まだまだいしよし
1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/01(金) 14:45
いしよしです。
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/01(金) 17:37


3 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 17:37


     『 春 』
4 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 17:39




5 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 17:39



白い指が丁寧に髪をなで上げ、整えていくのを、目をそらせずに見てた。

ワゴンに手を伸ばし最後の仕上げの鋏をいれていく手が、うっとりするほどきれいで。

前に映った満足げなカオを見ると、鏡越しに微笑み合って、肩に手をかけ椅子を回転させた。


「この長さって跳ねやすい??」


手鏡で後ろを確認しながらひとみちゃんにたずねる美貴ちゃんの表情は自信に溢れてて。なんかちょっと複雑。

コントみたいな絶妙なやりとりを、よせばいいのに雑誌を見るふりをしながら聞き耳をたててしまう。

本を閉じた私にむかって、ひとみちゃんが美貴ちゃんに対してと同じような笑顔で微笑んでくれたけど
なんか違うとかっておもっちゃうのって、いつものあたしのクセ。

6 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 17:41


気持ちを切り替えたくて、バッサリ髪を切るつもりだった、夏の終わり。

いつまでもいろんなこと、引きずってる自分がいやで。

行きつけの美容室の新しい担当が妙に慣れなれしくって、そろそろ変えたいなっておもってたときに
ちょうど美貴ちゃんが通っていたお店から独立した、ひとみちゃんのお店を教えてもらって。

人に任せたくない、自分が納得がいくように切りたいっていうひとみちゃんの希望でシャンプーからカットまですべて一人。

カラーリングやパーマの待ち時間があっても絶対一人ずつ。

それがひとみちゃんのこだわり。

あたしたちの住んでいるところからは車でかなりかかるから。
いつも二人で予約して4時間たっぷり貸しきり状態でくつろがせてもらう、まるで隠れ家みたいな小さなお店。

思い切ってショートにしたいって言った初対面のときを、
これから寒くなるよってやんわりと断ってくれたひとみちゃん。

長い髪のままだと結構放置してたはずなのに、美貴ちゃんが行くっていうときには必ず付いて来て。

切る必要、ないじゃんって毎回いたずらっぽくかかる美貴ちゃんの声。
毛先を切りそろえてちょっとだけつけてもらった変化は、いつも気持をほぐしていく。

7 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 17:43

シャワーを流すたびに、そっと首の下に添えられる、私より少し大きな手。
「頭、起こすね?」
耳のすぐ近くで響く優しい声にどきりとする。

シャンプーとトリートメントの間にこっそりやってくれるハーブの香りのマッサージ。

優しく髪に通る指に照れてしまう自分が恥ずかしくって、
顔にのせられたタオルに感謝するのもいつものこと。

拭きあげる直前に、耳についた水滴を軽くはじく指使いに息が詰まりそうになる。




「今日は、どうする?」




8 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 17:55
鏡越しに悪戯っ子のように無邪気に笑うひとみちゃん。

わかっているくせにと少し頬を膨らませてみせる。


「そろえるだけでいいんだね?」


ちょっと笑ってから、ひとみちゃんは指をぐるぐるまわして準備をした。

自由自在に鋏を操り、指を滑らせ、目が合えば必ず微笑んでくれる。

優しい眼差しになにかを期待せずにはいられない。


「ここはもう少し切ろうか」


指先から伝わってくる静かな情熱が、真剣な表情が、またあたしの心を捕える。


踊るように軽やかに跳ねるその手はまるで魔法。

髪に触れられることがこんなにも気持ちいいなんて。



リズミカルに、でも繊細な旋律を奏でる緩やかな波に溺れ、
いつものようにゆっくりと身をゆだねた。

9 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 18:00


「梨華ちゃんの髪は相変わらず素直だね」
「それって誉め言葉?」
「もちろん。美容師冥利に尽きるよ。こういう髪を触らせてもらって」



ひとみちゃんの指からさらさらと流れる自分の髪を見ながら、
ひそかに両親に感謝したことは内緒。

ママとパパ、両方の髪質をちゃんと受け継いだみたい。ひとみちゃんの好きな髪でよかった。

美貴ちゃんが不満そうな顔でこちらを見ているのに気づいて、
「ミキティの髪も綺麗だよ」とやっぱり優しく微笑むひとみちゃん。

きっと、この人はよくわかっている。自分の笑みがどれほどの効力を持っているか。

悔しいけどそれはやっぱり魔法。あたしたちをうっとりさせる究極の媚薬。

その証拠にほら、美貴ちゃんたらあごの下を撫でられた猫のように目を細めて。

ひとみちゃんに向かって気持ちよさげに微笑みを返した美貴ちゃんは、
そのままあたしに意味深な視線を送る。


宣戦布告。


そんなふうに見えて、思わず二人から目をそらした。

あたしにはまだ、恋をする力は戻っていないから。

10 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 18:01


「ねぇ、ちょっと聞いていい?」


ひとみちゃんこだわりの紅茶を取り揃えたティータイム。

月に一度の至福の時間は、髪を切るだけじゃなくこんな素敵なおまけつき。


「なんでもどうぞ」
「じゃ、遠慮なく」


優雅に紅茶を啜るひとみちゃんはひと仕事終えてリラックスモード。

満足そうな自信に満ちたその顔を見ると、こちらまで誇らしげな気分になる。

綺麗に整えられた自分の髪を見ながらそっと笑いを噛み殺した。


「いきなりだけど…カノジョいる?」

11 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 18:02
美貴ちゃんの唐突な口調にも物怖じせず(単に慣れただけかも)、
ひとみちゃんは余裕の表情。

心臓の音が聞こえそうなくらいドキドキしているのはあたしだけ?

「本当にいきなりだね」
「なんでもどうぞって言ったじゃん」
「ははっ。そうだね」
「美貴、気が長いほうじゃないから早く答えてね」
「うーん。どうしよっかな〜」
「それわざとやってるでしょ」
「まあね」

なんとなく取り残されたような気分。軽快なテンポで進む二人の会話に入り損ねて。

「それで、いるの?いないの?」

12 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 18:03

「ん〜、いるよ」


いつもの優しい声が心を震わせた。


美貴ちゃんは表情を変えず『そっか』と素っ気無くて。

どうして?ひとみちゃんの事好きなんでしょ?

その後の二人の会話は耳には届かない。


『ん〜、いるよ』


さっきの言葉が繰り返される。

そのままのテンポで続いていく、二人の会話に耳を塞いだまま
ぬるくなっていく紅茶を両手で握り締めてた。

13 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 18:04

「そろそろ帰るね・・・」


美貴ちゃんがビックリして、あたしを見た。
笑って言ったつもりだったのに。
美貴ちゃんは一瞬きゅっと眉を寄せあたしに声をかけるのをためらった。

でもひとみちゃんは黙って私の後ろに回って、絶妙のタイミングで椅子を引いてくれた。


「梨華ちゃん、お疲れ様」

14 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 18:04
今日は美貴ちゃんが帰りに用事があるから自分の車で行った。
おかげで一人で帰ってこれた。
でもどうやって家に辿り着いたか分からない。


たった一言がこんなに心を支配するなんて。未だに消えない、ひとみちゃんの声。
まだ恋なんて出来ないと思っていたのに。でも初めて会った時から心は決まってた?


部屋に入ってから何時間経ったんだろう。気が付くと外は真っ暗だった。
カーテンを閉めようと窓に近づく。


あっ・・・


車から降りて来た人と目が合った。

15 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 18:05

なんで?

私を見つけるとちょっと驚いて、キマりが悪そうに鼻をなでて。
携帯をたたんでポケットにしまう。

たまたま?

それとも・・・


答えが出る前に外へ出た。
16 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 18:06

「ひとみちゃん、どうしたの?」
「さっきの話なんだけど・・・」


さっきの話って・・・
聞きたくない言葉が蘇る。


「彼女の話?」

わざわざ聞きたくない、そんな話。


「あれ違うんだ」
「違うって?」
「好きな人ならいる。でも彼女はいない」


差し出された手を握った。今気付いた気持ちを込めて、少し強めに握る。
憧れていたひとみちゃんの指が、あたしの指と絡まった。


お店では決して見せない照れくさそうな顔。

いつも憎らしいほどの余裕顔なのに。
そんな乱暴に頭をかく仕草も見た事がない。

それだけで十分。
17 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 18:07

「なんていうか…かっこ、つけたかったんだ」
「え?」
「彼女いるって聞かれて、いないって言ったら幻滅されるかななんて…バカだよね」


顔を真っ赤にさせながら、相変わらず頭をかいて言葉を探すひとみちゃん。

「いつもクールぶって余裕の表情見せてるのに、彼女のひとりもいないなんてわかったら
イメージ崩れるかなって。 ははっ。本当にバカだ、あたし」

繋いだ指をちょっと引っ張って、俯くひとみちゃんに顔を上げさせた。

「そんな、そんなこと思うはずないのに。なによイメージって。 勝手に先走って
 …あたし、すごくショックだったんだから」

「梨華ちゃん…」

子供のように幼くて、頼りない瞳を覗き込むと
街燈に照らされた白い頬が、みるみるうちに薄桃色に染まる。

18 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 18:07

「もう。見るなよっ。」

ぐっとふざけたように抱きしめて、私の目を封じた。

「せっかくだから、乗らない?来る途中にいいとこ、見つけたんだけど。」

胸に寄せた耳越しに、振動と一緒に甘い声が響く。
声に出せぬまま、小さく頷くと、ほっとしたように息を吐いてぎゅっと腕に力を入れてから
私を離して続けた。

「夜桜。すっげえきれいなの。」

ニッコリ微笑んで見上げると、私の髪にそっと触れる指。

「・・・どした?跳ねちゃってるよ。」

布団をかぶってたなんて言えないから。
あわてて手のひらで髪を整えようとすると、私の手を優しく止めた。
19 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 18:08

「車んなかで直してあげるから。夜桜よりも、キレイにね。」


優しく響く言葉は恋の力を取り戻す魔法。


高まった鼓動を抑えるように、私は勢いよくターンすると
ついたままの部屋の灯りを消しに階段を駆け上った。






20 名前: 投稿日:2005/04/01(金) 18:08
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/01(金) 18:09
    
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/01(金) 18:09
  
23 名前:プリン 投稿日:2005/04/01(金) 19:58
更新お疲れ様です。
いしよしやっぱいいですよね(*´Д`)ポワワ
毎日チェックしちゃいそうなヨカーンw
次の更新待ってます。
24 名前:ロコール 投稿日:2005/04/03(日) 14:25
見てるだけで恥ずかしくなりそうな内容ですね。
でも甘くて良いです、好きだなぁ。
次回も頑張って下さい。
25 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/03(日) 20:18
更新お疲れさまです。 いしよし良いですよねぇ。次回更新待ってます。
26 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/12(火) 13:44

>>23-25

レスありがとうございます。頑張ります。
27 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/12(火) 13:45


28 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:46

29 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:46


     『 誕生日 』

30 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:49


31 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:49


今日はひとみちゃんの20歳の誕生日。

毎年、誕生日は欲しい物をあげてるんだけど今年は違う。
私の時は誕生日の前に別々の仕事が入ってなかなか会えなかったから
『ひとみちゃんを一日自由にさせて!』ってお願いした。

そして久々にデートを満喫。


そしたら自分の時も『梨華ちゃんを一日自由にさせて!』って言い出して・・・

私もやってもらったからいいんだけど、でもね・・・

32 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:49


「やってよ〜」

「だからイヤだってばー!」


「うちだって梨華ちゃんの時には色々付き合ったでしょ?」

「私の時はお買い物とかだったじゃない。ひとみちゃんもそういうのにしてよ」


「ダメ?」


結局その顔するんだよね。
子供みたいに甘えん坊な表情。

髪の毛切ってパーマかけちゃって少年って感じになって
大人っぽかったのが急に可愛くなっちゃって
そんな顔されたらギューってしたくなるじゃない。

本人無意識でやってるけど、可愛くてたまらないんだから!

ソファーに座るひとみちゃんの膝の上にまたがって、そのまま抱きつく。

33 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:50


「ひとみちゃん、その顔反則!可愛い顔反則!」

「可愛くねぇって」


「可愛いの〜」


顔が見たくて体を離す。
いつも見上げるのに今は逆。

照れた顔が私のハートを鷲づかみ・・・

34 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:50


「してあげてもいいよ?」

「マジで?」


「でも、少しだけだよ?いい?」

「うんっ!分かった。その前に一緒にお風呂入ろうか?」


決まった途端にエロおやじ。
やっぱ止めようかな・・・


「いいけど、入るだけだよ?」

「分かってるって。約束!なにもしないよ?」


なんでお互い疑問系?

35 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:51


「梨華ちゃん、ヤバイ!最高!」

「まだ?」


「もうちょっとだけ。ヤッベー!」


何がやばいのよ!

誕生日プレゼントは写真集の撮影会・・・

写真集って言ったって、ひとみちゃんだけの物。
少し前からカメラに凝っちゃって、仕事場にも持って行くんだけど
風景やメンバーを撮るのには飽きちゃったみたいで・・・

36 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:51


「梨華ちゃん、全部外そうか」

「イヤ!裸になっちゃうじゃない」


私は裸でベッドに横たわりシーツを掛けている・・・
上は胸ギリギリまで降ろして、下は足の付け根ギリギリまで上げて
あと少しで上下とも見えちゃう所までずらされた・・・


「いいじゃん、二人っきりなんだからさ〜」

「二人っきりでも、私だけ裸でしかもカメラで撮られてるんだよ?
 そんなのイヤに決まってるでしょ!」


「じゃあ、うちも裸になろうか?それなら、いい?」

「おバカー!裸でカメラ構えてる恋人なんて見たくないよ。
 ひとみちゃんは脱がなくていい!」

37 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:51


「そう?うちは平気だよ。梨華ちゃんのヌードを撮るためならなんでもするよ?」

「あー!やっぱり最初からヌードを撮るつもりだったんじゃない!」


「えっと・・・でもさ、誕生日だし」

「イヤだよ・・・万が一、誰かに見られたらどうするのよ?
 ひとみちゃんはいいの?私の裸が他の人に見られても平気なの?」


シーツを首まで上げて最後の抵抗をすると、ひとみちゃんが慌てた。
ベッドの脇に腰掛けデジカメを弄り出す。


「そんなのダメに決まってるじゃんっ!あ、じゃあこれも消さないと・・・」


今まで撮ったのもなし?

二人で仲良く写したのに・・・

38 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:52


「あー!ダメっ!二人で撮ったのは消さないでっ!」

「もちろん消さないよ。梨華ちゃんがイヤらしい格好してるのだけ消した」


「イヤらしい格好させたの誰よ!おバカっ!」

「もうさ、撮影会は終わりにしようか?」


「え?」

「誘ってるの?」


振り向く顔は真っ赤。


「はい?」

39 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:52


デジカメを取り上げようとして思わず抱きついてた・・・
これじゃ誘ってるよね?


「あーーー!」


ひとみちゃんが体ごと振り向くから慌ててシーツで隠そうとしたら腕を掴まれた。


「隠しちゃダメだよ?」


おちゃらけ顔から真面目顔。
その顔も反則・・・

40 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:53


「私だけ裸なのは恥ずかしいもん・・・」


裸なんて散々見られてるけど、一人だけはイヤ。


「うちもなるから、それならいいでしょ?」

「うん・・・」


返事を待つ前に凄いスピードで脱いで私を押し倒した。
乱暴なんだから!

でも上になるといつもみたいに優しく頭を撫でてくれる。

41 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:53


「梨華ちゃん、ごめんね」

「なにが?」


「本当はね、イヤらしい格好は撮ってなかったんだよ。
 ただね、梨華ちゃんに色んな格好をさせたかったの。
 カメラがないのにあんな格好させたら変態でしょ?」

「え?」


照れた顔がとっても可愛いんだけど、普通に変態だよ?


「うちだってね、万が一の事を考えたもん。あんな姿他の人には絶対に見せられないよ!」


私に負けないほど、ひとみちゃんもヤキモチ焼き。


写真集を出すとご機嫌斜めになる。
こういう話をするだけでも苦々しい顔になる。

でも愛されてる証拠だから嬉しい。
この顔も反則。

42 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:54


「梨華ちゃんのあんな姿はうちだけの物だもん」

「ひとみちゃん・・・」


「他の人にあんな姿見せちゃダメだよ?」

「うん」


「これからもうちだけにしか見せちゃダメだよ?分かった?」

「うんっ!」


「梨華ちゃん」

「ひとみちゃん」


--- チュッ!


私からキスをすると未だに照れるひとみちゃん。
自分からは平気で色々するのに、されるのは全然慣れないんだから。


「お誕生日おめでとう。これからもよろしくね!」

43 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:54


--- おわり ---

44 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:54


45 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:54


でも誕生日はまだまだ終わらず・・・


あんな事やこんな事、色々終えた後にさっき写した画像を確認。
ベッドにうつ伏せになって、デジカメを弄るひとみちゃんにジャレつきながら。

ツーショット写真を見ては顔を見合わせて楽しんでいると・・・


突然、胸のアップ。
見慣れた衣装に見慣れた胸。

でもそれは私じゃなくて・・・

46 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:55


「ひとみちゃんっ!」


私の声にビクッとする。


「な、なんだこれ?」

「なんだこれ?じゃないよっ!これって唯でしょ?なんでこんな物が写ってるの?」


きっと私は能面顔。
ひとみちゃんの瞬きが多くなる。


「うち、知らないよっ!本当だって」

「このデジカメは誰の物ですか?」


「うちの物ですけど、でも撮ってないもん・・・」


『梨華ちゃんが少しでもやりやすくなるように協力するよ』って言ってくれて
美勇伝の二人と仲良くしてくれてたけど、それって岡ぱい目当てだったの?

47 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:55


--- PIPIPIPIPI・・・


ひとみちゃんの携帯が鳴った。


「メールだよ!見れば?」

「うん・・・」


私にも見えるように携帯を開く。
目に飛び込んで来たの文字は『ミキティー』と『お誕生日おめでとう』


 よっちゃん、お誕生日おめでとう!
 撮影会、楽しんでる〜?
 もう気付いたかな?デジカメで岡田ちゃんのおっぱい写してたの。
 まさかそれで梨華ちゃんと揉めたりしてないよね?
 亜弥ちゃんに話したら『そんな事でケンカしたらどうするのよ!』って
 怒られちゃった。エヘッ!ごめんね。

 美貴は二人の事だから、ケンカした方がその後のラブラブが盛り上がると思って
 ほっとくつもりだったんだけど、うちの姫も言い出すと何も聞いてくれないからさ。

 ま、そんな事だったんだよね。
 もし揉めてたらごめんね。
 まだまだ一日は長いから楽しんでね〜

48 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:56


「ほらね、うちじゃなかったでしょ?」

「ごめんね、疑ったりして」


「ううん、分かってもらえればいいよ。
 うちのデジカメに写ってる物はうちが撮ったって思うのは当然だしさ」


疑惑が晴れてひとみちゃんが安心した顔になったんだけど・・・


 追伸


追伸?


「ひとみちゃん?追伸って書いてるよ」

「あ、ほんとだ」


スクロールすると・・・

49 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:56


 追伸

 これは隠し撮りじゃないからね。岡田ちゃんに協力して撮らせてもらったんだよ。
 よっちゃんってさ、二人っきりになると『おっぱい触らせて?』って言うんだってね〜
 美貴には言った事ないよね?え?あ?
 まあ、それは今はいいや。

 岡田ちゃんがね、『誕生日プレゼントに今度、触らせてあげますよ』って言ってたよ。
 良かったねっ!『生でもいいか』って聞いたら『初めてですけど・・・どうぞ』だってさ。
 岡田ちゃんって、よっちゃんの事が好きみたいだよ。
 愛人にしちゃえば?
 な〜んてねっ!
 こんな事、梨華ちゃんにバレたら大変だからさ読んだら即行消した方がいいよ。

 あ、本編よりも長くなっちゃった。
 全然、追伸じゃなかったね。
 美貴も使ってみたかっただけなんだよ。

 そんじゃあ、ホントにバイバ〜イ!

50 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:56


いつの間にか携帯は私の手の中に・・・

そして隣にいるはずのひとみちゃんがいない・・・




「ちょっと!ひとみちゃーん!」

51 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:57


--- 本当におわり ---


52 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 13:57


53 名前:誕生日 投稿日:2005/04/12(火) 14:00


54 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/12(火) 14:01


55 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/13(水) 22:12
更新お疲れさまです。 ( ̄□ ̄;)・・・やっちゃいましたね、よっすぃー。自業自得ってやつでしょうか・・・。 次回更新待ってます。
56 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/14(木) 11:01
甘〜いいしよしごちそうさまでした。
57 名前:パンナコッタ 投稿日:2005/04/18(月) 13:10
更新お疲れ様です。梨華ちゃんにも色んな反則顔があるんですよね?
二人ともとても可愛かったです。次の更新待ってます。
58 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/19(火) 18:14
>>55-57

レスいただいてありがとうございます。
頑張ります。


本日分です。
59 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/19(火) 18:15
  
60 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:16


61 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:16


62 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:18






楽屋に入るなり、さゆに押し付けられたスチロールの箱をかかえて、今さっき通ったこの道をまた
よろよろしながら逆戻りしている。

あまりにずっしりとした重さと、見覚えのあるグリーンの箱に、送り主の顔までわかって笑ってしまった。
この前の差し入れのお返しに、同じお店からのお届け物をするあの子たち。

おいしかったって喜んでくれる気持はわかるんだけどね。
いくらなんでもこれは送りすぎでしょ?


肩で押しながらドアをあけるとだいじょぶですか〜って駆け寄ってきて。
蓋をあけるなり大喜びする二人の顔と、衣装の隙間からゆさゆさ揺れる胸を見て一瞬笑いそうになったけど。

「衣装につけないように、タオルを巻いて食べてね。」
老婆心のように付け加えた一言に、自分でも呆れ気味に体の向きを変えた。

今日はいつものようにみんなあっちには訪ねてこない。
私ももうちょっとだけここにいたほうが気楽なんだけど・・・
二人の周りにできた輪をちょっとうらやましげに眺めてからもう一度ドアを閉める。


63 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:19


再びあちらに着くと、同じようなシチュエーションでまたさゆが立っていて。

さっきと違ったのは濡れた手をぷらぷらさせてる美貴ちゃんと鉢合わせになったことくらい。

さゆは困ったような顔でわたしたち二人と、
それから部屋の奥でさっきまでと同じように、瞼を半分だけひらいたようなうつろな瞳をして、
かすかに顎を上げたまま、ただぼうっと座っているひとみちゃんの顔を交互に見ていた。

あ、A型の私たちに言っても無理だよ、そんなの。

「こんなときのよっちゃんは、美貴でもダメダメ。」

小さく首を振る私の隣で、美貴ちゃんはさっくりそう言い切って、右半分の輪の中心に入って行く。

眉を下げたさゆの困った顔は苦手だから、なんとかしてあげたいんだけどね。

ごめん。最近私もちょっと近寄れなくて・・・。
昨日のひとみちゃんの瞳とおんなじ。

64 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:20
お弁当の蓋にアイスクリームを3つ並べてうれしそうにスプーンをくわえているマコトを手招きして
さゆの手からカップを渡させた。

「よしざーさん。差し入れです、」
「いらねえって。」

のんきなマコトの顔を見て表情が戻ったひとみちゃんの、ふざけたような口調はいつもどおりでうれしかったけど、
さっきまでとのあまりのギャップにどうしたらいいものか戸惑い気味に遠くから眺めてた。

「溶けちゃいますよ?」
「いいって。マコト、食え。」
「やですよ、3つでいっぱいですって、これ以上太っちゃったらどうしてくれるんですか?」
「あと2個ふえたくらいじゃかわんないって。」
「一足先に痩せたからってそんな・・。」
「うるせえ、今食ったら忘れそうなんだよ。さっさと食え!!」
65 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:20
マコトは久しぶりにいつも通りのひとみちゃんの笑顔を引き出した大役を果たし、
うれしそうに目の前にカップを押し付けると

「これ、ついてたみたいっすよ。」

そう言って自分の蓋の下にはさんであった小さなカードを添えた。
片手に持っていたしわくちゃのメモをようやく机の上に置き、だまってカードを取り上げる。
それから少し難しそうな顔をして眉をひそめたあと小さく息をはいたところで、
横顔をそっと盗み見ていた私と思いっきり目が合ってしまった。

一瞬表情が緩んだのでなんか嬉しくなって、開きかけた口元にあわせて近寄ろうとしたら、

「ミキティ、ちょっと。」
すっと視線をそらして集団の中の彼女を呼び寄せた。

ひとみちゃんの目の前のパイプ椅子に腰掛けて、しわしわのメモを覗き込んだり、
真剣に打ち合わせをする二人を見て、やっぱりこの中にいることがひどく辛くなった。



66 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:21


昨日の夜も。

ひとみちゃんは同じ瞳をしていた。

ダイニングテーブルに腕組をしたまますわりこみ、
目の前に何枚かの紙とボールペンをおいたまま。

そっと台所に入ってガスの栓をひねった音に敏感に反応したひとみちゃんは

「もういいから寝てて。」
それだけ言って、振り返りもしなかった。

ヨケイナコト、スルナ。
あのとき強く掴まれた手首の痛みと、見たこともなかったような瞳が思い出されて
震えながらガスを消した。
67 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:22
もう、私の場所なんてないのかな・・。

あのときあたしがどんな気持でつんくさんとこに駆け寄っていこうってしたか、
わかってないでしょ?

もう必要ないってこと?

美貴ちゃんがいてくれればそれでいいのかな・・。

目の前で溶けそうになるストロベリーチーズケーキとジャモカコーヒーを強引に口の中に入れたら、身震いがするほど冷たくて
こぼれおちそうになった涙と重なって頭にジンジンと響いた。



68 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:23



部屋の片隅でイヤホンを聞きながら集中力を高めてる愛ちゃん。
紺ちゃんと二人で畳の上でストレッチをはじめたマコト。
すでに衣装に着替えて振りの確認をする6期の三人。
鏡の前に座って目を瞑ったままの美貴ちゃん。

みんながいつもと違う雰囲気に呑まれている。

なのに私はどうしたらいいかわからず、やっぱりあっちの楽屋に逃げることだけを考えてしまう。

69 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:24
衣装も替え、ピアスもセットしたけど誰に話し掛けていいかわからず、
手持ち無沙汰にアイスクリームの箱をつぶしはじめた。

気付いたガキさんが一緒になって、散らばったスプーンやカップを集め始めてくれたけど。

どろどろに溶けた2色が奥のテーブルにそのまま残っているのが見えて、また少し気分が重くなる。

他のテーブルまで拭きあげたのに、そこだけそのままってわけにもいかず。

自分と同じカップの上に、それを重ねて立ち去ろうとしたとき、ふいに

「ごめん、最後んとこ、打ち合わせたいんだ、ちょっと来てくれる?」
思いがけなく話し掛けられたことにびっくりして、止まってしまった。

ここ3日間、難しい顔ばっかりしてたから。
そんなひとみちゃんしか見てなかったから。

それも仕方ないことだとわかってたけど、正直さみしかったのも本当。
70 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:25
「ちと、待ってて。着替えてから行くから。」

ひとみちゃんが着替えるのを待つ間、部屋にいるのもためらわれて、廊下に出て一人給湯室へ向かった。
カップの中のどろどろの液体を流しながらまたため息をつく。

なんて言葉をかけたらいいのかわかんない・・。
ずっと側にいたのに・・。一番大事なときなのに・・。


銀色の流しに残ったままのパステルカラーにちょっとムキになって、手のひらで水の向きを変えてたら
背後から肩を叩かれ、かなりびっくりして。
袖口まで濡らしてしまった私を見て、目元を少し緩ませ

「なにやってんだか。」

ついて来て。

そう言って廊下奥の階段へと進みだした。

71 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:25


72 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:26


開場まであと30分を切った、2階席。

スタッフさんが大勢、最後の修正に入っているステージを眺めながら
ひとみちゃんは私の顔を見て、こっちすわって、といって、そのままステージを見下ろす。

「あんさあ、一番最初って、こういうとこから見たよね。ステージ。」
「そだね。」
「もうちょっとしたらこっちから、梨華ちゃん、うちらのこと、見ててくれるんだよね。」

思いがけない言葉に急に胸がざわざわした。
73 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:27
このまえ、あの子たちのステージをこの人と一緒にながめたように、
目の前にあるステージに大きな境界線ができる日のことを、一瞬の光景で納得させられてしまう。

頭ではわかってたんだけど・・・。この遠い、越えられない距離が胸を切り付ける。

一緒に眺めた客席、話し掛けたステージの上。
同じ緊張で、同じ視点で、走り続けたあの場所。
ひとみちゃんだけが残るそこを、あたしはどんな思いで眺めることになるんだろう・・・。
怖くて寂しくて・・・。
きっと見れないって思った。
いつかラジオで客観的に見てみたいですなんて言ったような気がするけど。
ごめんね・・・。
しばらくは見に行けないよ・・。
74 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:28
ステージのほうを向けなくなって顔を斜めにそむけた私に、優しい声が降ってくる。

「手、痛かった・・・?」

泣き笑いのような表情で見返したのに気付いたひとみちゃんは、ゆっくりと笑って私の左手首をとり。
それから突然ふざけたようにブラブラと力いっぱい振りはじめた。

「痛い痛い!!」
「どうもなさそうじゃん。」
「もう。痛かったんだってばあ、ほら。」

手首を思いっきりひとみちゃんの目元に近づけると
「・・・・・」
「黒いから見えないとかって思ってるでしょ?」
75 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:29
涙をちょっと浮かべたままの軽口ってちょっと情けないけど。
久々に見た、私だけにくれる柔らかな眼差しはちょっと嬉しい。
ひとみちゃんは私の手のひらを上に向けてパチンと軽く叩くと、もう一度ステージのほうをみた。

「あんまり、辻たちに心配かけなくていいっしょ?」
「だって・・・。」

上を向いたままの手のひらをきゅっと握り締めて、強く爪を手のひらの上に滑らせた。

「いしかー、ばかなこと考えてるのわかったんだもん。」
「ばかって、あんたねえーー」
「ばかだよ、棒に振るようなことすんなって。せっかく最高のステージで送り出そうって思ってるんだからさ。」

76 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:30




一方的な状況説明の後、席を立ったつんくさんのあとを追いかけるように立ち上がった私を
ひとみちゃんは、見たこともないように怒った瞳をして、強く私の手首をつかんだ。

「離して。」
振りほどこうとした私の手を、信じられないくらい強く握って

「余計なこと、すんな。」



77 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:39
私だってね。ばかげたことくらいわかってるよ。みんなの気持だってよくわかってる。わかってた。
でも。何をおいても、今のあなたの横にいたい。
側にいて、話を聞いて、たくさんのこと、語り合って。
あなたと一緒に大切なあの場所を守り続けたい。
夢も大事だって思ってた。だけど何より、隣で支えられる自分のままでいたかったの・・。


潤んだ目のまま見つめ続ける私に、ひとみちゃんは思い切るように一度強く瞼を閉じて。
それからちょっと照れくさそうに続けた。


「かっけえことするから。離れてみてて。梨華ちゃんに期待されるのが一番力になるっていうか・・・。
 支えてもらうより、期待してもらったほうがうれしい。
 そばで泣き言を聞いてもらうより、こっからこうやって見守り続けてくれたほうが、うれしい。」

78 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:41
あたしが思ってたよりあなたはずっとしっかりしてて。
私なんかいなくても立派にやっていけるんだなってわかったときに、耐えられなかったのは私のほうだったんだね。
子供たちに泣きついて、メールして、私がなにをしようとしてたかって結局わかんないんだって愚痴を言って。


「んーと、あいぼんがさ。梨華ちゃん、かわいそうやから、最後に一番喜ぶことしたって。って書いてあった。」
「カード?」
「うん。で、ミキティとも話したんだけどさ、最後のステージまで、遠慮なく絡ませてもらうことにしたから。」
「何それ?」
「一番嬉しいでしょ?」


いたずらっぽく笑うひとみちゃんに、なんか負けたって思った。

私が思ったよりもずっと大人で。
繊細で悩みこんでしまうあなたはいなくて。

まわりからのプレッシャーに負けてしまうどころか、
自分の力に変えてどんどんリーダーらしくかっこよくなっていくだろう後ろ姿を。
あとほんの少しの間だけ、側で見られる幸せを思った。

79 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:42
なんか、ひとみちゃん。ほんとにかっこいいよ。
うれしさと、寂しさと入り混じった涙でひとみちゃんの顔が霞む。

への字に結んで噛みしめた唇をひとみちゃんは笑いながらそっと親指でなでる。
そのいつもより大人びた仕草に、ちょっと悔しくなって。

「ねえ、覚えたの?全部。」
切り替えしたみたらあわてて

「うわ、やべえよ。あと何分??せっかく頭に入ったのに、また流れてったってば。
 冒頭だよね。間に合うかな??」

いきなり子供みたいにばたばたあせって、私の手をつかんで立ち上がった。

「まさか昼ごはんは?」
「食べたら忘れるもん。」
「まったく。誰が言ったのよ、そんなこと。」
「中学んときに誰かが言ってたような・・・いいって。そんなことより、まっずい、まっずい。」
 
行くよ?つかまれた手を握りなおす。

もう少し二人でここに座っていたいところだったけど。
ここから眺めるのはもう少し先でいい。今は繋いだ先のあたたかさをしっかりと受け止めたい。
80 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:43
「あ、そうだ。もうひとつ問題があったんだ。」
衣装に気を配りながらできるだけ急ぎつつ階段を降りてたら。

「何?」
「挨拶もなんだけど、もっと緊張すんのがあって。できれば隣にいてほしいんだけど。」
「だから、何?」
「初ショイじゃん。隣にいて。手、重ねて。」

81 名前: 投稿日:2005/04/19(火) 18:45
にっこり微笑み返す。
照れたようなあなたの顔はもういつも通りで、やっぱり私と一緒にいて肩の力が抜けてきたんだって
言い返してやりたくなったけどね。

あたしが側にいたほうが、いいでしょ?
隣にいるのがあたりまえっつうか、それがなきゃ落ち着かねえっていっつも言ってたよね。
ひとみちゃんの心の中にちゃんと最初っから用意されてた私の場所。

下に降りたらきっとみんなが円陣を組んで、あなたを待ってる。
両方の手を差し出すことになるあなたの手のかわりに、
ちゃんと右隣に並んで、上から2番目に重ねて。
反対側の手で気付かれないようにそっと抱きしめてあげよう、
少し大きく見えた背中を手を繋いだまま追いかけながら、そんなことをふっと思っていた。





『 416 』



           了
82 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/19(火) 18:45



83 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/19(火) 18:45


84 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/19(火) 18:45


85 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/19(火) 19:44
感動しました。すごく2人の雰囲気が良いです。
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/19(火) 20:53
最高です・゚・(ノД`)・゚・。
次回も楽しみにしています
87 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/26(火) 20:20
>>85-86
ありがとうございます。
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/26(火) 20:20
 
 
 
   『いしかーなんて』
 
 
 
 
89 名前:いしかーなんて 投稿日:2005/04/26(火) 20:21
いしかーなんて嫌いだ。




「よっちゃんお行儀悪いよ」

ごはんとサッカーだったらまず間違いなくサッカーだ。そんなの決まってる。
だからあたしの意見も聞かずにさっさとテレビを消してしまういしかーは嫌い。
シュートシーンに興奮してごはん茶碗をひっくり返したところでサッカー観戦は終了。
真っ暗なブラウン管に映ったのはあたしの不満顔といしかーの笑顔。

「ちゃんと座って食べなさい」

大体にしてその言い方はおかしい。いつのまにごはんの時間になっていたんだ。
もとからあたしはごはんなんて食べてないんだから立ち上がってテレビを見ながら
クッションを蹴ったってなんの文句も言われる筋合いはない。まったく。
華麗なゴールシーンを再現することのほうが今は先決だってのに。

「はい、あーん」

いしかーなんて嫌いだ。

あたしが怒ってることに気づいているくせになにもなかったかのようにまた笑う。
差し出された黄色い物体からはいい匂いがするから仕方なく食べてやるけど。
勢い余ってひっくり返したごはん茶碗はすでに元通りになっていた。
いつまでたっても甘さが一定しないたまごやきはいつも新鮮に感じる。

「おいしい?」
「おいし」

よく噛んで食べなさいと言われる前に飲み込んでやった。




90 名前:いしかーなんて 投稿日:2005/04/26(火) 20:21

いしかーなんて嫌いだ。

「ダメダメ。まだ泡ついてるでしょ」

自分で食べたものは自分で片付けなさいなんてお母さんみたいな口調で言われても。
べつに好きで食べたわけじゃないんだぞ。片付けやすいように全部平らげただけ。
食器洗いなんていつだってできるから今しか見れないサッカーを見るべきなんだ。
いしかーだってクイズ番組がサッカーで潰れなかったら見てるくせに。ずるい。

「もうっ。やっぱりよっちゃんはお皿拭いて」

泡まみれの手からみるみるうちに泡がなくなってちょっとだけ寒い気がした。
いしかーが洗った皿を端から拭きあげて、ちょっと落としそうになったけど
しっかり棚に閉まって今ならまだ間に合うかもとロスタイムに望みをかける。
水滴が残る皿は見なかったことにしてクッションを蹴りやすいように並べた。

「よっちゃん耳貸して」

いしかーなんて嫌いだ。

引っ張られる力にそれでも少しは抵抗したけどしぶしぶその場に寝転んでやった。
髪を耳にかけられて、息がかかるくらい顔が近づいてきたのを確認して目を閉じた。
耳の中を動く感触に力が抜けてしまう。綿はいつもくすぐったい。

「きもちいい?」
「きもちい…」

目の先にあるはずのクッションはきっと蹴られるのを待っていたはずだ。




91 名前:いしかーなんて 投稿日:2005/04/26(火) 20:22

いしかーなんて嫌いだ。

「そんなにパソコンばっかりやってると目が悪くなるよ」

ゴールラッシュのスコアだけを見ても、当然ながらさっきの興奮は蘇らない。
ピカピカと光る4とか5とかの数字はあたしになにも見せてはくれないから。
後ろで仁王立ちをしてるいしかーに電源を落とされる前に慌ててシャットダウン。
ため息は古いパソコンが息を切らすプチッという音に消されて聞こえなかった。

「きっとニュースで流れるよ」

他人事だと思って無責任なこと言っちゃってくれる。でもそっか、その手があったか。
新聞のテレビ欄を見てニュースの時間を確認。念のために携帯のアラームもセット。
いしかーに言われなくったってニュースがあることくらい知ってたんだからな。
べつに頭とか撫でられなくったってそんなこと最初からわかってるんだからな。

「お風呂入ろ?髪洗ってあげる」

いしかーなんて嫌いだ。

忘れっぽいあたしがニュースを見逃さないようにアラームまでセットしたっていうのに
すぐにそうやって大切なことから引き離そうとする。勝手になんでも決めてしまう。
教えなくてもかゆいところがわかるらしい10本の細い指を器用に動かすんだ。
いしかーは自分の長い髪よりもあたしの髪を洗っている時間のほうがずっとずっと長い。

「かゆいとこない?」
「ない、と思う」

断言するのは、癪だった。




92 名前:いしかーなんて 投稿日:2005/04/26(火) 20:22

いしかーなんて嫌いだ。

「もう遅いからね。ほら、よっちゃん」

意思とは無関係に上のまぶたと下のまぶたがひっつきそうになってきた。
あたしはそんなの許してない。まだダメだ。ダメだ。でもいしかーはとっくにお見通しらしい。
つるつるのシーツとシーツの間に滑り込んで片側に寄ったらニュースのことを思い出した。
迷うひまもなく諦めた。もうどうでもいいや。ニュースもサッカーも。なんでも。

「ちょっと待ってね」

テレビを見損ねて、インターネットも邪魔されて結局ニュースまでも。
我慢できない眠気もいしかーも、あたしの気持ちなんてこれっぽっちもわかってない。
最初からわかろうとしないのか、わかってるうえでやってるのか。タチが悪いんだ。
頑張って片目を開けたらさっきセットしたアラームを解除してるいしかーが見えた。

「はい、おいで」

もぞもぞと近づいて両手でぐいっと引き込まれた先には柔らかい感触といつもの匂い。
いしかーはあたしの頭をこれでもかとぎゅうぎゅう自分の胸に閉じ込める。
この無駄にデカイ胸はあたしにこうするためにあるんだ。絶対に間違いない。

「おやすみ、よっちゃん」
「ん…」

いしかーなんて嫌いだ。

抱きしめられて眠ることを覚えたあたしは抱きしめられない夜がイヤだ。
仕事やなんかで一緒にいられない日はたまらなく寝つきが悪いし夢だって怖い。
あたしの体をいつのまにかそんなふうにしてしまったいしかーの責任は大きい。
いしかー自身はあたしを抱きしめない日もちゃんと眠れている?そんなのイヤだ。イヤだ。


だからいしかーなんて嫌いだ。
あたしにこんなことを思わせるいしかーなんて嫌いだ。

いしかーなんて。




93 名前:いしかーなんて 投稿日:2005/04/26(火) 20:22

「おはよう、よっちゃん」
「はよぅ」

朝イチバンにキスをしてくれるいしかーなんて。
目が覚めたとき笑っていてくれるいしかーなんて。

「もうちょっとこうしてようか」
「うん」

二度寝の誘惑よりも甘くて気持ちイイいしかーの胸の中。

「今日も好きだよ。昨日も今日も明日もよっちゃんが」
「ん…」
「ちゃんと言って」





いしかーなんて。





「好きだよ」





94 名前:いしかーなんて 投稿日:2005/04/26(火) 20:23
 
 
95 名前:いしかーなんて 投稿日:2005/04/26(火) 20:23
 
 
96 名前:いしかーなんて 投稿日:2005/04/26(火) 20:23
 
<了>
 
97 名前:パンナコッタ 投稿日:2005/04/29(金) 21:39
更新お疲れ様です。毎回違った感じなんで飽きません。
素直じゃないひとみちゃんが可愛いです。次の更新待ってます。
98 名前:名無しのA 投稿日:2005/04/30(土) 20:58
どのお話もすごく良いですね。やっぱり「いしよし」には癒される・・・w
いしかーなんて・・・この淡々とした流れ大好きです。
吉澤さんがめっちゃ可愛いです。
99 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/30(土) 23:48
更新お疲れさまです。 やっぱりいしよし良いですねー。 優柔不断もどきなよっすぃーも良いですね。 次回更新待ってます。
100 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/14(土) 17:55
>>97-99
ありがとうございます。
101 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/14(土) 17:56

  『珈琲屋さん』
102 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 17:56

どうしよう〜?
入っちゃおうかな〜?

でもコーヒー好きじゃないし・・・
コーヒー専門店に紅茶なんてないよね?
あったとしても注文したら『なんだこいつ?』って思われるよね?


私がなぜコーヒー専門店のウロウロしてるかって?

それは・・・


このお店の店員さんに一目惚れしちゃったからなんですっ!


たった今正面から歩いて来た人に一目惚れ。
振り向くとコーヒー専門店に入っちゃった。
思わず引き返して中を覗くと入って行った人がトレイを持って動き回ってた。


かなりの美形だったんだよね〜
もっとジックリ見たいな〜


よしっ!

石川梨華、突入しますっ!


103 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 17:57


--- カランカランコロ〜ン


うわっ!

なに?ドキってするじゃないっ!
今時こんなドアあり?

あっ!あの人がこっちを見た。


「いらっしゃいませ〜」


あらステキな声。
顔よし、声よし、スタイルよし。



「お一人様ですか?」

「はい」

「こちらへどうぞ」


夕方なのに結構混んでる・・・
見渡す限り女性しかいないんですが・・・

今ってコーヒーが流行なの?


104 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 17:57


決まったら呼ぶように言われたんだけど・・・


何が美味しいの?
何が無難なの?
私が飲めるのは何?


メニューを開くと・・・

あれ?


コーヒーだけじゃないんだ。
紅茶もあるし・・・

パフェもあるっ!

看板のコーヒー専門店っていうのは偽りなのね?
でもおかげで毎日来られそう!


普段通らない道を歩いてみたんだけど、こんなお店があったなんて。

もしかして最近出来たのかな?
柴ちゃん知ってるかな?
明日、聞いてみよう〜


吉澤さんと目が合った。
さっきエプロンに付いていた名札を見て名前は確認済。

手を上げると笑顔でこちらに歩いて来た。


「お決まりですか?」

「苺パフェを」

「はい、かしこまりました」


吉澤さんの笑顔にこっちまで笑顔になる。
そのまま目で追ってると・・・

さっきはいなかったけどカウンターの中に目の鋭い子が・・・
吉澤さんの先にいたから目が合っちゃったけど、視線を逸らしてくれないんですが・・・
ヘビに睨まれたカエル状態で自分からは逸れせられない・・・

でも吉澤さんが彼女に『ミキティー』って声を掛けると、そっちを向いて途端に笑顔になった。
同じ人?ってぐらい表情が変わったんですが・・・


私はお客さんで吉澤さんは同僚だよね?
お客さんを睨んで同僚に笑い掛けるって・・・


恐いよ、ミキティー・・・




105 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 17:58


「絶対パフェの女なんていわれてるよ」

柴っちゃん、そっち見ちゃだめだって!!



今日は季節限定チェリーパフェ。

吉澤さんがにっこり笑っておすすめしてくれたんだけど、
注文書をミキティーに渡した瞬間、鼻で笑われた。

対抗意識むきだしで、柴っちゃんが見返してる。
二人とも、怖いってば・・・



「毎日通ってるだけじゃ、周りの席の子っちと 変わんないんだからね」

「わかってるけどぉ・・・」

「アルバイト募集も、そのうち埋まっちゃうよ?」

「だってコーヒ・・・」

「知ってるけど。パフェばっか食べて金欠なんでしょ? ほら、肌荒れだって」

そうそう、最近、自慢のアゴにニキビがって・・・
もう、余計なお世話です!!


たしかに、柴っちゃんがつきあってくれてる日以外はいっつも一人。
毎回パフェを頼んで、黙々と食べてる女なんて、ストーカーみたいだよね。



吉澤さんは他の子にするのと同じように、
顔を覚えてくれていろいろ話し掛けてくれるようにはなったけど、
パフェ食べてる時間なんてたかが知れてるんだよね・・・。



106 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 17:58


最後の一口をくわえたと同時に、柴っちゃんにぐいぐい店の奥に引っ張られて。

猫目の女性が多分店長さんだと思うの。

じろっと睨まれて足がすくんだけど、柴ちゃんにバシッと背中を叩かれた。


「あの、アルバイト募集ってまだやってますか・・?」

「「マジで??」」


カウンターの奥から二人一斉の声。

目の前の店長は上から下まで舐めるように私を見たあと



「いいわよ。明日から来れる?」

えっっ?まだ何にも言ってないんですけど・・。


「あの、履歴書とかは?」

「今度来るときで良いから」



「店長、名前くらい聞かなきゃ」

トレイを抱えて近づいてきた吉澤さんにポンって肩とか叩かれちゃった。
どうしよう・・すぐ真後ろに顔があるよ〜!!


「えっと、石川梨華です」

「ここね、店長の好みがうるさくて、なかなか決まんないんだよ。
 もちろん、コーヒーの味にもかなりうるさいけどね」

「あの・・・実は私、コーヒー・・」



「種類くらい、当然知ってるよね!?」

奥からすかさず突っ込み。
いや、ホントは種類以前の問題で・・・。


「いいよ、梨華ちゃん。今夜お店終わってから、ここに来れる? うちが全部教えたげるよ」


教えたげるって〜!!今夜いきなり??手取り足取り??

しかももう、梨華ちゃん、だってー!!

間近にあるキレイな顔をうっとり見つめ返していたら、
腕組したミキティーから冷たい視線。


「もう!よっちゃん今日、合コンじゃん」

「いいよ、別に。人数あわせだし」

「じゃあ、美貴も行かない。」

「いいけど。ミキティ行かないなんつったら、激怒するよ??亜弥」


107 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 17:59


もしかして二人っきりなのかな?
どうしよう・・・?何話したらいい?

履歴書も持ったし、洋服も着替えたし、
柴っちゃんに辛口チェックしてもらって修正済みだし。



--- カランカランコロ〜ン


あれ?誰も居ない・・・?


「吉澤さん・・・?」


カウンターの下から、ひょっこり顔を出した。


「あ、来た来たー。夜遅くなのに、ごめんね」

いつものシンプルな白いシャツの制服姿も凛々しいけど
着古したジーンズとTシャツ姿もあまりにかっこよすぎだよ・・。


「あの・・・飲み会って良かったんですか・・?」

「ああ、あんまり好きじゃないんだ。面倒だし。 
 あれ?もしかして梨華ちゃんは合コン好き?」


ブルブルブル

思いっきり顔を横に振る。

好きなわけないよお。
初対面の人とか絶対お話できないし。


ずっと振り続けてたら、思いっきり笑われて。

固まってた私の手から履歴書を受け取って
そのまま手を引いてくれて、カウンターの席に座らされた。



108 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 18:00


「んーと、とりあえず一口ずつ飲んでみて」

まだ何種類かあるみたいで吉澤さんは忙しく手を動かしてる。

吉澤さんに見惚れてたからすっかり忘れてたんだけど。
目の前にずらっと並んだコーヒーカップ。
大っキライなあの香りが・・・。

緊張してごはんも食べれなかったから、余計に気持悪くなりそう・・・。


「うちさ、将来、保田さんみたいに喫茶店やんのが、夢なんだよね」

そう言って照れくさそうにフニャっと笑った。

手作りケーキとか並べて隣にいたいなあ、ずっと・・・

ニヤニヤしてる私を、大きな瞳をまん丸にさせて覗き込んだあと。
急に凛として、ポットから慎重にお湯を注ぎ始めたカオは、真剣そのもの。

いやーん!ステキすぎだよ〜!!もう。

「こっちからアインシュペンナー、カフェ・ショコラチーノ、モカ・ジャバ。どう?」

そんな甘い声で言われたら飲むしかないでしょ。
一番生クリームたっぷりのやつ、これならいけるかな・・・

よし。石川梨華、気合を入れて・・・


109 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 18:00



「梨華ちゃん、大丈夫?」


大丈夫じゃありません・・・


大っキライなコーヒー。
独特の香ばしい匂いを吸い込まないように息を止めて。
覚悟を決めてエイって飲んだら・・・


「慌てて飲むからだよ〜」


お約束みたいに舌をヤケドした私ってバカですか?
せっかく吉澤さんに用意してもらったのに。


「ひょめんなさい・・・」

舌が痛くて上手く喋れないよ〜。
吉澤さん、呆れてないかな?
こんなバカな女に教えるの嫌だなって思われてたらどうしよう。


「謝ることなんてないよ。それより大丈夫?」

「うん。ちょっと痛いけど・・・でも大丈夫です」

ホントはまだ舌がヒリヒリしてて、とてもコーヒーなんて飲めないけど
吉澤さんが心配そうな顔をして覗き込むから思わず大丈夫なんて言っちゃった。


ていうか・・・顔、すっごく近くてドキドキするんですけど。


110 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 18:01


「ホントに?ホントのホントに大丈夫?」

うわー・・・最初からわかっていたけどホントに綺麗。美形なんてものじゃない。
まつげなんてびっくりするほど長いし、大きな瞳に吸い込まれそうになる・・・
それにどうしてこんなに肌が白いの?!透けちゃうんじゃないかってくらい・・・


「・・・ちゃん?梨華ちゃん?」

「あ・・・なんですか?」

「なんですかって、どうしたの?人の顔ぼーっと眺めて」


やだっ!私ずっと見つめちゃってたの?もしかして。


「なんか長いとか白いとかブツブツ聞こえたけど・・・」


え・・・しかも声まで出してたんですか・・・
バカを通り越して危ない人って思われたかも・・・


私いま顔とか絶対真っ赤なんだろうな。
だってヤケドした舌よりもほっぺのが熱いんだもん。
それに恥ずかしいはずなのに吉澤さんの顔から目が離せない。
こんなドキドキすること生まれて初めてかも・・・


111 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 18:02


「梨華ちゃん、顔が真っ赤だよ。どうしたの?」

「あ、あの・・・」

「もしかしてウチのこと好き?」



えーーーーー!!



