにした。
179 名前:室井蓉 投稿日:2007/09/17(月) 17:23
本日の更新はここまでにさせていただきます。
180 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/22(土) 23:41
斉藤さんのヤキモキに同調してしまいました。
まだ一癖も二癖もありそうな村田さんに惹かれまくりです。
181 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/23(日) 19:26
何気にモテモテに思える村田さんに釘付けです。
それに振り回されるカタチの斉藤さんも可愛いし。
いつも更新楽しみにしてます。
182 名前:室井蓉 投稿日:2007/09/24(月) 22:32
レスありがとうございます。
うれしくて、何度も何度も読んでしまいます。

>>180さま
村田さんに惹かれていただき、ありがとうございます。
斉藤さんから見た村田さんは、よく分からない人なんだろうなあと思いながら、書いています。

>>181さま
村田さんに釘付けになっていただき、ありがとうございます。

>いつも更新楽しみにしてます。
励みになります。こちらこそ、いつも読んでいただき、ありがとうございます。
183 名前:室井蓉 投稿日:2007/09/24(月) 22:39
更新します。
184 名前:monochrome 投稿日:2007/09/24(月) 22:42
「おっはっよぉ〜!ひとっみん!」

教室への階段をのぼっていたら、後ろからマサの声がした。

「マサ・・・」

「あれ?どしたの?あ、そっか、今年初めてだからね、『あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします』だね」

「マサ・・・」

気が付くとアタシは、踊り場でマサに抱きついて、わんわん泣いてた。

「どうした!?どうした!?何があったんだ。おなかでも痛いのか!?」

茶化しながらも、マサは優しく背中をなでていてくれた。
185 名前:monochrome 投稿日:2007/09/24(月) 22:49
少しすると涙は、おさまったんだけど、なんか恥ずかしかったから、そのままマサにくっついて、下を向いていた。

「落ち着いた?」

アタシの髪の毛をちょっと、ワシャワシャしながら、マサがゆっくりたずねる。
やっぱり、下を向いたまま、アタシはうなずいた。

「あのね、マサ」

「ん?」

「アタシね、村田さんのこと全然知らなかったの」

「うん」

「村田さんのこと知らなかったの、イヤだったの」

「うん」

「村田さんのこと知りたいの。いっぱい知りたいの」

「それって」

「それって・・・!?好きってことなのかな、マサ・・・」
186 名前:monochrome 投稿日:2007/09/24(月) 22:55
「そうなんじゃない」

優しくゆっくりそう言うマサの言葉が、アタシの胸に静かに染みていく。

「そっか。アタシ好きなのか、村田さんのこと」

「今ごろ、気が付いたの」

「え!?なんで。知ってたの〜!?」

「バレバレです!」

「え、全然分かんなかったよ。いつから?」

「結構、最初からかな」

「言えよ」

「言ったじゃん」

「そうだっけか」
187 名前:monochrome 投稿日:2007/09/24(月) 23:07
だんだんマサに、くっついているのも恥ずかしくなってきたけど、離れるタイミングが難しくなってきたな〜。
どうしようかと思っていると、突然マサの身体が、固まった。

「ひとみん、村田先輩が・・・」

「え」

「階段の上にいるよ。なんか、ひとみんに用事あるんじゃない?」

「やだ。こんな顔、村田さんに見せたくない」

「せっかく来てくれてるのに・・・」

その時、タイミングよく、予鈴が鳴ってくれた。
マサが身体を動かしているのが、分かる。
村田さんにゼスチャーで、何かを伝えてくれているみたい。

「村田先輩、帰ったよ」

「ありがと、マサ。トイレ行って顔洗ってくるね」

マサにも、こんな顔見られるの恥ずかしかったから、小走りで向かった。
188 名前:室井蓉 投稿日:2007/09/24(月) 23:07
本日の更新はここまでにさせていただきます。
189 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/25(火) 23:29
マサ君、ひとみんに続いて鈍感なイメージがありましたが、なかなかどーして。
ってか優しい苦労人だったんですね。.゜・( ノД`)。.゜・
190 名前:室井蓉 投稿日:2007/10/08(月) 17:07
レスありがとうございます。
大谷さんのそんな面を読み取っていただけて、うれしいです。
191 名前:室井蓉 投稿日:2007/10/08(月) 17:08
更新します。
192 名前:monochrome 投稿日:2007/10/08(月) 17:16
「ひとみん!帰ろっ!」

担任の先生の挨拶が終わるやいなや、マサが来る。

「うん!」

アタシもことさら、元気にこたえてみる。

今朝、下駄箱でいなくなったアタシをさがして、村田さんは2年生の教室をまわったらしい。
それだけでも大騒ぎなのに、アタシがあきらかに泣いた顔で教室へ入ってったもんだから、注目のマトになっちゃった。

好奇心ウズウズなのを隠して、近付いてくるクラスメイトをはぐらかすように、マサはアタシにずっとくっついて、くだらない話をふっかけてくれていた。
始業式と簡単な掃除だけで終わりだから、カバンにつめる荷物もないし。
よし、帰ろ!
193 名前:monochrome 投稿日:2007/10/08(月) 17:23
「おなかすいたね、どっか寄ってく?」

「ん、そだね」

階段を降りて少しして、マサに話しかけられていると、下駄箱付近に人影が。
ドキリと大きく胸がひとつ鳴る。

「瞳ちゃん」

すごい!すごいタイミング!
なんで!?なんで村田さんが!
ちょうど帰るところだったのかな。

行きも帰りも会えるなんて、うれしい。
でも、言葉が出ない〜。

「ひとみん、先、帰ってるから」

そう言ってマサは、村田さんの方に一礼すると、さっさとクツに履き替えて、帰っていってしまった。
マサ、気がききすぎだから!
うれしいけど、困るよ。
194 名前:monochrome 投稿日:2007/10/08(月) 17:30
「お友だち、よかったのかな」

村田さんが1歩2歩近付いてくる。

「あ、はい。多分」

「あの、今朝は、ゴメンね」

「いえ、アタシの方こそ急にごめんなさい」

「気がついたら、瞳ちゃんいなくなっててさ、なんか気を悪くするようなことしちゃったかなと思って」

「そんな」

「ごめんね」

「村田さんは、なんにも悪くないんです」

「そうなの?気、つかってくれてない?」

「ない、です」

「ほんとに?」

「はい。ただ聞きたいことがあって」

「何?」

そう言いながら村田さんは、視線を動かす。
その時アタシも、なんだか遠巻きに見られているような視線が、いくつもあることに気がついた。
195 名前:monochrome 投稿日:2007/10/08(月) 17:42
「場所、変えよっか」

村田さんの言葉にうなずく。

落ち着いた場所は、中庭を挟んで下駄箱とは反対側の搬入出入口。
扉と窓が大きくとってあるこの場所は、光がよく入って、気持ちいい場所だった。

これまで、ごくたまに通り過ぎたことはあっても、ゆっくりいたことはなかったので、人がこなくて、居心地いい場所だなんて知らなかったな。

「えっと、何だっけ。何?聞きたいことって」

無言でここまで歩いてきた私たちに、村田さんが口を開いてくれる。

「あの・・・」

改まって聞かれると、ノドになにかが詰まってるみたいになって、出てこない。

「言いにくいことなのかな」

首を振ってみたけど、聞いていいことなのかどうか、分からなくなっていた。

「またにする?」

でも、もうこんなチャンスないような気がする。
ええい!

