M。S.2
- 1 名前:k 投稿日:2005/10/09(日) 03:06
-
金板で書いていたkというものです。
向こうの容量がいっぱいになりそうなんでこちらに移ってきました。
あやみきの短編、中編をかいています。
桜の木の下で
ttp://mseek.nendo.net/wood/1082540107.html(森版 倉庫)
M。ストーリー
ttp://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1096472047/l50(前作 金板)
それでは、どうぞ・・・・
- 2 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/09(日) 03:07
-
誰も・・・
誰も分かるわけない
あたしの気持ちなんて・・・・
誰も・・・
あたしの苦しみなんて・・・
分かるかわけない
- 3 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/09(日) 03:08
-
「・・ん・・」
窓から差し込む日の光で目を覚ます。
いつものように目を開けようとしたら何故か開かない。
「・・目・・・痛い・・」
目を閉じながら瞼を抑えると少しだけ腫れていた。
「・・・起きなきゃ・・・」
そうは思っても中々開かない瞼に段々とまた眠気が襲ってくる。
このままでは遅刻するので両手で軽く瞼を擦り、どうにかこじ開ける。
「・・・眩しい」
気持ちよく差し込む日の光は、こじ開けた目には眩しすぎた。
- 4 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/09(日) 03:09
-
「・・いってきます」
ご飯を食べ、家を出る。
家を出る前に見上げた空はこれでもかというくらい晴れ渡っていた。
「・・・今日も天気は晴れかぁ」
「亜弥ちゃん!」
見上げていた空の感想を呟いていると後ろから声をかけられた。
振り返らなくても分かるその声に心音が跳ね上がる。
「・・おはよう、みきたん」
「おはよう、亜弥ちゃん。これから登校?」
「サボるように見える?」
「うんん。じゃあ一緒に行こう」
「うん」
ゆっくりと振り返った先には笑顔のみきたん。
晴れわたったこの空のように眩しいほど笑顔になっている。
- 5 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/09(日) 03:10
-
「亜弥ちゃん、今日は朝練ないの?」
「うん、テスト前だし」
「そっかぁ・・ミキはテストが無くても毎日、勉強漬けだよ。ヤダねぇ受験生っていうのは」
「・・・・大変そうだね。大丈夫?」
「うん、平気」
「そっか・・!?」
他愛の無い話しをしながら学校への道を歩いていく。
すると、みきたんが手を握ってきた。
その行動に一瞬だけ、びっくりしたが顔には出さなかった。
・・・みきたん、気にしたかな?
「・・・・」
ニコニコしながら歩いているみきたんの横顔を盗み見る。
気にせず、前を向いて歩くみきたん。
それどころか、あたしと歩くのがそんなに嬉しいのかみきたんはニコニコしている。
「・・・みきたん、可愛すぎ」
そんな顔を見て可愛いなぁとつい呟いてしまう。
- 6 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/09(日) 03:11
-
みきたんとあたしは幼馴染から恋人同士になった。
小さい時からの想いを、あの丘の木で伝えたのが昨日のこと。
『ミキは亜弥ちゃんが好きだよ』
あの木でみきたんに言われた言葉。
みきたんへの気持ちが大きすぎて冷たい態度しか取れなかったあたしに、みきたんは関係ないと言って手を差し伸べた。
「今日も天気がいいねぇ」
「そうだね・・」
嬉しそうに話かけるみきたん。
この顔を・・みきたんを、あたしの方へと向けさせたくて一度、みきたんから離れた。
それはとても自分勝手な・・・
もうあたしは子どもじゃないんだと認識したものだった。
「・・ホント、眩しいくらい晴れわたっているね」
みきたんから離れたきっかけは、あたしがみきたんへの気持ちに気づくきっかけでもあった。
- 7 名前:k 投稿日:2005/10/09(日) 03:14
-
更新、終了。
短いですが更新しました。
新スレの最初が、前回の続きからというのは読みにくいかな・・・?
今回の話は藤本さん視点では書かれなかった、松浦さんの気持ちを書いていきたいと思います。
前スレのレス返しです。
652>>名無しマスクさま
ありがとうございます。
こちらもありきたりですが、読んでもらえて嬉しいです。
653>>ひろ〜し〜さま
ありがとございます。
中々、上手くまとめることが出来なかったんですが、どうにか終わることが出来てホッとしてます。
654>>ケロポンさま
ありがとうございます。
吉澤さんは、良いヒトでしたw
松浦さん、脱出おめでとう!・・・と言いたいですが、まだまだ、松浦さんには迷ってもらおうと思いますw
キリがいいところで更新をするので、更新量は短いものから長いものとなるかもしれませんが、感想などありましたらどんなことでもいいので書いていただけたら嬉しいです。
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 8 名前:名無しマスク 投稿日:2005/10/09(日) 10:39
- 更新お疲れ様です。
とうとう松浦さん視点始まりましたねぇ。
こちらも前回同様楽しみにしております。
あ、あと前に書いた「ありきたり」というのは私の「よかった!」という
言葉に対してのものなので、誤解なさらないでくださいね(汗
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/10(月) 21:37
- 更新乙です。そして新スレおめ。
どこまでも付いて行きますよ。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/12(水) 21:01
- やっぱりこの二人って制服似合うと思います。
作者様のおはなしを見て想像すると、すごく自然な感じがするんですよね。
松浦さん視点も頑張って下さい。応援してます。
- 11 名前:k 投稿日:2005/10/15(土) 18:52
-
更新、開始
- 12 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/15(土) 18:53
-
あの日はいつものように、学校が終わってすぐにみきたんの部屋へと行った。
部屋へ入るとみきたんが珍しく机に向かって、教科書と睨めっこしていた。
「みきたんが勉強してる!」
「ああ・・亜弥ちゃん。来たんだ」
「みきたん、どしたの。教科書なんて真面目に見て」
「んー?・・・いやぁ、ミキももう3年だしさぁ。そろそろ進路について考えようかなって」
「進路って・・・そのまま、ウチの学校の大学に行くんでしょ?・・・まさか・・・進学できないくらい成績がやばいとか?」
「・・・亜弥ちゃん、今のは学年トップのミキに対して言ったのかな?」
みきたんがジロリとあたしのほうを見る。
「ウソでーす。そんな怖い顔で見ないでよ」
「・・悪かったね。地顔なんですけど」
「にゃはは。怒った顔のみきたんも可愛い」
「はあ・・・もういいです」
からかうように言うあたしにみきたんが呆れた目で見てくる。
- 13 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/15(土) 18:54
-
「ウチの大学にいくんだよね?」
「・・うーん・・・・」
軽くため息をつくみきたんの側まで近寄り、後ろから抱きつく。
するとみきたんは難しい顔をした。
「・・・みきたん・・?」
「じつはさ・・他の大学を受けようと思ってさ」
「・・・え?」
後ろから抱きつくあたしをチラリと見たあと、みきたんは机の方へと視線を延ばした。
そこには何種類かの大学のパンフレットが置いてあった。
あたしがそこに目をやると、みきたんがひとつのパンフレットを手に取った。
「ここの大学なんだけどさ、結構カリキュラムとか設備とか整っていて、いいなって思うんだけどさ」
「ここ・・・?」
みきたんがあたしの前まで持ってきたのはあたしの知らないところだった。
- 14 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/15(土) 18:55
-
「・・ここって、県外の大学だよ」
「うん、やっぱ他は違うね。ウチの大学と違って設備とかいいんだ」
「・・・ここに・・行くの?」
「まだ決めてはいないけど・・・」
「ウチの大学は・・・受けない・・わけ?」
「受けるけど・・・本命はここの大学にしようかなって考えてる」
「・・・・」
パンフレットを一点に見つめて、あたしの質問に答えていくみきたん。
・・・みきたんが遠くに・・行く?
みきたんが行こうとしているのはあたしの知らないところで、場所なんて、ここからすぐなんて距離じゃないほど遠いところだった。
・・・・なんだろう?すごくモヤモヤしたものが湧き上がってくる。
離れるかもしれないと知ったと同時に沸き起こった感情。
その感情にあたしは戸惑っていた。
- 15 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/15(土) 18:57
-
「亜弥ちゃん?・・静かだけど、どうかした?」
「・・・みきたん・・本当にこの大学を受けるわけ?」
「うん。自分の力を試したいし・・・でも、ウチの大学も・・」
「・・ヤダ・・」
「受けるから・・って・・え?・・亜弥ちゃん?」
「・・みきたんがいなくなったら寂しい」
「・・・亜弥ちゃん」
後ろから抱きつく手をさらに強める。
ずっと側にいたのに・・
子どもの時からずっと・・・
約束だってしたのに。
ずっと、あたしの側にいて守ってくれるって・・
約束したのに・・
- 16 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/15(土) 18:58
-
「・・亜弥ちゃん、ちょっと苦しいんだけど」
「・・・みきたん・・」
「ん?・・なに?」
「小さいときのこと・・覚えてる?」
「小さいとき?」
「うん。・・あたしとみきたんが会ったときのこと」
「ああ、・・・公園でしょ?」
「うん公園。・・・じゃあ、その時に約束したこと・・覚えてる?」
「へ?」
あたしの言葉にみきたんは分からないって顔になる。
その顔をみただけで、たんがあたしとの約束を覚えてないんだと分かってしまった。
「亜弥ちゃん?急にどうしたの、昔のことを言ってくるなんて・・」
「なんでもないよ。じゃあ、あたし帰るね」
「え!?もう帰るの?」
「・・・たんの邪魔しちゃ悪いから・・」
「別に少しくらい・・」
帰ると言ったあたしにみきたんが引き止める。
マユを少しだけ下げてあたしを見上げるみきたん。
その顔が子犬のようで、いつものあたしならそんなみきたんに抱きついていただろう。
・・・そう、いつものあたしなら・・・
- 17 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/15(土) 18:59
-
「いい、やっぱり帰るね。じゃあねみきたん」
「あ・・・」
みきたんの顔を見ずにドアを閉める。
多分、初めてのことだろう。顔も見ないでたんと別れるなんて。
「・・・ハァ・・」
家につくなり玄関のドアにもたれ掛かる。
さっきから沸き起こるモヤモヤ感が消えてくれない。
それどころか、溢れるように大きくなっていく。
「・・・なんで・・あたしとの約束を覚えてないの・・・馬鹿たん・・」
しゃがみ込んで、両手で顔を覆う。
モヤモヤとしたものが体中を駆け巡り、泣きたい気持ちになってくる。
なんで?
なんで、たんがあたしから離れるって思っただけでこんなに苦しくなるの?
約束を覚えていないだけで、なんでこんなに悲しい気持ちになっちゃうの?
・・ああ、そうか。
好きだからだ。
好きだから・・大切な人だから・・・
だからこんなに苦しいんだ・・・
- 18 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/15(土) 19:01
-
自分への心の問いかけに段々と、答えが出てくる。
「・・・あたしは、みきたんが好きなんだ」
幼馴染としてではなく、一人のヒトとして。
だから苦しくなったんだ。
たんが・・みきたんがあたしを唯の幼馴染としてしか見てくれてないから、嫌なんだ。
あたしのことを考えずに、相談もなしに大学のことを決めたみきたんが嫌なんだ。
「・・・たんの・・ばか」
泣く気持ちを抑えながら、小さい時のことを思い出す。
初めてみきたんに会ったのは、公園だった。
男の子にいじめられているあたしを、たんが助けてくれた。
みきたんがあたしが引越した家の隣の子だと分かって、すぐに仲良くなった。
それは珍しいことだった。
あたしは人見知りが激しい子だったみたいで、いつも一人で遊んでいた。
そんなあたしが、初めて会った子とすぐ仲良くなるなんて、今まで無かった。
みきたんが初めてだった。
すんなりと、あたしの心の中に入ってきて。でも、それが全然イヤじゃなくて・・
むしろ、心地良かった。みきたんに包まれていくのが・・・
- 19 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/15(土) 19:02
-
みきたんと初めて会った日、一緒に夕日を眺めた。
丘にある大きな木で。
あたしが落ちないように後ろから優しく抱きとめてくれていた。
あたしが最後まで見たいとワガママを言ったら聞きいれてくれた。
あたしが怖くて木から降りられなくなった時、一緒に降りてくれた。
あたしのせいでケガをしたのに笑って慰めてくれた。
「・・・やだ・・どこにも行かないでよ・・・」
みきたんと初めて出会った日、
すんなりとあたしの中に入ってきたみきたんを、あたしは好きになった。
だけど・・・
「・・・ずっと側にいるって・・・言ったのに・・」
子どもだった時の純粋な想いは・・・・
「あたしを守るって・・・言ったくせに・・」
大人になるにつれ大きくなり・・・
「なんで、あたしを見てくれないの・・・」
それはとても自分勝手な想いへとなっていた。
- 20 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/15(土) 19:02
-
みきたんを好きだと自覚したとき・・・
純粋にみきたんだけを好きだった小さい時のあたしは、もういなかった。
自分だけを見て欲しくて
自分のことだけを考えていて欲しくて
自分の気持ちに気づいて欲しくて
気づかないことに苛立ちをおぼえて
その気持ちを相手に伝えようともせずに
相手が気づくことを期待して
・・・なんて自分勝手な想いだろう。
- 21 名前:k 投稿日:2005/10/15(土) 19:04
-
短いですが更新、終了。
松浦さんが、藤本さんから離れた理由でした。
ここの松浦さんは、ひょっとしたら藤本さんよりも暗くなるかもw
8>>名無しマスクさま
すみません。コチラの言い方が悪かったです。
読んでくれているお礼の言葉が、ありきたりと言うわけで、名無しマスクさまの言葉に対してではなくて・・・あー・・・上手く言えませんが、読んでくれてありがとうございます。
9>>名無飼育さま
ありがとうございます。
愛想尽かされないよう、頑張りますw
10>>名無飼育さま
ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 22 名前:名無しマスク 投稿日:2005/10/16(日) 00:11
- 更新お疲れ様です。
なるほどぉ。これがきっかけで・・・。
これから先の松浦さんの思考は、どこまで暗くなっていってたんでしょうか^^;
かなり気になりますねww
ありきたりの件は違うのかもと思いつつ念のため書いておきました^^;
文字だけで表すのってホント難しい。。(汗
- 23 名前:k 投稿日:2005/10/22(土) 22:24
-
更新、開始
- 24 名前:僕がキミを ―A― 投稿日:2005/10/22(土) 22:25
-
「じゃあね、亜弥ちゃん。また後でね」
「うん」
みきたんと靴箱で別れて、自分の教室へと向かう。
「よお、松浦」
「あ・・センパイ」
教室へと入ろうとしたあたしに声をかけたのは、吉澤センパイだった。
「なぁんだよぉ。仲良く手なんか繋いでさぁ」
「・・・見てたんですか」
吉澤センパイのからかいの声に顔が赤くなる。
「見てましたとも。嬉しそうにしちゃってさあ」
「そ、そんなに顔に出てました?」
「出ていたね」
「そ、そうですか」
人差し指をビシっと向けられ、思わず両手で顔を触り確認する。
- 25 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:28
-
「と、言っても顔に出ていたのは藤本さんだけどね」
「え?・・・みきたん・・ですか?」
「うん、藤本さん。・・・なんだよ松浦。気づかなかったのか?あのデレデレ顔」
「デレデレ・・・いや、いつもよりはニコニコしていた気はしますけど・・」
「それがデレデレしていたっつうの!・・まったく、昨日とはすごい違いだね」
「・・・昨日」
昨日と聞いて思い出す。
「そういえば、みきたんにあたしのこと話したんですね」
「ああ・・・松浦には悪いと思ったけど、あまりにも藤本さんが鈍いのがムカついて」
「いえ、おかげでみきたんに想いを伝えることが出来ました。結局あたしはみきたんから逃げたから。だから吉澤センパイがみきたんと話してくれて助かりました」
「それなら良かった。それよりも藤本さん、面白いな。また今度、ゆっくり話してみたいかも」
「それなら今度、一緒に遊びましょうか?石川センパイも誘って」
「それもいいね。・・あっヤバイ。ショートが始まる。じゃ、ウチも行くね」
「はい、また後で」
時計を見ながら吉澤センパイは足早に立ち去っていった。
- 26 名前:僕がキミを ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:29
-
「ねえ亜弥!今の吉澤先輩でしょ!?」
「え?・・うん」
センパイと別れて、教室に入るなりクラスメイトの一人が詰め寄る。
「なに?やっぱり二人ってあのウワサどおり付き合っているわけ?」
「まさか・・・吉澤センパイとは唯の友達で何もないよ」
「ほんとに?あんた、あのウワサ話したらはぐらかしてたじゃん」
「それは、まあ事情があってね」
「なによぅ。その事情って」
「それは解決したからもういいの」
「あー!・・またはぐらかした!」
「ほら、早く席に着かないと先生がくるよ」
教室の前で詰め寄るクラスメイトをかわして、自分の席へと着く。
「ふぅ・・・ウワサって、なかなか消えないもんだね」
軽くため息をついて、あたしは授業の準備を始めた。
- 27 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:31
-
「・・で、ここにXの二乗を・・」
「・・・・」
退屈な数学の先生の声を聞きながら校舎の外を見る。
グラウンドには体育をしている生徒が見えた。
その中に、派手に目立つ吉澤センパイがいた。
「・・あちゃぁ・・吉澤センパイったらまた梨華センパイに怒られているよ」
先生の話も聞かずに注意された先輩がムッとしていると、後ろから梨華センパイが吉澤センパイの頭を掴んで下げさせた。
先生はそんな二人に呆れながら他の生徒のところへ行った。
梨華センパイがそれを確認すると、吉澤センパイに向かって何か言い出した。
それは小さい子を怒る母親のように見えて、あたしは思わず噴出してしまった。
「ホント、センパイたちって仲いいな」
グラウンドで楽しそうに話す二人を見て、亜弥は微笑ましい気持ちになった。
- 28 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:32
-
吉澤センパイ・・
ほんの少し前・・って言っても昨日までだけど、あたしと付き合っているというウワサがあったヒト。
みきたんに対して恋愛感情を持っていると気づいたあたしはどうしていいか分からなかった。このまま幼馴染としての関係を続けるべきか、それとも気持ちを打ち明けるべきか。
そんな時だった。梨華センパイを通して吉澤センパイと知り合ったのは。
梨華センパイはあたしが入っている図書委員の先輩で、よく相談とかのってもらっていた。
そして今日も、あたしはみきたんとのことを梨華センパイに話していた。
- 29 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:32
-
「・・・最近、みきたんと一緒にいるのがつらくて・・・」
「どうして?」
「・・・たんに・・気持ちを打ち明ける勇気がないんです」
「・・・亜弥ちゃん」
「気持ちを伝えたいのに、・・どうしても幼馴染だった時のみきたんの笑顔が離れられない。あたしが気持ちを伝えることであの笑顔が見れなくなるかもしれないと思うと、すごく怖くなって・・・」
「・・・それで、亜弥ちゃんはこのままでいいの?」
「よくないです!」
梨華センパイの言葉に思わず声を荒げる。
「・・・みきたんとは・・たんとは、小さい時からずっと一緒で、・・あたしのことをいつも助けてくれて、ずっと側にいて・・・そんなみきたんがあたしの前からいなくなるって考えたら・・・考えただけで胸の中が苦しくなって・・・でも、みきたんはあたしのこと、きっと唯の幼馴染としか見てない。・・・・あたしが気持ちを伝えたら、たんは優しいから・・あたしを傷つけないように無理するかも・・そんなこと考えたら・・動けなくなっちゃって・・・」
「・・・亜弥ちゃん」
「・・怖いんです。みきたんへの気持ちが大きすぎて、・・不安になるくらい大きすぎて、だからどうしていいか、分からなくて・・・」
好きすぎて不安になる
そう思うくらい、みきたんと過ごした時間はあたしには大きかった。
- 30 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:34
-
「それなら試せばいいじゃん」
「え?・・」
「ひとみちゃん!?」
梨華センパイにみきたんへの気持ちを打ち明けていると、後ろから呆れたような声が聞こえてきた。振り返ると、髪を掻きながらここへと向かってくるヒトがいた。
・・・派手な金髪・・このヒトは・・・吉澤センパイ・・?
「そんなに、相手がどう思っているか知りたいなら試せばいいんだよ」
「ちょっ!ひとみちゃん!」
梨華センパイがその人の腕を掴んで険しい顔になる。
・・・梨華センパイと吉澤センパイって知り合いなのかな?
ふと頭にそんなことがよぎって思わず二人をじっと見つめていた。
あたしの視線に気づいたのか、梨華センパイがあたしと吉澤センパイを見比べ、あっという顔になった。
「ごめんね、亜弥ちゃん。ひとみちゃんが変なこと言って」
「いえ・・それよりお二人は知り合いなんですか?」
疑問に思ったことを口にだす。
すると梨華センパイが顔を赤らめた。
- 31 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:35
-
「センパイ・・?」
「あ・・うん。・・ひとみちゃんはあたしの恋人なの」
「え?」
「どうもよろしく。吉澤です」
「あ・・・はい」
手を差し出され、あたしはとっさにその手を握った。
・・・梨華センパイの恋人?
「うーん・・中々可愛いねぇ。キミ、名前は?」
「ま、松浦亜弥です」
「亜弥ちゃんかぁ・・どう?こんどウチと遊びにいかない?」
「え?」
「ひとみちゃん!」
あたしの手を両手で握りながらズイっと近寄ってくる吉澤センパイ。
あたしは思わず、後ろへと下がる。
それでも中々、手を離してくれない吉澤センパイの頭を梨華センパイが思い切り叩いた。
- 32 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:36
-
「・・・痛いよ梨華ちゃん」
「まったく何やってんのよ!亜弥ちゃんが引いてるでしょう!」
「・・・・」
「あはは、大丈夫。今のは冗談だから」
「ひとみちゃんのは冗談に聞こえないのよ!」
「拗ねないでよ梨華ちゃん。ウチが好きなのは梨華ちゃんだけだよ」
「まったく、調子がいいんだから」
「えへへ」
「・・・・」
あたしの前で仲良さそうに二人が寄り添う。
っていうか、これって惚気みたいな・・ものなのかな?
「あの・・梨華センパイ・・?」
「あ、ごめんね、亜弥ちゃん。ひとみちゃんが変な事言って」
「いえ・・あ、のそれより、吉澤センパイって・・あの吉澤さんですか?」
「ああ・・そうね、『遊び人』の吉澤さんよ」
あたしの問いかけにセンパイは可笑しそうに答えた。
- 33 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:37
-
「ひどいなぁ梨華ちゃん。遊び人って・・」
「噂されるほうが悪いのよ」
「むー・・・冷たい。あれは根も葉もない噂なのに」
「え?・・・違うんですか?」
その言葉にあたしは思わず吉澤センパイのほうへと顔を向けた。
そんなあたしにセンパイは苦笑いをする。
「まったくもって、根拠のないデマです。・・あれは、ウチに振られた子たちが流したものだよ。まあ・・面倒くさいからウチもほっといているけどね」
「そうだったんですか・・」
「ひとみちゃんが断るときに優しく言わないからでしょ」
「・・・悪かったね。でもへたに優しくするよりは、きっぱり諦めた方が相手にもいいだろ」
そう言って、吉澤センパイは少し拗ねたような顔をした。
そっかぁ・・あの噂ってデマだったんだぁ・・・
あたしがそんなことを考えていると、吉澤センパイがあたしのほうへと顔を向けた。
- 34 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:37
-
「あんた・・えーと松浦さんだっけ?・・さっきのことだけど、松浦さんもさ、悩んでないで相手に聞けばいいことじゃないの?」
「え?・・・あ・・」
「ウジウジ悩んでいないでさ、相手に答えを聞いて、ダメなら新しい恋をすればいいだけじゃないの?」
「・・・・・」
センパイの言葉に俯いてしまう。
相手に聞けばいい。
確かに、悩んでいたって答えなんか出るわけ無い。
それなら相手に自分の気持ちを言って、答えを求めるしかない。でも・・・・
「・・・たん以外・・あたしはみきたん以外・・きっと好きになるヒトは・・いません」
だって、心から求めているのは・・みきたんだけ・・・だから
次をさがすなんて出来ない。
- 35 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:38
-
「・・・想いを伝えて、みきたんに・・あたしは必要ないって・・・言われたら・・あたしは・・・・あたしは・・」
きっと壊れてしまう。
だからこそ、あたしは一歩前に出るのが怖かった。
求めるヒトがあたしを求めていないと言ったら、・・・・壊れてしまう。
みきたんへの想いの深さに迷い、不安になり、そこから抜け出せないでいる自分。
どうやったら抜け出せることが出来るのか、
なにをしたらこの不安は消えるのか、
そればかり考えすぎてあたしは動けずにいる。
「うーん・・・結構、思ったよりも深いみたいだね」
「・・・・」
あたしの言葉に吉澤センパイは何かを考えるように腕を組んだ。
- 36 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:39
-
「ねぇ、松浦さん」
「・・・はい」
組んでいた腕をはずし、吉澤センパイはあたしの前へと寄ってきた。
あたしを呼ぶ声はとても優しかった。
「松浦さんの言葉を聞いて感じたんだけど、松浦さんはその藤本さんて人がすごく大事なんだね」
「・・はい。すごく大切です」
「なら、なおさら動かなきゃ。怖くて前に踏み出せないのも分かる。不安すぎて動けないのも分かる。でも、このままじゃ、何も変わらない。・・それは分かるよね?」
「・・・はい」
「じゃあ動こう。大事な人なら・・そのヒト以外に好きになれないなら、前にでて、動かなきゃ。このままずっと、そこで立ち止まっていたらそのヒトは松浦さんの気持ちに気づかないまま遠くにいってしまうよ?」
吉澤センパイは優しい声で、まるで子どもに諭すような優しい口調であたしに言葉をかける。
「松浦さんは藤本さんが遠くにいってもいいの?」
「・・・イヤです」
「なら、動かなきゃ」
「でも、どうすればいいか・・分からなくて」
みきたんのことが好きなのに、どうしていいか分からない。
だから動けずにいる。
- 37 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:40
-
「うーん・・・ようは藤本さんが松浦さんのこと、どう思っているか分かれば少しは安心するんだよね?」
「・・・はい」
「なるほど」
『そっかぁ』と、吉澤センパイはもう一度、腕を組んで考え出した。
「ねえ、松浦さん」
「はい・・」
少し考えていたセンパイが口を開く。
「あのさ、やっぱり試したほうがいいんじゃない?」
「え?・・・試す・・ですか?」
「うん。あっ、もちろんそれを決めるのは最終的には松浦さんだから」
「はあ・・でも試すって・・どういう風に」
「例えばさ・・・」
顔を近づけ話すセンパイ。
まるで秘密話をしているようだった。
- 38 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:40
-
「っていうのは、どう?」
「はあ・・」
話を終わったあとのセンパイはどこか自信たっぷりって顔になっている。
センパイの話はこうだった。
『まず、相手から離れてみて様子を見てみる。いつも一緒にいたヒトが急に離れだしたら気になるはず。そこで相手が近づいて来たら自分をどう思っているか聞けばいいんだよ』
『・・・でも、みきたんが気にしなかったら?』
『そのときは、次の作戦』
『次・・?』
『そう、松浦さんが誰かと付き合っているっていう噂を流すの』
『は?』
吉澤センパイの思いがけない言葉に思わず聞き返す。
『センパイ、今なんて・・』
『だから、松浦さんが付き合っているっていう噂を流すの』
『な、なんで?』
『ほら、今までいつも一緒にいた子が急に冷たくしたり、自分には一言も言わずに誰かと付き合っているって噂を聞いたらやっぱり、気になるでしょう?』
『で、でも、あたしがですか?』
『・・・他に誰がいるのさ』
あたしの言葉に吉澤センパイが呆れた声を出す。
- 39 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:41
-
急に冷たくする
付き合っている噂を流す
た、たしかに、こんなことされたら、いくらみきたんでもあたしのこと気にするかも・・・
吉澤センパイの作戦にあたしは揺れていた。
「で、でも、だれと付き合っているって噂を流すんですか?」
そうだ、いくら噂と言っても実在しないヒトとされても真実味がない。
すぐにウソとばれてしまうんじゃあ・・・・
あたしの言葉に吉澤センパイがニヤリと笑った。
「ウチとはどう?」
「・・・へ?」
「松浦さんとの噂の相手、喜んで吉澤が引き受けるけど」
「え?」
「ひとみちゃん!?」
センパイの言葉に思いがけず大声をだしたのは梨華センパイだった。
- 40 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:42
-
「ひとみちゃん、何言ってるの!?」
「梨華ちゃん、落ち着いてよ」
「落ち着いて聞けるわけ無いでしょ!」
「だから、ちょっと・・・」
梨華センパイの問い詰めに吉澤センパイがたじろぐ。
っていうか、センパイ、本人を前に何てこと言ってるんだろう。
あたしは二人のやり取りに目を向けていた。
「ちょっと、落ち着いてよ梨華ちゃん!あくまで噂なんだから!」
「噂でも、なんでひとみちゃんが亜弥ちゃんと噂になるのよ!」
「だから、ウチのほうが都合がいいからだよ!」
「・・・どういう意味?」
センパイの言葉に梨華センパイは体を引いた。
「だから松浦さんが噂になるなら、あまり良くない噂があるウチみたいなやつのほうが真実味があるでしょ?」
「・・・それって・・」
あの根も葉もないセンパイの噂を利用するってこと?
- 41 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:43
-
「でも、それじゃあ吉澤センパイが損をするだけじゃないですか?本当は噂なんてデタラメなのに・・」
「ウチは別に大丈夫。でも、これは松浦さんの問題だから決めるのは松浦さん次第。なんていったって『遊び人』の吉澤と噂になるんだから、周りから結構な目で見られるよ?」
「あたしは・・・でも梨華センパイが・・・」
そう言って、申し訳なさそうに梨華センパイの顔を見る。
だって、誰だって嫌なはず。自分の恋人がウソでも噂されるのは。
そう思ってセンパイを見るとウンウンと頷いていた。
「そっか、噂が良くないひとみちゃんと亜弥ちゃんが付き合っているというウワサをすることで、藤本さんの気をひこうってことね?なるほど、これなら藤本さんも亜弥ちゃんのことが気になるはず」
「あ、の・・梨華せん・・ぱい?」
てっきりイヤな顔をしているだろうと思っていたセンパイの顔は納得顔。
ていうか、センパイは吉澤センパイのこの作戦を許しちゃうの?
「あの、・・梨華センパイ・・・・?」
「納得したわ、ひとみちゃん。これなら藤本さんも亜弥ちゃんを気にするかもしれない」
「そうでしょう。さすが梨華ちゃん。ウチのことよく分かっているね」
「ヤダぁ・・ひとみちゃんったら」
って、センパイたちはあたしの前でイチャつきだした。
・・・・いいのかな?これで
- 42 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:45
-
「それで、どうする?」
「え?」
「今、ウチが言った作戦で藤本さんを試すかどうか」
「あ・・・それは・・」
「さっきも言ったけど、これは松浦さんの問題だから、決めるのは松浦さんだよ」
「・・・・・・」
センパイの言葉に黙ってしまう。
みきたんを試す。
それはみきたんの心を知りたかったあたしにとっては一番の近道。でも・・・
試すということは相手にウソをつくということ。
みきたんがウワサを信じ、それがウソだっと知ったら・・・
きっと傷つく。
あたしが今からすることはみきたんを傷つけることだ。
そうまでして、あたしはみきたんの気持ちを知りたいの?
心の中で自問自答をする。
- 43 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/10/22(土) 22:46
-
「どうする?」
「・・・・・」
「決めるのは松浦さん」
「・・・・・やります」
「・・・・いいの?」
「・・・・はい」
小さく、ポツリと返事を返す。
あたしが今からすることはみきたんを傷つけること。
大好きなみきたん笑顔を曇らせてしまうかもしれない。
だけど・・・
「あたしが試すことで・・みきたんを傷つけるかもしれない。・・でも、それでもあたしは・・たんの気持ちが知りたい」
たとえ、みきたんを傷つけたとしても・・・そんなみきたんをあたしが傷つけたと後悔しても、あたしはみきたんの気持ちが知りたかった。
そう、それはとても自分勝手な想いから・・・・
でも自分ではどうすることも出来ないほど大きくなった想いから・・・
あたしは彼女が傷つくかもしれない道を選んだ。
- 44 名前:k 投稿日:2005/10/22(土) 22:48
-
更新、終了。
ウワサの真相でした。
松浦さん視点は、過去を振り返りながら現在進行形になっているから分かりづらいかな?
22>>名無しマスクさま
どこまで暗くなるかは松浦さん次第ですねw
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 45 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/23(日) 01:20
- ハニャ・・・ドキドキの展開になってきますた(*´Д`)
- 46 名前:k 投稿日:2005/11/12(土) 23:53
-
更新、開始
- 47 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/12(土) 23:54
-
「みきたん」
「あ・・亜弥ちゃん」
「ごめんね、みきたん。待った?」
「大丈夫。ミキも今来たところだよ」
「そっか、じゃあ帰ろう?」
「うん」
待ち合わせていた靴箱で、みきたんと手を繋いで家へと帰る。
それは、幼馴染だったときと変わらない光景。
「ふう・・やっと、今日でテストも終わりだね」
「そうだね。これで明日からは少しだけハネがのばせる」
「いいなあ・・ミキなんか、試験が終わっても机に噛り付かなきゃいけないのに」
「・・・仕方ないじゃん。みきたんは受験生なんだから」
「うぅぅ・・・冷たい言い方。ふーんだ、亜弥ちゃんだって、三年になれば思い知るんだから」
「はいはい。でもまだ先のことなんで」
楽しくお喋りしながら、家へと帰る。
たんと付き合いだして、一週間が過ぎた。
- 48 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/12(土) 23:55
-
「そうだ、亜弥ちゃん。今週の土曜ってヒマ?」
「なんで?」
「ヒマなら買い物に付き合って欲しいなと思って」
「・・・・別にいいけど」
「ほんと?よかった。マイちゃんを誘ったんだけど都合があわなくてさ」
「・・・へえ・・里田センパイかぁ・・元気にしてる?」
「ウルサイくらい」
「・・・ふーん・・」
もう少しで家が見えるというところで、みきたんから買い物に行こうと誘われる。
当然、これが二人が付き合いだしての初めての買い物なんだから嬉しくないはずは無い。
でも・・・
『・・・なんで、よりによって里田センパイの名前が出てくるの?』
みきたんの何気ない言葉が胸を締め付ける。
だけど、たんはそんなあたしに気づくことなく話を続ける。
『ねえ、みきたん・・・あたしたち本当に付き合っているのかな?』
あたしの心に一粒の不安の種が生まれた。
- 49 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/12(土) 23:57
-
「ハァ・・・」
部屋へと入るなり、重いため息を吐き出す。
カバンを机へと置くと、あたしはベッドへと倒れこんだ。
「みきたん気づいてる?・・・あたしたち、また幼馴染の関係になっていることを・・」
小さな声で問いかけるが、もちろん、この部屋にいるはずのないみきたんからは返事はない。
「朝、一緒に行くのも・・帰るのも・・幼馴染の頃と変わらない・・変わったと言えば・・」
あの頃、毎日通っていた美貴の部屋へ行く回数が減ったぐらいだ。
もちろんそれは、受験生の美貴の邪魔をしないため。
だけど、それ以外は昔となにひとつ、変わらない生活が続く。
- 50 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/12(土) 23:58
-
「恋人なら・・・触れたいと・・・思わないのかな・・・」
美貴とさっきまで繋いでいた手を見る。
優しく繋いでくれた手。
あたしよりは体温が低いみきたんの手だけど、それでもどこか暖かさがあり、繋がられるとホッとした気持ちになった。
「・・・でも、あたしが求めているのは・・そんな暖かさじゃない・・」
みきたんに繋がられていた手をもう一方の手で重ねる。
優しく包み込むだけで、それ以上は入ってこようとはしない。
恋人繋ぎもせず、その手を肩や腰に回そうともしない。
ただ、優しく添えるだけ。
「・・・みきたんは・・あたしに触れたくないの?・・・」
小さく呟き、あの時のことを思い出す。
美貴に初めて、触れた日のことを・・・
- 51 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/12(土) 23:59
-
みきたんと暫く距離をとるため、あたしは梨華センパイの入っているテニス部へと入部した。そして、たんの気持ちを知りたくて、吉澤センパイとのウワサを流した。
そのウワサが学校全体に広まるようになってから暫くして、あたしはいつものようにテニス部へと顔を出していた。
その日はいつもより、遅くなってしまった。
帰り間際に部室へと忘れ物をしたことに気づいたあたしは、友達と門で別れ、一人、部室へと戻った。
「あー・・なんで、忘れ物なんて・・・ん?」
ブツブツと一人言を言いながら、部室のドアを開けようとしたら、どこかから声が聞こえた。その声に耳を澄ますと聞き覚えのある声だった。
「・・・あれ?・・梨華センパイと・・・吉澤センパイ・・?」
聞き覚えのある声が部室の外から聞こえたあたしは先輩たちのほうへと足を向けた。
「センパイ・・・?・・・!?」
声をかけようとしたあたしは思わず、隠れてしまった。
そこには、梨華センパイと吉澤センパイが抱き合っていたから。
- 52 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:00
-
「・・・」
二人から隠れてもう一度、様子を伺う。
幸い、二人はあたしには気づいていなかった。
『・・・うわぁ・・・ヒトのキスシーンなんて初めて見る・・・』
亜弥に気づかない二人は熱いキスを繰り返す。
それはとても情熱的で
官能的で
見ているこっちが熱くなるくらい
二人の求める姿があたしの中で焼きつく。
『・・とりあえず、ここから離れなきゃ・・忘れ物は明日、取りに来よう』
いつまでも、ヒトのキスシーンを見ているわけにもいかないので、あたしはそっと、その場から二人に気づかれないように離れた。
- 53 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:01
-
「ふぅ・・びっくりした・・まさか、あそこにセンパイたちがいるなんて・・・」
あたしはまだドキドキと早く高鳴っている胸を押さえた。
ヒトのキスシーンを見るのは初めてなのに、ましてや相手は知っている二人。
身近でそんなことをするヒトがいたと分かったあたしは何故か、ものすごく恥ずかしくなった。
「・・・次にセンパイたちに会う時、顔をまともに見ること出来るかな・・」
あの二人のことを、顔を赤くしながら考えていたあたしは家路へと足を速めた。
みきたんがあたしを待っているとも知らずに・・・
あの時のあたしは、きっと羨ましかったんだと思う。
梨華センパイと吉澤センパイの関係が・・・
だから、何も気づかないみきたんに腹を立てたんだ。
自分勝手な想いを、何も気づかないみきたんに・・・
すべてをぶつけるように
子どものくせに、強がって・・・
みきたんが傷つくことも分かっていたのに、あんなことを言ってしまった。
- 54 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:02
-
家に帰ると玄関でママが迎えてくれた。
でも、何故かニヤニヤしていて気持ちが悪い。
何かあったのかと聞いても何でもないとはぐらかすし。
何も言わずに笑われているのは変な感じだったけど、さほど気にせず、あたしはタイを緩めながら自分の部屋へと向かっていた。
だけど、そこには思いがけないヒトがいた。
「こんばんは」
「・・・・・」
みきたんが、あたしのほうへと笑顔を向けながら挨拶をしてきた。
一瞬だけど、昔に戻ったようであたしは動きを止めてしまった。
「亜弥?何突っ立っているの?ほら、久しぶりに美貴ちゃんも来ているんだから、早く着替えて、下に降りてきなさい」
昔に戻ったように錯覚しているあたしを動かしたのは、ママの言葉だった。
あたしはみきたんの顔を見ずに、自分の部屋へと上がっていった。
- 55 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:03
-
『・・・どうしよう・・』
思いがけないみきたんの来訪。
きっと、ウワサのことを聞きにきたんだ。
そう思ったあたしは意味もなく部屋の中をウロウロ。
『どうしよう。みきたんが聞きに来たときのこと考えていなかった』
吉澤センパイとは作戦は立てたものの、その後のことは何も話していなかったことを思い出し、あたしはひとり、焦った。
『そうだ!センパイにメール・・は、出来ないや・・・』
肝心のセンパイへのメルアドを聞いていなかったことに気づく。
なんで、大事なときにこんなミスしてるのー!?
あたしは心の中で、自分自身の情けなさを嘆く。
- 56 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:04
-
― コン・・・コン
「!?」
遠慮がちにドアがノックされる。
『来た!・・・ど、どうしよう』
あたしは、部屋の側で立っているみきたんに返事を返すことも出来ずに、部屋の中をウロウロ。でもみきたんは、そんなあたしを知るわけもなく、何度となくあたしにママから頼まれていたものを届けようと声をかける。
『ふぅ・・・落ち着いて。みきたんから聞いてくるまでは、そっけなくすればいいだけなんだから・・』
吉澤センパイから教わったことを思い出しながら、あたしは深呼吸をしてドアをあけた。
「・・亜弥ちゃん」
ドアを開けたそこにはみきたん。
さっきも見たけど、本当に久しぶりに顔をあわせる。
- 57 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:05
-
「・・・入っていいよ」
「え?・・」
「つっ立っていないで、入れば?」
さすがにここで、受け取ってさよならじゃあ、なんのために作戦を立てたのかわからない。
あたしは、怒ったような口調でみきたんを部屋の中へと促した。
部屋に入るとみきたんは緊張しているのか、あたしを見たまま動こうとしない。
黙っているのも変かと思ったあたしは、みきたんが持っている果物へと話題を向けた。
「それ、何?」
「え?」
「皿に乗せてるやつ。・・リンゴ?」
「あ、これミキのお母さんが会社から貰ってきたものなんだ。多く貰ったんで亜弥ちゃんの所にも持っていきなさいって、お母さんが言うから・・」
「ふーん」
「・・・あ・・」
みきたんが一生懸命、説明をするけどあたしは素っ気無く返事を返す。
冷たいかなって思ったけど、今のあたしにはそんな余裕が無かった。
みきたんがこっちを向きながら話す。そんな風に見つめられたら、恥ずかしくてまともに顔なんて見れない。
- 58 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:06
-
黙ってしまったあたしに、みきたんは何も話さず部屋を出て行こうとした。
そんなみきたんを、とっさにあたしは引きとめた。
昔のように。
引き止めたあたしをみきたんは一瞬だけ、驚いた顔をしたけどすぐに嬉しそうな顔をした。
その顔を見て、胸が苦しくなる。
『やっぱりみきたんは、幼馴染の関係をやり直したいのかも・・・』
「・・なに笑ってんの?」
「あ・・いや、別に」
「変なの」
笑っている顔を見て、その思いが強くなる。
あたしはその思いに耐え切れなくてベランダの方へと歩き出した。
- 59 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:07
-
『みきたんが、幼馴染の関係を望んでいたら・・・あたしは・・・』
ベランダへと足を運び、少しでもその考えが膨らまないように思いを打ち消すが消えてくれない。
そんなあたしに気づくこともなく、みきたんはあたしに遠慮がちに声をかけてきた。
『・・だめ。こんな気持ちでみきたんに向き合うなんて・・できない』
みきたんが何か話すけどあたしは何も言えず、ただ星を眺めるしか出来なかった。
話しかけるみきたんに冷たい態度を取ることしか出来ないあたしにみきたんは、部屋へ戻ろうと誘う。ずっとこうしているわけにもいかないから、あたしは仕方なく部屋へと戻った。
「「・・・・」」
部屋へと戻るけど、話もしないまま沈黙が続く。
『だめ。逃げちゃ・・・みきたんがあたしのほうを向いている今、あたしが背を向けたら意味がない。せめて、みきたんの話にこたえなきゃ・・』
いつまでもこうしていても意味がないと思ったあたしは、話しかけるみきたんに話をきりだした。
- 60 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:08
-
「・・何か、聞きたいことがあるんじゃないの?」
「え・・」
「・・聞きたいことがあるから、理由をつけてここに来たんじゃないの?」
「・・・」
まっすぐみきたんの目を見つめ、話す。
『お願いだから、みきたんの気持ちをきかせて』
無言の目でみきたんを見つめると、みきたんが口を開いた。
「あ、あのウワサって本当なの?」
「ウワサって?」
「・・亜弥ちゃんと・・吉澤のこと・・」
「・・別にみきたんには関係ないでしょ」
「・・・」
素っ気無く返すと、みきたんは言葉を止めてしまった。
その顔を見て、胸が苦しくなる。
『お願い、みきたん。あたしの言葉で逃げたりしないで』
「あやちゃ・・」
「聞きたいことって、それだけ?なら、話すことは何もないから・・」
「・・・」
「それだけならもう帰ってよ」
『帰らないで・・・側にいて、あたしにみきたんの気持ちを教えて・・』
苛立ちの言葉と態度とは裏腹に、あたしの心は不安で押しつぶされそうになる。
- 61 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:08
-
不安で押しつぶされそうになっていると、みきたんが口を開いた。
「・・ミキは亜弥ちゃんに幸せになって欲しいって思ってる」
「何、突然・・・」
「亜弥ちゃんはミキにとって妹みたいな存在だから・・大切な妹には幸せになって欲しい」
「・・・」
『 妹 』
みきたんからの決定打。
あたしの想いは、みきたんには届いてなかった。
「大切な亜弥ちゃんだから・・・ミキは亜弥ちゃんが幸せになれるならどんなことだってしてあげたい。・・あの、さっき見た流れ星のように・・・亜弥ちゃんが望むものは何でも叶えてあげたい」
「・・・」
「だけど・・あいつは・・」
みきたんが何か話しているけどあたしの耳には入らなかった。というよりは、聞きたくなかった。
- 62 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:09
-
「大切な亜弥ちゃんだから・・・」
大切なら妹として、みないでよ・・・
「ミキは亜弥ちゃんが幸せになれるならどんなことだってしてあげたい」
それならあたしの気もちに応えてよ・・・・
「亜弥ちゃんが望むものは何でも叶えてあげたい」
じゃあ、側にいてよ。
離れないで、ずっと側いいてよ・・・
・・・・ウソツキ
- 63 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:11
-
「吉澤とは・・」
みきたんは、あたしの気持ちに気づくことなく話し出す。
そんなみきたんを見て、あたしの中で黒い塊が膨れだした。
分かっている。この塊がなにかというくらい。
だけど、今のあたしにはそれを押さえ込もうという気が起きなかった。それどころか、その塊が大きくなるのを望んでいる自分がいた。
何も気づかないみきたんをみて・・・
「・・みきたんは・・流れ星になりたいわけ?」
「え?・・」
「あたしのお願いは何でも叶えてくれるんでしょ」
「あ・・うん」
怒り口調のあたしに戸惑いながらもみ、みきたんは答えていく。
「うん・・ミキは出来れば亜弥ちゃんのお願いは何でも叶えてあげたいと思ってる」
「・・・ふーん」
「・・・」
みきたんの言葉はあたしを心配してのものだというのは、充分感じられた。
だけど、あたしはそんなみきたんの気持ちを受け入れたくなかった。
そして、受け入れたくないあたしの心は、どうしようもなく抑えきれなくなっていた。
あたしの気持ちに気づかないみきたんに・・・
自分勝手な怒りをぶつけて・・・
気づいたらあたしは、みきたんにキスをしていた。
黒い塊の、『 欲 』を吐き出しながら・・・
- 64 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:11
-
「ん・・・ちょっ・・亜弥ちゃん!?」
みきたんの口から戸惑いの声が漏れる。
だけど、あたしはそれを止めようとはしなかった。
それどころか噛み付くような激しいキスで、みきたんの唇を自分の唇で押さえた。
キスの合間にみきたんは顔を離そうとするけど、あたしはみきたんの頭を押さえて動かないようにする。
「ん!・・・っ」
みきたんの口を割って舌を入れる。
乱暴に・・・
優しさも何もないキスを繰り返す。
「んっ・・は・・」
そんなキスを何度となく繰り返していると、みきたんの口から熱い吐息が漏れた。
それを聞いたあたしはキスをしながらミキたんに覆いかぶさる。
あたしの気持ちを込めたキスは、相手を愛しいとかいう感情はなくて・・・
唯、何も気づかないみきたんに対して・・・怒っている子どもが感情の出し方を分からずに癇癪を起こしているだけのような・・・
やり場の無い気持ちを、ただ相手にぶつけている様な・・・
梨華センパイたちがするようなものとは、まったく別のもので・・・
そんな、唯のキスだった。
- 65 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:12
-
みきたんから唇を離し、体を退ける。
『・・・ああ、あたしは何をしたんだろう・・・』
顔を蒸気させ、赤い顔で見つめるみきたんに自分がしたことを思い出す。
『いくらみきたんがあたしの気持ちに応えないからって・・・これじゃあ・・』
顔を赤くしたみきたんを見ていると、後悔という感情が沸き起こる。そして、同時に沸き起こる怒りの感情。
「あたしはもう・・・子供じゃない」
子どもじゃないから、相手が傷つくのが分かるのにこんなことも出来る。
自分勝手に相手を傷つける。
「・・帰ってよ」
イヤだ。こんな自分勝手な姿をみきたんに見られたくない。
「・・帰ってよ。いつも・・・いつまでも子供扱いするみきたんなんか嫌いよ!
出ていって!」
「・・・亜弥ちゃん」
もう、自分が何を言っているか分からなくなってきた。
みきたんを愛しいと思う感情があるのに・・・
あたしの気持ちに気づきもしないみきたんへの怒りの気持ちが大きすぎて、あたしはそのまま、みきたんへと背を向ける。
- 66 名前:僕がキミを ― A ― 投稿日:2005/11/13(日) 00:13
-
「帰って・・」
あたしの後ろで何も言わずに立ち尽くしているみきたんに、あたしはそう言うしか出来ない。この状態でみきたんにまた何か言われたら、あたしはダメになる。
「・・もう、あたしのこと妹だなんて言わないで。あたしには・・・みきたんなんか必要ない」
まただ・・また、あたしはみきたんを傷つけて・・・・また、自分勝手な想いをぶつけて・・・
こんな風に言えば、みきたんがどれほど傷つくかなんて分かっているのに、あたしの口からはみきたんへの拒絶の言葉しか出てこない。
「・・わかった、ごめん。帰るよ・・」
拒絶の言葉しか言わないあたしにみきたんは何も・・あたしには何も言わずに、横を通り抜けた。
静かに、ドアが閉まる。
階段を下りる音を聞き終わると、あたしはしゃがみ込んだ。
「・・・くっ・・ぅ・・みきたん・・たん・・」
あたしは声を出さずに涙を流した。
自分勝手な想いをぶつけた結果、みきたんとの関係も終わった。
せめて、幼馴染としての関係なら取り戻せるかもしれなかったのに、あたしは自分からそれを壊した。
「みきたん・・ごめん・・・ごめんね・・」
もう彼女には届くことがないと分かっても、あたしの口からはその言葉しか出てこなかった。
- 67 名前:k 投稿日:2005/11/13(日) 00:15
-
更新、終了
後ろ向き松浦さんw
回想しながらだから、話が進むのが遅い・・・
45>>名無し飼育さま
中々、進展しなくてすみません。
バアと動きを持っていきたいところなんですが、松浦さんが回想に耽っていて先に進んでくれませんw
最近、中々時間が取れずに更新が出来ない状態なんですが、読者さまのレスを栄養ドリンクに頑張って更新したいと思います。
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/17(木) 23:28
- 更新キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
お待ちしてましたよ!
