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Love is blind
- 1 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年10月05日(金)23時04分36秒
- 板が書き込めなくなったので、新しく立てました。
他の板に立てようと思ったのですが、色々と考えた末に黄板に新しく立てることにしました。
この話はやすよし、いしごまの学園物です。
後半になれば、他のカップリングも出てくる予定です。
- 2 名前:心迷わせないで(3) 投稿日:2001年10月05日(金)23時16分10秒
- その白い肌は薄い暗闇の中でも綺麗だった。
目を閉じて眠っているその姿は、まるで寓話に出てくるお姫様のようだった。
とても気持ちよさそうに眠っているから、起こすのに少し躊躇いを感じた。
だけど吉澤は小さく呻くと、ゆっくり目を開けた。
吉澤は服で目を擦ると、ぼんやりとした瞳で私を見上げた。
私は何も言えずにその場に立ち尽くした。
「・・・保・・田・・・先生?」
吉澤の声は寝起きだからか少し掠れていた。
そして何を思ったのか、向日葵のような笑顔を私に向けた。
その笑顔に私の鼓動は高鳴った。
だってあまりに無防備で、あまりに美しかったから・・・・・。
僅かに揺れる少し茶色い前髪。
その整った顔立ちの笑顔に、一瞬だけ心が奪われていた。
私は思わず息を飲んだ。
まるで、あいつに恋したときと同じだったから。
そのとき吉澤を・・・・・・・『好き』になった気がした。
- 3 名前:心迷わせないで(4) 投稿日:2001年10月05日(金)23時45分46秒
- 「あ、あぁ、そうだよ・・・・。」
私はそれしか言えなかった。
頭が鈍っていて、うまく回転しなかったから。
吉澤は突然起き上がって私を見つめる。
「や、保田先生!?あ、あの・・・・・すいませんでした!えっと、あの、
何て言うか・・・・・先生が帰って来るまで待とうと思ってたら、なんかいつの間にか
眠っちゃったみたいで、それで気がついたら先生が目の前にいて・・・・・。」
吉澤は随分と混乱している様子だった。
色々と手振りをしながら、少し早口で焦ったように言った。
私は軽く溜め息をついてから言った。
「言いたいことは分かったよ、だから外もう暗いから早く帰りな。」
まだ説明し切れていない、そんな顔をしている吉澤の言葉を遮って言った。
「えっ?あっ・・・・・はい。」
吉澤は済まなそうな顔して頷いた。
そして、鞄を手に持ってドアまで歩いて行く。
「暗くなってから、辺りには気をつけるんだよ。」
私は部屋のドアを開けて、吉澤を見送ることにした。
- 4 名前:心迷わせないで(5) 投稿日:2001年10月06日(土)00時04分42秒
- 「それじゃぁ・・・・・また来ますね、先生。」
吉澤は私の方に振り替えると、その顔はもういつものように笑っていた。
「あ、あぁ、いいよ・・・・・。」
なぜそう言ってしまったんだろうか?
私はこれ以上、吉澤と関わりたくなかったのに。
吉澤は軽く頭を下げると、また廊下を走って行ってしまった。
廊下は所々にしか電気がついていなくて、辺りは随分と薄暗かった。
私は吉澤の姿が見えなくなってからも、しばらく廊下を見つめていた。
しばらくして部屋に戻ると、電気もつけないままソファーに座った。
頭に下に垂らして、腿に肘を置くと顔の前で手を組んだ。
そして、大きく深い溜め息をついた。
吉澤は告白したことについて触れなかった。
・・・・・本当は怖かった。
「先生は、あたしはこと好きなんですか?」
って聞き返されることが。
きっと、その問いに私は答えられないから。
だから怖かったんだ。
- 5 名前:心迷わせないで(6) 投稿日:2001年10月06日(土)00時06分56秒
- あの子は不思議な子だ。
いつも振り回されるというか、ついつられてしまう。
そんな自分にいつも驚かされている。
こんなことはあいつのだけだと思っていた。
だから、私はもう何も変わらないはずだった。
だって他人に影響を受けなくなったし、興味を抱くこともなかった。
他人を好きになるはずがなかった。
だって近寄らなかったし、近寄らせなかったから。
なのに私は吉澤に興味を持った。
吉澤は平気で私に近寄ってくる。
そう、いつの間に気になっていて、
気がつくと引き込まれていた・・・・・。
開いている窓からは、少し冷たい風が部屋の中に入ってくる。
私は頭を擡げて、また深い溜め息をついた。
窓の向こうに見える小さな月は、薄い雲に隠れて霞んでいた。
- 6 名前:ハマりすぎ?(1) 投稿日:2001年10月07日(日)23時16分43秒
- (吉澤編)
あたしはその日学校に着くと、いつものように大きなため息をついた。
そして、机にダラ〜ンと体を伏せる。
はぁ〜。
毎朝最悪だよ、あの通勤ラッシュ・・・・・・。
それに昨日は全然眠れなかったし。
「ヨッスィー、おはよう。」
いつもと変わらない元気な声が聞こえる。
あたしがその声のする方に顔を向けると、ニコニコ笑っている梨華ちゃんがいた。
「おはよぉ・・・・。」
あたしは元気がなく、ダレた感じでそれに答えた。
昨日はずっと先生のことを考えていたから、一晩中寝ることができなかった。
そんなあたしが元気に挨拶できるはずがない。
ということで、今日のあたしは睡眠不足のために気合いはないし、やる気はないし、
頭はうまく働かない状態だった。
まぁ、普通に生活しててもあんまり働いてないか・・・・・。
いつもと様子の違うあたしを見て、梨華ちゃんは少し声のトーンを下げて言った。
「・・・・どうしたの?もしかして、フラれちゃった?」
- 7 名前:ハマりすぎ?(2) 投稿日:2001年10月07日(日)23時21分28秒
- グサッ!
モロに直撃って感じだよ・・・・・。
ど、どうして人が気にしてることを、そうやって平気な顔して言うかなぁ!
まだそう決まったわけじゃないけどさ。
でも、やっぱりそうなのかなぁ?
にしてもデリバリー、じゃなくて・・・・・・デリカシーって言葉はないの?
「もう少し優しい言い方はないの?」
あたしは恨めしそうに梨華ちゃんを見上げて言った。
「ごめん、ごめん。でもその様子からすると、どうやら本当みたいだね。」
梨華ちゃんは軽く手を合わせて謝ると、少し真面目な顔になって言った。
「ヨッスィーさえよかったら、何があったか話してくれる?」
梨華ちゃんは急に口調を優しくして言った。
あたしはちょっと迷ったけど、自分1人で抱え込むよりもいいと思ったから、
梨華ちゃんに話すことにした。
あたしが手短に昨日ことを話そうとしたとき、朝のHRのチャイムがそれを遮った。
「それじゃ、続きはお昼にしよう。」
梨華ちゃんはそう言うと、あっさりと自分の席に戻っていた。
あたしはしばらく唖然としていた。
・・・・・なんだれそれ!
- 8 名前:ハマりすぎ?(3) 投稿日:2001年10月07日(日)23時34分24秒
- それからのあたしはすっかりテンションが下がってしまって、授業を受けようなんて
気にはなれなかった。
まぁ、梨華ちゃんと話す前からやる気なかったけどね。
次から次へと各科目の授業へと移り変わるけど、あたしは先生達の話を左から右へ
聞き流していた。
だけど、先生の授業がないだけマシだよ。
もしも授業があったなら、あたしはきっと保健室とかに逃げると思う。
だって、どんな顔して会っていいか分からないから。
今のあたしにはそんなの拷問だ。
辛すぎて耐えられない。
確かにフラれたかは分からない。
本当は、あたしだってそう思いたくない。
だって・・・・・好きだから。
だから、先生にもあたしを好きでいてほしい。
嫌いになってほしくない。
諦めろって言われてもムリだよぉ。
こんなにも、先生のことが好きなんだから。
好きになるなんて、初めて会ったときは思ってなかった。
でも今は気持ちが押さえられないほど、先生への思いで溢れてる。
先生はあたしのことを、一体どう思ってるんだろう?
やっぱり・・・・・ただの生徒、なのかな。
- 9 名前:ハマりすぎ?(4) 投稿日:2001年10月10日(水)22時59分13秒
- 「吉澤。」
ふと名前を呼ばれてあたしは顔を上げた。
でも・・・・・そこにいるのは先生じゃない。
国語を教えている、ただの中年のオヤジだ。
「あ、はい・・・。」
あたしはダレた感じで返事をした。
「今説明した古文を訳して。」
と言って、黒板に書かれた意味不明な文面を指さす。
あたしはしばらく考えていたけど、全く分からなかった。
「・・・・分かりません。」
だからあたしはそう素直に答えた。
中年オヤジは呆れた顔して、代わりの人を当てた。
なんで、保田先生じゃないんだろう?
どうしてここにいないんだろう?
・・・・・・会いたい。
- 10 名前:ハマりすぎ?(5) 投稿日:2001年10月10日(水)23時00分10秒
- さっきまでは会いたくなかったのに、いまは会いたくって仕方がない。
先生の顔が見たい、声が聞きたい、抱きしめたい!
吉澤って名前を呼んでもらいたい。
先生の作ったコーヒーが飲みたい。
また、あの子どもみたいに笑う先生に会いたい。
もう先生のことしか考えられない。
それ以外のことは、頭に入ってこないよ。
好きだから・・・・・・いや、大好きだから!
先生じゃなきゃダメなんだ!
他の人じゃ、変わりなんてできっこないんだ。
嫌いになんて絶対になれない。
好きだとか思えない。
あたしは嫌になるくらい、先生にハマってる。
だから、きっとしばらく抜け出せない。
- 11 名前:恋愛会議(1) 投稿日:2001年10月11日(木)23時07分26秒
- やっと午前中の授業が終わり、梨華ちゃんがあたしのところにやってきた。
・・・・・ごっちんというおまけ付きで。
まぁ、いいんだけどさ。
そしていつもなら教室でとっている昼食を、今日は中庭で食べようということに、
いつの間にかなっていた。
ごっちんはいつも、あたし達の教室でお昼を食べている。
最初はクラスのみんなも引いてたけど、最近じゃもう慣れってしまったらしくて、
それが当たり前のようになっている。
ごっちんは完全にうちのクラスに溶け込んでいた。
それはともかく中庭はというと、ちゃんと手入れされていて結構綺麗なんだけど、
いまいち生徒の間では人気がない。
だから、中庭には滅多に人の姿はなかった。
その理由は、教室か移動するのがめんどくさいとか、暑いからとか、寒いからとか、
大体はその程度の理由らしい。
確かに、移動するのは少しめんどいなぁと思うけど。
あたしは結構この場所が気に入っている。
だって外でご飯食べるのって気持ちいいから。
ご飯が何倍もおいしくなる気がするし、開放感があるから好きだった。
あたし達は適当に場所を探し、木陰の芝生に腰を下ろすことにした。
そして、さっき買ったお弁当を食べ始める。
- 12 名前:恋愛会議(2) 投稿日:2001年10月11日(木)23時17分28秒
- あたしと梨華ちゃんは購買で買ったパン、ごっちんは意外にも自分で作ったお弁当を
ちゃんと持参してきている。
そして・・・・・・・いつも恒例のアレが始まった。
「あ〜んして、梨華ちゃん。」
ごっちんが卵焼きを箸で摘み、それを梨華ちゃんに食べさそうとする。
「えぇぇ!そんな恥ずかしいよ・・・・・。」
梨華ちゃんはその言葉に顔を赤らめて俯いた。
ごっちんはその行動に不満らしく、少し拗ねた顔して言った。
「食べてよぉ〜、後藤の愛のこもった手料理。。」
まるでダダをこねる子どものようなごっちんに、梨華ちゃんは照れくさそうに
笑いながら小さく頷いた。
「・・・・うん。」
こんなことが、毎日飽きずに行われているのだ。
それもあたしの目の前で。
「後藤に食べさせてよ。」
「真希ちゃん、あ〜んして」
さっきからこんなセリフばっかしだ。
そりゃ、もう慣れたけどさ・・・・・。
だけど胸の奥から込み上げてくる、この言い様のないムカツキは消えることは
ないらしい。
こういうのは、2人きりのときにやってよ。
- 13 名前:恋愛会議(3) 投稿日:2001年10月11日(木)23時36分23秒
- 2人のラブラブショーが一段落すると、ごっちんがあたしの方に顔を向けて言った。
「それで、保田先生とはどうなの?」
いきなり本題に入るのかよ!
もう少し前置きとか、遠回りに話を進めるとかできないの?
きっとムリだな、ごっちんの場合は。
そんなのを求める方が間違ってる。
あたしは軽くため息をついてから、ごっちんと梨華ちゃんに昨日あったことを
時間があまりないので手短に話した。
2人は真剣な顔して聞いていた。
話が全て終わると、3人の間に妙な沈黙が流れた。
「・・・・・う〜ん、それじゃフラれたとは言えないんじゃん、先生からも別に
断られたわけでもないし、また来ていいって言われたんなら、少しは脈がある
ってことなんじゃない?」
ごっちんは沈黙を破ると、めずらしく考え込んだ感じで言った。
「そう・・・・なのかなぁ・・・。」
とあたしは自信なげに呟いた。
確かに断られてはいない。
また来たいと言ったら、いいよと言ってたくれた。
それを脈アリと考えていいのかなぁ?
- 14 名前:恋愛会議(4) 投稿日:2001年10月11日(木)23時44分20秒
- 「でも、こういう言い方も悪いと思うけど・・・・・私は両思いじゃないと思う。
きっと好きっていうんじゃ・・・・・ないと思うんだ。」
梨華ちゃんは少しバツの悪そうな顔して言った。
「でも、後藤もそう思うな。まだ仲のいい生徒って感じなんじゃない?でも
なんかさぁあの先生って、他人と距離を置いてる気がするんだよね。」
ごっちんが難しそうな顔して言った。
・・・・距離を置いてる?
でも、なんか分かる気がする。
どこか避けてるってというか、逃げてるような感じがあたしもしてたから。
すると梨華ちゃんが戸惑いながら、ゆっくりと言葉を選んでるように言った。
「でも、まだ可能性はあると思う。それはさぁ、これからのヨッスィー次第
じゃないのかな。どうなるかなんて誰にも分からないよ。だって・・・・・
恋に落ちるのは突然だから。」
穏やかに微笑んであたしを見つめる。
そのとき、梨華ちゃんがすごく大人に見えた。
大人の余裕みたいなのがあった。
そして、あたしより全然分かってるんだと思った。
いちよ、同じ年なんだけどなぁ・・・・・。
- 15 名前:恋愛会議(5) 投稿日:2001年10月19日(金)22時52分18秒
- 「そうだよ。だって梨華ちゃんが後藤に恋したのも、突然だったもんね。」
「突然っていうか・・・・あれは真希ちゃんのアタックが激しからだよ。」
いつの間にか2人は寄り添い、ラブラブショーを再開していた。
それは2人っきりのときにやってよ!
あぁ〜、2人ともすっごく嬉しそうに笑っちゃって・・・・・。
でもこういう顔するのって、お互いだけな気がする。
梨華ちゃんは人前であんなに嬉しそうに笑ってない気がするし、ごっちんだって
あんなに優しく人に笑いかけることはない。
あたしにさえ、2人ともそう見せてくれない顔してる。
そうか・・・・・・2人はお互いが『特別』なんだ。
だから人前で見せない自分を出してるんだ。
好きになるってすごいなぁ。
こんなにも人を変えちゃうものなんだ。
でも、やっぱり見ててムカツク。
というところで、あたし達の相談会は幕を閉じた。
チャイムが鳴ったから強制終了だったんだけど。
とにかく、チャンスはまだあるってことだ。
諦めるにはまだ早い!
って、諦める気なんて全然なかったけどね。
- 16 名前:あたしのせい?(1) 投稿日:2001年10月19日(金)23時05分34秒
- それからあたしは、先生に猛アタックを開始した。
先生の授業のときには積極的に参加し、自己アピールをしまくった。
それから、ヒマさえあれば化学準備室に直行だった。
もう先生のストーカー状態だった。
でもあたしは、先生との距離を縮めたかったから。
絶対に振り向かせたかった・・・・・。
だけど、あたしと先生の距離は急に遠くなった。
ここ2週間くらい結構仲がよかったのに、なぜかいきなり離れてしまった。
その距離は日に日にひらいていく。
たとえば、授業の時にあたしを指さなくなった。
それにあたしが準備室に遊びに行っても、この頃はいつも断られていた。
なんで避けられるのか、思い悩んだりもしていた。
でもその原因が分からない。
こないだまで仲がよかったはずのに・・・・・・。
あたしは先生に何かしたんだろうか?
気に触るようなこととか、いけないことでも言った?
そして、避けられ始めてから1週間が経った。
- 17 名前:あたしのせい?(2) 投稿日:2001年10月19日(金)23時19分03秒
- そんなある日、あたしは職員室に用があったので行くことにした。
そこでたまたま担任に会って、保田先生にプリントを渡すように頼まれた。
あたしが先生に懐いているのは、みんなそれなりに知っていた。
さすがに、気持ちまではバレてないけどね。
それはちょっとヤバいと思う。
先生にまで迷惑かけちゃうことだし・・・・・・。
そういうことなので、担任にとってあたしほどの適任者はいないわけだ。
それに学校の端にある化学準備室に、行きたがる生徒なんてそういなしね。
でもあたしは、最初は断ろうと思った。
先生と会うのが少し怖いと思ったから。
だけど反対に、こんなチャンスは滅多にないと思った。
先生と会う口実があるんだから、きっと避けにくいはずだ。
きっといいチャンスなんだ。
こうして、あたしは久しぶりに化学準備室に向かった。
もう学校は放課後だから、辺りに人影はなかった。
まして、学校の端に向かう生徒なんているはずない。
あたしはシーンと静まり返った廊下を、少し心細いなと思いながら歩いていた。
ちょっとだけ薄気味悪かった。
- 18 名前:あたしのせい?(3) 投稿日:2001年10月19日(金)23時37分49秒
- ふと窓を見ると、外は分厚い灰色の雲に覆われていた。
夕方から大雨になるって、朝のニュースで言ってたっけ。
早く帰らないと・・・・・。
階段を上りながら、そんなことを思っていた。
あたしが4階に着いたとき、渡り廊下の所に人影が見えた。
一瞬、幽霊かと思って心臓が飛び出そうだった。
でもよく見ると白い白衣を着ていたから、それは保田先生に間違いなかった。
今度は鼓動が高鳴りだした。
軽く深呼吸をして落ち着くと、あたしは渡り廊下に向かって歩き出した。
辺りが静かだから、足音がいつもより大きく聞こえた。
- 19 名前:あたしのせい?(4) 投稿日:2001年10月19日(金)23時38分26秒
- 先生はどんどん近づいてくる。
あたしもどんどん先生に近づいていく。
2人の距離は短くなっていた。
・・・・・5m
・・・・・3m
・・・・・1m
・・・・・30cm
先生の顔を見るとなんだか冷たくて、それはいつもの先生じゃない気がした。
少しだけ怖いと思った。
それでも、あたしは勇気を出して言った。
「あの!うちの担任から、プリント渡すように頼まれたんですけど・・・・。」
緊張で声か上ずったけど、とりあいず先生にプリントを差し出した。
先生は奪い取るようにしてプリントを取る。
「・・・・・ありがとう。」
と感情のこもってないお礼を言って、すぐにあたしの横をすり抜けて行った。
あたしは呆然とその場に立ちつくした。
ここまで避けられたのは、初めてのことだったから。
先生の足音はどんどん小さくなっていて、やがて消えた。
追いかけることなんてできなかった。
あれは・・・・・・『拒絶』だから。
いきなりザァーという音が聞こえて、窓には滝のように水が流れている。
雨が、すごい勢いで降り始めた。
- 20 名前:N 投稿日:2001年10月20日(土)06時07分51秒
- 『拒絶』!? ・・・よっすぃ〜頑張って〜。
このお話も大好きです。 いつも更新楽しみにしてます。(^^
- 21 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年10月21日(日)22時57分11秒
- >Nさん 『拒絶』はちょっとキーワードですね。
ヨッスィーのがんばりに期待して下さい。
大好きと言ってもらえて嬉しいです。
こちらこそ、銀板の小説を楽しんで読んでます。
- 22 名前:あたしのせい?(5) 投稿日:2001年10月21日(日)23時21分06秒
- それから先生はさらにあたしを避けるようになった。
今まで確かに避けられてたけど、この頃は目で見ても明らかなくらい避けられてる。
あたしが声をかけても、いつも何も言わずに通り過ぎて行っちゃうし、話しても
そっけない言葉しか返してくれない。
・・・・・完全に嫌われちゃったな。
毎日のように遊びに行ってたから、ウザイと思われたのかな?
それとも何か他の理由?
そんなの、言ってくれなきゃ分からないよ!
先生は本当にあたしのことが嫌いなの?
あたしの何がいけないの?
どうしたらいいのか、全然分からないよ!
ただ・・・・・・先生に嫌われたくなかった。
どうしたらいいのか分からなくて、それはまるで出口のない迷路のようにあたしを
迷わせる。
この迷路に出口はあるんだろうか?
あたしはそこから抜けだせるんだろうか?
そんなこんなであっという間に、先生に避けられ始めてから2週間が経った。
- 23 名前:あたしのせい?(6) 投稿日:2001年10月21日(日)23時34分59秒
- だけど、あたしと先生の関係は相変わらずだった。
避けれてばっかりだ。
いっぱい悩んで、いっぱい考えても、答えなんて見つからない。
この問題を解決することは、あたしにはできないのかな?
だからこの頃はもう開き直っていた。
こっちから行ってもダメなら、あっちの出方を待つしかない。
だけど、待っても何の反応はない。
それにあたしは・・・・・・待てるほど大人じゃなかった。
いい加減、キレそうだった。
その日あたしは、部活へ行くために体育館に向かって歩いていた。
ちょうど階段にさしかかったところで、偶然に保田先生に会った。
別に同じ学校のなんだから、会ったって何の不思議はない。
先生はあたしの姿を見つめると、少し表情を曇らせた。
そして何事もなかったように、いつものようにムシして通り過ぎようとする。
いつもならその場に立ちつくしたと思うけど、でも今日のあたしは少し違った。
- 24 名前:あたしのせい?(7) 投稿日:2001年10月24日(水)22時34分12秒
- 逃げられるのにはもう慣れてる。
あたしは手を広げて先生の通り道を塞いだ。
「言いたいことがあるんじゃないですか?」
それはちょっとキツイ口調だった。
でもずっとムシされてたんだから、少しくらいは口調だってキツくなる。
先生はビクッと体を震わせて、ゆっくりと顔を上げた。
だけど、その顔はいつものように冷たい。
「・・・・別に。」
あいかわらず、その態度はそっけなかった。
「トボけないで下さいよ。ここのところずっと避けられてんですけど、その
理由についての説明はないんですか?」
あたしの言葉はずいぶんと強気だった。
別に避けられたって、何されたってもう平気だから。
「何のこと?」
先生は平然とした顔つきで言った。
どうやら、完全にシラを切るつもりらしい。
- 25 名前:あたしのせい?(8) 投稿日:2001年10月24日(水)22時41分52秒
- 「ハッキリ言って下さい。逃げてばっかりで卑怯ですよ!」
あたしは先生に近づき、その腕をガシッと掴んだ。
先生はそれにかなり驚いてる様子だった。
まさか行動に出るとは思ってなかったらしい。
そして、あたしは先生をまっすぐ見つめる。
先生は悲しそうで、どこか怯えたような瞳をしていた。
でもすぐにその瞳はあたしを睨む。
「うるさいなぁ!私にもう近づかないでよ!」
と先生は声を張り上げると、あたしの手をバシッとはねのけた。
・・・・・今、なんて言った?
一瞬、先生の言った言葉が理解できなかった。
でもその言葉は鋭くて、重い衝撃のようだった。
まるで、銃で打ち抜かれたみたいだ・・・・・・。
すごく胸が痛かった。
先生はバツの悪そうな顔していたけど、すぐに逃げるようにしてその場から去った。
あたしはしばらくしてから、悲しいという感情を自覚した。
胸が苦しいほどに締めつけられる。
「・・・・・・くっ。」
あたしは奥歯をグッと噛み締めた。
どうして、どうしてあんなこと言うんですか?
本当にあたしのこと嫌いなったんですか?
・・・・・・分からないよ。
ちゃんと言ってくれなくちゃ、分からないですよ、保田先生!
- 26 名前:瑞希 投稿日:2001年10月25日(木)00時19分55秒
- 実は、やっすーが先生という設定にかなり萌えてます(w
……でも、センセー、どーしてだよぅ。
切ないよぅ。
よっすぃー、頑張れー、負けんなーっ。
- 27 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年10月25日(木)22時51分58秒
- >瑞希さん 萌えてくれるとありがたいです。
実は最初に考えたときは、2人は義理の姉妹という設定でした。
色々あって学園物になりましたが・・・・。
とにかく、保田先生がどうして避けるかは後でちゃんと分かると思います。
- 28 名前:理由が分からない(1) 投稿日:2001年10月25日(木)23時05分27秒
- 「あれ?ヨッスィーじゃん。こんなところでどうしたの?」
「ヨッスィー、部活行ったんじゃなかったの?」
後ろからマイペースな2人組の声が聞こえた。
だけど、あたしは何も答えられなかった。
答えられる状態じゃなかったから。
様子がおかしいと思ったのか、2人は近づいてきてあたしの肩に触れた。
あたしはゆっくりと2人の方に振り返る。
「な、泣いてるの?!ヨッスィー!!」
ごっちんが驚いた声を出して、あたしの顔を覗き込んでくる。
そう言われて、初めて自分が泣いてることに気がついた。
あたし泣いてるんだ・・・・・。
そりゃ、あれは結構辛い一言だっからね。
さっきから目がヒリヒリすると思ったけど、それはあたしが泣いるからか。
「・・・・よかったら、何があったか話してくれる?」
梨華ちゃんはあたしの髪を撫でて慰めると、優しく微笑みながら言った。
あたしはその言葉に無言で頷いた。
- 29 名前:理由が分からない(2) 投稿日:2001年10月25日(木)23時28分28秒
- 「ハァ?何考えてんの保田の奴!」
ごっちんは話を聞き終わると、かなりご立腹のようだった。
「確かにそれはひどいね。」
梨華ちゃんは頷いてるけど、あまり怒ってるようには見えない。
「ちょっとさぁ、これから抗議しに行かない?」
ごっちんが指をポキポキ鳴らしながら言った。
それは・・・・・何かが違う気がする。
「落ち着いてよ真希ちゃん。暴力的なことしなくたって、教師を陥れる手立て
なんていくらでもあるんだから。」
梨華ちゃんはニコニコと笑いながら言った。
・・・・・怖っ!
