Dear Friends 6
- 1 名前:すてっぷ 投稿日:2002年09月14日(土)03時05分35秒
- 短編を幾つか書かせて頂きたいと思います。
よろしければ、お付き合い下さい。
- 2 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)03時08分53秒
石川さんと吉澤さんは、とっても仲良しです。
去年の、ある夏の日、二人はペットショップで子犬を一匹ずつ買いました。
石川さんは自分の買った白いオスの子犬に『よっすぃー』と、
吉澤さんは自分の買った黒いメスの子犬に『梨華ちゃん』という名前を付けました。
「ねぇ、梨華ちゃん。子犬の名前、何にした?」
「えっ? え、えーっとね、ポチ。よっすぃーは?」
「あたし? え、ええーっとねぇ…た、タマ、だよ」
二人とも、自分の子犬にお互いの名前を付けたことは内緒にしていました。
- 3 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)03時11分11秒
それから一年の月日が流れ、吉澤さんはすっかり大人になった『梨華ちゃん』を
ダンボール箱に入れて電車を乗り継ぐと、河原へ散歩に行きました。
梨華ちゃんを連れて土手を歩いていると、ジョギング中のおじさんやおばさん、
それから学校帰りの小学生や様々な問題を抱えた3年B組のなかまたちが、
梨華ちゃんを見ては「可愛い、可愛い」と言って頭を撫でてくれるのでした。
そしてしばらく行くと、向こうの方から石川さんが犬を連れて歩いてくるのが見えたので、
吉澤さんは大きく手を振って、石川さんの名前を呼びました。
「梨華ちゃ――ん!! 奇遇だねぇー!」
「よっすぃー!! 埼玉からわざわざ来たのー?」
吉澤さんの姿に気付くなり、石川さんは犬と一緒に走り出しました。
- 4 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)03時13分36秒
- 「よっすぃー!? よっすぃー、やめて! お願い、止まってえええ!!!」
石川さんがあまりにも必死の形相で猛然と走ってくるので、吉澤さんは、
そんなに自分と会えたのがうれしいのかな、と思いましたが、どうやらそうでもなさそうです。
「きゃあああ――!!」
石川さんは自らの意志で走っていたのではなく、飼い犬の『よっすぃー』に引き摺られるようにして、
吉澤さんの元へ走らされていたのでした。
「きゃあっ!?」
「梨華ちゃん!?」
力尽きた石川さんは、よっすぃーのリードを放すと、勢いあまって土手を転げ落ちてしまいました。
吉澤さんがあわてて、石川さんの元へ走ります。
- 5 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)03時16分27秒
- 「だいじょうぶ!?」
吉澤さんが駆けつけると、石川さんは土手の下で、膝を押さえてうずくまっていました。
「痛っ、よっすぃー、やだ、そこ痛いっ…」
「あっ…梨華、梨華ちゃん、ちょっ、すごい…こんなになっちゃってる……ねぇ、ねぇ触っていい?」
「ダメ、やだ、、、やだってば、よっすぃー、そんなトコ、あっ…」
「うわあー。コレはたぶん、カサブタになるね」
擦りむいた膝の傷口には、血が滲んでいました。
「そんなに見ないで、見ない…きゃあーっ!? 見て、よっすぃー!!」
突然、石川さんが悲鳴をあげました。
「んっ? げっ!? うっそおおおお――――っっ!!!」
吉澤さんが見上げると、土手の上では飼い主の手を離れた梨華ちゃんとよっすぃーが、
ちょっと人には言えないような、大変な行為をしている最中でした。
- 6 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)03時19分16秒
- 「よっすぃー!! やめなさい、よっすぃー!!」
石川さんが、慌てて土手を駆け上がります。
「あああ、梨華ちゃんが…梨華ちゃんが…梨華ちゃんが…」
吉澤さんは、石川さんが必死で犬たちの間に割って入る様子を、ただぼんやりと眺めていました。
そんなことがあって、その日、二人はなんとなく気まずいまま別れました。
- 7 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)03時21分45秒
それから一ヶ月が経ったある日のこと、レコーディングスタジオで石川さんが、
メンバーの小川さんや新垣さんに歌唱指導をしていると、
時間よりも少し遅れて、吉澤さんがやって来ました。
「おはようございます…」
吉澤さんの挨拶には覇気がなく、いつもの吉澤さんらしくありません。
しかも顔色は真っ青、すり足でうつむき加減に歩く姿は、まるで亡霊さながらです。
只ならぬ様子の吉澤さんのことが心配になった石川さんは、二人きりのときを見計らって訳を尋ねました。
- 8 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)03時24分58秒
- 「梨華ちゃんに、子供ができたみたいなんだ」
吉澤さんは俯いて、震える声で言いました。
「子供…?」
石川さんは、しばらくは意味がわからずにぼんやりしていましたが、
そのうちに、ひと月前の河原での出来事が脳裏に甦りハッとしました。
「あのとき、間に合わなかったんだ…」
自分が引き離したときには、すでに…今度は石川さんが、蒼ざめる番でした。
「でもお母さんが、これ以上、犬は飼えないって…それであたし、どうしたらいいかわかんなくって。
ねぇどうしよう、梨華ちゃん、赤ちゃんどうしよう、ねぇ」
吉澤さんは、ひどくうろたえていました。
「落ち着いて、よっすぃー」
石川さんの背に、『責任』の二文字が重くのしかかりました。
だって梨華ちゃんのお腹の子の父親は、九割方、よっすぃーに間違い無いのですから。
責任能力の無い父親(犬)に代わって、飼い主である自分が責任を取るのは当然のことだと、
石川さんは思い詰めるのでした。
- 9 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)03時28分58秒
- 「子供は、私が引き取るから。だから、よっすぃーは何も心配しないで」
石川さんはとうとう、覚悟を決めました。
「ホントっ!? 本当にいいの!?」
涙ぐむ吉澤さんに、石川さんは優しく微笑むのでした。
「ゴメンね、梨華ちゃん。なんか、迷惑かけちゃって」
「ううん。よっすぃーが謝るコトじゃないよ。だって悪いのは全部、ウチのよっすぃーなんだから」
「ううん。ウチの梨華ちゃんだって、ぜんぜん嫌がってなかったもん。どっちもどっち、ってカンジだよ」
つまり梨華ちゃんとよっすぃーは、お互いに愛し合っていたっていうことだね。
つまり梨華ちゃんとよっすぃーの子供は、望まれてこの世に誕生するっていうことなんだね。
こうして、半ば強引に都合の良い結論を導き出した二人は、一人暮らしの石川さんの部屋で、
やがて生まれてくる梨華ちゃんの子供を育てる決心をしたのでした。
- 10 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)03時32分27秒
- 「あたし、これからはもっと仕事がんばるよ。
赤ちゃんが美味しいモノをたくさん食べられるために。赤ちゃんが大きく育つように」
「うん。二人で、立派に育てようね」
「梨華ちゃんには、なに食べさせてあげたらいいのかな? やっぱり、たくさん食べる?」
「うん…やっぱり、自分のと赤ちゃんのと、たくさん食べるんじゃない?」
「ねぇ、なにが好き? 梨華ちゃん、なにが食べたい? レモン? みかん? はっさく? お酢?」
よっすぃーは頭の中が混乱して、自分でも訳が分からなくなっていました。
「落ち着いて、よっすぃー。赤ちゃんできたの、私じゃないんだから。聞かれたってわかんないよ」
すると吉澤さんは、ふうっ、とため息をつきました。
- 11 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)03時36分29秒
- 「梨華ちゃん、なんて名前、付けるんじゃなかった。紛らわしくってしょうがないよ」
「私も。だって、まさかこんなコトになるなんて思わないもん」
「「どうして、」」
同時に言いかけて、二人は顔を見合わせました。
どうして、そんな名前を付けたの?
「なんとなく、かな」
吉澤さんは、石川さんの問いを最後まで聞かずに、言いました。
「私も」
そう言うと石川さんは、くすっと笑いました。
- 12 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)03時39分46秒
それから一ヵ月後、梨華ちゃんは吉澤さんの家で、無事に5匹の元気な赤ちゃんを産みました。
可愛い5匹の子犬のうち、4匹は保田さんにもらわれていきました。
「いやあー、やっぱ家に生き物がいるって良いよねぇ〜。守るべきモノがあるってさぁ、たまんないわよ。
なんつーか、心が癒されるっつーか、生活にハリが出るっつーか、仕事頑張ろうって気になるよねー」
子犬を飼い始めてからの保田さんは、なんだかとっても幸せそうです。
「圭ちゃん、わかってる? 子犬っつーのはね、そのうち、でっかくなるモンなんだよ?」
子犬たちのあまりの可愛さに我を忘れた保田さんは、矢口さんの忠告も聞かず、
石川さんと吉澤さんに勧められるがままに、4匹もの子犬を一手に引き受けてしまったのでした。
- 13 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)03時43分45秒
- 「家の中に赤ちゃんがいるって、なんか幸せなカンジ」
「うらやましい?」
「んー、でも、やっぱりウチじゃあ飼えないからなぁ」
二人は、5匹のうちで一番後に産まれた子犬を、石川さんの部屋で飼い始めました。
白をベースに、ところどころ黒い毛が混じったその子犬を、二人は『パンダ』と名付けました。
「ねぇ、いっそのこと、よっすぃーもココに住んじゃえば?」
「んー、それもいいかもねぇ」
吉澤さんは、笑って言いました。
「あのね、ひとりって、本当はすごく寂しいんだよ? だから私は子犬を買ったんだもん」
だからよっすぃーって名前にしたんだよ、と、石川さんは急に真剣な顔になって言いました。
笑ったりして悪かったなあ、と、吉澤さんは思いました。
そこで吉澤さんは、自分も少し真剣になって想像してみました。
石川さんとよっすぃーとパンダの住むこの部屋で、自分と梨華ちゃんが一緒に暮らすことについて。
すると、いろいろとやっかいな問題があることに気が付きました。
- 14 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)03時49分22秒
- 「でもさぁ、あたしが梨華ちゃん連れてきたらね、すごいコトになるよ、この家」
「そっか、梨華ちゃんとよっすぃーが二人ずつになっちゃうんだもんね」
吉澤さんは石川さんのことも、それから梨華ちゃんのことも『梨華ちゃん』と呼ぶし、
石川さんは吉澤さんのことも、それからよっすぃーのことも『よっすぃー』と呼ぶので、
一緒に住むとなると二人はお互いの呼び名を変えなくては、紛らわしくて仕方がありません。
「あと、二人で住むんだったらもっと広い部屋のが良いし、引越しのこととかも考えないといけないし」
よっすぃーは指折り数えてみましたが、片手では足りないぐらい、
二人と三匹が一緒に暮らすにあたって、問題は山積みのようです。
「ねぇ、よっすぃーって、そういうの考えるの、嫌いなヒト?」
パンダの頭を優しく撫でながら、石川さんが言いました。
「ううん。楽しいヒト」
パンダは石川さんの膝の上で、静かな寝息をたてています。
「だったら、そういうのが、幸せっていうんじゃない?」
「あ」
吉澤さんは、目から鱗が落ちました。
- 15 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)03時53分13秒
- 「今度は、梨華ちゃんも連れてくるからね」
吉澤さんが言うと、石川さんの膝の上で、パンダがぴくっと耳を動かしました。
「っていうか、アイツはなに? ずっと寝てばっかじゃん」
ソファーの上で眠っているよっすぃーは、吉澤さんの声にぴくりとも反応しません。
「気にしないで。よっすぃーって、いっつもあんなカンジだから」
「ちょっと無責任なんじゃないの? 梨華ちゃんにあんなコトしといてさぁ」
吉澤さんは、大切な梨華ちゃんがよっすぃーにあんなコトをされたことを、まだ根に持っているのでした。
「ねぇ、さっきからウチのよっすぃーだけが悪いみたいな言い方、やめてくれる? ああいうコトは、お互い様でしょ!」
一方、このような状況でどうしても不利な立場に立たされるのはオス側の飼い主であり、
石川さんも例に違わず吉澤さんに対して負い目を感じていたため今まで何も言えずにいたのですが、
そろそろ我慢の限界でした。
- 16 名前:<しあわせですか?> 投稿日:2002年09月14日(土)04時02分07秒
- 「ま、いっか。できちゃったモンは、しょうがないし。っていうかもう、生まれちゃったし」
事も無げに吉澤さんが言うと、石川さんはまだ何か言い足りなさそうでしたが、渋々頷きました。
「パンダに罪はないもんね」
安らかなパンダの寝顔を見ながら、石川さんの怒りもどこかへ飛んで行ってしまったようです。
石川さんがいて、よっすぃーがいて、パンダがいて。
次に来るときは必ず梨華ちゃんも連れて来てあげよう、と、吉澤さんは思いました。
ひとりだけ仲間はずれじゃあ、可哀想だもの。
「よっすぃー」
「んー?」
「しあわせ?」
「もちろん」
何はなくともまずは、お互いの呼び方を考えなくっちゃあ。
それは次に会うときまでの宿題にしよう、と、吉澤さんは思うのでした。
<おわり>
- 17 名前:すてっぷ 投稿日:2002年09月14日(土)04時04分17秒
次まで少し間が空くと思いますが、よろしければまた、読んで頂けると嬉しいです。
- 18 名前:LVR 投稿日:2002年09月14日(土)04時10分39秒
- 遅くまで起きててよかったー。
相変わらずものすごい面白いのですが、今回は頭がこんがらがりました(w
リアルのはずなのにある意味アンリアルのような梨華ちゃんとよっすぃーの関係……。
金板も楽しみにしています。
- 19 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月14日(土)10時49分03秒
- ヤター!
すてっぷさんの新作らー。
やっぱりすてっぷさんはDear Friendsじゃないと、と勝手に思ってたので
(0^〜^0)<嬉しいっス!
( ´D`)<がんがってくらさい。
- 20 名前:名無し 投稿日:2002年09月14日(土)17時35分41秒
- これラジオドラマだったら凄い事になってるな(w
お互い犬を飼った時点で二人の名前を真っ先に付けてるんだからそりゃ幸せだろうよ。
金板も頑張って下さい。
- 21 名前:モカ 投稿日:2002年09月14日(土)22時44分10秒
- 祝!新作!
題名がDear Friendsなので、すぐ見つけれました。
楽しみにしてます。
- 22 名前:ポー 投稿日:2002年09月14日(土)23時08分52秒
- はじめまして。
すてっぷさんのディアフレ、始まりましたねぇ。
金板も楽しみにしてます。
それにしても、やっぱりすてっぷさんはイイ!!
- 23 名前:名無し娘。 投稿日:2002年09月16日(月)12時17分13秒
- (犬の)子供の話を誰にも聞かれてなくて良かった(^^;
矢口さん辺りが聞いていたらもっと面白・・・いや大変な事に
なってたでしょうし(w
それにしても二人の会話、ほとんど新婚さんですね(^^;
- 24 名前:すてっぷ 投稿日:2002年09月16日(月)21時23分50秒
- 感想、どうもありがとうございます!
>18 LVRさん
夜更かし、ごくろうさまです(笑)
作者自身がこんがらがっていたようで、「吉澤」→「よっすぃー」と記述している箇所を
幾つか見つけてしまいました。只でさえ解りにくいのに…ホントすいません。
今回の話は、リアルでやる必要性ってあまり無かったかも知れませんね。
>19 名無し読者さん
ちょっとした気まぐれでスレ名を変えてしまったことを(金板)、深く反省いたしました(笑
でも本当に、そんな風に言って頂けるのは幸せなことです…ホントに、ありがとうございます!
>20 名無しさん
ラジオドラマか…なるほど、すごいコト考えますね(笑)
とりあえず金板がメインになりますが、こちらも細々と頑張りたいと思っております…。
- 25 名前:すてっぷ 投稿日:2002年09月16日(月)21時27分06秒
- >21 モカさん
ありがとうございます!
見つけてもらえて良かった…やっぱり、スレタイって重要ですね。。
よろしければ、また。
>22 ポーさん
はじめまして。ありがとうございます。
こちらでは1話完結ぐらいのものを書かせて頂きたいと思っております。
金板がメインになりますが、たまーに、こちらもチェックしてやってくださいね。
>23 名無し娘。さん
矢口さんとか他のメンバーを絡めて、話をもっと広げてみても面白かったかもですね。
短編にしたかったので、どうしてもあらすじをなめて終わっちゃった感じがありますし。
ただ今回は、二人のギリギリな会話が書きたかっただけだったりするんですが(笑
- 26 名前:おさる 投稿日:2002年09月18日(水)17時54分57秒
- すてっぷさん、多作ですねぇ。しかもクオリティ落ちてないからスゴイ!
何がすてっぷさんをしてこうまで書かせるのか、一回聞いてみたい気もする…
掛け持ち大変でしょうけど、がんばって下さい!
- 27 名前:すてっぷ 投稿日:2002年09月25日(水)00時12分18秒
- >26 おさるさん
これはホントに思いつきで書いてしまったモノなので、なんだか恐縮です。ありがとうございます。
掛け持ちなんて滅多にない事だし、というか早くも滞ってるし…本当にどうしようも無いですが、
頑張って書きますので、よろしければまた読んでやって下さいね。
- 28 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)13時38分39秒
窓の外は、今日も雨。
朝から降り続いている雨は夕方になってさらに激しさを増し、テレビの音を大きくしても、窓を叩く雨音を消すことはできない。
雨は嫌い。
曇り空を見ていると、なんだか心まで曇ってくみたいな気がする。
だから、一年のうちでイチバンたくさん雨を降らせる六月は、子供の頃から大嫌いだった。
雨の日にひとりぼっちで部屋に居ると思い出すのは遠足の前の日、背伸びをして窓にてるてる坊主を吊るす、幼い頃の自分。
いつだって同じぐらい願いを込めて作るのに、それは神様に届かないことのほうが多くて。
そのたびに、思い知らされるんだ。
どんなに強く願ったって、奇跡なんか起こらないんだ、って。
- 29 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)13時40分40秒
- 今日は近くのコンビニに行った以外はずっと部屋に居て、一日中テレビを観たりしてなんとなく過ごした。
雨の休日は、いつもこんなカンジ。
せっかくのオフなのに何だか勿体ない気もするけれど、雨の日に外へ出るのはやっぱり気が進まない。
昼間、矢口から電話があって、「映画行かない?」って誘われたけど断った。
夕方、急に誰かと話がしたくなって、矢口に電話しようかと思ったけど、きっと誰かと一緒に居るだろうから止めた。
コンビニのお弁当で夕飯を済ませて、お風呂に入って、特にすることも無いから今日は早めに寝ることにした。
時計の針は、もうすぐ午前0時を指そうとしている。
雨の音は聴きたくないから、テレビはつけたままにしておく。
電気を消してベッドに入るとすぐ、電話が鳴った。数回のコールの後、留守電に切り替わる。
私はベッドを抜け出した。もしかしたら、矢口かもしれないと思った。
『なっち? あ、もう、寝ちゃったかな』
けれど発信音の後に聞こえてきた声は、まるで予想もしなかった人のモノだった。
- 30 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)13時41分58秒
- 『あの、圭織だけど』
電話の向こうの彼女は、さらに言葉を続ける。
圭織が電話してくるなんて、一体どうしたんだろう?
私はほんの少し躊躇して、それから受話器を取った。
「もしもし」
『あっ、なんだ、起きてたんだ』
意外そうに、圭織が言う。
「うん。ちょうど、ベッド入ったトコ」
『そうなの? じゃあ、切ろっか』
「いいよ、べつに。そんなに眠かったワケじゃないし。すること無かっただけだから」
『そっか』
それきり、圭織は黙ってしまった。
自分からかけてきたくせに何も言わないなんて、どういうつもりだろう?
