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ショボっと長屋
- 1 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年08月29日(水)14時17分49秒
- sageでやるから、そっとして置いて。
「いいなぁ」
この部屋の壁にはそう書かれた、紙が張り巡らされていた。
部屋の住人の名は・・・吉澤ひとみ。
「ふっあぁ〜あ!」
上半身を布団から起こし、ボーっとしているのがこの部屋の住人だ。
彼女が着ている、見るからに安物のパジャマには、北天佑、北の海、坂鉾
等々ジャパニーズテーストな文字が、所狭しと書かれている。
「今日も、起きますかぁ?」
本来、完全たる独り言だが、確実に隣の部屋の住人に聞こえる大声でそう
叫ぶのが日課である。
吉澤が住む長屋には、世にも不思議な住民がおり近所住民からは、役所に
対し再三にわたり、立ち退きの申し立てを起こされている。が、しかし、
この長屋の住民達は、今でこそ輝く、モーニング娘。なのである。
これは、この長屋に住む人物を追った。あきれる程いい加減な物語である。
- 2 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月29日(水)15時05分54秒
- う6ぉ2たん、ショボっとおかえりなさい。
- 3 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年08月29日(水)15時20分23秒
- 吉澤の部屋と薄壁を隔てた、部屋に住むのが加護亜依。
毎朝決まって5時48分に聞こえてくる奇声を、子守歌にようやく
眠りにつけるような、不眠症の13歳。また別の機会になると思うが、
つい最近まで一番の年下でもあった。しかし、他の住民には不眠症の
事は伏せ、強がって見せたりもしている。
その加護の隣で寝ているのが、矢口真里。彼女も他の住民と同じく
加護の不眠症には気付いていない、らしい、彼女の言動を見る限りは。
一見、矢口と加護が同部屋で生活しているように思われるが、加護の
部屋にクイーンベットを勝手に持ち込み、勝手に矢口の寝室代わり使っ
ているのだが、加護もそれを楽しんでいたりする。
部屋にはまず、我こそ部屋の主、と言わんばかりのクイーンベットに
加護の寝るわずかなスペース、それと据付の家具、どの引き出しにも鍵
が着いているのが、この部屋の最大の特徴だ。
- 4 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年08月29日(水)15時21分03秒
- 今回は、矢口と吉澤に加護にフューチャリングして見よう。
彼女達は仕事帰りに、なじみのラーメン屋に入った。
ガラガラ
店主:「お前らは、帰ってくれ!」
矢口:「いいじゃね〜か!客だぞ、食わせろ」
店主:「お前らアレだろ?長屋の娘っ子だろ?」
加護:「ウチはチャーシュー麺大盛りや、チャーシュー抜きで」
吉澤:「半チャンラーメン大盛りで、ラーメン抜きで」
店主:「お前らに食わす物はない。帰れ!」
なじみの店とは、またにこう言う仕打ちをするものだ。3人は諦めて
隣町のラーメン屋まで、足を伸ばした。
ガラガラ「らっしゃい!」「いらっしゃい」
この何も知らない無垢の威勢に、3人に満面の笑みがこぼれた。席に座ると直ぐ
店主の奥さんらしき女性店員が現れ、吉澤は間髪入れずに言った。
「もやしラーメンを下さい」
「ウチは塩で、塩ラーやね」
「餃子2皿に、五目ソバ、あとビール」
ビールの声に、女性は上目使いでは矢口を一睨みしたが、スッと栓を抜いた
ビール瓶とコップが出てきた。
吉澤と加護は、我がもの顔で氷をコップに沢山入れ、水をセルフし始める。
- 5 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年08月29日(水)15時21分55秒
- 「何て手間の掛からない子なのかしら」女性店員は感心しきりだ。
しかし、その時2人は店内をくまなく見渡していた。
「ここ店、あのババァ店員と厨房におっさん一人だな」
「無料コースやな、くふふふ」
「矢口さん、OKです」
吉澤は大きく頭の上に、丸を作り矢口に見せた。が、その仕草は、ラーメン屋には、
似つかわしくない行為であるのは一目瞭然である。当然、女性店員のマンマークが
始まった。ピタリと3人の背後に付き離れない、3人は息をするのも躊躇う程の視線を
感じながら、遅めの夕食をとり、なけなしの金を女性店員に投げつけ、店を出るしか
無かった。
- 6 名前:う6ぉ2面白い 投稿日:2001年08月29日(水)16時33分35秒
- う6ぉ2面白い
- 7 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月30日(木)00時48分42秒
- 待ってました!ガンガレ!
- 8 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月30日(木)17時28分37秒
- おお、小説だ!
- 9 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年08月31日(金)15時13分48秒
- 「安倍、セールスお断り」
ある部屋のドアの上に、貼られているプレートである。
安倍なつみ、長屋一の旅好きとして名を馳せている。
気の向くまま、風の吹くまま、今頃は何処をほっつき歩いているのか・・・
たまに顔を見せては、訳の分からないお土産を買ってくる。
その隣の部屋は特別だ。防音ならぬ防臭加工が施された石川部屋
部屋主の女がぬか漬けを漬ける。「糠床は生きている。糠床は呼吸している」と
呪文を唱えては、糠に手を突っ込み「みんな、お元気だったぁ?」と声をかけて
いる。そして、最後の住人が最年少の新垣。
- 10 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年08月31日(金)15時14分43秒
- 最後?この長屋は、二つの棟と管理棟から
なっていて、これまで見てきたのは、二つの棟の一つ、敷地西側に建つ西棟で、
東棟は管理棟を挟んで、ちょうど向かい合う形で並び立っている。
西棟に住んでいるのは矢口、加護、吉澤、新垣、石川と旅人安倍の6人である。
西棟、東棟が木造平屋の質素な建物に対し、管理棟は貴品に満ちた造りとなっている。
管理棟には大きな窓と素敵なテラス、そして手入れの行き届いた緑の芝を抱いた庭が
あり、木々が植えられ、池にはバランス良く赤や黒、白や少し黄色がかった黄緑などを、
まるで貼り絵のような錦鯉が円を描くように泳いでいる。
- 11 名前:名無し読者 投稿日:2001年08月31日(金)22時11分42秒
- がんばれ!楽しみにしてるぞ〜!
- 12 名前:う6ぉ2面白い 投稿日:2001年08月31日(金)23時52分35秒
- う6ぉ2面白い
で、う6ぉ2は(狩)板逝かないの?
- 13 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月01日(土)01時17分29秒
- 新垣のキャラ設定が気になるな。どう扱う?
- 14 名前:うお2ぉ 投稿日:2001年09月01日(土)17時07分40秒
- 窓から二つの首が出ている。
「そろそろ、来てもエエんちゃう?」
「来たんじゃない?あの車」
一台のワゴン車が、長屋の前で止まる。
ワゴン車の両脇の窓には、黒いフィルムが張られ内部は全く見えない。
「早よ、顔見せんかい」
「もたついてんじゃねぇ〜ぞ」
しばらくすると、後部座席のドアが開け放たれ、車から4人の女の子が
大きなカバンを抱えて出てきた。
「どうや?今年の新人」
「ん〜、Cの下」
「いつにも増して、厳しい人やなぁ」
「おっ、田中麗奈が居るじゃん」
「あいつのあだ名はそっくりさんやな」
車は女の子達を降ろすと、悟郎よろしく婦人警官を跳ね飛ばしながら
走り去って行った。
- 15 名前:うお2ぉ 投稿日:2001年09月01日(土)17時10分44秒
- 館内放送
-----『全員管理棟一階会議室に集合せよ。繰り返す、お前らダッシュ
で管理棟一階会議室に来い!』-----
「しかし、この声誰何やろ?生意気やな」
「わかんない」
「何も知らんな自分」
管理棟会議室、長屋の住人が入る事が出来る管理棟唯一の施設である。
管理棟正面玄関から入って、直ぐ右脇の大きな扉が会議室になる。
ゆったりとした、椅子には多国語翻訳機のイヤホンが備え付けられている。
そこには、既に安倍を除いた西棟住民が揃っていた。
矢口:「新人見た?」
吉澤:「え?今日でしたっけ?」
矢口:「何行ってんだよ、もぅ見たもんな」
加護:「見たでぇ、そっくりさん」
吉澤:「そっくりさん?」
- 16 名前:う62ぉ 投稿日:2001年09月01日(土)17時11分37秒
- 飯田率いる東棟の面々が会議室に入ってきた。
「あ〜ら、西棟の方、お待たせしちゃったかしら?」
飯田に隠れている辻が、西棟を見下した挨拶をかました。
「待ったがな、遅いねん自分ら。今日は何や?生理か?ののはまだか?」
加護は辻からジッと目を逸す事なく言った。
「いいのいいの、こんな野蛮な人達を相手にしなくていいのよ」
保田が辻に席に着くように促している。
「(むかつく野郎どもだな)」
矢口は言葉を呑み込んで耐えている、と、その時
------『新入居者、入場』-----
「し、失礼します」
緊張で強ばった顔をした新人達が会議室に入って来た、3人、4人・・・5人?
5人の新入居者が顔を揃えた。
「おい、何で5人も居るんだよ石川!」
「し、知りません。事務所の圧力じゃないですか?」
「つうか、何であいつが混ざってるんだ?」
- 17 名前:う62ぉ 投稿日:2001年09月01日(土)17時12分06秒
- 「うぃ〜っす!」
中澤である。
矢口:「何してんだお前」
中澤:「何してんだって、新人や新人や!」
矢口:「え?何の?何言ってんだ?」
中澤:「また、世話になるわ」
矢口:「お前に分け与える部屋は無いぞ」
中澤:「あるやろ?同部屋でも構わないで」
矢口:「迷惑!お前居ると迷惑」
中澤:「まぁまぁまぁまぁまぁ、よっしゃ、決まりやな?」
矢口:「決まりじゃね〜よ」
中澤:「意義なしやな?」
- 18 名前:う62ぉ 投稿日:2001年09月01日(土)17時13分30秒
- 「意義あるぞ!みんなも何か言えよ」
------『矢口うるさい、地下来るか?』-----
「ひっ!そ、それだけは!」
地下来るか?今だ誰も地下に行った事はない、それどことか地下があるのかも
誰も知らないが、怖いので誰もが閉口してしまうのだ。
矢口はまだ怯えている。
「もぉさぁ、チャッチャと決めちゃおうよ」
飯田が口を開いた。
「東棟に8戸で、西棟も8戸でしょ?つうことは16戸」
ヒィフゥミィヨォ
「ん?何人居るの?」
「東棟3人、西棟5人、新居者5人」
「えっと、13人?大丈夫じゃんサッサッと決めちゃおうよ」
矢口が釘を刺す。
「東棟は3人、西棟はご、ご、ご、5人、うわ多いなぁ!東棟は大目に取れ」
「西棟の余ってる3部屋埋めちゃえよ」
「うるせ〜ぞ辻、お前ら3人で新人の面倒見ろ」
- 19 名前:う62ぉ 投稿日:2001年09月01日(土)17時14分21秒
- 中澤:「ワシは、前に使ってた部屋がエエねんけど」
矢口:「決まり!裕子は東棟だったよな」
中澤:「そうやで、東棟やった」
矢口:「うん、決まり!」
保田:「次は、お前ら西棟が取れよ」
吉澤:「ふざけんな!保田の分際で」
保田:「吉澤、お前誰に向って!」
紺野:「(ねぇ?黙ってっていいのかな?)」
高橋:「(何も喋れないよ)」
紺野:「(自分の事だよ?なんか言おうよ)」
高橋:「(え〜、入って行けないよ)」
吉澤:「東棟はまだ4人だろ?もう一人取れよ」
- 20 名前:う62ぉ 投稿日:2001年09月01日(土)17時16分14秒
- 辻は天井を見上げ考えている。
〜どうしたものか、小川って奴は13歳らしいな、同い年の奴はアイボンと
仲良くなってほしくないから、小川取っちまうか?〜
「小川!東棟来い!」
飯田は隣に座っている辻の腿を力強く抓る
「痛っ!あほ〜飯田のあほ〜」
目に涙を溜め、辻は大きく仰け反った。
「辻さん!私東棟に行きます」
小川は辻の愛に答える
飯田は小川を睨み付ける、保田は小川に敵意を抱く。
小川の声に西棟のヤカラは大いに沸いた。
「よく言った!感動した」
「こんな事、なかなか言えたもんじゃないよ」
「よっ、そっくりさん!」
- 21 名前:う62ぉ 投稿日:2001年09月01日(土)17時18分11秒
- 紺野と高橋は小川に感化され
「東棟に行きたいです」二人の声が重なる。
飯田、保田の頭には一つのキーワードが浮かぶ
「こいつらシバいてやる!」
西棟の石川は、ここぞとばかりに
「新垣ちゃん、来なよ」
矢口もここぞとばかりに
「私達やさしい先輩だから安心していいよ」
新垣は
「はい、よろしくお願いします」
決まった。全てが決まった。
- 22 名前:う62ぉ 投稿日:2001年09月01日(土)17時19分40秒
- 西棟 新垣部屋
〜あ〜あ〜、何で新メンの中で一人だけ西棟になっちった
でも、石川さんも矢口さんも優しそうな人だったし、よ〜し
西棟で楽しんでやる!