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/21(月) 02:13
- 更新乙です
なるほど亜弥ちゃんはそう思っていたか
次回も待ってます
- 70 名前:k 投稿日:2005/12/10(土) 16:30
-
更新、開始
- 71 名前:僕がキミを 投稿日:2005/12/10(土) 16:32
-
みきたんとの買い物を明日に控えた金曜の午後。
あたしは、昼休みに行う図書委員の会議へと顔を出していた。
「・・それじゃあ、今日の話はこれまで。・・・あ、そうだ、松浦さん」
「はい?」
委員長の言葉を合図に、それぞれ席を立つ。
あたしも、自分の教室に戻ろうと席を立とうとしたら、委員長に呼び止められた。
「悪いけど、この提出書類を生徒会に渡してきて欲しいのだけど、いいかしら?」
「生徒会ですか?・・・分かりました。」
「悪いわね。じゃあお願いするわ」
そう言って、委員長はあたしに書類を渡して出て行った。
「亜弥ちゃん、手伝う?」
「梨華センパイ・・大丈夫です。あたし一人でも出来ますよ」
「そう?」
「はい」
「じゃあ、また部活でね」
「はい」
一人では持てないと思ったのか、同じ委員会の梨華センパイがあたしに声をかける。
だけどそれほど重くない書類だったので、あたしはその申し出を断り、生徒会室へと足を向けた。
- 72 名前:僕がキミを 投稿日:2005/12/10(土) 16:33
-
「失礼します」
生徒会室のドアをノックする。
確か、生徒会もお昼とかは会議が入っていたりするから、一人くらいはいるはず。
書類はその人に渡せばいいかと、あたしは生徒会のドアを開けた。
「図書委員の松浦です。委員長から書類を渡すよう頼まれ・・・」
生徒会室にいるであろう生徒に声をかけようとしたが、最後まで声が出なかった。
だって、そこには里田センパイが座っていたから。
「・・・・・」
センパイはイスに座って、眠っていた。
そっと、里田センパイの側まで歩み寄る。
「・・・センパイ?」
小声で呼んでみるが、起きる気配は無い。
起こすのもなんなので、あたしは持ってきた書類を机へと置き、ペンと書けるものを探した。
- 73 名前:僕がキミを 投稿日:2005/12/10(土) 16:34
-
「あ・・あった。・・・あ!」
近くにあったペンを取ろうと身を乗り出したあたしは、ペンを取ったと同時についでに
側に置いた書類を落とす。
「・・・だれ?」
「あ・・・・」
バサバサと崩れた書類の音でセンパイが目を覚ました。
「亜弥ちゃん?」
「あ・・すみません。寝ているのを起こしてしまって・・・」
「あれ?・・どうしてここにいるの?」
「あ・・あの、今日、図書委員の会議があって、それで委員長がこの書類を生徒会に持っていくようにって・・」
「ああ・・頼んでいたものを持ってきてくれたの?」
「は、はい」
焦りながら落とした書類を拾う。
- 74 名前:僕がキミを 投稿日:2005/12/10(土) 16:35
-
「亜弥ちゃん、そんな焦らなくても書類は逃げたりしないって」
「あ・・すみません」
落ちた書類を拾うあたしの側でセンパイは可笑しそうに笑うと、しゃがみ込んで一緒に書類を集めてくれた。
「す、すみません」
「いいって。書類を持ってくるよう頼んだのはあたしだし」
センパイは拾いあげた書類をまとめるとあたしのほうへと手を差し出した。
「はい、亜弥ちゃんが拾ったの貸して」
「あ、はい」
「ありがとう」
「・・・・」
センパイが人懐っこい顔で笑った。
その顔を見ると、みきたんを思い出す。
- 75 名前:僕がキミを 投稿日:2005/12/10(土) 16:36
-
「亜弥ちゃん、この後何か予定とかある?」
「え?」
「次の授業までまだ時間があるから、良かったらあたしのお茶の相手になってくれないかなって」
「あ・・・・」
そう言って、里田センパイは生徒会室に添えつけられている給仕室からお茶葉を取り出した。
「ダメ?時間ない?」
「あ・・大丈夫です」
「良かった。あっ今、飲み物入れるから適当に座っていて?」
「はい。ありがとうございます」
あたしは近くにあったイスへと遠慮がちに座った。
「はい、どうぞ」
「ありがとございます」
センパイが入れてくれたのはアッサムティーだった。
一口飲むと口の中に紅茶独特の苦味が広がった。
「おいしい・・」
「あは、よかった」
「・・・・」
センパイも紅茶に口をつける。
その仕草をあたしはボーと見つめていた。
- 76 名前:僕がキミを 投稿日:2005/12/10(土) 16:36
-
『・・・センパイって・・きれいだな・・・』
落ち着いて、それでいて大人っぽくて・・・
センパイはあたしには無いものを持っている。
「ん?亜弥ちゃんどうしたの?じっと見て。あたしの顔に何かついてる?」
「あ・・・すみません」
観察するように顔を見ていたら、センパイが不思議そうにあたしを見てきた。
「そんなじっと見られたら照れちゃうなぁ」
「あ・・その、里田センパイって・・すごく・・綺麗だなって・・・」
「えー!?亜弥ちゃんにそんなこと言われたらすごい嬉しいんだけど。ありがとー!お世辞でも嬉しいよ」
「そんな・・お世辞じゃなくて・・ホントのことだし・・センパイくらい綺麗なヒトだったら、どんなヒトも好きになるんじゃないですか?」
「そうかなぁ?あたし、そんなにモテナイよ?」
あたしの言葉にセンパイは疑問の声をだすけど、センパイみたいに綺麗なヒトなんて、あたしの周りには、梨華センパイや吉澤センパイくらいしかいなかった。
- 77 名前:僕がキミを 投稿日:2005/12/10(土) 16:37
-
「でも、学内一可愛い亜弥ちゃんにそういわれると言うことは、あたしも満更ではないということか。えへへ、嬉しいねぇ。可愛い子に、綺麗なんて言われると」
センパイがすごく子どもっぽく笑う。
こういうところも、何となくみきたんに似ている。
「・・・センパイは、好きなヒトとかいないんですか?」
「へ?」
「あ・・すみません。突然・・」
「いや、いいけど。亜弥ちゃんさっきから謝ってばっかだね」
「すみません」
「ほら、また」
「あ・・・」
センパイの指摘に思わず口を押さえる。
そんなあたしをセンパイは可笑しそうに見ていたけど、急に真面目な顔になった。
「・・いるよ」
「え?」
「好きなヒト」
「あ・・・・」
真っ直ぐに、あたしを見つめる眼に体が固まる。
その眼が言おうとしていることに・・
- 78 名前:僕がキミを 投稿日:2005/12/10(土) 16:38
-
「・・せんぱ・・」
「亜弥ちゃんもよく知っているヒトだよ」
「・・っ!?・・」
「亜弥ちゃんの身近にいるヒト」
「・・・・」
センパイが静かに言葉を繋げていく。
「笑った顔がすごい幼く見えて」
「・・・・」
「いつも何事にも真面目で」
「・・・・」
「曲がったことが嫌いで」
「・・・・」
「自分の大切なモノが傷つくことをすごく怖がっているヒト」
「・・・・」
センパイはとても嬉しそうに、その好きなヒトのことを話す。
あたしはそれをただ、黙って聞くことしかできない。
「センパイ・・・それって・・」
あたしの頭の中にみきたんの顔が浮かぶ。
・・・やっぱり、里田センパイもみきたんのことが好きだったんだ。
センパイの言葉にあの屋上での出来事を思い出す。
みきたんとセンパイがキスをした屋上。
そして初めて、嫉妬というものでヒトを傷つけたあの屋上での出来事。
- 79 名前:僕がキミを 投稿日:2005/12/10(土) 16:39
-
みきたんに、感情まかせにキスをしたあたしの心の中は後悔で一杯だった。
どうして素直に気持ちを打ち明けることが出来ないのか。
なんに対してあたしは苛立っているのか。
前に進もうと歩けば、転び
悩んでも答えは見つからない。
答えが見つからないままあたしは立ち止まっている。だけど、そんなあたしに気にすることなく一日は始まり、過ぎ去り、気持ちだけが焦りを生んでいく。
そして後悔という感情はいつまでもあたしの中に残り、心の中に染みついていく。
「・・・・・」
囁めきを耳に入れながら、あたしはぼんやりと周りを見ていた。
嬉しそうに彼氏の話をするクラスメイト。
恋に悩みながらも、ヒトを好きになった気持ちに嬉しさを隠し切れない彼女たち。
- 80 名前:僕がキミを 投稿日:2005/12/10(土) 16:40
-
『・・・どうしてあたしだけ・・・』
周りの嬉しそうな顔を見ると、自分自身が嫌になってくる。
同じように恋に悩みながらも、自分とは違う。
ちゃんと答えを見つけ、前に歩いている。
そんな彼女たちを見ていると、どうして自分だけが上手くいかないのだろうと感じてしまう。
「・・・気晴らしに散歩してこよう」
自分とは違う彼女たちを見ていると、自分のことがどんどん嫌になってくる。
あたしは、そんな気分を変えたくて屋上に足を運んだ。
少しでも気持ちを軽くしたかったから。
だから、屋上に二人が居るなんて知らなかった。
知れば、何かが変わっていただろうか?
それは・・・分からない。
分かったことはあの出来事でみきたんを傷つけたことだけ。
- 81 名前:僕がキミを 投稿日:2005/12/10(土) 16:41
-
『・・・なんで・・・』
気晴らしにと向かった屋上。
そこで見たのは、体を寄せあいキスをしている二人。
そう・・みきたんと里田センパイがいた。
『・・・・やだ・・』
二人の姿に言い様のないものが体の中からこみ上げてくる。
それはとても重苦しく、寒気がくるほどの吐き気で、体中の血流が逆流しているような、そんな眩暈を覚えるほどの黒い、塊。
『・・さ・・わらないで』
震える手を心臓のほうへと持っていく。
締め付けるように胸が苦しい。
- 82 名前:僕がキミを 投稿日:2005/12/10(土) 16:41
-
「・・っ・・は・・っ・・う!・・ごほ!・・ごほ!」
誰も居ないトイレに駆け込む。
突然こみ上げてきた吐き気に思わず咳き込む。
「はっ・・はっ・・・っ・・はっ」
体中が言いようの無い感覚に陥る。
気持ち悪いのに、それを体が吐き出してくれずその気持ち悪さだけが喉の奥で詰まり、さらに気持ち悪さを増長させる。
何も吐き出すものが無い体は気持ち悪さだけを残し、あたしは思わずその場にしゃがみ込んでしまった。
『何でみきたんと里田センパイが・・・』
さっきの出来事を思い出しただけで、胸が締め付けるように苦しい。
昨日のみきたんの気持ち(こたえ)は里田センパイと付き合っているから?
だからあたしのことを妹としてしか見ていなかったの?
なら、どうしてそのことをあたしに言わないの・・・?
色んな気持ちがこみ上げて頭の中がグルグルと回る感覚がしてきた。
- 83 名前:僕がキミを 投稿日:2005/12/10(土) 16:42
-
「やだ・・・みきたん・・・みきたん・・みきたん」
呪文のようにみきたんの名前を呼び続ける。
そうすれば、この体の中で沸き起こる感情を抑えられると思ったから。
「・・・助けて・・みきたん・・」
沸き起こる感情を抑えようと、震える体を抱きとめる。
だけど、胸の内から湧き出てくる感情を止めることが出来ない。
グルグルと回る頭と、モヤモヤとした胸の感情に、あたしは朦朧としてきた。
「・・・みきたん・・」
薄れる意識の中で呟いた言葉は、あたしが今一番、会いたくなくて、今一番、側に居て欲しい人の名前だった。
- 84 名前:k 投稿日:2005/12/10(土) 16:45
-
更新、終了
やっぱり、今回も暗い松浦さんでしたw
68>>名無飼育さま
初のコレがキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
お待たせしました。この顔文字がくるほど、待たせてしまったみたいですが、今回も待たせてますねw 次回は、なるべく早く更新したいと思います。
69>>名無飼育さま
ありがとうございます。
あの時の松浦さんは、こう思っていたんですが、今回の松浦さんはさらに暗いですw
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 85 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/11(日) 16:30
- はうあっ!更新キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
作者様、お疲れ様です。今回も切ない状況がひしひしと。
- 86 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:06
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 87 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/18(日) 00:32
- まってますから
- 88 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/18(日) 11:44
- まってます
- 89 名前:k 投稿日:2005/12/20(火) 19:52
-
更新、開始
- 90 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/20(火) 19:53
-
「・・ちゃん・・や・・ちゃ・・亜弥ちゃん!」
「え?・・・・あ」
「亜弥ちゃん、大丈夫?ボーとしてたけど」
「・・・あ・・・はい」
あたしは、ハッとして周りを見回した。
「話の途中なのに、亜弥ちゃんから返事が無いからびっくりしたよ」
「すみません」
「何かあった?」
「あ・・・いえ」
心配そうに見る里田センパイがあたしの顔を見る。
「あの、あたしどの辺からボーとしてました?」
「え?あ・・んと、あたしの好きな人の話のときくらいからかな?」
「あ・・そうなんですか・・」
「うん、亜弥ちゃんがあたしに何か言いかけようとして、黙り込むからそのまま見てたんだけど、亜弥ちゃん、何も言わずにあたしの顔をずっと見てるからびっくりしたよ」
「すみません」
「ねえ・・みっきーと何かあった?」
「・・別に・・・なにも・・」
「そんな顔して何もは無いでしょうが」
センパイがあたしの頬に手を添える。
その顔が心配してるんだよって顔をしているから、あたしは思わず泣きそうになった。
- 91 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/20(火) 19:54
-
「・・・センパイの好きな人って、みきたんですか?」
「・・・え?」
「さっき、センパイが話していた、あたしがよく知っている人って、・・・みきたんなんですか?」
センパイが目を見開いて驚く。
それは、あたしの言葉に対してなのか、それともあたしの頬に伝う涙のせいなのかは分からなかった。
「センパイの好きな人って、みきたんですか。だから屋上でキスしたんですか?」
「・・・屋上でのアレ、亜弥ちゃん見たの?」
「こたえてくだ・・・」
「ごめん、亜弥ちゃん」
「・・・・」
あたしが最後まで言葉を喋る前にセンパイがあたしを抱きしめた。
「勘違いさせるようなこと言ってごめん。でもあたしの好きな人はみっきーじゃないから」
「なら、なんでみきたんとキスしたんですか?センパイはそんな・・」
「してないから」
「・・え?」
「みっきーとはキス、してないから。あれは、みっきーの気持ちを確かめるためにフリをしただけで、本当にはしてないから」
「でも・・・だって、屋上で・・・」
「キスっていってもホッペだから」
「え?・・・」
その言葉にセンパイの顔を見ると、罰の悪そうな顔であたしを見た。
- 92 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/20(火) 19:55
-
「ごめんね、まさか亜弥ちゃんがアレを見ているなんて思わなかったから。でも、本当にしてないから。みっきーとは。したのは、ホッペに軽くだけだから」
「そう・・なんですか・・?」
「うん。リアリティ出すために、覆いかぶさったりしたけど、それだけだから」
「それじゃ・・あたしが見たのは・・・」
「まあ、遠めからじゃあそういう風に見えたかもしれないけど・・・」
「・・・・」
あたしが見たのは、何でもなかった。
それどころか、センパイはみきたんにあたしへの気持ちを分からせるためにワザとキスを仕掛けて・・・・
センパイの言葉にヘナヘナと腰を落とす。
「ごめんね、亜弥ちゃん。亜弥ちゃんがそれを見ているって知ってたら、あんなことはしなかったんだけど」
センパイは本当にすまなそうな顔をしてあたしに手を合わせる。
そんなセンパイの顔を見て、あたしも勘違いで良かったと胸を撫で下ろすけど一つ、疑問が残る。
- 93 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/20(火) 19:56
-
「それじゃあセンパイの好きな人って・・・誰なんですか?」
「え?・・・それは・・その・・」
あたしの疑問にセンパイは焦り顔。
だけど、あたしも引き下がるわけにはいかない。だって、センパイとみきたんの仲の良さにあたしはいつも、心の中で疑っていたから。だから、少しでも安心するために、あたしはセンパイの好きな人が知りたかった。
「ふぅ・・・亜弥ちゃん、耳貸して」
あたしの追及の目にセンパイは観念したのか、誰もいないのにそっと、あたしの耳へと顔を近づけた。
「・・じつは・・・」
「え!紺ちゃん!?」
「声が大きい!」
「・・・すみません。っていうか、センパイそれどこから・・・」
センパイはどこから出したのか、大きなハリセンであたしの頭を叩いた。
痛くはなかったけど、急にセンパイが突っ込みをしたもんだからあたしは思わず頭を押さえた。
「あの、紺ちゃんって、あたしのクラスの紺野あさ美ちゃんですか?」
「・・・他にいるの?」
「いえ、いませんけど」
「なら、その紺野あさ美ちゃんですぅ」
「・・・・」
あたしの言葉にセンパイは顔を赤くしながらソッポ向く。
その行動がすごい子どもっぽくて、少しだけど、里田センパイがどういうヒトか分かった気がした。
- 94 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/20(火) 19:57
-
「センパイが好きな人って、紺ちゃんだったんだ・・・」
里田センパイの言葉をひとつ、ひとつ思い出してみる。
『笑った顔がすごい幼く見えて』
・・たしかに、紺ちゃんってあたしと同い年なのに幼く見える。
『いつも何事にも真面目で』
・・・・真面目だ。
『曲がったことが嫌いで』
そういやこの前、横断歩道で危ない渡り方している小学生に一時間くらい、説教していたっけ。
『自分の大切なモノが傷つくことをすごく怖がっているヒト』
それは、分かる。紺ちゃん、しっかりしているように見えるけど結構、精神面とか弱いし・・
なるほど、確かにセンパイが言っていたことに当てはまる。
- 95 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/20(火) 19:58
-
「どう?納得した?」
「え?・・あ、はい。すみません。あたし勘違いしちゃって・・・」
「いや、謝るのはこっちだし。勘違いさせるようなとこ見られたんだから」
「でも・・・」
「あーそんな申し訳なさそうな顔しないで。ね?」
「・・・」
「ほら、スマーイル」
センパイはあたしを気遣ってか、顔を赤くしながら笑う。
その笑顔にあたしもつられて笑った、
「やっと笑ってくれた。・・・ところで亜弥ちゃん」
「はい?」
「そろそろ、言ってもいいんじゃない?」
「え?なにを・・」
「悩み事」
「・・・・・」
「理由は大方、みっきーがらみだというのは分かるけど。言えば、少しは楽になると思うよ?」
「・・・・」
あたしの頭へと手を置き、センパイが顔を覗き込む。
- 96 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/20(火) 19:59
-
「センパイ」
「ん?」
「みきたんは、本当にあたしのことが好きなんでしょうか?」
「え?」
あたしの言葉に先輩は頭に置いていた手を退けた。
「亜弥ちゃん、何言って・・・」
「みきたん、優しいんです」
「・・・・」
「常にあたしのことを考えてくれて、そんなみきたんに包まれるとすごい暖かくなって居心地がいいんです」
「なら別に心配する必要は・・」
「でも、それだけなんです」
センパイの言葉を遮る。
「みきたんの態度はあたしのすべて包み込むように、優しくて暖かいんです」
「・・・」
「でも、それだけ。あたしを包み込んではくれるけど、求めてはくれないんです」
包み込んでくれるけど、求めない。
それが、今のみきたんから感じる優しさ。
- 97 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/20(火) 20:00
-
「恋人なら、キスしたいとか、触れたいとか思いますよね?」
「え?・・・・まあ・・・」
「でも、みきたんからはそれがないんです」
「亜弥ちゃん、・・・それは考えすぎだよ」
「そう・・ですか?」
「そうだよ。だって、みっきー、いつも亜弥ちゃんのこと話すし。亜弥ちゃんの話しをする時のみっきーって、すごい優しい顔するんだよ?」
「・・・・」
センパイの言葉があたしの勘違いだと言ってくる。だけど、あたしにはそうは思えなかった。だって・・・・
「でも、みきたんが触れてこないのは、あたしのこと本当は・・・」
「ストップ!!」
あたしの言葉をセンパイが手で遮る。
「亜弥ちゃん、みっきーは亜弥ちゃんのこと好きだよ。それはあたしが絶対に保障する」
「・・・・」
「だから、その言葉だけは言っちゃ駄目。分かった?もちろん、みっきーにも」
「・・・・」
「亜弥ちゃん!」
「・・・分かりました」
押し黙っているあたしにセンパイが強く目で制す。
納得はしていない顔で頷くあたしに、センパイはよしっと小さく呟いた。
- 98 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/20(火) 20:01
-
「ねえ、亜弥ちゃ・・」
センパイが何か言おうとした時、午後の授業が始まる予鈴がなった。
「あ・・・予鈴・・もう行かなきゃ」
座り込んでいた床から立ち上がり、飲んでいた紅茶のカップを片付ける。
「センパイが淹れてくれたお茶、とっても美味しかったです。また飲みたいです」
「・・・ありがとう」
「それじゃあ、失礼します」
「亜弥ちゃん!」
あたしが部屋のドアを閉めようとすると、センパイが大きな声で呼び止めた。
「あのさ、さっきのことだけど・・・」
「里田センパイ」
「・・・なに?」
「あたしの話を聞いてくれてありがとうございます。少しだけど、気が晴れました」
「亜弥ちゃ・・」
何かを言いかけるセンパイの言葉を遮り、ドアを閉めた。
まだ、センパイの言葉を聞くにはあたしの心が納得していなかったから・・・
あの時、少しでもいいからセンパイの声に耳を傾けていたらあたしは同じ過ちをせずにすんだかもしれないのに・・・・
その時のあたしは目を閉じ、何も見ようとはしなかった。
- 99 名前:k 投稿日:2005/12/20(火) 20:02
-
更新、終了
少ないですが、ちょっとずつ話が進んでいます。
85>>名無飼育さま
松浦さんのひしひしとした感じを受け取ってくれたようで、ありがとうございます。
この話もそろそろ、終わりに近づいてきているので最後までお付き合いしていただけたら嬉しいです。
87、88>>名無飼育さま
だらだらと続いているこんな駄文を待ってくれてありがとうございます。
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/21(水) 12:15
- 更新お疲れ様です。上海ハニーから作者様のお話のファンです。
とても繊細な描写がすごくうまいなぁと思います。
次回更新もまったり楽しみに待っています。
- 101 名前:k 投稿日:2005/12/26(月) 23:30
-
更新、開始
- 102 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/26(月) 23:31
-
軽快な音が靴箱で響き渡る。
午後の授業を終え、靴箱の前でみきたんを待っているあたしのカバンの中から彼女の固定着信音として設定していた音が鳴り響いた。
『 ごめん亜弥ちゃん!進路のことで先生と話しが
あるから先に帰っていて。ホント、ごめん!
美貴 』
メールを読み終えると、ケータイをカバンの中にしまい、家へと帰る。
別に待っていてもよかったが、きっとそうしたらみきたんは、困った顔をするだろう。安易に想像できる彼女の顔を思いだし、あたしは内履きから靴へと代え、家へ帰ろうとした。
「あれ?松浦ひとり?」
「あ、吉澤センパイ」
靴へと履き替えたあたしが歩き出そうとしたら、後ろから声を掛けられた。
その声に振り返ると、吉澤センパイが立っていた。
「今日は藤本さんと一緒じゃないの?」
「そういうセンパイは、今日は梨華センパイと一緒じゃないんですか?」
「ああ、梨華ちゃんね。今日は友達と買い物するから先に帰ってって言われた。そっちは?」
「あたしは、先生と進路の話があるから先に帰るようにって、みきたんが・・・」
「ならお互い、振られモノどうしで一緒に帰る?」
「振られたモノどうしって・・・」
「まあまあ、気にしないで。ほら、行こう」
センパイが笑いながらあたしの手を引いていく。
あたしはセンパイに手を引かれながら、学校を後にした。
- 103 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/26(月) 23:32
-
「ねえ、あれって吉澤センパイと松浦さんじゃない?」
「本当だ。やっぱりウワサどうり・・・」
「・・・・」
校門を出て、家への道を帰る途中から聞こえてくる声。
その声にあたしは顔を俯かせる。そんなあたしにセンパイが声を掛けた。
「どしたの松浦?顔なんか下げて」
「いえ・・別に・・」
「周りの声なんか気にするなよ」
「聞こえていたんですか?」
「いいんだよ。単なるウワサ話を真実と思いこんでいる奴らの目なんて気にしなくて」
「でも・・・・」
「気にしなくていいの。分かった?」
「・・・・はい」
「よろしい」
そう言って、センパイがあたしの頭を撫でる。
その仕草はあたしを慰めているようにも感じた。
このヒトはいつもそうだ。
さり気ない、優しさと厳しさであたしのことを助けてくれる。
・・・あの時もそうだった。
- 104 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/26(月) 23:33
-
「ま・・・う・・!・・おい・・ うら!・・」
体を揺さぶられている感覚がしてあたしは目を開けた。
「おい、松浦!大丈夫か!?」
「・・・吉澤・・せんぱい・・・?」
「おま!・・・なんでこんな所で気失ってんだよ!」
「あ・・れ?あたし・・・センパイ、今・・」
「今は午後の授業が始まったばかり。それよりなんで!・・」
センパイがすごい顔であたしを抱きかかえる。
「ちょっ!?センパイ!?」
「今、保健室連れて行くから、ジッとしてろ!」
「だ、大丈夫です!もう何でもないですから、おろしてください!」
抱きかかえるセンパイの中でジタバタともがく。
あたしがもがき続けるせいか、センパイはそっと、あたしを降ろした。
「・・・本当に何でもないのか?気を失っていたのに・・」
「ホントに大丈夫です。ただ、ちょっと・・・」
「ちょっと・・・何?」
「・・なんでもないです。心配かけてごめんなさい」
「・・・まあ、松浦が平気だって言うなら」
もちろん、倒れた理由など、いえるわけがなかった。
言いにくそうに言葉を濁したあたしにセンパイは気づいているのか、それ以上何も聞いてこなかった。
- 105 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/26(月) 23:34
-
トイレから出て、教室へと向かう。
センパイも途中まで一緒なのであたしの横を歩く。
「・・松浦、ホントに大丈夫か?」
「はい。・・それより、センパイは何で授業が始まっているのにあそこにいたんですか?」
気を失っているあたしなら時間が過ぎているのが分からないから仕方ないとして、センパイはそうじゃない。ふと、思った疑問を口にするとセンパイが顔をしかめた。まるで、悪いことがバレた子どものように・・・
「・・・梨華ちゃんには言うなよ?」
「・・はい・・・?」
そういうと、センパイは困ったように頭を掻いた。
「ここのトイレの近くに渡り廊下があるでしょ?」
「ああ、ありましたね。そこって人目に付かないからサボるにはいい場所なんですよね」
「・・・松浦、お前サボったことあるな?」
「いえいえ、ヒトに聞いただけです」
「・・・・あっそ」
もちろん、それはウソ。
あたしも気分が晴れない時は屋上とかで時間を潰す。でも、そこに先客がいればそれは出来ない。そういう時、あたしはたまにではあるがあの渡り廊下で時間を潰すことがある。
あたしの言葉をすぐにウソとセンパイは見破いていたけど、あまり追求せずに話しを続けた。
- 106 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/26(月) 23:35
-
「それで、そこの渡り廊下がどうしたんです?」
「・・ああ、別に告白されただけ」
「ああ、なんだ。そうなんですか」
「そう、それだけ。でも梨華ちゃんには言うなよ」
「はい」
「「・・・・・」」
センパイとの会話に綺麗に流れをつけて話をしていたあたしだけど、そこで思考が止まる。
「・・・センパイ、今、なんて言いました?」
「・・へ?・・だから告白されただけ」
「ええぇぇぇぇぇ!!!!!??こ、告白?!」
「・・・・なんで今さら驚いてんの?」
あたしの遅いリアクションにセンパイが呆れた目で見てくる。
「そ、それで、せ、センパイはどうしたんですか?!」
「・・ドモリすぎだから」
あたしの焦り声とは逆にセンパイは冷静。
「告白されたのに何でそんな冷静なんですか?!」
「なんでって、断ったから」
「え?断ったんですか?」
「当たり前だろ。梨華ちゃんと付き合っているのにオーケーしてどうする」
またもやセンパイは呆れた目であたしを見てくる。
そうだよね、吉澤センパイは梨華センパイと付き合っているんだから断って当然よね。
- 107 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/26(月) 23:36
-
「で、断ったあとにあのトイレに寄ろうとしたら松浦が倒れていたからビックリした」
「あ、・・・すみません。心配させて」
「いや、本人がもう大丈夫っていうなら心配はしてない。その代わり、梨華ちゃんにはウチが告白されたことは言うなよ?バレたら・・」
「でも、センパイは断ったんだし、別に梨華センパイに知られて・・・」
「その後の梨華ちゃんが面倒なんだよ。ウチが告白されたって知ったらもの凄い、ネガティブになって引き上げるのに大変なんだから」
「あはは、確かに。梨華センパイ、落ち込むときはすごい落ち込みますしね」
「だろ?だから松浦もこの事は梨華ちゃんには絶対言うなよ」
「はい、分かりました」
「よろしい。・・・じゃあ、ウチも授業に戻るから」
「はい」
センパイと渡り廊下で別れる。
「・・・・・」
センパイが廊下から姿を消すのを見送ったあたしは、来た道を戻り始めた。
向かった先は屋上。
- 108 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/26(月) 23:37
-
「・・・・・」
さっきまでここにいた二人の場所へと立つ。
ここで、みきたんが里田センパイと・・・・
さっき見た事が頭の中で蘇る。
思い出すたびに、体の中から沸き起こる感情。
嫉妬
怒り
独占欲
不安
いろいろな感情が沸き起こって、グルグルと体の中で混ざりだす。
もし感情というものに色があるとしたら、この混ざりあった感情は何色になんだろう。
おそらく、限りなく黒に近い色かもしれない。
いや、案外真っ赤な色か、それとも灰色か?それとも黄色?青?どっちだろう。
考えても感情に色があるのか分からないあたしには想像がつかなかった。
「・・・・なら、白にしておこう」
地面を見据えながら、あたしは小さく呟いた。
色が付けられないなら、付けなければいいだけ。
あたしは心の色を無色な白にすることで、何も考えないようにした。
- 109 名前:k 投稿日:2005/12/26(月) 23:39
-
更新、終了。
少しだけ更新。
この話もそろそろ終わりに近づいてますが、多分年内には終わらないでしょうw
100>>名無飼育さま
ありがとうございます。
他の作者さまに比べたら、全然駄目ですがそう言っていただけるとすごく嬉しいです。
今、話しの終わりらへんを書いているのですが、一気に更新しようか区切りいいところで
何回かに分けようか迷っていますw
・・・それでは今回はこれで失礼します。
- 110 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/28(水) 23:35
- 更新お疲れ様です。周りの先輩達の優しさがあったかいですね…
つづきも楽しみにしています。
徐々にでも、一気更新でも作者様のペースでがんばってください!
- 111 名前:k 投稿日:2005/12/30(金) 00:14
-
更新、開始
- 112 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:15
-
夢を見た。
暗い中を一人で歩いている夢。
暗すぎて何も見えないあたしは手探りで歩き出す。
不意に、暗闇で手を掴まれた。
力強く握られた手に驚くが、その手にいつも感じていた暖かさがあって、あたしは安心して掴まれた手を握り返す。
『 このヒトについていけば大丈夫 』
心の中で安心し、歩いていく。
けれど、暗闇の道をいくら歩いても出口が見当たらない。
- 113 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:16
-
「・・・ねえ、この道で大丈夫なの?」
「・・・・・・」
顔も見えない相手に聞くが何も応えてくれない。
その沈黙に不安が生まれてくる。
「ねえってば!」
「・・・信用できない?」
「え?」
呟くと同時に離される手。
「・・・ねえ?どこにいるの?」
「・・・・・」
「どこ?」
「・・・・・」
「どこなの・・・?」
手探りでさがすけどその人はいない。
暗闇の中、あたしはまたひとりになった。
- 114 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:17
-
「・・・夢か・・」
目を開けると見慣れた天井。
窓の外はまだ薄っすらと暗かった。
起き上がると、背中が少し汗ばんでいた。
「・・・久しぶりに見たな、あの夢」
さっきまで見ていた夢を思い出す。
あの夢を見るのは二回目だった。
一回目は、みきたんと里田センパイが屋上でキスをした日の夜に見た。
その時は背中に汗ではなく、泣いていた。
「・・・・・」
ベッドから起き上がり、カーテンを開ける。
見えるのは、みきたんの部屋。
「・・・みきたん」
閉じられた窓へ呼びかける。返事は当然、返ってこない。
あたしはカーテンを閉めると、机へと目を向けた。
一枚の封筒に入った手紙を・・・・
- 115 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:19
-
みきたんとの待ち合わせ場所へと急ぐ。
家が隣なんだから一緒に行けばいいのにという彼女の言葉に聞かないフリをして、あたしはみきたんと待ち合わせをした。
『・・・家が隣なのに待ち合わせするの?』
『いいでしょ?いつも一緒に行くよりはたまには違うことしても』
『別にいいけどさ。でも・・・』
『ほら、つべこべ言わずに。待ち合わせは駅前でね。じゃあみきたん、遅刻しないでよ!』
『はいはい』
朝、彼女の家へと押しかけ、まだ眠そうにしているみきたんに無理やり約束をこじつけた。
自分の家へと戻るとあたしはありったけの洋服をベッドに並べ、次々と自分の体にあてていく。
「付き合ってから初めての買い物。せっかくのデートなんだから可愛くしなきゃ」
どっさりと出された服から一番、可愛く見える服を選んでいく。
今日は、いつにもましてテンションが高めになっている。
今朝見た、あの夢を忘れるかのように。
あたしは、待ち合わせギリギリまで服を選らんでいた。
- 116 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:20
-
「・・・亜弥ちゃん、遅いよ」
「ごめんね、待った?」
「亜弥ちゃんが遅れるなって言ったから、十五分前から待ってたんだけど」
「にゃはは、偉い!」
「いや、偉いじゃなくて、・・・はあ、まあいいや。ほら行こうよ」
「うん!」
差し出された手を掴んで歩き出す。
あたしは中々服を決めることが出来ずに結局、待ち合わせから大分遅刻をしてしまった。
そんなあたしにみきたんは呆れていたけど、大して気にせず歩き出す。
「みきたん、買い物って何買うの?」
「んー?・・・そろそろ秋モノの服とか欲しいなと思ってさ」
「そうだねぇ。まだ暑いけど、最近肌寒くなってるもんね」
「うん、それに勉強の気分転換も兼ねてと思ってさ」
「・・・・・ふーん、そっか」
何気ない会話をしながら、街の中を歩いていく。
『・・・気分転換か・・・』
いちいち、みきたんの言葉が気にかかる。
みきたんはそういうつもりではないのかもしれないけど、そんな言葉を言われたらあたしとしては落ち込んでしまう。
『みきたんにとって、あたしって・・・何?」
楽しそうに話かけるみきたんを見ながら、心の中で問いかけるけど本人には届かない。
「みきたん、あたしのこと・・・好き?」
聞こえないくらい小さく呟くと、あたしはみきたんの腕へと自分の腕を絡めた。
- 117 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:24
-
色々な店を回りながら、買い物をしていく。
みきたんの手には買いたいと言っていた秋物の服が入った袋。
あたしの手には何もない。
「あ、これ可愛い」
「ん?どれ?」
「ほら、あの王冠みたいなやつ」
「あ、ホントだ。可愛いね」
「ね」
小さなお店の中で見つけたそれに、あたしは足を止めた。
「・・亜弥ちゃん、それ欲しいの?」
「え?そういうわけじゃ・・・」
みきたんに言われて、言葉を濁す。
小さな王冠がクサリに繋がっているものが何故か目に付いたあたし。
でも、優柔不断のあたしは、それが欲しいと思ってもはっきりとした態度を示すことが出来ない。
「・・・うんん、やっぱりいいや」
「そう?亜弥ちゃんに合ってるのに」
「いいの」
値段もそれほど高くはないそれは、買おうと思えば買えるものだった。
でも、あたしはそれを買わなかった。
- 118 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:25
-
「ふう、結構歩き回ったね」
「そうだね。あ、何か飲み物買ってこようか?」
「ありがとう。じゃあ、紅茶をお願いします」
「わかった。ちょっと、待っててね」
たんを、お店の前にあるイスに待たせてあたしは近くの自販機へと飲み物を買いにいく。
「えっと、あたしはどれにしようかな」
自販機を目の前にして考え込む。
何が飲みたいのか分かるのに、似たようなモノが多すぎて選べない。
「・・・・いいや、たんと同じものに・・」
「ねえ、キミひとり?」
決めかねていた飲み物を買って、自販機から取り出そうとしたら後ろから声を掛けられた。
振り返ると、男のヒトが二人立っていた。
- 119 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:33
-
「・・・一人じゃないです」
「まじ?おれらもそうなんだけど、良かったら一緒に遊ばない?」
「・・・・・」
見るからに軽そうなヒトたち。
明らかにナンパの態度にあたしは呆れた。
「ねえ、どう?」
「いいです。悪いけどそこ退いてくれませんか?」
「いいじゃん。楽しいところ連れて行ってあげるからさ」
「・・・・」
あたしの目の前をこのヒトたちが立ちふさいでいるせいで、お店の前に戻ることが出来ない。それを知っているのか、男のヒトたちはニヤニヤとあたしを見ている。
その視線に、吐き気を感じてくる。
こんな視線を受けるために、出かけたわけではないのに・・・・
相手の一方的な性欲とも言うべき好意の視線を受けながら、あたしはみきたんの方を見た。
きっと、みきたんなら気づいてあたしを助けてくれるに違いない。そう思って、彼女のほうへ視線を向けた。
「え・・・なんで・・・」
居る筈であろう、彼女のほうへ視線を向けるけどそこには誰もいない。
- 120 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:35
-
「ね?行こうよ」
「や・・離してください」
呆然としてお店を見ていたあたしの腕を男のヒトが掴んだ。
途端に、吐き気が言い様のない恐怖へと変わる。
『・・みきたん、どこ?』
掴まれた腕を必死に離そうとしながら回りを見るけど、みきたんの姿はどこにもない。
「いいじゃん、ね?行こうって」
「や・・だ、離して!・・・みきたん!」
「・・・やめてくれる?」
腕をさらに強く掴まれ、連れて行かれようとするあたしの体が後ろへと倒れる。
振り返ると、みきたんがいた。
「みきた・・」
「きみ、この子の友達?どう?おれたちと一緒にどこか行かない?」
みきたんに気づいて、男のヒトがあたしの腕を離す。みきたんはその人たちを睨みつけた。
「行かないから。っていうか、嫌がる女の子を無理やり連れて行こうとするなんて低レベルだね」
「な!?・・おい、待てよ!」
「嫌だね。ほら亜弥ちゃん行こう」
みきたんはあたしの手を取ると足早に歩き出した。
あのヒトたちが追いかけてくるかなって、思ったけどそれは無かった。
- 121 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:37
-
「み、みきたん」
「・・・・」
何も言わずに歩き続けていたみきたんが、不意に足を止めた。
あたしは息を整えながら、みきたんを見た。
「みききた・・」
「亜弥ちゃん、大丈夫?」
「う、うん」
「ほんとに?あいつらに変なことされなかった?」
「・・大丈夫」
「はあ・・・良かった。来るのが遅いから自販機のほう見たら亜弥ちゃんが男のヒトに囲まれているからビックリしたよ」
「・・・・ごめんね」
心配した。って顔でみきたんが話すけどあたしは曖昧に笑うしか出来ない。
『それなら、みきたんはどこにいたの?』
お店の前で待っているはずの彼女が居なかったことに、あたしは不安にさせられた。
でも、あたしはそのことについては何も言わなかった。
言えばきっと、すべての不安を彼女にぶつけてしまいそうで。
あの時にみたいに、自分勝手な想いをまたぶつけるのは嫌だったから。
みきたんに不安を言うことで、また彼女を傷つけるかもしれないと思ったあたしは何も言えず、不安を心の中に隠したまま、みきたんが差し出した手を取って歩き出した。
- 122 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:39
-
「・・・結構、買い物したなあ・・・。そろそろ帰ろうか?」
「うん」
あの後、気分を変えて買い物を楽しんだあたしにみきたんが帰ろうかと提案してくる。
時計を見ると、夕方になりかけていた。
「どうする?帰りながら夕飯でも食べようか?」
「あ・・・いい。ママが夕飯を作って出かけたからそれ食べなきゃ」
「え?・・・おばさん、どっか出かけたの?」
「うん。パパと一緒にね。明日帰るんだけど、久しぶりに温泉旅行に行くって」
「それじゃあ亜弥ちゃん、今日は一人なの?」
「うん。あたしも行こうって言われたんだけど、せっかくだから夫婦水入らずで行けばって、断ったの」
「へえ・・・」
そうなんだ・・・と、みきたんは呟いた。
ママたちの旅行は前からの計画で。もちろん、子どものあたしをママたちは連れて行くつもりだったみたいだけど、あたしはみきたんとの約束があったからそれを断った。
それに、みきたんのことだからきっと、家族で旅行があるなんて聞けば、絶対あたしと買い物に行こうって約束を先延ばしにするだろうし。そんな気を使われたくないあたしは、今日までみきたんにこの話をしないでいた。
- 123 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:40
-
「今日は買い物に付き合ってくれてありがと」
「・・・・うん、あたしも楽しかった」
「そうだ、亜弥ちゃん明日は何か予定がある?」
「え?・・・朝から夕方まで友達のお菓子作りを手伝わされるけど・・・」
「あ・・そうなんだ。じゃあいいや」
「みきたん?」
「や・・今日付き合ってくれたお礼に明日、外で外食でもしないかなと思ったんだけどさ。でも、そんな予定ぎっしりに詰めたら亜弥ちゃんが疲れちゃうもんね。お礼は今度でもいい?」
「あたしは別にいつでも・・」
「よかった。じゃあ、また今度ね」
「・・・うん」
家の前で軽い立ち話しをして、みきたんと別れる。
「・・・ただいま・・・」
玄関の鍵を閉め、明かりをつける。
両親は二人とも旅行に出かけているから、家の中はしんと静まり返っている。
あたしは、荷物を置きに自分の部屋へと上げって行った。
- 124 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:41
-
荷物をベッドの上へと置いて、ベランダのほうへ近づく。
そこから見えるみきたんの部屋。
明かりはまだ付いていない。
きっと、下でおばさんと話しでもしてるんだろう。
何か、スッキリとしない気持ちで下に降りようとしたあたしに、朝も目に入った封筒が目に映る。
「・・・・・」
近づいて封筒を手に取る。
『 松浦 亜弥様 』
黒いペンで書かれたあたしの名前。
昨日、吉澤センパイと帰る途中で見知らぬ男のヒトから渡された手紙。
顔を真っ赤にしながら、その手紙をあたしの前に差し出した。
それを受け取ると、その人は走って行ってしまった。
あたしが声を掛ける前に・・・・
- 125 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:42
-
「・・・ラブレターなんて、初めて貰うな・・・」
手紙を前に呟くと、昨日の帰り間際に吉澤センパイに言われたことを思い出した。
『 この手紙、藤本さんが見たらなんて言うんだろうな 』
『 え? 』
『 ヤキモチやくかも 』
「・・・・」
単純に、ただの好奇心から出た言葉。
その言葉をあたしは、目を閉じながら反芻する。
・・・・何を考えてるの?
『 別に何も・・・・ 』
じゃあ、どうしてその手紙を捨てずに持っているの?必要ないでしょ?
『 ・・・分かってる 』
うそ、分かっていない。あなたは迷ってる。
『 ・・・何を? 』
この手紙で彼女のことを試すことに・・・あの時みたいに・・
『 ・・そんなこと・・・ 』
ないって言いきれる?
『 ・・・・・ 』
- 126 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:43
-
「・・・・」
手紙を前に自分自身に問いただす。
あたしは、この手紙でまた彼女を試そうとしているのかと。
「・・・あんな思いは・・」
みきたんの気持ちが知りたくて、彼女を傷つけた。
「・・・みきたんには・・・」
今でも思い出す。あの時のみきたんの顔。
苦しそうに、
眉を歪めて、
息をするのも忘れたみたいに、あたしと吉澤センパイが抱き合う姿を見ていた。
あたしが傷つけた。
腹いせのように、彼女がどんな顔をするのか知りたくて・・・・
- 127 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:44
-
みきたんと里田センパイが屋上で抱き合っているのを見た次の日、あたしは吉澤センパイと中庭で会っていた。
「センパイ・・どうしたんです?こんな所に呼び出して」
「うん、まあ・・・ちょっと話しがしたくて・・」
「・・はぁ・・・?」
そう言ってセンパイは暫く他愛のない話をした。昨日のドラマの話しだったり、学校のことだったり。その都度、センパイが可笑しなことをいうもんだから、あたしも笑ったりしていた。
でも、どこか違和感があった。
話しかける吉澤センパイは、あたしに何かを言いたいけど、それを言えずにいるように感じて、それをじれったく感じたあしたはセンパイの話しを遮って、話しを切り出した。
「それでさぁ・・」
「センパイ、あたしに話したいことがあるんじゃないですか?」
「え・・?・・・」
「呼び出したのもその話しをする為なんでしょ?」
「・・・・ああ、うん」
「センパイ?」
「・・大丈夫?」
「え?」
考え込むように腕を組んだセンパイは言った。
- 128 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:45
-
「え・・?大丈夫って、・・・何がですか?」
「いや、昨日・・・松浦、沈んだ顔していたから・・」
「あ・・昨日はすみませ・・・」
「松浦、あの後授業に出なかっただろ?」
「え・・なんで・・知って・・・」
その言葉に驚く。
どうして、センパイがそれを知っているんだろう。
「松浦と別れた後、やっぱ気になってあとを追ったら松浦、屋上にいくからさ」
「・・・・」
「ずっと、一箇所だけ見つめて、何か考え込んでいる様子だったから、やっぱ何かあったんだろうなって。ホントは、そういう事は本人が言うまでは聞かないのがウチの流儀なんだけど、昨日の松浦を思い出すと何か黙っていられなくって・・・」
「・・・センパイ」
「だから・・・」
「大丈夫です」
「・・・松浦?」
「ホントに何もないですってば・・・でも、心配してくれてありがとうございます」
「・・・松浦・・」
吉澤センパイに精一杯の笑顔を返す。
センパイには、あたしの相談にのってもらっただけでなく、ウワサまで付き合ってくれている。そんなセンパイにこれ以上、心配なんてかけられない。
- 129 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:46
-
「・・・はあ・・・松浦がそう言うなら、もういいや」
「センパイ・・」
「でも、松浦はウチの可愛い後輩だ。悩みとかあればなんでも聞いてやる。だから、気なんか使わずに話したいときは、いつでもいいから、松浦の気持ちを聞かせろよ?」
「・・・はい」
センパイはため息をつくと、またいつもの顔に戻った。
「まったく、松浦も頑固だよなぁ。そういうところは梨華ちゃんとそっくり」
「えー!?・・・梨華センパイに言いますよ?」
「それは簡便。じゃあ、分からず屋でいい?」
「・・・センパイ、ひどくなってます」
「そう?」
「もう!」
からかい口調のセンパイにあたしも怒り口調でやり返す。
きっと、あたしが何を悩んでいるか分かってるんだろう。でも、無理やり聞くなんてしないのが、センパイの優しさなんだ。
改めて、あたしはセンパイの優しさに感謝をした。
「・・そういえば・・・て、あれ?向こうにいるのって・・・藤本さん?」
「・・え・・・・・?」
センパイが言った名前に体が強張る。
後ろを振り返りたくても出来ない。
後ろを振り向くことも出来ず、あたしの中で昨日のことが思い出される。
そして、それと同時に沸き起こる黒い感情。
- 130 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:47
-
「なあ、向こうにいるのって藤本さんだ・・!?」
様子が変わったあたしに気づくことなく、センパイが話しかける。
あたしは、そんなセンパイの言葉を最後まで聞かずに、抱きついた。
「え?・・ちょ!?松浦?」
「ごめんなさい。でも今だけは黙ってあたしを抱きしめてください」
「は?・・・何言って・・・・松浦・・?」
「お願いします。・・・・お願い・・」
「・・・・」
体の強張りは解かれることなく、あたしの中で沸き起こる感情も治まる様子はない。
あたしの様子が変がと気づいたセンパイは、黙ってあたしを抱きしめてくれた。
「松浦、何かあったの?」
「せんぱい、あたし・・!?」
暫く抱き合っていたら後ろからガラスが割れる音が聞こえた。
その音に振り返るけど、みきたんの姿は無かった。
「・・・みきたん・・」
「うわぁ・・今ガラス割ったのって藤本さんだよな?松浦、まずいんじゃないの、今のは・・」
「・・・・・」
振り返ってそこにあったものは、割れたガラス窓とそれに群がっている生徒。
あたしはセンパイの言葉を聞きながら、その様子を遠くから眺めていた。
- 131 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:48
-
割れたガラスを見て、初めて気がつく。
自分がしてしまったことに・・・
「・・なあ、松浦と藤本さん。何かあった?」
「・・・・」
「松浦!」
「あたし・・・みきたんに・・・なんでこんなこと・・」
「松浦?」
「・・・・」
今さらながらに自分がしたことがどんなものだったのか知る。
自分勝手な嫉妬。しかも、かなり最悪。
自分がされたことをやり返すなんて・・・勝手すぎるにもほどがある。
「松浦?」
「センパイ・・あたし・・」
今さらだけど振るえが止まらない。
自分がした浅はかな行動と、ドロドロとした感情。
やり直したくてもそれは出来ない。
「松浦、何があったか話せ。・・・話すだけでも、すごい楽になるから」
センパイが震えるあたしを優しく抱きしめる。
- 132 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:49
-
「な?・・・松浦」
「・・・・」
優しい顔で、センパイが笑う。
その顔を見て、あたしは昨日あったことを話そうと思った。
「・・・センパイ、あたしみきたんのことが好きなんです」
「・・・うん」
「好きすぎて、自分自身がどうにかなりそうなんです」
「松浦・・・」
「昨日・・みきたんと、里田センパイが屋上で抱き合っていて」
「え!?」
「それ見た瞬間、体の中から黒いものが湧き上がってきて」
「・・・・」
「それが嫉妬だっていうのは、分かってます。でも、自分では止めきれなくて・・・」
「それで、こんなことしたんだ?」
「・・・・」
あたしは静かに頷いた。
そう、嫉妬。
しかも、『 仕返し 』という最悪なもので・・
- 133 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:50
-
「なあ、松浦」
静かな声でセンパイが声を出す。
「今から言う言葉は梨華ちゃんに言われたことなんだけどさ・・・」
「・・・・」
「・・ヒトを好きになったらさ、何してもいいんだって」
「・・え?・・・」
「その人が好きなら、自分がしたいことをしてもいいんだよって、梨華ちゃんに言われたことがあるんだ」
「・・梨華センパイが・・」
なら、あたしがしたことは・・
「でもね、それって、自分と好きな人を傷つけなければなんだって」
「・・・・」
「好きなら何してもいい。でもそれをすることで、好きな相手や自分が傷つくことだけは、いくら好きでもしちゃいけないんだって、梨華ちゃんに言われたことがある」
「・・・・・」
「・・・・松浦が藤本さんにしたことはどうなの?」
「あたしは・・」
そんなの、応えなくても、答えは出ている。
「・・・相手を傷つけました。自分勝手な思いから・・」
「・・・それをした松浦はどうなの?」
「・・・・」
言葉が出ない。
- 134 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:51
-
「松浦」
「・・・・あたしも・・・傷つきました」
そっと、目から涙が零れ落ちた。
「本当はしちゃいけないことなのに、みきたんのあんな顔なんてさせたくなかったのに・・・」
腹いせのように彼女を傷つけた。でも、何も消えてくれなかった。
ドロドロした感情も、締め付けるような胸の痛みも。
消えずに、いつまでも残って、あたしを苦しめている。
「松浦・・・・これは、藤本さんと松浦の痛みだ」
センパイの言葉に顔をあげると、頬を叩かれた。
叩かれた頬を押さえ、センパイを見ると、悲しそうにあたしを見た。
「・・・ごめん、叩いたりして。でも、藤本さんはもっと痛かったはず」
「・・・・」
「松浦、ウチは藤本さんが松浦をどう思っているか試せとは言ったけど、傷つけろとは言わなかった。それは、松浦も分かるよな?」
「・・・はい」
「試すことも相手を傷つけることかもしれないけど、これはどう見てもやりすぎだ。いくら、藤本さんが他のヒトと抱き合っていたからって、それを理由に相手を傷つけるのは決してしちゃいけないことなんだよ」
「・・・・」
センパイの言葉の一つ、一つが心を締め付ける。
- 135 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:52
-
「センパイ、あたし・・・どうすれば・・・・」
「・・松浦」
ボロボロと涙が出てくる。
今さらだけど、さっきのことを取り消したい。
泣き崩れるあたしを吉澤センパイがそっと、肩を抱いた。
「・・・してしまった行動は取り消せない」
「・・・・はい」
「でも、それを償う方法はある」
「え・・・」
その言葉にあたしは顔をあげた。
センパイはあたしの顔を見据えて、口を開いた。
「・・・藤本さんに気持ちを伝える」
「・・・・気持ちを・・」
「そう、松浦の気持ちを藤本さんに伝えて、どうしてあんなことをしたのか、ちゃんと言うんだよ」
「でも、そんなことしても・・・」
「でもじゃない。言わなきゃ、藤本さんはずっと苦しんだままだ。松浦はそれでもいいの?」
「・・・・・」
「松浦!」
気持ちを伝える・・・それが、あたしの償い。
・・・でも、傷つけたあたしをみきたんが今さら受け入れてくれるのだろうか・・・・
- 136 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:53
-
「・・・・分かりました。みきたんに気持ちを伝えます。いつまでも逃げていたら駄目・・・ですからね・・・」
「そうだよ」
「伝えることで、そろそろ・・・・・終わりにしなきゃ」
「・・・・松浦?」
「・・・いい加減、みきたんへの気持ちを消さなきゃ・・・」
「な・・に、言ってるんだよ松浦。藤本さんが松浦の気持ちを受け入れないと思っての?」
「分かりません。でも、今のあたしをみきたんが受け入れるとは思いません。・・・もう、あたしはみきたんが知っている、幼馴染の亜弥じゃないから・・・」
「・・松浦」
みきたんを好きなのに、嫉妬という感情から彼女を傷つけた。
もう純粋に、彼女を好きだった小さな亜弥はいない。
そんなあたしを、彼女が受け入れてくれるかもしれない、なんて考えは都合が良すぎる。
それなら、気持ちを伝えることで彼女への気持ちを消さなければ・・・
そうじゃなきゃ、ずっとその想いを抱えていくなんて、あまりにも自分勝手すぎる。
「センパイの言うとおり、みきたんに気持ちを伝えます。でも、もう少しだけ時間をください。まだ、伝えるには気持ちの覚悟が少なすぎて・・」
「伝えるのは松浦なんだから、それは松浦が決めればいい。でも、気持ちを消すってのは少し大げさじゃない?」
「でもそういう覚悟がなければ、あたしはみきたんに償うことができません」
センパイの目を見る。
これだけは、絶対忘れちゃいけない。
あたしの勝手な思いで、彼女を傷つけたのは事実なのだから。
- 137 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2005/12/30(金) 00:56
-
あたしがずっとセンパイを見続けていると、フッと軽く息をはきながらセンパイは優しく笑った。
「わぁった。松浦がそこまで言うならウチも何も言わない。でも、自分ひとりで解決しようなんて考えるなよ?困ったり、不安なときはいつでも、ウチや梨華ちゃんに言え。すぐに駆けつけてやる」
「ちょ!?吉澤センパイやめてください」
そう言って、センパイがあたしの頭をグシャグシャと撫でた。
お陰であたしが毎朝がんばってセットしている髪はぐちゃぐちゃ。
文句を言おうと思ったけど、これがセンパイなりの優しさなんだって分かるから、あえてあたしは何も言わずに、されるがままになった。
ねぇみきたん、あたしちゃんと言うから。
みきたんに、気持ちをちゃんと伝えるから。
それで、みきたんを傷つけたことが消えるわけじゃないけど、
でも、必ず伝えるから。
だから・・・
少しだけ時間をください。
今は、みきたんに気持ちを伝える勇気がまだ足りないから
だから、ほんの少しの時間と勇気をください。
- 138 名前:k 投稿日:2005/12/30(金) 00:59
-
更新、終了
あはは、やっぱり今回も暗い松浦さんでした。・・はぁ川_| ̄|○川
110>>名無飼育さま
ありがとうございます。
やっぱり学園ものといえば、頼れる先輩方の存在は欠かせませんのでw
あと一回で、この話も終わりになりますが、今回で今年の更新は終わりです。
大晦日に上げれればいいのですが、多分無理なのでw
・・・それでは、今回はこれで失礼します。よいお年を・・・
- 139 名前:タケ 投稿日:2005/12/31(土) 04:21
- 亜弥ちゃんも美貴たんも辛そうだぁ。
なかなか明るくなりませんねぇ。
でもいつかは明るくなりますかねぇ?