世に言うところの、敵だけには絶対に回したくないタイプだな。
ごっちんでさえ、ちょっと引いてるし。
「と、とにかく!別に何もしなくていいよ。さっきのは確かにひどいと思うけど、
先生にだってきっと何か理由があると思うんだ。」
あたしは引き釣った笑いを浮かべて言った。
「ヨッスィーがそう言うなら、私は別に構わないよ。」
梨華ちゃんはとりあいず、あたしの意見に賛成してくれた。
「分かった、ヨッスィーがそう言うならしかたないね。」
ごっちんもいちよ納得してくれた。
ということで、なんとかこの場は落ち着いた。
- 30 名前:理由が分からない(3) 投稿日:2001年10月25日(木)23時31分48秒
- だって嫌われてる理由を、あたしはちゃんと知りたいから。
ただ復讐だけしたって、そんな意味がない。
あたしは理由が知りたいんだ。
先生があたしを避ける理由を。
それに、あんなことがあっても、先生のことはまだ好きだし。
だから復讐とは考えていない。
それに、この2人の復讐ってヤバだし・・・・・。
特に梨華ちゃんが。
- 31 名前:理由が分からない(4) 投稿日:2001年10月25日(木)23時46分49秒
- とはいうものの、先生にどうやって理由を聞けばいいんだろう?
教えて下さいって言って、簡単に教えてくれるはずないし。
何か上手い方法はないかなぁ・・・・・。
強引聞くしかないのかなぁ?
できればそれはしたくない。
でもそれくらいしないと、先生の場合は教えてくれないと思う。
本当に、どうしたらいいんだろう?
いい方法なんて浮かばないよ〜。
あたしは授業中、ずっとそのことばかり考えていた。
そして、気がつくとお昼休みなっていた。
御飯でも食べれば、少しいい方法でも浮かぶかなぁ?
「梨華ちゃ〜ん。一緒にお昼ご飯食べよう〜。」
毎度のことでもう慣れたけど、ごっちんがうちのクラスにやってきた。
これでまた、梨華ちゃんとラブラブでご飯を食べるのだ。
はいはい、また2人で仲良く食べてて下さい。
- 32 名前:理由が分からない(5) 投稿日:2001年10月26日(金)00時01分45秒
- 「ねぇ、ヨッスィー。梨華ちゃん、どこ行っちゃたの?」
ごっちんがいきなり、すがるような目であたしに訴えかけてくる。
あたしはその言葉で梨華ちゃんがいないことに気づいた。
あれ?
本当に、梨華ちゃんの姿が見えないや。
どこに行っちゃたんだろう?
突然いなくなるなんて、おかしいなぁ・・・・・。
ご飯でも買いに行ったのかな?
でもパン買いに行くときは、絶対にごっちんと一緒に行ってたし。
だとしても、一声ぐらいかけると思う。
「どっか行ったか知らないの?」
ごっちんは辺りをキョロキョロと見回す。
「ごっちんが分からないのに、あたしが分かるわけないじゃん。」
梨華ちゃんのことは、幼馴染みのあたしよりごっちんの方が詳しいはずだ。
年中一緒にいる、バカカップルだからね。
「あれぇ〜、本当にどこ行っちゃたんだろう・・・・・。」
ごっちんは少し心配そうな顔をして俯く。
まるで、迷子になってお母さんを探してる子どもみたいだ。
でももしかしたら、梨華ちゃんはごっちんとってそういう存在なのかも。
本当のところは、あたしでもよく分からないけど・・・・・。
- 33 名前:理由が分からない(6) 投稿日:2001年10月26日(金)00時04分16秒
- 「もうすぐ戻ってくるんじゃないの。」
あたしはカバンを机の上に置き、中からコンビニのおにぎりを取り出した。
「どこにいるか、心当たりないの?」
ごっちんはソワソワしていて落ち着きがない。
「さぁ?あたしはごっちんに言われて、初めて梨華ちゃんがいないのに
気がついたから。」
あたしはおにぎりのパッケージを、順番通りに取り外しながら言った。
「あぁぁぁぁ!!ジッとなんてしてられないよ!梨華ちゃん探してくる!」
ごっちんは待っていられなくて、ついに教室を飛び出して行った。
「いっふぇらっしゃぁい〜。」
あたしはおにぎりを食べにながら、ごっちんが出て行くのを見送った。
- 34 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月26日(金)20時47分14秒
- もしや、梨華ちゃんは保田先生の所へ・・・??
まて〜!早まるな、梨華ちゃん!!ごっちん、彼女を止めれるのは君しかいない!!
- 35 名前:aki (前250) 投稿日:2001年10月27日(土)00時48分56秒
- 二度目のレスです。
この前のレスの時カップリングのことばかりで
レスしてしまいすいませんでした。
ちょっと自分が勝手に悪いなと思っただけなんで聞き流してください(^^;
それにしてもよっすぃーは強いですね。
逃げることは絶対しないというような強い意思が感じられます。
やすよしの小説は初めて読みますがとても楽しく読ませてもらってます。
これからも頑張ってください^^
- 36 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年10月28日(日)23時22分28秒
- >名無しさん なかなか鋭いですね・・・・・。
そこのところは、詳しくは後で分かると思います。
3人の絡みもちゃんとあります。
>akiさん ニ度目のレスありがとうございます。
レスについては気にしてないので、別に謝ることなんてですよ。
吉澤さんの強気さは、やっぱり子どもだからですかね。
そういう部分もちゃんと書いていきたいと思ってます。
とにかくも、楽しんでもらえて何よりです、書き手としてはそう言って
もらえると嬉しいです。
- 37 名前:壊れゆく幸せ(1) 投稿日:2001年10月28日(日)23時39分07秒
- (保田編)
吉澤はこの頃、毎日のように私のところにやってくる。
そりゃ、来てもいいと言ったけどさ・・・・・。
別に迷惑ってわけじゃない。
だけど・・・・・。
私の考えを遮るように、勢いよく音を立てて開けたドアから、今日も元気な
声が聞こえてくる。
「先生、お邪魔します!」
いつも昼休みになると、吉澤は決まって私のところにやってくる。
そして、一緒にお弁当を食べるのだ。
最初はさすがに戸惑ったけど、この頃はもう慣れてしまった。
「よく飽きずに毎日来れるねぇ・・・・。」
私は軽く溜め息をついて、ドアの方を覗いて言った。
「猛アタックしてるんですよ!先生を振り向かせるために。」
吉澤はその言葉はまるで冗談のようだった。
でも、本人は至って本気だ。
だからその顔は笑っていたけど、その瞳は私を直視している。
どうしてこんな恥ずかしいことを普通に言えるのか、私はいつも不思議で
しょうがなかった。
私は照れ隠しに椅子から立ち上がると、いつものようにコーヒーを入れる
ことにした。
- 38 名前:壊れゆく幸せ(2) 投稿日:2001年10月28日(日)23時49分55秒
- 吉澤は既に指定席になっている、黒いソファーに腰を下ろす。
私はフラスコに水を入れ、アルコールランプに火をつける。
そして、水が沸騰する前にロートに粉を入れる。
吉澤はいつも見てるのに飽きないらしく、楽しそうにこっちを見ている。
これまたいつものことだった。
私はいつの間にか、この状況に順応してしまった。
「先生、今日のお昼ご飯はなんですか?」
吉澤はソファーの背に寄り掛かり、購買部で買ったパンを弄びながら言った。
「えっ?あぁ、コンビニのソバだけど。」
私は首だけを後ろに向けた答えた。
「先生って、いつもソバとかうどんですよね。そんなんじゃ、絶対に栄養が
片寄っちゃいますよ。」
吉澤は少し呆れた顔して言った。
女子高校生に、そんなこと言われる先生って・・・・・・。
「でも、あんただって殆どパンでしょうが。」
と私はその言葉に反論する。
「あぁ〜、それもそうですね。」
と吉澤は笑いながら答えた。
- 39 名前:壊れゆく幸せ(3) 投稿日:2001年10月29日(月)00時03分40秒
- いつからこんな風になったんだろう?
こんなにも普通に、吉澤と接している自分に驚く。
友達のように親しげに言葉を交わしている。
このままでいいんだろうか?
私は少し考えごとをしてため、気がつくと水が沸騰していた。
慌ててロートをフラスコに差し込む。
するとロートにフラスコのお湯が上昇して、コーヒーの粉と混ざっていく。
私はお湯と粉を軽くスプーンでほぐす。
それから少し放置している間に、2人分のカップを用意する。
その一つは既に吉澤専用になっていた。
見た目はちょっとシャレたティーカップなんだけど、裏に吉澤が勝手に名前
を書いてしまったのだ。
それからこのカップは吉澤専用になってしまった。
私はもう一度、お湯と粉をスプーンで軽くほぐす。
そして、アルコールランプの火を消した。
ロートからフラスコにコーヒーがろ過されていく。
それが終わると、ロートを外してカップにコーヒーを注いだ。
私はプラックだからそのままで、吉澤は牛乳をたっぷり入れたものと、
シュガースティックを1本つけるのが、いつからか定番になっていた。
- 40 名前:壊れゆく幸せ(4) 投稿日:2001年10月29日(月)00時22分05秒
- 「はい、おまたせ。」
私はシュガースティックと共に、コーヒーを吉澤に手渡した。
「あっ、すいません。」
吉澤が軽く立ち上がって、私からコーヒーを受け取る。
私はとりあえず自分の机にコーヒーを置き、椅子をソファーの方に移動させて
から改めてコーヒーを手に取って座った。
和食にコーヒーは合わないと、毎度のことながら思う。
「先生、コーヒーにソバって合わないですよ。」
吉澤が自分が気にしていることを、爽やかな笑顔で指摘する。
「うるさい1そんなこと分かってわよ1」
私は図星だったから、少し顔を赤くして言った。
「先生って、変なところで子どもぽっいですよね。」
そう言った吉澤の顔は、少し大人びているように見えた。
「あんたに言われたない!」
と私は大人気なくも顔を逸らして言った。
まるで大人と子どもが逆転したような、いつもそんな感じだった。
バカぽっい吉澤だけど、話すと意外に物事に対する考え方は真面目で、
それなりに常識的なところもあった。
まぁ、理解不能なときもあるけど・・・・・。
そんな吉澤との毎日は、楽しくて仕方がなかった。
こんな日々は久しぶりだった。
- 41 名前:LINA 投稿日:2001年10月31日(水)00時33分33秒
- 圭ちゃんがよしこを避ける理由が明らかに・・なりそうですね〜
っつーか、ソバにコーヒーの保田先生が(w
毎日チェックしてたりするんで、頑張ってください♪
- 42 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年11月02日(金)22時38分22秒
- >LINAさん 毎日チェックしてるんですか?
この頃は色々と忙しいので、更新できなくて申し訳ないです。
避ける理由の詳しいところは、もう少し先の方で出てきます。
今はまだ曖昧な感じでしか書いてません。
なるべくヒマを見つけて更新していきたいです。
- 43 名前:自問自答(1) 投稿日:2001年11月02日(金)22時49分42秒
- ふと、私の中に疑問が生まれる。
・・・・これでいいの?
こんな馴れ合いをしていて、本当にいいんだろうか?
私は吉澤の気持ちには答えられない。
でもこうやって接しているうちに、僅かな望みを吉澤に与えているんじゃ
ないだろうか?
変な期待をさせている?
もしかしたら、好きになってくれるんじゃないかって・・・・・・。
私は他人を好きになることはない、今までずっとそう思ってきた。
でも、最近はそれが違ってきている。
私自身が変わり始めているんだ。
吉澤と過ごす毎日によって、私は間違いなく変わり始めている。
自分でも知らないうちに・・・・・。
気がついたら、吉澤のことが気になっていた。
まさか、好きになりかけてる?
そんなバカな!?
そんなこと、あるはずがないんだ!!
だって、私はもう誰も愛さないって誓ったから。
だから・・・・・・私を本気にさせないで。
- 44 名前:自問自答(2) 投稿日:2001年11月02日(金)22時59分22秒
- だって壊れた私が出てきてしまうから。
そうしたら、きっと吉澤を壊してしまう。
あの子はすごくいい子なんだ。
優しくて、純粋で、すごくまっすぐで、まだいい意味で子どもでいる。
ただ好きだから相手に近づく。
周りとか相手とか、そういうことを考えない自己中。
私はそんなに一直線に走れないよ・・・・・。
いつも周りとか、後ろを見てばっかりだ。
吉澤は自分を見てほしいから、授業中に手を上げたり、お昼休みになると
準備室に遊びに来たり、頑張って私にアピールしてくる。
そんな毎日は、確かに楽しかったよ。
どこか幸せさえ感じてた。
でも、あの子は本当にいい子なんだよ。
だから私には相応しくない。
これ以上近づくと、きっと私は吉澤を壊してしまう。
深く傷つけてしまう。
・・・・・・あいつにしたように。
だから、私は吉澤を避け始めた。
- 45 名前:自問自答(3) 投稿日:2001年11月02日(金)23時21分34秒
- それからの私は、吉澤に冷たく接するようにした。
近くなったはずの距離は、一気に遠くなった。
私は授業中に吉澤を指さなくなった。
お昼を誘いに来ても、適当な理由をつけて断ったりした。
私達は近づかない方がいい。
お互いの為なんだよ。
そして、避け始めてから1週間が経った。
私はその日、職員室に行くために下に向かっていた。
もうそのときは既に放課後で、辺りに全く人気はなかった。
廊下は不思議なくらい静寂に包まれている。
だから、自分の足音がいつもより大きく響いていた。
窓から外を見ると、鉛色した雲が空を覆いつくしている。
今にも降ってきそうな灰色の厚い雲は、校舎に暗い影を落としていた。
まるで、今の私の心情のような気がした。
雨になるのかな・・・・・。
私は横目で外を眺めていて思った。
そのとき反対側から、私とは違う足音が聞こえてきた。
まさかあの子だなんて思わなかった。
そんなのあまりに出来過ぎている。
だけど、間違いなく反対側から歩いてくるのは吉澤だった。
- 46 名前:名無しさん推奨 投稿日:2001年11月04日(日)10時55分01秒
- すっげーおもしろいっす!
更新がんばれ〜☆
- 47 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年11月04日(日)23時06分00秒
- >名無しさん推奨さん レスありがとうございます。
本当に更新でくなくなってるんですが、なんとか時間見つけてしていこう
と思っています。
- 48 名前:自問自答(4) 投稿日:2001年11月04日(日)23時18分36秒
- 吉澤は私の方に近づいてくる。
私も吉澤との距離を徐々に詰めていく。
2人の距離は短くなっていった。
きっと私達は、近づいちゃいけなかったんだよ。
だって私はこのままだと、吉澤をあいつのようにしてしまう。
きっとひどく傷つけてしまう。
もう同じ過ちは犯したくないんだ!
だから、私にこれ以上近づかないで。
・・・・・・壊れた私が目覚めてしまうから。
私達は向かい合うと、静かにその歩みを止めた。
向き合うのはすごく久しぶりな気がする。
吉澤は視線が定まらなくて、どうやら私に目を合わすか迷っているよう
だった。
できれば・・・・・・・そのまま合わせないでほしかった。
私はいつものように、吉澤の横を通り過ぎようとする。
だけど、今日の吉澤は私に声をかけてきた。
「あの!うちの担任から、渡すように頼まれたんですけど・・・・・。」
そして手に持っていたプリントを私に差し出す。
私はそのプリントを貰うと、素っ気ない声で言った。
「・・・・・ありがとう。」
その声はずいぶんと冷たかった。
こんな声が出せるんだと、自分でも少し驚いた。
- 49 名前:自問自答(5) 投稿日:2001年11月04日(日)23時28分01秒
- それから、何事もなかったかのように吉澤の横をすり抜けた。
後ろを振り返らなかったから、そのとき吉澤がどんな表情をしてるのかは
分からなかった。
私は吉澤を『拒絶』したんだ。
きっと、深く傷つけてしまった。
・・・・これでいいの?
いいわけないのは分かってる!
でも、これ以外の方法が浮かばないんだよ!
これしか私にはできないんだ。
本当は・・・・・こんなことしたくなかった。
ふと気がづいて辺りを見回すと、そこは階段の踊り場だった。
私は階段の壁に思いきり拳を殴った。
手は痺れるような痛くて、それに共鳴するように心に痛みが走る。
私は頭を軽く壁にぶつけた。
壁はひんやりと冷たくて、何だか少しだけ癒された気がした。
そのとき突然、すごい音と共に雨が降り出した。
窓に勢いよく叩きつけられる雨の音が、随分とうるさかった。
- 50 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年11月08日(木)22時44分27秒
- 47の名無し推奨さん。
名前間違えてすいませんでした。
以後、気をつけます。
- 51 名前:知らない心(1) 投稿日:2001年11月08日(木)22時53分33秒
- それから私は、さらに露骨に吉澤を避けるようになった。
廊下で会ったときも、話しかけられたときも、無視して横をすり抜けた。
会話したとしても素っ気なく。
なるべく冷たく接するようにした。
それからできるだけ、吉澤には近づかないようにした。
そのことで、他の先生から注意されることもあった。
だけど、こうするしか今の私には術がないから。
このことで吉澤が悩んでいるのも知っていた。
いきなり避けられ始めたから、かなり混乱するのも分かる。
理由だって分からないと思うし。
でも避けられてるんだから、かなり辛いことだと思う。
だけど、壊したくないから・・・・・。
別に許さなくたっていい、憎んで構わない。
私のことを嫌いになってよ。
もう、私のことを好きにならないで。
- 52 名前:知らない心(2) 投稿日:2001年11月08日(木)23時02分28秒
- これが最良の方法だなんて思ってないよ。
でもこれぐらいやらないと、嫌いになってくれないから。
吉澤はそういう子だ。
こんなにしても・・・・・・まだ好きだといってる。
別にそれは自惚れじゃなくて、あの子の目がそういってるんだ。
だから私は吉澤を避けるんだ。
早く嫌いになってくれれば、お互いが楽になれるから。
だけどあたしは、いつも逃げてばっかりだ。
ダメだな・・・・・本当に最低だよ。
なぜ2人は出会ってしまったんだろう?
こんなことなら、出会わなければよかった。
こんなに辛い思いをするなら、会いたくなかったよ。
辛すぎて、今にも押し潰されそうだ。
これって運命なの?
いや、そんな陳腐な言葉で表わせることじゃない。
それとも私への罰だろうか?
もう2度と、人を愛さないと決めた私への・・・・・・・。
- 53 名前:知らない心(3) 投稿日:2001年11月08日(木)23時14分22秒
- 吉澤を避け始めてから、一体どれくらい経ったんだろう?
最近は吉澤も私に近づかなくなった。
・・・・・それでいい。
私には近づかない方がいいよ。
今は辛いかもしれないけど、すぐに忘れられから大丈夫だよ。
私のことなんか・・・・・すぐに忘れるさ。
だから今だけでいいから我慢して。
だってこのままじゃ、きっとお互いにダメになってしまうから。
だからこれでいいんだよ。
私はそのとき準備室に戻る途中だった。
でもそれが偶然か必然か知らないけれど、階段のすぐ上がったところで
吉澤と鉢合わせしてしまった。
でも2人とも同じ学校にいるんだから、確率的には十分有り得ることで、
逆に会うなと言う方が無理だ。
私はいつものように、無視して通り過ぎようとする。
だけど、その日の吉澤はいつもと違っていた。
「言いたいことがあるんじゃないですか?」
と声をかけてきたのだ。
私は予想外のことに体が少しだけ震えた。
- 54 名前:知らない心(4) 投稿日:2001年11月08日(木)23時26分40秒
- その言葉はいつもの吉澤らしくない、随分ときつい口調だった。
でもそれも仕方ないか・・・・・。
私はずっと吉澤を避けてきたんだから。
刺のある言葉だって言いたくもなるはずだ。
でも悪いとは思うけど、私はいつもと変わらず冷たく接する。
私はゆっくりと振り向いてから言った。
「・・・・別に。」
とその言葉は本当に素気なかった。
「トボけないで下さいよ。ここのところずっと避けられてんですけど、
その理由の説明はないんですか?」
吉澤は少し皮肉めいてることを言う。
「何のこと?」
それでも私は、何も知らないような口ぶりで誤魔化そうとした。
吉澤はその言葉に微かに顔に怒りを表わす。
「ハッキリ言って下さい。逃げてばっかりで卑怯ですよ!」
吉澤はいきなり私に近づくと、腕を少し痛いくらいに強く掴んで言った。
- 55 名前:知らない心(5) 投稿日:2001年11月08日(木)23時34分16秒
- 胸を抉るような痛い言葉だった。
・・・・・でもそれは図星だ。
私はいつも逃げてばっかりで、真実を語ろうとはしない。
でも、あんたに何が分かるの?
何も分かってないくせして、これ以上私を苦しめないでよ!
吉澤は私から視線を逸らさず、まっすぐ見つめてくる。
その目にどこか慈愛のようなものを感じた。
もしかしたら、同情されてるのかもしれない。
そのとき吉澤に全て明かせば、受け止めてくれるような気がした。
変な期待させないでよ。
もう傷つきたくないし、傷つけたくないんだ!
だから・・・・・近づかないで。
「うるさいなぁ!私にもう近づかないでよ!」
気がついたら吉澤に向かって叫んでいた。
そして、勢いよく手をはねのけて逃げ出した。
- 56 名前:知らない心(6) 投稿日:2001年11月08日(木)23時45分15秒
- どこをどう逃げたのか分からない。
そんなこと覚えてない。
あの場から逃げられれば、ただそれだけでよかったから。
私はあの子を傷つけた。
心に深い傷を作ってしまった。
・・・・・変わらないよ。
これじゃあのときと一緒だよ!
あいつにやったのと何も変わってない!
思いきり傷つけて、私はそこから逃げ出した。
理由が違っても、やっていることは変っていない。
結局、私は何やっても同じなんだよ。
傷つけたくないから、私はあの子を避けてたのに・・・・・。
なのに私はあの子を傷つけた。
でもきっと、これで吉澤は私を嫌いになったはずだ。
これで少し楽になれるのかな?
早くこの苦しみから抜け出したい。
でも、そんなの自分勝手だな。
吉澤を散々苦しめておいて、自分だけ苦しみから逃げ出したいなんて。
やっぱり私は・・・・・卑怯者だ。
- 57 名前:知らない心(7) 投稿日:2001年11月08日(木)23時56分41秒
- どうやら、吉澤は追って来ないようだった。
私は運動が苦手なのに走ったせいで、随分と息が上がっていた。
だから近くの壁にもたれると、私は荒れた息を整える。
大きな溜め息を吐くと、髪を後ろに思いきり掻きあげた。
額に少し汗をかいていたけど、それは冷や汗なのかもしれない。
それにしても、この重苦しい気持ちは何だろう?
まるであいつの元を去ったときのような、この胸に絡みつく苦い感覚。
それにこの罪悪感は何?
あれ?
私、泣いてるの?
頬にそっと手で触れると、確かに私の頬には涙が流れていた。
なんで泣いてるの?
分からないけど、でも涙が止まらない。
それに胸がすごく苦しい。
どうして、こんな気持ちになるんだろ?
その答えは簡単だ。
・・・・・・・・・好きだからだよ。
私は好きなんだ。
吉澤のことが好きなんだよ。
好きだから、こんなにも胸が締めつけられるんだ。
- 58 名前:LINA 投稿日:2001年11月10日(土)03時18分21秒
- あぅ〜〜(涙
圭ちゃん、素直になってよ〜〜〜
作者さん頑張って!!!
- 59 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年11月15日(木)22時41分21秒
- >LINAさん 保田さんが素直になるのは、もうちょっと先の話
ですね。頑張ってなるべく多く更新します。
- 60 名前:知らない心(8) 投稿日:2001年11月15日(木)22時55分17秒
- その気持ちは前から薄々感じていた。
月日が経つにつれて、徐々に私の心は吉澤に奪われていった。
どんどん惹かれていった。
自分でも抑えられないくらいに・・・・・・。
だけど認めるのが怖かった。
もし好きになったことを認めたら、自分が止まらなくなりそうだから。
きっと暴走してしまう。
それに私は2度と好きにならないって決めたんだ。
誰も愛さないと心に決めた。
人を好きになる資格なんてないんだよ。
だから気づかないなフリをしていれば、こんな気持ちはいずれ冷めると
思っていた。
それに、今更気づいたってもう遅い。
私は吉澤に嫌われてしまったから。
きっとあの子は、もう私には近づかないだろう。
好きになっては・・・・・・もらえない。
私は目元を手で覆うと、これ以上涙が流れないように上を向いた。
- 61 名前:厄介な訪問者(1) 投稿日:2001年11月15日(木)23時08分08秒
- だけど事が起こったのは、次の日の昼休みのときだった。
私はいつものように準備室でお昼をとっていた。
この前までこの部屋に吉澤がいたことが、まるで夢か幻のように思えた。
楽しかったよ。
確かに楽しい日々だったけど、でも私はどこか一歩引いていた。
だって、この幸せな日々が壊れること知っていたから。
ふとそのときのことを思い出して、つい感傷に浸ってしまった。
もう、あのときには戻れない・・・・・。
そう思うと少しだけ胸が苦しくなった。
そのとき、いきなり部屋のドアがノックされる。
私は心臓が飛び跳ねるくらいに高鳴った、一瞬だけ吉澤かと思ったから。
でもすぐにそれが違う人だと分かった。
だってノックを3回したから。
吉澤は癖なのか知らないけど、いつもノックは2回しかしなかった。
そんな細かい癖さえも、私はいつの間にか覚えていた。
・・・・惚れ過ぎだよ。
そう内心思って私は苦笑した。
- 62 名前:厄介な訪問者(2) 投稿日:2001年11月15日(木)23時18分13秒
- 「1−Aの石川ですが、今お時間よろしいでしょうか?」
その訪問してきた少女は、随分と丁寧な言葉使いで話す。
石川?
あぁ、吉澤と仲がいいあの子か・・・・・。
何か用でもあるんだろうか?
