センチネル
1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/19(土) 19:52
亀井絵里は唇の端をちろっと舐めた。うへへ。
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/19(土) 19:53
久々の大所帯でのロケ。
マネージャーから告げられた部屋割りが希望の通りだったから。

参加者はモーニング娘。からは5期がふたりと6期が4人。
吉澤ひとみと久住小春は声優のお仕事でお休みで、
卒メンからは安倍なつみひとりだけが参加。
何もかもが奇蹟に近い。うへへ。

結果部屋割りは5期で1部屋、
6期の藤本美貴と道重さゆみで1部屋、
同じく6期の田中れいなと亀井絵里で1部屋、
安倍なつみは独り部屋を割り当てられていた。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/19(土) 19:54
「安倍さん、淋しいですか?」
新垣里沙が訊ねると安倍は笑って
「そうだねぇ。でも明日はなっちだけ早いからしょうがないさ」
と答えた。

亀井絵里は安倍の、新垣の居ない側の横にそそっと
寄り添った。
「寝るまで安倍さんの部屋でテトリス大会しましょう!」

道重さゆみの圧勝に終わったテトリス大会は23時に終了。
安倍なつみはあくびをかみ殺しながら3人を見送った。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/19(土) 19:54
深夜12時を回った頃。
さすがに芸能人が泊まるだけあって値段も高く
融通もきくそのホテルのフロントの前で、
亀井絵里はくねくねと事情を説明していた。

「あのぉ、安倍さんがぁ、鍵を持たないままうっかり
 部屋の外に出ちゃってぇ」
「オートロックがかかったんですね?」
こくんこくんと頷く。
「じゃあ鍵をお持ちします」

鍵を受け取ろうと手を伸ばしかけてた亀井は
ぶるぶると勢い良く首を横に振った。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/19(土) 19:54
「あ、いや。あの、安倍さんちょっと他人様にお見せできない
 格好してるんでぇ、そのぉ、私が」
一層くねくね具合を増しながらも自己主張する亀井。
「では私ではなく女性の者がおりますのでそちらに」

「いや、ほら、同性にも見せられない格好なんですよ。
 同じメンバーだった私達だから見せられるような」
「見せられないんですか」
「見せられないんです」

一瞬遠くを見つめたフロントマンだったが一瞬で意識を
取り戻すと、「お願いします」と亀井に鍵を預けた。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/19(土) 19:54
ぐいーんと登ってくエレベーターの中で、
亀井は寄りかかりふぅと息をついた。
あぶねー。
でも、と笑みを浮かべる。これでクリア。後は扉を開けるだけ。

チンと音を立てて目的階へ到着した。
抜き足、差し足、忍び足で自分達の部屋の前を通り過ぎ
角の向こうのちょっと離れた安倍の部屋を目指す。

「うぉわぁ!」
こっそり角を曲がると、眉を吊り上げた新垣里沙が居た。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/19(土) 19:56
「ガキさん・・・」

「カメ」
声が冷たく低く響く。組んだ腕をほどく気配もない。
「この先には安倍さんの部屋しかないけど?」
「いや、あの、安倍さんちゃんと寝たかなぁって」
亀井は新垣のまっすぐの視線から目を反らして頭を掻いた。

「あたしさ、田中っちに5分おきに電話したんだから」
「へっ?」
「カメ居る?カメ帰ってきた?って」
なんと迷惑な。

「実は忘れ物しちゃってさ」
「別に明日でもいいでしょ?じゃなきゃあたしも入る」
取り付くしまのない新垣の態度に、亀井から笑みが消えた。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/19(土) 19:56
「ガキさん」
「ん?」

「絵里、諦めませんからね。今は引き下がりますけど」
唇の端をちらりと舐めながら。
「安倍さん、絵里のこと可愛いって言ったんだから」

うへへ、と笑う声が響く。
「そんな深い意味ないと思うけどね」
「ガキさんに対してはそうかもしれませんけど?」

むっ。新垣の眉と眉の間がぐぐっと寄った。
ふたりの視線の間に火花がばちばちと散る。

先に視線を逸らした亀井はきびすを返すと、
割り当てられた部屋のドアを開け、勢い良く音を立ててドアを閉じた。
新垣はふぅと息をついた。ちょっと前の亀井のように。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/19(土) 19:57
深夜3時。
ぎっぎっと音を立ててドアが開く。頭だけを出した亀井絵里が
前後を見渡した後、浴衣姿で廊下に出てきた。
静かに静かに安倍の部屋へと向かう。

角を曲がったところでロープに足をひっかけた。
途端に鳴子がカランコロンと騒ぎ出し、
新垣里沙がもの凄い勢いで部屋から飛び出して来た。

「カぁメぇ」
「うへ、うへへへへ・・・・」
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/19(土) 19:57
第1話 おわり
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/19(土) 21:21
初っ端の一文で一撃ノックアウトされました
続きが読めることを楽しみにしております
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 12:36
リボンの騎士ザ・ミュージカル。

今日は安倍なつみがフランツ王子を演じる初日で、
ちょっとだけ不安そう。
それを見逃さない亀井絵里、ここぞとばかりに寄り添っていきます。
「ねぇねぇ安倍さん。あのシーン、ちょっと一緒に特訓しませんか?」
「ん、そうだね。やろっか」

あのシーンとは、シルバーランドへ攻め込むべくフランツ王子のために
亀井絵里と新垣里沙が集めた兵士の力を貸そうとする場面。

「じゃあ控え室で寄り添って、むしろ一個のイスにふたりで・・・」
「カぁメぇ」

その声に振り向く亀井。
安倍から見える部分は笑ってるけど、その声の主から見える部分は
憎しみで人が殺せたら、のような顔になっていた。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 12:36
「ガキさん、どこに居たんですか?」
亀井が髪をかきあげながら言う。くねくねしながら言う。
「3人で特訓しようと思ったら居ないんですもの」

「掃除のおばさんのせいかなぁ。トイレに閉じ込められてた」
「またまたぁ、ガキさんがうっかりしてただけじゃないっすかぁ?」

その言葉を合図におでこをくっつけにらみ合うふたり
口をぶつぶつ動かしてて、もうちょっとでキスかってくらいのその
仕種に安倍は「ふたりはほんと仲良しだね」なんて笑ってる。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 12:36
時間は進み本番。新宿コマ劇場のステージでは、
階段の上で待つ安倍扮するフランツ王子が待っています。
舞台袖には亀井と新垣が登場する寸前。

「ガキさん」
振り返る亀井の目は真剣で、いつものみだらさはない。
「行ってくる」

「カメ」
踏み出した亀井が振り返った。新垣は真顔でこくんと頷く。
「あたしもすぐ行くから」

カーテンの隙間から光が漏れている。
裏から表へ、闇の中から光の中へ、踵を鳴らしながら亀井は
ステージへとゆっくり歩いていった。
白い衣装が光に溶けていくようだ、と新垣は思った。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 12:37
「精鋭ばかりを20,000!」
亀井のこの叫びを合図に新垣も光の中へ。

・・・んっ?
リハーサルで見た光景と、昨日までのシーンとちょっと違う。

石川梨華がフランツ王子だったときにくらべ明らかに
亀井絵里は寄りすぎだった。
安倍を見つめる瞳もさっきまでと違いとろーんとしている。

カメってば!
そう思っても芝居(show)は続けなくてはいけない(must go on.)

階段の上にたたずむ安倍を見つめ、一歩一歩近づいていく。
ライトを背にきりっとした顔の安倍さんが見つめ返している。
あー、やばいかも。新垣がくらくらっ、と。
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 12:38
「命知らずを30,000!」
その台詞とともに踏み出す最後の一歩。いつもより寄って
しまった。亀井よりも寄っちゃってて、亀井のこと言えない。
その亀井は眉間に皺を寄せて新垣をにらんでる。

うわー安倍さんとこんなに顔近いよーうっとりー。
そんな新垣を幸せから現実へ引き戻したのは、亀井の台詞。

「忘れておりました」

・・・何、その台詞?
安倍と新垣がきょとんとしてる中、さもそんな台詞があったかの
ように。舞台では連日通ってる一部のお客さんがざわっとした。

「あなたのために、もう40,000。つわもの共を集めておりました」
そう言ってぐぐっと。
もう安倍にくっついて手まで握ってる。

このバカ!
新垣があわててその手をひっぱがす。
「あたしも!あたしもあなたのために50,000の軍団を」

観客席のざわめきがいっそう強くなった。
おいおい、あいつらフランツ王子より兵士集めちゃってるよ。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 12:39
「更に忘れておりました・・・」
「そう言えば・・・」
「実はまだ・・・」

もう誰も全兵士数なんてわからない。
きっとシルバーランド国とゴールドランド国の人口の
合計よりも兵士のほうが多いんじゃないか?ってところで
安倍がようやく「あわせてたくさんの兵士だな」と呟き
次のシーンに移るきっかけが出来た。

もはや亀井と新垣は安倍にぴったりとくっついており、
安倍は映画マトリックスを思い出させる程にのけぞっていた。

観客はそのアドリブに拍手で答えてくれたが、
舞台監督はふたりの頭にごん!と拳骨を落とした。
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 12:41
第2話 おわり
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/20(日) 21:42
更新お疲れ様です。
この作品、大好きです。
二人の安倍さんへの愛がたくさん感じられますし。
しかも、途中その場面を思い出して笑ってしまいました。
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/28(月) 00:19
昨日の仕事終わり、
別れ際にカメがなにか呟いていた。
うっすらと聞こえたそれはなんだか日本語じゃないようで、
まぁその時は別に気にもとめなかったんだけど
今もしかして「あれが原因かな?」と考えている私がいる。

違っているんです、鏡の中の顔が。
見慣れた新垣里沙の顔ではなくある意味見慣れた
亀井絵里の顔が写っているんですってば!
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/28(月) 00:19
何回か来た小汚い部屋。赤のチェックのパジャマ。
短い髪。黒目がちの瞳。試しにほっぺを引っ張ると痛い。
「ぅうぉおゎわぁあ!」
マジだ。

マジで私、カメになってる。
落ち着け。おちつけ。おつちけ。まずベッドに腰を下ろした。
「カメ?」
後ろ髪がない。おっぱいもぺたんこじゃない。ぇえぇぇえ?

カメと合体?カメと入れ替わった?実は夢!
ほっぺと手が痺れるほど叩いてみたけど、何も変わらなかった。
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/28(月) 00:19
「カメ?」
口に出すけど誰も何も答えない。
もう一度「カメ?」と言うけどやっぱり同じ。

じゃあもしかして。
カメの携帯をゆっくりと手に取り「新垣里沙」に電話した。
「はいはぁーい、ガキさんですよぉぅ」

私の声が、私のじゃないイントネーションで答えやがった。
「カぁメぇ!」
携帯の向こうからケラケラ笑う声が聞こえた。
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/28(月) 00:20
「ガキさん起きるの遅いよ。もっと早く電話来ると思ってた」
「事態の把握に時間がかかったんだよっ!」
「で、把握できた?」
「できた。カメと私、入れ替わってるよね」
「イエース♪」
「なにがイエースだ、アホっ!」

「ガキさんにはぁ、しばらく亀井絵里りんとして生活してもらいます」
「ちょっとカメ」
「それでは発汗のロケで会いましょー」

電話が切れた。
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/28(月) 00:20
「ガキさん起きるの遅いよ。もっと早く電話来ると思ってた」
「事態の把握に時間がかかったんだよっ!」
「で、把握できた?」
「できた。カメと私、入れ替わってるよね」
「イエース♪」
「なにがイエースだ、アホっ!」

「ガキさんにはぁ、しばらく亀井絵里りんとして生活してもらいます」
「ちょっとカメ」
「それでは発汗のロケで会いましょー」

電話が切れた。
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/28(月) 00:21
>>24は見なかったことにして飛ばしてください
26 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/28(月) 00:21
何が何だかよく解らん状況で、とりあえずカメとだけの
仕事で助かった、なんて思いながらメイクを軽く。
使い慣れない化粧道具に苛苛しながら睫毛を上げる。
マスカラを塗る。ファンデを塗ってチークを入れる。

見慣れたカメの顔が現われて、私はやっぱり可愛いと
思ってしまう。ふぅと息をついた。

カメは、可愛い。新垣里沙よりも、ずっと。
カメが私になって何の得があるのか?

ピンクの多いうんざりな服からシックな色合いのを選ぶ。
サンダルをつっかけるなり家を飛び出した。
27 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/02(土) 10:27
電車を乗り継いでロケ現場へ向かう途中、
何度か(と言うか何度も)視線を感じた。
私が私だった時には、こんなこと感じたこともないってのに。

駅の改札を抜けてまた走り出す。
サンダルのかかとをかつかつ鳴らしながら。
しかし速いなぁ、カメの身体は。なんてことを思った。

スタッフさん達に挨拶しながら控え室に駆け込むと
奴はもう着替えてた。
変な宇宙人みたいな格好で畳の上に腕組んで仁王立ち。
「セニョリータ新垣参上! カメ、遅いよ?うへへ」

何がうへへだバカ。
28 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/02(土) 10:28
「何がうへへだバカ」
おっと口に出しちゃった。
「ちょっとガキさん、
 絵里のチャームポイントけなさないでください」
「お前今思いっきり『絵里』って言ったな!私の顔で!」

カメは「あ、いけね」って顔をした。
「そぉーんなことよりガキさん」
「そぉーんなことより!?」
「絵里らしく『うへへ』って笑えますか?」

言えるに決まってるだろ!
「うへへ」

「あ、上手い」
そぉーんなことより!
「元に戻しなさいよっ、カぁメぇ!」
29 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/02(土) 10:28
「もう戻っても良いんですかぁ?」
私の顔で口唇の端をちろりと舐めながら、カメ。
どういうこと?

カメがずっ、と寄ってきて、右手を伸ばした。
むにゅ。

「うわぁぁぁあああっぁああ!」
「巨乳をたんのーしてくださいよ、ガキさん」

けらけらと笑うカメ。
私はぺたりと座り込んで、カメを見上げてた。
しかしあせった。超あせった。電気と寒気が走った。

そしてだんだんムカムカしてきた。
30 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/02(土) 10:28
「カメなんて巨乳じゃないじゃん。デブじゃん」
その瞬間、カメの顔から笑みが消えた。
何この迫力。

「言ったね、ガキさん」
「いっ、言ったよ」
「言っちゃったね、ガキさん」
「いっ、言っちゃったよ」

「さゆにブスと絵里にデブは絶対言っちゃダメなの」
別にさゆには言ってないよ。

「もう戻り方絶対教えない」
私の姿をカメはぷいっとほっぺを膨らませて、
楽屋を出て行った。
いったいアイツは何がしたいんだ?
31 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/05(火) 07:54
そして始まった発汗コマーシャル。
カメも私もお互いの振り付けが逆のことを忘れて
珍しく何度か撮り直し。やっばいなぁ。

スプーンの先にピンポン玉を乗せて走ると言う、
昭和の匂い漂うレースが終わって撮影終了。

スタッフさんに「時間かかってすいません」と
謝りに行くと、笑顔で「いいよいいよ」と
答えてくれた。




32 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/05(火) 07:58
「今日はいつもと違う面白さがあったよ」

首をひねる私に、スタッフさん。
「亀井さんのリアクションは大げさで可愛いし、
 甘えてくる新垣さんも新鮮で驚いたし。
 いつもと役割が逆みたいで良かったよ」

すいません、マジ逆なんですよ。
カメはと言えばさっきの楽屋のやり取りなんて
もう忘れたかのように、
「いやーカメ、面白かったねぇ。うへへ」
とか笑いながら私の肩をぽんぽん叩いてた。

このバカ。
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/28(木) 20:27
ochi
34 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/06(金) 22:10
続いての仕事はインタビュー。
愛ちゃん重さんと合流する。

移動中の車の中で、カメは座った途端に寝た。
どうやら狸寝入りではないらしい。
はなからちょうちんが出ている。

私の肩に頭を乗せてだらっとよだれを垂らして、
こいつ私の身体でなんてことしやがる。
なんて、腹が立っても殴れない。
35 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/06(金) 22:36
「遅れてごめーん」
ドアを開けると愛ちゃんが本を読んで、重さんがテトリスしてて、
安倍さんがぬり絵を塗ってた。

って安倍さんだ!
その側にカメが回り込む前に!私が!間に入り込まなければ!