「あの、村田さん!」

「はい!なんでしょう」
196 名前:室井蓉 投稿日:2007/10/08(月) 17:46
更新いったんここまでにさせていただきます。
時間がありましたら、今晩中に再度更新させていただきます。
197 名前:室井蓉 投稿日:2007/10/08(月) 19:42
更新します。
198 名前:monochrome 投稿日:2007/10/08(月) 19:49
「あゆみ、中等部の柴田あゆみのお姉さんと、同じクラスだったことがあるって、言ってましたよね」

「はい」

「あゆみには、お姉さんいないんですよ」

「はい」

「はい、って。村田さん知ってた・・・ん、です、か」

「その、あゆみさんにお姉さんがいるか、いないかは、よく知らなかったんですけど。
正確には、あゆみさんのイトコと前の学校にいた時、同じクラスだったんですよ」

「あ、イトコ。えっ、前の学校・・・?」

「中学です。この学校、私は高校からだから」

そうなんだ。
ほんと、アタシ、村田さんのこと知らないな。
199 名前:monochrome 投稿日:2007/10/08(月) 20:00
「そのイトコも柴田さんというんですけど。
私は、柴っちゃんと呼んでたんですけど。
柴っちゃんは、しょっちゅう、あゆみさんの話をしてましてね。
名論市に住んでて、子供の時からお互いよく行き来してて、妹みたいにかわいがってるって。
はじめて、あゆみさんを見た時には、びっくりしましたよ。
あんまりにも柴っちゃんに似てるから。
『柴っちゃん』って呼びかけそうになりましてね」

ちょっと、照れながら話す村田さんがかわいい。
年上の人にかわいいなんて、失礼かなと思ったりもするけど、いいよね。

「あ、えっと、あの時いろいろ説明するのが、とっさにできなくて、『お姉さん』とか言っちゃったんだよね。ごめんね」

首をいっぱい振った。
そっか、そういうことだったんだ。

私の方こそ、ごめんなさい。
村田さんのことおかしな人かもしれないと思ったりして。
200 名前:monochrome 投稿日:2007/10/08(月) 20:08
「こっちも聞いていいかな?」

「はい!?」

いきなり言われたので、すっとんきょうな声出しちゃった。
恥ずかしい。

「朝、泣いてたみたいだけど・・・」

「はい」

「本当に、私、失礼なことしなかったのかな」

「してません」

「本当!?振り返ったら瞳ちゃんいないしさ、いたと思ったら・・・」

「泣いてるし」

「そうそう」

「大丈夫です。
泣いたのは、村田さんになんかされたとか、そんなんじゃないんです。
村田さんのせいとかじゃないんです」

「良かった〜。絶対なんかやったって思ったんだよね〜。
良かった。良かった。
あ、でも、瞳ちゃんが泣いていたのは、事実だから良くないか」

「村田さん・・・」

形のいい目に見つめられると、次の言葉が見つからない。

アタシ、あなたのこと好きなんですよ。
知ってますか。
201 名前:monochrome 投稿日:2007/10/08(月) 20:19
グ〜

今の音、村田さんのおなかから聞こえたみたい。

「安心したら、おなかすいちゃった」

照れ隠しからか、メガネ位置を直しながら村田さんはそう言った。

「そういえば、すきましたね」

アタシもさっきまで、すいてたんだった。

「なんか食べて帰ろっか」

「え、このへんなんにもないです、よ」

「バスで2駅行ったところに、おいしいラーメン屋さんがあるんですよ。
あ、でも、おうちでご飯用意してもらってるのかな」

「大丈夫です」

「よし、行きますか」

「はい!」

自転車二人乗りして行ったラーメン屋さんは、超おいしかった。
色が変わるくらいの村田さんのラーメンにもびっくりしたけどね。
ひとくちもらって、ギブアップ。
村田さんって大人だなあ。
っていうか、アタシがオコチャマなのか。

激辛間接キスは、アタシには、無謀だったかも。
202 名前:室井蓉 投稿日:2007/10/08(月) 20:21
本日の更新はここまでにさせていただきます。
203 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/14(日) 22:01
村田さんがおかしな人なのは正しい気がしますw

真っ赤なネタがタイムリーで笑えました。
ここのところリアルでも斉村が続いていて嬉しいです。
204 名前:室井蓉 投稿日:2007/10/27(土) 22:44
レスありがとうございます。

>ここのところリアルでも斉村が続いていて嬉しいです。

続いていますよね〜。
ニヤニヤがとまりませんw
205 名前:室井蓉 投稿日:2007/10/27(土) 22:45
更新します。
206 名前:monochrome 投稿日:2007/10/27(土) 22:52
「チョコレートくさっ!」

朝、教室でマサに声かける前に先制パンチをくらった。

「もう、なんなのよ。そんなに臭う?」

「っていうかさ、ひとみん、村田先輩に渡すバレンタインチョコ、そんなに練習してんの?」

「だってさ、村田さんどんなのが好きか分かんないんだもん」

「聞きゃいいじゃん」

「会ってないし」

年があけて、自由登校の3年生はほとんど学校に来ない。
毎週金曜のホームルームは、3年生も必修らしいし、図書室で村田さんを見かけた人もいるらしい。
だけど、アタシはあれ以来、村田さんに会ってない。
207 名前:monochrome 投稿日:2007/10/27(土) 23:00
「明日はうまく渡せるといいねえ」

「うん、ありがと、マサ」

明日は村田さんが、多分登校してくる金曜日。
今年の2月14日は日曜だから、どっちみちこの日しかないんだけど・・・。
2日分時間がないからあせる。

「ね、マサ。このトリュフとチョコクッキーとどっちがいいか食べてみて」

昨日の夜、まあまあできたかなという試作品をカバンから出してみる。

「また・・・。パパはなんて?パパにも聞いてみたんでしょ」

「もう、当分チョコ見たくないって、今朝言われた」

「あのパパが・・・」
208 名前:monochrome 投稿日:2007/10/27(土) 23:10
「ひとみ〜ん、大変!!」

翌日の昼休み。
教室にいたアタシにマサが駆け込んできた。

「村田さん、『好きな人がいるから』って言って、1個も受け取ってないらしいよ」

「え・・・」

頭の中が、真っ白になった。
村田さんが、チョコを受け取らないなんて、思ってもみなかったから・・・。

昼からの授業とホームルームのために登校してきた村田さんは、教室に向かう途中、何人かから渡されそうになって、丁寧に断ったらしい。
『受け取らない村田さん』と『村田さんに好きな人がいる』
いまだかつてない村田さんに、学校中その噂が駆けめぐっているみたい。
209 名前:monochrome 投稿日:2007/10/27(土) 23:19
「どうしよ・・・」

「がんばって、チョコ作ってきたんだし、せっかくなんだからさ。当たって砕けてきたら。っていうかさ、砕けないかもよ」

マサが元気付けてくれるのは、うれしいんだけど・・・。
そりゃさ、そりゃぁ、アタシだって村田さんの好きな人っていうのが、アタシかもしれないって思いたい。
思いたいけど、そんなうまい話なんてあるわけなくて。
そりゃ、ちょっとは気に入られてるかな〜とかは、思うけど・・・。

また、アタシの知らない村田さんがひとつ増えたのかもしれない。
そう思ったら、さみしくなってきた。
210 名前:室井蓉 投稿日:2007/10/27(土) 23:20
本日の更新は、ここまでにさせていただきます。
211 名前:室井蓉 投稿日:2007/10/29(月) 21:52
更新します。
212 名前:monochrome 投稿日:2007/10/29(月) 21:56
「村田さん、まだいるみたいだよ」

放課後になっていた。
村田さんにどうしても渡したいっていう強い気持ちを持っている人たちは、最後の望みをかけて、下駄箱付近で待っているらしいことをマサが伝えてくれた。

「まだ、みんないるから、ひとみんも行ってきな」

この時間になるまで、決められなかったアタシだったんだけど、マサの言葉に背中をおされた。
213 名前:monochrome 投稿日:2007/10/29(月) 22:04
まっすぐ下駄箱へ行くのは、なんとなく勇気がいったので、すれ違いになるかも・・・と思いながら、村田さんの教室へ向かった。