次回も頑張ってください
- 140 名前:k 投稿日:2006/01/06(金) 18:15
-
更新、開始
- 141 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2006/01/06(金) 18:17
-
ママが作っておいた夕飯を温めようと、レンジの電源を入れようとしたら、チャイムが鳴った。
「・・・こんな時間に・・・誰だろう」
準備する手を止めて、玄関へと向かう。
「・・・みきたん?」
「・・こんばんは」
玄関のドアを開けると、そこには少しだけ顔を赤くしながらみきたんが立っていた。
「どうしたの?」
「お母さんに亜弥ちゃんが今日は一人だって言ったら、夕飯を持たすから一緒に食べなさいって」
そう言って、みきたんは手に持っていた袋を掲げて見せた。
「おばさんが?・・でも、悪いよ」
「全然、大丈夫。それにミキも亜弥ちゃんと一緒に夕飯食べたかったし・・・」
「みきたん・・・」
袋を受け取りながらみきたんを見ると、さっきよりも顔を真っ赤にしている。
そんな彼女を見て可愛いと思った。
- 142 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2006/01/06(金) 18:17
-
「じゃあ、みきたん一緒に夕飯食べてくれる?」
「うん!」
せっかくおばさんが作ったものを返すのは失礼だし、一人で食べるのも確かに寂しい。
あたしは、おばさんの好意を素直に受け取って、みきたんを家へと招きいれた。
「・・・?・・・みきたん、左手に持っているその荷物は何?」
「え?・・・・これ?」
「うん、これ」
左手に中くらいの大きさのカバンをみきたんは持っていた。
何が入っているのかと尋ねると、彼女を嬉しそうにした。
「えへへ、お泊まりセット。どうせ明日は休みなんだから亜弥ちゃん家に泊まろうかなって。ダメ?」
「え・・・・べ、つに大丈夫・・」
「良かった。久しぶりだなぁ・・・亜弥ちゃん家に泊まるの」
「・・・・・」
みきたんは嬉しそうにしてあたしの前を歩いているけど、あたしは顔が真っ赤になるのを感じた。
「・・・お泊まり・・・」
別にお泊まりなんて、小さいころからしてるけど、恋人同士になってからはこれが初めて。
期待なんてしているわけじゃないけど、やっぱり緊張してしまう。
顔が真っ赤になっているのを気づかれないようにあたしはみきたんの後ろをついて歩いた。
- 143 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2006/01/06(金) 18:18
-
「あ、片付けはあたしがするから、みきたんは先にお風呂入ってきていいよ」
「そう?」
「うん、今日は買い物もして疲れてるでしょ?ゆっくり浸かっておいでよ」
「じゃあお言葉に甘えて・・・・」
ママとおばさんが作ってくれた夕飯を二人で食べて、お片づけ。
食器を片付けよとするみきたんを制して先にお風呂に入るよう促す。
みきたんがソファの上に置いてあったカバンから着替えを取り出して、風呂場へ向かおうとするのを見送っていると、足を止めてあたしの方へ振り向いた。
「・・ん?何か忘れた?」
「・・・・どうせなら一緒に入る?」
「へ!?」
「なーんて、ウソです。先に入るね」
「は?」
みきたんの言葉に目を開いて驚いていると、みきたんは悪戯っ子のように笑ってお風呂場へと向かった。
「・・・・・ばか・・・」
残されたあたしは顔を茹でタコのようにしながら、しばらくそこに立っていた。
- 144 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2006/01/06(金) 18:19
-
「みきたん、ごめんね・・・あれ?みきたん?」
キッチンにいるであろう彼女に声を掛けるが見当たらない。
結局、みきたんの言った言葉でしばらく放心状態だったあたしは、みきたんがお風呂から上がるまでずっとその場にたちつくしてしまった。おかげで、あたしがするはずだったキッチンにたまった洗い物をみきたんが代わりにする羽目になった。
「みきたーん?!」
「・・・こっちだよー」
片付けをしているはずのみきたんがいないので、大きな声で呼ぶと二階から声が聞こえた。どうやら、あたしの部屋にいるみたいだ。
タオルケットを頭に乗せて、二階へと上がる。
ドアを開けると、そこにみきたんはいなかった。
「・・・みきたん?」
「ここだよ」
声がするほうを見るとベランダにみきたんが立っていた。
あたしもベランダに行き、みきたんの横に並ぶ。
「・・何してたの?」
「んー?・・・星が見えるかと思って」
「見えた?」
「・・全然」
そう言って、みきたんは苦笑い。
あたしもみきたんと一緒に空を見あげたけど、今日は朝から曇っていたせいか星は見えなかった。
- 145 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2006/01/06(金) 18:20
-
「・・・みきたん、冷えるから部屋に行こう?」
「うん」
夏の終わりの夜は、まだ半そでのシャツでも過ごせるけどやっぱり少しだけ寒い。
二人とも、お風呂から上がったばかりだから、髪もまだ乾いていない。湯冷めするといけないから、部屋へ戻ろうとみきたんを誘う。
あたしが先に部屋へと入り、ベッドへと腰掛ける。
みきたんは、部屋のカーテンを閉めると、あたしの方をむいて微笑んだ。
その顔が綺麗すぎて、思わず見とれてしまった。
「・・亜弥ちゃん?」
「・・・へ?」
「や・・ぼーとしてたから」
「あ・・・なんでもないよ」
慌ててみきたんから目を逸らす。
どうもさっきから意識しすぎてしまう。
何か話題になるものはないかと部屋をキョロキョロと見回していると、みきたんが一箇所だけをじっと見つめていた。
「・・みきたん、何見て・・・」
その視線を追うと、さっきまで見ていたあのラブレターがあった。
- 146 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2006/01/06(金) 18:21
-
「あ・・・それは・・・」
「亜弥ちゃん、これってラブレター?」
「へ?・・・・ああ、うん」
「ふーん・・・」
その手紙を手に取ると、みきたんはそれをたいして興味なさ気に見ていた。
・・・・ひょっとして、ヤキモチやいてくれているのかな?
ラブレターだと聞いたとたんに、ミキたんは素っ気無い態度をとった。
いつもなら、あれこれと聞いてくるのに。
彼女の態度に、ヤキモチをやいていると感じたあたしは嬉しくて、そう。嬉しくてほんのちょっとだけ、軽い気持ちでみきたんに話をした。
「・・・このラブレターくれたヒトって結構、カッコ良かったんだ」
「・・・へぇ?」
「その時、吉澤センパイもいてね。吉澤センパイったら、その人とみきたんどっちがいい?なんて聞いてきてね。そんなの選ぶことなんてできませんっていったりして。だってね・・・」
「別に、ミキには関係ないし」
「・・え?」
軽い口調で話していると、みきたんが声を低くしてあたしの話をはさんだ。
「そうだね、亜弥ちゃんが誰を選んでもミキには何も言う権利なんてないし。亜弥ちゃんが決めればいいよ」
「・・・何、言ってるの?・・」
「・・・ミキ以外にいいヤツなんていっぱいいるし、ミキとの付き合いも、ミキが卒業したら続くかなんて分からないわけだし・・・」
「・・・・・」
あたしの顔も見ずに話すみきたんの言葉があたしを暗い穴へと落としていく。
- 147 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2006/01/06(金) 18:22
-
どうしてみきたんはそんなこと言っているの?
今のは軽い話でしょ。
あたしが選べばいいって、なに?
みきたんには何もいう権利はないって、なに?
みきたんの言葉がグルグルと頭の中で周りはじめる。
『・・・やっぱり、みきたんはあたしのこと・・・・』
暗い穴から浮かんできた言葉に目を瞑り、俯く。
あたしの顔を見ずに話すみきたんを見ていたらその顔が滲んできたから。
「・・・選ぶのは亜弥ちゃんだから。でも、それでもミキが亜弥ちゃんの一番近くにいたいっていうのは、やっぱりミキのわがま・・・」
あたしの方を見ずに話していたみきたんが、言葉を止める。
俯くあたしに気がついたんだろう。
「・・・亜弥ちゃん・・・?」
ゆっくりと、みきたんはあたしの前にやってきた。
- 148 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2006/01/06(金) 18:23
-
「・・・どうしたの?」
優しい声をかけながら、みきたんがあたしの前へと立てひざをつく。
「亜弥ちゃん?」
「・・なん・・でもない・・」
俯かせながら顔を横へと振る。
「でも、亜弥ちゃんずっと俯いているし・・ねえ、ミキ何かした?」
「・・・」
「亜弥ちゃん」
首を振り続けるあたしをみきたんがそっと抱きしめる。
・・・・暖かい。
みきたんの温もりはあたしをすごく安心させる。なのに、何で今はその温もりさえも不安になるの・・・?
もう駄目。
みきたんの温もりに耐え切れなくなったあたしは、そっと、彼女の体から離れた。
- 149 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2006/01/06(金) 18:24
-
「・・・亜弥ちゃん?」
「みきたんが、あたしのことどう思っているかよく・・・・分かった」
「え・・・?」
「あたしが、だれを選ぼうが関係なんてないんだよね、みきたんには・・」
「・・・亜弥ちゃん?」
「分かった、あたしこの人に返事だす」
「え?ちょっ!?・・亜弥ちゃん?」
「みきたんが、そういうなら・・」
「・・・・」
なに・・言ってるんだろう、あたし。
目の前にいるみきたんが、すごい困った顔しているのに・・
あたしの言葉で、みきたんが傷ついているのが分かるのに・・・・
なんで、こんな言葉を言ってるんだろう。
「・・・亜弥ちゃん・・」
「・・・・」
優しい声。だけど、悲しそうにあたしを見ている。
・・・・違う。あたしはそんな顔をさせたくて言ってるわけじゃ・・
ただ、あたしだけを見て欲しくて・・・
あたしだけを求めて欲しくて・・・・
- 150 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2006/01/06(金) 18:25
-
「・・・なんで泣くの?」
「え?」
そっと、みきたんがあたしの頬に触れる。
知らないうちにあたしの目からは涙が溢れこぼれていた。
「・・亜弥ちゃん」
「・・ん・・」
みきたんがそっと、近づきあたしの涙に唇つける。
何度も、何度も。・・・優しく。
それだけで、あたしの心は震えだす。
「・・・亜弥ちゃん・・」
「・・・・」
遠慮がちな、みきたんの唇。
だけど足りない。
もっと、・・・もっとみきたんの温もりが欲しい。
閉じていた目を開くとあたしはみきたんをまっすぐに見つめた。
- 151 名前:僕がキミを―A― 投稿日:2006/01/06(金) 18:26
-
「みきたんはあたしのこと、どう想っているの?」
「・・え?」
「本当に、あたしのこと好き?」
「・・好きだよ」
「ならどうして・・・関係ないなんて言うの?」
「・・・」
「好きならどうして・・・」
みきたんが優しく拭ってくれたのに、あたしの目からはまた、涙が零れだす。
もう限界だった。
自分の不安にも
彼女の優しい行動にも・・・
「どうして抱かないの」
限界だった。
- 152 名前:K 投稿日:2006/01/06(金) 18:27
-
更新、終了。
ちょっと時間がないので、続きはまた後で更新します。
レスはその時に返します。
- 153 名前:K 投稿日:2006/01/07(土) 00:57
-
更新、開始
- 154 名前:僕がミキを―A― 投稿日:2006/01/07(土) 00:58
-
「あ、やちゃん・・?」
「・・・・・」
「あの・・・」
あたしの言葉にみきたんの顔が真っ赤になっている。
「みきたんはあたしのこと好き?」
「好き・・です」
「ならどうしてあたしを・・・求めないの?」
「・・・それは・・」
「どうして、抱きしめるだけでそれ以上はしようとしないの。・・・・どうして、・・・」
「・・・亜弥ちゃん」
「あたしはただ・・・」
みきたんが求めてくれたなら、こんな不安になることなんてないのに・・・・
「ただ、あたしは・・」
みきたんを傷つけることなんてないのに・・・・
「みきたんのモノになりたいだけなのに」
- 155 名前:僕がミキを―A― 投稿日:2006/01/07(土) 00:59
-
「みきたんがあたしを抱いてくれたら・・・・・みきたんだけのモノにしてくれたら、あたしはこんな不安になることなんてないのに・・・・みきたんを傷つける言葉なんていいたくないのに・・・ただ、求めてくれたら・・・・」
「・・・亜弥ちゃん」
零れる涙とともに、ずっと思っていた不安をみきたんに打ち明ける。
目の前にいるみきたんは視界が歪んでいて見えない。
「あたしは、ただ・・・・」
「・・・ごめんね、亜弥ちゃん」
泣き続けるあたしを優しくみきたんが抱きしめた。
「亜弥ちゃんがこんなにも不安になっているなんて気づかなくて、ごめん」
「・・っく・・ちが・・みきたんは・・・悪くない。あたしが勝手に不安になって・・」
「でも、亜弥ちゃんをそこまで追い詰めたのはミキの態度のせいなんでしょ?」
そう言って、みきたんはあたしを強く抱きしめた。
「ごめんね、亜弥ちゃん。ミキ、あんなこと言うつもりは無かった。ただ、亜弥ちゃんが他の人から告白されたと思ったら、なんかモヤモヤしてそれで、あんなこと・・・・でも、亜弥ちゃんにはミキの側にずっといてほしい。もちろん、ミキも亜弥ちゃんの側にずっといたい」
「・・・みきたん」
みきたんがあたしから体を離して見つめてくる。
- 156 名前:僕がミキを―A― 投稿日:2006/01/07(土) 01:00
-
「・・・触れてもいいの?」
そっと、あたしの頬に触れながらみきたんは聞いてきた。
その言葉にあたしは静かに頷いた。
みきたんは、一度立ち上がって部屋の電気を消した。
「・・暗いね」
「・・・うん」
部屋の中は人口の光を失い、何も見えない。
「・・・そっちに行ってもいい?」
ようやく、目が慣れた頃みきたんが近くへと寄って来た。
お互い、何も話さずに見つめあう。
「・・亜弥ちゃん」
切ない声でみきたんがあたしの名前を呼ぶ。
その声だけで、あたしは泣きそうになった。
- 157 名前:僕がミキを―A― 投稿日:2006/01/07(土) 01:01
-
「・・・亜弥ちゃん」
「・・・・」
ゆっくりと、暗い中であたしの顔に触れてくるみきたん。
それは、あたしの顔の形を確認しているようで、そんな優しい手つきで触られるだけで、あたしの意識は飛びそうになる。
「・・ん」
あたしの顔を撫でていたみきたんが、両手で頬を優しく包むと静かに唇を寄せてきた。
その感触に、あたしの頭はしびれてくる。
「・・ん・・・・はぁ」
長くて短いキスがとかれる。
うっすらと目を開けるとみきたんが目に涙を溜めながら微笑んでいた。
「・・・みきたん?」
「ん?」
「・・泣いてるの?」
「ん」
「どうして?」
「亜弥ちゃんに触れているから」
そう言うとみきたんはもう一度、唇を寄せてきた。
- 158 名前:僕がミキを―A― 投稿日:2006/01/07(土) 01:02
-
生まれたままの姿でお互いを抱きしめあう。
「・・・みきたん」
「ん?」
「・・気持ちよかったよ?」
「へ?・・あ、ああ・・・ありがとう」
あたしの言葉にみきたんは顔を赤くさせ、あたしをぎゅっと抱きしめた。
今、あたしの中は幸せに包まれている。
「・・・亜弥ちゃんも・・・・・か、可愛かったよ?」
「・・・・」
「・・亜弥ちゃん?」
「・・・・ばか」
今度はあたしを真っ赤にさせる言葉をみきたんが言ってくる。
その言葉が恥ずかしくて、あたしはみきたんの首筋へと顔を埋めた。
あたしを抱いている間、みきたんはずっと震えていた。
まるで、大切な宝物を箱からそっと出すように・・
でも、一生懸命あたしを抱いてくれた。
そんなみきたんが愛しくて、あたしはずっと彼女の名前を呼び続けていた。
- 159 名前:僕がミキを―A― 投稿日:2006/01/07(土) 01:03
-
少しだけ肌寒くなって、毛布を二人でくるんでベッドの壁際に座った。
もちろん、後ろからはみきたんがあたしを暖めるように抱きしめている。
「あ・・・そうだ、亜弥ちゃん」
「ん?」
「・・はい、これ」
「え?」
みきたんが、枕があるほうへと何かを探す素振りをする。
何だろうと見ていると、あたしの前に小さな箱を差し出した。
「みきたん、これって・・?」
「・・・開けてみて」
「・・うん」
ゆっくりと、リボンに包まれている箱を開ける。そこには・・
「これって・・・あのお店の?」
「うん。気に入った?」
「あ、りがとう。でもどうして・・」
「亜弥ちゃん、すごい欲しそうに見てたのに買わなかったから・・・だからプレゼントしたら喜ぶかなって」
「すごい・・嬉しい。・・・でも、いつ買ったの?」
「・・・実は、亜弥ちゃんが飲み物を買いに行っている時に・・・だから、亜弥ちゃんが絡まれているのが気づくのが遅くて・・・すぐに助けにいけなくてごめんね?」
「そ、うだったんだ・・」
あの時、探しても見つからなかった彼女は、あたしのためにこれを買いに行っていた。
もし、みきたんがこれを買わずに居たらきっと、あたしのことをすぐに助けにくるはずなのに、あたしはそれを疑ってしまった。
あたしのために買ってくれたプレゼントを見ながら、申し訳ない気持ちになった。
- 160 名前:僕がミキを―A― 投稿日:2006/01/07(土) 01:04
-
「・・ホントはさ・・」
「うん?」
箱から取り出してあたしの首にクサリをつけているみきたんが、少し遠慮がちな声をだした。
「亜弥ちゃんは、ミキと幼馴染の関係をやり直したいのかなって思ってた」
「え・・?・・」
みきたんの思いがけない言葉にあたしは彼女のほうへ体を向けた。
すると、彼女は少しだけ苦笑いを零して、あたしのオデコにキスを落とした。
「亜弥ちゃんと、幼馴染から恋人の関係になった次の日、亜弥ちゃんの手を握ったら亜弥ちゃんが少しだけど、振るえたのが分かったから・・・だから、・・・」
「・・・あ」
そう言って、みきたんは言葉を濁した。
あの時、確かにあたしは手を繋がれて驚いた。
だけど、みきたんがそんな小さな反応にまで気づいていたなんて・・・
「恋人同士になってからずっと、亜弥ちゃんに触れたいっていう想いはあった。けど、小さい頃から宝物みたいに大切にしてきた亜弥ちゃんだから・・ミキが触れることでそれを汚してしまうようで、怖かったんだ」
そう言うみきたんは、すごく辛そうにしてあたしの肩へともたれた。
- 161 名前:僕がミキを―A― 投稿日:2006/01/07(土) 01:05
-
「ごめんね、みきたん。あれは、その、急に手を繋いできたからびっくりして。でも、みきたんのこと嫌とかじゃなくて・・・」
「・・分かってるよ。ただ、亜弥ちゃんに触れるにはまだ早いのかなって、そう感じたらなんか前みたいに幼馴染のような態度しか取れなくなってさ・・・・だから、亜弥ちゃんがそんなミキの態度に不安を覚えているなんて知らなかったよ。ごめんね?」
「そんな、あたしのほうこそ・・・みきたんがあたしのことそんな風に思っているなんて考えもしないで、・・・ごめんなさい」
「ん、いいよ。けど、可笑しいね。また二人して同じようなこと考えていたなんて」
「ふふ、そうだね」
そう言って、二人して笑い合う。
あたしは、みきたんが求めないことに不安を覚えて・・
みきたんは、あたしが受け入れてくれないかもしれないという不安を感じて・・・
ほんと、二人してお互いのことを想いすぎて不安になるなんて。
「・・亜弥ちゃん・・」
「ん・・・」
肩へと凭れていたみきたんの唇がゆっくりと、あたしの肩をなぞる様に口付ける。
愛おしそおうに何度も、何度も。
- 162 名前:僕がミキを―A― 投稿日:2006/01/07(土) 01:06
-
「はぁ・・・みきたん・・」
「ん・・・なに?」
「・・・・」
口付けをやめてみきたんはあたしの顔を見た。
「亜弥ちゃん?」
「・・・好き。みきたんのこと好きすぎて・・・不安になる」
「・・・・」
その顔も
その声も
みきたんのすべてが愛しくて、欲しくなる。
「・・・・抱いて?・・・・あたしの不安なんか消えるくらい強く・・」
「・・・亜弥ちゃん」
そう言って、みきたんへと体を向ける。
「あたしの全部を・・・何もかも全部、みきたんのモノにして・・・?」
「うん、全部ミキのものに・・・」
みきたんはキスをすると、優しくあたしの体をベッドへと沈めた。
- 163 名前:僕がミキを―A― 投稿日:2006/01/07(土) 01:07
-
「・・・ん」
カーテンの隙間から零れた朝日で目を覚ます。
「・・・おはよう」
「・・おはよう。いつ目を覚ましたの?」
「んー・・・5分くらい前・・かな?」
「起こしてくれたらいいのに」
「でも、気持ち良さそうに寝ている亜弥ちゃんが可愛くて・・ずっと見ていたいくらい・・・可愛かったよ、昨日の亜弥ちゃんも・・」
「・・・ばか」
目を覚ますと横にはみきたんがいて、昨日のことは夢ではないんだと改めて思い出す。
朝特有の澄んだ空気の中で、暖かい空気を感じさせながら幸せを感じる。
そろそろ起きて、友達の家に行く準備をしなきゃいけないのに、この場の空気がとても居心地よくて・・・もう少しだけ、それを感じたくて・・・
「亜弥ちゃん、そういえばこれから友達のところに行くんだよね?」
「・・・うん」
「なら、起きて朝ごはんにしよう」
「・・・・」
だけど、肝心のこの人はそんな空気を感じていないのか、さっさとベッドから抜け出そうとする。
- 164 名前:僕がミキを―A― 投稿日:2006/01/07(土) 01:09
-
「亜弥ちゃん?」
「・・・みきたんの鈍感」
「へ?」
「このいい雰囲気が分かんないなんて」
「え?・・え?・・なに?・・なんで怒ってるの?」
「・・でも好きだからね」
「ふえ?・・・ん」
間抜けな返事をするみきたんの顔を寄せてキスをする。
不意打ちのキスに呆然としているみきたんの横を通り抜けて散らばっている服を着る。
「みきたん、なにしてるの?朝ごはん、食べるんでしょ?」
「へ?・・・あ、はい。食べます」
「なら、ぼうっとしてないで早く着替えてね」
「・・・はい」
まだ、顔を紅くしているみきたんをよそに、あたしはハナウタなんか歌いながら下へと降りていく。
さて、朝ごはんは何にしようかな?
たんが好きなベーコンエッグにしようかな?
でも、肉ばかりじゃなくて野菜も取らせないといけないから、ちゃんとそこら辺も考えて。
みきたんが下に降りてくるまでにはパンくらいは焼いておこう。
冷蔵庫の中を物色しながら、朝ごはんについて色々と考える。
- 165 名前:僕がミキを―A― 投稿日:2006/01/07(土) 01:11
-
ねえ、みきたん。
あたしは、自分勝手な想いからみきたんを傷つけたことは、自分がもう子どもじゃないからだと思ってた。
でも、それって違ってた。子どもだったから・・・
ほら、子供って背が低いから目線が低いでしょ?多分、それと同じだったのかもしれない。
だから、周りが見えずに自分がどんな状態かも分からなくてもがいてた。
そして、そんなあたしはみきたんを傷つけた。
ごめんね?
多分、あたしはこれからもみきたんの前だけでは子どもなのかもしれない。
みきたんしか見えなくて、どうして自分だけこんない辛いのかなって、子どもみたいにいじけて、・・・でも自分だけを見てほしくて・・
そんなあたしはこれからも、みきたんを困らせるかもしれないけど・・・
でも、みきたんを好きなのは誰にも負けない自信があるから。
だから、これからもずっと側にいて・・・・
ずっと側に・・・・
そう願いを込めながら、あたしはみきたんのためにおいしい朝ごはんを作ろうと思った。
END
- 166 名前:K 投稿日:2006/01/07(土) 01:13
-
更新、終了
藤本さんほど長くはかからなかったけど、結構苦労したw
話が最初から明るくなかっただけに、最後を甘くしようとして撃沈しましたw
139>>タケさま
ありがとうございます。
最初から痛かったので最後くらいは甘くしたかったのですが・・・
これが今の自分の限界ですw
次回からまた、短編、中篇などあやみきの話を書きたいと思うのですが、書いてる途中で間が空くのもイヤなので、書上げてからここに載せたいと思います。
なので、次の更新がいつになるかは分かりませんが、気長に待ってもらえれば嬉しいです。
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 167 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 21:42
- ハァ━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━ン!!!!!
作者さま乙でした
ハラハラドキドキしながら読ませていただいてました
あやみき最高(*´д`*)
- 168 名前:タケ 投稿日:2006/01/10(火) 03:54
- いやー!!
いいっすよ!
この甘さ。
最後にはしっかりとお互いの思いを伝えて誤解も解けて甘くイイ感じの関係にたれてよかったなぁ
次回も期待して待ってます
- 169 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/19(木) 00:16
- 待ってます
- 170 名前:K 投稿日:2006/01/22(日) 19:37
-
短編です。
- 171 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:38
-
女の子が二人。
向あいながら立ち尽くしている。
一人は、相手を睨むように見ている。
もう一人は、苦笑いをしながらあるものを前にして自身を守っている。
部屋は泥棒にでも入られたかのようにモノが錯乱している。
そして二人の周りには・・
白い羽が舞い散っていた。
- 172 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:39
-
「亜弥ちゃん、それをどうするつもりなの?」
枕を盾にしながらもう一人の女の子が聞いてくる。
「・・・」
「あ、亜弥ちゃん!?」
けれど、もう一人の女の子、亜弥はそれには答えずに手に持っていたものを抱えながら、家を飛び出した。
枕を盾にしていた女の子、美貴は慌てて追いかけようとしたが、足元に落ちていたクズかごに躓いてこけてしまった。
「・・あたた、なんでこんなところにクズかごが・・」
こけた反動で鼻を打ったミキは、そこを押さえながら部屋を見渡した。
- 173 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:40
-
「あー・・・・メチャクチャ」
自分の部屋のあまりにひどい様子にミキは苦笑いを零すしかない。
「はぁ・・・ついに亜弥ちゃんを怒らせちゃったなぁ」
どこか人事みたいにミキは、彼女が持っていったものと同じモノに目を向けた。
そこには、ミキがよく寝坊するからと彼女が買ってくれた目覚まし時計。
どうやら彼女もあの状態でこれだけは、投げることは出来なかったようだ。
「・・・別にミキは未練があるわけじゃないのに・・」
時計の前まで来て呟くと、ベッドに置いてあったジャケットを手にとって、家を出た。
- 174 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:41
-
「この時間帯じゃあ、行くところは・・・」
キョロキョロと周りを見渡す。
辺りは夕方のように明るくはなく、かといって、真夜中というほど真っ暗ではない。
つまり、夜が始まる時間帯。
そんな時間に行けるとことなんてこの辺では一つしかない。
「・・丘の公園か・・」
彼女の場所に目星をつけてミキは走り出した。
時限爆弾のように、彼女の手の中で時を刻んでいる時計を気にしながら・・・
- 175 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:41
-
「・・はっ・・はっ・・」
息を切らしながら公園へ向かう。
彼女が持ち出した時計。
ミキはそれをずっと使っていた。
亜弥ちゃんがくれた時計があるにも関わらず。
「はぁ、はぁ、はぁ・・」
使い続けていた時計は昔付き合っていたヒトがくれたモノだった。
だからといって、それを今も使っているのは別にまだそのヒトのことが好きだからというわけじゃあない。
- 176 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:43
-
ミキがそれを使い続けていた理由なんて、呆れるくらい単純なもの。
ただ、使い慣れていたから。
それが理由なんだけど、亜弥ちゃんには通じなかったようだ。
現に亜弥ちゃんは怒ってそれを持ち出し家を飛び出した。
「はぁ、はぁ、・・亜弥ちゃん」
やっとたどり着いた公園を見渡すけど彼女の姿は無い。
当てが外れてしまったかと他に彼女が行きそうな場所を考えていると、丘のほうから何かを蹴った音が聞こえてきた。
その音がする方へと顔を向けると、ミキに背中を見せ、街を見下ろしている亜弥ちゃんがいた。
ゆっくりと彼女に近づく。
時計を高く持ち上げ見上げているその後ろ姿が寂しそうに見えるのは、ミキの見間違いだろうか?
- 177 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:44
-
「・・亜弥ちゃん」
近づいて声を掛けると、亜弥ちゃんはゆっくりと振り返った。
「・・・」
そこには不機嫌な天使。
「あやちゃ・・」
「・・・」
ミキのほうへと振り向いた彼女は軽くお辞儀をした。
まるで、他人と会った時のようなアイサツをするように。
それを見たミキは思わず足を止めてしまった。
それが、こっちには来るなと無言で言われているみたいで。
「・・帰るよ」
「・・・・やだ」
だからといって、そのままにしていたら彼女を探しにきた意味がないから、とりあえずもう一度声をかけると可愛くない返事が返ってきた。
- 178 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:45
-
「・・さっきも言ったけど、別に前のヒトのことが未練があるから使っていたわけじゃなくて、ただ使い慣れていたから使っていただけで・・・」
「その理由は聞き飽きた」
「聞き飽きたって・・・んじゃあ、他にどんな理由を聞けば納得するわけ?」
「・・・・」
「ミキは亜弥ちゃんが好きなんだよ?それだけじゃあ駄目なの?」
「・・・」
また黙る。
さっきもミキの部屋で同じように黙った亜弥ちゃん。
どんな理由を言えば納得するのかと聞いたら、突然ミキに枕を投げつけてきた。
もちろん、ミキはそれを上手にキャッチ。
それが気に食わなかったのか亜弥ちゃんは次々とモノを投げつけてきた。
うまいこと避けてはいたけど、色々なモノを受け止めた枕はボロボロになって中にあった羽が部屋中に飛び散ってしまった。
- 179 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:46
-
「亜弥ちゃん?」
「・・みきたんは、勘違いしている」
「へ?」
「愛を勘違いしないでください」
「・・・・は?」
黙ってミキを睨んでいたかと思ったら亜弥ちゃんはこんなことを言ってきた。
もちろん、意味が分からないミキはハテナを飛ばして、分からないって顔をする。
「・・亜弥ちゃん、言っている意味が・・」
「口ではどうだって言えるもん。自分が気づかないだけで心のなかでは忘れることが出来ないんでしょ!?だから捨てずに使っているんでしょ!?・・そんな気持ちで愛しているなんて言われても嬉しくないもん!」
そう言って、亜弥ちゃんは手を高く伸ばし、持っていた目覚まし時計を高く放り投げた。
「あ・・・時計」
間抜けな声を出しながら、彼女が投げた時計を目で追う。
それは綺麗な放物線を描くように丘の上から飛んでいった。
- 180 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:47
-
亜弥ちゃんの後ろからガシャっとモノが壊れる音が聞こえた。
その音を聞き届けたあと、彼女のほうを見ると目に涙を溜めながらこっちを見ていた。
「・・はぁ」
そんな彼女を見て、ため息を一つ。
なんとなく彼女が言っている意味が分かったからだ。
『 そんな気持ちで愛しているなんて言われても嬉しくないもん! 』
彼女が言った言葉。
つまり、態度で示せと。
- 181 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:47
-
亜弥ちゃんから目覚まし時計を貰ってからも使っていた時計。
それを亜弥ちゃんはいつも嫌がっていた。そしていつも言っていた。
『 いい加減、あたしがあげたものを使ってよ。 』
だけど、ミキはそれを口では分かったといいながら捨てることは無かった。
そんなミキに亜弥ちゃんは口を尖らせて拗ねていたけど、ミキはそれを大して気にしていなかった。
でも、今日は違う。
亜弥ちゃんが怒ったんだ。
嫌がるわけでもなく、拗ねるわけでもない。
亜弥ちゃんが怒ったんだ。
彼女は、つまりそういうことを言たかったんだろう。
- 182 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:48
-
「言葉にする愛してるは羽みたいに軽いから態度で愛しているって言えばいいんだ?」
「・・・・」
「言葉だけじゃあ足りないから、だからいつまでも時計を使っているミキがまだ昔の相手に未練があると思ったんだ?」
「・・・そうだよ」
そう答えて亜弥ちゃんは俯いた。
そんな彼女を見て、ミキはニヤける顔を隠すことなく彼女に近づいていく。
「亜弥ちゃん」
「・・・」
彼女の前まで来て、名前を呼ぶ。
顔をあげた彼女に微笑んでキスをする。
ゆっくりと、深く。
気持ちを込めたキス。
- 183 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:49
-
「愛してる」
唇を離して気持ちを伝え、そしてまたキスをする。
何度も、何度も。
彼女が納得して顔を離すまでずっと。
「・・伝わった?」
「・・ん」
「・・・時計はさ・・昔のことを想って取っていたわけじゃないよ?ただモノを捨てることが出来ないでいただけで・・」
「それが勘違いを生むのよ」
「ごめん」
「謝るな。謝るくらいなら態度で示せ。馬鹿たん」
「うん、今からそうする」
そう言って、ミキは彼女を強く抱きしめた。
- 184 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:50
-
亜弥ちゃんを抱きしめていると壊れた時計が目に入った。
「・・・」
亜弥ちゃんが空に思い切り放り投げた時計。形が多少残っているだけでもうそれは使われることはない。その壊れた時計をみながら思った。
・・・結構いい時計だったのになぁ。
捨てるには惜しい時計が壊れてしまった。
それを残念に思いながらも、腕の中にいる可愛い天使がどこかに飛んでいかなかったことに安心をする。
きっと、この壊れた時計のように亜弥ちゃんも傷ついていたんだろう。
いや、それ以上に痛かったんだろうな。
そう思ったらなんだか申し訳ない気持ちが強くなってしまって、彼女の顔をあげさせキスをした。
- 185 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:51
-
「み、みきたん!?」
「愛してる。誰よりも、亜弥ちゃんのこと・・・愛してる」
「・・ん・・・」
急にキスをしてきたミキに驚きながらも彼女はそれを一生懸命受け止めた。
「・・・帰ろうか?」
「・・うん」
唇を離し、手を繋ぐ。
さっきは一人で走ってきた道を今度は彼女とゆっくり歩いていく。
「あ・・・そういや部屋がすごい散らかっていたんだ」
「・・う」
帰りながら、あの部屋での出来事を思い出す。
簡単には片付けられないほど、物が散らばっているミキの部屋。
散らかした本人も思い出したのか、眉を下げて困り顔。
- 186 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:52
-
「あ、そうだ。今日、亜弥ちゃん家に泊めてよ」
「え?」
「今から片付けたら夜中になるだろうし。それよりは亜弥ちゃん家に泊まったほうが楽」
「で、でも片付けなくていいの?」
「いいよ。明日になったらミキ一人で片付けるし」
「あたしも手伝うから・・」
「いいよ。っていうか今はそんな気分じゃないから」
「・・・気分?」
亜弥ちゃんは分からないって顔で聞いてくる。
その仕草が可愛くて、ミキの気持ちはさらに昂ぶる。
- 187 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:52
-
「そう、どっちかっていうと、今は亜弥ちゃんと愛を確かめあいたい気分だから」
「・・ば!?・・・みきたんのすけべ!」
「あははは!まあ、片付けのことは置いといて今は一緒に家に帰ろうよ?」
顔を赤くする亜弥ちゃんの手を引っ張って肩を抱く。
本当は二人で片付けたほうが速いけど、これだけは一人でしなきゃ。
だって、愛しい天使を傷つけてしまったんだから。
「・・・神様も意地悪なことをするよ」
「ん?みきたん、何か言った?」
「いや、なにも」
隣の亜弥ちゃんに聞こえないくらいの声で呟く。
きっと、今日の出来事は神様から与えられた意地悪なんだろう。
たまには苦労して、愛を勝ち取れっていう・・・
- 188 名前:どうしようもない僕に天使が降りてきた 投稿日:2006/01/22(日) 19:55
-
「さぁて、天使のご機嫌も直ったことだし、今日は頑張ろうかなぁ」
隣の亜弥ちゃんが真っ赤になるくらい大きな声をだす。
大きな伸びをするように手を空にむけたら、突然風が吹き上げた。
たぶん、ミキの髪にでもついていたのだろう。
枕の中に入っていた羽が空へと舞った。
「・・・天使の羽みたい・・」
「・・・・」
亜弥ちゃんが小さく呟く。
そいう亜弥ちゃんの顔は天使よりも綺麗だった。
そんな亜弥ちゃんの顔を見てミキはもう一度、手を繋ぎ直し強く握った。
どうしようもないミキの前に降りてきた天使を逃がさないように。
END
- 189 名前:k 投稿日:2006/01/22(日) 19:56
-
短編、終了
・・・如何だったでしょうか?
前のスレの容量が余っていたので、そっちに載せようかなって思ったんですが、
やっぱりこっちに載せました。
167>>名無し飼育さま
ありがとうございます。
松浦さん編は最初から暗かったから、だれも読まなかったらどうしようと思ったんですが、ハラハラしながら読んでくれたようで、嬉しいです。
168>>タケさま
ありがとうございます。
後ろ向き松浦さんでしたので、最後くらいは明るくしたつもりなんですが、あれが自分の限界ですw
169>>名無飼育さま
新しく短編を書いたのでぜひ、読んでください。
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 190 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/15(水) 01:51
- いやぁ、亜弥美貴いいですねぇ〜
次の亜弥美貴も楽しみに待ってます
- 191 名前:k 投稿日:2006/03/13(月) 10:57
-
久しぶりの更新です。
- 192 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:02
-
あたしには幼馴染がいた。
小さいころからずっと一緒だった。
その幼馴染は隣に住んでいる。
その幼馴染とは中学を上がる頃から遊ばなくなった。
その幼馴染の髪の色はとても綺麗な色だった。
その幼馴染とあたしは小さな罪を犯した。
その幼馴染とあたしは・・・・今は話もしていない。
- 193 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:05
-
「・・・・」
辺りは薄暗く、もう夕方という時間さえも過ぎたころ。
あたしは部活から疲れた体を引きずって家の門を開けようとしていた。
「じゃあまた今度な」
「うん。気をつけてね」
「美貴ちゃん明日は遅刻しないでよね?」
「はは、分かってるよ」
「じゃね」
「うん、よっちゃん。ちゃんと梨華ちゃん送って行ってよ?」
「分かってる」
門を開けようとしたら隣の家から聞き覚えのある声。
久しぶりに見た幼馴染の姿。
- 194 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:09
-
その幼馴染は友達らしき人を見送ったあと、家に入ろうとして門に立っているあたしに気がついた。
「・・・・」
「・・・・」
だけど、門に立ち尽くしているあたしに声をかけることなくその人は家の中へと入っていった。
「・・・ひさしぶり」
もう家の中に入っていない幼馴染の後ろ姿にあたしが言えた言葉はこれだけだった。
- 195 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:10
-
「・・ただいま」
「おかえり、亜弥今日は遅かったわね」
「・・・部活のミーティングが長引いて」
「そうなの?ならいいけど。あんたもお隣の藤本さん家の美貴ちゃんみたいにはならないでよ」
「・・・なにそれ?・・どういう意味」
「お隣の藤本さん家の奥さんがボヤいてたのよ。最近、美貴ちゃんの帰りが遅いから何していたのかって聞いたらうるさいって怒鳴ったって。・・・まあ美貴ちゃんも今年受験だからピリピリしてるのも分かるけど、やっぱり女の子が帰りを遅くするっていうのはご近所にもよく思われないし。それに最近、美貴ちゃんのお友達の付き合い方が・・・」
「心配しなくても、あたしは大丈夫だよ」
まだまだ続きそうな母の話にあたしはそれだけ返事をすると自分の部屋へと入った。
「・・・あたしは、大丈夫だよ」
部屋へと入ると確認するように呟く。
- 196 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:11
-
部屋の明かりをつける前に窓へと視線をやる。
真っ暗で何も見えない。
その先には幼馴染の部屋がある。
「・・・まだ部屋には上がっていないんだ」
ドアの側にある電気のスイッチを押すと明かりが点いた。
その明るさに一瞬だけ目が眩む。
カバンを机に置くとあたしはもう一度、窓のほうへと視線を向けた。
「・・・あたしは大丈夫だよ。心配しなくても優等生を演じているから・・」
誰に話すともない言葉を投げかけ、あたしは部屋をでた。
- 197 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:11
-
「・・・おはよう」
「おはよう。亜弥、悪いけどお味噌汁を入れてくれる?」
「うん」
あたしの朝は早い。
別に朝早くから学校で何かあるというわけでなく、ただそれが習慣づいてしまっただけのこと。
それにあたしは誰もまだ歩いていない学校までも道のりが好きで、だから別に早起きというのは苦にはならなかった。
「いってきます」
「いってらっしゃい。車とかには気をつけるのよ」
「うん」
母から玄関先でお弁当を渡されながら見送られる。
これももう習慣になってしまった。
- 198 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:12
-
「・・・今日は少し寒いな」
首に巻いたマフラーを口元まで寄せ、歩く。
こんな寒い日はあの日のことを思い出し、心の中がモヤモヤでいっぱいになる。
「・・・・」
まだ、幼かったあたしと
ほんの少し年上だった彼女と
何も知らずに犯してしまった過ちの出来事。
- 199 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:13
-
隣の家の彼女、藤本美貴・・・・みきたんとは二歳離れた幼馴染だった。
生まれたときからずっと一緒で、年が離れていることなど関係なく。
あたしの遊び相手はいつもみきたんだった。
あの日もそうだった。
学校から帰ってきたあたしはすぐにみきたんの家へと遊びにいった。
「あー・・・何もない。亜弥ちゃんちょっと待っていて。飲み物がないから買ってくるよ。何か飲みたいものある?」
「あたしもいく!」
「・・いいけど、外寒いよ?」
「大丈夫だもん、あたしも一緒に行く!」
「わかった。じゃあ一緒に行こう」
あたしのワガママに苦笑いを零しながらみきたんはあたしの手を取った。
- 200 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:14
-
「・・みきたん、公園通って帰ろうよ」
「えー?・・・遠回りじゃん」
「いいでしょ!ほら早く!」
飲み物を買い終え、後は家へと戻るだけとなったあたしたち。
その時あたしはみきたんに公園を通ろうと提案した。
もちろん、みきたんはその提案に反対。寒がりなみきたんは家に帰ることしか頭になくて、なのに、公園を通ると家から反対方向となってしまうから遠回りになると抗議の声を上げた。だけど、あたしはそんなみきたんの手を強引に取って、公園の中を突き進んだ。
「・・わぁ・・すごいね。もみじがあんなに真っ赤だよ」
「ん?・・・そうだね。それより亜弥ちゃん早く帰ろうよ」
「えー!?つまんない!もう少しゆっくり行こう・・・」
「そんなこと言っても、ミキには無理。寒すぎて・・・亜弥ちゃん?何見てるの?」
「え?・・・あ、うん。あの人たち何をしてるのかなって・・」
先を歩くみきたんも足を止めてあたしが言ったほうへと顔を向ける。
そこには高校生と思われる二人の男女がいて・・・
- 201 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:15
-
「・・・何、してたのかな?」
「分かんない」
みきたんの家についてからもあたしは、あの二人の高校生のことが気になって・・・
「なんで、洋服で顔を隠していたんだろう・・」
「なんでだろうね」
寒さを凌ぐように寄り添っていた二人は、顔を隠すように近づいて・・・
その光景にあたしとみきたんは目が離せなくて・・だけど、見てはいけないような気がしてきて、あたしとみきたんは急いでその場から立ち去った。
「・・ねえ、みきたん」
「んー?」
家に着いてもあの光景が目に焼きついて離れないあたしはみきたんに提案を持ちかける。
「・・・さっきふたりがしていたことをしてみない?」
- 202 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:16
-
「「・・・・・」」
辺りはもう薄暗くて、夕日が部屋を照らす唯一の明かりだった。
あたしが着ていたジャケットをみきたんが両手で掴んで、ベッドに座っていたあたしの側に座る。
ゆっくりと二人の顔を隠すようにジャケットが二人を包んでいく。
唯一の明かりだった夕日も、ジャケットによって遮られて。
洋服の中はぼんやりとみきたんが見えるくらいの暗さしかなかった。
「・・・あの人たち、こうして何してたんだろうね」
「・・・・うん」
「・・・結構、服の中って暗いね」
「・・・・うん」
「みきたん、うんしか言ってないよ」
「・・・・うん」
あたしの問いかけにみきたんは小さく返事を返すだけで、じっとあたしの顔を見たままだった。
- 203 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:17
-
「・・・みきたん」
「・・・・なに?」
その目が、あたしだけを映しだしているその目があまりに綺麗すぎて・・・
「・・・みきたん、髪に葉っぱがついてる」
「・・・・」
思わず、目をそらした場所には彼女の髪と同じ色をした葉っぱがついていて、あたしはそれを取ろうと手を伸ばした。
「「・・・・」」
だけど、伸ばした手をみきたんが掴んで・・・
あたしはまた、その目に囚われてしまった。
「「・・・・」」
ゆっくりと近づいてくるみきたんの顔。
あたしはそっと目を閉じた。
- 204 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:18
-
重なった唇。
その感触に眩暈を覚えたのを今でもはっきりと憶えている。
「・・・・」
唇を離して目を開けると、そこには今まで見たことないみきたんの表情(かお)があった。
でもそこからは、あまりよく憶えていなかった。
ただ、頭で考えるより体が動いたみたいにあたしとみきたんはベッドに倒れこんで肌を合わせていた。
・・・みきたんのお母さんがあたしたちを呼ぶまでは。
- 205 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:19
-
「亜弥ちゃん、おはよう」
「・・おはよう」
「今日は寒いねえ」
「そうだね」
学校へと着くとあたしは、優等生を演じる。
あの日、みきたんのお母さんが呼びかけた後。
みきたんはあたしの顔を見ずに部屋を出て行ってしまった。
みきたんが出て行った部屋で残されたあたしは、あとから沸き起こる感情に戸惑いを隠せず、その感情に罪悪感を抱いたままみきたんの部屋を出ていった。
それからは、顔を見かけても声をかけることもなく話しすらしていない。
あたしが、そろそろ中学に上がる頃で、みきたんが中学二年の時の出来事。
もう、4年も前の出来事。
- 206 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:20
-
あの出来事からあたしの中には罪悪感という感情が生まれ、それからはみきたんを避けるようになった。そしてあたしは優等生を演じることでその罪悪感から逃れようと必死になっていた。
「わぁお!・・・亜弥ちゃんってば大胆だねぇ」
「え?・・・なにが?」
体育の後、着替えをしていたら突然友達の愛ちゃんから驚きの声を上げられた。
「なにがって、そんな大胆に着替えられたら目のやり場に困りますねぇ」
「目のやり場って・・女同士なのに・・・」
「イヤイヤ、女同士でもやっぱり恥ずかしいよ。あたしなんて服で隠して着替えているのに」
そう言いながら愛ちゃんは、ホントに服で隠して着替えていた。
- 207 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:20
-
「そういや、恥ずかしがらずに脱げる人って、もう経験済みだったりするんだよね」
「え!?・・・な、なにが」
あたしと愛ちゃんの会話が聞こえていたのか、他の友達が間に入って話しかけてくる。
「ほら、もうエッチとか経験済みな人って抵抗なく脱げるじゃん」
「そういや、何かの本で載ってた。そういや知ってる?エッチの初体験の平均年齢が中学なんだって」
「ぅわあ・・・最近の子はませてるね」
「あんたは最近の子じゃないの?」
「中・高のエスカレータ式の女子高で出会いなんてあるわけないでしょ」
「それもそうだね」
「そういやさ・・」
友達は笑いながら次々と話題を変えていく。
あたしはそれに合わすように、作り笑いをする。
『・・あたしは初体験の未遂を小6の時に経験したけど』
そう言ったら友達はどんな顔をするのだろう?