―――えっ?

カメの意図、今の今まで解らなかった。今解った。
安倍さんと私の間でにやっとしてる私の顔。
安倍さんは慣れた顔で、重さんも愛ちゃんも顔を上げやしない。

この構図の当たり前さ。

カメは、
私という見張り番が居る限り、

安倍さんに近寄れない。
36 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/07(土) 20:31
「うへへーだめだよカメ」
さてその勝ち誇った顔どうしてやろうか?
私とカメがにらみ合いを続けてたら。

「あれま」
今日初めて愛ちゃんの声を聞いた。
「おめぇえりじゃなくてガキさんじゃねぇ?」

時が止まった、気がした。
37 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/07(土) 20:43
私の顔したカメも点のような目になっている。
安倍さんも重さんも。

ねぇ愛ちゃん、
常識に囚われない判断力は愛ちゃんの持ち味だと思ってたけど
やっぱり囚われたほうが良いよ、常識に。

愛ちゃんは私と安倍さんの間に立つ私を見て笑った。
「って事はカメ、さっそく試したんな。あの呪文」

「成程ねぇ………ってコラー!」
愛ちゃんの襟首を掴みながら、叫んだ。
38 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/07(土) 20:47
 
 
 「 も と に も ど せ ぇ ! 」
 
 
39 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/08(日) 20:17
YES! Wonderland!
一度きりの人生 お腹いっぱい学ぼう

YES! Wonderland!
夢の翼を広げ Breakthrough 自分をぶち破れ!

wow wow wow みんな lonely boys & girls
wow wow wow みんな lonely boys & girls ……
40 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/08(日) 20:20
「っていうお話なの」
「なぁーんか最後が唐突」
「良いと思うんだけどなぁ」
「あっし、ガキさんとそんな仲良くねぇよ」
「またまたぁ。愛ちゃんいっつも……
……………
……
41 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/08(日) 20:21
第3話 おわり
42 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/08(日) 20:22
>>37
修正
「って事はカメ、さっそく試したんな。あの呪文」

「って事はえり、さっそく試したんな。あの呪文」
43 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/15(日) 20:15
ふーんふふっふんふっふーん ふーんふふっふんふっふーん
ふーんふーんふふーふー ふふふふっふんふー

深夜3時。
亀井絵里は誰も居ない用具室で独り、
床に目印のガムテープを貼り直して立ち位置調整をしていた。

明日も10時には仕事だってのにやけに楽しそうな顔で
鼻歌で「星条旗よ永遠なれ」を奏でてる。
44 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/15(日) 20:16
一人二役を繰り返し練習。
「ねぇガキさん、絵里ってば相談があるの〜クネクネ」
「おぉどーしたぁカメェ。先輩の私に相談してご覧?」

ここでガキさんの手を取り、指をからめ部屋の隅に引き、
陽の当たらないところに連れて行く。

亀井絵里は振り返る。ドアに向かって奪取した。
部屋を出るなり引き戸を閉じ、
用意していたつっかえ棒をかませ、中から開かない密室を作った。
体感時間は3秒以内。
45 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/15(日) 20:16

亀井絵里は笑う。うへへ。うへへへ。うへへへへへへ。
「パーフェクト」
あとは決行するだけ。すべては、明日。明日だ。
46 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/15(日) 20:17
「おわぁあぁぁあぁぁあ!」

深夜3時。
新垣里沙は悲鳴とともに目を覚ました。汗びっしょり。

「夢かぁ」

思い出してもぞっとする。
呼び出された先にはカメが潤んだ瞳で立っていた。
近寄った私にぺたっと寄り添い、顔を上げたかと思ったら
ゆっくり目を閉じて半開きの唇を差し出して……おえぇぇぇ。
47 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/15(日) 20:17
気持ち悪い夢だったけど、見た原因は解ってる。
昨日カメから貰った手紙。

やけに飾られた便箋に見慣れたまるっこい文字で書かれた
「ガキさん 明日12時に用具室に来てください。。。。カメ」
そしてハートマークがこれでもかって位に。

キモすぎて考えたくない。
そんなならむしろこれが罠で用具室に閉じ込められたほうが
なんぼかマシだわ。
48 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/15(日) 20:18
そして次の日の11時55分。約束の時間5分前。
カメはひとり用具室で、壁によりかかりガキさんを待っている。
にやにやが止まらない。うへへ。
ガキさん閉じ込めたら安倍さん独占しちゃうよ?

ガキさんはちらちらと時計を気にしていた。
そして12時になったとき、ガキさんは―――雑誌を見ていた。
高橋愛と。
12時を過ぎたのを見て安堵の息をつくガキさん。

行ったらきっとろくなことにならない。思い出してみろ。
カメが真面目な用事で呼び出してことなんて
今まで一度もなかったじゃんか。ほっとけほっとけ。
49 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/15(日) 20:19
とか言いつつも12時10分を超えた頃から、
ガキさんそわそわし始める。
どーして私ほっとけないかなぁ???
「あんた雑誌読んでねぇな」と高橋愛もむくれてしまった。

同じ頃カメは……寄りかかったまま寝ていた。
寝る間も惜しんで変な工作してたからだ。

「カメ、カメってば」
「ぅぉぁ?」
ぺしぺしと頬を叩かれて起きる亀井。ガキさんに抱えられてる。
「こぉらー。人呼び出して寝てんじゃないの」

頭をぺしぺしと叩かれて、カメは「ごめん」と笑った。うへへ。
そんな仕事前。

同じ頃安倍さんは道重さゆみにテトリスで完敗してたとさ。
50 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/15(日) 20:19
第4話 おわり
51 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:15
 
<閑話休題>
 
52 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:15
 
薔薇ライク
 
53 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:16
 
綺麗な人を、嫌いと言う人は、醜い人だと思います。
 
54 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:16
ラジオ番組の収録現場。
狭いスタジオに7人が並び、マイクに向かってる。
佐紀がしきり桃子が笑わせ梨沙子がボケて雅がつっこみ
友理奈が冷静に答え茉麻が穏やかに補足する。

千奈美はただ笑うだけ頷くだけの、完璧な脇役。

笑ってない瞳の奥で思うことは、自分の必要性。
私はなぜ、ここに居るんだろう?
誰が私を、必要としてくれているんだろう?
55 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:16
お風呂上り。
千奈美はさくらんぼ柄のパジャマを着て、
頭をタオルにくるんでる。
鏡に向かってにっこり笑って、ため息をついた。

私って色黒いな。綺麗じゃないな。

Berryz工房宛にくるファンレターも、
ハロープロジェクトのコンサートの声援も、
他のメンバーに比べて独りだけがくっと少ない。
それはみんな、気づいてた。
56 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:17
だからだんだんと千奈美の扱いはぞんざいになる。

ミュージックステーションの収録で一日中、
テレビ朝日に控えていた日のこと。
「千奈美ぃ、ジュース買って来て」
「千奈美ってば早くしてよ」
「ほらぁ」

千奈美は「うん」と笑顔を作って自動販売機へ急ぐ。
こんなことくらいでしか役に立てないから。
そう自分に言い聞かせても顔は泣きそうになっていた。

ガコン、ガコン。ガコン。
入り口が詰まらないようまめに缶を取り出しながら、
ひとつ、ふたつ。瞳をぬぐう。みっつ、よっつ……。

「お前、何本買うんだよ!」
57 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:17
びくっと振り返る千奈美。いつの間にか後ろに人が居た。
「お前あれだろ?berryz何とかの」
高い背で千奈美を見下ろすその顔。見覚えある。

「パシリやらされてんのかよ?」
意地の悪い笑みを浮かべたその顔は、
マネージャーさんからきつく「仲良くしちゃダメ!」って
言われてる人気アイドルグループの人達。

「実は俺も。じゃんけんに負けたんだ」
千奈美は何気ない仕種にもどきどきする。
私に話しかけてるんだ。私だけに。

なのに気の利いた言葉どころか
まともな受け応えさえも出来ない。
58 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:18
「……つまんねぇの」

男はそう言うと小銭を自動販売機に何枚も入れて、
コーラを5本連続で買って、入り口をつまらせて慌てて、
千奈美はくすっと笑った。

男はじろっとにらむと、千奈美はびくっと首をすくめる。
眉をひそめた千奈美の顔をじっとにらんでいたかと思うと。

「お前さ、何だかガチャピンに似てんな」

そう言って取れるだけのコーラを千奈美に渡した。
「買えなくなったお詫び。俺、誰か呼んでくるわ」
輝くような、笑顔。

歩いてくその後姿を、
缶をいっぱい抱えた千奈美がじっと見ていた。
緩やかな鼓動を抱えて。
59 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:18
ミュージックステーションのリハーサル。
気がつけば千奈美の目が彼の後姿を追っている。
そんな自分にはっと気づき、
小さく首を振って目を逸らすもいつの間にか、また。

それに気づかないメンバーじゃない。
佐紀は小さく舌打ちをする。友理奈は眉をひそめる。

本番にそなえ一度控え室に戻った時に。
「お前、いいかげんにしろよな!」
爆発した。

「オトコばっか見てんじゃねぇよ」
「仕事もろくにしないでさー」

ばれてた。そして痛いほどの静寂。
千奈美の心に鍵がかかる。何も言い返せずうつむくだけ。
本番の放送もただ微笑みを浮かべてるだけ。
60 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:20
彼のグループが歌い終わって戻ってくる。
彼が瞬間見かけた彼女は、
うつろな瞳でだた唇の端を持ち上げて笑ってた。
彼の瞳が曇る。リハーサルとなんか違う?

本番終了後、やっぱりジュースを買いに走らされる千奈美は
彼と会った自販機で、何本もジュースを買っていた。

「ガチャピン」
後ろから呼ばれ、ジュースを抱えて千奈美が振り返る。
「おまえさー、本番すっげぇボーッとしてたろ?
 もちっと真面目に仕事しろよ」

その言葉を聞いて、
千奈美は微笑を浮かべようとする。眉がハの字になって。

「そう……」
そうだね、と搾り出そうとして、途中から。
涙がこぼれた。
61 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:21
「お、おい。泣くなよ。別に俺そんなつもりで……」
慌てる彼に袖で目をぬぐいながら千奈美は首を振る仕種。

悪いのは私。やるべきこともきちんとできてない私。
はなをすする頭の上に、ぽんと大きな手がおかれる。

「ごめんな。ガチャピンにはガチャピンの事情があるよな」
ぐしゃぐしゃっと頭を掴まれぼっさぼさになる。

千奈美は抱えていたアルミ缶のひとつ、コーラを手渡した。
「なに?」
「お礼」

「あぁ、始まる前の?別に良いのに。ま、サンキュ」
彼はぷしゅっとプルタブを起こすと一口飲み、笑った。
千奈美も笑った。やっと笑えた。
62 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:21
「そういやガチャピンの声はじめて聞いたな」
「そうですか?」
「あぁ、リハ中も本番もぜんぜんしゃべんなかったし」

コーラを半分ほど飲んだところで彼は自販機にコインを
投入した。お茶を買う。
「もしかしてホントはお茶が飲みたかったですか?」
「いや」

受け取り口から取り出したお茶を千奈美に渡す。
「一本足りなくなっただろ。やるよ。じゃな」

笑顔を浮かべ帰っていく彼。ありがとう、なんて言えない。
背中に向かって微笑むのがせいいっぱい。
じっと見つめるのがせいいっぱい。
63 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:22
彼が控え室に帰ると、同じグループのメンバーが
「遅かったじゃん」と声をかけた。
「あぁちょっと」
そう答えて腰を下ろす。

「あれ?コーラにしたの?お茶買うって言ってなかった」
「急に気が変わった」
「ふーん。珍しいね」
64 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:22
それからも千奈美は自販機に買出しに行かされたけど、
その度にあの日のことを思い出した。
そうすると自然に、心からの笑顔がこぼれてくる。

他のメンバーのようには輝けないけれど、
自らの中に光を持った千奈美がそこには居た。
そしてそれは少しずつだけど、ファンにも伝わっていった。

偶然にも同じ歌番組に出るようなことがあれば、
千奈美は自販機のある場所をちょくちょく通り過ぎた。
あの輝きを持った彼を探して。

「おぉガチャピン、久しぶり。お前背ぇ伸びたんじゃね?」
彼に会えてその手が千奈美の頭に置かれると、
頬は赤くなり鼓動は早くなり息苦しくなる。けれども。
何よりもこの瞬間が、世界で一番好き。そう思った。
65 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:22
ふたりを繋ぐ細い糸は、
2ヶ月に一度あるかないかの、5分にも満たない時間。

しばらく時は流れて、
ハロープロジェクトが勢ぞろいするコンサートの舞台裏。

相変わらずBerryz工房内では
立場低く買出しや荷物持ちを頼まれる千奈美に。
「千奈美ちゃん」と優しく呼びかける声。

「小春ちゃん……」
すらりとした身体に大人びた笑みを浮かべた久住小春が
そこに居た。
「私さ、ハローの中に年の近い友達居ないんだ。
 ねぇ千奈美ちゃん。良かったら友達になってくれない?」

一瞬、からかわれているのかと思った。
CDも売れているし、子供にだって人気ある、小春ちゃん。
でもその笑顔が前までの私と同じ、
光のない張り付いた微笑みに見えた千奈美は
「私で良かったら」と手を差し出した。

「宜しくね」と掴まれた手は、ちょっと震えてて、
そして温かかった。
66 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:23
見かければ声をかけ、見つけられれば呼ばれる。
学校じゃ当たり前なことが、やっとハロープロジェクトでも
実現した。
千奈美と小春は他愛ないおしゃべりでその隙間を埋めていく。

仕事の合間にはメールをして、休みの夜には電話する。
電話が終わって覗いた鏡の中には、幸せそうな笑顔があった。
ここを覗いて可愛くないと思ったのはいつだったのか?
今はそんなこと思わない程に毎日が愛おしい。
67 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:23
「千奈美はその人が気になってるんだ。好きなの?」
「いや、好きとかじゃなくて、なんかお兄ちゃんって感じで」
「メアド聞いてメールしちゃいなよ」
「無理だよぉ。小春が私だったら聞ける?」
「聞く。だって聞かないと進まないじゃん」
「私は今のままでも別に」
「1ヶ月に1回くらいしか会えないのに?他の人に取られちゃうよ」
「でもメアド聞いたくらいじゃ取られないも何もないよ」
「大したことじゃないもんね。よしじゃあ聞くことに決定」
「そんな決定しないでよぉ」
「ちぃなぁみぃ!まだ始まってもない内から終わりを考えるなぁ!」
68 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:24
歌番組の収録日。
自分から進んで買い物の使いっぱしりをする千奈美を
メンバーは疑う様子もない。そして自販機の前をうろうろ。
小春のメールが、小春の声で頭に響く。

そうだよね、メアド交換なんて普通じゃん。
だって私と彼はもう顔見知りだし、友達みたいものだし、
むしろメアド交換してないほうがおかしいんじゃないの?
「よしっ」

「何がよしっ?」
振り返ると彼が居た。千奈美の顔が真っ赤になる。
「あっ、あっ、あっ」
「なんだよ、久しぶりくらい言ってくれよ」
その様子を見守りながらコインを投入しお茶を買う彼。
ガコン、と商品の落ちる音が響く。

けっ携帯。携帯。ポケットから取り出そうとして千奈美が
手を滑らせる。カシャンと落ちて彼の足元へ跳ねた。
69 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:24
彼は身をかがめて拾うと、千奈美の予想しない
行動に出た。蓋を開けてボタンを押し出した。
えっ!
慌てて駆け寄る千奈美の頭を抑えて尚も操作を続ける。
やがて。

聞き憶えあるメロディが流れだした。彼の携帯が鳴っている。
「ほら」と彼が千奈美に携帯を返した。

「登録しとけよ」
その顔がちょっといつもと違う顔で
千奈美の胸がきゅーっと締めつけられた。
でも嫌いじゃない。むしろ嬉しい。

千奈美が彼の袖を掴む。
「メアドも教えて」
70 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:24
携帯メールという現代の利器が時間と距離をぐっと埋める。
他愛ないニュース、眠る前の挨拶、くだらない洒落。

千奈美が送ったメールに返信をくれるだけじゃなく、
彼のほうからも送ってくれる。
それがとても、嬉しかった。

小春に報告したら、とても喜んでくれた。自分のことのように。
ありがと。小春のおかげだよ。
71 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:25
――ところで千奈美さぁ、木曜の午後暇?