吉澤さん、なんで知ってるの?!

ってそういうことじゃなくて。
私はこういう場合なんて答えたらいいの?『ビンゴ!』とか?
正直に好きって言っていいの?でも恥ずかしくてそんなこと言えるわけないよ〜。
でもでも否定なんてできないし・・・柴っちゃん助けてーーー!!


「あ、当たっちゃった?ますます顔が真っ赤だよ〜。可愛いね〜」


私の顔を見ながら吉澤さんがいたずらっ子みたいに笑った。
かわいいのはあなたです・・・
その笑顔は反則だよ・・・


112 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 18:02


「ねぇ、まだ舌痛い?」

「えっ?」

「ウチが治してあげるよ」


えぇぇぇぇぇ?!


あっという間に吉澤さんの顔が近づいてきたと思ったら・・・


「あ・・・んっ・・・」


初めてのキスが大嫌いなコーヒーの味なんて。
でも不思議・・・。


どうしてこんなに甘いの?


「はぁん・・・ぁん・・」

「ちゅばちゅば。んっ・・・梨華ちゃん、治った?」


頭の中が真っ白で何も考えられない・・・
吉澤さんの舌がまだ私の舌を舐めあげてるみたいで・・・


「ふふふ。梨華ちゃんって美味しいね」


わけのわからないうちにキスされて、そして今も吉澤さんが私の唇を・・・
どうしてこんなことになったんだろ?コーヒーは?
もしかして吉澤さん、私のことを・・・?



突然の展開に頭がついていかないけど、でも気持ちいい・・・
石川梨華、吉澤さんのキスにとろけそうです・・・


113 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 18:03


「よっちゃんにキスされたでしょ?」


前日のキスの余韻も覚めないままバイトに行ったら
突然ミキティーに睨まれてこう言われた。
睨まれるのはいつものことだけど・・・でもなんでキスのこと知ってるの?!


「よっちゃんね、キス魔なんだよ」

「は?」

「アイツ、可愛い子にはとりあえずキスしちゃうの」


やだっ可愛いだなんて!私のこと?私可愛いって言われたの?



・・・ってちがーーーーう!!キ、キ、キ、キス魔ぁ?!




「美貴も何回もされてるんだよね〜。可愛いから」


自分で可愛いって言ってるよこの人・・・
たしかに睨まなければ可愛いけど今はそんなことはどうでもよくて。


114 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 18:04


「キス魔ってなによぉーーーーー!!!」

「すごいキンキン声・・・美貴、倒れそ・・・」

「キス魔って!キス魔って!キス魔ってーーーーー!!!」

「お願いだからもうやめて・・・」


ミキティの両肩を掴んでぶらぶら揺すっていたら・・・あれ?
ちょっと、ミキティ?なんで泣いてるの?しかも白目剥いて。


「ふわっ!し、死ぬかと思った!!」

「大丈夫ですか?どこか体の具合が悪いんじゃ・・・」

「アンタのせいでしょーが!!」

「は?」

「まあいいや。とにかく、よっちゃんはキス魔なの」

「キス魔・・・」

「1回キスされたからって勘違いしないでね」

「1回じゃないですけど・・・」

「2回も3回も一緒なの!」

「2回や3回でもないですけど・・・」

「はぁ?!ちょっと、何回されてんのよー」

「えっと・・・たぶん32回くらいかな」

「そんなに数えてたのかよっ!」


30回くらいまではちゃんと数えていた。吉澤さんとのキス。
それから先はあまりの気持ちよさに意識が遠のいて・・・
気づいたらソファに横になって吉澤さんに抱きしめられていた。


115 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 18:04


「そっか・・・吉澤さんキス魔だったんですね・・・」


優しく、でもギュッと抱きしめてくれたのに。
名前を呼びながら髪を撫でてくれたのに。
私の唇を何度も吸いながら「可愛い」って言ってくれたのに。

思い出したら自然と涙が出てきた。


「ちょ、ちょっとー泣かないでよー。美貴が泣かしたみたいじゃんかー」

「ぐすっ・・・ご、ごめんなさい」

「・・・そんなにショックだったの?」

「・・・」

「はぁ〜。でもよっちゃん気に入った子じゃなきゃキスなんてしないから・・・」


うん?今なんて言いました?


「だから32回だっけ?そんなにしたってことは」


うんうん。つまりどういうこと?


116 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 18:05


「ちょっと・・・ていうか、かなり気に入ったんじゃない?アンタのこと」


そう言って悔しそうにそっぽを向いたミキティ。
小さい声だったけど私の耳は聞き逃さなかった。


私、吉澤さんにかなり気に入られたの?!


そんなつもりはなかったのにニヤニヤしていたら
ミキティは一言「キモッ」とだけ残して着替えに行ってしまった。
私はその後姿を見ながらガッツポーズをして高らかに宣言。



「キス魔だからって諦めないんだからーーーー!!!」

「あー!うっさい!!」



コーヒー嫌いの私がコーヒーに囲まれたバイト先で、
コーヒー好きのキス魔を私に振り向かせるために


石川梨華、これから頑張っちゃうんだから!!




117 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 18:05
  
  
118 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 18:05
  
  
119 名前:珈琲屋さん 投稿日:2005/05/14(土) 18:05
 
おわり…?

 
120 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/14(土) 21:32
つづけ!(←かなり強気、、すいません。。)
121 名前: 投稿日:2005/05/14(土) 21:52
つづいてくださいおねがいします。
122 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/19(木) 00:34
素晴らしい!どれもこれもめちゃくちゃ面白いじゃないですか
梨華ちゃんの頑張り期待してます
123 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/19(木) 20:11

124 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/19(木) 20:12
>121〜123

レスありがとうございます。
125 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/19(木) 20:14
訂正

>>120-122

レス、ありがとうございます。
126 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/19(木) 20:14

127 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/19(木) 20:14


128 名前:Weak lover to sake 投稿日:2005/05/19(木) 20:17



『Weak lover to sake』

129 名前:Weak lover to sake 投稿日:2005/05/19(木) 20:17


130 名前:Weak lover to sake 投稿日:2005/05/19(木) 20:19


ホテルの一室…
メンバー数人が集まっている。

アタシは2人きりで過ごしたかったから行きたくなかったんだけど
ひとみちゃんが、みんな居るから少しだけ顔だそうよって言うから
2人で行ったまでは良かったんだけど・・・


「よっちゃん、眠いの?」


なんだかジュースで乾杯した後、ひとみちゃんは眠そうに
アタシの肩に頭を乗っけてる。


「ん〜?なんか、ちょっとぉ・・・」


肩に頭を乗せたまま、アタシの顔を見上げるようにそう言った。
か、かわいい・…
とか言ってる場合じゃなくて、どうしよう?
寝ちゃう前に戻った方が良いかな?
アタシの左隣にいた美貴ちゃんが気付いて声をかけてくれた。

131 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:20

「よっちゃんさん、どったの?」

「ん〜、なんか眠いみたい」

「え〜?まだ集まってそんな時間経ってないじゃん」

「そうなんだけどぉ・・・」

う〜んと考えてるとひとみちゃんがアタシを呼んで…

「りかちゃあん」


そんな甘ったるい呼び方は普段絶対しない。
しかも皆集まってる場所で・・・・?
絶対にオカシイ。
なんて考えながら、ゆっくりひとみちゃんのほうを見た。


「んっ・・・・?」


名前を呼ぼうとした唇を塞がれて少しの声が漏れた・・・って?


エ工エエェェ (o゚▽゚o)ェェエエ工エエ



・・・・・キスされた?

132 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:22
待って待って?みんないるところだよね?
アタシ達ってふたりっきりじゃなかったよね?
だってビックリして閉じれなかった視界に、部屋にいる皆さんの
同じくらいビックリした顔が飛びこんできたもん。

アタシ達の真正面に座ってた5期メンバーは・・・

愛ちゃんは目をこれでもかってくらい見開いて
麻琴は口をぽかんと開けて放心状態
コンコンは頬を赤く染めて、なんだかうっとりしてるし。
ガキさん?そのカメラはどこから持ってきたのかしら?

少し長めに触れていた唇から舌が侵入してきて・・・
ちょっ、まってひとみちゃん。それ以上は絶対にマズイと思う。
だってだって2人っきりじゃないんだよ?
こんな深く口付けてくるときって
したい時だよね?絶対・・・


133 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:22


134 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:23
そうしてるうちに絡められた舌が気持ち良くて
アタシの思考は、だんだん霞みがかってきて…
瞳を閉じてしまった。

ちゅっちゅっって音が微かにするこの空間に他の人がいることを
一瞬忘れかかった時、ゆっくりアタシは倒されていた・・・
組み敷かれそうな直前?

さすがにヤバイって本能が叫ぶの!じゃなくって理性が止めてくる。
アタシがひとみちゃんの肩を少しだけ押すと、唇が離れた。
すかさず発したアタシの一言は・・・


「よっちゃあん。だめだよぉ、こんなところじゃぁ…」


なんていう甘ったるくてやらしぃ響きになってしまった…


135 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:23
ビックリして止まっていたらしい皆の中で、アタシの声に
真っ先に反応したのは美貴ちゃん。


「よよよよっよっちゃんさん何してんだよ!」


どもり過ぎだよ、美貴ちゃん・・・


「あれジュースですよね?吉澤さんが飲んでたの・・・
 でも藤本さん何かいれませんでしたか?」

「ガ、ガキさん見てたの?」


えっ、どういうこと?って視線を・・・送れないよ。
とりあえずひとみちゃんを見上げていた状態から起きあがる事にする。
ぽ〜っとしたひとみちゃんは、今だ夢の中みたいな顔で…
ヤバイ、絶対にまだしたいってカオしてるもん。
起きあがったアタシにひとみちゃんはそのまま抱き着いてきた。
もうとりあえず押し倒されるよりはましだろうと、あやす様に
ゆっくり背中を撫でてあげた。
眠さもあるのだろうかひとみちゃんはアタシの胸に顔をうずめて
目を閉じて気持ち良さそうにされるがまま。

そんな様子をなおもビックリした顔で見ている5期メンバーの3人・・・
ガキさんは何かをメモってるけど何してるのかしら?

136 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:24
隣で、ものすご〜く申し訳なさそうに美貴ちゃんが話し出した。
それよりアタシは今腕の中で野獣化する一歩手前のひとみちゃんをここから
早く連れ出したかった。
だってひとみちゃんの左手はアタシの腰を撫で始めてる。
これはもう・・・
したいんですって合図と言っても良いかもしれない。


「あのさ、ちょっとだけなら良いかなぁ〜ってチューハイ混ぜて・・・」

「よっちゃんお酒弱いの。見た目すっごい飲めそうだけど」

「ほんとにちょ〜っとだけなんだよ?ごめんね」

「まぁ大丈夫だよ。眠くなっただけみたいだし。
 とりあえずアタシ、よっちゃん寝かしつけてくるね?」

137 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:24
美貴ちゃんが頷いたのを確認して、もう寝たようなひとみちゃんを呼ぶと
『ん〜?』なんて間延びした返事とともに瞼が開いた。
同時にアタシの腰をゆっくり撫でつづけてた手の動きも止まる。
とろんっとした瞳が可愛過ぎるよぉ・・・


「ほら、お部屋に戻ろう?もう寝たほうが良いよ?」

アタシの声にゆっくり頷いてひとみちゃんは体をおこし
一緒に立ち上がった。


「それじゃ、おやすみ♪お騒がせしてごめんね?」


なんて言って逃げるように部屋に戻る。
とりあえずひとみちゃんのお部屋だよね。

138 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:24


139 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:25


「石川さん戻ってきますかね?」

「どうだろ?よっちゃんが寝ちゃっても戻ってこないかもね〜」


しっかし、キスするところなんて見るとは思わなかった。
しかも、長すぎだよ!

5期の3人なんて今だ夢でも見てるようなカオしてる。
ってか麻琴を2人して見つめるんじゃない、紺野に高橋。
ダメだかんね襲っちゃ?
というか美貴の話し相手はガキさんしかいないわけだけど・・・。


「さっき写真撮ってなかった?」

「えっ?き、気のせいですよ〜」」

「あやしい・・・」

「だってほら、報告しないといけなくって・・・」

「誰にだよ?」

「保田さんとか保田さんとか保田さんに・・・」

「同じ人なら1回言うだけでいいから」


というかなんで保田さん?


「なんか『いしよし』の情報は随時報告するのよ!?って」

「なんだそれ?」

「なんか趣味らしくって・・・」


とほほって感じでうなだれる美貴。
保田さん何がしたいんですか?

140 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:26

時間も30分ほど経って、どっかにいってた5期3人の意識も戻ってきた頃、
部屋のチャイムがなった…


「だれだろう?あっ、美貴見てくるよ」


立ち上がりかけたガキさんをせいして扉を開けに行くと…梨華ちゃん?
覗き穴から梨華ちゃんが見えた。


「どったの梨華ちゃん」


とりあえず部屋の中に入って顔を上げた梨華ちゃんは
ものごっつい怖い顔をしてました。美貴は本気で怖かったです・・・


「美貴ちゃん、ひとみちゃんがぁ・・・」


今度は泣きそうな声で美貴に抱き着いてくる。
なんだぁ?そういえばさっきまで普通のピンクな私服だったのに
ジャージを着ている…んだけど大きくない?

141 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:26
「よっちゃんさんがどうしたの?」

「襲うだけ襲って最後までしないで寝ちゃったのぉーーーー!!!」


混乱してるのか梨華ちゃんは早口でとんでもない事を
でっかい声で口走った・・・。

もちろん、部屋の中にいた皆にも聞えて
飲み物を思いっきり噴出す人や、またも放心状態になる人が・・・
美貴も混乱しちゃうよ!?
それにアニメ声が脳天を突き破りそうだった・・・


「りりりかちゃん、おっきい声でそんな・・・」


その美貴の声で少しだけ我に返ったのか梨華ちゃんは
”えへっ”なんて場違いな笑いで誤魔化そうとするけど…
誤魔化すのは無理だよ。

142 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:27
「で?よっちゃんは寝たまんま?」

「思いっきり怒鳴って出てきたから、追いかけてくるかも?・・・」


あぁ、超音波を大音量で聞いたわけだ、よっちゃんさん。
逆に気絶してなきゃ良いけど・・・。
そんな時、チャイムが鳴った。

・・・・・きた?


扉を開けると案の定、正気に戻ったらしいよっちゃんさんは
かなり焦った様子で入ってきて、梨華ちゃんに謝った。


「梨華ちゃん、ごめんね。なんか意識が朦朧としてて…」

「・・・もう、強引だったんだからぁ」

「ほんとに、ごめんね?」

「・・・・・」


みつめあうな!!!!
美貴の存在を忘れるな。ついでに後ろに5期メンバーいるから!?
ガキさん、写真を美貴の後ろに隠れて撮るんじゃない!?
そして、2人は目だけで会話して何やら頷きあっている。

143 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:27
「あのぉ、やっぱり部屋に戻るよ」


部屋の皆にもお騒がせしましたぁって2度目の挨拶をして戻って行った。
ま、まさかこの後続き…
とか考えるの止めて美貴達も寝るかな。

「ほんとに物凄いバカップルだなぁ。
 美貴もう寝るから、みんな部屋に戻りなよ」

「麻琴、あーしと一緒に寝る?」

「ダメ!?麻琴はアタシと一緒だよね?」

「え、え〜っと、ガキさんと相部屋だったような・・・」

「まこっちゃん2人の部屋に行ってていいよ。一人で平気だから」

「そんなぁ〜!?」


とりあえず麻琴を間に挟んで愛ちゃんと紺ちゃんも部屋を後にした。
麻琴がんばれっ、明日会えるように祈っとくよ。
ガキさんもさっさと消えたけど心配だな色んな意味で・・・。
とりあえず美貴は、はやく寝よーっと。


144 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:27



145 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:28




ひとみちゃんのお部屋までの廊下を手をつないでかえる。
その手をぶんぶんと振りながら無邪気に問いかける。


「ねぇ、ひとみちゃん?」

「ん〜?」

「・・・続きして?」

「へっ・・・?」


あの後ひとみちゃんは案の定、興奮した状態で。
部屋に入るなりアタシをベッドに押し倒した。

そして、ゆっくり愛撫してくれてアタシの意識も
ふわふわと快楽に酔いはじめて気持ちも昂ぶって…

すごぉく気持ちくなってきた時・・・
突然、ひとみちゃんの動きが止まったとおもったら…
そのまま寝てたの。
びっくりだよ、ひとみちゃん。


146 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:29
「なんで寝てるのよぉーーーーーーーー!?」


ひとみちゃんはバチッと目を開けたけど、状況を把握するのにしばらくかかって。
泣きそうなアタシを心配そうに見て青ざめてた。

アタシは泣きたくなって急いで身体だけシャワーを浴びた。
自分の部屋じゃないから服が無かったんだけど
ひとみちゃんのジャージを借りて部屋を飛び出してた。
で、美貴ちゃんに会いに行っちゃったけど
ちょっと冷静になって考えたら大声で何を報告したんだか・・・。
お騒がせした事、明日ちゃんと謝っておこう。

147 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:29
「でも、梨華ちゃん明日も仕事があ・・・」

「嫌じゃないよね?むしろ襲ったのはひとみちゃんだからね?
 ちゃんと責任とってね?」


ひとみちゃんの言葉を遮って首をかたむけて顔を見上げるように言う。
上目遣いに弱いから…
それでもまだ躊躇してるひとみちゃんにとどめの一言。


「楽屋でも襲ったのだぁれ?あの後いろいろ誤魔化すの大変だったんだよ?」


軽く視線を外して逃げてたのに、慌ててひとみちゃんはアタシを見た。


「んぅぅ・・・ごめんなさい。是非させてください」


と非常に直接的な表現をしてくれた・・・
ほんの少し前にひとみちゃんは我慢できなくって楽屋でしちゃったんだもんね?
しかもマネージャーが来そうになって・・・

148 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:30



ねぇ?愛のある行為だよね。アタシのこと好きだから求めるんでしょ?
ちゃんと・・・


「梨華のこと愛して?」


首に腕を回してそういうと優しくキスをしてくれた。


「愛してるよ、梨華」


そこからは2人だけの時間…
アタシに甘える、ひとみちゃんの姿を見られちゃったのは
ちょっと嫌だったけど、2人のラブラブっぷりを
知ってもらえたのは嬉しかったかな…・。

程々に愛されてこの日は終わりました…・
う〜ん、程々だったのかなぁ?



149 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:31






150 名前:Weak 投稿日:2005/05/19(木) 20:31


151 名前:Weak lover to sake 投稿日:2005/05/19(木) 20:31
おわり
152 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/19(木) 22:46
お腹おっぱいで、違う違ういっぱいでございます
素敵なものをありがとうございました
153 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/20(金) 04:11
やば良いです。ガキさん頑張れ
154 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/05/27(金) 21:31
おもしろい!やっぱいしよしはいいなー
保田さん、ガキさんから仕入れたコレクション今度見せてくださいな
155 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/31(火) 05:01


>>152-154

レス、ありがとうございます。



156 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/31(火) 05:01


157 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/31(火) 05:02



『世界で一番、熱い夜。』




158 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/31(火) 05:02


159 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:02


だからね。


あの夜は、世界中で一番熱い夜を、私たちは過ごしたの。






石川はうっとりと、遠くを見つめてつぶやいた。



160 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:03


***



161 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:03


私の卒業コンサートは、その日、つつがなく幕を閉じた。
その後の打ち上げも終始穏やかなムードで。
そりゃ、時々涙ぐんだり。
思わず涙が零れちゃったり。
そんなこともあったけど。
幸せで、幸せで、笑顔に包まれた幸せな一日だった。


じゃあ。


うん、じゃあね。


1人1人と去っていくメンバー。
またすぐ収録で会うけど。
その時はもう、メンバーじゃない。「元」メンバー。
そんな思いに後ろ髪を引かれるように相手も私も、何度も振り返って。
車窓を全開にして。
身を乗り出して。


「あぶねーから」


別れを惜しんだ。


「落ち着けって」

162 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:03

だけど、最後まで幸せな気分でそれを終えられたのは。


「あ、出してください。だいじょーぶ。乗り出さないように押さえてるんで」


傍らにいた、あなたのお陰。


「ほら、落ち着けって。深呼吸しな?」


私の身体を支えるように回された腕。
もう、ずっと。
普段は絶対にこんなことしてくれないのに。
今日は一日、ずっと傍にいて。
ずっと支えていてくれた。
愛しいあなた。よっちゃん。


「ん?どした?」


それまではしゃいで大騒ぎして。
別の車に乗ったメンバーや、同乗していたメンバーが降りる度に車から身を
乗り出してまで騒ぎ続けた私。
車はとうとう、高橋を降ろして。
私たち2人きり。

163 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:04

勿論、運転はマネージャーさんだけど。
今は気を利かせてか、微かに聞こえる程度につけたFMに聞き入るように
鼻歌を歌いながら運転に集中してくれてる。
薄暗い車内。
もともと暗かったのに、ついさっきまでは


「はっぴぃぃぃー」「らぶりぃぃぃー」「ピーマコおがわでぇぇぇすっ」


とか。
とにかくうるさかったから全然気付かなかった。
だけど。
今、よっちゃんと2人きり。
まわされた腕に力が込められて。
なんだか。
なんだか。

…。

言われるままに、深呼吸をして。
よっちゃんの肩にこてん、と頭を乗せる。


「疲れたの?」

164 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:04

よっちゃんの優しい声に。
ふるふると頭を振って。
頬をその鎖骨辺りにすりよせたら。
ふふっと笑うよっちゃんの息遣いが私の髪を揺らし。
手をぎゅっと握ってくれた。
カーラジオから流れるのは、私の知らない洋楽。
あまったるいメロディーが、なんだかとても、切ない気分にさせた。



165 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:05



***




166 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:05

見上げた夜空に、星が輝いていて。
私はそれをひとつひとつ数えた。
よっちゃんは運転席のマネージャーさんと、窓越しに打ち合わせ。
明日もお仕事なんだ。

…………私抜きで。

ビルに邪魔されて数え切れない星を探そうと空ばかり見て動いていたら


「危ないって」


腕を引っ張られる。
いつの間にかマネージャーさんの車はなくなっていて。


「おまたせ」


そう言って、よっちゃんはまた私の身体を支えるように腕を回してくれた。
身を寄せ合うようにして、私たちはマンションへと入っていく。
よっちゃんにとって、私の部屋はもう我が家同然。
私がぼーっとしてる間にポケットから鍵を出してドアを開けてくれた。


「どうぞ、お姫様」
167 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:06

先に私を入れてくれて。
自分は後から入ってしっかり施錠。
対して私は、だらしなく靴を脱ぐとリビングの床にだらしなく寝そべる。
フローリングの床が、なんだか冷たくて気持ちいい。
乾杯程度に飲んだシャンパンだけで、もしかして私、酔ってるのかな?
顔の向きを変えると、私の靴を甲斐甲斐しく揃えるよっちゃんの姿。
……なんか、違う。
そりゃ、ああ見えてよっちゃんはすごく乙女チックだったりして。
女の子だったりするんだけど。
でも、いつも2人でいると。
ぼーっとしてるよっちゃんと、世話を焼く私ってのがいつもで。
そう、いつもだったらこうやって、帰って来てすぐダラダラするよっちゃんを
私が叱って……


「梨華ちゃん、先にシャワー浴びちゃいな。そんなトコで寝ないの」


いつもの台詞、取られちゃった。
悔しくて。
私は目を閉じて寝た振りをする。


「ほらっ」
168 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:06

よっちゃんが寄って来て。
ひんやりした手が、頬に当たる。
目を閉じたまま、それを感じる。


「お姫様は、悪い魔女のせいで眠ってしまいました」


ふふ。
よっちゃんの笑いが静かな室内に零れる。


「王子様のちゅーがないと、起きられません」


胸元で手を組んで。
王子様のちゅーを待つ。
やがてそれは、ふわっと。
優しく、私の唇に触れて。


「……っ」


目を開けようとしたら急に起こされて。
ぎゅっと背後から抱き締められた。
169 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:07

「どーしたの、王子様?」


「なんでさ、白雪姫って王子様のちゅーで目が覚めるんだろ。毒りんごだよ?
ちゅーでなんにも解決しないじゃん」


王子様はそんなコトを言って。
首をかしげてまたちゅーをくれる。
優しく、優しく。
甘いキス。
さっきみんなで口にした、すごく高級なシャンパンみたい。
電気をつけてない部屋に、気泡のようにキスだけが繰り返し浮かび上がる。


「……変」


やっぱり、変だよ。


「なにがだよぉ」


いつも変だけど。


「今日のよっちゃん。特に」
170 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:07

特にってなんだよ……、そう言って。
よっちゃんはまた甘いキスをひとつくれて。


「……優しい」


「優しいと変なのか、あたしは?」


「うん」


そんなコト言ったら、いつものよっちゃんだったらきっと
すごく意地悪なコトとかしてくる筈なのに。
また降ってきたキスは、優しくて。
全然、意地悪じゃない。


「ね」


暗闇の中でも、よっちゃんの表情は手に取るように解かる。
長く一緒にいるせいかな。
よっちゃんのコト、きっと、すごくよく解かるの。
171 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:08

「ありがとう」


身体の向きを変え、よっちゃんと向き合って。


「今日、ずっと一緒にいてくれてありがとうね」


ぎゅっと抱き寄せられて。
顔は見れないけど。
解かってる。
きっと、あなたは今、悲しそうな顔してる。


「ありがとう。ずっと、ずっと」


泣きそうな、顔をしてる。


「……なんだよ、それ」


よっちゃんの胸元に頬を寄せて、目を閉じたら。
頭上からから曇ったよっちゃんの声。
172 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:09

「きゃ」


急に身体をひっくり返されて。
気付けば私はフローリングの上。
覆いかぶさったよっちゃんは、ベランダから差し込む僅かな月明かりを
背にしていて表情が解からない。
だけど、きっと…。


「ちょっと、よっちゃん!?」


よっちゃんの手が荒々しく私の身体に触れる。


「ちょっと、ちょっと待ってっ」


首筋から鎖骨、胸元へと流れるその舌が……私の思考を少しづつ奪っていく。
嫌……じゃないんだけど。
フローリングの上でするのは、実は初めてで。
勝手が解からず、よっちゃんも私も何度も固い床に腕をガンガンぶつけちゃうから。


「いたぁっ……ね、よっちゃん……ベッド…」
173 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:09

勧めても、よっちゃんは全く動きを止めようとしない。
諦めて、身を任せた。
何かに急かされるように、よっちゃんはいつになく性急で乱暴に
次々と私の服を剥ぎ取っていく。


「梨華……梨華ちゃ………」


カーディガンを二の腕までずらし、キャミソールを首の辺りまでたくし上げ。
だから私は、自分でカーディガンを腕から外し、キャミソールも脱ぎ捨てる。
お腹の辺りでもぞもぞしてるよっちゃんの身体からもジャケットとTシャツを剥ぎ取って。


「梨華ぁ…」


よっちゃんのベルトに手を掛けたら、押し返されて。
胸元に、ダイレクトによっちゃんの吐息。


「あっ………」
174 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:10

フロントホックを外して進入してきたよっちゃんの指が


「ひゃぁ……」


私の身体を翻弄し


「ふ………ぁん」


私の自由を奪う。


「やぁ……」


目を閉じて。
その感覚に酔っていると。
今度は生暖かい感触がそれに触れて。


「よっちゃぁぁ……」

「んん…」
175 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:10

よっちゃんの唇に、舌に。
もう、身動きが取れなくなるくらいに、縛り付けられるように、感じてしまう。


「はぁ………ぁ………ん」


まだ僅かに寒い春の夜。
冷たく固いフローリングの上で。
だけど私は、どんどん溶かされ、熱く燃え上がる。


「ひゃっ」


よっちゃんが急に歯を立てて。


「いやぁっ」


掴む手に力を入れる。


「やぁっ………やさしく…もっと、優しく……っ」
176 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:10

思わずこみ上げた涙に視界が潤む。
いつものよっちゃんじゃない。
だって、いつも、よっちゃんはすごく優しく。
こういう時だけは、ちゃんと、優しく。
すごく、私のことを気にしながら、してくれるのに。
だけど今。
すごく無茶苦茶で。
まるで、私のコトを痛めつけるようによっちゃんは私を抱く。


「………っ」


強く吸われて。
甘咬みを繰り返されて。
私の身体の上を、よっちゃんは暴れまわる。
嵐のように。
荒々しく。
私はただ目を閉じて。
それが去るのを、待つ。
嵐が去り、やがて、穏やかな凪いだ世界が広がるのを。
けれど。


「……今日は、優しくなんてしないよ」


顔を上げずに。
よっちゃんは行為に没頭しながら言う。
177 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:11

「言って……ずっと一緒にいるって言って」


ちゃんと、大事にするから。
ね、言って。
あたしの傍にずっといるって。
梨華ちゃんはあたしのもんだって。
あたしだけのもんだって。
言いなよ。
ほら。


「私はずっと、よっちゃんのものだよぉ」


今までも、これからも。ずっとずっと。
よっちゃんがいらないって言ったって。こんなに私はもう、あなたのもの。
あなただけの…。


「じゃあ、ありがとうとか言わないで」


胸元から顔を上げて。
私を見つめるよっちゃんの真剣な表情。
闇に慣れ始めた目が、よっちゃんの悲しげな瞳を導き出す。
178 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:13

「これからも、ずっとずっと一緒だから。だからまだ、礼を言うのは早いんだよ」


よっちゃんから、一滴、涙が零れて。
その熱い雫が私の頬を濡らした。


「……うん、ごめんね。ずっと、これからもずっと一緒だよ?」


手を伸ばして。
よっちゃんの顔を引き寄せて。
その頬に直に舌で触れ、涙を吸い取る。
そう。
そうだね。
寂しいのは私だけじゃなかったんだね。
ううん。
むしろ、今までいた場所に居続けるよっちゃんの方が寂しいのかも。
ごめんね。
よっちゃんの気持ちに気づかないで。
気づいてあげられないで。
でもね。
置いてくんじゃないよ?
ずっとずっと、一緒だよ?
ね、解かって?
ありがとう、はね。
今までのありがとうも、これからのありがとうも、全部含めたありがとうなんだよ?
あとからあとから零れ出すそれを、全て舐め取って。
よっちゃんの頬に額にキスをする。
大好きだよ、よっちゃん。
愛してる。
白雪姫も、私も、王子様の愛に生かされてるんだよ?
179 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:14

よっちゃんは少しづつ、落ち着きを取り戻して。
優しい瞳を私に向ける。




あのね、梨華ちゃん…。
今夜はね


「梨華はあたしのもんだって。解からせたげるから」


身体で…。
そう言うと、よっちゃんはさっきとは全然違う優しい動作で私にまた覆いかぶさり。
だけど、いつになく情熱的に。
強く。
一晩中、私を求め続けた。

180 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:14



***



181 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:15


「ね、ね、ロマンティックでしょ?ねっ?」


「へいへい、そーですねぇ」


某日某スタジオ。
廊下を歩いていたら、おいしい差し入れがこっちの楽屋にあるわよと甘い言葉に
嵌められて美勇伝の楽屋に足を踏み入れたら……お菓子以上に甘ったるいノロケ話を
聞かされた哀れなカモ一匹。


「あの夜、世界中で一番熱かったのは私たちだったの!!」


どこか遠くを見つめながら目をキラキラさせて。
うっとりする石川に、小川は掛ける言葉もない。


「あ、その時のアト見る?まだ残ってんの〜」


「うわぁ!!いいですっいいですって、石川さん!!!」

182 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:16



くしゅん。





少し離れた娘。の楽屋。
あの夜以来ちょっと風邪気味なんだよなー…とニヤニヤする吉澤が
うっかり口を滑らせた小川によってメンバーの前で世界で一番熱い昼を体験するのは
あともう、数十分後のこと。

183 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:17


184 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:17



185 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:17



186 名前:『世界で一番、熱い夜。』 投稿日:2005/05/31(火) 05:17


  Fin




187 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/31(火) 08:42
やばい最高です
188 名前:名無し飼育 投稿日:2005/05/31(火) 13:40
8割がた現実だととっても嬉しいですねww
いいなぁ。うん、理想的すぎる。頑張ってください
189 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/31(火) 13:58
そんなことがあったんですねぇ。。。w
素敵なお話ありがとうございました!
190 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/31(火) 23:27
最高で〜す!ホントにおもしろかったですよ♪
読み返しちゃいました・・
また 読ませて下さいね。楽しみにしてます。
191 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/01(水) 23:47
世界で一番熱い昼の状況が知りたい(笑)
192 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/06/02(木) 20:48
すげー面白い!いいなぁ、自分もこういう甘いお話が書けるようになりたいです。
193 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/18(土) 21:34

>>187-192
ありがとうございます。
194 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/18(土) 21:35

195 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/18(土) 21:35


   『嘘つきな天使』
196 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:36

好きな人がいる。


一つ年上の先輩で、たぶん高嶺の花。

多分って言うのは…相手はすごくもてる人で、自分も同じくらいもてる奴だから。


はっきり言ってあたしは頭は良くない。
だけど、運動はできる。
自分で言うのもなんだけど…性格もたぶんイイ。
ついでに顔も……「かっこいい!」とか言われちゃってたりする。

ありがたいことにそんなあたしを好きって言ってくれる人はそこそこ多くて。

だから自分でもちょっとだけ勘違いしちゃってたりするんだけど(笑)
そんなあたしでもあの人だけには自信がもてないでいる。


197 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:37


“石川梨華”

あたしの好きな人の名前。


すっげーキレイな人で、見た目は超がつくほど女の子。
生徒会長なんて務めるほど頭が良くって、テストは常に一番らしい。
運動もできるらしくって、テニスでは全国大会にも出ている。
性格も…優しくてすごいいい人と評判。

だから当然もてる。
でも誰とも付き合っていない。


昔学校で一番かっこいいと言われていた人をも振ったらしい。
198 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:37


そういうわけで“高嶺の花”


他の人より可能性はあるかもしれないけど、それでもやっぱり遠い存在。



だったんだけど。



世の中何があるかわからない。



あたしは今憧れの石川先輩と口付けをかわしている。


199 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:38


時は戻って数分前。


あたしはいつものように屋上で授業をさぼっていた。

誰にも見つからない、あたしだけの隠れ家。


屋上には一つ死角があって。

ちょっとだけ高いその場所はぎりぎりなんとか上れるかどうかって所。
普通の人には厳しいかな?
あたしだから休める究極の穴場になっている。

たまに見回りの教師が来ることもあるけど、あたしの存在には気づかない。

生徒同士の内緒話なんかをこっそり聞くこともあったりして、
なかなか楽しめるあたしだけの心地よい空間。


今日もそんな場所に何も知らない生徒がやってきて…

200 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:38


って、石川先輩!?

うおっ、ラッキー!!

こんな時間にこんな場所で話す話はたいてい秘密の話だ。
石川先輩のこと、なんか知れるかも!?


あたしは多分能天気な奴なんだな。

全く気づかなかったし、そんなこと思いもよらなかったもんな。



201 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:39


「…何〜?結局また続かなかったの〜?」
「だってぇ、全然うまくないんだも〜ん。」
「まったくカワイイ顔してこの子は〜」
「え〜でもぉそれって大事でしょ!?」
「うーん、まぁね。ってか意外、あの人うまそうだったのに…」
「それがねぇ…超下手でほんっとやばかった!」
「うわっ、ひどいねこいつ(笑)」
「もう!柴ちゃんもこないだそんなこと言ってたじゃん!」
「あ〜、だってさH下手な奴だとね〜。よっぽど好きじゃないと無理じゃん。
 って、あたしは梨華ちゃんみたいにそれだけで振ったりしないけどね〜」
「なによ〜」
「あはは、とりあえず次見つけなよ次。」
「ねー。どこかにうまい人いないかな〜!?」

202 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:39

えっと、この会話は何だ?
いや、このぐらいなら別にいいんだけど、問題は話している人たち。



石川先輩ってそんな人なのか〜???



“カランカランカラン……“


やっべー動揺して缶蹴っちゃったよ。
ばれるかな? ばれるよね?

203 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:40

「誰?」


あ〜あ、やっぱりばれた…。
つーかこれじゃあ隠れていられないよなぁ…。


「誰かいるの?」


はいはい、今出ますから待っててくださいって。

「…よっと。あ〜あの…別に聞き耳立ててたわけじゃないんですけど…」
204 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:40

うわっめっちゃ気まずい!
こういう時って何を話せばいいんだよー!


あたしが動揺して軽くパニックに陥る一方。
先輩たちは…始めはびっくりした顔してたけどすぐに普通に戻って。
なにやら二人でこそこそと話している。

「…だってさ、どうするの?」
「う〜ん、とりあえず柴ちゃん戻ってていいよ。」
「うん、そのつもり(笑) ほどほどにしなよー!」
「分かってるってば(笑)」


あれ? 柴田先輩行っちゃうの?
石川先輩と二人っきり?
マジで何を話せばいいんだよー??


205 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:40


「2年の…吉澤さんだよね?」

あたしが悩む間に石川先輩の方から話してきてくれた。
ってか、あたしのこと知ってんの?
マジ? 嬉しすぎるよ。


「…違った?違ってたらごめんね。」
「へっ?あっいや、吉澤です!合ってます、合ってます!!」
「そんなに慌てなくてもいいよ(笑)」
「…すいません。」

やっべぇ恥ずかしい。
バカな奴とか思われちゃったかな!?
206 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:41

「別にいいんだけど…それよりどう思った?」
「えっ?」
「…話聞いてたんでしょ?」
「あっ!はい……」

って、これ何て答えればいいんだ?
変なこと言って嫌われても困るし、う〜んと、え〜っと。


「そんなに悩まないでよ(笑)」
「えっ、あっ、はいっ、すいません!」
「今度は慌てすぎ(笑)それより、吉澤さんって今彼女いるの?」
「えっ!!」
「あれ?違う? じゃあ…彼氏とか?」
「いや…男とは付き合ったことないですから……」
「ふ〜ん、じゃあ今はフリー?」

いったい石川先輩は何が言いたいんだ?


って、えっ!?
207 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:42


気づいたら目の前に石川先輩の顔があって…唇をふさがれていた。



なっ!?
これって夢?
現実? だとしたら何で?



「あ…あの……」
「嫌だった?」
「あ、いや…そういうわけではないですけど…」
「吉澤さんってもてるんだよね?」
「へっ!?」
「だからうまいのかな〜って思って。」


それでか…ちょっと期待しちゃったよ。
もしかして石川先輩もあたしのこと…なんてさ。
208 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:42

「でも固まったままなんだもん(笑) よく分からなかったよ」
「あっ…」
「もしかして初めてだったとか?」
「…違いますけど、あの、びっくりして……」
「ふ〜ん、じゃあもう一回しよっか?」


返事を返す前に再び唇をふさがれた。
違うのは…今度は意識がはっきりとあるということ。


いいのか? いいんだよな?


正直、不安も残ってはいるけど。
最初で最後のチャンスかもしれないから。
“高嶺の花”を見てるだけで終わらせたくないから。


あたしに出来る限りの熱いキス。

209 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:42

「…上手なんだね。」
「あー。どうもです(照)」
「……今彼女いないんだよね?」
「へっ!?あっ、はい。」
「ねぇ、とりあえず一回試してみない?」
「えっ!?」
「ケーキ屋さんの角にマンションあるでしょ? そこの6階に住んでるんだ。
 部活終わった後にでも来てよ、待ってるから。」


ドアを開けて校舎へと戻る後姿に見とれながら。
突然振って沸いた幸運?に心臓が飛び出しかけている。


憧れの人の本当の姿。


ショックじゃないと言ったら嘘だけど、同時に喜ぶ自分もいて。


チャンスなのかな?


“高嶺の花”で“天使”なはずの人と過ごす夜を思う。
210 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:43



“ピンポーン”

部活が終わって猛ダッシュでここまでやってきた。

時間が決まってるわけじゃないから急ぐ必要とかなかったんだろうけど。
時が経つにつれ夢じゃないかなって不安になってきて。
自信を持って「現実だ!」と言い切れる間に来なければいけないような気がしたんだよね。



「早かったね。」
「あっ、はい!」
「とりあえず何か飲む?」
「あ、じゃあ……」


差し出されたのは冷えたコーラ。

乾いた喉を潤すにはちょうどいいのかな…。
この部屋に来てから熱を帯びたように全身が熱い。


やばい…緊張してきた。

211 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:44

「ねぇ、今日泊まれるの?」
「へっ!?」

泊まり? 泊まっていいの?

そんなの考えてなかったよ…。
泊まる準備してくれば良かったな…。


「その様子だとそんなこと思ってなかったかな?
 じゃあシャワー浴びてきちゃうからそれ飲んで待っててくれる?」




静まり返った部屋にシャワーの音が響く。


その音が妙にリアルで。


今自分に起こっている現実に胸が高鳴る。
212 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:44



「…吉澤さんもシャワー使う?」

バスタオル姿の石川先輩の姿を見て冷静でいられるわけがない。

「いや…いいです。」


「もしかして我慢できなくなっちゃった?(笑)」
「なっ!?」
「冗談だよ。かわいいね、吉澤さん。」

顔が真っ赤に染まってる気がする。


ってか、なんで先輩はこんなに余裕なんだよ…。

213 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:44

緊張しまくってるあたし。
余裕な感じで落ち着いてる先輩。

正反対な二人。

それが意味するもの。

あたしは先輩が好き。
先輩はあたしのことを何とも思っていない。

それが現実。


Hしたら何かわかるかな…。


今日まで知らなかった石川先輩の裏の顔。


距離が近づけばもっと先輩のこと知れるのかな…。

214 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:45



だけど、何度体を重ねても何も分かりやしない。

募る気持ちと虚しさだけがあたしを覆う。





知り合ったのって梅雨に入る前だったっけ……。


すでに夏は終わりを迎えようとしていた。




215 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:45

「吉澤少年、何か考え事?」
「……柴田先輩。」
「な〜んか難しい顔してたよ。」
「はぁ…でも少年って……」
「まぁ気にしない気にしない(笑)それより悩みごと?」
「まぁ……」
「ふ〜ん。梨華ちゃん?」
「えっ!?」

何で分かるんだろう? 顔に出てる?


「何で分かるかとか思ってる?」
「…はい。」
「吉澤少年ね〜自分でも気づいてないと思うけど、日に日に思いつめた顔になってるよ。」
「そう…ですか……?」
「自覚ない?」
「…はい。」
「そっかそっかー。」

あたし分かりやすいのかな?
石川先輩も気づいてる?
216 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:46

「梨華ちゃんを見る目が切ないんだよね〜。」
「…………。」
「なんか苦しそうって言うか。」
「………あの…」
「ん〜?」
「石川先輩も…その…気づいてるんですか?」


緊張が走る。

柴田先輩の返答次第では今の関係を変えなければならないかもしれない。


「梨華ちゃん?」
「はい。」
「梨華ちゃんはね〜気づいてないよ、っていうより気づかないよずっと。」
「え!?」

今の言い方って、何か含んでるよなぁ…。
217 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:46


柴田さんは石川先輩のことを沢山知っている。
少なくともあたし以上には。


“柴田先輩に聞けば何かわかるかもよ!”

ふと脳裏に浮かんだ言葉。

実行していいのかな?
実行していいんだよな?

218 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:47

「柴田先輩!」
「ん〜。何〜?」
「あの…石川先輩って……」
「言っておくけど、梨華ちゃんのことなら話さないよ。」

え? なんで?


「梨華ちゃんの口から聞きだせるくらいじゃないと何も出来ないだろうし。」
「…………。」
「だから私からは何も教えたりしない。」
「…………。」
「まっ頑張ってみてよ!」
「…………。」



「吉澤少年には期待してるんだから!素直に行け、素直に(笑)!」

最後に励ましみたいな言葉を残してはくれたけど。


なんかますます分からなくなってきたな……。

219 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:47




石川先輩との関係が始まった場所。

石川先輩の謎が深まった場所。

そして…石川先輩との関係が終わる場所?



220 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:47

「どうしたの?こんな所に呼び出して。」
「…………。」
「珍しいよね、学校の中で会うの。」

「あっあの!」

「うん?」
「えっと……」
「なぁに?」

「先輩ってあたしのことどう思ってるんですか!?」


221 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:48


「………どうしたの急に?」
「ずっと考えてたんです、このままじゃ嫌だって。」
「……終わりにしたいってこと?」
「そうじゃなくて…」


「終わるんじゃなくて始めたいんです!」

柴田先輩のアドバイスに従って思い切って告白。

222 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:48



「…ごめん。」

長い沈黙の後に発せられた先輩の声。


やっぱりダメか……。


「私…そういうの分からないから……。」
「…………。」
「愛とか恋とか…そういうの全然分かんないの。」


分からない?