- 208 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:21
-
今日もまた、優等生を演じながら一日が終った。
「あー・・遅くなっちゃったよ」
今日は部活がないから早く帰れると思ったのに、帰りぎわに担任の先生に会ってしまい無駄話を付き合わされた。(それも、プリント整理というオマケ付き)
「きゃ!?」
「わ!?」
急いで家に帰ろうとその先の角を曲がろうとしたら誰かとぶつかった。
「・・・・あ」
「・・・・・」
ぶつかった相手に謝ろうと顔を上げるとそこにはあたしと同じように驚いた顔をしたみきたんがいた。
- 209 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:22
-
「「・・・・」」
あの日以来、姿は見かけても声をかけることはなかった。
掛けたくても出来なかったみきたんが、すぐそこにいる。
あたしは驚きと戸惑いで声を出すこともできず、ただみきたんを見ていた。
「・・今、帰りなの?」
「え?・・・あ、うん。・・・みきたんも?」
「うん。CDショップに寄ってたんだ。」
「・・そうなんだ」
「・・うん」
「・・・」
戸惑うあたしにみきたんが話しかけ、買ってきたCDを見せた。
「・・・今、帰りなんだよね?」
「え?・・うん」
「なら・・・途中まで一緒に帰ろうよ」
「あ・・・うん」
暫くの沈黙の後、みきたんが遠慮がちにあたしを誘う。
だからあたしも遠慮がちに返事を返す。
- 210 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:23
-
「それ、あたしも買おうって思ってた」
「え?」
「・・CD」
「そうなの?じゃあ今度貸してあげるよ」
「・・ありがとう」
何気ない会話をしながら家までの道を一緒に歩く。
あまりにも自然すぎて、逆に違和感を感じる。
それくらい、みきたんとあたしとの間にはなんの空気も孕んでいなかった。
「・・じゃあ」
「あ・・うん」
家の前でお互い手を上げながら別れる。
不自然なほど普通にしていた二人だけど、家の前に来るとやっぱりどこか重い空気を孕んできて、その場がとても居心地わるくなっていた。
- 211 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:24
-
「亜弥、遅かったじゃない」
「・・・帰りに先生に捕まって色々手伝わされて・・・」
「ご飯、出来ているから早く着替えてきなさい」
「・・・うん」
小さく返事を返すとあたしは着替えるために部屋へと向かう。
「・・・はぁ」
部屋のドアを閉めると電気も点けずにドアへともたれる。
今さらながら心臓が大きく脈打っていく。
話したのはあの日以来。だけど話し方とか全然変わっていなかった。
「・・・髪の色もあの頃のままなんだね」
あの日の木の葉と同じ、赤みかかった髪。
秋を思わせる綺麗な髪の色。
- 212 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:25
-
さっきまでしていた何気ない会話。
でも本当はみきたんに謝りたかった。
あの日からあたしはみきたんを避けた。
それはあたしの中で沸き起こる感情の罪悪感から。
でもそれは間違っていた。
今なら分かる。この沸き起こる気持ち。
それは相手を想う愛しいという気持ち(感情)
だけど、あの時のあたしにはそれが理解できなかった。
心はみきたんを求めていたのに、あたしの頭はその感情に名前をつけることが出来なくて、そしてその感情が持ってはいけないことのような気がして。
・・・そして、みきたんから逃げ出した。
あたしの中にある罪悪感から逃げるように・・・
- 213 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:26
-
きっと、あの時見た高校生もあたしと同じ気持ちだったんだ。
はじめはただ、寒そうにしている彼女に自分のジャケットを着させようとして。
でも、何かのきっかけで顔が近づいて。
そこからはお互いしか見えなくて。
触れたいと想うくらい愛しくなって、それに歯止めをすることが出来なくて。
あたしには確かにその感情があったはずだ。
みきたんともっと触れていたいという感情が。
でも、まだその感情を理解するには幼かったあたしはその気持ちに気づかずに逃げ出した。
- 214 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:27
-
ぼーとドアに凭れていたあたしは着替えをするために部屋の電気をつけた。
―コン
「・・え?」
気のせいだろうか?今、窓のほうから音が聞こえてきたような・・
―コン
疑問に思って窓のほうを見ていると、もう一度窓から音が聞こえた。
あたしは、その音を確かめるために窓のほうへと近づきカーテンを開けた。
「・・・みきたん」
「・・・これ」
「・・え?」
カーテンを開けた先にはCDを持ったみきたんがいた。
- 215 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:28
-
「さっき言ったCD。ミキ、今は聴かないから亜弥ちゃんに貸してあげる」
「あ・・・ありがとう」
そう言って、みきたんはあたしの方へとCDを差し出した。
それをあたしはオズオズと受け取る。
「・・・久しぶりだね」
「ん?」
「みきたん、よくあたしに用事があるときとか玄関から来ないでこうやって消しゴムを窓に投げつけてから入ってきたじゃない?」
「・・・そうだっけ?」
「うん、部屋の間が1メートルも無いからすぐに跳び越して入ってくるんだけど、おばさんに見つかっていつもみきたん、怒られてた」
「・・・・」
あたしは小さい時のことを思い出して小さく笑う。
- 216 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:29
-
「・・みきたんともこうやって窓ごしに話すのも・・あの日以来だよね?」
「・・・・・」
みきたんがほんの少し、眉を寄せる。
そんな仕草が分かるくらい、あたしとみきたんの今の距離は近かった。
「あたし、ほんとはずっと・・・」
「ごめん!」
「・・・え?」
あの時のことを謝ろうと勇気を絞って、あの日のことを話そうとしたらみきたんが大きな声で両手を合わせて謝った。
「あの、みきた・・」
「亜弥ちゃんを傷つける気はなかった。・・・あんなことをしたことをずっと後悔してた」
「・・・・」
「謝ってすむ問題じゃないけど、亜弥ちゃんにはあのことはもう忘れて欲しい」
「・・・・」
あたしの目を見ずに謝りだすみきたん。
そんなみきたんをあたしはどんな風に見ている?
- 217 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:30
-
「・・亜弥ちゃんが今までミキを避けていたのって、あのことが忘れられなかったからだよね?・・・ごめん、傷つけるつもりはなかった。ただ、本当にあの時は亜弥ちゃんに触れたいと思った。触れたいと思うくらい・・・亜弥ちゃんのことが愛しいと思った」
「・・・え?」
「ミキは小さいころからずっと亜弥ちゃんが好きだった。でも、亜弥ちゃんはミキを幼馴染として見ていたから、だから打ち明けることが出来なかった。でも、あの日、すぐ側にある亜弥ちゃんの顔に目が離せなくて・・・」
下を向き、あたしの顔を見ることなく話しだすみきたん。
今、なんていったの?
あたしを・・好き?
いつから・・・小さい時?
それならなぜ・・・・?
思いがけないみきたんからの告白にあたしは戸惑いをかくせなかった。
みきたんが顔を上げてあたしのほうを見る。
その眼差しはあの日見た、あの時と一緒。
- 218 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:31
-
「・・・なんで忘れてほしいの?」
「・・・・」
「どうして・・・」
声が掠れる。
緊張からか喉が張り付いて、思うように声がでない。
「・・・亜弥ちゃん、ごめんね。謝っても許されるとは思っていないけど、・・・でも好きだった。・・ずっと想ってた。だけどガキだったミキはあの日亜弥ちゃんを傷つけた。自分の想いから。・・そんなミキにずっと想われているなんて・・・イヤでしょ?それなら忘れてくれたほうが・・・うんん、いっそミキなんて嫌いになってくれたほうが・・・ミキもあの時にしたことの罰として・・受け入れられる」
あたしの問いかけにみきたんは眉を下げ、辛そうに答える。
『・・・あの日のことは、あたしも拒否しなかったのに。・・・相変わらず、あたしのことばっか考えて自分のことは二の次なんだね』
ミキたんの謝罪の言葉は、一方的に自分を責めていて、そんなミキたんを見てあたしは苦笑いを零すしかなかった。
- 219 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:31
-
「あたしが忘れたら、みきたんは満足なの?」
「・・・え?・・・」
「忘れて欲しくて、あたしにあんなことをしたの?」
「・・・・・」
少しだけ、怒り口調のあたしにみきたんはまた下を向いてしまった。
きっと、また自分のことを責めているんだろう。
分かってるよ、みきたん。
ホントはそんなこと望んでないってことは。
でも、みきたんがあまりに一方的に想いをぶつけてきてそれでお終いにしようとするから、何かそれがすごくムカついて・・・
ごめんね、意地悪なこと言って。
でも、もうそんなに自分を責めなくていいから。
- 220 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:33
-
「・・・忘れるなんて・・・出来るはずないでしょ」
「・・・・」
「・・・忘れるなんて・・・」
頭を下げているみきたんの表情がどうなっているか分からない。
「・・・忘れることなんて出来ないよ」
「・・・亜弥ちゃん」
あたしの三度目の言葉にみきたんが顔を上げた。
「・・・・好きな人のことを忘れるなんて、あたしには出来ないよ」」
そして四度目の言葉にみきたんは目を見開いた。
- 221 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:33
-
「・・亜弥ちゃん、今・・・」
「後悔なんてしないでよ。・・・忘れて欲しいなんて言わないで。そんな風に言われたら、あたしの気持ち(想い)はどうなるのよ」
「・・・・」
言葉を発した途端、あたしの目から涙が溢れ出す。
「自分ばっか責めないでよ。あたしにも謝らせてよ。・・・あたしにも半分、みきたんの重荷(罰)を背負わしてよ。・・・それがイヤなら・・・あたしの気持ちに応えてよ」
「・・・・」
ああ・・・あたしまたみきたんを困らせることを言ってるよ。
自分が何を言っているか分かっているのに、それを止めることが出来ない。
- 222 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:34
-
「みきたん」
「・・・・」
「みきたん、・・・・・・・・・来て」
「・・・・」
あたしはみきたんの前で両手を広げる。
「・・・・あたしの気持ちに応えてくれるなら・・・来て。そしたらあたしは今度こそ、逃げずにみきたんを見つめるから」
「・・・・」
「みきたん」
「・・・・今度はもう、後戻り出来ないんだよ?」
「・・・・」
両手を広げて待っているあたしにみきたんが、弱々しく声を出す。
「・・・そっちに行ったら、今度こそミキは我慢できなくなる。亜弥ちゃんがどんなに嫌だって言っても、亜弥ちゃんを好きになることを止めることは出来ない。それでもいい・・」
「構わない」
まだ、少しだけ躊躇しているみきたんにあたしは肯定の言葉を投げかける。
- 223 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:35
-
「それでもいいよ。あたしは今度こそ逃げないから。みきたんが戸惑って、止まりそうになったら、・・・今度はあたしが止まらないから。だからみきたん・・・・こっちに来てよ」
そう言ったと同時にみきたんは部屋を飛び越えた。
一瞬にして、二人の距離が縮まる。
「・・亜弥ちゃん」
「みきたん、ごめんね。・・・あの日、逃げたりして」
「・・・亜弥ちゃんは悪くない。ミキが・・」
「だめ、ちゃんとあたしにも謝らせて」
「・・・・」
あたしがそう言うと、みきたんはあたしの方をむいた。
- 224 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:35
-
「あの日、みきたんと触れたとき・・・あたしの心の中にはみきたんを好きって気持ちでいっぱいだった。でも、あたしはまだ、子供だったから・・・その気持ちが何なのか分からなくて・・・次から次へと沸き起こる気持ちに戸惑って・・・それで怖くなって逃げ出したの」
「・・・・・」
「・・みきたんのことを考えるたびに、心の中がドキドキして、でもあの行為はあたし達にはまだ早すぎて・・・・そう考えていたら段々、みきたんを避け始めるようになって・・・」
「・・・・」
「ごめんね、みきたん。ずっと、・・・ずっと、みきたんを避けていたことを謝りたかった」
「もう、いいから・・・」
「ごめんね・・・ごめん・・・みきたん、ごめ・・ん・・」
謝り続けるあたしにみきたんがキスをする。
「・・・もう謝らなくていいから。・・・・それよりもミキは亜弥ちゃんを感じていたい」
頬を赤くしながらみきたんが言う。
みきたんが言った言葉の意味・・・
「その、イヤなら・・また今度でも・・・・いいけど・・・」
「・・・・」
それは、あの日から止まっていた二人の時間をまた進めること。
- 225 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:36
-
「・・・亜弥ちゃん?」
黙っていたあたしにみきたんが顔を覗き込む。
「あの時もそうだけど・・・みきたんって結構・・」
「え?・・・な、なに?」
「・・・みきたんって、結構・・・スケベだよね?」
「は、はぁ!?・・・亜弥ちゃん、何いって・・ん!」
あたしの言葉に更に顔を真っ赤にするみきたんの顔を引き寄せて、今度はあたしからキスをする。
今度はあの時みたいな、軽いものではなくてちゃんとしたキス。
「・・はぁ・・・あや・・ちゃん」
「・・・・今度は、誰が呼んでも止めないでよ?」
「え?・・ああ、うん」
「にゃはは、みきたん正直に頷きすぎ」
顔を真っ赤にしながら頷くみきたんが可愛くて笑ってしまう。
- 226 名前:秋色の髪 投稿日:2006/03/13(月) 11:37
-
あたしには幼馴染がいる。
「亜弥ちゃん・・」
「ん・・みき・・たん・・」
小さいころからずっと一緒だった。
「・・もう、離れられない」
「・・あたしも・・」
その幼馴染は隣に住んでいる。
「・・・高校を卒業したら、二人で暮らさない?」
「・・うん」
その幼馴染とは中学を上がる頃から遊ばなくなった。
「それでさ、これからは離れていた分まで思い出を作っていこうよ」
「・・・うん」
その幼馴染の髪の色はとても綺麗な色だった。
「みきたんの髪・・あの時から変わってないね」
「亜弥ちゃんの肌の色も、あの時と同じ・・・白くて綺麗」
その幼馴染とあたしは小さな罪を犯した。
「ねぇ・・女同士も・・罪になるかな?」
「どうだろう。でも、ミキは亜弥ちゃんとならそれでも構わない」
二人で顔を見合わせて笑いあう。
「「 愛している 」」
その幼馴染とあたしは・・・・今は恋人。
END
- 227 名前:k 投稿日:2006/03/13(月) 11:39
-
短編、終了。
ラストがすごい長い。
しかも、久しぶりだから上手く書けない。
久しぶりの更新。
自分のスレが見つけられないて思っていたら、最後にあったw
190>>名無飼育さま
ありがとうございます。久しぶりの短編です。
読んでいただけたら嬉しいです。
今、いくつかの短編の構想を考えているんですがそれが中々文章になりませんw
なので、当分は更新出来ないと思います。
もし、待っていてくれる読者様がいましたら、今しばらく気長にお待ちください。
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
・・・追伸。
今、前回のスレの容量が多少は残っているみたいなので、そこにいくつかの短編を載せようかと考えています。
もし、前のスレを見ている方がいらっしゃれば、リクをしてください。
応えられそうなリクがあれば、時間があるときに載せたいとおもいます。
その際、スレはsage 若しくはochi進行で行いますので、間違ってもageないでください。
- 228 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/21(火) 04:21
- いつも楽しみに読んでいます。
今回の短編も、空気感みたいなものがとても良かったです。
中高の頃を思い出すというか。。
次回も楽しみにしています。
- 229 名前:k 投稿日:2006/03/29(水) 16:45
-
リク短編更新です。
- 230 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 16:46
-
「酔ったら藤本ってどうなるの?」
「へ?」
この言葉が端を発し・・
「・・普通だと思いますけど・・・?」
この言葉が今のミキの状況を決定した。
藤本美貴、二十歳。
ただ今、酒を煽るようにメンバーに飲ませられまくっています。
- 231 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 16:47
-
「お!藤本、いい飲みっぷり!もっと飲め!」
「はぁ・・でもそろそろ時間が・・・」
「気にするな!初代リーダー命令や」
何故か中澤さんにビールを注がれ、それを飲まされるミキ。
「・・・いただきます(あー・・帰りたい)
ビールを飲みながら心の中で呟く。
今、ミキは中澤さんを初め、他のメンバーと飲んでいる。
何故こういった状況になったかというと、それはミキの何気ない一言からだった。
- 232 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 16:47
-
それは収録が終っての楽屋での話し。
たまたま、収録中に居酒屋の話が出て、楽屋に居た十八歳以上のメンバー(それ以下の子たちは九時以降は帰るきまりなので居ない)たちがそこでご飯でも食べようと言い、行くメンバーを集めていた時に、その輪から外れ、帰り支度をしているミキに飯田さんがミキも行かないかと誘ってきた。
「ミキ、これから皆でご飯食べに行くけど、ミキも行かない?」
「これからですか?・・・でもこの時間に開いている所ってありました?」
「まぁ、この時間だとあまり無いから居酒屋に行こうってことになって。ミキも二十歳になったし飲めるでしょ?」
「はぁ・・でもミキは・・」
「酔ったら藤本ってどうなるの?」
「へ?・・普通だと思いますけど・・・?」
せっかくの誘いだが乗り気しなかったミキは断ろうと決心する。
そんなミキに飯田さんの隣にいた保田さんがミキにそんなことを聞いてきた。
- 233 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 16:48
-
「本当?案外、お酒弱くてすぐ酔い潰れるんじゃないの?」
「えー?・・それは無いと思います。一応二十歳になったから最近、お酒の席に誘われることありますけど、記憶を無くしたとか無いし・・・多分、普通ですよ」
「なら、これから飲みに行こか!」
「・・・へ?中澤さん!?」
保田さんの質問に答えているミキの首に中澤さんの腕が回る。
「あの、でもミキ今日はやっぱり・・」
「なんや藤本。もしかして断るつもりか?」
「え?・・あの、」
「まさか、初代リーダーの誘いを断るほどこの業界、短くないよなぁ?」
「あ・・・えっと」
中澤さんの腕が段々ときつくなってくる。
これって脅しだよね?
- 234 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 16:49
-
「行くよな?藤本」
・・中澤さん、だからそれ脅しです。
「ミキ、無理に付き合わなくてもいいよ?・・でも、やっぱり付き合いは大事だよ?」
・・・飯田さん、どっちですか。
「藤本も可哀想に」
・・・そう思うなら助けてください、保田大明神。あ、これって、古いかな?
口には出せずに顔を引きつらせながら、どうやってこの状況を切り抜けようかと考えるが、中澤さんの手前というか、飯田さん、保田さん、この三人を前にどうやっても断れないんじゃないかと頭のなかではすでに答えが出ているミキは観念して誘いを受けることにした。
「・・・分かりました、ミキも参加します」
- 235 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 16:49
-
そして、飲み会が始まって二時間近くがたった。
「なんや、藤本全然酔わへんな」
「だから、ミキは普通ですってば」
「つまらんなぁ」
「・・裕ちゃん、何期待してたの?」
大部屋の個室を貸切、周りを気兼ねせずに飲みまくる。
今日は、娘。のメンバーが新旧揃っての収録だったから、滅多に会わないメンバーも久しぶりに揃うということで部屋のテーブルには空になったグラスが所狭しと置かれている。
「あの、中澤さん。ミキにばかり飲ませなくても・・・あっちに梨華ちゃんやよっちゃんさんも居るし・・」
「あいつらはええ。イチャイチャばっかして周りが見えとらん」
そういうと、中澤さんはつまらなさそうにビールを飲んだ。
ミキも中澤さんが言うように梨華ちゃんたちの方を見ると、確かに二人の世界だった。
他に誰か中澤さんの相手をしそうなメンバーを探すがほとんど皆、話に夢中でコッチをみていない。
唯一、中澤さんがお気に入りの小っちゃい人もごっちんと話していて、暫くは席を動きそうになかった。
- 236 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 16:50
-
「よし!藤本、今日は飲むで!」
「・・・はい。」
グラスを片手にご機嫌な中澤さんにビールを注がれ、ミキはそれを飲み干していく。
そんなミキの飲みっぷりに中澤さんは次々とお酒を注いでいった。
「裕ちゃん、ほどほどにしときなよ」
「大丈夫や、な!藤本?」
「・・・はい、大丈夫です(っていうか、もう無理)」
周りの気遣いの声が聞こえたが、ミキはもう何杯目になるか分からないお酒を前にフラフラとしてきた。
「・・ミキ?大丈夫?」
「んー?・・・大丈夫です。でもちょっと眠たい・・かも」
飯田さんがミキの横に来て心配そうに顔を覗き込むが、ミキは襲ってくる眠気で上手く応えられない。
- 237 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 16:53
-
「・・裕ちゃん、藤本眠そうだよ」
「なんや、もうお眠か。・・・誰か藤本を家まで連れて行けるやつおるか?」
「あ、松浦がむかってるよ」
「あ?なんで松浦が?」
「さっき、ミキティのケータイが繋がらないからゴトウのところに連絡が来て、飲み会の話しをしたら、仕事が終ったら顔だすって。だから、まっつーに任せればいいんじゃない?」「・・そやな、松浦なら藤本の扱いにも慣れてるしな。ほな、気にせず飲もうか」
「・・ミキ、聞こえてる?あややが迎えにくるから。それまで横になっておきな」
「んー・・・・?・・・・分かりましぁ・・」
「ミキ、聞いてる?」
「はいはい、聞いてま・・」
「・・・大丈夫かな?」
「大丈夫でしょ。それより、藤本ってお酒強いわね。あの、裕ちゃんに付き合うなんて。それに、酔っても大して普段と変わらないし・・・以外だったかも」
「あー・・そうだね、藤本って甘えたがりなところがあるから、酔ったら誰にも構わず甘えるかと思ったけど、意外に普通だったね」
ミキの周りではそんな会話がされていたが、それさえも聞こえないほどミキはうつらうつらとしながら、ビールグラスを持ちながら揺れていた。
- 238 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 16:54
-
「遅くなりましたぁ」
「おー!松浦よう来たな」
「あのう、みきたんは?」
「なんや、さっそく藤本かい」
暫くして仕事を終えた亜弥がメンバーのもとへとやってきた。
「あ、みきたん寝てる」
「そうやねん。さっきまでボーと眠たそうにしてたけどついさっき寝てもうた」
「みきたん?・・・大丈夫?迎えにきたよ」
「ぅん・・・?・・・・亜弥ちゃん・・・?」
個室の端で丸くなっている美貴に亜弥は声をかける。
「・・・亜弥ちゃんだぁ・・・」
「そうだよ。ほら迎えに来たから、起きれる?」
「・・・亜弥ちゃぁん・・・」
「わ!?ちょっ、みきたん!?」
体を揺り起こす亜弥に美貴は腰のほうに手をやり頭を乗せてきた。
- 239 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 16:55
-
「・・なんや、藤本のやつ松浦にはものすごい甘えるんやな」
「ちょっと、みきたん?・・・起きてよぅ」
「・・ぅん・・・やぁ・・・」
「いやじゃなくて、・・・もう」
あたしの腰に手を回し頭をヒザに乗せたみきたんはまるで子どものように気持ちよさそうに眠っている。
「・・・あのぅ・・たん、結構飲みました?」
「あ?・・・・あー・・そうやな、結構飲んでたな。でも態度は普通やったで?」
「・・・眠そうにしてました?」
「まあ・・松浦が来る前ぐらいから眠そうな目はしてたけど?」
「あー・・・それでか。みきたんが人前で甘えてくるなんて珍しいと思ったけど」
中澤の話に亜弥は納得したように美貴を見た。
- 240 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 16:56
-
「・・・何や?藤本は普段から松浦の前ではこんなんか?」
「まあ、ここまでは甘えませんけど。お酒が入る時は普段よりも甘えますね。・・・みきたん、恥ずかしがり屋だから人前で甘えるなんてしないし・・だから、たんが人前でも甘える時って実はすごい酔っていたりする時なんですよ」
「・・そうなんや。態度は普通やったのに」
『・・・いつもは周りに壁を作ってる松浦が・・・可愛い顔をしおって』
中澤と会話をしながら藤本の髪を優しく梳く松浦の目はすごく優しいと中澤は思った。
「・・・けど、さすがにずっとここで眠るわけにもいかないのでそろそろ起こしますね」
そう言って、松浦は藤本の体を揺さぶった。
中澤はそんな二人を見ながらグラスに口をつけた。
「みきたん?ほら、起きよう。・・・みきたん?」
「・・・ぅ・・・亜弥ちゃん?」
「・・起きた?・・タクシー呼ぶから、ちょっと待っていてね?」
「・・・・・」
亜弥は美貴が目を開いたのを確認してからタクシーを呼ぼうと席を立った。
- 241 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 16:57
-
「すみません、保田さん。タクシーを呼んでもらってもいいですか?」
「わかった。店員に頼んで呼んで来てもらうよ。しかし、藤本ってほんと、あんたの前だと甘えるわね。あたしらの前だと生意気なくせに」
「あはは、みきたんって普段が愛想なかったりするから、こういうときに甘えられるとそのギャップに参っちゃうんですよねぇ」
「・・・まあ、分からない気もしないわね」
保田さんは苦笑いをしながら店員に声を掛けに行った。
「松浦、車が来るまで何か飲むか?」
「あ、はい。じゃあウーロン茶をお願いします」
「わかった。ほな、松浦こっちに座り」
「あ、はい・・・きゃ!?」
中澤さんが隣に来いと手で合図をしたのであたしはそこに座ろうと移動しようとしたら、後ろから強い力で引っ張られた。
- 242 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 16:59
-
「え?・・ちょっ!?みきたん!?」
「・・・・・」
強い力で引っ張られたと思ったら今度は優しく抱きとめられた。
後ろを振り返ると、口を尖らせてみきたんがあたしを抱きしめていた。
「・・亜弥ちゃん、どこ行ってたんだよぅ。ミキ、寂しかったんだぞぅ」
「え?・・ああ、ごめんね?タクシー呼んでいたの。車が来たら帰ろうね?」
「・・・・・やだ」
「・・・・へ?」
抱きついてあたしの首に顔を埋めるみきたんが小さく拒否をする。
「もう、みきたん大分飲んでるの。分かる?だからはやく家に帰ろう?」
「・・・いーやーだー」
「いやだじゃなくて帰るの!」
「やだ!」
「・・・なんでそんなワガママ言うかな?」
「チュウしたら帰る」
「「「「「「「「・・・・・は?」」」」」」」」
みきたんの言葉に固まってしまう。
そして、まわりの皆さんも固まっていた。
- 243 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 17:00
-
「いやいや、イミがわかんないから。っていうか、皆居るんだよ?出来るわけないでしょ!」
「やだ、やだ、やだ。チュウしてくれなきゃ帰んない」
「はあ・・・みきたん」
体を捩りながら駄々をこねるみきたん。
二人きりのときなら、そんな姿も可愛いと思う。が、しかし、場所が場所である。
他のメンバーさんが居る前でそんなことできるわけがない。
「みきたん、ワガママばかり言うんじゃありません!」
「やだぁ」
「もう・・・お願いだからそんな可愛く言わないでよ」
少し、子どもを叱る母親のように強く言ってみたが、みきたんは目を潤ませながらあたしを見てくる。
- 244 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 17:01
-
「松浦、ウチらのことは気にせずにしてもええで?」
「もう!中澤さん、煽らないでくださいよ!」
「そうだ!やっちゃえ、やっちゃえ!」
「矢口さん!」
中澤さんをはじめ、他のメンバーがニヤニヤとしながらコッチを見ている。
『もう、皆、人事だと思って。・・みきたんがこの状態になったら手がつけられなくなるのに』
亜弥は、一度ものすごく酔った藤本を見ているので出来ればしたくなかった。
なぜなら藤本がチュウくらいじゃ済まないことを身をもって知っているからだ。
- 245 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 17:02
-
「チュウしたら帰る」
「だから、それは無理だってば」
「やだ、やだ。チュウしたい。だってミキ亜弥ちゃんが大好きだもん」
「・・・・・」
完全にノックアウト。
神様、どうやったらこんな可愛い仕草が出来るんでしょうか?
「亜弥ちゃん、ちゅう」
「・・・・」
みきたんが顔を近づけてくる。
完璧にノックアウトしたあたしはそれを拒むことが出来なくて・・・
「・・・ん」
「亜弥ちゃん」
周りに他のメンバーさんもいるのに、あたしは呆気なくみきたんの唇を受け入れてしまった。
- 246 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 17:04
-
「あれ?なんで皆、そんなところにいるの?」
タクシーを呼んでいた保田は部屋の前で突っ立っている他のメンバーに不思議そうに尋ねる。
「いや、もうそろそろお開きにしよう思って」
「もう?」
「まあ、あまり遅うなるのも・・・・なあ?」
「そ、そうだね」
「そうだべ、早く帰るべさ」
「・・・なんで皆、顔を赤くしてるわけ?」
どこかよそよそしいメンバー。
しかし、お開きとなれば自分も帰るしかないのでそれに賛同する。
- 247 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 17:05
-
「あれ?そういえば藤本と松浦は?」
「「「「「「え!?」」」」」」
「あの二人にタクシーがそろそろ来ること伝えなきゃ。まだ部屋に居るの?」
「わー!!圭ちゃん入っちゃ駄目!!」
「松浦、タクシー五分後に来るっ・・・て・・」
「「「「「「あちゃー」」」」」」
部屋に入った保田にメンバー全員が顔を抑える。
「亜弥ちゃん」
「あ・・・みき・・たん、・・ダメ・・だって・・ん・・」
そこには、やっぱり押さえ切れなかった美貴が亜弥を押し倒している場面が繰り広げられているわけで。
しかも、軽くで済むわけも無く、段々と激しさを増してきて。
- 248 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 17:06
-
「・・・・お開きの理由って・・・・コレ?」
「「「「「「・・・・・」」」」」」
一同が無言で頷く。
保田は無言で戸を閉めるとメンバーの元へと向かった。
「これからは、藤本を飲みに誘うのは無しで」
「「「「「「「意義なし」」」」」」」
満場一致でその場を後にするメンバーたち。
「あ、すいません。部屋にまだ二人ほど残っているけど、30分くらいは部屋には入らんでください」
「はあ・・・?分かりました」
会計を済ませたメンバーは口々に店員に頼み込む。
- 249 名前:飲みすぎに・・・・ 投稿日:2006/03/29(水) 17:07
-
「亜弥ちゃん、大好き」
「もう、みきたんってば」
「あれ?他のメンバーは?」
「・・・誰かさんのせいで帰りました」
「・・?」
30分後。部屋に残されたのは、そんなメンバーの心遣いなど知らない、顔が赤い自分大好きさんと満足気な顔の焼肉大好きさんの二人だけになりましたとさ。
END
- 250 名前:k 投稿日:2006/03/29(水) 17:10
-
リクエスト更新、終了
前スレの738名無飼育さんのリクエストでした。
これって、リクどうり甘々になっていたのだろうか・・・?
前スレで受け付けたリクだから、前のスレで載せようと思っていたのに容量が足りなかった。何のためにリクを受け付けたのか 川_| ̄|○川
容量が足りないので、こっちでスレ返し
736、737>>名無飼育さま
待っていてくれてありがとうございます。
リクエストの短編を書いてみたので、ぜひ読んでみてください。
738>>名無飼育さま
リク、ありがとうございます。
細かい設定までしてくれたのですが、リクエストどおりの甘々になっているか心配です。
228>>名無飼育さま
ありがとうございます。
久しぶりに載せたので上手く書けていたかどうか。
雰囲気が気に入ってくれたようなので嬉しいです。
ただ今リクを受付中ですが、今は時間が無いためリクを受け付けてもすぐには応えられません。それでも構わないという方はリクをしてください。
・・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 251 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/04(火) 00:09
- 前スレの最後でリクした者です。
ありがとうございます!!最高ですw
やっぱりあやみきは甘いのが一番だと再認識しましたねw
リク通りの作品、ごちそうさまでした
次回も楽しみにしてます^^
- 252 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/10(月) 23:49
- いいですね〜甘めのあやみきは!
またあやみき書いてくださいね!
もちろん甘いの希望します(笑)
更新待ってます
- 253 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/16(日) 01:38
- あやみき最高!!
しかも甘いのはもっと最高!!
次もまってます
- 254 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/16(日) 01:47
- ochi or sage
- 255 名前:k 投稿日:2006/04/17(月) 17:50
-
リク?短編、更新
- 256 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 17:50
-
「・・・・」
ゆっくりと、音を立てずにドアの鍵を開ける。
まだあたりは薄暗く、しかし確実に夜は明けている空色。
あたしは足音を立てぬように、ゆっくりと歩き出す。
「にゃはは・・半目開けて寝てる」
目当ての人物に近づき、そっと腰を下ろすとその人物を観察する。
- 257 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 17:51
-
「・・・・はっ!?・・・ヤバイ、やばい。・・見すぎてた」
あまりの寝顔の可愛さに、時間も忘れて見てたらしい。時計を見ると、二十分も経っていた。
「・・・では、そろそろ・・」
さてと、本来の目的を思い出し、もう一度彼女の方を見る。
半目になりながらも気持ち良さそうに寝ているこの人を起こすのは可哀想だと思いながらも意を決する。
- 258 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 17:53
-
あ、申し送れました。
今、まさに最愛の恋人を起こそうとしている私の名前は松浦亜弥。
ハロプロでも一、二の稼ぎ頭としてアイドル街道を爆進中。
最近は、芸能界に居残れるくらいの悪さをしつつ、大人のせくすぃー路線を目指してます。
っと、話がズレタ。
えー・・私、松浦亜弥がなぜ、こんな朝早くから恋人であるみきたんの家に潜り込んでいるかというと、まあ、ぶっちゃけノロケです。
すみません。ウソです。ホントのこと言います。だから、ブラウザを消さないでください。
- 259 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 17:54
-
・・・コホン。・・えーでは、改めて。私がみきたん家に来た理由はですね、たんを起こしに来ました。それだけです。
ちょ!?だから、ブラウザを消そうとしないでください。ホンとですってば!最近、みきたんが遅刻ばかりするからモーニングコールをして欲しいなんて、可愛いこというから!
・・・そうなんです。理由はみきたんからのラブコールの要請です。
何でも最近、いくら寝ても寝足り無いらしく。まぁ、春になる季節だからそれも分かる気はするけど、ただ、遅刻をするようになったらしく、このままではサブリーダーとしてはいかんと。それをこの前にお泊まりの時に話してくれて。
で、その時にですね?
- 260 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 17:56
-
『亜弥ちゃんからのおはようのチュウがあればすぐに起きるのに・・・』
なんて、頬を染めてベッドの中で言われてですね!
もう、その仕草が可愛くて、可愛くて!
そんなみきたんに理性が切れまくりそうなあたしは鼻血を出すまいと鼻を押さえるのに必死だったんですよ!
从#VvV#)<おはようのちゅう・・・ 煤i‘ 。‘从
从#VvV#) (‘ 。‘从<・・・・
从#VvV#)<亜弥ちゃん? 从;‘ 。‘)<か・・可愛い・・
- 261 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 17:58
-
と、まあ、こんな風にお願いされちゃあ恋人のあたしとしては、どんなこともみきたんの役に立ちたいわけで。
そう思えば、今しがた終った仕事の帰りに疲れた体にムチ打ってでもみきたんのところに行きたいわけなんですよ。
だから、今の時間は朝の五時。
おいおい、ちょっと早すぎじゃない?なんて言う人もいると思いますが。
芸能人にとっては不規則な時間帯に起こされるのは当たり前。
仕事をしている以上は不満なんて許されない。
ホントは疲れているのが分かるから寝かせてあげたいけど、これ以上遅刻が目立ったらさすがのみきたんも上から何言われるか、分かんないし。
- 262 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 17:59
-
そういうワケでみきたんを起こすことに。
「みきたん・・たん・・」
「・・・ぅ・・・」
体をゆっくりと揺さぶる。
だけど、疲れているのかみきたんは小さく呟いただけで起きそうにない。
どうしようかなと次の手を考えてるとみきたんが、薄っすらと目を開けた。
「・・・ん・・亜弥・・ちゃ・・?」
「あ・・・たん?・・起きた?」
「・・ぅん・・・・亜弥ちゃん・・」
「そうだよぅ・・・あなたの愛しの亜弥ちゃ・・ぅきゃぁ?!」
みきたんが目覚める気配がしたので、顔を近づけようとしたらクルリと視界が回った。
- 263 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 17:59
-
「・・・え?」
さっきまで見ていたみきたんの顔。それは変わらない。
けれど、みきたんの後ろにある風景はどう見ても、天井なわけで・・・。
さっきまでみきたんの頭にあった枕が何故か、あたしの頭の後ろにあって・・・。
気がつくと、あたしとみきたんの位置が入れ替わっていた。
「え?・・なに?・・」
状況が分からず呆然としていると、みきたんの顔が目の前に迫ってきた。
- 264 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:01
-
「み、みきたん?」
「・・・好きだよ、亜弥ちゃん」
「へ?・・・ひゃ?!」
急に現れたみきたんの顔にビックリしていると、いつの間にかブラウスのボタンは全部、外されあたしの胸が露になっていた。そのあたしの鎖骨にみきたんがキスをする。
「あっ・・・ぅん・・・」
そのゾクリとした快感に思わず、息が漏れる。
- 265 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:02
-
「亜弥ちゃん・・・すき」
「あ・・・ん・・・やだ・・」
耳元で囁きられ、手は休まることなくあたしの体を撫で回す。
体中にキスの雨を降らすみきたんの唇を感じているあたしの体は、その身をみきたんへと任すように力が抜けていく。
「亜弥ちゃん」
「・・はぁ・・みきたん」
耳元で囁かれる甘い声。
その声にあたしの体の体温は一気に駆け上がる。
- 266 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:03
-
「亜弥・・・」
「あ・・・ちょ、ちょっと、待ってみきたん!」
あたしの体温が上げることなどお構いなしのみきたんの手が下に伸びようとして、頭が覚める。
そう、みきたんに求められるのは嬉しい。だけど朝から・・しかもみきたんを起こそうとしてるときにこんなことしてちゃぁ、何のために朝早くから来ているか分からない。
そう思ったあたしは、とっさにみきたんを跳ね除けた。
すると、思った以上にみきたんが後ろへと体制を崩し、仕舞いにはベッドから落ちた。
- 267 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:07
-
「たっ、たん!?大丈夫!?」
「・・・ぐ・・い、痛い」
なんて、ベッドの下から心底痛そうな声が聞こえてきた。
以外にゆっくり落ちたから強くは打っていないはず。なんて思いながらも聞こえてきた鈍い音に思わずみきたんの元に駆け寄る。
「・・痛いよぅ・・・あれ?何で亜弥ちゃんが居るの?」
「なんでって、みきたんが遅刻しないよう起こしに・・・」
涙目になりながら、みきたんは頭を押さている。どうやら、完全に目が覚めたらしい。
寝ぼけて押し倒したんだよ!?なんていえば、みきたんはじゃあ続きを・・・なんて言いかねないからその言葉は喉の奥へと仕舞いこむ。
- 268 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:08
-
「・・・亜弥ちゃん?」
「へ?」
「朝から大胆な・・」
「へ?何言って・・・」
顔を赤くしながらニヤニヤとしているみきたんの視線を辿ると・・・
そこには、見事にご開帳されているあたしの胸が。
「ち、違う!これは・・・!」
「いやいや、ミキは構わないよ?」
「そ、そうじゃなくて!」
ジリジリと寄ってくるみきたん。あたしは後ろへ寄って間合いを取る。
- 269 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:10
-
「さっきさぁ・・亜弥ちゃんとイチャイチャしてる夢みてたんだけど、良いところで目が覚めてさぁ」
「あ、ははは」
直も近づくみきたんにあたしは苦笑いで返す。
「まさか、邪魔したのが現実の亜弥ちゃんだなんて」
「・・・」
そ、そんなこと言っても止めなきゃみきたん、最後までしてたじゃん!
・・・しかも、寝ながら。
- 270 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:12
-
「良いところだったのに・・」
少しばかり不満顔のみきたん。
でも、あたしは悪くない。だって、寝ぼけていたのはみきたん。あたしはそれに巻き込まれただけ。
「あのさ、みきた・・」
そう思い、みきたんに反論しようとしたらズイっと体を引っ張られる。
「まあいいや。夢が覚めても本物とすればいいだけのことだし?」
「へ?・・・きゃぁぁぁ?!・・ちょっと待って!」
顔を近づけてくるみきたんにあたしは手を突っぱねて阻止する。
- 271 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:14
-
「・・・なんで逃げるのさ?」
「だって、あたしはみきたんを起こしに来たわけで・・・そ、それにみきたん早く準備しなきゃまた遅刻しちゃう!」
「えー?・・目の前にこんな美味しそうなものがあるのに・・」
「だ、駄目なものは駄目!早く準備しなきゃ」
「ちぇっ・・・分かった」
納得はしていないが、あたしの必死の説得にみきたんは渋々体を離した。
「た、助かった」
朝からするのはイヤじゃないけど、でも目的はみきたんを起こすことだったあたしは、渋々ながらも離れたみきたんにほっとする。
- 272 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:15
-
「そういや、なんで亜弥ちゃんここにいるの?」
「へ?・・なんでって・・・みきたんが最近遅刻するって。あたしからのモーニングコールがあれば起きることが出来るからって・・・」
「・・・ああ、前に話した・・それで、ワザワザ?・・」
「・・・うん」
体を離し、軽く伸びをしながら見きたんはあたしの方へと振りむき聞いてきた。
もちろんあたしは、肌蹴た服をみきたんに見られないように抑えながら答える。
「そっか、なるほど、なるほど」
「みきたん?」
ウンウンと嬉しそうにしながらみきたんああたしの方へと近づいてくる。
今度は何?!なんて警戒しながらみきたんを見ていると、あたしの前にしゃがみ込んだ。
- 273 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:16
-
「・・・ん」
「へ?」
「だから、ん」
「え?・・な、なに?!」
しゃがみ込んで、あたしの目線と同じにするとみきたんが目を瞑った。
あたしはその行動の意味が分からず、戸惑っていると、みきたんが目を開けた。
「・・あれ?してくれないの?」
「な、何を?」
「何って・・・おはようのキス」
「え・・・えぇぇぇぇぇ!?」
その言葉に思わず後ろに跳ね除ける。
- 274 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:18
-
「え?で、でもみきたん、もう起きてるし・・」
「・・・いい夢みてたんだけどなぁ」
「・・・う」
「邪魔が入らなかったら、ミキの今日の朝は幸せで一杯だったんだけどなぁ」
「・・・わ、分かりました!すればいいんでしょ!」
「はい、よろしい」
「・・・うぅ」
あたしの言葉にみきたんはニッコリと笑う。
不覚にもその顔が可愛いと思ってしまったあたし。
- 275 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:18
-
「・・・じゃあ目瞑って?」
「はいはい」
「・・・」
嬉しそうな声。
みきたんはニヤケ顔をしながらあたしのキスを待つ。
「・・・・はい、お終い」
「・・・これだけ?」
「ばっ!・・ばか!朝から激しいのしてどうするのよ!」
「えー?」
あたしのキスにみきたんは不満な声を出す。
- 276 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:22
-
「でも、あんな軽くはなぁ・・」
「キスはキスでしょ!」
みきたんは物足りなさそうに自分の口を押さえる。
あたしがみきたんにしたキスはすごく軽いもの。
ほんの少し、唇が触れたと思った瞬間に離した。
「・・・濃厚なやつ期待してたのに。まあ、いいか。あ、亜弥ちゃんボタンとめてあげる」
「こ、これくらい自分で出来るから」
「ミキがしたいから、いいの」
「・・・・」
嬉しそうな顔をしながらみきたんがあたしのボタンをとめていく。
そんなの自分で出来るのに。と思いながらもみきたんの嬉しそうな顔を見たら、されるがままになってしまう。
- 277 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:23
-
「・・・亜弥ちゃん」
「ん?」
服に手をかけながら、ふと、みきたんが手を止めてあたしの方を見る。
あたしも、何?って顔をしながらみきたんの方を見る。
「ミキ、結構真剣に亜弥ちゃんのこと抱いてた?」
「へ?・・・・あ、うん。でも何でそんなこと聞くの?」
「いや、結構キスマークが・・」
「え?・・・あ」
みきたんの視線の先には、あたしの鎖骨あたりについているキスマーク。
- 278 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:24
-
「・・・寝ぼけてとは思えないくらいだったけどね」
「・・・ふーん」
まあ、いまさら誤魔化しても仕方がないし、あたしは顔を赤くしながらみきたんに答える。
「なに?みきたん」
「んー?・・いやぁ・・こういうの見たらさぁ」
「ちょっと、本当にそろそろ準備しなきゃマジで遅刻しちゃうんだよ?」
「わかってるけどねぇ」
・・・嘘だ。
そういいながら近づいてくるみきたん。
その顔は遅刻なんて別にいいやって顔。
- 279 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:25
-
「みきた・・」
「キスだけだから」
「でも・・ん」
「・・・・・」
でも、やっぱりみきたんに遅刻なんてさせたくないあたしは、拒否しようと手を伸ばすけど、その手をあっけなく捕まれて唇を奪われる。
「・・・っ・・・」
ゆっくりと合わさる唇。
でもさっきとは違う、より深いキス。
- 280 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:26
-
「・・・・・」
何度も唇が離れては近づき。
上唇を軽く挟まれては、舌で形をなぞられる。
薄っすらと開いた唇の間からみきたんの自慢の長い舌がさしこまれ、あっという間にあたしのものと絡み合う。
「・・はぁ・・・みきた・・もう」
「もうちょっとだけ・・」
「・・ん・・・」
切なげな声で呼ばれ、あたしはまた、みきたんの唇を受け入れる。
- 281 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:26
-
* * * *
- 282 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:29
-
結局、みきたんは遅刻だーなんて言いながら仕事へと出かけていった。
その後ろ姿を見送るあたし。
「・・・あーあ、だから言ったのに」
受け入れてしまった自分を棚にあげ、可笑しそうにみきたんを見送る。
「ふふ・・・みきたんを起こして二人だけの甘い朝を迎えるっていう、計画していたものとはほど遠い朝だけど、こういうのもたまにはいいかも」
なんて、あたしは差し込む朝日の光を浴びながらみきたんを見ていた。
『いつまでも、こんな幸せが続くといいな』
そう願わずにはいられない亜弥だった。
- 283 名前:モーニングキス 投稿日:2006/04/17(月) 18:34
-
― おまけ
<仕事帰りの亜弥の自宅>
从VvV)<ねぇ、ねぇ亜弥ちゃん。
(‘ 。‘从<何?
从#VvV)<ミキ、今日皆に遅刻で怒られちった。
(‘ 。‘;从<いや、そうでしょ
从#VvV#)<朝から、首にキスマーク付けて来るなって
煤i‘ 。‘从<え?!
从#VvV#)<・・キスマーク
从;‘ 。‘)<えーと、それは・・・
从#VvV#)<亜弥ちゃんのせいで怒られた
从;‘ 。‘)<いや、それは・・
从#VvV#)<というわけで、朝の続き・・
((( 从;‘ 。‘)<あ、ごめん、用事思い出した・・・
(( 从#VvV#)/<問答無用!
((( \从;‘ 。‘)/<きゃー!?
おわり
- 284 名前:k 投稿日:2006/04/17(月) 18:38
-
更新、終了。
レスに甘いあやみきがいい!と書かれて?いたのでリクと受けとって書いてみましたw
コレを書いたときは、あやコンでのMCでのあやみきのスレを読んでいた時のテンションなので、最初らへんの松浦さんは、作者とリンクするようにバカになっていましたがw
・・・ごめんなさい、松浦さん
というか、あやコンのMC・・・・なに?あの甘さw
スレを読んでみて、もう、このモーニングキスの松浦さんをシリーズ化しようかと思ったくらい、MCの内容が甘すぎでしたw
251<<名無飼育さま
リク、ありがとうございます。
喜んでくれたみたいで、嬉しいです。
252<<名無飼育さま
ありがとうございます。
甘めのあやみき、書いてみましたw
253<<名無飼育さま
ありがとうございます。
やっぱり、あやみきは甘いのがいいですよねw
254<<名無飼育さま
わざわざ、ありがとうございます。
いつ、更新するか分からない駄文ですが、待っていてくれたら嬉しいです。
・・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 285 名前:252 投稿日:2006/04/19(水) 00:31
- 252です
リク受け付けていただきありがとうございます
いや〜甘くてよかったです
読みながらニヤけまくり(笑)
亜弥紺のMCの甘さはやばかったですよね(〃ω〃)
やっぱみきたんは亜弥ちゃんの前ではデレデレなんですね
シリーズ化かなり希望します(笑)
- 286 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/22(土) 19:05
- あやみき(;´д`)ハァハァ
最高っす!!
また書いてください!
- 287 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/27(木) 17:52
- いいね!
こういうのいいね!
甘いね!
やっぱあやみきは最高だね!
またあやみき書いてね!
待ってるからね!
- 288 名前:k 投稿日:2006/05/01(月) 19:29
-
更新、開始。
- 289 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:30
-
その日、藤本美貴は何故かイライラしていた。
今日はフットサルのガッタスが講習会を受ける日。
いつものように練習着に着替えて講習を受けるが、どこか面白くない。
・・いや、講習の内容が面白くないのではなくてミキが言う面白くないは隣にいる人たちについて。
「あ、梨華ちゃん顔にまつげが・・・」
「えっ、うそ?どこ、どこ?よっすぃ取って」
「・・・・」
「・・・はい、取れたよ」
「ありがとー」
「いえいえ」
「・・・・・」
さっきから休憩中にミキの隣でイチャツキまくっているこの二人。
- 290 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:31
-
「あ、そうだ。ひとみちゃん」
「ん?なに?」
「今日、仕事が終ったら食事に行かない?」
「いいね。行こうか」
「ホント?良かったぁ」
「ウチが梨華ちゃんの誘いを断ると思ったの?」
「だってぇ・・最近忙しいみたいだから・・・疲れているのに誘ったら悪いかなぁって」
「ウチの優先順位は梨華ちゃんなんだから、そんな心配しなくていいのに」
「ひとみちゃん」
「へへ」
「・・・・」
砂糖を吐きそうなほど、甘ったるい二人。
何か、2ちゃんねるっていう所の住人からは『 いしよし 』なんて呼ばれているらしいが。
- 291 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:33
-
「・・・・」
さっきからミキの隣にいる二人がこの調子だからなのか、どこか面白くない。
イチャ イチャ イチャ イチャ ジぃー
( ^▽^) (^〜^0) (VvV从<・・・・
イチャ イチャ じィー
( ^▽^) (^〜^0)<ん?視線が・・・ (VvV从<・・・・
クル クル
( ^▽^) (((;0^〜^) (( 从VvV)
ひとみちゃん?
( ^▽^) (;0^〜^)<気のせい? 从VvV)<・・・
- 292 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:34
-
「あのさ、ミキティ・・・?」
「なに?」
何か言いたそうによっちゃんがミキのところへと近づいてきた。
「・・・何かイラついてる?」
「はぁ?・・・何で?」
「い、いや、・・その・・何かウチらを見る目が・・・」
「何?」
「その・・ヤキモチやいているように見えたか・・ら・・」
「は?」
「ひイ!や、やっぱ何でもないですぅ!」
「・・・」
起用に肩眉だけを上げてよっちゃんを見ると一目散に梨華ちゃんのところへと逃げていきやがった。
- 293 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:35
-
「・・・ちッ・・へたれが」
梨華ちゃんによしよしされているよっちゃんに毒気づく。
「ヤキモチってミキが?・・・誰に?・・・よっちゃん?・・・まさか」
言われた言葉を考えながら、もう一度二人を見る。
頭を撫でられてデレデレしているよっちゃん。
「・・・だれがあんなヘタレを・・」
ナイナイ。そんなこたぁ無いと頭を振る。
- 294 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:36
-
『カオ、思うの。それってジェラシーなのよ』
「ジェラシー?・・・・それって言い方が違うだけでヤキモチと一緒じゃないですか・・・って、飯田さん?!」
程よいノリ突っ込み。さすがは藤本。
聞こえてきた声に辺りを見回すが飯田さんの姿は見当たらない。
そもそも、フットサルの講習に飯田さんは来ていないはず。
空耳かと、顔を捻っていると又、声が聞こえてきた。
『違うよ。カオリは、美貴の頭の中に直接語りかけてるの』
「へー・・そうなんですか。すごいですねって、ちょっと待て!おかしくないですかそれ?!」
あまりに当たり前のように言うものだから、思わずミキも流しそうになった。
- 295 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:37
-
「っていうか、どうやって・・・」
『交信』
「更新?」
『違う、違う。交信』
「こ、交信?!」
『うん、交信』
「・・・・・」
从;VvV)<・・・・ ( ゜皿 ゜ ) <・・・
- 296 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:37
-
「やっぱり今のは空耳か」
ミキ、最近疲れてたからね。今日は日ごろの自分にご褒美のつもりで焼肉にしよう。うん、そうしよう。
今日の夕飯に目を輝かせていると、また声が頭の中に響いた。
『・・ぐす・・美貴、ひどい。カオ、ウソ、ついてない』
「・・・なんでカタコトなんですか」
『えー?・・こうすればなんか可愛くない?』
「いや、全然。それよりホントに飯田さんですか?」
『そうだよー。カオリだよー』
「・・・・」
・・・どうやら本当に更新・・・じゃなかった。交信してるらしい。
- 297 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:38
-
「マジかよ・・・ミキだけはまともだと思ってたのに・・・」
おかしな人たちが多いハローの中で唯一、自分はまともだと思っていたのにまさか交信されるなんて・・・
ちょっとどころか、かなり凹む。
『ひどいよ美貴。カオと交信出来る人なんて中々いないよ?』
「そんな誰かれ構わず交信しても困りますよ。それに飯田さんと交信するなんて奇特な人が他に誰かいるんですか?」
『えっとね・・・まず、美貴でしょう・・』
「・・・・もう数に入れてるんだ」
『・・それと、なっちにメロンの村田に紺野にゴトウでしょ?それから、つんくさんに・・・』
「ちょっと待ってください」
聞き捨てならない名前に思わず飯田さんの言葉を止める。
- 298 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:41
-
「つんくさんって、あのつんくさんですか?」
『そうだよう。他にいるの?』
「いや、一人しか思い浮かびません」
『なら、そのつんくさんだよー』
「・・・まじかよ」
何してるんだ、あの人は・・・・最近の妙な曲の内容は交信のし過ぎだったんじゃあ・・・
从;VvV) ( ゜皿 ゜ ) <交信する友達関係。略して
交友関係。・・・面白い?
从;VvV)<・・・笑えません ( ゜皿 ゜ )<・・・・
- 299 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:42
-
「・・はあ・・・それで、飯田さんはミキに何の用があるんですか?」
世界の中心で吐きたいため息を部屋の隅で誰にも気づかれないように吐き出す。
今が休憩中でよかったと心底思う。
『・・美貴冷たい。せっかくカオが美貴の寂しいオーラを受け取ったのに』
「ちょっと、誰が寂しいですか。誰が」
『美貴』
・・・なんでそんなに自信あるの?