彼から来たいつもと違うメール。
スケジュールを確認して「暇だけど」と何気なく返す。
そっけない文体とは裏腹に鼓動は早く脈打っている。

――買い物つきあってくんない?

事務所からもキャプテンからもきつく言われている、
兄弟とでも男の人とふたりで出かけてはいけないって事。
でも。

震える手で返信メールを打つ。

――いいよ。
72 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:25
「送っちゃったの!」
「しーっ!しーっ!」
ハロープロジェクト控え室の隅っこで小春と千奈美が
こそこそと話してる。着替えもメイクもほったらかしで。

「ばれないように気をつけてね」
小春が心配そうに呟き、千奈美が頷く。

「でも千奈美さ、最近可愛いよ。輝いてる」
「えっ?」
小春からの意外なひとこと。見つめる瞳は優しさに溢れてる。
千奈美にしてみれば、小春のほうが可愛く、輝いてるのに。
「羨ましいな」
73 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:25
木曜の午後。
待ち合わせの新宿で千奈美は予定時間よりずっと早く
到着していた。
青のワンピースにリボンで後ろ髪を結い、
ばれない対策として一応メガネをかけている。
お気に入りのカバンを持って、目立たない場所によっかかってた。

待ち合わせ時間10分前。
千奈美の携帯にメールが届く。「だせぇメガネだなぁ」

あたりを見回す。斜め向かいに、
だぶだぶのズボンとパーカー、帽子を目深にかぶった彼が居た。
74 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:25
「何買うの?」
「靴が欲しくてさ。それより千奈美。お前、腹減ってねぇ?」
もうガチャピンなんて呼び名はとっくになくなってた。

「あ、ちょっと空いてるかも」
「じゃあまずご飯にしようぜ」
「良いけど、なんかこれって」
「何?」
「デートみたいだね」

「俺は元々そのつもりだぜ」
その言葉に顔を上げる千奈美。
彼は顔を逸らしてたけど、その耳が赤くなってて、
千奈美は可愛いな、と思った。

「今日はさ」
「うん」
「楽しくなりそうだね!」
千奈美はそう言うと、彼の手を掴んだ。
75 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:26
軽く食事、ウィンドウショッピング、散歩、お茶、おしゃべり。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎていく。
すっかり暗くなった。

「もうそろそろ帰らなきゃな」
その言葉で千奈美はうつむく。
「そうだね」

人気のない駅への道の途中。
彼が足を止めて、千奈美が振り返った。

向かい合う。
やがて彼の手がそっと千奈美の頬に触れた。
あっ。

彼の顔が近づいてくる。
キス、される…。
あっ。えっと。うそ。あっ。頭が真っ白。なんかヘン。ドキドキする。

ぎゅっ、と瞳を閉じた。
76 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:27
帰りの山手線で並んで座る。目をあわせられない。
電車が高田馬場に着いたとき、千奈美が言った。

「おまじないがあるんだ」
「おまじない?」
「うん。恋人同士のふたりがね、
 手を繋いだまま池袋を過ぎると幸せになると」
「何だよそれ」

彼は笑って、ポケットから手を出さなかった。
電車が目白駅を出たとき、千奈美の手が握られた。
そのまま電車は走り始める。

この人は私を必要としてくれている。
池袋を過ぎて、この恋は永遠、と千奈美は思った。
77 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:27
人気アイドルグループKのAクン、新宿で堂々デート!

電車の中吊り広告でそんな文を見かけた千奈美は
次の駅で電車を飛び降りるなり、キヨスクで雑誌を買った。
ぼやけた写真の中でキスしてるのは間違いなく、
彼と千奈美だった。

あわてて電話をかけるけれど、
呼び出し音がずっと鳴るだけだった。

ワイドショーにも取り上げられてた。
そして気づいた。彼の立場は私なんかよりずっと
こういうことに気をつけなきゃいけなかったのに。

自分のうかつさに涙が出る。
買い物の約束、断ればよかった。

その日の夜にもうひとつのニュースが飛び込んできた。
急に彼はグループを脱退し、留学する道を選んだとのこと。
芸能界以上に心惹かれるものを見つけたとのこと。
78 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:27
携帯が非通知で鳴る。泣きながら千奈美が出た。
「ふぁい」
「なんだよ、その元気ない声」
彼からだった。
「だって」
「あのさ、時間ないから俺の言うことよく聞いて」
「…うん」

「俺さ、近いうちにアイドル辞めるつもりだったんだ。
 言い出せるきっかけになって良かったと思ってる。
 だから千奈美は変に気をまわすなよ」
「でも」
「それと、まだ相手はお前だとわかってないみたいだけど
 もし何かあったら、ああ言う軽そうなタイプは嫌いって
 答えろよ。お前まで仕事辞めたりすんなよ」
「うん」
「留学して正解だったって思わせるくらいになって
 帰ってくるからさ、千奈美、お前は絶対仕事続けてくれよ」
「うん」
「じゃな。千奈美、俺さ、俺。本当に、本気でお前のこと…………」

電話が切れたあと、千奈美は泣いた。
枕に顔をうずめわんわんと泣いた。
79 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:27
千奈美が事務所から呼び出しを受けたのは翌々日だった。
「この写真、あなたじゃないでしょうね?」

マネージャーに問い詰められる。
その様子をBerryz工房のメンバー達がちらちらと見ている。

「千奈美、すっごい前さ、この人見てて
 キャプテンに怒られてたじゃん」
「あぁ、あった。あったね。そんなこと」

思い出すのは輝くような笑顔、何気ない仕種、
何度も送りあったメール。
残されたものに比べ、失なったものが大き過ぎる。

彼を追いたい。彼を追いかけていきたい。
80 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:28
千奈美は緩やかに首を振った。
「違います。私、こういう派手で軽そうな人って…………」

彼は綺麗な人だった。まるで薔薇を思わせる人だった。
顔だけじゃなく、心も。

「そうよね。千奈美はこういうタイプ苦手よね」
「なぁーんだ」
「でも嫌いだなんて言い切っちゃったら可哀想よ。
 すごくハンサムなのに」
ほっとしたようなマネージャー。
がっかりしたようなメンバー達。

そんな彼を嫌いと言う私は、綺麗じゃない。
とても醜いと思います。
81 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:28
事務所を出ると、駆け寄ってくる影があった。
「こはる」
「千奈美が来るって聞いてたからさ、待ってた。
 一緒に帰ろ?」

並んで帰る、夕暮れの帰り道。
これまでのことを話す千奈美の瞳は潤んでいた。

「千奈美はさ、間違ってなかったよ」
聞いている小春の瞳も潤んでいた。
「だって千奈美、可愛かったもん」

「私は、可愛くないよ。嫌いって言えちゃう子だもん」
「そういう子だからきっと、
 彼は千奈美を好きになったんだよ」

私のことで泣いてくれる、小春が居てくれて良かった。
「小春が居てくれて良かった」
82 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:28
――こちらももうすぐ、冬になるところです。

彼の出したメールが届き、
何気ないできごとを書いて送り返す。
遠くにいるのが嘘のように、メールは次の日には返ってくる。

距離10850km。時差13時間。
それだけ離れてても、私たちは繋がっている。

――早く会いたいね。

写真立ての中の雑誌から切り抜いた笑顔に、
千奈美は微笑を向けた。

そうよ、しっかりしていなくちゃ。
彼が帰ってきたとき、私を見て幻滅しないように、ずっと。
薔薇のように輝いていなきゃね。
83 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 19:29
 

 
84 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/17(日) 04:02
感動しました 2点
85 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/14(日) 22:29
人はただ、風の中を、迷いながら、歩き続ける。

午前一時に新垣里沙の携帯が「遠い日の歌」を奏でた。
すでにベッドの中、うとうとしかけていたガキさんだが
右手を伸ばして携帯を引き寄せた。メール。
しかも亀井絵里から。

タイトル「ガキさぁん(はぁと)」で、内容はURLが一行だけ。
小さな光に目を細めながら何だか見覚えあるそのURLを
考えていると、また携帯が鳴った。
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/14(日) 22:30
「ガキさん起きてますぅ?メール届きましたぁ?」
「カメに起こされたから。メールも届いてるから。おやすみ」
「起きてくださいよぉ。カノン、カノン、カノン!」
「あぁ着メロ?」
「さっきのメールですよ?」
「そう、メール」
「さっき絵里が送った?」
「そうそう、着メロ」
「いや着メロじゃなくてメール!」
「だからメールだよ」
「カノン?」
「そうそうカノン」
「だってガキさんさっき着メロって」
「そう。着メロ」
「メールですって!さっき絵里の送った!カノンの!」
「だからカノンだって。何度も言ってるでしょ?」
「だってガキさんが着メロだって」
「着メロの話でしょ?」
「メールですって!」
「だからメールだって」
87 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/14(日) 22:30
「へぇーそういう曲があるんですか」
「あぁ花音ちゃんね。みたことあるURLだと思ったら」
「ガキさん知ってました?」
「そりゃまぁ。一日一回必ず『安倍』『なつみ』『なっち』で
 検索してるからね」

げっ、と小さくカメが吐き出す。
得意気なガキさんの眠気はすっかり消えていた。

「ちょー生意気なんですよ、花音ちゃんってば。
 ブログで安倍さんに好き好きビーム撃ちまくりで」
「うん」

これにはガキさんも危機感を抱いていた。
伊達に安倍さんをストーカーしてる訳じゃない。
安倍さんの心に入り込むポイントは熟知している。

それは、面と向かって「好き」と言うこと。
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/14(日) 22:31
ガキさんは携帯の向こうでぎゃんぎゃん騒ぎ立てる
カメの声を聞きながら爪を噛んでいた。悩んでる合図。
相手は子供だが、あのブログを見る限り手加減してる
場合じゃない気がする。手遅れだけは避けなきゃいけない。

「安倍さんって特に小っちゃい子好きじゃないですかぁ!」
「うん」
「このままじゃ花音ちゃんに安倍さん取られちゃうかも!」
「うん」
「ガキさんちょっとビシッと花音ちゃんと潰し合ってください!」
「何だって?」
「いやいや」
「ちょっとカメ、もっかい言って」
「いやいやいや」
「カメ」
「いやだからガキさんからビシッと」
「その次」
「いやいやいやいや」
「カメ」
「ガキさんから是非ビシッと」 
「その次は?」
「いやいやいやいや」
「言ってごらん」
「いやだからビシッと」
「その次だって」
「いやいやいやいやいや」
89 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/14(日) 22:32
第5話 おわり
90 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/16(火) 17:03
アホwww
91 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/07(水) 03:17
千奈美のやつ、よかった
92 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/16(土) 00:34
さてここは出番待ちの楽屋。
道重さゆみがマンガをめくり、亀井絵里は鏡を覗き込み、
新垣里沙は枝毛をぷちぷち切っていた。

「ヒマです」と亀井が言う。
だけどふたりはぴくりともしない。

「う〜」と亀井はさらに唸る。手に持っている鏡に
かじりつきそうな仕種で瞳で残るふたりをきょろきょろ
見るも、道重も新垣も慣れたものか動じない。

「ガキさん!」
やがて亀井はターゲットを決めたように叫ぶ。
ちらっと視線だけを亀井へと動かす新垣。
もちろん道重はぴくりともしない。
93 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/16(土) 00:34
「愛あらば It's all right!」
亀井がにやにや笑いを浮かべ叫ぶと、真逆に新垣は
眉間に皺を寄せた。枝毛を探す手が止まる。

「ト…ウモロコシと空と風!」
新垣のぷっくらした小鼻もぷくっと膨らんだ。
亀井に向かってどうだと言わんばかりに無い胸をそらす。
亀井の顔からにやにやは消えていた。

はっ!と亀井の頭の上に電球が浮かぶ。
「せん!」
「えっ?」
「なんでもない」
「もっかい言ってみ?」
「なぁんでもないですってばぁ」
「いいからカメ言ってみ」
「あ、ゼルマ!ゼルマゼルマ!」

道重のマンガを読むスピードが少しだけ、遅くなった。
94 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/16(土) 00:35
「ま、真夏の誕生日」
「広尾ラ・クロシェット」
「時をかける少女」
「四角佳子」
「恋の花」
「なっちーお茶の間ショッピング」

道重のページをめくる指の動きは完全に停止していた。
顔こそマンガから離さないものの、目は虚ろで
なんだかうっすらと汗までかいている。

このふたり、気持ち悪い。
ただのハロプロしりとりかと思ったら何か変なの。
って言うか気持ち悪いの、ぶっちゃけ。
95 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/16(土) 00:35
道重にそんな風に思われてるとも知らずに。
「グッバイハロー」
「ロシナンテ」
「DEF.DIVA」
「パーフェクトピッチ」
「それなら葉音で良いじゃん」
ふたりだけのカルトな安倍さんしりとりは続いてく。
96 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/16(土) 00:36
第6話 おわり
97 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/17(日) 20:32
急な呼び出しになんかやだなと思いながら
マネージャーの下に向かうと、そこにはガキさんも居た。
ほっとする。怒られるならひとりよりふたりがいい。

そんな気持ちを胸に隠してへらへらしてる私と
いつもながらやけに真剣な顔をしたガキさんに向かって
マネージャーは笑顔で語り始めた。

「はっ?」
言ったのはガキさん。きっと聞こえなかったわけじゃ
ないと思う。言われたことが信じられなかったから。
しかし追加の言葉はより、信じられないものだった。

「だってアナタ達、いっつも一緒の仲良しさんじゃない」
98 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/17(日) 20:32
「失礼しまーす」とふたり同時に部屋を出る。
後ろ手にドアを閉めた瞬間、横のガキさんと目が合った。

「どうよ、カメ」
「どうと申されましても」
「まさかアンタと私でラジオとはね」
「しかも仲良しさんと思われてたんですね」

私達は首をひねる。ガキさんとの思い出と言えば
安倍さんを取り合ったことしかない。
でも確かにメールと電話の数は圧倒的にガキさんかも
しれない。さゆよりも多いかも知れない。

安倍さんにこんな近づけた自慢メールとか
私のほうがより安倍さんファン自慢メールとか
自慢の安倍さん画像見せつけメールとか
安倍さんオンリーイントロクイズ電話とか
安倍さんオンリーしりとり電話とか。
99 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/17(日) 20:33
まぁでも。
愛ちゃん美貴ちゃんさゆはラジオ、
れいなは雑誌のコーナー、小春ちゃんはきらりちゃん。
私とガキさんだけそういうの無かったから嬉しいことは
嬉しい。うへへ。
ふと横を見るとガキさんもにやにやしてた。

ただうっかりいつものように安倍さん話ばかりに
ならないようにしなきゃいけないのかも。
こないださゆに「ふたりとも気持ち悪い」って言われた
ばかりだし(えぇ、吐き捨てるように言われました)
私はきりっと口元をひきしめる。
ガキさんも同じようにきっとあごを引いていた。
100 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/17(日) 20:33
待てよ?
もしかしてガキさんが病欠、なんてことになれば
助っ人として安倍さん本人が来ることもありえる?
誰にも邪魔されないラブラブトークタイムが
公共の電波に乗ることで公認扱いしてもらえるかもしれない?