東棟 小川部屋
小川:「ねぇねぇ、後藤さん居なかったよね?」
紺野:「居なかったよね」
高橋:「何でだろ?」
小川:「安倍さんも居ないし」
紺野:「不思議だよね」
その時ドアをノックする音がした
小川:「はぁい、空いてますよぉ」
>>14-15 コテを間違えるという、お茶目な一面を見せてしまった。
- 23 名前:う6ぉ2面白い 投稿日:2001年09月01日(土)18時49分21秒
- う6ぉ2面白い
- 24 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月01日(土)19時05分11秒
- コテハンはう6ぉ2なのかう62ぉなのか?
- 25 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月01日(土)20時25分38秒
- >>24
やっちゃた。う6ぉ2
- 26 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月02日(日)12時06分23秒
- 小説も面白いが、う6ぉ2も面白い。
- 27 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月02日(日)16時46分47秒
- ドアが開かれると同時に
「邪魔するでぇ!おっ何や、集まっとたんかいな?」
中澤裕子が靴を履いたままあがり込んで来た。
「何んの話しててん?ん?早速、先輩の悪口か?ん?」
小川は中澤の靴が気になってしかたがない、紺野と高橋は
ただ口を開けてその光景を眺めていた。
「誰が気に入らんねん?大丈夫や!本人に言わんから」
「いや、あの靴はちょっと」
「何や?ワシに意見か?あ?」
「なんでもないです」
「せやろ!文句言うたらアカンの、ホンマ怒るで!」
「すいません」
- 28 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月02日(日)16時47分34秒
- 紺野と高橋は目の前に居る、元アイドルに圧倒されている。
「あっ!せやせやちゃうねん!」
中澤は何かを思い出したようだ。
「行こうや!追といで」
小川は想う。
「何処でどんな事やらされるんだろう?」
紺野はすでに泣いていた。
「お母さん、私明日帰ってもいい?」
高橋はポケットに手を入れている。
「いざとなったら、この催涙スプレーがある」
中澤は無言だが、こう背中で三人に語っている、つもりらしい
「芸能界舐めてかかったら、死ぬで!」
- 29 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月02日(日)16時48分49秒
- 四人は長屋の真向かいにある居酒屋「旨」に入った。
「あっ!裕ちゃん!いらっしゃい」
小川は声のする方を向いて驚いた。そこには後藤真希が居るではないか。
「どうして・・・」
思わず声が出てしまった。
中澤は構わずカウンター側の席に座り
「生ビールな、んで、ガツとスナギモ!」
「はいよ、ガツ、スナギモ!裕ちゃんはタレでよかったんだよね?」
後藤は、手馴れた手つきで生ビールを注いでいる。
「で、裕ちゃん。上手く潜入出来たの?」
「おう、楽勝やった。また東棟になってんで」
- 30 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月02日(日)16時49分34秒
- 後藤は中澤にビールを渡すと、三人に始めて顔を向け近づいて来る。
「あんたら何?」
眉間にしわを寄せ三人を睨み付ける。
三人は思わず中澤に視線を向け助けを求める。
三人の視線の変化に後藤が気づき
「これ裕ちゃんの連れ?」
「あっ!忘れてた、東棟の新人や」
「あっそう?三人も一気に増えるんだ」
「こら新人!先輩に挨拶しーや」
「ど、どうも」
- 31 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月02日(日)16時50分25秒
- 後藤は中澤に顔を向け
「ハハハ、どうもって言われっちゃった」
後藤が三人に顔を向き直す、そこには獲物を追い詰めた鬼の形相があった。
「どうもって何だよ?なぁ、口の利き方しらねーのか?」
胸倉を捕まれ足が浮いているのが真ん中に立っていた高橋だ。
「す、すいませんです」
高橋はぶらぶらになったつま先で必死に地面を探す。
小川は高橋の足が宙に浮いている様を凝視していた、その時
高橋の体がフワッと宙に舞い、背中から壁に叩きつけられた。
後藤が右腕一本で、投げたのである!
「ひっ!」
次に飛んだ紺野は高橋が倒れている直ぐ脇に転がった。
- 32 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月02日(日)16時51分28秒
- 小川は飛んだ・・・スローモーションで飛んだ・・・空中で中澤がこっちを
見ながら、ビールを飲んでいるのがはっきりと見えた・・・後藤は何も無か
ったように、クルッとこちらに背を向け歩き去っていく・・・このまま着地
したら紺野と高橋にぶつかってしまう事もわかった・・・しかし、何も出来
なかった・・・着地と同時に、血の匂いした気がした・・・呼吸をして取り
入れた空気が重かった・・・中澤は手を叩いて爆笑し、スナギモに食らいつ
いていた。
後藤が振り返り
「挨拶はちゃんと出来るようにしようね」
それは、とてもやさしい声だった。
- 33 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月02日(日)16時52分42秒
- チュン チュン
全身の痛み。
全身が悲鳴をあげている。
初めて長屋で向かえる朝だというのに。
「ああ、昨日の服のまま寝ちゃったんだ」
小川は自分の身なりを見て憂鬱な気分になった。
昨日は本当に濃密な日だった。
テケテケ
え?足元でテケテケと小童が走る気配がする。
「嘘でしょ!」
信じられない、信じられない、信じられない
テケテケ
きっと疲れてるんだわ。疲れているから変な音が聞こえるんだわ
って自分に言い聞かすのよ!言い聞かせないさい!
- 34 名前:『う6ぉ2面白い』 投稿日:2001年09月02日(日)21時33分25秒
- 『う6ぉ2面白い』
(狩)も(羊)も死んでるなぁ。
どうにもまいったねこりゃ…
- 35 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月02日(日)21時40分59秒
- 小川は恐る恐る音がする方に目をやった。
「おっは〜」
辻がおっは〜ポーズでこちらを見ていた。
「お、おはよう」
「ん〜ん、おっは〜!」
やってくれって言う事なのか?
「おっは〜」
小川はおっは〜ポーズをやって見せた。
「ふふ〜ん」
伸ばした手の向こうに、満足そうな辻の顔がそこにあった。
「ビックリしましたよ、何で居るんですか?」
「昨日、どこ行ってたの?夜部屋来たのに居なかった」
- 36 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月02日(日)22時00分44秒
- 「昨日はねぇ・・・」
言葉が詰まる、惨劇、殺戮、虐殺、あまりの衝撃映像
「ねぇねぇ!昨日の夜、どこ行っての?まさか、西棟?」
「違うます・・・中澤さんに、あの「旨」ですか?後藤さんの居酒屋」
「「旨」行ってたの?な〜んだ、誘ってよ」
「行きたかったの?」
「あのばばぁ!のけ者にしやがって」
「な、何で事を!裕子お姉さんって呼びなさい!」
「お前!裕子の毒牙に・・・し〜らね!あ〜あ〜、可愛そう」
「裕子お姉さんの悪口は一切許しません!」
- 37 名前:『う6ぉ2面白い』 投稿日:2001年09月04日(火)00時56分21秒
- 『う6ぉ2面白い』
遅くなってスマソ
また(狩)dでるな〜
どーなるんだろ、これから…
- 38 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月04日(火)02時56分45秒
- (狩)がテレホ中、絶望的な現在…
唯一の楽しみはここだけだッ!
- 39 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月04日(火)03時27分09秒
- >>38
1でう6ぉ2も言ってることだしsageようぜ。
しかしマジで(狩)はどうにもならんな。
- 40 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月05日(水)20時08分11秒
- 辻は無性に腹が立った
(お前みたいなもんが、東棟に居れるのは誰のお陰だ!
何を勘違いしてやがるんだ!この、この・・・え〜っと
この〜、え〜っと、ちょっと待ってね、この?ぉ〜この?
何も浮かばないなぁ、参ったね☆)
辻は小川に微笑んだ。
小川は辻と、アイコンタクトを交わした気になった。
(裕子お姉さんの悪口を言うのは禁止だよね?)
二人に友情が芽生えた瞬間である。
- 41 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月05日(水)20時09分04秒
- 一方、その頃西棟では ある事 を予感させる事件が
起ころうとしていた。
「がぁ〜、がっ がっ が〜」
「あ〜!うるさい!眠られへんわ!」
「インパク知の5、7位じゃないか? んごがっ」
「寝言は噛まずに言えんねや」
加護は今日も、何時までたっても寝る事が出来なかい
「睡眠薬もう一個だけ飲んでみよかな?でも今日は大分
飲んでもうてるしな・・・つうか、こいつ居らんかったら?
ひょっとして」
加護はひらめいた。まさにコロンブスの卵、加護は叫んだ!
「天才やでぇ!ここに天才が居ったでぇ!」
- 42 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月05日(水)20時09分41秒
- 「ここに天才が居ったでェ!」
その声に、起された人物が居た。ぬか床を育てるのが生きがい
石川梨華である。
「あのクソ餓鬼!朝っぱらから、うんもぉ〜!」
部屋を飛び出す石川
迫り来る恐怖
「ウチ天才やったでぇ!」
どうする!?加護
ギシギシ
部屋のドアをこじ開ける音が聞こえ、そして!
「やかましいんじゃボケェェェェエエ!」
- 43 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月05日(水)20時41分11秒
- しばらくは、沈黙が部屋を支配していた。
開かれたドアには、肩で息をしこちらを睨み付ける顔が・・・
部屋の中には、己の才能に目覚めたばかりの、幼い顔が強張り
開かれたドアから、一晩中月に照らされた空気を含んだ風が、
部屋に流れて来る。
「今、何時だと思ってんだ?」ボソッと小さく発せられる声
「ん?何時なの?時計見てごらんって」5時半過ぎを知らせる
時計を見ろと催促している。
- 44 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月05日(水)20時42分20秒
- 「・・・ご、5時35分です」
その声は、恐怖で震えていた。
「だよな、普通、寝てる時間じゃないの?」
普通、寝てる時間じゃないの?普通、寝てる時間じゃないの?
頭に響くその言葉は、加護の目覚め始めた才能を萎えさせる。
「お母さん、ウチもう寝てもエエ?」
「何言ってんだい!10個で5円なんだよっ、もう少し頑張って
おくれよ」
「ほなこれやったら、明日の遠足行ってもエエ?お母さん」
「無理だよ、明日の朝は並び屋の仕事入ってんだよ!」
普通の事が出来ない暮らし・・・普通に憧れていた、普通って?、
普通とは、普通、もう寝ている時間、普通は、普通になりたい!
「普通って何や?普通ってどんなんや・・・」
- 45 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月05日(水)21時23分49秒
- 加護が自問自答し始めても、ドアから離れられない石川が居た。
(ど〜なってるんですか?)