ほんの数秒の沈黙が、とても長い空白のように思えた。
「よいしょ、っと」
意味の無い言葉で間を持たせながら、カーペットの上に腰を下ろす。
「どしたの? めずらしいよね、圭織が電話くれるなんてさ」
どうしてなっちが気ぃ遣わなきゃなんないのさ、なんて思いながら、重たい空気に耐えかねて先に口を開いたのは、私の方だった。
- 31 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)13時43分35秒
- 『あのね、圭織の気のせいかも知れないんだけど…なっち、最近元気ないかな、って、思ったから』
私の方から話しかけると、それでも少しの間があって、自信の無さそうな声で途切れ途切れに、圭織が言った。
「ふーん、心配してくれてんだ。リーダーも色々と大変だねえ」
なんだか皮肉めいた言い方になってしまって、言った後ですごく後悔した。
圭織が相手だと、いつもこうなっちゃうんだから。
『…そんなんじゃないよ。別に、リーダーだからとか、関係ないし』
小さな声でぽつりと、圭織が言った。
私が何か言うと、圭織はいつも困ったような、悲しそうな顔をする。
今頃電話の向こうでもきっと、そんな顔をしているに違いない。
気に入らないのならもっと怒ったり怒鳴ったりしてくれる方が、こっちとしてはまだ、気が楽なんだけど。
「ゴメン、そんなつもりじゃなくてさ。あは、なんかおかしいね、なっち」
私はわざと明るく言った。圭織はまた、何も言わない。
- 32 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)13時45分03秒
- 「雨のせいかな。ほら、なっち雨降り嫌いだからさ」
『…そっか。それなら、いいんだけど』
言葉とは反対に圭織の言い方はぜんぜん、"良さそう"じゃない。
なんだか、心の奥を全て見透かされているような気がする。
そして、相手が矢口でも裕ちゃんでもなく圭織だったことが、なんとなく私を惨めな気持ちにさせた。
「圭織は何してたの? どっか出かけた?」
『ううん。今日はね、部屋でずっと絵描いてた』
「ああ、そっかー。良いよねぇ、圭織はそういう趣味があるから」
なっちと違って、って言いかけて、あわてて止めた。また皮肉っぽくなっちゃいそうだから。
『なっちは?』
「なっちもねぇ、ずっと部屋ん中だよ。でも何にもすること無いからさぁ、テレビ観たりとか、あとは何だろー」
『覚えてないの?』
「うん。どーでもいいコトしてたんだろうね、きっと」
すると圭織は笑って、たまにはそういうのも良いよ、って言った。
- 33 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)13時46分46秒
- 「たまになら良いんだけどさー、雨降りの日はいつもこんなだもん」
『じゃあ、梅雨をどう乗り切るか、考えなきゃね』
「えー? なにそれ?」
圭織があまりに真剣な口調で言うから、ちょっと笑ってしまった。
『圭織の傘はね、空色なんだよ』
「はっ?」
思わず声が裏返る。いつものことだけど、圭織ってば突然変なこと言い出すんだから。
『だって、雨の日で何が嫌かって、あのどんよりした曇り空でしょ?』
「うん、そうね」
『なんか、気持ちまで暗くなっちゃうじゃない』
「そうそう、そうなんだよねぇ」
圭織の言葉に頷きながら、今日初めて話が合ったぞ!なんて心の中でバカみたいにはしゃいで、やれば出来るじゃん!とか思ったりして。
上京して二人で暮らし始めたばかりの、まだ楽しかった頃のことを思い出して、なんだか懐かしい気持ちになった。
『だから、晴れた空と同じ色の傘さして歩くの。したらちょっとは気持ちが晴れるっていうか、明るくなるっしょ?』
「ああ…」
なんというか、圭織らしいとは思うけど…。
何か、梅雨を乗り切るための画期的な方法を思い付いたのかと期待していた私は、少し拍子抜けした。
- 34 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)13時48分30秒
- 「晴れ空の傘だから、気持ちも晴れるってコト?」
『そう』
「なんかそれって、ダジャレとかとレベル変わんない気がするんだけどさぁ」
『なんでよー! 気分違うんだって、ホント』
不服そうに圭織が言って、私は笑った。こういうのは、ちょっと悪くない。
外では大雨が降っていることも、少しの間忘れていた。
「なっちはねぇ、てるてる坊主でも作ろっかな」
『え?』
「要するに、雨が降らなきゃ良いワケでしょ? したらさ、傘さす必要もないし」
『てるてる坊主かぁ』
「神様にお願いしたらさ、なんとかなんないかなぁーって」
『なんか、なっちらしい』
圭織は、そう言って笑った。
「朝起きたら雨止んでてさ、青空がパアーって広がっててさぁ!」
きっとこういうのが、"なっちらしい"私なんだろうな、なんて思いながら、はしゃいだ声で言う。
自分でも少し、無理してるなぁ、なんて思いながら。
- 35 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)13時49分52秒
- 『じゃあ、ね。夜中にゴメンね』
「ううん。わざわざ、ありがとね」
『じゃあ、おやすみなさい』
「うん。おやすみ」
一時間くらい話して、私たちは電話を切った。
おしゃべりを止めてまたひとりぼっちに戻ったせいか、窓を叩く雨の音がさっきよりもひどくなった気がする。
テレビの音量を上げようとテーブルの上のリモコンに手を伸ばしかけて、ふと、床にぽんと置かれたティッシュの箱に目が留まる。
- 36 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)13時52分51秒
- 「朝起きたら雨止んでてさぁ」
ティッシュペーパーを丸めて作ったまんまるの頭を、ティッシュペーパーの薄いマントで包んで、何度も捻る。
「青空がパアーって広がっててさぁ」
人形の細い首を、輪ゴムできつく縛る。
「神様にお願いしたらね」
何もかもが上手くいってさ、なっちも圭織も矢口も圭ちゃんも、大好きな歌いっぱい歌っててさぁ。
なっちはいーっつも真ん中で歌ってるねぇ、ってテレビ観た後で決まって、ばあちゃんが電話してくるんさぁ。
「ぜったい、願いは叶うんだから」
朝、目覚めたばかりの私の元へ突然、奇跡がやって来てくれたら。
私を変えてくれる何かが突然、目の前に現れてくれたら。
雨が止んだら。あの頃に戻れたら。またたくさん、歌えたら。
起こるはずの無い奇跡を願って、誰かに頼って、何かに縋って。
今が嫌いなわけでは、決して、ないのに。
「信じてなんかないくせに。ばーか」
カーテンレールに吊るされた、奇跡の使者に向かって言う。
黒いマジックで描いた顔は、笑ってるふうにしたかったのに上手く描けなくて、への字口の泣きベソになってしまった。
- 37 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)13時54分29秒
――
「あはっ、やったぁ」
翌朝、起きるなり私は、思わず声に出して喜んでしまっていた。
昨夜の大雨が嘘のように、今朝の天気は快晴。
神様がなっちのお願い聞いてくれたんだ、なんて、如何にも"なっちらしい"ことを思いながら、身支度をして仕事へ向かう。
圭織に見せるための、てるてる坊主をバッグに入れて。
- 38 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)13時56分38秒
――
「なっち、帰ろー」
バッグから折畳み傘を出してバサバサと開きながら、矢口が言った。
「あ、ゴメン。ちょっと、寄るトコあるから」
私が誘いを断ると、矢口はつまらなそうに「ふーん」と言って、今度は前を歩いていた圭ちゃんに声を掛けている。
午前中に始まって夕方まで続いたレコーディングをようやく終えて、メンバーが次々とスタジオを後にする。
いつの間にか降り始めていた雨のせいで、まだ6時前だというのに外はもう真っ暗。
私は出口の端に寄ってバッグを探る振りをしながら、みんなが出て行くのを待った。
ガサガサと中身をかき混ぜるたびに浮き沈みする、白いてるてる坊主が、いちいち癇に障った。
- 39 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)13時58分25秒
- 午後の降水確率は70%だって、レコーディング中に矢口と圭ちゃんが話してた。
今朝晴れたのがうれしくて舞い上がって、天気予報も見ずに部屋を出て来てしまった自分は本当にバカだし呆れちゃうけど、
雨の中をひとり濡れて帰るのも悪くないと思った。
もっとも、天気予報で午後からの雨を知っていたとしても、きっと傘は持たずに出掛けていただろう。
本当にバカだし呆れちゃうけど、今日は一日晴れだって、少しは本気で信じてたんだから。
「…大っ嫌い」
バッグの中の、てるてる坊主に向かって言った。
そいつは今にも泣き出しそうな顔で、私のことをじっと見ている。
「ばか。泣きたいのはこっちだよ」
ほら見ろ。今日もまた、神様に裏切られちゃったじゃんか。
なっちにとって、雨は奇跡を邪魔するモノ。だから、嫌いなんだよ。
- 40 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)13時59分58秒
- 外へ出ると、雨足は思ったほど強くなかった。小雨に濡れながら、駅に向かって一人歩く。
ポツポツと、髪に落ちた雨粒はやがて頬を伝い、まるで涙みたい。ただ違うのは冷たいトコと、あとは、味がしないこと。
「なっち!」
突然、後ろから呼ばれて振り返ると、圭織が息を切らして立っていた。
彼女は私の傍へ駆け寄ると、空色のシンプルな傘を私に差しかけた。
「圭織、どしたの?」
「こっちが聞きたいよ!」
ああ、ホントだ、晴れ空の色だ。
私は傘を差しかけてくれた圭織に礼も言わず、頭上に広がる空色を、ぼんやりと眺めた。
- 41 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)14時01分47秒
- 「車の中から見つけて、もぅ! 傘もささずにボーッと歩いてんだもん。びっくりするじゃんよ」
「ああ…傘、忘れちゃってさ」
「ほら、風邪ひくから」
私は圭織が差し出したハンカチを受け取ると、雨に濡れた頬を拭った。
圭織の傘に二人で入って、私たちはゆっくりと歩き出す。
二人の間に会話は無い。雨粒が傘を打つ音が、やけに大きく響いた。
ふいに、圭織が傘を私の方へ傾けた。
見ると私の右肩は雨に濡れ、シャツに薄い染みを作っている。
私を庇って圭織が濡れてしまわないか気になったけど、彼女より背の低い私からは、その左側を見下ろすことは出来ない。
肩に落ちた冷たいはずの雫にまるで気が付かなかったのは、隣を歩く圭織の体温のせいなのかも知れなかった。
「本当は」
立ち止まって私は言った。傘から外れた私に、圭織はあわてて、また傘を差しかける。
- 42 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)14時04分41秒
- 「本当はなっち、てるてる坊主なんか信じちゃいないよ」
「てるてる坊主?」
言った後で圭織はすぐに昨夜の会話を思い出したらしく、あっ、と小さく声を上げた。
「もしかして、ホントに作った?」
私は頷いた。
「でも信じたかったんだよ。だって信じてれば、奇跡は起こるでしょ?」
「奇跡、ね」
圭織は例の困ったような、悲しそうな顔になって言った。
「ねぇ、なっちが今ココにいることは、奇跡じゃないの? 夢が叶ったことは、奇跡って言わない?」
私は首を振った。
「そういうんじゃないよ。なんていうか、もっとすごいコト」
「たとえば?」
聞かれて私は言葉に詰まる。自分から話を振ったくせに、圭織の質問には答えられそうになかった。
なっちが願う奇跡って、たとえばどんなコトだろう?
満たされすぎていることを虚しく感じているのか、それともまだ何かが足りないのか、自分にもよくわからない。
けれど確かになっちの心には小さな隙間が空いていて、そこから冷たい雨がじわじわと染み込んでくるみたいな今のこのカンジは、
一体どんな言葉にすれば、圭織に伝えられるんだろう。
- 43 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)14時07分43秒
- 「たぶん、今が嫌いなワケじゃないんだ。ただ、あの頃が大好きなだけなの」
黙りこくって色んな事を考えた挙句、私はそれだけ言った。
べつに、今が嫌いなわけじゃなくて。
なんだかすごく遠い昔のような気がするあの頃が、私はとくべつ大好きだったんだ。ただ、それだけ。
圭織はますます困ったような顔をして、うーん、と唸っている。
かと思うと、いきなり無表情になって遠くを見つめ、何者かと『交信』を始めてしまった。
「ゴメン。なっち、また変なコト言ってるね。忘れて?」
「だいじょうぶだよ」
しばらく路上で固まった後、いきなり、圭織が言った。
「てるてる坊主なんかに頼らなくたって、雨が降ったら傘させば良いし、傘がなければ雨宿りすれば良いんだし」
「……だから、なに?」
いつもながら圭織の言うことは突拍子が無いし、雨が降るとなっちは情緒不安定になったりするから、
こんな日は普段に輪をかけて話が噛みあわない。
- 44 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)14時11分34秒
- 「奇跡なんかなくたって、私たちは変われると思う」
そう言った圭織の声がとても優しくて、なっちは救われたんだ。
とくに何かが解決したわけでもなかったし、開眼、なんて大げさなモノでもない。
けれど、目の前の霧が少しずつ晴れていくみたいにゆっくりと、なっちは救われたんだ。
奇跡なんか本当はどこにもないことを私は知っているし、楽しいこともうれしいことも、そう長くは続かないことだって知ってる。
だから、誰かに言って欲しかったのかも知れない。
奇跡なんかどこにもないんだよ、って。だけどそれでも大丈夫なんだよ、って。
そして、それが矢口でも裕ちゃんでもなく圭織だったことが、どうしてだろう、とても、うれしかった。
ふいに、雨粒が頬を伝う。
あ、違う、これは雨粒じゃない。だって温かいし。きっと、味もするだろう。
涙はしばらく止まらなかったけれど、圭織は何も言わずにずっと傘を差しかけていてくれた。
圭織の晴れ空の傘が、雨降りのなっちをすっぽり包んでくれたから、なっちは誰にも気付かれずに、たくさん泣いた。
- 45 名前:miracle 投稿日:2002年10月06日(日)14時15分23秒
- 「ねぇ、傘買うの付き合ってよ」
ようやく泣き止んだ私が、まるで何も無かったみたいに言うと、圭織も、
「いいよ」
と言って、まるで何も無かったみたいに笑った。
「したっけ圭織も、あんまし人のコト言えないんでない?」
「なにがよ?」
「『晴れた空の傘さして歩くのぉー』ってもぅ、かぁわいーんだから。そんなヒトがなっちのてるてる坊主、バカにできないっしょ」
「なんでー? いいじゃんよー」
「まぁ、いいアイディアだとは思うけどもねぇ」
泣いたことも、憂鬱な気分も、もう戻らない時間も、ぜんぶ六月のせいにして、私たちは歩き出す。
実を言うと私は、圭織と同じ、空色の傘を買おうと決めていた。
曇り空でも、晴れた空と同じ色の傘をさして歩けばきっと、昨日より少しはマシな一日になるのかも知れないから。
<おわり>
- 46 名前:すてっぷ 投稿日:2002年10月06日(日)14時18分06秒
ふと思い立って、梅雨の頃に一度書きかけていた話を見直してみました。
今の季節と全然あっていませんが、よろしければ…。
- 47 名前:名無し 投稿日:2002年10月06日(日)15時36分47秒
- なんかバンプオブチキンのラフメイカーが頭の中に浮かんだ。
思えば初期メンも二人だけになってしまっていたのですね。
この二人は一番遠そうで、その実一番近い間柄なのかもしれませんね。
自分の中ではかなりの名作です。
多作の中ここまで書けるすてっぷさんは改めてすごい。
- 48 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月06日(日)17時04分05秒
- いい話だなぁ。
オリメンにはやはり、ちょっと別の思い入れがあるからね。
- 49 名前:おさる 投稿日:2002年10月06日(日)18時40分58秒
- 「革命が起きている最中は、誰も今革命が起きているとは思わない」と言った人がいました。
この”革命”を”奇跡”に置き換えても良いかもしれません。たとえ取るに足りないことでも
その人が「奇跡!」と思えれば、それは奇跡なのでしょう。なっちたちが毎日何らかの形で
テレビに出られることだって奇跡だと思うし、俺らが毎日そんな彼女たちに元気づけられるのも
たぶん、奇跡。
- 50 名前:ほげ 投稿日:2002年10月11日(金)12時32分56秒
- 泣けてきました
オリメンファンにはたまらないすばらしい作品ですね
- 51 名前:すてっぷ 投稿日:2002年10月14日(月)23時06分58秒
- 感想、どうもありがとうございます。
>47 名無しさん
そうですね。色々と言われたりしているけど、一番分かり合えている
二人なのではと思ったりします(なんか勝手な事言ってるなぁ…)。
何度か中断して書き上げた作品なので、感想頂けて嬉しいです。ありがとうございました。
>48 名無し読者さん
どうもです。やはりオリメンには、特別な想いがありますよね…。
>49 おさるさん
本当に、おっしゃる通りだと思います。
奇跡のような事が日常化してしまって、大切なものを見失ったり…。
でも、現状に満足してしまうと次のステップに進めないのかも、とか…うーむ、難しいですね(笑
>50 ほげさん
ありがとうございます。また、この二人を書けたらなぁと思います…。
- 52 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月18日(金)01時04分27秒
- なっちが主人公の話はすてっぷ作品初では?
改めて作者様の懐の深さを感じました。
次回のすてっぷ作品の「奇跡」又期待させて頂きますね。
- 53 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月20日(日)17時32分33秒
- いつもの軽いコメディタッチも大好きなのですが、前向きで深いメッセージに共感しました。
こういった娘たちの娘であるが故の葛藤を妄想することが、モーニング娘。で小説を書き、
読む醍醐味だと個人的に思うので、ひさびさにその醍醐味を感じさせてくれるお話に出会えて、
嬉しかったです。
変化しつづける娘を、長い期間書き続けるということは、本当に大変だと思います。
ずっと現役でいらっしゃるすきっぷさんを、ひそかに尊敬しています。
どうかこれからも、良作で読者を楽しませてください。
- 54 名前:53 投稿日:2002年10月20日(日)17時38分09秒
- >>53
申し訳ありません!!
すきっぷさん>すてっぶさん
名前間違えてる。。。ほんとすいません。もう自分、アホかと、バカかと。
スレ汚しすいませんでした。回線切って(略
- 55 名前:すてっぷ 投稿日:2002年10月20日(日)21時58分21秒
- >52 名無し読者さん
ありがとうございます。なっちは、実はずっと書きたいと思っていて。
いつも奇跡というか、どう考えてもあり得ない設定の話ばかり書いているので、
今回、日常の設定であえて「奇跡」という言葉を使ってみました。
>53 54 名無し読者さん
ありがとうございます。正直、コメディ以外の、こういう話を書く時は、
そんな所まで踏み込んで良いのかなぁと、結構悩んでしまいます。
当然ですが彼女達は生身の人間であり、その人達の心を勝手に推測(というか妄想)して、
こんな話を書いているのですから。
(もちろん、娘。たちを応援したいと思う気持ちから、こういうのを書くんですけどね)
始めた頃は正直こんなに続くとは思っていませんでしたし、続けていられるのは、53さんはじめ、
読んで下さる方々のおかげなのです。なので、これからも一緒に楽しみましょう(笑)
それから、名前とかは、どうかお気になさらず。。
自分でもよく間違うので、単語登録しているぐらいですから(笑
- 56 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月21日(木)21時15分28秒
- せっかくの名シリーズ『Dear Friends』が消えるのは寂しいから…保全
- 57 名前:すてっぷ 投稿日:2002年12月03日(火)23時28分42秒
- >56 名無し読者さん
お気遣い、どうもです。。
不定期更新ですが、これからもどうぞよろしく。
- 58 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時31分58秒
――
月曜日。
それは、いつもと変わらない朝だった。
「ひとみ、朝ごはんは?」
「いらない」
玄関にしゃがんで靴を履き、傍に置いといたカバンを引っ掴む。
「最近全然食べてかないじゃんよ。学校でお腹空かないの?」
「遅刻するよっかマシですぅ」
いってらっしゃい、って(たぶん笑顔で)手を振るお母さんのカオもろくに見ないで、
あたしはドアを開け外へ飛び出した。
- 59 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時33分59秒
- 「ふぁっ…さむ」
外へ出るとすぐに、あたしは足を止めた。手袋を忘れたコトに気付いたのだ。
手袋は、二階のあたしの部屋。すんごく寒いけど、戻れば遅刻は必至。
「いいや」
両手をコートのポケットに突っ込んで、あたしは走り出した。
すんごく寒いけど、遅刻するよかぜんぜん良いもんね。
小脇に抱えたカバンがときどき落っこちそうになって走り辛いけど、そんなコトいちいち気にしてる場合じゃない。
あたしはとにかく走った。
真っ白い息を、怪獣みたくガーッて吐きながら、馴染みの商店街を爆走する。
通りを抜ける頃にはカラダもすっかり温まって、あたしはマフラーを外しながら、横断歩道を渡ってたんだ。
そりゃあ、下向いて歩いてたあたしも悪かったとは思う。
でもコレだけは、自信持って言える。
信号は、ぜったいに、青だったはずだっ。
- 60 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時35分22秒
――
「!」
眠ってるときにいきなり高い所から落っこちたみたく足がビクンってなったときみたいなカンジに襲われて、目が覚めた。
「ん……?」
あれー? あたし、なにやってたんだっけ……。
起きぬけでアタマがぼんやりしてて、思考回路が上手く機能していないらしい。
「ふああ」
あたしは大きく深呼吸すると、寝起きのモヤモヤを振り払うようにぶんぶんとアタマを振った。
頭がクラクラする。貧血だろうか。
やっぱり、朝ゴハン食べてかなかったのがいけなかったのかなぁ…とそこまで考えて、はたと気付く。
そうだ、あたしは今朝、ゴハンも食べずに学校へ行く途中だったんじゃないか。寝起きなんかのワケないっつーの。
そうそう、あたしは今朝、ゴハンも食べずに学校へ行く途中…学校へ、行く…
「あーっ!!」
そうだよ、学校行かなきゃ! 遅刻しちゃうじゃん!!
足を踏み出そうとしてあたしは、何かがおかしいコトに気が付いた。
踏み出そうにも、そもそもあたしは地面を踏んでいないよーな気がする。
ふわふわと、カラダが宙に浮いてるみたいなカンジ。
- 61 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時36分50秒
- おそるおそる下を見ると、驚くべきコトにというか、案の定と言うべきか…あたしは宙に、浮いていた。
あたしのすぐ真下、2メートルぐらいの所に人が立ってる。それも1人じゃない。
全身黒ずくめのカッコした人たちが、ざっと、30人くらい。
なんなの? この光景は…。
だだっ広い部屋に、横に20脚ほどのパイプ椅子が何列にも並べられてる。
列の真ん中は通路として開けられていて、そこに黒いスーツを着た男の人や、
黒いワンピース姿の女の人が1人ずつ並んで、何かの順番待ちをしているみたい。
列の先頭に目を遣るとそこには、白い布で覆われた祭壇のようなモノがあった。
見るとあたしと同じ制服を着た女の子がその前に立って、大きな壷のような入れ物に、
30センチはありそうな、めちゃくちゃ長いお線香(とりあえず『ロングお線香』と呼んでおく)を挿し入れている。
そして彼女は両手を合わせてしばらく下を向いていたかと思うとゆっくりと顔を上げ、名残惜しそうに列を離れた。
部屋のあちこちから幾つもの、すすり泣く声が聞こえる。
- 62 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時38分20秒
- だだっ広い部屋に、祭壇。
全身黒ずくめの人びと。
制服姿の女子高生、すすり泣き、そして…ロングお線香。
今あたしの眼下で一体、なにが行われているのか。
コレらのヒントを総合して考えると、たどりつく答えはただひとつ。
そう!
イッツ・ア・おそうし…
- 63 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時40分10秒
- 「き―――っ!?」
ナニゲに祭壇のてっぺんを見た瞬間、あたしは思わず叫んでいた。
「あたしかよっ!!」
のんきに『ロングお線香』とか言ってる場合じゃない。
祭壇に乗っかってる遺影はまぎれもなく、あたしだった。イエイ! いや、んなコト言ってる場合じゃなくて。
あたしの遺影が祭られてるってコトは、コレはあたしのお葬式ってコトになるんでないかい。
とすると…いやぁ自分でも気が付かなかったけど、なにかのはずみであたしはうっかり死んじゃったってコトになるのかな?
えっ。
えっ、えっ、えっ、えっ。えええっ。
ちょっと待ってちょっと待って。冷静になれ冷静になれ。頭を冷やすんだ、自分。
疑問。あたしが…死んだ?
結論。あたしは…死んだ。
反論。やだやだやだやだ、絶対にやだ!! 死にたくない、死にたくないよおっ!!!
っつってももう死んじゃってるんだよねっ!! あああああ、考えがまとまらないっ!!!
ってゆーかそもそも、どうしてこんなコトになったんだ!?