3-Dの教室へ行くと、教室の中はガランとして誰もいなかった。
次は図書室へ向かったけど、そこにも村田さんの姿はなかった。

ひょっとして・・・。
この前、村田さんが案内してくれた搬入口のことを思い出す。

途中、下駄箱の横を通ると、村田さん待ちらしき人たちの姿が、見える。
まだ村田さん、帰ってないんだ。

搬入口にいるかも。
訳もなくさらにそう思って、急ぎ足で行った。

しかし、そこには村田さんの姿はおろか、誰もいなかった。

なんだよ〜。
やっぱり村田さんに会うには、下駄箱で待っているしかないのかな。
214 名前:monochrome 投稿日:2007/10/29(月) 22:11
行ってみると、下駄箱付近は村田さんを待っている人が10人程いて、適当な間隔で立っているので、どこで待ってたらいいのか困るかんじ。

ウロウロ歩いていても、怪しいし・・・。
帰ろうかな。

でも、ここまできといて、会えないのも悔しいよな。
どうしようかと考えかけた時、待っている人たちの間に緊張が走った。

みんなの視線の先を追うと、いつもの黒いコートを着た村田さんが、向こう側から歩いてきたところだった。
215 名前:monochrome 投稿日:2007/10/29(月) 22:18
勇気ある1人が、村田さんに駆け寄って、持っていた袋ごと渡そうとする。
次の瞬間、村田さんが頭を下げた。

あきらめと落胆が混じりあった溜息が、周辺を支配する。

しかし、せきを切ったように、村田さんに次々と渡そうとする。
記念にか、それとも悔いのないようにか・・・。

アタシ無理かも・・・。

そんな時、集団に囲まれていた村田さんと、ふと目が合った。

「瞳ちゃん!」

村田さんが、アタシの方へツカツカと歩み寄ってきたかと思うと、

「ちょっと、ジュースでも飲みに行こう!」

いきなり、アタシの手をつかんで、そのままの速度で歩いて行く。
216 名前:monochrome 投稿日:2007/10/29(月) 22:28
「え?えっ、え!?」

戸惑うアタシをよそに

「ちょっと付き合ってよ」

連れてこられた先は、購買部横の自動販売機。

「瞳ちゃん、何がいい?」

「え、えーっと、えーっと、ココアかな」

村田さんがカバンから、財布を取り出す。

「あ、あの、自分で払いますから」

「まあ、まあ。村田が誘ったんですから」

簡単に制されると、パンパンにふくれた財布から、村田さんは硬貨を取り出して、自動販売機に入れた。

コトンと紙コップが落ちて、ココアが注ぎ込まれる。

なんか、今日速くない!?
機会の調子良すぎない!?
そんなことを思う程に、速い気がした。

村田さんは、コーラのボタンを押す。
217 名前:monochrome 投稿日:2007/10/29(月) 22:44
「そこ座る?」

購買部横の背もたれのない石のベンチを村田さんは指した。

冬の最中、ここに座るなんてことは、まずないけど、今日は風もないし、悪い提案じゃなかった。
村田さんとだったら、風吹いてても座ったかもしんないけどね。

「くー、うまい」

コーラを1口、2口飲んで、村田さんはそう言った。

「ビール飲んでるみたいですね」

「最近飲めるようになったからね。なんだかうれしくってつい、ね」

そうかー、コーラ飲めなかったのか、とか思いながらアタシも、のどかにココアを飲んだりなんかしちゃってるけど、チョコ渡さなきゃ。

「なんか、今日は瞳ちゃんに会えて良かった」

しみじみ言う村田さんに驚いちゃったけど、これはチャンスだよね。
218 名前:monochrome 投稿日:2007/10/29(月) 22:49
「あの、村田さん」

「はい」

今日1日中、アタシと一緒にいた紙袋の中から、がんばってラッピングした箱を取り出す。

「これ・・・。チョコなんですけど、もらってもらえませんか」

「え・・・」

村田さんが、本気でびっくりした顔を一瞬見せたのをアタシは見逃さなかった。
そしてその一瞬の表情から、失恋したことも知った。
219 名前:monochrome 投稿日:2007/10/29(月) 22:56
「ええっと、ええっと、気持ちはうれしんだけどさ」

もう、いつもの村田さんに戻ってる。
アタシもがんばらなきゃ。

「やだなー、村田さん、ギリに決まってるじゃないですか〜。なんでアタシが村田さんにチョコ渡して、告白しなきゃいけないんですか」

「ああ、ギリ。ギリね〜。そうだよね。ありがと〜、瞳ちゃん」

「どういたしまして〜」

アタシは、取り出した箱のラッピングを自分ではがし、中のチョコをあけていた。

「ほら、けっこう上手でしょ。こっちから、ミルクいっぱいのトリュフ、ビター、抹茶。
自分で言うのもなんですけど、味もいいんですよ」

中身を村田さんの方へ傾けてみる。

「でも、村田さん、好きな人がいるからって、今年は受け取ってないんですよねー」
220 名前:monochrome 投稿日:2007/10/29(月) 22:59
「さっき、こてんぱんに、フラれてきました」

「え・・・」

「いや〜、もう、ものの見事にね。あははははは・・・」

声だけで、笑い声を作った村田さんの声は、瞬く間に嗚咽に変わった。
221 名前:monochrome 投稿日:2007/10/29(月) 22:59


222 名前:monochrome 投稿日:2007/10/29(月) 23:04
「大丈夫ですか」

「はい」

まだハンカチを目頭にあててはいるけど、村田さんはちょっと落ち着きを取り戻したようだった。
声を殺して、涙を押し込めるように泣く村田さんを見るだけで、村田さんをこんな姿にした人に、腹が立った。

「すいません。こんなところを見せちゃって。なんか、瞳ちゃんに迷惑かけちゃったね」

「そんなことないです。絶対!」

「ありがとう」
223 名前:室井蓉 投稿日:2007/10/29(月) 23:06
ちょっと中途半端ではありますが、
本日の更新はここまでにさせていただきます。
224 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/30(火) 11:20
ココアが村田さんの気持ちかと思ったんですが残念です。
まだ一波乱二波乱、残っているのでしょうか。楽しみです。
225 名前:室井蓉 投稿日:2007/10/31(水) 23:30
レスありがとうございます。
一波乱かどうかは分かりませんが、起承転結の「結」が始まりつつあります。
最後までお付き合いいただけるなら、それ以上うれしいことはありません。
226 名前:室井蓉 投稿日:2007/10/31(水) 23:32
更新します。
227 名前:monochrome 投稿日:2007/10/31(水) 23:39
「あの。このチョコ食べませんか。
泣いた後にチョコ食べると、元気になるっていうか、身体に染みるっていうか・・・。
バレンタインとか、そんなんじゃなくって、ただのチョコですから」

先にアタシが、1粒食べる。

うん、おいしい。

「じゃあ、もらおうかな」

村田さんも1粒手を出した。

「おいしい。ほんとに上手ですね、瞳ちゃん」

「村田さんが元気になるんだったら、いつでも作りますから」

「ありがとう。瞳ちゃん」

村田さんは、大げさなほど、深々と頭を下げた。
なんだか、村田さんらしいような、そうでないような。
228 名前:monochrome 投稿日:2007/10/31(水) 23:50
「さて。帰りますか」

2人で箱に入ってたチョコを全部食べ切ったら、村田さんが立ち上がった。

「アタシ、部活なんです」

「あいや〜、ごめん」

「いいえ、アタシも村田さんといれて、うれしかったですし」

「いやいやいや。
 今日は金曜だから、中等部の子たちに教えなきゃいけないんだっけ。
 私のせいで大遅刻だ〜。
 大事な日にゴメンね」

もう、なんで村田さん、そんな細かいこと覚えてるわけ!?
勘違いしそうになるのも、仕方ないよね。

アタシは音楽室、村田さんは下駄箱の方へと、別れた。
229 名前:monochrome 投稿日:2007/10/31(水) 23:56
本日の更新は、少しですがここまでにさせていただきます。

それから、前回更新分に変換ミスがありました。

>>216

誤) 機会の調子良すぎない!?
正) 機械の調子良すぎない!?