そんな自信たっぷりに答えられたらどう返したらいいか分からない。
休憩時間もあと僅かだし、ここは飯田さんに合わせて早々と帰ってもらうことに決める。
『美貴、上辺だけで人と付き合ったら駄目だよ』
「・・・・」
人の心を読みやがった。
- 300 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:42
-
「や、やだな。ミキそんな風に人付き合いしませんって。そ、それより、なんでミキが寂しいって思うんですか?」
『・・美貴はウソが下手だね』
「・・・・」
『まあ、いいけど』
若干、腹の中が煮えてきそうなのを堪え、話を流す。
『なんで美貴が寂しいって分かるかって言うと、美貴、石川と吉澤を見て、ムカついてるでしょ?』
「・・・まぁ、何故か」
『それは二人が羨ましいからよ』
- 301 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:43
-
羨ましい?
飯田さんの言葉にしばし思考が止まる。
『そっ。石川と吉澤を見て美貴は羨ましいと思った。だから寂しいのよ』
「な、なんで羨ましいと寂しいになるんですか?!」
『だって、二人も美貴と同じ状況じゃない』
「え?」
『あの二人も美貴と一緒でしょ?』
「・・あ・・・」
『そういうこと』
何かに気づいたミキに飯田さんは自信ありげに答える。
- 302 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:44
-
『美貴の寂しいはあの子に中々会えないから』
「・・・・・」
『羨ましいのは、自分と一緒の立場の二人が嬉しそうにしているから』
「・・・・・・」
『ここまで言えば、分かるよね?』
「・・・・・・・・・はい」
悔しいが頷くしかなかった。
ミキはあの二人を見て面白くない理由。
寂しさと羨ましさが混じった・・・・・・ようはジェラシー。
- 303 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:45
-
よっちゃんと梨華ちゃん。
二人は娘。に居たときは周りが見るほど仲が良さそうには見えなかった。
でも梨華ちゃんが卒業して、よっちゃんがサブリーダからリーダになるころくらいから。
二人が一緒にいるところをよく見かけるようになった。
多分、娘。にいるときから二人は仲が良かったんだろう。でも、メンバーを気にしてそれを表に出さなかっただけで。それは、娘。を梨華ちゃんが卒業してからも変わらなかったけど。・・・・でも、何かが違った。
雰囲気というか、二人を包む周りの空気がとても優しくて。
二人の側(そこ)にいるとそれが一層感じられて・・・・居心地が良かった。
- 304 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:46
-
居心地が良い。
でも、その反面羨ましいと思った。
その空気が。
二人は娘。にいる時に比べて断然、会う時間とか機会が少なくなっていた。
それなのに、会った時にはすっごいベタベタするわけでもなく、ただ会話を楽しむようにイチャイチャしているだけだった。
でも、そこには確かに二人の強い絆のようなものがあって・・・
何か、そういうのがミキは羨ましかった。
- 305 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:46
-
『納得した?』
「・・・まぁ、一応」
『滅多に会うことのない二人が仲良くしているのを見ているよこで、松浦に会えないで寂しい思いをしている自分がいることに気づいたから、自分たちと同じような立場の石川と吉澤を見て、羨ましくなったんでしょ?』
「・・・そんな詳しくミキの気持ちを解釈しないでくださいよ」
『あれ間違ってた?』
「・・・ほぼ当たってます」
まったくその通りだったが悔しいからそう言ってやった。
『じゃあ、美貴のイライラはジェラシーということで』
「・・・そうですね。何かあまり納得したくない答えですけど、分かってスッキリしました」
そう思えばイライラなんて消えていた。
- 306 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:47
-
「・・はぁぁ・・・理由が分かったとは言え、やっぱり人がイチャイチャするのを見るのはヤダな」
『なに?そんな長いこと松浦に会ってないの美貴?』
「そうですね。亜弥ちゃん映画の撮影とかコンサとかで忙しいみたいだから、なるべくコッチからは連絡取らないようにしてるんで」
『ふーん』
「・・・はぁ」
忙しいし疲れているだろうから、なるべく連絡を取らないようにと気を使ってはいるがこうも長いこと会わないと、さすがに自分でも気づかないうちに参ってしまっているようだ。
- 307 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:48
-
「・・・・はぁぁ・・亜弥ちゃん」
『そうとう重症だね』
「・・・飯田さん、まだ人の頭の中にいたんですか?」
『ひどーい!美貴の悩みを解決してあげたのにぃ』
「・・・それはありがとうございます。でもそろそろ休憩時間が終わるんで」
『・・・えーん、美貴がイジメルぅ』
「いや、ただ冷たくあしらっただけです」
ミキの頭の中で泣きまねをする飯田さんをポンッと追い出す。
すると、もう飯田さんの声は聞こえなかった。
「ふぅ・・・やっと帰ったか」
ほっと一息つくと、マナーにしていたミキの携帯が震えだす。
- 308 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:48
-
「ん・・・メールだ」
休憩終了直前にミキのポッケから伝わる振動。
誰だろうとメールを開くと、そこには今すぐにでも会いたい人の名前。
『 明後日、たんがオフの日に家に泊まるから! 』
要件だけを入れた短いメール。
「・・・ま・・じ・・?」
そこには嬉しい内容のメール。
それを読んだミキはさっきまでの気分なんて遙か彼方。
講習を蹴ってでも亜弥ちゃんのところに駆けつけたいほど幸せな気分になっていた。
- 309 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:51
-
「き、き、き・・・」
「ミキティ?」
部屋の隅でフルフルと震えている美貴を見つけた吉澤が不審気に声をかける。
「キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!」
「うをぅ!?」
立ち上がり叫ぶ。
その時、吉澤の顎めがけて向かってくる美貴の頭をマトリックス並みのイナバウアーでチョイギリで避けた吉澤の黄金の腰が悲鳴を上げたのを美貴は知らない。
\亜弥ちゃんからメール!!!/
(゚∀゚;三;゚∀゚)
⊂⊂__メ==⊂ ・・こ、腰が・・
ピク ノハヽヽ
ピク (( ⊂(゚〜゚O;⊂⌒ヽつ ))
(;^▽^)<きゃー!?ひとみちゃん?!
- 310 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:52
-
「・・・・つまり、フットサルではこの時・・」
久しぶりに亜弥に会える喜びに美貴はさっきまでのやる気のなさがウソのように残りの講習に望む。その真剣さは周りが近づけないほど。
(;^▽^)(;O^〜^)<おい、笑ってるよ・・・
美貴ちゃん? 从*VvV)<ふふ・・ぐふ・・
ではなくて、傍からは気味悪いくらいニヤケているようにしか見えなかった。
こうして、亜弥が泊まりにくるまでの間の美貴は暴走しまくりのハイテンションで仕事を乗り切り、オフ当日は買い物にお泊まりと亜弥との時間を楽しんだ。
その時のことが亜弥紺でのMCであやみきヲタを萌だえさせたのは言うまでもない。
そして・・・・
- 311 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:54
-
(つんく♂)<いやー今回も上手くいった!
( ゜皿 ゜ )<やっぱり、カオ、判断、正しい
(つんく♂)<さすが飯田やな。松浦を藤本の家に泊まらせるなんて
( ゜皿 ゜ )<つんく♂さん、あややにメール、する言った
(つんく♂)<なんでまだカタコトやねん。・・イヤイヤ、飯田からの交信がなきゃ
オレはたまたま松浦と一緒におっただけやし
( ゜皿 ゜ )<でも閃いたのはつんく♂さん
(つんく♂)<これで当分はあやみきに困らんな
( ゜皿 ゜ )<・・・・・
\ ビバ!あやみき!! /
(つんく♂)( ゜皿 ゜ )
密かにこの二人があやみきの需要活動に貢献してるのを知っているのは一部の人しか知らない。
- 312 名前:ジェラシービーム 投稿日:2006/05/01(月) 19:56
-
― おまけ ―
从‘ 。‘从<たん?どうしたの?
从;VvV)<・・・いや、なんでも
从;VvV)<・・・(飯田さん、交信が混信してます。
っていうか、ほんとにつんく♂さん・・)
川つvT从<なんだろう?前が霞んで見えない
(‘ 。‘从<みきたん?
从VvV)<亜弥ちゃん、ミキ、亜弥ちゃんのこと大切にするから
(‘ 。‘*从<・・・みきたん
从*VvV)<亜弥ちゃん、
(‘ 。‘*从<・・・みきたん
从*VvV)<亜弥ちゃん、
(‘ 。‘*从<・・・みきたん
キリがないから終っときます。
川*VvV(‘ 。‘*从<< おわりでーす!
- 313 名前:k 投稿日:2006/05/01(月) 19:57
-
交信・・じゃなくて更新、終了。
お泊まりされるまでの出来事を書いてみました。
講習を受けたときの藤本さんがどこかつまらなさそうに見えたので、ちょっとお泊まりとリンクさせてみましたw
285<<名無飼育さま
ありがとうございます。
ご期待に添えたようで嬉しいです。
今回はそこまで甘くもないですが、読んでもらえたら嬉しいです。
286<<名無飼育さま
ありがとうございます。
お泊まりとリンクさせて書いてみました。
読んでくれたら嬉しいです。
287<<名無飼育さま
ありがとうございます。
お泊まりの後に浮かんだものですが、真相がこうだったらイイナと思って書きました。
読んでくれたら嬉しいです。
まだ、リクのほうは受付中なので、ありましたら書き込んでください。
その時は、いつ更新になるかは断言出来ませんが必ず書きますので。
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 314 名前:252、285 投稿日:2006/05/02(火) 03:06
-
作者さんのあやみきはすばらしいですね
本当に毎回ニヤけながら読ませてもらってます
あと、モーニングキスのシリーズ化は実現しそうですか?
かなり希望しております
では次回も期待しております
- 315 名前:あややん 投稿日:2006/05/06(土) 23:41
- 素晴らしいテンションの高さと甘さですね!!つんく♂さん飯田さんGJ!!…しかし亜弥ちゃんは何でミキティをそんなにメロメロに出来るんだろー…きっと凄いテクニッ(ry
またふにゃふにゃに甘いの期待してますね♪…ミキティの赤ちゃん言葉入り希望ですww
- 316 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/31(水) 02:31
- おっ!赤ちゃん言葉いいですねぇ〜(笑)
希望します
- 317 名前:k 投稿日:2006/06/02(金) 23:49
-
リク短編です。
- 318 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/02(金) 23:50
-
モーニングキス = 松浦さん逆襲します!編 =
- 319 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/02(金) 23:51
-
「・・・・」
ゆっくりと、音を立てずにドアの鍵を開ける。
まだあたりは薄暗く、しかし確実に夜は明けている空色。
あたしは足音を立てぬように、ゆっくりと歩き出す。
「・・・・」
目の前には少しだけ膨らみが出来たベッド。
目標のものを確認するとゆっくりと後ろへ下がる。
- 320 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/02(金) 23:52
-
「・・・・よし」
小さな声で掛け声をかける。
ほんの数メートルの距離。
あたしはその距離を目標に向かって走った。
「みっきたーーーーーん!!!」
目標物の一歩手前で大ジャンプ。
- 321 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/02(金) 23:52
-
「おっはよーーー!!あっさでっすよーーー!!」
ベッドで膨らんだものに全体重をかけダイブ。
膨らんだ布団はその体重を支えきれずにぺシャリと潰れ・・
・・・ん?潰れた?
自分が想像していた感触とは違うものが体に伝わる。
おかしいと思い、布団を剥ぐと・・・・
- 322 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/02(金) 23:54
-
「あれ?・・・・みきたん・・・いない」
そこはモヌケノ殻。
確かにここにいたであろう人物は潰れた布団だけを残して、消えてしまっていた。
「あれ?みきたん、どこ?・・・あれ?」
「・・・・なにしてるの?」
消えたみきたんを探そうと布団を全部退かしてベッドを探索。
すると、後ろから呆れたような声。
- 323 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/02(金) 23:55
-
「あ・・・みきたん」
「なにしてるの?亜弥ちゃん」
「み、みきたんこそ、こんな朝早くから何してるの?!いつも寝坊するのに!」
「ミキは、珍しく早くに目が覚めたから朝風呂してたとこ」
頭にタオルをのせ、あたしの方に近づいてくるみきたん。
なるほど、お風呂に入っていたからベッドには居なかったのか。
一つの疑問が解決し、胸をスッキリさせる。
- 324 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/02(金) 23:56
-
「・・・で?亜弥ちゃんは?」
「え?」
「こんな朝早くからミキの家にくるなんて」
「・・・えーと、あたしはみきたんを起こそうと思って・・・」
「助走をつけて?」
「・・・・あ・・はは・・それは・・」
顔を下げ少しバツが悪そうに話す。
前回、美貴を起こそうとして逆に朝から迫られてしまったので今回こそはと思い、懲りずに美貴の部屋へと忍びこんだ亜弥。
前回は優しく起こしたところを美貴に迫られたので今回は容赦なく起こそうと助走と勢いをつけたダイブまでしたのに肝心の美貴はいなかったのだ。
さすがに美貴も呆れているだろうと思い、顔を見ることが出来ない。
- 325 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/02(金) 23:57
-
「そっかぁ、前みたいにミキを起こしに来てくれたんだ」
「・・うん。でも、みきたんもう起きちゃった後みたいだし・・・全然役にたっていないね」
「・・・・」
シュンと項垂れる。
『好きな人の役に立ちたい』
そう思って前回の失敗を繰り返さないよう用心までしてみきたんを起こしに来たのに。
そういう可愛らしいことを考えていたのだが、飛び込みで起こされた人物がその後、どうなるかは考えていない松浦さん。
- 326 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/02(金) 23:58
-
「そっかぁ・・・ありがと」
「え?」
項垂れるあたしの上からみきたんの優しい声。
その声に顔をあげると、みきたんは嬉しそうにしている。
「亜弥ちゃんは可愛いなぁ」
「・・・・」
起こしにきたのに、全然役にたっていないあたしに嬉しい言葉をいってくるみきたん。
その言葉にウルッときてしまった。
「そっか、そっか。亜弥ちゃんもあの朝のことが忘れられないわけだ」
「・・・え?」
みきたんの言葉にウルっときているとニコニコ顔をしながらみきたんがあたしのほうに近づいてくる。
- 327 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/02(金) 23:59
-
「・・・・え?」
なおも近づくみきたん。
ちょっと近すぎじゃあと思っているとあっという間に押し倒される。
「み、みきたん?」
「ん?なに」
「いや、何じゃなくて・・・起きたんだから準備しなきゃ・・・」
「大丈夫だよ。少しくらい」
「ひゃ!?」
「だからさ、亜弥ちゃん・・」
耳元で息を吹きかけるように小声で話すみきたん。
ゾクリと背筋に感覚が走る。
これって、ひょっとして・・・・
- 328 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/03(土) 00:00
-
耳元から首筋へと唇は走らせたみきたんは、ボタンを外そうと服に手をかける。
その間もみきたんの首筋への攻撃は止まず、あたしの頭はその感触に頭が朦朧としてきて・・・
「みきたん、今日はそんなことをしにきたんじゃないの!」
「わっ!?」
なんてことはなく、あたしはみきたんの攻撃が本格的になる前に腕から抜け出す。
- 329 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/03(土) 00:00
-
「・・なんで逃げるのさ」
「前と同じ失敗はしません」
「・・・・可愛くない」
逃げ出したあたしにみきたんは不満顔。
でも今日は譲れない。だって、せっかくみきたんと朝から二人っきりなんだから、この前出来なかった、二人で朝からまったりとっていう計画を実行するんだから。
「ほら、みきたん。せっかく早く起きれたんだから準備して。その間にあたし朝ごはん作ってあげるから」
「んー・・・」
朝ごはん。
作ってあげる。
なんていい響きですか。
- 330 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/03(土) 00:01
-
あたしがこれからの計画に酔っていると、みきたんは申し訳なさそうな顔をする。
「亜弥ちゃん、朝早くから起こしに来てもらって悪いけどさ・・・ミキ、今日はお昼からなんだよね」
「え?」
「お昼に変更になったの」
「え・・・えーーーー!!!?」
あたしが出した声にみきたんは耳を押さえる。
- 331 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/03(土) 00:02
-
「ちょっとそれどういうことよ!?」
「いや、昨日帰る間際にマネージャーが・・・」
「そんなぁ・・じゃあ、あたしの計画は?」
「いや、計画といわれても・・・」
「あ・・・れ?・・・ちょっと待って。じゃあなんでみきたん、こんな早くから起きてるの?」
計画が崩れたことにガックリきていると、疑問がひとつ浮いてきた。
そう、みきたんの早起きだ。
普段、寝坊してまで寝ることが好きなみきたんが仕事がお昼に変わったのに朝早くに起きるのはオカシイ。
- 332 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/03(土) 00:03
-
「んふっふっふ・・」
「み、みきたん?」
あたしのふとした疑問にみきたんはニヤリと笑う。
その何かを絶対企んでいるであろう笑顔にあたしは顔を引きつらせ後ろへと下がる。
「実は亜弥ちゃん家に行こうかと」
「え?・・・あたしの家?」
「そう。亜弥ちゃんも最近は朝が早いって言ってたでしょう?」
「う、うん」
「この前、亜弥ちゃんは仕事で疲れているのにミキのためにって朝早くから来てくれたから、そのお礼に今度はミキが亜弥ちゃんを起こそうかと思ってさ」
「み、みきたん」
「でも結局、今回も亜弥ちゃんに先をこされたけどね」
「・・・・」
えへへ、なんて人懐っこい顔で笑うみきたん。
あーーもう!そんな顔されたら計画が潰れたのなんてどうでもよくなっちゃう!
- 333 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/03(土) 00:04
-
「あ・・・じゃあひょっとしてお風呂に入ってたのはあたしの家にこれから起こしに来るため?」
「そうだよう」
「みきたん、起きるの苦手なくせに」
「でも、好きな人の役には立ちたいって思うのはミキも一緒だし」
「みきたん」
にっこりと笑うみきたんにあたしは二回目の目がウルウル状態。
愛のあるその言葉にみきたん、大好き!
なんて言って飛びつこうと思ったあたしはあることを思い出す。
そう、自分も今日は昼からということに
- 334 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/03(土) 00:04
-
「あ・・・ごめん、みきたん。あたしも今日はお昼からなんだ」
「うん、知ってる」
「ごめんね、せっかくみきたんが・・・・って、今、知ってるって言った?」
「うん。昨日亜弥ちゃんのマネージャーさんに確認したから」
「・・・・え?」
それならなんでこんな朝早く・・・
あたしの時間を知っているなら別に朝早くでなくても午前中会いに来るとか、そうすればみきたんも、もっと眠れただろうに。
そんなことを考えていると、みきたんがニコニコと近づいてくる。
- 335 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/03(土) 00:05
-
「ぃやぁ・・この前の亜弥ちゃんがすごい可愛くてさぁ」
「へ?」
「まだ皆が寝ている時間に悶えてる亜弥ちゃんの顔が見たくて・・」
「えっ・・ちょっ・・・まって、みきたんそれって・・・それにその両手は・・・何?」
まるで獲物を捕縛するかのように両手を広げるみきたん。
あたしの背中にイヤな汗が流れ落ちる。
- 336 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/03(土) 00:06
-
「寝込み・・・ぅんん!!・・じゃなくて、モーニングキスで起きる亜弥ちゃんの顔が見たくて早起きしたけど、まさか、亜弥ちゃんから来てくれるなんて・・・やっぱミキってば愛されてるめぇ」
・・・・なんで語尾がみきうーる?しかも、今寝込みって言った!!?
なおもニコニコしながら両手を広げ近づくみきたん。
『これって、もしかしなくても・・・野獣のオリの中に入っ・・・・た?』
気づくが時すでに遅し。
朝もまだちゃんと明けていない眠たい時間なのに、みきたんは目をキラキラ(ギラギラがあってるかしら?)しながらあたしに飛びつく。
- 337 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/03(土) 00:09
-
「ぃ・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
「何で逃げるめぇ」
「みきたんが追いかけてくるからだぴょん!」
「おお!?あやぴょん!・・・いいね、ヒツジとウサギで熱い朝」
「ちがっ!?今のはみきたんにつられて・・」
「いいよ、いいよ。そういうシチュエーションのほうがミキ的にも萌えるから」
「だから、ちがうーーーーー!!」
明け方のマンションの一室。
朝が弱いはずのヒツジのみきうーるなんて可愛いものはいなく、そこには嬉しそうにシッポを降りながら追いかけ回すオオカミキにピンクうさぎのあやぴょんこと松浦さんの逃げ回る姿がそこにはあったとか。
「うーん、今日も可愛いよ亜弥ちゃん」
「や・・・みきた・・・あ・・だめぇ・・」
- 338 名前:モーニングキス 投稿日:2006/06/03(土) 00:11
-
=おまけ=
从VvV)<亜弥ちゃん、ミキまた怒られちった
(‘ 。‘从<へ?今日は遅刻しなかったでしょ?
从VvV)<メンバーじゃなくて、ミキの家の大家さんに
(‘ 。‘从<え?
从#VvV#)<朝から激しい追いかけっこはしないで下さいって
(‘ 。‘;从<・・・・
从#VvV#)<そういうわけで亜弥ちゃん・・朝は大家さんに禁止されたから
煤i‘ 。‘;从<ちょ!何でそこで『そういうわけ』になるの!?それに今日の朝した・・
(( 从#VvV#)/<問答無用!
((( \从;‘ 。‘)/<キャーー!?また、このパターン!?
おわり
- 339 名前:k 投稿日:2006/06/03(土) 00:12
-
リク短編終了
モーニングキス。松浦さん逆襲編でしたw
このモーニングキスの続編は252,285さまのシリーズ化希望で考えたものですが、すでにネタ切れになりつつあるものですw
まぁ、最近物忘れが激しいし・・・考えているネタが頭の中から消えないうちに書き起こせたらまた、載せたいと思いますw
314<<252,285さま
希望のモーニングキスの続編です。
前回のお泊まりとリンクさせたフットサルの短編もシリーズとして入れているつもりなんですが、早くもネタ切れですw
315<<あややんさま
赤ちゃん言葉ですか?
うーん・・・自分が考えている藤本さんだと書けるかどうか・・・いつとは言えませんが書き上げることが出来れば、載せたいと思います。
316<<名無飼育さま
ぅお!?ここでも希望っすか?!
・・分かりました。今は書く時間が無いのですぐには無理ですが、書きたいと思います。
今、忙しくて更新できる時間が極端に少なくなってきているので恐らく次回の更新まで大分時間が空くとは思いますが、気長に待っていてもらえたら嬉しいです。
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 340 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/16(金) 02:37
- いや〜あやみきはすばらしい!
ユニットも決まったし
さらにあやみきが盛り上がりますね
- 341 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/16(土) 03:32
- お忙しいと思いますが更新頑張ってください!
期待して待ってます
- 342 名前:k 投稿日:2006/09/17(日) 01:39
-
久しぶりで更新です
- 343 名前:k 投稿日:2006/09/17(日) 01:41
-
激しい雨が地面を打ちつける。
全身ずぶ濡れになりながら立ち尽くす。
願うことなら壊れた砂時計の砂を拾い集めて時を巻き戻したい。
大粒の雨と共に涙が一粒零れた。
「 GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 」
- 344 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:42
-
「今日は何を作ろうかな」
「・・・・」
ハナウタを歌いながら、本を捲っていく。
『 簡単。誰でも作れる料理本 』
そんな本を嬉しそうに読む女の子が一人。隣に座っている子は、そんな女の子を呆れた様子で眺めていた。
「・・・亜弥ちゃん」
「んー?」
「楽しそうだね」
「えー・・・何がぁ?」
「・・・」
本から顔も上げずに答える女の子に、やっぱり呆れ顔になってしまう。
- 345 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:43
-
「亜弥ちゃん、話聞いてる?」
「聞いてるよ。なに、愛ちゃん」
ようやく、本から顔をあげて隣にいる友人の顔をみる亜弥。
そんな亜弥に呆れ顔を崩さず愛が聞いてきた。
「だから、今日も藤本センパイのところにご飯を作りに行くの?って、聞いたの」
「もちろん。だって彼女だし」
そう言って、亜弥はまた本へと視線を落とした。
「彼女ねぇ・・・そう思っているのは亜弥ちゃんだけじゃないの?」
「そんなことないもん!」
聞き捨てならないとばかりに亜弥は愛を見た。
しかし、愛はそんな亜弥を無視して話続ける。
- 346 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:43
-
「だいたい、あのセンパイのどこがいいのか。この学校始まって以来の問題児。おこした停学事件は数知れず。それなのに退学にならないのは・・」
「ストップ!」
黙っていたらずっとあのヒトのことを悪く言い続けそうな愛ちゃんの口をあたしは押さえた。
「愛ちゃん、センパイのこと悪く言うのはやめてよ。センパイは・・・みきたんはそんなに悪いヒトじゃないもん!」
「でもさぁ・・」
「そりゃあ、見た目は怖そうだし、色々良くないウワサもあるけど、でも、あたしのこと助けてくれたもん!」
愛の前へと乗り出し、亜弥は力説する。
- 347 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:44
-
あたしがみきたんと出会ったのは、三ヶ月前のこと。
用事で遅くなってしまったあたしは、近道をしようと普段は通らない裏道を使った。
その時、三人くらいの男のヒトたちに囲まれて連れていかれそうになった時にみきたんが助けてくれた。
同じ制服を着ていた。
だけどその時はみきたんが、あのウワサの藤本センパイなんて知らなくて・・・
男のヒトたちをボコボコに倒したあと、あたしのことなんて見向きもせずに行こうとしたみきたんを、あたしは必死になって呼び止めた。
- 348 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:45
-
「助けてくれたんだよ?お礼をしなきゃって思うのは当たり前でしょ?」
「でも、お礼なんて一度で充分でしょ?なのに亜弥ちゃんはずっとじゃん」
「それは・・・・」
なんて口篭る。
助けてくれたお礼をしたかったのは事実。
でも、あの時助けてくれたみきたんを好きになったのも事実。
だから、お礼なんて口実を作ってはみきたんに会いに行っているんだけど・・・
- 349 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:45
-
「止めときなって。いくら亜弥ちゃんがセンパイを好きでも、向こうが関心なかったらイミないし」
「・・・・でも、好きな気持ちは止められないよ」
愛ちゃんに、何て言われようがこれだけは止めることなんて出来ない。
「報われない恋してるね」
「親友なら応援してよ」
「はいはい。頑固な亜弥ちゃんだからね。あたしはもう何も言わないよ」
「それって、応援してくれるってこと?」
「・・・親友だからね」
「ありがとう愛ちゃん!」
「はいはい」
そう言ってあたしは愛ちゃんに抱きついた。
愛ちゃんもそんなあたしを呆れながら抱きしめ返してくれた。
- 350 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:46
-
「じゃあ、これからみきたん家に行くから」
「・・・はいはい、頑張ってね」
「うん!」
亜弥はカバンに本を仕舞うと嬉しそうに教室を出て行った。
「・・・あたしは亜弥ちゃんが幸せならいいんだけどね」
亜弥の後姿を見ながら愛が呟く。
「・・・でも、あのセンパイはねぇ」
教室の窓から走って行く亜弥を見て、愛は心配そうにため息をついた。
- 351 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:47
-
両手いっぱいに買い物袋を持ち、みきたんの住んでいる場所へと辿りつく。
見上げた先には、高級マンション。
ここら辺では一番、高いとされているマンション。
みきたんはここで一人暮らしをしている。
なんでも親が海外赴任らしく、学校があるみきたんは卒業するまで一人、ここに残ることにしたそうだ。
「みきたん、帰ってきているかな」
マンションの暗証番号を押しながら、家の持ち主がいることを期待する。
- 352 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:48
-
「・・・やっぱり・・・今日も遅いのかな」
部屋の前まで着いてドアノブを回すが開かない。
試しにインターフォンも鳴らしてみたが出てこなかった。
仕方がないので、みきたんから預かっている合鍵を使って部屋に入る。
「本当はみきたんがお出迎えしてくれたら嬉しいんだけど」
高望みなお願いを口にしながらあたしは、慣れた手つきで家の中へと入って行った。
「・・・あー・・・やっぱり何も無い」
買ったものを仕舞おうと冷蔵庫を開けてみると案の定、水などの飲み物以外は何も、冷蔵庫には入っていなかった。
- 353 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:48
-
「もう、あたしが買ってこなければ何も食べようとはしないんだから」
グチグチといいながらあたしは買ってきたものを冷蔵庫の中へと仕舞う。
みきたんは、一人暮らしをしているせいかあまり食生活には気を使っていない。
「っていうか、自分から食べようとはしないんだよね」
買ったものを仕舞い、後ろを振り返る。
そこには、人が生活している様子があまり感じられないリビング。
みきたんは、家には帰っては寝るだけみたいで、自分の部屋以外はほとんど使っていない。
でも、その自分の部屋さえもベッド以外はほとんど使った様子は無い。
「・・・寂しそうな部屋」
あたしは食事を作る前に簡単な部屋の掃除をした。
これも、いつものことだった。
- 354 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:49
-
「よし、できた」
料理開始から1時間。
見た目はちょっと悪いけど、みきたんに食べてもらう夕ご飯を作り終える。
お皿に盛り付けして、テーブルに並べてから時計を見る。
「七時すぎ・・そろそろ帰ってくるかな?」
使った道具を片付けながらみきたんの帰りを待っていると、ドアが開く音が聞こえた。
「あ・・帰ってきた」
パタパタと音を立てながら帰ってきたみきたんを出迎える。
- 355 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:49
-
「みきたん、お帰り!」
「・・・・」
玄関に向かうと、靴を脱いでいるみきたんがいた。
あたしは今日の中で一番、可愛い笑顔をみきたんに向けながら出迎えた。
「・・・・」
「あ・・みきたん、待ってよぅ」
だけど、みきたんはそんなあたしを見た後、何も言わずに部屋へと入っていく。
これもいつものことだから、あたしも気にせずにみきたんの後を追った。
「あ・・・今、ご飯温めるから・・」
「いいよ、そのままで」
「でも・・あ」
暖めようとお皿を取ろうとしたら、みきたんはそれを制してあたしが作った料理を食べ始めた。
- 356 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:50
-
「美味しい?」
「・・別に」
「・・・美味しくない?」
「・・別に」
「・・・・」
食べている間、話しかけるけど返ってくる返事は短い。
これじゃあ、話も出来ない。
これもいつものこと。
「・・・・」
・・全然、美味しそうには食べてくれない。
素っ気無い態度に、がっくりとしながらもあたしは負け時と、みきたんに話しかけていた。
- 357 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:51
-
話が弾まないまま、みきたんがご飯を食べ終えようとしていたのであたしはお茶を準備しようとして、席を立った。
「・・帰るの?」
「え・・?」
すると、黙々と食べていたみきたんがこっちを見ながら聞いてきた。
「・・あ、みきたんにお茶入れようと思って」
「・・・・」
急にこんなことを聞かれたあたしは、びっくりして立った席に座ってしまった。
でも、みきたんは一度あたしを見るとまた、ご飯を食べ始めた。
「・・・・」
・・そんなこと、今まで聞いたこともないのに。
突然のみきたんの問いかけに戸惑いながら、あたしはお茶を入れようともう一度立ち上がった。
- 358 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:51
-
「・・あんた、いつもミキが帰ってくるまで待ってるの?」
「え?」
食器を洗っていると、後ろから頭を拭きながらみきたんが聞いてきた。
・・・早いなぁ。あたしなんかお風呂入るのに1時間以上かかるのに。
そんなことを考えていると、みきたんが頭を拭きながらあたしの方を見ていた。
「・・今の聞いてた?」
「え・・?な、なんだっけ?」
「・・いや、別になんでも」
ぼーとしていたあたしに痺れを切らしたのか、みきたんはそれ以上何も聞かずにリビングの方へと行ってしまった。
- 359 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:52
-
「あ・・」
背を向けたみきたんに話を聞いていなかったあたしは自分自身を怒る。
馬鹿!せっかくみきたんから話かけてくれたのに・・
さっきから、上手くかみ合わないことにもどかしさを感じる。
・・・はぁ・・・何か、これ以上みきたんからは話掛けられそうにないし、そろそろ門限も近いから帰るしか・・・ないよねぇ。
リビングで本を読んでいるみきたんを見ながら、帰る準備をする。
- 360 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:53
-
「じゃあ、あたしそろそろ帰るね」
「・・・・」
何も言わないみきたんに帰ることを告げると、あたしは玄関へと向かった。
「・・あのさ」
「な、なに?」
靴も履き、あとは帰るだけとなったあたしの後ろからみきたんが声を掛ける。
そんなことにも、あたしの心はドキドキと揺れている。
「・・・・別に、待っていなくていいから」
「え?」
「ご飯、作ったらすぐに帰りなよ」
「あ・・でも」
「こんな時間まで待たれていたら、・・・・迷惑」
冷たい言葉があたしの心に突き刺さる。
- 361 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:53
-
「だから・・・」
「あ・・わかった。次からはそうするね」
「・・・・」
「じゃあ、あたし帰るね」
みきたんの顔も見ずに、部屋を飛び出した。
笑顔を向けるには、あまりにもきつい言葉だったから。
みきたんのマンションを出て、家までの道を走りぬける。
あたしの家は、ここから二十分も掛からないところにある。
そう、みきたんとはご近所さんみたいなもの。
だから、ホントは門限なんか気にしなくてもいい。
そんなことよりも、みきたんの側にもっといたい。
でも・・・
- 362 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:54
-
「・・・はぁ」
家に着いてから、部屋へと入るなりあたしは盛大なため息をついた。
部屋着に着替えようと、服を脱ごうとしたら首から提げていたものが引っかかってしまった。
その、首に下げているものを手に取る。
クサリに繋がれた、鍵。
みきたんの部屋の鍵。
「・・優しいのか残酷なのか分かんなくなったよ、みきたん・・」
手にあるそれを、そっと握りしめる。
手にあるそれは、みきたんから貰ったもの。
雨の日に。
ずぶ濡れでいたあたしに、みきたんがくれたもの。
- 363 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:55
-
みきたんに助けられた日。
あたしは、どうしてもお礼がしたいとみきたんの後をずっとついていた。
「・・・あのさ、いい加減しつこいんだけど」
「でも、あたしお礼がしたくて!」
「・・・そんなのはどうでもいいから」
「そんなわけにはいきません!」
「・・・・」
食い下がるあたしに、みきたんはうざそうに眉をしかめた。
「あの、・・じゃあ名前教えてくれませんか?」
「名前?」
「はい。朝比奈の生徒ですよね?あたしは一年の松浦亜弥といいます」
「・・・・」
「センパイの名前はなんて言うんですか?」
真っ直ぐに目を見ながら聞いてみる。
するとセンパイは諦めた、というような感じでため息をした。
- 364 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:56
-
「・・・ミキ」
「え・・?」
「藤本美貴」
「藤本・・美貴・・?」
「もういいよね。じゃあ」
「あ!」
あたしに名前だけいうと藤本センパイはあたしの前から足早と去っていった。
その後姿にあたしは大きな声をだした。
「藤本せんぱーい!絶対、助けたお礼はしますから!!」
周りが驚くほどの声を出しているのに、藤本センパイは聞こえていないように振り返りもせずに歩いて行った。
その次の日から、あたしのセンパイへのお礼合戦が始まった。
- 365 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:57
-
まず、センパイの情報を集め、何がお礼にいいか下調べ。
すると、センパイは一人暮らしであまり家事などはしないという情報を手に入れた。
あたしはすかさず、お弁当の差し入れを思いつく。
でも、お昼ご飯にと作った弁当を持ってセンパイのクラスへ行くけど姿が見えない。
センパイのクラスメイトに聞くと、普段は教室にいることは少ないらしくどこにいるかは不明だった。
そこで、次に考えたのが晩御飯の差し入れ。
一度、家に帰ってからおかずなどを作って(もちろんそれは母親が作ったものを)センパイの家まで持っていくこと。
家が自分家からそんなに遠くないから、親にも何も言われずにすむと、あたしはすぐさまそれを実行。
- 366 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:58
-
だけど最初の二、三回くらいはすごいウザがられた。
だって、学校ではセンパイは捕まることがないから家の前で待っていたんだけど、センパイはあたしの顔を見るなり無視してマンションに入っていこうとするし。
でも、あたしもそんなことくらいでは引き下がれないから強引に夕ご飯を持たせたりもした。
センパイも最初はウザそうにしていたけど、あたしの行動に根負けしたのか、夕ご飯を持っていっても何も言わずに受け取るようになっていた。しかも、ちゃっかりみきたんなんて呼ばせることにもオーケーをさせたりして。
そして、こんなやり取りが一ヶ月くらい続いたとき。
いつものようにみきたんの所まで夕ご飯を持っていこうとしたら、途中から雨が降り出した。
最悪と思いながら、夕飯が濡れないようみきたんのマンションまで急いだ。
濡れないよう持ってきたのはいいけど、当の本人はまだ帰ってなくてあたしはマンションの入り口で待ちぼうけ。
しかも、夕飯を濡れないようにしていたから逆にあたしがずぶ濡れになってしまった。
- 367 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:59
-
雨が降る中をまだかなぁって考えながらみきたんを待っていたら、あたしの目の前には、驚いた顔をしたみきたんが立っていた。
濡れているあたしの腕を強引に引っ張りながら、みきたんは部屋のなかへとあたしを連れ込んだ。
玄関で待てと言われて待っていると、みきたんが何も言わずにタオルを持ってきてあたしの頭に乗せてくれた。
「なんでそんなに濡れてまで待ってるの?」
「だ、だって、みきたんに夕飯を作って、・・それに持っていく途中で振ってきたから傘もなかったし・・」
「・・・・」
髪を拭いていると、みきたんがいつもよりは少し低めの声で聞いてきた。
その声にビクビクしながらあたしは理由を話す。
- 368 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 01:59
-
「・・・・」
「あ、の、みきたん、怒ってる?」
「・・・・どちらかというと、呆れてる」
「・・・ごめんなさい」
腕を組みながらあたしを見るみきたんに身を縮こませながら髪を拭く。
・・・うぅ、すごい呆れた目で見てくる。嫌われたかなぁ。
その視線に耐え切れなくて、あたしはみきたんの顔を見ずにガシガシと髪を拭く。
- 369 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 02:00
-
「あの、タオルありがとう!もう髪も乾いたから・・・みきたんに夕飯も渡せたし、あの、あたしもう行くね!」
「ちょっと・・」
貸してくれたタオルを渡し、足早にそこを立ち去ろうとするあたしの腕をみきたんが掴んだ。
「え?・・・あの、みきたん?」
「今日みたいなことがあったら、こっちも困る。だから、コレ持っていて」
「え?・・これって・・」
捕まれた腕から渡せられたものは、鍵だった。
- 370 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 02:00
-
「・・・この家の合鍵。ミキがいない時はこれで入ればいい」
「あの、それって、・・・」
「暗証番号は0226だから」
「みきたん、これって・・」
「その代わり、今までみたいに毎日ご飯とか作らなくていいから、・・・週一ぐらいでいいから。・・・作るのもミキの家にあるものを使えばいいから」
「・・・合鍵・・・」
「・・・今日みたいに雨の中待たれて風邪でも引かれたらこっちが困るから。・・・他にイミはない」
「・・・・」
戸惑っているあたしにみきたんは、どこか面倒くさそうに話す。
でも、あたしにはそんなみきたんの声なんて耳に入っていなくて、ただ渡された鍵をじっと見ていた。
渡された合鍵。
それからは、みきたんがいない時は鍵を使って部屋に入り、週に一度、夕飯を作るのがあたしの楽しみになっていった。
- 371 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 02:01
-
「・・・前よりは優しくなったと思うのに」
あの日以来、多少ではあるが、最近のみきたんはあたしのことをウザがることもなくなってきた。
それはみきたんがあたしのことを少しは気にしていることなんだと受け取っていた。
でも・・・
「・・・・まだ冷たいんだよねぇ」
鍵を天井にかざしながら呟く。
彼女の気持ちを知らないまま、お礼という建前を使ってあたしは彼女の側にいる。
そのことが、あたしにとってはどういう結果をもたらし、彼女にとってはどういう影響を与えているかなんて分からない。
「・・分かっているのは、あたしがみきたんを好きで離れられないってことだけ・・・」
かざした鍵を握り締めながら目を瞑る。
すると、五分もしないうちに眠気が襲う。きっと、いつもとは違うみきたんの態度に戸惑った緊張が一気に疲れに変わったからだろう。
あたしはこれ以上何も考えられなくて、眠気に逆らえずにそのまま意識を手放した。
- 372 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 02:02
-
「亜弥ちゃん次、移動教室だって。早く行こう」
「うん。今準備するから待ってて」
あれから、学校の中でみきたんに会うこともなく数日が経った。
みきたんの家に行くのは周一と決めているから、それ以外で会えるのはこの学校の中だけ。
だけどみきたんは、学校には来ているが授業にでていないのか、三年の教室を通ってもいつもいなかった。だからあたしも、あの日のことはあれ以来考えないようにしていた。
「亜弥ちゃん、早く!」
「ごめん、今行く!」
愛ちゃんに急かされながら、教科書を準備する。
移動教室は一年の校舎からは遠く、しかもその教科を教えている先生が性格最悪で、遅刻なんてしたら罰として課題を山のように出される。
入学したての時にそれを体験したあたしは、それ以来その教科が大嫌い。
でも、遅刻をするわけにはいかないからその授業には早めに教室を出るようにしている。
- 373 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 02:03
-
「はあ・・・疲れた」
「ほんと、何言ってたのかさっぱり」
遅刻せずにすんだはいいが嫌いな科目には変わりなく、お昼休み前の午前中の最後の授業は空腹に耐えながらの辛い授業だった。
「亜弥ちゃん、今日はどっち?」
「あたしはお弁当だよ。愛ちゃんは?」
「あたしは購買。じゃあ教室帰る前に購買に行っていい?」
「うん。なら、この裏庭から行こうよ。ここ近道だから」
「そうだね」
そう言って、あたしと愛ちゃんは裏庭へと抜ける道を歩いていた。
「あ・・・雨」
「ホントだ。・・・最悪。あたし傘持ってきてないよ」
「・・・天気予報で雨って言ってたよ?亜弥ちゃん見なかったの?」
「ホントに?・・・今日は遅刻しそうだったから見逃した」
裏庭へと抜ける道を歩いていると、薄暗い空から雨が振り出した。
放課後までには晴れるかな?
あたしはそう思いながら大粒の雨を振り出す空を見上げた。
- 374 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 02:04
-
「ねぇ亜弥ちゃん、今日の放課後さ・・」
「あ・・みきたんだ」
「は?藤本せんぱい?・・・どこ?」
「あそこ、校舎の階段下」
購買で愛ちゃんのお昼ご飯を買ったあたしたちは教室へ戻ろうともう一度あの裏庭を通った。
その時、三年生の校舎の階段下でみきたんを見つけた。
「愛ちゃん、ちょっと行ってくるね」
「え?ちょっ!待ってよ、あたしも行くってば!」
後ろから追ってくる愛ちゃんをほっといて、あたしはみきたんのもとへ一直線。
ちょうど、みきたんからあたしは見えていないようだ。
みきたんを驚かそうと考えたあたしは、ゆっくりとみきたんのほうへと近づいた。
- 375 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 02:04
-
「・・・」
よーし、気づいていない。えへへ、後ろから抱き付いて驚かしてやろう。
ゆっくりと足音を立てずにみきたんに近づく。
『あと数歩でみきたんに会える』
そう思ったときだった。
「・・・松浦のどこがいいの?」
「・・・え?」
乾いた声が響いたのは。
- 376 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 02:05
-
階段から聞こえてくる声。
聞き覚えがあった。
『・・・この声は・・・吉澤せんぱい?』
聞こえてきた声にあたしは足を止める。
「・・・どこがいいんだよ、あんなヤツ。みきには似合わないよ」
「・・・・」
「なんで一緒にいるんだよ」
冷めたい声。
その声はあたしを否定する言葉を発していた。
- 377 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 02:06
-
「ミキの事情なんて知らないくせに、ズケズケと入り込んできて・・・」
「・・・・」
「みきとは住む世界が違うってことを教えたら?」
「・・・・」
吉澤センパイの言葉の一つ一つがあたしを突き刺す。
・・・分かってはいた。あたしがしていることがどんなことかくらい。
でも、諦めることが出来なかった。
自分のことは何も語らないみきたんだけど、でもあたしに対する態度に優しさみたいなものを感じることがあって。
その度に惹かれていく自分を抑えることが出来なかった。
だから、みきたんから決定的な言葉を言われるまではって・・・理由をつけてはみきたんの側にいたかった。
「・・・・」
この場から早く立ち去りたいと心では思っているのに、あたしの足は凍りついたように動くことが出来なかった。
そんな時だった。
みきたんの言葉が聞こえてきたのは・・・
- 378 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 02:07
-
「・・・そう・・だね。・・・なんで一緒にいるのかな・・」
乾いた声があたしの中で響く。
何も・・・
否定されたあしたに対する言葉にではなく・・・
ただ漠然と疑問に感じている・・・
感情を読み取ることができない・・・
乾いた声(気持ち)
- 379 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 02:07
-
「・・・・」
「・・・あ・・亜弥ちゃん」
いつの間にか愛ちゃんがあたしの後ろにいて、呆然と立っているあたしに戸惑いがちな声をかける。
『・・・なんで一緒にいるのかな・・』
これがみきたんのあたしに対する気持ち。
何の感情もない、ただの疑問。
その言葉(気持ち)を聞いたときにあたしの足が動いた。
まったく、聞きたくないときには動けずにいた足は・・・
みきたんの言葉を聞いたと同時に動き出し・・・
「・・・亜弥ちゃん!?」
あたしは、雨が降りしきる中の校舎を飛び出した。
- 380 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 02:08
-
「・・・・」
降りしきる雨があたしの体を打ち続ける。
学校を飛び出したあたしは、行くあてなどなくただ走り続けた。
「・・・はぁ、はぁ、・・・みきたん」
気がつくとあたしはみきたんのマンションの前に立っていた。
雨に打たれながらマンションの部屋の前で立ちすくむ。
心の中は悲しみでいっぱいだった。
少しは期待をしていた。
彼女の態度に。
ひょっとしたら心を開いてくれるかもしれないと。
だけど結果は心を開くどころか、あたしの存在の軽さに気づかされただけ。
- 381 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/17(日) 02:09
-
「みきたん・・苦しいよ。・・・すごい苦しい」
こうなることは、分かっていたはずだ。結果のひとつとして。
なのに、彼女の態度の変化に期待をして。
「・・・・・」
胸元に手をあて、鍵を握り締める。
これが唯一、みきたんとあたしを繋げていたもの。
あたしはクサリに繋がれた鍵を首から外すと、ギュッと握り締めた。
「・・・みきたん」
鍵を口元に寄せ、想いを込めた言葉を吐き出す。
ずぶ濡れになった手から鍵を離すと冷たい音が耳の中へと響いた。
「・・・・ばいばい、みきたん」
大粒の雨と共に涙が一粒零れた。
- 382 名前:k 投稿日:2006/09/17(日) 02:11
-
前編、更新終了
どうにか整理される前に更新できましたw
気がつけば九月です。
三ヶ月近くも空くなんて・・・ 川_| ̄|○川
あやみきのユニット結成などテンション上げまくりの材料(モノ)は揃っているのにそれに乗りきれないほど書く体力が・・・w
340>>名無飼育さま
ついにキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
あやみきユニット。でも、まだちゃんと見ていない_| ̄|○
これで少しは書く気力も改善できるといいな。w
341>>名無飼育さま
ありがとうございます。
こんな駄文でも待っていてくれるとはありがたいです。
今回はちょっとだけシリアスっぽいですが、読んでくれたら嬉しいです。
後編は来週にでも上げたいと思います。
・・・それでは失礼します。
- 383 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/17(日) 17:59
- つづきすごい楽しみです。
- 384 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/20(水) 03:24
- あやみき待ってましたよ
今回はちょっと今までにない感じの始まりですね
今後にかなり期待しておりますので(笑)
- 385 名前:k 投稿日:2006/09/28(木) 23:31
-
後編、更新です。
- 386 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:32
-
午前中に薄暗い雨雲を作り出していた空は、大粒の雨を従えて地上へと降り注いだ。
「・・・・・」
ミキはあの子が走っていく姿を黙って見ていた。
「・・良かったじゃん、言う手間が省けて」
「・・・・」
隣にいたよっちゃんがミキに話掛けてくる。
・・・良かったのかな・・・・?