あたしは混乱する頭で、必死に記憶の糸を手繰り寄せる。
- 64 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時41分53秒
- 今朝(なのかはわかんないけど)はいつもと同じ時間に家を出て、
いつもと同じペースで馴染みの商店街を爆走し、走り疲れたあたしは、
いつもと同じ横断歩道を、歩いて渡っていた。信号は青。
全力疾走したせいですごく暑かったんで、下向いてマフラー外しながら歩いてたんだよね。
そしたらいきなり、後ろから女のヒトの悲鳴が聞こえて……そうだ、思い出した。
その声に驚いて振り返りかけたところで、目の前に大きなトラックらしき車が突っ込んできたんだ。
そこで、あたしの記憶は途切れてる。
避けるヒマなんか無かった。
あたしはたぶん、あのとき突っ込んできた車にはねられて、そこで意識を失ってしまったんだろう。
それからホントにホントに死んじゃったのかどうかは…まだ実感が湧かないから、ノーコメントにしておく。
- 65 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時44分14秒
- 「はあ…」
思わずタメイキが漏れる。
神様どうか、あたしがまだ死んでいませんように。
お願いですから、幽体離脱とか臨死とか金縛りみたいなレベルの、単なる不思議体験でありますように。
浮遊体(あえて『幽霊』とは言わないでおく)と化したあたしは、宙に浮いたままぐるりと会場を見回した。
隅っこの方で、同じクラスのコたちが数人ずつ、いくつかのグループに分かれて立ってる。
あたしと特別仲の良かったコたちは、みんなもうワケがわかんないくらいに泣きじゃくって、
何度も何度もあたしの名前を呼び続けてる。
わりかし仲の良かったコたちは寄り添って静かに泣いていたし、
挨拶程度の会話しか交わしたコトの無いコたちはまぁ、それなりに悲しそうな顔して立ってる。
「あっ」
祭壇の傍に家族の姿を見つけて、あたしは声を上げた。もちろん、誰もあたしの声には気付かない。
お父さんとお母さんが祭壇の傍に立って、お焼香するヒト一人一人に、丁寧にお辞儀してる。
今朝出るとき、いってきます、って言えばよかったな。
お父さんに寄りかかってどうにか立ってるお母さんを見ながら、そんなコトを考えた。
- 66 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時46分12秒
- 「や、だ、やだ、なん、でっ、」
よく知ってる声。
クラスでも一番仲の良かった友達が、とうとうその場に泣き崩れてしまった。
近くにいたコがしゃがんで、背中をさすってあげてる。
泣きじゃくる彼女の姿をぼんやり眺めながらあたしは、
あたしのために泣いてくれるんだ、なんてちょっとうれしくなったりして。
まったく自分が死んじゃってるかもしれないってのにノンキなのにも程があるんだけど、さらにあたしは。
そういえば昔、自分のお葬式ってやつを一度この目で見てみたいと思ってたっけ、なんてコトを、考えていた。
- 67 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時48分01秒
- ふいに、遺影の自分と目が合う。なんかヘンなカンジ。
写真の中の自分は笑ってたけど、その目はなんだかあたしを責めてるみたい。
遅刻してもいいから、朝ゴハン、食べてけば良かったんだ。
遅刻してもいいから、忘れた手袋、取りに戻れば良かったんだ。
遅刻してもいいから、おかあさんに『いってきます』、言えば良かったんだ。
あたしがカンオケに入らずに済んだかも知れない『もしも』は、数え上げたらきりがない。
だけどそんなのは他の誰でもない、自分がイチバンよく、わかってる。
だからぁ。
「んな、恨めしそーな目で見んなよ」
- 68 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時49分39秒
――
「ってなカンジなんですけど…あたしって、ホントにホントに死んじゃったんでしょーか?」
あたしが、月曜日に自分の身に起きた出来事を話し終えて尋ねると、
「残念ですが」
男は言った。
「あなたは12月2日の午前6時48分、交通事故でお亡くなりになられました」
「今日は?」
「3日です。あなたが先ほど見てきたというのは、今日営まれた告別式の模様ですね。あなたの」
あたしの目の前に立ってる、このオッサン。
顔も声もガッツ石松(テレビタレント)にそっくりなんだけど、彼とは比べ物にならないほど饒舌な男。
純白のワンピースからはみ出た足にはスネ毛がびっしりと生い茂り、頭上には金色に光る輪っかがプカプカと浮いてる。
認めたくはないが…恐らく彼は、天使。
- 69 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時51分51秒
- 一方あたしのカッコウはというと、純白のワンピースという点では彼と同じだけど…
あたしのは半袖で、丈は彼のモノよりも断然短い、ヒザ上15センチくらいのミニスカート。
「あのー、もしかしてあたしの頭にもくっついてるんですか? その、輪っかみたいなの」
あたしは自分の頭上を指差しながら、彼に尋ねる。
「あるわけないでしょうが。何をほざいてるんですか、まったく図々しい」
なるほどね。輪っかは無し、と。
「いやあ女房のヤツが充電するの忘れててねえ、今日はヒゲ剃ってないんですよ。ゴメンね。今日ちょっと、顔恐いでしょ」
「や、べつに。おかまいなく」
朝から電気カミソリでジョリジョリとヒゲを剃る天使。想像しただけで、めまいがした。しかも女房て。
頭上の輪っかが無いのと露出度がちょい高めなコトを考慮しても、風貌から言えばあたしの方がぜんぜん、天使っぽいと思う。
- 70 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時54分17秒
- 「それにしても良かったですねえ、天国に来られて。地獄に堕ちちゃってたらもう今頃大変ですよ、あーた」
「ココ、天国なんですか?」
「っていうか私、天使ですから。見りゃわかんでしょ? ね? 地獄に天使はいないでしょ」
「へぇ、天使なんだ。ゴリラかと思った」
「おやおや。これまた失礼なお嬢さんだ。死んでなきゃ殺してるところですがね」
顔とヒゲとスネ毛だけ見ると、どう見ても地獄の門番にしか見えないんだけど、やっぱり彼は天使らしい。
それからココは天国で、どうやらあたしはホントにホントに、死んじゃったらしい。
「ははは」
笑える。
冗談じゃない。だって聞いてないもん、そんなの。
あたしはどこにでもいるごく普通の女子高生で、いつもどおりに起きて学校行こうとしてただけじゃんか。
なのに心の準備もないままにイキナリ死んじゃって、目が覚めたら自分のお葬式観覧してて、
挙句たどり着いた場所が天国だなんて。しかも天使は石松似だし。
「あ、あの、さ」
こみ上げてくる怒りをどうにか抑えつつ、あたしは切り出した。
「はい?」
やけに甲高い声で聞き返してくる石松のノンキ顔が、癇に障った。
- 71 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時56分27秒
- 「なんであたしが死ななきゃなんないワケ!? 信号青だったじゃん、あたしちゃんと見てたもん!!
したらあのトラック? だかなんだかよく見てないけど、いきなり突っ込んできてさあ!!」
「いや、そんなこと言われても、ねぇ」
落ち着かない様子で目を泳がせる石松の困り顔が、あたしの怒りをさらに煽る。
「だって、あたしナンも悪いコトしてないじゃん! おいちょっと! なぁ生き返らせろよ、オッサン!!」
「いや、今さら生き返ったりしたらみんな驚きますから、止めた方が良いと思いますけど」
「うるさいっ、ゾンビでもなんでもいいから甦らせろ、よっ……!」
天使に掴みかかったところで、あたしの動きがぴたりと止まった。
あたしは手足をジタバタしようにも…う、動けない…なんだこりゃあ。
「お願いですから大人しくして下さいな。あなたはもう死んでしまったし、生き返ることも出来ませんよ」
やれやれ、と天使が肩を竦める。
「ねぇ…ちょっと、コレなに!?」
彼がなにか、見えない力を使っているのだろう、あたしは固まったまま身動きが出来ない。
- 72 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月03日(火)23時58分40秒
- 「まぁまぁ。もう少しそのままで、話を聞いてくださいな」
天使は余裕しゃくしゃく。さらに、動けないあたしに向かって得意げに語りかけてくる。
「ただ、生き返ることは出来ませんが…その代わり、あなたは三週間後、
別の人間として生まれ変わる事が出来ます」
「別の、人間…?」
身動きの取れないあたしは、見えない力に抗うコトを諦め、天使に尋ねた。
「ええ。あなたには再び地球上の何処かに、新しい命として誕生していただきます」
「それって…あたしはもう、あたしじゃなくなる、ってコト?」
「もちろん」
彼の答えを聞いても、なんだかワケがわからなかった。
だってまだ死んだばかりだってのに(しかもあたしは納得してない)、
三週間後には別の人生が用意されてるなんて言われたって…。
- 73 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月04日(水)00時01分10秒
- 「だってあーた、赤ん坊が前世の記憶背負ったまま生まれてきたら嫌でしょ。すごく嫌でしょ、それ」
「そりゃ嫌ですけど」
「だってあーた、産声がアレですよ、『ゾンビでもなんでもいいから甦らせろよ、おぎゃあー』とかだったら、ものすごく嫌でしょ」
「………」
どうやらオッチャンは、あたしがさっき彼に殴りかかったコトをそうとう根に持っているらしい。
「とにかく」
言いながら、天使がポケットから何かを取り出す。
「吉澤ひとみさんの人生は、あと三週間で終わっちゃいますからそのつもりで」
天使が差し出したものは、小さな砂時計だった。
- 74 名前:すてっぷ 投稿日:2002年12月04日(水)00時03分37秒
5〜6回の更新になる予定です。よろしければお付き合い下さい…。
- 75 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月04日(水)00時29分47秒
- よっすぃ、今までいろんな世界に登場してましたがついに天国へ逝ってしまったのですね。
冥福をお祈りしつつ、今後に期待いたします。
すてっぷさん最高!!
- 76 名前:名無し 投稿日:2002年12月04日(水)00時44分34秒
- キター!新作!!
75さんの言うようによっすぃーの守備範囲の広さに脱帽です。
いいよなぁ、すてっぷさんは。こんなにもオモシロイ話が浮かんで。かなり嫉妬。
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月04日(水)04時07分58秒
- またニクイ時に新作が、三週間ということは…なんて想像してしまいますw
すてっぷ様のよっすぃ大好物なんでめっさ期待しております。
アッチの方の展開も気になるし…w
両方ずっとはりつかせて頂きますw
- 78 名前:おさる 投稿日:2002年12月04日(水)16時35分17秒
- お疲れ様です。
多分、今日、夢の中で、天使姿のガッツ石松が、よっすぃーのスパーリングを
受けていることと思います…。続きに期待。よっすぃー、ガッツ!
- 79 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月04日(水)22時31分31秒
――
すっ、とカラダが軽くなった。どうやら呪いが解けたらしい。
あたしは自由になった右手で、天使の差し出した砂時計を受け取った。
「ここには時計がありませんから、代わりにそれを使って下さい」
言われて辺りを見回すと、確かに時計らしきモノは見当たらない。
それどころかあたしの周辺には、物というものが一切無かった。
見渡す限りどこまでも続いている、何も無い空間と、白一色の硬い床。
見上げると頭上は濃い霧に覆われていて、天井があるのかどうかは判らない。
「12月24日、午前1時ちょうど。
この砂が全て下へ落ちた時、あなたは地上で別の人間に生まれ変わるのです」
なるほど。
時計もカレンダーも無い代わりにコレを見れば、あたしに残された時間があとどれくらいかわかる、ってコトか。
あたしは自分の手のひらに乗っかったそれを、じっと見た。
中にベージュ色の砂が詰まった、一見どこにでもある普通の砂時計。
ただ違うのは、普通の砂時計に比べて砂の落ちる速度が、極端に遅いコト。
ってゆーか、ホントに動いてんのかな、コレ。
さっきからじーっと見てるけど、砂はまだ一粒も落ちてない。
- 80 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月04日(水)22時33分41秒
- 「もう会うことはないでしょう。それでは、良い休暇を」
天使はそう言うと、あたしに背を向け歩き出した。
「ちょっと待ってよ」
あたしは慌てて彼を引き留める。
だって、こんな何も無いトコに一人ぼっちで置いてかれちゃたまんないもん。
「こんなトコで三週間も、どうしろって言うんですか?」
「退屈だ、と?」
天使はあたしへ振り返ると、逆に問い返してきた。
「それもあるけどさぁ…ココって、食べるモノとか、何も無いじゃないですか」
「ほう。あなた、おなか空いてるんですか?」
「いや…そういやぜんぜん、空いてないけど」
あたしが答えるとゴリラ、もとい、天使はにやりと笑って言った。
「でしょうね。ここでは、食事は必要ありませんよ。それから、睡眠もね」
確かに言われてみると、あたしが死んだのは昨日の朝。
丸一日以上なにも口にしていないはずなのに空腹感ってモノ、まるで感じない。
まぁ、死んでんだから当たり前っちゃあ、当たり前なのかも知れないけど。
- 81 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月04日(水)22時35分15秒
- 「そうそう、一時間ほど前ですかねえ。あなたぐらいの年の女の子が、ここへ来たんですよ。
彼女はあなたと違って、子供の頃からの病が原因でね。
もし一人で退屈なら、ちょうどいい話し相手になると思いますよ」
相変わらずのノンキ顔で、天使が言う。
まったくコイツに抗議したいコトは山ほどあれど、何を言ってもムダなコトは痛いほどよく解ってる。
彼の言うとおりあたしはもう死んでしまったし、生き返るコトも出来ない。もう、何も出来ない。
あたしに許されているのは、ココで来世までの三週間を、『待つ』コトのみ。
「そのヒト、どこにいるんですか?」
とはいえ、こんなトコで三週間もボーっと過ごすなんてあたしには耐えられそうに無い。
ゴリラの言うとおり退屈しのぎにもなるし、そのときをただ待っているより、
話し相手でもいたほうがよっぽどマシな三週間になるはず。
あたしにとっても、そしてたぶん…まだ見たコトのない、その彼女にとっても。
「さあ。そんなに遠くへは行ってないと思うんですけど」
「さあ、ってオマエなぁ」
ムダな抵抗と知りつつも、やっぱりコイツには抗議したい事項が山積み。
- 82 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月04日(水)22時37分21秒
- 「まだこの辺をうろうろしているかも知れないから、探してみてはいかがですか? そんじゃ」
天使は一方的に言うと、魔法みたいにあたしの前から、すっ、と消えてしまった。
「………」
ヤツはもう、二度とあたしの前には現れないつもりだろうか。
あたしは拳を握り、ついさっきまでヤツが立っていた場所を穴が開くほど凝視した。
さらば石松。死ぬ前に、いや生まれ変わる前に一度でいい、おまえを…殴っておきたかった。
「んじゃ、行きますか」
シーン…。何も無い空間に、あたしの独り言が虚しく響く。
あーあ。ホントにひとりぼっちになっちゃったんだなぁ、あたし…
こういう状況に置かれると、あんなオッサンでも居てくれた方がよっぽどマシだなんて思えてくる。
いかんいかん、こんなコトでは。とっとと話し相手を探しに出かけよう。
天使によると、彼女がココへ到着したのは今から一時間ほど前、とのこと。
グズグズしてると、どんどん遠くへ歩いて行っちゃうかも知れない。
こうしちゃいられない。あたしは大切な砂時計をポケットに仕舞うと、あても無く歩き始めた。
- 83 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月04日(水)22時39分05秒
- 景色の無い道を一人ぼっちで歩いていると、ココへ来る前に見てきたいろんな場面が思い出された。
写真の中で、笑ってたあたし。
当たり前だけどアレを撮ったときのあたしは、まさかこの写真が自分の葬式で遺影として使用されるなんて思いもしなかった。
泣いてたお母さん、必死に堪えてたお父さん。
友達、先生、それから他にもたくさん。
あたしには、あたしがいなくなったときに泣いてくれるヒトが、本当にたくさんいたんだ。
死んでからそんなコトに気付くってのも、なんだか皮肉なハナシだけど。
「…っ」
やばい。いろんなコト思い出してたら、なんだか泣けてきてしまった。
肩口でぐしぐしと目を拭うと、あたしは足を速めた。
一秒でも早く、誰かと話がしたかった。
「待って」
ふいに誰かの声がして、あたしは後ろを振り返った。
「あ…」
距離にして2メートルぐらい後方に、女の子が座ってる。
あたしの後ろに座ってるってコトは、あたしは彼女の前を気付かずに通り過ぎてしまったんだろう。
考え事してたとはいえ、我ながらマヌケだなぁ。
- 84 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月04日(水)22時41分33秒
- 「ねぇ」
女の子は立ち上がると、あたしの方へ歩いて来て言った。
彼女は、あたしとお揃いのワンピース着てる。
どうやらココへ来ると誰もが、強制的にこのカッコさせられるらしい。
「あなたも、死んだの?」
甘ったるくてカワイイ、いかにも『オンナノコ』な声。
肩まで伸ばした黒髪。身長はたぶんあたしより10センチ近く小さい、160弱ってトコだろうか。
女の子にしては低音の声に、髪はショートでちょっとだけ茶色くしてるあたしとは対極の存在、ってカンジ。
すっと鼻筋の通った、綺麗な顔立ち。
彼女、同性のあたしから見ても、すっごくカワイイ。
生前はさぞや、クラスの男子にモテていただろうと思われる。
なんというか、惜しいヒトを亡くしたというか…ああ、もったいない。
「ねぇってば」
「えっ」
しまった。彼女に見とれるあまり、シカトしちゃってた。
「あ、うん。そっちも、だよね」
あわてて尋ねると、彼女は静かに頷いた。予想通りの回答。
あたしと歳も近そうだし、天使が言ってた『ちょうどいい話し相手』ってのはたぶん、このコのコトだろう。
- 85 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月04日(水)22時43分56秒
- 「もしかしてさぁ、インチキくさい天使に会ったでしょ?」
あたしは念のため、確認してみる。
「うん。なんか、ちょっと怪しい人」
「ガッツ石松に似てるよね、あのヒト」
カンが当たって調子に乗ったあたしは、ついでに自らの感性をも確認。
「あ、私も思ったそれ」
「でしょっ? だよねー!!」
あたしは彼女の顔を指差し、声を上げた。このコとは、めちゃめちゃ気が合いそうな予感がする。
彼女は一瞬きょとんとして、そして、くすっ、と笑った。
「あっそうだ。あたしは、吉澤ひとみ。そっちは?」
あたしは、自分の名前よりも先に『ガッツ石松』の名を彼女にインプットしてしまったコトを悔やみつつ、自己紹介。
「石川、りか」
「へぇ」
りか、って響きが可愛くて、なんだか彼女にハマリすぎていて、あたしは思わず微笑んだ。
- 86 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月04日(水)22時47分05秒
- 「りか、って、どーゆー字?」
「なし、っていう字、わかる?」
「なし、って果物の、ナシ?」
うん、と言うと彼女はしゃがんで、床の上に指で大きく、『梨』と書いた。
「りかの『か』は、こういうの」
彼女はまた同じように指で、今度は『華』という字を書いた。
「そっかぁ」
あたしはまた微笑んだ。石川梨華。漢字にしてもやっぱり、彼女にハマりすぎている。
「梨華ちゃん」
あたしはいきなり、彼女を名前で呼んだ。
「なに?」
「あ、べつに、ちょっと、呼んでみた」
友達を名字じゃなく、初めて名前で呼ぶときって、少し緊張する。
普通は名字から、下の名前とかあだ名に変わるまでに少し時間がかかったりするものだけど、あたしには時間が無い。
最初に彼女のコト『石川さん』って呼んじゃったら、結局最後まで『石川さん』な気がするし、
それでも別に構わないんだけど、なんとなく寂しい気もする。
だって彼女は今の吉澤ひとみにとって、きっと、最後の友達になるんだから。
- 87 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月04日(水)22時49分27秒
- 「ひとみちゃん、は、どういう字、書くの?」
あたしの名前を呼んだ梨華ちゃんの声は、少し上ずっていて不自然だった。
きっと彼女もあたしと同じで、緊張してたんだろう。
「ひらがな」
梨華ちゃんがなんだか照れくさそうにしてたんで、あたしは間髪入れずに答えてあげた。
「でもねぇ、よしざわの『ざわ』は、難しい方の字なんだけど」
あたしも梨華ちゃんのマネして彼女の隣にしゃがむと、指で大きく『澤』を書いた。
あたしたちは、床に足を投げ出して座った。
「良かった。私、これから一人でどうしようって、すごく不安だったから…。
でもひとみちゃん、気付かずに行っちゃうから、とっさに声かけちゃった。うそーって。行かないでーって」
梨華ちゃんが大げさに、泣きまねをする。
「ゴリに聞いてたからホントはあたし、梨華ちゃんのコト探してたんだけどね。ちょっと、ボーっとしてた」
緊張したのは最初の一回だけ。二度目からはもう自然に、あたしたちはお互いを名前で呼び合えてた。
「泣いてた、でしょ。ひとみちゃん」
「えっ」
ドキッとした。あのとき泣いてたの、梨華ちゃんにしっかり見られてたらしい。
- 88 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月04日(水)22時52分02秒
- 「あ、バレてた? 実はね。ボーっとしてたんじゃなくて」
あたしは思わず苦笑い。
「あのね。ヘンな話、してもいい?」
両手をもじもじさせながら、梨華ちゃんが言った。
「えっ?」
てっきり泣いてた理由を聞かれるものだと思ってたあたしは少し、拍子抜け。
「私ね、自分のお葬式、見てみたいって思ったことがあって」
あ…。
「いつも仲良くしてるコとか、お父さんとかお母さんとか…みんな、私が死んだら泣くのかなぁって」
同じだ。梨華ちゃん、あたしと同じコト考えてる。
どきどきしながら、それから、死んでんのにどきどきとかするんだなぁ、とか思いながら、あたしは彼女の声を聞いていた。
「見れたの?」
「うん。みんな案外、」
「「悲しがってた」」
梨華ちゃんは、あたしを見てきょとんとしてる。
「あたしもね、同じコト思ってたから」
「そうなんだ」
そう言うと梨華ちゃんは、安心したようにため息をついた。
- 89 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月04日(水)22時54分26秒
- 「私ね、それ見て、なんかホッとしたの。自分が死んじゃってるのに、こんなのヘンだけど…。
だって悲しんでくれる人がいるってことは、私がこの世に生きてた意味、少しはあったってことだから」
横目でそっと、梨華ちゃんの顔を盗み見る。
梨華ちゃんはあたしの視線にはまるで気付かずにぼんやりと、どこか遠くの方を見つめている。
「私、小学生の頃からずっと、病院にいたのね。退院できてもまたすぐに入院して、ずっとその繰り返しで」
…そっか。梨華ちゃんは病気が原因でココに来るハメになったんだって、あの天使が言ってたっけ。
あたしは彼女が生前はさぞかしモテまくりだったんだろう、なんてノンキに考えてたコト、深く反省。
- 90 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月04日(水)22時56分43秒
- 「だから、友達だってほとんどいなかったし。
お見舞いに来てくれたり、元気になってねって言ってくれるコも、もしかしたら上辺だけなのかもって。
家族にも迷惑かけてばっかりだったし…だから私が死んでも、泣く人なんかいないんじゃないかって思ってたから。
ヘンでしょ? いろんな人が泣いてくれて、うれしいとかじゃなくて、ホッとしてるんだよ、私」
梨華ちゃんは、悲しいカオで笑った。
ちょっと矛盾してる気もするけど、梨華ちゃんの笑顔は、悲しい笑顔。
悲しいときに笑うのは、声を上げて泣くのよりもずっと辛いことだ。
でもきっと彼女は、子供の頃からずっとそうやって生きてきたんだろうなぁって、あたしは思った。
「あたしもそうだよ。みんなが泣いてんの見て、ホッとしたもん」
それは半分は嘘で、半分は本当だ。
- 91 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月04日(水)23時00分59秒
- あのときのあたしは家族や友達が泣いてるの見て、素直にうれしかったんだけど…
思うにそれは、自分が誰かに愛されてたり、必要とされてたり、そういうのを確認できたのがうれしかったんだと思うワケで。
そういう気持ちは、梨華ちゃんの言う『ホッとした』ってのと、根底は同じだと思うんだ。
だから、
「梨華ちゃんだけじゃないよ」
すると梨華ちゃんは例の悲しい微笑を浮かべて、小さな声で「ありがとう」って言った。
もしかして嘘ついたの、バレちゃったかな…。
「ひとみちゃんは、どうして…」
「あたし?」
きっと、あたしの死因のコト言ってるんだな…。
「ええっとぉー、ひとみはぁ、交通事故でー、あっけなく逝っちゃいましたぁ」
ブリッコ口調であたしが言うと、梨華ちゃんは声を上げて笑った。
「ひっどぉーい。笑い事じゃないでしょー?」
「だってひとみちゃん、笑かそうとしてるもん、ぜったい」
あたしの狙い通り梨華ちゃんは、本当に楽しそうに笑ってる。
おせっかいかも知れないけど梨華ちゃんがもしも地上にいたとき、心から笑えなかったんだとしたら。
ココではたくさん、笑えるといいよね。
- 92 名前:すてっぷ 投稿日:2002年12月04日(水)23時04分34秒
- 感想、どうもありがとうございます。
>75 名無し読者さん
色々とやってきましたが、ついに冥界へ。ある意味、究極ですよね…。
でも今回、始まりが素っ頓狂なわりには、ちょっとシリアス目な話になるかと。
>76 名無しさん
とんでもないです…毎回、悲しいほどワンパターンだし。
読んで下さる方々にはホント、感謝してます。。
>77 名無し読者さん
一応、クリスマス前に完結、を目標に。
なのでアッチの方は、お待たせしてしまうことになるかも…ホント勝手で、申し訳ないです。。
よっすぃー、お気に召して頂けて光栄です(笑
>78 おさるさん
どうもです。激しい動きで、ガッツ天使のスカートが
ヒラヒラめくれたりとかしちゃうんですね!嫌な夢…。
- 93 名前:名無し 投稿日:2002年12月04日(水)23時09分44秒
- 自分も中学生ぐらいの時いつも考えてたなぁ。
今自分が死んだら何人泣いてくれるのだろうかって。
家族以外泣いてくれるのか?家族は本当に泣いてくれるのだろうか?