申し訳ありません。気を付けます。
230 名前:室井蓉 投稿日:2007/10/31(水) 23:57
さらにすいません、上記をタイトルにしてしまいました。
重ね重ね申し訳ないです。
231 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 01:53
誤変換はそんなに気になりませんよ。
斉藤さんが部活していたのをスッカリ忘れていましたw
232 名前:sage 投稿日:2007/11/13(火) 19:13
待ってます
233 名前:室井蓉 投稿日:2008/01/13(日) 00:21
保全します。

>>231さん
暖かいお言葉ありがとうございます。
斉藤さんが部活していたことはおろか、色んなことをすっかり忘れさせてしまったのではないでしょうかと思うほどに、更新できなくて申し訳なく思います。
近日中に更新させていただきますね。

>>232さん
ありがとうございます。
必ず書き上げますので、もう少しだけお待ち下さい。
234 名前:室井蓉 投稿日:2008/01/22(火) 22:26
更新します。
235 名前:monochrome 投稿日:2008/01/22(火) 22:32
「お、瞳ちゃんが当番ですか!」

2月も終わりかけていた。
久しぶりに1人で図書当番をしていたところに、村田さんの登場だった。

卒業式まで、ジャスト1週間。
うちの学校は、毎年3月の第1金曜日にすることになってる。

「村田さん、卒業式は、お花渡すのとか、してもいいですか」

「お、そんなことしてくれるの!?うれしいですね〜」

カウンター越しの会話をするのも、今日で最後かもしれないな。
なんて思いながら、村田さんの顔を見上げていた。

最後にイチ後輩として、花くらい渡してもおかしくないよね。
あれから2週間がたって、それなりに気持ちも落ち着いた。
と思う。
236 名前:monochrome 投稿日:2008/01/22(火) 22:41
「なんの花が好きですか?」

「えーっとねぇ・・・。あ、そうだ、お花じゃなくてもいい?」

「はぁ。もちろんです」

「あのねぇ、そこの窓から、見送ってくれないかな」

「え!?」

村田さんは、アタシにカウンター内の窓から、学校の坂を降りて行く自分を見送ってほしい、そう言っているのだった。

「無理かな」

「あ、いえ、そんなことないですよ。そんなことでいいんですか」

「良かったー。最後にいい思い出ができます」

告白らしい告白もしないまま、失恋しちゃったけど、村田さんとの関係は、悪くないかもしれない。
村田さんにとっては、特別とかまではいかないけど、「ちょっとは気に入られている後輩」くらいには、思ってもいいですよね。

村田さんは、定位置である1番奥の窓際に座った。
遠いけど、アタシから一直線の場所。
237 名前:monochrome 投稿日:2008/01/22(火) 22:48
それにしても、村田さん、窓の外見るの好きだよね〜。
本読んでんのか、外見てんのか分かんないくらい見てる。
何がそんなにおもしろいんだろ。

誰もカウンターに用事なさそうだし、っていうか、村田さん以外誰も図書室にいないんじゃないのか。
本を片付けるフリして、見に行っちゃえ。

そばにあった本を1冊つかんで、カウンターの外に出てみる。

なんか、妙に緊張するな〜。
238 名前:monochrome 投稿日:2008/01/22(火) 22:57
村田さんは、外を見てるのに夢中で、アタシが近付こうとしていることに、全然気付いてないみたい。

すると急に村田さんの顔がほころんだかと思うと、形のいい目が三日月形に細められた。
そんな村田さんの表情を初めて見たアタシは、ドキっとすると同時に、すごく苦しく胸がしめつけられた。

胸が苦しいままに、村田さんの視線の先を追おうとする。
追っちゃダメ!
頭では分かっていても、やめることはできなかった。

その視線の先には、音楽室の窓を開けて、コートについたホコリを懸命に、はたいている人がいた。

村田さん、この子のことが好きなんですか。
2週間前、アタシが腹を立てたのは、この子なんですか。
この子なら、アタシ嫌いになれません。
村田さん・・・。
239 名前:monochrome 投稿日:2008/01/22(火) 23:09
「瞳ちゃん・・・」

アタシに気付いた村田さんは、うろたえた顔をして、アタシを見た。
そして、すぐに視線をはずした。

「えっと・・・」

落とした視線の先を定めあぐねながら、村田さんが口を開きかけようとするより先に、

「瞳ちゃーん!!」

コートの汚れを落とし終えたあゆみが、図書室にいるアタシに気がついて、大きく手を振ってきた。

「今日は、部活来ないのー?ケーキなくなっちゃうよ〜」

「5時まで当番だから、それから行くー!!残しといて〜」

大きな声で聞いてくるあゆみに、アタシも窓を開けてこたえる。
今日は、今日が誕生日の中等部の美貴と月曜に誕生日だったあゆみの誕生会を部活で、やることになっていた。

大声なんて、図書委員失格だけど、幸い図書室には誰もいないみたいだったし、おかげで思いっきり声出してすっきりした。

240 名前:monochrome 投稿日:2008/01/22(火) 23:17
アタシは窓をしめて、村田さんの方へ向き直ると、深く息を吸った。

「あゆみ、見てたんですか」

「いや、その、えっと・・・、あ、はい」

認めちゃったよ、この人は。
もう仕方ないなあ、こてんぱんにフラレたのって、このアタシだよね。

「えっと、その。すいません」

「なんで、そこであやまるんですか。アタシがみじめじゃないです、か・・・」

涙の粒が、1粒、2粒流れ出す。
泣くな、泣くなよアタシ。
バカじゃん。

村田さんから差し出されたハンカチを受け取った瞬間、ふわっと身体が傾いた。
突然のことで、何が起こったのか分からなかったけど、すぐに村田さんに抱き締められたんだと分かった。
241 名前:monochrome 投稿日:2008/01/22(火) 23:23
肩と背中におかれた指先から、村田さんのぬくもりが伝わる。

「瞳ちゃん、ごめんね」

村田さんの腕の中で、首を横に振るのが精一杯だった。

目をあけると村田さんの制服の肩の縫い目がものすごく近くに見えて、びっくりした。
どうしよう、どうしよう、離れなきゃ。

手を村田さんの肩口に軽くあてて、ひじをめーいっぱい伸ばして、村田さんから離れた。

「大丈夫ですから」

「あ、あ。うん」

「カウンターに戻りますね」

「うん、あ、そだね」

いろんなことがありすぎて、カウンター内で握ったボールペンで字が書けない程、手が震えていた。
242 名前:monochrome 投稿日:2008/01/22(火) 23:28
「あ!いたよ!」
「ほんとだ!」

図書室には、似つかわしくない声に顔をあげると、エプロン姿の人たちが、すいませ〜んって顔して、アタシの前を通り過ぎて行った。

「村田先輩、遅いです〜」
「5時って言ってなかったっけ?」

エプロン姿の人たちに囲まれながら、村田さんは図書室を出て行った。
どうやら、クッキングクラブにお呼ばれしてたみたい。
顔をあわせずに済んだから、助かったけど・・・。