沸いてくる疑問を感じながらミキはあの子が走っていったほうをずっと見ていた。
- 387 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:33
-
「藤本せんぱい!」
突然、大きな声で呼ばれた。
振り向くと、知らない子がミキを睨んでいた。
「・・・どういうつもりですか?」
「・・なにが?」
「亜弥ちゃんを傷つけて、どういうつもりですか!!」
「・・・・」
・・・亜弥ちゃん。ということはあの子の友達か。
「おいおい。下級生にしては元気がいいねぇ」
ミキに対してものすごい剣幕で怒るこの子をだまって見ていると、後ろからよっちゃんが言葉を挟んだ。
- 388 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:34
-
「・・・何ですか?」
「ねえ、今の見ていた?ミキがはっきり言ったじゃん。どうも思っていないって。なのにあいつが勝手にミキの周りでウロチョロしてただけだろう?それを傷つけたとか・・」
「センパイには聞いてません。あたしは藤本センパイに話してるんです」
そう言うと、その子はよっちゃんを挑むように睨む。
そして、視線をもう一度ミキに戻した。
「亜弥ちゃんの気持ち、分かっていたならなんであんな曖昧な態度を取ったんですか?思ってもいないなら、思わせぶりな態度はやめてくれませんか?」
「・・・」
・・・思わせぶり。ミキはあの子に対してどういう態度を取っていたのだろう。
- 389 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:36
-
「亜弥ちゃんは、・・・本当の亜弥ちゃんはもっと表情が豊かな子なんです。バカっていうか、素直すぎて・・相手の言葉一つ、ひとつを信じて。だから、相手の言葉も態度もその通りに真に受けちゃうから。・・・・センパイが優しくすれば次の日はずっとニコニコしてるし・・ウザがられたら、こっちがイヤになるくらい落ち込んで・・・そんな子なんです。だけど、藤本せんぱいにあってからの亜弥ちゃんは!・・・」
「・・・・・・」
グッと唇を噛み、言葉を出すのを堪えている。
きっと、その次に続く言葉があまり良いものでもないからだろう。
「・・藤本センパイに助けられたときから、あの子はセンパイしか見ていなかった。センパイのウワサとか聞いても、全然信じなくて。ウワサされるのはセンパイが何も言わないからだって。きっと、センパイはそんなウワサとか信じない、・・・ウワサがあっても側にいてくれる人を探しているから何も言わないんだよって、だから、亜弥ちゃんはセンパイが何か言ってくるまでは絶対側を離れたくないって・・・・」
「・・・・・」
「亜弥ちゃんはあなたを見ようと一生懸命だったのに・・・なのに、そんな亜弥ちゃんを傷つけて・・・・」
涙を流しながら、その子はミキにあの子について語る。
- 390 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:37
-
「・・・本当の亜弥ちゃんは・・」
「・・・」
この子の言葉を聞きながら、あの子の表情を思い出す。
表情が豊か。
そういえば、ミキの言葉の一つ、ひとつに反応していたっけ。
ミキがウザそうにすると泣きそうな顔になっていた。
ミキが夕飯を食べる姿を嬉しそうに見ていた。
素っ気無い返事を返すミキの言葉にがっかりしているときもあった。
- 391 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:38
-
「あのさ、あまり話しを大きくしないでくれる?」
「よっちゃん?」
「・・・・・」
横にいたよっちゃんがミキの前に来て、この子との間に入る。
「せっかく、ウチがミキの気持ちをあの子に聞かせてあげたのに」
「・・・・どういうことですか?」
「だから、ウチは知っていて聞いたんだよ。あの子が側にいるのを。ミキの後ろにあの子が近づいているのが見えたから。だから、あんな質問したんだよ。ミキだって、最初ウザそうにしてたじゃん。なのに、いつからか、そんなことも言わなくなって。だからウチがあの子にミキの気持ちを聞かせてあげたわけ」
「・・・・・」
「・・よっちゃんはあの子が側にいるのを知っていたの?」
「そういうこと。ミキの気持ちを聞けば、あの子ももうミキには付きまとわないだろ?」
そう言って、よっちゃんは顔だけをミキに向けて話した。
「・・・・」
それを聞いたミキの中でザワザワとしたものが沸き起こった。
- 392 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:39
-
「だから、そっちもへんな言いがかりはつけないで・・」
「・・よっちゃん」
「なんだ・・!?」
吉澤の体が最後まで言葉を言うことなく壁のほうへと向かっていく。
その光景に愛は驚く。
美貴が吉澤を殴ったからだ。
「・・っ痛ぇな!何すんだよ美貴!」
「・・・何って、よっちゃんがしたことに対してムカついたから殴っただけだよ」
「ウチが何したって言うんだよ!」
立ち上がると、吉澤は美貴の前へと詰め寄る。
- 393 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:40
-
「あの子を故意に傷つけたから」
「はぁ!?イミわかんねぇよ!」
「さっきから二人だけで話ししているけど、ミキ、あの子のことどうでもいいなんて思ったことはない」
「え?」
その言葉に愛が美貴へと顔を向ける。
「確かに、なんで一緒にいるんだろうって思った。ただ気まぐれで助けただけなのに、お礼とか言ってずっと纏わりつくし。ウザいって思うときもあった」
「・・・・」
「でも、ミキのために一生懸命になるあの子をどうでもいいなんて思ったことは一度もない」
「・・・・・・」
「一度だってない」
力強い声で美貴は言葉を吐いていく。
- 394 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:41
-
「それって、亜弥ちゃんのことを好きだって解釈してもいいんですか?」
「・・・・」
「藤本せんぱい!」
愛がそうであってほしいという目で美貴を見つめる。
「・・・好き・・だと思う」
「思うって・・・」
確定的な言葉ではない美貴の返事に愛はがっくりと肩を落とす。
「まだ、よくは分からない。でも、さっき走って言ったあの子に聞かせてしまった言葉の誤解は説きたいと思っている」
「・・・・」
「そういうワケだからよっちゃん、ミキ今から学校抜けるから」
「・・・たくっ!そこまで分かっているなら好きって気づけよな!」
「・・・え?」
「あー・・痛ぇ。思いっきり殴りやがって」
頬をさすりながら吉澤がソッポを向く。
- 395 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:42
-
「よっちゃん、ひょっとしてワザと?」
「今頃気づくのかよ!?・・ほんっと、ミキってば鈍いな」
「・・・・」
「・・いい顔しすぎなんだよ、最近のミキは」
「え?」
「あの子と関わるようになってから、気づいてないかもしてないけど、ちょっとずつ変わってきてるんだよ。・・・・少なくとも、ウチは昔より今のミキのほうが好きだ」
「・・・だったらなんであの子を傷つけるような・・・」
「ミキが鈍いからだろ!自分でも少しずつ変わってきてるって分かってるくせに認めようとしないから」
「・・・・」
頬を擦りながら吉澤は話を続ける。
- 396 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:43
-
「鈍いミキに気づかせるには、あの子の協力が必要だったんだよ。・・・まぁ、あの子を思った以上に傷つけたのは悪いと思ったけど。・・・これで納得しただろ!早くあの子を追いかけに行けよ!」
「・・・・・ごめん、ありがとう」
美貴はそれだけ言うと雨の中を飛び出した。
残されたのは愛と吉澤の二人だけになった。
「・・・センパイ」
「なんだよ?」
「ウワサほど悪い人ではなかったんですね」
「・・なんだよ、ウワサを信じてたわけ?」
「あたしは亜弥ちゃんほど素直じゃないから」
「顔は可愛いのに、カワイクないね」
「・・・亜弥ちゃんにも言われます」
「はは」
「・・・・あの二人、上手くいくといいですね」
「大丈夫だろ」
残された二人は美貴が走っていった方向をずっと見ていた。
- 397 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:43
-
「ハァ・・ハァ・・」
雨の中を走っていったあの子を探すけど見つからない。
「・・はぁ・・・この雨だから遠くとかに行くはずはないけど。・・くそ、こんな大雨降ってたら探すにも・・・」
ずぶ濡れになりながら探すが、振り出した雨は時間とともに勢いを増し、視界さえよくならない。
このまま探してもしょうがないと思ったミキは、一度、家に戻って着替えてこようと思った。
「ひょっとしたら、家に帰っているかも・・着替えたら家に・・・」
着替えた後、もう一度あたりをよく探そうと思ったミキが部屋の前までくると誰かがいるのに気がついた。
「あれは・・・」
- 398 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:44
-
「・・ばいばい、みきたん」
あたしは鍵を部屋のノブへと掛けると、その場を去ろうとした。
「亜弥!」
「・・・え?」
聞きなれた声に振り返ろうとしたら突然、誰かに腕を捕まれた。
「や!?離し!・・・え?・・みきたん・・・?」
「やっと見つけた」
「どうして・・・」
「こんなに濡れて・・・体も冷たい。はやく着替えなきゃ!」
「え?ちょっ!?まっ・・」
みきたんはあたしの手を取ると自分の部屋へと向かう。
- 399 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:45
-
「今、お風呂を沸かすから」
「ちょっ!みきた・・」
「すぐに沸かすから!」
みきたんの部屋へと連れて行かれ、何も言う暇もなくバスルームへと押し込まれる。
「・・・なに?この展開」
あたしはみきたんにお別れをするために部屋の前にまで来ていたはず。
なのに、何故か今あたしはみきたんの部屋に上げられ、しかもバスルームに閉じ込められている。どうしてこんなことになっているのか考えていると、体を悪寒が襲った。
「・・・・とりあえず、言われたとおりお風呂に入ろう」
随分と雨に打たれていたせいで体の体温が思ったよりも下がっていたらしい。
とりあえず、あたしはみきたんの言われたとおりお風呂に入ろうと服を脱いだ。
- 400 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:46
-
「これ、タオルここにおいて置くか・・・」
「!!?」
服を脱ぎだしていると突然、ドアが開いた。
もちろん、開けたのはこの家の住人のみきたんなわけで。
「「・・・・」」
暫くの間、お互いを見つめる。
何秒くらい経ったのだろうか。先に声を出したのはみきたんからだった。
「・・・ああ、ごめん。これタオル置いておくから使っ・・」
「きゃー!!!みきたんのえっちぃ!ばかぁぁぁ!!!」
「・・・・」
みきたんの言葉と同時にあたしは持っていた服をみきたんに投げつけ、その場にしゃがみ込む。その後、しゃがみ込んでいるあたしの頭の上からドアが閉まる音が聞こえた。
顔を上げるとみきたんはいなかった。
「・・うそぅ・・・今の絶対見られたぁ・・もうヤダぁ・・」
しゃがみ込み、体を隠していたが上は完璧に脱いでいたわけだからつまり、胸は絶対に見られたわけで。そして、そんなみきたんの反応はすごい淡白な反応だったわけで。
みきたんの反応と見られたショックであたしは暫くその場を動けずにいた。
- 401 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:47
-
「・・・・」
そして部屋の持ち主である美貴はというと、バスルームの前でしゃがみこんでいた。
「・・・く・・・ふ・・あはははは」
ぼーとしていた美貴だが、頭に乗っている服をどかすと急に笑いがこみ上げてきた。
「あはは・・すっげー反応・・・くく」
バスルームにいる亜弥に聞こえないように美貴は笑いを堪える。
- 402 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:48
-
強引に亜弥を部屋に上げたものの、もしかしたら自分が着替えを取りに行っている間に出て行ったかもしれないと思って、タオルを口実にバスルームへと入っていったのだが・・・
「まさか、服を脱いでいるときだなんて・・」
ノックをするべきだったと反省をしながらも、そこに居た彼女の反応がいつもと変わらないことに少しだけホッとした。
「・・・寒い」
不意に襲う寒さ。
彼女のことばかり考えて自分も濡れていたことを忘れていた。
「・・・・とりあえず着替えるか」
亜弥が投げた服を見上げ、美貴は濡れた服を重く感じながら腰を上げた。
- 403 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:48
-
「・・・・」
お風呂で体を十分に温めたあたしはタオルを頭に乗せながら、みきたんがいるリビングへと入る。
体は温まったおかげで寒さから落ち着いたが、心はそうはいかない。
ソファに座って雑誌を読んでいるみきたんになんて声を掛けようかと考えていると、みきたんがあたしに気づいた。
「・・・早かったね。ちゃんと温まった?」
「・・・うん」
「服のサイズは合ってる?」
「うん、ありがとう。これ新しいヤツでしょ?」
「ああ、別にミキは着ないから。それより・・何か飲む?今、温かいものをいれるよ」
「・・・ありがとう」
「紅茶でいい?」
「・・うん」
雑誌を側に置き、キッチンへと向かいながらあたしに話しかけてくる。
普段の無口というか、あたしが話しかけても短い返事しか返さない彼女からは想像もつかないほど、今のみきたんはあたしに言葉を投げかけてくる。
そんなみきたんに戸惑いを感じながらキョロキョロと目線を泳がせていたら、あることに気がつく。
- 404 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:50
-
「あ!・・・そうだ、みきたんもお風呂入らなきゃ!」
「・・・ああ、大丈夫だよ」
「でも、あたしと一緒でずぶ濡れだったじゃない」
みきたんも雨でずぶ濡れだったことを思い出し、あたしはみきたんに詰め寄るように駆け寄り腕を取った。案の定、みきたんの手は雨のせいで体温がほとんど感じられないくらい冷たかった。
「大丈夫だって。服も着替えたし、髪もキッチンについている湯沸かし器で洗ったからそんなに寒くないし」
「駄目だよ!・・ほら、体がこんなに冷えてる!やっぱりお風呂でちゃんと温まって・・」
「大丈夫だよ」
「でも!」
「大丈夫」
詰め寄るあたしからみきたんがそっと離れる。
そして、あたしの顔をじっと見つめる。
「・・あんたが居れば、ミキは大丈夫だから」
- 405 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:51
-
「み、みきた・・」
「・・・・お湯・・沸いたみたい」
暫く見つめあっていた二人だけど、お湯が沸く音によってその時間は終る。
みきたんが紅茶を入れたカップを持ちながらこっちを振り向いた。
「・・・座ろうか?」
「・・うん」
ドキドキと胸の鼓動が止まらない。
みきたんの優しい眼差しに体が鼓動とともに熱くなっていく。
- 406 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:53
-
お互い、何も話さずに紅茶に口をつける。
その空気にあたしは緊張する。
「ミキの・・・ウワサを知ってる?」
「え?」
「・・・ウワサ」
緊張していたあたしをよそに、みきたんがこっちを見ながらおもむろに口を開く。
その口調と視線がどこか重く、思わず聞き返してしまった。
「みきたんの・・ウワサ・・」
「そう」
「あ・・えっと・・」
急なみきたんの問いになんて答えていいか分からない。
すると、みきたんはあたしのそんな表情を察してか、視線を窓のほうへと向けた。
- 407 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:53
-
「知っているだけでいいよ」
「あ・・・」
視線が窓に向いたことであたしの緊張が少しだけ和らぐ。
あたしを見た、みきたんの目。
あれはあたしも見たことがないほど、冷たかったから。
「その・・あたしも聞いただけだから本当か分からないけど」
「いいよ」
「あ・・じゃあ・・・あの、みきたんが学校始まって以来の問題児で、起した停学事件はいくつもあるけど、そんな人が退学にならないのは・・」
そこであたしは言葉を区切る。
たとえウワサだとしても本人を前にこんなことを言ってもいいのだろうかと、戸惑ってしまう。
- 408 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:54
-
「続きは?」
「え?・・・あ・・だから、みきたんが退学にならないのは・・」
「ならないのは・・?」
「みきたんが・・・その・・昔、人を傷つけたから・・・・って・・」
「・・・・」
その言葉にみきたんは視線をあたしのほうへと向けた。
「「・・・・・」」
視線をあたしのほうに戻したみきたんに、今度はあたしが俯いて視線を外す。
なんとなく、みきたんのあたしを見る目が気になってあわすことが出来なかったから。
- 409 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:54
-
みきたんが退学にならない理由(うわさ)。
いくつも停学事件を起しているとウワサされているみきたん。
でも、どんなに問題を起しても退学にはならない。
その理由はみきたんの昔にあるというのが、ウワサになっている。
昔、他校に絡まれたみきたんがキレてその場にいた全員を血の海にかえたとか・・・
それで、退学になりそうなときに自分は悪くないと、この学校の理事長をはじめ、校長先生たちの前で大暴れしたとか何とか・・・
それ以来、先生方もみきたんに対して厳しい処分は出来ずに退学ではなく、停学の形を取り続けているとか。
その昔に色々な説があってどれが本当か分からないし、もともとそんなものなんて無いのかも知れない。
でも、当の本人はそれについて何も言わず、かえってそれがウワサの信憑性を高くしている。
- 410 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:55
-
「そっか・・・」
「・・・・」
あたしの話を聞いたあと、みきたんはそれだけ呟いた。
その声にさっき聞いたような重さは無かった。でも、声に少しだけ寂しさのようなものが含んでいた気がして、あたしは視線をみきたんに戻す。
だけど、みきたんはまた窓のほうへと視線を向けていた。
「あ・・・でも、あたしはそんなウワサは全然、信じていなくて・・・ていうか、あたしから見るみきたんからはそういう・・ウワサされているようなこととか感じられないし・・それに・・何て言えばいいかわかんないけど・・」
「だったら、・・・どうする?」
「え?」
「今の話しが本当だったら・・・ミキから離れる?」
「・・・・」
「アンタも離れる?」
視線を窓へと戻したみきたんの表情があまりに寂しそうに見えたから、あたしはとっさに言葉を発したのだけど、みきたんからは冷たい声しか返ってこなかった。
- 411 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:55
-
「みきたん?」
「アンタもミキから離れる?」
「・・・あ」
窓から視線を外し、あたしのほうへとみきたんが顔を向ける。
「・・・・」
みきたんがあたしを見ている。
何も感じられないような目で。
さっき見せた優しい眼差しとは違う、冷たい目。
誰も受けつけない
寂しそうな目
- 412 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:56
-
どうして、そんな目で見るの?
あたしはさっきのみきたんのほうが好きなのに・・・
そう思って、ふと、何かが気になった。
あ・・れ・・・?
みきたん、『も?』って言った?
アンタもって・・・
- 413 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:57
-
みきたんの言葉を思い出す。
確かにみきたんは言った。
『アンタもミキから離れる?』
って・・・
それって・・・・
前にも誰かがみきたんから離れたってこと?
そう思ってみきたんの顔を見つめる。
「・・・・」
やっぱり何も感じないような表情で見ている。
でも、その表情がどこか試しているように見えて・・
ああ、そうか。きっと、あたしが受け入れるかどうか試しているんだ。
そう感じたら、何も映し出さない無感情な目をしたみきたんの顔が不安そうに見えてきた。
- 414 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:58
-
・・・そんな事しなくても、そんな風にあたしを見なくても、あたしはみきたんが好きなのに・・・
そう思ったら勝手に口が動いていた。
「みきたん、あたしね、バカなんだ」
「・・・・」
「バカだから、その人が何を考えて喋っているとか、裏の答えとかそんなの分かんなくてね。よく、友達からも言われたりしたんだ。あたしには人の心を考えることが出来ないって」
「・・・・・」
「でもさ、そんなこと言われてもあたしは超能力者なわけでもないし、その人が思っていることの反対のことを言われても分かんないわけ。あたしにはその人が言った言葉がすべてになるから。だから、中学のときとかはよくそれが原因でクラスから仲間外れみたいなこともあったんだ」
「・・・・」
勝手に話すあたしの言葉をみきたんは静かに聞いている。
- 415 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:58
-
「でね、そんなことがあってちょっと人間不信っていうのかな?そういうこと感じたら友達と距離を置くようになってね。そしたらあたしの周りには友達って呼べる人が居なくなってた」
「・・・・・」
「愛ちゃんが現れるまではね」
あたしの言葉にみきたんは眉をよせるけど、そんな表情を気にすることなくあたしは喋っていく。
「愛ちゃんってクラスが一緒のあたしの親友なんだけどね。その子がいつも一人のあたしに話しかけてくれたんだ。なんでいつも一人なの?って」
「・・・」
「別に隠しているわけでもないから正直に話したの。あたしは人の心が分からない人間だって。だからあたしは一人なのって」
「・・・それで?」
「そしたら愛ちゃんが大笑いしてね」
「・・・笑った?」
「うん、そう。もうクラス中に響きわたるくらい大声で。あれにはあたしもビックリしたけどね」
あたしはその時のことに思い出し笑いをする。
- 416 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/28(木) 23:59
-
「ひとしきり愛ちゃんが笑ったあとにね、すっごい事言ったんだ」
「・・・なんて言ったの?」
「バカじゃないの」
「・・・は?」
「だから、あたしに向かってバカじゃないのって。それも大声で」
「・・・・」
「そんなこと気にして友達作らないなんてアンタ、バカじゃないのって」
「・・・・・」
「あの言葉にはさすがにあたしも今まで言われた言葉の中で一番効いたなぁ」
あの時の愛ちゃんの顔を思い出して、笑いがさらにこみ上げてくる。
ほんとに、呆れたような。驚いたような顔で愛ちゃんが言った言葉。
「人の心なんて自分でも分からないときがあるのに、他人になんか、そう簡単に分かるわけないじゃん。そういう偉そうなことを言うやつには言わせておけばいいじゃんって」
「・・・」
あの時のことを思い出しながら愛ちゃんが言ったことをマネてみる。
- 417 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:00
-
「その人の口から出た言葉があんたにとっては本当のことなら、それはアンタが素直(ばか)だからだよ。一々、人が言ったことに対して裏があるなんて疑って考えるよりはよっぽどマシだよってね。・・・あたし、それを言われたとき恥ずかしいけど泣いちゃって。今までの人たちはそんなあたしの受け取りかたを否定してきたから、そのままのあたしでいいんだって、初めて思えるようになって。それからは愛ちゃんとはすぐに仲良しになったんだけどね」
「・・・・そっか」
「うん。愛ちゃんがいなかったらあたしはずっと自分の殻に閉じこもっていただろうし。だから、愛ちゃんはあたしにとってはかけがえのない親友」
「・・羨ましいね」
「うん、愛ちゃんとは何でも言い合える仲なんだ。あたしは人の心を読むのが下手だけど、愛ちゃんはその人のちょっとした表情とか観察するのが得意だから、すぐに見抜かれるの。だからあたしは愛ちゃんの前では隠さずに自分を見せてるんだぁ」
「・・・ああ、だから・・・」
みきたんは納得って顔で頷く。
あたしはそんな顔をしているみきたんの方へと歩み寄る。
- 418 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:01
-
そっと、みきたんの頬へと手を伸ばす。
「・・亜・・」
「だからみきたん・・試さなくても大丈夫だから」
「・・・・」
「みきたんのウワサが本当でもデタラメでも、あたしは、今、あたしの目の前にいるみきたんしか信じないし、好きじゃないから」
「・・・亜弥」
「みきたんが何を不安に思って、そんなことを言ったかなんて、あたしには分かんない。でもあたしには、みきたんの言葉をみきたんの本心だって信じることしか出来ないの。だから・・・お願いだから・・みきたんが傷ついてまで、人を・・・あたしまで・・」
見つめていたみきたんの顔がぼやけてくる。
何となく、みきたんの寂しそうな顔と冷たい声の意味が分かったような気がしたから。
きっと、みきたんは大事な人と離れてしまったんだ。
- 419 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:02
-
「・・・亜弥」
「・・・・・」
みきたんの頬へと置いた手に、みきたんが手を重ねる。
その手は冷たく、まるで今のみきたんのようだと思った。
「・・・あのウワサは・・半分はデタラメ・・・なんだ」
「・・・え?」
「・・・起こした停学事件ってやつが何なのかは分かんないけど、・・ケンカして停学になったこと・・は、確かにある。でも、ミキからは手を出したことはない」
「・・・・」
「目つきが悪いのは生まれつきだから、だからよく絡まれたりしてケンカになるけど、・・でも、自分から相手にケンカを売ったりしたことなんて一度も無い。それに校長たちの前で暴れたっていうやつも」
「・・・じゃあ、問題を起しても退学とかにならないのは・・・?」
「・・・・」
「みきたん?」
あたしの問いかけにみきたんは下を向く。
- 420 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:03
-
「・・・みきたん?」
「・・・」
あたしの呼びかけに顔を上げる。
「・・・退学にならないのは、ミキの親が権力ってものをもっている人たちだから」
「・・・けんりょ・・く?」
「まあ、大げさに言えば小さな国の王様くらいの権力があるかな」
「え?!」
「そっ。馬鹿に金と権力だけは持っている人がミキを生んだ両親(ひとたち)」
「・・・・」
そう言ってみきたんはまた俯いた。
- 421 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:04
-
「ミキが問題を起こしても退学にならないのは、この学校も、この街にあるのも全部、ミキの・・藤本家の人間が創ったものだから・・・だから、その家に生まれたミキが問題を起こしても何も問題にならないんだよ。・・・この街を創ったのがミキの家だから・・・」
「・・・そ、そんなにすごい家なんだ」
「・・・こっちはいい迷惑だけどね」
「・・じゃあ、みきたんのウワサって・・ご両親がその・・」
「・・・問題を揉み消していた・・・そういうこと・・になるかな」
「え・・なんで、・・なんで、それだけでみきたんのウワサがあんな大事に・・・」
あたしの疑問に俯いていた顔をあげみきたんは窓のほうへと視線を向ける。
その目はどこか遠くを見るように。
「昔、とても仲が良い子がいたんだ」
「・・・」
「梨華ちゃんって言うんだけど・・」
「・・・」
「ミキとよっちゃんと・・・梨華ちゃんはいつも一緒だった」
視線を窓へと向けながら、みきたんがぽつりぽつりと話し出す。
- 422 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:04
-
「ミキが中学のときだった」
「いつも通り、ミキとよっちゃんと・・・梨華ちゃんで・・・いつも通り家に帰ろうとしたんだ」
「よっちゃんと分かれ道で別れて・・・梨華ちゃんと家までの道を歩いていると、呼び止められて・・・」
「・・・呼び止めたのはミキの学校の先輩たちで・・・」
「ミキの顔が気に入らないって囲まれて」
「・・・・」
その時のことを思い出しているのか、みきたんは辛そうに顔を顰めた。
- 423 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:05
-
「気がついたら、梨華ちゃんが倒れていて・・・」
「ミキを庇おうとして・・・」
「ミキを庇った梨華ちゃんがケガをして・・・」
あたしの手に重ねていたみきたんの手に力が入る。
「梨華ちゃんのケガは大したことはなかったけど、問題が思った以上に大きくなって・・・」
「藤本の名が外にでるのを嫌がったミキの親が裏で手を回して・・・」
「・・・そして、梨華ちゃんはミキの前から居なくなったんだ」
- 424 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:06
-
「ふぅ・・・」
目を瞑り、みきたんが息を吐く。
「みきたん・・・その・・梨華さんは・・」
「・・・元気にしてるよ」
「え?」
「ケガも治って、元気にしているよ。ケガのあと、ミキの親から高額な迷惑料ってやつを貰っただろうし。ただ、ミキの前にはもう現れないっていうのが条件付きだったけど」
「・・・・」
「ほんと、普段はミキの側にいないくせに、こんな時だけ親面して金で解決して・・」
「・・・みきたん」
「周りの大人も金を貰ったら口を噤んで・・・誰も、梨華ちゃんのこと考えないで・・・誰も・・・」
「・・・みきたん」
「誰も・・・梨華ちゃんも・・・よっちゃんも・・・誰もミキを責めなかったんだ・・」
みきたんは手で顔を覆うとくぐもった声でそう言った。
- 425 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:07
-
「・・みきたん」
「・・・誰も・・・なんで・・どうして誰もミキを・・・」
「・・・・・」
みきたんの震える肩をそっと抱き寄せる。
目に入ったのは生活感がほとんど感じられない部屋。
こんなところで一人、みきたんは苦しんでいたんだ。
大切な友達が傷つけられ、そしていなくなった。
きっと誰でもいい。誰でもいいからみきたんを・・・ちゃんと向き合ってみきたんを見てくれる人がいたなら、みきたんもここまで自分を責めたりはしなかっただろう。
でも、現実はそうじゃなく。
みきたんを守ったつもりでいる大人たちの手で、みきたん自身を傷つけて、こんな何も、感じられないようなところでみきたんを一人にして。
そして、みきたんは・・・
ウワサで自分自身を傷つけて、肯定することも否定することもせずに、周りに誰も寄せ付けずに独りで苦しんで。
そして自分自身を責め続けた。
- 426 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:07
-
「みきたん、もういいから。もう自分自身を責めたりしなくていいから・・・あたしが側にいるから。何があっても離れたりしないから・・」
「・・・・・」
「だから、あたしを信じて。ウワサや冷たい言葉で人を試したりしないで。そんなことしてもみきたん自身が傷つくだけだよ。あたしはそんなみきたんなんて見たくないよ」
「・・・亜弥」
体を離し、みきたんを見る。
目には涙を溜め泣くのを堪えている。
「えへへ、みきたんの泣き顔、初めて見ちゃった」
「・・・・」
「ね、みきたん。少しキッチン借りるね?今からあたしがとびっきり美味しいもの作ってあげるから」
「・・あ・・」
そう言ってみきたんから離れようとしたあたしの手をみきたんが掴んだ。
- 427 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:08
-
「・・・みきたん?」
「・・・もう少しだけでいいから、その・・・」
顔を赤らめ、言いにくそうにみきたんは俯く。
「・・その、もう少しだけ抱きしめていて・・欲しい」
「・・わかった」
みきたんの言葉にあたしはすぐに、元の位置に戻ってみきたんを抱きしめる。
「・・・亜弥」
「・・ん?・・なに?」
「ごめん」
「え?」
暫く、抱き合っているとみきたんが小さな声であたしを呼んだ。
- 428 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:09
-
「・・・ごめんって、何が?」
「・・・傷つけるつもりで言ったわけじゃなかった」
「・・・え?」
「居るなんて知らなかったんだ」
「・・・」
みきたんの言っていることが分かり、あたしは黙る。
そうだ。あたしはみきたんに言われたんだ。
『何で一緒にいるんだろう』
「・・・・」
あの時の言葉を思い出し、胸がチクリと痛む。
- 429 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:09
-
「あの時は本当に分からなかった。亜弥と一緒にいる自分が・・でも、その言葉を聞いた亜弥が泣きそうな顔をしているのを見て、胸の中の何かが痛くて・・・でも、それが何なのか分からなくて・・」
「だ、大丈夫!」
「・・え?」
「大丈夫!あたし、気にしてないから!あ・・じゃなくてみきたんは気にしなくていいから!」
「・・・・」
あたしは咄嗟に大きな声を出して、みきたんの言葉を遮った。
「だって、あれがみきたんの気持ちなわけだし・・だからみきたんが謝る理由なんてないし・・・えへへ、そんなみきたんが気にすることないから。ね!」
「・・・・」
あのことを謝ろうとするみきたんに、あたしは上手く笑えていただろうか?
そんなことを気にしながらみきたんの顔を見ると、眉をよせすごい怪訝そうな顔をしていた。
- 430 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:10
-
「・・・みきたん?」
「・・・」
怪訝そうな顔をしたと思ったら今度は口をへの字に曲げてなんだか、ムッとした表情になった。
「・・あの・・みきた・・」
「・・・なんでそんなこと言うんだよ」
「・・・え?」
「泣きながら言われても説得力ないし」
「え?・・・あれ?」
みきたんに言われて顔に手をあてると、そこには涙を流した自分がいた。
「ミキには自分自身を傷つけるなとか言うくせに・・」
「・・あ・・」
「ムカつく」
「え?」
「そんな風に言う亜弥にムカつく。・・・・そして、あんたをそんな風に泣かした自分がすごいムカつく」
「・・・あ」
「すごい・・・ムカつく」
顔に当てていた手を取られ、みきたんのほうへと引き寄せられる。
耳元で聞いたみきたんの声は今まで聞いたことが無いくらい悔しそうな声だった。
- 431 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:11
-
「亜弥が聞いたやつ、訂正してもいい?」
「え?」
「・・・『 なんで一緒にいるんだろう 』ってやつから・・・側にいて欲しいってやつに」
「・・・・・」
みきたんの言葉の意味が分からず、あたしはみきたんに抱きしめられたまま固まる。
「・・・・」
「・・・ねえ?・・今の聞いてた?」
「・・・もう一回、言って」
「・・・」
「もう一度・・・」
もう一度、言って欲しい。
その言葉があたしの聞き間違いじゃないことを・・・だからもう一度、言って欲しい。
- 432 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:12
-
「・・・もう一度だけじゃなく、何回だって言うよ。・・・あんたに・・・亜弥に側にいて欲しい。ずっと側に・・ミキの隣で笑っていてほしい」
服の袖を握り締めていたあたしに、みきたんは何度も言う。
「・・・あたしでいいの?」
「亜弥でなきゃ・・イヤだ」
「ホントに?」
「ホントに」
「ホントにホント?」
「・・・しつこい。何度も同じこと言わせるな」
「だって・・・・うれし・・だも・・」
「・・・泣くなよ・・」
聞き間違いじゃない言葉に、あたしの目からはポロポロと涙が零れてくる。
そんなあたしをみきたんは優しく微笑みながら見ている。
「 好きだよ 」
- 433 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:13
-
お昼前に真っ黒な雨雲に覆われていた空は、勢いを衰えさせることなく激しい雨を降らせていた。
けれど、みきたんとあたしがいる部屋はそんな雨さえも気にならないほど穏やかな空気が包んでいた。
「・・・みきたん」
「ん?」
「・・・えへへ」
「・・・・」
場所はリビングからみきたんの部屋。
あたしとみきたんはベッドで抱き合っていた。
みきたんがあたしに告白したあと、あたしも好きだと言って抱き合っていたらお互い気持ちが昂ぶってというか、・・・まあ、つまりはそういうこと。
みきたんに優しく抱かれながらあたしは、今までの想いを感じていた。
- 434 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:13
-
「・・みきたん?」
「・・・ん・・・」
「眠たい?」
「・・いや、大丈夫」
「いいよ。寝ていても。夕飯の時間になったら起してあげるから」
「・・・ん・・いい・・」
ベッドの中で二人まどろんでいるとみきたんが小さく欠伸をした。
あたしは眠いのかと思って、みきたんに寝る様に言ったんだけど、みきたんは何故かそれを渋っている。
「みきたん?」
「・・・一人になりたくない」
「・・え?」
「・・起きたときに隣に亜弥がいないのは・・・イヤだ」
「・・・・」
少し、眠気眼でみきたんが言う。
その幼い表情にあたしの顔は火がついたように熱くなる。
- 435 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:14
-
・・・みきたん・・・可愛すぎる。
自分でもすごく顔が赤くなっているのが分かる。
散々、ツン、ツンしているみきたんを見てきたのに、いきなりこんな風に言われたら赤くなるしかない。
もう、どのくらいの可愛さかと言えば、例えば、近所にいる可愛がっているノラ猫が普段は見向きもしないのに、病気とかで普段は聞かせないような甘い声をだすような。
やっと、手から餌さを受け取ったと思ったら、体を摺り寄せて甘えたりとか。
とにかく、今のみきたんはとても無防備にあたしに寄りかかっていて、そんなことをされたあたしの心臓はバクバク状態のなにものでもない。
- 436 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:15
-
「・・み、みきたん!」
その可愛さにあたしは耐え切れずにみきたんに抱きつく。
「・・・・あ・・れ・・?」
「・・・・・」
てっきり、みきたんも抱き返してくると思ったのに、何故かその手はベッドに沈んだまま。
そっと、みきたんを見てみると静かに寝息を立てて、眠っていた。
「・・・・あ・・はは・・・・はぁ・・」
焦った先の一人相撲にあたしは苦笑いを零す。
「・・・・」
「・・・可愛すぎるよ、みきたん」
散々、人を萌えまくらせておいて、可愛い寝顔を見せる愛しい人の髪をそっと撫でる。
- 437 名前:GIMME ALL OF YOUR LOVE !! 投稿日:2006/09/29(金) 00:17
-
「みきたん、これからはあたしが側にいるから。不安にならなくても大丈夫だからね」
「・・・ん・・」
「ふふ・・可愛い」
髪を撫でていると、くすぐったいのかみきたんは体をあたしのほうへと寄せてきた。
その体をそっと抱き寄せ、寝ているみきたんには聞こえないくらい小さな声で囁く。
「みきたん、愛してる。・・・ずっと側にいてあげるね」
そう言ってあたしは目を閉じる。
聞こえてきたのは、まだ止まずに降り続いている雨音と、みきたんの気持ち良さそうな寝息だけだった。
END
- 438 名前:k 投稿日:2006/09/29(金) 00:20
-
後半、更新終了
・・・・川_| ̄|○川・・・何も言えません。
話を詰めすぎた_| ̄|○
突っ込みどころ満載ですが、スルーしてください・゚・(ノД`)・゚・。
最初はGAMのツンデレのように、藤本さんを素っ気無くさせて後半は甘えさせようと思ったのに、前半にシリアスっぽく書いたのがいけなかったのか、元に戻せないまま、ワケが分からないオチになってしまった。
383>>名無飼育さま
ごめんなさい。
楽しみにしていたのに続きがこんなで、本当に申し訳ないです。
384>>名無飼育さま
今までにない感じ・・・
それがいけなかったのか、後半はもうズタボロです。それでも読んでくれたら嬉しいです。
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 439 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/29(金) 03:49
-
更新お疲れさまです
感動しました
みきたんもつらかったでしょうね
幸せになれてよかったです
この二人はいつまでも幸せに暮らせそうなきがします
今までとは少し違うタイプのお話でしたが今回もすばらしかったです
次回作も期待して待っております
- 440 名前:k 投稿日:2006/10/07(土) 18:34
-
更新です。
- 441 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:35
-
「・・・あ」
ふと、読んでいた雑誌の手を止める。
青い空に大きな白い雲。
その青大な世界の光を一身に受けているものは・・・海。
- 442 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:36
-
白い浜辺に透きとおるほどの青い海の中に立っている一人の女性。
「・・・・」
懐かしい面影
決して忘れることなどできない
あたしが心から愛した・・・
- 443 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:37
-
「・・・みきたん」
もう呼ぶことなどないと思っていた名前。
その言葉を呼ぶと同時に思い出される懐かしい日々。
- 444 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:38
-
「・・・綺麗な手」
太陽の光を一身に集め、届くはずのない空へと手を伸ばす。
その姿は彼女自身を現すようにとても綺麗で・・・
「・・・・」
今はもう繋ぐことなどない手を見つめる。
- 445 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:39
-
「綺麗になったね、みきたん」
ゆっくりと彼女の写真を指でなぞる。
「・・・」
気づかなかった。
彼女が待っていてくれていたことに。
気づくこともなく
その手を離した。
- 446 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:39
-
時が・・・
もし、時が二人を・・・
もしも時が二人をあの日に・・・・
あの初めて出会ったころと同じ日のように・・・
時が導いてくれるのなら・・・・
- 447 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:40
-
「今さらそんなこと考えるなんて・・・バカだね。気づかずにその手を離したのはあたしなのに・・・」
隣にいることが当たり前で、その意味など考えさえもしなかった。
『亜弥ちゃん』
『なに?』
『どんなことでもいいから、ミキにだけは話してね』
『・・え?』
『待っているから』
いつか言ったあなたの言葉。
その意味を今頃になって気づくなんて。
- 448 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:41
-
色々な仕事をこなすたびに増えていく回りからの期待
そんなことを感じていたあの頃は色々なことが煩わしくて思えて
様々な環境の変化に流されるように仕事だけをこなしていた。
『ハロープロジェクトの解散』
時代に沿って大きくなったものもいつかは終わりが来る。
そこに残るものや去っていくもの。
あたしは去ることを決めた。
あれほどあたしの言葉を待っていたあなたに何の相談もなしに・・・
- 449 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:42
-
『亜弥ちゃんにとっては、もうこの世界に・・・歌には興味がないの?』
『・・・だって、もう決めたことだから。解散になればあたしもこの業界から抜けようって』
『・・・・・』
『何か、何もかもやり尽くしたって感じかな?ゴールしたって気分』
『・・・・・』
『みきたんも、もちろんあたしと一緒だよね?』
『・・・ミキは・・』
「・・・・」
読んでいた雑誌を閉じる。
日焼け予防の薄手の長シャツを羽織って出かける準備をする。
- 450 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:43
-
エンジン音を聞きながら海への道へと車を走らせる。
不意に海が見たくなった。
彼女との終わりを告げた、夏の終わりの海を。
『残るって本当なの?』
『・・・・うん』
『どうしてっ!・・あたしや、みきたんが知っている人たちは殆ど居なくなるのに・・・どうして残るの!?そうまでして、この世界にいる意味はないでしょ!?』
『・・・・・』
『どうして』
『・・それは・・』
夏の終わりに二人で出かけた海で打ち明けられたあの言葉。
- 451 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:44
-
『ミキにとってはそこがスタートだからだよ。亜弥ちゃんには・・終わりだったとしても』
泣きそうな顔をしながらあなたが言った言葉。その意味は・・・
「・・・・・結構、風が強いなぁ」
潮風に打たれながら海を眺める。
夏の日差しを殆ど感じることはなく、だけどまだ夏だと思わせる海をみながらあたしはあなたを思い出す。
『もう二度と会わないでおこう』
『・・・分かった。じゃあ、さよならだね』
『・・・亜弥ちゃん』
涙を流しながらあなたが伝えた言葉。
- 452 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:45
-
「・・・何も言えなかった」
すれ違いが続くなかで彼女が出した答えに。
この世界に残る彼女を応援してあげることも、後を追って残ることも出来なかったあたしは、彼女のその言葉を受け入れ、何も言わなかった。
「・・・愛してるから」
すれ違いながらも・・・まだ愛していたから
だから、彼女の言葉を受け入れ、別れるのが彼女への愛し方だと勘違いしていた。
- 453 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:46
-
「きがつけば・・そばに・・あなたが・・いた・・・」
昔だした自分の歌をうたってみる。
側にはいつもあなたがいた。
空気のように
水のように
それは本当に当たり前のように・・・
「・・・みきたん、静かな波だよ」
静かな波の音
頬に流れるのは今さらながらの後悔の涙
- 454 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:46
-
あなたが言った言葉の意味
『ミキにとってはそこがスタートだからだよ。亜弥ちゃんには・・終わりだったとしても』
それはあなたの夢のはなし。
一緒だったころによく話してくれていたあなたの夢。
『自分が立っている場所が常にスタート地点なんだよ』
自分の可能性を信じてどこまでも続く終わりのない道を走り抜けたいといったあなたの夢。
それをあたしは背中を向けて聞いていた。
ごめんね
あなたがどんな顔をして話していたかなんて知らなくて
- 455 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:47
-
『待っているから』
そう言った彼女の言葉。
それはどんなあたしでも受け入れるからという彼女からの愛情表現(あいのことば)。
この世界から離れても、たとえ会う回数が減っても、あたしを愛し続けるという意味を込めて言ってくれたみきたんの気持ち。
それをあたしは気づくこともなく、もう会わないと言った彼女の言葉を・・・気持ちの裏を・・・読み取ることもせずにその手を離した。
- 456 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/07(土) 18:48
-
「・・・好きだよ、みきたん。今でも・・・・愛してる」
誰も居ない海に小さく呟く。
もう届くことのない、伝わらない言葉。
「・・・さよなら・・・・ずっと愛してるからね」
波の音を聞きながら、もう居ない彼女の背中へと投げかける。
見上げた空は夏を終える涼しげな夕焼けが広がっていた。
END
- 457 名前:k 投稿日:2006/10/07(土) 18:49
-
更新、終了。
ちょっと、季節柄のものが書きたくなって、書いてみました。
っていうか、今頃かよ!っていうツッコミは無しでw
439>>名無飼育さま
ありがとうございます。
あんな詰め込みすぎの話に少しでも感動してくれるなんて・゚・(ノД`)・゚・。
こんな駄文ですがこれからも読んでくれると嬉しいです。
・・・それでは今回はこれで失礼します。
- 458 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/08(日) 02:54
- 切ないですね
でもすごく素敵な作品でした
次回も期待してまっております
- 459 名前:k 投稿日:2006/10/08(日) 23:55
-
更新です。
- 460 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/08(日) 23:56
-
「・・・言うのが遅いよ。そんでもって、気づくのも遅すぎ」
「・・・・」
きっと涙を流しているだろう彼女を後ろからそっと抱きしめる。
何も答えず、後ろを振り向くこともしない彼女は何故、ミキがここにいるのか分からずに混乱してるだろう。
- 461 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/08(日) 23:57
-
一ヶ月前に撮影のためにこの海へと訪れた。
この海が、あまりにもあの子と来ていた海に似ているものだから・・・
仕事場からも近いということで、いつも仕事が終ればここに夕日を眺めに来ていた。
そこにまさか彼女が来るなんて思いもしないで。
「・・・亜弥・・ちゃん?」
見間違いかと思った。
堤防に座りながら海を見ている彼女の後ろ姿を。
でも間違えるはずは無かった。
あんなに愛して・・・いや、今でも愛している彼女の姿を。
- 462 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/08(日) 23:58
-
日がそろそろ傾き始めた海で
どこか、寂しさを感じさせる背中をみながらミキは一歩ずつあの子へと近づく。
「・・・亜弥ちゃん。・・・・亜弥・・」
自分から離れたくせに、言葉にした名前には愛情が篭っていて・・・
今さらながら、自分が言った彼女へのさよならの言葉が後悔しか生んでいないことを思い知らされる。
- 463 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/08(日) 23:58
-
ハロプロの解散。
その中で残るものと去るもの。
ミキは残ることに決めた。
それは、自分の夢のため。
『自分の可能性を信じてどこまでも続く終わりのない道を走り抜けたい』
いつか君に話したことのある夢。
でもその時の君はミキに背を向けていたっけ。
あの頃の二人は周りの環境の変化にすれ違いが多くて・・
でもミキは信じていた。
すれ違っても二人の気持ち変わることは無いと。
- 464 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/08(日) 23:59
-
『待ってるから』
この世界でもう会うことはなくても、どんな亜弥ちゃんでもずっと愛しているから。
そういう意味を込めて伝えた言葉。
『もう二度と会わないでおこう』
伝えた言葉に彼女の気持ちが変わらないことを信じて言ってしまった言葉。
亜弥ちゃんならその言葉を受け入れるはずがないと。
でもそれは、すれ違っていた二人にはきっかけを与えてしまう言葉で。
『・・・分かった。じゃあ、さよならだね』
『・・・亜弥ちゃん』
だから、伝えた言葉に頷く彼女の瞳の奥の決心に気づきもしなかった。
- 465 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/08(日) 23:59
-
「ミキの言葉を受け入れるのが、あの時の亜弥ちゃんにとっては精一杯のミキへの愛し方だったのに・・・」
別れた後に気づいても、もう後戻りなんて出来なかった。
それからは仕事に没頭した。
時折君を思い出しながら。
でも、不意に考えるときがある。
- 466 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/09(月) 00:00
-
時が・・・
もし、時が二人を・・・
もしも時が二人をあの日に・・・・
あの初めて出会ったころと同じ日のように・・・
時が導いてくれるのなら・・・・
- 467 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/09(月) 00:00
-
「もし、偶然でも亜弥ちゃんに会うことが出来たら・・・」
言ってしまった言葉を取り消し、彼女をこの腕に抱きしめたい。
そう考えながら君のことばかり考えていた。
でもそれは自分勝手な想い。
自分からきっかけを作り、離れてしまった自分が考えるにはあまりにも勝手すぎる想い。
- 468 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/09(月) 00:01
-
「だから、今日でさよならしようと思ったのに・・・」
いつも立ち寄ったこの海で。
もう来ないでおこうと。
自分勝手な想いを断ち切ろうと。
もう会うことのない彼女の背中にさよならしようと誓ったのに・・
そう思っていたのにまさか君が居るなんて。
- 469 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/09(月) 00:02
-
後ろにミキが居る事も知らずに亜弥ちゃんは海に話しかける。
「・・・・何も言えなかった・・・愛してるから」
分かっていたよ。あれが亜弥ちゃんなりの愛し方だって。・・・気づくのが遅かったけど。
「・・・好きだよみきたん。今でも・・・・愛してる」
ミキもだよ。今でも変わらず愛してる。
「・・・さよなら・・・・ずっと愛してるからね」
そんなこと言わないでよ。
ずっと愛してるなら。
- 470 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/09(月) 00:02
-
彼女の姿が
声が
変わらずにミキを愛し続けてくれていたことに嬉しさを感じて
ミキはたまらず、彼女を抱きしめた。
「・・・な・・・なんで・・」
「・・・愛してる」
「・・どうして・・・だって・・・」
「愛してる」
「・・・・」
突然現れたミキに
その言葉に
彼女から吐き出される言葉には戸惑いしか感じられない。
- 471 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/09(月) 00:03
-
抱きしめていた腕を解き、彼女の前へと移動する。
「亜弥ちゃん」
「・・・・」
「偶然だね」
「・・・そ・・うだね」
ウソばっか。
すごい運命感じてるくせに。
「亜弥ちゃん、そこは運命って言わなきゃ」
「・・・・」
涙を流しながらミキを見ている。
ごめん、意地悪なこと言って。
- 472 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/09(月) 00:03
-
「亜弥ちゃん」
「・・・・」
「好きだよ」
「みきた・・・」
「だから、もう一度やり直そう?」
「でも・・・あたしは・・」
「後悔してるでしょ?ミキと別れて」
「・・・・・」
眉を下げミキを見る亜弥ちゃん。
さっきから意地悪なことしか言ってないな。
- 473 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/09(月) 00:04
-
「ごめん、意地悪な言い方して。でもそれはミキも一緒だから」
「え?」
「後悔してる。亜弥ちゃんにもう会わないなんていったことを」
「・・・・・」
「すれ違っても気持ちが変わっていないと思ってたから、だからあの時、亜弥ちゃんがミキの言葉を受け入れるなんて考えもしなかった。あれが・・・亜弥ちゃんにとってのミキへの精一杯の愛し方だったのに・・・」
「みきたん」
「あー・・もう泣かないで?それより、亜弥ちゃんの気持ちを聞かせてほしい」
ポロポロと零す彼女の涙を指ですくう。
その仕草に想いを込めながら。
彼女も同じ想いと信じながら。
- 474 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/09(月) 00:05
-
「あたしも・・・みきたんとやり直したい。ずっと、みきたんの側にいたい。もう、片時も離れるなんて考えられない」
「・・・・・はぁ・・・・・良かった」
「みきたん、ごめんね。ちゃんと向き合わなくて・・ごめんね」
「うん・・・もういい。今の亜弥ちゃんの言葉が聞けたから・・・もういい。昔のことなんて・・・・・もういいや」
彼女を胸元で抱きしめ、首筋に顔を埋める。
思いっきり吸い込むと、懐かしい・・変わらない匂いが鼻をくすぐった。
「ミキにとってはそこがスタートだからだよ。亜弥ちゃんには・・終わりだったとしても」
「・・・・みき・・たん?」
「あの時はああ言ったけど、今はこう言いたい」
「・・・・」
「過去の二人はここで終って、これからの二人はここから・・・スタートしよう」
抱きしめながら今、感じている気持ちを彼女に伝える。
- 475 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/09(月) 00:05
-
「・・・・・」
「亜弥ちゃん?」
「・・・・」
「・・あの、いい・・かな?」
「・・・・」
何も答えない亜弥ちゃんに不安になって顔を覗き込む。
そこには、目を瞑りながらもウンウンと頷く亜弥ちゃんがいた。
「・・・良かった」
頷く亜弥ちゃんに安心して、空をみる。
空は薄暗さを増し、夕日が海の中へと消えていく。
- 476 名前:何も言えなくて・・・夏 投稿日:2006/10/09(月) 00:06
-
『 』
沈む夕日にさよならと小さな声で告げる。
何も言えなかった
何も伝えることが出来なかった
あの頃の夏の二人の背中を思い出しながら・・
さよならを告げた海からは波の音しか聞こえなかった。
短い・・・
もう終ろうとしている・・
短い夏の波音しか
聞こえてこなかった
END
- 477 名前:k 投稿日:2006/10/09(月) 00:08
-
藤本さん視点、更新、終了。
次は藤本さん視点ということを予告していなかったw
最初は松浦さんだけにしようかと思ったけど、それじゃあ物足りなかったので藤本さん視点を付け足しました。
458>>名無飼育さま
ありがとうございます。
最近は切ない系も書いてみよう思ってPCに向かうんですが中々、難しくw
そんな駄文たちですが次回も読んでくれたら嬉しいです。
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 478 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/09(月) 02:43
-
こうなることを望んでいたのでよかったです
本当によかった
やっぱこの二人はこうじゃなくちゃ
切ない中に暖かさを感じました
すばらしかったです
次回も期待してまっております
- 479 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/14(木) 03:26
- 更新待ってます
- 480 名前:K 投稿日:2007/01/13(土) 07:04
-
更新、です。
- 481 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:06
-
寝癖を隠すための帽子をかぶって、
極端な寒がりを防ぐためについ最近買ったジャケットを羽織る。
右手には
片道分だけの電車の切符
「・・・よし」
準備を済ませると玄関のドアを開け外へと飛び出した。
『 僕が一番欲しかったもの 』
- 482 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:06
-
「う・・・寒い」
外は思っていた以上に寒く思わず身震いをした。
買ったばかりのジャケットに両手を突っ込んで寒さを我慢する。
「あ!みきたんどこ行くの!?」
「・・・ちっ、見つかった」
後ろから呼ばれた声に足を止める。
振り向かなくても分かる声。
会いたくない人物に見つかってしまい美貴は小さく舌打ちをした。
「ねえ、みきたんってば!」
「・・・んな大きい声出さなくても聞こえてるよ」
軽くため息をついてから自分の名前を呼んだ人物のほうへと振り返る。
振り返ったそこには、ニコニコ顔の彼女。
- 483 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:07
-
「どっか行くの?」
「・・・ちょっとそこまで」
「ちょっとって、どこまで?」
「・・・亜弥ちゃんの知らないとこ」
単調的な会話をして話を広げないようにする。
「だからどこに行くの?」
「だから亜弥ちゃんが知らないところって言ってんじゃん」
しつこく聞いてくる彼女に少しウザったそうに返す。
「むぅ・・教えてくれてもいいでしょ!みきたんのケチ」
「ケチで結構」
「あっ、その言い方ムカつく!」
「別にいいよ」
「むぅ」
素っ気ない態度を取るミキに彼女、亜弥ちゃんは顔を膨らます。
だけどミキはそれを気にすることなく彼女の言葉を流す。
- 484 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:08
-
「もういい?」
「あっ、みきたん!」
膨れる亜弥ちゃんを置いて駅へと向かう。
そんなミキの後を亜弥ちゃんがついてくる。
「・・・何でついてくんの?」
「あたしもこっちに用があるんですぅ」
「・・・も?」
その言葉に亜弥ちゃんのほうを改めてみる。
いつもよりは少しだけ大人びた格好の亜弥ちゃん。
どうやらミキと同じように亜弥ちゃんもどこかに行くようだ。
「・・亜弥ちゃんも出かけるんだ?」
「そうだよ。だからみきたんにどこに行くの?って聞いたのに・・
もし行く方向が同じなら途中まで一緒に行こうと思って。なのにみきたんは・・」
さっきのことを思いだしてか、亜弥ちゃんがミキのことを睨む。
睨まれたミキは目線を遠くのほうへと向けた。
「ああ、それは悪かった。ごめん」
「・・・ちょっと、本気で思ってないでしょ」
「うん」
「もう!」
「・・痛い」
普通はそう思っても言わなきゃいいのに、正直者のミキはついウンと頷いてしまった。
おかげで頭を叩かれた。
- 485 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:08
-
「・・・痛いよ、亜弥ちゃん」
「ふん!みきたんが悪いんでしょ!」
ツンと顔を背けた彼女を横目にミキは叩かれたところを押さえる。
そして、彼女からは見えないようにため息をつく。
『・・・はぁ・・だから亜弥ちゃんには会いたくないんだよ・・』
彼女とは家が隣同士の幼馴染。
生まれたときから一緒の彼女はミキにとっては妹のような存在。
「みきたん、これ持って」
「・・・なんで?」
「重いから」
「・・・・」
・・・じゃなくて、ただ単に家が隣同士の我がままなお嬢さまだ。
- 486 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:09
-
さして重くもない鞄を強引に渡される、っていうか持たされる。
「・・・・」
別に懐かれるのは嫌じゃない。
彼女とは生まれたときから一緒だし、妹のような存在には変わりない。
けど・・・
「・・・・」
亜弥ちゃんの鞄を見ながら思う。
『・・・ミキ、何で亜弥ちゃんのカバンを持ってんの? 』
この我侭はどうにかして欲しいとたまに思う。
- 487 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:10
-
駅までの道を亜弥ちゃんと二人歩く。
ミキが寒さに耐えていると亜弥ちゃんはまたしつこくミキに聞いてきた。
「ねえ、みきたんはどこにいくの?」
「はあ?・・・さっきも言ったじゃん。亜弥ちゃんの知らないところって」
「だから教えてよ」
「・・・・・」
「教えてよう」
「・・・・・」
「みきたんってばぁ」
「・・・・・」
「おーしーえーてー」
「・・・はぁ・・」
ミキが黙って無視していると、亜弥ちゃんはミキの横で子どものように駄々をこね始めた。
相変わらずの我がままっぷりに、ミキはとうとう観念した。
「・・・決まってない」
「え?」
「だから、行き先は決まってない」
「えー!?」
ミキの言葉に亜弥ちゃんが驚く。
そんなにビックリすることかな?行き先を決めていないのって。
驚く亜弥ちゃんを見ると、自分の頬に両手を当てて大げさにびっくりしていた。
- 488 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:11
-
「・・・なに?」
「決めてないの?」
「うん」
「買い物にいくとか、目的があってでかけるんじゃないの?」
「うん」
「・・・うそでしょう?」
「なんでミキが亜弥ちゃんにウソつくのさ」
「だって・・」
「だって、・・なに?」
ミキの言葉に納得しない亜弥ちゃんを見て、不満な顔をする。
けど、亜弥ちゃんはそんなミキにお構いなしに驚いた顔をしながらミキに言った。
「だって、みきたんすごい寒がりじゃん!理由がないと出かけようとはしないじゃん!