好きな人は?友達は?
人がいるからこそ孤独って感じてしまいますよね。
早くも泣きそうです。
- 94 名前:ポー 投稿日:2002年12月04日(水)23時18分26秒
- 待ってました!!
金板も毎回読ませてもらってマス。
天使姿のガッツ・・・。想像するだけでコワイですね(w
ミニスカワンピのよっすぃと梨華ちゃんは、想像するだけでカワイイのに。
これからの展開に、すてっぷさん節が炸裂されるのを期待してます。
- 95 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月04日(水)23時35分08秒
- 更新、お疲れ様です。
すてっぷさんの描くよっすぃ〜、大好きです。すてっぷさんのやぐよしも
イイんですが、今回の石吉はエエなぁとニヤけてます。
天使のガッツさん・・想像するだけで笑えましたw
- 96 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月05日(木)02時07分49秒
- なるほどいしよし違い。
- 97 名前:名無し読者77 投稿日:2002年12月05日(木)05時16分56秒
- アッチは待ちますよってか早速この世界にハマリましたんでw
2人に素敵なクリスマスが訪れるようにと祈らずにはいられません。
それにしても「いしよし」ツープラトンですか…ハズシませんねぇw
次回更新をお待ちしております!
- 98 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
- 川o・-・)ダメです…
- 99 名前:おさる 投稿日:2002年12月05日(木)18時10分47秒
- すてっぷさん、更新、早っ!そして、全ての「ディアフレ」読者に向けて、
「いしよし」もえもえX'masプレゼント炸裂! …って疲れた…
何もない、だだっ広い空間に二人きりっていうのも、やはり「密室」なんでしょうか?
この劇空間で繰り広げられる、三谷幸喜ばりの展開キボーン。
- 100 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月07日(土)23時08分36秒
――
「色、ちがうんだね」
あたしはポケットから自分の砂時計を取り出すと、床の上に、梨華ちゃんのと並べて置いた。
「ホントだ。ひとみちゃんのはホントに、砂みたいな色してる」
あたしの砂時計の砂はベージュ色で、あたしと同じく例の天使にもらったという梨華ちゃんの砂時計には、
ピンク色の砂が詰まっている。
「でもこんな小っちゃくて、三週間も持つんだねぇ」
砂はあたしのも梨華ちゃんのもまだ、ほんの数粒しか下へ落ちていない。
もらってすぐポケットに入れちゃったから、砂が落ちた瞬間をまだ見たコトがないんだけど…
聞けば梨華ちゃんもずっとポケットに入れたままで、まだ目撃していないとのコト。
「私のは、ひとみちゃんのより一時間ぶんくらい早く、落ちてるってコトよね」
「んー。見た目じゃあんま変わんないけど、そうなんだろうね」
「本当にコレ、大丈夫なのかなぁ」
梨華ちゃんは少し不安そう。
- 101 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月07日(土)23時10分20秒
- 話によると梨華ちゃんは、12月24日の午前0時に生まれ変わると、天使に告げられたらしい。
あたしは同じ日の午前1時だってハナシだから、梨華ちゃんよりも一時間遅く地上に生まれるってコトになる。
天使の話だと、梨華ちゃんはあたしの一時間ぐらい前に砂時計を受け取ってるらしいけど、
彼女はあたしより一時間早く生まれ変わるんだから、入ってる砂の総量はあたしのとほぼ同じなはず。
天使が言ってた、梨華ちゃんが『一時間ほど前に』ココへ来た、ってのを信じるならば、
梨華ちゃんの砂時計はあたしのより一時間先を行ってるはずなんだけど…
この砂時計、落ちるペースが激遅だし、いったい何分毎に一粒ずつ落ちてるのかもわかんないし、
今ひとつ信用性に欠けるモノがある。
ってゆーかそれ以前に、砂時計なんつー原始的なモンで人生の残り時間を計れってコト自体、まったく酷いハナシだと思う。
ちっきしょー、石松め…! 心の奥底に眠っていた怒りが、ふつふつと甦ってくる。
まだ砂がぜんぶ落ちてないのに、心の準備も無くいきなり生まれ変わるハメになったりしたら、
あのヤロー…今度こそ、アンパンチくれてやっからなっ。
- 102 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月07日(土)23時12分06秒
- 「ねぇ、生まれ変わったらなにしたいとか、もう考えてる?」
「えー?」
考え事してたせいで無防備だったあたしは、フニャフニャのアホ面で聞き返してしまった。
「ねぇ、考えたりしてる?」
あたしのマヌケ顔とは反対に、梨華ちゃんの表情は真剣そのもの。
だけど生まれ変わった後、つまり来世で何がしたいかなんて…梨華ちゃんってば、突然なに言い出すんだろ。
天使も言ってたけど、生まれ変わったらあたしたちはもう、今のあたしたちじゃなくなっちゃうってのに。
「いや…考えるもなにもうちら、覚えてらんないんだよ? そんなの、考えるだけムダじゃない?」
あたしの言ってるコト、正論だって自信あるのに…梨華ちゃんの真っ直ぐな目で見つめられると、
なんだか悪いコトしてるみたいな気がしてきて、あたしは彼女から視線を逸らした。
「本当に、なにも残らないと思う?」
梨華ちゃんは、さらに真剣なカオで聞いてくる。
「…どういう意味?」
あたしは困ってしまった。
梨華ちゃんって、ちょっと頑固なトコあんのかなぁ…しかも言ってるコト唐突だし。意味もよくわかんないし。
- 103 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月07日(土)23時13分38秒
- 「私が生きてたときに、なにが楽しかったとか、なにが美味しかったとか、うれしいのとか悲しいのとか、
それから、生まれ変わったらなにがしたいとか、そういうのぜんぶ、無かったことになっちゃうのかな」
「ああ、そーゆーコトかぁ」
あたしはそれきり、何も言えなかった。
実際のところあたしにもよくわかんないし、死んでるって言われたって今あたしはこうして動いたり喋ったりしてるワケだし、
自分という存在が消えてしまうコトへの実感は、まだちゃんと湧いてない。
「じゃあ…梨華ちゃんは、なにがしたいの?」
あたしは彼女が何も言ってくれないんで、苦し紛れに聞いた。
「聞くんだ? 考えるだけムダなんでしょ?」
梨華ちゃんが、意地悪く質問してくる。
むぅ…口元がびみょーに緩んでるトコ見ると、怒ったフリであたしをからかって楽しんでいると見える。
「やー、ほら、よく考えたらさ、あたしは梨華ちゃんよか一時間、長生きできるワケじゃん?
だから梨華ちゃんが生まれ変わっても一時間は、あたしが覚えててあげられるっしょ」
「あはっ、『長生き』ってなにー?」
とうとうこらえきれずに、梨華ちゃんは笑い出した。
- 104 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月07日(土)23時15分12秒
- 「でも、ホントに教えて? 気になるよ」
あたしが真剣に聞くと、
「ひとみちゃんみたいになりたい」
床に立ててあった、あたしの砂時計に触りながら、梨華ちゃんが言った。
「ひとみちゃんみたく、元気なコに生まれ変われたら…それ以上に幸せなコトって、ないよ」
「……そだね」
あたしならたとえば、得意のバレーボールでオリンピック行きたいとか、ちょっと壮大なコトを望んじゃうんだけど。
あたしが今まで普通にしてきたコトが、梨華ちゃんにとってはずっと、我慢しなきゃいけないコトだったんだもんね。
「ねぇ、ちょっと歩かない?」
あたしは立ち上がると、梨華ちゃんの答えも聞かずに右手を差し出した。
「どこに行くの?」
あたしの手を取って、梨華ちゃんが言う。
- 105 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月07日(土)23時17分17秒
- 「どこ行っても、なにも無いとは思うけどさ。ココでじっとしてるよりマシじゃん」
「そっかな。なにも無いとは限んないんじゃない?」
梨華ちゃんは立ち上がると、空いた方の手でスカートに付いた埃を払ってる。
「梨華ちゃんってなんつーかさぁ……前向きだよね」
「そう。ポジティブなの、私」
冗談っぽく笑う。
見渡す限りなにも無い空間と、真っ白な床、霧に覆われた真っ白な天井。
白い世界の中で、あたしと梨華ちゃんの砂の色は、やけにくっきりと浮かび上がって見える。
「コレ忘れちゃ、大変だよね」
梨華ちゃんはつないでいた手を離すと、あたしの砂時計と自分のとを拾い上げた。
あーあ、手、離しちゃった……ってなにコドモみたいなコト考えてんだ、あたしは。
だけど小学生の遠足みたいに、誰かと仲良く手つないで歩きたい気分だったんだけどなぁ。
「ひとみちゃん?」
「んっ?」
我に返ると、梨華ちゃんが不思議そうにあたしの顔、覗き込んでた。
- 106 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月07日(土)23時19分37秒
- 「はい、ひとみちゃんの」
「ああ、ありがと」
落とさないでね、と言うと梨華ちゃんは、あたしの手にそれを握らせてくれた。
たぶん小学生の遠足みたく、誰でも良いから誰かと手をつないで歩きたいだけのはずなんだけど、
野球部のAくんでも、ブラスバンド部のBくんでも、とにかく誰でも良かったはずなんだけど……
だったらどうしてこんなに、手が触れただけでこんなに、どきどきしちゃうんだろ。
「…気のせいでしょ」
ひとみちゃんが梨華ちゃんに、つまりオンナノコがオンナノコに、どきどきとかするワケないっしょ。
それからついでに言っちゃえば、うちら死んでんのに、どきどきとかするワケないっしょ。
「ひとみちゃん?」
「んっ?」
我に返るとまたもや梨華ちゃんが、不思議そうなカオしてあたしを覗き込んでた。
「行こ」
ふわっ、と、あたしの左手が引かれる。
「…あーい」
脳内ではさんざん否定してたくせして、あたしのカラダは正直モノ。
にやぁ、って思わず、口元が緩んでしまう。
梨華ちゃんは照れくさいのか、何も言わずにあたしの手を引っ張ってずんずん歩いてく。
- 107 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月07日(土)23時21分40秒
- 「ねぇ、梨華ちゃんって遠足とか、行ったコトあんの?」
「ううん。そういうのってぜんぶ、ダメだったから」
梨華ちゃんは、ようやく歩く速度を緩めてくれた。
「じゃあ、コレは遠足ってコトにしよ」
「えーっ、さみしいよー。お弁当もおやつもないのに?」
あたしのせっかくの提案なのに、梨華ちゃんは不満顔。
「いーじゃん。ワガママ言わないでよ、イシカワさーん」
「いーでしょ、ずっとワガママ言えなかったんだから」
生きてるときにワガママ言えなかったからって言いたいんだろう。
でも気持ちはわかるけど、無理なモノは無理なんだからね。
「じゃあ、ビンボー遠足ってコトでひとつ」
名称を変更すると、梨華ちゃんは唇を尖らせて無言の抗議。
「はあーい、ちゃんと先生に付いてきてくださいねー、イシカワさあーん」
耐え切れず、梨華ちゃんが吹き出す。
「もう、わかったからやめてよ、その呼び方」
彼女の『怒ったフリ』は今ひとつ、持続性に欠けるらしい。
- 108 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月07日(土)23時24分05秒
- 「じゃあさ、じゃあさぁ」
つないだ手をぶんぶん振りながら、二人して歩く。
あたしたちは靴を履いていなかったけど、硬い床は冷たすぎず暖かすぎずちょうどいい、適温ってやつ。
「なに歌おっか?」
やっぱり遠足といえば、合唱だよね。二人しかいないってのが、ちょっと寂しいけど。
「えっ?」
梨華ちゃんはきょとんとしてる。
確かに、今までの彼女の辞書に遠足の二文字は無かったんだから…この反応も、当然といえば当然かな。
「だって遠足といえば歌でしょ、やっぱり」
初心者の梨華ちゃんに、あたしは遠足の何たるかを優しくレクチャー。
だけど当の梨華ちゃんは、どうしたんだろ…なんか浮かない顔してる。
「いいよ、私は。ひとみちゃんだけ、歌えば?」
「はあ? なにそれ」
なんて協調性のない…まったく、ワガママにも程があるってモンだ。
「なんでー? いっしょに、」
言いかけて、ハッとする。
梨華ちゃんってば、もしかして……。
「もしかしてさぁ、梨華ちゃんって……オンチ、とか?」
「やっ!? ちがっ、ちがいますぅー!! ぜったい違うんだからねっ!!」
どうやら図星だったらしい。
- 109 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月07日(土)23時26分11秒
- 「いーじゃん、へたくそでも。誰もいないんだし」
「…ひとみちゃんがいるじゃん」
「ああ、へーきへーき。あたし、耳は頑丈にできてるから」
つないだ手が後ろへ引っ張られる。
梨華ちゃんが、立ち止まったんだ。
「もういい。私行かない」
拗ねたように言う。
「じゃあ、あたしも行かない」
あたしが反撃に出ると、梨華ちゃんは下を向いて黙り込んでしまった。楽しい遠足は一転して、険悪ムード。
梨華ちゃんはきっと、生前言えなくて溜まりに溜まったワガママを、ここぞとばかりあたしにぶつけてるんだろう。
しゃーない、ココはひとつ吉澤サンが、オトナになりますか。
「じゃあ、歌わない。だったら行く?」
梨華ちゃんは上目遣いであたしを見ると、こくん、と頷いた。
あたしが彼女の手を引いて、あたしたちは再び歩き出した。
- 110 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月07日(土)23時28分14秒
- 「不思議だよね」
死んでんのに、どきどきとかするのもヘンなハナシだけど。
手をつないで歩いてると、それと同じくらいに不思議なコト、あたしは今さらながら発見した。
「なに?」
「ほら」
あたしは、つないだ手に力をこめる。
「ちゃんと、あったかい」
すると確かめるように、今度は梨華ちゃんがあたしの手をぎゅっと握り返した。
天使の計らいなのか、それともあたしが『あったかい』とか『どきどきしてる』とか、
勝手に思い込んでるだけなのかも知れないけど。
「…ホントだ」
梨華ちゃんも同じように感じてくれてるのなら、そんなのはどっちだっていいやって思う。
- 111 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月07日(土)23時30分20秒
- 「やだ、すっごい目立つ…」
歩きながら、独り言みたいに小さな声で、梨華ちゃんが言った。
彼女はあたしとつないだ手を、じーっと見つめてる。
「どうしたの?」
「私…色、黒いでしょ。だからひとみちゃんとくっついたらホントに、白と黒、ってカンジだもん」
そう言うと梨華ちゃんは、恥ずかしそうに目を伏せた。
あたしは立ち止まって、改めて彼女の姿を上から下まで眺めてみる。
梨華ちゃんの顔、半袖の腕、ミニスカートから伸びた細い脚。
言われてみると確かに梨華ちゃんの肌は、あたしが夏にちょっと日焼けしたときみたいな、ほんのり小麦色。
コレが日焼けでないとしたら…本人に言うと怒るだろうけど、リッパな『地黒』ってやつだと思う。
「そんなに見なくていいってば」
梨華ちゃんが唇を尖らす。
「あ、ゴメン」
梨華ちゃん、色が黒いコト、歌が苦手なのと同じくらい、気にしてるのかも知れない。
あたしはごまかすように、彼女の手を引いて歩き出した。
真っ白な世界の中で、あたしと梨華ちゃんの砂の色に加えてもうひとつ、色があった。
だけど本人に言うと怒られそうだから、コレはあたしだけの秘密にしておく。
- 112 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月07日(土)23時33分13秒
- 「白と黒か。お葬式カラーじゃん」
「ひとみちゃん…それ、笑えない」
「そぅお?」
笑えない、って言ったくせに梨華ちゃんは言葉とは反対に、けらけら笑ってる。
イブまでの三週間は、とても楽しい毎日になりそう。
だけどそれが終わる日のコトを、あたしはまだ考えたくはなかった。
だいじょうぶ。
砂はまだ、ほとんど落ちてやしない。
梨華ちゃんの手を引きながら、あたしはポケットに砂時計を仕舞った。
- 113 名前:すてっぷ 投稿日:2002年12月07日(土)23時36分35秒
- 感想、どうもありがとうございます。
>93 名無しさん
同感です…。子供の頃と違って中学ぐらいになると、
友達とか周りの人たちとの結びつきがより深くなってくるせいか、
他人の中の自分、ってのをすごく意識してた気がします。
>94 ポーさん
目を閉じて、さらに想像してください……
→スカートからチラリと覗くスネ毛(剛毛)、愛くるしい笑顔、そして、無精ヒゲ。
金板もお読み頂き、感謝です!
>95 名無し読者さん
ありがとうございます。最近いしよしが続いてるんですが、
やぐよしは忘れた頃にやって来ると思いますので(笑)、
その時はまた、読んでやって下さいませ…。
- 114 名前:すてっぷ 投稿日:2002年12月07日(土)23時38分52秒
- >96 名無し読者さん
気付いてくれる人がいたとはっ…!
>97 名無し読者77さん
金板、お待たせしてて本当に申し訳ないです。とりあえず、コッチ優先で。。
魅惑のツープラトン。
いしよしと見せかけて最終的にいしよし(石松・吉澤)になっちゃったら怒られそうだなぁ(笑
>99 おさるさん
自分にしては奇跡的な早さで更新しております…。
密室…ですね。まさに、二人だけの世界(笑)
でも実際、天使を娘。以外の人物にしたのも、「二人の世界」ってのを強調したいからだったり。
- 115 名前:名無し読者77 投稿日:2002年12月08日(日)08時38分37秒
- 元気なコに生まれ変わりたい石川さん…遠足に行った事の無い石川さん…
なんかちょっと幸せってやつを考えてしまいました…
あっ、いかんいかん。え〜と何か気の利いたレスを…う〜〜ん…
お葬式カラー萌えっ!ってダメだ自分はw
次回更新待ち遠しいデス!