私は唇の端をちろっと舐める。うへへ。
ふと見ればガキさんも邪悪そうな笑みを浮かべていて、
なぜかその頭の中が手に取るように解るような気がして、
私達は解り合えそうで永遠に交わらないな、と思った。
101 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/17(日) 20:34
第7話 おわり
102 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/18(月) 19:32
マジで気持ち悪い気がしてきましたw
103 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/21(木) 20:35
去年安倍さんは親不知抜いたけど、持ち帰った直後に失くしたらしいの。
もしかして…ゲフンゲフン、なんでもないです。
104 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/13(金) 02:08
「これで、私は世界を変えちゃうかも知れない」
亀井絵里は唇の端をちろっと舐めた。うへへ。
105 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/13(金) 02:09
「ハニートースト2つ。お待たせしました」
「うへへ。どうです?」
「おいしそうだね」
「ふふん」
「なんであんたが偉そうなのさ」
106 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/13(金) 02:09
GAKIKAME収録後、ふたりは近くのカフェに寄る。
番組の反省会をする――などという殊勝な心がけではなく
週に1度の安倍さんミーティングを行なっていた。

ここではいかに安倍さんと仲良くしたかではなく
いかになっちファンであるかを競い合う。
携帯での隠し撮り写真であれば、目線がずれているほど、
隅に小さく写ってるほど、私服であるほど価値がある。
107 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/13(金) 02:10
新垣里沙は携帯の画面を眺めながらうっとりした
表情をする。
「やっぱり夏は良いね。安倍さん薄着だもん。
 冬の間は一度も見れなかったミニスカートが
 もう見れちゃったもん。この夏は何回見れるかなぁ」
ぽわわんとしてるガキさんのその横で、
亀井絵里は頷きながらハニトーをぱくぱく。
108 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/13(金) 02:10
「ねぇ知ってるカメ? 二の腕のぷにょぷにょって
 胸の柔らかさと同じらしいよ。
 なんとかして安倍さんの二の腕つかみたいねぇ…
 ってカメ? 聞いてる?」
さっきから口を開かない絵里にガキさんが唇を尖らせる。
絵里は頷くだけ。

やがてきれいにハニートーストを食べ終えた絵里が
突拍子もないことを言い出した。
「ガキさん。絵里が超能力を手に入れたって言ったら
 どうします?」
109 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/13(金) 02:11
「は? カメあんた何言ってんの?」
「ダメです。もう2度と言いません」
「いや聞こえなかったから聞きなおした訳じゃないから」

絵里はにやにやしている。ガキさんは眉間に皺を寄せながら
まだ半分くらい残るハニトーにナイフを入れる。

「使ってみせましょうか?」
「別に良いよ」
「見てみたいでしょ?」
「別に良いって」
「じゃあ、いきますよ」
「って言うか見せたいんじゃん」

絵里がぽんぽんと両手を合わせる。
「えい!」と叫んだ瞬間、景色が一瞬ぐにゃりと曲がった
気がした。そして。
110 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/13(金) 02:11
「ハニートースト2つ。お待たせしました」
「うへへ。どうです?」
「おいしそうだね」
「ふふん」
「なんであんたが偉そうなのさ」
111 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/13(金) 02:12
第8話 おわり
112 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/24(水) 00:03
いーこと考えました、と道重は高橋の耳をひっぱり
こしょこしょと話し出す。
それを聞きながら高橋もおーええねぇと乗り気な笑顔。


電子音が響く。背中を丸めてゲームをする腐女子が二人。
雷のように何かを持った右手がその内のひとりに振り下ろされ
ごわん、と鈍い音がした。


「こちらアイ。ターゲット確認」
携帯電話をまるでトランシーバーのように高橋は言う。
壁の陰に隠れトレンチコートにサングラスまでする念の入れ様。
「とりあえずこのまま様子を見守る。オーヴァー」
ちなみにその横には同じ格好の久住もいる。


高橋の視線の先、遥か遠くに居るのはガキ亀コンビ。
ちょうどこれからGAKI・KAMEの収録でスタジオに
入っていくところ。
ふとこちらを見たふたりから視線をそらすべく
さり気なく靴紐を直す仕種をしちゃったりなんかしちゃったりして。


「あれ愛ちゃんと小春ちゃんですよねぇ?」
「なぁにしてんだろ。ほんと変な子だよふたりとも」
ガキ亀は両手の平を上に向け肩を上げる Why? のポーズ。
「まぁいいや。ほら亀、ラジオラジオ」
「出して欲しくて来たんですかねぇウヘヘ」
113 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/24(水) 00:04
「ふたりスタジオに入りました。後よろしく!オーヴァー」
通話が切れた。道重とリンリンはこくりと頷くと足元に
転がる大きめなずた袋に手をかけた。重くて持ち上がらない。
「ジュンジュン!みっつぃー!手伝って」


「ばっちりです」とにっこにこ笑うリンリンと
無言のままずた袋に手をかけるジュンジュン。
4人がかりなら楽々持ち上がる。
「……って言うかジュンジュンだけでOKっぽいですよね」
「みっつぃーそれ言っちゃダメ」


ON AIRのランプが赤く灯って収録開始。
「ガキさん亀ちゃんこんばんわーいわーいY字バランス〜」
「うけるぅ〜」
「このギャグ亀ちゃんにあげます、だって」
「いらなぁ〜い」


収録現場のすぐ近く。待機している高橋久住コンビの
姿を見つけて合流。ジュンジュンがずた袋を逆さまにして
振ると人の体が落ちてきた。目を閉じて動かないけれど
鼓動だけが微かに息している。


道重がその人物の上半身を起こす。光井がその背中に
右足の膝をあてて活を入れると「ぅうん…」と顔をしかめ呟いた。
それが合図。
高橋道重久住光井ジュンジュンリンリンが素早く隠れて、
その人は何が何だか解らないままにぼんやりと立ち上がる。
すると。
114 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/24(水) 00:04
「あ〜!安倍さん来る〜?ちょっと来る〜!?」
ブースの中からきらきらした瞳で新垣が叫んだ。
亀井もほっぺが真っ赤になっている。
状況が飲み込めないながらも安倍さんはにこにこと
ガキ亀コンビの輪の中へ入っていった。
「安倍さぁ〜ん」
「安倍さんだぁ。わーいわーいY字バランスぅ〜」


スタジオを出た安倍を迎えるのは道重。
「あれぇ?確かなっちさぁ、重さんとテトリスしてたよね」
「はぁい」
「そしたらなんか後頭部に激痛が走って」
「びっくりしました。急に安倍さんがすべって転んだんです」
「そうだったの?」
「はい。そうだったんです」
「はぁ〜。なっちもっと気をつけていなきゃねぇ」


安倍さんが笑いながら帰っていき、
リンリンはようやく背中に隠してた一部不自然にへこんでる
フライパンをゴミ箱に捨てた。
高橋と道重はその顔に微笑を浮かべている。
「ガキさん誕生日プレゼント喜んでくれましたね」
「すっげえ嬉しそうやったもんな」
「アットホームですね、私達」
「アットホームやよぉ、うちら」


一方その頃、
田中れいなは楽屋で『なかよし』を読みふけっていた。
115 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/24(水) 00:05
第9話 おわり
116 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/25(木) 00:36
着てましたねぇw
117 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/26(金) 03:41
この二人以外は常識人なのかと思ってたらw
118 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/27(土) 08:47
突然ですが、絵里は
愛するあまりに罪を犯すことには
じょじょーしゃくりょーの余地があると思います。
(この四字熟語、なぜか変換できません)

絵里は昔、罪を犯しました。
手の届くところにあったそれを目にした瞬間、
欲しいという気持ちが抑えきれず、
気がついたらポケットに入れて走ってました。

それは今、押入れの奥にハンカチにくるんで
しまっています。

どうしても絵里が困った時だけ取り出して、
そっと口付けしながら考えます。
安倍さんだったらこんな時どうするんだろう?
どうしてきたんだろう?

絵里がいつも笑顔でいられるのは
安倍さんのパワーがとても大きいんです。

誰にも誰にも教えない、絵里の秘密のたからもの(>>103)。
皆さん、内緒ですよ?
119 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/27(土) 08:48
第10話 おわり
120 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 23:28
 
<閑話休題>
 
121 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 23:29
菅谷りさこには、夢があった。

お隣に住んでた年上のお姉さん。
あの人のようにボールを蹴りたかった。
あの人がボールを操っていたのは
「ふっとさる」というゲームのためだった。

小学校を卒業したりさこは
私立のBerryz女学園に入学した。

あの人を追って。あの人になりたくて。
122 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 23:29
 
それいけりーちゃん!
 
123 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 23:29
「えっ!」
真新しい制服。真新しい鞄。真新しい靴。
私立Berryz女学園へ入学したばかりのりさこは
さっそくフットサル部へ入部しようと思っていた。
……が。

「そー、ないよのウチ。フットサル部」
りさこの担任、かなり若く見える安倍なつみ先生は
両の手のひらを上にやれやれのポーズを
作りながら呟いた。

「そんなぁ」
うなだれるりさこ。しかし、はっ、と
思い出したように顔をあげて聞く。
「じゃあなつみさんはどうしてここに来たの?」
「ここしか就職口がなかったのよ」
教師って余ってんのよねー、となつみは遠い目をする。
「ってかなつみさんじゃなくて安倍先生でしょ」
「そんな今さら」
124 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 23:30
りさこの「あの人」とは安倍なつみでした。
なつみはフットサルどころかドリブルさえ上手じゃない。
たぶんリフティングでぽろぽろこぼれるボールを
あわあわ追っかける姿が、りさこには楽しそうに
見えたんでしょう。

そして唯一見つかった就職口の、私立Berryz女学園に
行ったことさえフットサルのために行ったと
思えたんでしょう。

眠れないほど楽しみにしてたりさこの夢は
最初の一歩も踏み出すことさえなく、崩れて消えた。
125 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 23:30
朝。学校に来たりさこは自分の教室へと向かわず、
階段踊り場の掲示板に1枚の紙を貼り付けた。
そこにはくりくりっとした瞳のカワイイ女の子が
ボールを蹴ってる絵、そして1行のコピー。

『フットサル部で汗を流そう! 入部希望者は1-A 菅谷まで』

昨日の放課後、がっくりうなだれるりさこに
なつみがぽろっと呟いた言葉。

――でもまぁ、7人集まれば部活申請できるから。

りさこは俄然やる気を出した。
顧問になる人はもう決まってる。あとは生徒。
自分を除いてたったあと6人、集めればいいだけ。

りさこは笑う。楽勝でしょ!
126 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 23:31
画鋲でぺたぺた貼っていると後ろから
「うちフットサル部なんてあったっけ?」
「知らなぁーい」という囁きが聞こえた。

りさこは慌てて振り返り
「今度できるんです! 一緒にしませんか?」と
にっこり完璧なスマイルで言うが
相手ふたりは怪訝そうな顔で去っていってしまった。

あれ?
りさこは眉をひそめる。意外と大変かも……。
127 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 23:31
3日が経過したがポスターの効果はなかった。
まだまだこれから、と放課後に校庭のはしっこで
ひとりぽんぽんと壁相手にパスをするりさこ。
そのボールだって皮が擦れちゃってダメだなと
使いづらいものをサッカー部から借りたもの。

運動のあとはご飯が美味しい。
「ごちそうさまー」
味噌ラーメンをおなかいっぱい食べての寝る前、
部屋でこくご、えいご、さんすう……じゃなくてすうがく、
しゃかい……じゃなくてせかいし、などと明日の
時間割を確認しているときにそれは起こった。

地震。そしてなんか爆発するような音。

りさこはパジャマの上にカーディガンを羽織って
窓を開ける。暗闇の中かすかだけど裏山から煙が
上がってるのが見えた。
「ちょっと見てくる!」
母親の止める声も聞かず、りさこはサンダル履きで飛び出した。
128 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/11(日) 22:47
夢の如き春の夜。息を切らせて裏山を走るりさこ。
その理由は、好奇心。どきどきの何かがありそうで。

爆発っぽい音はしたけど煙も何もないから
場所さえよく分からない。
とりあえず上へ上へと向かう途中、中腹まで来た
りさこの目の端になんか変な物体が映った。

銀色の風邪薬みたいなカプセルが地面に刺さっている。
ただ大きさは自動販売機くらいあって、その側には
女の子がいる。しかも……服を着てない!

呆然とするりさこと、きょろきょろする裸の少女の
目があった。なんかやばそう、と本能が告げるけど、
少女が近づいて来るけど、りさこは動けない。
なんかつい、その子の胸と下腹部を見てしまう。
129 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/11(日) 22:48
その子が目の前に来る。りさこの手を握る。

「えぇぇぇぇぇええええ!」
衝撃。電気みたいのがりさこの体を上から下へと
駆け抜けていく感覚が走った。
何かがりさこから裸の少女へ抜けて、何かが
裸の少女からりさこへと流れ込んできた。
それは情報。

「わかる?」
飛びかけたりさこの意識がその言葉で戻る。
「……わかる」

「リサコにはモモのことばがわかるんだね」
モモと名乗った少女が微笑む。
「モモは宇宙人なんだね」
「リサコだって宇宙人だよ」

なんて言ってると遠くからざわざわした音が
聞こえてくる。りさこはモモにカーディガンを
羽織らせるとその手を引いて走り出した。
視界の端っこで銀のカプセルはシチューに落とした
じゃがいものように、ゆっくりと土の中へ消えていった。
130 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/11(日) 22:48
「ほんっと、信じられないんだけど」
りさこの部屋でりさこがため息まじりに言う。
「じゃあもう1度流し込んであげる」
りさこの服を着たモモが言う。袖と裾がちょっとだけ
余ってるから、腕まくりをしてみたり。

「いや、いい」
地球へ旅行に来た宇宙人。どっからどう見ても
地球人だけど、りさこはもう証拠を見てしまった。
ママもパパもこの子がいとこでもう何年も前から
うちに居候してると信じ込んでいる。
つっこんだ話をさせてみようとするとそのたびに
お湯がわいたり電話が鳴ったりして話が中断する始末。

「そんなわけでしばらくお世話になりますぅ」
「なりますぅ、じゃなぁい!」
と怒鳴ったところでふと気づく。
「ねぇねぇ」
「なに?」
「あたしモモが宇宙人だって知ってるけどそれはなんで?」

モモはにっこり微笑んだ。
「だって本音で話せる友達、欲しいじゃない」
131 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/14(水) 10:53
これは某所の某スレですかw
期待しております
132 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/18(日) 10:50
>>131さん
レスありがとうございます。
同じような設定の話って他にもありそうですよね・・・。
よかったらそのスレ教えてください。
133 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/18(日) 10:50
生まれつきのエース。

夏焼雅は小さい頃から目立つ子だった。黙っていても
注目されて、ちやほやされて、抜擢される。
そして持ち前の素質でその期待を裏切ることもない。

部活もしない。バイトもしない。放課後はくだらないおしゃべり。
成績は上のほうだし、割ともてるし、欲しいもののあまりない。

中学二年生の雅は、ちょっと世間を涼やかに見つめつつある。
なんか人生、簡単で退屈かも。
134 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/18(日) 10:50
授業中。計算問題が解き終えた雅は外を見ていた。
どこかのクラスが体育の授業で持久走をしている。

先頭はなんかへんな走り方の子。
いや待てよと雅は目をこらす。
あ、違う。あの子周回遅れで先頭に見えるだけだ。

なぜか手は横に振って、やけに腰はくねくね。
そんな彼女をたった今、先頭の少女が軽やかに抜き去る。

あっ、と雅は気づく。
あのふたりもしかして、昨日のフットサルの子じゃない?
135 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/18(日) 10:52
その瞬間、あっ、と雅は気づく。
今のあのふたりもしかして、フットサルの子じゃない?

に下2行訂正します。
136 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/19(月) 05:10
>>132
うわーてっきりその設定で書いてらっしゃるのかと、決め付けてしまいすみません
狼に「ツグナガ星人」ってAAネタスレがあるんです

今回のも楽しんでますし気にせず続きを書いていただきたい(´・ω・`)
137 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/19(月) 23:27
>>136
ツグナガ星人!大好きでよく見てます。
そう言えばほとんど同じ設定ですね。
嗣永さんが空から落ちてくるのはラジオドラマ(?)を
参考にしました。
でも同じような設定の小説があるんじゃないってのは
ほっとしました……。
138 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/19(月) 23:29
どうでもいい光景のはずを、やけに雅が眺めていたのは
きっとその周回遅れの子の走り方が面白かったから。

何でだろう、と雅は思う。
あの子にはどう腕を振ったら、どう足を運んだら、
もっと速くなるかが直感的に解らないのかな?