って、用件なんて一つしかないか。
本心から言うならば、適当に言って追い返したかった。
部外者といってはなんだけど、だけどこれは私と吉澤の問題だ。
できればその他の人間に関わってほしくない。
だけどそれは無理な話だろう。
石川はきっと帰ってくれないと思う。
どうやら・・・・・・話さないといけないみたいだね。
あの真面目な石川のことだから、かなり覚悟を決めてここに来たと思う。
「・・・・・どうぞ、ドアは空いてるから勝手に入って。」
私は軽く溜め息をついて、少し間をあけてから言った。
- 63 名前:厄介な訪問者(3) 投稿日:2001年11月15日(木)23時39分03秒
- 「お休み中に失礼します。」
石川は律儀に軽く頭を下げて部屋に入る。
本当に今どき珍しいくらいの、礼儀の正しさだといつもながら思う。
・・・・・こんな子は早々いないな。
「何か飲み物でも出すけど、飲みたいものとかある?」
私は椅子からゆっくり腰を上げると、いちよ来た客を持て成す。
「いえ、お構いなく。気を使わないでいいですから。」
石川は立ったまま、いつものように微笑んで言った。
「別に遠慮しなくていいって。とは言っても大したものないんだけね、
あるのはコーヒーと紅茶だけだから。石川はどっちがいい?」
私は吉澤があんまり好きじゃないから、わざわざ紅茶を用意した。
まぁ、ティーバックなんだけどさ。
でもせっかく買ってきたのに、吉澤はコーヒーしか飲まなかった。
「先生と同じコーヒーがいい」とか言ってさ・・・・・。
私はまた吉澤のことを思い出していた。
その間に石川は考えていたようで、
「・・・・では、紅茶でお願いします。」
と柔らかい微笑みを私に向けて言った。
- 64 名前:厄介な訪問者(4) 投稿日:2001年11月16日(金)00時01分31秒
- そのとき、この子は手強いと思った。
最初に会ったときから感じてたけど、どうもこの子は考えが読めない。
表情も出してるようで出してないし。
笑ってるように見えるけど、この子はきっとポーカーフェイスだと思う。
笑いながらその表情を隠してるなんて、話をするのにこれ程やっかいな
相手はそういない。
「分かった、紅茶ね。ミルクティーとかにする?」
私はそんなこと考えてる様子を微塵も見せず、少し優しい感じのの口調で
石川に言った。
冷静に他人を分析してる私も、話するにはかなり厄介だと思うけどね。
「嬉しいですけど、なるべく先生が楽なものでいいですから。」
石川は私に向けた微笑みを崩さずに言った。
やっぱりその声は少し甲高くて、優しい感じがして、変わった声だ。
色んな意味でこの子はすごいよ・・・・・。
私は妙なところに感心しながら、ミルクティーを作ることにした。
- 65 名前:厄介な訪問者(5) 投稿日:2001年11月16日(金)00時02分36秒
- 早速、台所に行って小さな手鍋を用意する。
そして2人分の水を入れ、中火にかける。
ミルクティーなので、後から入れる牛乳の分も考えて、最初の水の量は
通常より少なめにしておく。
「何かお手伝いすることありますか?」
と後ろから、少し不安そうな石川の声が聞こえてきた。
私だけにやらせては悪いと思ったんだろうか?
「あぁ・・・・・・っと。じゃぁ、そこのラックにあるティーカップが
あるでしょ?それを適当に2つ持って来てくれる?」
と私は頼む事をを見つけて、首だけ後ろに向けて言った。
すると石川はすぐに行動に移る。
先生として、石川は本当に理想の生徒だと思う。
礼儀は正しいし、言う事は聞いてくれるし、何事も一生懸命に取り組むし。
だけどどこかマニュアル的で、私はそれに物足りなさを感じていた。
まるで私の考えを見透かしたように、ちょうどそんなことを思っていた
ときに石川が声をかける。
「これでよろしいですか?」
そう石川が取って見せてくれたのは、白を基調とし真ん中に青色の手書き
ぽっい模様が入っている、陶器でできたティーカップだった。
それは・・・・・吉澤は専用だった。
だから私は一瞬、言葉を失って呆然としていた。
- 66 名前:厄介な訪問者(6) 投稿日:2001年11月16日(金)00時28分13秒
- 「どうかしました?」
石川はそんな私を不思議そうに見つめる。
「いや、なんでもないよ。あのさ、そのカップなんだけど・・・・・・・
別のに替えてもらえるかな?」
なぜそう言ったんだろうか?
まだ吉澤との思い出にしがみついてる?
バカらしい・・・・。
「では、こちらでいいですか?」
石川はベージュ色したカップを手に取って言った。
「あぁ、それでいいよ。それと、ソーサーも一緒に持ってきて。」
私は水が沸騰してきたので、横目で石川のことを見ながら言った。
沸騰するとティーーバックを2つ鍋に入れ、すぐにコンロの火を止めた。
そして、鍋を蓋をして少し蒸らす。
「・・・・・あの、ソーサーって何のことですか?」
石川が済まなそうな声を出して聞いてくる。
「あっ、分からないか。えっと・・・・・ソーサーっていうのはカップに
下に敷くお皿のことだよ。よく喫茶店とか行くと必ず出てくるでしょ。」
私はなるべく分かりやすく説明した。
言えばきっと分かるだろうけど、ソーサーという名称を知らない人もいる。
だけど、私はいつもの癖で言ってしまったのだ。
・・・・・吉澤には、ちゃんと説明してあったから。
- 67 名前:厄介な訪問者(7) 投稿日:2001年11月16日(金)00時31分43秒
- ・・・・・ダメだな。
全然忘れてないよ。
だけどそんな簡単に、吉澤のことを忘れられるはずがない。
でも気がつくと、頭はいつも吉澤のことを考えてる。
2人の思い出をいつも思い返してる。
心はまだ離れてない。
いや、日に日に近づく一方だよ。
だから忘れるなんて、私には無理なんだ。
「そうなんですか?私、そのこと初めて知りました。でもきっと・・・・・
ヨッスィーなら知ってるんでしょうね。」
石川の微笑みは相変わらず崩れていないけど、その甲高いはずの声が少し
だけ低くなった。
きっとこれが石川の宣戦布告なんだろう。
これはまた、随分と嫌な皮肉を言ってくれるよ。
だから私はその宣戦布告を受け流す意味も含めて、嘲笑うかのような笑みを
浮かべて言った。
「あぁ、そうだよ。吉澤ならきっと知ってる。」
- 68 名前:厄介な訪問者(8) 投稿日:2001年11月22日(木)22時53分30秒
- だけど石川は私の言葉に顔色一つ変えない。
眉さえ動かなかった。
すごい子だよ・・・本当に。
「そのカップとソーサー、こっちに持ってきてくれない?」
だけどそんなことに怖気づきはしない。
私は動揺した様子も見せず、平然と石川に言った。
まるで何事もなかったように・・・・・。
「あっ、すいません。もう一つは、これと同じものでいいですか?」
と石川は隣に置いてある同じカップを見せる。
「それでいいよ。そうしたら、石川はソファーにでも座って待ってて。」
お客様を立たせてるわけにはいかないから。
石川はカップとソーサーを台所の空いている場所に置くと、素直にソファー
へと腰を下ろす。
私は鍋の蓋を取ると、牛乳を取り出して最初に水より多めに加えた。
そして、火を弱火にして軽く沸騰するのを待つ。
「・・・・それでさぁ、石川はなんで私のところに来たの?」
私はやや遠回しに話を切り出した。
何が言いたいのかは知っている、だけどあえて質問することにした。
- 69 名前:厄介な訪問者(9) 投稿日:2001年11月22日(木)23時03分54秒
- 石川は私の方に向かって軽く体を捻る。
「ヨッスィー・・・・・いえ、吉澤のさんのことです。でも先生のことです
から、そんなこと分かっていたんじゃないですか?」
石川は微笑みながらも、その目を少しだけ細める。
・・・・・笑顔の毒舌家。
その表現が石川にピッタリだと思った。
「まぁ、なんとなくそんな気はしてたよ。それで、まさか吉澤と付き合え
とでも言うつもり?」
私は完全に石川の方に体を向けて言った。
「それは・・・・・紅茶ができてからお話します。」
石川は私の後ろに目をやると、いつも微笑みでそう言った。
「分かったよ、もうすぐできるから待ってて。」
私は少し釈然としなかったけれど、とりあいず紅茶を作ることにした。
鍋を見ると既に小さな泡ができていた。
私はさえ箸でティーバックを取ると、それをカップに注いだ。
「砂糖は?スティクしかないけど。」
私は2つのカップを持ってきながら言った。
「甘いのはあまり好きじゃないですから、なしで構いません。」
石川は気を利かせたのか、立ち上がってカップを取りに来た。
へぇ、甘いの好きじゃないのは意外だな。
見た目はいかにも、甘いもの大好きって感じなのに。
- 70 名前:厄介な訪問者(10) 投稿日:2001年11月22日(木)23時14分25秒
- とりあえず私達は腰を下ろす。
だけど少し間を空けて、私達は座った。
「では、いただきます。」
石川は軽く頭を下げて軽く紅茶を口にした。
「こんなお粗末なもので悪いね。紅茶ってよく分からないからさ。」
紅茶を飲んでる石川に向かって、私は苦笑をして言った。
「いえ、お粗末なんてことないですよ。こんなおいしいミルクティー、
私は久しぶりに飲みましたから。」
それはお世辞かもしれないけど、でも石川はまた紅茶を口にした。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。」
私はちょっと照れ臭そうに笑うと、自分も紅茶を一口だけに飲んだ。
・・・・・やっぱり、ミルクティーは甘いと思った。
だけどコーヒー党の私にしては、結構よくできた方かな?
- 71 名前:厄介な訪問者(11) 投稿日:2001年11月22日(木)23時21分10秒
- 「お世辞とかじゃないですからね、本当においしいと思ってますよ。でも
こういうものって、毎回ここに来る人に出してるんですか?」
という平凡で穏やかな石川の質問に、
私は軽く笑みを浮かべて答えた。
「いや、さすがに毎回は出さないよ。嫌な人とかめんどくさいときには
例え出したとしても適当だから。」
少しだけゆったりとして、平穏な時が流れた気がした。
「・・・・では、そろそろ本題に入りましょうか。」
でもそれは石川の一言によって、あっさりと重苦しい空気に変わった。
- 72 名前:厄介な訪問者(12) 投稿日:2001年11月23日(金)23時44分40秒
- 私は近くの机にコップを置いた。
石川もそれに習って膝にコップを置く。
私は緊張しているのか、軽く生唾を飲み込んだ。
「なら、さっきの答えを聞きいていい?」
私は浅い溜め息を吐くと、足を組んで石川を見つめた。
「確か、付き合って欲しいということでしたよね?・・・・・・私は別に、
先生に付き合うことを強制する気はありません。振りたいのなら、どうぞ
振って下さい。」
石川は相変わらず顔は笑っているけど、言っていることはかなりきつい。
私は少しだけ呆気にとられてしまった。
「そ、それじゃぁ、私に何をして欲しいの?」
私は乱れた心をなんかとか平静を保つ。
「今言ったように、別に振っても構わないんです。ただ傷つけるような
ことはしないでもらえませんか?」
石川の甲高かった声が、僅かに低くなった気がした。
- 73 名前:厄介な訪問者(13) 投稿日:2001年11月23日(金)23時54分31秒
- でもその話どこか矛盾している。
振ってもいい、だけど傷つけてはいけない。
私は傷つけないように振るなんて無理だと思う。
「振られて傷つくのは、しょうがないことなんじゃないの?それで
傷つけたって言われても困るよ。」
私は自分の言ってることは正しいと思った。
「・・・・先生はちゃんと振ったんですか?お互いに話し合った上で
振ったんですか?この頃吉澤さんを避けているようですけど、それが
振ったということになるんですか?」
石川はもう笑っていなかった。
どこか睨むような瞳で私を見つめ、その口調も怒っている感じだった。
私は何も反論することができなかった。
だって、石川の言うことの方がが正しいから。
私は振ってなんかいない、ただ逃げ回っているだけなんだ。
それを見事に指摘された。
「これ以上、ヨッスィーを傷つけることは絶対に許しませんから。」
石川は言葉の最後に意外にも笑顔を見せた。
そのとき、思わず全身に悪寒が走った。
これほど怖い笑顔を見たことがなかったから。
だけどそれは、石川が本気だと言う何よりの証拠だと思う。
- 74 名前:厄介な訪問者(13) 投稿日:2001年11月23日(金)23時57分44秒
- 傷つけることは絶対に許さないか・・・・・。
でも私にどうしろって言うの?
なんて吉澤に言えばいいの?
壊れた自分を見せたくないから、だから私は吉澤を避けたんだ。
そう言えばよかった?
そうしたら、吉澤は分かってくれたの?
きっと分かってくれないよ。
分かるはずがないんだ!
私を理解してくれるはずがない!
だって・・・・・・あんなに深く傷つけたから。
私は黙ったまま俯いていた。
石川はそんな私の考えを見透かしたように、いつものような柔らかい
口調で私に言った。
「ヨッスィーなら、きっと受け止めてくれると思いますよ。拒否する
としても、罵倒とか相手が傷つく言葉を言う子だと思いますか?」
石川はそっと私の手に自分の手を重ねる。
私がゆっくりと顔を上げると、そこには優しく微笑んでいる石川がいた。
まるで、慈愛に満ちた母親のようだった。
何なのこの子は?
私は呆然とした様子で石川を見つめていた。
- 75 名前:厄介な訪問者(14) 投稿日:2001年11月23日(金)23時58分42秒
- 怖かったり、優しかったり、一体どういう子なの?
でも一つだけ分かることがある、この子は誰よりも吉澤のことを深く
理解しているということだ。
でなければ絶対に言えない言葉だから。
「・・・・そうかもしれないね。けど吉澤は私のことなんか、もう好き
じゃないと思うよ。」
私は石川から少しだけ顔を逸らして呟いた。
そうだよ。
今さら何か言ったところで、吉澤を傷つけたことが変わるわけじゃない。
ひどいことを言ったのは事実なんだから。
だから吉澤は・・・・・・私を好きなはずないんだよ。
嫌いになって当然なんだ。
「そんなことないと思います。ヨッスィーはきっと、今でも先生のことが
好きですよ。」
これって慰められてるのかな?
私は先生だっていうのに、なんだか情けないなぁ。
だけどこの子は本当にすごいよ。
さっきから圧倒されてばかりだから。
でも石川の優しい手の温もりに、少しだけ勇気が湧いてきた気がする。
「石川。・・・・・・」
私は顔を戻して石川を見つめ、これから言葉を言おうと思った瞬間、
勢いよく開けられたドアの音に言葉は遮られた。
「保田ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
それが彼女の第一声だった。
- 76 名前:瑞希 投稿日:2001年11月24日(土)00時36分21秒
- ま、待てっ、早まるなっ、ごっ…<自主規制
- 77 名前:ほーう 投稿日:2001年11月24日(土)13時14分16秒
- おおう!!
更新更新♪
作者さんがんばってー!!
毎日チェックしてるですよー!!
- 78 名前:aki 投稿日:2001年11月24日(土)19時46分03秒
- かっこいい石川になんかとても可愛いごっ〇〇!!
更新楽しみにしてますっ!
- 79 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年11月30日(金)23時12分43秒
- >瑞希さん 別に彼女の正体は分かってもよかったのですが、わざわざ
自主規制ありがとうございます。
これから彼女はかなり暴走するので、楽しみにしてて下さい。
>ほーうさん 毎日チェックご苦労様です。
そんなに更新できなくて、本当にすいません。
書けるときに、なるべく多く更新したいと思ってます。
>akiさん いしごまの2人のキャラは、自分でも気に入ってます。
やすよしの話が一段落ついたら、2人の話を短編なんですけど番外編を
書こうと思ってます。
- 80 名前:唐突な訪問者(1) 投稿日:2001年11月30日(金)23時28分37秒
- その子は吉澤と石川の2人と仲がいい、後藤真希という生徒だった。
この子の第一印象はかなり悪かった。
だって髪の毛は茶色いし、愛想は悪いし、おまけにつかかってきたし。
まぁ、確かに真面目な生徒じゃないけどね。
だけどそんなに悪い生徒でもなかった。
ただ授業中によく寝てるから、何回も注意してるけど。
後藤は強引に石川と私の間に割り込むと、何を思ったのかいきなり石川を
抱きしめた。
そして私の方に顔を向けると、敵意のこもった口調で言われた。
「梨華に手を出すな!」
私は軽く溜め息をつくと、机の上にあったやや厚い教科書で後藤を叩く。
「・・・・・先生を呼び捨てにするな。」
諸事情か何か知らないけど、突然入ってきて教師を呼び捨てにするのは、
ちょっと見過ごせないな。
別に呼び捨てするなとは言わないけど、ものには限度があるということを
少し知った方がいい。
全く、何考えてんだか・・・・・。
私にはさっぱり理解ができない。
「痛ったぁぁぁぁぁぁ!!」
後藤は床に屈み込むと、頭を押さえながら言った。
大げさだよ・・・・・・・軽く叩いただけなんだから。
- 81 名前:唐突な訪問者(2) 投稿日:2001年11月30日(金)23時48分13秒
- 「真希ちゃん、大丈夫!」
石川はすぐに後藤の元に駆け寄る。
「すごく痛いよぉ、梨華ちゃ〜ん。」
後藤は石川に泣きつくと、顔をすり寄せて甘えた声を出す。
「どこが痛いの?ここ?それともこっち?」
石川は後藤の頭を撫でながら、不安そうな顔をしている。
まるで子どもを溺愛する親バカと、その溺愛に溺れ過ぎている子どもを
見ているようだった。
・・・・今すぐここから出ていけ。
と私は心の底からそう願った。
「たっく、殴らなくてもいいじゃん。体罰で教育委員会に訴えるよ。」
後藤はまだ頭を摩りながら、不服そうな顔して私に言う。
私は何も言わずに後藤の言葉を聞き流す。
こんなくだらないことで訴えられる教育委員会が、とても可哀想だよと
内心ツッコミを入れながら。
- 82 名前:唐突な訪問者(3) 投稿日:2001年12月01日(土)00時01分03秒
- 「まぁまぁ、真希ちゃん落ち着いて。もしここで保田先生がやめたら、
きっとヨッスィーは暴走しちゃうから。」
と石川が後藤を微妙な言葉で宥める。
「それは、確かに・・・・・・そうかも。それよりも梨華ちゃん!
さっきから気になってたんだけど、そのおいしそうな飲み物なに?」
後藤は石川のミルクティーを物欲しげな瞳で見つめる。
頭の切り変わりが早いというか、集中力がないというか、ただ食い意地が
張ってるだけというか、この子も石川と同様に厄介だな・・・・・・。
「これは先生が作ってくれたミルクティーだよ。喫茶店で出してても
いいくらいにおしいかったよ。」
石川はかなりオーバーに後藤に説明する。
「そんな大したものじゃ・・・・・。」
私が石川の言葉を訂正しようとしたとき、後藤が大声でそれは遮られた。
「えぇぇぇぇぇ!!そんなのズルイよ!後藤にも作って下さいよぉ〜。」
後藤は子どもがおねだりするような、甘えるような目で見つめられる。
ガキじゃないんだから、そんな目しないでよ・・・・・・。
なんだか悲しくなってきた。
でもあまりに後藤がその目で見つめるから、ついに根負けして私は作って
あげることにした。
- 83 名前:深紅 投稿日:2001年12月01日(土)20時23分34秒
- あっ!更新されてる!!
作者さん、がんばってください!!
- 84 名前:aki 投稿日:2001年12月01日(土)20時48分30秒
- 番外編<お、本当ですか!嬉しいですっ。
いしごまの2人は2人のドラマがありそうですね^^
やすよしの話はあまり目にしないんですがとても楽しく
読ませてもらってます。これからもがんばってくださいっv
- 85 名前::弦崎あるい 投稿日:2001年12月06日(木)23時21分11秒
- >深紅さん やっと更新できました。
年内までには、キリのいいところまで終らせたいです。
>akiさん いしごまはやすよしよりも深いですね。
短編なのであまり書き込めないとは思うんですけど、一風変わったいしごま
になると思います。
- 86 名前:唐突な訪問者(3) 投稿日:2001年12月06日(木)23時46分34秒
- 私は適当にカップを取ると、ポットからお湯を8分目くらい入れて、
ティーバックとシュガースティクを後藤に手渡した。
「牛乳入れたかったら、冷蔵庫の中に入ってるから。」
と私は後ろにある冷蔵庫を指差して言った。
「・・・・・これ、すごく適当じゃありませんか?梨華ちゃんのやつと感じ
が違うんですけど。」
後藤は露骨に不満そうな顔をする。
石川はその様子に苦笑していた。
「文句言わないの。出さないよりマシでしょ。」
私はちょっと強引に誤魔化した。
後藤は納得いかないようだったけど、仕方なくティーバックを取り出して
紅茶を作り始める。
- 87 名前:唐突な訪問者(4) 投稿日:2001年12月06日(木)23時48分50秒
- 「そういえば、どうして真希ちゃんはここに来たの?」
石川は一番根本的なことを質問する。
「だってさ、教室行ったら梨華ちゃんがいないんだもん。それで心配に
なって捜し回ってたら、保田先生が梨華ちゃんに迫ってるのが見えて、
このままじゃ梨華ちゃんが危ない!って思ったら慌てて来たんだよ。」
後藤は紅茶に砂糖を入れながら、平然とした感じで答えた。
誰がいつ迫ったんだよ!
あれはどっちかというと、私の方が石川に迫られてたと思うんだけど。
全く、勘違いにも程があるよ。
「じゃぁ、真希ちゃんは私を助けに来てくれの?」
石川は少し嬉しそうに笑って聞いた。
後藤は顔を上げて石川を見つめると、優しく微笑んで答えた。
「当たり前じゃん。後藤は梨華ちゃんのこと大好きなんだもん。だから、
絶対に誰にも渡したくないんだ。」
石川はその言葉に顔が赤く染まる。
- 88 名前:唐突な訪問者(5) 投稿日:2001年12月06日(木)23時49分25秒
- 昼間から何言ってんだか・・・・・。
だけど、後藤ってあんなふうに笑うんだ。
初めて見たよ、後藤があんなに優しく笑うところ。
それは相手が石川だからか。
好きだからこそ、特別な表情ができるんだ。
ストレートで羨ましいよ。
私も素直になれたらいいのにね。
そうしたら、傷つけずに済んだのかな?
2人は楽しそうに笑い合っている、それは確かに微笑ましい光景だった。
だけど、まるでおとぎ話を見てるようだよ。
美しくて綺麗だけど、どこか曖昧で、脆いガラスみたいな感じがする。
私はなぜか心にイラつきを覚える。
もしかしたら灼いてるのかもしれない。
それとも、いつかこの2人が壊れてしまう気がして、そんなことを思ってる
自分に呆れているんだろうか?
- 89 名前:唐突な訪問者(6) 投稿日:2001年12月07日(金)00時25分31秒
- 「何かあったらすぐに言ってよ。梨華ちゃんのためなら、後藤はすぐに
でも駆けつけるからさ。」
後藤はそっと石川の髪に振れて、掬うようにして撫でながら言った。
「真希ちゃん、ありがとう・・・・・。」
石川は後藤の肩に頭を乗せて、呟くようにして言った。
下を向いていため、石川がどんな表情をしていたか分からなかった。
だけど、その細くて小さな肩は小刻みに震えている。
後藤はそんな石川の背中に手を回し、何も言わずに抱きしめていた。
2人はしばらくそのままで、余韻みたいなものを浸っていた。
こんなところでするなよ・・・・。
私は頃合を見計らって、わざとらしく咳払いをした。
「う、うほん!」
そして、心にどこかイラつきを覚える理由の一つは、きっと間違いなく
これだと思った。
- 90 名前:唐突な訪問者(7) 投稿日:2001年12月07日(金)00時27分03秒
- でも彼女達は本当にお互いが全てなんだ。
本気で必要としているし、好きだというのが分かる。
それが見ているだけで伝わってくる。
どうしたこの2人は、ここまでお互いを求められるんだろうか?
それはまだ子どもだから?
でも、理由はそれだけじゃないと思う。
理由がなんだとしても、私にできる芸当ではないことは確かだ。
2人は私の咳払いの意味に気づくと、顔を赤くしてすぐに離れた。
その瞬間、5時間目のチャイムの音が鳴り響いた。
「あっ!そろそろ戻らないとヤバいよ、梨華ちゃん!」
後藤は急に慌てだして、焦ったようにその場を足踏みする。
「そうだね、早くしないと遅刻しちゃうね。」
だけど石川はというと、あんまり焦ってないようだ。
でももしかしたら、本人的には焦ってるのかもしれない。
「ほら、2人とも早く教室に戻りな。」
私は部屋のドアを開けて2人を促した。
「それじゃ先生、ちゃんとヨッスィーと話し合って下さいね。お互いに
とってその方がいいですから。それに先生だって本当は、このままじゃ
嫌だと思ってるんじゃないですか?」
石川は少し早口で最後に言った。
「・・・・ぁぁ、そうかもね。」
私は軽く笑みを浮かべて答えた。
- 91 名前:唐突な訪問者(8) 投稿日:2001年12月07日(金)00時35分59秒
- そう答えたのは自分でもよく分からない。
それが本心なのかな?
どっちにしても、吉澤とは話し合わないといけない。
私はそれが怖かったんだ。
吉澤に『拒絶』されるのが怖かった。
そして、私は自分から『拒絶』したんだ。
でも吉澤を深く傷つけてしまった。
だから私は吉澤に全てを話そうと思う。
傷つけた償いでもないけど、それを知る権利は吉澤にはあると思うから。
「梨華ちゃん、早くぅぅぅぅぅ!!」
後藤が廊下の角で石川を名を呼ぶ。
「それでは、失礼しました。」
石川は丁寧にお辞儀をすると、早足で後藤の元に駆け寄る。
「じゃ、先生!今度来る時はちゃんと出して下さいね。」
後藤が角に消える前に、私に大きく手を振って叫ぶ。
そして、2人は廊下の角に消えていった。
私は小さな溜め息をついてから、誰もいない廊下に向かって呟いた。
- 92 名前:唐突な訪問者(9) 投稿日:2001年12月07日(金)00時38分21秒
- 「・・・・・・ありがとう、2人共。」
本当は2人の前で言いたかった。
だけど何だか慌ただしくて、つい言いそびれてしまった。
だから今度また遊びに来た時にでも、お礼を兼ねてケーキでもご馳走して
あげようと思った。
もう逃げてちゃダメなんだ。
吉澤と向き合わないといけない、そのことに気づかせてくれたんだから、
ケーキぐらいは安いものだ。
どこかいいところケーキでも買って来よう。
そのときは・・・・・・・吉澤と4人で食べれたらいいな。
- 93 名前:距離は近づく?(1) 投稿日:2001年12月13日(木)22時53分03秒
- (吉澤編)
「・・・はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・。」
あたしは今にも死にそうだった。
ガクガクする体を引きずって、なんとか花壇を囲んでるレンガの上に
腰を下ろした。
心臓がヤバいくらいに脈打ってる。
マジで死ぬって・・・・。
校庭5周を5分切れとか言ってさぁ。
ここの校庭200mもあるっうの。
やってできないことはないけど、めちゃくちゃ疲れるじゃん。
あたしはこの頃、部活を休んだり欠席したりしているために、先輩から罰と
して校庭5周を5分以内で走れと言われた。
これってイジメだよ、ホントに。
そりゃ確かに悪いとは思うけど、でもそれは保田先生のせいだよ。
そんなこと言っても、先輩は納得しないだろうけど。
「言い訳しない!」とか言って、もう2、3周増やされるのがオチだな。
まぁ、実際に言った結果がこれなんだけどね。
3周が5周にになったわけだ・・・・。
全く、やってんらんないよ。
あたしは深くて大きなため息をついた。
そのとき微かに足音が聞こえた気がして、あたしは何となく顔を上げた。
少し遠くに・・・・・・保田先生がいた。
- 94 名前:距離は近づく?(2) 投稿日:2001年12月13日(木)23時03分55秒
- ふと、目が合った気がしてあたしは顔を逸らした。
少しだけ顔を上げて横目で見てみると、保田先生は間違いなくあたしの
方に向かって歩いてくる。
体が一気に硬直する。
治まってきたはずの脈が、どんどん早まっていく。
また何か言われるのかな?