面倒とかじゃなくて、分かんないの?
223 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:49

「あの…どういう意味ですか?」


「私の家ってね、すっごい冷め切ってて…パパもママも愛人がいるの。
 でも小さい頃ってそんなの知らないから、パパとママに褒められたいって
 思って、いい子でいようってずっと頑張ってたんだ。」

「………。」

「だけど、テストでいい点とってもピアノの発表会で賞をとっても……
 いつも一人なの。パパもママもいっつも愛人の所に行っちゃって…。
 それなのに私の前では“梨華のことが好きだよ”“パパ(ママ)が大切だよ”って
 口ばっかりキレイなこと言うの。」

「………。」

「私が何も知らないと思ってたんだろうね、バカみたい……」

「………。」
224 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:49

「それで、口だけじゃなくて私のこと愛してくれる人を探したんだけど。
 “好き”って言ってくれる人も“愛してる”って言ってくれる人もいたけど、
 みんな口ばっかり。私のいい部分しか見てくれないの。
 ちょっとでもイメージと違うことすると“なんか違う”って否定してきて。」

「………。」

「結局誰も私のことちゃんと見てくれたりしないんだな〜って。
 体だけの関係の方が楽なんだよね…って、これじゃパパやママと同じなんだけど。」

「………。」

「吉澤さんも幻滅したでしょ?」

「そんなこと!」

「いいよ、別に。慣れてるし。下手に綺麗ごと言われるほうが嫌だから。」
225 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:50


「…じゃあなんで話してくれたんですか?」
「え?」
「柴田先輩が言ってました。話を聞きだせるくらいになれって。
 話してくれたってことは、あたしに少しは他の人と違うもの感じてくれたんですよね?」
「それは……」


「他にそういう人が出来そうなら諦めます。」
「………。」
「でもそうじゃないなら…また新しい相手見つけて同じことを繰り返すんだったら、
 そうするくらいならもうちょっとあたしにチャンスください!」

「吉澤さん……」


「特別なこととかなくていいし、今と同じようなものでもいいんで。
 ただ…あたしだけって約束してください!!他の人とはしないって。
 そしたら、あたし…絶対石川先輩を振り向かせてみせますから!」


226 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:50


「…吉澤さんって不思議だよね?」
「へっ!?」

「何回もHしてると普通慣れてくるでしょ? 
 それなのに吉澤さんはいつまでたっても緊張してるんだもん。」

「なっなんでそれ…?」

「心臓の音がね、鼓動って言うの? あれがすっごく早くなって。
 普段からそうなのかな〜って、寝てる時とかいろんな時に聞くようにしてたんだ。」
「…………。」
「そしたらね、キスした時とか急に早くなるって気付いたの。」
「…………。」
「ちょっと嬉しかったな〜。」

227 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:50


「ねぇ、私愛とかどういうのか分からない人だよ?」
「へっ?」
「そんな人で本当にいいの?後悔しない?」
「あっ…い、いいです!後悔なんてしません!」

「ふふふ、やっぱりかわいいね吉澤さん。」




「柴ちゃんの言う通りだったな〜」
「柴田先輩!?」
「うん。柴ちゃんがね、吉澤さんならきっと大丈夫だよって。
 珍しいんだよ〜柴ちゃんがお勧めしてくるのって(笑)」


228 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:51


「私ね、世界中でたった一人だけ…柴ちゃんのことだけは信じてるんだ。」
「そう…なんですか?」
「でも、何だろう?柴ちゃんとはキスとかしたいわけじゃないし(笑)
 きっと友達として最高な人で、恋とはまた違うんだろうなって。」
「…………。」
「だから…柴ちゃんくらい信用できる人でキスも出来るひとを探してたの。」
「…………。」


「吉澤さんにはね、柴ちゃんと同じ匂いを感じたんだ。」
「…………。」
「キスもHも出来るしね、見つけちゃったのかな?」
229 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:51

「あの…期待してもいいんですか、それって?」

「う〜ん、わかんない!私そういうの分からない人だから。」
「あっ…そうでしたよね……。」

「でも…ねぇ、本当に大切にしてくれる?」
「へっ?」
「これで裏切られたら本当にもうダメかも、私。」

「そ、そんなこと絶対しません!」

「噛んでるよ(笑)」
「すいません……。」
「でも嬉しいかな!?」


「吉澤さんに未来をかけてみようかな……。」
230 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:51


ぼそっと呟いた石川先輩の少しはにかんだ笑顔。


いつも見せる隙のないそれとは違う不完全な笑顔。



だけど…今まで見た中で一番綺麗な笑顔だった。 



勝手にイメージを作りこんでたけど。

この人も普通の人なんだなって。
手の届かない“高嶺の花”とか決め付けちゃいけないんだなって。



小悪魔の振りをした嘘つきの天使。



あたしの前に舞い降りてきてくれたのかな……。
231 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:51

232 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:52

233 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:52

234 名前:『嘘つきな天使』 投稿日:2005/06/18(土) 21:52

  Fin
235 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/19(日) 20:50
更新お疲れ様です。今回も面白かった〜
236 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 22:22


>>235

ありがとうございます。


237 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 22:23





238 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 22:24


『それはありふれた幸福な1日』


239 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:25



安らかな寝顔に掛かる長い髪をかきあげて。
その柔らかな寝息を零す唇に、そっとキスをひとつ。



240 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:25


「…………んん…よっすぃ……」




夢の世界から聞こえたその言葉に満足して。
あたしは玄関先に置いていた荷物を手にして部屋を出る。
リビングのテーブルの上には、新聞と朝の挨拶。
ベッドの上の恋人を、ドアが閉まる前にもう一度、確認して。
そっと、起きてしまわないようにそっと、閉めた。
新婚を過ぎると妻は布団の中からお見送り、なーんて。
世の中のおじさんたちは嘆くらしいけど。
彼女の寝顔に元気を貰って、今日も1日頑張るぞー…なんて。
思ったりしちゃったりしてるあたしって、おバカさんだろうか。
……ま、いっか。
それだけ、彼女に惚れてるってコト。
それって、すごくない?
こんなに自分以外の誰かに優しい気持ちになれるってコト。
この恋って素晴らしくない?
………朝っぱらから、何考えてんだろ、あたし。
そんな自分に苦笑しながら、エレベーターに乗り込んだ。

241 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:26




242 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:26

梨華ちゃんのマンションからの帰り道。
駅までの近道に公園を突っ切って。
朝の新鮮な空気の中。
もう、今月に入って何度目だろ……って、指折り数えてみたら
なんのことはない、ほぼ毎日。
こうなってくると、朝帰りってより、もう、梨華ちゃんちに居候みたいな。
マネージャーさんも薄々気づいてて、最近じゃあ車をあたしんちじゃなくって
あたしの住む駅の前に回してスタンバイしてる。
梨華ちゃんちの駅や梨華ちゃんちの前にまわしたりしないのが
お互いの暗黙の了解というか、たしなみというか。
だけど、別にお互いに隠したりしてる訳じゃなく。
よく梨華ちゃんちの前とかで梨華ちゃんの方のマネージャーさんにも会うし。
そんな時はフツーに、特に気まずいコトもなく挨拶をして通り過ぎる。
そんな、自然なカンジ。
今の、あたしと梨華ちゃんの関係。

243 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:27




244 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:27

駅に着いて、回数券を出す。
パスネットとか買って使ってたら、梨華ちゃんがこんなもんを用意してくれた。
こっちの方がお得なんだから、って。
うーん、出来た妻、なんて。
改札を通る度にニヤニヤする自分も、ちょっとだけ愛しかったりして。
……あれ、あたしって、こんなキャラだっけか?
うーん。
なんだか、梨華ちゃんのキショいキャラが移った気がする。
ヤバイヤバイ。
電車を待つ間、何気に携帯を取り出して。
思うは、やっぱり置いてきた彼女のこと。
もう、目、覚めたかな?
電話してみる?
いや、起きてなかったら悪いし。
今日は全日オフで、用事もないって言ってたから。
後でメールしとこう。
冷蔵庫にアイスコーヒー淹れてあるよって。
それと、あたしの朝の残りだけどベーグルのサンドイッチも冷蔵庫に入ってるからって。
リビングにメモは置いてきたけど。
気づかないといけないからさ。
……うーん。あたしって、こんなキャラだっけか?
あたしの方が先に出るときは、出来るだけ朝ご飯を用意して出掛ける。
ああ見えて、うちの奥さんはお料理とか苦手だからさ。
放っておくと朝からコンビニの菓子パン、とかやりかねないし。
245 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:28

出来るだけ、手作りを食べさせてあげたい、なんて。
よしこの乙女ゴコロ。
………やだなあ。あたしって、絶対こんなキャラじゃなかったのに。
ブツブツ言いながら、ホームに入って来た電車に乗り込む。
ラッシュを過ぎたばかりの午前の電車はスカスカで。
でも、あたしは窓際に立って外を見つめる。
梨華ちゃんのマンション、この電車から見えるんだよね。
ビルとビルの間に一瞬だけど。
ちゃんと見えると、なんか、1日いいコトがありそーな気分になるんだ。
…………ああ。あたしってば、いつの間にこんなキャラになっちゃったんだろ。



246 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:28




247 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:28

少し前までは、不安だった。
梨華ちゃんの卒業が決まってすぐとか。
あと、卒業した直後とか。
なんだか、気を抜くと遠くに行ってしまいそうな気がして。
心配で心配で。
一日中だって監視してたくて。
だけど、物理的な距離は離れてく一方で。
怖かった。
だけど。
あるとき突然に。
当たり前なんだけど。
物理的な問題じゃなくて、大切なのは精神的な距離なんだって。
本当に、急に、そんなことに気づいた。
何かきっかけがあってとかじゃないから、具体的なエピソードとかないから
説明しづらいんだけど。
本当に、あるときいきなり、ひらめいた。
昔、教育番組で見たひらめくとぴっかーんて頭の光っちゃう子みたいに。
ぴっかーん、て。
それで、それを梨華ちゃんに報告したら。
ふふって。
そんなの解かってましたよってカンジで、笑われた。
248 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:29

なんだよ。
そんな私の方が大人、って顔して笑ったりしちゃって。
それじゃ、一人で悩んでたり焦ってたりしたあたしがすんげー子供じゃん。
そう思ってムっとしたあたしに、梨華ちゃんはぎゅっと抱きついて。



「でもね、精神的にはぴったりしててもね、それだけじゃダメだと思うの。
だからね、たまにはこうやって物理的にもぎゅってして?」



抱き締めた梨華ちゃんからは、甘い匂いがして。
なんだか。
その匂いを力いっぱい吸い込んでたら、今まで悩んだりしてたのがバカらしくなってきて。
精神的にはさ、完璧なんだから。
物理的にも、今まで見たいに四六時中ってのはムリにしても。
出来るだけはやってみようって。
たまにじゃなくって、出来るときはずっと、ぎゅっとしてようって。
そう、その日から。
ほとんど毎日、梨華ちゃんちに泊まってる。

249 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:29




250 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:30

途中、何回か電車を乗り換えて自分の家のある駅に着いて。
特に隠すでもなく堂々と改札から出て、そのまま目の前に止まってる
見慣れた車の前に行く。
開いたドアに、乗り込んで。
車は今日の現場へ向けて走り出す。
何事もないようにその日のスケジュールを述べるマネージャーさんの声に
耳を傾けながら、彼女へのモーニング・メールを打つ。


『もう起きた?冷蔵庫にコーヒーとサンドイッチあるから。』


少し考えて送ったそっけないメールに

251 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:31


『おはよ〜。起こしてくれればよかったのに。今日はどうするの?』



あたしはそのメールに迷わず返事を打つ。
だけど、すぐに返すのはなんだか癪だから。
現場に着いたら、車を降りる直前に送信しよっと。



252 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:31



『6時には帰るよ』



253 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:32



***



254 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:33


ぼーっとしてたら、あっという間に時間は過ぎて。
気づいたら、部屋が茜色に染まる時間だった。



「大変……」



私は、慌てて散らかしてしまった雑誌やら小物やらを片付け始める。
今日は全日オフ。
いつもだったら柴ちゃんとお買い物行ったりカラオケ行ったりしちゃうけど。
たまにはおうちでゆっくりするのも悪くない。
でも、あっという間に日が暮れる時間。
ちょっと勿体無かったかも。
雑誌は雑誌ラックへ、リモコンはテーブルの上、携帯は充電器の上。
よっすぃーが毎日のようにこの部屋に来るようになって
私はやっと整頓を心掛けるようになった。
だって。
散らかしておくと、よっすぃーが勝手に片付けちゃうんだもん。
それって、結構、プレッシャー。
『片付けなさい』って怒られるよりも黙って片付けられちゃう方がずっとずっと。
だから、言われないうちにしなきゃって。
255 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:34

「もう、6時過ぎてるじゃん」



さっき飲んだミルクティーのカップを流しに置いて、時計を見ると18:14。
コンロにかけたままになっているお鍋の様子を見る。
うん……いいカンジ。



256 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:34




257 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:35

日によってだけど。
最近は、こうやって私がよっすぃーを部屋で待つことが多くなってる。
今、よっすぃーたちは新曲リリースで忙しいときだし。
リーダーのよっすぃーにはきっと色々やらなきゃいけないことがあるんだと思う。
ちょっとだけ、寂しいなって思っちゃうけど。
でも。
こうやって一人でよっすぃーの帰りを待つ時間も、私はそんなに嫌じゃない。
なんか、旦那様の帰りを待つ奥さんの気分?
……なーんて言うと、恥ずかしいんだけど。
よっすぃーの帰りを待って、細々としたもの、よっすぃーの靴下とかハンカチとか
そういうものを私の洗濯物と一緒に洗って乾かして、畳んだりして。
勿論、お洋服とかまでは私に洗わせたりはしないんだけど。
でも、ハンカチとかタオルでも。
乾いたそれを畳んでたりすると。
それに顔を寄せて、私のハンカチと同じ洗剤の匂いがすると。
なんだか、すごく幸せな気分になっちゃったりする。
で、時計を見て、よっすぃー遅いなって思ったり。
『あと10分で着く』ってメールで紅茶を淹れる用意をしたり。
なんだか、そういうのって、すごくすごく幸せな気分になっちゃったりする。
あ、もしかしてこういうのを ♪さっさい〜な幸せで〜す〜かぁ〜〜 って言うのかな?
1人でそんなことを考えて、笑っちゃう。
よっすぃーがいたらきっと『キショ』って言うよね。
でも、いいんだもん。
そんな一言だって、よっすぃーが言えば愛しい言葉のひとつになるんだから。
258 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:36




259 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:36

コンロの上のお鍋、中身はシチュー。
昼間スーパーに買出しに行って帰って来てからずっと煮込んでる。
夏にシチューってのもどうかなって思ったけど。
長く煮込んだおかげでお肉もお芋もとろとろしてて、うん、いいカンジ。
ふふふ。
我ながら、やれば出来るじゃない。
……まあ、柴ちゃんちで2回チャレンジして完璧にしてきてるんだから
失敗する筈ないんだけど。
よっすぃーは、私に極力料理させないようにしてる節がある。
確かに、私は料理が得意じゃないしそんなに好きでもない。
だけど。
好きな人の為にだったら、作りたい。
私が作ったご飯を食べて喜ぶよっすぃーとか、見てみたい。
だから、待ってなさい、よっすぃー。
私の作ったシチューに、きっとあっと驚くことになるんだから。
で、今まで料理下手だと思ってたよ、ごめん、って反省させちゃうんだから。
打倒・よっすぃー!!
ぜーったい、負けないんだから!!!
……って、なんだか最初と目的が変わってきちゃってる気もするけど。

260 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:37




261 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:37


私だって、不安だった。
卒業したら、私たちの関係になにか変化が訪れてしまうんじゃないか。
よっすぃーは解かってないみたいだけど。
多分、不安だったのはよっすぃーより私の方。
もとの場所に居続けるよっすぃーよりも、そこを離れていく私の方がずっと
残していくよっすぃーの心変わりが心配だった。
ましてや、よっすぃーはメンバーの人気者だし。
私が傍を離れたら、どんな誘惑がよっすぃーを待っているのか。
そう思うと、卒業を止めちゃいたいってホントに何度も思った。
だけど、そんな我が侭通用する筈ないし。
新しいグループだって起動してたし。
そんな色んな事情や嫉妬で、すごく苦しんだ時もある。
でも、よっすぃーが不安そうな顔をするのを見て……
ちょっとズルイなって思いながらも、安心した。
新しいメンバーのこととか、卒業間際に増えた1人での仕事についてとか
しきりに聞いてきたり何度もメールくれたり、電話くれたり。
あ、よっすぃーも心配なんだって。
心配してくれてるんだって。
三好ちゃんのことを何度も聞いてきたりして。
もしかして、嫉妬とか、してくれてる? って。
262 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:38

それまで、嫉妬っていうのは多分、私の専売特許で。
よっすぃーの周りにはいつも誰かしらがいて。
私はいつも心配だった。
よっすぃーを取られちゃうんじゃないかって。
よっすぃーが浮気しちゃうんじゃないかって。
それで、そんなことばっかり考えてよっすぃーを信じてあげられてない自分が嫌だった。
よっすぃーは1度だって私を裏切ったりしたことないのに。
いつも、梨華ちゃん好きだよってまっすぐに言ってくれるのに。
こんな私がよっすぃーの傍にいる資格はないんじゃないかなって。
ネガティブに考えちゃうこともよくあった。
だけど。
よっすぃーも、私の心変わりを心配して不安になったり、私の周りの人に嫉妬して
取られちゃうんじゃないか浮気しないかって思っちゃったりしてるんだって。
そう思ったら、なんだか、スーっと。
私の中のモヤモヤが消えて行って。
よっすぃーを信じようって。
私たちは大丈夫って。
心さえ繋がってれば、きっと、離れたって大丈夫って。
そう思えるようになった。
263 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:39

だから、よっすぃーが



「これからはさ、物理的にはさ離れちゃうかもしんないけど。
恋愛って大切なのは心の距離ってゆーか。その、そういう2人の関係だよね」



っていきなり言ってきたときは、思わず微笑んでしまった。
だって、それってやっぱり、よっすぃーが考えてることと私が考えてたことが
一緒ってことでしょ?
ふふふ。
ヤダ。
私たちって似たもの夫婦?
なーんて。
それからよっすぃーは、たまには物理的にもぎゅってしてね?って
私の言葉を実行すべく毎日のように私の部屋に泊まっていくようになった。
たまには、って言ったのに。
過剰実行なんじゃない?
なんて、憎まれ口は言わない。
だって、私もそれが嬉しいから。


264 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:39




265 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:39

マンションの前に車の止まる音がする。
あれって、よっすぃーのマネージャーさんの車の音じゃないかな?
バタン、とドアの閉まる音。
そう、きっとあれはよっすぃーがドアを閉めた音。
私はもう一度シチューの加減を見て、コップを棚から取り出す。
今日は暑かったから、アイス・ティーの準備もばっちり。
そーいえば、よっすぃーが用意しておいてくれたアイス・コーヒーおいしかったな。
ありがとうって言わなきゃ。
あ、その前になんで起こしてくれなかったのよーって怒らなきゃ。
行ってらっしゃい、アナタ♪って、したかったのにーって。

266 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:40


もうそろそろかな?
私はまるで飼い主を待つ犬みたいにドキドキしながらそれを待つ。
もう何度もこうやってよっすぃーを迎えてるのに。
いつでもこのときが来ると、ドキドキしちゃう。
よっすぃーには下のエントランスの鍵も渡してあるから
わざわざドアを開けてとコールされることもない。

もうそろそろかな?
すると、コツコツコツ…と廊下を歩く音が聞こえてきて。
うん、あれは絶対、よっすぃーの歩く音。


267 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:41



コツコツコツ……。



268 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:41


足音がどんどん近くなってくる。
私は玄関に出てお出迎え。
あれも言わなきゃ、そう、あの話もしなきゃ。
離れてたのは半日なのに、話したいことは沢山。


269 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:42



コツコツコツ………。



270 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:43



あと少し。あと数歩で。


ほら、足音が止まった。


ドアノブに手を伸ばし………



271 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:43



「お帰りなさい、よっすぃー」



272 名前:『それはありふれた幸福な1日』 投稿日:2005/08/02(火) 22:45


       Fin



273 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 22:46



274 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 22:46



275 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 23:59
゚+.(*´∀`)゚+.゚

やばいニヤけてます…
276 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 01:59
私も、口もとゆるんでました・・
おもしろかったです♪
277 名前:そーせき 投稿日:2005/08/03(水) 20:32
素晴らすぃ〜! 身悶えしてしまいました。
見てきたようなリアリティ! いや、絶対この通りだと、あっしは信じておりやす!
あっしの毎日が幸福になる、素敵な小説をありがとうございやした!
278 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/04(木) 10:06
やばい…やばいリアルw
そして俺⇒(・∀・)ニヤニヤ
すげぇ面白かったです!幸せになれました(謎
279 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/04(木) 22:34
最近いしよし小説あまりなかったので
大感激です!待ってました
作者さんありがとうございます!
280 名前:ひすい 投稿日:2005/08/09(火) 08:18
いやぁ・・・いしよしってほんとに
ハァ━━━━━━ *´Д` ━━━━━━ン!!!!
ですねぇ

作者様、乙です
281 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/10(水) 02:31
>>275-280

ありがとうございます。
282 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:32
 
 
『ラブ・ミー・ドゥー』
 
 
283 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:33

「ひとみちゃん、何これ?」


いつものように笑顔で出迎えてくれてほっぺにチュッ。
靴を脱いで手を繋いでリビングまで行くと…
大量のお菓子とパンやお弁当の山までもが私を迎えてくれた。
それを見た私の第一声が上のもの。「何これ?」としか言いようがない。

「やだなぁ、梨華ちゃん。見ればわかるじゃーん」

ううん、ひとみちゃん。見てもわからないから聞いてるの。
ついでにそんなにニコニコしてる理由も聞いていい?

「これどうしたの?」
「ふふふ。実はねぇ…」

まさか、とは思うけど万引きしたの?
毎日のように通っているあなたの大好きなコンビニでとうとうやっちゃったの?
ああ。言ってくれればよかったのに。こんなことになる前に一言でも。
いつものように500円あげたのに。奮発して千円だってあげたのに。

284 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:33

「ひとみちゃん!」
「は、はいっ」
「なんてことしたの!もうっ、バカ!!バカバカバカバカバカ!」
「えぇ〜。なんで?なんで?なんであたしがバカなの?」
「バカだからバカって言ってるんじゃない!このバカ!」
「うわっ、ひど。バカって言うほうがバカなんだよ」


だから梨華ちゃんのがバーカ


な、なんですってぇぇぇ!キーッ!
いつもいつも私に面倒ばっかりかけて世話焼かせてるくせに。
一人じゃご飯も食べられないし、「ど」がつくほど方向音痴のくせに。
電話も苦手だから出られないし、人見知りが激しいどころじゃないくせに。

私がいなきゃなーんにもできないくせに。バカ、ですって?!

「ひとみちゃん、ちょっとここに座りなさい」
「なんだよ〜」
「いいから!」

腕組みをしてキッと睨んだらひとみちゃんはものすごい速さで座った。
背中を丸めて正座なんかしちゃって。いつもよりちっちゃくなったみたい。
大量のお菓子とパンとお弁当をどかして…あ、食玩まであるじゃない。
とにかく私が座るスペースを作ってひとみちゃんと正面から向き合った。

285 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:34

「正直に答えるのよ?ひとみちゃん」
「梨華ちゃんどうしたんだよ〜。そんなに怒った顔しちゃってさ」
「ひとみちゃんのせいでしょ!」
「あたしまた何かしたっけ…?それよか梨華ちゃんは笑ってるほうがかわいいよ」

やだっ、ひとみちゃんったら〜。かわいい?私ってかわいい?
そんなこと言うひとみちゃんのが絶対、誰が何て言おうとかわいいんだから。

緩やかに波打つ茶色の髪をフリフリさせながら私の顔を覗き込むその瞳に
いつもいつでも吸い込まれそうになる。吸い込まれて溶けてしまいそうに。
ハッと気づくとなぜかひとみちゃんの腕の中。
あぁ、私またやっちゃったんだ。

「梨華ちゃんは甘えたさんだね〜」
「ち、違うの。ひとみちゃんがいけないの」

そんな子犬みたいにウルウルした瞳で私を見つめるから。
前髪を揺らせて小首を傾げて覗き込むから。
プルプルした美味しそうな唇をしてるから。

286 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:35

「梨華ちゃん…」
「ひとみちゃん…」

抱きしめる腕に抗えず近づいてくる唇を受け入れようとしたそのとき。
視界に入ってきた大量のお菓子と(以下略)。
私は再びハッとした。こんなことしてる場合じゃない。
大好きなこの人を犯罪者にしてしまったのは私の責任だもの。
もっとお菓子を買ってあげればよかった。
もっと一緒にコンビニに行ってあげればよかった。

「ひとみちゃんごめんね…」

ちゅっ

「人が謝ってるのにどうしてキスするのよぉ」
「だって急には止まれないもーん」

ちゅっちゅっちゅっ

「ひとみちゃ…。話を、話が先…んんっ」
「ダーメ。梨華ちゃんが誘ったんだからね」
「私がいつ…あぁん」

そういえば。先に抱きついたのって私だっけ。

「梨華ちゃん大好き…」

こうなったら私だって止まれない。
あっという間に脱がされた服を横目で見ながら熱っぽいため息をひとつ。
服越しに見えた大量の(以下略)はとりあえず忘れて。

「あぁんっ…ひとみちゃん大好きぃ…」

緩急をつけて襲ってくる快感に翻弄されながら身を落とす…。





287 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:36

終えて、肩で息をしている私。
対照的に涼しげで余裕のあるひとみちゃん。
どちらも共通しているのは、満ち足りた顔をしているということ。

「えへへ」
「もうっ」
「気持ちよかった?」
「そういうこと聞かないの!」
「だって気になるんだもん。気持ちよかったよね?ねぇ?」
「知りません!気持ちよくなんかないです!」
「ウッソだー。あんなに声出して腰振っ」
「ひとみちゃん?それ以上言ったら…」
「コワー。梨華ちゃんは笑ってるほうがかわいいのにぃ」

ん?その台詞、さっきも聞いたような…。
そうだ!忘れてたけど私、怒ってる途中だったんじゃない!
それなのになんで私たちこんなにマッタリしちゃってるのよ〜。裸なのよ〜。

「ひとみちゃん、そこに座りなさい」
「えー。もっとイチャイチャしてようよー」
「いいから座りなさい」
「ほーい」

ひとみちゃんがしぶしぶベッドから降りて、カーペットの上に正座した。
私も毛布をエイヤッとまくりあげてベッドの上に同じく正座。
ひとみちゃんを怒るときのいつもの位置関係で上から見下ろす。

288 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:37

「どうしてあんなことしたの」
「あんなことって?」
「500円で足りないなら言ってくれればよかったのに」
「はあ?」
「ひとみちゃんがあんなことするなんて…私がいけなかったのね」
「ちょっと、梨華ちゃん?」
「私がもっとお小遣いをあげればよかったんだわ!ごめんねひとみちゃん…」
「500円でも十分だけど…もしかして値上げしてくれるの?ヤッター」

ああ、このコはなんてバカなんだろう。

「ひとみちゃん、私の話ちゃんと聞いてる?」
「梨華ちゃんは一体何の話をしてるの?」
「あのね〜」
「それよりお腹空いたからご飯食べようよ。お弁当選り取りみどりだよ〜」
「だからその話をしてるんです!」
「へっ?これ?」

そうよそれよその話なのよ〜。ちゃんと聞きなさないよね!
ひとみちゃんが万引きしたもの、今からでも返しに行かなきゃ。
すっごく謝ったら許してもらえるかしら…。

289 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:37

「これね、バイト先でもらったんだよ〜。えへへ。大量大量♪」
「バ、バイト先?!」
「そう。あたしね、バイトすることになったの」
「どこで?!い、いつから?!」
「行きつけのコンビニ。昨日から」

行きつけのコンビニって…ひとみちゃんいっぱいあるじゃない。どれのことよ。

「一番品揃えがいいところだよ〜」
「それってどこのことよ〜。全然わからないんだけど」
「だからぁ、ここから一番近いところ」
「一番近いところって…もしかしてこの下?!」
「そう。一階。水曜でもジャ○プが残ってる貴重なコンビニなんだよ〜」
「へ、へ〜。それはそれはよかった、ね…?」
「うん。読み忘れたとき便利なのだ」

読み忘れ、ってことはべつに買うわけじゃないのね。
そういうところの無駄遣いはしないんだ、ひとみちゃんって。

290 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:37

「そっかぁ、バイトだったのね…」
「梨華ちゃんはどうして怒ってたの?」
「うん。てっきりひとみちゃんが万…な、なんでもないなんでもない」
「なんでもないの?」
「なんでもないよ〜」
「じゃあ、いっか」
「うん」

よかった、バカなコで…。
でもこんなおバカさんでバイトなんてできるのかしら。
それにいくら廃棄処分とはいえこんなに大量にもらえるものなの?
お菓子の山からポッキーを取り出してぱくぱく食べているひとみちゃんに聞く。

「昨日からなのにこんなにもらえたの?」
「そう。なんか知らないけどあたしのこと皆知ってて、持ってけって」
「毎日通ってたら知られてるのも無理はないよね…」
「あのね、梨華ちゃんのことも知ってるって。500円の人って呼ばれてた」

ガックリと肩を落とした。500円の人ですか。
いつもひとみちゃんに500円だけだよ、って渡してるの見られてたのね…。
ポッキーを食べるひとみちゃんを見ていたら、ふと気づいた。

291 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:38

「お弁当やパンはわかるけど、お菓子がもらえるのっておかしくない?」
「なんで?」
「だってそんなに賞味期限切れにならないでしょ?普通」

よくは知らないけどお弁当やパンと違ってすぐに処分する必要なんてないよね?
お菓子はナマモノじゃないんだからこんなに一度に廃棄するのかな。

「あー、これね。これは買ってもらったの」
「は?買ってもらった?誰に?」
「バイトの先輩たち」

ちょっと、どころじゃない嫌な予感。

バイトの、先輩たちが、お菓子を、大量に、買ってくれた、ですって?

脳をフル回転させて記憶を手繰りよせる。
下のコンビニで働く人たちの人相を、特徴を。

サラサラの長い髪が綺麗なモデルさんのような長い足の女の人。
ショートカットでいつも元気いっぱい、はにかんだ笑顔がかわいい女の子。
関西弁でちょっと怖そうだけど美人な店長と思しき人。

こんな女の人たちばかりのコンビニでひとみちゃんがバイト、ですって?

292 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:39

「なんでバイトすることになったの?お小遣いあげてるでしょ?」
「あたしもいい加減なんかしないとなーって思ってて」
「だからってどうしてコンビニなの?しかも下の!」
「近いし、コンビニ好きだし、最高じゃない?お菓子もらえるし」
「お菓子は買ってもらったんでしょ!そんなの私が買ってあげるわよー!!」
「わわ。梨華ちゃん落ち着いて」

キーッと叫んで両手を振り回したらベッドから落ちかけた。
ポッキーを口に含みながらひとみちゃんが支えてくれる。

「変なところ触らないで!」
「いや、だって、今のは不可抗力でしょー」
「バイト辞めなさいよ!」
「なんで?」

理由なんてない。ただ嫌なだけ。すごく嫌なだけ。
ひとみちゃんが私以外の人からお菓子を買ってもらうのが許せないだけ。
ひとみちゃんが私以外の人と時間を共有するのが許せないから、嫌だから…。

293 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:39

「………」
「うん、わかった。辞めるよ」
「えっ?」
「梨華ちゃんがそう言うなら辞める」
「いいの?そんな簡単に辞めて…」
「よくわかんないけど梨華ちゃんが嫌なことはしたくないもん」

よくわからないのね…。でも嬉しい。すごく嬉しい。
ポッキーを反対側からポリポリ食べてひとみちゃんの唇に到着。
キスの雨を降らせたらひとみちゃんにギューっと抱きしめられた。

「ひとみちゃんとこうしてイチャイチャしてたいの」
「うん…」
「私以外の人と一緒にいるところなんて見たくない」
「ヤキモチ焼きだなぁ、梨華ちゃんは」
「だって、だって…」
「うん、わかってるよ。あたしもこうしてるほうがいいもん」

それにね、ひとみちゃん。こんなこと言ったら失礼だけど…
ひとみちゃんにバイトなんて勤まるはずがないでしょ。
朝は絶対に時間どおりに起きないし、約束の時間なんて守ったことないし。
夜は夜ですぐに眠くなっちゃうようなオコサマ体質のあなたが
バイトなんてできるはずないよ。基本的に時間にルーズなんだから。

それに私がいなきゃ何もできないでしょ、ひとみちゃん。
いつもテレビに夢中で、食事をするのだって忘れがちなんだから。
ご飯を炊くことさえできないあなたがバイトなんて、できるわけがないもの。
ごめんね、ひとみちゃん。でもバカにしてるわけじゃないのよ?
いつまでも私の手を煩わせてほしいから、今のままのあなたでいてほしいの。

294 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:40

「いっぱいバイトしてお金貯めて、オソロイのピアスでもプレゼントしたいなって思ってたんだけど、まあいっか」

え?それホント?

「いつもいつも迷惑かけてるからそのお詫びにって思ったけど」

オソロイのピアスを買ってくれるの?
そんな風に思っていてくれたの?

「でも一緒にいるほうがいいもんね。辞めますって言ってくる」
「ちょっと待って、ひとみちゃん」

立ち上がって服を着ようとしたひとみちゃんを制する。
きょとんとした顔にチュッとキス。にっこり笑って一言。

「頑張って働いてね」

唖然とするひとみちゃんをとりあえず放っておいて下のコンビニに電話した。
番号はお財布の中のレシートを見て確認。
ご挨拶ついでにひとみちゃんのシフトを聞いて時計としばしにらめっこ。

「もう一回しよっか?」
「う、うん…」

耳もとで吐息混じりにそう囁いたらひとみちゃんは真っ赤になった。
そしてふにゃっとだらしなく緩んだ頬にまたキスをしてベッドに押し倒す。

295 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:40

「バイトの時間までたっぷり愛してね」
「もっちろん!でもバイトしていいの?」
「ひとみちゃんがしたいならいいよ。店長さんにご挨拶もしておいたから」
「へへ。ありがと。でもあたしにできるかな?初日からいっぱいいっぱいだったよ」
「大丈夫。ひとみちゃんには私がついてるじゃない。ねっ?」
「そだね。まあいっか」

本気でちょっと何かが足りないおバカなこのコが、私は愛しくて仕方ない。
コンビニ好きで、お菓子好きで、私のことが大好きなひとみちゃん。
私とコンビニとどっちが好き?って聞いたときは三日三晩悩んで
結局どっちも選べなかったひとみちゃんだけど愛してくれているのはよくわかる。

私もたっぷりたっぷり愛を捧げるから、ひとみちゃんも頑張ってね。
オソロイのピアスのために。二人の愛の結晶のために!

あわよくばラブリング…なんて期待は、私の胸にだけ秘めておくことにしよう。






296 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:40
 
 
 
297 名前:ラブ・ミー・ドゥー 投稿日:2005/08/10(水) 02:41
 
 
<了>

298 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/08/10(水) 07:18
初めまして。続けて読ませて頂きました
甘ーい!2作品とも大好きです
2つ目の話に元娘。の姐さんが出演してませんか?w
299 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/10(水) 09:12
キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !!!!
この話、メッチャ好きだー!
密かにその後も期待。w
300 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/10(水) 09:15
まったりと次回作待ってます
301 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/10(水) 09:43
ヒャーーーーー(*´Д`*)ーーーーーーイ!
やばいw
次回も待ってるYO!
302 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/15(月) 23:14
サイコ-だ!

もっともっと見たいよー。
更新待ってます
303 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/16(火) 21:55
>>298-302 レスありがとうございます。
304 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 21:56

『星に願いを・・・』
305 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 21:57


  ねえ、梨華ちゃん聞いてる?

306 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 21:57


夢追人だと言われても キミの傍でただ愛を囁いていてあげよう
他人からみた幸せなど これっぽちも価値が無いもの
自分が幸せだと感じられるなら それで良いんだよ



 星に願いを懸けるなら
 心を込めて望むなら
   きっと願いは叶うでしょう



307 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 21:58


おばかな、おばかな天使は 今宵も夢見て星空を見上げることは無く
ただただ現実的な言葉を 呟いて膨れてる・・・

あたしのほうが乙女チックとは、これいかに?



308 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 21:59
  *** ***
    石視点
  *** ***


「ねえねえ、ねえってばぁ?おなか空いたあ・・・」


ぎゅっと服の袖を握っておねだりしても、無反応。
じ〜っと窓から見える夜空を見てる、あなた。

キレイだね。
夜空に散りばめられた星たちよりも、あなたの瞳が・・・
世界で一番キレイだと思う。


「ひとみちゃあん・・・」


甘えた声で呼んでも振り返らない。
いいもん、一人で勝手に食べちゃうんだから。
知らないからね、ほうっておいたのが悪いんだから。


だって都会で見える星なんて いじらしく光って健気だけど
揺らめいて消えてしまう幻のように儚い。
悲しくなるの、ただ切なくて・・・


309 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 21:59

やけ気味に冷蔵庫を開けたら、勢いよくゼリーが飛んだ!?
どうしてゼリーが、たまごを置く場所にあるのよ・・・
足の上に見事に落下しちゃって、痛さで涙が滲むけど我慢する。
泣いたら負けだもん……
誰にか知らないけど負けないもん。梨華、がんばるんだもん。

ちょっとイビツに歪んだ容器を睨み付けて、中身が出てないことを確認して
冷蔵庫のう〜んと奥にしまっておく。



けど、気付かれなかったら、期限切れちゃうなぁって思い直して
見えやすい位置に移動・・・
だってエコだもん。廃棄処分なんてぜったい反対だもん。
ひとみちゃんにも怒られちゃう。

310 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:00

むぅ・・・冷蔵庫と睨めっこしてたら、叱られた。
早く閉めないと電気代がもったいないって。

話しかけてくれたのは嬉しいけど、ひとみちゃんはまだ星を見てるみたい。
お顔はお外に向いたまんまだもん。
もっと私のこと見てくれたら良いのに・・・


「おなかすいたぁ・・・」


もう一度呟いたら、なんだか目の奥がじ〜んと熱くなってきた。
ひとみちゃんが、かまってくれないからいけないんだ・・・

涙がじわ〜っと滲み出してきて視界をふさいでいく。
溢れ出してからはどうすることもできなかった。

311 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:00

ふぇぇぇって泣いたら優しい指先が髪を梳いてくれた。
ひとみちゃんがいつのまにか傍に来て、後ろから私を抱き寄せていた。


「梨華ちゃん、一緒に星みようって言ったよね?」

「・・・言ってないもん」

「昨日、言わなかった?それ終わってから花火しようって?」

「・・・忘れたんだもん」

「夏の星座を見てから、花火買いに行くの!って言ってたよ・・・」


なんとかって言う雑誌に載ってた夏に関する特集ページ。
それをひとみちゃんに見せて、花火を買って〜っておねだり・・・
でも、星をみたいとは言わなかったもん。



あっ!?言ったかもしれない・・・
天の川を見ようかなって呟いたような気はする。
聞いてたんだ、ひとみちゃん。
312 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:01

「思い出した?」

「・・・うん」

「あのね、いっつもあたしの顔ばっか見るでしょ?」

「・・・だって、ひとみちゃん可愛いんだもん」

「まぁ、それは置いといて。ようやく星とかにも興味を持ったんだなぁって
 あたし嬉しかったわけ、わかる?」

「・・・なんとなく」

「まぁ、それでいいよ。でね、一緒にこう星を見て・・・」


ひとみちゃんは、”こっち向いて?”と向かい合うように小声で促す。
くるっと回転したけれど、真っ直ぐな視線を受け止める自信が無くて
避けるように俯くとゆっくり髪を撫でられる。
髪を撫でていた指を、頬から顎まで滑らせて、くいっと顔を持ち上げられた。

”やっぱり可愛いな、ひとみちゃん”

うっとりとひとみちゃんのお顔を眺めていると、意地悪くわらって
唇がふんわりと降ってくる。
313 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:01

「愛を誓っちゃったり?したかったんだよ。
 梨華ちゃんってどうして、そう見た目と違うわけ?」

「興味が無いんだもん。お星様キラキラよりも、ひとみちゃんの方がきれい」

「梨華ちゃん、自然の美しさをきちんと見てほしいんだよ。
 だから、おとなしく星を見なさい。星座も教えてあげるから」

「やだ」

「・・・流れ星は?ほら、よくお願い事したりするでしょ?」

「しないよ。だって流れ星ってゴミが燃えてるって聞いたよ。
 宇宙のゴミが燃えてるのが流れ星みたく見えるだけで、星じゃないもん」

「それ知ってちゃ、夢のかけらも無いわけだ・・・
 誰に聞いたの?こないだまで流れ星、発見したらすっごい喜んでたよね?」

「美貴ちゃんが教えてくれたの」

「そっか・・・」


はぁ〜って大きくわざとらしく息を吐き出して
ひとみちゃんはまた窓の外を見る。
314 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:02

「その、みきちゃんとやらは・・・梨華ちゃんのなに?」

「おともだち?」

「おともだち?って・・・仲良しなんだね」

「う〜ん、昔からいっつも遊ばれてる。時々だけやさしいかなぁ。
 でも、なかよしだ!一緒にね、おふろ入って、あらいっこしてたもん」

「お風呂・・・洗いっこ?」

「ひとみちゃんも一緒に入る?洗ってあげるから、洗って?
 髪の毛洗ってもらうのって気持ち良いんだよ」

「入ってもいいけど。っていうか入りたい・・・
 って何を言わせるんだよ!?」

「でもでも、美貴ちゃんもひとみちゃん可愛いね〜って。
 会いたいなって言ってたよ?」

「なんでそうなるわけ?」

「ひとみちゃんのお写真見せたら、すっごい気に入ったみたい」


ぴらっとポラ写真を取り出すと、ひとみちゃんはガックリ項垂れた。

315 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:03

  *** ***
    吉視点
  *** ***



梨華ちゃんが手にしているのは、あたしの寝顔のポラ・・・
我ながら、なかなか可愛い・・・って違うだろ。



「いつのまに・・・」

「ひとみちゃんがお昼寝してたから、そのときに撮ったの。
 すっごいキレイに撮れてるでしょ?美貴ちゃんも褒めてくれたの〜。
 被写体への愛情が写真に表現されてるんだって、ねえすごい?」

「すごいすごい・・・梨華ちゃんさ意味わかってないでしょ?」

「被写体は写真に写ってる人だから、ひとみちゃん。
 愛情は、愛するきもちだって。私、ひとみちゃんのこといっぱいあいしてるも
ん」

「それも教えてもらったの?」

「うん!美貴ちゃん、物知りさんなんだ」

「物知りなんだ、あはは・・・それはそれは。
 他にはどんな話をしてきたの?」

「ひとみちゃんとえっちしたのかって聞くの。
 それなあに?って聞いたら気持ちいいことだって言うから」

「言うから?」

「それだったら毎日してくれるって」

「なっ・・・!?毎日って梨華ちゃんそれはちがうでしょ?」

「ちゅうは毎日するもん。ちゅう、きもちいいもん」

「ああ、ちゅーね。うん、あはは・・・。
 絶対に誤解されてるから、ちゃんとちゅーしてるだけだって言うんだよ」

「よくわからないけど、美貴ちゃんが”よっちゃんさん”タフだね〜って。
 ひとみちゃんはタフなんだ?タフってなあに?」

「よっちゃんさんって誰のことだよ・・・あたしか。
 タフは元気が持続することだよ。ってかあたし、すっごい誤解されてると思う
んだけど」
316 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:03

「ごかい?」

「こういうことを毎日してるって誤解されたの。
 誤って認識されてるわけ、わかる?」

「う〜ん・・・・・・わかんない!」


にぱっと笑った梨華ちゃんの頭をかるく叩きたい衝動にかられるが
なんとか我慢・・・
こないだ、かるく小突いただけなのに『ひとみちゃんが、ぶった〜!?』
と大騒ぎして子供みたいに泣いた事があったばかりだ。
ご近所さまが聞いてたら相当に酷いことをしたと思われるじゃんか・・・

彼女にとって「気持ちいいこと」=「キス」だったことは
喜んでいいのか悲しんだらいいのか、正直わからん。

勢いで押し倒したのはいいが・・・いや良くない。
なんだこのキラキラとした瞳は。
期待しまくりの夢いっぱいな雰囲気?
わくわくとした顔をしているから、正直どうしたものか・・・
いや、するんだけども。


「いっぱい、ちゅうして?」

子供じみた言い方だけど、こういう場面になると、ありえないくらい妖艶になっ
ていく。
にぱっと子供のように笑っていた顔が、知らず知らずのうちに
熱っぽくなり、あたしのすべてを包むような慈悲深い表情に変わっていく。

317 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:04

ほんとに掴めない。
女の子、女の子した外見と、ピンク好きの性格。
それと裏腹に全然、乙女チックじゃない感性。

真夏の夜に輝く星の神話。
どれも現代社会にいるあたし達には現実味に欠けるけれど、夢物語なのだからそ
れで良いと思う。
彼女はそういう話に疎い・・・っていうか興味ゼロだ。

あたしの部屋に転がり込んできた天使は
時間があれば人の顔を見て「かわいい」だの「きれい」だの言ってる。
自身の美しさにはまるで気付いていないように・・・



318 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:04
 
 
 
319 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:04

「ほら、ちょっとでいいから見よう?今日は晴れてるからキレイに星が見えるん
だよ」

「夜なのに晴れてるってわかるの?」

「雲が無いから、空が澄んでるんだよ」


梨華ちゃんをゆっくりと立たせて、窓辺に連れ・・・


「ちょっと待った!服、服・・・
 これ着なさい。その格好で覗いちゃマズイよ」

「ん〜、お洋服着るの?めんどくさいよぉ〜」

「ダメ!?外から見えちゃうでしょ・・・」


渋々、あたしのTシャツを着てちょこんと座り
窓辺によっかってカーテンを開け、けだるそうに夜空を見上げた梨華ちゃん。
暗闇の中でわずかに浮かび上がるシルエットは綺麗で。
ボーっと後ろから見惚れてると、振り返った彼女と目が合った。
320 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:05


そこには、儚げに微笑む梨華ちゃんがいた。


「真紅に輝くのがアンタレス・・・」


ぼそっと梨華ちゃんが言う。
なんだ知ってるんじゃんって思ってると
窓の外に視線を移して、再び夜空を見上げながら口を開く。


「アンタレスは『さそり座』の1等星のこと。その東にあるのが『いて座』
 その上の『わし座』の1等星アルタイルがひこ星、『こと座』の1等星ベガが
おり姫。
 その二つを見守っているのが『はくちょう座』。
 アルタイル、ベガ、はくちょう座の1等星デネブを結んでできる三角形を『夏
の大三角』と言う」


一気に言い終わった彼女は、ゆっくりと振り返る。
音もなく頬をすべっていく涙は、ただ美しかった・・・

321 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:05

「もっと詳しく聞きたい?」

「・・・いや、いいよ。めちゃくちゃ詳しいじゃん。
 それもみきちゃん?」

「ううん、ママが教えてくれたことがあるの」

「そっか・・・」


いつもと違う雰囲気に戸惑う。
こんな大人っぽかったっけ・・・
梨華ちゃん、ほんとはこんな感じなのかって漠然と感じてる。
あたしが思うよりもずっと大人なのかもしれない。


「星を見ているとママを想い出すの」



梨華ちゃんの隣に腰掛けると、あたしに寄りかかって瞼を閉じた。
これ以上は見ていたくないのか、ただ疲れただけなのか・・・。
どっちにしても言葉の無い、この空間を居心地悪いとは思わなかったから。
このままでいい。このままがいいのかもしれない。
手と手を合わせて指を絡めて、お互いの存在を確かめる。


肩にかかる重みの分、梨華ちゃんが愛しい。

322 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:06

「花火、買いに行く?」

「明日でいい・・・」

「もう寝ようか?」

「一緒に寝てもいい?」

「うん、梨華ちゃんが望むなら」

「やった、ひとみちゃんといっしょ〜♪」

「布団ぜんぶとらないでね、梨華ちゃん寝相悪いから」

「だいじょうぶだもん!?」


ぷ〜って頬を膨らませて睨んでる。
本人は怒ってるつもりだろうけど、上目遣いで可愛らしい。

絡められた指を確かめるように握りなおせば・・・
機嫌なんてすぐになおってしまう。

びたって隙間なく抱きつかれて瞼を閉じる。
彼女のぬくもりが、あたしのことをじんわりと包んでいく。
寝顔見てやろうと思ったのになぁ
襲いくる睡魔には勝てそうに無いみたい・・・

323 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:06
 
 
 
324 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:06


ロマンチックなあなたに、素敵な星物語を教えてあげる
いくつもの美しい天上人のお話を・・・

無垢な寝顔にちゅっとキスして、夢の中で会おうね?と囁く

325 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:07


   星に願いを懸けるなら
   叶わぬ願いなどないのです



できるなら、あなたの全てを愛したい
愛されることも愛することも教えてくれたあなたに
たくさんの幸せが降り注ぎますように
その隣にいるのが、必ず私でありますように・・・

326 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:07


  ひとみちゃんとなら、どんなことでも叶えられるよね?

327 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:08
 
 
 
328 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:08
 
 
 
329 名前:星に願いを・・・ 投稿日:2005/08/16(火) 22:08
 
 おわり
330 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/18(木) 13:52
こんな雰囲気のいしよしもいいですねw

次回更新も楽しみにしています。
331 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/19(金) 20:53
(・∀・)イイね〜
( ^▽^)無知杉かなww
332 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/08/24(水) 20:59
俺テキには吉澤を支配する石川に萌え
333 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/27(土) 18:47
>>330-332 レスありがとうございます。
334 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:47
『星に願いを・・・2』
335 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:48
星に願いを懸けるなら
心を込めて望むなら
きっと願いは叶うでしょう
336 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:48
337 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:48
「たしかに可愛いじゃん」

「でしょ〜?私のひとみちゃんなの!」


値踏みするような視線と、屈託ないラブラブ光線に挟まれて
微妙に居心地悪っ……


「”私の”って梨華ちゃん……」

「なによぅ〜、ひとみちゃん文句あるの?」

「んっと……別にないかも?」

「えへっ♪だったらいいでしょ」


いまどき”えへっ”とか言わないよ、誰も。
でも自分の頬が緩んでいくのが、はっきりとわかる。


「気持ち悪〜い♪」

「もう、美貴ちゃんはいっつもそう言うんだから〜」

「だって、ほんとのことじゃん。
 梨華ちゃんもだけど、よっちゃんさんも相当やっばい」

「えっ?うちもなの……」


がーんっと打ちひしがれてるあたしとは対象的に
ニコニコと”きしょいのいっしょ♪”なんて嬉しそうな梨華ちゃん。
微妙な節で歌いながら、よ・ろ・こ・ぶ・な……orz

338 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:49
「んあーーーー!?」

って声がした瞬間に”ごつんっ!?”って物凄い鈍い音がして、
びっくりして飛び上がった。
他の二人は冷静な顔して会話を止めて、声の主をやさしく見ている。


「梨華ちゃんの匂いがする!?」

「おはよ〜、真希ちゃん」

「おはよ〜、梨華ちゃんおひさなのだー」


むぎゅっと梨華ちゃんに抱きついた女の子……誰やねん?
胸に顔を擦り付けるんじゃない!?
ちょっと痛そうな音がしたけど、平気なんだろうか?
盛大に頭打ちながら登場したよね?
それにしてもテーブルの下で寝てたの?


「ごっちん。おはよーって、もうお昼だから」

「んあ?ご飯、ご飯の時間?もうこんな時間だ……」

「あのね〜、美貴が食べるときに起こしたのに起きなかったの。
 あっちにあるから食べといで」

「ほ〜い」


すくっと梨華ちゃんから離れて立ち上がると、お昼ご飯へ一直線。
いやぁ、早い早いって感心してると思いっきり頬を引っ張られた……

339 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:49
「りひゃひゃん、いひゃい」

「ひとみちゃん、真希ちゃんのこと見過ぎだもん!」


涙目の梨華ちゃんかわいいぃ〜、とか言ってる場合じゃなくって。
あたしも頬の痛みで、じんわりと涙が滲んでくる。


「涙目のひとみちゃん、かわいい♪」

「・・・・・」


同じこと思ってるあたし達っていったい……
っていうかお願いだから、その手を離してくださいな?
目で訴えるけれど、うっとりとあたしを見つめる梨華ちゃんには届かない。
届かないどころか頬をつねってる事忘れてるだろ?


「梨華ちゃん、手離してあげないと本気で泣いてるよ?」

「えっ?あーーー!?ひとみちゃん、ごめんね」


ようやく解放されたほっぺたを梨華ちゃんはゆっくりと撫でてくれる。
いや、この痛みの元は梨華ちゃんなわけだから撫でて当然なんだよ。
けど……やっぱり潤んだ目の梨華ちゃんは犯罪的に可愛い。

あたしも、おめでたい頭してるな。
こんなときに可愛いとか思っちゃうわけだし。
きっと梨華ちゃんの口癖が移ったんだ。感染したんだ。
キスしすぎなんかな・・・?

340 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:50
「それにしても、梨華ちゃんの一方通行じゃないわけだ」

「だから言ったじゃない。私とひとみちゃんはラブラブなの」

「はいはい。いま見てるだけでも分かったよ」


やれやれって感じで梨華ちゃんとあたしを交互に見て
みきちゃんは溜息をひとつ。


「よっちゃんさん、顔緩みまくりでやっばい。
 もっとこうキリッとしてるイメージだったのに」


あたしに聞こえる独り言を呟いて溜息をもう一つ。
うぅ、あたしだって好きでこうなったわけじゃないんだ。
梨華ちゃんに出会うまで、こんなに顔の筋肉使ったことなかったはず。
表情筋が豊かになったんだから微笑ましいことじゃないか!?

と一人逆切れしてみるが、むなしいので止めた。

341 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:51


「梨華ちゃん、よっちゃんさんの家に居候してるんでしょ?
 お金はあげれないけど……よっこらしょっと、米10キロあげよう」

「どわっ!?すっごい助かりますけど、マジで良いんですか?」

「美貴のお母さん農家やってるんだよね。間違っても天使じゃないから安心して。
 ちょっと訛っててプリティフェイスだけど、人間だし。
 梨華ちゃんが変なこと言っても75%無視でいいから」

「25%は聞いてあげるわけですね……」

「そうそう。適当に相手してあげないと拗ねるから。拗ねたら性質悪いから梨華ちゃん。
 うちのお母さんなんでか米だけ送ってくるのよ。
 たんと食べるべさ〜ってね。だから余りまくって困るから遠慮なくどうぞ」


ごっちんと話してる梨華ちゃんを盗み見る。うん、きしょ可愛い。
昨日”美貴ちゃんのママも天使なの”と言われたときスルーしたけど
みきちゃんまで否定するんだから普通の人なんだよな。
ちょっと訛っててプリティフェイスらしいが、米くれた素敵なお母様だ。


「梨華ちゃん、ほら帰るって。早くしないと美貴が一緒に行っちゃうぞ!」

「だめーーーー!?」

「冗談だから、超音波を発しないでくれる?」

「そんなの出てないもん!」


耳を押さえて悪戯な笑顔のみきちゃんと、腕を組んでぷぅ〜っと膨れっ面の梨華ちゃん。
あっちで箸片手にへらへらと手を振るごっちん。
3人で住んでたんだよね?どういう関係なのか不明だけど、不思議な人たちだ。
342 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:51

「美貴ちゃん、荷物お願いね?」

「ん、適当に送るよ。ピンクのもの撤去出来て良かった良かった〜」

「もう、寂しくなっても知らないんだから!?」

「ないない、美貴たちが恋しくなったらいつでも遊びにおいで?
 来るのは、よっちゃんさんだけでも良いけどね」
 
「ぜったい、ひとみちゃん一人では来ないもん! ね、ひとみちゃん!?」

「は、はい!来るときは一緒に来ようね?」


一瞬、ものすごい怖い顔になった梨華ちゃん……
たらっと冷や汗が流れたけど、あたしの返事に満足したのか笑ってる。

ごっちんはもう昼食を開始したみたいで、こっちは見ていない。
先に梨華ちゃんが外に出て、後から出ようとしたあたしに
みきちゃんはボソッと呟いた。


『梨華ちゃんの初めて奪ったんだから、責任もって大切にしてね?
 もし泣かせたりしたら……わかってるよね?』


あたしは……
びびって落としそうになった、きらら723の米袋を抱えなおして
梨華ちゃんのことを大切にすると誓った。

343 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:51




344 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:52


「ひとみちゃん、顔色が悪いよ?どーしたの?」

「えっ?そうかな。なんでもないよ、梨華ちゃん」

「ほんと?」


ぶんぶんと首を振ったひとみちゃんは、私を安心させようとしたのか
やさしく髪を撫でてくれる。
ちょっと汗までかいてるけど、へーきなのかなぁ?

美貴ちゃんも真希ちゃんも反対しなかったから、ひとみちゃんと一緒に
このまま住んでも良いみたい。


「美貴ちゃんも真希ちゃんも良い人でしょ?」

「えっ、あぁ。そうだね、ちょっと掴み所ないけどね」

「そうかなぁ?」

「みきちゃん目が怖すぎだよ。最後に睨まれ……あれは脅しだよなぁ。脅されたんだよなぁ?
 ごっちんにいたっては、あたし会話してない気がするけど?」

「そうだった?また今度お話しよーね。美貴ちゃんにおどらされたの?だんしんぐ?」

「ん?いや、踊ったんじゃなくって……
 あたしの勘違いかもしれないし気にしないで、あはは」


なんだか無理して笑うお顔を見てたら、ちょっとだけ悲しくなる。


345 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:52


「真希ちゃんねテーブルの下がお気に入りなの。
 ゆっくり眠れるんだって言ってたよ」

「は〜」

「でね、あたしの膝も大好きなのね」

「へ〜」

「すり寄ってくるんだもん。かわいいの。
 私、冷え性だからね。すっごい助かってたんだよ」

「ほ〜」

「ひとみちゃん、聞いてる?」

「ん〜」



”ココロここにあらず”


ボーっとひとみちゃんは歩いていってしまう。
私が止まった事に気付かないなんて、ひどいよぉ。
手だって繋いでくれないからいけないんだ・・・・・
そりゃ、お米抱っこしてるから両手塞がってるのは仕方ないって思ったりもするけど。
理屈じゃないの、寂しいんだもん!