「はいじゃあ続きを夏焼さん」

うわ。雅は顔をしかめる。まったく聞いてなかった。
ちら、と横を見ると隣の席の子がシャーペンで教科書を
差してくれている。雅は頷き立ち上がると、すらすら
何事もなかったかのようにそこから読み始めた。

「はい、そこまでで結構です」

席に座りながら雅はちろっと舌を出すと、
右横の子にだけ聞こえるような小声で言った。

「サンキュ、舞波」

舞波と呼ばれた子はかすかに微笑を浮かべた。
139 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/19(月) 23:29
石村舞波は目立たない子だった。
運動能力こそやや劣っているものの、
勉強が得意で良い成績を常に保っていた。

得意な理由は、好きだから。
舞波は理屈や背景を知ることで、より造詣を
深めていくことにとても喜びを感じていた。

人の輪の中心で騒ぎ、笑い、楽しむことを
愛する雅とは真逆に舞波は
静かに、独りの世界に浸ることが好きだった。
140 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/19(月) 23:30
放課後。

「みや、カラオケ行かない?」

掃除当番のじゃまそうな声もなんのその、
雅の周りに友達が集まり、帰りの寄り道の
相談なんか始め出す。

「あはは。いーねぇ」

舞波は気を利かせるかのように鞄を抱え、
図書室へ向かうべく席を空ける。

「あ、ごめんね舞波」
「うぅん。じゃあね」

空いた席に座った子が、舞波の背中を見送る。
姿が教室から完全に消えたところで切り出した。

「舞波ってさ、優しいし良い子だけど
 なんかこう、近づかないでオーラ出してるよね」
「あ、わかる。話しかければ答えてくれるけど
 舞波からはあんま話しかけてこないかも」

それは雅も思っていた。舞波は優しい。だけど。
何て言うか、こう。
こっちには優しさを求めてこない感じ?
141 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/19(月) 23:30
図書室へと階段を上る舞波の前方、
ジャージ姿で降りてくるふたりの少女。

そのうちのひとりが踊り場をちらと見て
「誰も入って来ないね」と呟いた。
「あたしの絵が悪いのかなぁ」
「モモは好きだけどな、りさこの絵」

たん、たん、たんと足音を立てて
ふたりとひとりがすれ違う。

舞波はちらと踊り場の掲示板を見た。
印刷物に混じってひとつだけ手描きのイラスト。
くりくりした瞳の女の子がひとり、
笑顔でボールを蹴っている姿。

笑顔なのに。
なんか切ない気持ちにさせるその絵がちょっとだけ、
舞波の心にひっかかりを残した。
142 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/20(火) 07:20
そこで繋がるのかぁ
わくわくしながら読んでます

>嗣永さんが空から落ちてくるのはラジオドラマ(?)を参考に
そっちでしたか
あれもベッタベタすぎて超面白かったですw
143 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/16(日) 09:34
>>142さん
ありがとうございます
でも130と133の間に入れたはずのシーン↓が
入ってないのですでに諦めたい気分です・・・


とりあえずふたりになったフットサル部。
校庭のはしっこって場所は変わらないけど、
ボールを蹴る相手が壁から人(宇宙人だけど)に変わった。

思ったように蹴れないふたりは何度も後ろに
ルーズボールを取りに行ったり、すぐに休んで
地球や日本のことをりさこがモモに話したりするけれど。

ひとりよりずっと楽しそうなりさこが居た。

「あっ、ふたりになってる」
そんな様子を3Fの渡り廊下の窓から見下ろす影ひとつ。
通りすがりに何気なく見た校舎裏のふたりに
別に足を止めることまでしないけれど、
そうつぶやく少女が居た。見た目はかなり、美しい。

その名は、夏焼雅。
144 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/16(日) 09:35
141の続き

「気になる?」
「うわあああ」

突然耳元で声がして舞波はぴょこんと飛び上がる。
自分の顔の5cm横に誰かの顔。ショートカットで
ちょっと釣り目で声が高い。この子さっきの?

「気になるんでしょ?」

でもすれ違ってからそこそこ時間経ったはず。
そう舞波がきょろきょろすると確かにこの子と居た
もうひとりの子が20m程先を歩いている。
独りで。

「じゃあ」

なのに身振り手振りを繰り返していて、
まるで後ろにいる誰かに話しているよう。
あ、居ないって気づいた。

「さっそく」

うわあああという声を出して真っ赤な顔で
きょろきょろしてるその子から舞波は目が話せない。
コントみたい。
145 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/16(日) 09:35
「GO!」
「えっ?」

ぎゅっ、と舞波の手がにぎられる。ちからいっぱい
包みこむように。そのまま少女――モモは走り出した。

「あ、あのどこへ?って言うかあたし図書室に」

舞波の問いにモモは答えない。リズミカルに階段を
駆け下りて、大きなストライドで廊下を駆けて
りさこさえ追い抜いていく。

ふわりと。
舞波の体が浮くようなスピード。たまに着地する足で
地面を蹴って、まるで飛ぶように。

追っかけながらもじわじわと遠くなるモモを見て
りさこは思う。
走れるんだったら体育の時間も真面目に走りなよ……。
146 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/16(日) 09:53
西日まぶしい校庭の隅、他の部活の喧騒も遠い場所。
モモから手を離された舞波はいたたまれなくぽつんと
立っている。

立っていると。

「パス!」とりさこがボールを蹴ってきた。
慌てて舞波はそれをモモへと蹴り返す。
が、ぽてんぽてんとおおきくそれる。

「だめだよー舞波っち。
 ボールはいったん止めてパス先をまず見る。
 あといちごのパンツは子供っぽい」

慌ててスカートのすそを抑える舞波。
あれ?と気づく。あたしいつあの子に名前言ったっけ?

舞波が視線を上げるとボールを取りにちんたら走る
モモの後姿が見えた。
りさこはぽつんと立っていた。
147 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/17(月) 01:30
面白いです
諦めないで下さい
148 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 22:11
なぜかわからない。
でもこの子に必要とされると断りづらい。
舞波は次の日も呼ばれていた。
その次の日も呼ばれた。
その次の日も。

舞波はいつからか毎日ジャージを持参するようになった。

3人になり練習のバリエーションも増えた。
1人がパスを出し、もう1人がシュートを打ち、
残る1人がその様子を本と見比べてダメ出しする。

とは言え続かない。

「2対2ならたまに試合っぽく出来るのにね」

そう。
せっかく覚えたことを試したいのに、試せない。
149 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 22:11
人生を変える瞬間は、あまりにふいに訪れる。

それはいつものようにパスをシュートに繋ぐ練習中のこと。
りさこからのパスが思ったより高く上がり、
それを舞波はジャンプして胸でトラップする。
ぽわんと上がったボールが目の前のすごく良い位置に
落ちて来るように感じて舞波は、ボールのバウンドを待たずに
空中でそのまま蹴った。

右足の甲の真ん中でボールを捕らえた。
そのまま速さと勢いを持って良い音を立ててゴールの角へと
つきささるようにシュートが決まった。

ぽん、ぽん、ぽんと地面でバウンドするボールを
目が点になった3人が見つめている。
150 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 22:11
「あっ」

舞波の体を、つま先から頭のてっぺんまで電流が流れた。
髪の毛の先まで何かを感じる。

きもち、いい。

「やったね舞波っちー」
「すごいよすごい!」

桃子とりさこが今のシュートを褒めに舞波の側へと寄ってきて
その髪をわしゃわしゃと撫でる。

「今ね、わたし。私」舞波から笑顔がこぼれだす。

「テストで100点取ったときよりも100倍嬉しかった」
151 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/06(火) 00:01
数学の授業中。
先生が黒板にチョークで書きつける音だけが響いている。

――2対2ならたまに試合っぽく出来るのにね――

舞波にはひとつの考えがあった。
まがりなりにも毎日練習している私達の中に
突然混ざってもフットサルが出来るほどの運動神経の持ち主で
部活や委員会にも入っていなくてバイトもしてなくて
時間のある子なんて居るんだろうか?と思ったときに
ひとりだけすぐに思いついた。
そしてこれ以上の適役は思いつかない。

隣の席を見る。
端正な顔つきの美少女、夏焼雅がノートの上に
シャープペンシルを滑らせていた。

――みやなら。

舞波からは見えていない。
リズミカルにシャーペンを走らせる雅は、
黒板の公式などお構いなしにドラえもんの全身像を
完成させることに全神経を集中させていたってことに。
152 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/08(木) 00:29
ガンバレ舞波っち
153 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/10(土) 00:15
終業のベルが鳴り、教室がざわつき始める。
雅が一息つく時を狙って舞波は声をかけようとする。
しかし自分なんかが誘っても……。

そんな想いが頭をかすめそうになったとき。

――ガンバレ舞波っち

どこからか声が聞こえた、気が、した。

まだ雅は授業道具をしまっている最中だけど。
「ねっ。ねぇ、みや」
舞波は声をかけた。

以前の舞波からは考えられない。
154 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/10(土) 00:15
「んっ?」

教科書をしまう手を止めて、ちょっとの微笑みとともに
雅は舞波へと視線を移す。

「あのね――」
「雅ぃー!今日カラオケ行くでしょー!?」

突然遠くからの声。

「おぉー!」と振り返り手を振る雅。
その瞬間に舞波の中の炎が消える。

「ごめん舞波。で、何?」
「あ、ううん。何でもない」
「何よぉ。気になるじゃない」
「あ……」

いつものように、いつもだったら口ごもる。
けれど、
舞波を動かす100点の100倍のパワーと、声。

――ガンバレ

「あの、放課後に」

――ガンバレ舞波っち

「みやにお願いしたいことがあって……」
155 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/10(土) 00:15
「ふぅむ」

夏焼雅の強さは、ここにある。
「ちょっと待って」と立ち上がり、叫んだ。

「小春ぅー!やっぱ今日カラオケ中止ぃー!」
「えー!なんでなんでぇー!?」
「どーしても!」

すとん、と何事もないように席につく雅。
呆然としている舞波に顔を寄せ、ささやいた。

「で?」
「えっ?」
「その『お願い』って何?」

雅はくすり、と笑みを浮かべる。
舞波から何かお願いされる、それだけで
退屈をもてあます雅の好奇心は刺激されていた。
156 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/18(月) 02:00
そして放課後の、場所は変わってグラウンド。
舞波の隣にはスカートの下にジャージを覗かせた雅が居た。

「あの、私と同じクラスの」
「今日だけ参加の夏焼雅です。よろしくー」

初対面のりさこ桃子に右手を上げて笑ってみせている。
八重歯がきらりん。その瞬間。

とすっ。

りさこの胸から矢がささったような音が聞こえてモモが
見てみると、りさこの顔が真っ赤になっていた。
157 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/18(月) 02:00
すごい。舞波は改めて思った。
自分が時間をかけてできるようになったことを、
雅はもう最初から出来ている。

体育の時間を振り返ってみても、ここまで思わない。
授業で教わることはそこまで入れ込まないから。
やっと出来るようになったこと、なのに。
そう思ってしまうとボールを追いかける足も
少しゆっくりめになってしまう。

私が、居なく、ても。

舞波の心にそんな影が通ろうとする直前、
ぽん、と肩が叩かれる。舞波が振り返るといつの間にか
桃子がいた。にっこにこの笑顔をしてる。

「思い出してみて、舞波っち」

まるで心を読んだように、舞波にだけ聞こえるような声で。

「頑張って頑張って出来なかったことがやっと出来るって」

そっと囁く。

「最初からできるより楽しいことでしょ?」
158 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/23(土) 00:41
桃子と舞波の間でそんなささやかなドラマが繰り広げられている間に、
もうひとつのドラマがもうふたりの間で起きていた。

自分や桃子、舞波が苦労してしたこと難なくこなす雅の姿に
りさこの瞳はますますハート型になっていく。

今日だけなんてダメ!ぜったいフットサル部に夏焼雅ちゃん
――もうすでにちゃん付け。恋の行動力って凄い――
を引き入れるしかない!

りさこはぐっ、とこぶしを握る。爪のあとが手の平につくくらい、強く。
159 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/23(土) 00:42
その日からりさこの『入部してアタック』が夜討ち朝駆けで行なわれた。
朝は家の前で偶然会ったように装い、昼はさり気なく雅のクラスの廊下を
何度も何度も通り、夕暮れは校門の前で頬を染めて待つ。
雅と舞波は同じクラスであったが、りさこの瞳に舞波の姿は入らない。

そして雅はあっと言う間に陥落する。
りさこの潤んだ瞳に見つめられると、それだけで負ける。皆そう語る。

りさこ以外の誰がやってもストーカーになりそうな行動が、
りさこだけは純愛で片付けられる。

舞波は「りさこ恐るべし」と思いながらふたりの様子を観察していた。

これで4人。
160 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/23(土) 00:45
4人?

舞波がぱちぱちと瞬きする。
自分を指差して、あたしいつ入部するって言ったっけ?
そんな目つきをカメラに向けてくる。

だがすでに舞波の入部届は桃子の手の中にあった。
例えそれが明らかに桃子の書いた文字に見えたとしても、
石村舞波という名前が書いてある事実は動かない。

そして舞波だって文句なんて言うつもりはない。
必要とされることの嬉しさは、舞波を心地よさで包んでいた。
161 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/30(土) 02:27
いつの間にやら部員が4人。
さて規定の7人まであと3人、どう集めたもんだか。
せっかくやるからには本格的にしたいものね。
仮の部室こと、りさこの部屋で4人が頭を悩ましていた。

「どうすれば部員増えるんだろう?」
「運動神経良い人、どこかにいないかなぁ」
「」
「えっとえっと」

カラカラッ、と窓が開く音がした。

えっ、と雅と舞波は振り返る。しかしりさことモモは
まったく気にしていない模様。

だってここ2階なのに。
呆然としていたらにゅっと手が伸びてきて、舞波はびくっと
小さく飛び上がる。雅は硬直していた。
162 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/30(土) 02:27
「りさこー」
にゅっと伸びた手の先にはマンガ。
「これ面白かった。続き貸してー」

「勝手に持ってっていいよ」
「サンキュー」

そんなやりとりの中、硬直の解けた雅がやっと言う。
「ちぃじゃん」

ちぃと呼ばれた人物は驚きの顔で「あれーみやじゃん」と
言った。
163 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/30(土) 02:28
ちぃ、こと徳永千奈美はマンガを両手に抱えてまた
窓から出て行った。
雅が窓から顔を出すと、千奈美は屋根伝いに隣の家の窓に
入っていった。
りさこはまだ「運動神経の良さそうな人かー」とか言っている。

くいっくいっとりさこの袖を引く雅。
「ね、ね、りさこ。ちぃ……ちなみと知り合いなの?」
「ちぃは幼なじみだよ。
 それより運動神経のよさそうな人をみやも一緒に考えようよ」

舞波と雅がちらっと目を合わせる。
「だって、ねぇ」
「うん」

「ちぃって運動神経抜群じゃん」
「うん。バドミントンで県3位になったくらいだし」

ぱちぱちっと瞬きするりさこ、桃子。
「そうなの?」
164 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/30(土) 02:29
「ちょっとちぃに聞いてみる!」
梨沙子はからからっと窓を開けた。

うんうん、と雅と舞波はうなづいている。
ちぃならもしかして部活入っていない子で運動できる子を
知ってるかも知れない。

「ちぃー」
「何りさこ?」
「フットサル部に入ってよ!」

えぇー!
雅の目が見開かれる。だってちぃは、バドミントン部の
エースなのに。そんなこと言ったって……。

「無理だよ。あたしバドミントン部だもん」

ほら。そんなこと聞く前から解って……。

「でも」

でも?

「バスケ部に熊井友理奈ちゃんっているじゃん?
 あの子も入るなら、あたしも入る」

えぇー!