ましてや、こんな寒い日に理由なしにみきたんが出かけるなんて絶対にありえない!」
「・・・・」
・・・おいおい、確かにミキは寒がりだけどさ・・そこまで否定せんでも。
でっかい声で力説する亜弥ちゃんに心の中で突っ込んでいると、亜弥ちゃんは急に泣きそうな顔になった。
- 489 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:11
-
「・・・みきたん!」
「な、なに!?」
急にそんな顔をされたミキはすごく焦った。
何故かは分からないがミキは昔から亜弥ちゃんの泣き顔に弱い。
だから、亜弥ちゃんが泣きそうになるといつも焦ってしまう。
「・・・ほんとに、どこ行くの?」
「・・・」
今にも泣きそうな顔は、まるで一人で初めてお留守番をする子どものように、不安な顔で・・
その顔をみたミキは心の中でひとつ、ため息を落とした。
・・・はぁ・・・別にいいか。言っても
大げさにため息をついて、ミキは今日あった出来事を話した。
- 490 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:12
-
「今日の占いでさ・・」
「占い?」
「そっ、朝のニュースの終わりぐらいにするやつ。知らない?」
「さあ?」
「・・・・ま、その占いで言っていたんだけどね」
「うん」
「・・・『 今日のあなたは色々なものを拾います。そして、探していたものを見つけるでしょう。それはあなたが一番欲しかったものです 』・・・て、占いで言ってたわけ」
「へえ?・・・それで?」
「それだけ。だからミキは今、その拾いものを探しに出かけてる途中。分かった?」
「えぇぇ!!?それだけでこの寒いなかでかけるわけ?」
「そう」
「・・・・信じられない」
ミキの出かける理由に亜弥ちゃんが心底、呆れた顔をしている。
- 491 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:13
-
「ほんとにそれだけの理由で出かけるの?」
「そう。あ、でもあと一つある」
「なに?」
「これ」
そう言って、ミキはポケットからあるものを見せた。
「・・・なにこれ?切符?」
「そう、回数券。あの占い見た後に見つけた」
「・・あれ?・・でも切符の行き先って、この近くのじゃないよ?」
「うん、だから電車でその街まで行ってみようかなって」
「・・・これを見つけたから出かけるわけ?」
「まあ・・・それにこの切符の有効期限見てよ。今日までだよ」
「そう・・みたいだけど・・・」
「すごい偶然でしょ?それに、ミキも今日はなんかいつもと違う感じがしてさ。だから、あてもなく出かけてみようかなって思ったわけ」
「・・・・」
そう言うミキに、まだ納得がいかないのか亜弥ちゃんは黙って切符を見ている。
- 492 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:13
-
「・・・なら、いいや」
「亜弥ちゃん?」
「みきたんが休日にどっか行くのってすごい久しぶりだから、ちょっと気になって」
「はあ・・・?」
どこか、スッキリしない顔で亜弥ちゃんがミキに切符を返す。
ミキはそんな亜弥ちゃんに首を傾けながらもそれを受け取った。
「ねえみきたん、手繋ごう?」
「・・・なんで?」
「いいじゃん、繋ごうよ」
「・・やだ」
「なぁんでぇ!?」
「寒いから」
「・・・・」
彼女が口を尖らせ睨んでくるがそれも無視してミキはポケットに切符を突っ込んで、そのまま歩く。
・・・だって、繋ぐ理由なんてないし。
- 493 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:14
-
「みきたんのケチ」
「ケチでいいよ」
「むぅ」
さっきと同じようなやり取りをしながらミキは歩く速度を速めた。
「あ、みきたん待ってよ」
早歩きになったミキの後を亜弥ちゃんも足早についてくる。
その姿に、ピヨピヨと親鳥の後をついてくヒヨコみたいだとミキは思った。
- 494 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:15
-
亜弥ちゃんにミキの出かける理由を話してから、駅までの道を歩く。
そして歩きながらふと気づく。
『そういや亜弥ちゃんと二人で歩くのって久しぶりかも』
そう思いながら彼女のほうを見ると何故か嬉しそうにしている。
「・・・嬉しそうだね」
「えー?」
「なんか良いことでもあった?」
「みきたんと一緒に歩いてる!」
「・・それって良いことなの?」
「もちろん!だってみきたんと一緒なんて久しぶりだし。しかも二人で!」
「・・・・」
亜弥ちゃんは嬉しそうにミキのほうを見る。
その顔を見て、懐かれているんだと再自覚。
そう思ったミキは少しだけ歩く速さを落とした。
- 495 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:16
-
「そんなに喜ぶことなの?」
「喜ぶことなの!だって最近のみきたんって、全然あたしに構ってくれないじゃん!」
「・・・・」
亜弥ちゃんはニコニコ顔から一転。口を尖らせて剥れた。
そんな亜弥ちゃんを見てミキは、
『・・・アヒルみたいな口だな』
などと考えていた。
「なーんでたんは最近あたしに冷たいのさ!?」
「なんでって、それは・・・」
・・・なんでだろう?
亜弥ちゃんの言葉に考え込む。
別にケンカしたわけでもないし、亜弥ちゃんのこと嫌いになったわけでもない。
けれど、亜弥ちゃんに会うことをなるべく避けているのは自分でも分かる。
どうしてだろうと、頭の中で理由を探すと思い当たるのがひとつだけ出てきた。
- 496 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:16
-
「なんでって、それは・・」
「それは?」
「邪魔しちゃ悪いかなと」
「は?」
「いや、亜弥ちゃんの邪魔をね?しちゃ悪いかな?と・・」
唯一、思いあたる理由を疑問系で答える。
そんなミキに亜弥ちゃんは納得していない顔をする。
「あたしの邪魔って?」
「いや、だから亜弥ちゃんと亜弥ちゃんの彼氏の」
「・・・・何それ」
「いや、言葉のとおりだと思うけど?」
またもや疑問系。
まあ自分でもよく分かってないからこういう言い方しか出来ないのだけど。
そんなミキに亜弥ちゃんは眉間にシワ(本人に言ったら殺されるな)を寄せながらムッとしている。
- 497 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:17
-
「つまりみきたんは彼氏とあたしの邪魔をしたくないからあたしに冷たいわけ?」
「・・・まあ、そういうこと」
「なにその理由」
「いや十分な理由だと思うけど?」
亜弥ちゃんには最近から付き合いだした彼氏がいる(らしい)。
本人の話ではラブラブだと言う。
そんな二人の邪魔はしちゃいけない。
これって、十分な理由でしょ?
そう思って答えたはずなのに亜弥ちゃんはますます不機嫌になっていく。
「・・・なんで亜弥ちゃん、機嫌が悪いの?」
「別に機嫌なんて悪くないもん」
「そう?じゃあミキの勘違いなんだね。眉間にシワが寄っている様に見えるのも」
そう言って、亜弥ちゃんのオデコを指差すとその手を叩かれた。
「亜弥ちゃん、痛いよ」
「余計なこと言うみきたんが悪い」
キッと睨む亜弥ちゃん。
またもや正直者のミキは亜弥ちゃんの地雷を踏んで自爆。
いい加減、この正直者の癖をどうにかしなきゃと思いながら叩かれたところを擦る。
- 498 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:17
-
歩きながら亜弥ちゃんを見る。
口を尖らせアヒル顔。
・・・どうやらまだ怒っているようだ。
ハァと軽いため息をつきながらさてどうしようかと考えていると、目の前に赤い物体。
「・・・風船だ・・」
ポツリと呟いた先には木の枝に引っかかっている赤い風船。
枝に絡まり、フワフワと浮いている。
「あっ風船だ」
亜弥ちゃんも気づいて声を出す。
ミキはなんとなしに紐を枝から外してその風船を拾う。
- 499 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:18
-
「どこかから飛んできたのかな」
「・・・だね」
赤く目立つ風船は住宅街を抜け出し駅までの間は道路と外観を良くするために植えられた
街路樹しかない道にはとても違和感があった。
「みきたんが欲しがっていた拾いものってコレのこと?」
「・・・まさか」
「でも、みきたんこれ拾ってどうするの?」
「んー?・・・」
いつの間に機嫌が直ったのか、亜弥ちゃんがミキの右手に繋がっている風船を指して言う。
「どうしようかな」
「って、考えなしに拾ったわけ?」
「でも珍しくない?風船の拾い物なんて」
「そうだけど・・・」
「なら、深く考えないでおこうよ。風船なんて子供のころ以来だし。なんかこういう拾い物って嬉しくない?」
「・・・子供だねぇ」
呆れる亜弥ちゃんを他所にミキは風船を持ちながら歩き出した。
- 500 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:19
-
風船を拾って歩いていると何処かから視線を感じる。
ふと、視線を感じて後ろを振り返ると小さな男の子が立っていた。
「みきたん、どうしたの?」
「いや・・」
急に立ち止まったミキに亜弥ちゃんが声をかけるけどミキは空返事を返す。
立ち止まって振り返った男の子と目が合うが慌てて逸らされる。
恥ずかしくて逸らしたというより急に振り返ったミキに驚いた感じだ。
「みきたん?」
「・・・」
呼び止める亜弥の声も聞かずに美貴はその男の子のほうへと歩いていく。
「ねえ?」
「!!」
ミキが声をかけると男の子はとてもビックリした顔をした。
- 501 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:20
-
「ねえ?君さっきからミキたちの後をついてくるけど何か用なの?」
「・・・」
ミキのその言葉にその男の子は恥ずかしそうに下を向いた。
「・・・ん」
「え?」
俯きながら男の子は小さな声で呟く。
「その風船見ていた」
「風船?」
コクンと頷く男の子が指した先にはミキが拾った赤い風船。
「ひょっとしてこの風船が欲しいの?」
「・・・・」
男の子は恥ずかしそうに頷く。
「そっかー。でもお姉ちゃんもこの風船気に入ったしなぁ」
「・・・・」
ミキの言葉に眉を八の字にして男の子はションボリとする。
「・・・理由を教えてくれたらあげてもいいよ」
「ホント!?」
「う、うん」
ミキの意地悪な質問に男の子は目を輝かせて顔をあげる。
その純真無垢のような顔に意地悪な質問をした自分の中で罪悪感が芽生えてきた。
でも、いまさら今のはウソですなんて、ホントに意地悪な人にはなりたくないので
取り合えず、その男の子に理由を聞いてみる。
- 502 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:21
-
「じゃあ教えて?何でそんなにこの風船が欲しいの?」
「・・が・・」
「え?」
「エリにあげたくて・・・」
「エリ?」
コクンと頷く男の子。
頬はちょっとだけ赤くなっている。
その顔でミキはピンときた。
「なーるほど。その子が好きなんだ?」
「!!」
ミキの言葉に顔を真っ赤にする。
なるほどね、そういうことか。
男の子は真っ赤なまま下に俯いたまま足をもじもじとさせている。
- 503 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:21
-
「ほら」
俯いたままの男の子に風船を差し出す。
男の子は顔を上げるとミキと風船を交互に見だした。
「エリちゃんにプレゼントするんでしょ?」
「う、うん!ありがとう!」
「がんばれよー」
「まかせてー」
「あはは」
ミキから風船を受け取った男の子は嬉しそうに走っていった。
その後ろ姿をミキは笑いながら見ていた。
「みきたん」
「んー?」
「いいの?」
「何が?」
「みきたん、風船拾って嬉しそうだったじゃん」
「・・・まあ、たしかに惜しいような気もするけどね。でもいいんじゃない?
だってあの風船をミキより欲しがっていたのはあのコなんだし、それに・・」
男の子が走り去った後、亜弥ちゃんがミキの横に並んでそんなことを聞いてきた。
惜しくないといえば少しウソだけど、でもあの男の子の本当に欲しそうな目を見たら
その風船がミキのものではないような気がして、だからあげてもいいかなと思った。
「あの男の子は欲しがる理由をちゃんと持っていると思ったから」
- 504 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:22
-
男の子が走り去った道をじっと見ていたら亜弥ちゃんがミキの服の袖を掴んできた。
「・・・みきたん」
「ん?なに?」
「・・・・・」
ミキの服を掴んで離さない亜弥ちゃんへと顔を向けるとそこには黙ったままミキの顔を見つめる亜弥ちゃん。
「亜弥ちゃん?」
「いっこだけ・・聞いてもいい?」
「・・・なに?」
見つめる亜弥ちゃんから目を逸らすことが出来ない。
だって、亜弥ちゃんが真剣な顔で見つめるから。
「みきたんには欲しいものってあるの?」
「え?」
真剣な顔で聞くから何かと思えば・・・
「亜弥ちゃん、言っている意味が分からないんですけど」
「質問のとおりだよ?」
「質問のって・・・」
ミキがワケわかんないって顔をしているのに亜弥ちゃんは相変わらずミキを見たまま。
- 505 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:22
-
「みきたんって、昔からそうだよね」
「・・なにが?」
亜弥ちゃんの言っている意味が分かんなくて少しだけイライラする。
「自分か先に手に入れたくせに、欲しい人がいたらあげちゃうじゃん」
「・・・・」
「さっきの風船とかもそうだけど」
「・・・・」
「みきたんには誰にもあげたくないくらい欲しいものとかってないの?」
「・・・あるよ?だけど・・」
「だけど、みき以外に欲しがる人がいるから?」
ミキの言葉を遮って亜弥ちゃんが言葉を繋ぐ。
「あやちゃ・・」
「あの時もみきたん、そう言ったよね?」
強い眼差しをミキに向ける亜弥ちゃん。
ねえ亜弥ちゃん?何が言いたいの?
- 506 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:23
-
お互い見つめあう。
左、右、と交互へとだしていた足も止まる。
「亜弥ちゃん?」
「あの時も、・・紺ちゃんのときも・・石川さんのときも・・みきたんはそう言った」
「・・・・」
「紺ちゃんはごっちんが必要だから・・・石川さんには吉澤さんが必要だからって・・・
自分の好きな人が他の人にとられるのに・・みきたんはそう言った」
「・・・・」
「なんで?二人ともみきたんにとっては大事な人だったんでしょ?なのに、何でそう言って諦めることが出来るの?」
「・・・・」
亜弥ちゃんの言葉にミキは何も返せずにいた。
まさか、亜弥ちゃんからそんなことを聞かれるなんて思いもしなかったし、それにそのこと自体をミキは考えないようにしていたから。
- 507 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:23
-
紺ちゃんと梨華ちゃん。
ミキが好きだった人。
とても大切にしていた。
でも、二人ともミキの前からいなくなった。
「亜弥ちゃん、なんで今頃そんなこと聞くわけ?」
少しだけ言葉に強みを入れる。
まるで自分が隠していたモノを引っ張り出されて怒っている子どものように。
少しだけ言葉に力を入れた。
だけど、亜弥ちゃんはそんなミキの言葉に臆することなくミキの目を見据えて口をひらく。
- 508 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:24
-
「別に今頃じゃないよ。前から思っていたことだし」
「前からって・・」
「それにみきたん、ただ『別れた』の一言だけ言って、あたしに詳しいこと教えてくれないじゃん」
「だからそれは・・・」
思い出したくないだけで・・
「辛いくせに、あたしには大丈夫だよってそれだけ言って・・・」
それはミキが辛そうにすると亜弥ちゃんが泣きそうな顔するから・・
「あたしがみきたんを心配するのがそんなにイヤなの?」
「い、イヤとかそういうんじゃなくて・・」
「じゃあ、何であたしには何も言ってくれないの?」
「・・・・」
まさか、亜弥ちゃんからそんなことを言われるとは思ってなかったミキは亜弥ちゃんのその言葉に固まってしまった。
- 509 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:24
-
「みきたん?」
「・・・え?」
固まってしまったミキに亜弥ちゃんが顔を覗き込む。
その動作でハッと気づいて後ろへと顔を引く。
「・・みきたん・・・」
「え?・・あ、ごめん」
「・・・・」
ミキの行動に亜弥ちゃんは一瞬、寂しそうな表情を浮かべた。
その顔にミキの心音が跳ね上がる。
「あの・・いまのは・・」
「もういいよ」
「え?」
「言いたくないなら、いいよ」
「亜弥ちゃん・・」
亜弥ちゃんの言葉に少しだけ寂しくなる。
別に隠しているわけじゃなくて、言いにくいだけで・・
なのに亜弥ちゃんは何も言わないミキを心配している。
その亜弥ちゃんの気持ちに申し訳なさが出てきた。
- 510 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:25
-
「亜弥ちゃん・・」
「・・・」
亜弥ちゃんがミキの前を歩き出す。ミキは慌てて後を追った。
「亜弥ちゃん、紺ちゃんと梨華ちゃんのことは・・」
「もういいってば」
「ちょっ、待ってよ!・・・ちゃんと話すから」
足を速めて歩き出す亜弥ちゃんの腕を掴んでミキは彼女を引き止めた。
「・・・・ほんとに?」
「うん、話すから・・」
亜弥ちゃんは、ミキの言葉にゆっくりとこっちを向いた。
- 511 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:25
-
「ミキが話さなかったのは、亜弥ちゃんが泣くから」
「え・・?・・あたし?」
「別れたことを亜弥ちゃんに話したら、亜弥ちゃんが泣くから・・ミキは亜弥ちゃんが泣くのだけは見たくないんだよ。でも、亜弥ちゃんは優しいから・・・・泣けないミキの代わりに亜弥ちゃんは泣いてくれるから、・・・だから、亜弥ちゃんには二人と別れたときのことは話さなかったんだよ」
掴んでいた腕を離し、ミキは彼女から視線を逸らした。
すると、今度は亜弥ちゃんのほうからミキの手を握ってきた。
「・・それって、あたしには心配かけたくなかったってこと?」
「・・・そうだよ」
「あたしが泣くから?」
「・・そうだよ」
ひとつ、ひとつ確かめるように亜弥ちゃんが聞いてくる。
- 512 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:26
-
「・・・それだけ?」
「は?」
「ほんとにあたしに泣かれたくないから?それだけが理由であたしには、何も言わないの?」
「・・・他に何かあるの?」
亜弥ちゃんの言葉に怪訝そうに返す。
他に理由があるのか?亜弥ちゃんに言えない理由なんて・・・
亜弥ちゃんの言っていることがよく分からなくて、ミキは亜弥ちゃんをじっと見つめた。
「・・あやちゃ・・」
「・・・何でもない」
「え?・・亜弥ちゃん?」
亜弥ちゃんはミキから手を離すとそのまま先を歩いた。
ワケが分からないミキは亜弥ちゃんの後ろ姿を不思議そうに見ているしかなかった。
- 513 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:26
-
「そういや、亜弥ちゃんはどこ行くの?」
「え?」
「いや、そんな格好しているってことは彼氏とデートっていうのは分かるけど、どこ行くのかなって」
「・・気になる?」
「別に。ただ聞いただけ」
「・・・・」
さっきから亜弥ちゃんばかりミキに聞いてくるから、ミキからも聞き返したけど、何故か亜弥ちゃんがムッとしている。
・・・・なんか、今日の亜弥ちゃんは怒ってばかりだな。
口に出さずに、亜弥ちゃんを見ていると亜弥ちゃんが勝ち誇ったような顔をした。
「そうだよ。これから彼氏とデートです!みきたんと違って、すっごい優しいだから!」
「へー、良かったね」
「・・・それに、なんでもあたしの言うこと聞いてくれるし!」
「いや、ミキも亜弥ちゃんのワガママに付き合わされているけど?」
「そ、それに、みきたんなんかより全然、カッコいいだから!」
「いや、ミキと比べたら彼氏に失礼だよ。一応、ミキ女だし」
「・・・・・」
亜弥ちゃんが言ってくる言葉を次々と返していく。
そのたびに亜弥ちゃんは、何だか機嫌が悪くなっているような・・・・?
- 514 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:26
-
「みきたんの・・・みきたんなんか・・」
「ん?亜弥ちゃんどしたの?」
顔を俯かせてふるふると震えている亜弥ちゃんの顔を覗き込もうとしたら、亜弥ちゃんが顔をあげた。
「みきたんなんか、大嫌い!!」
「わ!?」
顔をあげたと思ったら、目の前で大きな声で叫ばれた。
びっくりして亜弥ちゃんを見ようとしたら、ものすごい速さで走っていった。
「な・・・何だったんだ?」
走る亜弥ちゃんをミキは呆然と見ているしか出来なかった。
- 515 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:27
-
「なんで亜弥ちゃんは急に怒ったんだろう?」
ひとり、さっきのことを思い出しては考えるが思いつかない。
「どうせ、駅まで一緒なんだから走っていかなくてもいいのに」
さっさと一人で行った亜弥ちゃんに、やっぱりミキは疑問におもいながらも歩き出した。
「・・・何か気持ちがスッキリしたな」
亜弥ちゃんに気持ちを打ち明けてから、喉に痞えていたものが取れたようにミキの心が軽くなった。
- 516 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:27
-
「・・・意外に亜弥ちゃんって、ミキにとって癒し系なのかな?」
あんなに考えないようにしていた二人のことを話しただけで、ここまで気持ちが軽くなるなんて思っていなかったミキは亜弥ちゃんのことを考えた。
そういや、ああ見えて亜弥ちゃんって三人姉妹の一番上だから結構しっかりはしているんだよね。・・・ミキに対してはなぜか、すごいワガママを言ってくるけど。
亜弥ちゃんのミキに対するワガママはキリがない。だから、ミキはその都度亜弥ちゃんから逃げ回っていたりするんだけど・・・
「・・・でも、いつも捕まるんだよなぁ」
どこにいても、必ずといっていいほど亜弥ちゃんはミキの側にいた。
- 517 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:28
-
駅前につくと、ポケットから切符をだす。
これから行くところにミキが探していたものが見つかるかもしれないと思うと、妙に緊張していた。
・・・朝の占いを真に受けるなんて・・・それに、なにを探しているかも分からないくせに
目的もないままの探し物に苦笑いをする。
「・・・そういや、亜弥ちゃんはどこにいるんだろう」
ミキの前からものすごい速さで去っていった彼女。
駅までは一緒と言っていたのでまだ近くにいるかもしれないと彼女を探す。
「・・・あ、亜弥ちゃん」
見つけた彼女は少しだけ遠くにいて
その側には帽子を目深に被っている男のヒトがいた。
- 518 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:28
-
「・・・・・」
何か、楽しい会話でもしているのか亜弥ちゃんはずっと笑顔を絶やさないまま話をしている。その顔に何か違和感を覚えた。
・・・ああ、そうか。いつもの亜弥ちゃんの顔だ。
違和感の元が分かり、ミキは納得した。
亜弥ちゃんがいつもミキといる時と同じような顔をしているからだ。
違和感の元が何なのか分かり、納得したミキだけど今度は疑問が浮かび上がってきた。
・・・何かムカムカする
浮かび上がっている疑問は、今感じている感情論について。
- 519 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:29
-
「・・・何だろう?・・・この気持ち」
亜弥ちゃんが彼氏(初めて見るけど多分、そうだろう)と仲良くるのはいいことじゃないか。妹のような存在の亜弥ちゃんが幸せなら、ミキとしても嬉しい。
それなのに、大事なものを取られたような悔しさが沸き起こるのはどうしてだろう?
「・・・・・あ・・・そうか・・・」
沸き起こる感情。
それに戸惑いながらミキは腕組して考えていると、ヒョッコリと答えが顔をだした。
『・・・美貴さんの側には・・・・あたしが居なくても・・・大丈夫・・』
『・・美貴ちゃんには・・・あの子が・・・』
不意に思い出す、梨華ちゃんと紺ちゃんに言われた言葉。
- 520 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:29
-
『・・・・あたしなんかより・・あの子のほうが・・・』
『・・・・気づいてないんですね?・・・美貴さんの心の中にいる人を・・・』
二人に別れを告げた時に言われた言葉が頭の中で蘇る。
あの時は二人の幸せを願っていたから、言われた言葉の意味なんて考えたことがなかった。
「・・・ひょっとして、ミキが探していたものって・・・コレ?」
沸き起こった疑問に、あっさりと出てくる答え(きもち)
その答えに少々戸惑う。
「・・・・マジかよ」
見つめる先は楽しそうに話をしている彼女。
- 521 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:30
-
「・・・あー・・・でもコレって認めるしか・・ないか」
沸き起こってくる気持ち
戸惑う疑問
だけど、その答えに納得をしている自分
『・・誰にもあげたくないくらい欲しいものとかってないの?』
真剣に聞いてきた彼女の顔を思い出す。
「・・・どうやら、ミキにもあったみたいだね。誰にもあげたくないものが」
探し続けたものが何なのか分かり、自然と笑みがこぼれる。
- 522 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:31
-
「・・・さて、探し物も見つかったし、・・・帰るか」
見つけたなら、出かける必要はない。
踵を返して、来た道を戻ろうと思いながらも、もう一度だけ振り返って彼女の方を見てみる。
「・・・・占い通り、探し物が見つかったのは嬉しいことだけど、こっちに気づかずに楽しそうにしているのはさすがにムカつくな。・・・そうだ・・」
コッチに気づかない亜弥を見て、美貴は何かを思いついたようにニヤリと笑った。
そして、ゆっくりと彼女のほうへ歩み寄っていく。
「・・・亜弥ちゃん」
近くまでくると彼女の名前を呼んだ。
- 523 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:31
-
「え?・・・あ・・みきたん」
「ちょっといいかな?」
「へ?・・いいけど・・・?」
話していた彼氏に一言だけ言ってこっちに向かってくる亜弥ちゃん。
その時、その彼氏がミキのほうを見た。
・・・うわ・・綺麗な顔してるなぁ・・・
目深に被った帽子から少しだけ覗いて見える顔立ちに思わず感想を述べてしまった。
目が合ったので軽くお辞儀をすると相手も返した。
・・・亜弥ちゃんって結構、面食いなんだ。・・・これは少しミキには分が悪いかも。
近づいてくる彼女を見ながらそんなことを思った。
「なに?」
「あ・・・うん。ミキもう帰るね」
「え?!・・探し物は?!」
「あ、あれは、もう見つかったから」
「見つかった?」
「うん。ここに来る途中で」
「・・・そう」
ニコニコと話すミキとは対象に亜弥ちゃんは少し浮かない顔をした。
- 524 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:32
-
・・・ふむ。・・これはミキの努力次第で手に入るってところだな。
一瞬だけ寂しそうにした彼女。その顔を見て、さっき思っていたことなんてどこかに飛んでいってしまった。
「そっか、見つかったんだね。・・・良かったね」
「うん。亜弥ちゃんのお陰でね」
「あたしの?」
「そうだよ。亜弥ちゃんがミキに誰にもあげたくないくらい欲しい物はないのかって聞かなかったら、ミキはずっと気づかなかったし」
「そうなんだ。・・・じゃあ、みきたんは誰にもあげたくないくらい大切なものが・・・みつかんたんだね」
「うん、とっても大切なものだったよ。ミキが探していたものは」
「そうなんだ。・・・あ、あたし、人を待たせているから・・」
「・・・そうだね」
後ろで待たせている彼氏を気にする亜弥ちゃん。
- 525 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:32
-
「・・じゃあ・・」
「うん」
チラチラと後ろを気にする亜弥。その態度に美貴は目をすっと細めた。
・・・後ろを気にしているのも今だけだよ。亜弥ちゃん。
美貴は一歩だけ、亜弥との距離を縮めた。
「じゃあ・・行くね」
「うん。・・あ、亜弥ちゃん」
「え?・・な・・・」
「・・・・」
彼氏の方へと歩いて行こうとする亜弥ちゃんの手を取り、ミキのほうへと振り向かせる。
そして・・・
唇を重ねた。
- 526 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:33
-
「な・・・な・・・な・・・」
「ようやく見つけた探しものに取り合えず、自分の印をつけて置こうと思って」
顔を真っ赤にして唇を押さえる亜弥ちゃん。
それとは対的に余裕顔のミキ。
チラリと後ろを見ると彼氏君が驚いた顔をしている。
・・・取りあえずは、宣戦布告ということで。
亜弥ちゃんと後ろにいる人の反応を確認して満足したところでミキは来た道を戻る。
そして、思い出したように亜弥のほうへと振り返る。
「ミキ、欲しいものが手に入るまでは結構しつこいから。そこの彼氏君にも言っておいてね!」
周りに聞こえるくらい大きな声をだした。
そしてまた、同じように体を反転させ、今度こそ本当に来た道を戻っていく。
- 527 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:36
-
「・・・寒い」
駅から離れた途端にもの凄い風がミキを襲う。
その寒さにいつもならブチブチと文句も言うのだが、今日だけは違う。
「だって、やっと見つけたんだもん。これくらいの寒さなんかへっちゃらだね。さぁて、亜弥ちゃんが帰ってくるまでには次の作戦を考えておかないと」
そう独り言を言う美貴の顔は嬉しそうだった。
― おまけ
「・・・松浦」
「はい」
「今のミキティだよね?」
「・・・はい」
「何か、ウチって気づかないでアイサツしてたけど?」
「・・・・はい」
「それと、松浦」
「・・・・・・はい」
「彼氏とは先週別れなかった?」
「・・・・」
「確か、松浦が好きな人が出来たからって、振ったんだよね?」
「・・・・・・・・・・はい」
「じゃあ、なんでウチが松浦の彼氏になってるの?」
亜弥と一緒にいた目深に帽子を被った吉澤が思ったことを聞いてみた。
すると、亜弥は眉を下げて、困った顔で吉澤を見た。
「・・・ちょっと、事情があって」
どうやら美貴が探していたものが手にはいるのも、そう遠くないことかもしれない。
END
- 528 名前:僕が一番ほしかったもの 投稿日:2007/01/13(土) 07:37
-
短編更新、終了。
明けましておめでとうございます。
本年の初めということで短編を一つ。
・・・あやみき小説が書けない!!!
いや、ネタはいくつかあるんですけど、それを書き起こす気力が・・・
从VvV)<このへタレが! す、すみません>(´Д`;)
从‘ 。‘)<まあまあ、 ・・松浦さん、それ庇ってませんから>(´Д`;)
へタレなりに頑張ってるんだし
478>>名無飼育さま
感想ありがとうございます。
基本的に自分のあやみきでは二人が幸せになるように話を作っているので、この話の結末を喜んでくれたのなら嬉しいです。
479>>名無し飼育さま
更新、待っていてくれてありがとうございます。
短編を一つ書いたので読んでくれたら嬉しいです。
いま、いくつかの中篇とリクエストしてくれたものを書いている途中ですが時間と気力が無くて中々あげる事が出来ません。そんな作者と駄文ですが気長に待ってもらえたら嬉しいです。
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 529 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/14(日) 02:45
- 更新ありがとうございます
やっぱあやみきいいわぁ〜
次回も期待してます
- 530 名前:k 投稿日:2007/04/01(日) 13:01
-
更新です
- 531 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:02
-
「男なんてシャボン玉――――!!!!」
誰も居ない夕焼けの河原に向かって叫ぶ女の子が一人。
名前は松浦亜弥。
朝比奈学園に通う女の子だ。
- 532 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:03
-
「何よ!何が松浦は顔は可愛いけど・・よ!」
所かまわず、近くにあった小石を川へ投げ込んでいく。
しかし、小石は川の中へ沈むことはなかった。
「あー!・・もう!ムカつくーー!!」
さて、少しだけ説明しよう。
ここの川は向こう岸へは裕に十数メートル以上はある。
普通の女の子では当然、届かない距離である。
そして松浦亜弥はというと・・・
- 533 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:04
-
「何よ!何が、女の子はか弱くなくちゃ・・よ!どうせあたしは怪力ですよ!」
本人はそんなつもりはないのだろうが、失恋という痛手に思わず力が入るのか、手当たり次第に小石を投げ込むがやっぱり川へ沈むことなく、向こう岸へ辿りついてしまう。
そう、女の子・・亜弥は失恋をし、この河原へと来ていた。
そして、失恋の鬱憤を小石にぶつけるが、ふられた原因の怪力が邪魔をしてさらに、亜弥の怒りを高めていく。
- 534 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:06
-
「うぅ・・もうヤダぁ・・何であたしってばこんなに怪力なの・・」
小石を投げ込むことを諦め、しゃがみ込む。
朝比奈学園に通う女の子、松浦亜弥。
彼女は学園のなかでは知らない人がいないほど有名だった。
朝比奈始まっての美少女
そして・・・
朝比奈始まっての怪力女として・・・
- 535 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:10
-
「うう・・いつもふられる理由がこれだなんて・・・何て惨めなのかしら」
涙が出そうな目をごしごしと擦る。
ここで泣いたら、本当の意味で自分が惨めになりそうで、亜弥は泣くのをグッと堪える。
「・・・はぁ・・こんなあたしでもいいって言う王子様は何時、現れるんだろう?」
いつも失恋をすると必ずといっていいほど、亜弥は空想の世界に入る。
それはふられた理由がいつものアレだからなのだが、もうそんなことを考えたくない亜弥は空想でそれを紛らわすのが習慣になっていた。
そんな亜弥の耳に何かが聞こえてきた。
(‘ 。 ’从 ・・・ ドンブラコ?
O^ソ⌒とヽ
(_(_ノ、_ソ
'"''''"'"''"''"'"''"''"'"''"' '"''''"'"''"''"'"''"''"'"''"' '"''''"'"'
ドンブラコ ''"'"''"'
''"'"''"'
ドンブラコ ''"'"''"'
/\
|\/
|/ ''"'"''"'
 ̄
''"'"''"'
- 536 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:15
-
「・・・・?・・・何か聞こえる・・・」
どこから聞こえてくるのか分からないが、確かに人の声のようなものが聞こえた。
亜弥は顔をあげ、辺りを見回す。
すると、亜弥の目の前・・・つまり川なのだが、その目の前を流れていくソレに亜弥は固まる。
アレッテ・・・・ナニ?
(‘ 。 ’:从
O^ソ⌒とヽ
(_(_ノ、_ソ
'"''''"'"''"''"'"''"''"'"''"' '"''''"'"''"''"'"''"''"'"''"' '"''''"'"''"''"'"''"''"'"''"' '"''''"'"''"''"'"''"''"'"''"'
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'"'"''"' マイッタネ、・・・ドウスルベ
'"'"''"' _ ∧∧ __ ''"'"''"'
/ 从VvV) /\
/|  ̄ ∪∪ ̄|\/
| みかん |/ ''"'"''"'
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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- 537 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:16
-
「・・なに・・・あれ?・・・じゃなくて!助けなきゃ!」
しばし呆然といった感じで亜弥は流れていくソレを目で追った後、ハッとして慌てて追いかける。
「待っててね!今、助けるから!」
亜弥はキョロキョロと何か捕まりそうなものを探す。
すると、草の中に棒らしきものを見つける。
「あった!はい、これに捕まって!」
亜弥はワケの分からないソレに向かって棒を差し出した。
- 538 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:17
-
「ふー・・・助かったでちゅ」
「・・・ねえ・・」
「まったく、近頃の地上は物騒でちゅね。まさか、このミキがあんなガキ共にスマキにされて川に流されるなんて」
「・・ちょっと・・・」
「まぁ・・・今回はこれで簡便してあげまちゅが・・」
「・・・ちょっと!・・」
人が助けてあげたにも関わらず、腕を組みながらヤレヤレと一息つく、この生モノ。
どっから出したのか、あたしのお気に入りのタオルで顔をふい・・・て・・?
- 539 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:18
-
「ちょ!?あんた、ソレどっから取ったのよ?!」
「ん?これでちゅか?そこのカバンから・・」
「それはあたしのなの!」
「そうなんでちゅか。ありがとう。助かりまちた」
「あ・・いえ、どういたしまして・・・じゃなくて!」
受け取ったタオルを思い切り地面に叩きつける。
もはや、それが亜弥にとってお気に入りだったことは忘却の彼方へと葬り去られた。
「・・・あ・・・あ・・・あんた」
「ん?なんでちゅか?」
亜弥は改めて、ソレをワナワナと震える指でさす。
- 540 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:18
-
背丈は子ども(2〜3才)くらいだろうか?
髪は金髪で、目は深みが掛かったブルーの色をしていた。
そこまでなら、普通の人間と同じで亜弥も驚くことはなかっただろう。
問題は・・・
「・・・その耳・・それに・・シッポと・・・羽?」
そう、問題は亜弥の目の前でフヨフヨと動いているソレ。
- 541 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:20
-
「あ・・あ・・あんた・・も・・もしかして・・・」
「ん?」
亜弥の指がさらに振るえながらソレらを指す。
猫のような尖った耳。
蛇のように細長くクネクネとした尻尾。
そして・・・
パタパタと動いている黒い羽。
「あ・ああ・・・悪魔――――?!!!?」
亜弥の声が誰もいない夕焼けの河原へと響いた。
- 542 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:21
-
「つまり、アンタは見習い悪魔ってこと?」
「見習いとはしちゅれいな。ミキはこう見えても魔界の王子でちゅ!」
場所は変わって、ここは亜弥の部屋。
シッポと耳と羽を生やしたソレ・・・悪魔は亜弥の目の前で嬉しそうに食べている。
・・・鮭トバを。
∧ ∧
川VvV)ヤッパリ トバニハ シブチャガアウ
( つ旦O
と_)_)
- 543 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:22
-
「・・・で?その悪魔?・・の王子が何で川で流されていたのよ?」
呑気にトバを食い続ける悪魔に亜弥は尋ねる。
すると悪魔は何かを思い出したようにポンっと手を打った。
「ああ、そうでちた。ミキはこの地上で悪いことをしに来たんでちゅ」
「わ、悪いこと?!」
「そうでちゅ」
そう言って、トバの隣にあったお茶に口をつける。
あたしは、それを大きな口で開けて見るしか出来ない。
- 544 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:23
-
「ね、ねえ?」
「なんでちゅ?」
「その・・悪いことって何?何で、そんなことするの?」
「ああ・・実はでちゅね・・」
そう言って、悪魔はコトの顛末を話そうと腕を組んだ。
『・・あ・・これって、話が長くなりそう・・』
その仕草に亜弥は嫌な予感がして、一瞬だが身じろぐ。
- 545 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:24
-
「・・理由は暇だから・・でちゅ」
「・・・・は?」
うーんと唸って、何から話そうかと思案顔をしているかと思えば、出てきた言葉がこれ。
その言葉にあたしの思考が一瞬だけ固まる。
「・・・・えーと・・・なんだって?」
「いや、だからヒマだから・・」
「なんだって?」
「ヒマだか・・」
「何だって?」
「ひま・・・」
「 な ん だ っ て ? 」
「・・・・・」
今のは聞き間違いだろう。そう思い、聞き返すが悪魔は同じ答えを返してくる。
暫く、同じやり取りをしていたが繰り返しが飽きたのか悪魔は黙ったままこっちを見た。
- 546 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:25
-
「・・・若く見えるのにもう認知症が・・・」
「・・・もう一度いってごらん?」
「う、うそでちゅ。だ、だから、その手を離してくれたらミキは助かりまちゅ」
こっちを見たと思ったら、ぽつりと呟いた聞き捨てならないその言葉。
思わず、右手でそのクネクネ動いているシッポを掴んで逆さづりの刑にしていた。
「・・誰が認知症だって?」
「うぅ・・ごめんなしゃい。・・・っていうか、さっき食べたトバが食道にまい戻ってきそうでしゅ」
「・・へ?・・きゃあぁぁぁ?!!ちょっと!我慢しなさいよ!」
「・・・ムリ・で・・」
「いやあぁぁぁぁ!!!」
「うぎゃ!!?」
逆さ吊り。それが効いたのか、悪魔は顔を真っ赤にしている。
どころか、青くなってきたその顔にあたしは慌てて掴んでいるその手を離す。
- 547 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:26
-
「・・・イタイでちゅ」
「そんな恨めしそうな目で見るな!だいたいアンタが悪いんでしょうが!」
頭に出来たでっかいコブを擦りながらこっちを睨む、チビ悪魔。
だけど、あたしは悪くない。失礼なことを言ったこいつが悪い。
まだあたしを恨めしそうに見ているチビ悪魔を睨み返す。
「・・・はぁ・・・馬鹿らしい。何ムキになってるわけ?こんなチビ悪魔に・・」
「チビとはしちゅれいな。ミキはここ・・地上では力が抑えられているせいでこんな子どものようでしゅが、実際はもっと美形でちゅ」
「・・・自分でいうな。自分で。・・・で?ヒマだから悪いことをしに来た悪魔は、これからどうするわけ?」
「へ?」
「いや、へ?じゃなくて、悪いことをしに来たわけでしょ?具体的にはどんな悪いことなわけ?」
「・・・・」
あたしの問いかけに、悪魔はハッと今気づいたような顔をする。
ひょっとしてこいつ・・・
あたしの頭にある考えが過ぎる。
- 548 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:27
-
「・・アンタ、まさか考えもなしに地上(ここ)に来たわけじゃあないでしょうね?」
「・・・・・えへ」
「笑ってごまかすな。笑って」
両手の人差し指で自分の頬を指すと笑顔で顔を斜めに傾けた。
その仕草に一瞬だが、可愛いと思ってしまったがそんなことはすぐに忘れて、誤魔化すチビ悪魔に呆れの視線を投げかける。
「普通、何も考えないで来ないでしょう?・・・あんた、馬鹿?」
「いやぁ、思い立ったら吉日というやつでちゅ」
「いらん。そんな理由の吉日なんていらん。しかも褒めてないのに何で頬をそめてんのよ!」
どちらかと言えば、馬鹿にしたはずなのにチビ悪魔は何故か体をクネクネしながら顔を赤くしている。
- 549 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:28
-
「はぁ・・何かすごい疲れが出てきた」
出会ってまだ、二時間しか経っていないのにあたしの体からは一週間分の疲れが肩に圧し掛かっているように重く感じられた。
「大体、何でさっき川から流れてきたわけ?」
「実は、ちゅいさっき地上(こちら)側に来たんでちゅがその時河原で遊んでいるガキ共に急にスマキにされて」
「・・あんた何したのよ?」
「別に何もしていなでちゅ。ただ、ミキの所に小さな硬いボールが転がってきたんで親切にそれを投げただけでちゅ」
「・・・どこに?」
「山田さん家でちゅ」
「・・・どこよ、それ」
「あれ?知らないんでちゅか?あの、よくボールで窓ガラスを割られてはコラー!って怒る・・」
「知らん。そんな山田さんなんて知らん」
身振り手振りで説明するが、そんな人を自分の中で該当なんてさせたくなかった。
- 550 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:29
-
「そうでちゅか。まぁ、その山田さん家に転がってきたボールを投げて、窓ガラスが割れたのをガキ共の所為にしただけでちゅ。それなのにミキをスマキにして・・」
「・・・・」
まったく、どうして自分が・・
なんて不可解な顔をしているが理由がそれなら仕返しされても何も言えん。
これ以上、コイツに付き合うのは簡便と判断して、あたしは話しを切り出す。
「まっ、理由はどうでもいいわ。それより、お茶を飲んだら出て行ってよね。今日はまだママが帰ってきてないから家に上げたけど、アンタ見たら卒倒するに決まってんだから」
「え?」
あたしの言葉にチビ悪魔は熱いお茶をふーふーとしている顔を上げてこっちを見た。
「何よ?」
「あ・・いや、ミキこっちに来たばかりで行くところをまだ決めてなくてでちゅね」
「無理」
「・・まだ何も言ってないでちゅ」
あたしの即答にチビ悪魔は口を尖らしているけど、無理なものは無理。
- 551 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:32
-
「行くところがないからココに置けって?そんなの無理にきまってるでしょうが!さっきも言ったけど、ウチの家族がアンタを見たらビックリするの!」
「でも、アヤちゃんはビックリしなかったでちゅ」
「あれは、助けようとして必死だったからでまさかアンタが悪魔だって知っていたら助けなかったわよ!」
「・・・・」
「・・あ」
一気にその場に静けさが訪れる。
悪魔と出会ったという、ついていけない展開にあたしの口調は思っていたよりもキツクこいつに当たったらしい。
チビ悪魔を見ると、下を向いてフルフルと震えている。
- 552 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:33
-
「あ・・・ごめ・・ちょっときつく言いすぎた」
「・・・っく・・・ひっく・・」
「え!?ちょっと、泣いてるわけ!?」
聞こえてきた泣き声に思わずその顔を覗き込むと目に涙を溜めて泣くのを堪えていた。その姿に罪悪感と可愛いと思う感情が沸き起こる。
「・・っく・・・ぅう・・ひっく・・」
「ちょっ!・・何も泣くことないでしょ!?」
「ただいまー」
「げっ!?」
大粒の涙を溜めながら泣くのを堪えるチビ悪魔にアタフタしているあたしの耳に、仕事から帰って来たママの声が聞こえてきた。
- 553 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:34
-
「まずい。ママが帰ってきちゃった!どうしよう」
パタパタとあたしの部屋へと向かってくる足音が近づいてくる。
その間にもチビ悪魔は泣き止む気配は無いわけで・・・
「あー!!!もう!」
そんなあたしの取る行動といえばひとつしかないわけで。
「分かったから!暫くならいいから。今はとにかく隠れ・・!?」
「ただいまー・・亜弥?あんたそんな大きな声だしてどうしたの?」
「へ?あ・・お、お帰りー!・・別に何でも・・」
「・・・今、後ろに隠したのは何?」
取り合えず、家にいることを了承してどっかに放り込もうとしたら突然開いた部屋の扉。とっさに後ろに隠したんだけど、ばれてしまった。
- 554 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:36
-
「亜弥、今隠したものを見せなさい」
「べ、別に何も無いってば」
「・・・・お小遣い・・」
「う・・・わ、分かりました」
まだまだ、親のスネをかじっているあたしは両親のその一言に後ろに隠していたチビ悪魔を見せる。
「・・・・」
「あ・・その驚いたかもしれないけど・・っていうか、あたしもコイツに会った時は・・」
「・・カワイイ!」
「・・そう、驚くくらいカワイイ・・・・って・・・可愛い?」
てっきり悲鳴が聞こえてくると思ったあたしの予想とは反して、返ってきたのは黄色い声。状況が掴めないあたしが差し出したチビ悪魔を見るとそこには・・・
./\__,ヘ,
从*V-V) ニャン♪
彡 γ⌒つつ
(__ノノ
- 555 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:37
-
「亜弥、どこで拾ってきたのよ?この子猫」
「・・・・か、河原から・・・川で流されているのを見つけて・・」
「まあ!それでこの子大丈夫なの?」
「・・・うん、一応大丈夫みたい」
「・・・にゃー」
「やーん、可愛い」
「・・・・・」
差し出した悪魔が猫になっていた。
その光景にあたしは何も言えずにいた。
「ママ、この子飼いたいわ」
「え?!」
「そうよ、そうしましょう。さっそくパパが帰ってきたらお願いしましょうね」
「え?・・ちょ!まま・・」
あたしの手のなかにいる猫の頭を撫でると、ママは嬉しそうに部屋を出て行った。
- 556 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:38
-
「・・・な、何がどうなってるの・・・」
あまりのワケの分からない状況に亜弥は頭が混乱する。
「ふー・・ちゅかれたでちゅ」
「・・・へ?・・・あ、あんた!何で?!」
ママが出て行った部屋の入り口を呆然と見ていた亜弥の下から声が聞こえた。
そこに目を向けると、猫になっていたはずのチビ悪魔。
「あ、あんた、さっき猫に・・」
「ああ、あれは魔法で猫に変身しただけでちゅ」
「ま、魔法?!」
そう言ってチビ悪魔はあたしの腕の中から抜け出すと呑気にお茶を飲み始めた。
- 557 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:39
-
「まあ、あの程度の魔法ならミキにとってはかんたんで・・亜弥ちゃん、イタイでちゅ」
「魔法があるなら早くそれを言いなさいよ」
得意げな顔をしてあたしに説明しようとするその顔がムカついて一発、頭を叩く。
涙目であたしを睨むが、コイツをどうやって誤魔化そうかと必死に思案していたあたしの苦労を考えたら当然の報いだ。
「・・まあ、いいわ。魔法が使えるなら家に置いても心配はなさそうね。それじゃあ暫くはあたしの所にいてもいいわよ。感謝しなさい」
「ああ、それはどうもでちゅ」
「・・・・なんだろう。すごいアンタを殴りたくなる衝動が込み上げてくるわ」
人が親切に置いて上げようとしているのに、そこまで言うならしょうがないからいてあげるぜ。みたいな、このチビ悪魔の態度に拳をフルフルと震わせながら亜弥はそれに耐える。
- 558 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:40
-
「・・まったく、なんでこんなモノ拾ってきちゃったのかなぁ」
「魔界の王子にむかって、こんなモノとはしちゅれいでちゅよ亜弥ちゃん」
「あんたなんかこんなモノで充分よ。だいたい、さっきみたいに魔法が使えるなら川に流されるなんてことはなかったんじゃないわけ?」
「それは・・・」
そうだ、魔法が使えるなら川に流されることもなくあたしにも拾われるなんてことはなかったはず。そう考えると、なんでこのチビ悪魔は魔法を使わなかったんだと疑問が出てくる。
「それは?・・・何よ?」
「お約束というやつでちゅ」
「帰れ。今すぐ帰れ。なんならもう一度、川を流れてこい」
「あ、それだけは簡便でちゅ。まだ、ここら辺の観光もしていないでちゅから」
「あんたは悪いことをしき来た訳じゃないの?!」
「それは後でもいいでちゅ」
「何よ、その軽い重要任務は!」
「あ、トバのお代わりもらえまちゅか?」
「人の話を聞けーーー!!!」
あたしの突っ込みも軽くかわし、嬉しそうにトバを食べ続けるチビ悪魔。
ぐったりと疲れが増してきた。
- 559 名前:わたしの可愛い王子様? 投稿日:2007/04/01(日) 13:43
-
「何であたしがこんな目に・・・_| ̄|○・・・」
ぐったりとしながらも亜弥は今日の占いを思い出す。
『今日のあなたはラッキーデイ。運命の王子様があなたの前に現れます』
それを読んだ時の小躍りしていた朝の自分を思い出して、目の前がぼやけてくる。
「・・ぐす・・神様、確かにあたしは王子様が欲しいと願いました。でも神様・・・」
「・・・ぐ!?・・・く、くるちぃ・・あ、あやちゃ・・たすけ・・」
「・・・・」
チラリとチビ悪魔を見る。食べていたトバが喉に詰まったのか、苦しそうにのたうち回っている。その悪魔とこれから暫く一緒に過ごすのかと思うと、亜弥の目から一粒の涙が零れてきた。
「・・・・あたしが望んだのはこんなへタレじゃなぁぁぁぁぁぁい!!!!」
その日亜弥の叫んだ悲しい雄叫び、ミキが言っていた山田さん家まで届いていたとか。
おわり
- 560 名前:k 投稿日:2007/04/01(日) 13:45
-
リク更新、終了
去年に貰ったリクです。
赤ちゃん言葉のミキティと言われてこんなのしか思いつかない自分て・・・
しかも、あれから何ヶ月たってるんだよ・・川_| ̄|○川・・ゴメンナサイ
315:あややんさま 316:名無飼育さま
読んでいるか分からないうえに、もの凄い駄文で申しわけないですが書き上げたので挙げておきますね。
529>>名無飼育さま
ありがとうございます。
期待にそえたかは分かりませんが、読んでくれたら嬉しいです。
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 561 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/09(月) 23:05
- やっぱ作者さんの作品は和みますわぁ〜
次回のあやみきも期待しております
甘いのがいいなぁ(笑)
- 562 名前:k 投稿日:2007/05/31(木) 11:16
-
更新です
- 563 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:17
-
「っは・・・あ・・あ・・ん」
「はぁ・・はぁ・・」
暗い部屋、月明かりだけを頼りに絡み合う二つの肢体(からだ)。
薄暗さの中で二つの肢体は溶合うように、そしてお互いの隙間を埋めるように強く抱き合っている。
「あっ!はっ、はっ、・・ん!・・み・・きたん・・もう・・」
「ん、亜弥ちゃん・・」
「あ、はっ!・・あ、やあぁ!」
溶合うように絡み付いていた二つの肢体。
一方が快楽への悦により、もう一方の体を強く抱きしめた後、
力尽き、しがみついていた体を離した。
「亜弥ちゃん・・」
「ん・・・はぁ・・」
行為が終わった後の口づけ。
それは必ず行われ、まるで儀式のようだと亜弥は思う。
- 564 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:18
-
「じゃあ・・帰るね?」
「・・うん」
「また、時間が取れたら来るから」
「・・・うん」
「・・・おやすみ」
「・・おやすみ。気をつけてね」
「うん」
バタンと、ドアが閉まる。
いつも思う。
このドアが開く音が始まりの合図。
このドアが閉まる音が終わりの合図。
亜弥は気だるい体を引きずりながら、自分のベッドへと戻る。
- 565 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:19
-
「時間が取れたらなんて、ウソばっか・・」
自分しか居ない部屋でポツリと呟く。
その言葉の音は亜弥の耳に届くと同時に亜弥自身に虚無感を感じさせたが、亜弥はそれをすぐに消した。
「・・・みきたんの匂い・・」
亜弥はベッドに入ると蹲るように身体を丸めた。
ベッドは先ほど二人が行った行為の熱でまだ暖かい。
そのシーツに鼻を押し付け、匂いを嗅ぐと彼女の香りがした。
- 566 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:21
-
亜弥と美貴。
幾度と無く二人は体を抱き合い、交わった。
しかし、二人は世間でいう恋人という関係ではない。
『友達以上恋人未満ですかね』
いつかの番組で美貴が言った言葉。
その言葉の意味の通り亜弥と美貴の関係は曖昧だった。
この関係を始めたのは誰からだっただろう?