「あれ?梨華ちゃん、どうしたの?」

「……ひとみちゃんのばか」

「なんでバカ?あたし何かした?」

「したんじゃなくて、してくれない……」

「へっ?してくれない……」


346 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:52


なぜか真っ赤になったひとみちゃんが、
ロボットみたいにぎこちない動きで引き返してきた。
お米、路上に放置してもいいの?

なんだか、ちょっと真剣なお顔も素敵・・・
ほんとにキレイだなぁ、ひとみちゃん。
うっとりと見上げてると近づいてくる気配がする。
伏せられた瞼をふちどる長いまつ毛もキレイ。
さっと風のように唇を掠めてすぐに離れた、やさしい感触とぬくもり。


「んっ………ひとみちゃん?」

「や、あの。朝からしてなかったし、それでご機嫌がよろしくないのかなって」


ちゅうして恥ずかしくなったのか、ぶっきらぼうに私の手を掴んで歩き出す。
繋がれた手を見てまた嬉しくなる。”一石二鳥”っていうやつだ!ちがったっけ?
繋いだ手と反対の手で、唇をなぞると幸せな気持ちになってきた。

347 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:53

「ひとみちゃん、だいすき!」

「なっ、声大きいよ!」

「ひとみちゃんのが大きいもん。それに、お外でちゅうした〜」

「それは梨華ちゃんが……」

「私は手を繋いでくれないから、すねてたんだもん」


がーんって言いながら手を離そうとするから、腕にべったりとしがみつく。
暑いよなんて言うけど、無理にほどこうとはしないから
そのまんま寄りかかるように歩……

「あーーー、米放置したまんまだ。ちょっと待ってて梨華ちゃん」

慌ててお米を抱えて戻ってきたひとみちゃん。
ぎゅっと腕にしがみつくと、そのまま歩き出した。

暑い暑い季節だけど、だから暑さごとぜんぶ楽しもうよ。
帰ったらきっと汗だくになってるかな、お風呂一緒に入ろうね?


348 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:53



349 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:53


「ほら、梨華ちゃん行くよ。何か羽織っておいで」

「うん!」

「そのピンクだめ。キャミもピンクなんだから、あっちの白いパーカーもっといで」

「うぅ、やだぁ」

「だーめ。連れて行かないよ?」

「それは、もっとやだぁ」

「はい、じゃあ着替えて?……キャミは脱がなくていいから!」


お夕飯を食べてから 、散歩に行こうと言ってくれた。
花火も買ってもらうんだ〜。


「明日の朝ご飯買おっか?」

「お米もらったのに?」

「あれは昼か夜の主食ね。朝はベーグルがいいの」

「カフェオレがほしいなぁ」

「カフェオレね、りょーかい」

350 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:53

351 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:54


「あっ、ベガ……」


上を見上げると青白く光る星が見えた。
きゅっと、ひとみちゃんの服をひっぱって上を指さす。


「あれがベガ?」

「うん、ベガは一番明るいの。ほら大きな三角形みえる?
 すっごぉ〜く大きい三角形だよ、わかった?」

「こないだ言ってたやつだ……」

「あの三角形の中を天の川が流れてるの」

「うわっ……」

「もっと暗い空だったら、夏の大三角の中を通って流れてきた天の川が
 さそり座のしっぽの東で、一段と濃くなっているのがわかるんだよ。
 この天の川が濃くなっている方角が、銀河系の中心方向。
 だから星がたくさん見えるの」


南に輝くのは、さそり座の1等星、真紅のアンタレス。
隣では、いて座の矢がさそり座を見張ってる。

いて座の中にある6つの星は『南斗六星』
中国の神話では『生を司る神』と言われてたの・・・

352 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:54

「やっぱ星には詳しいね」

「うん、ママじこみだから」


ふいにぎゅーって抱きしめられた。
トクントクンってひとみちゃんの心音が聞こえてくる。
安心するんだ、こうされてると……

腕をゆるめて私の顔を見つめるひとみちゃんが、やさしく頬を撫でてくれる。


「梨華ちゃん、あたしがいるじゃん」

「うん……」


目を閉じて、胸にほっぺをうずめて
響いてくる心音に耳を傾ける。

安心するんだ、ほんとに……

ひとみちゃんは、なんにも聞かなかった。
ただ私を腕の中に閉じ込めるように抱きしめて、
涙がおさまるのを待っててくれた。


353 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:54

「ママのこと聞きたい?」

「また今度ね。今日は帰って寝ようか?」

「花火は?」

「えっと都合の良い日を聞いて、みきちゃんとごっちんと一緒にしない?」

「うん!いっぱいで花火したほうが楽しそう」


夜空に輝く星たちは、神々の思いつきで生まれた伝説を持っている。
美しい容姿に魅入られて星になったものや、忠実な精神を称えられて星になったもの。
自分たちの輝くべき場所で、その伝説を伝え続けてる星たちは幸せなのかな?


私は居場所がほしかったの。
自分の存在そのままを包んで愛してくれる居場所。


ひとみちゃんの腕の中で、このまま消えてしまうのも悪くないって
出会った瞬間は思ったけれど……


いまはね、ちがうの。
でも言葉になんてしない。
口に出したら、どこか遠くへいっちゃいそうな気がするんだもん。


でもでも、これだけは言えるよ?


「ひとみちゃん、だいすき!」


真っ赤になったひとみちゃんは、あたふたとしながら
ぎゅっと手を握って歩き出した。
ひとみちゃんの背中はちょっと怒ってるみたいで、でも嬉しそうで。

私はその背中におもいっきり抱きついた……

354 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:55


「り、梨華ちゃん……」

「なあに?」

「……思いっきりあたってるんだけど?」

「あたってる?」

「つけてないの、つけてないよね?」

「つけてない?」

「背中の感触は確実に……だよね、梨華ちゃんのだよね?
 だぁーーー!?もうだめ、帰ろう。早く帰ろう?」

「えっ?う、うん。かえろ……
 ひ、ひとみちゃん走らないで!?おんぶしたまんまってきついでしょ?」

「へーき、へーき!?今日はスペシャルフルコースで、
 梨華ちゃんをご馳走になるから!」


ちょっとワイルドなところも素敵……
なんて思わないんだからーーーー!?
やだっ、スペシャルでフルコースってなに?

ママ、たすけてっ!?


355 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:55


356 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:55

星に願いを懸けるなら・・・

愛し合うふたりの 密めたあこがれを
運命は優しく 満たしてくれます



357 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:55

358 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:56

359 名前:星に願いを・・・2 投稿日:2005/08/27(土) 18:56

おわり
360 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/27(土) 22:51
キャ―――(*゚Д゚*)―――!!!
361 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/08(木) 10:33
甘甘な雰囲気がとても良いです!
362 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/22(木) 21:39
>>360-361レスありがとうございます。
363 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/22(木) 21:40
>>282-297の続きです。
364 名前:ハード・デイズ・ナイト 投稿日:2005/09/22(木) 21:40
 
 『ハード・デイズ・ナイト』
 
365 名前:ハード・デイズ・ナイト 投稿日:2005/09/22(木) 21:41

ひとみちゃんがコンビニで働きだしてから一週間が経った。

「梨華ちゃーん、もうあたしヤダよぉ」

半べそで抱きついてきたひとみちゃんを優しく包み込む。

「よしよし。ひとみちゃん、今日は何をやらかし…じゃなくて、どうしたの?」
「あんさー、お客さんがさー、弁当買ったのねー」
「うんうん。それでどうしたの?」
「あたし、一応あたためますかって聞いたのー」
「一応って…お弁当なんだから聞くのは当然でしょ」
「だって、知らない人と喋りたくないんだもん」

知らない人じゃなくてお客さんでしょ…。

「そ、それでお弁当を温めたの?」
「やっぱりオムライスはさー、あったかくないとウマくないじゃん?」
「オムライスだったんだ。ひとみちゃん好きだよね、オムライス」
「うん!オムライスだいすきー!やっぱり下のコンビニが一番ウマ…」

ピクン、と片方の眉が上がった私を見てもいないのに、微妙に空気が変わったことを肌で感じたのか、ひとみちゃんは言いかけた言葉を飲み込んだ。
最近、外で働きだしてからというもの、このちょっと頭の足りないおバカさんは少しだけ勘が良くなったみたい。
ぶんぶんと慌てて首を振ってから、私の胸に埋めていた顔を上げた。

「梨華ちゃんのオムライスが世界で一番おいしいです!!」

そんな元気いっぱいに白々しい宣言をされても。
コンビニのオムライスに私の作るオムライスが敵うはずないのは明らか。
ひとみちゃんの好きなものランキングは常に「コンビニの〜」っていう形容詞がついたもので埋まっているから。
たぶん、私を除くすべてのものに。

366 名前:ハード・デイズ・ナイト 投稿日:2005/09/22(木) 21:41

「…それで、温めますかって聞いた続きは?」

そんな呆れるほどのコンビニ好きだけど私の愛しい恋人には違いない。
今日も柔らかい髪を梳きながらひとみちゃんの話を聞いてあげる。
この可愛い恋人は、私が思っていたよりもおバカさんが過ぎるみたいだけど。

「お願いしますって言われてー、だからあたし、レンジに入れたのね」
「うん」

お弁当を買って、温めてもらう。コンビニの基本よね?

「したらさー、ボンッて」
「ボンッ?」
「そう。ボンッ」
「………ひとみちゃん、何をしたの?」
「だからオムライスをあたためたの」
「それでボンッ?」
「ボンッ」

ボンッて。もしかしてそんなまさかそれはあれのことかしら。
たぶん、常識では考えられないことだけど


………破裂音?


「あんなに恐ろしい惨状を見たのは生まれてこのかた初めてのことだったよ」

随分と感情のこもってない声でサラッと言うのね、ひとみちゃん。しかも他人事みたいに。

それにしてもボンッなんて、何をどうしたらレンジからそんな音が聞こえるのよ。
想像するだけでも怖いけど、レンジを開けたところはちょっと見てみたかったかも。
怖いもの見たさってやつだわ。人間の性よね。

「オッサンもあたしも口ぽかーんでさ。あ、オッサンってオムライス買った人ね」
「もしかしてひとみちゃん、温めすぎたの?」
「おー!梨華ちゃんさすが!なんでわかったのぉ〜?」
「さあ?なんでだろうね……」

きっと、家でチンするのと同じ感覚で温めたんだろうなぁ。
よくは知らないけどコンビニのレンジって家庭用のものより強力なんでしょ?
短時間であそこまで温かくなるものを何分も入れていたらボンッだよね…。

本当に凄いと思ったのか、私を見上げるひとみちゃんの目がやけに輝いている。
心の中でため息をついてから、少し伸びてきた前髪を上げておでこにキスをした。
とくに意味はなかったけど、なんとなくしたくなったから。そこにおでこがあったから。

367 名前:ハード・デイズ・ナイト 投稿日:2005/09/22(木) 21:42

「それで…店長さんにまた怒られた?」
「ふぇっ、ふぇーん。聞いてよ、梨華ちゃーん。あの鬼ババちょーこえぇんだよぉ。殴るんだよぉ」
「いい子だから泣かないの」
「ちょーこえぇの〜。ちょーちょーイテェの〜」
「ちょーちょー言わないの!」
「ウェーン。あたしもうヤダよぉ。怒るんだもん。殴るんだもん。関西弁で怒鳴るんだもん。ウェーン」
「よしよし。怒られちゃったのね。殴るなんてヒドイねー」
「ヒドイよー。ヒドすぎだよー。しかもグーだよグー。ふぇーん」
「うんうん。ひとみちゃん、わかったから。もういいから泣かないで」
「ぐすん…ふぇ、ふぇーん」

甘えんぼモードに入ったひとみちゃんは可愛いんだけど、正直手がつけられない。
普段はそうでもないのに、いったん泣き出すとどんなになだめたって泣き止まない。
それでも最初のうちは撫でたりキスをしたりして慰めるんだけど…

「うわーん!あたしやっぱ辞めるー!!えーんえーんえーんえーん」

私の胸にグリグリと顔を押しつけて泣くから洋服が涙でぐっしょり。
腰をがっちり掴まれてるから逃げることもできない。
泣き声はうるさいし、鼻水とかもきっと服にたっぷりついてる。

そろそろ我慢の限界かも。

「もうっ!いい加減にしてよね!!ボンッなんてやらかしたらそりゃ殴られるわよ!」
「うわーん!梨華ちゃんまでグーで殴ったぁ〜。ヒドいよぉ」
「ボンッだよ?ボンッ?オムライスがボンッてありえないじゃない!」
「だって、だってぇ〜」
「だってじゃないの!!」

『の』に力を込めた勢いで立ち上がると、その拍子に抱きついていたひとみちゃんがコロンと転がった。
そのままコロコロ転がって部屋のすみっこまでいくと、振り返ってなんとも言えない表情で私を見る。
涙で真っ赤になった大きな瞳。そんな頼りなさげに見られたらたまらない。
壁際で背中を丸めて、グズグズと泣く姿にも胸がきゅんとなる。

368 名前:ハード・デイズ・ナイト 投稿日:2005/09/22(木) 21:42

「ひとみちゃん、乱暴にしてごめんね…」
「梨華ちゃん…」
「どこも痛くない?頭とか打ってない?もう泣かないで」
「うん。ダイジョブ。でも梨華ちゃん…」
「うん?」
「慰めて…」

あれ?

ひとみちゃんの背中を見ていたはずなのになぜか天井が見える。
天井…と、ちょっとニヤついたひとみちゃんの顔が。

「え?え?え?なな、なに?急にどうしたの?」
「だからー、あたし凹んでるの」
「うん。知ってる」
「梨華ちゃんに慰めてほしいの」
「は?」




「体で」




369 名前:ハード・デイズ・ナイト 投稿日:2005/09/22(木) 21:43

体で?と思ったときにはもう遅い。
一体どういう技なのか、ひとみちゃんはいつもほんのわずかな時間で私の服をすべて脱がせてしまう。
その器用で俊敏な動きをバイトのときにもっと発揮できればいいのにね。

「ひゃんっ」

私の素肌をひとみちゃんの唇がさらさらと撫でるように滑っていく。
すでに熱くなっている体に腰をくねらせて、ひとみちゃんの服を引っ張る。
私だけ裸なんてズルイ。ズルイっていうか素肌を触れ合わせたい。

「ひとみちゃん、も…」
「んあぁ。りかひゃん、ひょっとまっへね」
「んんっ…」

胸に吸いついたまま喋られて、漏れる息に感じてしまう。
私の上にのしかかったまま服を脱ぐひとみちゃんは、少しの間も私から目を離さない。
どこを見ているのかなんて、今さら確認しなくてもわかる。
上から下まで舐めるように私を見るひとみちゃんにゾクゾクとしたものを感じる。
熱っぽい視線を浴びながら、さっきまでの涙はなんだったのかしら…とふと思った。





370 名前:ハード・デイズ・ナイト 投稿日:2005/09/22(木) 21:43

終わり、満足げな顔で眠りにつこうとしているひとみちゃんの背中を指でそっと撫でた。

「うーん…梨華ちゃん…」
「ひとみちゃん、元気でた?」
「ん?元気っていうか元気を吸い取られた感じだけど…。なんで?」
「さっき私の体で慰めてって言ったじゃない。もう忘れたのー?」
「あ、そっか。それでエッチになったのか。忘れてた」
「もうっ!ひとみちゃんってば!」
「だって梨華ちゃんが『もっともっと』ってねだるからクタクタになっちゃったんだもん」

たしかに…何度も何度も求めちゃったけど。
でもそれはひとみちゃんがいけないんだからね。
私をあんなに感じさせてくれるんだもん…。

なんてウットリと思い返していたら、隣から聞こえてくる規則正しい寝息。

ちょっとぉ、ひとりで勝手に寝ないでよー。
つまんないつまんないつまんないつまんない。

ひとみちゃんがバイトに行ってるときもつまらないけど、それは我慢できる。
だってお仕事だし、2人のピアスのために頑張ってくれているのがわかるから。
でもせっかく2人でいるのにひとみちゃんは寝ちゃって、私はつまらないなんて。

こんなのおかしい。

「ボンッかぁ…」

ボンッはともかくとして、ひとみちゃんはレジに立つこと自体がとにかく苦手みたい。
お客さんの顔もまともに見れないし、お釣りは間違っちゃうし、商品は袋に入れ忘れるし。
焦ると挙動不審になるって店長の中澤さんが呆れながら言ってたっけ。
もともと人見知りが激しくて愛想笑いも引きつっちゃうようなコだからサービス業には向いてないのかな。
ていうかひとみちゃんに向いてる仕事なんて何も思いつかないんだけど。

371 名前:ハード・デイズ・ナイト 投稿日:2005/09/22(木) 21:44

今はまだ新人だし、そのうち慣れるだろうということで大目にみてもらっているけど、こんなことがずっと続いたら働かせてもらえなくなりそう…。

「そうだ!いいこと思いついた!!」

ひとみちゃんと練習しよう。
私がお客さんの役をして、ひとみちゃんがレジ係。
店長さん他に呆れられないように接客の練習をすればいいんだ。

我ながらいい思いつきだわ。
つまらない時間も終わるし、一石二鳥ってこういうことを言うのね。
思わず手を叩いた喜んだけれど、壁に背中をくっつけてこちらを向いているひとみちゃんは眠ったまま。
寝顔があまりにも可愛いらしくて、ぷにぷにほっぺを優しくつついた。

「ひとみちゃん、起きてー」

それでもひとみちゃんは起きない。優しくしすぎたかしら。
柔らかいほっぺをつまんで左右にグーンと伸ばしてみる。

「ひとみちゃーん。私いいこと思いついたんだよー?」
「うぅ…」

眉間にしわを寄せて、私の手を払うようにいやいやをするひとみちゃんもやっぱり可愛いな。
でも起きてもらわないと始まらないの。練習しないとひとみちゃんクビになっちゃうよ?
ごめんね、と心の中で謝りながら両肩を掴んだ。

「ひとみちゃんひとみちゃんひとみちゃんひとみちゃんひとみちゃーん!!!」

ひとみちゃんの長い首をガクンガクンするほど前後に揺らした。

「うわあぁぁぁぁ!!た、たすけてーーー!!」

叫びながら飛び上がったひとみちゃんの目には心なしか涙が滲んでいた。
我に返って座り直しても首はまだ少しガクガクしていて、その動きがなんだかちょっと面白かった。

372 名前:ハード・デイズ・ナイト 投稿日:2005/09/22(木) 21:44

「あ、あにすんだよー」
「うふふ」
「梨華ちゃん、あたし寝てたのね。わかる?」
「あのね、私いいこと考えたの」
「人の話し聞けよ…」
「ひとみちゃんこそ聞いてよー」
「絶対いいことじゃないでしょ、それ」
「あのね、これ絶対ひとみちゃんのためになるから」
「だから人の話を…」
「レジの練習をしようよ」
「れじのれんしゅうぅ?」
「そ。私がお客さんになって、ひとみちゃんがレジをやるの」
「なんだ。レジごっこか」
「ごっこじゃないわよー。練習して慣れるのが目的なんだから!」
「なにもこんな夜中にやらなくても…」
「だってひとみちゃん、このままじゃまた店長さんに怒られるよ?」
「うぅ…それはカンベンしてほしー」
「ね。やろう?」
「う、うん…」

眠たげな目をこすりこすりしながらひとみちゃんは立ち上がった。
そのへんに放り投げてあった服を身に着けて、大きなあくびをひとつ。

「ふぁ〜あ〜。で、練習って何をどうやるのぉ?」
「とりあえず私が何か買うフリをするからいつものとおりやってみて。あ、ここにレジがあるつもりでね」
「ふぇーい」

それから私たちはレジごっこ、じゃなくてひとみちゃんのためにレジの練習を始めた。
バイトの人たちに買ってもらったお菓子の山の中から、適当なものをひとつ手に取ってひとみちゃんの前に差し出す。

「梨華ちゃんってガルボのオレンジ味まずいって言ってたよね?食べるの?」
「食べないわよ〜。これは練習でしょ!たまたまそこにあったから掴んだの」
「そっか、よかった。梨華ちゃんに食べられちゃうかと思った」
「もうっ、ひとみちゃんってば〜」
「えへへ〜」

舌を出して頭をかく仕草も可愛いんだから。
眠いせいかいつにも増して喋り方が舌足らずだし。
こんな店員さんだったら、お釣りを間違えてもお客さん許してくれるかもね。

373 名前:ハード・デイズ・ナイト 投稿日:2005/09/22(木) 21:45

「い、いらっしゃいませ〜」
「ピザまんをひとつください」
「梨華ちゃん、まだ肉まんの季節じゃないよ」
「ど、どうせそのうち冬になるんだから事前に練習しておくの!」
「そっか、わかった。えっと…200円のお返しでーす」
「ありがとうございました、は?」
「あっ、あり、ありがとうござーました」

ペコリと頭を下げるひとみちゃんって可愛すぎだわ。
レジのやりとりもだいぶスムーズになってきたし、なかなかいい感じね。

「ねぇ、梨華ちゃん。もう練習はこれくらいにして寝ない?」
「ダメよ!せっかく今いい感じなんだから。ね、ひとみちゃん。もう少し頑張ろうね〜」
「……ねむぅ」




374 名前:ハード・デイズ・ナイト 投稿日:2005/09/22(木) 21:45

そんなこんなで外が薄っすらと明るさを取り戻すまで、私たちの練習は続いた。
ひとみちゃんは半分寝ていたけど、「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」が言えるようになったことは大きい。
きっと店長さん他もびっくりするだろうな。ああ、早く練習の成果を見せてあげたい。

「り、かちゃ…もう限界。ねりゅ…」
「ひとみちゃん頑張ったね〜。じゃあ一緒に寝ようか」
「お…やす…み…」
「はい、おやすみ〜」

ベッドに倒れこむひとみちゃんの横に寄り添うと突然携帯が鳴った。

「はい。ひとみちゃんの携帯です。あ、おはようございまーす。え?今からですか?」

電話の相手はコンビニ店長の中澤さんだった。
今日のシフトに入る予定だった飯田さんが風邪を引いてしまって、急きょ休むことになったらしい。
手が足りなくなったから代わりにひとみちゃんに出てほしいとのこと。

「それが…ひとみちゃん、今ちょうど寝たところなんですよ」

スヤスヤと眠るひとみちゃんの髪を撫でる。
さすがに今からバイトに行かせるのは可哀想だからやんわりと断ろうとしたんだけど…



375 名前:ハード・デイズ・ナイト 投稿日:2005/09/22(木) 21:46





「え?時給3割増し?」





ひとみちゃんの髪を撫でていた手が止まる。

376 名前:ハード・デイズ・ナイト 投稿日:2005/09/22(木) 21:47

「5分で行かせます」

中澤さん一人じゃ大変だし、困ってるときはお互い様よね。
それにせっかく練習したんだから、忘れないうちに実戦でも慣れておいたほうがいいし。
コンビニの上に住んでいるひとみちゃんだから、いざっていうときすぐに駆けつけられるってことで雇ってもらえたわけだし。

すぅっと息を吸い込んでひとみちゃんの耳もとに顔を寄せた。

「ひとみちゃん起きてえぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!!!!」
「うわあああああぁっ!今度はなに?!なに?!なんなんだよぉぉお!?」

再び飛び起きたひとみちゃんにバイトに行くように告げるとたちまち泣きそうな顔をされた。
でもね、ひとみちゃん。今行かずして、いつ行くの。3割増しなんだよ?!

「あたし全っ然寝てないんだけど…」
「いいから早く支度して。これ着替えね」
「なんで勝手に行くなんて言うのさ…」
「あっひとみちゃん、ここのとこ髪はねてるよ。直してあげるからじっとしててね」
「行きたくないよぉ…」
「はいOK!ひとみちゃん今日もカッコイイ!!行ってらっしゃーい」

寝起きでふにゃふにゃしていたひとみちゃんを送り出したら急に睡魔が襲ってきた。
ひとみちゃんの温もりが残るベッドに潜り込んで軽い充実感とともに目を閉じる。



「とりあえず、私のやるべきことはすべてやったわ」


ひとみちゃん、おやすみなさい。お仕事頑張ってね…。





377 名前:ハード・デイズ・ナイト 投稿日:2005/09/22(木) 21:47
 
 <了>
 
378 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2005/09/23(金) 17:49
なんだかんだ梨華ちゃんに操られてるよっちゃん萌え(ノ∀`)
379 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/24(土) 21:06
頑張ってる梨華ちゃん(・∀・)イイ!
よっちゃんのレジ係見てみたい(・∀・)ニヤニヤ 
380 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/14(金) 17:04
いしよし待ってまつ…
381 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/20(木) 17:43

>>378-380レスありがとうございます。
382 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:43

ジュースを飲みながら、ちらっと視線だけをあげると
でれっと崩れた笑顔が見える。

よく、わかんないな。
だって他の人の前だとすごい冷たい人。
私に冷たいんじゃなくって、私以外の人みんなに冷たいの。
それにね普段は無口。
私と二人の空間になるとすっごく饒舌になる人。

383 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:44

おおきな瞳は冷めていて、見下すような視線が生意気とか言われちゃってるんだよ?
端整な顔立ち、ハーフっぽいつくりをしていて人目を引く人なのに。
私の前でだけは、可愛いわんちゃんにしか見えないんだもん。
ごろごろと喉を鳴らして……それは猫だっけ?


「ね、どこかいこうよぉ」

「なんで?二人でいたいんだもん、いーじゃん」


最初は甘い言葉だったけど。
こんなにインドアな人だなんて思わなかった。
運動がスゴイできるのも知ってるよ。
柴ちゃんが騒いでたもん。

384 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:44


***
  
   
385 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:44

初めて会った瞬間に、私にだけ微笑んで見せた顔は
完璧なものだったね。
周りのファンの子達なんてまったく存在しないかのように
真っ直ぐ向かってくるあなたの凛々しさに、ちょっと怖くなって逃げちゃったんだ。


体育館から裏庭までなぜか二人で追いかけっこ。
もう走れないって息が切れてる私と違って
追いついたあなたは平然とした顔で、私の呼吸が整うのを待ってた。


「なんで逃げるんですか?」

「だって……」


怖かったんだもん。
あなたの放つ凛とした空気と周りからの焼けるような視線――――――
泣き出しそうな私とあなた。
どうして、そんなカオするの?私、何かした?



「そんなカオしないで下さい。石川先輩」

「……へっ?」

「泣かないで下さい。すいません……」


そーっと壊れ物に触れるように頬に添えられた繊細な指先が
ゆっくりと頬をすべっていく。
泣いては無いんだよ?きっと困ったカオしてると思うけど……
だって、あなたのほうが泣き出しそう。
386 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:45

「え〜っと、ごめんね。別に逃げたのに深い意味はなくって……
 あのね、あの……お名前なんて言うの?」

「ふぇっ?あた……あたしは吉澤です!?」


ビックリした顔で素っ頓狂な返事、名前を言う声なんて裏返ってた。
なんか可愛い子だなって思ったんだよね。
周りに騒がれてる時に見せるオトナぶった顔ではなくて
等身大の彼女が笑ってた。


「私のお名前知ってるんだね?会ったことあったかなぁ?」


柴ちゃんに困ってるとすぐそういう顔するんだから!?って言われてる
八の字眉になってるだろう私を、ちょっとだけ赤くなったあなたが見つめてて。
不思議に思って首を傾けて顔を覗き込むと、余計に真っ赤になって。
透き通るような白い肌をしてるから、余計に目立っちゃうのかな?
387 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:46
「会ったことは……あるんですけど、憶えてないですよね?」

「うーん、ごめんね?私、記憶力悪いのかなぁ……」

「いや、ほんの一瞬でしたから憶えてなくて当然です」

「そうか……でも、もう覚えたよ!フットサル部の吉澤さん!?」

「は、はい!あの、良かっ……」



『こらーー!?よっちゃ〜ん、こんな所で何してるんですか〜?』

彼女が何かを言いかけたのと同時くらいに、大きな声がして
ビックリして振り返ると、同じ学科の藤本さん?がいた。

388 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:46

「おっ、石川さんじゃん。な〜に告白?んっ、もしかして美貴って邪魔?」

「告白なんてしてない!?」


ニヤニヤ笑う藤本さんと、真っ赤な顔で怒鳴ってる吉澤さん。
告白って――――――告白?

えーーーーーーーー!?それって私が?やだー、誤解された?

なんて一人でパニくってると、藤本さんの後ろに柴ちゃんの姿も見えた……
っていうか、そのまた後ろに相当な数の人、人、人――――――。

389 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:47

「石川さん、下の名前は?」

「えっ?えっと、梨華ですけど……」

「んじゃ、りかちゃんって呼ぶね。美貴は――――って美貴が名前ね。藤本美貴。
 ということで美貴って呼んでよ?こっちがよっちゃんこと、吉澤ひとみ」

「吉澤ひとみちゃん」

「そうそう、ひとみちゃんだよ。そう呼んであげてね。
 今日からお友達ってことで宜しくね?あっ、柴ちゃんも一緒に帰らない?」

「へっ、あのえ〜っと柴ちゃんが良いんなら私は別に……うん。」

「よし!?そうと決まったら体育館片付けるぞ、よっちゃん」

「ちょっと、藤本先輩!?」


訳が分からないうちに藤本さ―――――美貴ちゃんにお友達宣言をされて。
いつのまにか柴ちゃんまで仲良くなったの……?
体育館にゆっくりとした足取りで戻る藤本さんと、
私に軽く会釈してから、後ろを慌てて着いて行く吉澤さんを見送っていた。

390 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:47

えっと、この視線も一緒に連れて行ってよ美貴ちゃん!?
すっごい気まずい空気が流れてる気がするんだけど……


「梨華ちゃん、眉。眉が下がってるぞ!」


えいっ!と私の眉を上げる仕草をして苦笑いの柴ちゃん。
だって、この展開について行けないんだもん……
391 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:47
  
  
***
  
  
392 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:47

帰り道、後ろを着いて来そうなギャラリーを一睨みしてから
美貴ちゃんは満面の笑みで話しかけてくれる。
美貴ちゃんの横を歩く吉澤さんは、なんだかつまらなそうに歩きながら
時々、私達の方を向いては、目が合うとすぐに逸らしてしまう。


「へー、学科一緒だったけどさ梨華ちゃんってもっと
 取っ付きにくいと思ってた。意外とサバけてるんだね。
 あっ、良い意味でだよ。」

「美貴ちゃんも、意外と話しやすいんだなって。
 ごめんね、正直ちょっと怖かったの」

「言われ慣れてるから平気。こっちの大きいのも見た目よりはヘタレだから」

「なっ、へタレ――――まぁ、そうですけど……」


否定しないんだ。
また目が合ってじ〜っと見つめてて気付いたけど、吉澤さん暑いのかな?
今日、ず〜っとお顔が赤い気がするんだけどなぁ。
393 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:48
「ねえ、吉澤さ――――」

「はい、すと―っぷ!?梨華ちゃん、呼び方。ほら、違うじゃん」

「えっ?あれ?……あぁ、ひとみちゃん?」

「そうそう、ひとみちゃんね」


益々、赤くなった吉澤さんと私を見比べて満足そうに微笑んでる美貴ちゃん。



「そだ、なにかよっちゃんに言いかけてたじゃん。
 ごめんね、横入りして。続きどうぞ!?」

「あのね、ひとみちゃん?」

「は、はい!?」


少し背の高い彼女を見上げる様に名前を呼ぶと、手でも上げそうな勢いで返事をした
吉澤さんこと、ひとみちゃんを見てみんな大笑い。彼女もバツが悪そうにしながらも苦笑いしてた。
394 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:48
「ひとみちゃん、お顔赤いから暑いのかなぁって。
 アイス食べにいかない?すぐそこに美味しい店があるの」

「へっ?あの〜、……行きたいです!?」

「そっか、よっちゃん暑いんだ……そっか、そっか」


なぜか笑いをかみ殺しながら美貴ちゃんは、目に涙まで溜めてる。
私、変なこと言ってないよね?なんだろう。
不思議に思って歩いてたら、下にあった段差に気付かなくって足を取られて。
隣にいた美貴ちゃんに、抱き着く様な格好になっちゃって……

それでも美貴ちゃんは、さり気なく私を庇って支えてくれた。
ぎゅーっと腕に抱き着いちゃってる私を、そのまま抱き寄せちゃうし……


「ごめんね美貴ちゃん!?」

「美貴なら大丈夫だよ。足くじいたりしてない?」

「うん、平気だよ。ありがと」


いたずらっ子みたいに笑った美貴ちゃんと、なぜか拗ねてるみたいなひとみちゃん。

395 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:48
「梨華ちゃん、いつまで抱き着いてるの?」


柴ちゃんの言葉に慌てて離れる。



「美貴は別に良かったのに〜。いやぁ、梨華ちゃんって細いのに大きいんだね」

「へっ?なにが……」


私以外のみんなの視線が胸に集中する――――。
今日って白のワンピースに、薄手のピンクのカーディガン。
ちょっと胸元が強調されるシルエットになってて。
そうなのよね、着痩せするタイプだねって柴ちゃんにもよく言われ……

って、なによー!!!!
どこ見てるのよーーーーー!?


「もう、美貴ちゃん!?」
「藤本先輩!?」


同時に叫んで顔を見合わせる……
相変わらずの赤い顔で、ちょっと怒ってる風なひとみちゃんは
美貴ちゃんと私の間に入った。
396 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:49
「あたしが、石川先輩の隣を歩きます!」

「えっっと、うん……」

「あははっ、よっちゃんにしては上出来だねー」


ひとみちゃんは、けらけらと笑う美貴ちゃんを軽く睨んでたけど
私と目が合うと、崩れた笑顔を見せてくれた。

こんな風に笑ってれば、もっと可愛く見えるのに。
どうしていっつも気取ってるんだろう?なんて思ってたんだよね……

  
   
397 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:49
 
  
***
  
  
398 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:49


「梨華ちゃん、どーしたの?」

「ん〜、思い出してただけだよ」


わかんないって顔して首を捻るひとみちゃんに合わせて
同じように首を捻って見上げると、また真っ赤になる白い肌。

ひとみちゃんって暑がりさんだな〜。
白いからすぐに赤くなっちゃって可愛いの。
思わず頭撫でちゃったりするんだけど、嫌がらないのよね。
私の指の動きが気持ち良いみたいで、擦り寄ってくる大きなわんちゃん。
399 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:49
「出会った日のこと思い出してたの」

「あぁ……んだよ〜、一緒にいるんだから。今のあたしを見てて?」

「見てるよぉ、ちゃんと。」

「なら良いんだけどさ」


じ〜っと見上げたら目を逸らすのは、いっつもひとみちゃんじゃない。
だから、腕に抱きついたりして、甘えて気を引くの。
そうしたら、私のためだけに笑ってくれるから。

さり気なく解こうとするひとみちゃんの腕を、やんわりと押しかえして
なおもきつく抱き着いて甘えると、優しいあなたはもう抵抗しないから。
そのまま、ぎゅうぎゅうとカラダを寄せて密着していく。
熱いくらいのあなたの体温がね、寒がりな私には心地良いんだもん。
 
400 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:50
「梨華ちゃんって分かってないよね?」

「なによぉ……なにをわかってないの?」

「う〜んとね。色々だよ……」


そういって余裕ぶってキスをするけど。
抱きしめてくれる、ひとみちゃんの鼓動がね、すっごく速くなってるの知ってるんだよ。
私といると、すっごいドキドキしてくれるみたいで、嬉しいな。

ほんとは、いろんなところに遊びに行きたいけど……
こうやって、おうちでデートも悪くないかなって思うの。
だって、他の人が見れない、いろんな表情の可愛いあなたを
ひとりじめ、出来るんだもん―――――





401 名前:_ 投稿日:2005/10/20(木) 17:50
   
   
   
402 名前:_ 投稿日:2005/10/20(木) 17:50
   
   
   
403 名前:おうちであいましょう? 投稿日:2005/10/20(木) 17:50
   
おしまい
404 名前:メトロ 投稿日:2005/10/20(木) 20:37
梨華πトークで照れちゃうよっすぃーキャワ!
名詞の最初に”お”を付けまくる石川さんキャワ!(ちゃんチャミとか聞いてると凄いですよね!
最後のシーンとかすぐ想像できるなぁ。
チクショウこの美形カップルめ。
しかも、いしよしは二人ともキャラが濃い。しかもそのキャラが可愛い。
まったり頑張ってくらさい〜。
405 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/20(木) 22:36
交信お疲れ様です〜
凄く(・∀・)ニヤニヤしちゃいましたww
406 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/02(金) 21:57
待ってます〜!
407 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 02:42
>>404-406レスありがとうございます。
>>364-377の続きです。
408 名前:プリーズ・プリーズ・ミー 投稿日:2005/12/12(月) 02:43

 『プリーズ・プリーズ・ミー』
 
409 名前:プリーズ・プリーズ・ミー 投稿日:2005/12/12(月) 02:44

「あたしたちっておかしいのかな?」

バイトから帰ってきて開口一番、ひとみちゃんは突然そんなことを言った。
手にはいつものようにたくさんのお弁当やおにぎりや、パンやお菓子を抱えて。
こんなにもらっても結局は食べきれずに捨ててしまうのがほとんどなのに。

「いきなりどうしたの?」
「今日、ていうか最近けっこう言われるんだよね。おかしいって」
「誰に?何がおかしいの?」
「バイトの人たちみんなに。店長にも。あたしたちがおかしいって」

おかしいって私も含まれてるの?それ。ひとみちゃんだけじゃなくて?
なんだかとっても心外だわ。失礼しちゃう。

「ひとみちゃんが言われるのはわかるけど、なんで私まで…」
「あーっ!なんだよそれー。自分だけマトモぶっちゃってさ!」

マトモぶるって。ぶってないでしょ、べつに。
おかしいのは…というかおバカさんなのはひとみちゃんだけなんだから。
私とひとみちゃんをセットにするのはいいとしても、そこだけは譲れない。
だって、おかしくなんてないもん。私はマトモだもん。
410 名前:プリーズ・プリーズ・ミー 投稿日:2005/12/12(月) 02:44

「具体的に何がおかしいって言われたの?」
「えっとね、なんだっけな…そだ!500円制がおかしいって」
「え゛」
「梨華ちゃん?」

余計なことを突っ込んでくれたわね、あの人たち…。

「夫婦でも親子でもないのにお小遣いをもらうのはおかしいって言うんだよ。そうなの?」
「そ、そんなことないわよ〜」
「あんね、あたしが財布持ってないって言ったらみんなびっくりしてた」
「へ、へぇ〜」
「梨華ちゃんに渡して、そこから500円もらってるのっておかしいのかなぁ?」
「ど、どうかしら…」
「フツーの恋人はそんなことしないんだって」

もらってきたお弁当をモグモグ食べながら、首をひねって考え込むひとみちゃん。
箸を口にくわえて腕組みして、ああ、またあぐらなんてかいちゃってお行儀が悪い。
おかしいのかなぁ、なんてブツブツ言う彼女はやっぱり、とっても、可愛らしい。

「ひとみちゃんってよくモノを失くすでしょ?」
「うん、そうだね。なんか知らないけどよくなくなっちゃう」
「傘だって雨が止んだらそのへんに置いてきちゃうもんね。降っててもなぜか失くすときあるし…」
「傘キライ。いざってとき両手がふさがってるの、イヤなんだもん」

どんなハプニングを想定して両手を空けておきたいんだろう。
要するに傘をさすのが面倒なだけなのよね。
411 名前:プリーズ・プリーズ・ミー 投稿日:2005/12/12(月) 02:45

「だからね、そんなひとみちゃんだから例えば財布をどこかに落としてきちゃうこともないとは言えないでしょ?」
「たしかに」
「だから私が預かってるんだよ」
「なるほど」
「なるほどって…今まで疑問に思わなかったの?」
「全然」
「そう…」

おバカさんとか、そういう問題じゃないような気がしてきた。
生きていく上での危機感?ていうか常識?とにかくいろんなものが足りないのかも。
やっぱりこれからも私がついていてあげなくちゃ。

「500円で足りないときはいつでも言ってね」
「くれるの?!」
「当たり前でしょ。もともとひとみちゃんのお金なんだから。いつだって自由に使えるんだよ?」
「そっか。じゃあ4000円チョーダイ」
「……何に使うの?」
「デ○ルマンのフィギュア買うの。カッケーやつ」

フィギュアって人形よね?買って何に使うのかしら。飾り?それって楽しいの?
大体そんなものが4000円もするなんてそっちのがよっぽどおかしいじゃない。
ひとみちゃんがウソをついてるとかそういう話じゃなくて、4000円の価値があるのかっていう問題。
それにどうせ買って満足したらすぐに飽きちゃうんだろうな。
412 名前:プリーズ・プリーズ・ミー 投稿日:2005/12/12(月) 02:46

「ひとみちゃん…デビル○ンって、あの怖い顔の人よね…」
「ん?まあ怖いといえば、たしかに怖いかな」
「私ちょっと苦手かも…。夜とか目が合っちゃったら怖くて眠れなくなっちゃうよ」
「そっかぁ。じゃあ机の中にでもしまっておくよ」
「バカ。それじゃ買う意味がないでしょ」
「あ、そっか。んじゃ買うのやめる。4000円はやっぱりいいや」
「そう?ごめんね、ひとみちゃん。また欲しいものがあったら言ってね」
「べつにいいよ。梨華ちゃんが怖い思いするなんて、そんなのイヤだから」

私の肩を抱いて、心持ち低い声でそう囁くひとみちゃんはカッコイイ。
自分のかっこよさを良くわかっている人だから、得意の流し目で私を誘惑したりする。
そんなひとみちゃんにうっとりしながら、口のまわりについたごはん粒を取ってあげた。

とりあえずデ○ルマンの件はこれで解決。
413 名前:プリーズ・プリーズ・ミー 投稿日:2005/12/12(月) 02:46

「お腹空いてきちゃったなー」
「ひとみちゃんってば、お弁当食べたばかりじゃない」
「ううん。そうじゃなくて………梨華ちゃんを食べたい」
「きゃっ」

その場に押し倒されたと思ったらひとみちゃんが熱いキスをしてきた。
貪欲な舌がすぐに私の舌を絡めとり、息もつかせぬほど性急に動く。
流れ出る唾液が私の顎を伝い、首を濡らす。
その唾液を一滴も零すまいと、ひとみちゃんの舌が首筋を這う。

「くぅ…はぁっ…」
「梨華ちゃんのイイ声がスキ…」
「やぁんっ…こ、声だけなのぉ…?」
「んーん。ここも、そこも、あんなところもぜーんぶスキだよ。梨華ちゃん大スキ」
「あぁあ…ひとみちゃぁん…」

ひとみちゃんが私の体の至る所に次々とキスを落とす。
そのたびに私の口からはイヤらしい声が漏れる。
感じている証拠だね、とひとみちゃんはとても嬉しそうに笑う。

いつだって、私はどうしようもなく感じてしまう。
たとえ触れるだけのキスだけだとしても。
ひとみちゃんが触れるだけで、私は………。

「んっんっ…あ、はぁあんっ…ああぁぁぁぁーーっ」

私の心も体もひとみちゃんでいっぱいにしてほしいの。
いつもいつでも溢れさせて。感じさせて。
私を愛して、可愛がって、ひとみちゃんの腕の中に閉じ込めていて。
乾く間がないほど、ずっとずっと私を満たしていてほしいの………。




414 名前:プリーズ・プリーズ・ミー 投稿日:2005/12/12(月) 02:47

「今日はいつもより声が大きかったんじゃない?」
「そう?」
「うん。なんとなく、いつもより乱れていたような気がする」
「やだっ、恥ずかしい」
「なんだよ今さら〜」
「だって〜」
「梨華ちゃんカワイー」

終わったあとのまったりトーク。
この時間はいつも穏やかな幸せを感じる。
ひとみちゃんが髪にキスをするたびに私の口許は綻ぶ。

「ところでさっきの話しだけど」

ああん。やめないで。
どんな話か知らないけど私の髪をもっと撫でていて。
もっともっとキスしてよ。

そんな私の願いには気づかず、ひとみちゃんはアルトな美声を響かせる。

「あたしのバイト代が梨華ちゃんの口座に振り込まれるのっておかしいの?」

あ、その話なのね…お金の話はもういいわよ…。
中澤さんが余計なこと言ったのかしら。まったくもう!
415 名前:プリーズ・プリーズ・ミー 投稿日:2005/12/12(月) 02:47

「だって、ひとみちゃん郵貯しかないじゃない。中澤さんが銀行じゃないとダメって言うから、とりあえず私の口座に振り込んでもうらようにしたんでしょ?」
「そうだったっけ」
「そうだよ。ひとみちゃんの毎月のお給料はちゃんと私の口座で預かってるから心配しないでね」
「心配はしてないよ。ただ店長がさ、『ホンマに石川の口座でええんか?』とかしつこく聞くからさ」
「………」
「しかもなぜかすごーく可哀相な子を見るような目であたしのこと見てくるし」
「………」
「で、時々『ちゃんと食べさせてもろてるか?』って言って、こういうのくれるの」

後ろから私を抱きしめた状態で、よっすぃは目の前に広がるお弁当の山を指差した。

「あたしってもしかしてすごーく同情されてるのかな」
「そ、そうだねぇ………」
「なんでだろう」
「な、なんでだろうねぇ………」

お弁当やお菓子を大量にもらってくるのはそういう理由だったのね…。
もうっ!中澤さんってば私たちの関係を絶対誤解してるんだから。

「変なことばかり言うんだから、中澤さんは」
「あ、でも店長だけじゃないんだよ。えりりんとかカオリンとかにもたまに言われる」

えりりん?カオリン?
なあに?それ。新種の生物?
416 名前:プリーズ・プリーズ・ミー 投稿日:2005/12/12(月) 02:48

「あたしたちはこーんなに愛し合っちゃってるのに、皆なんか変な誤解してるんだよなぁ」
「ひとみちゃん」
「梨華ちゃんが好きで好きでたまらなくてバイト中も梨華ちゃんのことばっか考えてるよ〜」
「ひとみちゃんってば!」
「キスしたいなーとかエッチしたいなーとか…」
「ひとみちゃん聞いてーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「うぎゃあ!!」

そんなに叫ぶほどびっくりしなくても…。
ひとみちゃんが一人で喋り続けるから少し大声を出しただけなのに。
あ、腕枕してもらってるから位置的にマズかったかしら。耳にダイレクトだったかも。

「キュイーンってしてる…耳が…キュイーン……」
「えりりんとかカオリンってなあに?ひとみちゃん」
「あ、梨華ちゃん…お願いだからその声のボリューム保っててね」
「ひとみちゃんが質問に答えてくれたらね」
「も、もちろん。えりりんもカオリンもバイトの先輩だよ〜。えりりんはあたしより年下だけどね」
「ふーん…なんか気安い呼び方」

新種の生物かと思ったらバイトの人なんだ。そっか。
りんりん言っちゃってばっかみたい。変なのー。
417 名前:プリーズ・プリーズ・ミー 投稿日:2005/12/12(月) 02:49

「2人ともすっごく優しくいろんなこと教えてくれるんだ」
「そう。よかったわね」
「カオリンは綺麗だしえりりんは可愛いんだよ〜」
「ふうん」
「店長もよく見たら美人だし、うわっよく考えたらすごいコンビニだ」
「………」
「しかもあたしがいるときたもんだ。最強じゃん」

ウシシなんて笑うひとみちゃん。悔しいけどそこは否定できない。
そうなんだ、そんなに美人で綺麗で可愛い子がいるんだ。
いつもコンビニ行っても店員さんなんてまじまじ見ないから気づかなかったけどそっかそっか。ふうん。

「よかったね、ひとみちゃん」
「へ?なにが?」
「優しい先輩に囲まれて。心配してもらったりお菓子もらったりして」
「へへへ。あたしってラッキーガイでしょ」

ガイは男だよ…ひとみちゃん。ラッキーガールって言いたかったのかしら。
ひとみちゃんが男でも女でも私はかまわないけど、そんなこと外では言わないでね。
418 名前:プリーズ・プリーズ・ミー 投稿日:2005/12/12(月) 02:49

「ふぁーあ。そろそろ寝よっか?」
「イヤ!もう一回して」
「え?も、もう一回?」
「うん。もう一回するの。私を愛して欲しいの」
「どうしたの梨華ちゃん。さっきのじゃ物足りなかった?」

カオリンにえりりん。それに中澤店長。
ひとみちゃんのまわりにいるこの人たちは要注意人物かもしれない。
バイト中、いくらひとみちゃんが私のことを考えていても私はそばにいない。
ひとみちゃんのそばにいるのは、私以外の…美人で綺麗で可愛い人たち。

「ううん、そんなことないよ。ひとみちゃんすごかったもん」
「でしょでしょ?エッヘン」
「でももっと欲しいの。私のこと好き?」
「好きだよ、もちろん」
「私もひとみちゃんが好き。だからお願い…」
「うん。いいよ。もっと梨華ちゃんを喜ばせてあげる」

私がひとみちゃんをどんなに好きでも、ひとみちゃんが私をどんなに好きでも不安なの。
私以外の人の名前を口にしないで。すごくツライの。すごく寂しくなるの。
私以外の人のことを考えないで。私だけを見ていてくれなきゃイヤなの。



だからお願い。ずっとこうしていて。
片時も離れたくないから、いつまでも私を喜ばせていて……。
419 名前:プリーズ・プリーズ・ミー 投稿日:2005/12/12(月) 02:49

 <了>

420 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 06:20
更新お疲れ様です。甘いの大好き……
(*´▽`)´〜`*)イチャイチャは癒されますw
このお話のふたりは、やっぱ面白いです。
421 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 15:27
コンビニいしよし最高っっ!!
このままいろんなことを気付かない吉でいて欲しい・・・w
422 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/28(水) 13:17
>>420-421レスありがとうございます。

>>304-329>>334-359の続きです。
423 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:18

 星に願いを懸けるなら
 心を込めて望むなら
 きっと願いは叶うでしょう

 
424 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:18
 
   ◇  ◇  ◇
 
425 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:18
「……美貴ちゃん?うん、カラダがねだるいのぉ。
 ひとみちゃんダメって言ってもやめてくれな」

「あーーーー!?梨華ちゃん何を言って……」


朝早くに、みきちゃんさんから電話があった。
みきちゃんさんのママがこっちに来てるらしくって、会いにおいでって。

そしたら、何を言われたのか梨華ちゃんは
とんでもないことを口走っちゃって……。
426 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:19
「梨華ちゃん、あんまり言っちゃダメだよ?」

「イっちゃダメ?」

「そう言っちゃだめだかんね?」

「うん、いっつも言うよね”まだイっちゃダメ”って……」


ポッと頬染める仕草に首を捻る……。
いっつも言うっけ、「言っちゃダメ」って。
あぁ、言うか言うな。ほっといた梨華ちゃんすぐに話が脱線して
関係ないことを人に話すから……。


「そっかあんまりイっちゃだめなんだ……。ひとみちゃん、ごめんなさい。
 私、いっぱいいきすぎなんだね。だから注意してくれてたんだ毎晩」

「……毎晩?」


っておい。違うな、何かが違うぞ。
なんでそんなに赤いんだ顔。それに毎晩って?
 
427 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:19
「えっと、ちゃんとわかってる?」

「うん。これからは我慢するね」

「いや、ほんとにわかってるよね?」

「わかってるってば〜。えっちのとき我慢すればいいんでしょ?」


ぶはぁーーっと飲みかけのココアを噴出す。
最近、梨華ちゃんがはまってるらしいのでココアしか飲み物が無いんだ……。
ってそれはどうでもいい。やっぱり勘違いしてるじゃん!