雅の目が再度見開かれた。千奈美の頬は、紅くなっていた。
165 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/31(日) 00:42
レス入れていいのかな?
この話好き!
166 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/31(日) 21:30
ありがとうございます。
もう誰も読んでないみたいだし
話は進まないし……と泣きそうになりながら書いてました
167 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/31(日) 21:30
ダンクが大好物なバスケ部期待の星・熊井友理奈。
彼女を三言で表すとするなら、
「かっこよくて」「話しやすくて」「スポーツ万能」
と言ったところ。

涼しげな瞳が上級生下級生を問わず人気だけど、
まさかあのちぃまでが参ってたなんて。
人って解らない。雅は心からそう思っていた。

バスケ部の副部長を務めるという彼女が
フットサル部に入ってくれる訳なんかないよ、としゃべる雅と
人って解らないんでしょ?と叫ぶもうひとりの雅が
本物の雅の頭の横でぎゃーぎゃー討論中。

「言うだけ言ってみようよ」

桃子のそのことばで4人は友理奈のクラスへと歩き出した。
歩きながら舞波は思う。
ちぃがバスケ部に入ればいいだけなんじゃあ……?
168 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/31(日) 21:30
首が痛い、が桃子の感想だった。
可愛いとかカッコイイとかより、とにかく首が痛かった。

「フットサル部に入りませんか?」
「はぁ?」

友理奈の目つきが鋭くなり、りさこはびくっと肩をすくめる。
横から桃子と雅が時系列をめちゃめちゃに補足説明するが、
きっと舞波がいなかったら通じなかっただろう。

「それでうちに来てほしいと言う訳」

友理奈は穏やかな顔に戻る。ふぅーんと天井を見つめ、言った。

「無理だよ。あたしバスケ部の副部長だもん」

やっぱり。雅はたははと苦笑いをしようとして……。

「でも」

でも?

「アームレスリング部の部長、須藤茉麻。
 まぁが入るなら、うちも入ろうかな」

えぇー!

雅の目がまたまた見開かれる。友理奈は頬を赤らめる。
そしてこの瞬間、千奈美の失恋決定。
169 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/01(月) 00:17
いやいや!ずっと読んでましたよ
区切りが??なんで話の流れぶった切るかな?っとレス遠慮してました

マッタリ待ってます マイペースで書いてください
170 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/01(月) 23:17
コメント本当に嬉しいです。

このコメディにも熱血にも程遠いワケワカラン物語を、
名も無きあなたに捧げます……。
171 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/01(月) 23:18
「部長さんじゃ絶対入ってくれなそうだね」と
ため息混じりに、舞波。
「と言うか、ちぃと熊井ちゃんが入ってくれそうな
 可能性あっただけでびっくりしたよ」と笑う雅。
「頼みに行こう」と歩き出すりさこ。
ぴょこぴょこ着いてくる桃子。よほど友理奈を見上げてて
首が痛くなったのか、とんとんと首を叩いている。

ダメ元。そんな思いが舞波と雅にはあった。
けれどふたりは思い知る。
人生は良い意味でも悪い意味でも思い通りになるばかりじゃなく、
そしてだからこそ素敵であるっていうこと。

茉麻のクラスに着くと、りさこがきょろきょろし始めて
雅は誰かに呼び出してもらうつもりかな?と思った。
違った。りさこはいきなり叫んだ。

「ママー!」

まま!?

「あれーりさこじゃん」

そう言いながら現われたのは、太く逞しい腕と胸を持つ、
だけれども強さより優しさを感じさせる顔つきの少女だった。

舞波には――舞波以外にも――ぴん、と来た。
この人が、アームレスリング部部長の須藤さん、なんだ。
172 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/01(月) 23:19
「ママ、フットサル部入ってよ」
「またその話? ずっと前に断ったじゃん」
「そこをなんとか。ねぇねぇ」
「……今日はしつこいね」
「ねぇねぇ。ねえってばぁ」

なぜママなのか?
その過剰な甘え、仕種、上目遣い、組んだ手は何なのか?
そしてなんだか10分くらいそんなやり取りが続いて。

「……わかった。入部する」
「えええええええええ!」
「だって!だって部長さんじゃん!」
「須藤さん……県大会とかも出るって噂聞いたのに」

茉麻はあっはっはと笑う。やや顔が赤い。

「りさこに頼まれると断りづらくて」

それにしたって、と雅は思わずにいられない。

「それよりあなた、夏焼さんでしょ?」
「そうだけど?」
「どこの部の勧誘にも
 『みやどこにも入らない』の一点張りで避けた
 運動神経抜群の夏焼さんが部活に入ったって
 この界隈ではちょっとした騒ぎだったんだから」
 
「あははは。いやー」

雅は頭をぽりぽりかいた。この界隈って何だ?
とか疑問を浮かべながらもぽやぽやんと
その問い答えようとして凄いことに気づいた。
血の気が引きかける。なんか後ろを振り向けない。

「りさこに頼まれると……断り……づらく……て」

本気のりさこ、恐るべし。
173 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/01(月) 23:19
 
りさこ、桃子、舞波、雅、千奈美、友理奈、茉麻。
 
これで7人揃った!
 
174 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/01(月) 23:19
私立Berryz女学園には、他の中学校にはない
ちょっと珍しい特色があった。それは生徒による自治。

文化祭や体育祭の内容決定は勿論、
部活動の予算決めまでが生徒会に任されている。

文武両道をモットーとするこのBerryz女学園で
生徒会の頂点・生徒会長には
部活動にまで影響力を持つその権威のチカラから
代々特別な呼び方があった。

――キャプテン。
175 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/01(月) 23:20
「キャプテン!」

ふいに呼ばれても慌てず騒がず、キャプテンこと
清水佐紀は振り返る。そこには息を弾ませたりさこ。

「入部希望7人揃ったので部活動申請します!」
「すごいねぇ。集まったんだ」

そう答えながらりさこの提出した用紙を見て目を
丸くする。えっえっえっ?

「夏焼雅ってあの夏焼雅?」
こくり。
「徳永千奈美ってあの徳永千奈美?」
こくり。
「熊井友理奈ってあの熊井友理奈?」
こくり。
「須藤茉麻ってあの須藤茉麻?」
こくり。
「あの運動音痴の安倍先生が顧問?」
こくり。

キャプテンが代々引き継いでいる了承印をぎゅっ、と
申請用紙に押しつけながら、キャプテンは笑う。

「このメンバーで何かするって聞いただけでわくわくする。
 練習試合でもするときは声かけてね。絶対応援に行く」

りさこは満面の笑みで「はいキャプテン!」と答えた。
176 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/02(火) 00:11
捧げてくれて
ありがとう

なんか宇宙人の桃子より梨沙子の方がスゴイなw!
177 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/02(火) 23:49
ふくろうの声なんかうっすら聞こえる夜。
りさこは机で宿題を片付けていて、桃子は床に寝転がって
お煎餅をかじっている。

「しかしあれだね」

桃子の言葉にりさこは鉛筆をとめず、
かりかりと計算を解きながら「んー?」と返した。

「終わってみれば2週間もしないで7人集まったねぇ」

その言葉にりさこ、今度は鉛筆を止めた。

「2週間?」
「そう。モモがりさこの家に来てからまだ2週間経ってないよ」
178 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/02(火) 23:50
「10ヶ月でしょ?」

りさこの言葉に桃子がぱちぱちと瞬きをする。

「じゅっかげつ?」
「2007年の11月から2008年の9月までだから」
「りさこ何言ってるの?」

えーっと、と指折って月を数えようとするりさこ。

「ほんとりさこすごい。
 たったの2週間でさ、メンバーそろえちゃうんだもん」

りさこの手を桃子がぎゅっと掴んだ。数えてたのが
途中で止められてりさこは一瞬不思議そうな顔。
桃子はうっふふふふ、と笑みを浮かべる。

「なんか宇宙人の桃子よりりさこの方がスゴイね!」
179 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/02(火) 23:50
7人揃えば練習もいろいろ出来るようになる。
パスからシュートへの繋ぎとか、
相手ディフェンスを交わしてのパスやシュート。
たまには3対3の試合っぽいこともしたりして。

茉麻、千奈美、友理奈、雅の4人はさすがにカンが良い。
ルールを把握してしまえばそこそここなせてしまう。
桃子も持ち前の(?)カンを活かして、ここぞと言う時に
いてほしいパスルートにいることが多い。
つまりみそっかすは、舞波とりさこ。

体が思うように動かない、とっさの判断をする経験の
少ないふたりは、たまにとても、悔しそうな悲しそうな
顔をする。うつむいてぎゅっと唇を噛みしめたり。

走った後の荒い息を吐きながら舞波は思う。
上手くなりたい。みんなに迷惑かけたくない。
伏せた顔から落ちかけた液体を、舞波はジャージの袖で拭いた。
180 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/02(火) 23:50
さてそれからちょっと経ったある日。
一番乗りでグラウンドの隅、校舎の裏の専用エリアへ
訪れた千奈美は、不思議な人影を発見した。

白いジャージの上下に身を包み、
肩には竹刀、レイバンのサングラスをかけて、
口にくわえた草と短めの髪を風になびかせていた。

ちょっと離れて胡散臭いものをみるような目で観察していた
千奈美の肩をとんとんと叩く人がいる。友理奈だった。
「どうしたの?」
「なんか変な人がいる」
千奈美の指差す先を見て。
「うわ、本当。すごい変」

「どうしたの?」
「あ、みや。あれあれ」
「うわ。何あれ」
「まぁも見てよあれ」
「……コスプレ?」
「あ、桃、舞波。ちょっとあれ見てよ。おっかしーから」
「時代錯誤だね。でもどこか見覚えが……?」

最後に来たのは、我らがりさこ。

「みんな何してるの?」
「ちょっとりさこ、あれ見てよあれ」

話題の人物を見るなりりさこは眉間に皺を寄せ、叫んだ。

「なつみさぁーん、何その格好ー?」

くるっと振り替えりながらキザな仕種でサングラスを
外すとそこには、生徒から究極の童顔と言われてる顔があった。
181 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/03(水) 00:26
舞波頑張れぇ〜
きっとももが支えてくれるよ
182 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/05(金) 23:19
「はいせぇーれぇーつ。はいはい」

なつみがぱんぱんと手を叩いて、その前に7人が並ぶ。
たまたまなんだろうけどなつみの前には友理奈、茉麻、千奈美が
立って、なつみはちょっと見上げるような姿勢になる。

「先生、どうしたんです?」

茉麻の問いに焦らすように「こほん」などと言ってみせるなつみ。
そして。

「練習試合の相手が決まりました」

わぁー!と盛り上がる5人に対し、そうでもないふたり。
勿論りさこと舞波。
183 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/05(金) 23:19
フットサルは通常5人1チームで行なわれ、
そのうちの1人がキーパーを務めることになっている。
今7人いるからにはふたりが補欠になるのは確実で、
そしてその外れるメンバーも確実。
そう思うから落ち込んでいる。

この7人の中では最初のうちから特訓していたというのに、
基本的なことから頑張ってきたというのに、
しかたないけれどへたっぴだから外されちゃうのかぁ。

手に手を取って楽しそうに騒ぐメンバーのいる傍ら、
自然にりさこと舞波はその輪から一歩、下がっていった。
184 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/05(金) 23:20
「しかもすごいんだよ!」
と、そんな様子を知ってか知らずか(多分知らない。気づいてない)
嬉しそうに続けるなつみ。
「この試合に勝ったら日本一になるんだから!」

………………………えっ?

さすがに浮かれていたメンバーも動きを止めた。
「それって」
「つまり」
「現在日本一のチームと戦うってこと?」
「イエース♪」

なつみは天使のような微笑みでにっこり。
さっきまで騒いでいたメンバー達ぐったり。
なつみはさらに笑顔で続ける。

「まぁまぁ。負けても日本で2番。気楽に行こう」

………………………えっ?
185 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/05(金) 23:20
「あの〜、安倍先生」
友理奈を手を上げて、先生を見下ろしながら言う。
「言ってることが理解できません」
その言葉に茉麻も千奈美も雅も、りさこも舞波も
こくんこくんと頷いていた。

「勝てば日本一。負けたら日本で2番。それだけよ」
なぜ解らないのみんな?
そう言いたげな瞳のなつみをじっと見つめていた
桃子がハイッと手を上げた。
グーに固めた右手の拳に唯一、小指だけが立っている。

「はい、ツグナガさん」
「もしかしてモモ達、フットサルじゃない、
 日本でプレイしているチームが1チームだけの
 マイナーな試合をするってことですかぁ?」

そんなバカな!
それじゃあフットサル部の意味がない。

「まさかぁ」となつみが笑って、みんなほっと胸を
(大なり小なり色々な胸を)撫で下ろした。

「フットサルだよ。7人制フットサル」

7人制?
186 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/05(金) 23:21
「日本でこの7人制フットサルをしている女子チームは
 隣町の私立℃-ute中学しかないんだって!
 だからここに勝てばぁ、日本一なのよ」

茉麻の目が点になる。
なぜその学校はそんなルールでプレイしてるんだ?

「まぁ負け知らずの現日本一のチーム相手だけどさ
 気楽に、胸を借りるつもりで行こうね!」

負け知らずなのは相手が居なかったからでしょ?
千奈美はがっくり頭を垂れる。

よく考えればよかった、と雅はため息をつく。
そもそもこの安倍先生のスポ根ドラマを意識した
格好だって、滑りまくりの意味不明じゃないか。

「ただ試合の日は、
 相手側の希望で『雨の日』なんだって。変なの」

今さらそれくらい何も変に感じません。
ただ舞波だけは、ちょっと涙で潤んだ、泣きそうな瞳で
なつみを見つめていた。

安倍先生はもしかして、みんなを平等に扱うために
7人一斉に戦える相手を探してくれてたのでは?と。
しかしりさこは知っていた。なつみさんは天然で、
これはなつみの気配りなんかじゃないってことを。

ぱん!となつみが手を叩く。
「それでは、挑戦状を受け取るにあたって、
 こっちのチーム名を決めましょう!」
187 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/05(金) 23:22
チーム名。
じつはりさこはなんとなく考えていた。

この学校の名前、私立Berryz女学園の『Berryz』という
可愛い響きの言葉を使いたい。
そしてフットサル部として活動することで私は
健康な体を作り、健全な精神を作り、新しい友達を作り……。
色々と作っていた。まるでこの部活がどこかの工房かのように。
だからチーム名は………。

「『それいけりーちゃんズ』とかでいいんじゃん?」
「あ、いいねそれ。面白い面白い」
「さんせー。部長りさこだし」

チーム名は………。

「はい、多数決を取りまぁーす。
 『それいけりーちゃんズ』でいいと思う人ぉー」
「はぁーい」
「1,2,3,4,5,6。はい『それいけりーちゃんズ』に決定しましたぁ〜」

チーム………。

「せんせーも投票ありがとうございますぅ♪」
「なんかさ、オーシャンズイレブンみたいだね」
「りーちゃんずセブン。あはははははは!」

チー………。

結局この日は部活らしい部活はしなかった。
なぜかと言うとみんなでりーちゃんずセブンごっこをしたから。
188 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/13(土) 00:59
練習試合が決まって、特訓にも張りが出てきた。
能力値の高い人が多いとは言え、寄せ集めで出来た集団が
試合で成果を出すにはやっぱり。

「チームワークを育てなきゃね」

千奈美のその言葉にほとんどのメンバーが
「そうだそうだまったくその通りハイ」と頷く。

「もうあなた達ばっちり仲良しじゃない!」
そうなつみが反論しても
「そうだそうだ」の声は止まず、結局なつみが折れる。

特訓が終わった後、7+1名で駄菓子屋へ行き
ひとり100円まででお菓子を買う。(安倍先生のおごり)

みんなで食べながらケタケタ笑いあって、
そんな姿を見てるとなつみもまぁいいかって気持ちになる。
冷静に考えて100円×7人×20日で14,000円程度だから
部活顧問手当てでまかなえるし。
189 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/13(土) 01:00
そして練習試合を明日に控えた金曜日の夜。