それとも、ただ歩いてくるだけ?
頭が混乱してしまって、あたしはその場を動くことすらできなかった。
でも、先生は迷うことなく近づいてくる。
・・・・間違いなくあたしに向かって。
そして、見事にコケた。
- 95 名前:距離は近づく?(3) 投稿日:2001年12月13日(木)23時18分50秒
- あと4、5歩であたしの目の前に立つというところで、先生は小さな石に
つまづいておもしろいようにコケた。
一瞬、辺りに静かな空気が流れる。
「・・・・・ぷっ!あっははははははは!
あたしは沈黙を破って大声で笑った。
堪えるなんてできなかった。
おもしろくて、おかしくて、あたしは腹を抱えてしばらく笑っていた。
こんなに大笑いしたのは久しぶりだった。
先生は顔を真っ赤にして俯いている。
それがなんだか子どもぽっくて、ちょっとかわいいと思った。
「・・・・大丈夫ですか、先生?」
あたしはやっと笑い終えて、先生の顔を覗き込んで聞いた。
先生はあたしから顔を逸らして小さく頷く。
でもそれは嫌いだからじゃなくて、どうやら照れてるらしかった。
「これどうぞ、顔が少し汚れてますから。」
あたしはポケットにあったハンカチを、先生に差し出して言った。
「・・・・ありがとう。」
先生は顔を逸らしながらハンカチを取ると、恥ずかしそうに呟いた。
あたしはニッコリと笑ってそれに答えた。
「どういたしまして!」
- 96 名前:距離は近づく?(4) 投稿日:2001年12月13日(木)23時37分34秒
- 先生はハンカチで顔を拭き、服を軽くはたいて砂を落とした。
それから、言い難そうに言葉を途切れさせながら言った。
「あ、あのさ、部活が終って、もしその後にヒマだったら・・・・・その、
吉澤さえよければ、その辺の教室で話したいんだけと、いいかな?」
あたしはあまりに意外な言葉に驚いた。
だってまさか先生から、そんなこと言われるなんて思ってなかったから。
でもあたしはすぐに威勢のいい返事を返した。
「はい!全然OKです!」
それからあたしはすぐに部活に戻り、後片付けやモップがけを猛ダッシュ
で終らせ、先生の待つ教室に向かって走った。
勢いよくドア開けて中を覗くと、先生は電気もつけずに薄暗い教室の
窓枠に寄り掛かって、いつものようにタバコを吸っていた。
- 97 名前:距離は近づく?(5) 投稿日:2001年12月14日(金)23時20分20秒
- 「・・・先生・・・・遅く・・なって・・すいま・・・せんでした。」
あたしはドアにもたれると、肩で息を切らせながら言った。
「そんなに急いで来なくたって、私は逃げやしないよ。」
先生は振り返ると、あたしに微笑んでくれた。
こういう雰囲気は久しぶりだと思った。
この頃は避け合ってばかりで、まともに話すらしていなかったから。
だからこうしていることが少し不思議ながした。
でもそんなことより、嬉しいという気持ちの方が大きかった。
あたしは先生と向き合うような感じで立つ。
先生は軽くため息をついてから、ゆっくりと話し出した。
「・・・・私には、知られたくない醜い『過去』があるんだよ。吉澤と
いるとさ、いつものそのことを思い出しちゃうんだ。だから吉澤を避けて
たんだよ。」
先生の顔は悲しそうで、でも無理やり笑っていた。
それがあたしにはすごく痛々しく見えた。
「別に吉澤は何も悪くないんだよ。すごくいい子だと思う。でもだから
余計に私には相応しくないんだ。私は吉澤が思ってるような、いい奴
なんかじゃないよ。もっと・・・・・汚れてる。」
あたしは何も言えずに、ただ先生の言葉を聞いていた。
・・・・・それしかできなかった。
- 98 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年12月14日(金)23時24分04秒
- 上の話の題は、悪魔の恋人(1)です。
間違ってしまったので、訂正しときます。
- 99 名前:悪魔の恋人(2) 投稿日:2001年12月14日(金)23時36分40秒
- 先生は淡々と語っていく。
「私が高校2年生の頃、私には本当に好きだった恋人がいたんだ。本気で
愛していたし、誰よりも彼女のことが好きだったよ。」
先生の目はどこか遠くを見つめていて、でもその顔は優しく微笑んでいる。
そんな表情は今まで見たことがなかった。
そのときあたしは気づいた。
先生は愛しい彼女を見つめてるんだって。
そう思ったらすごく胸が苦しくなって、痛いほど締めつけられた。
まさか・・・・・これって嫉妬?
名前も顔も知らない先生の彼女に、あたしは嫉妬してるの?
そうなのかもしれない。
あたしはあんな顔をしてくれないから。
きっとその彼女の時にしか、しない顔なんだろうなと思った。
- 100 名前:悪魔の恋人(3) 投稿日:2001年12月14日(金)23時48分01秒
- 「でもある日私は、彼女を襲ったんだ。無理やり抱こうとしたんだよ・・・
・・・抱きたくて仕方なかったから。自分の中にある欲望に負けたんだ。
そして彼女をひどく傷つけた。それから私達は別れたよ、もうやっていけ
そうになかったから。」
先生の顔と声はずいぶんと冷たかった。
私は少しだけ怖いと思った。
それから、わずかな沈黙が流れる。
先生がいきなりバン!と、思いきり机に拳を叩きつける。
「私はそういう奴なんだよ!自分の欲望に負けて、相手を傷つけてしまう
愚かな奴なんだ!私の中には悪魔がいる、そんな奴をあんたは好きで
いられんの?」
先生は激しく一気に巻くしたてた。
そして、睨むようなきつい視線を私に向ける。
あたしは今までにない先生に圧倒されて、身動き一つできなかった。
声すらでなかった。
先生は一気にしゃべったせいで、肩で息をして呼吸を整えている。
そして、また沈黙が教室を包んだ。
- 101 名前:悪魔の恋人(4) 投稿日:2001年12月15日(土)00時18分51秒
- 「・・・・・いいんじゃないですか、それで。」
沈黙を破ったあたしの言葉は、なんともお気楽なものだった。
よく分からないけど、そんな気がしたから。
先生は彼女のこと好きだったんでしょ?
なんとも思ってないのに、そういうことするのは悪いことだけど、すごく
好きで愛していた結果がそうなら、確かに良くはないけれど、悪くもない
と思う。
きっと彼女さんだって、そう思ってるんじゃないのかな。
本当に先生のことが好きだったなら、ちゃんと理解してくれた思う。
「なんて言うんですかね・・・・・人は誰だって、悪魔だと思うんです。」
「はぁ?」
先生はあたしの言葉に顔をしかめた。
- 102 名前:N 投稿日:2001年12月15日(土)05時09分49秒
- このスレは、毎週末のお楽しみになってます。(^^
お気楽そうに、でも、すごいセリフを言いそうなよっすぃーにドッキドキです。(^^;
お忙しいようですが、がんばってください。
- 103 名前:LINA 投稿日:2001年12月16日(日)01時29分16秒
- ヒサブリに覗いたら大量交信♪
っつーか、ごっちん梨華ちゃんカップルがかぁいいですね〜。
そして、見事にコケる保田先生萌え!(w
続きがんばってください!
- 104 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年12月19日(水)22時46分45秒
- >Nさん レスありがとうごさいます。
週末に更新することが多いので、土日とかに見てもらえるといいかも
しれません。
とりあえず、年末までには区切りをつけようと思ってます。
>LINAさん ちょっと頑張って更新しました。
少しでも萌えてくれたら、書いてる方としては嬉しい限りです。
いしごまは本当に書いてて楽しいです。
- 105 名前:悪魔の恋人(5) 投稿日:2001年12月19日(水)22時58分59秒
- 「でも天使もいると思うんです。悪魔と天使の両方がいつも争いながら、
人って生きてるんですよ。」
あたしは上手く口で説明できなくて、手振りを加えながら説明した。
「・・・・・つまり、人は葛藤しながら生きてるってこと?」
先生があたしの代わりに、上手く話をまとめてくれた。
「まぁ、そういうことです。だから悪魔がいるのは普通だし。たとえば
悪魔が間違ったことをしても、天使がいるから大丈夫なんですよ。」
きっと先生には、ちゃんと伝わっていないと思う。
つまりあたしが言いたかったのは、先生が悪魔でも大丈夫ですってこと
なんだけどなぁ・・・・・。
先生は黙ったまま俯いていた。
「私の中に天使はいないよ。人と傷つけてしまう、悪魔しかいないんだ。」
頭を抱えながら苦し気な声で呟いた。
そのとき・・・・・この人が好きだと思った。
相手が傷つくよりも、ずっと深く自分を傷つけてしまう優しい人。
その傷をずっと引きずってしまう、その繊細で脆いガラスのような心。
この人を支えてあげたい。
少しでもその傷を癒してあげたいと思った。
- 106 名前:悪魔の恋人(6) 投稿日:2001年12月19日(水)23時10分47秒
- 「・・・・なら、あたしが天使になります!悪魔の先生の隣にいつもいて、
天使の役割をしますから。それじゃ、ダメですか?」
あたしはニッコリと先生に笑いかけた。
その言葉は自然と口から出た。
先生はしばらく呆然とあたしを見つめた。
「・・・・・本気、なの?」
そして、声を振り絞るような感じで言った。
「本気に決まってるじゃないですか。」
あたしは笑ったまま答える。
「ありがとう、吉澤・・・・・。」
先生は顔を俯けていたから、どんな表情をしてるのか分からなかったけど、
その声は少しだけ震えていた。
あたしはそんな先生がかわいくて、すごく愛しく思えて、だからつい抱き
しめてしまった。
「そうだ!言い忘れてましたけど・・・・・・・あたしはまだ先生のこと
好きですよ。逃げらせれても、何を言われても、ずっと先生のことが好き
でした。」
あたしは先生を抱きしめて2度目の告白をした。
でもフラれるかと思って、内心はかなりドキドキだった。
返事を聞かずに抱きしめるのは、やっぱりマズかったかな?
「あのさ・・・・ちょっと離れてくれるかな?」
先生の言葉であたしは一瞬、目の前が本当に真っ暗になった。
- 107 名前:悪魔の恋人(7) 投稿日:2001年12月19日(水)23時27分57秒
- 「えっ?あぁ・・・・はい・・・・。」
でもあたしはなんとか正気を保った。
倒れたっておかしくないと思う。
それだけ、精神的ショックが大きかったから。
フラれちゃたんだ・・・・。
確かにショックだけど、しょうがないかと割り切った。
避けられた理由が分かっただけで、あたしとしては十分だから。
人を好きになるっていう、貴重な体験もさせてもらえたし。
だから・・・・・これでよかったかなって思った。
それに生まれて初めて告白したのが先生なら、やっぱりフラれて傷つくのも
先生がいい。
先生はあたしと向かい合うと、はにかむように微笑む。
そして、あたしをいきなり抱きしめた。
「私も、好きだよ・・・・・・吉澤のこと。」
と先生は少し照れくさそうな顔しながら、あたしの耳元で囁いてくれた。
あたしはあまりに突然のことで、混乱するばかりだった。
どうなってんの?
フラれたんじゃなかったの?
でもこれって、間違いなく告白だよね?
先生はあたしを好きだって、言ってくれたんだよね?
- 108 名前:悪魔の恋人(8) 投稿日:2001年12月19日(水)23時40分20秒
- 「・・・・・・先生?」
あたしはゆっくりと頭を下げて、先生の顔を見ようとした。
「こうやってさ、ちゃんと吉澤を抱きしめたかったんだ。一方的に抱きしめ
られるのは、なんか嫌なんだよね。」
先生はあたしの肩から顔を上げて言った。
その顔は久しぶりに見る、あの子どものような先生だった。
あたしは目の前にある事実が信じられなくて、だから一体何を言っていい
のか分からなくて、ただ先生をギュッと抱きしめた。
先生は完全にあたしに体を預けている。
あたしはまだ信じられなかった。
だけど抱きしめてる先生の体温は、確かに触れ合う肌から伝わってくる。
その温もりを感じながらあたしは思う。
・・・・・ずっと前から、こうしたかったんだ。
こうやって、先生と抱きしめ合いたかった。
お互いの温もりを感じたかった。
ふとした瞬間に2人の目が合って、あたし達は照れくさそうに笑った。
先生の顔は少し赤かったけど、それはあたしも同じだと思う。
2人はその日から・・・・・・・恋人同士になった。
- 109 名前:瑞希 投稿日:2001年12月22日(土)00時34分15秒
- 何でかな…。
両思いになったというのに、何だか胸が切ないぞ…?
- 110 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年01月03日(木)22時13分43秒
- >瑞希さん 本当に何ででしょうね?
保田さんがまだ過去を吹っ切れてないからかもしれません。
- 111 名前:逃げられない(1) 投稿日:2002年01月03日(木)22時33分01秒
- 私は決心した。
逃げないで吉澤と話し合うと。
でも私はなかなか吉澤に切り出せずにいた。
そして、数日が過ぎた。
私は帰るために職員用の玄関で靴を履き替える。
外に出ると夕日の眩しさに目を細めた。
そして、校門に向かおうと歩き出したときだった。
少し遠くに・・・・・吉澤が見えた。
- 112 名前:逃げられない(2) 投稿日:2002年01月03日(木)22時35分27秒
- 吉澤は花壇を囲む煉瓦の上に腰を下ろし、随分と苦しそうな顔で肩で息を
切らしていた。
何も言い出さない私に、誰かがくれたチャンスなんだろうか?
さすがの神様もしびれを切らした?
全く、運がいいのか悪いのか・・・・・。
でももう逃げることはできない。
ちゃんと言わないといけないんだ。
だから、私は吉澤に向かって歩き出した。
吉澤は人の気配に気がついたのか、俯いていた顔を不意に上げる。
そして私の存在に気づいた瞬間、驚いて目を見開いていた。
でもその顔はすぐに強張ってしまう。
・・・・・・吉澤。
あんたは、私のことどう思ってるの?
もう嫌いになった?それとも関わりたくないと思ってる?
不安な考えが次々と頭に浮かぶけど、それでも私は歩みを止めない。
自分でも止められないのかもしれない。
そしてあと4、5歩で吉澤の前に立つというところで、私は小さな石に躓き
見事にコケた。
- 113 名前:逃げられない(3) 投稿日:2002年01月03日(木)22時54分30秒
- かっこ悪い、と自分でも思った。
辺りには静寂が訪れたが、すぐに吉澤の笑い声によってそれは破られた。
「・・・・ぶっ!あはははははははは!!」
吉澤は笑いを堪えきれずに、腹を抱えて大声で笑い出した。
私は立ち上がると服を手で軽く払う。
そして、恥ずかしくなって顔を俯けた。
きっと私は顔が赤いんだろうな・・・・・。
こんなことで動揺してしまう自分は、まるで子どもみたいで嫌になった。
吉澤はやっと笑い終えると、私の顔を覗き込んで言った。
「・・・・大丈夫ですか、先生?」
私は吉澤の顔を見ることができなかった。
あまりに自分が情けなったから。
「これどうぞ、顔が少し汚れてますから。」
吉澤はポケットからハンカチを取り出し、私にそっと差し出して言った。
「・・・・・ありがとう。」
私は照れ臭そうに笑うと、目線を逸らしてそれを受け取った。
「どういたしまして。」
少しだけ横目で見た吉澤の顔は、いつものよう笑っていた。
- 114 名前:逃げられない(4) 投稿日:2002年01月03日(木)23時08分02秒
- そのとき、この子は何も変わってないんだと思った。
いつも吉澤だったから。
私は少し間をあけてから一気に言った。
「あ、あのさ、部活終って、もしその後ヒマだったら・・・・・その、
吉澤さえよければ、その辺の教室で話がしたいんだけどいいかな?」
私にはこれが精一杯だった。
でも言えただけでも自分では驚いた。
吉澤はその言葉にかなり驚いていたけど、すぐに威勢よく返事を返した。
「はい1全然OKです!」
なんで言えたんだろう?
吉澤の笑った顔を見たら、なぜだか言えるような気がした。
その優しい微笑みに、何か期待でもした?
そんなの無駄だっていうのに・・・・・・。
とにかく私は、吉澤と話をする機会を作ることができた。
- 115 名前:逃げられない(4) 投稿日:2002年01月03日(木)23時21分08秒
- 吉澤は部活中ということなので、終るまで教室で待っていることにした。
私は電気もつけないで、ただ薄暗い教室の窓枠に体を寄せていた。
でもふと物寂しくなってタバコに火をつけた。
窓からは校庭が見えたけど、もう部活が終ったらしく誰もいなかった。
だから私の周りには静寂しかなくて、さっきまでの喧噪がまるで嘘の
ように思える。
私は考える。
吉澤は私のことを受け止めてくれる?
それとも軽蔑する?
確かに吉澤は、私のことを好きだと言ってくれた。
でも・・・・・・今もそうとは限らない。
あんなに避けたりしたのに、それでもまだ好きなはずがない。
そうだよ。
そんな都合のいいことはないんだ。
傷つけた相手を好きという程、あの子は殊勝な人間ではないはずだ。
それにあの子は本当の私を知らない。
汚れた私を知ったら、一体どんな顔をするんだろうか?
それ思うと怖くて今から体が震えた。
- 116 名前:逃げられない(5) 投稿日:2002年01月03日(木)23時30分21秒
- 罵倒を浴びせるだろうか、それとも同情の言葉をかけるもしれない。
そんなこと予想できるはずがない。
ただ今更なのかもしれないけれど、あの子に嫌われることが怖くなった。
『拒絶』されることが怖くなった。
覚悟していたはずなのに。
そんなの前から知っていたはずなのに。
なのに今は怖い。
だから逃げてしまいたかった。
この場から逃げてしまうのではなく、真実を告げずに嘘をつくとかして、
それで前のような幸せな日々が送れるのなら、私はそうしたかった。
だけど、きっと逃げられない。
それにもう逃げたくない。
あいつから逃げたように、あの子の前から消えたくない。
それに自分は平気で避けたくせに、それでいて相手から避けられのを
恐れるのはあまりに自分勝手すぎる。
「今度はお前が『拒絶』される番だよ」、と私の中の黒い塊が囁く。
そうかもしれない・・・・・そう思って私は口の端を軽く上げて笑った。
- 117 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年01月03日(木)23時34分03秒
- 訂正
1のとこで書き忘れていました。
これは(保田編)です。
それから4が2つありますが、この辺はただ間違えただけです。
久しぶりに更新したので、ちょっとボケたことしてしまいました。
- 118 名前:巡回読者 投稿日:2002年01月08日(火)23時24分22秒
- 初カキコです。m(_ _)m
こんなところで弦崎さんの連載モノを見れるとは。。。
なんてラッキー♪
飯を食うのも忘れて、「両手に〜」から一気読みしてしまいました。
ところで、所々にある、例えば81・唐突な訪問者(2)にある、
ごっちんのセリフ、「すごく痛いよぉ、梨華ちゃ〜ん・」の
「・」はなんですか? 何かの記号と間違えてると思うのですが。。。
すいません、しょーもないことが気になって・・・。
- 119 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年01月09日(水)22時59分23秒
- >巡回読者さん 初レスありがとうございます。
色々と手だけは出してるので、他のサイトでも見かけるかもしれません。
「両手に〜」は今から思うとかなり駄文なので、特に一番初めのは自分で
読み返して笑ってました。
できれば見ないでほしかったです。
いやぁ、別に疑問に思ったなら聞いてもいいですよ。
多分これは「・」は、。を間違えたのもあると思いますし、・・・のこと
だとしたら、…のつもりで書いてます。
- 120 名前:バカな天使(1) 投稿日:2002年01月09日(水)23時17分36秒
- 私は吸い終ったタバコをタバコを携帯灰皿に捨てる。
すると、どこからか騒々しい足音が聞こえてきた。
そして勢いよくドアが開けられる。
「・・・・先生・・・・遅くなって・・・・すいませんでした。」
吉澤は言葉を途切れさせ、荒い息づかいが聞こえた。
「そんなに急いで来なくたって、私は逃げやしないよ。」
私は後ろに振り返ると、そんな吉澤を見て軽く笑った。
こういう和んだ雰囲気は久しぶりだった。
この頃は避け合ってばかりで、まともに話すらしなかったから。
吉澤はとても嬉しそうに笑っている。
それにどこか懐かしさを感じた。
前にもこうやってあいつと話したなぁ、とふとあのときのことを思い出す。
吉澤は少しして呼吸が整うと、私に近づき斜め後ろに立った。
・・・・・真正面にはまだ立てないか。
その事実が吉澤の傷がまだ癒えていないと知らせる。
私は軽く溜め息をついてから、ゆっくりと話し出した。
- 121 名前:バカな天使(2) 投稿日:2002年01月09日(水)23時34分30秒
- 「・・・私には、知られたくない醜い『過去』があるんだよ。吉澤と一緒に
いるとさ、いつもそのことを思い出しちゃうんだ。だから、私は吉澤を
避けてたんだよ。」
私は自嘲気味に笑って言った。
自分でも馬鹿なことしたと思ってるよ。
私の自分勝手な都合で、吉澤をいきなり避け始めたんだから。
「別に吉澤は何も悪くないんだよ。すごくいい子だと思う、でもだから
余計に私には相応しくないんだ。私は吉澤が思ってるような、いい奴なんか
じゃないよ。もっと・・・・・汚れてる。」
吉澤は何も言わずに私の話を聞いていた。
何も言えないのか、それとも言う気がないのか、構わず私は話を続けた。
「高校2年生の頃、私には本当に好きだった恋人がいたんだ。本気で愛して
いたし、誰よりも彼女のことが好きだった。」
私はまたあいつを思い出す。
まだあいつと過ごした楽しかった日々が離れなくて、時々こうやって思い
出してる。
私は全然忘れてないんだ。
まだ心のどこかであいつに縋ってる。
もう、3年も前になるのか・・・・・。
と少しだけあいつとの思い出に浸っていた。
- 122 名前:バカな天使(3) 投稿日:2002年01月09日(水)23時53分43秒
- ふと吉澤を見ると、少し俯いて複雑な表情をとしていた。
悔しそうで、悲しそうな顔をしている。
妬いてる・・・・・・・のかもしれない。
だけど次の話をしたら、きっと吉澤はも私のこと嫌いになるよ。
きっと一気に私への熱が下がる。
私は重たい口を開き、吉澤から目線を逸らさずに言った。
「でもある日、私は彼女を襲ったんだ。無理やり抱こうとしたんだよ・・・
・・・抱きたくて仕方なかったから。自分の中にある欲望に負けたんだ。
そして、彼女をひどく傷つけた。それから私達は別れたよ、もうやって
いけない思ったから。」
吉澤は目を見開いたまま、言葉を発せず固まっていた。
動くことさえできないようだった。
驚いたでしょ?
でも、これが本当の私なんだよ。
あんたと笑いあっていた私は、きっとただのツクリモノ。
- 123 名前:バカな天使(4) 投稿日:2002年01月09日(水)23時54分50秒
- 2人の間に僅かな沈黙が流れた。
私は自分の愚かさに激しい怒りを覚える。
もどかしさと後悔の念が心を支配する。
私は机に思いきり拳を叩きつけた。
「私はそういう奴なんだよ!自分の欲望に負けて、相手を傷つけてしまう
愚かな奴なんだ!きっと私の中には、欲望にまみれた悪魔がいるんだよ。
そんな奴をあんたは好きでいられるの?」
私は少し早口で一気に捲し立てた。
吉澤は身を硬直させ、その瞳はどこか怯えていた。
私は一気にしゃべったので、肩で息を切らしていた。
体中に響くような痛みを感じたけど、それは手の痛みなんだろうか?
それとも心の痛みなんだろうか?
それから、教室に長い沈黙が訪れた。
- 124 名前:バカな天使(5) 投稿日:2002年01月10日(木)00時05分24秒
- 吉澤はきっと私のことを軽蔑する。
きっと・・・・・・好きでいられないよ。
そんなこと、前から分かっていたことなのに。
なのに私は心を痛めている。
このまま時が止まってしまえばいいのに・・・・・。
だって吉澤から次に言われる言葉は、きっと私に対しての『拒絶』だから。
だから何も言わないで欲しかった。
言葉が聞こえないように、耳を塞ぎたくなった。
私は改めて知る、こんなにも吉澤に嫌われるのが怖かったんだと。
「・・・・・いいんじゃないですか、それで。」
でも沈黙を破って言った吉澤の第一声は、なんとも楽天的で曖昧な感じの
言葉だった。
その顔には微笑さえ浮かんでいる。
吉澤はまた少し考え込んでから、言葉を選ぶようにゆっくりと言った。
「なんて言うんですかね・・・・・人は誰だって、悪魔だと思うんです。」
私は吉澤の言った言葉の意味が、全く理解できなかった。
- 125 名前:バカな天使(5) 投稿日:2002年01月10日(木)00時21分09秒
- いきなり何言い出すの、この子は?
「はぁ?」
だから私は思わず、間の抜けた声を上げてしまった。
「でも天使もいると思うんです。悪魔と天使の両方が、いつも言い争いし
ながら、人って生きてるんですよ。」
吉澤は自分でも混乱しているらしく、身振り手振りをしながら説明してる
けど、あまり要点を話していない。
まぁ、言いたいことは大体分かったけど。
「・・・・・つまり、人間は葛藤しながら生きてるってことでしょ?」
だから私が吉澤の代わりに、言ってること要約してあげた。
「まぁ、そういうことです。だから悪魔がいるのは普通だし、たとえば
悪魔が間違ったことをしても、天使がいるから大丈夫なんですよ。」
吉澤は自分で苦笑を浮かべていた。
自分でも何を言いたいのか分からないらしい。
でも吉澤の言っていることは、別に間違いじゃないよ。
人間には良心というものがあり、また欲望も同じ胸に存在している。
欲望を制御できる良心。
でも私は良心の力が弱いんだよ。
それとも、良心なんてないのかもしれない。
それか欲望があまりに強すぎて、抑制することができないんだよ。
どっちにしても、私は心のどこかがイカれてるんだ。
- 126 名前: バカな天使(6) 投稿日:2002年01月10日(木)23時03分41秒
- 私は何もいわずに俯いていた。
確かに天使がいれば、悪魔がいてもいいと思うよ。
でも残念ながら・・・・・・
「私の中に天使はいないよ。人を傷つけてしまう悪魔しかいないんだ。」
私は額を手で押え、俯いたまま静かに呟いた。
吉澤は私に一歩近づくと、笑いながらハッキリとした口調で言った。
「・・・・なら、私が天使になります!悪魔の先生のいつも隣にいて、
天使の役割をしますから、それじゃダメですか?」
私は吉澤の言葉にしばらく呆然となっていた。
- 127 名前:バカな天使(7) 投稿日:2002年01月10日(木)23時08分44秒
- だって吉澤は私を『拒絶』せずに、ちゃんと受け止めてくれたから。
なんでそう言っちゃうかな。
嫌いなってくれた方がいいのに。
でも心のどこかで、そのことを嬉しく思っている。
だけどまだ全て信じられなくて、
「・・・・・本気、なの?」
と私は掠れた声で吉澤に聞いた。
「本気に決まってるじやないですか。」
吉澤はいつものように微笑んで答える。
それは嘘偽りのない本心なんだと、問うまでもなくその笑みで分かる。
「ありがとう、吉澤・・・・・。」
私はそのことに少し感動して、声がつい震えてしまった。
あんたはすごい子だよ。
こんな私を受け入れちゃうんだから。
そして、そんな吉澤がたまらなく愛しく思えた。
だけど次の瞬間、私は吉澤に抱きしめられていた。
吉澤は顔を真っ赤にして、まるで思い出したように言う。
「そうだ!言い忘れてましたけど・・・・あたしは先生のこと好きですよ。
避けられても、きついこと言われても、ずっと先生のことが好きでした。」
と私に2度目の告白をした。
- 128 名前:バカな天使(8) 投稿日:2002年01月10日(木)23時23分47秒
- ・・・・悪くないな。
初めてされたときは戸惑ったけど、今は告白されたことも、こうやって抱き
しめられてるのも、悪い気分はしない。
むしろ、私はこれを望んでいた気がする。
本当はずっとこうしたかったんだ。
吉澤は顔を紅潮させ、かなり緊張しているのが分かる。
でも抱きしめられのも悪くないけど、ちょっと私らしくないな。
私もちゃんと吉澤を抱きしめたい。
「あのさ・・・・・ちょっと離れてくれる?」
だから私は吉澤にそう言った。
「えっ?あっ・・・・はい・・・・・。」
吉澤はなぜか魂の抜けたような顔をする。
まるで脱力しているみたいで、倒れそうになりながら私から離れた。
何か変なこと言ったかな?