怒りに任せドアを蹴破った部屋、その部屋には確かに加護が叫んでいた
しかし、加護のせんべい布団とは別に、大きなベットがある。
そのベット四方には、非常に繊細な細工の施された木製の立ち柱があり
それぞれを天井程の高さで梁で固定されていた。その安定感のある木製
のベットを包むかの様に、極め細やかなレースが優雅な女性的なライン
で掛けられていた。それは男性と女性を意図的に表す事を好む、挑発的
なデザイナーの作品であるのだから、長屋には似つかわしく無いのかも
知れない。
石川はそのベットと、そのベットに立ち、凄んで見せている人物に、驚
きを隠すことは出来なかったのである。
- 46 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月08日(土)18時55分14秒
- 「矢口さん・・・何故?」
石川は動転しながらも、冷静に状況を理解しようとしていた。
「ドア、ガンガンしてたのはテメェか!」
腹に響くその重量感のある声に答える事が出来ない石川
「そろいも揃って何してんだよ!もういいよや、お前ら寝ろ!」
「はい」
石川は小さな声でそう答えると、壊したドアを玄関先に立て掛け
自室に戻っていった。
「お前はいつまでブツブツ言ってんだ。寝ろ!」
矢口はまた、ふかふかとしたベットに身を沈め、目を閉じた。
・・・・・・今のままでは・・・・・・
加護は小さな胸をドキドキさせながら、フッとその場を立ち去った。
一通の置き手紙を残して・・・
- 47 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月08日(土)18時55分48秒
- 「今日も、起きますかぁ?」
目を閉じ再び眠りに就こうと、まさにウトウトした時に耳に届く
「んどは、誰じゃぁああ!ボケェエエ」
毛布を蹴り上げ、当たりを見渡す矢口。
誰も居ない
「あれ?今の声は誰だ?」
隣の部屋から
「うっうっうっ」と奇怪な声がしてきた事に気付いた
「隣だな、吉澤か・・・ガツンと言ってやるかな」
矢口はベットを後にした。
- 48 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月08日(土)18時56分27秒
- 吉澤は日課の腕立て50回、腹筋50回×2セットの最中だった。
「はっ!うっ!頑張り所だぞ!うっ!」
「テメェ舐めてんのか?」
吉澤は音もなく開いたドアを腹筋をしながら横目で見た。
「あっ!矢口さん、おはようございます。今日は早起きですね」
犬の散歩で出くわした、血統書付の犬を連れた素敵なお嬢様のような声
で矢口に声を掛けた。
「な、何時だと思ってんだ!」
「もうすぐ6時になりますね。今日一緒にマラソン行きません?」
何の悪気もない言葉、当然とばかりに腹筋を続けながら放たれる吉澤の言葉に、
矢口は何も続ける事は出来なかった。
渋々寝室に戻った矢口は、フト一枚の紙に目をやった。
・・・普通と自分を探しに、旅に出ます。
矢口さん、部屋は勝手に使っていいですから、たまに掃除お願いします。
みんなの可愛い妹的存在、加護亜依
- 49 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月08日(土)18時56分58秒
- 「何だコリャ?」
矢口は無意識に自分お名前が書かれた部分を破りベットに沈んだ。
「今の紙はなんだったんだ?」
しばらくの間、加護が書いたと思われる手紙が気になって、寝付けない矢口がベット
に横たわっていた。まぁ結局、直ぐに9時までの眠りに就いた訳だが。
矢口は西棟住民を加護の部屋に呼び寄せ、加護が置いていった手紙を見せた。
・・・普通と自分を探しに、旅に出ます。
、部屋は勝手に使っていいですから、たまに掃除お願いします。
加護亜依
一部確実に、破かれた形跡がある手紙を一通り見た西棟住民は、矢口が加護を追い出
した、で一致している目をしていた。
「朝、起きたらこんなの置いてあったんだわ」
ベットに座った矢口が、ベットに下に座らせた顔を見下げ伝えた。
「つうかさぁ、何で矢口さんが加護の部屋に居るの?」
吉澤の問に、石川もうんうんと頷く。
「ベット?デカイじゃん、自分部屋に置きたくないんだよね」
あっけに取られたが、誰もそれ以上言わなかった。
- 50 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月08日(土)18時57分28秒
- 「どうする?加護が居なくなった事、東棟の野郎共に言う?」
矢口が、みんなを呼んだのは、その事だった。
東棟、西棟最初は、長屋に住む住民の増員に伴い増築され、ただの部屋割りだったが
互いに向き合う格好で建つ二棟に、競争意識が少しずつ芽生えていった。
「東棟の奴等は関係ないよ」
石川はきっぱり言った。
「でも、何か有った時さぁ、東棟にも協力して貰わないと駄目じゃん?言おうよ」
吉澤は、石川の意見に反対の立場を取った。
新垣は何も言わず、矢口の立派なベットに目を奪われていた。
新垣の意見など最初から聞くつもりはない矢口は、新垣を気にも止めず
「ん〜ん、何か有ったら言えばいいか?」
妥協案を出すのは得意だった。
「じゃ、そういう事で!会議お終い」
矢口の声に吉澤が反応して、立ち上がろうとした時、新垣が口を開いた。
「加護さんが居ない事、気付かれますよ」
- 51 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月08日(土)18時58分00秒
- そりゃそうである。
「あ、やっぱ?」
吉澤は上げた腰を振ったび降ろし、座り直した。
(こいつ、頭いいなぁ)
新垣の評価が4上がった。
矢口は新垣に集まった視線を奪おうと
「代役が必要だなぁ!」
ちょっと大きめに言った。
「代役?立てられないよ、石田壱成じゃなんだよ」
「あいつの変わりは100人いるんだけど、加護はねぇ」
石川と吉澤はそう言うと、天才児新垣から発せられる言葉を待った。
- 52 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月08日(土)18時58分42秒
- 「死せる孔明、生ける仲達を走らす・・・では?」
新垣の空を掴むような言葉に、息を呑み真意を知ろうと新垣の表情を探る。
矢口はそんな二人が面白くない
「知識だけじゃ駄目なんだ。頭デッカチになっちゃ駄目!」
虚しさだけを残した言葉は、矢口の評価をいたずらに下げただけだった。
「私が、加護亜依を演じてみせましょう」
新垣が加護を演じる・・・矢口の顔が緩む
「はぁ?」
新垣は矢口を無視し続ける
「よいか?加護が居なくなった事に気付かれてはいけない。夜は今まで通り
矢口がこの部屋を使いなさい。いいですね頼みましたよ。日中は私が何とか
致しましょう」
「はっ!新垣様の言う通りに」
石川と吉澤はスッと立ち上がると、新垣に尊敬の念を表し、部屋を出ていった。
- 53 名前:あべし 投稿日:2001年09月10日(月)01時56分02秒
- ワラてるよ!がんばれ!
- 54 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月10日(月)18時14分18秒
- 矢口はベットから降りると、新垣に背を向け
「調子ぶっこくな!」
と、捨て台詞を吐いて部屋から出て自室に戻っていった。
矢口の部屋には、大型のTVとソファー、ビデオデッキそれに
ご自慢のPS2が横置きされてる。横置きされたPS2の
上面に、ニッホン放送宛て来たFAX用紙が糊付けされていた。
そのFAX用紙には、逃げ方と長旅に出るときに絶対持ってけ
アイテムが書かれてあり、一番下にサポートセンターの電話
番号が書いてあった。電話番号には矢口が記したのか、赤ペン
でアンダーラインが二重三重に引かれていた。よっぽど重要な
何かの番号と踏んだのだろう。
- 55 名前:う6ぉ2面白い 投稿日:2001年09月10日(月)22時14分13秒
- う6ぉ2面白い
- 56 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月11日(火)19時08分13秒
- 矢口は熊のぬいぐるみを手に、ソファーに座っていた。
「クソ餓鬼の野郎!」
ドス ドス ドス
ぬいぐるみの腹が歪む
「前歯へし折ってやろうか!」
ドス ドス ドス
ぬいぐるみの顔がへこむ。
そんな楽しいぬいぐるみ遊びをしていた時、部屋のドアが
ノックされた。
「開いてんぞ、かすぅ」
ゆっくりとドアが開くと、忌々しいクソ餓鬼が立っていた。
- 57 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月12日(水)17時25分04秒
- 「少し、語りませんか?」
「お前なんかと、喋ることはない」
「少しでいいんです。お邪魔しますね」
新垣は靴を揃え、矢口の座るソファーの前まで止まった。
「あ、矢口さんそれプーさんですか?」
矢口が持っていた熊のぬいぐるみを差して聞いた。
「うるさい」
「プーさんいいですよね」
矢口は熊のぬいぐるみを投げ捨てた。とにかく新垣が気に入らない。
しかし、新垣は構いなしに「これは?あれは?」と、矢口の部屋に
あるもの全てに、意味のない質問し続ける。
イライラの募る矢口の右手は固く握られ時を待っていた。
「そう言えば矢口さん、えっ!」新垣が振り返った瞬間だった。
シュッ バシ!
伝家の宝刀が抜かれた。
- 58 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月12日(水)17時26分27秒
矢口の右ストレートが炸裂した、かに見たが、
その右腕を舐めるように、新垣の右腕が絡んでいる。
よく見ると矢口の拳は、新垣の顎の数p手間で止まり、矢口の右腕
に絡んだ新垣の右腕を辿っていくと、矢口の顎を的確に捉えた新垣
の拳があった。
ガクンっと膝から崩れる矢口・・・
見事なクロスカウンターだった。
矢口は信じられない顔をしている、完全に捉えた筈だった。
新垣は自分の腰辺りにある頭を見下している。少しの笑みもない、
冷酷な表情で矢口を見下だす、その眼には海賊御用達の眼帯が・・・
丹下段平が居た。
丹下と化した新垣は、矢口の頭に向かって怒鳴りつけた。
「立て!立つんだ!ジョーっっ!」
- 59 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月12日(水)17時27分15秒
- 矢口は立った。
丹下の声に反応して立った。
矢口はフラフラになりながらも立ったのだ。
「へへ、おっちゃん・・・」
矢口は新垣に囁くように言った。
「お前も仲間だ」
新垣も答えた
「それが野獣の眼だ!」
西棟は一つになった。
その夜、矢口は新垣の言う通り加護の部屋で寝た。
新垣の部屋の電気は一晩中消えることは無かった。
横山光輝の三国志を読みふけっていた。
「石川と吉澤なら、関羽は石川だよなぁ?ぐへへへへへへ」
改め、新垣の部屋から、奇怪な笑い声が絶えることは無かった。
- 60 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月13日(木)17時49分36秒
ガハハ!面白い!!
- 61 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月14日(金)14時53分22秒
- 東棟 高橋部屋
新入居者の二人が居る。
「にしてもこの間は、えんがみたぞん」
「この間って「旨」行った日の事?」
「んだ」
「えんがみた?」
「そだよ、えんがみたぞぇ」
この部屋で生活する高橋愛、彼女は自分の部室に居る時は安心
してなのか、お郷の訛りが出てしまう。彼女の部屋によく話に
来る紺野は、戸惑いながらも彼女と上手くやっている。
紺野と高橋と共に、東棟にやってきた小川は最近、この二人
と少し距離をおいているようだ。
- 62 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月14日(金)14時55分37秒
- 夜になると、ソワソワしだす人間は何処にでも居る。
夜になると天井板を外し、天井に登る人間もよく見かける。
この長屋東棟でも・・・
天井に登ると、彼女四つん這いになり、手慣れた手つきで音
もなく隣の部屋の上まで行った。
彼女が事前に空けた天井の小さな穴から、下の部屋を覗くのが
彼女の今、一番の楽しみであった。
天井裏に身を潜めてから数分後、下の部屋のドアがノックさ
れたのが聞こえた。
「なんや、今日も来たんか?」
「はい・・・」
「しゃ〜ないな、もう寝よう思てる所やってんで」
- 63 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月14日(金)14時56分33秒
- 天井裏に身を潜めた彼女は、ゴクリと唾を飲み、これから始ま
るショーに備え、両手両足の位置を確かめて、小さな穴に目を近
づけ、今か今かと待ちわびながらも、こう祈っていた。
〜電気はつけておけ!〜
天井裏には当然、照明設備はないので、光は小さな穴だけが頼り
である。かりに、部屋の電気が消えたのなら、一番の楽しみの覗
きそのものが、非常に厳しい状況におかれる。
〜電気はつけておけ!〜
祈りが通じたのか、部屋の電気はついたままだ。
それにしても天井裏は暑い、サウナの様な蒸し暑さだ。汗がポタ
ポタ落ちているのが、穴に全神経を集中していても分かった。
背中も腕も足もとにかく全身で汗を滝のように流している。片手
でまつ毛の先に溜まった汗を拭いて、再び穴に目をやると・・・
- 64 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月14日(金)14時57分27秒
- 二人は、白のシーツに白い枕、それに薄いグレーの掛け布団に
頭だけを出した状態で横になっていた。
18歳以上?YorN
天井裏では異変が起きていた。
小さな穴の下で行われている一戦に興奮してか、鼻から流し始め
ていた。しかし、汗をびっしょりかいている彼女は気付いく様子
はなかった。血は顎先まで流れ、汗と一緒に天井板にポタポタと
落ち、板に染み込んでいった。
部屋では、一戦を終えた二人が頭を並べて余韻に浸っている。
〜腕の力が無くなってきた、落ちるかも〜
汗を沢山かきすぎて、力無く天井裏をゆっくりと移動して、なん
とか自室に戻った。
部屋に帰って来た所で、体力の限界が来てそのまま眠ってしまった。
- 65 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月14日(金)14時57分57秒
- 中澤の部屋
「んっん〜ん」
小川は目覚めて辺りを見渡した。
「そうか、裕子お姉さんの部屋で寝ちゃったのか」
隣で寝ている中澤を見て微笑んだ。
小川は中澤の寝顔を見るのがとても好きだった。
小川は寂しさと幸せとの両面をもった表情で中澤を見つめていた。
しばらくして、中澤も目を覚ました。
甘えた様子で身体を寄せ、中澤の腕をとって自分の頭に回した小川
に。
「重いねんで、腕枕やってる方は」
と中澤は言ったが、腕を引こうとはしなかった。
二人は黙って天井を見つめた。
- 66 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月14日(金)14時58分29秒
- 中澤の目に、天井に見慣れない赤いシミが映った。
「なぁあのシミ?昨日あった?」
小川は見もしないで
「ふふ、わかんな〜い」
中澤は気になって、目を凝らしてシミを見た。
「あっ、えっ?」
中澤はビックと身体を跳ねらせて驚いた。中澤の驚きようにビックリ
した小川は、中澤の視線を追ってシミを見てぞっとした。
「ひ、人の顔?」
斜向かいに傾いた顔が、目だけをギョロっとこちらを睨みつけるような
人の顔が天井に赤く浮かんでいた。
- 67 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月14日(金)14時59分01秒
- 「堪忍!堪忍!」
ガタガタと震えながら、中澤は堪忍と繰り返した。
「お姉さん、知ってる顔なんですか?」
小川は中澤の身体を抱き出来るだけ、落ち着いた声で訊ねた。
「や、矢口やないか」
「え?矢口さん」
小川はもう一度よく人の天井の顔を見た。
「や、矢口さんがどうして?」
中澤と小川はパニックに陥った。
こつ然と矢口の顔が天井に現れたのだ。
「死んだのかな?」
恐怖にどん底で小川がポツリと言った。
- 68 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月14日(金)14時59分33秒
- 矢口ついに逝く!