村田さんの卒業まで、あと1週間かぁ・・・。
243 名前:室井蓉 投稿日:2008/01/22(火) 23:31
今回の更新はここまでにさせていただきます。
あと、1エピソードで終了のところまで、やってきました。
細く長い更新になっておりますが、最後までおつきあいいただけるとうれしいです。
244 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/24(木) 02:30
最初から読み返してしまいましたw
新たなキャストに驚いたらすぐに急展開でドキドキしてしまいました。
245 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/17(日) 20:44
ほろ苦くて切ない展開ですね
続きをお待ちしています
246 名前:室井蓉 投稿日:2008/03/03(月) 21:26
レスありがとうございます。

>244さま
読み返していただいて、恐縮ですが、うれしいです。

>245さま
ありがとうございます。
最後まで御期待にそえるかどうか分かりませんが、読んでいただけるとうれしいです。
247 名前:室井蓉 投稿日:2008/03/03(月) 21:28
更新します。
248 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 21:35
「桜のアーチを緊張しながら、くぐった入学式。あれから3年の月日が流れ、今日、私たちは・・・」

答辞がはじまった。
このあと「旅立ちの歌」を歌えば、閉式の辞がのべられ、卒業生は退場。
昨日、予行演習をやったから、知ってる。

3年生が座っている中で、村田さんのいる場所が分かる。
後ろ姿だけで、分かっちゃうなんて、どんだけ好きなんだアタシ。

だけど、昨日の予行演習の時は、目をあわせることができなかった。

あれから、1週間。
村田さんに会えるのは、昨日と今日だけなのにね。
249 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 21:40
「全員起立」

教頭先生の声に、みんな立ち上がる。
ピアノの伴奏がはじまる。

もう、歌が、はじまっちゃったよ。
はやいよ、今年の卒業式。

歌わなきゃ。

眉間が熱い。
目がかすむ。

あれ、涙が・・・。

なんだ、なんだ。

指先で、そっとぬぐえるくらいで、済む量だけど・・・。
250 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 21:45
村田さんと出逢ってから、なにって、特にはなんもなかったけど、でも、色々あったような気がする。
笑顔見て、ドキドキしたり、声かけられて、びっくりしたり・・・。

村田さんの涙も見た。

知らないことがいっぱいあるってことが、すごく寂しいことなんだって、はじめて知ったし。

今日は、やっぱり、村田さんに直接『卒業おめでとうございます』って伝えなきゃ、ダメだよね。
251 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 21:48
卒業生が退場して行く。

村田さんは、まっすぐ前を見て、しっかり歩いていた。

そんな村田さんの顔を忘れないように、目に心に一生懸命、焼き付けた。
252 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 21:54
「マサ。アタシ、村田さんにちゃんと言ってこようと思う」

式も終わって、教室へカバンをとりに戻る人、部活の先輩に花を渡すために、用意している場所へ駆け出して行く人とかで、ごった返す体育館を出たところで、マサに話しかけた。

「ちゃんとって?」

「『卒業おめでとうございます』って、直接ちゃんと」

「あ、ああ。そうだね。言っといで。あれ?部活の方はいいの」

「うん。お花の担当じゃないし、明日追い出しコンパがあるから、大丈夫」

「そっか」
253 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 21:58
さて。
そうは言ったものの、いざ村田さんをさがすとなるといないもんだと、キョロキョロしてると、下駄箱付近に人だかりが・・・。

そうだよね。
村田さん、そうなんだよね。

取り囲まれている人たちと一緒に写真におさまったり、握手したりしてる。
なんか憎らしいほど、慣れてるなあ。

なかなか人が途切れなさそうだな、こりゃ。
254 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 22:01
「ひとみんも写真入んなよ〜!」

大きな声に呼ばれて振り返ると、吹奏楽部の先輩たちが、おいでおいでをしていた。
255 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 22:02

256 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 22:07
先輩たちと写真を撮り終わって、村田さんの方を見ると、人だかりは少し落ち着いたみたいだけど、まだ何人かいる。
村田さんに話しかけるなんて、無理かなあ。

「瞳ちゃん!」

え!?
突然、村田さんと目が合ったかと思うと、近くにいた人になんか言って、村田さんはアタシのところへやってきた。

「帰っちゃったかと思ってた」

「部活の先輩たちと写真撮ったりしてたから」

「そっかー、そうだよね。もうよかったの?」

「はい」

「とにかく会えてよかった」
257 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 22:13
村田さんをよく見ると、手に持ってるコートは、さすがになんともないけど、制服は袖の3個ボタンまで見事になくなってて、通学カバンのキーホルダー類も全て消えていた。

「それ・・・」

「いやー、ひとりにあげちゃうと、次ダメってわけには、いきませんからねえ。明日からもう着ないですしね」

「そうですよね」

こたえながらも、寂しい。
明日から村田さんは、学校へこないんだ。
知ってたけど、知らなかった。
258 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 22:38
「あ、村田さん」

「はい」

「御卒業おめでとうございます。これだけは、言わなきゃと思って」

「ありがとうございます。あのね、これ、よかったらもらってくれない?」

「え!?」

村田さんは、細くてきれいな指先で、胸についてる紺色の校章バッチをとると、アタシに差し出してくれた。

「いいんですか。アタシなんかが、もらっちゃっても」

「いや、瞳ちゃんにもらってもらえるとうれしいんだ。私がここにいたっていう証に」

「あ、はい、いただきます。でもよく分かんないです。証もなにも、村田さんは、いたじゃないですか。今もすごい人気者で」

アタシがそこまで言うと、村田さんはクシャっと笑った。
いや、笑ったわけじゃなくて、笑ったような顔を作っただけかもしんないけど。
259 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 22:43
「瞳ちゃんに会えてよかった」

「さっきも聞きましたよ」

「さっきとは、違う意味です」

心臓がギュってなる。
村田さん、最後の最後まで。もう。

「村田さん、アタシそろそろ図書室へ行きますね」

「あ、覚えててくれたんだ」

「もちろんですよ〜」

「ありがとう」

「じゃあ、村田さん、お元気で」

「瞳ちゃんも」

握手をするべきかどうか手は迷ったけど、そのまま校舎の方へ向きを変えた。
多分これで良かったんだと思う。
260 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 22:48
職員室でカギを貸りて、階段を登る。
4階まで一気に登るのは、キツイはずなんだけど、さっきの村田さんの言葉がずっと頭の中でこだましてて、そんなことは感じなかった。

-瞳ちゃんに会えてよかった-

アタシも村田さんに会えてよかったですよ。
ホント、よかったですよ。
261 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 22:53
図書室の中は、もちろん誰もいなくて、ガランとしてるんだけど、なんだかどこを見ても、村田さんのことを思い出しちゃう。

村田さん。
村田さんにここで会えてよかったです。
アタシ、村田さんのこと好きだったんですよ。

あれ!?
なんで過去形なんだろ。
好きだよね、今も。

図書室の中を見回してから、カウンターの中に入る。

窓に近付くと、外は雪が積もってて、真っ白なのがよく分かる。
田んぼばっかだから、向こうまで、ほんと真っ白だ。
262 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 23:00
窓のカギをあけて、顔を出すと、さっきまで手に持ってた黒いコートを着た村田さんが、こっちを見てた。

待たせちゃったかな。

手を振ると、大きく振り返してくれた。

村田さんは校門を抜けて歩き出すと、もう一度大きく手を振ってくれた。
それからは、もう2度と振り返らなかった。

真っ白な世界の中を村田さんが、一人歩いて行く。

さよなら、村田さん。

アタシ、村田さんのことが好きでした。
263 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 23:00

264 名前:monochrome 投稿日:2008/03/03(月) 23:09
終わり。
265 名前:室井蓉 投稿日:2008/03/03(月) 23:14
本日の更新はここまでにさせていただきます。
少し、あとがきめいたことを書かせていただこうと思ってるのですが、また日を改めさせていただきます。

お付き合いいただきましたみなさま、ありがとうございます。
266 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/04(火) 05:35
お隣の「1/2」というスレに誤爆してますよ。