「ひとみちゃん、きちゃない」

「すまん……っていうか勘違いしまくってるから」

「えっ?どうして?」

「あたしが言いたいのはですね。人にあたしたちの生活のことを
 細かく言う必要は無いってことだよ」

「そうなの?じゃあじゃあ、えっちのときは我慢しなくていいんだ?」

「……そういうことを聞かないでおくれ」

「だってぇ」


それに服着ようね。いや脱がせたのはあたしだけど、いつまでも
そのままでいたら風邪ひくから……。
428 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:19
「ひとみちゃんはどう?」

「どうって?なにが」

「いっぱいイったほうが嬉しい?」

「……そりゃ嬉し…って言わせるな!?心で感じろ!」

「だったらいっつも感じてるもん」

「あぁ、そうですか……」


なかなか着ようとしないから、服を持ってきて着せてあげる。
なんで世話やいてんだろ、あたし。
どうしてもキショ可愛い彼女には甘くなってしまう。


「夜に美貴ちゃんのところ行くよね?」

「うん、お米のお礼言いたいし」

「じゃあ、久々の夜のおでかけ〜」

「そういえば、寒くなってからはあんまり行ってないな」

「だって寒いのきらい」
429 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:20
窓の外に目をやりながら、梨華ちゃんは呟いた。
太陽の光をいっぱい浴びたような健康的な肌だから
たしかに夏のほうが似合うね……。


「また教えてよ、梨華ちゃん」

「教えるって、なにを〜?」

「星座。冬の星座の話を聞かせて?」

「……うん」


寂しげに笑う横顔が切なくて、ぎゅーっと後ろから抱きしめる。
あたしがいるじゃん。だから、そんな顔をしないで?
安心したように薄く口元が綻んだ。

けど……。
そっと彼女の閉じられた瞳から、音も無く涙は流れていた。



 
430 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:21
 
  ***
 
431 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:21
もうすぐ新しい年を迎える準備で忙しい12月……
みきちゃんさんのお母さんが、北海道からこっちへやってきた。
と言う事で、会いにきたんだけど。


「久しぶりだべさ〜、相変わらず健康的な小麦色の天使さんだね〜」
「やあっだーおばさんってば〜」
「梨華ちゃんはブリブリしてて可愛いべ」

「なっち〜あたしは、あたし〜」
「ごっつぁんは、そのふにゃふにゃ感が堪らなく愛しいべさ」
「やったー」

「でもでも」
「やっ、美貴のこと見ないで」
「もう美貴つぁん冷たいべ。こんなにお母さんは愛してるのにー」

「ウザイから、だー抱きつくなー」
「良いなーごとーもくっつくー」
「梨華もー」

「お前らまで……やめれっ、やめんかい!」
「安倍家のご令嬢なんだから、もっとおしとやかにするべさ」
「誰がご令嬢だ、誰が?」


やたら懐いてる2人と、苦笑いでお母さんを引っぺがそうとしてるみきちゃんさん。
っていうかお母さん、若っ!
432 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:22
でも年を聞いたら、それなりのお年だった……。
けど童顔だな。プリティーフェイスとか言ってたのも納得。
いまさらだけど、みきちゃんさんの苗字が安倍っていう事を知った。


「こないだはお米ありがとうございました」

「いえいえ、美味しく食べてもらったらそれだけで嬉しいべさ」


ニコニコと笑顔を絶やさない安倍さんは、娘にひっついたまま嬉しそう。
ちょっと嫌がったフリをしながらも、無理には引っぺがそうとしないみきちゃんさん。
仲の良い親子だってすぐにわかった。

そんな二人を、梨華ちゃんがすごく懐かしむように見つめていた。
自分のママを思い出しているんだろうか……。
また、泣き出さないかあたしはそればっかりが気になって
梨華ちゃんをしばらく見つめてしまってた。


「吉澤さんは、梨華ちゃんの彼氏?」

「いやいや、よっちゃんさん女だから」

「カッコイイべ〜。うちの美貴ちゃんにもいい相手いないべか?」

「はぁ?ちょっとお母さん余計なこと言わないでよ!」
 
433 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:22
また始まった親子のじゃれあい。
無理して笑う梨華ちゃんの姿に、息苦しさを感じて
あたしは「そろそろ帰りますね」と告げた。

その瞬間に見間違いでもなんでもなく、梨華ちゃんはホッとした顔をした。


「何もおもてなしできなくて、ごめんね」

「お礼が言いたかっただけなので、気にしないでください」

「そうかい?梨華ちゃんのことよろしく頼むね」

「えっ?はい。任せてください」

「頼もしいべ。梨華ちゃんもう〜んと甘えるんだよ」

「うん……」


そっと梨華ちゃんの頭を撫でて、安倍さんは梨華ちゃんに問いかけた。


「圭織から連絡はないの?」

「……なにも、ないの」


ぐっと唇を噛みしめて、梨華ちゃんは涙を堪えながら答えた。
かおり?誰だろう、安倍さんは「そうかい……」と呟いて、それ以上は聞かなかった。
 
 
434 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:23
 
外に出ると空気がひんやりと凍り付いて、ありえないくらい寒かった。
梨華ちゃんの手を引き寄せて握りしめる。

手袋、忘れたフリだって気付いてるんだよ。
こうやって直に触れたいから。梨華ちゃんはわざと忘れたんだろうって。
でも、あたしもこうやってたいから。それでいいじゃんって思う。


「ひとみちゃん……」

「ん〜?」

「聞かないんだね」

「なにを?」

「圭織って……」

「あぁ」


話したくなった時でいいよ。
悲しい顔、見たくないんだ。あたしってばへタレじゃん?
聞く勇気とかないんだよね。
ぎゅっと手を握りなおすと、俯いていた顔をあげて
あたしを見上げた梨華ちゃん。
 
435 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:23
誰よりも可愛い、あたしだけの天使……
ねえ、その瞳に悲しみなんて必要ないと思うんだ。

ニッコリ微笑めば、戸惑いがちに笑い返してくれた。
少しづつ増やしていこう、二人の笑顔を。


「星座、教えてよ。何が見える?」

空を見上げたあたしと一緒に、梨華ちゃんも夜空を見上げる。
冬の凍てつく寒さに、透明度の高い空にはいくつもの星が輝いていた。


梨華ちゃんは指をすっと空にかざして、あたしを見た。

 
436 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:23
 
   ◆  ◆  ◆
 
437 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:24
「あれがオリオン座。冬の星座の代表格だよ」


ひとみちゃんは話を逸らしてくれた。
けど、お話してもいいんだよ。ただちょっと悲しいだけだから。
なんて強がっても、泣いちゃうんだろうな。
だから、ありがとうだね……。


「冬の大三角もあるんだよ。面積は小さいんだけど」

「へ〜、どれどれ?」

「んっとね……オリオン座のベテルギウス、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン」

「ほぼ正三角形だ」

「うん。冬は1等星が四季の中で一番多いの」

「1等星?」

「一番明るく輝く星」

「あぁ」

「星の色もいろいろあって……赤、黄、橙、白、青白いのとかもあるの。
 色が違って見えるのは温度の違いなんだって」
 
438 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:24
ママはよく夜空を見上げて教えてくれた。
星にまつわる神話の数々……けど、私はママと一緒にいられることが嬉しかった。
ただ一緒にいられるから、よくこうやって空を見上げていた。
何時間でも平気だったな、つまらないなんて感じたこと無かったもん。


「梨華ちゃん?」

「圭織ってね、私のママだよ」

「へっ?ママ……」

「天文学者なの。それに世界中を趣味で飛び回ってて……」

「どこにいるか……」

「全然、連絡くれないの。もう3年くらい逢ってないかな……」


ママは何も言わずに家を出て。
夢中になるとのめり込む人だから、仕方ないって言い聞かせたけど……。
これだけ長い時間、私を一人にすることは無かった。

短いようで長かった3年。
美貴ちゃんと真希ちゃんがいつも傍にいてくれた。
いまは、ひとみちゃんがいる……。
 
439 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:25
ママはいっつも私に言ってた。
「梨華はママの天使だから」
ぎゅーっと抱きしめてくれるママの腕の中は
私を癒してくれる空間だった。

過保護なくらいに甘い人だったから。
私はなんにも出来なくて。こうやってひとみちゃんと暮らしていなければ
自分には、ほんとになんの価値も無いように思えた。

居てくれるだけでいいと、ひとみちゃんが言ってくれた夜。
どれだけ救われただろう。
いまも何かを察したひとみちゃんが、ギューッと抱きしめてくれた。
いつだってこの腕の中は……


「あったかい」

「”寒い”だろ。はやく帰るよ?」

「うん……」

「梨華ちゃん帰ったら、あったかいココア淹れてよ」


優しく微笑むひとみちゃん。
いつだって私に居場所を用意してくれる。
ひとみちゃんの腕の中は、ドキドキする。
ドキドキして、すごく安心できる空間なの……。
440 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:25
 
ママ、この空は繋がっているんだよね?
小さいとき、お仕事で家を空けるときママはいっつも
そう教えてくれた。

世界中、どこにいても梨華のことを想っているから。
この空に輝く星を見つけて、感じてって。

「梨華は一人じゃないんだよ」

そう感じて欲しいと、ママはやさしく微笑んだよね。

ママ、いまこの空を見上げていますか?
ちゃんと私のこと……

 
441 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:25
 
 
 
442 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:25
「もう私のこといらないのかな……」

「梨華ちゃん、そんなことないって」

「あるよ……3年もほったらかしにして……
 ママ、一人でいるほうがいいんだよきっと」

「だめだよ、そんなこと言っちゃ。ママのこと信じられない?」

「信じたいよ、信じたいけど……」


ママは帰ってこない。
待っても待っても帰ってこなかった。
1年は我慢できた。けど2年目はもう待てないと想った。
そして美貴ちゃんの家を飛び出した3年目……
私は消えてなくなりたいと想った。

でもこうして、ひとみちゃんに出逢った。


「信じようよ、ね?」

「う……っく……」


ふえぇぇぇぇぇぇって泣いたら、よしよしと頭を撫でてくれた。
ひとみちゃんはまた、その腕の中に閉じ込めるように抱きしめてくれた。
 
443 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:26
頭ではわかってるんだよ?現実は甘くないって。
子供のときのように無邪気なままではいられないって。
きれいなだけの世界なんて存在しないこと、わかってる。
ママにだって、自分の人生があるんだって分かってるの。


「あたしがいるじゃん。一緒に待っててあげるから」

「ひとみちゃん……」

「ママが帰ってくるの待ってよう?」

「うん……」

「あたしに不満とかある?梨華ちゃんが不安に想うこととか……
 できるだけ、直したいんだ。だから梨華ちゃんも、もうすこし大人になろうね」


ひとみちゃんは「一緒に大人になろう」と言ってくれた。
少しづつ大人になれたら、ママ帰ってくるかな?


「なにか、あたしに言いたいことある?」

「ないよ、いっつもひとみちゃんは私のこと考えてくれてるもん。
 不満なんてあるって言ったらバチがあたっちゃう……あっ!」

「な、なに?」
444 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:26
「夜のひとみちゃんは、ちょっと怖い」

「なっ……」

「言葉でせめられるのは苦手。苦しくなるの。
 心の中がぎゅーって痛くなるの」

「……ごめん」

「ううん。触れてる手はあったかいから。
 ひとみちゃんは、やっぱりやさしいって分かるよ」

「そっか」


甘えるよう胸に頬を擦り付けて、もうすこしだけ泣いた。
せっかく淹れたココアは、もう冷めちゃったかな……。

 
445 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:26
 
   ◇  ◇  ◇
 
446 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:27
梨華ちゃん、たくさん愛されてるんだよ。
だって絶え間なく注がれた愛情があったからこそ、
キミはこんなに無垢で可愛らしく、輝やいているんだから。


いまはあたしがいるじゃん。
ママが帰ってくるまででもいいから、傍に居てほしい。

ううん、ちがうな。
ママが帰ってきても……傍に居てほしい。
あたしにはキミが必要なんだ。
好きだよ、大好きなんだ。


梨華ちゃんが寂しげに公園で佇んでたあの日。二人は出逢う運命だったんだ。
星空からの贈り物であるとさえ想った出逢いから、
あたしは梨華ちゃんのものなんだよ。


 
447 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:27
そっと唇を寄せると、きゅっと瞼を閉じた梨華ちゃん。
その可愛さに思わず笑みが零れる……。

ちゅっとかるくキスしたら、物足りなかったのか続けざまに
唇を押し付けてくる。
まだ不器用なキスを先導するように、舌を絡ませ
キツクキツク抱きしめる。

キスが終わると、くたっと全身を預けて甘えてくる。
その仕草の一つ一つが可愛くて仕方ない。




ピンポーン。
ふいに鳴った呼び鈴。
誰だろう、こんな時間に……。
 
448 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:27
 
 
 
 
449 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:28
「……ママ?」

「梨華、ごめんね……遅くなったけどプレゼント」

「ままぁ……!?」


扉を開けに行った梨華ちゃんの目の前に現れたのは、
星の欠片を届けにやってきた。
梨華ちゃんの大好きなママだった……

その腕の中で安心したように涙を流す梨華ちゃん。
あたしは自分のことのように嬉しくって、ちょっとだけヤキモチを妬いた。

 
450 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:28
やっぱり梨華ちゃんのことだけを考えて行動してたんだって。
3年もかかって、娘が小さい頃から欲しがっていた星を探してきた。
それは伝説の石。星の欠片と呼ばれる、小さな島にしかない綺麗な綺麗な……。

連絡できなかったのは、まだ電話もなく郵便手段もあまり発達していなかったから。
現地の人と仲良くなるのに2年も費やして、ようやく手に入れたんだって。
ほんとにぶっ飛んだママだなぁ。



圭織ママは、自分で書いたといういくつもの絵を見せながら、
どんな美しい島だったかを、物語風に教えてくれた。

その話を聞いてる間中、梨華ちゃんはまるで小さな子供のように
目を輝かせて夢中になって聞いていた。
悔しいけど、あたしにはそんな顔させてあげられない……。


けど、圭織ママはあたしに梨華のことを頼むと言ってくれた。
ずいぶんと大人になったように感じるって。
自分では梨華を大人にすることは出来ないからって……。


「だって梨華のこと……色んな意味で大人にしたでしょ?」

ニヤッと笑って言われて後ずさる……。
それを言われると、ちょっと耳とかお腹が痛いです。
 
451 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:28
「大切にするって誓ってくれるよね?」

「は、はい!」

「どもるとはアヤシイぞ〜、圭織が安心できるように
 誓いのキスでもしてもらおうかな?」

「はぁーーー?なななんでですか?ここでですか?」

「そっ、目の前でね。梨華は出来るよね?」


梨華ちゃんは、えへっなんてはにかんで頬染めながら
あたしに向かって頷いた。

オーケーってことですか?ママの前でちゅーとかするものですか?
ぐっとあたしに近づいてきた梨華ちゃんは、上目遣いで微笑み……。
『ひとみちゃん、だいすき』って囁いた。


ありえないくらいに早鐘をうつ心臓。
流れ落ちるちょっとイヤな汗……。
452 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:29
「はい、吉澤ひとみさんは……。私の可愛い可愛い愛娘の梨華を
 愛することを誓いますか?」

「はい」


よしっ今度はどもらず噛まずに言えたぞ。


「よろしい。梨華は?」

「誓います。ひとみちゃんだけの梨華だよ?」


首をちょこっと捻って上目遣い。
可愛い、可愛いよ……。
蕩けそうになってるあたしの背中を押すように、圭織ママの声が聞こえた。


「では、誓いのキスを。あっ、吉澤さんちゃんと愛の言葉を添えてお願いします」


ええええーーー?とか想ったけど
あまりに圭織ママの目が怖かったんで、素直に頷いた。
453 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:29
「梨華ちゃん、好きだよ」

「ひとみちゃん、だいすき……。ねえ、愛してる?」

「うん、愛してる」


ぎゅーっと閉じ込めるように抱きしめる。
あたしだけのキミであると確認するように……

想いのすべてをこめて、ゆっくりと口づけた。
甘い甘いキミのすべてから、もう離れられそうに無い――――――





 
454 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:29
 
 
455 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:30
 
星に願いを懸けるなら・・・

運命は思いがけなくやって来て
いつも必ず 夢を叶えてくれるのです

 
456 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:30
 
なんだか、いっぱい夢が叶っちゃった
なんて無邪気に笑う梨華ちゃんを、世界で一番愛しいと想った。
 
457 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:30
 
458 名前:星に願いを・・・3 投稿日:2005/12/28(水) 13:31
 
 おわり。
 
459 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/28(水) 14:19
あまいなー、いしよしはあまいのが一番
冒頭のバカなやりとりワロス
勘違いの仕方が萌え
460 名前:名無し 投稿日:2005/12/28(水) 18:12
あほすぎる梨華ちゃんかわいい
461 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/25(水) 01:03
>>459-460レスありがとうございます。

>>408-419の続きです。
462 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:03


 セプテンバー・イン・ザ・レイン

463 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:04

コンビニでバイトを始めてから、ひとみちゃんは雨が好きになった。

「雨の日はお客さんあんまり来ないからラクなんだよね〜」
「それ中澤さんの前で言っちゃダメだよ?きっと怒られるから」
「もう怒られた」

しょぼんと肩を落とすひとみちゃん。
目には見えない真っ白なしっぽがクタっとなって床を撫でている。

「また怒られちゃったんだ」
「ほらここ、たんこぶになってない?」

長くて綺麗な人差し指が指し示す先はその指の持ち主のつむじ。
中澤さんがまたゲンコツを落としたのだろう。
指とその先、つむじをまじまじと見つめた。
もちろんたんこぶの有無を確認するためではない。

「ひとみちゃん、生え際が黒くなってきたからそろそろ染めよっか」
「えーヤダヤダ。めんどくさい」
「でも染めなきゃプリンになっちゃうよ?みっともないって言われちゃうよ?」
「あたしみっともない?梨華ちゃんもそう思ってるの?」
「え…そ、そんなこと……」

思ってるけど。
464 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:06

「ううん、違うの。私はね、ひとみちゃんがみっともないなんて思ってないよ」

嘘。ホントは思ってます。
プリン状態の髪はものすごくみっともない。

「じゃあいいじゃん。梨華ちゃーん、大好き〜」
「ぁんっ…もう、ひとみちゃんどこ触ってるのよ〜」
「んへへ。どこってお尻?かなぁ」
「やぁん。ちょっと待って待って。まだ話が…」
「んふふ〜。梨華ちゃんの太ももすべすべ〜」
「あ、あぁんっ…って、ひとみちゃん!待て!!」
「わん!」

良い返事と同時に唇が重なる。
軽くキスをしてからひとみちゃんは私の瞳を覗き込んだ。
なんて無邪気な顔なんだろう。何も考えてなさそう、とも言う。

自分で待てなんて言っておきながら体はしっかり反応していた。
軽く落とされたキスに、勝手な私は不満がたっぷり。
そもそもこの体勢がいけないのよね。

「ん、ちょっと…」
「あーダメダメ!梨華ちゃんなに降りようとしてんのさ!!」
「や、なんか近くて話しにくいなぁって…」
「んなことないです!こうやってピッタリくっついてたほうが話しやすいんです!」
「そうかな」
「そうです!むしろ声がよく聞こえますから!」
「なんで"ですます調"なのよ…」
「顔がほら、チュッてすぐキスできる距離だから。表情もよく見えるでしょ?」
「ひとみちゃんさっきから私の胸から下しか見てないじゃない…」
「へ?何か言った?」
「うん、まあそれはいいの。でも重いでしょ?私、上にずっと乗ってて」
465 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:07

ベッドにもたれて足をデーンと伸ばして座るひとみちゃんの上に向かい合わせで座っている私。
両足を腰に巻きつけて、手ももちろんひとみちゃんの長い首に巻きついている。
さっきからずっとこの体勢。
ひとみちゃんがバイトから帰ってきてからだから…かれこれ1時間近いかも。
ピッタリするのは好きだけどさすがに心配になる。

「ぜーんぜん。だって梨華ちゃんチョー軽いもん。ほらほら」
「キャッ!ちょ、ちょっとひとみちゃん揺らさないで〜」
「ほらほら〜軽い軽ーい」
「やぁん」

ひとみちゃんが私の腰を掴んで前後に揺らす。
バランスを崩そうになって思わずしがみついた。
ひとみちゃんの体が揺れるたびに私も揺れて…その、あたっている部分がこすれて……。
これは、ちょっと、なんか、ヘンな気分、になる。

「ほら…はぁはぁ、梨華ちゃん、すごく…軽い、よ……」
「ひとみちゃん……もう、そんなに…あぁんっ揺らさない、で……」

調子に乗ったひとみちゃんは馬鹿みたいにさらに揺らすから自然と息が切れていた。
私は私でヘンな気分になっちゃって、ひとみちゃんとは違う意味で息が荒くなる。
466 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:07

「なんか…梨華ちゃん、えっちぃね…」
「はぁ…はぁ…あんっ……そんなこと…」
「揺らさないで、なんて言いながら…自分で動かしてるでしょ、腰」
「そんな、ことしてない…もんっ……んっんっはぁんっ」
「ほら、だんだん熱くなってきてるよ、ここ…」
「やぁんっ!!はぁ…んっ…ひとみちゃんダメぇ」
「もしかしてヌレヌレ?すっごく感じちゃってるんだ」
「だってぇ…ひとみちゃんが、そういうコトするんだもん…あぁんっ…いやぁん」
「いやじゃないくせに〜可愛いなぁ、梨華ちゃん」
「うぅ…もう!ひとみちゃんのばか…」
「はいはい。ちゃんとやろうね」

いつのまにか重さなっていた唇。
さっき不満を覚えた軽いものじゃなくて濃厚で激しくて苦しいキスを交わす。
キスの激しさとともに下半身に伸びてきたひとみちゃんの指の動きも早さを増す。
息苦しさと下半身の刺激から逃げるように体が仰け反った。
そんな私を逃がすまいとひとみちゃんはしっかりと私を抱き寄せる
侵入してくる指が激しい快感を連れてきて…。
頂点に達しそうになったとき、さらに体が仰け反ってひとみちゃんの首に必死に捕まった。

「んっ…はぁはぁ…んん、やっ…あぁぁぁぁーーーー」

柔らかい皮膚に爪が食い込むのを感じながら、ゆっくりと意識が遠のいていた。



467 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:08
 
 
 
 
468 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:08

気づくとベッドに寝かされていた。
目の前にまたつむじが見えた。生え際だけ黒くなった、みっともない髪。
その髪の持ち主、つまり私の恋人が私の胸を舐めまわしているのも見える。

「あぁん…ひとみちゃん何してるのよぅ……」
「ふぇ。あ、りひゃひゃん、おひた?」
「あんっ」

喋りながら器用に舌を動かして、乳首を転がすひとみちゃん。
どれくらい眠っていたのかはわからないけど朝ってことはないと思う。
でもカーテンが閉まっているから外の様子はわからない。
つけっぱなしの電気がよっすぃの白い肌を照らしていた。

「んん、ひとみちゃん…いまって朝?」
「んにゃ。まだ夜だよん。梨華ちゃんが寝てたのって10分くらいだもん」
「あ、そうなんだ」

そんなに短かったんだ。もっと長い時間眠りについていた気がする。
まだ頭はぼんやりとしていて意識が覚醒していない。
胸を優しく揉みながら、ひとみちゃんが私の顔を覗き込む。
469 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:09

「へへ〜。梨華ちゃんのおっぱいやらか〜い」
「もう…いたずらっ子なんだからぁ…」
「乳首は固いけどね。ビンビンしてる」
「ひとみちゃんのせいでしょう?」

徐々に意識がはっきりとしてきて、胸を弄られている刺激で下半身が熱くなる。
私の瞼や鼻の頭や唇、首筋に鎖骨、そして胸の谷間とキスを落とすひとみちゃん。
乳首を口に含み、ピチャピチャと音を立ててすごく美味しそう。

ねぇ、私のカラダ美味しい?
ひとみちゃんはずっと私のカラダを美味しく感じてくれる?
ずっとずっと飽きることなく私を食べてくれる?

声には出さずに髪に指を絡めて強くそう問いかけた。
ゆっくりと顔を上げたひとみちゃんは聞こえてるはずなんかないのにニッコリと笑って。

そして舌をお腹に這わせておへそのまわりをペロペロ舐めていた。
その姿がまるで帰る家のない野良犬のように見えて愛おしさがこみあげる。
470 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:10

「好きだよ、梨華ちゃん…」
「ん…私も……」
「梨華ちゃんが誰よりも大好きだよ…」
「ひとみちゃんが、一番………あ、プリン」

頭を抱き寄せようとして目に飛び込んできたプリン状態の髪。

「梨華ちゃんはあたしよりもプリンが好きなの…?」

野良犬が目を潤ませて唇を噛んでいる。
ああ、こういう顔すごく好き。
堪えきれないっていう顔。でも泣くまいと頑張ってる顔。
本人は気づいてないけどすごく、すごく色っぽい表情になる。

「違う違う。ひとみちゃんの髪のことだよー。やっぱり染めなきゃダメだね」
「なーんだ、そっちか。一瞬アセっちゃったよ」
「そういえば染めたほうがいいよって話してたのになんでこんなことになったのかしら…?」
「もういいじゃん。早く続きしよーよ」

と言いながら再び舌を出す野良犬はさっきまでの涙もどこへやら。
ニヤニヤしながら私のカラダ(しかも胸から下)を見下ろして舌なめずり。
プリンになった髪は野良犬っていうより雑種みたいで、なんだかもどかしくなる。
471 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:10

「ダメダメダメー!」
「ええぇ〜なんで〜」
「やっぱり髪をちゃんと染めなさい!」
「ヤダよぉ。梨華ちゃんはみっともないって思ってないんでしょ?さっきそう言ったよね?」
「う…そ、それは」
「……さっきのは嘘だったの?」

再び可哀想な野良犬モードに早変わり。
イヤらしく私の胸から下を見ていた目が突然うるうるするんだからずるいと思う。

「ち、違うの。あのね、私はホントにみっともないなんて思ってないよ」
「ホントに?」
「うん。ホントホント」

目を閉じてるときはね、と心の中で付け加える。

「でも私はそう思ってなくても他の人がみっともないって指差すかもしれないでしょ?」
「他のヤツなんていーよ、べつに」
「でもでもバイトでお客さんにコソコソ言われたりチラチラ見られたりしたら気になるでしょ?」
「う、うーん…それはたしかに、そうかも…」
「影で言われるならまだしもレジのときとかに『プッ』って噴き出されたりなんてしたら最悪でしょ?」
「うわぁ!それはヤダヤダ。あたし泣いちゃうかも!」
「でしょでしょ?だから笑われないうちに染めな」
「またカオリンとえりりんに慰めてもらわなきゃ、あたし怖くてレジに立てなくなっちゃうよ」

はい?今なんて言ったのかしら。このバカ犬は。
472 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:11

「レジに立てなくなったらバイトできないし、そしたら…うわー、ピアス買えないジャン」
「ちょっと、ひとみちゃん?」
「せっかく慣れてきてお釣りもたまにしか間違えないようになったのに」
「慰めてもらわなきゃ?ですって?」
「商品の陳列だって、自分の好きな順じゃダメなんだって習ったばかりなのに」
「今『また』って言ったわよね?」
「掃除するフリしながら立ち読みする技も覚えたのに」



「ひとの話を聞けーーーーーーーーーーー!!!!!」



「うぎゃあああああ」

耳を引っ張って、思いっきり叫んだらひとみちゃんがベッドから転がり落ちた。
床で頭を抱えて唸るバカ犬になんて問い質そうかと起き上がって考える。
ベッドの上で腕組みをしてひとみちゃんを見下ろした。

「り…が……ぢゃ、ん……ひど…い」

喉の奥から搾り出したようなか細い声。
眉間にしわを寄せて「なんだよもう〜」なんて不満も漏らしてる。
でも私をチラっと見て怒っていることを確認するとものすごい速さで正座をした。
473 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:12

「梨華ちゃんごめんなさい!」
「ねぇ、ひとみちゃん。私がなんで怒ったかわかってないでしょ?」
「うん!」

元気いっぱいのいいお返事はとっても場違いだってこともわかってない。

「りんりんコンビに慰めてもらったの?どんな風に?」
「りんりんコンビってなあに?」

もう!りんりんって言ったらバイトの人たちのことでしょ!
いつもひとみちゃんの口から出るあの2人よ!
私がたまにコンビニに行くと「500円の人が来た〜」とか失礼なことを言う2人のことよ!
さっさとどんな風に慰めてもらったか言えーーーーーー!!

「ああ、カオリンとえりりんね」
「そうそう。そのりんりんよ」
「りんりんって言い方なんか可愛いね〜」
「そんなことはどうでもいいの!!キイィィィィーーーー!!」
「わわ、梨華ちゃん落ち着いて」

カーっとなってベッドの上で両手を振り回したらバランスを崩した。
ひとみちゃんが慌てて支えようとするけどひと睨みしたら手を引っ込めた。
いつもの、ホントに呆れるくらいいつものパターンに我ながら飽き飽きする。
474 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:12

「えっと、その、慰めてもらったっつってもアレだよアレ、そんなたいしたことじゃ」
「アレってなによ」
「梨華ちゃん声ひくいよ〜こわいよ〜とくに目がこわいよ〜」
「………」
「いや、ホントたいしたことじゃなくて…」
「………」
「…頭ナデナデしてもらったり『元気だして』とか励ましてもらったりするだけです!」
「………」
「り、梨華ちゃん?」
「……はぁ〜」
「ごめんね。怒ってる?ものすごく怒ってる?ごめんなさい。すみません。許してください」
「べつに、怒ってなんか…」

ものすごく怒ってるけど、でもやり場がない。
だって真剣に謝るひとみちゃんをこれ以上怒ることなんてできない。

「ちょっと、ヤダなぁって思っただけだもん」

ちょっとどころじゃなくヤダ。
ひとみちゃんの頭をナデナデしていいのは私だけだもん。
どんなにプリンでみっともなくったって触れていいのは私だけなんだもん。
ひとみちゃんが気持ちよくなるようにナデナデできるのは私だけなんだもん。

それに励ますことだったら絶対に私が一番上手いはず。
ひとみちゃんを元気にできるのは私だけだって、思いたい。
落ち込んでるひとみちゃんを笑わせることができるのは私だけなんだから。
475 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:13

いじいじと裸の膝を指でつついてると髪にふわっと柔らかい感触。
顔を上げると優しく微笑むひとみちゃんが私の髪を撫でていた。

「うん、ごめん。あたしも梨華ちゃんが別の誰かにこうされてたらヤダなぁって思う」
「ひとみちゃん…」
「あたしの、だもんね。梨華ちゃんの髪に触っていいのはあたしだけだもんね」
「うん…」
「あたしの髪も梨華ちゃんのものだよ。だから他の人には触れさせないよ……これからは絶対」
「私の、なんだ…」

このプリン状態の髪は。

「ひとみちゃん…」
「それじゃ、あらためまして続きを…」
「染めて」
「へ?」
「髪、ちゃんと染めてね。私のなんだからいいでしょ?」

途端に泣き喚きながらヤダヤダと駄々をこねるひとみちゃん。
裸だからいろんなところが見え隠れしてるけどそんなのお構いなしで転げまわっている。
と思ったらドタバタが止んでいいことを思いついたとばかりにニヤっとした。
476 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:14

「あ!ダメだ、あたし今さっき誓ったばかりだもん。この髪は梨華ちゃんしか触らせないって」

マイッタマイッタ、なんて嬉しそうに言っちゃって。
全然参ってないじゃないない、もう!

「たとえ美容師さんと言えどもね、梨華ちゃんのものだから触らせるわけにはいかないよね。うんうん」
「それなら大丈夫。私が染めてア・ゲ・ル」

唖然とするひとみちゃんにバチっとウインクをして立ち上がった。
うん、そうだそうだ。最初から私がやればいいのよね。
なんで今まで思いつかなかったんだろう。
愛するひとみちゃんのことなんだから、私がやってあげなくちゃ。

ヨシと両手を握りしめて頷くと、なぜかひとみちゃんは青くなっていた。
いつまでもそんな格好してるから冷えちゃったのかな?
もうすっかり秋なんだから気をつけないと風邪ひいちゃうよ?

「ひとみちゃーん、風邪ひかないように服着ようね」
「はぁ…梨華ちゃんこそおっぱいブラブラさせてないでなんか着たほうがいいよ…」

そういえば!
やだっ、私ってば。ひとみちゃんのこと言えないじゃない。
二人してオソロイのパジャマに身を包み、いそいそとベッドに潜り込む。
477 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:14

「じゃあ、明日はバイト帰りにカラーリング剤を買ってきてね」
「ホントに梨華ちゃんが染めるの…?」
「もっちろん。この私にまっかせなさーい」
「激しく不安……」
「なあに?ひとみちゃん」
「な、なんでもないなんでもないよ。明日は雨らしいからバイト暇だろうなぁ」
「今もちょっと降ってるっぽいね」
「え?!そう?」
「うん。ほら、音、聴こえない?」

ベッドの中でぎゅっと抱き合ったまま耳をすませる。
ひとみちゃんの心音とともにしとしとと降る雨音が微かに聴こえてくる。

「ね」
「うん、ホントだ」

この雨がひとみちゃんのバイト中もずっと降っていればいいな。
中澤さんには悪いけど、お客さんがあんまり来なければいいって思う。
そうすればバイト中でもひとみちゃんがメールを返してくれるから。

「てことは、明日はバイト中でも梨華ちゃんにメールが返せるね」

中澤さんも大目に見てくれるし、と付け加えておでこにキスをしてくれた。
478 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:15

そんなに寒くもないのに身を寄せ合って雨の音をずっと聴いていた。
秋の夜長に降る静かな雨の音は一定のリズムで眠りを誘う。


明日もちゃんと降ってね。
絶対に降り続いてね。


私とひとみちゃんを繋げる雨がずっとずっと降り続けばいい。

ひとみちゃんがバイトを始めてから、私も雨が大好きになった。




479 名前:セプテンバー・イン・ザ・レイン 投稿日:2006/01/25(水) 01:15
 
 
 <了>
 
480 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/25(水) 10:27
更新お疲れ様です。
いや〜!今回も面白かった〜!
色んな顔を見せてくれる吉が大好きです。
アホに見せかけて実は賢いのか?w
481 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/25(水) 11:15
いいですね、甘エロばんじゃーいw
二人とも可愛くておばかで大好きです。
(おいらも雨だいすき)
482 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/13(月) 20:39
>>462-479の続き
483 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:40

ドント・レット・ミー・ダウン

484 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:40

秋もすっかり深くなってきて、コンビニには肉まんやおでんが並ぶようになった。
コンビニの制服も夏服から秋仕様に様変わりした。
近いとはいえ外から帰ってくるひとみちゃんの「ただいま」を言う顔は赤く染まっている。

「うわー。あたしめっちゃおでん臭くない?ねぇねぇ」
「うん、ちょっとあれだね。におう」
「だよねぇ。におうよね。もう、やんなっちゃうよ」

バイトから帰ってきてすぐお風呂に入るのが最近のひとみちゃんの習慣だ。
私の鼻に着ていたシャツを押し当てて、毎回、必ず同じことを聞く。
くんくんニオイを嗅がせると満足そうに服を脱ぎ捨てて寒そうに浴室へと向かう。

「ホントにイヤなのかな、あれ」

口調とは裏腹に、ひとみちゃんは毎日すごく楽しそう。
おでんの仕込みや肉まんを補充したり包んだりっていう(ひとみちゃんにとって)複雑な仕事が増えたのに。
コンビニの仕事にもようやく(ホントにやっと)慣れてきて仕事をすることの楽しさを学んだのかな。
485 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:41

脱ぎ捨てられた洋服を拾いながらひとみちゃんの後を追う。
もう一度、おでんくさい洋服を嗅いでみる。うー、おでんだ。
洗濯機の中に放り込んで浴室を覗くとひとみちゃんは必ず、絶対に、泡だらけ。

「よく洗い流さなきゃダメよ」
「ほほーい」

ひとみちゃんはいつも、シャンプーをこれでもかと使って泡立てていろんな髪型を試すのに夢中。
私の声なんて耳に入っているのかどうか怪しいものだ。
だって、今だって頭の上でソフトクリームを作って(ソフトクリームだと思いたい)鏡を覗き込んでいる。

はぁ〜。なんか上機嫌なのはいいんだけど。けど…。

「りっかちゃーん!一緒に入ろうよ〜」
「ヤダ。また私の髪で遊ぶつもりなんでしょ」
「うん!水死体ごっこやろうよ」
「絶対イヤ」

はぁ〜。なんだかなぁ。
ひとみちゃん、ここのところなんだかとっても楽しそうにバイトに行く。
楽しそうなのはもちろんいいことだし、私も嬉しいんだけど…。

でも、なんでだろう。
楽しそうなひとみちゃんを見ていると、胸が少しだけ苦しくなるのは。
486 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:41

「りかちゃーん!でたよー!」
「はいはい、いま行くから。濡れたままそのへん歩くのはやめてね」
「はやくはやくー」

すっぽんぽんで待ち構えるひとみちゃんをバスタオルで包んであげる。
水滴を拭き取って、目が合うたびにキスをする。
唇はほんのりと温かくて気持ちがいい。
お風呂あがりでホカホカ顔のひとみちゃんを抱きしめる幸せ。

抱きしめて、抱きしめられておでんのにおいが消えたその体を堪能する。
たまに気持ちが昂ぶったときはそのまま始めてしまう。
ひとみちゃんの肌にいくつも唇を落として、私の痕をつける。私のものっていうシルシを。

私に負けず劣らず感じやすい(と思う)ひとみちゃんは背中が弱点だ。
唇で愛撫してあげると可愛い声を漏らす。
私にだけ聴かせてくれるそれは普段のおバカさんぷりからは想像できないほど艶のある声。

私だけだよね?
私だからこんな声をあげるんだよね?

私にしか見せない顔
私だけが知っている声
私だけが感じさせることができるこの体。

ずっと私だけのものでいて。私だけのひとみちゃんで。
487 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:42

確かめるように一心不乱に舐め続ける。
ひとみちゃんみたいに緩急をつけるような器用なことはできない。
ホントはそうしたほうがもっともっと感じてもらえるのかもしれないけど、余裕ないんだもん。
こんなときに不器用な自分が悔しいな。

「んっ…り…か……もう…」
「ひとみちゃん気持ちいい?」
「うん…すごく……あぁっりかちゃっ…んっ…あぁぁぁぁ」

浴室で果てるからひとみちゃんの声はいつもすごく響く。
快感の余韻に浸るその顔が赤いのは、照れくささもたぶんあるよね。
私より大きな体を無防備に震わせてとろんとした目を見せるから堪らない。
何度も何度もキスをして、何度も何度もひとみちゃんの声を聴きたくなる。


「ひとみちゃん大好き…すごく好きなの…ひとみちゃん……」

488 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:43

いつのまにか浴槽に沈んでいることが多いバスタオル。
本来の役目を果たせずに頼りなげに底を泳ぐ。
私の服もバスタオルほどではないけれど水分を吸ってどうしようもない状態で。
脱ぐのに苦労しているといつもよっすぃはイタズラをしながら手伝ってくれる。

脇をくすぐったり胸を触ったりしながらボタンを外すのに苦心して。
袖口をむりやり引っ張って伸ばそうとするからやめてやめてと止めにかかる。
まだ脱いでいる途中なのにシャワーを出して顔にかけて遊ぶから私はもう!と怒ったフリ。
そんなことをしつつ突入する私のバスタイム。
ひとみちゃんにとっては、二度目の楽しいバスタイム。

ゆっくりお湯につかって体の芯まで温まって再びバスタオルにご登場願う。
お互いの体を拭きあって、やっぱりキスもしちゃって、なんて幸せなんだろう。

でも犬みたいに頭を振りまわすのは水滴が飛ぶからやめてよね、ひとみちゃん。
489 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:43

◇ ◇ ◇

490 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:44

「今日はね〜中澤さんが仕入れを忘れててあたしが教えてあげたんだ」
「すごいね、ひとみちゃん」
「えりりんが試験近いっていうからシフト代わってあげたし」
「偉いねぇ」
「カオリンには袋詰めが早くなったって誉められたよ〜」
「すごいすごい。ひとみちゃんすっかり一人前だね」
「うん!えへへ。あたしすんげー成長したっしょ!」

中澤さんから聞く限りひとみちゃんの成長ぶりはホントのところとてつもなく遅かったらしい。
言われなくてもわかるっていうか、そんなのは予想どおりのこと。
あまりにも使いものにならなくてクビにしようとしたことも何度かあったらしい。
でもここまで使ってくれてたなんて、中澤さんってけっこう辛抱強いのかな。

普通の人の10倍くらいの期間を経てようやく、ひとみちゃんはバイトらしくなった。
それも普通の、可もなく不可もなくそこそこのレベルのバイト。
スタートがスタートだったから相当の伸びしろに見えるのが得だと思う。

「最近カオリンによく誉められるんだよね〜。えりりんも尊敬の眼差し?みたいなのしてるときあるし」
「ふーん」

それは目の錯覚じゃないかな?えりりんが聞いたらどう思うんだろう。
心で思っていることをそのまま口にするほど私はコドモじゃない。

カオリン『さん』(年上らしいので)はどうやらひとみちゃんを溺愛…愛なんて使いたくない。
えっと、溺愛じゃなくて…そうそう、甘やかしてるフシがある。
491 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:44

「ひとみちゃんとっても楽しそう」
「うん!楽しいよ。バイトって楽しいんだね」
「よかったね」

おバカさんで世間知らずで何もできなかったひとみちゃんはもういない。
私がいなきゃ生きていけないような、ひとみちゃんはもういなくなってしまった。
それはきっと喜ばしいことなんだけど心から「よかった」と思えないのはなぜだろう。

「あたしってけっこうやればできる?のかなって」
「うんうん」
「自信、じゃないけどなんかね、思った。最近やる気マンマンなんだ」
「ホント成長したんだね、ひとみちゃん」

お風呂から上がればすっぽんぽんでそこらじゅうを歩き回って床を濡らすけど。
喋るのに夢中になると箸を持つ手がおろそかになっておかずをこぼすけど。
朝には相変わらず弱くてボタンのあるシャツを着るのに恐ろしいほど時間をかけるけど。

「成長しちゃったんだぁ…」

もうひとみちゃんは、少し前のひとみちゃんではない。
私がいなければ生きていけない子ではなくなってしまった。
自分で働いて、働く喜びを知って、自覚している。
やればできるということを。
身を持って学習したそれはひとみちゃんの生きる糧になるんだろう。

すごくいいことだ。誰に聞いたって、すごいねとよかったねと褒めてくれるだろう。
492 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:45

「梨華ちゃん?」


なのにどうして。
私はどうしてこんなに悲しいんだろう。寂しいんだろう。
ひとみちゃんが喜んでいるのにどうして一緒に心から喜んであげられないのかな。


「梨華ちゃん?ご飯粒ついてるよ。ほら」

ひとみちゃんの指が伸びてきて私の唇を掠めた。
白くて小さな粒がついた指先に見とれてると、白いそれはひとみちゃんの口の中へと消えた。

「まったく、梨華ちゃんもけっこうたまにコドモだよね」


ひとみちゃんが笑う。
その笑顔はどこか今までとは違う大人の笑み。
私の知らないひとみちゃんが笑っていた。


「そんなのひとみちゃんに言われたくない」


思いのほか低い声だった。自分にしては、だけど。
ひとみちゃんの低くて静かな声とは全然違う。嫌な声。
493 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:46

「ひとみちゃんのがよっぽど子供じゃない」
「どしたの突然」
「私より全然子供で、何もできなくて、真っ暗な部屋じゃ寝れないくせに」
「梨華ちゃん?」
「暑いからってアイスばっかり食べてお腹壊したり、寒いからってホッカイロ体中に貼ってヤケドしたり」
「ちょっと、梨華ちゃん」
「すぐに道に迷うくせに人には聞けない小心者で、泣きながら電話してきても自分のいる場所を説明できなくて」
「り、梨華ちゃん?落ち着いて」
「ボーっとしてるからしょっちゅう転んだり階段から落ちたり…注意力なんてこれっぽっちもないくせに」
「さっきからどうし」
「そんなひとみちゃんがちゃんとバイトなんてできるわけない」
「………」
「できるわけないじゃない!そんなのひとみちゃんじゃない!!」

何を言ってるんだろう。自分は何を。
こんな意地悪な口調をよりによってひとみちゃんに向けて。
小心者なところも注意力散漫なところも、ご飯粒を取ってくれる優しいところも、本当はどれも等しく愛しいのに。
どうして私はひとみちゃんにこんなことを言ってるの?

「怒るよ」

ひとみちゃんの、私よりも数段低い声に体がビクっと反応した。
怖くて、それ以上に自分が情けなくてひとみちゃんの顔が見れなかった。
494 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:46

「梨華ちゃんどうしたの?」
「………」
「なんか言いなよ」
「………」

違うの
そうじゃないの
本当はそんなこと思ってないの
嫌なこと言ってごめんね

声を出したら泣いてしまう。
口にしたい言葉は愛する人には届かない。
涙をこらえるのと一緒に、言葉も飲み込んでしまったから。

「梨華ちゃん…」
「あ、あのね…」

ひとみちゃんが遠くに行っちゃったみたいで怖かったの。

「あたしは梨華ちゃんがいなくったって、平気だよ」

伝えたかった大切な言葉はひとみちゃんからの一言で無残に砕け散る。
495 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:47

「平気だよ。あたしは一人でも、もう。やっていける」
「そう………」


ひとみちゃんは平気なんだ。
もう一人でもやっていけるんだ。
私はもう…必要じゃないんだ。


それきりひとみちゃんは私に背中を向けて、膝を抱え丸くなっていた。


496 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:47

気づくと私は外に出ていて、自分のブーツの先を見つめていた。
不思議と寒くはなく、でも吐く息の白さから秋の深まりをまた感じた。
夜空を見上げても星はなく、雲に覆われたお月様も今夜はどこにいるのか分からない。


丸まった背中を思い出して、首を振る。
コンビニの灯りが目に入り思わず逸らした。


そして私は逃げるように走り出した。
コンビニから、ひとみちゃんから遠ざかり、無我夢中で。



夜の街を、何かから逃げるように走り出した。

497 名前:ドント・レット・ミー・ダウン 投稿日:2006/03/13(月) 20:48

<ドント・レット・ミー・ダウン 了>

498 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/13(月) 20:48

499 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/13(月) 20:48

500 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/13(月) 21:03
うわ・・・って言うのが今の気持ちです。
次回が楽しみでもあり怖くもあり・・・
でもやっぱり楽しみに待ってます!
ただ今回はまったりとはお待ち出来ないかと・・・w
501 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/13(月) 21:55
ここの梨華ちゃんが語るよっすぃが恐ろしいほど可愛くて
仕方がないのですがw

く、苦しいので
早く続きをお願いしますw
502 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/13(月) 21:58
りかじゃん……
503 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/13(月) 23:06
あの、は、はやく続きを…(´口`;)
正直、寝れません
504 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/20(月) 15:31
の方と同じく、、、。

待ってます。
505 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/26(日) 00:00
>>483-497の続き
506 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:00
 
イッツ・オンリー・ラブ
 
507 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:01

「あの掃除機のコード…なんだか嫌な予感がする…」


ひとみちゃんのところを飛び出してからどれくらい経っただろう。
哀しくて寂しくてどうしようもできなくて、私は涙に暮れる毎日を送っていた。
自分から飛び出しておきながらバカな話だけど。

「危ない!あぁ…もぅひとみちゃんってば、やっぱりコードに引っかかっちゃった」

戻って素直に謝ればいい。
そんなのは自分でも分かっている。
でも、ごめんねを言ってそれで全てがうまくいくのかな?

「大丈夫かしら…?あんなに思いっきり頭を打って。もともとバカな頭が余計…」

だって、私はもう…ひとみちゃんに必要とされていないんだから。
私の役目はもう終わって、ひとみちゃんはすっかり一人でもやっていける。
私なんかいなくったって、ひとみちゃんは平気なんだもん…。
508 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:02

「ちょっと!カオリンさんってば勝手にひとみちゃんの頭をナデナデしないでよ!!」

ハンカチを取り出して目許を拭おうとしたらありえない光景が目に入った。
いくらひとみちゃんが派手に転んだからってお客さんそっちのけで助けに行く?
カオリンさんってまさかひとみちゃんを狙っているんじゃ…。
だってあの目つきといい手つきといい腰つきといい怪しすぎるもん。
お客さんも見とれちゃうほど二人の世界を作ってるし!

「ひとみちゃんのバカ…来なきゃよかった…あんなの…見たくなかった」

ひとみちゃんのもとを走り去った翌日。
どうしても気になって早速戻って来てしまった私。
コンビニ前の地味な喫茶店で毎日、ひとみちゃんの働きぶりを観察している。

コンビニの制服に身を包んだひとみちゃんは見た目はいつものひとみちゃん。
家から慌てて飛び出してくる姿も、お昼のあとの眠そうな顔も何も変わってない。
中澤さんに怒られて肩を落とす後姿も、えりりんと楽しそうに談笑してる笑顔も何もかも。

私が見てきたひとみちゃん。
私といつも一緒にいたひとみちゃんが、そこにはいた。
509 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:03

「あぁ…お客さんが苦笑してる…またお釣り間違えたのかしら…?」

頭を下げるひとみちゃんの顔は真剣そのもの。
お客さんがこぼしたおでんの残骸を掃除するひとみちゃんはすごくきびきびしている。
そういう姿を見るとやっぱり成長したんだなぁ、と実感させられる。

寂しいが半分。
悔しいがもう半分。
かっこいい、ともちょっと思う。

何やってるんだろう、私。
こんなに近くいるのにバカみたい。
ひとみちゃんに会いたくて会いたくて仕方ないのに。
ホント、バカみたい。
510 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:03

「そろそろ終わる頃ね…」

ひとみちゃんが制服を脱ぎながら奥へと消えていく。

「歩きながらなんて、だらしないよ」

私の声はひとみちゃんには届かない。
遠い後姿に向かってそれでも声をかける。届くはずなんて、ないのに。

「お客さんに見られちゃうよ。ちゃんと奥で脱がなきゃダメじゃない…」

するとひとみちゃんの足が止まった。
ゆっくりとこちらを振り返ってこちらを見たような気がした。
もしかして気づかれた?体に緊張が走る。わずかな期待。
でも現実は無情で、私以外に笑顔を向けるその顔になんの罪もない。

「ひとみちゃんのバカ…」

優しいまなざしは私ではなくえりりんやカオリンさんへのものだった。




バカは、私だ。



511 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:03
 
 
512 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:04

バイトを終えたひとみちゃんが家に入るのを見届けてから喫茶店を出た。
ミルクティー1杯で何時間も粘る私はどう思われてるだろう。
申し訳ないな、と思いつつ毎日来てしまうのだけれど。

仮宿のホテルに帰る道すがら、いくつものコンビニを通り過ぎる。
どこにでも現れるこのお店は名前のとおり便利なんだろうけど、今の私にはひどく不便だ。
だって、どうしてもひとみちゃんを思い出すから。
思い出しても胸を痛めるだけだからコンビニなんて見たくない。
ひとみちゃんとの思い出がいっぱい詰まったコンビニなんて。


『梨華ちゃん、モミティーでいい?』
『うん?』
『好きでしょ?駅向こうのコンビニにしかないからちょっと時間かかるけど行ってくるね!』
『えっ…好きだけど…あっ!ひとみちゃん、ちょっと待って…』
『いいの!梨華ちゃんのためなら全然平気だから!』


夜中になぜか二人してパッチリと目が覚めたときのことだったかな。
喉が渇いた、なんてポツリと漏らしたらひとみちゃんは止めるのも聞かずにすぐに家を飛び出して行った。
駅向こうに行く道がちょうど工事中で通行止めだったから随分と遠まわりしたんだろうな。

だから息を切らしながら帰ってきたひとみちゃんに「冷蔵庫にストックがあったのに」なんて言えなかった。
だってすごく嬉しかったから。泣きそうなほど嬉しかったんだよ。
513 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:04

重いドアを押して夜だというのに昼間のように明るい店内に足を踏み入れる。
いらっしゃいませの後についてくる挨拶も明るい。
ひとみちゃんの大好きなコンビニ。
大抵のものが揃っていて、いつでも明るくて行きたいときにそこにある。
誰もいないお菓子売り場に新製品に目を輝かせるひとみちゃんの姿が見えたような気がした。

「いるはずなんて、ないのにね…」

私がいなくてもひとみちゃんは変わらずにバイトを続け、コンビニに行っている。
まるで私がいたことなんて嘘のように日常を過ごしている。
私もそろそろ違う日常を見つけないといけないのかな。
こうしてコンビニを訪れてもひとみちゃんを想って胸が痛まない日常を。

来てほしくない。そんな日常なんて。
でも見つけなきゃいけない。ひとみちゃんを忘れるためには。
514 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:05

こんなふうに明日こそは絶対に、と決意をしつつもまた来てしまう。
ひとみちゃんの働くコンビニへ。
ちょっと見てすぐに帰ろうと思っても気づけば時間はあっけないほど進んでいる。
結局またひとみちゃんの働く姿を眺めながら冷めたミルクティーを飲むことしかできずにいる。

ひとみちゃんはあんなに立派に働いている。
私のことなんて、きっと思い出してもいないんだろう。
楽しそうに、そして一生懸命に働いている。
シフトが変わったのかバイトに入る日数も増えているみたい。
よほど充実してるんだろうな。だからあんなに働いてるんだろうな。

「もう…やだよぅ」

ついこの前まで自分も出入りしていた家のドアが今はあんなに遠く感じる。
すぐ傍で見ていても、私には決して手が届かない。
家の中に消えていく後姿を今日も見送って、そして私は別のコンビニに向かう。
一日中コンビニを見ていて一日の終わりにもコンビニに寄るなんて。
まるで私のほうがコンビニ好きみたい。
そんな他愛のないことを考えては一人でクスリと笑って、それから空しい気持ちになる。

それでも私は向かう。ひとり寂しく、駅向こうのコンビニに。
ひとみちゃんが息を切らしながら買ってきてくれたカモミールティーを買うために。
515 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:05

「梨華ちゃんってバカだよね」
「うん、バカだと思う」
「あたしのことバカバカ言ってたけどさ、梨華ちゃんのがバカじゃん」
「ホント、そうだよね…ごめんねひと」

って、ええ?!ちょ、ちょっと待って!