この衝撃のニュースは瞬く間に東棟を飲み込んだ。
飯田と保田も歯を磨きながら
「圭ちゃん、行って聞いてきてよ・・・ぺっ」
「西棟?やだよ、変な臭いがするんだもん、石とか投げてくるし」
高橋と紺野、小川の会話も
「ホントかなぁ?」
「絶対そう!私、見たもん」
「見た?何を?」
「え?え〜っと、死体、矢口さんの超死体見た!」
「ホントだったら、なじょすっぺない?」
小川は中澤との関係を、二人だけの秘密にしていた。
- 69 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月14日(金)15時00分18秒
- 辻希美 東棟住人、趣味:覗き
「ヘッグション!」
大きなくしゃみと激しい頭痛で起こされた。
「風邪引いちゃったよ〜、あったま痛い」
ムクッと起きると、なんの脈絡なく部屋を出た。
「きゃ〜!」
高橋は辻の顔を見て叫び狂った。
「頭痛いんだよ。騒ぐな」
自分の声でも、頭に響くので小さな声で言った。
「風邪引いたかも、薬持って来い」
そう高橋に伝えると、辻は部屋に戻った。
「何で今、外に出たんだ?・・・顔洗ってくるか」
再び、部屋を出た。
「きゃ〜!」 ガン バタ
紺野の悲鳴の後、鈍器で殴る音と誰かが倒れた音がした。
- 70 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月14日(金)15時01分22秒
- 辻は共同洗面で顔を洗う為、流し台の前に立った。
なにげに正面の鏡に目をやった時
「きゃ〜!」
自分の姿に悲鳴をあげてしまった。
〜誰だこりゃぁぁ〜
汗が乾いた髪はゴワゴワになり、天井のススが付いた手で何度も
何度も顔や腕の汗を拭った後が、くっきりと真っ黒になって残っ
ているし。鼻から口にかけては、カピカピに固まった血がこびり
付いていた。
〜高橋じゃなくても、騒ぐなこりゃ。後で起こしてあげよう〜
辻は丹念に顔や腕を洗い、髪も流し台で石鹸を使って洗った。
- 71 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月14日(金)15時01分59秒
- 「ヘックション!か〜、頭痛て〜」
部屋の前では、まだ花瓶と高橋が倒れていた。
「おい!起きろ高橋!早く薬持って来いよ」
高橋の両腕を無理やり引っ張って、起こすと自室に入った。
部屋の中から
「さっさと、薬持ってこい!」
高橋は花瓶を元の場所に戻して、小走りで自室に戻った。
- 72 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月14日(金)15時02分32秒
- 高橋は薬を手に、辻の部屋をノックした。
「薬屋?」
「は、はい。持って来ましたよ」
「入ってよし!」
辻の部屋に入るのは初めてだった高橋は、キョロキョロ部屋を見な
がら、辻に薬を手渡した。
「なんもないでしょ?」
「そ、そんな事は・・・」
何もないと言うよりも、生活感そのものが無かった。
何処で寝ているのか?何処に洋服を仕舞っているのか?人が生活し
てる気配が無い不思議な部屋だった。
- 73 名前:『う6ぉ2面白い』 投稿日:2001年09月15日(土)04時16分59秒
- 『う6ぉ2面白い』
ヌ、濡れ場シーンも有りなのかぁーーー! (;´Д`)マコタンハァハァ
- 74 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月15日(土)19時06分59秒
- 高橋は辻に聞いた。
「矢口さんの話、どう思いますか?」
「矢口?何かあったの?」
「矢口さんがお亡くなりになったって噂ですよ」
「マジでか?いつ?」
「あれ?聞いていませんか?」
「聞いてないぞ」
「何か、中澤さんの部屋に出たらしいですよ、これ」
と、手で幽霊のジェスチャーをして見せた。
「怖っっ!ついに逝ったか」
「辻さん、ちょっと加護さんにそれとなく聞いて来てくれませんか?」
「西棟行ってこいってか?病人だぞ」
「いやぁ、実は保田さんに言われて・・・辻に行かせろって」
「圭が言ったの?チッ仕方ないな、分かった」
舌打ちしながらも、保田の指示では仕方ないと、辻は西棟に行く事を
約束した。
- 75 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月15日(土)19時07分48秒
- 高橋は次の部屋を出ると、保田の部屋へ向かった。
高橋が保田の部屋に入ると、飯田と中澤が居た。
「辻、行くって?」
「はい」
「よし、ご苦労さん」
「はい、失礼します」
高橋は保田に報告を済ますと、自室に戻って行った。
保田の部屋では、保田と飯田が話し込み始めた。
「取り敢えず、辻の報告待ちだな」
「んだね、死亡の確認が取れたら一気に西棟を支配化に置こうぜ」
「ついに来たって感じだよね」
「あっちこっち、修理して欲しい所あるしね」
「私は部屋に棚作ってもらうかな」
中澤は何も言わず、ただ一点だけを見つめていた。
- 76 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月15日(土)19時08分26秒
- 中澤は、矢口は自分を恨んでいると思えて仕方なかった。
中澤裕子と矢口心理.
二人には、人には言えない秘密を共有していた。
深い落とし穴を掘った時、知らない人が落ちて頭を打ち、その人は不幸
にも死んでしまい、事実を隠蔽しようとその穴を埋め戻した事。バスに
速度を落とすと爆破する爆弾を仕掛け、小さくない被害を出した事。
某国のシンボル的ビルに突っ込んだ事も・・・
こんな約束もあった、東棟は中澤が仕切り、西棟は矢口が仕切るという
約束を交わしていた。その約束を破り、長屋を一時的に出た自分を、矢
口は裏切られた、と思っているのではと思っていた。
更には、小川との関係・・・。
中澤はずっと震えていた。
- 77 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月15日(土)19時09分01秒
- 中澤の胸中を無視するかのように、保田の部屋のドアが激しくノックされた。
「西棟、見て来たよ〜」
辻がそう言うと、部屋の真ん中で腰をおろした。
固唾を飲んで、辻の次の言葉を待つ飯田と保田、中澤は聞くのが恐ろしかっ
たが、ただ黙って辻を見ていた。
「生きてた」
「え?」
「ピンピンしてた」
「え?」
「蹴られちった」
「死んでないの?なぁ〜んだ!」
重かった空気が一気に部屋から抜けていったが、中澤だけは違っていた。
「い、生霊や!」
「はいはい、生霊生霊」
中澤の言葉に、保田も飯田も付き合ってはいられないかった。
- 78 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月15日(土)19時09分36秒
- 矢口は、加護の部屋に西棟全員を集め、辻の慰問に激怒していた。
「東棟に舐められっぱなしでいいのか!」
新垣は言う
「若君!」
新垣は、西棟の智謀の地位を確立していた。
「よいですか若君。機が熟すのを待つのです、今は耐えるのです」
矢口は、収まらない。
「た、耐えろだと、死亡説だぞ!志村やつぶやきじゃないんだぞ!」
「若、落ち着いて!」
石川と吉澤は、矢口に落ち着きを求める。
「我ら西棟に掛けられた唾を、黙って拭けって言うのか!」
「若君!ここは、辛抱の時です」
新垣は、ここで東棟と抗争するべきでは無いと考えていた。
- 79 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月15日(土)19時10分06秒
- 東棟では辻の「矢口は生きていたぞ」を合図にして、いつもの生活に戻った。
保田と飯田は、西棟支配の夢が先延ばしになるり、残念そうにしていたが、みな
落ち着きを取り戻した様子である。
中澤は保田を連れ立って、自室に戻った。
「ほら、あそこ見て〜な」
「あ〜、言われれば顔に見えなくはないね」
「完全な人の顔やろ」
「綺麗に拭いてあげるから、もう恐くないよ」
中澤は天井のシミを保田に拭かせた。
「おっ、見て見て綺麗じゃねぇ?」
赤いシミは綺麗に取れた。
「ホンマや、少し安心したわ。助かった、ありがとうな」
保田は自室に帰って行った。
しかし、今夜ばかりは、中澤は小川の部屋で寝たのであった。
- 80 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月15日(土)23時26分05秒
加護は、目の前の光景が信じられなかった。二人の人間が光り輝きながら、
宙に浮いているではないか。思わず辺りをキョロキョロ見渡していた。
「なんやねん、自分ら?」
その二人は、背中の羽を羽ばたかせながら、加護に近づいて言った。
「あなた、亜依って名前でしょ?」
加護は言葉無く、小さく頷いた。
「ふふ、恐がらなくていいのよ」
「一緒に参りましょう」
二人の小さな妖精はそう言うと、一瞬フッと消えたかと思うと、数メートル
先方に再び姿を現した。
「さぁ、行きましょう」
「さぁ、着いておいで」
加護は、少し恐がりながらも、妖精に着いて行く事にした。
- 81 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月15日(土)23時26分52秒
- 妖精は加護を亜依ちゃんと呼び、陽気に話し掛けては、不思議な魔法を見
せてくれた。
加護は次第に安心して、飛んで移動する妖精の後を一生懸命追った。
「亜依ちゃんは、この花どう思う?」
妖精は一つの赤いバラを指差して、加護に訊ねてきた。
「バラ?好きやで、綺麗やし」
「そうね、バラは綺麗」
「でも、バラはドケがあるわ」
加護はすっかり妖精になれ、会話もスムーズに出来るようになっていた。
「このバラの声、聞いてみたい?」
「植物とお話してみたいでしょ?」
「うん」
加護が大きく頷くと、妖精はバラに触れながら、何かを口ずさんだ。
- 82 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月15日(土)23時27分26秒
「あなた今、私の事、綺麗っておっしゃいました?」
バラがゆらゆらと、まるで風に吹かれているかの様に喋り始めた。
「うん、綺麗やから好きやねん」
「当然よ、私は綺麗な花ですもの」
バラの高飛車な声に、加護は少しがっかりしたが、植物と会話出来ている事が、
不思議でとても楽しかった。
バラに別れを告げて、加護は妖精の後を着いて歩いた。
妖精は少しバラから離れた所まで来ると、加護に言った。
「バラという花はね、外見はとても綺麗な花よ。でもね、中身は空っぽなの、
いつでも自分が一番だと思っているのよ」
「もし、あのバラの隣にね、バラよりも人の目を奪う様な、それはそれは綺麗
で立派な花が咲いたのなら、あのバラはやきもちを焼いて、きっと聞き分け
のない子供のように、自分のドケで隣に咲く花をやっつけてしまう事でしょう」
「そうなんや、何か喋り方可笑しな感じやったもん」
妖精は加護の言葉を遮るかのように、再び前に進みだした。
加護も妖精に再び着いて行った。
- 83 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月15日(土)23時28分10秒
- 妖精がまた、前方で加護を待っていた。
「今度はこの石の声を聞いてみようか?」
「石ともお話できるのよ」
妖精は石に触れて、何かを口ずさんだ。
「やぁ、君は誰だい?」
「加護亜依。人間やで」
「そうか、人間は足があるから大変だろう?」
「何でや?あっちこっち行けるから、楽しいで」
「そうかなぁ、僕はじっとしていて、少しずつ体を削って生きているんのだよ、
とても長い間生きているんのだ」
「石って生きてたんや、知らんかった」
「良いんのだよ。僕や僕の親や友達は、本当に長く生きるんのだ、だから、命の
短い動物や植物とは、時間の流れを感じる部分が違うのかもしれないなぁ」
「向こうにある、あの大きな岩も生きてはるの?」
「当然だよ、僕はもともと、あの岩から生まれたんのだよ。それはいつの事だって?