私はそんな吉澤の行動が不思議だった。
でもそれは置いといて、私は吉澤にちゃんと向かい合う。
- 129 名前:バカな天使(9) 投稿日:2002年01月10日(木)23時31分43秒
- 私はまっすぐ吉澤を見つめた。
少し茶髪のショートカット。
その白くて綺麗な肌からは、どこか上品ささえ感じる。
顔立ちもすごく端正で整っている。
普通の女の子より少し背が高くて、その声もちょっと低いアルトの声。
見た目と違ってバカで、かなり子どもぽっくて、でも時々大人みたいで、
独特の雰囲気を持っていて、それですごくまっすぐで・・・・。
やっぱり、私はあんたのことが好きみたいだよ。
だって・・・・・もう目が離せないから。
私は吉澤を抱きしめて、その耳元で小さく囁いた。
「私も好きだよ・・・・・吉澤のこと。」
言ってからすごく恥ずかしくなった。
吉澤は呆然とその場に立ちつくしている。
まだ実感が湧かないのかもしれない。
「・・・・・先生?」
ふと不安げな声を出して、吉澤が私の方に顔を向ける。
「こうやってさ、ちゃんと吉澤を抱きしめたかったんだ。一方的に抱きしめ
られるのは、なんか嫌なんだよね。」
私は吉澤の方に乗せた頭をもたげて、はにかむように笑った。
吉澤はまだ信じられないのか、ぎこちなく私の背中に手を回した。
そして一息おいてから、力強く抱きしめられた。
- 130 名前:バカな天使(10) 投稿日:2002年01月10日(木)23時38分33秒
- 私は完全に吉澤に体を預け、目をつぶったまま肩に頭を乗せる。
・・・・懐かしい感覚だな。
この微かな温もりと柔らかい匂い、全てを閉じ込めてしまいたいという感覚
に襲われる。
そう思ってしまうのは、私の中にいる悪魔のせいなんだろうか?
別にそれでも構わないさ。
だってこの子が私の傍にいてくれるから。
だけど、もう2度と傷つけない!
不器用な私だけど、過去がまだ忘れられないけれど、でも絶対に悲しい思い
だけはさせないから。
私達はお互いに顔を紅潮させて、少し恥ずかしそな顏して笑い合った。
まだなんだかぎこちないね。
だけどそれでもいい、まだ私達はこれからなんだから。
その日から・・・・私達は恋人同士になった。
- 131 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年01月10日(木)23時47分34秒
- これで第一部の半分が終りました。
これまでレス下さった読者さん達には、本当に励まされました。
まだ先は長いんですが、付き合ってくれると嬉しいです。
それから、どうしても言っておかなければないことがあります。
今更言うのもなんなのですが、この話は一部ある少女マンガ(?)を
パクっている部分があります。
別にキャラは全く別人なのですが、好きになっていく具合やセリフ使わせ
てもらってます。
隠していたわけではなくて、前からキリのいいところで言おうと決めて
いました。
それに中盤辺りからパクり始めてきたので、途中で言うよりはいいかなぁ
と思ったからです。
このことで不快に思った方はすいません。
- 132 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年01月11日(金)00時01分36秒
- ちなみに、何をパクったかというと「カレカノ」です。
有名なので多くの方が知っていると思うんですが、知らない方のために
正式名称は「彼氏彼女の事情」というマンガです。
知ってる方は、内容が全然違うことが分かってもらえるんですが、知らない
方には本屋で軽く立ち読みして見てください。
全く話が違うことが分かると思います。
だからって、パクリが正当化されるわけではないんですけど。
文句なり批判はされてもいいです。
しょうがないことですから、っていうか本当に今更なんだよって感じだと
思うんですけど。
とにかく、今度から本編からいしごまの番外編に入ります。
今度のこの話パクってない、完全なオリジナルです。
少しそういう雰囲気はあるとは思いますが・・・・・。
こんな感じなんですが、こんなんでも引き続き読んでくださる方には
感謝します。
あと森板に、新しいスレ(この話とは全く別物で)を立てようと思っている
ので、おヒマな方は覗いてみて下さい。
- 133 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年01月16日(水)22時47分49秒
- いしごまの短編を始めます。
と言っても少し長いんですが、見てくれると嬉しいです。
題は『Youtful Days』です。
- 134 名前:Lost my haert(1) 投稿日:2002年01月16日(水)22時57分55秒
- その頃の私は、何事にも無関心で無感動な人間だった。
それは最近の若者によくある傾向らしい。
でもそんなことどうでもよかった。
だって、別に今の自分に不満はなかったから。
ずっとこのまま何にも感心を持たず、どんなことにも感動しないまま、私は
人生終えるんだと思う。
それでも構わない。
私は自分の異常さに焦ることもなく、深く悩むこともなかった。
逆にそうしたことで何が解決するわけじゃない。
自分にストレスが溜まるだけだ。
それに何かに感動しなくたって、人間は十分に生きていける。
生活に支障をきたすわけでもない。
ただ、つまらない人生送るだけだ。
- 135 名前:Lost my haert(2) 投稿日:2002年01月16日(水)23時12分42秒
- 高校の入学式の日。
私は真新しい制服に身を包み、高校生活のはじまりを冷静に見つめていた。
だってこの高校は自分で決めたんじゃなくて、よくある親と先生による薦め
で入ったから。
私はそれに対して反対しなかった。
別に猛勉強する必要もなかったし、学校は家からそう遠くなく、通学するに
さして不便を感じなかった。
そして、私はこの学校に入学することになった。
別に風校や設備なんて興味なかった。
いや、高校全てに興味がなかった。
とは言っても、この高校の異様さにはさすがに驚いた。
私立だというのに制限は緩いらしく、ほとんどの生徒がスカートの丈を短く
している。
髪はさすがに派手な色の子はいないけれど、それでも茶髪ぽっいの子を
何人も見かけた。
でも私も髪を染めているから、この高校の自由さが少しだけありがたかった。
- 136 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月16日(水)23時24分11秒
- いしごま!!(w
楽しみにしてます
- 137 名前:Lost my haert(3) 投稿日:2002年01月16日(水)23時26分41秒
- でもそんな子達も緊張した顔つきをしている。
でもどこか楽しげに笑っていた。
これからの高校生活に、夢や希望を抱いているってとこか。
私はそんなものに興味なかった。
これからの高校生活について、確かに多少なりとも不安はある。
でもそのことで思い悩むことはない。
何も胸に込み上げてくるものがなかった。
毎日が平然と過ぎていくんだろうな、と私は思った。
中学校のように・・・・・。
いや、小学校や幼稚園のときからそうだ。
心動かされることなんて、一度もなかったんだ。
いつからか私の心は麻痺してしまったようで、日々の刺激に対して全く
反応を示さなくなった。
いつからそうなのか知らない。
物心ついたときからそうだった気もするし、幼い頃に何か事故に遭って
こんな風になったのかもしれない。
とにかく私は楽しいとか、悲しいとか、寂しいなどの、そういう感情を
持っていなかった。
何も感じないんだ・・・・・・私の心は。
- 138 名前:Lost my haert(4) 投稿日:2002年01月16日(水)23時36分38秒
- だけど私の心が動いた。
何も感じないはずの心が、確かに反応して動いた。
ぼんやりと歩いていた私の足は止まり、一人の女の子に釘付けになる。
まるでカメラのように女の子だけに焦点が合う。
肩までぐらい伸びている髪は、今どき珍しい艶のある黒髪。
少し色黒だけど、その顔は日本人系でとても端正だった。
本当に綺麗だから少し見愡れた。
背はそんなに高くないけれど、モデルのようなスタイルをしている。
私は彼女から目が離せなかった。
こんなこと、生まれて初めてだった。
私が他人に興味を持つになんて・・・・・。
自分でも信じられない。
別にビジュアルに惹かれたわけじゃない。
何かが私に訴えてくるんだ。
心が自然に彼女へと引き付けられていく感じ。
だけど次の瞬間、友達なのか一人の女の子が彼女に抱きついた。
彼女はそのことに驚きながらも、楽しそうにその子とジャレ合っている。
そのとき、心が熱くなった。
- 139 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年01月16日(水)23時41分47秒
- >名無し読者さん いしごまはいいですね。
実を言うと、本編よりも書いてて楽しいです。
がんばって更新していくので、よろしくお願いします。
- 140 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)23時47分42秒
- すいません!更新中に書いてしまいました(--;
いしごまはいいです(w
応援しているので
頑張ってください!!!
- 141 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月24日(木)21時05分14秒
- 待ってます(w
- 142 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年01月24日(木)22時36分08秒
- >名無しさん 気にしなくていいですよ。
謝ることでもないですから。
あと何週間したら春休みなので、多く更新しようと思ってます。
>名無し読者さん お待たせしました。
週1ぺースで更新してるので、かなり進むのが遅いんですが、その分一回の
更新で多く書きたいと思ってます。
- 143 名前:Lost my haert(5) 投稿日:2002年01月24日(木)22時48分09秒
- 怒りのような激しい黒い感情が、奥底から沸き上がってくるのを感じた。
こんなことは初めてだった。
いや、今起こっている全てが初めてなんだ。
こんなにも心が激しく波打っている。
このもどかしさや、焦燥感、なのに楽しくって仕方がない。
そして、このどこか懐かしい感覚。
あぁ、そうか・・・・・。
自分が戻ってきたんだ。
今まで幽体離脱していた私の魂が、やっとこの体に戻ってきたんだ。
この瞬間に私は『私』になった。
私は急に立ち止まると、ずいぶん久しぶりに涙を流した。
だって魂から全身の全てに至るまで、『私』という存在が戻ってきたことに
感動で打ち震えていたから。
周りの子達が不思議そうに、同情的な瞳で私を見つめる。
けれど哀れみを込めて見ている人もいれば、冷たく白い視線を向けている
人もいた。
だけど誰一人して、私に近づこうとはしなかった。
・・・・・ただ一人を除いて。
- 144 名前:Lost my haert(6) 投稿日:2002年01月24日(木)22時57分32秒
- 彼女はやってきた。
普通なら関わりを避けるはずなのに、彼女はそんなことを微塵も気にして
いないようで、私のところへ平然と歩いてくる。
でも、私には分かってたよ。
絶対に私のところへ来るって思ってた。
「大丈夫ですか?」
彼女の声は甲高くて甘い声だった。
そして、私に笑顔でハンカチを差し出してくれる。
私はそれを受け取ると、涙を拭うと笑顔で答えた。
「・・・・・・ありがとう。」
初めて人に笑いかけた私の顔は、一体どんな感じなんだろう?
嬉しそうで、恥ずかしそうで、今の私の気持ちが詰まってる笑顔だったら、
すごくいいな。
彼女はただ優しい微笑んで、私の笑顔を受け止めてくれていた。
- 145 名前:心から愛する貴女(1) 投稿日:2002年01月24日(木)23時05分31秒
- 初めて会ったその時から、私は彼女に心を奪われてしまった。
もう彼女しか見えなかった。
人を愛したことはそれが初めてで、こんなにも心揺れたのも初めてだった。
中学は共学だったから、私の何がよかったのか知らないけど、男子の何人
かに告白されたことがあった。
だけど私は全て断った。
だってどんな愛の言葉を囁かれても、私の心は無反応だったから。
きっと興味がないんだよ。
他人や自分さえも、私は何に対しても興味がなかった。
そんな人間が他人を愛せるはずがない。
それまでの私にとって、世界は全て同価値だった。
- 146 名前:心から愛する貴女(2) 投稿日:2002年01月24日(木)23時13分24秒
- だけど・・・・・・私は彼女に惹かれた。
この気持ちの名前なんて知らない。
だって表わす術なんてないし、そんなことどうでもいい。
ただその気持ちが溢れてくるんだ。
自分でももう抑えられないくらい、止めどなく溢れてくる。
私は彼女だけしか見えなくて、欲しいものは彼女だけ。
他には何もいらない。
欲しいものなんて他にない。
彼女だけで十分。
だってモノクロの世界で、彼女だけが綺麗に色づいているから。
だから、私が欲しいのは彼女だけ。
- 147 名前:心から愛する貴女(3) 投稿日:2002年01月24日(木)23時25分31秒
- でもどうしていいか分からなかった。
自分の気持ちに気がついたところで、人を好きにになったことが初めての
私には、何をどうすればいいか知らない。
まだ彼女の名前すら知らないんだから。
ハンカチを差し出してもらってから、会話もせずすぐに別れてしまった。
でも、彼女の名前をすぐに知ることができた。
入学式の新入生代表の挨拶で、彼女の名前が呼ばれたから。
・・・・・イシカワリカ。
それが彼女の名前だった。
私はその名前を心に深く刻み込んだ。
きっと、死ぬまで忘れない。
それから彼女の微笑みもまた、忘れることはないと思う。
あの美しい微笑みは、私以外の誰にも渡したくない。
自分だけの物にしたいと強く思った。
いつの日か、私は彼女の『特別』になれるんだろうか?
それがいつなのかは全く分からない。
それは1ヶ月後かもしれないし、一生ないかもしれない。
でも、ずっと思うんだろうな。
・・・・・彼女を自分だけのものしたいと。
- 148 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)20時06分45秒
- 待ってました。
梨華ちゃんとごっちんの出会いですね・・・
これからごっちんと梨華ちゃんがどのように仲良くなるのか
楽しみにしています(w
更新は週1ペースですか、書いていただけるのなら嬉しいです
ゆっくりでもいいので頑張ってください
- 149 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月11日(月)12時22分13秒
- 板も復活したので
作者さんの投稿お待ちしております(w
- 150 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年02月12日(火)22時37分43秒
- >名無し読者さん お待たせしました。
バイトも学校も一区切りつき、板も復活したので、やっと書けます。
3月くらいからは、多めに更新できると思います。
- 151 名前:心から愛する貴女(4) 投稿日:2002年02月12日(火)22時45分47秒
- 残念なことに、私と彼女は違うクラスだった。
だから彼女のクラスを通るときは、いつもその姿を横目で探していた。
偶然見えたときは心踊るほど嬉しかった。
こんなに私には変わってしまった。
今まで微動だにしなかった私の心は、こんなにも激しく揺れ動いている。
それも、たった一人の少女に・・・・。
でもこんなにも思っているのに、彼女は私の気持ちを全く知らない。
きっと私のことなんてもう忘れてる。
だからもっと彼女に近づきたい。
『私』という存在をもっと知ってもらいたい。
でもどうすれば、彼女に近づけるんだろうか?
- 152 名前:心から愛する貴女(5) 投稿日:2002年02月12日(火)22時53分40秒
- でもたとえ近づけても、この思いを受け止めてくれるだろうか?
私のことを好きになってくれる?
そんなはずないよ。
きっと『拒絶』される。
私みたいな奴の思いを、受け止めてくれるはずがない。
そう思うと涙が出そうなくらい悲しくなった。
だって、今の私は彼女が全てだから。
欲しいものはたった一つだけなのに、それは手に入らないかもしれない。
それが私にはすごく悲しくて、もどかしくて、怖かった。
これが「人を愛することなんだ」と思った。
だって私の世界は、彼女の為だけに回っているから。
だからもし彼女に拒絶されてしまったら、私の世界は動きを止める。
- 153 名前:彼女の秘密(1) 投稿日:2002年02月12日(火)23時06分14秒
- そして思いを告げられぬまま、あっという間に1ヶ月が経ってしまった。
あいかわらず私は彼女を横目で見つめるだけ。
だけどこの頃、私は彼女に対して疑問を持ち始めた。
なぜ、彼女は笑っているんだろう?
私の見ている限りでは、笑っていない彼女はいない。
いつ見ても笑っている。
誰と一緒にいても、誰と話していても、彼女の笑顔は変わらない。
誰にでも笑いかけていた。
そう、彼女は全ての人に優しかった。
特定の誰かに優しいのではなく、ほとんど誰にでも同じように笑いかけ、
優しい言葉をかけてあげていた。
だから彼女は、いい人だと評判だった。
悪い噂というのは滅多に耳には入ってこない。
でもその悪い噂というのは、ほとんどが彼女に対する妬みからくるもので、
話は大体が真実味を帯びていないものだらけだった。
ならば、なぜ私は疑問を抱いているんだろう?
別に彼女に悪いところはない、いつも笑っているいい人なのに。
でも、何かが心に引っかる。
- 154 名前:彼女の秘密(2) 投稿日:2002年02月12日(火)23時19分32秒
- その答えはすぐに分かった。
その日は稀なことに、彼女とすれ違うことができた。
そのときだった。
私の中で何かが引っかかった。
彼女の顔はいつもなら変わりなく、いつものように笑っていた。
そう・・・・・いつものように。
そうか。
そういうことだったんだ。
確かに彼女の笑みはいつも変わらない。
いつもと同じだった。
何一つ変わらない・・・・・・全く同じ笑顔。
思い出してみればみんなそうだ、どんなことをしていても、どんな人と一緒
にいても、いつも優しく笑ってる。
でも、笑っている顔がみんな同じなんだよ。
そのとき私は気がついた。
彼女の笑っている顔は、実は仮面なんじゃないかって。
きっと素顔は違うんだ。
だから私は、『本当』の彼女がみたいと思った。
- 155 名前:彼女の秘密(3) 投稿日:2002年02月12日(火)23時26分27秒
- だけど一人だけいるんだ。
『本当』の彼女を知っている人が。
だから私はあの人が、いつも羨ましくて、疎ましくて、妬ましかった。
あの人と一緒にいる彼女を見ただけで、いつも心に黒い衝動が走る。
きっとあの人は彼女の『特別』だから。
笑っているときも、その人に見せる笑顔はどこか違う。
同じはずの笑顔なのに何か違うんだ。
安心しているような、本当に心を許しているような感じがする。
私にはそのことが許せなかった。
だから彼女の横で笑うあの人が、私は嫌いだった。
- 156 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月13日(水)00時17分46秒
- 再開してる!!!(・∀・)
お待ちしてました
3月からは多めですか、
地道に待っております
- 157 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月13日(水)09時33分03秒
- あ!!再開してる!!
楽しみに楽しみにしてます。
頑張ってください。
- 158 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年02月19日(火)22時42分15秒
- >156さん 再開できてよかったです。
短編は3月一杯で終わりにしたいと思っているので、
頑張って更新していきます。
>157さん レスありがとうございます。
楽しみにしてもらえて嬉しいです。
頑張って書くので、これからもよろしくお願いします。
- 159 名前:彼女の秘密(4) 投稿日:2002年02月19日(火)22時57分29秒
- その人はヨシザワヒトミといって、明るくおもしろいから誰にでも人気が
あった。
顔も美少年系だから、結構モテると噂で聞いたことがある。
その人はまるで太陽みたいな人だった。
いつも眩しいくらいに輝いている。
それ比べて、私はただ浮かんでいるだけの月。
見過ごされてしまうような、淡い輝きを放っているだけ。
だから月のような私は・・・・・きっと太陽に勝てないんだ。
そんなことを考えているときは、いつも言い様のないイラつきを覚える。
なんで人間はこんなに不平等なんだろう?
あの人と私との差があまりにあり過ぎる。
だってあの人は彼女の隣で、あんなにも楽しそうに笑っているのに。
私は存在を気がついてさえもらえない。
今の私と彼女の距離はすごく遠い。
- 160 名前:彼女の秘密(5) 投稿日:2002年02月19日(火)23時16分42秒
- でも、いつか必ず追いついてみせる。
今は気がつかなくても、いつか見ずにはいられないくらい輝くから。
絶対に彼女の横に肩を並べる。
そして、「大好きです!」と言いたい。
そのために私は狂ったように頑張った。
勉強も、スポーツも、委員会や部活にも積極的に参加したし、クラスの人達
とも色々と話して交流を持った。
だって輝く方法なんて知らないから。
だからとにかく色んなことで優秀な成績を残し、誰とでも感じ良くは話を
していれば、少しは注目が集まると思った。
そのために寝る間も惜しんで予習と復習をして、会話に入るために何冊も
今どきの雑誌を買い集めて読んだりした。
ヒマさえがあれば筋トレや、体育の授業でやっているバスケの練習。
だけど私は元々そんなにバカではなかったし、運動神経もそれなりにいい方
だったので、その成果はすぐに現れ始めた。
私の名はたちまち広まった。
成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗。
私は色んな人から完璧と言われるようになった。
これでやっと輝いたと思った。
全ては彼女、イシカワリカに気づいてもらう為。
そしてあの人、ヨシザワヒトミよりも輝く為。
- 161 名前:雲に隠れる月に気づいて(1) 投稿日:2002年02月19日(火)23時33分16秒
- 私はあの人を超したと確信していた。
でもそれが甘い考えだと、思い知らされる事件が起きた。
それは放課後の掃除で私がゴミを捨てるために、ちょうど人気のない校舎裏
にさしかかったときのことだった。
どこからか話し声が聞こえてきて、でも別に興味ないから無視して通り過ぎ
ようと思っていた。
・・・「イシカワさん」と誰かが言わなければ。
私はゴミ箱をそっと置いて、声がする方に静かに近づいた。
彼女のことだと思うと自然に早足になっていく。
そしてその現場を見た瞬間、私は大きく目を見開いた。
彼女は3人の女生徒に囲まれていた。
どう見ても、それは険悪な雰囲気でしかない。
それでも彼女は笑っていた。
- 162 名前:雲に隠れる月に気づいて(2) 投稿日:2002年02月19日(火)23時49分31秒
- 女生徒達はそれが気にくわないらしい。
「顏だって、別に大したことないじゃん。」
「和田のお気に入りだからって、自惚れてんじゃないの?」
「バカじゃないの?きっと家の鏡が壊れてんだよ。」
と口々に彼女に皮肉な言葉を浴びせていく。
3人とも楽しそうに笑いながら・・・・。
私は怒りの感情が沸き上がってくるのを感じた。
だからすぐにでも、女生徒達に文句を言ってやりたかった。
でも一瞬、出ていくかどうか迷った。
だってもしここで出ていけば、私の評判は悪くなるかもしれない。
そうしたら彼女から遠ざかってしまう。
それだけは絶対に嫌だ!
「きゃっ。」
とかわいい悲鳴を上げて、彼女は背中を壁にぶつける。
それは不意に女生徒の1人が、彼女の肩を軽く押したから。
それを見た瞬間に私の体が動いた。
ただ体が勝手に動くから、無意識のままそれに従った。
何を迷っていたんだろう。
私が欲しいのは栄光や名声なんかじゃない。
私が欲しいのは彼女だけ。
だから彼女の為なら、今まで私の築いてきた印象や実績なんて全て捨てる。
- 163 名前:aki 投稿日:2002年02月20日(水)00時45分08秒
- いしごま編、読ませてもらってます。
ごっちんの一途な想いがかわいくてかっこいいです(w
頑張ってください。
- 164 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月20日(水)22時57分54秒
- ごっちんは頑張ってたんですね
これからどうなる(w
- 165 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年02月25日(月)22時55分28秒
- >akiさん レスありがとうございます。
後藤さんのキャラは、書いていて危ない人に思われないか
少し不安だったので、そう言ってもらえてよかったです。
>名無し読者さん 後藤さんはかなり頑張ってますね。
頑張らないと、石川さんは落とせないということで。
- 166 名前:雲に隠れる月に気づいて(3) 投稿日:2002年02月25日(月)23時17分40秒
- 「そのぶりっこした声、やめてくれない?」
「そうそう。今どき流行らないっての。」
「っうかさぁ、かなり聞いててムカツクんだよね。」
彼女を嘲笑する女生徒達の間に、私はいきなり割って入った。
女生徒達は意外な私の登場に驚いて、大きく目を見開いて口を金魚のように
パクパクさせていた。
「・・・ご、後藤真希?!」
「なんでいきなり出てくるの?」
「そんなのあたしに分かるわけないでしょ!」
私は何やら焦ってる女生徒達を無視して、すぐ彼女の方に振り向いた。
「あの、大丈夫ですか?」
彼女も私の登場に驚いてるようだったけど、すぐにいつもの微笑みを私に
向けて言った。
「・・・・はい。そんなに強く押されてませんから。」
その微笑みに心が熱くなる。
そして、守ってあげたいと強く思った。
- 167 名前:雲に隠れる月に気づいて(4) 投稿日:2002年02月25日(月)23時18分19秒
- 「こういうこと、やめた方がいいと思うよ。」
私は女生徒達の方に向き直ると、軽く睨んでから少し低い声で言った。
「あ、あんたには関係ないでしょ!」
「そうだよ。カッコつけて乗り込んできちゃってさ。」
「それとも何?先生にチクって得意の点数稼ぎでもするつもり?」
と女生徒達は私を睨み返して口々に言った。
「別に。ただイジメてるように見えたから、助けに入っただけだよ。」
私は平然な顔をしてそっけなく答える。
「どこがイジメ・・・・・。」
女生徒の1人が反論しようとしたとき、遠くの方から聞こえた声がそれを
遮った。
- 168 名前:雲に隠れる月に気づいて(5) 投稿日:2002年02月25日(月)23時32分16秒
- 「梨華ちゃんに手を出すなぁぁぁぁぁ!!」
いきなり叫び声が聞こえたかと思うと、あの人が走ってくるのが見えた。
あの人は私がしたように、間に割り込むように入ってくる。
ふと後ろの彼女に目をやると、すごく嬉しそうな顔をしていた。
そのことに胸が少し痛んだ。
あの人は荒い息を吐きながらも、しっかりと女生徒達を睨みつける。
それから少し呆れた顔をして言った。
「しつこいなぁ。まだ梨華ちゃんイジメようとしてるの?」
女生徒達はその言葉に完全に沈黙してしまう。
「今日のところは退いた方がいいんじゃないの?」
黙ったままで話が進まないから、今日のところは女生徒達を助けた。
「チッ!2人とも行こう。」
女生徒の1人が悔しそうに舌打ちをすると、残りの2人は渋々頷いて
その言葉に従った。
そして、少し足早に3人は去って行った。
- 169 名前:雲に隠れる月に気づいて(6) 投稿日:2002年02月25日(月)23時48分45秒
- 「しつこい人達は追い払ったし。梨華ちゃん、ケガとかしてない?」
あの人は軽く溜め息をついてから、彼女の方に振り返って笑いかける。
「うん、今日は何ともないよ。後藤さんが助けてくれたから。」
彼女はそう言って、私に優しく微笑んでくれる。
「えっ?あ・・あぁ・・・まぁね。」
私は曖昧な返事を返すことしかできなかった。
だってあまりの喜びと驚きで、上手く頭が回転しなかったから。
彼女が私の名前を呼んでくれた!