それさえも分からなくなるほど長く続いたこの関係。
ただ、亜弥が憶えているのはあの日の美貴の弱々しい姿と
その美貴に手を差し伸べる自分の手だけ。
- 567 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:22
-
いつもと何ら変わらない。
いつもどおりに仕事をこなし、いつもどおりに早めに仕事が終わった亜弥は美貴のいる娘。の楽屋まで足を運んでいた。
― カターン!
廊下を歩いている亜弥の耳に何かが倒れる音が聞こえた。
それに気づいた亜弥は音が聞こえたほうへと振り返る。
音が聞こえたのは、誰も使っていないスタジオの中。
そして振り返った亜弥の目に映ったのは、今から迎えに行こうと思っていた美貴の姿。
「みきたん?・・・」
楽屋にいるはずの美貴がなぜ、誰もいなはずのスタジオにいるのか疑問に感じながらも亜弥は美貴のほうへと近づく。
「・・みきたん?」
近づくにつれ、美貴の表情が段々とはっきりしてくる。
しかしその表情に亜弥は怪訝な顔をする。
- 568 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:23
-
何かを一点に見つめ、亜弥が美貴の側へと向かうことにも気づいていない。
そして、その表情は信じられないものを見ているかのようにとても驚いた顔をしている。
「みきた・・」
美貴を呼ぼうとする自身の声があるものによって遮られる。
え?・・・石川・・さんと・・吉澤さん?
美貴よりは大分後ろからではあるが、亜弥にはスタジオの中にいるのが吉澤と石川の二人であるというのが分かった。
亜弥は自分が今見ている光景に軽い混乱状態に陥る。
え?・・あれって・・・
亜弥、そして美貴が見ているのは確かに石川と吉澤だった。
しかし、それだけなら亜弥はここまで驚かなかっただろう。
そう、二人がキスをしているという事実さえ認識していなかったら・・・
- 569 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:24
-
「「・・・・」」
美貴と亜弥、二人揃って同じものを見る。
二人が見ているものは、ただがむしゃらに求め合う二人だけ。
先ほど、亜弥が聞こえた音などさえ耳に入らないほど、夢中に求め合う石川と吉澤。
その姿に亜弥は体が熱くなるのを感じる。
人のキスシーンだけで、ここまで体が熱くなったのは初めてだった。
何故ここまで熱く感じるか分からなかったが、二人の情熱的なキスに自分自身が酔っていることは確かだった。
「・・・」
二人のキスに見とれていた亜弥だがはっと、我に返り美貴を見る。
自分よりも先にこの状況を見ていた美貴に声をかけようとしたのだ。
しかし、美貴は亜弥が美貴を見たと同時に亜弥の方へ一度も振り返ることなくその場からいなくなった。
「・・みきたん!」
突然、自分の前からいなくなった美貴を追いかける。
- 570 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:26
-
「はあ・・はあ・・はっ・・」
スタジオを出た美貴を追いかけるが見失う亜弥。
楽屋に戻っているかもと思い、楽屋へと足を向ける。
「・・・あいぼん・・」
「ん?亜弥ちゃん。どないしてん?」
「・・みきたん、見なかった?」
「美貴ちゃん?そういや、さっき楽屋を出て行ってからは見いへんけど・・」
「あ、そうなんだ。じゃあ、行き違いかも。ありがと」
亜衣に礼を言いながら楽屋を出る。
楽屋にはいなかった。
それならみきたんはどこに?
楽屋を出て、あちこち美貴を探すが見つからない。
心当たりがある所は調べたがそれでも美貴はいなかった。
美貴の居場所を考えあぐねている亜弥の頭にふと、ある場所が浮かぶ。
「・・ひょっとして・・屋上?・・」
もしやと思い、亜弥は急いで屋上へと向かった。
- 571 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:26
-
上へ行くにつれて、人影も少なくなる。
『みきたんは屋上にいる』
少しずつ、屋上へと近づくにつれてあたしの思いは何故かは分からないが確信へと変わっていく。
― ギィィ
錆びついた重いドアを開ける。
照明も殆んど取り付けられていない屋上は暗く、人がいるかどうかさえも分からないほど辺りは静まりかえっていた。
「・・みきたん」
亜弥が必死で探した相手はフェンス越しに下を見下ろしていた。
- 572 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:28
-
「みきたん」
美貴を呼びながら近づく。
亜弥の声に気づいて振り返る美貴。その顔は少し驚いた表情をしていた。
「亜弥ちゃん。・・・どうしたの?」
「・・楽屋にみきたんがいなかったから・・・」
「あっ・・ごめん」
「ん、別にいいよ。見つかったんだから」
言葉を交わしながら近づく亜弥と、そんな亜弥を見ながら地面へと腰を下ろす美貴。
「みきたん、地面冷たいよ?」
「ん、大丈夫だよ。・・ちょっと、頭冷やしたくて屋上(ここ)に来たから」
「・・なんか、あった?」
「いや、別に。・・・気にするほどじゃないよ・・」
「・・・」
側まで来ると亜弥は美貴の横へと立った。
あの時、美貴の側に自分がいることを美貴が気づいているのか亜弥は気になった。
けれど今の何気ない会話でやはり美貴が自分に気づいていなかったことを知る。
だからこそ亜弥は切なくなった。
何事もないように話している美貴を見るのが。
- 573 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:29
-
「ごめんね。亜弥ちゃん、結構ミキのこと探したんじゃない?」
「んーん。何となくみきたんがここにいるような気がしたから」
「あはは、亜弥ちゃんには敵わないなぁ」
「みきたん・・」
「あ、そうだ亜弥ちゃん。今日、帰りに焼肉行こうよ。美貴いい所教えてもらったんだ」
「・・みきたん」
「ね?行かない?絶対亜弥ちゃんも美味しいって・・」
「みきたん」
何事も無かったように喋り続ける美貴の声を亜弥は少しだけ強めな声で制す。
亜弥の呼びかけに美貴は開いていた口を閉じる。
「「・・・・」」
言葉を発しない二人。
見つめあう互いの目。
それだけで、美貴は亜弥が何を考えているか察する。
- 574 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:31
-
「・・・亜弥ちゃんも・・見たんだ」
疑問符も付けずに、静かに言葉を発する美貴。
そんな美貴に亜弥も静かに首を振る。
「うん・・」
「そっか・・びっくりした?」
「うん」
「はは、だよねぇ。ミキも最初見たときは驚いたもん。でも、あの二人が付き合ってるなんてね。最近は全然一緒にいるところなんて見てなかったのに・・」
「そうなんだ」
「そうだよ。だから・・」
『だから』
そこで美貴は言葉を止める。
「「・・・」」
急に熱が冷めたように二人のいる場所に冷えた風がなだれ込み、静けさが生まれる。
『沈黙という静けさにはどんな意味が込められているんだろう?』
ふと、頭にそんな疑問が浮かんだ亜弥だがすぐにその疑問を消し去った。
- 575 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:32
-
「みきたん」
「・・・」
立っている亜弥と座り込んでいる美貴。
必然的に亜弥の方が高いので亜弥の目には美貴の頭しか見えない。
何も答えずにヒザを抱える美貴。
亜弥はそんな美貴が泣いているように見えた。
「・・・・」
亜弥は美貴の前に回りこむと膝たちになって、腰を降ろした。
「みきたん・・」
彼女の名を呼ぶ。
今から自分がすることにイミがあるのか分からない。
けれど今、目の前にいるこの人を放ってはおけなかった。
「みきたん・・」
もう一度、名前を呼ぶと彼女はゆっくりと顔をあげた。
「「・・・」」
見つめあう二人。
けれど、みきたんの目にはあたしは映っていない。
- 576 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:33
-
今、目の前にいる自分ではなく、どこか遠いところを見ることで何も考えないようにしている彼女をそっと抱き寄せる。
「亜弥・・ちゃん?」
「・・・好きにしていいよ」
「え・・?」
驚きの声色であたしを見ようとしたみきたんを強く抱きしめる。
そしてもう一度呟く。
「みきたんが・・・思うようにしていいから」
「!!」
呟いた直後、
彼女の体が強張った。
- 577 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:34
-
「んっ・・はっ・・んん・・」
冷たい地面に押し倒され、貪るように口内を犯される。
荒々しい口づけは彼女の想い。
報われることの無い、悲しい痛み(おもい)。
『な、に言ってるの?』
あたしが呟いた後、彼女が発した言葉はあたしの言葉を理解していないギモンの音。
強張る体を緩めることなくあたしに聞いてきた。
『亜弥ちゃん?』
『・・好きだったんでしょ?・・・あの人のこと』
『・・・』
『なのに、恋人がいた。それも自分の身近なところに』
『・・・』
あたしの言葉にみきたんは黙ったまま。
けれどあたしは構わず、みきたんを傷つけていく言葉を吐き出していく。
- 578 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:36
-
『あたしをその人の代わりにしてもいよ』
『!』
『みきたんがあの人にしたかった事をあたしにしてもいいよ』
『な・・に言って・・亜弥ちゃんが代わりになる理由なんて・・』
『理由は簡単。あたしもあの二人を見たらしたくなっちゃった』
『・・・・』
半分の嘘と本心を言う。
今の美貴をほっとけないのも事実。
さっきの石川と吉澤を見て体が熱くなったのも事実。
二つの事実を盛り込みながら亜弥は美貴の耳元で誘うように囁く。
『ね?あたしは代わりでいいから』
『・・・・』
亜弥の言葉に戸惑う美貴は中々誘いに乗ってこない。
そんな美貴に亜弥は一番傷つく言葉を言う。
『どうせあの二人も今はお楽しみ中だよ?』
その言葉を言ったと同時に美貴に押し倒された。
- 579 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:37
-
「ん・・は・・」
激しいキスを何度もする。
お互いの唾液が混ざり合い口から零れるほどの激しいキス。
「あっ・・」
冷やりとした感触が肌に伝わる。
みきたんの手が服の中へと入り込み直接肌を刺激する。
「ん・・・あ・・はぁ・・」
冷たい手が服の中で動き回る。
その動きと手の冷たさがあたしを快楽へと導くのに時間はかからなかった。
みきたんの唇が首筋へとゆっくり動いていく。
キスをしながらボタンが外される。
露になる素肌。
そこにみきたんは唇を落としていく。
「はっ・・ん・・痛!」
胸に痛みを感じて思わず体が震える。
その声にみきたんがあたしから体を離した。
- 580 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:39
-
乱暴に開かれるドア。
遠のいていく足音。
暗闇の中で光り輝く星空。
「・・・みきたん」
冷たい地面へと背をつきながら星を見上げる。
『・・・ごめん』
一言そう言って彼女は行為を途中でやめて走り出した。
- 581 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/05/31(木) 11:40
-
「・・・・綺麗」
届かないと思いながらも手を伸ばす。
あたしは一生この星空を忘れないだろう。
肌に彼女がつけた印の熱と
頬に伝わる冷たいものを感じながら
あたしは空を見上げ続けた。
- 582 名前:k 投稿日:2007/05/31(木) 11:42
-
更新、終了
時間がない・゚・(ノД`)・゚・。
話の構成は出来上がっているのに、書く時間とUPする時間がありません
誰か自分の時を止めてくださいw
更新の時間が中々作れないため、ペースは早くて月いち、遅ければもっとかかると思いますがそれでも読んでくれる方がいれば嬉しいです。
561>>名無飼育さま
感想、ありがとうございます。
甘いお話を期待されていたみたいですが、すみません。
暗めの話になりますw
書き上げてからあげようと思っていたのですが、そうするとこのスレ自体を倉庫送りにされそうなんでw
更新量は少ないですがochiながら、ちょっとずつ更新しようと思います。
なので、ageたりはしなようにお願いします。
・・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 583 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/01(金) 18:35
-
初めて読みました。切なくて、、好きですよ。
- 584 名前:k 投稿日:2007/07/28(土) 23:22
-
更新です
- 585 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:24
-
慣れた手つきでドアを開け、家の中へと入る。
カバンを適当に放り投げてベッドへと倒れこむ。
「・・・亜弥ちゃん」
さっきまで自分の腕の中にいた彼女の名前を呼んでみる。
だけど当たり前のように返事はなく辺りは静まり返っていた。
「・・・・」
腕にはまだ、さっきまで抱いていた彼女の感触が残っている。
けれど彼女はいない。
ミキは近くにあった抱き枕を抱えた。
「・・・・」
彼女を抱いた日はいつも虚無感を感じる。
決して手に入れることが出来ないと知っても欲しがる自分。
自分を偽ってでも彼女に触れたい。
自分の欲望がどれだけ汚れたものなのか、彼女を抱いた日にはいつも感じずにはいられなかった。
「・・・だけど、それでもミキは亜弥ちゃんに・・」
誰に言い訳するわけでもなく発した言葉を途中で閉じ、抱き枕を強く抱きしめた。
- 586 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:25
-
「・・・ん・・」
部屋の中に音が鳴り響く。
ミキは覚醒しきれていない頭を持ち上げ今の状況を理解する。
「・・・あ、寝ていたのか」
状況を確認していると、いまだに鳴り続けているケータイの音が耳に聞こえる。
慌てて取ろうとするがあと一歩というところで電話は切れてしまった。
「・・・あちゃー・・間に合わなかったよ」
間に合わなかったケータイをとり、着信を見る。
『ごっちん』
その名前に体が強張る。
- 587 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:27
-
「・・・・」
ミキはケータイを持ちながらかけなおそうか迷った。
べつにごっちんとケンカをしたとか、ギクシャクしているとかではない。
ただ、今の状態の自分からはかけたくないと思った。
この名前だけさえに嫉妬を感じている自分からは・・・
- 588 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:28
-
『・・・どうしよう・・』
昨日屋上で亜弥ちゃんとあんなことがあった次の日、ミキは亜弥ちゃんに会えずにいた。
さっきから自分がいる楽屋を行ったり来たり。
ソワソワと落ち着かない自分がいる。
屋上で亜弥ちゃんを抱いた日(っていっても未遂だけど)にミキは自分の想い人に恋人がいることを知った。
亜弥ちゃんから楽屋に来るっていうメールをもらって、その返事を打ち返しているときに目に入った二人。
いつもなら、二人でいるなんて珍しいくらいにしか思わないはずなのに。
その日だけは見逃せなかった。
二人のお互いを見る熱い視線に。
- 589 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:29
-
二人が静かに楽屋を出て行く。
その状況がとても気になって、ミキはそっと二人の後を追った。
使われていないスタジオの中へと入っていく二人。
そこで目にした光景。
どうして?
一緒にいなかったじゃないか。
それどころか、いつも側にいたのはミキなのに・・・
熱く求めあう二人。
その光景に目が離せなかった。
「・・・・」
周りさえ見えていないくらい求め合う二人。
それを見続けているミキの後ろから人の気配がした。
だけど、ミキはそれに振り向くことなくその場から逃げ出すように走り出した。
- 590 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:30
-
「はっ・・はっ・・」
何も考えずに走り出した。
どこへ向かうことなく。
立ち止まれば認めてしまうことになる。
あの二人のことを・・・
それが嫌でミキは走り続けた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
誰もいない屋上へと入る。
フェンスへと手をかけ下を見下ろす。
下を見ると高さなんて分からないくらいずっと下に地面が見えた。
いつからだろう?
ふたりが付き合いだしたのは。
前から?
ミキが気づかなかっただけで
馬鹿みたいだ。
そんなことにも気づかないで。
好きな人がいる人を好きになっていたなんて・・
- 591 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:31
-
下を眺めていると後ろからドアが開く音が聞こえた。
その音に振り返ると、亜弥ちゃんが立っていた。
ああ、そうだった。亜弥ちゃんが楽屋に来るってメールがきていたんだ。
亜弥ちゃんを見ると少しだけ息が乱れている。
それがミキを探し回っていたのだと知る。
「亜弥ちゃん。・・・どうしたの?」
なるべく平静さを装いながら言葉を発する。
「・・楽屋にみきたんがいなかったから・・・」
「あっ・・ごめん」
「ん、別にいいよ。見つかったんだから」
言葉を交わしながら近づく亜弥ちゃん。そんな亜弥ちゃんを見ながらミキは地面へと腰を下ろす。
- 592 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:33
-
「みきたん、地面冷たいよ?」
「ん、大丈夫だよ。・・ちょっと、頭冷やしたくて屋上(ここ)に来たから」
「・・なんか、あった?」
「いや、別に。・・・気にするほどじゃないよ・・」
「・・・」
ウソばっか。
失恋したてでメチャクチャ傷ついているくせに。
- 593 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:34
-
散々、探し回った亜弥ちゃんに心配をかけまいとそう言ったんだけど、亜弥ちゃんは何故か切なそうに眉を歪めた。
「ごめんね。亜弥ちゃん、結構ミキのこと探したんじゃない?」
「んーん。何となくみきたんがここにいるような気がしたから」
「あはは、亜弥ちゃんには敵わないなぁ」
「みきたん・・」
「あ、そうだ亜弥ちゃん。今日、帰りに焼肉行こうよ。美貴いい所教えてもらったんだ」
「・・みきたん」
「ね?行かない?絶対亜弥ちゃんも美味しいって・・」
「みきたん」
何事も無かったように喋り続けるミキの言葉を亜弥ちゃんが少しだけ強めな声で制す。
その声にミキは開いていた口を閉じる。
ほんの数秒、お互い見つめあう。
その数秒だけで分かってしまった。
亜弥ちゃんもあの二人を見たということに・・
- 594 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:35
-
『んっ・・はっ・・んん・・』
悶える彼女を押さえつけ口内をかき乱す。
彼女の口から声がこぼれるたびに、自分の中の黒い欲望が湧き上がる。
メチャクチャにしたい。
自分の中にあるものがどんなに汚いものかなんて分かっている。
それを彼女にぶつけるのも間違いだって言うことも。
だけど・・
『どうせあの二人も今はお楽しみ中だよ?』
その言葉にミキの理性は壊れた。
- 595 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:36
-
『はあ・・はあ・・ん・・・』
『あ・・はぁ・・・ふぁ!』
地面が冷たいのも構わず、彼女を押し倒し口内を貪り犯す。
彼女の服の中へと手を滑り込ませると、小さく彼女が声をあげた。
ゆっくりと、体のラインを確かめるように彼女の体を撫で回す。
首筋にキスをして、シャツから肌だけ見えるその白い肌にキスを落としていく。
その度に亜弥ちゃんが甘い声を漏らす。
その声が
さっき見た二人とリンクして
ミキの中に沸き起こった感情が
彼女の白い肌を赤く染めた。
- 596 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:37
-
『はっ・・ん・・痛!』
亜弥ちゃんが小さく悲鳴を上げた。
その声にミキはハッとして顔をあげる。
そこには、真っ赤に充血した紅い華が咲いていた。
『・・あ・・』
自分がしたことに気づき、ミキは体を起こした。
『・・ごめん』
一言、それだけ言ってミキは亜弥ちゃんから逃げた。
楽屋に戻ると加護ちゃんが何か言っていたけど、それさも聞かずにミキは自分の荷物を取ると走り出した。
- 597 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:39
-
「・・・はぁ・・・」
大きなため息を一つ落とす。
いくら、失恋して傷ついていたからって亜弥ちゃんにそれをぶつけるなんて・・・・
家に帰ってからも、ミキはずっとそのことについて自己嫌悪に陥っていた。
いくら、亜弥ちゃんから誘ってきてもそれだけはしてはいけないことだった。彼女を代わりにするなんて、絶対しちゃいけないことなのに・・・
「亜弥ちゃんはあのヒトとは違うのに・・・なんでミキは・・・」
あのヒトとは別の意味で、ミキは亜弥ちゃんを大切にしてきた。
それはメンバーや家族以上に。
亜弥ちゃんは、ミキの中ではそれぐらい特別で大切だったのに・・・
「・・・謝ろう」
昨日のことを思いだしながらミキは決心した。
- 598 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:40
-
「あ、紺ちゃん。亜弥ちゃん見なかった?」
「亜弥ちゃん?それなら後藤さんといたけど」
「ごっちんと?」
亜弥ちゃんに謝ろうと決めたミキは、亜弥ちゃんの楽屋を訪ねたけどいなかった。
近くを通りかかった紺ちゃんにきくと、ごっちんの所に行ったらしい。
亜弥ちゃんが戻るまで楽屋で待っていようかとも考えたけど、早く謝りたいと思ったミキは、そのままごっちんの楽屋へと足を向けた。
「・・・なんて切り出そう・・・」
ごっちんの楽屋へと向かいながら、亜弥ちゃんへ謝る言葉を考える。
「確か、この楽屋だよね・・・・」
『 後藤真希様 』
と書かれた楽屋の前に立ち、深呼吸する。
この中に亜弥ちゃんがいると思うと中々、ノックすることが出来ない。
意を決してドアを叩こうとしたミキの耳に聞きなれた声が聞こえた。
- 599 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:41
-
その声の方へ振り向くと、そこは使われていない楽屋からだった。
「・・・・今の声は・・ごっちん?」
聞こえたほうへとゆっくりと足を進める。
楽屋のドアは少しだけ開いていて、そこからごっちんと亜弥ちゃんの声が聞こえてきた。
声からして、二人が真剣な話をしているんだと分かる。そんな二人のなかに顔を出すのも場違いだということも。
けれど、亜弥ちゃんのことが気になったミキはゆっくりと二人がいる楽屋のほうへ近づいていった。
「・・・好き」
「・・・まっつー・・」
「・・だから、ごっちん。・・・・・キスして?」
「・・・・・」
聞こえてくる会話に足を止める。そして、少しだけ開かれたドアから見える光景に目を開く。
- 600 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:43
-
「・・・亜弥ちゃんの好きな人って、ごっちんだったんだ・・・」
薄く開いたドアから見た光景が信じられなくて、ミキはその場から走り出した。
気づくとまた、屋上へと来ていた。
「はは・・亜弥ちゃんも隠さないで言えばいいのに・・・」
小さく独り言を呟く。
「・・・・・」
何だろう?
何がそんなにショックなんだろう?
亜弥ちゃんがごっちんとキスをしているところを見て、すごく嫌だった。
まるで自分が大切にしていたものを壊されたような気分だ。
- 601 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:43
-
「はは・・・なんだよコレ?」
気がつくと涙が零れていた。
一粒、一粒、流れていく涙。
零れ落ちる涙が亜弥ちゃんとの思い出まで落としているようで余計に悲しくなった。
「・・・・ミキってば、馬鹿だなぁ・・・いや、チョーがつくほどの鈍感か・・」
零れ落ちる涙の意味が分かり、一人自虐的に笑う。
好きだったんだ、亜弥ちゃんのこと。
いつも側にいたせいで気づかなかったけど、好きだったんだ。あの人よりも・・・
隣にいるのが当たり前だと思ってた。
だから、亜弥ちゃんの隣に誰かがくるなんて思わなかった。
- 602 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/07/28(土) 23:45
-
「・・亜弥ちゃん」
今さらながらにもう自分のもとへは来ない彼女の名前を呼んでみる。
・・・嫌だ。
イヤだ・・・・
・・・いやだ
亜弥ちゃんが他の人の隣にいるなんて・・・・
溢れてくる想いと嫉妬心。
それはあの人に感じていたものよりもずっと強く。
その強い想いは黒い感情を生んでいく。
気がつくとミキは亜弥ちゃんの番号へと掛けていた。
- 603 名前:k 投稿日:2007/07/28(土) 23:48
-
久しぶりの更新、終了
良かった。
倉庫送りにされてなかったよ・゚・(ノД`)・゚・。
藤本さん視点・・とか、書いたほうが読みやすいかな?
二人の視点を交互に混ぜながら話を進めるから少し分かりづらいかも。
583>>名無飼育さま
感想、ありがとうございます。
切ない系でしかも、ちょい暗め。その上、更新が遅いこんな駄文を好きだなんて、勿体無いお言葉です。
次回は頑張って、早めの更新が出来るようにしたいと思います。
・・・それでは、今回はこれで失礼します。
- 604 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/30(月) 17:18
- やばい
超続き気になるんですけど(笑)
作者かんの作品凄い好きです
ちょっと暗めな感じも最後はハッピーエンドで終わってくれるのかな?
なんて期待しながら続き待ってますねぇ〜
- 605 名前:k 投稿日:2007/08/26(日) 00:31
-
更新です
- 606 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:33
-
「お疲れ様でしたぁ」
最後の仕事を終えて、エレベーターが下りてくるのを待つ。
「・・・ごっちん?」
「んあ?・・・まっつー、今あがり?」
「うん。ごっちんも?」
「そ、今からお帰りです」
「なら、途中まで一緒に帰ろうよ」
「んあ、いいよ」
降りてきたエレベーターにはごっちんが乗っていた。
軽い挨拶を交わすと、あたしはごっちんの横へと並んだ。
- 607 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:35
-
「「・・・・」」
下へと降りる階を見上げる。
・・・13・・・12・・・11・・・
ゆっくりと降りていくエレベーターはまだまだ自分たちを下へと運んでくれそうにない。
まだかなと、見上げているとごっちんが声を出した。
「そういやさ・・」
「ん?・・・なに?」
「そういや、最近ミキティとは・・・どう?」
「・・・・・」
遠慮がちに聞こえる声。
気を使いながら言葉を選んでいるんだと分かる。
- 608 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:36
-
「・・・別に、いつもどおりだよ」
気を使っていると分かるから、あたしも言葉を選んで答える。
そう、いつもどおり。
みきたんが時間があるときに会いにきて、抱かれて、終われば泊まりもせずに何時だろうと帰っていく。
いつものとおり。
けれど、こんな言葉をごっちんに言うにはさずがにどうかと思い、あたしも言葉を選んだ。
気を使わせたくない、それだけだったから。
でも、ごっちんはあたしの言葉に怪訝そうな顔をする。
- 609 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:37
-
「なに?・・・」
「・・・何か無理してない?」
「どうして?」
「今のまっつーの顔が・・・泣きそうだから」
「・・・・・」
ごっちんの言葉に思わず体が止まる。
「あの時、・・まっつーがキスしてって言ったときのこと・・覚えてる?」
「・・・・」
「本気のキスをして欲しいって・・」
「・・・・」
ごっちんが真剣な顔で聞いてくる。
あの時のことなんて、忘れられるはずない。
みきたんを好きだと自覚したときのことを。
忘れることなんて・・・
- 610 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:40
-
屋上での出来事があった次の日、あたしはごっちんの楽屋へと遊びに来ていた。
なんとなく、一人ではいたくなかったから。
あたしの突然の来訪に驚きながらもごっちんはいつもの顔で迎えてくれた。
「久しぶりだね。あっ・・でも、ごめん。今、スタッフさんとマネージャーが話ししていて・・」
そう言って、ごっちんは楽屋の中へと視線を向けると、確かに。ごっちんのマネージャーさんとスタッフさんが話しをしていた。
「あ・・・じゃあ、また後で・・・」
「そういや、向かい側の楽屋が空いてたな。よし、まっつー。そこに行こう」
「・・え?でも・・・打ち合わせ中なんじゃ・・」
「別にゴトウが居なくても平気みたい。ほら、行こ!」
「あ・・ちょっ・・ごっちん!」
「まっつーと向かいの楽屋でおしゃべりしてきまーす!」
打ち合わせの邪魔をしちゃ悪いと自分の楽屋へ帰ろうと思った時、ごっちんがあたしの手を取って部屋を出た。
- 611 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:41
-
「いやー助かった。まっつーが来なかったらあと1時間は眠たい話を聞かなきゃならないとこだったよ」
「でも・・抜けても平気なの?」
「大丈夫だって。何かあれば声かけるだろうし」
手を取りながら、ごっちんは使われていない楽屋へと入っていく。
あたしはそんなごっちんに連れられるまま後へと続く。
使われていない楽屋はしんとした静かさと冷たさが雑じっていた
「珍しいね、ゴトウのところに来るなんて」
「そう?」
「たいていはミキティのところだし。なに?喧嘩でもした?」
「そんなこと・・・」
喧嘩ならどんなにいいだろう。
謝ればいいだけなのだから。
あたしの暗い顔(ひょうじょう)に気づいたのか、ごっちんが心配そうにあたしを見た。
- 612 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:43
-
「なに?ほんとに喧嘩?」
「そうじゃなくて・・」
「なら、なんでそんな辛そうな顔してるわけ」
「ごっちん、あたし・・」
「うん?」
あたしは昨日のことをごっちんに話した。
「・・それはまた・・・大胆なことをしたね」
話終えると、ごっちんが顔を赤くしながらこたえた。
「・・・みきたんが失恋したって分かったとき、放ってはおけなかったの」
「・・うん」
「でもね、それ以上にみきたんに好きな人がいるって知ってショックだった」
「・・まっつー」
「みきたんの隣にいるのが当たり前だったから、気がつかなくて・・・」
「・・・・」
いつも側にいてくれた彼女が自分以外の誰かを見ているんだと知った時、あたしは嫉妬感を覚えた。
- 613 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:45
-
言葉では言い表せない。
そんな感情を親友に持ってしまったあたしは戸惑っていた。
「ねえ、ごっちん」
「なに?」
「あたしとごっちんて、親友だよね?」
「・・まあ、ミキティほどではないけど」
「ならお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「・・・なんか、すごい嫌な言い回しだけど。・・・なに?」
この感情が間違っているものなのか、確かめないと・・・
あたしは聞いてきたごっちんとの間に一呼吸おいて言葉を発した。
「キスして・・」
- 614 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:47
-
「な、なに言ってるの?!」
「あたしのみきたんへの気持ちが何なのか知りたいの。お願い」
「気持ちって・・別にゴトウとキスしなくても・・・」
「お願い、ごっちん」
「・・・・」
あたしの真剣な表情にごっちんは黙り込む。
「・・・好きなの?ミキティのこと」
「・・・分からない。だからごっちんとキスしたら分かるかなって・・」
「・・・そういうことで人を使ってほしくないんだけど」
「ごめん」
「・・謝るくらいならって・・・言ってもそうは言えないくらい気持ちが分からないんだ?」
「・・・うん」
「はぁ・・」
そういうあたしにごっちんは大きなため息をおとした。
- 615 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:48
-
「ごっちん、あたしのお願い聞いてくれる?」
「・・・ゴトウが今からする質問にちゃんと考えて答えたらね」
「・・質問って?」
「さっきも聞いたのと同じ。ミキティのこと好きなの?」
「・・・・」
真剣な顔で聞いてくるごっちんに話をはぐらす事なんて出来ない・・・か。
あたしは、目を瞑るとみきたんのことを思い浮かべた。
思い出すのは、昨日のみきたんの顔だけ。
「・・・答え・・でた?」
「・・ん」
「・・・じゃあ、答えて」
ごっちんの言葉に静かに答える。
- 616 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:49
-
「・・・好き」
「・・・まっつー・・」
「・・だから、ごっちん。・・・・・キスして?」
「・・・・・」
ゆっくりとはき出した答えに、ごっちんはあたしの手を掴んで引き寄せた。
「・・答えが出ているならしなくてもいいと思うけど・・」
「・・・・」
「ゴトウ、約束を破るのは苦手だから・・」
「・・・ん」
耳元でそう言って、ごっちんはあたしにキスをした。
「・・ん・・はっ・・・ん」
息もつかせないほどの激しいキス。
舌が絡み合い、唾液が零れてもごっちんはキスを続けた。
- 617 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:50
-
「はぁ・・はぁ・・・はぁ」
どれくらいかしていたのか分からないほどの激しいキスが解かれ、あたしは肩で息をしていた。
「・・どうだった?」
ごっちんはそんなあたしを息ひとつ乱さずに見ている。
「・・はあ・・・はぁ・・・ごっちんて、キス上手いんだね」
「比べられるほどしたことないけどね」
「・・・あはは」
乾いた笑いを零しながら、口についた唾液を拭う。
- 618 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:51
-
「ねえ、ごっちん」
「なに?」
「あたしって、嫌な女の子だね」
「・・・・」
「相手が失恋したのをつけ込んで、抱いてもらおうなんて」
「・・でも、その時はミキティのこと好きかもなんて思ってなかったんでしょ?」
「でも、みきたんを慰めるために抱かれようとしたんだから、・・同じことだよ」
自分の気持ちに気づいていようがなかろうが、あたしは知らないうちに彼女を求めていた。それも、彼女を傷つけてまで・・・
- 619 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:53
-
「それで、まっつーはどうするの?」
「え?」
「ミキティのこと好きだって自覚したなら、どうするわけ?」
「・・・・」
ごっちんの言ったことに黙る。
「・・・言えるわけ・・・ないよね」
「どうして?」
「だって、みきたんはあの人のことが好きだったんだよ?一緒にいたあたしには分かるよ。みきたんがそんな簡単に吹っ切れないことくらい。・・・そんな時に告白したって、振られるだけだよ」
みきたんのことは誰よりも分かっている。
だからこそ言えない。
もう友達のままじゃいられないことを望んでいるあたしからは・・・
言えるわけない。
- 620 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:54
-
「・・じゃあ、ミキティが吹っ切れるまで待つわけ?」
「・・・・」
告白はしないというあたしにごっちんはこんなことを聞いてくる。
「まっつーはそれで・・」
ごっちんが何かを言おうとした時、あたしの携帯からメールの着信音が鳴り響いた。
「・・・・・」
携帯を開けて、メールを見る。
『 今夜、亜弥ちゃんの家に来てもいい? 』
簡単な用件だけが書き込まれたメール。
- 621 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:56
-
「・・ミキティから?」
「・・うん」
「・・・」
一言だけ返事をすると、あたしはみきたんへと返信をした。
『 分かった。待ってるね 』
携帯を閉じて、ごっちんのほうへと顔をむける。
「今日の夜、会いたいって」
「・・・どうするの?」
「・・・・」
「まっつーは・・・」
「ごっちん、色々、話を聞いてくれてありがとね」
「・・・・」
ごっちんに笑いかけ、楽屋を出ようとする。
- 622 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/08/26(日) 00:57
-
「・・・決めたんだ」
楽屋を出ようとするあたしにごっちんが後ろから声をかける。
「自分の気持ちを隠して、嫌な女になることを・・」
「ごっちん・・・・ごめんね?」
あたしは、ごっちんの顔を見ずにそのまま楽屋を出た。
『 嫌な女 』
最後まで聞かなかったごっちんの言葉。
あたしはその言葉を胸に楽屋をあとにした。
- 623 名前:k 投稿日:2007/08/26(日) 00:59
-
更新、終了
・・・分かりづらい・・かな?
視点が交互になっている上に過去話も混ざると、分かりづらくなったりするかな?
604>>名無飼育さま
ありがとうございます。
幸せになるようにこの二人には頑張ってもらいたいですw
更新が遅い上に駄文ですが飽きられないように次の更新も早く出来るよう頑張りたいと思います。
・・・・それでは、今回はこれで失礼します
- 624 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/27(月) 16:23
-
更新おつです
はぁ〜気になるよ
続きが気になって仕方ない
気持ちが行き違っちゃってるよ
作者さん次も期待して待ってますね
- 625 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/11(日) 23:32
- どんな展開になっていくんかメチャクチャ気になります。
- 626 名前:k 投稿日:2007/11/23(金) 00:16
-
更新、開始
- 627 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:18
-
− Pi −
ケータイの送信ボタンを押し、パタリと閉じる。
仕事が思ったよりも早くあがったのでミキは亜弥ちゃんにメールを送った。
そう、いつものメール。
ミキと亜弥ちゃんの関係を作り上げるきっかけを作ったメール。
『 今夜、亜弥ちゃんの家に来てもいい? 』
要件だけの簡素なメールを思い出し、車の窓から見える月を見上げる。
・・・確か、あの日もこんな風に月が見えていたな。
- 628 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:20
-
仕事を終え、ミキは亜弥ちゃんの家へと足を向けていた。
「・・・・」
亜弥ちゃん家に向かいながら、車の窓から見える景色を目で追っていく。
考えるのは、亜弥ちゃんのことだけ。
ミキがこれから亜弥ちゃんにしようとすることは、とても自分勝手で傲慢で、自己満足でしかない。だけど、それでもこの感情を、胸の中から湧き上がる欲望を消すことなんて出来なかった。
「・・・亜弥ちゃん」
彼女の名前を口にしたところでやはり気持ちを止めることは出来ず、ミキは静かに彼女の家に着くまで眼を閉じた。
- 629 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:21
-
「・・・・」
彼女の部屋のドアの前で立ち止まる。
ゆっくりと息を吐くとミキは、インターフォンを押した。
「・・・いらっしゃい」
「・・・・」
亜弥ちゃんは表情を少しだけ固くしながらミキを出迎えた。
そんな亜弥ちゃんの顔を見ても、ミキの気持ちは揺らぐことなく、迎えてくれた亜弥ちゃんの後を静かに追った。
- 630 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:22
-
「みきたん、何か飲む?」
「いや、いいよ」
「それじゃあ・・」
「・・・・」
キッチンのほうへ行こうとする亜弥ちゃんを後ろから抱きとめる。
何も言わずに・・・
そんなミキに亜弥ちゃんも黙ったまま、じっとしている。
- 631 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:24
-
「・・昨日のことだけどさ」
「・・・・」
「亜弥ちゃん、言ったよね?・・・ミキの好きなようにしていいって」
言葉を選びながら慎重に・・・なんて、頭の中にあるわけなく、感情のままに言葉を繋げていく。
「・・・ミキさ、失恋した」
「・・・」
「ずっと、側にいたのに・・その人が他の誰かを見ているなんて気づかなかった」
「・・・そうなんだ」
「・・・・うん、気づいた時にはその人は別のヒトのものになっていたんだ」
「・・・・」
「・・・・だから亜弥ちゃん」
「何?」
身動き一つせず、亜弥ちゃんはミキの言葉に耳を傾ける。
まるで、これからミキが言うことを予測しているように・・・
だから・・・、
- 632 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:25
-
「慰めてよ」
- 633 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:26
-
だからミキは素直に言葉を吐いた。
どうしようもなく沸き起こる欲望の言葉を
彼女にむけて
「慰めてよ」
吐き出していた。
- 634 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:26
-
月明かりを背に二人の影が重なり合う。
ミキの言葉を聞いた亜弥ちゃんは、振り返ることなくミキの手を掴んで寝室のほうへと向かう。ミキも何も言わずについて行く。
部屋に入るなり部屋の電気を亜弥ちゃんが消した。
暗くなった部屋に月明かりがそっと差し込む。
「・・・亜弥ちゃん」
「・・・」
何も応えず、亜弥ちゃんはミキの手を離すとベッドのほうまで近づいていった。
- 635 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:28
-
ベッドの端まで来ると亜弥ちゃんは着ている服へと手をかけた。
一枚、一枚。
ゆっくりと亜弥ちゃんの体から離れていくその様子をミキはどこか幻想的に見ていた。
「・・みきたん」
「・・・・」
最後の下着まで脱ぐと亜弥ちゃんはミキのほうへと振り向いた。
その美しさに応えることも忘れて魅入ってしまった。
- 636 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:28
-
「・・・みきたん?」
「・・・あ・・」
亜弥ちゃんが不思議そうにコチラを見ている。
その視線にハっと我に返る。
『・・そうだ、ミキは亜弥ちゃんを・・・』
亜弥ちゃんに見とれていたミキは、ここに来た理由を思い出す。
「・・・」
「・・・」
ゆっくりと亜弥ちゃんのほうへと近づく。
その間、ミキの頭の中では唯一残っている理性が止める様、警告音を鳴らす。
- 637 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:29
-
『・・今なら、まだ止める事が出来る。さっきのは冗談だって。亜弥ちゃんは怒るかもしれないけど、でも、きっと・・』
亜弥ちゃんに近づきながら必死に止めるよう自分自身に言い聞かせる。
でも・・・
「・・・みきたん」
亜弥ちゃんのその声が・・・
「・・・ん、・・冷たい」
亜弥ちゃんのその肌が・・・
その甘い声を聞き、柔らかな肌に触れてしまったミキはもう、何も考えることが出来なくなってしまった。
- 638 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:30
-
ゆっくりと、亜弥ちゃんに覆いかぶさる。
「「・・・・」」
見つめあう。
「亜弥ちゃん・・」
彼女の頬へと手を当てる。
「・・・・」
亜弥ちゃんはじっと、ミキを見つめたまま。
- 639 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:31
-
ねぇ?どうして拒まないの?
亜弥ちゃんは、ごっちんのことが好きなんでしょう?
それなのに、どうしてミキに抱かれることを嫌がらないの?
ミキが可哀想だから?
だから、慰めてって言ったミキに同情してるの?
・・そうだよね。亜弥ちゃんは優しいから。
いいよ、同情でも。
それで亜弥ちゃんを一時でもミキのものに出来るなら。
亜弥ちゃんをミキのものに出来るのなら、ミキは喜んで、この黒くて甘い欲(うず)へと身を投げ出してもいい。
・・・ごめんね、亜弥ちゃん。こんなのが『親友』で。
- 640 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:32
-
「・・亜弥ちゃん」
「ん・・」
思ったことを口に出すこともせずに、ミキは亜弥ちゃんに口付けた。
昨日、屋上で感じたものと同じ感触。
その柔らかい甘さに頭の中で痺れる感覚がする。
「・・・ん・・・ぅ・・はっ・・・」
「・・はぁ・・ん・・・ふっ・・・」
啄ばむようなキスを何度も繰り返す。
キスを繰り返すたびに聞こえる亜弥ちゃんの吐息が耳に響く。
うっすらと開いた唇に舌を差込、口をこじ開ける。
- 641 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:33
-
「・・ん・・・ふぁ・・・ぅ・・・」
甘く絡み合う舌。
もっと、もっとと欲しがるミキに応えるように亜弥ちゃんもそれに絡んでくる。
服ごしに感じる亜弥ちゃんの体温がもどかしくて、ミキは自分が着ていた服を脱いでいく。
早く、早くと自分を急かしながら。
「・・・あっ・・・」
唇を徐々に首筋、鎖骨へと移動させながら、手は亜弥ちゃんの胸やお腹を滑り、下腹部へと降りていく。
そこは驚くくらい熱かった。
- 642 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:33
-
「ん・・・ふっ・・・あ・・」
「・はぁ・・はぁ・・亜弥ちゃん・・」
抱き合ってから、どのくらいの時間が経ったのだろう。
ミキの下にいる彼女の額には月明かりの薄暗い部屋でも分かるくらい汗をかいている。
そしてミキも自分の首筋に伝う汗を感じていた。
「あ・・・や・・みきた・・もう・・」
「はっ・・ん・・亜弥ちゃん・・」
何度も何度もミキは亜弥ちゃんを求めた。
ミキの手で
舌で
体全体で
彼女のすべてを求めた。
- 643 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:34
-
何度も求めてくるミキに亜弥ちゃんは嫌がることもせずに受け止める。
その真意が分からず、でも何度求めても、また沸き起こる欲望にミキは流れに任せていた。
『・・はあ・・はあ・・なんで・・』
亜弥ちゃんを抱きながら浮かぶ感情。
『・・なんで、こんな近くにいるのに・・求めているのに・・満たされないんだよ』
ミキの下で快感に悶えている亜弥ちゃんを見ているのに、満足することなく沸き起こる欲望。その感情にミキは苛立ちを覚える。
- 644 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:35
-
『・・・苛立ち?・・バカらしい。そんなものとっくに分かっているくせに』
沸き起こる苛立ちと感情の疑問が下らなすぎてミキは自分自身を嘲笑った。
『そんなもの、ミキと亜弥ちゃんを見れば分かることじゃないか』
ミキの下で息を切らせている彼女を見る。
理由をつけて抱いたミキ。
何も聞かずに、言わずに抱かれている彼女。
お互い肝心な『言葉』を言わずに体を重ねた。
- 645 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:36
-
何も言わない
聞かない
彼女のそんな態度がミキに苛立ちと疑問を持たせる。
だから、ミキは何度も亜弥ちゃんを求める。
「・・・・」
息を切らす亜弥ちゃんを見つめる。
その視線に気がついたのか、亜弥ちゃんが手を伸ばす。
だけど、その視線はミキではなくどこか遠くを見つめているように空ろだった。
- 646 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:37
-
「亜弥ちゃん?」
亜弥ちゃんの手を取る。
空ろな目
だけど、何かを伝えるようにミキを見つめる。
その言葉を待つ。
「・・はあ・・はあ・・・ご・・ん・・」
「・・・」
僅かに聞こえた声に体を強張らせる。
そして、亜弥ちゃんの手を掴んでいるほうとは反対の手でシーツを握り締める。
- 647 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2007/11/23(金) 00:42
-
シーツを握り締めていた手が血の気を失い、白くなる。
叫びたい気持ちを抑え唇をかみ締める。
『・・はあ・・はあ・・・ご・・ん・・』
彼女が呟いた言葉。いや・・名前か。
改めて、彼女がミキのものにはならないと思い知らされる『言葉』
『 ごっちん 』
最後まで聞き取ることは出来なかったが、多分、そう言ったんだろう。
その言葉を心の中で反芻した後、ミキは亜弥ちゃんから離れた。
- 648 名前:k 投稿日:2007/11/23(金) 00:43
-
更新、終了
・・・・三ヶ月
言い訳する言葉もございませんm( )m
624>>名無飼育さま
感想ありがとうございます。
中々想いが通じ合わない二人ですが、次回は少しでも近づけるよう頑張ってもらいたいと思います。
625>>名無飼育さま
感想ありがとうございます。
展開としては切ない系を目指していますが、このふたりの行動次第でどうなるか分かりませんw
回想に耽ってばかりの二人ですが、次回こそ動きがあるように早めの更新を頑張りたいと思います。
・・・・それでは今回はこれで失礼します。
- 649 名前:I 投稿日:2007/11/24(土) 03:04
- 眠れずにチェックしてみたら…
お待ちしておりました。
- 650 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/14(金) 23:16
- 引き込まれますね
ただ幸せになってほしいと願います
- 651 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/11(月) 13:19
- 待ってます!
- 652 名前:k 投稿日:2008/05/11(日) 22:15
-
更新です。
- 653 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2008/05/11(日) 22:17
-
「まっつー?」
「・・・へ?・・・あ・・なに?」
「いや、ケータイを見たまま動かないから。ひょっとして、ミキティ?」
「・・うん。ごめんね、呼んでいるのに気がつかなくて。ちょっと思い出していたから」
「何を?」
「みきたんと初めて寝た時のこと」
「・・・」
あからさまに言うあたしにごっちんは表情を変えずにこっちを見ている。
そんなごっちんの顔を見て、思わず苦笑いになった。
エレベーターの階数を見るとそろそろ、一階に着くまでに降りていた。
- 654 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2008/05/11(日) 22:18
-
「じゃあね、ごっちん。お疲れ様」
「・・・ねえ」
入り口で待っているマネージャーさんの車が見えたから、足早にそこを去ろうとしたあたしにごっちんが声をかける。
「ん?なに、ごっちん?」
「満足?」
「え?」
「今のままで、本当に満足してるの?」
「・・・・」
眉をよせ、あたしに問いかけるごっちん。
その顔は目の前にあるものを理解出来ないっていう感じに見ている。そのくらい、ごっちんは怪訝そうな顔をしていた。
- 655 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2008/05/11(日) 22:19
-
「何、言ってるの。あたしが決めたことだよ?満足してるに決まってるでしょ」
「・・・・」
「だから、ごっちんもそんな顔しないでよ。ごっちんにそんな顔されたらあたしも何か・・」
「だったら・・」
「・・・ごっちん?」
彼女の言いたいことは分かる。だから、あえておどけるように言ったつもりなのに。
そんなあたしを見て、ごっちんはさらに眉を寄せた。その顔は明らかに怒っているように見えた。
- 656 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2008/05/11(日) 22:20
-
「だったら、そんな風に笑わないでよ!今のままでいいならそんな風に作り笑いで誤魔化さないでよ!何で、まっつーも・・・ミキティも・・・何で、そんな風に・・」
「・・・・」
「やっぱりゴトウには分かんない。何で二人がそんな関係を持って平気なのか」
「・・ごっちん」
「あー!!何かムカついてきた!まっつー!」
「え?!な、なに?」
突然、頭をワシワシと掻いたと思ったら、今度はその手をあたしに向けるごっちん。思わず名前を呼ばれて驚ろく。
- 657 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2008/05/11(日) 22:21
-
「まっつーとは絶交だ!」
「・・・へ?」
「ミキティにちゃんと気持ちを打ち明けるまでゴトウは、まっつーとは口をきかないからね!」
「・・・はぁ・・あ!ごっちん」
それだけ言うと、ごっちんは走って行ってしまった。
あたしはというと、そんなごっちんの言葉を理解するのに時間が掛かってしまい、暫く、マネージャーさんが呼びに来るまでボケッと、突っ立っていた。
- 658 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2008/05/11(日) 22:21
-
「ふふ」
「ん?どうした、松浦。何か面白いものでもあった?」
「ああ、いえ。ただの思い出し笑いです」
「なに、そんなに面白いもの?」
「そうですね。まさかあんな事言われるなんて思わなかったんで」
「ふーん」
車での帰り際。
外を見ながら笑うあたしにマネージャーは何事かと思ったようだが、対して興味が無かったのか、あたしの応えに素っ気無い返事を返すとまた、運転に集中しだした。
- 659 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2008/05/11(日) 22:22
-
「ごっちんのあんな子どもっぽいところなんて初めて見たなぁ」
窓ガラスにコツンと顔を寄せると、あたしはカバンからケータイを取り出した。
「・・・・」
さっき送られてきたメールを見る。返事はまだ返していなかった。
「・・・・」
暫く考えて、手早くメールを打つ。
『ごめん。今日はちょっと無理みたい』
軽くため息をつくとカバンにケータイを仕舞った。
- 660 名前:HEY BAD BOY 投稿日:2008/05/11(日) 22:23
-
「・・・疲れた」
今日は何だかひどく疲れた。
色々と思い出したせいだろうか。それとも・・
「・・・案外、ごっちんに絶交されてへこんだかも」
自嘲気味に笑いながら窓ガラスに顔を寄せたまま目を閉じる。
車の揺れは少しだけ意識を手放すには心地よかった。
だから気がつかなかった。
閉じたケータイが、カバンの底で鳴り響いているのにも。
気がつかなかった。
- 661 名前:k 投稿日:2008/05/11(日) 22:26
-
更新、終了
_| ̄|○・・ろ・・
_| ̄|○・・ろく・・
_| ̄|○・・ろっ・・か・・
・・・六ヶ月_| ̄|○
何か、更新するたびに間が長くなっている。
マジで書く時間がないです。
649>>Iさま
お待たせしました。
更新が遅いこんな駄文をチェックしてくれるなんて・・・ありがとうございます。
650>>名無飼育さま
感想ありがとうございます。
ちょっと暗めの展開ですが、この二人には幸せになるよう頑張ってもらいたいと思います。
651>>名無飼育さま
すみません。お待たせしました。
毎回、同じ言い訳ですみませんが時間がなくて続きを書く時間がありません。
次回は多分、確実に8月以降ぐらいからしか更新が出来ないです。
こんな体たらくな駄文ですが待っていてくれたら嬉しいです。
・・・・それでは今回はこれで失礼します。
- 662 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/12(月) 00:51
- 待ってました
そして、また気になるとこで終わったw
次も期待して待ってます!
- 663 名前:I 投稿日:2008/05/12(月) 07:51
- お待ちしていました。更新ありがとうございます。
次回も期待して待っています。
- 664 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/14(月) 14:50
- まだまだ待ってます!!
毎回毎回気になるとこで終わらせるんだもんなぁ〜w
作者さんのファンなのでいつまでもまちますよ。
更新頑張ってください!!
- 665 名前:名無し飼育さん 投稿日:2009/03/19(木) 01:23
- 待ってます!
- 666 名前:I 投稿日:2009/03/20(金) 02:28
- kさんの作品を読み返してお待ちしております。
- 667 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/30(木) 01:30
- まだまだ待ってます
- 668 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/04(土) 14:37
- まだ待ってます
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