ずーっと昔の話だよ」
石との会話は、加護にとって、少しピンと来ないものでしたが、歩いている時、
石を踏まない様にしていました。
- 84 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月15日(土)23時29分14秒
- しばらくすると、加護から妖精に話し掛けました。
「石って、我慢強いんやね」
「石が我慢強いって?そうかもしれないけど、私は石って我慢なんてしてないと
思うわ」
「自分から動けないって思えば大変だけど、動かないでも平気だから動かないっ
て考えれば、ずっと動いている私達の方が、我慢強いって思われているのかも
しれないわね」
「ん?」
加護はよく分からなかった。
妖精は再び前に進みだしました。
木のトンネルの様な小道を抜けきった所に、大きな大木があります。
- 85 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月15日(土)23時29分52秒
- 7人や8人の大人が手を繋いでも、その木の幹を一周出来そうもない、大変大きな
木です。
加護は、この大木とお話しがしたくなりました。
「妖精さん、この木ともお話してみたいねんけど」
妖精は言いました。
「この木は駄目。こんな立派な木には、興味本位で近づいたりしたらいけないの、
昔から言うでしょ、ご神木って」
「その様な立派な木は、その土地の広い範囲に根っこを張って、その土地の地面を
強固な物にしているの、その土地に住む動物や植物が、安心して住める様にして
くれているのよ」
加護は少し残念でしたが、妖精の言う事に疑問が浮かびました。
「ほな、何でもっともっとたくさんの立派な木があらへんの?何で一本だけやの?」
- 86 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月15日(土)23時30分22秒
- 「それはね、この様な大木は沢山の栄養を吸い上げなければ、倒れてしまうでしょ。
それに、この大木も最初は、他の木と同じで、小さくて可愛らしい赤ちゃんの木
から始まったのよね。その時は、決して特別な木でなかった筈。何年も何十年も、
何百年もの間をかけて、これだけの大木になったの。他の木よりもいっぱい太陽
の光を浴びて、いっぱい栄養を吸い上げてこられたから、これだけの大木になっ
たの」
「特別でない物が、特別になるには、多くの犠牲が必要って事ね」
「それだけじゃないわ、太陽の光を浴びる為には、誰よりも高く伸びなくては駄目。
あそこを見て」
妖精が高台を指差した。
「あの高台の木が、枝をいっぱいに広げていたら、ここは影になってしまうわね。
そうなってしまうと、この木は太陽の光を浴びる事が出来なくなってしまうわ」
「もっと、高くなったらエエやん」
加護は言った。
- 87 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月15日(土)23時30分59秒
- 「そうだけど、高くなるには太陽の光を浴びないと、高くなれないでしょ?」
「ああ、そうか。ほな、あの木が枝を広げたら、どないなんの?」
「この木は、特別な木ではなくなるわ」
「え?・・・」
「特別になるには、幾度となく続いた争い勝って、偶然に次偶然に助けられて初めて、
特別になれるのね。今は、この木は特別なの。この木には恐ろしい程の強さと運が
あるのね」
「いつまで、特別なんやろ?この木は・・・」
妖精は何も答えなかった。
加護はいつのまにか寝ていた。
目が覚めると、馬小屋に居た。
「う、馬や!」
加護が馬に驚き、馬小屋を出るとそこは
「ぼ、牧場や!」
- 88 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月16日(日)03時11分39秒
- 馬小屋の前から見えるのは、緑色の草を抱いき、ゆったりと
した勾配の丘が幾重にも重なり、はるか遠くまで白い柵が続い
ている風景だ。
「ど、どこやココ?よ、妖精さんは?」
加護は頭が真っ白になった。すると突然。
「くらぁ!きさまぁ何所のもんかぁ!」
男の怒鳴り声が響いた。
加護は慌てた。
〜お、怒られてるやん!何で怒られなアカンの?〜
「くらぁ!返事せんかぁ!」
男は更に大きな声で怒鳴った。
〜アカン!食われてまう、謎の大男に丸焼きにされてまう〜
加護はダッシュしていた。どっちに行ったらいいのかは分からない。
しかし、その場に留まることは死を意味していた。
逃げて、逃げて、逃げた。
- 89 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月16日(日)03時12分11秒
- 全ての力を使いきり、ふと振り返ると。
「なぜ、逃げるかぁ!」
息一つ乱さない男がいた。
「ひっ!ごめんなさい」
加護は今出来る事を精一杯やった。
「なぜ、逃げたか聞いてるんだ!」
男は怒鳴りっぱなしだ。
加護は、開き直った。
「起きたら、ココに居ったんや!文句あんのか、こらぁ!いつでも
やったんぞ!」
言い過ぎてしまった。
「その口の利き方はなんだぁ!」
男は顔を真っ赤にして、怒鳴っている。
「言い過ぎてもうてん、堪忍やで」
その加護の声は、猛烈に可愛かった。
- 90 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月16日(日)03時12分43秒
- 男はやさしく言った。
「何をしていたの?」
加護も落ち着いてきた。
「起きたらなぁ、馬小屋に居ってん」
男は、この牧場で働いているのか、牧場で働いているでしょ?
って言いたくなる服装をしていた。
男の名前はアダムス・田中・ヨシタケ。
この牧場の経営者らしい、ブロンドヘアーに青い目をした割りと、
いい奴だった。加護はこの牧場で、しばらく世話になる事にした。
牧場には馬のほかに、羊も豚も牛も、果ては犬に猫も居た。
- 91 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月16日(日)03時13分16秒
- 加護の仕事は、馬小屋の掃除と、今年生まれたばかりの、仔馬の
ミルクやりだ。仔馬にブラッシングしてやる事も日課にしていた。
この仔馬の母親も、この牧場に居るのだが、まったく自分の子供に、
興味を示さなかったので、牧場の人も困っていた。
加護は、この仔馬を立派な馬にしようと心に誓い、優駿と名づけた。
優駿を加護は、牧場の人も驚くほど可愛がった。
寝る時も優駿から、離れなかったし、毎日毎日欠かさず、たっぷり
優駿と遊んで、丁寧にブラッシングしてやった。
優駿も加護から離れ様としなかった。他の仔馬達は仔馬同士で、
駆けっこをしていたが、優駿はその輪には入って行こうとしなった。
その事をみんな気にはしてはいたが、優駿は加護から離れなかった。
- 92 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月16日(日)03時13分49秒
- 牧場には、加護と仲良くなった二人の女の子がいた。
リンネとアサミだ。アサミは加護よりも年上で、リンネはアサミより
も年上であった。姉妹の様に、何でも話し合えた。
加護は二人を見た時は驚いた。あの日に出会った妖精とそっくりなのだ。
もちろん彼女達には、妖精の様な羽根も魔法もないのだが、とても物知
りだった。加護は色々彼女達から学んだ。馬が嬉しい時に見せる仕草を
教えてくれたのは彼女達、馬が怒ってる時にする仕草、何に怒っている
のかも教えてくれた。この牧場に来て、加護は常に馬が中心であった。
経営者のアダムスとも、上手くやっている。
牧場の早い朝にもなれた。いつのまにか早寝早起きが身についた。
不眠症はなくなった。優駿と過ごしているうちに、自分の出来る事と、
まだ、出来ない事も嫌と言うほど思い知らされて、自分が見えてきた。
そんな、ある日ある人物が牧場にやってきた。
- 93 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月16日(日)03時14分22秒
- 「あんれぇ〜、こんな所に牧場なんてあったんだねぇ?」
その人物は、白い大きなツバの帽子をかぶり、細い青のストライプが入った
ワンピース、赤いヒール靴を履いて牧場の馬小屋辺りをウロウロしていた。
加護はその人物に声をかけた。
「あの〜、アダムスさんのお客さんですの?」
その人物は振り返って答えた。
「ち、違います。牧場の雰囲気があまりにも良かったんで、勝手に見学させて
もらってました、ご迷惑でしたら帰りますけども」
「いやいや、迷惑やないですねんけど。見学なら向こうに、オーナーがおると
思いますんで、一声賭けていってもらえますやろか?」
その女性は、加護の姿を見てハッとして名前を聞いてきた。
「え、名前?加護、加護亜依言うねやけど・・・お宅さんは?」
「や〜だ〜!やっぱり加護っしょ?私だよ、なっちさん!」
「え!」
- 94 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月16日(日)03時14分54秒
- 「見間違えたよぉ、なして牧場で働いているの?」
「あ、安倍さん?お、お久しぶりです!」
「加護でしょ?あ〜ひゃひゃひゃひゃひゃ!牧場で何してるのさ?」
「優駿の世話、いや、この仔馬の世話してまんねや」
「なしてよ?罰ゲーム?」
「ちゃうわ!実は、長屋出てきてん」
安倍との思わぬ再会に、その場でしばらく話し込んでしまった。
「せやせや!アダムスはんに、挨拶して〜な!」
「アダムスさんって誰?」
「牧場のオーナーや、エエ人やから」
「そう?じゃ、紹介してくれる?」
「エエで」
この夜遅くまで、安倍と加護はお互いの近況を話込んだ。
- 95 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月16日(日)03時15分32秒
- 都内某所
濃い朝靄の中、ポッカポッカポッカ
アスファルトを馬が歩く。ポッカポッカポッカ
東京の街を、馬が練り歩く。ポッカポッカポッカ
馬を引く女と、馬にまたっがた女。ポッカポッカポッカ
長屋に響く馬の声、ヒ〜ンブルルルルル
長屋の横の管理棟の庭で、馬が走っている。
加護と安倍、帰宅。
- 96 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月17日(月)14時08分54秒
- 嵐の前の静けさなんでしょうか?
- 97 名前:う6ぉ2絶好調で嬉しい 投稿日:2001年09月18日(火)10時05分02秒
- う6ぉ2絶好調で嬉しい
- 98 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月22日(土)23時43分06秒
- 期待sage!