私だけに微笑んでくれた!
もうそれだけのことで、私は舞い上がるほど嬉しかった。
「そうだったんだ。ありがとう、後藤さん!」
あの人も私の方を見て、ニッコリと笑って言った。
やっぱり・・・・・太陽だと思った。
その笑顔はどこか輝いていて、ちょっとだけ温かい感じがしたから。
「別に、大したことじゃないよ。」
私はあの人から顔を逸らして、ぶっきらぼうに答えた。
だって、この人は私の天敵だから。
- 170 名前:雲に隠れる月に気づいて(7) 投稿日:2002年02月26日(火)00時05分11秒
- 「あっ、そうだ!部活行く途中だったんだよ!梨華ちゃんはどうするの?」
あの人は思い出したように手を叩くと、急に慌てたように言った。
「私も委員会が始まるから、そろそろ行かないと。それじゃ後藤さん、
今日は助けてくれてありがどうございました。私達は用があるのでこれで
失礼しますね。」
彼女は急いでるにも関わらず、丁寧に頭を下げてお礼を言う。
そして、あの人の方に顔を戻したときだった。
そのとき微笑みが変わった。
それは優しくて、柔らかくて、とても甘い微笑みだった。
- 171 名前:雲に隠れる月に気づいて(8) 投稿日:2002年02月26日(火)00時05分57秒
- そう、その微笑みだよ。
あの人だけに見せる、『特別』の微笑み。
それは私には見せてくれなかった、あの人だけの微笑み。
2人は楽しそうに笑いながら走って行った。
私には踏み込めない領域を感じた。
少ししてから、私は倒れるように壁に寄り掛かった。
そして・・・・泣いた。
しばらく涙が止まらなかった。
だってあの人より輝いたと思っていたのに、それはただの思い上がりに
過ぎなかったから。
現実は全然越えてなんていなかった。
きっと、並んでさえいない。
- 172 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月26日(火)00時59分01秒
- このごっちんが「ああ」なるのか……(w
- 173 名前:巡回読者 投稿日:2002年02月27日(水)00時34分49秒
- 失礼ながら、本編よりオリジナルの
ごっちん編のほうが面白いのは何故。。。?
- 174 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月02日(土)18時29分29秒
- 続きがめっさ気になる(w
- 175 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年03月03日(日)23時02分03秒
- >名無しさん どう考えても「ああ」なりそうにないんですけど、
好きな人ができると、人は変わるということで。
>巡回読者さん きっと気合いが違うからですね。
本当なら、本編に気合いを入れるべきなんでしょうけど・・・・。
でも自分も書いていて、こっちの方が面白いと思ってました。
>名無し読者さん お待たせしました。
書きたいと思っていたんですが、つい眠気に負けてしまって。
これからやっと後半の方にいけます。
- 176 名前:Take away(1) 投稿日:2002年03月03日(日)23時17分22秒
- どうしたら、あの人に追いつけるんだろうか?
あれから毎日そればかり考えていた。
だけど答えは分からなくて、ただムダにあがくばかり。
そして、入学して2ヶ月が過ぎたある日のこと。
私は委員会の帰りに1人で廊下を歩いているとき、ふとどこからか彼女の声
が聞こえた気がした。
だけど私の近くに彼女はいないし、人のいる気配すらなかった。
だから、きっと幻聴だと思った。
彼女のことを考えていたから、聞こえたような気がしたんだと。
そう思って自分を納得させた。
でもなんだか落ち着かなくて、胸騒ぎみたいなものがしてくる。
もしかしたら、彼女に何かあったのかもしれない。
もしそうなら助けなきゃ!
私は彼女を守るって決めたんだから。
だから彼女を傷つける者は、誰だろうと絶対に許さないんだ。
でも守るべき彼女の居場所は分からない。
一体どこにいるんだろう?
でもとにかく探さなきゃ。
そして、必ず見つけだして助けるんだ!
- 177 名前:Take away(2) 投稿日:2002年03月03日(日)23時29分55秒
- とりあえず、人気のない所を探すことにした。
私から見て右に行くと化学室、左に行くと教室や図書室がある。
もし人に危害を加えるなら、人気のない所を選ぶのが無難だと思う。
そう考えでいくなら左はないな。
だって、教室や図書室にはまだ人がいる可能性があるから。
でも右というのも考えにくい。
化学室は確かに人気はないけど、でもあそこには和田先生がいるから。
おかしなことをすればすぐにバレると思う。
いや、バレないか。
・・・・・和田先生自身なら。
確かあの先生は梨華ちゃんのこと好きらしいし、セクハラまがいのことを
してるって前に聞いたことがある。
行ってみる価値はあるな。
私は結論が出ると、すぐに廊下を駆け出した。
もう彼女を助けることしか頭になかった。
全速力で渡り廊下を駆け抜けると、角をコケそうになりながら曲がって、
一直線に化学準備室を目指した。
そして、勢いよくそのドアを開ける。
するとそこには・・・・・・怯えた彼女がいた。
- 178 名前:Take away(3) 投稿日:2002年03月03日(日)23時44分51秒
- 彼女は準備室のソファーに座り、その後ろに和田先生が立っていた。
私が入ってきたとき、一瞬だけ肩に手が回っていた気がする。
でもそれよりも私は驚いたことがあった。
彼女が全く笑っていなかった。
それどころか、縋るような瞳を私に向けている。
私は笑っていない彼女を初めて見た。
和田先生は驚いた表情のまま、しばらく固まっていた。
「・・石川さん・・・用が・・・あるので・・・一緒に・・・来て・・・
くれませんか?」
私は激しく息を切らせながら、途切れ途切れに言葉を発した。
「・・・・・はい、すぐに行きます。それでは和田先生。私は呼ばれて
いますので、これで失礼します。」
彼女は平然と立ち上がると、和田先生にいつもの微笑みを向けて言った。
- 179 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月03日(日)23時46分27秒
- ま、まさか・・・。
ごっちん!梨華ちゃんを救うんだあ!!
- 180 名前:Take away(4) 投稿日:2002年03月03日(日)23時54分46秒
- 「あ、あぁ、分かった。」
和田先生は間の抜けた声を出して彼女を見送る。
でもちょうど彼女が私のところまで来たとき、突然振り向いて言った。
「・・・・一体、何の用なんだ?」
それは最後の悪あがきなんだろうか。
「夏先生に頼まれたんです。バスケットのチームノートの件で話がある
から、呼んできてくれって。」
私はさも本当に頼まれたように即答した。
和田先生はそれに小さく舌打ちをする。
「・・・・そうか。石川、引き止めて悪かったな。2人ともあまり遅く
まで残っているなよ。」
と急に先生らしい口調になって言った。
でもどこか、納得のいかないような顔をしていた。
- 181 名前:Take away(5) 投稿日:2002年03月04日(月)00時06分00秒
- 「それでは、失礼しました。」
私達は軽く頭を下げて、準備室のドアを閉めた。
それから、少しの間だけ2人とも立ちつくしていた。
彼女が動かないから、私も動かなかった。
でもずっとここにいても仕方ないから、
「さっ、行こう。」
と私は呆然としてる彼女を促して、準備室を後にした。
2人とも無言で、何処へ向かうわけでもなく歩いた。
私は怯えた彼女を忘れられずにいた。
あの瞳が残像のように頭から消えない。
化学室へ行くのが遅かったら、彼女は一体どんな瞳で私を見ただろうか?
そう思ったら彼女のことがすごく気になった。
だから私は横目で彼女を盗み見る。
でもその顔は俯いていたから、どんな表情をしているか分からなかった。
確かなことは・・・・・彼女は笑っていなかった。
- 182 名前:179 投稿日:2002年03月04日(月)01時11分31秒
- すみません!
途中なのにおもいっきり邪魔してしまいました・・・。
逝ってきます・・・。
- 183 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年03月04日(月)22時43分51秒
- >179さん 全然気にすることないですよ。
年に一回くらいは、そういうこともあるでしょうから。
全く問題ないです。
- 184 名前:Take away(6) 投稿日:2002年03月04日(月)22時55分58秒
- ちょうど階段の踊りまで来たとき、彼女は静かに立ち止まる。
そして突然、力が抜けたようにその場に倒れ込む。
私は慌てながらも彼女を受け止めた。
こんなときに不謹慎だろうけど、初めて感じる彼女の重さと温もりに胸が
高鳴った。
「だ、大丈夫ですか?」
私が心配して覗き込むと、彼女はいつものように微笑んでいた。
それが私には理解できなかった。
なぜ笑うの?
なんでこんなときに笑えるの?
「ごめんなさい、ちょっと立ち眩みがしてしまって・・・・。」
と彼女はその微笑みを崩さずに言った。
・・・・・そうか。
いつものように作ってるんだね。
でも、そんなことしなくていいんだよ。
今は笑わなくていいんだ!
気がついたら、私は彼女を思いきり抱きしめていた。
彼女はその突然の出来事に驚きながらも、すぐまた私に微笑みかける。
「どうかしたんですか、後藤さん?」
もうこれ以上笑わないで。
だって見ていると、すごく胸が苦しくなるから。
- 185 名前:Take away(7) 投稿日:2002年03月04日(月)23時07分56秒
- 「・・・・・・無理しなくていいんだよ。」
私は彼女の耳元にそっと囁いた。
その言葉を聞いた瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれる。
彼女の仮面が壊れた瞬間だと思った。
「べ、別に私は無理なんてしてないですよ。」
僅かに沈黙が流れた後、また彼女は作った笑みを私に向ける。
でもそれは完璧に作りきれていない。
彼女は間違いなく私の言葉に動揺している。
だって顔はいつものように笑っているのに、とても切ない瞳をしてるから。
「だったら・・・・・なんでそんなに、悲しい目をしているの?」
私は彼女の瞳をまっすぐ見つめて言った。
その言葉に彼女は何も返さない。
多分、返せないんだと思う。
さっきよりも長い沈黙が、2人の間に流れた。
- 186 名前:Take away(8) 投稿日:2002年03月04日(月)23時17分20秒
- 私は作り物なんて見たくないんだ。
いくら綺麗な微笑みだって、模造品じゃ意味がないよ。
私が見たいのは、心から微笑んでいる貴女だから。
「我慢することなんてない。悔しかったら怒ればいいし、辛かったら
泣けばいい。もう笑わなくいいんだよ!」
私は声を上擦らせながら、彼女を抱く手に力を込めた。
「・・・あり・・・が・・・とう・・・。」
彼女は微笑ながら涙を流していた。
綺麗な泣き顔だと思った。
こんなに美しい泣き顔を、私は生まれて初めて見る。
私は彼女の頭を少し強引に肩に押しつけた。
彼女は私の服の袖を握りしめ、息をつまらせたように吐きながら、体を
小刻みに震わせて泣いた。
私は何も言わずに、ただ彼女を抱きしめていた。
- 187 名前:179 投稿日:2002年03月05日(火)01時32分39秒
- あたたかいお言葉ありがとうございます!
これからも楽しみにしてます!!
- 188 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月05日(火)03時21分55秒
- ごっちんと梨華っちが少し近付き?ましたね
これを気にどうなるのか(w
あの、1つ聞きたいのですが、弦崎あるいさんは一目惚れです、書いてますよね?
あれ、読みたいんですけど何処にあるのでしょうか・・・
- 189 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月05日(火)03時37分47秒
- 石川さん…(泣
- 190 名前:188 投稿日:2002年03月08日(金)22時29分26秒
- 探したら見つかりました
ご迷惑おかけしましたm(_ _)m
- 191 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年03月10日(日)23時07分49秒
- >187さん 頑張って書かないと、4月に入ってしまいそうなので、
ペースを上げて更新していきたいと思っています。
>名無し読者さん これから書くやつが、石川さん的には一番辛い話
になると思います。
>188さん こちらこそスイマセン。
ここしばらく見てなかってので、某所を教えられませんでした。
でもあれは初期に書いた駄文なので、本当のところ見てほしくないです。
- 192 名前:Take away(9) 投稿日:2002年03月10日(日)23時24分34秒
- しばらくしてから、私は抱きしめていた彼女を解放した。
彼女は赤く腫れた瞳で私を見上げる。
「ごめんなさい、急に泣いたりして・・・・。」
そして、少しはにかむように笑って言った。
それは作った笑いではない、彼女の本当の微笑みだと思った。
だってとても心に響く微笑みだから。
「えっ、いや、別にいいよ。泣けって言ったのは私の方だし。」
私は急に照れくさくなって、彼女からやや目線を逸らして言った。
彼女はそんな私の仕種にクスッと笑う。
「私がなぜいつも笑っているか、知りたいですか?」
と笑いながら少し目を細めて言った。
それは自虐的な微笑みにも見えたし、私を試しているようにも見えた。
私はその意外な話の展開に驚いていた。
まさか彼女から切り出してくるなんて、全くの予想外だったから。
だから困惑してしまった。
私みたいな奴に、聞く資格があるんだろうか?
でももっと彼女のことを知りたい。
もっと彼女に近づきたい。
私は軽く深呼吸してから彼女と向き合うと、静かに頷いた。
- 193 名前:Take away(10) 投稿日:2002年03月10日(日)23時35分47秒
- 彼女は私が頷いたのを確認すると、ゆっくりと話し出した。
「それは・・・・・母の遺言だからなんです。母は死ぬ直前に
「どんなときも笑っていなさい」と幼い私に言いました。だから、
いつも笑っているです。」
そう言って彼女は笑う。
その微笑みはすごく綺麗だけど、脆くて今にも壊れそうな気がした。
きっと彼女の笑っている理由のせいだ。
でも私はその理由は間違ってると思う。
誰かの為に笑ってるなんておかしい。
自分が笑いたいから笑う方が、いい人生を送れるんじゃないかな?
私もそんなに真面目に生きていないから、あんまりよく分からないけど、
でもその方が楽しい気がするから。
だから・・・・
「無理して笑うことないよ。」
と私は楽しそうに笑って言った。
- 194 名前:Take away(11) 投稿日:2002年03月10日(日)23時50分23秒
- すると、彼女は遠くを見つめるような表情をする。
「・・・・私は笑っていれば、それでいいと思ってました。だって誰かと
争いを招くことも、人に悪い印象を持たれることもないですから。でも、
いつも何か物足りなさを感じてました。きっと私は、その言葉をずっと
待っていたんだと思います。」
彼女は悲しそうで、嬉しそうで、とても複雑な顔をしていた。
「べ、別に私は、大したこと言ってないよ・・・・・。」
やっぱり彼女と話すると照れてしまって、上手く言葉が出てこない。
だから曖昧な感じになってしまう。
「でもその言葉、一度ヨッスィーに言われてるんですよ。だから今日の
後藤さんで、言われるの2度目なんです。」
彼女はどこかふっ切れたように笑って言った。
- 195 名前:Take away(1ふ) 投稿日:2002年03月10日(日)23時51分48秒
- それは彼女にとってみれば、何気ない言葉だったんだと思う。
でも私にとってはとても大事な言葉。
だってその言葉でようやく理解できたから。
どうして彼女が、あの人に特別な微笑みを見せるのか?
心を許したように笑いかけるのか?
それは・・・・・あの人が受け止めてくれたから。
全てを知っても、ちゃんと彼女の傍にいる。
だから彼女にとって特別なんだね。
だけど、私だってちゃんと受け止めるよ。
貴女の全てを受け入れるから、私に特別な微笑みを向けてください。
- 196 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年03月10日(日)23時53分40秒
- スイマセン、題名のところが(1ふ)になっていますが、
(12)の間違いです。
- 197 名前:ゆき 投稿日:2002年03月11日(月)00時06分23秒
- 健気というか純なごっちんがいいですね。
作者さん頑張って下さい。
ところで自分も弦崎さんの「一目惚れです、石川さん!」が
読みたいのですが、検索してもないんですよね。
ぜひ読みたいのでその「某所」を教えてもらえないでしょうか?
- 198 名前:188 投稿日:2002年03月11日(月)00時08分18秒
- 梨華っちが何時も笑っていたのは
お母さんの遺言のためだったのですね…
ごっちんも更に近付いた感じになりましたね
これからどうなるのか(w
いえいえ、自分も調べてたのですがエラーになってて見れなかったんです、
考えたらアドが間違っていたので自分で直して見れました(w
初期に書いたそうですが自分は満足です♪
何気に続編でも書いてもらいたいくらいです(藁
- 199 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年03月11日(月)22時59分08秒
- >ゆきさん レスありがとうございます。
それと某所についてですが、勝手にアドレス教えるのはまずいので、
調べてもらうしかないです。
ヤ○ーで「モーニング娘。小説」と入れて、適当にリンクを見れば有名とか
様とか、すごい形容詞がついているサイトが某所です。
>188さん 石川さんの笑っている理由については、短編ということで
あまり深くは触れてないので、ツッコまれると困るところです。
一目惚れは〜、始めは完全に何の話か忘れてました。
幻滅されなくてよかったです、自分は怖くて読み返せませんから。
続編は絶対に書かないと、というか書けないです。
- 200 名前:Take away(13) 投稿日:2002年03月11日(月)23時16分34秒
- 私はまた彼女を抱きしめた。
彼女はさっきので慣れたのか、そんな驚きはしなかった。
逆に私の方が驚いていたくらいだ。
だけど、自分でも抱きしめた理由は分からない。
きっとそれは衝動的なものなんだと思う。
今の言葉を聞いたら、なんだか胸の奥が一気にと熱くなって、気がついたら
彼女を抱きしめていた。
これを嫉妬と言うんだろうか?
私はあの人に妬いたのかな?
よく分からないけど、でも彼女を私だけのものしたい。
あの人や他の誰にも渡したくない。
自分だけを見てほしい、と強く思った。
私の心を呼び起こしてくれた貴女しか、気持ちが揺れ動くことはないから。
だから心の底から欲しているんだよ。
いっそこのままモ度から飛び下りて、死んでしまいたいと思った。
そうすれば、彼女は永遠に私のものになる気がした。
だけどそれじゃ無理心中。
彼女は私みたいな奴と、死にたくないだろうから。
このまま時間が止まってしまえばいいのに。
そして、ずっと彼女と抱き合っていたい。
この優しい温もりを離したくない。
離すことなんてできない。
- 201 名前:Take away(14) 投稿日:2002年03月11日(月)23時30分56秒
- 私はもう彼女から抜け出せない。
でもそれは彼女と出会った瞬間に、既に分かっていたことだ。
私は言い様のない衝動にかられ、少し乱暴に彼女を強く抱きしめた。
そして、揺れる黒髪に隠れた耳元に静かに囁く。
「・・・・・あなたが好きです。」と。
さすがにその言葉には、彼女も目を大きく見開いた。
つい言ってしまったけれど、きっと私はフラれてしまう。
この思いは拒絶されるんだ。
でも彼女への思いは確かに胸にあって、伝えずにはいられなかった。
彼女はしばらく何も言わずに考え込んでいた。
「・・・・・悪いのですが、今は付き合えません。」
顔を少し俯かせて、すまなそうな顔をして言った。
その瞬間、目の前が突然真っ暗になった。
私は全身の力が抜けて、思わずその場に倒れそうになる。
「ご、後藤さん!?」
彼女は慌てて私を抱き止めてくれた。
- 202 名前:Take away(15) 投稿日:2002年03月11日(月)23時46分12秒
- こうなることは分かっていたのに。
なのに実際言われてみると、目の前が真っ暗になった。
それだけ彼女が大きな存在なんだ。
きっと私の全て。
「私は後藤さんのこと何も知りませんから、1ヶ月時間をくれませんか?
ちゃんとあなたのことを知って、それで返事を返したいんです。」
彼女は少し頬を赤く染め、照れくさそうに笑って言った。
私はしばらく呆然としていた。
少し経ってから、ようやく言葉の意味が分かると、少しだけ涙が出た。
だってその言葉が嬉しくてたまらないから。
「後藤さん、大丈夫ですか?」
と彼女があのときのように、またハンカチを差し出してくれる。
でもあのときとは全く違う。
私はそれで目元を拭くと、晴々とした笑顔で言った。
「この1ヶ月、私は猛アタックするから。・・・・・覚悟しててね。」
1ヶ月後には『好きだ』と言ってもらいたい。
いや、絶対に言わせてみせる。
彼女は特別の微笑みを私に向けて、その言葉を受け止めてくれた。
- 203 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月12日(火)13時10分24秒
- ごっちんがんば〜(w
- 204 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月12日(火)17時00分07秒
- ファイトだごっちん!!
男前っぷりを最大限に発揮して石川さんを落とすんだ〜
- 205 名前:show 投稿日:2002年03月15日(金)21時48分02秒
- ここの小説は初めて読ませてもらいましたがいしごま好きにはたまらんです(w
前にタバコの小説書かれてましたよね?
すみませんタイトル忘れちゃいましたが(^^f;
あれがすっごい好きでした。短編の続きが気になります。
- 206 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年03月17日(日)23時16分36秒
- >203さん そうですね。
後藤さんはここからが正念場ですから。
>204さん あんまり男前じゃないんですよね、ここの後藤さん。
でも、カッコよくは決めたいと思ってます。
>showさん どうもはじめまして。
いしごま好きな方に褒めてもらえると嬉しいです。
タバコの話・・・・・あれは自分でもタイトル忘れました。
でも自分も結構気に入ってる話でした。
- 207 名前:時が止まればいい(1) 投稿日:2002年03月17日(日)23時34分35秒
- その次の日から、私は彼女に猛アタックを始めた。
とにかく自分をアピールするしかない、今はそれしかないんだ。
少し緊張しながら、私は彼女のクラスのドアを開けた。
そのときはちょうど昼休みだったから、みんな机を合わせながら昼食を
とっていた。
クラスのほとんどが私に視線を向ける。
それは仕方がないことだと思う。
だって私は、このクラスには全く縁がないから。
意外な人の登場に驚きや、興味が湧くのはしょうがない。
でもそんなことどうだっていい。
だって私は彼女以外の人は気にならないし、目に入らないから。
彼女を目指して一直線に歩いていくだけ。
- 208 名前:時が止まればいい(2) 投稿日:2002年03月17日(日)23時36分22秒
- そして目の前に立つと、軽く深呼吸してから一言だけ言った。
「私とデートして下さい!」
そう言ってから、勢いよく頭を下げる。
その言葉に飲み物を吹き出す人とか、食べ物が詰まってむせる人だとか、
色々いたけれど彼女はいつもと変わらない。
少しだけ特別な微笑みで私を見上げる。
「・・・・はい、喜んで。」
彼女は笑みを浮かべたまま、確かに頷いて答えてくれた。
「じゃぁ、屋上に行きましょうか。」
私はゆっくりと手を差し伸べて、彼女は軽くその手を取る。
そして私達は、呆然となっている教室を後にした。
- 209 名前:時が止まればいい(3) 投稿日:2002年03月17日(日)23時47分07秒
- そんな毎日が続いた。
私は毎日、彼女の隣にいてたくさん話をした。
別に何かの話をするわけじゃない。
とりとめのない話だったけど、彼女と一緒にいるだけで十分だから。
私はそれだけでとても幸せを感じていた。
それは、すごく楽しくて嬉しい1ヶ月だった。
だからずっと続けばいいのにと思っていた。
だってこんな幸せ過ぎる日々が、終わってしまうなんて考えられない。
ずっと彼女と一緒に過ごしいたい。
彼女に近づけば近づくほど、さらに惹かれていくから。
何も反応を示さなかった私の心が、こんなにも激しく乱れている。
でもそれは当たり前。
だって、彼女は私を目覚めさせてくれた人だから。
その理由や原因なんて知らない。
そんなのどうだっていい。
私はたった1人の少女に、いつも振り回られてばっかりいるこの毎日が、
今はたまらなくおもしろいんだ。
- 210 名前:時が止まればいい(4) 投稿日:2002年03月17日(日)23時54分41秒
- だって私の中にちゃんと『私』がいて、いつも彼女を求めて止まない。
ちゃんと体に魂があって、それが彼女だけを欲している。
心の中に渦巻く何かを感じている。
私は生きているんだ。
そして、彼女に恋をしている。
それだけでいいよ。
科学的な理由や根拠なんていらない。
そんなもの求めていない。
求めているのは、彼女との幸せな日々だけ。
だけど・・・・それももうすぐ終わる。
この幸せな日々は1ヶ月の期限付きだから。
だから時が止まってしまえばいい。
そうすれば、ずっと彼女と一緒にいれる・・・・・・。
- 211 名前:show 投稿日:2002年03月18日(月)15時30分54秒
- 更新してるぅ!切ないっすね、期間限定って・・・。
でもどうなる????
それと、タバコのタイトル思い出しましたよ。
スモーカーラプソティー ・・・でしたよね、たしか(w
- 212 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月19日(火)18時08分05秒
- 期間限定ってのは辛いですね
こっからどうなるのか(w
自分もタバコの話は好きでした♪
- 213 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年03月20日(水)22時36分31秒
- >showさん なんとか更新できてよかったです。
これからどうなっていくのかは、楽しみにしていて下さい。
スモーカーラプソティーは懐かしいですね。
自分でも記憶が曖昧なんですけど、多分それであってると思います。
>名無し読者さん いちよ期間限定ですけど、延長できるかは後藤さん
次第ですね。
タバコの話は結構評判が良かったので、自分でも嬉しかったです。
- 214 名前:時が止まればいい(5) 投稿日:2002年03月20日(水)22時48分26秒
- だけど楽しいほどに、月日はすぐに過ぎていってしまう。
あっという間に1ヶ月が経った。
そして、私は彼女に手紙で呼び出された。
場所は屋上。
時間は放課後。
屋上は彼女と一番多く過ごした、私とって大切な場所だった。
でもそれまでの道程がとても遠く感じた。
それに放課後だから、辺りは昼間とは違って静まり返っている。
私は階段の踊り場まで来ると、立ち止まって深呼吸をした。
そして、薄暗くなって見えにくい上方を見つめる。
彼女はこの階段を上がったところにいる。
私はなんだか急に怖くなって、逃げ出したい気分になった。
だけど・・・・彼女に会いたい。
彼女の出した答えをちゃんと聞きたい。
拒絶されるのは確かに怖いけど、でももしかしたらOKかもしれない。
行くしかないんだ。
そう思って自分自身を勇気づける。
不安と淡い期待の入り混じった心持ちで、私は階段を上がっていった。
- 215 名前:時が止まればいい(6) 投稿日:2002年03月20日(水)23時02分00秒
- 屋上が近づくと次第に鼓動が早まっていく。
そして錆びた鉄製の扉が見えると、私はまた深呼吸をした。
だけど鼓動は治まってくれない。
それどころか、余計に早まったような気さえする。
私は微かに震える手で錆びた扉に触れた。
そして、力を込めて押し開ける。
金属音の擦れる嫌な音がして、扉はゆっくりと開いた。
私は軽く息を吐いてから屋上に足を踏み入れる。
彼女はフェンスに体を向けて立っていた。
風になびいた髪を手で押さえながら、どこか遠くを見てるようだった。
私は生唾を飲み込んでから、彼女に向かって歩いていく。
これから私は何を言われるんだろう?