「ちゃんと言えるじゃん『ごめんね』って」
「ひ…とみ…ちゃん?」
「なに?たかが3日会わないうちに忘れちゃったの?あたしの顔。やっぱり梨華ちゃんバカだよ」
「え?3日?…3日、しか経ってないの?」

目の前に、なぜかひとみちゃんがいた。
一瞬、夢かと疑った。そして自分の目と頭を疑った。
ああ、私ついに壊れちゃったんだ。どうしよう、困ったななんて。
でも手の中からひょいっとモミティーを奪われて、その喪失感から現実を悟った。

ひとみちゃんが、ここにいる。
516 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:06

「日にちも数えられないくらいバカになっちゃったの?梨華ちゃん」
「え…や…ちが、違う違う。そうじゃなくて…」

だって、私の中ではひとみちゃんと会ってない時間がとっても長く感じられたんだもん。
たかが3日なんて言わないで。私には300年くらいに思えるほど長かったんだから。

「ほら、出るよ」
「う、うん。待って」

ふいに手を引っ張られてドキっとした。
ぶっきらぼうに握られたけどとても嬉しかった。
温かくて懐かしい、ひとみちゃんの手だと思った。

「ね、ねぇ。なんでここにいるの?バイト終わって家に帰ったんじゃなかったの?」
「偶然」
「え?」
「なんかムショーにモミティー飲みたくなって…来たら、梨華ちゃんがいた」
「……そう、なんだ」
「なんで帰ってこないの?」

コンビニの外のベンチに腰掛けて吐き出すようにひとみちゃんは言った。
517 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:06

「もうあたしのこと好きじゃない?」
「そんなことない!」

よかった。
泣き出す前に即答できた。

ひとみちゃんの横に座って、自分の両手を固く握り締める。

「ひとみちゃんがどんどん成長していっちゃって…怖かった」
「怖い?なんで?」
「私の傍から離れていくような、遠くに行っちゃうような気がして…」
「そんな…そんなわけないじゃん!」
「もう私なんて必要とされてないのかなって…」
「梨華ちゃん…」
「わ、私がいなくても…平気、なんでしょ?」
「あれは…違うよ。ごめん。だってその前に梨華ちゃんがおかしなこと言うから、つい…」
「ううん。私が悪かったの。自分でもバカだと思う」
「あんなことホントは思ってないよ…あたしには梨華ちゃんが必要なんだから」
「ホント…?」
「あたしもバカだけど梨華ちゃんも相当バカだったんだね」

モミティーのキャップを開けてひとみちゃんが口に含んだ。
途端に顔をしかめて咳き込む。

「だ、大丈夫?ひとみちゃん」
「ごほっごほっうへぇまじぃ」
「そういえば…ひとみちゃんってカモミール苦手じゃなかった?」
「モミティーだってこと忘れてた。手に持ってたから思わず飲んじゃった」

もう。相変わらずおバカさんなんだから。
518 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:07

「あれ?でもどうして買いに来たの?わざわざこんな駅向こうまで」
「………」
「ねぇ、ひとみちゃん?」
「寂しかったから。梨華ちゃんいなくて…すごく寂しかったんだもん……」
「ホント?」

ひとみちゃんも私と同じように寂しいと感じていたの?
離れている私のことを想って苦手なモミティーなんて買いにここまで来ちゃったの?

「寂しかったよ〜うわぁぁぁ〜ん」

私の腰に抱きついて、膝に顔を押しつけてひとみちゃんは泣き出した。
溢れてくる涙を止められなかったのはこのおバカさんだけじゃなく。

「ひとみちゃん…私も、私も寂しかったの…えーんえーん」

もう一人のおバカさん…私もみっともなく泣いていた。
固く握っていた手を解いて、顔に押し当てて子供のように泣いた。

「バカバカバカ。梨華ちゃんのバカ」
「えーん。バカバカバカ。私のバカ。ひとみちゃんのバカ」
「ひっぐ、ひっぐ、あた、あたしより、りがぢゃんのがばがだもん」
「だってひとみちゃん、私がいなくても平気でバイトしてたじゃない」
「ふぇ?」

私のスカートで涙を拭いてひとみちゃんが顔を上げた。
絶対、鼻水もこすりつけたよね。お気に入りのスカートなのに…。
手の甲で涙を拭いたら目の端がヒリヒリした。
519 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:07

「忘れちゃったの?梨華ちゃん」
「なにを?」
「あたしがなんでバイトしてるか」

なんで、バイトしてるか…?

「な、なんだっけ」
「うわっ!ひでぇ!!オソロイのピアスを買うためじゃーん!」
「あっ…」

うっかり、今の今まですっかり忘れていた。
こんな大事なことをどうして忘れていたんだろう。
ひとみちゃん、バイト、コンビニっていうキーワードは揃っていたのに。

私は肝心なことが目に入っていなかったんだ。
自分の勝手な感情で頭がいっぱいになって。
もうホント、呆れるほどバカでイヤになっちゃう。
520 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:08

「あたし、頑張って働いてピアス…じゃなくて、ペ、ペアリング買おうと思って…」
「うそっ?!」
「そ、それで、梨華ちゃんを、む、迎えに…ゴニョゴニョ」
「え?なになに?聞こえないよ!ひとみちゃん!」
「だから、り、梨華ちゃんを、む、む、む、迎えに…うあぁ!恥ずかしい!!」
「ちょっと!!ちゃんと言いなさいよー!」
「ヤダヤダ。やっぱ無理。ごめん梨華ちゃんサヨナラ」
「こらぁー!ひとみちゃん!!」

脱兎の如く逃げだすひとみちゃんを追いかける。
本当はしっかり聞こえてたけど、でもちゃんと言わせたいもん!

不安になんてもうならないから。
大好きなひとみちゃんを信じるって誓う。

だから、ねぇお願い。
もう一回だけ聞かせて?


521 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:09


「ひとみちゃん待ってよ〜」
「やだよ〜」
「ペアリングを買ってどうする気だったの〜?」
「しらないしらない。しらないもん」
「もう〜!」


泣いたり笑ったりむせたり思い出したり。
そして必要と言ったり言ってもらえたり。
いろんな気持ちの傍にはまたコンビニがあった。


「ひとみちゃんちょっと待ちなさい!ホントに待ちなさい!!」
「梨華ちゃんマジ怖いから…ごめん、やっぱ無理!!」
「こらぁーー!!」


そして夜中に追いかけっこをしているおバカな私たち。
ワーワーキャーキャー叫びながら、ご近所迷惑なんて省みず。

そんな二人をやっぱり、コンビニだけがずっと見ていた。



522 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:10
 
 
523 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:10
 
 
524 名前:イッツ・オンリー・ラブ 投稿日:2006/03/26(日) 00:10
 
<イッツ・オンリー・ラブ 了>
 
525 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/26(日) 00:58
爽快な阿呆たちですね!!
素敵ないしよしありがとうございました。ニヤけちゃいました。
526 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/26(日) 01:06
ああああああああ

途中梨華ちゃんの気持ちがせつなすぎて
涙が止まりませんでした・・・・

(ネタバレ規制)
ううっっ!!コンビニいしよしに幸あれっっ!!!
527 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/22(月) 22:14

>>506-524の続き
528 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:15

トゥ・オブ・アス

529 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:15

微かに甘い香りがした。
鼻腔をくすぐるお菓子のような甘い甘い香り。
手を伸ばしたらふわふわした柔らかい感触がした。
なんだろう、これ。とっても気持ちがいい。

「………か…ん」

わたあめみたいにふわふわ。
この気持ちよさをもっと味わいたくて両手でふにふにと遊ぶ。

「んっ…ちょ…り……あ…」

やわらか〜い。
それにとってもあったかい。

ふにふに。わさわさ。むにゅむにゅ。

「あんっ…り…か…」

遠くから、あるいはもっと近いのかもしれない。聞き慣れた声がする。
そんなに高くはないけど少し上ずった艶のある甘い声。
香りと音の甘さに酔いしれているうちに次第に意識が遠のいていく。
530 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:16

「…り…ちゃ…」

けど、さっきより少し大きくなったその声が私を連れ戻そうとする。
体が揺れて頭が揺れて、意識が揺れて…

「…かちゃん!!りかちゃんってば!!!」

もう、うるさいなぁ。

「起きろーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「…るさぁ」
「ふぅ…やっと起きたか。って、また寝るなーー!!」
「もぅ…うるさいよ、ひとみちゃん」
「梨華ちゃん、いい加減早く起きないと」
「もぅ〜いい夢みてたのにぃ。気持ちよかったのにぃ」
「寝ながらあたしの胸もんじゃってさ、気持ちよかったのはこっちだよ。って違う!」
「………」
「あぁ、また寝ちゃう。ダメだよ梨華ちゃん、起きて」
「ん〜なんで〜?」
「なんでってバイトだよっ」
「あ………」

そうだった。
バイト、コンビニのバイトだ。
531 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:17

「早く支度しないとまた中澤さんにドア蹴られちゃうよ」
「ひぃっ!!」
「怖かったよね、あれ……。ほらほら、だから起きて起きて」
「わ、わかった。起きたから。ひとみちゃんも早く着替えて」
「ほーい。中澤さん、今日は機嫌悪くなきゃいいけど」
「………そ、そうだね」

そんなことを言いながらひとみちゃんはパジャマを脱ぎだした。
起き抜けの頭から指への指令はスムーズには伝わらないみたい。
ボタンに悪戦苦闘して、泣きそうになりながらこちらを見る。

「りがぢゃーん」
「はいはい。ちょっと待ってね」

私だって起きたばかりなんだから。
ひとみちゃんの前に立ってパジャマのボタンを上から外す。
されるがままでやることのないひとみちゃんがおでこにキスをしてくる。

「ちょっと!ボタンが見えないよ。ひとみちゃん、邪魔」
「がーん」

ショックを受けてるその顔にちゅっとキスをして朝の挨拶完了。
532 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:17

「あとは自分でやってね」

ぽかんとした表情がみるみるうちに崩れて溶けそうになる。
満面の笑みを浮かべたひとみちゃんは大きな声で宣言した。

「梨華ちゃんありがと。今日も一緒にバイトがんばろー!」

パジャマのズボンは膝まで下がり、中途半端に変な格好で。

ひとみちゃんにはやっぱりボタンのないシャツで寝てもらおう。
心の中で決意してからようやく私も着替え始めた。

バイトに行くために。

そう、ひとみちゃんと同じコンビニへ。
中澤店長やカオリンやえりりんがいるあの。


533 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:17



家出騒動の後、私はひとみちゃんと同じコンビニでバイトを始めたのだ。



534 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:18

「きょっうもぅ〜♪りっかちゃんといっしょ!いっしょ!のバイト〜バイバイト〜♪」
「なあにそれ?」
「梨華ちゃんと一緒のバイトの歌。作詞作曲メインボーカル吉澤ひとみ」
「あ、そう…」
「なう!おんせーる!!」
「う、売れるといいね…」

ビシっとキメポーズを作って満足そうだけど足もとでパジャマが絡んでるのがマヌケすぎる…。

「ひとみちゃん楽しそうだね」
「楽しいよ〜。楽しいしめっちゃ嬉しい。だって梨華ちゃんとバイトが一緒なんだもん!」

そう言われて悪い気はしない。
ううん、悪いどころかむしろ嬉しい。
私だってひとみちゃんと一緒にいられる時間が増えて嬉しいもの。

「梨華ちゃんは?梨華ちゃんも楽しいよね?嬉しいよね?やったー!!」
「あの、まだ何も言ってな…」
「今日も梨華ちゃんとずっと一緒だと思うとバイトに行きたくて仕方ないよ〜」
「そ、そう…」
「あー!!楽しくて叫びたくなっちゃうよ。やっほー!!」
「ひ、ひとみちゃん落ち着いて」

やっほー!!はわかったから、早く支度しないとホントに中澤さんがまた来ちゃう。
今度はドアを蹴破ってくるかもしれない…。
ぶるぶるっと身震いしてからひとみちゃんの足に絡んだパジャマを取った。
535 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:19

「今日はどうしようかな〜。簡単なことじゃないと梨華ちゃん物覚え悪いからなぁ」

むかっ!ちょっと、それは聞き捨てならない!!
よりによってひとみちゃんにだけは言われたくなかった。
ムカついたからパジャマを投げつけて洗面所に行った。

後ろからまた「りがぢゃーん」なんて声がしたけど無視無視。
自分の着る服くらい自分で選んでよね、ひとみちゃん。

「ふぅ…バイトかぁ」

顔を洗ってふと鏡の中の自分を見つめた。
あ、なんか前より黒くなった気がする…なんで?
慣れないバイトで疲れてるから、なのかな。
顔色がなんだかいつもより悪く(黒く)見えるのは。

コンビニでのバイトは私が思っていたよりもずっとハードなものだった。
今までひとみちゃんを気軽に送り出していたときからは想像もつかないほど。
長時間の立ち仕事で体力は消耗するし接客ではひどく気疲れをする。

ひとみちゃんがこんなに大変な仕事をしてるなんて思ってもみなかった。
おバカさんとはいえ、慣れるまでに苦労していた理由がようやく分かった。
ごめんね、ひとみちゃん。
あなたの苦労を分かっていなかった私のほうがよほどバカだったよね…。
536 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:19

「梨華ちゃん邪魔」
「ふぇっ…?」
「いつまでもそんなところで自分の顔見てないで着替えたほうがいいんじゃない?」
「な、なによぉ。その言い方ちょっと冷たいんじゃない?」

私が(心の中で)こんなに謝ってるっていうのに!
ひとみちゃんってば全然分かってないんだから!

「だってあたしだって顔洗いたいんだもーん」
「あ、いつのまにか着替えてる…」
「へへ。偉いっしょ?偉い?偉い?」
「う、うん。偉い偉い。ていうか普通だけど…」
「ヨッシャー!じゃ、誉めて誉めて」
「えーと私もそろそろ着替えなきゃ…」
「りがぢゃーん!!」
「………」
「………」
「………」
「りがぢゃーん…」
「もう!」

無言のうるうるひとみ(瞳)攻撃に根負けした私。
ため息をつきながらひとみちゃんの頭を撫でてあげた。
537 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:19

「えへへ。やったね」
「もう、いつまでも子供みたいなんだから」

柔らかい髪。
撫でているこっちが気持ちよくてうっとりしてしまう。

ふと鏡の中の自分を見た。
なんだかさっきより顔色が良くなってるような…。
たぶん気のせいんだろうけど、でもやっぱりひとみちゃんのおかげかな。
こうして髪を撫でたりじゃれたりしていると疲れなんて忘れちゃう。
ひとみちゃんも私といて同じことを思ってくれたりしてたのかな。

「どしたー?あたしの顔になんかついてる?今日もカッケーっしょ?」

なんとなく悔しくて、妙に気恥ずかしくて、ニヤニヤしてるその顔を左右に引っ張った。


538 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:20
 

539 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:20

「イチチチ。梨華ちゃんひどいよ〜」
「ごめんね、ひとみちゃん」
「謝るくらいならやるなよな〜」
「だってなんとなく悔しかったんだもん…」
「ん?なあに?」
「な、なんでもない。ほら早く食べちゃおう」

ひとみちゃんはぷんぷんしながらもベーグルにかぶりつく。
そんな姿を眺めつつ、紅茶を飲む朝がすっかり習慣になっていた。
頬をいっぱいに膨らませたひとみちゃんが私のゆで卵に手を伸ばす。

「ダメ!」
「けちぃ」
「卵は一日ひとつまでって決めたでしょ」
「ちぇっ」

モグモグと口を動かしながら舌打ちまでしちゃうなんて器用というかなんというか。
540 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:21

「モグモグモグモグ。あのね、たぶん今日は梨華ちゃんひとりレジをやってもらうと思うよ」
「えっ!私ひとりで?まだ無理だよぉ」
「無理もなにもやらなきゃ慣れないでしょ。ダイジョーブダイジョーブ」
「大丈夫って…そんな軽々しく。根拠もないのにぃ」
「あたしが出来たんだからダイジョブでしょ」
「あ…」

うわ。すごい納得。
こんなに説得力のあるひとみちゃんって初めてかも…。
そうだよね、ひとみちゃんが出来るんだから私だって出来るよね。
ひょっとしたらサルにでも…って、これは言いすぎよね。

「でもすごいね、ひとみちゃん。ホントに成長したんだね」
「ん?なにがぁ?」
「取らないからゆっくり食べなよ」
「んぐっ…りがぢゃ…み、みず…」
「もう〜。言ってるそばからこれなんだから」

お水を手渡すとひとみちゃんは自分の胸をドンドン叩きながらごくごくと飲み干した。
上を向いた拍子に白い喉もとが見えて、少しドキドキする。
ひとみちゃんの肌なんてもう何度も見たことがあるのに不思議。

首筋にキスマークをつけたらかおりんたちに冷やかされるかな?
ひとみちゃんの弱い耳たぶをパクっと咥えてペロっと舐めたら高い声が聴ける…。
541 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:21

「ふぁわ〜。死ぬかと思った」
「………」
「梨華ちゃん、水ありがと。梨華ちゃん?」
「………」
「おーい」
「………」
「梨華ちゃんってば!!!」
「あ、なに?」
「ボーっとしちゃって、何考えてたのさ」
「えっとぉ…それは…」

あなたがたまに見せてくれる女っぽい表情を思い出してたなんて言えません。
たまに聴かせてくれる色っぽい声を思い出してうっとりしてたなんて。
朝から何考えてんの、このエッチ!とか絶対からかわれるに決まってる。

「ははーん、さては」
「えっ?な、なに?!(まさかバレた?)」
「バイトのこと考えてまた不安になってたんでしょ!」
「………そ、そうそう。よくわかったね、さっすがひとみちゃん!」
「ふふっ。可愛いなぁ、梨華ちゃん。ホント可愛いんだから」
「ホント?可愛い?私そんなに可愛い?」
「うんうん。可愛いよぉ〜。あたしが守ってあげるから心配しないでね」

言いながら身を乗り出してきたから私も自然と…そうなるわけで。
食卓を挟んで交わすキスは朝の挨拶といえるような爽やかなものではなく…。
542 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:21

「んっ…はぁん」
「り…か…」

スイッチが入ってしまったひとみちゃんの舌に理性を激しく揺さぶられる。
足の力が徐々に抜けてテーブルに手をついたら紅茶の入ったカップが音を立てた。

「あぅ…はぁっ、ひとみちゃ、ちょっと待って…」
「待てない」
「だめぇ…紅茶が…拭かなきゃ…やぁんっ」
「梨華ちゃんがほしい」

両手で顔を包み込まれて逃げることができない。
むりやり侵入してきた舌になすがまま。
絡めあって求め合って唾液が垂れるのもおかまいなし。

気持ちいい。
どうしよう、ひとみちゃん。
こんなにも気持ちいいよ。
何もかもがどうでもよくなるくらい、気持ちいい。
自分が自分でいられなくなりそうで…ちょっと怖いくらいだよ。
543 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:22

「あぁんっ」

キスだけでは我慢できなくなったのか、ひとみちゃんに乱暴に組み敷かれた。
キッチンのひんやりした床もこの火照りを奪ってはくれない。

「はぁ…はぁ…んあっあああっ」

本当は、私のほうが先にスイッチが入っていたのかも。

私の体を隅々まで知り尽くしたひとみちゃんの手。
一体どんな方法を使って私をこんなにも腰くだけにするんだろう。
触れられた箇所が順に熱くなり、通り過ぎた後は痺れが残る。
ひとみちゃんの手は、指は、唇は、私を想像もつかない場所に連れ去る。

「りか…可愛い。あたしにしがみついてくる可愛いりかがすごく…」



愛しいよ




「りか…」
「あぁああ…ひとみちゃあん…んっあっああ…やぁあああああっ」

544 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:22
 

545 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:23

いつもより性急に求められた結果、いつもより早く達した。
まるでジェットコースターに乗っているような、それでいて優しく包まれていたような。

「ひとみちゃん…」
「梨華ちゃん…」
「あたしすごく幸せだよ。梨華ちゃんがあたしのそばにいてくれてものすごく幸せ」
「私だって!ううん、私のほうが幸せだもん」
「えー、あたしのが幸せだよー」
「私のが幸せですー」
「あたしだっつの」
「私だもん」
「むむ、強情だな」
「そっちこそ」

おでことおでこをすり合わせながら、笑顔でどっちも譲らない。
頬や唇にキスをするのを忘れながら「あたし」「私」と言い続ける。
私たちってどっちもとってもおバカさんだよね、ひとみちゃん。
546 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:23

「いいこと思いついた!」
「ひとみちゃんがそういうこと言うときって大抵いいことじゃないのよねぇ」
「んなことないよ!ホントにいいことだもん」
「ホント?」
「ホントホント」
「どんなこと?」
「あのね…」

ひとみちゃんが私の耳もとにそっと唇を寄せる。

「ふたりとも同じくらいすんごーく幸せってことで、手を打たない?」
「ふふ。ひとみちゃんお顔が赤いよ。もしかして照れてるの?」
「う、うるさーい!照れてなんか…」

そのとき、ひとみちゃんの言葉を遮るようにドアを叩く音がした。

547 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:24





  「とっくにバイトの時間過ぎてるやんか!!!さっさとドア開けろやボケェェェェェ!!!!」





548 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:24

「キャーーーーーーー!!」
「うぎゃーーーーーー!!」

なんなの今の鬼のような雄叫びは…。
ま、ま、ま、まさか中澤さん?!
ウソ、なんで?え、もうそんな時間?

「さっさと開けろやぁぁぁぁボケェェェェ!!!!!」
「うわぁぁぁぁ。中澤さんめっちゃ怒ってるよ〜どうしよ、りがぢゃーん」
「私だって泣きたいよ〜ひとみちゃーん」

鬼(中澤さん)がドアをガンガンと蹴る音がする。
このままじゃドアが壊される!
549 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:24

「ど、ど、ど、どうしよ。開けたら殺されるよね?ね?」
「そんなまさかいくらなんでも…」
「でも中澤さんあたしたちがバイト中にイチャイチャしてると鬼みたいな顔してるじゃん?」
「鬼みたいっていうか鬼…?」
「うん…見たことないけど鬼そのものだと思う」
「怖っ…」
「で、どうやらかなりあたしたちに頭きてるみたいなんだよね」
「えっ!そうなの?」
「うん。カオリンが言ってた。だからあのドア開けたら殺されかねないよ…」
「え、えぇぇ〜」

ていうかイチャついてくるのはひとみちゃんのが圧倒的に多いじゃない。
私は仕事を覚えるのに(わりと)一生懸命なのに。
そりゃたまには私からイチャつくこともあるけど…でもたまになんだから!たまに!

ドアを蹴る音が段々と大きくなっている。
あのドアを開けたら私たちの命の保証はない…かもしれない。
550 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:25

「どうしよう、ひとみちゃん」
「いつまでもこうしていられない…あたし開けてくる!」
「そんな!ひとみちゃんが死んじゃうよ〜」
「大丈夫。梨華ちゃんを守るって言ったじゃん。あたしは死なないよ!」
「ひとみちゃん…」
「梨華ちゃん…」

ひとみちゃんの両手をギュっと握って頷いた。

「じゃ、あとよろしくね」
「へっ?」
「私、今日限りでバイト辞めるから。中澤さんに言っといて」
「ちょ、ちょっと梨華ちゃん?」
「いってらっしゃ〜い」

おろおろするひとみちゃんの背中を押して玄関へ。
ドンドンという音が大きくなりさすがに手が震えた。
551 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:25

「や、あの、なにその冗談。全然笑えないんだけど」
「中澤さーん、今開けますねー」

パッと鳴り止む音。いまだ!

「えい!」
「うわぁぁぁぁ」

素早く鍵を開けてドアを開いてひとみちゃんの背中を押して素早くドアを閉めて鍵をロック。
この間、実に0.5秒の早わざ。

鬼の形相も見ずに済んだし、我ながら決まった…。

「あ、あ、あ…なんであたしばっかり」

ひとみちゃんのか細い声が聴こえてくる。
それから少しして断末魔のような叫び声。

「りがぢゃーん、助け………ぐぇぇっ」



552 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:26

ごめんね、ひとみちゃん。
お仕事がんばってね。



二人のペアリングのためにファイッ!



553 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:26
 
554 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:26
 
555 名前:トゥ・オブ・アス 投稿日:2006/05/22(月) 22:27

<トゥ・オブ・アス 了>

556 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/22(月) 23:30
続きキターッ!!!
策士な梨華ちゃんに惚れそうです。

破格なバカップルが末永く続きますよう・・・(祈
557 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/23(火) 21:00
バカップルが可愛すぎてどうしましょう!
この二人をいつまでも見続けたいなぁ。
558 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/27(土) 22:49
>>528-555のつづき
559 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:50

ラブリー・リカ

560 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:50


梨華ちゃんはよくヤキモチを焼く。


561 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:51

「もうっ!なんなのよ、この口紅は」
「うぇ?えええ?」
「ほら、ここ!ベッタリついてるじゃない!!誰よ、こんなことしたのは!」
「あ、あの、その、えっと…」
「キィィィィィ!!!ひとみちゃんのバカっ」
「あぁ〜りがぢゃーん、行かないで〜」

バイトから帰ってきていつものようにただいまのキスをしたまではよかった。

梨華ちゃんはあたしの首に両手をまわして、おねだりするように見上げてきた。
すごく色っぽくて、可愛くて、その姿にあたしはいつもクラクラする。
細い腰を抱き寄せて「ちゅっ」だけじゃ満足いかない深いキスをした。

梨華ちゃんの唇はすごい。
あたしの唇にまるで吸いついてくるようにピッタリとフィットする。
しっとりしていて滑らかで、柔らかくてとても美味しい。
コンビニに売ってるどんなお菓子だって敵いっこない。
それくらい、すごい唇だ。
562 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:51

「ふぅんっ…はぁ…はぁ…」
「ただいま、梨華ちゃん」
「おかえりひとみちゃん。いきなり激しすぎだよ〜」
「梨華ちゃんのせいなんだからね」

苦しくしすぎちゃって薄っすらと涙を溜めてる梨華ちゃんの表情はいわゆる"そそる"ってやつだ。
我慢できなくて、いっただっきまーすとベッドに連れて行こうとお姫様ダッコをしたら…。

「ちょっと」
「へ?」
「なによこの襟元」
「えりもと?」
「口紅ついてる。しかもピンク。私の好きなピンク」
「えーと…」

そこで上の会話になったというわけだ。
会話というか梨華ちゃんが一方的にまくし立てて出て行っちゃったんだけど。
563 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:52

「りがぢゃーん!待って〜」

バカなあたしは梨華ちゃんの行き先なんて見当もつかない。
ヘタに動き回ったら自分が迷子になるから、迷わない範囲で知っている場所を探すしかない。
だからきっとあたしの行く場所に梨華ちゃんはいてくれてるはずだ。
おかしな理屈だけど自信があった。
梨華ちゃんがあたしの行けない場所に行くはずなんてないんだからと。

コンビニを3軒まわってようやく梨華ちゃんを発見した。
逃げようとするところを捕まえたらまたまくし立てられた。
ここでキスのひとつでもして落ち着かせたらカッコイイんだけどなと思う。
でもキィーキィー叫ぶ梨華ちゃんにそんなことしたら舌でも噛み切られそうだ。
564 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:52

逃げないようにぎゅっと抱きしめて口紅の言い訳をした。

コンビニのお客さんとぶつかったときについちゃっただけなんだよ。
誤解させちゃってごめんね。
嫌な思いさせちゃってごめんね。
あたしが好きなのは梨華ちゃんだけだよ。

そう言うと、梨華ちゃんの興奮も収まってあたしに謝ってきた。
嫉妬してごめんね。
ひとみちゃんが好きすぎてすぐにカーッとなるの、って。

誤解がとけて二人仲良く家路につく。
モミティーを買ってかわりばんこに飲みながら夜の散歩。
誰もいない路上でキスをして、ちょっとだけ照れくさくなりながら。
ヤキモチを焼かれるのも悪くないな、なんて思いながら。

手を繋いで帰る夜道はすごく幸せな気分だ。


565 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:52
 
 
566 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:53


梨華ちゃんの笑顔はとびきり可愛い。


567 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:53

「ん〜、ん〜」
「さっきからなに唸ってんの?」
「ハチミツの瓶の蓋がね、固くて開かないの」
「貸してみ」
「おねがーい」
「ふんがっ!!」

スポっ!といい音がしてハチミツの蓋が開いた。
あたしにかかればざっとこんなもんよ。へへー。

「ひとみちゃん、ありがとう」

こういうとき、あたしの心臓は矢に打ち抜かれたような衝撃を受ける。
とっくに見慣れたはずの、ごくごく日常の「ありがとう」に添えられた笑顔が可愛すぎて。

あたしの目をまっすぐに見てニコっと笑うその表情にいつもいつもヤラられてる。
梨華ちゃんは自分の笑顔がどんなに威力があるのか絶対に気づいてない。
なんでもないことのように笑って、紅茶にハチミツなんて入れてるし。

あたしがこんなにもドキドキしてるっていうのに。
無自覚って罪だな、とよく思う。
こんな笑顔を向けられるあたしはとことん幸せ者だな、とも。
568 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:54

梨華ちゃんのはにかんだ表情もそれはそれは魅力的で可愛い。
髪を耳にかけながら照れたように笑うところも可愛い。
大人のような色っぽい視線で微笑んだかと思えば少女のようにも笑うから油断できない。
そんなに面白くない話でも、自分で話しながら笑い出しちゃうところも可愛い。
困ったように笑う梨華ちゃんだって抱きしめたくなるほど可愛い。
569 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:54

いろんなとき、いろんな場面で笑う梨華ちゃん。
記憶力が悪いバカなあたしだけど、梨華ちゃんの笑顔はすぐに思い出せる。


「ひとみちゃんも紅茶飲むよね?」
「うん」
「美味しいね」
「うん、梨華ちゃんがいれてくれたからすごく美味しい」
「そーお?」
「そうだよ。さすが梨華ちゃん」
「褒めても何も出ませんからねー」
「ちぇっ」

でもあたしたちはこうしていつも一緒だから思い出す必要なんてないんだけどね。
だって梨華ちゃんはいつもいつも(怒ってるとき以外)あたしに笑顔を見せてくれているから。


570 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:55


梨華ちゃんはたまに泣く。


571 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:55

あたしのように大きな声をあげて子供みたいに泣くときもあれば、そうでないときもあった。
子供みたいに泣いている姿はあたしの胸をきつく締めつけて居た堪れなくする。
でもそうでないときのほうがずっとずっと厄介で、そして哀しい。

声を押し殺して泣く梨華ちゃんを、あたしは一度しか見たことがない。
コンビニのゴミ箱の横で膝を折り曲げて、自らの体を抱くようにして泣いていた。
すすり泣くようなその声は誰も寄せつけない空気を纏っていた。
とても哀しい泣き声だった。


もう、あんな姿は見たくない。


572 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:56

梨華ちゃんの家は本人曰く普通の、ごくごく平凡な家庭だったらしい。
お父さんがサラリーマンで、お母さんはパートがない日はよくケーキとかクッキーを焼いていたそうだ。
お姉さんは短大を卒業してようやく決まった勤め先で毎日忙しく働いてた。
妹は入学したばかりの高校で部活に励んでいた。
犬の散歩は交代制だったけど、熱帯魚の水槽を掃除するのはお父さんの役目だったらしい。

ある日突然、そんな日常が梨華ちゃんの前から消えた。
大学の友人たちとの旅行中に訃報が知らされた。
家族で食事に行った帰りに交通事故に巻き込まれたそうだ。
梨華ちゃんの家族は梨華ちゃんを残してあっけなく死んでしまった。
573 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:56

梨華ちゃんは大学を辞めて、家族と暮らしてきた家を売った。
犬と熱帯魚は親戚に引き取ってもらって狭いアパートに移り住んだ。
家族の思い出がいっぱいつまった家でひとり過ごすのが耐えられなかったのかもしれない。
梨華ちゃんは言わなかったけどたぶんそうなんじゃないかと思う。

そうしてしばらく何もせずにひとりぼっちで過ごしていたらしい。
梨華ちゃんは夜が来るたびに泣いていた。
でも壁の薄いアパートだったから隣に迷惑がかからぬようにと声を押し殺して泣いていた。
574 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:57

そのうち梨華ちゃんは泣くことに疲れて夜はコンビニに行くようになった。
とくに何をするわけでもなく、興味のない雑誌を立ち読みしていたそうだ。
暑い日はアイスを買って外で食べ、寒い日はそれがおでんや肉まんに代わった。

あたしはいつからかそんな梨華ちゃんを見ていた。
コンビニに行くたびに気になって仕方なかった。


ゴミ箱の横で泣く梨華ちゃんにハンカチを差し出したそのとき、あたしはもう恋に落ちていたのかな。


泣き止んでほしくてハンカチを出した。
それを梨華ちゃんは受け取ってくれた。

それがあたしたちの始まりだった。


575 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:58

あたしは梨華ちゃんが二度とあんな風に泣かないよう守りたい。
寂しい思いをさせないよう笑わせたい。
ずっと一緒にいるからと安心させたい。
不幸にも先に旅立ってしまった家族にかわって、あたしの愛を捧げたい。

でもあたしはバカだから加減を知らない。
好きの想いが強すぎて時々オーバーヒートしてしまう。
自分自身が抑えきれなくなって梨華ちゃんを困らせてしまうことも…たまにある。
だから梨華ちゃん、これからも覚悟してよね。

「なによぉー。ニヤニヤしちゃって」
「べっつにー」
「どうせエッチなことでも考えてたんでしょう」
「ちっげーよ!梨華ちゃんが可愛いなって思ってたんだよ」
「……バカ。急に真顔で言わないでよ。恥ずかしいんだから」

あたしの愛する梨華ちゃんは笑ったり泣いたり怒ったり忙しい。
でもいつもいつでもめっちゃ可愛い!!
576 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:58


そんな梨華ちゃんがあたしはだいだいだいだいだいすきだーーー!!!


577 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:58
 
 
578 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:59
 
 
579 名前:ラブリー・リカ 投稿日:2006/05/27(土) 22:59

<ラブリー・リカ 了>

580 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/27(土) 23:10
更新お疲れ様です。
なんだか愛にあふれていて読んで泣きそうになりました。
これからも書き続けて欲しい作品です。
581 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 00:01
自分は泣いてしまいました
ステキな作品ありがとうございます
582 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 14:43
愛がぎゅーっと詰め込まれていて
嬉しくもせつなくもなりました。
ずっとこの二人を見守っていたい、
そういう気持ちでいっぱいです。
583 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 16:00
更新お疲れ様です。
梨華ちゃんはプーなんですか?大学生だと思ってました
梨華ちゃんに対する愛が凄く伝わってきてあったかい気持ちになりました。
よっすぃ〜の生い立ちも気になてきちゃいました。
584 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/29(月) 23:15
このスレのお話がだいすきです
585 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 22:08
>>559-579のつづき
586 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:09

P.S. アイ・ラブ・ユー

587 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:09

バイトが休みの日は梨華ちゃんと過ごすことが多い。
というか、大抵の日は梨華ちゃんと過ごしているんだけど。
バイトが休みじゃない日も、雨の日も、給料日も。
中澤さんの何度目かのお見合いが失敗した日だって梨華ちゃんと一緒だ。

いつだってあたしのそばには梨華ちゃんがいる。
可愛くておっちょこちょいであわてんぼうの梨華ちゃん。
たまに怒るときはめっちゃ怖いけど、でもどんな梨華ちゃんもあたしは好きだ。
一緒にいられなかったらと思うと胸が苦しくなって呼吸が難しい。

今日はバイトが休みだから朝から梨華ちゃんの膝枕でごろごろしていた。
お尻を撫でると必ずほっぺを引っ張られて「メッ」て怒られる。
けどあたしは子供じゃないんだからそんな風に怒らないでほしい。

「子供じゃないから怒るの!」

梨華ちゃんはそう言うけれど、それってつまりどういうこと?
大人だから怒られるの?なんか納得いかない。
588 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:11

そうやって怒っていても、膝枕のときは必ず耳そうじをしてくれる。
あたしが耳そうじをしてもらうのが大好きだと知っているからだ。
自分ではうまくできないから梨華ちゃんにやってもらう。
梨華ちゃんはフワフワの綿でコショコショくすぐって気持ちよくしてくれる。

いつだったかあたしが耳かきを踏んづけて折ってしまったときがあった。
すごくショックだった。
これじゃもう梨華ちゃんに耳そうじをしてもらえないと思った。

すごく泣きたかった。

「どうしたの?ひとみちゃん」
「………」
「泣いてるの?お腹痛いの?何か嫌なことでもあった?」
「耳かき」
「耳かき?」
「折れちゃった」
「あっ…」
「うわあぁぁぁ〜ん。もう耳そうじできないよぉ〜」
「泣かないで、ひとみちゃん。大丈夫だから。ね、泣いたら目が腫れちゃうよ」
「ヒッグ…ヒッグ…ふぇ、ふぇえ〜ん」

目尻に溜まった涙を丁寧に拭いてくれて「大丈夫だから」と言われた。
そうして抱きしめられたり背中を擦られたりしているうちに少し落ち着いた。

あたしだってバカじゃない。
いや、バカだけど…ものすごいバカではない。
耳かきぐらい新しく買えばいいってことくらい分かってる。
でも違う。そういうことじゃないんだ。
589 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:12

「よしよし。ひとみちゃんお気に入りの耳かきだったもんね」
「うん…」
「これでいっぱい耳そうじしたよね」
「うん…」

何度も何度も耳そうじをしてもらった。
あたしと梨華ちゃんの思い出の耳かきだ。
耳かきが思い出ってちょっとどうなのって感じかもしれないけど、でもホントのことだ。
だからあたしは単純に悲しいんだ。
踏んづけて壊した自分が情けないんだ。

梨華ちゃんとの思い出を踏んづけてしまったようで…。

「大丈夫。これからもいっぱい耳そうじできるよ」
「ありがど…りがぢゃん」

こんなあたしの気持ちを梨華ちゃんはちゃんと分かってくれている。
抱きしめて甘やかしてくれる。
そーっとお尻を触ったらやっぱりちょっと怒られたけどいつもよりは全然だ。
その日は梨華ちゃんに包み込まれるように抱きしめられて眠った。


590 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:13

次の日、早速新しい耳かきがテーブルの上に置いてあった。

「ひとみちゃん、新しいの買ってきたよ〜」
「梨華ちゃん…」
「膝枕する?耳そうじしてあげようか?」

ちょこんと座った梨華ちゃんが自分のふとももをトントンと叩いてあたしを誘う。
右手に………プラスチック製の『どピンク』な耳かきを持って。




そんな色の耳かきはいやだあぁぁぁぁぁぁっ!!



591 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:14

「ひとみちゃん早く、早く」
「うぅ…なんでそんなにはりきってるんだよ…」
「だってピンクの耳かき可愛いんだもーん」

思い出はたちまちピンク色だ。
なんて言ったらものすごく甘ったるく聞こえるけど。

「おかゆいところございませんか〜」
「いえ、とくにないっす……」
「もぅ!ひとみちゃんってばノリが悪いぞ」
「どんなノリにしたらいいのよ」
「ふぅ〜〜〜」
「あっはぁんっ…」
「ひとみちゃん可愛い〜」
「い、息を吹きかけるなよぉ」

事実、甘いんだから仕方ない。
ピンク色でもまあいっか。
梨華ちゃんがすごく楽しそうだから、あたしも楽しい。



だからピンク色の思い出をこれからもどんどん作っていこうと思った。



592 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:14
 
 
 
593 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:15

「ひとみちゃんひとみちゃんひとみちゃん!!!」
「なになになになんですかぁ〜?」
「あのね、あのね、すっごくいいもの買っちゃった!」
「梨華ちゃん興奮しすぎー」

だってね、ホントにすっごくいいものなんだもん。
興奮するなって言われたって興奮しちゃうよ!
興奮しすぎてブーツを脱ぐのもままならない。
ああ!なによこの脱ぎにくいブーツってば!

「興奮しすぎてハナ出てやんのー。ぶははは」
「え、ウソ。やだぁ…」
「はい。ティッシュ」
「ありがと」

玄関先でハンパに脱げたブーツをそのままに鼻をかむ。
その間にひとみちゃんが私の足からブーツを脱がしてくれた。
鼻をかんだティッシュを丸めて置いたらひとみちゃんがゴミ箱に捨ててくれた。
買物帰りの私から荷物を受け取りながら「いいものって?」と聞いてくる。
594 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:16

「うふふ。ひとみちゃんも興奮しすぎてハナ出しちゃうぞ★」
「キショいよ梨華ちゃん。いいからさっさと教えなさい」
「ちょっとキモいってなによー。あのね、さっきね、ある"モノ"と運命的な出会いをしたの!」
「……ある、"モノ"?」

綺麗に整えてあげた眉をしかめてひとみちゃんが腕を組む。
それは確実に疑ってる表情。
どーせロクなものじゃないんだろうって顔しちゃって。
これを見せたら大きな瞳をさらに大きくしてびっくりするんだから。
ひょっとしたら泣いて喜んじゃったりなんかするかもね。

「じゃじゃーん」
「ん?なんだこれ」
「おそろいのピアスでーす!」
「えっと………」
「超可愛くない?すごい可愛いよね?」
「………」
「あれ?ひとみちゃん?」

予想どおり大きな瞳はさらに大きくなってるけれど…
これはちょっと予想とは違う反応。
泣いて喜んだりは…してなく、その顔は、なんていうか…驚愕?
あれ?なんかグーにした手がわなわなしてる?
どうしたのかしらひとみちゃん。
595 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:16

「ていうか…」
「ん?」
「なんだこのピンクのじゃらじゃらしたものはあああああ!!!!!」
「可愛いでしょ?」
「あ、あたしがこれつけるの?」
「違うよぅ」
「あ、違うんだ。よかっ…」
「つけるのは…あ・た・し・た・ち」

チュッと投げキッスをしたらデレっとした顔。
ピアスをつけてあげようとしたら途端に青ざめる。
ウインクしたらまたデレっと。
ピアスを近づけると眉が下がる。
もう!なによなんなのよ!!

「ちょっと待ってよ〜。いくらなんでもこれってキツくない?」
「全然キツくないよ。なんで?」
「なんでって…ピンクだし……じゃ、じゃらじゃらだし…」
「絶対可愛いから」
「ええぇ〜そうかぁ?」
「そうだよ!」
「うーん」
「ほら」

片割れを自分の耳につけてひとみちゃんに見せる。
596 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:17

「可愛い?」

小首を傾げてひとみちゃんに尋ねると肯定の意味を表すように頷いてくれた。
そのあとに「それは梨華ちゃんが可愛いからだよ」なんて嬉しいことを言ってくれちゃって。
でも私より絶対ひとみちゃんのが可愛いと思うんだけど。

「つけてみて」
「うーん」
「おそろいだよ?いや?」
「いやってことはないけど」
「とりあえずつけてみようよー」
「う、うん…」

すっかりロングヘアーになった髪を耳にかけてしぶしぶピアスを手に取るひとみちゃん。
プリンにならないようにちゃんと手入れをしているその髪はいつのまにかすごく伸びたね。
そういえば…私が言わなくても生え際の色を気にするようになったのはいつからだったろう。
597 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:18

「どう?」

耳をこちらに向けて照れくさそうに私に見せてくる。
ふと目に止まったひとみちゃんの爪は綺麗な赤色に塗られていた。
今日は午前中のシフトだったからお昼のあとに塗ったのかな?
マニキュアに凝りだしたひとみちゃんの爪がカラフルになったのはいつからだったろう。
誰に言われるでもなくバイトのときはしないと自分で決めたひとみちゃん。
まだまだ甘えんぼなところもあるけれど、いろいろ学んで成長して大人になったんだね。

「すっごく似合うよ」

お世辞でもなんでもなく、心の底から思った。
私の言葉に顔を真っ赤にさせて俯いたひとみちゃんがやっぱり可愛いと。
成長しても、おバカさんのままでもひとみちゃんは私が大好きなひとみちゃんだ。
598 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:18

「ほら、おそろい」
「うん……」
「いいでしょ?」
「ま、まあね」

本当はけっこう嬉しいくせに。
ぶっきらぼうに答えるひとみちゃんはすごく彼女らしい。
そういうところもやっぱり好きだなぁ…。

「ところで梨華ちゃん」
「なあに?」
「これいくらだったの?」
「え゛」
「まさかとは思うけど高かった?」
「う、う〜ん…私もう疲れたから寝るね。おやすみ」
「オイ。ちょっと待って。いくらだったのか言いなさい」
「わー、ひとみちゃんすっごく可愛い。ピアス似合ってるぅ。あたしたち可愛すぎて困っちゃうね」
「いいから答えなさい」
「………」

ひとみちゃんの耳を引っ張っておそるおそる金額を告げる。
599 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:19

「ぬわんだとぉー!!」
「えへっ」
「えへっじゃねー!ペアリング貯金を全部使ったのかー!!!」
「だってだって。可愛かったんだもーん」
「だもーんじゃねー!梨華ちゃんは大体普段から無駄遣いが…」

成長しすぎるのも、ちょっと困りもの。
こういうときは以前のようなおバカさんなひとみちゃんに戻ってほしいなぁ…なんて。

「まあいいじゃない。ペアリングはまたってことで」
「ぬわんだとぉー!梨華ちゃんがペアリングがいいっつったんだろうが!」
「だってピアスが可愛かったんだもーん」
「なんでそんな勝手なんだよー!!キィィィィィ!!」

自分で言うのもあれだけど…
ひとみちゃん、怒り方が私に似てきたよね…。
600 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:19

「梨華ちゃん!聞いてんの?!」

プリプリと怒るその耳に揺れるピアスが外からの光に反射して綺麗なピンク色をしている。
私の耳にあるピアスもきっと同じように揺れて綺麗なピンク色をしているんだろう。

「ハイハイ聞いてるって」
「ハイは1回でいいの!」

怒られているのにそのピンク色を共有しているこの時間がたまらなく愛しい。
一緒に共有してきたいろんな出来事が愛しい。
あなたといるこの時間が嬉しくて、そしてやっぱり愛しい。

いつでもどんなときでも愛してるよ。
これからもずっとずっと、ひとみちゃんを愛してる。
だから私のこともずっとずっと、愛して可愛がってね。

家族のことを思い出すとまだ切なくなるけれど私にはひとみちゃんがいる。
これからもきっと共有するであろう未来にも。
601 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:20

「人の話を聞けー!」
「ひとみちゃんしつこいよー。もう買っちゃったんだからいいじゃない」
「ムキィィィ!!うあっ…」
「あっ!ひとみちゃん鼻血鼻血。興奮しすぎだよー」
「ふぇ〜ん。りがぢゃーん」
「ティッシュティッシュ。垂れるから動いちゃダメだよ」
「うえぇぇぇ〜ん。血ぃでたー。怖いよぉー」
「もうっ。ひとみちゃん、泣かないの」

結局、私たちはいつまでたってもこんな調子なのかもね。
お互いが少しずつ大人になっても変わったり変わらなかったり。
未来の私はどんな気持ちで今日のことを思い出すのだろう。
隣に寄り添っているあなたと笑いながら話してるのかな。

「鼻血くらいで大騒ぎしないの」
「だってだって。血ぃだよ?真っ赤だよ?怖いよぉー」

ペタンとへたり込むひとみちゃんの姿を思い出して絶対笑ってるよね。
そんなこと思い出すな!なんて未来の私はまた怒られてるかもしれない。
602 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:21

「情けないひとみちゃんでちゅねー」
「赤んぼ扱いすんな!…ん?もしかしてそれって赤ちゃんプレイのお誘い?」
「な、な、なに言ってんのー!!そんなわけないでしょ!ひとみちゃんのエッチ!バカ!」
「まあまあ。せっかくだから…ままぁーおっぱーい」
「あぁんっ…ひとみちゃんってば急にそんなところ…はぁんっ」

ティッシュを鼻につめた間抜け顔で迫ってくるひとみちゃん。
それをしっかり受け入れる私。

私たちはいつまでたってもおバカでエッチだね。
きっと未来でもそれは変わらないよね。



未来の私たちは今日も愛し合ってますかー?


603 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:22




今の私たちも見てのとおり愛、全開です!