- 99 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)13時50分14秒
- 優駿の手綱を管理棟の庭の木に引っかける様に結わきつけると
二人は加護の部屋に向った。
安倍がどうしても矢口を一目見たがっていたからだ。
加護の部屋には、予想を裏切る事なく矢口が居た。
矢口は大きなベットでぐっすり寝ている。
「イシシシシ、寝てはるわ」
「矢口〜、久しぶり〜」
「部屋も綺麗に掃除してくれてるわ」
「ふ〜ん、あんまり感動ないね」
小声で寝ている矢口に挨拶を済まし、二人は安倍の部屋に向った。
- 100 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)13時51分06秒
- 「安倍、セールスお断り」
安倍の部屋のドアが数ヶ月ぶりに開かれた。
日本のあちらこちらの風景写真が壁に張られている。
「まだ、みんな寝てるねぇ」
「せやな、朝早いしな。アダムスはん怒ってはるかな?」
「馬一頭居なくなってるんだもん、怒ってるよ」
「えへへへ」
と笑って続けた。
「でも、優駿の奴ウチにしか懐いてへんかったから、しゃ〜ないやろ?」
「そう言う問題でもないっしょ?」
安倍の言う通りだった。
- 101 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)13時51分54秒
- 牧場では・・・
「ど、ど、何処行ったぁぁあ!クソガキはまだ見つかないのか」
「アダムスさん、落ち着いて下さい」
「騙された、騙された。クソガキのまんまとやられた!」
「そんな事無いですって、散歩に行ったんですよきっと」
「さ、散歩?散歩って何処までだぁ!何時帰って来る!」
従業員総出で、加護と優駿の捜索に朝から出ていた。
安倍の部屋
「エエやん!知らんわ」
「まぁね、移動するの楽だし。こっちで可愛がろうね」
「せやせや、その方が優駿も幸せの筈や」
- 102 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)13時52分36秒
- しばらくすると、西棟の何処かの部屋のドアが開かれた。
「お!誰か起きたみたいやな」
「うん、見に行こ」
二人は部屋を出た。
廊下にはジャージを着た人物が向うに向って歩いて居た。
「よっすぃ〜!」
加護はその背中に声を掛けた。
その人物は驚いた様子で振り向くと、そのまま固まっていた。
「か、加護・・・と・・・・・・安倍・・・さん?」
吉澤は、歩いて近づいて来る二つの影に期待をしてその場に留まった。
二つの影の顔を確認した時の、吉澤の顔には笑みしかなかった。
- 103 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)13時54分13秒
- 「お帰り〜!」
「おう、相変わらず可愛いやろ?牧場で働いててんで」
安倍は何も言う事なく、吉澤を見ていた。
「安倍さんと一緒に帰ってきたの?」
「せやねん、うちがいた牧場にな、たまたま来てん」
「そう、心配してたんだぞ」
「ホンマ?・・・ウソやろ」
「ウソじゃないよ!心配は、してた・・・よ。みんなじゃないけど」
「やっぱりや、東棟の連中は?」
「東棟には言ってない」
「あ、そうなんや」
そこで始めて安部が口を開いた。
「ま〜だ、東棟といざこざやってんの?」
- 104 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)13時54分52秒
- 「ええ、そうなんです」
と、吉澤が答えた。
「んも〜、面倒くさいねぇ」
「はぁ」
「また、旅出ようかな」
安部はこのつまらない争いが嫌いだった。
「せっかく帰ってきたんですから、今日の西棟軍事会議に出席して下さいよ」
吉澤が二人には聞きなれない言葉を言った。
「西棟軍事会議?」
安倍は何やら嫌な予感がした。馬鹿矢口を裏で糸を引いてる巨大な悪の存在を
無意識の内に感じ取ったのかもしれない。
「それは、矢口が提案したの?」
「いや、軍師殿が・・・あ、新垣です」
- 105 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)13時55分30秒
- 「新垣ってあのくそ餓鬼かいな!」
加護は慌てた。
「くそ餓鬼って、軍師殿だって」
吉澤は自分達に策を講じ、政治を司る新垣に全身全霊を捧げる決意をしていた。
安倍は思った。
〜今、旅に出て自分だけは別って考えでは駄目だ。何とかしなくっちゃ〜
吉澤は、軍事会議の開始時間を告げると、日課のジョギングに向った。
「ど、どう言う事や!」
「新垣って、新入居者でしょ?」
「せやねん、一等年下や」
「旅の途中こんな噂を聞いたわ、横浜に臥龍あり」
「臥龍?」
「今は伏せている。でもそれは、いつか天に向って飛び上がる為に伏せているって事」
「そう言えば新垣は、神奈川から来たって言うとった」
「気になるわ。いや・・・なんか変な感じがするの、胸がドキドキする」
- 106 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)13時56分12秒
- 安倍の部屋に戻った二人は押し黙っていた。
新垣と言う幼女が、西棟を牛耳っている事は明らかだった。
〜とにかく、新垣と話さないと〜
安倍は胸が高鳴っているのを感じながら、私が何とかしなくてはいけないと思っていた。
加護はあの矢口が何故、新垣の指示通りに動くのか全く見当がつかないでいた。
吉澤の新垣支持の姿勢に、矢口にも、石川にも真意を聞くのを躊躇うしかなかった。
安倍は朝9時になると、決心を決めた表情で立ち上がった。
加護も続こうかと思ったが、安倍は加護にそこで待ってと、手の平を見せるジェスチャー
をした。
加護は頷き、一人安倍の部屋に残った。
加護は安部は矢口か、新垣の部屋に向ったものだと思っていた。
しかし、安部の向った先は意外な所だった。
- 107 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)16時45分54秒
- 「旨」
後藤真希が経営する居酒屋で、美味しい焼き鳥を食わす店。
「腹減った〜、なんか食わせて〜」
安倍が飛び込むように店に入ってきた。
後藤は今日店で使う食材を準備していた。鳥を串に刺したり
揚げ物や煮物、酢の物も手際よく仕込んでいた。
後藤は手を休めて、飛び込んできた安倍に白飯の上に焼き鳥
のタレをぶっ掛けた物と、昨夜の営業で余った刺し身をやった。
「あ〜、このタレご飯はいつ食っても旨いねぇ!ホント」
かき込む様にして、口に飯を流し込んでいる安倍から目を放す
と再び、仕込み作業に入った。後藤は大胆かつ正確に魚を捌き、
醤油に生姜とニンニクを漬けた器に、捌いた魚の半分を入れた。
- 108 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)16時47分04秒
- 「安倍さん、いつ帰ってきた?」
後藤はまな板を洗いタオルでまな板の表面を拭きながら聞いた。
「んぐ、ふぉっふぉまって」
口一杯に米粒を頬張った安倍が答える。
後藤は、鍋の火を一瞬見て、冷蔵庫から一晩醤油に漬けた鳥の
内臓を取り出して、鍋に丁寧に入てれいった。
「今日帰ってきたの」
安倍はそう答えながらも、箸に刺し身を一切れ持って、すばやく
口に入れた。
「やっぱ?馬で来たでしょ?市場から帰って来て、鳥捌いてる時さぁ
ポッカポッカ聞えてきて」
「んん、そう馬で帰ってきた・・・旨っ、この刺し身旨いね」
- 109 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)16時48分35秒
- 「この前紹介してくれた畑と契約結べたよ、ありがとね」
安倍は旅の目的の一つに、「旨」と直接契約を結んでくれる養鶏場
を探すというのがあった。この農園は実に美味しい野菜を栽培して
いたので、安部が後藤に紹介していたのだ。
「良かったねぇ。あそこの長ネギは美味しいからね」
「うん、本当に!ネギの刻みだけでも、金払うよって客居るんだわ」
「そうだよ本物だもん、味の分かる客は大事にしときな」
「そうだね」
後藤は安倍と話していても、手は動かしていた。
安倍はしばらく黙ってから後藤に喋り掛けた。
「そうそう、話変わるけど。東棟に裕ちゃん戻ったんだってね」
後藤の手が初めて止った。
- 110 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)16時50分55秒
- 「なっちゃん、ホントは新垣の事聞きたいんでしょ?」
安倍は後藤には、隠し事はいつまでもばれないと思っていた。実際、
今までばれた試しはなかった。安倍は後藤が知らない内に成長して
自分の心を読み取ってしまった事に、複雑ではあったが嬉しかった。
「あれ〜、ばれちゃった?」
「分かるよ、何時だと思ってんの。ホントにお腹空いてるならさぁ、
ちゃんとした朝食食べたいでしょ?」
「あ〜あ〜、もうごっちんにはウソ付けなくなっちゃた」
「当たり前だよ。色んな所と契約話してる内に、相手の頭の中、
分かってくる様になったよ」
「テハハ、そうだよね。参った参った」
後藤もまた、安倍に自分の成長を見せる事が出来て嬉しかった。
「新垣、西棟の事はちゃんとまとめてるみたいだよ」
- 111 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)16時52分43秒
- 安倍は顎に手を当て、自分が知っている後藤より、成長した後藤の
次の言葉に注目していた。
「矢口さんの助手みたいな感じ?吉澤と石川と4人で店に来てくれた時
なんかは・・・矢口さんの事、『若君』なんて呼んじゃってさ。平和に
ついて一人で演説みたく語ってたよ、私に挨拶もちゃんとしてくれたし」
「ん〜ん、そう?キチンとしてる子なんだ、頭切れる感じの」
「そうだね。新聞読んでたの見た事あるって、吉澤言ってた」
「ふ〜ん。気にし過ぎかなぁ?」
「だと思うよ、感じもいい子ってイメージあるよ」
後藤はそう言い終わると、再び手を動かしはじめた。
- 112 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)17時27分20秒
- 安倍は「旨」から出てから、新垣と話そうか矢口と先に話そうか考えて
いた。
〜新垣って子は、きっと頭がいいのね。矢口を言い包める事なんて、彼女
にとって、わけない事だわね。新垣から話してみようかしら〜
その時、後藤の言葉が頭をかすめた。
【矢口さんの助手みたいな感じ?吉澤と石川と4人で店に来てくれた時
なんかは・・・矢口さんの事、『若君』なんて呼んじゃってさ。平和に
ついて一人で演説みたく語ってたよ、私に挨拶もちゃんとしてくれたし】
〜若君?どう言う意味が隠れてるの、君(君主)は矢口ではないって事を
示しているのかしら、若・・2番手?馬鹿息子?馬鹿矢口、これかっ!
新垣の真意はこうね、馬鹿とハサミは使いよう。矢口を救わなくちゃ〜
- 113 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)17時28分26秒
- 安倍は加護の部屋に入った。
しかし、既にベットに矢口の姿はなかった。
〜あっ!ここ矢口の部屋じゃなかった〜
加護の部屋を出て、安部は夜矢口に部屋に向った。
コンコン
「矢口〜、入っていい?なっち帰ってきたよ〜」
返事はなかった。
〜居ないのかなぁ、予定変更。石川の部屋行ってみるか!〜
石川の部屋をノックすると返事があったのでドアを開けた。
ツーンとぬかの臭いが鼻をつくが、安部にはぬかに漬いている物が臭いで
分かった。
- 114 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月23日(日)17時30分16秒
- 「安倍さん!お帰りなさい」
石川の目は何かを期待しているようだった。
「ごねんね、今日はお土産無いんだわ」
石川は残念と想う気持ちを表情から悟られぬ様
「違いますよぉ!」
と、必死で顔をブンブン振った。悟られぬ様っつうか、顔を見せなかった。
「石川、ナス出してよ」
石川は流石は安部と思った。
「よく分かりますねぇ。ちょうど今日が食べ頃のナスがあるんです」
「良く分かりますねぇって、誰がぬか床の育て方教えたと思ってるの?」
安倍は石川の漬物の師匠だった。
石川がぬか床からナスを取り出す所を、安部は覗き込むように見て言った。
「うん、いいぬか床だ。ぬかは生きてるからね、毎日可愛がるのよ」
石川の口癖は師匠の教えそのものだった。
- 115 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月25日(火)10時35分14秒
- 石川の漬けたナスと募る話を肴に、安倍と石川
は話が弾んだ。安倍は石川との会話を楽しみなが
ら、新垣の事を聞こうかどうか迷った。新垣の情
報は欲しいのだが、まだ会っていない人物の評価
だけを集めていては、実際に向かい合った時、目
の前の人物を正確に捉えらる事が出来るだろうか
と思っていた。
石川は安倍の頭の中を探ろうとしないで、次々
に安倍が旅に出てる時、石川近辺で何があったの
かを楽しそうに話している。しばらくすると、石
川から新垣の話を始めた。
「最初は、大人しい子だったんですよぉ。でも今
では矢口さんをしっかりサポートしてるし、東棟
への攻撃作戦なんかも立案してるんです。そんな
時に、今日安倍さんが帰ってこられたんで、もう
東棟を落とすのも時間の問題ですね」
石川は晴れやかな顔で東棟を落とすと言った。
安倍はショックを多少受けた。石川が東棟との
抗争に目をキラキラさせて話し、東棟を陥落させ
るのが楽しみだと言った。安倍の知っている石川
は、もっと平和的で争い事に無頓着だった。だか
らこそと思い、石川に漬け物を教えた。石川が漬
けた漬け物をみんながそれぞれ食卓に並べる日が
くるのを願って。
- 116 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月25日(火)10時36分01秒
- それから、しばらくして安倍は自室に戻った。