彼女に拒絶されたら・・・・私はどうなってしまうんだろう?
もしかしたら彼女を傷つけるかもしれない。
そんな得体の知れない自分が、今はたまらなく怖いんだ。
まだ『私』というものを理解していないから。
どうなってしまうのか予測がつかない。
でも逃げたくはない。
彼女の答えをちゃんと受け止めたいと思う。
そして、絶対に彼女を傷つけることはしたくない。
そうしたら私は自分が許せなくなる。
だって彼女を傷つける者は、誰であろうと許さないから。
- 216 名前:時が止まればいい(7) 投稿日:2002年03月20日(水)23時05分23秒
- 私は彼女の後ろに静かに立った。
声をかけようか迷っていたとき、彼女がいきなり振り向いた。
やっぱり彼女は笑っていた。
その微笑みは本当に綺麗だから、久しぶりに見惚れてしまう。
「わざわざ呼び出したりして、ごめんなさい。」
と彼女は私に苦笑いを向けて言った。
「・・・・えっ?あぁ、いや、全然大丈夫だよ。」
私は我に返ると、すぐに焦って否定をした。
「やっぱり優しい人だね、後藤さんは。」
彼女は楽しそうに笑いながら言う。
「そんなことないよ。」
私は照れくさそうに笑って答えた。
それからいつものように、私達はたわいもない話しをした。
それは楽しい会話だけど何かが違う。
いつもと同じようなのに、なぜだか切なく感じる。
それになんでだろう?
笑って返したいのに、今日は上手く笑えない。
でも笑えるはずがないよ。
だって、今日で終わるかもしれないんだ。
私達の幸せな日々が。
- 217 名前:時が止まればいい(8) 投稿日:2002年03月20日(水)23時09分07秒
- 彼女と過ごせる日々が終わる。
そんなときに笑えるはずがないよ。
でも口元が自然に緩むのは、彼女が笑っているから。
とても自然な笑みを私に向けるから。
その笑みが作られたものではなく、特別な私だけのもの。
でもその笑みは急に戸惑ったような顔になる。
そして、少し言いにくそうに口を開く。
「今日はどうしてここに呼んだか、分かりますか?」
私は言いたくなかった。
その質問の答えが分からなければよかった。
だけど私は答えが分かるし、言わないわけにはいかない。
「一カ月前の・・・・・告白の答えだよね。」
私は少し間をあけて、ゆっくりと言った。
彼女はいつものように笑いながら頷く。
「だから、この屋上で話をしたかったんです。」
でもその笑みはどこかぎこちない。
きっとお互いに緊張しているからだと思う。
それから二人とも何も言えなくて、しばらく沈黙していた。
- 218 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月21日(木)13時33分25秒
- うぉ〜〜〜どうなるどうなる(w
- 219 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年03月22日(金)22時40分45秒
- >名無し読者さん やっと2人の結果がでます。
短編といいながら、ここまでくるのに長すぎですね。
- 220 名前:時が止まればいい(9) 投稿日:2002年03月22日(金)22時46分48秒
- できることなら、彼女の口を塞ぎたかった。
だって何も言わせたくないから。
そんな思いとは裏腹に、彼女は口を開く。
私はそれを黙って見守るしかなかった。
「・・・・私は一カ月経っても、後藤さんをあまり理解できませんでした。」
彼女は私から目を逸らさないで言った。
私は拳を作ると、それを思い切り強く握った。
小さく震える手に痛みが走るけど、それよりも彼女の言葉が痛かった。
手の痛みよりもそれは深く心に刺さった。
でもこの結果は、初めから予想は出来ていたことだ。
彼女と付き合えるはずないんだよ。
やっぱり・・・・私はフラれるんだね。
「すごく悩ませちゃったよね?私が傷つかないように考えたでしょ?
でも大丈夫だから、初めから付き合えないって分かってたから。色々と
気を使わせちゃって、本当にごめんね。」
私は一方的にしゃべると、すぐに後ろを向いて歩きだした。
- 221 名前:時が止まればいい(10) 投稿日:2002年03月22日(金)22時49分26秒
- だって今にも泣きそうだから。
きっと泣いてしまったら、彼女は自分を責めると思った。
そのことでまたすごく悩むと思うから。
これ以上、私のことで彼女を悩ませたくない。
だから私は彼女に背を向けて、屋上から去ろうと思った。
でも足がその場から動かない。
だって、彼女が私の服の袖を掴んで離さないから。
「・・・・・待って!話をちゃんと最後まで聞いてよ。」
と彼女は初めて私に敬語ではない話し方をした。
私はそのことに驚いて何も言えなかった。
「確かに私は、後藤さんのことが分かりません。でもだから・・・もっと
知りたいんです。これからも一緒にいたいんです!」
彼女は私に抱きついて、精一杯に話していた。
その熱い息が背中を通して伝わってくる。
私は少し躊躇しながらも、ゆっくりと彼女の方に振り向いた。
「だから・・・・・私と付き合ってもらえませんか?」
彼女は私が見た中で、一番いい笑顔をして言った。
- 222 名前:時が止まればいい(11) 投稿日:2002年03月22日(金)22時53分08秒
- 私は無意識に彼女を抱きしめていた。
その言葉に感動して涙が出てきた。
でもすごく嬉しいから、笑わずにはいられない。
だから私は泣きながら笑って言った。
「もちろん、喜んで!」
そう言って彼女をさらに強く抱きしめた。
もうどうしていいか分からなかった。
心がすごく弾んでいて、それに頭がついていかない感じ。
だから言葉に表わすことなんて出来ない。
ただ無性に嬉しくて、楽しくて、とても晴れやかな気分。
ずっと彼女を抱きしめていられる。
何分も何時間も抱きしめていいんだ。
一日中だっていいかもしれない。
それは私だけに許された特権。
そう思ったら、すごいことなんだと実感する。
まるで夢のように出来すぎてるけど、これは間違いなく現実。
もしも夢なら永遠に醒めないでほしい。
あぁ、本当にもうよく分からない。
今の私は浮かれていて、上手く頭が回転してくれない。
そんな中で唯一つ確かに思うことがある。
それは彼女が私を受け入れてくれて、たまらなく嬉しいと思うこと。
- 223 名前:時が止まればいい(12) 投稿日:2002年03月22日(金)22時54分56秒
- でも抱き合ってしばらくしたら、急に恥ずかしくなってきた。
それは彼女も同じらしく顔を赤くしている。
「あっ、ごめん!ずっとこのままじゃ辛いよね?」
私はなぜか変に焦ってしまった。
「えっ、いや、あ、うん・・・・・。」
彼女は妙な作り笑いをしている。
それから二人はぎこちなくなって、お互いに体から手を離した。
私達はなんだかおかしかった。
目さえ合わせられなくて、横目で相手を伺っていたりして。
言葉なんかかけられなかった。
そんな感じで、二人ともしばらく俯いたまま黙っていた。
それはすごくじれったいけど、悪い気はしない。
恋人同士って感じがして・・・・いいかなぁと思った。
「あ、あの!なんて呼んだらいいかな、石川さんのこと。」
と私は思い切って顔を上げて言ってみた。
そうしたらちょうど目が合って、私達はお互いに真っ赤になった。
少ししてから、彼女は声を裏返らせて答える。
「・・・・り、梨華でいいです!」
それがなんだかおもしろくて、私はつい笑ってしまった。
彼女も私に釣られて笑い出す。
そして、二人はしばらく笑い合っていた。
- 224 名前:時が止まればいい(13) 投稿日:2002年03月22日(金)22時58分39秒
- 「私のことは、真希でいいから。」
私は笑い合ってから、軽く息を乱して言った。
「・・・真希・・・・・ちゃんでいいですか?」
彼女は少し戸惑った様子で言った。
呼び捨てにできないところが、いかにも彼女らしい。
「いいよ。じゃぁ・・・・梨華・・・ちゃんでいいかな?」
彼女の名前を呼んだらすごく胸が熱くなった。
この世で愛しい人の名を呼んでいる。
その音の響きに酔いそうになる。
「はい、いいですよ。」
と彼女は優しく微笑んで言ってくれた。
その微笑みにも酔いそうになる。
そして、いつものように私の胸が高鳴った。
これは変わらないんだろうなぁ。
きっと恋人になっても、彼女に心が高鳴らない日はない。
- 225 名前:時が止まればいい(14) 投稿日:2002年03月22日(金)23時00分44秒
- 私は彼女がすごく愛しくなって、いきなり抱きしめた。
愛しいという気持ちが溢れて止まらない。
でもあまりに愛しすぎて、壊してしまいそうで怖くなる。
未熟な心が暴走するんじゃないかって。
そんな考えが頭を過って、少しだけ体が震えた。
私は軽く深呼吸して、彼女をまっすぐ見つめて言った。
「梨華ちゃんのこと・・・・・好きだよ。」
彼女はゆっくりと私の背中に手を回し、ニッコリと微笑む。
そして、耳元で囁いてくれた。
「私も・・・・・・真希ちゃんが好きです。」
その一言だけで私は癒される。
心が落ち着いていくのを感じる。
私にとって彼女は必要な存在なんだ。
だから彼女にとって、私もそうなれたらいいな。
「ごめん・・・・もうしばらくこのままでいさせて。」
と私は彼女の肩に頭を乗せて呟いた。
「好きなだけ、そうしてていいですよ。」
彼女は私の頭を軽く撫でてくれる。
その顔は見えなかったけど、きっと優しく微笑んでると思う。
- 226 名前:時が止まればいい(15) 投稿日:2002年03月22日(金)23時04分03秒
- それから私達は恋人同士になり、付き合い始めることになる。
そのときヨッスィーには一番に報告しに行った。
私は正直嫌だったけど、梨華ちゃんがどうしても言うから。
ヨッスィーは初めはすごく驚いてた。
でも最後には笑って、「おめでとう」と言ってくれた。
そのとき、結構いい人かもとか思ったりして。
でも、やっぱりすぐに仲良くなれなかった。
梨華ちゃんと仲良くなるにつれて、ヨッスィーとも話すようになった。
そうしたら意外に気が合うことが分かった。
似たようなところもあって、すぐに二人は仲良くなった。
それで梨華ちゃんが妬いちゃったりとか、色々あったんだけど・・・・。
今は何事もなく平穏な日々を送っている。
私は梨華ちゃんが好きだし。
梨華ちゃんも私のことが好きだし。
それは、あのときから何も変わっていない。
私は初めて会ったときから、変わってないけどね。
きっと・・・・この気持ちはずっと変わらない。
- 227 名前:名無しの読者 投稿日:2002年03月23日(土)02時28分28秒
- 本当によかった(涙)
- 228 名前:巡回読者 投稿日:2002年03月23日(土)22時45分00秒
- いかん、涙腺が閉じれない。。。(w
わかっていても、このテのモノには弱いです。。。
- 229 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月26日(火)10時53分18秒
- ごっちんよかった〜(泣
まだ続きがあるのかな?(w
- 230 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年03月27日(水)23時05分29秒
- >名無しの読者さん そう言ってもらえると、とても嬉しいです。
ここまで来るのが本当に長くて大変でした。
>巡回読者さん 泣かせられれば、目標達成ですかね。
というか、切ない感じが出ればそれだけで十分です。
ツボをついたみたいでよかったです。
>名無し読者さん 終わりに思えるんですが、まだ続きがあります。
いちよその後を書いてます。
時期的には吉澤さんが保田先生に告白して、少し経ったくらいです。
- 231 名前:Beautiful Days(1) 投稿日:2002年03月27日(水)23時19分18秒
- 私達は少し汚れた黒いソファーに座り、お互いに向かい合っていた。
付き合いでしてから、早いものでもう3ヶ月。
でもお互いに分からないことだらけだね。
私は梨華ちゃんのことをまだ理解できていない。
梨華ちゃんは私を理解できてるのかな?
私は・・・・今とっても怖いんだよ。
もし前みたいに何にも興味を示さなくなって、梨華ちゃんにさえ無関心に
なったらどうしようって、時々すごく不安になるんだ。
それにもし未来に梨華ちゃん以外の人を、あのときのように心が燃える
ほど愛すかもしれない、そう思うと心配でたまらない。
過去に戻っても、未来に進んでも、どっちも私にとっては怖いんだよ。
だから現在がいいんだ。
私は今が永遠に続けばいいと願う。
子どもぽっいとは思うけど、だけど怖くて仕方がないんだよ。
こんなに梨華ちゃんのことが好きなのに、いつか心が離れてしまうのは
絶対に嫌だから。
ずっと好きでいたいんだ。
- 232 名前:Beautiful Days(2) 投稿日:2002年03月27日(水)23時32分29秒
- それに梨華ちゃんが私から離れるのも嫌だ。
私は大しておもしろくないから、いつか飽きて違う誰かに抱きしめられて
いる梨華ちゃんを想うと、気が狂いそうになる。
だけどどうしていいか分からなくて、いくら悩んでもその問題の答えは
出ないんだ。
だから私はまだ答えが分からない。
もし分かるとしたら、それはずっと先のことな気がする。
梨華ちゃんはきっと知らないだろうけど、抱きしめ合っているとき、
本当はいつも怖がっているんだよ。
いつまで、この温もりを感じられるんだろうって。
それは永遠じゃない、いつかこの手から消えてしまうんだ。
だけど・・・・・・まだしばらくは感じていたい。
永遠じゃないのなら、あと少しだけ。
- 233 名前:Beautiful Days(3) 投稿日:2002年03月27日(水)23時45分49秒
- 私の心か梨華ちゃんの心が、他の誰かのものになるその日まで、死ぬほど
愛し合いたいんだ。
だって、この世で一番大好きだから。
触れたいと思うのも、抱きしめたいと思うのも、愛したいと思うのも
梨華ちゃんだけ。
きっと梨華ちゃん以外の人を、こんなに好きにはならないよ。
今は絶対になりたくない!
私の心は梨華ちゃんだけのものでありたい。
そんなことを考えているとき、必ず梨華ちゃんは抱きしめてくれる。
いつもよりずっと強く、少し痛いくらいに抱きしめてくれる。
そんなときはいつも思う。
梨華ちゃんは私を理解してくれてる、と。
だけどちょっと悔しいな。
だって梨華ちゃんの考えていることが、私はまだ理解しきれてないから。
でも自分のこともあまり分かってない奴なのに、他人のことが分かるはず
ないんだけどね。
そんなときは、私も梨華ちゃんを抱きしめる。
背中に回した手をいつもより強く、もう2度と離さないくらいに、
ギュッと力を込めるんだ。
- 234 名前:Beautiful Days(4) 投稿日:2002年03月27日(水)23時59分32秒
- もうそれだけで私の恐怖心は吹き飛ぶから。
この確かな温もりがあれば、十分すぎるほど幸せなんだ。
他に何一ついらないし、必要ないと思わせる。
少し早い心臓の音、鼻に香る微かに甘い髪の匂い、その優しく綺麗な
微笑み、その全てが私に向けられているだけで、私はすごく幸せだから。
私は梨華ちゃんの髪をそっと撫でる。
艶やかなその黒髪と、柔らかい触り心地が好きなんだよね。
私は髪を撫でながら顔を近付ける。
梨華ちゃんは少し驚いてたけど、ゆっくりとその瞳を閉じる。
もう少しで2人の唇が重なるところで、いきなり頭に重い衝撃が走った。
「痛ったぁぁぁぁぁぁぁ!!」
私の悲痛な叫びが、化学準備室一杯に響き渡った。
「・・・・全く、人の部屋で何やってんだよ。」
頭を摩りながら声のした方を見ると、そこには厚手の教科書を片手に、
こちらを睨んでいる保田先生がいた。
- 235 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月28日(木)00時38分35秒
- やはり続いてたのですね(w
ごっちんせつないっすねぇ・・・
こっからどうなってくのか(w
やっすーー!邪魔をするな(藁
- 236 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年03月30日(土)22時37分38秒
- >名無し読者さん 続いてますが今日で終わりになります。
これ以上書くと、本編より長くなりそうですから。
読めば分かると思うんですが、結構中途半端な終わり方してます。
- 237 名前:Beautiful Days(5) 投稿日:2002年03月30日(土)22時57分35秒
- 「先生〜、手が早過ぎですよ。」
私は頭を摩りながら、ちょっと涙目になって言った。
「確かに叩いたのは悪いと思うけど、でも職員会議から帰っていきなり
これじゃ、そりゃ叩きたくもなるよ。」
先生は呆れた顔をして、ため息をついていた。
「大丈夫?真希ちゃん。」
と梨華ちゃんが優しく頭を撫でてくれる。
「・・・・・全く。石川くらい良識のある子だったら、ちゃんと止めると
思ったんだけどなぁ。」
保田先生は梨華ちゃんを見て、また深いため息をつく。
「止めようと思ったんですけど、先生がツッコむかと思って・・・・。」
梨華ちゃんは楽しそうに微笑んで言った。
どうやら梨華ちゃんは、この状況をかなり楽しんでいるらしい。
それから2人して何やら話をしていた。
その光景がなんだか妬ける。
別にそれは2人で話していることにではない。
梨華ちゃんが保田先生に見せる微笑みが、少しだけ特別な感じだから。
まだ会って間もないのに、あんな風に笑った顔を見せるのはめずらしい。
でも私に見せる微笑みには到底及ばない。
だけど・・・・なんかムカついた。
- 238 名前:Beautiful Days(6) 投稿日:2002年03月30日(土)23時09分21秒
- だからちょっとからかってみた。
「先生、もしかしてこの頃ヨッスィーが遊びに来ないから、私達を見て
妬いてるんじゃないですか?」
私は挑発するように鼻で笑って言った。
「・・・・なっ!そ、そんなわけないでしょ!」
先生は一瞬言葉に詰まったけど、すぐに声を荒げて反論する。
遠からず近からずらしい。
私はだんだんおもしろくなってきた。
「そうならそうと言って下さいよ。ヨッスィーに今度準備室に来るように
行っときますから。」
私は調子に乗って、さらに言葉を続ける。
「ちゃんと根回ししときますら、安心して下さい。」
梨華ちゃんも上手い具合に合わせてくれる。
先生は私達の言葉にしばらく黙り込んでいた。
そして、少ししてからポツリと呟く。
「・・・・・・あんた達、私をからかってるでしょ?」
私と梨華ちゃんは顔を見合わせると、綺麗に声を揃えて言った。
『はい!』
そんな私達に、ついに先生の怒りが爆発した。
「さっさと部屋から出て行け!!」
かなり怖い顔して大声を張り上げる。
梨華ちゃんがフォローを入れようとしたとき、昼休みの終わりを告げる
チャイムが鳴った。
- 239 名前:Beautiful Days(7) 投稿日:2002年03月30日(土)23時19分23秒
- 「ほら、本当にもう出て行きな。もうすぐ授業が始まるから。」
先生は怒りが治まったのか、少し真面目な顔で言った。
「まぁ、いつものことですから。」
梨華ちゃんは相変わらずのマイペースだ。
私も前は焦って慌てていたけど、最近は遅れるのも慣れて落ち着いてる。
なぜかこの部屋に来るといつも遅れてしまう。
それはきっと・・・・・楽しいからかな。
叩かれたりするけど、私は結構先生のこと好きだから。
「あんた達、もう少し焦ったら?」
先生はもう怒る気も失せたのか、ただ呆れた顔をしている。
「それじゃ行こうか?」
私は梨華ちゃんに手を差し伸べる。
「うん、そうだね。」
と微笑みながら言って、梨華ちゃんは私の手を握る。
先生はそんな私達のやりとりを、苦笑しながらもどこか優しい眼差しで
見つめてくれていた。
- 240 名前:Beautiful Days(8) 投稿日:2002年03月30日(土)23時36分49秒
- 「それでは先生、また紅茶飲みに来ますね。」
と梨華ちゃんはドアの前に立つと、軽く頭を下げてから言った。
「それじゃ、さよなら・・・・・・圭ちゃん!」
そう言った私は、きっと笑顔だと思う。
「あぁ、さよなら・・・・・・って後藤!何?!圭ちゃんって!」
先生は随分と驚いていたから、声が裏返っていた。
「仲のいい証拠みたいなものですよ。あっ、ヨッスィ−のことは本当に
任せてくださいね。」
私は逃げるようにして、言い終わることには準備室を出ていた。
後ろから何か先生が言ってけど、よく聞こえなかった。
でも言ったことは嘘じゃない。
先生のことが好きだから、私はあんなこと言ったんだと思う。
「いいのかなぁ、先生かなり怒ってたけど。」
梨華ちゃんは私の横を走りながら、少し不安そうな顔をしている。
「まぁ、きっと、どうにかなるよ。」
と私は楽観的な考えでその場を済ます。
「・・・・・そうだね。」
梨華ちゃんは笑って同意してくれる。
「うん、そうだよ。」
私も笑って言葉を返した。
- 241 名前:Beautiful Days(9) 投稿日:2002年03月30日(土)23時50分16秒
- 「5時間目どうなってるかな?」
梨華ちゃんは焦るわけでもなく私に聞いた。
「さぁ?よく分かんない。」
私は本当に分からないから、そのまま答えた。
そう、先のことなんて分からないよ。
未来なんて分かるはずない。
だから、どうなるかなんて分からないんだ。
今はただ隣に梨華ちゃんがいて、一緒に笑い合って、繋いだ手を離さずに、
2人でいられたらいいと思うんだ。
私は突然、横にいた梨華ちゃんの手を握った。
梨華ちゃんは嬉しそうに笑って、私の手を握り返してくれる。
なんたがすごく楽しい気分だった。
私と梨華ちゃんは笑い合って、長い廊下を駆け抜ける。
離れないようにしっかりと手を繋いで。
チャイムが流れる廊下に、2人の足音はいやに大きく聞こえていた。
END
- 242 名前:書いた感想なんかを少し 投稿日:2002年03月31日(日)00時12分47秒
- まず読んでくれた方や、レスをくれた方にお礼をいいます。
本当にありがとうございました。
レスには色々と励まされ、書き終えることが出来ました。
かなり感謝してます。
短編といいながら、かなり長い話になってますね。
まぁ、それは書いてたときから分かってたんですけど。
ちょっといしごまに気合いを入れ過ぎました。
その少しでも本編に回せば、おもしろくなると思うんですけどね。
- 243 名前:書いた感想なんかを少し 投稿日:2002年03月31日(日)00時15分18秒
- 軽い裏話として、この話はM○・Childrenの「Youtful
Days」という曲がテーマだったりします。
まぁ、題がそのままなので分かると思うんですが。
BGMに流しながら読むと、結構いいかもしれません。
歌詞を読んですごくこの話らしかったので、題名に使いました。
あと言い訳として、短編なのをいいことにかなり話を飛ばしてます。
出来事などはあまり深く書いていません。
特に石川さんが笑っている理由は、かなり曖昧だったと反省しています。
でも真面目に書いていたら、ちょっと放棄してたかもしれません。
いしごまは2推しですからね。
ここまで書いておいて、言うことじゃないですけど。
かなり長くなってしまいましたが、何かとこの話は好評でよかったです。
本編にこの2人が出てきても、イチャイチャしてるにはあんな理由が
あったということを思い出してくれたら、いいかなぁって感じです。
それでは、次回の更新まで少し休みます。
- 244 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月01日(月)01時17分15秒
- 完結お疲れ様です
中途半端と言われていますが、自分は結構満足です(w
いしごまの絡み?(wが読めるだけでも嬉しいです♪
まだまだ続いてるようですが。
やすよし、いしごま、楽しみにお待ちしております。
- 245 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月01日(月)14時23分05秒
- 完結お疲れ様です。
ところで、前スレから読みたいんですけど。
どこにあるかわかりませんか。
- 246 名前:244 投稿日:2002年04月01日(月)21時15分34秒
- >>245
作者さんじゃないんですけど…
黄板の倉庫のttp://mseek.obi.ne.jp/kako/yellow/984665602.htmlですよ
- 247 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月01日(月)23時27分01秒
- >244
ありがとうございます。
さっそく見てみます、
- 248 名前:名無し読者です 投稿日:2002年04月04日(木)02時15分28秒
- お疲れ様でした。
すっごい楽しく読ませて頂きました。
>本編にこの2人が出てきても、イチャイチャしてるにはあんな理由が
あったということを思い出してくれたら、いいかなぁって感じです。
しかと(w
これを読んでて、もう一度どんな風に本編でイチャイチャしてたかなぁって読み返したくらいです(w
ホントみんなカワイイですね^^
他にもメンバーが出てくると最初の方に書かれていたので、
次はどうなるのか(はたまた誰が出てくるのか)また楽しみです。
これからも頑張って下さいね〜
- 249 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年04月07日(日)23時36分25秒
- >244さん 前のレスを張ってもらったようで、お手数かけました。
話は満足してもらったみたいで良かったです。
本編は少し削ろうと思うんですが、先はまだまだ長いですね。
気長に待っててくれると嬉しいです。
>245さん 前レスを教えられなくてスイマセン。
でも、正直あんまり前スレは見てほしくないです。
特に最初の方は駄文ですから。
>名無し読者ですさん わざわざ読み直されるとは、ごくろうさまです。
でもその方がきっと、より深くいしごまを味わえるはずです。
本編についてはまだ考え中ですね。
いちよ他のメンバーも出すつもりですが、とりあえず新メン出ません。
現在、色々と検討しています。
- 250 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月23日(火)11時50分33秒
- まーたりお待ちしてます(w
- 251 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月15日(水)16時02分47秒
- ゆっくりでもいいんで更新楽しみに待ってます
- 252 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月20日(月)00時38分30秒
- 心よりお待ちしています…。
- 253 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月02日(日)01時10分14秒
- 待ってま〜す。
- 254 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年06月04日(火)23時32分20秒
- やっと今日から復活できます。
待っていた方は少数だと思うんですが、お待たせしました。
レスありがとうございます。
サッカーも同点で勝てたことだし、少し気合い入れていきたい思ってます。
この頃は学校の課題やらで話を書く時間がなかったもので、ここまで長い
休みになってしまいました。
とか言いながら、オムニバス短編に出たりしてたんですけど・・・・・。
それはちょっと息抜きみたいなものです。
で、話の方なんですが、軽くやすよしの続編みたいな短編の話を書いて、
それから1部の書き足しを少ししてから、2部にいきたいと思ってます。
きっと更新は遅いと思うんですが、気長に待ってくれると嬉しいです。
それではやすよしの短編に入りたいと思います。
季節は大体11月の中旬と思って下さい。
題は『愛しい人はまるで子ども』です。
- 255 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月04日(火)23時34分48秒
- (吉澤視点)
二人はあれから恋人同士になった。
だけどあの日から、二人はすれ違ってばっかりだった。
なぜかというと・・・・。
それはみんな文化祭のせいなんだよ!