月並みな感想しか言えませんが、面白かったです。
切ないけど、爽やかで清々しいラストでした。
綺麗な作品をどうもありがとうございました。
267 名前:室井蓉 投稿日:2008/03/04(火) 21:27
>266さま

御指摘ありがとうございます。
おかげさまで、削除依頼をすることができました。
本当に感謝します。

感想もありがとうございます。
暗い話になったかなと少し心配でしたので、そのように感じていただけて、とてもうれしいです。
こちらこそ、ありがとうございました。
268 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/05(水) 00:12
お疲れ様でした。
最後までいい意味で期待を裏切ってくれました。ありがとうございます。
斉藤さんの揺れる想いが可愛らしくて、村田さんじゃないですけどギュッってしたくなりました。
村田さん視点は、知りたいけれど、今のまま謎の村田さんの方が素敵な気もします。
269 名前:室井蓉 投稿日:2008/03/29(土) 22:46
>268さま

こちらこそ、最後までおつきあいいただきまして、ありがとうございます。
感想もとてもうれしいです。
斉藤さんに可愛らしさを感じていただけたのは、作者冥利につきます。

それから、村田さん視点の話なのですが、書く準備をすすめています。
御期待に添えるかどうか分かりませんが、こちらもぜひ読んでいただけたらと思います。
謎のままの方がよかったと思われることのないように、がんばって書きますので、また来ていただけるとうれしいです。
270 名前:室井蓉 投稿日:2008/03/29(土) 23:19
あとがきというほど、大げさなものではないのですが、ほんの少し。

メロン小説(といいますか、ハロー!系全部含)を最後まで書き上げた初めての作品が、この話の一つ前の「mel」でした。
その後すぐ、今回の話を思いつきまして、書き始めたのはよかったのですが、本当に書き上がらなくて、悪戦苦闘いたしまして、他の作者さんはすごいな〜と尊敬しっぱなしの1年半でした。
それでも、途中で挫折する気に全くならなかったのは、優しいレスを下さるみなさんがいてくれたからだと思っています。
本当に励みになりました。
ありがとうございます。

それから計算外だったのが、書きはじめると登場人物の方が、好き勝手動いてくれるので、それを収拾するのが本当に大変でした。
書き始めた時から、ラストは決まっていたのですが、エピソードが倍近くになり、そのうえ、まだ書き足りない状況になっています。
そういうことで、次回は、時間を20分ほど遡りまして、大谷さん視点のエピソードを1つ書かせていただいて、そのあと村田さん編へ突入させていただきます。
村田さん編は、ラスト決まってません。
今度こそ、どうなることやら・・・と我ながら思いますが、気長におつきあいいただければ、それ以上嬉しいことはありません。

(本日の更新は以上です)
271 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/30(日) 00:25
楽しみに待っています。
272 名前:室井蓉 投稿日:2008/03/30(日) 21:51
>271さま

早速のレスありがとうございます。
273 名前:室井蓉 投稿日:2008/03/30(日) 21:55
更新します。
先日も書きましたが、「monochrome」ラストより、20分ほど遡ったあたりから、お話は始ります。
274 名前:mountain mountain 投稿日:2008/03/30(日) 21:57
mountain mountain episode 0
275 名前:mountain mountain 投稿日:2008/03/30(日) 22:03
遅い・・・。

「村田さんに、ちゃんと『卒業おめでとうございます』って言ってこようと思う」
「言っといで」

そう言って送り出したものの、ひとみん帰ってこねえじゃねーかよー。

教室に残されたカバンの数も、だんだん少なくなってきたな・・・。

外のざわめきとは裏腹に、教室の中は嘘みたいにしんと静まりかえっていた。
時々思い出したかのように扉があき、カバンをとりに来たクラスメイトが「あ、いたんだね」みたいな顔をして、すぐ「バイバイ」と言って去っていく。

さっきから、これを何回くり返したんだろ。
276 名前:mountain mountain 投稿日:2008/03/30(日) 22:09
ひとみん、帰ってこねーよー。

「おめでとうございます」だけで、こんなにかかるか!?

まさかそのままの勢いで、村田先輩に告白してたりなんかして・・・。
そんで、村田先輩も「好きだよ、瞳ちゃん」とか言い出したりして・・・。
校舎のスミヘ連れ込んだりは・・・、

しないよな。
よな。

うん。

いや、ひとみん、こんなシチュエーションとムードに弱いからなあ・・・。
しかも相手は、あの村田先輩だしなあ。

ぐはぁ・・・。

やばい、はれんちな妄想をしそうだ。

いかん、いかん、いかん。
277 名前:mountain mountain 投稿日:2008/03/30(日) 22:13
おおたにまさえ17歳!何を考えとるんだ、な・に・を!

こんなところにだなー、じーっと座ってるから、よからぬことを考えるんだよ。
ちょっと歩いてこよう!

若者なら、外へ出て、身体を動かそう!

なんてね。

ひとみんと行き違いになるといけないから、カバンをひとみんの机の上に一緒において、と。
よし、これで大丈夫。
278 名前:mountain mountain 投稿日:2008/03/30(日) 22:19
ぶらぶら歩き出すと、さすがに人も少なくなっていることが分かる。
下駄箱と体育館間のちょっと広いスペースが、いわゆる記念撮影やら、思い出の品受け渡しポイントなんだけど、ここも全くといっていいほど人がいない。

もしや、本当に、校舎のスミヘ・・・。

うわ〜、ひとみんについていくんだったぁ〜。
でも、そんな勇気もねぇ〜。

もう、帰ろうかなー、私。

そんな気持ちでふと顔をあげると、下駄箱と校門のちょうど中間地点みたいなところに、人が立っていた。
279 名前:mountain mountain 投稿日:2008/03/30(日) 22:24
あれって、村田先輩・・・!?

なんで、1人でいるんだ!?
なんで、あんな中途半端なところに立っているんだ!?
じゃあ、ひとみんはどこにいるんだよー。

ん!?
なんだ、上を向いて手を振ったぞ。

村田さんの見てる先を目で追っていくと、図書室あたりに人がいる。

あ、あれは、ひとみん・・・!?

なんで、あんなところにいるんだ。

なんだか、ほっとするのと同時に、秘密をのぞき見してしまったような気持ちも生まれた。
280 名前:mountain mountain 投稿日:2008/03/30(日) 22:30
歩き出した村田先輩は、校門のところで振り返って、また上に向かって手を振った。
校門をくぐるとすぐ村田先輩の姿は、見えなくなったけど、図書室の窓が閉まる気配はない。

きっと4階だから、まだ村田先輩の姿が見えているんだろう。
いじらしいヤツだなあ・・・。

そんなことを考えたら、訳もなくひとみんの顔が見たくなって、駆け出していた。

クタクタになりながら登りきった図書室の扉の前で、深呼吸ひとつ。
さらにもう一度。
281 名前:mountain mountain 投稿日:2008/03/30(日) 22:35
そうっと扉をあけると、まだ窓の外を見てるひとみんの後ろ姿。
正確には、左斜め後ろ姿が見えた。

声はかけないでおこう。

思う存分、村田先輩を見送ってあげて下さい。

なんか、さっきまでの慌ててた自分が嘘みたいに余裕だなあ、おい、私。
そっと窓を閉めて、カギを丁寧にかけても、まだひとみんは、窓の外を見ていた。

ひとみんが、大きなため息をひとつついたなと思ったら、

「わ、びっくりした!」

私がいることに気がついた。
282 名前:mountain mountain 投稿日:2008/03/30(日) 22:40
「いつからいたの」

心細そうな表情と声を私に向ける。

「ほんの少し前」

「つーかさ、よくここにいるのが分かったね」

「テレパシー」

「うっそだ〜」

「本当!」

「ホントにぃ?」

嘘だけど。
本当は、たまたま見ちゃっただけなんだけど。

それでも、あの時、外へ出て、結果、ひとみんがここにいることが分かったのは、何かのテレパシーだと信じてた。
283 名前:mountain mountain 投稿日:2008/03/30(日) 22:46
「あのさ。突然なんだけどね・・・。いや、突然でもないか・・・。う〜ん」