「遅かったなぁ?」
「あ!ごめん、ん?自分の部屋に戻りなよ、もう
矢口居なかったよ」
「ん〜、何か戻りづらいねん。なんでやろ?」
「自分の部屋でしょ?戻りづらい?」
加護は自分でも、何で自室に帰る事に気が向かな
いのか分からなかった。
「矢口のベット、退かしてもらう?」
安倍は加護の部屋にある、大きな矢口のベットを
矢口の部屋に置くように加護の代わりに言ってあ
げようか、と加護に言った。
「でも、一人では大きすぎるやろ?部屋。何か寂
しいねん」
「そう?じゃあ矢口のベットがもう少し小さかっ
たらいいのかな?」
「ん〜、どうやろ?分からんわ」
少し小さなベットが部屋にある所を、加護は上手
く想像出来ないでいた。
「ん〜、まぁ、安倍さんも迷惑やろし。ちょっと
戻ってみるわ」
と、加護が安倍の部屋を出ようとした時だった。
ノックと同時にドアが開かれ、矢口が突進してきた。
- 117 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月25日(火)10時37分37秒
- 「なっちゃ〜ん!」
加護を突き飛ばし、矢口は安倍に強烈なタックルを
かました。
突き飛ばされた加護は、尻餅をついたまま、安倍に
矢口がじゃれついているのを見ている。その目は何
か言いたそうな目をしていた。
「きゃははは!なっちゃんお帰り〜」
矢口は加護を、気にも留める事なく安倍の肩をバシ
バシ叩いて再会を確かめている。
加護は黙って部屋を後にした。
安倍は加護が部屋に居ない事に気付き、矢口を身体
から引き離そうとしたが、矢口は放さなかった。
「ちょっと矢口!放して、加護が居ないって」
「あ〜ん、なっちぃ〜。懐かしなっちゅい〜」
矢口は両腕を安倍の首に廻し、両足を安倍の腰辺り
で組んで完全に安倍に身体を預けた状態で宙に浮い
ている。
「重いって!放せって」
「ん〜ん、何処行ってたの〜」
矢口は安倍の頬と自分の頬をくっつけてスリスリし
ている。
「暑苦しい!」
「あ〜ん、にゅぅあっちゅい〜」
安倍は矢口から目を離してドアを何気なしに見てハッ
とした。ドアの前に黒髪の女が立っていた。
- 118 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月25日(火)11時47分12秒
- 黒髪の女は、安倍を凝視し安倍を圧倒した。安倍
は黒髪の女の目に呑まれて頭の思考が停止状態に入
った、それは、矢口が身体にぶら下がっている事を
忘れる程だった。
「若君、このお方が例の?」
黒髪の女は矢口に聞いた。
「お?あ、軍師殿。そぅ、なっち。安倍なつみ」
軍師殿と呼ばれた女は、安倍にペコリと頭を下げた
が、そこには先輩を敬うとか、同じ屋根の下に住ん
だ同等の立場のお辞儀ではなく、明らかに私が指示
を下します。と、アピールするかのようなお辞儀だ
った。
安倍はただ呆然と黒髪の女を見ていた。
「なっち? おいっ!」
矢口はいつの間にか、安倍から離れている。
「なっち〜!紹介します、軍師殿こと新垣」
「はい、新垣里沙です」
安倍は目を数回大きく瞬きをしてから、要約状況を
把握した。
「ああ、安倍。安倍なつみ。あなたが新垣さんね。
よろしくね」
安倍はサッと手を出し握手を求めた。新垣はニコッ
と笑みを零して手を差し出した。
- 119 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月25日(火)11時47分46秒
- 「軍事会議出席して頂けます?これからのお話を致
しますので」
新垣は安倍と握手したままそう言った。
半強制の確認の取り方、最初にクエクションで質問
し、後半であなたに関係あることです、私が考えを
も述べるのですよ。絶対来なさい。安倍はこう言う
しかなかった。
「午後3時からでしょ?」
吉澤に朝会った時に聞いた時間を言った。
「その通りでございます。お待ちしております」
新垣は安倍から手を放し、矢口の脇についた。
新垣に背をポンと叩かれた矢口が
「では、待て居るぞ。定刻に遅れぬよう」
矢口はそう言うと、新垣と共に部屋を後にした。
「はぁ〜」
安倍は首を垂れて溜息を吐いた。
「何なんだろうね、あの子は?」
髪と瞳は妖しく黒光りし、落ち着いた表情に尿に
大人びた服。
安倍は自分の想像を遙かに超えた新垣に恐怖すら
感じてしまった。
「気合い入れ直そう!」
そう自分に言い聞かせても、心には新垣に立ち向
かって勝てるのだろうかと不安しかなかった。
- 120 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月25日(火)11時48分21秒
- 安倍が自室で溜息を吐いていた時、加護もまた
自分の部屋で溜息を吐いていた。
「大き過ぎんのかなぁ?でも、邪魔やないしなぁ」
誰も寝ていない矢口のベットを眺めて、腕を組み
考えていた。
「このレースの飾りが目障りやのかなぁ?」
ベット周りに張られているレースに手を伸ばして、
これがもっとこうだったら?こっちがこうだった
ら?と色々想像してみても、よく分からないでい
ると。
コンコン
ドアがノックされた。
「開いてんでぇ」
ドアが開かれた。
「辻ちゃんれす!」
「おお、のの〜!」
「誰にも見られなかった」
「入り入り!」
「昨日の話なんだけどさぁ」
「え?昨日?」
辻は最近よく、加護の部屋に出入りしていた。
加護に扮した新垣に会う為に・・・
- 121 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月25日(火)17時27分57秒
- 「何を言うてんの?昨日の話って?」
「だから〜、昨日言ってたじゃん」
「え?どう言うこっちゃ?」
「高橋をはめるんでしょ?」
「高橋?高橋?おお、東棟の」
「んでね今日、東棟追い出すから」
「え〜!そない事してもエエんかな?」
「な、何だよ今更!もー飯田とか乗り乗りだよ」
「う、うちに言われてもなぁ」
その時だった
「待たせてもうたな」
「え?」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」
加護には似ても似つかない人物が入ってきた。
「か、加護!お呼びでない?」
その人物はあっと言う間に部屋を出ていった。
加護と辻は口を開けたまま動けない。
「誰やねんっ!」
加護は精一杯の声で突っ込んだ。
- 122 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月25日(火)17時29分13秒
- 辻は錯乱状態に陥った。
「な〜んで!誰?お前は誰だぁぁあ!」
辻は取り乱し、矢口のベットを破壊し始める。
「邪魔だ〜!あたしの視線を遮るなぁ〜!」
ベットの四本の柱は梁と共に、崩れ落ちた。
「アカンで!矢口さんのベットやで!」
そこへ矢口が加護の部屋に入ってきた。
「加護!何でいるんだよ!・・・だ〜!辻てめぇ」
「放せ〜!破壊だ、破壊してやるぅ」
「か、加護も辻を押さえろよ」
矢口の怒号が鳴り響く室内、ベットマットが引き裂かれる
羽毛が舞う、再び矢口の怒鳴り声。
「何やねん!もう、何も知らんで!」
加護は部屋を飛び出し、安倍の部屋に逃げ込んだ。
「・・・うわ〜ん!安倍さん」
安倍は加護を抱きしめた。
「どうした?」
加護はただ安倍の腕で泣きじゃくっていた。
- 123 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月26日(水)11時09分13秒
- 東棟の保田部屋、飯田は部屋を歩き回っり落ち着
かない。
「おそーい!おそーい!辻ぃ〜」
「いろいろあんじゃないの?」
保田は焦っても意味が無いことを知っていた。歩く
飯田を見上げながら。
「まぁ、待つしかないよ」
「んだよもう、さっさと戻ってこいよなぁ、加護と
遊んでんじゃねーだろうなぁ。今日だろ?決行日」
「詰めの打ち合わせだ、念密にやってんだろ」
飯田は窓際に立ち、外を歩いていないかと、辻の姿
を探している。
「落ち着きなって、待つしかないでしょ」
「ん〜、遅い」
飯田は窓から動こうとしなかった。
保田は落ち着いて、革のブックカバーをした本を、
読み始めている。
- 124 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月26日(水)11時09分59秒
- 西棟の新垣部屋
「び、びっくりしたぁ」
新垣は加護に扮装した姿から、慌てていつもの格好
に着替えていた。
「な、何てタイミングの悪い女なんですかね?辻も
加護も!作戦失敗ですよ。辻には適当な事言って帰
しましょう。ねぇ若君?・・・若?」
矢口が居ないことに気づくと、新垣は更に慌ただし
く着替えて、部屋を飛び出した。
「や〜め〜ろ〜!」
加護の部屋から矢口の声が聞こえた。
〜まさか!あのバカッ〜
加護の部屋に飛び込んだ新垣は、まさか!が的中し
た事に愕然とした。
辻を背後から抑え付ける矢口、抵抗しながらベット
を破壊し続ける辻。
「若っ!」
ピシャリとした声に、矢口と辻の動きが止まった。
「何をしているんですかっ!ガッカリですよっ!」
新垣は矢口を睨み付けて、矢口を叱咤した。
そんな新垣に脅え、部屋から出ようとした辻の腕を
パッと掴む新垣。
辻は先程まで、散々暴れたので汗をかいている。
汗で滑る腕をきつく握って言った。
「帰しませんよ」
- 125 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月26日(水)11時10分31秒
- 東棟保田の部屋、飯田は窓際に立ち尽くして外を
ずっと見ていた。
「遅すぎるよ」
保田は何も言わず、本のページをめくる。
時計は午後の2:30に差し掛かっている。
「圭ちゃん!どう思う?」
「・・・う〜ん」
「遅すぎだよねぇ」
「ん〜?・・・そぅ?」
飯田は保田から本を取り上げた。
「あ、ちょっと読んでるの」
「遅すぎだよねぇ!何か問題あったのかなぁ!」
「知らないよ、返してよ」
飯田は本を持ったまま、窓際に立った。
「返してって」
保田は立ち上がり、少し顔をつっぱらせながら、
飯田に詰め寄る。
「やだっ、話聞いてくれないんだもん」
「や、やだって、やだじゃないよ」
飯田の子供じみた言い草に、顔を緩ませた保田だった
が、本を取り返そうと真剣な表情に戻した。
「辻、遅いよねぇ?」
「うん、遅いね」
「心配?」
「心配心配、だから本返して、何ページ読んでたか忘
れちゃうでしょ」
飯田は保田の答えに不満があったが本を返した。
- 126 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月26日(水)11時11分03秒
- 西棟の安倍部屋
加護は壁際に座り背を壁に付けて元気なく座っている。
安倍は何をするでもなく、加護の側に居た。
加護がポツリと呟く
「長屋居っても、楽しないわ」
安倍は加護の気持ちがよく分かる気がした。
長屋に居る時間から、避けるように旅をしてきた。
みんなと居るのが、嫌な訳ではない。でも、みんなが
それぞれ勝手に動き、好き放題やってるように見えて、
みんなと居るのが苦痛も思えてくる。でも、みんなと
居たい。
楽しさと苦痛が同居している事に耐えられない、理解
出来ないでいるのでは?と、安倍は加護の心に無言で
聞いていた。
加護は急に立ち上がりると
「ゆ、優駿ほったらかしや!」
明け方、庭の木に結わきたままでいた事に気づいた。
「アカン、見にいかな!」
部屋を飛び出す加護。
〜寂しかったやろっ、ゴメンな!今行くで〜
優駿をつないだ木を目掛けて走った。
そこにちゃんと優駿が居た、高橋と共に。
- 127 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月26日(水)11時11分37秒
- 「優駿!堪忍やで」
加護は高橋に気付いていたが、まずは何より優駿に謝
った。
高橋はこの馬の名前が優駿だと知ると、馬を撫でなが
ら優駿、優駿と声をかけ始めた。
加護は高橋を見て言った。
「うちの優駿や!触らんといてくれるか。優駿はうち
の馬や声かけんといてくれるか!」
加護にそう言われると、高橋はサッと手を馬から放し
て、加護の顔をのぞき込むように見た。
加護は何かに脅えている様な表情をしていた。
「加護さん?優駿の後ろ足、少し腫れてますよ」
加護は高橋の言う事を無視して、優駿の手綱を引いて
歩き出した。高橋はそれでも、加護と優駿を追いかけ
て言い続ける。
「お医者さん呼びましょう、見て貰いましょう?加護
さん、優駿痛がってますよ。歩かせちゃダメですよ」
加護は何も言わずに優駿と歩いながら言った。
「うるさいねん!これが日課や!ちょっと長旅して疲
れてるだけや。素人が!黙ってろ」
高橋は加護の言う事は聞かなかった。
「止まって!優駿が可哀想でしょ、素人が見ても怪我
してるの判るのに、何で運動させるんですか!」
「じゃがましいわ!今度はうちから、優駿取り上げる
つもりやろ!お前の言う事なんて聞くか」
- 128 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月26日(水)11時12分36秒
- 安倍が管理棟の庭に入るった時、加護は優駿を連れ
て表に出ようとしていた。
「ん?何処行くの」
安倍の問に、加護は答える事なく安倍の脇を通り抜け
ようとした。
「ダメだって!」
安倍に高橋が映った。
安倍は何がダメか直ぐに分かり、加護の前を塞いだ。
「どいてや安倍さん」
「あ、すいません」
高橋は安倍に声をかけた。
「どいてや!・・・退けや!退け!安倍さん退け」
「加護さん、優駿を殺したいんですか?」
「死なせへん!牧場帰んねん」
「怪我した足で、まだ歩かせるんですか!」
「うちが着いとる。心配あらへん」
「まだ仔馬ですよ」
「優駿は丈夫やねん、うちと居れば元気やねん」
パァン
突然、安倍は加護を思いっきりひっぱたいた。
加護と高橋は驚いた表情を浮かべていた。
- 129 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月27日(木)17時12分03秒
- 新垣は辻を、自室に押し込むように入れた。
「辻さん、あなたこれからどうするつもりなの?」