- 116 名前:名無し娘。 投稿日:2002年12月08日(日)10時38分37秒
- 「え☆H」が進まないなぁ、なんて思ってたらコッチだったとは(^^;
もっと世の中の全てに気を配らないとダメですね。
別れを前提とした出会いと考えるとやたらブルーですが、
泣き笑いの準備は完了してるので面倒見てくださいまし。
- 117 名前:名無し 投稿日:2002年12月08日(日)17時05分48秒
- 白と黒でムースポッキー!と来ると構えてたのに
お葬式カヨ!!さすが吉澤コンピューターはじき出すものが違う…
育った環境などによってやっぱり幸せの姿形や量は変わってきますね
幸せの答こそがその人を映し出す鏡かもしれない。
- 118 名前:ほげ? 投稿日:2002年12月12日(木)12時29分09秒
- ふぁんたじぃだね
- 119 名前:もんじゃ 投稿日:2002年12月12日(木)23時47分39秒
- 乗り遅れちゃった。イヒッ。
しかしアンパンチって一体…。
ネコパンチならかろうじて知っているのですが。
イヴまでの約2週間よっすぃだけでなく私的にも大変楽しみですw
- 120 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月15日(日)14時08分25秒
――
「ちょっと、休もっか」
「え? 私、まだ大丈夫だけど」
梨華ちゃんは平然と言い放つ。
「…ちがくて。あたしが、疲れたの」
あたしは足を止めた。あたしと手をつないでる梨華ちゃんも当然、いっしょにストップ。
「ってゆーか梨華ちゃん、なんでそんなに元気なのー?」
あれから途中に何度か休憩を挟みつつも、あたしたちはひたすら、景色の無い空間を歩き続けた。
歩き疲れて全身バテバテのあたしとは対照的に、梨華ちゃんの表情に疲労の色はゼロ。
最後に休んだの、いつだろう…ココには時計が無いから、いったい何時間歩き続けてるのかわかんないけど、
そーとー、そーとー、そーっとぉな距離を歩いたコトだけは、間違いない。
(自称)校内一の健脚少女であるあたしの足が棒のよーになってるのが、なによりの証拠。
「だって、こんなに歩いたの初めてなんだもん。なんか楽しくて」
「気持ちはわかるけどさぁ」
まだ先は長いんだから…ってのもヘンか。
だってあたしたちが行こうとしてる先には、ゴールなんか無いんだもんね。
- 121 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月15日(日)14時10分03秒
- 「ふああ、つっかれたぁー」
あたしは床に大の字になった。
梨華ちゃんはあたしのすぐ傍に、横座りしてる。
「ひとみちゃん、なんかオジサンみたい」
あたしを見下ろしながら、呆れたように梨華ちゃんが言う。
勝ち誇ったようなその態度にカチンときたあたしは梨華ちゃんの方へごろりと寝返りを打つと、言った。
「んだよぉ。んーなコト言う悪いコはぁ、オッチャンがぁ、スカートめくっちゃうんだからなあああ」
あたしは寝転んだまま、素早い動きで梨華ちゃんの膝に手を伸ばす。
「やあっ、ちょっと」
梨華ちゃんはスカートの裾を押さえながら、必死の抵抗。
「えへへへへ。はいてんのかよぉ、ちゃんとはいてんのかよぉぉ」
「はいて、ますっ!」
ノッてくれてるのか本気で答えてるのかわかんなくて、あたしは少々戸惑いを覚えた。
「なーんてね」
これ以上やるとほとんどヘンタイなので、あたしは大人しく梨華ちゃんの膝から手を退ける。
こーゆーのは、引き際がカンジン、ってね。
「もうっ」
まだ警戒してるのか梨華ちゃんは、なおも両手でスカートの裾をしっかり押さえてる。
- 122 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月15日(日)14時11分29秒
- 「でもゴメン、ホントに見えちゃった」
「うそっ!?」
「うそぉ」
「もーっ!」
カオを真っ赤にした梨華ちゃんが、あたしの腕をぴしゃりと叩く。
「あはははは」
あたしは、床の上で笑い転げた。
梨華ちゃんってメチャメチャ、からかい甲斐のあるコだなぁ…。
「はは、は」
ってゆーかちょっと、なにやってんだあたしは。
コレじゃまるで、『バカッポー、彼の部屋でじゃれ合う』の図じゃないか……あたしは軽く、自己嫌悪。
ひとみちゃんが梨華ちゃんに、つまりオンナノコがオンナノコに、どきどきとかするワケないっしょ、ってあれほど…。
「ねぇ」
話しかけられて我に返ると、あたしの目の前には梨華ちゃんの砂時計が置かれていた。
「もう、一日とか、経っちゃったかな」
言われてあたしは、まじまじとそれを見る。
梨華ちゃんは不安そうなカオであたしのコト、見下ろしてる。
「24時間ってコト? さすがにそれはまだでしょ」
あたしが答えると梨華ちゃんは、ホッとしたように頷いた。
- 123 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月15日(日)14時14分04秒
- 梨華ちゃんの、残り時間が気になるって気持ち、同じ立場にあるあたしにもよくわかる。
だけど実際、下に落ちてる砂は、指でほんのひとつまみ、って程度。
上から覗いてもまだぜんぜん、底が見えてる状態。
(あんまりアテにはなんないけど)ひとみの体内時計から予測しても、せいぜい半日ってトコじゃないだろうか。
「こんなの、まだ見なくたっていいよ」
「そうよね。まだこれだけしか、落ちてないもん」
自分に言い聞かせるみたくそう言って梨華ちゃんが、傍の砂時計を弄ぶ仕種に、あたしは見とれた。
細くて綺麗な指。人差し指がガラスを、下から上に向かってゆっくりと、繰り返しなぞる。
あたしはなんとなく、彼女の仕種に込められた意味がわかった気がして、そのリズムに合わせて心の中で何度も唱えた。
時間よ戻れ。時間よ、戻れ。
「梨華ちゃん」
「うん」
梨華ちゃんは砂時計を、再びポケットの中に仕舞った。
- 124 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月15日(日)14時15分33秒
――
今日も、あたしたちは歩いてる。
って言っても、時間もわかんないし、お腹も空かないし、眠くもなんないから…
いったいどこまでが今日で、どこからが明日なのかなんて、ぜんぜんわかんないんだけど。
「ねぇ、もう何日ぐらい経ったかな」
梨華ちゃんのこのセリフ、もう何回ぐらい聞いたかな。
彼女とは反対に人生の残り時間についてなるべく考えないようにしてたあたしは、
その度に現実に引き戻されて、その度にずーんと、重たい気分になってしまう。
「んー、わかんないけどさぁ」
始めのうちはあたしも、えっとぜんぶで三週間なんだから一週間がコレぐらいとして、なんてマジメに答えてたんだけど…
梨華ちゃんがあんまり何度も聞いてくるんで、ちゃんと答えるの、だんだんメンドくさくなってしまった。
「一週間ぐらいじゃない?」
あたしは砂時計を見もせず、てきとーに答える。
歩きながらしょっちゅう砂時計を出しちゃあ、マメに確認してる梨華ちゃんとは対照的に、
あたしのはもうずいぶんと前から、ポケットの中に仕舞ったまま。
- 125 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月15日(日)14時18分15秒
- 「一週間、か…それぐらいかもね」
左に持った砂時計を眺めながら寂しそうに、梨華ちゃんが言った。
「えっ」
自分で言っといてナンだけど、まさか同意を得られるとは思わなかった。
あたしは立ち止まると、自分の砂時計を確認する。
するとあたしのイイカゲンな予想通り、砂は全体のちょうど3分の1くらいが下へ落ちてる。
気持ち、ちょっと多めに見積もったつもりだったのに…いきなり現実を突きつけられて、
あたしはまた暗い気分になってしまった。
「休憩する?」
あたしの暗い表情を『疲れ』ととったのか、梨華ちゃんが気遣ってくれる。
「うん」
なんだか歩く気力を失ってしまった…彼女の厚意に、素直に甘えるコトにしよう。
つないでいた手を離すと、あたしたちはその場に腰を下ろした。
二人の砂時計を並べて置くとすぐに、梨華ちゃんはあたしのそれを手に取った。
あたしの砂時計を自分の手のひらに乗っけて、何やらじーっと眺めている。
「ねぇ」
梨華ちゃんが言った。
- 126 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月15日(日)14時20分22秒
- 「海の砂って、本当にこんなカンジ?」
「え?」
梨華ちゃんの言ったコトの意味がわかんなくて、思わずキョトンとしてしまった。
彼女の視線の先には、あたしの砂時計。中にはベージュ色の砂が詰まってる。
「私、行ったコトないから」
「ああ…」
そっか。それで梨華ちゃん、あんなコト聞いたんだ。
「海に行くのも、ダメだったの?」
体に負担がかかるから、遠足に行っちゃダメってのは、わかる気がする。
だけど海なら、泳がないまでも眺めるぐらいだったら、車でだって何だって行けるじゃんか。
彼女には、そのぐらいのワガママも許されなかったんだろうか。
「言えば、連れてってくれたと思うけど…でもなんか、言えなかったの」
寂しそうな横顔。
(『家族にも迷惑かけてばっかりだったし…だから私が死んでも、泣く人なんかいないんじゃないかって思ってたから』)
最初に会ったとき、梨華ちゃんが言ってた。
海が見たい、ってたったそれぐらいのワガママが、梨華ちゃんの言う、
家族に迷惑をかけるコトなんだとしたら…そんなのってなんか、悲しすぎる。
- 127 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月15日(日)14時22分40秒
- 「そういうのさぁ…梨華ちゃんのお父さんとかお母さんも、言って欲しかったんじゃないかな」
今さらこんなコト言ったってはじまらないけど…案の定、梨華ちゃんは俯いて黙り込んでしまった。
「あ、なんか勝手なコト言ってるね。ゴメン」
梨華ちゃん、地上での辛かったコトとか、いろいろ思い出しちゃったのかもしれない。
あたしが謝ると梨華ちゃんは、「ううん」と短く言って、また黙ってしまった。
だったらあたしが、どこへでも連れてってあげるよ。
そんな風に胸張って言えたら、どんなに良いだろう。
けれど今のあたしが彼女のためにしてあげられるコトなんて、なにひとつ無い。
だってココには自転車も無いし電車だって走ってないし、海も砂浜も、とにかく何にもないんだから。
「りーかちゃん」
「…ん?」
上の空ってカンジでボーっとしてた梨華ちゃんは、あたしの呼びかけでようやく我に返ったらしい。
「なによぉ」
あたしが何も言わずじーっと見てると、梨華ちゃんがムクれて言った。
ココには時計がないから、何時間なのか何日間なのか、正確にはわからないけど…
梨華ちゃん、このごろ笑ってないなぁ。
- 128 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月15日(日)14時25分18秒
- 「そろそろ、だいじょうぶ?」
しばらく休憩した後で、梨華ちゃんが言った。
気遣ってくれてるのか、おそるおそる、ってカンジであたしの顔を覗き込んでくる。
「梨華ちゃん」
彼女の問いには答えずに、あたしは、
「海、見たいって思う?」
「あっ…」
梨華ちゃんが、小さく呟く。
「そっか……あの、なんかヘンな話しちゃったよね、私。ゴメンね、気にしないで」
ごまかすみたいに「行く?」と続けた梨華ちゃんに頷くと、あたしは立ち上がった。
「ひとみちゃんって、どんな子供だったの?」
「えー? こう見えてけっこー、しっかりモノだったよ。だって弟いるし」
「あ、でもそんなカンジする」
「梨華ちゃんは見たまんま、甘えんぼってカンジだよねー。でしょ?」
「そうかなぁ。自分ではしっかりしてると思うんだけど」
「そうかあ?」
いつもみたいに、手をつないで歩く。
でもあたしは、ずっと気になってた。
梨華ちゃんが海を知らないコトや、本当は行きたかったのに言えなかったコト、
それからそのコトを、たぶんあたしにだけ、話してくれたこと。
あたしは、ポッケの中の砂時計をぎゅっと握った。
- 129 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月15日(日)14時28分26秒
- あたしの砂時計には、海の砂によく似た色の砂粒が詰まってる。
砂はちょうど3分の1くらいが下へ落ちていて、二人に残された時間があと二週間しかないことを告げてる。
あたしは彼女に気付かれないように素早く、それを床に向かって叩き付けた。
「きゃっ」
梨華ちゃんが、小さな悲鳴を上げる。
底に板が当てられているだけのシンプルな作りの砂時計は、あたしの予想通り、あっさりと壊れてしまった。
残りの3分の2が入ってた方のガラスが二つに割れ、そこから砂が少し零れ出してる。
「うそ、どうしよう…ねぇ割れちゃってる」
何も知らない梨華ちゃんは、割れた砂時計の傍にしゃがんで、一人うろたえてる。
「やべー、やっちゃったよ」
自分のモノが壊れたんじゃないのに、まるで自分のコトみたく慌ててる梨華ちゃんを見てると、
自分のモノが壊れたってのになんだか、他人事みたいな気がしてくる。
誰かのために、自分のたいせつなものを失くしたってぜんぜん構わないと思えるのは、どんなときだっけ。
神様でも天使でも誰でもいいから、この不思議なキモチの正体ってやつを、あたしにわかりやすく説明してくれないだろうか。
- 130 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月15日(日)14時31分40秒
- 「あっ、そうだ。ちょうど良かった」
どうか、バレませんように…あたしは彼女の『天然』な部分に期待しつつ、わざとらしく演技。
だってあたしがわざとやったコト知ったら梨華ちゃん、ガオーって烈火のごとく怒り出すに決まってるし。
「ちょっと待ってね」
あたしは割れた砂時計を拾い上げると、中に残っていた砂を自分の手のひらに落とした。
そして砂が零れ落ちないようにそっと、彼女の隣に腰を下ろす。
「なんなの?」
あたしの左手に積もった小さな砂山を見て、梨華ちゃんは不思議顔。
「手、出して」
「えっ?」
「ほら」
あたしは、きょとんとしてて動こうとしない梨華ちゃんの手を取った。
砂山から砂粒をひとつまみすると、彼女の手のひらにパラパラと落とす。
「あ…」
梨華ちゃんは口を半開きにして、自分の左手を覗き込んでる。
「ザーっ」
あたしは擬音語つきで、残った砂を今度は一気に梨華ちゃんの手に落とした。
「海にあるのとは、ちょっと違うけどさ。でもだいたい、そんなカンジだよ?」
「…うん」
手のひらの砂山を指で弄りながら梨華ちゃんが微笑んでるのを見て、あたしも思わず微笑んでしまった。
- 131 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月15日(日)14時35分56秒
- 「でも、どうしよう。ひとみちゃんの砂時計…」
「いいよ、梨華ちゃんのがあるし」
あたしは、まだ心配そうにしてる梨華ちゃんの言葉を遮って言った。
「だって私のは、ひとみちゃんのより早く落ちちゃうんだよ?」
「そうだけどさぁ」
ああもう、しつっこいなぁ…ぶっ壊れちゃったモンはしょーがないだろっつーの!
「一時間くらい、どってことないよ」
ムッとしてつい、ぶっきらぼーな言い方になる。
「それに梨華ちゃんがいなきゃ、」
思ったコトそのまま口に出しそうになって、あたしは慌てて言葉を飲み込む。
そして、気が付いてしまった。
あたしが、あたしの砂時計を壊せたのは…それが自分にとって、必要の無いものだからだ。
「なに?」
「ううん。行こっか」
あたしは両手に付いた砂を払い落とすと、梨華ちゃんの答えも聞かずに歩き出した。
「梨華ちゃーん、行くよー」
少し先で振り返ると、梨華ちゃんはまだ、さっきの場所にしゃがみ込んで何かやってる。
「あーっ、待ってよ!」
駆け寄ってきた彼女の手を取って、あたしは再び歩き出す。
- 132 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月15日(日)14時39分36秒
- 「ねぇ、私のが終わったら、ひっくり返して使って。全然わかんないよりマシでしょ?」
「まだ言ってる。どってことないってば」
「どってことなくないよっ」
梨華ちゃん、やけに絡むなぁ…あたしは思わず苦笑い。
まったく心配性だし頑固だし、何かあるとすぐムキになるし…。
そんな風にあたしは彼女のコト、もっと知りたいと思ってる。
だけど知れば知るほど、それを忘れてしまう日のことを考えると、恐くて恐くてたまらないんだ。
この不思議なキモチの正体はもう、誰に聞かなくたってちゃんと、説明できるよ。
「ね、私の手、ざらざらしてない?」
「してる。砂のせいでしょ?」
神様あたしは、遠足へ行ったことがないと言う彼女を、遠足へ連れて行ってあげたいと思いました。
神様あたしは、海を見たことがないと言う彼女に、せめて少しの砂だけでも触らせてあげたいと思いました。
神様あたしは、彼女がいなくなったあとの世界なんか、あたしにとっては1秒だって、無意味だと思うんです。
「そう、砂のせい。ひとみちゃんのせいー」
神様どうしよう。
あたしは、彼女のことを、好きになってしまいました。
- 133 名前:すてっぷ 投稿日:2002年12月15日(日)14時42分49秒
感想、どうもありがとうございます。
>115 名無し読者77さん
いえいえ、温かい感想ありがとうございます。励みになっております…。
お葬式カラー。まさかそんなトコに萌えてもらえるとはっ…!(笑
でもだんだんシリアスな展開になってきたので、小ネタもそろそろ打ち止めかなと。
>116 名無し娘。さん
「え☆H」、お待たせしててホント申し訳ないです。年内に更新できると良いのですが…。
この先は笑い所がぐんと減ってくると思いますが、こちらこそ、
見捨てずに面倒見てやってくださいね(笑)
>117 名無しさん
ついつい他人と比べて自分の幸せをはかったりとか、やっちまいがちですけど…
幸せの形って人それぞれですもんね。
ムースポッキーならぬ「お葬式」。嫌なユニットだな…。
- 134 名前:すてっぷ 投稿日:2002年12月15日(日)14時44分42秒
- >118 ほげ?さん
冒頭のドタバタに比べると、やっとそれっぽく(?)なってきたかも。
>119 もんじゃさん
アンパンチとはアンパンマンさんの必殺技で、少なくともネコパンチよりは効くはずです。
イブまで約一週間しかない…かなり切実なんですが、目標を「クリスマスまでに完結」から
「年内には完結」に変更したいのですが(笑)
- 135 名前:名無し 投稿日:2002年12月15日(日)17時48分30秒
- 更新お疲れ様です。
しかしよく考えるとガッツもかなりひどい事をしたな。
残り時間を知ることは彼女達にとって本当に幸福な事だったのだろうか?
お互いの存在を教えてしまう事は彼女達にとってプラスになるのだろうか?
希望は先の無い者にとって必要なのだろうか?
でも傍観者の僕の幸せと彼女達の幸せの形は違うと思うのでこの物語でそれが見れれば僕は幸せです。
なんか自分のレスが浮いてしまっている気がするんですが、大丈夫でしょうか?(w
- 136 名前:名無し読者77 投稿日:2002年12月16日(月)20時43分41秒
- やさしくて、せつなくて、胸が…
神様あたしは、手玉にとられておりますw
神様あたしは、続きが気になってしかたありません。
次回更新も楽しみにお待ちしております!
- 137 名前:ほげ? 投稿日:2002年12月18日(水)12時41分47秒
- 神様あたしは〜のフレーズがいい
正しくオレはふぁんたじぃな世界に入ってしまったようだ
神様あたしは、この作品をずっと読んでみたいと思いました
- 138 名前:すてっぷ 投稿日:2002年12月19日(木)00時35分06秒
- 感想、ありがとうございます。
>135 名無しさん
温かいレス、どうもです…こちらの方が教えられるというか、考えさせられます。感謝。。
限られた環境の中から見つけなければならない幸せ、ってのも、
なんだか悲しいですが、救いというか、希望のあるラストにはしたいと思っております。
よろしければ、見届けてやってくださいませ。
>136 名無し読者77さん
なんだか、翻弄してしまったようで(笑
続き、お待たせしてすみません。
なかなか進まなくて…神頼みでもしたい気分です(笑)
>137 ほげ?さん
「神様〜」の辺りは、設定を考えてた時からずっと書きたい場面で、
ようやく辿り着いたって感じです。
「ふぁんたじぃ」してますかね?良かった…。
- 139 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)15時38分00秒
――
「不思議」
「なにが?」
「ひとみちゃんのことも、クリスマスが来たら、みんな忘れちゃうのね」
「忘れないと、次のヒトが迷惑しちゃうもんね」
自分の言ったセリフがなんだか空々しく思えて、言った後であたしは苦笑い。
ここには景色というものがない。ただ、真っ白な空間が広がっているだけ。
だけど梨華ちゃんと一緒に居ると、退屈なんて感じてる暇がないほどに、瞬く間に時間が過ぎてく。
恐くて聞けないけど、気になって仕方がない。
梨華ちゃんの砂はもう、どれくらいが下へ落ちてしまっただろうか。
- 140 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)15時40分17秒
- 突然、つないでいた手が後ろに引かれる。
「梨華ちゃん…?」
俯いてなにやら暗いカオしてる梨華ちゃんを、あたしは覗き込んだ。
「私、もう行かない」
「え?」
どうしたんだろ?
前の休憩からそんなに経ってないはずなのに、もう歩き疲れちゃったのかな?