604 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:23
 
 
605 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:23
 
 
606 名前:P.S. アイ・ラブ・ユー 投稿日:2006/05/30(火) 22:24


<P.S. アイ・ラブ・ユー 了>


607 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 22:26
というわけで石川さんと吉澤さんのコンビニシリーズは以上で完結です。
レスをしてくださった皆様ありがとうございました。
これからもこのスレをよろしくお願いします。
608 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 22:41
好きな人に全力なこの子たちがとても好きでした。
読後優しい余韻に浸れるお話をありがとうございました。
609 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 22:44
二人が可愛すぎて愛しすぎて涙が出てとまりません。
ほんとにおバカで面白くて微笑ましいお話をありがとうございます。
コンビニいしよし最高!!
610 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 23:01
やっぱ可愛い!この二人はおバカでも愛に満ち溢れてるから最高!
完結は寂しいけど、またどこかで会えるといいな。
お疲れ様でした。
611 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/31(水) 00:45
えがった…。とってもえがった…。
耳かきのくだりなんてたまらんかった。
あったかくて、甘くて、好き過ぎてバカみたいな
この二人にもう会えないのかと思うとどこか寂しいですが
作者様の次回作に期待したいと思います。

最後に、コンビニいしよしに幸あれ!
612 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/10(土) 15:41
おつかれさまです。最高でした……
言葉では足りないくらいのありがとうの気持ちを贈りたいです
甘くっておバカなふたりがだいすきです
613 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/10(土) 23:53
ここの二人はバカでエッチで可愛くて
とても大好きでした。
ありがとうございました。
614 名前:孤独な名無し 投稿日:2006/08/07(月) 21:47
このスレでのいしよしをお待ちしております
615 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/28(月) 23:49

616 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/28(月) 23:50
>>608-614

たくさんのレスをいただき、本当にありがとうございます。
短編を。

617 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/28(月) 23:50


618 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/28(月) 23:50

619 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/28(月) 23:51


『藍色の夜明け』


620 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/28(月) 23:51


621 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/28(月) 23:53
鳴り響く音に閉じていた瞼を開くと、窓の外はもう藍色に変わりはじめていて。
ベットの中に潜り込んだまま片手で携帯を開き、
やっぱりあなたからだって思わず口元を緩めながら
掠れた声で返事をした。

「・・・・もしもし・・・?」
「寝てた?」
「ぅうん。・・・どぅ?」
「今終わったとこ・・・」

622 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/28(月) 23:54
気づかれないようにそっと体を起こす。

枕元に伸ばしたテーブルタップ。
かかってくるかなってかすかな期待をして
直接充電した携帯のコードに指を絡ませる。


「いつ抜けたの?全然気付かなかったけど・・・」


時おり混じる、息遣い。
早足で歩いている気配と。
明け方の静かな街の中を、たまに通り過ぎる車の音。


「3次会が終わったあとかな。」
「ああ、ごめん、その頃バタバタしててあんま記憶ないわ・・・」
「うん、あたしたちもそっと抜け出したし」


場の雰囲気を崩したくなくて。
最後はちゃんと内輪だけで送り出してあげて欲しくて。


あたしは二人に声をかけ、お店を替え、
ささやかながらだけど、あたしたち三人だけの小さな慰労の乾杯をして。
それから家に帰り、シャワーを浴びてからベットに入った。



心地よい疲れとほんのりと残るアルコールと。
走馬灯のように蘇る日々をなぞりながら、
湧き上がっていく興奮を鎮めるように静かに呼吸を整えて、
ようやく深い眠りに落ちたところだった。

623 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/28(月) 23:55
「ごめん、ぜんぜん気付かなくって・・・」
「ううん。今どこ?」
「これからタクシー乗るとこ。あのさ・・」
「なぁに?」
「明日にしようと思ってたんだけど・・・」
「・・・・ぅん?」
「これから行ってもいいかなぁ・・?」


もちろんって返事の変わりにくすくすって笑うと。
ほっとしたように息を吐いて。

「あ、でもこのまま寝ちゃっててね。鍵、勝手に開けて入っちゃうから」

それだけ言って電話を切ろうとしてから慌てたように加えた。
「あ、起こしちゃってごめんね。おやすみ、梨華ちゃん」



624 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/28(月) 23:57





それからあたしはあったかいお風呂を張って。
電気をつけ、膝を抱えて玄関へと続く廊下で彼女を待って座っていた。


カチリッ


キーが押される音が聞こえ。
続くナンバーキーを待たずに内側から解除してドアを開くと
一瞬驚いたような顔をしたよっちゃんが、すぐに唇を結ぶようにして照れくさそうに笑った。



「寝ててくれてよかったのに・・・」
「ううん、あたしも興奮して眠れなかっただけだよ」


スタッフさんにもらった花束やらカバンやら。
両手いっぱいに抱えられた荷物を受け取ろうと手を伸ばした。
625 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/28(月) 23:58
「お風呂、沸かしてあるけど、入る・・?まだ酔いが覚めてなくて危ない・・・?」


V字型のキャミソールからのぞく、胸元まで赤く染まった肌。
白い肌を一層引き立たせる薔薇色の頬。


「ううん、ありがと。すごい助かる。」
「着替えとタオル、出しとくから、入ってて」
「ん、サンキュ」


いつもの引き出しから彼女用のスウェットとTシャツを引っ張り出す。
すごく久しぶり・・・だな・・・
そっと顔を寄せると。
あたしと同じ洗剤の香りに混じって、かすかに彼女の甘い香りがした。


626 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:00

年頃の女の子特有の、陽気で朗らかで、
たまに耳を覆いたくなるくらいの歓声の輪に囲まれ続けてる今日の主役。
マコトらしく、あたたかな笑い声と時おり涙をすする音が交互に入り混じる部屋。
そんな部屋の隅でよっちゃんはただ静かに微笑むようにして可愛い妹の巣立ちを見守っていた。



促されれば円の中心に座り笑いをとり。
同期同士が集えばすぅっと場を離れ、スタッフさん一人一人に気を配り。
飲み物を手にさりげなく隅々を回って。

合間合間にメンバーの横にちゃんと座って一対一で労うように一言ずつ声をかけ。
時には頭を撫で、時には肩をぽんぽんって叩いて。


話し掛けられたメンバーを笑顔に変えていく彼女の姿を。
あたしは少し離れた場所でずぅっとずぅっと見つめていた。

涙ひとつ見せずに最後まで笑顔で新しい門出を見守った横顔を。
いつのまにかどの時期よりも固くみんなを結びつけていった、
優しくて頼もしいリーダーの顔をした彼女を。


627 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:01


だけどね、よっちゃん。


あたしにまで聞こえないように気を遣って。
声をこらえるようにして、静かに湯船の中で涙を落としてる横顔だって。
たとえ見てなくっても、その気配だけで。
気づけるくらい、あたしはあなたのこと、わかってるつもりだよ。

628 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:01

声をかけることもせず。
ただ静かに洗面所にそっと着替えを置き。
その長い時間をひたすら待ち続ける。

629 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:01


630 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:03



「いやあ、疲れたねえ」

まるで何事もなかったように。
にっこり笑いながら、タオルを肩にひっかけてあがってきたよっちゃんを。
ダイニングの椅子に座らせその肩から強引にタオルを奪い取った。

「なんか実感ないね」
「ほんと・・・」
「なんか飲む?」
「ううん、これでいいや」

冷たいお水の入ったグラスを受け取ったよっちゃんの短い髪を
背もたれの後ろに立ってくしゃくしゃと拭きあげる。

くすぐったそうに首をすくめて。
細かにタオルを動かすと、気持ちよさげに目を閉じ、されるがままに身を任せる。

631 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:04
髪の毛からぽたぽたと落ちていた雫が消えきってから。
そっとあなたの肩に両手をすべらせた。
いつもゆっくりと揉み解してくれるあなたにかわって。
今日はあたしがじっくりとあなたの肩を手繰る。


普段はあたしがどうしてもって言っても。
梨華ちゃん、手小さいし、力ないんだよねって。
笑って交代しようとするのに。
あたしにされるままに首を上に向け、気持ちよさげに目を閉じている。

「ここでいい・・?」
「ぅん。ぁあ・・いいねぇ・・・」


ぱんって張りつめた背中の感触は。
どれだけよっちゃんが気を張り詰めて過ごしてきたかよくわかる。

細くて華奢な、白い背中を。
わかっていても触れられなかったこの数十日を思い。
愛しさを込めてゆっくりと手のひら全体に力を入れた。

632 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:06



「あぁ、メール返さなきゃ・・・タクシーん中で届いてたんだった」
「だれから?」
「ん?マコトから」

よっちゃんはぽんぽんってあたしの手を撫でてから、
テーブルの端に置かれた自分の携帯に手を伸ばして。
画面を開いて指を走らせた。



二の腕あたりまで揉みほぐすあたしに左腕を任せて、
右手一本で器用に打ち続けていたよっちゃんが。

何行か打ったらしいところで、
ボタン音がぴたっと止まって。



気が付いたら震える指で携帯を握り締めたまま。
眉間に力を入れて、再び瞼を閉じている。
633 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:07
「よっちゃん・・・・?」
「まったく・・・改まってこんなメール送ってくるんだから」


小刻みに震えてる長い睫。
徐々に瞼の際が漆黒に揺れ始めて。
そんなあなたを見ていたらあたしもどうしようもなくって。
奥歯をぎゅーっと噛み締めてあなたに重なって零れそうになる涙をこらえた。

「よっちゃん・・・」

言葉のかわりに後ろから細い首に両腕を回し、
頭から覆い被さるようにして胸で大きく包んで抱きしめると。

ぱちって見開いた大きな瞳から、大粒の雫を白い腿の上にぽとりと落として。
止まらなくなったように溢れる雫はぼたぼたぼたっとあっという間に脹脛を伝って床へと流れおちていく。


「ほんと・・実感ないし・・なんか・・わかんないけど、終わっちゃった・・んだよね・・」

634 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:08


次々と零れていく涙を拭こうともせずに。
まわしたあたしの腕を握り締めて。
ぎゅーって痛いくらい力を込めたよっちゃん。




きっとマコトのことだけじゃなくって。
なんかもうとても寂しくて。

全てを巻き戻してもう一度繰り返してしまいたいような。
凛と張り詰めるようなこの熱い熱い日々のことと。

人一倍可愛がった妹を最高の舞台で送り出すことができた安堵感と、消失感と。
それでも明日に向かって繋げていかなきゃって奮い起こすような気持ち・・・


きっと他の誰よりも、あたしだけにわかってほしくって。
言葉にできないいろんな思いを、何も語らぬまま共有し合いたくって。


ねえ、だからこんな夜明けにやってきたんだって。
あたしのところにやってきたんだって。
そんなふうに思っててもいいでしょ・・・?


635 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:09
頑張ったね、なんてそんな簡単な言葉じゃなくて。
あなたを全身で抱きしめてあげたいって思った。

抱きしめる腕に力をこめるほど。
不思議にね、あたしの心だって癒しほぐれていくんだよ、よっちゃん・・・



636 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:09


637 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:09
それからあたしたちは。
何も言葉を交わさないままで。
ただ静かに抱きしめあっていた。


気が付けば藍色だった空は遠くのほうから徐々に明るさを増していて。
開け放たれた窓から漏れる明るさに、まるで魔法にかけられていたようにちょっぴりの恥ずかしさを感じた。
638 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:11

俯いていたよっちゃんも、胸の中でもぞもぞと動き出して。
床に落ちていたバスタオルを拾い
すっかり乾いてしまっていた涙の跡を、照れくさそうに乱暴に拭いて。
うへへっって子供みたいに笑った。


いいかげん離れなきゃって巻いた腕から力を抜いたら。


「やだっ」
って上を向いて胸元に鼻を寄せてくる。

「・・・梨華ちゃんの匂い・・・」

久しぶりに耳元で囁かれた甘ったるい声は
無下に離すことができないほど可愛くって。
639 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:12

「よっちゃん、眠ろうか、疲れたでしょ?」


声をかけてもイヤイヤと首を振って。
頬を胸のところにぴったりとあてたまま、手の力は変えない。


「ね?お布団の中でもぎゅってしてあげるから・・・」

それだけ言うと
こくりと頷く彼女は。
あたしに手を引かれるままにベットに潜り込んで。

むずむずと布団の中に入り込んで、あたし胸元のスポットに丸くなって収まった。



なんかいつぶりだろう・・・こんなよっちゃん。
可愛くって愛しくって。


体全体をあたしの上にのせる重みを心地よく感じながら
そっと背中を撫で続けた。
640 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:13

「梨華ちゃん?」
「なぁに・・?」
「なんかね、ちょっと顔つきがかわってきた」


いつのまにか見上げられていた格好で目があうと。
嬉しそうに目を細めてよっちゃんは笑う。


「変わったってなあに?」
「けっこう男前だったのにさ」
「なによぉ!」
「すっごいやわらか〜い顔してる・・・なんかさ・・王妃みたいなかんじ?」
「褒めてないでしょ?」
「ううん、すっごぉい好き」


不意打ちをくらって。
素直なよっちゃんなんてほんといつぶりなんだろ・・・


好きって言葉くらい何度だって聞いてるはずなんだけど
ここ最近ほんとにご無沙汰だったから。
だから・・・

641 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:23
「お預けくらった分さ・・」
「お、お預けって犬じゃないんだから!」
「ま、いいんだけどね。だからいいお仕事できたし。」
「う、うん、あたしだってよっちゃんだってちゃんと没頭できたんじゃん」
「そりゃあそうだけどさ・・・」


もそもそとTシャツの隙間から滑り込んでくる指の気配に。
ありえないくらい背筋がゾクゾクと震えてくる。


「ほ、ほら、いい子だからもう寝よう?明日ゆっくり時間あるし。
 あさってからに備えて睡眠とらなきゃ」


ドキドキに気づかれないようにガシッとよっちゃんの手を掴んで。
それ以上、上にあがってこないようにぎゅっと止める。



「だぁめ。もう一個仕事が残っててね」
「な、なあに?」
「梨華ちゃんを女に戻すお仕事・・・」



642 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:23

久しぶりに触れ合ったの肌のぬくもりは、
沈めたまんまのあたしの中心から湧き上がるような喜びを揺り起こす。


「あたしが・・・梨華ちゃんを・・・女に戻してく・・」


もう一度囁かれて。

抵抗するのをやめて力を抜いた。
自然と両方の足を絡み合わせながら、あたしは再びあたしを取り戻していく。



耳元に戻って返って響くこの声も。
あなたしか知らないこの表情も。

あなたに導かれてたどり着いた本当のあたしだから・・





細い首の後ろに手を回すと、よっちゃんはとてもとても嬉しそうに笑いかける。
啄ばむように何度か唇に触れると、急に艶っぽい真顔に変わって。
そっとあたしの額を手のひらで撫でてから、深い深いキスで魔法を解きはじめた。







643 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:24







644 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:24


645 名前:藍色の夜明け 投稿日:2006/08/29(火) 00:24


646 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/29(火) 00:24
以上です。
647 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/29(火) 00:49
タイムリーな感じだけにすごい色々考えちゃいました
こうやってお互い癒しあっていてほしいです
良い作品をありがとうございました
648 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/29(火) 07:19
久しぶりにいしよしにハマりそうですw
ドキドキしちゃいました。
649 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/29(火) 17:22
作者様の更新お待ちしてました!
二人のやりとりのひとつひとつが優しさに満ちていて良かったです。
素敵な作品ありがとうございました。
また次の作品も楽しみにしています。
650 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/29(火) 21:25
泣いてしまいましたがな。・゚・(ノД`)・゚・。
651 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/29(火) 23:43
お待ちしてました〜
イイです!素敵ないしよしをありがとう
ございました〜
652 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/14(火) 22:11
653 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/14(火) 22:11
>>647-651

たくさんのレスをいただき、本当にありがとうございます。
続いてしまって申し訳ないですが、もうひとつ短編を上げさせていただきます。
654 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/14(火) 22:12
655 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/14(火) 22:12
656 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/14(火) 22:12



『プルメリア』



657 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:13




ブ―――――




ブザーを押す手を引っ込めたくなっちゃうくらい。
異国情緒なんて漂わない。
どっちかっていうとブサイクな音。

静まり返った廊下にかなりの勢いで響いてしまって。



・・・・寝ちゃったのかな・・?
・・・もう1回だけ・・・



ブ―――――




ガチャッ


658 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:14
ガシガシ頭をかきながら。
明らかにフキゲンきわまりない顔で。

「遅っ――――」
「しーーーーっ!!」

キョロキョロと廊下を見渡して。
音がならないように細心の注意を払ってドアを閉めた。

「遅いよ」
「ごめんごめん」

ベットカバーは開いてあるけど、シーツはピシっと糊がついたままで。
横たわってた形跡はない。

「なに読んでるの?」
「別にぃ」

手前のデスクの上に無造作に広げられた雑誌。
眠気覚ましに読みながら待っててくれたの?

なんかちょっと嬉しくなって。
ニヤニヤしながら近づいていった。

なのに。


「ふわぁっ・・・もう寝るかんね。おやすみぃ」
「へっ?ど〜して??」
「そっち、ぜったい寝てたっしょ?」
「ま、まさか」
「うそばっか。目はれてるし」

自然と目が泳ぐ。
部屋の隅の時計は2時半をちょっと回ったとこ。

15分くらい?ううん、30分は寝てないはず。


「まあいいけどね。お疲れでしょ〜から」
「もぅ、なんでそういう言い方すんのよぉ!」

はあっなんて大げさにため息をついたよっちゃんは。
パリパリのベットの上に倒れるように転がった。
659 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:15
「ねえ、怒んないでよぉ」

よいしょって結構高さがあるベットに登って。
隣に正座してゆさゆさ揺すってみる。

無駄なくらい広いベット。
おっきな枕が3つも並んでて。
ほらぁ、一人で眠るには広すぎるでしょ?



ねぇ、あたしだって。
いろんなコト、期待して。
ココまで来てるんだよ?




「るさい、だいたい何回も合図したのに」
「あれはののがもうちょっとって言うから―――」
「ウソばっか。最後の4回は梨華ちゃんじゃん、もう一回やろって」
「だってお土産かけるなんて言い出すんだもん」
660 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:15

結局ののの一人勝ちでトランプはお開きになって。
よっちゃんは一人でおやすみ〜って行って部屋に戻った。


ののにだって当然部屋はあったけど。
さっさとあたしのベットにもぐりこんで、
一緒に寝よ?なんてあの顔で甘えてくるんだもん・・・
パジャマの裾握って離さないんだもん・・


「だいたいど〜してこんなとこにパジャマ持ってきてるわけ?しかも裾入れて」
「いいじゃん、おなか冷えちゃったら困るし」
「まさかこれで移動してきたの?」
「ちゃんとパーカーは羽織ってきたよ〜。いいでしょ?トロピカルっぽくて」


シルク地の淡いピンクのパジャマ。
荷物の隅にわざわざ詰めて。
だから着替えるのなんて惜しくて。



だってこんなトクベツな夜なのに。
Tシャツとジャージなんて台無しでしょ?



「昨日は柴っちゃんがきてるしおとといはののだしやたら仕事が入ってるし」
「き、今日のは仕方ないじゃん。元はといえばよっちゃんがあたしの部屋に集まろうって」
「そりゃあそうだけど」
「電話だってしようって言い出したの、よっちゃんじゃない。」
661 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:16

何度か目の7並べの途中で。
そろそろってお開きになりかけてたときに。

ののが今何時かなあ、なんてボソっとつぶやいて。
時計を見上げた。



あたしは正直そういうのは迷ってたから。
何も返事をせずに、トランプを配る手を止めなかった。

どういう気持ちになるかなってウジウジと考えちゃって。

そしたらこの人は。
ベットの上に広げられたカードが弾むくらい、思い切り良く立ちあがって。


「そ〜いう気遣いは無用なの、うちら」

って。

バシッとホテルの受話器を上げて。
さっさか番号を押して。
662 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:17
それぞれが個々にはもちろん電話とかしてたし。
長い長いメールを送りあってたりもした。

でも三人そろって、っていうのはほとんどなかった。
他の子がいたから、っていうのもあったし。
どこかで遠慮、みたいなものがあったような気がする。

「ねえねえ、早く替わってよぉ!」

まとわりついているのんを手で制しながら。
ベットの上で胡坐を組んで、受話器を握ってる姿とか。
一番嬉しそうに緩んでる頬とか。
あたしに話すときとちょっと違う色を放つ声とか。
そういうのを見てるだけですごくすごく幸せな気分になった。




なんかかっこいいって惚れ直しちゃったのは内緒にしておこう。
ちょっとおやじっぽいけど男前で。
でも繊細で人一倍優しくって。
あたしたちを何より大切に思ってくれてて。
大好きな大好きなあたしの自慢のヒト。


663 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:18
一緒に寝よっていうののと二人で並んで。

とても眠そうで舌だってまわってないのに。
興奮して止まらないのんの話を聞きながら頷いていたら、いつのまにか意識が遠くなってしまって。
慌てて目を覚まして、幸せそうな横顔を撫でてからそっと廊下に出た。

ここから先のあなたは、あたしだけに欲しくって。




かすかにココナッツの石鹸の香りが漂う部屋。
からっとしたこの湿度と真夜中の気配は徐々にトクベツな夜へといざなう。



いつもより素直に甘えてみたいな、なんて思えちゃう。
口ゲンカしてる時間だって惜しいの。



「へへ〜」
「何だよ、気持ち悪いなあ」
「夜は長いよ?」
「来るなって」
「いいじゃぁん、今日が最後の夜だしぃ」
「るさい、うるさいっ」
「ふふっ、いいよ、今夜はもう眠らなくて・・・・」



そう言って。
あたしはちょっと強引にあなたの上に重なった。



664 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:18


665 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:18



ブ―――――



「早っ!!!」
「もう来たの?」

さっき頼んだブレックファスト。
メンバーには申し訳ないけど、最後の日くらい二人でまったりお部屋で朝食なんてのも許してもらっちゃおうかなって。
メニューと格闘しながら片言の英語でやっと頼んだのがほんの10分前。

あたふたとTシャツを羽織って。よっちゃんがドアの方に駆けていく。

「HEL―――?????」

「おっはよ〜〜!!ああああ、やっぱこっちに来てたんだあ!!」

ののっっ????

一気に部屋に突入してきて。
あたしなんてまだシーツに包まったまんまで・・・・・


「やぁらしい〜〜!!梨華ちゃんエロ〜い!!」


むき出しになった肩をペチペチと叩く。
あわてて床に散乱されたあたしの服をこっそり拾い上げるよっちゃん。


何で6時前から起きてくるわけ〜〜??


「だって最終日だもんっ!突入しろってモーニングコール来た」


でへへって笑うのの。
そのご機嫌な様子で。共犯者は誰だかすぐわかっちゃう。
そりゃあそうだよね、向こうはもうお昼前だもの。
666 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:19


ブ―――――



「はいはいはいはい〜!!」

どすんとベットから飛び降りて。
ドアのほうへとUターンして走っていく、朝から元気いっぱいの姿に。
あきれるように二人で顔を見合わせて。



あたふた肝心なものを探してたら

「梨華ちゃん、ここ」
よっちゃんがあたしの枕の下に隠してたらしいブラを引っ張りだしてきて。
シーツの中でこっそりと身にまとった。


「さんきゅーさんきゅー、よっちゃん、チップだって〜」
「あ、はいはい」

短パンのポケットからあわてて小銭を出してるよっちゃん。

ののはニコニコしながら、美味しそうに朝食の盛られたワゴンを運んできて、
あたしの前を素通りしてバルコニーへと進んでいった。
667 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:20
「いやあ、いい朝だね〜。空気がスガスガシイ〜〜〜!!!」

所狭しと並んだ色とりどりのジュースやフルーツ。
部屋の主より前に中央に陣取って。
ナフキンに包まれたフォークなんて開いちゃって。
もう食べる気マンマン。



まあいいけどね、あたしもよっちゃんもほとんど眠ってなくて。
あんまり入らないと思うから。


「ねえ、急いで食べて出かけよ〜よ。のんが残り片付けとくから二人ともさっさと支度して」
「だ、だって飛行場に12時集合でしょ」
「大丈夫だよ〜、ねぇ行こうよぅ!!おみやげ買いに!梨華ちゃん負けたじゃん」

668 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:21
かなり長くなってしまった電話のあとに。
じゃあ、この電話代をかけて、なあんてののがトランプを切り出して。
その上言い出しっぺのくせにあっさり負けて。
もうっなんて悔しがりながらもどこか嬉しそうだったくせに。
「今度はおみやげをかける」ってエンドレスで勝負か続いてしまって・・・ってこれは半分以上あたしのせいなんだけど。


リクエストされたのは、時間のとれないあたしたちをさりげなく気遣ってくれた、
空港にも十分置いてあるようなごくありふれた品物。
でも。
ちゃんと三人で選びに行きたいなって。

同じようなことを考えてたらしいよっちゃんが仕方ないなあって顔をして笑って。
確認するようにあたしの顔をちらっと見てから声に出した。

「・・・タクシーで直接飛行場に行くっていっとけばいいか」

「ねえ、でもこんな時間からお店って空いてるっけ・・?」

「大丈夫だよ〜!行けばなんとかなるって!」
669 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:21


670 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:22
取り急ぎ荷造りしてマネージャーさんに頼んで。
絶対時間通りにって何度も釘をさされてタクシーに乗り込んだ。

地元の子が多い、郊外のショッピングセンターに向かって何度か目の信号を曲がったところで、
助手席に座っていたよっちゃんが振り向いて。

「あのさ、お店開きだすまでちょっと時間あるみたいだから寄りたいとこあるんだけど・・・いい?」
「どこ?」
「あ、ううん、ちょっと・・」

それからモソモソとジーンズのポケットを探って。
折りたたまれたメモ用紙みたいなのを取り出して、運転手さんに見せていた。
片言の英語と日本語の応酬。
なんかパブなんとかって単語は聞こえるんだけど。
671 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:23
「ウエィトウエィト。オーケー?」

15分くらい走ったところで車が止まって。
よっちゃんは運転手さんに声をかけてから一番に車から外に出た。

けっこう横に長い白い建物。
外から見る限り、なんてことはないごく普通の事務所のような。
ここ、なに・・・?


「しつれ〜しま〜す」
こっそりと日本語で言いながら、中へ入っていくよっちゃんに続いて。
あたしたちもきょろきょろしながらその後に続いた。

「いいの?入っても・・」
小声であたしに聞いてくるのの。
さあって首を振りながら恐る恐る背中を追う。
672 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:23
多少狭めの圧迫感のあるような廊下を抜けると
突然明るく視界が開けた。
表から見た姿からは想像がつかないような、よく手入れされた中庭。



青々とした芝生と。四隅に植えられた色とりどりの花。
こっちでしかお目にかかれないような、鳥の頭のような形をした花々の中心に
白いプルメリアの花が所狭しと咲き誇っていて。

花に見とれながら、中庭をぐるりと囲むように続いている回廊を
奥へと歩いていくよっちゃんの背中について歩く。
673 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:26
開け放されたドアの入り口にかけられた金色の額縁。
ローマ字で書かれた日本人らしい見知らぬ名前。





ここって・・・・






天井まで届く大きなパイプオルガン。
長いすの中央を一列に繋ぐ白いリボン。
正面にかけられた大きな木製の十字架と、
シンプルな木製の二本の燭台だけが載せられた木の祭壇。
ところどころに飾られた白と緑だけのアレンジメント。


大きくとられたたくさんの天窓から明るい陽射しが一面に差し込んでいて。
今まで勝手に描いていた特有の仰々しさや派手なイメージとはかけ離れた、
小さいけれども、白と木肌の色だけが紡ぐあたたかなぬくもり。
674 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:27
言葉も出せず、
しばらくみとれていると。
振り返ったよっちゃんが。あたしを見つめて小さく笑っていた。



「すごい恰幅のいいお姉さんが、入場のときにアヴェマリア独唱してくれるんだって。
 部屋いっぱいに響いて、それがすっごい感動するって言ってた」


え・・?どこでそんなこと・・・


「アヤカから教えてもらってた。まさか今回見にこれるとは思ってなかったんだけど・・・」

あたしから視線をそらしながら。
照れくさそうに首を指で掻いている。

「いいじゃん、ちょっと見たかっただけだってば」

って。

ちょうど、あたしの目の高さくらいにある耳朶が少しずつ赤く染まってくのが見えたから。
675 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:27
ずるいよ、よっちゃん。
ただ見に来ただけなんて言うくせに。
いつも通りぶっきらぼうに言うくせに。

そんなふうに照れられるとあたしだって平気ではいられなくなっちゃうじゃん・・・


頬がカーッと熱を帯びる。


「ふうん」ってかろうじてそっけなく一言だけ返して。


ずるいよ、よっちゃん・・・
肝心な事なんて何一つ言われてるわけじゃないのに。
すっごく意識しちゃってるもん・・・あたし・・・
676 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:29
「ねえ、ど〜したの?」

妙な距離を保ったまま。
長椅子の向こう側にすら近づけず、無言のまま立ちつくしていたあたしたちにお構いなく。
赤い絨毯の上を平気で歩いて祭壇まで近づいていったののがくるっと振り返り。

ぎくしゃくしたまんまのあたしたちを見てニヤニヤ笑って。
勝ち誇ったような表情をしてズンズン歩いてくると
あたしたちの真ん中に入り込んで、ニヤリとしたまま交互に見上げた。
両腕を絡めてきてなんだかすごく嬉しそうにしている。
677 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:29
「コンニチワ」


突然後ろから声をかけられ。
びくっとして振り返ると入り口に白い服を着た男性がいつのまにか立っていらっしゃって。


神父さま・・・?


突然の侵入者であるあたしたちを見咎めるふうでもでもなく、
ただニコニコと笑って、一番後ろのベンチのほうを指差した。


え?座っていいってこと・・?
えっとぉ・・・

この状況をなんて説明すればいいの???
え、英語??


まさかこんな普段着の私たちを見て、参列者だって見間違うはずはないと思うんだけど・・・
678 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:31
おろおろと隣の様子を伺ったら。

よっちゃんは自然な笑顔を返して。
ムリに言葉を探そうとするでもなく、小さく顔を横に振った。



体を真正面に向けてすぅっと息を吐いて大きな木製の十字架を見上げて。

大きく見開いた瞳で。
瞬きもせずにじっと正面を見据えて。


・・・・よっちゃん・・・・?



唇をくいっと結んだまま。
とても神妙な表情で。


あたしは。
視線の端で。
その凛とした横顔をそっと見つめ続けてた。




・・・ひとみちゃん・・・・・・・








それから。
きちんと神父さんの方を向き直って、深々と頭を下げ。
とても穏やかに静かな笑みを返して。
あたしたちの手をとって元来た道を歩きだした。


「あ、ねえ・・・」


黙ったまま進み出すから、あたしも慌てて振り返って。
ののと一緒にぺこりと頭を下げると、優しい笑顔が見送ってくれた。
679 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:32
何も会話を交わさないまま、中庭の回廊の真ん中に差し掛かったあたりで
向かい側から恰幅のいい女性がゆったりとした服を身につけてやってくるのが見えて。


あれ?この人ってもしかして・・・



すれ違い様ににっこりと笑って、アロハなんて気軽に声をかけ通り過ぎていった。




「ねえねえ、よっちゃん、今の人ってさぁ・・・」
「やったぁ〜!もうちょっと待ってようよ。アヴェマリア、聞けるかもだよ!」

ののはそう言ってあたしたちの手をほどいて。
後を追いかけようとくるりって方向を変えた。


中に座っているのはさすがに恐れ多くても。
この中庭でこっそり聞かせてもらうくらいなら・・・


そうしたら。


680 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:33
「のんっ」

よっちゃんは離された手をきゅっと捕らえた。



右手にのの。
左手にあたし。



ちょっと強引なくらいの勢いでちゃんと握りしめて。



「また、来よう」



ボソっと呟く。




かすかに。ほんとにかすかにだけど。
握りしめられたあたしの左手に力がこもるのがわかった。




ああ、そうか。
また来ようね。みんなで。




「そだね」



強く握り返す。


681 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:38

「あっ、でも写真だけ・・、ね?」

甘えるような目つきでよっちゃんを見上げてののは走り出す。


「うぁっ、ねぇ梨華ちゃん、後ろ後ろ。ほらっ!」


ののの指さすほうを見上げたら。
回廊の天井に遮られて気づかなかったけどこの教会って・・・


「あっ・・・・ねえ、よっちゃん、ここの外の壁の色―――」


よっちゃんは驚く様子も見せず、
ちょっと照れくさそうにあたしの手を離して歩き始めた。

薄いピンク色に縁取られたその外観をおさめようと、ののは中庭の中央に入り込んで携帯を向けている。
682 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:38
あたしは小走りでよっちゃんを追いかけ。
構わずに腕を絡めた。
背中でぱしゃりって音がした気がしたけど。
体ごとぴたって腕に寄り添うと、それ以上の抵抗はあきらめて、黙ってなすがままになった桃色の頬。


「ほら、行くよっ、みやげみやげ。」
「え?あ、ちょっと待ってて。中も〜!!」

あたしたちの後ろでニヤニヤしてたののが、急いで振り向いて元来た道を急ぐ。


「のん、時間なくなるよ〜、行こっ?」
「ちょ、待ってて。すぐだから、すぐ」
「もう、しょうがねぇなあ」
683 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:46
白いプルメリアの花いっぱいの中庭。
甘美なカクテルのようにほのかで優しい香りに包まれながら。
あたしはまたよっちゃんの顔を見上げていた。


懸命にメールを打ちながら歩いてくるののを見つめている横顔は、
とてもおだやかで優しい。





あのね、よっちゃん。
あたしね?
あたしだけを見つめてくれてる時のとろけるような顔も大好きだけど。
こういうあったかな横顔を見上げてるときにいっちばん幸せだなあって感じてるの、知ってる・・・?


















684 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:46


685 名前:プルメリア 投稿日:2006/11/14(火) 22:46


686 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/14(火) 22:46
以上です。
687 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/15(水) 01:14
更新お疲れさまです。そしてありがとう。
絆とか色々とほんとに素敵なお話だなぁ……
うまく伝える言葉を知らないから、ほんとにありがとう。
688 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/15(水) 01:16
更新お疲れ様です
素敵な話をありがとうございました
689 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/15(水) 01:30
涙が止まりません
心が暖かくなるお話をどうもありがとうございました
690 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/17(金) 23:58
更新お疲れ様です。

いしよし 最高!!
4期 最高!!!
691 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/18(土) 11:34
リアルタイムで素敵なお話をありがとうございました。
さり気なく、でもガッチリとした縁を感じました。吉澤一家最高です。
692 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/27(水) 07:11
あいぼ……いやなんでもない
693 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 21:20
新作期待しちゃだめですか?
勝手ながら楽しみにしています。
694 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/08(火) 00:38
卒業だし、同じく勝手ながら期待してます。
695 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/08(火) 00:47
あがっちゃったね
696 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/08(火) 01:04
わ、すみません!全角/半角ミス…
697 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/14(木) 16:16
いいですよねー
期待しちゃいます。
698 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/12(水) 00:02
 
699 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/12(水) 00:04
たくさんのレスをいただき、本当にありがとうございます。

今回はただのおバカ話なので、
気楽な気持ちで読んでいただければ幸いです。
 
700 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/12(水) 00:05


  『 本能と煩悩 』  


 
701 名前:本能と煩悩 投稿日:2007/09/12(水) 00:05
 
「ひーちゃん?」
「ん?」
「ちゃんと飲んでるぅ?」
「飲んでるよ、ってか眠そうじゃん」


そんなこと無いって言う声がもう溶けてる。
お酒弱いくせに、今日はえらくがんばって飲んでた。


「もう帰ろうかな。梨華ちゃん明日仕事でしょ?」
「リハだけだもん」
「リハが大事だっていつも言ってんじゃん」
「帰っちゃうの?」


ぎゅーっと服を掴んで上目遣い。
負けそうになるがなんとか堪え……


 
702 名前:本能と煩悩 投稿日:2007/09/12(水) 00:06

「かえっちゃヤダ」


堪えようと思ったけど、ダメ押しの甘い声に立ち上がれなかった。


「ね、ひーちゃん。帰っちゃだめぇ」


どうやら声のせいで立ち上がれないんじゃないみたい。
えっとこの状況はいったいなんだろう?

自分の状況を理解するのに、あたしはきっかり15秒を要した。




 
703 名前:本能と煩悩 投稿日:2007/09/12(水) 00:07


 
704 名前:本能と煩悩 投稿日:2007/09/12(水) 00:08
どっから出たんだって馬鹿力で押し倒されて。
そのまま馬乗りで見下ろされてますが何か?
って誰に切れてんだあたしは……


「ねえ、ひーちゃん?」
「は、はい?」
「あたしって〜そんなに魅力無い?」



いやいやいやいやいや、ちょっと待て。
この体勢で「魅力無い?」とか聞いてくる人、普通いないから。
すっごいオイシイ眺め……って何考えてんだあたし。
 
705 名前:本能と煩悩 投稿日:2007/09/12(水) 00:08
「梨華ちゃんどうしたの?」
「どうしたの?じゃなくって魅力無いのかって聞いてんだろ?」


さっきまでの微笑が一瞬で厳つい表情に変貌した。
うわっ、レイカ様だ。とか暢気なことを言ってる場合じゃない。
首絞められそうだよ、怖いよサトダマン助けてっ。


「えっとめちゃくちゃ魅力的だと思います」
「なんで敬語なのかな?」
「いや、なんとなく……」


だって目が怖い。言い方だけ可愛くなったけど、目が笑ってない。
ついでに気づいちゃった、胸元の薔薇がチラチラ見え隠れしてる。
 
706 名前:本能と煩悩 投稿日:2007/09/12(水) 00:09
「どのあたりが魅力的?」
「どのあたりって……」


思いっきり目が薔薇に釘付け。
あぁ、もう何処見てるんだあたしは。


「言えないの?ねえ、言えないのひーちゃん?」


お願いだから上でカラダ揺らさないで。
なんか変な気持ちになっちゃうじゃん。
 
707 名前:本能と煩悩 投稿日:2007/09/12(水) 00:10
「ありすぎて、どれから言おうかな〜って」
「考えなきゃ出ない?」
「いや、言葉にするのは難しいって意味だよ」


その瞬間、瞬間に思うことを言葉にしようとしたら
なんかちっぽけになりそうで言えないんだ。

どこが魅力かって、いくらでもあげられるだろうけど
並べ立ててしまったら価値が薄れる気がするし。



「じゃあね〜梨華のことすきぃ?」

「好きだよ」

「だいすき?」

「大好き」


いまは逆らっても仕方ない。素直にオウム返し。
一気に熱くなってきた。顔がきっと火照ってる。
 
708 名前:本能と煩悩 投稿日:2007/09/12(水) 00:10
「うふふ、ひーちゃんかわいい」


甘ったるい声に優雅な笑みを浮かべて、
スーッと細い指先があたしの頬を撫でる。
な、なんかえっちぃ……ダメだ空気を変えよう。
このまま流されたら、あたしまでおかしくなっちゃう。


「ねえ、梨華ちゃん」


あたしの呼びかけに首を捻って「なあに?」って問いかける。


「帰らないから、下りて」
「ヤダ」
「ちょっ…」


ヤダの次の瞬間、思いっきり抱きつかれた。
あぁ、いろいろと柔らかい。ってほんとバカだろあたし。
 
709 名前:本能と煩悩 投稿日:2007/09/12(水) 00:11
「下りようね」
「このまま寝るのぉ」
「はいはい、わかりました〜。でもここじゃ風邪ひくから」
「あっちで一緒に寝てくれるの?」


あっちってどっちかなって確認したら、ピンクな寝室。
この際あっちでいい。この体勢よりは絶対にマシなはず。


「ほんとに帰らない?」
「帰らないって」
「ここ退いたら、帰る気でしょ?」
「そんなことしないから」


カラダを起こしたけど、下りる気は無し。
なんかふりだしに戻ってるし、さっきより薔薇が全開で見えてるし。
あたしの精神状態が危険だし……
お願いだから下りて、梨華ちゃん。
 
710 名前:本能と煩悩 投稿日:2007/09/12(水) 00:11
「帰らないから、下りて?」
「下りなきゃダメ?」


ダメ?っていう前に、どうして乗られてるのかさっぱりわからない。


「梨華ちゃんはどうしたいの?」
「ひーちゃんと寝たいの」
「ね、寝たい……あぁ、睡眠とらなきゃ仕事あるもんね」


ものっすごい無垢な顔で「寝たいの」って言うからには
深い意味は無いはず。あっても困…らないんじゃないか?って違う。

酔った勢いで……とか絶対にダメだ!
あたしからは指一本触れないんだからな!!
って力強く何を誓ってるんだあたしは。 
711 名前:本能と煩悩 投稿日:2007/09/12(水) 00:12
もう、なんだかめんどくさくなってきた。
まだ暑いしここで寝ても大丈夫だろう。


「よしっ、寝るか」
「うん!おやすみ、ひーちゃん」
「おやすみ梨華ちゃん」




あたしが抱き枕にされるのは、この5分後のことだった。
まさか薔薇に頬埋めて寝る事になるとは思いもよらず。


しばらく薔薇を純粋な気持ちでは見れないな……





 
712 名前:本能と煩悩 投稿日:2007/09/12(水) 00:12


 ******
 
 
713 名前:本能と煩悩 投稿日:2007/09/12(水) 00:13
あれから数日後、嬉しそうに出来上がったシングルをくれた。


「よっすぃ?」
「新曲、じゃじゃ馬ですか……」
「どうしたの?」


こてって首を傾けて聞いてくる梨華ちゃん。
うん、今日もかわいい。
じゃなくって憶えてないんだね、人に馬乗りになったこと。
714 名前:本能と煩悩 投稿日:2007/09/12(水) 00:13
「よっすぃ!鼻血が出てる」


思い出して鼻血とかほんとヤバイ。



「ねえ、ほんとにどうしたの?」
「いや、なんでもない。のぼせたのかな」
「そっかぁ、暑いもんね〜」


うん、いろんな意味で熱いよ梨華ちゃん。
夏が終わっても、まだまだ熱い。
胸元の蝶を見ながら想った。



 
715 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/12(水) 00:14
 
716 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/12(水) 00:14
 
717 名前:おわり。 投稿日:2007/09/12(水) 00:15
以上です。
718 名前:名無しさん 投稿日:2007/09/12(水) 00:35
一気にスレ見ました!!
様々ないしよしがあって楽しかったです
719 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/12(水) 00:50
更新ありがとうございます!
よっちゃんになりたい
新曲きくたびに思い出しそうww
720 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/09/12(水) 01:30
更新ありがとうございます!
梨華ちゃんの騎…ぶふぁっ!!
俄然新曲が楽しみになってきましたww
721 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/12(水) 10:13
乗られたいってか乗ってみた(ry
よっちぃ耐えなくてよかったのにw
722 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/13(木) 02:44
更新お疲れ様です。
久しぶりに作者様の甘いしよしが読めて嬉しいです!サンクス!!!。
723 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/19(水) 00:18
>>718-722
レス本当にありがとうございます。とても嬉しいです。

事実は小説よりなんちゃらなのでうまく書けないのですが、
またまた気楽に読んでくだされば幸いです。
724 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/19(水) 00:19


『 あいしてる 』

725 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:19


「肌蹴たらイチコロかもよ?」



相談した相手が悪かったのかな……。
ちょっと後悔するが、そんなわたしの心配なんてどこ吹く風で
なおも保田さんはアドバイスをしてくれる。



「ホテルの部屋が一緒になったら、っていうか無理やりにでも一緒になりなさい!
 そしたら夜は浴衣を着て寝て……」



寝乱れたりしたら堕ちるわよ、ね?石川ならできるはずよ!
なんてめちゃくちゃなことを笑顔で言う。
726 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:20


「石川、あんたの武器は使い切るのよっ!?」


握り締めた拳を、天に向かって力強く突き出す保田さん。
その目があまりに燃えているから、わたしは頷くことしかできなかった。




 
727 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:20


 ******


 
728 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:20
「最近どうなの?」


久しぶりとか、元気?とかじゃなく
保田さんの第一声は「最近どう?」だった。


「どうっていいますと?」
「あんたにどうって聞くときは、梨華ちゃんのことに決まってるでしょ」
「はぁ……」


決まってるでしょとか言われても、誰が決めたんだ?
っていう疑問は、口にしないで水と一緒に流し込んだ。


「梨華ちゃんなんて呼んでましたっけ?」
「あら裕ちゃんだって最近はそう呼んでるわよ」
「まあ、そうみたいですけど……」


不満でもあるの?みたいな威圧的な視線だけど
なんか保田さんは怖くない。
誰からも愛されるキャラクター。得してるよね。
729 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:21
「梨華ちゃんがどうかしたんですか?」
「なんか落ち込んでたのよね。心当たりは?」
「別に……」


無いと言おうとして考える。
最近よく一緒に仕事をするが、様子が可笑しかった気はする。


「変ではありますね」

「具体的に言うと?」

「えっと普段からテンション高いほうですけど、あたしと二人でも
 ありえないくらい高かったりして。なんか無理してるっぽく感じます」

「あんたはどうなの。梨華ちゃんといて何か変わったことはある?」

「無いです。前よりも規制が無いですから」


いろいろと規制があったため、あからさまに距離を置いた時期もある。
その代償が不仲説。たしかに募るイライラはあったが、解消法もあった。
番組内で、微妙なラインを保ちつつ絡むことを楽しむ事に決めたから。

モニターに映る様々な表情を見ているだけで、自分がありえないくらいに
ニヤついているときもあった。
730 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:21
「とりあえず欲求不満みたいだから可愛がってあげなさい」
「不満ですか?」
「あんたよりお子ちゃまなのか大人なのか悩んでるみたいよ」


悩んでる?あんなに明るくテンション高くて素敵にキショいのに?
どこをどう切り取ったら悩んでるとなるのか……。

でも、待てよ。昔とは違うから簡単に判断してはいけない。
表立って悩んでる顔をしないだけかもしれない。
そうなのだとしたら、あたしが気づいていないだけで
彼女は何かに悩んでいると言う事になる。


「なにか言ってました?」
「いろいろと愚痴は聞いたわよ。長いのよあの子の話」
「すいません」
「なんでよっすぃが謝るのよ」
「いや、なんとなく」


なんとなくだけど、あたしのせいだって思うから。
こないだ酔った勢いで迫られたけど、あれも不満が溜まってたからかも。
そう考えると『魅力無い?』と聞いてきたことも頷ける。
 
731 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:21
「あたしからも相談していいですか?」
「どうぞ。聞くくらいしか出来ないと思うけど」
「充分です。誰かに聞いてもらいたかったんです」



自分の今思うことを素直に聞いてもらった。
あたしの話を黙って聞いてくれた保田さんは、最後に大きな溜息をついた。


「いま話したことを、そっくりそのまんま石川に伝えなさい」


あんた達はどっかで繋がってるから大丈夫だとは思うけど、
時には言葉にして伝えるのも大切よ。二人ともカタチは違うけど繊細だから。

間違っても相手を思う気持ちに負けないこと。
良かれと思ってしたことが裏目に出たりすることもある。
だから、ときにはワガママに自分の気持ちをぶつけなさい!


一つ一つの言葉が胸に沁みていく。
熱く語るケメちゃんの姿は笑っちゃうほど必死だ。
でも、笑えない。こんなに有難い先輩がいるって誇りに思う。
732 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:22
 

「もう子供は巣立ったんだから、心置きなくぶつかりなさい」


無邪気に笑うあの子達の顔が浮かんで、すこし泣きそうになった。
そっか、あたしと梨華ちゃんはそっちに手いっぱいで
ケンカする暇も余裕も無かった。

甘い言葉や仕草も、当たり前になって
夢中で求め合う時期も越えて、あたしは勝手に思い込んでた。

心が繋がってるから、離れても平気だよって。
彼女だって不安になるはず無いって。


いつでも全力な彼女の傍にいるためには、あたしは冷静である必要があると
そう勝手に決めつけていた。
733 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:22
「考えすぎないで自然でいいんじゃない」

「自然にですか?」

「あんた達って何もしないほうが、バカップルよね」

「そう見えますか?」

「唐突なのよ、いつでも。一緒にいないのに急に名前出すから周りはたまったものじゃない」



なんとなく心当たりはあるので、適当に笑って誤魔化す。
保田さんは去り際に「また報告に来なさいね」と告げてニヤッと笑った。


 
734 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:23

  ◇  ◇  ◇

 
735 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:23
「よっすぃ?」


急に来たあたしを見て、梨華ちゃんは不思議そうに小首を傾けた。


「えっと、会いたくて……」


自分で言ってあまりの恥ずかしさに汗が噴出す。
『上出来よ!』って微笑む保田さんが浮かんで寒気が……。
よし、すこしだけ汗が引いた。ありがとう保田さん!
 
736 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:23

「どうしたの?」
「どうもしないけど、なんで?」
「ううん。わたしも会いたかったから嬉しい」


眩しいほどの笑顔にクラっとした。
久々に直撃した気がするのはなんでだろう?

あっ、そっか。真っ直ぐ見ない癖がついてたからだ。
それに、横顔けっこう好きだから。


「ねえ、よっすぃ?」
「ん?」
「中に入って。暑かったでしょ?」


ドキっとした。
汗で頬にへばりついてた髪をどけられただけなのに……


 
737 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:24


 ******

 
738 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:24

何かが変。さっきからよっすぃの態度はオカシイ。
素直に「会いたかった」なんて言う人じゃないのに。


「何か飲む?」
「えっと、とりあえず話したいことがあるんだ」
「話したいこと?」


黙って頷いた表情があまりに真剣で、こわいくらいだった。


「保田さんに会った」
「えっ?」


相談したことがばれただろうか?
だって最近のよっすぃは指一本わたしに触れてくれない。

最初はお互いにリーダーの立場で忙しいから仕方ないと割り切っていた。
だけど、卒業してもそれが続いていつしか不安に変わった。
739 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:25
怒ってるのかなって思ったのに、ありえないくらい優しい笑顔。
笑顔をもらっただけなのに、バカみたいにどきどきしてる。

なのに冗談でも『好き』って言えなくなって、どれくらい経つだろう。
好きなタイプを聞かれても、遠まわしにしか言えなくなったのはいつからだろう?
無邪気に『よっすぃがタイプ』って言えなくなってた。



「素直にぶつかれって言われたんだ」

だからって訳でも無いけど……なんて呟いたよっすぃの顔は真っ赤。
どうしてだろう、そんな姿に安心して気持ちが落ち着く。
あなたの胸に手を当てたら、同じくらいどきどきしてるのかな?


「梨華ちゃんがなにを相談したのかはわかんないけど」
「た、たいしたことじゃないから気にしないで」
「気にするよ。あたしが不安にさせてたんだったら…やだもん」


なんて泣きそうな顔で唇をへの字にまげる。
740 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:25
「言わなくっても伝わってるって思ってたんだ」


うん、伝わってたよ。視線や仕草で愛されてるなって。
ただ欲張りになってただけだと思う。


「自惚れかもしれないけど、梨華ちゃんに嫌われない自信もあった」


そうだね、あたしなんでもよっすぃに結びつけちゃうし。
すきすきビームでまくってるって、よく注意されるし。


「変に大人になっちゃって。ダメなんだ、あたし」

「ダメ?」

「梨華ちゃんのこと好きすぎて、傍にいるだけで満たされて。なのに…」



言葉を切ったあなたの瞳が寂しそうに揺れた。
741 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:25

「ダメなんだ。冗談では触れなくなってる」
「触れな……」


それって、それって……あのことだよね?