新垣は辻に聞く。
辻は何も答えることが出来ないでいる。
何を答えるのか? 自分は東棟に帰ってどうするの
か? それよりも今からどうなるのか? 辻の方が
聞きたい質問だ。
「どうするの?」
新垣に続き矢口が辻に聞く。
辻は矢口に助けを求めるような視線を送ったが、矢
口もどうしたものか、と考えている様子だ。
辻は力無く、新垣の顔色を見ながら答えた。
「どうするって何が?」
新垣の顔は眉間にしわを寄せ険しかった。
新垣の計算では、帰ってきた加護を矢口が外に連れ
だしているうちに、加護の部屋で辻と合う筈だった。
その計算が狂ってしまった。
加護が突然帰ってくる事があっても、作戦決行日の
今日になるとは、新垣も予測していなかったので、
安倍と加護の動きには、注意していた。
「・・・未熟って事か」
新垣は辻が答えた声よりも、小さく呟いた。
- 130 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月27日(木)17時12分35秒
- 「ごめんな」
安倍は加護に謝った。
加護は手の平で、叩かれた頬をかばって何も言わな
かった。
「でもね、優駿怪我してんでしょ?ねぇ」
安倍は高橋に確かめるように聞いた。
「は、はい。後ろ足」
高橋と安倍と合うのは初めてである。
高橋は、黙って俯いている加護に近づくと、加護か
ら優駿の手綱を放さして、手綱を結ぶのに具合の良
さそうな木を選び、その木の方へ歩き出した。
加護の体は少しも動きはなかったが、目には涙が溜
まっていた。
安倍は加護に近づきながら、厳しく言った。
「何でも出来ると思ってるでしょ!でもねぇ加護、
悔しいだろうけど、お前はまだ何も出来てないよ」
安倍の言葉に反応することなく、加護はピクリとも
動かなかない。
「優駿はお前の召使いでもない。足怪我してるのに、
歩かされたんじゃ友達にもなってくれないよ。朝か
らほったらかしにしておいてさ、加護が面白くない
からって、加護が長屋を離れる、言い訳作りに借り
出されたんじゃホント、優駿は牧場に居る方が幸せ
だよ。怪我しなくてすんだしね」
- 131 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月27日(木)17時14分05秒
- 辻は思い出した。
〜あ、飯田さん待ってるんだった。どうしよ。
よ〜し、こうなったら〜
辻は思い切って適当な推理をした。
「新垣!今日、加護のカッコしてアイボンの部屋に
入って来ただろ!」
新垣は何も知らない顔をしていたが、辻は間違いな
いと確信できたので続けた。
「今日、アイボンと話してて気付いた。高橋追い出
し作戦、お前の考えだろ?アイボン関係ないだろ」
新垣は素晴らしい演技力で、推測の域の出ない事実
を切り抜けた様が、辻は新垣でなく矢口を見ていた。
新垣は慌てて矢口の顔を見ると、『何で解ったの?』
と書いてあった。
「話をしてる相手の目を見て話せよ!」
新垣は辻と矢口の間に、割って入るようにして辻の
顔を覗き込んだが遅かった。
「きゃはははは!新垣見破ったり!」
名探偵ののの誕生だ。
天才軍師と名探偵の戦いが始まった。
名探偵ののは、突如として現れたヘリから垂らされ
たロープで新垣の部屋からエスケープして行った。
「クソ!」パンッ
矢口は手を叩き、してやられたって顔をしていた。
新垣は思った。
〜何としても、安倍と加護を指揮下に置かなければ〜
- 132 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月27日(木)17時15分18秒
- 東棟保田の部屋
「OK?みんなそう言う事だから」
「ちょっと待てや!」
「リーダーは今誰だっけ?」
「そんなんアカンやん!」
「私リーダー。やるに決定〜」
「ほ、ホントにやるんですか?」
「え?オラもやるって?」
「ここは一致団結で行くぞ〜」
「ゆ、裕子お姉さん、なんか言って下さい」
「カオリ!圭!アカンでっ」
「東棟は人数多すぎるんだ、やるって決めたらやる」
「さぁやるよ。リーダーの指示に逆らった奴は酷い
目にあう」
「そ、そんななぁ〜」
ついに作戦は決行された。
「次々に荷物運べ〜、引っ越しセンターでバイトし
てるつもりで働け〜」
「こんな事して良いんですか〜」
高橋の部屋から荷物を、全て外に運び出すという壮
大な作戦がまさに今、東棟で行われいる。
総勢5人のデルタフォースの活躍で、ものの数分で
終わった。
「あとは、何も知らずに帰って来る高橋を東棟に入
れなければ、このプロジェクトは完成だ!」
最初はやる気のなかった者から、やり遂げた達成感
からか歓喜の声があがった。
「最後まで気を引き締めていこう〜!」
「お〜」
- 133 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月27日(木)17時17分32秒
- 高橋は優駿を木の下に連れて行くと、腫れた足を
優しく撫でた。
優駿は最初、腫れた部位を触れられた時嫌がってい
たが、高橋にマッサージする様に触られて、安心し
たのか、気持ちが良いのか大人しくなった。
しばらく優駿の足を癒して高橋は、加護と安倍の元
に向かった。
「加護、この子に何て言うの?」
この子とは高橋だ。
赤い目をした加護は、
「優駿の事、心配してくれてありがとな」
少しぶっきらぼうな口調と同時に、生意気に頭を垂
らした。
「はいっ。私、動物好きですから」
ニコッ笑いながら高橋は答えた。
安倍も加護に対して、もう怒るべき事は怒った様子
で、高橋と名前や、東棟住人だとか、色々話し込ん
だ。
「あれ?」
安倍はふと時間が気になった。
「何時?」
加護のお腹が時刻を正確に知らせる
きゅるるるるる
「やべっ!加護、会議の時間!?」
加護も思い出したようだ。
「3:00からや!」
「じゃあね、高橋さん」
「ほなな」
高橋は西棟の安倍と加護と話が出来た事に、うれし
さのあまりスキップで自室に向かった。
- 134 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月28日(金)15時10分56秒
- 新垣の部屋から、脱出した辻が戻ってきた。
普段なら、共同玄関のドアは開けられているが、辻
が戻った時玄関のドアは閉められていた。そして、
玄関の前には、大きなカバンと段ボールが積まれて
いた。辻はもしやと思い玄関に駆け寄っりカバンの
中身を覗いた。
「やはり、高橋のか!」
辻はドアを開けようとドアノブを廻した、が、ドア
には鍵が掛けられていた。
辻は裏手に回り、保田の部屋の窓に額をくっつける
様に部屋の内部を覗いた。
部屋には、保田と飯田が居た。
ガンガン
窓が激しく叩かれ、飯田は窓を見た。
「あ、のろま」
「鍵閉めちゃったからね、窓開けて入れてあげな」
保田は飯田に窓を開けるように言ったが、飯田は
窓の外居る辻に向かって
「え?何、聞こえない」
と、意地悪く耳の後ろに手の平をかざした。
『あ〜け〜て〜』
「き・こ・え・な・い」
『あ〜け〜て〜』
「ジェスチャーで教えて?」
辻は「窓を開けてくれ」と必死にジェスチャーで
伝えようとしたのだが、飯田の笑い声しか、辻の
耳には入ってこなかった。
『聞こえてんだろ!』
- 135 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月28日(金)15時14分53秒
- 西棟に入った二人は、人の声がする部屋を
ノックした。
この部屋は今は使われていない部屋だ。
「誰?」
ドアを挟んで吉澤の小声が聞こえてきた。
「なっちさんだよ」
ドアが開かれる。
「遅いぞ〜」
部屋の奥から矢口の声がした。
「さぁ、入って入って」
吉澤は二人の腕を引くように部屋の奥に入った。
部屋には円卓があり、円卓の中央に西棟と東棟、
管理棟の模型が置いてあった。円卓の回りには
矢口、石川そして新垣が椅子に座っている。
吉澤も席についた。
「何この部屋?」
安倍は興味津々で部屋に置いてあるものを眺めた。
突然、新垣が立ち上がり話し始めた。
「みなのもの、今日という日を忘れるでないぞ。
西棟の戦力がついに揃った。もう、耐えることは
無い、辛く長かった忍耐の日々に決別を告げる記
念日である。そう、機は熟したのだ」
石川と吉澤は、新垣の言葉に大きく頷いた。
「さぁ、改めて、ご紹介しよう」
新垣はそう言うと、豆鉄砲を喰らった様な二人に
近づいてきた。
「若君の義姉に当たられる安倍殿とは、この聡明な
お方、我らの主である」
新垣は深々と安倍に頭を下げた。
石川が言った。
「我が主と共に戦おうぞ。我が主、万歳」
- 136 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年09月28日(金)15時17分26秒
- 辻はようやく窓を開けて貰う事が出来た。
「も〜、閉め出さないでよ」
窓に足をかけて、よいしょ、と部屋に入った。
保田の目が本気だったので、靴はちゃんと脱いだ。
「あ、そうそう!」
辻は、西棟で会った事を話した。
飯田と保田は、別にどうでもよかった。
「んなの、どうでもいいべ」
「そ、誰かに背中をポンッて押されただけ」
「元々東棟に人が多すぎるのが原因だしね」
飯田と保田は、新垣がどんな奴でも関係ないと
言った。
辻は自分が感じた恐怖を伝えたが、まったく相手に
されなかった。
その時、玄関のドアが何度も何度も叩かれた。
「やつが帰って来た!」
飯田と保田は素早く部屋を出ると、廊下の壁を叩いて
みんなに出てくる様合図した。
辻はドキドキしている。
〜もし、高橋じゃなくて、私だったら〜
そう思うと本当に自分じゃなくて良かったと、安堵
の表情を浮かべて微笑んだ。
『何で、こんなおだつ?なじょすっぺない』
廊下には、高橋を除いた全員が集まった。
『しんまにドア開けて。カバン投げたの誰?』
飯田を先頭にして、ドアに鼻息荒く近づいて行った。
- 137 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月08日(月)17時08分52秒
- 更新しねーの?
楽屋裏時代からのう6ぉ2萌えなんだ。
続き頼むわ。
- 138 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月19日(金)10時31分01秒
- う6ぉ2タン、こっちもたまには更新してね。
マテールヨ ヽ(´ー`)ノ
- 139 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月19日(金)18時03分38秒
- >>138
「こっちも」って、う6ぉ2は他でネタか何か書いてるのかい?
う6ぉ2、待ってるぞ〜。
- 140 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月20日(土)19時43分02秒
- >>139
(狩)だろ? 他もあるの、>138?
- 141 名前:139 投稿日:2001年10月21日(日)21時44分39秒
- マジで?知らなかった・・・。
悪いんだが、スレの場所教えてくれないかい?
スマソ、教えて君で。
う6ぉ2、更新待ってるぞ〜!
- 142 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月22日(月)03時37分17秒
- >>141
ここかな?う6ぉ2だけのスレじゃないけど。
ttp://www.metroports.com/test/read.cgi?bbs=morning&key=999256841
- 143 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月22日(月)07時27分48秒
- で、新メンの中で誰が最初に
ttp://www.metroports.com/test/read.cgi?bbs=morning&key=000515821
う6ぉ2自スレ
- 144 名前:139 投稿日:2001年10月22日(月)15時05分43秒
- ありがとう〜。助かターヨ!
お礼に結婚だ!
- 145 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年10月23日(火)15時11分46秒
- 主(あるじ)と呼ばれた女。安倍なつみ。
「ちょっと、主って」
呆気とはまさに事のこと、加護も同様の気持ちだ。
新垣は、スタスタと部屋の棚に向かって歩き出し、何かを棚から
取り出した。
それは、赤い何かが付着した紙だった。
「血判状です」
新垣は安倍に見やすいように、向きを整えて手渡した。
そこには、赤い字で矢口を筆頭に、新垣、石川、吉澤の名が記し
てあった。
「気持る〜い」
加護の言葉に嘘は無かった。
血で書かれた文字は、墨やインクのそれとは違い、独特の掠れや
光沢を持ち、紙の表面には決意が込められている事が読みとれる。
「自分の名を記してください」
新垣は、安倍と加護に目を配らせて、冷静に言った。
- 146 名前:う6ぉ2 投稿日:2001年10月23日(火)15時12分41秒
- 玄関前に荷物を積まれた女。高橋愛。
玄関の奥に人影を感じた高橋は、玄関のくもりガラスに近づいた。
くもりガラスの向こうに、多くの人が歩いて近づくのが、分かった。
「これ〜、私の荷物でしょ?な〜んで?」
人影は何も言わず玄関に近づく。
「鍵開けて〜」
高橋は、ガラスを叩いて訴えた、が、ガラスの向こうからの返事は
こうだった。
「おめー、オラの国を汚したな!」
高橋は必然的に言った。
「フォースト、4ストなんです。綺麗なんです」
人影の一番小さな影が続いた。
「4スト?」
人影はそれ以降、何も言わなかった。
高橋は、思った。
〜河童には逆らえない〜
こうして、高橋は東棟を後にするのだった。
- 147 名前:仕事中にもかかわらず更新してくれるう6ぉ2タンありがとう( ● ´ ー ` ● ) 投稿日:2001年10月24日(水)01時36分46秒
- 仕事中にもかかわらず更新してくれるう6ぉ2タンありがとう( ● ´ ー ` ● )
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