「疲れた?」
尋ねると、梨華ちゃんは首を横に振った。
「だって、どんなに歩いたって、何にも無いんだもん」
拗ねたように言うと、梨華ちゃんはあたしの手を離して床に座り込んでしまった。
それにしても…呆れた。
そりゃあ、「歩こう」って言い出したのはあたしだけど、「何かあるかも知れない」って言ったのは梨華ちゃんの方じゃんか…。
どうせまたいつものワガママなんだろうけど、毎回毎回付き合わされるこっちの身にもなれってんだ。
「そんなの解ってたコトじゃん。だいたい、何かあるかもって言ったの、梨華ちゃんだよ?」
あたしが言うと梨華ちゃんはまた首を振って、否定のサイン。
「ひとみちゃん、私、恐いよ。自分が自分じゃなくなっちゃうなんて、信じられない」
声が震えてる。傍に立つあたしからは、その表情を窺い知るコトはできない。
- 141 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)15時42分17秒
- 「大丈夫だって。あたしが梨華ちゃんのコト覚えててあげるよ。ほら、記憶力とか、わりと良い方だし」
どうやら泣いてるっぽい梨華ちゃんを励ますつもりで、あたしは言った。
覚えててあげるってのは、そんなコトできるワケないんだから、もちろん冗談だけど。
「そんなの無理だよ。
だって今のひとみちゃんだって、前は違うヒトだったのかも知れないじゃない。
でも今のひとみちゃんは、そんなこと覚えてないでしょ?」
げ、マジメに答えんなよなぁ…。
冗談で和ませてあげようっていう、あたしの心遣いを全くわかってくれてないらしい梨華ちゃんは、
ときどき涙声になりながら、正論で反論してくる。
「だいじょうぶ、だって」
何が『大丈夫』なのか自分でもよくわかんないけど、それ以外に言葉が見つからない。
「ひとみちゃんは強いから、そういうことが言えるんだよ」
その一言に、カチンときてしまった。
- 142 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)15時44分37秒
- 「いーかげんにしてよね」
我ながらびっくりするぐらい、冷たい声。
どうしちゃったんだろう。近頃のあたしは、些細なコトでしょっちゅう苛立ってる。
「えっ…」
予想外の反応だったんだろう、梨華ちゃんはきょとんとしてあたしのコト見上げてる。
「ワガママとか言いたいのわかるけど、だからってそーゆーの全部、こっちにぶつけんのやめて欲しいんだけど」
「………」
「もう、勝手にしなよ」
縋るような目であたしのコト見てる梨華ちゃんを置いて、あたしは歩き出した。
彼女が追って来る気配は無い。だんだんと、早足になる。
どうせ、あたしが居なくなったら、また泣くんだろう。
勝手にすればいい。もう知らない。
つらいのは梨華ちゃんだけじゃないのに。泣きたいのは、梨華ちゃんだけじゃないのに。
そう思ったとたん、涙が溢れてきた。
あたしはずっと、泣きたいのをガマンしてたんだと気付く。
なにやってんだろ、あたし。
梨華ちゃんの前だと強がってばかりで、梨華ちゃんの前だと泣くコトもできない。
どうしようもなく涙が止まらなくて、あたしは歩くのをやめた。
- 143 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)15時46分56秒
- 「ひとみ、ちゃん」
びっくりして振り返ると、すぐ後ろに梨華ちゃんが立ってた。
「ひぅ」
泣くのを止めようとしたら、喉の奥からヘンな声が出た。
彼女に泣き顔を見られるのは、これで二度目。
最初に会ったときも、家族や友達のコト思い出して、あたしは泣いてたんだ。
「ゴメンね、ゴメンね、ひとみちゃん」
自分のせいであたしが泣いてると思ったんだろう、梨華ちゃんはうろたえてる。
でも、ヤバイ…梨華ちゃんの声聞いたら、ますます涙が止まらなくなってしまった。
梨華ちゃんが何度も謝ってくれるけど、あたしはずっと下を向いたまま。
素直になりたい自分と、弱さを隠したい自分とが、心の中で戦ってる。
我ながら、本当につまんない意地だと思う。
「ひとみちゃん優しいから、つい甘えちゃって、私…」
「ちがうの」
あたしは思わず言った。梨華ちゃんは、とんでもない思い違いをしている。
「え…?」
「あたしも同じだよ。すごく、恐いよ」
あたしは優しいんでも、強いんでもない。ただ、わかってなかっただけだ。
あたしがあたしじゃなくなるってコトが、どういうコトか。
- 144 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)15時49分45秒
- 「あたし、ずっとココにいたい。別の誰かに生まれ変わるのなんか、ぜったいにヤダ」
こんなコト言ったって何かが変わるワケでもないし、梨華ちゃんを困らせるだけだってわかってるけど、それでも言いたかった。
あたしはまだ下を向いたままで、それでも彼女がじっとあたしを見てるのがわかる。
梨華ちゃんは何にも言わずに、あたしの話を聞いてくれてる。
「あたしがあたしじゃなくなっちゃうなら、梨華ちゃんに会えなくなるんなら…
地上に生まれるコトなんか、何の意味もないよ」
「ひとみちゃん、」
天使は言った。生き返ることは無理だけど、その代わりに、生まれ変わることができる。
「代わりなんかじゃない、代わりなんかじゃ」
「ひとみちゃん」
「こんなのぜんぜん、生まれることなんかじゃない」
あたしたちは、死んでしまったから出逢えた。
そして生まれ変わることで、もう二度と、会えなくなる。
「あたしにとって、生まれることは…死ぬことと、同じだもん」
どんなに話してもどんなに想っても、何ひとつ、残りはしない。
あたしたちはただそんなことを、繰り返していくだけだ。
- 145 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)15時51分57秒
- 「泣かないで」
梨華ちゃんが、あたしの髪を撫でてくれる。
あたしは彼女の前で、声を上げて泣いた。
「もう、どこにも行かない。梨華ちゃんと、ここにいる」
「…うん」
それきりあたしたちは、歩くのをやめてしまった。
それが良いか悪いかなんてわからないけど、どうせ、そのときが来たらみんな消えちゃうんだ。
ココで彼女に出逢えたコトさえも無意味な出来事に思えて、あたしはすぐにその思いを打ち消した。
- 146 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)15時53分40秒
――
隣に横たわる梨華ちゃんの肩越しに、砂時計が見える。
ピンクの砂が詰まった、梨華ちゃんの砂時計。
下に落ちてる砂の量は…3分の2、いや、もっといってるかも知れない。
歩くのをやめてしまったあたしたちは、床に寝転んで、手をつないだり離したり、思い出したようにまたつないだり、
話をしたり、ぼーっとしたり、とにかくそんな風に、イブまでの残り時間を過ごしてる。
「梨華ちゃんさぁ、去年のクリスマスって、なにしてた?」
「病院にいたよ。小児病棟の子たちとね、クリスマス会やったの」
「そっか…」
梨華ちゃん、クリスマスも病院にいたんだ…なんか、悪いコト聞いちゃったかなぁ。
あたしはというと、イブは友達の家で朝まで騒いで、めちゃめちゃ楽しいクリスマスを過ごしたのであった。
「そういう顔、しないで」
「えっ?」
隣を見ると、梨華ちゃんが怒ったようにあたしのコト見てた。
「だから、かわいそう、って顔。私なりにちゃんと、楽しかったんだから」
「…そうだよね、ゴメン」
確かに『悪いコト』聞いちゃった、なんて思うコト自体、梨華ちゃんに失礼だよね…あたしは深く反省。
- 147 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)15時56分22秒
- 「でも、クリスマスが誕生日、ってちょっと憧れない?」
気を取り直すように、梨華ちゃんが言った。
よかった…さっきのコトは、もう怒ってないみたい。
「そっかなぁ。だって、ケーキもプレゼントも一緒にされちゃうんだよ? ぜったい損だよ」
クリスマスイブが誕生日。
確かに魅力的ではあるけど、クリスマスケーキとバースデーケーキを一緒くたにされちゃうのは、
子供にとっては重大な、なんてゆーか、死活問題ってやつだと思う。
「…うん。それは嫌かも」
あたしの意見に、梨華ちゃんも同意。
「でも良かった」
「なに?」
「だって、ひとみちゃんと同じ日に生まれるんだもん、私」
隣を見ると、こっちを見ていた梨華ちゃんと目が合った。
このごろは、始めと違ってあたしの方が彼女に励まされてるような気がするんだけど、悪い気はしない。
つまんない意地はるのは、もうやめたんだから。
コレは正直になったって言うより…もしかすると、諦め、ってやつなのかも知れないけど。
「あ…」
あたしは思わず呟く。
梨華ちゃんの肩越しに見える砂時計に、小さな変化があったのだ。
- 148 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)15時58分39秒
- 「どうしたの?」
「砂が落ちるトコ、はじめて見た」
自分の砂時計だって、なるべく見ないようにしてたから、当然といえば当然なんだけど…
今まで何百回と繰り返されていたはずの現象を、このときあたしははじめて目にしたんだ。
「そうなの?」
梨華ちゃんは意外そう。
「うん…あんまり、見ないようにしてたし」
恐かったから、とは言えない。まぁ、言わなくてもバレてるとは思うけど。
「本当はね」
梨華ちゃんは悪戯っぽく笑うと、私もまだ1回しか見たことないんだ、と教えてくれた。
確かによくよく考えてみると、梨華ちゃんは砂時計をマメにチェックしていたものの、
長い間それを眺めていたコトは無かったような気がする。
「弱虫だね、私たち」
梨華ちゃんが、小さく言った。
あたしに背を向けて、指で砂時計を弄っている。
人差し指でガラスを、下から上に向かって、何度もなぞる。
いつかもやってた、時間を戻す、おまじない。
じっと眺めてると、おまじないなんて夢みたいな行為とは反対に、あたしの中で、
もうどこへも逃げられないんだという現実感が増してゆく。
- 149 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)16時01分10秒
- そんなコトしたって、ねぇ、梨華ちゃん。
神様は、なにもしてはくれないよ。
「行こう」
逃げられやしない。あたしたちが立ち止まっても、砂は落ちるし、時間は前に向かって進んでく。
どこへ行っても、何にも無いことはわかってる。
だけど、
「待ってるだけなんてさ、なんか口惜しいじゃん」
あたしに背を向けたままで、梨華ちゃんが頷く。
あたしは梨華ちゃんと、そこへ向かって進むことを決めた。
- 150 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)16時04分15秒
――
うちらはそのときをただ『待ってる』ワケじゃないんだぞ、って、
神様やら天使やらに言ったら、笑われるかも知れない。
あと、どれくらいかな。
んー。1日、とか? いやぁ、もっとかも知れない。
そんな会話を交わしてから、もうどれくらいの時間が経ったんだろう。
それが意味の無い抵抗だとわかっていても、あたしたちは歩くことをやめなかった。
「梨華ちゃん?」
突然、梨華ちゃんが立ち止まる。
だいぶ歩いたから疲れたのかと思ったけど、いつもと少し様子が違う。
「なんか、立ちくらみ」
俯いて、こめかみの辺りを押さえてる。
「だいじょうぶ?」
「んー…」
梨華ちゃんは曖昧に答えた後でハッとしたように、ポケットから砂時計を取り出した。
「あっ」
ちょうど砂が一粒、落ちるトコだった。この瞬間に遭遇するのは、コレで2度目。
見ると、落ちずに残っている砂は、たったのひと粒しかない。
「あ、あ、あ、」
一粒って、一粒って、どれくらいだろう。
情けないけど、当の梨華ちゃんよりもあたしの方が、オロオロしてしまう。
- 151 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)16時08分47秒
- 「なんか、ぼーっとしてきちゃった」
「あっ、ねぇ、座ろ」
「待って」
あたしが座らせようとするのを、梨華ちゃんが拒む。
彼女は手をつないだままで、あたしと向き合った。
「ねぇ、笑わないでね」
うつむき加減に言ったかと思うとすぐに顔を上げて、彼女はあたしのために、バースディソングを歌ってくれた。
「…ヘタでしょ」
「ううん。だいじょーぶ」
ハッピーバースデー・ディア・ひとみちゃん。
確かにあまり上手とは言えなかったけど…こんなに心のこもったプレゼントを、あたしは生まれてはじめてもらった気がする。
「私の方が先に行っちゃうから。ひとみちゃんのこと、お祝いしてあげられないから」
照れくさそうに言う。
「お誕生日おめでとう、ひとみちゃん」
「…ありがとう」
梨華ちゃんも、って言おうとしたけど、言えなかった。その瞬間、あたしの唇は塞がれていた。
目を閉じて、彼女がくれたキスの意味を、あたしは考える。
さよならのしるしなんかじゃない、もっと、べつの。
- 152 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)16時13分16秒
- 「好き」
唇が離れると、梨華ちゃんが言った。
うれしかったけど、不思議と驚きはなかった。
もしかしたら、梨華ちゃんも同じ気持ちでいてくれたこと、あたしはずっと前からわかっていたのかも知れない。
「あたしも」
そのとき、あたしたちの足元で、何かが壊れる音がした。
梨華ちゃんの、砂時計だ。
彼女の手を離れた砂時計は床の上で割れてしまっていて、そこからピンク色の砂が零れ出してる。
「ひとみちゃん…」
あたしはハッとした。
確かに手をつないでいたはずなのに、いつの間にかあたしの左手にはもう、さっきまでの温もりは無い。
見ると、梨華ちゃんの手も足も透き通って、まるで透明人間みたく消えちゃってる。
とうとう、そのときが来たんだ。
- 153 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)16時16分36秒
- 「ひとみちゃん、私、もう」
梨華ちゃんの目には、怯えが宿っている。
「消えないから」
根拠なんか無い。ただ、彼女を安心させてあげたいと思った。
「梨華ちゃんもあたしも、繰り返すだけだよ。消えたりしないよ。だから、」
本当に、なにも残らないと思う?
梨華ちゃんが、ずっと気にしていたこと。
「また、いっしょに生きよう」
あたしは本気で言った。
「うん」
上ずった声で言うと、
「先に行って、待ってるね」
にこりと笑った。
そして、梨華ちゃんの姿は完全に見えなくなってしまった。
- 154 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)16時20分22秒
あたしはひとりになった。
そのときが迫っていることが分かってるのに、その瞬間がいつやってくるのかわからないのは、本当に恐かった。
あたしが、一時間ぐらいどってことない、って言ったとき、梨華ちゃんがすごく怒ってたのを思い出す。
もしかしたら彼女も地上にいた頃、今のあたしと同じ思いをしていたのかも知れない。
もしかすると梨華ちゃんは、自分があまり長くは生きられないのを知っていて、
けれどもそのときがいつやってくるのか分からなくて、ずっと恐い思いをしてきたのかも知れない。
なんだろう…?
傍らにぽつんと残された、梨華ちゃんのワンピース。
ポケットの辺りに小さな点がいくつも付いているのを見つけて、あたしは手を伸ばした。
すると、小さな点の正体は、ベージュ色の砂粒だった。
あたしの砂時計に入っていた砂を、梨華ちゃんはポケットに入れて、ずっと持っていてくれたんだ。
あたしはそこから残りの砂を出すと、梨華ちゃんの、壊れた砂時計の傍に置いた。
- 155 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)16時25分12秒
- 「真っ赤なおハナのー、トナカイさんはぁ」
サンタクロースがもしもいるなら、願い事はたくさんあります。
「いつーもみんなの、わぁらいもの」
ひとつは、地上では今度こそ梨華ちゃんが、じょうぶな子供に生まれ変われていますように。
「でもそのとしーの、クリスマスのひー、サンタのおじさんはぁ、いーいましたぁ」
ひとつは、二人がすべてを忘れても、なにかがきっと、残りますように。
せめて、この砂だけでも。
そんなことを考えながら、梨華ちゃんとあたしの砂をかき混ぜて遊んでいると、
あたしの右手は指先からだんだん透き通って、やがて消えた。
- 156 名前:イブまでの三週間。 投稿日:2002年12月23日(月)16時30分40秒
なにか言わなくちゃいけない。
あたしがあたしでいられる時間は、もうほとんど残されていない。
言いたいのは『さよなら』じゃないことだけは確かにわかっていて、少し考えてからあたしは、
あのとき言えなかった言葉を、あたしの最後の言葉にしようと決めた。
「おめでとう」
おめでとう、梨華ちゃん。誕生日、おめでとう。
プレゼント何にもあげられなかったゴメン。
どうしたんだろ。
眠いわけじゃないのにすごく、まぶたが重い。
閉じてしまいそうになるのをこらえながら、あたしはもう一度、それを見た。
だいじょうぶ。
砂はまだ、ちゃんと、そこにある。
そしてあたしは、眼を閉じる
- 157 名前:すてっぷ 投稿日:2002年12月23日(月)16時38分11秒
「イブまでの三週間。」完
お付き合い頂き、ありがとうございました。。
- 158 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年12月23日(月)18時28分57秒
- 号泣しました。
素敵なクリスマスプレゼントをありがとうございます。
『消えたりするわけじゃない。繰り返すんだ』
深いひとことでした。
- 159 名前:名無し 投稿日:2002年12月23日(月)18時45分53秒
- 何かを失った気がするんだけどそれ以上の物も貰えた気がします。
ありがとうございました。
- 160 名前:名無し読者77 投稿日:2002年12月23日(月)19時38分19秒
- すてっぷ様からのX'masプレゼント(いしよしいしw)確かに頂きました。
終わりと始まりの切ないけど素敵な物語…ナイテナンカナイモン…
今作も思いっきりすてっぷワールドを堪能させて頂きました。
次回作もむちゃくちゃ期待してお待ちしております。(アチラももちろんw)
- 161 名前:もんじゃ 投稿日:2002年12月23日(月)22時18分45秒
- …潔ぎ良過ぎます。
物足りないような、この続きが読みたいような、
…あまり感想を書くとネタばれになるので歯がゆいのですが。
でも本当に良かったです。
すてっぷさんも良いクリスマスを。
- 162 名前:オガマー 投稿日:2002年12月23日(月)23時16分01秒
- ジーンときますた。
てか、泣いてます。。
素敵なお話をどうもありがとう。
- 163 名前:95 投稿日:2002年12月24日(火)15時27分20秒
- ヤバイ、涙が溢れて来てしまいました・・
素晴らしい作品をどうもありがとうございました。
私の心の中には確実に何かが残りました。
Merry Christmas!
- 164 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月25日(水)04時33分03秒
- あーうー…涙でモニタが霞む。
クリスマスの夜に素敵なお話を有り難うございました
よっすぃ〜りかちゃん、すてっぷさんメリークリスマス&誕生日オメデトウ。。。
- 165 名前:ほげ? 投稿日:2002年12月25日(水)12時32分41秒
- またいっしょに生きよう
素晴らしい言葉です
最後までふぁんたじっくですた
- 166 名前:名無し 投稿日:2002年12月26日(木)00時22分52秒
- 泣きました。しかもパンプのスノースマイル聞きながら読んでいたから号泣。
- 167 名前:すてっぷ 投稿日:2002年12月29日(日)13時52分38秒
- 感想、どうもありがとうございました。
>158 ごまべーぐるさん
プレゼント、こんなモノでよろしければ…最終話は少し詰め込みすぎた感じもあるのですが、
気に入って頂けたようで安心しました。
こちらこそ、感想ありがとうございました!
>159 名無しさん
そういう言葉を頂けると、救われます…。こちらこそ、温かいレスをありがとうございました。
>160 名無し読者77さん
感想ありがとうございます。
クリスマスに間に合って良かった…こんなモノでよろしければ、いくらでも受け取ってやってください。
だいぶサボってたので当分はアッチ中心になりますが、そのうちにまた。
いしよしいし。やったねよっすぃー、両手に花!(笑
>161 もんじゃさん
唐突な終わり方してますしね…今回はどうしても、「おわり」ってのを入れたくなくて。
さらにどうでも良い事なんですが、ラスト一文の「。」を抜くと、なんとも頼りない文章になってしまい、
そこが自分ではちょっと気に入ってたりします(笑)
もんじゃさんも、良いお年を。
- 168 名前:すてっぷ 投稿日:2002年12月29日(日)13時56分32秒
- >162 オガマーさん
こちらこそ。大したモノは書けませんが…何かを感じて頂けたのなら、本当に嬉しいです。
>163 95さん
やはりハッピーエンドとは呼べない結末なので、どんな反応を頂けるか不安でしたが…
そう言ってもらえて安心しました。こちらこそ、どうもありがとうございました。
>164 名無しさん
クリスマスに合わせて何かやりたいなぁと軽い気持ちで始めたら、中盤からなかなか進まなくて…。
でも、そう言って頂けると、本当に書いて良かったと思えます。こちらこそ、ありがとうございました。
>165 ほげ?さん
感想ありがとうございます。
悲しい結末だからこそ、前向きな言葉にしたかったんですよね…。
>166 名無しさん
ありがとうございます。スノースマイル良いですよね〜。泣いてもらえたのはきっと、9割はBGMのおかげかと(笑)
- 169 名前:名無し 投稿日:2002年12月30日(月)04時41分44秒
- ・゚(ノД`)゚・
久しぶりに、泣きました。
時期が少し遅れてしまいました(w
例え出会える確率が億分の一だとしても、二人の気持ちが強ければ…大丈夫、きっと大丈夫。
すてっぷさんの中で新たに生を灯した梨華ちゃんとよっすぃ〜、
きっと二人は惹かれ合い、巡りあうのだと、願っています。。
すばらしい作品をありがとうございました!
- 170 名前:すてっぷ 投稿日:2003年01月05日(日)22時19分04秒
- >169 名無しさん
ありがとうございます。たいてい季節を外してる事が多いので、
ちゃんと時期に合ったモノを書いたのは今回が初めてかも知れません(笑)
>例え出会える確率が億分の一だとしても、二人の気持ちが強ければ…大丈夫、きっと大丈夫。
そうですね…。二人が消えるのではなく、繰り返しているだけだとしたら、たぶんきっと。
こちらこそ、温かい感想をありがとうございました!
- 171 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
- 川o・-・)ダメです…
- 172 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月13日(木)18時32分10秒
- まだなんか書いてくれるのかなぁ…。
期待保全。
- 173 名前:かわらないもの。 投稿日:2003年02月16日(日)04時57分47秒
- 「ののとか梨華ちゃんとか、まこっちゃんとか。飯田さんも、あっちなんだぁ」
あいぼんに会うのは二週間ぶり。
彼女は楽屋に入ってあたしを見つけると、始めは最近あったコトなんかを楽しげに語ってたんだけど…
しばらくして”その話”を自分から切り出すと、話すうちにだんだんと沈んでった。
あたしは昨夜それを、よっすぃーがくれた電話で知った。
まぁ、増えすぎたモン半分に割っちゃえなんて、誰もが考えつくコトだし。
まっぷたつにするコトよりもそれ以前に、増えすぎちゃったコトが問題なんじゃないの?