うちの学校はいやに文化祭に力を入れている。
それは学校に入る前に聞いてたけど、まさかあれほどとは思わなかった。
準備の一週間前はまさに地獄絵図そのもの。
きっと実行委員の梨華ちゃんは、死ぬほど大変だったと思う。
そういえばごっちんは「梨華ちゃんが見つからない」って騒いでたっけ?
でも言い方がなんだけど、梨華ちゃん達のことはどうでもよかった。
だって・・・・・二人は何があっても会ってたから。
問題はあたし達の方だった。
不幸なことに、先生は文化祭実行委員の担当になった。
なんか気がついたらそうなってたらしい。
最初は嫌だったけど、少しくらいはガマンしようと思った。
でもそれは大きな間違いだった。
あたし達は少しどころじゃなく、毎日ほとんど会えなかった。
その行事があったせいでデートすらしていない。
まぁ、会うことすら難しい状態だったしね。
だから恋人同士になれたのに、それがウソのように時は過ぎっていった。
- 256 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月04日(火)23時36分34秒
- やっと文化祭が終わると、あたしはすぐに先生に会いに行った。
そして、デートのおねだりをした。
OKするまでずっと言い続けるつもりだった。
だって最近は全然会って話せなかったから。
でも先生は意外なことに、あっさりとOKしてくれた。
あっさりしすぎて拍子抜けするほどに。
もしかしたら、文化祭の疲れが残っていたのかもしれない。
だからあたしの気迫に押されただけかも。
でもそのときは全く気がつかなかった。
まぁ、気にしてる余裕もなかったし。
ただデートできることが嬉しくて、先生に思い切り抱きついた。
そういえば・・・・・抱きついたあのとき、少し嫌な顔してた気がする。
- 257 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月06日(木)01時09分59秒
- 復活おめっ!!!
- 258 名前:ぶらぅ 投稿日:2002年06月11日(火)19時32分57秒
- 復活お待ちしておりました!
やすよしの続きどうなるのか楽しみです(w
- 259 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年06月12日(水)22時30分18秒
- >名無し読者さん レスありがとうございます。
なんとか復活することができました。
>ぶらぅさん 本当にお待たせしました。
きっと更新遅いと思うので、気長に楽しんで下さい。
- 260 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月12日(水)22時32分24秒
- そして、待ちこがれたデートの日。
どこにするか迷ったけど、結局渋谷になった。
そこならあたしも行き慣れてるし。
先生を案内することくらい楽勝でできる。
まぁ、変に気取るのもなんだしね。
待ち合わせ時間は10時30分。
だけど、あたしが渋谷に着いたのは9時30分。
遅刻しないようにとは思ったけど、ちょっと気合い入りすぎかも。
でも早く来ちゃうのはいつものことか。
ごっちん達と待ち合わせしても、1時間くらいは前に来てるし。
でもやっぱり今日は特別な日だからかな。
昨日は緊張と嬉しさで、まともに寝られなかったし。
だけどそんなのしょうがないよ。
これが二人にとって、初デートなんだから。
- 261 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月12日(水)22時33分23秒
- 服は昨日1時間くらい迷って、やっと決まったやつだし。
髪型も納得がいくまで1時間と少しかかった。
それに電車に乗ってるときから、ずっとドキドキしっぱなし。
すごく嬉しいから顔がニヤけそうになった。
・・・・デートってこういうものなんだ。
ここまで張り切るのは、あたしだけかもしれないけど。
でも全てが初めてだから。
だから何が正しいのか分からないんだ。
それで色々と迷って、でもまた楽しくてたまらない。
心はさっきから弾みっぱなっし。
あぁ〜、これは結構病みつきになるかも。
- 262 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月12日(水)22時34分48秒
- (保田編)
二人が付き合い始めてから、2週間が経った。
でも私達は変わっていない。
付き合ったとはいっても、二人に何があったわけでもない。
強いて言うならば、吉澤が準備室に来る回数が増えたことだろうか。
それにこの頃は行事の文化祭が忙しくて、まともに会うことすらなかった。
でもこんな忙しいものとは思っていなかった。
文化祭の担当だと聞いたときは、さすがに唐突な話で驚いた。
私の知らないうちにそう決まっていた。
どうやら吉澤のことを考えていた、あの職員会議で決められてらしい。
あのときは上の空で話をしていたからなぁ。
でも私はたかが文化祭だと思っていた。
マニュアルがあるだろうし、それに沿えばいいだけと思っていた。
別に難しい仕事ではないだろうと考えていた。
だけどそれはとても甘い考えだった。
- 263 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月12日(水)22時36分08秒
- あれはマニュアルとかそういう次元の話ではない。
毎日やることが多すぎて、指示を出すだけで手一杯だった。
効率良くなんて考えている暇さえなかった。
そういうことで、吉澤と会うどころではなかった。
というか二人きりの時間を作るなんて、あの文化祭では無謀すぎる。
後藤達はできてたらしいけど。
まぁ、二人ならできそうな気はするね。
でも普通の私達にはできないので、二人の関係は相変わらずだった。
そして、今日は吉澤とのデート。
あの子があまりにしつこいから、ついOKしてしまった。
だって「デートしましょ。」って何度も言うから。
もしOKしなかったら、100回くらい言われそうだったし。
まぁ、この頃ちゃんと会ってなかったからね。
相手もしてあげられなかったし。
だからしょうがないと半分諦めていた。
これが二人にとって、初めてのデートだった。
- 264 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月19日(水)22時47分21秒
- 待ち合わせの時間は、10時30分。
場所は渋谷のハチ公前。
あまりに定番すぎて、なんだか恥ずかしい。
もっと気を利かせたいけど、私はそういうことに疎いから。
自分でもそれは情けないなぁと思う。
その日は日曜日ということもあって、渋谷は大勢の人で溢れていた。
駅から出たとき、思わず深い溜め息をついてしまった。
私は人混みが苦手なんだよなぁ。
と内心思って、一人苦笑いを浮かべる。
でもこの頃は出掛けてなかったし、たまの人混みもいいかもしれない。
と思って少し気分を紛らわせることにした。
それに私は自分でも驚くほど、デートを楽しみにしている。
昨晩は眠れなくてお酒に手を出してしまった。
私は結構浮かれているのかもしれない。
でもこんなこと、吉澤の前では絶対に言えないな。
きっととても嬉しそうな顔をするから。
そんな顔をされたら、私はさらに心惹かれてしまう。
今よりもっと愛してしまう。
でも愛し過ぎることに臆病な私は・・・・・吉澤に言えない。
- 265 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月19日(水)22時49分55秒
- 少し歩くとハチ公前に着いた。
そこには結構な数の人達が、待ち合わせをしてるようだった。
どうやらハチ公はまだ使われているらしい。
私は密かに安堵の溜め息をつくと、ふと腕時計を見た。
今の時間は9時40分。
少し早く着きすぎたけど、でも元から喫茶店に寄るつもりだった。
たがらこのくらいでちょうどいい。
私は辺りを見回し、喫茶店やコーヒーショップを探す。
でも渋谷にはたくさんあるので迷った。
どこにしていいか全く分からない。
私は辺りを見回しながら、色々と思考を巡らせていた。
そんなとき、不意に後ろから抱きつかれた。
- 266 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月19日(水)22時51分04秒
- (吉澤編)
渋谷駅着くと、そこはあいかわらず人だらけだった。
でも日曜日ならこれぐらいは普通かな。
あたしは軽く辺りを見回してから、待ち合わせ場所に向かって歩く。
待ち合わせの場所は、定番のハチ公前。
その大勢の人の中に見慣れた姿を見かけた。
黒いロングコートを着て、茶髪の20歳くらいの女性。
あたしはそのとき、どこにいても分かっちゃうんだなと思った。
でもそんなの当たり前だよ。
だって・・・・今一番会いたい人だから。
今だけじゃない、いつも会いたくてたまらない人だから。
その横顔が微かに見えたとき、あたしはすでに走り出していた。
そして、思い切り後ろから抱きついた。
- 267 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月19日(水)22時54分24秒
- その女性は勢い良くあたしの方に振り向く。
そして、すごく驚いた顔をしていた。
「驚きました?先生。」
あたしは少しして先生から離れると、その顔が少しおかしくて笑う。
きっと今のあたしはすごく嬉しそうだと思う。
「・・・・驚くに決まってるでしょ。」
と先生は冷静な感じで言うけど、声を少し裏返ってる。
そういうところがすごくかわいい。
「なら、驚かした甲斐がありました。」
あたしは笑いながら言った。
「あのねぇ。いい年して子どもぽっいよ、吉澤。」
先生はあたしの言葉に呆れているようだった。
自分でもそう思うんですけど、でも止められなかったんですよ。
先生を見たら抱きしめずにはいられなかったんです。
でもそんなこと言えるはずがなくて、あたしは照れ隠しに先生と腕を組む。
「いいじゃないですか。久しぶりに会えて嬉しいんですよ。」
と少しだけ赤い先生の顔を見つめて、あたしはまた笑いながら言った。
- 268 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月27日(木)22時43分17秒
- (保田編)
私は抱きしめられた瞬間、反射的に後ろに振り向いた。
そのときすごく驚いた顔をしていたと思う。
でも本当はなんとなく分かっていた。
振り向かなくたって、この温もりはきっと吉澤だと。
「驚きました?先生。」
あの子は私から離れると、楽しそうに笑いながら言った。
まるでイタズラが成功して喜ぶ、そんな子どものような顔をしている。
それに、少年のような無邪気さと爽やかさを感じた。
「・・・・驚くに決まってるでしょ。」
私は少し声が上擦ったが、心はいつもの冷静さを取り戻していた。
「なら、驚かした甲斐がありました。」
とあの子は楽しそうに微笑む。
「あのねぇ。いい年して子どもぽっいよ、吉澤。」
私はその言葉に呆れた顔をする。
「いいじゃないですか。久しぶりに会えて嬉しいんですよ。」
吉澤は少し強引に私と腕を組むと、照れもせずにそんなことを言う。
逆に私の方が恥ずかしくなった。
全く、平然とそんなこと言わないでほしい。
だって照れずにはいられないから。
- 269 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月27日(木)22時45分25秒
- それから私達は早速デートを始めた。
いつまでもハチ公前にいて仕方ないから。
デートコースについては、吉澤に全て任すことにした。
私はあまり渋谷は分からないし。
でも吉澤に任すのも、それはそれで不安な気はする。
そんな私の不安を気にもせず、吉澤は色々と案内してくれた。
吉澤は横道に入ったりして、たまに近道をしていた。
「よく知ってるね」と少し誉めると、照れくさそうに笑っていた。
こういうところはやっぱり子どもだなと思わせる。
でも慣れた様子で歩く様は、少し大人びいた顔をしている。
そう、吉澤はたまにすごく大人な顔をする。
大人と子どもという、相反する面を持ち合わせている。
そういうところに感心するし、不意に心が高鳴るときがある。
吉澤はまだ未知な部分がたくさんあることを知る。
そして、そんな部分を知りたいと思う。
- 270 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月27日(木)22時47分53秒
- (吉澤編)
それからあたし達は、少し早いけれどデートをした。
だけど行くところがなかったから、とりあえず辺りを歩いた。
あたしが案内するところは大したところじゃないし。
ごっちん達とか行くいつもの定番コース。
あたし達のコースはまずゲーセンに行って、それからCDショップに寄り
つつ、109で軽くを服を見てから、ついでにアクセサリー屋を覗いて。
あたしは慣れてるから横道に入ったりした。
すると先生が「よく知ってるね」と誉めてくれて、私は少しだけ照れた。
だけどすごく嬉しかった。
でもごっちん達と来て慣れてるから、当たり前なんだけどね。
そういえばこの頃はごっちん達と出掛けてないなぁ。
でもきっと二人を誘ってもムダ。
・・・・二人きりでデートしたいと言われるから。
あたしはハブかよ。
まぁ、今は先生がいるからいいんだけどね。
- 271 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月27日(木)22時50分30秒
- 私はチラリと横目で先生を見た。
最近会ってなかったから、ふと改めて見て思う。
先生は・・・・カッコいい。
黒いロングコートに、黒のパンツと灰色のシャツ。
全体的に黒系で決めてるとこもカッコいい。
それはまさに大人って感じがする。
話し方とか仕草にしても落ち着いてるし。
それにその茶髪がかった、少し短めの髪型もよく似合う。
そういうところは普通に憧れる。
自分ではちょっと真似できそうにないから。
でもコーヒーの話になると、急に子どもの顔になるんだよね。
無邪気に笑う先生はすごくかわいい。
だからつい頭を撫でたくなる。
- 272 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月27日(木)22時53分24秒
- まぁ、実際に絶対にしないけど。
先生の頭を撫でる勇気なんてあたしにはない。
もう少し仲が良ければ、そういうこともできるんだけど。
今はまだそういう段階じゃない。
でも二人には時間がたくさんあるんだから。
ゆっくりと焦らずに、いつか頭を撫でられればいいんだ。
って、そんなこと目標にしてどうすんだよ!
「どうかした?吉澤。」
と先生が不思議そうにあたしの顔を覗き込む。
どうやらあたしは、先生をボーっと見つめていたらしい。
「・・・・えっ?いや、別に何でもないです。」
あたしは苦笑いをしながら、なんとかその場をごまかした。
まさか頭を撫でることについて考えてなんて、死んでも言えないよ。
- 273 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年06月27日(木)22時54分30秒
- そんなときふと横を見ると、あるものが目に入った。
だから思わず大声で叫んでしまった。
「うあぁぁぁぁぁ!!」
でもあれを見たら叫ばずにはいられない。
「えっ?ちょ、ちょっとどうしたの吉澤。」
先生はあたしが突然叫んだから、かなり驚いた顔していた。
でもあたしは何も言わずにそれに駆け寄った。
「はぁ・・・・。」
後ろから先生のため息が聞こえた気がした。
そんなことお構いないしで、あたしはクレーンゲームを眺めていた。
まさかこんなところにあるなんて思わなかった。
さっき行ったゲーセンにはなかったし。
「何、そんなのが欲しいの?」
と先生はあたしの横から顔を出すと、呆れたような声で言った。
「これはかなり欲しいですよ!」
とあたしはキッパリと言って、山積みのアンパンマンを見つめ直した。
- 274 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月29日(土)13時52分54秒
- アンパンマンを欲しがる吉澤...
かわいすぎ!!
保田先生ぜひとってやってくれぃ!!!
- 275 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年07月02日(火)22時59分29秒
- >名無し読者さん かわいいと言ってくれて良かったです。
新たな吉澤さんの一面を出したくて、こんな感じにしてみました。
保田先生が取るかはもう少し後のお楽しみです。
- 276 名前: 愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年07月02日(火)23時00分34秒
- (保田編)
吉澤にデートを任せたのは、少し失敗だったかもしれない。
行くところはゲームセンターやCDショップだし。
いかにも高校生らしいところばかりだった。
でも吉澤に期待するほうが間違いか。
美術館とか喫茶店とか、落ち着いたところに行くはずない。
だけどつまらないとは思わなかった。
行き当たりばったりでも、吉澤といると楽しかった。
それなりに満足できるデートだった。
私はふと吉澤が気になって、横目で軽く見てみる。
こうしてあらためて見ると気づく。
吉澤は・・・・・おかしい。
まぁ、前から何となく分かっていたけど。
- 277 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年07月02日(火)23時02分05秒
- 最近切ったらしい、少し短くなった茶色の髪。
どこか上品さを感じさせる白い肌。
その綺麗に伸びた肢体、私より少しだけ高い背丈。
一見するとクールを感じさせる風貌。
どこか外人を連想させる顔立ちは、やっぱり端正だと思う。
別におかしなところは確かにない。
外見ではあまり欠点的なものは見つからない。
だから問題は内面の方だと思う。
本当に子どもというか、ちょっと無知なところがある。
でもそのくせ変なところは詳しいし。
それにたまに吉澤は私を見つめてるときがある。
何も言わずにただ見つめているだけ。
今もその状態だった。
「どうかした?吉澤。」
と私は軽く声をかけて顔を覗き込む。
「・・・・えっ?いや、別に何でもないです。」
と吉澤は少しだけ顔を紅潮させ、笑って誤魔化していた。
- 278 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年07月02日(火)23時04分24秒
- そして、何を思ったのか突然叫び出した。
「うあぁぁぁぁぁ!!」
私はその意味が分からず、ただもう驚くしかなかった。
「えっ?ちょ、ちょっとどうしたの吉澤。」
そんな私の声を無視して、吉澤は何も言わずに走って行った。
やっぱり吉澤はおかしい。
「はぁ・・・・。」
と私は深い溜め息をその場でついた。
そして、少し重たい足取りで吉澤の方に歩いて行く。
吉澤はへばりつくようにして、クレーンゲームを見つめていた。
別に何か特別なものとは思えない。
どこにでもあるような普通のものに見える。
でも吉澤が興味持っているのは、どうやらその景品のようだ。
「何、そんなのが欲しいの?」
私は吉澤の横から顔を出し、それを見たとき唖然となった。
「これはかなり欲しいですよ!」
と吉澤は強気に断言してガラスを凝視する。
私はさらに深い溜め息をついて、景品のアンパンマンを見つめた。
- 279 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年07月02日(火)23時06分03秒
- それから吉澤はクレーンゲームを始めた。
でもなかなか取れなくて、結局1500円使っても無理だった。
吉澤は肩を落としてうなだれていた。
慰めるべきなのか少し迷う。
だって落ち込んでいる理由がそれだし・・・・・。
でも理由がどうであれ、やっぱり吉澤の悲しい顔は見たくない。
だけどどうしていいか分からなかった。
こういうことには疎いから。
そんなとき私の視界にある店が入った。
少し悩んだ結果、慰めるにはこれしかないと思った。
私は行動が決まると早速実行に移る。
「吉澤、悪いんだけど少し待っててくれる?」
と気を落としている吉澤に声をかけ、私はその場を後にした。
- 280 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年07月09日(火)23時13分05秒
- (吉澤編)
あたしはすぐにクレーンゲームを始めた。
山積みになってるアンパンマンを前に、手を出さないわけがない。
だけどなかなか取ることができなかった。
ただお金が減っていくばかり。
そして1500円使ったところでヤメた。
だってこれ以上やると、全財産使っちゃいそうだから。
あたしはガックリと頭を前に倒す。
さっきから出てくるのはため息ばかりだ。
そんなあたしを見て、先生は少しばかり呆れ顔だった。
でも結構ショックなんですよ?
理由はくだらないかもしれませんけど。
そんなとき、突然先生が立ち止まって声をかけてきた。
「吉澤、悪いんだけど少し待っててくれる?」
何かを思いついたような感じだった。
私は無言で頷き、先生の後ろ姿を見つめていた。
- 281 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年07月09日(火)23時14分30秒
- それからどれくらい経ったんだろう?
なんだか不安になってきた。
置いていかれたとか、もう戻ってこないとか。
悪いことばかりが頭に浮かんでくる。
それはここが学校じゃなくて渋谷だからかな。
確かに街自体は知っているけど、そこに歩く人達は知らない。
見知らぬ人ばかりが前を通り過ぎていく。
だから心細く感じるんだと思う。
知らない街、知らない人、会いたい人はいない。
少ししか離れていないのに会いたい。
本当はいつも傍に居てほしい。
そして、ずっと抱きしめていたいと思う。
一緒にいないとダメなんだ。
こんなにも・・・・・あたしは先生が好きなんだ。
- 282 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年07月09日(火)23時17分56秒
- そう思ったら、なんだか少し泣きそうになった。
でもこんな街中で泣けないから、あたしは顔を下に向けようとした。
そのとき紙袋を持って先生が走ってくるのが見えた。
あたしは自分から走って先生に近づいた。
待ってなんていられなかった。
そして、思い切り先生に抱きついた。
「ちょ、お、おい、吉澤!」
先生は驚きながらも受け止めてくれる。
その少し赤い顔がかわいい。
「待ち切れなかったんです、あまりに来るのが遅いから。」
自分でもそれは少し恥ずかしいセリフだった。
だけど本当のことなんだから仕方がない。
「早く来たつもりなんだけど、待たせたならごめん。」
先生はバツの悪そうな顔をして謝ってくれる。
「えっ、別に謝らなくていいですよ。それより何を買ってきたんですか?」
あたしは意味もなく両手を振り、話を先生が買ってきた袋に話を向ける。
その中身がすごく気になっていたから。
- 283 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年07月09日(火)23時21分06秒
- 「あぁ、これ?吉澤へのプレゼントだよ。」
先生はそう言って、すぐにあたしに手渡してくれる。
・・・・・プレゼント?
先生があたしに?
「ほ、本当ですか?ウソじゃないですよね?本当ですよね?」
あたしは先生の肩に掴むと、軽く揺さぶって聞き返した。
「本当だよ。こんなことで嘘ついてもどうするの。」
そう言った先生はまた呆れ顔だった。
でも信じられないですよ!
こんなめちゃくちゃ嬉しすぎること。
先生があたしにプレゼントしてくれるなんて。
そんなこと全く思ってなかった。
考えつきもしなかった。
デートできるだけで嬉しいのに、プレゼントをくれるなんて。
100回くらい「本当ですか?」と聞きたいくらい。
「あ、あの、中を見てもいいですか?」
あたしは少し興奮気味に先生に聞く。
「どうぞ。まぁ、大したもんじゃないけどね。」
先生はそんなあたしを見て微笑んでいた。
あたしはドキドキしながら、ゆっくりと袋を開けた。
そこにはぬいぐるみが入っていた。
- 284 名前: 愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年07月15日(月)22時36分51秒
- 「こ、これは・・・・コゲパンですか?」
どう見てもそれは間違いない。
こげ茶色で、二等身で、少し寂しそうな顔をしてて。
でも一体どうしてこれをあたしに?
先生がこれをくれた理由が分からなかった。
「アンパンマンがなくてさ。同じパンだから、いいかなぁっと思って。」
と先生はちょっと顔を赤くして、頬を掻きながら言った。
あたしはしばらく言葉もでなかった。
でもすぐに大声で笑いだす。
「・・・・・・ぷっ。ふっはは、あっははははは!」
もう笑いが止まらなかった。
だってアンパンマンがないからって、コゲパン買ってくるんだもん。
別に他のぬいぐるみでもよかったのに。
そのセンスというか、ボケているところがやっぱりいい。
もう笑いのツボに入りまくりだった。
最高ですよ、保田先生!!
だから・・・・もっともっと好きなりました!
- 285 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年07月15日(月)22時38分53秒
- 「よ、吉澤?」
先生はそんなあたしを不安そうに見つめている。
頭がおかしくなったとでも思ったのかも。
まぁ、確かに今のあたしはちょっと壊れてるな。
「・・・・スイマセン。なんだかおかしくて。」
少し経ってあたしの笑いはようやく止まった。
マジで笑い死ぬかと思ったよ。
「何かおかしいことでもした?」
先生は分かっていないらしく、納得いかない顔をしてる。
そりゃ、いきなり笑い出したら分からないよね。
でもこんなこと言えるはずないし。
「いや、別に何でもないですよ。このコゲパン、大切に飾っときますね。」
あたしはもらったコゲパンを抱きしめて言った。
先生はそれでも納得いかないみたいだった。
それでもあたしが嬉しそうなせいか、少し笑ってくれた。
「まぁ、喜んでくれたならそれでいいよ。」
そして、あたしの軽く頭を撫でてそう言ってくれた。
- 286 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年07月15日(月)22時40分07秒
- あたしは本当にすごく嬉しかった。
それはあんまり先生に伝わってないみたいだけど。
でもこのコゲパンを大事にしようと思う。
だって先生が初めて、あたしにくれたプレゼントだから。
大切にしないはずがない。
それにしても、今日のデートは最高だったな。
かわいい先生も見れたし。
大人でカッコいい先生も見れたし。
おまけにプレゼントまでもらっちゃって。
そういうさりげない優しさに、さらに惚れそうだよ。
- 287 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年07月15日(月)22時42分42秒
- でもそれだけじゃない。
「じゃ、このコゲパンに保田とか名前つけますね。」
とあたしは嬉しそうな顔して言ってみた。
「いや、それはちょっと・・・・・。」
先生は見て分かるくらい、かなり困った顔をしてる。
「冗談ですよ。本気にしないでください。」
あたしが今にも吹き出しそうな感じで言うと、
「あんた、私をからかってるでしょ?」
と先生は少しだけあたしを睨む。
「それは気のせいですよ、きっと。」
あたしはそうとぼけてみせると、先生に軽く頭を叩かれる。
「大人をからかうんじゃないの。」
とか言って少し照れたような顔をする。
あたしはそんな先生の耳元で小さい声で囁いた。
「だって、からかうと先生がすごくかわいいから。」
なんて言うとすぐに顔が真っ赤になって、
「バ、バカ!あんた何言ってんの!」
と先生は動揺してるの丸分かりで叫んだ。
- 288 名前:愛しい人はまるで子ども 投稿日:2002年07月15日(月)22時44分25秒
カッコいいところも、かわいいところも、大人で優しいところも好き。
でもそんなヘタレなとこも・・・・すごく大好きですよ、先生!
- 289 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年07月15日(月)22時52分30秒
- 終わりが近かったので多めに更新しました。
これでやすよしの短編は終わりです。
大した話ではないんですが、楽しんでもらえたら嬉しいです。
本当はこれから本編の続きと第2部を書こうと思っていたんですけど、
夏休みの間だけどこか他の板で書きたいと思ってます。
この話とは全くの別物で少し暗い感じです。
というわけで、しばらくこの話は休止しようと思ってます。
その新しい話はまだどこで書くか決めてないんですが、よかったらそちらも
除いてみて下さい。
書くことになったら報告しようと思います。
見てくれた方、また感想くれた方、ありがとうございました。
- 290 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月17日(水)03時19分04秒
- やすよし、サイコーに楽しいです。w
この二人だからだせるビミョーなバランスが良いですね。
新作、見つけたら読ませてもらいます。
- 291 名前:弦崎あるい 投稿日:2002年07月23日(火)23時00分58秒
- >名無し読者さん 楽しんでもらえたようで良かったです。
新しい話は色々迷ったんですが銀板に立てました。
この学園物と全く関係ないんですが、見にきてくれると嬉しいです。
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