「梨華ちゃんのぜんぶがほしい」


一瞬ですべての音が消えた。
ただ見つめ返すことしかできなくて、わたしは固まってしまった。

永遠にも思えるほど長い時間、見つめあっていた。ように感じた。
実際には、ほんの数秒だと思う。焦った声が静寂を吹き飛ばしたから。
742 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:26
「ち、違う。引かないで、梨華ちゃん!あ、あのさそうじゃなくって…
 全部が欲しいとか思っちゃうから、だから、あのなんだ…
 あれだよ、あれ。理性がぶっ飛んだらあたし何するかわかんな」

「引かないよ」


言葉を遮ったわたしに不安そうな目を向ける。
ニッコリと笑ってみせる。あなたが笑えるように精一杯。

なんだ、悩まなくっても良かったんだって安心したもん。
だから、あなたにも笑ってほしい。


「求めてくれてもよかったのに」

「梨華ちゃん……だけど、そうなったら優しくする自信とかなかったし」

「わたし、意外と強いよ?だからだいじょうぶ」

「傷つけたくないんだ」

「傷つかないってば。でも、ごめんね」
743 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:26
「なんで謝るんだよぉ」

「だってこんなに苦しめてたなんて知らなかったもん」

「こんなときだけ素直に謝るなんてずりーよ」


ぐしって鼻をすする音に気付かないフリで抱きしめた。

前ならぜったいに素直にこんなことされなかったのに。
甘えてくれるようになったんだって、改めて実感する。


「ねえ、ひーちゃん」


腕の中からジーッと見上げられる。
744 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:26
「キスしていい?」


返事を待たずに口づけた。
触れた唇が、どんどん熱をおびていく。


ただ、いまここで、キスしたかったの。


お互いに呼吸を止めて、ただ熱を感じていた。
静寂に響くのは鳴り止まない心臓の音だけ。

どちらともなくゆっくりと唇をはなすと
すこし息があがっていた。
745 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:26
「なげーよ」

不貞腐れたように唇を尖らせて抗議。


「だって、キスしたかったんだもん」

あたしも負けじと唇を尖らせて抗議すると
ふっとやさしい笑顔に変わる。


「嬉しいよ。なんかよくわかんないけど嬉しい」

「すこしはラクになった?」

「あぁ、もう悩まない事にした。グダグダするのもやめる」


そういってわたしを真っ直ぐに見つめる。
あなたの凛とした眼差しに迷いは無い。





 
746 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:27
 

「愛してる」


確かめるようにゆっくりと囁かれた言葉に、
ドキドキが加速していく。


ぐらぐら揺れて不安定だった心のバランス。
いまはもう崩れないほど安定している。



なんでだろう。
自分のすべてから気持ちなんて溢れ出していたのに、
届いていなかったなんて……なんでだろう。
747 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:27
「愛してる?」


もう一度、今度はわたしに確認するような声とニュアンス。

そうか、伝え合っていたと思っていたけど実は一方通行で。
こうやって確認したりしなかったから、不安になって。


「うん、愛してる」


ずっとずっと想ってたのに、言葉にしなかった。
こわかったのかな、その響きに負けそうで。
だけど口に出せば出すほどに……


「愛してる」


強くなれる気がするよ。
だから、これからはもっと言葉にしてみよう。




748 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:27

 
749 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:28
「ねえ、ケメ子になに相談したの?」

「ん〜っとね……」


なになに?ねえ、なんだったの?なんて大きな目を
さらに見開いて問いかけてくる表情があまりに子供でたまらなくなる。
かわいいって思いを込めて、ぐしゃぐしゃに髪を撫でた。


「な・い・しょ」

「はぁ?」

「だって、もう解決したから」


せっかく貰った浴衣一式も無駄になった。
あのまま、自然な流れで……その、そうなっちゃったから。
750 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:28
あたしの武器って意味も薄々は解ってたけど
そんなのほんとは使いたくなかった。

だって、やだもん。
そんな目でだけ見られて愛されても。

もっと純粋に愛してて欲しい。


その期待に寸分の狂いも無く……
ううん、それ以上によっすぃは素敵だった。


どんなに昂ぶっても優しい人。

よっすぃだから、わたしはすべてをあげられる。
751 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:28
ねえ、よっすぃ

四六時中わたしのこと考えて、なんて言わない

でも眠りにおちる、無防備なその瞬間には

わたしのこと1秒でもいい、想い出して……



きっとあなたの夢に逢いにいって、目覚めの笑顔を約束する
 
752 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:29
愛してる

耳に残るあなたの声


なんどもなんども繰り返し、聴こえた



愛してる

瞼にふれる優しい感触


寝顔見てるつもりだったのに




愛してる

喉を震わせた想いはちゃんとカタチになったかな……






愛してる





 
753 名前:あいしてる 投稿日:2007/09/19(水) 00:29

 
754 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/19(水) 00:29
 
755 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/19(水) 00:30


おわり。
756 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/19(水) 01:39
続きだ!?ケメコよくやったwww
あまい夢がみれそうですありがとう!!
757 名前:名無しさん 投稿日:2007/09/19(水) 10:26
つづきが読めて嬉しいです
心があったかくなりました
758 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/09/19(水) 14:58
タイムリーな内容でお腹一杯です!
ご馳走様でしたw
759 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/20(木) 03:01
作者様更新ありがとう!
あまーいいしよし読めて幸せ(ポワ〜ン)です。
760 名前:作者 投稿日:2008/01/12(土) 00:20
保全します。もう少し書かせてください。
761 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/13(日) 00:12
ノンビリとお待ちしてます。
762 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/13(日) 00:40
書かれると聞いて案心しました。
同じくノンビーリ待ちます。
763 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/16(土) 17:42
いしよし熱が本人達から高まっている中、ぜひまた作者さんの新作が読みたいです!

764 名前:759 投稿日:2008/08/12(火) 03:17
作者さまのカフェオレのような甘い
いしよしがまた読みたいです。プリーズ!カムバック!!!
765 名前:作者 投稿日:2009/06/22(月) 01:36
>>756-759
>>761-764
本当にどうもありがとうございます。

とんでもない発言の夜
少し前に書き始めていたものを勢いにのってw

時系列は無視してください
766 名前:作者 投稿日:2009/06/22(月) 01:36


767 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:37



『ワタシの長い夜』




768 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:38


すっごく困ってる。
つまりあの人たちにかかわってるからこんなことになってるんだけど。


「ねぇ、ほんと、頼んだよ」
「いや、そんなこといわれたって・・」


手の中に強引に詰め込まれた紙切れ。
トイレへと続く細い廊下の角、
行き止まりになった店の片隅で。
逃げるわけにも行かず、さっきと同じ状況で追い込まれて二人目。


同じお仕事に関わってたから、なんていうことより。
断りきれないわたしの性格からくるもんだっていうのは百も承知。


わたし的にはオススメはどっちかっていうと・・・



769 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:39
とりあえず手を洗うのに邪魔で唇ではさんで。
えいやってドアをあけ席に戻ると
右と左の端っこにそれぞれが座ってて。
片方はスタッフさんを含めた男軍団に囲まれ
もう片方は女性出演者に囲まれて。


吉澤さんはわたしを見つけると立ち上がって
「つきあって」って小声で言って外に拉致した。
白い指で器用にメンソールを取り出して
街路樹の下でぷかっと白い息を吐く。


「カラオケだってさ、行く?」
「よしざーさんはどーすんの?」
「ん〜、帰りたいんだけどさ、さすがにそれは無理かな」


それからかがむようにして店の中を覗き込んで
相変わらず盛り上がってる様子を見てふっと笑った。


「けっこう飲んでるね、石川さん」
「あそこからがしぶといよ。まわりも大変じゃね?」
なんて。



ポケットの中の紙をぐしゃっと握り締めた。

770 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:39

「あんたも大変だね」って意味深に笑ったサトダさんの言うことがわかった。
久々だったからただうれしいってだけで。
二人の様子は小耳に挟んではいたけれども。
さすがにオシゴトだからみんながいるときはしゃんとしてるんだけど
一歩楽屋に入るやいなや声色が変わるのは
はっきり言って目もそして耳のやり場に困るってもんだ。

「はぁっ」ってわざとらしく小さくため息をつくいしかーさんと。
「なぁに、どうしたぁ?」ってわかってるくせにあまーい声で誘導するよしざーさん。
パイプ椅子に座って鏡を見つめながらグチグチこぼしてるいしかーさんに。
背もたれのところにしゃがみこんでるんだけど
そのうち石川さんの髪をくるくる指に巻いたりして遊んでるよしざーさん。

夜になると当然のように一緒に消えていくよしざーさん。



卒業前ってこんなにあからさまだったかな???
いや、そのあとの日々がそうさせてたのかな?

一緒にツアー回ってた紺ちゃんからメールもらったりはしてたけどさ。


なんつうかいまだにナゾなんだよね。
この二人っていったいなに?

771 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:41
結局カラオケでも石川さんは囲まれちゃってて。
目がうつらうつらし始めた石川さんを「じゃぁそろそろつれて帰りますから」って肩をとって連れ出した吉澤さん。
石川さんの荷物を持って一緒に立ち上がった私をあわてて追いかけてくる足音が聞こえて。
「ねぇ、これ渡してもらえないかな?」
「どっ―――誰に?」
思わずどっちに?って聞こうとして。
あぁ、そういうの受けてないんですってはっきりいっちゃえばよかったのに。
「吉澤さんになんだけど・・ダメかな?」

あら、趣味がいい!!

けどさ、あなたも演劇を目指すヒトなら二人の視線が絡んだときのあの状況を
みてわかんないって感性じゃ大成しないんじゃないかって思うよ、申し訳ないけど。
772 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:43
「これ、吉澤さんに預かったんだけどどうする?」

移動のタクシーの中。
右隣に座ってるよしざーさんに渡そうとしたけど
ふうん、って言っただけで興味なさそうに外を見てる

いしかーさんはコツンコツンと窓にぶつかりつつ仮眠中。

事も無げに石川さんの頭を引き寄せるとくいくいって引っ張って当然のように自分の肩に乗せてる。
一瞬目をあけた石川さんはとろけそうに吉澤さんの目を見上げてすぐにまた目をつぶって
安心したようにしなだれかかってる。



「・・・・ねぇ吉澤さん」
「ん?
「石川さんと付き合ってるの?」
「はぁっっっ?」


吉澤さんは丸い目を一層丸くして私の顔をまじまじと見つめて。

それからニヤリって笑いながら
「んなわけないじゃん。バッカじゃね?」


そう言い放ってまっすぐ前を見た。
「だってだってなんか前よりぜんぜん怪しいんだもんっ」
「・・・・・・パソコン見すぎなんじゃねえの?」

そういうこと言っていたずらっぽく笑ってる。


「じゃあさじゃあさ、これいしかーさんに渡してもいいの?」

反対側のポケットから預かった2枚の紙切れを見せると。
超余裕って顔して「渡せば?」って。
773 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:43
はぁっ、
ほんとにこの二人の関係だけはわたしはいつまでたってもわかんない。
満たされてるというか、
こういう相手がいつもそばにいてしまうっていうのはお互いにとって不幸なことに違いない。
自分を理解してワガママ放題許してくれて
きっと男だったらカッチーンときちゃうとこだって笑ってくれる、
ていうかさ、いしかーさんの愚痴に付き合えるのって地球上にほかに存在しなさそうなんだよね。
かれこれ10年もそんなことを繰り返してるのかと思うと気が遠くなる。




のんつぁん、あの二人ってどうなの?
見に来てくれた翌日に。

メールを送ったら速攻で返信。

『肉体関係には至ってないと思うよ』
っていきなりそこっ??

『なんで?』
『なんとなぁく。初々しいもん』
『あれで?』
『うん、あれで』
『まじで?』
『まじで』
『えーっ!!熟年夫婦みたいだよ。ベタベタしちゃってるの』
『まこと甘いね。あ、でもキスはけっこうしちゃってるらしいよ』
『はっ?』
『酔うとキス魔になるって誰かが言ってたんだよなぁ・・』
『どっちが?』
『よっちゃん』
『マジっすか?』
『マジマジ。あ、ケメちゃんに聞いたんだ。でもあたしんとこには来ないのよね〜って』


『いつのまにか梨華ちゃんがよっすぃの膝の上で寝てるなんてしょっちゅうあるらしいよ』

けどさ、いしかーさんの中のフェロモンは果たしてそれで満たされてるのかなとか考えてしまう私って
俗物なんだろうなってしみじみ思う。
誰があのカラダを開発したん…(ゲホッ


もしかしてあたしたちのぜんぜん知らないところで
ああいうことだってこういうことだってあっても不思議はないけど。
774 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:44
「ひーちゃん」
「ん?」
「今日はお泊りでいいんでしょう?」
「おぉ」
「ふふっ、うれしい」

そう言ったいしかーさんはまるで私の存在なんて消えうせたかのように
よしざーさんの指に自分の指を絡めるようにして首元に自分の頭を埋めた。


「マコトもくる?」
いきませんとも。


見たいような見たくないような。
知りたいような知りたくないような。
でも・・・知りたいけどね。




起きてる時間のほとんどを仕事に費やして、これまたほとんどを一緒にいたグループ時代ならともかく。
って、そのころは私もちょっとはね、いいなあなんて思うコもいなかったわけではないけど。
それぞれがそれぞれの世界に目覚め仕事とプライベートを完全に割り切ってる中で
ものすごい異色なコト。
目覚めれば目覚めるほど、外界と混ざれば混ざるほど余計に
お互いの結びつきのほうが強くなってしまってるなんてどういうヒトたちなんだろう。


「マコトもおいでよ」
やですってば。

なのに。

どういうわけか昔からいしかーさんからの頼みは断りにくい。
上機嫌でかばんをよしざーさんに持たせて
あっちふらふらこっちふらふらしながら壁に激突して部屋に向かって歩いてく。
775 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:45







「なんか飲む?」

よしざーさんが我が物のように冷蔵庫からオレンジジュースを取り出してきて私の前に置いた。
一緒に座り込もうとした石川さんに
「先入っといでよ」
「えぇ〜?やだぁ。面倒くさい」
「いっといで」
「じゃぁ、入ってきたら一緒のベットでもいい?」
「バカ言わないの」
「え〜っ?じゃあやだ。」
「やだじゃない!」
「ひどいでしょ〜?ね、マコト。
「はいはいはいはい。行った行った!!」

どこまでが冗談でどこまでが本気?
この二人にかかるとさっぱりわからない。

「ねえっ!!」
バスルームから声が聞こえて。
ったく絶対忘れてるし、っていいながら
よしざーさんはクローゼットから慣れた感じで引き出しをあけると
ぽいぽいってピンク色のジャージを取り出して洗面所まで置きに行った。

それから別の部屋に干してあったらしいバスタオルを持ってくるとてきぱきとたたんで補充しに行く。
776 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:48
「あ、石川さん、これ・・」
「なに?」
洗い髪をタオルで拭きながら速攻であがってきた石川さんと入れ違いに
吉澤さんが立ち上がったスキを見計らってメモを渡した。
捨てちゃったってなるといつまでも罪悪感とか残りそうだもん。

メアドの書かれたメモを見てうれしそうにキャハッとかって言って笑って。
「でもタイプじゃないのよね〜」
って。
まだ酔いが残ってるのかテーブルにうつぶせになりながら
思い出すような顔をした。
「顔はまあまあなんだけどさ、どうしてもいじめたくなっちゃうキャラっていうかさ」


「はぁあ、どっかにいい男いないかなぁ」

石川さんはそういって遠い目をしてみせた。


「てか本気で探してるの?」


「うぅ・・・そう言われると・・微妙なのよね〜」
そりゃあそうでしょ。

「だってさぁ、これから一から相手のことをわかってだよ?
しかもあたしのことを理解してもらわなきゃなんだよ?」
「まあねぇ」
「あたしキショイじゃんっ?」

同意したいところだけど後輩としては軽く流すしかない。


「そういうとこを認めてくれた上でなんていうの・・?
 大きな愛で包み込んでくれる王子様ってなかなかいないのよね〜」

うつぶせになったまま少しかすれたセクシーな声でそういうことを言う。
777 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:49
「でも正直いうとだんだんおっさん化してきててさぁ、
 愛だの恋だのっていうのが面倒になってきた感じ。
 会社にみつかっても面倒だしさ、隠れて会ったりするだけの気力ってなくなってきちゃってるのよね〜」

「これってオバサンになっちゃったってことなのかな」

って言いながらちょっと小首をかしげて。
自分の言葉にクスって笑った。



「結局のところどういうヒトがいいんですか?」
「うぅんと・・・大きくって〜、って背もだけど心もね」
「うん」
「やさしくって〜」
「うん」
「顔がタイプじゃきゃやだな。そこは外せない」
「で?」
「あたしのことだーいじにしてくれるヒト」
「じゃあ吉澤さんは?」
「へっ?」
「いいじゃん、もう吉澤さんで」
「そうなんだけどぉ」


そうなんだけど????


「ひーちゃんたまーに粗末に扱うんだよね〜。
 からかったりするし〜」


でも、って言いながら。
まるで何かを思い出すようにフフって意味深に微笑んで。


なんでもないよ、って嘘つけっ!!


778 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:51

「梨華ちゃんシャンプー詰め替えといたよ」
「あんがと〜」
「あと明日が古紙の日じゃなかった?まとめてあったやつ、ヒモで縛っとこうか?」
「ありがと〜、ひーちゃん大好きっ」


あたりまえのように置いてあったらしい自分用のジャージを着ると、
てきぱきと台所にあったヒモを抱えて部屋を出てった吉澤さん。


「やさしいですね〜」
「ねっ、やさしいでしょ?」

そういいながら顔をあげ、目をうっとりさせて吉澤さんの背中を見送ってる


「ほんっとに甘いなぁ、いしかーさんには」
「ふふふっ、私縛るとぜーんぶほどけちゃうから任せらんねーなんてひどいこと言われちゃうんだよ」
「でも超マメだし」

そういうと目を三日月にしてうれしそうに笑いながら
わざとらしくため息をついてみせた。


「だからさ、ひーちゃんがそばにいる限り、一生マトモなレンアイなんてできない気がするの、私」


「うるへー!ヒトのせいにすんな!」

っていつのまにか戻ってきた吉澤さんが突っ込んできて。

「だってぇ、ひーちゃんと一緒にいるとなんにもできないオンナになりそうなんだよ?」
「誰と一緒だってそうじゃん」
「そうだけど〜、どんどん退化してくよーな気がするの」

うんうん、なんか男っぽさに拍車がかかっちゃってる気がする。
よしざーさんじゃなくって石川さんのほうがね。
779 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:51
「吉澤さんは?彼氏作んないの?」
「先に作った日にゃぁ一生祟られそうじゃん?
 だから梨華ちゃんより先にはいいかな」

「じゃあさ、一生いしかーさんに彼氏ができなかったときには?」
「それはそんときに考えるか――仕方ないってとことんまで付き合うよ」

そう言ってニヤリって笑った。

「それにさ、うちがいなくなったら一番あのヒト困りそうでしょ?」

そう言った吉澤さんの背中にいつのまにか石川さんが立ってて。

「それはお互い様でしょっ?」
「困らないって」
「困るよ〜!」

ハイハイハイ。
780 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:52
「もういいよ。そういう宿命にあるんだって思ってるから。
 一生お守りするよーになってんだと思ってあきらめてる」
「あきらめてるなんてひどぉい!!」
「そういう石川さんも可愛いって思えるヒトって吉澤さんくらいだと思いますよ」
「なに?マコトまで味方するの?」
「そだよ。大変さわかるよな?マコト」
「もちろんっ!!」

「ふんだっ、ほらっ、ひーちゃん、あたし二枚ももらっちゃったんだからね〜!」
くしゃくしゃにしたメモをごそごそ取り出すと
自慢げに吉澤さんの前でヒラヒラさせた。

「へいへい、よかったね〜!1ヶ月しか一緒にいなかったからバレなかったね」
「ひどっ!!もうちょっとあったらもっと増えてたと思うよ」
「ほーほー」
「けっこうタイプだったんだけどなー」

とか平気でウソついちゃってるし。




そしたら。




「もういいじゃん。アタシいるんだから」



しれっとこういうことを言うんだ、この人は。
はぁっ、右となりでわざとらしく小さなため息が漏れる。


横目でちらりと見るとほっぺたを真っ赤に染めてて。


「これだからあたしレンアイなんてできなくなるのよ、あぁ困った困った!!」


いしかーさんはあたしに顔を見られないようにして勢いよく立ち上がると
眠いっ、寝る!って行ってドアを乱暴にあけた。



「あ、ひーちゃんタオルケット置いといたからね、きちんとかぶって寝なさいよ」
「へーへー」
「じゃあね、マコト。おやすみ〜〜!」



ニヤニヤ笑いながら見送ってるよしざーさん。
781 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:55
「そんなに石川さんのこと好き?」

そう聞くと、目をまんまるにして


「さぁ、どうだろ」

いたずらっぽく笑う吉澤さんにもうかける言葉はないなって思えた。


「じゃあもう一個聞いていい?」
「なんだよ」
なんていいながら目を細めてあたしのこと真正面で見てくれた。



「どういうとこが好きなの?」

あぁ、そんなことか、みたいな軽い感じで吉澤さんはちょっと眉を寄せて考えるような表情をしたあと。



「―――――まぁ、今のあたしでいいかって思えるとこかな。がんばんなくていいし・・・」


ああ、そうか―――
それはなんかすごくしっくりする言葉で。

ゆっくり頷いてたら、吉澤さんはちょっとほほを緩めて。

「・・・あと・・・ちょっと矛盾すんだけど・・・
 いしかーの前だともうちょいってときにあと少しだったらがんばってみちゃおうかなって思えるとこ?」

最後の部分はちょっと照れくさそうに疑問系になんかしちゃって。


たぶんいしかーさんも、そう。


782 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:56


こういうとこが。
あたしがずっとこの二人の先輩を見つめ続けてて
大好きだぁって思い続けてるとこなんだなって思う。
昔っからいつもじゃれあうようでふざけあってるようで
それでいて真剣でお互いのことを一番認めあってて。
信頼とか愛情とか?そういう言葉をひっくるめてこの二人にあてはまる言葉なんて今もって見つけられてない。


ねぇ、いしかわさん、こういうよしざわさんってなんかいいよね。
お二人とも大好きな先輩なんだけどさ、
ちょっと妬けちゃうくらいに
石川さんのことを頭に浮かべてるときの吉澤さんってますます素敵でかっこよくて
―――それでいて可愛いなって思えちゃうんですよ?





ああ、疲れた、もう寝ようよって吉澤さんは立ち上がった。

「マコトあっちの部屋使っていいよ。布団ひいとくから」
「吉澤さんは?どこで寝るの?」

「ん?ここだよ」ってニヤニヤしながら笑って。
ドアにたたんであったタオルケットをぽんってソファーの上に置いた。

去り際に「気にしなくていいですよ〜〜!」

そう言ったら。

「そっちこそお気遣いなく」っていたずらっぽく笑って。





783 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:57



そういうわけで。
あたしは今かすかに石川さんとなぜか吉澤さんのにおいがする客布団の中に押し込まれたまま
目を見開いて天井を眺めている。
下の部屋なんだか隣の部屋なんだかわからない物音がするたびに
寝返りも打てないほど硬直している。


ねぇ、よしざーさん、わたし今日絶対眠れそうにないですよ?


明日の朝、あの人とこの人にメールをしよう
ああでもメールもできないようなことだったら??

一人布団の中で頬を紅く白く染めながらわたしは大きく息を飲み込んだ。















784 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:57


785 名前:ワタシの長い夜 投稿日:2009/06/22(月) 01:57


786 名前:作者 投稿日:2009/06/22(月) 01:57
以上です。
お目汚し失礼しました。
787 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/22(月) 21:53
すごくリアルというか、
こういう関係であってほしいという私の理想が
100%近く反映されてるかんじです
788 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/05(日) 14:48
甘くないようなものすごく甘いような
すてきな関係です
789 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/12(水) 01:39
本当にその場に居てるかのようなリアルさでさすが作者さま天才です
いしよしの関係がまさにこの作品のような気さえしてきます
次の作品も楽しみにしています
いつもいしよしをありがとう
790 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/19(水) 23:29
この感じ、めちゃめちゃイイッ!!
次の作品も楽しみにしております!!
791 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/20(木) 20:36
更新されたのかと期待しちゃうから
あげないで
792 名前:名無し飼育 投稿日:2012/01/19(木) 01:18
>>797->>791

レスいただき本当にありがとうございます。

石川さんの生誕祝いに一遍あげさせていただきます。


793 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/01/19(木) 01:19




『 koi-bumi koi-uta』



794 名前:koi-bumi koi-uta 投稿日:2012/01/19(木) 01:21






『相手のことを一番に思っている』

ええ、そりゃあもちろん○かなっ




『相手のことが大切だ』

はいっ、○




『相手も自分の事を一番に思っている』

たぶんそうなんだと思う。○かな





『相手も自分のことが大切だ』

きっと、うん、そうだと思う。○





『好きだと言われたことがある』

いつも言われてるかなぁ ○





『好きだと伝えたことがある』

伝えるなんて大げさなものではないけど、
口癖のように好きだよ〜っていうのは。○
        

795 名前:koi-bumi koi-uta 投稿日:2012/01/19(木) 01:23
『記念日など大切な日に一緒にいる』

スケジュールの許す範囲でなら○





『常習的に、もしくは頻繁に体の関係がある』






もう、何聞いてくるの圭ちゃんっっ!!

正直、全くナイとは言わないけど、
でも常習的にとかじゃないし、
なんかそーいうノリでそーいうことしたこともあるくらいというか、
もう私なに言っちゃってるんだろ、だから×ですよ×


『付き合おう、またはそれに準ずる言葉、
もしくは、この日を境とできるような明確な日付がある』



ほら、ナイっていってるでしょ?
そんなこと、言われたこともないから。


改まったとかナイですっ
恥ずかしいでしょそんなの。











796 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:24
だから、故に、恋人ではない、です、ハイ
たしかに近い関係だって
恋人みたいな関係だって言われればもちろん正解だと思うけど。



え?好きって言いあってるじゃないって?
あ、でも改まって言ってるわけじゃないもん。

よっすぃ、大好き〜とかそんなんだよ、普通だよ普通。
私、ケメちゃんにも言うでしょ?
「ケメちゃん大好き〜って」あんなんだよ?



よっすぃから?
もちろん言われるけど、
てかしょっちゅう言われるけど、
そんな特別な言葉じゃないですって。



ん〜、愛してるっていうのは、
私は使わないかなぁ〜、
なんか照れくさいんだもん。
あ、言った事がないわけじゃないですよ。
どういうときにって。。。


うぅん、忘れちゃった。
いや、だから全然言わないわけじゃないって〜!


よっすぃから?
たまにありますよ。


「愛してるぜぇ〜」
って。ノリですノリ。

あ、それに答えたことがあるかな。
私も〜ッて!!

え?これじゃだめ?
797 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:25
いつもよっすぃのほうが先にいろんなこと気遣ってくれて
私が気づかないうちにさりげなくやってくれてることが多いんだけど、
たまに私の方が気づいてやってることがあって。

もぅ、私だってそういう一面だって持ってるんですっ!
そういうときには
おお、梨華ちゃん愛してるよ〜って。
まじ助かるわ、とかそういうの。


私が言うことはあんまりないけど。
よっすぃ大好き〜って使うのは私のほうが多いかな。




だってさっきの質問にあったでしょ?んーっとココ、ココ。
改まって「私のこと好き?」とか聞かれたことないし、
「私のこと愛してる?」とか、
そういうのだってもちろんないし。

え?もし聞かれたら?
聞かれたらうんって答えるけど、そんなの普通みんな答えるでしょう?
聞いてみてくださいよ、私に。


『はいっ』


『オエエエエエエエエエエっ』



だってこれはお約束、でしょ?

もう、だって



はいはい、飲めばいいんでしょ、飲めば。
もぅ、これ以上飲んだら帰りどうなるかわかりませんよ?


ほら、じゃあケメちゃんも。
当然でしょ〜?
798 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:25
今日はお礼のつもりで誘ったんだから。
まさかこんな展開になるとは思わなかったけど。


けっこう評判よかったんですよ〜。
みんなすっごい喜んでくれて。
梨華ちゃん詩の才能あるって。
え?ブログ読んだ?


でしょでしょ?
うん、すっごい緊張したけどほんとによかった。
ありがとね、ケメちゃん


いや、来なくていいから。
ダメダメ!!
余計に緊張するから、絶対やめてよ??
とかいいながら来ちゃうんだろうなぁ


約束ですよ?
絶対きちゃダメだよ?



799 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:26
え?今日は遅いんですよ、よっすぃ。


そりゃあ相棒だし。スケジュールくらい把握してますってばぁ。


うん、きっと迎えにきてはくれると思うけど、
1時くらいじゃないかなぁ


え?そこまで?
あと2時間もあるじゃん……



じゃあ代わりに飲んでくださいよ、
私にばっか飲ませるのなんてダメだよ〜



おお、まだまだ全然いけそーだね
追加します?
あ、生ハム食べたいなぁ、私。
うん、チーズも
あ、今日だけ特別だよ、特別。
800 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:26


足?
もう、なに見てるの?
やだよ〜、タイツ脱ぐのなんて。
キャー触らないでくださいって!!
変態?


圭ちゃん変態〜〜!!



え?
ああ、えへっ。
だって、なんかあれはね〜
すぐツアーだったし。


そんなこと気にしたりする関係じゃないですから。
お互い気を遣うような関係じゃないからいいって圭ちゃんも言ってたでしょ?


最近?
そんなにひどいかなあ
そう?
かわいそうとかそんなのないってばぁ



あ、外したんだあ、くらいしか言わないし
気にもとめてないんじゃないかなぁ
私からあげることだってあるし


あるってだから!
え?覚えてないけど。。。。



あ、誕生日のTシャツとか、ピアスとか。
うん、まだよく着てくれてるけど。


801 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:27
そりゃあ10代の頃はねえ
いろいろ考えたりもしたけど
こんなんじゃダメだあとか、
私、考え始めたらそのことしか考えられなくなっちゃうじゃないですかあ
いやまっすぐとかそういうのじゃないけど
融通が利かないっていうか。
イノシシみたい?ってひどいケメちゃん……



だから、こんなんじゃダメって外見たりするようにはしてたんだけどね?
若いときには。
え?あの人?
知ってるの?ケメちゃん??
うわぁ、あなどれないよお
さすがだよなぁその情報網。


てか知り合いだったんだぁ
やばいなぁーーーーーーーー
え?1週間?
そんなことないですよ、
2週間くらいは。


何回か食事にいったりとかそーゆーのだってば。
よっすぃだってありましたよ〜
なにげにモテるからねよっすぃ。
当然だって?
まあそうなんだけど。


だって可愛いし〜、きれいだし〜、
優しいし〜、マメだし、
乙女だし〜


キショイ?
いや、そんな意味深なウフッじゃないってばぁ。
そりゃあケメちゃんより知ってるとは思うけどぉ


かなり可愛いよ〜


ナイショです、ナイショ
TOP SECRET。
面白い?
歌とかけてみたんだけどぉ


その歌聞き飽きた?ひどい圭ちゃん


802 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:27
パッと見、ああじゃないですかぁ
だけどそんなよっすぃを誘ってくる人たちみると、
けっこう見る目あるじゃぁんなんて思いますよぉ。
ハイ、だいたい話は聞いてたし。
最近はそーいえば全然聞かないけど。
若いころは、、、って今でも若いけどねっ。
よっすぃも10代の頃はちょっとお付き合いもしてたけどね〜
恋愛相談みたいなのも聞いてたし。


私も似たような感じだったかなぁ
別に募集してなかったわけじゃないけど
必要ないんだもん今も。




彼氏いたらたとえば他の友達とどこに行くかとかいちいち報告しなきゃだし
誰と会ってるかとか誰とご飯食べにいくかとか話さなきゃと思うと気が重くなるし、
時間あわせよ〜とか言われても無理なこと多いし、
仕事柄理解してくれてる人、少ないし、
メール返信してとかいわれても寝たいときは寝たいし。


え?そりゃあ全部話してますよ、よっすぃには。
うざがられてるかもだけど。
面倒くさいとかないって〜、全部電話するし。


あぁ、そんなものぉ?

同じって言われたってわかんないよぉ
だってよっすぃには話したいんだもん



義務なんて思ってないし
話したいから話してる、それだけだもん



ふぅん普通は彼氏にそうなんだぁ
感覚ずれてるって、
そーなのかなぁ?




え?まだ飲むの?
もうこれ以上飲ませたら知らないからね?
じゃあ圭ちゃんも、ほら、飲んで飲んで。


803 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:29


もしそんな人がよっすぃにできたら?
それは……すっごいショックかもぉ




どうしよう圭ちゃん、それダメだぁあたし。
梨華ちゃんにあててる時間ないよとか言われたら
生きていけないかも。



梨華ちゃんより大事なヒトだから、とか?

あぁ…………………




圭ちゃんひどいよぉ
今さらフォローしてくれても遅いって







そう?そうかなぁ
ホントに?
ナイかなぁ…
ナイ?
ほんと?



あっ、そーゆーヒト作らないでね、ってお願いしちゃえばいーんだ




ワガママ?
そうかもだけどぉ
うん、こういうのも?
私がいくのは全然いいんだけど
よっすぃが行くのもいいんだけど






私より大切な時間ができたら
そーいうのはヤダもん…
804 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:30


ん〜、でも優しいから私がいやがるよーなこと
しないと思うよ〜なんてね


よっすぃもそーゆーの
いらないって思ってるんじゃないかなぁとか……
思っててもだいじょーぶかな?




ん〜、信じてる、かな
自信?


まあちょっと、だけね



もしよっすぃにそんな人ができたときには圭ちゃん聞いてくれるの?


う〜ん、無理。
圭ちゃんでも誰でもよっすぃの代わりは務まらないって




えへっ

はいはい、飲みますよ、飲めばいいんでしょ〜?


805 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:31
面と向かってこーゆーこと聞いてくるのなんて
ケメちゃんくらいだよ〜
雑誌まで持って。
だからぁ、どっちかはっきりしないでしょ〜?
え?はっきりしてるの?




てか今日なんなの?
いつも改まってそんなこと聞かないじゃん
聞かれたことないよ〜
いつもあんたたちはぁって笑ってるだけじゃん



ケメちゃんちで二人でくっついて寝ちゃって
毛布かけらてたときだってあきれた顔して笑ってたじゃん
あ、思い出した!
みんなに送ったでしょあの写メ。
すっごい落書きして。


806 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:31
なんでそんなに突っ込んでくるの?
しかもなんかメモしてるでしょ〜?


パパたちみたいな恋愛?
してみたいなぁって思うけどぉ



してる?誰が?
私?
いつ?

今?

トキメキ?
ってなんでそこでよっすぃの写真見せるのよぉ



うん、可愛いなあって思うけど
きれいだなあと思うけど



なにこれぇ
替え歌?
ケメちゃん書いたの?


ちょっと歌詞かえただけじゃんっww




あ、まぁそういわれてみれば
こうやればよっすぃとのことに当てはまらないこともないけどぉ







やだ、こんなの見せられたら次歌うときに
思い出しちゃうじゃないですかぁ


真っ赤って違うってこれは酔ったの!
度が強いの!

807 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:32
次の曲?
また作るの?
私のレンアイ?



今日なんなのよぉ
どうしてこんなに突っ込んでくるの?


別に私たちは私たちだからいいんですぅ
これが自然だし。
形なんてどーでもいいんだもん






え_。よっすぃに頼まれた?
ウソでしょ〜!?!?
ほら、やっぱり。
カマかけるなんてひどい!!
聞いてくれなんてよっすぃが頼むわけないじゃないですか。
そりゃあ夫婦ですもん、そのくらいわかりますよ〜
なんでも聞いてください、よっすぃのことなら。


え?さっきあせってた?
そ、そんなことないですよ〜
顔色???変わるわけないでしょ、
いつも変わらないって私のことバカにしてるくせに。
え?これもウソ?
ほんとは聞かれてる?
え?どっち、ねえ、どっち?
さぁ、ってねえ〜


ねぇ圭ちゃぁん、 どっち?
飲んだら教えてくれる?

808 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:33
ん?、じゃあもういっぱいマッコリで。
圭ちゃんはなんにする?




どんなとこがって?
ええええええよっすぃの好きなところ〜
うぅいっぱいありすぎるからなぁ



優しいでしょ〜?
あったかいでしょ〜?
ちょっとおバカなとこもあるけどそーゆーのも可愛いでしょ〜?
でも何気にしっかりしてるとことか超カッコいいでしょ〜?
それでぇーーーー


あ、今のひどい!



どーせ私を丸ごと受け入れてくれるのは
よっすぃーしかいないですよーだ


話したいって思ったときには絶対今じゃなきゃやだし
話したいだけで話してガーって寝ちゃうし


どーせ頑固だし融通きかないし
ワガママだしすぐ顔にでちゃうし




愛なの?
好きか愛か?
愛、かぁ

ええええ?

違いってよくわかんないんだけど
809 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:34

あぁ。ナイショですよ、よっすぃにはナイショなんだけど
前にね、二人でうちで飲んだあといつのまにか眠ってて
夜中にふって目が覚めたらすぐ隣によっすぃの顔があって


すっごい近くだったのぉ
起こそうと思ったんだけど起こせなくってじーっと顔みてたらね
なんかわかんないんだけど
なんていったらいいかわかんないんだけど

なんか 幸せなんだなぁって思っちゃって


じーっと見てたら気がついたらあたし泣いちゃってて


そーゆーのって初めてだったから
今でもなんでなのかよくわかんないんだけど


そばにいてくれて、存在してくれて、ありがとうってそんな感じだったのかなぁ


え?こういうのが愛なの?
うそぉ、きゅんって感じ?
あ、きゅんっもいっぱいあるけど
そんときはじわーって感じだったのかなぁ



別に話しを聞いてくれるからとかワガママ許してくれるからとかそんなんじゃなくって
たとえそんなことしてくれなかったとしても
しばらく会えなかったとしても
よっすぃが同じ時代にこの世界にいて巡り合わせてもらったってことだけですっごい幸せだなって思えるなんて
へんなのかなぁわたし。


810 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:34
そーですよぉ酔ってますよー悪い?
だってこんなに飲ませるんだもん?
とまらなくなっちゃうよ〜私


いいの?



なんでよ、もう1杯くらいいけますってばぁ
大丈夫寝ないから!
あ、でもちょっと眠いけど……

……ダメ……?
じゃぁケメちゃんの半分だけちょうだい?

811 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:36
ん〜とねえ、
どーゆーとこが特別って



なんなんだろーなぁ




なんかわかんないんだけどぴったりくるんだぁ
しっくりくる?
自然?


横にいてぇそれが当たり前でぇ


無理したりがんばったり突っ張ったりしないで
ありのままの自分でいれるのかなぁよっすいの隣では


怒ってることも楽しいことも
すーって吸収してくれちゃうみたいな
隣が一番居心地がいいそんな感じなのかなぁ

812 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:36
ぴたーってしたくなる
いつもじゃないよ
でもたまにすっごくぺたってくっつきたくなるんだぁ



そーゆーときは?
そーする


そーゆーのもわかってくれてるんだと思うよ〜
だまって座っててくれるもん
だからぴたってする


よっすぃ?
手をまわしてくれたり髪なでててくれたり
あとぽんぽんってしてくれる
背中とか



たぶん他の人じゃダメなんだと思う







やだぁケメちゃんにだってちょっと、できないってば
きゃあーくっついてこないでぇ
あっちいって!!





うそうそ冗談だよぉ
813 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:37
でも、そーだなぁ、
パパやママ以外でこんなに弱いとこ見せたり
素直に甘えたいなぁってよりかかったりできる人いなかったし



きっともう一生いないんだろうなって思うよ






ん〜でもよっすぃにとっての私ってどうなんだろ〜
なんか他の人でもいいような気がするんだよね〜
あたしはよっすぃじゃなきゃダメだけど
よっすぃにはいっぱいいるよーな気がしてきた……



どーしよぉ圭ちゃん……


あたしがよっすぃじゃないとダメな理由は100個あるけど
よっすぃがあたしじゃなきゃいけない理由は全然ないかも






……そうかなぁ……?
ありがとう……
………本当に?
ココロ開いてくれてるのは私だけかなぁ?
圭ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいけど

814 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:39
そう……?

うん、嬉しいな…


愛されてる?

ホント……?







……うん、繊細で優しいよね

じゃぁあたし、でいいのかなぁ……?






ーーーー可愛い?
よっすぃのこと?



うん、すっごく



髪の毛とかくしゅくしゅってしたくなっちゃう

愛しい?



ふふ、ナイショ〜

うそうそ、言いいますって
うん、愛しい、よ?










ふふっ




ええ〜?
言わせといてひっくりかえらないでよ〜







いいよ〜私が寝ちゃうし






815 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:40




やだぁ、もぅ座れないも?ん







やーですぅ
圭ちゃん一人で飲んでて?
よっすぃ来るまで





床かた?い
そのお座布団ちょーだい




運命だも?ん
えへっ


いいでしょ〜?

うらやましい?


816 名前:koi-bumi 投稿日:2012/01/19(木) 01:42
好きで 好きで 大好きで ……… ♪





ん〜また作るの?




よっすぃのコト?


ん、わかったぁ…いつかね









約束?

はい、じゃあ

指切り、ね













もうちょっとかなあ
遅いなあよっすぃ











まだかなぁ










今日の話はぁ
よっすぃには〜ナイショ、だよ……?















おやすみ、ケメちゃん…………

















817 名前:koi-bumi koi-uta 投稿日:2012/01/19(木) 01:43


818 名前:koi-bumi koi-uta 投稿日:2012/01/19(木) 01:43


819 名前:koi-bumi koi-uta 投稿日:2012/01/19(木) 01:47
お目汚し、大変失礼致しました。


一部文字が記号に変換されてしまっていたことに
最後に気づきました・・・
本当に申し訳ありません     咲太
820 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/19(木) 20:31
更新有難うございます。
何度か読み返しました。切な面白かったです。
821 名前:作者 投稿日:2014/01/31(金) 15:41
>>820

レスいただき本当にありがとうございます。

822 名前:作者 投稿日:2014/01/31(金) 15:43


『さとだラプソディ』



823 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:44




玉ねぎと人参とコンソメのあまーい香り。
ベーグルが焼ける香ばしいかおり。


冷蔵庫が閉められて、パタパタというスリッパの音。
「ねぇ、起きて〜」
そして聞き慣れた高くて甘い声。


とっくに目は覚めているんだけど、
この幸せな五感を楽しみたくって、あたしはベットに閉じこもっている。
しばらくわざとここにいると。
「もぅ、冷めちゃうよ〜」ってベットルームをのぞきにくる彼女の顔が見えるまで。



824 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:44



825 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:45
かさばらないもので、ずっと長く使ってもらえるもので
あたしたちらしいもの。

そんな難しい課題を抱えて、餞別とプレゼント探しに何時間もお店を一緒に回った。
アメリカだよ?あとプロのおうちだから、絶対かぶるって……

なのに、何度も同じ場所に戻って覗き込む梨華ちゃんに。
「うちの、買ってこうか?」
そう言ってみるとやたらに嬉しそうな顔をするから。

そのあとも延々と長く続くであろうお買い物タイムは十分想像できたのに、
ぐっと指に食い込むお鍋の重さも苦ではなかった。


826 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:45
キッチンに入ると、先にお顔洗ってきて、なんて言いながら、
あわせて買ったピンク色の鍋つかみで
ダイニングテーブルに嬉しそうにルクルーゼを置く。


ベーグルと大根のサラダと、お野菜のスープとゆで卵。

冷蔵庫からオレンジジュースとあたしの分の豆乳を取り出して、
置かれたコップにたっぷりと注ぐ。


「ちょっと待ってね」って
いろんな角度から撮る撮影タイム。
もぅ、せっかくこんなに作ったから自慢したいのにぃ。
そういう彼女のふくれっ面をあたしは笑いながら眺めている。


827 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:45


828 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:46


先月、何度かメンバーで飲む機会があって。

飲み方もいままでと同じはずなのに、
最近はやってる子供服のお店の話やら、簡単に作れる離乳食の話やら、
子連れでも迷惑をかけないレストランのことやら。
別にいいんだけど。

梨華ちゃんの膝を奪い合うように座っている男の子の頭をなでたりしながら。
梨華ちゃんはどんな思いでここに座ってるんだろうなって。

そうやってあたしが梨華ちゃんを複雑な思いで眺めていると。
前に座ってたはずの保田さんが。
さんざんつがれて、酔っ払ってたはずの保田さんが。

「里田んとこみたいなのもいーわよね」
そんな風にぼそりと話しかけてきた。


「お互いのために一生懸命、自分ができることをすること。
 それでいいんじゃない?」って。

829 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:48
でも、それからも何日もあたしはずーっと考えてて。
空いた時間についついみんなのブログとか見ちゃって。
料理頑張ってんな〜、とか、
こんなに食べたら絶対太るな、とか呟きながら。
テレビをつけても、懐かしい顔がニュースに出てるし。


まーくんに叶うとは絶対に思わないけど。
ねーさんや、圭ちゃんや、辻や、飯田さんや…
あたしは、彼らほど幸せにできてるんだろーか。
幸せにできるんだろーか。
大切な大切な梨華ちゃんを。
830 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:48
「ねぇ、梨華ちゃん、いろいろ考えたんだけどさ、うちら―――」

玄関で靴を脱いでる梨華ちゃんに。
おかえりに続けて投げかけると。

梨華ちゃんは怪訝そうな顔をして。
「今日さあ、食べるシーンがおわんなくって」

ああまたはじまったみたいに軽くいなして、今日あった撮影のこととかを話しはじめた。
「いや、だからさ―――」
「よっすぃご飯は?」

荷物を自分の部屋に置くと、さっさとリビングに向かう。

「食べてきた」
「そう、シャワーは?」
「お風呂わかしてあるよ。あたし先に入っちゃったし」
「えぇ、めんど〜」
「桃の香りの、入れといたから」
「うぅん…でもさぁ…」
「疲れとれるよ?」
「うん…」


ぶつぶつ言いながらお風呂場に向かい、ワンピースのファスナーをおろしはじめた。

たく、全然本気に思ってないよな、あれ。
831 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:49
「―――で、ひーちゃん、さっきのあれ、なに?」

髪をかわかして水を飲み干したあとで。
ああ、一応聞いてたのね。

「このままでいーのかなってこと」
「なにが?」
「だから、あたしと梨華ちゃんが―――」
「やだっ」

即答。
却下。

眉をひそめながらあたしのことを見つめた。

832 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:50
「なんだよ…」
「どーゆーこと?」
「どーゆーって…」
「何たくらんでるの?」
「たくらむも何も…」
「だってひーちゃん私のこと大好きでしょ?」


ってそう来たか。
ってお前が言うなって。



「ひーちゃんそこに座って」

目力で押されてしぶしぶソファーに座る。

あたしを座らせておいて、ひざの上に来て。
向かい合わせに至近距離でのぞきこまれ。

「別れたいの?」
「や、、、そーゆーんじゃないけどさ…」
「じゃあ何?」

そっと首の後ろに手が回る。

「いや、その、あのさ…」

どんどん近くなっていく顔。


思わず顔を背けようとすると、ふーって小さく溜息をついて。
あたしの両足から梨華ちゃんの重みが消えた。

833 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:51
「これ、保田さんが」

「保田さん?」

「うん、お昼に会ったの。これくれたよ。
 よっすぃがなんか考えこんでるんじゃないかって心配してた。
 で、一緒にみなさい、って」

封筒をあたしに渡すと、
梨華ちゃんは隣に座った。

出てきたのは梨華ちゃんの超笑顔の写真ばっかで。


「可愛い……」

思わずこぼした独り言に梨華ちゃんはニッコリと満足そうに笑うと。
A4サイズに数枚ずつ配置されたその写真を1ページ1ページをいとおしむように
めくっていく。

―――それにしても保田さんってほんとに梨華ちゃんのこと大好きなんだな。
こんだけ集めたのってよっぽど暇(略――



834 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:52

だけど。
これなんかどっかで…
カット割りがすごい不自然で…


「ひーちゃん…?」


横の梨華ちゃんが眉をきゅっと寄せてあたしのほうを見上げる。


「これって…」

変な位置で切り取られたこの写真たちにはすべて見覚えがあって。


こっち側にいるのって全部―――



梨華ちゃんはふふって笑って、
おかしそうにあたしのほうに倒れてくる。



「もぅ、変なことばっか考えるんだから、ひーちゃんは」


だってさ…
言い返す言葉も見つからなくて、
黙ってしまう

「ひーちゃんのこと見てるときだけだよ、
 私がこんな笑顔ができるの」

835 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:53
「10年前にさ」
「なに?」
「私、雑誌のインタビューで、あなたにとっての王子様は?って聞かれたときに、
言ったの。優しくてちょっと太ってる人って。」
「うん…」
覚えてる。

なんて答えなんだって笑ったけど。
梨華ちゃんが思い浮かべてるのがもしかしてあたしのことかななんて淡い期待をしながら。
すごいこそばゆい思いをしながら読んだっけ。

「そこから10年以上たったって」

スポーツマンで優しくて顔がよくて、中性的でって―――

「やっぱり私にはひーちゃんしかいないの。」

「もー、仕方ないじゃん、
 好きなんだもん……」

もういい加減覚えててよって、梨華ちゃんは笑った。
836 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:54
「いっつもドキドキするしさ、ひーちゃんほど私のこと、大切にしてくれる人っていないし。
 10年たってあんたらみたいにしてられる自信はないよって、ってあの日もみんなに言われたよ。」


そりゃあ、大切にはしてるつもりだけど。
それだけはきっとどんなことがあっても誰にも負けてないって思うけど。



「甘やかされちゃってちょっとなぁって自分でも思わなくもなかったけど」
そう言って梨華ちゃんは小さく舌を出した。

「あたしが幸せなのがひーちゃんの幸せなんだよね?
 私が幸せそうかどうか、ちゃんとそばで見てて。
 私は私を自分で磨くから」


そう言って、唇の直前でわざと止まって笑顔を作ってみせてから、
あたしにキスをした。

837 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:55
「今年はさ、太ったり痩せたりしないし」
「ほんとに?」
「ほんとだって〜。可愛く居続けるんだもん、って誰のためにだかわかってるよね?」
「そりゃあ…」
「髪型も最高にあうやつ、探してくし。ひーちゃんも教えてね」
「ん」
「厳しくだよ?」
「へっ?」
「いままでみたいな、なんでも可愛いはなしだからね?」
「ん〜」


それはちょっと自信ないなぁ


「メイクも。適当にはやったりしないから、ってひーちゃんもね?」
「うちも?」
「そーだよ。一緒にネイル行ったりしよーよ」
「それはパス」
「もぅっ。あとね、リンパマッサージとかお手入れとかだってやるし」
「ん」
「焼かないように気をつけるし」
「それはあたしは必要ないね♪」
「もうっ!でも日焼け止めは万全にする……」
「お願いします」
「あと、食べ物も気をつけて…」
「カレーとかラーメンとかばっか食べてちゃダメだよね」
「うん……」
「ビタミンとか……」
「フルーツとかお野菜とか…ひーちゃんお肉じゃないほーがいいでしょ?
 ああ、なんか本あったよなあ、前に買ったやつ。」
「ああ、3年くらい前に買っただけですぐ飽きたやつね」
「もうっ!!」


そして梨華ちゃんは、せわしなく立ち止まると、
秘蔵の棚の中から、料理本を探り始めた。

「あとね、お料理、はね。愛の証なんだって。
 みんなに負けないもの、絶対ひーちゃんに食べさせるんだから!」

838 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:56

『あんたにしかできないことがあるんだからね』って、
その夜保田さんからメールが届いた。

いつも可愛い梨華ちゃんでいてほしい。
けどどっかであたしだけのものでいてほしいなんて思ってなかった…?

負けず嫌いの梨華ちゃんが。
ほんとはいろいろ感じてたくせに。
でもあたしだから、って喜んじゃって。
闘争心、消えちゃったらおしまいだって言ってたくせに。


会える時間が増えて。
一緒にまったりできる時間が増えて。
まあいいかって、いまのまんまの梨華ちゃんでいいって甘やかしてきてたけど。



梨華ちゃんを輝かせていることが、
あたしが彼女を幸せにしてる証なら。

あたしはたまには少しだけ厳しく。
彼女が最高の笑顔ができるように。


そのうちきっと走ったりとかもさ。
そのうち、だけど。

たぶん強くは言えないけど。
839 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:58
そんでもって、あたしのために作ることがうれしいって思ってくれてるなら、
あたしはいつも美味しいって喜んで食べ続けるし。

息切れしたときには、今日はいいじゃん食べに行こうよって、
そうやって側にいて肩をほぐしてあげる。


そーゆーのでいいんだったら―――
いつもと変わらない、それでいいんだったらさ―――










「明日さぁ、買いもの行かね?」


840 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:58



841 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:58
大根の入ったお味噌汁の香り。
ほかほかのごはんと、甘い卵焼きの香り。


冷蔵庫が閉められて、パタパタというスリッパの音がする。
「ねぇ、起きて〜」
そして聞き慣れた高くて甘い声。






この幸せな五感を楽しみたくって、あたしはまたベットに閉じこもっている。
「もぅ、冷めちゃうよ〜」ってベットルームをのぞきにくる彼女の顔が見えるまで。














842 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:59


843 名前:さとだラプソディ 投稿日:2014/01/31(金) 15:59


844 名前:作者 投稿日:2014/01/31(金) 15:59
お目汚しの駄文、
大変失礼致しました。
845 名前:名無飼育さん 投稿日:2014/01/31(金) 21:28
良かったです
泣いちゃいました

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