なんて、あたしがまるで他人事みたく言うと、よっすぃーは電話の向こうで小さなため息を吐いた。
そして、
『みんなはどうか知んないけどさぁ…やっぱ何回やってもこういうのって、慣れないんだよね』
- 174 名前:かわらないもの。 投稿日:2003年02月16日(日)05時00分56秒
- 近いうちに目にすることになるだろう、記者会見やら、テレビとか雑誌のインタビュー。
みんなのコメントは大体、想像がつく。
楽しみです頑張りますワクワクします、などなど、絵に描いたよーなポジティブコメントのオンパレード。
よっすぃーだってきっと、例外ではないハズ。
あたしも、そうだったし。
あやっぺのとき、いちーちゃんのとき、裕ちゃんのとき、それから、自分のとき。
ショックとか寂しさの度合いはどれも同じぐらいなのに、あたしは少しずつ、それを表に出すことをしなくなってったと思う。
そうやって本当の気持ちを閉じ込めるのが上手くなっていくことを”慣れ”と言うなら、あたしはもうとっくに、”超慣れっこ”の域だ。
なんて、あたしがまるで他人事みたく言えるようになってから、まだ3ヶ月ちょいしか経ってないってのに…
こんなの他人事になる前からだけど、そうなってからも、なんだかいろんなコトありすぎでしょって、ちょっと呆れた。
- 175 名前:かわらないもの。 投稿日:2003年02月16日(日)05時04分15秒
- 「でさぁ、オバちゃんだけ名前呼ばれなくて…そんときはもういないから、当たり前なんだけど。なんか、あー、そうなんだぁって」
あいぼんは小さく鼻をすすると、ごまかすみたく、テーブルに広げたスナック菓子を口に放り込んだ。
あたしは、それには気付かないフリをして、膝の上の雑誌をめくりながら、
「でも、まだ先じゃん」
「…だよね」
”まだ先”は、ホントにあっという間に来ちゃうこと、あいぼんもあたしもよく知ってる。
あと数ヶ月もすれば圭ちゃんがいなくなって、それからその先にある寂しい出来事も、ぜんぶ決められていて。
それでもそこへ向かって進んでかなきゃいけない気持ちって、いったいどんなんだろ?
なんて考えてると、あたしとおんなじで泣き虫なあいぼんのコトが少し、心配になった。
「まだあんまり、実感ないもん」
ずぅっ、と今度はさっきよりも少し、大きめな音。
上を向いて口を大きく開けると、鷲掴みにしたお菓子を放り込む。
”実感ない”だなんて、まったくあいぼんは大ウソつきだ。
- 176 名前:かわらないもの。 投稿日:2003年02月16日(日)05時07分42秒
- タノシミデスガンバリマスワクワクシマス。
あたしたちはいったいあとどれぐらい、強がりを言えば、”変わらない幸せ”ってやつを手に入れることができるんだろう?
「ねぇ。今度また、ごっちんの家、遊びに行ってもいい?」
「いーよ」
こんな会話、前にもあったと思う。
社交辞令とまでは言わないけど、ただでさえ忙しい上に今はまったく別々のスケジュールで動いてるあたしとあいぼんにとって、
いつ果たせるのかもわかんない、全くアテにならない約束。
「あいぼん食べすぎー」
「だっておいしいよ、コレ」
あいぼんもきっとアテにはしてないし、あたしもいつもなら軽く流しちゃうトコだけど、でも今日は。
- 177 名前:かわらないもの。 投稿日:2003年02月16日(日)05時11分35秒
- 「でー、さぁ」
「ん?」
「今度って、いつ?」
あたしが尋ねると、あいぼんは一瞬きょとんとして、でもすぐに笑顔になって、
「待ってっ」
タタタッ、って部屋の隅まで駆けてくと、またすぐに戻ってきた。
「今月がねぇ、コレまた忙しいんだなあ」
スケジュール帳をめくりながら困った風な口調で言うけど、そのカオには思いっきり『楽しい!』って書いてある。
「あいぼんは働き者だねぇ」
いつだって、前に向かって進んでかなきゃいけないコトは、ちゃんとわかっていて。
だけど、立ち止まるのが、そんなにイケナイコトだとは思わない。
「よっすぃーも連れてこー」
「なんかおみやげ持ってきてよ」
「うん。持ってくさ」
今のあたしたちには、”変わらないモノ”ってやつが、ひとつでも多くあったほうが良いんだ、きっと。
<おわり>
- 178 名前:すてっぷ 投稿日:2003年02月16日(日)05時14分24秒
- >172さん
どうもです。短いですが、よろしければ。。
- 179 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月16日(日)09時24分29秒
- リアル世界の仲の良さが伝わってきました。ごまかごってホノボノしてていいなあ…
- 180 名前:名無し 投稿日:2003年02月16日(日)18時29分24秒
- すてっぷさんのこういう短い話も大好きな事に気付いた。
後藤さんの柔らかさが伝わってきました。
柔らかいから外面は好きな形に変わるんだけど、内面の芯は揺るがない感じがするので
みんなは後藤さんに会えれば何も変わっていない事に気付くと思います。
なんて傍観者が勝手な事言ってみました。結局はその中に入らないと何もわからないですからね。
さくらももこさんの後藤さん分析を思い出しました。
- 181 名前:ほげ? 投稿日:2003年02月17日(月)12時21分55秒
- 切なくて泣けてきた
現実にもその日は刻々と近づいてくるんですよね
- 182 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
- 川o・-・)ダメです…
- 183 名前:もんじゃ 投稿日:2003年02月18日(火)19時25分25秒
- 片っぱしから壊されていったって変わらないモノもある。
こればかりはあのオニ事務所だって介入できない。
ちょっと気持ちが救われました。
- 184 名前:すてっぷ 投稿日:2003年02月24日(月)01時53分11秒
- 感想、どうもありがとうございます。
>179 名無し読者さん
ごまかご、微笑ましいですよね。今となってはあまり見れないのが寂しいですが…。
>180 名無しさん
今までで一番短かったのですが、気に入って頂けて良かったです。
バカばかりやってると、たまーにこういうモノが書きたくなるので…よろしければまた、読んでやってください。
後藤さんは(良い意味で)すごくマイペースっぽいので、なんとなく、みんなの拠り所ってカンジがしますね。
って、同じく、勝手な事言ってます(笑
>181 ほげ?さん
あっという間なんでしょうね…もう少し、平穏な時期があっても良いと思うのですが。
>183 もんじゃさん
とりあえず、誰かが卒業するとかよりはマシかぁなんて思ってしまいます。なんか嫌なポジティブさだけど。
どんなに形を変えても、失くならないモノってあると思います。
- 185 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
- 川o・-・)ダメです…
- 186 名前:スレッド保全屋さん 投稿日:2003年04月01日(火)17時09分34秒
- 世界人類が平和でありますように
- 187 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月27日(日)10時02分40秒
- 保全
- 188 名前:泣きむし。 投稿日:2003年05月11日(日)17時03分14秒
誰かが見てる前では、泣いちゃいけないとか思う。
誰だって泣いてる姿ヒトに見られるのなんて嫌に決まってるし、後輩メンバーだってみんな見てるワケだし。
なによりカメラが回ってる場所で泣くのは、そんな風に仕向けられて泣いてる自分がすごく、くやしいから。
寂しいとか悲しいとか辛いとかの感情は間違いなくあたしの中で生まれたモノなんだけど、ふと、
でもコレって誰のための涙なんだろうなんて考え出すと、頭ん中がぐちゃぐちゃになってきて始末に負えない。
だけど、それなのに。
オイラってばどうしてこんなに、泣き虫なんだろ。
「また泣いちゃったね、矢口」
顔を上げると、なっちが立ってた。
「んー。泣いちゃったね」
あたしは手を洗いながら、鏡越しに答える。
「アレはでもねー、しょうがないよ。なっちもちょっと、ヤバかったしね」
鏡の向こうで、なっちは苦笑い。
あたしは歌番組の収録を終え、トイレにて遭遇したなっちと雑談中ってワケ。
- 189 名前:泣きむし。 投稿日:2003年05月11日(日)17時05分38秒
- 確かにアレは、ほとんど反則に近いモノがあった。
さっき終わったばっかの収録。
座りトークの見せ場は、卒業を控えた圭ちゃんがメンバー一人一人へ宛てたメッセージを読み上げるというモノ。
そりゃあタダでさえ涙もろいあたしのコトだし、トーゼン、こりゃ泣くなぁとゆー予感はあった。
そして案の定『矢口へ』とか言われた瞬間にはもう鼻の奥がツンとしちゃって、でもガマンしなきゃとか思って、
圭ちゃんが喋ってる間ぷるぷる震えながら必死にこらえた挙句……
抵抗むなしく、あたしはみんなが言うところの”パグのよーなカオ”で、ヒクヒクと泣いてしまったのだった。
- 190 名前:泣きむし。 投稿日:2003年05月11日(日)17時08分24秒
- 「だってさぁ、泣いたほうが絵になんない? あーゆーときって」
わざとらしくニヤケ顔を作って、あたしは言った。
乾燥機の下で手をひらひらさせながら、鏡に映るなっちの表情を窺う。
「えっ…」
あの場でのアレがウソ泣きだと思ったんだろう、なっちはすごく不安そうなカオであたしのコト見てる。
「う・そー。んなコト思ってないよ」
「……ばか」
なっちは少し怒ったみたいだった。鏡越しの上目遣いが、冗談でもそんなコト言わないでよ、って訴えてる。
「でもさ」
「なに?」
「やっぱなんでもない」
あたしは言いかけて、止めた。なっちは不満そうなカオで、「なんだそりゃあ」とか言ってる。
でもさ、なっち。
うちらにそのつもりはなくても結果的にあたしは、自分の涙でさえも、売りモノにしてるんだよね――。
- 191 名前:泣きむし。 投稿日:2003年05月11日(日)17時11分03秒
――
矢口真里がこの世に誕生してからハタチの今日まで、流した涙をぜんぶ集めたら、東京ドーム何コぶんになるだろうか?
5月5日の前日、つまりは5月4日、もっとつまりは圭ちゃん卒業の前夜、電話で彼女とそんなハナシになった。
『どゆこと、それ? どやって数えんの? ドームの中に詰めるんかい』
あたしの単なる思いつきを、必要以上に追求してくる保田サン。
やれやれ、圭ちゃんらしいなぁ…思いつきで下んない発言しちゃったコトを後悔しつつ、あたしは苦笑い。
「まぁ詰めたとして。何杯分ぐらいになるかなぁ…ってゆーか、単なるたとえなんだから深くツッコまないでくれる?」
『例えだからこそ分かり易くなきゃ意味ないでしょうが』
「だって、たとえって言やあ東京ドームじゃん。何を表すにしてもさ」
『そりゃあ、広さを表すときにはそうだろうけどもさ』
「じゃあ他に何があるよ? 言ってみ?」
圭ちゃんがあまりにしつこいのであたしもつい、ムキになってしまう。
- 192 名前:泣きむし。 投稿日:2003年05月11日(日)17時13分45秒
- 彼女とは長い付き合いの中で一度もケンカしたことの無い間柄だけど、こういった些細な口論はしょっちゅう。
ただあまりに些細すぎてケンカに発展する前に終結するというのが、お決まりのパターン。
『そうねえ…プールとか』
「ああ、プールねぇ」
50mプール2000杯ぶん、とかに換算するワケね、なるほど……思わず、納得してしまった。
「ってゆーかさ、んなこたぁどーでも良いんだよ」
あたしは強引に話題を転換。
そもそも、こんなしょーもないハナシするために電話したワケじゃないんだから。
『なによ?』
「ほら、明日最後だから、圭ちゃん」
ゴーインに話題転換したわりに、いざとなると口籠もってしまう。
話したいコトはたくさんあるんだけど、なんだか照れくさいしそれに、話し始めるとまた泣いちゃいそうだし。
『最後ったって、会えなくなるワケじゃあるまいし』
あたしが黙ると、圭ちゃんは冗談っぽく言った。
「そう、だけどさ」
『でも、ありがとね』
その一言で、あたしの涙腺は早くも緩み始めた。
「…うん」
少し上ずった声になる。圭ちゃんに気付かれてないと良いけど…。
- 193 名前:泣きむし。 投稿日:2003年05月11日(日)17時16分20秒
- 『でもホントいろんなことあったよね』
あたしの涙腺が早くも緩み始めたコトに気付いていないのか、圭ちゃんは追い討ちを掛けるように言った。
「うん、あったね」
ヤバイ、鼻がヒクヒクしてきたっ…!
あえて鏡は見ないけど今のあたしはきっとあの、みんなが言うところの”パグのよーなカオ”になっているに違いない。
泣いちゃダメ! そうだ、ワケのわかんないコト言って気を紛らすんだ、ヤグチ。
ココであたしが泣いたりして、卒業前夜の圭ちゃんをもらい泣きさせるワケにはいかない。
だって明日の朝、目が腫れちゃうし…やっぱり今泣くワケには、かつ泣かせるワケにはいかないのであった。
「なんかぁ、すっごいデコボコしてて、雨とか雪でグチャグチャんなった山道をママチャリですっとばしてるカンジ?」
『なんだそれ。大変でした、ってこと?』
「まぁそんなトコ」
今夜はきっとすごく緊張してるだろう圭ちゃんを、「明日は頑張ろう」とかなんとか励ましたくて電話したのに、
『デコボコでもグチャグチャでも、うちらには道があるだけずっと良いんだよ』
ポジなんだかネガなんだかよくわかんないコトバで、逆に慰められてしまった。
- 194 名前:泣きむし。 投稿日:2003年05月11日(日)17時19分02秒
- 『でも、アタシも矢口じゃないけど、明日はいっぱい泣くんだろうな』
「泣くでしょー。オイラなんてそれこそ、プール何コぶんの世界だね」
『泣かないつもりではいるけどさ、たぶんダメだね』
「ダメだねー、泣くね」
すっかり涙も引っ込んで油断していたあたしが半笑いで言うと、
『けど、悲しいからじゃないよ』
圭ちゃんの、それまでよりも少し、真剣な声。
「どう、違うんだよ」
『単に気持ちのモンダイだけどね』
「ふーん」
そっけない返事をしたのは、これ以上喋ると今度こそ本当に泣いてしまいそうだったから。
結局、その夜のあたしは、彼女に何一つ気の利いたコトも言えずじまいだった。
センターでみんなに囲まれる圭ちゃん。泣きじゃくるちびっこメンバーたち。そしてちびっこみたく泣きじゃくってる、ヤグチ。
あたしにとって、明日のステージを想像するのはそんなに難しいコトじゃなかった。
だけどあさってからの、圭ちゃんがいない景色を思い浮かべるコトは、どんなに頑張ったってあたしには到底ムリだ。
- 195 名前:泣きむし。 投稿日:2003年05月11日(日)17時22分16秒
- 「ふぅっ…」
電話を切った直後だった。
鼻の奥がツンとして、目が熱くなって、肺のあたりから何かが込み上げてくる、あのカンジ。
ヤグチの中の、ナキムシという名の虫が胸の奥からゾロリゾロリと這い上がってくる、いつものあのカンジ。
「ダメだって」
ガマンしようとすればするほど、息苦しくて、胸が、ぎゅうって締め付けられるみたいに痛くて。
「もぅ、ダメだって」
ヤグチの中のやっかいな虫が、また暴れ始める。あたしはベッドに倒れ込むと、枕にカオを埋めた。
「…っ、っ、っ、っ」
誰が悪いワケじゃないって、解ってるつもり。
圭ちゃんにも、それからヤグチにも。
デコボコだってグチャグチャだって、うちらには進むべき道があるだけ幸せと言えるんだろう、たぶん。
ただ、信じたいよ、圭ちゃん。
その道は、ちゃんと前に向かって延びているはずだって。
明日なんか、一生来なければいいのに。
- 196 名前:泣きむし。 投稿日:2003年05月11日(日)17時25分33秒
――
ベッドに入ると、ウソみたいに素早く、朝がやってきて。
家を出ると、ウソみたくあっという間に、一日が終わって。
昨夜の予想どおり圭ちゃんもあたしもたくさん、それこそ『ドーム何コぶん?』ってゆーぐらい、たくさん泣いた。
ホントにホントにたくさん泣いたけど、でも……
(『悲しいからじゃないよ』)
つまんない強がりかもしれないけど、圭ちゃんが言ったみたいに、今日からあたしは。
どんなに寂しくて泣いてもどんなに辛くて泣いても、カナシイ涙だけは流さないって、決めたんだ。
圭ちゃんのいない控え室。圭ちゃんのいないステージ。圭ちゃんのいない、モーニング娘。
どれもまだぜんぜん想像できなくて、それでも無理に思い浮かべようとすると途端に例のムシが現れて、やっぱりまた泣いてしまった。
そしてベッドに寝転んでグスグスしながら突然、圭ちゃんにメールしようと思い立った。
- 197 名前:泣きむし。 投稿日:2003年05月11日(日)17時30分16秒
- 「…っ、ずっ、っぐ」
鼻がヒクヒクしている。
あえて鏡は見ないけど今のあたしはきっと例の、みんなが言うところの”パグのよーなカオ”になっているに違いない。
「うりゃ」
ピッ、と送信ボタンを押す、パグこと矢口真里。
パグチ真里、なんつって、とか言ったらカオリあたり笑ってくれるかもしれない。
『まりっぺ、つまんなぁーい』とか言いながらさらにつまんないダジャレを返してくる梨華ちゃんの姿が目に浮かんだ。
ありがとうだったりおつかれさまだったり、伝えたいコトバはたくさんあったけれどとりあえず、あたしは。
”これからもよろしくね。まりっぺ。”
もう少しだけ信じて、強がってみようと思う。
圭ちゃんもあたしも、デコボコだってグチャグチャだって走り続けてさえいれば、きっとどこかへたどり着けるはずだって。
<おわり>
- 198 名前:すてっぷ 投稿日:2003年05月11日(日)17時32分29秒
- 保全してくださった方、ありがとうございます。
更新不定期ですが、よろしければまた読んでやってください…。
- 199 名前:名無し 投稿日:2003年05月11日(日)18時56分19秒
- ぬぅぉぉーーん!!目がチカチカしやがる!!
aikoのナキムシやらバンプのベルやら色んなもんが重なった。
で、あのセリフ。いいですね。僕が娘。だったらそう言いたいと思っていました(w
オリメンと後輩達を繋ぐために1番動いて泥を被って来たのは、この子達だと勝手に僕は思っています。
矢口さんは見える所で誰かがサムイ事を言っても無視しないでつっこんであげたり誰よりも笑ってあげたりしてみんなのフォローをして、
保田さんは見えない場面で飯田さんや安倍さんを繋いだり、後輩達の悩みをいち早く気付いたりしてメンバーを助けて来たと思います。
もうダメだ!本当に泣きそうだ!すてっぷさん大好き!
- 200 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月11日(日)22時17分44秒
- やった!!新作!!!!!
すてっぷさんてホント娘。さんたち好きだよね。
Dear Friendsシリーズって切ないんだけど
すてっぷさんの娘。さんたちへの愛が伝わってきてなんだかすっごくうれしくなる。
- 201 名前:すてっぷ 投稿日:2003年05月20日(火)23時17分04秒
- レス遅くなってすみません。。
>199 名無しさん
ありがとうございます。199さんの二期メン分析、読みながら思わず「うんうん」と頷いてしまいました。
この二人って、まさに陰の(?)尽力者という感じですもんね。
どんなに形は変わっても、保田サンが残した心意気やら色んなものは消えないでいて欲しいなと願いつつ…
相変わらず更新遅いですが、よろしければまた勝手な妄想にお付き合い頂けると嬉しいです(笑)
>200 名無し読者さん
ありがとうございます!
切ない出来事の中にも何か救いを見出したくて、こういうモノを書いてしまいます。
思えばもうずいぶんと、リアルな設定で明るいハナシ書いてないなあ…。
- 202 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)22時58分58秒
――
早朝、楽屋にて。
「よっすぃー、おはよっ」
彼女はあたしの姿を見つけるなり、あいぼんと楽しく雑談中のあたしにいつもの甘ったるいカンジで腕を絡めてくる。
正確にはいつもみたくワザとらしいカンジじゃなくて普通にカワイかったんで、正直ちょっとだけドキっとしちゃったんだけど…
「げぇっ、なんだよ!」
いつものように顔をしかめて、あたしは彼女の手を乱暴に振り解く。
まったくホントにコイツはもう、ぜんっぜんわかってないんだから…懲りない彼女の行動に、思わずため息が出てしまう。
いくら二人が仲良しさんだからといって、みんなが見てる前でいちゃつくのってめっちゃカッコ悪いよ…なにより、恥ずかしいじゃんか。
「っつーかマジ、キモいよコイツー」
あたしはトドメにいつものキーワードで締めくくると、目の前に立つ彼女の反応を窺う。
(『ちょっとー、なんでキモいとか言うのよーっ』)
ヤツが冗談っぽく怒りながら、あたしの腕やら時には背中なんかをバシバシ叩くいつもの光景が頭に浮かんで、あたしは身構えた。
本気なのか冗談なのかわかんないんだけど…けっこー痛いんだよなぁ、アレが。
- 203 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時00分59秒
- 「………」
が、しかし。
あたしの予想に反して、彼女はまったくのノーリアクション。無言であたしのコト、じっと見つめてる。
さっきあたしがはねつけた、行き場を失った右手が、胸元で小さく握られてる。
かと思うと、何も言わずにぷいっとどこかへ行ってしまった。
「…なにアレ」
しばらくあっけにとられていたあたしは、彼女が閉めたドアの音でようやく我に返る。
「あーあ。怒っちゃった」
出て行ってしまった彼女を心配している風でもなく、ニヤケ顔であいぼんが言う。
「そうかな?」
「だって、ぜんぜん笑ってなかったじゃん。マジギレだよマジギレ、超マジギレ」
「うるさいな。何回も言うなよ」
ちきしょー、こやつめ…他人の不幸を完全に面白がってやがる。
でも、あいぼんの言うとおりマジギレだとしたら…どうして、今日に限って?
いつもなら、
(『もうっ。キモいとか言わないの、よっすぃーはぁ』)
とかなんとか言いながら、ぜんぜん平気そう(ってゆーかむしろうれしそう?)にしてるくせに、どうして…?