「なによ、早く言いなさいよ」

ひとみんは、いつの間にか、こちらに近付いてきて、カウンターの外側、えーっと、こっち側へ出ようと手をかけていた。

「あのさ。ひとみんのこと、好きなんだけど」

「へっ!?」

バタンと大きな音をたてて、ひとみんの後ろで、カウンターの台がしまる。

「そういうことだから」

うわっちゃ〜、何言ったんだ、私。
ひとみん、すげー困った顔してんじゃん。
何、自己満足押しつけてんだよ。
284 名前:mountain mountain 投稿日:2008/03/30(日) 22:56
「いつから?」

「はい!?」

「いつから、そうだったの?」

「えーっと、いつからと言われましても・・・」

そんなこと聞かれるなんて、考えてもみなかったぞ。
なんだ、なんだ。

「えーっと、1年の途中くらいからかな」

正直に答えてしまった・・・。

「そんな前から・・・。全然知らなかった」

あー、あー、そんな困った顔しないで。
ごめん、ほんとずっと、言うつもりなかったんだよ。
知らせるつもりなかったんだよ。

「あー、ごめん、ひとみん、忘れて。嘘だから、冗談だから。全部、嘘。
 ほら、村田先輩がいなくなって、元気なくなるかなーって思ってさ」

「嘘・・・」

ひとみんの目許を水分が覆ったと思う間に大きな粒になり、一筋の線になり流れ出した。
285 名前:室井蓉 投稿日:2008/03/30(日) 22:57
大変申し訳ないのですが、今日の更新はここまでにさせていただきます。
286 名前:室井蓉 投稿日:2008/04/04(金) 21:36
更新します。
287 名前:mountain mountain 投稿日:2008/04/04(金) 21:40
「えっ、えっ」

「嘘なの?」

ひとみんの眉間に、軽くしわがよってる・・・。

「えっ、えっ」

どうすりゃいいんだ、私。

「嘘!いや、嘘が嘘」

「へっ!?」

えーい、もう、勝負だぁーーー!
288 名前:mountain mountain 投稿日:2008/04/04(金) 21:46
「ワタクシ オオタニマサエハ サイトウヒトミサンノコトガ スキナンデス!」

「バカー!」

そのままひとみんが、私の衿元へ顔をうずめて抱きついてきたもんだから、頭が真っ白になった。

「バカー!」「バカー!」「バカー!」

泣きながら、何回バカ!バカ!言われたか分からないくらいだったけど、髪を撫でても怒られないみたいだったので、撫でながらそのたびに「ごめんね」と言った。
289 名前:mountain mountain 投稿日:2008/04/04(金) 21:47


290 名前:mountain mountain 投稿日:2008/04/04(金) 21:54
「つけちゃった・・・」

「ん?」

「マサの制服に、鼻水・・・。つけちゃったみたい」

しばらくたったころ、ひとみんがそんなことを言い出す。

「あ、いいよ、いいよ。鼻水もひとみんの一部です。鼻水もどんどんつけてこ!」

「アタシだったら、やだ」

「へっ!?」

涙声で笑ってるよ、このお姫様は。

「あのさ、ひとみん」

軽く頭を撫でると、ひとみんは顔をあげた。
涙に濡れた頬が上気して、ほんのり赤くなっている。
思わず親指の腹で、ひとみんの頬の涙をぬぐう。

「こうやって、ひとみんの涙をいつでもふける場所にいるから」
291 名前:mountain mountain 投稿日:2008/04/04(金) 21:58
「うん。でもね、アタシもう泣かないよ」

「ん!?」

「マサ、またアタシを泣かすのか?」

「泣かさない!泣かさない!」

大きく手を振って、大否定した。

「だろっ。だから、アタシもう泣かない」

そう言って、ニカって笑ったひとみんに、大谷雅恵17歳、また惚れたのでありました。
292 名前:mountain mountain 投稿日:2008/04/04(金) 22:01

293 名前:mountain mountain 投稿日:2008/04/04(金) 22:02
終わり。
294 名前:室井蓉 投稿日:2008/04/04(金) 22:07
今回の更新は、ここまでにさせていただきます。
295 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/06(日) 03:23
もしかして、それでも片想いなんでしょうか?
それともやっぱり…??
296 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/06(日) 20:55
改めて始めから読んで、すごく好きな空気感に心がホワッとしました。

村田さん視点も楽しみに待ってます。
297 名前:室井蓉 投稿日:2008/09/15(月) 17:04
遅レス申し訳ありません。

>295さま
どうなんでしょう。まだしばらく大谷さんの苦難は続くかも(?)しれません。
機会があれば、この話の続きも書いてみようと思います。

>296さま
ありがとうございます。
お待たせいたしました。ようやく、はじまります。
298 名前:montage 投稿日:2008/09/15(月) 17:06
montage
299 名前:montage 投稿日:2008/09/15(月) 17:10
「ごめんね、村っち。私、留学するんだ…」

え!?何言ってんの柴っちゃん…。
柴っちゃん…。

あれ、声が出ない。

学校帰り、一緒に歩いていたはずなのに、柴っちゃんの背中が遠のいていく。
足がすくんで、歩け、な、い…。

柴っちゃん、柴っちゃん。
300 名前:montage 投稿日:2008/09/15(月) 17:11


301 名前:montage 投稿日:2008/09/15(月) 17:13
気がつくと、見慣れた天井に、見慣れたカーテン。

夢か…。
久しぶりに見たな…。

目をふさぐと、もう1度あの光景を見てしまいそうだったので、ノロノロと身体を起して、軽く服を着替えた。
302 名前:montage 投稿日:2008/09/15(月) 17:30
「あら、今朝は早いこと。起こさないでも起きてくるなんて、昨日まじめに聞いてたのね」

キッチンの横を通り抜けると、母が私に向って声をかけてくる。

昨日…!?
ああ、そういえば、

「推薦決まっているっていっても、サボったりしたら取り消されるかもしれないでしょ!」
高校の文化祭に初日しか行かず、残りの2日は家でダラダラしていた私に、昨夜、母上からお小言が降ってきたんだった。
文化祭に行かないからって、推薦取り消されたなんて話は聞いたことがない。

部活をやっていない私は、行く必要もなければ、クラスの展示当番もとりたてて人手を必要としなかったので、はじめからこの2日は休日くらいにしか思ってなかった。

しかし、運の悪いことに昨日は日曜日。
その上いつもの日曜よりさらに多く「うどん屋(仮)」の間違い電話がかかってきて、母上の機嫌の悪さもいつもの日曜以上であった(当社比)。
寝転がってTVを見ていた私に、そのイライラが向かったようだ。

さらに兄者が私を慰めようとして、結果すべることになる「おこられ音頭」を歌ったもんだから、「ふんっ!」と兄者に吐き捨てて自室に引っ込んだ私は、早々に寝た。

そんな気分で寝たのが良くなかったんだろうか。
あんな夢を見るなんて。

覚えているもんだな、柴っちゃんの顔。
そして、声…。

303 名前:montage 投稿日:2008/09/15(月) 17:38
「もう出かけるの?」

弁当の包みに手をかけた私に、母が少し驚くように聞いてきた。

「う、うん」

多少の歯切れの悪さを感じながらも肯定した私は、そのままそれをカバンにしまい、玄関に向かう。

「玄関に出しといたから、傘持って行きなさいよ」

キッチンから、私の背中に声がかかる。

「傘!?」

「そう。今日は降るんだって」

「ふーん」

何も考えず、玄関に置いてあった1本の傘を手に持って歩き出す。
その傘が東京のある有名な都市名が、でかでかと書かれた傘だと思いだしたのは、駅にかなり近くなってからのことだった。