お風呂から上がったりさこがパジャマ姿で髪を
わしゃわしゃ拭きながら部屋に戻ると、
桃子が窓枠に腰かけて空を見ていた。

雲と雲との隙間から覗く小さな星達をじいっと、
りさこが来たことさえも気づかないように。

「モモ……」

「あ、りさこ」
桃子は一旦りさこに視線を移すけれど、またすぐ空に
向けてしまう。
「この分だと明日は雨。試合出来そう……」

桃子の言葉が中断されたのは、りさこがぎゅっと
抱きついたから。

「急に居なくなったりしないでね」

桃子の胸に顔をうずめながらりさこが言う。
桃子はにこっと微笑みを浮かべると、何も言わずに
りさこの頭をぽんぽんと撫でた。

あなた私の元から突然消えたりしないでね。
二度とは逢えない場所へ、ひとりで行かないと誓って。
190 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/13(土) 23:23
舞波は足を引っ張らないよう祈っていた。
雅は雑誌をめくりながらストレッチしていた。
千奈美は煎餅をくわえながらゲームをしていた。
友理奈はソファでうとうとしていた。
茉麻はお風呂上りのスキンケアをしていた。

皆頭のどこかに明日のことを思い浮かべながら。

夜が更けていき、、、、
191 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/13(土) 23:23
翌朝。
しとしとと降る雨は試合を中止にするほどではなく、
程よく相手の希望と戦いやすさを求めるこちらの希望の
中間に立った感じの、雨。
転んでも泥にまみれず、足がすべることもなく、
髪の毛がくねくねしちゃうくらいの、霧のような、雨。

会場はお互いの中学のちょうど真ん中のスポーツ広場。

学校指定の青いジャージに身を包みつつ傘をさして待つ8人。
安倍先生までなんで生徒と同じジャージを着てるんだろ?
そう思いつつ友理奈は疑問を口には出さない。

やがて。

もうひとり、来た。
「菅谷さん」と呼びかける小さな影。

りさこをやや見上げるその制服姿は――。
192 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/13(土) 23:23
「キャプテン」
「教えてくれてありがとうね。今日は頑張っ……」
キャプテンの挨拶は途中で、
黄色い声にさえぎられた。
「きゃぷてぇ〜〜〜ん!」

声の主は意外にも(?)夏焼雅。
キャプテンを見るその目はなんだか輝いて見え
うっすら頬も赤らんでいる。

それを見てりさこは気づいてしまった。
あぁ、みやはキャプテンが好きなんだ……と。
りさこはがっくりと肩を落とした。

それを見て茉麻も気づいてしまった。
あぁ、りさこはみやが好きなんだ……と。
茉麻はがっくりと肩を落とした。

それを見て友理奈も気づいてしまう。
もしかして、まぁはりさこが好きなの?……と。
友理奈はがっくりと肩を落とした。

それを見た千奈美も気づいてしまった。
熊井ちゃんってまぁが好きなんだ……と。
千奈美はがっくりと肩を落とした。

桃子と舞波はきょとんとしている。
何が何だかよく解らないけど、
みんなが順番にがっくりと肩を落としたぞ……と。
193 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/13(土) 23:23
「来たよ」

桃子の声にみんなが桃子の見ている方を見る。
傘をさした人影が1,2,3……8人。
ゆっくりと歩いてくる。

千奈美は「緊張してきた!」とその場で足踏み。
舞波は心臓が口から出そうなほど胸が鳴っている。
友理奈は必要以上に怖い顔で相手を見ていた。
「あの、元々こういう顔なんですけど」

りさこ達のそばまで来たとき、
リーダーと思われるポニーテールの女の子が、進み出た。
りさこが呆然とする。美人だ……。

美人は一度こちらの全員を見回した後で
ぺこりと頭を下げた。
「雨の中今日は来ていただいてありがとうございます。
 今日はよろしくお願いします!」

あまりの爽やかな仕種に、りさこもぺこり。
「あ、いえ、こちらこそよろしくお願いします」
なんか欠点とか無さそうな人だなと思ったのも束の間。
「そちらも顧問の方はこられなかったんですね」
「あの、来てますけど」

なつみがぷっくり頬を膨らませると、相手のリーダーらしき
女の子はすいませんと呟いて体を小さくした。
りさこは思う。意外と天然ボケキャラなのかな?
194 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/13(土) 23:24
その様子をくすくす見ていた相手チームのひとりが
ついっ、と進み出た。

「安倍さん、今日はよろしくお願いします!」
「やぁ待ってたよ。メグ、元気?」
「はい!」

成程ね、と茉麻は思う。練習試合が決まったのは
知り合いだからって訳か。

「ねぇひどくない、えり?
 めぐってば顧問の人と知り合いって言ってくれてもいいのに」
「うふふ。実はね、舞美以外はみんなそれ知ってた」
「えぇー」

そんなひそひそ会話が舞波の耳に飛び込んできた。
顔を向けると舞美と呼ばれた子がぷくーっと頬を
膨らませるのが見えた。先程のなつみのように。

「めぐと会うのほんと久しぶりだねー」
「そうですね〜。ねねね、安倍さん、一緒に
 また『よっしゃよっしゃよっしゃ〜』ってやりましょうよ」
「嫌だぁ!恥ずかしいもん。安倍さんもう27歳だよ」

きゃーきゃー言い合うふたりに千奈美は首をかしげる。
一体どんな関係なの? このふたりって。
195 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/13(土) 23:24
雨が体温を奪う中、ゆっくりと準備運動。
そしてピッチに整列する青いジャージの7人と赤いジャージの7人。

「さっきのめぐって子は出ないんだ」
「めぐはコーチだから」
「えっ? 選手じゃないの?」
「そう。コーチだから選手じゃないの」
「選手じゃない? コーチ?」
「そうだよ。コーチなの」
「コーチなんだぁ」
「そうそう。選手じゃないの。コーチ」
「コーチ」
「コーチ」
「選手じゃないんだぁ」
「そう。選手じゃないんだよ。コーチなんだから」

聞いてる周りが耐え切れずつっこむ。

「みや!もう始まるよ」
「えりこちゃん、もう始まるから」

キャプテンとメグはフィールドの外、ベンチにシートを引いて
傘をさしながら座っている。
安倍さんがボールを真ん中に置く。りさこと先程の美人が
じゃんけんをする。りさこの勝ち。

「じゃあ行くよー。試合開始」

なつみがそう言ってぴーひょろろろと笛を鳴らす。
ほぼ同時に千奈美は雅へとバックパスを出そうとした。
196 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/15(月) 21:29
練習試合、もしかすると親善試合。
どことなく持ち始めてたそんな意識がすっ飛ぶほどだった。

あっと言う間。
緩く出したバックパスは走りこんで来た穏やかな顔の少女に抑えられ、
すでに走りだしていた舞美と呼ばれた美少女にパス。
舞美はスピードを落とすことなくパスを受け取りそのままシュート。

キーパーの茉麻がはじいて点は入らなかったものの、
りーちゃんずの7人は呆然としてしまった。

ちょっとこれ相手チーム、かなり強いんじゃない?
197 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/15(月) 21:30
相手チームの攻めのコツはすぐにわかった。
ツートップ体制。

パワーとスピードの舞美と、テクニックの少女。
残り5人は基本的に攻め上がらず守りに徹する。
こちらが攻め込み相手の守りを動揺させたとしても、
キーパーの子がすぐに声を出してテンションを上げさせる。

うちらはオールラウンダーを意識した攻め方で、
向こうは役割をきっちり果たすタイプか。
茉麻は眉根を寄せる。今日まで結構頑張ったから
こてんぱんには負けたくないんだけどな。
顔をぬぐった。
198 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/15(月) 21:30
茉麻がボールを大きく蹴ると、相手チームが守りを堅くする。
攻めの2TOPもそれにあわせて少しだけ下がり、テクニシャンの
少女と桃子が並んだ。

「上手だね」
桃子の言葉に少女は八重歯を覗かせて微笑む。
「フットサル好きだから」
「桃も好き」

視線が絡んで、ふふっとふたりは笑う。

「名前聞いてもいい?」
「愛理」

雨をふくんだツインテールをゆらしながら答えた名前。

「愛理ね。よろしく。桃は桃」

あいり。
桃子は口の中でもう一度その名前を呟いた。あいり。
199 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/15(月) 21:31
雅と友理奈と千奈美が攻め込むも、相手ガードが崩せない。
バックパスを出して様子を伺うも2回目のパスを読まれ
カットされる。
ボールは左を走っていた愛理に渡り、そのまま愛理は走る。

桃子が愛理を抑えようとするも、追いつく前にボールは
大きく右サイドへ。舞美へと繋がれる。

走る舞美の前には、舞波がいた。
200 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/15(月) 21:31
とめなきゃ――。

舞美のコースを塞ぐように前に立ち、舞波は覚えたことを
ひとつずつ心の中で繰り返す。

相手の目からコースを読む、腰を落とす、両手を広げる、
体を止めない、ボールを見る……。

舞美はボールを右へ送ろうとする。舞波も追うように体を
動かす――が、ボールはすぐさま左へ動く。
フェイク。

あっ。

慌てて反転しようとした舞波はバランスを崩す。
泥ですべって、手をついた。その様子をちらっと見た
舞美は「あっ」って顔を一瞬浮かべたが、すーっと
抜き去っていった。

そしてそのまま守りの薄い陣地で繰り出されたシュートは
ゴールの隅、茉麻の手の届かないところを抜けた。

先取点は℃-ute中学側。
201 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/15(月) 21:32
私のせいだ。

眉をはの字にしながら、体制を立て直しながら
手の泥を払っていた舞波へ向かって雅が駆けてきた。
その顔はちょっと怒っているように見える。

――怒られる。

雅の手が舞波に伸びてきて、舞波は目を閉じる。
体が引き寄せられたかと思うと、しかしその手は舞波の
予想と違い、ぎゅっ、とその体を抱きしめた。

えっ?

「舞波、ケガしてない?」

舞波の体を抱きしめたまま、雅は呟く。

「ちょー悔しい!みんなで絶対!点取り替えそうぜ!」

雅の気持ちが伝わってきて、舞波はぎゅうと抱きしめ返す。
さっきまでとは別の理由で泣きそうになる。

「うん!」

その様子を遠巻きに見ていた桃子はにっこり笑う。
頑張った甲斐あったね、舞波。桃が支えなくても、
みんなが舞波を支えてくれてるよ。>>181
202 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/16(火) 00:11
ル ’‐’リハイドンマイ!
203 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/16(火) 13:55
はじめて読ませていただきました!
とても面白いですw
ガキカメのなっち争奪シリーズも面白いし、ベリーズのも読んでワクワクしてきました!笑いあり、涙ありですね。安倍先生素敵すぎるw
これからも続きを楽しみにしています。
是非とも頑張ってください。
204 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 00:50
>>203
ありがとうございます!
実はこの話・・・・






今回の更新で終わります
205 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 00:51
舞美と愛理の2TOPは手強く、追加点を許してしまう。
それも3点も。

りーちゃんず側は1点を取ることもできない。
それでもみんなの顔から微笑みが消えないのは、
この時間が楽しいから。

霧雨の中を走り、汗を流しながら、声をかけあって、
たまに素人らしくボールをひたむきに追っかけて、
ファインプレーには敵味方関係なく賞賛をかけあう。
誰もがこの楽しい時間を長く続けたいと思ってるように。

傘をさしたままコートの外から眺めてる
キャプテン、なつみ、メグも笑顔になっている。

「メグ、ありがとうね。今日は試合受けてくれて」
「いえいえ、困ったときこそ従姉同士助け合わないと」

そうなんです。実はメグとなつみは従姉だったんです。
なつみの隣に住んでるりさこと、りさこの隣に住んでる千奈美は、
もしかしたら街のどこかですれ違ったりしていたかも知れません。
りさこにも千奈美にもメグにも、
そんな記憶はなかったのですけれど。

「それに今回はなつみさんの頼みってのもありますけれど」
「けれど?」

不思議顔のなつみに、メグはにこりと笑顔。
ありがとうを言わなきゃいけないのはこちらです。

「私達も戦ってみたかったんです」

この、愛しい7人のメンバーで。
メグの目はコートを駆ける赤いジャージに注がれていた。
206 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 00:51
試合が進んできてもりーちゃんずは1点も取り返せない。
℃-ute中学の鉄壁の守りがどうしても崩せない。

コートの向こうからメグの声がして、
残り時間があまりないことが告げられる。

霧雨がやんだ。体温を奪われることをきにしなくていい!
りさこたちはジャージの上を脱いでコートの外へと
投げ捨てる。最後まで諦めるな!

しかしここで℃-ute中学チームが乱れ始める。
不滅の体力を持っているかと思われた舞美が、雨が
やんできたと同時に集中力を失い始めた。
℃-ute中学随一のテクニシャン、愛理も動きが鈍ってきた。

急に上の空になりかけてる相手の隙をついたパスが、
雅からりさこへと通った。りさこへのガードには
愛理がつく。しかし前ほど動きに切れがない。

愛理のからだがぐらりと揺れた瞬間、りさこは走り出す。

「愛理!」

放たれたシュートは緩やかではあったけれど
取りづらい弧を描いてゴールへとつきささった。
207 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 00:52
やった、と喜び振り返ったりさこの目に最初に飛び込んで来たのは
コートにぐったりと倒れている愛理の姿だった。

「愛理!愛理!」

駆けつけた舞美が愛理の体をかかえぎゅっと抱きしめる。
しかし愛理は苦しそうに肩で息をするだけ。
愛理を抱きしめたまま舞美は、やがて誰にあててという訳でも
なさそうに口を開くと、大きな声で言った。

「……棄権します」

えっ?と友理奈が目を見開く。
もうちょっとなんだし、ここまできたらあの子だけ休ませて
6人で戦ってもいいんじゃあ……。
雅も千奈美も舞波も茉麻も勿論りさこもきょとんとしていた。

ただ桃子だけが解っていた。そっとりさこにだけささやく。

「りさこ、あの愛理って子も、人間じゃないよ」
208 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 00:53
メグが走ってきた。抱えていた水筒の蓋を取るなり、
中の水を愛理の頭からかける。
それで愛理は目をさました。
その様子を乱暴だなぁと雅は見ていた。

「ごめんね」
「いいよ。それより愛理、立てる」
「うん」

立ち上がりゆっくりコートを出て行こうとする愛理の前に
りさこがついと立ちはだかる。
℃-ute中学側は何だか困ったような、怒ったような顔で
りさこを睨んでいる。

りさこはそれに臆すことなく(気づくこともなく?)
愛理の手を取った。

「また試合しよう。今度はもっとすごい雨の日に」

にこっと笑顔を作ると愛理はりさこに「うん」とだけ答えた。
愛理にはりさこのすべての真意が伝わったようだった。
209 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 00:53
℃-ute中学は挨拶もそこそこに帰ってしまった。
なんか納得はいかないけれど、明らかに訳アリなところを
見せられてしまって気がそがれたりーちゃんず7人+キャプテン+顧問1人の
計9人は帰り道を歩いていく途中だった。

「負けちゃったけど、楽しかったね」
「ねー!すっごい楽しかった!」
「うん。またやりたい」

場を盛り上げようとそんな会話をする雅と千奈美に
なつみがさらっと言ってのける。

「えっ? 今日の試合はこっちの勝ちだよ」

茉麻が困ったような顔をする。舞波にもりさこにもその困り顔の
意味がわかった。棄権されたから勝ち、ではない。
試合内容を振り返ると、私達が絶対負けていた。

「相手の棄権じゃなくきちんと試合で勝ってみたいです」

舞波が遠慮がちにみんなの気持ちを代弁する。それを聞いて
友理奈はうんうんとうなづいていた。

「いやいや、みんな知ってるでしょ?
 最後に取った得点が4兆点になる『4兆点ルール』のことをさ」
「知りません!」

8つの声がきれいに重なった。
210 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 00:54
翌朝。
休み時間にりさこと桃子が教室でおしゃべりしていると
ざわめきがした。その声の先を見ると、キャプテンがいた。
1年生の教室にキャプテンがわざわざ来るなんて
どういうことだろう?