- 204 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時02分53秒
- 「ねぇねぇねぇ、”マジギレ”って10回言ってみて」
「マジギレ、マジギレ、マジギレ、マジギレ、マジギレ、マジギレ、マジギレ、マジギレ、マジギレ、マジギレ」
「ハイおつかれー」
「………」
ちきしょー、こやつめ。
「ってゆーかさぁ、マジでマジギレだと思う?」
「マジでマジギレだよ。だってぜんぜん笑ってなかったじゃん」
「だよねぇ…」
確かにあいぼんに確認するまでもなく、あの真顔、突き刺すようなあの冷たい視線は…
今までにも何度か遭遇したことのある、マジでマジギレしたときの彼女に他ならない。
- 205 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時05分13秒
- 思いつく限り最新のマジギレエピソードといえばつい一ヶ月ちょっと前、彼女の部屋に泊まったときのこと。
隣で気持ち良さそうに眠る彼女の瞼にマジック(しかも油性)で目の絵を描き、声を殺して爆笑しているうちにいつの間にか寝てしまい、
翌日のお昼ゴハンのときに矢口さんに指摘されてみんなに大笑いされるまで本人はもちろん、
落書きしたあたしですらもすっかり忘れっぱなしだったときにはさすがに一週間口も利いてもらえなかった。
ってゆーかお前も、気付くタイミングいくらでもあっただろ(顔洗うときとか)……とは、思ったけれどもちろん言えず。
ハロプロニュースの最終回。
チャーミーの瞬きの瞬間をスロー再生すると、閉じた瞼にくっきりと目の絵が浮かび上がって見えることはメンバーしか知らないし、
もちろんこの秘密を他の誰にも話すつもりはない。墓場まで、持っていくつもりだ。
- 206 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時07分24秒
- 「キモいって言うからだよ、よっすぃーが」
「そんなの」
そんなの、いつも言ってるコトじゃんか。
そう言おうとして、あたしは言葉に詰まった。
正直、あたしは悪くない、って言い切れる自信は無い。
いつも言っているとはいえ、”キモい”なんてどう贔屓目に見たって誉めコトバとは言えないワケだし。
それに、今日の彼女はいつもみたくワザとらしいカンジじゃなくて普通にカワイかったんで正直ちょっとだけドキっとしちゃった、のに、
あたしの方は本心に反していつもどおりに、キモいよーとか言っちゃったコトへの罪悪感みたいなモノもあったし。
結局その日、彼女はあたしが話しかけようとすると他のコのトコに行っちゃったりして、
あたしはなんだか避けられているみたいだった。
この状況、間違いない。
梨華ちゃんマジで、マジギレだ。
- 207 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時09分25秒
――
前回キレられたときは明らかにあたしの方に非があったワケだから、仲直りの電話も当然、あたしからした。
だけど今回の場合、あたしが彼女に睨まれたり避けられたりする理由がイマイチよく、わからない。
それでもその夜、さんざん悩んだ末にようやく決心して、あたしは梨華ちゃんに電話した。
『はい』
「あ、あたし」
『うん』
電話の向こうからは、いつになく落ち着いた声。
いつもだったら、もうちょっとうれしそうに話してくれるんだけど…声のトーンから察するに、彼女の機嫌が宜しくないのは明らか。
「こんばんは」
一瞬ひるんだものの、あたしはすぐに体勢を立て直し、あくまで自然体を装う。
『どうしたの?』
「そっちこそ…なんか今日、機嫌悪かったじゃん。どしたのさ」
コレは仲直りのための電話じゃない。
だってべつにケンカしてるワケじゃないし、こっちは理由もよくわかんないまま向こうが一方的に怒っているにすぎないんだから。
- 208 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時11分38秒
- 『心配してくれるんだ』
「べ、っつに…そうじゃないけどさぁ。あたしがホラ、なんか悪いコトしちゃったのかなぁって。ちょっと、気になったからさ」
梨華ちゃんはやっぱり不機嫌そう。
原因に思い当たるフシがあるだけに、あたしは早くもしどろもどろ。
『それって、心当たりがあるってコト?』
「ない」
『………』
あたしが即答すると、梨華ちゃんは黙り込んでしまった。電話の向こうの怒り顔が目に浮かぶ。
「あっ、ないコトも、ないんだけど。でもあんなの、いっつも言ってるコトだし、ねぇ」
あたしは慌てて弁解。
まだなんとなく半信半疑だけど…やっぱり梨華ちゃん、あたしが楽屋で彼女のコト”キモい”って言ったコトについて怒ってるんだろうか。
『ねぇ』
ほんの少しの間があって、梨華ちゃんが言った。
だけど、その声にさっきまでの棘は感じられない。
「ん?」
『そんなに、キモいかな…私』
「へっ?」
あたしは思わず、すっとんきょーな声で聞き返してしまう。
だって…”私ってキモいかな?”なんていきなり深刻な口調で質問された日にゃあ、そりゃ驚くのもトーゼンってモノ。
- 209 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時14分07秒
- 『だってよっすぃー、いつも何かにつけて私のコト、キモいキモいって…ちょっと言いすぎじゃない?』
「そんなの冗談に決まってんじゃん。それに矢口さんだって安倍さんだってあいぼんだって、みんな言ってるし」
なんだかあたしだけが責められてるみたいな気がして、自然、ムッとした言い方になる。
『だって二人のときも言うじゃん! 意味わかんないよ、なんなのアレ? べつに二人っきりなのに笑いとか要らないよね!?』
「えー、そうだっけ? 二人のときも言ってる?」
なんてシラジラしく答えつつも心当たりはちゃーんと、あったりして。
梨華ちゃんキショぉー。キモいよ梨華ちゃーん。うわぁ超キモいよ梨華ちゃーん。
始めは、矢口さんとかが梨華ちゃんのコトからかってるのに便乗してあたしも言い始めたんだけど…
そのうち口ぐせみたくなって、二人で部屋にいるときなんかも普通に口にするようになってしまった。
だけど、今でこそ日常になっちゃってるけどあたしがそれを始めたのにはちゃんと理由があって。
始めは、矢口さんが梨華ちゃんのコトからかって、そんで二人がじゃれ合ってたりするのがなんとなく、気に入らなかったんだ。
- 210 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時16分32秒
- 『言ってるよ。何でとぼけるの?』
「とぼけてませんー。ホントに覚えてないもん」
でも、あたしのそういう複雑な気持ちを梨華ちゃんが察してくれるハズもなく…
って、あたしが言わないから、そんなのわかんなくて当たり前なんだけど。
『そりゃあ、キモイキモイも好きのうち、って言うけど』
はて。そんなコトバ、聞いたことないけど…。
『でも最近、真剣に考えるの。よっすぃーってもしかして、私のことホントに、嫌いなんじゃないかって』
「はあ?」
なんだそりゃ…思わずふにゃあ、って脱力してしまう。
『ねぇ、どうなの?』
呆れた…いったい何をどう考えれば、そんなバカげた結論にたどり着くんだろうか。
「だからー、それはさぁ」
『”好き”の裏がえし?』
「ぉぁ…」
いきなり不意打ちをくらって、あたしは慌てた。
- 211 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時18分37秒
- 「……んーなの、わかってんだったらさあ。なんで怒るかなぁ」
あたしは、小声でブツブツと梨華ちゃんに抗議。
頬が熱い。みるみる体温が上がってくるカンジ。
そりゃあ、好きだから困らせたり意地悪したくなっちゃう気持ち、どうしようもなく子供っぽいって自分でもわかってる。
じゅーぶん、わかってるから…改めて指摘されると、恥ずかしくて死にそーになる。
『だったら私は、よっすぃーの言うコトぜんぶ逆さまに解釈しなくちゃいけないの?』
「どうせわかってんでしょ? だったらいーじゃん。そうしてよ」
あたしがふてくされて言うと、梨華ちゃんは小さなため息を吐いた。
顔が見えないから、梨華ちゃんが怒ってるのか呆れてるのかはわかんないけど…
どっちにしろ彼女の機嫌がそーとー宜しくないコトだけは明らか。
まぁ…そうさせてるのは他の誰でもない、あたしだってハナシもあるけど。
- 212 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時21分25秒
- 『そういうコトに慣れちゃってるから、そういうコトしか言えなくなってるの、よっすぃーはぁ』
「なんだよそれ。もう、さっきからゴチャゴチャさぁ…一体なにが言いたいの?」
あたしはムッとして言った。
梨華ちゃんのこーゆートコ、やっぱりちょっと気に入らない。
難しくて、まわりくどくて…あたしのコト試してるみたいな言い方。
『大っ嫌い』
梨華ちゃんが突然、きっぱりと言った。
「え…」
それはあまりに突然で、あたしは思わず絶句してしまう。
『って言われてうれしい?』
梨華ちゃんはたっぷりの間を取って、続けた。
「や…あんまり」
あたしは戸惑いつつも、素直に回答。
梨華ちゃん、一体なにが言いたいんだろう…また、例のまわりくどくて長い長いお説教が始まるんだろうか。
『でしょ? 反対の意味だってわかってても、それよりホントのコト言ってくれるほうが、ずっとうれしいに決まってるんだから』
”反対”ってコトはつまり、今のは…。
- 213 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時25分45秒
- 『いつもそうしてほしいなんて言わないけど、たまには、ホントのコトも言ってほしいよ』
あたしは梨華ちゃんのコトが好きで、梨華ちゃんもあたしのコトが好きで、そのことはお互いちゃんと、解っていて。
だからあたしの言う「嫌い」=「好き」だってコトも梨華ちゃんはちゃんと理解してくれているハズ、だと、あたしは思っている。
『ときどきでいいから…優しくしてほしい、っていうか』
だけど、さっき彼女に「嫌い」って言われた瞬間のあたし、確かに傷ついてた。
梨華ちゃんも同じように、あたしの言う、ホントの気持ちとは逆のコトバでその度に少しずつ少しずつ、傷ついているんだとしたら…。
『ねぇ』
「ん?」
『私、そんなに難しいコト言ってる…かな』
黙りこくるあたしに、梨華ちゃんは不安そうな声で聞いてくる。
「ううん。わかる、けど…」
『……もういいよ。おやすみ』
「あ、おやすみ」
つられてとっさにそう言っちゃったら、梨華ちゃんはまた短いため息を吐いて、電話は切れた。
「あ…」
急に素直になれって言われても無理だけど、せめてゴメンナサイの一言ぐらいは言えば良かったかもしれない。
- 214 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時28分46秒
- 梨華ちゃんキショぉー。キモいよ梨華ちゃーん。うわぁ超キモいよ梨華ちゃーん。
親しいからこそ面と向かって言える言葉だけど、好きな人に向かって言うコトバじゃないよなぁ、たしかに。
梨華ちゃんが言うみたいに、たとえ裏返しだって解ってても「嫌い」よりは「好き」って言われたほうが、うれしいに決まってるけど。
”キショいって、梨華ちゃんだから言えるんだよ?”
あたしはベッドに寝転んで、梨華ちゃんへのメールを作成中。
口で言えないコトはメールで。コレもあたしの悪いクセ。
(『そういうコトに慣れちゃってるから、そういうコトしか言えなくなってるの、よっすぃーはぁ』)
いざ送信ボタンを押そうとすると、ふいに梨華ちゃんに言われた一言がアタマをよぎった。
”梨華ちゃんだから言えるんだよ?”
もちろん嘘じゃないけど…でもそれってあたしの勝手というか、単なる甘えでしかないのかもしれない。
きっと彼女にしてみれば、こんなのズルイ言い訳にしかならない。
いつから、言えなくなっちゃったんだろ。
あたしが梨華ちゃんに伝えたいのはいつだって、「大っ嫌い」の裏がえしなんだってこと。
- 215 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時31分15秒
- 「はあっ…」
書きかけのメールは削除した。
やっぱり大事なコトはメールなんかじゃなく、直接言ったほうが良いと思うし。
それにたとえば「好き」とか「愛してる」とかメールしたとして、後生大事に保存されてもそれはそれで恥ずかしいし。
「はあ〜…」
けれど考えても考えても、出てくるのは気の利いたコトバなんかじゃなくて、情けないため息ばかり。
あーあ。
思ってるコトの逆を言うのはあんなにカンタンなのに…ホントの気持ちを伝えるのって、どうしてこんなに難しいんだろ。
「うらがえし、か」
悩んでてもしょうがない。
とりあえず梨華ちゃんが今いちばん気に入らないのは、あたしがいつも口ぐせのように言っているアレだ。
好きとか愛してるとか言う前にまず、あのコトバを訂正するのが先だろう。
好きとか愛してるとか言うよりもそのほうがぜったい、梨華ちゃんだって恐らくたぶんきっとうれしいに決まってるし。
「よしっ」
あたしは両手で軽く、ガッツポーズ。
明日に備えて今日は早めに寝よう。うん、そうしよう。
- 216 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時33分51秒
――
翌朝、楽屋にて。
「おはようございます」
いつになくよそよそしい態度の彼女は、あいぼんと楽しく雑談中のあたしと目が合うとすぐさま視線をそらし、
「まりっぺ、おっはー!」
パイプ椅子にだらしなく腰掛けて雑誌を捲りつつお菓子をつまんでいる矢口さんの隣に座った。
「ウザ…今どき”おっはー”なんて言ってんの、日本中で幼稚園児と梨華ちゃんぐらいだよ」
「そっかなー?」
「ってゆーか相変わらず私服キショいよねー。どこで買ったのそれ。ヨーカドー?」
「ひどーい、もぅ」
梨華ちゃんは唇を尖らせて、矢口さんに抗議。
っていうか、あたしより矢口さんの方がよっぽど酷いコト言ってる気がするんだけど…何故もっと怒らん?
と、そんなコトはどーでもいいワケで。
今日のあたしは、梨華ちゃんにどうしても言わなきゃいけないコトがあるのであった。
「ねぇねぇねぇ、”プーさん”って10回言ってみて」
「ちょっとゴメン」
あいぼんに断りを入れると、あたしは矢口さんと雑談中の梨華ちゃんの元へ歩み寄る。
- 217 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時36分51秒
- 「あれー? どうしたの、梨華ちゃん、今日は…」
あっ、声が裏返ってしまった。
でも、だいじょうぶ。
正直に生きるってコトは、時として極度の緊張を伴うモノなのだ。って自分で言ってて意味が良くわかんないけど。
カーン!!
(あたしの脳内に)運命のゴングが鳴り響く。
逸る気持ちを抑えつつ、とりあえず息継ぎをして、あたしは言った。
「キモくないじゃん」
やったぁ…言い終えて、思わず微笑んでしまった。
正直に生きるってコトは、時として、すーっごく気持ちがよい。
「えっ……」
しかし当の梨華ちゃんは、なぜか困惑顔であたしのコトを見上げている。
かと思うと、右手を軽く胸元に添え、下を向いて黙り込んでしまった。
「あれ?」
おかしいぞ?
”キモい”の反対は、”キモくない”じゃないんだっけ??
それとも、まさかとは思うけど、いや、うっすらと気付いてはいたんだけど、
もしかして好きとか愛してるとか言ったほうがうれしかったとか……?
- 218 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時39分32秒
- 「どしたのよっすぃー、冴えてんねー。最高級のイヤミだよそれ」
「梨華ちゃん…?」
あたしは矢口さんの横やりを完全無視、俯いてる梨華ちゃんの顔を覗き込む。
おそるおそる確認すると、梨華ちゃんは……笑っていた。
「うそっ、喜んでるし。キショっ」
「そうかな、私…キモくない、かな」
梨華ちゃんは矢口さんの横やりを徹底無視すると、あたしに言った。
「う、うん。だいじょーぶ、だいじょーぶ。もうぜんぜん、イケてるし」
あたしが苦し紛れに答えると、梨華ちゃんは本当に幸せそうに笑った。
そんな彼女のうれしそうな顔を見ていたら、たまには素直になるのも悪くないと思えた。
あたしは梨華ちゃんのコトが好きで、梨華ちゃんもあたしのコトが好きで、そのことはお互いちゃんと、解っていて。
だからあたしの言う「嫌い」=「好き」だってコトも梨華ちゃんはちゃんと理解してくれているハズ、だと、あたしは思っている。
だけどそういう楽チンさに慣れすぎて、カンジンなときにホントの気持ちを言えなくなってしまうのは、とても危険なコトだ。
- 219 名前:「大っ嫌い」の、うらがえし。 投稿日:2003年06月22日(日)23時42分46秒
ただ、この程度で喜んでくれるんだったら……
「今日お泊りしてもいい?」
「えーっ、いいけどぉー。
よっすぃー、ピンクのベッドカバーがキモいとかー、枕カバーもシーツもピンクすぎてキショいよーとか言うじゃんいつもー」
「もう言わないよ。だって、ホントはぜんぜんキショいとか思ってないんだもん」
「…うん。だったら……いいよ」
好きとか愛してるとかは、とーぶん先でも平気かなぁー。みたいな。
<おわり>
- 220 名前:すてっぷ 投稿日:2003年06月22日(日)23時45分08秒
一話完結の短編です。よろしければ。
- 221 名前:名無し娘。 投稿日:2003年06月23日(月)00時54分22秒
- 余計な事を考えすぎるふたりのちょっとしたトラブルですが
心暖まりますね。
私は、一方的に被害を受けながらでも心底嬉しそうな石川と吉澤の
関係が大好きなんですが、吉澤の言葉に過剰に反応する石川に萌えました。
ごちそうさまです。
- 222 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月23日(月)02時29分11秒
- 相変わらずキャラがいい!
吉澤も石川もちょっとずれててかわいい!!
あいぼん、矢口、おもろすぎ。
そして内容ももちろん、いつもタイトルが大好きです。
- 223 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月23日(月)03時28分26秒
- いや〜これまた"ごちそうさま"なお話ありがとうございました。
こちらはこのところ切ない系が続いていたので・・・w
うまくバランスがとれているな〜と思いました。
なにげにあちらにもバランスがとれているような気も!w
あちらこちら言ってすいませんでしたが、
又の更新を楽しみにしています。
- 224 名前:Silence 投稿日:2003年06月23日(月)14時05分31秒
- やった〜更新されてる〜。しかもいしよしだ〜。
ってゆーかこんな風景が現実にありそうな気がするんですよ。
だから一人で何故かうなずきながら読んでました。(w
前作もマジ感動でした。特にパグチ真里(w
本当にお師匠様のセンスは抜群ですね。マジで惚れます。
- 225 名前:名無し 投稿日:2003年06月23日(月)18時26分39秒
- 時とは残酷なまでに形を変えていく物であって、そしてそれは神の領域に踏み入った「いしよし」にも例外無く牙を剥きました。
そんな中それを認めずに自分の中の妄想と過去の情報を元に補完して行く作品が多々見られ、時代錯誤も良い所だと、ちょっと頭のオカシイ自分は思っておりました。
正直「いしよし」は死んだとさえ感じていました。しかし、この作品に出会えました。
正に僕の中の現在進行形の「いしよし」と不気味なぐらい符合しました。
嬉しいです。「いしよし」は確かに生きていました。僕が愚かでした。
最近すてっぷさんの作品を読んでいて確信に近付いてきたのですが、すてっぷさんはモーニング娘。を近くで見ている人だとしか思えません。
じゃなければここまでリアルな話がどうして書けましょうか。妄想だけでここまで書けるのなら天才かもしくはキチガ(ry
すてっぷさんが吉澤さん本人だというオチを期待しています。
そうそう、僕にもハロプロニュースの最終回でちゃんと見えましたよ。>キチガイ発言
- 226 名前:名無し読者79 投稿日:2003年06月23日(月)19時47分28秒
- こちらも読ませていただきました。
なんかすごい二人はわかり合ってるんだなーって思いました(^^)
最後の梨華ちゃんの笑顔、よっすぃーの行動、言動に一喜一憂している姿が
すごく可愛いです。現実の二人もこうなのかなーって思う作品ありがとうです!!
- 227 名前:もんじゃ 投稿日:2003年06月25日(水)22時38分57秒
- 前作の「泣きむし。」と共に読ませていただきました。
物語のヤグチも現実のヤグチもえらいなと思ったり。
すてっぷさんは強いなぁと思ったり。
私なんて揺れっぱなしで…。
なんかまた新しいユニットが生まれるみたいですよ…。ハハ…。
「大っ嫌い」の〜。
よっすぃってば、バカ正直というか素直というか全体的にアフォというか…
だから梨華ちゃんとお似合いなんだと思う今日この頃でした(笑)
- 228 名前:すてっぷ 投稿日:2003年07月08日(火)00時17分42秒
- 感想、どうもありがとうございます!
>221 名無し娘。さん
ありがとうございます。このところ寂しい話が続いてたので、久々ほのぼの系でいってみました。
>一方的に被害を受けながらでも心底嬉しそうな石川
哀しいかな、それってまさに石川さんの真骨頂という気がします(笑
>222 名無しさん
矢口、毒吐きすぎかも…と心配でしたが、気に入ってもらえて良かったです(笑)
タイトルは毎回悩むのでそう言ってもらえると嬉しい…
最後に「。」を付けるのが密かなこだわりだったりします(ついてないのもあるけど)
>223 名無し読者さん
どうもです。こっちでは本当に久々、明るい話を書いたなぁという気がします。
次はさらにハジケたモノを書きたいんですが、構想はあるものの、なかなか…
それより、早くあっちを完結させねば(笑
- 229 名前:すてっぷ 投稿日:2003年07月08日(火)00時19分31秒
- >224 Silenceさん
ありがとうございます〜。
こっちは本当に不定期なので…たまーにチェックして頂けると大変嬉しいです。
前作の感想、ありがとうございました。もしや、Silenceさんのツボって、ダジャレ?(笑
>225 名無しさん
冗談でも誉めすぎですよぅ…(笑)。正直、CPの定義みたいなモノ(?)については
あまり真剣に考えた事がなかったので、そう言ってもらえるとなんだか申し訳ないような。。
例えば色んな「いしよし」があっても、読む人と書く人が(勿論イイカゲンな意味ではなく)一緒に楽しめれば
それで良いんではないかなぁぐらいの気持ちで書いちゃってますし…。
でも、リアルに感じてもらえたという事は、225さんとは妄想の方向性がぴったり一致してると思われるので(笑)、
よろしければまたお付き合い頂けると嬉しいです。
- 230 名前:すてっぷ 投稿日:2003年07月08日(火)00時21分50秒
- >226 名無し読者79さん
いつも感想ありがとうございます。
ぶっきらぼーなよっすぃーの言動に振り回される石川さんの図、ってなんか容易に想像できますよね(笑)
こちらこそ、気に入ってもらえて良かったです!
>227 もんじゃさん
同感です…現実の矢口さんはえらいし強いなあと思います。
私は哀しいことに、(卒業とかは別として)そのテのニュースにはすっかり免疫ができてしまったというか…
そうなっちゃったモンはしょーがないんでこの際楽しむしかないっすよねってカンジです。
新ユニット。個人的に、あの番組はマチコ先生のトーク目当てに観てるので(半分ホント)、
先生が参加しないなら何の興味もないなあ(ちょっとウソ)
- 231 名前:すてっぷ 投稿日:2003年07月27日(日)21時34分53秒
- ちょうど切りが良いのと、次の話の途中で容量オーバーになりそうでしたので…
白板に次スレ「Dear Friends7」を立てさせて頂きました。
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