「降りませんように…」

今にも降り出しそうなグレーの空に向かってつぶやいた。
304 名前:室井蓉 投稿日:2008/09/15(月) 17:39
本日の更新はここまでにさせていただきます。
305 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/07(水) 21:09
何回も読み直してもいい作品ですね。更新待ってます
306 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/27(水) 17:56
待ちます
307 名前:室井蓉 投稿日:2010/08/06(金) 22:28
大変ご無沙汰しております。
2年ぶりに復活です(多分)。
レスも長らく放置していまい、申し訳ありませんでした。

>305さま
何回も読んでいただいて、ありがとうございます。
こんなにあきましたが、また続きも読んでいただけると嬉しいです。

>306さま
ありがとうございます。
308 名前:室井蓉 投稿日:2010/08/06(金) 22:30
更新します。
309 名前:montage 投稿日:2010/08/06(金) 22:31



310 名前:montage 投稿日:2010/08/06(金) 22:33
改札を抜け、階段を降りると快速急行が滑り込んできた。
早い時に限って、こんなもんだよね、
心の中で苦笑いを作って、車内へ乗り込む。
311 名前:montage 投稿日:2010/08/06(金) 22:37
名論駅方向の電車は、通勤通学の波とは基本的に逆方向なので、毎朝すいてはいるけれど、今朝はいつもより早いせいか、ガラガラだった。
座席に深く腰をおろし、目を閉じると


「ごめんね、村っち。私、留学するんだ…」


夢で聞いた声がよみがえる。
312 名前:montage 投稿日:2010/08/06(金) 22:40
「あ、そっそっ、そうなんだー。
 へー、よかったねー。
 柴っちゃん英語できるもんねー。
 留学いいんじゃないのー。
 すごいね、どこ行くの?
 え、イギリス!
 そりゃまた、すごいやぁねぇー」


実際の私は、声が出ないどころか、饒舌だった。
313 名前:montage 投稿日:2010/08/06(金) 22:48
2月の中旬、学校の帰り道のことだった。
中等部の卒業式が、約1カ月後になってはきたけれど、同じ学校の高等部に進むだけだから、クラス替えとあんま変わんないねえ、みたいな話を2人でしていた時、柴っちゃんが口を開いたのだった。

それから柴っちゃんがどんな顔をしていたのか、全く思い出せない。
思い出せないというより、柴っちゃんの顔を見れなかったというのが、本当のところだと思う。
314 名前:montage 投稿日:2010/08/06(金) 22:55
ショックを受けたことすら分からないままに、ましてやそれがどんなショックなのかも分からないまま、その日帰ってすぐ、これからでも願書の間に合う高校を調べた。

その中から、今と遜色のない学校を選び、「行きたい」と両親に申し出た。

母親は、すぐに反対した。
昨日まで、上に進むつもりでいたじゃないのとか、せっかく大学まで行ける中学にがんばって入ったのにとか、そんな遠くの高校に朝早く起きて行けるわけがないとか色々言われた。

どれもこれもその通りだ。
315 名前:室井蓉 投稿日:2010/08/06(金) 22:58
本日の更新はここまでにさせていただきます。
316 名前:室井蓉 投稿日:2010/08/11(水) 21:09
更新します。
317 名前:montage 投稿日:2010/08/11(水) 21:10

318 名前:montage 投稿日:2010/08/11(水) 21:13
しかしここで

「わざわざそんな大変なことまでして、めぐみが行きたいって言うんだから、受けさせてやったら」

なんとなく同じ部屋にいた兄者がナイスフォロー、ナイスアシスト、ナイス助け船を出してくれた。
それを聞いて

「そうだな。だけどそこだけだぞ。
 それでもいいのか」

父から事実上のお許しが出た。
319 名前:montage 投稿日:2010/08/11(水) 21:19
そんなに行きたいのなら、同じ高等部に上がるという退路を断って、そこ1本で臨むことが父の条件だった。

後に母から聞いたところによると、万一のことも考えて、高等部に入れるようにもしておいてくれたらしいのだが、そんなことを知るはずのない私は、がむしゃらに勉強した。
受験勉強している間は、あまり柴っちゃんのことを考えなくて済んだのも好都合だった。

留学の準備をする柴っちゃんと、いきなり受験勉強を始めた私との間に、卒業まで共有する時間は、ほとんどなかった。
320 名前:montage 投稿日:2010/08/11(水) 21:23
そして、そのまま卒業。

めでたく合格した私は、今の学校に通うことになる。

あまりに勉強したために、入学試験で首席をとってしまい、新入生代表の言葉を述べるハメになったのだけは、計算外だった。
あろうことか、自分の名前を噛んでしまうという、かかなくてもいい恥をかいてしまったのだから。
321 名前:室井蓉 投稿日:2010/08/11(水) 21:23
本日の更新はここまでにさせていただきます。
322 名前:室井蓉 投稿日:2010/09/26(日) 21:27
更新します。
323 名前:montage 投稿日:2010/09/26(日) 21:28

324 名前:montage 投稿日:2010/09/26(日) 21:34
新しい学校に入って初めて分かったことは、
柴っちゃんがいなくなったことをみんなが知っている学校ではなく、
柴っちゃんがいなくなったことを誰も知らない学校に行きたかったのだと。

そうでなければ耐えられなかった、と今になれば分かる。

柴っちゃんがいたことを知らない人たちに囲まれていると、柴っちゃんが本当に存在していたのか、分からなくなってきた。
反対にそこまで意識をするのは、自分の中に強く柴っちゃんがいるからに他ならないのだけど。
とにもかくにも柴っちゃんが初めから存在していない世界に身を置くことは、ラクだった。
325 名前:montage 投稿日:2010/09/26(日) 21:35

326 名前:montage 投稿日:2010/09/26(日) 21:39
ふーっと、息を深くして、目を開けると、電車の窓に水滴がついていることに気がついた。

やっぱり雨が降ってきたようだ。
あの傘をささなければいけないのかと少し憂鬱になるけれど、これだけ早ければ、ほとんど誰にも会わずに学校に辿り着けるだろう。

1時間ほどかかる下車駅までは、まだ半分も来ていなかった。

再び、目を閉じる。
327 名前:montage 投稿日:2010/09/26(日) 21:40

328 名前:montage 投稿日:2010/09/26(日) 21:45
「なあ、そこのあんた。あんたや、あんた」

そう言っていきなり腕をつかまれたのは、入学して1週間ほどたった頃のこと。
午後一の授業が移動教室だったので、昼休み終盤、1階の渡り廊下を一人のんびり歩いていた時のことだった。

「はい?」

つかまれた方に振り向くと、眼光鋭い3年生が私の腕をつかんだまま立っていた。
329 名前:montage 投稿日:2010/09/26(日) 21:48
カツアゲ?
恐喝?
監禁される?

この学校のルールを知らずに、なにか生意気なことでもしたとか・・・?

ひー、何も知らない1年生がやったことです、なにとぞご勘弁を〜。
330 名前:montage 投稿日:2010/09/26(日) 21:50
到底、今日無事で帰れないと覚悟を決めていると

「そんなビビらんでも大丈夫やから」

その人はすまなさそうに、くしゃっと笑った。

「村田めぐみ、だったよな?」

確認をされたが、うなずくだけで精いっぱいだった。
331 名前:室井蓉 投稿日:2010/09/26(日) 21:52
今回の更新はここまでにさせていただきます。
332 名前:待ってます 投稿日:2012/12/05(水) 21:22
更新されるのをずっと待ってます。

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