そんな周りはおかまいなしにりさこと目があうとキャプテンは
にっこり笑って手でこっちこっちと手招きをする。
近づいてきたりさこ(と桃子)に、キャプテンはそっと
耳打ちする。

「わたしも、フットサル部に入れてくれないかな?」

同時に手渡した紙は、清水佐紀と書かれた入部届。
211 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 00:54
その夜。
ほくほくの笑顔で、フットサル部の部長らしく
年間スケジュールなんてのを机で書いていたりさこを
季節外れというか出しっぱなしのこたつに入りながら
うふふっと言わんばかりの笑顔で桃子が眺めていた。

「よかったねりさこ。部員ふえて」
「うん!これで凝った練習も4対4での試合も出来るもん」
「ひとり減っても7人だから部活動続けられるもんね」
「……えっ?」

振り返ったりさこが見たのは、
いつもよりずっとずっと穏やかで優しい桃子の微笑。

「実は桃ね」
「やだ!」
「そろそろ地球から」
「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!」

りさこは耳をふさぎ大声で叫び続けてる。
桃子はふぅと息をつくと、耳をふさいでいるりさこの左手の
人差し指をそっと、握った。
そこからりさこの頭の中へと電気が、情報が流れ込んできた!
212 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 00:55
すべてを知ってりさこはぽろぽろ泣き出した。
桃子はそれを丁寧に拭いてあげる。鼻もちーんしてあげる。

「だってだって10ヶ月も一緒だったのに」
「1ヶ月でしょ」
「10ヶ月だよ!だって去年の11月11日からだもん!」

声もだんだんべそべそしてきている。

「……忘れちゃうの?」
「桃は忘れないよ。みんなのことも、勿論りさこのことも」
「私達は桃を忘れちゃうの?」
「うん。りさこ以外はみんな桃のこと忘れちゃう」

りさこは崩れるように、桃に抱きつく。
スイッチが入ったように、もしくは切れたように、
わんわんと泣き出した。

「桃とりさこは友達だもん。また会いに来るよ。ねぇりさこ」

桃子はりさこの頭をぽんぽんと叩く。柔らかいを微笑みを
浮かべながら囁いた。

>>202
213 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 00:55
 
その言葉を残して桃子は去っていった。
 
それから月日は9ヶ月流れる。
 
214 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 00:56
りーちゃんず7人は特訓をしたりしなかったりで、
練習試合のたびに℃-ute中学と
日本一を取ったり取られたりしていた。

佐紀、千奈美、茉麻、雅、舞波、友理奈、りさこ。
この似ても似つかない7人は不思議と息ぴったりんこで
くだらないことを本気で楽しんだりしていた。
みんなでいっぱい笑ったあと、りさこだけがふいに
淋しそうな笑顔になることがあったけれど。

フットサル関連で部員の名前を書くことがあった場合、
りさこはほとんどの場合で名前の横に桃のマークを書いた。

「『りさこ』なんだから、桃じゃなくて梨でしょ?」
そう笑う声にりさこはさらりと答える。
「りーちゃんずはね、8人でりーちゃんずなの」

りさこが毎回意味不明な回答を返しているうちに、
誰も桃のマークについてはつっこまなくなった。
8人目って安倍先生のことかな?
そう言われてみれば安倍先生って桃っぽいかもね。
などと勝手に解釈されていたりして。
215 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 00:56
朝。ホームルーム前の時間。
窓際に座るりさこは騒ぎの輪から離れて澄み切った
空を眺めていた。

がらがらっと扉が開いて、
担任のなつみが「はいはい座って〜」と手を叩きながら
生徒を促す。

皆が席について静まったところで、わざとらしく「エヘン」と
なつみは席をする。

「今日は転校生を紹介します」

ざわつく教室。
りさこはやっと視線を外からなつみへと映す。

「はい。じゃあこっち来て自己紹介して」

扉が開く。小さな彼女が姿を見せる。
りさこが跳ねるように立ち上がる。イスが音を立てて倒れる。
そのイスへクラスの視線が一瞬集まる。
りさこはもう駆け出していて、その転校生を抱きしめた。

「遅いよっ!」

なつみも、クラスの他の子もみんなきょとんとしている。
ただその転校生は動じる様子もなく、
りさこの頭をぽんぽんと優しく叩いた。
216 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 00:57
それいけりーちゃん!これにて完結です。

もっと早く終わると思ってました。
217 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/17(水) 08:35
感動した
218 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/18(木) 00:58
面白かった!
またネタが浮かんだら書いてください
色々レス採用してもらって楽しかった
219 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/19(金) 23:02
ふたりも読者がいたとかありがたいことです。

>>217
そ・・・そんな話でしたっけ?

>>218
ありがとうね。
なんか思いついたらまた書きたいですがきっと
なちガキカメじゃなくてベリーズ工房で書くような気がしてます。
220 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/20(土) 07:57
完結お疲れ様です。
面白かったです。次も期待しています。
221 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/23(火) 22:52
>>220
ありがとうです。次・・・思いついたら書きます。
222 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/22(土) 10:56
223 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/22(土) 10:57
224 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/22(土) 10:57
「テステステス。聞こえてますか?オーヴァー」
「聞こえてます。オーヴァー」
「今日の最後の公演で、
 オペレーションN・H・Kを実行する。オーヴァー」
「ガキさん……本当にやるんだね」
「やる。そのために準備してきたんだから」
一瞬の間。
「カメ、やめとく? 他のみんなは、どう?」
「やりましょう」「私は、やります」「……私も」
「そうだね。みんなごめん。
 このために頑張ってきたんだもんね。やらなきゃ!」

………私達の、未来のために。
225 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/22(土) 10:57
 
N・H・Kにようこそ!
 
226 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/22(土) 10:58
Hello!Project 2008 Summer ワンダフルハーツ公演
『避暑地でデートいたしまSHOW』

国立代々木競技場第一体育館での公演も残すところ最後の1回。
出演するモーニング娘。、Berryz工房、℃-ute、そしてハロプロエッグの
メンバー達がケータリングを食べたり振り付けの確認をしたり仲良く
談笑しながらそれぞれの休み時間を過ごしてる中、新垣里沙はひとり隅で
時計とレポート用紙を片手にぶつぶつと何かを読み上げていた。

「ガキさん」
びく、と顔を上げる。高橋愛だった。
「姿見えないからどこいったかと思ったがし」
「あぁごめんね。ちょっと静かなところで気分落ち着けてた」
答えながら里沙はさり気なくレポート用紙を隠そうとする。

「ガキさん、それ……」
言いかけた高橋の言葉にかぶせるように遠くから亀井絵里の声がする。
「愛ちゃーん! ちょっと振り付け見てぇー!」
「呼んでるよ愛ちゃん」

里沙はにこりと微笑みを浮かべながら、愛の肩をぽん、と叩く。
絵里へ向かって歩き出す愛の背中ごしに里沙は(ナイス!)と親指を
立ててシグナルを送った。
227 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/22(土) 10:58
そしてコンサートが始まる。それまでの公演と何一つ変わりなくつつながく
進行が進み、今回の目玉のひとつである High-King の出番になった。

「さぁ行くよ!」
ステージ裏。高橋が声をかけ、田中れいなが「おし!」と元気に声を出す。
しかし矢島舞美、清水佐紀、前田憂佳からの声はない。
「緊張してる?」
高橋の言葉に憂佳がうなづく。「緊張します……」

「憂佳ちゃんはしょうがないか。でもふたりはさすがに緊張せんよね?」
問われた舞美と佐紀は静かに首を振った。

「……緊張しますよ、私達だって」
228 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/22(土) 10:59
ライトの落とされたステージで5人がそれぞれ立ち位置につく。

「High-King 行きます!」

高橋がそう叫ぶが、曲が始まらない。客席がざわざわし始める。
司会のまことと稲葉が慌てて飛び出してきて説明をしようとした時、
それまでステージ上の5人を映していたスクリーンが真っ暗になった。
尚ざわざわが大きくなる。しかしスタッフの慌て様と違って
観客達にはこのアクシデントを楽しんでるような節がある。

10秒ほど経って、スクリーンに映像が戻った。しかし――。
「ガキさん?」

高橋が呟く。スクリーンにはガキさんが映っていた。上半身のアップの
その映像に客席、いや出演者達までざわざわし出す。

里沙の服装は色こそ違うけれど、
High-King の衣装とまったく同じデザインのものであった。
229 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/22(土) 10:59
「ガキさん、どうした……?」
ぼそっと発した高橋の声がマイクを通して会場に響く。

「えり!」
今度はれいなの声。里沙の隣に絵里が現われて、その絵里もまた、
High-King の色違いの衣装を着ていた。

客席はこれがサプライズの演出だと思って大盛り上がりだ。
「えり、何よ! ふざけてんの?」
「こんなことして、怒られようよ!」

しかし次第に、なんか様子がおかしいことが伝わり出す。

「花音ちゃんもおいで」
絵里の声がして、スクリーンに花音も現われた。
やはり High-King の色違い衣装を着ている。

スクリーンを見上げる憂佳の目はこれ以上ないほどに見開かれていた。
230 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/22(土) 10:59
スクリーンには小さな花音を真ん中に、左に絵里、右に里沙。
里沙が静かに言った。
「あなた達の時間は、私達がいただきます」

絵里が続く。
「ここで歌うのはあなた達ではなく、私達」

花音が微笑を浮かべる。手にしていたマフラータオルをスクリーンに
映るように持ち上げ広げながら、言った。
そのタオルに書かれてた言葉は――N・H・K。

「N・H・K。Neo-High-King です」
231 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/23(日) 11:42
Neo-High-King!?

ブーイングと歓声の入り混じった中、スクリーンの映像が
ステージ上の5人へと切り替わる。
待つことしばし。里沙、絵里、花音の3人がステージに現われた。

「ガキさん、これどういうこと?」
高橋の声の中に、静かな怒りと動揺が感じられる。
だがそれに気づきながら、それを受けても里沙の顔には焦りもない。
「言った通りよ。ここでは私達 Neo-High-King が歌うってだけ」

「3人だけでC/Cは歌えんとよ、絵里」
田中の声が低く響く。
しかし絵里は何気ない風で、普段の絵里なら低い声でおどせば
すぐに萎縮をするというのに。田中は眉間に皺を寄せる。
絵里ってば、本気っちゃ?

「花音……どうして憂佳の邪魔をするの?」
涙まじりに憂佳が言う。花音はにっこり微笑んだまま。
「憂佳のこと嫌いなの?」
「嫌いじゃないよ。でも今回だけは……」
花音が笑顔を消して真顔になった。花音の震えに憂佳が気づく。
「ごめんね」
232 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/23(日) 11:43
「さっきさぁ、田中っち。
 C/Cは3人だけで歌えないって言ったよね」
「言ったけど?」

スクリーンに里沙の顔が大きく映った。
田中はくっ、と唇を噛む。スタッフの中にも協力者がおると?

「Neo-High-King のメンバーは High-King と同じ構成なの」

モーニング娘。がふたり、Berryz工房がひとり、
℃-uteがひとり、そしてハロプロエッグからひとりの5人。

「それは Neo-High-King も同じ。
 ……ねっ、舞美ちゃん、佐紀ちゃん?」

そこで高橋と田中ははっ!?と振り返る。
自分達の後ろで、こんな事態にも関わらず声ひとつ上げないふたり。
高橋が改めてふたりを見ると佐紀はやや伏し目がちにしていて、
舞美にいたっては口元に笑みを浮かべてさえいた。

佐紀と舞美は目をあわせこくん、と頷きあうと
高橋田中憂佳の元を離れ、里沙絵里花音達に合流した。
3人対5人の構図が逆転する。

「3人だけじゃC/Cは歌えないんだよね」
絵里の声が響く。片目を閉じ小首をかしげ笑みを浮かべまるで、
ごめんねと言うような仕種で。
「悪いけど、ステージから降りてもらえないかな?」
233 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/23(日) 11:43
「降りるわけないやろ!
 舞美ちゃん、佐紀ちゃん! 怒らんから戻っといで!」
「その声がもう怒ってますよ、田中さん」

苦笑いで言う佐紀に、会場から笑いが起こる。
それがより田中を苛苛させる。
「れいなこっから動かんけんね!」

「私達は踊らないのでいいですよ。……音楽、スタート」

流れてくるのは聞き覚えのあるイントロ。
会場がざわめき、田中も高橋も憂佳も気づく。

――『息を重ねましょう』?
234 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/07(水) 00:16
吹きましたw
なちヲタシリーズ大好きですw
235 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/31(火) 04:34
ワロタw
236 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/07(火) 06:49
スクリーンが2段3列に、6分割された。
下の段に舞美、佐紀、花音。
上段には里沙、一箇所を飛ばして絵里の顔が映る。

そこに映りこむのは田中や高橋はおろか、観客席からも
ほぅと声が洩れるほどのシンクロニシティ。
まったく同じタイミングで瞬き、視線をそらし、髪を手で流す。

振り付けというほどの振り付けでもない。
なのにまるで、5人が息ぴったりに見えてしまう。

――こんなこと、特訓で合わせられるレベルじゃない。

会場中が呆然としたこの理由は、次の瞬間明らかになった。
残る1分割の窓に映る安倍なつみのPV映像。
5人のすべてがその映像と同じ仕種をしている。

……ばっ。

歓声のあがる客席。寸分違わず同じ動きの5人を見て
田中れいなのこめかみに血管が浮かび上がる。

――っかじゃないの!?
237 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/07(火) 06:50
壁にいくつもはめこまれたディスプレイ。
ステージ上の5人と3人の顔はもちろんのこと、遠くからの
全体像を掴んでいる映像や観客席のものまである。

「はい、1カメさんは引き気味にー。4カメさん後ろ回りこんでー」

里沙が持っていたレポート用紙を片手に
細かく指示を出すのは久住小春。プロモーションビデオと
出来る限り似た映像にするためのカメラの動きがまとめてある。

ぶすくれた顔で小春はそれでも、きちんと指示を行なう。
各グループからそれぞれ出る人数なんて決まってなければ
私もあの場所に入れたのにな、なんて頬を膨らませ気味に。

ディレクタールームで机の上に足を放り出す小春の背後、
扉の向こうからがんがんとノックが聞こえる。
だけど開ける訳にはいかない。もう止められないの。
にやりと笑みを浮かべながら振り返った小春はドアのガラスの
向こうの顔に気づき、その笑みを消した。
238 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/07(火) 06:50
歌い終わった5人がマイクを持った手を下ろす。観客席からは
拍手が響く。やり遂げた5人はやけに静かだった。

「満足したわけ?」

田中の冷たい声に「した」と同じくらい里沙が冷たく答える。
「勝手なことして。ハロプロにもう居られんかもよ」

スイッチが入った。里沙は田中を睨む。そして鼻で笑った。
「いる必要ないじゃん。ハロプロ?残る私達がハロプロ?
 卒業する人達はもうハロプロじゃないって? はっ。逆じゃん」

会場が騒がしくなる。残る?卒業?誰か辞めるの?
田中はマイクを口元からずらす。このステージの上にだけ響く程の
声で「卒業のこと言ったらだめって言われっちゃろ!」と叫んだ。

2009/3/31でのエルダーメンバーのハロー!プロジェクト卒業。
この時点ではまだまだ外部には秘密にしておくはずの情報なのに。

「ガキさん。こんなことしても何にもならんよ?」
高橋の言葉には理解と許容が含まれている。その解ったような顔が、
憐憫の仕種が、余計にステージ上の5人の心を燃え上がらせる。
「結果がそんなに大事ってわけ!」
「熱くならんの」
239 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/07(火) 06:56
「あなた達!」
スピーカーから響く声。スクリーンには腰に手を当てて
怒った顔の安倍なつみ、そしてその横でうなだれる小春。
状況をよく解らないながらも見守っていた客席からは歓声が飛んだ。
「ちょっと今から行くからそこで待ってなさい!」
そしてまた歓声。
240 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/07(火) 06:57
ありがとうございました。

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